西島櫂「IMCG・A.I.の証明」(終) (95)

あらすじ
西島櫂とドルフィンは最後のIMCに臨む。たった一人の少女を守るために。次の夢を、見つけに行くために。



IMCG最終話

前話
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446899656/)

設定はドラマ内のものです。

それでは、投下していきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449568152



IMCG・会議室

大和亜季「お疲れさまであります」

八神マキノ「お疲れさま。見つかったかしら?」
  
大和亜季
警視庁所属の警察官。IMCGの調査・監視を担当していた。

八神マキノ
所属上は交通課の警察官。本来の交通課の仕事はほとんどしていない。

亜季「いいえ。見つからないであります」

マキノ「中学生一人捕まえられないなんて、警察もアテにならないわね」

兵藤レナ「まーまー、責めないの。ここはあの子の庭だから大変だと思うわ」

兵藤レナ
IMCGの責任者。警察での立場剥奪は確定的。

マキノ「アナタが居場所を知ってれば終わりなのだけど」

レナ「知らないわ。これは本当よ?」

亜季「既に一晩経っているであります。早く見つけてあげないと」

マキノ「相手はIMCを所持してるわ。これがなくならない限りは終わらない」

レナ「ええ、その通り」

マキノ「だから、腑に落ちない」

レナ「何が?」

マキノ「これまでの行為が全ては池袋晶葉のためなら、今の状況をどうして作り出したのかしら?」

レナ「さぁ?」

マキノ「答えなさい。部下を騙して、警察が介入するタイミングを操作したアナタが答えを持っていないわけがないわ」

亜季「兵藤殿、お願いするであります」

レナ「難しく考え過ぎ。あなた達が予想してる事態の一つが起こるだけよ」

亜季「予想される事態……」

マキノ「まさか、IMCを使わせようとしてるの?」

レナ「そうね。だって、そうでもしないと終わらないじゃない」

マキノ「食えない人ね。優しくないじゃない」

レナ「ほめてもらって、ありがとう。いつだって、私は優しくないわ」

亜季「使われる前に探すであります。失礼するであります」

マキノ「……情が入ってるわ」

レナ「彼女、この仕事にあまり向いてないわよ」

マキノ「承知の上よ。やってもらいたいことは全て出来たわ」

レナ「あなたも、意地が悪いわね」

マキノ「それほどでも。IMCGの捜索は進めさせて頂きます」

レナ「どうぞ」

マキノ「逃げないように」

レナ「見届けるまで逃げたりなんかしないわ。だから、安心して」



IMCG・ドック

木場真奈美「まるで犯罪者の家宅捜索だな」

梅木音葉「ただの……内部監査ですよ」

木場真奈美
IMCGの職員。次の仕事はボイストレーナー。

梅木音葉
IMCGの職員。大学入試に向けて勉強中。

真奈美「そうだがなぁ」

音葉「本当に終わりです……」

真奈美「晶葉君が、関わっていたのか」

音葉「……そのようです」

真奈美「今思えば、いくらでもヒントはあったか」

音葉「私達が気づくには……難しいとも優しいとも」

高峯のあ「……あら」

高峯のあ
IMCGの技術職員。ゼットテクニカに復帰予定。

真奈美「のあ……寝たか?」

のあ「愚問よ……寝たわけないじゃない」

音葉「ドルフィンはいかがですか……」

のあ「修理に駆り出せる人員も……部品もなさすぎるわ」

真奈美「動くのか」

のあ「ええ……なんとかしたわ」

音葉「お疲れ様です……」

のあ「晶葉は……見つかったかしら」

真奈美「まだだ」

のあ「そう……」

音葉「のあさん……お聞きしたいことが」

のあ「簡潔に……眠いの」

音葉「のあさんは、晶葉ちゃんのことを……どう思われていますか」

のあ「……」

真奈美「のあ」

のあ「私は尊敬しているわ……あの子はホンモノよ」

真奈美「……」

のあ「だけど……あの子はまだ子供でもあるわ」

音葉「ええ……」

のあ「ごめんなさい……あなた達を巻き込んだわ」

真奈美「終わったことを気にするな」

音葉「今と未来を……考えましょう」

のあ「少し休むわ……ドルフィンが出撃することになったら、教えてちょうだい」

音葉「おやすみなさい……」



某雑居ビル・3F

柊志乃「おはよう……あら」

仙崎恵磨「……」

柊志乃
某雑誌記者で恵磨と千夏の上司。通称はデスク。

仙崎恵磨
某雑誌記者。ソファーで寝そべっている。

志乃「珍しい。徹夜でもした?」

恵磨「ふぁあ……そんなところ」

志乃「ゼットテクニカの件は?」

恵磨「メールした通り、構造も理由も簡単だった」

志乃「そう、一報は出す?スクープよ?」

恵磨「しなくていい。千夏と相談して決めた」

志乃「わかったわ。でも、何か記事は出して」

恵磨「わかってる。はぁ……」

志乃「千夏はどこかしら」

恵磨「コーヒー買いに言ってるだけだよ、そのうち戻る」

志乃「そう。詳しい話は帰ってきたら聞くわ」

恵磨「そうして」

志乃「珍しく落ち込んでるわね」

恵磨「大体予想通りだし、証言も取れた。でも、なんかそれだけ」

志乃「ふふっ、上手く行かないこともあるわ」

恵磨「デスクほど大人じゃないんだ、アタシは」

志乃「そうやって、熟成していくのよ」

恵磨「まるで人をワインみたいに」

志乃「時には新鮮よりも寝かせたほうがいい記事が書けるわ」

恵磨「それは、そうだけど」

志乃「あなたは一番初めに真実に辿り着いたわ。その意味も、当事者の感情にも迫った」

恵磨「自作自演の、一人の女の子を守るだけの茶番」

志乃「立ち止まって、少しは悩んでみなさい」

恵磨「えー、アタシそういうタチじゃないし」

志乃「なら、仕事を頼んでいい?」

恵磨「そういうことかっ!」

相川千夏「恵磨ちゃん、戻ったわ。あら、デスク、おはようございます」

相川千夏
某雑誌記者。冷静に今回の事態を見届けた。

志乃「おはよう。私の分のコーヒーはあるかしら」

千夏「ええ、出社してくるかと思いまして。どうぞ」

志乃「ありがとう」

千夏「恵磨ちゃんも、どうぞ」

恵磨「ありがとっ」

千夏「あら、少し元気になったわね」

恵磨「そう?」

千夏「池袋晶葉ちゃんの件、進展したかしら」

恵磨「いいや。櫂ちゃんからは返事も来ないし」

千夏「警察の調査は?」

恵磨「全然。今のままだったら、アタシ達の方が真実を知ってる」

千夏「いずれ、財前副会長にも手が伸びるから時間の問題ね」

恵磨「そういうこと。デスクの言った通り、だね」

志乃「さ、仕事をなさい。あなた達は一つの方向だけを見続ける仕事じゃないの」

恵磨「うん」

千夏「はい」

志乃「そろそろ秋ね、お酒の美味しい季節が来るわ……」

恵磨「デスクはいつもでしょ!」



IMCG・事務室

古澤頼子「ここは誰もいないようですね」

浜川愛結奈「久美子達は休みかしら」

井村雪菜「事務室は片付いちゃってますねぇ……」

古澤頼子
IMCGのオペレーター。次の所属先は未定。

浜川愛結奈
IMCGのオペレーター。しばらくは牧場近くでのんびりするわ、とのこと。

井村雪菜
IMCGのオペレーター。カウンセラーを目指して勉強したいらしい。

愛結奈「仕事もほとんどなかったみたいだし、タイミング良いわ」

頼子「ええ。巻き込まなくて良かったと思いましょう」

愛結奈「ええ。オペレーションルームじゃなくて落ち着かないけど、はじめましょう」

雪菜「オペレーションルームは立ち入れそうもありませんからぁ……」

愛結奈「状況を報告して」

頼子「おわかりの通りですが、IMCGは警察が調査中です」

愛結奈「事実上、こちらに権利はなくなってるわ。何も出来そうもないわね」

頼子「各人員は移動を制限されています。司令は会議室に軟禁中、伊集院巡査は帰宅してません。今はホテルにいるそうです」

愛結奈「事務室の3人は出社してないで、他はIMCGの敷地内ね」

頼子「はい。外出は禁止されていますが、敷地内の移動まで制限されていません」

愛結奈「櫂ちゃんは?」

頼子「まだ起きていません。命に別状はありません」

愛結奈「晶葉ちゃんは……相変わらずね」

頼子「警察が辺り一帯を捜査していますが、見つかっていません」

雪菜「あの……」

愛結奈「どうしたの、雪菜ちゃん」

雪菜「ごめんなさいっ!」

愛結奈「勝手にIMCGを調査してたこと、データを大和巡査に見せたこと、警察が間違ったタイミングで突入したこと、どれ?」

雪菜「……三つともですぅ」

愛結奈「それは謝らないでいいわ。あのリストを作ったの、ワタシだから」

頼子「教えてくださればいいのに」

愛結奈「そうもいかないわよ。ワタシもただ雇われた身だもの」

雪菜「え、愛結奈さん?」

愛結奈「ここに来た時と変わって、見違えたわ。自信をもって、雪菜ちゃん」

雪菜「ここまで、シナリオ通りということですか」

愛結奈「ええ」

雪菜「じゃあ、晶葉ちゃんが逃げたのも……」

愛結奈「そういうことよ」

雪菜「そんなぁ!どうして、こんな目にあわせないといけないんですかぁ!」

頼子「……」

愛結奈「ねぇ、雪菜ちゃん」

雪菜「なんですか」

愛結奈「晶葉ちゃんが自身のIMCを使わなかったら、どうなるかしら?」

雪菜「……それは」

頼子「IMCGは残り続けると思います」

雪菜「使わせることが、目的なんですかぁ……」

愛結奈「そうみたいよ。最後のIMCは晶葉ちゃん専用で晶葉ちゃん以外のIMCは出来ないらしいわ」

雪菜「わかってません!IMCになることがどういうことかわかってないんですっ!」

愛結奈「知ってるわ。櫂ちゃんも雪菜ちゃんも感じた辛さを、知らないわけないでしょ」

雪菜「ならっ……」

頼子「良い機会なのかもしれません」

雪菜「……」

愛結奈「悪いことばかりじゃないでしょ。弱さに向き合って、古い自分から新しい自分に脱皮することも出来るわ」

雪菜「はい、それはわかってますぅ」

愛結奈「もうオペレーター業務は出来ないの。それはいいわね?」

頼子「もう正式な仕事はありません、ふふ」

愛結奈「ワタシ達もこれで解散よ。雪菜ちゃん、最後の仕事をお願いするわ」

雪菜「最後の仕事……?」

愛結奈「最後のIMCが出る前に、晶葉ちゃんのカルテを完成させて」

雪菜「あっ……」

愛結奈「出来る?」

雪菜「やりますっ!」

頼子「お願いします」

雪菜「そのために、愛結奈さん、お願いがあります」

愛結奈「なに?」

雪菜「警察より先に、副会長さんと話をさせてください」



IMCG女子寮・食堂

真奈美「いいのか、ここにいて」

柳清良「他に、居るところもないもの」

柳清良
レナ付の職員。看護師の仕事に戻ろうと考えている。

音葉「志保さんは……どちらへ」

清良「櫂ちゃんの部屋」

真奈美「まだ、寝てるのか」

清良「そうね……命に別状がないから安心して」

音葉「お茶でも淹れましょうか……」

真奈美「頼む。清良君もそう緊張するな」

清良「……」

真奈美「なぁ、聞きたいことがあるんだが」

清良「なにかしら」

真奈美「清良君の仕事は、レナのサポートじゃないのか」

清良「……ええ」

音葉「インスタントですが……どうぞ」

真奈美「ありがとう」

清良「そうなの、私の仕事は」

真奈美「晶葉君の、ケアか」

清良「その通り、よ。もちろん、レナさんのサポートもしてたわ」

音葉「……」

清良「私、無力なのよ」

真奈美「……」

清良「こんなことにならないで、晶葉ちゃんを立ち直らせてあげればよかったのに、出来なかったの」

真奈美「晶葉君、か」

清良「結局、あのIMCを倒さないとダメなの」

音葉「最後のIMCですか……?」

清良「お願い、勝って。あの子が失ったものを、取り戻して」



IMCG女子寮・櫂の自室

西島櫂「……う」

西島櫂
競泳選手の夢が破れて、ドルフィンのパイロットとなった。そして、パイロットである時も終わりが近づいている。

櫂「そっか……また倒れたんだ」

槙原志保「櫂さん!気が付きましたか!」

槙原志保
IMCGの女子寮の寮母さん。いつも甘い香りがする、どこか懐かしい甘い香りが。

櫂「志保さん……」

志保「お水をどうぞ、口は大丈夫ですか?」

櫂「口……うへぇ、鉄の味がする」

志保「気絶してる時に、口を洗いました。取り切れなかったですね」

櫂「ううん、ありがとう」

志保「痛みは、ありませんか」

櫂「痛いのはドルフィンだから。あたしは痛くないよ、我慢するのに口かんじゃったけど」

志保「いいえ……それだったら気絶なんかしません」

櫂「ドルフィンと接続を切っても、痛みは少し残るんだ。凄い頭痛がしたし」

志保「無理は、しないでください」

櫂「それは、保障できないかも」

志保「大切にしてくださいね。もし、何かがあったら悲しむ人がいますよ」

櫂「ありがとう、志保さん」

志保「いいえ、私は何も……」

櫂「あたしを誰が運んできてくれたの?」

志保「真奈美さんです。その後は、清良さんが見てくれてました」

櫂「そうなんだ。あと、ドルフィン壊しちゃったから、晶葉ちゃん、怒ってない?」

志保「……」

櫂「志保さん?」

志保「そっか、知らないんですね」

櫂「……何か、あったの」

志保「晶葉ちゃんは、ここにはいません」

櫂「どこにいるかもわからないの?」

志保「はい……最後のIMCを持った晶葉ちゃんを警察が探してます」

櫂「……そう」

志保「ごめんなさい」

櫂「なんで、謝るの……?」

志保「やっぱり、何も出来ませんでした。何も、当たり前です、だって、掃除とかお料理しかできないから」

櫂「志保さん……」

志保「だから、最後のIMCを出ていく前に渡しました」

櫂「……」

志保「このまま、閉ざされていくなんて……イヤです」

櫂「志保さん、教えて。晶葉ちゃんのこと」

志保「……」

櫂「あたしは、シュリンクのパイロットだから。絶対に助けるから、信じて」



IMCG・会議室

レナ「あら」モグモグ

財前時子「優雅にお昼とは、良いご身分ね」

和久井留美「お疲れさまです」

財前時子
ゼットテクニカの副会長。シュリンク、IMC、IMCGの全ての創立に関わった。

和久井留美
財前時子の秘書。趣味は仕事。

レナ「ご飯は重要でしょ?」

時子「当たり前でしょう。晶葉は?」

レナ「警察は見つけてないわ。私も知らない」

時子「無能で助かったわ」

レナ「ところで、何か用事?」

留美「浜川様に呼び出されました。警察がらみだそうで」

時子「愛結奈はここに来いと言ってたわ」

レナ「ここには来てないけど、どこかしら」

時子「呼び出しておいて待たせるとはいい度胸じゃない」

レナ「忙しくないんでしょ?ならいいじゃない」

留美「その通りですが」

レナ「もしかして、話しちゃった?」

時子「もう隠す理由もないわ。あの記者さん達は知ってるわよ」

留美「予定は全てキャンセルです」

レナ「警察には?」

時子「まだよ。わざわざ出向いてあげることはないわ」

レナ「IMCGの捜査の方が先よね」

時子「そこまで無能だったら、今後が心配だわ」

レナ「いつだって、聞き出せるもの。ね?」

時子「ええ」

頼子「お早いですね、副会長」

レナ「仕事がなくなったそうだから」

時子「クビね」

留美「……」

時子「それで、愛結奈はどこかしら」

頼子「ご案内します。どうぞ」

時子「行ってくるわ。留美は帰ってもいいわ」

留美「はい」

レナ「またね、頼子ちゃん」

頼子「はい、失礼いたします」

留美「……」

レナ「次の仕事、決まってる?」

留美「いえ……」

レナ「まっ、しばらくニートもいいんじゃない?役員秘書なら貯金もあるでしょ?」

留美「それは、もちろんです」

レナ「仕事だけが生きがいじゃつまらないし、秘書だけが仕事じゃないわ」

留美「よく言われます」

レナ「時子ちゃんは手元に残しておくつもりはないみたいよ」

留美「わかっています」

レナ「茨の道に連れて行くほど、あの人は冷たくないわよ」

留美「……」

レナ「良くないことがここで起こると思うから帰りなさい。しばらくゆっくりとしてるといいんじゃないかしら」



IMCG・事務室

雪菜「こんにちは」

時子「井村雪菜ね、愛結奈は」

雪菜「ここにはいませんよ。寮のお部屋です」

時子「いないじゃない、貴方」

頼子「はい。用事があるのは、彼女ですから」

時子「フン……」

雪菜「お聞きしたいことがあります」

時子「貴方、メイクは変えた?」

雪菜「いいえ、いつも通りです」

時子「なら、貴方そのものが変わったのね」

頼子「……」

雪菜「いいですか」

時子「聞きたいことは、何かしら」

雪菜「晶葉ちゃんのことを聞かせてください」

時子「どうしてかしら」

雪菜「私の、仕事ですから」

時子「本当に?」

雪菜「本当です。私は、IMCを助けるのが仕事です」

時子「……」

雪菜「お願いします、全部話してください」

時子「いいわ。だから、そこまで口調を強くしないで」

雪菜「えっ……」

時子「まるで、私にはそんな態度じゃないといけないみたい」

頼子「……」

時子「それで、何から話せばいいのかしら」

雪菜「あの、どう思ってますかぁ」

時子「どうじゃわからないわよ」

雪菜「晶葉ちゃんのために、全てを動かす価値はありましたか」

時子「どういう意味で聞いてるのかしら」

雪菜「損得ですか、晶葉ちゃんの才能が欲しかったのですか」

時子「違うわ。違うわよ、それは違うわ」

雪菜「なら、どうしてですか」

時子「才能なんていらないわよ。そんなの、どうでもいいわ!」

頼子「……」

時子「何もかも諦めて、自分は何でもないと思わせるだなんて、イヤだっただけよ。損得なんてないわ、私のワガママよ」

雪菜「……わかりました」

時子「あの子に、あの子であることを望んで、何がいけないの」

雪菜「良かったですぅ」

時子「何が、よ」

雪菜「晶葉ちゃんの気持ちに近づけます。あなたの言葉なら」

時子「知りたいのは、真実じゃないの」

雪菜「真実なんて、私には意味がありませんから」

時子「……そう」

雪菜「今、何を思っているのか。感じているのか」

頼子「人は変わります。今の晶葉さんは、あなたが知ってる晶葉さんですらありません」

時子「その通りね。私は、避けてきたわ」

雪菜「新しい時を、自信をもって進んでほしいんです」

時子「……」

雪菜「そのために、教えてください」

時子「あの子のことを、ね」

雪菜「はい。あなたの気持ちと共に教えてください」

時子「いいわ。でも、あの子も強情よ。解決するかなんてわからない」

雪菜「大丈夫ですぅ」

頼子「はい」

時子「妙に自信があるわね」

雪菜「私達の仲間には、とっても強い人がいるんですよぉ」



IMCG女子寮・食堂

真奈美「そうか。連絡ありがとう、亜季君」

音葉「……見つかっていませんか」

真奈美「そのようだ」

清良「……」

音葉「IMCが出現するのも……時間の問題でしょうか」

清良「そうね……疲れてるかもしれない」

真奈美「遠くに行ったのか?」

清良「ごめんなさい……わからないの」

音葉「清良さんが……気に病むことではありません」

真奈美「櫂君は、どうだ」

音葉「起きたようです……話し声がしました」

真奈美「本当か?様子を見に行こうか」

音葉「やめましょう……込み入ったお話のようですから」

清良「……そう」

真奈美「志保君も、何か知ってるのか」

音葉「計画を知っていたのは……どなただったのですか」

清良「……」

真奈美「今更だろう。答えてくれ」

清良「全部で、7人よ……」

音葉「レナさんと……財前副会長」

真奈美「清良君と、誰だ」

清良「愛結奈さんよ。財前副会長の友人だから」

音葉「他には……頼子さんは知っていますか」

清良「ええ……司令が雇った人だから」

音葉「ふむ……」

清良「事務室の持田亜里沙さんもよ」

真奈美「よくよく考えればおかしいか……IMCGに必要な人材じゃない」

音葉「もう一人は……おのずと答えが出ますね」

真奈美「志保君なのか」

清良「ええ……」

音葉「彼女はずっと……晶葉さんを見ていました」

真奈美「仕事で割り切った感情じゃなかった」

清良「そうね、私達はそれに付け込んだのよ」

音葉「そんなことを……言わないでください」

真奈美「褒められた行為じゃない」

清良「ええ……わかってる」

音葉「気持ちは本物でしょう……」

清良「……違うの。音葉ちゃんと志希ちゃんは、倒されるために呼んだの。あの子が打ち破るべき壁と設定したの」

音葉「……わかっています」

清良「……聡明なのあさんには、何も知らせずに行動させたわ」

真奈美「気持ちは同じだから、か」

清良「伊集院巡査も、目的だけ教えたのよ。あの子を潰したくなかったら、協力してって」

音葉「……」

清良「今もそうよ……皆の気持ちを利用してる」

真奈美「いいや、それは違う」

清良「ごめんなさい……そう言ってくれることに甘えてるの」

音葉「……」

清良「本当は……どうしたらよかったのかしら」

真奈美「私達にはもうわからない」

音葉「進んできた時は……戻せません」

真奈美「だから、信じるとしよう」

音葉「ええ……真心は届きます」

真奈美「まだ、あのイルカはここにいる」

10

IMCG女子寮・櫂の自室

志保「私、ゼットテクニカの社員食堂で働いてました。夕ご飯の時間帯にです」

櫂「うん」

志保「晶葉ちゃん、いつも一人でご飯を食べてました」

櫂「……」

志保「なぜと思ってたのに、聞けませんでした。きっと聞く勇気も優しさもなかったんです」

櫂「そんなこと、ないよ」

志保「ある日、レナさんが来ました。私に話があるって……」

櫂「IMCGに誘われたの?」

志保「違いました。ここに中学生が来るでしょ、あの子ね、親代わりも亡くなっちゃって、部長が保護者なのよね、もしよければだけど、優しくしてあげて、それだけです」

櫂「そっか」

志保「でも、私、何も出来ませんでした……簡単な挨拶しかできなくて」

櫂「……」

志保「IMCGが出来る時に、レナさんからもう一度話がありました」

櫂「それで、寮母さんになったんだ」

志保「はい。きっと歯がゆい思いをしてるのを、見られてたんですね」

櫂「志保さんは、どこまで知ってるの?」

志保「ごめんなさい、櫂さん」

櫂「どうしたの、志保さん」

志保「全部です」

櫂「全部……」

志保「はい」

櫂「IMCって何かも?」

志保「はい」

櫂「どうやってIMCGが出来たかも?」

志保「はい」

櫂「誰かが書いた、シナリオも……?」

志保「はい。真奈美さんと音葉さんがIMCになるかもしれないことも知ってました」

櫂「そっか……」

志保「時子さんとレナさんのことも知ってます」

櫂「……」

志保「晶葉ちゃんのことも」

櫂「……」

志保「ごめんなさい」

櫂「晶葉ちゃん、言ってたんだ。志保さんには、悩みを話したことがあるって」

志保「……はい」

櫂「それは、この計画のために、打算で引き出したものなの?」

志保「……」

櫂「違うよね?あたしはそう信じてる」

志保「そうでしょうか……本当にそうなんでしょうか」

櫂「あっ、恵磨さんからメールが来てた。ファイルが添付されてる、なんだろ?」

志保「その人、IMCGが何を目的としていたかに辿り着きましたよ」

櫂「えっ……」

志保「時子さんから、記者さんの件は聞きました。言った通りです、私は全部、知ってるんです」

櫂「だけど、こうなることを選んだ。それをあたしは信じていい?」

志保「……お任せします。そのファイル、見てくださいね」

櫂「わかった。ちょっと待ってて」

11

IMCG・事務室

時子「IMCが何の略か、知ってるわね」

雪菜「知らないです。どういう意味なんですかぁ?」

時子「本当にこの子、知らないの?」

頼子「はい」

時子「IMCは池袋晶葉の父親が作ったロゴよ。会社の機械を借りて作った、あの子のための道具についているわ」

雪菜「はい」

時子「池袋機械製作所を英語にして頭文字を取ったようね。もちろん、実在する会社でも商標でもないわ」

雪菜「なんで、IMCは同じ名前をつけたのですか」

時子「理由が同じだからよ」

雪菜「晶葉ちゃんのために作られたもの、だから」

時子「ええ。最初からそれ以外の目的なんてないのよ」

雪菜「そう思うように、どうしてなったのですか」

時子「……ゼットテクニカは、あの子の才能を買ったわ」

雪菜「会社ごと、ですね」

時子「そうよ。優秀な職人もいたわ。下請けでは勿体ないと、それだけでも買う価値はあった。実際に利益も出てる」

頼子「でも、それは本来の目的ではありません」

時子「ええ。明らかに優秀な頭脳があったのよ」

雪菜「それが晶葉ちゃん」

時子「家族ごと、あの子の人生ごと、ゼットテクニカは買ったのよ」

雪菜「……」

時子「あの子のアイディアを吸収して、あの子が成熟するまでの隠れ蓑が、私の処遇に困っていた役員が立ち上げた先進開発部よ。ゼットテクニカのエンジニアも一人いたわ」

頼子「『天才』と呼ばれていた人です」

雪菜「『天才』ですかぁ?」

時子「IMCとシュリンクを作った『バカ』よ」

雪菜「『バカ』?」

時子「そうよ。あの男には才能が一切なかったわ。新しいものを生み出す感性が決定的に欠けてたわ」

雪菜「でも、『天才』なんですかぁ?」

時子「あの子は、天才よ。でも、小さな子供でもあった。劣等感もあるわ」

雪菜「……」

時子「あの子、どんなアイディアも閃いても、図面を書いても、作ることが出来なかったのよ」

雪菜「……」

時子「作ることに関しては、あの『バカ』が優秀だったわ。あの子の、考えを実現することが出来たのはあの『バカ』だけよ」

雪菜「大切な人だったんですね」

頼子「晶葉さんの短所を補っていました」

時子「IMCはね、池袋晶葉がアイディアを形に出来ないことに対する悩みから作られたのよ。形作ることを生物に任せた、ものよ」

雪菜「それも晶葉ちゃんとその人が?」

時子「ええ。完成するとは思わなかったけれど」

頼子「IMCと呼ばれる生物は、その試作品」

時子「ロジックでなく感情で形が決まる、失敗作だったわ」

雪菜「シュリンクは?」

時子「接続のために、IMCとコアを同質にしたものよ」

雪菜「目的は、IMC対策ですか」

時子「その通り。将来的に利用が確立されても、事故の危険はあったわ。その対策のため」

頼子「シュリンクのコア6体は同時期に作られたようですね」

時子「キーはコアよ。それ以外の機械構造は後でも良かった」

雪菜「それこそ、IMCGが出来た時でも」

時子「誤算があったわ。もう、IMCもシュリンクも作れない。あの『バカ』は技術を展開できなかったのよ」

雪菜「亡くなってしまったから」

時子「……」

雪菜「時子さん?」

時子「私は、あの子の人生を買ったわ……」

雪菜「……」

時子「結果的に、全て壊してしまったのも、私よ」

12

IMCG女子寮・櫂の自室

志保「晶葉ちゃんのお父さんが務めていた会社は、ゼットテクニカに買われました」

櫂「しばらくして、お父さんはゼットテクニカ本社の製造部門に移籍した」

志保「晶葉ちゃんは時子さんの部署に行きました。『天才』と呼ばれてた人と一緒に」

櫂「なんで『天才』と呼ばれてたの?」

志保「博士課程を卒業していたから、みたいです」

櫂「それだけ?」

志保「はい。晶葉ちゃんがそう言ってました」

櫂「交通事故か……」

志保「……はい。晶葉ちゃんのご両親は亡くなりました」

櫂「会社の帰りなんだ……お母さんが車で会社に迎えに行って、その帰りに」

志保「もし、会社が買われていなかったら」

櫂「そんなの、背負い込んだらキリがない……」

志保「でも、時子さんは背負い込みました」

櫂「……」

志保「前の会社からいた『天才』が晶葉ちゃんを預かりました」

櫂「そっか……」

志保「……」

櫂「IMCが作られたのも、その頃?」

志保「はい。晶葉ちゃんのアイディアが実現するには、少しだけ時間が掛かりました」

櫂「でも、その人も亡くなった」

志保「その人は天才なんかじゃありませんでした。頭脳も精神も普通で、肉体も人並みでした」

櫂「……」

志保「突然倒れて、亡くなったそうですよ。苦しまずに済んだ、ってお医者さんは言ってたそうです」

櫂「やりたいことも、やらなくちゃいけないことも一杯あったのに」

志保「時子さんは自分の管理不足に怒ってました」

櫂「晶葉ちゃんは」

志保「自分のために頑張り過ぎたなら、私のせいだって」

櫂「そっか、晶葉ちゃん、言ってた……あたしに頑張り過ぎて倒れるのは見たくないって」

志保「私は天才なんかじゃない、アイツがいないと何も出来ない、って言ってました。本当の『天才』はアイツなんだって」

櫂「……」

志保「学校のお勉強は苦手で、何もかもが自由じゃなくて、突拍子もないことも考えられない、そんな人間なんだって。天才なんかじゃないって」

櫂「そう思い込もうとしてる」

志保「……はい」

櫂「自分で、自分を否定しようとしてる」

志保「そんなのイヤじゃないですか……見捨てられるわけないじゃないですか……」

櫂「うん」

志保「だから、考えました」

櫂「それが、IMCGなの?」

志保「IMCGは、晶葉ちゃんが晶葉ちゃんを否定しないための時間稼ぎの繭です」

櫂「シュリンクを作らせて、IMCと戦わせたのも目の前の課題と向き合わせるため」

志保「志希ちゃんと音葉ちゃんという、才能にも臨ませました」

櫂「……勝った」

志保「櫂さんと、晶葉ちゃんのドルフィンは勝ちました」

櫂「……そっか」

志保「強いIMCにも勝ちました」

櫂「なら、あたしは最後に何をすればいいの?」

志保「私の、私達の気持ちは一つです」

櫂「きっと、あたしも同じだと思う」

志保「ドルフィンは、晶葉ちゃんが作った、彼女の証です」

櫂「わかってる」

志保「パイロットが櫂さんで、良かったです」

櫂「そうかな」

志保「お願いです、証明してあげてください」

櫂「……」

志保「晶葉ちゃんの才能を証明してください」

櫂「方法は」

志保「ドルフィンで、最後のIMCを倒してください」

13

IMCG・会議室

レナ「お帰りなさい」

時子「……」

レナ「あら、お疲れね。怒られた?」

時子「そんなところよ」

レナ「雪菜ちゃん、どうだった?」

時子「知ってたのね」

レナ「当たった。そうじゃないかと思ってた」

時子「ストレートに言われたわ」

レナ「なんて?」

時子「貴方は今の晶葉を助けることができない、言い切られたわ」

レナ「手厳しいわね」

愛結奈「あら、時子」

時子「愛結奈」

愛結奈「どうだった、怒られた?」

時子「上司と同じことを言うのね」

愛結奈「そうなの?」

レナ「怒られたそうよ」

愛結奈「仕方がないわ。時子は、それしかできないじゃない」

時子「何が言いたいのかしら?」

愛結奈「私達は何も出来ないの。主役も変わってしまった」

時子「わかってるわよ……そんなこと」

レナ「晶葉ちゃんは相変わらず見つかってないのね」

愛結奈「そうみたい」

時子「どこに、いるのかしら。食事はとってるのかしら……」

愛結奈「……ねぇ、時子」

時子「なにかしら」

愛結奈「何でもないわ。大丈夫よ、信じて」

時子「さっき言われたわ」

レナ「雪菜ちゃんと頼子ちゃんが言うなら信じられるわ。でしょ?」

愛結奈「もちろん、ワタシの優秀な部下だもの」

14

IMCG女子寮・食堂

櫂「おはよ」

音葉「櫂さん……お体は大丈夫ですか」

櫂「うん。ありがと、音葉ちゃん」

真奈美「少しは食べておけ。こんなものしか用意できていないが」

櫂「真奈美さん」

真奈美「後は任せた。私達は送り出すだけだ」

清良「ええ」

音葉「晶葉さんに……会いに行ってください」

櫂「うん。でも、先に雪菜ちゃんの所に行ってくるね」

清良「晶葉ちゃんがどこにいるか、わかるの……?」

櫂「わかるよ。志保さんが教えてくれた」

清良「……そう」

真奈美「何か、出来ることはあるか」

櫂「ううん、ありがとう」

真奈美「信じるぞ」

櫂「もちろん。行ってきます」

音葉「お願いします……」

15

IMCG・オペレーションルーム前

マキノ「オペレーションルームのデータも全て手に入ったし、全容はほぼわかったわね」

亜季「そうでありますが……」

マキノ「後は副会長でも問い詰めるとしましょう」

亜季「……」

マキノ「責任をどうとるかは知らないわ。警察に関してはやるべきことをやった、それで筋は通すわ」

亜季「八神殿は警察の味方なのでありますな」

マキノ「そうよ。私は警察のために働いているのだもの」

亜季「そうでありますか」

マキノ「池袋晶葉は?」

亜季「見つかっておりません」

マキノ「そう。どこかに隠れているのかしら」

亜季「そうだと思われますが……」

マキノ「根を詰め過ぎてもダメよ?少し休みなさい」

亜季「はい、わかっているであります」

マキノ「大和巡査は休憩を。オペレーションルームの警備は引き続きお願い、自由に入らせないで」

亜季「失礼するであります、八神殿」

マキノ「お疲れ様、大和巡査」

16

IMCG・事務室

雪菜「よし、っと」

頼子「出来ましたか」

雪菜「はい。手伝ってくれてありがとうございましたぁ」

頼子「いえ。私は知っていましたから」

雪菜「愛結奈さんも、頼子さんも私にはイジワルですぅ」

頼子「でも、私は人の気持ちまではわかりません」

雪菜「……そうでしょうか」

頼子「櫂さんと合流してください」

雪菜「わかりました」

頼子「確認しますが」

雪菜「わかってますぅ」

頼子「勧めはしません。断ってください」

雪菜「断りません」

頼子「準備をしてきます。持っていますか?」

雪菜「もちろんですぅ」

頼子「また、後で会いましょう」

17

IMCG・構内

マキノ「あら」

櫂「マキノさん」

マキノ「どこかに行く予定?」

櫂「会議室まで」

マキノ「奇遇ね。私もよ」

櫂「じゃあ、伝言を頼んでもいい?」

マキノ「誰にかしら?」

櫂「レナさんに」

マキノ「なんて?」

櫂「勝手にやるから、許して」

マキノ「貴方、何か企んでるわね」

櫂「あたしが難しいこと考えられるわけないっしょ?」

マキノ「狡猾な人間は、自身をバカに見せるもの」

櫂「ないない。狡猾なんかじゃない」

マキノ「……」

櫂「それじゃ、雪菜ちゃんはどこにいるか知ってる?」

マキノ「事務室でしょう、移動してなければね」

櫂「わかった。ありがと、マキノさん」

マキノ「ねぇ、貴方」

櫂「なに?」

マキノ「IMCGって、警察まで動かしてまで必要なものだったの?」

櫂「あたしが決めることじゃない。あたしはただのパイロットだから」

マキノ「……そう」

櫂「警察は、IMCGをどうするの?」

マキノ「止める。真実を突き止め、ないものとする」

櫂「そう」

マキノ「警察は市民の安全のために、この組織を止めた。貴方達は自身の目的を果たした」

櫂「良く言えば、ね」

マキノ「それでいいでしょう。ただ、責任は取ってもらうわ」

櫂「誰が、かな」

マキノ「主に、財前時子と兵藤レナね。今の役職ではいられない」

櫂「あたしも?」

マキノ「もちろん、パイロットは辞めてもらう。IMCがない世界に、パイロットの貴方は不要よ」

櫂「そっか」

マキノ「お元気で。最後のIMCには勝ちなさい」

櫂「わかってる」

マキノ「そう。失礼するわ、伝言は伝えておく」

櫂「ありがと」

マキノ「どういたしまして」

櫂「……」

櫂「えっと、お目こぼしされた、のかな」

18

IMCG・事務室

雪菜「櫂さんっ!」

櫂「雪菜ちゃん」

雪菜「待ってましたよぉ」

櫂「頼子ちゃんは?ここにいるって聞いたけど」

雪菜「少し出てますよぉ」

櫂「どこに?」

雪菜「まだ、知りません」

櫂「他の人は?」

雪菜「いません」

櫂「そっか、それなら私達だけか」

雪菜「はい。私と櫂さんだけですぅ」

櫂「さっきね、聞いてきた」

雪菜「何をですかぁ?」

櫂「志保さんから、晶葉ちゃんのこと」

雪菜「副会長から私もですぅ。これをどうぞぉ」

櫂「カルテ」

雪菜「昔の晶葉ちゃんのことが書いてますぅ」

櫂「……」

雪菜「でもぉ」

櫂「これは昔だね」

雪菜「はい、今の晶葉ちゃんなら私達の方が知ってます」

櫂「志保さんはもっと知ってた」

雪菜「これまでがあって、今があります」

櫂「わかってる」

雪菜「目的を聞きましたか?」

櫂「レナさんは、最後のIMCを晶葉ちゃんに使わせるつもり」

雪菜「はい」

櫂「雪菜ちゃんはIMCを使わせた方が良いと思う?」

雪菜「思いません」

櫂「そっか」

雪菜「でも、きっと晶葉ちゃんがそれを望むかもしれません」

櫂「そうなんだよね……」

雪菜「その時は、お願いしますぅ」

櫂「うん」

雪菜「最後のIMCから、助けてあげましょう」

櫂「雪菜ちゃん、志保さんから聞いてきたんだ」

頼子「戻りました。櫂さん、こんにちは」

櫂「頼子ちゃん」

雪菜「準備は終わりましたかぁ?」

頼子「ええ。警察というところは色々なものが揃います。ふふっ♪」

櫂「あやしい……」

頼子「ところで、櫂さんは何を聞いたのですか?」

櫂「晶葉ちゃんの居場所」

頼子「時間がありません。ご協力を」

雪菜「はいっ!」

櫂「何する気?」

頼子「ちょっとだけ、怯えさせるだけですよ」

19

IMCG・オペレーションルーム前

亜季「結局……見つからずじまいでありますか」

頼子「こんにちは」

亜季「頼子殿」

頼子「何をしていらっしゃるのですか?」

亜季「それはこっちのセリフで……」

頼子「どうしました?」

亜季「本当に、何をしているでありますか」

頼子「動かないように」カチャ

亜季「警察官が二人倒れているであります」

頼子「スタンガンです。警察組織ならあると思っていました」

亜季「ここにきて、何が目的でありますか」

頼子「何も。オペレーションルームを使わせてください」

亜季「承知しかねるであります。銃を降ろすであります」

頼子「では、手荒に取り戻させていただきます」パァン!

亜季「……!」

頼子「それでは」

亜季「万国旗……頼子殿!ドアを閉められたであります……」

頼子「入らないように。さっきはニセモノでしたが、次は本物です」

亜季「どなたか援助を!オペレーションルームに職員が立てこもっているであります」

ガチャ

頼子「大和巡査、これが何かわかりますか?」

亜季「プラスチック爆弾、でありますか」

頼子「はい。次にドアを開けたら爆発しますので、お気をつけて」

亜季「そんなもの、どこで手に入れるでありますか!?」

頼子「レディに秘密を聞くのは野暮ですよ。また、お会いしましょう」

亜季「頼子殿!爆弾処理半もお願いするであります!」

頼子『オペレーションルームより連絡』

亜季「本当に、何をしてるでありますか」

頼子『準備は出来ましたか?』

亜季「準備?」

頼子『シュリンクに通電。通信完了。パイロット搭乗確認』

亜季「ドックでありますか……?」

頼子『シュリンク1、起動準備』

亜季「タイガーでありますか!ドックではありません、体育館の地下であります!」

20

IMCG・体育館地下

雪菜「こんにちは、タイガー。やっぱり、元気がないですぅ」

頼子『オペレーションルームより連絡』

雪菜「でも、少しだけがんばってくださいねぇ」

頼子『雪菜さん、聞こえていますか』

雪菜「はい、タイガーに乗りましたぁ」

頼子『準備は出来ましたか』

雪菜「はい。IMCだった私は、パイロットの資格もありましたぁ」

頼子『シュリンクに通電。通信完了。パイロット搭乗確認』

雪菜「でも、乗らないで欲しいと思った人がいたんですぅ。ごめんなさい、真奈美さん」

頼子『シュリンク1起動準備』

雪菜「お願い、タイガー、少しだけ助けて」

頼子『タイガー起動』

雪菜「聞こえましたぁ……行きますよっ!」

21

IMCG・会議室

時子「外が騒がしいわね」

マキノ「何かトラブルでもあったのでしょう」

時子「貴方は冷静ね」

マキノ「何をやってるのかしら?」

レナ「もしかして、私に聞いてる?」

マキノ「察しがいいわ。その通り」

レナ「本当にわからないわよ。そっちこそ、耳の無線で何か聞いてるんじゃない?」

マキノ「騙されてくれないわね。そうよ」

愛結奈「何か起こってるのかしら?」

マキノ「ここは館内放送も切ったから聞こえてない」

レナ「オペレーションルームに誰か侵入したの?」

愛結奈「誰よ?」

マキノ「古澤頼子。爆弾を扉に設置、警察は立ち往生してるわ」

時子「待ちなさい。シュリンクが起動してるわ、この音」

愛結奈「櫂ちゃん?」

レナ「いえ、違うわね」

愛結奈「ということは、タイガー?」

マキノ「当たり。動かしてるのは、井村雪菜のようね」

レナ「あら、愛結奈の部下もやるじゃない」

愛結奈「ワタシの部下だから当然よ」

マキノ「いいのかしら?」

レナ「何が?」

マキノ「部下の暴走を放置しても」

愛結奈「責任は時子とレナが取るわ。あの二人は許してあげて」

時子「愛結奈も少しは責任を負いなさい」

マキノ「呼ばれたわ。貴方達も様子を見に行くかしら?」

レナ「もちろん。私は責任者だもの」

22

IMCG・中庭

真奈美「そこのシュリンク!今すぐ止めて降りてこい!」

音葉「どなたが……乗っているのでしょうか」

真奈美「パイロット候補なんて、櫂君か雪菜君しかないだろう」

清良「櫂ちゃんじゃない……雪菜ちゃんかしら」

頼子『タイガー、中庭にIMCG職員が出ています。手をふりましょう』

清良「頼子ちゃんは、何をやってるの……」

音葉「あ……手をふりました」

真奈美「雪菜君!悪ふざけは辞めたまえ!」

レナ「説得ご苦労様」

真奈美「どうする?」

レナ「どうもしない」

音葉「警察が……集まってきました」

頼子『こちらかの要求はそちらの攻撃の意思がないと確認次第、公表いたします』

マキノ「……ふむ」

愛結奈「あら、なにかしら?休暇?」

時子「これからイヤでも休めるわよ」

亜季「マキノ殿!」

マキノ「時間稼ぎ」

亜季「はい?」

真奈美「タイガーは、動かせる状況じゃないんだ!倒れる前に辞めるんだ!」

マキノ「何のために……?」

亜季「あの、さっきから話が読めないであります」

マキノ「大和巡査」

亜季「なんでありましょう」

マキノ「IMCG、ここに誰がいない?」

亜季「えっと、オペレーションルームの頼子殿と、志保殿は、あそこにいるでありますな」

マキノ「後は、西島櫂がいないわ。どこにいるか連絡を」

真奈美「雪菜君!目的はわからないが、辞めろ!私は君に戦うことは望んでいない!」

亜季「……これも時間稼ぎでありますか」

マキノ「ま、そういうことじゃない」

亜季「マキノ殿、どうしてそんなに余裕でありますか」

マキノ「予想出来たから。そして、この事態を別に恐れてはいない」

亜季「まさか」

マキノ「IMCがなくなるまでIMCGを残しておかないといけないなら、私の仕事がいつまでも終わらないもの」

亜季「乗ったのでありますか、シナリオに」

マキノ「こちら、八神。連絡ありがとう。大和巡査」

亜季「何か連絡が」

マキノ「ドックが閉鎖されて入れないわ。おそらく、西島櫂と池袋晶葉はそこにいるわ」

亜季「ドックでありますか、そんな近くに」

マキノ「予想できた、副会長さん?」

時子「近くにいるとは思ってたわ。ここだけは、あの子の庭だもの」

亜季「……行ってくるであります」

時子「貴方、彼女に嫌われたわよ」

マキノ「そちらこそ」

23

IMCG・ドック

頼子『櫂さん、聞こえていますか』

櫂「聞こえてるよ。オモチャだと思ってたけど、凄いね」

頼子『ドックは大型の扉も多いですし、セキュリティの関係で電子制御です』

櫂「つまり、オペレーションルームを掌握してるから他人は入ってこれない」

頼子『そういうことです。よろしくお願いします』

櫂「晶葉ちゃん、聞こえた?」

池袋晶葉「……聞こえている。櫂は声が大きすぎるんだ」

池袋晶葉
全ては彼女から始まった。IMCもシュリンクもIMCGも、このシナリオも。

櫂「良かった、本当にいた」

晶葉「ここが私の場所なんだ。どこかに逃げることもできない」

櫂「……」

晶葉「私は、ただの中学生なんだ」

櫂「わかってるよ。とりあえず、これ」

晶葉「なんだ」

櫂「真奈美さんがおにぎりくれたんだ。食べなよ」

晶葉「……受け取っておく」

櫂「お腹空いてるでしょ」

晶葉「無論だ。いただこう」

櫂「……美味しい?」

晶葉「美味しい。真奈美が料理上手なことは良く知ってる」

櫂「あたしも知ってる」

晶葉「皆、私を探してるのか……?」

櫂「探してる。それが、IMC?」

晶葉「そうだ。私のために作られた、本物のIMCだ」

櫂「そして、最後のIMCだ」

晶葉「ごちそうさま、櫂。少し元気になった」

櫂「どういたしまして」

晶葉「ずっと逃げてはいられないな」

櫂「そうだね」

晶葉「だが、のこのこと出ていくことは出来ない」

櫂「IMCが大切?」

晶葉「これは大切だ。これが何かも、皆が知ってる通りだ」

櫂「ツール。晶葉ちゃんの、考えを形にする道具」

晶葉「誰かに詳しい話を聞いたのか」

櫂「あたしは志保さんから。副会長さんからも何があったかは聞き出してる」

晶葉「志保か……」

櫂「晶葉ちゃん」

晶葉「今さら、聞かなくていい。全部、私のために作られた出来事だ」

櫂「……」

晶葉「両親も、アイツも失って、私は自分を信じる術も失った。誰よりも、私と私の才能を信じてくれた、人達が亡くなるのは辛い」

櫂「前に、がんばり過ぎて倒れるのを見るのがイヤって、言ってたよね」

晶葉「ああ。アイツはIMCとシュリンクは残してくれた。でもな、そんなものはオマケだ」

櫂「大切な人だったんだ」

晶葉「私は、天才なんかじゃないんだ。アイツがいないと形にすら出来ない」

櫂「……」

晶葉「私は、ただの中学生だよ。今も、これから離れられない」

櫂「それは?」

晶葉「ドルフィン、か」

櫂「あたしは、ドルフィンは晶葉ちゃんの力が作ったものだと思うよ」

晶葉「そうだな」

櫂「ドルフィンは、その人が亡くなった後に作ったんでしょ」

晶葉「……ああ」

櫂「なら、そんなこと言わないでよ。晶葉ちゃんは、あたしの天才博士なんだ」

晶葉「……」

櫂「だから、自信を持とうよ」

晶葉「そうだな、きっと時子もレナも同じことを思ってた」

櫂「同じこと?」

晶葉「私の才能が惜しいんだ」

櫂「惜しいのは、才能じゃないよ」

晶葉「なら、私が塞ぎ込むのを見たくなかっただけか?」

櫂「たぶん、そっちだと思う」

晶葉「そうか、そうだな!」

櫂「うん」

晶葉「わかってる。わかってるさ、私は天才博士だ」

櫂「晶葉ちゃん、戻ろう」

晶葉「その気持ちを利用する賢さくらい、ある」

櫂「晶葉ちゃん……?」

晶葉「櫂は私を天才博士と言ってくれた」

櫂「もちろん」

晶葉「ドルフィンは、そんな私が作ったものだ」

櫂「うん」

晶葉「なら、それ以上のモノが用意できればいいんだな」

櫂「なに?」

晶葉「時子にもレナにも悪いが、私なんてどうでもいい」

櫂「そんなことない、だって」

晶葉「ここにIMCがある。私の劣等感を打ち消すための夢の生物だ」

櫂「志保さんも清良さんも、本当に心配してくれてるのに」

晶葉「私は全力を尽くした。全てはこの時のためだ」

櫂「何をする気なの」

晶葉「私は、アイツが『天才』だと証明できればいい。本当にそれだけなんだ」

櫂「待って!」

晶葉「アイツは私を天才と呼んでくれた。その私の最高傑作を、越えられたなら」

櫂「晶葉ちゃん!」

晶葉「アイツが本当の天才だ」

24

IMCG・オペレーションルーム

頼子「一人は寂しいですね」

雪菜『私もそっちに行けばよかったでしょうかぁ?』

頼子「タイガーの操縦はいかがですか」

雪菜『必死に頑張ってくれますけどぉ、もうお休みみたいですぅ』

頼子「その様ですね。タイガーが倒れる前に座りましょう」

雪菜『はい。あら、皆がびっくりしてますぅ』

頼子「……」

雪菜『頼子さん?』

頼子「IMC反応が出ました」

雪菜『櫂さんを信じます』

頼子「ええ。館内放送、IMCが出現しました。場所はドック」

雪菜『よしっ……』

頼子「ハッチオープン」

櫂『頼子ちゃん!』

雪菜『櫂さん、晶葉ちゃんを助けてくださいっ!』

頼子「IMCは?」

櫂『開いたハッチから出て行った!ドルフィンの発進準備を!』

頼子「訓練の成果を見せるときですね」

雪菜『晶葉ちゃんの目的はなんですかぁ?』

櫂『ドルフィンを倒すこと』

頼子「注水準備を完了しました」

櫂『コクピットに登場した』

雪菜『そうですかぁ……あ』

頼子「真奈美さんがタイガーに近づいてますね」

雪菜『ここでお別れみたいですねぇ』

頼子「ええ。雪菜さん、お元気で。タイガーのコクピットを開きます」

雪菜『さようなら、頼子さん』

頼子「ドルフィン、注水開始」

櫂『ねぇ、頼子ちゃん』

頼子「なんでしょう」

櫂『晶葉ちゃんの目的を知ってた?』

頼子「わかりません。私は仕事をしているだけですから」

櫂『自分を否定するのって、どんな気持ちなんだろう』

頼子「櫂さんは、知ってます」

櫂『そっか……そうだよね』

頼子「あなたで良かった、レナさんはそう言ってました」

櫂『そう思えるように頑張るよ』

頼子「注水まもなく完了です」

櫂『よしっ……』

頼子「注水完了。接続開始」

櫂『……よし』

頼子「ドルフィン、接続完了」

櫂『ドルフィンシステムを』

頼子「はい。ドルフィンシステム起動」

櫂『ん……ふぅ』

頼子「何かありましたか」

櫂『センサーが壊れてる。痛みがする』

頼子「解除しますか」

櫂『いやいい……そんな甘い相手じゃないだろうし』

頼子「強いですね」

櫂『痛みも辛さもあたしは知ってるから』

頼子「はい。ドルフィン、発進」

櫂『ドルフィン、行きますっ!』

25

IMCG・正門

伊集院惠「あら、亜季ちゃん」

伊集院惠
IMCGに勤務していた警察官。SPの仕事につくことになった。

亜季「惠、どうしてここに」

惠「勤務時間外になったから、待機命令解除で出てきたの」

亜季「真面目でありますなぁ……」

惠「あれが、晶葉ちゃんのIMCね」

亜季「止められないでありました」

惠「仕方がないわ」

亜季「虚しいであります。私は正義を信じてきたであります」

惠「そう」

亜季「惠は何を信じているでありますか」

惠「私?」

亜季「私は、何を信じればいいでしょうか」

惠「妙に自信がないわね、らしくないわ」

亜季「失敗続きであります。今ならIMCのコアになれるであります」

惠「失敗したら、立ち上がればいいわ」

亜季「……」

惠「IMCになるほど、私達は弱くないわ。そうでしょう」

亜季「……そうでありますな」

惠「私達は警察官だもの。私達の仕事をしましょう」

亜季「私達の仕事」

惠「ドルフィンがIMCとの戦闘に集中できるように」

亜季「了解であります!」

惠「行きましょう、亜季ちゃん」

亜季「その、惠」

惠「なに?」

亜季「大和巡査呼びは寂しいでありますから、名前で呼んで欲しいであります」

26

IMCG・中庭

レナ「あれが晶葉ちゃんのIMCね」

愛結奈「想像通り?」

時子「ええ。想像通りの形だったわ」

音葉「……ドルフィンみたいです」

時子「あの子のIMCだけは違うのよ。感情じゃないわ」

レナ「頭の中の形を具現化するものだもの」

時子「必然的にドルフィンに近くなるのも当然よ」

頼子『館内放送。中庭でドルフィンとIMCが戦闘に入ります。避難は伊集院巡査と大和巡査に従ってください』

惠「ということだから、避難をお願いするわ」

時子「フン。案内なさい」

レナ「惠ちゃん」

惠「何でしょう、司令」

レナ「ありがとう」

惠「こちらこそ」

愛結奈「ジャマになるから行くわよ。そこの真奈美もお説教は別の所でなさい」

27

IMCG・中庭

櫂「IMCを確認!」

頼子『ふむ』

櫂「ドルフィンそっくりだね」

頼子『はい。晶葉さんがイメージできる最高の形です』

櫂「武器はないよね、たぶん」

頼子『おそらく』

櫂「接続は出来そう?」

頼子『近づけば可能だと思われます』

櫂「攻撃してくる、かな」

頼子『来ますよ。準備をお願いします』

櫂「うん」

頼子『晶葉さんの目的は、さきほど聞いた通りですか』

櫂「ドルフィンを倒すこと」

頼子『では、私達の目的は』

櫂「ドルフィンがIMCより強いことを示す」

頼子『単純です』

櫂「ふー」

頼子『IMC、来ます』

櫂「よしっ!晶葉ちゃん、かかってこい!」

28

IMCG女子寮・食堂

のあ「……おはよう」

志保「のあさん、おはようございます」

のあ「晶葉のIMCが出てるわ……」

志保「わかってます」

のあ「見にいかないのかしら……?」

志保「私は、何も出来ませんから」

のあ「いいえ……あなたしか出来ないことだらけよ」

志保「……そうでしょうか」

のあ「槙原志保」

志保「なに、でしょうか」

のあ「最後の引き金を引いたのは、あなたよ」

志保「……はい」

のあ「銃弾の行方を見届けなさい……そして」

志保「……」

のあ「来なさい……それ以外は許さないわ」

志保「……はい」

29

IMCG・中庭

愛結奈「速いわ!」

雪菜「良い動きをしてますぅ」

時子「ドルフィンに生体関節を使ってるでしょう」

愛結奈「それの全身版、ということね」

真奈美「フムン、巨大な人間そのものか」

音葉「……しなやかです」

レナ「でも、負けないわね」

真奈美「ああ」

音葉「大切なものを……得ていないことを」

真奈美「見せつけてやろう」

雪菜「わっ、そのパンチ避けられるんですかぁ!?」

レナ「IMCもドルフィンシステムみたいに避けてる?」

愛結奈「そのようね」

雪菜「大丈夫、なのでしょうかぁ」

レナ「結果は、見てから考えるものよ」

時子「……」

レナ「積み上げられてきたこれまでを見せなさい、櫂ちゃん」

30

IMCG・オペレーションルーム

頼子「外が静かになりました」

櫂『よっと!』

頼子「良いスウェーです」

櫂『コアはどこ!?』

頼子「ドルフィンとほぼ同一です。つまり、胸部前方」

櫂『そこまで一緒か、せーのっ!』

頼子「IMCが倒れるまでは、突入して来ないでくださいね、警察官さん」

櫂『いち、に、の、さん!』

頼子「足元に注意を」

櫂『そう簡単に転ばないよっ!』

頼子「ドルフィン、IMCを蹴り飛ばしました」

櫂『どうしたの、そんなもんなのっ!?』

頼子「痛みはいかがですか」

櫂『気にしない!』

頼子「さすがです。畳みかけましょうか」

櫂『もちろん、行くよっ!』

31

IMCG・中庭

のあ「……真奈美」

真奈美「のあ、か」

のあ「ドルフィンはどうかしら……?」

真奈美「こっちのセリフだ。櫂君は圧倒してる」

のあ「負けるなら……ドルフィンが原因ということね」

真奈美「ああ。動きがギクシャクだ」

のあ「そうね……晶葉のIMCは流石だわ」

真奈美「人の思いを形にするツール、本当に量産できれば、世界を変えたかもしれない」

のあ「いいえ……勘違いよ」

真奈美「勘違い?」

のあ「そんな大層なものじゃないわ」

真奈美「のあも作った側だろうに」

のあ「櫂は……わかってるわ」

真奈美「何を」

のあ「私、達の思いを……見せて」

32

IMCG・中庭

頼子『ドルフィン、左腕部損傷』

櫂「くっ……」

頼子『櫂さん』

櫂「大丈夫、なんとかなる」

頼子『私もそう思います』

櫂「わかってきた……」

頼子『IMCとドルフィンの差がわかってきましたか』

櫂「動き方が上手くない」

頼子『はい。人体は、最適化されてはいません』

櫂「経験もこっちが上」

頼子『はい。晶葉ちゃんに実戦経験はありません。させては、いけません』

櫂「最後に、やっぱりドルフィンの方が、強い」

頼子『ええ。IMCの動きは鈍化しています』

櫂「焦ってる、かな」

頼子『倒してしまいましょうか』

櫂「うん」

頼子『来ます』

櫂「……」

頼子『IMC、ドルフィンに急接近』

櫂「ふー……」

頼子『左フックを回避』

櫂「いち……」

頼子『右ストレートを回避』

櫂「に……」

頼子『ショルダータックルを回避』

櫂「さん……」

頼子『ドルフィン、止まってください』

櫂「し……」

頼子『IMC、反転』

櫂「ご……」

頼子『櫂さん』

櫂「ろく!」

頼子『大振りのストレートを回避』

櫂「いっけえぇ!」

33

IMCG・中庭

愛結奈「カウンター一発!」

雪菜「櫂さん、やりましたぁ!」

時子「……フン」

音葉「気絶……したようです」

レナ「雪菜ちゃん、頼子ちゃんに通信する手段ある?」

雪菜「はい?」

レナ「あるでしょ、出しなさい」

雪菜「お見通しですねぇ、どうぞ」

レナ「どうも。あら、池袋機械製作所謹製の無線機じゃない」

志保「晶葉ちゃん……」

レナ「頼子ちゃん、聞こえてる?聞こえてるわね」

愛結奈「ドルフィンがIMCを抑えたわ」

レナ「フェイズ1移行。頼子ちゃん、よろしく」

34

IMCG・オペレーションルーム

頼子「フェイズ1に移行しましょう」

櫂『オーケー』

頼子「接続可能」

櫂『ねぇ、聞いていい?』

頼子「接続準備開始。どうしましたか」

櫂『変わることって、怖い?』

頼子「私は怖くありません。でも、皆は怖いかもしれません」

櫂『そっか』

頼子「接続できます。準備は出来ましたか」

櫂『ドルフィン、フェイズ1移行します!』

頼子「フェイズ1移行」

櫂『行ってきます!』

頼子「お願いします」

頼子「……」

頼子「さて、次の支度をしないといけませんね」

35

シュリンクのドック

櫂「ここなんだ」

晶葉「来たか、櫂」

櫂「うん。状況はわかってる?」

晶葉「私のIMCは気絶してるのか」

櫂「そういうこと」

晶葉「ドルフィンの方が強かった、のか」

櫂「もちろん。だって、あたしの天才博士が作ったものだから」

晶葉「どうして、だ」

櫂「なんで、ドルフィンが負けないか?」

晶葉「櫂と私の差か?」

櫂「それもあるけど、そうじゃない」

晶葉「IMCの方が素材としては上だ。なぜだ?」

櫂「簡単なことだと思うよ」

晶葉「簡単か……」

櫂「あたし達が作ってきたドルフィンが強いのは当たり前なんだ」

晶葉「そうか」

櫂「晶葉ちゃんのIMCは、晶葉ちゃんが描いてきた理想形なだけ」

晶葉「……ああ」

櫂「ドルフィンは違う。何度も何度も書き換えられた、努力の結晶だから」

晶葉「誰の、だ」

櫂「晶葉ちゃんの」

晶葉「私か……」

櫂「IMCを作ってくれた『天才』がいない時間に、晶葉ちゃんがもがいた証だから」

晶葉「……」

櫂「帰ってきてよ、あたしの天才博士」

晶葉「そんなんじゃ、ないんだ。私は何も出来ない」

櫂「もちろん、ドルフィンは晶葉ちゃんだけが作ったものじゃない。ゼットテクニカの技官さん達がいて、のあさん達がいて、レナさん達が運用してくれて、あたしがいないと動かない」

晶葉「そうだ。私なんて、微力なものだ」

櫂「あたしは勝ったよ、全部に勝った」

晶葉「志希のディアーにも、のあのウルフにも勝ったな」

櫂「あたしは、それでも晶葉ちゃんの証明が出来ない?」

晶葉「……」

櫂「あたしは見たよ。晶葉ちゃんの才能も努力も見てきた」

晶葉「なぁ、櫂」

櫂「あたしは、自信を持ってほしいんだ」

晶葉「どうして、そこまでしてくれるんだ」

36

シュリンクのドック

晶葉「時子はわかる。両親の死にも、アイツが死んだことにも無駄に責任を背負い込んでる」

櫂「それだけじゃないよ」

晶葉「レナも志保ものあも、それに櫂もどうして私のために動いてくれる?」

櫂「理由なんて、単純だよ」

晶葉「愛情とか言わないでくれ」

櫂「落ち込んでる人が目の前にいたら、助けたいだけ」

晶葉「ふっ……」

櫂「なんで笑うのさ」

晶葉「そうだな、櫂はそういう奴だった」

櫂「あたし、単純だから」

晶葉「違う。櫂はIMCのコアだった、辛いことも知ってる」

櫂「ここはどう?」

晶葉「……正直な感想を言おう」

櫂「うん」

晶葉「辛いな」

櫂「そうだよね」

晶葉「嫌でも自分と向き合わないといけない。自分の世界をまざまざと見せつけられる」

櫂「……」

晶葉「自力ではここから出られない。人間は、そう変われないんだ。泥沼だ」

櫂「……」

晶葉「櫂、どうしてここから出れた」

櫂「たぶん、だけど」

晶葉「自力でIMCに勝ったのは、櫂だけだ。どうして、だ」

櫂「あたしは、変わりたがってた」

晶葉「そうか……」

櫂「あたしは、変わりたかった。水泳だけしか夢が見れない、あたしから変わりたかった」

晶葉「それなら、私は無理だ」

櫂「どうして」

晶葉「IMCがなくなれば、IMCGもシュリンクもいらなくなる」

櫂「目的がないなら、必要ない。それに、ドルフィンはもう限界だと思う」

晶葉「私は、時子とレナのおかげで生き延びたんだ。シュリンクのエンジニアとして、櫂が天才博士と言ってくれる時間を伸ばせた」

櫂「……」

晶葉「私は本当は天才でもなんでもないんだ。学校の成績もそれほど良くない」

櫂「……」

晶葉「本当の天才だったら、こんな苦労なんてしなくて済む。私は、ただ……」

櫂「……」

晶葉「父とアイツの仕事場に、入りたかっただけなんだ」

37

シュリンクのドック

櫂「そっか」

晶葉「本当は才能なんて、ないんだ。ただ好きだっただけなんだ」

櫂「晶葉ちゃん」

晶葉「違うんだ、私に才能なんてない……私に価値はないんだ」

櫂「好きなだけでいいと思うよ」

晶葉「違う!それだったら、必要とされてないんだ!」

櫂「……」

晶葉「今、私がここにいられるのは、皆が勘違いしてるからなんだ」

櫂「違う」

晶葉「違わない!もう、シュリンクもIMCもいない!私は何者でもなくなる!」

櫂「……そっか」

晶葉「櫂もだぞ、櫂もパイロットじゃなくなる。このIMCがいなくなったら、全てが終わってしまうんだ」

櫂「晶葉ちゃん」

晶葉「私はイヤだ。アイツのことを証明できないのも、私を必要としてくれないのもイヤだ」

櫂「だから、IMCが倒されちゃいけないんだ」

晶葉「櫂は、怖くないのか」

櫂「そっか、そうだよね」

晶葉「もう、終わってしまう……」

櫂「晶葉ちゃん」

晶葉「櫂、頼む。このままで、私のままでいさせてくれ」

櫂「あたしはIMCのコアだった」

晶葉「櫂?」

櫂「あたしは、次を見つけられる」

38

シュリンクのドック

櫂「あたしは構わない」

晶葉「……」

櫂「また道を見失うけど、大丈夫」

晶葉「櫂は、凄いな」

櫂「あたしは、IMCのコアを助けるのが今の仕事だから」

晶葉「櫂は、常にまっすぐだ。暗い所から引き揚げてくれる。時には強引に」

櫂「そんなに強引だった?」

晶葉「体育会系なのは隠せてないな」

櫂「それは仕方がないなぁ」

晶葉「……」

櫂「晶葉ちゃんは、どうする?」

晶葉「私は……」

櫂「ここにいていい」

晶葉「……時子がそんなことを言っていたな」

櫂「誰も、晶葉ちゃんの才能が欲しいわけじゃないんだ。ただ、塞ぎ込んで欲しくなかった」

晶葉「わかってる……そんなのわからないほど、私は愚鈍じゃない」

櫂「シュリンクもIMCも、もう終わり。だって、IMCはもういない」

晶葉「IMCは、私のドルフィンに勝てなかった」

櫂「IMCじゃなくて、晶葉ちゃん達の努力の方が強い」

晶葉「……」

櫂「晶葉ちゃんは、次に進む覚悟はある?」

晶葉「次、か」

櫂「何が出来るかどうかなんて、今はわかるわけないよ」

晶葉「……」

櫂「ドルフィンとあたしの天才博士はもういらないけど」

晶葉「ああ」

櫂「池袋晶葉は、このままいなくなっていいの?」

晶葉「アイツが、言ってた」

櫂「なんて?」

晶葉「新しい物を作るのは楽しい、と。でも、自分にはそれが出来ない」

櫂「だから、だよね」

晶葉「私が、止まったらダメだな」

櫂「うん。晶葉ちゃんの、次を見せてくれる?きっと、皆がそれを望んでる」

晶葉「確認してもいいか?」

櫂「なに?」

晶葉「私は何も生み出せないかもしれないぞ」

櫂「それでもいい、って言うと思うよ」

晶葉「それは、私が許さない」

櫂「さすが、晶葉ちゃん」

晶葉「櫂、忘れていた」

櫂「何を忘れてたの?」

晶葉「辛いことも寂しいこともあった。志保達がそれを埋めようとしてくれて、甘えていた」

櫂「うん」

晶葉「大切なことを忘れていた。両親とアイツが教えてくれて、好きだったことを」

櫂「晶葉ちゃんは、技術者だもんね」

晶葉「私はこれから天才を目指す。見ててくれるか?」

櫂「もちろん」

晶葉「倒してくれるか。大切な人の思い出は、私が覚えてる。もう、古いものに縋りつかなくても大丈夫だ」

櫂「前を向けたかな」

晶葉「私はただの中学生だ。櫂みたいにはいかないかもしれない」

櫂「わかってる。それでも見守ってくれる人がいるから」

晶葉「そうだな、そうだった。私は、バカだな……」

櫂「だって、まだ天才じゃないから」

晶葉「ははっ、櫂!」

櫂「別世界に進む、覚悟は出来た?」

晶葉「ああ!ドルフィンの最後の舞台を見せてくれ!」

39

IMCG・中庭

頼子『館内放送。フェイズ1完了しました』

時子「……」

頼子『コア摘出完了』

真奈美「受け取りに行くぞ!」

惠「亜季ちゃん、行くわよ」

亜季「了解でありますっ!」

時子「晶葉……」

頼子『館内放送。フェイズ2移行』

雪菜「櫂さんっ!」

愛結奈「コアが摘出されても、まだ動いているわね」

のあ「晶葉らしいわ……」

志保「……」

音葉「信じましょう……勝てます」

愛結奈「ところで」

時子「なによ」

愛結奈「レナはどこに行ったの?」

40

IMCG・中庭

雪菜「やりましたぁ……」

愛結奈「ドルフィンは随分と壊れたけど、やったわ」

雪菜「櫂さんっ!」

真奈美「倒れて来るぞ!」

亜季「離れるでありますっ!」

雪菜「わっ、あわわわわ!」

惠「ドルフィン、転倒」

のあ「コクピットの外側から排水を!急いで!」

音葉「あら……勝手に開きました」

真奈美「櫂君!」

櫂「はぁ、あはは……」

音葉「無事ですか……?」

櫂「うん、ありがと」

雪菜「櫂さん!」

櫂「雪菜ちゃん」

雪菜「良かったですぅ……」

晶葉「櫂」

櫂「良かった、無事で」

晶葉「ありがとう。もう終わりにしよう」

櫂「うん……ごめんね、ドルフィン」

真奈美「何をした?」

音葉「音がなくなりました……これでもうIMCはこの世にいません」

真奈美「そうか……」

時子「……晶葉」

晶葉「時子……」

時子「困ったわ。こういう時に言葉が出てこなくて……」

志保「晶葉ちゃん!」

晶葉「志保!」

志保「良かったぁ……」

晶葉「そんなに強く抱きしめるな、ちゃんとここにいる」

志保「ごめんなさい……」

晶葉「謝るな、泣くな、お願いだから、志保、私の方だ、それは……」

志保「お帰りなさい……晶葉ちゃん」

時子「……」

愛結奈「時子」

時子「なにかしら、愛結奈」

愛結奈「時子の出番はないようね」

時子「……わかってるわ。だから、槙原志保に頼んだのよ」

愛結奈「わかってるならいいけど」

晶葉「私はまだ大丈夫じゃない。だから、これからも頼む」

志保「はい、わかってますっ!」

愛結奈「時子はこれからどうするの?」

時子「責任は取るわ。ゼットテクニカの職は捨てる」

愛結奈「そう。でも、ある意味望み通りね」

時子「ええ」

愛結奈「やっと自由になれるじゃない」

時子「私を野に放ったことを後悔させるわ」

愛結奈「それでこそ、時子よ」

41

IMCG・中庭

真奈美「お疲れ様」

音葉「櫂さん……」

櫂「お疲れ様」

音葉「痛みはありませんか……?」

櫂「うん。大丈夫」

真奈美「晶葉君も元気そうだ」

音葉「IMCGは……白紙に戻るそうです」

櫂「わかってたよ。それを決めたのも、あたしだから」

真奈美「財前副会長は責任をとって辞めるらしいな」

櫂「そうなんだ、あの人らしい」

真奈美「代わりに私達の責任はうやむやだ」

音葉「ご厚意に……甘えましょう」

櫂「うん、そうする。それで」

真奈美「頼子君か?」

櫂「そうそう、どこにいるの?」

音葉「いません……レナさんも」

櫂「え?」

真奈美「爆弾は全てニセモノだった」

音葉「フェイズ1が終わる時には既に……オペレーションルームからは抜け出していたようです」

櫂「……逃げた?」

真奈美「ああ。レナも頼子も個人情報はデタラメだった」

音葉「プロだったようです……荒事の」

櫂「まぁ、サプライズじゃないかな。予想の範囲内」

真奈美「同感だ」

音葉「終わりですね……」

真奈美「ああ。全てのシナリオはここで終わった」

櫂「あたし、上手くやれたかな」

音葉「ええ……櫂さんは私達の希望でした」

真奈美「やり遂げてくれた。晶葉君を引き上げたのも君だ」

音葉「私も……です」

真奈美「私もだ」

櫂「そっか、それなら良かった……」

音葉「櫂さん……その」

真奈美「これから、どうする」

櫂「なにも考えてない。とりあえず、大学行こうかな」

音葉「そう……ですか」

櫂「心配しなくていいよ、だって、あたしが次を見つけられないと示しがつかないじゃん」

真奈美「ふっ、そうだな」

音葉「ええ……その通りです」

櫂「今はそんなことより」

真奈美「なんだ?」

櫂「お腹すいた」

音葉「ふふっ……女子寮で待ってますよ」

真奈美「志保君が張り切って食事の準備をしてる。帰ろうじゃないか」

櫂「うん」

真奈美「ここから離れるのは、明日以降で良い」

櫂「そうする」

音葉「帰りましょう……」

櫂「じゃあね、ドルフィン……ありがとう」

42

郊外

頼子「逃げきれましたか」

レナ「警察も無理に追ってきたりしないでしょう」

頼子「なら、これで私のお仕事は終わりです」

レナ「ありがとう。助かったわ」

頼子「いいえ。報酬も見合う額を頂きましたから」

レナ「私はこのまま海外まで行くけど、どうする?」

頼子「お気になさらず」

レナ「そう。それじゃあ、契約は完了」

頼子「見たいものは見れましたか?」

レナ「ええ。割にあうかと言えばあわないけど」

頼子「小さな代価でした。少しだけ前を向いたことだけです」

レナ「それでいいのよ。いつか世界を変える発明をするとか、そんな夢は見てないの」

頼子「お優しいのですね」

レナ「良く言われるわ。人を切り捨てられないのよ」

頼子「ふふっ」

レナ「ふふっ」

頼子「ご縁があったら、お会いしましょう。依頼でも構いません」

レナ「わかったわ。またね、頼子ちゃん」

43

深夜

IMCG女子寮・食堂

プルルルルル……

清良「はい、IMCG女子寮です」

レナ『こんばんは、清良ちゃんね?』

清良「司令」

レナ『志保ちゃんは?』

清良「今日は先に休んだわ」

レナ『そう。お礼を言っておいて』

清良「ええ」

レナ『清良ちゃんは、元気?』

清良「挨拶もなしに出ていかれて、寂しいですよ」

レナ『元気みたいね。軽口が叩けるなら』

清良「ええ、看護師時代から勝てないものを自覚してますから」

レナ『これからも、がんばって』

清良「そちらこそ。どこから電話をかけてますか?」

レナ『ヒミツ。ばいばい、清良ちゃん』

清良「お疲れ様でした、レナさん」

レナ『やっぱり司令って堅苦しいわ。ばいばーい』

清良「……」

惠「レナさんから?」

亜季「なんと言っておりましたか?」

清良「いつも通り、何も語ったりはしないの」

惠「そう」

亜季「まぁ、そういう人でありますな」

清良「亜季ちゃん、なんだか嬉しそうね」

亜季「惠と一緒にお酒を飲める日が来て、嬉しいであります」

清良「どちらかは飲めなかったものね」

亜季「マキノ殿には断られましたが」

惠「彼女らしい」

亜季「私は警察官として、がんばるであります」

惠「誰にも後ろ指さされない、仕事の方がいいわよ」

亜季「わかってるであります」

清良「そういえば」

惠「それ、志保ちゃんが寝かせてる梅酒じゃない」

清良「……ふふ」

亜季「……ふふ」

惠「……ふふふ」

亜季「許してくれるであります」

惠「ええ」

清良「ふふっ、それじゃあ」

亜季「かんぱーい!」

44

翌日

IMCG・女子寮前

櫂「なんか、本当に終わっちゃったね」

音葉「記事が……出ましたね」

真奈美「辞令も正式に出た」

櫂「終わりかぁ」

音葉「ええ……」

真奈美「中の騒ぎ方はいつも通りだが」

櫂「志保さんが怒ってる」

音葉「清良さん……」

真奈美「まぁ、そういうこともあるさ」

のあ「……何をしてるの」

真奈美「別に、何もしてないさ」

のあ「そう……少しは休みましょうか」

音葉「のあさんも……ですか」

のあ「有休を消化するわ……次はこれから考える」

櫂「……」

のあ「晶葉は大丈夫よ……志保なら」

音葉「ええ……」

真奈美「たまには、会うのも良い」

のあ「メイド喫茶に……」

真奈美「それは辞退しよう」

のあ「あら……残念」

真奈美「行こうか。そろそろ、志保君をなだめてもいい」

のあ「ええ……落ち着かないわ」

櫂「……」

音葉「櫂さん……」

櫂「音葉ちゃん、なに?」

音葉「前へ進みましょう……全ては一歩の勇気ですから」

45

後日

H大学・食堂

吉岡沙紀『先輩、元気っすか?』

吉岡沙紀
櫂の後輩。自分が好きなアートを楽しんでいる。

櫂「元気だよ。食堂でご飯食べてる。そっちは?」

沙紀『美術室っす』

櫂「がんばってる?」

沙紀『がんばってるっすよ』

櫂「楽しんでね。精一杯」

沙紀『わかってるっす。おっと、先生が来たんでまた連絡するっす』

櫂「うん。またね」

櫂「……」

白菊ほたる「あっ、いました……」

白菊ほたる
ちょっとだけ不幸体質なアイドルのタマゴ。事務所が見つかった。

櫂「ほたるちゃん?」

ほたる「櫂さん、こんにちは」

櫂「うん、元気だった?」

ほたる「はい……あの、渡したいものがあって」

櫂「なに?」

ほたる「これを」

櫂「チケット?」

ほたる「私、降りなくてすみました……」

櫂「そうなの?良かった!」

ほたる「えへへ……これまでのレッスン無駄じゃなくて良かった」

櫂「やったね。見に行くよっ」

ほたる「はい。それで、ご紹介したい人がいるのですが」

櫂「後ろの人?」

ほたる「はい。新しい事務所の」

櫂「スカウト。だって、知ってるし」

ほたる「そうなのですか?」

スカウト「ええ。以前、お会いしました」

スカウト
某アイドルプロダクションのスカウト。根気強さには自信があるとのこと。

櫂「ウサミン、どうなったの?」

スカウト「ご連絡ありがとうございます。先月より、私達の事務所で活動しています」

櫂「良かった。やっぱり、夢は諦めない方が良いよね」

ほたる「あの、櫂さん」

櫂「なに?」

ほたる「競泳もドルフィンも辞めて、今は何をしてますか」

櫂「毎日大学に通って、勉強してる」

ほたる「櫂さん、お話があるそうです」

櫂「誰から?」

スカウト「私です。春に会った時から、言い損ねてしまいました」

櫂「春?」

スカウト「こちらを」

櫂「名刺は持ってるよ」

スカウト「改めて、受け取ってください」

櫂「え……本気なの?」

ほたる「はい、一緒にいかがですか」

スカウト「次に見る夢のお手伝いを、私達にさせていただけませんか」

EDテーマ

アイの証明
歌 池袋晶葉・槙原志保

エピローグ

プロダクション事務所

櫂「おはよーございますっ!」

川島瑞樹「おはよっ、櫂ちゃん!」

川島瑞樹
前職アナウンサーのアイドル。

櫂「川島さん、早いねっ」

瑞樹「大人はいつでも余裕をもって行動よ。ね、菜々ちゃん?」

安部菜々「な、ナナは大人じゃありません!永遠の17歳ですっ!」

安部菜々
元メイド喫茶の店員さん。諦めなければ魔法使いは来ると証明した。

瑞樹「はいはい」

留美「……おはよう」

櫂「留美さん、おはよっ!」

瑞樹「留美ちゃん、元気がないわ!アイドルは笑顔が命よ!」

留美「朝から元気ね……子供みたい」

瑞樹「そんなぁ、若いだなんて!」

櫂「……あたしが知ってる川島アナじゃない」

菜々「こっちがホンモノですよぉ。可愛いですねぇ♪」

ほたる「おはよう、ございます」

櫂「おはよっ、ほたるちゃん!」

瑞樹「揃ったわね!今日も張り切っていくわよー、エイエイオー!」

櫂「オー!」

菜々「オー!」

留美「おー……」

瑞樹「留美ちゃん、声が小さいわ!はい、リピートアフターミー」

櫂「発音綺麗」

瑞樹「アイドル、るーみん♪キャハッ☆」

留美「え?」

菜々「キャハッ☆」

ほたる「きゃ、きゃは♪」

留美「そ、それは拒否するわ!」

瑞樹「そんなんじゃ、芸能界生きていけないわよ!」

菜々「そーですよぉ☆」

留美「あなた達と一緒にしないで!」

菜々「芸人呼ばわりは酷いですよっ!」

瑞樹「ひどいわ!」

留美「言ってないわよ……」

櫂「あははっ」

ほたる「あの、櫂さん」

櫂「なに?」

ほたる「楽しいですか?」

櫂「まだまだ、これから!次の夢が楽しいのは、これからだから!」


製作 テレビ〇日

オマケ

櫂「あの、プロデューサー」

PaP「なんだ?」

櫂「ありがと」

PaP「なんだ、今更。もっと感謝しろ」

櫂「あたしのプロデューサーは相変わらずだなぁ。感謝する気もなくなった」

PaP「ああ、僕がいる背中に振り返るな。櫂ちゃんは、新しい目標だけ見てがんばれ」

櫂「吹っ切れて、良かった」

PaP「櫂ちゃんにしか出来ないこと、しようじゃないか」

櫂「うん」

PaP「がんばれ、負けるな、倒れたら立ち上がれ。心から言えるのは、櫂ちゃんの強さだ」

櫂「あたしさ」

PaP「なんだ、改まって」

櫂「仕事、楽しい。アイドルになって良かったっ」

PaP「ああ、見てればわかる」

櫂「もっと光の海を泳がせて!あたし、全力で行くからっ!」

おしまい

全話リスト(☆はリクエスト)

第1話
西島櫂「IMCG・泳ぎ疲れて、沈む心」
西島櫂「IMCG・泳ぎ疲れて、沈む心」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427454840/)
あたしは今から、この挫折も執着も否定も殴り倒して、進むんだ。
ドルフィン・人魚姫のIMC

第2話 ☆
喜多日菜子「IMCG・内在性王子様撞着」
喜多日菜子「IMCG・内在性王子様撞着」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428317929/)
IMCGにシュリンクのパイロットとして採用された西島櫂は、
妄想癖のある少女が生み出した怪物、通称IMCとの戦いに臨む。
ドルフィン、ウルフ・卵とティアラのIMC

第3話 ☆
桐生つかさ「IMCG・腐敗」
桐生つかさ「IMCG・腐敗」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429444611/)
泥まみれのランウェイでアタシは動けない。
ドルフィン・泥人形のIMC

第4話 ☆
市原仁奈「IMCG・いっしょにいて」
市原仁奈「IMCG・いっしょにいて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430307103/)
ひとりなのは、悪い子だからでごぜーますか。
ドルフィン、ウルフ・モフモフのIMC

第5話 ☆
島村卯月「IMCG・花の命は短くて」
島村卯月「IMCG・花の命は短くて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431340657/)
私はこの素敵な魔法を信じています。どんな時もずっと。
ドルフィン、ウルフ、ディアー・ピンク色立方体のIMC

第6話 ☆
松永涼「IMCG・絶唱」
松永涼「IMCG・絶唱」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432987397/)
その歌が絶える時に、答えは出る。
ドルフィン・墓標のIMC

第7話 ☆
櫻井桃華「IMCG・薔薇色愛情地獄」
櫻井桃華「IMCG・薔薇色愛情地獄」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434881135/)
わたくしが、ここで、どんなアナタでも愛してあげますわ。
ウルフ、ドルフィン・薔薇のIMC

第8話
木場真奈美「IMCG・ワタシハヘイキ」
木場真奈美「IMCG・ワタシハヘイキ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436355034/)
これからは、私を信じて。
ドルフィン、ディアー・兵器のIMC

第9話 ☆
ヘレン「IMCG・カーテンコール」
ヘレン「IMCG・カーテンコール」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437647301/)
女優はカーテンコールに答えるものよ、誰も隣にいなかったとしても。
ドルフィン、ディアー・劇場のIMC

第10話
衛藤美紗希「IMCG・秋桜」
衛藤美紗希「IMCG・秋桜」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439202128/)
本当はわかってました。だって、あたしはあなたの。
ドルフィン、ディアー・秋桜のIMC

第11話 ☆
梅木音葉「IMCG・人非ざるモノの歌がキコエる」
梅木音葉「IMCG・人非ざるモノの歌がキコエる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441102321/)
たとえ二つの才能がどんなに強大でも、負けるわけにはいかない。
ドルフィン・求愛のIMC

第12話 ☆
綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な維持の果て」
綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な夢の果て」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442487794/)
私、楽しんでますか。
ドルフィン・バレリーナのIMC

第13話 ☆
安部菜々「IMCG・月」
安部菜々「IMCG・月」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443434514/)
このまま月になるのはイヤだなって。
ドルフィン・月のIMC

第14話 ☆
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446899656/)
薄幸の少女が産み出した暗黒騎士のIMCに、西島櫂とドルフィンが臨む。
ドルフィン・暗黒騎士のIMC

第15話
西島櫂「IMCG・A.I.の証明」
西島櫂「IMCG・A.I.の証明」(終) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449568152/)
西島櫂とドルフィンは最後のIMCに臨む。たった一人の少女を守るために。次の夢を、見つけに行くために。
ドルフィン・天才のIMC

IMCG・キャストリスト

1・西島櫂・シュリンク6、ドルフィンのパイロット

2・木場真奈美・シュリンク4、ウルフのパイロット

3・梅木音葉・シュリンク5、ディアーのパイロット

4・兵藤レナ・IMCGの責任者、プランナー

5・柳清良・レナ付の職員

6・浜川愛結奈・IMCGのオペレーターリーダー、時子の大学時代の先輩

7・古澤頼子・IMCGのオペレーター

8・井村雪菜・IMCGのオペレーター、IMCのコアだった経験もある

9・池袋晶葉・IMCGの技術主任、天才博士

10・高峯のあ・IMCGの技術職員

11・一ノ瀬志希・IMCGの技術職員、自由なギフテッド

12・吉岡沙紀・櫂の後輩

13・槙原志保・IMCG女子寮の寮母さん

14・伊集院惠・IMCG所属の警察官

15・大和亜季・IMCGに派遣されてきた交通課の警察官

16・八神マキノ・交通課の警察官、亜季の同僚

17・片桐早苗・交通課の警察官

18・財前時子・ゼットテクニカの副会長、IMCG創設者

19・和久井留美・時子の秘書

20・仙崎恵磨・某雑誌記者

21・相川千夏・某雑誌記者

22・柊志乃・恵磨と千夏の上司

23・松山久美子・IMCGの一般職員

24・太田優・IMCGの一般職員

25・持田亜里沙・IMCG事務室付けの職員

26・川島瑞樹・地元テレビ局のアナウンサーからアイドルに転身

27・篠原礼・地元テレビ局のアナウンサー

ゲスト

28・喜多日菜子・妄想好きな女の子

29・桐生つかさ・女子高生社長

30・市原仁奈・キグルミの少女

31・島村卯月・17歳のアイドル

32・松永涼・公園に残された後悔

33・櫻井桃華・背伸びしたお嬢様

34・ヘレン・役者

35・衛藤美紗希・母親思いのOL

36・綾瀬穂乃香・バレエをたしなむ少女

37・安部菜々・メイド喫茶の店員

38・白菊ほたる・トップアイドルになることを誓った少女

セリフなし
白坂小梅・公園の少女

あとがき

ネガティブな部分のある体育会系、天才じゃない天才博士、彼女達のために何が出来るか楽しいよ。なにせ、プロデューサーなので。

IMCGシリーズはこれで終わりです。ありがとうございました。
何話が好きだったか教えてくれると嬉しいです。
個人的には、第3話と第6話が好き。

完結おめでとうございます
勝手に支援しといて全員分は間に合わなかったミン

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個人的には松永涼の「絶唱」が一番考えさせられたフルート

次回は、
鷺澤文香「文香の怪奇帳・ダークゾーン」
です。
予告通り、年少組とダークファンタジーをやります。

更新はTwitter(@AtarukaP)で発信するので、
良ければフォローくださいな。

それでは。

>>89
おおっ、素晴らしいものをありがとうございます!
本当に良く読んで頂いて、嬉しいです。

特に、櫂のIMCは雰囲気最高です。

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