曜「――憂鬱な誕生日……」 (16)

ラブライブ!サンシャイン!!SS

明けて、4月17日になったので、短めですが曜ちゃんのお話を・・・

アニメ3話のライブ前くらいのお話です。


普段はこんなの書いてます。

千歌「――私はある日、恋をした。」
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放課後、机の上に放ったスマホの日付表示をぼんやり見つめながら隣席の言い争いを聞き流している


梨子「今日までって約束だったじゃない!!」

千歌「えへへ…ごめんっ もうちょっとだけ待って!」

梨子「それ昨日も聞いた!!」


千歌ちゃんの誤魔化しに梨子ちゃんはますます語気を荒げる


――たぶん、これは長くなるなぁ……


衣装担当で曲作りにはあまり積極的に関われない私はこういうときは蚊帳の外。

別にそれが嫌なわけではないし、そもそも自分の担当している仕事は他の二人には出来ない――いや案外梨子ちゃんは裁縫も器用にこなせるのだが――重要な仕事なので、文句があるわけではない。

少しの寂しさを感じることはあっても、それ以上の気持ちになることはあまりない。

ただ今日だけは少し事情が違う。


曜「……はぁ」


西日の照り返しであまり見えないがそこに確かにある憂鬱の原因

4月17日

スマホに表示された半角交じりのこの5文字だった。


    *    *    *





幼馴染で親友の千歌ちゃんがスクールアイドルを始めると啖呵を切った始業式のあの日から約10日。

本日、4月17日は私――渡辺曜の誕生日なのであります。

小学生のころから、この日は毎年、千歌ちゃんが盛大にお祝いしてくれるため私にとってはそれなりに大きな行事なのだが

今年は……


梨子「この前はいくらでも書けるって言ってたじゃない」

千歌「あー……最初は調子よかったんだけどねー……最後の調整がねー……」

梨子「作曲にも時間かかるんだから、今日中には完成させてくれないと困るからね。」

千歌「あはは、がんばるっ」

梨子「もう……大丈夫かなぁ……」


迫るファーストライブのことで私の誕生日どころじゃなさそうだ。


――いや、私もそのライブに出るから他人事じゃないんだけど……


実際ライブをするとなったら、やることは山のようにある。

私の担当の衣装作りはもちろん、作詞・作曲・振り付け決めや基礎トレーニング、ライブの告知など

ここ数日を省みて客観的に考えても、まず私の誕生日どころじゃないのは頭では理解しているのだが


――こんなに自分の誕生日が忘れられるのが堪えるなんて……


気付けば10年近い年月の間、毎年欠かさず祝われていたため、自らの誕生日が突如嵐のように現れたスクールアイドルという存在に掻き消されたかのようで想像以上に虚しい。


梨子「ライブまでそんなに時間ないんだからね?本当にお願いね?」


意識の端っこの方から、かろうじて耳に届いた梨子ちゃんの言葉にぼんやりとした思考が少しだけクリアになる。


――そうだ……もうすぐライブなんだ。私もしっかりしないと……


邪念を打ち消すように頭を軽く左右に振ってから、勢いよく椅子から立ちあがる。

久しぶりにプールで泳いで少し頭を冷やそう。


千歌「あれ?よーちゃん先に帰るの?」


口論もそこそこに帰り支度を始めた私に気付いた千歌ちゃんが声を掛けて来る。


曜「うん。今日はちょっと水泳部に顔出して来ようかなって。最近全然行けてないし。」

千歌「そっかー」

曜「終わったら千歌ちゃんち寄るね。衣装のことはそのときに……」 


『千歌ちゃんが誕生日を祝ってくれないから寂しい』なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。

適当にそれっぽい理由をつけて、とりあえずこの場を後にする。


千歌「よーちゃんっ!」

曜「!?……な、なに!?」

千歌「忘れずにうち来てね!」

曜「……あ、あぁうんっ!了解であります!」


……今、呼び止められた瞬間――私、絶対期待してた。

再三繰り返すようだが、ライブ直前なんだし、忘れず来るように釘を刺すのも当たり前だ。

まったく、胸中で自分に活を入れた矢先にこれだ。


梨子「曜ちゃんは忘れたりしないわよ。千歌じゃないんだから。」

千歌「えぇ!?ひどーい!!」

曜「あはは……じゃあ、またあとでね」


無邪気な親友がまた不意に私の名前を呼ぶ前に逃げるように部活に向かう。

このままじゃそれこそ『忘れてるのは千歌ちゃんじゃない?』なんて思わず言ってしまいそうだったから……。





    *     *     *





曜「全然集中できなかった……」


日も沈み始めた頃、練習を終え水泳場を後にし十千万旅館に向かう道中、私は再び自己嫌悪に陥っていた。


曜「はぁ……しっかりしろ、渡辺曜……っ」


言葉に出してみたもののいまいちすっきりしない。

頭の中でぐるぐる回るなんとも言えない寂しさを整理していたら、いつの間にか千歌ちゃんの家の前についていた。


曜「千歌ちゃんと梨子ちゃん……今頃、曲作りがんばってるんだろうなぁ……」


片や自分は意味もなく水にぷかぷか浮いていただけな気がして、またしても気持ちが蔭る。


曜「ダメだダメだダメだ!!」


再び頭を左右に振って、気を取り直す。


曜「こんばんはー」

志満「あら、曜ちゃん。こんばんは」


十千万旅館の暖簾をくぐると仕事をしていた志満さんがこちらに振り返って挨拶を返してくれる。


志満「千歌ちゃーん!曜ちゃんきたわよー?」


千歌ちゃんに来客を告げるため、志満さんが上階に向かって声を掛けるが反応がない。


志満「……もう千歌ちゃんったら……。ちょっと呼んで来るわね。」

曜「あ、いいですよ!自分で行くんで!曲作りしてるからイヤホンとかしてるだけだと思うし」

志満「ごめんなさいね。」


志満さんが申し訳なさそうに謝ってくるがもはや勝手知ったる他人の家である。

大した問題ではない。

ただ、階段をのぼる最中『出迎えくらいしてくれても』なんて考えが脳裏をよぎって、それをまた頭を振って打ち消す。


――遅れて来たのは私なんだし……


落ち着くために自分に言い聞かせる。

予想通り二階は静かで――いやむしろ静かすぎるくらいで障子1枚隔てた先にいるはずなのに会話一つ聞こえない。

二人ともよほど集中して作業しているのだろう……


――私……これじゃただのめんどくさい子だ……


私は顔に不満が出ないように1回静かに深呼吸をしてから

部屋の襖に手をかけた。


曜「ごめん!おそくなって――」



――パァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


千歌・梨子「曜ちゃんハッピーバースデー!!」

曜「……へ?」


破裂音と共に飛び出したクラッカーの紙テープが頭にかかる


曜「……え?……あ、誕生日……?」


このときは我ながら間抜けな顔をしていたと思う。

間抜けな私に千歌ちゃんが『にしし』と笑いながら近づいてくる。


千歌「その反応、もしかして曜ちゃん、自分の誕生日を忘れてましたなー?おまぬけさんだなー」

梨子「お間抜けさんは千歌ちゃんでしょ!今さっき突然クラッカーだけ渡されてびっくりしたわよ!」

千歌「いひゃい、りこひゃんにいうのわしゅれてたのはあやまるから、ほっぺひっぱらないでぇ~」

梨子「全く……事前に言ってくれたら私も準備できたのに……?」

千歌「……曜ちゃん?」


――気付いたら


曜「―――」


私の頬を……涙が伝っていた。


千歌「……え!?あ、ご、ごめん!?そのそんなにからかうつもりとかじゃなくて!?」

曜「……あっちがっ……これは……っ……」


狼狽する千歌ちゃんに弁明しようとするもうまく言葉が出てこない。

梨子ちゃんも動揺している。


あぁもう、何が『忘れてるのは千歌ちゃんのほうじゃない?』だ

嬉しさとか、情けなさとか、申し訳なさとか、いろんなものがごちゃごちゃになって、考えられない

そんな私を見て千歌ちゃんが――


千歌「ようちゃん……?」


私の手をそっと握る――

千歌ちゃんの手の熱が伝わってくる。同時に自然と口から心が零れ落ちるように――


曜「千歌ちゃん……スクールアイドルに夢中だったから……っ……ぐすっ……私の誕生日なんか忘れちゃってるかなって……っ」


ぽろぽろと――


曜「私も本番近いし……っ……誕生日とかいいかなって……ぅぐっ……思わなきゃって……」


涙と一緒に――


曜「でも……心のどこかで……っ……ひぐっ……私よりもアイドル活動の方が大事なんだって……っ……勝手に思って……っ……私っ……私……っ……!」


止まらなくて――


千歌「曜ちゃん」


ぽろぽろと大粒の涙を零す私を千歌ちゃんは優しく包み込んで


千歌「忘れるわけないよ……大好きな曜ちゃんが産まれてきてくれた大切な日だもん」


さっきまで寂しがっていた心に千歌ちゃんの言葉が染み込んでいく

――あぁ、千歌ちゃんはホントに千歌ちゃんなんだなって


曜「……うん……っ……」

千歌「曜ちゃん。誕生日おめでとう!いつも千歌と一緒にありがとうっ」

曜「……うん……うんっ……っ……」


千歌ちゃんはただ子供のように泣きじゃくる私を優しく抱きしめ続けてくれたのだった。



    *    *    *





私がひとしきり泣いて落ち着いた頃にもう一度、千歌ちゃんが「おめでとう」と言ってくれた。

その後は皆でケーキを食べて、おしゃべりをして……

たった3人――パーティと言うには少人数だったけど、大いに騒いで

――1回だけ、襖から旅館の神様の視線を感じた気がするけど、どうやら今日だけは黙って見逃してくれたらしい。

……今は部屋に梨子ちゃんと二人。千歌ちゃんは食後のお茶を取りに行った。


梨子「……でも、意外だったな」


梨子ちゃんが手持ち無沙汰な私に話しかけてくる。

……まあ、いきなり目の前で泣き出したらね。


曜「あはは……その、情けないところをお見せしました……」

梨子「ううん、そこじゃなくて」


梨子ちゃん、おもむろに千歌ちゃんの机の上を指差した。


曜「……?……あっ」



――梨子ちゃんは机の上に置かれた卓上カレンダーを指差していた。

そのカレンダーの17日にはわかりやすく赤色のペンで丸が付けられていた。


梨子「……前から、なんでこの日だけ丸してあるのかなーって。何かあるのかなーって、ずっと思ってたんだけど」


……言われてみればそうだったかもしれない。

というか、サプライズパーティするのにこんなわかりやすい目印付けてちゃダメでしょ!?――まあ、気付かなかったんだけど……


梨子「毎日来てるのに気付いてなかったんだなぁって……正直、帰りも千歌ちゃんのサプライズを見越して水泳部に寄ってあげたのかと思ってた。」

曜「あはは……ホントに……なんで気付かなかったんだろう……」

梨子「曜ちゃんってしっかりしてると思ったけど……意外と千歌ちゃんとそっくりなのかもなって」

曜「……ふふっ……そうかも……」


梨子ちゃんと二人して笑ってしまった。



千歌「ただいまー……ってなんで二人とも何笑ってるの?」

梨子「んー?千歌ちゃんって抜けてるよねって話してたんだよねー」

千歌「え、なにそれひどーい!!」

曜「あはは、そうだねっ」

千歌「え、よーちゃんまで!!なんなの二人ともー!!」


4月17日――私、渡辺曜の誕生日――今日もいつもと変わらず、この部屋では笑顔が絶えないようだ。

寂しくて、虚しくて、やるせないことがあったときでも

全てをその陽だまりのような笑顔でぽかぽかな気持ちに変えてくれる大切な親友がいてくれるから――

終わりです。

改めて、曜ちゃん誕生日おめでとう!

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