春香「皆んなで楽しく」 (55)
いつからだろう
765プロに変化を感じ始めたのは
いつからか、千早ちゃんは話すときは楽しそうに話すけれども、皆と接することが少なくなり、より歌に没頭するようになった。
雪歩はおどおどとした雰囲気を見ることが無くなり
亜美と真美はどこか幼っぽさがあったところも、だんだん大人びた凛々しい面が見られるようになり
やよいはより元気な姿が見られるようになり
伊織は家柄もあってか、何処か高貴さを感じるような個別での仕事がふえるようになり
響ちゃんは運動神経の発達を見せ、ダンスがとても踊れるようになり
貴音さんも、あずささんも、他のみんなもどこか一人一人、凛々しさや個性というものを表し始め
私は、そんな765プロに少しうずまきを感じ始めていた
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ことを思い返せば、それは、プロデューサーさんが研修に行っていたハリウッドから戻って来たときのことだった
プロデューサーさんは、ハリウッドから様々なスキルを身につけて帰って来た。
長くハリウッドに居た分、少し雰囲気も変わったように見えるプロデューサーさんは、みんなの前でこう話したのだった
「お前達にハリウッドで学んだことを少しでも多く伝えたいと思う。ぜひ、これからの自分達の学びに役立ててくれ」
その場に居たみんなは、何処か緊張した雰囲気を感じながらも、少し目を見開いて、
緊張か、期待か、どことも言えないような顔をしていた。
プロデューサーさんの指導は確かに的確なもので、
指導方法も新しく、レッスンも新鮮でかつ納得するものを感じ、
レッスンは次第により充実したものへとなっていった
そして私は今日、近いうちに行われるライブで踊るダンスの動きを全員で確認するため、練習場に集まっていた
「センターはこのまま春香。みんなも今の立ち位置でいく」
プロデューサーさんの引き締まった声が渡ると、みんな一斉に返事をする
「いい、春香。次のライブは結構大事なものだと思うの。プロデューサーが帰って来てからまだそんなに長くないし、私たちの活動体制がまた固まりつつあるときだと思うから、失敗は許されないわ」
「うん。わかってるよ伊織」
伊織の呼びかけに応えると、千早ちゃんも私の横に来て呼びかける
「春香、頑張りましょ」
「うん。頑張ろうね、千早ちゃん」
ライブの日はすぐにやって来た
会場の中でステージを前に、社長が話をする
「おっほん。皆居るみたいだね。今日も沢山の人達がこのライブを見に集まってくる。皆体調に気を付けつつ、最高のパフォーマンスを披露できるように、よろしく頼むよ」
「はい!」
「よし、それじゃ皆、それぞれ準備を始めてくれたまえ」
皆バタバタと身の回りのチェックを始める
ライブで踊る人以外にも、色々な人達がせっせと動いていて、
隅っこの方では、律子さんと小鳥さんが話をしていて、
会場の中に、千早ちゃんの歌う声が、響き渡った
「千早ちゃん…」
その姿を見ているうちに、私も静かに準備を始めるのだった
会場には沢山の人が集まっていた
ざわざわとした声が会場の中を流れ、人が沢山集まっていることを知らせるには十分なものだった
私は控え室でみんなに呼びかけた
「みんな、今日のライブ気合い入れていこうね」
「おう!」
「いくよ。765プローー!」
「ファイトー!」
一斉に掛け声をあげ、控え室を出てステージへと向かう
「よし、今日のライブ、成功させて見せるんだから」
伊織の鼓舞する声を背にステージへと向かった
「そろそろスタートします!」
スタンバイ位置から会場を覗くと、沢山の人が集まっていた
そして、ライブの開始を促すように、音が鳴り始めた
ダン・ダン・ダン・ダン……
「行くよ」
ステージの真ん中まで歩いて行くと
パッとライトがステージに照らされた
「ARE YOU READY!! I'M LADY!!
始めよう やればできる きっと
絶対 私NO.1」
ダンスには、全体で踊りながらもソロで披露するパートが組み込まれていた
「ハイ!」
私が右手を挙げると
私は後ろに引き下がり
響ちゃんが華麗にステップを踏みながら前に出る
すると、千早ちゃん1人の歌声が会場内に響き渡る
会場からは、お~、というどよめきが聞こえた
美希が高々に手を挙げながら
「みんな!もっともっと盛り上がって行くよ!」
「せーの!」
亜美と真美が掛け声をかけると
「おー!」
会場はワァーと声が上がった
ライブが終わり、会場の撤収が終わると、控え室で伊織がぽんっと椅子に座った
「今日のライブは良かったわ。ひとまず成功ね」
「うん。そうだね。ボクも課題だった所を克服できたような気がするし、良かったんじゃないかな」
真が肩にタオルをかけながらふうっと息をはくと、
「私も今日はちゃんと踊れたような気がします」
と、雪歩が落ち着いた顔でうんと頷く
すると、やよいが大きな声で
「私も今日のライブ、がんばりましたー!」
「あらあら、みんな元気いっぱいね」
あずささんのふふっと笑う声が聞こえ
「ええ、誠に」
と、貴音さんがお湯呑みをすする音がする
そして、社長が控え室に来て、おっほん。と、その場をただした
「えぇ~。諸君。今日はよく頑張ってくれたね。見に来た人達も満足そうだったよ。まだまだこれからももっと765プロは良くなっていくと思う。明日からの活動にも気を引き締めつつ、今日はゆっくり休んでくれたまえ」
「よし、それじゃあ解散だ。今日は皆、ありがとうございました」
プロデューサーさんが一礼すると
「ありがとうございました!」
控え室に大きな挨拶が響き渡った
次の日、私はアイドル活動での仕事があるため、事務局へと来ていた
事務局には伊織も来ていて、何やらスケジュール表をチェックして難しい顔をしていた
「おはよう伊織」
呼びかけると、伊織は私に気がついて、おはようと返す
何か良くないことがあったわけではないみたいだけど、伊織は少し難しそうな顔をしていた
「どうしたの?」
「今週のスケジュールが全部埋まってるの」
「え?」
スケジュールを眺めると、どの日も予定が書かれていて、沢山の文字で埋められていた
「今週だけじゃない。来週も、その次の週も、今月まるまる予定が入ってる」
「そうよ」
私と伊織はしばらく黙って文字で埋まったスケジュール表を見ていた
毎日だんだんと忙しくなっていった
最近、私達のアイドルとしての活動は少し話題になっているようだった
「春香、ちょっといいか」
「はい!」
「ある事務所からテレビ出演の提案が届いてるんだ。これは春香が適任だと思うんだが、どうだ?」
「はい。私やります!」
「そうか。じゃあ、これがスケジュール表だ。頑張るんだぞ」
「はい。ありがとうございます。プロデューサーさん」
「何だったの、はるるん」
「仕事の提案が来てて、そのお話があったの」
「へぇ~がんばってね」
「うん」
「亜美も今からお仕事だから、いってくるね」
「うん。亜美もがんばってね」
「それでは、行ってきます」
「あ、千早ちゃんもがんばってね!」
事務所はいつも忙しかった
誰かが戻ってきては、報告し
誰かが活動しに事務所を出て行っては、また誰かが戻ってくる
そういう生活を送るようになったのは、プロデューサーさんがハリウッドから戻ってきてからのことだった
みんな、りりしく大人びたような面を見せるようになっていった
それはまさしく、成長というものなのだと思う
でも私は、いつからだろう
私は人知れず
まだ出始めたばかりのころの765プロを、
まだおどおどしていた雪歩
まだ幼さを見せていた亜美、真美
まだ上手でも上手く歌えないところもあり、少し引きこもりがちになった千早ちゃん
問題はあれど、まだまだ皆で一致団結してライブを成功させていた頃を、私はどこ暖かく思うことがあるのだった
「皆集まってくれ」
プロデューサーさんがみんなに呼びかけると、みんな、その場に集まる
「皆がいるこの機会に言っておこうと思うが、あと半年くらいしたらとても大きなライブが開催されるみたいなんだ。そのライブには沢山のグループが出場して、大きな大きなライブになるらしい」
プロデューサーさんは続けて話す
「出場するグループは投票によって決まるらしく、沢山のグループが今、一般の人達や様々な人にアピールをしているみたいなんだ。投票結果はあと3ヶ月くらいしてから決まるみたいだが、出場できることが決まったらライブに向けて準備を始めていきたいと思う」
プロデューサーさんは手をグッと握って言った
「まだ出場できることご決まったわけではないが、俺は全力を尽くして頑張ろうと思う。皆ももっと自分の良さを発揮できるようにこれからの活動、レッスンに精進し、大きなライブのことも意識して取り組んでくれ」
「はい!」
「よし、大きなライブに出場するわよ。みんな、仕事にも気合い入れて取り組んで掛かるわよ」
「私、がんばります」
みんな、それぞれ思いを口にする
私はふと大きなライブに出場したときのことを考えていた
………一致団結
その言葉が私の胸をよぎった
「大きなライブかぁ」
よしっ!
と、私は手をぐっと握った
今日は終わりです。あと、1日、2日ほどで完結させたいと思います。また明日
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