藤原肇「も、もうかえっで下さい…!」 (61)
20歳の肇ちゃんが楓さんにPとの恋愛話を根掘り葉掘り聞かれる話
・独自設定多め
・肇ちゃんとPの関係は一作目をお読みいただければ
一作目 藤原肇「はじめる新しい関係、変わらない想いと共に」
藤原肇「はじめる新しい関係、変わらない想いと共に」 - SSまとめ速報
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前作 藤原肇「ふたりでひとつ、ですから」
藤原肇「ふたりでひとつ、ですから」 - SSまとめ速報
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【肇の部屋】
肇「うーん…」ノビー
肇(久しぶりのマストレさんのレッスン…疲れたなあ…筋肉痛にならないようにしないと)
肇(…さて、レポートも書き終わったし、この後どうしようかな)チラッ
肇(18時か…そうだ、Pさんをご飯に誘って…って駄目か、藍子ちゃんのロケの付き添いか…)
肇(…最近、あまりふたりきりで会えてないな…お互い忙しくて電話もなかなかできないし、たまに事務所で会ってもみんながいるからお仕事の話しかできないし…)
肇(……寂しいな……)
肇(……急に私の部屋にPさんが来てくれたり、なんてー)
ピンポーン
肇(え!?も、もしかして本当に!?)ダッ
ガチャ
楓「こんばんは〜♪」
肇「…え」
楓「あら、どうしたんですか、肇ちゃん?はじめまして、みたいな顔をしちゃって。ふふっ♪」
肇「…か、楓さん…?」
ーーーーーーーーーーーーー
楓「ーそれでは、肇ちゃん?」スッ
肇「はい」スッ
楓・肇「「乾杯♪」」チン
楓「…」コクッ
肇「…」コクッ
楓「ふう…やっぱり、お仕事終わりのお酒は格別ですね」
肇「ふふ、そうですね…ところで、楓さん?」
楓「はい?」
肇「どうして急に、私の部屋に?」
楓「…あ。もしかして、ご迷惑でしたか?」
肇「いえ、楓さんとの夕食は大歓迎ですが…いつもは、ご飯に誘っていただく時は事前に連絡して下さるので…」
楓「…っそれがですね!肇ちゃん!」
肇「は、はいっ!?」ビクッ
楓「本当は今日、美優さんのお部屋にお邪魔する予定だったんです!なのに、美優さんの収録現場が押してしまって…」
肇「な、なるほど…」
楓「事務所の冷蔵庫から厳選したお酒を持って、お酒の肴もたくさん買って、意気揚々と女子寮の門をくぐったところで美優さんからの連絡が…ショックでした」
肇「ああ、夕食だけに…」
楓「でも、しょんぼりしながら帰ろうとした時に思い出したんです!肇ちゃんも、この女子寮にいる!しかも、今日がオフだという事に!」
肇「……なるほど」
楓「そんなこんなで、肇ちゃんのお部屋にお邪魔しているというわけで…肇ちゃん、どうしました?」
肇「……」ハイライトオフ
楓「は、肇ちゃん?」
肇「……楓さん」
楓「は、はい」
肇「……私は、美優さんの代わり、なんですね…」ウツムキ
楓「え…」
肇「…楓さんにとって、私は所詮、2番目の女なのですね…」ボソッ
楓「っ!ち、違います!誤解です、肇ちゃん!肇ちゃんも美優さんと同じくらい大好きですよ!?ただ、前々から美優さんと約束していたからですね…!?」
アセアセ
肇「…」
楓「そ、それと、私は肇ちゃんの部屋を知らなかったのに、肇ちゃんに会うために女子寮を探し回ったんです!本当です!肇ちゃんの事も大好きです!し、信じてください…!!」アセアセ
肇「…」
楓「…」オロオロ
肇「…くすっ」
楓「は、肇ちゃん…?」
肇「ふふっ、ごめんなさい、楓さん。ちょっとからかってしまいました」
楓「〜肇ちゃん!!」ダキッ
肇「わっ!?」
楓「もう…びっくりしましたよ…!肇ちゃんに嫌われたら、私は…私は…!」ギュウウウ
肇「ごめんなさい。いつもからかわれているから、ちょっと意地悪してしまいました。大丈夫ですよ、私も楓さんの事は大好きな憧れの先輩ですから…」
ナデナデ
楓「もうっ、肝が冷えましたよ…演技、お上手になりましたね?」
肇「ふふ、皆さんに鍛えていただいた賜物です」
楓「…ズルい女になりましたね、肇ちゃん」プクー
肇「ああ、拗ねないでください…」
楓「ダメです。怒っちゃいました。プンプンですっ」
肇「…もう、どうしたら機嫌を直してくれますか?」
楓「んー…」
肇「…」
楓「なら、そうですね、肇ちゃんとプロデューサーの事、根掘り葉掘りたくさん聞かせてください!そしたら許してあげます」
肇「ええっ!?そ、それは流石に恥ずかしいですっ」
楓「じゃあ許してあげないっ」
肇「か、楓さん…!」
楓「ふふふ、どうしますか?」
肇「……うぅ……わかりました…お話しします…」
楓「そうこなくっちゃですね!さあ、お酒の肴も追加したところで飲み直しましょう♪」
肇「お、お手柔らかにお願いします…!」
ーーーーーーーーーーーーー
楓「そうですねー、ではまずは、肇ちゃんがプロデューサーに出会った時のお話から聞きましょうか」
肇「出会った時、ですか?でもその頃はまだPさんをそういう風には…」
楓「勿論、わかっていますよ。それがどう恋心に変わって行くのか聞くのが楽しいんじゃないですか。コイバナですよ、コイバナ♪」
肇「た、楽しそうですね、楓さん」
楓「楽しいですから♪」キラキラ
肇「(何て無邪気な目で…)そ、そうですね……はじめてお会いしたのはオーディション会場だったのですが、はじめの印象は「おじいちゃんみたいな人」、でしょうか?」
楓「肇ちゃんのおじいちゃん、ですか?」
肇「はい。私、オーディションの時に自作の器を持参してPさんに見せたんです。その時Pさんは「地味な器だ」と…」
楓「まあ…」
肇「それに、私では到底及ばないような華やかな方もたくさんオーディションを受けていて…「不採用」の文字が頭をよぎりました。でも、このまま終わりたくない。どうせなら私の思いの丈を伝えたい。そう思って全部Pさんにお話ししたんです。この世界に挑戦したい、自分という器に何が入れられるのかわからなくても、それでも!…と」
楓「…」
肇「今思えば随分身勝手な事をしてしまいましたが。それでもPさんはじっと私の話を聞いてくれて…」
楓「ええ」
肇「「良い器は、どんなものをも、美しく引き立てます。そんな器に、私を変えていただけませんか?」そう言った私の目をじっと見つめてから、にっこりと笑って一言、「わかった」と頷いてくれたんです」
楓「…」
肇「たった数分の時間でもPさんから、厳しくてもその人の想いをしっかりと受け止めてくれる優しさを感じて。「まるでおじいちゃんみたいな人だな」と。直感で、この世界の良き師に出会えたなと」
楓「なるほど…」
肇「ですからはじめてお会いした時は「多くを語らない寡黙な人」、という印象でしたね。おじいちゃんがそういう人ですので…」
楓「…ふふっ、プロデューサーが「寡黙」ですか…」
肇「今思うと彼なりの背伸びだったのかもしれませんね。オーディションの面接をするのは私が受けたオーディションがはじめてだったそうですし…」
楓「私や早苗さんに藍子ちゃん。プロデューサーは基本的に、どこからかスカウトしてきますものね」
肇「恋人としては、ちょっと複雑です…で、後日、事務所にはじめて伺った時に楓さんや藍子ちゃんに出会って、Pさんの「寡黙な人」のイメージも早速、崩れたのですが…」
楓「懐かしいですね。今でも覚えていますよ。「プロデューサーがはじめてオーディション採用した子がどんな子なのか見てみましょう♪」と藍子ちゃんと一緒に物陰に隠れて…」
ーーーーーーーーーーーーー
【事務所】
P『ーという方針で藤原さんをプロデュースして行こうと思う。他に聞きたい事は無いかな?』
肇『は、はい…』
P『…んー、そんなに緊張しなくてもいいよ…って、そりゃ緊張するよな』
肇『だ、だんだん慣れていけたらと…』
P『大丈夫。みんな最初はそうだから。直ぐに馴染めるよ。都会暮らしで慣れない事もあるだろうけど、何でも俺に頼ってくれ』
肇『…ありがとう、ございます』
P『はは、何だかまだ自分がここにいる事が信じられないって顔だね?』
肇『…実は、そうなんです。正直、オーディションの時は「駄目かもしれない」と思っていましたから…周りにはもっと華やかで素敵な方も沢山いましたし…』
P『藤原さんだって、素敵だよ』
肇『え…』
P『俺が藤原さんを採用したのは、君の強い意志の篭った言葉と目に惹かれたからだ。俺を、『この子の可能性を信じてみたい。どこまで行けるのか見てみたい』って思わせたからだ。あの時、君は確かに、俺をファンにさせたんだよ。アイドル藤原肇の、一人目のファンに』
肇『私の、ファンに…』
P『うん。ひとりのプロデューサーをファンにさせたんだ。そんな君は、間違いなく素敵だよ。そして、もっと、もっと素敵になれる』
肇『…』
P『…藤原さん、窓の外見てごらん』
肇『え…?』
P『たくさんの人が歩いているだろう』
肇『はい…まるで波のように…流石、東京ですね』
P『この波のような人たちみんな、藤原さんのファンにさせよう』
肇『え…?』
P『はじめはみんな無名のアイドルだった。ファンだって俺ひとりしかいなかった。俺が主にプロデュースしている、高垣楓も、片桐早苗も、高森藍子も。それでも、今では日本中の人が彼女たちに夢中になってる。そんなアイドルに君もなれるよ。いや、俺が、してみせる』
肇『…』
P『日本で知らない者はいない、素敵なアイドルを、一緒に目指そう。藤原さん』
肇『…はいっ!』ニコッ
P『…うん。いい、笑顔だ』
楓『お疲れ様でーす♪』ヒョコッ
藍子『ふふ、お疲れ様です、Pさん』ヒョコッ
肇『わっ!?』
P『か、楓さんに藍子!?…い、今までどこに…!?』
楓『ずっとこの書類の山の隙間から覗いていましたよ?』
藍子『最初から最後まで、全部聞かせてもらいましたっ♪』
P『え゛っ…』
肇『あ、あの…!』
楓『あ、ごめんなさい。話を遮っちゃいましたね?』
肇『た、高垣楓さんと、高森藍子さん…ですよね?』
楓『ええ。何を隠そう私が高垣楓です。えっへん♪』
藍子『はい。高森藍子です♪』
肇『お、おふたりの事は以前からテレビで拝見していて…!とっても綺麗で、可愛くて、格好良くて、とっても憧れていて…!』
楓『あら、嬉しい!これから同じプロデューサーの担当アイドル同士、仲良くしましょうね。ところで、あなたのお名前は?』
肇『は、はい…!はじめまして、私、藤原肇と申します…!16歳です!これからよろしくお願い致します!』ペコッ
楓『!』
藍子『藤原肇ちゃん、ですね?私と同い年なんですね!大人びているからてっきり年上の方だと…それなら「藍子ちゃん」でいいよ♪肇ちゃん、こちらこそ、これからよろしくお願いします』ペコッ
肇『…はい!藍子さ…ちゃん!』
藍子『ふふ、私も癖でよく丁寧語で話しちゃうけどタメ口でいいからね?』
肇『な、慣れていきま…いくね!』
藍子『うん♪…あら?楓さん?』
楓『フフ…ンフフ…』
藍子『か、楓さーん?』
楓『フフ…肇ちゃんがはじめまして…フフ…ンフフ…』
肇『あ、あの…?』
藍子『あ、楓さんのツボに入っちゃったみたい。まだあまり知られてないけど楓さん、ダジャレ好きだから…』
肇『そ、そうなんですね…』
楓『…ふう。落ち着きました。改めて、高垣楓です。肇ちゃん、よろしくお願いしますね?わからない事があったら、ドーンと頼っちゃって下さい』
肇『はい…!ありがとうございます!』
楓『いえいえ♪……ふふ、ところで、プロデューサー?』
P『ゲッ……は、はい?』
楓『「藤原さんだって、素敵だよ」』キリッ
P『!』
藍子『「アイドル藤原肇の一人目のファンに」…私もスカウトされた時そんな事を言われたような?』
楓『私も確かそんな事を…なるほど、プロデューサー必殺の口説き文句なんですね?そうなんですね?』
P『ウワー!やめて下さい!他人に言われると無性に恥ずかしい!!』
肇『Pさん…?』
楓『「そんなアイドルに君もなれるよ」』キリッ
藍子『「いや、俺が、してみせる」』キリッ
P『あーーー!!!あーーー!!!』
楓『ふふ、あの時のPさんの真剣な表情、ドラマの俳優さん顔負けでしたね?』
藍子『格好良かったですよ?Pさん』
P『も、もういい!触れないで!忘れて!!あ、あー!!早苗さんを迎えに行く時間だ!!そ、それじゃあ、藤原さん、またね!!』ダダダッ
肇『あ、Pさん!?…行ってしまいました…』
楓『ふふ、私たちのプロデューサーはね、とっても可愛い人なんですよ?』
藍子『いざという時は頼りになって格好良いんだけど…あ、ちなみに、格好付けていたところもあったけど、肇ちゃんに言った言葉は全部本心だから安心してね?』
楓『普段、あまり動じない性格なのに、ちょっとからかうとあんなに慌てて…ふふ、何だか、弟みたいで可愛い人でしょう?』
藍子『流石に年上の方を弟とは…でも、お兄ちゃんみたいな感じはしますね』
肇『…』
楓『…肇ちゃん?』
肇『……くすっ、ふふっ…♪』
楓・藍子(あ、笑顔、可愛い…)
ーーーーーーーーーーーーー
楓「懐かしいですね、あの時のプロデューサー」
肇「ええ。未だに「あの時の事は忘れてくれ!」って言われます」
楓「プロデューサーなりに、可愛い女の子にいいところを見せたかったんでしょうね」
肇「オーディションの面接官の態度がわからなくて、何となくのイメージで寡黙に振る舞った手前、その時作ったキャラを貫くしかなかったらしいです」
楓「ふふ、変なところで真面目なんですから…でも、そういうところが可愛い人でもあるのですけれど」
肇「ええ、そうですね」
楓「さて、そんなプロデューサーに、肇ちゃんはいつから恋心を抱いたのですか?」
肇「あ…やっぱり、その話も聞きたい、ですか?」
楓「勿論♪実は、ちょっと不思議だったんですよ。出会ってしばらくは、肇ちゃんのプロデューサーへの眼差しは尊敬や憧れ、だったのに、いつの間にか恋する乙女の眼差しになっていたので」
肇「…あの、よく言われるのですが、私って、そんなにわかりやすいですか?」
楓「ふふ、残念ながら。まるで、わんこちゃんみたいです。嬉しい時は尻尾をフリフリ、寂しい時はシュンとして」
肇「わ、わんこですか……ちなみに、Pさんといる時は…」
楓「尻尾がブンブンしてますね」
肇「そ、そんなに…!は、恥ずかしい…」
楓「可愛いですよ〜?」ナデナデ
肇「うぅ…」
楓「ささ、早く早く♪」
肇「そ、それが…前にお話ししたように、本当に、気づいたら好きになっていたと言いますか…」
楓「ほうほう」
肇「強いて言えば、私が恋心だと気づいていなかっただけで、今思えば、あの時だったのかな、という瞬間なら…」
楓「あの時?」
肇「ええ。私がはじめて大きな会場でライブをした時の…」
楓「あ、私が肇ちゃんの応援をしてから次の現場に向かった時の、ですか?残念ながら私はお仕事で生では見れなかった…」
肇「はい、そのライブです」
楓「肇ちゃん、ガチガチに緊張していましたね〜」
肇「でも、楓さんに緊張をほぐしていただいて…」
楓「ふふ、こっそり近づいて、後ろから背中をなぞったら「ひゃんっ!」って♪」
肇「ええ、素っ頓狂な声を出してしまって…もの凄くびっくりしましたけど、お陰でリラックスして歌えました。あの時は本当にありがとうございます」
楓「いえいえ♪…では、本題に戻りましょうか!」ワクワク
肇(…楓さん、さりげなく話題を変えられるかと思いましたが、ごまかせませんでしたか…)
ーーーーーーーーーーーーー
【舞台裏】
ワアアアアア…
肇『Pさん!Pさん!見ていてくれましたか!』
P『ああ…!最高だった!!』ギュウ
肇『あ…』
ドクン
肇(…!?)
P『…あ!ご、ごめん、藤原さん!つい感極まって…』サッ
肇『…』
P『藤原さん…?』
肇『あ…いえ、何でも、ありません…』
ドキドキ…ドキドキ…
P『そ、そっか…』
肇『は、はい…』
肇(何だろう…この不思議な感覚…ライブの緊張感から解放されたのに、胸の鼓動が鳴り止まなくて…?)
P『…あのさ』
肇『…あ!は、はい!』
P『本当に、最高のライブだった。確信したよ。必ず君は、君だけのアイドルの色を手に入れられる!もっと彩のある、大きな器になれるよ』
肇『…っ!ありがとうございます!』
P『オーディションの時に感じた感覚は、やっぱり間違いじゃなかったよ。本当に、君を信じて良かった』
肇『そう言っていただけて、嬉しいです…!』
P『今日が、アイドル藤原肇のはじめの一歩、だな!』
肇『…くすっ、肇だけに、ですか?』
P『あー……見れなかった楓さんの代わりに楓さんのマネをしたつもりなんだけど、やっぱり恥ずかしいな…』
肇『いえいえ、お上手でした。楓さんにも、後でお礼を言っておきます』
P『…うん。そうだな。あ、俺がダジャレ言ったのはからかわれそうだから内緒で』
肇『ふふ、了解しました』
P『気を取り直して、兎にも角にも最高のライブだった!感動した!その一言に尽きる!』
肇『はいっ!』
P『これからもふたりで、上を目指し続けようなー』
P『ー藤原さん!』
ズキン
肇『あ…』
P『え?』
肇(胸が痛い…どうして…嬉しいはずなのに…ライブも成功して、Pさんに喜んでもらって…)
P『藤原さん?』
ズキン
肇(…あ、名前…)
P『おーい、藤原さん?疲れちゃったか?』
肇『あ、いえ……あの、Pさん』
P『ん?』
肇『ライブが成功したご褒美、と言うのも厚かましいですが…ひとつ、お願いがあるのですが…』
P『お、おう、いいぞ。でも、あまり経済的余裕が無いから安いものだとありがたいかな、はは』
肇『いえ、お金はかからないものです』
P『あ、そうなのか。何だ?』
肇『その…名前を、呼んでいただけませんか?』
P『名前を?』
肇『ええ。名前、呼んでください。男っぽいけど、おじいちゃんに貰った名です』
P『ああ…藤原さんが大好きで尊敬している方、だったな…いいのか?俺が呼んでも』
肇『勿論です!皆さんも名前で呼んでくれてますし、遠慮なさらず』
P『そっか…じゃあ、改めて!』
肇『はい!』
P『今日はお疲れ様!最高のライブだった!これからも、上を目指し続けようー』
P『ー肇!』
肇『…はいっ!』
スタッフ『Pさーん、ちょっといいですか?』
P『あ、はい!じゃあ、肇。また後で!』スタスタ
肇(…)
肇(…あ…胸の痛みが消えてる…)
肇(…どうして急に、Pさんに名前で呼んで欲しいと思ったんだろう…?)
肇(…「肇」。大好きなおじいちゃんに貰った私の名前。家族や友だち、アイドルになって出会った仲間たち、私を応援して下さるファンの方…大好きな人たちに呼ばれると、嬉しい。幸せに感じる…)
肇(…Pさんに呼ばれた時も、嬉しくて、幸せで…それでも、何か、何かが…違う?それに、Pさんに抱きしめられた時のあの感覚は…?)
肇(……この感情は……?)
ドキドキ…ドキドキ…
ーーーーーーーーーーーーー
肇「…というわけでして…」
楓「んん〜〜!肇ちゃん!」ガバッ
肇「か、楓さん!?」
楓「そこまでプロデューサーにときめいといて、どうしてその感情が恋だと気づかないんですか!まったくもう!肇ちゃんのウブ!可愛いです!」ナデナデ
肇「よ、酔ってますね!?し、仕方ないじゃないですか!恋なんてした事なかったし、それまでPさんは尊敬しているプロデューサーだったんですから!」
楓「尊敬の憧れがいつの間にか恋愛の憧れに…!少女漫画ですか!つくづくその場にいられなくて残念です!もう!」ナデナデ
肇「く、くすぐったいです楓さん…!」
楓「それで、肇ちゃんのアプローチがはじまったのですね!」
肇「ま、まあ…そうなります。アプローチ、という自覚は無かったのですが…」
楓「そうだったんですか?」
肇「この感情が恋だと気づくのに、大分時間がかかりましたから……いえ、本当は気づいていたのに、自覚するのが怖かったのかもしれませんね…」
楓「プロデューサーに恋をした事で、今の関係が変わるかもしれないのが怖かった、と」
肇「ええ。そこからは、楓さんたちに相談した通りです……たくさん悩んで、正々堂々想いを告げると決めて、そしてバレンタインデーの日に告白をしてー」
楓「お付き合いをはじめたと!」
肇「はい…と、当分は私たちの関係は隠していたはずなのですが…」
楓「ふたりとも不器用ですからね、バレバレでしたよ?」
肇「や、やっぱり…」
楓「あら、顔真っ赤にしちゃって可愛いですね♪」プニプニ
肇「も、もういいですか?根掘り葉掘り話しました、よね?」
楓「ふふ、いいお酒の肴でした。実は、肇ちゃんが恋に落ちた瞬間って、結構私たちの間でも謎だったんですよ?「気づいたら好きに」とお聞きしてはいましたが、あのライブの時とは。スッキリしました♪」
肇「今、振り返ってみると、ですけどね。ご相談した時は、本当に「気づいたら好きになっていた」としか言えませんでしたから…」
楓「ふふ、恋、ですねえ…」
肇「そんなしみじみと……はぁ…」
楓「どうしました?」
肇「いえ、実は、最近Pさんとふたりきりの時間が取れていなくて…楓さんと話していたら、会いたいなあと思ってしまって…」
楓「あら……確かに、おふたりとも最近忙しいですものね」
肇「寂しくて……せめて、電話だけでもしたいけれど、ご迷惑じゃないかなと思ったらできなくて…」
楓「…ふふ」ナデナデ
肇「楓さん…?」
楓「…似た者同士、ですね」
肇「え…?」
楓「つい最近、プロデューサーから同じような相談をされました。「ふたりで会えなくても、せめて電話でもいいから、肇と話したい。だけど、忙しい肇の迷惑にならないかと思うとできないんです」と」
肇「Pさんが…?」
楓「ふたりとも、相変わらず不器用ですね。そして、優しい人です。付き合う前から変わらない、とっても素敵な、私の大好きなふたりです」ナデナデ
肇「楓さん…」
楓「私は、あまり恋愛経験豊富というわけではありませんけれどー」
楓「ーもっと欲張っても、いいと思いますよ?ずっとふたりの恋路を見守ってきたお姉さんが出来る唯一のアドバイスです♪」
肇「……もっと、欲張っても、いいんでしょうか…」
楓「ええ。何なら、今から電話してみたら如何です?」
肇「え、今から…ですか?」
楓「藍子ちゃんのロケも終わっているはずです。思い立ったら何とやら、ですよ?」
肇「…そう、なのでしょうか」
楓「そうなのです♪」コクコク
肇「でも…」
楓「迷った時は、自分がどうしたいかに従った方が楽になれますよ?肇ちゃんはいつも頑張っているんですから。たまには大好きな恋人さんに甘えないと、ですよ。肇ちゃんは、プロデューサーとお話ししたくありませんか?」
肇「…そ、それは……話し、たいです…」
楓「ふふ、なら、やるべき事はひとつですね!何なら、私は席を外しましょうか?」
肇「い、いえ!そんなー」
プルルルル…
楓「あ、電話ですね。もしかして、プロデューサーからだったり?」
肇「そんなまさか……あ」
楓「!当たり…ですか?」
肇「は、はい…!Pさん…!」
楓「ほら、肇ちゃん。早く出ないと切れちゃいますよ?」
肇「あ!そ、そうですね!……で、では!」ピッ
P『あ、もしもし、肇か?』
肇「は、はい!肇です」
P『あー、今、大丈夫か?』
肇『はい!大丈夫です。どうされたのですか?』
P『いや、どうしたというか、その…』
楓「…」スススッ←肇の携帯に耳を寄せてる
P『肇と、話したいなあって…』
肇「え…」
P『最近、忙しくて、ふたりの時間取れてなかっただろ?実は、電話だけでもしたかったんだけど、肇の迷惑じゃないかなと思ったら電話できなくて…って事を、さっき藍子に話したら「肇ちゃんに電話して下さい!今すぐ!私は聞きませんから!」って言われちゃってさ…何と言うか、情け無い話なんだけど…』
肇「……くすっ」
P『肇?』
肇「楓さんの言う通り、似た者同士でね、私たち」
P『え…?あ、もしかして、肇も?』
肇「はい。私も似たような相談を楓さんにしていたところです。何なら、今からPさんに電話をかけようと…」
P『あー…そうなんだ…何か、俺たち多いな、付き合う前から、こういうの』
肇「ふふっ、本当ですね。楓さんに、「もっと欲張ってもいいと思う」と言われてしまいました」
P『はは、俺もそう言われた…欲張る、か…いいのか?』
肇「…勿論です。私は、Pさんと共に過ごす時間が何よりも幸せですから…Pさんこそ、ご迷惑じゃありませんか?」
P『…まさか。俺だって、幸せだよ』
肇「それでは、お互い、丁度いい欲張りを探していきましょうか」
P『何か、バレンタインデーの時に俺が言ったセリフみたいだな』
肇「ふふ、そうですね。でも、流石にもう暴走はしませんよ?」
P『わかってるって……それじゃあ、まず、お互い電話したい時には素直に電話してみる、というのはどうだろう?』
肇「…ええ!名案ですね!」
P『…恋って、難しいなあ』
肇「本当に…」
P『俺たち、好きな気持ちはずっと変わらないのに、いつも遠回りしちゃうな』
肇「ですが、それも価値のある遠回り、ですから」
P『ああ、そうだな……あ、そうだ。肇?』
肇「はい?」
P『早速ひとつ、欲張ってもいいか?』
肇「勿論です。何ですか?」
P『愛してるよ、肇』
肇「っ!?あ…!Pさん!そんな急にー!」
P『こんな感じで、想いを素直に口にする欲張り、聞き入れてくれるか?』
肇「いつも恥ずかしがってなかなか言ってくれないのに、急にそんな…!あ!か、楓さんもいるんですよ!?」
P『はは、東京に戻ったらちゃんとからかわれるよ。それまで犠牲になってくれ、肇』
肇「ヒドいです!言われる方も恥ずかしいんですよ!?」
P『まあ、こっちは今、周りに俺しかいないし、いいかなって』
肇「あー!ヒキョウです!!」
P『それで、肇はどうなんだ?』
肇「え…」
P『俺の事、どう思ってるのか、聞きたいな』
肇「そんな…!楓さんの前で…!」
P『俺は、藤原肇を、愛してるよ』
肇「〜〜〜〜!!!!!」
楓「応えてあげないんですか、肇ちゃん?」ニコニコ
肇「うぅ…わ、わかりました!わかりましたよ!Pさんの意地悪!」
肇「…スゥ」
肇「…わ、私も、Pさんをー」
P『藍子ォ!?』
肇「!?」
P『ウ、ウソだろ、いつからそこに…最初からァ!?え、「私は聞かない」って言ったじゃん!!』
肇「あ、藍子ちゃん!?」
P『というか、待て藍子!そのスマホは…まさか、写真を?…ど、動画!?待て、もっとダメだ藍子!あ、こら逃げるな!!』
肇「Pさん!?」
P『すまん肇!聞いての通り緊急事態だ!あ、そうだ!俺がそっちに戻ったら久しぶりにデートしような!それじゃあ!!』
ツーツー…
肇「あ…切れちゃった」
肇(…もう、やっぱり、締まらないなあ私たち…でも、ある意味、私たちらしい…のかな?)
肇(別れ際にデートの約束もしてくれたし、これも楓さんのおかげ……楓さん?)
楓「…」ニコニコ
肇「あ……」
楓「…」ニコニコ
肇「……あの、全部、聞いていました……よね?」
楓「勿論♪」ニコニコ
肇「あ……あー!!は、恥ずかしいぃぃ!!」ジタバタ
楓「はーい、肇ちゃん、枕に顔を埋めてないで、出てきて下さーい♪」
肇「忘れて下さい!全部忘れて下さいぃ!!」
楓「あら、私のアドバイスのおかげであんなにイチャイチャできたのに?」
肇「う…!それを言われると…弱いですけど…!」
楓「ふふ、お酒の肴追加決定、ですね?」
肇「え!?」
楓「今回のお礼です♪先ほどは肇ちゃんとプロデューサーがお付き合いするまでのお話でしたからー」
楓「ー今度はお付き合いした後のお話を、根掘り葉掘り、たっぷり聞かせて下さいな♪はじめてのデートとか、ファーストキスの思い出とか、そんな甘いお話を……ふふ、明日はふたりともオフですからね、今夜は、寝かせませんよ?」
肇「」
楓「さて、お酒も注いだところで、楽しい夜をはじめましょうか、肇ちゃん?ふふっ♪」
肇「…か、楓さん!」
肇「も、もうかえっで下さい…!」
本当は肇ちゃんが色んな人と話す短編集にする予定が、肇ちゃんを可愛がる楓さんという電波を傍受したため急遽、路線変更しました。
そちらは次回に回せたらと。
それでは、今回もお付き合い下さりありがとうございました。楓さんはかわええで。
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