あらすじ
たとえ二つの才能がどんなに強大でも、負けるわけにはいかない。
注
IMCG第11話
前話
衛藤美紗希「IMCG・秋桜」
衛藤美紗希「IMCG・秋桜」 - SSまとめ速報
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設定はドラマ内のものです。
それでは投下していきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441102321
序
私は……才能と機会を与えられていました。
才能は得たものではなく……与えられたもの。
神様か両親か……どちらかはわかりません。
誰から与えられたギフト……ええ、ギフトでしょう。
受け取らないことが……出来たなら……私は変われたでしょうか。
舞台に立つこともなく……人前で歌うこともなく。
音を見るが如く……感じる取ることもなく。
人並みの想像力しかなくて……表現力もなければ。
……でしょうか?
欲しいものを……得られたでしょうか?
序 了
1
IMCG・オペレーションルーム
古澤頼子「ドルフィンの起動を確認しました」
井村雪菜「気をつけて、実験してくださいねぇ」
古澤頼子
IMCGのオペレーター。泣きボクロが印象的。
井村雪菜
IMCGのオペレーター。メイクが得意な女の子。
池袋晶葉『わかってる。櫂はそこにいるか?』
西島櫂「いるよ。もう出番?」
西島櫂
シュリンク6、ドルフィンのパイロット。大学のテスト勉強中。
池袋晶葉
IMCGの技術主任。中学生。今までの論文で大学は出れるだろうけど他の勉強は必要そうだね、とゼットテクニカ社員談。
晶葉『いや、もう少しだけ待ってくれ。いることだけを確認しただけだ』
櫂「りょーかい。テスト勉強してるから、心配しなくていいよ」
晶葉『終わる準備は出来てる。手間取ったりしないさ』
櫂「うん。信じてる」
雪菜「ドルフィンの今日のテストは、えっとぉ」
頼子「新システムと関節機構の接続確認ですね」
櫂「そんなこと言ってた」
雪菜「新システムはどうですかぁ?」
櫂「最近慣れてきたよ。でも、まだ違和感あるかも」
頼子「実践が必要かもしれませんね」
櫂「IMCが出てくれないといけないかも。あたし、実戦派だし」
雪菜「でもぉ、IMCは」
頼子「わかってますよ。出ないことに越したことはありません」
雪菜「はい」
頼子「IMCGがなくなることが、一番ですよ」
櫂「それはちょっと寂しいけど」
雪菜「時間が空きましたねぇ。テレビをつけていいですかぁ?」
櫂「どーぞ」
雪菜「ポチっとな」
川島瑞樹『ミズキの水着訪問!今週も水のアスリートを突撃取材しちゃうぞ♪』
川島瑞樹
水着姿が麗しいアイドル。元々は地元テレビ局のアナウンサー。
頼子「テスト勉強はいかがですか?」
櫂「なんとかねー。親に学費を出して貰ってるし、がんばらないと」
雪菜「先週は水球のチームでぇ、今週は競泳選手なんですねぇ」
櫂「よく見てるね」
頼子「暇なので」
瑞樹『今日は私よりも一回り以上年下……ミズキなんの話かわかんない☆』
櫂「こっちが素なのかなぁ……」
頼子「おそらく」
瑞樹『おほん。注目の若手競泳選手をごしょうかーい♪どうぞ!』
櫂「あれ?」
頼子「櫂さんも競泳選手でしたね」
雪菜「櫂さん、どうしましたかぁ?」
櫂「この子、知ってるよ」
頼子「地元選手ですから」
櫂「速いんだ。負けちゃった」
雪菜「……」
瑞樹『へぇ、大学生の選手に勝てたことが自信になったのね』
雪菜「素直で、良い子ですねぇ」
櫂「うん。きっと伸びるよ」
瑞樹『その選手が負けない、って対等に見てくれた。だから、頑張れる』
櫂「……そんな殊勝な意味じゃないのに」
頼子「真意なんて、いいんですよ。彼女のためなら」
雪菜「ええ。櫂さんは、色々な人を勇気づけてますよ」
櫂「そうかな……?」
雪菜「はいっ!」
櫂「ありがと。がんばるよ」
頼子「まずはテストですね」
櫂「苦手とか言ってられないもんね。よしっ!」
2
ゼットテクニカ・会議室
浜川愛結奈「お茶くらい出さない?」
浜川愛結奈
IMCGのオペレーター。ゼットテクニカに出張中。
財前時子「だそうよ、和久井」
和久井留美「緑茶と紅茶、ご希望はありますか」
財前時子
ゼットテクニカ副会長。IMCGの技術と資金の源泉。
和久井留美
時子の秘書。常に凛々しい表情のお目付け役。
愛結奈「緑茶にしようかしら。時子は?」
時子「私にも緑茶を」
留美「承知しました。お待ちください」
時子「それよりも、愛結奈。副会長と呼びなさい」
愛結奈「今更でしょう。なに、そう呼ばれたいの?」
時子「もう部下でもなんでもないわ。礼節ぐらいわきまえなさい」
愛結奈「それ以前に後輩なのは変わらないわよ。それとも、そこの秘書さんに聞かれたくないの?」
留美「……」
時子「和久井は口外はしないわよ」
愛結奈「信頼してる?」
時子「仕事は出来るわ。助かってる」
愛結奈「助けられるほど仕事してないらしいじゃない」
留美「緑茶をどうぞ。私のことはお気になさらず」
愛結奈「ありがと。うわっ、高い茶葉使ってるわね。もったいない」
時子「素直に受け取りなさい」
愛結奈「茶葉の話はいいとして、どうなの?仕事は」
時子「やろうと思えばいくらでも出来るわ。今日もその話よ」
愛結奈「今日の話?なんだったかしら?」
時子「貴方ねぇ」
愛結奈「そんな私に頭を下げたのも、時子でしょう」
時子「頭なんて下げるなんてらしくないわ、いつも通り踏ん反りかえって命令なさい、と言ったのは貴方よ」
愛結奈「懐かしい話ね。本気で心配したのよ、あの時子が追い詰められてるって」
時子「……その話はやめましょう。今は仕事の話を」
愛結奈「それで?」
時子「シュリンク6、愛称は、なんだったかしら」
愛結奈「ドルフィン」
時子「それに、資金を投入したことは知ってるわね。それの効果についてヒアリングを」
愛結奈「本日中に試験完了、パイロットを載せて動かせる状態にする予定よ」
時子「そんなのものは報告を受けてるわ」
愛結奈「それ以上のことはないわ。なにか、不満?」
時子「個人的な感想を聞きたいの。レナはこの賭けに勝てる?」
愛結奈「この賭けに勝てるように、時子はベットしてプレイヤーも選んだんじゃないの。時子らしくない」
時子「ええ。失敗なんて考えてないわ」
愛結奈「でしょう。なら、アタシの感想も同じ。勝つわ」
時子「そうなら、いいわ」
愛結奈「でも」
時子「でも?」
愛結奈「ハッキリ言って、上手い賭けじゃないわ。勝ってもリターンが少な過ぎ。負けたら、ベットが無駄になる。それならやらなかった方が良い」
時子「貴方に言われたことくらい覚えてるわ。最初の最初に、聞いたわ」
愛結奈「最初の最初に聞いて、それでもと言われた。いいのね、それで」
時子「いいわ。頼むわ、愛結奈」
愛結奈「ええ」
時子「IMCは残り」
愛結奈「待って、時子。秘書さん、いるけどいいの?」
時子「別にいいわよ」
愛結奈「わざわざ確認することじゃないわ。終わりまで務めるから」
時子「頼むわ」
愛結奈「話は終わり?」
時子「ギフテッドは元気にしてるかしら?」
愛結奈「もちろん、元気に自由にしてるわ」
3
IMCG・ドック
一ノ瀬志希「はーい、今日のお仕事おっわり~。みんな、お疲れ様!」
一ノ瀬志希
IMCGの技術職員。シュリンク5、ディアーのメインエンジニア。
晶葉「ディアーは終わりか?」
志希「おしまい~。ドルフィンは?」
晶葉「これからだ、櫂にテストをしてもらう」
高峯のあ「晶葉、志希……」
高峯のあ
IMCGの技術職員。IMCGに来る前はゼットテクニカの社員だった。
志希「のあちゃん、どうしたの?お腹空いた?」
のあ「正解……」
晶葉「正解なのか」
のあ「寮に戻りましょう……志保が待ってるわ」
志希「おっけー、晶葉ちゃんは?」
晶葉「これを終わらせてからだ」
のあ「お先に失礼するわ……」
晶葉「そういえば、音葉はどこにいる?」
志希「音葉ちゃん?まだディアーの中」
晶葉「ふむ」
のあ「なにか……用事でも」
晶葉「特にはないさ。少しだけ気になっただけだ」
志希「そう?」
櫂「あっ、晶葉ちゃん。レナさん来たから、動かせるって」
晶葉「ありがとう、櫂。ドルフィンの搭載準備を頼む」
志希「がんばって~、ばいばーい」
4
IMCG・オペレーションルーム
頼子「注水を完了しました」
雪菜「ドルフィン接続開始ですぅ」
櫂『1、2、3……よし』
頼子「司令、移動の許可を」
兵藤レナ「許可するけど、敷地内までね」
兵藤レナ
IMCGの責任者。前職を聞いても、色々あったのよ、としか答えてくれない。
雪菜「ハッチ開きますねぇ」
頼子「櫂さん、移動を」
櫂『了解』
晶葉「準備は出来たか?」
頼子「問題ありません」
櫂『ドルフィン、出ます』
晶葉「櫂、何かあったら言ってくれ」
雪菜「ドルフィン、地上に出ました」
頼子「周囲に人は入り込んでいません」
櫂『ふーむ……』
晶葉「どうだ?」
頼子「数値に異常はありません」
櫂『問題ないかな……頭痛もしないし』
晶葉「『見えて』るか?」
櫂「そっちはなんとも……なんとなくわかるくらい」
レナ「慣れが必要そうね」
晶葉「少し動いてみるか」
櫂『うん。真奈美さんから習った型でもやってみる』
雪菜「おおっ、かっこいいですぅ」
頼子「動きがスムーズで早いですね。後で数値化してみましょう」
櫂『はっ!』
晶葉「よしよし、動きは正常か。色々動かしてみてくれ」
櫂『オッケー、行くよー!』
梅木音葉「……鳴き声がすると思ったら」
梅木音葉
シュリンク5、ディアーのパイロット。天性の耳を持つ。
レナ「鳴き声?」
晶葉「聞こえるのか?」
音葉「……いけませんか」
晶葉「いやそういうわけじゃない」
音葉「もちろん……全て聞こえるわけじゃありませんよ」
櫂『よいっしょ!』
雪菜「ロンダートですねぇ」
頼子「もしかして、バク転とかできますか?」
櫂『あたしは出来ないけど……コクピット内は水で満たされてるし』
晶葉「出来るぞ。コクピット内の櫂の動きなら再現できるはずだ」
櫂『よしっ、せーのっ!はい!』
レナ「上手上手」
櫂『出来たっ!』
音葉「凄いですね……さすが、櫂さんです」
晶葉「システムの活用としてはまだだな」
頼子「有機材料の関節はかなり上手く機能していますね」
雪菜「パイロット内の櫂さんの動きは十分に再現出来てますねぇ」
櫂『あたしもそう思う。やりたいこと、やってくれる』
音葉「ええ……そのようですね」
晶葉「櫂、テストプランを送る。見ることを意識してやってもらえないか」
櫂『了解。行くよ、ドルフィン』
音葉「……」
レナ「どうしたの、音葉ちゃん?」
音葉「なんでもありません……少し見学させてもらいます」
5
IMCG・オペレーションルーム
愛結奈「ただいま」
櫂「愛結奈さん、お帰りっ!」
レナ「副会長、何か言ってた?」
愛結奈「特別なことはなにも。晶葉ちゃん、櫂ちゃん」
晶葉「どうした?」
愛結奈「お金かけたからがんばれって」
櫂「あちゃー、それを言われると」
晶葉「時子には感謝してる。後で電話をしておく」
愛結奈「よろしくね。雪菜ちゃん、お疲れ様」
雪菜「はーい。お腹すきましたぁ」
音葉「一緒に戻りましょう……」
雪菜「はい。櫂さんも戻りますか?」
櫂「うん。晶葉ちゃんも今日はやめよ?」
晶葉「そうだな。頼子、少しだけ任せていいか」
頼子「ええ。お疲れ様でした」
櫂「お疲れ様でしたっ!また明日」
頼子「テスト勉強、頑張ってくださいね」
音葉「それでは……失礼します」
レナ「……それで」
頼子「ええ。何か言ってましたか?」
愛結奈「本当に何も言ってないわよ。そうね、この賭けに勝てるかどうかは心配してたわよ」
レナ「それは信じてもらうしか」
頼子「他には、ありませんでしたか」
愛結奈「別に、志希ちゃんと音葉ちゃんが元気にやってるか聞いたくらい?」
レナ「耳に入ったかしら」
頼子「何がですか?」
愛結奈「大丈夫。それは問題ないわ」
頼子「はぁ……?」
レナ「私は戻るわ。よろしくね」
頼子「はい。お疲れ様でした」
愛結奈「さて、ドルフィンのテストしたのよね。見せてくれる?」
頼子「ええ……フォルダがあります」
愛結奈「これね、凄いじゃない」
頼子「あの、愛結奈さん」
愛結奈「なに?」
頼子「どこまで知ってますか」
愛結奈「そちらこそ。アタシはそれなりに知ってるわよ」
頼子「聞いていいですか」
愛結奈「ええ。頼子ちゃんが想像している通りの答えだと思うけど」
頼子「IMCがどこにいるか、わかってますか」
愛結奈「わかってるのもあるわ。でも、推測だけよ」
頼子「状況は理解しました。引き続きよろしくお願いします」
愛結奈「いいの?」
頼子「それでいいと思えるから、ここにスカウトされたのですよ」
愛結奈「あなたも難儀な性格ね」
頼子「そちらこそ」
愛結奈「この話はやめましょう」
頼子「ええ。次の準備を」
6
IMCG女子寮・食堂
志希「ハスハス~」
櫂「志希ちゃんはどうして志保さんに抱き付いてるの?」
志希「スーハースーハー」
音葉「趣味……ですよ」
晶葉「趣味だな」
雪菜「趣味でいいんですかぁ?」
槙原志保「志希ちゃん、これ棚にしまってくれますか?」
槙原志保
IMCG女子寮の寮母さん。長い髪から、志希もご満悦の甘いフレーバーが漂う。
志希「はーい」
志保「みなさんはお替りいりますか?」
音葉「大丈夫です……」
櫂「気にも留めてない……」
晶葉「日常茶飯事だからな」
志希「あっ!閃いた!まったね~」
雪菜「おやすみなさぁい」
櫂「自由だなぁ」
音葉「……前からですから」
晶葉「だが、頭脳は本物だ。ギフテッドの名は伊達じゃないな」
櫂「ギフテッド?」
音葉「贈り物……天から与えられし才能の持ち主」
晶葉「羨ましいことだ」
櫂「ふーん……」
志保「皆さんも頑張ってますよ♪」
晶葉「もちろんだ」
音葉「……」
志保「みんな一歩ずつですよ。広くても早くても遅くてもおんなじ一歩です♪」
櫂「そうだね」
志保「少しずつ一歩進めば、同じです。きっと証明できますよ」
晶葉「もちろんだ。櫂、明日もテストに付き合ってくれるか?」
櫂「もちろん。そうだ!」
雪菜「どうしましたぁ?」
櫂「音葉ちゃん、手伝って」
音葉「私……ですか?」
櫂「うん……接続システムなら音葉ちゃんの方が先輩だし」
音葉「そうですね……お手伝いできることがあれば」
櫂「ありがとっ!」
音葉「……」
7
IMCG女子寮・食堂
志保「ふー良いお湯でした、あら?」
木場真奈美「志保君、ご苦労様」
柳清良「キッチン、お借りしたわ」
木場真奈美
IMCGの職員。元はシュリンクのパイロットだった。最近の仕事はもっぱら櫂に格闘戦と英語を仕込むこと。
柳清良
レナ付の職員。看護師の資格を持っている。
志保「お帰りなさい。夜遅くまでお疲れ様です♪」
真奈美「志保君もどうだ?」
清良「記者さんからワインを貰ったの」
志保「お気持ちだけいただきますね」
真奈美「なら、清良君と遠慮なくいただこう」
志保「遅くまでお仕事でしたか?」
清良「お仕事と言えば、お仕事ね」
真奈美「まぁ、少し腹を割って話してみただけさ」
志保「そうですか。何かお作りしましょうか?」
清良「いいえ。片付けもやっておくわ」
真奈美「だから、休みたまえ。休みない仕事だからな」
志保「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えますね」
清良「ええ。おやすみなさい」
志保「おやすみなさい」
真奈美「……いつも夜遅くて、朝早いな」
清良「がんばってくれてるわ。性格もあると思うけれど」
真奈美「それに甘えていなければいいが」
清良「大丈夫よ。ええ」
真奈美「ゼットテクニカから離れて、IMCGになってからもう長いな」
清良「長かったかしら」
真奈美「色々とあり過ぎた。人も増えた」
清良「そうね。櫂ちゃん含めて」
真奈美「最初はレナの一存だけで決まってた」
清良「もう戻れないくらいに人を巻き込んだわ」
真奈美「わかってる。後悔はしないさ」
清良「もう一杯いかがですか?」
真奈美「いただこう」
8
幕間・とある日
ゼットテクニカ・役員室
時子「人員はこれでいいのね」
レナ「ええ。約束通り技官さん達はゼットテクニカ所属のままよ」
時子「太田優、松山久美子、柳清良、木場真奈美、高峯のあ、池袋晶葉は預けるわ。それと持田亜里沙も」
レナ「助かるわ」
時子「二人ほど質問するわ。最初は槙原志保について」
レナ「あら知らない?」
時子「社員食堂のバイトの子よね。どうしてかしら」
レナ「必要だから。後で会わせてくれる?」
時子「質問にくらい答えなさいよ」
レナ「必要でしょ?」
時子「……わかったわよ。もう一人は古澤頼子、どちら様かしら」
レナ「オペレーター業務を中心に頼もうと思ってるの。優秀よ」
時子「つまり、私も素性を知らないということね」
レナ「そういうこと。一応会う?」
時子「時間だけはあるわ。会わせてもらいましょう」
レナ「他に聞きたいことはある?」
時子「ないわ。私はベットするだけよ」
レナ「じゃあ、こっちから」
時子「なにかしら」
レナ「パイロットと技術者一人ずつくらい追加する話、進んだ?」
時子「パイロット候補は二人いるわ、そちらは時期に」
レナ「技術者は?」
時子「捕まえるわ。性格が自由なギフテッドよ」
レナ「それは楽しみね」
時子「話は終わり?」
レナ「ええ」
時子「任せたわ、レナ。私は、やり方がわからないから」
レナ「……ええ。わかってる」
幕間 了
9
IMCG・課長室
レナ「……はっ」
レナ「参ったわ、机で寝るとか……」
レナ「変な夢を見たわね、そんなことは思い出さなくても」
ピッピ……
レナ「また眠り姫が起きてきたじゃない。オペレーションルーム、聞こえる?」
頼子『司令、まだお帰りじゃなかったのですか』
レナ「居眠りしてたの。舎内に音葉ちゃんが入ったの、確認してる?」
頼子『はい』
レナ「様子はおかしくなかった?」
頼子『いつも通りですよ。ドックへと向かってます』
レナ「そう。良かったと言えるわけじゃないけど」
頼子『ええ……』
レナ「お願い。何かあったらすぐに呼んで」
頼子『司令』
レナ「なに?」
頼子『何か、あるのですか』
レナ「ええ」
頼子『その前に止めないのですか』
レナ「そうよ。私は止めないわ」
頼子『……わかりました』
レナ「いつだって遅いのよ。今だってそう。次だって、そう」
頼子『……』
レナ「後手後手にまわって、それでも、もがいてるの。高い賭け金で勝ち目の少なくて、リターンも少ない戦いをする」
頼子『それは最初に聞きました』
レナ「そんな勝負でも降りれなかったの。だから、もう少しだけ付き合って」
頼子『はい』
レナ「音葉ちゃん、お願いね」
頼子『お疲れ様でした。良い夜を』
10
翌日
IMCG・オペレーションルーム
篠原礼『勢力を保ったまま関東方面へと進んでいます。今日の昼過ぎにかけて関東に上陸する模様です。強い雨と風に気をつけてください』
篠原礼
地元テレビ局のアナウンサー。趣味は社交ダンス。
櫂「あちゃー、これはダメかな」
晶葉「せっかくの土曜日だが、残念だ」
のあ「休みにしましょう……」
雪菜「もともと技官さん達もお休みですからねぇ」
晶葉「無理はしないさ」
音葉「ええ……志希さん」
志希「なに~?」
音葉「ディアーのチェックをお願いします……」
志希「する?しなくていいと思うよ?」
音葉「念のためです……」
櫂「動かさなくていいけど、あたしもした方が良い?」
晶葉「疲れるだけだ。音葉とは違う」
音葉「はい……私は大丈夫ですよ」
志希「じゃあ、やろっか」
音葉「ええ……それでは失礼します」
雪菜「櫂さんはどうします?」
櫂「それなら休もうかな。テスト勉強しよっと」
晶葉「ふむ。テストか」
櫂「晶葉ちゃんは?」
晶葉「テストは別物だな。テスト期間になれば勉強して、結果は残す」
櫂「へー、学校の勉強くらいなんでもないかと思ってた」
晶葉「天才ではないからな、私は。のんびりと中学生をやるさ」
雪菜「不思議な言い方ですねぇ」
愛結奈「ディアーを起動させるみたいね。雪菜ちゃん、手伝って」
雪菜「はぁい」
櫂「ねぇ、晶葉ちゃん」
晶葉「なんだ?」
櫂「ディアーと音葉ちゃん、っていつも何を調整してるの?」
晶葉「音葉のイメージとのすり合わせだな」
櫂「イメージとのすり合わせ?」
晶葉「昔は鳥だったが、今は違うらしいな」
櫂「あんまり理解できないんだけど」
晶葉「私も理解はしてない」
櫂「そうなんだ……」
晶葉「志希と音葉にしか見えない世界もあるさ。それを羨ましいと思うかどうかだ」
櫂「羨ましい?」
晶葉「ああ、羨ましい」
愛結奈「ディアー起動開始」
晶葉「だが、羨むだけでは先には進めない」
櫂「うん、そうだね」
晶葉「櫂、頼む」
櫂「もちろん。台風が過ぎたらね」
のあ「……」
11
IMCG女子寮・食堂
櫂「風が強くなってきたなぁ……」
志保「櫂さん、コーヒーいかがですか?」
櫂「ありがとう。もらう」
志保「お部屋では勉強は進みませんか?」
櫂「そうなんだよね、食卓使わせて貰ってごめんね」
志保「謝ることありませんよ。ちょっと懐かしいな、って」
櫂「懐かしい?」
志保「ええ。同じように勉強してたんですよ」
櫂「誰、晶葉ちゃん?」
志保「ふふっ、晶葉ちゃんは会社かお部屋です」
櫂「じゃあ、誰だろ」
志保「音葉さんですよ」
櫂「音葉ちゃん?」
志保「ふふっ、お勉強はあまり得意じゃなかったみたいです」
櫂「そうなんだ、知らなかった」
志保「昔からご両親と一緒に飛び回っていたそうです。舞台にも立ってたそうですよ」
櫂「へー、今思えばあんまり知らないな」
志保「あまり誇れる過去ではないみたいです。話たがらないので、聞かないでくださいね」
櫂「うん」
志保「あっ、そうだ。雨戸を下げないと!櫂さん、手伝ってください!」
櫂「もちろん、任せて」
頼子「おはようございます」
志保「おはようございます、頼子さん。早いですね」
頼子「ペットボトルのお茶を貰えますか」
志保「お仕事ですか?どうぞ」
頼子「ありがとうございます。櫂さん、後ほど」
櫂「いってらっしゃい」
志保「後ほど?お仕事ですか」
櫂「お仕事なんて入ってないから、勘違いかな。志保さん、雨戸降ろしちゃおう」
志保「はいっ!雨が強くなる前に終わりにしましょう!コロッケも揚げておかないと!」
12
音が……聞こえます。
小さな声が……私をこう呼ぶ。
怪物……と。
天才と呼んでくれればいいのに……どうして怪物と。
どうして……ですか?
音葉ちゃん!応答して!
どうして……声をかけてくれないのですか?
どうして……そんな目でみるのですか。
どうして……この電話に出てくれないのですか。
少しだけ想像力が豊かでした……それだけです。
それを表現できる力も……あって。
だから……どうして、ですか。
音葉……君は立派な……。
違う、違うんです……違います。
お願いです……お願い。
欲しかった……知りたかった。
どうして……あなた達は。
音が……しました。
小さな羽音……まるで鈴虫のよう。
ああ……こんな所にいたのですか。
心がやすらぐような……落ち着いた響を聞いて。
私はこっち側なのだと……理解します。
さぁ……おいで。
私の……カタチを見せて……。
りんりんりん……音の衣が私を包んでいく。
13
IMCG女子寮・食堂
礼『関東南部は暴風域に入りました。外出は控えてください』
櫂「間に合ってよかったね」
志保「櫂さん、お手伝いありがとうございました」
ピンポンパンポーン……
志保「あら」
櫂「IMCだっ、行かないと!」
志保「待ってください。放送が」
愛結奈『総員、動かないで!』
櫂「動かないで?」
志保「警備室に電話してみましょう」
櫂「何が、うわっ、地震!?」
志保「もしもし、警備室ですか?」
櫂「地震じゃない……?」
志保「……そうですか。わかりました」
櫂「志保さん、どうしたの?」
志保「櫂さん、聞いてください」
頼子『総員集合。IMCは敷地内から離脱しました』
櫂「敷地内。相手は……誰なの」
志保「音葉さんです。ディアーを持ち出したそうです」
櫂「……なんで」
志保「櫂さん。負けないでくださいね」
櫂「それ、前にも誰かに、言われ……」
志保「……お願いします」
櫂「……負けないよ」
志保「はい」
櫂「行ってきます」
14
IMCG・オペレーションルーム
のあ「……」
晶葉「どうだ」
のあ「負けたわ……」
志希「さっすが、音葉ちゃん。才能ある~」
レナ「状況を」
志希「ディアーは音葉ちゃんのIMCのもの」
のあ「全システム取られたわ……」
晶葉「フォーンビットもか」
志希「もちろん。音葉ちゃんのIMCだよ?」
のあ「本来は……こちらで制御しないと動かないはず」
晶葉「無理矢理IMCの一部でつなげたか」
雪菜「フォーンビットからIMC反応が出てますぅ」
レナ「要するに」
愛結奈「状況は最悪」
頼子「相手はIMCというよりもディアーと言えますね」
雪菜「音葉さん、応答してくれません……」
レナ「カルテは出来てる?」
雪菜「……はい」
レナ「ドルフィンに送っておいて」
雪菜「わかりました」
清良「櫂ちゃんはどこかしら」
櫂「晶葉ちゃん!」
愛結奈「到着したわ」
櫂「ドルフィンで出るよっ!」
晶葉「わかってる!行くぞ、櫂!」
志希「ねぇねぇ、櫂ちゃん。一言だけ聞いて」
櫂「一言だけ」
志希「本当に好きなものは武器だよ」
晶葉「櫂!急げ!」
櫂「わかった。行ってくる」
志希「がんばれ~」
15
IMCG・ドック
晶葉「櫂、相手はわかってるか」
櫂「わかってるよ」
晶葉「私はドルフィンには何も持たせなかった」
櫂「うん」
晶葉「ディアーは、武器も多彩だ。それにセンサーも多い」
櫂「知ってる」
晶葉「奇想天外なアイディアを出して、形にして、まとめあげるギフテッドがいた」
櫂「うん」
晶葉「それを乗りこなすパイロットもいた」
櫂「……そうだね」
晶葉「ディアーについての資料も送っておいた。注水中にでも見てくれ」
櫂「わかった」
晶葉「音葉についても」
櫂「わかってる」
晶葉「相手は強いがやることは変わらない。頼む、櫂」
櫂「負けないよ。大丈夫、信じて」
晶葉「ああ」
16
IMCG・オペレーションルーム
清良「司令、警察を通り越して政府関係者からお電話です」
レナ「この台風の中で自衛隊の装備でも使えるなら使ってみなさい。そう伝えて」
清良「ええ」
雪菜「ディアーは東京湾方向へ移動してます」
レナ「市街戦は避けたいところだけど。惠ちゃん、聞こえる?」
伊集院惠『伊集院です。どうぞ』
伊集院惠
IMCGの警察官。IMCGの女子寮に住んでいるが、あまり部屋にいない。
レナ「広い範囲で避難警報出せる?」
大和亜季『避難どころか移動も怪しいであります』
大和亜季
IMCGに派遣されている警察官。車両の運転を担当している。
頼子「風速約60メートル」
惠『海岸に近づくのは厳しいと思われます』
レナ「無理はしないでいいわ」
頼子「ドルフィン、注水完了」
櫂『はぁ』
雪菜「何かありましたかぁ……?」
櫂『なんで、こんなデータシートで音葉ちゃんのこと知らないといけなんだろう……』
雪菜「……」
櫂『こんなことも聞けなかったんだ……はぁ』
レナ「櫂ちゃん、今の事態に集中して」
櫂『わかってる』
愛結奈「ドルフィン、接続開始」
櫂『……よし』
頼子「接続完了」
雪菜「ハッチオープン」
レナ「ドルフィン、出撃。音葉ちゃん、止めてきなさい」
櫂『はい。出撃します』
レナ「……まだ連絡は来なそうね」
17
IMCG・オペレーションルーム
志希「歌ってる」
のあ「……何か、言ったかしら」
志希「たぶん歌ってる。ディアーの歌声聞こえないかなぁ?」
のあ「なにか……とらえてるかしら」
愛結奈「ディアーの音声制御システムはまだモニタリング出来てるけど」
頼子「特に信号は出てません」
雪菜「音波砲もバリアも使われてませんねぇ」
志希「でも、歌ってるよ。きっと」
雪菜「この状況下で、ですか」
志希「こんなことになったから、だよん」
頼子「ディアーが移動を停止しました」
愛結奈「随分とテレビ局の近くじゃない。良い映像撮れるでしょうね」
のあ「確かに……そのようね」
愛結奈「フォーンビット16機展開!櫂ちゃん!」
櫂『聞こえてますっ!』
頼子「フォーンビットが展開されました。レーザー兵器の利用はこの雨の中では不可能ですが」
雪菜「ビットが一つのIMCだと思ってください」
愛結奈「要するに、敵よ」
櫂『敵か……』
晶葉「櫂」
櫂『わかってる』
晶葉「やるぞ。頼子!」
頼子「はい」
晶葉「関節部のロックを解除だ!」
頼子「了解しました。ドルフィン、有機関節部のセーフティを解除」
晶葉「感覚センサーを広げろ!」
頼子「センサー起動。パイロットとの接続確認」
晶葉「雨と風の感覚はあるか?」
櫂『感じる。酷い雨と風』
晶葉「音葉にイルカの歌を聞かせてやれ」
頼子「超音波ソナー稼働」
雪菜「ディアーに反応ありました……聞こえてますか、音葉さん」
愛結奈「返事が来たりしないわね」
櫂『ふー……』
愛結奈「ちっ、フォーンビットの反応が消えたわ」
雪菜「ディアーからの信号が途絶えましたっ!」
志希「……」
晶葉「櫂」
櫂『準備は出来てる』
晶葉「行くぞ、ドルフィンシステム稼働!」
頼子「ドルフィンシステム稼働」
晶葉「『見ろ』、櫂!」
18
IMCG・オペレーションルーム
頼子「パイロットに異常なし。接続成功」
櫂『……』
雪菜「櫂さん?」
櫂『聞こえた……』
志希「やっぱり?」
櫂『ずっと歌ってたのかな、音葉ちゃん。こんなに重くて暗い曲を……』
レナ「……」
愛結奈「ドルフィンシステムは正常に動作」
晶葉「周りの状況は把握できてるか」
櫂『うん……いつもより』
晶葉「雨か」
櫂『そうみたい』
レナ「ドルフィン側の発振器を切って」
晶葉「賢明だ。ドルフィンの位置を知らせる必要はあるまい」
頼子「停止しました」
櫂『聞こえる……』
レナ「状況は出そろったわ」
愛結奈「フォーンビットは16機展開中」
頼子「ディアーの兵装は全てIMCの支配下です」
志希「電磁砲はダメだけど、使えるのはいっぱいあるよ~」
雪菜「音葉さん……もしかしたら意識があるかもしれません」
のあ「……ドルフィンは起動したわ」
晶葉「私はやれることをやった」
櫂『見えてる……』
レナ「行きなさい、ドルフィン。まずは、ビット16機」
晶葉「落とせ!」
櫂『了解、ドルフィン、行きますっ!』
19
力強く……刻んでいたリズムが消えました。
強い風の中で……音は途絶えて。
痛みが……しました。
この体を……私の一部を。
引きちぎられるよな音が……聞こえました。
がんばって……私の小鹿さん達。
わかって……わかって。
だって……いつも私は。
想像して……想像して。
だって……そんな時間ばかりいつもあって。
ああ……また一つ。
いますか……そこにいるんですか。
なら……わかってください。
お願い……この感情に気づいて。
20
IMCG・オペレーションルーム
雪菜「フォーンビット2機目を破壊しましたぁ!」
櫂『次!』
真奈美「ふむ」
のあ「どうかしら……あの子は」
真奈美「元から才能はあったさ。最初からシュリンクと同調出来てた」
のあ「ええ……そうね」
櫂『おっりゃあ!』
頼子「3機目を破壊」
レナ「ディアーの動きは」
櫂『海岸方面に移動中だよっ!』
愛結奈「ドルフィンから得られる情報をこっちでも解析してるわ!」
雪菜「なんとか、できるでしょうか」
櫂『後ろからビットが2機!』
真奈美「回し蹴り、お見事」
頼子「4及び5機目の破壊を確認」
晶葉「櫂、動きはどうだ」
櫂『イメージ通り動いてくれる!』
愛結奈「電磁ネット展開してないかしら」
雪菜「ドルフィンの映像で確認しましたっ!気をつけてください!」
櫂『よいっしょ、っと!』
レナ「すり抜けたわね」
晶葉「櫂はIMCじゃなくて、ドルフィンはシュリンクだ」
志希「大雑把な兵器とか言うな~」
晶葉「言ってない!」
櫂『よいっしょ!』
頼子「6、7機目の破壊を確認」
真奈美「のあ、ドルフィンはどうだ?」
のあ「綺麗……だわ」
真奈美「綺麗か、また不思議な感想だな」
のあ「純粋な感想よ……美しいわ」
真奈美「無骨だったかな、私達は」
のあ「そうね……タイガーもウルフも」
志希「あ、そうそう一機だけね、実弾使えるんだよ」
愛結奈「そうだったかしら?」
志希「この前付けちゃった♪」
晶葉「早く言え!」
櫂『問題なし!』
雪菜「避けましたぁ!」
のあ「視認するより早いのね……」
真奈美「ドルフィンに乗るのは私じゃなかったな」
のあ「ドルフィンを作るのも……私じゃなかったわ」
頼子「8機目を破壊」
レナ「志希ちゃん、他に改造したフォーンビットはないでしょうね?」
志希「実はいっぱいいっぱい」
レナ「まっ、それでこそ雇った甲斐があるわ」
愛結奈「9機目を撃破!なんか羽根が生えてたわ」
レナ「音葉ちゃんと接続できるかしら」
雪菜「距離を近づけても厳しいと思いますぅ」
レナ「なら、やることは単純ね」
志希「ディアーを止められるの?」
レナ「止められるかじゃないわ、止めるのよ」
晶葉「そういうことだ!」
櫂『おっりゃあっ!』
頼子「建物かげに隠れていました、10機目を破壊」
真奈美「見えてるな」
のあ「ええ……でも、これからよ」
櫂『来たっ……』
雪菜「ディアー移動開始しましたぁ!」
晶葉「櫂!」
櫂『よしっ、待ってて、音葉ちゃん!』
21
IMCG・オペレーションルーム
櫂『超音波発振してっ!』
愛結奈「大丈夫なの?」
櫂『もう、見えてる』
雪菜「ドルフィンのカメラでディアーを捉えましたぁ!」
晶葉「もう隠れる必要もない、起動させろ」
頼子「発振器起動」
櫂『よし……そこか』
頼子「ドルフィン、11機目を破壊」
志希「あっ、来るよー」
雪菜「ディアー前方部の兵装展開しました!」
愛結奈「衝撃波、来るわよ!」
櫂『よいっしょ!了解!』
頼子「12機目の破壊を確認」
清良「本当に見えてるのね」
レナ「視界は全方向、反射も捉えるから物陰も範囲内」
志希「いっくよ~」
櫂『くっ……』
愛結奈「ディアーが音衝撃発生!」
晶葉「耐えたぞ」
頼子「ドルフィンに異常なし」
雪菜「櫂さん!」
櫂『しまった!ドルフィンシステムが止まってる』
晶葉「慌てるな、櫂!目はいくらでもある!」
頼子「ドルフィン右前方、カメラでフォーンビットを捉えました」
櫂『おっと!』
雪菜「ブレードのついたビットを避けましたぁ!」
晶葉「どうやって避けた?」
櫂『風と雨!』
晶葉「触感センサーか!」
頼子「13機目を撃破」
櫂『超音波ソナー復帰しましたっ!』
レナ「櫂ちゃん、庭園に移動を」
櫂『了解!そこかぁっ!』
真奈美「フォーンビットを叩き落としたか」
頼子「14機目の破壊を確認」
雪菜「後2機ですぅ!」
櫂『音葉ちゃん!』
頼子「接続は厳しいようです」
愛結奈「拒絶されてるかしら」
晶葉「その前に危険だっ!」
雪菜「ドルフィン、ディアーの下を通過しましたっ!」
櫂『こっちに来て!』
頼子「ディアー、旋回」
志希「小回りは効かないよね。でも、加速したら早いよ」
櫂『どれくらいっ!』
志希「20秒くらい?IMC化してるからもっと早いかも」
晶葉「櫂が背中を向けている以上、こちらからは見えない」
愛結奈「もう少しテレビ局は頑張りなさいよ」
レナ「頼んだわ」
櫂『任せて!よっと!』
頼子「15機目のフォーンビットを破壊しました」
のあ「……残りはひとつ」
志希「点火……」
のあ「来るわ……」
櫂『来たっ!』
雪菜「ディアー加速開始!」
愛結奈「アントラーは!?」
志希「標準装備だよ?使ってるに決まってるでしょ~」
晶葉「角だけは避けろ!」
櫂『わかってる!』
真奈美「来るぞ!」
22
IMCG・オペレーションルーム
愛結奈「ドルフィン、ディアーに接触!」
頼子「庭園方向へ飛ばされました。建物に被害はありません」
志希「直撃は避けたねー。ディアーは慣性で通り過ぎちゃった」
雪菜「櫂さん、応答ください!」
櫂『痛い!』
レナ「感覚器つなげてるものね」
櫂『あたしは大丈夫!ドルフィンも異常なし!』
晶葉「ああ!」
愛結奈「あれ、立たないの?」
雪菜「ディアーは減速して、旋回しはじめました」
櫂『来たっ、せーのっ!』
愛結奈「ひゅーっ!カッコいいじゃない!」
頼子「16機目のフォーンビットを破壊しました」
レナ「これで全部ね」
雪菜「ドルフィン、体勢を立て直しましたぁ!」
愛結奈「あら……?」
櫂『日差しが入ってきた』
頼子「台風の目のようです」
櫂『ドルフィンシステムは、ちょっと停止かな』
のあ「電磁砲の準備……始まってないかしら」
志希「始まってるねー」
晶葉「問題ない!正面にだけは立つな!」
櫂『了解!』
23
IMCG・オペレーションルーム
志希「電磁砲使わないねー」
愛結奈「ディアーの高度が下がってきたわ」
志希「変えたかな?」
レナ「そのようね。櫂ちゃん」
晶葉「接近しろ!」
頼子「アントラー起動したようです」
雪菜「ドルフィン、ディアーに接近!」
愛結奈「ディアー、高度固定!」
頼子「ドルフィン、ディアーの正面に入りました」
晶葉「櫂!」
櫂『来なよ、音葉ちゃん!』
志希「アントラー射出~」
レナ「……」
櫂『捉えた……』
頼子「ドルフィン、アントラーを回避」
愛結奈「アントラーのチェーンをつかんだわ!」
櫂『落ちろっ!』
雪菜「ディアー、落下しましたぁ!」
櫂『成功!』
清良「司令……お電話です」
レナ「本当に……遅いわ。少し外すわ。櫂ちゃん、勝ちなさい」
櫂『はいっ!』
晶葉「言われるまでもない!櫂、喜ぶのは後だ!」
志希「ディアー復活まで、あと30秒くらいだよ~」
晶葉「十分だ!櫂、指示した通りに動け!ディアーを止める!」
櫂『はい!』
晶葉「頼子!ファイルは送ってある!ドルフィンに画像を送れ!」
頼子「了解しました」
櫂『これね、確認!』
晶葉「行くぞ!」
志希「ディアーの研究なんてしてたんだ?」
晶葉「もちろん。志希は私の憧れだからな!」
志希「……」
愛結奈「ディアーの反撃には注意して!」
志希「ねぇ、晶葉ちゃん」
晶葉「なんだ!」
櫂『止まれ、止まれぇ!』
志希「なんでもなーい」
晶葉「相変わらずだな、志希は」
櫂『わっ、っと!』
頼子「ディアー再浮上」
雪菜「でも、動きがおかしいですぅ!」
志希「あちゃー、浮遊系やられちゃった?」
晶葉「櫂、追え!」
櫂『もちろん!』
のあ「……雨が降ってきたわ」
真奈美「風も強くなったな」
志希「今のディアーじゃ耐えられないよかなー」
のあ「そうね……ドルフィンシステムも有効に使えるわ」
愛結奈「天はアタシ達に味方せり!」
頼子「ええ。やりましょう」
雪菜「ドルフィンに異常ありません!」
晶葉「さぁ、櫂」
櫂『うん』
晶葉「ディアーに勝ってくれ!」
24
IMCG・オペレーションルーム
レナ「状況は」
清良「ディアーは機能を停止しました。フェイズ1移行の準備中です」
のあ「接続バイパス確保……」
志希「ちょっとムリヤリだけど、仕方ないよねー」
頼子「接続可能です」
清良「そちらは、いかがでしたか」
レナ「やっと気づいたわよ。櫂ちゃんに連れてきてもらわないと」
晶葉「レナ!」
レナ「わかってるわ。フェイズ1移行」
櫂『行きます!』
レナ「その前に、一つだけ話を聞いて」
25
空ろな白亜のリビングルーム
櫂「広い家……家具も高そう」
音葉「……」
櫂「こんにちは。音葉ちゃん」
音葉「ディアーは……止まったようですね」
櫂「音葉ちゃんのここに無断で来た」
音葉「ええ……私の心はここです」
櫂「時間はあるんだ。ゆっくりと話そう」
音葉「……聞いてくれますか」
櫂「うん。何でも」
音葉「……」
櫂「あたしは、負けないよ。誰にも負けたりしない」
音葉「ええ……」
櫂「フェイズ1を失敗なんて、絶対にしない」
音葉「強いですね……私は……」
櫂「私は?」
音葉「少しお待ちください……お茶でも準備しましょう」
櫂「ありがとう」
音葉「来客を迎え入れる準備だけは……出来てる家ですから」
櫂「……」
音葉「外は豪華でも空ろで……綺麗な音のしないこの場所が私の風景です」
26
空ろな白亜のリビングルーム
櫂「……」
音葉「お口にあいませんか……?」
櫂「このティーカップ高い、よね?」
音葉「大丈夫ですよ……ここは現実じゃありません」
櫂「それでも、音葉ちゃんの家の物でしょ。壊すのは嫌だよ」
音葉「構いませんよ……思い入れはありません」
櫂「どうして?綺麗なお家なのに」
音葉「綺麗なだけでは……好きになれません」
櫂「ここは嫌いなの?」
音葉「いいえ……何も思い入れがありません」
櫂「好きでも嫌いでもないの?」
音葉「この景色の方が……馴染みがありますね」
櫂「ホテルのロビー……」
音葉「あの……櫂さん」
櫂「そんなに、暗い顔してどうしたの」
音葉「……そんな顔をしてますか」
櫂「うん……気づいてる?」
音葉「ええ……そうです……私は」
櫂「音葉、ちゃん?」
音葉「ここは私の世界ですよ……櫂さんは私のモノです」
櫂「そう。でも、しないでしょ」
音葉「信じられますか……私は怪物ですよ」
櫂「話を聞いて、あたしは言われたから」
音葉「……」
櫂「ごめん」
音葉「何が……ですか」
櫂「音葉ちゃんのカルテ、見たから」
音葉「知っているなら……説明は」
櫂「だから、話して」
音葉「不思議な人ですね……楽しい話ではありませんよ」
櫂「そう思って、聞かなかった。それじゃダメなんだって」
音葉「きっと……失望しますよ」
櫂「失望?」
音葉「私は……弱くて」
27
豪奢なホテルのロビー
音葉「父も母も……クラシック奏者でした」
櫂「この音……」
音葉「二人は……私に多くのモノをくれました」
櫂「こんな風に聞こえてるんだ」
音葉「母は素晴らしい耳を持っていました……私もです」
櫂「足音に音符がついてる、不思議」
音葉「世界は五線譜の上でした……そして仕事というものは」
櫂「劇場、舞台袖からこんな風に見えるんだ」
音葉「あの舞台で歌うことだと……表現することだと思っていました」
櫂「ずっと見てたの」
音葉「いいえ……私は」
櫂「わっ」
音葉「私はすぐにここに来ました……舞台の真ん中へ」
櫂「まぶしい……」
音葉「父から力強い歌声を……母からは繊細さを」
櫂「……」
音葉「私……母に似てると言われます」
櫂「綺麗な人だったの?」
音葉「ええ……とても。でも、小柄です」
櫂「……」
音葉「父は存在感のある人でした……がっしりとした体躯の大男」
櫂「音葉ちゃんは」
音葉「ミスタアンドミスウメキの娘……ですよ」
櫂「そうじゃなくて……」
音葉「良い所だけを与えられました……二人から与えられた以外にも多くを受け取りました」
櫂「……」
音葉「櫂さんは……水泳選手としていつから活躍しましたか」
櫂「あたしは、小学生4年生とか」
音葉「理由は……なんでしたか」
櫂「理由……練習を一杯したからかな」
音葉「そうではありません……ね」
櫂「そうだね……今思えば、体格差だと思うよ」
音葉「残酷な世界ですよ……必要なのは努力以外のものばかり」
櫂「それでも、努力するよ」
音葉「……」
櫂「あたしが言えることじゃないけどさ」
音葉「私は……少しだけ才能がありました」
櫂「……」
音葉「私は思うがままに……舞台に立ちました」
櫂「……」
音葉「理解があり……機会もありました」
櫂「音葉ちゃん」
音葉「だから……だから、です」
櫂「……」
音葉「努力しても越えられない壁を……見せることが出来ました」
櫂「音葉ちゃん、言わないほうが」
音葉「聞くと言ったのは……櫂さんですよ」
櫂「そうだけど……」
音葉「誰が私を怪物と呼ぶ時に……私は怪物になったのです。父と母ですら感じ取れる怪物に」
櫂「……」
音葉「私の歌は……人非ざるモノの歌。聞こえましたか」
櫂「ドルフィンには聞こえた」
音葉「IMCの歌は……いかがでしたか」
櫂「重かった……よ」
音葉「そんな歌でもディアーより……IMCの方が心地が良い」
櫂「……嘘」
音葉「だって……私は」
櫂「違う!」
音葉「違うなら……違うなら、どうして!」
櫂「!」
音葉「私は、私はこんな惨めに、惨めな私を、見ないといけないの!」
28
IMCG・オペレーションルーム
のあ「私にも……頂戴」
志保「はい、どーぞ♪」
頼子「美味しいです。もう一ついただけますか」
愛結奈「あー、コロッケのことしか頭に残らないわ」
雪菜「愛結奈さんも食べましょうよぉ」
愛結奈「そうするわ」
志保「あの」
晶葉「どうした、志保」
志保「櫂さんは、音葉さんとお話出来てますか」
頼子「おそらく。フェイズ1の進展は外からは確認できませんが」
雪菜「ディアーからの通信も復活しましたぁ」
愛結奈「音葉ちゃんのバイタルに異常なし」
清良「少しだけど、音葉ちゃんの心拍数上がってるの気になるわね」
志保「……」
晶葉「気になるか?」
志保「気になりますけど……お任せします」
レナ「任せて。差し入れ、ありがとう」
志保「がんばってくださいね、櫂さん」
29
空ろな白亜のリビングルーム
音葉「私の風景は……ここです」
櫂「……」
音葉「いけませんか……私の風景がここでは!」
櫂「……」
音葉「私が望んではいけませんか……私は得難いモノなら持っています」
櫂「……」
音葉「それを望んではいけませんか、櫂さん」
櫂「……許可が必要なものなの」
音葉「聞けばそう答えるでしょうね……許してなどもらえないのに」
櫂「……」
音葉「立派なご両親に……立派な家……誰もそれを許してくれません」
櫂「……」
音葉「言えなくて……わかってもらえなくて」
櫂「音葉ちゃん」
音葉「背だけ伸びて……今はここに」
櫂「どうして、ここに来たの」
音葉「出来るから……望まれたから」
櫂「それだけなの?それじゃいつまでたっても」
音葉「ええ……それだけではありません」
櫂「理由があるんだ」
音葉「……」
櫂「音葉ちゃん……?」
音葉「私は……過去の私を見捨てられませんでした」
櫂「どういうこと?」
音葉「私は自分の意思でシュリンクに乗りました……それだけはわかってください」
櫂「うん。だから」
音葉「だから……何でしょうか」
櫂「あたしがここから連れ出す。あたしはシュリンクのパイロットで、仲間だから」
音葉「……そうですか」
櫂「だから、言っていいよね」
音葉「どうぞ……」
櫂「IMCの感情は嫉妬、だよね」
30
空ろな白亜のリビングルーム
音葉「ええ……小さな感情です」
櫂「小さくなんてない」
音葉「嫌でした……ずっと子供みたいで」
櫂「子供みたい?」
音葉「羨ましかった……手をつないで歩いてる姿も」
櫂「そう……」
音葉「真剣に悩む姿も……真なる愛情も私には無くて」
櫂「あたしも、その一部なんだ」
音葉「ええ……羨ましい、です」
櫂「……ごめん、あたしはきっとわからない」
音葉「チクチクと……だって……だって」
櫂「泣いてる……の」
音葉「羨ましいな……羨ましい。でも、そんなこと望んだって得られないことだって……わかってます……だけど」
櫂「……」
音葉「こんな感情になる私が惨めで……姿だけ大人になって……私は」
櫂「音葉ちゃん、言って」
音葉「こんなに小さな……嫉妬が私は嫌いです」
櫂「言って」
音葉「私は……父と母に……」
櫂「……」
音葉「愛してると……示して欲しい……」
31
白亜のリビングルーム
櫂「音葉ちゃん、ありがとう」
音葉「こんな私は……私が嫌いです……だって」
櫂「立派な人だから、言えない?」
音葉「……え」
櫂「あたしさ、詳しくないから知らないんだよね」
音葉「櫂さん……」
櫂「だから、私には娘の気持ちを聞かない親にしか感じてないんだ」
音葉「……」
櫂「殴りにいこっか」
音葉「なんと……?」
櫂「それは冗談だけど、それぐらいの気持ち。あたしは仲間のためには戦うよ」
音葉「ですが……」
櫂「わかってる。そんなことしないよ」
音葉「ええ……安心しました」
櫂「良かった。ここは空っぽなんかじゃない」
音葉「どういうこと……ですか」
櫂「あたしはクラシックとかあたしの世界とは別世界だと思ってたんだ。それこそ、妖精が歌ってるような」
音葉「……そうかもしれませんね」
櫂「でも、違う。ここには人じゃない歌なんかなかった。愛情表現が苦手な親子のリビングなだけ」
音葉「櫂さん……何か知っていますか」
櫂「ディアーが暴れてる時に、音葉ちゃんのお父さんから電話があったんだって」
音葉「え……あぁ」
櫂「ごめんね。切り札は取っておくものよ、ってレナさんが」
音葉「お二人とも……ずるいですよ」
櫂「音葉ちゃん」
音葉「なんでしょう……櫂さん」
櫂「気持ちは聞いた。場所も設定できるよ」
音葉「はい……」
櫂「やりなおすつもりはある?」
音葉「本当に……ずるい」
櫂「間に合うよ。背だけは大きくなっても、関係は変わらないから」
音葉「……はい!」
櫂「さ、行くよ!」
音葉「櫂さん……その前に聞いてください」
櫂「なに?」
音葉「私はディアーのコクピットの中にいます」
櫂「うん。真奈美さんの時もやったから平気」
音葉「真奈美さんも……コクピットの中でした」
櫂「何が言いたいの?」
音葉「櫂さんもIMCのコアとなった過去がありますね……?」
櫂「言いたいことはなんとなくわかった。ここだけの秘密」
音葉「お願いです……知ってください」
櫂「音葉ちゃんは、知らないの?」
音葉「ええ……詳しくは」
櫂「……わかった」
音葉「私との約束……守ってくださいました」
櫂「うん、負けなかったよ」
音葉「これからも……負けないでください」
櫂「もちろん」
音葉「櫂さんは……とても」
櫂「今度はなに?」
音葉「何事も阻まない優しいコダマのようで……私は好きですよ」
櫂「え?」
音葉「深い意味はありませんよ……」
櫂「思い出した、いつもの音葉ちゃんはこんなに素直じゃないや」
音葉「ふふ……助けてくださいね」
櫂「もちろん!行くよっ!」
32
IMCG・オペレーションルーム
頼子「フェイズ1完了しました」
愛結奈「櫂ちゃんの接続解除!」
雪菜「櫂さん!」
櫂『お待たせっ!』
頼子「音葉さんはコクピット内です」
晶葉「こっちから指示する!頼子、雪菜、準備を頼む!」
雪菜「はいっ!」
志希「……」
レナ「櫂ちゃん、切り札は使えた?」
櫂『うん』
レナ「いつだって遅いのよ。誰も正直じゃないんだから」
櫂『……』
レナ「オッケー、フェイズ1完了。フェイズ2移行」
愛結奈「ディアーは?」
レナ「只今をもって破棄。櫂ちゃん、後は任せたわ」
晶葉「櫂、やるぞ!」
櫂『もちろん、任せてっ!』
33
IMCG・廊下
のあ「ディアーの解体が始まったわよ……」
志希「そうなんだー」
のあ「他人事ね……あなたが作ったものでしょう」
志希「ぜんぜーん。コアは最初からあったもんねー」
のあ「そうね……私も同じよ」
志希「あーあ、負けちゃった~」
のあ「……」
志希「ギフテッドだと思ってたのに」
のあ「ギフテッドであることに間違いないわ……そうでしょう」
志希「にゃはは、うんうん。ねぇねぇ、のあちゃん」
のあ「何かしら……」
志希「逃げちゃっていいー?」
のあ「……社員証」
志希「はい」
のあ「ケータイは」
志希「ケータイ?あ、これ?」
のあ「そうよ……これでいいわ」
志希「いいのー、ホントに?」
のあ「ディアーは破棄……契約は無くなったわ」
志希「ねぇ、のあちゃん」
のあ「なに……」
志希「楽しい?」
のあ「……志希は」
志希「楽しかった~。はちゃめちゃでめちゃくちゃ」
のあ「そう……」
志希「楽しかったことは楽しいままでいいよね?」
のあ「……ええ」
志希「ちゃんとやれた?」
のあ「私が決めることではないでしょう……」
志希「あたしはばっちり。それでもディアーは負けちゃった」
のあ「ええ……残ったのはドルフィンだけね」
志希「うんうん。計画通り?」
のあ「知らないわ……」
志希「台風弱くなってきたみたい。お日様のニオイがする~」
のあ「……お元気で」
志希「ばいばーい、のあちゃん」
のあ「さようなら……ありがとう」
愛結奈『コア摘出完了!』
のあ「シュリンクは残り一体……そうなるのは最後だと思ってたわ」
34
IMCG・オペレーションルーム
愛結奈「ディアーの残骸の回収状況は?」
雪菜「ほぼ終了ですねぇ」
頼子「風と雨で散乱しているようですね」
愛結奈「全部の回収は難しいかしら」
雪菜「かもしれませんねぇ」
頼子「仕方がありません。警察を通じて、残骸についての広報をしましょう」
愛結奈「害があるわけではないもの」
雪菜「コアとその名残から解き放たれたIMCは、ただのゼラチンみたいですもんねぇ」
頼子「はい。警察に届けてもらうようにしましょう」
愛結奈「惠ちゃんが窓口でいいかしら」
雪菜「レナさんでいいと思いますぅ」
愛結奈「忘れてた。あの人、一応お偉いさんだもの」
頼子「お願いしましょうか」
愛結奈「アタシから伝えておくわ」
頼子「予定通り回収作業は終了でよろしいですか」
愛結奈「それでいいわ」
頼子「了解しました。お伝えします」
愛結奈「何か気になることは?」
頼子「ありません」
愛結奈「アタシ達の警戒態勢を解除。お疲れ様」
雪菜「お疲れ様でしたぁ」
愛結奈「はぁー、疲れたわ」
頼子「長丁場でしたから」
愛結奈「志希ちゃんは失踪するし」
頼子「もう空の上かもしれませんね」
雪菜「契約は終わりましたからぁ。ここに縛られる人じゃなかったんです」
頼子「ええ」
愛結奈「音葉ちゃんは?」
雪菜「ご両親がお迎えに来ましたよぉ」
頼子「……」
櫂「お疲れ様!」
雪菜「櫂さん!」
愛結奈「お疲れ様、音葉ちゃん、どうだったかしら」
櫂「えーっと、言っていいのかな」
頼子「何かありましたか」
雪菜「ケンカしちゃいましたかぁ?」
櫂「違う違う」
雪菜「どうしたんですかぁ?」
櫂「音葉ちゃん、泣いてた」
愛結奈「泣いてたの?」
櫂「言いたいこと一杯あったけど、たぶん言えなかったんだと思う」
雪菜「きっとケンカの仕方も知らないんですぅ」
愛結奈「やれやれ、ね」
櫂「でも、大丈夫」
雪菜「はい。だって、気持ちがありますから」
愛結奈「間に合うわ」
頼子「音葉さんは間に合いますから」
櫂「でも……」
愛結奈「……」
雪菜「でも?」
櫂「ううん。何でもない。そうそう、雪菜ちゃん」
雪菜「なんですかぁ?」
櫂「後で部屋に行っていい?メイク教えて欲しくて」
雪菜「はいっ!来るときは連絡くださいねぇ」
櫂「うん、またねっ!」
雪菜「お疲れ様でしたぁ」
愛結奈「さて、アタシ達も終わりにして休むわよ」
頼子「……はい」
35
後日
IMCG・課長室
清良「司令、お客様です」
レナ「どうぞ」
柊志乃「お招きいただきありがとうございます」
柊志乃
某雑誌記者。頬がほんのりと赤い。
レナ「急に呼びだして申し訳なかったわ」
志乃「本当……良いウィスキーだったのに」
清良「司令、お話を」
レナ「そうね」
志乃「予想は当たったかしら?」
レナ「知ってるでしょう」
志乃「知ってるわ。台風じゃなかったら私の部下が良い写真が取れたのに」
清良「……」
志乃「お役にたったかしら」
レナ「十分に」
志乃「まるで準備をしていたかのよう。お見事だったわ」
レナ「褒め言葉として素直に取っておくわ」
志乃「それで……今日のお話というのは?」
レナ「良いことを教えてあげようと思って」
志乃「へぇ……なにかしら」
レナ「残りのIMCは3体よ」
志乃「……」
レナ「びっくりした?」
志乃「ええ……簡単に認めるのね」
清良「……」
レナ「私から伝えたいのはそれだけ」
志乃「残り3体、という意味だけじゃないわ。その意味を取っていいわね?」
レナ「お好きにどうぞ」
志乃「それでは、お好きにさせていただくわ」
レナ「ええ。清良ちゃん、ご案内を」
清良「はい。こちらへどうぞ」
志乃「せっかくだから、最後に質問を」
レナ「一つだけなら」
志乃「シュリンクは残り一体よ、大丈夫なのかしら?」
レナ「ふふっ……」
志乃「何か可笑しいかしら」
レナ「その時は、IMCGじゃなくて自衛隊が出てくるだけよ」
志乃「……」
レナ「ね?」
志乃「私も人の心くらいあるわ……ご健闘を」
レナ「その前に負けないわ。ベットは全てIMCGでいいわよ?」
志乃「そうさせてもらうわ」
36
IMCG・ドック
櫂「……」
雪菜「櫂さん」
櫂「雪菜ちゃん」
雪菜「お待たせしましたぁ。ドルフィンを見上げてどうしたんですかぁ?」
櫂「ちょっとね」
雪菜「最後の一体になっちゃいましたねぇ」
櫂「うん……でも、大丈夫」
雪菜「ダメです。無理しちゃダメですよぉ」
櫂「あたしはもうIMCにならないから」
雪菜「そういうことじゃありませんっ」
櫂「ごめん……わかってる」
雪菜「がんばりましょうねぇ」
櫂「うん、絶対に負けないから」
雪菜「はいっ。それで、用事ってなんですかぁ?」
櫂「変な質問するけど、いい?」
雪菜「はい、なんでしょう?」
櫂「ドルフィンは、ディアーを倒すために作られてなかった?」
雪菜「……」
櫂「どう……なの」
雪菜「ごめんなさい、わかりません」
櫂「そう……」
雪菜「櫂さん」
櫂「なに」
雪菜「踏み込む覚悟はありますか」
櫂「あたしはシュリンクのパイロットだから。慣れてる」
雪菜「わかりました……私も覚悟を決めます」
櫂「ごめん」
雪菜「いいえ。私も知らないふりは、出来なくなってきましたぁ」
櫂「でも、あたし達じゃ相手出来ないよね」
雪菜「はい……ちょっと難しいですぅ」
櫂「だから、あたし達だから出来ることから」
雪菜「それはなんですかぁ?」
櫂「IMCって何なのか、調べよう」
EDテーマ
アイの証明
歌 西島櫂
オマケ
CuP「声を荒げてる音葉さんなんて初めて見ました」
CoP「歌の一貫とか言ってました」
CuP「駄々をこねるような演技も出来るんですね」
CoP「何事もチャレンジですから」
PaP「そういや、櫂ちゃんが言ってたんだけど」
CoP「なんですか」
PaP「エンディングテーマ、通しをソロで歌うのは大変だって」
CuP「そもそもトリオ曲ですよね?」
CoP「そうですが、口が二つなければ歌えない構成ではないから平気です」
PaP「誰を基準に言ってる?」
CoP「真奈美さんと音葉さんですけど」
PaP「その二人と比べるのは櫂ちゃんに酷じゃねぇかな……」
おしまい
おっつん
いまだにロボのビジュアルが分からない
なんか参考にしたロボとかないです?
あとがき
音葉回でした。9話、10話、11話と全て音葉回の気もしなくはない。
話とは真逆だけど、音葉さんとご両親とは口数は少ないけど仲はいいと勝手に思ってる。
次回は、
綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な夢の果て」
です。
それでは。
>>70
マブラブとかラーゼフォンとか色々あるけど、だいたいゼノグラシア
ディアーはゾイドというよりモビルアーマーのイメージ
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