P「moratorium」 (4)
「兄ちゃんに真美の気持ちなんか分かんないよ」
真美の言葉が頭の中でひたすらリフレインされる中、一歩、また一歩と薄暗い階段をゆっくり上る。
建物の中とはいえ、じっとりと汗が滲み、背中に張り付いたシャツは不快感だけを与えてくれた。
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事務所を飛び出して行った少女。
一瞬の間を置いて追い掛けると、屋上に続く階段に向かう後ろ姿が見え、後に続いた。
年頃の少女に関わり合うという事はつまり『突発的な衝動によるトラブルを未然に防ぐ』という大人として当然の配慮であると日々考えている。
感受性の強い心は常に刺激に敏感で、すぐに傷付き、尚更、慎重に真摯に向き合わなければいけない。
気を使っている事を悟られてはいけないし、気を使わせてると思われてもいけない。
信頼こそが互いの関係を繋いでいくのだから。
所謂、『思春期の少女』への対策を怠るとプロデュース業にも支障をきたし、禍根を残せば、その心は一生閉じたまま、そんな事もありえるのだから。
何が言いたいかといえば、つまり、コミュニケーションの取り方を失敗した。
思想伝達の不具合は偶発的な事故だったが、それを言い訳には出来ない。
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