綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な夢の果て」 (54)
あらすじ
私、楽しんでいますか。
注
IMCG第12話
前話
梅木音葉「IMCG・人非ざるモノの歌がキコエる」
梅木音葉「IMCG・人非ざるモノの歌がキコエる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441102321/)
設定はドラマ内のものです。
それでは投下していきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1442487794
序
私の部屋に、賞状がもう一つ増えました。
賞状を綺麗に伸ばして、買ってきた額にしまって、部屋に吊るしました。
これまでやってきた通りに。
変わらないいつものルーチンワーク。
変わらない私の日常。
手に入れてきたものを独り部屋で眺めて、考えたことは。
次の練習はいつでしょう、そんなことでした。
序 了
OPテーマ
METAL DAIVER
歌 工藤忍・喜多見柚・桃井あずき
1
メイド喫茶・スノームーン
木場真奈美「……なぁ、のあ」
高峯のあ「なにかしら……」
木場真奈美
IMCGの職員。元はシュリンクのパイロットだったが、お役御免に。
高峯のあ
IMCGの技術職員。真奈美の愛機だったウルフの開発リーダーを務めていた。
真奈美「本当にここでいいのか?」
のあ「変なことを聞くのね……もちろんよ」
真奈美「ここは俗に言う……」
のあ「俗に言わなくても……メイド喫茶ね」
安部菜々「お嬢様、お帰りなさいませ♪」
安部菜々
メイド喫茶の店員。ウサミン星から来た永遠の17歳。のあが学生時代には既にこのメイド喫茶にいたとのこと。
のあ「お久しぶりね……」
真奈美「久しぶりなのか」
菜々「キャハッ☆お嬢様のご友人ですか?」
真奈美「もしかして、私のことか?」
菜々「はい!」
のあ「同僚よ……」
菜々「それじゃあ、サービスしちゃいますね♪ミンミンウサミン♪」
真奈美「ウサミン……?」
のあ「今日のブレンドを……いいわね、真奈美」
真奈美「ああ、お任せする」
菜々「今日のブレンド二つですね、かしこまりましたっ!」
のあ「サービス券使えるかしら……」
菜々「はいっ!スコーンかマフィンか選べますよぉ」
のあ「どっちがいいかしら……?」
真奈美「のあに任せる」
のあ「スコーンを。マーマレードのジャムはあるかしら?」
菜々「もちろんです!一緒にお持ちします♪」
のあ「お願いするわ……」
菜々「おくつろぎくださいませ、お嬢様、キャハッ☆」
のあ「……」
真奈美「落ち着かない」
のあ「あら……いつでも冷静だと思ってたのに」
真奈美「私をなんだと思ってるんだ」
のあ「真奈美は真奈美よ……」
真奈美「紅茶一杯の値段がとんでもないな……」
のあ「値段には……見合ってるわよ」
真奈美「サービス料か」
のあ「それも含めて……ね」
真奈美「期待してるよ……本題に入ろうか」
のあ「せっかちね……紅茶くらい待ちなさい」
真奈美「イエスかノーだけでいい」
のあ「一つくらいなら……」
真奈美「ウルフのコクピットに、IMCを仕込んだのはのあか」
のあ「……」
真奈美「答えてくれ」
のあ「イエスよ……」
真奈美「……あっさりと言うんだな」
のあ「サンプルの隠し場所が必要だったのよ……シュリンクのコアはIMCの隠し場所としては適切だったの」
真奈美「結果的に私がIMCに飲み込まれた。ディアーも、か」
のあ「ええ……結果的にそうなったわ」
真奈美「どこで手に入れた」
のあ「捕獲したわ。私は……IMCにならないから」
真奈美「最初から確保してたんじゃないだろうな」
のあ「違うわ……それならもっと上手くやるわ」
真奈美「そうだな。そこは信じるとしよう」
のあ「私達が……負ける意味はあったかしら」
真奈美「ないなら、本当に無駄死にみたいじゃないか」
のあ「……謝るわ」
真奈美「今更謝られても困る。これからだけ考えよう」
のあ「……ええ」
真奈美「終わりに出来るか」
のあ「結果はどうであれ……終わりは来るわ」
真奈美「結果は成功にしたい。何を成功とするか、今の私にはわからないが」
菜々「お待たせしました~」
のあ「やめましょう……」
真奈美「そうだな」
菜々「本日のブレンド二つです♪」
真奈美「いただこう」
のあ「いただきます……」
真奈美「ん……」
のあ「美味しいわ……」
菜々「ぶいっ☆マスター自慢のブレンドですよ☆」
真奈美「びっくりした。本当に高い茶葉使ってるじゃないか」
のあ「だから……言ったでしょう」
2
IMCG女子寮・食堂
井村雪菜「おはようございますぅ」
槙原志保「おはようございます♪」
井村雪菜
IMCGのオペレーター。かつてIMCのコアとなった時に、真奈美に助け出された。
槙原志保
IMCG女子寮の寮母さん。レナにスカウトされて、食堂アルバイトから転身した。
志保「今からお仕事ですよね、お夕飯どうしますか?」
雪菜「先にいただいてもいいですかぁ?」
志保「はいっ♪待っててくださいね」
雪菜「あの、志保さん」
志保「なんですかー?今日のお味噌汁は油揚げですよ?」
雪菜「そうじゃなくてぇ、えっと」
志保「?」
雪菜「そうそう、櫂さんは帰ってきましたかぁ?」
志保「今日はお友達とご夕飯を食べてくるみたいです」
雪菜「あっ、そうですかぁ」
志保「お仕事場に行くように伝えましょうか?」
雪菜「いいえ。大丈夫ですよぉ」
志保「今日もお仕事、がんばってくださいね♪」
3
某レストラン
西島櫂「どう、って何が?」
吉岡沙紀「大学とか仕事とかっすよ。水泳のことでも」
西島櫂
H大学の学生。ついに最後の一体となったシュリンク、ドルフィンのパイロット。
吉岡沙紀
櫂の後輩。飄々とした態度からか年上に見られるらしい。
櫂「沙紀は?」
沙紀「アタシは見た通りっす」
櫂「うん。知らなかった、あんなに大きなの書いてたんだ」
沙紀「へへっ。がんばったんっすよ」
櫂「銅賞だったね。凄いよ、沙紀」
沙紀「もう少し褒めていくれていいっすよ」
櫂「凄い凄い。あんなに大きなの書いてたんだ、知らなかった」
沙紀「秘密にしてたっすから。お相子っす」
櫂「沙紀、もしかして根に持ってる?」
沙紀「そうっす。今もはぐらかされて」
櫂「ごめん」
沙紀「話せないことなんすか」
櫂「ううん。何から話す?」
沙紀「大学はどうっすか」
櫂「前期の単位は全部取れたかな」
沙紀「楽しいっすか」
櫂「もちろん」
沙紀「普通の大学生は即答しないっすよ。困惑する質問です」
櫂「そうなの?」
沙紀「いいんすよ、先輩はそれで。水泳はどうっすか?」
櫂「たしなむ程度かな。次の大会は出てみるけど」
沙紀「少し意外っす」
櫂「意外?」
沙紀「正直、先輩は結果を出すのが楽しいのだとばかり思ってたっす」
櫂「え?」
沙紀「辞めたのも、今は楽しいというのも意外っす」
櫂「そんなに風に見えてた?」
沙紀「かもしれないっすね」
櫂「それなら……良い選択だったかも」
沙紀「先輩は強くて凄かったすよ。それがどういう意味かは人次第っす」
櫂「沙紀は」
沙紀「アタシっすか?」
櫂「沙紀はどう思ってたの」
沙紀「アタシが水泳を辞めたのは先輩とは関係ないっす。正直に言うと、そこまでの思い入れがなかったんすよ」
櫂「そう」
沙紀「アタシがしたいのはアートっすよ」
櫂「応援してる。その、難しい道だけど」
沙紀「よろしくっす。難しい道を選ぶのは先輩譲りっすから」
櫂「はは……」
沙紀「で」
櫂「で?」
沙紀「アタシは言ったっす。櫂さんの今の話を聞かせてください」
4
IMCG・オペレーションルーム
浜川愛結奈「あら、こんな時間じゃない」
古澤頼子「そうですね」
浜川愛結奈
IMCGのオペレーター。定職につかず、ふらふらしてた時期もあるとか。
古澤頼子
IMCGのオペレーター。レナによりIMCGにスカウトされた。
愛結奈「残務はあるかしら?」
頼子「ドルフィンのデータ整理くらいです」
愛結奈「ディアーと戦った時のね」
頼子「急ぎでも絶対に必要でもありません」
愛結奈「それなら仕事終わりにしましょう」
頼子「はい。これで終わりにします」
雪菜「お疲れさまでしたぁ」
頼子「夜間はお願いします」
雪菜「はい。何かすることはありますかぁ?」
愛結奈「特にはないわね。好きにしていいわ」
雪菜「そうですかぁ。退屈なんですよぉ」
愛結奈「なんとなく罪悪感があることはわからなくはないわ」
頼子「気を詰め過ぎても緊急時に動けませんよ」
愛結奈「そういうことね。わかった?」
雪菜「はい」
頼子「お先に失礼します」
雪菜「お疲れさまでしたぁ、愛結奈さん、頼子さん」
愛結奈「ばいばーい。また朝にね」
雪菜「……」
雪菜「まずは、正攻法ですねぇ。好きに勉強させてもらいます」
5
某レストラン
沙紀「この前ニュースで見たっす。ロボットは最後の一体らしいっすね」
櫂「うん」
沙紀「だから、心配してるっす。また倒れるんじゃないかって」
櫂「心配?」
沙紀「心配っす。心配でしょうがないっす」
櫂「大丈夫だって」
沙紀「先輩、正直に言うっす」
櫂「どうぞ」
沙紀「辞めて欲しいっす」
櫂「ありがと、沙紀」
沙紀「やっぱりそういう反応っすか」
櫂「わかってたでしょ?」
沙紀「もちろん」
櫂「最後の一人になった。これからは絶対に負けられない」
沙紀「先輩」
櫂「なに?」
沙紀「ロボットに、敵の……」
櫂「IMC?」
沙紀「アタシは詳しいことなんて知らないっす」
櫂「うん」
沙紀「先輩がスーパーマンとかエースパイロットじゃないことは知ってるっす」
櫂「……」
沙紀「本当に……気をつけてください」
櫂「わかってる」
沙紀「……」
櫂「それでも、負けないために最善は尽くすよ」
沙紀「さすが、先輩っす。あと3体らしいっすね。がんばってください」
櫂「え、あと3体なの?」
沙紀「知らないんすか?」
櫂「どこから聞いたの」
沙紀「ネットっす。本当かどうかは知りません」
櫂「ふむ……」
沙紀「先輩なら知ってると思ってたっす」
櫂「3体か」
沙紀「デマっすかね」
櫂「そうとも言い切れない……ねぇ、沙紀」
沙紀「なにっすか?」
櫂「誰がそれを知ってるの?」
沙紀「アタシはIMCGとか警察と」
櫂「やっぱり……そういうことだよね」
沙紀「どういうことっすか」
櫂「もう逃げられないかな。目を背けてもいられない」
沙紀「なんことっすか」
櫂「あたしが何と何のために戦ってるか、知らないと」
6
IMCG・オペレーションルーム
雪菜「わかりにくいデータですぅ……整理する気がなかったんですねぇ」
雪菜「シュリンクのデータはこんなに使いやすいのに、IMCは……」
雪菜「でも、弱気になってられませんっ。一歩ずつですぅ」
雪菜「まずは出現地から前に書いてたのに追加してぇ……わあ、書いてないですぅ。レポートから見つけないとですねぇ」
雪菜「あったあった、この辺ですかねぇ……次はここ……」
大和亜季「調べものでありますか?」
大和亜季
IMCGに派遣されてる警察官。プラモデルが警備室に増えてる原因。
雪菜「ひゃあ!」
亜季「そ、そんなに驚かれるとは思ってなかったであります」
雪菜「すみません……昔のIMCのデータを整理してるんですぅ。亜季さんは?」
亜季「勤務時間外であります。目の前を通ったので立ち寄ったであります」
雪菜「そうなんですかぁ。お疲れさまです」
亜季「むしろ疲れてないであります。おや」
雪菜「あっ、これはですねぇ。IMCの出現図ですよぉ」
亜季「これで全部でありますか?」
雪菜「ほとんどですねぇ。前のものはまだですけどぉ」
亜季「見せていただけるでありますか」
雪菜「えーっとぉ……どうぞ!」
亜季「ありがとうであります。ふむ……」
雪菜「出現は関東近辺に限定されてますねぇ」
亜季「おや、櫂殿が通ってるH大学で出現例があるのでありますな」
雪菜「それは、櫂さんですよ」
亜季「櫂殿がパイロットとして出撃したでありますか」
雪菜「間違ってはないですけどぉ、櫂さんのIMCです」
亜季「ふむ……そうでありますか」
雪菜「驚かないんですね……」
亜季「ウワサは聞いておりまして。雪菜殿のことも」
雪菜「私もIMCのコアでした……真奈美さんに助けてもらったんですよぉ」
亜季「それはどこでありますか」
雪菜「地図だとここですぅ」
亜季「ふむ、雪菜殿、教えて欲しいであります」
雪菜「なにですかぁ?」
亜季「時系列でソート出来るでありますか?」
雪菜「出来ますよぉ。最近のはこうですねぇ」
亜季「IMCGで発生してるのは、音葉殿のIMCでありますか」
雪菜「はい」
亜季「もう少し前を」
雪菜「半年以上前だとこんな感じになりますね……あら」
亜季「わかったでありますな。もう少し前だけに」
雪菜「ええ……こうです」
亜季「もっとも昔のデータはまだでありますな」
雪菜「これだけあれば、充分です。IMCの出現域は拡大してますねぇ」
亜季「その中心は」
雪菜「ここです……」
亜季「雪菜殿、お聞きしたいことがあるであります」
雪菜「……ここ」
亜季「雪菜殿?」
雪菜「はいっ、どうしました?」
亜季「質問であります。IMCは生物でありますか?」
雪菜「生物?」
亜季「前に聞いたことがあるでありますが、明確に答えられる方がいなかったので」
雪菜「私は……生き物だと思います」
亜季「少なくとも移動出来るでありますか」
雪菜「おそらく」
亜季「なら、IMCが生息範囲を広げたと考えるのが妥当であります」
雪菜「……ええ」
亜季「雪菜殿は、知らないのでありますな」
雪菜「……はい」
亜季「前から、話はあったであります」
雪菜「話?」
亜季「原因もここじゃないか、と」
雪菜「亜季さんも調べてたのですね……」
亜季「少しだけであります。上からはもっと言われておりますが、私は市民が危険でないなら構いません」
雪菜「それは、私もです」
亜季「原因がどうであれ、行動としては間違ってないであります。だから、雪菜殿は気に病まないことであります」
雪菜「……」
亜季「しかし、これでは聞いてもはぐらかされるだけでありますなぁ。知らないで押し通されるであります」
雪菜「もう聞けませんよねぇ」
亜季「雪菜殿も首を突っ込み過ぎないように。警察で調べられることは私に任せるであります」
雪菜「はい。お願いしてもいいですか」
亜季「ええ。協力者はどなたかいらっしゃいますか」
雪菜「櫂さんだけです」
亜季「了解であります。私からもお願いをしてもいいでありますか」
雪菜「はい、協力します」
亜季「そのワガママを承知で言うのですが、その」
雪菜「なんでしょう?」
亜季「私は惠を疑いたくないであります」
雪菜「……」
亜季「もし何か関わっていたり、隠していたりと考えるのもイヤであります」
雪菜「わかりました……少しだけ調べてみますね」
亜季「お願いするであります」
7
IMCG女子寮・食堂
櫂「ただいま」
志保「おかえりなさーい。遅かったですね、楽しかったですか?」
櫂「うん。久しぶりにたくさん話せた」
伊集院惠「あら、お帰りなさい。一杯どう?」
伊集院惠
IMCG付の警察官。珍しく晩酌していて頬が赤い。
櫂「遠慮しておく」
惠「そう、残念」
櫂「どうしたの、いつもはお酒なんて飲まないのに」
惠「たまにはと思って。亜季ちゃんもいるから」
櫂「何かあった?」
惠「ふふっ、なんにも」
櫂「怪しい」
惠「そうね……ちょっとだけイヤになったの」
志保「惠さん、お水いりますか」
惠「いただくわ。付き合ってくれてありがとう、志保ちゃん」
志保「いえいえ」
惠「眠くなってきちゃった。お休み」
櫂「おやすみなさい」
惠「また明日」
志保「……」
櫂「何がイヤになったんだろう」
志保「ちょっとした同僚への愚痴でした。大丈夫、ぐっすり寝たらスッキリですよ」
櫂「ふーん……」
志保「櫂さん、お風呂沸いてますから使ってくださいね」
8
IMCG女子寮・廊下
櫂「ふー、やっぱり大浴場は良いな。寮暮らしの特権だよね」
のあ「楽しかったでしょう……」
真奈美「あのなぁ」
櫂「真奈美さん、のあさん、お帰り」
のあ「ただいま……」
真奈美「櫂君か、寝るところか?」
櫂「そのつもり。二人は帰ってきたところ?」
のあ「そうよ……楽しんできたわ」
真奈美「私を巻き込む必要はあったのか?」
櫂「どこ行ってきたのさ」
真奈美「メイド喫茶、メイド喫茶のミニライブだ。ついでに演劇も見てきた」
櫂「楽しそう」
のあ「でしょう……ほら、真奈美」
真奈美「知らなくていい世界を知ってしまった気がする」
のあ「もう……戻れないわ」
真奈美「櫂君も迂闊なことは言うな、約束だぞ」
櫂「そもそものあさんあんまり敷地から出ないし。真奈美さんだから特別だとか」
のあ「そうね……それもあるわ」
真奈美「……それもそうか」
櫂「リフレッシュできた?」
のあ「ええ……」
真奈美「私は整理が必要だ……寝よう。その前に、櫂君」
櫂「なに?」
真奈美「明日はIMCGにいるか?」
櫂「午前中、11時前とかなら」
真奈美「それじゃ10時に会議室に来てくれ」
櫂「何かあるの?」
真奈美「ちょっとミーティングをするだけさ。気張らずに来てくれ。おやすみ」
櫂「おやすみ」
のあ「また……明日」
9
疲れてなどいられない……!
次のステップを、次のステージへ。
負けるわけには……。
弱い気持ちにも、他の誰にも。
この先へ、大きな大きな舞台から見る風景を夢見て。
真面目過ぎて、伸び伸びとしてないよね。
そんなことは言わせない……!
絶対に、この夢を諦めない。
私は進むのです……自分の足で一歩ずつ。
10
IMCG・会議室
櫂「おはよーございますっ、って誰もいな……」
梅木音葉「おはようございます……櫂さん」
梅木音葉
彼女のシュリンクとIMCは櫂とドルフィンの前に敗れた。今は両親との関係を再構築中。
櫂「お、音葉ちゃん?」
音葉「はい……本物ですよ」
櫂「びっくりした……IMCGは辞めたのかと」
音葉「辞めてはいませんよ……少しだけ時間を頂いただけです」
櫂「どう?」
音葉「不思議な気分です……こんなに簡単だったのですね」
櫂「良かった」
音葉「私は今から必死で手に入らなかったものを取り戻します……誰よりも真摯に」
櫂「うん」
音葉「多忙なことは今も昔も変わりませんので……しばらくはここでお世話になろうかと」
櫂「それがいいよね」
音葉「あの……櫂さん」
櫂「なに?」
音葉「実は大学受験をしたいのです……先にも進まないと」
櫂「いいじゃん!遅くないよ!」
音葉「ありがとうございます……協力してください」
櫂「どこを受けるか決まってるの?」
音葉「学部も何も決まってません……演劇、声楽関係ならアテがいくらでもあるのですが」
櫂「なんて贅沢な……」
真奈美「おはよう」
櫂「あっ、真奈美さん、おはよう」
真奈美「音葉君もおはよう。久しぶりのIMCGはどうだ?」
音葉「何も……変わりませんね」
櫂「真奈美さん、音葉ちゃん大学受けるんだって」
真奈美「ほう。それについても相談に乗ろう、だが後でな」
音葉「はい……」
真奈美「揃っているようだから、パイロットチームのミーティングだ」
櫂「なんか久しぶりな気がする」
真奈美「私達は全員健在だが、シュリンクが残り一体となった」
櫂「地下にあるタイガーは?」
音葉「戦闘には耐えられない……でしょう」
真奈美「その通りだな。武器は使えるとは思うが」
櫂「ドルフィンで武器は使わないよ」
真奈美「そう言うと思っていたよ。今後もドルフィンのメインパイロットは櫂君だ」
音葉「もしも……櫂さんが倒れた時には私がドルフィンを」
櫂「そのために、戻ってきたの?」
真奈美「違う。そんな事態にはならないと信じてる」
音葉「ええ……その事態を避けるために戻ってきたのですよ」
真奈美「私と音葉君の仕事は、櫂君のサポートだ」
櫂「具体的には?」
真奈美「私からは接近戦のイロハを」
音葉「私からは……シュリンクと精神の接続についてを」
櫂「そっか、結局教わってなかった」
真奈美「晶葉君と一緒にドルフィンの運用についても詰めていく」
櫂「うん」
真奈美「こんなものか」
音葉「櫂さん……後でトレーニングのスケジュールを決めましょう」
櫂「うん。今は大学も夏休みだから、時間取れるよ」
真奈美「スケジュールに関しては後で決めよう」
音葉「そろそろ……次のIMCが来てもおかしくはありません」
櫂「……そうだね」
真奈美「以上だ。質問はあるか?」
櫂「じゃあ、一つだけ」
真奈美「なんだ?」
櫂「……」
音葉「どう……しましたか」
櫂「あ、やっぱりなし。予定があるから行くね」
音葉「ええ……これからよろしくお願いしますね」
真奈美「頼む」
櫂「わかってる。またね!」
音葉「……」
真奈美「……」
音葉「真奈美さん……彼女は先に進みますよ」
真奈美「わかってるさ。こっちも知ってることは知らせるつもりだ」
音葉「真奈美さんは……理由は知っていますか」
真奈美「そこは知らない。大体の構造は見えてる」
音葉「でもまずは……」
真奈美「ドルフィンが負けたら、何の意味もない」
11
IMCG女子寮・食堂
池袋晶葉「おはよう!」
池袋晶葉
IMCGの技術職員。中学校は夏休み。
志保「こらっ、お寝坊すぎですよ」
晶葉「すまない。つい設計に熱中してしまってな」
志保「もー、早寝早起きですよ?体は中学生なんですから」
晶葉「わかってる」
志保「今日もお仕事ですか?」
晶葉「ああ!今のうちにやっておかないとな」
志保「宿題は進んでますか?」
晶葉「むっ……」
志保「もー、後で一緒にやりましょうね。私も帳簿を書かないといけないんです」
晶葉「わかった。今日の夜にでも取り掛かろう」
志保「はい。あと、午後にお部屋のお掃除をしておきますね」
晶葉「頼む。いつも通り触ってはいけないものだけ触らないでくれ」
志保「わかってます。はい、お弁当をどうぞ♪」
晶葉「ありがとう、志保。行ってくる!」
志保「いってらっしゃい」
12
H大学・構内
櫂「少し待ち合わせに早かったかな」
白菊ほたる「きゃ……」
白菊ほたる
芸能事務所に所属する13歳の少女。どことなく儚い印象。
櫂「大丈夫?はい、手を」
ほたる「ありがとうございます……」
櫂「怪我はない?」
ほたる「私が転んだばっかりにご迷惑を……」
櫂「そんなに気にしなくていいから、さ」
ほたる「すみません……あっ」
櫂「どうしたの?」
ほたる「コサージュが、ない……」
仙崎恵磨「櫂ちゃん、やっほー。待った……ん、どうしたん?」
仙崎恵磨
某雑誌記者。軽いフットワークを武器に取材活動を続けている。
櫂「この子が転んじゃって」
ほたる「あ、あの、コサージュが落ちてませんか」
櫂「コサージュ?」
恵磨「ちっちゃい花飾り。なんの花?」
ほたる「スズランです」
櫂「ちょっと探してみる」
恵磨「どこにつけてたん?」
ほたる「腰です……」
恵磨「安全ピンだよね。転んだだけではずれるかな?」
ほたる「うーん……」
恵磨「どこから歩いてきたん?」
ほたる「向こうからです……売店に寄っていて」
恵磨「フーン。櫂ちゃん」
櫂「なに?」
恵磨「塀とか生垣のあたり探してみて」
櫂「あっ、あれだ!」
ほたる「はい!」
恵磨「今度から、そんなに隅っこ歩かなくていいからね。ほたるちゃん」
櫂「あれ、知ってるの?」
恵磨「アタシが一歩的に。今、H大学の講堂借りてるんだよね」
ほたる「は、はい」
恵磨「後で見に行っていい?これ名刺ね」
ほたる「すみません……ご迷惑を」
櫂「そんなに謝らなくても……」
ほたる「あっ、休憩時間終わっちゃうので行きますね」
恵磨「がんばっ!」
櫂「講堂でなにしてるの、あの子?」
恵磨「あれ、知らないん?」
櫂「うん」
恵磨「舞台の稽古。ミュージカルだったかな。公開は10月くらい」
櫂「へぇ……そんな情報どこから?」
恵磨「そこ」
櫂「掲示板?」
恵磨「講堂がしばらく使用禁止になってて、稽古を精力的に行ってるってアナウンスはあるから、ここかなってウワサになってる。で、さっき確証した」
櫂「へー、意外とちゃんと記者やってるんだ」
恵磨「やってなかったら、ここで会う必要ないっしょ?」
櫂「確かに」
恵磨「さっ、移動しよっか」
13
H大学・食堂
櫂「結局、IMCが何かはわからないんだ」
恵磨「意外と難しいね。誰も専門家がいないから」
櫂「うん。わかってる人はいないと思う」
恵磨「いるんじゃない?」
櫂「どこに?」
恵磨「IMCGの中に」
櫂「……そうかも」
恵磨「でも、答えてくれないだろうなぁ」
櫂「ここまで来ちゃうと秘密かも」
恵磨「警察に接収された時点で、準備完了だったと思うんだ」
櫂「もう変えられないから?」
恵磨「そうそう。だって、IMCのコアに女の子がいるわけでしょ?」
櫂「人質みたいな感じ、か」
恵磨「何か疑問を思ってても、変えられないんだよね」
櫂「ふーん……」
恵磨「あっ、勘違いしないでよ、櫂ちゃんは立派だからっ!」
櫂「ありがと」
恵磨「IMCって何なんだろ」
櫂「わかんない、感情が作る怪物としか」
恵磨「コアになるのは、どうして女性だけなんだろ?」
櫂「え?あ、確かにそうだった」
恵磨「何のために、感情からカタチが出来るのさ?」
櫂「何のため?」
恵磨「もし、誰かが作ってたなら、意図があるでしょ?全部偶然なんて、難しすぎるっしょ」
櫂「ふむ……」
恵磨「それとシュリンクも。たまたまじゃ、説明できないくらいに、特化してる」
櫂「IMC対策に、でしょ」
恵磨「アタシは科学的なことは全然わかんないからさ、こんなことばっかり気になるんだよね」
櫂「たとえば?」
恵磨「あくまで想像だよ?IMCとシュリンクの戦いがマッチポンプだとして」
櫂「さらっと言うんだ……」
恵磨「何の意味があるのさ?」
櫂「意味」
恵磨「IMCは残り3体、シュリンクは残り1体、どっちも再現は出来なさそう。あれだよね、『天才』エンジニアが亡くなったから再現できないって」
櫂「うん。詳しい話は知らないけど」
恵磨「何も残んないよね、どうすんのさ?アタシじゃなくて千夏の意見だけど、実験でもなんでもないことをして意味ある?」
櫂「……」
恵磨「櫂ちゃん?」
櫂「ちょっと考え事……確かに意味がわからないかも」
恵磨「何もしなくても、あと3体のIMCが倒されたら終わりだと思うんだ」
櫂「……でも、それじゃダメ。知らないといけないと思う」
恵磨「だから、協力させてよ」
櫂「こちらこそ、お願いします」
恵磨「よしっ!じゃ、まずはこれから」
櫂「なにこれ……ロゴの写真?」
恵磨「そう、ロゴ。オモチャについてたんだよね」
櫂「IMCって書いてある、これどこで?」
恵磨「本当にたまたま中古雑貨屋で見つけた」
櫂「会社名なの?それともブランドの名前?」
恵磨「それがわかんなくてさ。かつていままで、このロゴは標章登録されたことはない」
櫂「個人で作ってたってこと?」
恵磨「それっぽい。出来がいいから市販品だと思ったのに」
櫂「IMC、IMC……」
恵磨「売った人にも会えたんだよね」
櫂「それを早く言ってよ、何か言ってた?」
恵磨「ホームレスだったんだよ、ゴミ捨て場で拾ってきたって。それを拭いて売っただけ」
櫂「それじゃ何も知らない?」
恵磨「そーいうこと。拾った場所は、この辺だってさ」
櫂「……IMCGの近くじゃん」
恵磨「こじつけなのか、真っ当な調査なのかわかんなくなるよね」
櫂「でも、うーん、あれ……」
恵磨「なんも出来ないのはなー。IMC対策は今のままで大丈夫だから、せめて真実が書きたいんだ。いくら遅れてでも」
櫂「このロゴ、どこかで見たことがあるような……」
恵磨「ホント!?」
櫂「ごめん、思い出せない」
恵磨「そっか」
櫂「でも、調べてみる」
恵磨「お願い。せめて、意味だけは知りたい」
櫂「うん、それはあたしも」
恵磨「ドルフィンのパイロット、負けないでね!」
櫂「もちろん、絶対に」
14
IMCG・ドック
持田亜里沙「こんにちはっ、のあさん」
持田亜里沙
IMCGの一般職員。本当は保育室勤務だったが、今はIMCG事務室付け。
のあ「亜里沙……なにか」
亜里沙「晶葉ちゃんが夏休みだから、いるって聞いて」
のあ「あそこよ……元気にしてるわ」
亜里沙「はい。お変わりはありませんか?」
のあ「私……かしら」
亜里沙「志希ちゃんもどこかにいっちゃたし、変わるかなって」
のあ「変わらないわ……あの子がここにいたのは奇跡なくらいよ」
亜里沙「のあさんは、寂しい?」
のあ「いつか会える気がしてるわ……少しだけよ」
亜里沙「ふふっ」
のあ「……晶葉はどうかしら」
亜里沙「私が知りたいな」
のあ「私の見立てでは……変わらないわ」
亜里沙「証明は出来たと思う?」
のあ「わからない……きっと私には出来ない」
亜里沙「……」
のあ「あなたもよ……亜里沙」
亜里沙「はい、わかってます」
のあ「だから……いいのよ」
亜里沙「わかってます」
ピンポンパンポーン……
のあ「きっと……最後は任せるしかないわ」
亜里沙「なにもできませんね、私達」
頼子『総員集合。IMCが出現しました』
のあ「避難を……私はドルフィンを出すわ」
15
IMCG・オペレーションルーム
兵藤レナ「状況を教えて!」
兵藤レナ
IMCGの責任者。勝ってゴホウビもないゲームを楽しめるほど子供じゃないわ、とのこと。
愛結奈「IMCは駅西側の新開発地域に出現」
雪菜「やっぱりIMCGから離れ始めてますねぇ……」
頼子「テレビの映像を写します。ご確認ください」
柳清良「あら、珍しい。人型なのね」
柳清良
レナ付のIMCG職員。いつも穏やかな微笑みを浮かべている。
音葉「……バレリーナでしょうか」
レナ「確かに、そう見えなくもないわね」
頼子「伊集院巡査、大和巡査、周辺の立ち入り制限をお願いします」
惠『了解しました』
雪菜「どなたがIMCのコアになったかわかりますかぁ?」
亜季『今のところ情報は入ってないであります。続報をお待ちください』
レナ「櫂ちゃんは?」
頼子「大学から帰宅途中です」
愛結奈「真奈美が迎えに行ってるわ」
レナ「到着時刻は」
頼子「約15分というところでしょうか」
レナ「了解。ドック、聞こえてる?」
晶葉『そこまでには間に合わせるさ!』
レナ「良い返事よ。よろしく」
のあ『ええ……』
レナ「さ、みんな、気合入れていくわよ!」
16
IMCG・ドック
櫂「お待たせしましたっ!」
のあ「スーツは……もう着てるのね」
真奈美「急いだ甲斐はあったか」
頼子『今のところ、IMCに動きはありません』
晶葉「搭乗準備は出来てるぞ!」
櫂「搭乗しますっ!」
愛結奈『櫂ちゃんが到着したわ。搭乗準備中』
晶葉「今回のIMCは人型だ。気をつけてくれ」
櫂「わかってる。任せて」
晶葉「ああ、頼む」
のあ「ハッチを……閉まり次第注水を」
真奈美「人型か、気になるな」
のあ「人型なら……真奈美の教えが生きるでしょう」
真奈美「それもそうだが」
頼子『ドルフィン、注水開始』
雪菜『櫂さん、聞こえますかぁ?』
櫂『はい』
雪菜『亜季さんからIMCのコアとなっている女の子の情報が来ましたぁ。カルテにまとめたので、見てください』
櫂『ありがとう』
惠『避難完了までもう少しです』
櫂『綾瀬穂乃香ちゃんね……待ってて』
17
IMCG・オペレーションルーム
篠原礼『IMCが出現しています。避難範囲内に入らないようにしてください』
篠原礼
地元テレビ局のアナウンサー。前任者の魔の手に墜ちないか心配してるファンがいるらしい。
雪菜「あのぉ、愛結奈さん」
愛結奈「そうねぇ、雪菜ちゃん」
頼子「そうですね」
レナ「ごめん、ツーカーで話されるとわからないわ」
雪菜「このIMCは準備体操してるみたいだと思いませんかぁ」
レナ「確かに、ね」
惠『ドルフィン、到着します』
愛結奈「オッケー、ドルフィンを確認!」
櫂『ドルフィン、IMCを視認しました!』
レナ「格闘戦範囲内まで距離を詰めて」
櫂『はいっ!』
頼子「ドルフィンシステム正常作動」
晶葉「『見えて』るか」
櫂「どっちも見えてる」
雪菜『IMCが止まりましたぁ』
清良「止まるというより……」
愛結奈「静止よね」
音葉「美しい……姿勢です」
雪菜「動いてませんけどぉ、強そうですねぇ」
頼子「ドルフィン、IMCとの接続圏内まで接近」
レナ「フェイズ1移行はまだよ、様子を見て」
櫂『了解』
晶葉「ふむ……綺麗だ。無駄のない形をしている」
音葉「完全な静止は……次の動きのための布石」
真奈美「来るのか」
音葉「ええ……ほら」
櫂『来ますっ!』
雪菜「IMC、ドルフィンに向かって走り出しましたっ!」
レナ「櫂ちゃん、IMCを止めなさい!」
18
IMCG・オペレーションルーム
音葉「……あら」
真奈美「ふむ、強いな」
雪菜「来ますよぉ!」
櫂『わかってる!』
頼子「ドルフィン、ワンツーを受けました」
愛結奈「回し蹴りは避けたわ!」
櫂『おっとっと!』
雪菜「ドルフィン、距離を取ってください!」
頼子「IMCは再び静止」
晶葉「うむ、人間型として動きの完成度が高い」
レナ「なんとかなるかしら?」
晶葉「格闘戦の性能では負けてないはずだ。櫂」
櫂『ごめん!』
晶葉「謝らなくていいぞ!少し慣れが必要だな」
真奈美「さて、どうする」
愛結奈「こっちから行く?」
櫂『行きたくないなぁ』
頼子「同感です」
雪菜「コアの経験が生きてるのでしょうかぁ」
音葉「プリマの……本懐」
真奈美「櫂君、組み付けるか」
櫂『次はやってみる』
音葉「次が……来ますよ」
愛結奈「IMCの移動開始!」
19
IMCG・オペレーションルーム
櫂『痛つ……』
真奈美「厳しいか」
愛結奈「止まらないで!来てるわ!」
櫂『へっ……』
音葉「……」
真奈美「やられたな……」
櫂『カメラ壊れた!?』
頼子「メインカメラ破損」
のあ「キックボクシングならKO負けね……」
晶葉「ふむ……いいじゃないか」
櫂『くそっ!』
雪菜「ドルフィン、IMCを蹴り飛ばしましたぁ!」
愛結奈「ふらついただけ、立ち方が上手いわ」
頼子「頭部カメラの修復は不可」
櫂『よし、カメラは諦めるよ。ドルフィンシステムで』
頼子「超音波発振開始」
晶葉「だが、わかったこともある」
レナ「あっちは目で見てるわね」
音葉「真面目な性格のようですね……IMCも」
真奈美「カルテが気になるか?」
音葉「止めてしまいましょうか……」
真奈美「策でもあるのか?」
音葉「こちらは想像力豊かに行きましょうか……」
20
IMCG・オペレーションルーム
頼子「背中を取られました」
レナ「狙い通りに」
晶葉「さぁ、行け!」
櫂『せーのっ!』
雪菜「IMCのパンチを避けましたぁ!」
愛結奈「右腕取ったわ!」
真奈美「慌ててるな。動きに現れてる」
櫂『ていやあぁ!』
愛結奈「ドルフィン、IMCを投げ飛ばしたわ!」
頼子「IMCはすぐさま立ち上がりました」
真奈美「さて、すぐにドルフィンの変化に気づくか?」
レナ「櫂ちゃん、ストップ」
櫂『よしっ、隙は見えた』
雪菜「IMC移動開始!来ますよぉ!」
真奈美「早いな」
音葉「では……行きましょうか」
愛結奈「背中を見せなさい!」
櫂『はいっ!』
真奈美「まずは、最初の乱れだ」
雪菜「IMCの右ストレートを回避!」
愛結奈「次の左ストレートも回避!」
音葉「タン、タタン……」
櫂『よっ、と!』
頼子「ドルフィン、回し蹴りも回避」
レナ「カウント開始」
雪菜「アン、ドゥ、トロワ!」
音葉「今です」
愛結奈「逆ジャックナイフがヒット!」
レナ「凄い頭痛がしてるでしょうね」
音葉「さぁ……続きです」
頼子「ドルフィン、体勢を立て直しました」
愛結奈「IMCはまだふらついてるわ!」
櫂『おりゃあ!』
雪菜「右ストレート!」
真奈美「ダウンは奪ったか」
音葉「ええ……」
晶葉「シュリンクとIMCの差が出たな」
のあ「シュリンクは機械だもの……生物は弱いわ」
真奈美「櫂君、押さえつけられるか」
櫂『教わった通りに!』
レナ「今のうちに行くわよ。フェイズ1移行、すぐに決着をつけてきなさい」
21
バレエ教室が見える公園
櫂「こんにちは」
綾瀬穂乃香「……どなたでしょう」
綾瀬穂乃香
公演でビルを見上げていた少女。背筋が伸びた綺麗な姿勢をしている。
櫂「あたしは西島櫂、よろしく」
穂乃香「西島さん……」
櫂「どうしたの?ビルなんか見上げて」
穂乃香「いえ、なんでもありません」
櫂「バレエ教室が気になる?」
穂乃香「え?あっ、本当ですね」
櫂「気づいてなかったの?」
穂乃香「その……わからないんです」
櫂「何が?」
穂乃香「私、バレエを頑張ってきました。たくさんの賞もいただきました」
櫂「うん」
穂乃香「私、楽しんでますか?」
櫂「ごめん、あたしにはわからない」
穂乃香「そうですよね……西島さんは何かに打ち込んでいたことがありますか」
櫂「あたしは水泳。辞めちゃったけど」
穂乃香「どうして、ですか」
櫂「うーん、色々あったから」
穂乃香「速かったのですか」
櫂「自慢じゃないけど、そうだった」
穂乃香「なら、どうして」
櫂「負けたんだ。もう2度と勝てないと思って」
穂乃香「ダメです」
櫂「ダメ?」
穂乃香「ずっと打ち込んできたことをそんな簡単に諦めないでください」
櫂「……」
穂乃香「それじゃ、今までが報われないと思います」
櫂「そうだね」
穂乃香「私ももう少しだけ頑張ろうと思うんです」
櫂「……」
穂乃香「私の夢に一歩ずつ近づくんです」
櫂「真面目だね」
穂乃香「真面目の、どこが悪いのですか」
櫂「どうしたの、何か言われた?」
穂乃香「……なんでもありません」
櫂「悩んでるなら、辞める?」
穂乃香「私は辞めたくありません」
櫂「その結論は出てるのに、悩んでる」
穂乃香「それは……」
櫂「裏切れない誰かがいるんだ」
穂乃香「私は私で望んできました。誰か、なんて……いません」
櫂「自分は、そう簡単に裏切れないよね」
22
バレエ教室が見える公園
穂乃香「自分……」
櫂「これまで頑張ってきた自分、これまで楽しんできた自分、これまで得てきた経験を否定できる?」
穂乃香「そんな……不誠実じゃないですか」
櫂「うん。だから捨てられない」
穂乃香「なら、私は続けようと思います」
櫂「他のことは出来ないもんね。それしかない」
穂乃香「あなたまで……どうしてそんなことを」
櫂「やっぱり、普通の女の子だった」
穂乃香「……」
櫂「そんな声を気にしてたら仕方ないよ。それでもやる?」
穂乃香「私は」
櫂「やると答えられるよね」
穂乃香「……はい」
櫂「でも、それが本当なの?」
穂乃香「……私は」
櫂「ねぇ、好きなキャラクターとかいる?あたしはイルカのぬいぐるみとか集めるの好きなんだよね。ダイオウグソクムシとかも」
穂乃香「ダイオウグソクムシ……不思議な趣味ですね」
櫂「なんか可愛く見えてさー。穂乃香ちゃんはないの?」
穂乃香「ありません。テレビはあまり見ないので」
櫂「そっか。じゃあ、友達と遊びに行くのはどこ?」
穂乃香「……」
櫂「ねぇ、穂乃香ちゃん」
穂乃香「……私にはバレエしかありません」
櫂「……」
穂乃香「でも、楽しくない……あんなに楽しかったのに」
櫂「うん」
穂乃香「伸び伸びとした表現が出来ないとか……真面目過ぎるとか」
櫂「……」
穂乃香「どうして……こんなにがんばってきたのに。真面目にがんばって、がんばって、なのに……楽しくない」
櫂「穂乃香ちゃんはどうしたいの?」
穂乃香「……」
櫂「楽しいこと、もっとあるよ。きっと」
穂乃香「でも」
櫂「自分の知らない場所は楽しいよ。好きなものを増やす勇気はある?」
穂乃香「勇気ですか」
櫂「怖いから振り向けないんだ。だから、穂乃香ちゃんに必要なのは勇気」
穂乃香「……」
櫂「あのバレエ教室から目を離して、別の方向に走り出せる?」
穂乃香「楽しいですか……別の方向は」
櫂「うん。でも、一つだけ覚えておいて」
穂乃香「覚えておくこと……?」
櫂「いつか戻りたい時のために、ここを忘れないで」
穂乃香「あっ……」
櫂「視界が開けた。見える?」
穂乃香「向こうだけじゃなかったのですね」
櫂「そういうこと。行くよっ!」
23
IMCG・オペレーションルーム
雪菜「フェイズ1完了ですぅ!」
愛結奈「櫂ちゃん、聞こえてるわね!」
櫂『ただいまっ!コアの位置は!?』
頼子「IMCの首部後方です。カメラが壊れていなければ目の前です」
のあ「動き出す前に……取り出しなさい」
櫂『了解!』
晶葉「コア摘出完了だ!」
レナ「フェイズ1完了。フェイズ2移行」
雪菜「IMC、動き始めましたぁ!」
櫂『惠さん、お願い!』
惠『受け取れる位置まで移動するわ。IMCから離れて。亜季ちゃん』
亜季『了解であります!』
雪菜「IMCが立ち上がりましたぁ」
頼子「姿勢が悪くなりましたね」
清良「病人……ね」
櫂『ちょっと倒れてて!』
頼子「ドルフィンのキックでIMCは転倒」
櫂『惠さん!』
惠『受け取ったわ』
レナ「行けるわね、櫂ちゃん?」
櫂『もちろん!』
愛結奈「IMCは立ち上がったわ」
音葉「自らの旋律を持たないなら……敵ではありませんよ」
晶葉「さぁ、存分に見せてくれ!」
24
IMCG・オペレーションルーム
頼子「IMC停止」
櫂『ふー』
愛結奈「なかなかしぶとかったわね」
レナ「さすがに強い個体が残っただけあるわ」
雪菜「……」
のあ「それにしても……ドルフィンの損害は大きいわ」
晶葉「仕方がないさ。櫂、気にするな!」
櫂『一応少しは気にしてるんだけど』
晶葉「何度だって作るさ!なぜなら……」
のあ「……」
晶葉「ゴホン。作るのは私じゃないな。技官達に感謝しないとな」
レナ「今は考えないの。フェイズ2完了、お疲れさま!」
25
某雑居ビル3F
恵磨「おっ、勝った勝った」
相川千夏「あら、終わったの?」
相川千夏
某雑誌記者。フランス語を勉強しているらしい。
恵磨「苦戦はしてたけど」
千夏「人型のIMCだったものね」
恵磨「飛び道具があれば、良かったのにさ」
千夏「使えるシュリンクはもうこの世にないわ」
恵磨「いれば苦戦しないのに、上手く行かないね」
千夏「それでも勝ってるわ」
恵磨「そこが重要なのかな、やっぱり」
千夏「わからないわ」
恵磨「うーん、もっと簡単なのかな」
千夏「何の話かしら?」
恵磨「真実」
千夏「わかってみれば、あっけないのかもしれない」
恵磨「もう少しなんだけどなぁ、きっと」
千夏「踏み込む時間かしら」
恵磨「かもね」
26
IMCG女子寮・雪菜の自室
櫂「やっぱり……?」
雪菜「そうみたいです……」
櫂「やっぱりレナさんが何か隠してる?」
雪菜「どうなんでしょうか……なんというか、そのぉ」
櫂「その?」
雪菜「もう全ては終わってるのかもしれません」
櫂「終わってるから、あたし達がやれることはIMCに勝つだけ」
雪菜「はい……でも、どうしてでしょうか」
櫂「なにが?」
雪菜「IMCって逃げ出せるものじゃないんですぅ」
櫂「わざと逃がした?」
雪菜「こんなことになる必要は……あったんでしょうか」
櫂「……」
雪菜「……ごめんなさい」
櫂「あたし達がきっかけにしたことは、確かだから」
雪菜「IMCが放たれなければいませんでした、ここに」
櫂「止めよう」
雪菜「はい、後2体です」
コンコン
雪菜「はーい、どなたですかぁ?」
真奈美「木場だ。櫂君はいるか?」
櫂「あれ、約束の時間はまだじゃない?」
真奈美「いるようだな。話がある。入れてくれ」
EDテーマ
アイの証明
歌 西島櫂
オマケ
CoP「質問があります」
PaP「どうした?真剣な顔して」
CoP「まずはこれを」
PaP「柚ちゃんが話題にしてた、緑のブサイクじゃん」
CuP「ぬいぐるみがどうかしました?」
PaP「穂乃香ちゃんが好きだったな」
CoP「似てますか」
CuP「はい?」
CoP「綾瀬さんに似てると言われたんです……似てますか、本当に」
CuP「どことなく似てますよ」
CoP「本当なのか……はぁ」
PaP「ん?穂乃香ちゃんにそう言われるなら、別に悪くないんじゃねぇか」
CoP「それとこれとは別です」
おしまい
あとがき
OPテーマは一人少ない。
次回は、
安部菜々「IMCG・月」
です。
それでは。
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