狼少女「その言葉の意味はわからない」(276)


私の毎日の日課、股にある穴に棒を突っ込まれること



「んっ…気持ちイイ」



私は『気持ちイイ』という言葉の意味もわからず発している



「ぁっ…ンッ……!」



私の「気持ちイイ」に反応してか、棒の出し入れが激しくなる

それにつられて私も声が漏れる

それの意味もわからず、ただ漏れるように「ぁっ」、「んっ」と声を出すよう教えられたからだ

これをすれば出し入れは激しくなるけど、痛い事はあまりしてこないので日課中は必ず発するようにしている


「ふぅ…今日も最高だったぜ」



そして私は穴の中にドロっとした液体を注ぎ込まれた



「ほら、綺麗に舐めろ。犬歯に気をつけろよ」



その言葉の意味はわからない

ただ私は押し付けられた棒を口に咥える

そして穴に注ぎ切れなかった棒にくっ付いてるドロっとした液体を舐めとって食べる

これと味のしないパン、それと変な薬しか与えられてないから美味しいのかマズイのかもわからない

あっ、でも前に一回だけ食べさせてくれた『お肉』は美味しかったかも



「しかしお前もかわいそうだよな。獣人とはいえ生まれた時から目隠しされ、性奴隷として育てられたんだから……って、言葉も教えてなかったんだっけ」


「お客さん、いつもありがとうございます」

「おう…なぁ、ホントにこの商品は買い取れないのか?」

「世にも珍しい人間寄りの狼人族ですからね。残念ながらうち一番の人気商品でもありますしお売り出来ないんですよ」

「ここの上に建てられたカジノでガッポリ稼いでるくせに…」

「ですので無理して売る必要が無いんです。それで他の子ならお安くしときますが…」

「チッ…じゃあまた来るよ」

「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」



声が聞こえる、しかしその言葉の意味はわからない

私は毎日の日課が終わったので鎖に繋がれたまま眠りについた

起きてても眠っていても私が『見る』光景は一緒だった

真っ暗な闇、ただそれだけ


____________________


ガチャンッと私の牢屋のドアが開く音がした

私は反射的に起き、そして私の毎日の日課がまた始まる

私はその意味もわからず、教えられた言葉をただ口から発する



「おネガ、ぃシます……ワタシのぁな、アナタのぉチンチン、イれてくだサぃ」



こうするとすぐに毎日の日課が始まり、股に棒を入れられ、最後に食事を与えられる

だから欠かさず行う


しかし、今日はいくら待っても日課が始まらない

日課をやらないと食事抜きにされてしまうので、私は再び同じ言葉を今度は出来るだけ流暢に発した



「お願い、シます……私の穴、あなタのおチンチン、入れてくだサイ」



するといつもと同じように鎖に繋がれた私の身体に誰かが抱きついた

日課の始まりだ……そう私は思った

しかし日課は始まらず、私の肩に冷たい液体がポタポタと落ちてきた



「何て酷いことを…」



そう言いながら初めて聞く声の主は、私の身体をギュっと抱きしめた

しかしそれ以上のことはしてこなかった


私は困惑し、穴に棒を入れてもらうよう必死に懇願した

「んっ…気持ちイイ」、「イクっ!」…意味もわからず覚えた言葉をひたすら口にした



「もうそんなこと言わなくていいんだ!俺が今すぐお前をここから解放してやるから!」



その言葉の意味はわからない

だから私は止めずに言葉を発し続けた

ガシャンっと鈍い金属音と共に私を縛り付けていた鎖が解かれた

身体の成長に合わせて交換する時しか外されたことの無い鎖が今解かれたのだ

私はわけもわからず前のめりに倒れこんだ

そして、先ほどの声の主が私を支えてくれた


「さあ、早く出るぞ」



その声の主は私が生まれてから一度も外したことの無い目隠しを解いた

しかし、私は目を開けなかった

目を開けるという行為が何なのかわからなかったから



「貴様!!何をしている!?」



聞きなれた声が聞こえる、いつもご飯をくれる人だ

私を抱いていた声の主である『彼』は「少しだけここで待ってろ」と言い、私をその場に寝かせた

激しい言い争いが聞こえた後、ザシュッと刃物で肉を切るような音が聞こえた

私はその音を聞きながら、毎日の日課が始まらないので眠りについた


____________________


私は再び困惑していた

私では理解出来ないことが起きていた

真っ黒な私の世界が薄っすら赤い『白色』になっていた



「…ぅ……」



さっきまで寝ていたのに思わず声が漏れる

いつも意図的に漏らしている声では無い、人間が反射的に出すような小さな声を漏らした

私はこの時初めて『眩しい』と感じた


「気がついたか」



先ほどと同じ声が聞こえた、彼だ

声の反響具合からここがいつもの牢獄でないとわかった

ならここは…どこ?

あの牢獄しか知らない私にはまるで予測が出来なかった



「………もしかして目が見えないのか?」



その言葉の意味はわからない

ただ私は何か問いかけられてると思い、「…ぁ」とだけ声を発し返事をした


「あいつら…この子から何もかも奪いやがって…ッ!」



私にとって『相手』を感じるのは肌を密着させる時の体温とニオイ、そして声だ

彼の声は柔らかい感じだった、私に危害を加えることは絶対に無いと思っていた

しかし、今の彼の声からは『怒り』を感じる



「もっと…もっとタタいテ…」



私は彼の『怒り』に反応し、痛いことをされた時に言うよう教えられた言葉を発した

しかしこの言葉を発するともっと痛くなることも知っていた

だから私は震えながら「もっとタタいテ」を繰り返し発し、彼が私に危害を加えるのをじっと待った


「や、やめてくれ!俺はお前のことを絶対に傷つけたりしない!だからもう…そんなこと言わないでくれ」



その言葉の意味はわからない

でも彼の声から『怒り』が消え、彼は私を優しく包んだ

私はいつの間にか震えを止めていた



「…お前と同じように捕らえられてた人達から聞いたよ。お前はあそこで捕らえられていた狼女の子供だと…」

「そして生まれた時から性奴隷として育てられたと…」


彼の声から『怒り』では無く、今まで私とは無縁だった『優しさ』というモノを感じた

しかしこの時の私は『優しさ』が何なのかわからなかった

でも私は彼の声を眠ることなく聞き続けた



「お前はもう性奴隷じゃない…幸せになっていいんだ」



その言葉の意味はわからない

でも私の心はあったかくなっていた


そして私は知らず知らず目を開けようとしていた

どう動かしているのかわからない

しかし確実にゆっくりと目蓋が開いていく



「ッ!?」



目に映ったのは光

絶え間なく降り注ぐ太陽のあたたかい光

目隠しの布越しに感じる炎の光しか知らなかった私には、光で溢れかえっていたこの世界はさながら天国のようだった


「大丈夫か?」



彼の声が聞こえる

しかしまだ光に慣れていない私の目は、目の前に居る彼を捉えることが出来なかった



「…眩しい時はこうやって手で光を遮るんだ」



彼が手で私に降り注ぐ光を遮ってくれた

そして少しぼやけていたが、私は初めて目で光や闇以外の実在するモノを見た

それが彼だった



「…はじめまして、だな。俺は勇者って言うんだ」



彼はニッコリと笑ってそう言った


彼の言葉と『笑顔』の意味はわからない

でも声で彼が私にその言葉を覚えさせようとしているのがわかった



「ゅう…しゃ…」



だから私は彼の名を発した



勇者「おっ、伝わったのか!」



彼が喜んでいるのがわかった

しかし私を痛めつけたり、私の穴に棒を出し入れしてないのにどうして彼が喜んでいるのかわからなかった

私は彼に興味を持ち、彼を観察し始めた


「………」

勇者「……えっと、何で俺をジーッと見てるんだ?何かついてるのか?」



私は今までずっと目隠しをし、手足を拘束されていた

その為自分の体がどうなっているのかさえわからなかった



勇者「えっ?ちょ、ちょっと!?」



だからまず目の前に居る彼の身体と自分の身体が同じなのか触って比べてみた


耳、彼は顔の横についてるのに私は頭の上についている

ニオイは…



勇者「お、おい!耳の裏のニオイを嗅ぐな!」



ちょっとだけ臭い


目、彼の目はキラキラしていた



勇者「そ、そんなに見つめるなよ…」



そのあまりの綺麗な瞳に心を奪われた私は…彼の瞳に触ろうと目に指を入れた



勇者「~~~~~~ッ!?」



彼はうずくまって悶絶した


勇者「い、いきなり何してんだよ!?失明したらどうすんだ!!」



彼は怒っていた

しかし私には何故彼が怒っているのかわからなかった

だが…すぐに私も理解した



「~~~~~ッ!?」

勇者「だから何をしてんだよ!?」



私は目に指を入れるともの凄く痛いということを学んだ


次に鼻、私の方が少し高い



勇者「…お願いだから鼻の穴に指を突っ込まないでください」



口、犬歯が尖ってないぐらいで他は私とほとんど変わらない



勇者「むぐっ!?ふぅひひへをいへうは!(口に手を入れるな!)」



首、彼の方が太い

そして…胸



勇者(おそらく俺と自分の身体を比べているんだろうけど…ここは種族の違いじゃなく性別の違いだからなぁ)


「………?」



彼の胸は少し硬かった

それに比べ私の胸は膨らんでいて、とても柔らかかった

そして私はあることに気がついた

私がローブを羽織っていることに

私は今まで服を着た時が無かった為、そのローブがとてもムズ痒かった



「………」



そして私は躊躇無く、バサっとローブを脱ぎ捨てた



勇者「お、おい!何で脱いでんだ!?しかも自分の胸めっちゃ揉んでるし!」


ローブを脱いでも私の胸の膨らみと柔らかさは変わらなかった、むしろ増した

私は彼と私の胸の違いに何故だかとても興味を持ち、そして「何故私と彼とで違うのか?」という疑問を彼が着ている服にあるのだと結論づけた



勇者「も、もう着たか?」



何故だかわからないが私に背を向けている彼に後ろから抱きついた



勇者「…はあ!?」



考えてみれば抱きつかれることはあっても、自分から抱きつくのはこれが初めてだった

そして私は彼の服を脱がそうとした



勇者「や、やめろ!!俺とお前とじゃオッパイが違うのは当たり前なんだよ!!」



しかし残念ながら私にはその言葉の意味はわからない


声から彼が怒ってるのがわかる

でも彼からは『怒り』を感じることはなかった

だから私は彼の静止を聞かずに行動に移す

私は服を見るのも初めてだから中々脱がせられない

だから途中で脱がすのを諦め、服の中に直接手を入れて彼の胸を揉んだ



勇者「あっ…だ、駄目だって言ってんだろ!!」

「………あなた達、何してるの?」



私達の前にまた別の人が現れた


勇者「た、たしかお前は魔女だったよな!た、助けてくれ!彼女は初めて『人』を見るから、自分の身体と俺の身体を比較してるんだ!」

魔女「なるほど…別に盛ってるわけじゃないのね」

勇者「当たり前だろ!」

魔女「じゃあ助けてあげるわ。あなたは私の命の恩人でもあるんだし」



彼女は私と同じようにバサっと服を脱いだ



勇者「何でお前も脱いでんだよ!?」

魔女「あっ、私も奴隷生活が長かったからつい…それよりほら」



彼女は私の手を取り、自分の胸を揉ませた



「!!」



彼女の胸は私と同じ…いえ、私より大きく柔らかかった


魔女「獣耳や尻尾は無くてもここはあなたと一緒でしょ?これが女の身体よ」



私は自分と同じ身体の構造に満足し、胸を揉むのをやめた



魔女「あら、もう少し揉んでてもいいのに…」

勇者「終わったなら服を着ろ!!」

魔女「ふふっ、勇者様は意外と初心なのね」


彼女と彼は私と少し距離を取って話をしていた



勇者「はぁ…疲れた」

魔女「あら、あれぐらいで疲れてちゃ本番が大変よ。それに裸なら助けた時全員の見てたじゃない」

勇者「そ、そういう問題じゃねぇよ!」

魔女「それよりこれからどうするつもりなの?」

勇者「とりあえず助けた皆をちゃんと故郷まで送ってぐつもりだ」

魔女「至れり尽くせりね…あなたには感謝しきれないわ」

勇者「感謝なんていいって。俺は勇者なんだから当然だ」


魔女「…帰る場所が無いあの子はどうするつもりなの?」

勇者「それは……正直まだ考えてない。俺がしてやれることなら何だってしてやりたいが…」

魔女「ならしばらくの間あなたの傍に居させてあげて。きっとそれが彼女の為になると思うから…」

勇者「…わかった」

魔女「じゃあそろそろ彼女を止めて出発しましょう」

勇者「ん?彼女を止める?」



私は彼らが話してる間に「ここに棒が出たり入ったりしてたのか」と思いながら
、自分の股を触って穴を観察していた



勇者「そ、それはマズすぎるからやめろ!!てかまたローブ脱いでるし!」


そして私は彼の股間をジッと見つめた



勇者「…えっ?」



「彼の股間にも私と同じ穴がついてるの?」、そう疑問に思った私はジリジリと彼との距離をつめる



勇者「お、落ち着け!たしかに俺には別のもんがついてるがそれが普通なんだ!」

魔女「見せちゃいなさいよ。かわいそうでしょこの子、おチンチンがどういうのか知らずに犯されてたのよ…」

勇者「だ、だからって見せられるかよ!!」

魔女「しょうがないわね……じゃあまた私のを触らせてあげるわ」

勇者「だからお前も全裸になるなぁ!!」



二人が言い合いをしてる最中、私はバタンっと倒れた

自分でも倒れた理由がわからなかった


勇者「ど、どうしたんだ!?」

魔女「…この子はずっと鎖に繋がれていたのよ。きっといっぱい動いたから疲れちゃったんだわ」

勇者「そうか…じゃあ彼女は俺が背負っていくからお前は他の皆のフォローを頼む。まだ精神的に弱ってる人も居るだろうし…」

魔女「これでも一応私も被害者で弱ってるのよ?」

勇者「わかってる…でもそこを何とか頼む」

魔女「……冗談よ。私は平気だから任せて」

勇者「じゃあ行こう」


私はローブを着せられ彼に担がれた

彼の背中はとても広く、とても安心した

そして安心したと同時に身体が密着していたからいつものクセで…



「んっ…気持ちイイ…もっと…」



そう呟いた



勇者「……まずはこういう隠語をやめさせよう」

今日はここまで

ではまた


______________________________



勇者「おい、そろそろ起きろ」

「………ん」



彼の声によって目を覚ます

正確に言うと目は開けていない



勇者「どうだ?フカフカベッドの寝心地は」



彼の言うとおり、私はフカフカのベッドで寝ていた

私は今まで鎖に繋がれたまま硬い牢屋の床で寝ていた

ベッドは毎日の日課でたまに使うこともあったが、ベッドで眠ったのは初めてだった

何時間寝たのかわからない、でも人生で初めてぐっすり寝ただろう


勇者「体を起こせるか?」



彼は優しく私の体を起こしてくれた

彼の行動や言葉から伝わる『優しさ』は私の常識にはあてはまらなかった

私はただただ困惑していて、毎日の日課の前に言う言葉も発せずにいた



勇者「…昨日も思ったんだがお前の体って結構華奢だな。どうせろくな物を食わせてもらえなかったんだろ?」

勇者「ほら、俺のおごりで腹いっぱい食わせてやるから食堂に行こうぜ。きっと皆も集まってるだろうし」



コンコンっとドアを叩く音が聞こえた



「勇者様、朝食の準備が出来たそうです」



どうやら誰かが彼を呼びに来たらしい

そして彼は「ありがとう、今彼女を連れて行くよ」と返事をした


「……ゅうしゃ…?」

勇者「ああ、そうだ。俺は勇者だ」



私には何となくだがそれが彼の名だとわかった

私もいつもパンをくれていた人から『お前』と呼ばれていたから、その『勇者』という名が彼を示す言葉だと理解できていた



勇者「そういえばお前は名前が無いって聞いたから勝手に決めさせてもらったぞ」

勇者「今日からお前の名前は『狼少女』だ」

狼少女「おおかみ…しょぅじょ…」

勇者「そうだ。よろしくな、狼少女」



こうして私は『お前』という名ではなく、新しく『狼少女』という名を与えてもらった


勇者「じゃあ狼少女、朝飯食いに行くぞ」



彼は私の手を取り、立ち上がらせた

そして私は彼と一緒に歩を進めようとしたが、私の体は言う事を聞かなかった



勇者「ん?どうかしたか?」

狼少女「……ぁ…」



毎日の日課のおかげで私は体力がある方だった

だが通常の生活を行う為に必要な筋肉がついていなかった

つまり、昨日ほんの少し動いただけで筋肉痛になってしまったのだ

動こうとすると体に激痛が走る

激痛が走るたびに私は「モット叩いて」と繰り返した



勇者「隠語から読み取らないといけないのかよ……えっとつまり…体が痛いってことか?」


勇者「う~ん、本当は皆と食事をさせたいんだが…今は無理させない方がいっか。飯は俺が持ってきてやるからベッドで横にな…」



私は彼が言い切る前に床に丸くなって寝転んだ



勇者「おい」



私は日課と食事と排便以外の時間は全て睡眠に費やしていた

なので体が動けない今、眠るという選択肢しか残されていなかった



勇者「ったく…せっかくベッドがあるんだから使えよな」



彼は私を持ち上げ、優しくベッドに寝かせてくれた


勇者「…目を開けるのもそうだが、これからはゆっくりでいいから普通の生活ができるようにしような」

勇者「俺がお前の傍についててやるから……今度こそ守り抜いてやるからさ」



彼の言葉には『優しさ』と少しの『怒り』、そしてたくさんの『悲しみ』が混ざっていた



魔女「あら、出会って二日でもう告白?」

勇者「うおっ!?い、いきなり後ろから声かけんなよ!」

魔女「ごめんなさい。でもいつまで経っても食堂に来ないあなた達がいけないのよ」

勇者「あっ、それなんだけどこいつがまだ歩けそうにないから、俺とこいつはここで食べるよ」

魔女「あらそう…わかったわ。皆には『絶賛イチャイチャ中❤』って伝えておくわね」

勇者「今の会話からどうすればそこに行き着くんだ」


狼少女「………」

勇者「……ん?布団の中でモゾモゾして、どうかしたのか?」

狼少女「ぷはぁ」



私は布団を勢い良く蹴り上げた



勇者「」

魔女「あら、狼少女ちゃんはホント裸が好きなのね」



そして私は服も一緒に脱ぎ捨てた



狼少女「zzZ」

勇者「は、裸のまま丸くなって寝るな!!」


魔女「…寝かしてあげましょうよ。だってこんな気持ち良さそうに寝る彼女を見るのは初めてだもの」

勇者「くっ……たしかに気持ち良さそうに寝てるな」

魔女「きっといい夢でも見てるのよ」

勇者「ったく…この服、せっかくこいつの為に買ってやったのに…少しぐらい喜んでくれてもいいじゃねぇか」

魔女「彼氏と言うよりお兄さんみたいね。あなた妹さんでも居るのかしら?」

勇者「……ああ、昔だけどな。生きてればこいつと同じくらいの妹が…」

魔女「そう……なら本当にちょうど良かったわね」

勇者「何がちょうど良いんだ?」

魔女「実はこの子にも双子の姉が居たのよ」

勇者「…そうなのか」


魔女「この子って人間と獣人のハーフでしょ。それ自体はあなたの先祖様が獣人族の戦士と共に魔王を倒したおかげで増えてきてたから珍しいことじゃないわ」

魔女「でも狼人族は獣人の中でも他の種族と関係を持たない種族だから、人間と狼人のハーフは滅多に居ないわ」

魔女「さらに…この子だけはちょっと特殊で人間ベースのハーフなのよ」

勇者「人間ベース?」

魔女「ええ。あなたも知ってる通り狼人族は鋭い牙を持ち、身体が体毛に覆われ、爪は尖っているものよ」

魔女「ハーフであったとしても人間の血よりも獣人の血の方が色濃く出るから、普通の狼人族とほとんど変わらないものなのよ」

魔女「でもこの子は違う…獣耳と尻尾、そして犬歯があるぐらしか狼人族の名残りが無いわ」

魔女「双子の姉は立派な狼人だったし、おそらくこの子は突然変異なんだわ」


魔女「双子の姉は立派な狼人だったし、おそらくこの子は突然変異なんだわ」

勇者「じゃあ…人間に近いこいつは性奴隷にされ、普通の狼人の姉は……」

魔女「姉も最初は性奴隷にされてたわ。でも元々獣人の性奴隷は人気が無いの」

魔女「さらにこの子の人気のせいで姉の性奴隷としての価値が下がり…ついには売ることすら出来なくなった」

魔女「そして人間よりも反逆されたら厄介だとされ彼女は…殺されたわ。母親の狼女と一緒にね」

魔女「あの『魔者』はホントに腐ってたわ…殺した母と姉の肉をご褒美と言ってあの子に食わせたんだもの」

勇者「………殺し足りなかった」

魔女「えっ?」

勇者「あんなヤツ…もっともっと痛めつけてからジワジワと…嬲り殺してやればよかったッ!」

狼少女「ん……」



私は尋常じゃない過度な『怒り』を感じ、すぐに目を覚ました


勇者「あっ、悪い!起こしちまったか?」

狼少女「……zzZ」



でもすぐにその『怒り』が消えたので私は再び眠りについた



勇者「セ、セーフみたいだな」

魔女「この子は今まで目のかわりに耳で他人の表情を読み取ってたのよ。だからなるべくこの子の前では声を荒げないでちょうだい」

勇者「ああ…悪い、熱くなり過ぎたよ」

魔女「それと…さっきの殺気、まるで『魔者』みたいだったわよ。気をつけなさい」

勇者「っ……本当に悪かったよ」

魔女「…それじゃ行きましょう。これ以上待たせると皆が餓死しちゃうわ」

勇者「……ああ」


____________________


剣士「かーうめー!こんなうまいもん食ったのは5年ぶりだぜ!」

エルフ「本当においしい…これも全て勇者様のおかげだよ。ありがとうございます」

勇者「お礼はいいから遠慮せずいっぱい食べててくれ。俺は狼少女に飯を持ってくから」

女「………」

ドワーフ「勇者はあの娘に付きっきりか…」

魔女「あら、嫉妬かしら?」

ドワーフ「んなわけないだろ。ワシは助けられたぐらいで好いたりせん」

女「それはあなたが性奴隷じゃないから…あの地獄を知らないから言えるのよ」

ドワーフ「…そうかもな。軽率な発言だった、すまん」

女「…ううん。あたしもムキになっちゃってごめんなさい」


魔女「……はい、暗い話はお終い。勇者様のおごりなんだからいっぱい食べましょ」

ドワーフ「それは賛成だが…何故お前がワシらを仕切っているんだ?」

剣士「あれじゃね、年の功ってヤツ」

魔女「何か言ったかしら?クソ餓鬼」

剣士「いえ何も言ってございません」

ドワーフ「ふっ、剣士の言うとおりだ。ワシも歳では年齢詐称女にまったく勝てぬからな」

魔女「それ以外でも全部私が勝ってるわよ。美貌とか…あと美貌とか」

ドワーフ「ワシだって土妖精の中では絶世の美女なんだぞ!」

剣士「えードワーフの兄貴が?信じられねー」

ドワーフ「だからワシはオナゴだ!兄貴と呼ぶんじゃない!」


ドワーフ「労働奴隷の時は泥だらけで男と間違われても仕方がなかったが、今はオナゴにしか見えんだろ!」

剣士「たしかにそうだけど…ずっと兄貴って呼んでたし今更変えられないって」

ドワーフ「無理にでも変えろ!」

エルフ「ちょ、ちょっとケンカはやめようよ!みんな仲良くしようよ!」

ドワーフ「僕っ娘ロリババァは黙ってろ!」

エルフ「……ねぇドワーフさん、今何て言った?」

ドワーフ「あっ…」

エルフ「ドワーフさんが小さい時におねショをお父さん達にばれなようにしてあげたのは誰?」

エルフ「初恋の相手へのラブレターを一緒に考えてあげたのは誰なのかな?ここで内容を全部言ってもいいんだよ?」

ドワーフ「す、すまん!もうケンカしないからそれだけはやめてくれ!」

剣士(……エルフちゃんって一体何歳なんだ?)


魔女「ドワーフ、別に私は仕切ってるつもりは無いわ。でも…精神的に落ち着いてる私達5人が他の皆を支えていかないと駄目なのよ」

ドワーフ「…そんなのわかってるさ」

女「………うん」

剣士「じゃあその為にも…今はいっぱい食わねーと!」

ドワーフ「あっ、それはワシの肉だぞ!」

剣士「早い者勝ちさ!このパンも貰っちゃおっと!」

ドワーフ「貴様ぁ…返さんか!」

剣士「逃げろー!」

女「…止めなくていいの?」

エルフ「うん。あれはケンカじゃなくてジャレてるだけだもん」

魔女「あの二人は放っておいて私達は食べましょう」

今日はここまで


地の文は勇者視点と狼少女視点だけなので、登場人物の増加によりこれから減っていきます


ではまた


この書き方どっかで見たような……



わかった!あれを書いたあの人だ!

>>58
そうです、私があれを書いたあの人です


では投下します


______________________________


村長「勇者様、村を襲った魔物を退治してくださりありがとうございます」

村長「これは少ないですがお礼です。受け取ってください」

勇者「その金は壊された民家の修復にでも使ってくれ」

村長「で、でしたらせめて今夜のお食事でも…」

勇者「食事もいいって。俺に恩を返したいのならあなた達が幸せになってくれ」

村長「……ありがとうございます勇者様。必ずや幸せになります」



旅を始めて数週間

俺は奴隷にされていた人達を全員故郷に帰すと言ったが、色んな場所から集められていた為この大陸『人間界』をほぼ一周することになった

でも何だかんだ俺は皆と楽しく旅をしている


勇者「皆待たせてごめん。じゃあ出発し―」

狼少女「えいっ」

勇者「ぐはっ!?」



目もうまく開けられなかった少女、狼少女

彼女はいきなり俺に向かってフライングクロスチョップを放ってきた

彼女は元々言葉を発することが出来ていたので、その言葉の意味を教えてあげただけで普通に生活出来るようになった



魔女「狼少女ちゃん良くやったわ」



皆のまとめ役の魔女

こいつが居るおかげで大所帯のこの一行もやっていけていると言っても過言ではない

狼少女も一番懐いているのだが……このように変なことも色々と仕込まれてしまっている


勇者「な、何すんだよ!?」

魔女「それはこっちの台詞よ。貰える物は貰いなさいよ」

狼少女「うんうん」

勇者「んなこと言ってもこの村は被害が大きいし…」

ドワーフ「だからといって対価無しはありえないぞ。勇者一人だけならまだしも今は30人を超す大所帯なんだし」

剣士「そうそう。ドワーフの兄貴の言うとおりだぜ勇者様」

ドワーフ「だから兄貴はやめろと言っとるだろ!」



ドワーフは小さくて見た目可愛らしい女性なんだが…中身と喋り方が完璧にオッサン

戦闘の際もとても頼りになる皆の兄貴

何かとドワーフにちょっかいを出すお調子者の剣士も戦闘の時は頼りになる

それに彼は故郷に帰らず、皆を送り返すのを自ら手伝ってくれている


エルフ「ただでさえ食費でお金がどんどん減ってくのにね」

女「でも勇者様は村の人達を思ってやったんだし…」



そして見た目美少女の僕っ娘エルフ(年齢不明)とおしとやかで優しい女

狼少女を含めたこの6人は自分達も被害者なのに他の皆を肉体的にも精神的にも支えてくれている…本当にありがたい



魔女「もちろん村の人の為にやってることだし良いことだと思うわ。でも善意だけじゃやっていけないのよ」

魔女「あなたはこの一行のリーダーなのよ。第一に皆のことを考えなくちゃ駄目じゃない」

勇者「わかったよ……今から戻って貰ってくればいいんだろ」

魔女「今回はいいわよ。本当にこの村は被害が大きいし」

勇者「じゃあ何で俺は怒られてたんだ!?」


魔女「ほら、出発するわよ。剣士とドワーフは荷馬車と皆の護衛をお願いね」

剣士「ウッス!」

ドワーフ「了解だ」

魔女「女さんとエルフは私と一緒にこの先のルート確認。森を抜けるつもりだからエルフにおんぶに抱っこするつもりだけどね」

エルフ「森なら僕に任せてよ」

魔女「勇者様は狼少女ちゃんと一緒に先頭で魔物の遭遇に備えてちょうだい」

狼少女「うん」

勇者「…誰がリーダーなんだよ」


____________________


私達は森の中を列を作って進んでいる

先頭は私と勇者



狼少女「勇者、今日はフカフカベッド寝れる?」

勇者「う~ん、多分無理だろうな」

狼少女「…そう」



勇者に助けてもらった次の日から私はフカフカベッドの虜になっていた

でも旅のほとんどが野宿の為、中々フカフカベッドで眠れない



エルフ「そんな落ち込むことないよ」



後ろからエルフさんがやってきた


エルフ「森にも天然のフカフカベッドはあるんだよ」

狼少女「本当!?」

エルフ「後で見つけてあげるね」

狼少女「ありがとエルフさん!勇者、一緒に寝よ」

勇者「寝ない。お前はすぐ裸になるから嫌だ」

狼少女「でも…今日は股穴、かゆいかゆい」

勇者「痒い痒い言われても…」



あの『日課』がどういう意味を持つのか、まだ教えてもらってないから私にはわからない

でも私の身体は定期的にあの『日課』を求めるようになっていた

普通に考えれば当たり前だ、毎日欠かさず行っていたのだから…


勇者「…わかった、一緒に寝てやるから服は着ろよ」

狼少女「……検討する」

勇者「絶対にしろ」



こういう日はいつも勇者に抱きついて寝ている

そうすれば身体の代わりに心が満たされて、身体の疼きも無くなるからだ



エルフ「やっぱり二人はそういう関係だったんだね…勇者様ってロリコン?実は僕も範囲内?」

勇者「黙れ。お前は事情を知ってるだろうが」


勇者「それよりルートは決まったのか?」

エルフ「うん、地図に記しておいたよ。はい」

勇者「おう、サンキュな」

エルフ「あとこの森には魔物は棲んでないって」

勇者「じゃあ久々に安心して野宿出来るな」

エルフ「それだけじゃないよ。地図にも書いたけど近くに綺麗な湖があるんだ」

勇者「そりゃいいな。さっきの村だけじゃ十分に飲み水を補給出来なかったし」

エルフ「なにより水浴びが出来るのが嬉しいよね。この辺りは暑くてたまらなかったんだぁ」










剣士(なるほど、水浴びか…)

ドワーフ「おい、ちゃんと周囲を警戒しろ」


勇者「じゃあエルフ、この辺でテントが張れる開けた場所があるかどうか聞いてくれないか?」

エルフ「うん、任せて」



エルフさんは耳を木に当て始めた



狼少女「……エルフさん何してる?」

勇者「風妖精であるエルフはああやって木々と会話することが出来るんだ」

狼少女「じゃあ土妖精のドワーフさん、土と会話できる?」

勇者「う~ん…さすがに無理じゃないか?あとで本人に聞いてみな」

狼少女「うん、聞いてみる」

エルフ「……少し右を進めば開けた場所があるって。湖も近いし最適そうだよ」

勇者「そうか。じゃあ今日はそこでテント張って野宿だな」

今日はここまで

ではまた


____________________



ドワーフ「はぁ~生き返るなぁ~」

エルフ「ドワーフさん、完璧におじさんの台詞だよそれ」



テントを張った後、私達女性陣は先に湖で水浴びをしていた



女「綺麗な湖ね」

魔女「そうね、魚も居るし今夜は少し豪華になりそうだわ」

狼少女「はじょ」

魔女「あら何かしら?」

狼少女「ひじゅうひちゅうしん、なんひゃいう」

魔女「とりあえず口に咥えた魚を取りなさい。後で塩焼きにしてあげるから」

狼少女「わひゃった」


魔女「で、何を伝えたいのかしら?」

狼少女「湖中心、何か居る」

女「……何も見えないけど?」

魔女「…いえ、風が集まってるわ」

エルフ「えっ!?あ、あれは…!」



湖の中心には風が集まって小さな球状の竜巻のようなものが発生していた

そしてその竜巻の中から私より小さい女の子が現れた



ドワーフ「…これは驚いた。まさかシルフ様が人間界に来るとは…」

狼少女「シルフ?」

魔女「妖精達が住む大陸『妖精界』を守護する四大精霊の一人、風精霊シルフ」

魔女「彼女はエルフ(風妖精)達にとって神様みたいな存在よ」


彼女は水の上を歩いてエルフさんの目の前で足を止めた



シルフ「我が娘エルフよ、元気にしてましたか?」

女「む、娘!?」

シルフ「はい。あなた達が言うような血が繋がった本当の親ではありません」

シルフ「ですが風妖精達は皆私の可愛い子供達なのです」

エルフ「シ、シルフ様!どうしてここに!?」

シルフ「あなたを迎えに来ました。さあ、皆も心配しています。私と一緒に帰りましょう」

狼少女「…エルフさん帰っちゃう?」

魔女「エルフはあれでも風妖精達の集落『風の里』の長なのよ。長としては…一秒でも早く故郷に帰るのが正しいわね」


エルフ「シルフ様…僕はまだ帰れません」

シルフ「……どうしてなのですか?」

エルフ「シルフ様も知ってますよね?僕は性奴隷として約10年間…あの場所でずっと辱めを受けていました」

シルフ「………」

エルフ「辱めを受けること自体は既に経験済みですのでそんなに辛くはありません」

女「えっ?ど、どういうこと…?」

ドワーフ「…まだ魔王が現れる前、人間達の間である噂が流れた」

ドワーフ「『風妖精の肉を食らうと不老不死になる』という噂だ。そして…人間達による風妖精の乱獲が始まった」

ドワーフ「もちろんその噂はデマだ。人間達もすぐに乱獲をやめた。だが既に捕らえられた風妖精達は……」

魔女「…風妖精は皆容姿が若くて美形なのよ。あとは……言わなくてもわかるわよね」

女「……うん」


シルフ「…辛くない、なんて嘘ですよね。あなたは地獄のような経験を二回もしたのですから…」

シルフ「だから早く帰りましょう。こんな時こそ家族が傍に居ないと…」

エルフ「家族ならここにも居ます。同じ苦しみを知る家族がここにたくさん…」

狼少女「家族…」

魔女「ええそうよ…私達はあなたの家族でもあるのよ」



私は嬉しかった

母と姉を亡くした私にもこんなにたくさん家族が居ることがとても嬉しかった


エルフ「もちろん里のみんなのことも心配です。でも里のみんなはしっかり者だから僕が居なくても大丈夫だと思うんです」

エルフ「だから僕は…もうしばらくここに居る家族達を支えていこうと思ってます」

シルフ「……そうですか」

エルフ「すみませんシルフ様。わざわざ迎えに来てくださったのに…」

シルフ「いえ…あなたはもう自由です。あなたがそうしたいのならそうするべきです」

シルフ「里の皆には私から伝えておきます。心配しないでください」

エルフ「ありがとうございますシルフ様…」


ドワーフ「お久しぶりですシルフ様」

シルフ「あなたも無事で何よりです。土妖精の姫君ドワーフよ」

女「…えっ?」

剣士「ぶはぁっ!ひ、姫君ぃ!?」

ドワーフ「剣士……貴様ぁ!」

剣士「あっ……」

ドワーフ「覗きをしたばかりかワシが姫だと聞いて今吹きおったなぁ!!」

剣士「いやだってドワーフの兄貴がお姫様はギャグでしょ!?」

女「裸で追いかけっこしてる…本当にドワーフさんはあれでもお姫様なの?」

魔女「一応ね。れっきとした土妖精の王国のお姫様よ」


エルフ「ドワーフさんは7人兄妹でドワーフさん以外全員お兄さんなんだよ」

魔女「土妖精の男性は皆あんな喋り方だから、7人の兄を持つあの娘も男性みたいな喋り方になっちゃったのよ」

女「そうなんだ…でもなんでお姫様のドワーフさんや里の長のエルフちゃんが奴隷にされてたの?」

魔女「ドワーフのせいよ。初恋の人が結婚しちゃったらしく、元々顔見知りだった私とエルフを酒場に呼んでヤケ酒してたのよ」

エルフ「まさか妖精界に魔者が居ると思わなくてね…泥酔してたら捕まっちゃったんだ」

魔女「一生の不覚だわ…でも何とかあの娘だけは労働奴隷にさせられて本当に良かったわ」

エルフ「性奴隷にさせられてたら今頃土妖精達が人間界に攻め込んできてたかもね」


ドワーフ「もう覗きをしないと誓え!」

剣士「イテテテテ!ち、誓うからもう許してぇ~~~!!」


女「…やっぱりお姫様に見えない」

狼少女「…あれはイチャイチャ?」

魔女「ええそうよ。だから放っておきましょ」

シルフ「…エルフ、楽しそうな家族が出来ましたね」

エルフ「…はい」

シルフ「あなたが幸せそうで何よりです…あの方にあなたの救出を頼んで正解でした」

エルフ「あの方って…勇者様ですか?」


シルフ「はい。私の力で助け出せれば良かったのですが…人間界で私が留まれる場所は限られています」

シルフ「なのであなたが捕らえられていた場所をあの強く優しい心を持った者に伝えたのです」

エルフ「そうだったんですか…」

シルフ「あの者は本当に強いです……ですが同時に脆くもあります」

シルフ「エルフ、あの者のことも支えてあげてくださいね」

エルフ「わかっています。でも…その役目は僕ではありません」

狼少女「…?エルフさん、私の顔何かついてる?」

魔女「ふふっ、そういうことじゃないわよ」

女「………」


シルフ「では私はそろそろ妖精界に帰ります。土精霊ノームにも姫君が無事だと伝えておきますね」

ドワーフ「ありがとうございますシルフ様。それとお見苦しい姿をお見せしてしまって本当にすみません」

剣士「ぁ……」

エルフ「虫の息だね」

魔女「私達の裸を見たからもう少し痛めつけてもいいわよ。後で治癒魔法で治せばいいんだし(私治癒魔法なんて使えないけどね)」

ドワーフ「そうか?」

剣士「す、すみませんでした…も、もう許ちてくださ…い」

シルフ「……もしかしてあなたは賢者の村の出身なのですか?」

魔女「ええ、そうよ」

シルフ「でしたら急いだ方が良いかもしれません…今あの村は大変なことになっています」

魔女「……詳しく聞かせてちょうだい」

シルフ「風が教えてくれたので詳細なことはわかりませんが……」

シルフ「『魔者』が現れたそうです」

今日はここまで

とりあえず書き溜め分は全て投下したので空けます

ではまた

キリが良いところじゃなかったのでもう少しだけ投下します


______________________________


勇者「とりゃあっ!!」

勇者「…チッ、また逃げられたか。こりゃマズイぞ…見栄張って狼少女に釣り得意って言っちまったしなぁ」

勇者「次こそは…」

勇者「…………おっ、来た!しかもこの手応え、竿のしなり、間違いなくこの川の主だ!」

勇者「ぜってぇ釣り上げてやる!うおりゃあっ!」

狼少女「………」

勇者「……随分と大物が釣れたな」

狼少女「ゆうひゃ」

勇者「とりあえず咥えている魚を放して服を着ろ」

狼少女「わひゃった。ぺっ」

勇者「ああっ!?放せって言ったけど逃がすなよ!やっと釣った魚なのに…」

狼少女「勇者、イジけてる場合じゃない。緊急事態」

勇者「…何があった?」


____________________


勇者「――じゃあ行ってくる。ドワーフ、剣士、皆を頼んだぞ」

ドワーフ「ああ、こっちは任せろ」

剣士「でも本当に四人で大丈夫なのか?」

エルフ「馬は荷馬車で使ってた二頭しか居ないし、夜の森を抜けるから僕と狼少女ちゃんは外せないよ」

勇者「魔者が居たとしても俺一人居れば十分だ…皆殺しにしてやる」

剣士「怖っ!?勇者様ってそんなこと言う人だったか?」

勇者「っ……じゃ、じゃあ行くか」

魔女「…ええ」



勇者、魔女、エルフさん、そして私の四人は馬に乗って賢者の村へ向かった


エルフ「この辺りは木々が多いからしっかりと僕達の後についてきてね」

狼少女「うん。私、耳良い。大丈夫」



案内役のエルフさんと勇者が先頭、その後ろを私と魔女が追走している



魔女「………」

狼少女「…魔女大丈夫?」

魔女「ええ…」



故郷が襲われてると聞かされて大丈夫なはずがない



魔女「…私はね、小さい頃から皆のまとめ役だったの」

魔女「だから先代の村長が亡くなった時、皆から村の長を頼まれたわ」

魔女「でも私はそれを断った…」


狼少女「…魔女は故郷嫌い?」

魔女「嫌いではないわ。でもあの村は何にも無い場所でね…住人のほとんどが爺婆と歳を偽った爺婆なのよ」

魔女「私はそんな村でのんびり村長なんかしたくなかったの。だから村長を賢者、村の警備を魔法使いに任せて私は外交を担当することになった」

魔女「王国から妖精界まで色んな場所へ行けるから楽しかったわ。でも私には…それ以上に楽しみしていることがあったのよ」

魔女「それは…あの村に帰って『ただいま』って言うことよ」

魔女「帰れば数少ない村の子供達が出迎えてくれて、旅の話をしてってせがんでくる」

魔女「子供達に旅の話をした後は、腐れ縁の二人(賢者と魔法使い)と酒を飲みながらくだらない話をする」

魔女「そして呼んでもないのにいつの間にか村中の爺婆が集まってお祭り騒ぎ…私はそんなあの村が大好きなのよ」

狼少女「…大丈夫。きっとまた、だだいま言える」

魔女「…ええ、そう願ってるわ」



でも魔女の願いは叶わなかった


____________________


エルフ「ひ、酷い…」



私達が着いた頃には既に彼女の故郷は見るも無残な状態となっていた

家屋はほぼ全壊、齧られたような跡がある死体が村中に転がっていた



勇者「………」

狼少女「魔女…」

魔女「……これじゃ『ただいま』は言えそうに無いわね」


「ま、魔女様!?ご無事だったのですか!?」

魔女「ええ、十年も空けてごめんなさい。それより…何があったのか詳しく教えてちょうだい」

「じ、実は…『魔者』が群れで現れまして……」

エルフ「む、群れで!?」

「は、はい…あまりにも突然のことで皆なす術も無く……」

魔女「賢者と魔法使いはどうしたの?あの二人ならいくら魔者が群れをなしたからと言って簡単にやられるわけが…」

「お二方のおかげで群れのほとんどを倒せたのですが……リーダー格の魔者が村の子供達を人質に取り…」

魔女「そう……殺されたのね」

「…はい」

勇者「…その魔者達は今どこに居るんだ?」

「あちらも被害が大きかったので賢者様と魔法使い様を殺した後、逃げるように村を出ていきました」

勇者「……追いかけてぶっ殺してくる」

エルフ「ちょ、ちょっと待ってよ勇者様!一晩中駆けたから馬がもうヘトヘトだし追いかけるのは無理だよ!」


勇者「魔者め…よくもこんな酷いことを…ッ!」

エルフ「ゆ、勇者様…?聞いてる?」

勇者「殺してやる…死んだ方がマシだと思えるほど痛めつけてから、バラバラに切り刻んで殺してやるッ!」



勇者はエルフさんの言葉など聞かず、ただただ怒っていた

その怒りはハッキリ言って異常だった



狼少女「…勇者、駄目」

魔女「そうよ落ち着きなさい。今は生き残った人達の介護と死んだ人達の埋葬を優先して手伝ってちょうだい」

勇者「だが…!」

魔女「お願い…早く皆を眠らしてあげたいの」

勇者「………わかった」


____________________


魔女「………」

勇者「…とりあえず亡くなった人達は皆埋めたぞ」

魔女「そう…ありがとう」

勇者「…大丈夫か?」

魔女「大丈夫だと思うの?」

勇者「ごめん、故郷をこんなにされて大丈夫なわけないよな」

魔女「こちらこそごめんなさい。本当なら昨夜狼少女ちゃんとお楽しみだったのにね」

勇者「こんな時までボケるんじゃねぇ」

魔女「こんな時だからこそよ…本当はこうやって話すのもギリギリなのよ」

勇者「…なら我慢せず泣き叫べばいいだろ。胸ぐらいなら貸してやるぞ」

魔女「結構よ。あなたの胸は狼少女ちゃん専用だもの」

勇者「勝手に決めるな」


勇者「…これからどうするつもりだ?」

魔女「……さすがにこの状態の村を放っておくことは出来ないわ」

勇者「そうか…」

魔女「ごめんなさい…こんな形で抜けることになって」

勇者「気にするな。元々この旅はお前達を故郷に帰す旅なんだから」

勇者「しっかりとこの村を立て直せよ」

魔女「ええ…亡くなった人達の分も必ず元通りにしてみせるわ」

魔女「でも…本当に私が抜けて大丈夫なのかしら?」

勇者「狼少女のことか?たしかにお前が抜けたら落ち込むだろうな…でもあいつならきっと乗り越えるさ」

魔女「私が心配してるのはあなたよ」


魔女「またさっきみたいに我を忘れそうになったらどうするつもりなのよ?」

勇者「だ、大丈夫だって…自分の感情ぐらいコントロール出来るさ」

魔女「無理だわ。あなたの尋常じゃないその『殺欲』は自分で止められるシロモノじゃないわ」

勇者「………そんなこと無い」

魔女「…やっぱりあの娘に全てを話した方がいいじゃないかしら?」

勇者「駄目だ。狼少女とはこのままで居たいんだ」

魔女「あなたも頑固ね……わかったわ。じゃあ保険としてエルフかドワーフに教えておくことね」

魔女「でもこれだけは覚えておきなさい。あなたを救えるのはあの娘だけよ」

勇者「………」


____________________


翌日、魔女がこの村に残ると言ってきた

つまり…魔女とはここでお別れ



勇者「少しだけど資金も渡しておいた」

魔女「『何してんのよ』っていつもなら怒るところだけど…今回ばかりは礼を言わなくっちゃね」

魔女「何から何まで本当にありがとう…あなたに助けてもらえて良かったわ」

勇者「おう、元気でな」

エルフ「落ち着いたらまた妖精界に来てよね。ドワーフさんに良い地酒を用意させて待ってるから」

魔女「ええ、必ず行くわ」


狼少女「………」

魔女「…ごめんなさい狼少女ちゃん。本当はもう少しあなたの傍に居たいのだけれど…」

狼少女「…ううん。私大丈夫。魔女、ここに残るべき」

魔女「狼少女ちゃん…」

狼少女「魔女…バイバイ」

魔女「…ええ、さようなら。また会いましょう」

勇者「…そろそろ戻るぞ」

狼少女「うん…」



私達は魔女とお別れをし、皆が居る森へ馬を歩かせた


狼少女「……本当はまだ一緒に居たい」

勇者「そう思うのが普通だ。よく魔女の前で言わなかったな」

狼少女「大好きな魔女、困らさせたくなかった…」

勇者「そうか…お前は偉いな」

狼少女「……勇者、今日一緒に寝て」

勇者「ああ、いいぞ」

エルフ「…やっぱり二人はそういう関係なんだね」

勇者「しつこい。空気読め」

エルフ「場を和ます為に言ったんだよ。それに狼少女ちゃんは裸で寝るんでしょ?」

狼少女「うん」

勇者「マジでやめろ」

今日はここまで


今度こそ本当に空けます


ではまた

すみません、エロは書く予定ないです
あと一応皆の年齢を載せておきます


エルフ(非公開)>>>魔女(100歳ぐらい)>ドワーフ(30歳)>剣士(26歳)>女(24歳)>勇者(22歳)>狼少女(14歳)


では投下します


______________________________


魔女と別れてから数週間後…


勇者「ていやぁ!」

「ギャアアアァァァ!!」



勇者はズバッと『魔物』と言われる生物を切り裂いた



勇者「ふぅ…」

狼少女「勇者、お疲れ様。はい」

勇者「おう、サンキュ」



私は勇者の下に駆け寄り、彼にタオルを渡した



勇者「うぐっ!だ…だから何で毎回タオルを渡す時グーパンで突き出すんだよ!」


狼少女「違った?なら…こう?」

勇者「うおっ!?」



タオルを握った私の右拳が空を斬る



勇者「誰が変化をつけてキレのあるショートアッパーをしろって言った!?俺をノックアウトするつもりか!?」

狼少女「うん。こうすれば勇者、私に落ちるって魔女言ってた」

狼少女「えっと…恋のアプローチ?」

勇者「全然違うからな!物理的に落とすだけだからな!」

勇者「まったく魔女のヤツ…余計なことばっかり教えやがって」

狼少女「あっ…勇者、また魔物」

勇者「マジか。じゃあちょっくらやっつけてくるからお前は皆のとこに戻ってろ」

狼少女「うん」



彼は再び魔物に向かって駆け出した


____________________


無事に魔物を倒した後、私達は次の町へと向かっていたのだが…



勇者「チッ、結構な数の魔物と遭遇したせいでもう夜になっちまった。今日もここら辺で野宿するしかなさそうだな」

狼少女「野宿…今日もフカフカベッドお預け」

勇者(めっちゃ耳が垂れてる…そんなにフカフカベッドで寝たかったのか)

狼少女「しょうがない…時には我慢必要。じゃあ魔女、今夜も色々教え……」

勇者「……魔女はもう居ないだろ」

狼少女「そうだった。忘れてた…」

勇者「…ほら、他の人達と一緒に夕飯の準備を手伝ってくれ。俺は魔物が居ないか見回りをしてくる」

狼少女「…うん」


____________________


狼少女「………」

女「…狼少女ちゃん、まだ魔女さんのこと忘れられないの?」

狼少女「………うん」

ドワーフ「これからはこうゆうのに慣れないと駄目だぞ。ワシらは言っても期限付きの仲間なんだ…必ずいつか別れはくる」

狼少女「前にエルフさん言ってた。ここに居る皆家族」

狼少女「なのに…皆離ればなれ」

エルフ「…家族は離れていても家族なんだよ」

狼少女「離れても家族?」

ドワーフ「そうだぞ。死ぬまでワシらは家族だ」

エルフ「さみしかったら僕達を頼ってよ。僕達も家族なんだから」



魔女はまだ家族、私にはまだ家族が居る

そう思えたら不思議と元気になってきた


狼少女「…うん、ありがとエルフさん、ドワーフさん」

ドワーフ「それだけじゃないぞ。お前には将来本当の家族になる勇者が居るじゃないか」

狼少女「もうなってる。勇者と私、本当の家族」

ドワーフ「おおっ、これは大胆発言だな。お前達いつヤッたんだ?」

エルフ「ちょっとドワーフさん、そういうのは勇者様に振らないと面白くないよ」

ドワーフ「前から言おうと思ってたが、お前って結構Sだよな…」

女「………」

剣士「おーい夕飯まだかー?」

ドワーフ「相変わらずうるさいヤツだ…もうすぐ出来るから座って待っとれ」

剣士「頼むぜドワーフの姉御」

ドワーフ「お前なぁ…兄貴よりマシなったがこんなか弱いワシに姉御は無いだろ」

剣士「か弱い女性は槌を振り回したりワシなんて言葉を使ったりしないぜ姉御」


狼少女「……ん?」

エルフ「耳がピクピク動いてるけどどうかしたの?」

狼少女「…勇者が戦ってる」

剣士「またかよ!?この辺りちょっと魔物出過ぎじゃないか!?」

ドワーフ「剣士は皆の護衛を。ワシは勇者の援護に行ってくる」



ドワーフさんは大きな槌を担いで勇者の下へ向かった

そして私も勇者の下へ駆け出した


狼少女「………」

ドワーフ「なっ!?お前も皆の所に居るんだ!ついて来るな!」

狼少女「や。私も勇者のとこ行く」

ドワーフ「いつもは大人しく言う事聞くのにどうして今日は我侭言うんだ!?」

狼少女「さっきの勇者の声…いつもより怒ってた。とてもとても怒ってた」

ドワーフ「ッ!……わかった。だがワシの傍から離れるなよ」

狼少女「うん」



私はドワーフさんの背中に飛びついた



ドワーフ「……たしかに離れるなと言ったがワシに飛びつけとは言ってないぞ」

狼少女「飛びついてない。抱きついてる。魔女が『離れるな』言ったらこうしろって」

ドワーフ「あの年齢詐称女め、色々としこみおって!」

ドワーフ「…そういうのは勇者にだけするんだぞ。わかったか?」

狼少女「うん。わかった」


____________________


ドワーフ「な…何なんだこれは…」



血で赤く染まった岩や地面

首を切られたり、心臓を貫かれたりして横たわる多数の死体…いえ、最早それらは死体とは言えなかった



ドワーフ「…まるで地獄絵図だ」

狼少女「………勇者」



私はそれらには目もくれず勇者を探した

日は落ちかけ辺りはすでに暗くなっており、離れた場所に居る勇者を目で捉えるのは難しかった

しかし私は長年使っていなかった目より優れたモノを持っている

それは耳だ

開けた場所で集中すれば10kmぐらい先の音を聞き分けることが出来る


狼少女「…ドワーフさん、こっち」

ドワーフ「お、おう!」



そして私とドワーフさんは勇者の下に辿り着いた



狼少女「勇者!」

勇者「なっ!?馬鹿!こっちに来るな!!」



私は勇者に駆け寄ろうとした

しかしそれを阻もうとする者達が居た



「あいつの仲間か…」

「うへへへ、美味そうなお嬢ちゃんじゃないか」



人間の姿形をした二体の『ソレ』は私に襲い掛かってきた


ドワーフ「させるかァ!」



ズドォン!っと地面にドワーフさんの槌がめり込む




「そんな大振りな攻撃が俺達『魔者』に効くと思うか?」



『ソレ』は人間ではなく『魔者』だった



ドワーフ(チッ、外したか!それにしてもこんな場所で魔者の群れと遭遇するとは…さっきの死体も人間ではなく魔者だったのか)

ドワーフ(ということは……勇者が一人であの数の魔者を全て絶命させたのか!?)


「その体格でその力…土妖精か。人間界に居るなんて珍しいな」

「土妖精は良い労働奴隷になる。殺さず生かせ」

「マジかよ…じゃあ先に食事を済ますからちょっとだけ大人しくしてろ」

ドワーフ「ぐあっ!」



ドワーフさんの攻撃を避けた魔者は軽々とドワーフさんを投げ飛ばした



「お前らの『食欲』も困ったもんだ…そいつもギリギリでいいから生かせよ。人質にすんだから」

「はいよリーダー」

「さて…どうやって食うかな?生もいいが串焼きも――グサッ



言い終わる前に魔者の頭を剣が貫いた


「なっ!?お前はさっきまで向こうで他の部下達と戦っていたはずだろ!?」

勇者「本当はもう少し痛めつけてから殺してやりたかったんだが…速攻で始末させてもらった」

「くっ…やっと集めた兵隊をよくも…!」

勇者「…狼少女、絶対に俺の傍を離れるな…守れなくなるから」

狼少女「うん」



私は勇者の背中に飛びついた



勇者「……いや、何してんの!?離れるなって言ったけどくっ付けとは言ってないだろ!」

狼少女「でも『離れるな』って言われたら抱きつく。そう教えてもらった」

勇者「あの性悪女の仕業か!!」

ドワーフ(半分はワシのせいだ…すまん)


「オラァァ!!」

勇者「あーもう!その状態でいいから目を閉じてしっかり俺に掴まってろよ!」

狼少女「うん」



私が目を閉じると同時に魔者の悲鳴が辺りに響き渡る

勇者は私にその惨状を見せたくなかったのだろう…でも私は目を閉じていてもその光景が『見えて』いた

ズボッ、ズボッ…柔らかいモノが潰れる音、恐らく二回聞こえたから目を潰した音だ

グサッ…彼の剣が肉に突き刺さる

ズバァンッ!…胸辺りに突き刺さった剣をそのまま振り下ろし、魔者の身体を骨や臓器ごと真っ二つに…

ぐちゃっ、ぐちゃっ……原型が無くなるまで魔者を踏み潰している



勇者「っ……こいつの前で何してんだ、俺…」


勇者「…終わったぞ」



ゆっくりと目を開けるとそこには耳で見ていた光景と全く同じ魔者の肉片が転がっていた



勇者「…あまり見るな」



彼の手が私の視界を遮る



勇者「…ドワーフ大丈夫か?」

ドワーフ「あ、ああ…」



彼女の声は『安堵』ではなく、『恐怖』だった


狼少女「…勇者、今タオル持ってくる」

勇者「…ありがとな」



私は今まで通り、彼にタオルを渡す為に一旦皆のところに戻った



ドワーフ「あ、あれだけの魔者をたった一人で……勇者、お前は一体…何者なんだ?」

勇者「…俺は勇者」


勇者「魔物じゃなくて『魔者』専門のな」


____________________


勇者「――ってわけなんだ」

ドワーフ「そ、そんなことが…」

勇者「魔女には感づかれたから教えてたけど、このことは他の皆に言わないでくれ。皆を怖がらせたくないから…」

ドワーフ「わかった……狼少女にもか?」

勇者「ああ…あいつとはこのままの関係でいたいんだ」

ドワーフ「別に話したって変わらないと思うが…」


狼少女「勇者、はい。お疲れ様」

勇者「…おう、ありがとな」

ドワーフ「………」



二人の様子が少しおかしかった

そしてその理由を私は知っていた

何故なら私には…聞こえていたから



狼少女「………」

勇者「…さて、さっきの魔者が言うにはこの辺りに非常食用の人間が捕らえられてるらしい」

勇者「『食欲』に忠実な魔者は人間や妖精、魔物すらも食べるらしいからな…皆で手分けして探してくれ」


狼少女「それなら大丈夫…私、ニオイでわかる」

勇者「本当か!?じゃあそっちは頼んだぞ」



私は聴覚と身体能力が普通の人間より優れている

しかし嗅覚などの他の機能は人間とほぼ変わらない

でも……さっきの話を聞いていたと思われない為に私は嘘をついた



ドワーフ「勇者はどうするんだ?」

勇者「俺は『魔力』が湧き出てるスポットを探す。あのリーダーはそのスポットを利用して兵隊を集めてたんだ」

勇者「兵隊達は『食欲』、リーダーの欲望は『支配欲』だった。おそらくあのリーダーは魔王のように全ての大陸を魔者の軍隊で支配しようとしてたんだろう…」

勇者「ちなみに魔女の故郷を襲ったのもこいつらだ。殺す前に兵隊に吐かせた」

ドワーフ「そうか…それで魔力探しは本当に大丈夫なのか?」

勇者「ああ…さっきも言ったように『俺』は大丈夫だ」


私とドワーフさんは勇者と一旦別れ、捕虜達の下へと向かっている



狼少女「…ドワーフさん、魔力が湧き出るスポット危険?」

ドワーフ「…ああ。ワシの故郷では死の煙と言われる『魔力』」

ドワーフ「それに植物や動物が触れると『魔物』となる」

ドワーフ「ワシやエルフみたいな妖精がその煙を吸うと即死だ。お前のような獣人族でも心が蝕まれてしまう。そして…」

ドワーフ「人間が吸うと…魔物ような強靭な肉体を持ち、己の欲望に忠実な『魔者』となる」



「なら勇者は?」、「どうしてさっき勇者は『俺』は大丈夫と言ったの?」…私はそれを聞くことが出来なかった


ドワーフ「…お前、さっきの会話聞いてたんだろ?」

狼少女「……うん」

ドワーフ「やっぱり……ならお前のすることはわかるか?」

狼少女「うん。このままずっと勇者の傍居る。絶対離れない」

ドワーフ「そうだ。勇者がお前を守るように、お前もあいつを守ってやれ」

狼少女「うん」

ドワーフ「よし、じゃあさっさと人間達を解放して勇者と合流するぞ!」


____________________


松明の灯りを頼りに俺は魔力が湧き出るスポットを探していた

そして…



勇者「見つけた…」



地面から黒い煙が湧き出ている

これが『魔力』

辺りの闇とはまた別の黒さだ



勇者「…相変わらず嫌な煙だな」



この煙を吸うと心がどんどん黒くなっていく気がする

いや、気ではなく本当にそうなっているのだろう


俺は一応この煙が本当に『魔力』なのか確認する為、木の枝を拾い上げその黒い煙に向かって投げた

すると木の枝は不気味に動き出し、ワシャワシャと音を立てながら小さな植物型の魔物へと変貌した



勇者「…やっぱ本物か」

「グルルル…」

勇者「勝手に生み出しておいてあれだが……ごめんな」



俺は生まれたばかりの魔物を踏み殺した



勇者「魔王め…ホント厄介なモノを残していったな」



本来この魔力はこの大陸『人間界』と隣の大陸『妖精界』では湧き出ることのない代物だ

通称『魔界』と言われる魔物の大陸でのみ湧き出るこの黒い煙

これを人間界や妖精界でも発生するようにしたのが、全ての大陸を支配しようとした今は亡き魔物の王、魔王だ


勇者「俺の先祖様に大人しくやられてれば良かったものを……死ぬ間際にこんなことしやがって」

勇者「だが対抗策が何も無いわけじゃない…」



俺は魔力が噴き出すスポットに一滴の聖水を垂らした

すると噴出穴から光が溢れ、黒い煙は消滅した



勇者「……よし、とりあえずこれでこの辺りは魔物も魔者も現れなくなるだろ」

狼少女「勇者」



遠くから聞きなれた声が俺の名を呼ぶ


勇者「そっちも終わったのか?」

狼少女「うん。人間達解放した。今エルフさん達介抱中」

勇者「韻を踏んでるつもりか?」

狼少女「韻?何それ?」

勇者「後で教えてやるよ。とりあえず皆のところに戻ろうぜ」

狼少女「うん」



俺の後ろを小走りでついてくる

まるで妹のように…

今度は絶対に守ってみせる、もう死なせたりはしない


狼少女「あっ、勇者。伝え忘れてたことある」

勇者「ん?何だ?」

狼少女「私を抱いて」

勇者「」



彼女は俺があげたワンピースをたくし上げ、パンツを見せながらそう言った

「クックックッ…」と後方にある岩の陰から押し殺した笑い声が聞こえる

ドワーフ…お前の仕業か



勇者「はぁ…どうして抱いて欲しいんだ?」

狼少女「さっき私、勇者から『離れない』言った。だから勇者、私に抱きつくべき」


勇者「そういうことか……でもお前は『離れるな』と言われたら抱きつけって魔女に教わったんだろ?」

狼少女「うん」

勇者「ならお前が『離れない』と言ったからって俺が抱きつく必要性が無いわけだ。だってお前は『離れるな』って言ってないんだから」

狼少女「…なるほど」



フッ…論破してやったぜ



狼少女「じゃあ勇者、私から『離れるな』。これなら抱いてくれる?」

勇者「…そうきたか」



フッ…墓穴を掘ってしまったぜ


狼少女「ん」

勇者「んじゃない。とりあえずパンツ見せるのやめろ。じゃないと抱いてやらないぞ」

狼少女「わかった。これなら抱いてくれる?」

勇者「はぁ……わかったわかった。抱いてやるよ」



俺は彼女を優しく抱きしめてやった

彼女の言う『抱く』はこれが正解なのだ



勇者「これで満足か?」

狼少女「…うん」



甘えたい年頃なのか、それとも奴隷生活が長かったせいなのか…

どちらなのかはわからないが、彼女は抱きしめてもらえると安心するらしい


勇者「…お前さっき俺から離れないって言ったんだよな?」

狼少女「うん。絶対離れない」

勇者「そっか……ありがとな」

狼少女「離れないこと許可してくれる?」

勇者「……風呂とか寝る時とかに抱きついてきて困るし、それは許可できないな」



この時俺は嘘をついた

そんなのは建前で本音は彼女を傷つけるのが怖いからだ

彼女を守りたいのなら…彼女から離れるべきなんだ



狼少女「チッ」

勇者「舌打ちまで覚えるな。ガラ悪いぞ」

ドワーフ「勇者、捕らえられていた人間達は無事に助け……おっと、お取り込み中だったか」

勇者「白々しい演技は止めろ。悪趣味だぞ」


勇者「お前への説教は後にして、とりあえず皆と合流するぞ」

狼少女「あっ、待って勇者。もう少し抱いて」

勇者「駄目だ。ほら置いてくぞ」

狼少女「…勇者のケチ」



俺の後ろをまた小走りでついてくる

本当は離れるべきだが……今はまだこのままでいい、少しでも長くこいつの傍に居たい

その選択が間違いだとしても…

今日はここまで


ではまた


______________________________


女「勇者様…本当にありがとうございました。あなたのおかげで無事に故郷に帰ってこられました」

勇者「これからは幸せに暮らせよ、女」

女「……あ、あの勇者様!」

勇者「ほら、少しだけどこれ。やり直す資金にしてくれ」

女「あ………ありがとうございます」



旅を始めてからおよそ一年半

私達は奴隷だった人達を故郷に送り帰し続けた

そして残ってるのはドワーフさん、エルフさん、剣士、そして私の4人


ドワーフ「…はぁ、またか」

エルフ「女さんは色々と貢献してくれたし、良いことだと思うけどさ…旅の軍資金を全部渡すのはどうかと思うよ」

勇者「いいんだよ、これで」

魔女「いいわけないでしょ。おかげで行く先々の町でバイトするハメになってるんじゃない」

勇者「そうだけど………えっ!?」

魔女「あら、私間違ったこと言ったかしら?」

勇者「ま、魔女!?なに平然と解け込んでんだよ!?」

狼少女「魔女!」



いきなりの魔女の登場

私は彼女の胸に飛び込んだ



魔女「大きくなったわね狼少女ちゃん。元気にしてたかしら?」

狼少女「うん!」


魔女「色々と旅の話を聞きたいとこだけど、今は勇者様の説教が先だから少し待っててね」

魔女「で、話を戻すけどあなたはもう少し仲間のことも考えなさい」

魔女「ただでさえ人助けをするたびに人が増えたりしてるのに、それじゃいつまで経っても――」

勇者(何で俺は道のど真ん中で正座をさせられて怒られてるんだ?)

魔女「ちょっと聞いてるの?」

勇者「はい聞いてます」



ドワーフ「…勇者の説教は魔女に任せるか。じゃあワシと剣士は仕事を探してくる。行くぞ剣士」

剣士「待ってくれよドワーフの姉御ぉ~!」

エルフ「二人はホント仲が良いな…じゃあ僕は宿を探してくるよ」

狼少女「私は何をすればいい?」

エルフ「狼少女ちゃんはここで勇者様の見張り。勇者様は目を離すとすぐに人助けしちゃうからね」

エルフ「それに魔女さんとお話したいことたくさんあるでしょ?」

狼少女「うん!」


魔女「――捕らえられた人達の中には一刻も早く故郷に帰りたい人も居るのよ?むしろそっちの方が多いわ。わかってるの?」

勇者「はい、重々わかっております…」

魔女「私も支援してもらった立場だから本当はこんなこと言える立場じゃないのはわかってるわ…でも何でもやり過ぎは良くないのよ」

魔女「私達賢者の村は無事に復興して、今はこの町に傭兵を派遣してるの」

魔女「だからこの町のことは私達に任せてあなたは人助けをしないこと。わかった?」

勇者「はい…」

狼少女「説教終わった?」

魔女「ええ、終わったわ。じゃあ今度はあなた達の旅の話でも聞こうかしら」

勇者「旅の話って言っても大したこと起きてないぞ」

狼少女「そんなことない…色々あった」

勇者「そうか?」


女「…勇者様」

勇者「あれ?さっき帰ったんじゃないのか?」

女「帰る前に勇者様に話しておきたいことがあったから…」

魔女「…私達はお邪魔みたいね。狼少女ちゃん、行きましょう」

狼少女「でも私、勇者の見張り」

魔女「今は女さんが見張り当番よ。また後で交代すればいいわ」

勇者「さっきから俺の扱い酷くないか?」


____________________


魔女「――魔者の大群と遭遇…しかも私の故郷をめちゃくちゃにした張本人」

魔女「…そんなことまであったのね。大したこと起こってるじゃない」



私は今まで旅で起こったことを全て魔女に話した



魔女「魔者は本当に危険だわ。だって外見はまんま人間なんだもの」

魔女「いえ、外見だけじゃないわ。理性もあるし知能も人間のまま」

魔女「こうやって町を行きかう人々の中に紛れてても一切わからない」

魔女「違うのは魔物のような強靭な肉体を持っていることと、行動原理が己の欲望ということだけね」


狼少女「今までの魔者も?」

魔女「ええ、私達を捕らえて奴隷にしていた魔者は金欲。さっき話に出てきたのはおそらく支配欲と食欲ね」

狼少女「……勇者は?」

魔女「っ!?」



魔女の顔色が強張る

本当は聞かない方が良いのだろう…でもこのままじゃいけない

私は覚悟を決め、全てを知ろうとした



魔女「……それは勇者様から聞いたの?」

狼少女「ううん…勇者、ドワーフさんに教えた。私はそれ、盗み聞きした」

魔女「…どこまで知ってるのかしら?」

狼少女「勇者が魔者。それだけ。だから魔女…私に勇者のこと教えて」

魔女「……わかったわ」


魔女「まず勇者様は魔者。それは事実だわ」

魔女「しかも魔者の中でも桁外れに強い…その理由は目の前で家族を殺された直後に魔力を浴びたからよ」

魔女「魔者の実力は魔力を吸い込んだ際に抱いている『欲』の大きさに比例するそうよ」

魔女「勇者様の欲は異常なまでの『殺欲』…魔者限定のね」

狼少女「魔者限定…」

魔女「だから普通に過ごす分には何も影響無いわ。でも…魔者を見たり、話を聞くだけで殺意を抑えられなくなるそうよ」

狼少女「…勇者は大丈夫?」

魔女「大丈夫よ…とは言い切れないわ。あなたも感じてると思うけどたまに片鱗は見せるでしょ?」



旅先で酷い事件の話を聞いたりすると勇者はよく怒る

それが魔者の仕業だとわかった時の勇者の形相は鬼そのもの

それはつまり殺意を抑えられていないということ

それはつまり…普通に過ごすのに影響があるということ


魔女「それに最近仕入れた情報によると…極稀に魔者の行動原理である欲が変わることもあるそうよ」

魔女「もし勇者様の殺欲が魔者以外に向いてしまったら……」



魔女はその先を言わなかった

でも私は理解した

酷い事件を起こすのは魔物や魔者だけではない

人間もまた、自分の欲の為に他人を傷つけたりする生物である



狼少女「…させない。私が勇者止める」

魔女「ふふっ、狼少女ちゃんも強くなったのね」

狼少女「魔女、もっと勇者のこと教えて」

魔女「…いえ、私が教えられるのはここまでよ。これ以上は勇者様本人に直接聞きなさい」

魔女「今のあなたにならきっと答えてくれるはずだから…」

狼少女「…うん。わかった」


魔女「それと最後に…狼少女ちゃんは勇者様のことをどう想ってるの?」

狼少女「……私は勇者のこと――」



____________________



女「どうしてあたしを連れてってくれないの!?」



女の怒号が辺りに響く

俺は今、仲間であった彼女から告白されていた



勇者「…ごめん。俺はまだ危険な旅を続けるんだ」


女「そんなのわかってる!危険でもいい!あたしは勇者様の傍に居たいの!」



彼女は何もわかってない

俺自身が危険な存在だということを、お前達の人生をめちゃくちゃにした魔者と同じ存在だということを…



女「あたしは勇者様が、あなたが好きなの!あなたが全てなの!」



彼女は俺をこんなにも好いてくれている

でも俺は…



勇者「………本当にごめん」



彼女の気持ちには応えられない


彼女の幸せの為ってのもあるけど、何より俺は……



勇者「例え旅に連れていったとしてもきっと俺は今以上に女を傷つけてしまう」

勇者「俺は女を……好きにはなれないと思うから」

女「……ならその気にさせないでよ。最初から助けないでよ…」

勇者「ごめん…」

女「……あの娘のせいよ。自分がどれだけ汚れているのかも知らないクセに勇者様にベッタリして…」

女「あの娘さえ居なければ…あたしは勇者様と…」

勇者「おい、狼少女は関係ないだろ」


女「関係ない?あの娘は妹だとでも言うの?」

勇者「……ああ、俺にとってあいつは―「笑わせないで!」

女「あなたが自分でそれ以上の関係になるのを避けてただけじゃない!」

勇者「………」



俺は何も反論出来ず、「幸せになれよ」と告げてその場から逃げるように去った



女「………もういい。性奴隷として捕まり、生きる気力さえ失っていたあたしを救ってくれた勇者様」

女「そんなあなたがあたしを捨てるというのなら、あたしは……」


____________________


勇者「………」

魔女「じゃあ私の用事は終わったからもう帰るわね」

勇者「…えっ?あっ、おう…」

魔女「ちょっと大丈夫なの?」

勇者「ああ……大丈夫だ。それより用事って俺らに会いに来たんじゃないのか?」

魔女「違うわ。あなた達と会ったのは偶然」

魔女「この町の町長さんと色々と商業的な話をしに来たのよ。魔具の売買とかさっき言ってた傭兵の待遇調査とかね」

魔女「そもそもこの町まで辿り着くのに一年半も掛かると誰も思わないわよ」

勇者「すんません…全て俺のせいです」

魔女「本当は私の村もギリギリなのだけれど、恩返しもしたかったから少しだけ資金を渡しておいたわ。あなたにじゃなくてエルフにね」

魔女「絶っっっ………対に余計なことには使わないこと。いいわね?」

勇者「はい」


魔女「それともう一つ……狼少女ちゃんはどうするつもりなのかしら?」

勇者「どうするも何も…あいつの自由だろ」

勇者「次の港町で人間界の町は最後だ。次はエルフ達を送りに海を渡って妖精界へ行く」

勇者「エルフ達によると少数だが温厚な狼人族が妖精界に棲んでいるそうだ…あいつがそこを望むならそこで暮らすべきだ」

魔女「じゃああの娘があなたと一緒に居たいと言ったら?」

勇者「……それは駄目だ。危険過ぎる」

勇者「俺はこれからも魔者狩りを続けるつもりなんだ…そんな危険な旅にあいつを連れて行くわけにはいかない」

魔女「それは狼少女ちゃんを魔者から守れる自信が無いから?それとも…」

魔女「あなた自身があの娘を傷つけてしまうのを恐れているから?」



女と違って全てを知っているこいつの一言はまさに図星だった


勇者「………」

魔女「あってるわよね?……あなたってホント馬鹿だわ」

魔女「あなたの傍に居られないことが何よりあの娘を傷つけるのよ」

魔女「そしてあの娘が傍に居ないとあなたは本当の化物になってしまう」

魔女「前にも言ったでしょ。あなたを救えるのはあの娘だけだって」

魔女「あなた達二人は一緒じゃないと駄目なのよ…」

勇者「………それでも俺はあいつを…連れていけない」



俺にとってあいつは…一番大切な存在だから



魔女「……わかったわ。これはあなた達二人が決めることだからこれ以上は言わない」

魔女「でも最後に一つだけ教えておくわね…あの娘、あなたが魔者だって知ってるわよ」

勇者「っ!?」

魔女「じゃあ帰るわね。たまには会いに来なさいよ…二人でね」

勇者「………」


____________________


その後魔女は皆に別れを言ってから故郷に帰っていった

そして俺は今、宿の部屋で考え事をしていた

狼少女が俺の正体を……

いつ知ったんだ?ドワーフに教えた時か?

だとしたらあいつは…俺が魔者だと知りながら俺から離れないって言ったのか?



勇者「………」



自分の部屋から飛び出す

そして狼少女の部屋の前に行き、コンコンっとノックした

しかし中から応答はない



勇者「……居ないのか?」


悪いと思いながら勝手に中に入る

でも狼少女の姿はなかった



勇者「…あいつどこ行ったんだ?」



とりあえず他の部屋の奴らにも尋ねてみる



ドワーフ「狼少女?こっちには来てないが……夜這いか?」

勇者「違うわ」



剣士「狼少女ちゃんなら今裸で俺のベッドに…」

勇者「お前に聞いた俺が馬鹿だった」



エルフ「僕の部屋にも来てないけど…狼少女ちゃんがどっかに行くとしたら勇者様の部屋じゃないの?」

勇者「……まさか」


自分の部屋に戻ると布団の中が膨らんでいるのに気がついた



勇者「…はぁ、灯台下暗しだったな」



布団を剥ぎ取るとそこには裸で丸くなって寝ている彼女の姿が



狼少女「zzZ」

勇者「……もうさすがに慣れたわ」

今日はここまで


ではまた


勇者「おい、起きろ」



ベシベシと頬を叩いて起こす



狼少女「ん……あっ、勇者。おはよう」

勇者「おう、これから寝る時間だけどな。とりあえず服着ろ」

狼少女「や」

勇者「やじゃない。着ろ」

狼少女「自分の部屋なら着なくていいって勇者言った」

勇者「たしかに言った。だがここはお前の部屋じゃなくて俺の部屋だ。着ろ」

狼少女「チッ」

勇者「だから舌打ちすんな」


勇者「で、何で俺のベッドで寝てたんだ?」

狼少女「勇者に聞きたいことある」

勇者「そうか…俺もお前に話したいことがあったんだ」

勇者「お前から話すか?」

狼少女「お先にどうぞ」

勇者「無駄なとこだけ礼儀正しいな」

勇者「じゃあ話すな。魔女から聞いたんだが、お前…俺が魔者だって知ってるんだよな?」

狼少女「…うん」

勇者「俺の過去もか?」

狼少女「ううん。だからそれ、聞きにきた」

勇者「そうか……わかった、お前に話すよ。俺の過去を…」


勇者「まぁ大した話じゃないんだけどな……まず俺らの家族は魔王を倒した勇者様の血を引いているが王城で暮らすことを拒み、旅をしながら魔物退治をしていたんだ」

勇者「父さんはハッキリ言って勇者としても戦士としても非力だった」

勇者「でも非力ながら弱き者を守る為に文字通り、身を削りながら魔物と戦っていた」

勇者「俺はそんな父さんを誇りに思い、俺もいつか父さんみたいな立派な勇者になりたいと思ってた」

狼少女「もうなってる。勇者はとても立派」

勇者「…ハハッ、そっか。ありがとな」

勇者「それで俺達は世界中を旅しながら幸せに暮らしていた……その日までは――」


_
___
_____
__________
_______________
____________________


俺達の運命を変えたその日、俺は歳の離れた妹と一緒に滞在していた町の外れにある川辺で遊んでいた



勇者『おーい置いてくぞー』

妹『お兄ちゃん待ってよー!』



妹は俺に懐いていた

いつも俺の後ろを小走りしながらついてくる



妹『ここにはどれくらい滞在するの?』

勇者『まだ掛かるみたいだぞ。何でも魔力が湧き出るスポットが見当たらないんだって』

妹『お父さん…大丈夫かなぁ』

勇者『たしかにこの町は魔物が頻繁に現れるから危険だ…でも父さんは勇者だぞ?大丈夫に決まってるだろ!』

妹『…うん、そうだよね!』


勇者『ほら、早く帰ろうぜ』

妹『うん!お兄ちゃん手!』

勇者『はいはい』



俺らは手を繋いで宿へ歩を進めた



勇者『ん?…待て妹』

妹『どーしたの?』

勇者『………俺の傍を離れるなよ』



宿に向かう途中、俺は異変に気づいた

町中があるニオイで充満していたのだ



勇者『(このニオイ…血か?)』


俺は嫌な予感がして急いで宿へ向かった

そして俺達が泊まっていた宿のドアを開けると……



父『ゆ、勇者……に、逃げろ。ま、魔者だ……』



父さんが血だらけになって倒れていた



勇者『と、父さん!!』

『ほぉ…子供か。こりゃいい…』

勇者『っ…か、母さん!!』



声のする方を向くと母さんが魔者に腹を貫かれて宙ぶらりんになってた


母『に…逃げなさい……い、妹を連れて町の外へ…早くっ!』

勇者『で、でも…』

妹『い、嫌…お母さん…お父さん……』

母『あ…あなたはお兄ちゃんでしょ!妹を守るのよ!』

『腹を貫かれてるのによく喋れるな。てか逃がさねぇぞ』

『俺は女子供を殺すのが一番の楽しみなんだぁ~♪』

父『さ、させるか!』

母『今のうちよ!』

『チッ、この死に損ない共が!』



最後の力を振り絞って父さん達はその男に襲いかかった



勇者『父さん、母さん……ごめん。俺、絶対に妹を守るよ』



俺は父さんと母さんに別れを告げ、妹を連れて駆け出した


妹『お、お兄ちゃんどうして!?どうしてお父さんとお母さんを見捨てるの!?』

勇者『っ…いいから急いでこの町から出るんだ!!』



俺は町のすぐ横にある森に逃げ込んだ



勇者『(魔物に遭遇する危険性もあるがここならあいつも簡単には追ってこれないはず…)』

妹『…あっ、お兄ちゃん!魔物!』

勇者『くっ…!お前は俺の後ろに居ろ!』

『ギチギチ……』

勇者『(昆虫型の魔物か…仲間を呼ばれる前に速攻で倒す!)』



俺は小さい頃から父さんに剣術を教わっていた

自慢じゃないがハッキリ言って父さんより才能があった

だから魔物が一匹だけなら問題なく倒せた

でも俺はこの時選択を間違えてしまった


勇者『ていやぁー!』

『ギッ!』

勇者『ふぅ…終わったぞいもう…と?』



魔物を倒して振り返ると、妹の姿は無かった

妹は父さん達の下へ引き返していたのだ



勇者『い、妹ぉーーーー!!』



俺は全速力で来た道を駆けた


勇者『(妹だけは守る…そう父さん達に誓ったんだ!絶対に妹だけは…!!)』



でも俺の目に映ったのは魔者に顔を掴まれた妹だった

そして俺が「やめろォォ!」と叫んだ瞬間に…


ぐちゃっ


妹の頭は握りつぶされた



勇者『ぁ…ぁぁ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


俺は自分を責めた

森になんか入らなければ妹は…

魔物と戦わず逃げていれば妹は…



『その絶望に満ちた顔…最高だぜぇ~♪安心しな、すぐにお前も殺ってやるよ』



俺はその魔者に頭を掴まれ、首元にナイフを突きつけられた



『さて、お前はどうやって殺そうかなぁ……ん?』

『ギチギチ…』

『チッ、魔物か…しかもわんさか居やがるな』



さっき俺が殺した魔物の仲間が魔者に襲い掛かる


『魔物は殺しても快感を得られねぇんだよなぁ…楽しみは後に取っておくか』



その魔者は俺を放り投げ、魔物達を次々と殺していく



勇者『(ゆ…許さない!よくも父さんを、母さんを……妹をッ!)』

勇者『(殺してやる…妹達が受けた苦しみを…いや、モットモット苦しませてから殺してやる!!)』



俺は魔者を殺したいと強く願った

俺の心は黒く…黒く黒く変色していった

そして放り投げられた俺が横たわっていた場所は偶然にも…


シュウゥゥゥ…


魔力が湧き出る場所だった


『ふぅ…さすがにこの数の魔物を殺すのは疲れるな』

『さて、メインディッシュといき―グサッ!

『がぁッ!?』



俺はその魔者の心臓を貫いた



勇者『…コロシテヤル…コロシテヤルッ!!』

『ぐっ…ぁっ!……や、やm―ぐちゃっ



そして俺はそいつをただの肉片へと変えてやった



勇者『………まだだ…モットだ』

勇者『魔者を殺す…全員……ミナゴロシだ』



俺はこうして魔者を殺す化物となった


____________________
_______________
__________
_____
__
_


勇者「――で、お前達を助けるまで俺はずっと魔者を殺しながら旅をしてたんだ」

狼少女「………」

勇者「…今まで騙しててごめんな」

狼少女「勇者、何も騙してない」

勇者「騙してたさ。俺はお前に酷いことをした奴と同類なんだから…」

狼少女「違う。勇者は良い人」

勇者「良い人なんかじゃない。俺を見てわかるだろ?」

勇者「魔者って言っても人間と何ら変わらない。つまり俺は…ただの殺人者なんだ」

狼少女「違う!どうして勇者、自分責める!?」

勇者「責めてない、冷静に分析してるだけだ」


勇者「俺は殺人だと認識しながら魔者を殺してる…魔者を殺すたびに俺の手には拭えぬ血がこびり付く」

勇者「罪悪感で壊れてしまいそうになったこともある。でも俺は魔者を殺し続けた」

狼少女「勇者、皆の為に魔者やっつけてただけ!それは偉いこと!」

勇者「違う。俺が魔者を殺し続けられたのは正義感からじゃない…ただただ俺自身が魔者を殺したかったんだ」

勇者「この『殺欲』は自分でも止められないんだ…」

勇者「だからお前は俺の傍なんかに居ちゃ駄目なんだ。危険なんだ」

狼少女「やっ!」

勇者「頼む。俺は怖いんだ…この異常な『殺欲』がいつかお前に向いてしまうんじゃないかって思っちまうんだ」

狼少女「そんなことさせない!私が勇者止める!」

勇者「どうやって?」

狼少女「こうやって!」

勇者「……わかったから顔にめり込んでる拳を引いてくれ」


勇者「た、確かにそれ(暴力)で止められそうだったけど……もし逆に俺がお前を傷つけてしまったら、きっと俺は完全に壊れてしまう…」

狼少女「…じゃあ何で私に全て教えた?教えずに置いていけばいいだけのこと」



ごもっともな意見だ

離れたいのなら黙って妖精界に置き去りにすればいい

それをしない理由は一つ



狼少女「勇者…本当は私の傍から離れたくないと思ってる」

勇者「………」


狼少女「違う?」

勇者「……いや、違くない。お前の言う通りだ」

勇者「魔女にも色々言われた。お前の傍に居ないと俺が壊れる、俺とお前は一緒に居ないといけないって…」

勇者「でも俺の心は揺らがなかった…きっとそれは第三者からの言葉だからだ」

勇者「俺は心の奥底できっと、他でも無いお前に止めてもらうのをずっと待っていたんだ」

勇者「だから…俺がお前から逃げるのを止めてくれ」

狼少女「えいっ」

勇者「……いや、だから拳じゃなくて言葉で止めてくれ。そろそろ鼻が潰れるぞ」


狼少女「じゃあ言葉で止める」

狼少女「妹さん、死んだの勇者のせいじゃない。自分で勇者の傍離れたせい」

狼少女「私は勇者を信じてる。勇者は私を守ってくれる…絶対に私を傷つけないって」

狼少女「そう信じてるから私、勇者の傍離れない。勇者が逃げだとしても追いかけて絶対に傍離れない」

狼少女「勇者を守る為に。勇者に守ってもらう為に」

勇者「………」

狼少女「だから勇者も…私の傍離れるな」

勇者「…命令かよ」

狼少女「そう、命令」

勇者「お前らしいっちゃお前らしいけど…もう一声欲しいな」

狼少女「注文多い」

勇者「自分で言っててそう思う」


狼少女「う~んもう一声……じゃあ私、勇者が好き。だから離れないで」

勇者「っ…もう一声が告白とは……お前、意味わかって言ってるのか?」

狼少女「わからない」

勇者「おい」

狼少女「魔女に聞かれた。勇者のことどう想ってるのかって…」

狼少女「私好きと答えた。けどこれが恋愛の好きなのかはわからない」

狼少女「私、魔女もドワーフさんもエルフさんも剣士も女も他の皆も全員好きだから」

狼少女「でも…一つだけわかる。勇者だけ特別な好き。一番好き」

勇者「……ったく、それが恋愛の好きって意味だ」

狼少女「本当?じゃあ勇者は私のこと好き?」

勇者「…ああ、好きだ」

狼少女「それ…恋愛の好き?」

勇者「………ああ。お前は俺の妹なんかじゃない。最愛の女だ」

狼少女「勇者、やっぱりロリコン」

勇者「うるせぇ」


狼少女「これでもう私から離れる言わない?」

勇者「…ああ、もう言わない。俺も覚悟を決めた。俺はお前を守り続ける…ずっと傍に居る」

狼少女「うん。これからも私を守って」



あれだけ何重にも心に錠を掛けたのに…こいつはいとも簡単に抉じ開けてくれた



勇者「…ぷはぁー何かスッキリしたな!」

狼少女「久々に硬いうんちが出たみたいな?」

勇者「わかりやすい例えだがやめろ」



俺はきっと家族を失ったあの時から一歩も進んでいなかったんだ

これからはやっと進める、二人で並んで進んでいく



勇者「…これからよろしくな、狼少女」

狼少女「うん」


狼少女「これでもう私から離れる言わない?」

勇者「…ああ、もう言わない。俺も覚悟を決めた。俺はお前を守り続ける…ずっと傍に居る」

狼少女「うん。これからも私を守って」



あれだけ何重にも心に錠を掛けたのに…こいつはいとも簡単に抉じ開けてくれた



勇者「…ぷはぁー何かスッキリしたな!」

狼少女「久々に硬いうんちが出たみたいな?」

勇者「わかりやすい例えだがやめろ」



俺はきっと家族を失ったあの時から一歩も進んでいなかったんだ

これからはやっと進める、二人で並んで進んでいく



勇者「…これからよろしくな」

狼少女「うん」


狼少女「じゃあ勇者、ん」

勇者「?何で急に手を広げてんだ?」

狼少女「私さっき『離れるな』言った。だから抱いて」

勇者「……お前って意外と策士だよな」

狼少女「ん」

勇者「はいはい。わかりましたよ」



彼女を優しく包む

いつもでは無いが珍しいことではない

だが俺はいつも通りに出来なかった



勇者「…も、もういいか?」

狼少女「まだ10秒しか経ってない。あと3時間」

勇者「なげーよ!」


勇者「は、早く終わらせてくれよ」

狼少女「何でそんなに離れたがる?本当は私のこと嫌い?」

勇者「い、いや…だから好きだからこそで…」



俺は今まで心の中で線引きをしていた

こいつを妹だと言い聞かせていたからこんなに密着してても何とかなっていた

でも今は違う

お互いに両想いだとわかり、最愛の女としてこいつを抱きしめている

つまり何を言いたいかと言うと…



狼少女「ん?勇者、お腹に何か当たってる」

勇者「…すまん」



興奮しているということだ、主に下半身が


勇者「そ…そろそろ我慢の限界だから離してくれ!」

狼少女「?よくわからないけど我慢良くない。我慢しないでいい」

狼少女「勇者の好きにすればいい」

勇者「っ…ほ、本当にヤバイから何も言わないでくれ!」

狼少女「??勇者何か変。もしかして熱ある?」



俺の腕の中で背伸びをし、ピタッとおでことおでこを合わせた



勇者「なっ…!?」

狼少女「…熱は無さそう」



俺の理性という壁が崩壊寸前だった


だがそんなピンチな俺を部外者という名の救世主達が助けてくれた



ドワーフ「はよ襲わんか」

エルフ「駄目だよ邪魔しちゃ。今から勇者様の鬼畜プレイが始まるのに」

剣士「勇者様ってそっち系!?」



勇者「おいこら待て。勝手に部屋入ってきてんじゃねぇ」


ドワーフ「早く狼少女をお前の女にしてやれ」

エルフ「何なら僕も混ざろうか?勇者様ロリコンだし」

剣士「じゃあ俺も―」

勇者「黙って自分達の部屋に帰れ」



野次馬三人を部屋から閉め出し、部屋の鍵を掛ける



勇者「まったく…まともなヤツは一人も残ってないのかよ」



いくら好き同士だからと言って、性奴隷として育てられていたという事実を知らない彼女を簡単には抱くことは出来ないだろうが…


狼少女「勇者、もう眠い。寝よ」

勇者「おう…って何平然と裸になって俺のベッドで寝転がってんだ!?」

狼少女「今日は一緒に寝る日。さっき私が決めた」

勇者「自分の部屋で寝ろ!」

狼少女「や。勇者の傍離れない。約束したの忘れた?」

勇者「くっ……わ、わかった!一緒に寝てやるから服は着てくれ!」

狼少女「…しょうがない、少しは譲歩しよう。その代わりちゃんと抱きながら寝て」

勇者「………頑張れ俺の理性」



長く辛い戦いの始まりである


____________________


翌日


ドワーフ「ふわぁ~」

エルフ「女性がそんな大口開けて欠伸しちゃ駄目だよ」

ドワーフ「別にいいだろ。幸いここには男性は居ないんだし」

剣士「俺の存在全否定じゃん!?」

狼少女「皆おはよー」

勇者「おっす……」

エルフ「…目の下の隈を見る限り何もしなかったみたいだね」

剣士「勇者様は紳士だなぁ」

ドワーフ「紳士というよりチキンだろ」

勇者「うるせぇ…」

今日はここまで


本当はほのぼのを書きたい
でもそろそろちょっとだけ胸糞に入るかも


ではまた


エルフ「それで今日の予定だけど、魔女さんからこのまま妖精界に行けるぐらいの資金を貰っちゃったから久々にオフってことでどう?」

勇者「そうだな。海を渡る準備は次の港町で済ませばいいし」

ドワーフ「久々に買い物でもするか。剣士、今日はワシの荷物持ちな」

剣士「素直に俺とデートしたいって言えばいいのに…姉御って意外と照れ屋なんだな」

ドワーフ「会話しろ会話」

狼少女「勇者、私も買い物したい。もちろん勇者と一緒に」

勇者「ああいいぞ。じゃあエルフ、買い物代を…」

エルフ「はい狼少女ちゃん。くれぐれも勇者様に渡さないでね。困ってる人にあげちゃうから」

狼少女「うん」

勇者「……とことん信用されてないんだな、俺」


エルフ「じゃあさっさと朝食済まして町に―「我が妹ドワーフよ!」

ドワーフ「ブフォ!あ、兄者!?」



突然6人のちっちゃいオジさん達が宿の食堂に入ってきた



長男「10年も音信不通で心配したんじゃぞ!大丈夫なんか!?」

ドワーフ「は、はい!」

次男「やはり人間達に奴隷にされとったんじゃな!?」

ドワーフ「は、はいぃ!?」

三男「よくもワシらの可愛い妹を…許せん!!」

ドワーフ「み、みんな!一旦落ち着いてワシの話を―」

四男「言わんでもわかっとる。シルフ様から全てを聞いたからな」

エルフ(絶対に変な風に改変されてるよ…)

五男「既に我が王国の屈強な兵士達がこの町の外に待機しておる」

六男「妹が受けた苦しみ…100倍にして返してやるわい!」


エルフ「…ドワーフさんちのお兄さん達は相変わらずだなぁ」

勇者「ちょ、ちょっとこれ不味くないか?」

エルフ「ちょっとじゃなくてかなりね」

ドワーフ(こ、このままでは人間達と戦争になってしまう…!どうすれば…)

剣士「……お義兄様方、少し俺の話を聞いてください」

長男「ん?お義兄様?」

剣士「実はドワーフさんはこの十年間奴隷になっていたわけではありません」

次男「何!?妹よそれは本当か!?」

ドワーフ「えっ?あ、はいっ!」

ドワーフ「(おい剣士!何を言うつもりだ!てかお義兄様って何だ!?)」

剣士「(ここは俺の話に合わせて。必ずうまく行くと思うから)」


長男「そうか…それはすまんかった。危うくワシらの勘違いで人間達と戦争することじゃった」

五男「だとすると……十年もの間何をしとったんだ?」

剣士「ドワーフさんはこの十年間……」









剣士「俺と駆け落ちしてたんです!」

ドワーフ「そ、そうなんだ!ワシはこいつと駆け落…ち………はぁああ!?」


ドワーフ「けけけけけ、剣士!!貴様は何を言っているんだ!?」

長男「ドワーフ、それは本当なのか?」

ドワーフ「あ、兄者!これは間違―チュゥゥゥ!



皆が二人に釘付けになった

何故なら突然剣士とドワーフさんが皆の前でキスをしたからだ

正確に言うと剣士が無理矢理ドワーフさんの唇を奪った

そしてドワーフさんは…



ドワーフ「」



絶賛放心中であった


剣士「んっ……これで信じてもらえますか?」

長男「…貴様、名は?」

剣士「剣士と言います」

長男「そうか……剣士よ、妹を必ず幸せにしてやってくれ」

剣士「はい!お任せくださいお義兄様!」

長男「弟達よ!今すぐワシらの国に戻り二人の結婚式の準備に取り掛かるぞー!」

兄達「ラリホー!」

剣士「ふぅ…何とかなったぜ!俺って天才!」

ドワーフ「け、剣士…貴様ァァアア!!」

剣士「しょ、しょうがないじゃん!あの場はああするしかなかったんだって!」

ドワーフ「だ、だからと言って皆の前で接吻するヤツがあるかぁ!?」


ドワーフ「お前はどうかは知らんが…ワ、ワシはファーストキスだったんだぞ…」

剣士「な、泣かないでくれよ姉御ぉ…ドワーフの姉御はそんなに俺のことが嫌いなのか?」

ドワーフ「嫌いだ!ワシのことを好いてもいないのに接吻しおって!」

剣士「俺は姉御のこと本気で好きだよ?」

ドワーフ「……へ?」

剣士「本当は港町での別れ際で告白するつもりだったんだけどなぁ~…順番もシチュエーションも最悪だぜ」

剣士「でもちゃんと言っておくよ。ドワーフの姉御…一緒に奴隷として働いていた時から俺はあなたが好きだった。俺と結婚してください」

エルフ(薄々そうかなぁ~って思ってたけどここまで本気だったとは…)


ドワーフ「…告白の時まで姉御って言うな馬鹿」

剣士「ごめん…」

ドワーフ「…ほ、本当にワシでいいのか?自分で言うのもあれだが、喋り方も性格も男まさりだし、容姿も女性らしくないし…」

剣士「そんなことないって。姉御は最高に可愛いぜ!」

剣士「てか前に土妖精なら絶世の美女って自分で言ってたじゃん」

ドワーフ「あ、あれはただ見栄を張っただけで…」

剣士「とにかく俺はそのままの姉御を愛しているんだ!それで…返事は?」

ドワーフ「……ま、まぁ兄者達にああ言ってしまったし、貴様がそこまでワシにベタ惚れじゃ断るのも可哀相だ……しょ、しょうがない、結婚してやるか!」

剣士「やったぜ!」

エルフ「もう、素直じゃないんだから」

勇者「きゅ、急展開だなぁ…」

狼少女「………」


____________________


勇者「まさかあの二人が結婚することになるなんて…意外だけどお似合いっちゃお似合いだな」

狼少女「うん……」

勇者「二人に何か結婚祝いのプレゼント買ってやるか」

狼少女「………勇者」

勇者「ん?どうかしたか?」

狼少女「私達は結婚してる?」

勇者「ぶっ」


勇者「あ、あのなぁ…あいつらが飛ばし過ぎなだけで、普通は好きだと告白したからって結婚に繋がるわけじゃないんだぞ」

勇者「確かにプロポーズまがいのことを言ったが、俺達はその…あ、あれだ。まだ恋人だ」

狼少女「じゃあいつ結婚する?私は今すぐ結婚したい」

勇者「ちょ、ちょっと待て!別に今すぐ結婚する必要ないだろ?これからはずっと一緒なんだし」

勇者「いつかちゃんとプロポーズするからそれまで待っててくれ」

狼少女「…うん、わかった。待ってる」

勇者(場しのぎでとんでもない約束しちまった………プロポーズの練習しとくかな)


狼少女「じゃあ買い物の続きしよ。あっちのサンドイッチ食べたい」

勇者「さっき朝飯食ったばっかだろ。却下だ」

狼少女「じゃああっちのお店で――」

勇者(ん?…ネックレスか。そういえばこいつはほとんどオシャレしてないよな…)

狼少女「勇者聞いてる?」

勇者「おう…なぁ、ちょっと向こうで服でも見ててくれ」

狼少女「服なんて必要ない。勇者がくれたこのワンピースがあればいい」

勇者「もうそれ小さいだろ。俺が新しいの買ってやるからさ」

狼少女「これ、魔女から貰ったお金」

勇者「うぐっ…い、いいから先に行ってろ!」

狼少女「むぅ…わかった」

勇者「……よし、行ったな」


勇者「おじさん、このネックレスいくら?」

「それは1000Gだよ」

勇者(ぐっ…今朝荷物を引っくり返して掻き集めた金は900G。100G足りない…)

勇者「お、おじさんお願いだ!900Gにまけてくれ!」

「いいよ」

勇者「えっ?」

「さっきの可愛い彼女へのプレゼントだろ?特別にまけてやるよ」

勇者「あ、ありがとうございますおじさん!」

「なぁにロリコン同志の為ならこれぐらい安いもんさ」

勇者「いや、俺ロリコンじゃな…」

「ロリコンじゃないのか?じゃあまけてやれないな」

勇者「大のロリコンです」

「まいどあり」

勇者(何か大事なものを失った気もするがネックレスは見事手に入れたぜ)

勇者「…ふふ、あいつ喜んでくれるかな」


____________________


狼少女「勇者遅い……よし、私の耳で―」

女「狼少女ちゃん…」



勇者が来るのが遅いから聴覚で何をしてるのか探ろうとした瞬間、昨日別れた女が話しかけてきた



狼少女「女!また会えた!」

女「そうね。あたしも狼少女ちゃんにまた会えて嬉しいわ」

狼少女「……女、どうかした?声がいつもと違う」



いつもの女の声は『優しさ』と『悲しさ』

でもこの時の女の声にはもう一つ、『憎しみ』が混ざっていた


女「…久々に家に帰れて嬉しくて風邪を引いちゃったの」

女「それより狼少女ちゃんに渡したい物があるから……ちょっとあたしについてきて」

狼少女「……うん、わかった」



私は女の異変に気づいていながらも彼女について行った

この行動によって取り返しのつかないことが起きてしまうとも知らずに――


____________________


勇者「おーい狼少女ー」

勇者「あいつどこ行ったんだ?」

「お客様、誰かをお探しですか?」

勇者「ああ、ここで獣耳と尻尾が生えた女の子見なかった?服は白ワンピの」

「その娘でしたら知り合いの女性と店を出て、路地裏の方に行きましたよ」

勇者「知り合いの女性?……ま、まさか!?」

今日はここまで


ではまた


____________________


あれ?女と一緒に路地裏を進んでいたのに…どうして私はベッドで横になっているの?

……どうして知らない男の人が私に覆いかぶさっているの?



「ふっ、はっ…ん?おい、起きたみたいだぞ」

女「…おはよう狼少女ちゃん」

狼少女「お…んにゃ…」

女「ごめんね、薬が回ってるからうまく喋れないよね」

女「これがあなたに渡したかったプレゼントよ…ほら、止めなくていいから続けて」

「はいよ。おら、さっきより激しく突くぜ!」



その男はギシギシっとベッドが軋むぐらい強く腰を私に打ちつける

私には彼の行動の意味がわからなかった


女「これがあなたの本当の姿…あなたは汚い性奴隷なのよ」

狼少女「せい…ど、れい?」

女「ええそうよ。忘れたの?あなたの毎日の日課を…」



毎日の日課…股にある穴に棒を突っ込まれること

そして今現在私は股の穴に知らない男性の『棒』を突っ込まれている

私は悟った、毎日の日課とはこれのことだと…



「おいっ、少しは喘げよ!雰囲気でねぇだろ!」



男性器を出し入れしている男性が私の顔を殴る


女「ほら、いつもみたいに言えば殴られずに済むんだよ。『気持ちイイ』、『もっと』って…」



気持ち良い?これが?

確かに快楽のようなものは感じる、体が満たされているように感じる

でも心は満たされない、こんなの全く『気持ち良く』ない



「チッ、つまらねぇ女だな。膣の具合は最高だけど」

女「いいからさっさと孕ませてあげて」

「へーへー。おら、出すぞ」



突きがより一層激しくなる

そして私は穴の中にドロっとした液体を注ぎ込まれた


女「この娘は精子が大好物なのよ。ちゃんと残さず食べさせてあげて」

「へっ、そりゃいいな。歯たてんじゃねぇぞ」



口にペニスを捻じ込まれる

体が言うことを聞かず、男性のペニスについた液体が私の喉を通っていく

この味、ツンとした香り…紛れも無い、私が毎日食べていたあの液体だ

これを女は精子と言っていたが、これが何なのかはわからない



女「これはこの男の子種。つまり赤ちゃんの元よ」

女「本来こういう行為は好きな人同士じゃないと駄目なの」

女「こうやって子宮に精子を注ぎ込まれることで赤ちゃんを授かることが出来るのよ」


その後も女は私に色々教えてくれた

こういう行為は快楽を得る為だけに行うこともあると、私はその快楽を得る為の道具として産み出されたと…

他にも今まで赤ちゃんが出来なかった理由は避妊薬を飲まされていたからと教えられた

そして今現在、私はその避妊薬を飲んでいない

つまり知らない男性の赤ちゃんを孕む危険性があるということ



狼少女「やめ…て…」

女「何で?まだあたしはあなたに地獄を教えてあげられてないんだよ?」


女「あたしはね…何も知らずに勇者様にベッタリしていたあなたが嫌いだった」

女「あの人の隣に居られることが普通だと思ってるあなたにずっとムカついてたのよ!」

女「あの地獄を知ってれば『抱いて』なんて言えない!こうやって男の人の傍に居るだけで怖いのよ!」

女「勇者様が好きだからあたしはそれらを我慢してあの人の力になろうとした!でもあなたは何も苦しまずあの人の隣を独占した!!」

女「許せるわけがない!あなたはあたし達以上に汚れているのに、何であなたが幸せになるのよ!!」

「おい、お喋りはその辺にしろよ」

「見張り番の奴らも後で交代するから…合計10人で姦すんだぞ。早くソイツをヤらせろよぉ~」

女「そうね…じゃあ狼少女ちゃん、これからが地獄の始まりよ。思う存分孕んでね」

狼少女「お…おんn―ズボッ



有無を言わさず口に男性器を捻じ込まれる


「お前は性奴隷なんだろ?お前の口は喋る為じゃなくてチンコを咥える為にあるんだよ」

「じゃあ俺はメイン頂くぜ。うおっ!締まりキツっ!?まるで処女とヤッてるみたいだぜ!」

「あくしろよ。まだまだ後ろがつかえてんだから」



頭を掴まれ、喉奥まで男性器を入れられる

パンッパンッと音を立てながら腰を打ち付けられる

飲みたくないのに、赤ちゃんを産みたくないのに…胃と子宮に精子をたっぷりと注ぎ込まれる

注ぎ終わればまた別の男性の男性器を上と下の口に捻じ込まれ、また注ぎ込まれる

これが私の毎日の日課…

これが私が見えていなかった光景…



女「恨むなら何も知らず勇者様をたぶらかした自分と、あたしを捨ててこの男達を雇うお金をくれた勇者様を恨むのね」


____________________


勇者「はぁ…はぁ…」



やっと…やっと自分の想いに素直になれたんだ

今度こそ必ず守るって誓ったんだ



勇者「狼少女……頼む。無事でいてくれ…」



俺は路地裏を隈なく探し回った

だが狼少女の姿は見当たらなかった


ドワーフ「勇者!狼少女は?」

勇者「いや……」

ドワーフ「そうか…」

剣士「ほ、本当に女が狼少女ちゃんを連れ去ったのか?」

勇者「ああ……」

エルフ「みんな!今そこで傭兵に話を聞いたんだけど、昨夜女らしき女性がこの町で有名なゴロツキ達と会ってたらしいんだ」

エルフ「それでそのゴロツキがよく集まる場所を聞いたんだけど…」

勇者「どこだ!?」

エルフ「さっき勇者様が探していた路地裏を抜けたとこにある町外れの空き民宿だって。今地図を見せる―ダッ!

ドワーフ「ま、待つんだ勇者!」



俺はすぐさまその場所へと駆け出した


狼少女を逆恨みしていた女、ゴロツキ、空き民宿…嫌な光景が頭の中に浮かぶ

そして俺はその民宿へ辿り着いた



「ん?何だ?」

「おい、ここは俺達のたまり場だ。あっちいk―バキッ



見張りであろう二人を殴り飛ばして民宿に侵入する

すると二階からギシギシと音が聞こえてきた



勇者「やめろ…やめろ………やめろぉぉおおお!!」


俺はすぐさま二階にあがった



「なんだ?さっきの叫び声はおまえ―」

勇者「邪魔だぁ!!」



俺の叫びを聞き部屋から出てきたゴロツキ達を薙ぎ払い、俺はついにその部屋へ辿り着いた

そして俺は最悪な光景を目のあたりにした

最愛の彼女がベッドの上で見知らぬ男達に犯されている光景を…



狼少女「ゆ…う……ひゃ」



虚ろな目で俺を見ながら

口から白い液体を吐き出しながら

彼女は俺の名を呼んだ

その瞬間、俺の心は壊れた


「おい、今シてる最中なんだぞ。さっさとそいつを外に―ガシャンッ!



狼少女に覆いかぶさっていた男が俺の蹴りによって窓の外へと吹き飛ぶ

男は二つ先の民家の屋根に突き刺さった



「は、はあ!?な、何が起き―グチャ



壊れた俺は次々とその部屋に居た男達を壊していく

白い液体によって充満していた強烈な異臭はすぐさま血のニオイへと変わった



勇者「殺す…コロシテヤル!!」


「や、やめてくれ…!」



例え相手が謝っても関係ない

例え相手が気絶していても関係ない

拳を、剣を、怒りを、自分の『殺欲』のままにぶつけた



女「ゆ、勇者…さま……?」

勇者「わかっていたさ……人間は魔者と何ら変わらない醜い生き物だって…」

勇者「どんなに良い人間でも、例え信頼していた仲間だとしても!いとも簡単に悪に染まり他人を傷つける!」

女「ゆ、勇者様…や、やめ…っ!」



一歩一歩女に詰め寄る

そして女の首を絞め上げる



女「ぐッ……!」


勇者「ニンゲンなんか…オレがコロシテヤル!」



女の首を絞める力が強まる



女「が…はッ……」

勇者「モットモット苦しめッ!!」



女の耳を削ぎ落とす

女の腕をへし折る

女の腹に刃を突き刺す

俺は殺さずに彼女を痛めつけていった


女「ぁ……」

勇者「あいつが受けた苦しみはこんなもんじゃない…モット、モットだァァアア!」

狼少女「ゅう…しゃ、だめ…」



そんな『殺欲』に飲み込まれた俺を止めるべく、狼少女が抱きついてきた



勇者「…止めるな!こいつはお前をこんな目に合わせた張本人なんだぞ!?」

勇者「こんな奴なんか…いや、ニンゲンなんかコロスべきだろ!何で助けようとするんだ!?」

狼少女「ち、ちがう…!ケホッ…た、助けたいのは…ゅうしゃ…」

狼少女「ゆぅ、しゃを……この人達と同じにしたくないから…」

勇者「ッ!!」



薬で力の入らない体を必死に動かし、彼女は俺を止めてくれた

白い液体を吐き出しながら、彼女は俺を助けてくれた


狼少女「ゆぅ…しゃ………」

勇者「お、おい!」



そして言い終わると同時に彼女は気を失い、俺は彼女を抱きかかえた



女「ぁっ………」

勇者「………二度と俺らの前に現われるな」



冷静になった俺は解放した女にそう告げ、狼少女を抱えながらその場を後にした


____________________


エルフ「狼少女ちゃんを襲ったゴロツキ達は全員生存してたって…まぁ普通の生活は今後一切出来ないみたいだけどね」

剣士「今回ばかりはあいつらのゴキブリ並の生命力に感謝だぜ」

エルフ「僕達と一緒に駆けつけた傭兵が治癒魔法を使えたってのもラッキーだったよね」

剣士「何はともあれ正当防衛ってことになって良かったな勇者様」

勇者「……ああ」

ドワーフ「勇者、狼少女の体の洗浄は終わったぞ。それと…お前を呼んでる」

勇者「…わかった。すぐ行く」


勇者「……入るぞ」

「…うん」



静かにドアを開け、彼女が居る部屋に入る

彼女はベッドで横になっていた



狼少女「勇者…」

勇者「体…大丈夫か?」

狼少女「うん。胃の中の精子も吐き出したし、股穴も掻き出した」

勇者「そうか…」


狼少女「でも…もしかしたら妊娠するかもって」

勇者「……そうか」

狼少女「勇者……助けてくれてありがと」

勇者「俺の台詞だ。それに俺はお前を助けてなんかいない……元はといえば俺が女の告白を上手く断れなかったのが悪いんだ」

狼少女「ううん。それは関係ない。女が私を襲ったのは私が何も知らなかったから」

狼少女「あんなに辛いことされていたって知らず…女が勇者のこと好きだって知らずに勇者を独り占めしてたから…」

勇者「………」

狼少女「だから女、責めないで…」

勇者「ああ…もう責めない。でも俺はもう…あいつを仲間だとは思えない」

狼少女「それは……しょうがない。それだけのことしたから…」


勇者「………じゃあ俺はもう行くよ。しっかりと寝て体を休ませてやれよ」

狼少女「待って!…行かないで」

勇者「………」

狼少女「勇者…私をここに置いて行こうとしてる」

勇者「っ……そんなことは―」

狼少女「ある…違う?」

勇者「……だってしょうがないだろ。俺はもう今までの俺じゃないんだから…」

勇者「自分の意思で人間を殺そうとしたんだぞ。あいつらが憎くて憎くて…お前が止めなかったら確実に殺していたんだぞ!」

勇者「やっぱり俺は化け物なんだ!いつか必ずお前を殺してしまう!」

勇者「そもそも俺は!最初からお前の傍に居るべきじゃなかったんだ!!」

狼少女「………」

勇者「はぁ…はぁ……」

狼少女「…勇者は何もわかってない」


狼少女「私、勇者が例え化け物になったとしても勇者のこと受け入れる」

狼少女「私を傷つけたとしても勇者の全てを受け入れる」

狼少女「私、勇者を信じてるから…そういう化け物に絶対にならないって」

狼少女「今回だって誰も殺してない。それ、勇者が自分で踏み止まった証拠」

勇者「……そんなのたまたま運が良かっただけだ」

狼少女「違う。私にはわかる」

狼少女「勇者好きだから…勇者の全てを受け入れてるから私にはわかる」

狼少女「だから勇者にも…して欲しいことがある」


彼女を傷つけたのに、あんな姿を見せてしまったのに、彼女は俺を受け入れると言った…

なのに俺は…また彼女から逃げようとしていただけだ

そんな俺が彼女に何をしてあげられると言うんだ?



狼少女「勇者お願い…」



彼女は羽織っていたローブを脱いで裸になった

そして――



狼少女「私を…『抱いて』」


勇者「なっ、お前!?」

狼少女「もう『抱いて』の意味はわかってる…色んな知らない男の人、私を抱いたから」

勇者「………」

狼少女「でも彼ら抱いたのは私の『身体』だけ。私の『心』抱かれてない」

狼少女「だから大好きな勇者に私の『身体』と『心』を抱いてほしい…駄目?」



彼女の身体は震えていた

当たり前だ…あんなことがあったばっかなのに怖くないわけがない

それでも彼女は俺に抱いて欲しいと言ってきた



勇者「…お前、ホント強いな」

狼少女「ううん…私弱い。だから勇者に守ってもらうしかない」

勇者「…そっか」


俺は彼女の震えを止める為、優しく抱きしめた



勇者「…休まなくて大丈夫なのか?」

狼少女「うん。知らなかっただけで身体は慣れてるからまだまだ大丈夫」

勇者「っ…ごめん」

狼少女「勇者が謝ることじゃない。それも含めて全部受け入れてほしいから…」

勇者「…ああ、全て受け入れてやる。お前を抱いてやる」

勇者「だからその前に…あの時に言っておけばって後悔してるし、何でこのタイミングって思うかもしれないけど……言っておきたい」

勇者「狼少女…結婚しよう」

狼少女「…うん」



そして俺は狼少女を抱いた


____________________


それから数年、時が過ぎ…



狼娘「ねーねーママ。パパはー?」

狼少女「勇者は今人間界。一週間後ぐらいに帰って来る予定」

狼娘「えー…パパいっつも家に居ない。あたしさみしいよ…」

狼少女「私も一緒……さみしい」



勇者はあの後も、人間界で湧き出る魔力を完全に消滅させる為に旅を続けていた

もちろん私も一緒に

でも私の妊娠が発覚し、勇者と一緒に旅を続けるのが困難になった

それでも私は一緒に旅をしたかったのだがさすがに勇者に怒られ止むを得ず、エルフさんとドワーフさんが用意してくれた妖精界で一番安全なこの場所に家を建て、私は娘を産んだ


娘を産む前と産んだ後、合計で二年ぐらいは勇者も旅をしないでずっと私達の傍に居てくれた

でも勇者はやっぱり『勇者』としての指名を果たすべく、再び旅に出た

それでも最初は一週間すれば帰ってきていた

しかし娘が大きくなるにつれ、帰って来るのが一ヶ月~三ヶ月ぐらいになっていった

そして今、ほとんど娘と二人暮らしである

勇者…あなたに会いたい



狼少女「………ん?」

狼娘「…ねぇママ。この足音…」

狼少女「うん。噂をすれば……」



「うおっ!?何だこの穴―ドサッ



狼少女「帰ってきた」


私達はすぐさま玄関を開けて、足元の落とし穴を覗いた

そこには上下逆さまになった彼の姿が



狼少女「…おかえり勇者」

勇者「おう、ただいま」

勇者「で、何で玄関にこんなに深い落とし穴があるんだ?もしかしてイジメ?」

狼少女「魔女が言ってた。夫婦でもマンネリは駄目って。勇者を完璧に落とさないと駄目だって」

勇者「完璧に落ちたな」

狼少女「うん」


狼娘「パパおかえりー!」

勇者「ばっ、体勢整える前に飛び込んでくるな!」

狼少女「じゃあ私も」

勇者「ま、待て!二人同時はむ―ぐしゃっ

狼娘「あはは、パパぺっちゃんこー」

狼少女「勇者大丈夫?」

勇者「だ…大丈夫じゃないから早く退いてくれ」


勇者「ったく…普通に帰りを歓迎してくれないのかよ」

狼娘「そういえばパパ、帰ってくるのは一週間後じゃなかったの?」

勇者「予定ではそうだったんだけどな……」

狼少女「…お金、使い果たした?」

勇者「違う!た、たしかに金はまたあげちゃったけど……早く帰ってきたのはお前達に会いたくなったからなんだ」

狼少女「そう言えば勝手にお金あげたの許されると思わないで」

勇者「すみませんでした」

狼娘「ねぇ、今回はどれくらい家に居れるの?」

勇者「あー…実は明日にも出発する予定なんだ」

狼娘「…そーなんだ。またパパと一緒に居られないんだね…」

勇者「違うぞ。今回は、ってかこれからはずっと一緒だ」

狼娘「えっ?」


勇者「旅もようやく一段落したんだ。王様達の報告だと人間界に湧き出ている魔力の8割は消滅させられたそうだ」

狼少女「でも私と一緒に旅してた時は4割ぐらいだったはず…」

勇者「実はちょっと前に魔女が魔力を探知することが出来る魔具を開発してくれてな。そのおかげで楽にスポットを見つけられるようになったってわけさ」

勇者「スポットさえ見つけられれば後は俺じゃなくても消滅させられる…つまり、俺の『勇者』としての役目もほぼ終わったんだ」



勇者は笑ってそう言っていたけど…どこか少し悲しげだった



狼少女「…勇者、お疲れ様」

勇者「おう…ありがとな」


勇者「まぁそうゆうことで狼娘も大きくなったし、今度は家族三人でのんびり旅をしようかなぁって」

勇者「お前にも俺や狼少女が見た景色を見せてやりたいからな」

狼娘「ほ、ほんと!?」

勇者「ああ、明日出発するから今日中に荷物まとめておけよ」

狼娘「うん!じゃあ早速準備してくるー!」

勇者「お、おい!落とし穴を駆け上るなよ!…ったく、危なっかしい奴だな。誰に似たんだか…」

狼少女「勇者に似た。そっくり」

勇者「…そっか。俺の娘だもんな」



本当は娘の父親が誰なのかは……わからない

でも勇者は彼女を実の娘として受け入れてくれた


狼少女「…勇者、これからはずっと一緒?」

勇者「ああ…ずっと一緒だ。ごめんな、離れないって約束したのに離れちまって」

狼少女「ほんと。勇者嘘つき」

勇者「ご、ごめんて…でも今度こそお前を絶対に離さない。だから安心してくれ」

狼少女「…うん」

狼少女「勇者…おかえり」

勇者「ん?さっき言っただろ?」

狼少女「ううん。さっきのは家に帰ってきたおかえり」

狼少女「そして今のは…私の隣に帰ってきたおかえり」

勇者「…ああ、やっとお前の隣に帰ってこれた」

勇者「ただいま…狼少女」



Fin

最後の方が投げやり気味になりましたが一応これで完結です

結末が最初の予定より180℃違いますが、まぁこれでもよかったと思います
後日談は少し日にち空けてから別スレでやります
最後に見てくださった方々ありがとうございました


ではまた何処かで

次スレ:勇者「家族三人で」狼少女「ほのぼの」狼娘「ライフ」
勇者「家族三人で」狼少女「ほのぼの」狼娘「ライフ」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1408992482/)


あとせっかくなので>>232からBad Endを書きました(未記述ですけど女が狼少女に「勇者様から依頼された」と嘘を言っています)
見たくない人はスルーでお願いします

では投下します


俺はすぐさま二階にあがった



「なんだ?さっきの叫び声はおまえ―」

勇者「邪魔だぁ!!」



俺の叫びを聞き部屋から出てきたゴロツキ達を薙ぎ払い、俺はついにその部屋へ辿り着いた

そして俺は最悪な光景を目のあたりにした

片方の耳が千切られ、顔と身体には無数の痣と白い液体、そして彼女の女性器には見知らぬ男のペニスが…



狼少女「ぁ…ぅ……」



目は虚ろで完璧に焦点が合っていない

白い液体を吐き出しながら口をパクパクさせている

彼女は既に壊れていた


そして彼女を見た俺もまた…壊れた



「おい、今シてる最中なんだぞ。さっさとそいつを外に―グチャ



狼少女に覆いかぶさっていた男の頭が弾け飛ぶ



「は、はあ!?な、何が起き―ズバッ



壊れた俺は次々とその部屋に居た男達を壊していく

白い液体によって充満していた強烈な異臭はすぐさま血のニオイへと変わった


「や、やめてくれ…!」



例え相手が謝っても関係ない

例え相手が気絶していても関係ない

例え相手が人間の形をしていなくても関係ない

拳を、剣を、怒りを、自分の『殺欲』のままにぶつけた



女「ゆ、勇者…さま……?」

勇者「わかっていたさ……人間は魔者と何ら変わらない醜い生き物だって…」

勇者「どんなに良い人間でも、例え信頼していた仲間だとしても!いとも簡単に悪に染まり他人を傷つける!」

女「ゆ、勇者様…や、やめ…っ!」



一歩一歩女に詰め寄る

そして女の首を絞め上げる


女「ぐッ……!」

勇者「憎い…憎い憎い憎いニクイニクイニクイッ!」


ボキッ



俺の『殺欲』が女の首を握りつぶした



狼少女「ぁ…ぁ……」



彼女達を殺しても狼少女は元には戻らない



勇者「…待っててくれ。お前をこんなにしたニンゲンを俺は絶対に許さない」


勇者「ニンゲンは俺が一匹残らず…


殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺殺す殺すコロスコロスコロ殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺殺す殺すコロスコロスコロ殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺殺す殺すコロスコロスコロ殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺すコロスワロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺殺す殺すコロスコロスコロ殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺殺す殺すコロスコロスコロ殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス」



こうして俺は魔者を殺す化け物から人間を殺す化け物となった


____________________


勇者「……終わったぞ、狼少女」

狼少女「………」



あれから十年、勇者は人間達を殺し続けた

ただ息をするだけの生きる屍となった私を世話しながら…

彼を止めようとした魔女もエルフさんもドワーフさんも剣士も殺した


勇者「約束通りニンゲンを絶滅させた…」


勇者「あいつら最後の方はもう『やめて』しか言わないんだぞ?お前もきっと『やめて』って言ったんだろうな…でもあいつらはやめなかった」


勇者「だから俺もやめずに殺し続けた。お前の為にミナゴロシにしてやった」


勇者「もう人間界に居るのは俺達二人だけだ…」


勇者「ん?…あの約束も守れって?」


勇者「今言おうとしてたんだから先に言うなよ!ったく…」


勇者「………狼少女、愛してる。結婚しよう」


勇者「これからはずっとずっと一緒だ。もう離さない…絶対に離さない」


勇者「ああ…二人で幸せになろうな」




彼は私を抱きしめながらそう言ってくれた、幸せになろうと言ってくれた

しかし私は返事をしない

私はもう……









その言葉の意味はわからない



Bad End

…やっぱりBad Endじゃなくてよかったのかな?


では次スレで

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom