ウェイター「俺は勇者じゃないんだけども」 女兵士「貴様は勇者だよ」 (494)

いろいろ書いてる。関連性はあったりなかったり。

完結したもの

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多分これで全部

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玉座の間、王は当然玉座に座り、長方形の長い赤絨毯の真ん中に、二人の男女がいる。

男は縄で縛られており、その縄の端を女が握っている。

王「よく来た勇者よ! 貴様に使命を授ける」

ウェイター「いや、無理やり連れきて、何いってんだ」

王「北方の地に、魔王が現れた。貴様には、そやつが何かする前に討伐してもらいたい」

ウェイター「まだ何もしてないんだよね? てかこの兵士さんの方が俺より強いですがな」

王「では勇者の健闘を期待する!」

女、兵士はその言葉に対して敬礼で返し、ウェイターを引きずりながら、玉座の間の出入り口に向かう。

ウェイター「いろいろ納得できるか! てかなんで俺? ちゃんと説明してくれよ。なんなんだよ一体!」

ウェイターは抗議の声に誰も答えることもなく、そのまま扉は閉められた。

王「ふぅ、これで良かったのかのう」

それを見届けた王は、わずかに憂鬱げにそう呟いた。

二人はとある宿の食堂に座っていた。ウェイターにつけられていた縄は、すでに外されている。

ウェイター「しかし、なんで俺が勇者様かね。頼むよあんた、王様になんかの間違いだと言ってくれないか?」

女兵士「私は一兵卒に過ぎない。王へお会いできたのも、貴様を連れていたからに過ぎない」

ウェイター「じゃああんたの隊長さんでいいから、話してくれよ」

女兵士「王直々の御命令だ。私も逆らいようがなく、口出しも出来る立場ではない」

涼しい様子で、女兵士は茶をたしなんでいる。

ウェイター「頭いてぇ、俺はここで給仕と商人の商談の通訳してるような、ただの市民だぜ」

女兵士「さぁ、王の考えなど、私がわかるものではないからな」

ウェイター「てか、あんたのが俺より強いよね? あんたが魔王を討伐すりゃいいのに」

女兵士「同行はするが、魔王を討伐するのはあくまで貴様だ」

ウェイターは頭を掻き、なんとかこの窮地を脱せないものか思案する。

「おう、ウェイター」

ウェイター「あ、商人さん。通訳必要ですか?」

「違う違う、お前これから魔王討伐に行くんだろう? ほれ餞別だ」

そう言いながら、商人が金貨を幾つかウェイターに手渡す間、ウェイターは固まったままだった。

ウェイター「え、なんで知ってるんですか?」

「商人は耳が早いってこった。まぁ、気張ってな」

ウェイター「いや、別にやる気は……、行っちゃったよ」

女兵士「良かったじゃないか、しばらく旅費の心配はないな」
ウェイター「よかないわい、無理やり返せばよかった」

受け取ってしまった以上、その意志ありと言ったことと変わりない。商談に関わる人間として、はっきり行動できなかったことを悔やむ。

「いたいたウェイター、しばらく出かけるんでしょ?」

「お前さんがいんと、商談し辛くなるねぇ」

ウェイター「」

その後も次々と、馴染みの商人達がウェイターに話しかけ、餞別を渡していった。

ウェイター「……、皆のバカ」

女兵士「それは失礼じゃないか?」

ウェイター「ちったぁ考えてくれよぉ、普段武器なんて使わない、給仕なんだよ俺は…」

女兵士「酒はこれ以上呑ませないぞ」

やけ酒に女兵士は付き合う。感情の起伏が薄いせいで淡々としているが、付き合いは悪くないようだ。

ウェイター「呑まなきゃやってられるかよぉ」

女兵士「体に障るぞ」

ウェイター「うるせい、そもそも魔王は強いんだろ。よくは知らんけど俺が相手できるとか、思えねぇよぉ」

女兵士「(よほど嫌と見える)」

女兵士「よくは知らないが、魔王を倒すと異性がやってくるそうだぞ?」

ウェイター「そりゃあ…、男としてそれがいいだろうけどさぁ、別に今はモテる気ないし…、ここで勉強することいろいろあるってのに……、それに…………」

女兵士「それに、どうした」

ウェイター「それに…………………」

女兵士「寝てしまったか」

女兵士は立ち上がり、眠り込んだウェイターを背中に背負う。

女兵士「店主、お代はこいつを運んでからでよいか?」

「いらんよ。俺にとっちゃ息子みてぇなヤツだ。ま、王様の命令だから仕方ねぇが、早めにそいつを帰してくれな」

女兵士「すまない。恩に着る」

そう言って、今日寝込みを襲ったウェイターに割り当てられた部屋に、女兵士は彼を運んだ。

とりあえずここまで


期待している

好きな作者だ!
期待

>>10
期待しても平常運転やで~、でもありがとう


>>11
昔の読んでくれた人か。いつも通りな感じだから、ゆるゆるしていってな

ウェイター「…、行きたくねぇ」

女兵士「行かないというなら、また縄で引きずるしかないがよろしいか?」

ウェイター「よかないわ! 行きゃいんですょ行きゃ」

女兵士「(昨日の件と良い、本当に嫌そうだな)」

渋々道を出るウェイターの後ろに、女兵士がついて歩く。

ウェイター「そんで、どこに向かえばいいんだ?」

女兵士「王が話した通り、魔王は北方の地に居る。とりあえず北上だな」

そう言われてウェイターは疑問に思う。彼が持つ魔王という知識は、おとぎ話で出てくるような、典型的な悪人で、何故か居城がはっきりわかっている。目立った存在ということ。

ウェイター「なぁ、女兵士さん?」

女兵士「どうしたんだ?」

ウェイター「俺の知ってる魔王って、居場所わかってんだけど、そこに向かうの大変だみたいな感じだけど。魔王の居場所知らんの?」

女兵士「あぁ、細かな所在は不明だ」

断定され、ウェイターはあんぐりとする。

ウェイター「待てよ、与太話なレベルで討伐しろっつ~のはおかしくねぇか?」

女兵士「魔王が存在すること自体は事実だ」

きっぱりと女兵士は断定したが、ウェイターは納得はできない。そもそも、無理矢理な命令で旅に出されているのだから。

ウェイター「居場所がわからねぇってことは、実際に目撃されてるかも怪しいだろ!」

女兵士「目撃もされている。貴様の王とて、不確かな情報でこんな命令は与えるわけ無かろう」

女兵士の態度は、ウェイターの苛立ちに拍車をかける。何を言っても無駄になりそうな徒労感を覚え、思い切り小石を蹴飛ばした後、ウェイターは無言で歩を進める。

互いに無言の時間が続く。牧歌的な街道を歩いているはずだが、二人の周囲だけピリッとした熱を帯びている。

女兵士「北方に向かう道は、こちらだな」

確認のためにかけた言葉にも、ウェイターは答えることなく歩き続ける。女兵士も気にするそぶりもなくついていき、次の村までたどり着くまで、半分ほど歩いた所で。

女兵士「休憩にしよう」

ウェイター「……」

そのまま歩こうとしたウェイターを女兵士は止め、近くの木の陰に二人で座る。

女兵士「こいつを渡す」

小麦色の円柱状のものを渡す。コロムという携帯食で、小麦粉をこねてから水分を抜き、焼いたものだ。

腐りづらい、また中指程度の大きさで携帯しやすいこともあり旅に出る者の最低限の食糧として持つ者は多い。

問題があるとすれば、歯が丈夫でなければ食べられないほど固く、水分がほとんどないため、のどが渇く。

女兵士「……」カリッ

ウェイター「……」ボリボリ

一本食べ終えた女兵士は、水筒を取り出し、二口ほど飲んだ後、ウェイターにそのまま手渡した。彼は少し止まった後、同じように軽く水を飲み喉を潤した。

軽くこんなところ

面白い

そんなにたくさん書いてるのに酉つけないの?

>>19
ありがとう

>>20
携帯でも酉はつけれるんかね? まぁ、よくわかってないってだけさな

ウェイターの心の内を除けば、気まぐれに街や村の外に出て、ピクニックでもしているような平和な時間が流れる。

ウェイター「なぁ」

女兵士「どうした?」

ウェイター「魔王を討伐しなかったら、どうなるってんだ?」

魔王、それは暴虐の限りを尽くし、全てを破壊する存在。

実際、過去の歴史でそういうことをしでかした人間が、魔王と呼ばれたことがあるのは事実。

しかし、今回の魔王は何か事を起こしているわけでもない。

女兵士「さてな、私には知りようはない。わかるのは、取り返しがつかない事態が起きるかもしれない、か」

ウェイターはそれにため息で返すしかない。相変わらず肝心なことが、ずっとうやむやなのだから。

女兵士に促され、平和な街道を歩く。時折商隊や、衛兵がすれ違い、危険すら感じない。

ウェイター「なぁ」

女兵士「どうした?」

ウェイター「勇者って、王が選べばそうなるのか?」

彼の勇者の知識は、魔王が暴虐を尽くし、世界が終焉を迎えそうな時に現れる選ばれた存在だ。

数々の困難を乗り越え、魔王を討ち滅ぼす屈強な存在。到底、自分には縁遠いことだとウェイターは思う。

女兵士「すまないが、勇者についてはよく知らないんだ」

ウェイター「あ、そう」

今までに比べると、感情の起伏が感じられる反応で、ウェイターは少しだけ安堵した。

ただ、彼が気になったのは勇者がわからないと言った、その意味だ。多かれ少なかれ、何らかの勇者の話は聞いたりするものだ。

女兵士の振る舞いは、給仕をやっていたウェイターからすると、なかなか高貴な家柄の人間だと見ていた。だから、それなりの教養を持つであろう彼女が、ありきたりな存在にわからないと言ったことが、どこか納得が出来ないものだった。

女兵士「村に着いたな、今日はここに泊まろう」

ウェイター「あぁ」

女兵士「宿がないか、聞いてくる。ここで待て」

きびきびとした動きで、村人へ話しかける女兵士を見て、ウェイターは少しだけ彼女に興味を持った。

とりあえずここまで

楽しみだ

>>26
ありがとう。期待だけはしちゃあかんよ

宿、というにはやや広い一軒家の一部を、旅人に貸し出しているような場所に一泊することになった。

路銀の関係でウェイターと女兵士は同室に泊まる。

ウェイター「いいのか?」

女兵士「何がだ?」

ウェイター「いや、なんでもない」

当然、ウェイターも男女が同じ部屋に泊まる、そのことを気にしてそう話しかけたが、女兵士は気にする素振りがなかった。

幸い室内にはベットが二つあり、ウェイターはわずかに胸を撫で下ろした。

面白い

>>29
ありがとう

この状況になり、ウェイターはある事実に気付く。今自分が異性と一緒に旅へ出ていることに。

すぐ終わるような旅ではない。長らく一緒にいることなる、相棒という存在だと思う相手を、ウェイターはあらためて見る。

鉄の胸当てと鍔付き顔が出る兜を身に付け、武器はショートソードと小型で真ん中に半球体の鉄がついた盾を持っている。

目の前でウェイターを気にすることなく、それらの装備を外した中には、黒を基調にした衣服が現れ、髪は白い頭巾で被われていた。

その頭巾を外すと、まとめられた髪が見え、髪留めを外すとウェーブした銀色の長髪が肩に落ちる。

顔立ちは冷たく映えるが、美しく見える。どこか儚さのような脆さも兼ねた美貌だ。背丈も一般女性から見て高く、体つきは流れるようなスレンダーなものだ。

女兵士「…どうした?」

ウェイター「な、なんでもない」

当然彼も、何人もの美女に接客し、話す機会もたびたびあった。しかし、今回のように二人きりで過ごすというのはなく、意識しないようにしているが、鼓動が少し早まっていく。

女兵士「夕餉も提供してくれるとのことだ。貴様も荷物を降ろして、早く来い」

ウェイター「あ、あぁ、わかった」

少しだけ、女兵士は首を傾げたような動作をした後、何も言わずに部屋を出て行く。

ウェイターも、餞別で貰った剣や革の胸当てなどを外し、貴重品だけ持って女兵士の後を追う。

階下の食堂として使われている広間に、女兵士は出された食事に手を出さず、静かに座っていた。

この村には不釣り合いな美貌は、周囲から浮いていて、どこか孤立しているようにウェイターには見えた。

ウェイター「先に食べていて良かったんだけど」

女兵士「そんな無礼な真似はできない」

キッパリと、当然であるように女兵士に言われ、ウェイターはそれ以上の言葉が出なかった。

ウェイターの分も食事が出された後、静かな食事が始まる。

酒場としても機能しているこの宿は、村人の会合所の役割も果たし、何人かは女兵士をチラリと見ながら酒と会話を楽しみ、喧騒に溢れている。

しかし、ウェイターにはそのうるささはあまり感じられず、むしろ教会の中で食事をとるような静けさに居る気分で、食事の味もあまりわからなかった。

食事が終わった後、女兵士は軽い酒を、ウェイターは茶を嗜んでいた。

女兵士「貴様は呑(や)らないのか」

ウェイター「普段、酒は呑まないんだよ」

女兵士「なるほど」

そこから会話はなく、二人はただ黙ってそれぞれの飲み物を口に運ぶ。

酔っ払いが女兵士を口説きに来ても良いものだが、二人が放つこの場に合わない雰囲気に、尻込みしているのかただ見るだけに留めていた。

女兵士「戻るか?」

ウェイター「そうしよう」

女兵士はわからないが、ウェイターは異質と感じられている空気を、重々に理解していた。

だからこそ、女兵士から言われなければ、自分から戻ることを提案しようと考えているぐらいだった。

部屋に戻っても、当然沈黙は続いていて、ウェイターはやり場のない焦りと言うべきものを感じている。

この静かな空気を変える必要はない、そもそもそれを変えるのであれば、何らかの会話が必要だが、怒りでまともな会話もなくここまできたのに、何を話せばいいというのか。彼は考えあぐねていた。

女兵士「そろそろ夜も深い、明日に備えてもう眠りにつこう」

ウェイター「…わかった」

ランタンの明かりが消され、真っ暗な闇の中でベッドの中に入る衣擦れの音が聞こえる。ウェイターもそれにあわせてベッドに横になる。

目は冴えていたが、とりあえずまぶたを閉じると、普段は聞くことのない他人の寝息が耳をくすぐる。それも、いつの間にか聞こえなくなり、そして意識はそのまま堕ちていった。

とりあえずここまで

翌朝、ウェイターが目を覚ますと女兵士はすでに装備を整えていた。

女兵士「おはよう、よく眠れたか?」

ウェイター「…、いつの間にか寝てたよ」

いろいろ悶々と考えていたはずだが、慣れない旅の疲れがあったのだろうかと、ウェイターは考えた。

女兵士「眠れたのならよかった」

ウェイター「……そうだな」

何がいいのか、と言い出しそうにはなりつつ彼はそれを抑える。もう一日も経過して、決まったことに駄々をこね続けてもどうしようもない。

ウェイターも装備を調えて、二人で階下に降り朝食をとった後、村を出た。

相変わらず平和な街道を歩く。互いに何も話さず、しかも女兵士はウェイターの後ろからついてくる。

ウェイター「なぁ、あんた」

女兵士「なんだ?」

ウェイター「なんで後ろにピッタリついてくるんだ?」

だからその事を、彼は聞いた。護衛であるから、とは思うのだが、そもそも守られなきゃいけない地位でもない。

女兵士「ふむ、私は護衛として付き添っている者だからな、背後は守らなければならん」

ウェイター「俺はそんな大したヤツじゃねーっての。旅の仲間だろ、もっとこう。フランクにいこうぜ」

昨日あそこまでふてくされていたとは思えない態度だが、ある意味諦めの覚悟を決めたのだろう。

女兵士も、その様子をわずかに驚いたようにして。

女兵士「どうした? 何かあったのか?」

と心配そうに聞いてきた。

ウェイター「なんもねぇよ。だって嫌だって引き返しても、あんたは俺を強引に連れてくんだろ?」

女兵士「その通りだ」

ウェイター「だったら、とっと行って帰った方が早いからってだけだ」

ウェイターは北方の地に行って、魔王はいないという情報を集めて、帰ることにした。その方が建設的で、無難だと感じたからだ。

女兵士「それは良いことだな」

何の意味を持って言ったかは、ウェイターにはわからなかったが。

ウェイター「という訳で仲良くやろうや。後はまぁ、昨日は悪かった」

と詫びた。

とりあえずここまで

その後も特に会話はなかった。しかし、ウェイターが仕方ないとしてこの旅を続けることに了承さたことでか、女兵士から彼が逃げだそうとするのを警戒することより、周囲に問題ないかの警戒に切り替わった。

それは結果的に背後からかかるプレッシャーが消え、ウェイターにかかるストレスがなくなり、随分と穏やかな空気に変わっていた。

ウェイター「え~と、次の街には、まだ歩くのか」

ガサガサと地図を取り出し確認し出すウェイターの耳に、わずかだけ何かがはじかれた音がした。

女兵士「伏せろ!」

有無をいわさず女兵士が伸ばした右手は、ウェイターの後頭部を掴み、そのまま顔面を地面にふれさせ、その直後さっきまで彼が居た位置に矢が通り、小さな岩に刺さる。

女兵士「良い腕だな」

ウェイター「※☆!∴#%¢!」

ショートソードを抜き、姿を現した敵に女兵士は突撃し、ウェイターは顔面に受けた衝撃でもだえていた。

何とか痛みが引いてからウェイターが立ち上がると、恐らく彼を射たであろう、野盗らしき男を捕らえてこちらに来るところだった。

女兵士「怪我はないか?」

ウェイター「……もう少し優しくできねぇか?」

顔面に手を押さえながら、ウェイターは文句を言う。

女兵士「だから怪我はないか聞いている」

ウェイター「あんた、思ったよりいい性格してるな。そんで、そいつどうするんよ」

まだ抵抗の素振りを見せる野盗に対して。

女兵士「この先にある街に行きたくないというなら、今ここで首をはねようか?」

と、抑揚はなく、冷めた一言を聞いて大人しくなった。

名前欄に
#の後に好きな文字列
例:#123
みたいな感じで酉は付けれたと思う
間違ってたらスマン

>>51
ありあり。ついでにテスト。

ただまぁ、もってる携帯が前の記録保存されなくて、いちいち酉入れることになるから多分つけない。

パソコンほすぃ

>>50
訂正

×顔面に手を押さえながら、ウェイターは文句を言う。

○顔面を手で押さえながら、ウェイターは文句を言う。

女兵士「終わったぞ」

そのまま街に野盗を連れて行き、町の警備に引き渡す。

ウェイター「しかし、聞いたより寂れてるな」

商人達から聞き伝手で、この街はそれなりに活気がある印象だったが、今ウェイターの目の前に広がる街の様子は暗く沈んでいるように見え、活気はなかった。

女兵士「さっきのはこの辺を荒らしてる野党の一角に過ぎんらしい」

ウェイター「というと?」

女兵士「野盗が暴れ出してから、治安が一気に悪くなったらしくてな。なにせ、追い剥ぎの上、殺しもする。商人や旅人も立ち寄れず、この有様だそうだ」

冷静な女兵士の物言いに、ウェイターは少し苛立ちを覚え。

ウェイター「お前、よく人事みたいに言えるな」

その言葉が無責任なのも、彼はわかってはいた。

女兵士「ふむ、勇者は人助けをするのが当たり前らしいからな。討伐するなら手伝うぞ」

その無責任さが、招くのか。余計な言葉を引きだしてしまう。

ウェイター「…まぁ、そうしたいのも山々だけど、魔王探さなきゃならんし」

だから、無責任な言葉を守るように、適当な理由で断ろうと試みたりもする。

女兵士「魔王も気長に来るのを待つだろう。ではクエストとして張り紙もあったから、申請してくる」

ウェイター「ちょ、ま――!」

制止も虚しく、女兵士は詰め所兼クエスト斡旋所に入り扉を閉めた。

やってしまった、それが彼の思いであり、何とか出来ないか考えを巡らせる。しかし、そもそも自分より上の技量の持ち主に逆らえるわけもなく。

女兵士「待たせた、これが討伐隊を証明する証だ」

そう言って、菱形に数字が入ったアクセサリーのようなものを手渡してきた。

ウェイター「…はぁ、頑張るか」

女兵士「?」

彼女からすると、なぜ彼が暗くなっているのかわからず、わずかに首を傾げていた。

とりあえずここまで


ウェイター…バカスwwwwww

>>58
口は災いの元である

そのままの足で、野党騒ぎが多い街道を二人は歩いている。

女兵士「そんな固くなっては、いざという時に動けないぞ」

ウェイター「俺はあんたと違って、実践の経験はそんなないんだよ」

彼自身、武器を普段持つわけではないが、街中での商人の護衛を請け負うことはある。もちろん、それは治安のいい街中の話であって、危険な場所で戦闘をするために歩くことがあるわけではない。

女兵士「だが、それなりに武を学んだ立ち回りをしていると見受けられるが?」

ウェイター「…、それこそ気のせいだ」

暗く沈む顔、あまり触れて欲しくはないような、そんな雰囲気。女兵士も、どこか聞くことがはばかれるようなものを感じて、それ以上のことは追求しない。

もうまもなく、陽が沈もうとしていた。あたりは薄暗くなり、視界も悪くなっていく。

聞こえてきたのは馬のいななきだった。それにわずかに遅れて人の叫ぶ声も聞こえてくる。

女兵士「行くぞ!」

先に飛び出した女兵士の後ろにつく形で、ウェイターも走り出す。この先で何か、おそらく襲撃されていることは想像するに容易い。彼は、そこにたどり着いたところで、何ができるのか、戦えるのか、いろいろ考えをめぐらせ、目の前のことに集中できていなかった。

数分後には横転して倒れた馬車と、何かを運び出す人影が見えた。女兵士は有無を言わさず、その人影のどてっぱらにショートソードを突き刺し、蹴りつける。誰も来ないだろうと油断していたそれらは、あわてたような獲物を構えなおそうとする間に、彼女は切り払っていく。

瞬く間に仲間が数人殺され、武器を構えたものの、残党の二人は引きつった声を上げてしまう。力量の差があまりにもはっきりしていることを見せ付けられたからだ。

ウェイターは何もできず立ち尽くしていた。剣は抜いているが、傍観者のように成り行きを見守ることしかできないでいる。仕方のないことでもある、本当の意味で殺し合いを目の当たりにしたのは、これが初めてなのだから。

結果としてウェイターは何もできないまま、骸が並ぶその場所を、ただ見つめていた。現実感のない、安全な街で生活する人間らしい反応。女兵士は何も言わずに、生存者がいないかを確認して、首を横に振る。

女兵士「本当に皆殺しだな」

ウェイター「そう、か」

その言葉にすらどこか現実味を感じられないで、ウェイターはいる。確かに彼は、この魔王討伐のことを甘く考えていたのは事実だ。それだけに、まざまざと見せられた、今後迎えるかもしれない戦いを、ただ否定したかった。

ウェイター「……」

何か言葉をかけようと思うが、言葉は出ない。近寄る女兵士のショートソードにこびりついた血糊が、ますます恐怖感を増していくのを感じてしまって。

女兵士「報告に向かわねばならん、行くぞ」

だから、その言葉に静かに従うほか、できなかった。

いったんここまで

>>64-65

ウェイターは、宿に戻りさっきまでのことを考えていた。

外に旅をするということは、こういった危険に直面することは避けられない。その時、自分にそれが出来るのか、自問自答する。

彼の頭によぎるのは、あの日、あの時、自身が――。

扉が開けられ、思考が途絶える。彼がそこに視線を向けるといつも通り、と言った様子の女兵士がそこに立っていた。

女兵士「遅くなってすまない。私達も族ではないか、疑われてしまってな」

ゆっくりと首を振り、そのままの格好でベッドに女兵士は腰掛けた。

女兵士「震えはまだ収まらないようだな?」

ウェイター「……、そうだな」

隠したところで気付かれる。そう思った彼は素直に認めた。何より、あの戦いの場で何もできず見守っていただけの自分を、彼女が気付いていない訳がない。

しかし、彼女はそれを責める様子もなく、静かに彼を見つめていた。

ウェイター「わかったろ、俺は勇者なんかじゃないってことがさ」

女兵士「貴様は勇者だよ」

どこか頑なにも感じられるほど、女兵士はウェイターを勇者と言い張る。

ウェイター「……」

彼女が理知的であることは、このわずかな間でウェイターも十分にわかることだ。しかし、その彼女が明らかにその素養を持たないから人間に対して、勇者であると言い切るのかわからない。

それに、曖昧なままになっている魔王についても同様だ。何かしているわけでもない、しかも居場所も分からない。そんな存在を居ると断定している

ウェイターは、自分が具体的な情報を聞かされてないだけかも知れない、とは思うものの、それならなぜその情報が提示されないのか、その事も疑問だった。

頭の中に浮かぶのは、何らかの陰謀めいたそれだが、だからといって、幾つかの言葉が話せるそれぐらいしかメリットのない自分が巻き込まれるようなものは何か、彼は浮かばなかった。

ウェイター「そう言えば」

女兵士「なんだ?」

ウェイター「なんで最初のヤツは捕まえて、今回は、その、全員殺したんだ?」

いろいろ考えているうちに、ふと頭によぎった疑問を、あまり整理しないまま、ウェイターは聞いた。

女兵士「野盗の情報なら、一人で十分だろう」

ウェイター「そうか」

不思議なことかという様子を出されてしまい、彼はそこから会話を続けることができなかった。

ただ、その言葉に嘘はなさそうだと、感じられただけ、彼は良いことにした。

とりあえずここまで

>>69
訂正

×彼女が理知的であることは、このわずかな間でウェイターも十分にわかることだ。しかし、その彼女が明らかにその素養を持たないから人間に対して、勇者であると言い切るのかわからない。

○彼女が理知的であることは、このわずかな間でウェイターも十分にわかることだ。しかし、その彼女が明らかにその素養を持たない人間に対して、勇者であると言い切るのかわからない。

翌朝、けだるい気分で目を覚ますと、ウェイターは女兵士がいないことに気付いた。そして、何より目が覚めた理由。

ウェイター「(外が騒がしいな)」

何かが起きているようだった。聞こえる感じからして戦いなどではないだろうが、気になった彼は急いで着替えて、宿の外にでると人集りが出来ていた。周りの人々は、何かを見るために集まっている様子だ。

ウェイター「何かあったんですか?」

「おう、野盗共がいなくなったってとこだ」

え、と言葉がウェイターから漏れた。

慌ててウェイターが人集りに入っていくと、そこの中央に女兵士が警備に状況を説明しているところだった。

何よりウェイターが驚かされたのは、捕らえてきた賊の姿だ。誰一人として、怪我を負っていない者がいない。今後の調査のためか、簡単な治療は施されているものの、うめき声がもれ、戦場にいるかのようだ。

説明し終えたであろう女兵士が、ウェイターの姿に気がついて近付いてくる。怪我をした様子もなく返り血も浴びていない。

いつも通り、冷ややかな無表情を、顔に張り付かせている。

女兵士「ここでの野盗騒ぎは解決した」

業務内容を報告するような、淡々として話しぶりだ。それが、ウェイターの癪に触る。

ウェイター「お前、別に斬りつけて負傷させなくても、全員倒せただろ」

女兵士「私は自分の力を過信していない」

それだけ言って、ウェイターの横を通り、女兵士は宿へと戻っていく。彼はそれを見送ることしか出来ない。

ウェイター「……、ソリはあわねぇって、ことかな」

そして、ボヤく言葉に、彼は首を横に振った。

今日はここまで

だが、結局そう思うなら自分が強くなって、対処すればいいことではある。

ウェイターは、静かに腰に付けた剣へ目を向けて、首を振る。

ウェイター「(俺には…、無理だ)」

剣を使って殺し合いをする、その事に彼は強く抵抗感があった。

女兵士「少し休憩しよう」

ウェイターはその言葉に頷き、手頃な岩に腰掛けた。

優しい風が流れ、長時間の歩いたことでたまった疲労が癒されていく。

しかし、心の中に渦巻く感情をその風が解消してくれることはなかった。

期待

>>88
期待、ダメ、絶対

まぁのんびりとね

ウェイター「なんでもない」

気遣いは嬉しかったが、例の野盗の件や心に渦巻く葛藤が会話を続けさせる気を失わせていた。

女兵士「そうは見えない」

だというのに、無神経に懐に入ってこようとする女兵士に、苛立ちを覚え。

ウェイター「だからなんでもないって言ってるだろ」

やや語気を強めにそう言ってしまい、女兵士が間を置いて、そうかと呟いた声が、彼の耳に、イヤに残ってしまう。

ウェイター「(何してんだ、俺は…)」

その心のつぶやきでさえ、誰も答えてくれそうにはなかった。

次の街にたどり着く。比較的大きく、ウェイターがいた城下町を一回り小さくしたような、そんな規模だ。

部屋の清掃、ベッドメイクにいたるまで、この辺で少し安い(とはいえそこらの街や村よりは値が張る)宿にしても、ウェイターの目から見て、合格点を出せる基準だ。

女兵士「……一つ」
呟くように、短い言葉をかけてきたが、意図が分からず。

ウェイター「何が?」

と彼は聞き返した。

女兵士「聞きたいのだが、店や宿に入ると、隅々まで見るのは癖か?」

ウェイター「まぁ、店に勤める者としての、癖みたいなもんかな」

こんな事がなければ、ウェイターを通して商売と言葉を学び、金を貯めて独り立ちのために、頑張る日々を送っていただろう。

だから、必然的に店の内装、サービスや品物、教育水準、そういったものに彼の目がいく。

女兵士「そうか、私にはよくわからないからな。前の宿に比べれば、清潔というぐらいだ」

ウェイター「まずはベッドメイクだな。シワ無くは当然にして、左右がちゃんと均等な長さで収まってるとか、まぁ、そういう細かいところを見るのさ」

そう説明すると、女兵士は感心したようにして。

女兵士「そうなのだな」

と言ってほんのわずかに笑った。

それを見たウェイターはどぎまぎして言葉が出ず、少し外に出るという言葉をなんとか絞り出し、宿にある酒場に向かう。

ウェイター「(…美人だよな、やっぱり)」

その笑った顔を思い出し、彼はそう感じていた。

いったんここまで

ウェイターは軽めの酒を呑みつつ、店主のオススメのつまみをつつく。呑みついでに、その店が何を推しているかを確かめることで、どういう方針でやっているかを軽く探る、いつもの週間だ。

ウェイター「旨いな、ここらでよく採れるのかい?」

「そうだ、ここいらで採れる豆でな。良い匂いと甘味だろ」

ウェイター「あぁ、コレは酒が進む、おかわり」

あいよと言って、店主はそのまま空いたグラスに呑んでいた酒を注ぎ込んで渡す。それをウェイターは、グラス半分ほど一気に煽り呑んだ。

>>95
×週間

○習慣


誤字も習慣

ウェイター「……(やっぱりいいな、この雰囲気)」

人々が思い思いの語り、笑う。商売をするなら、こういう場を設けてみたいなとも彼は考えている。

とはいえ、飲食や宿は人員が必要だ。今働いている宿で、新しい店を任せられれば別だろうが、やはり独立して一人からやっていきたいウェイターからすれば、そこまでいけるようになるのは先のことだなと考えた。

それに、最初は雑貨商から始めるのも悪くない、彼はそう感じている。

とりあえずここまで

これしか書いてないのに誤字が多過ぎやねんなぁ

お疲れ様です


誤字(誤変換)はネットの宿命だから気にすんなww

>>100
ありがとう

>>101
まぁそうなんだけどね。

一応書き手としては、あんまりやらかしちゃいけないっていう意識(だけ)はなくちゃならないからね

「酒はあまり呑まないのではなかったか?」

背後から話しかけられ、振り返ると装備を外した女兵士の姿があった。

ウェイター「毎日じゃないというだけさ」

女兵士「食事をとらず、先に酒をたしなむのは身体に良くないぞ」

どこか不機嫌そうな話し方に、ウェイターは感じられた。具体的にそうだというわけではないが、言い換えるなら違和感というべきかもしれない。

ウェイター「酒だけやりたい日もある」

ただ、勘違いかもしれないそれを、彼が口に出すことはなかった。

女兵士「……、そうか。店主、何か食事になるものを頼む」

その答えに対して、無表情にも関わらず、どこかあきれた様子をウェイターは感じ取る。

短い間だが、一緒に旅をしている内に、少しだけ感情を読みとれるようになったのかもしれないなと、彼は考えた。

女兵士が食事をとる間、ウェイターは隣で酒をチビチビやりながら、店の様子を観察する。

女兵士「店主、少しきつめ酒を頼む」

そして彼女も食事が終わると、そのまま酒を頼んだ。

店主が持ってきた酒を、女兵士も淡々と呑む。相変わらず、二人の間に流れるのは時間を止めるような、沈黙。

それがこの宿でのこの喧噪を止める事はなかったが、それでも客の何人かは二人に目をやっている。

それを察したウェイターは、お代を出して去ろうとした時だ。

「ねぇちゃん、そんな辛気臭い顔どうしたの」

声の主に目をやると、わかりやすい遊び人といった風貌の男がいた。

女兵士「何も」

無表情で話を断ち切るように、それだけ彼女は言ったものの、男も酒が入っているからか引く様子はない。

「お~つれないねぇ。ねぇちゃんを楽しいところに連れてこうってのに」

女兵士「娯楽には興味はない」

何者も寄せ付けない空気を、いつもより彼女は纏い始める。

ウェイターに接している時に、その空気がないわけではないが、それでも心配した様子などが表にでていた。

だから、彼は彼女は男を完全に拒否していることに気づいた。

ウェイター「悪いが彼女は俺の連れでね。話し相手が欲しいならヨソで頼む」

「あぁ? 引っ込んでろよ」

男はウェイターを押し退けるように右手を出し、それを払ったのは女兵士だった。

女兵士「聞いた通りだ、こちらに貴様へ用はない」

無表情には変わりはない、しかし、ハッキリとした拒絶の意思を示す。

「ケッ、んだよ」

本能的にこれ以上はマズいと察したのか、捨て台詞を吐いて男は店の中に消えていく。

ウェイター「……、店主、俺とこの人の勘定を頼む」

店主「あいよ」

示された代金を払い終えた後。

ウェイター「戻るか」

女兵士「わかった」

二人は部屋に戻ることにした。

>>112
マダー?

>>113
時間は戻ったけど、体調崩した。

また一眠りして戻ったら書こうかと

部屋に戻り、二人は何も話さずに過ごしていた。

先ほどの件もあり、どこかズレた感覚を覚えるものの、最近ウェイターは慣れてきたこの状況に、どこか穏やかさすら感じ始めていた。

女兵士「すまなかった」

だから、彼女が謝ったのが、よくはわからないでいた。

ウェイター「なんでお前が謝るんだ?」

女兵士「このような容姿だからな、変に目立ってしまう」

自分を否定するように笑う彼女が、ウェイターには儚く見えた。

ウェイター「嫌いなのか?」

女兵士「そういう訳ではない。しかし、通常よりもたちが悪いのが寄ってくるのは事実だ」

この旅の間で、最も人間らしい反応に、ウェイターは気づかぬ間に胸をなで下ろしていた。

それと同時に、女兵士に対しての興味も頭をもたげていた。

ウェイター「飄々としてるから、気にしてないのかと思ったよ」

女兵士「そうでもない。人目を引くからあまり人混みも好きではないしな」

彼女はこんな会話ができる。そのことを理解したウェイターは、喜びを感じ始めていた。

ウェイター「なんだ、思ったより人間味があるじゃないか」
そう言われて、女兵士は不思議そうな顔をした後。

女兵士「そうなのか?」

ウェイター「あ~、あれだ、俺がそう思ってたってだけさ」
普段の振る舞いが、少しずれてる。彼女がそれに気づいていない態度に、ウェイターは言葉を濁した。

ウェイター「なんかいろいろ話そうぜ、俺はあんたのことよく知らないしさ」

そう言われて、女兵士は顔を、人差し指で軽くかいた。

女兵士「語るほどでもない、ただの一兵卒だよ」

そういった後、少しだけ俯いたようにウェイターは見えた。

ウェイター「そんなヤツが、仮とはいえ勇者の護衛に任命される訳ないだろ?」

女兵士「……、そうだな、別に嘘をついている訳じゃない。ただの一兵卒と私が思ってるのは、間違いないんだ」

あまり、触れて欲しくはない様子が、ウェイターの好奇心をかき立てていく。

ウェイター「というと?」

女兵士「……、周りの期待が勝手に膨らんでいく。それに応え続けることは、あまり気分的にいいことじゃない」

おつかれさま!

>>121
うん、ありがとう

それを聞いて、ウェイターは考えるような仕草をしたのを見て。

女兵士「どうした?」

と聞いた。それに、彼は首を左右に振りながら。

ウェイター「俺と真逆だな、と思っただよ」

女兵士「逆とは、どういうことだ?」

ウェイター「兄弟が居て、そっちのが優秀で、俺は放っておかれたってだけさ」

その事を気にする様子もなく、ただ、当たり前のようにウェイターが話す。

女兵士「寂しくはなかったのか?」

ウェイター「寂しいというか。末っ子で、道騎士の位を貰えるわけでもなし、期待されるわけもないから気楽だったな」


道騎士って何?

>>124
oh...

ただのミスです。というわけで>>123修正

×ウェイター「寂しいというか。末っ子で、道騎士の位を貰えるわけでもなし、期待されるわけもないから気楽だったな」

○ウェイター「寂しいというか。末っ子で、どの道騎士の位を貰えるわけでもなし、期待されるわけもないから気楽だったな」

女兵士「私が家系で残された唯一の子だからだよ」

微笑む表情は美しかった。しかし、それが無理にしているものだとウェイターは気づき、少しバツが悪くなる。

ウェイター「まぁ、とりあえずなんだ。お互い家には苦労してるって事でいいな」

だから思わずそう言ってその話題を終わらせることにした。もちろん、自分自身もあまりそのことを語りたくはない、という気持ちもある。

女兵士「……、そうだな」

ウェイター「そうそう、前々から気にしてたことがあるんだけどさ」

女兵士「なんだ?」

言い出すべきか、少し抵抗はあって、言葉にするのが少し遅れてから。

ウェイター「一応、男と女が同じ部屋に泊まるってのはどうなんだ?」

女兵士「? それのどこに問題があるんだ」

ウェイター「あー…、そういうならいいんだ」

目の前で装備を外したりしていたので、彼も薄々はそんな予感はしていた。そういうことなら、自分自身が気にしなければいいなと、言い聞かせることにした。

そんな会話のやり取りをして眠りにつき、翌朝を迎える。ウェイターが起きると、すでに女兵士の姿はなかった。朝早く起き、出かける際の準備は彼女が一通りしている。今日もいろいろ情報を集めているのだろう。

ウェイター「(そこそこ旅慣れてるよな)」

兵士というのは、基本的に街の見回りや城の警護といった仕事のイメージがあり、彼はあまり城外を出歩くものではないと思っていた。もしかすると、兵士という肩書きだが王族に目をかけられて、遠征といった危険性を伴う仕事もこなしている。あの野盗の戦い方を思うに、優秀であるのは間違いないのだから。

そう考えながら、着替えて部屋の外に出て朝食を食べに昨夜の酒場になっているところに向かう。階下に降りると、朝方だというのにそこそこ人が入っている。なかなかの人気店なのかもしれない。

ウェイター「飯になるものを頼む」

店主にそう言って、食事を頼み、出された食事を黙々と食べる。周りは夜までとはいかないまでも、なかなかの喧騒だ。視線だけで周りを見ると、冒険者風な一団も見られ、これからどこかに出かけるのだろう。

そんなことを考えながら食事を進めていると、店の中に入ってくる女兵士の姿が見えた。ウェイターに気づき、こちらに近づいてくる。

女兵士「それを食べたら出るぞ」

ウェイター「急かさないでくれよ」

なんとなく、こんな軽いやり取りができるようになったことを、ウェイターは心のどこかで喜んでいた。

女兵士「急かしはしないさ。店主、何か飲み物を。酒でないものがいい」

そう注文してウェイターの横に座る。不思議な沈黙の雰囲気はなくなり、店内にも違和感なく二人は過ごす。

ウェイターも確かに、一方的に勇者として旅に出され、その苛立ちが今まであった。それにどうしていいか、女兵士もわからずいたことが、その雰囲気を出していた原因かもしれないなと、彼は思った。

ウェイター「うっし、腹膨れた」

女兵士「そうか。ではいこう」

女兵士はウェイターが食事を終わったのを見て、半分ほど残った果実のジュースを一気にあおり飲んだ。その後、二人は身支度を済ませて宿を出、来たの地にまた歩を進める。

とりあえずここまで。そろそろ物語的なものが動けばいいけどねー。

牧歌的な景色は続くが、段々と暖かさから涼しさに変わっている。北の地に近付いている証明だろう。

ウェイター「素朴な疑問だけどさ」

女兵士「なんだ?」

ウェイター「北のどっかにいるのはいいとして、なんかここら辺で目撃されたとかはないのか?」

当然の疑問をウェイターは口にする。北の地方にいるとした魔王が、目撃はされているのであれば、その場所はわかっているはずだ。

女兵士「あぁ、魔王が目撃された街に向かってる。それは安心してくれ」

ウェイター「了解」

今までで、一番良い返答だっただけに、彼はそのまま返事をした。

街道をしばらく歩き、日が沈みかけた頃に次の村に着く。

早速二人は宿を探し、ボロボロだが寝泊まりは出来る場所を見つけ骨を休めていた。

ウェイター「そういえば、お前はここの噂を聞いたか?」

女兵士「生贄の話か?」

ウェイターはそうだと言って頷く。詳細は不明だが、どうやらその手の風習が残る地域のようで、祀る神が供物を希望する兆候があれば、人身御供として生贄を捧げているようだ。

女兵士「気分は良くない話ではある」

ウェイター「問題は、その生贄の代わりを俺達に狙わないかってことだけどな」

女兵士「過去の風習だろう? なぜそんな心配を?」

ウェイター「そうなんだが…、妙に気になったんだよ」

言わば違和感のようなものを、ウェイターは感じていた。それが今でも続いてるような、そんな感じを。

女兵士「勘か?」

ウェイター「かもな」

言葉にするのははばかれるような、一種の違和感が、ウェイターに取り巻き離れない。だから、そんな噂を話題にしてしまったのだ。

女兵士「少し調べてみるか。お前はここにいるといい」

ウェイター「あ、おい……、行っちまったよ」

その様子でそれが気になった女兵士は、制止も聞かず部屋を出ていった。

彼が悩んでいる間に、日が暮れてしまい、そんな噂のせいで外に出るのも躊躇してしまうような状況になってしまった。

ウェイター「……まぁ、とりあえず飯がないか聞きにいかないとな」

恐る恐るではあるが、扉を開けて部屋を出て、宿の中を歩く。建付けの悪い床がぎしぎしといい、嫌な気分に拍車をかけながら、見かけた宿の人間に歩み寄り、声をかける。

ウェイター「何か食事はできないのか?」

「ここんとこ、ここらも不作でな。素泊まりの提供はしてるが、飯はねえんだ」

ウェイター「そうか…、連れはどこにいったか知らないか?」

「さぁ…、外に出て行ったのは見たが戻ってないね。見るものもないこの村に何を探しにいったんだか…」

普段の宿の人間と様子は変わらないはずなのに、ランタンで照らされるその姿が、気味が悪くウェイターの目には映る。軽く礼だけを言って、彼は部屋に戻った。

いたたまれず、眠れないウェイターが過ごしている部屋が、夜も更けた頃にノックされ、彼は全身飛ばして驚く。そして、ゆっくりと扉が開けられると、少し疲れた様子の女兵士が入ってきて、二人の視線が一致した。

女兵士「なんだ、起きていたのか」

ウェイター「あ、あんまりにも、お前が戻らないからな」

ウェイターのうわずった声を聞き、女兵士は静かに笑いながら。

女兵士「怖くて眠れなかったか?」

ウェイター「……悪ぃかよ」

女兵士は悪くはないなといいながら扉を閉めて中に入る。その後は、装備をはずしてから、質はあまり良くないベッドに腰掛けた。

女兵士「安心しろ、調べてきたがかなり昔の古い話だった」

ウェイター「それならよかったんだが…」

そう聞いて彼はそう返したが、どこか信じられないという様子を出す。それを見たからか。

女兵士「ただ、質の悪い村人が、旅人を怖がらせるためにその話をして、客足を遠のかせると宿の主人は愚痴ってたぞ」

と更に説明した。

ウェイター「いや、気にするな。ただ、どうにも気になっただけだからさ」

納得、というほどではなかったが、ウェイターはそれでいいことにした。

その後、二人は少し遅く眠りについた後。しばらくして女兵士はゆっくりと目を覚ました。

女兵士「まぁ、頃合だろうとは思っていた」

そんな言葉を呟いて、すばやく起きて装備を整えて部屋を出る。ぎしぎしという床の音を聞きながら、宿の玄関口を壁越しで覗くと、玄関そばで入ってくる際にいた宿の主人が、外に向かって誰かを手招きしていた。そしてその後すぐに、武装した村人達が何人か中に入る。

「で、寝たか?」

「おう、間違いねぇ。男は殺して、女は上玉だから奴隷で売り飛ばす」

女兵士はその言葉を聞いて、表情は変えなかった。外に出ている間に、気配を消して村人達の様子を伺っていて、この村がやってきた村人の金品を奪い、殺していることを知ったからだ。

女兵士「(あいつは勘がいいな。良い勇者になれる)」

結局自分の言葉を信じて眠りについたが、村の異様な雰囲気などを感じ取り、警戒できるということは、そういう機微を感じ取れる人間ということだ。戦いにおいて、その感性は普通には持ち得ない特殊なものだ。

女兵士「(いくか)」

一挙に飛び出した女兵士は、気取られる前に店主を人たちできりつけ、返す刃で反対にいた村人の喉下を貫いた。

「なぁ!?」

女兵士「残りは4人か、せめてもの情けだ。苦しませはしない」

そういって残った村人が絶命するのに、1分はかからなかった。

女兵士「起きろ」

ウェイター「んあ?」

そのまま急ぎ、ウェイターを起こすために女兵士は引き返す。寝ぼけたウェイターが何の騒ぎだという様子で、目をこすりながら起きる。

女兵士「生贄はないんだが、ここは旅人を殺して金品を奪う村のようだ。準備しろ」

ウェイター「え? 何言って…」

女兵士の真剣な眼差しを見て、ウェイターは緊急事態を察して、急いで装備を整えた。

ウェイター「何で言ってくれねぇんだよ」

女兵士「お前は嘘が下手なようだからな」

さらりと当たり前のように言われ、ウェイターはそんなに顔に出るのかと思いながら、女兵士の後ろについていく。

女兵士「……気取られたか、走り抜けるぞ」

ウェイター「おう、逃げるのは得意だ」

女兵士が指で逃げるタイミングを合図し、それと同時に二人は村の中を駆け出した。

二人の姿を見た村人が、声を上げ逃走を知らせる。ここはすでに善良な民が住まう場所ではなく、殺人にまで手を染める盗賊集団。そこいらの賊より、質が悪い。

ウェイター「ち、村全体がかよ」

女兵士「そのようだ」

次々と民家から人が出てくる。逃げる二人を逃しては、この村がこの行為をしていることがばれ、どんな事態が起きるかは、彼らもわかっているからだ。

女兵士「どけ!」

退路を断つようにいた男を切り捨てる。一瞬、ウェイターは手で口を抑えたが、足はしっかり女兵士についていく。

女兵士「息は保つか?」

ウェイター「は、は、肉体労働なめんな」

とはいえ、徐々に顎があがり始めている。そろそろウェイターの限界が近付いているのは間違いない。そう考えていた女兵士の視界に、手頃そうな木々が見えた。

女兵士「あの中に入るぞ」

ウェイター「ばっか、こんな近くの森、村の奴らには庭だろ!」

女兵士「慣れた場所というのが、すでに隙だ」

女兵士は有無をいわさず、ウェイターの手をつかみ、そのまま森の中に入っていく。

「はぁはぁ…はは、奴ら森の中に逃げたぞ」

「男はいいが、女は油断するな。もう5人やられてんだぞ」

「あぁ、たっぷり借りを返してもらわねぇと」

追いついてきた村人達も、そういいながら森の中に入っていく。

暗い森は静かで、そして不気味だ。追われている今でさえ、何か得体のしれないものが存在しているのではないか、そんな空想を頭の片隅でウェイターは考えていた。

ウェイター「どうすんだよ」

いくら村人が慣れている森の中とはいえ、奇襲を避けるためか、一気には近づいてこない。呼吸を整える時間ができ、ようやっと二人は止まった。

女兵士「すでに手は打ってある」

ウェイター「どういう意味だ?」

女兵士「……、結界(エリア)内に入ったな」

そういうと、女兵士は淡く青白い光を全身から発せられる。それは、物語などでしか見ることがなかった。

ウェイター「…魔法」

そう、魔法を発動する際の術者の姿に他ならなかった。

そして、背後からいきなり明かりと、そして悲鳴が聞こえた。ウェイターが振り返ると、そこにはさっきまでなかった炎の海が存在していた。

「あづい、あづいーーー!」

「きぉあああぁああいいい!」

避ける間もなく自身を覆った炎は、皮膚、そして肉を燃やしていく。まるで今までしてきた所業に対して、天がそれに見合う罰を与えたかのような、阿鼻叫喚の絵図。

ウェイター「うぐ…」

目を背ける。さっきまで自分を追いかけ、そして殺そうとした相手だというのは重々承知しているが、それでも同情のような心が沸いてくる。

何より、目を背けたところで聞こえるその声が、焼き付いた光景がより鮮明になるような心地。

女兵士「いくぞ、ここも火の海になる」

その様子を見たからか、手をつかみ引っ張る女兵士のその手が、ウェイターにはやけに冷たいものに感じられていた。

暗い森の中をいくらの時間走り続けたのか、二人がわからなくなる頃、開けた場所にでると、そこは湖が湛えていた。

女兵士「ふぅ……、ここまではこない。朝まで休むとしよう」

ウェイター「ひぃ、へぇ、はぁ、はぁ、は」

ここまで長時間の運動をする機会がなかったウェイターは、息を切らしながら地面の上に転がり、女兵士も、近くの木の根に腰を下ろした。

ウェイターの荒々しい呼吸音だけが聞こえ、それ以外は静かだ。あんな苦痛に満ちた声を聞いたせいか、その静寂がウェイターの耳についた。

それと同時に、女兵士が魔法を使ったことも、ずっと気になっていた。

魔法はその名のとおり、魔族が自然に干渉する方法であり、人間には使えない。つまり、それを使えるということは。

ウェイター「(魔族…って、ことだよな)」

だとすると、更に疑問がわくのは、物語では魔族はいわば魔王の配下とされてきた。その配下の一族が、真偽はさておいて、魔王討伐に参加しているのかということだ。

ウェイター「(…むしろ、魔王討伐には積極的な態度だけど)」

止める様子はなく、むしろ積極的に魔王討伐に乗り気というか、任務としてやっている印象を受けていた。それでふと思い出したのは、魔族の中にも魔王のやり方についていけず、人間側に組した存在がいたことを思い出し。

ウェイター「(もしかして、彼女はその末裔…、てか、あれは本当の話だったのか?)」

御伽噺として伝えられているそれが、女兵士という存在を通して、妙な現実感をウェイターに覚えさせた。

お互いの呼吸が整い、静かな夜の森が戻る。無音が耳につき、ウェイターはさっきの考えが頭から離れないでいた。

女兵士「驚いたろう」

それを察したからか、いつも通り話そうとするような、そんな声で話しかけてきた。

ウェイター「そりゃあ、な」

だからウェイターもそれに合わせて、いつも通り受け答えようとして、以前のぎくしゃく感覚が戻ってきた。

女兵士「騙すつもりとか、そういうことではなかったんだが、話すタイミングがなくてな」

ウェイターの顔を見ることが出来なかったからか、上を向き白んできた夜空に視線を女兵士は向けた。

ウェイター「とりあえず、ビックリはした。でもま、それで助かったわけだしさ」

それは事実。しかし、だからこそ問題とも言えた。

お伽話と割り切っていた今回の任務。しかし、目の前でそれに関わるもの、魔法を見せつけられた。ウェイターにとって、それは魔王の存在を証明する一つになってしまう。

ウェイター「(…そして、あの凶悪さだ)」

ならず者で、訓練もなく奇襲での攻撃であった。しかし、それでも瞬く間に十数人を火だるまにできる凶悪さ。

女兵士「……怖いか?」

ウェイター「……怖いさ」

嘘はつけなかった。女兵士の寂しげな目が、それをウェイターにさせることはできなかった。だから。

ウェイター「でも、お前はお前だから」

精一杯、彼なりに思いつく言葉を、女兵士にかけた。

女兵士「ふふ、お前は変わっているな」

その笑みと言葉が、ウェイターには強がるような、繕うような態度にしか見えなかった。

ウェイター「無理すんな。それでいろいろあったんだろ」

その言葉に、ピクリと女兵士は反応する。

ウェイター「お前は、敵じゃない。だろ」

女兵士「あぁ……」

ウェイター「ならそれで問題ないだろ」

彼には、女兵士だけだったなら、苦もなく奴らを倒したことに確信があった。

だから、それで彼女が辛い顔をすることが嫌で仕方なかった。

二人が簡単に仮眠をとり、森の中をさまよい歩いていた。緊急的に逃げ込んだとは言え、地理もない森の中は、天然の迷宮のようなものだ。

女兵士「さっきつけた印だな。やれやれ、グルグル回っているか」

女兵士にも疲れが見え、億劫そうな態度が見え隠れする。

ウェイター「いったんあの湖に戻って、ちゃんと休もうぜ」

女兵士「村の残党があの場所を知ってるとも限らない。危険を承知で、森の中を移動した方がいい」

そういって聞かず、奥へ奥へと女兵士は進もうとする。

ウェイター「待てよ、少し落ち着けってば」

女兵士「私は冷静だ」

制止するためにウェイターは女兵士の腕をつかむが、払われてしまう。

ウェイター「間違っても冷静じゃねぇよ」

ウェイターは今度はガシッと両腕をつかみ、女兵士を倒木の上に座らせた。

ウェイター「少し休め、俺でも見張りぐらいできる」

女兵士「勝手なことを…」

そう女兵士は言うものの、疲れがあるからか立ち上がろうとはしなかった。それを見て、ウェイターは近くの木に寄りかかり、周囲の見張りを始めた。

しばらく経ってから、女兵士が立ち上がり。

女兵士「もう行くぞ」

ウェイター「わかった」

女兵士の疲労が少しは抜けたのを見て、ウェイターも素直に彼女について行く。

森の中は相変わらず鬱蒼と茂る。先ほど無理やり休憩を入れたとはいえ、元々の鍛えが違う二人では、すぐに疲労が来るのは。

ウェイター「(くそ、足が重い)」

女兵士「……休むぞ」

ウェイター「悪(わり)ぃ」

その言葉に今度はウェイターが倒木に座り、女兵士が見張りを始めた。

こんな更新ペースになるならかけもちしなけりゃいいのに
ていうかしないでくれ

乙!

>>171-172
まぁ、明らかに遅くなったのは認めざる得ない。

言い訳はそれなりにあるんだけどね。最近一時間以上の残業ザラとかパソコンないとか。

後は、ほか書いてる最中に関係ないネタが浮かんで、息抜きに書こうとしたらかけもち状態やら長期化やら、悪癖とは思ってるけど。

まぁ、ゆるりとお付き合い頂ければ思いますわ


>>173
あり!

ウェイター「しかし、この森抜けるあてがあるのか?」

もっともな疑問を、ウェイターは口にした。彼はもちろん給仕として働いていて、こんな時にどうすればいいか知らない。冒険者が酔っぱらい混じりに似たような体験の話を聞いたことはあるものの、それが役立つとは思えないでいた。

女兵士「地図上では、あの村の付近にある森林地帯がここだ。大きな街道がこの位置で、木の年輪から大体の方角は確認しているから、その方角に向かえば突き当たるはず」

とはいえ、確実な方法とは言えないのは事実。女兵士もそのことは重々に承知している。あとは運良く森から抜けられるのを祈るしかない。

女兵士「飲め」

湖の水を汲んだ水筒をウェイターに手渡す。彼は無言で受け取り、二度、三度水でのどを潤した。

ウェイターは無言でその水筒を女兵士に返すと、彼女もそのままそれでのどを潤す。

女兵士「……こんな状況なのに、お前は冷静だな」

ただ、時折見せる街人とは思えない動きや、修羅場への反応の仕方はそれとは違うことは認めてはいるが、女兵士はウェイターを勇者であるとは考えてはいない。

ウェイター「パニックになって、この状況から抜け出せるならそうする」

女兵士「まぁ、それもそうだな」

そう言われればそうなのだが、どこか腑に落ちない感じを女兵士は受ける。店に来る商人の護衛兼案内をしていたこともある、という情報は聞いていたがそれとは違う何か。

女兵士「…そろそろ行くか」

ウェイター「おう」

この森のような、鬱蒼とした疑問が、女兵士の心の中で渦巻いていた。

>>177-179

女兵士「お前は騎士の家系の生まれだったな」

渦巻いている感情が、女兵士からその言葉を出させた。

ウェイター「そうだけど?」

女兵士「冷静なのは、それもあるのか?」

騎士の家系は、普通の家庭に比べれはピンキリはあるものの、裕福に当てはまる。それだけに、武術の訓練なんかをそこの子ども達が学んでいることは多い。

とはいえ、今みたいな状況に、冷静でいられるのは、その人間自体の素養もあるが、ある程度場数を踏んでいるような振る舞いに、女兵士には見えている。

ウェイター「ん~、多分な」

女兵士「そうか」

更に言えば、騎士の息子といえど、長い平和で実戦経験がない者もいる。つまり、街人との違いは携帯する武器だけ、ともいえる場合すらあるのだ。

森の中を歩き続けて、何時間たったのだろうと女兵士は思う。移動する為の場所ではないことや、先行きが確かこと、それらが肉体よりも精神的な疲労を助長していく。

何より、彼女は一人ではなく、警護しなければならない人間、ウェイターも引き連れている。自分と同じぐらい鍛えられている人間ではないことで、そのカバーも含めると、女兵士の肉体的、精神的な疲労はピークに達しつつある。

ウェイター「悪い、もう少し、ふぅ、鍛えておけば良かった」

女兵士「……気にするな」

だが、肉体面はともかく、精神的に抑圧されたものが爆発しないでいられるのは、職業柄か女兵士を気遣うウェイターの振る舞いと。

女兵士「(お前が一番つらいだろうに」

彼女自身がそう思える性格によることが、幸いしている。

>>183の訂正

×森の中を歩き続けて、何時間たったのだろうと女兵士は思う。移動する為の場所ではないことや、先行きが確かこと、それらが肉体よりも精神的な疲労を助長していく。

○森の中を歩き続けて、何時間たったのだろうと女兵士は思う。移動する為の場所ではないことや、先行きが不確かこと、それらが肉体よりも精神的な疲労を助長していく。

森の中をさまよう内、日の光が射さなくなら、薄暗くなった頃、今日中の脱出は困難と女兵士は判断した。

明るい内に、キャンプ用に使えるものを集め、二人がようやく腰を据えて休めるようになったのは、日はとうに沈み、代わりに月が見えるようになった頃だ。

女兵士「………ふぅ」

つい先ほど、確認したいことがあると言ってから、しばらくして戻ってきた女兵士が、水を飲んで一息ついた。

ウェイター「何しに行ってたんだよ?」

当然の疑問を口にする。

女兵士「年輪の方角は大まかだからな。星座で方角を確認しておいた」

少し迷ったりしたこともあるが、やはり方向がズレていた。この確認で確実な方角はわかったから、明日中には森を抜けられるだろうと女兵士は思っている。

パチパチと音を立てて燃える焚き火が、疲れた体を少しだけ癒してくれる。野盗の襲撃以降は、平和な旅が続いていて、ウェイターはそれまではこんな感じで続くのだとどこか思っていた。

ウェイター「(安全な城下町から出てるってのに、のん気なこと考えちまったな)」

何事もなく、ましてや魔王はいませんでしたで終わってほしい彼にとっては、ある意味ではちょうどいいトラブルなのかもしれない。もっともそういえるようになるには、この森から出なければならないが。

女兵士「疲れたな…」

ウェイター「おかげで今日はすぐ寝れそうだ」

女兵士「ふふ、そうだな」

焚き火に揺らめく明かりがあたる女兵士の表情は、そんな気はまったくないにも関わらず、ウェイターの目には色目かしく映る。

こんな時に、何を考えているのか、それを追い出すかのように、彼は軽く頭を左右に振った。

女兵士「どうかしたか?」

その様子を見て、当然女兵士はそう声をかけた。しかし、ウェイターとしてどう返すべきかもわからず、少し間を置いた後。

ウェイター「無意識に眠気を振り払ったみたいだ」

と、意味はあまりない嘘をついた。女兵士も、疑うとまではいかないまでだが、とりあえずそうなのだなと納得することにした。

女兵士「先に眠るといい、誰も番をせずに寝るには不用心だからな」

ウェイター「わかった」

疲れでだいぶ重くなった体を持ち上げ、葉などを集めて下に敷き、枝で屋根を作った簡易な寝床でウェイターは横になる。

中は昨日よりは快適という程度のものだが、野外で自分用の空間があると言うだけでも、心はどこか落ち着いた。そうしている内に、津波のような眠気が全身を覆い、半ば気絶するようにウェイターは眠りについた。

乙!

>>195 >>197

まだ外は暗い。薪がはじけて燃える音以外にあるのは、夜の音だけだ。

まだまだひどい状態ではあるものの、略奪者から逃げ、深い森の中を延々と歩き続けロクに休めてなかった中で、久し振りのまとまった休息は、身体の持久力と精神の余裕をもたらしてくれていた。つい先ほどより、まだ気楽さをウェイターは覚えている。

ウェイター「(でも、こっから出れっかな)」

食料については、女兵士が最低限の保存食があるときいているし、水分も森の中で運が良ければ見つけることは出来る。追っ手もあの魔法の後からは追跡してきた様子もない、となると後は森をでれるかどうかになる。

ウェイター「(女兵士が方角を確認したと言ってたから、大丈夫とは願いたいんだけど)」

もしそれが間違っていたら、そんな考えが浮かばないよう、ウェイターは楽天的に考えるよう、無意識のうちに努めていた。

パキンと、明らかに枝が折れる音が響き、ウェイターは気づかない内に剣を静かに抜いて、周囲を警戒する。

音の位置が特定できなかったため、耳に神経を集中させ、足下の焚き火はそのままにする。もし、相手が追っ手なら今更あわてて消しても意味がなく、野生動物なら火の方が追い払うのに都合がいい。問題があるとするなら、矢を使った攻撃で、弦の音を聞き漏らせば、射抜かれてしまうだろう。

ウェイター「(どこだ、どこに)」

あまり慣れていない緊張感に、心臓の鼓動が速まり、伴って呼吸も浅くなっていく。見えない相手との対峙はウェイターの想像よりも、息が詰まるものだ。

「出ていけ」

重苦しく明らかに敵意をもった声が聞こえてきた。

ウェイター「……」

その言葉に彼が返したのは無言だった。慣れない戦闘で緊張感が全身を巡っているが、どこか冷静な部分で、その言葉の主の居る位置を探っていた。

「もう一度言う、出ていけ」

最終警告と取れる口調だった。自分は十分に意思を示し、それに反抗するというなら、時期の段階に進むのはやむを得ない。そういいたいかのように。

ウェイター「誰か知らないが、こんな夜更けに殴り込みなんて、礼儀作法もないのか?」

あえて軽口を返す。場を重くしないための配慮だ。

「貴様等が作法を言うのか」

ウェイター「面も見てねぇから、どこの誰かさんかしらねぇが、あんたの領域に足踏み込んだのは悪かった。でもこっちも悪党に追われて逃げてやっと休めたところだ、明日には出てく、それまで待ってくれや」

その言葉を受けた相手は、しばらく返事はしなかった。

乙!

>>204

ガサガサと、草木を歩んでくる音が複数聞こえてきた。ウェイターの緊張は最高潮に高まっていく。急いで、女兵士を起こしにいけば、恐らく何らかの攻撃をされることは目に見えていた。だから、相手が見えるのを待つことしかできなかった。

長い時間を感じた後、声と周囲にいた者達が姿を現す。長い耳に、ウェーブがかかった髪。それは、御伽噺の中で出てくる魔族のエルフそのものの姿だった。

ウェイター「嘘、だろ」

言葉を漏らす。目の前にまた、その御伽噺の証明する存在が現れたことに、驚愕することしか彼はできなかった。

「人間よ。この聖なる地に留まる事は許されん。言葉を信じはするが、すぐに立ち去られよ」

綺麗な声に混じるのは、冷たさだった。指示に従えなければ、戦いの意思をちらつかせる言葉。

女兵士「そうか、お前達の居住区だったか」

いつの間にか、リーダーと思われるエルフの背後に立っていた女兵士が、そう言葉をかけた。

その言葉に急ぎ振り向いたリーダーが、ウェイターの目には驚いた仕草をしているように見えた。それは、敵に背後を取られたからではなく、何かに気づいた動きだった。

女兵士「久しいな…。元気にしていたようで何よりだ」

そして、女兵士もそのリーダーを労うように声をかけ、ようやっと知り合い同士であるという考えに行き着く。女兵士も、魔族であるのだから、なんらかの繋がりがあっても不思議ではない。ウェイターの冷静な部分が、そう考えさせた。

「まさか、貴女様が…」

女兵士「それ以上は何も言うな。友人もいる前だからな」

それを聞いたリーダーが、ちらりとウェイターを見て。

「このような者がですか?」

女兵士「言葉は慎め。悪いが、彼を含めて居住区に行ってよいか? 彼の話はすべて真実で、彼も信用できる類の人間だ」

一瞬、逡巡した様子を見せたが、立場に違いがあるのか。

「……、畏まりました。ただ、彼には目隠しをさせていただきます」

そう聞いて、すまなさそうな顔をしながら女兵士が「よいか」と聞いてきたので。

ウェイター「今より安全だってなら、しかたないさ」

ウェイターはその提案を受け入れた。


良いよ良いよ~!

>>209

目隠しをされてしばらく歩かされている間、ウェイターの中でいろいろな思考が巡る。色褪せていたはずの御伽噺が、少しずつ色づくように現実を突きつけていること、そして今連れられているエルフと女勇者の関係。そして、今後の自分の命。

草木を踏みしめる複数の音、そして匂い。会話がまったくない今、それらがウェイターの五感を強く刺激する。視覚からの情報はなく、ただ移動している感覚だけの中で巡る思考は、いつしか悪い方向にしか向かなくなっていた。

「人間、目隠しを取って構わん」

その言葉に、ウェイターが転ばないよう身体に手を添えていた誰かが離れたのを感じて、彼はゆっくりと目隠しを取った。

ウェイター「……」

目の前に映るのは、木々による天然の屋根に覆われた村だった。木漏れ日だけの明るさしかないが、それでもこの場所が美しいと、ウェイターは思った。

女兵士が「良い場所だな」といったのに対して、リーダーは世辞を返してから、「すまないが、名を伺う」とウェイターは問われた。

ウェイター「ウェイターって言うよ」

「そうか。ならばウェイター、ここで見聞きしたことは、全て口外してはならない。宣誓頂けるなら、客人として迎えよう」

言葉の端に警戒心が滲んでいるのを感じて。

ウェイター「約束するけど、どうすりゃいい?」

とウェイターは聞き返すしかなかった。

>>212の訂正

×目隠しをされてしばらく歩かされている間、ウェイターの中でいろいろな思考が巡る。色褪せていたはずの御伽噺が、少しずつ色づくように現実を突きつけていること、そして今連れられているエルフと女勇者の関係。そして、今後の自分の命。

○目隠しをされてしばらく歩かされている間、ウェイターの中でいろいろな思考が巡る。色褪せていたはずの御伽噺が、少しずつ色づくように現実を突きつけていること、そして今連れられているエルフと女兵士の関係。そして、今後の自分の命。



なぜに勇者になった


まあ普通に間違えたんだろなとは思ったww

>>214
そう言ってくれると助かる

そいや、女勇者ものは書いたこと無いなぁ。そこらもその内手を出すかな。

その内がかなり長くなりそうだけど

「この方をしばらく預からせていただきたいのですが、宜しいか?」

ウェイターの言葉を聞き、リーダーは女兵士に許可を得るためそう聞いた。

女兵士「手荒なことはしなければ構わん」

その言葉を聞き、ウェイターに緊張がはしる。女兵士からはエルフに対して信用は感じられるが、そのエルフは人間を信用していない、その態度が見て取れるだけに、仕方のないことではあった。

「ついてこい。他の者は本来の仕事に戻れ」

リーダーの指示で、周囲にいたエルフ達は、一斉に散っていく。ウェイターはリーダーの手招きに従い、その後ろをついていく。

ついて行く道中、周囲のエルフの様々な目線が、ウェイターに集まる。ヒソヒソと話している二人のエルフに目線を向けると、それに気づいて二人は物陰に移動していった。

ウェイター「(完全に孤立したな)」

女兵士は仲間だと信じているが、彼女もまた何らかの魔族。人間という種族はここはウェイターしかいない、マイノリティな存在。

ウェイター「(本気で、無事帰れるかな…)」

正体も所在も分からない、架空の魔王を討伐する。ウェイターは最初、王が暇つぶしに自分を巻き込んだのだと思っていたのに、その魔王が出てくる御伽噺に存在したことが、目の前に現れて始めている。

彼の甘い考えはとうの昔に、消え去ってしまっていた。

「ここだ」

いろいろ考えていたウェイターは、その言葉にすぐ反応できなかった。

リーダーが手で案内した場所は、田舎にありそうな普通の一軒家だった。

「…どうした?」

ウェイター「あ、いや、なんでもない」

リーダーは少しだけウェイターを見てから、そのまま扉を開けて家の中へ案内する。中は質素で華美な装飾はない。椅子やテーブル、棚など一般的な家具類が備えられている。

ウェイター「……あんたの家か?」

「そうだが」

何を当たり前のことを聞いているのか、そんな態度でリーダーは答えた。

おつ
ツンデレになるか?

>>217
なるのかな?

ウェイター「それで宣誓はどうすりゃいいんだ?」

周りの重苦しい状況と、それをすれば命の保証ができるのであれば、そんな考えがその言葉を出させた。

「そう焦るな…。まだこちらは名乗っていなかったな。長と言う」

そういうと、礼儀正しく頭を下げる。ウェイターもそれに習って同じく頭を下げた。

長「宣誓、と言っても大げさなものではない。貴殿にある魔法をかけるだけだ」

魔法、そう聞いてあの夜にみた略奪者が焼き尽くされた光景が頭に映り、ウェイターの背筋が少し凍る。

長「それは我々以外に、エルフやこの地のことを伝えると、記憶を失うというもの。例え、それが無理に白状させられても、同様だ」

真剣な眼差しが、荒唐無稽な魔法という存在も肯定させていく。

ウェイター「それは、全部消えるのか?」

長「度合いはあるようだが、ほとんどの記憶は無くなると思っていい。間違いなく消えるのは、エルフに関わる記憶だ」

とんでもないことに巻き込まれ続けている。あの王がこんな任務を与えなければ、そんな考えがウェイターにちらりと湧いた。

ウェイター「はぁ、まったくやってらんねぇな…」

長「……断るのか?」

ウェイター「違うよ。俺がここにいるってのはさ、俺の意思じゃねぇんだよ。王様に魔王を討伐してこいって言われて、一介の給仕にそんなことできるわけないだろ? その上記憶もなくなるかもしれねぇってなったら、やってられないよまったく」

命は関わらないにしても、失うものが大きすぎて、思いっきり愚痴をこぼす。

長「魔王、をか」

引っかかったのか、その言葉を呟いた。

ウェイター「知ってんのか?」

長「…………我々は配下だった血筋だからな、いくつかの伝承ぐらいは知っている」

答えるまでの間が気になったものの「そうか」とだけウェイターは返した。

男「その魔王様が、北の大地に現れたから、倒してこいって言われたんだよ」

その言葉を聞き、長は考え込むような仕草で黙り込む。ウェイターもそれを見て、まずいことに気付いた。まだ御伽噺だと思っている事とはいえ、相手はその魔王に仕えていた、そう言った一族の相手にその主を討伐すると伝える。苛立ちに任せたとは、浅はかな発言をしたことに気付いた。

ウェイター「悪い。俺にはそんな意思はねぇんだ。魔王はいないことを確認して、そんな必要ねぇって王様に言うつもりでいてさ」

自分の置かれた状況を再認識して、ウェイターは弁解する。それでも長の難しい表情は変わる様子はなかったが。

長「……、気にするな。我々にも魔王という存在は遠い昔のこと。エルフも独自の生活する場所、この場所を見つけ生きてきたのだからな」

ウェイター「それならいいんだけどさ…」

それが本心からかもわからず、ウェイターの居心地の悪さは消えない。

長「……、それでは今言った魔法をかける。良いか?」

ウェイター「念のためだが、もしそれを拒否したら、どうする気だ?」

長は、何もいわずにウェイターを見据えた。想像できるのは、自分が消えるということだけだ。

ウェイター「わかったよ。もうなんでもやってくれ。それであんたらが満足するってのならな」

長「ご協力、感謝する」

長が目をつぶり、聞き慣れない言葉をつぶやき出すと、その身体に淡い光が包み、ウェーブしたセミロングの髪がさわさわと揺らめきだした。

これから重い枷を課せられると言うのに、ウェイターは場違いにも。

それが美しいと感じた。

乙!

気体

はよはよ

>>222


>>223
固体

>>224
急いては事を仕損じるでや。

長の体を包み込んでいた淡い光は、徐々にその強さを増していき、ある程度の明るさを持った瞬間に、長が目を開けるとその光が長からウェイターへと流れ込んでいく。

ウェイターに苦しみや痛みなどはない。感じられるのは光が自分を照らしている、それだけだった。

しばらくの間、そうしていたかのような感覚の後、気付けば光は消え、先ほどの神秘的な雰囲気は無くなっていた。

長「終わりだ」

短くそう告げた長は、疲れた様子を見せていた。恐らくこの宣誓のための魔法を使ったからだろうと、ウェイターは考えた。

ウェイター「この魔法を浴びる以外に、することはねえのか?」

言葉自体は確認ではあったが、態度はそれ以外の事態は望まない。そんな空気をウェイターはにじませていた。

長「安心しろ、この他には何もない」

ウェイター「助かる」

真偽は定かではないものの、これ以上のトラブルはないと聞かされ、ウェイターは少しだけ安堵した表情を見せる。

長「さて、女兵士殿にお伺いをたてなければ、貴殿も来られるか?」

ウェイター「あぁ、頼む」

場所が場所なだけに、少しでも頼れる存在のそばにいたかったウェイターとしてはそれを拒否する理由はなかった。

また、長の後ろをついて歩く。相変わらず奇異な目が中心となって、ウェイターに向けられている。彼はそう感じて、無事ではあるが、早めに人間がいる地域に出たいと強く思い始めていた。

長は他のエルフに女兵士の居場所を確認しながら歩く。それについていくウェイターにとっては、その後ろ姿は頼みの綱であり、はぐれてはいけないという緊張感さえある。

そんな中、長に「ウェイター殿」と呼びかけられ、返事をする。

長「この場所を、どう思う?」

そう問われ、ウェイターは少し考えてから、「綺麗だ」と答える。

長「私もそう思う」

この地に誇りがあるのか、そう言って小さく笑った長に驚きながらも、ウェイターはそう考えた。

おつんこ!

>>227
ありんこ

長「貴殿は、どこまで話を聞いている?」

村から少し出たあたりで、長はそんな風に聞いてくる。その意図が分からず。

ウェイター「話ってのは、何の話だ?」

素直にそう聞き返した。その反応を見て、また少し考えるように、長は手を顎に添え、しばらくした後。

長「我々で言う、伝承。つまり魔王のことだ」

ウェイター「御伽噺ぐらいにしか、知らないな」

長「そうか…」

また、しばらく無言のまま、長の後ろをウェイターはついていく。

長「魔王は多くの魔族を配下に従えていた。我々エルフも、その一部族になる」

そして、独り言のように、長はエルフについて語り始めた。

長「望んで仕えていた訳ではない。我等は自然と共に生き、自然と共に朽ちる。精霊、それはわかるか?」

ウェイター「それも御伽噺でしか知らないな」

長「そうか…、我々は精霊から派生した一族。肉体に受肉した以外は自然そのものと、言っていい存在だ」

もし、これが街中の酒屋で聞かされたら、ウェイターは与太話にしか聞こえなかっただろうが、いろいろ見せられた彼は素直にその言葉を聞いていた。

長「魔法は、魔族のみが使えるとされているが、それは認識違いだ。我々は自然の一部であり、だからこそ自然に干渉することができる。それだけのことなのだ」

長はその言葉を真剣な眼差しで、ウェイターを見据えながらそう告げた。

ウェイター「つまり、なんだ。あんたらはそこらに生えてる木とかと同じって事か?」

長「そのような理解で構わない」

ウェイター「あ~、なんていうか。理解してるというか、そうなんだなと落とし込まないと頭が追いつかない感じだ」

混乱しているウェイターをよそに。

長「理解を示そうとしていることに、我々は嬉しく思う」

その言葉の通り、嬉しそうに告げた。

乙!

乙!
長いいなぁ

>>230


>>231

長はどうなるやら

長「話で向かったとされるのはこの先だ」

あの話の後、またしばらく無言のまま二人は歩き続けていて、目的地そばになり長はウェイターにそう言葉をかけた。

ウェイター「どんな場所なんだ?」

当然の疑問を投げかける。今までの逃避行から考えて、最寄りの家屋で休んでいそうなものなのに、彼はそう考えていたからだ。

長「見ての通り、ここは深い森の中。その中で、日射しが降り注ぐ場所だな」

ウェイター「開(ひら)けた場所ってことか」

周りの木々はウェイターも見たこともないほど大きいものが多く、この場所が手付かずであり続けていることを示している。話の感じからするに、そこは自然にできた場所なのだろうと、彼は見当をつけた。

長「ここだ」

森の中からその場所を覗くと、雲一つない空から、陽光が天然な広場に降り注いでいた。

その中央に、女兵士はいた。装備は外し普段着の装いで、顔は空に仰ぎ、両手は軽く左右に開いて、喜んで日差しを受ける花のように佇んでいる。

長「女兵士殿」

その姿に躊躇する様子もなく、近づきながら長は女兵士に声をかける。女兵士は長の方は向かないものの、両手を静かに下げ、長が来るのをそのまま待つ。

長「お休みのところ申し訳ありません。ウェイター殿の宣誓は完了致しました。ただ、なぜこのようなことになっているかは、貴殿の方が詳しいご様子のため、お話を聞かせていただければと存じます」

女兵士「構わん。では戻るとするか」

ウェイターは、出入り口から二人の様子を眺めていた。少し余裕が出てきたからか、美女二人とこの二人は映えるな、そんな気楽なことを考えながら。

女兵士「どうした、行くぞ」

ウェイター「あ、と、おう」

だから、二人が出入り口に向かってきていることもぼんやりとしか認識できず、声をかけられた時、素っ頓狂な声を上げてしまった。

乙!
長は女だったのか…

>>235
確かに描写してなかった。おなごやで。


ついでに>>234の訂正

×ウェイターは、出入り口から二人の様子を眺めていた。少し余裕が出てきたからか、美女二人とこの二人は映えるな、そんな気楽なことを考えながら。

○ウェイターは、出入り口から二人の様子を眺めていた。少し余裕が出てきたからか、美女二人はこの場所に映えるな、そんな気楽なことを考えながら。

今度は女兵士が長に連れられていってしまい、ウェイターは急遽用意してもらった個室のベッドに、仰向けで横になっていた。

簡易シェルターで休んだとはいえ、完全に疲れはとれておらず、横になった瞬間体が石になったように動かす気力はなくなっていたが、それに反比例するように頭の中は冴えきっていた。それは当然、今し方かけられた宣誓という名の魔法による枷もあったが、魔王の存在を匂わせる、御伽噺の証拠が当たり前のように現実として突き詰められたのが大きい。

ウェイター「(……となると、魔王がいるのは正しいことになっちまうんだよな)」

絶対的な暴君にして、人間を恐怖に陥れた存在。それが、騎士の家系ではあるものの、一介の給仕ごときに立ち向かえる術(すべ)など、ありはしない。

ウェイター「(俺に、剣の道は無理だからな)」

彼が幼少の頃、騎士の家系の一環として、剣を習っていた時期があった。筋も良く、技術を身につける才にも恵まれていた。だが、彼には重大な弱点があった。それは試合であっても、相手を傷つけることから、打ち込むことが出来ないことだった。

男「(それができてたら、騎士になれたのかな)」

今では店を持つことを新たな目的としてやってきていたが、未練がましい気持ちがないわけではない。それが今更、どうしようがないことだと知っていてもだ。

その気持ちを覆い隠すように、ウェイターが目を閉じ、寝息が聞こえるようになったのは、そう遅くはなかった。

乙!

>>239

「うまくやっているだろうか…」

窓を見やりながら、男が言葉を漏らす。その見た目は、派手さはないが仕立てられたとわかる服の上からでも、鍛え込まれているのが窺えた。顔つきは鋭く、ややもすればにらめつけているようにさえ見え、近付きがたい雰囲気を醸し出している。

「大丈夫ですわ、兄様」

その男とは対照的に、少しふんわりとした対面して座る女が、その言葉に反応した。

こちらも華美ではないものの、シンプルなドレスを纏っている。目は閉じているように細く、そこに自然な微笑みが張り付き、優雅に紅茶を楽しんでいた。

兄「この件、やはり私が引き受けるべきだった」

「兄様はこの家の跡取りですもの、あの子が適任かと思いますわ」

兄「……、まるで切り捨ての発想だな。姉(いもうと)よ」

その発言が気に食わないという様子で、兄と呼ばれた男はその言葉を吐き捨てる。対して、姉と呼ばれた女は気にする様子もなく。

姉「もちろん、あの子に何かあれば、それなりの準備は致しますわ」

準備、そうとしか発言はしていないが、その意味に重みが含まれているニュアンスだった。

兄「……、どこにいるのだろうな。話の村から行方が知れない状況だ」

姉「賊共の話によれば、森に逃げ込んだとのことですわ。戦いの跡か、木が焼けた一画に何人かの焼死体があったと聞いていますが、2人と思しき死体はなかったとのこと。森深くに逃げ込んでいるのでしょうが、あのあたりの森は広大で、闇雲に人を使えば、被害が広がるでしょうね」

その話を聞き、男は目を閉じてしばし無言でいた後。

兄「――私が」

姉「駄目ですわ」

言葉を聞ききる前に、間に割り込み。

姉「兄様には家の業務を全うしていただかなければなりません」

兄「……、まったく、母様に似てきたなお前は」

姉「それは褒め言葉ですわ、兄様」

ため息を吐く兄とは、これまた対照的に姉は微笑んだ。

ウェイターは微睡みの中にいた。今まで生きてきた記憶が、辻褄もなくつなぎ合わせたり、存在しないものが混ざったりした映像を、無意識に見ていた。

その映像が、いわば夢が意志を持つように、ある一つの内容に繋がっていく。見慣れた街路、見慣れた家、見慣れた相手。そして。

ウェイター「はぁ……!」

その先を見るのを、本能が拒否したかのように、ウェイターは飛び起きた。

女兵士「大丈夫か?」

寝ていたベッドのすぐ隣にある椅子に、女兵士は座っており、その様子を見たからか心配そうに声をかけた。ウェイターは、状況確認を兼ねて、視線だけで室内を見ながら数回息を深く吸い込んだ後「大丈夫だ」とだけ返した。

女兵士「そうか、うなされているようだったから、今回の件で体調を崩したかと思ったぞ」

返ってきた言葉を女兵士は素直に受け止め、微笑む。悪夢の部類を見ていたのは間違いはなかったが、なぜか嘘を言っているように感じられ、ウェイターの気が引けた。

ウェイター「よくは覚えてねぇけど、悪夢でも見てたんだろ」

ウェイター自身も、どんな夢だったのか、それはわかっていない。ただ、わからなくて良かった、そんな安堵感を覚えていた。

女兵士「だいぶ眠っていたな。疲れはある程度とれたか?」

ウェイター「ボチボチかな」

しっかりと体を休めながら、それなりの時間寝ることが出来たからだろう。ウェイターは自分の体から重りが消えたような感覚だった。

女兵士「そろそろ夕餉の時間らしい。向かおう」

ウェイター「わかった」

その話を了承しながら、いつまでこの場所にいることになるのかと、ウェイター少し考えていた。

ウェイターは女兵士の後ろに付いて歩いていく。窓から見える景色は、すでに夜闇に隠されていて、各住居から漏れる灯りぐらいしか見えるものはない。

女兵士「お待たせした」

そう言いながら入る先は当然食堂で、少し長い長方形のテーブルに対して、等間隔に椅子が置かれている。そこにいたのは先程話した長と、もう一人見慣れないエルフが座っていた。

その男と思われるエルフは、長やすれ違ったエルフ達とは違い、どこか老人のような雰囲気を漂わせている。装いや顔立ちは、御伽噺に聞くエルフそのものだが、言い直すなら彼が持つ空気だけ、他とは違う。

「ふむ、そなたがな」

そのエルフはウェイターを見ながらそう呟く。敵意ではなく、何かを確認するかのような態度だ。ウェイターも聞こえてはいたが、反応はしなかった。それで面倒になるのを恐れたからだ。

二人は促される形で、ウェイターは長に、女兵士はそのエルフに向かい合わせに座る。その後、給仕のエルフが食事を運び込んで食堂から退出して、四人での食事が始まった。

会話はない、食器がふれる音と、こぼれ落ちる咀嚼の音しか食堂からは聞こえてこない。

ウェイター「(落ち着かねえな)」

屋敷にいた頃は、似たような環境で食事をしていたが、軽い会話もあった。更に今の仕事場も静かに食事をすると言う環境ではなく、今の状態はウェイターとって落ち着かないものだ。

少しして食事が終わり、食後の茶が出されたものの、やはり沈黙の状況には変わりはない。いつ頃、この場所を発つのか、それは女兵士と二人になった時にでいいか、そうウェイターが思い始めていた。

「ウェイター殿、だったか」

その問いにウェイターは「はい」とだけ答える。

「我が名は大長という。事情は長に聞いた」

ウェイター「そうでしたか」

大長「怪我がなくて何よりだ」

今更ながらの社交辞令のようなやりとり、ウェイターは大長も何も会話がないまま食事が終わらないよう、配慮したからか、と少しだけ予測する。

大長「して、ウェイター殿は勇者だと聞いている」

その言葉に首を振りながら「王様がそう言っただけのただの市民です」と答えたウェイターに対して。

大長「しかし、実際の勇者に関わる関わらないにしろ、有力な人物であるから選定される。そういうものだと私は考えるが、どうだろうか」

ウェイター「あえて言えば確かに騎士の家系の者ではあります。しかしながら、私の剣の腕前は未熟で、末子ですので権力がある訳ではございません」

その言葉に大長は少しの間目を閉じ、動かなくなる。ウェイターを含めた三人は、その様子を静かに待つことしかできない。

大長「なるほど。考えているより、根は深いようだ」

それは聞かせると言うよりは、自分の考えを意識的に肯定させるための呟きだった。ウェイターも、自分のことを言っているのだろうと思いつつ、その言葉が何を意図しているのかわからず、聞くことが出来ないでいた。

大長「何にしても、一つ頼みたいことがある」

そう切り出した大長に。

ウェイター「大したことは出来ませんよ」

と受け答えるしかできなかった。

大長「大袈裟なことは一つもない。この森の奥に、一際大きな大木が生えている。そこに明日向かって欲しい、それだけのこと」

ウェイター「それは大袈裟ではありませんが…」

通常なら、そこに生える植物や果物を取りに行くというならウェイターもわかる。しかし、ただそこに向かうだけ、というのは聞いたことはない。何よりウェイターとして、タダだとか、手間がないとか、楽が出来るとか言ううたい文句は、仕事柄有り得ないと思っている。つまり、何かあると疑うしかなかった。

大長「難しいですかな?」

ウェイター「いえ……、畏まりました」

だが、自分がマイノリティである以上、それが嫌でも引き受けるしかない。交渉するための材料が相手にしかない、そんな状況でこじらせるのは、後々有利になった際に切り札が出せなくなる、そうと賢明な判断を下したからだ。

大長「では、時間も良い頃合いですから、お開きとしましょう」

そう聞かされて、ウェイターと少し遅れて女兵士は立ち、二人は食堂を後にする。

ウェイターは仕方なく、心の中でため息を吐くしかなかった。

乙!

>>252

女兵士「良かったのか?」

部屋に戻ると女兵士は、いつもの読み取りづらい表情でウェイターに聞いてきた。ただ、何を言おうとしているのかは、ウェイターなりに察することは出来ていた。

ウェイター「断るっていう選択の権利が、俺にはないからな」

女兵士「そう…、か」

その言葉を聞いて、少し落ち込むかのように女兵士の表情に影ができた。あの時、自分が間に入り、もう少し大長から話を引き出させてから判断させるべきだったか、彼女はそう考えたからだ。

ウェイター「お前が何かしたわけじゃねぇんだし。気にするなよ」

その言葉に、少し救われたのか「そういってくれると助かる」と言って笑う。この場所で間違いない仲間といえる存在の笑みにつられて、ウェイターも笑った。

ウェイター「ただ、何かあった時はマジで頼む。腕っぷしはからっきしだからな」

女兵士「安心しろ、得意分野だ」

それを聞いて、ウェイターの心に少しだけ安堵が浮かぶ。自分の身を自分で守れないというのは、本来情けない話ではあるが、彼の場合は少しだけ事情は異なっている。そのため、ウェイターは女兵士にその部分を任せきりになっている部分がある。

女兵士「だが、いざという時に剣を抜けるようにはしておいてくれ」

ウェイター「あぁ…、それぐらいはするさ」

だからこそ、無意識のうちに剣を抜くことは出来たが、抜くことを意識する時にそうできるのかが、ウェイターの中で疑問だった。

乙?

乙!

続きが気になるねぇ!

>>257
うん?

>>258


>>260
まったり進行ゆえ、お茶でも飲んでのんびりしておくれ。

ウェイター「そういや、エルフってのは結局どういう存在なんだ?」

今は取って食われるという状況でもないため、自分を保護してくれた魔族がどんなものなのか、そこに興味を抱いたウェイターは女兵士に聞く。

女兵士「精霊という存在が、肉体という器に受肉したことで生まれた魔族。なんとなくは理解できるか?」

ウェイター「本当になんとなくだな…」

人間の世界には、それこそ魔族や精霊という存在は、おとぎ話であって、存在しない。というのが、ウェイターを含めた城下町にいる人間達の認識だ。

もちろん、彼が働いていたお店に来る冒険者が、まことしやかに人間以外の存在を話すこともあったが、有名あるいは強く見せたい三流の冒険者の与太話、そんな風に聞き流していた。

今にして思えば、実力あるといわれる冒険者がその手の話をして、口先だけなのかと疑ったことがあったのは、本当の話だったのかもしれないと、ウェイターはこの状況になって思う。

女兵士「彼らの役割は植物の管理。自然自らが、外的手段で管理を施す必要があると判断し、エルフという存在が生まれた。私はそう聞いている」

ウェイター「じゃあ、詳しくは知らないのか」

その言葉にうなづいた後。

女兵士「魔族に一括りにはなるだろうが、同族ではないからな。しかし、怒らせなければ善い者達だよ」

と言葉をつづけた。

ウェイター「じゃあ、知識不足ついでに聞くけど、魔族ってのはどんなものなんだ?」

その言葉に、少し冷ややかな目でウェイターを女兵士は見る。それに気づいたウェイターは、何かまずいことをいったのかと、考えを巡らせた。

女兵士「それこそ魔族という呼び名は、人間側が数々の部族を総称したもの。それをどんなものなのか、と言われるのは気分がいいものではないな」

本当に気を悪くしたのか、女兵士がぶっきらぼうにそういうのを聞き、ウェイターは「悪い」としか返せなかった。

しばらくいやな沈黙が続き、声をかけようとするものの、どう言えばいいのか、互いに切り出すタイミングを失っていた。

ウェイター「…、じゃあさ、お前はその魔族のうちの部族で、なんになるんだ?」

女兵士「…、聞いてどうする?」

ウェイターなりに思い切って聞いたことだったが、先ほどとは違った棘があった。そして、その理由をなんとなくウェイターは察していた。

ウェイター「(あんまり、自分のことを知られたくないみたいだな)」

それは自分自身にも覚えがあった。騎士の家系の者が、商売に生き方を転じる。人によっては、それを揶揄してくる場合があり、家のために。いや、自分のために血筋を偽っていたことが、彼にはあった。女兵士の態度は、その頃の自分に重なった。

乙!?

乙っ

>>266
!?

>>267

ウェイター「話したくないってんなら仕方ねぇけど」

その言葉の続きを、どう言うべきか考えてから。

ウェイター「いずれ知ることになるってことはないよな?」

女兵士「……ない」

どこか力強くはなかった。いつも堂々と話す女兵士とは違うその口調に、ウェイターは違和感を覚える。自分の護衛をとして、この任務に就いている。だから、自分には知らないことを知っていても不思議ではない。

ウェイター「(でも、女兵士に関わることがあるってことだよな)」

それは当然、魔王の配下であった魔族ということが関わっている。それは想像できる。でも、それとは別の何かがあるような態度。それを、ウェイターは追及することもできる立場ではあるものの。同時に辛そうな表情をする女兵士を見ると、それをするのは、ためらわれた。

女兵士「…もう、いいか?」

ウェイター「あぁ、必要になったら聞く」

また少しの間の後「そうか」とだけ、女兵士は言った後、ベッドの上に横になった。ウェイターも、無言のまま同じようにベッドに横になる。そして、もやのような気持ちを無視するように目を閉じた。

わずかな気だるさと共に、ウェイターは目を覚ます。窓から日差しは射していないが、少しだけ明るさがあった。日はまだ昇ってはいないようだなと思った彼は、眠ろうと目を閉じる。しかし、意識はほぼ覚醒してしまい、眠りに落ちることが出来ない。

ウェイター「(仕方ねぇ、起きるか)」

上半身を起こすと、まだ眠りにつく女兵士の姿が見えた。規則正しい呼吸音が聞こえ、まだ深い眠りについているのがわかる。自分より休みをあまり取っていなかったことをウェイターは思い出し、起こさないように動いて部屋の外に出た。

朝方の澄んだ空気が肺に取り込まれ、更に目が冴えてくる。気だるさも身体に抜き出ていくようだった。記憶を頼りに家の玄関口を出て、村の様子を眺める。

木とその枝に覆われた村のため、やはり他より薄暗くはある。それでも、ウェイターが今まで見てきた村の中でも、一番綺麗だと言えた。

ウェイター「(のんびり過ごすには、いい場所だな)」

自分は歓迎されている訳ではないから、この場所に留まるなんてことは出来ないが、似たような場所にお金を貯めて家を持つのも悪くない。そんな風にウェイターは思った。

「……あの」

声をかけられ、振り向くとここの村人であろう女のエルフが居た。

ウェイター「何か?」

給仕として慣れた営業用のスマイルで、対応する。何かどぎまぎした様子で、女エルフは近づいてきて。

「お、お話ししてよろしいですか?」

ウェイター「構わないよ」

快く承諾したウェイターに「よかった」とこぼしながら。

「その、本当に勇者様なのでしょうか」

ウェイター「それは、答えづらいところだなぁ」

エルフが勇者に対して、敵対意識があまりない印象を、ウェイターは持っている。それにここに来て話したのは、長と大長だけなのに、村人が知っているとなると、そういう話で噂が広まってるのだろうと思い。

ウェイター「一応、勇者ということにはされてる、と言った方がいいかな」

「そうなんですね…!」

まさしく、光が出るようにパァッと明るく、女エルフはなった。

「そうですか、ありがとうございます!」

そう言って走り去っていった。残されたウェイターは、ただただ理解できずに佇むことしか出来なかった。

ウェイター「(なんだったんだ?)」

走り去る女エルフが見えなくなってから、そう考えるしかなかった。話というよりは、自分が勇者であることを確認しに来た、そんな印象を受ける。

本来の勇者として讃えられるのは、騎士の家系の者としては最上位に当たる名誉だが、その道を辞した人間には過ぎた話だ。

ウェイター「(なんだか、無理やり祭り上げられてるみたいで、気分が悪いな)」

身に合わない、というのはあるが、自分の意志とは関係なく物事を進められている。気分がいい訳はない。

考えてもらちがあかないことだけに、ため息をついて与えられた部屋に向けて、ウェイターは歩き出す。まだ、周辺が静かなせいか、床がわずかに軋む音が耳についた。

部屋に入るとまだ、女兵士は寝息をたてていた。ウェイターが近づくと、微動だにする様子はなく、彼女は深い眠りについていることがわかる。

ウェイター「(それもそうだよな)」

村で襲われてからの逃避行から、女兵士は休みをほとんどとっていない。村に到着した時は、疲れた様子は微塵も出していなかったが、体は休息を求めていたのだと、ウェイターは考えた。

ウェイター「(こいつがいなかったら、俺は今頃どうなってたんだろうな)」

運良く生き延びている、とは思えない。捕まったり殺されたりしていたのが、関の山だろう。

その意味では、自身の家系でいけば兄が適任なのになと、ウェイターは思う。兄が断って自分に話が流れたのかとも思ったが、実直な兄なことだから、こんな荒唐無稽な任務であっても、王からの命令であれば眉一つ動かさずに快諾していただろう。その部分は信用でき、だからこそ考えられないという結論に至った。

次に考えることは、何故自分が勇者として扱われているのか。中流の騎士の家系であり、勇者はともかく特殊な血筋を継ぐ訳でもない。

結局のところ、それを知っていそうな女兵士に聞き出すのが早い訳だが、答えてくれる様子はなく。

ウェイター「(堂々巡りになるしかないよな)」

この旅の間に、なぜ自分なのかは、何度も考えたことだ。そして、満足できる解は、未だに得られそうにはない、ウェイターはそのことにあらためてため息をついた。

女兵士が目を覚ましたのは、昇った朝日の日差しが窓から入り込むようになってからだった。

女兵士「…珍しいな」

素直に驚いた様子で、先に起きていたウェイターの姿を見て、女兵士はそう言った。ほとんど同じタイミングで眠っているが、必ずといっていいほど彼女の方が早く起きていたからだ。

ウェイター「お前はほとんど休んでなかったからな」

女兵士「それもそうだな」

納得した様子でベッドから起き上がると、女兵士はいつもの兵装を整え始める。

女兵士「しかし、今日大木に向かう件については、本当によかったのか?」

ウェイター「よくも悪くもねえだろうさ」

そうは言うものの、ウェイターの表情には不安さがにじみ出ている。女兵士としても、その話があった際に何も言い出せなかったことが尾をひいていた。

ウェイター「それに、今日の朝食の時かなんかで、大長も顔を出すだろ。その時に詳しく聞けるだろうしよ」

女兵士「そうだな」

もし、危険な内容であるとすれば、その時に自分が話の間に入ればいいと、女兵士はそう判断した。


舞…待ってた

>>276
なんか、舞という人物を待ってるみたい

まぁ、こちらは鈍行運転だからまったりと

しばらくして、給仕が朝食の準備ができたことを報告に来て、2人はそのまま昨日の食堂へと向かう。中に入ると、すでに大長と長の2人は着席しており、昨日と同じ配置で2人も座る。

その座ったタイミングに合わせたように、給仕が四人分の食事を並べまた静かな朝食が始まった。

いつ、どのタイミングで大木の件を切り出すか、そう思いながら食事を進めるウェイターの食は、あまり進まない。

長「調子は良くないのか?」

真正面だからか、食が進まない様子に、長はそう言って心配してくる。ウェイターは大丈夫と言って、朝食後に話をしようと食事に集中することにした。

朝食はこの調子で続き、最終的に食事が終わった段階で声を発したのは、長とウェイターだけだった。

大長「食が進まなかったのは、今日の件か」

わかっても驚きはないが、断定的な口調が、その言葉に重みを感じさせる。

ウェイター「えぇ、詳しくは、お聞きしておりませんから」

取り繕うことなく、そう返す。そうしたところで、この件が無くなるわけではないのもあるが、嘘を言わせない空気を漂わせているのも理由だ。

大長「危険はない。ただ大木に向かってもらいたいだけだ」

ウェイター「では、その理由を聞かせてください。理由もなく向かう、ということないでしょう?」

腹を括ったからか、ウェイターはハッキリと理由を問いただす。それを聞いて、大長はしばしの沈黙してから。

大長「そこにウェイター殿が会うべき者がいる。それだけだ」

こんな辺境の地で、ウェイターに会わせたい者がいる。そんな者が居るとは考えづらいが、大長の表情に嘘の様子はない。

ウェイター「(となると、やっぱり勇者関連の何かか?)」

ウェイター自身というより、勇者という存在として会わせたい者がいると考えた方が妥当だと、ウェイターは思った。

女兵士「その者に危険性は?」

大長「ない」

相変わらずの取り付く島もない物言いに、ウェイターも女兵士もやりづらさを感じていた。

大長「道中の道案内に、長を同行させてもらう」

長「よろしく頼む」

話は気づけば進められていて、もはや断るのは難しいと感じたウェイターは、また心の中でため息をつくしかなかった。

そのやりとりの後、ウェイターと女兵士は身支度を整えて、外に出る。そして、先に待っていた長の案内で大木へと向かうことになった。

向かうの道中は当然舗装された道などではなく、歩けるが草木が茂っている。それでも賊から逃げた道中に比べれば、ウェイターには快適に思えていた。

ウェイター「(追われる心配がないのもあるが、同じ森の中とは思えないぐらい、綺麗なのも楽さを感じるな)」

とはいえ、理由も何もわからず、どこかへ向かわされている。その状況に対する嫌気のような感覚は、払拭することはできないでいる。

ウェイター「(ほんと、選んでおきながら何も教えねぇってのがな)」

体よく使われる駒、それも道化を思わせる。この先に行く人物とやらが、何らかの答えをくれるのか。彼には、そう期待するしかなかった。

長「少し、休憩をはさもう」

彼女の提案で、全員一息を入れる。ウェイターも水筒の中に入った貰った水で、喉を軽く潤して、手頃な倒木に腰をかけた。

女兵士「いかほどでたどり着く?」

長「ちょうど折り返しぐらいとなります」

2人が話す様子を、ウェイターはぼんやりと見ながら、2人は知り合いなのかと考えていた。

最初に長と遭遇した時の様子を思い出すと、顔見知りなのは想像はつく。そうなると気になるのは、同じエルフではない女兵士がなぜ知り合いなのかということだ。

ウェイター「(魔族同士の交流は、わりとあるもんなのかね?)」

ただ、女兵士はここにエルフの住処があるとは知らない様子だった。以前会ったことがある、その程度関係なのかもしれない。

長「それにしても、またお会いできるとは思いませんでした。光栄です」

女兵士「その物言いは止めてくれ。昔のことだからな」

そして今までのやりとりを見ても、どうやら女兵士の立場の方が上のようだ。

ウェイター「(魔族の間でも、階級的な立ち位置はあるんだな)」

休憩時間については、そんな風にいろいろ考えながら、ウェイターは過ごした。

乙!

>>283-287
そのノリ嫌いじゃない

>>288

長「ウェイター殿は、武術の心得はあるのですか」

大木に向かう道中、何とはなしにそんな風に聞かれ、ウェイターは少しだけ動きを止める。それを見た長がどうしたかと聞かれ。

ウェイター「いや、やっぱり戦う必要があるのかと思って」

長「それはありませんよ」

今返したのが、動きが止まった理由ではない。武器を持つことに、彼は一種の重荷を感じていた。

心の奥底には、蓋をするように騎士になりたかった思いがある。しかし、蓋をしなければいけない事情がまた、彼には別にあった。

ウェイター「騎士の家系として最低限の心得はある」

長「なるほど」

本当にそれだけを聞きたかったのか、長が深いことを聞いてこないことにウェイターは安堵した。

女兵士「しかし、大木言っていたが、こう鬱蒼としていると、見えないものだな」

長「いえ、すでに見えておりますよ」

そう言いながら、上を指さして。

長「あの一番上の木々は、周囲に生えている木ではなく、大木のものです」

そう聞いた2人は、驚きを隠せなかった。大木、と呼ばれるものは、この森以外にもあるが、明らかにそれとは規模が違う大きさと言うことになる。

長「なので、大木にはまもなくつきます」

ウェイター「そう、か」

その大木に、大長が言っていた会わせたい人物がいる。目的がわからないままここまで来なければならない相手、ウェイターには想像がつかないでいた。

乙ん

>>291
ありん

長「ここです」

そう言われて少し歩くと、開けた場所に出た。広場のような場所で、中央に大木の幹がある。広場の中に大木以外の木はなく、足下は草と花があるのみだ。

長「では、恐れ入りますがここからはウェイター殿だけでお進みください」

ウェイター「…わかったよ」

ウェイターが女兵士の方を少し目をやると、心配そうな表情で彼を見ていた。その表情について何らかの反応も返せないまま、大木へと向かった。

近づくにつれ、大木の大きさがはっきりしてきた。近くにあると思っていたが、それは考えていたより大きく、ウェイターが今まで見聞きしたものとは比べようもないものだ。

木の近くに来る、まるで崖下にいるかのような木の幹が目に入る。

ウェイター「(しかし、会わせたい人物ってのはどこにいるんだ)」

もしかしたら、木の幹の反対側にいるのかもしれない。そう考えた彼は、反対側に向かうために歩き出さそうとした。

「どこへ行かれるのです?」

声がした。ウェイターが周囲を見渡すも誰もいない。

「ここですよ」

声は木の幹からしていて、ウェイターがそちらを向くと、少年とも少女とも言える容姿の人間が突如現れた。

「君が、彼らが言っていた勇者、だね」

ウェイター「まぁ、そう言われてるだけだけど…」

条件反射のような否定は言葉は出せたが、そこから先が続かない。

「勇者と言われて、勇者に成れるわけではない、かな」

ウェイター「そもそも自分にその資質はないです」

その返答に、その人間は目を閉じる。ウェイターも何も言えず何も出来ない時間が流れて、その人間が目を開いた後。

「言い忘れてたね、精霊、そう呼ばれる存在だよ」

ウェイター「精霊…」

御伽噺に色を塗りいれるように、またそこにいた存在が目の前に現れ、ウェイターは慣れたのか動じる様子はなかった。

ウェイター「まさか人ですらなかったとはね」

精霊「何も聞かされてはないようだね」

その言葉の後、精霊は苦笑いした。

ウェイター「あぁ、エルフの大長からは、あんたに会って来いとしか言われてないもんでね」

それを聞いた精霊は首を振り、申し訳無さそうな顔をした。

精霊「どうにも彼は偏屈でね。事務的と言えばいいのか。そういう面がある」

ウェイター「………、それで、あんたに会わなきゃいけない理由はなんなんだ?」

精霊はその言葉を聞いて、後ろを向き大木に近づく。そして、木の幹に触れるとその箇所が人が通れるぐらいの穴が開いた。

御伽話の中にいる。そんな諦めに近い気持ちが、その光景をウェイターに受け止めさせた。

精霊「中で話そう」

ここまできて引き下がることも出来ない。ウェイターは無言で、その穴に向かって歩き出し、それを見た精霊もそのまま中に入っていった。

中は闇に包まれているのかと、ウェイターは思っていたが、火の明かりが左右の壁に一定の間隔でついていた。木の内部で火を焚けば延焼が起きる。そうならないということは、魔術の一種なのだろうと彼は考えた。

精霊「ここに人を招くのは、何年ぶりかな」

懐かしむような口調だった。そして、その言葉が。

ウェイター「前にも誰かここに来てるのか?」

という言葉を出させた。聞いた精霊はそれは奥で話すよと返し、二人は奥へと進んでいき、扉がある場所にたどり着いた。

精霊が当たり前のように扉を開けると、中はこざっぱりとした、民家の一部屋のような場所でウェイターは少し拍子抜けする。

精霊「前の彼と反応が同じだね」

それが面白かったのか。クスクス笑いながら、置かれたテーブルの奥側の椅子に腰掛け、ウェイターも腰掛けるよう促した。

精霊「さて、もう話し出した方がいいかな?」

ウェイター「あぁ、出来れば手短に頼む」

頷き、了承した精霊は話し始めた。

>>296

    =≡ < ̄ ̄ ̄)
     =≡  ̄フ /
     =≡ //
|    =≡ / (__/|
|   __ L___ノ
|  / ヽ\
| /|ロ| ヽ \

| / |ロ|  O E∧
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|∧/┌―\|/¬|
|L|\\_/|L_/|
|ヒ|  ̄~ヽ|/ ̄/
| ヽ ┌===┐/
|_|\ \二//
|ロロ| `ー-イ_
|ロロヽ___/ロ|ロ\
|旦旦旦旦旦ロ/ロ/ロヽ
|ロ旦旦旦旦旦ロ/ロ旦|

こ、これは乙じゃなくて
スラッガーなんだから
変な勘違いしないでヨネ!

乙ですって!

>>297
飛んできそうどころか飛んでってるじゃねーか

>>297
ギャー!

>>298
うん、飛んできた(頭部に突き刺さっている)

精霊「まず話す前に、君の知っている御伽噺を聞かせてもらって良いかな」

御伽噺、それは魔王が現れ、世界は恐怖に陥った時、勇者が現れ魔王を討伐した。世間で聞き伝わっているその内容をウェイターは説明する。

精霊「……、考えていたよりも違う話になってるみたいだね」

困惑した表情でそういった精霊に、ウェイターは何が違うんだと聞き返した。

精霊「ハッキリさせるのなら、人間と魔族の間で大小の争いはあった。でも、それは一部の国と一部の魔族が戦ったことがあるだけなんだ」

ウェイター「じゃあ魔王っていうのは」

当然の疑問を口に出す。御伽噺の途中で、人間、勇者を手助けした魔族の存在はあるが、最初は魔族そのものが魔王に統一されて襲ってきた。それが、彼のみならず人間全体が知っている御伽噺だからだ。

つまり、一部の魔族との争いなら、魔王などではなくその族長が戦ったにすぎなくなる。

精霊「それは存在、した。なぜならそもそも勇者と魔王は同盟関係だったんだから」

ウェイターはその言葉を理解するのに、かなりの時間がかかった。

精霊「勇者と魔王が戦ったことはない。それよりも厄介な存在が当時いたからね」

ついていけてはないものの、ウェイターはその存在はなんなのかと、聞き返すことは出来た。

精霊「魔物。魔族とは違い、知性はなく本能で生きる獣。当時、竜というのが世界各地で猛威をふるっていてね。それこそ、人間も魔族もかなりやられたんだ」

竜のかいつまんだ説明はこうだ。強固な鱗に身が覆われ、生半可な武器で太刀打ちできず、吐き出す炎や強力な爪と牙、そして短時間ではあるが飛行できる翼。その頃大量繁殖した竜が、住処を飛び出し人間と魔族を襲い始めた。

精霊「だから、勇者と魔王は敵対なんかしていない」

ウェイター「じゃあ、なんであんな話に…」

さぁねと、精霊は首を横に振った。

>>300
・*∴。∴*__*∴。

   _|__|_
    ( ・ω)|
   (ノ ノノ

   ///   ∴
∴*・(_⊃⊃・*∴。∴*

こ、これは乙じゃなくて
ゼロ・グラビティなんだから
変な勘違いしないでヨネ!

>>301
のわ~!

精霊「元々勇者は、その竜に対抗すべく、各魔族と人間が同盟を組めるよう、とある国の王が使者として遣わせた者なんだ」

それもウェイターが聞く勇者像とは、違った。勇者は神託を得、襲い来る魔族をなぎ倒した勇猛果敢な人物なのだから。

精霊「考えるに、人間側の王、つまり支配者達は自分達以上の存在であった竜を、統治の関係上認められなかったんじゃないかな。竜を討伐した後、人間と魔族はお互いの領域を侵さないという会合がなされ、袂を分かれた」

つまり交流が無くなった魔族達を、あえて悪としても人間側には問題なかった、そう精霊は付け加えた。

ウェイター「だがそれだと、魔族を侮辱することになるんじゃないか?」

精霊「それは、両陣営のトップ同士、その時点で同意していたんだと思う。エルフ達はありのまま戦いを伝承しているけど、他の魔族は人間は下劣な存在として伝えてる。言うならお互い様なのかもね」

御伽噺は、人間と魔族によって作られた嘘かもしれない。その事実はウェイターに重く感じさせるものだ。なぜなら、それは支配者が用意した嘘であり、下手をすれば知った者の命を狙われる情報と言い換えられるのだから。

ウェイター「………、俺、ほんとにとんでもねぇことに巻き込まれたんだな」

精霊「予想が当たってるならそうだろうね」

ウェイターは頭を抱えるしかなかった。しがない商売人として、生きていくにも御伽噺の真実を知ったこと自体が、その未来に暗雲をもたらしている。

仮に精霊の予想が外れていたにしても、意図して改ざんした歴史を流布する必要があった連中には、彼はこの上なく邪魔な存在なのだから。

精霊「………、でもね。真実を知り、そして作られた御伽噺を聞いた今、その存在しない魔王が出没している。というのは、見逃せない話なんだ」

ウェイター「やっぱり、その魔王はいるのか」

精霊は頷いて答えた。

精霊「聞いた時は耳を疑ったよ。そもそも魔王はいるのに、魔王の封印が解かれて、侵略の準備をしている、という内容だったからね」

ウェイター「じゃあ、ますます俺の手には負えない事態じゃねぇか」

その相手が何者であるにせよ、戦う意思があるというなら説得するのは難しい。元々、王の酔狂として終わらせたかった彼にとっては、聞きたくはない話だ。

精霊「確かに、手が負える状況じゃない。なにせその御伽噺のせいで、人間と魔族が手を結ぶのは難しくなっている。相手が竜ならだけどね」

その言い方に疑問を持ったウェイターは。

ウェイター「竜は魔物で、魔物は知能が無いんじゃなかったか?」

精霊「一般的な魔物ならそうなんだけどね。竜はまた別格だから、人間程度の知能はあるよ」

それこそ当たり前の様子で言い切られ、ますますウェイターは頭を抱えるしかない。

精霊「それに、竜が相手なのかも定かじゃない。その頃の戦いで、全滅させた訳じゃないけど、奥地に追いやられた。その後は人間にも、魔族にも接触した記録はない。それこそ御伽噺のようにいなくなってしまったかのようにね」

それが少しだけウェイターの気持ちを軽くさせたが、事態の状況は変わってはいない。

ウェイター「聞くまでもないけど、あんたが俺に会いたかった理由は、その魔王の件でいいんだよな?」

精霊「半々かな。どちらかというと、君に興味があっただけだからね」

興味がある、という言い方は様々ある。言葉通りの興味本位、噂の確認といったもの。ウェイターには、品定めの意味合いを持っているように感じられた。

乙でありんす

>>307乙カレー
 __
/ ⌒)⌒\
 _ノ\ ノ)
/__ __\ (;"ヾヒso.
 =・/ヽ=・、ヽヽ二二フ
 ((_))、 ) / >′
 )~~( ノ/ /

>>308
どうもでありんす

>>309
それもあかんやつや!

まぁ、作者はカレー食うと胃痛起こすからそもそも食えませんが

ウェイター「後気になってんだけどさ、その出現した魔王とは違う魔王はどうしてるんだ」

ここまでに聞いた話で、当然考えることを彼は聞いた。本来の魔王が存在しているのであれば、偽者の魔王の存在を容認しているとは思えない。ウェイターはそう感じていた。

精霊「事前に察知していた魔王は、この件についてすでに動いているそうだね。具体的にどうしているのか、といったことは残念ながらわからないよ」

ウェイター「そっちは敵じゃない。それで間違いはないのか」

精霊は言葉ではなく頷いて答え、それを見たウェイターは安堵した。不必要に敵がいないにこしたことはない。それでなくても魔王討伐が任なのだから、勘違いされてはたまらないというのが、彼の中であった。

精霊「当然、魔王は正しい御伽噺のことは知っているけどね」

ウェイター「え。それ、まずくねぇか?」

精霊はいたずらっ子のように笑い。

精霊「魔王は御伽噺のことにこだわりは無い人だよ。そう伝ってることを知っている、けれど魔王自身そのことに興味はない。だからそれで魔王から襲われることはないよ」

心底ウェイターはそれを聞いて落ち着く。聞く限りまずい情報を知ってしまった今、その情報に関する敵味方がハッキリわかることは重要なことだ。

精霊「会って事情を説明すれば、魔王も協力してくれるかもね。会えるかどうかもわからないけど」
それよりも魔王が独自に解決方法を見つけてくれた方が、ウェイターにはありがたい話だった。が、敵対せず件(くだん)の現れた魔王に対応する存在がいるということで、いくらか気持ちが落ち着いてきていた。

>>311

   /ニYニ\
(ヽ |(゚)(゚)| /)
((()/ ⌒¨⌒ \()))
//亅-)___(- Lヽ\
L__\ |\ \ /__ノ
  | ヽ_\  ̄ ̄\
       ̄ ̄フ ノ
こ、これは   //
乙じゃなくて / (__/|
舌なんだから L___ノ
勘違いしない
でっていう!!

>>313
毎度の事ながらズレてるなww反省している

>>314
気にするな!

ウェイター「それで結局、あんたは俺に何をして欲しいんだ」

それは何であるかは、大方予想はつくものの、相手から話題に触れないことに我慢できずウェイターは切り出した。自分から言い出すのは駆け引きとして愚策ではあるが、命に関わることにそんなこだわりをいっている余裕はなかった。だからこそ。

精霊「うん? 君には特に何かしてもらうつもりはないよ」

その答えは考えても居なかったことで、ウェイターの思考はしばらく、理解不能により止まった。そして理解できるようになってからは、ならなぜ会う必要があったのかわからないでいた。

それが表情に出ていたのか、精霊は愉快そうに笑い。

精霊「冗談だよ。ただ君が考える大げさな頼み事ではないからね」

それに少しだけ安堵しそうになったものの、結果として望みもせずに何かしなければならないと気付き、ウェイターは言葉を待った。

精霊「今回復活しようとしている魔王の、正体を探って欲しいんだ」

ウェイター「充分に俺が考える大げさの範疇だよ!」

討伐ではなく偵察ならば、魔王と真っ向する必要はないのだから、前者よりも危険度は低いとも言える。しかし、相手の内情を探る行為も充分に危険をはらむものであり、ウェイターからすれば大差ないようなものだ。

精霊「今回の件は、本来の魔王のみならず、他の魔族も動いてる。当然、君の国の王だってそうだから、君を送り込んでいるわけだしね」

ウェイター「つまりなんだ、いろいろ動いてるから危険は分散してるといいてぇのか?」

満面で、それでいてイヤらしい笑みで頷く精霊を見て、ウェイターはわざとらしくため息を吐くしか、反応を返す方法が浮かばなかった。

>>316
わかった気にしないでいくぜ!
    /\
   //\\
  //  \\
 ///|―-、\\
// \Гフ ノ  \\
\\  //  //
 \\ (_二二]//
  \\  //
   \\//

    |\/|
    |  |

こ、これは乙じゃなくて
警戒標識なんだから
変な勘違いしないでヨネ!


>>1がいいなら良いんだろうけど流石にここまでAA続くと萎える

>>317
紛らわしい標識や

>>318
まぁ、荒らしでない限りはお好きにどうぞだからのう

精霊「さて、そのための本題だけれど、その魔王は北の地にいるとしかわかっていない」

この任務を与えた王も、ただ北へ向かえとしか言わなかった。御伽噺の真実を知る前は、酔狂で適当なことしかいっていないのだとウェイターは思っていた。

ウェイター「俺もそう聞いてる。今の話を聞いてて、てっきり周りはまだ詳細を知ってると思ってた」

王然り、女兵士然り、周りが自分に何も話してくれない。そう感じていたが、もしかしたら周りも知らずに話しようがなかったのか。

そこまで考えてウェイターは少しだけ否定した。女兵士だ。彼女は自身が魔族であることを隠していた。それはある種の考慮であったのはわかっている。しかし、隠されていたという事実と、今置かれた状況が疑心暗鬼を彼に植え込まれてしまっている。

精霊「実のところ、その魔王が侵略の準備をしている。というのも噂程度の話でね。確実そうなのは北の地にいるということぐらいなんだ」

目的が不明だからこそ、危険なのかどうかさえも判断できない。しかし、まことしやかに流される魔王復活の噂は、御伽噺の内容もあって良いものとは言い難い。

だから、精霊はその理由を知りたい。話としてはごくシンプルなものだった。

ウェイター「でも、俺である必要あんのかな。そういうのは、もっといい腕利きを派遣すべきだろ」

精霊「もっともだけど、噂程度で有力な人物を動かすのは、リスクのある行為だからね」

適度に話術があり、そして武術の心得もあって、失っても王家としてそこまで人材。あぁ、なるほどなと理解してから、ウェイターの中で、理不尽な王への怒りが更に一段階上がった。

>>320

これは乙じゃなくてAA略

>>321
もはやよくわからないよ!

精霊「それで、君はこの件を承諾してくれるのかな?」

いたずらっ子のようななりは潜め、真剣な意志を持って精霊は問う。

ウェイターにとって、この旅で初めて得られたら選択権でもあった。当然、王から言い渡された任務があるのだから、精霊からの依頼を受けても受けなくても、結果は変わらない。

ウェイター「断るよ」

精霊「…そうか」

落胆するよりは、精霊はどこか納得するような素振りだった。

ウェイター「ウチの店では、二重取りになる契約は御法度でね。信用問題になることはできない」

染み付いてしまった商売の教えが、そう答えさせた。

いやいや巻き込まれる形ではあるが、無自覚な範囲で彼は王家の要望に応えることは、結果として後々持つであろう店を開いた時に、これによって人脈が得られることと、店に箔がつくと判断していた。

だから、彼自身気づいていないが、任務としてではなく、商売として扱っているのだ。

精霊「結果は残念だけど、有意義な話は聞けたから、良かったかな」

話は終わり、そんな空気を感じてウェイターは立ち上がる。

ウェイター「それで、今までの通路を戻れば出れるのか?」

精霊「う~ん。面倒だから単純に言うと出れない。悪いけどもう一度ついてきて、出してあげるから」

通常ではない空間。それこそ、普通に見えるこの部屋もそうだったと思い出し、ウェイターは素直に精霊の後ろについて行く。今更、無かったはずの扉が壁に現れても、彼は驚かなかった。

同じような長い一本道を歩き、ようやっと大木の外に出た時には、わずかに見える空が赤く染まっていた。

精霊「もう会うこともないだろうけど、またね」

その言葉を聞いて、ウェイターが振り返ると、寂しげな表情のまま、景色にとけ込んで消えていく精霊の姿だった。

乙ですって
ちょっと罪悪感あるけどウェイターくんの判断なら仕方ない

>>324
ウェイターにはウェイターなりの理念があるからね。仕方ない

ウェイターは大木を後にし、見える森の方にまっすぐ向かっていく。

しばらくして、ようやっと見えた女兵士と長の姿が、彼を少しだけ安堵させる。2人も彼の姿に気づいてこちらに近づいてきた。

長「それで、精霊様はなんとお話に?」

ウェイターは長の質問に、本来いない魔王が現れたことだけを説明して、目的を探る依頼は断ったと話した。

長「なぜ、精霊様の依頼を断られたんだ?」

その口調は、怒りとも戸惑いともとれるものが、少しだけ混ざっていた。

女兵士「私達は最初からその魔王を討伐する任を、王から授かっている。それが理由だろう?」

女兵士の助け舟に、ウェイターはあぁとだけ答えた。

少しだけとはいえ、エルフの集落をみた彼には、彼等の暮らしに商売の概念がないことを感じていた。

理由となる商売の教えを説明しても、そもそもの考えにない彼等が納得できるとは思えず、すでにそういうことで動いているからという理由の方がわかりやすいだろうと判断したからだ。

長「そうか。それであれば断られても仕方ないな」

ウェイター「それに、俺達の他も魔王に関して探ってるみてぇだからな。その内目的はわかるんじゃねぇか?」

出来れば動いている連中が、その魔王とやらを討伐して欲しい。そんな希望を含めての発言だった。

女兵士「そうか……、他も動いているのだな」

長に向けた言葉だったが、反応したのは女兵士。この任務に熱心な様子は無かったが、思うところはあるようだ。

ウェイター「何にしても戻ろう。暗くなっちまうからな」

最近追っ手から逃げて森をさまよった記憶から、彼がそう促した。誰もそれに反対することなく、今まで歩いてきた道を戻った。

エルフの里に着いたのは、すでに夜更けだった。大長への報告は明日する事にし、そのままウェイターと女兵士は貸してもらっている部屋に向かう。

これからの旅は、言葉を今以上に選んでいくことになる。

御伽噺の真実を知る者が、友好的である可能性は低い。かと言って、調べる魔王を確認する時、避けづらいことでもある。

本来の魔王と現れた魔王。後者の魔王が広く認識されているのだから、御伽噺を話す必要は通常ない。

しかし、その情報の真偽を見定める時、御伽噺は良い試金石になる。もちろん、リスクがつきまとうが。

ウェイター「(商売人としての技量、まさかこんな形で試すことになるとはな)」

商人にとって話術は、ガラクタであっても、物を売りつけることができる技術。言わば生命線だ。

彼にとってリスクのある御伽噺(じょうほう)を、そのリスク薄めて相手に提供し、新たな情報を仕入れる。商人としての技量を確かめると彼が考えても、不思議はなかった。

女兵士「それでお前は、精霊からどこまで話を聞いたんだ?」

いつもより冷たく聞こえた声が、えっとウェイターに間抜けな声を出させた。

視線をあげると、装備を解かない状態で、女兵士が目の前に立っていた。疲れと思考が、近づいたことを彼に気づかせなかった。

ウェイター「…聞いたことは、2人に話したろ?」

言葉に今の感情が出ないよう、平常を装う。

女兵士「……、正直に話さないのならば…」

腰につけた剣に回される手が、ゆっくり見える。仲間と信じていたことに関する、裏切りのようなものを感じながら、最悪を頭で具現化する前に。

ウェイター「なら、お前から知ってることを話せよ。裏切り者」

と出た言葉は、女兵士のピクリと反応させ手を止めさせた。

女兵士「私が裏切り者だと?」

心底驚いたような表情をする彼女を見て、ウェイターは食えない演技をするなと感じた。

ウェイター「心当たりがないってか? それこそ今、斬りつけようとしたのに」

腰につけた剣に手が掛かってるのを指差す。女兵士は視線を動かし、その状態にまた気づいたような素振りをする。

それが、ウェイターの苛立ちを増していく。

女兵士「違うぞ。私はこれを取りだそうとしただけだ」

剣にかけていた手を、更に後ろへ回し、少しの間の後取り出したものは、一冊の本だった。

ウェイターはその表紙を見る。書かれていたのは、歴史書というタイトル。

ウェイター「これがなんだってんだよ」

女兵士「お前は本来の御伽噺を聞いたのだろう?」

ウェイターの中にあった疑いがその言葉で確信に至った。やはり、彼女はある程度のことを知っていて、自分には何も教えはしない。無性に、腹立たしかった。

ウェイター「だとしたらなんだ? お得意の秘密ごとを知ったから、気に食わないか?」

女兵士「そうではない。なぜ、そんなに苛立っているんだ?」

彼女の表情に影が落ちるのを、あえて見逃した。

ウェイター「別に? 何も知らない奴を無理やり連れ回して、その困った様を見るのは、さぞかし愉しいんだろうなと思っただけだ」

なんで、少しだけ、この任務にやる気を起こしていたのに、彼女が隠していたことがここまで苛立たしいのか。当人も、わからないでいた。

女兵士「そんなことをする為に、この任についた訳じゃない」

ウェイター「そうかい。だとしたら、なおさらたちが悪いな」

裏切られたそう感じたことが、堰を切ったように、苛立ちを増していく。

内心では裏切り自体は勘違いだと理解したのに、まだ秘密があったことが、ただひたすらに納得出来なかった。

ウェイター「悪いがもう寝る。話しかけるな、不愉快だ」

ちゃんとした寝る準備もせずベッドに横になる。そばで彼女が立ち尽くしているのを感じながら、目を閉じた。

しばらくしてその気配が離れ、ベッドへ移動した後に聞こえた、おやすみの声すら、彼には癪だった。

翌朝、目を覚ましたと同時に、ウェイターの身体は少し痛んだ。そのまま寝たことをわずかに後悔して、その理由になった女兵士のことを、彼は無理やり意識の外に追いやる。

彼がそんな調子ということもあり、2人の間で一切の会話はなかった。女兵士が何か言いたそうにしても、ウェイターは視線をはずし、無視をした。

朝食の迎えに着た長は、その光景を目にしたものの、口は挟めず3人は食堂に向かう。

今度は本当に一切会話のない食事が終わってから、ウェイターが事務的に、必要なことだけを大長に報告した。彼はそうかとだけ発して、終わった。

エルフの里へたどり着いたのは、元々族から逃げていた時に偶然匿われただけであり、2人はそのまま出立の準備を整えた。

この深い森から、当然2人では抜け出せる訳もなく、長が最寄りの抜け道を案内する手はずとなった。

長も準備が必要と言うことで、ウェイターは先に外で待っていた。考えていたのは、こんなわだかまりを抱えたままいるなら、任務を放棄して城下町に戻るか、だった。

「勇者様!」

イラだつ顔をしていただろう自分に、誰が話しかけてきたのか。そんな気持ちで視線を動かすと、そこにいたのは前に話しかけてきたエルフだった。

「もう出られるのですか?」

最初のおずおずとした態度とは違い、慕う相手へ示す態度。好意的なはずのそれが、ウェイターには目を背けたくなるものだ。

ウェイター「そうだけど、何かあった?」

違いますと言いながらバスケット―考え事をしていて、持っていることに気づかなかった―から、何かを取り出し、ウェイターに手渡す。

見ると小さな麻袋で、中を開けてみると、鮮やかな赤色をした粒が入っていた。

「この辺りで取れる、木の実です。栄養があるので、道中お召し上がりください!」

ウェイター「…、ありがとう」

それではと深々と頭を下げて、エルフは前と同じように小走りで去っていく。

純粋な好意。片隅でわかってはいる。しかし、どうしても不要な疑いが頭をもたげ、冷静さを取り戻すため、頭の中から1から100を二回数え、軽く深呼吸した。

長「お待たせした」

扉が開けられ、長と女兵士が出てくる。そしてどういう訳か、長は深いフードのついたローブと矢筒と弓を装備していた。

>>333の訂正

×純粋な好意。片隅でわかってはいる。しかし、どうしても不要な疑いが頭をもたげ、冷静さを取り戻すため、頭の中から1から100を二回数え、軽く深呼吸した。

○純粋な好意。片隅でわかってはいる。しかし、どうしても不要な疑いが頭をもたげ、冷静さを取り戻すため、頭の中で1から100を二回数え、軽く深呼吸した。

その装備を見て、理由を理解できないウェイターに、長が説明する。

長「ウェイター殿が精霊様のご依頼を断られたからな。私がその代わりを務めることになった」

ウェイターが言うように、今後他でも調査が進み、いずれエルフの里や精霊も知れることにはなる。

しかし、この地を治める精霊へ早く、情報を知らせた方がよいと判断した大長が判断を下し、その任を長に命じたとのことだ。

長「よろしく頼む」

出された手を、少し間が空いてからウェイターは握り返す。

女兵士は説明の間から、ずっと口を開くことはなく、長の先導で後についていく時も、ウェイターの背後から前に出ることはなかった。

会話が生まれづらい列で歩むため、聞こえるのは葉のかすれる音や、地面を歩く音だけ。

美しく見える森の中、清涼なはずの空気も、3人を覆う空気は違ったものだ。

この空気が一番辛いのは、もちろん長だった。2人は訳も分からず仲違いした状態になっており、その理由を聞くことができない。

家を出る前、女兵士と一緒にいた際に聞いてみたが、私が悪いとしか言わなかった。

精霊の元から戻り、部屋に居た時に何かあったのだろうが、2人と別れるまでの間にそうなりそうな雰囲気はなかった。

長「(ウェイター殿に聞くしか無かろうが…)」

少し接しただけだが、ウェイターは素直に話すような気質ではないことを彼女は感じている。

どれだけの期間一緒にいるかはわからない。だからこそ、その間にこの状態であるのは、良い結果を生むはずがない。

長としてはどうにかしたいのだが、今はどうにもできないことに、歯がゆさを感じている。

ボディーランゲージしかないな

>>336
ボディーランゲージでやりとりする3人、なんだかシュール

>>337
仲良さそう

エルフの里は、森深くにある。1日では森から出ることはできない、その長の言葉もあって、日暮れにはキャンプの準備を行った。

簡素な寝床を作り、火を起こす。たき火を中心に自然と三人の輪は出来たが、ウェイターと女兵士の視線が合うことはない。

携帯食による夕食も終わり、ウェイターはふと、出る前にあのエルフから貰った木の実のことを思い出す。

ウェイター「村のエルフから貰ったんだが、デザート代わりになるか?」

その木の実が入った麻袋を長に手渡す。問題はないとは思えたが、よくは知らないものを、知らないまま口に入れるのは、彼には抵抗があった。

長「これは誰からもらった?」

彼女の聞き方は、単なる質問のそれだったが、警戒心の固まりになりつつあるウェイターは、少し身構えた。

長「すまない、言い方が悪かった。この木の実はあまり穫れないものでな、言うなら貴重品なんだ。恐らく、ウェイター殿が勇者であったから、皆がかき集めたのだろうが、勝手に渡したものならいけない。そのためだ」

話の筋は通っている。そう判断したウェイターは、そのエルフについて、知っていることを話す。

長は少しばかり渋い顔をして、あいつなら勝手に持ち出しかねないなとボヤいた後、近くの木に手を触れた。

ウェイター「何してるんだ?」

長「木々に確認を依頼した。あぁ、ウェイター殿を疑っているわけではない、木の実がある保管庫には近づかれていないのだからな。ただ、話したエルフが勝手に持ち出したなら、大長に説教してもらわねばならん」

ウェイターは、あの口数の少ない大長に叱られるのを想像し、それは堪えそうだなと思わずにいられなかった。

長「さて、そろそろ休みを取ろう。女兵士さ…、殿が先に休まれてくれ」

女兵士は声は出さず、頷いて寝床へ移動した。

ウェイター「俺も見張ってた方がいいのか?」

その質問に、長は頬をかいた後。

長「私も初めて人間が治める地に行くのでな。出来ればいろいろ聞かせてほしい」

それもそうだろうなと納得した彼は、焚き火に薪をくべながら了承した。

>>338
現在の状況とかみ合ってないけどねぇ

ウェイターが話したことは一般的なことだ。いくつもの国があり、その国々の王が―エルフでは大長や精霊のような存在と教えた―統治している。

時折国同士で戦争が起きるものの、今は目立った争いはないこと。そして彼にとっては重要な事も話す。

長「商売?」

ウェイターが考えていたとおり、長、いやエルフにはその概念がなかった。

エルフは森奥地に住み、しかも外界との交流は持たず、ほとんど遮断されているような状況。

そして商売の原理として、売り出すものの貨幣価値を上げ、利益とする。その貨幣の基本もまた流通にある。あることだけでは意味はなく、循環して使われることで付加価値がつき、潤う。

エルフの里には、それが望みようもない。まず、今の商売を支える貨幣があったところで、流通は決まっているから付加価値がつきようがない。それに里の人間は、食料などは森から自給する事が出来る。商売に近いと言うなら、物々交換がせいぜいだろう。

もちろん宝石といったものは手に入らないだろうが、そもそも生きることの上では不要だ。

少しだけしか彼等に関わっていないが、自然を管理する責任感があり、誇りを持っている。ウェイターが住んでいた城下街の人達から見れば、質素な生活だが、娯楽の点で言えば、それ以上を知らない彼等にはとても満足できる生活だろう。

ウェイター「基本的に、欲しいものは通貨っていうのを使って貰うんだ。まぁ、そういうのは、こっちに任せてくれ」

任せてくれと言ってから、この旅を続けるかもわからないのに、無責任なことを言ったなと、彼は反省した。

長「人間達は面倒な生活をしてるのだな…」

素直な感想だった。大多数をうまくやっていけるためとはいえ、妙に複雑なルールが多い。そして結局、大多数はそのルールをすべて把握できていない。

仕方ないと感じつつも、ウェイターはエルフ達のような生き方が、少しだけ羨ましかった。

普通に乙。
まぁ俺も株なんかもなんで株価が下がったら借金になるのかよく分からん

>>342
大丈夫、偉そうに書いてるけど俺もよくわからん。

ウェイター「じゃあ、その代わりといっちゃなんだけど、エルフの里について聞かせてくれよ」

エルフの里は、ほとんど借りた部屋にいて、連れてこられた時と精霊に会う時しか外の出ず細かなことは見ることができなかった。

今回は人間が自分しかいないという、最初の恐怖心で外に出ることができなかったこともあり、ウェイターとしてはせっかくの機会を逃したのが心残りだった。

なら、せめてエルフである長からいろいろ聞き出したいと、その言葉が出た。

長「知ってのとおり良いところだぞ。争いなど一度もなく、自然の中で過ごす。今回は、出来れば歴史書のようなことにならなければよいのだが…」

歴史書と言われて、思い出す。女兵士があの時取り出したのは書物のタイトルは、確かそれだった。

ウェイター「歴史書ってのは?」

聞かれた長は、エルフの里に伝わる本来の御伽噺が書かれた書物とのことだった。なぜ、それが女兵士の手元にあったのか、までは長には聞けなかった。

長「竜との戦いのあと、精霊様の導きで我々はあの里に根を下ろし、森を育てた。最初はここまで深い森ではなかったそうだ」

そして、最初のころは他の魔族や人間とも交流があったそうだが、人間はここ数百年で迷い込んだ者しか訪れておらず、魔族も限られた部族の者達しか訪れないようになってしまった、そのことを少し寂しそうに話す。

長「大きく交流を持ってもいいのだが、精霊様の存在を多く知られることは、我々のタブーだ。故に、事情を知らぬ者は最初に会った時のように、追い出している」

もちろん、ウェイターは勇者としての立場がある。公言しないことは条件としても、それを話すのはエルフの間なら自由だ。言い換えるなら、それを聞かされること自体は、なんら制約はないことにもなる。

長「私がこう話すのも、ウェイター殿なら間違ったことにならないという信頼がある。精霊様がお会いしたいと言われた方だからな」

精霊の信頼はエルフにとっては絶対的なものらしい。ウェイターとしては、楽しいおもちゃをいじるような感じだった相手だっただけに、あまり良い印象はなかった。とは口には出せなかった。

ウェイター「なぁ、精霊はエルフにとってどんな存在なんだ?」

御伽噺後に、エルフの里を作るきっかけを与えた存在。なら、その前はどうだったのかという考えが、その言葉を出させた。

長「精霊様はエルフの先祖のような存在だ。一つの木を宿り木にして、我々のように森を一人で管理されていた。しかし、それでも細かな作業が必要になった時、自然が我々を新たに生み出した。言うなら、師弟のような関係だ」

精霊を語る長の顔は、本当に誇らしく、そして綺麗だった。気づけばウェイターはその表情のおかげで、わずかに顔がほころんだ。

長「……、初めて、ウェイター殿の微笑みを見たかもしれないな」

それを聞いて、ウェイターが仏頂面になってしまい、言ったことを長は少しばかり後悔し、なぜ後悔したのか自分の事ながら少し疑問に感じた。

ウェイター「大まかにしか御伽噺、あんたらの歴史書のことを聞いてるだけだが、エルフも戦うことになったのはやっぱり森がらみか?」

話や接触した感覚から、エルフは自ら相手に何かするといったことはない。そんな確信めいた印象のもとに聞いた彼の問に、長は静かに頷いた。

長「古来のエルフの里は森を焼き尽くされ、失われた。多くのエルフは、逃げ惑うことしかできず、そして宿り木を焼かれたことで数々の精霊様も消えてしまわれた」

当事者ではないが、一族として誇りを持つ長の表情は、苦悶のそれだった。だが。

ウェイター「長は、コロコロと表情が変わって面白いな」

先ほどのお返しとばかりに、彼が言ったことに今度はあたふたした表情で返した。

超カワイイな
長だけに

長だけに!!

>>346
お、おう…

>>346
だけに!

>>347
っ旦

長「ウェイター殿。私は大切な話をしているのだぞ?」

ウェイター「それはわかってるんだが。そうだな、男だったら女の沈んだ顔なんて、あんまり見たくないもんだ」

もちろん、お返しの意味も強かったが、言葉通りその表情を見たくないというのも、また事実だった。

長「…まったく貴殿は」

少しだけ沸いた怒りも抜け、長は呆れた。

そうして、二人の間に静かな沈黙が訪れたものの、それを当たり前のように受け入れた。ウェイターは久しぶりに、居心地の良さのものを感じ、ささくれ立つ心がなだらかになっていくのを感じ。

ウェイター「長は怖くないのか? 知らない世界に飛び出るってことになるんだぜ」

何事も新しい一歩を踏み出す時は、大小あれど恐怖が混じる。それに、長自身の意思で決めたことではない。ウェイターはその部分で、長に親近感のようなものを感じていた。

長「私は、この使命を務められることになったことを、誇りに思っている。恐怖など、些細なことだ」

真っ直ぐに人をとらえることができる、透き通った笑顔が、ウェイターの目を背けさせた。感じていた親近感は消え失せ、まざまざと自分とは違うのだと、見せつけられた気分になった。

向かうべき道は見えているのに、心のどこかでそれでいいのかといつまでも問い(きき)続ける自分。比べるまでもなく、自分はその位置に立てることはない。

自虐が混じった乾いた笑いをしてから、自分は生涯、あんな笑顔を浮かべることはないのだと、悟った気持ちになった。

長「どうかしたのか?」

ウェイター「そうだな。そう言える長が、羨ましいだけだ」

素直な気持ちを吐き出すと、少しだけ気持ちに余裕が出てくる。鬱屈した気分はいつも通り晴れることはなかったが、出てきた余裕のおかげか、それが心地よかった。

長「羨ましいか、不思議なことをいう」

ウェイター「いろいろあるんだよ。こんな俺でも」

パチパチと鳴るたき火が、どこか自身の言葉を否定するような、そんなものに彼は感じた。

長「そろそろ、ウェイター殿も休まれるといい。交代の時にお呼びする」

わかったと返して、ウェイターは立ち上がって女兵士がいる簡易な寝床へ向かう。女兵士は、当然ながらそのまま横になっていて、静かだった。

ウェイターはいろいろぐちゃぐちゃな気持ちでいたが、それでも、諦めのような落ち着きのおかげか、女兵士を見ていらだつということはなくなっていた。

しっかりと話を聞かず、放った言葉に後悔の念が芽生えてはいたが、何を話せばいいかは、わからないままでいた。

ウェイター「(……寝るか)」

考えを放棄して、そのまま寝床に身体を横たえる。すぐにどうすればいいかもわからないまま、寝ないで悶々と過ごすのは明日も続く森からの脱出に影響する。仕方なくそう割り切ることにした。

夜の森は、起きている。夜行性の動物や虫、そして少しだけ木々を揺らす風。無音などはなく、静かに森は活動していることを示しているかのようだ。

見張りは立てているのだから、そうそう大事には至らないだろうとは思うものの、やはり、こういった場所で野宿するというのは、ウェイターは慣れなかった。すでに、二度ほど野宿はしているのだが、そのどちらもヘトヘトに消耗したからこそ眠れただけで、そうではない今は、寝付くのに苦労していた。

女兵士が寝返りをうつ音で、ウェイターは彼女に視線だけ向けた。寝顔がこちらを向いている。いつもの無機質な顔と違い、穏やかな表情を浮かべている。

ウェイター「(…こんな表情もできるんだな)」

思えば、いつも女兵士が先に起きていた。だから、これが初めて見る寝顔なんだなと気づかされながら、視線を元に戻し眠ることにウェイターは集中した。

おつつ(今更

>>352
ありり

長「ウェイター殿。交代の時間だ」

―――意識が戻ってくる。今までの体験(ゆめ)はないことになり、ただ不愉快さと言いようのない虚しさだけが、ウェイターの感覚(なか)で残る。それを振り払うように体を起こし、わかったとだけ言って交代する。

少しくすぶり始めた焚火に薪を追加して、木の前に座りそのまま背中を木に預けた。まだ空が明るくなる様子はないが、少しだけ強くなった肌寒さが、時間の経過を感じさせた。

見張りは自分だけ、2人に比べれば実力がないのはわかる。それだけに、1人だけの見張りというのが彼に心細さを与えている。

それを無視するために、考えに耽ってもいいのだが、見張りの意味がなくなってしまう。本当に危ないことが迫った時、2人を起こせる余裕をもって対応できる程度に、警戒は怠ってはいけない。

起きて不審なものが見えないかは当然として、何か不自然な物音がないかも聞き取るのが、見張りという仕事。それ以上もそれ以下もない。何もないことが一番理想でありながら、何か起きることをどこか望むような仕事だ。

ウェイター「(人間の皮肉な心理だよな)」

変化を無意識に望み続けるのが、人間、いやこの世界の当然だ。変化は時間と同義であり、時間の中で生きるということは、それを肯定して生きている。

もちろん、すべてのことは変化している。しかし、その存在の認識の中で変化がないとなれば、矛盾はあるが変化、時の経過は起きていないのと同じこと。それだけに、変化しているという認識を人は求める。

わずかに足音が聞こえ、ウェイターがその方向を見ると女兵士の姿があった。

彼が自分を見ていることに気づき、女兵士は少しうつむき加減になりながら、目が覚めたとだけ答えた。それに反応したというわけではないが、ウェイターは焚き火の横を指さし、彼女はそこへ静かに座った。

2人の間に、まだ会話はない。女兵士は、前より彼が苛立ちを露わにしていないのに安堵したものの、話しかけていいのかわからず、沈黙するしかなかった。

ウェイターは怒ってはいないというだけで、この件が済むことを理解しているものの、ある種のプライドのようなものが邪魔して黙り込むしかなかった。

そこからまた、代わり映えない静かな見張りが続いたが、ウェイターの中に、退屈は浮かばなかった。

ただ黙って周囲を警戒している時間も、誰かと居るだけで違うものなのか。なんとなく、彼はそう感じていた。それが、少しだけ気持ちを楽にしたのか、一言だけ悪いと口から出させた。

女兵士はそれを聞いて、当然驚き、悪いのは、私だろうと返す。

ウェイター「話も聞かないで、ああいったんだ。俺が悪い」

ようやっと、心底安堵した女兵士は、わずかにだけ頬をゆるませた。何か言うわけではなかったが、ウェイターには、それで十分だった。

それからは本当に緩やかな時間の流れを、彼は感じていた。慌ただしい商店での仕事や、今までの任務の中では感じられなかったそれに、長く浸りたいという感情が芽生える。

ウェイター「……森を出たら、次はどこに向かうんだ?」

本当なら、またギクシャクするのを恐れ、2人から離れるつもりだった彼は、その芽生えた感情に引きずられて、そう言った。

寝落ちだな
おつつ

>>356
寝落ちかもしれない

女兵士「北の、魔王が目撃された場所に向かうのは変わらない。ただ、森のどの位置にでるかもわからないからな。どの場所にいるか把握するため、近隣の街や村へ目指すことになるだろう」

彼女にしては饒舌に話す、そうウェイターは感じて、今までの無意味な緊張のせいだろうなと答えをつける。

女兵士は悲しみも怒りも苦しみも、ちゃんと感じる。ただ、それが表に出ず、そして表現するのが苦手なだけだ。

ウェイター「運が悪いとしばらく野宿生活か」

それ自体には、だいぶ慣れてきているウェイターだが、どちらかといえばそのことより、自分以外の人間に会いたいという気持ちが強かった。

それを知ってか知らずか、女兵士が耐えてくれと言われ、仕方なく頷く。

ウェイター「そういや、何でおまえ歴史書なんか持ってたんだ?」

あの時取り出した本、本来はエルフの物であり、女兵士のものではない。それに彼女は、おまえがいない間に持ってきていた長から借りたと答えて。

女兵士「聞いたであろうお前が、その事を話してくれないことに、除け者にされたようで………、その腹が立ったんだ」

うつむき加減で話す彼女を見て、かわいらしいところもあるなと、まじまじとウェイターは感じていた。

ウェイター「でも、言っちゃわりぃが、お前だって俺に全部話してないだろ?」

それを指摘したことにぐうの音も出なかったのか、女兵士は黙ってしまう。

ウェイター「一応な。知らなかった時に、知ったことで危険な目に合わねぇよう気を使っただけだ」

重要な情報は少人数だけが知っている方がいい。良い意味では身を守るため、悪い意味では秘密を維持するために。

女兵士「………私も、お前と同じ理由だ」

そうかいとだけ、短く返したが、話す気が無いのはわかっていただけに、理由だけでも答えてくれたことに彼は満足した。

そのまま女兵士と見張りを交代して、ウェイターは再度床につき、次に目が覚めた時は朝になっていた。

携行食による簡単な食事の後、また深い森を長の先導で進んでいく。

昨日と違う点は、息をするのもはばかれるような、重い雰囲気はなく、ごく自然な旅の一行になっていること。

その事に気をやんでいた長は、いったい何があったのかと不思議に思いながら歩を進めていた。

ウェイター「そういや、長のその長い耳、魔法で隠せたり出来ないのか?」

今後のこともあり、彼は確認を含めて聞いた。ウェイターはともかく、大多数の人間は魔族は一種の御伽噺だと思っている。

女兵士のように、人間と変わらない容姿なら問題ないのだが、長はエルフの特徴である長い耳と彼は考えていた。

長「私の耳に不満があるのか?」

ウェイター「違う違う。普通の人間は魔族いないと思ってるのと、知ってる奴から隠しておきたいだけだ。長になんかあったら、エルフの奴らに悪いしな」

エルフの特徴を否定されたようで、ムッとした長も、それが単純に心配だったことで、少し微笑んだ。

長「ありがとう。しかし、そのような魔法は残念だが使えない」

その答えに、じゃあどうすっかなとボヤきながら、ウェイターは考え始めた。

その隙に、女兵士がスッと近付いてきていたのに、長は気づくのが遅れ驚く。

女兵士「言われてみれば目立つか」

彼女もそれを確認するために近寄っただけだった。

長「このフードで頭を隠すことは出来ます。それに、大体が魔族を御伽噺と思っているなら、変わった耳程度で済むのでは?」

言われればそうではあるのだが、知っているための心配がウェイターの脳裏をかすめていた。

ウェイター「しかしこの森は、いつになったら抜けるんだ?」

すでに移動をし始めて一日半、そろそろ抜け出せてもいいのではないか、そんな思いで尋ねる。

長はそれに、そろそろで抜けられるという答えに、安心したウェイターだが、そろそろ日が落ちる頃合いに差し掛かっていた。

このまま抜け出しても良いが、都合良くそばに村や町があるとは限らない。街道でキャンプは目立ち危険性は高く、このまま進むか、それとももう一度森の中で一晩過ごすか選択を迫られた。

女兵士「運良く宿にたどり着けても、夜間では借りられる保証もない」

その言葉に2人は従い、少し進んでからもう一度だけ森の中でキャンプすることになった。

たき火を囲む3人の表情は、ウェイターと女兵士の和解もあり、穏やかなものになっていた。

自然と話も弾み、いろいろな事を話す。王様から強引にこの任務を与えられたことや、当時の詳細。エルフの里に来ることになった村での出来事。

長は長で、エルフの里での生活のことや、これから向かう人間がいる地域の期待と不安。そう言った話をウェイターと長が話し、女兵士は軽い相づちをするだけだった。

ウェイター「女兵士は、この任務がくる前に事前の通達とかあったのか?」

それに気付いた彼は、自然な流れで女兵士が話すよう話題を振る。少し、戸惑ったような調子で、そういったことはないと、短く返す。

長「人間のリーダーは、部下に何も話さず決めるのか?」

2人から似たような状況を聞いた長が尋ね、またウェイターと長だけの会話になる。

ウェイターはそれを気にしていたが、女兵士はただ静かに、2人の会話を聞き入っていた。

しばらくの楽しい会話の後、見張りの順番を決めそれぞれ休みを取る。

ウェイターは消えぬよう焚き火の番もしながら、周囲を警戒する。奥深い森で野盗を根城にはしてなく、危険な野生動物が生息する場所ではないが、それでも人里に出られる距離に着ていると、長は話していた。何らかの理由で、何かがやってくるかもしれない距離。自然と、ウェイターにも緊張感が身をまとう。

精神衛生的によろしくない、うだうだとした考えをしない分、時間の経過はいくらか早く、彼は感じていた。交替で起きてきた女兵士の姿を見て、そう思ったのが何よりの証拠だろう。

彼女は何もいわず焚き火を挟んで、ウェイターと向かい合って座った。そしてそばにあった薪で、焚き火の中を調整してから、そこへ放り込む。

ウェイター「話すの、苦手か?」

2人きりでいたが、自分がわりとピリピリしていたから話しかけづらかっただろうことや、そこそこ事務的な話しが多いかった。それでもそれなりに話しはしていたから、そこまで苦手な印象を彼は受けていなかった。

女兵士「そう、だな。あまり話すのは得意ではない」

少し照れたように、鼻を指でかきながら彼女が答える。

ウェイター「俺は商売柄話すだけだしな。話が必要な仕事でもしてなきゃ、得意なヤツは少ないさ」

そんなものかと言いながら、微笑む彼女を見て、ウェイターは落ち着いた気分を味わっていた。

そういえば、ここまで落ち着いた気分になったいつ頃だろうか、ふと彼はそんなことを思った。

女兵士「さて、そろそろお前も休め」

お言葉に甘えてと告げて、ウェイターは立ち上がり、さっき思ったことは寝床につく頃には消えてしまっていた。

ウェイター「ようやっと街道に出たかぁ」

その翌日の昼過ぎ、3人はようやっと人が支配する地域である街道に出ることができた。整備された道が、悪路ともいえる森の山中から比べる必要もないほど、彼には楽だった。

女兵士「さて、位置を把握するためにもどこかの村や街に向かわなければな」

彼女が持っている地図は、描かれていないエルフの里から抜け出したため、そこから現在地を割り出すことはできない状態だった。長は当然として、すでにいる場所は2人の母国ではなくまったくの地理勘もない。

自分達が今どこにいるのか、というのを知るのが3人にとっての急務だった。

長「それなら、木々達に情報がないか聞いてみます。少しお待ちください」

そういって、近くにあった1本の木に歩み寄り、右手をかざして長の動きが止まる。恐らく会話をしているのだろうと2人は思い、静かにその様子を見守る。

しばらくして手を話し、長は話によるとこの道をあちらに歩いていけば、人が住む場所があるということで、その言葉をもとに街道を歩いていく。

久々に浴びる陽光は、ウェイターにすがすがしさを与える。ずっと日陰の中にいたせいか、植物のようにその陽の暖かさを堪能していた。

長「ここまでの陽の光は、初めてですね…」

その一方で、それを苦手とするエルフである長が、更に深くローブを被る。肉体的な苦手ばかりはどうしようもないことだが、今後うまい方法はないか探す必要がある。ウェイターはそう考え、情報を仕入れる方法を思案しながら人里をめざし、3人は夕刻手前ぐらいで街にたどり着くことができた。

乙!

>>366

すぐに宿を見つけた3人は、そのまま部屋を借りて一息つく。

ウェイター「さ、てと。この町がどこか調べてから、相変わらず例の魔王が見つかった北の地域に向かうって感じか」

これからの行程について話し合う。とはいっても、女兵士も魔王が見つかった北の地域以外に情報はなく、それ以外で魔王に迫れるような情報が3人にはない。具体的な案が出ない以上、話し合いは必然的に終わる。

長「それであれば、人間な細かな生活を知りたい。どちらか、お疲れでなければ街の中を案内してくれると助かる」

という提案がなされ、ウェイターが長の街の案内をし、女兵士はこの町の場所を確認するため情報収集することとなった。

薄暗くなった街中を、ウェイターと長は歩く。当たり前だと思っていた人混みが、ここまで懐かしいと感じた彼は心の中で苦笑いした。対して長は、まずその人の数に気圧されて、ウェイターの後ろ隠れるように歩いていた。

長「人間とはここまで多いのだな」

ウェイター「思ったことはねぇけど…。エルフの里に比べりゃ、多いか」

自然な形で、背中側の服の端を長は軽く握る。何かあってはぐれた場合、長では2人に合流できない可能性が高い。そのための自衛手段だったが、ウェイターは少しどぎまぎしてしまった。

おつ

>>369-372
いつもありがとう。

長「あそこは、なんだ?」

彼女がそう言って指さした方向にあったのは、いくつかの露店が立ち並ぶ場所だった。食べ物を扱うところもあるのか、あたりにはいい匂いが漂っている。

ウェイター「露店通りだろうな。個人とかでやってる店が集まってる場所だと思えばいい」

気になるのか、長は上の空でそれにうなづくだけだった。彼もその様子を見て、とりあえずその通りに足を踏み入れる。人通りは悪くなく、軽く一杯飲むのに適した店もあるからか、ほろ酔いの人間も多い。

長「ウェイター殿、ウェイター殿」

裾をクイクイと引っ張られて振り返ると、長の指さす先に菓子の類が並べられた露店があった。

ウェイター「食べたいのか?」

出来れば、と少し恥ずかしそうな長を見て、そのまま1つだけ菓子を購入した。ロコスと呼ばれるもので、少し硬めの生地の上に、砂糖をまぶしただけのシンプルなものだ。それを彼は長に手渡した。

おずおずと、どんなものなのか確認するように見て、匂いを嗅いでから彼女はそれを口に入れた。

長「甘い…」

少しとろけたような表情で、そう呟きながらお菓子をほおばっていく。エルフの里にはあまり見られない食べ物なのだろうが、気に入った様子にウェイターは少しだけ喜んだ。

ウェイター「もうちょっと見て回ったら、宿に戻るか」

その言葉に、ロコスを食べながら長は頷いて、2人はそのまま露店通りを見て回った。

長可愛すぎや…

>>375-376
なんか>>1的にはキリっとしたキャラ像だったんだけど、どうしてこうなった

2人が街から宿の部屋に戻ると、兵装を解いた女兵士が備え付けの椅子に腰かけ、地図を見ながら飲み物を飲んでいる姿があった。入ってきた2人に気づいた彼女は、そばに来るよう声をかける。

女兵士「今いる現在地を把握した。やや、予定の場所からは遠ざかったが、ここからこの道を使うことで魔王目撃の地に向かうことができる」

その話を聞いて、肩をなでおろしたのはウェイターだった。現在地がわからないということは、大げさではなく任務以前に自分が帰れないことを意味していた。あてずっぽうに歩けばいつかは覚えのある地につく、なんていうことは早々あることではない。

長「基本的に、人間が介する地を移動するのですね?」

その移動する道順を見て、長はそう尋ね、女兵士もそうだとだけ答える。

長「私の力であれば、このように行くこともできます」

そういって指さしたのは、森林地帯があるため、迂回して移動している個所。エルフの木々と対話できる能力を使い、安全にそこをショートカットできるというのが、彼女の主張だった。

ウェイター「急ぐ任務ってわけでもないからな。それに、何かあった時に誰かいる地域の方がいいだろ」

ただ、いざって時は森に逃げ込むから、よろしく頼むと言ってウェイターが長の肩を軽く叩くと、わかりましたと少し寂しそうに彼女は答えた。

その後、出された夕食を済ませ、部屋に戻ったのは女兵士と長の二人だった。ウェイターはたどり着いた街の名産を知りたいと言って、外に繰り出していた。

女兵士「人間の世界は慣れそうか?」

それに、大丈夫ですと答えた長は、どこか上の空だった。女兵士はそれに気づいていたが、あえて触れずに貰ってきていた強めの酒を飲み始めた。

その酒は香りが強く、蓋を開けると部屋中にその匂いが広がっていく。

長「良い香りですね」

エルフの里ではないであろう香りにつられたのか。そう口にして、興味深そうに酒を見ていた。

女兵士は何もいわずに、部屋に置いてあったグラスの一つをとり、酒を注いで長に手渡した。

女兵士「呑んでみろ」

琥珀色液体が、グラスの中で漂っていた。そこから香る匂いは果実のような、どこか甘い匂いがした。長が恐る恐る舌先にふれる程度含むと、じんわりと熱さが広がり、その後はアルコールの影響で少しむせた。

長「これは、毒ではないのですか…?」

恐る恐るといった様子で、女兵士に確認する。彼女が問題ないことと、酒という飲み物について説明した。

長「そうれふか」

慣れないアルコールだったためか、長はすぐに酔いが回り、フラフラとし始め、ろれつも回らなくなった。女兵士は少しあわてて、長に近づいてベッドに誘導しに横にさせた。

ここまで呑めないヤツは久しぶりだなと思いながら、女兵士はその酒を一口であおりのんだ。

その酒瓶が空になった頃に、ウェイターは部屋へ戻ってきていた。すでに眠っている長を見てから、備え付けの椅子に座り少し酔った様子の女兵士に対して、対面する形で座る。

ウェイター「長は疲れて寝ちまったのか?」

先ほどの状況を説明すると、酒を飲まない地域の奴にこれ飲ませるかと、呆れた調子で言いながら酒瓶を手に取って、何かを確認した。そして、明らかに強い酒だとわかると、次は何も言わずに首を振った。

ウェイター「お前さんも、この度数の酒、よく空けられるな」

女兵士は慣れだよと答えて、グラスに残っている酒を、少しだけ口に含んで飲みこむ。酔いの影響か、美しいと感じられる彼女の容姿に、妖艶な雰囲気をまとっていた。飲み込まれそうなそれに、ウェイターは視線を外して誤魔化した。

女兵士「すまないな、貴様の分は残していなかった」

グラスを傾けるその姿は、あえて言うなら娼館にいるトップクラスの娼婦のようだ。まるで誘うようなそれは、まるで現実を夢うつつにするような力を持っている。

ウェイター「いらねぇよ。後はそのまま眠りこけるだけだ」

それを意識していることを気取られないように、言葉を返す。

女兵士「……、やはり、私のような女は嫌いかな?」

だからこそ、この状態で問われたくないことを聞けば、心臓の鼓動は早まるばかりだ。


長に負けじと女兵士も可愛さアピールか

乙ー!

>>381
どうなんでしょかね

>>382
ー!

ウェイター「嫌いなことはないけど、どうしたよ?」

こんな時にでも、濁らずに言葉を話せるのは商人として鍛えられている証拠か。冷静でいる自分が、そんな風に思っていることを、ウェイターは感じていた。

女兵士は嫌いでないという部分を信じたか信じないか、読み取れないいつもの表情で、ただウェイターを見ている。そう思った矢先に、彼女は体を乗り出してきて、顔が口同士が触れる寸前の位置にある。甘い香りとともに、酒の匂いが香ってくる。

ウェイター「お前、酔ってるな?」

女兵士「さぁな…」

その位置から離れようともせず、ただウェイターを彼女は凝視する。いつも決まったような位置にいるように、距離感を保っていた彼女とは思えない行動に、ウェイターは早まる鼓動を抑えることもできない。

女兵士「男は、私のような女が嫌いなのだろう?」

言いたいのは恐らく性格の意味合いか。ウェイターは仕事柄実直な性格を好んでいたから、気にはしなかったが、世間の男共はどちらかといえば、女性らしいというか愛くるしい性格の方が、好みといえば好みだろう。

何となく、世俗的なことにも女兵士は関心を持っているのかと、考えが至ったウェイターは、また彼女に親近感がわき、自然と笑みがこぼれた。当然間近で見ている女兵士はそれに気づき、やはりかと聞き直してきた。

ウェイター「普通の男共ならそうかもな。でも、俺はお前の性格は嫌いじゃないぜ?」

それから、しばらくの間にらみ合いにも似たような感じで、お互いを見合う。言うなら、綺麗な景色を眺めるかのように、ただ見ていた。そして、それに飽きたように女兵士は椅子に体を戻し、薄くなった酒が入ったグラスを取り、酒を一気に喉へ通した。

女兵士「これでは酔えそうにないな」

照れ隠しなのかはわからないが、ボソリと呟いて立ち上がってから、酒を取りに行くと部屋を出ていった。残されたウェイターはそのまま深く椅子に腰かけて、ぼんやりと女兵士を待つ。寝てしまってもよかったが、何となくそうした方がいい気がしたから。


二人とも可愛い(可愛い)

>>391
可愛いは正義。

しかし、可愛いは作れるけど、可愛いをにじませるのは難しいよね。

自分の食事をしている姿を見たことはない。鏡に向かい合ってご飯を食べることなんてまずないし、そもそも自分の食事姿を見るのを目的にした人間はまずいないだろうな。そんなくだらないことをウェイターは考えた。

残っていた食事を平らげて、2人は店を後にする。長の話だとまだ時間がかかりそうだということで、宿に戻ることにした。今日はもう発つ予定ということで、荷物を回収して部屋を引き払い、宿の広間になっているところで女兵士を待たせてもらうと説明する。快く了承をもらった2人は近くにあった椅子に腰かけて、彼女が来るのを待っている。

長「しかし、ウェイター殿はいつ戻られたのです?」

不思議そうに聞かれて、帰ってきた時にはすでに長は寝ていたと教えると、いぶかしむような表情をしながら。

長「実は昨日の夜の記憶が曖昧でして…。部屋の中に入ったことまでは覚えているのですが、何か大変な事態があったのではないかと思ったのです」

そう言われて、ウェイターは酒の影響で記憶が飛んでいるのだろうと考えた。確か舐めた程度にしか飲んでいないと女兵士は言っていたが、それだけで酔っぱらって眠ってしまう体質なのだから、根本的にお酒が弱い一族なのかもしれない。

彼はとりあえず、何も問題は起きていないことと、恐らく気づかない疲れが出てそのまま眠ってしまったのだろうと言っておいた。長にはお酒は飲ませないようにしないといけないなと、思いながら。

>>398
黒パン食った女兵士が突如嬉々としてその固さを褒め称え始めるという奇行を見せても良いのよ

>>399
黒くて固くてデカイパンですねわかります

>>399
どういうことなの…。

>>400
おーい。

女兵士が店を近づくと、店主がいるだけでそれ以外に人はいなかった。いらっしゃいと声をかけられ、彼女は何の店だと聞くと、簡単な飲み物と食べ物を提供する場所だと説明を受けた。

情報料代わりに飲み物を一つ頼み、この周囲で何かトラブルがなかったか尋ねると、これといったものはないが昔に比べるとどうも物騒になったのか、一足が遠いとぼやくように言われ。

「副業で儲けを考えてる仕事じゃないが、いい加減潮時なのかねぇ」

その言葉と表情もあって、ここでの時の流れの長さ、店主が過ごしてきた時間を思わせた。

無責任とは承知で、また元に戻るだろうと慰めに、店主は優しく微笑む。女兵士も微笑み返した後に、受け取った飲み物を飲み干してから杯を返し、また来るとだけ告げて待っている2人の下へ向かった。

店主の、はっきりとはしないが人の往来が少なくなっていて、もしかしたら警戒して進んだ方がいいかもしれないと伝える。

長「木々にも不穏な動きがあれば、教えてもらえるよう伝えておきます」

はっきりとはしない情報だけに、できることもそれぐらいしかない。そういう意味では、エルフの自然、木々と対話できる能力は優秀だった。

ウェイター「後は、とりあえず街に少しでも近づいておかねぇとな」

休憩を早々に切り上げた3人は、また目的の街に向かって街路を歩み始めた。

>>401
>どういうことなの…。
世界観が違いすぎて直接混ぜられないなら間接的にでも、と

>>403
なるほど…。いやしないよ?

>>402の訂正

×情報料代わりに飲み物を一つ頼み、この周囲で何かトラブルがなかったか尋ねると、これといったものはないが昔に比べるとどうも物騒になったのか、一足が遠いとぼやくように言われ。

○情報料代わりに飲み物を一つ頼み、この周囲で何かトラブルがなかったか尋ねると、これといったものはないが昔に比べるとどうも物騒になったのか、人足が遠いとぼやくように言われ。

休憩所を出て移動を再開してから、3人はそれとなく周囲を警戒するように目的地へ向かっていた。もちろん、元々から油断していた訳ではなく、警戒のレベルを引き上げた。というべきだろう。

眼下に広がるのは広めの街道に、草原が大きく広がり数本の木々が生えている。待ち伏せするには不適切な場所に見え、警戒が必要とはあまり思えない地域だ。

発つ前の街は繁盛しているとは言わないまでも、そこそこの活気はあった。それに、今歩いている街道の大きさと整備されている状態、そして休憩所があったことから考えても、元々かなりの往来があったことが想像できる。

ウェイター「(賊絡みじゃないとするなら、これから行くところの景気が、あまりよくないのかもしれねぇな)」

女兵士の話ではトラブルもないが、物騒になってきているからという理由だけで往来が途絶えるとは考えづらい。なら、そう考える方が自然な話だ。

ウェイター「(となると、長居は無用そうだな)」

そういう状態であれば治安がいいとはいいがたいだろう。常に満足した環境で旅ができるなんていうのは無理な話だが、無用にトラブルを招く必要はない。次の街についてからの判断でも十分だろうが、概ね考えた内容から外れることはないと、どこか確信めいた思いをウェイターは抱いている。

一度、街道でキャンプをしてから、目的の街にはたどり着いた。そこそこ大きな街にはなるのだが、ここにいる住む人達に生気は感じられなかった。

長「……静かですね」

それは同時に街の活気を遠ざけて、人々はいるのに静かな街の景色が目の前に広がっていた。長は自分が住むエルフの里と比べても、静けさを感じたからかそう言葉を漏らした。

女兵士は何にして宿を見つけて、腰を据えるところが必要だなと言い、三人は宿を探す為に街中を歩き回る。街人も非協力的なため、見つけるまでに時間がかかった。宿自体の中は、特に変わったところもなく、通された部屋も怪しいところはなかった。

女兵士「嫌な感じを受けるな」

部屋の中に荷物を一通り置いた後、彼女は同意を求めるように言い、残った二人も頷いた。

ウェイター「道中何にもなかったわけだから、やっぱりこの街になんかあんのかもな」

長「どういう意味です?」

長にウェイターは街道で特にトラブルがなかったことや、女兵士が街道の店主から聞いていた人の行き来が少なくなったことから、この町に何かあると予想はできると説明して、彼女は納得した。

女兵士「……どちらにせよ、魔王の件の情報収集は必要だ。その時にこの街の内情も調べられるだろう。ただ、長はあまり単独で行動はしないでくれ」

人間の世界に慣れていない長が、いらぬトラブルに巻き込まれる可能性を考え、女兵士はそう指示した。

来てたのね乙

>>410
来てたよ。あり。

ウェイターは少し確認したいことがあるとして別行動となり、女兵士と長で北の地の情報と、街について調べることにした。

長「先ほどは、静かと言いましたが」

街中を歩いていると長はそう言いだし。

長「静かなのではなく、笑みがありませんね」

馬車や街人の歩く音、商品の交渉の声、それらは確かにこの町に彩(いろどり)を与えているはずなのに、どこかモノクロのように映える。音がするのに、そのように感じるのはなぜかと長は考えて、その結論に至った。

女兵士「…そうだな」

感情があまり表に出ない彼女も、同感だった。何か、感情を抑えているわけではなく、どこかあきらめによる怠惰が街人を覆っているような雰囲気。よそ者としてここにきているから感じられるのだろうし、感じてしまうがゆえにこの街から、人足が遠ざかってしまうのも合点はいく。

いかないのは、なぜそのような状態にここの住人が陥ったのか。ということぐらいのものだ。

じゃあいつ書くの?今日でしょ!

その不満をぶつけるように「女兵士殿はウェイター殿の確認したいことは何か知らないのですか」と、聞いていた。女兵士も、少し苛立っているのを感じ取りながらも、いつもの調子で「聞いていない」とだけ返した。

女兵士は、彼女が苛立っている理由にいくつかの検討をつける。もちろん、彼が心配なんだろうなという前提は変わらないとしても、何かそれ以外の理由が眠っている。そんな気がしたからだ。

女兵士「そんなに心配なら、一緒に探しに行くか?」

軽い揺さぶりのつもりでそう聞いたつもりが、「そうしましょう」と素早い肯定が戻ってくる。つまりは、長はウェイターに強い興味を持っていて、この街の状態を見て心配している。誰がどう考えても、たどり着ける答え。

ただ、その答えが女兵士はどこか、そうあえて言うなら気に食わなかった。表情自体にそれが出ることはなくとも、彼女が纏う雰囲気が変わる。

長「…どうかされましたか?」

当然、わかりやすいそれを感じた長は、そう聞き返すしかなかった。

>>420
すまん、今日だった。

彼女から何でもないという言葉は帰ってくるものの、長はそうではないことを感じる。ウェイターを探しに行くことに何か不都合があるのか、そんなこと思い。

ウェイター「…二人ともどうしたんだよ?」

その状況を生み出すきっかけ生み出した彼が、もちろん当然に部屋の中に入り、二人の様子を見てそう尋ねるのも自然なことだ。長は素直にホッとした表情で彼を見るが、女兵士は気に食わないという負の感情が沸いていたせいか、どこか無表情だった。

状況に歪みのようなものを感じたが、今後のことの方が気になったウェイターは、そっちの方は何か探れたかと聞く。それには女兵士が北の地に関する情報以外は、何もないと答える。

長「それで、ウェイター殿はどこに行かれていたんですか?」

好奇心と、先ほどの心配した気持ちがないまぜになったまま聞き、彼は店の常連が運営している店があったはずだから、そこで話を聞けないか行ってきたと話す。それなら、全員で聞きにいけばいいはず、2人がそれぞれに同じことを思った時に、言いづらそうにそこは娼館だから、2人を連れていけるような場所じゃないしな。と聞かれる前に話した。

当然、娼館と言われて女兵士は納得した顔をしたが、長はキョトンとしたよくわからないといった顔をしてから、当たり前のように、なぜ私達は連れていくことができないのですか。と聞いてきた。ウェイターもその質問があるのは予想していたものの、その答えを用意していなかった。

ウェイター「(エルフの里にそんなもの…、ある訳ないよな)」

質素で牧歌的なあの場所に、そんなものがあるとは到底思えない。そもそも、あるのであれば長がそのことを質問してくるはずがないのだから。そう考えることに没頭して、ウェイターは答えることを先延ばしにする。

女兵士「長、人間の統治すべき世界では、知らなくていい世界がある。そういう場所の一つだ」

そうなのですねと、真面目な表情で答える彼女が少しおかしさを感じているところに、女兵士はウェイターをいつの間にか見ていて。

女兵士「1つ、貸しだぞ」

と、なぜか嬉しそうに言った。

乙乙


長に詳しく教えてみたい

>>428


>>429-430
いろいろと待とう。ね。

長「それで、その常連の方とはお会いできたのですか」

いや、と答えてからウェイターはそれでも店の者とは話は出来たと続けた。その者の話によればこの街では不作続きと、統治している貴族が課した税が以前より重いという情報を聞き出していた。

女兵士がよくこの状態の街の連中から聞き出せたなという言葉に、その貴族がその店を懇意にしていて、税を軽くしてもらってるみたいだと答える。少しだけ呆れた様子が彼女から見受けられた。

ウェイター「なんにしてもだ、魔王絡みな訳じぇねえから、そう警戒しなくてもよさそうだ」

警戒しなくてもいいが、長居もする必要はない。この街にはそんな印象を彼は感じていた。儲け話の匂いもしないところ、というのもあるが人々に活力がない時点で、その街は何であれ死んだも同然だからだ。

深く肩入れする理由がない以上、この街のために何かする義理もない。そもそも、誰か一人が街のために動いて、活気が戻るのであれば誰も苦労はしない。だからここは都合よく、魔王討伐を急ぐ必要があるからなと、とっとと出る為の理由付けをしたのだが。

長「しかし、この街の状況をこのままにしておくというのは、どうなのでしょうか」

それで終わらせようとしたことから引きずり戻される、そんな内容にウェイターは静かに頭をかいた。


天然はフラグ立てまくるなあ

>>433
天然だからね!

ウェイター「どうなのか言われてもな。簡単にどうこうできることでもないだろ」

答えを出すのであれば、その税があってもどうにでもなるような状態にすればいい。不作に関しては、どう考えても長期的な施策が必要で、まだ比較的それよりは早い。

だからと言って、一朝一夕のことではない。なんであれ魔王の件で先を急ぐ立場の人間達が、関わっていられるような話ではなかった。

長「しかし、例えばその税。でしたか。それを無くすよう領主に陳情するとか」

勇者としての立場は与えられたものの、実績がない今はそこいらの冒険者と変わりない。そんな人間と面会をしてくれる領主がいるとすれば、不用心なのか器量の広い人間なのか、どちらだとしても変わり種の存在だろう。

ウェイター「税を無くすことはできねぇよ。そう言ったもので、領民を守ったりなんだりしてんだから」

例えその実態が領主の私腹を肥やすもので、自分の身を守るものだったとしても、遠巻きに領民を守ることになる。礼そのものが極端な話だが、そういう意味で税はなくてはならないものだ。

おっつ

>>436
あっり

>>435の訂正

×例えその実態が領主の私腹を肥やすもので、自分の身を守るものだったとしても、遠巻きに領民を守ることになる。礼そのものが極端な話だが、そういう意味で税はなくてはならないものだ。

○例えその実態が領主の私腹を肥やすもので、自分の身を守るものだったとしても、遠巻きに領民を守ることになる。例そのものが極端な話だが、そういう意味で税はなくてはならないものだ。

長「…ウェイター殿。私にはどうしても納得がいきません」

エルフの里は、大長のようなリーダーがいるとはいえ、生活の全般が皆で助け合うことだ。誰かが困窮しているのであれば、手を指し伸ばすのが当たり前であり、それをそのままにしておくということが、長には難しい話だった。

女兵士「長。人間の世界には人間の世界のルールがある。それに、ウェイターはそういうことでの機微に優れた人間だ。我々が口を出す領域ではない」

それはそうですがと返す長に、納得の色は全く出てこない。ウェイターはそれを見て、少しため息をつき。

ウェイター「長の言いたいこともわかる。そりゃあ、この状況を見て俺もいいとは思わねえさ。でもな、人間の住む世界ではこのぐらいのことはよくある。それにいちいちかまけてたら、魔王探すどころじゃなくなっちまうぞ?」

長が人間の統治する世界にいる理由を再認識させるため、ウェイターはそう言った。意図が何となくわかったのか、長は不満そうにうつむいて、反論はしなかった。彼はその様子を見てから、後でもう少しだけ、人間の世界について話すから、今はとりあえずそう理解してくれと付け足した。

話忘れてきた

久しぶりに読んだが相変わらず長可愛い

>>441-442
うんまぁ、それでいいかな。うん。

>>444
なぜか可愛くなった長。

2人が部屋の外に出るのを嫌がったこともあり、ウェイターはルームサービスとして、部屋に食事を運んでくるよう店員に頼んだ後、少しだけ宿の中から暗くなった街の様子を眺めていた。人々の様子と同じように、夜の街を歩き回る人の姿はまばらだ。

長が言うことを思い出す。この状況が良いとは思えないとは、この街の人間もわかっているはずだ。それでも、何もしないのはこう大きくなってしまった街自体にあるだろう。誰かが、勝手に何かしらやってくれて、勝手に状況が良くなる。そんな思いも、この街の人間達にはあるのだ。

エルフの里は、少しの間居ただけだが、それで全ての顔と容姿が覚えられる――商売人としてウェイターが磨いた能力の賜物だが――ぐらいに少人数だった。言うなら、個々の存在がきっちり認められていて、そして個々がきっちり役目を果たさなければ生活が成り立たない。この街の人々と違って、容易く代替は出来ない。

その誰かが自分たちでやるのも、実のところ簡単だ。街の人間はそれを求めているのだから、だが、去った後に元の木阿弥に戻るのなら、徒労でしかない。だからこそ。

ウェイター「自分達でやるしかねぇってことだよ」

吐き捨てた言葉を聞く者は当然いなかったが、彼は侮辱と叱咤を含めたものだった。

>>446の訂正。いろいろどうだろ

×その誰かが自分たちでやるのも、実のところ簡単だ。街の人間はそれを求めているのだから、だが、去った後に元の木阿弥に戻るのなら、徒労でしかない。だからこそ。

ウェイター「自分達でやるしかねぇってことだよ」

吐き捨てた言葉を聞く者は当然いなかったが、彼は侮辱と叱咤を含めたものだった。


○その誰かが自分たちでやるのも、実のところ簡単だ。街の人間はそれを求めているのだから、だが、去った後に元の木阿弥になるなら、徒労でしかない。だからこそ。

ウェイター「自分達でやるしかねぇってことだよ」

吐き捨てた言葉を聞く者は当然いなかったが、彼にとっては侮辱と叱咤を含めたものだった。

ウェイターが戻ってからしばらくして、宿の店員が3人分の食事を持って現れ、配膳して帰っていった。3人も思い思いの位置に座り、食事を始めるが会話はない。口を開いたところで、この状況にあった話題が、それぞれ思いつかないでいる。

自分が食べている周囲に人がいるにもかかわらず、ただ淡々と食事を摂るというのは、味気ないどころか食事を美味しくないものに変える。

ウェイター「それでだな」

そこから言葉を続けられなかったが、何か言わないままでいても仕方ないと彼はそう思った。またわずかに沈黙が続いてから。

ウェイター「どうしてもっつーなら、とりあえず領主のとこでも行くだけ行くか?」

長「よろしいのですか?」

何かできるかもわからない、そもそも追い出される方が可能性高いだろうなと、ウェイターは付け足した。

期待してる

>>451
期待、ダメ、絶対

翌朝、ウェイター達は街人から領主が住まう屋敷の場所を聞き出し、そこに向かっていた。もちろん、ウェイターとしては門前払いをくらってそのまま街の外、北の地へ向かう予定だ。

そうこれからの予定を考えている彼の横に、いつの間にか女兵士が歩いていた。

女兵士「随分と、長には甘いのだな」

呆れた、という表現が正しい感じのイントネーションで、彼女が言った。長を納得させるためではあったが、言われる通りわざわざ屋敷に行くことはない。そういう意味では、甘いと言われても仕方ない。ただ、その発言よりも彼が気になることがあった。

ウェイター「お前なんで、不機嫌そうなんだ?」

一見はいつも通りの無表情には見えたが、なぜか彼はそう感じられて仕方がなかった。

嫉妬する女兵士可愛い

>>456
果たして嫉妬なのかどうか。

女兵士「不機嫌と言う訳ではなくてだな」

顎に指を添えチラリと2人の後ろについてきている長を、彼女は見やる。エルフの里にはないものが多くあるこの場所で、はしゃぐような態度はとらない物の、目だけは左右を忙しなく動かしている。

女兵士「…私は魔族に関する身体的特徴はない。しかし、長はそれがあり、しかも人間世界の常識に疎い。これで領主の下へ向かってもいいものか、とね」

不機嫌などではなく、危惧による理由だったのかと、ウェイターは納得した。領主に会うとなれば、恐らくローブについたフードを外すように言われるだろう。そうすると自然にエルフの特徴である長い耳を晒すことになる。

もし、ここの領主が本来の御伽噺を知っている人物であれば、それは避けたほうがいい事態にもなってくる。こうなってくれば、危険を冒してまで会いに行く必要はないのだが、長はどちらかというと頑固な性格で、納得してくれるかは怪しいところだ。

領主が住む館は街から少し外れたところにあり、ようやっとその館が見えてきた。そこまでは大きくはなく、塀に囲まれているだけの質素なものだ。

長「大きいですね…」

館を見て彼女はそういう感想を述べた。今までも、例えば宿屋などの大き目な建物にも驚いていたが、個人で今まで驚いてきた商業施設に関わる建物と同じものに住まっていること。その思いがその感想を素直に口に出させた。

2人も言葉は聞こえていたが、どう返せばいいのかわからないまま歩いていると、館の門を守る兵士が2人の見えてきた。ウェイターはどうコンタクトを図るか、少しだけ考えた後。

ウェイター「(とりあえず、話すだけ話さないとな)」

そもそも領主に会えるのかもわからない状態で、そこまでの計画を考えるだけ無駄と、彼は答えを付けて門兵に話しかけた。

(*'ω')

>>463
^q^

門番「領主様が、貴様らのような不審な者に会う訳なかろう」

それは当然ともいえる対応だった。そして、ウェイターも当然であるように「そうですよね、それでは」といつもの愛想笑いを浮かべてから、様子を伺っている2人の下に彼は戻る。少しだけ都合悪く勇者として情報が回り、ここの領主がそれを知っていたら、なんていう取り越し苦労な考えがよぎっていたこともあり、普通よりも胸をなで下ろす感覚が大きく彼は感じられていた。

女兵士「その様子では、お会いは出来そうにないな?」

長が「そんな…」と言うのを聞いて、ウェイターはすでに勇者として彼を任命した国の影響は遠いこの地で、何かの武功など、知名度がある活躍はしていない自分達は、不審者に思われても仕方ないと説明した。

長「それなら、何か信用を得られることをすればよろしいのですね?」

どうしても何かしたい思いはわかるものの、その強情さに流石のウェイター達は辟易とし始めてきている。

ウェイター「長、わりぃんだけど。俺達は魔王を探す役目あんだろ、なのにそれほっぽってこの街のことに関わってる余裕なんてないぞ」

もちろん彼自身は魔王を探したいとは思ってはいない。それでもこの場合に、長の意思を曲げさせるには都合のいい言い訳として使っている。

長「それもそうですが…」

彼女には当然ながら効果はある。自分がエルフの里を離れ、この場にいるのは仕えている精霊の希望に従ったからだ。彼女はその希望に応えるのなら、今ここで起きている事態の解約に時間を費やしている場合ではない。そのことがわかっているだけに、長は少しうつむいてそれからは何も言わなかった。

あまり沈黙が続くのもかわいそうだと、ウェイターが向かおうと声をかけようとした時に。

「へぇ…、もうここまで来てたんですのね」

彼にとって聞きなれた声が、後ろからしたのだった。

女兵士「思いのほか、スムーズに聞き出すことができたな」

領主からいろいろな話を聞いて、屋敷を後にしてしばらく歩いてから彼女がそう言ったのを、ウェイターは頷くしかなかった。勇者と聞いた領主は拍子抜けするほど協力的で、街の現状について説明を受けている。もちろん、その中には事前に調べがつき、彼らにはどうしようもない不作というところが大きかった。

長「では、早速その話の坑道へ行きましょう」

しかし、この街の財源となっていた鉱山の坑道に、得体のしれないものが住み着き、探索に向かった者も何かに怯え戻ってきてしまい、今では手つかずの状態になっているという話がされてしまった。それに食いついたのはやはり長であり、二つ返事で探索に行くことを了承してしまった状況だ。

それに加えて、先ほどから何も言葉は発せず、ただ後ろから微笑みながらついてくる女貴族の存在が、ウェイターには気まずくて仕方なかった。



今の長は「太陽の石を使うのよ勇者様!」状態なんだろうなぁかわいい

>>478
そういう状態だろうねぇ

女兵士「それで、女貴族様。これより我々は鉱山に向かうことになるが、まさかついて来られるおつもりか?」

そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、女兵士がそう言ってこれからのことをどうする気なのか切り出した。彼女もこのまま明らかに身分が高い人間を、危険がある可能性が出ている場所に連れていくわけにはいかない。というシンプルな理由の上での発言だったが。

女貴族「あら、ご心配? 大丈夫ですわ、そのようなお気遣いはご不要ですわよ。ねぇ、ウェイター様」

言葉にトゲを混ぜて、意図して切り返してきた。ウェイターはそう感じていた。そんな風に言ってくるということは、怒りや不満の部類が想像できる。ただ、会ってから失礼な対応をした覚えがなく、理由が思いつかないと対処のしようもない。

切り返された言葉より、意図について考えが回っているウェイターに、女兵士が「どういう意味だ?」と質問を投げかけ、長も不思議そうに彼と女貴族の顔を見ていた。それに気づいて。

ウェイター「言葉通りさ。心配はいらねぇってこと、なんだけど」

とりあえず、女貴族の態度は一度おいて置き、何にしても彼には聞いておかなければならないことがあった。

ウェイター「お父様と、一緒に来られて、ますよね?」

女貴族「私は子供ではありませんのよ? なぜお父様といなければならないのでしょうか、ウェイター様」

目を閉じて、ゆっくりとため息をついてからウェイターは鉱山の前に街へ戻ると言い出して、仲間の静止も聞かずにその方向へ歩き出した。その様子を見ていた女貴族は、誰にもわからないように含みがある笑みを少し浮かべた。

ウェイター「おいおい、まずすぎるぞ」

街に戻り女貴族の父がいないか探し、そして彼女の言った通りにいないことがわかって彼はそのことをこぼすしかなかった。何がまずいのか、それは女貴族は父に溺愛されていることだ。

不用意に近づこうものなら、相手を排除をしようとする。女貴族が相手のことを気に入っていれば止めてくれるし、彼女がウェイターを気に入っていることは彼も自覚はある。だが、わざわざ虎の尾を踏むことは避けたいことだ。

女兵士「困っているようだな」

女貴族と共に宿へ戻るよう言った女兵士が、ウェイターを探しに来た様子で声をかけてくる。女貴族の父の件もあり、その声で少し大げさな形で彼は驚き、女兵士は怪訝そうな顔をした。

ウェイター「わ、悪い。びっくりしただけだ」

それはすまなかったと言いながら、彼女はウェイターの横につく。顔はいつもの無表情に戻ってはいたものの、どうして自分が慌てているのか知りたい。というような雰囲気を、彼は感じ取っていた。

女兵士「なるほど…。過保護というやつか」

ウェイターの話を聞いて、女兵士は納得した様子を見せた。

ウェイター「だから厄介っていうんだ。女貴族が絡むと本当に冷静な反応しないからな」

それによって大小あれど、大変な目に遭った話とそれを目の当たりにしていることもあって、彼としては冗談では済ませられない状況だった。

苦悶の表情で静かに悶えているウェイターとは別に、女兵士はどこか遠くを見ていた。諦めがつくまで悶えた後で、彼はそのことに気づけて、どうしたか聞こうとした時に。

女兵士「羨ましい限りだ」

何を、とは聞かせない雰囲気だった。いつもの無表情で本当に周囲を寄り付かせない空気を漂わせていく。ウェイターとしては話の流れから想像はできるものの、それを追求できるほど、彼女をよく知らないことを思い出して。まぁ、なんだと言った後。

ウェイター「迎えに来てくれてありがとよ。戻ろうぜ」

誤魔化しとは知りつつ、かける言葉はそれぐらいしかなかった。

宿に戻る今、2人の間に会話はない。そもそも、あまり会話をしていた訳ではないのだが、先ほどのこともあってウェイターには無言が苦痛に感じられる。

ウェイター「そういえば、女貴族様の様子はどうだった?」

当たり障りはなく、そして自分が気になっていて、相手も聞く意味がわかっている話題を振る。

女兵士「これといったことはないな」

本来なら会話を続けられるようなことを返さなければいけないのだが、彼女が出す雰囲気にしり込みしてそうかとしかウェイターは言えなかった。

仕方なく、宿へ戻った後のことをぼんやりと考えることにした。女貴族はどうも偶然に会ったという感じがしない。自分に用があるとすれば、それが何なのか。そういった事をただグルグルと思考を回転させる。

検討をつけるのが目的ではなく、今の状況から意識的に逃げ出すためのものだったが、思ったよりも集中して考えたようで、宿には気づいたように戻っていた。

後は、本人の口から話を聞き出すだけだなと割り切って、借りている部屋のドアを開けた。

長「や、やめ…ひゃ!」

開けた扉の向こう側には、長の後ろから楽しそうにその長い耳をいじくりまわしている女貴族の姿があった。その光景を見た二人は、先ほどの重苦しい空気が吹き飛び、ただ理解できない状態で少しだけそれを見る。

ウェイター「な、何されてるんですか?」

女貴族「あら、せっかく魔族の方に会えましたから、スキンシップですわ」

顔を真っ赤にしてうつむいている美しいエルフと、そして楽しそうに微笑んでいる女貴族の光景は、ちょっとした絵のようだ。しかし、残念ながら目の前にあるのは実際に起きている現実だ。

ウェイター「スキンシップって…。長、大丈夫か。お、おい」

長「うぅ…」

女貴族から逃げるように、ウェイターの後ろに長は回り込む。女貴族はそれを気にする訳ではなく、嫌われてしまいましたわねと、のんきに言ってのけた。更に。

女貴族「それで、お父様は見つかりましたかしら?」

きっちりと、現実に戻すようなことを言う時でさえ、彼女はとても楽しげだった。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月10日 (水) 03:12:20   ID: A39qBpi2

続きはよ

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