トリプル~兄妹義理弟 (787)

妹スレ
更新不定期かつ遅いです
あと長いかも

それでもよければ覗いていってください

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兄(・・・・・・目覚ましうるせえ)

兄(・・・・・・)

兄(何時だろ・・・・・6時半? そろそろ起きないと)

兄(さっき寝たばかりな感じなのに。何か身体が重い、つうかだるい)

兄(・・・・・・)

兄(でもそろそろ起きないと本気で遅刻だ)

兄(着替えるか)



兄(もう部屋に戻らなくていいように支度してから階下に行こう。飯食ったらすぐに家を
出れば、まだ余裕で間に合うし)

兄(・・・・・・あと十分くらい眠れたかもしれない)

兄(いや。何だかんだと家を出るまで時間かかるんだからさ。これくらいでちょうどい
い)

兄(朝飯・・・・・・)



兄(何だ?)

兄(・・・・・・朝から珍しいものを見るもんだ。つうか踊るだけじゃなくて歌まで歌ってる
し)

兄(時間ねえかな。いや、普通にしても十分くらいはバッファーがあるし。滅多に見られ
ない光景が目の前で繰り広げられているわけだし、少しだけこのまま気づかれずに観察し
よう)

兄(冷静に見ればひどく滑稽な様子を観察しているわけだが)

兄(何か懐かしい気がするな)

兄(妹が何か歌って踊りながら朝食の支度をしているけどさ。これってよく考えれば妹が
小学生の頃にはよく見た光景だわ。日曜日午前中のアニメの歌だし)

兄(つってもこれってもう十年位前のアニメの主題歌じゃね)

兄(・・・・・・妹の弱みを握ったつもりだったけど。これって見聞きしているだけで和む
な。あの頃ってさ、俺の座っている足の間に入り込んで俺をソファ代わりにしてこのアニ
メ見てたんだよな、妹のやつ)



妹「あ」

兄「お、おう。おはよう(げ。何かわかんないけど何か気まずいぞ)」

妹「・・・・・・」

兄「朝飯食っていい?」

妹「・・・・・・」

兄「あのさ」

妹「見てた?」

兄「いやその」

妹「見てたんでしょ」

兄「いや。見えてしまったっていうか(妹の変な行動を目撃して優位な立場に立つはずだ
ったのに。何でだろう何か俺の方が気まずい)」


妹「・・・・・・最低」

兄「何でだよ」

妹「人のことをこそこそかぎまわるなんて」

兄「ふざけんな。かぎまわるって何だよ。俺は普通に起きてきただけだろうが。そしたら
おまえが勝手に踊ってたんだろ」

妹「声もかけずにあたしのこと盗み見てたくせに」

兄「はあ? 盗み見? 小学校時代のガキみてえに昔の魔法少女のアニメの主題歌を歌い
ながらくるくる回っている高校生の妹の姿なんか誰が見たいんだよ。みっともねえ」

妹「・・・・・・お兄ちゃんなんか」

兄(睨まれたって恐くねえよアホ)

妹「大嫌い」

兄「(ふざけんなこいつ)それは俺のセリフだ。小学生のお子ちゃまかおまえ。朝からア
ニソンを歌いながら踊りの練習かよ」

妹「お兄ちゃんには関係ないでしょ」

兄「関係ないなら自分の部屋でやれよ。朝飯が食えないだろ」

妹「・・・・・・」

兄「ふざけんな。俺だって早く飯食って出かけないと一限の講義に遅刻するだろうが」

妹「・・・・・・」

兄「無視かよ」

兄(アニソンで歌って踊る妹に和んでさ。久し振りにそういう昔話をしてやろうと思った
のによ。妹の方から拒否かよ。本気でこいつって俺のことが嫌いなんだな)

兄(むかつく。もういいや。こいつの用意した朝飯なんか食いたくもねえ。朝飯抜きで出
かけよう)

兄「(てめえの飯なんか食えるか)一人で勝手に切れやがって。俺が何したって言うんだ
よ。もういい」

妹「え・・・・・・・いいって。朝ごはんは」

兄「いらねえよ」

妹「・・・・・・ちょっと待ってよ」

兄「ふざけんな。ここまで言われながらおまえが作った朝飯なんか食いたくねえよ(大学
行こ)」

兄(これじゃちょっと早すぎるな。朝飯を食わなかった分、早く着きすぎだな)

兄(・・・・・・妹のやつ、何であんなに反発するかなあ。別に歌って踊ってるのをバカにして
なんかいねえのにさ。つうかむしろ妹の小学生時代を思い出して和んでたし、それを妹に
話して久し振りにあいつと会話しようと思ってたのに)

兄(・・・・・・妹が何で今朝は明るかったのか。やっぱあれか)

兄(正直、俺にとっては微妙なんだけどなあ。でもまあ、我が家にとっては久し振りの変
化には変わりないしな。妹がはしゃいでも不思議はねえんだけどさ)

兄(それにしてもな。もうちょっと父さんへの思い入れっつうか、未練があったっていい
よな)

兄(母さんが決めたことだから表だって反対する気はねえけどさ。歌って踊るほど嬉しい
ことか?)

兄(それじゃ死んだ父さんだって浮ばれねえじゃん)

兄(妹だって昔はお父さん大好き娘だったのにな)

兄(まあ、仕事して一人で俺たちを育てている母さんの代わりに家事とか一切をしてくれ
てたのは妹であるにしてもだ)

兄(もう少し父さんにつうか昔の俺たちの家族に思い入れがあってもいいんじゃねえか)


兄(・・・・・・・何考えてるんだ俺。最初は妹がはしゃいで一人で嬉しそうな姿を見て和んだ
のによ)

兄(俺って問題をすり替えているのかな。母さんの再婚じゃなくて妹とのいさかいが気に
なっているだけなんだろうか)

幼馴染「早いよ」

兄(・・・・・・妹と仲が悪いのは昔からだ。父さんが死ぬ前からだから今さらそれはいいけ
ど。それにしてもさっき妹の姿を見て何で俺って和んだりしたんだろ)

兄(小学生の頃のことなんか今さら懐かしがってもしかたないのにな)

幼馴染「兄君?」

兄「ああ悪い。おはよ」

幼馴染「おはよう。今日はずいぶん早いのね」

兄「・・・・・・何だか早起きしちゃってさ」

幼馴染「ふふ」

兄「何だよ」

幼馴染「ママから聞いたよ。おばさん再婚するんだってね」

兄「情報早いな。もう知ってるのかよ」

幼馴染「今晩顔合わせなんだってね。緊張するでしょ」

兄「別に。母さんの相手とやらも仕事ですごく忙しいとかでさ。母さんが再婚したって別
に何も生活は変わんないだろ」

幼馴染「でも弟ができるんでしょ」

兄「らしいけど」

幼馴染「楽しみじゃない?」

兄「どうかなあ。妹だけでもうざいのにさ。このうえよく知らない弟とかできてもなあ」

幼馴染「いいじゃん。家族が増えるんだし。それにさ」

兄「何だよ」

幼馴染「兄君の生活には何か変化があった方がいいよ」

兄「はあ? 意味わかんねえし」

幼馴染「妹ちゃんにとってもそうだけど」

兄「幼馴染。おまえ、俺の家庭にケチつける気かよ」

幼馴染「けちとかじゃないけどね。でも兄君にとってはいいことだと思うけどね。あと妹
ちゃんにとっても」

兄「意味わかんね」

幼馴染「あたしは昔から兄君だけじゃなくて妹ちゃんとも仲いいからね。だからわかるこ
ともあるんだよ」

兄(こつもうぜえよ。もう放っておいてくれよ)

幼馴染「行こう。早く来てくれて余裕があると思ってたけど、こんなことしてたらそろそ
ろ一限の東洋美術史に遅れちゃいそうじゃん」

兄(今夜は妹と喧嘩したまま母さんの再婚相手と会うのか。妹と仲が悪いのは今に始まっ
たことじゃねえけどさ。そんな様子を初対面の相手に見せるのも何だかやだな)

幼馴染「電車行っちゃうよ。ほら急ごうよ」


今日は以上。
次回からはもう少し多目に投下する予定です


兄「ただいま」

兄(返事すらねえ)

兄(しょせん、うちの仲の悪い家族なんてこんなもんだ)

兄(あ・・・・・・この玄関に並んでいる見覚えのない靴って)

兄(やべ。早く帰ってきたつもりだったけど、もう来てるのか)

兄(妹のことどころじゃねえな。母さんの再婚相手とその連れ子といきなり初対面か)

兄(妹と母さんと話し合いしてそれから余裕をもって初めましての予定だったのに)

兄(もうしようがねえな)

兄「ただいま」

妹「お帰りなさい」

兄「(な、何だ)おお。ただいま」

妹「もう来てるよ」

兄「・・・・・・うん」

妹「早く入ってあいさつしてよ」

兄(妹のやつ。今朝の喧嘩のことはスルーかよ)

兄「うん(何でこいつに仕切られなきゃいけねえんだよ)」

妹「ママ。お兄ちゃん帰って来た」

母「お帰り。早く来てあいさつしなさい」

兄「・・・・・・うん」

母「こちらが結城さんとその息子さん」

義理父「初めまして。兄君だよね」

兄「はい。初めまして」

母「で、こっちが結城さんの息子さん。ゆう君」

兄「どうも」

ゆう「・・・・・・ああ」

義理父「ああじゃないだろ。ちゃんとあいさつしろ」

ゆう「どうも」

兄(何だこいつ。まともにあいさつもできないのか。それにこの格好。こいつバンドでも
してるのか)

兄「どうも」

母「兄はもう。ちゃんとあいさつしないさい。無愛想な子でごめんね? ゆう君」

ゆう「いや別に」

義理父「この年頃ならこんなもんだよな。な? 兄君」

兄「すんません」

義理父「謝ることはないよ。それよりゆうのことよろしくね。見た目どおり不真面目な息
子だけど」

ゆう「・・・・・・」

兄「はあ」

義理父「兄君って進学校の明徳高校でも成績いいんだってね」

兄「いえ。そんなことないです」


ゆう「・・・・・・うぜえ」

義理父「こら」

母「成績はそこそこだけど、兄はいろいろと子どもっぽいところがあるのよ。ゆう君は大
人びているから兄のこともよろしくね」

兄(俺のこともよろしく? 何言ってるんだ母さんは)

母「それに妹だってまだ子どもだから。ゆう君が兄弟になってくれたらいろいろと妹だっ
て助かると思うわ」

義理父「お互いに助け合うような関係になれればいいね」

母「うん。あたしもそう言いたかったの」

兄「・・・・・・・」

ゆう「・・・・・・」

妹「そうだよね」

兄(え?)

妹「あたしも弟ができて嬉しい」

母「そうでしょ。ゆう君って素直ないい子だし」

妹「・・・・・・うん」

兄(何言ってるんだこいつら。こんな無愛想な不良じみたやつが身内になってそんなに嬉
しいのかよ。真面目に勉強してた俺の存在なんかどうでもいいのか)

母「ゆう君と妹は同い年だけど、ちょっとだけ妹の方がお姉さんなのよ」

義理父「ゆうは妹ちゃんの弟だな。だけど妹ちゃんを守れるような男にならなきゃな」

ゆう「何で俺が」

兄(何言ってるんだ。何でこんなちゃらい格好したやつに妹が守られなきゃいけないんだ
よ。ふざけんな)

母「ゆう君。妹のことをお願いね。ちょっとだけ妹の方がお姉さんだけど、この子は精神
年齢は大分幼いからね」

ゆう「はあ」

義理父「ゆうは不良みたいな格好をしているけど、中身はそれよりだいぶまともだから
ね。妹ちゃん、こいつと仲良くしてやってね」

兄(こんな不良じみた格好の弟ができたのかよ。俺はこいつとこれから同じ家でどう付き
合っていけばいいんだよ)

妹「弟ができるなてあたしも嬉しい」

母「そうか。よかったね妹」

妹「うん。ゆう君よろしくね」

ゆう「・・・・・・」

兄(何だか妹は馴染んでるし)

妹「ゆう君って格好いいね」

ゆう「・・・・・・・別に」

兄(妹ってこういうやつが好みだったのか)

兄(・・・・・・別に妹ごときの男の好みなんかどうでもいい)


兄(なのに)

兄(何でこんなにイライラするんだろ)

母「来月の四月一日から一緒に暮すからね」

兄「どこで」

母「新しい家よ」

義理父「結構広い家だから期待してね、兄君」

兄「・・・・・・・ここはどうなるの」

母「どうって? 売りに出すけど」

兄「・・・・・・そう」

兄(何かわからないけどイライラする)

兄(別に母さんの再婚に反対するつもりなんかないんだ)

兄(むしろ祝福してもいいと思う。父さんが亡くなってから必死になって俺たちを育てて
くれたんだから、こんな気持ちを抱くこと自体が間違っている)

兄(それにしてもなあ)

兄(この家に何の思い入れもなさそうなことも引っかかるけど)

兄(・・・・・・)

兄(気になるのはむしろ妹の態度だ)

兄(何だよあの愛想のいい態度は・・・・・・俺と二人きりだと俺のことを無視するか不機嫌
そうな態度をとるくせに)

兄(そんなに家族ができるのが嬉しいのかよ。つうか俺のことは兄とか家族として認定し
てねえのかよ)

兄(弟ができて嬉しいとかゆう君よろしくねとかさ)

兄(普通ねえだろ、母親の再婚相手やその息子に対してそんな態度は)

兄(・・・・・・認めたくないけど。ゆうってやつ無愛想だったけど格好は良かったからな。妹
はアホだし、あいつの格好に釣られたか)

兄(四月って。新学期からあいつらと同居するのかよ。しかも引越しまでさせられて)

兄(・・・・・・せめて父さんが生きていてくれたらな)

兄(母さんは再婚したいくらいだから、父さんのことは忘れたんだろうし妹だってゆう君
とやらにやたら愛想が良かったしな)

兄(今だに父さんのことを懐かしく思い出しているのは俺くらいか)

兄(・・・・・・何か割り切れないな)

兄(冷静に考えれば母さんだって幸せになる権利はある)

兄(でも。父さんだって言ってたよな)



亡父『僕が死んだらさ』

兄『何言ってるの』

亡父『ママのこと頼むな』

兄『たかが入院くらいでふざけたこと言うなよ』

亡父『念のためだって。何まじめな顔してるんだ』

兄『冗談でもさ言っていいことと』

亡父『言って悪いことがある?』

兄『そうだよ』


亡父『ははは。でも人にはどんなことがおこるかわからないからね』

兄『何だよそれ』

亡父『例えばさ』

兄『ああ?』

亡父『今この瞬間にママが交通事故で亡くなったらさ』

兄『何言ってるんだよ』

亡父『そしたらさ。僕は退院したら再婚相手を探すと思うんだよね』

兄『そんなどろどろした話を実の息子にするなよ』

亡父『だからさ』

兄『何がいいたいわけ?』

亡父『万一逆の場合になったらさ。ママの新しい旦那さんを心よく受け入れてやりなよ』

兄『・・・・・・意味わかんねえし』

亡父『君なら大丈夫だよ』

兄『何がだよ。さっきから何言ってるのかまるで意味不明なんですけど』

亡父『あとさ。ママもそうだけど妹のことは気にしてやってくれよ』

兄『さっきら黙って聞いてれば。遺言かよ』

亡父『だから念のためだって』


幼馴染「ねえ」

兄「ああ」

幼馴染「ああじゃないでしょ。何でさっきからあたしのこと無視すんのよ」

兄「無視なんかしてねえし」

幼馴染「・・・・・・そんなにつらかった?」

兄「何が」

幼馴染「昨日、おばさんの再婚相手とその子どもと会ったんでしょ」

兄「会った」

幼馴染「どうだった?」

兄「どうって。別に」

幼馴染「こら」

兄「何だよ」

幼馴染「・・・・・・兄君ってさ」

兄「ああ?」

幼馴染「お父さんのこと大好きだったもんね」

兄「そんなことねえよ」

幼馴染「素直になってよ。あたしだって君のお父さんのことは好きだったのよ」

兄「・・・・・・そうだっけ」

幼馴染「そうだよ。本当にいい人だった。一緒にキャンプとかしたじゃん? そういうと
きにいつだってあたしのことも気にしてくれたし」

兄「そうだっけ」

幼馴染「うん。それでね」

兄「何だよ」

幼馴染「兄のことよろしくなって。いつもそう言ってくれたの」

兄「そうか」

幼馴染「お父さん大好きな君が割り切れない気持ちを抱くのはわかるよ。でもさ。おばさ
んの幸せとか妹ちゃんのこととかも考えてあげなよ」

兄「妹の?」

幼馴染「うん。君の話を聞いているとさ。妹ちゃんもパパと弟ができて喜んでいるみたい
じゃん」

兄(妹もが喜んでいる。確かにそうだ。あの無愛想な女には珍しくゆう君とその親父に媚
びるような態度だったしな)

幼馴染「あたしはさ」

兄「うん」

幼馴染「君の亡くなったパパに頼まれたんだし」

兄「はい?」

幼馴染「君のママと妹ちゃんには新しい家族ができたんだろうけど。そしたらあたしが兄
君の新しい家族になってあげる」

兄「それって」

幼馴染「疎外感を感じることはないのよ。もし君が君の新しい家族に馴染めないなら」

兄「なら?」

幼馴染「あたしと二人で君のパパを懐かしもうよ」


今日は以上です
また投下します


兄「気持ちは嬉しいけどな」

幼馴染「けど何よ」

兄「馴染めねえとか割り切れない気持ちとかそんなこと、俺一言だって言ってねえじゃ
ん」

幼馴染「え」

兄「気を回しすぎだよ。気にしてくれるのは本当にありがたいけどさ。俺だってそこまで
子どもじゃねえよ」

幼馴染「・・・・・・本当?」

兄「本当だよ」

幼馴染「うん」

兄「心配かけて悪いな」

幼馴染「ううん。君のパパから頼まれたんだもん」

兄「そんなこといつまでも気にしてくれなくていいのに」

幼馴染「気にするよ。大切な幼馴染のことだもん。別に頼まれたからやっているだけじゃ
ないもん」

兄「そうか」

幼馴染「そうだよ」

兄「まあ、とにかく母さんだって好きなやつくらいできるだろうし、父さんだって天国で
祝福してるだろうしさ。俺が反対するわけにもいかねえじゃん」

幼馴染「・・・・・・」

兄「まあとにかくありがと」

幼馴染「気にしてないならいいよ。あたしの方こそ余計なこと言ってごめん」

兄「嬉しかったよ」

幼馴染「え」

兄「気にしてくれて嬉しかった。以上」

幼馴染「そか」

兄「ああ」

幼馴染「もう講義ないんでしょ」

兄「うん」

幼馴染「じゃあ一緒に帰ろうよ」

兄「いいよ」

幼馴染「行こう」


?「おーい」

兄「おまえ呼ばれてるんじゃね?」

幼馴染「うん? あ。幼友だ」

幼友「幼馴染さあ。さっきからあたしを無視すんなよ」

幼馴染「ごめん。全然気がつかなかったよ」

幼友「何度も呼んだのに。いつも一緒にいるくせに兄君のことだけしか見えてないのかあ
んたは」

幼馴染「全然違うし」

幼友「違わないでしょうが。ああやだやだ。バカップルもいいとこじゃんあんたたち」

兄「何か勘違いしてねえ?」

幼友「勘違いって何よ」

兄「俺と幼馴染は別に付き合ってなんかないぞ」

幼友「うそ!?」

兄「何でそこでそんなに驚く」

幼友「だってさ。いつも一緒じゃんあんたたち」

兄「だって幼馴染だし昔からこうだよ、俺たち」

幼友「ちょっとマジなの? 幼馴染」

幼馴染「・・・・・・え」

幼友「えじゃねえよ。あんたって本当に兄君の彼女じゃないの」

幼馴染「兄君?」

兄「だから違うって」

幼馴染「・・・・・・だって」

幼友「マジか」

兄「マジもマジ。大マジだぜ」

幼友「マジかよ。で?」

幼馴染「でって?」

幼友「幼馴染が彼女じゃないならさ。兄君って彼女とか好きな子とかいるの?」

兄「何だよそれ。おまえに関係ないだろ」

幼馴染「そうだよ。好奇心でそんなこと聞くなんて感じ悪いよ」

幼友「別にそういうわけじゃないんだけどさ。」

幼馴染「じゃあ何でそんなこと聞くのよ」

幼友「いいじゃん別に。つうかあんたに聞いたわけじゃなでしょ。何であんたに注意され
なきゃいけないわけ?」

幼馴染「え?」

幼友「別に兄君の彼女でも何でもないんでしょ。何であんたが怒るのよ」

幼馴染「怒ってないよ」

兄「もうい行こうぜ幼馴染。幼友もまたな」

幼馴染「・・・・・・」


兄「ただいま」

兄(さっきの幼友と幼馴染のいさかいって何だったんだろうな。いきなり喧嘩モードにな
るし)

兄(・・・・・・幼友って何であんなこと聞いたんだろ。ひょっとして俺のことが好きなのか)

兄(ねえよ。これまで生涯で一度だって女の子に告られたことがない俺だぞ。そんな都合
のいい展開があるわけがねえ)

兄(それに幼友って結構もてるって前に幼馴染が言ってたしさ。そんな子が俺に興味をも
つわけがない)

兄(結局幼馴染は否定しなかったな)

兄(確かにこちっと告白したわけじゃないし、何となく昔から一緒で小中高どころか大学
まで一緒だったというだけなのだけど)

兄(何となく気持ちが伝わっているつもりになってたんだな、俺)

兄(恋人じゃないって言ってもあいつ、動揺すらしねえし。やっぱり単なる幼馴染という
だけだったか)

兄(生前の父さんに頼まれたって言ってたけど、そのせいで俺のことをいろいろ気にして
くれているのかなあ)

兄(だとしたらそろそろ幼馴染を俺から解放してやらなきゃいけないのかもしれん)

兄(幼友どころか俺自身だってひょっとしたら幼馴染と俺は付き合ってるんじゃないかと
思い込んでいたくらいだし、このままじゃあいつには男が寄り付かないかもしれないし
な)

兄(かといって今この状態で幼馴染にまで疎遠にされたらなあ)

兄(俺には友だちすらいなくなってしまう。身近にいる妹だって母さんの再婚に舞い上が
っているし)



妹「おかえりなさい」

兄「ただいま(びっくりした)」

妹「ご飯ちょっと遅くなるかも」

兄「うん。別にいいよ」

妹「できたら声かけるから」

兄「母さんは今日も遅いの」

妹「そうじゃない? 連絡ないとこみると」

兄「そうか。再婚するってのに相変わらずだな」

妹「お仕事だもん。しかたないでしょ」

兄「それはわかってるけどさ」

兄(幼馴染にはああは言ったけど。やっぱり母さんの再婚って割り切れねえなあ)

兄(母さんだって普通に女として幸せになる権利はあるし、仕事で母さんが不在がちなせ
いで俺と二人きりで夜を過ごしている妹が、新しい家族ができることに期待するのもわか
る)

兄(そんなことはわかっているけど。それでも父さんの病気でやつれてた顔とか、入院し
ているときの会話とかを思い出してしまうのはいけないことなのかな)

兄(別にいけないことではないと思うけど。でも俺ってもう少し空気を読んで周りにあわ
せないといけないのかもしれないな)

兄(母さんの再婚に妹が賛成していて。つうか誰も反対していない。多分天国の父さん
も含めてさ。俺だけが複雑な心境なんてまるで拗ねている小学生のガキみてえじゃん)

兄(・・・・・・)


兄(あれ)

兄(俺だけか?)

兄(あのゆう君ってやつ。あいつも別に親父の再婚を祝福しているようには見えなかった
な)

兄(高校生のわりには強面の無愛想なやつだったから、愛想よく接してくるなんて思って
なかったし。つうか俺にしたってとても愛想がいい態度とは言えなかったろうけど)

兄(それにしたってろくに口聞いてなかったよな、あいつ)

兄(妹はあいつのことが気に入ったみたいだけど。弟ができて嬉しいとか言ってたし)

兄(実の兄貴がいるのに何だよって感じだけど。でも)

兄(でも。ゆう君の方は全然嬉しそうじゃなかったよな。あいつも俺と同じでこの再婚に
何か引っかかるところがあるんだろうか)

兄(そう考えると少しだけゆう君とやらに親近感が沸くけど、冷静に考えればもう一月も
したらあいつと同じ家で暮すことになるわけで)

兄(何かすげえストレス感じる。まあ、ゆう君の方だって一緒かもしれないけどさ)

兄(まあいいや。妹はゆう君のことを気に入ったみたいだし、ゆう君のことは妹に任せれ
ばいいか)

妹「お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「ご飯できた」

兄「今行くよ」

妹「簡単なので悪いけど」

兄「別にいいよ」

妹「もう少しきちんとした料理作らないといけないかな」

兄「高校生なんだぜ。そこまで家事とかする必要はねえだろ。おまえには感謝してるけど
さ。俺なら毎日コンビニの弁当だって文句は言わねえよ」

妹「そうじゃなくて」

兄「何だよ」

妹「毎日こんな献立じゃ、ゆう君が嫌なんじゃないかな」

兄(心配してるのはゆう君のことかよ。何かわかんねえけどむかつく)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたしの料理って美味しいと思う?」

兄「高校生にしては美味しいんじゃねえの」

妹「そうかな」

兄「何だよさっきから」

妹「だってさ。ママが再婚しても忙しいのは同じでしょ?」

兄「そうかもな」

妹「そしたらさ。ゆう君ってあたしの作った夕ご飯を食べることになるわけだし」

兄「・・・・・・うん」

妹「こんな手抜きの献立じゃゆう君が満足してくれないかも」


兄(本気でむかつくな、こいつ。俺のことはどうでもいいのかよ)

兄「結城さんだって仕事で忙しいんだろ」

妹「そうみたい」

兄「じゃあ別に心配ないじゃん。あのゆう君ってやつだって今まで家で一人だったんだろ
うし、コンビニ飯でも食ってたんじゃねえの」

妹「あ。そうか。ゆう君かわいそう」」

兄「(かわいそうなのは俺もおまえも一緒だっての)だから手作りってだけであいつも喜
ぶんじゃねえの」

妹「そうかな」

兄(知るかよ)

妹「そうだよね。お兄ちゃんありがと」

兄(礼を言われても全然嬉しくねえ)

妹「お兄ちゃんさ」

兄「(今度は何だよ)うん」

妹「明日は休みでしょ?」

兄「土曜日だからな。講義もバイトもねえけど」

妹「ママからメールでね」

兄「ああ。母さん何だって?」

妹「新居の候補が決まったから明日一緒に見に行こうって」

兄「一緒って」

妹「うん。結城さんとゆう君とあたしたち」

兄「俺は別にいいよ。新居に文句を言う気はねえし。おまえたちで決めてきたら?」

妹「・・・・・・自分の住かもしれない家なんだよ」

兄「だから任せるって」


妹「いい加減にしてよ。いつまでママの再婚に拗ねてるのよ。一緒に暮らす家族全員で新
居を見に行こうって言われてるのに、何で行かないとか言えるのよ」

兄「拗ねてるって何だよ。俺は別に母さんの再婚に反対してねえよ」

妹「嘘よ。顔合わせのときだって最初から最後まで不機嫌そうな態度をしてたくせに」

兄「してねえって。ただよ」

妹「何よ」

兄「おまえみたいにイケメンの弟ができることに喜んでないだけだよ。俺のことなんかど
うだっていいだろ? 母さんが望んでいておまえ反対していないんだから、俺だってどう
でもいいよ」

妹「お兄ちゃん、この再婚を喜んでないじゃん」

兄「ああ。そうだよ。喜ばなきゃいけねえの? 別に喜んじゃいないけど反対もしてねえ
からそれでいいだろ」

妹「お兄ちゃんって最低。ママがようやく掴んだ幸せを喜んであげられないなんて」

兄「だから反対してないじゃん。何で感情の面までおまえに批判されなきゃいけないわ
け?」

妹「ママのことが大切じゃないの?」

兄「大切だよ。だからといって再婚を喜ぶことをおまえに強制される必要があるのかよ」

妹「・・・・・・・そういう態度って絶対に結城さんたちにわかっちゃうよ。そしたら結城さん
とかゆう君が気にするでしょ」

兄「そこはうまく合わせるよ。それでも心配だって言うなら俺だけ家を出て一人暮らしし
たっていいしな。その方がおまえが安心するならそうするよ」

妹「ちょっと」

兄「何だよ」

妹「そこまでは言ってないじゃん」

兄「言ってるのと同じだよ。もうやめようぜ」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」


義父「ここなんだけどね」

母「いいわね。新築だし駅から遠くないし」

義父「そうでだろ。君の仕事を考えるとなるべく駅に近い方がいいんじゃないかって思っ
てね」

母「結局マンションじゃなく一戸建てにしたのね」

義父「うん。近くに高層マンションも分譲されてたんだけどさ。君たちってずっと戸建に
住んでたんだし急に君たちの生活環境を変えたくないなって思ってね」

母「・・・・・・あなた」

義父「気障なこと言っちゃったな。中を見てみようよ」

母「そうね」

義父「とりあえず中に入ってみようよ」

妹「わあ。すごくいい景色」

義父「うん。君の通っている高校もあそこに見えるでしょ」

妹「本当だ。丘の上にあるせいかな。自宅から学校を見るのってなんか変な感じ」

母「これなら高層マンションとかと景色も変わらないわね。ここからならあなたの学校ま
では今の家より近くなるし」

妹「やった。そしたら寝坊できる」

母「こら」

義父「ゆうも今のマンションよりだいぶ学校が近くなるよな」

ゆう「・・・・・・」

義父「兄君」

兄「はあ」

義父「駅は近いけど、丘の上にあるせいで帰りは上りになるんだ」

兄「はい」

義父「それに悪いけど君の大学からは今の家より少し遠くなる」

兄「・・・・・・ああ、はい」

義父「それでもいいかな」


兄「俺は別に」

義父「君の出身校の明徳高校には近いんだけどね。君の大学からはちょっと遠い」

母「兄。あんた寂しいんでしょ」

兄「寂しいって?」

母「幼馴染ちゃんと一緒に通えなくなるもんね」

兄「別に。そんなこと気にしてねえよ」

母「無理しちゃって。ねえ妹」

妹「・・・・・・」

母「妹?」

妹「ゆう君ってあたしの高校の近くの学校なんでしょ」

ゆう「・・・・・・そうだけど」

妹「じゃあ一緒に登校できるね」

ゆう「・・・・・・」

義父「よかったな。ゆう」

兄(俺、この場にいなきゃいけないわけ? つうかひたすらどうでもいいよ。別にここに
住まないで一人暮らしだっていい。つうかそうしたい)

母「妹ちゃん。キッチンを見に行こうよ」

妹「うん。ゆう君も行こう」

ゆう「・・・・・・」

義父「行っておいで、ゆう」

ゆう「・・・・・・ああ」

兄(結城さんは一緒に行かねえのかな)

義父「ちょうどいいね。君と二人きりになったことだし」

兄「何すか」

義父「君ももう大学生で大人だし、君には話しておきたいんだ。君のお母さんには了解を
もらっている」

兄(何だよいったい)

義父「君のお父さんと、君のお母さん。それに私と私の離婚した元妻とは大学時代の友だ
ち同士だった」

兄(え? 母さんとこいつって前から知り合いだったのかよ)


今日は以上です
また投下します


義父「私たち四人はみんな同じ大学、というか君も知っているだろうけど君と同じ大学で
同期でね。同じサークルにいたんだ」

兄(父さんと母さんが俺と同じ大学出身なことは知ってた。つうか父さんの死後、同じ大
学に行きたくて勉強してたんだし)

兄(だけどこの人と父さんや母さんが知り合いだったとは。いったいどういう関係なんだ。
ただの友だちなのかな。つうかそもそもこの人と母さんの馴れ初めって何だろう)

義父「君のお母さんと再婚するにあたって、このことだけは言っておかないとと思って
ね」

兄「そうですか」

義父「息子や君の妹さんはまだ高校生だし、こんな話を打ち明けていいのか、正直わから
ないけどね。少なくとも君には事情を話すべきだと私は思ったし、君のお母さんも賛成の
ようだったから」

兄(どうでもいいといやどうでもいい。話って言ったってこの人と母さんの自己弁護なん
だろうし)

兄(でも)

兄(父さんの入院中のあの会話)

兄(あれを思い出すだけでつらくなる。父さんは母さんの行く末を心配しながら死んだん
だ)

兄(話を聞こう。母さんがこの人と再婚したがっていることや、妹もそれに賛成している
ことは別として。少なくとも天国の父さんがこの再婚をどう思っているのかくらいはわか
るかもしれないし)

兄「聞かせてください。あなたたちの馴れ初めとか父さんとの関係とか」

義父「わかった。ゆうたちがキッチン見学している間に話せるだけ話すよ」

兄「お願いします」

義父「池山、つまり君のお父さんとお母さんの馴れ初めって聞いたことある?」

兄「ええと、大学時代に知り合って付き合って結婚したとか」

義父「そうなんだけど。聞いたのはそれだけ?」

兄「はい。そうですけど。他にも何かあるんですか」

義父「四人は同じサークルだった。私と離婚した妻。池山と君のお母さんはね」

兄「はい。さっきそうおっしゃってましたね」

義父「弱小サークルでね。入学したときにそのサークルに入った同期はその四人だけだっ
たんだ」

兄「はあ」


義父「君はサークルに入ってる?」

兄「いえ」

義父「そうか。イベ研って今でもあるんじゃないかな。私たちはそこで一緒に活動してた
んだ」

兄「イベント研究会ならまだありますよ。ただ、あまり評判はよくないみたいですけど」

義父「うん。その話は後輩から来たことがある。何か今ではナンパサークルみたいになっ
てるんだってね」

兄「ヤリサーとか言われてますね、学内では」

義父「あの頃は違ったんだよ。まじめに集客できるイベント企画とか、イベントの実務と
かペイラインの設定とかを研究するサークルだったんだよね」

兄「はあ」

義父「それでね。君にはちょっと言いづらいんだけどね」

兄(何だ)

義父「サークルではいつも四人で一緒にいたし、私たちはすぐに親しくなった。想像はつ
くでしょ」

兄「(まあ、わかりやすいよな)わかりますけど」

義父「男女のことではあるし、誰にも既に付き合っている人とかいなかったわけで。つま
り、その、その中でカップルができたんだ」

兄「それが父さんと母さんの馴れ初めですか」

義父「違うんだ」

兄「はあ」

義父「最初に君のお母さんに告白して付き合ったのは私なんだ」

兄「え(何だいったい)」

義父「当時の池山、つまり君のお父さんの彼女は私の元妻だった」



母「キッチンいいわよ。システムキッチンなんだけど、コンロも四つあるしオーブンもあ
るし」

妹「いいキッチンって言ったってどうせママは使わないじゃん」

母「・・・・・・言い返したいけど言い返せない。何か悔しい」

妹「でも使いやすそうだったよ。これならお料理とか楽しくできそう」

義父「妹ちゃんは料理得意なんだってね。今から楽しみだよ」

妹「得意なんかじゃないです。でも家族が増えるなら頑張って作りたいなって思います」

義父「ゆうも嬉しいだろ」

ゆう「・・・・・・・」

義父「私が仕事が遅いせいでね。ゆうはコンビニのお弁当ばっか食べてたからね」

妹「栄養が偏っちゃいますよ」

義父「うん。だから妹ちゃんが料理してくれるなんて嬉しいよ」

母「あら。あなたはあたしには全く期待していないのかしら」

義父「そうじゃないって。でも、君だって仕事が忙しいだろうって思って」

母「わかってるわよ。冗談です冗談」

義父「怒ってるのかと思った。心臓に悪いからそういいう冗談はやめて」

母「はいはい」


兄(何かごちゃごちゃ仲良しごっこしてるなこいつら)

兄(何か妹のはしゃぎっぷりにムカつくけど、今はそういうことはどうでもいい)

兄(・・・・・・)

兄(何となく父さんと母さんは初恋同士で結ばれたのかと思ってたのにな)

兄(別に自分の両親にそういう意味での純愛を期待してたわけじゃないけど、それにして
も意外だった)

兄(父さんと母さんって同じ大学出身とは聞いていたけど、別に付き合っていたわけじゃ
なかったんだ)

兄(つうか結城さんと母さんがもともとは恋人だったのか。つうことはこの再婚って、お
互いによりを戻したってことだよな)

兄(母さんたちが戻ってきたせいで、あれ以上結城さんの話を聞けなかったことが悔やま
れるな)

兄(そもそも何で結城さんは前の奥さんと別れたんだろう。何で母さんは結城さんと再婚
する気になったんだろう。普通なら友だちの離婚した夫と結婚しようなんて思わないよ
な)

兄(まあ、どうでもいいといやどうもいいんんだけどさ。むしろ父さんがどんな気持ちで
入院中にあんなこと言ったのかが気になるな)



『ママの新し旦那さんを心よく受け入れてやりなよ』

『君なら大丈夫だよ』



兄(どういう意味なのかな。深い意味なんかないんだろうか)

兄(まあ母さんと結城さんの再婚は既定路線だし、今さら過去のことを気にしてもしかた
ないか)

兄(むしろ俺の気持ちをどうにかしないといけないんだろうな)

兄(馴れ初めはどうあれ、再婚したいっていう母さんの気持ちに反対する意味なんかない
もんな。俺が勝手に拗ねているだけなんだ。妹の言うとおりだ。父さんだってああ言って
たんだし)

兄(俺なら大丈夫、か。そうだよな。父さんの遺言みたいなもんだもんな)

兄(とりあえず昔の話をまた結城さんから聞きたいな。大学時代の両親の話なんか普通な
らあまり聞けるもんじゃねえしな。父さんってどういう大学生だったのかな。あんなヤリ
サーにいたとしたら結構遊んでたんだろうか)

兄(・・・・・・ねえだろ。結城さんならともかく。あんな融通が利かないくらい真面目だった
父さんだもんな)


兄「ごちそうさま」

妹「・・・・・・」

兄「食器洗っとけばいい?」

妹「あたしがやるからいい。キッチンに運んでおいて」

兄「洗うくらい自分でするよ」

妹「お兄ちゃんがやると雑だからいい」

兄「そう。じゃあ頼んだ」

妹「うん」

兄「・・・・・・じゃあ」

妹「あ・・・・・・ちょっと」

兄「(え?)どうした」

妹「・・・・・・」

兄「用がないなら部屋に戻るぞ」

妹「あのね」

兄「どうしたの」

妹「ごめん」

兄(何なんだ)

兄「何がごめんなんだ?」

妹「そのさ」

兄「ああ」

妹「あたしだってパパのことは大好きだったの」

兄「それで(何言ってるんだこいつ)」

妹「だから。だからお兄ちゃんの気持ちはわかる。いろいろひどいこと言ってごめん」

兄「(何だ何だ)わけわかんなけど、別に気にしてねえからいいよ」

妹「お兄ちゃんがパパのこと大好きだったのは知ってたのに。あたしも少しはしゃぎすぎ
てた。本当にごめん」

兄(何か本気で謝っているっぽいな。突然どうしたんだろ)

兄「何でいきなりそんなこと言い出した?」

妹「さっきお姉ちゃんからメールもらって」

兄「お姉ちゃん? ああ、幼馴染のことか(そういや幼馴染と妹も仲良かったっけ)」

妹「うん。少しだけでもいいからお兄ちゃんの気持ちも考えてあげてって」

兄「何だそれ。意味わかんねえじゃん」


妹「パパのことを考えたら、お兄ちゃんがすぐにママと池山さんの再婚に賛成できないの
も無理ないと思う。お姉ちゃんのメールを見てあたしもそれに気がついた」

兄「・・・・・・うん」

妹「だからごめん。お兄ちゃんの気持ちに気がついてあげられなくて」

兄「(何かむかつく、こいつ。俺に同情しているつもりか)何言ってんの」

妹「え?」

兄「あたしの料理ってゆう君は気にいってくれるのかなあとか俺にうきうきと相談したお
まえが今さら何言ってんの」

妹「お兄ちゃん?」

兄「だいたい前からおまえは俺のことなんかどうでもよかったくせにさ。幼馴染からの
メール一本で何言ってるんだよ。今日だってゆう君に一緒に登校しようとかって恥かしい
こと言ってたくせに」

妹「それは。パパのことを思い出せなかったのは悪いけど。でも、せっかくママが幸せに
なるならって」

兄「それってさ。自分がゆう君と幸せになるならのならってことじゃねえのかよ」

妹「何でそんなこと言うの・・・・・・違くて、そうじゃなくて」

兄(何言ってんだ俺。妹にここまでひどいことを言う必要なんかねえのに)

妹「ごめんなさいお兄ちゃん。でも本当にそうじゃないの。お兄ちゃんがパパのことを思
う気持ちを理解してあげられなかったことを後悔しただけ。二人きりの兄妹なのに」

兄「(もうやめよう。根本的に俺と妹はきっとわかりあえないんだ)俺の方こそ悪かった
よ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「昨日も言ったけど、俺は別に母さんと結城さんの再婚に反対なんかしてねえよ」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」


兄「してねえけど。だからっておまえと母さんと一緒になってはしゃがなきゃいけないわ
け?」

妹「そんなこと言ってないよ」

兄「そうじゃねえかよ。新居とかどうでもいいよ。ゆう君とやらもどうでもいいし」

妹「一緒に暮すことになるんだよ」

兄「だから俺は下宿したっていいんだって。新しい家に引越ししたら大学まで今より遠く
なるんだしさ」

妹「ずっと一緒に暮していた家族なのに」

兄「おまえにはゆう君が一緒に暮してくれるだろ。母さんには結城さんができる。別に俺
がいる必要なんかねえじゃん(何だかエキサイトしてしまった。ここまでい言う必要なん
かないのに)」

妹「・・・・・・」

兄「もういいよ。俺は母さんの再婚には反対しない。おまえだって新しく弟ができる。そ
れでいいだろ」

妹「お兄ちゃんは?」

兄「一緒に暮すかもしれないし、大学までの通学がきつかったら母さんと交渉して一人暮
らしする。別に母さんの邪魔をする気はないし、おまえとゆう君の仲を邪魔する気もねえ
よ」

妹「あたしとゆう君の仲って」

兄「悪い。余計なこと言った。じゃあ、俺もう部屋に戻るわ」

妹「・・・・・・」


兄(俺の言ってること間違っているかなあ)

兄(正直に言えば俺抜きにこの再婚で盛り上がっている母さんと妹に嫉妬している気持ち
がないとは言えない)

兄(でも、それだけじゃない)

兄(そもそも俺はマザコンでもシスコンでもないわけで)

兄(・・・・・・俺って気持ち悪いかな。ひょっとしたら少しだけファザコンかもしれん)

兄(父さんと違って)

兄(結城さんは一部上場企業の管理職だそうだ。父さんは地方自治体の研究所の研究員で、
つまり地方公務員だったけど)

兄(地方自治体の職員といっても管理職になったわけでもなくただの平研究員だったよ
な)

兄(派手な趣味もなく服装もいい加減だったし。自分の専門分野一筋に生きた人だった)

兄(むしろ母さんの仕事の方が世間的な評価は高かったし、前に父さんから聞いたけど母
さんの方が父さんより年収も高かったとか)

兄(それでも生前は母さんとはすごく仲が良かったし、何よりも俺は父さんとその仕事が
好きだった)

兄(そもそも大学でこんな専攻を志望したのだって父さんの後に続きたからだったし。俺が就職を
志望しているのも父さんがいた役所の研究所だ)

兄(ゼミの教授が言ってた。俺の父さんのことを尊敬しているって)

兄(・・・・・・・だけど)

兄(それと母さんの再婚とは全く別な話だな。こんなことを一緒くたにして拗ねてる俺の
方が悪いことはわかっているんだ)

兄(それにしたって全身で喜びを表現しなきゃいけないわけ? 母さんの再婚に対して)

兄(妹だって母さんの再婚を喜んでいる気持ちには嘘はないだろうけど、それ以上にあの
ゆう君ってやつと一緒に暮せるからこの再婚を喜んでいるっていう理由だって絶対あるよ
な)

兄(何がゆう君だよ。あの無愛想で派手な格好をした男が好みなんて。妹は結局その辺の
女と同じビッチなんだ。俺や父さんの抱いている静かな学問的情熱なかどうでもいいんだろうな)

兄(・・・・・・父さんと母さんの馴れ初めって結局何だったんだろう)

兄(結城さんと母さんの馴れ初めも聞けなかったし)

兄(それくらいは聞いておきたいよな。一人暮らしするにしても)

兄(そういや結城さんから名刺もらったけ)

兄(株式会社アイリス・エージェンシー)

兄(大手の広告代理店だ)

兄(営業企画本部第一営業部長・・・・・・)

兄(明日、講義の合間に電話してみようかな)

兄(・・・・・・父さん)


今日は以上です
また投下します


確認するまでもなく確信しちゃってるけど妹手握の人だよな

>>29
作者ですがこんな地味なスレに初レスだ
何かすごく嬉しい


兄「お呼び立てしてすいません」

義父「いや。ちょうどスケジュールが空いていた時間だったし。それにもう家族になるん
だから、そんな遠慮したようなことを言わなくていいよ」

兄「(いきなり家族とか言うか)いえ。お仕事中だったでしょうし」

義父「・・・・・・君は礼儀正しいね。成績もいいみたいだし。親族じゃなかったら私の会社に
来てもらいたいくらいだよ」

兄「僕の専攻は法律とか経済とかじゃないですし」

義父「うちの会社にも国立大学の文学部とか史学出身者は結構いるよ。まあ、無理には勧
めないけど」

兄「進路は決めてますから」

義父「池山と同じ道を進みたいんだね」

兄「ええ、まあ」

義父「池山も本望だろうなあ。あいつは確かに若くして亡くなってしまったけど、息子が
遺志を継いでくれるんだもんね」

兄「まあ、できればそうしたいと思ってますけど」

義父「それで? 今日は昨日の話の続きを聞きたいんでしょ」

兄「はい。父と母のことはあまり聞いたことがなかったんで、よかったら話の続きを聞き
たくて」

義父「いいよ」

兄「ありがとうございます」

義父「君のお母さんとも相談して君には全部話そうと決めたんだしね」

兄「・・・・・はい」

義父「昨日の続きだけどさ。私は君のお母さんと付き合っていたんだ。そして君のお父さ
んも私の元妻と付き合い始めた。しばらくは何も問題がない大学生活が続いていたな」

兄「それなのに何で父と母が結婚することになったんですか」

義父「うん。普通は不思議に思うだろうね」

兄「ええ。何かあったんでしょうか」

義父「最初は何もなかった。というか私と君のお母さん、池山と元妻のカップルで平穏だ
ったんだよね」

兄「はい」


義父「あれは卒業を目前にした一月だった」

兄「・・・・・・」

義父「当時、私と当時の私の彼女である君のお母さん、それに池山の彼女の元妻は就職が
内定していたんだ。バブルって知っているだろ? あの頃は就職先には困らない頃だった
からね。そして池山は就職活動をしないで院試に合格していた。つまりみんなが行く先が
決まっていて何も問題がなかったんだよね。将来に希望を抱いていてさ」

義父「池山が院に進むことは前から既定事項だったし、仲間内でそのことに驚くやつはい
なかった」

義父「そういう状況でさ。ある夜私は君のお母さんのアパートに向かったんだ。当時は私
と彼女は同棲してはいないものの、普段からお互いのアパートを行き来していたから」

義父「悪いね。ここから先はあまり気持ちのいい話じゃないんだ。まして君の実の母親
の話だしね。それでも聞きたいかな」

兄「(何だいったい。でもここまで来たら)大丈夫です。聞かせてください」

義父「聞いたことを後悔するかもよ」

兄「大丈夫です(ここまで来たら全部聞かないとかえって気になる)」

義父「そう。じゃあ話すけど。私は自分の彼女、つまり君のお母さんのアパートに着いた
た。彼女はまだ帰宅していなかった。そこで初めて思い出したんだけど、その日は彼女は
バイトで遅くなるって言ってたんだよね。それを思い出した私は一瞬そのまま帰ろうと思
ったんだ。そもそもあの日は夜に行くって君のお母さんには話してなかったらね。でも、
彼女がいなくてもここまで来たんだから帰って来るまで待とうと思ったんだ。合鍵はもら
っていたからね」

義父「それで合鍵で彼女の部屋に入った私は、待っているうちに寝てしまっていたらし
い。当時の彼女の部屋はキッチンとか風呂のほかに二部屋があった。彼女は奥の部屋を寝
室として使っていて、私はその部屋のベッドでいつのまにかうとうとしてしまっていた」

兄「(話長げえな)それでどうなったんですか」

義父「ベッドでうとうとしていた私の耳に誰かの話す声が聞こえたんだ」



「僕はもう帰るよ」

「だめ」

「だめって何で」

「何でもだよ。悩んでいる女を一人にして帰るつもり?」

「君、酔ってるだろ」

「うん酔ってる。でも、誰のせいだと思っているの」

「僕のせいなの?」

「うーん。半分はあなたのせい。半分はあいつのせいかな」

「何で僕のせいなの? つうか結城だって別に悪いことなんか何にもしてないじゃん」

「したよ。結城君はあたしを放置したもん」

「それは就活とかしてたからでしょ。君だって人のことは言えないでしょうが」

「怜菜はどうなの?」

「え」

「怜奈だって就活とかで池山君を放置してたんでしょ。君は平気なの」

「平気に決まってるでしょ。つうか自分の恋人の就職活動を邪魔してどうするんだよ。君
だって就活してたじゃん。結城と同じでさ」


義父「私が奥にいたことに気がついていなかったんだろうね。君のお母さんはもうなりふ
り構わず池山を口説いているんだと私は思ったよ」

兄(何だよこれ。怜奈っていうのが結城さんの元の奥さんだよな)



「ちょっとよせよ」

「いいじゃない。彼もいないし怜奈だっていないのよ」

「こら。こういうのは駄目だって」

「ふふ。ここは興奮しているくせに」

「え」

「前から知ってたよ。池山君ってあたしのこといつも見つめていたでしょ」

「怜奈といたときでもいつでもあたしと結城君のことを気にしてたでしょ」

「君は何を言って」

「正直になろうよ。ここには池山君とあたししかいないんだよ」

「結城は僕の親友だぞ」

「あいつは君の親友なんかじゃないよ。あいつは心の奥では君やあたしをバカにしている
んだよ」

「そんなことあるわけ」

「あるんだって。嘘じゃないよ。確かにあいつは表面上は誰にでも優しいよ。でもさ、心
の奥でははあたしのことなんかバカにしていているの。全然真剣に向き合ってくれない
のはそのせいだよ」

「君の気にし過ぎだって」

「違うもん。あいつはさ、本心では怜奈のことが好きなんじゃないかな」

「んなわけないよ。結城が好きなのは君だって」

「嘘言わないで」

「嘘じゃないって。それに怜菜は僕のことを好きだって言ってくれたし」

「そんな軽い言葉を信じてるの?」

「少なくとも彼女の方は真剣に僕に向き合ってくれている。僕はそう信じて・・・・・・って何
してるんだよ。服着ろよ」



 何だよこれ。これだけ聞いていれば母さんは単なる浮気性のビッチじゃないか。


義父「悪いね。兄君にとってはショックだろうしこんなことまで言う必要ははいのかもし
れないけど」

兄「・・・・・・」

義父「それでも君のお母さんと話し合って決めたんだ。子どもたちには真実を言おうっ
て。もちろん、今は君に話すだけだけどそのうちゆうと君の妹さんにもきちっと説明しな
きゃいけないと思っている」

兄「よくわかりません」

義父「そうだよね。これだけじゃ理解できないのも無理はない。続きを話してもいいか
な」

兄(ここまできたら聞くしかないか。正直俺のメンタルが持ちそうにないけど。あの母さ
んが・・・・・・)

義父「その会話を聞いたとき私は混乱した。悪い夢かとも思った。正直、君のお母さんの
その行動が理解できなかった。真面目に向き合わない? 内心バカにしている? そんな
つもりは当時も今もこれっぽっちもなかった。就職活動で忙しくて彼女を構ってやれなか
ったと言われればそうかもしれない。でも、それだって彼女のためだと思ってやってたこ
とだし、彼女だって気にしないで頑張ってと言ってくれてたんだから」

義父「隣の部屋では池山が彼女に抵抗していたようだった。私はそのことに少しだけ救い
を感じていたんだ。池山はやはり常識的な考えを持った親友だ。その証拠に彼は彼女のふ
しだらな誘いに抵抗しているじゃないか」

義父「彼女の、つまり君のお母さんの裏切りに絶望していた私には、池山のその誠意だけ
が救いだったんだね。彼は親友だと思っていたから」



「僕は帰る」

「だめ」

「・・・・・・君のしていることは全く理解できない。結城を裏切って、友だちの怜奈を裏切っ
て。結城のことが好きだったんじゃないのか?」

「好きだったよ。あの人の本性を知るまでは。付き合っていればわかるよ。彼は就職もし
ないで民俗学の研究に夢中になっている君をバカにしたんだよ。あいつは負け組みだっ
て」

「あいつはそんなやつじゃないよ。それにたとえそうだとしても、それは僕とあいつとの
ことで君は関係ないでしょ」

「そんなわけないでしょ」

「何でだよ」

「まだわからないの? あたしは君のことが好きなの。多分、怜奈よりもっともっと」

「・・・・・・わけがわからないよ。それなら何で結城と付き合ったの」

「自分にだってわかんないよ。でも一番好きなのは君」

「ちょっと待てよ。って、やめろ」


「怜奈から聞いたよ」

「だから離せって」

「君と怜奈ってまだ関係してないんだってね」

「・・・・・・君には関係ない」

「何でしないの? ずっと恋人同志なのに」

「よせ」

「初めてだから上手にできるか不安なの? それとも怜奈じゃその気になれない?」

「服着ろ」

「あたしが教えてあげようか」

「いい加減に」

「怜奈と二股でもいいよ。教えてあげる」

「・・・・・・何で」

「じっとしてて」



義父「まあ、一言で言うと私は彼女に、君のお母さんに裏切られたわけだ。今だから冷静
に話せるけど、あのときはもうパニックだったよ」

兄(何でこんなこと俺に話すんだ、この人は。普通はこんなことは黙って再婚するだ
ろ。自分の母親のふしだらな行為をわざわざ俺に聞かせる意味なんかあるのか)

兄(こいつ、本当に母さんと再婚したいのかな。復讐的な意味で元カノの息子に嫌がらせ
しているだけじゃねえのか)

義父「部屋の配置は話したと思うけど、僕がそのときにいた部屋は二人が行為を始めた部
屋より奥まっているから、私は帰るに帰れなかった。やがて何時間かのつらい時間が過ぎ
てから、隣の部屋が静かになったので私はそうっと二人が重なり合って寝入っている脇を
通ってその部屋を出たんだ」

義父「帰り道の間中、情けないことにずっと涙が止まらなかったよ。君のお母さんと結婚
するために一部上場企業への就職活動をしていたのにね」

義父「翌日、私は彼女に電話して別れを告げた。彼女は逆切れしてたけど、浮気するよう
な女とは付き合えないとだけ言ったら、電話の向こうで沈黙しちゃったけどね」


義父「それで君のお母さんとは別れたんだ。池山も怜奈と別れて、君のお父さんとお母さ
んは付き合い出した。まあ、私が怜奈に二人の浮気を相談したからそうなったんだけど
ね」

義父「それ以降気まずくなって四人で集まることはなくなった。君の両親は罪の意識があ
ったのか揃ってサークルをやめた。結局、君の両親は卒業後に結婚した。私も怜奈とお互
いに傷を舐めあっているうちに・・・・・・。つまりそういう仲になり結婚した」

兄(自分の母親ながらひどい話だ。つうかあの父さんが彼女を裏切るなんて)

義父「嫌な話をして悪かったね」

兄「すいません」

兄(って。何で俺が謝ってるんだ)

義父「君が謝ることはないでしょ」

兄「(それはそうだけど)まあそうなんですけど」

義父「それでさ。結局それ以降君の両親とは音信普通だったんだけど、偶然君のお母さん
と偶然デパートで再会してね」

兄「はい」

義父「池山が亡くなったって聞いた。私も元妻とはその頃はもう離婚して、一人で仕事を
しながらゆうを育てていたんだけど」

兄(それで?)

義父「まあ、それでもう大学時代から時間も経っていて恨みとかもだいぶ薄れていたから
ね」

兄(それでどうしたんだよ)

義父「それでお互いにまだ独身だしってことになってね。まあ、話は以上だよ」

兄「(え?)それって僕の両親の馴れ初めではあるけど、結城さんと母さんの馴れ初めに
は全然なってないですよね」

義父「そう?」

兄「そうですよ。浮気されて別れたのに何で再婚しようなんて思えるんですか。それに結
城さんと怜奈さんはどうして別れたんですか。話が全然見えないですよ」

義父「私と怜菜のことは君には関係ないしね。あえて言えば単なる性格の不一致だよ」

兄「・・・・・・じゃあ、何で母さんとやり直そうと思えたんですか」

義父「私が話せるのはここまでだよ。気になるならあとは直接君のお母さんに聞いてよ」

兄「ゆう君がこれを聞いたら絶対にあなたの再婚には反対すると思いますけどね。自分の
母親を悪く言いたくないけど、この話しが本当なら母さんのしたことは酷すぎる」

義父「息子のことは君に心配してもらわなくてもいい・・・・・・仕事があるからもう帰るよ。
これ以上は私じゃなくてお母さんから聞いてね。じゃあ、また引越しの日に会おう」

兄(・・・・・・)


兄(父さんと母さんの馴れ初めが浮気から始まったなんて知りたくなかったよ)

兄(俺と妹ってそんな不純な関係の両親から産まれたのか)

兄(とても妹には言えねえな)

兄(それにしたって、こんな自分の恥かしくて情けない話をいったい母さんは何で俺に打
ち明けようなんて決めたんだ。普通は自分の子どもに言う話じゃねえだろ)

兄(母さんと結城さんの再婚を正当化しようとするならまだしも理解できるけど、結城さ
んの話はそこら辺は全く説明してねえじゃん。あれは自分が彼女に不倫されて別れたって
だけの話じゃんか)

兄(これ以上は母さんに聞けだ? そんなことできるか)

兄(今だって母さんの顔をまともに見れない気がするのに)

兄(・・・・・・あ)

兄(妹)

妹「お兄ちゃん」

兄「おう」

妹「こんなとこで何してるの」

兄「別に何も。ちょっとな」

妹「そう」

兄(今日聞いた話を聞いたらこいつは悩むだろうな。こいつって母さんが大好きだし。つ
うか、こんな話こいつには言えねえよな)

兄「おまえは何してるんだ」

妹「何って。夕飯の買物だけど」

兄(いや。俺への日頃の態度とか腹がたつやだけど、さすがにこれはこいつには言えねえ。
父さんと母さんの仲が浮気から始まったなんて)

兄「もう終ったのか」

妹「これからだけど」

兄「そか。手伝おうか(何言ってるんだ俺。さっきの話が衝撃的過ぎてどうかしてんのか
な)」

妹「え?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・うん。手伝って」

兄「はいよ(何やってるんだろ。俺)」


妹「お兄ちゃんが珍しく買物の手伝いをしてくれるなら、少し買いだめしておこうかな」

兄「買いだめって?」

妹「洗剤とか重いのよ。お兄ちゃんが持ってくれるなら夕食の材料だけじゃなくてそっち
も買っておこうかなって」

兄「別にいいけど」

兄(何だこいつ。今まで俺にはろくに話しかけないくらい無愛想だったのに。何でこんな
にフレンドリーなんだよ。ゆう君と一緒に暮せることで舞い上がっているのかな)

妹「じゃあ行こう」

兄「ああ」

妹「ついでにシャンプーとかも買っておこう」

兄「じゃあ、あっちの方だな」

妹「お兄ちゃんカート押して」

兄「うん」

妹「兄妹でスーパーで買物とか久し振りだね」

兄「そうだな」

妹「この辺だよ」

兄(・・・・・・)

兄(下の棚のシャンプー取ろうとしてかがんだ無防備な妹のシャツの胸元から)

兄(こいつの控え目な胸が見えた)

兄(・・・・・・真っ白な肌。胸は控え目だけど、こいつも女になりつつあるんだな)

兄(こいつって思ってたより可愛いじゃん。って、俺は何を考えているんだ)

兄(結城さんの話で両親の過去に悩んでたはずだったのに)

兄(妹の胸を見て欲情している場合じゃねえのに)

兄(・・・・・・しかし、何でこいつ今日は好意的なんだろ。今までは俺のことなんかに話しか
けもしないくらい無視してたのに)


今日はここまで
また投下します


妹「今日はお兄ちゃんと会って助かっちゃった」

兄(何かにこにこしてるな)

妹「買物が多いときって家に帰るのが大変なんだよ」

兄(自分だけが家事をさせられているっていうアピールかよ)

妹「じゃあお兄ちゃんが重い方の買物袋を持ってね」

兄「いいけど(でも別に不機嫌な感じじゃない。つうか微笑んでるし)

妹「じゃあ帰ろうか」

兄(妹が小学校低学年の頃は仲が良かったけど。こいつが中学生になった頃からずっと仲
が悪かったよな。今にして思えば父さんが亡くなった頃だ)

兄(やけに俺の近くに寄ってくるな。まるで寄り添っているみたいだ)

兄(やべ。さっき見たこいつの胸元とか思い出しちゃったよ。それに何かいい匂いがする。
こんなに近い距離に妹がいたことなんかないからどきどきする)

妹「ねえ」

兄「あ、ああ(こいつごとき話しかけられたくらいで、何うろたえているんだ俺)」

妹「昨日の話しだけどさ。お兄ちゃんがパパのことが大好きだってことを思い出して、お
兄ちゃんに謝ろうとしたのは本当だよ」

兄(いきなり昨日の続きかよ。てか、俺を上目遣いに見上げている妹の表情やばい。今ま
でこいつのことなんか全然意識していなかったのに、何かやばい)

妹「お兄ちゃん聞いてる?」

兄「聞いてるよ。別に疑ってねえよ(こいつってこんなに可愛いい顔してたっけ)」

妹「だって結局昨日はお兄ちゃん、怒っちゃったじゃん」

兄「俺も少し感情的になりすぎたよ。悪かった」

妹「お兄ちゃんが謝ることはないけど。あたしもママの気持ちを考えると嬉しくて少しは
しゃぎすた。お兄ちゃんの気持ちも考えずに」

兄「もういいよ。母さんの再婚に反対もしないし水も差すようなこともしない。でもさ。
正直に言うと複雑な気持ちはあるから、一緒になって母さんと結城さんの再婚のお祭り騒
ぎに付き合えって言われてもそれは無理。それだけはわかってほしいな」

妹「うん。そのへんはあたしが無神経だった。ごめん」


兄「俺の方こそむきになってごめんな」

妹「じゃあ、あたしのこと許してくれる?」

兄「許すも許さねえもないだろ。兄妹なんだしさ」

妹「あたしってこれまで全然いい妹じゃなかったね」

兄「突然、何言ってるんだよ」

妹「ごめん。何でもないや。早く帰ろ」

兄「ああ」

兄(・・・・・・何だろう。胸が締め付けられるような感情が沸いてくる)

兄(これまでずっと仲の悪い兄妹だと思っていた。生涯こいつとはわかりあえることもは
いだろうと思っていた。正直それでもよかった。)

兄(最近だってそうだった。こいつはゆう君に夢中で、それは今だって変っていないはず
だ。でも)

兄(それでも俺とこいつはお互いに一番長く一緒に過ごしたんだもんな。母さんよりも幼
馴染よりもこいつと一緒にいた時間の方が長いんだ)

兄(夕方の低い光線に照らし出されている妹の顔。今まで真面目に見たことすらなかった
俺だけど。こいつって)

兄(こんなに可愛いいんだな。これまで態度が素直じゃなかったせいで、むかつくこいつ
の顔とかスタイルなんか気にしていなかったけど)

兄(ひょっとしたら俺の女の子の理想像である幼馴染より可愛いかもしれん)

兄(あれ?)

兄(何考えてるんだ。妹とは和解して心が通じ合えばそれでいいのに、こいつの見た目が
可愛いとか俺の好みだとかどうでもいいじゃん)

兄(・・・・・・・)

兄(何でここでさっきチラ見した妹の胸元を思い出すんだよ。ばかか俺は)

兄(そもそも幼馴染と比べてどうすんだ。あいつは俺の初恋の相手だぞ。幼友のせいで今
はちょっと微妙な関係になりそうなところだとしてもだ)

兄(あ。妹が俺を見上げて微笑んだ)

兄「・・・・・・何」

妹「何でもない。何でお兄ちゃん顔が赤いの?」

兄「・・・・・・夕日のせいだろ(やばい。何で俺は実の妹、それもずっと仲が悪かった妹に萌
えてるのかよ。いったいどうしちゃったんだろ俺。幼馴染ならともかく今まで仲が悪かっ
た妹の笑顔にときめくなんて)」


妹「お風呂入ってて。その間に夕ご飯の支度するから」

兄「手伝おうか(何言ってるんだ俺)」

妹「え」

兄「いやその」

妹「お兄ちゃんなんかに家事とか期待してないからいいよ」

兄(それはそうだよな)

妹「・・・・・・・」

兄「じゃあ」

妹「でもありがと。そう言ってくれて嬉しい」

兄「・・・・・・うん」



兄(いい風呂だ)

兄(・・・・・・・何か今日の妹はすごく可愛く感じる)

兄(だけど)

兄(よく考えたら妹に萌えている場合じゃねえな)

兄(母さんの再婚には反対しないと妹には言った。その気持ちに嘘はねえ。父さんだって
認めてやれって俺なら大丈夫だって言ってた。あれは俺にとっては事実上父さんの遺言の
ようなものだ)

兄(でもさ。さっきの結城さんから聞いた話が本当だったとしたら、俺の好きだった父さ
んも母さんもお互いの恋人を裏切った単なるクズじゃないか)

兄(しかもそれをわざわざ俺に話す理由がわからない。自分を裏切った親友の息子への嫌
がらせか)

兄(いや。それならこれ以上は母さんに聞けなんて言うわけないよな。この話は母さんも
了解しているって言ってたし。結城さんの嫌がらせなら母さんに聞けなんて言うわけがな
い)

兄(母さんに聞く? いやいや。自分の両親のそんな生々しい話を母さんに聞けるわけな
いだろう)

兄(・・・・・・いずれにしても、とても母さんのことが大好き妹にできる話じゃねえな)

兄(小さいけど綺麗な形だったな)

兄(色も真っ白で。つうか胸とかに限らずによく考えてみると)

兄(肩くらいまで伸びた黒髪。華奢で細い体型。色白な肌。妹って俺の女の子の好みど真
ん中じゃんか。何で今まで見逃していたんだろう)

兄(俺って今までは幼馴染しか見えてなかったんだな)

兄(いや。実の妹が好みだとか、俺って何危険なことを考えているんだ。それに)

兄(考えたくはないが妹の好きな男はきっと・・・・・・)

兄(俺ってゆう君に嫉妬して反発していただけなのかな)

兄(とにかく今日の話は自分の胸に封印しよう。妹には言えないし母さんにだってこれ以
上追求しちゃいけない気がする)

兄(・・・・・・まじで一人暮らしたい)

兄(母さんに頼んでみようか)


兄(いろいろ悩みや戸惑いは尽きないけどとりあえずいい風呂だった)

兄(そろそろ夕食かな。夕飯なんかどうでもいいと思っていたけど何だか今日は楽しみに
感じている俺がいる)

兄(・・・・・・・)

兄(まさかな。妹だぞ、血の繋がった実の)

兄(気の迷いだ。仲の悪かった妹が気まぐれで俺に微笑んで優しく接してくれたから、何
かとんでもない勘違いをしただけだよ)

兄(とにかく着替えてリビングに行こう)

兄「あ」

母「帰ってたんだ。お風呂?」

兄「うん」

母「そか」

兄「何で今日は早いの」

母「たまたまよ。すぐ近くの客先まで来てたんでね」

兄「そう」

母「もうすぐご飯だって」

兄「うん。三人そろって夕ご飯なんて珍しいね」

母「ごめんね」

兄「別にそういう意味じゃないけど」

母「そか」

兄(そうだ。大学時代の話はとても聞けないけど、一人暮らしの話をするなら今がチャン
スかも)

兄「あのさ」

母「どした?」

兄「俺さ。母さんの再婚のこと反対なんかしてないからさ」

母「え?」

兄「それは妹みたいに素直にはしゃいだりはしてねえけど。でも、反対はしてないから」

母「そか」

兄「うん。父さんが入院してて死ぬ前にも言われたんだ」

母「言われたって・・・・・・何て」

兄(思わず口にしちゃったけど。これくらいはいいよな。つうか再婚する母さんには知っ
ておいてほしい)


亡父『僕が死んだらさ。ママの新しい旦那さんを心よく受け入れてやりなよ』

兄『・・・・・・意味わかんねえし』

亡父『君なら大丈夫だよ』



兄「父さんはあのときそう言ってたからさ。俺だって再婚には反対は・・・・・・母さん?」

母「・・・・・・」

兄(悲しそうに泣いてる。何かやばいこと言っちゃったか俺)

兄「大丈夫?」

母「うん。ごめん」

兄「何かまずいこと言ったかな。俺」

母「ううん。聞いてよかった。パパったら自分が病気で大変なときに」

兄「母さん?」

母「中断した研究のことだって気になってたくせに。パパは・・・・・・パパは」

兄(母さんの泣くとこ初めて見た。父さんが亡くなったときだって気丈に俺たちのことを
面倒みてたのに)

母「ごめんね。もう大丈夫だから」

兄「うん(きっかけが浮気だったとしても、母さんは死んだ父さんのことを本当に好きだ
ったんだ)」

兄(何だか母さんの涙で全てが浄化されていく気がする。俺と妹が育った家庭は浮気から
始まったのかもしれない。でもうちの家族は偽りじゃなかったんだ。少なくとも今の母さ
んの涙は嘘じゃない)

兄「母さん?」

母「うん」

兄「再婚おめでとう」

母「・・・・・・」

兄「皮肉じゃねえって。本当にそう思っているよ。何よりも死んだ父さんが願っていたこ
とだもんな」

母「・・・・・・うん。ありがとう」


兄「でさ。母さんにお願いがあるんだ」

母「・・・・・・ごめん、ちょっと待って。涙拭くから。で、お願いって?」

兄「母さんの再婚は祝福する。妹だって喜んでいる」

母「うん」

兄「俺、一人暮らししちゃだめかな」

母「だめじゃないけど。でも何で? 新しい家からだって大学には通えるでしょ。確かに
今よりは遠くなるかもしれないけど」

兄「まあそうなんだけど」

母「幼馴染ちゃんと家が遠くなるのが嫌なの?」

兄「だから違うって」

母「じゃあ何でよ」

兄「母さんの再婚は祝福するけど、でもいきなり父親と弟ができて一緒に仲良く暮そうっ
て言われても何か違うんだよ」

母「・・・・・・」

兄「勘違いするなよ? 再婚に反対とかそういうんじゃないから」

母「そうか」

兄「金もかかるしわがままいって悪いけど」

母「いいよ」

兄「いいの?」

母「うん。そう言われるんじゃないかと思ってたし」

兄「そうなの?」

母「結城さんから話は聞いたんでしょ」

兄(もう連絡が行ったか。これじゃ嘘は言えない)

兄「聞いた」

母「それじゃ兄に嫌われてもしかたないか」

兄「母さんのこと嫌ってなんかかねえよ」

母「兄?」

兄「あれで母さんを嫌うなら、父さんのことも嫌いにならなきゃいけないじゃんんか」

母「あんたはパパのこと大好きだったよね」

兄「だからさ。過去のことはもういいんだ。ただ、再婚する母さんやゆう君と一緒に暮せ
るってはしゃいでいる妹と同じ温度で過ごせる気がしないんだ」

母「だからいいって言ってるでしょ。君ももうひとり立ちする年齢になったのね。寂しい
けどしかたないか」

兄「・・・・・・母さん」


今日は以上です
また投下します


<1は
俺が愛してやまない妹と俺の些細な出来事の作者ですか??


幼馴染「・・・・・・何やってるのよ君は」

兄「何って見てわかんない?」

幼馴染「見てわかるくらいならこんなこと言わないよ。何で引越しする日なのにパソコン
の前に座ってるの」

兄「別にいいじゃん。母さんや妹の物に手なんか触れたら変態扱いされる。したがって手
伝う理由はないし」

幼馴染「自分の荷物をまとめなさいよ。それとも何? 君ってあたしの家から離れちゃう
のがそんなに寂しいの」

兄「別に寂しくないし、それに離れたりもしないよ」

幼馴染「そこはお世辞でも寂しいっていいなさいよ・・・・・・え?」

兄「この家は売りに出すから俺も引越しはするけどさ。引っ越す場所が母さんや妹とは別
なとこなの」

幼馴染「どうして」

兄「大学から遠くなるしな。それに俺も一人暮らししてみたかったし」

幼馴染「どこに住むの?」

兄「この家の近くだよ。駅前だけど」

幼馴染「ふふ」

兄「何だよ」

幼馴染「じゃあこれからも一緒に大学に行けるね」

兄「結果としてな。別にそのために一人暮らしするわけじゃねえぞ」

幼馴染「まあ、そういうことにしておいてあげる」

兄「おまえなあ」

幼馴染「でも意外」

兄「何がだよ」

幼馴染「よく妹ちゃんが君の一人暮らしに納得したね」

兄「はあ? そこでなんで妹が出てくるわけ?」

幼馴染「何でって」


兄「あいつは俺がどこに住もうが気にもしないよ(妹との仲がよくなったことは確かだけ
ど、根本的にはあいつは母さんとゆう君のことを気にしているだけだしな。何より俺がは
っきりとこの再婚に反対しないと言ったことで安心したはずだし)」

幼馴染「妹ちゃんは何だって?」

兄「何って?」

幼馴染「君が一人暮らしするって聞いたとき、妹ちゃんはどんな反応だった?」

兄「さあ」

幼馴染「さあって。ちゃんと話したんでしょ」

兄「じゃねえの」

幼馴染「じゃねえのって。一人暮らしのこと妹ちゃんには話してないの?」

兄「多分」

幼馴染「多分? どういうこと」

兄「多分、母さんが話したと思うんだよな」

幼馴染「それって。もしかして直接話していない?」

兄「うん」

幼馴染「それ、まずいんじゃ・・・・・・」

兄「何で」

幼馴染「何でって」

兄「別に問題ないんじゃね」

幼馴染「あたし帰る」

兄「何で。まあ別にいいけど」

幼馴染「修羅場とか苦手だし」

兄「何言ってるの」

幼馴染「じゃ、じゃあ頑張ってね」

兄「おい(頑張るって何だよ)」


妹「お兄ちゃん入っていい?」

兄「(噂をすれば妹か)いいよ」

妹「お兄ちゃんは荷造り終った?」

兄「うん?」

妹「・・・・・・・何よこれ」

兄「何が」

妹「何がって。もうすぐ運送屋さんが来ちゃうのに。何も片付けてないし用意してないじ
ゃない! 何でよ」

兄「何でって」

妹「・・・・・・嫌がらせ?」

兄「嫌がらせって。何でそうなるんだよ」

幼馴染「じゃ、じゃああたしは帰るね」

妹「お姉ちゃん。まさかお姉ちゃんがお兄ちゃんのことを炊き付けてるんじゃないでしょ
うね」

幼馴染「誤解だって。あたしは全く関係ないって」

妹「だってお姉ちゃん言ってたじゃない。お姉ちゃんとお兄ちゃんとでパパのことを懐か
しもうよって、お兄ちゃんに話したって」

兄(あのこと妹に話したのか)

幼馴染「それとこれは関係ないでしょ」

妹「何で引越しの支度してないの」

兄「俺の引越しは明後日だからさ。明日になったらやるよ」

妹「引越しは今日だよ! 何寝ぼけたこと言ってるの。もうすぐ運送の人が来ちゃうんだ
って。どうするのよこの部屋の荷物」

兄「それは母さんとおまえの荷物を運ぶ業者だろ」

妹「え」

兄「俺のは明後日。だいたい行く先が違うのに同じトラックなわけないだろ」

妹「違うって? お兄ちゃん何言ってるの」

兄「(え? ひょっとして母さんのやつ俺の一人暮らしのこと言い忘れたのか)俺はそこ
の駅前のアパートに引っ越すんだよ」

妹「・・・・・・何で」

兄「だって大学から遠いいし」

妹「反対してないって言った。ママの再婚に反対してないって言ったのに」

兄「反対はしてないって。俺だけ下宿するだけじゃん。それのどこが反対することになる
んだよ」

兄「っておい。どこ行くんだよ」

妹「手離してよ!」


幼馴染「あ~あ。だから言ったのに」

兄「母さんのやつ、俺の一人暮らしのこと妹に言い忘れたのかな」

幼馴染「こんな大切なことは自分で妹ちゃんに話すものだと思ってたんじゃない? おば
さんは」

兄「大袈裟な。たかが電車で一時間もかからないところに一人暮らしするだけじゃん」

幼馴染「妹ちゃんのこと追いかけなくていいの」

兄「何で俺が。それに妹を捕まえたとしても、何を話せばいいのかわかんねえし」

幼馴染「ねえ?」

兄「何だよ」

幼馴染「何でおばさんの再婚相手の家族と一緒に暮さないの」

兄「何でって」

幼馴染「別に蒸し返しているわけじゃないよ。あたしと一緒に登校したいからじゃないこ
とはわかってるから」

兄「だから大学から遠くなって通学時間が増えるのが嫌なんだって」

幼馴染「・・・・・・あたしが何年君の幼馴染をやっていると思ってるの」

兄「何年って。それは保育園のときからだから。ええと」

幼馴染「そんだけ長く幼馴染しているとね。ベテランの幼馴染になるの」

兄「訳わかんねえし」

幼馴染「何か理由があるんでしょ。でなければ家族大好きな君が一人暮らしなんかを選ぶ
わけがない」

兄「家族大好き? 俺が? 何言ってるんだおまえ」

幼馴染「・・・・・・本当に何があったの?」

兄「・・・・・・(こいつって本当に鋭いな。こいつになら話してもいいか)」

兄「あんまり気持ちのいい話じゃねえぞ」

幼馴染「聞くよ。君が何かを知っていてそれで悩んでいるなら」

兄「実はさ」


幼馴染「・・・・・・ひどい」

兄「だから言ったろ。気持ちのいい話じゃないって」

幼馴染「おばさんのこと許したの」

兄「ああ。今も言ったろ? あれは実質父さんの遺言のようなものだからな。それに母さ
んがクズなら父さんだって同じになっちまう」

幼馴染「君はおじさんのことが好きだったもんね」

兄「だから母さんの再婚には反対しない。でも正直妹と一緒になってお祭りみたいにこの
再婚をお祝いしようとも思えない」

幼馴染「まあ無理ないよね。でもさ、もし妹ちゃんがこのことを知ったら」

兄「おまえ、妹には絶対に言うなよ」

幼馴染「言わないよ。っていうかとても言えないよ」

兄「それならいいけど」

幼馴染「でもね。あ、おばさん」

母「ああ幼馴染ちゃん。来てたの。ご両親は元気?」

幼馴染「はい。夫婦喧嘩している最中ですけど、いつものことなので」

母「あはは。相変わらずねえ。多分今頃は仲直りしているわよ」

幼馴染「あたしの予想だとあと一、二時間はかかると思います」

母「あはは。それまではうちに避難してればいいよ。それより兄。妹と何かあった?」

兄「何かって」

母「何かあの子泣いてるんだけど」

兄「ああ。一人暮らしのことを話したら切れてどっか行っちゃった。つうか母さん話して
なかったの?」

母「・・・・・・はあ。やっぱりそうか」

兄「やっぱりって」

母「一人暮らしするなとは言わないけど、する以上はきちんと妹にも説明しておきなさい
よ。何であたしにそこまで頼るのよ」

幼馴染「あたしもそう思います」

母「そうでしょ。全く兄は昔から人の気持ちに疎いんだから」

幼馴染「おばさんに全面的に賛成です」

兄「おまえらなあ」

幼馴染「チャイムが鳴ってる」

母「運送屋さんが来ちゃった。もう行かないと。兄、あんたちゃんと妹のケアをしときな
さいよ」

兄「何で俺が(元はといえば浮気なんかした母さんたちのせいだろうが)」


>>51
そうですが「些細な」の頃ほどの量は投下はできないと思います

今日は以上です
また投下し明日

ということは1スレで終わるのかな?
まあなんにせよ頑張って

また妹スレを建ててくれるなんて....

感動で涙が出そうです....

毎日の楽しみが増えました!!!

頑張ってください!!!!


兄(引越しして一週間が過ぎた)

兄(正直、一人暮らしって最高だな。こんなことなら大学に入ってすぐに家を出りゃよか
ったと思うくらいに)

兄(寂しくなるかなってちょっと思ってたけど、全然そんなことはないし)

兄(それに売りに出された実家のそばに引越しただけだから、通学環境とか全然変ってな
いし。幼馴染とも大学の行き返りで一緒だし、よく行くコンビニだって今まで同じ店だ)

兄(隣の部屋の妹に気兼ねして、片方の耳にだけヘッドフォンしてエロゲをしなくてもす
むし)

兄(何にも言うことはない・・・・・・・・って言いたいけど。あえて不満を言えば二点くらい
か)

兄(一つ目は食事なわけだけど。自分で料理するようなスキルはねえし、結局毎日コンビ
ニ弁当な日々だ。実家にいた頃は有難味を感じなかった妹の料理が正直懐かしい)

兄(あとはなあ。自分でも何考えているかわかんねえけど。つうかこんなこと考えている
自分が情けないけど。一人暮らししてから幼馴染と過ごす時間が減ってしまった)

兄(前は大学の帰りとか休みの日とかに家に来てたんだよな。別に特別な用がなくても)

兄(そんなことは幼いときからの習慣だったから別に気にもしていなかったし、それが有
難いとも思っていなかったのだけど)

兄(一人暮らししてから、あいつは一度もこの部屋に来てくれない。何でだろう)

兄(何か警戒しているのか? 別に二人きりだからといって俺が幼馴染に変なことするわ
けないだろ)

兄(・・・・・・幼友と会ったとき、あいつは俺の言葉を否定しなかった。あのとき俺が幼馴染
と付き合っていると言ったら、あいつはどう言う反応をしたんだろう)

兄(それが恐かったから思わずあんな言い方をしちゃったんだけど。今にして思えばそこ
まではっきりと言う必要なんかなかったのに)

兄(まあ、しかたない。不満はあるけど一人暮らしをしてよかったということには変りは
ない)

兄(さて。そろそろコンビニに夕飯を買いに行くか。ついでにビールも買っておこう。自
分の部屋の冷蔵庫にビールを置いておくのが夢だったんだし)

兄(よし。出かけよう)

妹「・・・・・・あ」

兄(え? 何だ何だ。何で妹が俺の部屋のドアの前に)

妹「でかけるとこ?」

兄「・・・・・・近所のコンビニにな。おまえはどうしたの。もう夜の七時過ぎてるのに」

妹「あたしも一緒に行く」

兄「はい?」

妹「だめ?」

兄「(何なんだ)別にいいけど」


兄「なあ」

妹「うん」

兄「今日は何か用だった?」

妹「・・・・・・うん」

兄「何? 用なら今聞くよ。別にコンビにまで付き合うことはねえし」

妹「あたしのこと、すぐに切れたり怒ったりすると思っているでしょ? お兄ちゃんっ
て」

兄「(何言ってるんだこいつ)別に思ってないよ」

妹「うそだよ。絶対に思ってる」

兄「この間は悪かったよ。母さんと幼馴染にも怒られた。何で一人暮らしすることをおま
えに言ってなかったんだってさ」

妹「本当だよ。ずっと一緒に暮してきた兄妹なのに」

兄「悪かったよ」

妹「でもね。あたしも反省した」

兄「反省って何でおまえが?」

妹「あたしって今まで全然いい妹じゃなかったから」

兄「なんだかよくわかんねえけどさ。おまえがいい妹じゃなかったとしたら俺だっていい
兄貴とは言えないだろうな」

妹「ふふ。確かにそうかも」

兄(元気ねえ表情だけど。だけど)

妹「そう考えればいいのか。あたしたちってお互い様だったんだって」

兄(だけど。こいつやっぱり可愛いな)

妹「まあ、新しい家族もできたんだし、これからはお互いもう少し素直になろうよ。あた
しも自分の態度を治すから」

兄「ああ(コートの袖口から覗いてい妹の細く白い手首。綺麗な髪。すらっとした脚)」

妹「ああって」

兄(何かいいなあ。って何考えっているんだ俺。こいつは幼馴染じゃなくて生意気な実の
妹だっつうの)

妹「もうあまり生意気な態度を取らないように気をつけるね」

兄(・・・・・・)


妹「ねえ? 聞いているの」

兄「聞いてるって」

妹「真面目に話してるのに。何でお兄ちゃんはいつも適当に聞き流すのよ」

兄「別にそんなことしてねえよ」

妹「っていけない。またやっちゃった。こういう態度がよくないんだった」

兄「いや。そこまで神経質にならなくてもいいだろ」

妹「いい兄妹関係っていうか、普通の兄妹はこんなぎすぎすしたやり取りはしないと思う
の」

兄「そうかあ?」

妹「違うの?」

兄「いや。そう言われてみれば俺にもよくわかんねえけど(よその兄妹の関係なんか知ら
ないしな。幼馴染は一人っ子だし)」

妹「あたしが思うにね」

兄「うん」

妹「あたしとお兄ちゃんってどっちも本気で悪意だったり攻撃性だったり、そういう感情
はお互いに対して抱いてないと思うの」

兄「少なくとも俺はそうだよ」

妹「あたしだってお兄ちゃんのことは別に嫌いじゃないし、っていうか好きかも」

兄「はあ?(な、何言ってるんだこいつ)」

妹「お互いにそんな気はなくても売り言葉に買い言葉でお互いを傷つけあってたのかもし
れないね」

兄「それはそうかもな。俺だって別におまえが嫌いなわけじゃねえし(俺のことを好きか
もって何だよ。どういう意味なんだ)」

妹「だからまあ。本当は家族は一緒に住むべきだとは思うけど、これ以上喧嘩したくない
からお兄ちゃんの一人暮らしは認めるよ」

兄「・・・・・・何で上から目線なんだよ」

妹「お兄ちゃん」

兄「何だよ」

妹「そういう攻撃的な言葉遣いを改善するとことからしないといけないんじゃないの?」

兄(おまえだってそうだろうが。許すとかそういう言葉遣いを改善しろよ)


妹「そういえばお兄ちゃん。コンビニで何買うの」

兄「今日の夕食」

妹「・・・・・・行く先変更ね」

兄「何で?」

妹「スーパーに行こう」

兄「スーパーの弁当よりまだしもコンビニ弁当の方がいいんだけど」

妹「作ってあげる」

兄「・・・・・・」

妹「どうせ身体に悪い食生活しているんだろうから。今日はあたしがお兄ちゃんの夕ご飯
を作る」

兄「何言ってるんだよ。あっちの方はどうするんだ」

妹「あっちって?」

兄「おまえたちの家のことに決まってるだろ」

妹「あのさあ。お兄ちゃんの部屋だってあるんだよ? おまえたちの家とかじゃまるでお
兄ちゃんの実家じゃないみたいじゃん」

兄「そういうつもりじゃないって。つうか言葉尻を捕まえて責めるなよ。これじゃ今まで
と同じじゃねか」

妹「お兄ちゃんが、あっちとかおまえたちの家とか言うからでしょ」

兄「また喧嘩になるからそれは忘れろ。とにかくゆう君とかに夕食の支度をしてやらなく
ていいいわけ?」

妹「パパとママは仕事で今日は帰って来ないし」

兄(結城さんのこともうパパって呼んでるのかよ)

妹「それに」

兄「うん? ゆう君の夕飯はどうすんの」

妹「コンビニのお弁当みたいよ」

兄「・・・・・・はあ? おまえゆう君に食事の支度をするの楽しみにしてたじゃんか」

妹「楽しみに何かしてないよ」

兄「(何か弱々しい口調だな。いつも強気なくせに)だって言ってたじゃん。こんな料理
でゆう君が満足してくれなかったらどうしようみたいなこと」

妹「お兄ちゃんはさ。あたしの支度したご飯とコンビとかファミレスのご飯とかどっちが好き?」

兄「ええと」

妹「正直に言って」

兄(何でこんなに必死なんだ。いったいこいつらが引っ越したわずかな間に何があったん
だ)


妹「引越ししてからパパもママも仕事で帰ってこなかったから、最初の夜にゆう君と二人
であたしの作った夕ご飯を食べたの。そしたら次の日から、俺の分は用意しなくていいか
らって言われた」

兄「ゆう君がそんなこと言ったんだ」

妹「うん。次の日からゆう君は外食とかコンビニのお弁当で夕ご飯を済ませようになった
の」

兄「そうか」

妹「そうかって。他に言うことはないの」

兄「いや」

妹「いやってどういう意味」

兄「だから俺に絡むなよ。俺のせいかよ。そういう態度を改善するんじゃなかったのか
よ」

妹「そうだった。ごめん」

兄「それで? それで俺におまえの料理がどうとか言い出したのか」

妹「・・・・・・うん。ひょっとしてお兄ちゃんも我慢して食べていてくれたの」

兄「それはない」

妹「本当?」

兄「本当だ(妹とゆう君の仲なんかどうでもいいが、こういうところで嘘を言っちゃいけ
ないな。俺は妹が今日顔を見せる前にコンビニ飯生活にうんざりして、妹の作ってくれて
いた料理を懐かしく思ったのは事実なんだから)」

妹「そう」

兄「本当だぜ」

妹「それならよかった。ちょっとだけ安心した。でも、あたしの料理の腕のせいじゃない
なら何でゆう君はあたしにあんなこと言っただろ」

兄「まあさ。それぞれの家庭の味ってあるだろうから、いきなりは馴染めなかったんじゃ
ねえの。ゆう君も」

妹「そうかな」

兄「そうだろ(しかし、ゆう君とこいつの仲って心配していたほど接近してねえのな。多
忙な結城さんと母さんが不在で、こいつらが二人きりならすぐにべたべたくっつくかもし
れないって心配してたのにな)」

兄(心配って何だよ。これじゃ俺が妹に片想いしているみたいじゃんか。俺が片想いして
いるのはあくまでも幼馴染だって)

妹「じゃあスーパーに行こう。お兄ちゃん、何が食べたい?」

兄「本当に作るの?」

妹「うん。お兄ちゃんが嫌じゃなかったら」

兄「だからコンビニ弁当にも飽きてたとこだし。全然大歓迎だけど」

妹「よかった」

兄「・・・・・・」


兄(まじで美味しかった。妹の作る飯をここまでしみじみ美味しいと思ったのは初めてか
もしれん)

兄(コンビニとファーストフードとファミレスのコンボが続いていたせいかもしれないけ
ど)

妹「もうご馳走様?」

兄「うん。うまかった」

妹「無理して言ってない?」

兄「言ってない。おまえの肉豆腐ってマジでうまいな」

妹「・・・・・・お兄ちゃんがお世辞言うなんて珍しいけど。でもそう言われると嬉しい」

兄「お世辞じゃないって」

妹「うん。片づけするね」

兄「いやいいよ。それくらい俺がしておくから。おまえは遅くなるからもう帰った方がい
いかな」

妹「すぐに終るから」

兄(あ。まただ。テーブルに屈んで食器を片付けている妹の服の胸元から)

兄(真っ白だ。小さいけど、控え目だけど白い丘が・・・・・・)

妹「何?」

兄「何でもない(やべ。覗いてたの気づかれたか)」

妹「じゃあまた来るね」

兄「(また来るのかよ)ああ。今日はありがとな」

妹「お礼なんかいいけど。ちょっとはあたしたちって仲良くなれたかな」

兄「・・・・・・ああ。てか、俺たちって今までって仲悪かったのか」

妹「ふふ。そうだね。本当はあたしたちって仲なんか悪くなかったのかもね」

兄「・・・・・・どういう意味」

妹「何でもない。お兄ちゃんまたね」



兄(あれ? これって)

兄(妹の財布じゃん。あいつ忘れていったのか)

兄(ちょっと携帯に電話して・・・・・・出ねえ。歩いていて気が付かないのかな)

兄(追いかけるか。晩飯作ってくれたんだしそれくらいは)

兄(よし)

兄(もうすぐ駅だな。妹は・・・・・・。あ、いた)

兄(・・・・・・あれ)

兄(いったい誰とだ。妹が男に抱かれてキスされてる。つうか妹も男の首に両手を回して
抱きついて)

兄(あれって・・・・・・。あれってゆう君と妹じゃんか)

兄(あのちゃらいゆう君に妹が抱きしめられてキスされている)

兄(・・・・・・落ち着け俺。妹だぞ。誰とキスしたっていいじゃんか)

兄(・・・・・・帰ろう)


>>59
そういうわけじゃなくて、今仕事が忙しいので一回の投下量とか投下間隔が「些細な」よりは減るだろうってことです。

>>60
まとめにまでレスしてくれてありがとう。「些細な」みないなのを期待されると違うかもしれないけど、よかったら見てい
ってください。


今日は以上です
またとうかします


兄(同居してすぐなのにもうできてたんだ。あの二人)

兄(妹が誰と付き合おうが勝手だけど。それなら何で俺にあんな相談したんだろ)

兄(わざわざ飯を作ってまでさ。それに)

兄(冷静に考えれば義理とはいえゆう君は妹の弟になるわけで)

兄(実の兄妹ほどハードルは高くないだろうけど、それにしても普通に世間に気軽に言い
まわれるような関係じゃないことは間違いないよな)

兄(妹があの義理弟に好意を抱いていることは明らかだった。それを隠している様子もな
かった。でも、ゆう君のほうはちっとも妹に興味がないって感じだったし)

兄(一緒に暮して妹のことが好きになったのかな。今まではあまり気にしなかったけど、
最近気づいてみれば妹って結構可愛いし)

兄(それにしてもできたばかりの義理の妹に手を出すか? 普通)

兄(悔しいがゆう君はイケメンだ。別に女なんか身近なところで調達しなくたっていくら
でも彼女なんか作れるだろうに)

兄(でも抱き合ってキスしてたしな。駅前でいろんな人に注目を浴びているにも関わら
ず)

兄(まあいい。正直わけわなんなくて混乱してはいるが、これは純粋に妹と義理弟の問題
であってあいつらの自己責任だ。俺なんかが口を挟むようなことじゃない)

兄(妹だってもう高校生だし。それに考えてみればこれまであいつがどんな男と付き合っ
てきたのかなんで全然知らねえしな)

兄(・・・・・・つうかあいつってこれまで男がいたことあるのかな。今まで全然気にしてなか
ったからな。よくわからん)

兄(まあいいや。一人暮らししている俺には関係ない。あいつらが付き合おうが親にばれ
て修羅場になろうが)

兄(ちょっと待て・・・・・・それよりあいつらって普段からいつも家で二人きりじゃん)

兄(お互いに好きあっているならあっという間に最後まで行けちゃう環境だな。両親は普
段から帰宅が遅いし、やりたい放題か)

兄(俺の一人暮らしって結果的には妹にもゆう君にも都合がいいわけだ)

兄(妹は俺の一人暮らしを怒ってたけど、内心はラッキーくらいに考えてたのかな。そう
考えると何かむかつく)

兄(・・・・・・じゃない。もう放っておくことにしたんだから、あいつらのことは考えるのを
やめよう。ていうか妹の財布どうしよう)


?「君」

兄(返さないわけにもいかねえしな)

?「君」

兄(え?)

教授「君さ。僕の講義ってつまらないですか」

兄「いえ。すいません(やべ)」

教授「寝るだけならここにいなくてもいいよ。出て行きなさい」

兄「すいません。寝てません」

教授「そうか。寝てないか」

兄「はい」

教授「じゃあ僕が今説明したのは何についてか言ってみなさい」

兄「・・・・・・すいません」

教授「答えになってないね」

兄「すいません」

教授「さて、このように人文科学においては一見表層に見えている事実の裏にさらにその
原因となる事象が隠されていることがあります。実際に我々に見えている事実だけから一
般的法則や仮説を導き出すのは危険な場合があるということで」

兄(・・・・・・ちくしょう。今日の講義は絶対聞きたいところだったのに)

兄(くそ。何で妹のことごときでうっかり悩んだりしてしまったんだろ)

兄(こんなことやってたら父さんの後に続くなんて夢の夢だ)

兄(・・・・・・何で妹と義理弟のことがこんなに気になるんだ)

兄(くそ)

教授「そういう考え方を説明する原理として一般に知られている仮説は何という名称です
か」

兄(今まで妹のことなんかこんなに気になったことなんか)

教授「兄君? 答えて」

兄「あ」

教授「・・・・・・君はまたか」



兄(自己嫌悪だ。俺はいったい何してるんだ。何一つ新しいことを学ばないで講義が終っ
てしまった)

教授「ちょっと待ちなさい。兄君」

兄「(やべ)すいませんでした」

教授「謝らなくてもいいからちょっと僕の部屋に来なさい」

兄「(説教か。でも無理はない。それに先生に見放されたら父さんの後に続くという俺の
夢はそこで終わりだ)はい」

教授「適当に座りなさい」

兄「失礼します」


兄「あの。今日はすいませんでした」

教授「何があったのか知らないけど。来週からは気をつけなさい。いくら君が池山先生
の息子だって僕が特別扱いできるのにも限度があるからね」

兄「すいませんでした」

教授「まあいい。そのことで君を呼んだんじゃないんだ」

兄「(よかった)はあ」

教授「これなんだけどね」

兄(何だ)

教授「違うよ。どこ見てるの。僕のデスクのパソコンを見なさいよ」

兄(そんなもん俺の位置から見えるかよ)

教授「ほら。こっちに来て」

兄「はあ」

兄(何なんだ。何かのブログ? 掲示板か?)

教授「本当に偶然なんだけどね。昨晩池山先生の氏名で検索してたら偶然これを見つけて
ね」

兄「はあ。何ですかこれ」

教授「池山先生のブログ」

兄「(何だって)何ですって」

教授「君、知らなかったの」

兄「全然知りませんでした」

教授「そうか。昨日は徹夜になったよ」

兄「父がブログ? 全然知りませんんでした」

教授「正確に言うとブログと言うか、先生のホームページに設置された掲示板だね」

兄「はあ」

教授「ブログが流行りだす前にはよくあったんだよ。CGIスクリプトで掲示板を設置し
てるサイトが。で、これは掲示板としてというより、先生の公開日記みたいなものだ」

兄「そんなものを父が」

教授「研究のこととか家族のこととかを何年間にもわたって気ままに綴っている。私の名
前も後輩の研究者として名前が出てきていたし、何だか懐かしくて徹夜で全部読んでしま
ったよ」

兄「・・・・・・」

教授「そうか。君は知らなかったのか。ブログと違ってホームページなんで、製作者の死
後まで残っているなんて珍しいね。お父さんのアカウントが残っていたんだね」


幼馴染「遅いよ」

兄「悪い(先生にURLを教えてもらった。家に帰ったら見てみよう)」

幼馴染「先生に呼ばれて遅くなったんでしょ」

兄「なぜそれを」

幼馴染「今日の講義だめだめだったじゃん、君。呼び出されて怒られた?」

兄「いや。そうでもない」

幼馴染「違うの?」

兄「呼び出されたのは確かだけど、怒られはしなかったな」

幼馴染「あんな態度で受講しててよく怒られなかったね」

兄「いや、まあ先生も怒っていたとは思うけど」

幼馴染「どっちなのよ。まあ、いいや。帰る?」

兄「帰るって。帰る以外に何かすることあるの」

幼馴染「幼友が君のこと探してた」

兄「げ」

幼馴染「げって。彼女と話ししていくならあたしは先に帰るけど」

兄「あいつと話すことなんかないよ。一緒に帰ろうぜ」

幼馴染「いいの?」

兄「いいって?」

幼馴染「・・・・・・別に何でもない。じゃあ行こう」

兄「うん」

幼馴染「ねえ」

兄「うん。つうかホームに電車来てるぜ、急ごう」

幼馴染「別に次の電車を待ったっていいじゃん。って、ちょっと待ってよ」

兄「急げ」


幼馴染「別にこのあと用事があるわけじゃないんでしょ。何も階段を駆け上がらなくて
もいいじゃない」

兄「無駄にホームで時間を潰すこともないでしょ。あ、あそこ座れるな」

幼馴染「ちょっと・・・・・・待ってよ」

兄「ほら座れたぜ」

幼馴染「昔からせっかちだよね、君って」

兄「そうかな」

幼馴染「そうだよ。そのくせ考えすぎなほどうじうじ考える癖もあるし」

兄「悪かったな」

幼馴染「決断力もないし」

兄「・・・・・・放っとけ」

幼馴染「講義中何考えてたの」

兄「寝てただけだよ」

幼馴染「何か悩んでる顔してたよ」

兄「おまえも人の顔を見てないで講義に集中しろよ」

兄(さすがに妹と義理弟が付き合ってるらしいなんていう家族の秘密は、いくら幼馴染の
こいつにだって話せないよなあ)

幼馴染「・・・・・・ねえ」

兄「今度は何」

幼馴染「今日はこれから何か用がある?」

兄「別にないけど」

幼馴染「君の部屋に行ってもいい?」

兄「はい?」

幼馴染「まだ一回も行ったことないし」

兄「別にいいけど(ようやく俺の一人暮らしの部屋でこいつと二人きりになるときが来た
か)」

幼馴染「いい部屋だね」

兄「適当に座りなよ」

幼馴染「うん」

兄「何か飲む?」

幼馴染「うん。何でもいいよ」

兄「じゃあ紅茶でいいな」

幼馴染「えらいえらい。あたしの好みをちゃんと覚えていたんだ」

兄「もちろん。ミルクでいいんだろ」

幼馴染「・・・・・・」

兄「違ったっけ」

幼馴染「・・・・・・違わない」


兄「・・・・・・どうした(何か思い詰めたような表情だ)」

幼馴染「うん」

兄「おまえ、何か今日ちょっと変じゃね」

幼馴染「・・・・・・そうかも」

兄「何かあった?」

幼馴染「あったと言えばまあ、あったかも」

兄「よかったら相談に乗るけど」

幼馴染「何の冗談よ」

兄「冗談っておまえなあ」

幼馴染「それはこっちのセリフだよ。君にとってはすごく大切なはずの講義の時間にぼう
っとしっていた君が、あたしの相談に乗る? 冗談はやめて」

兄「・・・・・・そこまで言わなくても」

幼馴染「いい加減にしてよ。悩みに乗るって何? 君にはもっと他にあたしに言うことが
あるでしょ」

兄「興奮するなよ」

幼馴染「してないよ」

兄「・・・・・・(してるじゃんか。何で俺が怒られるんだ)」

幼馴染「ねえ」

兄「ああ」

幼馴染「昔から君とは一緒だったから君のことはよく知っているつもりだったけど。君っ
てあたしが思っていた以上にはっきりしない人だよね」

兄「何言ってるのか意味わかんないよ」

幼馴染「何ではっきりと口にしないの?」

兄「だから何を」

幼馴染「わかってるくせに」

兄(うん。本当はわかってる。何で口にしないのかと言われれば)

兄(こいつにはっきりと振られて傷付くのが恐いからかなあ)

幼馴染「あたしはさ。それ一人で勝手に思ってただけなんだろうけど、何となく昔から君
とは特別な関係だと思ってたよ」

兄(え?マジ。もしかして俺たちって両想いだったの?)

幼馴染「幼友に付き合ってるのって聞かれたとき、君がそのことを否定したあのときまで
はね」

兄「ちょっと待て」

幼馴染「付き合ってないなら何で毎日一緒に大学に行ったり、待合わせして一緒に帰った
りしてたの」

兄「違うって。違うよ」

幼馴染「何が違うの」

兄「俺だってさ。昔からおまえとは一緒だったしさ。でもお互いにそういうことを口にし
たり、つうか匂わせることすらしてなかったじゃん」

幼馴染「・・・・・・何が言いたいの」

兄「いや、だから俺だっておまえとは特別な仲だと思ってた・・・・・・というか、おまえもそ
う考えてくれていたらいいなって思ってたよ」


幼馴染「だったら幼友に聞かれたときに、君は何であんなこと言ったのよ。あたしすごく
傷付いたんだからね」

兄「いや、あん時は最初におまえが聞かれたんだろ。おまえだってはっきりと俺と付き合
ってるって言わなかったじゃんか」

幼馴染「・・・・・・それは。でもそう言うのって男の子の役目でしょう」

兄「男も女もあるかよ。俺だって結構あれでへこんだんだからな」

幼馴染「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

幼馴染「ねえ」

兄「うん」

幼馴染「君が今その場しのぎの嘘を言ってるんじゃないんだったら」

兄「嘘なんか言ってねえよ」

幼馴染「だったら。ちゃんと言って」

兄「えーと」

幼馴染「・・・・・・」

兄「おまえのこと好きだ。多分ずっと昔から。一緒に幼稚園に通っていた頃から今まで、
俺はおまえのことがずっと好きだったんだと思う」

幼馴染「・・・・・・変な顔」

兄「おまえなあ」

幼馴染「君の緊張している表情、久し振りに見たよ」

兄(何だよ。このままはぐらかす気かよ・・・・・・って。こいつ涙が)

幼馴染「でもよかった」

兄「え」

幼馴染「やっと言ってくれた。あたしの予定では中学か高校時代には、あたしたちは正式
に付き合い出すはずだったのに。君が優柔不断なせいでもう大学生になっちゃったじゃな
い」

兄「あの」

幼馴染「あたしも君が好きだよ。ずっと小さい頃から」


兄「・・・・・・そうか」

幼馴染「何よ、そうかって。もっとほかにい言うことはないの・・・・・・って、ちょ」

兄「幼馴染」

幼馴染「いきなり抱きしめないでよ。今まで手だって繋いだことないのにびっくりするじ
ゃない」

兄「嫌だった?」

幼馴染「・・・・・・嫌じゃないよ」

兄(・・・・・・)

幼馴染(・・・・・・)

兄「えと」

幼馴染「嫌だった?」

兄「嫌じゃねえよ(こいつにキスされた)」

幼馴染「君のせいで大学生になるまでファーストキスだって経験できなかったじゃない」

兄「俺だってそうだよ」

幼馴染「知ってるよ」

兄(こいつの身体って抱きしめるとこんな感触なんだ)

幼馴染「ねえ?」

兄「うん」

幼馴染「今度幼友に会ったらあたしたちが付き合っていること、ちゃんと彼女に話して
ね」

兄「わかった。もちろんだ」

幼馴染「あとお互いの親と妹ちゃんにも言わないとね。きっとびっくりするね」

兄「(妹に言う必要あるのか)びっくりするかな」

幼馴染「すると思うよ。今まで君とあたしが付き合っていなかったということにね」

兄「そっちかよ。でもそれはそうだろうな」

幼馴染「ねえ」

兄「今度は何?」

幼馴染「今度は君からキスして」

兄「うん(こいつのこと、大好きすぎる)」


今日は以上です
また投下します


兄「おはよ」

幼馴染「おはよう」

兄「(見慣れているはずのこいつの笑顔が眩しい)昨日、あれからおばさん何か言って
た?」

幼馴染「うん。いろいろ言われた」

兄「マジで? 本当は反対だとかじゃないよね」

幼馴染「ううん。逆だよ。ふふ」

兄「何笑ってるんだよ。おばさんは何て言ってたんだよ。それにおじさんは?」



幼馴染母「ねえ」

幼馴染「何よ」

幼馴染母「さっき兄ちゃんが言ってたこと本当?」

幼馴染「何でそんなこと聞くの? あたしが兄と付き合い出したのがそんなに意外なの」

幼馴染母「逆よ逆。あんたたちって小学校生の頃はともかくさ、中学とか高校の頃から
は付き合っているんだと思ってたよ」

幼馴染父「本当に付き合ってないの? 兄君はいい子なのになあ」

幼馴染「だから付き合ってます! 今日からだけど」

幼馴染母「兄ちゃんのお母さんもびっくりするんじゃない? まさかあなたたちが今の今
まで何の関係もなかったなんて聞いたら」

幼馴染「関係なかったわけじゃないよ。ちゃんと、その・・・・・・恋人同士になったのが今日
だってだけじゃない」

幼馴染父「まあ結果的には付き合い出したからいいけど。下手したら二人とも別々な相手
と付き合っていたかもしれなかったのか」

幼馴染母「そんなの嫌よ。お母さんは」

幼馴染「・・・・・・もう。ちょっとしつこいよ」



幼馴染「というわけ」

兄「おまえの言ったとおりだったのか」

幼馴染「想定どおりだよ。ついでに君となら絶対両親は反対しないと思ってたことも想定
どおりだけど」


兄「俺たち二人以外はみんな俺たちが付き合っていたと思っていたんだな」

幼馴染「違うよ」

兄「違うの?」

幼馴染「そうよ。そう思っていたのはあたしたち二人じゃなく、君だけだよ」

兄「そうじゃない・・・・・・と思う」

幼馴染「そうだった。君は優柔不断なだけだった」

兄「おまえなあ」

幼馴染「冗談よ」

兄「もう勘弁してくれよ」

幼馴染「・・・・・・うふふ」

兄「・・・・・・」

幼馴染「・・・・・・」

兄「えーと」

幼馴染「・・・・・・あたしたちだいぶ上手になったんじゃないかな」

兄「昨日の今日で?」

幼馴染「うん。昨日のキスより今のやつの方が上達した気がする」

兄「行こうか」

幼馴染「うん」

兄(え)

幼馴染「何してるの。講義に遅れちゃうよ」

兄「うん(顔ちょっと赤い。こんなこいつ見るのって初めてかも)」

幼馴染「ほら」

兄「引っ張るなよ(手をつなぐのって多分初めてじゃないけど、付き合い出してからは初
めてだ)」

兄(手をつなぐ前にこいつとキスしちゃったんだもんな、俺)

幼友「おはよう」

幼馴染「・・・・・・・おはよう」

幼友「って。何なの?」

幼馴染「何なのって?」


幼友「あんたたちさ。付き合ってないって言ったじゃん」

幼馴染「だから?」

幼友「だからって。じゃあ何であんたたち手をつないでいるのよ」

幼馴染「あたしと兄は付き合っているから」

幼友「はあ? あたしのことバカにしてるの」

幼馴染「別にそういうわけじゃないよ。何か変に妄想するのやめてくれない」

兄(何だ。幼馴染ってこんなに攻撃的な言葉遣いをする子じゃないのに)

幼友「開き直り?」

幼馴染「開き直りって、言葉の意味わかって使ってる?」

兄(まして幼友はこいつの仲のいい友だちなんだよな。友だちに対してこんなに攻撃的な
幼馴染の姿なんて初めてだ)

幼友「ふざけんなよ。誤魔化してるんじゃないわよ。付き合っているのに、あたしに嘘言
ったくせに」

幼馴染「それであなたに何の被害があるの」

幼友「・・・・・・それは」

兄「幼友の誤解だって。おまえも煽るのはよせ」

幼馴染「だって」

幼友「だって」

兄「おまえに聞かれたときは付き合ってなかったんだから嘘じゃねえよ」

幼友「幼馴染は兄君と付き合っているって言った」

兄「あの後、俺たち付き合い出したんだよ。だから嘘じゃない」

幼友「信じられない」

幼馴染「何で?」

兄「よせよ」

幼馴染「だって・・・・・・」

幼友「もういい。講義始まるからあたし行く」

幼馴染「そんなのあたしたちだって一緒だって」

幼友「・・・・・・ふざけんな」

幼馴染「最初から最後までずっとふざけてんかいないよ。被害妄想もいい加減にしなよ」

兄「だからよせって」

兄(駆けて行っちゃった)

幼馴染「・・・・・・」


兄「あのさ」

幼馴染「ごめん」

兄「いや。そうじゃなくてさ」

幼馴染「うん?」

兄「いやさ。別に俺なんかがそんなにもてるわけはないけどさ」

幼馴染「君は何が言いたいの」

兄「その、違ってたらごめん。もし、幼友が俺のことを好きでさ、俺が彼女に気を惹かれ
るっておまえが心配しているならさ」

幼馴染「うん」

兄「そんなことは全くいらん心配だからな」

幼馴染「うん。それは疑ってない。あたしと君には小さい頃からずっと一緒に過ごしてき
た実績があるんだもん」

兄「うん。それは間違いねえよ」

幼馴染「だからさ。そういう心配はしてないの。本当だよ」

兄「うん。俺だっておまえ以外にこんなに身近に一緒に過ごしてきた女なんかいない」

幼馴染「おばさんと妹ちゃんをのぞけばね」

兄「だから家族は別だって。そんなこと言ったらおまえの親父さんだってそうだろ」

幼馴染「まあ、それは今はいいや。とにかくあたしは君と幼友がどうにかなるなんて心配
すらしていないよ」

兄「じゃあ何であんな態度を取ったんだよ。おまえの友だちなんだろ」

幼馴染「うん。そうなんだけど」

兄「だけど?」

幼馴染「まあいいや。とにかくあたしは君と幼友に関しては何の心配もしていないよ」

兄「そう? ならいいけどさ」

幼馴染「うん。あたしの態度が君の気に障ったなら謝るよ。ごめん」

兄「おまえのことを心配しただけだよ。別に気にしてねえし」

幼馴染「よかった。じゃあ急ごう」


兄「じゃあな」

幼馴染「まだそんなに遅い時間じゃないのに」

兄「そう言うなって。おばさんに心配させちゃうだろ」

幼馴染「今までそんなこと気にしたことないくせに」

兄「それはそうだけど。おまえの両親の公認で付き合い出したんだから、責任ってものが
あるだろ」

幼馴染「気を遣ってくれるのは嬉しい気もするけど。君はさ、あたしの両親よりもあたし
のことを優先しなさいよ」

兄「してるって。でもまた明日会えるじゃん」

幼馴染「ちょっとでも一緒にいたいのに」

幼馴染母「小学生の頃からずっと一緒だったのに、まだそんなこと言ってるの? この子
は」

兄「あ、おばさん。こんばんは」

幼馴染母「兄ちゃん、こんばんは。お母さんはお元気?」

幼馴染「それ、昨日も聞いたじゃん」

幼馴染母「そうだったね。兄ちゃん、わがままな娘でごめんね。見捨てないでやってね」

幼馴染「お母さん!」

兄「いやその」

幼馴染母「この子ったら柄にもなく照れちゃって」

幼馴染「うるさいなあ」

兄「じゃあ俺は失礼します」

幼馴染母「帰っちゃうの? 昔はうちで妹ちゃんと一緒に夕ご飯を食べてくれてたのに」

兄「明日の講義の予習もあるので」

幼馴染「そうだよ。もうお母さんは黙ってて」

兄「失礼します・・・・・・幼馴染も明日な」

幼馴染「勉強もいいけど遅れないでよ」

兄「わかってる。じゃあ失礼します」

幼馴染母「兄ちゃん、またねえ。妹ちゃんによろしくね」



兄(帰宅。小さな部屋だけどここだけが俺の家だって心底思えるな)

兄(あいつらと一緒に暮らすよりは何百倍もましだ)

兄(それにしても)

兄(付き合い出してからも俺へのおばさんの態度は変わらねえなあ)

兄(初恋の相手と両想いだったことがわかって、恋人同士になって)

兄(そのうえ彼女の親から大歓迎されてるんだ。俺って幸運なんだな)

兄(俺にもう少しだけ勇気があれば、もっと早くからこうなれていたのに)

兄(でもいいや。今が幸せなら)

兄(メール? 幼馴染のおやすみなさいメールか。ちょっといつもより時間が早いけど)

兄(どれ・・・・・・妹だ)


from:妹
sub:無題
『このあいだお兄ちゃんのとこに行った日にお財布を亡くしたみたいなんだけど、お兄ち
ゃんの部屋にないかな? あっちこっち探したけど出てこないの。あまりお金は入ってい
ないんだけど、生徒証とか会員証とかも入れてあるからないと困るの。ちょっと部屋を探
してくれない?』



兄(・・・・・・忘れてた)

兄(財布は今でも俺のリュックの中にある。そういや中身は確認してなかったけど)

兄(とりあえず中の金とか確認するか)

兄(・・・・・・)

兄(金は・・・・・・三千円か。あとは)

兄(富士峰の生徒証、ツタヤの会員証。あと・・・・・・)

兄(写真?)

兄(ああ。何だ。昔家族全員で撮影したやつだ。つうかこれ俺のアルバムにもある)

兄(とりあえずメールするか)



from:兄
sub:Re:無題
『探したら財布あったよ。どうすればいい?』



兄(妹が家族の写真を財布の中にねえ。ゆう君に溺れているビッチのくせにな)

兄(まあいいや。もう俺には関係ない。それに)

兄(俺には幼馴染がいるんだ。俺が心配すべきは幼馴染であって、妹じゃない)

兄(返信だ)



from:妹
sub:Re:Re:無題
『ありがと。定期とかは別に持ってるからそんなに困らないし、今度お兄ちゃんの部屋に
取りに行くね。お休み』



兄(返信不要だな、これ)

兄(今頃、妹はゆう君に肩を抱かれてあいつに寄りかかりながらメールしてるんだろう
な。バカなやつだ)

兄(まあ、もうどうでもいい)

兄(そうだ。父さんのブログを見ないと)

兄(どれどれ)


今日は以上です
不定期ですけどまた投下します


兄(これか)

兄(・・・・・・自分の父親ながら父さんってこういうことにセンスなかったんだなあ)

兄(何だよこの素人丸出しのトップページは)

兄(へぼ民俗学研究者イケヤマの日常? 何かおやじくさい寒いタイトルだし)

兄(カウンターがあるな。あなたは4,006人目の訪問者ですか)

兄(コンテンツは三つしかねえ。民俗学的考察、イケヤマの未発表論文、へぼ研究者の日
記)

兄(デザインはともかく考察と未発表論文はぜひ見たい。でもとりあえず結城さんのあん
な話を聞いた後だと、日記を読むのが先だろうな)

兄(先生は徹夜で読んだとか言ってたけど)

兄(・・・・・・まさかネットで公開している日記に昔の不倫を告白しているわけはないから、
いったい俺は父さんの日記に何を期待しているのか)

兄(母さんや幼馴染にはああは言ったけど。これまで自分の人生の目標だった父さんを今
までどおりの目で見ることができるのか。母さんと浮気してお互いの相手を傷つけた父さ
んのことを本当に尊敬しているって言えるのかな)

兄(考えていてもしかたない。とりあえずクリックしよう)

兄(・・・・・・最新の記事って。このあたりは父さんが入院する直前じゃないか)



20××年10月15日
朝から雨が降っている。少し肌寒い。
今日から入院予定だ。別にそうシリアスなものではなく、職場の健診で気になるところが
あるそうで念のため入院して検査することになった。
たいしたことはないと言い聞かせているのに妻は取り乱している。その雰囲気が伝わって
娘も泣き出しそうな表情で僕を見る。救いは上の息子が冷静に支度を手伝っていることだ。
彼は僕に似ている。後一時間でタクシーが来るそうだ。さっきからパソコンを止めて支度
しろと息子がうるさい。



兄(これが父さんの最後の日記か。とにかく一番古い日記から見てみよう)



20××年4月5日
今日は娘の小学校の入学式だった。桜の木の下の校門前で記念写真を撮る。ついこの間こ
の子が産まれたと思っていたのに、時が経つのは早いものだと妻に話したら笑われた。
あなたは仕事に夢中で子どもたちの成長をちゃんと見ていないからでしょと言われる。非
常に心外だ。
確かに結婚するまでの僕は自分の生き甲斐である研究一筋だったことは確かだ。学部生時
代も院生時代も優先すべきは自分の研究だった。それは否定できないけど、妻とめぐり合
いそして二人の子を授かり僕は変わったと思う。依然として自分の研究が大切であること
には変わりないけど、今の僕には研究以外に大切なものがあるのだ。僕なんかと結婚して
くれた妻に感謝。



兄(・・・・・・母さんが泣いていたときに考えたことはやはり間違ってなかったのかな。馴れ
初めがひどい行為から始まったことは否定できないけど、それを父さんと母さんは乗り越
えたのかもしれない。浮気から始まった家族でも幸せになれたんだろうか。そのことによ
って最悪な馴れ初めを浄化して克服したんだろうか)

兄(妻に感謝、か。ちょっとこの先を斜め読みしてみよう)

兄(自分の研究のこととか書いてるな。そのうち時間のある時にゆっくり読みたいな)

兄(・・・・・・お)


20××年4月5日
息子の高校の個人面談に赴く。妻は仕事で多忙なので僕が行くことに。今日は××村の古
老からヒアリングの予定だったのだけど、事情やむを得ない。上司の研究科長も君の代わ
りにやっておくよと言ってくれた。職場に迷惑をかけるのは忍びないし、何より今携わっ
ている研究にとって重要なヒアリングだったのだっけど、息子には替えられない。
明徳は僕の出身校でもあるけど、担任の教師の話だと息子の志望している大学は僕と妻の
母校だとのこと。何か嬉しいような恥かしいような感じがする。
帰途、意外な人と再会。大学時代の思い出がよみがえった。ちょっと妻には話せないな。



兄(母さんに話せない人との再会って・・・・・・)

兄(この辺に何か昔の事実を知る手がかりがありそうな気がする。もう少し細かく見てみ
よう)

兄(もったいないけど、研究の感想とかは今は読み飛ばそう)



20××年10月20日
今日は結婚記念日。期待しないでささやかなプレゼントを用意して帰宅したら、妻が玄関
に満面の笑みを浮かべて立っていた。締め切り間近で作家さんの家に詰めてるんじゃなか
ったのか。子どもたちに不審がられないように涙を抑えるだけで精一杯だった。



兄(ここまで拾い読みしても、やっぱりうちの家庭は幸せな家庭だったとしか思えない
な)

兄(あれ。今まではなかったと思うけど、この日の日記にはコメントがあるじゃん。誰だ
ろ)



名前:RY
偶然、ここを見つけました。先日は久し振りにお会いできて懐かしかった。池山さんお元
気そうでしたね。よかった。



兄(RYか。え)

兄(まさか)

兄(結城さんは、父さんの元カノで離婚した自分の元妻の名前は怜奈だって言ってたよ
な)

兄(旧姓はわからんけど、この時期には怜奈さんは結城さんと結婚していたはずだし)

兄(RYって結城怜奈か? 久し振りにお会いできたとか妻には言えないとか)

兄(RYがコメントしている記事だけ追ってみよう。ほとんどコメントがついてないから探
すのは簡単だし)

兄(怜奈さんって父さんの浮気で別れちゃった元カノだよな。なんかどきどきする)


名前:RY
幸せかって言われると微妙だけど。でも自業自得だからね。だから、傷つけちゃった君が
今とても幸せで安定している家庭を築けている様子なのがわかって嬉しいよ。でもありが
とう。昔から君は優しかったよね。あたしがバカだったのにね。
あたしの方も夫婦仲は悪くないし息子のゆうは可愛いよ。もう中学生だから可愛いという
のも何だけど、素直ないい子に育っていると思う。この子にだけは昔の自分を知られたく
ない。それだけを心配しています。

名前:池山
僕は今は幸せです。確かにあのとき君が言ったとおり僕はさえない地方公務員として生き
ているけど、いろいろあった結果としてこの家庭を築けてよかったっと思っていますよ。
だから怜奈さんももう僕を傷つけたなんて気にしなくていいんだ。君も幸せのようで何よ
りです。いろいろあったけどお互い行き着くところに行き着いたんだね。
これからもよろしく。いつか四人で会えたらいいね。



兄(RYってやっぱり怜奈さんじゃん。ゆう君の名前まで出てきているし)

兄(つうか。何で怜奈さんが父さんを傷つけたってコメントしてるんだ。逆だろ。母さん
に誘惑されたにせよ、浮気したのは父さんの方なのに)

兄(読んだらいろいろ過去のことがわかるかと思ったのに。逆に謎が深まってしまった)



名前:RY
言い訳になっちゃうけど、君の選んだ進路を本心でバカになんかしてなかった。あのとき
は心が追い詰められて無理にでも偽悪的な態度を取らないと自分が崩れて行きそうだった
の。自業自得なのにね。
四人で会うのは正直敷居が高いから無理。でもありがとう。



兄(予備知識なくこれを読んでいたとしたら、怜奈さんの方が父さんを傷つけたとしか思
えないだろうな。結城さんの話とこのコメントのやりとりってしっくりとこないのはなぜ
なんだろう)

兄(それにしてもこの怜奈って人、このコメントの頃はまだ父さんに未練があったのだろ
うか。短い文章だけと何となくそんな気がする)

兄(このときにはお互いにもう子どもがいたのにな)

兄(結城さんの誤解ってこともあるのかな・・・・・・いや。結局母さんに裏切られた結城さん
は怜奈さんと結婚しているわけだし。誤解したまま結婚して子どもまで作るわけがない)

兄(もう少し読んでみようかな)


兄(結局徹夜になってしまった。研究者って理系文系を問わず文章を大量に書く能力が必
要だと前に父さんが言ってたけど、まさかホームページの日記ごときで父さんがそれを実
践していたとは思わなかったよ)

兄(まとめたら本が一冊できそうだ)

兄(・・・・・・)

兄(いや。マジで出版できるんじゃないか? これ。登場人物を実名とかを偽名にすれば
さ)

兄(父さんの出版物って論文ばっかだもんな。こういうのもいいかも)

兄(いや。世間的には無名な研究者の日記なんか出版してくれる出版社なんかないだろう
なあ)

兄(だったら自費出版で)

兄(まあいいや。でも、少なくともこれ母さんと妹には読んで欲しい。父さんの母さんや
家族への愛情が溢れているしな)

兄(いや。だめだ。怜奈さん関係のコメントがある以上、母さんと妹の目に触れさせるわ
けにはいかないな)

兄(結局、あれのほかには怜奈さんのコメントはなかったし、父さんの日記にも怜奈さん
や結城さん関係の記載はなかった)

兄(研究のことや家族のことばかりだったな)

兄(結局、昔あの四人の間に何が起きたのかはわからなかった)

兄(・・・・・・眠い。今日は休日だし幼馴染とも約束もないし。少し眠るか)

兄(寝たら少しじゃすまない予感はするけど)

兄(寝よ)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・なんだなんだ)

兄(チャイム? いったい今何時だ・・・・・・六時三十分。まだ二時間も寝てねえじゃん)

兄(宅急便か)

兄(あ! 幼馴染が遊びに来たのか? 待たせたらかわいそうだしすぐに出よう)

兄「今開けます」

兄(・・・・・・あ)

妹「こんな時間にごめん。まだ寝てたよね」

兄「何でおまえが、こんな時間に・・・・・・」


妹「ごめん。お財布を取りに来たの」

兄「財布っておまえ。こんな時間にか?」

妹「・・・・・・ごめんなさい」

兄(なんなんだ。つうかこいつ)

兄(・・・・・・泣いてる?)

兄「どうせ起きるとこだったからちょうどよかったよ。まあ、入れよ」

妹「・・・・・・うん」

兄「朝飯食った?(何で妹が泣きながらこんな時間に)」

妹「食べてない」

兄「何か食う?」

妹「いい」

兄「その辺に座れよ。コーヒー入れるから」

妹「・・・・・・あたしがする」

兄「いいよ。ついでだから」

妹「うん」

兄(どう考えても財布じゃねえだろ。こんな時間に妹が俺のところに来るなんて。いった
い何があったんだ)

兄「ほら。ミルクと砂糖はここ」

妹「ありがと」

兄「これ財布な。念のため中身確かめたら」

妹「いい」

兄「そうか」

妹「・・・・・・」

兄(眠い。すごく寝たいけど妹を放置して寝るわけにもいかねえし)

妹「ねえ」

兄「うん?」

妹「お姉ちゃんは?」

兄「はい?」

妹「いるのかと思った」

兄「何で幼馴染がここにいるんだよ」

妹「だって。付き合ってるんでしょ」

兄「何でおまえが知ってるんだよ」


妹「お姉ちゃんから電話で聞いた」

兄(あいつめ。マジかよ)

妹「お姉ちゃん、毎日お兄ちゃんのアパートに行ってるって嬉しそうに言ってたし」

兄「そんなわけあるか(一回来てくれただけだっつうの。それはこれからはもっと頻繁に
ここに来てくれるだろうけどさ)」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・ミルク入れねえの」

妹「うん」

兄「何で? おまえいつもミルクと砂糖入れてたじゃん」

妹「そうだけど」

兄「別にいいけど」

妹「ありがと」

兄「え」

妹「ありがと。お兄ちゃん」

兄「何言ってるんだよ」

妹「好み覚えていてくれたんだ」

兄「それは。まあ、一緒に暮してた兄妹だしな」

妹「そうか」

兄「・・・・・・何かあった?」

妹「え」

兄「財布取りに来ただけじゃねえだろ」

妹「・・・・・・うん」

兄「やっぱりな」

妹「何でわかったの」

兄「確かにたいして仲のよくない兄妹だけどさ。それでも十何年も一緒に暮してればさ。
それくらいはわかるようになる(ベテランの幼馴染か。あれと一緒だ。俺も期せずしてベ
テランの兄になっていたのかもしれん)」

妹「お姉ちゃんがいるかと思って」

兄「幼馴染に会いにここに来たのか」

妹「うん。お姉ちゃん、いつもお兄ちゃんと一緒だって惚気てたし」

兄「それは残念だったな」

妹「・・・・・・別にいいよ」

兄「何があったの」


妹「・・・・・・」

兄(俺になんか話せないか。しかしいったいどうしたんだろ。まさか)

兄(まさか、ゆう君とのことが母さんたちにばれたのか)

兄(・・・・・・そうだとしたら。俺なんかが聞いても相談に乗れる気がしねえ)

兄(そもそもゆう君とこいつの関係に賛成なんかできっこないし。ゆう君のあのチャらい
格好には目を瞑るとしてもだ。義理の姉弟で抱き合ってキスすること自体不道徳じゃん
か。相談されても俺だって母さんの味方をするしかないもんな)

兄(どうしよう。幼馴染を呼び出すか)

妹「あの、さ」

兄「お、おう」

妹「お兄ちゃんってさ、ゆう君のことどう思う?」

兄「どうって(ビンゴかよ。この先の話は聞きたくねえ)」

妹「彼って格好いいじゃない? 学校とかでももててるかな」

兄「何の話だよ。俺にどう言えっていうの」

妹「ごめん。そうだよね」

兄「なあ」

妹「・・・・・・うん」

兄「何か悩みがあるんだろ。俺には言えない悩みがさ」

妹「・・・・・・」

兄「幼馴染を呼んでやろうか」

妹「朝の七時前に?」

兄(そうだった)

兄「いや。もう少し時間が経ったら」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「よかったらだけど。今まで仲が悪かったのにこんなこと言える立場じゃないかもだけ
ど」

兄「何なんだよ」

妹「お兄ちゃん。相談に乗ってくれる? 迷惑じゃなかったら」

兄(迷惑とか以前におまえとゆう君の関係に賛成できないっつうの)

兄「いいよ(何言ってるんだ俺)」

妹「・・・・・・ありがとう」


兄「話してみ」

妹「うん。あのさ、あたしゆう君とお付き合い始めたんだ」

兄「そうか」

妹「驚かないの?」

兄「おまえ、同居前から態度でバレバレだったしな」

妹「でも」

兄「何だよ」

妹「反対しないの?」

兄「俺の意見はともかく相談があるならまずそれを話せよ」

妹「わかった。お兄ちゃんが一人暮らししたでしょ。それで、二日目からはママも結城さ
んも帰宅が遅くなってね」

兄「ああ。おまえがゆう君に飯を作って、次の日から、飯の支度はいらないって言われた
んだろ」

妹「そうなの。それで、ゆう君にあたしのご飯って口に合わない? って聞いたの。ゆう
君って二人きりの家で、あたしの目の前でコンビニのお弁当とか食べてるんだもん」

兄「・・・・・・それで」

妹「そしたらゆう君にいきなり抱きしめられてキスされた」

兄「・・・・・・よかったな」

妹「よかったなって」

兄「望みどおりじゃねえの?」

妹「・・・・・・次の日ここに、お兄ちゃんの部屋にはじめて来たじゃない?」

兄「ああ、あの日のことね」

妹「混乱しててさ。ゆう君があたしのことを好きなら、何であたしの料理を食べないんだ
ろうと思って」

兄「それで」

妹「お兄ちゃんに料理のこと誉められて、そう言うものかと思ってそのときは納得したの。
それでお兄ちゃんの部屋を出て駅まで来たところで」

兄「どうした」

妹「ゆう君がいた」



妹『どうしたの。こんなところで』

ゆう『おまえを探してた』

妹『探してたって何で・・・・・・あ』

ゆう『じっとしてろ』

妹『ちょっと。やめて。こんな駅前じゃいや』

ゆう『うるさい。黙ってろ』

妹『・・・・・・いや』

ゆう『おまえだって嫌じゃないんだろ』


兄(けだものかよ。強引にもほどがある。こんなやつに妹が弄ばれるなんて)

兄(・・・・・・だけど。妹も抵抗していなかった。俺はあのときはっきりと見たんだ)

兄(結局いいなりになる妹の方にもっと腹がたつ)

兄「おまえだって別に嫌じゃなかったんだろ。突然だとか人前だとかが気になっただけで
さ」

妹「・・・・・・うん」

兄「(やっぱり)じゃあ、何が問題なの」

妹「ゆう君のことは正直好きだったから。それは突然でびっくりして抵抗しちゃったんだ
けど。別に嫌だったわけじゃないの」

兄「(実の妹のこんな話聞きたくねえ)じゃあ、何が問題なの」

妹「ゆう君に抱かれてキスされてたとき」



ゆう『そう。それでいいよ。素直な方がおまえって可愛いよ』

妹『・・・・・・ばか』

ゆう『家に帰るか』

妹『・・・・・・歩けないよ』

ゆう『俺につかまれ』

妹『うん』

?『何やってんの』

ゆう『おまえか』

妹(誰?)

?『堂々と駅前で浮気かよ』

ゆう『うっせえなあ』

妹(この女の人、誰だろ。大学生みたいだけど)

?『この子誰?』

ゆう『幼友には関係ないだろ』

妹(幼友って言うんだ。何で怒ってるんだろ)

幼友『あたしには聞く権利があると思う。あんたの彼女なんだし』

妹(え?)

ゆう『うるせえ。誰が彼女だよ。おまえなんかセフレだっつうの』

妹『(もうやだ)あ、あたし先に帰るね』

ゆう『おい。ちょっと待てよ妹。誤解だって』

幼友『あら。この可愛い子に振られちゃったね。ゆう』

兄(最低だなゆう君って。こんなやつが好きな妹も大バカだけど)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたしもお兄ちゃんと一緒にここで暮していい?」

兄「はあ?  何言ってるんだおまえ(本当に何言ってるんだこいつ)」


今日は以上です
また投下します


兄「その女の名前、幼友って言ってたのか」

妹「そうだけど」

兄(まさかな。よくある名前だし)

妹「何でそんなこと聞くの」

兄「いや。何でもない。それで逃げ出してどうしたんだよ(妹とゆうが抱き合っていると
ころを目撃したのは二日前じゃんか)」

妹「しかたがないから家に帰った」

兄「あいつはいなかったのか」

妹「いたよ。でも偶然パパが帰っていたから、ゆう君もあたしには何も言わなかった」

兄「そうか」

妹「でも、昨日の夜は二人きりで」

兄「二人きりで?」

妹「それ以上はお兄ちゃんにも言いたくない」

兄(何か変なことをされかかったのか。さっきの話のゆうの様子ならそれくらいはしかね
ないな。力づくで妹を納得させようとするくらいは十分ありえるかも)

妹「とにかく幼友とかという女のことも説明してくれないし。それは彼のことは好きだけ
どこのままうやむやにされて、その・・・・・・そういうことされるが嫌だったから。何とか逃
れて部屋に鍵をかけてた」

兄(妹からこんな生々しい話は聞きたくなかったなあ。小学生の頃は可愛らしく俺に寄り
かかって日曜午前の魔法少女アニメを見てたこいつが、ゆうにその)

兄「まあ、そういうことがあったあとで、ゆうと二人きりの家にいたくなくて始発で俺の
とこにきたわけか」

妹「・・・・・・うん。うやむやにされたまま彼と関係するのは間違っていると思ったから」

兄「関係とか生々しいことを兄貴に言うなよ」

妹「ごめん。でも相談に乗ってくれるってお兄ちゃんが言ったから」

兄「おまえは結局どうしたいの」

妹「どうって」

兄「ゆうから逃げて俺のところで暮したいの?」

妹「うん。お兄ちゃんがよければだけど」

兄「それってさ。もうゆうとは付き合わないってこと?」

妹「まだ、そこまで考えたわけじゃ」

兄「まだあいつのこと好きなの」

妹「・・・・・・多分」

兄「じゃあ、ここで暮しても何の解決にもなんねえじゃん」

妹「え」


兄「ゆうと縁を切りたいというなら、俺だっておまえの兄貴だしいくらでもおまえのこと
をここで匿ったっていいけどさ。まだ、あいつに未練があるならここに隠れて逃げてたっ
てあいつとの仲は改善されないんじゃねえの」

妹「そうだけど。でも一緒に暮しているとなし崩しにゆう君に抱かれてごまかされちゃう
もん」

兄「それはそうかもしれねえけど(抱かれるとか生々しい話を妹から相談されるとは思わ
なかったよ。童貞だぞ俺は。相談相手を間違えてるだろ)」

妹「・・・・・・少し時間と距離を置いて冷静に考えようかなって思って」

兄「にしても突然ここで暮すってよ」

妹「そうだよね」

兄「いくらなんでも突然すぎるだろ」

妹「お兄ちゃんはやっぱり迷惑だよね」

兄「(そうじゃねえだろ)いやそうじゃなくてさ。いきなり家出みたいにここに逃げ込む
わけにはいかないだろ。母さんに何て話すんだよ。彼氏のゆう君が二股かけてるみたいだ
から俺のところで暮しますって話す気かよ」

妹「・・・・・・ママはきっと怒るよね」

兄「それは間違いない。義理の姉弟でキスとかしたことにか、いきなり家出同然に俺のと
ころで暮しだすことにか、どっちに怒るかは別として」

妹「あたし、どうしたらいいの」

兄「おまえが単純にゆうから逃げたいなら兄貴としておまえを匿うよ。でも幼友とかいう
女のことを説明させたうえで、ゆうと仲直りしたいと言われても俺の力じゃなあ」

妹「うん。でもただ住まわせてもらうだけいいんだけど」

兄「まあ俺になんか男女関係の解決なんか期待してないだろうけどさ」

妹「そうは言ってないよ」

兄「やっぱり幼馴染を呼ぼうか」

妹「・・・・・・」

兄「もともと幼馴染がいると思って俺のとこに来たんだろ(こいつ。幼馴染が俺の部屋に
泊まっていると思い込んでたんだろうか)」

妹「・・・・・・」

兄「LINEでメッセージしとくわ。起きてたら返事してくれるだろうし」

妹「うん。お姉ちゃんにも迷惑かけちゃうね」

兄「あいつはおまえのこと大好きだからな。迷惑だなんて思わねえだろ」

妹「それならいいけど」


兄「既読になった。てか返信来たけど」

妹「お姉ちゃん何だって?」

兄「今日はどうしてもはずせない予定があるから無理だって」

妹「そう」

兄「明日なら朝から来れるけどって」

妹「一晩くらいなら部屋に鍵をかければ・・・・・・」

兄(脅しかよ。妹の貞操が危ないって考えれば、兄貴としてはもうごちゃごちゃ悩んでい
る場合じゃねえか)

兄「とりあえず、今晩はここに泊まってけ」

妹「え」

兄「そんで明日、幼馴染に来てもらうからさ。あいつに相談するといいよ」

妹「いいの?」

兄「あそこに帰ったらおまえがゆうに襲われるかもなんて脅かされたらそう言うしかねえ
だろ(そんな言い方はねえだろ俺は。こいつはゆうのことが好きにしても、悩んでいるこ
とには違いないんだし)」

妹「ごめん」

兄「いや。ちょっと言いすぎた。で、どうしようか」

妹「どうしようかって?」

兄「さすがに黙って俺のとこに泊まるわけにもいかねえだろ」

妹「・・・・・・うん」

兄「とりあえず母さんに連絡するわ。二人とも土日も仕事か?」

妹「今日明日は家に帰れないって」

兄「じゃあ俺から母さんに連絡しとくよ」

妹「ママにはなんて言うの」

兄「心配するな。とりあえずおまえとゆうのことは黙っておくから。俺の部屋がすげえ汚
いから、おまえが心配して一晩泊りがけで掃除してくれることになったって言っておく
よ」

妹「え」

兄「えって。何かまずいか」

妹「それだとかえってママを心配させないかなあ」


兄「なんで」

妹「あたしがお兄ちゃんの家に押しかけて一緒に寝るって聞いたらさ」

兄「(一緒に寝るって何だよ。言葉遣いに注意しろっての)別に、二人きりで過ごすなん
て前の家では普通にあったことじゃんか。父さんが亡くなったあとは」

妹「ママってさ。前からあたしとお兄ちゃんが変な関係にならないかって心配していたっ
ぽいし」

兄「・・・・・・はあ?(何言ってるんだこいつ)」

妹「昔から何度もそれとなく釘を刺されてたよ。あたしは」

兄「何の話だよ突然」

妹「お兄ちゃんは言われたことない?」

兄「あるわけねえだろ」

妹「あたしは言われたな。小さい頃ね、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するって言った
ら。ママには本気で怒られた。兄妹は結婚できないのよって」

兄「小さい頃って幾つだよ」

妹「小学生の頃じゃないかな」

兄「(妹と仲の悪くなる前、俺たち兄妹が一番仲良かった頃か)さすがに小学生で兄妹で
結婚とか言ったら、それは母さんだって切れるだろ」

妹「そうなのかな」

兄「そうだよ」

妹「ママを怒らせたくなかったし、お兄ちゃんと仲良くしたらいけないんだなって思っ
て」

兄「うん」

妹「そうしてたらいつのまにかお兄ちゃんと本当に仲が悪くなっちゃった」

兄「意味わかないし」

妹「とにかくそういうことなの」

兄「よくわからんけど、今なら大丈夫だよ。俺とおまえがここで一晩過ごすくらいで母さ
んが切れるわけないって」

妹「・・・・・・うん」

兄「と言うわけで母さんにメールするぞ」

妹「お願い」

兄「メールはした。なあ?」

妹「何?」

兄「悪いんだけどさ。俺、昨日徹夜だったんだよね。ちょっと寝てもいいか」

妹「ごめん。大学の勉強してたんだ」

兄「(父さんの日記のことは言えねえ)まあな。おまえは好きにしててもいいし、外出し
ててもいいからさ」

妹「わかった」

兄「一応、鍵渡しとくから。出かけるなら鍵かけて行ってな」

妹「出かけないけど。でも、邪魔しないから」

兄「うん。じゃあ、ちと寝るわ」

妹「おやすみなさい」

兄「え? うん。おやすみ」


兄(妹が俺におやすみって言うのなんていったい何年ぶりだろ)

兄(兄妹で普通に話ができるようになったのはいいけど。妹とゆうの問題は全く片付いて
いないし)

兄(つうか眠い。完徹で父さんの日記を読んだせいだな)

兄(・・・・・・寝落ちの感覚が襲ってくる)



兄(寒い)

兄(毛布がどっか行っちゃったのか)

兄(・・・・・・結構寝たのかもしれん。周囲が薄暗い)

兄(え。何で俺のベッドで妹が一緒に寝ている?)

兄(別にやばい距離じゃねえよな。物理的な接触はないし。だけど)

兄(物心ついて以来妹との距離がこんなに近いのは初めてじゃないか)

兄(物理的接触はないが・・・・・・)

兄(匂いはするな。こんだけ距離が接近していると)

兄(何か柑橘系の香りだ・・・・・・てか何だ。俺のシャンプーの香りじゃん)

兄(薄暗いけど、見えることは見える。見たいわけじゃないと思うけど見えてしまう)

兄(白T一枚で寝ている妹が悪い)

兄(むき出しの腕とか、細い首筋とか、ほの白く光っているように見える胸元とか)

兄(落ち着け俺。別に動揺するようなことじゃない。妹に抱きつかれている訳じゃねえん
だし)

兄(今何時だろ・・・・・・三時? 午後?)

兄(いや。窓の外が真っ暗なところを見ると夜中の三時だ)

兄(朝の七時すぎごろ寝たはずだから。え。二十時間も寝たってことか)

兄(徹夜後とはいえ我ながらありえねえ。)

兄(妹も俺を起こさなかったのか。朝昼晩と飯とかどうしたのかな)

兄(何か落ち着くな。ここまできたらもう少し眠るか)

兄(!)


兄(こら。俺に抱きつくなよ)

兄(おまえ、絶対俺をゆうと勘違いしてるだろ)

兄(・・・・・・前にも思ったことだけど)

兄(こいつ可愛いな)

兄(・・・・・・いやいや。俺には幼馴染がいるんだ。こいつに抱き付かれたくらいで動揺して
どうする)

兄(とにかく寝よう。こいつが俺に抱きついていることは無視だ。なかったことにする)

兄(華奢な骨格とか薄いしっとりとした肌の感じとか)

兄(ええい。全部忘れろ。感じるな俺)

兄(もう一度寝よう)

兄(・・・・・・眠れねえ。それはそうだ。昨日の朝から寝てるんだもんな)

兄(そっと妹の手を振り解いて)

兄(よし。妹を起こさないようにして、明後日のゼミの予習でもしよう。パソコンを見る
だけなら部屋の照明を点けなくてすむし)

兄(あ、やべ。父さんのホームページ開きっぱなしで寝ちゃったかも)

兄(どれ。パソの電源落ちてるな。よかった。消したんだっけ)

兄(・・・・・・消した覚えがない)

兄(二十時間。俺が寝ている間それだけ時間があって、することのない妹がパソコンの前
に座るっていかにもありそうだ)

兄(まさか)

兄(・・・・・・)



妹「あれ」

兄「何があれだ」

妹「何であたし寝てたんだろ」

兄「俺が知るわけねえだろ(寝起きのこいつの顔ってこんなに可愛かったんだ)」

妹「お兄ちゃんはいつ起きたの」

兄「ついさっき(無意識に髪を撫でつける仕草とか。今まで気にしたこともなかったのに。
つうか綺麗な髪だな。触ったら気持ちよさそうだ)」

妹「全然気がつかなかったなあ」

兄「おまえは寝てたんだし気がつくわけないだろ」

妹「それもそうか」

兄「おまえを放っておいて悪かったな」

妹「え・・・・・・ああ、別にいいよ。徹夜明けだったんだし」

兄「こんなに熟睡するとは思ってなかったよ」

妹「お兄ちゃん、ずっと寝続けてたよ。死んでるみたいだった」

兄「おまえなあ。もう少し例えようがあるだろうが」

妹「うふふ。だってそう言う感じだったんだもん」

兄「まあ二十時間近く寝るとは思ってなかったけど(何かなごやかな雰囲気だ。こんな
に妹とのこういう雰囲気で話せるなら、一緒に暮らしていた頃にこうしてればよかった
な)」


兄「おまえ、何時ごろ寝ちゃったの?」

妹「よく覚えてないや。暇だったからお部屋を掃除して」

兄(え? まさか俺のコレクション)

妹「冷蔵庫の中の物で夕ご飯の支度して」

兄「食事の支度してくれたのか」

妹「うん。暖めればすぐ食べられるよ」

兄「ありがとう」

妹「泊めてもらうんだしそれくらい」

兄「そうか」

妹「それで食事の支度してから暇で。お兄ちゃんは全然起きる様子もないし」

兄「うん」

妹「それでパソコン借りて・・・・・・あ、そうだ」

兄「何だよ」

妹「あれさ。絶対パパの文章だよね」

兄「・・・・・・見たの?」

妹「うん。お兄ちゃんは全然起きないし暇だったからパソコン借りようと思ったら、パパ
の日記が表示されてて。夢中で読んじゃった。すごく時間がかかったけど」

兄「(コメントには気がつかなかったのか)そうか。俺も昨晩初めて読んだんだよ。学生
時代の父さんの後輩が、今俺のゼミの指導教授でさ」

妹「そうなんだ」

兄「先生に教わったんだ。父さんの日記がネットに残ってるよって」

妹「うん。何かね。読んでいて泣いちゃったの。読んでよかった」

兄(やはり怜奈さんのコメントには気がついていないようだな。コメントってデフォじゃ
表示されないしな)

兄「そうか」

妹「ごめんね」

兄「へ? 何がごめんなんだよ」

妹「前に話したことの繰り返しになっちゃうけど、お兄ちゃんの気持ちがようやく本当に
理解できたよ」

兄「どういうこと」

妹「パパのあの日記ってさ。ママやお兄ちゃん、それにあたしに対するパパの気持ちがす
ごく伝わってきたの。パパって本当にあたしたちのことを愛してくれていたんだなって」

兄「うん。それは間違いねえよ」

妹「そんなことはわかっているつもりだったんだけど。でも、実際にあの文章を読むとね。
生前のパパの言葉や態度とかがよみがえってきてね。何時間も泣きながら読んでた」

兄「・・・・・・うん」

妹「だからごめん。お兄ちゃんの気持ちにもっとちゃんと向き合ってあげずに、ママの再
婚に浮かれちゃって」

兄「別にいいけど(浮かれているのは母さんの再婚だけじゃねえだろ。ゆうとの)」

兄(・・・・・・まあ、いいや)

妹「ご飯にしようか」

兄「うん」


今日は以上です
また投下します


妹「って、え」

兄「どうした」

妹「外真っ暗じゃない。いったい今何時なの」

兄「夜中の三時半くらい」

妹「こら」

兄「何だよ」

妹「何でこんな時間にあたしを起こすのよ。三時半だとわかったら急に眠くなったよ」

兄「起こしてねえよ。おまえが勝手に起きたんだろ」

妹「寝る」

兄「ちょっと待て」

妹「何よ」

兄「ご飯にしようかって、おまえ言ったじゃん」

妹「はあ? まさか夜中の三時半に夕ご飯だか朝ご飯だかわかんないけど。こんな時間に
食べるつもりなの?」

兄「だいたいおまえがご飯にしようかなんて言うからさ。急に腹が減っていることに気づ
いちゃったじゃんか」

妹「朝だと勘違いしてたの! あれはなし。また寝直そうよ」

兄「まあいいけど」

妹「ほら。場所あけたよ」

兄「はい?(妹がベッドの上で奥の壁際の方にずれた)」

妹「お兄ちゃんも寝て。こんな時間に起きててどうすんのよ。寝よ」

兄「寝すぎて眠れねえかも」

妹「ベッドで横になったら意外と眠れるって。朝起きたらご飯用意してあげるから」

兄「・・・・・・あのさあ」

妹「なに」

兄「何も同じベッドに寝ることはないんじゃないか」

妹「ああ。お兄ちゃんはそっちを心配してたのか」

兄「まあな」

妹「確かにママはあたしとお兄ちゃんの仲を心配してるけど。だけど、黙ってれば一緒の
ベッドに寝たなんてママにはわからないじゃん」


兄「何でおまえと一緒に寝る必要があるんだよ」

妹「他に寝る場所ないじゃん。お兄ちゃんの部屋って」

兄「わかった。ベッドはおまえに譲る。俺は床に寝るから」

妹「だめ」

兄「だめって」

妹「お兄ちゃんが風邪引いちゃったら困るし」

兄「引かねえって。つうかおまえ今まで俺の体調なんか気にしたことなんかないくせに」

妹「無理矢理お兄ちゃんのアパートに押しかけてベッドまで奪うわけにもいかないもん」

兄「だってさ(だったら俺のベッドに勝手に入り込むなよ)」

妹「ほら。いいからこっちに来て」

兄(ゆう君のことで悩んでるんじゃねえのかよ。何でこんなにはしゃいでるんだ、こい
つ)

兄(って、おい!)

妹「何で逃げるのよ」

兄「シャツを離せって。伸びちゃうだろ」

妹「お兄ちゃんがあたしから逃げなきゃすむ話じゃない」

兄「おまえさあ」

妹「何よ」

兄「正直、おまえが言ってた母さんの疑いとやらは、少しも理解できなかったんだけど
さ」

妹「まあお兄ちゃんは鈍感だからね。無理はないと思うけど」

兄「いや。いろいろ理解できてないけど、今のおまえの様子を母さんが見たとしたら誤解
されるのもわかるような気がする」

妹「・・・・・・・何だ、理解できてるじゃん」

兄「何言ってるんだ」

妹「わかってるくせに」

兄「おまえ、俺のことずっと嫌いだったんだろ? 何で今さら心配なんか」

妹「・・・・・・お兄ちゃんだって、昔からあたしのこと嫌いだったくせに」

兄「やっと見解が一致したか。だったら何で一緒に引っ付いて寝る必要が・・・・・・ってちょ
っとは人の話を聞け(抱きつくな)」

妹「あたしたちって、十年くらい前にこうなれていたらよかったよね」

兄「どういう意味?」

妹「電気消して。もう寝よう」

兄(わからねえなあ)


妹「こら。そろそろ起きてよ」

兄「・・・・・・うん?」

妹「お姉ちゃんが来ちゃうって。いくらなんでもお兄ちゃん寝すぎでしょ。起きなさい
よ」

兄(あれだけ寝たのにまた眠れたのか。我ながら呆れるわ)

兄「悪い。起きたよ」

妹「おはよ。お兄ちゃん」

兄「おはよう(何か違和感が)」

兄(え?)

妹「どしたの? お兄ちゃん」

兄「どしたのじゃねえだろ。何で」

妹「何でって」

兄「何で俺たちって一緒に寝てるの(しかも妹は俺の腕に抱きついてるし。つうかやけに
言葉が近くで聞こえると思ったら)」

妹「寝ぼけてるの?」

兄「・・・・・・一緒に寝たんだっけ。そういや(妹の顔が俺の顔のすぐ近くにある。こんなの
って)」

妹「何か懐かしいよね。小学校の低学年の頃みたい」

兄(やばい・・・・・・こいつの胸元とかむきだしの細い手足とかいろいろやばい)

妹「どしたの」

兄(視覚的な刺激だけならともかく、直接肌に接触とかされると)

妹「お兄ちゃん?」

兄(妹の肢体に反応しちゃうなんて情けない。相手が幼馴染ならともかく)

兄(とにかく体の一部の反応については何とかこいつには誤魔化さないと)

妹「お兄ちゃんってば」

兄(それにしても妹は何でこんなに俺にフレンドリーなんだ。ちょっと前とは態度が全然
違うじゃんか。一晩泊めただけなのに。本当にゆうのことはどうすんだよ)

兄「一緒に寝たことはともかく、何で?」

妹「何でって?」

兄「いやその・・・・・・(ずっと疎遠だった兄妹の仲が近づいて妹も嬉しかったのかもしれな
いな。それで一時的にゆうとのことを忘れられたんならそれはそれでいいことなのかもし
れない。でも抱きつくことはないとは思うけどな)」

妹「へ? ああ。嫌だった?」

兄「別に嫌とかじゃねえけど」


妹「しかしお兄ちゃんてよく寝るよね。こんだけ寝てたらろくに大学とかに行ってないん
じゃないの」

兄「あのなあ。夜中に俺に寝なおせって言ったのはおまえだろう」

妹「それはそうだけど、あれだけ寝たのにあんなに早くまた寝ちゃうとは思わなかった
よ」

兄「俺っておまえより先に寝ちゃったの?」

妹「そうだよ。お兄ちゃんって本当に失礼だよね」

兄「失礼って何が」

妹「可愛い女子高生と一緒のベッドにいるっていうのに、お兄ちゃんたら普通に寝ちゃう
し。ひょっとして自分には女性としての魅力がないのかと悩んじゃったじゃない」

兄「俺が妹に対してそういう意味で興味を持ったらそれはそれで問題だろうが(いや。本
当は結構どきどきしたんだけどな)」

妹「それは確かにそうなんだけど、全く関心を持たれないのも何か悔しい。ましてこんな
格好をしてるっていうのに」

兄「わざとかよ」

妹「違うって。家を飛び出してきちゃったから着替えとか何にも持っていないだけだっ
て」

兄「そうか。にしても今までずっとお互いに無関心だったのさ。今さら悔しいも何もねえ
んじゃねえの」

妹「今までとは違うよ。だってあたしは昨日から本気でお兄ちゃんに好意を示しているの
よ。その結果が今までと同じじゃなあ」

兄「(本気で俺に好意をって・・・・・・。こいついったい何考えてるんだ)おまえの言うこと
はよくわからん。おまえが考えるべきは俺の関心を自分に向けることじゃなくて、ゆうの
ことだろうが」

妹「・・・・・・だって」

兄(俯いちゃった。よくわからんけど、何かこいつがかわいそうになってきたのは何でだ
ろ)

妹「・・・・・・ごめん」

兄「いや。そうじゃなくて」

妹「え」

兄「(正直に話すか)おまえにその肌むき出しの格好で抱きつかれたら、いろいろやばい
んだって。俺だって男だぞ」

妹「・・・・・・本当?」


兄(何でそこで可愛らしい上目遣いで俺を見る)

兄「うん。今だっておまえの体に興奮しちゃって下半身がやばい。さっきからおまえにば
れないように必死で」

妹「・・・・・・・」

兄(やべ。勢いで言いすぎたか。妹が引いているんじゃないか)

兄(実の妹に何てこと言っちまったんだ、俺は)

兄「あ、あのさ」

妹「ふふ」

兄「(何だ)変なこと言っちゃってごめん。忘れて」

妹「どうしようかなあ」

兄「おまえ・・・・・・」

妹「そうかそうか。お兄ちゃんの理性でもやっぱり妹の魅力には勝てなかったか」

兄「何言ってるんだよ(でもまあいいか。ゆうのことで悩んで辛い表情のこいつを見てい
るよりかはよほど気が楽だし)」

妹「ねえ?」

兄「何だよ」

妹「あたしって可愛いかな」

兄「・・・・・・実の兄にそれを聞いてどうする」

妹「昨日までならこんなことお兄ちゃんになんか聞かないよ。ずっと喧嘩していた相手に
こんな愚問を問いかけたって意味ないしね」

兄「じゃあ何で今なら聞けるんだよ」

妹「お兄ちゃんとは仲直りしたじゃん? それでいいんだよね」

兄「ああ」

妹「そしたらお兄ちゃんだってあたしのことを今までみたいにフィルターがかかった目線
じゃなくあたしを見てくれるだろうし」

兄「・・・・・・よくわかんねえけど」

妹「普通に一人の女の子としてあたしのことを見れるじゃん。ねえ」

兄「(何言ってるんだ。仲直りしあとの俺の目線はただの兄貴目線になるだけだろ)何だ
よ」

妹「お兄ちゃんから見て、あたしのこと可愛いって思う?」

兄「・・・・・・ああ、思う(嘘じゃないもんな)」


妹「やった」

兄「(何なんだ)それはとにかくおまえはいつまで俺に抱きついているつもりだ」

妹「ふふ」

兄(何笑ってやがる)

妹「実の妹の体に興奮しちゃったくせに」

兄(こいつ。こんな冗談を言うような性格だったっけ)

兄(それとも仲が悪かったから気がつかなかっただけで、もともとこういう陽気な性格だ
ったのかな)

兄「おまえさ」

妹「うん」

兄「本当は俺のこと好きなの?」

妹「・・・・・・」

兄「いや(何言ってるんだ俺)」

妹「そろそろ起きようか」

兄「ああ(妹が俺から身体を離した。まずいこと言ったかな)」

妹「お姉ちゃんが来てこの様子を見られたら、ようやくできたお兄ちゃんの彼女がいなく
なっちゃうかもしれないしね」

兄(そうだった。今日は幼馴染が来るんだった。まずい)

妹「ご飯にしよ。夕食のつもりが朝食になっちゃったけど」

兄「・・・・・・顔洗ってくる」

妹「その間に用意しとくね」

兄「うん」

兄(急展開すぎて付いていけねえ。妹ととの仲が改善されたのは素直に嬉しい。いつから
か仲が悪くなってからは正直むかつくばかりだったけど。でもよく考えてみれば何で喧嘩
みたいになっているのかすら覚えていないんだよな。昔なんかきっかけがあって仲が悪く
なったんだろうけどさ)

兄(そうなっちゃうともう惰性のようなもんで、何で喧嘩しているかもわからないでお互
いにぎすぎすしてたよな)

兄(妹が仲直りしたそうな様子はちょっと前から感じてたけど。それでも妹の関心はゆう
にあったわけで)

兄(それが何で俺に抱きついてくるまでになったのか)

兄(ゆうへの反発心か。それはあるかもな。妹にとってはあいつに浮気されたようなもん
だし)

兄(でも、妹がそれで悩んでいたのは確かだけど、うちに来たのは幼馴染に相談しようと
思ってだ)

兄(そう考えると妹が急にやたらに俺にベタベタするようになったのは何でだろう)

妹「お兄ちゃんまだ? 支度できたよ」

兄「今行くよ」


兄「すげえな。朝からこんなに豪華な飯とは」

妹「もともと夕ご飯だったんだよ。でもお兄ちゃん全然起きないし」

兄「それにしてもよ。よくうちの冷蔵庫の中身だけでこんだけ作れたな」

妹「そうでしょ? まあ料理するの得意だし」

兄「じゃあいただきます」

妹「ふふ。いっぱい食べてね」

兄「おう」

兄(何か気になるな。はっきりと聞くか)

妹「ご飯お代わりする?」

兄「うん」

妹「お茶碗貸して」

兄「自分でするって」

妹「いいから」

兄「もうそれくらいでいいよ。ありがと」

妹「どういたしまして」

兄「こないだもそうだったけど、おまえの飯ってうまいな。お袋の味って感じ?」

妹「あたしはママじゃないし」

兄「母さんは料理なんか滅多にしねえし。俺にとってのお袋の味っておまえが作る飯の味
だったのな」

妹「妹相手に何恥かしいこと言ってるのよ。でもまあ、ありがと」

兄「・・・・・・あのさあ」

妹「うん?」

兄「おまえと仲直りしたことは俺も嬉しいけど」

妹「うん」

兄「何で?」

妹「何でって・・・・・・実の兄妹が仲直りするのに理由が必要なの」

兄「いや、理由っていうかさ。おまえ、昨日の朝泣きそうだったじゃん。ゆうに浮気され
た挙句、家であいつに変なことされそうになったってさ」

妹「うん」

兄「そんな状況なのによく仲直りとか考える余裕があったな。たかが兄貴の家に泊めても
らったくらいでさ」

妹「お兄ちゃんのプリンター、お兄ちゃんが寝ている間に勝手に借りた」

兄「はい? いや別にいいけど」

妹「これからあたしが生きて行く上でこれが一番大切な物になると思う。あたしが生きて
行く上でこれがあたしを支えてくれるの。はい」

兄「プリント?」


兄「これって。父さんのブログ?」

妹「うん」

兄「何で印刷なんか」

妹「読んでみたら?」

兄(何なんだよいったい。父さんのブログなら全部読んだっつうの)



20××年2月14日
研究を済ませて早々に帰宅するつもりだった。今日も妻が残業で帰れないので子どもの面
倒をみないといけないので。正直、家事や育児に追われないで好きなだけ研究時間を確保
できる同僚の研究者がうらやましくないと言えば嘘になるが、それでも僕にとっては家族
が一番なのでもうそのことは割り切っていた。
仕事のトラブルで予定より大分帰宅が遅れてしまった僕が自宅に戻って目にした光景
は・・・・・・。

リビングのソファで横になっている下の娘に覆いかぶさるようにしている上の息子の姿だ
った。どうも娘は泣きながら寝てしまっていたらしい。気の強い娘が泣いていたのも意外
だし、まだ幼いと思っていた息子が娘の頭を撫でて子守唄(のつもりらしい)を歌いなが
ら娘を慰めていたことも意外だった。

どういうわけか泣いてぐずった娘を息子が必死で慰めたとのこと。それにしても娘は寝て
しまったのに息子は何で娘を慰め続けたのか聞いたら「撫でたり歌をやめたらすぐに妹は
起きて泣き出しちゃうから」だって。

テーブルの上には、娘が用意してくれた僕と息子へのチョコレート。

僕は息子を誇りに思う。そして娘も今でも必死に残業している妻も、そして僕自身なんか
よりよほど妹を守っている息子が大好きだ。せめてホワイトデーには定時に帰宅して娘に
お返しをしないといけないな。ちょっと変則的だけど息子にもその日には何かプレゼント
しようと思う。



兄(全部読んだつもりだったけど読み飛ばしていた部分があるんだな)

兄(父さん)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「パパのこと大好き・・・・・・お兄ちゃんのことも好き」

兄「・・・・・・そうか」

妹「今まであたしを守ってくれてありがとう。昨日だっていきなり来たあたしを心配して
くれて」

兄「うん」

妹「・・・・・・あたしね。もうゆう君のこととかどうでもいいかも」

兄(へ?)



幼馴染「兄君いる?」

妹「あ」

兄「幼馴染か」

幼馴染「昨日来れなくてごめんね。ドア開けて」


今日は以上です
また投下します


兄「幼馴染だ。思っていたより早かったな」

妹「ちょっと待って」

兄「うん? つうかとりあえず幼馴染に入ってもらおうぜ。こっちから呼び出したのにド
アの前で待たせるわけにいかないし」

妹「まだお兄ちゃんへの話が・・・・・・」

兄「本題に関係ない話は後で聞いてやるから。今はおまえとゆうの問題を解決しないと
な(よかった。妹と仲直りしたんだから相談に乗ってやりたいけど、どろどろの恋愛なん
て俺に解決するのは無理だ。何せ彼女いない暦・・・・・・じゃないな。今では俺にも彼女がで
きたんだった)」

兄(それでも恋愛スキルが不足していることには違いない。幼馴染だって俺が初めての彼
氏だろうけど、一応女だし何よりあいつは賢い。あいつなら妹の相談にだって乗れるだろ
う)

妹「ちょっとだけ待って・・・・・・」

兄「今開けるよ」

幼馴染「昨日はごめんね。すぐにここに駆けつけたかったんだけど、前から用事が入って
たの」

兄「いや。突然呼び出して悪かったよ。よく来てくれたな」

幼馴染「大切な妹ちゃんのことだもん。たとえ君が彼氏じゃなくたって妹ちゃんのためな
ら駆けつけていたと思うよ」

兄「ありがとな」

幼馴染「もういいって」

妹「・・・・・・お姉ちゃんごめんね。ありがとう」

幼馴染「妹ちゃん大丈夫? 元気ないじゃない」

兄(おかしいな。妹のやつ、さっきまでははしゃいでいるくらいに元気だったのに。急に
暗い表情になってしまった。やっぱあれは空元気で本当はゆうに嫉妬して悩んでたのか)

兄(何かむかつく)

兄(・・・・・・)

幼馴染「朝ご飯食べてたの?」

兄「もう食べ終った」

幼馴染「じゃあ、早速話を聞こうか」

兄「うん。頼むよ」

幼馴染「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・相談しねえの」

幼馴染「君は何を言ってるの」

兄「何って」

幼馴染「相談しねえのじゃないでしょ。君がいるから妹ちゃんは相談できないんじゃな
い。ファミレスかどっか行ってなさい」

兄「ファミレスって。飯食ったばっかなのに」

幼馴染「だったら大学の図書館に行って勉強してなさいよ。とにかく君は邪魔」


兄(幼馴染に自分の部屋から追い出されてしまった。確かに俺じゃあ妹の相談には対応で
きないけどさ。それにしたって横にいて話を聞くくらいはいいじゃんか。妹の悩みそのも
のは聞いてるんだし)

兄(まあいいか。ああいう話だけに女だけのほうが妹だって相談しやすいだろうし、幼馴
染だって相談に乗りやすいだろう)

兄(幼馴染が来てくれてよかった。正直、この先どうしていいか全くわからなかったんだ
し)

兄「はい、禁煙席で一名お願いします」

兄(・・・・・・妹と完全に仲直りした。ちょっと行きすぎなくらいにはしゃぐほど妹もそれを
喜んでくれた)

兄(幼馴染への告白に成功したことといい、妹との仲が修復できたことといい、俺って最
近ラッキーなことが続いているよな)

兄(正直幼馴染と付き合えたことと同じくらい、妹とと仲直りできたことが嬉しい)



「パパのこと大好き・・・・・・お兄ちゃんのことも好き」

「今まであたしを守ってくれてありがとう。昨日だっていきなり来たあたしを心配してく
れて」



兄「カフェバーをお願いします」

兄(単純に妹と仲直りできただけじゃない。妹との父さんについての想いを共有できたこ
とが何より嬉しい)



「これからあたしが生きて行く上でこれが一番大切な物になると思う。あたしが生きて行
く上でこれがあたしを支えてくれるの」



兄(それに母さんだって父さんの病床の言葉を聞いて涙を流した。俺の父さんへの想いっ
て決して独りよがりなもんじゃなかったんだ)

兄(浮気から始まった家族か)

兄(でももうそれを気にする必要はない。結城さんには悪いと思うけど、きっかけが何に
せよ父さんと母さんは幸せな家庭を築いたんだ。俺だけじゃなくて妹だって父さんの日記
を読んでそう思ったんだから、これはもう間違いない)

兄(・・・・・・その妹が好きになったやつだ。ゆうに対する評価も少し考え直さないといけな
いのかもしれん。正直、母さんの再婚相手の息子ってことで偏見があったことは否定でき
ないしな。人間は容姿じゃないんだ。あいつはヘビメタバンドのメンバーみたいな格好は
しているけど、それだけであいつの人間性を判断しちゃいけないのかも)

兄(何よりもゆうに襲われそうになって、仲の悪かった俺なんかのところに逃げ出した妹
自身がまだあいつに未練があるんだから)

兄(どこかいいところがあるのかもしれないな、ゆうにだって)

兄(・・・・・・)

兄(しかし可愛かったな妹)

兄(あいつの生意気な態度にむかついて、今までちゃんと妹のことを見てこなかったんだ
ろうな)

兄(実は俺の好みの外見だったんだ。性格はまあ置いておくにしても)

兄(・・・・・・)


兄(とりあえずコーヒーでも飲むか)

兄(・・・・・・あれ)

兄(父さんと俺のこと大好き発言の後、妹が言ったことって)

兄(幼馴染の来訪と被ったんで慌てていたせいか、今の今まで真面目に考えていなかった
けど)



「・・・・・・あたしね。もうゆう君とかどうでもいいかも」



兄(確かにそう言ってたよな。いったい何なんだろう。結果として妹と仲直りしたにせよ、
もともとあいつが俺の部屋を訪れたのって、ゆうに関する悩みからだろ)

兄(肝心のゆうのことがどうでもいいって何でだ)

兄(・・・・・・・)

兄(家を出てからもう一時間以上になるな。いったい相談ってどれくらい時間がかかるの
だろうか)

兄(コーヒーをおかわりしようか)

兄(あ。携帯に着信だ)



from:幼馴染
to:兄
sub:無題
『相談終ったから部屋に帰っておいで』



兄(やっとすんだか。家に帰ろう)

兄「ただいま」

妹「お兄ちゃん」

幼馴染「おかえり・・・・・・話は聞いたよ。これから君の新しい家に行って来るから」

兄「・・・・・・行ってどうするの」

妹「お姉ちゃんにはやめた方がいいって言ったんだけど」

幼馴染「おばさんの再婚相手の息子さんを悪く言うのは申し訳ないけどさ。そのゆう君っ
て人、人間のクズじゃん」

兄(幼馴染こええ)

幼馴染「力ずくで女の子にいうことを聞かせようなんて」

兄(力ずくって言えばそうだけど。でも、妹だってそのことが嫌なわけじゃなくて、幼友
っていう子のことを気にしただけだったはず)

妹「だから、別に力ずくってわけじゃ」

幼馴染「同じことだよ。妹ちゃんが自分を好きな気持ちに付け込んだんでしょ。あまつさ
え他の女との仲を見せびらかすような真似までして」

兄(そういう話だっけ)

妹「だからお姉ちゃんはちょっと落ち着いてよ。ゆう君はそこまで考えたわけじゃないっ
て」


兄(結局、妹はゆうを庇うのか)

幼馴染「妹ちゃんは騙されてるんだよ。あたしの可愛い妹ちゃんを誑かすような男は許さ
ない。たとえそれがおばさんの再婚相手の息子でも」

兄「おまえ、ゆうに会ってどうすんだよ」

幼馴染「厳しく注意してやるのよ。二度と妹ちゃんに手を出すなって」

兄「ゆうが逆切れしたらどうすんだよ。俺も一緒に行くよ」

幼馴染「君は邪魔。あたし一人で全然平気だから」

兄「俺が心配なの。自分の彼女を心配しちゃ悪いかよ」

妹「・・・・・・」

幼馴染「ふふ」

兄「何だよ」

幼馴染「君の気持ちは嬉しいよ。これは本当ね」

妹「・・・・・・」

兄「あ、ああ。それなら」

幼馴染「でもあたしは大丈夫。むしろ君が一緒だと喧嘩になりそうだし」

兄「何でだよ。俺はそんなに喧嘩っ早くないぞ」

幼馴染「普段はね。でも君の大切な妹ちゃんのことになるとどうかな」

兄「大切な妹って」

幼馴染「それよかさ。妹ちゃんはしばらくの間ここで暮すことにしたから」

兄「はあ?」

幼馴染「あたしがどう話を付けたにしても、新しい家でその獣と二人きりだなんて妹ちゃ
んが危険すぎるから」

兄「いや、ちょっと待て。妹の気持ちを無視しておまえが勝手にどんどん話を決めるな
よ」

幼馴染「無視してないよ」

兄「どういうこと」

幼馴染「妹ちゃんと話し合った結果、そう決めたの。妹ちゃんも同意しているってこと」

兄「妹?」

妹「お兄ちゃんごめん。昨日の話は忘れて」

兄「何なんだよいったい(幼友のことが気になっているだけで、おまえはゆうが好きなん
だろうが)」

妹「あたし、目が覚めた。ゆう君のことは本当には好きじゃなかったんだと思う。別にお
姉ちゃんが言うほどゆう君が悪いとも思わないけど、それでも今はゆう君と二人であの家
にいるのは気が重いの」

兄「本気で言ってるの? それ」

妹「本気って?」

兄「いや(この間までゆう君のこと以外目に入っていなかったって感じなのにな)」

妹「お兄ちゃんがよければあたし、ここにいたい」

兄「だっておまえ」

妹「お兄ちゃんとお姉ちゃんの二人きりの時間を邪魔しちゃうのは悪いけど」

兄「そんなことは言ってねえだろ」

幼馴染「妹ちゃんはそんなこと気にしなくていいよ。あたしだって妹ちゃんのことは大好
きだし」

妹「お姉ちゃん。ありがとう」


幼馴染「お礼なんか言わないでよ。あたしと妹ちゃんの仲じゃない。それに妹ちゃんはあ
たしの彼氏の妹なんだし」

兄「それにしてもだな。俺のとこで暮すのはいいけど、母さんや結城さんにはなんて説明
するんだよ」

妹「・・・・・・それは」

幼馴染「そんなの簡単な話じゃない。全てを打ち明けるのよ」

兄「いや、さすがにそれは」

幼馴染「何で? おばさんの再婚に水を指したくない気持ちはわからないでもないけ
ど、その再婚によって妹ちゃんが危険な目に会っているのよ? 汚いものに蓋をしてなあ
なあに過ごせることじゃないでしょ。君は自分の妹が変なことをされても平気なの? そ
れでも家庭の平和の方を選択する気?」

兄「んなわけねえだろ。妹のことは死ぬほど心配だよ」

妹「・・・・・・本当?」

兄「嘘言ってどうする。でもさ、おまえがゆうのことを庇いたい気持ちはわからないでも
ないし」

幼馴染「君は何言ってるの」

兄「何って。それはゆうのやつは獣みたいなやつだけど、それでも妹はゆうのことを」

幼馴染「・・・・・・ちょっと待って」

兄「何だよ」

幼馴染「妹ちゃん、さっきと話が違うんだけど」

妹「うん。お兄ちゃん違うの」

兄「はあ?」

妹「確かにゆう君のことは気になっていたけど、でも知らない女の人とのこととか、それ
を説明もしてくれないであたしのことを抱こうとしたこととかがあって」

幼馴染「兄にそこまではっきり言わなくてもいいよ」

妹「うん。だからね、今ではゆう君のことは好きだとは思えない、っていうかむしろ彼の
ことが恐い」

兄「それ本気で言ってるの」

妹「うん。嘘じゃないよ、本気」

兄(これまでの話とかは一体なんだったんだ。最初からそう言ってくれれば俺だって素直
にこいつを受け入れていたのによ)

幼馴染「そういうこと。鈍い君にもさすがに理解できたでしょ」

兄「わかった。それならもう遠慮はいらねえな。母さんに全部話そう。妹もそれでいいん
だよな」

妹「うん。お兄ちゃんがよければあたしもそれでいい」

兄(俺がよければって。俺の気持ちは関係ないだろ)

幼馴染「じゃあ役割分担しよう。あたしはゆう君のところに行って、これ以上妹ちゃんに
手を出すなって交渉してくる。兄君はおばさんに事情を全部話して、当面は妹ちゃんが自
分のアパートで暮すことを認めさせるのよ」

兄「(妹の言ってることって本心なんだろうな?)わかった。妹がそれでいいならそうす
る」

幼馴染「だから妹ちゃんはそう言っているでしょう。くどいよ」

兄「じゃあ、そうするよ。でもさ、妹の荷物とかはどうすんの」

妹「ママがいいって言ってくれたら、ゆう君のいない平日に荷物を取りに行くよ」

幼馴染「兄君はレンタカーとか借りて妹ちゃんの荷物運びを手伝うのよ。いい?」

兄「まあ、お前らがそう言うなら」


兄(幼馴染は勢い込んでゆうに会いに行ってしまった)

兄(相手が相手だしなあ。あいつがゆうに暴力を振るわれたり変なことをされたりとか思
うと、いても立ってもいられない)

兄(幼馴染には断られたけど密かに見守りに行くか。彼氏としての当然の義務だと思うし)

妹「ごめんね」

兄「何が」

妹「お兄ちゃんを振り回しちゃって」

兄「それはいいけどさ。だけど、ゆうのことが吹っ切れたなら最初からそう言えばいいの
に。俺はおまえがあいつのことが好きだとばかり思ってたよ」

妹「違うの。嘘を言ってたわけじゃないの」

兄「何で(つうことはやっぱり妹はゆうに未練があるってこと?)」

妹「昨日まではね。ほんとに自分の気持がよくわからなかったの。ゆう君のそばが心地い
い自分の居場所だと思っていたのも本当だし」

兄「・・・・・・うん」

妹「でもね。パパの日記を読んで・・・・・・。やっぱりあたしのことを本当に無償の愛情で包
んでくれるのは誰だろうと考えちゃって」

兄「父さんはおまえのことを本当に愛していたと思う。それだけは間違いないよ」

妹「そうだよね。あとお兄ちゃんも」

兄「え」

妹「お兄ちゃんとは何でかずっと仲悪かったけど」

兄「俺のせいかよ」

妹「ううん。そうは言ってない。でも、突然来たあたしを泊めてくれたし、その」

兄「どうした」

妹「あたしに優しくしてくれたり、あたしに興奮してくれたりさ」

兄「興奮っておまえなあ」

妹「パパの日記を読む前から、お兄ちゃんとは仲直りできて嬉しいと思った。それにあの
日記を読んだらね」



『どういうわけか泣いてぐずった娘を息子が必死で慰めたとのこと。それにしても娘は寝
てしまったのに息子は何で娘を慰め続けたのか聞いたら「撫でたり歌をやめたらすぐに妹
は起きて泣き出しちゃうから」だって』



妹「・・・・・・」

兄「それで?」

妹「・・・・・・うん」

兄(どうしたんだ?)

妹「お兄ちゃん大好き」

兄(はい?)

妹「誰が一番あたしを大切に守ってくれていたのか、あたしはようやく気がついたの」

兄「おまえの言ってる意味が」

妹「パパもママもお兄ちゃんも大好き。パパはあたしとお兄ちゃんの仲がいいことを喜ん
でくれてたのに。あたし、今までは親不孝だったよね」

兄(あの日記にそこまで心を動かされるかなあ。ちょっと感情移入しすぎなんじゃ)

妹「本当にゆう君とかもうどうでもいいの。今はお兄ちゃんと一緒に暮したい。それも前
みたく仲の悪い口も聞かない間柄じゃなくて、仲のいい兄妹として」


妹「お兄ちゃんこれはどうかな」

兄「いいんじゃねえの」

妹「ちょっと体が露出し過ぎてない?」

兄「そう言われてみれば(試着している女の子に感想を聞かれるなんて初めてだし。なん
と言っていいかわからねえ)」

妹「そう? でもこれくらいは普通じゃない?」

兄「そう言われてみればそうかも(露出しすぎだろう。こんな格好の妹に俺の部屋をうろ
つかれたら・・・・・・)」

妹「・・・・・・真面目に考えてよ」

兄「すまん。つうかよくわからない」

妹「何でわからないのよ」

兄「女の子の服の流行とかって俺には全然わからないし。俺を当てにしないほうがいい
ぞ」

妹「もう。違うでしょ」

兄「違うって何が」

妹「これは部屋着だって言ったでしょ。流行とかどうでもよくてお兄ちゃんとあたしがい
いと思えばそれでいいんだって」

兄「どういう意味?」

妹「部屋着なんだからお兄ちゃんしか見る人はいないんだよ」

兄「俺が見るって。そしたらちょっと肌の露出が多すぎで目のやり場に困るかも」

妹「ふふ。それでいいのよ。そうか、これだとお兄ちゃんが困るのか」

兄「少し刺激的すぎるかもな」

妹「じゃあこれにしよ」

兄「おい」



妹「とりあえず日常生活は送れるようになったけど」

兄「おまえ金持ちだな。もう五万円くらい遣ってるじゃんか」

妹「お姉ちゃんが貸してくれた。返すのはいつでもいいって」

兄「マジかよ」

妹「あとは制服と教科書とかだよね」

兄「さすがにそれは家に取りに行かないと駄目だよな」

妹「ゆう君がいる家には帰りたくない」

兄「でも制服とか無いんじゃ明後日から学校に行けないだろ」

妹「そうなんだよね。ゆう君がいないときに取りに帰るにしても平日になっちゃうから
ね」

兄「明後日の月曜に学校休んで俺と一緒に取りにいくか」

妹「そう言ってくれるのは嬉しいけど、こんなことで学校を休むのは嫌だな」

兄「おまえ、中学の頃から富士峰で皆勤だもんな」

妹「何で知ってるの? まあそうだけど」

兄「いくら仲が悪くてもそれくらいはな」

妹「・・・・・・そう」


兄「じゃあどうする? 明日の日曜日に行くか? ゆうと対決覚悟で(そうだ。妹がゆう
を好きじゃないなら、俺の大切な家族を弄ぼうとしたあいつに文句のひとつでも言ってや
ろうか)」

妹「彼とは会いたくない」

兄「さすがに今日明日で制服を作るわけにもいかんだろ」

妹「そうだけど・・・・・・あ」

兄「どうした」

妹「中学校の頃の制服が」

兄「あるの?」

妹「うちの学校って中学と高校で制服は変わらないし。背丈が伸びるからって高校にあが
るときにママが新しく新しく制服を作ってくれたんだけど」

兄「背丈なんか全然成長しなかったよな・・・・・・って、痛いって」

妹「うっさい。あの頃はあたしになんか何の関心もなかったくせに、何でそういうつまら
ないことだけは覚えてるのよ」

兄「悪い。でもそうか。その中学のときの古い制服があれば」

妹「あれは確か前の家に忘れてきたはず」

兄「まだあそこは売れてないんだよな」

妹「うん。確か鍵も・・・・・・あった」

兄「じゃあ取りに行くか」

妹「とりえず制服だけあれば学校はなんとかなる。教科書とかは借りられるし」

兄「じゃあ善は急げだ。幼馴染からはまだ連絡ないし。家に行こうぜ」

妹「お姉ちゃん大丈夫かな」

兄「いくら獣のゆうだって、いきなり初対面のしかも年上の女をどうこうしたりはしねえ
だろ」

妹「それならいいけど」

兄「(何か改めて心配になってきた)とにかく行こう。何かあったら幼馴染だって俺に連
絡するだろ」

妹「・・・・・・お兄ちゃんはお姉ちゃんの彼氏だもんね」

兄「あ、まあ」

妹「何照れてるの」

兄「照れてねえよ」


妹「鍵開く?」

兄「多分・・・・・・お、開いた」

妹「真っ暗だね」

兄「灯りは・・・・・・・つかねえな。電気は止められているらしい」

妹「スマホで少しは照らせるよ」

兄「おう。とにかく二階のおまえの部屋に行こう。あるならそこだろ」

妹「うん。でも何か気味悪いね」

兄「暗いからな。でもこの前まで生まれてからずっと暮してきた家じゃねえか」

妹「そうだけど。何か違う家みたい」

兄「気のせいだって・・・・・・おい」

妹「だって恐いんだもん。お兄ちゃんの腕に掴まるくらいいいじゃない」

兄「別にいいけど。じゃあ、階段をあがるぞ」

妹「ちょっと。あたしのそばから離れないでよ」

兄「だったらさっさと動けって。制服だけ取って早くと帰ろうぜ」

妹「うん」

兄「どう?」

妹「ちょっと待って。確かここに、あった」

兄「よし。ミッションは成功だな」

妹「これ、かび臭いよ」

兄「平気だよ。俺のアパートのそばに一日でクリーニングしてくれる店がある。帰りに寄
って行こうぜ」

妹「よかった」

兄「じゃあさっさと帰ろう」


妹「・・・・・・」

兄「どした?」

妹「この間までここに住んでたんだよね。あたしたち」

兄「そうだけど」

妹「パパが亡くなってからママが仕事を増やしてさ」

兄「うん」

妹「それからはママは帰って来ないし。お兄ちゃんとずっと二人で暮らしてたんだよね」

兄「夜はな」

妹「ずっと寂しかったなあ。何であの頃は今みたいにお兄ちゃんと仲良くできなかったん
だろ」

兄「さあ? 俺もおまえと仲直りしてからずっと考えてたんだけど。いまいち喧嘩したき
っかけが思い出せなんだよね」

妹「お兄ちゃんもそうなの」

兄「おまえもか」

妹「あたしたちってバカみたい」

兄「・・・・・うん」

妹「こんなに仲良くできるのに、何年も仲が悪いまま過ごすなんて。死んだパパに申し訳
ないよ」

兄(何だろう。何か泣きたい気分だ)

兄(父さん・・・・・・)

兄「・・・・・・帰ろう(これくらいはいいよな。でも妹に拒否されるかな)」

妹「・・・・・・・お兄ちゃんがあたしの肩を抱いてくれるなんて初めてだよね」

兄「(拒否されなかった)初めてじゃねえよ」

妹「あ。うん、そうだった。小学生の頃はよくお兄ちゃんが肩を抱いてくれてたなあ」

兄「(何か切ねえ)さっさと帰ろう」

妹「暗くて恐いからもっと強く抱き寄せて」

兄「ああ。わかった」

妹「ありがとね」

兄「いちいち礼なんか言うなよ」

妹「うん」


今日は以上です
また投下します


兄「うわ。外はまだ明るいな」

妹「家の中は暗かったのにね」

兄「窓のブラインドとか全部閉まってたからな。よく考えたら窓開ければ暗い中でごそご
そ探さなくてよかったんだな」

妹「勝手に入り込んだのに窓なんか開けたら近所の人に怪しまれるって」

兄「それもそうか・・・・・・っておまえ。何してるの」

妹「これ、埃まみれだ」

兄「ずっと使ってないんだからそんなもんだろ。これからクリーニング屋に行って、明日
中に綺麗にしてもらおう」

妹「うちの制服がセーラー服でよかったよ。ブレザーとかだったらブラウスとかネクタイ
とかいろいろ揃えなきゃいけなかったし」

兄「セーラー服ってそうなのか。下ってどうなってんの」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。セクハラだよそれ」

兄「それはおまえの考えすぎだ」

妹「下は普通に下着だって。聞くまでも無いでしょうが」

兄「セーラー服の下なんて見たことねえからわからねえよ」

妹「ああ、そうか。お姉ちゃんの高校って紺ブレだったもんね」

兄「・・・・・・それは事実だけど、何でここで幼馴染の高校時代の制服の話になるんだよ」

妹「お兄ちゃんは紺ブレはあるけどセーラー服を脱がしたことはないと言いたいわけね」

兄「おまえ、それこそセクハラ発言じゃねか」

妹「兄妹だからセーフじゃない?」

兄「兄妹だってセクハラだろ。つうかそれがセーフなら俺のさっきの発言だってセーフじ
ゃねえか」

妹「まあいいや。お兄ちゃんになら今度見せてあげるから」

兄「見せるって何をだよ」

妹「セーラー服の下」

兄「いい加減にしろ」

妹「そういえば電話はどうするの」

兄「話を変えて誤魔化すな」


妹「誤魔化してなんかいないけど。でも、今日からお兄ちゃんの部屋で暮していいならク
リーニング以外にもすることがあるよね」

兄「ああ。わかってるよ」

妹「嫌な役目をさせちゃってごめん」

兄「いや。おまえが謝ることじゃねえけど」

妹「うん」

兄「よし。悩んでてもしかたない。母さんに電話するぞ」

妹「お願いします」

兄(俺に敬語? なんだか調子狂うなあ)

妹「あたしもお姉ちゃんに電話してみるね。いくら何でもこんなに時間かかるわけがない
し」

兄「ああ(大丈夫かな。何か心配になってきた)」

妹「お姉ちゃん大丈夫かな」

兄「多分。あいつはしっかりしてるし。やばそうならすぐに俺に電話するって言ってたし
な」

妹「それならいいんだけど」

兄「それよか電話するぞ」

妹「ここで?」

兄「ああ。遅くなったら面倒だし。おまえはちょっとそこで待っててくれ」

妹「わかった」

兄「・・・・・・あ、母さん? 兄だけど」

兄「うん。ちょっと今話せる?」

兄「あのさ。実は妹のことなんだけど」

兄「当分の間、妹が俺の部屋で一緒に暮すことにしたいんだけど、いいかな」

妹「あ、ばか・・・・・お兄ちゃん。それ、話の順番が違うよ」

兄「ちょっと待って。いきなり怒鳴りだすことはねえだろ。話を聞けって」

兄「・・・・・・話聞けよ。理由があるんだって(母さんが怒り出しちゃった。口を挟む余裕す
ら与えてくれねえ)」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」


兄「母さんが言いたいことはそれだけ?」

兄「じゃあ、今度は俺が話す番でいいよな」

兄「いいか。落ち着いて聞いてくれよ」

兄「母さんが何を考えて今みたいなバカなことを言い出したのかは知らないけどさ。そう
しないと妹の身が危ないんだって」

兄「ちょっと黙って俺の話を聞いてよ。そのあとで母さんの話は聞くから」

兄「もうはっきり言うけどさ。妹は結城さんの息子のゆうに迫られててさ。いつも夜は二
人きりだし、実際に身の危険を覚えるようなこともあったらしい。とりあえず部屋に鍵を
して凌いでたそうだけど、そんな危険な環境に妹を置いておけねえだろ」

兄「そうだよ。いくら俺が妹と仲が悪かったからって、身の危険を感じて俺の部屋に逃げ
てきた妹を突き放せるか。大切な家族なんだぞ」

兄「・・・・・・」

兄「何だって。妹の思い過ごしとか自意識過剰とか正気で言ってんの? そんなに結城さ
んのことだけが大事なのかよ。自分の娘の身の安全なんかどうでもいいのかよ」

兄「じゃあ母さんに聞くけど。そんな態度で天国の父さんに顔向けできるわけ?」

兄「いいからちょっと黙って聞け!」

兄「母さんが妹を切り捨てて結城さんとゆうを庇うならそれでもいい。だけど、妹だけは
俺と一緒に住まわせてくれ。母さんの言うようにゆうが女性にはもてて妹なんかに興味が
ないんだったらそれで問題ねえだろ。どうせ結城さんも母さんも普段は滅多に家にいない
んだし」

兄「・・・・・・・何が言いたいわけ」

兄「ふざけんな! 何で自分の子どもたちを信じないで結城さんたちばっかり信じるんだ
よ。言うに事欠いて俺と妹が間違いを犯すかもなんて、何でそんなひどいことを息子に言
えるんだよ」

兄「わかった。もう母さんには何も期待しない。妹は俺の部屋に一緒に暮させる」

兄「脅しのつもりかよ。そうしたければそうすればいいだろ。母さんが生活の面倒をみな
いと言うなら、父さんの実家に頼るよ。じいちゃんとばあちゃんは、母さんの汚らしい想
像を信じるか、孫の俺と妹を信じるかどっちだと思う?」

兄「脅しじゃねえよ。本気だ」

兄「まだそれを言うのかよ。自分の娘より再婚相手のほうがそんなに大事なのか。もう母
さんとは話したくない。切るぞ」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」


兄「・・・・・・くそが」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「興奮しちゃって悪かったな」

妹「ううん。あたしのせいでお兄ちゃんに嫌な思いをさせちゃってごめんなさい」

兄「ゆうがおまえに迫ったっこととかさ。母さんはおまえの自意識過剰じゃないのって一
言で切り捨てやがった。ゆう君はそんな子じゃないとか、ゆう君に振られたおまえが嘘を
言ってるんじゃないかってさ」

妹「・・・・・・そんな。ママひどい」

兄「自分の娘のことなのによ。それは確かにおまえが母さんの前でゆう君大好きオーラが
全開だったことは否定できないけどさ。それにしたっておまえはまだ高校生だぞ。いくら
再婚相手の息子にしたってゆうの行動に甘いのにも程がある。それに」

妹「それに?」

兄「・・・・・・いやさ(母さんのあの暴言。とても妹には言えねえ)」

妹「・・・・・・あたしに遠慮しないで。せっかく仲直りしただから何でも話してよ」

兄「ふざけんなよって思った。母さんが怒鳴り散らして言うにはさ、俺とおまえが二人き
りで暮したら危険なんだって。お前の身が」

妹「そうか」

兄「妄想にしたって行き過ぎだよな。俺が妹のおまえをどうこうするわけねえだろ」

妹「そうでもないかもね」

兄「何言って・・・・・・。おまえ、俺がおまえをどうこうするんじゃないかってを疑ってる
のか」

妹「そうじゃないって。でも前にも話したでしょ。ママは昔あたしとお兄ちゃんが仲良す
ぎることに怒ってたって」

兄「何年前の話だよ。子どもを信頼しないにも程がある。父さんが聞いたら母さんのこと
を本気で叱っていたと思うよ」

妹「・・・・・・そうかな」

兄「とにかくもう頭にきた。行くぞ」

妹「行くって?」

兄「おまえの制服をクリーニングに出す。あと、俺の部屋でおまえが暮すのに必要なもの
がまだあるならそれを揃えるぞ」

妹「ママが反対しているのに?」

兄「当たり前だ。ゆうのところにおまえを住まわせるなんてできるか。あと金の心配なら
いらないぞ。俺にだって手持ちの金はあるけし、この先母さんが兵糧攻めをする気ならこ
っちにも考えがある」

妹「おじいちゃんとおばあちゃんを頼るの?」

兄「そうだ。もともと母さんと父さんの実家は仲が悪いからこれまでは遠慮してたけど、
母さんが実の子どもたちより結城さんとゆうの方が大切だみたいな態度に出るなら話は
別だ」

妹「お兄ちゃんはそれでいいの?」

兄「当たり前だ。父さんの日記を読んだんだろ。父さんだって俺がおまえを守ることを望
んでいるはずだ。おまえは今日から俺と一緒に暮せよ」

妹「お兄ちゃんてやっぱり男の子なんだなあ」

兄「何だって」

妹「あたしは男らしいお兄ちゃんって大好きだし、不覚にも少しだけ胸がときめいたけ
ど」

兄「けど?(何言ってるんだ)」


妹「お兄ちゃんがあたしが一緒に暮していいって言ってくれるなら喜んでそうする」

兄「だからいいって言ってるだろ」

妹「でも、今はそれよかお姉ちゃんから何の連絡もないことの方が気になる」

兄「あ。確かに(やべ。何でこんなに大切なことを忘れてたんだろう)」

店員「明日の午後四時以降のお渡しになりますけどよろしいですか」

妹「あ、はい。助かります」

店員「ではこちらの伝票にご住所、お名前、連絡先を」

兄(幼馴染、電話に出ねえなあ)

兄(まだゆうと話し合いをしているわけはねえしな)

兄(何より不安なのはLINEが既読になってることだ。俺が心配しているメッセージは確実
に幼馴染に伝わっているわけで、それなのに返信もないし電話にもでない)

兄(何か用事ができて手が離せないのか。まあ、それならいいんだけど。幼馴染は無事だ
ということだし)

兄(妹の話だとゆうは結構乱暴なことをしかねない性格みたいだし)

兄(幼馴染・・・・・・)

店員「それではセーラー服の上下で三千五百円になります」

妹「はい・・・・・・って、あ」

兄(とりあえず、LINEで追撃メッセを)

妹「ごめんお兄ちゃん。お金が足りないや」

兄(おまえのこと心配している。一言でいいから返信して)

妹「お兄ちゃん?」

兄「あ、悪い。これで払っておいて」

妹「うん」

兄(あ・・・・・・。一瞬で既読になった)

店員「ありがとうございました」

兄(・・・・・・)

妹「明日の午後四時以降にはできるって。明後日の学校には間に合ったよ」

兄(でも、返信はねえ)

妹「はいこれ」

兄「何?」

妹「お釣り」

兄「ああ。おまえも全く金がないんじゃ困るだろ。とりあえずそれだけ持っとけ」

妹「いいの?」

兄「いいよ」

妹「ありがと」

兄「別にいいよ」

妹「お姉ちゃんとは連絡ついたの」

兄「つかねえ。でもLINEは既読になるんだよな」


妹「へ? それなら何で返信がないんだろう」

兄「わからん。まだゆうとやりあっている最中なのかもしれない」

妹「そんなに何時間も話すものなのかな」

兄「・・・・・・さあ」

妹「これからどうするの」

兄「とりあえず昼飯食ってないからどっかで」

妹「もう四時過ぎだよ」

兄「お腹空かないの? おまえ」

妹「変な時間に食事するより晩ご飯を早くした方がいいよ。あたし、作るよ」

兄「まあ、それでもいいか」

妹「じゃあ、スーパーに行こう。お兄ちゃんの冷蔵庫にはもう何にもないし」

兄「普段は寂しくコンビニ飯だったからな」

妹「これからはコンビニに寄って来ないでね。あたしが食事の支度はするから」

兄「いいのか」

妹「一緒に住まわせてもらえるならそれくらいはするよ」

兄「そういういい方するなよ。兄妹だろ」

妹「うん。でも兄ちゃんには迷惑ばかりかけてるし」

兄「俺はさ(そうだ。俺は父さんの遺志を継ぐんだ。研究も家族への愛情も)」

妹「うん?」

兄「何でもない。とにかく俺に遠慮するのはよせ」

妹「・・・・・大好き」

兄「え」

妹「何でもない」

兄「そう(ただ)」

兄(ただ、父さんには悪いけどこれだけは父さんの遺志には従えない。父さんは俺に母さ
んの再婚相手との仲を認めてやれと言った。俺なら大丈夫だとも)

兄(父さんには悪いけど俺には無理だ。妹が、自分の娘が危険な目に会っているのに、ゆ
うの方を庇うなんて)

兄(さすが浮気しただけのビッチなことはあるな)

兄(・・・・・・いや。それを言ったら父さんだって)

妹「買物しないの?」


兄「するけど。もう一本だけ電話をかけさせて」

妹「いいけど。お姉ちゃん電話に出ないんでしょ?」

兄「違うよ。じいちゃんに電話する」

妹「・・・・・・本当に全部話すの?」

兄「おまえは反対か」

妹「そうじゃないけど。でも、それをしたらうちの家族はもう本当に終わりだね」

兄「そうじゃねえ」

妹「え」

兄「そうじゃねえよ。たとえ母さんが脱落したとしても俺とおまえだけは家族を続けよう
ぜ」

妹「え」

兄「俺さ。母さんが再婚するって聞いたとにさ。正直、少しいらいらしたっつうか、本当
は少し拗ねてたんだよな」

妹「それはあたしにもわかった。だから、あたしもあのときはママの幸せを素直に喜んで
くれないお兄ちゃんに対して腹が立ったし」

兄「でもさ。父さんの入院中に言われたんだよな。母さんの再婚相手を認めてやれって」

妹「何でそんなことをパパが」

兄「さあ。でも父さんも自分が長くは生きていられないことを悟っていたんじゃないかと
思う。それで、俺なら大丈夫だよって。母さんの相手を認めてやれってさ」

妹「・・・・・・パパ。お兄ちゃん・・・・・・・」

兄「それが事実上父さんの最後の言葉だったから、おまえみたいに祝福してはしゃいだり
はできなかったけど、少なくとも結城さんと母さんの仲に反対はしたくないとは思って
た」

妹「ごめんなさい」

兄「おまえが謝ることはないよ。たださ」

妹「うん」

兄「母さんがああいう態度に出るなら話は別だ。父さんだってわかってくれると思う」

妹「あたしのせいだ」

兄「何で」

妹「わたしがゆう君に好意を抱いたからこんなことになっちゃったんだよね」

兄「それは違うだろ」

妹「何で」

兄「ゆうの行動は非常識だ。それは確かに最初はおまえだってゆうのことが好きだったん
だろうし、その気持ちはゆうもわかっていたからあながちゆうだけを責めるわけにはいか
ない。でも、幼友との関係を曖昧にしたまま嫌がるおまえに迫ったことは兄として許せね
え」

妹「ありがとお兄ちゃん」

兄「というわけでスーパーに行く前にじいちゃんに電話するぞ」

妹「うん」


妹「ご飯できたよ」

兄「ああ」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「いただきます。って何」

妹「そんなにおじいちゃんとおばあちゃんって怒ってたの」

兄「こっちがびっくりするくらいな。大切なおまえをないがしろにしてまで再婚相手の味
方をするような母さんのことは絶対に許さないって」

妹「そうか。昔からママとおじいちゃんたちって仲悪かったもんね」

兄「できればじいちゃんたちの家に来いって、一緒に暮そうって言われたけど」

妹「無理でしょ。あそこからじゃふたりとも学校に通えないじゃん」

兄「ああ。だからそれは断った。そしたら俺の銀行の口座を聞かれたよ」

妹「口座?」

兄「母さんなんかの言うなりにならなくてもいいように、お金くれるって」

妹「まあ、おじいちゃんはお金持ちだもんね」

兄「それはありがたくもらうことにしたぞ。母さんはおまえが俺と一緒に住むならもう俺
たちの生活とか学費とか面倒みないって言ってたって言ったら、そんな脅しに負けるなっ
て。お金のことならじいちゃんが全部面倒みるからってさ」

妹「ママはもうあたしのことなんか好きじゃないのかなあ」

兄「それは俺にはわかんない。少なくとも結城さんとゆうのことの方が俺たちより優先し
ていることは間違いないと思う」

妹「やっぱりお兄ちゃんが正しかったんだね」

兄「何のこと」

妹「あたしが一人ではしゃいでいるだけだったのね」

兄「でもよかったじゃんか」

妹「え」

兄「おかげで俺はおまえと仲直りできたし」

妹「うん。それはあたしも本当に嬉しい」

兄「おまえも母さんのことは割り切れないとは思うけどさ」

妹「うん」

兄「でももうしかたない。俺と一緒に暮そう。じいちゃんたちに面倒を見てもらうことに
はなるけど」

妹「ごめん」


兄「何で謝る」

妹「あたしなんかがいなければ、お兄ちゃんはここでお姉ちゃんと一緒にいられたのに」

兄「アホかおまえは」

妹「それは今日十分自覚したけど」

兄「幼馴染はお前のことが大好きなんだぞ。そんなこと気にするわけがねえだろ」

妹「自己嫌悪だ」

兄「何で」

妹「あたしってお姉ちゃんやお兄ちゃんに迷惑しかかけてな・・・・・・どうしたの」

兄「幼馴染からLINEの返信だ」

兄(返事が遅れてごめん。あたしは大丈夫だよ。あと妹ちゃんに話はついたって伝え
て。ゆう君は二度と妹ちゃんに付きまとわないって約束したから。でも同じ家にいるのは
どうかと思うので既定路線どおり君に部屋で妹ちゃんが暮らす方がいいと思う)

兄(よかったあ。幼馴染は無事だったか。つうか話をつけてくれたんだ)

兄「安心しろ。全部うまくいったぞ」

妹「そう」

兄「そうって。おまえ、嬉しくないの。まさかあいつに未練が」

妹「それはお兄ちゃんの誤解だよ。今ではあたしはゆう君よりお兄ちゃんの方がいい」

兄「はい?(違うだろ。何言ってるんだこいつ)」

妹「・・・・・・お姉ちゃんは大丈夫なの」

兄「みたい。とりあえずこれで安心だな」

妹「そうか」

兄「これマジで美味しいな。やっぱりコンビニとは違うよな」

妹「ありがと。よかったらこれも食べて」

兄「それはおまえ分だろ」

妹「あまりお腹空いてないし、お兄ちゃんが美味しいって言ってくれると嬉しいし」

兄「じゃあ遠慮なく(何なんだ)」

妹「お姉ちゃんは今日はうちに来ないの?」

兄「もう遅いしそうじゃねえの。明日は日曜日だし、詳細は明日聞こうぜ」

妹「うん。じゃあ、お風呂入って。その間に片づけしておくから」

兄「悪いな」

妹「ここで暮す以上はそれくらいしないとね」

兄「ごちそうさま。じゃあ風呂行くな」

妹「うん。追い炊きのスイッチ入れておいてね」

兄「わかった」


今日は以上です
また投下します


兄(来ねえなあ)

兄(電話にも出ねえし。LINEは既読になるけど何で返事寄こさないんだろ)

兄(俺、何かあいつを怒らせたか?)

兄(ゆうとの一件は無事に片付けてくれたのにそれ以降連絡が取れないということは。そ
れともあのときはああは言ったけど実は一人でゆうのところに行かせた俺に怒ってると
か)

兄(いや。あいつはそんな面倒な性格じゃねえしな)

兄(そうすると残る可能性は・・・・・・)

兄(考えたくないけど。それじゃあいつも母さんと同じになるけど)

兄(俺と妹が一緒に暮し始めたことが気に入らないのかな。まさか、俺が妹とどうこうな
るなんて心配しているわけはないはずなんだけど)

兄(だいたい、あいつが妹を一緒に住まわせろって勧めてきたんだしな)

兄(だが女心は、つうか人間って複雑だしな)

兄(母さんがいい例だ。病床の父さんの言葉を聞いたとき母さんは涙を流した。あの涙は
嘘じゃないと思うし、あれでいろいろなことが浄化されるんだって俺は思った)

兄(その母さんが結局、妹の心配よりゆうを庇う方を優先したんだもんな。あの涙が嘘じ
ゃないとしても、それだけで母さんがいい母親でいい妻だったという証明にはならないと
いうことだ)

兄(人間不信になりそうだ)

兄(ただ、幼馴染の前ではさすがにないとは思いたいけど、妹の俺への態度にも戸惑うよ
な。あいつ、これまでは俺のことなんか大嫌いだったくせに)

兄(正直、あの様子を見られたら幼馴染に誤解されて振られても文句は言えないかもしれ
ん)



妹「あまり離れるとベッドから落ちるよ」

兄「大丈夫だって」

妹「それに毛布に隙間ができて寒いじゃん。もっとこっちに寄ってよ」

兄「こうか」

妹「うん」

兄「・・・・・・抱き付く必要なくない?」

妹「だから寒いんだって。お兄ちゃんの体暖かい」

兄「毛布もう一枚出そうか」

妹「夜遅くごそごそしてどうするのよ。これなら暖かいから別にいいよ」

兄「まあ、おまえがいいならそれでいいけど(こいつも母さんに見捨てられて寂しいんだ
ろう。人のぬくもりを求める的な意味なら、兄貴として過剰反応しないで受け止めてやら
んとな)」

妹「枕がない」

兄「え? ああ。気がつかなかった。一つしかないからおまえ使えよ」

妹「居候なのにそんな図々しいことができるわけないでしょ。お兄ちゃんが使っていい
よ」

兄(何なんだ)

妹「お兄ちゃんの腕で我慢する」

兄「・・・・・・腕枕?」

妹「うん」


兄(俺の片腕を枕にしてもう片方の腕に抱きついた妹と一緒のベッドで)

兄(さすがにあれを幼馴染に見られたら、妹も悩んでいるからいい兄貴として振舞った的
な言い訳じゃあ通用するとは思えん)

兄(でも幼馴染には見られてないもんなあ)

兄(長い間一緒にいてようやくお互いを彼氏彼女と呼べるようになったのに、さっそくこ
れかよ)

兄(こんなことになるならいっそ前みたくただの幼馴染だったときの方が気が楽だよ。そ
れなら電話に出ないとかLINEが既読になるのに返事が来ないとかでここまでは悩まなかっ
ただろうに)

兄(既読になることはわかっていて読んだのに返事を寄こさないということは確信犯とい
うことじゃん。理由はわからないけど、本気で幼馴染に嫌われたかなあ)

兄(いかん。これ以上待っていると講義に遅刻する。ただでさえ、先週の受講態度で先生
の機嫌を損ねているのに)

兄(しかたない。一人で行こう)



兄(今日は先生の機嫌が良くてよかった。しかも、ついに)

兄(ついにインターン先が希望通りに決まったし)

兄(県立地域民俗学研究所。生前の父さんの職場)

兄(やった。就職への第一歩だ)

兄(父さんのことを知っている職員の人もいるだろうし、いろいろ聞けるかもしれない
な。今から楽しみだ)

兄(あ。LINEに新着メッセージ。ひょ、ひょっとして)

兄(・・・・・・妹かよ~)

兄(迎えに来い? マジかよ)

兄(まあいいや。今は妹のわがままを聞いてやろう。それにいろいろと今後のことも話し
合わなきゃいけないし)

兄(とりあえず来週の三者面談をどうするかだ。じいちゃんに頼めば喜んで来てくれるだ
ろうけど。妹は俺に出てくれって言ってたな)

兄(何か気が引ける。大学生の俺ごときが出てもいいんだろうか)

兄(とりあえず妹を迎えに行こう。その前に銀行で金も下ろしとかないといけないし)

兄(あれ)

幼友(・・・・・・)

兄(すごい目で睨まれた。話しかけられたりはしなかったけど)

兄(あいつって本当にゆうの彼女なのかな。ゆうよりだいぶ年上なのにな)

兄(まあ、いいや。そろそろ行こう。妹を待たせるとまた喧嘩になるかもしれないし)


兄(嘘だろ。昨日の今日だぞ。しかも桁が違わねえかこれ)

兄(・・・・・・俺の口座にこんな大金が)

兄(じいちゃんの仕業か。これだけあればもう妹が大学を卒業するまで余裕で持つな。つ
うか、じいちゃんってどんだけ母さんのことが嫌いなんだよ)

兄(じいちゃんに電話しよ)

祖母「あら、兄なの? 久し振りね」

兄「うん。ばあちゃん元気?」

祖母「まあまあね。あんたと妹も元気にやってるの」

兄「俺はね。妹はさ。まあ昨日じいちゃんに話したんだけど」

祖母「聞いたわよ。あんたに言うのも悪いと思うけど、本当に身勝手なひどい女だね。妹
がかわいそう」

兄「(何か複雑な気持ちだ。昔はじいちゃんとばあちゃんが母さんの悪口を言うことに反
発してたんだよな。でも今となってはな・・・・・・)」

祖母「父とあの女との結婚には最初から反対してたけど、やっぱり間違ってなかったよ」

兄「まあ、それはもういいよ。それよか、じいちゃんいないの?」

祖母「今日は会社に行ってるよ」

兄「引退したんでしょ」

祖母「名誉顧問なんだって。役員じゃないけど一月に一度呼ばれてるのね。まあボケ防止
にちょうどいいし、たまには家から出かけてくれないとあたしだってうっとうしいしね。
おじいちゃんに何か用だった?」

兄「いやさ。金の話なんだけど」

祖母「それならおばあちゃんが今朝おじいちゃんに言われたとおり振り込んでおいたよ。
口座を確認してみなさい」

兄「見たんで電話したんだよ。いくらなんでも多すぎでしょ」

祖母「それならおじいちゃんから伝言があるよ」

兄「伝言?」

祖母「ちょっと待って。最近忘れっぽいんでメモしておいたんだけど。書いたメモがどこ
かに・・・・・・あら、どこに置いたかしら」

兄(ばあちゃんもボケたかな)

祖母「ああ、あった。これだ」

兄「見つかってよかったね」

祖母「読むよ。えーと。眼鏡はどこやったかね」


兄(・・・・・・いつまで待たせるんだよ。妹との待合わせ時間に送れちゃうだろうが)

祖母「あった。・・・・・・振り込んだお金は兄の大学卒業までと妹の高校卒業までの全費用な
ので注意して遣いないさい。妹の卒業後の費用はまた別に考えてあげるから」

兄「ちょっと待って。どう考えても妹の大学卒業までは持つ金額なんだけど」

祖母「まだ話の途中だよ。ええと。いろいろ海外旅行とかレジャーとかの費用もいるだろ
うし、兄の研究用の書籍購入だって必要だろうから少し多目に振り込んだ。あと、これが
大切なんだって」

兄「大切?」

祖母「息子と孫を裏切ったあの卑劣な女が何を仕掛けてくるかわからないから、兄は車を
買ってできるだけ妹を送迎すること。あの女に妹をさらわれないようにするにはそれくら
いしないと安心できないから・・・・・・だって。あんたは免許持ってたっけ」

兄「ある。つうか前にじいちゃんとばあちゃんを病院に送迎したでしょ」

祖母「そうだっけ。じゃあ、そういうことだから」

兄「本当にいいの」

祖母「おじいちゃんが言ってたよ。墓場まではお金は持っていけないし、大切な孫のため
に遣うなら本望だって」

兄「ありがと。本当に助かるよ」

祖母「いいのよ。それよかたまには妹と二人で顔を出しなさい。ケーキ焼いてあげるか
ら」

兄「うん。近いうちに行くよ。じいちゃんによろしく言っておいて」

祖母「妹にもよろしくね」

兄「うん」



妹「遅いよ」

兄「遅れたわけはちゃんとあるんだよ。あとで説明するよ」

妹「そうか。あ、これがあたしのお兄ちゃんね」

兄「え」

妹「あたしの学校のお友だち。お兄ちゃんを見てみたいって言うから」

兄(何なんだ)

「初めまして」
「あたしたち妹ちゃんの友だちです」
「これが噂のお兄さんかあ」
「なんか普通だね」

妹「こら。本人を目の前にしてひそひそ噂話をしないように。こう見えても意外とうちの
お兄ちゃんって傷付きやすくメンタルも弱いんだから」

兄(何言ってるんだこいつは)

「別に口に出して格好悪いとかダサいとか言ってないじゃん」

兄(・・・・・・てめえら)

「そうかそうか。これがブラコンの妹ちゃん自慢のお兄さんか」

妹「こら」

兄(何だよブラコンって。つうか自慢って。こいつがブラコンなんて言われるなんて、し
かも俺の自慢をするなんてありえねえだろ)

妹「じゃあ約束どおりお兄ちゃんに会わせたからね。バイバイ」


妹「お兄ちゃん、行こう」

「妹ちゃんまたね」
「お兄さんもまたねえ」

兄「あ、うん。さよなら」

「きゃあ。さよならだって」

兄(何なんだ)

妹「早く行こうよ」

兄「お、おう」

妹「それで?」

兄「それでって」

妹「一緒だったんでしょ。お姉ちゃん何だって?」

兄「ああ。あいつには会えなかったよ」

妹「・・・・・・大学に来なかったの?」

兄「うん。待合わせ場所にはいないし大学にもいないみたいだった。連絡も取れねえし」

妹「本当にどうしちゃったんだろ。お姉ちゃん」

兄「わからん」

妹「ゆう君に何か言われたのかな」

兄「いや。あのあとちゃんとしたメッセージを送ってくれたしな」

妹「やっぱり、あたしがお姉ちゃんの邪魔しているからかな」

兄「邪魔って何だよ?」

妹「・・・・・・」

兄「そんなことはない・・・・・・と思う」

妹「・・・・・・はっきりとは言い切らないのね」

兄「あいつは自分からおまえが俺の家で暮らした方がいいって言い出したんだぜ」

妹「そうだけど・・・・・・本当は嫌だったのかも」

兄「おい」

妹「こんな状態よくないよ。はっきりお姉ちゃんに聞こうよ」

兄「聞くって。何て聞けばいいんだよ」

妹「何で俺のこと避けてるの? 俺たちって付き合っているんだよなって聞けば?」

兄「いや」

妹「何がいや、よ」

兄「だいたい聞こうにも電話でねえしLINEも返信ねえし」

妹「これからお姉ちゃんの家に行こう」

兄「え・・・・・・これから?」

妹「こういうことは早い方がいいよ。先延ばしすればするほど聞きづらくなっちゃうよ」

兄(・・・・・・そのとおりだ)

兄「そうだな(これじゃどっちが兄かわからん。妹を守るどころか妹に守られてるじゃん、俺)」


幼馴染母「あらあ。兄ちゃんに妹ちゃんお揃いで。妹ちゃんお久し振りね。元気だっ
た?」

妹「はい。ご無沙汰してます」

幼馴染母「よかった。会いたかったのよ」

妹「おばさんすみません。でもあたしもおばさんに会いたかったです」

幼馴染母「あら嬉しいわ。さあ上がって。お茶でもいかが・・・・・・あら?」

兄「どうしたんすか」

幼馴染母「兄ちゃん何でここにいるの」

兄「はあ」

幼馴染母「今日は大学終ったら兄ちゃんとデートだから、帰りは遅くなるってあの子言っ
てたのに」


妹「・・・・・・」

兄(体の力が抜けていく。立っているだけでようやくだ)

兄(おばさんには幼馴染に急用が出来たとか適当なことを言ってあの場は切り抜けたけ
ど、あの様子じゃ全然納得してなかったな)

兄(とりあえず今晩幼馴染が帰ったら幼馴染の家は修羅場だな)

妹「どうかした」

兄「いや」

妹「もしかして歩けないの?」

兄「いや。体の力が抜けちゃってさ。あはは」

妹「大丈夫?」

兄「大丈夫だよ。ちょっとだけ待って」

妹「あそこで少し休んでいこう」

兄「平気だって」

妹「いいから。あたしにつかまって」

兄「・・・・・・ああ」

兄(不本意だが公園のベンチまで妹に連れてきてもらってしまった。これじゃ、どっちが
どっちを守っているんだか。だけど座ったおかげか体の震えや脱力感がだいぶ収まってき
た)

妹「本当に平気なの」

兄「ああ。おまえのおかげでな」

妹「結局お姉ちゃんと直接話ができなかったね」

兄「普通に大学に登校したらしいし、まだっ帰っていなかったからな」

妹「大学では見かけなかったんでしょ」

兄「少なくとも講義には出てなかったけどな」

妹「お兄ちゃんとデートだって言ってた」

兄「・・・・・・うん」

妹「お姉ちゃん嘘ついたんだよね」

兄「・・・・・・何か事情があったのかもしれないし」

妹「事情があったかどうかはわからないけど、お兄ちゃんはデートの予定なんかなかった
んでしょ」

兄「まあそうだ」

妹「おばさんに嘘ついたんだ。お兄ちゃんのことを利用して」

兄(そうなるよな。もう考えられる可能性としてはもっとも考えたくないことしか思い浮
ばない)

妹「最初はさ」

兄「うん?」

妹「前に言ったように最初はあたしのせいかと思ってたの。お姉ちゃんは本心ではあたし
が邪魔だったんじゃないかって」


兄「そんなことねえだろ。おまえはゆうに迫られて切迫した状況だったし、幼馴染もその
ことは理解してた。それにあいつは昔からおまえが大好きだったじゃん。だからそんなこ
とはねえよ」

妹「うん。最初はそうは思ってた。きっとお兄ちゃんの言うとおりだと思ってたけど」

兄「何が言いたいの」

妹「お兄ちゃんとお姉ちゃんって本当にちゃんと付き合ってたんだよね?」

兄「多分」

妹「多分って」

兄「さっきまでそのことに疑いすらなかったけど」

兄(一瞬で既読になるのに無視されるLINEのメッセージ。すっぽかされる待合わせ。俺と
一緒に出かけるっていう幼馴染の嘘)

兄(また体が震えてきた)

兄(もう間違いない。付き合い出したばかりなのに俺は幼馴染に振られたんだ。そうでな
ければ幼馴染が俺をここまで避けるなんて考えられない)

兄(今まで考えないようにしていただけで、本当はわかっていたはずだ)

兄(誰か他に好きなやつができたのか。おばさんは俺と幼馴染の仲を応援してくれた。だ
から、俺と別れたいなんておばさんには言えなかったんだ。それどころか遅くなる理由に
は俺の名前を出せばおばさんが文句を言わないことを利用して、今夜のアリバイを)

兄(何でだよ。俺、そんなことをされるほど幼馴染に対してひどいことをしたか)

兄(こんなにすぐに俺に関心をなくすくらいなら最初から俺のことなんか好きだとか言う
なよ)

兄(もう駄目だ)

妹「お兄ちゃん」

兄(もう駄目・・・・・・って。え)

妹「お兄ちゃん動かないで」

兄「ちょ、おま。何で」

妹「あたしなんかがいくら頑張ってもお兄ちゃんを慰められないのかもしれないけど」

兄「(妹にキスされた・・・・・・)妹?」

妹「ごめんね」

兄「・・・・・・何で謝ってるのおまえ(妹とキス? ねえだろ)」


妹「・・・・・・ごめん」

兄「だから何で」

妹「もう正直に言うね。ここまで来たら」

兄「何言いたいの? おまえ(妹にキスされた。でもそのおかげで体の震えが一瞬でおさ
まったけど)」

妹「あたしね本当はブラコンなの。ずっと前から」

兄「はい?(こいつ何言って)」

妹「さっきの子たちが言ってたでしょ」

兄「ああ」



「そうかそうか。これがブラコンの妹ちゃん自慢のお兄さんか」



妹「あれ本当なの」

兄「ちょっと待て。おまえ最近まで俺のことなんか大嫌いだったんだろ? うざい兄貴だ
って何度も言ってたし」

妹「そう振舞ってた。お兄ちゃんには昔からお姉ちゃんがいて両方の家族公認の仲だった
し、あたしの気持ちが報われる可能性なんかこれっぽちもなかったから。それに」

兄「それに?(いい加減にしろ。幼馴染の気持ちが俺から離れただけでもきついのに。そ
のうえ俺を混乱させるのはやめろ)」

妹「あたしがお兄ちゃんに反発していたのは拗ねてただけで、ポーズみたいなものだけ
ど」

兄(マジかよ)

妹「お兄ちゃんはそうじゃないでしょ。あたしのことなんか眼中になくて、お姉ちゃんの
ことしか目に入っていなかった」

兄「あのさ。俺たちって・・・・・・」

妹「実の兄妹だよ。そんなことお兄ちゃんに言われるまでもないよ。でもさ・・・・・・」

妹「それでもお兄ちゃんが好きになっちゃったあたしは、実の妹のあたしはどうすればよ
かったの?」

兄「それは」

妹「そう。答えられないでしょ? だからあたしは諦めようとした。実の兄に対する愛な
んか報われないだろうとわかってたし。それに肝心のお兄ちゃんが好きなのはお姉ちゃん
だった。ここまで悪条件が揃ったらもう諦めるしかないじゃん」

兄「おまえ・・・・・・」


妹「でも、優しく微笑んでお姉ちゃんとのことを祝福できるほどあたしは人間ができてな
かったし」

兄(ちょっと待て。妹の話が本当だとしても、こいつって今までも彼氏いたじゃん。母さ
んからよくそう言う話を聞いたぞ)

兄(それにゆうのことはどうなるんだよ。俺はゆうとこいつが抱き合ってキスしてたのを
実際にこの目で見たんだ)

妹「そしたらもうあの頃のあたしにはお兄ちゃんにきつい言葉を投げて仲が悪くなるよう
にするしかなかった。それに」

兄(それに?)

妹「ママからも釘をさされてたし。とにかくそういうことなの」

兄「ちょっと聞くけどさ」

妹「うん」

兄「(泣いてるじゃんこいつ。嘘を言っている様子はねえし)それが本当だとしてもよ。
ゆうのことは最初は好きだったんだろ。何で今さら俺にそんなこと言うんだよ」

妹「違うよ」

兄「違うって」

妹「あたしさ。告られた男の子には冷たくしないで曖昧にしてきたの。中学生の頃からず
っと。今から思うとその子たちにはひどいことしたと思うけど」

兄「何でそんなことしたんだよ。おまえがその・・・・・・本当に俺が好きだったなら」

妹「嫉妬するかもしれないと思って」

兄「嫉妬?」

妹「うん。お兄ちゃんはお姉ちゃんが好きだとは思ってたけど、あたしが男の子と一緒に
いるところを見たらひょっとしたらお兄ちゃんがあたしに嫉妬してくれるかもしれないと
思った。でも嫉妬どころかお兄ちゃんとは外では全然会えなかったし」

兄「ゆうのことはどうなんだよ」

妹「・・・・・・正直チャンスだと思った。一緒に暮している男の子がお兄ちゃんの目の前であ
たしとベタベタしていたら、お兄ちゃんの反応がわかるかと思った。だからお兄ちゃんの
前ではわざとゆう君のことを話題にしたし、ゆう君のことが大好きな振りもした」

兄(好きな振り? これが本当だとしたら、被害者は妹じゃなくてゆうの方なんじゃ)

兄(いや。それにしても無理矢理女の子に何とかしようとするなやつだし。あいつに同情
する必要はない)

妹「正直に言うね。ここまで話したら、もうお兄ちゃんには嘘は言いたくないから」

兄「・・・・・・ああ」


妹「ゆう君ってさ。魅力的だったの。お兄ちゃんに嫉妬させるつもりが、本当にゆう君の
ことしか考えられなくなったことがあったのね」

兄「そうなのか(何だよ。結局ゆうのことが好きだったんじゃん)」

妹「うん。本当はお兄ちゃんのことが好きだったはずなのに、彼に抱きしめられてキスさ
れるとね。乱暴なのにときどきさりげなく優しいし。だから、お兄ちゃんに嫉妬させる目
的を忘れてゆう君のことを本気で好きになりそうになったことがあったの」

兄(・・・・・・俺はバカか。何でこんなにゆうに対して嫉妬じみた感情を覚えるんだろう)

妹「あたしは踏みとどまれた。お兄ちゃんのことがそれだけ大好きだったから・・・・・・と言
いたいけど、多分本当にあたしを踏みとどまらせたのはパパの日記だと思う」

兄「おまえがプリントしたやつか」

妹「うん。あんな小さい頃から、自分にだって記憶がない頃からお兄ちゃんはあたしを守
ってくれてたんだと考えたらゆう君に対する感情がきれいに消えて、残ったのは昔からの
お兄ちゃんへの愛情だけだった」

兄「おまえさ」

妹「うん」

兄「父さんのあの日記を読む前から俺にべたべたしてきたじゃんか。ゆうからも逃げてき
たし」

妹「そうだけど」

兄「あれは何だったんだよ」

妹「あのときの自分の気持はよくわからない。ゆう君のことが怖くなってお兄ちゃんのと
ころに逃げたのも本当の気持ちだし、ゆう君のことが気になっていたのも本当。でもお兄
ちゃんは、仲の悪かったあたしを受け入れてくれた。相談も聞いてくれて。それに」

兄「うん?」

妹「あたしの身体にに興奮もしてくれたじゃない?」

兄「よせよ」

妹「すごく嬉しくなって目が覚めたって感じ。だからあれは演技じゃないの。でも、心底
から自分の大切な人がお兄ちゃんだとはっきりと自覚したのは、パパの日記を読んだとき
だよ。まさか、片想いして十何年もしてまたお兄ちゃんに恋しなおすなんて思ってもいな
かったけど」

兄「マジかよ(妹がずっと俺を好きだった。ゆうのことも俺に嫉妬させる手段だったとは。
正直嬉しい気持ちもある。最近認識したんだけどこいつは可愛いし、それに身体も)」

兄(いやいや。それじゃ最悪の兄貴じゃんか。母さんの言ったひどい言葉を否定できなく
なっちまう)


妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたしは全部正直に話したよ。それでお兄ちゃんがあたしを受け入れてくれなくても
いい」

兄「・・・・・・」

妹「でも、あたしの気持ちだけは疑わないで」

兄「わかった。おまえの気持ちに応えられるかどうかはともかく、疑うことはしねえよ」

妹「それだけで十分だよ。ありがと」

兄「頼むから泣くなよ・・・・・・。俺は父さんにもじいちゃんとばあちゃんにもおまえを守る
って大見得を切ったんだから」

妹「ごめんね」

兄「いや。謝るなよ(今はとてつもなくこいつのことが愛しい。それが兄としての感情か
それ以外の感情なのかは別として)」

妹「あ・・・・・・」

兄「嫌だったらいいけど」

妹「嫌じゃないよ。ありがと」

兄「家族なのに礼なんか(俺は幼馴染みの心変わりから心理的に逃避しているだけなんだ
ろうか。そうだとしても。あいつに裏切られた俺にもこんな俺のことを好きって言ってく
れる妹がいてくれることはすごく救いになっている)」

妹「兄は普通妹の肩を抱いて引き寄せたりしないよ」

兄「そうかもな(俺の肩に妹の顔が乗せられた。こいつ軽いな)」

妹「もう少しこうしてて」

兄「うん・・・・・・あ」

妹「どうしたの」

兄「(密着しすぎだろ。でも、こいつは俺に告ってもう取り繕う必要がなくなったんだろ
うな。やたらくっ付いてくるし)じいちゃんが俺とおまえにお金を振り込んでくれたぞ」

妹「そう」

兄「(淡白な反応だがこいつの心境を察するに無理もない)結構な大金でさ。これなら母
さんに勘当されても卒業までは心配ないくらいだ」

妹「おじいちゃんとおばあちゃんはママのことが昔から嫌いだったもんね」

兄「俺に車を買っておまえを送り迎えしろってさ」

妹「え! 本当?」

兄「何でそこで反応するんだよ」

妹「お兄ちゃんとドライブできるの?」

兄「まあ、車を買えばな。スポンサーはじいちゃんたちだからな。ここは言うことを聞い
て中古車でも買おうかと思ってよ」

妹「いつ? ねえいつ買いに行くの」

兄「(急に元気になったな)今週のどこかで。それにゆうの留守中におまえの荷物とか取
りに行くなら車があった方がいいしな」

妹「あたしが車選んでもいい?」

兄「いやさ。俺にも欲しい車が」

妹「駄目?」

兄「・・・・・・まあいいか」

妹「やった」


今日は以上です
また投下します


幼馴染「君はさ。もう少し人のことを信用することを覚えた方がいいと思う」

兄「何言ってるんだよ」

幼馴染「おじさんが亡くなってからの君ってさ。一見穏かな常識的で成績のいい男の子な
んだけどね」

兄「ちょっと待て」

幼馴染「本心では、ハリネズミみたいに毛を逆立てて周囲の人を警戒してるじゃん」

兄「違うよ」

幼馴染「あたしに対してまでそうじゃない?」

兄「そんなわけないだろ。俺はおまえのことは大好きだし、信用もしてるじゃん」

幼馴染「それなら嬉しいけどね。じゃあ証明して」

兄「証明って」

幼馴染「抱きしめて」

兄「ああ」

幼馴染「嬉しい」

妹「・・・・・・嬉しい」



兄(え)

兄(夢か)

妹「寝ぼけて無意識なのだとしても嬉しい」

兄(夢じゃねえじゃん。いや夢だけど夢でじゃなくて)

兄「あ」

妹「目覚めた?」

兄「・・・・・・うん。あ、悪い」

妹「そのまま抱いていて」

兄「いや(幼馴染を抱きしめる夢だったけど、本当は抱きしめちゃったのは妹か)」

妹「嫌な夢でも見てた?」

兄「そういうわけじゃないいけど」

妹「お姉ちゃんを抱きしめる夢でも見たんでしょ」

兄「いや」

妹「いいよそれでも。それでもお兄ちゃんがあたしを抱きしめてくれて嬉しい」

兄「・・・・・・あのさあ」

妹「うん」

兄「幼馴染が心変わりしたのって、やっぱりゆうと会ったことと関係あるのかな」

妹「あたしも昨日からずっとそのことを考えてたんだけど」

兄「そうなの」

妹「うん。大好きなお兄ちゃんのことだもん」


兄「ずっと幼馴染と俺のことを考えていたようには思えなかったけどな。パソで中古車情
報をずっと検索してたみたいだけど」

妹「お兄ちゃんとあたしの車を探しながらいろいろ考えてたのよ」

兄「(はしゃぎながら車選びをしていたようにしか見えなかったがなあ)それで? あい
つのことどう思う?」

妹「これは多分もう間違いないと思うんだけど」

兄「ああ」

妹「お姉ちゃんがお兄ちゃんに連絡してこないのはあたしのせいじゃないみたい」

兄「それは最初からそうじゃないと言ってただろう」

妹「そうだけど。やっぱり不安だったから」

兄「(こら抱き付く手に力を入れるな)それで?」

妹「よく考えたらあたしとお兄ちゃんの仲に嫉妬しているだけなら、お姉ちゃんもこんな
態度は取らないと思う」

兄「俺とおまえの仲って・・・・・・」

妹「お姉ちゃんとあたしの仲だからわかる。やっぱりお姉ちゃんにはお兄ちゃんと顔を合
わせづらい何かが起きたんだよ」

兄「やっぱりか(そう考えるのが一番自然だよな。考えたくなかっただけで)」

妹「しかも自分の部屋に引きこもって悩んでいるわけでもないじゃん。図々しくお兄ちゃ
んのことまで引き合いに出しておばさんを騙して夜遅くまで外出したんだし」

兄「いやおまえ、図々しくって」

妹「お兄ちゃんに嫉妬させようとして近づいたゆう君に、あたしが惹かれちゃった話をし
たでしょ」

兄「聞いたよ」

妹「こうなるんじゃないかと思って怖かった。だからゆう君に会いに行くって言い張って
いたお姉ちゃんを止めたの。でもお姉ちゃんは聞いてくれなかったし」

兄「そうだったな」

妹「でもお姉ちゃんくらいしっかりした人なら、いくらゆう君に危険な魅力があるとして
も大丈夫かもとも思ってた」

兄「・・・・・・まさか、幼馴染はゆうに無理矢理変なことを」

妹「それはないと思う。ゆう君はそんなことをする必要がない人だし」

兄「必要がないってどういう意味?」

妹「多分、お姉ちゃんはゆう君のことが好きになっちゃったんだと思う。お兄ちゃんのこ
とを失ってもいいくらいに」


兄「・・・・・・やっぱりそうか」

妹「お兄ちゃんごめん」

兄「何でおまえが謝る」

妹「あたしがお兄ちゃんのところに行って相談なんかしなければ、お姉ちゃんだってゆう
君に会うことなんかなかったんだし」

兄「それは結果論だよ。きっかけを作ったのは確かだろうけど、付き合い出したばかりの
俺よりもゆうを選んだのはあいつ自身だ」

妹「そうだけど・・・・・・」

兄「もっと言えば俺自身が原因とも言える。俺の男としての魅力がゆうに負けたんだから
さ」

妹「負けてなんかないよ」

兄「そう言ってくれるのは嬉しいけど、現に幼馴染は」

妹「少なくともあたしはゆう君じゃなくてお兄ちゃんを選んだんだし」

兄「おまえに選ばれてもなあ。おまえが実の妹じゃなきゃ嬉しいと感じたんだろうけど」

妹「それ本当?」

兄(何でそこで赤くなって口ごもる)

妹「あたしさ。仮にこれが本当だとしたらもうお姉ちゃんのこと許せない」

兄(え? すげえマジな表情。抱き合っているから間近に妹の顔が来ている分、余計に怖
い)

妹「そんな軽い想いでお兄ちゃんと付き合ってたのかと思うと許せない。十年以上もお兄
ちゃんのことを独占していて、そのせいであたしは自分の初恋を諦めたのに。それなの
に」

兄「それだけゆうが魅力的だったのかもな」

妹「一時期はゆう君に魅力を感じちゃったあたしが言っても説得力ないかもしれないけど、
それって単なるビッチの行動じゃん。ちょっと気になる男と会ったらすぐに自分の彼氏な
んかどうでもよくなるなんて」

兄(幼馴染がゆうのことを好きになって、俺なんかとは付き合えないと思っているとした
ら、そしたら妹の言うとおりかもしれないけど。まだそうと決まったわけじゃないし)

妹「何の足しにもならないかもだけど」

兄「え」

妹「あたしなんかがお兄ちゃんの傷ついた心を救えるなんて全然自惚れてはいないけど」

兄「突然どうした」

妹「それでもお兄ちゃんの気が少しでも紛れるなら、あたしは何でもするから」

兄「・・・・・・ありがとな」

妹「ううん」

兄(まだ心が凍結しているようで、幼馴染のことでこの先自分の感情がどれほど傷付くこ
とになるか実感すらがないけど。多分、もう少ししたらじわっとつらくなって来るんだろ
うな)

兄(妹が俺に抱き付く両手にまた力を込めた)

兄(もう幼馴染のことは忘れるように努力すべきなんだ。そうして準備していないと事実
をはっきりと突きつけられたときのショックがでか過ぎる)


妹「そろそろ起きようか」

兄「ああ(妹が俺から手を離した・・・・・・それだけのことでまた不安な気持ちが戻ってくる
なんて。俺って既にもう妹に依存しちゃってるのかな)」

妹「お兄ちゃん?」

兄「う、うん(落ち着け俺)」

妹「お金くれる?」

兄「へ? いくら欲しいの?(服でも買いたいのかな。じいちゃんたちが振り込んでくれ
た金額なら多少の贅沢をしても大丈夫ではあるけど。最初から無駄遣いするのも何かやだ
なあ)」

妹「五万円」

兄(あ)

兄「そういやあいつから金借りてたんだっけ」

妹「うん。もうお姉ちゃんなんかに感謝する気もないけどね」

兄「まあそれにしても借りっぱなしってわけにもいかないか」

妹「うん。それにお姉ちゃんには借りを作りたくない」

兄「金は昨日下ろしてきたから手許にあるけどさ。そもそも会えないあいつにどうやって
金返す?」

妹「お兄ちゃんならどうせそのうち大学でお姉ちゃんに遭遇すると思うけど」

兄「無理無理。それは無理」

妹「わかってるよ。あたしが借りたんだしお姉ちゃんの家に行って直接返す」

兄「悪い」

妹「お兄ちゃんが謝ることじゃないよ。それに」

兄「それに?」

妹「あたしの大切なお兄ちゃんをこんなに傷つけたお姉ちゃんには一言言ってやりたい」

兄「もういいって」

妹「何でよ」

兄「もうよそう。多分、何をしても俺が楽になることはないと思うし」

妹「だって悔しいじゃん」

兄「幼馴染に復讐とか考えるよりも、どっちかっていうと俺は早くあいつのことを忘れた
い」

妹「何でよ。制裁しようよ」

兄「正直、混乱しているしつらいけど。でも俺にはこんなことで躓いているわけにはいか
ないんだ」

妹「え」


兄「俺には目標があるから」

妹「そうだったね」

兄「何? おまえ知ってるの」

妹「内容はよくわからないけど、パパのしてた研究を引き継ぎたいんでしょ」

兄「父さんの研究は俺ごときが引き継ぐまでもなく、後進の研究者の人たちが引き継いで
いるよ。うちの大学の先生もその一人だし」

妹「そうなんだ。パパって地味な公務員だと思ってたけど、パパの仕事を認めている人た
ちがいるんだ」

兄「そうだよ。うちの学校の先生は父さんのことを尊敬しているって言ってたよ」

妹「・・・・・・うん」

兄「だから俺ごときが継ぐも何もないけど、それでも俺は父さんと同じ道に進みたい」

妹「うん。パパとお兄ちゃんのためならあたしも応援する」

兄「それだけじゃない。父さんのためにも俺はおまえを守りたい」

妹「え」

兄「父さんの日記を読んだのならわかるだろ」

妹「うん」

兄「父さんに謝るのは一つだけだ。父さんの期待に応えられないのは、今となっては母さ
んの再婚を素直に祝福できないこと」

妹「・・・・・・」

兄「それは今度墓参りにときに父さんに謝るよ」

妹「事情を聞いたらパパだって怒らないと思う」

兄「そうだな」

妹「お兄ちゃんがそれでいいなら」

兄「うん?」

妹「あたしも我慢する。お姉ちゃんにはお金を返して、ゆう君と話をつけてくれたことに
お礼を言って」

兄「ああ」

妹「それで。お姉ちゃんにはあんたなんか大嫌い、二度とあたしとお兄ちゃんに話しかけ
ないでって言うだけにしておく」

兄「全然我慢してねえじゃんそれ(でもそれでいいのかも)


妹「ねえ」

兄「どした」

妹「今朝はお兄ちゃんと二人きりでベッドでゆっくりできて嬉しいんだけど」

兄(こいつ、本当に俺が好きなのかなあ。そもそも血の繋がった兄妹という以前にこれま
で女の子にもてたことがない俺なんかを何でこいつは好きになったんだろうか)

兄(再近気がついたけどこいつって可愛いしな。妹じゃなかったら俺なんかが気軽に話し
かけたりできないレベルの女の子じゃん)

兄(・・・・・・それを言ったら幼馴染だって同じか)

兄(そう考えると、結局なるようになったのかもしれん。幼馴染にみたいな外見も中身も
ハイスペックな女の子だったら、ゆうみたいなイケメンと付き合うほうが自然だし、俺が
振られるのなんて無理もない話なのかもな)

妹「いくら今日は二人とも学校がないにしても、そろそろ起きた方がいいかも。すること
はいっぱいあるんだし」

兄「学校がないって。普通に平日じゃねえの。つうか今何時だよ」

妹「十時半近いよ」

兄「おい。おまえ高校遅刻してるじゃんか。てか俺だって大学が」

妹「今日は二人で休もうって決めてたじゃん。まだ寝ぼけてる?」

兄「そうだった(そうだ。善は急げで今日は車を見に行ったり妹の定期を変更したりする
ことにしたんだった。昨日、父兄として妹の学校にも電話させられたし。妹の担任の先生
からはお父様とお母様から連絡はいただけないのですかって疑われたけど)」

妹「思い出した?」

兄「完全にな。それならまあ慌てて起きることはねえんじゃねえの」

妹「本当にそう思ってる?」

兄「何が」

妹「急いで起きなくてもいいって」

兄「思ってるけど」

妹「妹と二人でベッドに一緒なんてお兄ちゃんが気持ち悪く思ってたらどうしようかと思
ってた」

兄「それはねえよ。おまえの気持ちに応えられるかどうかはともかく、今はすげえ心地い
い。つうか何だか安心する」

妹「よかった。それだけであたしは十分」

兄(本当にそうだ。幼馴染の気持ちをゆうに持ってかれて、これで妹までいなかったら俺
は今頃狂っていたかもしれん。少なくともこんなに冷静にはなれていなかっただろう。そ
れは今だってつらいけど)

兄(つらいけど、それでも俺は救われている。俺に抱きついてくれている妹のぬくもりに。
妹が俺のことを本気で心配して慰めを与えてくれることに)



兄「もうこれでいいんじゃねえの」

妹「だめだって」

兄「中古車なんだからこんなもんだろ」

妹「だってさ。綺麗じゃないもん」

兄「何で? ピカピカじゃん」

妹「外見はね。車内はだめじゃん。煙草のにおいがするしシートにも染みが残ってるし」

兄「中古車だから多少はしようがないって。それに状態がよくなれば値段だってあがるん
だぜ」

妹「じゃあ新車にしようよ」

兄「あほ。そんな余裕がどこにあるんだよ」

妹「おじいちゃんがいっぱいお金をくれたんじゃなかったの」

兄「新車を買ったりするほどの余裕はねえよ。学費とか生活費も込みなんだぞ」

妹「うん。まあそうだろうね」

兄「ようやく理解したか」

妹「お金がないならしかたない。気に入った車を見つけるまでお店をまわるよ」

兄「・・・・・・車くらい妥協しろって」



妹「これならいいんじゃない? 室内は広いし」

兄「これは軽自動車じゃねえぞ」

妹「そうなの? でも値段は同じくらいだよ」

兄「型落ちだし不人気車だからな。でもこれならパワーもあるしいいかもな」

妹「じゃあこれにしようか。シートも古びているけど汚いしみとかないし」

兄「・・・・・・軽より税金は高いぞ」

妹「じゃあどうすんのよ。次のお店に行く?」

兄(それは勘弁。疲れて死にそうだし)

兄「これにする?」

妹「うん。色も形も可愛いし」


妹「ラテでよかった?」

兄「喉が渇いていたから何でもいい」

妹「はいこれ」

兄「ああ。しかし事故車だったとは。もう契約しちゃったし後戻りはできねえけど」

妹「いい買い物ができてよかったね。やっぱり高い買物はじっくりと比較してから決めな
いとね」

兄(突っ込む気にもなれねえ)

妹「じゃあドライブしようか」

兄「何言ってるんだ」

妹「定期の経路変更とか日常品の足りないものとか買わなきゃでしょ? 車で行こうよ」

兄「その書類見てみ」

妹「え」

兄「納車日時ってとこ」

妹「ええ? 二週間も先なの」

兄「最短でな。車庫証明とかいろいろ手続きがあるんだよ」

妹「まあいいか。で? 次はどこ行く」

兄「買物しよう。生活する上でいろいろ足りないものがあるんだろ」

妹「うん。じゃあ、買物デートだね」



兄「そういやさ。来週の三者面談ってどうする? じいちゃんかばあちゃんに頼むか」

妹「いい」

兄「だって母さんに頼むわけにもいかねえだろ」

妹「それはそうだよ。ママだっていやだろうけど、あたしだっていや」

兄「じゃあどうするよ」

妹「お兄ちゃん。本当に悪いんだけどその時間だけ大学の講義休めないかな」

兄「それはいいけど。本当に俺が行っても平気なのか」

妹「プリントには父兄って書いてあったよ」

兄「父兄って普通は両親のどっちかのことじゃねえの」

妹「父と兄のどっちかのことじゃないの。父親が死んでいる場合は兄でもOK
だから父兄なんじゃない?」

兄「それは違うだろ。父兄ってのは保護者のことを総称してるんじゃねえの? 用語とし
ては時代遅れかもしれないけど」

妹「何だそう言う意味か。じゃあ、お兄ちゃんで何も問題ないじゃない」

兄「何でだよ。保護者っつうならじいちゃんとかの方が」

妹「あたしの保護者はお兄ちゃんでしょ、少なくとも今は」

兄「はあ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん言ったじゃん」

兄「何を」」


妹「パパの遺志に従うって。それであたしのことは守ってくれるって。あれって嘘なの」

兄「本当だよ。お前のことだけは守る。それだけは疑うな」

妹「あたしのことを守ってくれるなら、お兄ちゃんがあたしの保護者で間違ってないでし
ょ」

兄「言われてみればそうかも」

妹「でしょ」

兄「まあおまえが俺でいいなら行くよ。相当っ構内で目立ちそうだけどな」

妹「ありがと。お兄ちゃん愛してるよ」

兄「おまえの言葉は軽すぎるよ」

妹「何よ。人の気も知らないで。重い言葉をを口にしてもいいなら本気出すよ?」

兄「俺が悪かった」



兄「まだかよ」

妹「ごめん、もうちょっと」

兄「確かにじいちゃんたちから金ももらったから必要なものは好きに買えって言ったけど
さ」

妹「買えって言われたから買ってるだけじゃない」

兄「何も一度に揃えることはねえだろ。俺、これ以上はもう荷物持てねえぞ」

妹「何よ、あたしのこと守るって何度も言ったくせに」

兄「それは確かに言ったけど、いくらでもおまえのファッション関係の買物に付き合うと
か買った服とかアクセの荷物を際限なく持ってやるっていう意味じゃねえぞ」

妹「生活必需品なんだってば」

兄「おまえが買おうかどうか迷っているそのアクセがか」

妹「お兄ちゃんだってどうせなら同居している妹が可愛いい方がいいでしょ」

兄「おまえなあ」

妹「・・・・・・どうして時間かかるかわかった」

兄「どうしてなんだ」

妹「こんなショッピングモールで買物してるからだよ」

兄「どういう意味?」

妹「ここにはあたしの求めている物はないの。最初からデパートに行けばよかったんだ
よ」

兄「あのなあ。じいちゃんは確かにお前のことを甘やかしてはいるけど、だからといって
この金はあくまでも生活費であって。って何してるんだよ」

妹「・・・・・・」

兄「おい」


妹「あ、おじいちゃん久し振り。いろいろと迷惑かけてごめんね」

兄「・・・・・・」

妹「うん。ママのことはもういいよ。それは寂しくて悲しいけど、あたしにはおじいちゃ
んたちやお兄ちゃんもいるんだし」

妹「うん、ありがと。おじいちゃんがあたしたちの生活費や学費の面倒をみてくれること
はお兄ちゃんから聞いた。本当にありがとう」

妹「あたしもいろいろ我慢するから。生前にはパパが買ってくれた服とかアクセサリーと
かもまだあるし、就職するまではこれで我慢して頑張るね」

妹「え? いいよそんなの。それにあのお金は生活費と学費だってお兄ちゃんが」

妹「やめてよ。お兄ちゃんを怒らないであげて。お兄ちゃんはママからあたしを守ろうと
必死になってくれているんだし」

妹「だからいいって。あたしが我慢すればそれでいいんだし・・・・・・え? 本当にいいの」

妹「おじいちゃんとおばあちゃんに迷惑かけてごめんなさい。なんだか催促したみたいで
申し訳ないよ」

妹「うん、うん。そう言ってくれると気が楽だよ。でも、本当に無理しないでね」

妹「じゃあね」

兄(こいつじいちゃんを丸め込みやがった)

妹「あたしの服とアクセの費用は別に振り込んでくれるって。あたしが富士峰で肩身の思
いをさせるなんて兄は気がまわらなすぎだって」

兄(こいつは。調子に乗りやがって)

兄(え)

兄(幼馴染だ。まさかこんなところで出会うとは)

妹「お姉ちゃんだ・・・・・・ゆう君に肩を抱かれてる」

兄「そうだな・・・・・・」

妹「お姉ちゃん。ゆう君に笑いかけてる」

兄「・・・・・・そうだな」

妹「あたしお姉ちゃんに文句言ってくる」

兄「ちょっと待て(頼むからちょっと待ってくれ)」

妹「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


兄(また震えてるな俺。こんなことになるまで自分自身がこんなにメンタル弱いなんて思
わなかった)

兄(まだいる。幼馴染が顔を上げてゆうに向かって微笑んでる)

兄(ゆうのことも君って呼んでるのかな。つうか何でこんなにどうでもいいことを考えて
るんだろう俺)

兄(ふたり寄り添って何見てるんだ? あそこもアクセサリーとか小物の店だな)

兄(つうかそんなことどうでもいいじゃん。早く俺の視界から消えてくれよ。振られるの
はしかたないけど、とりあえず俺の視界から消えることくらいはしてくれよ)

妹「お兄ちゃん」

兄(妹が両手で俺の目をふさいだ)

妹「・・・・・・大丈夫だよ」

兄「・・・・・・」

妹「もう大丈夫だよ。見えなくしてあげたから。あいつらが消えることなんか期待しなく
ていいの」

兄「うん(暖かい闇に包まれた感じだ)」

兄(震えが収まった)

妹「無理に見なくてもいいの」

兄「・・・・・・ありがとうな」

妹「お姉ちゃんに対しても、文句を言って平手打ちしてやりたい気持ちはあるけど」

兄「もういいよ」

妹「うん。お兄ちゃんが言うなら従うよ。でもこれだけはさせて」

兄「何する気だ」

妹「ちょっと手を離すから目を瞑ってて」

兄「おい。(手を離された。つうか幼馴染とゆうってさらにべたべたしてんじゃん。ゆう
の方も何か感じが違う。あれ? あいつってもっと時代遅れのヘビメタ野郎みたいな格好
してなかったっけ)」

兄(何かすっきりした服装してるな。黒ぶちの細いフレームの眼鏡までしてるし、ちょっ
と知的な印象すら漂っている。ロン毛こそ同じだけど、あれじゃあ幼馴染が落ちるわけだ。
完璧に幼馴染の好みじゃん。)

兄(え!)

兄(あいつら、軽くだけどキスした・・・・・・)

兄(横でシャッター音?)

妹「ちょっと・・・・・・。何で目を開けてあいつらを見てるのよ。自分がつらくなるだけじゃ
ん」


兄「悪い。思わず見ちゃった。でもさっき初めて見たときほど動揺しないで済んだよ。お
まえが側にいてくれているからかな」

妹「うん。それならいい。正直、目を背けるよりは直視できた方が立ち直りは早いと思う
よ」

兄「おまえすげえな。これじゃあどっちがどっちを守ってるかわかんねえよ(素直に妹に
感心するわ。こんなときなのに)」

妹「好きな人のためだもん」

兄(さらっといいやがったな)

妹「どうかした」

兄「いや。それよか今カメラのシャッターの音が」

妹「とりあえず証拠を確保したの」

兄「証拠って」

妹「スマホのカメラで撮影した。あの二人の汚らしい関係を」

兄「(汚らしいって)そんなことしてどうすんだよ」

妹「別に。何となくそうしておいた方がいいと思って」

兄「意味わからん。つうかあいつらの関係ははっきりと思い知らされたから。もう忘れる
ように努力するんだからそういうのはよそうぜ。そういう話だったじゃん」

妹「浮気した方じゃなくてされた方が努力しなきゃいけないなんて」

兄「浮気でも何でもさ。結局惚れている方が負けなんだろう」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄(慰めの言葉ならもう十分なのに)

妹「あの二人行っちゃったからあたしたちも移動しよう」

兄(慰めじゃなかった。つうかいきなりビジネスライクになったな)

妹「歩ける?」

兄「もう平気だ(でもそうだ。日常を普通に繰返して過ごすことがきっとつらい思い出に
対抗する力になるんだろうな。父さんの日記と同じだ)」

妹「じゃあ行こう」

兄「おまえ買物はいいの?」

妹「また次の休みに来るから今日はいいや」

兄「じゃあ帰るか」

妹「五万円ある?」

兄「はい?」


妹「お兄ちゃんの言うとおりだよ。もうあいつらとは縁を切ろう。正直、お姉ちゃんとゆ
う君には罰を受けて欲しい気持ちはあるけど、でもお兄ちゃんの気持ちを考えれば何もせ
ず縁を切って忘れる方が正しいんだろうとも思う」

兄「俺は早く忘れたい。きっと大丈夫だと思う。俺にはおまえもいるし」

妹「お兄ちゃんの言葉じゃないけどそれだけは疑わないで。あたしもゆう君に惹きつけら
れて迷ったのは事実だし、それを誤魔化す気はないけど」

兄「うん」

妹「でもあれは気の迷いだった。そもそもお兄ちゃんとの仲が今みたいに良かったらゆう
君なんかに惹かれることはなかったし。これ本当だからね」

兄「疑ってねえよ(疑ったら父さんから天罰を下されるだろ。俺が今ちゃんと立って喋れ
ているのだって妹のおかげだ)」

妹「でもお姉ちゃんは違うよね。あたしとは違ってお兄ちゃんを自分の彼氏にしていたの
に、そのうえでゆう君に走った。それに、あたしのことを助けるために彼に会いに行った
のにゆう君に惹かれたんだし」

兄「まあ、そうなるよな」

妹「それが一番許せない。だからあいつらに反撃したい気持ちはあるけど、あたしにとっ
て一番の優先事項はお兄ちゃんの気持ちだから」

兄「妹・・・・・・」

妹「だから今は我慢する」

兄「ありがとな」

妹「いいよ。でもささやかな復讐だけは許してね。お兄ちゃんには迷惑をかけないから」

兄(何だって)



兄(あ。やっと帰って来た)

妹「ただいまお兄ちゃん」

兄「おかえり。結構時間かかったな」

妹「うん。泣いちゃって大変だった」

兄「・・・・・・おい。やり過ぎてないだろうな。おばさんには感謝こそすれ恨みはないんだか
らな」

妹「いずれはばれることじゃない。つうかお兄ちゃんと一緒にデートで遅くなるなんて嘘
を言ったこと自体、もうおばさんにはわかってたみたいだよ」

兄「どんな感じだった?」

妹「あのね」


幼馴染母「幼馴染はまだ帰っていないけど。五万円をあの子に渡して欲しいってどういう
こと」

妹「おばさんごめんなさい。あたしが困ってたらお姉ちゃんが貸してくれたんです」

幼馴染母「いったいどうしたの? 何かあったの」

妹「おばさんごめんなさい。あたしのせいで」

幼馴染母「妹ちゃん。落ち着いて話してごらん」

妹「・・・・・・母が再婚したことはご存知ですよね」

幼馴染母「うん、知ってるよ。弟さんもできたんだってね」

妹「その弟って、ゆうって言うんですけど」

幼馴染母「うん」

妹「そのゆう君があたしに・・・・・・。両親もお兄ちゃんも新しい家にはいなくて」

幼馴染母「まさか」

妹「あ、でもそれはもういいんです。あたしは新しい家を逃げ出してお兄ちゃんと住むこ
とにしましたから、もう大丈夫です」

幼馴染母「・・・・・・お母様はご存知なの」

妹「ママの目には自分の新しい再婚相手しか映らないみたい。ゆう君に相手にされないあ
たしの被害妄想だって言われました」

幼馴染母「そんなのって」

妹「それで。身一つで兄のところに避難したものですから、お姉ちゃんが身の回りの物を
揃えるのにお金がいるでしょって言ってくれて」

幼馴染母「そうだったんだ。じゃあ返さなくていいよ。あの子にはあたしから返しておく
から。妹ちゃんだってお金が必要でしょ」

妹「いえ。亡くなった父の実家に電話したら助けてくれることになったので、お金の面で
はもう大丈夫なんです」

幼馴染母「つらかったね。あたしでよければいつでも相談に乗るから。何と言っても娘の
彼氏の妹だし。ううん、そんなことは関係なく妹ちゃんのことは昔から大好きだったの
よ」

妹「ごめんなさい。でも無理だと思います」

幼馴染母「どうして? 遠慮なんか」

妹「遠慮しているわけじゃないんです・・・・・・これはあたしのせいでもあるんですけど」

幼馴染母「よくわからないんだけど」

妹「お姉ちゃんはゆう君に、これ以上あたしにつきまとうなって話をつけに言ってくれ
て」

幼馴染母「あの子が?」

妹「ええ。その結果、あたしはゆう君から解放されたんですけど。でも、お姉ちゃんはゆ
う君に一目惚れしちゃったみたいで」

幼馴染母「何バカなこと言ってるの。あの子には兄ちゃんがいるのよ」

妹「兄はお姉ちゃんに振られたみたいですよ」


幼馴染母「そんなわけないでしょ。今日だって二人は一緒にデートして」

妹「昨日もデートなはずだったですよね」

幼馴染母「昨日は兄ちゃんがあの子じゃなくて妹ちゃんと一緒に家に来たからおかしいと
は思って聞いたけど。兄ちゃんに用事ができたからって」

妹「昨日も今日も兄はあたしと一緒にいました」

幼馴染母「だって。あの子は、昨日会えなかったから今日は兄ちゃんと一緒にって」

妹「お姉ちゃんは昨日も今日もゆう君と二人きりで一緒に過ごしてました。お姉ちゃんは
ゆう君が好きになったので、お兄ちゃんのことを振ろうとしているんです」

幼馴染母「・・・・・・嘘でしょ。あなたの誤解じゃないの」

妹「これは見せたくなかったんですけど。今日、偶然見かけちゃって」

幼馴染母「これって」

妹「お姉ちゃんとゆう君がデートしている写真、つうかキスしているところですね」

幼馴染母「あの子は・・・・・・。許さない」

妹「おばさん落ち着いて。人が誰かを好になるっていう気持ちはどうしようもないです
よ」

幼馴染母「あたしとお父さんは兄ちゃんのことを実の息子のように思っていたのに。それ
なのにあの子は」

妹「嫌なことをお知らせしてしまってごめんなさい。でも、おばさんにお願いがありま
す」

幼馴染母「・・・・・・お願いって」

妹「お兄ちゃんは傷ついてつらい思いをしていますけど、それでも前向きに講義とか研究
に熱中することでお姉ちゃんにひどく裏切られたことを忘れようとしています」

幼馴染母「どうしましょう。兄ちゃんには謝っても謝りきれない」

妹「ですので、そう思っていただけるのならお願いを聞いてください。お姉ちゃんには二
度とあたしとお兄ちゃんに話しかけないように言ってください。お姉ちゃんはゆう君に夢
中だからかえって喜ぶでしょうけど」

幼馴染母「・・・・・・幼馴染を叱って目を覚ませるから、だからもう一度だけ兄ちゃんとやり
直すチャンスを娘にもらえないかしら」

妹「無理だと思います。そもそもお姉ちゃんの方にはお兄ちゃんとやり直す気はないと思
いますし、それでは兄がつらいだけです」

幼馴染母「妹ちゃん・・・・・・」

妹「兄のことを実の息子のように考えてくれていたのならお願いします。これ以上兄を苦
しめないでやってください。正直、兄のそんな状態を見ているだけであたしもつらいんで
す」

幼馴染母「・・・・・・わかった」


妹「という感じかな」

兄「おまえ、ちょっとやり過ぎだろ。俺だっておばさんのことは幼馴染のこととは関係な
く好きだし、おばさんを悲しませることはないだろ」

妹「おばさんには本当に悪いと思ったよ。お兄ちゃんのことを本気で息子同然に大切に思
ってくれてたことも伝わってきたし」

兄「それなら何で」

妹「あたしたちのこのささやかな生活を守るためだよ。甘いこと言っている場合じゃない
もん。お兄ちゃんの言うとおりもうお姉ちゃんたちには関わらない方がいいと思うけど」

兄「けど?」

妹「何か、これだけじゃ終らない予感がする。だから身を守るためには最低限の手は打っ
ていた方がいいよ」

兄「意味がわかんないんだけど」

妹「性善説に立つのは危険だってこと」

兄「ますますわからん」

妹「それでいいよ。お兄ちゃんが考えなくてもあたしが全部引き受けるから」

兄「・・・・・・俺、おまえを守るつもりだったのにな」

妹「仲のいい兄妹はお互いに守りあうんだよ。前にここに逃げ込んだときはお兄ちゃんが
あたしを受け止めてくれた。今度はあたしがお兄ちゃんを守るっていうだけ」

兄「・・・・・・でも」

妹「安心しなよ。これは無料サービスだから」

兄「何の話だよ」

妹「お兄ちゃんを守ったんだからあたしの彼氏になってとか言わないからさ」

兄「・・・・・・」

妹「夕ご飯の支度するね。お兄ちゃんはお風呂の支度して」

兄「・・・・・・わかった」


兄(何か緊張するな。教室の前で面談の順番を待っているのはみんな大人ばっかじゃん)

兄(つうか母親しかいねえ。名門の女子校に俺なんかが紛れ込むと本気で場違いだな)

兄(さっきから好奇の視線も感じるし。何だかいたたまれねえ)

兄(・・・・・・でもそのせいか幼馴染のことで心が痛むことはない。緊張で上書きされちゃっ
たのか。最近、妹がやたらと俺にこういうイベントを強いるってまさか、俺の気持ちを紛
らわせるためなんじゃ)

兄(そこまで計算しているとしたら、自分の妹ながら恐ろしい女だけど)

兄(さすがにそれは考えすぎなんだろうけど)

兄(ちょっと前までは仲の悪い兄妹だったのになあ。正直、バカな妹だと思ってた。母さ
んの再婚に浮かれてリビングで踊ってたりとかな)

兄(あれ、結構可愛かったけど、結局喧嘩になっちゃたんだよな)

兄(今日あの話を妹にしてみようか。可愛かったよって)

兄(妹は何て言うだろう。真っ赤になって怒るかな)

兄(ははは。こんなことを妹相手に考えられる日が来るなんてな)

妹「さっきから緊張してたり突然にやにやしたり何なのよ。お兄ちゃんはあたしの父兄で
保護者なんだからもう少しどっしりと構えててよ」

兄「無理言うな」

妹「そろそろだと思うからいい加減に落ち着いて」

兄「俺は傷心なんだぞ。ちっとは労わってくれても」

妹「お姉ちゃん関連の悩みならそうするけど、今のは明らかに違うんじゃん」

兄「何でそんなことわかるんだよ」

妹「どうせ周りは母親だらけなのに何で俺がとか、俺って周囲の父兄から変な目で見られ
てねえかなとかって考えてたんでしょ。お兄ちゃんって小心者だから。それと何で俺がこ
んなことをしなきゃいけねえんだ。面倒くさいって」

兄「・・・・・・おまえはエスパーかよ(前半正解、後半間違い。つうか俺はおまえを見直して
いたんだっつうの)」

妹「お兄ちゃんの考えていることを理解するのに超能力なんて必要ないでしょ」

兄「そんなことを言われるほどこれまで仲良くなかったじゃん俺たちって」

妹「お兄ちゃんにとってはそうなんでしょうね」

兄「うん?(何だって)」

妹「まだわからないの?」



担任「池山さん、お待たせしました。妹さんも入ってね」

兄「あ、はい」


担任「とりあえずこれをご覧になってください」

兄「はあ(直近の模試の結果か)」

兄(・・・・・・)

兄(まじかよ)

兄(これは)

妹(・・・・・・・)

兄(何、気まずそうに目を逸らしてやがる)

担任「総合順位で言うとうちの学年で上位十名以内に入っていますね」

兄「みたいですね(俺なんかよりよっぽど成績いいじゃねえか。これまでバカだと思って
たのに)」

担任「ですので絶対にとは言えませんがこのまま行けばお嬢さんの・・・・・・妹さんの志望校
合格は問題ないですね」

兄「そうですか」

担任「ご家族はお嬢さんの、じゃない。妹さんの進路についてはご了解されてるんです
か」

兄「はあ(何言ってるんだこの人。女だけあって話がくどい。つうか妹の志望校も知らな
いし母さんがそれを承知しててのかもわかんねえや。妹、おまえから何か言えよ)」

兄(また目を逸らしやがった)

担任「正直、もう二ランクくらいは十分に上を狙えるんですけどね。まあ、ご家族がご了
解されているならそれでいいとは思いますけど」

兄「ええと」

担任「何ですか」

兄「母は、じゃない。祖父も祖母も妹の選択を尊重していますから(って、こんなことし
か言えねえじゃんか。そもそも妹の進学希望どころかどんな学部学科に進みたいのすらわ
かんねえのに)」

兄(俺って妹と違ってこいつのことなんか何も知らなかったんだな。妹と仲直りしたり、
妹に告白まがいのことをされていい気になってただけで)

兄(何かすごく後悔の気持ちがわいてくる。妹がこんなに俺のことをわかっていることを
思い知らされた直後なのに)

担任「まあ、妹さんのお父様とお母様もこの大学の出身で、お兄様も在学中だとは伺って
いましたので、そういうのもありかなとは思ったんですけど念のために確認させてもらい
ました。そういうことならこのまま勉強の手を抜かなければおそらく大丈夫だと思いま
す」

兄(何で成績がいいのにうちの大学にとかって野暮なことは聞かない。だけど、こいつっ
て外見だけじゃなくて頭も良かったのか。何か複雑な気持ちだ)

担任「妹さんもそれでいいのね」

妹「はい。父と母と兄と同じ大学に進学したいと思います」

担任「わかりました。でも受験に絶対はないからね。気を抜いちゃだめよ」

妹「はい、がんばります」

担任「何かご父兄の方からお聞きになりたいことはありますか」

兄(合格可能性の欄は90パーセント以上で振り切れてたけど、六校全部うちの大学の違う
学部が記入してあった。妹の本当の志望学科を聞きたいけど、それを先生に聞くのは何か
みっともないかなあ)

妹「お兄ちゃん?」

兄「(あ)いえ。別にありません」

担任「それでは今日はお忙しいところをありがとうございました」


兄(妹の意外な一面を知ってしまった。)

兄(意外と頭がいい。それに模試の結果の合格可能性の欄には俺の大学の複数の学部。正
直、仲直りした後とか父さんの日記を読んだ後ならまあわからんでもないけど)

兄(これを受けたときってまだ俺とは仲が悪かった頃だ。母さんの再婚が決まってゆうと
一緒に住めるって妹がはしゃいでいた頃だもんな)

兄(あれは俺を自分に振り向かせるためだってこいつは言ってたけど)

兄(しかし、こんだけ成績がいいなんてこいつ、いったいいつ勉強してたんだろう)

兄(別にもう俺と同じ大学にこだわる必要なんかないのに)

兄(・・・・・・それとも妹はそこまで俺のことを。その)

妹「ねえ」

兄「(何だ)おう」

妹「予定よりずいぶん遅くなっちゃったけど、大学の講義は大丈夫なの」

兄「大丈夫じゃない。もう専門科目の講義には間に合わないな」

妹「ごめん」

兄「それはいいけど(こいつを母さんとゆうから守るって決めたんだもんな)」

妹「じゃあ今日はもう大学には行かないの?」

兄「言ってもしかたないし(それに幼馴染に会いたくないし。いつまでも避けてはいられ
ないことはわかってるんだけど。何せ八割方履修登録している講義が被ってるだけに)」

妹「じゃあ、もういっそ今日はふたりで遊んじゃおう」

兄「・・・・・・また買物かよ。いくらじいちゃんがおまえに金をくれたからといってもな」

妹「違うって。これ」

兄「(何だ。中古車のディーラーからのお知らせ?)もう納車か。予定よりずいぶん早か
ったな」

妹「今か今かと思っていたからね。あたしが駐車場を確保したから車庫証明が早く取れた
んだよ」

兄「そんなに楽しみだったのかよ」

妹「だってドライブとかしたことないもん」

兄「昔は結構してたじゃん。おまえが小学校の頃までは」

妹「そういう家族でお出かけ的な意味じゃないよ。彼氏と二人でドライブ的な意味で」

兄「彼氏ってなあ。おまえ今までだって彼氏はいたろうが」

妹「相手だって高校生だったんだよ。ドライブデートなんかしたことないよ」


兄「まあ、どうせいつかは車を受け取りに行かなきゃいけないんだしな。もう講義には間
に合わないんだし、これから車を受け取りに行くか」

妹「やった。どこ行く?」

兄「どこって。店から駐車場に車を持って行くんだよ」

妹「そんなのつまらないじゃん。どっかに遊びに行こうよ」

兄「遊ぶって」

妹「ただこの辺をぐるぐる回っているだけでもいいんだって。あたしはお兄ちゃんと一緒
にドライブしたいの」

兄「まあいいけど」



妹「・・・・・・ちょっと気持ち悪い」

兄「おまえ車酔いなんかしたっけか」

妹「パパやママの運転では一度もしたことないよ・・・・・・って信号赤だってば」

兄「悪い」

妹「下手くそ」

兄「うるせえなあ。運転は久し振りなんだよ」

妹「運動音痴のパパだってもう少し上手だったよ」

兄「父さんのは慎重すぎるだけだって」

妹「とにかく少し落ち着いて運転してよ。いくらあたしがお兄ちゃんのことが好きだって
いっても一緒に心中するつもりはないよ」

兄「わかってるよ。おまえちょっと黙ってろよ。気が散る」

妹「偉そうに」

兄「おまえなあ(でも妹とこういう風に軽口を叩けることが幼馴染を失った今の俺に
はすごく救いになっている)」

妹「あ、そうだ」

兄「今度は何だよ」

妹「いいこと思いついた。今ならゆう君は学校でいないからあたしの荷物を取りに行っち
ゃわない?」

兄「ほとんど新しく買ったんじゃねえの」

妹「必要最低限はね。でも教科書とかもあるし。それに」

兄「それに?」

妹「手許に置いておきたい大切なものとかが残ってるのよ」

兄「まあいいけど。確かにゆうも結城さんも母さんもいない今はチャンスだもんな」

妹「・・・・・・前の車止まったよ。チャンスはチャンスだけど、無事に辿り着けるのかな、こ
れ」

兄「任せておけって」

妹「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


兄「なあ」

妹「次、右折だよ。そろそろ車線変更しとかないと」

兄「わかってるって。そうじゃなくてさ」

妹「何よ。お兄ちゃんは運転に集中しててよ。お兄ちゃんの運転がこんなに初心者レベル
だとは思わなかったよ」

兄「・・・・・・じゃあもう二度とドライブとかしてやらないからな」

妹「怒んないでよ。お兄ちゃんって子どもみたい」

兄「うるせえ」

妹「だから。拗ねないの」

兄「いやそうじゃなくて。おまえって何であんなに成績いいの?」

妹「何でって。別にそんなにいいわけじゃないし」

兄「富士峰で学年十位以内なら成績がいいとしか言いようがねえじゃん」

妹「・・・・・・家でずっと一人だったしすることもなかったから」

兄「え」

妹「まあそれで暇つぶしに予習とか復習とかしてたら自然と成績が上がっちゃったの」

兄「おまえは受験の神様かよ。(成績を上げようと思わないで自然に学年上位十番だ
あ?)」

妹「だから別にたいしたことじゃないって」

兄「たいしたことあるじゃん。てかすることないって、おまえは俺に見せ付けようと一生
懸命デートしまくってたんだろ」

妹「それはそうだけど、お兄ちゃんに言われると腹が立つ。上から目線で偉そうに。何で
優越感感じてるのよ」

兄「そうじゃねえけど」

妹「あたしがずっとお兄ちゃんに恋してたって知ったからって、そんなに偉そうにしなく
てもいいじゃん。何よ、自分の方が立場が上だとか思っちゃってるんでしょ」

兄「それは完全におまえの誤解だ。だいたいそんな余裕かましていられる心理状態じゃな
いって」

妹「確かにそうだよ。認めるよ。あたしはお兄ちゃんに嫉妬させようとしてデートしてま
した!」

兄「だから人の話を聞けって。切れることはねえだろ」

妹「だけどすぐに意味がないと思ってやめたもん」


兄「わかったよ、わかったから」

妹「・・・・・・お兄ちゃんさ。まさかあたしのお兄ちゃんへの恋心を内心でにやにやしながら
楽しんでいるんじゃないでしょうね」

兄「そんなこと言ってねえだろ」

妹「あたしのことを恋愛対象として考えられないのはしようがないよ。実の妹だし」

兄「・・・・・・だからそういうことじゃねえって」

妹「だけど、あたしのお兄ちゃんへの恋愛感情を茶化すのはやめて。あたしは真剣なんだ
から」

兄「別に茶化したつもりはないんだけど」

妹「だったら偉そうに聞くな。他の男の子とのデートなんかすぐ止めたし告白も断ってか
らは時間なんかいっぱいあったの! だから勉強したの。それが悪いの?」

兄「いや。悪くないです」

妹「・・・・・・ふん」

兄「そうじゃなくてさ。俺は素直におまえのことをすげえなって感心しただけで」

妹「そんなことないよ。あたしはお兄ちゃんと違ってパパの頭の良さを受け継いでいない
し。それはママに似たから見た目はいいかもしれないけど」

兄「・・・・・・(事実かもしれんけど自分で見た目がいいとか言うな)いや。俺だって高二の
今の時期ならこんなに偏差値は良くなかったぞ。偏差値的に言えばおまえの方が俺より成
績がいいことは明らかだ」

妹「へ? そうなの。あたしをバカにしていたわけじゃないんだ」

兄「だからそうだよ。デートの合間に暇つぶしに片手間で勉強してこの成績はすげえって
誉めてるんじゃん」

妹「そうなのかな・・・・・・だからデートしなくなってからだって。勉強しだしたのって」

兄「ひょっとしたら俺よりお前の方が父さんに似ているのかもしれないね」

妹「そんなことないよ」

兄「(え。今までと打って変って真面目な表情)どした」

妹「そんなことないよ。お兄ちゃんはパパに似ている」

兄「何だって」

妹「お兄ちゃんはパパと似てるよ。優しいところも頭のいいところも」

兄「・・・・・・」

妹「あたしを大切に守ってくれるところも」

兄「後半だけはそうかもしれないけどさ」


妹「前半だって本当だって」

兄「俺より偏差値がいいくせに」

妹「頭の良さなんて偏差値で決まるもんじゃないと思う・・・・・・って、前!」

兄「やべ」

妹「もう。信号くらいちゃんと認識しなよ。一応前を見てるみたいだけど、いったいどこ
を見てるのよ」

兄「だっておまえが妙なこと言うからだよ」

妹「妙じゃないよ。お兄ちゃんはパパに似ている。だからお兄ちゃんのことを意識するよ
うになったんだもん」

兄「よくわからんけどさ。おまえ俺のことを初恋の相手だって言ってたけど」

妹「何よ。疑うの」

兄「疑ってるわけじゃないけどさ。おまえって本当はさ」

妹「うん?」

兄「ブラコンじゃなくてファザコンだったんじゃねえの」

妹「どうかなあ」

兄「どうなかあって?」

妹「あたしは間違いなくファザコンじゃなくてブラコンだって」

兄「胸張って言うなよ。つうかどんな反応すりゃいいんだよ俺は」

妹「パパのことは昔から好きだったよ。でもあたし、パパの日記を読んだじゃん?」

兄「うん」

妹「自分が本当にパパに大切に思われていたんだってわかって、それであたしもパパのこ
とが本当に好きだったんだってわかったのはあの時なのね」

兄「うん」

妹「でもお兄ちゃんのことを意識したりしたのは、パパが亡くなる前だったから。だから、
あたしはファザコンじゃなくてブラコンなの」

兄「まあ、おまえの気持ちはよーく理解したよ」

妹「やっと納得したか。前の信号、赤だよ」

兄「言われなくても気がついていたって」

妹「どうだか」


兄「着いたぞ」

妹「うん」

兄「誰もいないんだろうな」

妹「パパとママは仕事だしゆう君も学校のはずだけど」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「まあ、ここまできたら迷っていてもしかたない。鍵持ってるんだろ?」

妹「うん」

兄「入ろうぜ」

妹「もしゆう君がいたら・・・・・・」

兄「安心しろ。そしたら俺がおまえを守るよ」

妹「でも」

兄「けんかとかしたことねえし、力で比べたらゆうには負けるかもしれないけど、それで
も俺はおまえを守るよ。それくらいできないと死んだ父さんに申し訳ないもんな」

妹「うん、わかった。鍵開けるね」

兄「おう」

妹「・・・・・・開いた」

兄「どれ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「誰もいないっぽいな」

妹「ゆう君とあたしの部屋は二階だから」

兄「うん。まだ油断はできないけどな(てか、自然にひそひそ声になるのは何でだろ
う。別にゆうを避ける必要ってないのに。幼馴染には会いたくないけど)」

兄(いや。妹的にはゆうと会いたくないからわざわざ平日を選んでここに来たんだからさ。
妹の気持ちを考えないと)

妹「お兄ちゃん?」

兄「入っておまえの部屋に行こう」

妹「ちょっと待ってよ。先に行かないで」

兄(腕にしがみついていきた)

兄「大丈夫だよ。さっさと終らせようぜ」

妹「うん」

兄「階段どこだ」

妹「こっち」

兄「やっぱ誰もいないな。手伝うからさっさと荷物まとめようぜ」

妹「うん。あまりいっぱいは持っていけないよね?」

兄「軽自動車じゃないとはいえ小さな車だからなあ」

妹「じゃあもって行きたいものを選ぶね」

兄「あいつが学校に行ってるなら大丈夫だとは思うけど、念のために急ごうぜ」

妹「わかってる。お兄ちゃんはあたしが選らんで箱に詰めたのを車に運んでね」


兄(これは学校関係か。教科書とか参考書だな。確かにこれを揃えなおすのは難しい)

兄(車のトランクに運んでおこう)

兄(・・・・・・)

兄(き、きつい。無駄にでかい家なせいで二階の妹の部屋から庭の車までの往復が地味に
堪えるな)

妹「お兄ちゃん、次はこれお願い」

兄「はいよ・・・・・・って、この箱重いな。まだ教科書とか残ってたのかよ」

妹「違うけどさ。とにかく急いでね。もう少しだから」

兄「おう(疲れた。早く帰りてえ)」

兄(もうトランクはいっぱいか。後部座席に載せておくか)

兄(・・・・・・あ。やべ)

兄(箱を持ったまま片手でドアを開けようととしたら中身を地面にぶちまけてしまった。
妹に怒られる。早くしまおう)

兄(? 本じゃねえな。これって)

兄(アルバムかよ。こんなもん、別に急場を凌ぐのに必要じゃねえのに。これだから女
は)

兄(あれ。これ、俺?)

兄(何か俺が見たことがない俺の写真がいっぱいある・・・・・・)

兄(何だこれ。明徳の制服ってことは高校の頃か。こんな写真撮った覚えがねえけど)

兄(このアルバム、昔の俺だらけじゃん。こっちはどうだろ)

兄(こっちもか。つうか中学生だし。こっちのアルバムに至っては小学生じゃん。つうか
こっちの方は普通に妹も写っているな。二人で手を繋いでいる写真とかもあるし)

兄(小学生の妹・・・・・・可愛い。今の俺が当時の妹と二人きりだったら襲ってしまいかねな
いほどの可愛らしさじゃん。いや、別にロリコンじゃないけどさ)

兄(手許に置いておきたい大切なもの・・・・・・。これもそうなのか)

兄(あいつって本当に俺が好きだったんだ。正直、妹の告白ってさ。いい兄妹の関係にな
れたこととか、幼馴染に振られた俺を慰めるためとかから、妹が半ば暴走しているんだと
思ってたけど)

兄(俺の写真だらけのアルバムを、ずっと仲の悪かった妹が持っていた)

兄(これじゃあもう疑いようもないじゃん)

兄(本気で返事を考えてやらねえとな。本気で告られたのなら本気で返事してやらない
と)

兄(てか考えるまでもなく告ってきたのは実の妹なんですけど)

兄(うーむ)


妹「何してるのよ。早く上がってきてよ」

兄「お、おう(やばい)」

妹「一刻も早くこんなところから逃げ出したいのに・・・・・・って、え?」

兄「今戻るところだ」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・いやその。これはだな」

妹「もしかして中を見た?」

兄「えーと(手許にアルバムがある以上誤魔化しようもない)」

妹「見たんだよね?」

兄(妹こええ)

妹「もう!」

兄「偶然だよ偶然。箱を落しちゃってさ。中身は何だろうと思ったら」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃんばっかだったでしょ」

兄「うん」

妹「後半はほぼ隠し撮りだし」

兄「見に覚えのない写真がいっぱいあったよ」

妹「・・・・・・ごめん」

兄(何だろう。今とてつもなく妹のことがいとおしい)

兄「嬉しかったよ」

妹「え?」

兄「本当に」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「父さんは死んじゃったし母さんは再婚しちゃったけど。やっぱり家族っていいな」

妹「・・・・・・うん」

兄「母さんが再婚してさ。これで俺とおまえの仲まで悪かったらさ。父さんが好きだった
うちの家族っていったい何だったのって話しだし(たとえ浮気から始まった家族にしても
な)」

妹「パパとお兄ちゃんのことを嫌いになったことなんかないよ」

兄「ありがとう」

妹「家族なんだもん。お礼なんか」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

兄「じゃあ、残りを運んじゃうか」

妹「うん。あと二箱くらいで終わりだから」

兄「おまえの部屋に戻るか」

妹「あ」

兄「嫌ならやめるけど」

妹「嫌じゃない。でも、そういうんじゃなくて」

兄(恋人つなぎかよ)


兄(さっきからずっと沈黙が続いているけど、思っていたより気まずい感じはしねえの
な)

兄(優しい沈黙って言うか)

兄(さっき妹と手をつないだのはいい判断だったのかもしれない。真面目に何で妹が俺の
写真集を持っていたかなんて話をしだしたら、俺はきっと恥かしくて死ねる)

兄(本気で実の兄貴のことが好き、か)

兄(妹は可愛い。性格はきつめだけど。つうかそれが原因で今まで何度も大喧嘩してきた
けど)

兄(今となってはそういう性格すらいとおしい)

兄(・・・・・・正直、幼馴染に手ひどく裏切られたこととか今なら許せそうな気がしてきた)

兄(こいつが俺の彼女になったとしたら・・・・・・いや、だめじゃん)

兄(はあ。実の妹じゃなければなあ)

妹「妹が義理だからねとチョコをくれ」

兄「何だって?」

妹「・・・・・・君が義理ならどんなにいいか」

兄「・・・・・・何それ」

妹「何でもない。ごめん」

兄「・・・・・・暗くなってきたな」

妹「思っていたより時間かかったね。ゆう君が帰ってくる前に出発できてよかった」

兄「そうだな」

妹「前、前! 信号赤だって」

兄「え」

妹「って。何でそこで左折しちゃうのよ」

兄「おまえが突然大声出すし、一刻も早く交差点を抜けなきゃと思って」

妹「道、迷わないでよ」

兄「そう言われても」

妹「何だか周りが薄暗いよ」

兄「確かに。街路灯が少ないなこの道」

妹「あ」

兄「海だ」

妹「わかった。海辺の半島の方に入り込んじゃったんだよ。ぐるっと一周すれば元の道に
戻れるんじゃないかな」

兄「引き返したほうが早くね?」

妹「いいじゃん。海辺が紫色に暮れてきてすごく綺麗だよ」

兄「ああ。そうだな」


兄(確かに綺麗だ。絶景と言ってもいいかも。こんなに近くにこれほど綺麗な景色が見れ
る場所があったとは)

兄(まるでデートしてるみたいだな。考えてみれば幼馴染とはそんなことすらするまでも
なく振られちゃったけど)

兄(でも。海を眺めてる妹の横顔って)

兄(・・・・・・何ときめいているんだ俺。十何年もこいつのこと見てきたのに、今さらすぎ
る)

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「ちょっとそこで車止めて」

兄「何で?」

妹「少しだけ景色見ようよ」

兄「あいよ」

妹「すごく綺麗だね」

兄「本当にそうだな。近くに住んでいたのに今まで気がつかなかったよ(本当に綺麗だ。
近くにいたのに何で今まで気がつかなかったんだろう)」

妹「こんなに近くにあったのに、何で知らなかったのかな」

兄(こんなに近くにいたのにな。何で今まで・・・・・・)

妹「完璧な海辺の夕景れだね。小さな船が遠くに浮んでいるのも素敵」

兄「ああ。本当に可愛いよ」

妹「景色が可愛い? 何か変なの」

兄「(やべ。そうじゃねえ)可愛いじゃねえか。むしろ綺麗と言うべきか」

妹「どっちなのよ」

兄「どちかというと綺麗というより可愛い感じかな。あくまでも俺の感想だけど」


妹「・・・・・・ありがと」

兄「何が」

妹「お兄ちゃんに可愛いって言われるなんて思ってもいなかった」

兄「海辺の景色のことだぞ?」

妹「わかってるよ。でも、ありがと」

兄「(・・・・・・妹)妹?」

妹「なあに?」

兄「いや。俺って何言おうとしたんだろう」

妹「何変なこと言って・・・・・・あ」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「ごめん。つい」

妹「兄妹でもいいの?」

兄「よくわかんないや」

妹「そうか」

兄「ごめん」

妹「あたしに謝らないで。別に初めてじゃないじゃん、キスするの。それにあたしは嬉し
いし」

兄「ならよかった」

妹「お兄ちゃんがキスしてくれるなんてね」

兄「・・・・・・泣くなよ」

妹「泣いてないってば」

兄「泣いてるじゃんか」

妹「・・・・・・」

兄(何だか切ない。何でだろう)


妹「じゃあ先に行くね」

兄「ああ。気をつけてな」

妹「お姉ちゃんに会っても無視しなよ」

兄「わかってる。つうか向こうが話しかけてこないだろ」

妹「油断しない方がいいよ」

兄「わかったって。遅刻するから早く行け」

妹「何かあったらLINEしてね」

兄「そうするよ」

妹「・・・・・・・じゃあ、行ってきます」

兄「おい」

妹「頬にだからいいじゃん」

兄「おまえなあ」

妹「嫌だった?」

兄「そんなことねえよ(昨夜こっちから口にキスした時点で、もう妹のこういう行動
を非難する資格は俺にはないんだ)」

妹「ならよかった。じゃあね」

兄「おう」

兄(セーラー服の後姿。スカートから覗く足。富士峰って白ソックスなんだよな)

兄(曲がり角で振り返って手を振ってくれた)

兄(可愛いな。ついこの間まであれだけ疎ましく思ってた妹なのに)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・どうしよう。俺の方からあいつにキスしてしまった)

兄(妹と付き合う・・・・・・さすがにねえよな。実の兄妹で家族なのに男女の関係とか)

兄(だったらキスしたり毎日同じベッドで抱きつかれながら寝たりとかしちゃいけないよ
な。妹だって期待させちゃうだろうし)

兄(考えていてもしかたない。付き合うことはできないけど、妹とは仲良くやりたい。も
う昔のようなぎすぎすした関係に戻るのはいやだ)

兄(あれ? そういや三者面談のあたりから幼馴染のことをあまり思い出さなかったな)

兄(これも妹のおかげかな。そろそろ俺も大学に行こ)


幼馴染「兄君、おはよう」

兄「おはよ。今日は早いな」

幼馴染「今来たところだよ。行こ」

兄「ああ、ってそうじゃねえだろ(あんまりさりげなく普通に現れたんで思わずあいさつ
してしまった)」

幼馴染「大学行かないの?」

兄「おまえとはな。一人で行くからもう話しかけるな」

幼馴染「そうだよね。昨日お母さんにすごく怒られた。何で君にそんな酷い仕打ちががで
きるのって泣きながら言われた」

兄「悪いけどもう俺には関係ないし」

幼馴染「ごめんなさい」

兄「何がごめんなの? ただ謝られても理由がわからないよ」

幼馴染「昨日、妹ちゃんがうちに来たって・・・・・・」

兄「そうだね」

幼馴染「だからもう君には知られているのかと思ってたから」

兄「知っているのは電話してもメールしてもLINEしてもおまえが返事をくれなかったこ
と、一昨日俺と一緒にデートだとおばさんに話して夜遅くまで外出してたこと、それにあ
んなに人間のクズ扱いしていたゆうとおまえが抱き合ってキスしていたこと。それくらい
しか知らねえよ」

幼馴染「・・・・・・お願い。ちゃんと説明させて」

兄「もういいよ」

幼馴染「よくないよ。とにかく聞いて」

兄(もう縁を切った方がいいんだけど、何かこいつ必死だし)

兄(実はゆうに脅かされてたとか?)

兄(・・・・・いや。ねえよ。こいつはあのときゆうに向って微笑みかけて、それからキスし
たんだから)

兄(とにかく事情だけでも聞いた方がいいのかもな。何でこんなことになってるのか気に
ならないといえば嘘になる)

兄(よし)

兄「わかった。講義はさぼりたくないから昼に中庭の噴水のところで聞くよ」

幼馴染「ありがとう」

兄「じゃあな」

幼馴染「え? 一緒に行かないの」

兄「またあとでな」

幼馴染「ちょっと待ってよ」


今日は以上です
また投下します


兄(一応妹に連絡しておいた方がいいかな)

兄(あいつも何かあったらLINEしろって言ってたし、幼馴染のことは無視するように言わ
れてるし)

兄(いや待て。あいつの学校って校内じゃ携帯の電源を落すって言ってたよな。連絡して
も意味ねえじゃん)

兄(まあきっと俺の高校のときと同じでみんな密かに電源を入れてるんだろうけど)

兄(どうしようか。一応俺は今では妹の保護者だしな。その俺が妹の携帯にメッセージを
送るわけにもいかないか)

兄(帰って話せばいいか。妹だって何があったのか知りたいだろうし)

幼馴染「お待たせ」

兄「・・・・・・ああ」

幼馴染「君、お昼まだでしょ? お弁当作ってきたよ。一緒に食べようよ」

兄「(何言ってるんだこいつ)いや。それより話を聞こうか」

幼馴染「おなか空いてないの?」

兄「食欲なんかここしばらく全然ねえよ」

幼馴染「ちゃんと食べないと体壊すよ」

兄「おまえには関係ないだろ(何言ってるんだこいつ。俺のことなんかどうでもよくなっ
たくせに)」

幼馴染「関係ないって・・・・・・あたしは君のことが心配で」

兄「説明したいんだろ。聞いてやるからさっさと話せよ」

幼馴染「何でそんなにひどい言い方するの? 君らしくないよ」

兄「何でだろうね。俺が言わなきゃわからないわけ?」

幼馴染「・・・・・・」

兄「話をするつもりがないなら俺は行くけど」

幼馴染「待ってよ。ちゃんと話すから。だけどあたしだって混乱しててつらくて」

兄「つらいって? 昨日おばさんに怒られたことがか」

幼馴染「それだけじゃなくて。その・・・・・・大切な君を傷つけたこととか」

兄「一応自覚はあるんだ」

幼馴染「・・・・・・」

兄(今、一瞬だけどこいつは俺のことを睨んだ。ほんの一瞬だったけど間違いない)

幼馴染「君に対してひどいことをしたという自覚はあるよ」

兄「そうなんだ(口では殊勝に言ってるけど、たしかにこいつは今俺のことを睨んだ。憎
しみしかないような視線を俺に向けた)」

幼馴染「・・・・・・君からの電話とかメッセージに返事しなくてごめん」

兄「ああ」

幼馴染「あと君とデートするとかって君のことを引き合いに出しちゃってごめんなさい」


兄「何で返事しなかった?」

幼馴染「それは・・・・・・君に対して罪悪感があったから」

兄「何で罪悪感があったの」

幼馴染「・・・・・・」

兄「もういいよ。話しづらいなら俺から話してやろうか」

幼馴染「・・・・・・」

兄(また俺を睨んだ。もう間違いない。こいつは反省なんか全然してないんだ。それなら
何でこれまで避けてきた俺にわざわざ話しかけたんだ)

兄「簡単な話だよな。おまえはゆうのことが好きになった。それで俺には連絡できなかっ
た。いや、違うか。ゆうが好きになったんで俺なんかとは話もしたくなかったってことだ
ろ」

幼馴染「違うよ」

兄「好きになっただけならまだしもさ。一緒にあいつと遊び歩いてあいつに微笑みかけて、
あいつにキスされてたんだろ。ああ、違うか。あいつにキスされたんじゃなくておまえが
あいつにキスしたのか」

幼馴染「・・・・・・」

兄「黙秘ですか。説明させてとか言っててこれかよ。まあいいや。とにかくおまえは俺じ
ゃなくてゆうの方が好きになったんだろ? それでいいよな」

幼馴染「だってしかたないじゃん。好きになっちゃったんだから」

兄「開き直りですか。おまえさあ、順序が違くない?(やっぱりそうか。覚悟していたつ
もりだし勢いで話を進めちゃったけど。やっぱりそうなのか)」

幼馴染「どういうこと」

兄「大学生同士の付き合いなんだから別に永遠に続くなんて幻想は持ってねえけどさ。そ
れにしたって他の男のことが好きになったのなら、ちゃんと俺を振って別れてからキスと
かいろいろすればいいんじゃねえの」

幼馴染「いろいろって。まだキスしかしてないよ」

兄「まだキスしか、ですか」

幼馴染「だからごめん。ゆう君は魅力的なの。妹ちゃんが彼に惹かれた話を聞いたときに
は、正直妹ちゃんのことをバカな子だって思った。でも」

兄「でも?」

幼馴染「ゆう君は悪い子じゃないよ。いろいろご両親の離婚で傷付いているからあんな反
抗的な態度をしているけど」

兄(今度はゆうの弁護かよ)

幼馴染「正直に言うとあの日にね。ゆう君に二度と妹ちゃんに近づくなって言ったの。そ
したら彼は何の興味もなさそうに、別に妹が俺のことを好きじゃないならしつこくなんか
しねえよって言ったのね。そんなことには意味がないからって」

兄「・・・・・・それで」

幼馴染「でも。そう言った彼の表情が寂しそうでね。何か母親に見捨てられた子供みたい
で」


兄(だんだん胸が苦しくなってきた)

幼馴染「何だか彼のことがかわいそうになっちゃって。あたしも少し言い過ぎたかなって
思ってたら彼がいきなり・・・・・・」

兄「もういい」

幼馴染「聞いて。あたしは確かに彼に惹かれたの。彼って不思議な魅力があって、ゆう君
に抱きしめられるともう彼のこと以外のことは何も考えられなくなるの」

兄「(気持ち悪い。戻しそうだ)年下の初対面の不良に惚れたのろけを俺に言いに来たの
かよ」

幼馴染「そうじゃなくて。でも、昨日お母さんに怒られて泣かれて、あたし思い出したの。
確かにゆう君のことが好きな自分は否定できないけど、これまでずっとあたしと一緒にい
たのは君だって。そんな君に対してこんなにひどい振り方をしてまで、ゆう君の女になっ
てもいいのかなって」

兄「年下の高校生に一度会っただけでキスしたりするほど夢中になれるなら、おばさんに
怒られたくらいで揺れない方がいいんじゃねえの。おまえの大切な年下の彼氏が嫉妬する
ぜ(こんなにダメージを受けているのによく言った、俺。きっと妹だって誉めてくれるだ
ろう)」

幼馴染「・・・・・・もう一度だけチャンスをくれないかな」

兄「何言ってるんだおまえ。俺がおまえを振ったわけじゃなくて、おまえが俺を振ったん
だろ。しかもはっきり口にもしないで」

幼馴染「君のことを傷つけてごめんなさい。もう一度あたしと仲よくしてほしい」

兄「幼馴染としてか」

幼馴染「違う。恋人同士として。お願いだからあたしにチャンスをください」

兄(何なんだろ。俺よりゆうの方が好きなんだろ? こいつ)

兄「意味わかんないよ。おまえ、ゆうのことが魅力的だったって言ったじゃん。あの高校
生のガキのことが好きなんだろ?」

幼馴染「彼のこと、ガキなんて言わないで」

兄「はあ? あいつのことを庇うほど好きなのに何で俺にもう一度チャンスをくれ何てい
うわけ?」

幼馴染「ごめん。でももう一度ちゃんと自分の気持を確かめてみたいの。自分の好きな人
がゆう君なのか君なのか」

兄「頭沸いてるの? おまえ」

幼馴染「自分の気持がわからないまま君と別れるのはいやだよ。ずっと君のことが好きだ
った気持ちは嘘じゃないんだし」

兄「あのさ。おまえの言うチャンスって。俺とやり直すことじゃなくて、おまえがどっち
の男のことが好きなのか考えて結論を出すまで俺に黙って待っていろということ?」

幼馴染「だって。このままじゃ家から追い出されそうなの」

兄「それはおまえの自業自得だし、今の俺には関係ないよな?」

幼馴染「君があたしとまだ付き合っているとお母さんに言ってくれればあたしは家を出な
くて済むじゃない?」

兄「・・・・・・おまえ。何言って(これ、本当にこの間までの優しい幼馴染なのか?)」

幼馴染「その間にあたしは自分のことを見つめなおしてみる。あたしが本当に好きなのは
危険な魅力を持ったゆう君なのか、ずっと一緒にいて側に居ると安心する君なのか。だか
らあたしにチャンスをください」


兄(だめだ。これ以上姿勢を保っていられない。今すぐにでも横になりたい)

兄(妹がいてくれればいいのに。吐きそうっていうか、目の前の景色がぐるぐる回ってい
る)

兄(俺の小学校時代からの幼馴染への気持ちっていったい何だったんだろう)

兄(俺のこいつへの懐かしく切ない思い出が全否定されてしまった)

兄(自分を見つめなおすってなんだよ。ゆうに惹かれたことを後悔してもう一度チャンス
をくれじゃねえんだ。ゆうか俺かを選ぶためにチャンスが欲しいんだ)

幼馴染「君があたしとやり直すことにしたってお母さんに言ってくれれば、あたしは家を
出なくてすむし、自分の気持を確かめるためにゆう君と会ったとしても、君がフォローし
てくれればお母さんにはばれないと思う」

兄「いい加減に」

幼馴染「・・・・・・きゃ」

兄(幼馴染が誰かに平手打ちされてベンチに倒れた)

兄(妹か?)

幼友「さっきから黙って聞いてればいい加減にしろよ」

兄「おまえ(幼友?)」

幼馴染「・・・・・・・幼友?」

幼友「ここまで胸糞悪い話を聞いたのは初めてだよ。幼馴染さあ。あんたいったい何
様のつもり?」

幼馴染「あんたには関係ないでしょ。よくもぶったね」

幼友「この百倍くらい殴りたいよ、あたしは」

幼馴染「やめてよ! なんであんたにこんなことされなきゃいけないのよ」

幼友「ふざけたこと言うな」

幼馴染「自分が兄君のこと好きだからって」

幼友「・・・・・・もういい。あんたは黙ってろ」

兄(何がおきた?)

幼友「あんた。立てる?」

兄「ああ。多分」

幼友「じゃあ行こう。これ以上こいつにこんな戯言を聞かされたくないでしょ」

兄「(こいつも何考えてるんだろ)ああ」

幼馴染「兄君待って。君は昔からあたしが好きだったんでしょ。あたしを置いていかない
で」

兄(何言ってるんだこいつ。大好きなゆうに慰めてもらえればいいだろ)

幼友「ほら。あたしにつかまっていいから」

兄「悪いな」


兄(妹の言ったとおりにすればよかったんだ。あいつは幼馴染が話しかけてきても無視し
ろと言ってたし)

兄(冷静に対応できてたはずだったのに。何だよ、どっちが好きか考える時間をくれっ
て)

兄(認めたくないけど。さっきまでの俺はきっとまだ幼馴染に未練があったはずなんだ。
だから心底後悔して俺にすがり付いてきたら許していたかもしれない。でもそうじゃねえもんな)

兄(人のことを振っておいて傷つけておいて、自分の気持を確かめるための時間をくれ?
 おばさんを誤魔化してゆうとデートする時間を俺に作ってくれってことじゃねえか)

兄(ふざけんな。マジでふざけんなよ)

兄(・・・・・・)

兄(でもこれでようやく目が覚めた。俺が小学校の頃からずっと好きだった幼馴染はもう
いないんだ)

兄(これまでの思い出は全部が嘘じゃないんだろう。でも、少なくとも今は理解でき
た。俺が好きだった幼馴染はもういないんだ。さっき目の前で話していたのは俺の知って
いる幼馴染とは全く別人だ)

兄(ちくしょう。何でこうなるんだよ)

幼友「・・・・・・少しは落ち着いた?」

兄「大丈夫だ(全然大丈夫じゃねえよ。気持ち悪いし体が揺れてる。妹に会いたい)」

幼友「それならよかった」

兄「おまえさ」

幼友「何だよ」

兄「幼馴染の友だちじゃなかったの(つうかこいつはゆうと何か関係があるんじゃなかっ
たのかよ)」

幼友「さあ? どうかな」

兄「いきなり幼馴染を殴ったよな」

幼友「それが? あんたはあたしのしたことを許せないとでも言いたいの?」

兄「いや(そうじゃねえな。きっとあのせいで俺は救われたんだろうから)」

幼友「ひどい顔」

兄「そうかもな」

幼友「さっさと顔を洗って学食で食事でもしてきなよ」

兄「何で?」

幼友「おなかがすくと人間はろくなこと考えないからね。それともあそこに戻ってあの女
の弁当が食いたい?」

兄「(んなわけねえだろ)・・・・・・とにかくここまで連れてきてくれたことには礼を言って
おく」

幼友「別にいいよ。あんたのためにしたんじゃないから」

兄「じゃあ何で」

幼友「とにかく顔洗えよ。涙とかでぐちゃぐちゃだよ」

兄「ああ(そんなにひどいのか)」


兄(こんだけ吐きそうなのに学食で食事とか何の無理ゲーだよ)

兄(ひとしきり俺を励ますんだか罵るんだかわかららない言葉を残して幼友はさっさとど
っかに行っちゃったし)

兄(少しも俺を労わろうとかしなかったな)

兄(・・・・・・あいつは。ゆうの彼女なのかな。それで妹に対して嫉妬したし幼馴染に嫉妬し
て殴ったりしたのか?)

兄(わからねえなあ)

兄(とりあえず今日は帰ろう。先生の講義は気になるけど、きっと今日出たってどうせ集
中できないで怒られるだけだ)

兄(つうかマジで体調がヤバイ)

兄(・・・・・・精神と肉体は密接に関係しているって前に何かで読んだけど、あれって本当だ
ったんだ)

兄(とにかく目の前に来た電車に乗らなきゃ)

兄(家に帰ってベッドで横になればきっと)

兄(だめだ。ちょっとそこのホームのベンチに座って・・・・・・)



妹「あたしはどうすればよかったの? パパもママもお姉ちゃんとお兄ちゃんが付き合う
ことを望んでいて。お兄ちゃんはお姉ちゃんのことしか目に入ってないし」

兄(おまえだってゆうのことを好きになったじゃんか。俺の男としての魅力がゆうに負け
たんだろうな。年下の高校生に)

妹「負けてなんかないよ」

兄(そう言ってくれるのは嬉しいけど、現に幼馴染は)

妹「少なくともあたしはゆう君じゃなくてお兄ちゃんを選んだんだし」



妹「どうした? 大丈夫なの。ねえ、大丈夫なの?」

兄(え。夢? つうか妹?)

妹「本当に大丈夫?」

兄(妹が俺を抱くようにして頭を撫でてくれている)

兄(・・・・・・何かこれだけのことで冷静になれる)

妹「びっくりしたよ。駅のホームに上がったらベンチでお兄ちゃんが倒れるように横にな
ってるし」

兄「(偶然にこいつと出会ったのか)・・・・・・多分大丈夫」

妹「そうは見えないけど」

兄「さっきまではな。おまえの顔を見たら何だか平気な気がしてきた」

妹「無理しないでよ」

兄「してねえよ(むしろお前の方が泣きそうな顔してるじゃんか)」

妹「お姉ちゃんに何か言われたんでしょ」

兄「・・・・・・うん」


妹「だから言ったじゃない。お姉ちゃんのことは無視しろって」

兄「おまえの言うとおりだった」

妹「・・・・・お姉ちゃんに何言われたの?」

兄「うん(正直に話したらこいつは本気で切れるだろうな)」

兄「俺にチャンスをくれって」

妹「どういうこと」

兄「自分が好きなのが俺かゆうかわからないから、俺とやり直すチャンスをくれってさ」

妹「・・・・・・意味わかんないよ」

兄(切れるどころか俺の言ったことが信じられないっていう表情だな)

妹「それ、本当にお姉ちゃんがそう言ったの?」

兄「俺の幻覚じゃなきゃそうだと思うけど(まあ正直に言って俺自身だって本当にあんな
ひどいことをあの幼馴染の口から聞かされたなんて今でも信じられないくらいだけど)」

兄(だけど。確かに俺は聞いた。あの幼馴染の口から)

兄(別に付き合えないならそれでもよかったんだ。別にあいつに彼氏ができたとしても、
極端に言えば突然結婚するとしてもさ。つらい思いはしただろうけど、それであいつの印
象が悪くなるわけじゃない。でも、あいつは)

兄(そういう俺の思いを最悪な形で裏切ってくれたんだ)

兄「もっと言えば。あいつはこう言ってたよな。こいつには素直に話すか」



幼馴染「君があたしとやり直すことにしたってお母さんに言ってくれれば、あたしは家を
出なくてすむし、自分の気持を確かめるためにゆう君と会ったとしても、君がフォローし
てくれればお母さんにはばれないと思う」



兄「・・・・・・だとさ」

妹「・・・・・・」

兄「妹?」

妹「何よそれ」

兄「俺に言われても」

妹「何よそれ。お兄ちゃんがお姉ちゃんとやり直すふりをおばさんたちに見せれば、自分
は勘当されずにゆう君と付き合えるよってことじゃん」

兄「一応、どっちが好きなのか考えたいって言ってたけどな」


妹「お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「立てる?」

兄「多分」

妹「もう帰ろうよ。お兄ちゃんはお姉ちゃんのことはもう忘れて」

兄「・・・・・・どういうこと?」

妹「仲が良かったお姉ちゃんが死んじゃって悲しいけど、生きているあたしたちは前を見
ないといけないじゃん」

兄「死んだって」

妹「あたしとお兄ちゃんが知っていったお姉ちゃんは死んじゃったの。それは悲しいし生
前のお姉ちゃんは懐かしいけど。でも、今のお姉ちゃんは別な人だよ。あたしたちの知っ
ているお姉ちゃんは、お兄ちゃんを本気で苦しめるようなことをする人じゃなかったか
ら」

兄「・・・・・・そうか(そうかもな。あんなひどいことを俺が知っている幼馴染が言うわけが
ない。あれは別人なんだ)」

妹「ほら。支えてあげるから立って。あたしとお兄ちゃんの家に帰ろう」

兄「うん」

妹「あたしが守るから」

兄「・・・・・・何が」

妹「あたしがお兄ちゃんを守るから。それは頼りないかもしれないけど、お姉ちゃんなん
かにお兄ちゃんを利用させたりしないから」

兄「うん。ありがと」

妹「お礼なんか言わないで。あたしがゆう君に迫られて困っていたときにお兄ちゃんはあ
たしを助けてくれた」

兄「おまえを泊めたり幼馴染を呼んだりくらいしかしてねえけどな」

妹「違うよ。そういうことじゃない。お兄ちゃんはあのときのあたしを黙って抱きしめて
くれて、あたしの目を覚まさせてくれた」

兄(そうだっけ)

妹「だからあたしはお兄ちゃんの味方になる。ゆう君でもお姉ちゃんでも」

兄「うん」

妹「たとえそれがママでも。お兄ちゃんを傷つける人はみんなあたしの敵なの」

兄「おまえさ。それはいくらなんでも身びいきすぎね?」

兄(ってまたか)

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・おい」

妹「いいじゃない。別にもうお互いにファーストキスじゃないんだし」

兄「おまえなあ」

妹「ほらちゃんと立って。あたしにつかまっていいから」

兄「ああ(確かにそうだ。妹とキスするのはこれで何度目だろう)」

兄(いろいろと俺も常識的な感覚が麻痺してきているのかな)

兄(もう何が何だかわからない)

兄(・・・・・・・)


今日は以上です
また投下します


幼友「よう」

兄「・・・・・・おまえか」

幼友「これからお昼ご飯?」

兄「ああ。昨日はありがとな」

幼友「そこであたしにお礼を言うか? どこまでお人よしなんだよ」

兄「昨日、俺を幼馴染から連れ出してくれたし」

幼友「あんたのためじゃないよ。あの恥知らずな女のことが許せなかっただけ」

兄「・・・・・・そうなんだ(こいつは幼馴染の親友じゃなかったっけ。つうか、妹とゆう
が抱き合ってたところに現れた女ってこいつじゃねえのか)」

幼友「そうだよ。何であたしがあんたなんかを助ける義理があるなんて考えたんだよ」

兄「いや何でって」

幼友「何よ。あんた、ちょっとでもあたしに感謝しているとか言っちゃいたいわけ?」

兄「おまえにその気がなかったとしても、結果的には助けられたんだしね」

幼友「それならちょっと付き合って」

兄「付き合うって?」

幼友「お昼」

兄「・・・・・・別にいいけど(いい機会だからはっきりさせておくか)」

幼友「学食行く?」

兄「いいよ」



幼友「あんたそれだけ?」

兄「そうだけど。何で?」

幼友「男子がかけうどんだけって初めて見た」

兄「食欲ねえの」

幼友「まあ、無理もないか」

兄「おまえさ」

幼友「うん」

兄「・・・・・・何か知ってるの? 俺と幼馴染のこと」

幼友「知ってるよ」

兄「え(やっぱり)」

幼友「あんたが思っている以上に、あんたと幼馴染のことはわかってる」

兄「こないだまで俺たちが付き合っているかどうかさえ知らなかったじゃんか」

幼友「それでもね。多分あんたが考えている以上のことを知っている。だからさっき兄を
誘ったんだっつうの」

兄「どういうことだよ」


幼友「あんたも災難だよね」

兄「何が」

幼友「幼馴染は最低な女だけどさ。でもまあ、あの恋愛経験値の低いうぶな女らしいとも
言えるよね」

兄「わけわかんねえ(恋愛経験値だあ? そんなもん俺にだってねえよ)」

幼友「あんたって、佐々木に期待されてるんでしょ」

兄「(佐々木って指導教授のことか。つうか話が飛びすぎだろ)さあ」

幼友「やっぱりお父さんのことでえこひいきされてるのかな」

兄「えこひいきって」

幼友「せっかく好きな学問分野があって佐々木にも期待されているだし、もうあんなビッ
チのことは忘れた方がいいと思うよ」

兄「ビッチ呼ばわりかよ」

幼友「まさか、まだ長馴染に未練があるわけじゃないでしょ」

兄「うん」

幼友「だったらちっとは真面目に考えた方がいいよ」

兄「だから何が」

幼友「ゆうはあんたの考えてているほど、適当に行動してるわけじゃないんだから」

兄「・・・・・・やっぱり、おまえ」

幼友「うん。ゆうのことはよく知っている。小さいときから一緒だったから」

兄「おまえさ。俺の妹がゆうと抱き合ってたとこ見たろ」

幼友「妹から聞いたんだ」

兄「あれってやっぱりおまえかよ。結局おまえだってゆうのことが好きなんじゃねえか。
それで妹とか幼馴染とかにああいう態度を取っているのか」

幼友「そうだよ。だからあんたを助けたわけじゃないって言ったじゃん。あんたのために
したんじゃないって」

兄「・・・・・・おまえとゆうって付き合ってるの?」

幼友「幼馴染だよ。あたしたちは。君と幼馴染と同じ」

兄「結城さんのこととかも知ってるんだ」

幼友「うん。家族ぐるみで仲がよかったし、ゆうとも幼い頃からの知り合いだよ」

兄「俺の母親とゆうの父親が再婚したの知ってる?」

幼友「知ってるよ。だから今日はあんたに声をかけたんじゃん」

兄「どう意味?」

幼友「君の妹ってすごいよね」


兄「すごいって?」

幼友「あのゆうに誘惑されたのにさ。結局我に返ってあいつから逃げ出せたじゃん」

兄「何でそんなことまで知ってるんだよ」

幼友「ゆうの次の獲物が幼馴染になったからさ。それってあんたの妹がゆうから逃げたし
たからでしょ? そんな子って初めてだよ」

兄「(獲物って)そうなのか」

幼友「うん。これまでゆうが捨てた女の子はいっぱいいるけど、ゆうを捨てた子はあんた
の妹くらいだよ」

兄「そうなんだ」

幼友「第一目標はあんたの妹で第二目標は幼馴染だと思っていたからさ。あんたの妹に拒
絶されたゆうが、イメチェンして幼馴染をターゲットにしたんだろうな」

兄「イメチェンって?」

幼友「君の妹ってヘビメタとかスラッシュメタルとか好きじゃない?」

兄「わかんねえよ」

幼友「きっとそうだよ。それで幼馴染は知的な男の子が好みでしょ?」

兄「それはそうかも」

幼友「ゆうは楽器なんかできないんだよ」

兄「でも、メタルのバンドのメンバーみたいな格好していたぜ。ついこの間までは」

幼友「あんたの妹の趣味に合わせたんでしょ。それでターゲットを幼馴染に変更したらま
たカメレオンみたいにイメージを変えた」

兄「そういや幼馴染と一緒にいたときは眼鏡をしてて、若手IT企業の創業者みたいな格
好をしてたよ」

幼友「幼馴染ってそういう趣味あるじゃん」

兄「確かに」

幼友「もうわかったでしょ? ゆうがどういう男か」

兄(最初からわかっていたことだけど、そんな男に幼馴染を奪われたと思うとつらい)

幼友「不思議だよねえ」

兄「え?」

幼友「あんたの妹。よほど大好きな彼がいたんだろうなあ。そうじゃなきゃゆうの呪縛か
ら逃れるなんてできないはずなんだけどなあ」

兄「・・・・・・どうなんだろ(俺が好きだからなあ)」

幼友「とりあえず話はしたから飯食おうぜ」

兄(やはり本当に妹は俺のことが好きなのか)

兄(幼馴染をゆうに奪われた俺にとってはせめてもの救いだけど)

幼友「ほら、伸びる前にそのうどん食え」

兄(そう考えると妹の気持ちは嬉しい」

兄(でも。実の妹と付き合うなんて選択肢はねえよな)


兄「おまえさ」

幼友「うん」

兄「ゆうとは幼馴染って言ってたけどさ」

幼友「だから何だよ」

兄(妹からあのときの二人のやり取りを聞いたけど・・・・・・)



『あたしには聞く権利があると思う。あんたの彼女なんだし』

『うるせえ。誰が彼女だよ。おまえなんかセフレだっつうの』



兄(少なくとも・・・・・・体の関係はあるとしか思えねえ)

兄「本当は幼馴染ってだけじゃなくてゆうと付き合ってるんだろ? おまえ」

幼友「まあ気づかれちゃったらしかたないか。そうだよ、あいつはあたしの年下の彼氏」

兄「(やっぱり)つまり駅前でゆうと妹に絡んだり、幼馴染のことを罵倒してたのは自分
の男を取られたからなんだな」

幼友「それがどうした?」

兄「いや、どうってことはねえけど」

幼友「普通の女の子なら二股かけられて浮気されたら、あれくらいのことはするでしょ」

兄「言われてみればそうだけど。でもさ。おまえの行動ってすごく冷静だったよな。彼氏
を取った幼馴染の行動に対して怒ったわけじゃなくて、俺にあんな図々しいことを頼んだ
あいつの言動に怒っていた感じだったし」

幼友「・・・・・・へえ」

兄「へえって何だよ」

幼友「あんなひどいことを言われてたのに、あんたって意外と冷静に事態を見てたんだ
ね」

兄「いや。修羅場だったし傷付いたことは間違いないけど」

幼友「とにかくさ。あんたがもう幼馴染に未練がないなら、あとはあたしとゆうと幼馴染
の問題なんだから。あんたと妹はもうこんなつまらないことに巻き込まれることはない
よ」


兄「好き好んで巻き込まれてるんじゃねえよ。妹はまだゆうのことを怖がっているし」

幼友「へ? ああそうか。それなら心配ないよ」

兄「何でだよ」

幼友「これを言うためにあんたを誘ったんだった」

兄「うん?」

幼友「ゆうは自分に関心のある女の子には強気で迫るけど、自分に対して関心がなくなっ
たあんたの妹には執着しないと思うよ」

兄「そうなの?」

幼友「それは確かだよ。あいつはプライドが高いしね。まあ、これまであいつを振った女
の子はいなかったから絶対とは言い切れないけど、多分ゆうはあんたの妹に対してつきま
とったりストーカーになったりはしないでしょ」

兄「(いい知らせだ。これを伝えれば妹も安心するかも)それならよかったけど」

幼友「よかったね。まあもう幼馴染のことは忘れて妹と仲良くすればいいよ」

兄「仲良くって」

幼友「多分、次にあんたの妹がゆうと会ったらさ。きっとゆうはあんたの妹を無視すると
思うよ。一瞥すらしないで」

兄「うん」

幼友「ゆうが妹につきまとうことを心配するよりも、ゆうに冷たく無視された妹がまたゆ
うのことが気になり出す可能性の方を心配した方がいいかもね」

兄「それは平気だと思うけど」

幼友「あんたってよほど自分に自信があるのね」

兄「俺? それが何の関係があるんだよ」

幼友「何でもない。気にしないで。別にあたしはあんたには関心はないし。ゆうと別れた
あんたの妹にもね」

兄「そうか」

幼友「じゃあ、そろそろ行くわ。誘っちゃって悪かったね」

兄「いや。いろいろ教えてくれてありがとう」

幼友「そこで礼を言うかなあ。ゆうとは正反対のタイプだね、あんた」

兄「・・・・・・」


兄(とりあえず収穫はあった)

兄(ひとつはゆうは妹に執着していないらしいってこと。正直、これが一番嬉しい。妹と
の二人暮しは母さんには反対されて兵糧攻めされてるけど、じいちゃんたちのおかげで何
とか切り抜けているし)

兄(あとは幼馴染のことだけど・・・・・・。幼友が言ったことが確かなら、ゆうは相当女を惹
きつけるらしい。現に妹だって俺に嫉妬させるつもりでゆうに近づいたのに、結局一時期
は本気でゆうのことを好きになっちゃったわけだし。そう考えると幼馴染のような恋愛耐
性の薄い子がゆうを好きになっても何の不思議もない)

兄(でもそれでもあれはない。付き合っていた俺に対して真顔であんなことを提案するな
んて考えられん。妹の言うとおり俺の好きだった幼馴染はもういないんだ。今では幼友が
怒って言った言葉のとおり、今のあいつは最低な行動を平気でできる女なんだ)

兄(もう恋愛とかいいや。研究者には独身の人もいっぱいいるし)

兄(・・・・・・)

兄(妹のことはどうしよう)

兄(まあ当面は仲のいい兄妹を逸脱しないように気をつけよう。そうしているうちに妹に
も新しい恋が訪れるかもしれないし。あれだけ可愛いんだもんな)

兄(あれ)

兄(何だろう。そう考えると何か胸が痛む。幼馴染にひどい言葉をかけられたときとは違
う感情だけど。それでも胸が痛いことには変わりない)



兄「ただいま」

妹「・・・・・・」

兄「おまえパソコンの前で何やってるの」

妹「あ、おかえりお兄ちゃん」

兄「何か難しそうな顔してたな、おまえ」

妹「何でもないよ」

兄「・・・・・・父さんのホームページを見てたのか」

妹「うん。最近暇があると見てるの。何度も読み返してる」

兄(まさか怜奈さんのコメントに気がついたんじゃねえだろうな)

妹「それよかお兄ちゃん」

兄「何(できればあれには妹は気がつかないでいてほしいな。父さんのイメージが崩れか
ねないし)」

妹「これはいったいどういうことよ」


兄「どういうことって。いきなりなんだよ」

妹「これ読んでみ」



from:幼馴染母
to:妹ちゃん
sub:ちょっと教えて欲しいんだけど
『昨晩うちの子がまた兄ちゃんとやり直すことにしたって言いだしてね。兄ちゃんも自分
を許してくれたって。それでお父さんは喜んじゃうしあたしも嬉しかったんだけど、客観
的に考えるとあれだけうちの娘にひどいことをされた兄ちゃんがそんなに簡単にあの子の
ことを許せるものかなあ。妹ちゃん、何か聞いてない? 兄ちゃんがうちの子を許してく
れたのなら本当に嬉しいけど。何か知っていたら教えてください。これが本当ならあたし
とお父さんも幼馴染を許そうかと思うんだけど』



兄(・・・・・・もう本当に俺がずっと好きだった幼馴染は死んじゃったんだな)

兄(ここまではっきりとさせてくれるとは。意図せずして俺を救ってくれたんだ。幼馴染
もどきの女の子は)

兄(もう全然胸が痛まないし、本当にあいつのことを恋しくもない)

兄「どういうことって俺の方が聞きたいよ。幼馴染を許して復縁なんかしてねえぞ」

妹「まあそうだろうね。あの頭のいいお姉ちゃんも本気でどうかしちゃったんだね。こん
な嘘がばれないと思うなんて」

兄「本当にそうだな。前の幼馴染とは全く別人だ」

妹「お兄ちゃん」

兄「こら。ちょっと待て」

妹「・・・・・・傷付いたお兄ちゃんの心を慰めようと思ったのに」

兄「一々抱きつかんでも大丈夫だから。それに今は不思議と未練も傷心もないんだよな」

妹「うん。それはわかる気がする」

兄「そうなの」

妹「お兄ちゃんさ。好きの反対は何だと思う?」

兄「嫌いだろ。あるいは憎しみかも」

妹「違うと思うよ」

兄「何でだよ。好きの反対は嫌いで間違ってねえじゃん」


妹「好きの反対は無関心だよ」

兄「・・・・・・そう言われてみれば」

妹「お兄ちゃんは不思議とお姉ちゃんに対して未練も傷心もないって言ったじゃん」

兄「うん。そうだよ」

妹「好きの反対が嫌いなら、お兄ちゃんはお姉ちゃんに憎しみとか感じてないとおかしい
じゃない?」

兄「うーん。憎しみとかはねえかなあ。もう本当にあいつとは関りたくないっていう感じ
だけで」

妹「でしょ? それが無関心だよ」

兄「言われてみればそうかも」

妹「あたしと一緒だね」

兄「なんで?」

妹「あたしもゆう君には未練も傷心も何にも感じないから」

兄「わかったよ。おまえの言ってる意味が」

妹「あ、でもさ。あたしはお兄ちゃんのことが好きだし」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんに振られたら、未練や傷心どころか憎しみすら覚えるかも」

兄「脅迫かよ」

妹「冗談だって」

兄「とてもそうとは聞こえねえよ」

妹「じゃあ行こうか」

兄「行くってどこへ?」

妹「ファミレスとか。車出してよ夜のデートしよ」

兄「・・・・・・いいけど。また突然だな」

妹「学校から帰ってずっとパパの日記読んでたら夕ご飯の支度する時間がなくなっちゃっ
た」

兄「じゃあ行くか」

妹「ファミレスでミーティングね」

兄「何それ」

妹「ゴールデンウィークの予定たてないと」

兄「節約するからどこにも行かねえぞ」

妹「おじいちゃんに電話したらさ」

兄「・・・・・・またそれかよ」


今日は以上です
また投下します


妹「何か納得できない」

兄「まだ言ってる」

妹「ファミレスであたしが提案したプランはガン無視ですか」

兄「予約が取れなかったんだからしかたねえだろう。だいたい思いつくのが遅いんだよ」

妹「だからって何でこうなるかなあ」

兄「だって誘われたんだもん。スポンサー様のお誘いを断るとかおまえ正気か」

妹「・・・・・・だからおじいちゃんのことなら、あたしが直接話せば大丈夫なのに」

兄「じいちゃんの誘いを断ったって、行くところがないことには変わりないだろ。別に俺
は連休中家で引きこもっていたってよかったんだけどさ」

妹「それはあたしがいや」

兄「じゃあ、いいじゃん。泊まりでお出かけしていることには変わりないんだし」

妹「・・・・・・あたしがお兄ちゃんに告白してから初めての外出イベントだったのに」

兄「真顔でそういうこと言うなよ」

妹「何でよ。気まずいの?」

兄「さすがに少しは」

妹「そういうときは気にしない振りをしてスルーすればいいの」

兄「おまえなあ。俺の困惑に対して的確なアドバイスしてるんじゃねえよ。誰のせいだと
思ってるんだよ」

妹「あしたも気まずかったからね」

兄「・・・・・・じゃあ言うなよ」

妹「やだ」

兄「・・・・・・まあ、その。一応、避暑地っつうか観光地への旅行には変わりないわけだし
さ。二人でどっかを見物したりもできるだろうから、それで満足しろ」

妹「また、上から目線で」

兄「そうじゃねえって」

妹「・・・・・・まあいいか。でもさ」

兄「何だよ」

妹「おじいちゃんって昔から別荘なんて持ってたの? あたし全然知らなかった」

兄「別荘っていうか、じいちゃんたちが昔住んでいた家な。引越しした後も売れなかった
んでしかたなくずっと維持してたんだって。田舎の海辺に立っているからずっと別荘代わ
りに使ってたみたいだよ」

妹「何であたしは知らなかったんだろ」


兄「・・・・・・母さんはじいちゃんたちとは仲が悪かったし、父さんは母さんに味方したから
さ。俺たちって滅多に田舎に行けなかっただろ?」

妹「うん。たまにおじいちゃんたちの家に行くと、おじいちゃんもおばあちゃんも優しい
しお小遣いもくれるしもっと行きたいなって昔から思ってたんだけどね」

兄「その数少ないじいちゃんちへのお泊りだって母さん抜きだったろ」

妹「そうだった」

兄「つまりそういうこと。じいちゃんたちが俺たちの生活の面倒をみるっていてくれてる
んだ。一緒に別荘で連休を過ごそうと言われて断る選択肢なんかねえだろ」

妹「そういうのって何か打算的でやだ」

兄「おまえはなあ。おれだってじいちゃんたちは好きだしさ。別に生活費確保のために媚
を売っているわけじゃねえぞ」

妹「お兄ちゃんと二人で連休を過ごせると思ってたのに」

兄「まだ言ってる。そんなもん、普段から一緒に過ごしているじゃん」

妹「あたしのお兄ちゃんへの気持ちはそんなもんの一言で切り捨てですか」

兄「別にそういうわけじゃ・・・・・・」

妹「冗談だよ。何、困った顔してるのよ」

兄「どっちなんだよ」

妹「両方」

兄「はい?」

妹「だから両方だって。あ、海だ」

兄「ああ」

妹「海辺の道をドライブするのって二度目だね。最初は夕暮れだったけど天気のいい日の
ドライブも気持ちいいなあ」

兄「ああ。道を間違えたときね(あのときのことを思い出すと自己嫌悪を感じるけど、そ
れとおなじくらい甘美で切ない記憶が蘇る)

兄(でもやっと妹の機嫌が直ったみたいだ)

妹「すごーい。まだ五月なのに浜辺が人だらけだ」

兄「あれはサーファーだろ」

妹「ふーん。みんな日焼けしてて格好いいね」

兄「どうせ俺は・・・・・・(あれ? 妹の好きなタイプってバンドやっているようなロン毛
の男とかじゃないのか)」

妹「拗ねないの。お兄ちゃんの方が格好いいとか言うと嘘になっちゃうけど、あたしが好
きなのは兄ちゃんだよ」

兄「はいはい」


妹「本当だよ、あれ? お兄ちゃんスマホ鳴ってる」

兄「この着信音、メールだから」

妹「見ないの」

兄「運転中だっつうの。誰からか見て。ディスプレイに表示されてるでしょ」

妹「うん。あ」

兄「どうした? 誰から(まさか幼馴染じゃ)」

妹「ママから」

兄「へ」

妹「だからママから」

兄「今さら母さんが何でメールなんか」

妹「・・・・・・さあ?」

兄「おまえちょっと読み上げてくれよ」

妹「いいの?」

兄「内容が気になるけど、この辺車止められるとこねえし」

妹「わかった。てかロックかかってるじゃん」

兄「1021」

妹「・・・・・・教えちゃっていいの?」

兄「別におまえに見られて困るものなんかないからな」

妹「エッチな画像とかあるんじゃないの?」

兄「あ(やべ。あるじゃん)」

妹「でも何か嬉しい。お互いに隠し事しない関係になったみたいで」

兄「とにかくメール読めって」

妹「うん。つうかこのパスコードってお兄ちゃんの誕生時を逆にしただけじゃん」

兄「そういうことはどうでもいいから」

妹「今読むからちょっと待って」

兄(何なんだろう)

妹「・・・・・・」

妹「ひどい」

兄「ひどいって?」

妹「・・・・・・お姉ちゃんってどこまでひどい女なんだろ」


兄「(何なんだ)とにかく読み上げてくれよ」

妹「わかった」



『さっき幼馴染ちゃんに会ったよ。兄、あんたって本当に最低だね。急に妹と二人暮しし
たいなんて言い出すから何でだろうとは思ってたけど』



兄(幼馴染と会ったのか?)



『あんたの良心は痛まないの? 幼馴染ちゃんにこんなひどい仕打ちをして、死んだお父
さんに申し訳ないと思わないの? 幼馴染ちゃん落ち込んでたし本当に悲しそうに泣いて
たよ。お母さんはもう幼馴染ちゃんのお母さんに会わす顔がないよ。この親不孝者』



兄(また幼馴染の嘘かよ。いい加減しつこいっつうの。でもまあ、今さら母さんなんかに
どう思われたっていいし。こういう仕打ちをされればされるほど、幼馴染に対しては憎し
みすら薄れていく。妹の言うとおり好きの反対って本当に無関心なんだな)



『妹があんたのことを好きなことなんか前から気づいていたよ。だけどあんたには幼馴染
ちゃんがいたし、妹もあんたのことを諦めたみたいだったから安心していたのに。それに
お母さんの再婚が決まって妹はゆう君のことが好きになったみたいで、本当によかったと
思ってたのに』

『だけどこれは何? 一体どういうことよ。まさか、あんたも昔から妹のことが好きだっ
たってわけ? そんなわけないよね。誰が見たってあんたの好きなのは幼馴染ちゃんだっ
たよね。それなのに何でこういうことするの』

『自分が守らなきゃいけない妹を、あの子の自分への恋心を利用して弄んだあんたのこと
は許せないけど、それ以上に許せないのはあんたが幼馴染ちゃんを傷つけたこと。あんた
の部屋を訪れて、いきなりあんたと妹が抱き合って淫らな行為をしているところを見せら
れた幼馴染ちゃんの気持ちはどうなるのよ』

『まあいいよ。幼馴染ちゃんの傷付いた心のケアはゆう君がしてくれてるから。ゆう君は
あんたみたいな恩知らずなひどい子どもたちと違って本当にいい子。幼馴染ちゃんもゆう
君がいて救われてる。それでもあんたのしたことは許せることじゃない。おじいちゃんた
ちに取り入って上手にやっているみたいだけど、おじいちゃんたちだって自分の可愛い孫
たちが近親相姦の関係だなんて知ったらあんたちを援助なんかするかしらね』

『覚悟しなさい。傷付いた幼馴染ちゃんと、あんたたちのことを心配しながらなくなった
お父さんのためにも、このままじゃ済まさないからね』


妹「以上。ここまでお姉ちゃんにひどいことされるともう笑っちゃうしかないよね」

兄(ひでえ嘘だな。幼馴染なんかに今さら憎しみを覚えることはないけど、いくら仲違い
しているとはいえ自分の子どもたちのことを信用する気なんかまるでない母さんには憎し
みを覚える)

妹「おじいちゃんとおばあちゃん、ママのことを信用しちゃうかな」

兄「さあ。どうかな(それにしてもこんなひどいことになっているのに妹は思ったより冷
静だな)」

妹「おじいちゃんはあたしのことが大好きだから多分平気だと思うんだけど」

兄「そうかもしれないけどな。さすがにその内容を知ったらどうかなあ」

妹「・・・・・・まあ、ママの芝居がかかったあたしが一番かわいそう的なメールもひどいこと
はひどいけど、全部が嘘ってわけじゃないし」

兄「何でだよ。幼馴染に騙されたのかもしれないけど、事実なんか一つもないじゃない
か」

妹「事実はあるよ」

兄「何でだよ」

妹「あたしがずっとお兄ちゃんのことを好きだったのは事実もん」

兄「・・・・・・そうだった」

妹「お兄ちゃんがお姉ちゃんのことを好きだとわかってから、あたしがお兄ちゃんを諦め
たのも本当だし」

兄「それはそうかもしれないけど(幼馴染の嘘の巧妙なところはそこだ。ひどい嘘のとこ
ろどころに母さんが疑わないであろうストーリーが織り込まれているせいで、前から妹の
ことを疑っていた母さんだけじゃなくて、じいちゃんたちだって信じかねない話になって
いるもんな)」

妹「それだけじゃないよ」

兄「まだあるの?」

妹「あたしはまだお兄ちゃんへの恋を諦めていないし。もし奇蹟がおきてあたしがお兄ち
ゃんの彼女になれたとしたら、ママのメールだってお兄ちゃんとお姉ちゃんのことを除け
ば、ほとんど事実になっちゃうんだよ」

兄(そうだ。妹の言うとおりだ。俺がもし妹の気持ちを受け入れたら、母さんの言うこと
は八割方本当のことになっちまう。仮に今俺が妹に告ればこいつは俺のことを受け入れる
だろう。そしたら母さんがじいちゃんたちにちくることは、嘘じゃなくて事実になるん
だ。)

兄(今、じいちゃんたちに見放されたら・・・・・・)

兄(そうなったら俺はもう妹を守ってやることすらできなくなる。それこそ父さんに顔向
けできねえ)

妹「お兄ちゃん?」

兄(妹には悪いと思うし正直少し寂しい気もするけど。俺は妹の気持ちに応えちゃいけな
いんだ。世間の常識的にもそうだけど、何よりじいちゃんたちの心象を害する危険は絶対
に冒せない。とにかく仲のいい兄妹であるこの関係を全力で守らねえと)

兄(幸い、妹も自分の気持ちを俺に押し付ける気はないって言ってるんだし)

兄「悩んでもしかたない。とにかくじいちゃんたちを信じよう」

妹「そうだね。それがいいよ。お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「あたしさ。この先どういうことが起きても、もう絶対お兄ちゃんのそばから離れない
からね。お兄ちゃんがあたしと一緒にいることを負担に思うようになるまでは」

兄「負担になんか思うわけねえだろ(やばい、こいつの表情や口調、超可愛いじゃんか。
今、いい兄妹でいる決心をしたばかりなのに。何でこいつは俺の気持ちを揺るがせるんだ
よ)」


妹「ねえ」

兄「うん」

妹「お姉ちゃんって何でママにこんな嘘を言ったんだろ」

兄「そんなの決まってる。おばさんに怒られたから母さんを自分の味方に付けたかったん
だろ。そうなればおばさんに取りなしてもらえるかもしれないからな」

妹「多分、そうじゃないかも」

兄「そうじゃないって?」

妹「お姉ちゃんも混乱してわけわかんなくなってるのかもよ」

兄「それはそうかもしれないけど。だからってあんな俺たちを追い詰めることになるって
わかっている嘘をつくことはねえだろ」

妹「お姉ちゃんは多分ゆう君に会いに行ったんだよ」

兄「え」

妹「連休中だっていってもママが家にいること自体が珍しいじゃん。お姉ちゃんはそうい
う我が家の事情をよく知っていたから。ママが家にいないと思ってゆう君を尋ねたんじゃ
ないかな」

兄「そうか」

妹「お姉ちゃんはゆう君に会いたくて家に行ったら、そこで偶然にママがいて。それでゆ
う君に会いにきたとは言えなくて、思わずあんな嘘を言っちゃったのかもね」

兄「そうだとしても、あんな内容の嘘を平気で言えるもんかね」

妹「それもそうだけど。あたしが言いたいのはそっちじゃないの」

兄「そっちじゃなきゃどっちだよ」

妹「お兄ちゃんと復縁したなんて姑息な嘘でとりあえずおばさんの追及をかわしたお姉ち
ゃんは、さっそく自分が一番会いたい人にいそいそと会いに行ったんだって思ってさ」

兄「(そう言われればそうか)でもまあ、そんなことはどうでもいいや」

妹「お兄ちゃん?」

兄「俺が幼馴染を好きだっていう事実は確かにあったはずだけど、幼馴染がゆうに会いに
行こうがもうどうでもいい」

妹「そうなの?」

兄「おまえの言うとおりだったな」

妹「言うとおりって何が」

兄「好きの反対は無関心って言ってたじゃん? 今は全然胸が苦しくならないもんな」

妹「それならあたしも嬉しいけど」

兄「今の俺の心配はさ。俺とおまえの生活が脅かされるんじゃないかってこと。まあ、じ
いちゃんたちは母さんより俺たちの方を信じるとは思うけどね」

妹「うん」


兄「そういやさ。おばさんのメールって返事したんだっけ。あれも無視するわけにもいか
ないだろ」

妹「もう返事したよ」

兄「したの? いつのまに」

妹「勝手に送っちゃったけど。まずかった?」

兄「いや。おまえあてのメールだし問題はねえけど(こいつ、いつのまにかすることはし
てるのな)」

妹「そんな事実はありません。おばさんたちがお姉ちゃんにどう接するのかはお任せしま
すけど、お姉ちゃんがお兄ちゃんやあたしに話しかけないようにするという約束だけは守
らせてください」

兄「そう送ったわけね」

妹「うん。あとはもう放っておこう」

兄「わかったよ」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「ごめんね」

兄「何がだよ。幼馴染のことはおまえには責任がないし。つうかないどころか俺の方がお
まえに助けてもらっているんだし、おまえが謝る意味がわかんないよ」

妹「あたしが小さなときからお兄ちゃんのことを好きになんかなっていなければ、ママだ
ってお姉ちゃんの嘘をあんなに簡単に信じたりはしなかっただろうし。そもそもあたしが
お兄ちゃんに嫉妬させるためにゆう君に近づいたりしなければ、お姉ちゃんがゆう君のこ
とを好きになることもなかったのに」

兄「いや、そうじゃねえ。確かにおまえが俺のアパートに逃げ込んでこなければ幼馴染が
ゆうに会うこともなかっただろうし、俺は今でもあいつと付き合っていたかもしれない。
でもさ、そういことじゃじゃねえだろ」

妹「・・・・・・どういう意味?」

兄「幼馴染がさ。ゆうごときに一度会ったくらいで俺のことなんかどうでもよくなっちゃ
う女なんだって、早めに気が付かせてくれてよかったんだよ、きっと」

妹「そうかなあ。長年好きだったお姉ちゃんと恋人同士になれてお兄ちゃんは嬉しかった
んでしょ?」

兄「それはそうだけどさ。たとえ今回何もなくて俺と平和に付き合っていたにしてもさ。
幼馴染は所詮は平気で浮気できる女だったわけで、この先いつこういうことになるかわか
らなかったわけじゃん」

妹「・・・・・・」


兄「だからこれでよかったんだよ。これがあいつと結婚した後とか子どもができた後とか
に起こされたらこんなもんじゃないくらいドロドロしてただろうしな。早めに目が覚めて
よかったと俺は思っているよ」

妹「でも」

兄「まだ納得できないの?」

妹「あたしなんかが余計な邪魔をしなければ少なくともお兄ちゃんはママに嫌われること
はなかったでしょ?」

兄「つらいけどそれもきっと同じだよ。この先で母さんが自分の子どもたちより再婚相手
とかの方を信じるなんてわかるより、今わかったほうが傷はきっと少ないんだよ」

妹「本当にそう思っている?」

兄「ああ、本当だ。だからおまえあまり気に病むな。それより俺はおまえと仲よくなれた
ことの方がよほど嬉しいよ。そのせいであまり幼馴染とか母さんのことなんか気にならな
くなったくらいにな」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄(やばい。ちょっと言いすぎたか)

妹「うん。わかった」

兄「それならよかった。じゃあ、この話はもう終わり」

妹「ママに返信しなくていいのかな」

兄「無視しよう。それよかむしろじいちゃんたちが母さんの話を信じるかもしれない方が
心配だよ」

妹「それはあたしに任せて」

兄「また可愛くてかわいそうな孫娘攻撃かよ」

妹「いいじゃん。あたしだっておじいちゃんのことが好きなのは嘘じゃなんだから」

兄「まあ今は手段を選んでいる場合じゃないしな。俺とおまえの生活のために頑張ってく
れ」

妹「・・・・・・俺とおまえのため?」

兄「へ?」

妹「わかった! あたし頑張るね。超頑張るから」

兄「あ、ああ頼む(何顔を赤くして張り切っているんだ。何か変なスイッチを押しちゃっ
たかな)」

妹「もしもし? あ、おじいちゃん」

妹「ママから何か変なこと聞かなかった?」

妹「聞いてないんだ。よかった」

妹「違うの。ママが、ママがひどいことをあたしとお兄ちゃんに」

兄(泣きまねかよ。何か真に迫ってるな)

妹「こんな話本当はおじいちゃんにしたくないの。変な心配させたくないし。でも、でも
ね。ママったらひどいことを」


兄「じいちゃん、何だって?」

妹「すごく怒った。ママのメールの話をしたら」

兄「・・・・・・俺たちに怒ったのか?」

妹「違うよ。ママに対して」

兄「そうか(よかったあ)」

妹「ママのことぼろくそに言ってた。自分の子どもたちにそんなありえない汚らしい想像
をするなんて母親失格だって。もともと自分が浮気性の軽い女だからそんな変な心配をす
るんだ、おじいちゃんとおばあちゃんはあたしたちにそんな変な疑いをかけたりしないっ
て」

兄「えーと」

妹「どうしたの」

兄「それってよかったのか?」

妹「もちろんよかったじゃん。おじいちゃんたちはママの言うことは信じないって言って
くれたんだよ」

兄「まあそうだけど・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・いや、そうじゃなくて」

妹「わかってるよ」

兄「わかってるっておまえ」

妹「もし奇跡がおきて、あたしの願いがかなっちゃったらあたしはおじいちゃんたちを騙
したことになるよね。そういう意味ではママの言っていることも嘘じゃないし」

兄「・・・・・・」

妹「でも多分平気でしょ。結果オーライってやつ? 最近のお兄ちゃんは優しいし、あた
しが変なことを言っても引かないで受け止めてくれる。でもあたしだってバカじゃない。
そんなお兄ちゃんに自分勝手な期待はしていないつもりだから」

兄「・・・・・・(そうじゃねえのに)」

妹「だからさ。おじいちゃんたちには、結果的に嘘を言ったことにはならないと思うよ。
それにあたしだってこれ以上お兄ちゃんに迷惑をかけたくなかったからこれでよかったん
だよ」

兄(そうじゃねえよ)

兄「・・・・・・そうじゃねえだろ」

妹「何よ」

兄「そうじゃねえだろ。俺だって考えたんだよ。俺とおまえがこの先二人で一緒に生きて
行くためにはじいちゃんたちの援助が必要だろ? だから俺はおまえへの気持ちを抑えよ
うって決めたのに」

妹「お兄ちゃん?」

兄「何でそんなにおまえが振られる前提で話を進めるんだよ。確かに俺はこないだまで幼
馴染のことしか見えてなかったけど。でもおまえの気持ちとかを知らされてからは、俺だ
っていろいろ悩んで(やべ。何言ってるんだ俺。さっきまで一番言わないようにしようと
思ってたことを口に出しちゃってるじゃんか)」

妹「・・・・・・はっきり言って」

兄「いや(初めて見るような妹の真剣な表情。つうかこいつ泣いてるじゃん)」

妹「生活費とかもうどうでもいいから。おじいちゃんたちから嫌われてもいいから。だか
らお願い。お兄ちゃんの考えていることを正直にあたしに話して」


今日は以上です
また投下します


兄「正直にって(どうしよう。俺はバカだ。これじゃ自爆じゃんか)」

兄(でも、妹のこの表情を見たらとても誤魔化して適当なことを言える気がしない。多分
そんな嘘は見抜かれるしかえって妹を傷つける。もう正直に言うしかないか。そのうえで
妹を守るためにも兄妹でそういう関係にはなれないって言うしかないか)

兄「正直に言うとさ」

妹「・・・・・・うん」

兄「俺、おまえのことが異性として気になってる」

妹「お兄ちゃん・・・・・・?」

兄「幼馴染に振られておまえがいろいろ気を遣ってくれて、慰めてくれて。それでおまえ
のこと前よりも意識するようになった。振られたばかりなのに節操ないって思われそうだ
けどさ」

妹「別に節操がないなんて思わないけど。でもそれ本当?」

兄「本当だ。だから俺もおまえのことが好きなんだと思う」

妹「・・・・・・うれしい」

兄「でもおまえとは付き合えない」

妹「うん。それはそうでしょうね。兄妹で恋人なんてね」

兄「それもそうだけど違うんだ。おまえと付き合っちゃったら、それがじいちゃんたち
にばれたら」

妹「あたしのため? あたしだったらみんなから絶好されてもいいのに」

兄「もちろんおまえのためでもあるけど。でもそれだけじゃない。大学院を出るまではじ
いちゃんの援助がないと俺が困るんだ。自分のやりたい仕事に付くには最低でもマスター
は出てないといけないし。だから母さんに見捨てられた今はじいちゃんたちに見放される
ようなことはできないんだ」

妹「うん。そうだよね、お兄ちゃんには目標があるんだもんね」

兄「ごめんな」

妹「ううん。お兄ちゃんの夢は応援しているし。それに付き合えないとしてもお兄ちゃん
の気持ちがわかっただけでもすごくうれしいの」

兄「泣くなよ(胸が痛い)」

妹「ごめん。でも付き合えなくても一緒にはいてくれる?」

兄「ああ(当たり前だろ、そんなこと)」

妹「お兄ちゃんに彼女ができるまででいいからね」

兄「そんなもん、もういらねえよ。付き合えないけどいい兄妹としてずっと二人で一緒に
暮そう」

妹「あたしにはそれで十分だよ」

兄「あ。もちろんおまえに好きな人ができるまでな」

妹「そんなの、お兄ちゃん以外にはもういらない」

兄「・・・・・・そうか」


妹「ねえ」

兄「うん?」

妹「あとどれくらい?」

兄「一時間くらいかな」

妹「お腹すいた」

兄「もう二時過ぎか。どっかで飯食ってこうか」

妹「そうしようよ。どこにする?」

兄「適当にファミレスで」

妹「ええ~」

兄「何だよ」

妹「せっかく海辺に来てるのに。もうちょっと違うところがいい」

兄「俺この辺はよく知らねえぞ」

妹「ちょっと待って。スマホで調べるから」

兄「任せた」

妹「うん。任された・・・・・・何だこのあたり結構店あるじゃん」

兄「一応、観光地だしな」

妹「どうしようかなあ。高校生じゃあ敷居が高い店でも大学生のお兄ちゃんが一緒だから
平気だよね?」

兄「さあ? 多分」

妹「イタリアンとフレンチと和食とどれがいい?」

兄「俺は和食が・・・・・・」

妹「あたしはイタリアンがいいなあ」

兄「・・・・・・俺もイタリアンがいい」

妹「そう? さすが好きな者同士、気が合うね」

兄「そ、そうだね(こいつ妙にはしゃいでるな。無理しているのか)」

妹「じゃあ和食にしよっと」

兄「え。何で?」

妹「お兄ちゃんが食べたいものをあたしも食べたいから」

兄「じゃあ俺はイタリアンが食べたいな」

妹「え・・・・・・ふふふ。お兄ちゃんのくせに無理しちゃって」

兄「いいからイタリアレストラン探せよ。なるべく近い店な」

妹「和食でいいのに・・・・・・」

兄「イタリア料理が食いたいの、俺は」

妹「了解」


兄「まだかよ~」

妹「なかなかいい店がないのよ」

兄「このあたりは結構店あるんじゃなかったのかよ」

妹「評価が三点以上の店に限定するとさあ。いきなり店が少なくなるのよ」

兄「もうどこでもいいって」

妹「そうはいかないよ。ちゃんとしたお店でお兄ちゃんと二人きりで食事するのなんて初
めてなんだよ」

兄「これから何度でもあるんだから」

妹「そうは言っても。あ、おじいちゃんだ」

兄「さっき話したばっかじゃん(何だ。まさか俺と妹の関係に不安になったとかか)」

妹「うんあたし。おじいちゃんどうしたの?」

妹「え~。会えるの楽しみにしてたのに」

妹「急な仕事じゃしかたないけど。おばあちゃんは?」

妹「一緒に行くんだ。明日から台湾かあ。いいなあ、あたしも行きたい」

妹「無理だよ。それは行きたいけど、お兄ちゃんを一人にはできないし」

妹「お兄ちゃんも一緒に? それなら。あ、でも無理。パスポートないし」

妹「ごめんね。誘ってくれてありがとう。また今度あたしも連れていってね」

妹「どこでもいいけど、ハワイに行きたいなあ」

妹「うん。じゃあ、あたしたちどうすればいい? 今日はアパートに帰った方がいい
の?」

妹「ああ、そうなんだ。じゃあ泊まらせてもらう。へえ。熱帯植物園とか水族館とかある
んだあ」

妹「爬虫類パーク? 超行きたい。うんわかった。鍵は玄関の植え込みの中ね。じゃあね。
気をつけて行って来てね」

兄「何だって?」

妹「おじいちゃんたち、今日別荘に来れなくなったんだって」

兄「何で?」

妹「顧問している会社の都合で急に台湾工場に出張なんだって。せっかくだからおばあち
ゃんも一緒に行くんだって。あたしたちは勝手に別荘使っていいから連休中ゆっくりして
けって」

兄「せっかくじいちゃんたちに気を遣って来たのにな」

妹「謝ってたよ。それかよかったらあたしとお兄ちゃんも一緒に台湾に行かないかって」

兄「おまえ行けばよかったじゃん。富士峰の修学旅行の時に取ったパスポートあるじゃ
ん」

妹「お兄ちゃんは持ってないでしょ」

兄「うん。持ってない」

妹「だからあたしも行かないって言ったの」


兄「・・・・・・わかったよ」

妹「あ、あった。ここにしよう」

兄「昼飯?」

妹「うん。高評価だし値段はそこそこだし」

兄「じゃあナビして」

妹「わかった」



妹「ここだ。隣に駐車場があるからそこに止めて」

兄「わかった(この店って)」

妹「早く入ろう・・・・・・って、並んでるじゃん!」

兄「(まあ無理もない)高評価で価格はそこそこ。それに今日は連休初日だし」

妹「そうか。そうだった」

兄「(今になって初めて気づいたのかよ)それにここ和食の店じゃんか」

妹「そうだよ」

兄「イタリアンが食べたかったんだろうが」

妹「お兄ちゃんが食べたいなら和食の方がいいや」

兄「おまえなあ」

妹「何よ。兄思いのいい妹でしょ」

兄「俺だっておまえのわがままを聞いている方がいいのに」

妹「もう・・・・・・バカなんだから」

兄「おまえちょっと赤くなりすぎ」

妹「うっさいなあ」

兄「で。どうする?」

妹「待とうよ。おじいちゃんたちもいないし、早く行ってもしかなたいし」

兄「一時間近くは並ぶぞ」

妹「いいよ。二人でいっぱいお話ししよう」

兄「おまえがいいならそうしようか」


兄(もうずっと沈黙が続いてるじゃんか。何がいっぱいお話しようだよ)

兄(あれ? 何だ寝てるのか。今日早く起きたからしかたないか)

兄(・・・・・・俺の肩に寄りかかった)

兄(柑橘系かな。いい香り。本当に綺麗な髪をしているな。幼馴染よりいい感触)

兄(・・・・・・何かなあ。幼馴染と付き合えたときは純粋に嬉しかったし舞い上がってもいた
けど。こんな気持ちになったことはなかったなあ)

兄(ただ嬉しいだけなら幼馴染のときもそうだったけど、妹の場合はとにかく胸が痛
い。お互いに好きなのに付き合えないんだもんな。実の兄妹だし。それに・・・・・・)

兄(本当は世間のこととか生活費とかどうでもよければ妹の気持ちに応えてやればいいん
だけど)

兄(・・・・・・妹、すまん。俺はやっぱり望んでいる研究の道を放り出せない)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「おきた?」

妹「・・・・・・」

兄「何だ。寝言か・・・・・・しかし可愛い寝顔だな」

兄(本当に可愛いな。別に容姿だけじゃない。どうしたんだろう俺は。こいつの行動の
一つ一つが可愛くてしようがないなんて)

兄(これが恋なのか。幼馴染のときとはちょっと違う感情が沸いてくる)

兄(眠っているなら少しくらい肩を抱いたって・・・・・・)

妹「う~ん」

兄(もっと俺にすり寄ってきた。正直嬉しい)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄(寝言か。よしよし)

妹「もっと」

兄「え。おまえ・・・・・・」

妹「もっと強く抱き寄せて。もっとあたしの頭を撫でて」

兄「起きてたのかよ」

妹「さっきからずっと。お兄ちゃん?」

兄「あ、うん」

妹「大好き」

兄「え~と」

店員「二名でお待ちの池山様。お席の準備ができました」

兄「妹・・・・・・?」

妹「やっと順番がきたって。行こ? お兄ちゃん」


妹「美味しかったね」

兄「本当だ。でも本当に和食でよかったの?」

妹「別にいいよ」

兄「連休中にイタリアンの店に行こうか」

妹「本当? いいの」

兄「いいのって」

妹「嬉しい」

兄「そればっかだな、おまえ」

妹「だって本当だもん」

兄「そうか」

妹「そうだよ」



妹「ここじゃないかな」

兄「こんなところに?」

妹「おじいちゃんは玄関前の植え込みだって言ってたよ」

兄「でも、ないぞ」

妹「ここかなあ」

兄「こっちかもしれないぞ」

妹「そっちは植え込みじゃないよ・・・・・・ってあった」

兄「おお。ようやく家に中に入れるな」

妹「ここ思っていたより大きい家だね」

兄「父さんは結婚して家を出るまではずっとここに住んでたんだってよ」

妹「そうなんだ。パパは今のおじいちゃんたちの家に住んでたわけじゃないのね」

兄「今の家は父さんの結婚後に引越ししたんだよ。おまえが小学生の頃じゃなかったか
な」

妹「何であたし覚えてないんだろ」

兄「母さんがじいちゃんたちを嫌いでさ。家の中じゃじいちゃんたちの話はタブーみたい
になってたからな」

妹「そういえばそういう感じだったね」

兄「とにかく入ろう」

妹「うん」


兄「とりあえず荷物を置こうぜ」

妹「へえ。結構大きいんだね。庭も広いしすぐ横が海じゃん」

兄「古いけど中は綺麗だな」

妹「ここってちゃんと掃除しているんだよ。そうじゃなきゃもっと埃っぽいと思うよ」

兄「そうなんだ」

妹「家って住んでないとすぐ荒れるからね」

兄「おまえよくそんなこと知ってるな」

妹「常識だよ。男の子って意外とこういう知識ないよね」

兄「まあそうかも」

妹「そんなことはいいけど早く荷物ほどいて近所を探検しよ」

兄「探検ってガキかよ」

妹「わくわくするね。前に一度引っ越したとき二人で一緒に近所の探検したじゃない?
 あれ楽しかったなあ」

兄「黙って出かけちゃって迷子になって母さんに怒られたんだよな、あのときは」

妹「まだあたしたちが仲良くしてた頃だね。結局新しい家のそばに住んでいた女の子にお
兄ちゃんを取られちゃったけど」

兄「幼馴染か」

妹「うん。恋のライバルだったけど、お姉ちゃんのことは好きだったのになあ」

兄「あいつのことはもういいって」

妹「ごめん。行こうか」

兄「ああ」

妹「気持ちいいねえ。観光地だって言ってたけど全然人いないし」

兄「ちょっと主要な観光地からはずれてるからかなあ」

妹「人気のない海辺の景色って素敵」

兄「昔の家の近所を探検したときは海なんかなかったなあ」

妹「今の家・・・・・・じゃなかった、結城さんの新しい家の方は近くに海があるよ。あんまり
きれいじゃないけど」

兄「あそこに引越ししたときも二人で近所を散歩したのか」


妹「え」

兄「あ・・・・・・悪い。そんなつもりじゃ」

妹「ごめん。ゆう君と一緒にいろいろ見て回った」

兄「そうだよな。両想いだったんだもんな」

妹「だからごめん。あのときはそうだったけど今はお兄ちゃんだけだから」

兄「別に謝ることじゃないけど」

妹「手を繋いであげるから。機嫌直して。ね?」

兄(何か上から目線だが、実際の目線は上目遣いで可愛いからまあいいか)

妹「ほら行くよ」

兄「こら引っ張るな」

妹「あ。すごーい。かもめがいっぱいいる」

兄「あれ、ウミネコじゃね?」

妹「見て見て! あれペリカンじゃない?」

兄「どれどれ(ペリカンがいるわけねえだろ。こいつって成績はいいのに常識はないの
な)」

妹「ほら、あそこ」

兄「(こんなことだろうと思った)あれはウミウな」

妹「ウミウかあ。あの子たち可愛いね」

兄「そうかあ?」

妹「うん。ねえ、もっと海の方に降りてみようよ」

兄「いいけど」

妹「ほら早く」



兄「・・・・・・本気で疲れた」

妹「たかが二時間散歩したくらいでだらしないなあ」

兄「俺は朝からずっと運転してきたんだぞ」

妹「わかったよ。連れまわしちゃってごめん。でもお兄ちゃんと初めてのデートだったか
ら」

兄「別に文句言ってるわけじゃねえぞ(初めてじゃないはずだけど、妹の言っていること
もわかる。お互いの気持ちを告白しあって両想いだってわかってから初めての・・・・・・とい
うことだろうな)」

妹「じゃあ先にお風呂入って」

兄「夕ご飯どうする?」

妹「冷蔵庫見たけど何にもないの。ちょっと考えるから」

兄「わかった」

妹「・・・・・・」


兄(いい湯だな)

兄(少し古いことは古いけど、これだけ浴室や湯船が広いと気持ちいいな)

兄(浴槽につかったまま海が見えるとか、観光地の温泉みたいだ。窓がでかいから夕暮れ
の海がきれいに見渡せる)

兄(ああ~。気持ちいい。さすがに渋滞の中を何時間も運転して、その上二時間近く散歩
に付きあわされると堪えるわ)

兄(気持ちいいなあ)

兄(少し目を閉じてくつろごう)

兄(・・・・・・)

兄「うわ」

兄(びっくりした。浴室で溺れて死ぬところだった。うとうとしちゃったんだな)

兄(どれくらい寝たんだろ・・・・・・いや、たいしたことないさ。あまり長く風呂にいたとし
たら妹が様子を見に来るはずだしな)

兄(・・・・・・窓の外が暗くなってる。結構寝ちゃったのか)

兄(妹も浴室の外から声くらいかけてくれればいいのに)

兄(出よう)

兄(妹はどこだ? 結局一時間以上も風呂で寝ちゃってたのか。俺、よく溺れなかったも
んだ)

兄「妹?」

兄(いねえなあ。二階かな)

兄「おーい。妹? どこだ」

兄(・・・・・・あれ。二階の部屋のドアが開いてる)

兄(あそこって、昔の父さんの部屋じゃん)

兄「妹?(あ、いた)」

兄「こんなとこで何やってるの(床に座り込んで何か古い本を開いている)」

妹「あ・・・・・・お兄ちゃんか。びっくりさせないでよ」

兄「ちゃんと声かけたぞ」

妹「気がつかなかった」

兄「それ何?」

妹「パパの昔のアルバムと日記みたい」

兄「え?」

妹「アルバム見る? パパの子どもの頃って可愛いの」

兄「それよかさ。日記ってホームページのやつじゃなくて?」

妹「うん。手書きの日記」

兄「おまえなあ。それ、勝手に見たの?」

妹「いいじゃない。娘なんだし、亡くなったパパのことを知りたかったんだから」

兄(父さんの日記。結婚するまで父さんはこの家に住んでいた。まさか)

妹「ここってパパの部屋だったのかな」

兄「そうだと思うよ(まさか、大学時代の恋愛関係とか書いてねえだろうな。てか、こい
つ読んでねえよな)」

妹「お兄ちゃん?」


今日は以上です
また投下します


兄「とりあえずそれはあとでゆっくり見るとして、晩飯はどうする?」

妹「おばあちゃんに電話したの」

兄「へ? なんて」

妹「この家のどっかに食材ないかって」

兄「ああ、なるほど」

妹「何にもないんだって。本当はあたしたちより早く来ていろいろ用意しておこうと思っ
てたのにって。おばあちゃん残念そうだった。おじいちゃんが台湾に行くのは勝手だけど、
何で自分まで一緒に行かなきゃ行けないのよ、久し振りに孫と一緒に休暇を過ごせたのに
って言ってた」

兄「なるほど。じいちゃんたち今どこにいるんだろう」

妹「空港だって。それで今夜はおばあちゃんが出前をしてくれるように携帯でこの近くの
店に電話してくれるって。いつもつけになってるからお金も払わなくていいんだって」

兄「そうなんだ」

妹「何がいい? って聞かれたからお寿司がいいって言っちゃったんだけど」

兄「いいよ。つうか寿司いいね」

妹「明日以降は電話のところにあるお店に行くか、出前を取れって。全部おじいちゃんの
名前を出せばお金を払わなくてもいいんだって」

兄「そうか(母さんがあまりおれたちをじいちゃんたちに会わせなかったせいもあるんだ
ろうけど、孫に対して激甘だな)」

兄(だけど、俺と妹がその・・・・・・変な関係になっていると考えたらさすがにこういう甘や
かした対応はしてくれないだろうし)

妹「あたしもお風呂入ってくるね。出前が来たら受け取っておいて」

兄「わかった」

妹「じゃあ、行って来る。覗かないでよ」

兄「そんなことするよか(あ。そうだ)」

兄「おまえさ。父さんの日記って読んだの」

妹「まだ。とりあえずアルバムを見てた。パパって小さい頃は可愛かったんだなあ。やっ
ぱりお兄ちゃんに似ているね」

兄「そうなの(よかった。父さんの大学時代の日記なんかいきなりこいつには見せられね
え)」

妹「じゃあ、本当に覗いちゃだめだよ」

兄「さっさと行け」

妹「何、向きになってるのよ」

兄「はいはい。あまり長風呂するなよ」

妹「は~い」

兄(・・・・・・行ったか)

兄(父さんの日記・・・・・・・つうか一冊じゃねえ。とりあえず大学入学の頃のやつを)

兄(妹に読まれる前にチェックしておかないと。どれだ?)

兄(これは高校時代。こっちは就職してまだ独身の頃か)

兄(あ・・・・・・これだ。大学時代の日記は)

兄(妹が風呂に入っている間に・・・・・・)

兄(これって日記じゃねえな。むしろ大学時代を回想した文章だ)

兄(日付がある・・・・・・これ、父さんが結婚して実家を出る直前に学生時代のことを文章に
残したんだ)

兄(とりあえず妹が風呂から出るまでに読めるところまで読んでおこう)


第二章

「おーい。池山、ちょっと待てよ」

「・・・・・・結城か」

「おはよ。何急いでたんだよ」

「ちょっと講義前に図書館に行こうと思って」

「相変わらずまじめだな、おまえは」

「そんなことないけど。って・・・・・・」

「うん? ああ。会ったの初めてだっけ。こいつは俺の妹の怜奈。おれたちと同回生だ
よ」

「こんにちは」

「あ、こんにちは。池山です」

「結城怜奈です。よろしくね」

「こ、こちらこそ」

「おまえ顔赤いじゃん。何で怜奈ごときに緊張してるんだよ」

「そうじゃないよ。でも、妹って・・・・・・」

「ああ。俺浪人してるって言ったじゃんか。生意気にもこいつが現役で合格しちゃったん
でよ。まさか妹と同級生になるなんて思わなかったよ」

「何よ。あたしのせいなの?」

「・・・・・・俺が去年不合格だったせいだけどさ」

「じゃあお兄ちゃんは文句言わないでよ」

「別な大学を受ければよかったじゃんか。おまえの偏差値ならもっと上を狙えただろう
が」

「そんなのあたしの勝手でしょ。何であたしがお兄ちゃんなんかに遠慮して志望校を変え
なきゃいけないのよ」

「わかった、わかったって。そんなに怒らなくてもいいいじゃんか。池山、こいつは見て
のとおりわがままな女だけどよろしくな」

「あ、うん」

「わがままって何でよ」

「いちいち絡むなよ」


「池山さん、こいつはバカな兄貴だけどよろしくお願いします」

「あ、はい」

「池山、もう行こうぜ」

「ちょっとお兄ちゃん。何であたしを置いていくのよ」

「おまえと一緒にいる理由なんかねえだろ。おまえも友だち作れよ」

「友だちならいるよ」

「じゃあ、そいつらとつるめばいいだろ」

「わざわざ一緒に来たのにここで別行動する必要なんかないでしょ? 池山さんもそう思
いますよね?」

「うん」

「池山。てめえ、どっちの味方だよ」

「どっちって」

「おまえさ。万一、怜奈に惚れたのならやめておけ。こいつは見かけはいいけど中身はひ
どいからな」

「お兄ちゃん!」

「あれ? 怜奈だ。おはよう」

「・・・・・・有希。おはよ」

「・・・・・・えーと」

「あ、紹介するね。うちのお兄ちゃん」

「こんちわ。怜菜の兄です」

「あと兄の友だちの池山さん。みんな同期だよ」

「初めまして。有希といいます。よろしくお願いします」

「お、礼儀正しいあいさつ。怜奈もちっとは見習え」

「何ですって」

「こらよせ、怜奈。痛いって」


 これが怜奈と有希との出会いだった。二人ともタイプは違うけど、これまであまり女性
に縁がなかった僕にとっては二人ともすごく華やかで眩しく見えた。入学直後に何となく
結城と知り合ったせいで、期せずして僕は可愛い女の子たちと知り合いになれたのだ。

 最初は何となく彼女たちの華やかな雰囲気に気後れしてしまい、ろくに会話もできなか
った僕だけど、結城がいてくれたせいもあってだんだんと彼女たちと普通に喋ることがで
きるようになっていった。

 それでも僕が大学に入った目的は自分の中では明白だったから、結城のようにキャンパ
スライフを謳歌しようとは思わなかったので、最初の頃は怜奈と有希はもちろん、結城と
だってそんなにいつも一緒にいたわけではなかった。結城はと言えば、キャンパス内で複
数の女の子たちとよく一緒に過ごしていたようだし、イベント研究会というサークルに入
ることをさっさと決めてもいた。学内での過ごし方としては僕とは真逆だったのだけど、
どういうわけか彼は僕に対してフレンドリーだった。結城が僕を構ってくれたことも嬉し
かったけど、それよりそのもおかげで自動的に怜奈と有希とも親しくなれたことが、僕に
とっては奇跡的な出来事だった。いくら目標があるとは言えただ講義に集中するだけの生
活は寂しい。

 そんな僕の毎日を結城と一緒に行動していた怜奈と有希は鮮やかな色彩で彩ってくれた
のだ。最初はさん付けで、しかも敬語で彼女たちに話していたのだけど、いつのまにか僕
は結城に習って彼女たちを呼び捨てにし、ため口で話せるようになっていた。彼女たちも
そのことを気にする様子はなかったし、それどころか僕のことも呼び捨てで呼んでくれる
ようになった。最初は「池山」と、そしていつ頃からか僕の下の名前で「博人」と。

 結城の妹の怜奈は、背は低いが活発な子でいつもくるくる動き回っていて、そのたびに
ショートカットにした髪がきれいに揺れている。有希さんの方はひたすらスレンダーな身
体に肩の半ばほどまで伸ばした黒髪が綺麗で、どっちかというと寡黙な美人という感じ。
どちらも学内の男の注目を浴びていたことは間違いないけど、二人はそういうことはあま
り気にしない感じで、結城と僕と過ごすことに満足していたようだった。恋愛的な意味で
僕が二人の女の子とどうこうなるなんて高望みはしていなかったけど、それでもこの四人
の仲良しグループに自分も入っていることは素直に嬉しかった。

 大学生活は始まったばかりだったけど、それは自分でも予想しなかったほど充実したも
のだった。気のいい親友や可愛らしく活発な女の子たちがいつも一緒にいてくれる。この
頃の僕の悩みは、自分で決めた道に進むために割かなければいけない勉強時間の確保が困
難になっていたことだった。正直、怜奈や有希に誘われると勉強なんか放り出して彼女た
ちの誘いに乗りたくなる。

 一浪して入学した結城は僕たち三人より一つ年上だった。そのせいか、あるいは持ち前
の性格のせいか、僕たちのグループの行動を仕切っていたのは彼だった。怜菜は自分の兄
貴の決定にいつも文句を言っていたけど最終的には兄貴の行動に従う。有希は控え目に微
笑んでいるだけで、反対の意思表示をすることすらない。そして、僕に関していえばみん
なが決めたことに従うことに何の疑問を感じなかった。たまにヤバイと思ったときには誘
いを断って勉強することはあったけれども。

 その際たるものがサークルへの加入だった。最初から結城は執拗に僕たちに自分が加入
したイベント研究会に誘っていた。最初に陥落したのが妹の怜奈だった。

「だってさあ」

 怜菜は苦笑いしながらそう言った「兄貴ったらしつこいんだもん。あれをずっと
聞かされるくらいならいっそイベ研に入っちゃった方が楽だし」

 彼女はそう言って僕たちにも仲間になるように勧めたのだ。おとなしい有希が陥落する
のにそれほどの時間はかからなかった。そうなるイベ研に加入した三人の圧力は僕に集中
することとなった。研究の邪魔になることは明らかだったけど、この頃になるともう僕に
は三人の集中的な圧力に逆らう気力はなかった。

 自分でも意外なことにそのサークルは楽しかった。新入部員が僕たち四人しかいなかっ
たこともあり、いつも仲のいい四人組で過ごせたこともあるけど、先輩たちにもいい人が
多かった。最初はナンパなサークルじゃないかと警戒していたのだけど、それは意外と真
面目な活動をしているサークルだった。

 そういうわけで、僕の大学生活の滑り出しはまずまず順調だと言えただろう。


怜奈「あれ。博人がいる。珍しい」

池山「こんばんは、怜奈」

怜奈「こんばんはって。さっき会ったばっかじゃん」

池山「そうだった」

怜奈「博人がサークルのコンパに来るなんて珍しいね。君ってこういうの嫌いなのかと思
ってたよ」

池山「え?」

怜奈「えって何よ」

池山「コンパなの?」

怜奈「もしかして知らないで来た?」

池山「・・・・・・イベ研の打ち合わせだって」

怜奈「お兄ちゃんに騙されたか」

池山「マジで?」

怜奈「マジマジ。今日は打ち合わせとか何の関係もないし。単なる飲み会。っていうか内
輪の合コンだよ」

池山「・・・・・・本気で騙された」

怜奈「そのようね」

池山「帰る」

怜奈「ちょっと待って」

池山「はい?」

怜奈「たまにはこういうのもいいんじゃない?」

池山「いや。時間の無駄だし、お金ももったいないし。それに」

怜奈「それに?」

池山「どうせ僕は一人で過ごすことになるんだしさ。わざわざそんな思いをしに行かなく
てもいいと思うんだよね」

怜奈「大丈夫だよ。あたしがずっと一緒にいてあげるから」

池山「え」

怜奈「君が迷惑じゃなかったら一緒にいてあげる」

池山「な、何で」

怜奈「迷惑?」

池山「そんなことはないけど」

怜奈「じゃあ一緒に行こうよ。お兄ちゃんも有希も来るし、新入生四人で盛り上がろう
よ」

池山「・・・・・・うん」


結城「おお池山。来たか」

池山「おまえなあ。何が打ち合わせだよ」

結城「だってそうでも言わないとおまえ来ねえんだもん」

池山「僕がいる必要ってないだろ」

結城「それがあるんだなあ。俺って妹想いの兄貴だからさ」

怜奈「お兄ちゃん!」

結城「何赤くなって慌ててるんだよおまえ」

怜奈「・・・・・・お兄ちゃんはしばらく朝食抜きね」

結城「ちょっと待て。俺はおまえのために」

怜奈「それ以上一言でも喋ったら夕食も抜きだからね」

結城「わかった」

池山「何なんだ」

有希「今晩は~」

怜奈「有希、綺麗・・・・・・てか何気合い入れてるのよ」

有希「別に気合いなんか入れてないって。変なこと言わないでよ」

怜奈「本当かなあ」

有希「・・・・・・怜菜の意地悪」

怜奈「ほら、お兄ちゃん。何か言うことがあるんじゃないの」

結城「有希って清楚なお嬢様って感じだよな。すごく似合ってるじゃん」

有希「・・・・・・そんなことないよ」

怜奈「有希、顔赤いじゃん」

有希「だから違うって」

結城「それに比べておまえは。何だよそのいつもと変わりのない服装は」

怜奈「何よ」

結城「もう少し気合入れてくればいいのに。そんなんじゃ池山だっておまえを見てくれね
えぞ」

怜奈「ばか! あんたは言うに事欠いて」

池山「僕が怜奈を見ないってどういう意味?」

結城「・・・・・・」

怜奈「・・・・・・お兄ちゃん。何で笑いをこらえてるのよ」

結城「誤解だって。こらよせ怜奈」


池山(コンパって何かカオスだな。あちこちでみんなが自分の話したい人のところに行っ
て話したいことを話してる)

池山(普段は抑制しているけど、酒が入っているからこういう場では正直に行動しちゃう
んだろうな)

池山(あの辺で有希が男の先輩たちに囲まれてる。有希は困ったような顔で微笑んでる
し。その反対側では怜奈がやはり上級生の男に囲まれているけど、有希みたく困っている
様子はないなあ。何か楽しそうに盛り上がっているし)

池山(それにしても結城のやつは。可愛いと評判の三年生の女の先輩と二人きりで親密そ
うに話しているし)

池山(あの先輩、彼氏がいたんじゃなかったっけ)

池山(とりあえず僕の周りには誰もいない。まあ予想できたことではあるけど)

池山(・・・・・・やっぱり来なきゃよかったなあ。新入生四人で盛り上がるどころか、乾杯の
あとはあいつらとは一言だって話できていないし)

池山(怜奈だって僕のそばにいるとか言ってたけど、結局あの有様だもんな)

池山(もう勝手に帰っちゃおうか)

池山(そうもいかないよな。とりあえずこの辺の食べ物は手付かずだし、食っておこう)

池山(・・・・・・何か惨めだ。おかしいよな、惨めだなんて感じるのは。もともと大学になん
かやりたい研究を学べる場として以外には期待してなかったのに)

池山(結城兄妹と有希と仲良くなったからだ。最初は勉強の邪魔だと思っていたけど、結
局あいつらと一緒にキャンパスで過ごすことが楽しみになっちゃったし)

池山(いい兄貴分みたいな親友と、僕なんかが知り合えるわけがないほど可愛い女の子が
二人。その子たちが僕の下の名前を呼び捨てで呼んでくれる。研究以外にも大学で目標が
できちゃったんだ)

池山(目標? 目標って何だよ)

池山(でも。正直に言えば、僕はあの三人に惹かれているんだ。今まで別な世界で暮して
いたような眩しい三人に)

池山(でも、こういう場に来ると彼らと僕の差がはっきりするよな。いつもは仲良くして
くれているけど、あいつらは四人一緒じゃなくて単独でもあれだけ他の人から関心を持た
れるんだし)

怜奈「何してるの」

池山「あ」

怜奈「何があ、よ」

池山「いつの間にそばに来てたの」

怜奈「向こうで先輩たちに絡まれてたんだけどさ。あっちから遠目に見ても博人が元気な
さそうだったから、先輩たちを振り切ってきちゃった」

池山「元気ないって・・・・・・」

怜奈「君がぼっちなことに、あたしは同情しないからね」

池山「え?」


怜奈「だってさ。君って今日は自分から周囲の人に話しかけたりしてないじゃん」

池山「どういう意味?」

怜奈「自分だけ一人ぼっちだとか、あたしや有希はみんなに囲まれているのにとか思って
たでしょ」

池山「・・・・・・」

怜奈「あたしだって自分から周りの人に話しかけたりあいさつしたりとかしてるんだ
よ。そういう努力なしで、何で自分がちやほやされないのかなんて悩むのは傲慢だと思
う」

池山(正論だ。正論過ぎる・・・・・・。でも、なんでそんなことを怜奈に言われなきゃいけな
んだろう。確かに彼女の言うとおりだけど、そもそも僕はこんな飲み会に来たかったわけ
じゃないんだし。不本意に騙されて連れて来られた飲み会で、自分から話しかけないから
ぼっちなんだとかって言われなきゃいけないのかな)

怜奈「博人も少しは自分から周囲に関っていく努力をしないとね」

池山「いや」

怜奈「何よ。いやって」

池山「・・・・・・何でもない」

怜奈「ほら。すぐそうやって逃避する」

池山「そんなことよりいいの? あっちの先輩が怜奈のこと呼んでるよ」

怜奈「そんなことはいいのよ。それに今日は君と一緒にいるってさっき約束したんだし」

池山「別に気にしてくれなくていいのに」

怜奈「・・・・・・そんなにあたしと二人でいるのが嫌なの?」

池山「別に嫌じゃないけど」

怜奈「何かむかつく」

池山「僕、何か気に障ること言った?」

怜奈「コンパでぼっちだったのに何でそんなに余裕ある態度なのよ。せっかくあたしが先
輩たちを振り切って一緒にいてあげているのに」

池山「何でって言われても(惨めだったし余裕なんかないのに)」

怜奈「少しはあたしのバカ兄貴でも見習いなさいよ。ほら、性懲りもなく彼氏のいる先輩
を口説こうと・・・・・・。あれ、いない」


池山「いないって? 先輩なら他の女の先輩たちと話してるよ」

怜奈「お兄ちゃんは? どこ行ったんだろ。諦めたのかな」

池山「さあ」

怜奈「とにかくさ。博人はもう少し自分から周りと関りを持とうと努力した方がいいよ」

池山「あ、結城ってあそこにいるじゃん」

怜奈「話を逸らさないでよ。君はさ・・・・・あ」

池山「君は・・・・・・何?」

怜奈「・・・・・・いつのまに」

池山「へ? ああ。結城と有希が二人で話し込んでいるね」

怜奈「・・・・・・」

池山(結城が有希の顔を覗き込むように話しかけている。有希は真っ赤になって俯いちゃ
っているけど。あれってひょっとして結城が有希を口説いているのかなあ)

池山(でも、あの二人ならお似合いかもしれないな)

池山(いや。内面のことはわからないけど、結城のようなイケメンには有希みたいな綺麗
な子が似合っている気がするし)

池山「とにかくさ。僕のことは放っておいてくれていいからさ。君のことを呼んでる先輩
たちのところに行ってきたら?」

怜奈「・・・・・・」

池山「どうしたの」

怜奈「・・・・・・あたし帰る」

池山「え?」

怜奈「ちょっと先に帰るね。博人と一緒にいてあげられなくてごめん」

池山「(帰るって。何でだ)あ、じゃあ僕も帰る。そこまで一緒に帰ろうか」



池山「・・・・・・じゃあ、僕はこっちだから」

怜奈「・・・・・・うん」

池山「本当に大丈夫? 飲みすぎたんじゃないの」

怜奈「ううん」

池山「そう。じゃあ、また明日」

怜奈「・・・・・・」

池山「またね」

怜奈「・・・・・・待って」

池山「うん? ・・・・・・(!)」

怜奈「ごめん」

池山「な、何で(怜奈にキスされた。何で?)」

怜奈「・・・・・・ごめん」


今日は以上です
また投下します


妹「お兄ちゃんどこ? お寿司届いたよ」

兄「今行く」

妹「何だ。まだ二階にいたのか」

兄「うん。てかおまえ風呂長かったな」

妹「覗きに来るかと思って粘ってたの」

兄「おい」

妹「冗談だって」

兄「・・・・・・何度も言うようだがおまえの言葉は軽すぎるよ」

妹「何度も言うようだけど、お兄ちゃんに対して本気出していいなら」

兄「俺が悪かった」

妹「この話で謝るのも二度目じゃない」

兄「うん」

妹「下行こ。夕ご飯にしようよ」

兄「ああ(怜奈さんが結城さんの妹? どういうことだ)」



「男女のことではあるし、誰にも既に付き合っている人とかいなかったわけで。つまり、
その、その中でカップルができたんだ」

「それが父さんと母さんの馴れ初めですか」

「違うんだ。最初に君のお母さんに告白して付き合ったのは私なんだ」

「当時の池山、つまり君のお父さんの彼女は私の元妻だった」

「昨日の続きだけどさ。私は君のお母さんと付き合っていたんだ。そして君のお父さんも
私の元妻と付き合い始めた。しばらくは何も問題がない大学生活が続いていたな」



兄(確かに結城さんは自分の離婚した奥さんのことを怜奈って呼んでた)

兄(妹って・・・・・・。ひょっとしたら同名の別人なのか。「れいな」なんてよくある名前だ
し)

兄(いや。結城さんは入学したときにイベ研に入ったのは父さんと母さん、それに池山さ
んと池山さんの元奥さんの四人だけだったって言ってた。それが本当なら父さんの文章と
一致する。あの年にイベ研に入部したのは・・・・・・)

兄(池山博人、池山有希。まあ母さんは当時は旧姓だっただろうけど。それに結城さんと
怜奈さんだ)

兄(父さんの掲示板にコメントを残したRYは、結城怜奈だと思っていた。つまり結婚し
て結城姓になった怜奈さんだと。だけど、怜奈さんが結城さんの妹だったとしたら、もと
もと姓は結城だったんだよな?)

兄(そしたら結城さんの離婚した奥さんって一体誰なんだ。ゆうのお母さんって誰なん
だ)


妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄(それに。父さんの視点で母さんを見ると、初心で清純な女の子のように思える。とて
も結城さんの話に出てきたビッチとは思えない)

兄(父さんが誰にも読まれないと思って書いた文章で嘘を付く理由はないよな)

兄(つうことは結城さんが嘘を言ったんだ。ひょっとして父さんと母さんがお互いの相手
を裏切ったというあの話も全部嘘なのか)

兄(でも、母さんと相談した上で俺に真実を話すことにしたって結城さんは言ってた。こ
れ以上詳しい話を知りたければ直接母さんに聞けとも。嘘を言ったのならそんなリスクを
冒すはずがない。母さんのことを酷く言ったのだし、それが母さんにばれたら再婚そのも
のが無くなったって不思議はないんだし)

兄(わかんねえなあ)

妹「お兄ちゃんってば」

兄「うん? どうした」

妹「お寿司嫌いじゃないんでしょ」

兄「好きだよ」

妹「じゃあ何でさっきからあまり食べていないの」

兄「え、ああ(いかん)」

妹「気分でも悪い?」

兄「いや。ちょっと考えごとをしててさ。悪い」

妹「お姉ちゃんのこと?」

兄「それはない(本当にそれはない。あいつの俺に対するひどい仕打ち。おばさんや母さ
んに対してついた嘘。あれは、その嘘が俺と妹を追い込むってわかっててついたんだ
し。もうあいつとは関りたくないっていう気持ち以外は何も感じないし)」

妹「それならいいけど。何かお兄ちゃん元気なさそう」

兄「(妹に心配させてしまうな)大丈夫だよ。ちょっと運転で疲れただけ」

妹「そうか。じゃあ、今日は早く寝ようよ。明日は早起きしなきゃいけないし」

兄「そうだな。さっさと寝て・・・・・・って、何で早起きする必要があるの」

妹「時間は限られてるんだしさ。早起きして出かけないともったいないじゃん」

兄「出かけるってどこに」

妹「えーとね。熱帯植物園でしょ。あと水族館と爬虫類パークに行くの」

兄「聞いてないんですけど」

妹「だって・・・・・・。おじいちゃんがその三つはすごく面白から見物したらいいよって言っ
てた」

兄「まあいいけど」

妹「やった。じゃあ今日は早く寝よう」

兄「うん」


兄「寝るってこの部屋で?」

妹「うん。おばあちゃんが和室の客間で寝てもいいし、何だったらパパの部屋で寝てもい
いって」

兄「客間の方が広いんじゃねえの」

妹「あたしはベッドの方がいいから」

兄「じゃあ、おまえが父さんの部屋のベッドで寝て、俺が客間に布団を敷いて寝るか?」

妹「一人で寝るのはやだ」

兄「今までずっと一人で寝てたくせに」

妹「・・・・・・初めての家だし。それに」

兄「(結城さんの新居だって初めての家だったろうが)それに?」

妹「最近、ずっとお兄ちゃんの部屋の狭いベッドで一緒に寝てたから」

兄「狭くて悪かったな。でもまあいいか」

妹「じゃあ、布団を運ぼう」

兄「俺が持つよ」

妹「ありがと」



兄(抱きつかれこそしてないまでも相当妹との距離が近い。けどもう慣れた)

兄(それどころか何か安心するな。今は俺の方が妹に依存しているのかもしれん)

兄(・・・・・・しかしわからないなあ。怜奈さんって本当に結城さんの妹なのかなあ。そした
らゆうの母親って本当は誰なんだろう)

兄(妹がみじろぎした。まだ寝てないのかな)

兄(頭を俺の胸に摺り寄せてきた・・・・・・やっぱり寝ちゃってるみたいだ)

兄(もういいか。過去のことはどうでも。じいちゃんとばあちゃんは味方してくれるけど、
それでも実質的には俺と妹はもう二人きりで生きていかなきゃいけないわけだし。それだ
けでもこれからいろいろ考えなきゃいけないことだってあるんだ。それに俺の研究のこと
だってある。もうこれからは無駄な時間なんて全然ないんだぞ)

兄(父さんの日記つうか文章は多分全部読まないではいたれないだろうけど、読んでもそ
れに振り回されるのはやめよう。昔のこと、終ったことを詮索したって意味はない。父さ
んだってそんなことは望んでいないはずだ)

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「どうした」

妹「お兄ちゃん」

兄「ここにいるよ(寝言だ。もう俺は妹との生活のことと自分の将来の夢のことだけを考
えよう。妹を守るんだろ? それだけでも手に余るくらいなんだし)」


妹「おきて」

兄「・・・・・・」

妹「もう。おきてったら」

兄「わかってるって・・・・・・」

妹「こら。毛布を被るな」

兄「(なんだなんだ)寒いって」

妹「おきた?」

兄「え」

妹「えじゃない。今日は早起きするって言ったでしょ」

兄「・・・・・・今何時?」

妹「もう八時近いって」

兄「せっかくの休みなのに~」

妹「いつまで寝ぼけてるの。早く出かけないと全部回りきれないじゃん」

兄「回る? ああ、そうか。どっかに行くんだっけ」

妹「そうよ。水族館と熱帯植物園と」

兄「爬虫類がどうしたとかいうとこね」

妹「・・・・・・一応、覚えてはいたのね」

兄「全部ここから近いんだろ? そんなに急がなくても平気じゃね」

妹「何言ってるのよ。連休なんだから混んでいるに決まってるでしょ。今日中に全部回る
んだから、お兄ちゃんが思っているほど時間の余裕なんかないの」

兄「まあ確かに連休中だし・・・・・・ってあのさあ」

妹「うん?」

兄「四連休なのに何も一日で全部回らなくてもいいじゃん」

妹「やだ。早く全部見たいの!」

兄(こいつって意外と子どもっぽいところもあるのな。何か不思議だ。成績は富士峰で上
位十番に入っている。料理屋掃除も含めて家事全般が上手)

兄(・・・・・・そのうえ容姿は可愛いとしかいいようがないし、髪の毛も細いんだけど猫毛っ
てわけじゃなくて、さらさらしてて気持ちいい・・・・・・まあ、それは最近仲良くなって妹の
頭を撫でるようになって知ったんだけど)

兄(体だって細すぎないし。まあもう少し胸はあってもいいんだけど。それに富士峰の
セーラー服姿も、私服姿も可愛らしい)

妹「何よ。お兄ちゃん、あたしの計画が不満なの」

兄(全体として考えるに俺の好みど真ん中の女のことしかいいようがないんだけど。まあ、
それでも実の妹なんだけどさ)

妹「お兄ちゃん、まだ寝ぼけてるの?」

兄「ああ、まあそれでもいいか」

妹「最初からそう言いなさいよ」

兄(幼馴染への未練とか彼女の行動への嫌悪感とかが薄れたのはいいんだけど。何かそれ
に半比例して妹のことが異性として気になる度合いが大きくなっていく)

兄(妹との生活を守るためにはそんなことを考えちゃいけないって決心したばかりだ
ろ。それに自分の研究とかだってあるんだぞ)

妹「じゃあ支度して行こ。楽しみだね」

兄「うん(う・・・・・・・・可愛い)


妹「・・・・・・」

兄「言っておくけど俺のせいじゃないからな」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・何だよ。俺のせいなの?」

妹「水族館って、おじいちゃんの別荘からこんな近い場所にあったのね」

兄「まあ、そうだな」

妹「お兄ちゃんが道を間違えて渋滞した有料道路に入らなかったら、少なくとも二時間近
く前にはここに着いてたよね?」

兄「だってさ」

妹「あのときあたしは言ったでしょ? どう考えてもそこを右折したら反対の方に行っち
ゃうよって」

兄「ちょっと間違えただけじゃん。しかたねえだろ。この車にはナビが付いてないんだか
ら」

妹「地図があるでしょうが。それにだいたいお兄ちゃんって何で地図をひっくり返して見
るの?」

兄「地図って北が上のほうに向いてるじゃん?」

妹「道路地図はみんなそうでしょ」

兄「でもさ。車が他の方角に向かっているときには北が上の地図を見たら混乱するでし
ょ」

妹「普通は頭の中で方角を変換して地図を見るんじゃないの?」

兄「そんな複雑なことは運転中には無理」

妹「お兄ちゃんって方向音痴なの?」

兄「いやそんなことはないけど、運転中だったから」

妹「あたしは北が上を向いている地図を、わざわざひっくり返さなくても平気だけどな
あ」

兄(頭がよくて見た目も可愛くて家事も得意な上に、オリエンテーリングまで得意なのか
よ。俺って仲が悪かったせいもあって無意識にこいつのことを見下していたけど、実は俺
なんかより人間としてのできははるかに上のなのかもしれん。そう考えると何か悔しい)

兄「悪かったな。どうせ俺はおまえなんかより出来が悪いよ」

妹「やっとわかった?」

兄「そこまでいうのかよ」

妹「え? 冗談だって。マジに受けとらないでよ」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんごめん」

兄「何かへこんだなあ。頭の中身も見た目もおまえの方が全然上なのな。こんなんだか
ら俺って持てないし幼馴染にも振られたのかもな」

妹「そうじゃないって。そんなことないよ」

兄「だって、おまえ。俺のこと方向音痴だって」

妹「それは本当じゃん」


兄「おまえなあ」

妹「冗談だって。でもごめん。本当にごめん」

兄「・・・・・・どうせ俺なんか」

妹「やだ。何か話してよお兄ちゃん」

兄(あれ、ちょっと冗談で自己卑下してみたのに。何か妹が泣きそうになってマジで反応
してる)

妹「あたしなんかよりお兄ちゃんの方が全然人間として立派だって。お姉ちゃんの見る目
がなかっただけだよ」

兄「そうかな」

妹「そうだって。ごめん、昔みたいにお兄ちゃんに何でも言える関係になれたことが嬉し
くて、つい生意気なこと言っちゃった。でもお兄ちゃんが自分を卑下することなんかない
の。そうじゃなかったらあたしがお兄ちゃんに恋するわけなんかないじゃん」

兄「うん。俺もちょっと言い過ぎた(「そうじゃなかったらあたしがお兄ちゃんなんかに
恋するわけなんかないじゃん」? 何か、謝っているようで微妙に上から目線?)」

妹「お兄ちゃんなんかなんて言ってないでしょ」

兄「おまえは」

妹「エスパーじゃないし超能力もないよ」

兄(すげえ洞察力)

妹「お兄ちゃんにはあたしなんかが敵わないところがあるんだから。地図の見方を知らな
いとか方向音痴なくらいで自分を卑下しないで」

兄(・・・・・・この野郎)

妹「・・・・・・お願い」

兄(え? 今度こそマジで泣きそう)

兄「悪かったよ」

妹「・・・・・・うん。あたしもごめん」

兄「運転中だぞ」

妹「抱き寄せたのはお兄ちゃんの方でしょ」

兄「ちっとは抵抗しろよ」

妹「・・・・・・そういうのが好きなの? 嫌がって抵抗した方がいい?」

兄「ばか。違うって」

妹「冗談だって。これで仲直りだね」

兄「そうだな」

妹「よかった。ごめんね」

兄「俺の方こそごめんな」

妹「大好き」

兄「・・・・・・そればっか」

妹「何度でも言ってやる」

兄「あほ」

妹「迷惑なの」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「・・・・・・嬉しいけど」


妹「やっと入れたけど人だらけだね」

兄「連休中だからな・・・・・・さすがにこれは俺のせいじゃないぞ」

妹「そこまでは言わないけど」

兄「まあ、列の後ろに並んで順路どおりに廻るしかねえだろ。それともここ見るのやめる?」

妹「やだ。でもまあしかたないか。お兄ちゃん並ぼう」

兄「うん・・・・・・っておまえさあ」

妹「どうしたの? お兄ちゃん」

兄(俺の腕に妹が抱きついてくることにはもう慣れた。てか正直嬉しい気持ちも否定でき
ない。それにしてもこれはまずいだろ。周り中人だらけなうえに、こいつ結構可愛いから
妹をチラ見する男どもがいっぱいいる)

兄(それに俺の腕にに抱きついているから、なおさら注目度が上がっちゃってるし)

妹「お兄ちゃん?」

兄(恋人同士と思われることは別にいいんだ。だけど、恋人同士みたいに振舞いながら普
通に俺をお兄ちゃんと呼ぶのはよせ。変な目で見られてるじゃん)

兄「あのさあ」

妹「うん? どした」

兄「(小さな声で言わないと周囲に聞かれる)俺に抱きつくのは別に構わないけどさあ」

妹「うん」

兄「抱きつきながら俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのはよせ」

妹「・・・・・・何で?」

兄「何でって・・・・・・」

妹「あ。あなたとかダーリンとかって呼んだほうがいい?」

兄「そうじゃねえって!」

妹「じゃあ何よ」

兄「こういう距離感だと周りは俺たちのことを恋人同士だと思うだろ?」

妹「そうなの?」

兄「そうなのって。まあ、それはいいんだけど」

妹「いいんだ、妹でも」

兄「いやそういうことじゃなくてさ。おまえの彼氏だと思われてる俺に、おまえがお兄ち
ゃんなんて呼びかけたらさ。周りの人にこいつらいったいどんな関係だって不審がられる
だろうが」

妹「別に思わせておけばいいじゃん。本当に兄妹なんだし」

兄「いや。それはそうだけどさ」

妹「お兄ちゃんはさ。あたしとお兄ちゃんが兄妹として見られるよりも、恋人同士に見ら
れたいの? あたしは別にそっちでもいいんだけど」

兄「そうじゃないよ」

妹「だって、お兄ちゃんって呼んじゃいけないんでしょ」

兄(あれ? 妹と恋人同士に見られたいなんて願望は断じてない・・・・・はずなのに。妹の
ロジックに反論できないのはなぜだ)

妹「だったらお兄ちゃんって呼べばあたしたちが兄妹だってわかるから、お兄ちゃんの希
望どおりじゃない」

兄「もういいや(何かおかしいけど反論できない。こいつってやっぱっり頭いいんだ
な)」

妹「変なお兄ちゃん」

兄(また周りに変な目で見られた)


妹「ねえ。あれ見てお兄ちゃん」

兄「うん(もう何でもいいや)」

妹「エイっておなかの方に口があるんだね」

兄「そうだな」

妹「すごく大きいし。ほら、近寄ってきたよ」

兄「うん」

妹「可愛い」

兄「可愛いかあ」

妹「あ、あそこ」

兄「今度は何だ」

妹「大回遊水槽だって。すごく大きいから混んでてもよく見えるね」

兄「確かにでかい水槽だな」

妹「あの魚何?」

兄「マグロだろ。回遊魚だし」

妹「可愛いねえ」

兄「可愛いというか美味しそうだ」

妹「お兄ちゃんひどい」

兄「あれの仲間をおまえは昨日の夜いっぱい食ってたくせに」

妹「そういうこと言わないでよ」

兄「はいはい」

妹「ねえ」

兄「うん?」

妹「あそこで水槽を背景に写真撮ってくれるんだって。二人で撮ろうよ」

兄「・・・・・・デジカメや携帯をお預かりして写真をお取りします。無料です、か」

妹「二人で並んで撮ろう」

兄「あいよ」

妹「お兄ちゃん早く」



兄(妹に抱きつかれたまま写メを撮ってもらったけど。こいつがお兄ちゃんって何度も呼
ぶもんだから、写真を撮ってくれた人から不思議そうな目で見られたじゃんか)

妹「これスマホの壁紙にしよっと」

兄「俺もそうするかな」

妹「・・・・・・本当?」

兄「うん(か、可愛い)」

妹「やった。じゃあ次の水槽に行こう」

兄「ちょっと待てって。引っ張るなよ」


妹「シロクマだ」

兄「でけえ」

妹「ちょうど餌やりの時間だって。ラッキーだったね」

兄「ちょっとあいつら食い過ぎだろ」

妹「あんだけ体が大きいんだから、あんなもんじゃない?」

兄「そう言われればそうかな」

妹「夢中になって食べてる。お兄ちゃんみたい」

兄「(また回りの男どもが変な表情で俺たちを見てるな)どういう意味だよ」

妹「あたしたちがずっと仲が悪かった時さ。あたしの作る食事だけはお兄ちゃん綺麗に食
べてくれたじゃん。それだけが心の拠りどころだったんだよ」

兄「・・・・・・ああ。毎晩楽しみだったよ」

妹「うん。あのときお互いに黙ってないで今みたくいろいろ話しながら食卓を囲んでいれ
ばなあ」

兄「おまえはばかか」

妹「お兄ちゃん?」

兄「そんなもん、これからずっとできるだろうが。おまえ一体何歳だよ。仲が悪かった期
間より、これから一緒に過ごす期間の方がずっと長いんだぞ」

妹「・・・・・・お兄ちゃんに彼女ができて結婚するまではね」

兄「だから、俺はもう女はいいって」

妹「あたしももう彼氏とかいらないけどね」

兄「高校生のうちからそんなもん決め付けるなよ」

妹「お兄ちゃんこそ」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「はは」

妹「ふふ」

兄「まあいいや。なるようになるよ」

妹「うん。あたしもそれでいい」



幼友「あれ。兄君じゃん」

兄「え? 幼友。おまえ何でここに」

幼友「それはこっちのセリフだって・・・・・・あ」

兄「(やべ)あ、あのさ」

妹「・・・・・・」

兄「えーと。こいつ、俺の妹ね。で、こっちが大学の友だちの幼友」

幼友「こんにちは」

妹「・・・・・・」

兄(やばい。幼友のこと妹に話すのを忘れてた)


今日は以上です
また投下します


幼友「偶然ってあるんだな。まさかこんなとこであんたと会うとは思わなかったわ」

兄「あ、ああ。そうだね」

幼友「あんた一人? よかったら一緒に・・・・・・あ」

兄(やばい。でもよく考えたら別に隠すことでもないか。妹はもうゆうのことなんか全く
気にしてないんだし)

妹「・・・・・・なんでお兄ちゃんがこの人と知り合いなの」

兄「同じ大学なんだ。ちゃんと最初から話すとだな」

幼友「また会ったね。妹ちゃん」

妹「どうしてあたしの名前を知ってるんですか」

幼友「ゆうから聞いた。駅前であなたに会ったあとに」

妹「お兄ちゃん、この人がゆう君とあたしが一緒にいたときに絡んできた人だよ」

幼友「絡んだって。まあそうだけど」

兄「知ってる。この間幼馴染にひどいことを言われたときに、あいつをひっぱたいて俺の
ことを助けてくれたのが幼友でさ。そのあといろいろ話したから」

幼友「まあそういうことだね」

妹「そのこと、話してくれればよかったのに」

兄「悪い。でも俺だってあのときは幼馴染に言われたことで動揺しててさ。つい忘れちゃ
ったんだ。悪かったな」

妹「まあ、確かにあのときなら無理はないけど」

幼友「この間の駅前ではごめん。でもさ、自分の彼氏が他の女とイチャイチャしてとこ見
て頭に血が上っちゃってさ」

妹「・・・・・・別に今となってはもうどうでもいいですよ」

幼友「もうゆうなんかには何の気持ちも残ってないんだってね。すごいよあなた」

妹「え? 何で知ってるの」

兄「ごめん。それも俺が話した」

妹「・・・・・・お兄ちゃんとこの人っていったいどういう知り合いなの」

兄「こいつは幼馴染の友だちで」

幼友「あたしが話すよ。あんたにも話していないこともあるし」

兄「おまえ、誰かと一緒じゃねえの(まさかゆうと一緒か)」

幼友「友だちと来ているけど、ちょっと電話して時間もらうわ」

兄(ゆうと一緒じゃねえのか)

幼友「ゆうとは一緒じゃないよ」

兄(妹といいこいつといいエスパーかよ)

幼友「連休中はゆうは幼馴染とべったり一緒に過ごすみたいだよ」

兄「・・・・・・」


幼友「お待たせ。一緒に来てる子たち、勝手に館内を見てるって。じゃあ行こうか」

兄「行くってどこに」

幼友「シロクマがそんなに好きか、あんたは」

兄「いや。俺はどっちかっていうとペンギンの方が好きだな」

幼友「そんなことは聞いてないのよ。こんなところで立ったまま話すことでもないでし
ょって言ってるの」

兄「それもそうか」

幼友「熱帯魚を見ながらお茶できるカフェがあるよ」

兄「そこ行くか。いい?」

妹「・・・・・・うん」



幼友「あたしさ。ゆうの幼馴染で前からあいつと付き合ってるの」

妹「はい」

幼友「年下の彼氏なんだけど、ずっとうまくやってきたのよ。おじさんが再婚するって言
い出すまでは」

兄「ええと(幼友って、俺と自分との関係を妹に話すだけじゃないみたいだ。ゆうとの関
係とかも全部妹に話すつもりなんだろうか)」

幼友「おじさんの再婚が決まってゆうは変わった。それまではむしろあたしに甘えてくる
ような男の子だったのに、あの日以降あいつはあたしに関心を持たなくなった。というよ
りあたしと自分との関係よりもっと興味を持ったことができたみたいだった」

兄「甘えてくるって。あいつがそんなタマかよ」

幼友「そう思うだろうなあ。見た目は格好いいしクールに見えるでしょ? あいつ」

兄「さあな(確かにそうかもしれないけど、そんなこと口に出して認められるか)」

幼友「確かに女の子にだらしないとかそういうことはあったけど、根はいい子だったのよ。
これまではね」

兄「そう(根はいいやつが女にだらしないとかあり得るのかよ)」

幼友「それなのに突然変わっちゃったの。どう考えても原因はおじさんの再婚としか思え
なかったから、あたしはおじさんに再婚相手のことをそれとなく聞いてみたの。そしたら
相手の名前と、その相手の長男があたしと同じ大学の同回生だって知ってさ」

兄(え・・・・・・俺のこと?)

幼友「あたしと幼馴染って友だちになってからまだ日が浅いって知ってた?」

兄「マジかよ(ずっと仲がいいのかと思ってた。俺が知らなかっただけで)」

幼友「うん。あたしは学内でまずあんたを探して、そして見つけた後はあんたのことを観
察したの。そしたら幼馴染って子と仲が良くていつも一緒に行動していることに気がつい
た」

兄「どういうこと?」


幼友「あたしって無愛想で怖そうに見えるでしょ」

兄「(確かに)別にそんなことはねえけど」

幼友「気を遣ってくれなくていいよ。昔からゆうにも言われてたし自覚もあるの」

兄「・・・・・・」

幼友「でもね。愛想よくいい女の振りをすることもできちゃうのよ、あたしは。だから幼
馴染に近づいて友だちになるのは易しかったな」

兄「わかんねえんだけどさ。何で幼馴染と友だちになる必要があったわけ」

幼友「あんたに自然な形で近づけると思ったから」

兄「だから、何で俺に近づきたかったんだよ」

幼友「おじさんって仕事が忙しくて家に帰るのは遅い時間なのね。帰らないことだって結
構あるし」

兄「それは知ってる」

幼友「今じゃあんたたちのパパだもんね、おじさん」

兄「俺と妹の親父は一人だけだよ」

幼友「・・・・・・そうか。まあ、それでさ。ゆうの夕食の支度はあたしがずっとしてたの。意
外だと思うかもしれないけど、あたしって結構料理は得意なのよ。うちの両親もそうして
あげなさいって言ったから、あたしはほぼ毎晩ゆうの食事の用意をしにゆうの家に通って
た。鍵ももらってたし。それでさ、ゆうの態度がおかしくなった頃のある日、ゆうはまだ
帰宅してなくてあたしは鍵を開けてゆうの家に入ったんだけど、妙に胸騒ぎがしたんで夕
食の支度は後回しにしてゆうの部屋に行ったの」

兄「勝手にか」

幼友「まあ、部屋に入ったり入られたりは二人とも昔から勝手にしてたし、お互いに隠し
事もしてなかったからあまり気にしなかったのね。でも、その日ゆうの部屋に入ったら
さ、隠し撮りしたみたいな写真が三枚机の上に無造作に放り出されてた」

兄「それで」

幼友「あのときは知らない男と女二人の写真だったんだけどね。隠し撮りしたみたいだけ
どよく撮れてたよ。後からわかったんだけど、一枚はあんたの。もう一枚は妹ちゃん。最
後の一枚は幼馴染の写真だった」

兄「何だよそれ(なんか背中がぞくってした。妹は)」

兄(熱帯魚の水槽をじっと見ている。でもあの様子じゃ幼友の話が相当気になっているみ
たいだ)

幼友「とにかくゆうが何を気にしているのか知りたかった。さっきも言ったけどおじさん
に聞いた再婚相手の息子が大学にいるって聞いたから、だめもとで写真の男を探したらあ
んたを見つけて。で、幼馴染に近づいてあんたの名前を聞いたらビンゴだったわけ」

兄「何でそんなことを」

幼友「あたしがあんたと幼馴染にあんたたちって付き合ってる? って聞いたこと覚えて
る?」

兄「覚えてる」

幼友「あのときはあんたは違うよって言ってたじゃん?」

兄「ああ」

幼友「それを聞いてちょっと安心したの。あたしの考えすぎだったかなって」

兄「・・・・・・さっきからよくわかんねえよ」


幼友「でもさ。結局、君たち付き合ってたんでしょ?」

兄「まあ、そうだったけど」

幼友「もうわかるでしょ」

兄「全然わからねえよ」

妹「ゆう君はあたしやお姉ちゃんを好きになったわけじゃなくて、お兄ちゃんと仲のいい
女の子を奪いたかっただけだったんですね」

兄「何だよそれ」

幼友「正解だと思うよ。あんたより妹ちゃんの方が洞察力あるんだね」

兄「うるせえよ。でも何で? 目的がわからん。それにあの頃の俺とこいつはすごく仲の
悪い兄妹だったんだぞ」

幼友「ゆうは鋭いからなあ。ゆうの第一目標は妹ちゃんで第二目標は幼馴染だったじゃ
ん?」

兄「ちょっと待ってくれ。話についていけないぞ。目標って何だよ」

妹「そうでしたね」

幼友「普通なら幼馴染を最初に狙わない? 傍から見たら幼馴染と兄君は恋人同士にしか
見えなかったしね」

妹「兄はあの頃はお姉ちゃんのことが好きでしたし」

幼友「それなのにあいつはまず妹ちゃんを狙った。まあ、家族として身近にいられること
になったんで狙いやすいということもあったんでしょうけど」

妹「そうですね。あたしも、その・・・・・・。ゆう君のことが気になっていたから落しやすか
ったのかも」

兄(落すとか言うなよ。でも何でゆうは妹や幼馴染に目をつけたんだ。いったい何のため
に)

幼友「妹ちゃん。君はメタルとか好き?」

妹「メタル? ヘビメタとかですか」

幼友「うん」

妹「好きですけど。ゆう君がヘビメタバンドでギターを弾いているっていうんで話が合っ
たくらいだし」

幼友「ゆうは楽器なんか弾けないよ。妹ちゃんの関心を引こうとファッションだけ真似た
だけ」

妹「え。本当?」

幼友「本当だよ」

妹「・・・・・・あたしってバカだ」

幼友「でも妹ちゃんはちゃんとゆうのことを振り切ったじゃん。そんな女の子は今までに
君だけだよ」

兄「・・・・・・ゆうは甘えん坊の年下の初心な彼氏じゃなかったのかよ」

幼友「甘えん坊で年下なのは確かだけど、別に初心なんて言ってないよ。むしろ浮気なん
かしまくってたよ。あいつって見た目はいいからすごくもてるのよ」

妹「それはよくわかります」

幼友「でしょ? でも、今まではあいつは最後にはあたしのところに戻ってきたの。甘え
ながらね。それが今回のあいつは真剣そうに見えた」


兄「結局、ゆうは何をしたかったわけ?」

幼友「あんたから大切な女の子を奪ってあんたにつらい思いをさせたかったんでしょ」

兄「何のために? それにそのために妹を奪うって意味不明なんだけど(実際、妹とゆう
が付き合ってるんじゃないかと思ってたときも、いらいらはしたけどそんなにつらくはな
かったよな?)」

幼友「さすがのあたしでもその質問に答えるのはためらうわ」

兄「何でだよ? ここまできたら言えよ」

妹「幼友さん、いいですよ。あたしは大丈夫ですから」

幼友「そう? じゃあ言うけど、ゆうは幼馴染を奪うより妹ちゃんを奪った方が兄君にと
ってはつらいだろうと考えたんじゃないかな」

兄「何言ってるんだ」

幼友「妹ちゃん?」

妹「あたしはお兄ちゃんのことが好きでした。多分、そのことはゆう君も気づいたんじゃ
ないかと思います」

兄「ちょっと待て。つうか何もこいつの前で言わんでも」

幼友「・・・・・・否定はしないのかよ。妹ちゃん?」

妹「はい」

幼友「君がゆうから逃げられたのってやっぱりそれ?」

妹「ええ。きっかけはあの夜に幼友さんとのことを知ったからですけど、完全に目が覚め
たのはお兄ちゃんのアパートに泊まりに行って一緒のベッドで寝」

兄「ちょっと待て」

幼友「そこまで言わなくていいよ、妹ちゃん。だいたいわかったから」

兄「誤解するな」

妹「誤解って?」

兄「・・・・・・いやその」

幼友「幼馴染も目を覚ますかな」

妹「無理でしょ。あたしはゆう君に惹かれていたときもお姉ちゃんほどひどい仕打ちをお
兄ちゃんにしようなんて夢にも思わなかったけど、お姉ちゃんは・・・・・・」

幼友「うん。幼馴染が兄君に言ったこと知ってる?」

妹「知ってますけど。何であなたが知ってるんですか」

兄「さっきも言っただろ? あのときこいつが幼馴染を殴ってくれたんだよ。こんな胸糞
悪い話は初めて聞いたって言って」

妹「そうだったんですか。兄を助けてくれてありがとうございました」

幼友「兄君のためじゃないって。人の彼氏にベタベタしている幼馴染が気に障っただけ」

妹「・・・・・・ふふ。そういうことにしておきます」

幼友「あんたの妹って何かちょっとむかつく。少し人の気持ちとか読めすぎなんじゃない
の」

兄「それは確かに」

妹「お兄ちゃん?!」


兄「悪かったって。でもよ、やっぱりよくわかんない。何でゆうは俺のことをそんなに目
の敵にするわけ? 親父の再婚が気に食わないからか? それにしたって俺を恨むのは的
外れだろうが」

幼友「そうだよね。確かにゆうのしていることは八つ当たりに近い。あの子のしているこ
との意味を探りたかったんだけど、今でもそこはよくわからないわ」

兄「再婚に反対なら黙って家を出ろっつうの。俺はそうしたぞ」

妹「そんなのはお兄ちゃんだけだよ。あたしの気持ちも知らないで」

兄「いやその。あんときは悪かったよ」

妹「本気で反省してる?」

兄「してるしてる」

妹「それならいい」

幼友「いいなあ。あたしも彼氏とそういう幸せな痴話喧嘩したいなあ」

兄「いや、こいつは妹だって」

幼友「知ってるよ?」

兄「いやあの」

妹「あまり兄を責めないでやってください。兄は、基本ヘタレなんで」

幼友「妹ちゃんも大変だね」

妹「好きになった人のことですから」

幼友「そうか。頑張れ」

妹「はい。ありがとうございます」

兄(何で仲良くなってるんだよこいつら)

兄(・・・・・・しかし、ゆうの行動はやっぱり理解できないな。結城さんの再婚に反対だから
って、俺を狙ってどうする。俺が不幸になったって再婚には影響しねえだろうが)

兄(もしかして・・・・・・。ひょっとして過去のことに原因があるのか。もしゆうが親の昔の
ことを知っていたとしたら)

兄(そしたら自分の親父を裏切った母さんとの再婚に反対するだろうし、母さんへの復讐
の変わりに息子の俺を狙ったとしても不思議はないのかもしれない)

兄(いや。あの話だって本当かどうか怪しくなってきたし。そもそもゆうの母親って誰な
んだ)

兄(あ)

兄(ゆうの母親が誰か、こいつは知ってるんじゃんか)

兄(よし)

兄「あのさ。変なこと聞くようだけど」

幼友「うん」

兄「ゆうの母親の名前って、おまえ知ってる?」

幼友「うん? 知ってるけど」

兄「なんて名前?」

幼友「レイナさんでしょ。おじさんとは離婚しちゃったけどね」


兄「そうか」

幼友「何でそんなこと聞くの?」

兄「ちょっとな。馴れ初めとか聞いたことある?」

幼友「いや。そこまでは知らないけど」

妹「お兄ちゃんどうしたの?」

兄「ごめん。ちょっとトイレ行って来るわ」

幼友「行ってらっしゃい」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」



兄(考えたらゆうの母親がレイナってだけじゃ何にもわかんないな。同名なだけかもしれ
ないし。大学時代の仲良し四人組で付き合い出して結婚したとかって確定したのならもか
く、幼友はそこまで知らないらしいし)

兄(両親たちの大学時代のことは俺だけが知っているということか)

兄(いや。ひょっとしてゆうは知ってるのだろうか)

兄(・・・・・・もう昔のことは忘れよう。そう決めたばっかじゃんか。幼友に会っちゃったか
らこうなったんだけど、もうゆうにも結城さんにも。それに母さんや幼馴染に関らなけれ
ばいいだけの話だ)



妹「やっときた」

幼友「あんた、お腹でも悪いの?」

兄「違うって」

妹「じゃあ行くよ」

兄「あ、ああ」

妹「幼友さん、行きましょう」

兄「へ?」

妹「あたしたち仲良くなっちゃったの」

幼友「うん。あんたの妹っていい子だね」

兄(俺がトイレに行ってる間に何があった)

妹「いいから行こうよ。今度はペンギンからね」

幼友「さすが好きな人の好みは把握してるんだね」

妹「当然ですよ。行きましょう幼友さん」

幼友「うん」

兄「おまえ友だちは?」

幼友「うん? 電話した。懐かしい友だちに会ったから今日は別行動でいい? って聞い
たら、楽しんどいでって」


兄(ちょっと前までは、幼友って俺とも妹とも別々に修羅場だったよな。うん、間違いな
い)

兄(なのにどうしてこうなった)

妹「うそでしょ」

兄(何でため口なんだよ)

幼友「本当だって。意外と密かに人気あるのよ」

妹「だって暗いし友だち少ないし趣味もオタクだし」

兄(なんかいきなり妹が幼友に懐いてるし)

幼友「兄君は成績もいいし、佐々木先生の覚えもめでたいしさ。目を付ける女の子がいた
って不思議じゃないって」

兄(俺の話かよ)

妹「だって将来性ないですよ。目指している職業だって地方公務員だし」

兄(・・・・・・てめえ)

幼友「安定志向の子も結構いるんだって。妹ちゃんもあまり気を抜かない方がいいよ」

妹「はい。頑張ります」

兄(何を頑張るんだ何を)

幼友「特に幼馴染が戦線を離脱したからさ。兄君に近寄る女が増えると思うなあ」

妹「え」

幼友「今までは幼馴染が虫除けみたくなってたじゃん。でも今の幼馴染はゆうしか見えて
ないみたいだからね」

妹「・・・・・・」

兄「おまえらなあ。俺の目の前で俺を無視して俺の話をするんじゃねえよ」

幼友「やっぱり無関心を装いつつも聞き耳を立ててたか」

兄「聞こえるように話してたくせに」

幼友「内心はちょっと嬉しいんでしょ。自分が思ったよりもててたことに」

兄「どうせからかっているだけだろう」

幼友「今の話はマジだよ。君のことを気にしてる女の子ってさ。あたしが知ってるだけで
も三人くらいしるし」

兄「(え。マジなの)誰?」

幼友「それは秘密」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「何だよ・・・・・・って、え?(妹の不機嫌というか負のオーラがやばい)」

妹「よかったね。女の人に人気があることがわかって」

兄「いや、別にそんな」

妹「これならお姉ちゃんに振られた心の傷は、妹なんかに癒してもらう必要もないね」

兄「ちょっと待て(何かやばそうな感じがする)」


幼友「妹ちゃん?」

妹「・・・・・・はい」

幼友「大丈夫だよ。兄君のことが好きな子がいることは事実だけど、君と兄君の様子を見
たらみんな諦めると思うから」

妹「だって、あたしは普段はお兄ちゃんと一緒に過ごせないし」

幼友「妹ちゃがよければだけど・・・・・・。あたしがその子たちを牽制して兄君から遠ざけて
あげようか」

妹「・・・・・・本当ですか」

幼友「うん。何か君たちには少しだけ罪悪感があるし。幼馴染には全くないけど」

妹「あのときはお互い様でしたし、幼友さんは兄のことを助けてくれたし・・・・・・」

幼友「ふふ。全く兄妹揃ってお人よしなのね」

兄「どういう意味だよ」

幼友「どうってそのままの意味よ」

妹「本当にいいんですか」

幼友「いいけど。むしろ妹ちゃんはそれでいいの?」

妹「・・・・・・ええ。お兄ちゃんもそれでいいよね」

兄「はあ」

幼友「そうか。一応言っておくけど、たとえ幼馴染の代わりに兄君と一緒にキャンパスで
過ごすことになっても、変な心配はいらないからね」

兄「どういう意味?」

妹「はい。自分でも何でかわからないですけど、幼友さんのことは信頼できる気がしま
す」

幼友「そんなに簡単に信用しちゃっていいの?」

妹「ふふ。本当ですね」

幼友「本当だよ。あはは」

兄(どうなってるんだ)

妹「幼友さん?」

幼友「うん」

妹「あっちにペンギンの大きな水槽がありますよ」

幼友「さすがだね。兄君の好きなポイントをすかさず見つけるとは」

妹「そんなんじゃないですよ」

兄(やっと話が逸れた)

妹「ほら、ペンギンが好きなんでしょ? 行くよお兄ちゃん」

幼友「ほら。さっさと動きなよ。あんたはペンギンが見たいんでしょ」

兄「ちょっと(妹と幼友から両手を引っ張られた。両手に花?)」

兄(なんかちょっとだけ幸せを感じる。幼友って意外に親しみやすいキャラだったんだ
な。男勝りのようでいて、よく見ると可愛い顔しているし)


今日は以上です
また投下します


妹「絶対に変ですよね、あの子」

幼友「そうかなあ。可愛いじゃん」

妹「あれはおかしいですって」

幼友「どこが変なの」

妹「左の羽の方が右より短いじゃないですか、あの子。怪我でもしたのかな」

幼友「言われてみれば。生まれつきなんじゃないの。それに可愛いことには違いないじゃ
ん」

妹「うん。可愛いことは確かです。ちょっと他の子と羽は違っているけど、本当に可愛い
なあ。できれば飼いたいくらい」

兄「ちょっと待て」

妹「お兄ちゃん、ペンギン好きなんでしょ」

兄「シロクマよりは好きと言ってもいいけど、別に飼いたくなるほど好きなわけじゃない
ぞ」

幼友「あの子。何か群れから離れているよね」

妹「やっぱり羽のせいなのかな」

幼友「どうだろう。あの子を見てるとちょっとゆうのことを考えちゃうな」

妹「あたしもお兄ちゃんのことを考えました」

幼友「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄(何なんだ)

幼友「そろそろ次に行こうか」

妹「そうですね。幼友さん?」

幼友「どしたの」

妹「幼友さんはいつまでここにいる予定なんですか」

幼友「二泊三日。今日が初日だけど」

妹「よかったら今日うちの別荘に一緒に泊まりませんか」

幼友「へ? 何で」

妹「・・・・・・何となく」

幼友「友だちと一緒だしホテルも予約しちゃってあるんだけど」

妹「そうですよね。突然ごめんなさい」

兄(妹にしては珍しい。好きだった母さんや慕っていた幼馴染を失った反動なのかな
あ)

幼友「別に謝らなくてもいいよ。だけど妹ちゃん、ゆうの関係者なんかと親しくしていい
の? 大好きなお兄さんのことを落としいれようとしているゆうの味方なんだよ? あた
し」

妹「そうですよね。ごめんなさい」

幼友「・・・・・・ちょっと兄君も妹ちゃんも人が良すぎるんじゃないの」

妹「・・・・・・うん」

幼友「ちぇ。全くもう、予定が狂っちゃったよ。ちょっと待ってて」

妹「え」


幼友「一緒に来た子たちに怪しまれちゃったよ。ナンパした男に付いていくんじゃないで
しょうねってさ」

妹「いいんですか?」

幼友「自分から誘ったんでしょうが。一晩お邪魔するよ」

妹「ありがとう」

幼友「まあたまにはいいか。それに君はあたしの後輩だし」

妹「え?」

幼友「あたしも富士峰なの。幼稚園からずっとね」

妹「本当ですか? 何か嬉しい」

兄(こいつがお嬢様学校の富士峰出身? 絶対共学で遊んできた女だと思ってたのに)

妹「あたしのママも富士峰なんです」

幼友「うちもそうだよ」

妹「偶然ですねえ」

幼友「・・・・・・そうだね」

兄「おまえ、友だち放っておいて本当にいいの? うちの妹のことなら気にしてくれなく
てもいいんだぞ」

幼友「別にいいよ。あんたこそ、妹ちゃんと二人きりのところを邪魔されて迷惑なんじゃ
ない?」

兄「ば! ふざけんなよおまえ」

幼友「冗談だって」

妹「ふふ」

兄(ふふじゃねえ)

妹「おじいちゃんたちの別荘なんですけど、すごく広いし芝生を張った庭が海に面してい
て景色は最高なんですよ」

幼友「へえ」

妹「今夜はそこでバーベキューをしましょう。きっと気持ちいいと思うなあ」

幼友「いいね。何かテンションがあがってきたよ」

妹「じゃあ、もう少しこの水族館を見学したらバーベキューの材料を買いに行きましょ
う」

幼友「海辺だしシーフードとかいいのがありそうだよね」

妹「漁協の直販所があるみたいですよ。そこに行きましょう」

兄(いつのまに調べたんだよ)


幼友「すごい景色だね。夕暮れなのに水平線がくっきりと見える」

妹「でしょ? あたしも初めて来たんですけど、こんないいところならもっと早く来てれ
ばよかった」

幼友「初めてなの? おじいさんの別荘なんでしょ」

妹「おじいちゃんとおばあちゃんの家に来たのって数えるくらいしかないんです」

幼友「何で」

妹「ママとパパの実家の仲が良くなくて」

幼友「ああ。変なこと聞いてごめんね」

妹「別にいいですよ。今はおじいちゃんたちとも仲はいいし」

幼友「君たちのママも?」

妹「それは違うんですけど。でも、あたしとお兄ちゃんは」

幼友「・・・・・・そうか」

妹「ママとおじいちゃんが仲が悪いとかどうでもいいの。うちの家族はあたしとお兄ちゃ
んがいればそれでいいんです」

幼友「うん。いい兄貴がいてよかったね」

妹「はい」

幼友「って違うか。いい彼氏かな」

妹「・・・・・・そんな」

幼友「妹ちゃん、顔赤いよ」

妹「もう」

兄「あのなあ。おまえらさっきから黙って聞いてれば」

幼友「何よ。やっぱり無関心な振りしながら必死になって聞き耳を立ててたのか」

兄「違うし。つうか、さっきから俺が一人で焼いてるだぞ。そんな暇ないつうの」

幼友「それくらいしなさいよ。男なんだから」

兄「それはいいけどさ。せっかく次々に焼きあがるイカとか高価な伊勢海老とか、おまえ
ら全然食わないで喋ってばっかじゃん」

幼友「わかったわかった。食べるから皿に載せてよ」

兄「おまえなあ」

妹「お兄ちゃんはちょっと一度に焼きすぎなんだよ。バーベキューの初心者がよくする間
違いだけどさ」

兄「・・・・・・おまえもなあ。人に押し付けておいてよ」

妹「食べるから伊勢海老の干物ちょうだい。楽しみにしてたんだ」

幼友「あたしもそれがいいな」

兄「・・・・・・イカも食えよ」


幼友「だいたいあんたはね。ちょっと周囲を警戒しすぎなのよ」

兄「もう十回くらい聞いたよそれ。ちょっと飲みすぎだろ、おまえ」

妹「お酒強いよね。よくそんなに飲めるなあ」

兄「だろ。おまえからもちょっと言ってやれ」

妹「わかった。だいたいお兄ちゃんはちょっと心を閉ざしすぎ。ハリネズミみたいに毛を
逆立てちゃってさ。何よ。可愛い妹が一途にお兄ちゃんのことを慕っているのに」

兄「おまえ、誰が俺に文句言えって・・・・・・あ。おまえ・・・・・・。酒飲んでるな」

妹「知りません」

兄「おまえは未成年だろうが」

妹「未成年の妹を抱き寄せてキスしたくせに」

幼友「え。マジで? あんたたちどこまで行ってるの」

妹「そんな。恥かしくて言えないよお」

兄「どこにも行ってねえだろうが。誤解を招く発言はよせ」

幼友「何照れてるのよ」

妹「今さら照れるような仲じゃないのにね」

兄「・・・・・・おまえらなあ」

兄(黙って聞いてれば。でもあれ。さっき妹が言ったことってどっかで聞いたような)



「君はさ。もう少し人のことを信用することを覚えた方がいいと思う」

「おじさんが亡くなってからの君ってさ。一見穏かな常識的で成績のいい男の子な
んだけどね」

「本心では、ハリネズミみたいに毛を逆立てて周囲の人を警戒してるじゃん」

「あたしに対してまでそうじゃない?」



兄(あれは夢だっけ。幼馴染に振られたときに見た幼馴染の夢。なんかの暗示なんだろう
か)

兄(確かにぼっちな俺だけど周囲を拒否したことなんかないよな。それは間違いな
い・・・・・・と思う)

兄「なあ? 俺ってさ」

妹「そろそろ寝ましょうか。明日は爬虫類パークに行きませんか」

幼友「さすがに明日は友だちといないと」

妹「・・・・・・だめですか?」

幼友「だめって・・・・・・。まあ、別にいいけど」

妹「やった。先にお風呂入っていいですよ」

幼友「ありがと」

兄(ガン無視かよ。おまえら少しは人の話聞けよ・・・・・・)


兄「本当にここで三人で寝るの」

妹「パパの部屋のベッドで三人も寝られるわけないでしょ」

兄「いや。そうじゃなくてさ」

妹「お兄ちゃんはいったいどうしたいの」

兄「いやどうって(何で俺が非常識な提案をした的な目で見られなきゃいかんのだ)」

妹「あたしと二人きりがいいの?」

兄「そうじゃねえよ」

妹「・・・・・・まさかお兄ちゃん」

兄「それも違うって。何で俺が幼友と一緒に寝なきゃいけないんだよ」

妹「誰もそんなこと言ってないのに」

兄「とにかくだ。おまえが幼友とパジャマパーティーだかガールズトークだかしたいな
ら、おまえと幼友が一階の和室で寝て俺が父さんの部屋で寝ればいいだろ」

妹「お兄ちゃんと一緒じゃないとやだ」

兄「だいたいだな。幼友だって俺と同じ部屋で寝るなんて迷惑だろ・・・・・・(何かいきなり
感情表現が素直になったな。つうかなり過ぎだろ)」

幼友「お風呂ありがと。って何喧嘩してるの」

兄「してないし」

妹「お姉ちゃん、じゃなかった。幼友さん。今日一緒に寝ませんか」

幼友「別にいいけど」

妹「やった」

兄「じゃあ俺は二階で」

妹「お兄ちゃんも一緒でいいですか。お姉ちゃん、じゃない幼友さんにはあたしが責任を
持ってお兄ちゃんに変なことをさせませんから」

幼友「うん? ああ別にいいよ。兄君にそんな甲斐性があるわけないし。それにお姉ちゃ
んって呼びたければそれでもいいよ」

妹「ほんと?」

幼友「うん。兄君と一緒の布団じゃなければ」

妹「布団はちゃんと三組ありますよ。そうじゃなくて」

幼友「だからいいって。幼馴染の代わりくらいしてあげる」

妹「・・・・・・うれしい」


兄(・・・・・・寝れねえ)

兄(俺の隣が妹でその隣が幼友。まあ妥当な並び方だよな)

兄(だが、妹は普段なら俺の方を向いて、というか俺に抱きつくようにすりよって寝るん
だけど、今日は隣を見ても妹の背中しか見えねえ)

兄(さっきからひそひそと妹と幼友が話し込んでるし。声が低いのは俺に遠慮してるんだ
ろうけど、聞こえないと余計話の内容が気になる)

兄(ときおり低い笑い声まで聞こえるんだけど。いったい何を話しているんだろ)

兄(まさか俺の話かな。いやいや。それはいくらなんでも自意識過剰だろ)

兄(・・・・・・)

兄(何か仲間はずれにされたような気がする。まあ、大学でもそうだったから耐性はある
んだけど)

兄(そうでもないか。幼馴染がいたからあまりぼっちなことに悩まないですんだんだよ
な。そう思うとゆうを好きになる前の幼馴染のことはやっぱり嫌いになれないなあ。でも
まあ、妹の言うとおり今の幼馴染は別人だけどね)

兄(寂しい。俺ってこんなに妹に依存していたのか。妹が俺じゃなく幼友の方を向いてい
るだけでこんなに寂しい気持ちになるんだもんな)

兄(また低い笑い声。二人で何を話してるんだろうなあ)

兄(無理にでも寝てしまおう。明日は爬虫類何とかに行くらしいし、運転中に眠くなった
らまずいしな)

兄(・・・・・・)



兄(・・・・・・あれ)

兄(いつのまにか寝てたらしい)

兄(隣の二人が静かなところを見ると、やっと話をやめて寝たのか)

兄(今何時だろう、スマホで・・・・・・ってまだ夜中の三時かよ)

兄(暗くてよく見えないけど、二人とも寝たんだろうな。さすがに幼友もいるし妹も抱き
ついてこないか。それはそれで常識的な判断なんだけど、何か寂しく感じる自分がいる)

兄(・・・・・・トイレ行って寝なおそう)



兄(明け方は結構冷え込むな。早く布団に潜って寝なおそう)

幼友「兄君? 夜中に何やってるの」

兄「あれ。おまえ寝てたんじゃねえの(びっくりした。こいつもトイレかな)」

幼友「何か眠れなくてさ。海でも見ようかと」

兄「海見るっておまえ。外は真っ暗だって」

幼友「見るって言うのかな。暗闇で波の音を聞いているだけでもいいんだ」

兄「何ロマンティックが止まらないみたいなセリフを吐いてるんだよ。似合わねえぞ」

幼友「あんたこそ昔の歌を。じじいかよ」

兄「いや。わかってるってことはおまえも」

幼友「ちょっと庭に出て波の音を聞いてくる」

兄「本気だったのか」

幼友「そうだよ」

兄「俺も行ってもいい?」

幼友「・・・・・・いいけど」


兄「ここから庭に出られるんだ」

幼友「うん」

兄「庭に灯りがついてるから足元は平気だよな」

幼友「平気だよ」

兄「庭の端にベンチがあるからそこに座ろうぜ」

幼友「うん」

兄「・・・・・・灯りはついてるけど、下にあるはずの海は全然見えねえな」

幼友「波の音は聞こえるじゃん」

兄「そうだけど」

幼友「・・・・・・あんたも眠れなかったの?」

兄「ちょっとは寝た。トイレで起きたんだけどさ」

幼友「こんなところであたしと二人でいていいわけ?」

兄「へ? あ、一人になりたかった?」

幼友「妹ちゃんを一人きりにしていいのかって聞いてるの」

兄「だってあいつは寝てるし」

幼友「起きたときに最愛の人が傍らにいないんじゃ、妹ちゃんだって寂しいんじゃない
の?」

兄「・・・・・・妹が起きる前に部屋に戻るよ」

幼友「最愛の人って言うことには反論しないで認めるんだ」

兄「何を今さら」

幼友「まあ、そうだけど」

兄「・・・・・・なあ」

幼友「・・・・・・何よ」

兄「妹が暴走しておまえの日程を狂わせちゃって悪かったな」

幼友「別にいいよ。幼馴染を失ってつらかったのはあんただけじゃなくて妹ちゃんも一緒
だったんだね」

兄「(そうか。それはそうだ。俺のことはおいといても、あいつだって幼馴染のことは慕
ってたしな)なあ」

幼友「今度は何?」

兄「おまえって何でそんなに冷静なの?」

幼友「どういうこと?」

兄「だってよ。冷静に考えればおまえの彼氏は幼馴染と浮気してるわけだろ」

幼友「・・・・・・そうだけど」

兄「この連休中だってゆうと幼馴染は一緒に遊んでるんだろ」

幼友「そうだね」

兄「何で海辺の半島に友だちと旅行に来たり、妹と仲良くなったりしてるんだよ」


幼友「何でって?」

兄「普通ならそれどころじゃねえだろ。家にこもって悩むか、ゆうと幼馴染を追って邪魔
しに行くとかさ」

幼友「はあ? あんたってばか?」

兄「え」

幼友「なんであたしがそんなみっともないことをしなきゃいけないわけ?」

兄「だってよ(確かあのときは)」



「何やってんの」

「おまえか」

「堂々と駅前で浮気かよ」

「うっせえなあ」

「この子誰?」

「幼友には関係ないだろ」

「あたしには聞く権利があると思う。あんたの彼女なんだし」

「うるせえ。誰が彼女だよ。おまえなんかセフレだっつうの」

「おい。ちょっと待てよ妹。誤解だって」

「あら。この可愛い子に振られちゃったね。ゆう」



兄「って聞いたぞ。妹に嫉妬するくらいなら、今は幼馴染に嫉妬してなきゃおかしいじゃ
ん」

幼友「さっき言ったでしょ。幼馴染は第二目標だって。あたしはゆうのことが心配なだけ。
あのときだって嫉妬なんかしてないよ」

兄「どう考えても嫉妬丸出しの発言じゃん」

幼友「あんたにはわからないだろうなあ」

兄「正直わからん。おまえって何がしたいの」

幼友「難しい質問だね。あたしはただ海が見たかっただけなのに。あんたが来たんで推理
小説の解説パートみたくなっちゃったじゃん」

兄「聞けるものなら聞きたいな」

幼友「さっき水族館で全部話したよ。あんたを陥れようとしているゆうの行動の動機につ
いては、本当にわからないのよ」

兄「そうじゃねえよ」

幼友「じゃあ何よ」

兄「おまえってさ。彼氏に浮気されたのに全然悩んでいるように見えないよな」

幼友「え?」


兄「彼氏を幼馴染に取られている状態なのにさ。よく友だちと海に遊びに来たり、俺たち
と一緒に遊んだりできるな。幼馴染に裏切られたときの俺だったら、とてもそんな気には
なれないけどな」

幼友「別にゆうが幼馴染と一緒にいることなんかに悩んでないよ」

兄「だってよ」

幼友「第一目標の子とすら仲良しになったんだよ。第二目標なんか眼中にないって」

兄「どういうこと?」

幼友「ゆうは幼馴染のことなんか好きでも何でもないからさ。幼馴染には気の毒だけ
ど、今日あんたと妹ちゃんを見てさ」

兄「見て、どうなんだよ」

幼友「あんったってもう幼馴染に嫉妬したり、彼女の裏切りに悩んだりしてないでしょ」

兄「今はな。でも発覚したときはきつかったぞ」

幼友「それはわかってる。だから、幼馴染を平手で殴ったしあんたを彼女から引き離した
りもしたんだから」

兄「そうだった。あのときは世話になったな」

幼友「それは別にいいよ。そうじゃなくてゆうにとっては妹ちゃんも幼馴染も手段に過ぎ
ないからさ。君が幼馴染に未練がないってゆうが理解したら、その瞬間に幼馴染はゆうに
捨てられると思うよ」

兄「それは・・・・・・。でもそうか」

幼友「振られた幼馴染はどうなるかなあ。長年一緒にいた君をないがしろにするほどのめ
り込んだゆうに振られたらさ。ひょっとして自殺したりして」

兄「よせよ」

幼友「悪い。でもそういう心配だってあるじゃん」

兄「おまえはさ。ゆうは俺を陥れるために妹や幼馴染に手を出してるだけで、ゆうは本心
では妹のことも幼馴染のことも好きじゃないって言ったじゃん」

幼友「うん」

兄「じゃあゆうが本当に好きなのはおまえなの? それでおまえの行動には余裕があるわ
け?」

幼友「余裕なんかないよ。そうであればいいと信じているだけで。内心は不安で泣きそう
だよ」

兄「そうは見えないけどな」

幼友「本当だって。それよかあたしが今心配になったのは」

兄「何だよ」

幼友「あんたが幼馴染を盗られても動揺しないことを知ったゆうが、次はどんな手を打っ
てくるかだよ」

兄「どういうこと」

幼友「ゆうの目的から考えるとさ。君が動じない原因が妹ちゃんのおかげだと知った
ら、あいつは再び妹ちゃんを狙うかも。君を傷つけるために」

兄「ゆうはプライドが高いし、自分を振った妹には関心がないって言ってたじゃんか」

幼友「そう思ってた。でも君と妹ちゃんが本当に男女の仲だとしたらさ。ゆうも考え変え
るかもね」

兄「男女の仲じゃねえよ(少なくともこれは嘘じゃない)」


幼友「とにかく気をつけた方がいいよ。ゆうが本気になれば君にべったりの妹ちゃんだっ
て危ないかもしれない」

兄(そんなわけあるか。妹は今では俺のことが・・・・・・。まあ、その気持ちに応えるわけに
はいかないのだけど。それでも妹が俺を裏切るなんて考えられん)

幼友「それならいいけど」

兄「(だからおまえは)おまえたちはエスパーかよ」



幼友「いい風が吹くね」

兄「そうだな」

幼友「砕ける波とかがうっすらと見えるようになってきたね」

兄「ああ」

幼友「もう夜明けか。空も少しづつ青くなってきた」

兄「海っていいよな。景観も音も匂いすら完璧に海って感じだもんな」

幼友「何言ってるのかわかんないよ」

兄「何でもねえよ」

幼友「あんたさ。妹ちゃんを離すんじゃないよ」

兄「何の話だよ」

幼友「ゆうなんかに盗られるなよ。一度はゆうの誘惑から逃げてるんだから。結局ゆうの
魅力には勝てなかったなんていうことにはならないようにしなよ」

兄「・・・・・・ああ」

幼友「うらやましいな」

兄「何で(これ以上妹と仲良くなたら近親相姦の関係になるんだぞ。うらやましいわけね
えだろ)」

幼友「あたしも君たちみたいな恋をしたかったなあ」

兄「ゆうのこと好きなんだろ」

幼友「うん。だから普通の恋に憧れるんじゃない」

兄「よくわからん」

幼友「別にゆうみたいなイケメンじゃなくてもいいんだよ。お互いを好きになってお互い
を信じあえるような関係になれるんなら」

兄「そうなの」


幼友「たとえば、冴えないあんたみたいな男だってよかったんだって」

兄「よせよ(冴えないは余計だろ)」

幼友「そういうことだから。連休が終って大学の講義が始まったら、あたしはあんたにデ
レるからね。ちゃんとそういうあたしを受け止めなさいよ」

兄「おまえは何を言ってるんだ(今の俺には妹しか興味がねえの。って、それはそれで問
題あることも理解しているけど)」

幼友「妹ちゃんを守りたければ、あんたの好きな女は妹ちゃん以外だとゆうに思わせた方
がいいよ」

兄「・・・・・・おまえ(今さらだけど。こいつ、ちょっと怖い)」

幼友「妹ちゃんの許可はもらったし。あんたは連休明けからあたしと一緒に行動するの
よ。あ、でも。手を繋いだりあたしの肩を抱き寄せたりくらいはいいけど、間違ってもキ
スしようとかそれ以上のことをしようとか思わないでよ」

兄「意味がわからん」

幼友「あんたバカ?」

兄「いや。妹を守るためっていうことは理解したんだけどさ。何でおまえがそこまでして
くれるわけ?」

幼友「ゆうがさ。あんたの好きな子があたしだと思えば、あいつのターゲットは第三目標
に移行するでしょ」

兄「第三目標って」

幼友「あたし」

兄「ゆうに嫉妬させるために俺と一緒に過ごすってこと?」

幼友「それがベストだけどね。たとえあいつがあたしに嫉妬してくれなくても、あんたが
あたしのことを好きなんだって思ったら、あいつは絶対あたしのことを求めてくるから」

兄「・・・・・・それで妹は無事だし、おまえもゆうと復縁できるってわけか」

幼友「うまくいけばね」

兄「おまえ、水族館で俺たちと会ったのって、本当に偶然なんだよな?」

幼友「そうよ」

兄「・・・・・・俺のことを好きだって女の子たちから俺を守ってやるって妹に言ったのは嘘
か」

幼友「そうじゃないって。本当に君って意外と人気あるんだよ」

兄「でもおまえの真意はそこじゃなかったわけだな」

幼友「さあ? どうかなあ」

兄「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


幼友「兄君」

兄「おう(本当に来やがった)」

幼友「待った?」

兄「待ってねえけど(待ってないで先に行きゃよかったんだよな。何で俺はこいつを待っ
たりしたんだろう)」

幼友「ならよかった」

兄「おまえさ」

幼友「どした」

兄「・・・・・・本気でやる気か」

幼友「うん? 本気だよ」



兄(あれから俺も考えた。こいつは最初は偶然を装って海辺の水族館で俺たちに近づい
た)

兄(そして妹と仲良くなった。簡単だったろうな。こいつはもう妹にとってゆうを巡るラ
イバルじゃねえし。幼馴染を失った妹が、お姉さん的な親しみやすさを装ったこいつに気
を許したって不思議じゃない)

兄(そして俺が大学の女に人気があるとか、幼馴染がいなくなって俺に近づく女が増える
だろうとか言って妹の危機感を煽った。妹公認で俺と大学で親しくするためだ。俺が妹の
気持ちに逆らえないってわかってたんだろう)

兄(確かに幼友は何も嘘は言っていない。夜中の庭で、こいつは妹からゆうの関心を逸ら
すためだって、自分にゆうの関心を引きつけることが本当の目的だって、別に隠さないで
認めたもんな)



兄「本気だったのかよ」

幼友「妹ちゃんも納得してるんだから別にいいでしょ」

兄「妹は俺に寄ってくる女避けのつもりで納得したと思うんだけど」

幼友「うん。妹ちゃんの代わりにあたしがあんたをガードするっていうことだね」

兄「あのさあ。おまえ言ってたじゃん。ゆうが俺とおまえが仲良くしてるところを見た
ら、幼馴染を捨てて俺からおまえを奪おうとするだろうって」

幼友「そこまで言ったっけ」

兄「とにかく、そういうことを言ったじゃんか」

幼友「そういうこともあったかもね」

兄(でも、絶対それだけじゃないな。何かまだ隠している目的があるに違いない)

兄「それが目的なら大学内でこんなことしたって意味ねえだろ」

幼友「なんで?」

兄「ゆうが俺たちを目撃できないからだよ。あいつ高校生だろ。キャンパスで俺とおまえ
が偽装カップルを演じたってあいつが目撃できなきゃ全然意味ねえだろ」


幼友「・・・・・・あたしとあんたはさ」

兄「ああ」

幼友「一緒にいてラブラブなところを幼馴染に見られればそれでいいのよ」

兄「そんなことに何の意味がある」

幼友「幼馴染からゆうに話が伝わるからね」

兄「・・・・・・」

幼友「それであんたの妹はゆうに再び目を付けられる危険がなくなるし、ゆうはあたしへ
の関心を取り戻すことになるし。何か問題あるの?」

兄(確かに一見筋が通っている話だけど・・・・・・。だけどそれだけじゃないはずなんだ。こ
んなことすぐにでも気がつかなきゃいけなかったのに。幼馴染を平手打ちしてくれて、動
けなくなっていた俺を、幼馴染から離してくれたせいで目が曇っていたんだ。最初から幼
友は言ってたじゃんか。俺や妹はお人好し過ぎるって。何でゆうの関係者である自分を信
じてお礼なんか言うんだって)

兄(そのとおりだよ。何を考えているのか知らねえけど、幼友はゆうが好きなんだぞ。ゆ
うのことを第一に考えて行動しているに決まってる。自分がゆうに求められるためなんか
じゃない、もっと別な目的があるんだ。しかもこいつは手の内を隠さないで最初から全部
俺と妹に話しているじゃんか。くそ、舐めやがって)

幼友「妹ちゃんのためでもあるのよ」

兄「うまくできている罠だよな」

幼友「え?」

兄「妹をゆうから遠ざけることができるって言えば、俺が断れないことを知ってたんだよ
な。おまえは」

幼友「・・・・・・あたしは妹ちゃんから頼まれて」

兄「それにおまえの言うとおりになったとしたら、幼馴染はどうなる?」

幼友「さあ。どうでもいいよ。あんたこそ、あれだけひどいことをあいつにされてるのに、
まだあの子のことが心配なわけ? 本心ではまだ幼馴染のことが好きなんじゃないの」

兄「それはねえよ。確かにこの間までは大好きだったけど、今はあいつのことは全然気に
ならないよ。たださ」

幼友「ただ、何?」

兄「自殺とか言われちゃうとな」

幼友「あんなの冗談に決まってるじゃん。いくらゆうがいい男だったからってあいつが女
の子を振るたびにその子たちが自殺してたら大変だよ。幼馴染もせいぜい悩んで泣くくら
いじゃないの? 実際のとこ」

兄「それならいいけどな」

幼友「そんで自分に都合よく君に泣きつくかもね。目が覚めた。本当に好きだったのは君
なのとかって言ってさ」

兄「それはねえだろ」

幼友「そうかな」

兄「・・・・・・まあいいや。とりあえず当面の利害が一致したからおまえの提案に乗ってやる
けど(それでもこいつは正しい。妹のことを考えるとゆうの関心を妹からこいつに移すこ
とはしておいた方がいいんだ。こいつに利用されていると思うと腹が立つけど)」

幼友「何であんたはそんなに上から目線なのかな」

兄「おまえ自身が言ってたとおり、俺はおまえがゆう側の人間だってことを忘れないから
な。偽装カップルが終っておまえの目論見どおりゆうがおまえのことを求めたら、それで
俺とおまえはもう無関係だからな」

幼友「当たり前じゃん。あたしがあんたのことを好きですがりつくとでも思ってた?」

兄「そんなことねえよ。それに、少なくともおまえが形だけでも妹と仲良くしてくれたこ
とはありがたいと思うけど」

幼友「いい子だよ、妹ちゃんは。あたし、ああいう子は大好き


兄「(嘘付け)それでも、おまえがゆうと復縁したときは、おまえは俺たちの敵だから
な」

幼友「・・・・・・敵って」

兄「言っている意味はわかるだろ?」

幼友「わかる。あんたは何か考えすぎていると思うけどね。まあ、でもそれでもいいよ」

兄「(何かむかつくな。ゆうのためならなりふり構わず何でもするくせに)じゃあ」

幼友「ちょっと」

兄「(俺の妹への気持ちを利用しやがって)カップルだって思わせたいんだろ」

幼友「そうだけど・・・・・・あんまり乱暴にしないで。ちょっと痛いよ」

兄「いいから俺にもっとくっつけよ。そんなんじゃカップルになんか見えねえじゃんか」

幼友「・・・・・・これでいいんでしょ」

兄「おまえ、何赤くなってんだよ。それとも演技か」

幼友「・・・・・・うっさい」

兄「女って怖いよな。演技で赤くなったり泣いたりできちゃうんだ」

幼友「・・・・・・」

兄「って。それも演技かよ」

幼友「黙れ」

兄(何で泣いてるんだ。俺に抱き寄せられるのがそんなに嫌なのかよ。自分から言い出し
たくせに)

幼友「もういい。遅れるからさっさと行くよ」

兄「ああ」



兄「・・・・・・大学に着いたぞ」

幼友「うん」

兄「おまえさあ」

幼友「何?」

兄「泣くほど嫌ならもうやめようぜ。ゆうが好きなら正攻法でアタックすればいいじゃん
か」

幼友「・・・・・・妹ちゃんとの約束があるのよ」

兄「俺を好きな子がどうとかってやつ? そんなの俺がしっかりしてれば済むことだろ
う。俺は浮気なんかしねえよ。ゆうとか幼馴染じゃあるまいし」

幼友「認めるんだ」

兄「何がだよ」

幼友「妹ちゃんとできてるって」

兄「ば・・・・・・そんなことは言ってねえだろ」

幼友「浮気しないんでしょ? 本命は妹ちゃんだって自分で言ってるのと同じじゃん」

兄「・・・・・・実の妹が彼女な訳ねえだろ。俺はもう研究だけに生きるんだから」

幼友「それなら浮気しないとかって言うのはおかしいでしょ」

兄「もういい。とにかくこれからどうするんだよ」

幼友「あんたと一緒に次の講義に出る」

兄「おまえは履修登録してねえだろうが」

幼友「そんなのわからないよ」

兄「本気でやるつもりなら、俺から身体を離そうとするなよ。恋人同士っていう設定なら
不自然だろうが」

幼友「わかってるよ! これでいいんでしょ」

兄「自分から言い出したくせに。何切れてるんだよ」

幼友「切れてないよ。ほら、講義に行くよ」

兄「あと顔が赤いのをどうにかしろよ」

幼友「そんなに都合よく表情までコントロールできるわけないでしょ。付き合い始めの
初々しい感じが出るからこれでもいいの!」

兄「なるほどね(確かにそうかも・・・・・・。まあ何でもいい。妹からゆうの関心を逸らすた
めだ。うざいけど最後までこのばかな演技に付き合うか。だけど幼友に対しては油断しち
ゃだめだ)」



兄(意外なことに。幼友の言うとおり、わずか半日で俺と幼友目撃したやつらには恋人認
定されてしまった)

兄(肝心の幼馴染は見かけなかったから、幼友的には微妙だろうけど)

兄(だけどこれだけ同じ専攻のやつらに見られたんだ。幼馴染にも絶対に噂は広がるだろ
うな)

幼友「やっと講義終ったか」

兄「おまえ、俺にべったり寄り添う振りをしながら本当は寝てただろ」

幼友「別にいいじゃん。履修登録してない講義なんか真面目に聞いててもしかたないし。
それよかお腹すいたね。お昼にしようよ」

兄「学食?」

幼友「なるべく多くの人にあたしとあんたの仲を見せつけないといけないからね。学食
にしよう」

兄「もう十分じゃね? ずいぶん視線を感じたぞ」

幼友「まだ始めたばかりでしょうが」

兄「おまえがいいならいいけどよ(本当に何をたくらんでるんだ)」



兄「混んでるなあ」

幼友「あたしが適当に買って来るからあんたは席を確保しといてよ」

兄「いいけど」

幼友「なるべく窓際の席ね」

兄「無茶言うな。こんだけ混んでるんだぞ」

幼友「だから、なるべくって言ったでしょうが」

兄「何で窓際なんだよ」

幼友「それだけ人に見られるじゃない」

兄「・・・・・・まあいいや。わかった」

幼友「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

幼友「・・・・・・早く席を探しに行きなさいよ」

兄「いや。だったら手を離せよ」

幼友「あ」

兄「あ、じゃねえよ」

幼友「んなことわかってるよ。ほら、これでいいんでしょ」

兄「そこって切れるところなのかよ」


怜奈「おはよう」

池山「あ」

怜奈「どしたの?」

池山「いや。おはよう怜奈」

怜奈「一緒に行かない」

池山「あ、ああ」

池山(・・・・・・昨日の怜菜のキスの感触がまだ唇に残っている)

池山(いったい何でだろう? 怜奈って僕のことが好きなのか)

池山(いや。いくらなんでもそれは楽天的過ぎる。それを実証するだけの根拠がない。こ
の程度の証拠では証明にならないだろ。せいぜいよくて仮説くらいなものだ)

怜奈「うん? 早く行こうよ」

池山「結城は一緒じゃないの」

怜奈「うん」

池山「どうして」

怜奈「・・・・・・どうしてって」

池山「君たちはいつも一緒に登校してたじゃん。今日は結城は休み?」

怜奈「さあ」

池山「さあって」

怜奈「遅刻しちゃうよ。行こ」

池山「わかったから。ちょっと待ってくれよ」

怜奈「早く行こ」

池山(笑顔が眩しい・・・・・・)

池山(キスって。怜奈って僕のことを・・・・・・。いくらなんでも勘違いじゃないよね。怜奈
みたいな子が僕のことを好きになるなんてあり得ないって考えてたけど。でも)

池山(さすがにその気のない男にキスなんかしないだろう。ということは)

池山(結城と怜奈、それに有希の仲間に加えてもらって親しくしてもらえるだけで幸せだ
ったのに。それ以上のことなんか考えたことすらなかったのに)

池山(玲菜が僕を・・・・・・)

怜奈「どうしたのよ。さっきから黙っちゃって」

池山「あのさ。昨日の、その」

怜奈「・・・・・・あ、うん」

池山「・・・・・・」

怜奈「・・・・・・」

池山(赤くなって俯いちゃった)

怜奈(これはもう疑いようがない。仮説の域を超えて命題が証明されたと言っても過言で
はないんじゃ)


怜奈「あ」

池山「え」

怜奈「何でもない。早く行こう」

池山「どうしたの? って結城じゃん」

怜奈「・・・・・・行こ」

池山「何で? 一緒に行こうよ。って有希も一緒だね」

怜奈「二人は放っておいて行こうよ」

池山「え? いつも四人で一緒なのに」

怜奈「うるさいなあ。あたしが君と二人でいたいの! 悪い?」

池山「あ、ごめん」

怜奈「行こう」



池山(僕と二人でいたいって言ってたのに、怜菜はさっさと一限の講義に行ってしまっ
た。全然僕の方を振り向きもしないで。だけど)

池山(だけど。僕と二人でいたいって。もうそういう意味としか受け取れないんだけど)

池山(はっきりさせたいけど。でも確かめる勇気がない)

池山(・・・・・・キスまでされたのに勇気がないって。僕ってどんだけチキンなんだろ。結城
ならこんなときは戸惑ったり迷ったりしないんだろうなあ)

池山(はあ。仮説じゃないんだろ?)

池山(それにしても、ちょっと見ただけだから勘違いかもしれないけど、結城と有希の距
離感がやけに近かったような気がする)

池山(まあ、あの二人ならお似合いだしな。結城は遊び人だけど根はいいやつだし、有希
は見た目もすごく可愛いし、性格もいいし僕みたいな根暗なやつにもわけへだてなく笑顔
を向けてくれる。そういう意味で言うとあの二人は理想のカップルかも)

池山(・・・・・・そんなことはどうでもいだろ。むしろ問題は、この後怜奈にどう接すればい
いかということだよ)

池山(勇気を出せばいいだけの話なのに。しかも怜奈にはキスまでされたんだ。普通なら
不安に感じる要素なんかないのに)

結城「よう」

池山「・・・・・・あ。おはよ」

結城「おまえ怜奈知らね?」

池山「あ、うん。講義じゃないかな」

結城「何なんだろうな。朝おきたらあいついねえしさ。朝飯も用意してねえでやんの。腹
減ったぜ」

池山「兄妹で二人暮しだったよね」

結城「ああ。何か昨日の夜からあいつ不機嫌つうか様子がおかしいんだよな。何か怒って
るっていうかさ」

池山「そうなんだ」

結城「俺が何をしたって言うんだよ、全く」


池山「心当たりないの?(僕のことで頭がいっぱいだったとか?)」

結城「全くない」

池山(いや。さすがにそれは)

池山(他に昨日起こったことと言えば・・・・・・。あ)

池山(結城と有希が親し気に話し込んでいたことかな)

池山(聞いてみようかな。それくらいはいいだろう。僕たち四人は仲がいいんだし)

池山「あのさ。その・・・・・・有希と」

結城「付き合い出したよ」

池山「(やっぱり)やっぱりそうなんだ」

結城「そんなことよりさ。なんで怜菜は不機嫌なんだろうなあ」

池山(そんなことより? もてるやつは言うことが違うな。女の子と付き合い出したこと
がそんなことか)

池山(僕が意識しすぎてるだけなのかも。気軽に言えばいいのかな。結城みたく堂々とさ
りげなく)

池山(・・・・・・よし。講義が終って二人きりになったときに)

池山(人生で初めての告白か。何か今まで以上にどきどきしてきた)

結城「あいつが不機嫌だと俺の飯に影響するんだよな」

池山(でも。いくらなんでも怜菜の告白を待つんじゃなく男の方から告白すべきだよな)


怜奈「ごめんなさい」

池山「・・・・・・はい?(やっぱりかあ。変に結城の態度に踊らされるんじゃなかったよ)」
怜奈「本当にごめん。君のことは嫌いじゃないけど、君とお付き合いはできない。この間
のキスのことは忘れて」

池山「うん。こっちこそ勘違いして変なこと言ってごめん(恥かしい。いっそ死にた
い)」

怜奈「本当にごめんなさい。全部あたしが悪いの」

池山「いや。僕が勝手に告白しただけだし。君が謝る必要はないけど」

怜奈「・・・・・・ごめん」

池山「だから君が謝る必要なんかないって(でもそれなら何でキスなんて)」

怜奈「・・・・・・」

池山「・・・・・・泣かないで」

怜奈「ごめんなさい」

池山「・・・・・・いや、だから」

怜奈「・・・・・・」

池山「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します

玲奈?玲菜?

>>314

怜菜です
すいません


有希「ちょっといいかな」

池山「ああ有希。こんにちは」

有希「こんにちは」

池山「何か用?」

有希「あのね・・・・・・。その、怜菜と話したんだけど」

池山「怜菜と?」

有希「彼から聞いたの」

池山「・・・・・・彼?」

有希「あ。ごめん、結城君から聞いたのね。怜菜が元気ないって。それで怜菜に何があっ
たのか聞いたらね」

池山「・・・・・・うん」

有希「ごめんなさいね。余計なお節介をするつもりはないの」

池山「・・・・・・」

有希「でも、さっき怜菜、一人で学生ホールの陰で泣いてた」

池山「怜菜、泣いてたんだ(気を遣わせちゃったかな。僕が余計な告白なんかしたせい
だ)」

有希「うん。博人に思い当たることある?」

池山「あるよ」

有希「やっぱりそうなの」

池山「うん」

有希「何があったのか知らないんだけど、怜菜と仲直りしてあげられないかな。せっかく
仲良くなった四人がこんなことで気まずくなっちゃうのは悲しい」

池山「ごめん」

有希「あ、ごめんなさい。博人を責めているんじゃないの」

池山「怜菜に告白して断られたんだ」

有希「え」

池山「だから全部僕のせいなんだ。怜菜には悪いことしちゃったよ。彼女が悩むことじゃ
ないのにね」

有希「・・・・・・うそ」

池山「情けないでしょ? 笑ってくれていいよ。勘違い男の身の程をわきまえない告白を
さ」

有希「だって。博人が怜菜を振ったんじゃないの」

池山「どうしてそうなるの」

有希「怜菜って博人のことを好きなんじゃないの?」

池山「はい?」


有希「だって結城君がね、怜菜は君のことが好きみたいだって言ってたよ」

池山「僕もそう思ってたよ。でもそうじゃなかったみたい」

有希「そうなんだ・・・・・・」

池山「僕はもう今日からは普通に怜菜とは普通どおりに接することにするよ」

有希「うん」

池山「でも、怜菜がつらいなら少し距離を置くべきだと思う」

有希「・・・・・・なんか博人ってさ。振られたのに何でそんなに余裕があるのよ」

池山「え(何かおとなしい有希らしくない発言。それに余裕なんか僕には)」

池山(・・・・・・あるな。消えたいほど恥かしいのは確かだけど、悩むとかつらいとかじゃな
いよな)

池山「よくわからない」

有希「否定はしないんだね」

池山「本当にわからないんだ」

有希「・・・・・・前から怜菜のこと好きだった?」

池山「ええと(あれ? そうでもないな。よく考えると本気で怜菜を意識したのはキスさ
れてからかも。そもそも怜菜とか有希とは別世界の人間だと思ってたんだ。仲のいい四人
グループに僕の居場所があるだけでもありがたいって)」

有希「好きになったきっかけとかあった?」

池山「コンパのときに僕と怜菜は先に帰ったでしょ」

有希「そうだったね。突然二人ともいなくなるんだもん。びっくりしたよ」

池山「その日の帰り道に怜菜にいきなりキスされて」

有希「・・・・・・」

池山「有希?」

有希「あは」

池山「え。どうしたの」

有希「あははは。何だあ、博人ってば全然怜菜のことなんか好きじゃないじゃん」

池山「どういうこと」

有希「恋愛初心者によくある勘違いだよ。相手が自分に好意を持っているって知って、自
分も彼女のことが好きなんじゃないかって思い込むのって」

池山「そうなのかな(言われてみればそうかも)」

有希「心配して損した。結局怜菜の自業自得かあ」

池山「どういうこと?」

有希「怜菜って何で博人にキスしたの?」

池山「(僕に聞くなよ)さあ」

有希「そんで君の告白を断るとか訳わかんないよね」

池山(・・・・・・確かに)


有希「怜菜ってさ。あたしと結城君を見て頭に血が上って先に帰ったり、博人にキスした
りしたのかな」

池山「結城が君と付き合い出したって言ってたけど」

有希「うん。結城君に告られたからOKした。あのときも何となく君とか怜菜に見られて
る気はしてたんだ」

池山「ごめん。怜菜と二人で見てた。結城が有希に何か話していて。有希が赤くなって俯
いてるところを」

有希「何だそうか。それで怜菜が訳わかんない行動をとったのか」

池山「どういうこと?」

有希「どうもこうもないよ。あの子ってブラコンじゃん」

池山「そうなの」

有希「・・・・・・今まで気がつかなかったの」

池山「全然」

有希「マジかよ」

池山「(え)有希ってなんか今日はイメージ違くない?」

有希「・・・・・・君もみんなと同じで女の子を見る目がないなあ。あたしは別に清楚でおとな
しい女の子なんかじゃないって」

池山「(うそだろ)そうなの?」

有希「博人も外見で騙されてた口か。ごめんね。イメージ壊しちゃって」

池山(信じられない。でも結城はどうなんだろ。有希のおとなしいところが気に入ったん
じゃないのかな)

有希「あたしって今までも結構男遊びしてきたのよ」

池山「・・・・・・結城は君のそういうとこを知ってるの」

有希「うん。見抜かれてた。博人や大学の同回生の童貞さんたちと違って」

池山「童貞って(ほんとに別人だな、こりゃ)」

有希「結城君は最初からわかってたみたいよ。あたしが猫被ってるって」

池山「(結城すげえ)でも、コンパのとき赤くなってたじゃん」

有希「あたしの特技なの。いつでも赤くなれるんだ。見せてあげようか」

池山「・・・・・・信じられないよ」

有希「本当だよ。でも、結城君にはあっさりと見破られちゃった。だから結城君と付き合
うことにしたの」

池山「何がなんだか(怜菜がブラコン? 有希が見かけどおりの子じゃなくてビッチと
か)」

有希「結城君も女慣れしてるじゃん? あたしたちお似合いかと思ってさ」

池山「君の価値観がよくわからないよ。結城のこと好きだから付き合ったんじゃないの」

有希「嫌いじゃないよ、結城君のことは、さすがのあたしだって嫌な男とは付き合わない
って」

池山「君は可愛いけど男慣れしていない子だと思ってた」

有希「そう思わせるように振舞ってたからね。むしろ、怜菜の方がそうかもよ」

池山「怜菜は男にもフレンドリーじゃん。男慣れしてないってことはないだろ」

有希「でもあの子、きっとまだ処女だよ」


池山「ば・・・・・・! 君は何言って」

有希「何となくわかるもん。正直に言うとさあ。博人には怜菜と付き合って欲しかったな
あ」

池山「何でだよ」

有希「ライバルは早目に排除しておく方がいいし」

池山「意味わかんないよ」

有希「それにそうしたら諦めもつくし」

池山「(え)ますます意味がわかんないぞ」

有希「やっぱりお付き合いにはそれなりの秩序が必要でしょ?」

池山「何なんだ」

有希「君とあたしじゃ世間的につりあわないしね。残念だけど」

池山「・・・・・・それは僕なんかと君じゃつりあわないだろうけど」

有希「君と怜菜って結構お似合いだと思うんだけどな。二人とも恋愛初心者同士でさ。何
か初々しいじゃん」

池山「でも僕は怜菜には振られたんだし」

有希「そうだよねえ。あの子本気で結城君のことが好きなのかな」

池山「結城? いくら怜菜が結城を好きだってそういう意味じゃないでしょ。実の兄貴な
んだし」

有希「それならいいけどね」

池山「そうしたら諦めがつくってどういう意味?」

有希「つりあいって大事だと思うの。いくら好きでもさ」

池山「それはそうかも(僕と怜菜はつりあわなかったことだけは確かだもんな。怜菜が結
城のことをどう思っているのかはともかく)」

有希「うふふ。ちょっとこっち向いて」

池山「何で」

有希「いいから」

池山「・・・・・・」

有希「ひどい顔。怜菜に振られたって気にならないでしょ? 君が好きなのは怜菜じゃな
いんだから」

池山「どうだろう」

有希「ほら」

池山「おい! ちょっと」

有希「ほら。怜菜じゃなくてもいいんじゃない。あたしにキスされても怜菜のときと同じ
くらい動揺しいたでしょ?」

池山「・・・・・・こんなことされれば動揺しない方がおかしいよ(こいつ怖い)」

有希「結城君には内緒だよ。あたしが君にキスしたの」

池山「とても言えないよこんなこと」

有希「で、よかった?」

池山「・・・・・・」


有希「今、完全に怜菜に振られたことを忘れてたでしょ」

池山「何言ってるんだよ」

有希「キスなんてこの程度の簡単なものなんだよ。怜菜の気まぐれなキスなんかで惑わさ
れちゃってばかみたい」

池山「君はいったい何がしたいの」

有希「怜菜と博人を仲直りさせたいだけ」

池山「それとキスは関係ないだろ、キスは」

有希「怜菜とどっちが良かった?」

池山「そんなのわからないよ」

有希「・・・・・・ひょっとして。怜菜とのが君のファーストキス?」

池山「そうだけど」

有希「あははは。最初が怜菜じゃなあ。あたしってば乗り遅れたわ」

池山「どういうこと?」

有希「きっと怜菜も初めてだったんじゃない? へたくそ同士がファーストキスか」

池山「(いったい何がしたいんだ有希は)いい加減にしろよ」

有希「ごめん。まあでもさ。これで君も冷静に怜菜と接することができるんじゃない?」

池山「もともと僕は冷静だよ」

有希「そうかもね。怜菜のことを前から好きだったわけじゃないもんね、君は」

池山「・・・・・・そうかも」

有希「でしょ? あたしにもキスされたことだし、もう怜菜のキスごときで動揺しないで
ね」

池山「今まで有希に抱いていたイメージが崩れちゃったよ」

有希「ごめんね。明日からはまた純真で男性経験の少ない女の子の振りをしてあげるから
許して」

池山「・・・・・・おい」

有希「じゃあね。ちゃんと怜菜と仲直りするのよ。それでも怜菜のことが欲しいならもっ
かい頑張ってみるといいよ」

池山「いや。自分の気持もよくわからないし、何よりもこれ以上怜菜を困らせたくないから」

有希「いろいろ決め付けないで白紙の状態で怜菜と向きあってみるといいよ。君たちが付
き合ってくれるとあたしも気が楽だし」

池山「だからさあ」

有希「実の兄妹だって言いたいんでしょ。わかってるよそんなこと」

池山「怜菜が結城のことを異性として意識してるなんて君の考えすぎだと思うけどなあ」

有希「あたしと結城君が仲良くしているところを見て突然帰るって言い出したでしょ?
それが証拠じゃん」

池山「・・・・・・そうかな」

有希「まあいいや。あたし結城君と待合わせだから。じゃあね」

池山(行っちゃった。あいつらは僕なんか恋人としては全く対象外のくせに、何でこうい
うことするんだ)

池山(まあいいや・・・・・・部室に顔だそう)


幼友「えらいえらい。ちゃんと窓際の席を確保したんだ」

兄「おまえがそう言ったんじゃねえか。大変だったんだぞ」

幼友「いいから座ってお昼にしよ。ほら奥に詰めて」

兄「え? おまえ向いに座ればいいじゃん。何でわざわざ隣に座るんだよ」

幼友「隣に座る方が恋人っぽく見えるじゃない。ほら、日替わり定食でよかった?」

兄(日替わりってとんかつかよ)

幼友「何露骨に嫌そうな顔してるのよ。しかたないじゃん。まだあんたの好みとか知らな
いんだから」

兄「いや、まだって。つうか何でもいいよ飯なんて」

幼友「・・・・・・ごめん」

兄「いやその(何で急にしおらしい表情になるんだよ、こいつらしくもない)」

幼友「じゃあさ。こっちを食べる?」

兄「なになに? って。おまえ自分に買ってきたのサラダだけ?(スタイルいいのにダイ
エットしてるのかな)」

幼友「サラダも食べていいけど。そうじゃなくてこれ」

兄「弁当? おまえいつも弁当持参なの」

幼友「うん。朝起きて作ってる」

兄「(マジかよ)まさかの自作か」

幼友「失礼ね。あたし、料理得意なんだよ」

兄「ふーん」

幼友「何よその薄い反応」

兄「まあ、最近はお弁当用の冷食がいっぱい売ってるしな」

幼友「そんなの使ってないよ。全部自作だって」

兄「それは意外だ」

幼友「よかったら食べて」

兄「いいよ。別におまえは本当の彼女ってわけじゃねえし」

幼友「ばか。声が大きいよ。周りにばれたらどうするのよ」

兄「悪い。ってそこまで真剣にすることかよ。だいたいゆうはおろか幼馴染みすらいない
のに、俺たちがいちゃいちゃしてどうすんだよ」

幼友「こういうのは普段からしてないと怪しまれるの! ちょっとは真面目にやんなさい
よ」

兄(こいつ。妹のためじゃなきゃ誰がおまえなんかと)

幼友「はい」

兄「え」

幼友「あーんして」

兄(ちょっとやりすぎだろ。かえって不審がられるんじゃねえの。これ)


兄「あのさ・・・・・・ってこら」

幼友「おいしい?」

兄「・・・・・・あのなあ。って、え?」

兄(何これ。まじで美味しい。料理の腕じゃ妹といい勝負なんじゃ)

幼友「次は肉豆腐だよ」

兄「こらよせ(妹の得意料理だ)」

幼友「ふふ。口についてるよ」

兄「誰のせいだよ誰の」

幼友「はい」

兄「・・・・・・自分で拭けるよ」

幼友「そう? あとは自分で食べて。はい」

兄「いやさ」

幼友「全部食べちゃっていいよ」

兄「おまえさ。料理上手なのな、意外」

幼友「・・・・・・あんたが誉めてくれるなんて思わなかったよ」

兄「いやマジで。妹と同じくらい上手だわ」

幼友「そこで自分の妹を引き合いに出すところがいかにもシスコンの君らしいよね」

兄「そうじゃなくてだな」

幼友「・・・・・・結城さんっていつも帰りが遅いのね」

兄「え」

幼友「だからゆうはあたしが面倒見てあげないと、いつもコンビニのお弁当かおにぎりで
夕食を済ませちゃうの」

兄「ゆうのために料理が上手になったわけか」

幼友「うん」

兄(忘れちゃいけない。こいつはゆうが好きなんだ。仮にこいつが言うようにゆうが俺の
ことを陥れようとしてるとしたら、幼友は俺と妹の敵なんだ)

幼友「ゆうって極端に偏食なんだ。だからゆうに食べさせるために苦労したよ」

兄「そういやゆうは妹の用意した夕飯を拒否したって妹が言ってたな」

幼友「ああ。あいつもバカだよね。妹ちゃんを狙ってたときなんだから無理にでも食べれ
ばよかったのにね。ああいうところが子どもなんだよね。ゆうは」

兄(妹がゆうに夕食を用意するのを断られたって悩んでたけど、あれが妹と仲直りするき
っかけみたいになったんだよな。そう考えるとゆうの自爆じゃんか)

幼友「まあ今はゆうの話はどうでもいい。これ食べて」

兄「どうでもよくねえだろ。おまえはゆうを自分に取り戻すためだけに恋人の振りなんか
してるんだし」


幼友「最初はそうだったよ」

兄「どういう意味だよ」

幼友「・・・・・・あのさ。あたし、妹ちゃんとかあんたと一緒に泊まったりバーベキューした
り水族館で遊んだりしたじゃん?」

兄「そうだけど(それだって自分の目的のために俺たちに近づきたかっただけと違うのか
よ)」

幼友「それってつまりね」

兄「ああ?」

幼友「つまり・・・・・・あ」

兄「さっさと話せよ」

幼友「もっとあたしのそばに寄って」

兄「え? いきなり何を」

幼友「早くして。ああ、もういい。あたしがあんたのそばに行くわ」

兄「ちょっと抱きつくなよ。だから何もそこまでしなくても」

幼友「幼馴染だ。外からこっち見てるよ。ほら」

兄「・・・・・・本当だ。何かすごい目で睨んでるな」

幼友「ふふ。狙い通りだね」

兄「何であいつが怒るんだろうなあ。幼馴染にはゆうがいるのにさ」

幼友「子どもだからでしょ。いらなくてポイ捨てした玩具でも、他人が拾って持っていこ
うとすると惜しくなっちゃうタイプなんじゃないの。あいつ」

兄「それはねえよ。俺にあそこまで酷いことを言っておいてさ。惜しくなんてなるわけね
えよ」

幼友「そう? まあそんなことはどっちでもいいのよ。彼女があたしたちを目撃したこと
が重要なの」

兄「何でだよ」

幼友「幼馴染からゆうにこの情報が伝わるからだよ」

兄「・・・・・・なるほど」

幼友「よかったね。これで妹ちゃんは再びゆうのターゲットにならないですむよ」

兄「そしておまえは再びゆうに求められるってことね。よかったな」

幼友「別にそんなこと・・・・・・」

兄「何で? それが最初からの目的だったんだろ」

幼友「・・・・・・幼馴染がいなくなった」

兄「うん。もう腕を離してもいいぞ」

幼友「・・・・・・」

兄「これだけ見せ付ければ十分だろ。恋人ごっこもこれで終わりだな」

幼友「・・・・・・そうだね」

兄「じゃあ、俺は行くわ。講義の前に下調べしておきた。っておい」

幼友「・・・・・・」

兄「・・・・・・(何なんだよ)いったい」

幼友「嫌だった?」

兄「・・・・・・百歩譲って演技の上でキスが必要だったとしても、幼馴染が消えたあとでキス
する必要はねえだろ。いったい何を企んでるんだよおまえは」

幼友「企むってひどい・・・・・・」


妹「おかえりお兄ちゃん」

兄「ただいま」

妹「どうだった?」

兄「どうって何が?」

妹「何、気取ってるのよ。お姉ちゃんと恋人ごっこしたんでしょ」

兄「何で幼馴染と俺が今さらそんなことをするんだよ」

妹「違うって。お姉ちゃんって幼友さんのことだよ」

兄「ああそうか」

妹「あんな女のことをあたしがお姉ちゃんなんて呼ぶわけないでしょ」

兄「まあそうだな」

妹「で?」

兄「で? って」

妹「作戦成功?」

兄「うん。幼馴染には目撃されたから多分ゆうにも伝わっていると思う。幼友はもうこれ
でおまえは安全だって言ってたよ」

妹「え? お兄ちゃんを大学の女の子たちから守るための作戦じゃなかったっけ」

兄「ああそうか(こいつにはそう言ってあったんだっけ)」

妹「どういうこと?」

兄「実はな」



妹「そうだったんだ。本当はあたしをゆう君から守るために」

兄「うん(さらにもう一つ隠れた目的もあるんだけどな)」

妹「よかったあ。これでゆう君に怯えることなくお兄ちゃんと暮せるのか」

兄「まあな」

妹「お姉ちゃんには感謝しないといけないね」

兄「まあそうかも(本当にそうなのか)」

妹「今日のご飯はお兄ちゃんの好きな肉豆腐だよ」

兄(マジかよ)

妹「ということはお姉ちゃんとお兄ちゃんの恋人ごっこもわずか一日で終わりなのか」

兄「そうなるね」

妹「お兄ちゃん残念そう」

兄「バカ言うな。俺はもう女なんかいらないの。生涯独身で研究に身を捧げるんだから」

妹「うん。それでその傍らには、一生独身で兄の研究生活を支える献身的な妹がいるんだ
ね」

兄「・・・・・・おまえは普通に恋愛して結婚しろよ」

妹「やだ」

兄「おい」

妹「夕ご飯の支度するから邪魔しないでよ」

兄「しねえよ」

兄(キス・・・・・・。そんな必要なんかなかったのに。いったい幼友って何を考えているん
だ)


今日は以上です
また投下します


兄(・・・・・・妹に弁当を持たされてしまった。こんなことは初めてじゃんか)

兄(昨日の出来事を知りたがった妹に根掘り葉掘り聞かれて、意外と幼友の弁当が美味し
かったって言ってしまったからだろうか)

兄(まさか嫉妬してるのかな。それとも料理の腕への競争心からか)

兄(そんな心配はいらねえのにな。今日からは幼友は単なる知人だ。もうあいつと恋人ご
っこをする必要はない。その証拠に待ち合わせ場所にはあいつの姿は)

幼友「おはよう」

兄「・・・・・・何でいるの?」

幼友「ちゃんとあいさつしなよ。今、あいさつ運動してるんだよ市役所で」

兄「・・・・・・ちょっと待て。おまえは何で」

幼友「あんたの志望している市役所じゃん。ちゃんとそれくらいは情報仕入れておかない
と、面接のときにぼろが出るよ」

兄「そういうことはどうでもいいんだよ。何でおまえがここにいるのかって聞いてるの」

幼友「あんたと一緒に登校するため。あたしたちは恋人同士なんだから」

兄「幼馴染に目撃されたんだからもう恋人ごっこする必要ないんじゃねえの」

幼友「それがそうでもないのよ。あいつに目撃されたからさ、ゆうから速攻で連絡来ると
思ってたのに何にもないの。もう少し続けた方がいいみたい」

兄「昨日の今日だぜ。気長に待てばいいじゃんか」

幼友「それにさ。いきなりよそよそしくなったら不自然じゃん? もう少し幼馴染に見せ
つけた方が真実味が出ると思う」

兄「・・・・・・まだ続けるのかよ」

幼友「妹ちゃんのためじゃない」

兄「むしろおまえのためだろうが」

幼友「今さらそれを蒸し返す?」

兄「・・・・・・わかったよ。でもいつまでもこんなことやってられねえぞ」

幼友「わかってるよ。あたしだって別に喜んでやってるわけじゃないよ」

兄「それはお互い様だからな」

幼友「じゃあ行こうか。今日は手を繋いで行くよ」

兄「はいはい」

幼友「そういうんじゃないの」

兄「ああ恋人繋ぎね」

幼友「そうそう。やればできるじゃない」

兄「さっさと行くぞ」

幼友「こら。引っ張るなよ」


兄(電車すげえ混んでるな。下りなのに何で今日に限って)

幼友「きゃ」

兄「大丈夫か?」

幼友「もうだめ。死にそう」

兄「(こいつ、人混みに揉みくちゃにされてるな。小柄だからなおさら辛そうだ)ほら俺
と替わってドアの方に体を移動させろよ」

幼友「うん。やってみる」

兄(何とかドア脇のスペースに幼友を立たせることができた。あとは俺の体でブロックし
てやれば)

兄(っていきなり急停車かよ。何十人分の体重をかけられるときつい)

兄(・・・・・・耐えないと幼友に全加重が行ってしまう。腕を突っ張って)

幼友「・・・・・・ありがとう」

兄「いや。もうすぐ駅だから我慢してな」

幼友「あんたこそ大丈夫?」

兄「なんとかな。文系で筋肉もないけどこれくらいは」

幼友「・・・・・・あいつもバカだよね。こんな優しい男を裏切るなんてさ」

兄「俺なんかじゃゆうの魅力とやらに勝てなかっただけだろ。妹も幼馴染もゆうに盗られ
たわけだし」

幼友「妹を盗られたって変なの。やっぱりあんたたちってお互いにそういう感覚なんだ」

兄「そこは突っ込むとこじゃねえだろ。って、マジで腕がつらい」

幼友「あたしに体重かけちゃっていいよ」

兄「それはいろいろとヤバイだろ(また急停車かよ。もう無理)」

幼友「あ」

兄「悪い。わざとじゃ」

幼友「・・・・・・うん。気にしなくていいよ。混んでるんだからしかたないって」

兄「ああ(何で赤くなって俯くんだよ。しかしこれだけ体が密着すると)」

兄(俺って今まで妹とか幼馴染みたいなスレンダーな女の子が好みだと思ってたし、貧乳
上等だったはずなんだけど)

兄(・・・・・・結構あるよな。当たっている感触から判断するに、DかEはあるんじゃ)

兄(小柄だけど胸はある。何かこういう子も悪くないのかもしれん)

兄(ってやべ)

兄(体の一部が反応しちゃった。何とか気がつかれないようにしないと)

兄(・・・・・・だめだ。身動き一つできない。幼友に押し付けてる状態のままどうすることも
できない)

兄(気づかれてるかな? 相変わらず顔を赤くして俯いてるんでよくわからん)

兄(ひたすら気まずい)


幼友「すごい混んでたね」

兄「今日何かイベントでもあるのかな」

幼友「さあ」

兄「一日分の体力を使い切った感じだ」

幼友「ふふ。ありがとね」

兄「別にいいよ」

幼友「さすがはあたしの彼氏だ。あたしって何か白馬の王子さまに守られているお姫様み
たい」

兄「そういう恥かしいことを真顔で言うなって」

幼友「今まではあたしがゆうに尽くすばっかだったからなあ。あんな風に彼氏に守られた
のって初めてかも」

兄「いや。あくまでも偽装彼氏な」

幼友「わかってるよ。一々そういうどうでもいい細かいところに突っ込まないでよ」

兄「どうでもいいって」

幼友「ほら。学校行くよ」

兄「わかったから。そんなに引っ付くなよ」

幼友「恋人同士なんでしょ? 付き合い出したばっかの初々しい二人ならこれくらするっ
て」

兄「そうかあ?」

幼友「まあ、あまりいそういう経験のないあんたは、経験者のあたしの言うとおりにして
れば大丈夫だって」

兄「・・・・・・悪かったな(ちょっとむかつく。言ってることは正しいし、確かに童貞だけど
さ)」

幼友「何で黙っちゃったの。怒った?」

兄「別に」

幼友「冗談だって。軽い冗談。あんたは格好いいしもててるって」

兄(こいつ。ふざけんな)

幼友「ごめん。本当に冗談なの。お願いだから怒らないでよ」

兄「・・・・・・別に気にしてねえよ」

幼友「嘘だ」

兄「嘘じゃねえよ(嘘じゃねえもんな。幼友の言ってることって)」

幼友「ちょっと軽口を叩いただけだよ。君を狙っている子って本当に知ってる限りでも三
人は入るんだよ」

兄「だって誰か教えてくれねえじゃん。そんなことは信じられねえな」

幼友「本当だって」


兄「まあそれはいいからさっさと行こうぜ」

幼友「あたしさ、一応妹ちゃんに約束したしね」

兄「何の話だよ」

幼友「虫除けにならないといけないからさ。あんたにその子たちを教えるとあんたがその
気になっちゃうかもしれないし」

兄「俺はもう女とかはいいや。幼馴染みに裏切られたばっかだし」

幼友「嘘付け」

兄「何でだよ。嘘じゃねえよ」

幼友「妹ちゃんのことはどうなのよ」

兄(正直、ここ最近は妹のことが気になっている。つうか、本音で言えば女の子として大
好きなのかもしれん。でもお互いに一生いい兄妹でいようという感じに落ち着いているわ
けだし、何よりこういう妹本人にすら話していない感情を幼友なんかに言う必要はないよ
な)

兄「仲の悪かった兄妹の距離が縮まって嬉しい。でもそれだけだよ」

幼友「まあいいや。とにかく今日も恋人同士だからね」

兄「・・・・・・いったい、いつまでやる気だよ」

幼友「ゆうがあたしに接触してくるまでね」

兄「もう時間の問題じゃねえかな。幼馴染には目撃されてるんだし」

幼友「時間の問題かもね。だからそれまで付き合って」

兄「わかったよ。もう行こうぜ」

幼友「ほら」

兄「わかったよ。手を繋げばいいんだろ」

幼友「それでいいよ。行こう」

兄「はいはい・・・・・・って何か鳴ってるぞ。おまえじゃねえの」

幼友「LINEだわ」

兄(画面が見えた。ゆうからじゃん・・・・・・って、え?)

幼友「友だちからだ。行こうか」

兄「ちょっと待てよ。今のってゆうからじゃん」

幼友「・・・・・・見たの」

兄「見たんじゃなくて見えちゃったんだよ。つうか開けよ。待ってたんだろ? ゆうから
の接触を」

幼友「一限に遅刻しちゃうし、あんたを付きあわせたら悪いから。後で読むよ」

兄「おい、ちょっと待て。恋人ごっこをしてまで欲しかったゆうからのメッセージだぞ。
読んでくれよ」

幼友「うっさいなあ。あんた、それってプライバシーの侵害だよ」

兄「おまえなあ」

幼友「あ。ほらあの子」

兄「話を逸らすなよ。あの子が何だって言うんだよ」

幼友「あれがあんたを狙っている三人のうちの一人ね」

兄(え? マジで)


兄(え? 普通に可愛いじゃん。つうか俺のことが好きな子なんて、仮にいたとしても地
味な子だと思い込んでたんだが、あれなら・・・・・・・)

幼友「あの子、こっち見てるよ。ほら」

兄「何だよ」

幼友「もっとあたしにくっつけよ」

兄「幼馴染とかゆうとかはいないんだからさあ」

幼友「あの子にも見せ付けなきゃだめでしょうが。妹ちゃんと約束したんだし」

兄(あ。俺から目を逸らして行っちゃった。こいつのせいだ)

幼友「あたしいのせいだとか思ってないよね?」

兄「別に思ってねえよ」

幼友「勘違いするなよ。あたしは妹ちゃんから託された使命を果たそうと思ってるだけな
んだから」

兄「それはいいけどよ。おまえ、話題が逸れたとか思ってねえだろうな」

幼友「なによ」

兄「さっさとゆうのメッセージを見ろって」

幼友「後で見るよ」

兄「今見ろよ。内容が気になるじゃんか」

幼友「あんたさあ。人の個人的なメッセージを見るつもり? さすがにちょっときもいよ
それ」

兄「ふざけんなよ。何のためにおまえなんかとこんなつまんない猿芝居をしていると思っ
てるんだよ」

幼友「・・・・・・」

兄「いや、その」

幼友「そうだよね。君には迷惑だったよね」

兄「いや、そういうことじゃ」

幼友「ごめん」

兄「いや。妹のためでもあるしお互い様なんだから迷惑なんて思ってねえよ」

幼友「本当?」

兄「(何その今までのキャラに似合わない可愛い上目遣い)本当だって」

幼友「よかった。じゃあ仲直りね」

兄「ああ」

幼友「じゃあ、手を繋ぎなおして講義に行こうか」

兄「ちょっと待て」


幼友「お互いに理解しあえたのに今度は何よ」

兄「だから。LINE見ろって」

幼友「しつこいなあ」

兄「頼むから見てくれって。俺だって妹の安全がかかってるんだぞ」

幼友「じゃあ見るけど。あんたは覗かないでよ」

兄「何でだよ」

幼友「覗くつもりなら見ないからね」

兄「何でそこにこだわるんだよ。まあいいけど。でも内容は教えてくれよな」

幼友「あんたって、あたしへのストーカーなのかよ」

兄「ちげえよ。ゆうがどう反応するのか知りたいだけだよ」

幼友「・・・・・・しかたない。あんた、ちょっとあっちの方見てて」

兄「(そこまでさせるか?)わかった」

幼友「・・・・・・」

兄(・・・・・・まだかよ。どんだけ長いメッセージなんだよ)

幼友「・・・・・・読んだよ」

兄「何だって?」

幼友「・・・・・・あたしに会いたいって。一刻も早く」

兄「おおー。やったじゃん。それで?」

幼友「・・・・・・幼馴染のことは好きでも何でもない。向こうから必死でアタックされたから
可哀そうになって少しだけ付き合ってただけだ。俺にはおまえしかいないってさ」

兄「それって・・・・・・(複雑な心境だ。俺のことをあれだけ傷つけてまでゆうに走った幼馴
染にはざまあって感想は正直あるんだけど)」

兄(それにしてもなあ。確かに今の俺には幼馴染への未練は何もないけど。それでもゆう
が余計なことをしなければ幼馴染だってあんな態度には出なかったんだし。これから幼馴
染ってどうなっちゃうんだろ)

兄(でももういい。俺としてはこれからは妹と兄妹仲良くやっていけばいい話だし、別に
彼女なんかいなくてもいい)

兄(でもなあ。ゆうに振られた幼馴染は・・・・・・)

兄(いや。もうそれは考えてもしかたない。とりあえずゆうの危険な視線が妹に戻って来
なかっただけでもよしとしないと)

兄(幼友には感謝しないとな。あのまま俺と妹が単純に二人暮しをしていたら、ゆうの目
標は再び妹に戻っていたかもしれないんだし)


兄「よかったな幼友」

幼友「あんたに言われたとおり、ちゃんとゆうのLINE読んだんだからもういいでしょ。講
義に行くよ」

兄「いや。既読にして無視するなよ。返事出せって」

幼友「いちいちうっさいなあ。あんたはあたしの母親か」

兄「そうじゃねえけどさ。せっかくおまえの大好きなゆうがおまえにメッセージを。って
おい」

幼友「もう行くよ、ほら」

兄「ちょっと待て」

幼友「今度は何よ」

兄「今となっては手を繋ぐ必要なくね?」

幼友「必要ならあるよ」

兄「いったい何考えてるの。おまえの目的は成就したんだろうが」

幼友「・・・・・・」

兄「何だって?」

幼友「まだって言ったの」

兄「まだって、どういう意味だよ」

幼友「まだ十分じゃないと思う。メッセージの一つであたしがそんなに簡単に靡いちゃっ
たらゆうが疑うかもしれないし」

兄「はい? もともとゆうに浮気されたから腹いせに俺と付き合ってとことにすれば別に
問題ねえだろ。なんだったらおまえを失って辛そうな振りを俺がしてやるよ。もともとゆ
うは俺を苦しめたかったんだろ?」

幼友「そんなの無理に決まってるでしょ。あたしのフォローがないとろくに演技もできな
いくせに。あたしなしで失恋した様子なんかあんたにできるわけがないよ」

兄「ちゃんとやるって」

幼友「むしろ、あんたは妹ちゃんとそこら中でイチャイチャするに決まってる。あんたが
しなくても妹ちゃんが絶対にそうするよ。そしたらゆうはまた妹ちゃんを狙うよ? それ
でもいいの」

兄「なんだかよくわからなくなってきた(複雑すぎるだろ。そもそも妹もこいつもちょっ
と考え過ぎなんじゃねえの)」

幼友「もう少し恋人ごっこを続けよう。その方がお互いのためだって」

兄「いつまで?」

幼友「そうだ。ゆうに返信しておこ」

兄(突然、何言ってるんだ)

幼友「ほら返事したから見てみ」

兄(俺には見せないんじゃなかったのかよ)

「ゆう、あんたうざい。あたしは兄君と付き合ってるんだから、もうあたしには連絡しな
いで。あたしと兄君の仲を邪魔するな。あんたは幼馴染と付き合ってるんでしょ? あた
しに会いたいとか意味わかんない。あたしはゆうみたく不誠実な浮気男じゃなくて、いつ
だってあたしを守ってくれる兄君のことを裏切る気なんかこれっぽちもないんだから。も
うあたしと兄君の邪魔をしないで」

兄「・・・・・・これ、送ったの?」

幼友「うん」

兄「何だよこれ。本当におまえって何考えてるんだよ」



幼馴染「・・・・・・兄君。ちょっといいかな」

兄「幼馴染(このタイミングでこいつかよ)」


今日は以上です
また投下します


幼馴染「今さら君の前に顔を出せる立場じゃないことはわかっているの」

幼友「何だ。わかってはいるのか。そこから説明してあげなきゃいけないのかと思ってた
よ。それをわかっていながらいったい何であんたは兄の前にいるの」

幼馴染「・・・・・・」

兄(何だ。ずいぶんしおらしくなってるけど。やっと少しは自分がひどいことしたって自
覚したのか?)

幼友「何とか言いなさいよ」

幼馴染「・・・・・・ねえ、お願い。聞いて。あたし君に謝りたくて」

兄(マジかよ)

幼友「騙されるな」

兄(え・・・・・・幼友が耳もとで囁いてる)

幼馴染「思い出しなよ。前にこいつに会ったときに何を言われたのか」

兄(そうだ。最近はあまり思い出さなくなってたけど)



「・・・・・・もう一度だけチャンスをくれないかな」

「彼のこと、ガキなんて言わないで」

「だって。このままじゃ家から追い出されそうなの」

「君があたしとやり直すことにしたってお母さんに言ってくれれば、あたしは家を出なく
てすむし、自分の気持を確かめるためにゆう君と会ったとしても、君がフォローしてくれ
ればお母さんにはばれないと思う」



幼友「騙されるな。こいつは反省なんかしてないよ。ゆうに捨てられたから、保険のつも
りであんたにすがりついてきたのか、それとも・・・・・・。吐くほど、気分が悪くなるほどひ
どいことをこいつにされたことを忘れないで」

兄(・・・・・・そうだ。もう聡明で明るく優しい幼馴染なんかいないんだ。何を考えているの
かわからない幼友だけじゃなくて、妹だってそう言われたじゃんか)

幼馴染「・・・・・・何で君と幼友が一緒にいるの」

兄「・・・・・・」

幼友「何で? 知ってるくせに。あたしと兄は付き合ってるからだよ。昨日だってあたし
たちが二人きりでいるところを見てたじゃん、あんた」

幼馴染「兄君、本当?」

兄「え」

幼友「本当だよ」

幼馴染「あなたには聞いていないよ」

幼友「だってあたし兄の彼女だもん。言う権利も資格もあると思うけど?」

幼馴染「兄君?」

幼友「あんたさ。いったい何しに来たの。あんだけひどいことをあたしの彼にしておいて
さ。今さらよく抜け抜けと顔出せたよね」

幼馴染「・・・・・・兄君。何か言ってよ、お願い」

幼友「当ててあげようか。あんたさ、ゆうに振られたんでしょ」

幼馴染「え・・・・・・」

幼友「図星かよ」

幼馴染「・・・・・・」

幼友「ねえ、兄」

兄「うん」


幼友「今さらこんなやつと話すことなんかないでしょ。あんただって言ってたじゃん。あ
れだけひどいことをこの女にされたけど、今ではこの女には未練も恨みすら感じないって。
無関心だって」

幼馴染「・・・・・・兄君」

幼友「あんたに教えてあげるよ。あたしはゆうとよりを戻すつもりなんかないよ。それが
心配だったんでしょ」

幼馴染「・・・・・・」

幼友「何、泣いてるのよ。あたしにゆうを盗られないか心配だったんでしょ。そのために
謝るとか嘘をついて兄とあたしの仲を探りに来たくせに」

兄(ちょっと。本当なのかよ。それとも何らかの理由で幼友がフェイクをかましてるの
か)

幼友「何黙ちゃってるの。反論してみなよ」

兄(・・・・・・何かさすがに幼馴染がかわいそうな気がしてきた。でも、そう思えるのも妹と
か幼友のおかげなんだろうな。少なくとも今の幼馴染には未練はないし、恨みすら薄れつ
つある。これって絶対妹のおかげだ)

兄(・・・・・・あと。認めたくはないけど幼友のおかげでもあるかも)

幼馴染「あたしはただ、謝りたくて」

幼友「・・・・・・ねえ。これだけは答えてくれる? そしたらあたしはあんたがあたしの彼氏
に話すことを邪魔しないって約束するよ」

兄(何言ってんだこいつ)

幼馴染「・・・・・・どういうこと」

幼友「本心から答えて。そしたら答えがどうでもあたしは邪魔しないから」

幼馴染「何なの」

幼友「あんたはさ。今自由に彼氏を選べる立場だったとしたら、ゆうと兄のどっちを選
ぶ?」

兄「何言ってんだおまえ」

幼馴染「どっちを選ぶって。あたしにはそんな権利はないし」

幼友「そんなことはどうでもいいのよ。あんたに権利なんかないことなんか知ってる
よ。あたしは選べる立場だったらって言ったのよ」

幼馴染「そんなの」

幼友「悔しいけどあんたと兄には長年積み重ねてきた共通の思い出とかがあるよね」

幼馴染「信じてくれないかもしれないけど」

幼友「あたしに言うな。兄に言えよ」

幼馴染「兄君との思い出はあたしにとっては今でもかけがえのない貴重な宝物だよ。これ
は本当なの」

幼友「それで?」

幼馴染「それでって・・・・・・」

幼友「兄との思い出が宝物なのはわかった。今、あんたは選べる立場にないって言ったよ
ね」

幼馴染「うん」

幼友「あたしが選べる立場にしてあげる」

兄(何言ってるんだこいつ)

幼馴染「どういうこと」

幼友「さっそく食いついたね。こういうことよ。あんたが兄のことが好きなら、あたしは
兄から手を引くわ」

幼馴染「え」


幼友「逆にゆうのことが好きなら、あたしは二度とゆうとは付き合わない。兄と付き合い
は続けるけどね」

幼馴染「何でそんなこと言い出したの」

幼友「何でだっていいでしょ。どう? これであんたにも自分の選択した結果が実現する
可能性が増えたじゃない。本当に後悔して兄にやり直しを求めるなら邪魔なあたしは消え
るんだし。やっぱりゆうのことが好きならさ、あたしがゆうを相手にしない方があんたに
とっては有利でしょ」

幼馴染「・・・・・・だって。そんなの決められない」

幼友「決めて。でないとあんたは両方を失うことになると思うよ。ゆうはあたしとよりを
戻したいからあんたと別れるって言ったんでしょ? どうせ」

幼馴染「・・・・・・何で知ってるの」

幼友「そして兄が好きなのは今ではあたし。さあ、どうする? どっちかでも自分のもの
にしといた方がいいよ? 全てを失って一人ぼっちになる前に」

幼馴染「・・・・・・あたし、ゆう君に捨てられたくない。ゆう君のことが好きなの」

幼友「・・・・・・」

兄(・・・・・・やっぱりなあ。救われねえなあ、こいつも)

幼友「やっと本音を言ったか。じゃあ、約束どおりあたしの彼に話しかけてもいいよ。た
だし、講義に間に合う時間までね。兄には目標があるんだからあんたなんかには邪魔させないよ」

幼馴染「兄君。ごめんね、ごめんね」

幼友「安心しなよ。兄はもうあんたのことなんか何とも思っていないから」

幼馴染「・・・・・・」

幼友「ごめんねってだけでいいの? そんなことのために兄の貴重な勉強時間とかあたし
たちの幸せな時間を邪魔したの」

兄「おまえさ。捨てられたのに、まだゆうにしがみきたいの?」

幼馴染「ゆう君は幼馴染とやり直したいって言ってたけど。それは一時の気の迷いだと思
う。それに・・・・・・」

幼友「心配しなくても約束は守るよ」

幼馴染「うん」

兄「それならよかったね」

幼馴染「許してもらえないかもしれないけど。君には本当にひどいことしちゃった。それ
を謝りたくて」

兄「わかった。もういいよ」

幼馴染「え」

兄「許すよ、おまえのこと」

幼馴染「でも、あんだけひどいことを君にしたのに」

兄「もういいって」

幼馴染「それじゃ、あたしの気がすまないっていうか」

兄「本当にもう気にしてないからさ。おまえも忘れろ」

幼馴染「・・・・・・」

幼友「もういい? じゃ、行きましょ」

兄「うん。行こうか・・・・・・あ。俺はもうおまえとは仲直りしてもいいけどさ。妹はだいぶ
おまえのことを恨んでるんで、当分は妹には近寄らないでやってな」

幼馴染「・・・・・・あの。君って本当に幼馴染と付き合って」

兄(大きなお世話だろ)

幼友「早く行こうよ」


兄「わかったって。じゃあな、幼馴染」

幼友「またね」

幼馴染「・・・・・・あ。ちょっと待って」



兄「・・・・・・」

幼友「・・・・・・」

兄「・・・・・・こら」

幼友「何よ」

兄「何か言えよ」

幼友「大好きだよ」

兄「おまえなあ。いい加減にしろ」

幼友「冗談だって」

兄「いったいさっきのは何だよ。おまえはゆうとよりを戻したいんじゃなかったのかよ」

幼友「正確に言うとそうじゃないけどね」

兄「ふざけんなよ。自分でそう言ったんだろ」

幼友「そんなことよりさ。結局あいつ、何しに来たんだろうね」

兄「・・・・・・え?」

幼友「なんて顔してるのよ」

兄「話を逸らすなよ。てかおまえさ、一方的に幼馴染を責め立ててたじゃんか。あいつが
何考えていたのかわかってたからあんなに冷静に対応できたんじゃねえの」

幼友「わかってたつもりだったから、あんたにもああ囁いたんだけどね。でもよく考える
とさあ」

兄「よく考えると何だよ」

幼友「あいつの意図ってもっと深いところにあったのかも」

兄(もうわけわかんねえよ。ゆうに捨てられて保険のつもりで俺に会いに来って言ってた
じゃんか。あるいは幼馴染はゆうを幼友に盗られたくなくて、俺と幼友の様子を探りに来
たんじゃねえのかよ)

幼友「あの女。やっぱりあんまり舐めちゃいけないかもね」

兄「どういうこと?」

幼友「あの子、結構本気でさ、あんたと復縁しようと思って来たのかもよ」

兄「それはねえよ。あいつはっきり言ってたじゃん。ゆうに捨てられたくない。ゆうのこ
とが好きだって」

幼友「うん。それはあたしが本音を言えばゆうとは付き合わないって言ったから急に方針
を変えたのかもね」

兄「それまではどんなつもりだったんだ?」

幼友「方針転換するまでは、幼馴染は本気であんたと復縁したがってたのかも」

兄「さっきから何だよ。あり得ねえだろうが。俺のことが好きならおまえが二択を迫った
時点で俺を選ぶだろうが」

幼友「その辺があの子の正直なところだよね。この場合は正直なのが美点だとは全然思わ
ないけどさ」

兄「もったいぶってないでさっさと説明してくれよ」

幼友「幼馴染はゆうと付き合っているうちに気が付いたのかもよ。ゆうがあんたのことを
憎んでいるのかもって」

兄「そうかもしれないけど、それが?」


幼友「幼馴染はあんたと復縁してゆうに嫉妬させたかったんじゃない? そうすればあん
たへの嫉妬心からゆうがまた自分を求めるんじゃないかと思ってさ」

兄「よくわかんねえなあ。何でおまえってそんなに物事を複雑にしたがるんだよ。考えす
ぎだって」

幼友「・・・・・・それならいいけど」

兄「まあいいや。とにかく俺と幼馴染は本当にこれで終わりだ」

幼友「あんた、ちょっとだけ寂しかったりして」

兄「そうじゃねえけどさ。本当に俺が好きだった幼馴染は今度こそ本当にいなくなったん
だなあっていう感慨はあるよ」

幼友「無理ないね。でもすぐに忘れるよ。じゃあ講義に行こうか」

兄「ちょっと待て」

幼友「どしたの?」

兄「幼馴染のことはもういい」

幼友「うん。すっきりしてよかったね」

兄「おまえに聞きたいことがあるんだよ」

幼友「今度は何なのよ。意外と兄って面倒くさい性格してたのね」

兄「そう思われたっていいよ」

幼友「あんたには目標があるんでしょ」

兄「ああ」

幼友「お父さんと同じ研究の道に進む。そのためには一生独身だっていい」

兄「あ、ああ」

幼友「そしてその傍らには兄と同じく一生独身で献身的に兄を助ける妹ちゃんの姿が」

兄「ちょっと待て。何でおまえがそれを知ってる」

幼友「うふふ。あたしってばエスパーかも」

兄「・・・・・・道理で妹が夜になっても寝ないでスマホを弄ってたわけだ」

幼友「本当にいつも一緒に寝てるんだ。兄妹なのにさ。あはは」

兄「あははじゃねえ。つうかそんなことはどうでもいいんだよ」

幼友「さっきから何よ」

兄「何でゆうにあんな返事をした? せっかくおまえの望みが敵うのに、あんな返信する
必要はないはずだよな。それに何で幼馴染にあんなことを言った?」



「ゆうのことが好きなら、あたしは二度とゆうとは付き合わない。兄と付き合いは続ける
けどね」


幼友「・・・・・・」

兄「幼馴染はゆうが好きって言ってたよな。おまえは約束を守って二度とゆうと付き合わ
ないつもりか? まさか本気で俺と付き合うつもりじゃねえよな」

幼友「あたしは幼馴染とは違うし。妹ちゃんが悲しむことはしないよ」

兄「返事になってねえよ」

幼友「あたしさ。妹ちゃんのこと好きだよ。ゆうの影響を受けなかった初めての女の子だ
し」

兄「どうでもいいよ。それよか、おまえがゆうにあんな返事をしたのって、ひょっとして
俺との恋人ごっこを引っ張って、ゆうに今より更に嫉妬させるためか?」

幼友「あんたは本当によく見てるね。つうか妹ちゃんといいあんたといい超能力者かよ」

兄「(それはこっちのセリフだ)じゃあ、やっぱりそういうことかよ」

幼友「あんたと妹ちゃんにとってはさ。ゆうは敵じゃん」

兄「当たり前だろ」

幼友「うん。でもさ、あたしにとっては違うのね」

兄「そんなことはわかってる。だから聞いてるんだろうが」

幼友「だけどさ。あたしはあんたと妹ちゃんだって嫌いじゃないし」

兄「何だって」

幼友「わからない?」

兄「おまえがゆうを今以上に自分に執着させようとしていることはわかった。でもそれ以
上はわからねえな」

幼友「ふふ。もう行こう。本当に講義に遅れちゃうよ」

兄「(またうやむやにされたか)今日も履修登録してないのに一緒に講義に出るの」

幼友「その時間は空いてるんだから別に問題ないじゃん。行こうよ」


兄(しかしよく寝るな、こいつ)

兄(俺に寄りかかって気持ち良さそうにさ。こんだけシリアスな状況なのに悩みなんかな
さそうな寝顔しやがって)

兄(・・・・・・考えすぎは俺の方かもな。妹よりもこいつよりも俺のメンタルが一番弱いじゃ
んか。何度もゆうや幼友なんかもうどうでもいいと決めたのに、幼馴染と顔を合わせたく
らいで悩んでどうする。もっと心をしっかりともたないとな)

兄(妹と二人きりの生活だって維持しなきゃいけないし。金の面ではじいちゃんたちのお
かげでクリアしたけど、それだけで全部が解決するわけじゃねえし。それに最近、専門の
勉強がちっとも進んでいない。せっかくインターンが希望の研究所にきまったっていうの
にこれじゃ駄目だ)

兄(しかし本気で熟睡してるよこいつ。先生に見つかったらどうすんだよ、いったい。そ
れに周囲の何気なさを装ったガン見も感じるし)

兄(ゆうが幼友の目論見どおり釣れたんだから、もう恋人ごっこなんかしなくてもいいの
に。念のために駄目押ししとくってことなんだろうけど。よく考えれば妹はもう大丈夫だ
と思うし、それに仮に妹がゆうのことをまた気にするようになったとしたって、俺が止め
る問題じゃない。俺は妹の気持ちには応えられないんだし)

兄(そう考えて行くと、やっぱり幼友俺がと付き合っている振りを続ける理由はもはやな
いじゃん)

兄(幼友がゆうを寄り執着させるためにやっている猿芝居に何で俺がこれ以上付き合う必
要があるんだ。何か腹が立って)

兄(・・・・・・こないな。不思議なことに。いつのまにか幼友のこと、憎めないようになって
るじゃん。妹が懐いているっていうのもあるんだろうけど)

兄(異性として気になるかと言われれば、正直それはない。不自然だとか反社会的と言わ
れたとしても今は妹の方が気になっている。でも)

兄(でも。幼友のことは嫌いじゃない。出会いがああだったし、ゆうの彼女だったという
こともあって親しくなろうとか思ったことはなかたったけど、連休以降は・・・・・・)

兄(まあいいや。妹公認でやってることなんだからもう少しだけ付き合うか。まさか、ず
っとこの状態を続けるつもりは幼友にだってないだろうし)

兄(だよな? つうか、こいつって本当にゆうとやり直す気があるのか)

兄(ちぇ。俺だけ悩んでバカみたいじゃんか。幼友はだらしなく寝てるし)

兄(だらしなく・・・・・・。というよりちょっと可愛い寝顔かもしれないけど。でもそれは関
係ねえし)


兄「おい。起きろって」

幼友「うっさいな。もうちょっと寝かせてよ」

兄「もう講義終ったぞ。起きないならここに置いてくからな」

幼友「眠い~」

兄「いい加減にしろって」

幼友「もう朝?」

兄「てめえ何言って(あ、近くにいた女の子たちに笑われた。こいつ、俺をゆうと勘違い
してるんじゃねえのか)」

幼友「・・・・・・へ? ああ、何だ。ここは大学だっけ」

兄「いつまで寝ぼけてるんだよ。昼飯どうすんだ」

幼友「あんたか」

兄「いったい誰だと思ってたんだよ」

幼友「ゆうだと思った。一緒に寝てた夢見てたよ」

兄「そうか」

幼友「うん。ごめんね」

兄「別に俺は関係ねえし」

幼友「少しはあたしの元彼に嫉妬しろよ。あたしの今彼なんだから」

兄「俺はおまえの彼氏じゃねえ」

幼友「どこに耳があるかわからないでしょうが。真面目にやりなさいよ」

兄「(もう少しだけ付き合ってやろうと思えばこいつ)いいから行くぞ。飯食おうぜ」

幼友「中庭の噴水のとこ行こうよ。お弁当作ってきたよ」

兄「あ、悪い。今日は俺も家から弁当持ってきたんだ」

幼友「そうか。妹ちゃん?」

兄「あ、うん」

幼友「じゃあいいや。でも、一緒には食べるでしょ?」

兄「いいよ。行こう」

兄(そんな必要なんかないのになぜか少しだけ罪悪感。こいつってひょとして二人分作っ
て着ちゃったのかな。俺のせいでも妹のせいでもないんだけど。何かちょっとだ
け・・・・・・)





兄(同情した俺がバカだった。もう動けねえ)

幼友「そんなに急いで食べなくてもよかったのに」

兄「おまえなあ。弁当を二個も食ったんだぞ。掻き込まなきゃ食えねえよ」

幼友「だって妹ちゃん可哀そうじゃん。せっかくあんたのために作ったのに」

兄「おまえの用意した弁当を食わないという選択肢は俺にはねえのかよ」

幼友「あんたなら食べてくれるって思ってたよ。ありがと」

兄「(微笑んだな。滅多に感情を見せないこの女が)ちょっとこのまま休んでいい? 動
ける気がしないし」

幼友「明日の休み、一緒に出かけるからね」

兄「(そこまで演技する必要なくね?)休みの日ぐらい妹と一緒にいてやらないと」

幼友「問題ないよ。妹ちゃんとは打ち合わせ済みだから。三人でデートしよ」

兄「いつの間にそんな根回しを」

幼友「ダブルデートじゃなくてトリプルデートだね。両手で花でさ、あんたも嬉でしょ」

兄(・・・・・・)


今日は以上です
また投下します


妹「お兄ちゃん」

兄(・・・・・・)

妹「お兄ちゃんてば」

兄「・・・・・・何だよ、うるせえな」

妹「遅刻しちゃうからいい加減におきてよ。どんだけ寝るつもりよ」

兄「(遅刻?)げ、やべ。今何時だ・・・・・・って一限、完全に遅刻じゃん。何でもっと早く
おこしてくれなかったんだよ」

妹「今日は休みだけど」

兄「あ、そうか。よかった。じゃあ、もう少し眠れるな」

妹「こら。寝るな」

兄「何だよいったい」

妹「遅刻しちゃうから、早くおきて支度してよ」

兄「だから土曜日は大学はねえの」

妹「いつまで寝ぼけてるのよ。今日は遊びに行くんでしょ。お姉ちゃんと待合わせしてる
のに遅れちゃうじゃない」

兄「そうだっけ?」

妹「そうだよ。ちゃんと昨日言ったでしょ」

兄「そういや何か聞いたかも(レポート作成に夢中だったからな。聞き流してた。つうか
幼友もそんなこと言ってたっけ」

妹「歯磨いて顔洗って着替えて。すぐに出かけるよ」

兄「・・・・・・昨日は夜中までかかったし、眠いんだけど。それに朝飯は?」

妹「もう食べた」

兄「そうじゃなくて俺の朝飯」

妹「そんな時間ないし。それにお兄ちゃんは今日は朝ごはんは食べない方がいいかも」

兄「何で?」

妹「お姉ちゃんもお弁当作ってくるって言ってたし、あたしも作ったから」

兄「・・・・・・まさか。また二人分食べろって言うんじゃないだろうな」

妹「昨日だって食べたんだから、今日だって大丈夫でしょ」

兄「簡単に言うなよ。結構苦しかったぞ。つうか俺はおまえの弁当でいいよ。何で俺が幼
友の弁当を食わなきゃいけないのか理解できないんですけど」

妹「お兄ちゃん・・・・・・。あたしのお弁当の方が好きなの?」

兄「え。いや・・・・・・まあそうかな」

妹「ふふ。ありがと、お兄ちゃん。そう言ってくれるとすごく嬉しい」

兄「まあ、俺にとっておまえの料理はお袋の味だしな」

妹「嬉しいけど、今日はお姉ちゃんのも食べてあげてね」

兄「何でだよ」

妹「何でもだよ。ほら、さっさと支度して」


妹「あ、いた。あそこに車止めて」

兄「わかった」

妹「お姉ちゃん、こっちこっち」

幼友「こんちは」

妹「会いたかったよお姉ちゃん」

幼友「あたしもよ、妹ちゃん」

妹「兄の運転じゃ不安でしょうけど、我慢して乗ってね」

幼友「あはは。連休中に経験したからもう慣れたよ」

兄(てめえら)

妹「お姉ちゃん、助手席に乗る?」

幼友「いいよ。そこは妹ちゃんの専用席でしょ」

妹「あたしは後部座席でもいいよ」

兄(いいのかよ。何か少しだけ寂しい。妹って俺のこと好きなんじゃねえのか)

幼友「でもやっぱりいや。兄の運転する助手席って気分悪くなりそうだし」

妹「それもそうですね。ジェットコースターみたいですしね」

幼友「それもあるけど、いきなり予想と反対の方向に曲がったりするから心臓に悪いじゃ
ん?」

妹「うちのお兄ちゃんは方向音痴だから」

兄(・・・・・・おまえらいい加減にしろよ)

幼友「とにかく助手席は兄の彼女である妹ちゃんに譲るよ」

妹「彼女じゃないですよ」

幼友「ああ、そうか。でも赤毛のアンのマシューとマリラみたいに、兄と死ぬまで二人で
一緒に暮すんでしょ?」

妹「あ、だめですって。それはまだお兄ちゃんには内緒なの」

幼友「ごめん。散々妹ちゃんの未来設計図を聞かされてたから、つい口から出ちゃった」

妹「・・・・・・もう。お姉ちゃんたら」

幼友「顔赤くしちゃって。妹ちゃんって本当に可愛いね。ゆうが最初に目を付けたのもわ
かるわ」

妹「お姉ちゃん!」

幼友「悪い。ちょっと言い過ぎた」

妹「もう行こうよ。お姉ちゃん、早く車に乗って」

幼友「うん」

兄(何でこいつらこんなに仲良くなってるんだよ。出会いは修羅場だったよな?)

妹「ほら。車出してお兄ちゃん」


兄「わかった・・・・・・って、どこ行きゃいいんだよ」

妹「昨日話したでしょ。ちゃんと聞いてなかったの」

兄「聞いてたよ」

妹「じゃあ何でどこに行くのかわからないのよ」

幼友「兄は集中すると他のことは全く気にならなくなるとか、そういうところあるよね。
まあ、だから佐々木とかに認められるほどレポートとか論文の質が高いんだろうけど」

妹「本当ですか」

幼友「本当だよ。学部生の書いた論文のレベルじゃないって言ってたよ、佐々木」

妹「やった」

幼友「・・・・・・妹ちゃんってば本当にブラコン」

妹「そうですけど?」

幼友「うふふ」

妹「へへ」

兄「あのさあ」

幼友「何よ。またあんた聞き耳立ててたの? どんだけ自分の噂が気になるのよ」

兄「(だったらもっと小さな声で話せよ)そうじゃねえよ。どこに行きゃいいのって聞い
てるだけだって」

妹「横浜のアウトレットモールだって言ったじゃん」

兄「あのなあ。俺たちは母さんに捨てられてだな。贅沢なことは慎まないと・・・・・・」

妹「おじいちゃんから来たメール見る?」

兄「・・・・・・またかよ(じいちゃんもちょっと妹に甘すぎだよ)」

幼友「あたしも最近服とかバッグ買ってないしね」

兄「わかった。じゃあ、行くぞ」

妹「うん」

幼友「よろしく」



妹「・・・・・・」

幼友「・・・・・・何で右折して高速道路に乗るわけ?」

兄「だって横浜方面って」

妹「もういい。次のインターで降りて。あたしがナビするから、お兄ちゃんは何も考えな
いで運転にだけ集中してて」

兄「え。道、違った?」

幼友「どう考えても違うでしょうが」



妹「鈴木先生覚えてます?」

幼友「知ってるよ。あたしの担任だったもん」

妹「マジですか。うわあ、最悪」

幼友「中三から高二まで三年間、あいつが担任だったんだよ」

妹「あたしだったら耐えられないなあ」

幼友「あたしはそんなに嫌いじゃなかったけどなあ」

妹「あのおばさん、すごく口うるさいじゃないですか」

幼友「女子校の教師なんかあんなもんだって」


兄(何でこいつらこんなに仲いいんだろうな。確かに妹は慕っていた幼馴染を失ったから
あいつの代わりを求めているのかもしれんし、幼友にとっては妹は富士峰の先輩だから親
しみを覚えているのかもしれない)

兄(でもよ。幼友って本質的にはゆうの味方じゃんか。妹にとっては今ではゆうは関りた
くない対象なんだし、避けるのが普通だよな)

兄(面倒くさいことに、幼友はゆうから妹を解放することに協力してくれている。それが
自分の利益と一致するからだろうけど、そんなこともあって俺と妹と幼友との利害が一致
しちゃったんだよな)

兄(本質的には幼友はゆうの味方だってことを忘れちゃいけない。妹と仲良しになってく
れているのはいいんだけど、妹かゆうかって選択を迫られたら幼友はゆうに味方するだろ
う)

兄(そう考えるとゆうは今では幼友を求めているんだし、もう幼友との付き合いはやめた
方がいいんだろうけどな)

兄(何を考えているのかわからない女だけど。不思議と憎めないんだよな。それに妹は純
粋に幼友のことをお姉ちゃんとして慕っているし)

兄(もうシンプルに俺と妹と二人だけの世界でも、俺は全然いいのにな。なかなか思った
とおりにはいかねえな)



幼友「車線変えなさいよ」

妹「何やってんのよ」

兄「え?」

妹「あーあ。あれだけ言ったのにインターを通り越しちゃった」

幼友「そこで高速を降りろって言ったじゃん。また、ぼけっと何かよけいなこと考えてた
んでしょ」

兄「悪い。ついうっかりして」

妹「お兄ちゃんはもう」

幼友「兄ってさ。あたしたちがついてないと全然駄目なのね」

兄(何だ)

妹「大学でもそうですか?」

幼友「講義とか勉強は問題ないけどさ。それ以外は一々言ってあげないと駄目なのよ。こ
の人」

妹「お兄ちゃんは家でもそうですよ」

幼友「しかたないね。大学はあたしが面倒みて、家では妹ちゃんがこいつの面倒をみるし
かないね」

妹「ふふ。そうかも。分業体制成立ですね」

幼友「そうだね」

兄(何を言ってるんだ。つうか、幼友にこんなこと言われても妹は平気なのかな。こいつ
って恋愛的な意味で俺のこと好きなはずなのに。何で幼友には嫉妬しないんだろうな)

兄(って何言ってるんだ俺は。妹に嫉妬して欲しいのかよ。実の兄妹なのに。この先ずっ
といい兄妹の関係を逸脱しないって決めたのに)

兄(そういや、妹公認で幼友と恋人ごっこを始めてからは、妹は俺に抱きついたりキスし
たり手を繋いだりしてねえよな)

兄(何か寂しい・・・・・・。って違うだろ、俺)


妹「人だらけですね」

幼友「休日だからねえ。どこから見たい?」

妹「全部見て欲しい服を探したい」

兄「これ全部周る気かよ」

妹「そのために来たんでしょ。お兄ちゃんのも探してあげるから」

兄「俺はいいよ。どっかで休んでていい?」

妹「いいよ。お姉ちゃん、行きましょう」

幼友「兄の服を選ぶならあたしも手伝っていい?」

妹「もちろん。一緒に選びましょ」

幼友「じゃあ、行こう。兄はニ、三時間はどっかで時間潰しててね」

兄「・・・・・・時間かかりすぎだろ。っておい」

兄(行っちゃったよ。とりあえず腹減ったからそこのカフェで何か食おうか)



兄「そこってそんなに非難されるとこか?」

妹「・・・・・・信じらんない」

幼友「何でそんなもの食べてるのよ」

妹「可愛い妹と綺麗な女友達がお兄ちゃんのために手づくりのお弁当を作ってきたという
のに」

兄「だって、お前ら本当に三時間も帰って来ないし。朝飯抜きで腹減ってたし」

妹「お昼にはちゃんとお弁当を食べてもらいますからね」

幼友「あたしが作ってきたのも食べてくれるんでしょ」

兄「わかったよ。食うって」

兄(・・・・・・何か平和と言うか)

兄(泣きそうなほど幸せな感じだ。妹がいればそれでいいと思ってたけど。妹にとっては
違うんだろうな。ずっと兄妹二りきりとか俺はともかく妹にとっては寂しすぎるかもな。
妹と俺と幼友。呉越同舟な感じの三人だけど、今は妹にとってはそれがすごく居心地がい
いのかもしれん)

兄(最終的には幼友は敵なのかもしれないけど、とりあえず今は・・・・・・。妹も幼友も楽し
そうだし、俺だってよく考えれば両手に花、しかも二人とも綺麗な花と言っても言い過ぎ
じゃねえし)

兄(こういう時間が永遠に続けばいいのに。って、何流されてるんだよ俺は)

兄「悪かったよ。弁当はちゃんと食うから」

妹「食べてくれるなら別にいいけど」

幼友「昨日も二人分ちゃんと食べてくれたしね。特別に許してあげようよ、妹ちゃん」

妹「お姉ちゃんがそういうなら許してあげてもいいけど」

兄「おまえらなんでそんなに上から目線なんだよ。つうか、その大荷物は何だよ」

幼友「買物に決まってるじゃん」

妹「お兄ちゃんの服とかも買ってきたよ」

兄「俺なしでサイズとかどうしたの? つうか俺の好みとか意見はガン無視かよ」

妹「任せて。お兄ちゃんのサイズなんかとっくに把握済みだし、お兄ちゃんに任せるとダ
サいのしか買わないからお兄ちゃんの意見は却下」

兄「派手なのとかは着ねえからな」

幼友「大丈夫だよ。絶対気に入るって。それにイメチェンしたらもっと大学で持てるよう
になったりして」


妹「え・・・・・・それマジですか」

幼友「うん」

妹「・・・・・・これ、返品してくる」

幼友「冗談よ。心配しなくてもあたしが責任もって兄には女の子を近寄らせないようにす
るから」

妹「本当?」

幼友「うん。本当」



妹「海側のベンチは空いてないね」

兄「そっちの芝生の上でいいじゃん」

幼友「妹ちゃんの格好じゃ直接芝生は厳しいかな」

妹「地面に敷くシートとか持ってくればよかったね」

兄「どうする? 車の中で食べるか?」

妹「そんなのいや。せっかく天気がよくて気持ちいいのに。もう直接芝生に座ってもいい
や」

幼友「いいの? あたしはジーンズだからいいけど、妹ちゃんのスカート・・・・・・」

妹「平気だよ。芝生の上、気持ち良さそうだし」

幼友「じゃあ、そうしようか」

兄「あの辺、人いないぞ」

妹「却下」

兄「何でだよ」

幼友「何で海辺の公園に来たのに、海も見えないあんな隅っこに行かなきゃ行けないのよ。
それにあそこってトイレの隣じゃん」

妹「お姉ちゃん、あの辺は。少し人はいるけど」

幼友「でも隣に柄の悪そうな男たちがいるよ」

妹「平気だよ」

幼友「でも何かあいつら壊そうだしうるさそうだしさ。もし絡まれたら面倒じゃん」

妹「ボディーガードがいるから平気だよ」

幼友「って誰?」

兄「・・・・・・」

幼友「まさか」

兄「何がまさかだよ。失礼なやつだな」

幼友「文系で、しかも満員電車であたしを守る体力もない兄がボディーガードって。不安
すぎるでしょ」

兄「・・・・・・おまえがすごく正直なやつだということは理解したよ」

妹「まあまあ。二人とも喧嘩しないで」

兄「こんなやつと喧嘩なんかするか」

幼友「だってあんた。満員電車の中であたしを守ろうとしてくれたのはいいけど、結局は
人込みに押されてあたしに体を押しつけてたじゃん」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。まさかお姉ちゃんの体に触れたくてわざと」

兄「違うって。あれは不可抗力で(妹の無表情で冷静なセリフがやばいけど。なんだかそ
の嫉妬さえ嬉しい)」

幼友「確かにあれはそうだった。妹ちゃん誤解しないであげてね」


妹「お姉ちゃんがそう言うなら。じゃあ、あそこに行ってご飯食べよう」

幼友「・・・・・・本当に平気なの」

兄(わざわざ面倒くさそうなやつらの隣に行かなくてもいいのに)



妹「ちょっと、やめてください。手を離して」

幼友「妹ちゃんを離せよ! きゃ・・・・・・ってあたしに触るな」

兄「(やっぱりこうなった)おい、この子たちから手を離せよ」



幼友「うーん」

兄「何だよ」

妹「お兄ちゃん、助けてくれてありがと。いつもいざというときにはお兄ちゃんがあたし
を助けてくれるのね」

兄「おまえはな。わざわざトラブルになりそうなところに好き好んで行かなくてもよかっ
たのにさ」

妹「トイレの側で食事するのはやだ」

兄「おまえは可愛いから変な男に目を付けられやすいんだからさ。少しは気をつけろよ。
いつも俺が一緒にいてやれるわけじゃねえんだからさ」

妹「本当に声をかけられるとは思わなかったんだもん」

兄「それが無防備だっつうの。俺と仲悪かった頃とかよくそれで無事だったな」

妹「うん、いろいろ恐いこともあったよ。でも今はお兄ちゃんと一緒だから平気だと思っ
て。ごめんね」

兄「いい加減にしろ。おまえが危ない目にあうのを目の前で見せられた俺の気持ちもちょ
っとは考えろよ」

妹「ごめん」

兄「ってこら。抱きつくな」

妹「・・・・・・好き」

兄「え?」

妹「お兄ちゃん大好き」

兄「・・・・・・うん。でも幼友の前だぞ」

妹「お姉ちゃんごめんね」

幼友「・・・・・・へ」

妹「お姉ちゃん?」

兄「どうした?(妹が俺に抱きついたんでどん引きしたのかな)」

幼友「今のはあんた?」

兄「はい?(何言ってるんだこいつ。つうか顔真っ赤じゃん)」

妹「お姉ちゃんはまだお兄ちゃんのことをよく知らないからね」

幼友「・・・・・・あんたっていったい何者?」

兄「さっきからおまえは何を言ってるんだ」

妹「うちのおじいちゃんって、合気道の有段者だったの」

幼友「え? あ、うん」

妹「・・・・・・お姉ちゃん、本当に大丈夫?」

幼友「ごめん、大丈夫」

兄「さっき、あのバカどもに腕を掴まれてたけど、痛むのか」


幼友「違うの。それは平気なんだけど。それで兄も合気道を?」

兄「昔な。じいちゃんに教わったことがあってさ。でも、母さんがじいちゃんたちと仲が
悪かったんですぐに止めさせられたんだけどね」

妹「ママのわがままにパパも味方してからね。それは今でも何でだろうと思うけど」

幼友「あんたがあいつらを追い払ってくれたのって合気道の技なの」

兄「さあ。よくわからん。でも教わったことは今でも体が覚えてる感じだから、そうなの
かも」

妹「お兄ちゃんは昔からあたしを守ってくれてたんだよ。お兄ちゃんより強い男の子なん
て、小学校の頃はいなかったの」

幼友「・・・・・うん。てか今でも十分強いよね」

妹「そうなんだよ。それはともかくご飯にする?」

兄「おまえはなあ。いい加減に俺から離れろ」



兄「これは・・・・・・。確かにうまそうだけどさ」

妹「いっぱい食べていいよ」

兄「食べていいよと言われても」

幼友「何よ」

兄「おまえらさあ。何でクローンみたいに全く同じ物を作って来るんだよ」

妹「単なる偶然でしょ」

幼友「そうよ。確かに妹ちゃんにはあんたの好きな料理とか聞いたけどさ。まさかここま
でメニューが被るとは思ってなかったんだもん」

妹「だから奇蹟的な偶然と言いたいけど。まあ、お兄ちゃんが偏食だからこうなっちゃた
んだよ。むしろ、あたしとお姉ちゃんのせいじゃなくてお兄ちゃんのせいと言ってもいい
かも」

兄「ふざけんなよ。俺はそこまで偏食じゃねえぞ。偏食と言うならむしろおまえの食事を
拒否したゆうの方がよっぽどそうじゃねえか」

妹「・・・・・・どういうこと?」

兄「いや、その」

幼友「あんたはアホか」

兄「すまん、つい」

幼友「もうちょっと気をつけて喋んなさいよ。本当にあんたって、妹ちゃんかあたしが着
いてないとだめだめなんだから」

兄「わかったよ。それは認めるから、ゆうのことはおまえから説明してくれ」

幼友「しかたないなあ。せっかくあんたが合気道ができるとかって見直してたのにさ。あ
たしの恋愛感情を壊さないでくれるかな」

兄「何の話だよ(何か幼友って今日は微妙な発言が多いよな。いや、まさかな)」

妹「・・・・・何かやな感じ。お姉ちゃんとお兄ちゃんて、何で二人だけで通じる言葉を交わ
しあってるのよ。あたしだけ仲間はずれじゃん」


幼友「そうじゃないって。仕方ないから兄の誤爆の後始末をするか」

兄「すまん」

妹「何なのよ」

幼友「ゆうが君の料理を食べなかったっとかさ。そういうことあったでしょ」

妹「何でお姉ちゃんがそれを・・・・・・って、お兄ちゃんが喋ったの?」

幼友「妹ちゃんは今ではゆうのことなんかどうでもいいんでしょ」

妹「うん。あたしにはもうお兄ちゃんしかいませんから」

兄(ちょっと言い過ぎだろ。幼友は敵かもしれないのに)

兄(・・・・・・でも嬉しい。俺と妹ってお互いに求め合っているのか。それなのに)

兄(それなのに結ばれないんだ。実の兄と妹だから)

幼友「それなら言うけどさ。ゆうも結構偏食なのね」

妹「はあ」

幼友「つまりさ」



妹「何だ。単純に極端な偏食だっただけなのかあ」

兄(何笑ってるんだろう。妹って、今でもゆうが自分の用意した食事を拒否したことを気
にしてたのかな)

兄(何かやだなあ。ひょっとして、このことを知ってゆうへの気持ちが再燃したりして)

兄(・・・・・・妹にはもうゆうへの気持ちは残っていないはずなのに、なんでこんなに嬉しそ
うに笑う?)

幼友「まあ、だから妹ちゃんの料理の腕とは全く関係なかったのよ、あれは」

妹「よかった。安心した」

兄「そんなに嬉しい?」

妹「え」

幼友「あんたさ。まさか嫉妬してるの?」

兄「別にそんなことねえけど」

妹「あ・・・・・・。違うって。今のは本当に違うから」

兄「違うって何が?」

幼友「ふふふ」

兄(幼友め。絶対面白がってるな)


妹「自分の料理がヘタなせいでゆう君にもう食事は用意しなくていいよって言われたんだ
と思ってショックだったから、そうじゃなかったとわかって安心しただけで」

兄(・・・・・・何言ってるんだよ妹は)

幼友「妹ちゃん。その言い訳じゃゆうに未練があるみたく聞こえるよ」

妹「違うってば。ゆう君に未練があるわけじゃなくて、ゆう君に食事を断られたことがシ
ョックだっただけで」

幼友「何か説明すればするほど泥沼じゃん。要はゆうに断られたことがショックなんじゃ
なくて、自分の料理の腕が不味いかもと思わされたことがショックだったってことでし
ょ。そんでそうじゃないとわかったんで嬉しいと。大好きなお兄ちゃんに不味いご飯を食
べさせてたわけじゃなかったことが嬉しい。お兄ちゃん大好き、愛してる、これからも一
生お兄ちゃんのために料理するからね。かっこはーと。ってことでしょ?」

兄「だいたいわかったけど、最後の方だけ明らかに余計だろ」

妹「お姉ちゃんありがと。自分の気持をぴったりと言い当ててくれて」

兄(そんでいいのかよ。てか、赤くなりながら素直に認めるなって)

幼友「じゃあ、この話はおしまい。食事を再開しよう」

妹「うん。お兄ちゃん、ほら」

兄「ちょっと待て(もう覚悟を決めて二人分食うか。こんなこと毎日やってたら絶対太る
よな)」

妹「ほらってば」

兄「・・・・・・何だよ」

幼友「ははは。口あけてやんなよ兄」

兄(マジで? 幼友の前であーんとかいったい何の拷問だよ。どうしてもしたいなら家で
二人きりのときだったら俺だってあーんするのはやぶさかではないのに)

妹「お兄ちゃん?」

兄(妹の上目遣い可愛い。覚悟決めるか)


今日は以上です
また投下します


幼友「すごい。本当に完食しちゃったね」

兄「人生で初めてだってくらい頑張ったぜ」

幼友「マジで全部食べるとは思わなかったなあ」

兄(え)

妹「ちょっと食べすぎなんじゃないの? お兄ちゃん普段から体動かさないのに。太って
も知らないよ」

幼友「そうだよね・・・・・・兄は少し自制した方がいいかも」

兄「ちょっと待てよ。おまえらが全部食えって」

幼友「さあ、次行こうか」

兄「(無視かよ)・・・・・・俺の努力は全く評価されねえのかよ」

妹「変な人に絡まれちゃったから、思ったより遅くなっちゃいましたね」

幼友「そうだけど・・・・・・。まあでもそのおかげで兄の意外な一面が見えたって言うか」

妹「意外な一面って?」

幼友「ゆうみたく見た目は派手なタイプと違うけどさ。何っていうか、妹ちゃんの気持ち
がよくわかったし。幼馴染もバカだなあってさ」

妹「え・・・・・・どういう意味?」

幼友「一見地味なのに兄が大学の女の子たちでそれなりに人気あるのもわかるわ」

妹「・・・・・・お姉ちゃん?」

幼友「ごめん。何でもないや。次はどこだっけ」

妹「・・・・・・」

幼友「妹ちゃんてば」

妹「・・・・・・」

兄「次はどこ行くんだよ。つうか完食したんだから少しは休ませろよ」

妹「ああ、ごめん。シーパラだっけ」

幼友「だっけって。今日は妹ちゃんがプロデュースしたんじゃん」

妹「あ、うん」

幼友「大丈夫?」

兄「(妹の様子がおかしいな)おい、大丈夫かよ」

妹「ごめん。ちょっと疲れただけだよ」

幼友「・・・・・・あ」

妹「・・・・・・」

幼友「・・・・・・ごめんね。そうじゃないの」

兄「へ? てかどうすりゃいいんだよ」

幼友「今日はもう帰ろうか。帰りも渋滞してそうだし、これからシーパラ行ってもろくに
遊べないだろうし」

妹「ごめん。あたしなら大丈夫だよ。お姉ちゃん、シーパラの水族館楽しみにしてたじゃ
ん」

幼友「別にいいよ」

兄「つうか水族館ならこのあいだ行ったじゃんか」

兄(・・・・・・二人とも黙ってしまった)

兄(何だか妹も幼友もさっきまでの元気がねえじゃん。いったいどうしたんだ)


兄「おまえの家ってそろそろだよな」

幼友「このあたりで適当に降ろしてくれればいいよ」

妹「シーパラ行かなくても結構遅くなったから、お姉ちゃんを家まで送ってあげて」

兄「おう」

幼友「遠回りだし悪いからいいよ」

兄「別に気にするな。そんなに時間は変わんねえし」

幼友「本当にいいって」

妹「遠慮しないで。お姉ちゃん」

幼友「・・・・・・」

兄(何だろうなあ。昼飯まではあれだけ仲良く騒いでいた二人なのに)

兄(あのあとはまるでお通夜じゃんか。いったいどうしてこうなった)

幼友「そこ右ね・・・・・・この辺でいいよ」

兄「家の前まで行くよ。って。結構急な坂道じゃん」

幼友「悪い。うちの家ってその丘の上なんだ」

兄「そうなんだ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん、ここって」

兄「どうした?」

妹「うちの家と同じ場所じゃない?」

兄「え・・・・・・。住所的には近いけど、全然景色が違うだろ」

幼友「・・・・・」

妹「間違いないよ。いつもと反対の方向から丘の上に上ってるだけだよ、これ」

兄「(どういうことだよ)どういうこと?」

妹「・・・・・・お姉ちゃん?」

幼友「うん。妹ちゃんの言うとおりだよ。結城さんが君たちのお母さんと一緒に暮すため
に買った家はあたしの家の近所なの」

兄「・・・・・・何で?(訳わかんねえよ。だけど、何だか重要で大事なことを聞かされている
ような気がする)」

妹「お姉ちゃんって、ゆう君と昔から近所に住んでたんじゃないの?」

幼友「本当は違うの」

兄「ちょっと待てよ。おまえはゆうの幼馴染だって言ったたよな」

幼友「言った。でもごめん。あれは嘘」

兄「はい?」

妹「・・・・・・幼馴染じゃなくても、ゆう君の彼女だったのは本当?」

幼友「それは本当なの。でも、あいつの幼馴染だって言ったのは嘘。あたしがあいつと付
き合い出したのは、っていうかあいつと知り合ったのはつい最近なんだ」

兄「ちょっと待てよ。よくわかんねえけど、ゆうと付き合ってたのは本当なんだろうな」

幼友「本当だけど。でも、時系列で言えばゆうはあたしと知り合うより先に妹ちゃんと知
り合い同居して、妹ちゃんと付き合ってたんだ」


妹「・・・・・・意味わかんない」

兄「全くだ。全然わかんねえ」

幼友「ごめんなさい」

兄(車を止めよう。このままこの丘を上がっていく前にいろいろ解決しておきたい)

兄「おまえさ。ゆうのことをいろいろ教えてくれたよな? ゆうが俺に憎しみを覚えてい
るとか、ゆうが極端に偏食だとか。あと結城さんが再婚を決めてからゆうの性格が変わっ
たとか」

兄(もっと具体的な話もしてたじゃねえか。ゆうの部屋に入ったら俺と妹と幼馴染の写真
があったとか。全部嘘なのか)

幼友「・・・・・・」

兄「(何か泣きそうじゃん、こいつ)ゆうは幼い頃からおまえと一緒に過ごしてきた幼馴
染じゃねえのかよ」

幼友「ごめん、違う。ゆうとの付き合いはあんたと妹ちゃんのほうが長いよ」

妹「長いって。あたしたちだってママの再婚の話を聞かされてから、ゆう君と知り合った
のに」

幼友「・・・・・・うん」

兄「ちょっと待て。おまえ、たしか前に」



「確かに女の子にだらしないとかそういうことはあったけど、根はいい子だったのよ。こ
れまではね。それなのに突然変わっちゃったの。どう考えても原因はおじさんの再婚とし
か思えなかったから、あたしはおじさんに再婚相手のことをそれとなく聞いてみたの。そ
したら相手の名前と、その相手の長男があたしと同じ大学の同回生だって知ってさ」

「うん。あたしは学内でまずあんたを探して、そして見つけた後はあんたのことを観察し
たの。そしたら幼馴染って子と仲が良くていつも一緒に行動していることに気がついた」

「でもね。愛想よくいい女の振りをすることもできちゃうのよ、あたしは。だから幼馴染
に近づいて友だちになるのは易しかったな」



幼友「うん」

兄「どういうことだよ」

幼友「ごめん、嘘ついた。結城さんの再婚前からゆうと付きあってたってのも嘘。いつも
ゆうのご飯を作ってったていうのも、ゆうの性格が変わったから幼馴染に近づいて友だち
になったのも嘘。あたしは前から、入学したときから幼馴染とは友だちだったから」

兄「さっきからよくわかんねえよ。おまえとゆうとはどういう関係なんだ」

幼友「ゆうが妹ちゃんと付き合い出す直前にゆうに告って、ゆうの彼女になった」

兄「どういうこと?(意味わかんねえ)」

幼友「前にあんたたちの写真をゆうの部屋で見つけたって言ったでしょ」

兄「ああ(そうだ。あれはどういうことなんだ)」

幼友「あれってさ。嘘じゃないんだけど、本当は妹ちゃんがゆうのことしか考えられなく
なってからの話なの」

妹「お姉ちゃん・・・・・・何言ってんの」

幼友「つまりあたしはゆうとは幼馴染でもなんでもないの。ゆうが妹ちゃんを狙い出した
後で、ゲーセンで遊んでいるゆうに声をかけてその日のうちにゆうに抱かれたってだけ。
そのあとさ、ゆうと妹ちゃんが抱き合っていたときあたしが邪魔したじゃん? あのとき
にゆうがあたしをセフレって言ったのは嘘じゃないのよ。本当のことだったの」

妹「結城さんがあなたの家の近くにあたしたちと一緒に暮らす家を買ったのは偶然?」

兄(・・・・・・幼友のことをお姉ちゃんと言うのをやめたな)

幼友「偶然じゃないよ。むしろあたしの家がそこにあるから、結城さんはあそこの家を買
ったんだよ」


兄「何でだよ」

妹「・・・・・・何でよ。いったい何で」

幼友「ごめんね」

兄「何で今まで嘘ついてた?」

幼友「・・・・・・」

兄「ゆうを取り戻したくて俺と付き合っている振りをしてたってのは本当か」

幼友「嘘ではないの」

兄「わかんねえよ。ゆうの気持ちを取り戻したいだけなら、ゆうの幼馴染だなんて嘘つく
必要なんかないだろ」

幼友「それは」

妹「お兄ちゃん、ちょっと待って」

兄「どうした」

妹「多分だけど、その辺はどうでもいいことなのかも」

兄「どういうことだよ」

妹「あたしにとってもお兄ちゃんにとっても、もうゆう君とか前の家族とかに未練はない
でしょ?」

兄「それはそうだけどよ」

妹「むしろあたしは幼友さんが、あたしとお兄ちゃんのことを本当はどう思っているかの
方が気になる」

兄(・・・・・・確かに。幼友がゆうの幼馴染かどうかなんかどうでもいいか)

妹「聞かせて」

幼友「・・・・・・」

妹「ひょっとしたら幼馴染のお姉ちゃんを失ったからかもしれない。お兄ちゃんが幼馴染
のお姉ちゃんにひどいことを言われたとき、あなたがお兄ちゃんを助けてくれたからかも
しれないけど」

幼友「妹ちゃん」

妹「あたしはあなたに本当に感謝してた。あのときお兄ちゃんを救ってくれたのはあたし
じゃなくあなただったと思ってたし」

兄(・・・・・・確かに。幼馴染を平手打ちしてくれて俺を救ってくれたのはこいつだ)

妹「それに。確かに最初はお兄ちゃんを救ってくれたから、あなたに好意を持ったのだけ
ど。でも、あたしはおねえ・・・・・・あなたが好きだった。幼馴染のお姉ちゃんがいなくなっ
て、ママからも嫌われて。最初はお兄ちゃんだけいてくれればいいと思ったけど、それで
もあなたにお兄ちゃんへの自分の気持を素直に晒しても引かれなくて、お姉ちゃんと呼ん
でもいいよって言ってもらえて嬉しかった」

兄(こいつも寂しかったんだ。俺と二人ではしゃいでいる時も。そう考えるとそういう妹
の好意を弄んだのだとしたら、幼友のしたことは許せん)

妹「お願い。これだけは聞かせて。ゆう君と幼馴染かどうかとかゆう君を取り戻したかっ
たかどうかなんてどうでもいいから、お姉ちゃんがあたしやお兄ちゃんに好意を持ってく
れたのって嘘なの?」

兄「・・・・・・」


妹「本当?」

幼友「本当。連休中のときも今日も本当に楽しかったし、妹ちゃんのことは大好きになっ
たの。それだけは嘘じゃない」

妹「・・・・・・」

幼友「でも信じてもらえないよね。あたしはあなたたちに嘘をついていたんだから」

兄「わかった。もういいよ」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

幼友「兄?」

兄「何でおまえが嘘をついてまで俺たちと関ろうとしたのか、それがゆうのためなのかは
もう聞かない」

幼友「・・・・・・」

兄「でも、もう俺たちには関らないでくれ。恋人ごっこももう終わりだ」

妹「ちょっと」

兄「どんな理由があるかは聞きたくもないけど、俺と妹を騙して嘘をついたという意味で
はおまえも幼馴染と一緒だよ」

幼友「ごめんなさい」

兄「俺のことはいい。でも、おまえは、幼馴染を失って姉貴のような存在を求めていた妹
の心を踏みにじったんだ。ある意味、ゆうより幼馴染より性質が悪い」

妹「・・・・・・お兄ちゃん? ちょっと待って」

兄「ここからなら歩けるだろ。車を降りてくれ」

幼友「・・・・・・うん。ごめん」


妹「ねえ」

兄「・・・・・・ああ」

妹「お姉ちゃんがあたしたちと一緒にいて楽しかったって言ったのって本当かな」

兄「どうだろうな」

妹「あながち嘘とも思えないんだけどなあ」

兄「本当にわからん。でも、あいつが俺たちに嘘を言って近づいてきたのは確かだよな」

妹「あたしさ。お姉ちゃんのことは嫌いじゃなった。と言うか大好きだった」

兄「・・・・・・ああ」

妹「あたしもお兄ちゃんの言うとおりだと思う。ゆうとお姉ちゃんの間に何がおきたのか
なんて、あたしたちが関ることじゃない」

兄「それは間違いねえよ」

妹「でもさ。お姉ちゃんさっき震えてた」

兄「うん」

妹「お姉ちゃん、きっとさっきは嘘はついていないと思う」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんがあたしのために怒ってくれたのは嬉しいけど、お姉ちゃんってそんなに
悪い人じゃないと思う」

兄「そうかもな。きっとあいつなりに何か事情があるのかもしれないね」

妹「だったらさ。お姉ちゃんと仲直りしようよ。あたし、お姉ちゃんのこと嫌いじゃない
よ。幼馴染のお姉ちゃんみたくお兄ちゃんにひどいことをしたわけじゃないもん」

兄「それはそうかもしれないね」

妹「じゃあ、これまでどおりお姉ちゃんと付き合ったらだめ?」

兄「もう俺たちは幼友に関るべきじゃないと思うよ」

妹「何でよ。お姉ちゃんが嘘をついてたのだって事情があったのかもしれないんでし
ょ?」

兄「だからこそだよ」

妹「意味わかんない。どういうことなの」

兄「幼友ってさ。本当にゆうのことが好きなんだと思うか?」

妹「わかんないよ、そんなの。でも、お兄ちゃんと偽装カップルまでしてゆう君に見せつ
けて嫉妬させようとしてたんだし、好きなんじゃないの?」

兄「考えれば考えるほど変なんだよ」

妹「何が変なの?」


兄「幼友がゆうの幼馴染なら全部理解できるんだよ。あいつがゆうを好きでゆうを取り戻
したいと思っていたとしても」

妹「うん」

兄「だけどそうじゃなかったんだろ? むしろゆうと幼友が知り合ったのはつい最近だ。
俺たちよりもっと後じゃんか」

妹「だから、それがどうしたの」

兄「だったら幼友って何者だよ」

妹「だからゆう君の元カノでしょ」

兄「俺はついさっきまでは、あいつはゆうの幼馴染だとおもってたけどね」

妹「それは嘘だったってお姉ちゃんが」

兄「だったらあいつは誰なんだ」

妹「・・・・・・どういうこと」

兄「俺たちより後になってゆうと知り合い、声をかけて彼女だがセフレだかになったんだ
ろ? 一目惚れだとでもいうのか。それから俺に声をかけてきた。俺のことをおまえの兄
貴だとしてだと思うけど、何でそんなことを幼友が知ったんだよ」

妹「幼馴染のお姉ちゃんから聞いたんじゃない」

兄「前から知ってたんだろうな。ゆうのことも」

妹「お姉ちゃんはやっぱりゆう君の幼馴染だったってこと?」

兄「それは違うとは思う。でもさ、あいつが言ってただろ? 結城さんがどうしてここに
引っ越してきたか」

妹「あ」



「結城さんがあなたの家の近くにあたしたちと一緒に暮らす家を買ったのは偶然?」

「偶然じゃないよ。むしろあたしの家がそこにあるから、結城さんはあそこの家を買った
んだよ」



兄「何かあるんだよ、あいつの行動には。幼馴染の家があるから結城さんがその近くに引
っ越した? 何でだよ。幼友の家庭と結城さんとの間に何があるんだ。あいつってその辺
は何にも説明してないじゃん」

妹「それは確かにそうだ」

兄「いろいろ正直に打ち明けたようでいてさ。結局幼友は核心に触れるようなことは何も
言ってないんだよな」

妹「うん。それはそうかも。だけど・・・・・・」

兄「だから俺は疑問なんだ。あいつは本当にゆうのことが好きなのか、それとも何か目的
があってゆうに近づいたのかが」

妹「でも、それはもういいじゃん。あたしたちには関係ないんだし。むしろお姉ちゃんが
あたしたちのことを好きになってくれたのなら、そんなことは気にしないで付き合ったっ
ていいじゃない。お姉ちゃんは悪い人じゃないよ。あたしにはわかる」

兄(絶対、幼友の行動には過去の出来事が影響しているとしか思えない。ゆうとつい最近
知り合っただ? 俺がゆうの母親の名前を聞いたとき、あいつはレイナさんって即答した
じゃんか。少なくともあいつと結城さんの家庭とは何らかの関係があってそのことをあい
つも知っていたはず)

兄(正直、過去のことはもう知りたくない。父さんは死んだし母さんとは絶縁した。この
先もずっと添うかはわからないけど、今は妹と二人きりの暮らしを安定させていかなきゃ
いけないんだ。今さら結城さんや父さんたちの過去の出来事なんかに振り回されている場
合じゃない)

兄(でも、幼友とこの先も一緒にいればその知りたくない過去を知らされるような気がす
る。だから、俺たちはもう幼友とは会わない方がいい。たとえ幼友本人には俺たちへの悪
意はないとしてもだ)


兄「幼友に俺たちに対する悪意があるかどうかじゃないんだ。幼友が悪いやつじゃないっ
ていうのもそうかもしれない。だけど、あいつとはもう関わんない方がいい」

妹「どうしてもだめ?」

兄「その方がおまえのためだと思うけどな(しょんぼりしちゃった。何かちょっと妹へ罪
悪感を感じるな)」

妹「あたしたちって、やっぱりこのまま死ぬまで二人きりで生きて行くしかないのかな
あ」

兄「・・・・・・そんなことはおまえ次第だろ。普通に彼氏を作って友だちも作れば、一生二人
きりなんてことはないさ」

妹「バカ。違うよ。彼氏なんかもう作らないって。そうじゃなくてさ。あたしとお兄ちゃ
んがこのまま一緒に暮すと、友だちとか誰もいなくなっちゃうのかな」

兄「おまえは富士峰には普通に友だちがいるじゃんか」

妹「でも。お兄ちゃんと一緒に遊べる子なんかいないもん」

兄「・・・・・・」

妹「パパが亡くなって、ママに捨てられて」

兄「よせよ」

妹「幼馴染のお姉ちゃんが消えて、今度はお姉ちゃんとも会えなくなるんでしょ」

兄「・・・・・・うん」

妹「何でみんなあたしたちの周りからいなくなっちゃうの? あたしがお兄ちゃんのこと
を好きだから、だからみんな気持ち悪くなって距離を置かれちゃうのかな」

兄「それは関係ねえだろ」

妹「・・・・・・もうやだ」

兄(俺だけは死ぬまで妹と一緒にいるよって言いたいけど。妹が言ってるのはそういう問
題じゃねえもんな。人間って社会的動物だから、どんなに好きあってる間の男女でも、二
人きりじゃ生きられないんだ)

兄(「家族の起源」っていう父さんの論文にもそれが論点のテーマがあったよな。民俗学
というより文化人類学的なアプローチの論文だったけど)

兄(確かに幼友は悪いやつじゃない。どんな事情があるか知らないけど、そのことさえな
ければ別にあいつと今までどおり付き合ったっていいんだし)

妹「・・・・・・」

兄(泣いてる。もうしかたない。腹をくくるか)


兄「わかったよ。おまえの言うとおりさ、確かに幼友本人はいいやつだと思う」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「だから幼友さえよかったら、これまでどおりあいつと仲良くするか」

妹「いいの?」

兄「そのかわりさ。幼友と結城さんとかゆうとの関係には踏み込むなよ。俺たちには全く
知る必要のない話だし、ましてや巻き込まれる必要なんかないんだから」

妹「わかった。お兄ちゃんありがと」

兄「いや(妹が笑った。この笑顔だけで・・・・・・)」

兄「じゃあ幼友にメールか電話でもしてやったら?」

妹「何を話せばいいの?」

兄「あいつ、車の中に今日買った服とか忘れてるよ」

妹「・・・・・・本当」

兄「明日も休みだろ? どっかで待合わせしてこれを渡してやろう」

妹「お兄ちゃんも一緒に来てくれる?」

兄「ああ(・・・・・・父さんの手記を読もう。ああは言ったけど、訳ありの行動をしている幼
友とこれからも付き合っていくなら、過去に何があったのか調べておかないと。正直、も
う知りたくなくなっていたんだけど、これも妹のためだ)

妹「もしもし? あ、お姉ちゃん。あのね」

兄「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


第三章



兄(寝たかな?)

兄(規則正しい静かな寝息が聞こえるから、多分もう大丈夫だろう。どれ)

妹「お兄ちゃん?」

兄「(やべ。起きてたか)どうした?」

妹「あたしから離れちゃやだ」

兄「わかってるって(そうっと起きようとしたけど気がつかれたか)」

妹「・・・・・・うん」

兄(さらに強く抱きつかれた。これじゃベッドを抜け出せないじゃんか)

兄(・・・・・・今日はもうやめておこうかな。何か眠くなってきたし)

兄(それに、妹に抱きつかれていると何だか心地いいし)

兄(よく考えれば過剰反応かもしれん。幼友と普通に付き合っている分には、何も昔のこ
とをほじくりかえす必要はないのかも)

兄(・・・・・・そうもいかないか。幼友が本当は何を考えているのかわからない以上、こちら
も父さんの手記を読んで、何か起きたとき対抗できるようにしておかないとな。妹との生
活を守るためだし)

兄(とは言え、妹にがっちり抱きつかれている以上、今は文字どおり身動きが取れないわ
けで)

兄(少し寝よう。そんで妹が寝付いたらそっと起きて父さんの手記を読むか)

兄(そうと決まれば遠慮なく寝よう)

兄(何かいい匂いがする)

兄(綺麗な髪・・・・・・)

兄(華奢で壊れそうな骨格までじかに感じ取れる)

兄(自分の一番好みの女の子のタイプは、妹だって最近何となく気がついたけど。何で俺
ってついこの間まで幼馴染のことしか目に入っていなかったんだろうな)

兄(俺も妹を抱き寄せよう。俺だけ妹に抱きつかれてるんじゃ何か不公平・・・・・・いや、不
公平というか)

兄(・・・・・・それに)

兄(いやそれはだめだろ。抱き寄せるくらいが限度だ。乱れた服の間からむき出しになっ
た肌を撫でるのは、いい兄貴のすることじゃないから、我慢しないとな)

兄(このまま妹と抱き合って眠れるだけで幸せだしな。もう寝よう)



妹「いい加減におきなさいよ」

兄「もう少し寝かせて」

妹「ちょっと寝すぎでしょうが。何時だと思ってるのよ」

兄「何時だよ」

妹「もう十一時になるよ」

兄「しまった。寝坊した」

妹「うん? 今日なんか用事でもあったっけ?」

兄「あ、いや。別に用事なんかないけど」

妹「じゃあいいじゃん。ってよくないわよ。早く起きてさっさと食事しろ」


兄「あのさ」

妹「おかわりする?」

兄「あ、うん」

妹「はい」

兄「どうも・・・・・・そうじゃなくてさ」

妹「何?」

兄「今日って何か予定あるんだっけ」

妹「お兄ちゃんは用事ないんでしょ」

兄「ないけど」

妹「じゃあ別にないんじゃない? あ、夕方でいいから車出して。買物しなきゃ」

兄「(買物って)服とかなら昨日十分過ぎるくらい買っただろうが」

妹「違うって。食材とか日用品とかだよ」

兄「ああ、そう。ってさ」

妹「さっきから何よ? はっきり言って」

兄「幼友と会ったりしないの?」

妹「うん。言わなかったっけ。お姉ちゃん、今日は用事があるからまたねって」

兄(どういうことだ。せっかく俺たちが幼友の嘘を許してこれまでどおり付き合ってやる
って言ったのに)

兄「あいつの忘れていった買物とかは?」

妹「明日、お兄ちゃんに持って来てって。大学で受け取るからって」

兄「そう(別に恩に着せるつもりはないけど、何かもう少しリアクションあってもいいん
じゃね?)」

兄(・・・・・・それとも幼友にとっては俺たちとの付き合いなんか、終ったら終ったでいいく
らいのことだったのかな。そもそも好きなのはゆうだったんだし。いや、今となってはそ
れすらあやしい)

兄(俺としては・・・・・・。幼友がそんなに嫌な奴だとは思わないけど、別に俺と妹のそばに
いないならいなくてもいい。でも、妹にとってはそうじゃねえんだもんなあ)

妹「お兄ちゃん?」

兄「明日、あいつに忘れ物を渡せばいいんだよな?」

妹「うん。お願い」

兄「じゃあ、今日はゆっくりするか(父さんの手記とホームページの掲示板を全部読む
か。一日読んでれば何かわかるかもしれねえし)」


兄(全然読めねえ。つうか妹がずっと俺にまとわりついてきて、そんなことができる暇が
ない)

兄(最近は幼友といつも三人でいたから油断してたけど、妹ってやっぱり俺のこと)

妹「ほら、お兄ちゃん。サッカー始まるってば」

兄「聞こえてるって」

妹「早く座って」

兄(ソファで俺の隣に座るくらいはともかく。ちょっと密着しすぎだろ)

妹「始まったよ。ねえねえ。日本代表って勝てるかなあ」

兄「どうかな(・・・・・・J1の試合なのに何勘違いしてるんだこいつ)」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「どうした?(俺にすげえ寄りかかってるし。つうか何か眠そうだな)

妹「日本、勝ってる?」

兄「えーと」

妹「・・・・・・」

兄「妹?(何かひどい誤解をしたまま寝落ちしたな)」

兄(今のうちに父さんの手記を読んでおくか。こいつは完全に寝落ちしているし。起こさ
ないようにそうっと体を抜いて、ソファに横たわらせて)

兄(こいつ、本当に可愛いな。・・・・・・そのままもう少しだけ寝てな)

兄(よし)

兄(とりあえず前に見た続きから読むか。たしか、父さんが怜菜さんに振られ
て・・・・・。そんで母さんにキスされたところまでは読んだんだよな)

兄(結城さんの言ってたことが真実だったとしたら、俺はこの話の結末を知っている。だ
けどその途中経過がわかんないし、そこに何か重要なことがあったのかも)

兄(どれ)


怜菜「おはよ」

池山「・・・・・・怜菜」

怜菜「ごめんね」

池山「ごめんって」

怜菜「有希に怒られちゃった。自分からキスしといて、その相手から告られて振るならせ
めてキスした理由くらいは説明しておきなさいよって」

池山「いや。あれくらいで勘違いして恥かしい告白をしたのは僕の方だし。君が罪悪感を
感じる必要なんかないでしょ」

怜菜「・・・・・・博人は優しいけど。でも、無理してるでしょ? 正直に言って」

池山「それは人生で初めて女性に振られたんだし、ショックじゃないといえば嘘になるけ
ど」

怜菜「人生で初めてって。今までそんなにもててたの?」

池山「違うよ。告白も初めてだし振られたもの初めてってこと」

怜菜「なんだそうか。ちょっと驚いちゃった」

池山「そんな僕のことを君みたいな綺麗な子が好きなわけないのにね・・・・・・ちょっと優し
くされて調子に乗っちゃったかな。本当にごめん」

怜菜「そんなことない。むしろあたしの方が誤解させちゃったから」

池山「・・・・・・」

怜菜「キスした理由、聞かないの?」

池山「あ、いや。うん・・・・・・」

怜菜「ちょっと時間もらっていいかな。話しがあるの」

池山「あ、ごめん。ニ限の講義は聞いておきたいから」

怜菜「そうだよね」

池山(・・・・・・泣きそうな怜菜の顔。何か僕を振った理由とかそういうことを話したいんじ
ゃないのかもしれない)

怜菜「・・・・・・」

池山(俯いちゃった)

池山(有希に言わせればお人よしなのかもしれないけど。このまま怜菜のこういう悲しそ
うな顔を見ていたくないなあ。普段はすごく明るくて陽気な子なのに)

池山「話、聞こうか?」

怜菜「・・・・・・うん。ごめんなさい」

池山(僕を振った罪悪感から謝るのかな。むしろ、僕の方が怜菜の気持ちを過剰に勘違い
しただけなのに)


池山「ここでよかった?」

怜菜「・・・・・・うん」

池山「結城と有希ってもう学校に行ったのかなあ」

怜菜「多分」

池山「そうか」

怜菜「・・・・・・そのさ。博人って兄貴のことどう思う?」

池山「どうって。成績いいし、格好いいから女の子にもてるし。でもそういうことを自慢
しないで、僕なんかにも気さくに親しくしてくれるしさ。すごくいいやつだと思うけど」

怜菜「そうか」

池山「結城がどうかした?」

怜菜「・・・・・・博人って兄弟いないんでしょ?」

池山「一人っ子だけど」

怜菜「あのさ。血の繋がった異性の兄貴のことを、本気で好きになったらさ。その妹はど
うすればいいと思う?」

池山「怜菜、君何言ってるの」

怜菜「有希から聞いたんでしょ? あたしがブラコンだって」

池山「(怜菜って本気で結城のことを好きなのか)いや。そんなことを言ってたかもしれ
ないけど、有希が本気だとは思わなかったから」

怜菜「・・・・・・あのコンパの夜から兄貴が有希と付き合い出したって聞いた?」

池山「うん。結城からも有希からも聞いたよ」

怜菜「ごめん。あの夜あたしが君にキスしたのは兄貴への対抗心だった。兄貴と有希に嫉
妬して、思わず君に」

池山「そうか」

怜菜「怒らないの?」

池山「・・・・・・怒るってなんで? むしろどんな理由にせよ、僕なんかが初めてキスできた
ことに感謝しないとね」

怜菜「あたしが実の兄貴が好きって聞いて、引かないの?」

池山「いやその」

怜菜「何であたしに告ってくれたの」

池山「君のことが好きになったから。分不相応だとは思ったけど」

怜菜「本当に真面目に言ってる?」

池山「本当に真面目に言ってるけど」

怜菜「あのね。実の兄貴が好きな女の子がいたとします」

池山「はあ」

怜菜「その子は自分の兄に対する不毛な恋心を捨て去りたい。まして兄には恋人ができた
し。それは自分の友だちだけど」

池山「・・・・・・うん」

怜菜「ブラコンのその子にも気になっている男の子はいるのね。その男の子は兄とは全然
違うタイプで、格好よくもないし気の聞いたことも言わないの。それでもブラコンの子は
次第にその男の子のことが気になりだします」

池山(僕のこと?)

怜菜「女の子は男の子の告白に応えたかったけど、自分の兄への気持ちを知られたら気持
ち悪く思われるんじゃないかと思って、彼の気持ちに応えられませんでした。それに、女
の子にはまだ兄への気持ちがたくさん残っていたからです」


池山「あのさ」

怜菜「それでもいい?」

池山「どういうこと?」

怜菜「君のことは出会った頃から気になっていた。でも、あたしは兄貴への恋愛感情を明
白に意識していたし、君とどうこうなろうなんて思う余裕もなかったの。でもさ。君は
サークルでもいつもあたしに優しかったし」

池山「別に僕は優しいとかってなくて」

怜菜「ううん。あたしの思い込みかもしれないけど、あたしはそう思ったの。だから
ね、正直兄貴と有希の仲を知ったときはショックだったけど、あのときだって誰でもよか
ったわけじゃないの。本当だよ」

池山(僕にキスしたことか? だったら何で)

怜菜「何で君の告白を断ったんだよって思ったでしょ」

池山「別に僕は・・・・・・。いや、正直に言うとそう思ってた」

怜菜「だからさっき言ったことは本当。君の告白に応えたかったけど、兄貴にまだ気持ち
が残ったままで君の告白に応えていいのかなとか、こんな気持ちを知られたら嫌われるん
じゃないかとか考えちゃって。ごめんね」

池山「そうだったの」

怜菜「本当にごめんなさい。あたしはもう自分の気持ちを忘れることにしたの。有希にも
悪いし、兄貴だってあたしの気持ちを知ったら戸惑うと思うし」

池山「・・・・・・そう決めたんだね。だったら頑張れ」

怜菜「ありがとう。そして本当にごめんね。これからも友だちでいてくれる?」



兄(うーん)

兄(ブラコンって。二十年以上前にも同じような悩みを持った人たちがいたと思うと。何
か今さらだけど俺とか妹も決して特殊な例だともいい切れないんだな)

兄(怜菜さんという人も、結局兄貴への気持ちを押さえることにしたのか。その辺もうち
と同じかもな)

兄(それにしてもなあ。父さんと母さんは仲が良かったはずなのに。有希って母さんのこ
とだろ? この手記を読む限りじゃ単なるビッチじゃないか)

兄(いや、そんなことよりも。結局この後の記載を読む限りでは、父さんと怜菜さんは付
き合い出したんだよな。いい友だちじゃなくて。ざっと目を通しただけだけど、父さんの
手記には怜菜さんとの交際とか惚気みたいなことばっか書いているっぽいし)

兄(・・・・・・前に結城さんから聞いた話が嘘でなければ、このあと父さんと怜菜さんには破
局が訪れるんだよな。しかも父さんと母さんの浮気という最低の行為によって)

兄(父さんと母さんの浮気に傷付いた二人は傷を舐めあううちに親しくなって、そして結
婚・・・・・・。結城さんと怜菜さんって実の兄妹なのに。いったいどういうことだ。ゆうは兄
と妹の間にできた子だってことか?)

兄(そうだ。就職活動のあたりまで飛ばしてみよう。結婚して実家を出るまでの間ずっと
書いていたみたいだし)

兄(飛ばし読みしてるけど。途中は怜菜さんとのことばっかだ・・・・・・あ、あった。この辺
だ)


有希「おーい。博人、ちょっと待ってってば」

池山「有希。久し振り」

有希「お久し振り。最近、みんなに滅多に会えないものね。なんか懐かしい」

池山「集談社から内々定出たんだってね。おめでとう」

有希「ありがとう。君の院試はどうだったの」

池山「合格したよ。でも本当によかったね。マスコミって入るのすごく難しいんでしょ」

有希「でも最近は採用者数を増やしてるみたいだから、ラッキーだったのかな」

池山「でもすごいよ。結城もアイリス・エージェンシーから内定出たって言ってたし。何
か二人とも世界が違っちゃったなあ」

有希「・・・・・・そんなことないよ」

池山「どうしたの? 何か元気ないね」

有希「学校はもういいの?」

池山「うん」

有希「これから怜菜と待ち合わせ?」

池山「いや。今日は別に約束してないけど」

有希「あのさ。君に用事がないんだったらさ、ちょっとだけ相談に乗ってくれないかな」

池山「相談? 結城じゃなくて僕でいいの?」

有希「・・・・・・結城君にはとても相談できないの。彼自身のことだし」

池山「結城のこと?(有希って絶対相談相手を間違えてるだろ。恋愛関係のトラブルを僕
なんかに相談してどうするんだよ)」

有希「お願い」

池山「僕なんかでよければ別にいいけど(有希って清楚に見えるけど、結構遊んでるんだ
ったよな。恋愛ごときで悩むキャラじゃないはずなんだけど)」

有希「もう夕方だし、君さえよかったら飲みながらでもいい?」

池山「・・・・・・いいけど。ちょっと怜菜に連絡しておかないと」

有希「だめ」

池山「何で?」

有希「相談って、結城君と怜菜のことなの。だからだめ」

池山「(まさか二人の関係のことか? あれならもうとっくに終った話じゃんか。怜菜は
今ではブラコンを克服して僕一筋だって言ってくれてるんだし)どういうことなの?」

有希「・・・・・・ここじゃ話せない」

池山「わかった。いつもの店でいい?(いったい何の話なんだ。すごく気になる)」


有希「博人は何飲むの?」

池山「僕はウーロン茶で」

有希「だめ。君も飲んでくれないととても話せないよ」

池山「じゃあビールを」

池山(いつもの店って言っちゃったけど、ここってイベ研のやつらもよく来るんだよな
あ。相談ごととかできる雰囲気じゃないかも)

有希「じゃ・・・・・・、お久し振り」

池山「おつかれさま(なんで普通に乾杯なんか)」

有希「でもよかったね。これで希望していた研究者への道を進めるね」

池山「まあ、そうだけど。でもこんなことしてたってろくな就職口ないしね。君たちこそ
すごいよ。三人とも東証一部上場企業だもんなあ」

有希「・・・・・・ううん。あたしたち四人の中では将来きっと君が一番幸せになれると思う
よ」

池山「何だよそれ。つうか、よかったらそろそろ」

有希「そうだよね」

池山「別に急かす気はないんだけど」

有希「変なこと聞くけど。君と怜菜ってうまくいってる?」

池山「いってると思うけど。何でそんなこと聞くのさ」

有希「・・・・・・ごめんね」

池山「ごめんって、何が」

有希「あたし、君にひどいことしようとしているのかもしれない」

池山「何言ってるのかわからないよ」

有希「君まで巻き込む必要なんかないのかもしれないけど」

池山「だからどういうこと?」

有希「あたし、見たの。結城君と怜菜が抱き合ってキスしているところ」

池山「・・・・・え」

有希「昨日の夜、怜菜にすっぽかされなかった?」

池山「何で君がそれを」

有希「昨日の夜ね。内々定出たことを報告しようと結城君のアパートに行ったの。そした
ら、ドアの前で二人が」



怜菜「お兄ちゃん酔ってるでしょ」

結城「酔ってるよ。就活が終った日くらい飲んだっていいじゃねえか」

怜菜「もう。うざいなあ。さっさと部屋に入りなよ。あたしこれから出かけてくるから
ね」

結城「何だよ、お兄様の内定祝いだぞ、一緒に飲もうぜ」

怜菜「博人が引越ししたばかりだからさあ。今夜は片付けに行ってあげることになってる
のよ。妹の恋愛を邪魔するなよ」

結城「そんなのいいじゃん。兄貴が内定獲得したお祝いなのに、おまえ付き合わない気か
よ」

怜菜「もう。それ以上飲んでどうすんのよ」

結城「おまえって池山なんかにはもったいないよな。見損なったよあいつ。院なんかに逃
げて就職活動を先送りしやがって」


結城「おまえって池山なんかにはもったいないよな。見損なったよあいつ。院なんかに逃
げて就職活動を先送りしやがって」

怜菜「博人にはやりたいことがあるのよ。っていうか本当にもう寝た方がいいって」

結城「おまえさ。俺より池山を選ぶのかよ」

怜菜「何わけわかんないことを・・・・・・・あ、ちょっと。何で」

結城「お兄様の就職祝いじゃん。キスくらいで騒ぐなよ」

怜菜「・・・・・・お兄ちゃん酔ってる?」

結城「・・・・・・ああ。酔ってなかったら実の妹にキスなんかできるか」

怜菜「ちょっとやめてよ」

結城「嫌なら止めるよ。無理強いはしたくない」

怜菜「・・・・・・お兄ちゃん」

結城「おまえって本当に可愛いよな」

怜菜「やめてよ」

結城「有希みたいなビッチより全然俺の好みの女の子なのにな。何でおまえって俺の妹に
生まれてきたんだよ」

怜菜「・・・・・・酔ってるのかもしれないけど、少しは考えて喋りなよ」

結城「酔ってるから本心を言えるんじゃんか。素面で実の妹に告白なんかできるかよ」

怜菜「告白? 本気なの」

結城「マジに決まってるだろ。おまえ、ちょっとこっち来いよ」

怜菜「・・・・・・諦めてたのに」

結城「怜菜?」

怜菜「お兄ちゃんのこと諦めてたのに! 有希に譲って見守ろうって思ってたのに」

結城「怜菜、可愛いよ」

怜菜「本気にするよ?」

結城「怜菜・・・・・・」

怜菜「お兄ちゃん大好き」

結城「ここは目立つな。部屋に入ろうか」

怜菜「・・・・・・うん」


池山「それ本当なの(・・・・・・怜菜は兄貴への想いを克服したって言ってたのに。結局、僕
何かじゃだめだったのか)」

有希「うん。はっきり見たし聞いた。間違いないよ」

池山「酒の上の冗談だったんじゃないの」

有希「あたしだってそう思いたいよ。でもあの晩、博人は怜菜にすっぽかされたんでし
ょ」

池山「・・・・・・うん」

有希「大切な彼氏を放置して、あの夜怜菜は誰と何をしてたんだろうね」

池山「まさか」

有希「現実逃避したい気持ちはわかるよ。あたしだってそうだもん。でも、もう疑問の余
地なんかないじゃん。結城君に抱きしめられてキスされた怜菜は、お兄ちゃん大好きって
言ったんだよ?」

池山「・・・・・・(怜菜が結城と。僕は怜菜に裏切られたことになるんだけど。怒りや悲しみ
というより混乱しか感じない。だって、あいつらは実の兄妹なのに)」

有希「結城君と怜菜にとっては昨日はすごく長い夜だったでしょうね。二重に背徳感があ
ったんじゃないかな。お互いの恋人を裏切っているというスリルと実の兄妹で禁断の関係
を結んでいるというスリルと」

池山(有希・・・・・・泣いている)

有希「もうやだ。何で妹なのよ。ありえないでしょ」

池山「・・・・・・」


池山(べろんべろんに酔った有希を何とかアパートまで連れてきたものの)

池山「僕はもう帰るよ」

有希「だめ」

池山「だめって何で」

有希「何でもだよ。悩んでいる女を一人にして帰るつもり?」

池山「君、酔ってるだろ(僕だって混乱してるのに何で有希の面倒なんか)」

有希「うん酔ってる。でも、誰のせいだと思っているの」

池山「僕のせいなの?」

有希「半分はあいつらのせい。半分は君のせいかな」

池山「何で僕のせいなの?」

有希「結城君と怜菜はあたしたちをこけにしたんだよ?」

池山「それはそうだけど」

有希「博人は悔しくないの? 結局君は怜菜が兄貴を忘れるための道具として使われてた
だけなんだよ・・・・・・多分、あたしも」

池山(そう考えると胸が苦しい。あんなに活発で明るくて僕にまとわりついてきた彼女は、
内心では僕のことなんかどうでもよかったんだもんな)

有希「怜菜だって就活とかで池山君を放置してたんでしょ。君は平気なの」

池山「そうだね。君の言うとおりだ。怜菜は僕のことなんか最初から好きでも何でもな
かったのかも知れないね」

有希「あたしね。確かにこれまで男の子に振られたことなんかなかったけど、今はそれは
悔しいんじゃないの。結城君は女の子にもてるから浮気くらいは今までもあったし、それ
は別にいいの」

池山「いいの?」

有希「でもさ。自分の実の妹とあたしを比べて、自分の妹を選ぶなんて許せない。あたし
は自分のプライドをずたずたにされたのよ」

池山「君の辛い気持ちはわかるよ。でも今日はもう遅いし、明日また話を聞くよ」

有希「帰っちゃだめ」

池山「あのさあ」

有希「復讐しようよ」

池山「復讐って?」

有希「あたしたちがあの二人の近親相姦の関係に動じないことが最大の復讐だと思うの
ね」

池山「動じないって。さっきから君も僕も動揺しまくりじゃない」

有希「君さ。あたしを抱ける?」

池山「はあ?」

有希「あの二人の汚らしい関係に対抗しよう。あたしたちは血縁じゃないし、そういう関
係になっても別に誰に恥じることもないのよ」

池山「僕は怜菜を裏切る気はないよ・・・・・・って、おい」

池山「ちょっとよせよ」

有希「いいじゃない。あたしたちは悪くない。被害者なんだから」

池山「だから。こういうのは駄目だって」


有希「ふふ。ここは興奮しているくせに」

池山「え(まずい。密着してくる有希の体に反応しちゃってる)」

有希「前から知ってたよ。博人ってあたしの体を見つめていたでしょ。怜菜といるときで
もいつでもあたしと結城君のことを気にしてたでしょ」

池山「君は何を言って」

有希「自分に正直になろうよ。ここには君とあたししかいないんだよ」

池山「たとえあいつらが僕たちを裏切ったとしても、僕たちまで同じことをすることはな
いよ。あいつらを非難する資格がなくなっちゃうぞ」

有希「そんなことはどうでもいいよ。このままじゃ悔しいじゃん」

池山「僕は復讐のためなんかに君とそんな関係になる気はないよ」

有希「でも、あたしのこと見つめるくらい気になってたんでしょ?」

池山「それは君の気にし過ぎだって」

有希「違うもん。ねえ、本当のことを言うから聞いて」

池山「本当のことって? 今までのことは嘘なの?」

有希「そうじゃないの。あいつらの汚らしい関係のことは本当だよ。そうじゃなくて」

池山「何なんだよ」

有希「まだわからないの? あたしは君のことが好きなの」

池山「・・・・・・わけがわからないよ。それなら何で結城と付き合ったの」

有希「自分にだってわかんないよ。でも一番好きなのは君。ねえ」

池山「ちょっと待てよ。って、やめろ」

有希「怜菜から聞いたよ」

池山「だから離せって」

有希「君と怜菜ってまだ関係してないんだってね」

池山「・・・・・・君には関係ない」

有希「何でしないの? ずっと恋人同志なのに」

池山「よせ」

有希「初めてだから上手にできるか不安なの? それとも怜菜なんかじゃその気になれな
い?」

池山「服着ろ」

有希「あたしが教えてあげる」

池山「いい加減に」

有希「じっとしてて」


兄(なんだこれ。事実は同じかもしれないけど、結城さんの話と違うじゃんか。結城さん
の話だと自分が一方的に母さんに浮気されて別れたみたいなことを言ってたけど)

兄(これだと最初に浮気したのは結城さんじゃないか。・・・・・・それも実の妹である怜菜さ
んと)

兄(実の妹との関係で父さんと母さんが不幸になって、そして復讐的な意味で結ばれたん
だとしたら。浮気で結ばれるよりもっと救われねえじゃん)

兄(妹が言ってた。母さんは俺と妹の関係に神経質だったって。結城さんと怜菜さんの件
が母さんにとってトラウマみたくなってたんだろうか。反射的に自分の子どもたちを疑う
ほどに)

兄(父さんと母さんの馴れ初めはわかった。こういうひどい状況で一緒になってこの先結
婚までしたんだろう。でも結城さんと怜菜さんは? 実の兄妹で結婚? ゆうは兄妹が結
ばれた結晶なのか?)

兄(いや、まさかそこまでは)

兄(・・・・・・うーん。とりあえず続きを読むか)


今日は以上です
また、投下します


有希「おはよ」

池山「・・・・・・どうしてここにいるの」

有希「どうしてって・・・・・・あの夜以来、君は全然連絡くれないから」

池山「(連絡なんかできるか)ごめん」

有希「ううん。別に君が謝る必要はないけど」

池山(気まずい。有希とあんな関係になってしまったんだし。これも浮気になるのかな)

有希「大学院棟の中って初めて入ったよ。中は意外と狭いんだね」

池山「・・・・・・うん」

有希「今日は何だったの」

池山「四月から所属する研究室の先生の面接だった」

有希「そうか。もう終った?」

池山「うん」

有希「じゃあ、ちょっと付き合ってくれる?」

池山「・・・・・・もう二人きりで会わないほうがいいと思うんだけど」

有希「でも、君に相談があるの」

池山「相談って(正直怜菜とはもう無理だろうけど、だからって有希と一緒に傷を舐めあ
うのも嫌だ。もともともてなかったんだから元に戻るだけだ。ちょっとだけ寄り道したっ
て考えればいいんだ)」

有希「お願い」

池山「結城と怜菜がそういことになったのなら、相談されたってもう僕には何も言えない
よ。それに君はまだ就活だって終ってないんでしょ」

有希「多分、集談社は内定もらえると思うし、だめならだめでもういいよ就職なんて」

池山「自棄にならない方がいいんじゃ・・・・・・って(泣き出しちゃった)」

有希「もうやだ。普通に企業訪問して面接なんか受けられる心境じゃないよ」

池山「(やばい。研究室の先輩たちが変な目でこっちを見てるじゃん)わかったよ。付き
合うから泣き止んで」



池山「落ちついた?」

有希「うん。取り乱しちゃってごめん」

池山(有希って一見清楚だけど実は結構遊んでいる女の子だったはずなのに、ここまで取
り乱すとは。こういう子でもやっぱり彼氏に浮気されるとここまで落ち込むんだ。可愛く
てもてる子でもこういう悩みは僕たちと同じなんだな)

池山(いや、違うか。結城の相手が怜菜だから、結城の実の妹だからここまで落ち込んで
るんだろう)

池山「ここでよかった?」

有希「うん。このカフェも卒業したら来なくなるんだろうなあ」

池山「僕は当分はここにお世話になると思うよ」

有希「ニ年間?」

池山「卒業してから四年間かな」

有希「・・・・・・そう」


池山「相談って・・・・・・(何か聞きづらいな)」

有希「この間のこと、後悔してる?」

池山「・・・・・・後悔って言うか」

有希「って言うか、何?」

池山「この年で初体験だったから、贅沢を言っちゃいけないんだろうけど。つまり、ああ
いう状態じゃなかった時の方がよかったって言うか」

有希「そうだよね」

池山「うん」

有希「・・・・・・今日、結城君と会ったんだ」

池山「本当に?」

有希「うん。彼と初めてデートしたときに入ったカフェに呼び出されてね。そこで振られ
た」

池山「あいつ、何って言ってた?」

有希「意外だったけど正直に話してくれた。妹と、怜菜と付き合いたいから別れてくれっ
て」

池山「え? 兄妹でそういう関係になりたいって正直に君に話したの?」

有希「うん。あたし、びっくりしちゃった」

池山「それはそうだろうね」

有希「彼、顔真っ赤で手が震えてた。煙草を何度もテーブルに落としてたし、あんな結城
君を見たのは初めてだよ」

池山「・・・・・・そうか(本気なんだ。結城のやつ)」

有希「そんな彼を見てたらね。不思議なんだけどあれだけ悩んでいたことがばかばかしく
なっちゃった。何か吹っ切れた感じでね。彼への未練も怜菜への腹立ちも消えてさ。ああ、
この人たちはかわいそうな人たちなんだなって、同情すら感じたくらい」

池山「(笑ってる。だけどさっきまで泣くくらい落ち込んでたのは何なんだよ)もう気に
ならないってこと?」

有希「うん。結城君にはもう未練はないよ」



有希「わかった。別れてあげる」

結城「本当にごめん」

有希「もういい。あたしのことは気にしなくていいよ」

結城「有希と池山には本当にすまないことをしたと思う」

有希「結城君はもう気にしなくていいよ」

結城「・・・・・・有希」

有希「正直、結城君と怜菜の仲は応援できない。実の兄妹で恋愛、しかも体の関係がある
なんて汚らしいとしか思えない」

結城「うん」

有希「それでもさ、結城君と怜菜があまり辛い思いをしないように祈ってるよ」

結城「・・・・・・ごめん」

有希「じゃあね。怜菜にもよろしく」


池山「だったら何で辛そうに泣いてたの。それに相談っていったい。企業の面接さえ受け
られない心境なんでしょ」

有希「それは本当なの。でももうその原因は結城君に振られたことじゃないよ」

池山「じゃあ何で」

有希「あのさ。あのとき、君は本当に嫌だった?」

池山「え?」

有希「本当に辛いだけだったの? 後悔しているって言ったけど、全然気持ちよくなかっ
た?」

池山「・・・・・・何でそんなこと聞くの? それはもう忘れようよ。それに相談」

有希「あたしの相談はそのことなの。君さえよかったら、あたしと付き合ってもらえない
かな」

池山「付き合うって。君はいったい何考えてるの(嘘だろ? あの有希が僕に告白するな
んて)」

有希「あたしさ。近親相姦とかそういうの無理。仮に結城君が怜菜じゃなくてあたしを選
んだとしても、妹にそういう感情を一度でも持った男なんて気持ち悪くて絶対に付き合え
ない。そう気づいたら、結城君に振られたことが気にならなくなったのね」

池山「・・・・・・それは確かにわかる気はするけど」

有希「はっきり言えば気持ち悪い。思わず別れ際に彼にもそう言っちゃった」

池山「でも、それが何で僕と付き合うことに繋がるの」

有希「あたしね。君のこと好きなんだと思う」

池山「だから何でそうなるの。あの晩は君は自棄になってたし、誰でもよかったんじゃな
いの?」

有希「違うよ。あたしはそんな女じゃないよ」

池山「それに僕はあれからまだ怜菜と話をしてないんだ」

有希「あ、そうか・・・・・・。ごめんね。君の方はまだ心の整理が付いてないのね」

池山「正直に言えばそういうことかな」

有希「じゃああたし待つから」

池山「待つってどういうこと」

有希「多分だけど、怜菜は君に別れ話を持ってくると思う。結城君みたいに正直に兄妹の
関係を話すかどうかは別だけど」

池山「うん」

有希「まあ、怜菜に最小限でも君に対して申し訳ないという気持が残っているとしたら、
正直に話をするとは思うけどね。結城君がそうだったみたいに」

池山「怜菜に振られるにしても、嘘をついて振られることはないと思う。少なくともこの
間までは怜菜が僕のことを好きだと言ってくれた気持ちには嘘はないと信じているから
ら」

有希「そうならいいね」

池山「え」

有希「怜菜と正式に別れたら、あたしのことも真面目に考えてくれる?」

池山「いや、僕は」

有希「真面目に考えてくれるくらいはいいでしょ? 絶対にあたしと付き合うって約束し
ろっていってるわけじゃないんだし。それともあたしの告白には真面目に考える価値さえ
ないの?」

池山「そうじゃないって。わかった、そうするよ」

有希「じゃあ連絡待ってる」

池山「うん」

有希「頑張ってね」


怜菜「まだ理解できない?」

池山(心が折れそうだ。でも、頑張らなきゃ)

怜菜「理由なんかどうでもいいでしょ。それを聞いてどうするの」

池山「理由もなしに別れろって言われても納得できないよ(頑張れ、僕)」

怜菜「何でそんなに粘着するわけ? 別に婚約しているわけでもなんでもないじゃん。恋
人同士が別れのときを迎えるなんてよくあることでしょ? 君なら相手に振られるなんて
今までに何度も経験しているんじゃないの」

池山「・・・・・・(これ、本当にこの間までの優しかった怜菜か?)」

怜菜「ああそうか。振られるも何も君が付き合った女の子ってあたしだけだっけ? そし
たらいろいろと経験がないのも無理ないけど」



「まあ、怜菜に最小限でも君に対して申し訳ないという気持が残っているとしたら、
正直に話をするとは思うけどね。結城君がそうだったみたいに」



池山(僕に対して申し訳ないという気持すら持っていないということか。少なくとも結城
は有希に対して真実を伝えて本気で謝った。でも怜菜は)

怜菜「だからさあ。君より好きな人ができたってだけだよ。そんなのよくあることじゃん。
それともあたしは好きな人への気持ちを隠して君のことが一番好きな振りをした方がいい
の? 君はそんなことで満足できるわけ?」

池山「僕は君のことが本当に好きだったから。だから・・・・・・」

怜菜「君には悪いとは思うよ。でも、あたしは博人のことが一番好きじゃないの。最初か
らそうだったわけじゃないけど、今はそうなの」

池山「君が好きな人って誰なの」

怜菜「それを聞いてどうするの? 相手のところに喧嘩でも売りに行く? 違うよね。君
はそんなことができる人じゃないもんね」

池山「・・・・・・」

怜菜「無言になっちゃったね。あたしにプレッシャーかけてるつもり?」

池山「そうじゃないよ」

怜菜「わかったよ。教えてあげる。あたしの好きな人は同じ大学で、君と違って女の子に
慣れていて今までもいっぱい告られていて、一部上場企業に内定が決まって将来性もある
人だよ」

池山「(それが結城だとは言わないんだな。結城は震えながらも有希に全部告白したの
に)」

怜菜「君とは真逆の人でしょ。君はあたしが初めてのキスの相手で、院に進むのはいいけ
ど民俗学じゃ将来性もないよね?」

池山「・・・・・・もういい)」

怜菜「ついでに言えば君はまだ童貞。あたしとずっと付き合っていたのに、手も出そうと
しなかったよね?」

池山「・・・・・・」

怜菜「わかったでしょ。君にはあたしに振られる理由しかないじゃない」

池山「わかった。僕たち別れよう」

怜菜「・・・・・・それでいいのよ。最初からそう言えばいいのにぐだぐだと」

池山「悪かった。じゃあ元気でね。今まで本当にありがと(結城と付き合う・・・・・・か。結
構茨の道なんだろうなあ)」

怜菜「・・・・・・うん」


有希「やあ」

池山「何でいるの」

有希「元気出しなよ」

池山「僕は元気だよ。それよかいつからいたの」

有希「ついさっき来たところだよ」

池山「・・・・・・そう(有希ってずぶ濡れだ。雨が降り出したのって三時間以上前じゃん
か)」

有希「怜菜と話したの?」

池山「取りあえずアパートの中に入りなよ」

有希「・・・・・・うん」

池山「そのままじゃ風邪引くね」

有希「別にどうでもいいよ」

池山「就職活動は終ってないんでしょ」

有希「終ったよ。集談社から内定出たから」

池山「そうなんだ。よかったね。おめでとう」

有希「・・・・・・」

池山「有希?」

有希「それで? 怜菜は何だって?」

池山「うん。好きな人ができたから僕とれたいって」

有希「それで」

池山「それでって・・・・・・」

有希「怜菜は自分の汚らわしい近親相姦の関係を告白した?」

池山「・・・・・・」

有希「しなかったのね。あたしと接触すればすぐにばれると言うのに。ちっとは結城君と
口裏を合わせとけばいいのにね」

池山(あれ。何だろう、体が震える。別に雨に濡れたわけでもないのに)

池山(さっきは怜菜の話に動揺はしたけど、しっかりと自分を保って別れ話に対応できた
のに。何で今になって・・・・・)

有希「博人?」

池山「うん。大丈夫」

有希「すごい汗だよ。それに体が震えているじゃない」

池山「・・・・・・ごめん」

有希「・・・・・・博人」

池山「ちょっとごめん。トイレに行って来る(視界が歪んでぐるぐる回転し始めた。いっ
たい何でだ)」

有希「ちょっと博人」

池山(立っていられない。まずい。何でこんなみっともないところを有希に)

池山(・・・・・・視界が薄れていく)

有希「ちょっと博人。博人ってば」


池山(あれ。僕ってどうしたんだ。つうかあのとき視界がぐるぐる回りながら薄れていっ
て。気を失ったのか。自分の人生で本当に気を失うとか初めてだ。自分では割り切れてい
るつもりだったのに、本当はショックだったのかなあ)

有希「・・・・・・大丈夫だよ。もう心配しなくていいから」

池山「有希?(頭と背中を撫でてくれてる)」

有希「もう全部忘れて。君が悩むことはないのよ」

池山「だって」

有希「怜菜が君に対してどういう態度を取ったのかは想像がつくよ。君の状態を見ればね。
でも、もう気にするはやめよう。あたしももう吹っ切れたし君もそうして」

池山「有希が励ましてくれるのは嬉しいけど、怜菜にあそこまでひどい態度を取られると、
気にするなって言われても無理だよ」

有希「怜菜が君に何を言ったかは知らないけど。でもあの子のことだからきっと別れる責
任を全部君に押し付けたんでしょうね。ばかな子」

池山「・・・・・・うん」

有希「少なくとも結城君はあたしに全部打ち明けたんだし。答え合わせくらいしておけば
よかったのにね」

池山「よくわからないよ、もう」

有希「わからなくていいよ。一緒にいてあげるからこのまま寝ちゃいなよ。明日起きれば
少しは気持ちがすっきりしているかもよ」

池山「・・・・・・君が風邪引いちゃうでしょ。お風呂に入ってきたら」

有希「あたしの心配はいいから。別にこんな弱った状態の君を口説いたりしないよ。だか
ら安心して休みなよ」

池山「だってさ」

有希「いいから素直にお姉さんの言うことを聞くのよ」

池山「・・・・・・年なんて数ヶ月しか違わないのに」

有希「ほら。布団かけてあげる」

池山「君を放って勝手に寝るわけにはいかないよ」

有希「・・・・・・」

池山「何?(有希が僕を見つめている。何か優しいような悲しいような不思議な瞳で)」

有希「君は優しいね。ちょっと不安になってきたよ」

池山「不安ってなに?」

有希「君は気にしなくていいの。寝付くまでお姉さんが寄り添っててあげるから、寝ちゃ
いなさい」

池山(そうはいくか。でもなんだか体の震えが収まってきた。全身が温かい感じ。いろい
ろ緊張して強張っていたものがときほぐれていく感じ)

池山(有希の体温を感じる。何か安心するな)

池山(いけない。本当に眠くなって・・・・・・)



池山(・・・・・・あれ)

池山(今何時だろ。ってもう朝じゃないか。結局ずっと寝ちゃってたのか)

池山(有希?)

池山(僕の体に半ば覆いかぶさるようにして。寝てるのかな)

池山「有希?」


池山「有希、寝てるの?」

池山(昨日有希って結構雨に濡れてたよな。大丈夫かな)

有希「あたし寝ちゃったのか」

池山「おはよう有希。ずっといてくれたんだね」

有希「おはよ。気分はどう」

池山「うん。君のおかげかな。何かすごくすっきりしてる」

有希「よかった。そんなに簡単に怜菜に傷つけられたことは忘れられないかもしれないけ
ど、もうなるべく忘れた方がいいよ」

池山「うん。それが本当にもう未練を感じないんだ。すごくすっきりした感じ」

有希「本当? 無理してない?」

池山「本当。多分、君がずっと一緒にいて頭を撫でててくれたからだと思う」

有希「・・・・・・」

池山「有希?(有希の顔が赤くなってる)」

有希「よかった」

池山「え(泣いてる?)」

有希「君が壊れなくて本当によかった。あたし心配で心配で」

池山(僕の胸に顔を埋めちゃった。でも何だろう。何だか不思議といとおしい気持ちが)

池山(いや。流されちゃいけないんだ。お互いに失恋したばかりで寂しいからこんな気持
ちになるのかもしれない。冷静に考えればこんなことで好意を持つなんていい加減すぎる
し、それじゃ結城と怜菜と同じようになるような気がする)

池山「有希?」

池山(返事がない・・・・・・というか何か有希の体から力が抜けているような)

池山「有希? 寝ちゃったの(あれ)」

池山(すごい熱じゃん。これはちょっとまずい)

池山「有希、起きて。熱はかった方がいいよ」

池山(ぴくりとも反応しない。どうしよう。病院に連れて行かないと)

池山(とりあえず濡れた服を脱がし)

池山(ってそんなことできるわけないだろ。そんなことしたら本気で有希に嫌われる)

池山(ど、どうしよう)

池山(ちょっと待て。嫌われたっていいじゃんか。別に有希に好かれたいわけじゃないん
だし。それに少なくとも昨夜の僕は有希に救われたことは確かだ。嫌われようが罵られよ
うが有希のためにできることをすればいいんじゃないか)

池山(それに有希の裸ならもう見たことがある・・・・・・し)

池山(・・・・・・よし。とにかく、濡れた服を脱がして体を拭いてから病院に連れて行こ
う。もう救急車を呼んでもいいくらいじゃないのか)

池山(まずタオルを取って来て)



池山(よし。このブラウスのボタンを)

池山(ブラも取った方がいいかな。ってあたりまえだろ。濡れた服は気化熱で体温を奪う
んだぞ)

池山(よし)

池山(・・・・・・)

有希「・・・・・・君はいったい何をしているの」

池山「え?」


有希「・・・・・・君ってこういう趣味があったのね」

池山「これは違うんだ。つまりそうじゃなくて」

有希「意外と大胆なんだね。意識を失った女の服をそっと脱がすなんて」

池山「(これは言い訳しても無駄だな)・・・・・・気分はどう?」

有希「どうって」

池山「これ。熱はかって」

有希「そういえば体が熱くてだるい」

池山「風邪を引いたんでしょ。雨に濡れたまま寝ちゃったから」

有希「なんだ風邪だったのか」

池山「何だって・・・・・・」

有希「寝ている間に君に激しくエッチなことをされたから体が火照ってだるいんだと思っ
てたよ」

池山「何にもしてないって」

有希「あたしの服を脱がしてたじゃん。その証拠にほら」

池山「見せつけるなって(・・・・・・有希の裸の胸、綺麗だ)」

有希「ふふ。冗談だよ。心配してくれてありがと」

池山「病院に行ったほうがいいよ」

有希「大丈夫。体を拭いて暖かくして寝てれば一晩で治るよ」

池山「本当に平気なの?」

有希「うん。君には迷惑かけちゃうけど、少しこの部屋で休ませてもらっていい?」

池山「もちろんいいけど」

有希「じゃあ続きをして」

池山「続きって。僕は決してエッチなことを君にしようなんて」

有希「エッチなことの続きなんて誰も言ってないよ。服を脱がして体を拭いてくれるんで
しょ?」

池山「いや。起きたのなら自分でしなよ」

有希「目を覚ましたけどだるくて起きあがれないの。拭いてもらっていい?」

池山「あのさあ」

有希「・・・・・・」

池山(一瞬だけ苦しそうな表情をした。有希は僕をからかってるんじゃなくて、本当にだ
るくて動けないんだ)

有希「ほら早く。あたしの裸を見るなんて初めてじゃないでしょ」

池山「わかった(本当は苦しいのにわざと平気な振りなんかして)」

池山(有希が清楚なお嬢様じゃなくてビッチだったとしても、この子が僕を救ってくれた
のは確かなんだ。今度は僕が)

有希「気持ちいい。何だか少し楽になってきたよ」

池山「わかったからじっとしてて。終ったら僕の服を着るんだよ。嫌かもしれないけど我
慢してね」

有希「・・・・・・嫌なわけないでしょ」

池山(有希の顔が赤いけど。熱のせいだよね?)


兄(この後、なし崩しに池山と有希、つまり父さんと母さんは付き合い出した。この後の
父さんの手記は今までと一転して母さんとの関係のことばかり記されている)

兄(不思議と今では父さんと母さんの馴れ初めを批判する気にならないし、嫌悪感すら沸
かない。浮気が原因で始まった仲だと結城さんからは聞いていたけど、明らかに結城さん
と怜菜さんの方に責任があるとしか思えない)

兄(・・・・・・)

兄(なのに何でかなあ。池山さんと怜菜さんのカップルにも不思議と嫌悪感を抱けない。
この手記が記された当時、母さんが抱いたような感情は沸いてこないんだよな)

兄(何でかなんてわかってる。それが実の兄と妹の関係だからだ。この二人のやり方は最
悪なのは間違いない。お互いのパートナーを酷く傷つけたんだから。特に怜菜さんの父さ
んへの態度は酷すぎる。でも・・・・・・)

兄(結城さんは怜菜さんを選んだんだ。俺の母さんのことを振ってまで。妹を想うその気
持ちを俺は非難できるのだろうか)

兄(まあ、俺と妹のことは今は別だ。俺は結城さんのように行動する気はないんだし。と
にかく父さんと母さんの馴れ初めはよくわかった。今まで考えていたような醜く酷い関係
じゃなかったんだ。それがわかったことは収穫だった。でも)

兄(じゃあ何で結城さんは俺にあんなことを話したんだ。確かに嘘はついていないのかも
しれないけど、全部を話してくれなかったせいで思い切りミスリードされたんだ。もしか
してわざとか?)

兄(それに母さんの了解を得て話しているって言ってたけど。その辺が全くわからん)

兄(ただ一つだけよく理解できたことがある。母さんが何で妹に、俺とあまり仲良くし過
ぎるなって注意したのか)

兄(妹にその話を聞いたときは正直ふざけんなって思っていたけど。でも、ここまで知っ
た今では、母さんの言葉も無理はなかったのかもしれない)

兄(・・・・・・昔の出来事を踏まえてそのときの母さんの気持ちを考えると何か切ない)

兄(いや。それはそれだ。あいつは妹が身の危険を感じているのに、そのこと自体を妹の
自意識過剰だって一言で切り捨てたんだから。母さんに同情する必要なんかない)

兄(それにしても、結城さんと怜菜さんは結婚できるわけがないんだ。そうしたらゆうは
誰の子どもなんだ? それにどうして今さら結城さんと母さんが再婚することになったん
だろう)

兄(父さんの手記は母さんと同棲し始めたところで終っている。ホームページにもその辺
のことは触れられていなかったし。ここらが残された文献から過去を探る限度か)

兄(・・・・・・いや。俺は何のために民俗学なんて専攻しているんだ。文献が残っていない事
象を聞き取りとかで収集するのが、この学問のメソッドじゃないか)

兄(そうじゃないだろ。過去のことはもう気にしないようにするんだろ?。幼友との仲直
りとかがあるから、とりあえず手記を読んだだけなんだから)

兄(そうだ。もうこれくらいで十分だろ。過去を探るのはもうやめよう)


今日は以上です
また投下します


兄「起きた?」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「おまえ、よく寝たなあ」

妹「寝ちゃってたんだ、あたし」

兄「よっぽどサッカー嫌いなんだな、おまえ」

妹「何で? 好きだよ」

兄「サッカー好きなやつが試合開始してすぐに寝るかよ。結構いい試合だったのに」

妹「日本が勝った?」

兄「勝ったよ(両方とも日本のチームだから嘘は言ってねえよな)」

妹「やった」

兄「よかったね」

妹「今何時?」

兄「そろそろ三時半になるな」

妹「じゃあ、しかたない。起きるか」

兄「何がしかたないなんだよ」

妹「だって買物行かないと、夕ご飯の支度できないから」

兄「それで思い出したんだけどさ。俺も今日買物しないといけないんだった」

妹「何を買うの?」

兄「洋服」

妹「・・・・・・そんなのは昨日アウトレットでいっぱい買ってあげたじゃん」

兄「違うよ。スーツとかネクタイとか靴とか。よく考えたら明日からインターンシップで
研究所に行かなきゃ行けないんだけど、俺って就活しないじゃん? よく考えたらそうい
う服を持ってなかった」

妹「何でそんな大事なこと、前日の午後になって言うのよ。裾直しとかその日のうちにや
ってくれるかわからないじゃん」

兄「そうなの?」

妹「もう。スーツじゃなきゃいけないの?」

兄「大学でもらった説明の書類にはそう書いてあったけど」

妹「昨日言ってくれたらアウトレットでいくらでも買えたのに。何で直前になって言い出
すかなあ」

兄「だってさ。幼友のこととかいろいろあったから、すっかり忘れてたんだよな」

妹「すぐに出かけるよ。お兄ちゃんは車出して」

兄「へ」

妹「へじゃない。さっさとしろ」


兄「本当に大丈夫なのか」

妹「誰のせいでこうなったと思ってるのよ」

兄「悪かったって。最悪ジーンズで行くから」

妹「そういうわけにはいかないでしょ。お兄ちゃんが就職したいと思ってる職場なのに、
最初から印象を悪くしてどうすんのよ。それに死んだパパだって悲しむでしょ。自分の仕
事場に息子が来るのに、初日からだらしない格好をされたら」

兄「おまえ、裾あげとかできるの?」

妹「何とかするよ。お店に任せたら三日後の引渡しだもん。あたしがやるしかないでし
ょ」

兄「すまん」

妹「本当だよ」

兄「だから悪かったって」

妹「今夜はカップラーメンだからね」

兄「うん」

妹「帰ったらすぐに裾直しに取り掛かるから。お兄ちゃんは邪魔しないでよ」

兄「わかってるよ」

妹「せめてミシンがあればなあ。まあ、でも何とかなるか」

兄「おまえ裁縫できるの?」

妹「料理ほど得意じゃないけど。でも、学校で習ったし何とかなると思う。ミシンがあれ
ばもっと楽にできるのに」

兄「悪い」

妹「お姉ちゃんも明日からインターンシップなの」

兄「いや。学科によって日程はバラバラだから。あいつは後期日程だったと思う」

妹「あの人は?」

兄「(幼馴染もついにあの人扱いか)・・・・・・一緒だったな、そういや」

妹「最悪じゃん。何で一緒のとこに行くのよ」

兄「しかたねえだろ。まだあいつに振られる前にあいつが同じところがいいって・・・・・・別
にいいよ。なるべく話さないようにしてればいいんだし」

妹「うん。もうあの人には関わらない方がいいよ」

兄「わかってるって」

妹「そしたら、お姉ちゃんの買物はどうするの」

兄「俺は一週間は研究所に通うからあいつとは会えないな」

妹「本当に使えないなあ、お兄ちゃんは。いいよ。あたしがお姉ちゃんに会って渡すか
ら」

兄「頼んだ」

妹「頼まれたよ。まあ、お姉ちゃんと仲直りしてくるね」

兄「ああ(余計なことを聞かなきゃいいけど。特に両親の過去の話とか)」

妹「うふふ」

兄「何を笑ってる」

妹「あたしって駄目な夫を献身的に支えるいい奥さんみたいじゃない?」

兄「な・・・・・・! 何言ってるんだよおまえは」

妹「冗談だよ。何マジになってるの」

兄「別にマジになってなんか。とにかくそういうんじゃねえよ(いかん。結城さんと怜菜
さんのことを知ってから、やたら妹との関係を意識するようになってるな)」


妹「はいはい。わかったから」

兄(俺たちは。俺と妹はあいつらとは違う)

兄(でも本当にそうか? 結城さんたちみたく兄妹で結ばれたいからお互いの彼氏や彼女
を振って傷つけるなんてことはしてねえけど。それって結果論というか、偶然に順番がそ
うなっただけなんじゃないのか)

妹「どこかでコンビニに寄って」

兄「何で? お菓子でも買いたいの?」

妹「カップラーメンかコンビニのお弁当を買って帰ろうよ。今日の晩ご飯ね」

兄「カップ麺、切れてたなそういや。よし。買いだめしておくか」

妹「しないよ、そんなこと。カップ麺とか買いだめするならスーパーの方が安いでしょう
が。おじいちゃんに援助してもらっているのに、何でそんな無駄遣いするのよ」

兄(・・・・・・おまえが言うなよ。昨日だって自分の服とかアクセとかをじいちゃんの金で買
いまくっていたくせに)

妹「そこ右折しないと! もう。何で直進しちゃうのよ。家に帰ったら裾あげしなきゃい
けないのに。家から遠くなったじゃない」

兄(やべ。考えごとしたたらまた道間違えた)



兄(ここか。時間はちょうどいいな。集合時間の十五分前だし)

兄(父さんの職場だったし、公立では唯一の民俗学の研究所だから憧れもあったのだけ
ど)

兄(建物とか施設が古いのはしかたない。メインストリームじゃない研究機関なんかどこ
もこんなものだし)

兄(だが)

兄(思ってたよりだいぶ陰鬱な雰囲気だな・・・・・・。ここで一生働くかもしれないのか)

兄(いや。こういうことは印象で判断しちゃいかん。そのためにインターンシップとかし
てるんだから)

兄(しかし。妹の献身ぶりってどうなんだろうな。ついこの間までお互いに話すらしない
仲だったのに)

兄(あそこが入り口か。何か気後れするけど、妹のおかげでスーツで来れたし。堂々と明
るくあいさつしなきゃな)

兄(幼馴染のやつ、もう来てるのかな)

兄(いや。あいつのことは無視だ、無視)

兄(確か最初は管理課ってとこに集合しろって書いてあったな。集合って言ったって俺と
だ幼馴染けみたいだけど・・・・・・入り口を入ってすぐに狭いロビーがある。正面のカウン
ターのとこに管理課って書いてあるな)

兄(五、六人の年配の人たちがデスクに向って働いている。何だか声かけづれえ)

兄(いや。この先自分が働くかもしれない職場なんだ。思い切り印象をよくしないと)

兄(よし。元気な声で)

兄「おはようございます! 南関東大学文学部人文社会学科民俗学専攻の池山と申します。
今日からインターンでお世話になります。よろしくお願いします!」

兄(あれ・・・・・・ひょっとして、俺すべったかな。何か空気が凍りついたような)

「ああ、インターンシップの方ですね。おはようございます」

兄「おはようございます。よろしくお願いします!(すべってもいいや。とにかく礼儀正
しさと元気さをアピールしないと)」

「課長~。インターンの方がいらっしゃいましたよ」

「はいはい。おはようございます。え~と。池山さんだっけ」


兄(何か地味な人ばっかだな。研究所だから別に普通の会社みたいな華やかさを期待した
わけじゃないし、そもそも華やかな職場なんか俺には似合ってないのはわかってるけど)

兄「はい。よろしくお願いします」

「よく来たね。じゃあ、所長にあいさつしていただきましょう」

兄(ずいぶん年配の人だな、この課長って。公務員ってこういう感じなのか)

「じゃあ、こっちについて来てくれる」

兄「はい」

兄(所長室? 最初は所長にあいさつするのか)

「所長、管理課長です」

「は~い」

「今日からインターンシップで実習に来た学生さんがいらっしゃいましたよ」

「入ってちょうだい」

「失礼します。君も一緒に入って」

兄「あ、はい。失礼します」

「おはよう、兄君」

兄(年配の女の人? 母さんと同じ年くらいかな。つうかいきなりフレンドリーに名前を
呼ばれたんだけど)

「所長の諌山です。つうか兄君、久し振りだねえ。あたしのこと忘れちゃった?」

兄「はい?」

所長「あはは。びっくりしないで。佐々木から聞いてるよ。君って池山君の息子さんなん
ですってね」

兄「あ、はい(池山君? この人って父さんの先輩なのかな。佐々木先生は父さんのこと
を先生とか先輩とかって呼んでいるのに)」

所長「覚えてないかなあ。昔、保育園児だった君をいつも抱っこして面倒をみてあげたの
に」

兄「はい?」

所長「まあとにかくそこに座って。幼馴染さんの隣ね」

兄(げ。やっぱこいつも来てたのか。ってそりゃそうだ。これも単位認定されるんだか
ら)

幼馴染(・・・・・・)

兄(無視かよ。でも形だけでもあいさつしとかないと、礼儀知らずだと思われるかもしれ
ない。ここに就職を希望している以上は・・・・・・)

兄「おはようございます」

幼馴染「・・・・・・おはようございます」

兄(小さな声。まあ無理もない)

所長「よく来たね。君がここに来るのって何年ぶりだろうね」

兄「え(俺、ここに来たことあるんだっけ)」


所長「じゃあ説明始めるか。君たちは今日から五日間、ここで職場体験してもらいま
す。二人で一緒に行動してもらうからね」

兄(げ。マジかよ)

幼馴染「・・・・・・はい」

所長「主任研究員の岩崎の下で、データの整理や紀要の編集とかしてもらね。まあ、雑用
なんだけどここの仕事がどういうものかはわかると思うよ」