鞠莉「──期待する誕生日。」 (50)

ラブライブ!サンシャイン!!SS

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497276256


だんだんと梅雨入りの気配も近付いてきた6月の頭のこと。


鞠莉「せっかく、こっちに戻ってきて、初めての誕生日みたいなもんだからさ」


居間でルビィが運んできてくれたお茶を啜りながら、聞き流す。


鞠莉「ほら、去年はいろいろ大変だったじゃない?だから、今年こそはって──」

ダイヤ「……さて、今日の課題は──」

鞠莉「ちょっとダイヤ!?聞いてるの!?」

ダイヤ「……むしろ、聞いてるように見えますの?」


黒澤家を突然来訪し、延々と喋り続ける金髪娘に言い返す。


ダイヤ「……それでなんの用ですの?」

鞠莉「だーかーらー!!今年こそ果南との素敵なBirthdayを過ごしたいって話!!」

ダイヤ「はぁ……」


わたくしはため息交じりに天井を仰ぐ。


鞠莉「もう!久しぶりに会った幼馴染にその対応はないんじゃないの!?」

ダイヤ「久しぶりって……まだ3ヶ月も経ってませんわよ」


浦女も卒業し、鞠莉さんは一人県外の大学へと進学していったのですが──


鞠莉「ダイヤと果南はいいよね!未だに実家暮らしで……」

ダイヤ「鞠莉さんも家にはお手伝いさんがいると聞きましたけど?一人暮らしではないのでしょう?」

鞠莉「あれはパパが勝手にやっただけ!わたしは一人でも全然ダイジョブだって言ったのに!」


たぶん、鞠莉さんのお父様の判断が正しいと思いますが……

鞠莉さんを一人にしたら何をしでかすか本当にわからないですし。


鞠莉「……ダイヤ……今、失礼なこと考えてない?」

ダイヤ「……それはともかく、なんで果南さんとの話でわたくしの家に来たのですか?」

鞠莉「え、それ聞く?」

ダイヤ「……はい。全く話が飲み込めてないので」

鞠莉「……あーこれだから硬度10のダイヤモンドヘッドは乙女心がわからないのよ」

ダイヤ「……誰かいませんかー?この金髪シャイニー娘を今すぐ家から追い出して──」

鞠莉「Sorry!!わたしが悪かったよ!!」


鞠莉さんがガバっと頭を下げる。全く……


鞠莉「えっとね……誕生日にこっち戻ってくることは果南には伝えてあるんだけど……」

ダイヤ「はい」

鞠莉「……去年のこの時期って……あんな感じだったじゃない?」

ダイヤ「……そうですわね」


あんな感じ──二人とも大喧嘩の真っ只中でしたわね。


鞠莉「今年はお祝いしようって果南が言ってくれたんだけど……それならいろいろ席を用意する必要があるかなーって」

ダイヤ「……席?」

鞠莉「そうそう、パパにお願いしてホテルの部屋を貸切にしてもらって……」

ダイヤ「……なるほど」


とどのつまり、鞠莉さんはわたくしにバースデイプランを相談しにきたということですわね。


ダイヤ「でも、果南さんがお祝いしようと言ってくれたのでしょう?」

鞠莉「え?うん……」

ダイヤ「なら、貴方が考えなくてもいいのではなくて?」

鞠莉「そうかしら……」


……?……何が不満なのでしょうか?

わたくしの顔に疑問符が出ていたのか、鞠莉さんはそのまま言葉を続ける。


鞠莉「だって、あの果南よ?」

ダイヤ「?」

鞠莉「ワカメケーキとか出てくるかもよ?」

ダイヤ「……いや、さすがにそれは……。……。」


否定しようと思って、わたくしは幼少期の在りしの日のことを思い出す──

──そう、あれはわたくしの誕生日……年も明けてすぐのこと……


…………

……と、そこまで考えて思い出すのを止めました。なんだかよくない記憶を掘り返しそうだったので。


鞠莉「……なんか心当たりありそうな顔してるじゃない」

ダイヤ「…………」


まあ、ワカメケーキは流石に出てこないとは思いますが……。


ダイヤ「……とは言っても、果南さんが祝ってくれると言っている以上、鞠莉さんから場を設けるのは却って失礼ではありませんか?」

鞠莉「……まあ、それはそうだけど」

ダイヤ「それに当日は着替えやすい服装でと言われているでしょう」

鞠莉「……ん?」


鞠莉さんがわたくしの言葉に眉を顰めた。


鞠莉「……なんで、ダイヤがそのこと知ってるの?」

ダイヤ「え?……だって、わたくしも呼ばれてますし……」

鞠莉「あ、ああ!そういうことね!果南と過ごすBirthdayにオジャマムシが……」

ダイヤ「誰かいませんかー?この金髪──」

鞠莉「冗談!!冗談だって!!」


……全く。


ダイヤ「まあ、その……本当にあくまで果南さんと二人きりがいいというならわたくしは今回は遠慮するのも吝かではないのですが……。」

鞠莉「え?ちょ、ちょっとホンキしないでよ!別にそんなことはないから!ただ、聞いてなかったから驚いただけで……」

ダイヤ「……そう。……それならいいのですけれど」

鞠莉「ま、でもダイヤもいるならそれなりにまともな会になるのかな……」


この人は果南さんのことをなんだと思っているのでしょうか……


ダイヤ「……まあ、確かに果南さんは子供の頃はアレでしたが……今でこそしっかりしてるじゃないですか」

鞠莉「ダイヤ酷い!!果南のこそ本当はそんな風に思っていたなんて……!!」

ダイヤ「誰かー?」

鞠莉「Wait a moment!!」


鞠莉「話のコシ?Waist?」

ダイヤ「……話を遮らないでくださいということですわ。」


日本にいるのもそれなりに長いでしょうに……何故か未だに、こうしてわからない言葉が出ると説明しなくてはいけません。

家族との日常会話は英語だったのかしら……?


鞠莉「というか、ダイヤ何やるのか知ってるの?」

ダイヤ「ん……まあ、一応」

鞠莉「え、じゃあ教えてよ」

ダイヤ「……口止めされてるので」

鞠莉「おーしーえーてーよー!!」


果南さんとの約束がある以上答えられない。


鞠莉「おー!!しー!!えー!!てー!!よー!!」


やかましいですが、ここは我慢ですわ。


鞠莉「ルビィー!!助けてー!!わたし、ダイヤに──」

ダイヤ「おやめなさい!!」

鞠莉「アウチ!!」


スパンと頭を引っぱたく


鞠莉「ボーリョクハンタイ!!」

ダイヤ「あなたこそ、あることないこと言わないでくださいませ!?」


家の者にあらぬ誤解を受けたら堪ったものでは有りませんわ。


鞠莉「じゃあ、教えてよ」

ダイヤ「…………」

鞠莉「おしえてよー!!」

ダイヤ「………………」

鞠莉「おーしーえーてーよー!!」

ダイヤ「ああ、もう!!やかましいですわ!!


これ以上騒がれるのも面倒くさい。


ダイヤ「……はぁ、わかりましたわ」


どちらにしろ、当日行けばすぐわかることですし……


ダイヤ「果南さんは当日はダイビングに行くと言っていましたわ。」

鞠莉「Diving?」

ダイヤ「鞠莉さんに見せたい景色があるのだとか」

鞠莉「……ふーん」


鞠莉さんはやや冷めた反応を見せてから、ぼそりと「ま……果南らしいか……」と呟いた。


ダイヤ「……満足しましたか?」

鞠莉「ん、まあ、大体わかった」

ダイヤ「そうですか。じゃあ、今日はこれで……」


席を立とうとすると。


鞠莉「え、これから一緒に遊ぶんじゃないの?」


鞠莉さんは素っ頓狂な顔をしてそう言いました。


ダイヤ「え、初めて聞きましたけど」

鞠莉「ルビィも交えて3人で久しぶりに遊ぶんじゃなかったの!?」

ダイヤ「……わたくし、今日は課題が……」

鞠莉「幼馴染のガイセンなのよ!?ダイヤのハクジョーモノ!!」

ダイヤ「ぅ……」


確かにそう言われると弱い。

実際鞠莉さんと会うのも久しぶりですし、あまり無碍にするのも……



鞠莉「ペンギン!!硬度10!!ポンコツ!!」

ダイヤ「誰かー?この無礼者を叩き出して貰えませんかー?」

鞠莉「Sorry!ダイヤ謝る、謝るからー!!」


全く……。





    *    *    *



6月13日──わたしの誕生日当日。Diver surtをまとって揺れる船の上にいるわたしは梅雨入り前の日光に焼かれていた

ホンジツハセイテンナリ?ってダイヤが言ってたけど、つまりSunny dayってことよね。

……いいDiving日和だわ。わたしは船の縁にもたれ掛かりながらぼんやりとそんなことを思う。


果南「鞠莉、もう少しで着くから~」


Steering room...えっと、日本語だと操舵室……だっけ?から果南が声を掛けてくる。


鞠莉「All right.」


日の光を反射してキラキラ光る海が流れていくのを眺めながら返事をする。


ダイヤ「まだ拗ねてるのですか?」


そんなわたしの様子を見てダイヤが話しかけて来た。


鞠莉「別に拗ねてないけど」

ダイヤ「……概ね、果南さんは昔と変わらないなとか思っているのでしょう?」

鞠莉「……まあ、そんなところかな。ダイヤのおむねも変わらないけど」

ダイヤ「……幸いここは海上ですから、証拠は残りませんけど?」


ダイヤが悪い顔をしている。


鞠莉「きゃーやめてーダイヤにけされるー。やっぱりカイゾクだったのねー」

ダイヤ「本当に海の藻屑にしてさしあげましょうか……?」


わたしの棒読みにダイヤがますます眉を攣り上がらせる。


果南「もう、二人ともー!?問題起こさないでよー?なんかあったら免許剥奪されるの私なんだからねー?仕事出来なくなるでしょー?」


ソーダシツから果南が声をあげる。

ダイヤがため息ついてから、わたしの隣に肘かけた。


ダイヤ「何がそんなに憂鬱なのですか?貴方のお祝いなのですから、もう少し喜んであげた方が果南さんも喜びますわよ?」

鞠莉「別に喜んでないわけじゃないよ。……ただ、本当に変わらないなってだけ」

ダイヤ「……?」


ダイヤが不思議そうにこっちを見ているのがわかったけど

目を合わせずにそのまま続ける。


鞠莉「果南は……わたしのKnightだったのよ……」

ダイヤ「ナイト……?……お姫様扱いして欲しい……ということですか?」

鞠莉「……そうね。……そうかも。お姫様ってSurpriseが好きじゃない?だから、なんか物足りないって感じるのよ」

ダイヤ「……。……鞠莉さんは果南さんのことが好きなのですか?」

鞠莉「好きよ。愛してると言ってもカゴンではないわ」


──そんなの当たり前である。

異性とか同性とか以前にわたしは果南のことを愛している。


ダイヤ「女の子扱いして欲しいと?」

鞠莉「別にそこまでは求めてないけど……。……なんていうか……わたしがどこまで広い場所に目を向けても、果南の世界はここまでなんだなって」

ダイヤ「……?」

鞠莉「子供の頃から一緒に見てきた、この海が、あの島が……そこが果南の世界なんだなって」


船の進行方向の逆側に目を配らせると、長い時間を過ごしてきた淡島が視界に入る。


鞠莉「果南は狭い世界に閉じこもっていたわたしを広い世界に連れて行ってくれた。……だから、わたしも広い世界で生きようって思って、どこまでも広いところに行こうって……そう思ったのに──」


──幼いあの日、果南とダイヤがわたしを家から連れ出してくれたように──


鞠莉「なのに……気付いたら、果南は稼業を継ぐためにここに残り続けて……わたしは一人遠くの大学へ──きっとそのうちもっと遠くへ行く」

ダイヤ「…………。」

鞠莉「あの日からずっと……果南はわたしに新しい世界を見せてくれるKnightなんだと勝手に思ってた……でも、それはただの子供の夢だったのかなって……」

ダイヤ「……鞠莉さん」

鞠莉「Oh...sorry... ガラでもないね」

ダイヤ「いえ……。……言いたいことはわかりますわ。」


視界の端で漆黒の髪が風になびくのが見えた。隣のダイヤが空を仰いだのだとわかる。


ダイヤ「……きっと、貴方と果南さんでは生きる時間が違うのですわ。」

鞠莉「……そうだね」

ダイヤ「……これからその生きる時間のズレはどんどん大きくなっていくかもしれませんわ」

鞠莉「……」

ダイヤ「……でも、そんな中で……果南さんは果南さんの世界と、時間で、大切なものを見つけていくんだと思いますわ。」

鞠莉「……うん。そだね」


そして、それは悪いことなんかじゃない──

わたしは短く答えてから、船の縁にもたれ掛かっていた腕を伸ばして、その反動で甲板の方へと身を翻した。


鞠莉「Sorry. ダイヤ……。ダイヤの言うとおり、わたしのための席なんだからわたしがSmileyじゃなくちゃね」

ダイヤ「いえ、いいのですよ。……貴方の気持ちもわかりますから。お互い自分の意思だけでままならないモノがあると苦労しますわね。」

鞠莉「……そうね」


船の後方を振り返ると、淡島が随分小さくなっていた。

まるで、果南との繋がりのMetaphorのようで──Sentimentalなわたし心を助長させる。

生まれや育ちを思い悩んで、感傷に浸るのが、6月13日──Birthdayだなんて、皮肉よね。……なんて。





    *    *    *



程なくして、船舶が目的地に着いたようだ。


ダイヤ「本当にわたくしが残って大丈夫なのですか?」


Divingの準備しているわたしたちにダイヤがそう声を掛けてくる。


果南「あーまあ……ショップ店員としてはあんまりよくないかもだけど……別にお客さんってわけじゃないし、すぐ戻るからさ。それに、ダイヤならいざってときは一応船動かせるでしょ?」

ダイヤ「ほぼペーパーですわよ?」

果南「あはは、無免許だったら流石に一人にしないけど、免許持ってるならまあ平気でしょ」

鞠莉「へぇ……ダイヤって船舶免許持ってたんだ……」


わたしはその話を聞いて少し関心する。


ダイヤ「……一応ね。網元の娘ですし、持っていて損するものでもないですから」

果南「今役立ったじゃん」

ダイヤ「はいはい……。いいからさっさと用を済ませて来て下さいな。」

果南「りょうかーい。鞠莉いこ」

鞠莉「OK.」


──ザブン

果南が先に音を立てて海の潜る。

わたしも後に続こうとしたそのとき──


ダイヤ「鞠莉さん」


ダイヤが声を掛けてきた。


鞠莉「何?」

ダイヤ「……その先にある世界が果南さんの世界です。……しっかり、目に耳に……そして、心に……焼き付けてくるのですよ。」

鞠莉「ん」


ダイヤの言葉に短く返すと、わたしも──ザブンと──海に身を預けたのだった。

──それがわかってるから、寂しいんだけど……ちゃんと見て来いって言うのね。ダイヤらしい。





    *    *    *



久しぶりに潜る海はとても静かだった。

先に潜った果南が手でこっちだよと手招きしていた。

果南について泳いでいく──程なくして。


果南「──」


果南が止まって、下の方を指差す。


鞠莉「──」


──そこには……海から差し込む光の帯に照らされた、美しい珊瑚礁があった。


果南『いつか、一緒に見に行こうね!』


──子供の頃、果南の家で一緒に読んだ本に載っていた内浦の珊瑚礁。

今こうして、前よりも大人になって……一緒に見ることが出来る。

それは素直に嬉しい。

ただ──ただ、それが寂しさを更に助長させる。

──『いつか』が来てしまったんだ。

そんな気にさせられる。

ぼーっとそんなことを考えながら珊瑚礁を見つめる。

もう『いつか』を夢見て、それを頼りにして……前に進めないのかな……果南に……近づけないのかな……。

今日のこの光景だって予期していた。いつかの約束を守るために果南がわたしをこうして誘ってくれたのもわかっていた。

それは素直に嬉しかった。……でも、だから寂しかった。

もう……わたしに新しい世界を見せてはくれないのかな……予想もしなかった、新しい世界を──


──トントン


鞠莉「……?」


いつのまにか後ろに回っていた果南に肩を叩かれた。

わたしはくるりと振り返る。


果南「──」


果南がわたしの左手を取った。

そして、その手の薬指に何かがはめられた──


鞠莉「……?」


一呼吸、二呼吸置いて──


鞠莉「……!?///」


指にはめられたモノを見て驚く。少し口が開いてしまい、その拍子にレギュレーターの隙間から水が入ってくる。


果南「!!」


すぐさま果南が腕を引いてわたしを海上に導く。


鞠莉「ぷはっ!!げほっげほっ!!しょっぱ……!!」

果南「び、びっくりした……海の中で口開けちゃだめでしょ」

鞠莉「……び──」

果南「び?」

鞠莉「びっくりしたはこっちの台詞よっ!!!///」


改めて指を確認すると。綺麗なパールリングが太陽の光を反射してキラリと光った。


鞠莉「…………///」


何が予期してたんだか……さっきまで勝手にSentimentalになっていた自分が恥ずかしくなる


果南「ふふ……誕生日おめでとう鞠莉。気に入ってくれた?」

鞠莉「……うん///」

果南「その真珠ね……内浦で取れた真珠なんだ」

鞠莉「え……そうなの?」

果南「うん。私も最近知ったんだけど、内浦って真珠の養殖もしてて──あ」


果南がしまったと言わんばかりに声をあげた


果南「いや、えーと……天然が高いからとかそういう理由で選んだわけじゃなくて……あー、ダイヤに言うなって言われてたのに……えっと……ごめん、鞠莉なら養殖なのは見ればわかっちゃうのかもしれないけど……えっと」

鞠莉「ううん……これでいいわ」

果南「……そ、そう……?」

鞠莉「……これがいい」

果南「……そっか」

鞠莉「うん。……天然モノなんかよりも……うぅん……どんなに綺麗な宝石よりも……ずっとずっと……価値のあるものだから……」


わたしは左手にはめられた指輪を大切に握り締めた。





    *    *    *


帰りの船でわたしはダイヤに声を掛けた。


鞠莉「ダイヤありがと」

ダイヤ「あら、今度は随分と潮らしいのですわね」

鞠莉「……さっきびっくりして海の水飲んじゃったからかも」

ダイヤ「……ふふ、それは頓知が効いてますわね」

鞠莉「この真珠……ダイヤが果南に教えてあげたんでしょ?びっくりしたわ……」


夕陽を照り返して光る指輪を見ながら私はそう言うと


ダイヤ「いえ……それはちょっと違いますわ」


ダイヤはそう返した。


鞠莉「……違うって……?」

ダイヤ「果南さん……ずっと鞠莉さんのことを気にかけていたのですよ」

鞠莉「え……?」

ダイヤ「『鞠莉はどんどん一人ですごいところに行っちゃう……でも、私は変わらないし、変われない、変わるわけにはいかないから』って」

鞠莉「……」

ダイヤ「だから、鞠莉さんが帰ってくるって聞いたとき、『何か鞠莉にしてあげられることはないか』っていろいろ探し回っていましたのよ」

鞠莉「……そう……だったんだ……」

ダイヤ「そして、ある日突然うちを訪ねてきてこう言ったのですわ『内浦って真珠養殖してるんだよね!?すぐに取りに行かせて!!』と」

鞠莉「……ぷっ……何それ……」


思わずふきだしてしまう。


ダイヤ「全く大変でしたのよ?関係各所に頭を下げて、許可を貰って……果南さんったら『絶対に自分で取りたい』って聞かなかったんですのよ」

鞠莉「ふふ……っ……。……果南らしい……っ……」

ダイヤ「昔から一度言い出したら聞かないんですから、あの人は……」

鞠莉「……知ってる……っ……」


子供の頃から、果南は強引にわたしとダイヤの手を掴んで離さなかった、そんな無鉄砲なところは今も昔も変わらなくて──


ダイヤ「取ってきたのはいいけれど、もちろん加工なんて出来るわけもなくて、結局ここでもわたくしがあっちこっちに頭を下げて指輪に加工してもらって……大変でしたわ」

鞠莉「……ダイヤ……ありがと……っ」

ダイヤ「まあ、いいのですよ。慣れっこですから。……それで、鞠莉さん──」

鞠莉「……っ……ぐす……っ……何……?」

ダイヤ「──果南さんの世界は……どうでしたか……?」


ダイヤにそう問われて。わたしは──


鞠莉「……っ…… わたしが考えてるより……っ…… ……ずっとずーっと……深かったみたい……っ……。」


──真珠のような大粒の涙を零しながらそう答えたのだった。





    *    *    *




──さて、後になって何故左手の薬指に指輪をはめたのかを果南に聞いてみたところ


果南『え?なんとなくだけど……』


と答えたのには少し呆れてしまったのだけれど……まあ、ある意味安心した。

この辺は昔から変わらず朴念仁の果南のようだ。

ついでにどうしてパールリングなのかも聞いたのだけど


果南『え?あ、まー……内浦で取れる綺麗なものって言ったら真珠かなーって感じ……?』


と先ほどとは打って変わって、こちらは随分と歯切れの悪い回答をされた。

そんな様子を見ていたダイヤがわたしに耳打ちをしてきて。


ダイヤ『6月の宝石の宝石言葉……ここまで言ったら鞠莉さんならわかりますわよね?』


そう言った。

6月の誕生石はパール……そして、宝石言葉は──


鞠莉「……何よ、果南ったら……こういう気も遣えるようになったのね」


帰りの電車の中で一人そう呟いた。

6月13日──わたし、小原鞠莉の誕生日──過ぎ去る日々の中で……変わらないものも、変わっていくものも同様に大切なんだと

そんな当たり前だけど、大切なことを、大切な人に気付かされた。


鞠莉「──長生き……しなくちゃね」


そう言って、わたしは一人、指の真珠に口付けをした。




<終>

終わりです。

お目汚し失礼しました。



さて、改めて……マリー!誕生日おめでとう!!



こちら過去作です。よろしければ。

善子「一週間の命」
善子「一週間の命」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495318007/)

ダイヤ「催眠術で千歌さんの妹になる……?」
ダイヤ「催眠術で千歌さんの妹になる……?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493405366/)

ダイヤ「あら......千歌さんって昔は髪を伸ばしていたのですわね......?」
ダイヤ「あら......千歌さんって昔は髪を伸ばしていたのですわね......?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492916827/)

千歌「初々しさを取り戻せっ」ダイヤ「......はぁ」
千歌「初々しさを取り戻せっ」ダイヤ「......はぁ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492440593/)

曜「――憂鬱な誕生日……」
曜「――憂鬱な誕生日……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492354810/)

千歌「――私はある日、恋をした。」
千歌「――私はある日、恋をした。」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491711229/)

ダイヤ「もう一人の妹?」 ルビィ「もう一人のお姉ちゃん?」
ダイヤ「もう一人の妹?」 ルビィ「もう一人のお姉ちゃん?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490808858/)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom