【小ネタ版】幻想にのたうち給う【幻想入り】 (177)


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 ゝ!  レルイi´ '}゛  '┘iインノ..        ノ:::i '┘  ´ト´ i'}イ::ノ::::::::ト:::::ノ
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       「私たち出番がないからここに出張」

このスレは幻想郷を舞台に色々やろうっていう東方安価コンマスレ……の派生版です。
筆者が甘いので色々とご迷惑をお掛けすると思いますがご了承ください。
独自解釈、キャラ崩壊、パロディネタが多いと思われます。
更新は基本不定期です。ごめんなさい。
また、展開に応じてキャラの死亡やR-18的な内容になる可能性もあります。
主は遅筆です。
以上で大丈夫だ、付き合ってやるって人がいるならば、よろしくお願いします。
コンマは基本的に>>1の采配で行っています。
補正とか色々で+-が付いたりします。
自由安価時にお下劣な内容などこれはダメだなーと判断した際は安価↓にすることもあります。あしからず



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417627082



以下、本編と過去スレ

第一幕
主人公:安藤(妖怪・細胞生物)
(始まり~)
【安価とコンマで】幻想に走り給う【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357661533/)
(~第一幕閉幕)
【安価とコンマで】幻想に走り給う�【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365604576/)
第二幕
主人公:鎌足 零(妖怪・鬼)
(始まり~序章終了)
【安価とコンマで】幻想に走り給う�【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368284855/)
(第二章)
【安価とコンマで】幻想に走り給う�【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373446161/)
(二章~終章 第二幕閉幕)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅤ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375801188/)
第三幕
主人公:夢路 現(幽霊・怨霊)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅥ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1383315512/)
(中盤~異変の途中まで)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅦ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385033465/)
(夢路異変途中から~第四幕途中まで)
第四幕
主人公:リンガー・ローゼス(妖精)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅧ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387368247/)
(第四幕途中から~)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅨ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389459001/)
(第四幕中盤~第四幕閉幕 外伝)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅩ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403358501/)
第五幕
主人公:片山 刑(外来人・改造人間)
(第五幕開始~序盤)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅩⅠ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407060466/)
(第五幕序盤~中盤)
【安価とコンマで】幻想に走り給う ⅩⅡ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408266533/)
(第五幕中盤~)
【安価とコンマで】幻想に走り給うⅩⅢ【幻想入り】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415032240/)

(外伝)
ここ


※小ネタ専用版ですよ! これで刻まれた者達のあられもない日常がより表層化する事になるかも

※つーことで、手始めにレミリアによる安藤の寝取られから掲載していきます

※しょっぱなそんなんで良いのかとは、言ってはいけない





                                   CODE:IF 

                              『貴方は誰のものでしょう』



 情、というものは何かの拍子に強くなるものだ。

 例えば、共に過ごしているその内に。例えば、尽くしてくれるその姿勢に。例えば、真摯に打ち込むその姿に。

 彼は、安藤=バアル・ゼブルは我が可愛い妹と恋仲である。

 そんな彼は、フランと恋仲である以前に我が紅魔館に尽くす執事であり、吸血鬼である。

 私は安易に他人を認めるつもりはないし、見極めているつもりだ。

 安藤は私の目に適う実力、気概、姿勢を持っている。そう判断したし、実際よくやってくれていると思っている。

『幻想に走り給う者』としても、フランドール・スカーレットの執事としても、我が臣下にして従者としても、申し分ないくらいに。

 何時からだろうか。幾度の幕を越えて、私が彼を強く意識し始めたのは。

 何時だろうか。その感情の、私の抱くこの心の正体に気付いたのは。

 欲しいと思った。従者であれば咲夜以上の人材はいないし、彼女が居れば事足りる筈なのに。

 手元に置いておきたい。妹の執事ではなく、この紅魔の臣下としてでもなく、私自身のモノとして傍らに。

 我が名はレミリア・スカーレット。紅魔館の悪魔。永遠に幼い赤い月。

 私は、他人のモノでも欲しいと思ったならば手に入れる主義だ。是が非でもと思ったならば、なおさらに。

 例え、我が可愛い妹に尽くす者であっても。

 例え、そうして『座』へと刻まれた『幻想に走り給う者』であっても。

 安藤、お前に相応しいのは、きっと私なのだと思ったのだ。




 視線には、気付いていた。
 
 お嬢様から私が受けている、そのある種の感情の込められた視線に気付いていた。

 きっと戯れか、それとも私をからかっているのだろうと思って気付いていないフリをしていた。

 私はフランの恋人である。フランに我が身を捧げ、この紅魔館に忠誠を誓った吸血鬼である。

 跪くべき相手は、こう言ってはなんだが、不敬ながらもお嬢様ではなくフランドール・スカーレットだと思っている。

 確かに、お嬢様にだって大層な恩がある。だから、紅魔館の為ならば断崖への飛翔であっても行える。

 故にお嬢様にも跪く。しかし、その最たるはフランだ。私の中の最高位は、世界の中心にはフランドール・スカーレットが居る。

 だが、と心を揺すぶらされる様な事も最近は多くなっていた。

 お嬢様と話す事が多くなった。よく呼び出されるし、そうして接触が増える機会も必然的に多くなっていった。

 幻想に走り給う者として、臣下として当たり前の事だが、自然と、フランとの時間が減った。

 一番はフランと誓っているのだから、減ったのならば質と言わんばかりにフランとの時間を濃密なものにしていたつもりだった。

 だが、やはり姉妹だからフランとお嬢様は似ている。容姿が重なり、私の中にある何かがおかしくなっていく様な感覚があった。


 お嬢様と過ごす時間が増える度に、私はおかしくなっていくのだ。

 フラン、お嬢様、お嬢様、お嬢様、フラン――

 フランとの時間に集中出来なくなったのは、いつ頃からだっただろうか?

 フランと話しているのに、お嬢様との会話だと錯覚する事が多くなったのは、いつ頃からだっただろうか?

 フランは最愛の汝である。しかし、お嬢様とて大切な存在である。

 その天秤が、いつ頃からかおかしくなっているのに私は気が付かなかった。

 否、気が付いているのにも関わらず、私はそれを否定しているのだと思い込んでいたのだ。

 私の中にあるフランへの思いが、お嬢様に向けたモノへと変わっていっていることに。

 そんな未知の感覚に、私は目を背けようとしていたのだ。

 そして――





――ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり。

 粘膜質な水音が暗闇の中で嫌に大きく響いた。

 私は微睡む意識の中で、その音を聞き続ける。

――ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり。

 鈍くなった感覚の中で、嫌にその音が大きく聞こえた。痺れた舌に、何かが絡みついている。

 息苦しいが、嫌な感覚ではない。否、脳を痺れさせる様なこの感覚に、不覚にも快楽さえ覚えている。

「ん、む、ちゅ……」

 誰かの艶めかしい声が漏れた。そして、湿った音は続いていく。

 何秒か、何分か、何時間か。私の意識が覚醒していく最中で、漸く誰かと唇を重ねている事に気付いた。

「あら、やっとのお目覚めかしら? ふふ、流石に私の力には抗えなかったようね」

「おじょう、さま……?」

 ぼんやりとしていた視界がハッキリとした映像に変わっていく。そのシルエットがフランに見えたというのに、私は『迷いなく』お嬢様と口にした。

 未だに頭は惚けている。痺れる様に、蕩けている。長い眠りから覚めた時の様な、波の満ち引きの如く意識が遠のいては近付いている。

 夢の中の様な、浮遊感。

 彼女の瞳が、妖しく輝いている様に思えた。


「耽美な感覚でしょう。私に酔いしれる感覚は、如何かしら」

「……」

「我が可愛い臣下。私の為に尽くす配下。この紅魔館の伯爵と呼ばれるならば、やはり私の傍に居て然るべき」

 私を構築する歯車が、歪な音を立てる。

 お嬢様の言葉を聞く度に、私の中で何かが狂っていく。

「ねぇ、安藤。本当に私の物になりなさい。私は貴方が欲しいの。欲しくて、欲しくて堪らないから」

 この方は、目の前に居る少女は何を言っているのだと思った。

 私はフランの物だ。私の最愛の汝はフランドール・スカーレットである。

「……お戯れを」

「あら、まだそんなことが言える元気があったのね。 ……ふふ、流石はベルゼバブの器だった者と言うべきかしら」

 静かに、ゆっくりと舌を縺れさせない様に言えば、お嬢様はクスクスと笑って見せる。

 その一つ一つの仕草が妖艶に感じて、また私の中にある何かにひびが入る。

 ピシリ、ギギ、と歪な音を立てて。


「先程から、要領を、得ません。私に何を」

 今なお続くこの何とも言えぬ浮遊感を感じながら、私はお嬢様に尋ねた。

「少しだけ、悪戯をしてみたのよ。そうね、最初はただの戯れだったかもしれないわ。貴方は頑張っている。貴方は努力している。その貼り付けた仮面(ペルソナ)が本物になるように」

 それは、お嬢様からそう成る様に言い付かっていたからだ。

 元は細胞生物。私はヒヒイロノカネを使い、原罪である『暴食』と根源に巣食う他者の渇望を駆逐し、この体へと変生した。

 最初の頃は私にカリスマなど有る筈もなく、よく苦言を呈されたものだ。だが、時間は合った。それ故に、今の私は居る。

「貴方は魅力的になった。私は、そこに気付き酔わされた。バアル・ゼブルは高貴なる館の主の意。その成長に、何時しか狂わされた」

「冗談、ですよね」

「冗談などではないわ。からかっているわけでもない。かつては犬の糞の成り損ないと私は貴方に言ったわ。でも、今の貴方はどうかしら? 咲夜には劣るけれど、貴方は十二分に執事として成熟している。私の隣に立たせる資格は、もうとっくに満たしているの」

 その言葉は正しく身に余る光栄だったが、素直に喜ぶ事が出来なかった。

 不和の音が、私の中で鳴り響き続ける。


「フランは良くも悪くも素直な可愛い妹。しかし、些か感情が幼すぎる。私も未熟な所があるのは自覚しているけれど、貴方を正当に評価出来るのは私。跪くべき相手は、私」

「……」

「わかるかしら、安藤=バアル・ゼブル。聡明な貴方なら、きっと気付いていたに違いないでしょう。私は貴方に”お熱”なのよ」

 知っていた。しかし、知らぬフリをしていた。そんなことがあってはならないと思っていたから。

「そして、私も気付いている。貴方が私に心を傾け始めている事に。フランには勿体無い。私にこそ、貴方は相応しい」

「それは」

「違うと、断言するかしら? フランに後ろめたく思うから? いいえ、そんなのは嘘。貴方は私を受け入れ始めているのだから」

 身体が疼く。

「フランは貴方の全てを肯定する。私も貴方の全てを肯定する。そして、認める。褒め、讃える。掛け値無しに貴方は素晴らしいと」

「それは、それこそ私の、台詞に御座います」


 お嬢様は素晴らしい。この紅魔館の主として、吸血鬼として、フランの姉として、我が主として。

 貴女は素晴らしい、掛け値無しに素晴らしい。

「どちらがより、貴方を認めているかしら。どちらがより、貴方を讃えているかしら。強く、気高く、より高位な者として」

「しかし、お嬢様。私はフランを裏切る様な真似は出来かねます。例え、それが貴女の命だとしても」

 舌の縺れと痺れはいつの間にか消えていた。浮遊感は無くなり、私はハッキリとした口調でお嬢様に進言する。

「私は言ったわ、貴方が欲しいと。安藤は私を泣かせるつもりかしら」

「いいえ、その様な事は」

「ふふ、冗談よ。 ……でも、ここには私と貴方しかいない」

 身を乗り出して、お嬢様はその息遣いを感じられる程の距離にまで私に近付く。

 長い睫毛。桜色の唇。紅玉の様な美しき瞳は、吸い込まれそうな程に真っ直ぐ私を映している。

「貴方は私を受け入れ始めている」

「お戯れを」

「ではなぜ、抵抗しないのかしら? 唇を重ねていたのは気づいていたのでしょう?」

「お嬢様に手を上げるなど、以ての外です」

「そうやって、取り繕うのはやめなさい」



 優しい口調で、それでいて厳しい言葉が耳元で囁かれた。

 か細い腕が、美しく長い指が、私の首周りに絡まる。

「貴方は私の可愛い臣下。貴方は私の素晴らしい配下。私は女で、貴方は男」

「……お嬢様、これ以上は」

「真面目、真面目。本当に糞が付くほどの真面目な男。私だって何時も肩筋を張っているわけじゃないわ。甘えたい時だってある」

 私の首筋を指先でゆっくりとなぞるお嬢様。

 くすぐったく、それでいて何処か心地良い感覚が私の心臓を高鳴らせる。

 突き放す事はいつでも出来る筈なのに、私はそれが出来ないでいる。

「つまらない事を言わないで安藤。我が妹だけが、フランだけが貴方を思っているわけではないの。私だって、貴方に思いを馳せている。この心に偽りなどない」

「……ですが」

「少しの間だけ、今だけ。私の心を受け入れて、私の甘えを受け止めてくれればそれで構わない」


 葛藤、迷い、悩み、私の中で果たしてお嬢様の言に従うべきかどうかの選択が出来なくなっていく。

 最愛の汝を裏切る事は出来ない。忠誠の主に逆らう事など出来ない。

 思えば、確かにお嬢様の言う通りだった。

 私は『レミリア・スカーレット』という吸血鬼の少女を受け入れ始めていた。

 それは今に始まった話ではない。ずっと前から、私は――

(狂っていたのは、こちらだったか)

 歯車の崩壊は止まらない。その果てに何があるのかを自覚しながらも、私は目の前の少女を抱きしめる。

「私は悪魔だ」

「そう、吸血鬼にして這い寄る蠅の王ならば」

 背徳こそが、最大の甘美であるのかもしれない。






 一度だけ、という約束をしたわけではない。誓約を捧げたわけでもない。

 私は過ちを犯した。それが余りにも耽美であり、彼女はそれほどに素晴らしい方だったから。

 あなたは素晴らしい。掛け値無しに、素晴らしい。

 こと、精神において私はまだ幼かった。フラン、君を真っ直ぐに見ることは恐らくもう、出来ないだろう。

 お嬢様に触れる手が熱くなる。その瞳を私だけのものにして、その唇を貪り尽くしたくなる。

 フラン、私は君を裏切る。私は君の騎士に在るまじき者であったし、私はやはり悪魔の気質を持っているのだから。

 ゆえに恋人よ、貴女が私に捧ぐ愛で、私が朽ち果てるまで駆け抜けよう。

 死骸を晒す、その時まで。
 
 この夜に行われる蜜時を、君が知るまで。

 去ることのない恐怖に、私は怯え続けよう。

 この背徳に狂った私は、貴女に罰せられるべきなのだから。





                     Wo war ich schon einmal und war so selig
                かつて何処かで そしてこれほど幸福だったことがあるだろうか

               Wie du warst! Wie du bist! Das weis niemand, das ahnt keiner!
          あなたは素晴らしい 掛け値なしに素晴らしい しかしそれは誰も知らず また誰も気付かない

                  Ich war ein Bub', da hab' ich die noch nicht gekannt.
                       幼い私は まだあなたを知らなかった

            Wer bin denn ich? Wie komm'denn ich zu ihr? Wie kommt denn sie zu mir?
             いったい私は誰なのだろう いったいどうして 私はあなたの許に来たのだろう

                  War' ich kein Mann, die Sinne mochten mir vergeh'n.
               もし私が騎士にあるまじき者ならば、このまま死んでしまいたい

           Das ist ein seliger Augenblick, den will ich nie vergessen bis an meinen Tod.
             何よりも幸福なこの瞬間――私は死しても 決して忘れはしないだろうから

                            Sophie, Welken Sie
                          ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ

                             Show a Corpse
                              死骸を晒せ

              Es ist was kommen und ist was g'schehn, Ich mocht Sie fragen
                何かが訪れ 何かが起こった 私はあなたに問いを投げたい

            Darf's denn sein? Ich mocht' sie fragen: warum zittert was in mir?
                 本当にこれでよいのか 私は何か過ちを犯していないか

                   Sophie, und seh' nur dich und spur' nur dich
                  恋人よ 私はあなただけを見 あなただけを感じよう

                Sophie, und weis von nichts als nur: dich hab' ich lieb
                  私の愛で朽ちるあなたを 私だけが知っているから

                           Sophie, Welken Sie
                          ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ

                        著:Richard Georg Strauss

                       ――Der Rosenkavalierより――


パチュリー「というのを暇だから考えたのだけれど」

安藤「……それも燃料の糧にして、焼き芋でもしましょうか」

パチュリー「あら、残念。レミィに見せようと思ったのに」

安藤「面白がるし、フランを不安にさせそうなので絶対にやめてください」

                                                 おわれ


※寝取られとは……? って感じですが、得意なジャンルではないので、ご容赦を

※という感じで、小ネタをやる為のスレです。募集したり、ちまちま書いたのをあげる為に使います

※良い時間なので、募集だけして寝ます

※では、お疲れ様です。またお会い致しましょう

↓3


幽々子と現の夫婦喧嘩
想像できねーな

これを見たフランの反応が重要じゃないか


>>25

※喧嘩するとしたら、食事のこととか些細な事で喧嘩するかもしれない

>>27

※フランが見たら、安藤を泣かせると思います

※では、現さんのIFを投稿します





                           夢路 現

                      妖夢を選んでいた場合



 ―白玉楼・庭―

 刃の打ち合わせる音が響く。

 それは、金属のかち合う甲高いそれではなく、木材による乾いた鈍い音だった。

 目まぐるしく、半霊という持ち前の武器を織り交ぜながら肉薄する妖夢が吼える。

妖夢「せやぁぁあっ!!」

現「ふんっ!!」

 二刀を振るう妖夢の手数にものを言わせた猛攻を、俺は一刀による振り降ろしで弾く。

 何合と続いた打ち合いだったが、それもこの一撃で小休止か。

妖夢「……相変わらず、敵いませんね」

現「そうでもない。俺とて力押しをせざるを得ない状況にされた」

妖夢「それで弾かれてしまっているので、私の立つ瀬がないんですが」

 妖夢は苦笑してから、小さく溜め息を吐いた。

現「お前は少々、小柄だからな。俺に力で劣る分、狙いを合わせられれば容易だよ」

妖夢「ぐぬぬ」

 俺がそう言って得意気に微笑めば、今度は彼女の表情が悔しそうなものへと変化した。

 忙しないな、お前。

現「だが、それを補う技能と素早さをお前は持っている。それを活かせよ、そうすればその刃も俺に届こうぞ」

妖夢「以前の様にはいきませんね」

現「あの時は互いに素面ではなかったからな」

 言いつつ、二人で通じているあの時の事を思い出す。


 俺が唯我曼荼羅・射干を背負い、異変を起こして幻想郷を眠りに就かせた時の話だ。

 俺は、俺の持つ役割の先駆者達と戦い、小野塚や布都と戦い、妖夢と死合いを行った。

 あの時は、本当に鬼気迫る状態だった。そう成らざるを得ない事情もあった。

 それを止めてくれたのが、妖夢だ。彼女のお陰で、俺はこうして居られている。

妖夢「……腑抜けてしまっているのでしょうか」

現「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな」

 あれから、俺と妖夢は『太極』に到れていない。

 それは、この幕劇の――俺という存在の物語の終盤を飾る為に顕現したのかもしれないと思っている。

 別にその事を気に病むつもりはないし、今は必要なものでもないとも考えていた。

 あれは、願いを法則として世界に作り出せる程の力だ。

 あの時、妖夢は己を一振りの鋼として森羅万象を断ち切ることを可能としていたし、俺は己を蜃気楼としてあらゆる可能性を引き出せる様になっていた。

 そんなものを持っていても、不都合でしかない。今はまだ分不相応の力だ。持て余すに決まっている。

 鬼神の様に大成しているなら、伯爵の様に自らを律しているならばまだしも、目の前の少女と俺にはそんなものが必要だとは思えないのだ。

 もしもそれを使える時が来るならば、それはあの『異常』が目覚めた時だろう。

 もしくは、俺が背負い浄化した射干を持つ者が溢れた時だろう。

 今はまだそんな様子もなく、平和そのものだ。

 だから、もしかしたら彼女も自分も腑抜け始めているのではと思ってしまう。


 そんな事をひとり頭の中で考えていると、

妖夢「師匠、どうしたんですか? 呆然としてますよ」

 妖夢が訝しげにそんなことを言ってきた。

現「すまん。やはり弛み始めているようだ」

妖夢「わ、私のせいですか!?」

現「何故そうなる」

 誰が悪いと言えば、それは俺だから別に妖夢のせいではないはずだ。

 いや、ここ最近の彼女と過ごす時間がかなり甘いものへと変わっているのは確かだが。

妖夢「わ、私が未熟な身でありながら師匠にうつつを抜かしているから……」

現「妖夢、さすがにその言い方は怒るぞ」

妖夢「ですが、日々は修行です! やはり剣を握っている時間は増やした方が」

現「無理をすれば、その分後で回ってくる。それは不効率だし、体調を崩されたら俺と幽々子が困る」

 彼女の料理は何だかんだで毎日の楽しみの一つなのだ。それを欠くと調子も出なくなる。

現「何より、俺がお前と過ごす時間が減るのは、我慢ならん」

妖夢「……師匠」

現「それとな、いつまで俺の事を師匠と呼ぶのだ」


 せめて、今の様な二人きりの時間にこそ名前で呼んで欲しいと希望している。

 弟子はもう卒業した筈なんだがな。

現「今はもう、俺とお前は対等だろう。俺を本番で負かせた者が、何故未だに師匠と呼ぶ」

妖夢「私にとって、師匠は師匠です。確かに一度こそ貴方に勝てました。ですが、それは貴方と幽々子様の掌の上での事です」

現「確かに、そう望んだものだが」

 俺を止めてくれる光こそ、彼女であると思っていた。そう願って、叶えてくれた。

 我等にとって大切な主である幽々子を斬り、その願いの爆発を促したのは確かだ。

 それは幽々子が望んでいた事であり、彼女にとっても賭けだったと聞いている。

 俺と同じ『幻想に走り給う者』としての役割を得らせるための道。それを、幽々子と俺で作り出し、妖夢に駆け抜けさせたのだ。

現「俺を殺せたのは、お前だけぞ。こういった修行の場ではなく、全身全霊を賭した死合いで俺を負かせたのは他の誰でもなく、お前だ。遜る必要はなし。卑下する必要もなし。己を過小に思うな、それは師だった俺への侮蔑にも繋がると知っての行いか?」

妖夢「そんな、私は貴方を尊敬こそすれ、侮蔑など」

現「ならば、自信を持て。俺を殺した栄誉を誇れ。お前は弱くない。お前は強い。だからこそ、対等なんだよ。俺とお前は」

 そうでなければ、俺はお前の許に戻りたいなどと願わなかった。俺を殺してくれたお前だからこそ、愛したいと思ったのだ。

 俺の教えを昇華させた妖夢だから、俺はその隣で行く末を見守りたいと望んだのだぞ。


現「この白玉楼を守るのは俺とお前ぞ。お前を守るのは俺だし、俺の背中を預けるに値するのは、妖夢。お前だけだ」

妖夢「……師匠」

現「本音を言えばな」

 くすりと笑って、俺は言う。

現「愛する者に、いつまでも名前を呼んでもらえないのは、ちょっと寂しい」

 その言葉を聞いて、妖夢はキョトンとした表情を浮かべた後、

妖夢「……ふふ、何とも前置きが長いですね」

 そう言って、小さく微笑んだ。

現「我ながら、回りくどいと思うよ。そうしなければ、羞恥の方が感情を上回ってしまう様だ」

 本音というものを、真っ直ぐに言い放つ度量がどうやら俺にはないらしい。

 妖夢の表情がころころと変わるのが楽しかったとうのもあるが、それは些か意地が悪かったかな。

妖夢「普段から色んな女性を口説いている方が、何を言いますか」

現「いや、そんなつもりなんて何処にもないのだが……」

 何故かそう取られてしまう事が多い。何故だろうか?

妖夢「いつか後ろから刺されますよ、私に」

現「ほう、それはそれで楽しみだな」

妖夢「冗談を勘違いに持っていかないでくださいよ」

現「いやいや、お前とまた死合いが出来るなら、それもそれで嬉しいものだぞ」


 これは、半分本気で半分冗談だ。

 俺は妖夢に負けたままだから、いつかは再戦したいと思っている。

 人間だったなら一度殺されたら再戦も何もないのだが、生憎と俺は亡霊にして怨霊であり、神霊になれたかもしれない存在なのだ。

 幽霊が殺されたところで、一度は死んでいるのだから意味などない。肉体を持つ亡霊であっても、それは例外ではないのだろう。

 まぁ、断迷剣で斬られたので成仏して閻魔のところへと送られてしまったわけだが……それはまた別の話だ。

妖夢「やっぱり勘違いしてます!」

現「刺されん様にするには、修行を続けなければならないな。妖夢、お前とずっと一緒に」

妖夢「……っ!!」

現「嫉妬してくれるのは嬉しいぞ。だが、少しは信じてくれて欲しいものだ」

妖夢「ずるいですよ、このタイミングでそんな言い方は」

現「呵呵呵……さて、何のことやら」

 未熟も未熟、だがそんなところも愛おしい。この愛おしい少女が、我が隣に居る事のなんと素晴らしい事か。

 その剣がいつかは頂きに立つことを願い、俺は彼女との修行を続けよう。

 我が名は夢路 現。夢幻の路を現実へと齎す可能性の蜃気楼、その体現者なれば。

現「さぁ、長話になってしまった。そろそろ再開しようか」

 一振りの鋼がより研ぎ澄まされ、全てを断つ一撃をなせるまで共にあろう。

 この体に守護者の骨片を持つ者だからこそ、我が力で護りたいと願う。

 勇気を持って、その行為が正義だと思うから。我が役目がそうして果たせるのはらば。

現(この幻想を、彼女と共に駆け抜けよう。彼女とこうしている事が、何よりも楽しく思えるのだから)

 見えぬ夢路に思いを馳せる。見える現に心を踊らす。

 彼女と、彼女達と共にあれるこの我が身を誇り、護ってみせると誓いながら。

 俺はそうするべきで、そうあれる事を幸せだと思ったのだから。

妖夢「次こそ一本、頂きますよ! 現さん!!」

現「応、本気で掛かって来るが良い!!」

 俺は、どこまでもお前と走り続けよう。

                                        おわり


※短いですが、こんなもの。IFルートというか、妖夢アフターですね

※では、↓3で小ネタ募集

※あと、零と霊夢の娘ちゃんの名前を募集します。出してくれたものから採用させて頂くので、誰かおらにネタをわけてくれ

※私が決めても良いのだけれど、その意見が多ければこちらで決めさせて頂きます

※では、またお会い致しましょう。お疲れ様です



おつおつ
0=無限と霊夢の能力から空(そら)
別の読みで「から」で何も無いゼロと似た意味になるし

うつほとかぶるのはまずいか
一文字足して美空(みそら)で


※美空良いな、と思いつつ『自由(みゆ)』って名前を思い付く私です。

※取り敢えず、妖夢パターンでゆうかりんルートだったら、が出来たので貼っつけて行きますね


――時間が止まれば良いと思っていました。

 それはボクの足が遅いから。ボクの歩くスピードが遅いから。未来に進む、思いが足りなかったから。

 置いていかれたくないと思っていたから、地に落とす様に足を引きたいと願って。

 ボクは弱いから、置いていかないでと、心の中で独りで叫んで。

 痛いのは嫌いです。苦しいのは嫌いです。死ぬのは怖いし、戦うのだって嫌だった。

 でも、それじゃあ駄目だって気付いて、ボクは立ち向かう事を決めて。

 ボクは、ボクが一番一緒に居たい方を見付けて、気付いて、思いを告げて。

 今でも分不相応だと思うから、少しでも役に立てる様にと。そう思って毎日を過ごしています。






                                      リンガー・ローゼス

                                     風見 幽香√だったら




―太陽の畑・薔薇区域―


幽香「随分と綺麗に咲き誇ったものね。これもあなたの努力の賜物かしら」

 そう言ったのは、ボクの隣で笑顔を浮かべた幽香さんでした。

 日傘をくるくると回して遊びながら、彼女はボクが育てた薔薇達を眺めています。

リンガー「せっかく幽香さんから貸していただいた土地ですから。向日葵に負けない様に、頑張って育てたのです!」 

 ふふーん、と鼻を鳴らしてボクは得意気に言い放ちました。

 向日葵畑から少し離れた場所に、この薔薇畑は有ります。

 真っ赤な絨毯を敷いた様な、花園。育てるのは大変でしたけど、ボクに掛かればこんなものなのです!

幽香「ふふ、そうね。でも、私の向日葵に負けない様になんて、大層な口を叩くじゃない」

リンガー「ボクにとって、薔薇は大切な花ですから」

 かつて、一輪の薔薇をボクは大切に育てていました。それこそ、何年もの間枯れないように。

 その美しい薔薇がずっと枯れないでいれば、なんて思っていました。考えてみれば、ボクの力はずっと昔から持っていたんだと思います。



 かつて、良くしてくれたお婆ちゃんがくださった花。ボクの苗字の元になった花。

 薔薇の時間を停滞させて、永遠に咲き誇っていれば良い。そういう思い出が永久に色褪せる事無く、そこに有れば良いと。

 でも、それは違うのです。不変なものなんてこの世には存在しなくて、必ず何かが変わっていく。

 それを、ボクは前にあった事件で気付けたから。

リンガー「いつか、何度も咲かせて幽香さんから敗北宣言を聞くのですよ」

幽香「あら、それじゃあ今はまだあなたの負けかしら」

リンガー「むぅ、今だって負けてないのです!」

 今年咲いた薔薇だって綺麗なのです。来年はもっと綺麗に咲かせてみせるのです!

 確かに、幽香さんの向日葵はもっともっと凄いですけど……

幽香「リンガーったら、ムキになっちゃって可愛いんだから」

リンガー「子供! 扱い! しないでください!!」

幽香「だって、今のあなたはとっても可愛いんだもの。弾幕ごっこをしてる時とは大違い」

 あーもう、また勝手にボクを捕まえて頭を撫でる!

リンガー「そんなこと言われましても」

 くしゃくしゃにされてしまった髪を手櫛でなおしながら、ボクは呟きました。


 出来るだけ立ち向かうと決めて、勇気を振り絞って必死に弾幕ごっこをしているだけなのです。

 ボクは特別に何かをしているわけではありません。

リンガー「勝率だって、悪いのですよ」

幽香「まず勝てるっていうのがおかしい事に気付きなさい。あなたは妖精よ? それが蓬莱人や私に勝てることがあるって、相当特殊な事だと思うわ」

リンガー「それは、幽香さんの教えがあってのことですよ」

 何度も負けて、何度も学習して、何度も食らいついて。

 その基盤は幽香さんとの修行があったからです。幽香さんのおかげで、ボクは強くなれたと断言出来るでしょう。

 それがとっても大変でおかしな事でも、風見 幽香さんという方がボクを強くしてくれたからなのです。

リンガー「ボクを強くしてくれたのは、幽香さんなのです! だから、ボクは勝てるのです!」

 自信一杯に、ボクの浮かべられる最大の笑顔で心の底から素直に、ボクは幽香さんへとそう言いました。

幽香「……ふふ、嬉しい事を言ってくれるわね。だったら、もっともっと勝てる様にしてあげなくちゃ」

 頬を紅潮させて、幽香さんは微笑みました。だけどそれはすぐに、怖い笑顔へと変貌します。


リンガー「もしかして、照れてます?」

幽香「ええ、照れてるわよ。だから、私の愛を受け止めなさい」

 それってつまり……

幽香「我が愛は破壊の慕情。さぁ、戦うわよ。そして私をもっともっと喜ばせなさい? 私の愛する者ならば」

リンガー「……とんでもない照れ隠しなのです」

 いえ、自白しているのだから隠すも何もありませんけど。

リンガー「では、学ばせていただきます。もっともっと、貴女に喜んでいただきたいので!」

幽香「ええ、存分に。私の心を惹きなさい、貴方の力で」

 本当なら、戦うなんてしたくないのです。でも、それが幽香さんにとっての一番の楽しみなら、ボクはそれをしましょう。

 一番一緒に居たいと思ったから、この方に追い付きたいって願ったから。


 ボクの名前は、リンガー・ローゼス。毎日を面白おかしく過ごすための組織、『薔薇の花輪』のリーダー。

 足が遅いし、体力もなくて、みんなボクより先に行ってしまうけど……

 ボクは、ボクの出来る限りを振り絞ってみんなに追い付きたいと願っています。

 止まらない時間の中で、過ぎ去る楽しい毎日の中で、確かに存在する温かな空気を感じて作っていきたいから。

 ボク達が居るこの時が一瞬の出来事ではなくて、永遠になれば良いと思うのです。

 だからこそ、

リンガー「――時よ止まれ、おまえは美しい」

 進み続ける中で、この素晴らしい時間を味わい尽くすのです。

 誰よりも大切な方との時間を、替え難い仲間達との時間を、ボクは掴んで離したくないから。


※短いですが、こんな感じ。次の小ネタを↓3で募集。ついでに↓5でももういっちょ行こうか

※刑組除きますが、総代集合クリスマスネタを温めてあるので、クリスマスまでに投稿出来れば良いなぁ、と思っています

※去年の様な失態はしたくない(戒め)

※このシリーズ……というより、幻想に走り給うも来月頭で二周年です。早い


※出来れば夜にバレンタイン安価でもやろうと思います


※遅くなりました。人が居れば、バレンタインのお時間です。



――外の世界では、恋人や意中の男性にチョコレートや甘菓子をあげる文化があると聞く

 そう言ったのは八雲 紫で、それは二月十四日の数日前の事だった。

 八雲 藍は訝しげな顔ではぁ、と返事をする。冬眠から目を覚ますにはあまりにも早く、そして唐突な事だったので彼女の反応も当然だろう。

 まるで寝惚けているのでは、と思えることだったが藍は何も言わなかったが。

紫「というわけで、さりげなく人里で流行らせて来なさい」

藍「私が、ですか?」

紫「縁結びとしての験担ぎにでもしてしまえば良いのよ。非モテや女に飢えてる方々には申し訳ないけど、嫉妬の炎が燃え上がるのを見るのも一興だわ」

 身も蓋もない発言だった。




藍(そういうわけで、紫様の言うとおりさり気なく人々にバレンタインディと呼ばれる行事についての話を流したわけだが、人里の女性は意外として食いつきがよかった)

藍(まぁ、普段お世話になっている者に送っても良いという風習もある、と幻想入りしてから住み着いた外来人が付け加えていたので、それが信憑性を加速させてくれたようだ)

 人里は活気と殺気に満ちていた。活気はまだ良い。それはお祭りに対しての商業的なことや、いつもの『熱を与えられた人間』が面白半分に流行に乗った結果なのだ。

 物売り――とくに甘味屋は繁盛している事だろう。チョコレートの原料は八雲 紫によって賄われている。出処について、一般の人間が知る由もないのだがそれでも構わないのが流行の怖いところだ。

 さて、問題は殺気だ。これは一部から漏れ出している。そして、八雲 藍もよく知っている。

藍(……また、彼か)

 何かとこういう時、一番危ないのは彼だと藍は知っていた。まぁ、そうでなくとも今の幻想郷にはそういう『男』が何人か居るわけだが。

※誰のバレンタインから見る?

1:安藤
2:零
3:現
4:リンガー
5:刑

↓2


>>89 選択:1


 ―紅魔館―

 紅い悪魔の館。紅魔館の謁見の間に、私は呼び出されていた。

 重苦しい空気だ。紅魔館の面々が、フランを含めて全員揃って立っているという状況が如何にもな雰囲気を醸し出している。

 そうして、最初に口を開いたのは、

レミリア「安藤、チョコを寄越しなさい」

 お嬢様だった。

安藤「……チョコ、で御座いますか」

レミリア「そうよ。貴方だって知っているでしょけど今日はバレンタインだ。故に、私は要求する」

 膝を組んで玉座の様な椅子に座ったお嬢様はしたり顔でそう言った。

レミリア「貴方なら全員分のチョコレートを作っているでしょう? 知ってるわよ」

フラン「チョコくれないと爆発させちゃうよ?」

 違う! そうじゃない! バレンタインはそんな物騒な日ではない!!

安藤「お言葉ですが、お嬢様」

レミリア「あら、バレンタインは女が男にチョコレートを贈る日、なんて野暮な事は言わないわよね。それくらい私だって知ってるわよ」

 左様ですか。

パチュリー「良いじゃない安藤。貴方だって、普段から作り慣れてるわけだから」

レミリア「そういうことよ。ちなみに私は既に皆からもらっているわ。あとは貴方からだけよ。まさか、こんな事も見越していなかったなんて言わないわよね?」

 不敵な笑みでお嬢様は言葉を紡いだ。よく見れば、玉座の裏にはチョコレートの箱らしき何かが積み重なっていた。

 フランがわくわくとした表情で私を見ている。咲夜さんは……

咲夜「ああ、お嬢様からのチョコ……感極まりますわ」

 忠義が鼻から漏れ出していた。ダメだこの従者、早くなんとかしないと。

パチュリー「さて、安藤はどんなチョコレートを私にくれるのかしら?」

小悪魔「何気に期待してますか?」

パチュリー「……どういう意味かしら」

美鈴「特に意味はないと思いますよ、パチュリー様」

 ねぇ、などと顔を見合わせてこあさんと美鈴さんが言い合っている。パチュリーさんは、なんだか納得いかないような顔だ。

レミリア「さぁ、もったいぶるのはよしましょう安藤。出しなさい、貴方のチョコレート」

フラン「わくわく、わくわく」

安藤「……わかりました。本当なら、フランには二人きりでチョコレートの交換を、などと期待していたのですが致し方ありません!」

 まさかこんな場面を作られるとは思ってもいなかったので、若干の溜息を漏らしてから私は声を張り上げた。

安藤「こんなこともあろうかと! 用意させていただきましたよ! そりゃあもう!」

 そう言って指を弾いて鳴らす。すると、入口の扉が開いて妖精メイドがワゴンを押してこの部屋へとはいって来た。


 ワゴンの上には、清潔な布で覆い被さった大きな何かがあった。

 それは丁度、フランと同じくらいの大きさだ。何を隠そうそれこそが私がこの日の為に用意して来たものなのだ。

安藤「これが私の、フランへと捧げる究極の愛! その形にして究極のチョコレート!」

 叫びながら、布を取る。すると、そこに現れたのは等身大のフランを象ったチョコレートの像だった。

安藤「フフフ、私がバレンタインという日を知らないわけがありません。暫くは外の世界に居たわけですし、細胞生物時代にそういった知識も培っていましたからね。そう、そしてこれはその知識を総動員した最高傑作! もちろん皆様にもチョコはありますよ、フランの像の周囲に散りばめられている色とりどりの箱、その中身こそが皆さんへの贈り物に御座います!」

 高笑いをあげる。片手を額に当てて、興奮から翼を大きく開いて。

 何日も掛けた。バレないように冷蔵室の奥でチョコレートを掘り続けた。この造形、この麗しさ。私はこれを作る為に、寝る間も惜しんだのだ。

レミリア「……ねぇ、フラン。あれ、どう思うかしら」

フラン「すごく嬉しいよ! 安藤!」

レミリア「あなたがそれで良いなら、それで良いわもう……」

パチュリー「……流石に、気持ち悪いわね。ここまですると」

小悪魔「……ドン引きですね」

美鈴「……ま、まぁほら、それも安藤さんらしいと言えばそうですし」

咲夜「これが、安藤さんの忠義ですか。此処まで出来るだなんて、悔しいです」

 なんだか空気がおかしな方向へと流れている様だが、知ったことではない。私はフランの執事にして恋人である。

 フラコンは伊達ではないのだよ。これくらいのことを出来なくて何がフラコンか。

 そう、どれだけ蔑まされようと! どれだけ冷ややかな目で見られようと! 私の財布が空になっても!

 こうして、私のバレンタインはフランに喜ばれるという最高の結果を持って迎える事が出来た。

 お嬢様達からはドン引きされていたけれど、まぁそれでも良いだろう。

 チョコレートの味は皆から良しとも言われたわけだし、咲夜さんには作り方を教えて欲しいとも言われたし。

 うむ、大成功と言っても良い。そんな日だった。


※誰のバレンタインを見る?

1:×
2:零
3:現
4:リンガー
5:刑

↓2


>>95

 ―白玉楼―

 茶を啜り飲みながら、俺は縁側に座っていた。

 傍らには幾つかのチョコレートの箱。これらは、今日という日に貰った贈り物である。

現「『ばれんたいんでぃ』か。何とも浮かれた催しだ」

 俗世では今、これが流行――否、風習として根付いているという。女から男へ。来月の同日には、男から女へと贈る日もあるとか。

幽々子「あら~、現さん。なんだか浮かない表情ねぇ~」

現「幽々子か。 ……いや、貰ったは良いが、中々申し訳なくてな」

 実を言えば、今日は色々なところからお呼び出しを頂いてそこへ向かってから帰って来たばかりだった。

 その目的と言うのが、この『ちょこれぃと』と呼ばれる異邦の甘味を俺に渡すものだったわけだが……

現「黒谷、太子、閻魔、小野塚、布都……義理とは言え、何かを貰うと何で返そうかと思ってしまう」

幽々子「良いじゃない、現さんだって楽しみましょうよ。そういうお祭りなんだって」

現「そうは言ってもな。 ……慣れぬのだ、こういう事は」

 幻想郷で過ごす事は、何度も繰り返している『幕劇』のお陰で慣れてはいる。

 これまで数え切れない程の重苦を味わっても来たが、今尚この世界は続いているのだ。

幽々子「今は幕劇の事は忘れても良いと思うのだけれど」

現「……そうもいくまい」

『異常』に『泥』にと、常に対処を考えなければならない事も多い。『空亡 禍乃祟』を鬼神が浄化し、龍神へと還した今だからこそ、その先を見続けていかなければならないのだ。

……と言うよりも、その役目は俺にあると思っている。

現「お前を護る剣は、俺と妖夢なのだから」

幽々子「相変わらず、そういう所は硬いわね」

 そう言って微笑む幽々子。

幽々子「でも、息抜き出来る所でしないと壊れちゃうわよ。今がその時で、鬼神様も伯爵も、妖精も人間だって楽しんでる。貴方だけ仲間はずれになるなんて、おかしいと思わないかしら」

現「そういう時代に生きたからな。 ……娯楽は、苦手ぞ」

幽々子「そう? もったいないわねぇ。せっかく私もチョコレートを用意したのに」

 その言葉に、俺は額をポリポリと右手で掻く。

現「……幽々子」

幽々子「そんな困った様な表情しないで、現さん。今を楽しみましょう、先なんてそれから見据えれば良いのよ。今日はバレンタイン、私から貴方に愛と感謝を贈る日なのだから」

妖夢「そうですよ、師匠」

 そこで更に現れたのは、妖夢だった。


妖夢「私からも、普段からの感謝の気持ちとして贈らせて頂きます。 ……師匠がいなければ、今の私はありません。これからも、ご指導度鞭撻の程、よろしく願いたいです」

 彼女はそう継いで、持っていた箱を俺へと差し出してくる。

妖夢「このチョコレート、聞いた話では栄養価が大変高く、疲れた体にも良く効くとも言います。普段からずっと、師匠は私との修行や白玉楼を護る為に動き続けております故、こういう日くらいは素直に受け取って頂きたく存じます」

現「……妖夢」

 ニコリと笑う妖夢の言葉に、俺はフッと口元を緩ませる。

 護るべき愛する主と、大切な弟子にまでそう言われては俺もそれに従う他あるまいて。

現「そうだな、お主らの言うとおりかもしれぬ。 ……どうやら俺は、心配が過ぎているようだ」

 幽々子と妖夢から箱を貰い、傍らに置いてあるこれまでの贈り物に重ねた。空を見れば、雪がしんしんと降り始めていた。

 全てはまだ道の最中。故に休むべき時もあるべき、という事か。

 俺たちはまだ走り続けている。だが、ずっと走り続ける事は出来ない。それをしてしまえば、どこかで失速してしまう。失敗してしまう。

 英気とは、常に有り続けるわけではないのだ。それは、元々俺の主だった男だとて知っていた事ではないか。

幽々子「ところで妖夢。なぜ、箱の形がハートなのかしら」

妖夢「そ、それはですね! 言い訳させてください! 私が買いに行ったら、それしかなかったんです!!」

 後ろで、にっこりと笑った幽々子が慌てた様子の妖夢ににじり寄っていた。

 はぁとの形か。そう言えば布都から貰った箱の形もそれだったが、何か意味があるのだろうか?

幽々子「本当かしら」

妖夢「本当です! 本当なんです、信じてください幽々子さまぁ!」

 何か、久方ぶりな騒がしさのある日が来た気がする。ずっと張り詰めていた気持ちが、気持ちよく緩んでいく。

 そうだな。今は、今を楽しもうとしよう。今でしか感じられない事も多い筈だ。前だけ、上だけ見続けても疲れてしまうから。

現「ところで、幽々子、妖夢。少し困った事があるのだが……」

 振り向いて、蛇と蛙の様な構図を取っている幽々子と妖夢に言う。

幽々子「何かしら、現さん」

妖夢「どうかしましたか、師匠」

現「……俺は、甘味が苦手なのだ」


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3:×
4:リンガー
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>>104

 ―霧の湖―

リンガー「みなさん! 本当にありがとうございます!!」

 そう言ってボクは頭を下げました。それは、今日という日にいーっぱいチョコレートが貰えた事への感謝の気持ちなのです!

妹紅「ふふ、さすがはリンガーだな。これだけチョコをもらえるのは、幻想郷の中でもお前くらいじゃないかしら」

輝夜「こういう組織のリーダーだもの。色んな者から貰えて当然よねぇ」

リンガー「アハハ、ボクだけじゃなくてみんなへのチョコもたーっくさんあるのですよ。寧ろ、組織へのチョコと言っても過言ではありませんね!」
リング・アー・リング・オー・ローゼス
『 薔 薇 の 花 輪』という組織に対する、言ってしまえば友チョコ? と呼ばれる贈り物も多いのです。

 そこは早苗さん知識ではありますが、そういう文化があるのってとってもいい事だと思うのです。

 だから、ボク達はお互いにチョコを渡しあったりもしました。なんと、幽香さんまでチョコをくださったのです!

 これは驚きです。幽香さんが友チョコを持ってきたのは、正直びっくりせざるを得ませんでした。

ルナ「ちなみに、リンガーが貰ったチョコは組織外からでも五個以上という快挙よね」

リンガー「えっと、はたてさん、椛さん、早苗さん、小鈴さん、鈴仙さん、紫さま、それと人間の里の方からも何個か頂きましたね」

スター「何でリンガー、そんなにたくさんもらってるの?」

サニー「スター、表情が少し怖くなってるよ!?」

スター「大丈夫、私の所に帰ってくるのはわかっているから」

リンガー「えっと、どっちにしろスターちゃんの家が今はボクの家でもありますから、おかしくはないですね?」

妹紅「……多分、そういう意味じゃないと思うけどツッコミを入れるべきかしら」

輝夜「良いのよ、それでこそリンガーなのだから」

 何か、ボクの知らないところでボクに関する会話がなされているみたいなのです。

こころ「こういう時の感情って、どういう風に表現すればいいんだろう」

チルノ「うれしいくないの? 甘いお菓子をもらったら、あたいはうれしいと思うわよ!」

こころ「……そういうものなのかな」

チルノ「ほら、こころん! だったら食べてみなさいよ!」

こころ「これは、確かに甘くておいしい。これをもらったら私はうれしい!」

 遠くではしゃぐこころちゃんとチルノちゃん。それを傍らで楽しそうに大ちゃんが眺めています。

 向こうは向こうで楽しそうですねぇ。

スター「ちなみに、リンガーは私のチョコだけ食べて」

リンガー「それはもったいなくないですか?」

スター「他のチョコはみんなで食べれば良いの。でも、私のチョコを一番味わって欲しい」

 それはそれで違うの思うのですが、どうなんでしょうか。

 でもまぁ、スターちゃんのチョコを一番味わいたいってのは、確かにありますね。

リンガー「わかりました、でももったいないのでやっぱり貰ったチョコもボクは食べるのです!」

スター「……リンガーがそう言うなら、仕方ないわね」

 はぁ、と少し残念そうにしながらスターちゃんは言いました。何か思うところでもあるのでしょうか?


妹紅「そうだぞ、スター。わがままを言うものじゃないわ、リンガーはみんなのリーダーなのよ」

スター「わかってる。 ……リンガーってやっぱり人気なんだって、再確認しちゃうわね」

輝夜「その顔で言うと、ちょっと嫌味な感じがするわよー」

 勝ち誇った様な表情で言うスターちゃんに、輝夜さんは苦笑します。

 いやぁ、ボクだってこんなにもらえるとは思っていなかったのです。だから、正直驚いているのですよ。

こころ「リンガーくんはショタコン製造機だって、誰かが言ってた」

チルノ「しょたこんってなに?」

こころ「意味は知らない」

大妖精「多分、褒め言葉、なのかな?」

 うーん、なんだか釈然としないところもあるのですが、三人とも。

リンガー「では、そろそろチョコパーティーを始めましょうか?」

妹紅「そうだったな。幽香とリグルも来ればよかったのに」

リンガー「そうですが、太陽の畑の事もありますからねぇ。最近は幽香さんに引っ張られてるみたいなのですよ、リグルちゃんは」

 虫は花の敵であり、味方なのです。向日葵や薔薇達の管理をしてくださっているので、今度またちゃんとお礼しないと。

リンガー「スターちゃんのチョコは、後でちゃんと二人の時に食べますね」

スター「……うん。ちゃんと感想、聞かせてね?」

リンガー「はいなのです!」

 さぁ、パーティーなのです。チョコ、チョコ、チョコのチョコ三昧! 組織のみんなで楽しく食べましょう。

 色んな食べ方を出来る様に輝夜さんが道具とかも持ってきてくれました。

 もしかしたら、これから誰かが釣られてくるかもしれません。来る者は拒まずです、みんなで食べるのが大事なのですから。

リンガー「あ、そこの方も一緒にどうですか? ふふ、ボクはダメだなんて言わないのです! みんなで面白おかしく、楽しい思い出を作るのです!」

 そう。それがボクのやりたいこと。ずっと夢見た事。毎日を面白おかしく、繋げていければそれで良いのです。

 遠慮する必要なんて何処にもないのです。ボク達は、みんなを待っているのですから!


※誰のバレンタインを見る?

1:×
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3:×
4:×
5:刑

↓2

2


>>112で了解。続きは明日。本編の再開は明後日の予定です。時間は日付が変わるくらいだと思います

※では、お疲れさまでした。また次回、お会い致しましょう


※安藤はお調子者 現さんはOTONA リンガー君は癒し 零はフラグ体質 刑くんは……どうなるんだろう?

※30分頃から再開予定


※では、再開のお時間ですので開始します


 ―博麗神社―

 どーも甘い。甘い。甘い。空気が甘ったるくていけない。

 鼻腔を突く、件の『ばれんたいんでぃ』とやらのせいか、まぁ、女の多い博麗の家でもその『ちょこれぃと』とか言う甘味の匂いが充満してやがる。

 甘いもんが嫌いか、と言われればそうではない。寧ろ、好きな部類である。

 だが、それも量とか、そういう加減が効いていればの話だ。それに加えて酒の入った『ちょこれぃと』があるとなれば――

萃香「ふーん、これも中々いけるねぇ。どうだ、零。食べてみるかー?」

勇儀「食えよ、零。せっかくの酒のつまみだろう?」

 間違いなく、そういう奴が集まるわけで。そして、そうじゃなくても浮かれた行事には必ずこういうことをする身内がいるわけで。

 つーか、どっちも同じ奴なわけで。

零「ふっざけんな! それは! 俺が! 貰ったもんだろ!! しかもお前らから!!」

萃香「良いだろ、興味あったんだから」

勇儀「相変わらず小煩い男だねぇ。それくらい気にするなよ、男児が懐狭くてどうするんだい」

零「うるせえよ! 当たり前の様に酒盛りし始めやがって!!」

 振り向いて、散々に放り投げられている瓶子や皿、ごみその他もろもろを指差しながら叫ぶ。

 全員居た。居たよ、俺の日溜まりが。ここに、みんな。そいつら今、嘔吐やら酔い潰れやらしてるがな! 全て後の祭りだ畜生め!

 結局残ったのは、同族だけだ。いつもの事だし、わかりきっていた。

零「誰が後片付けすると思ってんだ!? 俺だよ! 俺以外の誰でもねぇよ!」

萃香「おぉ? なんだか今日の零はテンション高いな。異邦の酒は苦手なのか?」

勇儀「ほぉ、それは良いネタだね。せっかくだ、お前が持ってる異邦の酒を全部持って来い」

零「だから何でお前ら、上から目線なんだよ!」

 ああー、もう頭痛くなってきたぞこれ。いや、まぁこれだっていつもの事ではあるのだが。あるのだが……なんだろう。少し悲しい気持ちになってきた。最近霊夢の奴が冷たいからかな。おっかしいなぁ。

天子「はぁ、全部吐いたら気持ち悪いの治った。って、酒くさ! 甘ッ!?」

霊夢「ぜろー、あんらまーだ酔いつぶれてなかったの?」

 そんな風に同族の二人から弄られていれば、そこに更に厄介者共が現れる。天子と酔った状態の霊夢だ。

零「ああもう、霊夢。お前、寝てろって言っただろ」

霊夢「いやよ、何であんたに命令されなくちゃいけないのよ。ながーい間姿消してた旦那がよーくそんな事を言えたわねぇ」

 それを言われると何も言えなくなる。

霊夢「まぁ? それも致し方ない事情があったみたいだから深くは言わないけど? ずーっと私、心配してたんだから」

零「それは前にふかくふかーく謝っただろうに」

霊夢「だったら私の好きにさせなさい! そして酔いつぶれなさい!!」

 言ってる事がむちゃくちゃだった。というか、本当に大丈夫かこいつ……

こいし「ふふー、お姉さん。ここにいいお酒があるよー」

 そんなことを思っていれば、ささっと姿を現したこいしが霊夢に見覚えのある瓶を差し出していた。

 お前も酔いつぶれてたんじゃ……と思ったが、まぁ妖怪だしなぁ、と俺は深く考えるのをやめる。

 つーか、それは倉庫の奥にしまっといた俺の『わいん』じゃねえか。

こいし「倉庫の奥で見つけたよ。ヴィンテージワインみたい」

天子「ほぅ? それはまた洒落たもの……ってこれ数百年物じゃない! なんでそんなもの持ってるのよ!」

萃香「へぇ、そりゃまた好都合なものを」

勇儀「丁度今、面白いネタが出てきたものでね」

 あくどい表情を浮かべた同族が、そう言ってから天子達に要らぬことを吹き込み始めた。

 嫌な予感がした。ものっすごい、こう、身の危険を感じるくらいの、背筋に悪寒が走るくらいの嫌な予感を俺は感じて、後ずさる。


 天子が生唾を飲んだ。霊夢が攻撃的な笑みを浮かべていた。

 こいしが無邪気に笑い、萃香がクツクツと喉を鳴らす。勇儀はずっと、ニヤニヤしていた。

零「……おい、待て落ちつけ。良いか、それだって味と品質が保証されてねえもんだ。いつか捨てようと思ってたもんだぞ良いのかそんなものを俺に飲ませて」

霊夢「だいじょーぶよ。零は正義の味方でしょ、だったらこんな苦難も乗り越えて見せなさいよ」

 都合が良すぎる言い方だった。いや、お前それを今俺に言いますかね!?

天子「介抱はしてあげるわよ、ちゃんと。そう、この天子さまが、酔った零を! 徹底的に!!」

 怖いわ! お前、ここ一番でさいっこうに怖いわ! なんだお前、そんな気配出せたのか!?

こいし「さぁ、お兄さん。観念なさっちゃいなさいな!」

 お前はお前で楽しそうだな、おい! この無意識妖怪め、今の状況を無意識に作り出した奴め!

萃香「幼い頃からお前だけ酔わなかったからなぁ……! そろそろ醜態を晒せよー楽しいゾ酔っ払うのは!」

 うるせえよ万年酔っ払い童女! もう黙れよ、酔っ払いなんて碌でもないのはお前見てるだけで十分知ってるから!

勇儀「そうだな、文の奴も呼んでやるか。お前の酔った姿なんて言えば、最高速ですっ飛んでくると思うぞ? なぁ」

 力の勇儀が何を言ってんだよ! 本当にあいつ来ると確信出来るわ! いい笑顔で飛んで来るのわかるわ!

霊夢「さぁーぜろー」

天子おとなしく……!」

こいし「このお酒をー」

萃香「一気にぃ……」

勇儀「飲み乾せー!」
   オ ン
零「 罨!」

 一気に飛び掛って来る女共を前に、九字を切って術を発動させる。

 すると俺の体は一瞬で神社の屋上へと移動し、そして深く溜息を吐いた。

 けたたましい音が聞こえるのと同時に、俺を探す喧しい声が聞こえてくる。

 はぁ……本当、変わらないなぁ。嗚呼、やかましくて騒がしくて、苛つく事もあればムカつく事もあるけど何より楽しくて。

 温かくて、心地よくて、んでもってそこに居るって自覚が持てる。この間までここに居れなかったのに、ここに居ると確かに思える場所。

零「こうまでされたら、流石に逃げるがねぇ」

 カッカッと小さく喉を鳴らし苦笑して、俺を探す声に耳を傾ける。あの馬鹿共、少しは落ち着けってーの……

 懐から霊夢から貰ったチョコを取り出し、包装を解いて中からちょこをつまみとる。

 口の中に放れば、一気に甘い味が広がった。

零「げろあまだな」

 だが、美味いとも思った。これを食い終わったら、あいつらの前に戻ろう。そう思いながら、空を見上げて俺はまたクツクツと喉を鳴らして笑った。





※消去法的に最後は刑君

 ―稗田家―

 バレンタインなんて、オレにとっては関係のないものだった。研究所時代、そんなイベントに触れること事態なかったわけだし、そもそもオレの周りにはそういう女子なんていなかったわけだし。

 それが、どうだ。

刑「……チョコが、三つも」

 机の上に三つの箱を並べて震える男がそこには居た。というか、オレだった。

 機械の体ではあるものの、まさかこんな『美味しい物』を拝め――もとい、頂けるとは思いにもよらなんだ。

刑(幻想入りして、よかった……!)

 浄化液が目から滲み出るくらいに、オレは感激していた。オレはこれほどうれしいと思った事が……あったような、なかったような。

 まぁ、そんな既知感は今、どうでも良い。オレの前に女子から贈られたチョコがある。それが全てだ。それで良い、それが良い。

 しかし、問題は――全ての包装紙が一緒であり、どれが誰からのチョコなのかがわからないということだ。

 そう、オレは今試されていた。目の前でニコニコと笑う三人の少女に!

阿求「嬉しそうですね、刑さん。バレンタインというものがあることは知っておりましたが、まさか体験出来るとは思いませんでした」

早苗「あは、それは素晴らしいですね! ちなみに、私も実を言うと友チョコ以外で男性にチョコを贈るのは初めてだったりします」

夢美「奇遇ね、二人共。実を言えば私もそうなのよねぇ。これも運命のいたずらって奴かしら。素敵」

 阿求ちゃん、早苗、夢美。三人の美少女は笑顔でそんなことを言い合っていたわけだが……雰囲気はそんな和やかなものではなかった。

 重い。苦しい。なんだこの威圧感は。ギスギスして、牽制しあっているような――そう、まるで女同士の見えない戦いが目の前で繰り広げられているような!

 わけがわからない。これが未知か。これも未知か。オレは今、何を試されていると言うのに。

刑(嗚呼、こんな未知でさえ、ある意味愛おしく思えてしまう自分が憎い)

 未知を求めている身としては、なんというか、既知感さえなければこんなにもワクワクとしてしまうのか。それがオレの性だと思うと、少し悲しくなる。

 いや、そんな事はどうでもいい。オレがやらなければいけないことはわかっているのだ。
 
刑(そう、オレはどれが誰のチョコなのかを、そして誰のチョコが一番美味しいのかを判断しなければならない!)

 心なしか、この現状に心躍らせてテンションがフライハイしてしまっているようだ。クールにならなければ。しかし、オレの様な……いや、何でもない。

 そう! 何にしたって食べなければ始まらない! というわけで――

刑「……頂きます」

 その一言で、この稗田家の居間に静寂が舞い降りた。

 緊張がぴんとして張り詰め、三人の視線がオレへと注がれる。食いづらいが、食べなければ何も始まらない。

 そう思いながら真ん中に置いてあるチョコの包装紙を開き、中にあるチョコを拝んだ。分かりやすすぎた。

刑「これは早苗だな、間違いない」

 コミカルにデフォルメされた蛙の顔の形をした、チョコレート。あれ、これって実はチョコの形で丸分かりなんじゃないかな?

 そんなことを思いながら、一口。うん、程よい甘さだ。

刑「口溶け良し、舌触り良し。ん、これはオレンジピールか……? うん、この抉みがチョコの甘さを一層引き立てているなぁ」

 モグモグと口の中にあるチョコの感想を漏らす。さすがは外の世界では女子高生だった事はある。現代っ子はこういうの強いなぁ、さすがの女子力だ。

早苗「いよし!」

 ガッツポーズを取る早苗。些かオーバーリアクションだと思ったが、美味しかったのでツッコミを入れるのは野暮だろう。

 水を飲んで口の中をさっぱりとさせる。次は右のチョコの包装紙を開いて、中身を拝むことにしよう。



刑「……なぁ、夢美」

夢美「何かしら、刑君」

刑「自分の世界から市販のチョコでも買って来たのか?」

夢美「失礼な! それだって私が手によりを掛けて作ったチョコよ!」

 いや、だって、なぁ? そう思いながら、オレは箱の中身をまじまじと見やる。

 綺麗な長方形の形をした、板チョコだ。心なしか、外の世界でも見た様な覚えがある。これはそう、明○の……

刑「まぁ、頂きます」

 手にとって、口に咥えてから気持ちよくパキン! という音を立ててオレは夢美のチョコを食べる。

 食べれば食べる程、それは市販のそれを思わせる味だった。ある意味完成された、完璧な板チョコの味だった。

刑「……お前の事だからと思うが」

夢美「何かしら」

刑「分量とか、軽量とか、そして何より作り方とか完璧に計算しつくしただろ。最早市販のチョコだぞ。懐かしくなったわ」

夢美「あら、それはそれで嬉しかったと?」

刑「……そういう言い方も出来る」

 まぁ、確かに、研究所でよく間食として食ってたけどさ。糖分取るには丁度良いんだよな、あの板チョコ。税率上がった後に若干小さくなったのが不満だけど。

 とは言え、不味いわけじゃない。特別美味いというわけでもなかったわけだが、それも夢美らしいと言えばそうだろう。これはこれで、幻想郷では味わえないものだしアリとも言えるだろう。

 早苗のは女子高生の女子力の見本の様なチョコだった。夢美は科学者らしい完璧な板チョコだった。

 さて、問題は阿求ちゃんだ。彼女のチョコが最後に残されていたわけだから、オレは楽しみに思いつつそれを開いた。

 すると、中にあったのは――

刑「液体、だと……?」

 予想外の選択に、オレは思わずたじろいた。それは箱の中でドロドロに溶けたチョコだった。波立ち、傾けすぎればこぼれてしまいそうになるのを慌てて床の上に戻す。

 いやいやいや、液体って阿求ちゃん。それはどういうことなんですかと思いつつ彼女を見やると、恥ずかしそうに俯く姿が見えた。

 珍しいと思ったが、それと同時に得も知らぬ不安がオレの胸に去来する。

阿求「その、外の世界にはこういう文化もあると聞いていましたから」

 背中を向けながら、阿求ちゃんはそう言った。

阿求「殿方を喜ばせることは、その、あまり良くは知りませんので」

 するすると着物がはだけていく。それはうなじから肩、肩から肩甲骨あたりまで降りていく。

阿求「刑さん、どうでしょうか。バレンタインチョコは、私、という事で」

 ……。






刑「スタァァァァァァァアップ!!」

 目を覚ますと同時に、オレは叫んだ。いや、もしかしたら叫びながら目を覚ましたのかもしれない。

刑「……なんだ、夢か。よかったぁぁぁぁぁぁあ」

 上半身を勢いよく起き上がれせたものだから、オレはさっきまでの事が夢だと自覚するのに時間が掛かってしまった。

 ああ、なんという夢を見てしまったんだオレは。どんな夢を見ているんだオレは。こんな夢を見るなんて、どうかしてるだろうオレ。

 早苗と夢美のチョコまではよかったんだ。その先だ、阿求ちゃんの番になってなんであんなことになった。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。大事な事なので二回言いました。

刑(オレはロリコンじゃない。オレはロリコンじゃない。オレはロリコンじゃない。オレはペドじゃない。オレはペドじゃない。オレはペドじゃない)

 心の中で言い聞かせる様に、呪詛の様に繰り返すことエンドレス。

 夢の中だったとは言えど、阿求ちゃんのあんな姿を見るなど男としてどうなのだ。確かに、彼女は精神年齢で言えばオレなど子供だろうけど。

……ある意味で言えば、幸福な夢だったと言えるだろう。ある意味で言えば、悪夢だったとも言える。

 そう、結局チョコをもらえるということ事態が夢だったのだ。そして今日の日付は二月の十四日である。

刑「チクショウメッ!!」

 客間の中で朝っぱらから荒々しく途方もない怒りに燃える男がそこに居た。と言うか、オレだった。

 こうして、オレは複雑な気分で、バレンタインデーを迎えることになったのだ。

 そう、それが何度も繰り返される内の一回だとも知らずに。


※刑君のキャラが大変な方向へと転んで行った気もしますが、今日はここまでで

※零は戻って来ます。しかしこの幕間の一コマが、それぞれ同じタイミングで起こっているとも限りません

※本編ではまだ零が完全な形では戻って来ないと思います。それもいつか、解決すると思いますが

※では、お疲れさまでした。次回は明日、また夜にお会い致しましょう


保守させていただきます


※中々小ネタを書いたり本編を書ける時間がないです。申し訳ない。保守だけです……


 世界は今日も回っている。

 朝日が昇り、青空を仰ぎ、太陽が沈み、白月が暗夜を穿ち、星々が瞬き、そして空は白ずんで、朝日が昇る。

 世界は今日も回っている。

 変わらない日常。代わり映えのない日常。少しずつ変化していく日常。

 終わりが来るまで、オレはこの日常を味わい尽くす。

 彼女達とならば、何処へでも行けると思えるから。

       幻想に走り給う

        片山 刑

      アフターエピソード

 例え、この日常が舞台の上に建てられたジオラマだったとしても。

 いつか必ず、本物になる事を信じている。



 ~ 稗田家・居間(昼) ~

 この幻想郷に来てから、半年の月日が経とうとしている。

 夢美――岡崎教授の持つ【可能性空間移動船】に乗り、文字通り夢にまで見ていた世界へと足を踏み入れたのが、つい昨日の様にも思える。

 研究者として、オカルト好きとして、そして一個人として、この世界へと訪れた事は、まさに感動と感激の極みであったことは、間違いないだろう。

 曰く、忘れられた存在が行き着く場所。現代で無くなった日常の現存する空間。

 曰く、かつての人間が手放した楽園。あらゆる古きが生きる世界。

 秘封倶楽部の二人が居たら、オレと同じようにさぞ喜んだ事だろう。

 何せ、この世界ではオカルトが眉唾ではなく、生きているのだから。

 惜しむらくは、それ故に現代の利器に頼って生きてきた人間として、不便を覚えざるを得ないということくらいか。

 まぁ、郷に入らば郷に従えと言う。ここは、日本人が忘れてしまった者達の世界なのだから。

 時間を使えば慣れも出てくる。

 今ではもう、クーラーも何も必要だとは思っていない。

 指先で弾くのは、持ち込んだノートパソコンに備えられたキーボードである。

 綴る文字はこれまでの簡単な経緯と個人的な感想というか、そういう文だ。

 白い背景に打ち込まれていくそれらを見ながら、オレは目を細める。


夢美「なーにノートパソコンにポエム綴ってるのよ、刑君」

刑「うぁはっ!?」

 そうしていた時に、背後からひょっこりと顔を覗かせた夢美の言葉に驚いて、素っ頓狂な声を上げる。

 体全体を跳ねあげて、目を見開いたまま顔を動かせば、白い歯を見せて笑う夢美の顔が目に入ってきた。

刑「ポエムじゃない。ただちょっと、これまでを振り返ってるだけだ」

 これをポエム扱いされたら、日記や日誌なんて書けやしないだろう。

夢美「それじゃあ、なんで驚いたのかしら」

現代「いきなり話し掛けられれば、誰だって驚くだろ!?」

夢美「いやこれは失敬」

 と言いつつも、夢美は笑みを崩さない。

夢美「しっかし? なんでまた振り返ってみたりなんてしているのかしら。特に何かあったわけじゃあ、ないでしょ?」

刑「そろそろ半年が経つだろ。 ……気まぐれと言えば、気まぐれだけど」

夢美「あら、あなたってわりとそういうの気になる人だったの? ロマンチックで素敵」

 お褒めに預かり光栄です、とは心の中での言葉である。

 別に、オレが特別ロマンチストだというわけではない。

 これだって、口に出して言ったが気まぐれの部類だ。

 ただ、それでも今日という日は大切なような気がして、だからてきとうに書き留めているだけに過ぎない。

夢美「でも、そうよねぇ。半年、半年かぁ。長いようで短いものだったわ」

 ショートカットキーを使ってワードを一度保存してから、パソコンの電源をオフにしていると夢美が隣に座って体を預けてくる。

 特に気にすることもなくそれを聞きながら、パソコンのUSBポートに刺した太陽光発電の充電機を日向の方へと放り投げる。

夢美「既知感だっけ。 ……もう、感じない?」

刑「ああ、すっかりと。 ……それが何よりも、オカルトだったかもしれないな」

 夢美の言葉に、ゆっくりと頷きながら答える。

――既知感。デジャヴ。既視感ではなく、既に知っている様な感覚。

 例えば、作ったこともない料理を、昔から慣れたように作り方を知っていたり。

 例えば、行ったこともないはずの場所で、地図もなしに目的地への行き方を知っていたり。

 そういう感覚を、俺は初めてこの幻想郷へと来た時に味わった。

 いや、俺だけではない。夢美も、守谷神社に居る東風谷 早苗という巫女も、そしてオレ達の活動拠点として部屋を貸してくれている、この家の主――稗田 阿求という少女も。

 皆、オレのことを知っていた。初めて会う筈なのに、オレのことを。

夢美「……永劫回帰、か」


刑「ニーチェの後期思想の根幹だったか。 ……それがどうかしたか?」

夢美「ううん、なんでもないわ。 ……そう、なんでもないの」

 目を細めて、彼女はオレに肩に頭を預けてくる。

 別に今更どうこう言うわけではないが、少しばかり気恥ずかしくなる。

 艶やかでサラサラの髪から、女の子特有のいい香りがした。

「あーっ! また、またですか夢美さん!!」

 のんびりと吹き抜ける風の涼しさを感じていれば、縁側の方から聞こえたのは快活な声だった。

刑「ん、早苗か」

早苗「ん、早苗か……じゃないですよぉ! まーたそんな引っ付いて!! 良いですか、男女の距離と言うのはですね!」

夢美「羨ましい? ねぇ、早苗、羨ましい?」

 登場から直後、必死そうな表情で捲し立てようとするセミロングに切られた緑髪の巫女服を来た少女――東風谷 早苗に対して、夢美が悪戯っぽく挑発する。

 いや、挑発というよりも煽り……ではなく、いじるような感覚で言ったのだろう。

 それが何故なのかと言えば、急に体を密着させてきたからだ。オレは今、首に腕を回されている。

 早苗は真面目な性格だから、そういう行動を見るとあたふたと一瞬だけ言葉に迷う所を見せる。

 夢美にとってその姿は可愛く思えるらしく、結構な頻度でこういうことをされることがあるのだ。

 最初こそ心臓に悪いというか。心拍数がヤバくなっていたが、さすがに慣れというものもあると言うべきか、大してありがたみを感じなくなっていた。


 役得、だとは思うけれど。人間は慣れる生物なのである。

早苗「羨ま――そ、そういうことを言いたいわけでなくて……!」

夢美「もー、早苗って本当に初心なんだから」

 顔を真っ赤にした彼女へと、直接スキンシップでも図る為か夢美がオレから離れていく。

刑(……元気だなぁ)

 うりうりと頬を摘む夢美が笑い、早苗が手を離させようと抵抗している。

 秋の昼下がりに随分と姦しいことだった。女子三人どころか二人でこれだ。小さく笑みが漏れ出す。

阿求「刑さんも混ざらなくて良いんですか?」

刑「あ。阿求ちゃん」

 あれだこれだと騒がしくしている二人を眺めていれば、隣に座ったのはこの家の主だった。

 ゆっくりと品のある動作で座った彼女の姿勢はピンとしていて、育ちの良さを伺える。

阿求「随分、寂しそうにしているようにも見えましたが」

刑「そんなことないよ。それより騒がしくする方が邪魔じゃないかい?」

阿求「慣れました」

 ざっくりとした答えだった。そりゃ身も蓋もない。

阿求「冗談ですよ。別に気にすることでもありませんから。寧ろ逆ですね」


刑「と言うと?」

阿求「私も混ざりたいくらいです」

 そう言って、柔和な笑みを二人に向ける。

刑「……想像出来ないな」

阿求「これでも年頃の少女ですから。ああやってはしゃぎまわりたくなる時もありますよ」

 くすくす、と袖で口元を隠しながら今度はこっちを見ながら彼女は言う。

 阿求ちゃんがあの二人に混ざって、か。本当に想像できないなぁ。

 というのも、オレが彼女に抱いている先入観からくるものがあるからだろうというのは、言うまでもない。

阿求「……ところで、どれくらい【思い出して】いるんですか?」

 唐突な問い掛けの内容に、オレは目を丸くした。やはり、彼女には隠しごとは出来ないらしい。

刑「……さて、どうだろうね。オレがそれを望んで此処に居るわけだし」

 それは全ての答えであるけれど。

刑「オレが望んで、オレが求めてきたのが今のオレなら……」

 どれだけの事を思い出したとしても、きっとその時が来るまでオレはこれを忘れているようにしていたい。

 それがきっと良い事であり、オレが皆と居られるなら、それで良いと思うのだ。

 オレがそれを望んだことも知っている。この幻想郷で、人間として生きていきたいという願いと共に。


阿求「ずるいと思います」

刑「そうかな」

 何処か遠くを見るような視線をオレに向けた阿求ちゃんはそう言って、寂しそうに目を伏せる。

 まぁ、ずるいだろうね。口ではとぼけて見せたけれど、覚えているというのにそれを知らないふりでいる、なんて。

 でも、本当なら思い出す必要もなくて、既知感を覚える必要もなくて、ただ何も知らないオカルトマニアな人間であれればなんて、オレは思うから。

――それはきっと、オレという存在には決して許されない願いなのかもしれないけれど。

刑「幻想に走り給う者……か」

 ポツリと口から溢した言葉は、オレに架せられた名称だ。

 これが殆どの答えなんだろう。これを知ることになった八雲 紫と話した時に、溢れるようにオレだった者達の記憶が流れ込んできた事は記憶に新しい。

 これまでのオレがどれだけの事をして来たのか。未知の結末である今を得る為に、どれだけの繰り返しをしてきたのか。

 時に早苗と殺し合うこともあった。オレが選択を間違えて、早苗に信仰が集まり過ぎて、オレが最後に戦った妖怪の排斥を謳う者達の掌の上で踊って、そして喰らい合うように互いを傷つけ合って。そうして繰り返したこともあった。

 時に阿求ちゃんを犠牲にしてしまうこともあった。最後のオレ以外には、知識しかなかった。力を持たない人間は、やはり時として乗り越えられない現実もあったりする。だから彼女を護れなかった。そうして繰り返したこともあった。

 切っ掛けを作ったのは、夢美だった。彼女と出逢って彼女と研究を重ねて、知ることの出来た全てを、幾多にも渡る世界の枝の中で、一箇所にしか存在出来ないものを作った。

 それが“輝くトラペゾヘドロン”であり、オレはそれに耐えうる体を得る為に、繰り返した。


 体ではない。頭でもない。脳でもなく、心でもない。この魂はそうして築き上げてきたものを確実に記憶していた。

 だから今のオレも、思い出して来ている。かつての選択を、過ちを、罪を、全てなかったことになんて出来やしないのである。

 それでも、それを敢えて、この平穏な時間を過ごす間は、忘れていたいというのは我儘なのだろうか。

 敵も居ない、早苗と、阿求ちゃんと、夢美と、この暖かな人間の里の人々と、時折に出逢う妖怪達と、こうやって平和の中で過ごしたいというのは、間違いなのだろうか。

 この目の前にある彼女たちに聞いたら、どんな言葉で返してくれるだろうか。

 ずっと求めていたこの日常を、そうやって満喫しているオレに――

阿求「それは罪ではありません、罰でもない。これまでを作り上げてきた者達に、私たちが課してしまったことなんです」

刑「……阿求ちゃん?」

阿求「貴方の考えそうなことなんて、お見通しですよ。私を誰だと思っているんですか」

 そう言って彼女は得意気な笑みをこぼす。

 オレはと言えば、額に手を当てて苦笑するしかなかった。全部見通されてしまえば、それに対する返答をオレは持ち合わせてなんていないから。

 かつてオレが外の世界で言われた『稗田 阿礼の再来』という名の元である張本人の転生体である彼女には、かつてのオレも今のオレもタジタジになるしかない。


阿求「夢美さんだって、早苗さんだって、きっと思い出しています」

刑「だからこそ、オレは背負うべきなんだろう?」

阿求「そうなってしまいます。ですが、今はその時ではない」

 肯定から来た否定とも取れる言葉に、オレは怪訝に眉を顰める。

阿求「だって、貴方は駆け抜けましたから。この幻想を、その思いと共に。貴方の持つ渇望を、夢を、願いを胸に、全うしたんです。だから、これくらいの平穏を過ごすことくらいは、赦されていいんですよ」

刑「……これまでそうして来た者達と同じように、か」

 この先に待つものをオレは良くは知らない。だが、話には聞いた事がある。

 もちろん直接というわけでもない。それはかつてのオレの一人が聞いた話である。

 伯爵、鬼神、蜃気楼、刃、薔薇――それらは今もこの幻想郷に居て、そして何度も見守っている。

 以前のオレが清算した存在、その大元にこの幻想を奪わせない為に。

 オレもその一人であるというから、きっと彼らの様な存在になるのだろうとは思っていた。

刑「それがオレの生まれた意味、か」

 ここで終わりではない。始まりすらしていない。始める為にオレは居る。だからこそ、彼女たちと共にあれる。

 不意に早苗と夢美の方を見てみれば、彼女達は此方へと歩み寄って来ている所だった。

 早苗の髪がボサボサになっている。夢美にああされたのだろう。南無。


早苗「刑くん!? 合掌するくらいなら夢美さんを止めてくださいよ!」

刑「いやー、だってお前ら楽しそうにしてたからさ」

夢美「とか言っちゃって、ポエットなことを阿求ちゃんに言いまくってた癖に。このロリコンめ」

 ロリコンちゃうわ!?

刑「つーか、それだとオレがポエマーな上に変態になるだろ! やめろ! オレはそうじゃない!!」

阿求「……やっぱり刑さんはいけずだと思うんです」

刑「そういう事を言いますか阿求ちゃん! あ、ごめ、お願いだから泣きそうにならないで!?」

夢美「やーいやーい、刑君泣かせてやんのー」

早苗「そういう夢美さんだって、普段から刑くんにべったりじゃないですか」

夢美「私は相棒ですから。 ……相棒ですから」

早苗「そう言ってる内はまだチャンスあるってことですよね?」

 なんのチャンスだ、なんの。

夢美「なっ、刑君は渡さないからね!?」

阿求「私もそろそろ本腰を入れるべきなのでしょうか」

夢美「阿求ちゃんまで何を言ってるのかしら!?」

早苗「以外と強敵ですね……でも、負けませんよ!」


 あーだこーだぎゃーすかぎゃーすか。

 女三人寄らば姦しい。オレの目の前で繰り広げられる、非常に嬉しいけれど居た堪れなくなる会話。

 本人を前にしてよく言えるな、と心の中で呟く。でもそれも、悪い感情ではないからなんとも言えないわけで。

 オレはまだ、この三人と一緒にやっていきたいと思っているのだから。

 これもオレの我儘で、きっと許されないことなのだろう。駄目な男だな、なんて自嘲する。

 まぁ、答えは出ているわけだけれど。それを口にするのはまだまだ先に延ばしている。

刑「ホント、姦しいな」

阿/夢/早「誰のせいだと!?」

 知っているよ。でも、敢えてとぼけさせてくれ。今はまだ、お願いだから。

 とある日常の昼下がり。代わり映えのない日々の一頁。

 変化の緩やかな平穏の頃。確かに平和である里の風景がひとつ。

 オレはきっと、この心地よい日々を、永遠に忘れることはないだろう。




刑「なーんて、ヘタレたことばっかりなオレも此処に居るわけで」

――だけれどそれは貴方が決めたことなのでしょう?

刑「そりゃそうですよ。きっと彼女は覚えているだろうけれどさ。でも、オレたちは結局そういう存在なわけですから?」

――些か、卑怯であると言えるわね。

刑「辛辣ですなぁ。本当、これでも色々と胸に来るものがあるっていうのに」

――相変わらず、自分を偽るのが得意ね。

刑「……ええ、最後までそうさせて頂きますよ。オレにはそれが似合いなわけですから」

――道化役も大変ね。

刑「ですが、そうしなければきっと報われないんです。 ……この幻想には、そういうやつが一人くらい居ても良いと思いますから」

――そうね。だから貴方は此処にいる。


――幻想に走り給う者よ。この曼荼羅になにを思い描き刻まれる?

刑「人が人として生きれる事を。そして、末永き平穏を勝ち取るまで手を伸ばし続けることを」

 そしてそれをオレが成す。

刑「オレはこの“輝くトラペゾヘドロン”と共に、世界の個として見続ける」

 彼女と作り上げた力でもって、彼女達を守りぬく。
           デウス・エクス・マキナ
刑「我が役割が“人に許された術”なれば」

 そうすることで、これまで辿って来た繰り返しの罪を贖う事になるならば。

刑「この手はいつでも、彼女達の為に」

 伸ばし、願い、オレという全てを捧げよう。
                     チ ク タ ク マ ン
 オレの名前は片山 刑。現代の機械の落し子。

 道化の御手は、人の為に。



 ―逆さ五重の塔―

 その男は笑っていた。

 新たに刻まれた因子を歓迎する様に、笑っていた。

 黄金の輝きを放つ聖槍を手に、同色の瞳と髪を震わせて笑っていた。

 その時が来るまで、私は私の役目を果たそう。

 この者たちを慈しみ、その絆を愛し、走り抜けるさまを見届けよう。

 黄金を持つ男は、槍を振るう。

 複数、円を描くように並べられた石碑。

 今まで刻まれたモノたちが特徴を形として残しているその中で、未だ空席として無色のままの一つが変化していく。

 歯車が噛み合い、コードで装飾されたいるように変化していく。

「幻想に走り給う者よ、汝が名はこの場にて刻まれた」

 これまで以上にはっきりとした声色で。

「その絆、例え如何なる存在ですら断ち切る事能わず」

 しっかりと、その姿、その口で発音し、紡いでいく。

「我は待つ、因子の揃う日を。我は待つ、彼の日を乗り越える為の光を持つ者達を」

 機械的にではない。与えられたからではない。それはその意思で持って、この場で待ち続ける。



                            ジークハイル・ウ゛ィクトーリア
                           「我らに勝利を与え給え」

                    そして、変化した石碑に浮かび上がる名は――





                 其の者、人の為に人であることを選びし者

                          片山 刑

                  今を活きる、現代の機械の落し子也


※刑君アフター終わり

※本編の再開は本日21時頃の予定です。

※消化出来てない小ネタありますが、順次やっていく予定です。一応ショタ化もポチポチ書いてます

※では、本編でまた

※保守させていただきます

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