春香「皆んなで楽しく」 (55)
いつからだろう
765プロに変化を感じ始めたのは
いつからか、千早ちゃんは話すときは楽しそうに話すけれども、皆と接することが少なくなり、より歌に没頭するようになった。
雪歩はおどおどとした雰囲気を見ることが無くなり
亜美と真美はどこか幼っぽさがあったところも、だんだん大人びた凛々しい面が見られるようになり
やよいはより元気な姿が見られるようになり
伊織は家柄もあってか、何処か高貴さを感じるような個別での仕事がふえるようになり
響ちゃんは運動神経の発達を見せ、ダンスがとても踊れるようになり
貴音さんも、あずささんも、他のみんなもどこか一人一人、凛々しさや個性というものを表し始め
私は、そんな765プロに少しうずまきを感じ始めていた
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514196714
ことを思い返せば、それは、プロデューサーさんが研修に行っていたハリウッドから戻って来たときのことだった
プロデューサーさんは、ハリウッドから様々なスキルを身につけて帰って来た。
長くハリウッドに居た分、少し雰囲気も変わったように見えるプロデューサーさんは、みんなの前でこう話したのだった
「お前達にハリウッドで学んだことを少しでも多く伝えたいと思う。ぜひ、これからの自分達の学びに役立ててくれ」
その場に居たみんなは、何処か緊張した雰囲気を感じながらも、少し目を見開いて、
緊張か、期待か、どことも言えないような顔をしていた。
プロデューサーさんの指導は確かに的確なもので、
指導方法も新しく、レッスンも新鮮でかつ納得するものを感じ、
レッスンは次第により充実したものへとなっていった
そして私は今日、近いうちに行われるライブで踊るダンスの動きを全員で確認するため、練習場に集まっていた
「センターはこのまま春香。みんなも今の立ち位置でいく」
プロデューサーさんの引き締まった声が渡ると、みんな一斉に返事をする
「いい、春香。次のライブは結構大事なものだと思うの。プロデューサーが帰って来てからまだそんなに長くないし、私たちの活動体制がまた固まりつつあるときだと思うから、失敗は許されないわ」
「うん。わかってるよ伊織」
伊織の呼びかけに応えると、千早ちゃんも私の横に来て呼びかける
「春香、頑張りましょ」
「うん。頑張ろうね、千早ちゃん」
ライブの日はすぐにやって来た
会場の中でステージを前に、社長が話をする
「おっほん。皆居るみたいだね。今日も沢山の人達がこのライブを見に集まってくる。皆体調に気を付けつつ、最高のパフォーマンスを披露できるように、よろしく頼むよ」
「はい!」
「よし、それじゃ皆、それぞれ準備を始めてくれたまえ」
皆バタバタと身の回りのチェックを始める
ライブで踊る人以外にも、色々な人達がせっせと動いていて、
隅っこの方では、律子さんと小鳥さんが話をしていて、
会場の中に、千早ちゃんの歌う声が、響き渡った
「千早ちゃん…」
その姿を見ているうちに、私も静かに準備を始めるのだった
会場には沢山の人が集まっていた
ざわざわとした声が会場の中を流れ、人が沢山集まっていることを知らせるには十分なものだった
私は控え室でみんなに呼びかけた
「みんな、今日のライブ気合い入れていこうね」
「おう!」
「いくよ。765プローー!」
「ファイトー!」
一斉に掛け声をあげ、控え室を出てステージへと向かう
「よし、今日のライブ、成功させて見せるんだから」
伊織の鼓舞する声を背にステージへと向かった
「そろそろスタートします!」
スタンバイ位置から会場を覗くと、沢山の人が集まっていた
そして、ライブの開始を促すように、音が鳴り始めた
ダン・ダン・ダン・ダン……
「行くよ」
ステージの真ん中まで歩いて行くと
パッとライトがステージに照らされた
「ARE YOU READY!! I'M LADY!!
始めよう やればできる きっと
絶対 私NO.1」
ダンスには、全体で踊りながらもソロで披露するパートが組み込まれていた
「ハイ!」
私が右手を挙げると
私は後ろに引き下がり
響ちゃんが華麗にステップを踏みながら前に出る
すると、千早ちゃん1人の歌声が会場内に響き渡る
会場からは、お~、というどよめきが聞こえた
美希が高々に手を挙げながら
「みんな!もっともっと盛り上がって行くよ!」
「せーの!」
亜美と真美が掛け声をかけると
「おー!」
会場はワァーと声が上がった
ライブが終わり、会場の撤収が終わると、控え室で伊織がぽんっと椅子に座った
「今日のライブは良かったわ。ひとまず成功ね」
「うん。そうだね。ボクも課題だった所を克服できたような気がするし、良かったんじゃないかな」
真が肩にタオルをかけながらふうっと息をはくと、
「私も今日はちゃんと踊れたような気がします」
と、雪歩が落ち着いた顔でうんと頷く
すると、やよいが大きな声で
「私も今日のライブ、がんばりましたー!」
「あらあら、みんな元気いっぱいね」
あずささんのふふっと笑う声が聞こえ
「ええ、誠に」
と、貴音さんがお湯呑みをすする音がする
そして、社長が控え室に来て、おっほん。と、その場をただした
「えぇ~。諸君。今日はよく頑張ってくれたね。見に来た人達も満足そうだったよ。まだまだこれからももっと765プロは良くなっていくと思う。明日からの活動にも気を引き締めつつ、今日はゆっくり休んでくれたまえ」
「よし、それじゃあ解散だ。今日は皆、ありがとうございました」
プロデューサーさんが一礼すると
「ありがとうございました!」
控え室に大きな挨拶が響き渡った
次の日、私はアイドル活動での仕事があるため、事務局へと来ていた
事務局には伊織も来ていて、何やらスケジュール表をチェックして難しい顔をしていた
「おはよう伊織」
呼びかけると、伊織は私に気がついて、おはようと返す
何か良くないことがあったわけではないみたいだけど、伊織は少し難しそうな顔をしていた
「どうしたの?」
「今週のスケジュールが全部埋まってるの」
「え?」
スケジュールを眺めると、どの日も予定が書かれていて、沢山の文字で埋められていた
「今週だけじゃない。来週も、その次の週も、今月まるまる予定が入ってる」
「そうよ」
私と伊織はしばらく黙って文字で埋まったスケジュール表を見ていた
毎日だんだんと忙しくなっていった
最近、私達のアイドルとしての活動は少し話題になっているようだった
「春香、ちょっといいか」
「はい!」
「ある事務所からテレビ出演の提案が届いてるんだ。これは春香が適任だと思うんだが、どうだ?」
「はい。私やります!」
「そうか。じゃあ、これがスケジュール表だ。頑張るんだぞ」
「はい。ありがとうございます。プロデューサーさん」
「何だったの、はるるん」
「仕事の提案が来てて、そのお話があったの」
「へぇ~がんばってね」
「うん」
「亜美も今からお仕事だから、いってくるね」
「うん。亜美もがんばってね」
「それでは、行ってきます」
「あ、千早ちゃんもがんばってね!」
事務所はいつも忙しかった
誰かが戻ってきては、報告し
誰かが活動しに事務所を出て行っては、また誰かが戻ってくる
そういう生活を送るようになったのは、プロデューサーさんがハリウッドから戻ってきてからのことだった
みんな、りりしく大人びたような面を見せるようになっていった
それはまさしく、成長というものなのだと思う
でも私は、いつからだろう
私は人知れず
まだ出始めたばかりのころの765プロを、
まだおどおどしていた雪歩
まだ幼さを見せていた亜美、真美
まだ上手でも上手く歌えないところもあり、少し引きこもりがちになった千早ちゃん
問題はあれど、まだまだ皆で一致団結してライブを成功させていた頃を、私はどこ暖かく思うことがあるのだった
「皆集まってくれ」
プロデューサーさんがみんなに呼びかけると、みんな、その場に集まる
「皆がいるこの機会に言っておこうと思うが、あと半年くらいしたらとても大きなライブが開催されるみたいなんだ。そのライブには沢山のグループが出場して、大きな大きなライブになるらしい」
プロデューサーさんは続けて話す
「出場するグループは投票によって決まるらしく、沢山のグループが今、一般の人達や様々な人にアピールをしているみたいなんだ。投票結果はあと3ヶ月くらいしてから決まるみたいだが、出場できることが決まったらライブに向けて準備を始めていきたいと思う」
プロデューサーさんは手をグッと握って言った
「まだ出場できることご決まったわけではないが、俺は全力を尽くして頑張ろうと思う。皆ももっと自分の良さを発揮できるようにこれからの活動、レッスンに精進し、大きなライブのことも意識して取り組んでくれ」
「はい!」
「よし、大きなライブに出場するわよ。みんな、仕事にも気合い入れて取り組んで掛かるわよ」
「私、がんばります」
みんな、それぞれ思いを口にする
私はふと大きなライブに出場したときのことを考えていた
………一致団結
その言葉が私の胸をよぎった
「大きなライブかぁ」
よしっ!
と、私は手をぐっと握った
今日は終わりです。あと、1日、2日ほどで完結させたいと思います。また明日
次の日、ダンスのレッスンがあり、私はみんなに呼びかけた
「みんな、今日の練習がんばろうね。一致団結してがんばろう」
「おう」
と、みんな声をあげる
「よし、じゃあ曲流すわよ」
律子さんがラジオのスイッチを入れ、メロディが流れ出す
一通り終わってから、律子さんは少し首を傾げて言った
「うーん。最初だからズレてるところがあるのは仕方がないと思うんだけど、少し改善した方が良いところがあったわ」
「千早はもう少し動きを大きくして、やよいももっと笑顔で。他にも、全体的にみんなもう少し元気に踊って良いわよ」
「元気に…ですか?」
私が聞くと
「うーん。といっても難しいわね。何だろうこの感じ」
律子さんが少し考えるように黙ってしまい
そのとき、千早ちゃんがふと、手を挙げて言った
「私、前回のライブのようにソロで歌うパートを導入したいです」
「それもそうね」
伊織は腕を組むと、悩ましい顔をしながら言った
「そもそも、次のライブ出るとしたら…誰がセンターを務めるのかしら」
「え?」
私は伊織を見た
「来たるライブに向けて練習しろと言っても、並び順も分からないし、前と同じ配列で歌うわけでもないと思うわ」
「それも…そうだね」
そう言うと、伊織の意見に賛同するようにみんなも頷き始め、伊織は私を見て言った
「あんた、ちょっとセンター変わりなさい。みんながどう動いているのか、真ん中から見てみたいわ」
「う…うん」
私は伊織と場所を交代して、立ち位置についた
何となく、複雑な気分だった
ダンスの途中で、響ちゃんがダンスをとめた
「伊織。今のところもう少し早く踊ってくれないか。何か今のちょっと動き辛かったぞ」
「今のは悪かったわ。私もちょっと遅れてしまったみたい。もう一回お願い」
それでも、次のダンスも合わなかった
「うーん…難しいわね」
「自分がセンターでやってみるぞ」
その後も、何度も何度もダンスを踊ったけれど、なかなか上手くはいかなかった
その様子を見かねたのか、律子さんはパンッと手を鳴らした
「ハイハイ。みんなとりあえず元の位置に戻って。センターには春香がついてやるわよ。配置については今度プロデューサーに、聞いておくから」
「はい…」
私は真ん中の立ち位置に戻る
すると、千早ちゃんが手を挙げて言うのだった
「私、今度センターで出演したいです」
「え…千早ちゃん!?」
私はびっくりして尋ねると千早ちゃんは続けて言う
「いえ…とくきセンターというものに拘ってはいません。たたま、私は見てくれるみんなの前に立ってもっと歌を歌いたいので」
すると、伊織はそれを咎めるように
「でも、歌を歌うことだけがセンターの務めではないわ。他にも、ダンスやいろいろなまとめ役があるんだから」
「じゃあ、センターは前のライブで一番定評が良かった人にしようよ。例えばソロで一番受けが良かった人とか」
真がさりげなくそう言うと
みんな口々に言うのだった
「うーん。私は最年長だし…大人っぽさが良かったかしら」
「ふむ。わたくしはこの前のライブでは…」
「ちょっと…」
律子さんがとめようとすると
「律っちゃんはどう思うの?」
と、真美が聞いて、律子さんは
「え?」
と、また首を傾げる
私はみんなに言った
「みんな、少し落ち着こう。一致団結だよ。一致団結。立ち位置はプロデューサーさんが決めるんだし、今日はひとまずダンスの練習しようよ」
すると、伊織が私を見て言った
「そういえば、あんた。前のライブではあまり目立ってなかったじゃない。春香はこの前のライブの自分の動き、どうだったと思うの」
「えっ…」
私は…どうだっただろう
私は答えられなかった
考えてみればライブのダンス中、ソロが始まるとき私は後ろに下がって、これといったことはできなかった気がする
千早ちゃんが言った
「私、最近思う。プロデューサーがハリウッドから帰ってきてからいろいろ変わり始めてるんじゃないかって。私はこの機会に、もっと歌を多くの人に聞いてもらえるように歌いたい」
そして、千早ちゃんは静かに歌いだすのだった
「??????♪」
その歌はとても透き通っていて、
遠くまで届いていくような歌だった
みんな黙って聞いていた
千早ちゃんが歌い終わると、しばらくして伊織が言った
「千早の歌はいいとは思うけど、でも、それとセンターは別ね」
「うん。自分も千早の歌はすごいと思うけど、ダンスもあるんだぞ」
響ちゃんもそう言うと、千早ちゃんは何も言わずに黙る
「まあまあ…何度も言うけど、今日はダンスに集中しよう。一致団結だよ。一致団結」
「私はいい。すみません。今日は早退します」
千早ちゃんはおじぎをすると、黙って荷物を取り、練習場をさろうとする
「千早ちゃん…?」
何をやっているんだろう
私はそう思った
「千早ちゃん…レッスンは?」
「私はいい」
そう言って、千早ちゃんは練習場を去っていった
静まり返った練習場で、伊織はぼそっと呟いた
「歌だけじゃ、ダメなんだから…」
そして、はぁっとため息をつくと、伊織は私を見た
「仕方がないわ。今日は春香の言うとおり、ダンスの練習に集中しましょう」
「……」
そして、みんな元いた立ち位置に戻ってダンスの確認を始める
何で誰も千早ちゃんが帰ったことについて何も言わないんだろう
私はそう思った
おかしい
おかしい…おかしい
こんなの、一致団結なんて言わないよ
私は練習場をさった千早ちゃんを追いかけようとする
すると、それを律子さんに止められた
「春香。春香の気持ちも分かるけど、千早ちは私から話をしておくから。春香は今日のレッスンに集中しなさい」
「……はい」
私はその場に止まる
けれども、何かがおかしい
その疑問は消えることはなかった
765プロは今、私が思っていた以上に変わりつつあるようだった
次の日分かったことだけれども、
千早ちゃんは今、とても歌の仕事が増えていて
募集も沢山来ているみたいだった
それを765プロの誰もが知っていて
千早ちゃんの歌を聞きに来るファンも、少しずつ増えているという話を耳にした
「だから、昨日、千早ちゃんはいろいろな意見を言ってたんだ」
一致団結…私は、私が掲げた目標と、千早ちゃんの取った行動を照らし合わせて考えてみた
もっと歌を歌いたい
確かに、千早ちゃんの気持ちも分からなくはない
でも、レッスンを途中で抜け出して帰るというのはどうだろう
前回のライブでもセンターとしてみんなをまとめる役に立っていた私にとっては、
なおさら千早ちゃんが取った行動は見過ごしていいと思えるようなものではなかった
今度、千早ちゃんを見かけたら話をしよう
私はそう思った
それから一週間が過ぎた
その間、千早ちゃんを見かけることはなかった
おかしいな…どこにいるんだろう
事務所で律子さんに聞いてみると、律子さんは少し浮かない顔をして
「レッスンの方には来てないの。私も呼びかけてはいるんだけどね」
と、言うのだった
聞けば、最近事務所の方にも来ていないようで
私は、いつか千早ちゃんの居るマンションまで訪ねて行ったことを思い出した
「おせっかいはやめて」
そう言われても、私は千早ちゃんに何も言わずに放っておくことはできなかった
また、千早ちゃんに話をしに______
そう思ったとき、そわそわとした話し声が聞こえた
見ると、プロデューサーさんと伊織が話をしていて、周りにも真や他のみんなも集まっていた
伊織が話す顔付きは真剣なもので
出場が決まったときのライブの配置について話しているようだった
伊織が、ライブのセンターは実力性で決めてほしいとプロデューサーさんに話をしたらしいのだ
「何をしてるの」
私は伊織に歩いて行った
「千早ちゃんがいないときにセンターセンターって、今、そんなこと話してる場合じゃないよ」
「はぁ…春香。この前のレッスン、あんたもその場に居たでしょう。配置を変えても上手くはいかなかった。沢山のグループが集まるこの大きなライブがどれだけ大事なものか分かってるの?」
伊織は言う
「今からでも配置や振り付け、しっかり準備しておかないと間に合わなくなるわよ」
「まぁまぁ君達。そう慌てないでもらえるかね」
声がした方を見ると、社長が事務所のドアの前に立っていた
「少し話があって来たんだが…こんな真っ昼間に一体どうしたというのだね」
「社長…。ライブのセンターの件で話をしていたんだけど…」
伊織が言うと、社長は頷きながら
「あぁ、その話は聞いてるよ。キミ、その件はどう思ってるんだい」
プロデューサーさんは、はいっと返事をする
「はい。皆、最近スキルも上達しているようで、皆の気持ちも分かります。だから実力次第では、それで配置を振り分けるというのも悪くはないと思っています」
「そうか…」
社長は言った
「私もこの前のライブといい、君達の成長ぶりには感心しているよ。だから君達に自由にやらせてみるのもいいかもしれないと思う。君達が望むのなら、私はそのような制度を取り入れてみてもいいと思う。律子君、結果はきみが決めるんだ」
「は…はい。」
どうして…
私は、765プロが何かを見失ってるように見えた
ちゃんと踊れないといけないのは分かる
でも、勝ち上がるために私はアイドルをやっているんじゃない
「社長。千早ちゃんが最近事務所に来ていないんです」
私は社長に千早ちゃんの話をしようとする
すると、社長は頷きながら、こう口にした
「あぁ、如月君なんだがね。今如月君の話をしに来たんだけども…」
「千早がどうかしたんですか?」
プロデューサーさんが聞くと、社長は浮かない顔をしながらもこう言った
「如月君が1人で路上ライブをすると言いだしてね」
「えっ…」
私はもう一度聞いた
「路上ライブですか?」
路上ライブ…
今から大きなライブ出場に向けてみんなでがんばろうというときに、1人で観衆を集めて歌ったりして、路上ライブをするだなんて…
「千早…何考えてるのよ」
伊織が少し苛だたしそうに呟く
「社長…!それってどこでやるんですか?」
聞くと社長は
「とある噴水が流れる広場があるんだがね。そこでやりたいと言ってね。君達も戸惑うところはあるかもしれないけど、私はこの際君達の可能性を__」
私は社長の話を聞き終える前に、とっさに事務所を飛び出していた
千早ちゃん…何を考えているの
何を…何を……!
千早ちゃんがいるだろう場所に着く頃には、もう夕暮れ時になっていた
キラキラとした街灯がサーッと流れる噴水を照らし、広場にはサンサンと明かりが降りそそいでいた
広場のなかに目をやると、そこには千早ちゃんの姿があった
千早ちゃんはすっと息を吸うと、楽しそうな顔で話し始めた
「みなさん。今日は集まってくださりありがとうございます。認可してくださった方々の協力もあって、今日はこうして、みなさんに歌うことができること感謝しています。みなさん、楽しんでいってください」
集まっていた人達は、ワァッと歓声をあげる
千早ちゃんは目を瞑ると、パッと開いて歌い出した
「______♪」
よく響く透き通った歌声が広場に響き渡った
いつしか私も千早ちゃんが歌う姿をじっと見ながら、その場に立ち尽くしていた
千早ちゃんがわレッスンを抜け出してまで練習場を去っていった理由
もっと歌いたいと言っていた理由
こうして路上ライブをして歌っている理由
そして、人が集まっている理由
それが、私にはなんとなく分かる気がした
みんなで踊っていたときよりも、千早ちゃんは活き活きと歌っていた
伊織が言っていた、歌だけではダメだという言葉をかき消すように、ダンスもしっかりと踊っていた
千早ちゃんは決してダンスが踊れないんじゃない
みんなが知らないところで、ダンスの練習を積んでいたのだ
なんで練習では目立たなかったのだろう
千早ちゃんが歌う姿は、センターを務めてもいいのではないかと思えるもので、
1人のアーティストとして歌っているような千早ちゃんの姿に、私はみとれていたのだった
一致団結
それは大事だと思う
でも、私のその気持ちが迷惑をかけていたのだろうか
千早ちゃんの良さをダメにしてしまうのだろうか
レッスンでも私がまとめることで
みんなの良さをダメにしてしまっていたのだろうか
「今日はありがとうございました」
歌い終わり、バタバタと人が動くなかを、私はかき抜けていった
「千早ちゃん!」
千早ちゃんはハッと私を見る
「春香、来てたの?」
「そうだよ!事務所から飛んで来たよ!」
「…そう」
千早ちゃんは少し顔を曇らせる
やっぱりお節介なのだろうか
私は千早ちゃんの表情に、少し後ろめたさを感じた
「千早ちゃん。ライブすごかったね。思わずみとれちゃったよ」
「そう。それは良かったわ。少し上手くできるか不安だったの」
「ううん。とても良かったと思う。でも…」
私はなんと言えばいいのか分からなかった
みんなに黙って路上ライブをしたりするのは良くないよ
センターは千早ちゃんで良いと思うよ
そのとき、千早ちゃんは空を見て言うのだった
「私がしたことは悪いと思ってる。春香の言う、楽しく、は私は嫌いじゃないわ。とても大事なことだと思う。でも私はもっと歌を歌っていきたいの」
「私がしたことは許されることではないと思う。でも、こうして歌が歌えるなら、私は765プロをやめて、一から始めることになっても良いと思う」
千早ちゃんは私を見て言った
「私も春香の言うように、歌を歌うことで、みんなが楽しく笑う姿は好きよ」
「千早ちゃん…」
私は何を悩んでいたのだろう
わだかまりのない、すっきりとした顔で話す千早ちゃんを見て
私はすっきりとした気持ちになっていった
「ううん。大丈夫だよ」
私は言った
「きっと、ちゃんと話せばみんなも分かってくれるよ。千早ちゃんのこと、みんなも待っていると思うよ」
私は走り出した。
事務所で不機嫌な顔をしている伊織の姿
それからダンスのレッスンが上手くいかなかったこと
いろんなことが頭を過るけれども
私はぶんぶんと首を振る
ダンスが上手な響ちゃん
とても凛々しい顔をしている真
とても元気が良いやよい
落ち着いた表情で頷く雪歩
そろって笑う亜美と真美
清潔な身だしなみで笑う貴音さん
カリスマ性を感じさせるように凛と立つ美希
少し微笑みながら私を見て立つ伊織
みんなを見て見守るように笑うあずささん
いろいろな姿が思い浮かぶのだった
私の個性はなんだろう
私は…
私は少し走るのを止めながらも
空を見て思うのだった
一度事務所に行かなくなって
アイドルをやっている意味が分からなくなったことがあったかもしれない
「ただいま」
そう言ってみんなの元に走っていった頃を思い出す
一致団結
それは間違ってることではないと思う
でも私は、一致団結と言いながら、みんなに迷惑をかけていたところがあったのかもしれない
少し、私は私と、向き合ってみよう
私はそう思った
月日は流れていった
やがて、765プロは大きなライブに出場することが決まった
そして、ライブでの配置を決めるテストが練習場で行われた
曲を流し、一人一人、ライブ同様にマイクを持って歌った
緊張が走るなか、律子さんは何やらメモを取っていたけれども、やがて配置を発表するのだった
「このなかでは、春香が一番踊れてるわ」
伊織も響ちゃんも何も言うことはなかった
千早ちゃんの姿もそこにあった
「今日は美希が来てないけど、今度美希のパフォーマンスも見てから正式な配置を決めるわ」
そういって律子さんはテスト終了の合図をかけるのだった
帰り際、伊織は私に言った
「上手になったわね。私ももっとがんばろうと思う」
次の日、事務所で私は美希に会った
美希は私を見ると歩いて来て言った
「春香、おはよう」
「おはよう美希」
「ミキもさっきダンス踊って来たよ」
「そうなんだ。お疲れ様」
どうだったの。と聞くとミキは言った
「ミキと春香は少し雰囲気が違うところもあるかもね。でも、ミキは春香が一生懸命踊ってるの知ってるから、どっちがちゃんと踊れるかとか、あまり争いたくはないの。次のライブのセンターは春香だって律子さんがいってたよ。春香、よろしくね」
「よろしく。美希」
私の個性はなんだろう
何のためにアイドルをやっているんだろう
そう思うこともあったけど
いつからか私は前向きに、
たんたん、たんたん、と練習をするようになっていった
振り返れば私は、体づくり、健康的な生活習慣、そして練習
私にできる努力を少しずつ続けて来たような気がする
そして、他人に学んでは、自分に必要だと思うことを自分自身でも考え
自分にできなかったことを少しずつできるようになっていった
私はアイドルを見る人達が楽しそうな顔をしているのが良いなと思う
人に元気を与えられるようなアイドルになろう
たまに自分の力の無さを感じたり
まだまだ踊りが上手な人も居たり
パフォーマンスがすごい人もいたりして
自分に自信がなくなったり、思いつめたりすることもあるかもしれない
でもその度にまた、私は少しずつ努力を重ねては、一歩一歩あるいていく
そして、自分が成長したときは喜び
ダンスを見て楽しそうに笑う人を見ては、暖かい気持ちになる
まだ不完全かもしれない
もっと改善しなければいけないことはあるかもしれない
でも私はこの暖かい気持ちを大事にしていきたい
そして、これからも私は少しずつ大きくなっていく
「765プロ CHANGE!!です!」
ワァーッ!
ライブ会場では、沢山の人が歓声をあげていた
そして、私の横で、伊織の笑う声がした
「春香が笑ってると、私達も踊りやすいわ」
完
これで終わりです。
以前、『春香「いつからだろう」』というssが完結しなかったのですが、今回はその改編となります。
話の内容は多少違えども、このような形で完結できたことをうれしく思います。
出だしや文章の感じでひょっとして、と思ってたが本当にあんただったのか!
2年越しくらいだっけか、完結おめでとう
まとめ速報で旧作を読み返した上で言うが文章こそ良くなってても肝心の面白さまで削ぎ落とされてる
伝えたいって意志がきれいさっぱり抜け落ちて無難にまとめよう無難にまとめようとした結果しか感じないよ
時間掛けてでも旧作を清書した方がいいものになると思うよ。正直がっかり
正直最高だった
まるで24話のアニメの別ルートを見てるみたいな気分だった
短くまとめられているのにとても濃く読みやすかった
また是非描いてくれ!
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません