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橘(あ、田中さんだ)
橘(どうしたんだろう…元気なさそうだな)
橘「田中さん?」
田中「あれ、橘君?」
橘「どうしたの?こんなところで」
田中「えへへ…私ねフラれちゃった」
橘「え…」
田中「さっき、薫と一緒にもう一度告白しに行ったんだけど」
田中「やっぱり私とは付き合えないって」
橘「……」
田中「あ、でもね、これで良かった気がするの」
橘「えっ?」
田中「今の私には友だち…薫の方が大事だって思えたから」
橘「そっか…」
田中「うんっ」
田中「あ、それと、橘君、ありがとう」
橘「え?」
田中「薫が言ってたよ」
田中「今回の作戦は橘君が考えてくれたんだって」
橘(やっぱりアレ…やったのか…)
田中「まぁ…途中で薫が暴れ始めちゃったから大変だったけどね」
橘「うん、容易に想像できるよ…」
田中「あははは…」
田中「……」
田中「あのね、橘君、薫はすごくいい子だよ」
橘「え?あ、うん、知ってる」
田中「だよね、中学からの付き合いだっけ」
橘「…あいつそんな事まで話してるの?」
田中「うん、頼りになる相棒だって」
橘「相棒ねぇ…」
田中「あ~あ、私もこんな彼氏が欲しいなぁ」
橘「…え」
田中「う、ううん、何でもない」
橘「……」
田中「そ…それじゃまたね」
橘「あ…田中さんっ」
橘「……」
橘(そうか…田中さんフラれちゃったのか)
橘(残念だったなぁ…)
橘(……)
橘(…それにしても)
橘(田中さん、最後に物騒なこと言ってたな)
翌日
橘「おはよう」
梅原「うおっす」
梅原「今日は珍しく早いな」
橘「珍しくってのは余計だよ」
田中「おはよう」
田中「あれ、橘君今日はなんだか早いね」
橘「おはよう…たしかに自分でも少し早いと思うけど、そんなに言われるか…」
田中「もしかして、橘君どこか調子悪いの?」
橘「なんで調子悪いといつもより早く登校するんだよ」
田中「あはは、それもそうだね」
田中「でも、薫が知ったら驚くんじゃないかな」
橘「あいつはいつも僕より遅いからたぶん珍しくもなんともないよ」
棚町「あーら、言ってくるじゃない」かぷっ
橘「うわっ!?」
棚町「ふふ、おっはよ、純一、恵子」
橘「おはようぐらい普通に言えないのか」
田中「ほんと薫と橘君ってほんと仲良いよね」
棚町「そりゃこいつは気軽に話せる悪友だもん、ねー」
橘「ねー、じゃないよ」
橘「お前に振り回されて何度ひどい目に会ったことか」
棚町「ひどい!そんなこと思ってたなんて…!」
橘「…はぁ」
棚町「なによー、今日はずいぶんノリが悪いじゃないの」
橘「いつも通りだよ」
橘「薫が変にテンションが高いだけじゃないのか」
昼
梅原「橘、飯はもう決めたか?」
橘「んー、まだ決めてないな」
梅原「じゃああれやらねえか?」
橘「お、いいぞ」
棚町「ちょっと待ったー」
棚町「そのあれってのはジャンケンのやつよね、あたしもやるわ」
梅原「よし、じゃあ3人で勝負だな」
棚町「あ、そうだ、せっかくだし…」
棚町「おーい恵子ー、こっちこっちー」
田中「どうしたの?」
棚町「恵子もやる?おつかいジャンケン」
田中「何なのそれ?」
橘「要するにパシリだよ」
梅原「そういう言い方はするなよ…」
棚町「ジャンケンに勝ったら、堂々と教室で待つ、負けたら急いでごはんを買いに行くだけよ」
橘「意味は変わってないじゃないか」
橘「田中さん、嫌なら無理にやる必要はないよ、薫の気まぐれだし」
田中「ううん、おもしろそうだしやってみるよ」
棚町「それじゃあいくわよー」
棚町「じゃんけん…ぽんっ!」
棚町「パー」
梅原「パー」
橘「グー」
田中「グー」
橘「あ…」
棚町「勝っちー」
梅原「それじゃあ二人で最弱決定戦を」
橘「よ、よし、せめて最下位にはならないように…」
橘「いくよ田中さん」
田中「う、うん」
橘「じゃんけん…ぽんっ!」
橘「…あいこか」
橘「あいこで…」
橘「あいこで…」
橘「あいこで…」
―――
橘「あいこで…」
棚町「まだ決まらないの…?」
梅原「ああ、そうみたいだな」
棚町「この調子だといつまで日が暮れちゃうじゃない」
梅原「そうだな、もうどっちも負けってことでいいんじゃないか」
橘「あいこで…」
棚町「はい、しゅーりょー!」
棚町「二人とも負けー」
棚町「何十回あいこになるのよ」
棚町「さっさと買ってきなさい」
―――――
橘「あんなにあいこが続くこともあるんだね」
田中「そうだね、私もあそこまでは初めてだよ」
橘「僕たちけっこう気が合ったりして」
田中「あはは、橘君おもしろいね」
橘「あ、お、おもしろいことかな…」
田中「それより急がないと橘君がどやされちゃうよ」
橘「え、僕だけなの?」
田中「ねえ、橘君は薫のことどう思ってるの?」
橘「え?急だな…」
田中「いつか聞きたいと思ってたけど、なかなか機会がなかったから」
橘「…どう思ってるかか」
橘「そうだな…一言でわかりやすく言うと…」
橘「仲の良い男友だちだな」
田中「お、男友だち…なの?」
橘「わかりやすく言うとだよ」
田中「そっか…」
橘「こんなこと聞いてどうするの?」
田中「それは、えっと…」
田中「ただの興味本位だよ」
田中「橘君も意味なく聞きたいことってあるでしょ?」
橘「んー…まあ、そんなこともあるかな…」
―――――
橘「お待たせ」
棚町「もー、ただでさえジャンケンに時間かかったんだからお腹ぺこぺこじゃない」
田中「ごめんね、思ったより人が多くて」
梅原「まあこの時間の食堂は戦場だからな」
棚町「あれ?純一、あたしの頼んでたメロンパンは?」
橘「ごめん、メロンパンは売り切れてたんだ」
棚町「えー」
橘「代わりにアンパンでいいだろ」
棚町「メロンパンの代わりにアンパン…?」
翌日・放課後
橘「おい、本当なのか…?」
梅原「ああ…たしかにこの目で確認した」
橘「……」ごくっ
梅原「この学校の図書室に隠れたお宝本が存在する!」
橘「おお!」
橘「ちゃんと場所は覚えてるだろうな?」
梅原「当たり前だろ、よし行こうぜ」
――――――
橘(うーん、すっかり遅くなってしまった…)
橘(梅原のやつ表紙だけで判断して中身を確認してなかったなんて)
橘(隣の本棚にあった本の方が良かったじゃないか)
橘(その結果こんな時間になったわけだけど…)
橘「わっ!」
田中「わっ!」
橘「あれ、田中さん」
田中「なーんだ、橘君か、びっくりしちゃった」
田中「あはは、お互い様か」
橘「ごめん」
橘「こんな時間にどこ行くの?」
田中「ちょっと、コンビニまで行く途中」
田中「橘君は?」
橘「今、帰りなんだ、ちょっと用があってね」
橘「女の子のひとり歩きは物騒だから、よかったら僕が家まで…」
田中「じゃあね」
橘「…送ってあげよう…か」
橘(あ…いない…)
橘「……」
翌週
橘(ん?珍しく田中さんが難しい顔をしてるぞ)
橘(ちょっと声をかけてみよう)
橘「何してるの、田中さん?」
田中「ああ、橘君」
田中「今ね新しい占いを作ってるの」
橘「占い?」
田中「うん」
田中「そうだ、橘君この新作の第一号になってよ」
橘「まあ、いいよ」
橘「この占いは何を占うの?」
田中「恋愛運だよ」
橘「れ、恋愛運か…」
田中「まだ試作段階だから、ちょっと不完全だけど」
田中「それじゃあ始めるね」
橘「う…うん」
―――
田中「これで終わり」
田中「えっと結果は…」
橘「……」
田中「勇気をもって行動すべし」
橘「勇気をもってか…」
田中「運命の出会いは、あなたが行動的になることで訪れる可能性が高まります」
田中「素の自分を見てもらい、好印象を抱いている相手を積極的に誘ってみましょう」
橘「へぇ、けっこう本格的に作ったんだね」
田中「……」
田中「うーん、やっぱり作り直した方がいいかな」
橘「どういう意味!?」
棚町「なーにやってんの?」
田中「今新しい占い作ったから橘君に試してもらってたの」
棚町「また作ったの?」
棚町「それで、純一の結果はどうだったの?」
橘「これ」
棚町「なになに…ええ?」
田中「今回のはちょっと自信あったんだけどな」
橘「ひどいと思わない?この結果で田中さん占いを作り直すって言うんだよ」
棚町「…賢明な判断ね」
橘「なんでだよ!」
棚町「全ての占いが当たるとは思ってないけど、ここまで大きく外れるのは良くないと思うわ」
橘「なんでだよ、まだわからないだろ」
棚町「じゃあこれ当たるっていうの?」
橘「僕の行動次第だろ」
橘「そうだよね、田中さん」
田中「んー、書いてあることは確かにそうだけど…」
田中「……」
橘「ちょっと、黙らないでよ」
数日後
橘(さ~て、今日は何をしようかな…)
橘(う~ん…)
橘(クリスマスを好きな女の子と過ごす…)
橘(そのために、自分の魅力を高める…)
橘(……)
橘(ちょっと面倒くさいんだよな…)
橘(いやいや!そんなんじゃ駄目だ!今日も頑張るぞ!)
橘(とりあえず…)
橘(……)
橘(まあいいや、出かけよう)
美也「にぃに、どこ行くの?」
橘「どことは決めてないけど…」
橘「そうだ商店街の方に行こうかな」
美也「じゃあ美也も一緒に行くよ」
橘「…別にいいけど、特に何も用はないから歩き回るだけになるぞ」
美也「いいよ、暇なんだから」
美也「じゃあ着替えるから待っててね」
美也「…覗いちゃダメだよ」
橘「興味ないよ」
商店街
橘(さて、来たはいいけど何をしようか…)
美也「あ、にぃに、ドーナツが売ってるよ」
橘「そうだな」
美也「食べたいなー」
橘「買えばいいじゃん、待ってるからさ」
美也「……」
橘「お金は出さないぞ」
美也「可愛い妹のために少しぐらいお金出してくれていいんじゃないの?」
橘「はぁ…じゃあ少しだけだぞ」
橘「はい」
美也「やったー」
美也「って10円じゃ何も買えないでしょ!」
橘「少しって言ったじゃないか」
美也「…にぃに、そんなんじゃ女の子にモテないよ」
橘「なっ…余計なお世話だよ」
田中「あっ、橘君」
橘「?」
橘「ああ、田中さん」
田中「あ…ご、ごめんね邪魔しちゃったかな…」
橘「なんのこと?」
田中「デート中…だよね、橘君彼女できたんだ」
橘「デート…?」
橘「…ああ、違うよ、妹だよ」
田中「妹…?」
橘「うん、妹の美也っていうんだ、同じ学校だよ」
橘「美也、僕と同じクラスの田中さん」
田中「こんにちは」
美也「こんにちは、いつもにぃにがお世話になってます」
田中「にぃに…?」
橘「お、おい、外でにぃにはやめろって何度も…」
橘「田中さん、にぃにってのは変な意味じゃなくて…」
田中「あはは、安心して、みんなには内緒にしておくから」
橘「な、何を…?」
田中「橘君が妹さんに変な呼び方させてること」
橘「それは誤解だよ、美也が勝手に言ってるだけなんだ」
―――
橘「…ということ、なんだ」
橘「納得してもらえた…?」
田中「うーん…うん、わかったよ」
橘「よかった…」
美也「にぃに必死だったね」
橘「誰のせいだと思ってるんだ」
美也「なんとかなったらからいいじゃん」
田中「ところで橘君たちはここで何してるの?」
美也「田中先輩、聞いてくださいよ」
美也「にぃにったら妹にドーナツすら買ってくれないんですよ」
橘「そ、そんなこと人に言うなよ」
橘「わかった、買ってやるから」
美也「やったね」
美也「田中先輩もどうですか?」
田中「え、私も?そんな、悪いよ」
橘「いや、いいよ、一人分増えるだけだし」
田中「それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
美也「どれにしようかな~」
美也「田中先輩はどれが好きなんですか?」
田中「私はね、生クリームを使ったのが好きなんだ」
橘「へぇ、田中さん生クリーム好きだったんだ」
田中「うん、できるだけたくさん使ってるのがいいの」
美也「じゃあこれなんかどうですか?」
田中「わあ、おいしそう!」
田中「橘君、私これいいかな?」
橘「うん、どれでもいいよ」
美也「一つと言わず、いろんなものを好きなだけ選んでいいですよ」
田中「え、そんな、それは橘君に悪いよ」
美也「いいよね、お兄ちゃん」
橘「う…うん…いいよ」
―――――
美也「おいし~!」
田中「ごめんね、悪いとは思ったんだけど、美也ちゃんにつられちゃって」
橘「あ…あはは…いいよ、気にしないで」
田中「このお返しは絶対にするから!」
橘「うん…じゃあほどほどに期待して待ってるよ」
数日後
橘(ふぅ…スッキリした…)
橘(危なかったな、もう少しでやばかった…)
高橋「あっ橘君ちょうどいいところに」
橘「え?」
高橋「これなんだけど、教室まで運んでくれない?」
橘「あ…はい」
橘(けっこう量があるな…)
田中「わっ!」
橘(あっ、ぶ、ぶつかるっ!)
田中「わっ!とっとっとっ…」
田中「ふー、危なかった…」
橘「あれ?」
田中「ん?橘君、どうしたの?」
橘「田中さんが僕にぶつかってくるんじゃないかと思って…」
田中「あはは、それはないでしょ」
田中「廊下でぶつかっちゃうなんて、なかなかあるもんじゃないわよ」
田中「マンガやゲームじゃあるまいしね」
田中「それに実際にぶつかったらかなり危ないと思うわよ」
橘「そ、そうかな…」
田中「それにしても、この辺の廊下って水で濡れてて危ないわよねー」
橘「そ、そうだね…」
田中「ねえ、その荷物って教室に運ぶんだよね」
田中「私も手伝うよ」
橘「え、でも」
田中「私も今から教室に戻るんだし、ちょっとぐらい持つよ」
橘「あ、ありがとう」
田中「よいしょっと」
橘「田中さん、優しいね」
田中「そうでもないよ、普通だよ」
放課後
橘(さて、そろそろ帰るか)
田中「……」
橘「あ…」
橘「田中さん、今帰るところ?」
田中「うん、ちょっと居残りしてたら遅くなっちゃって」
橘「よかったら一緒に帰らない?」
田中「うん、いいよ」
橘「田中さんと帰るのって珍しいね」
田中「うん、私けっこうすぐ帰るからね」
田中「橘君いつも放課後何かしてるもんね」
田中「カバンだけ置いてどこかに行ってるみたいだけど何してるの?」
橘「あ…たしかにいつも何かしてるけど、これといって決まったことはしてないんだよね」
田中「じゃあ今日は何をしてたの?」
橘「そ…それは…」
橘(水泳部を覗いてたなんて言えない…)
田中「それは?」
橘「それは…」
橘「あっ、頑張ってる子たちを陰ながら応援してたんだよ」
田中「へぇ、なんか意外だね」
橘「い、意外かな…?」
田中「うん、でもいいことだと思うよ」
田中「私はいつも自分のことで精一杯だからさ、なかなか他の人のことまで考えてあげられないから」
田中「橘君はすごいと思うよ」
橘「そう言われると悪い気はしないけど…」
橘(実際は自分の欲のためだけだからな…)
数日後・昼
橘「薫、今からお昼ご飯か?」
棚町「ええ、そうよ」
橘「だったら一緒に食べないか?」
棚町「いいけど、恵子もいるわよ」
橘「うん、いいよ」
橘「田中さん、今日はお弁当なんだ」
田中「うん、たまに自分で作りたくなるんだ」
橘「えっ、これ田中さんが作ったの?すごいなぁ」
田中「えへへ、ありがとう」
棚町「恵子の料理はそれなりにおいしいわよ」
田中「それなりには余計だよ」
橘「田中さんの料理は興味あるな」
田中「よかったら食べてみる?」
橘「え、いいの?」
棚町「顔がにやけすぎ」
橘「き、気のせいだよ」
棚町「恵子、なんとなくだけど今日はやめたほうがいいよ」
橘「何だよなんとなくって」
田中「別に何もないと思うけど…」
田中「でも、薫の勘って結構当たるし…」
田中「ごめんね、橘君」
橘「田中さんが言うなら仕方ないけど…」
田中「そうだ、その代わり明日橘君の分も作ってくるよ」
橘「えっいいの!?」
田中「うん、橘君がよければの話だけど」
橘「お願いします!」
田中「あ、一つ条件言っていいかな?」
橘「どうぞ」
田中「一度でいいから、自分の作った料理を男の人にあーんってしてみたいんだよね」
棚町「な…何それ…」
田中「いいじゃない、やりたいんだし」
田中「ねえ橘君、どうかな?」
橘「そんな…いくらなんでもそれは…」
橘「ご褒美すぎるじゃないか!」
田中「え、いいの?」
橘「もちろんだよ!」
田中「ほら、橘君OKしてくれた」
棚町「いきなり言われてOKするの純一ぐらいよ」
橘「早く明日のお昼ご飯の時間にならないかなぁ」
橘「今から楽しみだよ」
田中「そ、そんなに期待はしないでね」
田中「どこにでもあるような普通のお弁当だから」
橘「田中さんが作った時点でそれはもう普通のお弁当じゃないんだよ」
橘「しかもそれを食べさせてもらえるなんて」
田中「褒められてる…ってことでいいのかな…?」
放課後
田中「あれ、橘君今日はもう帰るの?」
橘「うん、あんまりやりたいこともないからね」
田中「じゃあよかったら一緒に帰らない?」
田中「今日は薫が補習があるから一人なんだ」
橘「いいよ」
―――――――
橘「…ってことがあったんだよ」
田中「あはは、やっぱり薫は中学校のときからあまり変わってないんだね」
橘「うん、全然成長してない」
田中「橘君はどんな中学生だったの?」
橘「え、僕?」
橘「そうだな…」
橘「……」
橘「今と変わらないかも…」
田中「橘君もなんだ…」
橘「じゃあ田中さんはどうなの?」
田中「私は今よりもうちょっとおとなしい子だったかな」
橘「今より?」
田中「うん、今は薫や橘君たちがいるから」
橘「そ…そうなんだ」
橘「……」
橘「ちょっと見てみたいかも」
翌日
梅原「よう」
橘「どうした?梅原」
梅原「確か今日って橘の誕生日だったと思うんだが…」
橘「おおっ、覚えていてくれたのか?」
梅原「誰かに祝って貰えそうなのか?」
橘「う~ん…だといいんだけどな」
梅原「とかなんとか言っちゃってるが、自信有りって顔してるぜ?」
梅原「か~!羨ましいなぁオイ!」
橘「そ、そんな事ないって」
梅原「こりゃ、俺からのプレゼントは必要なさそうだな」
橘「おいおいひどいな、梅原ぐらいしかいないんだから」
梅原「なんだよ悲しいこと言うじゃねえか」
梅原「よっしゃ!それじゃ俺から大胆にも誕生日プレゼントを贈ろうじゃないか!」
梅原「何が飲みたい?言ってみろ!」
橘「ジュース限定かよ…」
梅原「水道水ならなんとおかわりし放題だ!さあ、行こうぜ!」
昼休み
田中「橘君」
田中「昨日言ってたお弁当作ってきたよ」
橘「ほんと!?」
橘「ついに田中さんのお弁当が食べられるんだね!」
田中「あはは、大げさだね」
橘「だってうれしいもん」
棚町「あー、純一なーににやけてるの?」
棚町「何かいいことあったんでしょー」
橘「昨日言ってたお弁当を田中さんが作ってきてくれたんだよ」
棚町「ああ、言ってたわね」
棚町「どんなの作ったの?あたしにも見せて」
橘「開けていいかな?」
田中「うん、どうぞ」
パカッ
橘「おおっ」
棚町「すごいじゃない、恵子」
田中「えへへ、ありがとう」
田中「それで…いいかな?」
橘「え?…ああ、いいよ」
田中「じゃあ最初はどれがいい?」
橘「んーそうだなー、からあげかな」
田中「はい、あーん」
橘「あーん」ぱくっ
田中「ど、どうかな?」
橘「うん、おいしいよ!」
田中「よかった~」
棚町「…こうして見ると二人のそれは異様な光景ね」
橘「もう一回いいかな?」
田中「いいよ」
棚町「もう一回やるの…?」
橘「次は卵焼きがいいな」
田中「卵焼きね」
田中「じゃあ、あーん」
橘「あーん」
田中「おいしい?」
橘「おいしー」
橘「田中さんのお弁当が食べられて、しかも食べさせてもらえるなんて…」
橘「想像と体験は全然違うよ」
橘「今日は最高の誕生日だ」
田中「えっ、橘君今日が誕生日だったの?」
棚町「そういえば、この時期だったような」
橘「ようなってひどいな」
棚町「じょーだん、はいこれ誕生日プレゼント」
橘「エビフライじゃないか…」
棚町「もらえないよりマシでしょ」
棚町「それとも、あたしにもあーんってやってほしいの?」
橘「うん、頼むよ」
棚町「やるわけないでしょ」
夜
ピンポーン
美也「にぃに~、お客さんだよー」
橘「はいはい、僕が出ればいんでしょ」
ガチャ
田中「はぁ…はぁ…」
橘「た、田中さん?どうしたの…」
田中「ちょっと…急いで来たから」
橘「と、とりあえず中入ってよ」
田中「ううん、いいよ…すぐだから」
橘「えっと…僕に用でいいのかな?」
田中「うん」
田中「はい、これ」
橘「これは…?」
田中「誕生日プレゼントだよ」
橘「えっ、でもそれはもうお弁当を…」
田中「あれはそういうつもりで作ったんじゃないから」
田中「せっかくならちゃんとしたものを渡したいなって思って」
橘「ありがとう」
橘「開けてもいいかな?」
田中「うん」
ガサガサ
橘「お、双眼鏡だ」
田中「この前、放課後残って陰ながら応援してるって言ってたから離れて応援してるのかなって思って」
田中「これを使えば遠くてもよく見えるでしょ」
橘(覗きだけど…)
橘「ありがとう、大切に使うよ!」
数日後
橘「ふぅ~」
橘「トイレもすませてスッキリしたし、教室に戻ろうかな」
橘「うわっ!?何だっ!?」
???「だ~れだ?」
橘(う…誰だろう?)
橘「……」
橘「もしかして…田中さん…?」
田中「当たり」
田中「なんでわかったの?」
橘「そうだな…」
橘「田中さんの手ってなんとなく、柔らかそうなイメージがあって」
田中「て…手のイメージ…?」
橘「それにしても田中さんがこんなことするなんて意外だね」
田中「橘君と薫がいつもやってるようなことを私もやってみたくなって」
田中「へ、変かな…?」
橘「ううん、もっとやっていいよ」
田中「じゃあ、またこんどね」
放課後・本屋
橘「あったあった、新発売の漫画」
橘「ん?」
橘「あっこの漫画、美也が集めてる…」
田中「橘君?」
橘「あれ、田中さん」
橘「奇遇だね、こんなところで会うなんて」
田中「うん、欲しい漫画があってね」
田中「橘君その本買うの?」
橘「え?ああ、これは買わないよ」
橘「美也が集めてる本だったから気になって、手にとっただけだよ」
田中「美也ちゃんも集めてるんだ」
橘「も…ってことは田中さんも?」
田中「うん、今日はそれを買いに来たんだ」
橘「そうなんだ、これおもしろいよね」
田中「橘君も読んでるの?」
橘「うん、たまに借りて読んでるんだ」
橘「田中さんはこの後何か用事ある?」
田中「ううん、何もないけど」
橘「じゃあまた一緒に帰らない?」
田中「うん、いいよ」
田中「レジに行ってくるから、ちょっと待っててね」
橘「僕も買いたい本があるからそっち行くよ」
―――――
田中「ねえ、最近、一緒に帰ること多いじゃない?」
橘「そうだね」
田中「その…なんて言うか…ウワサになっちゃったら困っちゃうね」
橘「僕といっしょに帰るの嫌?」
田中「ううん…そういう意味じゃないの」
橘「そっか」
橘(たしかに言われてみれば、田中さんと帰ることが増えたかも…)
橘(思い切って遊びに誘ってみようかな)
橘「ねえ田中さん、次の日曜日って空いてる?」
田中「うん、何も予定はないけど」
橘「じゃあさどこか遊びに行かない?」
田中「え?橘君と?」
橘「どうかな…」
田中「うん、いいよ!」
田中「そうだ、最近遊園地に噂のアトラクションがあるの知ってる?」
橘「噂のアトラクション?」
田中「そうなの、聞いた人によって言ってることがちょっと違うから自分でも確かめたくて」
橘「わかった、じゃあ遊園地に行こう、1時に駅前広場に集合でいいかな」
田中「うん!」
田中「橘君と遊びに行くことなんてなかったから、ちょっと楽しみ」
橘「僕もだよ」
田中(あれ、噂のアトラクションが気になって言っちゃったけど…)
田中(休日に二人で遊園地なんて、まるで…)
田中(橘君はどう思ってるんだろう…)
日曜日
橘(よし、30分前についた)
橘(あとは田中さんを待つだけ…あれ?)
橘「田中さん!?」
田中「あ、橘君」
橘「な、なんで…?まだ約束の時間より30分も早いのに」
田中「うん…なんか落ち着かなくなくて」
田中「橘君こそ来るの早いじゃない」
橘「僕は待たせないようにしようと思ったから…結果的に待たせちゃったけど」
田中「ううん、気にしないで」
田中「私が勝手に早く来ただけだから」
橘「そうは言っても…」
田中「あ、ほらバス来たよ、ちょっと早いけど行こ行こ」
―――――――
田中「んー、ついたー」
橘「遊園地に来るのはけっこう久しぶりだな」
田中「へぇ、どれぐらい来てないの?」
橘「えっと、中学…いや小学生か…?」
橘「……」
橘「とにかく久しぶりだよ」
田中「そ、そうなんだ」
橘「さて、どうする?」
橘「行きたがってた噂のアトラクションに行く?それとも別のにする?」
田中「そうね…」
田中「まだ何も決めてないし、まずはそれ行ってみない?」
橘「わかった、それで…それはどれなの?」
田中「たしかエジプトの…」
田中「あっ、たぶんあれだと思う」
橘「ファラオ謎の入り口…?」
橘「これってホラーハウスなのかな」
田中「……」
橘「田中さん?」
田中「あっ、ど、なに?」
橘「なんか今固まってなかった?」
田中「そ、そんなことないよ」
橘「もしかして怖いの?」
田中「そ、そんなことないよ」
橘「セリフが全く一緒だよ」
橘「田中さんが嫌ならやめようか?」
田中「う、ううん、そんなことない」
田中「行ってみようよ」
橘「まあ行くなら行くけど」
田中「うん…」ギュッ
田中「……」
橘「あ、あの田中さん…」
田中「なに?」
橘(無意識なのかな…袖をつかまれると歩きにくいんだけど…まあいいか)
橘「なんでもない、行こうか」
―――
田中「お、思ったより暗いね…」
橘「たしかに雰囲気はあるな」
田中「わっ!?」ギュッ
橘「うお…っ…ど、どうしたの?」
田中「いや、ちょ、ちょっとつまづいちゃって」
橘「そ…そうか…」
橘(田中さんの胸が…)
田中「な…何か出て来るのかな…?」
橘「さあ…どうだろう…」
橘「ん?」
田中「なに?」
橘「あれなんだろう…」
ウオオオ~~ン!
橘「うわぁっ!」
田中「きゃあっ!」
ウオオオ~~~~~ン!
ポゥーン!!
橘「げほっ…げほっ…何だったんだ今のは…」
橘「あれ?田中さん?」
橘(さっきまで腕につかまっていたはずなのに)
橘「田中さーん!おかしいな…」
田中「げほ…うーん…」
田中「橘君…?」
橘「田中さんの声が聞こえる、どこだ?」
田中「うわわっ、橘君どうしたの、その体!?」
橘「えっ?」
橘「別に何も変化はないと思う…」
橘「ん?」
田中「そんなことないよ、体がものすごく大きくなってるよ!」
橘「……」
橘「田中さん…?」
田中「な、なに?」
橘「まさか…いや、そんなことがあるのか…?」
田中「何を言ってるの?」
橘「…田中さん…なんだよね?」
田中「うん」
橘「田中さん、自分の手でもいいからよく見てみてよ」
田中「手?」
田中「手がどうか…ええっ!?な、なにこれ!」
橘「うん、僕が大きくなったんじゃなくて、田中さんがハムスターになったんだよ」
田中「どういうこと…!?」
橘「僕もよくわからないけど、今の煙が原因なんじゃないかな…?」
橘「とりあえずこのままじゃ危ないから、僕の手に乗ってよ」
田中「うん、ありがとう」
田中「よいしょっと」
橘「じゃあ立つよ」
田中「うわわっ」
田中「すごい高いよ」
橘「大丈夫?」
田中「う、うん、平気」
橘「手がかりがない以上出口に向かうしかないか」
橘「安心して田中さん、必ず僕が元に戻してみせるから」
橘「それまでは僕がちゃんと守るからね」
田中「橘君…」
橘(とは言ったものの、人間がハムスターになるなんて聞いたこともないぞ)
橘(しかもこのハムスターが田中さんか…)
橘「……」
橘(かわいいな、ハムスターだからか?それとも田中さんだからのか?)
橘(な、何を余計な事を考えてるんだ僕は、急がなきゃならないってのに)
田中(橘君、こんな姿になった私にも優しくしてくれるなんて…)
田中(あ、ここの毛が気になるな)
田中(よいしょ、よいしょ)
田中(…ってこれじゃまるで私ハムスターじゃない!)
田中(こんなところ橘君に見られたら…)ちらっ
橘「こっちの道であってるのかなぁ」
田中(よかった見られてなかった…)
田中(ハムスターの姿を見られた時点で恥ずかしいんだけど…)
田中(あれ、そういえば今ハムスターってことは…)さわさわ
田中(私今裸じゃん!)
田中(な、なんかそう考えたらますます恥ずかしくなってきた…)
田中(穴があったら入りたい!)
田中(あれ、あんなとこに穴が…)
田中「……」もぞもぞ
橘「うひゃあっ!?」
田中「ど、どうしたの橘君!?」
橘「う、腕に何か…!」
橘「あれっ田中さん!?」
橘「田中さん?一体どこに…」
橘「ひゃっ…な、くすぐったい!」
田中「大丈夫?」ひょこっ
橘「あれ、田中さんなんで僕の首に?」
田中「うーん、橘君の手に乗ってたら穴を見つけて、入って、上って…」
橘(たしかハムスターって狭いところが好きなんだっけ…?)
橘(田中さん、完全にハムスターになってるな…)
橘(かわいいな)つんつん
田中「ちょっ、橘君?」
橘「あ、ごめん、かわいくてつい…」
田中「別に嫌じゃないからいいけど…優しくしてね」
―――――
橘「けっこう歩いたからそろそろ出口かな?」
田中「……」
橘「あれ、田中さん?」
田中「……」すやすや
橘「寝ちゃってる」
橘「ふふっ」つんつん
ポゥーン
橘「うわっ」
ズシーン
橘「ごほっごほっ…いたたたた…」
橘「何なんだ一体…」
橘「田中さんだいじょ…ぶ!?」
田中「すぅ…すぅ…」
橘(ち、近っ!体が密着して、む、胸も…)
橘(あっ、ていうか田中さん元にもどってる)
田中「う、うーん…あれ、私寝ちゃってた…?」
田中「あっ元に戻ってる!戻ってるよ橘君!」
田中「あれ?橘君?」
橘「こ…ここだよ」
田中「ええっ!橘君、何があったの!?」
橘「いや…僕にもよくわからないんだけど…」
橘「あ、あの田中さん立てる?」
橘「もし立てるなら…」
田中「あっ、ご、ごめんね!」
橘「うん…」
橘(思わず言ってしまったが惜しいことをしたかもしれない…)
―――
田中「やっと出れたね」
橘「うん、なかなかいい体験ができたよ」
田中「えっ、私は変身したけど…橘君も何かあったの?」
橘「あ、いや…このホラーハウスけっこうおもしろかったじゃないか」
田中「そうだね、また来ようね」
橘「えっまた?」
田中「うん、次はまた違うものになるか…橘君が変身するかもよ」
橘「そ…それは…」
橘(ん?もし僕がハムスターになれば次は僕が田中さんに…)
橘「それはいいかもね!」
夕方
田中「あ~楽しかった~」
田中「今日は誘ってくれてありがとうね」
橘「いや僕の方こそありがとう」
田中「どうして橘君がお礼を言うの?」
橘「だって今日一日僕に付き合ってくれたんだもん、ありがたいよ」
田中「橘君の誘いだからね、いつでも何日でも付き合うよ」
橘「ははは、それはお世辞でも嬉しいよ」
田中「ううん、ほんとのことだよ」
橘「え?」
田中「あ、そうだ橘君まだ時間ある?」
橘「え…ああ、うんあるよ」
田中「じゃあ駅前に行ってみない?」
田中「イルミネーションがそろそろつく頃だろうし、見てみたいなって思って」
田中「どうかな?」
橘「うん、いいよ行ってみよう」
翌日
梅原「おいおいおい、どういうことだ大将!?」
橘「何がだ?」
梅原「お前が昨日田中さんとデートしてるとこを見たってやつがいたんだが本当なのか!?」
橘「デート…まぁ、たしかに昨日田中さんと遊園地に行ったな」
梅原「ふ、二人でか…?」
橘「ああ、そうだけど」
梅原「…そういえばお前が田中さんと一緒に帰ってるっていう目撃情報も何度かあったな」
橘「なんだその目撃情報って…」
梅原「お前まさか…」
橘「なんだよ」
梅原「……」
梅原「いや、なんでもない」
梅原「……」
橘「梅原?」
梅原「ま、がんばれよ」
橘「どうしたんだあいつ…?」
橘(もしかして僕と田中さんのことについて言おうとしてたのかな?)
橘「……」
橘(うーん…僕はやっぱり…)
橘「……」
橘(いや、考えるまでもないな、僕はきっと…)
橘(よし…こうなったら田中さんを誘ってみるか!)
橘(頑張るって決めたんだしな…)
橘「……」
田中「ねえ橘君」
橘「あっ、田中さん、ちょうどいいところに…」
田中「え?何かあったの?」
橘「う…うん、そうなんだ」
橘「えっと…そのー…た、田中さんは…」
橘「何ていうか、その…」
橘「……」
橘(うぅ…何だか緊張するな…)
橘(一言…たった一言言うだけなのに…)
田中「橘君?」
橘「う、うん」
橘(…よ、よし!)
橘「そ…その…田中さんは24日…」
橘「た、田中さんさえよければだけど、24日に僕とどこか行かない?」
田中「えっ…」
橘「駄目かな…?」
田中「……」
田中「どうしようかなー」
橘「え…」
田中「えへへ、冗談だよ」
田中「いつでも付き合うって言ったじゃない」
田中「それより、そんな日に私でいいの?」
橘「もちろんだよ、田中さんじゃないと」
田中「そ、そっか」
田中「じゃあ24日、お願いね」
橘「うん」
橘「……」
橘(やった!言えた!言えたぞ!)
5日後
橘(なんだか緊張するな…)
橘(1時間も早く来てしまった)
橘(……)
橘(田中さん…来てくれるかな…)
田中「それっ!」
橘「うわっ!冷たっ!?」
橘「な、なんだ田中さんか、びっくりした…」
橘「…えっ!?田中さん!?」
田中「な、何…?そんなに驚いて」
橘「い、いやだって…」
田中「早く来たのは橘君も一緒でしょ?」
橘「それは…そうだけど…」
田中「前のこともあるし、もしかしたら橘君ちょっと早く来るんじゃないんかって思って」
田中「橘君ってけっこうそういうの気にしそうだったから」
橘「そんな風に思われてたの…?」
田中「橘君に早く会いたいってのもあったかもね」
橘「ほ…ほんと…?」
田中「ふふ、ほんとだよ」
橘「じゃあちょっと早いけど、行こうか」
田中「うん」
橘「……」
田中「……」
橘「けっこう寒いね」
田中「そうだね」
橘「……」
田中「……」
田中「やっぱり今日はカップルが多いね」
橘「あ、うん、そうだね」
田中「……」
田中「ねえ橘君」
ギュッ
橘「あ…」
田中「今日ぐらいはこうして手をつないでていいかな?」
橘「うん、僕でよければ」
橘「うーん、映画の時間までまだあるしここのデパートで時間を潰そうか」
田中「あ、それなら行ってみたいところがあるんだけど、いいかな?」
橘「いいよ、どこが見たいの?」
田中「7階なんだけど」
橘「7階って、おもちゃ売り場?」
田中「うん、そうなんだけど…ダメ?」
橘「そんなことないよ、いいよ」
田中「よかった、じゃあ行きましょ」
―――――
田中「これこれ、これが見たかったんだー」
橘「へー」
田中「この間テレビで見て、実物を見てみたかったの」
田中「かわいいなー」
田中「こんなペット欲しいなー」
橘「犬…みたいだね」
田中「犬の自律型エンターテインメントロボットよ」
田中「名前には人工知能、目、相棒の意味があるんだ」
田中「カメラで物体を視認して、声で言うことを聞き分けてくれるんだよ」
田中「学習機能に成長機能がついて、喜んだり悲しんだりの感情があったりするの」
橘「田中さん、詳しいね」
田中「ある程度好きなものは、手に入らなくてもけっこう調べちゃうんだ」
田中「橘君はそういうのしない?」
橘「そうだな、僕はある程度好きなものは比較的入手しやすいけど…」
橘「手に入りにくいだと…」
田中「…?」
橘「やっぱり僕もよく知ろうとするかな」
田中「橘君の手に入りにくくて好きなものって?」
橘「え…?それは…」
橘「手に入るって言ったら言い方悪いけど…」
田中「言い方が悪いもの?」
橘「その、なんていうかさ…」
橘「あっ、もうこんな時間だ」
橘「そろそろ映画館の方に行かないと」
田中「え、うん」
―――――――――
何か所か周った後
橘(どうしよう…思った以上に上手く進みすぎて予定してたこと全部終わっちゃったぞ…)
橘「……」
橘「田中さん、どこか行きたいところある?」
田中「うーんとねー…」
田中「橘君の家」
橘「えっ」
田中「なんてね、冗談だよ、そうだなぁ…」
橘「まあ…いいよ」
田中「え…」
橘「どうする…?」
田中「…じゃあ、せっかくだし、迷惑じゃなければ」
橘家
田中「ここが橘君の家なんだ」
橘「うん、どうぞ入って」ガチャ
田中「お、おじゃまします」
橘(美也はいないみたいだな、よかった…)
橘「こっちだよ」
橘「ここ僕の部屋だよ」
橘「じゃあ何か飲み物持ってくるから、ちょっと待っててね」
橘(ふー)
橘(女の子が僕の部屋に遊びに来るなんてドキドキするな…しかも今日は…)
美也「ただいまー」
中多「おじゃまします」
橘「わっ!」
橘「み、美也、それに中多さんも…」
中多「こんにちは先輩」
橘「う、うん…こんにちは…」
美也「あっにぃににしては気が利くね、飲み物を入れてくれるなんて」
橘「こ、これは違うよ、今友だちが来てて…」
美也「ふーん、こんな日ににぃにの友だちねぇ」
美也「誰?」
橘「え…う、梅原だよ」
美也「へぇー梅ちゃんってあんな可愛らしい女の子の靴履くんだー」
橘「うっ」
橘「と、とにかく邪魔するなよ」
美也「そんなことしないよ」
美也「様子を見に行くことはあるかもしてないけどね、にししし」
橘「や、やめろよ、そういうことは!」
美也「にぃにこそ、美也たちのジャマしないでよね」
橘「するわけないだろ」
橘「お待たせ」
橘「はいどうぞ」
田中「ありがとう」
田中「話し声が聞こえたけど?」
橘「ああ、美也と友だちが来たんだよ」
田中「そうなんだ」
橘「あ、あの…部屋の中を探ったりはしてない…かな?」
田中「うん、してないけど」
田中「もしかして何か見られたら困るもの隠してるの?」
橘「い、いやー…何もないけどー」
田中「あっ、あのアルバムとか?」
橘「アルバム?ああ、アルバムなら全然いいよ」
田中「いいの?じゃあ見せて」
橘「うん」
田中「……」ぱらっ
田中「わぁこの子ってもしかして橘君?」
橘「うん、小学校の3、4年生のころかな」
田中「可愛いね」
橘「なんかそう言われると照れるな」
―――――
田中「この一緒に写ってるのって桜井さんだよね」
橘「そうだよ」
田中「あ、これは薫だ」
田中「…こうやって見ると私の知らない橘君がいっぱいいるなぁ」
田中「当たり前のことだけど、なんだかちょっと悔しいな」
橘「それは初めて出会ったのが早かったってだけで…」
橘「ん?」
田中「なに?」
橘「ちょっと待ってね…」
ガチャ
美也「あ」
中多「あ」
橘「何やってんだ」
美也「な、何もしてないよー」
橘「盗み聞きしてただろ」
中多「すみません先輩!」
橘「あ、いや、いいよ中多さん」
橘「どうせ美也に無理やり付き合わされてただけなんでしょ」
美也「何よその決めつけー、間違ってないけど」
美也「それよりにぃに、全然いい感じにならないねー」
橘「う、うるさいな」
田中「橘君?」
橘「あ、田中さん、ちょっと外行かない?」
田中「え?いいけど」
橘「ついてくるなよ」
美也「さすがに外までは行かないよ」
―――――
橘「ごめんね、いきなり外に行こうって言って」
田中「ううん、いいよ」
橘「はぁ…美也の邪魔さえなければな…」
田中「美也ちゃんはきっと橘君のこと好きなんだよ」
橘「今日はせっかく田中さんに告白しようと思ったのに…」
田中「え…」
田中「それ…本当…?」
橘「え、何が?」
田中「…私に…告白ってのは」
橘「……」
橘(口に出てた!?)
橘「き…聞こえてた…?」
田中「うん…」
橘「……」
橘(もうどうせ格好がつかないんだ…こうなったら…)
橘「田中さん」
田中「は、はい」
橘「こんな場面で気の利いたことも何も言えないけど…」
橘「ぼ、僕は田中さんのこと…田中さんのことが好きだ」
田中「あ…」
田中「ありがとう、私なんかにそう言ってくれる人がいて嬉しい…」
橘「じゃ、じゃあ…」
田中「……」だきっ
橘「わ…」
田中「その…私こういうの口に出して言うのが苦手だから、答えはこれじゃダメかな…?」ギュッ
橘「…いや、いいよ…ありがとう」
田中「ねえ橘君」
橘「なに?」
田中「私、橘君の彼女として頑張るよ」
橘「はは、頑張らなくていいよ」
橘「でも…いつまでもこうして一緒にいてほしい」
田中「うん、私も橘君とずっと一緒にいたいよ」
数年後
田中「やっぱり元日の神社は人が多いね」
橘「そうだね、はぐれないようにしないと」
田中「じゃあ…」
田中「こうしてしっかりと腕を組んでれば安心だね」
橘「うん…//」
田中「あれ?もしかして照れてる?」
橘「て、照れてないよ、いつもやってることだし」
橘「ただいつもより人が密集してるところだからさ」
橘「どこでもこうしてくれることは少し嬉しいけど…」
田中「少しだけなの?」
橘「かなり嬉しい」
―――――
田中「……」
橘「……」
田中「……」
橘「あまり願い事が多いと神様も困っちゃうよ」
田中「……」ふっ
田中「もう、大事なことなんだから、せっかくのお願いが無駄になっちゃう」
橘「何をお願いしたの?」
田中「内緒」
田中「純一君が何をお願いしたら教えてくれたらいいよ」
橘「え、ぼ、僕は…その、今年こそけっ…伝えたいことを伝えられますようにって…」
田中「伝えたいこと?」
田中「誰に何を伝えるの?」
橘「そ…それは秘密だよ、さあ僕のお願い教えたから、恵子も教えてよ」
田中「純一君のコレクションがまた増えてたから、どうにかならないか神様に相談してるの」
橘「えっ」
橘「ま、まさかあれが…」
橘「どうして?美也から…?それとも自分で…」
田中「冗談よ」
田中「純一君といる幸せがいつまでも続きますようにってお願いしたの」
橘「なんだ、それなら…」
橘「神様は関係ないね」
田中「ところで冗談で言ったんだけど、本当に増えてたの?」
終わり
今回はちょっといつもと書き方変えてみました
今まではそのキャラクターの歌とかをテーマに組み込んだりしてるんですけど、田中さんはない(はずだった)ので少し難しかったです
あと、いつもよりパロディとかオマージュが多いです
内容的なことに関しては田中さんは「普通の子」なのでそれに対する橘さんの紳士的行為は控えめにしてます
それといつもの言い訳なのですが、最後正月の内容にしてる通り、一月前半に出すつもりで年末には内容をまとめられていたのですが、長めに風邪をひいた後、インフルエンザになり、試験がありと何もできませんでした
すみません…
乙ー
よし次は高橋先生だな
乙 今回もよかった
とても普通だった
ほんまになんで田中さんはヒロインに入ってないんや
田中さんルート、ありがとナス!
次は縁さんルートで頼むよ~
この作者tlssやってるな!
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