藤原肇「ふたりでひとつ、ですから」 (47)
20歳の肇ちゃんがPと藤原家へ帰省した話
前作 藤原肇「ふたりで酌み交わす、はじめてのお酒」の続編
藤原肇「ふたりで酌み交わす、はじめてのお酒」 - SSまとめ速報
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・独自設定かなり多め
・肇ちゃんとPの関係は一作目をお読みいただければ
ハンズ事務所の肇ちゃんSS
藤原肇「はじめる新しい関係、変わらない想いと共に」
藤原肇「はじめる新しい関係、変わらない想いと共に」 - SSまとめ速報
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藤原肇「ハンズ事務所?」
藤原肇「ハンズ事務所?」 - SSまとめ速報
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【岡山のとある田んぼ】
肇「ーどうですか、Pさん。素足の指の間から泥が出ていく感触は?」
P「おお…慣れてくると、確かに気持ちいいなコレ」ズボズボ
肇「ふふ、そうでしょうそうでしょう」
P「何だかいいリフレッシュになる気がするよ。天気もよくて心地いいな」
肇「Pさんはいつも働きすぎなんです。たまにはゆっくりしないと駄目ですよ?」
P「どうも仕事に熱中してしまってな…」
肇「それにはみんな心から感謝していますが…決して無理をして、倒れたりしないで下さいね」
P「気をつけるよ。肇を心配させたくないし」
肇「ありがとうございます。でも、もし辛い時は、遠慮なく私を頼って下さいね」
P「…うん。辛い時は…恋人に、頼る事にするよ」
肇「!…はい♪……あ、Pさん、見て下さい」
P「どうした?」
肇「ほら、カエルさんです」ヒョイッ
P「お、ホントだ。そういえば前にここに来た時もカエルがいたな」
肇「ええ。もしかしたら、あの時のカエルさんかも…またお手伝いに来てくれたんですかー?」チョンチョン
カエル「ゲコゲコ」
肇「ふふ、「そうだぞー」ですって♪可愛いですね」
P「…ああ。可愛いな」
肇「小さいのに、ピョンピョン跳ねる姿が愛らしくて癒されますね。踏まれないようにこのカエルさんを安全なところに移してきますね」ズボズボ
P(…可愛いのはカエルもだけど、それではしゃぐ肇もだよ)
P(はは、よく肇には「鈍感」って言われるけど、お互い様だよなあ?)
肇「Pさーん、移動させてきました!」ズボズボ
P「おう!戻ってくる時、転ぶなよ」
肇「もう、大丈夫ですよ。私だってあの時とは…きゃっ!?」ズルッ
P「ああ、もう言わんこっちゃない!…よっ…と!」パシッ
肇「あ…ありがとうございます…」
P「やっぱり肇はドジだなあ…間一髪っ!?」グラッ
P(あ!?ヤバい、泥に足を取られてー!)
ドボーーン!!
ーーーーーーーーーーーーー
肇母「ーそれで、肇だけでなくPさんも泥だらけになって帰ってきた、と」
P「………面目無いです」
肇母「…くすっ、別に、怒っているんじゃありません。ただ、玄関を開けたら泥だらけで真っ黒のふたりが気まずそうに立っているんですもの。面白かったなあと♪」
P「お恥ずかしい…」
肇母「いえいえ、お気になさらず♪」
P「あ、今さらですが、作務衣、ありがとうございます。それと、シャワーも先に浴びさせていただいて…」
肇母「私の夫が昔着ていたものですが、サイズが合ってよかったです。シャワーは当然です。肇の恋人さんなのですから」
P「あー…はは…」
肇母「あら?肇のプロデューサーさん、とお呼びした方がよかったでしょうか?」
P「あ、いえ……その、改めて、昨日は驚かれたでしょう?」
肇母「何がです?」
P「いきなり「肇さんと結婚を前提にお付き合いしています」何て言ってしまって…肇さんは、東京での肇さんの様子を報告する為に僕も付いて来ると伝えていたようですし、さぞ驚かせてしまっただろうな、と…」
肇母「いいえ?」
P「え?」
肇母「確かに、夫と父は大分不意を突かれたようでしたが、私個人は「あら、やっぱりね」と」
P「え、知っていらしたんですか!?」
肇母「うーん…それも、いいえ?」
P「え?」
肇母「強いて言えば……女の勘、でしょうか」
P「お、女の勘、ですか」
肇母「肇、わかりやすいんですもの。電話をしていても、あなたの話になるといつも無意識に声が明るくなってましたし。何より昨日、ここに来たふたりを見れば一目瞭然です」
P「そ、そんなにデレデレしてましたか、僕たち…」
肇母「逆です」
P「逆?」
肇母「わざとキッチリと振る舞おうとしているのがバレバレです。それでも肇がたまにあなたに送る熱い視線はごまかせていなかったですけどね?」
P「な、なるほど…」
肇母「逆にウチの男性陣が鈍過ぎるんです。しばらく会っていなかったとはいえ、20年も肇の父親とおじいちゃんをやっているのだから、ねえ?」
P「はあ…」
肇母「……それにしても、肇も恋人を作るようになるとは、何だか感慨深いものです。昔は男の子と混じって山でクワガタを取ってくるような子だったんですよ?髪も短くて、いつもボロボロになって帰ってきて」
P「…そうだったんですか」
P(でも、カエルとの触れ合いを見る限り想像つかない事もないかな…)
肇母「だから、あの子が急に髪を伸ばしはじめて「アイドルになりたい」と言った時は、少しびっくりしました…それでも、肇が自分で決めた生き方ですから。私は応援しましたけど、あの子がオーディションを受けに行く新幹線を見送る時、親として堪らなく不安になりました。せめて、結果が駄目でもあの子の心が傷つかないで帰って来てほしい、と」
P「…」
肇母「そして、数日後。あの子が帰って来た時の笑顔は今でも忘れられません」
P「…」
肇母「あ…すみません。つい、話が脱線してしまいましたね」
P「いえ…そのお話も、お聞きする事ができてよかったです」
肇母「ふふ、ありがとうございます…話を戻しますと、私たちにとって、肇は明るく元気いっぱいな子としての印象が強いんです。それが、いつの間にかあんなに落ち着いた大人の女性らしくなって…それに、こんなに素敵な恋人まで、と」
P「い、いえそんな…」
肇母「ご謙遜なさらずに♪昨日、肇からたくさんあなたのお話は聞きましたから」
P「え?」
肇母「あなたがホテルにお帰りになった後、夫と父が「彼のどういうところがいいんだ」って肇に迫るものですから。色々お聞きしましたよ…「あんなこと」とか、「そんなこと」とかなさってるんですね?」
P「あ、あんなこととかそんなことまで話したんですか!?」
肇母「ええ、一緒に事務所のお掃除をしたり、水族館に行ったり、というお話を」
P「あ、ああ、そういう…」
肇母「…はて、一体、Pさんは何と勘違いなさったんですか?」
P「え!?えっと…いや、その」
肇母「…なるほど」
P「え?」
肇母「肇の言う通り、可愛い人ですね」
P「か、可愛い人と肇…さんは、言ったんですか?」
肇母「肇、でいいですよ?…ええ。「お父さんとおじいちゃんみたいな可愛い人」と」
P「それは…男としては複雑な…」
肇母「…くすっ、夫と父もそんな顔をしていました。「男らしくていざという時に頼り甲斐のある、とっても優しい人」とも言っていたので、ご安心を♪」
P「あ、ありがとうございます……あの、それより、肇…のお父様とおじいちゃんは僕を、その…」
肇母「そちらもご心配なく。夫も父もあなたの事はちゃんと認めていますからね。ただ、何と言いますか…そう、寂しかったのでしょう」
P「寂しかった、ですか?」
肇母「ええ。先ほど言ったように私たちがよく知る肇はまだまだ子どもでしたから。それがいつの間にか、素敵なアイドルになって、さらに結婚を前提にお付き合いしている恋人まで作って…肇が成長して、どんどん遠くに行ってしまうような気がして寂しかったのでしょうね。だから、「彼のどういうところがいいんだ」なんて悪あがきを…ふたりとも、あなたの人柄の良さはなんとなく感じ取っているはずなのに、ねえ?」
P「…」ポリポリ
肇母「結果として、肇からあなたとの惚気話を聞かされて、ふたりとも更にダメージを受けていましたけどね?」
P「そんなに惚気たんですか、肇は?」
肇母「それはもう幸せいっぱい、という感じでしたね。お酒も入っていたものですから余計に…ちなみにあの子は、あなたに抱き締められてあなたの胸の鼓動の音を聴くと、とても幸せを感じるらしいです」
P「は、肇…」
肇母「ふふ、肇も寝た後で、夫と父が縁側でお酒を引っかけながら語り合ってましたよ。夫たら、「お義父さんも、かつてこんな気持ちだったんですね…」ですって。そこから男ふたり、背中を震わせて…ふふ。すぐに結婚するわけでもないのに」
P「…そう、だったんですか」
肇母「ええ。ですから、ご心配なさらずに。元々あなたの事は「東京は危ないところだが彼になら肇を任せられる」なんて言っていた人たちなんですから。それに、肇のあの幸せそうな顔を見たら、駄目だなんて言えませんよ」
P「ありがとうございます…えっと」
肇母「お義母さん、でいいですよ」
P「…お義母さん」ペコッ
肇母「よろしい♪…いえいえ、私はお礼をされるような事はしていません。Pさんがあの子を真っ直ぐに愛してくれた結果ですから…ふふ、それにしても」
P「?」
肇母「血は争えない、と言いますか…あの子も年上の方と結ばれるのか、と」
P「と、おっしゃいますと?」
肇母「私も、それに私の母も、ちょうどあなたと肇くらいの歳の差なんですよ?」
P「あ、そうだったんですか」
肇母「ふふ、母から聞いたことがあります。「お父さんも頑固だけど、私がそれ以上に頑固だったから結婚できたのよ」って。母は元々、陶芸家の父のお知り合いの娘だったんです。陶芸に打ち込む父の姿に一目惚れをして、何度もアプローチをかけたとか」
P「一度、写真を拝見させていただいた事があります。若い頃の写真でしたが、とてもお綺麗な方でした」
肇母「ああ、着物を着ている写真ですね?前に肇も着ていた…祖母と孫ですから当たり前かもしれませんが、肇、母に似ているでしょう?」
P「ええ、びっくりしました。特に目元がそっくりですね…それに」
肇母「それに?」
P「お義母さんも、とてもお綺麗です。肇もいつか、こんな素敵な女性になるのかなと」
肇母「まあ、嬉しい♪流石プロデューサーさん、お上手ですね?まさか、私もアイドルにスカウトですか?」
P「はは……いや、待てよ…母娘アイドル、アリかもしれませんね…」
肇母「ちょ、ちょっと、Pさん?」
P「……何て、冗談です」
肇母「そ、そうですよね?」
肇母(その割には目が本気だったような…)
肇母「…は、肇、そろそろ上がる時間ですかね。タオルを持っていかないと……あ、最後に、Pさんにお願いが」
P「はい」
肇母「藤原肇という器の、片割れになって下さい。Pさん」
P「…肇という器の片割れ、ですか?」
肇母「ええ…シンデレラガール、でしたか。勿論、私たちにとって肇は誰よりも愛しく、素敵で可愛い女の子です。ですが、アイドルというのは、それを何十万、何百万の方に認めさせるようなお仕事でしょう?あの子も頂を目指し、少しずつ名を上げてきているようですが、それに伴って楽しい事ばかりでなく、きっと、私たちには想像も出来ない辛い事もたくさんこれから待ち受けているかと思います」
P「…」
肇母「そんな時に必要なのは、誰かが心の支えになってくれる事。父がかつて言っていました。「辛い時、あいつがいてくれたからここまでやってこれた。俺という器は、俺とあいつのふたりでひとつなんだ」と」
P「ふたりでひとつ…」
肇母「その言葉は私の心に強く残っています。私も、夫と結ばれて大分経ちますが、今でもこの言葉を胸に秘めているんです。「あの人の器の片割れになれるように」と。勿論、私という器にとっても夫は大切な片割れです。ふたりでひとつ、ですから」
P「…いい言葉ですね」
肇母「…そう思っていただけて、嬉しいです。あなたが肇の恋人で、本当によかった。心から、そう思います。それでは、少し失礼しますねー」
P「お義母さん」
肇母「ーはい、何でしょう」
P「…お約束します。僕のすべてをかけて、藤原肇を幸せにします。僕が、肇の器の片割れになれるように……それと」
肇母「…はい」
P「僕という器にとっても、藤原肇は大事な片割れです。少し照れくさいですが、その事を彼女にきっと、伝えます」
肇母「…はい!あの子を末長く、よろしくお願いします。Pさん……それでは」パタパタ
P(…)
P(…藤原肇という器の片割れに。そして、ふたりでひとつ…)
P(…この言葉、大切にしよう)
肇「…Pさん」コソッ
P「お、肇。上がったか」
肇「ええ…あの、先ほどは本当にすみませんでした…」
P「いやいや、気にするな。それにしても、お互い誰だかわからないくらい真っ黒だったな!ふたりしてみんなに笑われちゃったなあ…楽しかったよ」
肇「うぅ…」
P「ほら、恥ずかしがってないで出てこいって」
肇「はい…」ヒョコッ
肇「…あ、それ、父…いえ、お父さんの作務衣ですか?」
P「うん。お借りした。肇も作務衣か」
肇「お母さんの言ってたペアルックってこういう事だったんだ…」
肇母「ええ。ふたりともお揃いの作務衣、似合ってるわよ?若い頃のおじいちゃんとおばあちゃんみたい」
肇「え?おばあちゃんも作務衣を?」
肇母「うん。私が産まれる前は、たまにおじいちゃんに陶芸を教えてもらってたみたい。私と同じく、才能はからっきしだったみたいだけど」
肇「そうだったんだ……おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に陶芸を……えへへ」
肇母「ほーら、惚けないの。よし、それじゃあ私は夕飯の支度をするから、肇はPさんと散歩でもしてきなさい」
肇「え?手伝わなくていいの?」
肇母「いいのよ。久しぶりに帰ってきたんだもの。母の料理をたくさん食べさせてあげる。昨日はふたりとも夕飯食べてきちゃってたしね」
肇「え、えっと、それじゃあ…」
P「…お言葉に、甘えようか?」
肇母「ええ。甘えちゃって下さい。さあ、さあ。後は若い者同士で♪」グイグイ
肇「わわっ、押さないでよっ…それじゃあ、Pさん、お散歩しましょうか?…もしよろしければ、案内したい場所があるんです」
P「ん。是非。それじゃあ、お義母さん、失礼します!」
肇母「ええ。また後ほど」フリフリ
肇「え?今、Pさんお母さんの事…」
P「な、何の事だろうな?さ、行くぞ肇!」スタスタ
肇「あ!お、置いてかないで下さい!」トテトテ
肇母(…)
肇母(私とあの人も、あんな感じだったのかしら…あれがPさんにだけ見せる肇か…確かに、ちょっと妬けちゃうわね♪)
肇母(…あ、それとPさん。母も私も、10歳近く年上の方と結ばれましたが、何故だか結婚後には、旦那さんが奥さんに頭が上がらなくなってしまうんです。ふふ、何故でしょうね?)
肇母(肇は、おじいちゃんや父親の少し頑固なところも、おばあちゃんや私の、少しズルいところも受け継いで併せ持っていますから。なかなか強敵ですよ?)
肇母(…ふふっ、ファイトです、Pさん。そして、何よりー)
肇母(ーおめでとう、肇。素敵な方に出会えて、本当に、良かったね…)
ーーーーーーーーーーーーー
P「ーそれで、「付いてきて下さい」と言われるままに歩いてきたけど、どこまで行くんだ?」ザッザッ
肇「もう少しで着きますから、内緒です」ザッザッ
P「散歩というか、軽く登山になってないか?いつの間に山道に…体力がそろそろ尽きそうなんだけど…」
肇「もう、だらしない事言わないで下さいよ」
P「そうは言っても田んぼの収穫の後にこれは…よく体力が持つなあ、肇」
肇「ふふ、日々のレッスンの賜物です」
P「流石はアイドルだな…」
肇「ありがとうございます…ほら」スッ
P「ん?」
肇「普段導いていただいている分、今日は私がPさんを導きます。手、取って下さい」
P「…おう、ありがとう、肇」ギュウ
肇(あ、恋人繋ぎ…)
P「…でも、少し肇のペースはきついから、一緒にゆっくり歩いて行くのは駄目かな?」
肇「…いいえ。たまにはゆっくり歩く事も大切、ですよね?」
P「ん。じゃあ、行こうか」
肇「はい♪」
肇(…ふふ、もう知っているんですよ。Pさんは返事がそっけない時ほど照れているって)
肇(手を繋ぐ以上の事もとっくにしているのに…本当に、可愛い人…)
ーーーーーーーーーーーーー
P「おーい、肇?まだ目を開けちゃ駄目か?」
肇「はい、もう少し、あっ、足下に気をつけて……はい、目を開けていいですよ」
P「ん…」パチ
P「!」
P「お……おお……!!」
肇「ふふ、如何です?」
P「これは……何というか……上手く言葉に出来ない。とにかく、綺麗だ」
肇「これが備前の自然の風景です。美しいでしょう。それに、丁度夕暮れ時で一層、綺麗です」
P「これは確かに見せたくもなるな…ありがとう、肇」
肇「いえいえ。もう少し秋も深まれば美しい紅葉が見られるんですよ。ですから、次は紅葉の季節にー」
P「行こうよう、か?」
肇「…」プクー
P「…ごめん…最近、ますます楓さんに似てきたな、肇」
肇「…私の憧れの人ですから。それより、Pさん?ネタ潰しは禁じ手です」
P「以後気をつけます…」
肇「ふふ、よろしい……ちなみに、この場所をPさんに見せたかったのは、風景が綺麗だからだけではないんです」
P「え?」
肇「この場所は、私が昔から悩み事がある時いつも来ていた場所なんです。この場所に来るまでの道中、悩んで悩んで、それからこの風景を見ると、何だか迷いが晴れたような気がして。陶芸で挫折しかけた時も、家族にアイドルになりたい事を打ち明けるか悩んだ時も、私はこの場所に来たんです」
P「そうだったのか…」
肇「私だけの、秘密の場所だったりします。だからこそ、あなたにも一緒に見て欲しかったと言いますか…」
P「…と言うと?」
肇「悩んだ日々があったから、今の私があるんです。ここに、確かに。いつも悩んでいてばっかりの私だったけれど、あの頃より私は確かに成長した。そう思っています。我が儘かもしれませんが、今の私を、大切な思い出が詰まったこの風景に、大切なあなたと共に見せたかったんです」
P「肇…」
肇「ここに来ていた頃の私に話したら、泣いてしまうかもしれませんね。きっと、夢みたいって言って…でも、あの頃の私が見ていた夢は、夢で終わりませんでした。あなたが私を見つけてくれたから。私を愛してくれたから」
P「…」
肇「もう何度も言った言葉ですが、改めて。今日までありがとうございます、Pさん。そしてこれからも、末長くよろしくお願いします。大好きなPさん!」
P「…」クルッ
肇「…もう、顔、背けないでください。私も、ちょっと、恥ずかしいんですから」
P「…ああ。そうだな」グスッ
肇「…!Pさん、涙が…」
P「……ああ、うん。何だか…無性に泣けてきた。好意をストレートに伝えすぎだ……チクショウ、こっちこそ末長くだよ!」ワシャワシャ
肇「わあっ…もう、照れるとすぐ髪をぐしゃぐしゃにしちゃうんですから…」
P「さらさらしてて触り心地いいんだよ……肇」
肇「……はい」
P「俺の方こそ、ありがとう。肇に出会えて、見た事もない景色をたくさん見させてもらった。夢を、見させてもらった。俺の、心から愛しい人になってくれた。本当に、ありがとう」
肇「Pさん…」
P「…」
肇「…」
P「…なあ、肇」
肇「…はい」
P「……キス、しないか?」
肇「……はい。奇遇ですね。私もそうして欲しいなあと思っていたんです」
P「うん。こっちも何だか無性にキスしたくなった。肇の大切な思い出のこの風景に、見せつけてやろう。この場所で、また新しい思い出を作ろう」
肇「ふふ、そうですね」
P「…じゃあ、肇。目、瞑って…」ギュッ
肇「…はい」
P「ん…」
ティロン♪
P「うわ!?」
肇「きゃっ!?……あ、お母さんからラインが…『夕飯の支度が出来ました』と…」
P「…」
肇「…」
P「……ゴホン!……えーーと、改めて、続き、するか?」
肇「そ、そうしましょうか…」
P「…よし、じゃあ改めて…」
肇「はい…」
ティロン♪
P「またかー!」
肇「もうっ!お母さん!…『Pさんはお魚料理平気ですか?』…平気ですよね?」
P「う、うん。むしろ、好きだ」
肇「『好きだそうです』…っと。通知、切っておけば良かったですね…」
P「あー、うん。そうかもな…」
P「…」
肇「…」
P「…帰るか」
肇「…そうですね。流石にここからキスの雰囲気に戻すのは…」
P「まあ、俺たちらしいかもしれないけど…キスは、今度来た時だな」
肇「そうですね…」
P「……よし、じゃあせめて、手を繋いで帰ろう!」
肇「!そうですね!折角の恋人との甘い時間を邪魔されたんです!このまま帰って、みんなに見せつけてやりましょう!」
P「え?このまま家に帰るの?」
肇「はい!」
P「いや、流石にそれは…お義父さんとおじいちゃんにも…」
肇「むぅ、問答無用!ですっ!」
P(あ、頑固モードだ…)
P(…覚悟決めるかあ)
P「…よし、そういう事ならいっそ腕も組むか!」
肇「いいですね、いいですね!」ギュウウウ
P(あ…お互い作務衣だから思いっきり胸の感触が…いや、イカンイカン。邪な心を抱いた姿で帰るのは流石に…)
肇「…………」
肇「…………Pさん」
P「あ、ああ、ごめん。何だ?」
肇「……ずっと、一緒…ですよね?」
P「……ん?どうしたんだ急に」
肇「いえ、ふと、ですね」
P「うん」
肇「いつか、私がアイドルを辞める日が来たら、私たちの関係はどうなるのだろう、という考えがよぎってしまって」
P「え?」
肇「先ほどまで幸せすぎた反動でしょうか?実は、今までもたまに、そんな考えがよぎってしまう事があって……あなたはずっと側にいてくれると、心の底から、信じているのに…」
P「あー…いや、わかるよ。そういう気持ち」
肇「え?」
P「俺だってたまに思うよ。肇はこの先ずっと俺を好きでいてくれるのかなとか。イケメンの芸能人に心奪われたりしてないかな、とか」
肇「そんなこと…!」
P「だろ?肇は逆に、俺が可愛いアイドルに心奪われたりしたらどうしようとか思った事、ない?」
肇「それは……その、たまに」
P「うん。多分、お互い本当に好きだからこそよぎる不安なんじゃないのかな。どんなに心の底から信じていてもね」
肇「そういうもの、なのでしょうか…」
P「多分な…だからこそ、たまには照れずにちゃんと言葉で伝えなきゃな」
P(丁度さっき、素敵な言葉も聞いたし)
P「…なあ、肇?」
肇「はい?」
P「俺さ、肇の片割れになるよ」
肇「え?」
P「正確に言えば、藤原肇という器の片割れ、かな」
肇「私という器の片割れに…ですか」
P「アイドルとしても、恋人としても、これから先、不安になる時も、辛い時もたくさんあると思う。それでも、必ず肇の心が曇った時に側にいて支えてやる。肇が何度でも立ち上がって、肇の目指す夢の先へ手を伸ばし続けられるように…約束するよ。俺のすべてをかけて、肇を幸せにする。いつか、アイドルの夢から覚める時が来ても、また素敵な夢を見させてやる。ずっと、ずっと」
肇「…Pさん」
P「これからも、俺と一緒に歩んで行こう…それにさ。俺という器にとっても、肇は無くてはならない片割れなんだからな?」
肇「私が、Pさんの…」
肇「私が、Pさんの…」
P「そうとも。俺だって不安になる時も、辛い時もたくさんある。プロデューサーとしても、恋人としてもな。でも、その度に肇に支えてもらった。力を、勇気をもらった。肇が俺を必要としてくれるように、俺だって肇が必要だ。だから、この先もずっと、側にいて欲しい」
肇「…はい!ずっと、ずーっと、一緒です!Pさん!!」
P「ああ!…約束だぞ?」
肇「勿論です!だって、藤原肇という器も、Pさんという器もー」
肇「ーあなたと私。ふたりでひとつ、ですから」
タイトルの元ネタは昨年の大河ドラマ『真田丸』の名BGM「ふたりでひとつ」から。みんなも『真田丸』見よう!(ダイマ)
肇ちゃんのお母さんは何となく、肇ちゃんと茄子さんを足して二で割ったようなイメージだったので、こんな感じの人になりました。
そして、いつもより砂糖控えめの真面目な話になりました(当社比)
そうそう、肇ちゃんが着ているような作務衣、本当に売っているらしいですよ!みんなも作務衣着よう!(ダイマ二発目)来たれ作務衣系女子!
次回はのんびりと、肇ちゃんとアイドルたち(特に楓さん辺り)やPのとりとめのない会話の短編集みたいなのを予定しております。
それでは、今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。
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