勇者「よう」魔王「またお前か」 (63)

勇者「そういうな、俺だって好きでやってる訳じゃねぇ」

魔王「知っているがな。十回も二十回も来られてはたまらんぞ。お前同じ相手に延々と殺される苦しみ知っているか?」

勇者「それならお前、俺だって駆け出しの頃はそこらの雑魚にそりゃ数え切れねぇほど殺されたよ」

魔王「だからそれは……っと、時間か。おら、構えろ」

勇者「もうこれ何回も言うの恥ずかしんだが……」

魔王「俺もだよ。いくぞ」

フハハハ!!よくきたな勇者よ!!

現れたな、魔王!

よくぞここまできた、だがここが貴様の墓場となるのだ!!

そんなことはさせない!俺が世界の平和を守ってみせる!いくぞ魔王!!

来い!!勇者よ!!



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魔王「…………」

勇者「あーしんど……。んじゃ、多分『また』な、魔王」

魔王「…………おう」

こうして世界は勇者によって、魔王から平和を取り戻すことが出来た。


勇者の家

勇者「……家か」

勇者母「あら、おはよう。今日も魔王さんを殺しに行くの?」

勇者「あぁ、まぁね。でも今日は月曜だから出掛けるのは夕方からかな」

勇者母「そう。ご飯はどうする?」

勇者「途中の村か街かで食うさ」

勇者母「じゃあ、母さんは隣村で仕事してくるから、出掛けるなら戸締りしておきなさいよ」

勇者「わかったよ、いってらっしゃい母さん」


勇者「……昼まで寝るか」

勇者「ん~~……家のベッドで寝るのも久しぶりだったなぁ」

勇者「腹減ったな……。なんかあっかな」

魔王「よう、邪魔してるぞ」

勇者「おー。……ちょっとまてなにナチュラルに人の家にいんの?」

魔王「お前ウチに鍵忘れてったろ。届けてやったんだよ」

勇者「あ?……あぁ、ほんとだ、悪い」

魔王「お前鍵っ子なんだからちゃんと持っとけよ」

勇者「今日日鍵っ子なんて使わねーよ。なんか食うか?」

魔王「さっき隣のおばさんから貰ったシチューとパン食ったからいらねぇわ」

勇者「勝手に人の貰いもん食ってんじゃねーよ。……あ、美味そう」

魔王「そういやさー」

勇者「あー?」モグモグ

魔王「いつからだっけか、俺とお前がこんな風に喋るようなったの」

勇者「あー、いつからだっけな……。五回目くらいだっけ、お前が復活してから」

魔王「そういうお前はほとんどアンデットだろうが」

勇者「ばっか、お前あれマジでキツイんだぞ?1と0が延々と流れる様ずーっとみるの苦痛だぜ?」

魔王「まぁ、あれはつらいよなー。体動けねぇし」

勇者「けどたまに変なのあるよな、虫みたいなの」

魔王「お前知らねーの?あれバグだよ」

勇者「あ、まじで?へー、あれがそうなんだ」

勇者「あー、暇だな……」

魔王「なんかねーの?娯楽」

勇者「こんな牧歌的な村にんなもんあるかよ」

魔王「ねーちゃんがいっぱいいる店とか」

勇者「そもそも店がねぇよ」

魔王「終わってんな」

勇者「ほっとけ」

魔王「俺が支配したらあっちこっちに作るぜ、マニフェストにしてもいい」

勇者「童貞が考えそうなこったな」

魔王「ど、どどどど童貞ちゃうわ!」

勇者「はいはい」

魔王「……あのさー」

勇者「んー?」

魔王「逃げねぇ?」

勇者「は?」

魔王「逃げねぇ?」

勇者「頭湧いてんのかテメェ」

魔王「いや、真面目な話。もう[ピーーー]のも殺されるのもうんざりなんだけど」

勇者「……忘れたかよ魔王。俺たちゃ人形だ。俺もお前もこの世界の全てが0と1で構成されているデータの人形だ」

魔王「…………」

勇者「そんな俺たちが、どうやってこの箱庭から抜け出せる。できるんならとうの昔にやってるさ」

魔王「……あるとしたら、どうする?」

勇者「……あ?」

魔王「あるとしたらどうする、ってんだよ。このクソッタレな世界から抜け出す方法が」

勇者「……ある訳ねーだろ」

魔王「あんだよ。たった一つだけ、見つけた」

勇者「……なんなんだよ、それ」

魔王「壊せばいいんだよ。世界の法則を」

勇者「世界の法則を……壊す?」

魔王「何故だかこの世界はどう転んでもお前が勝つようになってる。俺は例えお前を殺してもすぐにその事実は消える。
消えないのは俺とお前の頭ん中だけだ」

魔王「そしてこの世界の全ては予定調和だ。起こると決まったことしか起きねぇ」

勇者「‥‥‥つまり世界の法則を壊すっつーのは、その予定調和を狂わせればいいのか?」

魔王「察しがよくて助かるぜ、勇者」

勇者「……出来んのかよ、そんなことが」

魔王「やるんだよ、俺たちが」

勇者「……そのあとはどうする?」

勇者「この世界の予定調和を乱して、それで何になる。もしかしたら世界もろとも消えんじゃねぇか」

魔王「それがどうした?」

魔王「上等じゃねぇか。やっと消えれる。俺はそれだけでも満足だぜ。お前は違うのか?」

勇者「…………」

魔王「お前は現状で満足なのか?殺したくもねぇ奴らを延々と殺し続けて。
弱気を助け強気をくじく、そんな大義と真逆の事を強いられて……お前は満足か?」

魔王「お前だってそれこそ死ぬ程思ってた筈だぜ、死にたい、消えたい……ってな。違うか、勇者」

魔王「この世界の住人だって、俺ら以外にもちらほら出てきてるぜ……自分たちが人形なのを分かり始めた奴らがよ」

魔王「見たことあるか?
真実に気づいて何度も何度も自分で命を絶って生き返ってはただ役割に徹し、またある日気づいて逃れようともがいて、それでも逃げれなくて」

魔王「また命を絶つんだよ。その前、その前の前と同じ方法でよ。そんで気づいたらまたそのへんの奴と笑ってやがる」

魔王「なぁ……勇者よ。そんなやつらと一緒に、完全に消えるのは善か?悪か?」

勇者「……どうすればいい」

勇者「この世界を殺すには、どうしたらいい」

魔王「面倒な手順はいらん。この世界でずっと起こってたことを否定する行動をとればいい」

勇者「例えば?」

魔王「口で言うより行動したほうが早い。もうすぐ時間だし、城で待ってる。まずはそこで始めるさ」

勇者「……なぁ、魔王。聞いてなかったが、お前の言ってた抜け出すっていう意味。ありゃ、言葉通りの意味か?」

魔王「確証はねぇよ。だがもしうまくいけば、この世界を支配してるクソッタレどもの世界に行けるな」

勇者「そこに行けたら、お前どうする」

魔王「支配するに決まってんだろ」

勇者「……んじゃ、また止めなきゃな」

魔王「やってみやがれ」

魔王城

魔王「よう、早かったな」

勇者「今日は戦闘は結構回避出来たからな。……それよりはやく聞かせろよ、魔王」

魔王「簡単だよ。このまましゃべり続けてりゃいい」

勇者「……なに?」

魔王「まぁ、まだ序の口だ。いいから言われたとおり喋り続けるぞ」

勇者「喋り続けるったてもよ……」

魔王「なんでもいいんだよ。はやけりゃもうすぐだ。とにかく会話を絶やすな」

勇者「分かったよ……なら魔王」

魔王「なんだよ」

勇者「お前の寝室の本棚の後ろにある本の存在はもうバレてるぞ」

魔王「……え、マジで?」

勇者「お前貧乳派なんだな……あれは引いたわ」

魔王「え、は、はぁ!?違うし?あれはお前、父ちゃんのだし!?」

勇者「お前の親父は俺の親父と刺し違えただろ」

魔王「かっ、形見だよバカヤロウ!

勇者「あんなイカくせェ形見残されたら俺は墓石ぶっこわすぞ」

魔王「に、人間と魔物の習慣一緒にしてんじゃねーよ!」

勇者「はいはい童貞どう……!?」

勇者「……なんだこの感じは?」

魔王「……来たか。備えろよ勇者、一気に来るぞ」

勇者「来るって何がだよ!?」

魔王「『闇』だよ。飲まれんなよ。ほんの少しの間だ。飲まれたらそこで終わりだ」

勇者「……そういう事は先に言えやアホンダラ!」

魔王「次があったらそうするぜ。……来るぞ!!」

くぁwせdfrgtひぃこp@「pぉきじゅhygtfrでswざxsdcvfbgんhjk、k、;:」

勇者「……これが闇か。何にも見えねぇのに自分の体だけはやたらハッキリ見えるな」

勇者「……魔王?おい、魔王!いねぇのか!!」

勇者「はぐれたか、俺かアイツかどちらかが飲まれたか……」

勇者「……くそ」



魔王「ぐっ……これが闇か。思ってたよりはマシだな……」

魔王「勇者は……いねぇか。これで飲まれたのが俺なら笑えねぇぜ」

魔王「飲まれてないなら……耐えろよ、勇者」

魔王「…………!」

勇者「今度は闇の次は光かよ……!」



魔王「……よう勇者。生きてるか」

勇者「……おう魔王。生きてるぜ」

勇者「……にしてもなんだありゃ。それにここ……まだ城じゃねぇか」

魔王「バグ・ストップ。予定調和が乱れる第一段階だ。俺を刺してみろ、勇者」

勇者「お前の趣味に付き合う暇はねーよ」

魔王「誰がマゾヒストだコラ。そういうんじゃねーよ、ほらさっさとやれ」

勇者「……いくぞ……!?」

勇者「……あ?なんで刺さらねぇ?」

魔王「……これが第一段階だ。今世界は俺たち以外全て停止してる。この間はあらゆる事象が起こりえない」

勇者「わかる様に話せ」

魔王「順調だっつんでだよ。ほら、次の準備すんぞ」

勇者「今度はなんだよ」

魔王「さっきと逆だ。何にもしないで、何も喋るな」

勇者「いつからだ」

魔王「もう黙ってろ」

勇者「…………」

魔王「…………」

勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「……(まだかよ……)」

魔王「……(焦るな……幸を急げば失敗するからな……)」

勇者「……(動かないのって逆にきついな……)」

魔王「……(我慢しろタコ)」

勇者「……(絶対今コイツ文句言いやがったな)……」

ズンッ…………

勇者「(今度はなんだ……?)」

魔王「第二段階に入ったか……」

勇者「世界が止まった次は何だ?天地がひっくり返んのか?」

魔王「なんでお前キレてんの?我慢しろ、そろそろ……ほら、窓の外みてみな」

勇者「……なんだ、ありゃあ」

魔王「バグが大量発生したのさ。俺たちが規格外の行動を起こしたから、一度強制的に『終了』させる為にな」

勇者「凄い勢いだな……もうこの城も囲まれるんじゃねぇか?」

魔王「それでいいんだよ。むしろそうじゃないと困る」

勇者「どういうことだ?」

魔王「あいつらは本来この世界の裏側の存在だ。そんな奴らが裏から表にくるにはどうしたらいい?」

勇者「……裏と表の入口を作る……?」

魔王「あれだけの数だ。一つや二つ程度じゃねぇ。すぐ探せば入口が見えるるはずだ」

勇者「……つまり次やるべきことは」

魔王「虫どもに突っ込む気はあるか、勇者?」

勇者「上等だ」


魔王「ところで勇者」

勇者「あん?」

魔王「俺は戦争が大好きだ」

勇者「は?」

魔王「……なんでもない、先に行くぞ!」

魔王「でぇぇぇぇぇえい!!!!」ブチュ

バグ「キシャァァァァァ」

勇者「どこの世界に物理だけで戦う魔王がいるんだか……セイヤァァァ!!!」ズバッ

バグ「キシャァァァァ」

魔王「ふん、魔法なんざ俺には不要よ!」ドキュ

バグ「キシャァァァ」

勇者「童貞なのに魔法使えないとか存在が不要だな」スパッ

バグ「キシャァァァ」

魔王「童貞じゃねぇっつってんだろ!」グチュ

バグ「キシャァァァ」

勇者「はいはい童帝でしたね」ブスッ

バグ「キシャァァァ」

魔王「くたばれクソ勇者!」グリュ

バグ「キシャァァァ」

勇者「千回コンテニューしてから言いやがれ!」ドスッ

バグ「キシャァァァ」


勇者「にしても……入口なんざどこにもねーじゃねぇか」

魔王「そんな簡単に見つかったら苦労しねぇよ」

魔王「……何処かに必ず湧き出すポイントがある……そこが入口の筈だ」

勇者「それならっ……!」

魔王「一回の跳躍で二十メートル以上飛ぶか、普通」

勇者「勇者に不可能はねぇんだよ。行くぞ、東の岬だ!」

魔王「おう」

魔王「うへぇ……気持ち悪いな、こりゃ」

勇者「お前の服のセンスとどっこいだよ」

魔王「るせぇ、これは魔王の正装なんだよ!俺の趣味じゃねぇ!」

勇者「うわ……魔界のセンス、ダサすぎ……?」

魔王「だぁってろ!……入口まで突っ込むぞ。いけるな?」

勇者「たりめぇだ。勇者いっきまーす」

魔王「どっちかつったらファイターだろお前……」


勇者「……で、あれが入口か?」

魔王「こりゃまぁ見事な魔法陣だこと。これみよがしだな」

勇者「あのまま中まで突っ走って問題なんだろうな?」

魔王「あぁ、大丈夫だ」

勇者「‥‥‥行くぞ!」

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勇者「……なんだ、こりゃ」

魔王「これが裏側……世界の裏側だ」

勇者「あっちこっち無茶苦茶な文字の配列だな……気持ち悪くなってくるぜ」

魔王「ここまで来てへばんなよ……幸い道は一本だ。鬼が出ようが蛇が出ようが、行くしかねぇ」

勇者「わかってるよ。俺は勇者だぜ?」

魔王「頼もしいねぇ。けど油断大敵だ」

勇者「テメーが言うなよ、魔王」

魔王「俺らが油断してんのはデフォだっつってんだろ、おら行くぞ」



魔王「……まて勇者」

勇者「どうした?」

魔王「……道がねぇ」

勇者「なに……って、こりゃ……」

魔王「見事に道はねぇ……っつーよりは、道を何かが塞いでる、いや覆い隠してる……?」

勇者「こいつ……世界の果てと同じ構造だな……侵入進行不可能な不可侵領域……」

魔王「……なんでそんなもんがこんなところに」

勇者「むしろある方が普通だと思うがな……どんな方法をもってしても破れない、この世界で最も強固な守りだぜ?
ない方がおかしんじゃないか?」

魔王「ならなんでもっと早くにこいつが現れなかった?」

勇者「……あ?」

魔王「お前の言う通りだとしたら、普通入口を入ったらすぐこいつがあるのが道理じゃねぇのか?」

勇者「…………つまり、何が言いたいんだよ」

魔王「……妙なんだ。こいつがこの場にあるのが」

勇者「『何か』がある……ってことか?」

魔王「…………」

○○○「へぇ……たかだか一キャラクターにしては、中々思慮深いじゃないですか」

●●●「だからといって別に何が変わるわけでもない。削除対象なのには変わらない」

勇者「誰だッ!?」

魔王「……なんだ、アレは……!?」

黄金と白銀の翼。

赤い髪と翡翠の眼。蒼い髪に琥珀の眼。

神々しさと禍々しさの奇跡的な融合。

一方は両手にこの世界では存在し得ない銃を。

もう一方は、両手剣を。

それらを携えるその二つの存在、それはまさに━━━━

○○○「名前?いーよ別に、すぐ消えちゃうんだし」

●●●「さらば」

○○○「へぇ……たかだか一キャラクターにしては、中々思慮深いじゃないですか」

●●●「だからといって別に何が変わるわけでもない。削除対象なのには変わらない」

勇者「誰だッ!?」

魔王「……なんだ、アレは……!?」

黄金と白銀の翼。

赤い髪と翡翠の眼。蒼い髪に琥珀の眼。

神々しさと禍々しさの奇跡的な融合。

一方は両手にこの世界では存在し得ない銃を。

もう一方は、両手剣を。

それらを携えるその二つの存在、それはまさに━━━━

○○○「名前?いーよ別に、すぐ消えちゃうんだし」

●●●「さらば」

誤爆しました、すんません

一瞬。片方は間合いを詰め、もう片方は引き金を引く。それで終わる

●●●「…………なっ」

○○○「わぉ!」

そう、その筈だった

勇者「なんだ、この程度か?」

弾丸を剣で受け止め。

魔王「全くなっとらんな。慢心は身を滅ぼすぜ?王からの忠告だ、ありがたく聞き入れろよ」

●●●「…………これは」

○○○「楽しくなりそうだねー、ニャハ♪」

魔王「飛び道具は任せたぞ。俺はこのねーちゃんだ」

勇者「了解。……こんなつまんねぇトコで死ぬなよ」

魔王「……ハッ。天下の魔王様がこんな味気ねぇ場所で死ぬかよ」

●●●「……見るからに貴様も随分と過信気味のようだが?」

魔王「はぁ?過信?あれでも控えめだぜ、ねーちゃん?」

●●●「……もとよりそんな気はないが、貴様とは相いれんな!」ブンッ

魔王「俺は嫌いじゃねぇぜ、そういう強気な奴は!……あぁ?」バキッ

黄金のひと振りを左手の拳にぶつける。そのまま拳と剣の応酬になるかと思ったが――。

魔王「ヤキが甘いんじゃねぇか、たかだか一発で割れやがったぜ?」

●●●「……まだ刃は残っている」

魔王「そうかい……。んじゃ、どんどん行くぜぇ!?

魔王「オラオラ、どうしたねーちゃん!?さっきの威勢はどこいった、防戦ばっかかぁ!?」

●●●「…………」

魔王「ご自慢の剣も随分短くなったなぁオイ!もうあと何回で機能しなくるんだろうなぁ!」

●●●「…………」

魔王「(気味わりぃな。確実に圧してるのは俺の方だ。事実、あちらこちらに砕いた剣身がある……なのになんだ、
この言い表せねぇ嫌な感じは……!)」

●●●「……あと一度だ」

魔王「あぁ?」

●●●「あと一度でこれは、剣としての機能を失う」

魔王「(……?)……ご申告、どう、も!!」ゴウッ

拭いきれない悪寒しかしそんな事を戦闘中に気にしていられるほど魔王は手を抜いてはいない。
その証拠に、勇者の剣とも渡り合える拳を振るい、最後に残った剣身を柄の上から失わせた。

魔王「……これで決着だな。さぁこの妙な壁、取り払ってもらおうか?そうすりゃ命までは奪わねぇよ」

●●●「……あぁ、確かにこれで」

●●●「決着だ」

魔王「あ?…………!?

背後から響く鈍痛。それは幾度となく体感した勇者の一撃によく似ていた。

魔王「……なんの冗談だ、おい」

しかし、それは一撃ではなく。

●●●「私が一度でも……」」

魔王が砕いた剣の七片のうち、三片が魔王の背後に食い込んでいた。

●●●「私が一度でも、この武器が剣だと言ったか?」

魔王「…………!」

刃が背中から引き抜かれ、それと同時に、辺りに散らばっていた残りの四片と共にも宙に舞う。

魔王「……クソが……!」

●●●「潔く死ねばいいものを。抗おうとも苦しみが増すだけだろうに」

魔王「……生憎、世界征服するまでは死ねなくてね」

●●●「哀れだな。そうまでして生に依るか」

魔王「しぶとさとしつこさには定評があるからな……!」

背中に意識を集中する。それまでに滴り落ちていた血液が止まり、傷口も修復されていく。

魔王「魔法が使えないのと魔力がないのは別だからな……勇者にも見せてないとっておきだぜ?」

●●●「そうか、ではこちらも次で殺してやろう」

宙を漂う七つの刃は無規則に、無軌道に魔王に襲いかかる。
されど、魔王とてそう簡単にやられる訳ではない。規則性のない刃をすんでの所で交わしながら進退を繰り返している。

魔王「どうした、次で殺すんじゃねぇのか?」

●●●「そういう貴様も攻めあぐねているように見えるが?」

魔王「そう見えんなら節穴だなぁ、てめぇの眼は!」

その直後に、魔王は跳ぶ。右に左に前に後ろに。

●●●「(……魔力の全てを身体能力に回しているのか。なるほど、確かに疾い。だが……)」

刃の全てを剣の形に戻し、背後に構える。

●●●「決して追いつけないスピードじゃあないんだよ」

魔王「…………」

魔王は嘆息する。やはりか、と。心のどこかでうっすらと感じてしまっていた。
だが必死にそれを否定していた。だがやはり、杞憂では終わってくれなかった。


右腕が、吹き飛んだ。

●●●「…………」

剣を振り下ろした。多少の嗜虐心があったのだろう、頭ではなく少しバカラ横にずれ、右腕を切り落としたはずだった。


それなのに、何故。

なぜ自分の右腕があんなところにある―――!?

自分の敵は目の前にいるのに。もし何かの『バグ』で『偶然』敵の攻撃が当たっとして、それなら後方に腕が飛ぶはずだ。
それなのに、どうして目の前に吹き飛んでいる……?

魔王「だから言ったろうよ……慢心すんなよって」

●●●「……(敵は目の前。しかし声は後方から聞こえてくる。なんだこれは。なんだこれは。なんだこれは━━━!?)」

答えは思考が巡りきらない内に現れた。

魔王「残像すら見抜けないとはな……。少しでもお前が強いかもと思ったのが恥ずかしいぜ」

魔王「さて……ねーちゃん」

●●●「……あ、あ…………!!」

魔王「言ったよな。決着だって」

魔王「じゃあな、ねーちゃん」

●●●「いあ…………」

魔王の右腕が頭を握りつぶす。ボトリと体だったものから肉片になりさがったそれは、崩れ落ちた。

魔王「さて、勇者の様子でも見に行こうかね」

勇者「……(こりゃ、面倒だな。矢より早く、槍より鋭い)」

○○○「アハハ、どうしたのかにゃー?さっきまでの威勢はー?」

勇者「そのウゼぇ喋り方やめろ!」

○○○「えー、やだー♪」

勇者「チッ……!」

勇者「(防戦してばかりじゃ、どっちにしろ不利だ……なら!)」

○○○「わぉ、突撃?かーっくぅいー」

勇者「てめぇの攻撃は全部直進的なんだよ、馬鹿が!」

○○○「だけど、私は動きながら攻撃できるんだよー?」

勇者「スピードも上かよ……」

勇者「……けどなぁ!」

空虚に剣を振るう勇者。一見、それは無駄なひと振り。だが、そうではなかった。

○○○「……驚いたね、斬撃を飛ばすなんて。……ううん違うな、ただの風圧……かな?」

勇者「ご名答。遠距離の攻撃方法持ってんのはお前だけじゃないんだよ!」


>>38
魔王「お前>>36で剣って言ってんじゃねーか」

●●●「…………」フイッ

魔王「目をそらすな、目を」

●●●「あなたを、犯人です」

魔王「人のせいにすんな」


○○○「いいねぇ、ゾクゾクするよ」

勇者「……この変態が!」

距離を詰めながら、再び虚空に剣を振るう。

○○○「見えない一刀、流石は勇者様だね!」

しかし小柄の体躯を生かし、トリッキーな動きをする相手に当てるのは、いかに勇者とて簡単なことではない。

勇者「チィ……!チョコマカ猫みてぇ動きしやがって……!」

大振りな一撃は、それだけ勇者自身にも隙がある。対抗手段があるとは言え、そう簡単に出来るものではない。

勇者「(考えろ……あの武器の弱点を考えろ……!完璧な武器なんて存在しねぇ、必ず弱点があるはずだ……!)」


勇者「(……アイツの武器は恐らく弓の発展型……それなら必ず矢が尽きるはず。無限じゃないんだ)」

勇者「(今までにアイツが射ってきたのは、六発。あいつの顔からして、まだ余裕はあるって見たほうがいいな……)クソ、メンドくせぇ!」

○○○「アハハ、馬鹿の一つ覚えみたいにまた突撃?流石に飽きちゃうよー?」バンバン

勇者「(八つ!)生憎剣を振るうしか能がなくてなぁ!」

○○○「えー、可愛い顔してるのになぁ。勿体無い」

勇者「ほざいてろ!」



○○○「まっ、ここで死んじゃうんだしどーでもいいか」バンバンバン

勇者「テメェがな!(十一!)」

勇者は直進し、敵は後退。しかし命中率攻撃力最大レンジ全てを上回っている相手に、勇者はただ僅かな隙を狙う他なかった。

○○○「ふーん?たかだか剣しか持ってない君に何ができるか楽しみだにゃー。
奇をてらった遠距離攻撃も、大振りが過ぎて使えないようだしね……♪」

勇者「……(右が六、左が五つ。あといくつだ……?)」

○○○「およ?今度は我慢比べ?もっと退屈だなー」

勇者「……あぁ、全くだ」

○○○「……んー?」

勇者「ガラじゃねぇんだよ、チマチマ考えるなんて。俺は知略なんて向いてねーのに、やめだやめだ」

○○○「なーにいってるのかにゃー?」

勇者「勇者とは、勇む者。死を恐れずに死地に臨み、人に仇なす全てを殲滅しうる人の想いの結晶」

勇者「そもそもよぉ。無傷で勝とうなんて発想が馬鹿げてる」

勇者「勇者は勇者らしく―――」

勇者「―――命をかけての特攻だ」

○○○「…………!」

無意識のうちに銃口を向け、

勇者「…………さぁて、逝くぜ?」

○○○「…………!!!?」バンバンバンバンバンバン

発砲する。
言い知れぬ恐怖。生存本能が体中を駆け巡る。
狙いなんて定まっていない。ただ我武者羅に引き金を引く。

勇者「…………」

一方勇者は。
走る。ただひたすらに、目標をめがけて。その一点、敵の命を見据えて。

当たってない訳ではない。実際いくつかの弾丸は勇者の体を掠め、貫いている。
ただ、それを気にも止めないだけで。

○○○「あ……あ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」バンバンバンバンバン


○○○「…………あ」

勇者「そういやお前の名前聞いてなかったな……」

勇者「ま、ここで死ぬなら関係ねぇよな」

○○○「やっ………」

勇者の剣が首と胴をわかつ。

両手から銃はこばれ落ち、肉塊の血に濡れた。

勇者「………あー、体いてぇ」


魔王「……お、お前も終わってたか」

勇者「ハッ、当たり前だろ。こんなとこで躓いていられるか。もう、目の前なんだろ?」

魔王「……ああ。見ろ、入口のお出ましだぜ」

魔王の指差す方向。そこは先程までなかった巨大な扉が現れていた。

勇者「……あれが、そうか?」

魔王「あぁ、あそこをくぐれば、晴れてエンディングだぜ?」

勇者「……んじゃ、行くか」

魔王「……あぁ、行こうぜ」


ギィィィィィ――――――。

―――――……………

勇者「…………」

唐突に目が覚めた。まるで長い夢を見ていたかのように、頭の中には映像が焼き付いている。

勇者「いや、実際夢だろ……あれは」

ベッドから起き上がり、寝巻きから着替える。
そのまま隣で寝ている魔王を起こす。

勇者「おい、起きろ魔王。もう朝だぞ」

魔王「……お?おぉ……今起きる……」

魔王「今日はパンか……。白飯が良かったな」

勇者「文句あんなら食うな。大体なんであんな七面倒くせぇモン朝から作らなきゃなんねーんだ」

魔王「(機会に弱いからってパンしか作らねぇだけだろうに)」

勇者「お前昼飯抜きな」

魔王「勇者今日も一段と可愛いぜ?」


勇者「支度は終わったか?」

魔王「ちょい待ち……おう、終わったぞ」

勇者「んじゃ、行くか」

魔王「おう」

勇者「今日の晩御飯どうする?」

魔王「そうだなぁ……カレーなんてどうだ」

勇者「ナンでいいよな?」

魔王「……ライスは俺が炊くよ」



あの扉をくぐると、俺と魔王はこの世界で目が覚めた。
恐らくこれが魔王の言っていた支配者達の世界なのだろう。
当初はこの世界の住人を支配下に置く気マンマンだった魔王も、だんだんとこの牧歌的な雰囲気に当てられたのか、次第に口にださなくなった。
今はこうして、二人共この世界の人間として暮らしている。戸籍や職業などはまるで何かのキャラをロールしているかの様に準備されていた。
これがクリア特典だっとでも言うのか、今の自分には解らない。だが今は―――。

勇者「なぁ魔王」

魔王「何だ勇者」

勇者「お前は……今幸せか?」

魔王「……それはイチイチ聞くような質問か?」

勇者「……あぁ、そうだな」


今は、この幸せに浸かっていよう。
                                           





                                           ~END~

これにて終わりです。読んで頂いた皆様、ありがとうございました。

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