妹と俺との些細な出来事 (1000)

妹スレ
不定期投下
投下頻度少な目(かけもちしているので)
非エロ

それでもよかったらご覧ください

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<ネタは誰?>



兄「ただいま」

兄(また誰もいないのかよ)

兄(何か俺って、四月からの一人暮らしを始めるまでもなく、既に家で一人ぼっ
ち・・・・・・)

兄(ぼっちって何か不吉な単語だな。一人暮らしはまあ既定路線だけど、まさか大学で友
だちができないとかじゃねえだろうな)

兄(ま、まああまり心配するまでもない。中学高校とそれなりに友だちもいたんだしな。
いくら地元から離れた大学といったって友だちくらいはできるはず)

兄「親父とお袋はともかく、高一の妹がこんな時間まで外出とはどういうことだよ」

兄「・・・・・・」

兄「ま、まあ、年頃だしな。しかもあいつは見た目は可愛いし、しかも、幼馴染の話によ
るとイケメンの先輩三人に言い寄られているらしいしな」

兄(つうか、いつのまにか独り言を言ってるじゃねえか、俺。もう、一人暮らしの準備は
十分だな)

兄(どうせ誰もいないんだから自分の欲望を開放してもいいかも)

兄「・・・・・・妹はいねえよな」

兄「うん、いない」

兄「親父もお袋もいない・・・・・・」

兄(誰にも聞かれていないなら、こういう時こそ妹に俺の熱い思いをぶつけねば)

兄「・・・・・・妹」

兄「いや、いくら何でも声が低すぎる。誰もいないんだから今日こそ自分のリビドーを解
放して」

兄「・・・・・・妹、妹! 妹!!」

兄「大好きだよ妹。おまえが欲しい。俺の恋人、いや奥さんになってほしい」

兄「おまえが幼い頃からおまえだけを見てきた。幼馴染の美少女に小六のとき告白された
り、中二のときクラス委員の優等生に迫られたりもした」

兄「高校に入って生徒会長だけど実は腐女子の先輩に、一緒の大学に行こうと口説かれた
こともあった」

兄「でも、俺が好きなのは俺が愛しているのは妹、おまえだけだよ。親友の男に相談した
時にはどん引きされたけど、それでも俺は後悔していない」

兄「おまえが幼いときからずっとおまえだけを見つめてきた。おまえの胸のささやかな成
長も、おまえの髪が伸びるのも」

妹「・・・・・・お兄ちゃん、脳みそ沸いてる?」

兄「いつから帰宅していた」

妹「『大好きだよ妹。おまえが欲しい。俺の恋人、いや奥さんになってほしい』ってとこ
から」

兄「・・・・・・そうか。それは学園祭の演劇のセリフを練習していただけだけどな」

妹「お兄ちゃんの学校の学園祭って去年終っているよね」

兄「それはそうだ。本番で納得がいかない出来だから学祭終了後も一人で練習してた」

妹「去年の学園祭はお兄ちゃん、ビラ配りしかしてないじゃん」

兄「なぜそれを」

妹「あたしとしてはもう少し納得できる釈明を要求したいな」


兄(これは言い訳は無理だな。ここまできたらいっそ)

兄「いや、素直に思ったとおりの言葉を口に出しただけなんだけど」

妹「何々・・・・・・開き直り? あたしはどんな反応をすればいいの?」

兄「何わけのわからんこと言っているんだ。素直に俺の愛情に応えれ・・・・・・」

妹「・・・・・・死ね」

兄「え?」

妹「え、じゃねえだろ」

兄「いや・・・・・・。つうかそもそもおまえ、何で俺の部屋にいるの?」

妹「何でって。声かけてもノックしても返事しなかったじゃん」

兄「だからって、普通兄貴がオナニーしているときにドア開けたりするか」

妹「妹にオナニーとかって言うな!」

兄「だってしてたんだもん」

妹「あのさあ」

兄「おう」

妹「聞きたくもなかったけど、あたしの名前を叫んでいるお兄ちゃんの声が聞こえちゃっ
たんだよ」

兄「うんうん」

妹「うんうんじゃねえよ。まさか、お兄ちゃん。あたしの名前を呼びながら。あ、あたし
のことを想像しながら」

兄「男なら普通だぞ。そんなことも知らないのかおまえは」

妹「・・・・・・何で偉そうなのよ。開き直ってるのかよ。ママとパパに言いつけるよ」

兄「すいません」

妹「それに言うにこと欠いて、ささやかな成長ってどういうこと?」

兄「いやだって・・・・・・。本当にささやかだし、おまえの胸」

妹「死ね。何で知っているのよ。見たこともないくせに」

兄「見たことあるし」

兄(あ、やべ。鬼のような表情)

妹「いつ」

兄「はい?」

妹「いつだって聞いてるの!」

兄「一昨日です。お風呂あがりでタオルを落としたあなたが、ソファに座っている俺の前
で前屈みに」

妹「・・・・・・見たの」

兄「おう。屈むとシャツの隙間から見えちゃうんだぞ。まあ、見えたっていうほうどはな
かったんだけどね。今後は気をつけるがいい」

妹「何で上から目線で忠告とかしてるのよ。結局覗いてるんじゃん」

兄「覗いたというか見せつけられたというか不幸な事故だったというか」

妹「もういい。今夜はパパとママ帰って来ないんだって」

兄「ほう」

妹「夕食作ってあげようと思ったけどやめたから。キッチンにカップラーメンあるからね。
じゃあね」


<切ないコピペ>



(パソコンのディスプレー)



 妹が
 義理だからねとチョコをくれ
 君が義理ならどんなにいいか



兄(名作だ)

兄(単なるコピペに過ぎないとはいえ)

兄(妹に惚れた兄貴の気持ちを繊細かつ的確に表現しているな)

兄(何だか泣けてくるほど切ないな。あいつが義理の妹なら、告って付き合えていたかも
しれないと考えると)

兄(・・・・・・)

兄(待てよ)

兄(・・・・・・冷静に考えると、義理ということは血縁がないということで)

兄(つまり同じ学校の可愛い子と同じ分類になるな)

兄(ということは)

兄(・・・・・・考えてみれば、というか考えるまでもなく)

兄(妹が学校の後輩だとしたら俺なんかがあいつと知り合って仲良くなれるわけなんかね
えじゃんか)

兄(現に、卒業までの三年間、親しくなれた女の子なんかいなかったんだし)

兄(ということは妹が俺の実の妹じゃなけりゃ、あいつは今頃俺なんかと話すらしてくれ
ていなかったということだ)

兄(あいつが妹でよかった。肉親だからこそ俺なんかと話もしてくれるしたまには飯も作
ってくれるわけだし)

兄(そう考えるとこれって全然名作じゃないじゃん。いや、このコピペの一人称の主人公
はきっとリア充なんだろうな。妹が赤の他人であっても十分落せるほどの魅力がある奴な
んだろう)

兄(だからこそ、目の前にいる相手が実の妹だということが苦しくて仕方ないのか。リア
充であるこの兄なら妹が学校の後輩なら簡単に付き合えるスペックなのに、なまじ実の妹
だから手を出せないという)

兄(そう思うとこれは意外と深いコピペだぞ)

妹「妹が 義理だからねとチョコをくれ 君が義理ならどんなにいいか」

兄「そうそう。切ないよな」

妹「そうかな。これ、意味わかんない。妹から本気チョコもらって、それが義理チョコだ
ったらよかったのにって話?」

兄「おまえって本当に読解力ないのな。どう読めばそういう解釈になるんだよ」

妹「妹が本気チョコをくれたって話でしょ。でも、それじゃあ近親相姦の禁断の関係にな
っちゃうから、義理チョコなら悩まなくて済んだのにって兄が悩んでいるって話じゃない
の?」

兄「そういう意味ちゃうわ。どこまで洞察力ないんだよ。だから、おまえは国語の成績が
悪いんだ」

妹「お兄ちゃん、ひどっ」

兄「って・・・・・・いつからいた」

妹「今から」


兄「だからおまえは何でノックするという簡単な習慣が身に付かないんだよ。びっくりし
たじゃねえか」

妹「あたしだって恐る恐るお兄ちゃんの部屋のドアを開けたんだよ」

兄「何で」

妹「またオナニーしてたら気まずいから。ましてあたしの名前呼びながらされてたら気持
ち悪いじゃん」

兄「もうそろそろ俺のオナニーネタの話題はよせ。それにいつもいつもしてるわけじゃな
いぞ」

妹「そうなの? いつもあたしでしてるわけじゃないんだ。じゃあ他には誰でしてるの」

兄「いろんな意味でちげーよ。いつもおまえでしてるわけじゃねえし、そもそもオナニー
ばっかしてるわけじゃねえよ!」

妹「なに逆切れしてるのよ。そもそもあたしでオナニーしていいなんて許可した覚えはな
いんですけど」

兄「ああいうのって許可がいるのか」

妹「何言ってるのよ。当事者の意思を無視して勝手にしていいことじゃないでしょ。普通
に考えたらわかるでしょうが」

兄「いやだって実際におまえにああしたりこうしたりされるわけじゃないのに、妄想する
だけでも規制されるのか」

妹「妄想される方はいい気持ちがしないでしょ。気持ち悪いでしょうが。てか、あたしに
するんじゃなくてあたしにされる妄想してんのかよ」

兄「A cat may look at a king」

妹「・・・・・・はい?」

兄「猫だって王様を見ることができる」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・そう、わかった。ちょっと自分が成績が良くて偏差値も良くて上位私大に合格
したからって、そう来るか。いいよ、せっかくカップラーメンじゃ可哀想だから仲直りし
て夕食用意してあげようと思ったのに」

兄「もちろん、オナニー目撃から切ないコピペの件も含めて、俺が全て悪かった。心より
謝罪する」

妹「またふざけて言うし。どんだけあたしをばかにすれば気が済むのよ。もういい」

兄「あ、ちょっと。本当に悪かったって」

兄(行っちゃった)

兄(結局今日の夕飯はカップラーメンか)

兄(それにしてもあのコピペの意味って、妹の解釈は正しくないよな。どう考えても実の
妹に惚れた兄貴の切ない戯言というのが正しい)

兄(でも何か妹の解釈に毒されてきたぞ。あれって近親相姦を避けたい正しく道徳的な兄
貴の想いの発露なのだろうか)

兄(その場合、妹は兄に本気チョコを渡したってことになるんだけど、そのへんあいつは
わかって言ってたのかな)

兄(・・・・・・)

兄(腹減った)


<嫉妬するわけないじゃん!>




女「よう兄」

兄「おはよ」

女「何で朝からそんなにげっそりした顔してるのよ。晴れて第一志望に合格してさ。あと
は卒業式を待つだけの幸せなモラトリアムの時間なのに」

兄「おまえこそ発言に棘がある。モラトリアムって言うなよ。生々しい」

女「だってそうじゃん? 普通なら今は進路も決まって惰性で卒業式の予行練習しに登校
しているだけだから、身も心も軽いでしょ?」

兄「それはまあ。でも浪人決定したやつとか第一志望を逃したやつ以外はみんなそういう
心境なんじゃね」

女「それが甘いね。むしろ、今は戦々恐々として不安に苛まれていなければおかしいでし
ょ」

兄「何でだよ。長かった受験生活が成功に終了したんだぞ。どう考えたって明るい未来し
か浮かんでこないじゃんか」

女「あんたさあ、目前に迫った大学生活をどう考えてる?」

兄「どうって・・・・・・。そりゃ、前から行きたかった大学だし、夢も希望もあるけど」

女「うふふ」

兄「うふふじゃねえよ。何が言いたいんだよ」

女「夢と希望かあ。そうだよね、それが普通だよね」

兄「おまえだって志望校に合格したんだろ? 嬉しくねえのかよ」

女「合格した時は嬉しかったよ。でも、その後に不安が豪雨前に暗雲に覆われる空のよう
にあたしの心を灰色に塗り潰したね」

兄「おまえ、修辞語下手だな」

女「想像してみてみ? 希望して入学した大学。憧れていたキャンパスライフ。でも、眩
しくさざめく新入生たちの間にはあんたの居場所はない。講義でも期待して入ったサーク
ルでもあんたはぼっち。周囲は知り合ってすぐに、さっそく友だちトークを繰り広げてい
るのに、あんたは学食で一緒に食事をする友人すらできない。そんな光景を」

兄「おい、やめろ。・・・・・・やめろ」

女「やはり気づいてはいたのね。ひょっとしてだからあんたは暗い顔してたの」

兄「いや、それは関係ない」

女「何よ。大学でぼっちになるかもしれないのに、それ以上の悩みがあんたにはあると言
うの?」

兄「ま、まあな」

女「相談してみ? あたしだってあんたのこと心配なんだしさ」

兄「・・・・・・いつから?」

女「へ?」

兄「いつから俺のこと好きだったの?」


女「どうしてそうなる」

兄「だって心配なんでしょ? 俺のこと」

女「おまえはな。あたしは兄友と別れてないぞ。なんであんたなんかと浮気しなきゃいけ
ないのよ」

兄「何だ、つまらん」

女「つまらんって、あんたもしかしてあたしのこと好きなの」

兄「何顔を赤くしてるんだよ。そんなわけねえだ、って痛えだろ」

女「あたしは兄友一筋です! つうか親友の彼女に何てこと言うのよ。あんたに好かれて
も迷惑です」

兄「まあ、俺も好きな子いるからさ。おまえに好かれても困るんだけどな」

女「あんたなんかどうでもいいけど、それでもそんなこと言われると腹立つわ」

兄「そう?」

女「誰?」

兄「はい?」

女「あんたが好きな子は誰だって聞いてるの」

兄「妹」

女「・・・・・・」

兄「どした?」

女「・・・・・・真面目に答えろよ。ふざけてると殺すぞ。で、あんたが好きな女は」

兄「うちの妹」

女「・・・・・・妹ちゃん?」

兄「うん」

女「マジで言ってるならドン引きだわ~。妹ちゃん可愛そう。実の兄貴に変な目で見られ
て」

兄「あいつのこと好きだってそんなに変かな」

女「変に決まってるでしょうが」

兄「妹が 義理だからねとチョコをくれ 君が義理ならどんなにいいか」

女「バレンタインデーに妹ちゃんからチョコもらったんだ」

兄「・・・・・・そう言われてみればもらってない」

女「義理とか悩む以前の問題だね」

兄「何で俺にそんなに冷たいんだ」

女「だって慰めようがないよ。あんた痛すぎ」

兄「あれか。ひょっとしておまえ、俺に嫉妬してる? 俺がおまえじゃなくて妹が好きな
ことに対して」

女「嫉妬するわけないじゃん!」

兄「やっぱおまえ顔赤いよ」

女「うるさい! 先に行く」

兄「そうですか」


今日はここまで
また投下します


<待ち合わせの正しいマナー>





妹「遅い」

兄「遅いと言われても。何時に来てれば遅くなかったかすらわからんのに」

妹「何でそんな簡単なことがわからないのよ。お兄ちゃんもしかしてバカ?」

兄「それはそうかもしれないが、少なくとも偏差値が痛いおまえに言われる筋合いはな
いと思う」

妹「そう言えばたまにいるよね。成績だけはやたらいいけど、常識とか社会性とかが欠け
ている男子って」

兄「ちょっと待て」

妹「あ、社交性もだ」

兄「・・・・・・」

妹「そういう男の子に限って必ずぼっちなんだよね。何でだろう?」

兄「俺はぼっちじゃないぞ」

妹「休み時間はいつも一人教室の自分の机で読書してない?」

兄「してるけど」

妹「お昼休みは本を机に立てて、その陰にお弁当箱を広げて最速十分くらいで昼食を終ら
せてない?」

兄「まあ、昼飯ごときに時間をかけるなんて意味ないからな」

妹「極端なときには一日誰とも会話がなかったりしない? 先生は別として」

兄「いや、待て。さすがにそこまでは」

妹「お兄ちゃんかわいそう」

兄「だから待て。聞いてもいない待ち合わせに勝手に遅れたことで、何で最愛の妹からそ
んなひどいことを言われにゃならんのだ」

妹「最愛とか気持ち悪い言うな」

兄「・・・・・・いったい何時に来てれば遅刻認定されずにすんだんだ?」

妹「あたしがお兄ちゃんの学校の校門前に到着する三十分前に決まってるでしょ」

兄「はい?」


兄「そもそもおまえが何で校門前で俺を待っているのかすら理解できていないんだけど」

妹「嬉しい?」

兄「まあ、そりゃ」

妹「そ、そう。あたしが突然お兄ちゃんを迎えに来て本気で嬉しがってるんだ」

兄「まあそりゃあ最愛」

妹「だから気持ち悪いって」

兄「・・・・・・」

妹「まあ、いきなり来たのはあたしだから、今日だけは特別にあたしを三十分以上待たせ
たお兄ちゃんを許してあげるよ」

兄「事前に断りもせず、勝手に迎えに来て勝手に待たされたと怒っているおまえに、何で
そんなに上から目線で許してもらわなきゃいかんのか、正直理解できていないんだけど」

妹「だってあたしが迎えに来てお兄ちゃん嬉しいんでしょ?」

兄「おう」

妹「じゃあ仕方ないじゃん。こういうのは好きになった方が負けなんだよ」

兄「・・・・・・さいあ」

妹「最愛って言うな。周りの人が聞いているでしょ」

兄「それでいったい何しに来たの?」

妹「女さんからメールもらったからさ」

兄「あいつから?」

妹「うん」

兄「何だって」

妹「大学でぼっちになるんじゃないかってガクブルしている兄貴を慰めてやってね」

兄「・・・・・・」

妹「あとお兄ちゃんは絶対に手の届かない女の子に片思いしているから、そんな兄貴を元
気づけてやってね」

兄「・・・・・・」

妹「だって。だからとりあえずお兄ちゃんを慰めようと思って部活休んで迎えに来た」

兄「うん。いろいろ突っ込みたいがとりあえずここにいると目立つから、家に帰ろうか」

妹「そうだね。帰ろ」


<綺麗な女の子たち>




妹「さっきから何きょろきょろしているの」

兄「いや。人が大勢いるなあって思って」

妹「都心のターミナル駅なんだから人が多くたって不思議じゃないでしょ」

兄「まあ、そうなんだけど」

妹「本当にさっきから何見てるのよ」

兄「だから別に」

妹「そう? 今日もお母さんたちいないから駅前のスーパーで買物して行こ」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん聞いてる?」

妹「・・・・・・」

妹「女子大生かな?」

兄「いや、もっと年上だろ。それにあの服装は大学生というよりむしろOLだな」

妹「やっぱり綺麗な女の人を見つけてはガン見してたか」

兄「まあ、目の保養になるからな」

妹「・・・・・・何でよ」

兄「何が」

妹「せっかくあたしがお兄ちゃんを慰めようとして一緒にいてあげてるのに」

兄「え?」

妹「・・・・・・何でお兄ちゃんはあたしだけを見てくれないの。そんなにあたしって可愛くな
い?」

兄「おまえちょっといつもとキャラ変わりすぎ」

妹「まあ、どうでもいいって言えばどうでもいいんだけどね。それにしたってくやしいじ
ゃん。周りにいる無関係な女たちの方があたしよりいいんでしょ?」

兄「涙目のセリフなら可愛かったのに、いきなり冷静に言うなよ。萎えるじゃんか」

妹「そんなにさっきの女の人が好みだったの?」

兄「いやまあ、さっきから十人くらいは綺麗な女の人を発見してたけどね」

妹「好みの女を見つけるたびにじろじろと下心丸出しでガン見するなんて、気持ち悪い
よ」

兄「そうじゃないんだなあ、これが」


妹「どう違うの」

兄「男ならみんなそうだろ。可愛い子を見かければじっと見る。電車の中で綺麗なお姉さ
んが隣に座れば、どきどきしてチラ見する。こんなの俺だけじゃないって」

妹「お兄ちゃんさあ、その」

兄「顔を赤くしてどうした」

妹「その、あたしがお兄ちゃんの最愛の人じゃなかったの」

兄「おまえは俺の最愛の女だぞ。おまえ以外に俺がここまで抱きたいと思い詰めた女はい
ないし、もっと言えばこの先の将来を共に手を取り合って進んでいきたいと決めた女はお
まえだけなんだけど」

妹「声でかいって。聞かれちゃうでしょうが。もういい、もういいから。恥かしいからや
めて」

兄「だっておまえが聞いたんじゃんか」

妹「それにしても、そんなにあたしのことがその・・・・・・・た、大切なら、何であたしと一
緒にいるときまで他の女をぼけっと馬鹿面して眺めるのよ」

兄「おまえもたいがい口が悪いな」

妹「いいから答えろ」

兄「・・・・・・ふぅ」

妹「何でこれみよがしにいかにも疲れたっていう風なため息をつくの」

兄「おまえは男性の心理が根本的にわかってない」

妹「どういうこと」

兄「現代アメリカ文学の旗手と言われている作家、アーウィン・ショーが1930年代に
発表した処女作なんだが」

妹「・・・・・・もういい。てか1930年代でも現代って言われるんだ」

兄「まあ聞けって。夏服を着た女たちというタイトルのスケッチ風の短編なんだけどさ。
ある夫婦がニューヨークを散歩しているんだ。奥さんの方は旦那にラブラブで、旦那の方
も奥さんが好き。それでも旦那は路上でいい女がすれ違うたびにその彼女たちをじっと見
つめる。それも一人や二人じゃなく」

妹「ふんふん。それで」

兄「旦那のそんな様子に気がついた奥さんは当然のことながら嫉妬する。あたしが一緒に
いるのに何で旦那は他の女の子に興味を持つのだろう。旦那が一瞬でも目を奪われた女の
子と比べたってあたしは全然負けてないのに、何で旦那はあたしを見ずに知り合いでもな
い女の子を眺めるんだろうってな」

妹「それでそれで」

兄「(珍しく食いついてきたな)それで二人は軽い仲違いをして、奥さんは旦那から歩み
去っていく。そんな奥さんの後姿を、旦那は他の女の子を見ていたのと同じくらい熱心に
興奮して思わずガン見するんだ。何ていい女なんだろう、何て綺麗な脚なんだろうって」

妹「うーん。その心は?」

兄「街中で綺麗な女を目で追ってしまうのは浮気でも何でもなく、単なる男の本能だって
ことだな。だからその行為によって奥さんや彼女への愛情や関心が薄れているわけじゃな
い。その証拠に自分の奥さんのことだって熱心に見つめることができたんだからな。もち
ろん、俺の最愛な人であるおまえへの愛情もまたしかり」

妹「だから、最愛って言うな」


妹「それって解釈違くない?」

兄「何でだよ。これ以外にどう解釈の仕様があると言うのか。まさか、旦那は奥さんを嫌
っているとでも言うつもりか。だいたい国語の偏差」

妹「偏差値のことは言うな!」

兄「ああ、はいはい」

妹「そうじゃなくてさ。好きの反対は嫌いじゃないって言うじゃない」

兄「好きの反対は嫌いで正しいだろ」

妹「嫌いっていうのは相手のことを引き摺っている感情だと思うな。だから、好きの反対
は嫌いじゃないよ」

兄「珍しく議論で俺に反論してきたな。よし、いいだろう。その議論受けてやろう」

妹「お兄ちゃん、目が恐い」

兄「そんなことはどうでもいい。結論を言ってもらおうか」

妹「お兄ちゃんって議論に関しては負けず嫌いだよね。相手から論破されると自分の全存
在を否定されたように考えちゃうタイプでしょ。自分への価値を議論にしか見出せてない
んだね」

兄「むしろ俺は議論よりも、そういうおまえの言葉に自分の存在意義を否定された気がす
るぞ」

妹「好きの反対は無関心だよ」

兄「え?」

妹「思い出してみて? お兄ちゃんがこれまで告白してことごとく振られた相手のこと
を」

兄「おまえなあ・・・・・・隠していたのに何で知ってる」

妹「相手の子って、お兄ちゃんを振った後だって別にお兄ちゃんを嫌ったりしなかったで
しょ。むしろ、お兄ちゃんに対してはそのへんの虫けらを眺めるように無関心なうつろな
視線を向けるだけで」

兄「・・・・・・俺さ、確かにおまえをネタにオナニーしたけど、それ以外におまえにひどいこ
となんか何一つしてないのにさ。何でおまえはそんなに俺を傷つけたがるんだ」

妹「ご、ごめん。あたし、そんなにお兄ちゃんが傷つくなんて思わなくて」

兄「振られたことだってトラウマになるくらい、PTSDで精神科に通おうかと思ったく
らい悩んだのに(あ、あの子可愛い。セーラー服がよく似合っているな)」

妹「おいこら」

兄(妹と同じ高校の制服だな。やっぱお嬢様校だけあってどことなく気品がある。何年生
くらいかな)

妹「あたしの方見ろって」


<妹の友だちって何か萌える響きだな>




兄「あ、ああ。見てるし聞いてるぞ」

妹「聞いてたかどうかはわからないけど、見てたのはあそこにいる高校生の女の子でしょ
うが」

兄「まあそうだけど」

妹「まあ、いいや。お兄ちゃんの言うその小説の解釈はそれで決まりだね」

兄「どう決まったんだよ」

妹「奥さんへの愛情は薄れてはいないって言ってたけど、思い切り薄れてんじゃん」

兄「何で? 旦那が奥さんを綺麗だなあってガン見するとこで終ってんだぞ。これは奥さ
んにまだ愛情とか関心がある証拠だろ」

妹「旦那の方は他の女の子と同列な感情で奥さんの後姿とか足を眺めたんでしょ? それ
はもはや無関心だよ。つまり旦那の方にはもう奥さんへの愛情はなかったってことじゃな
い」

兄「うん? 言われて見れば結構説得力がある解釈だな。偏差」

妹「だから偏差値のことは言うなと」

兄「確かにそう言う解釈も成り立つな。奥さんを特別な存在ではなくて他の女たちと同じ
レベルで綺麗だと思う。脚がスラットして綺麗だと考える。つまり他の女たちと同じ位相
で奥さんのことも記号化してしまっているということか。これはまさしくまさしく無関
心」

妹「お兄ちゃんが何言ってるかわからないけど。要するにお兄ちゃんはあたしに対する特
別な愛情をなくして、他の女の子と同じレベルでしか見ていないってことだね」

兄(・・・・・・あの子可愛いな。清楚だし間違いなく処女だろう)

妹「死ね」

兄「言葉遣いを何とかした方がいいぞ。おまえだってせっかくお嬢様の集う女子校に通っ
ているというのに」

?「妹ちゃんだ。妹ちゃーん」

妹「妹友ちゃん」

妹友「わあ、偶然だね」

妹「そうだね。今、帰り? 部活終ったの」

妹友「うん。今日はミーティングだけだったから。それよか今日はお家の事情で部活休ん
だんじゃなかったの」

妹「え。ああ、そうなの」

妹友「じゃあ、何でまだこんなとこにいるの」

妹「そ、それはさ」

兄「こんにちは~。妹の兄です」

妹「げ! 何話しかけてるのよ」

兄「妹の友だちって何か萌える響きだな」

妹「黙れ!」

妹友「あ。こ、こんにちは。妹ちゃんの同級生の妹友です。初めまして」


兄「初めまして。いつも妹がお世話になってます(たまたま見かけて可愛いなあって思っ
てガン見していた子が妹の友だちとは)」

妹友「ああ。妹ちゃんのお兄さんですか。こちらこそ妹ちゃんにはいろいろお世話になっ
てます」

妹「こんなやつにあいさつしなくていいから」

妹友「こんなやつって」

兄「こんなやつって」

妹「いいからお兄ちゃんは黙ってて」

兄「・・・・・・」

妹友「なあんだ。妹ちゃんの用事ってお兄さんと一緒に帰ることだったのかあ」

妹「違うよ」

兄「違うのか」

妹友「違うの?」

妹「違うって」

兄「だって明らかに俺の学校の校門前で俺を待っていて、しかも俺が来るのが遅いって怒
ってけど、なんだ、あれてって待ち合わせじゃなかったのか」

妹「だ か ら あ ん た は 黙 っ て ろ」

妹友「じゃ、じゃあ。家の用事を邪魔したら悪いしあたしはこれで」

兄「ぷ・・・・・・って痛え」

妹「じゃあまた明日学校でね。妹友ちゃん」

妹友「うん。お兄さん失礼します」

兄「またね」

妹「またねって言うな。会ったばっかなのに図々しい」

妹友「ふふ。妹ちゃんもお兄さんもまたね」

兄(可愛い)

妹「あたし、先に帰る」

兄「何で?」

妹「何でも。じゃあね」

兄「おい、待てって。せっかく迎えに来てくれたのに何でだよ。しかも行く先は完全に同
じ家なのに」

兄(早足で駅の構内に行っちゃった)

兄(妹の後ろ姿)

兄(小柄だけどすらっとして華奢な背中のライン)

兄(制服のスカートから覗く細い脚)

兄(胸が切ない。やっぱあいつは今日ガン見したどの女の子よりも可愛いな)

兄(記号化されてなんかいないし。妹の読解力はやっぱりまだまだだな)

兄(期せずして自分の小説の解釈が正しいことを身をもって再体験してしまった。これも
俺の最愛の妹のおかげかな)

兄(妹を追いかけよ)


今日は以上です

また投下させてもらいます


<妹の彼氏に嫉妬するなんてありえなくね?>



兄(夕食どころか朝食まで何の用意もなかったな)

兄(そんなに怒ることか? 妹と一緒にいたときに他の女の子を気にしたことは確かだけ
どさ)

兄(だからって俺が妹をガン見したらしたで、気持ち悪いって言って切れるくせに)

兄(それにしても昨日妹が一人で俺を置いて帰っちゃってから、一度もあいつと会話して
ない。というか顔すらあわせていない)

兄(よく考えてみれば、こんな危機的な状況は生まれてから初めてじゃないかな)

兄(何か寂しいな。アーウィン・ショーの短編なんか引き合いに出すべきじゃなかったか
な。たとえキモイと罵倒されようと素直に妹の可愛らしい肢体だけを舐めるようにガン見
すべきだったのかもしれないな)

兄(たかが昨日の夕方から妹に会えないだけで、何でこんなに動揺しているんだろうな、
俺)

兄(あ、あの女の子の後姿、すらっとしてていいな。スカートから覗く脚も白くて細く
て)

兄(・・・・・・あの子とお近づきになりたい。かといって声をかける勇気はないし)

女「何か背後から嫌らしい視線がすると思えば」

兄「え?」

女「やっぱりあんたか。登校時間に女の子の身体を嘗め回すような変態は誰かと思えば」

兄「げ。おまえか」

女「げって何よ」

兄「・・・・・・いや、何でもない(後姿だけ見ればこいつだって美少女なのに。もったいな
い)」

女「もしかして寝不足? すごい情けない顔してるよ」

兄「ほっとけ」

女「前からいつも情けない表情だと思っていたけど、今日は特にひどいね。何かあっ
た?」

兄「だからほっといてくれって」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「妹ちゃんと喧嘩でもした?」

兄「何でそう思う」

女「何となく」


兄「別にそんなんじゃねえよ」

女「何かあったんだね。正直にお姉さんに言ってみ?」

兄「誰がお姉さんだ誰が」

女「で? 何があった」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「いや。特には何も」

女「何があった?」

兄「・・・・・・いや」



女「なるほどね。あんたって心底からバカだな」

兄「何でそうなる」

女「妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない」

兄「あ?」

女「あ、じゃねえよ」

兄「前にさ、俺が好きな女は妹だといったとき、おまえドン引きしてたじゃないか」

女「うん。正真正銘実の妹が好きな兄貴なんて気持ち悪いわ」

兄「まあ、そういう反応は十分に予測内なのでその程度で動揺したりはしないけどな。そ
れよりも、そんなことでどうして俺の最愛の妹が嫉妬するとかって結論になるのだ」

女「最愛な妹とかキモイんですけど。聞きたい?」

兄「・・・・・・聞きたい、かな」

女「自分でもわかってるんじゃないの? 本当は。それでも禁断の近親相姦の道を目指す
とはさすが筋金入りの妹スキーね」

兄「あんまり誉めないでくれ。照れるから」

女「・・・・・・本当に本気なの?」

兄「何が」

女「何がってさ。あんたマゾ? そんなにあたしに言わせたいの」

兄「俺が妹が好きなこと? 別におまえには隠してないじゃん。昨日カミングアウトだっ
てしたし」

女「カミングアウトとかって真面目な顔で言うな。あんた、口調は軽いくせに話す内容は
重過ぎる」

兄「まあ、そんなにマジに取るな」


女「まあ、いいか。これ以上あんたなんかの悩みに深入りする気なんかない・・・・・・ってあ
れ」

兄「あれって何だよ」

女「何でもない。つうか、何でもない・・・・・・」

兄「おまえ、何言って。って、あれ?」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・早く学校行こうぜ」

女「あれは単なる友だちだと思うな。登校中にたまたま出会って一緒に登校してるだけで
しょ」

兄「・・・・・・そうだね」

女「そうだよ。だいたい、そんなに親密そうじゃないでしょ、妹ちゃんとあの彼って」

兄「何か恋人同士みたいだよな。妹のやつあの男にあんなにべったりと」

女「ああ、そうそう。妹ちゃんってまだ子どもだと思うな。きっと男の子に慣れてないか
ら距離感とかがわかってないんだよ」

兄(そうは見えないなあ。寄り添って歩いている妹とあの男は恋人同士としか見えないじ
ゃんか)

女「おい兄、大丈夫?」

兄(うちの妹に限って彼氏とかできるわけがない。そうだ、あれはたまたま登校中に出会
った同級生なんだ)

兄(『よう妹じゃねえか』『あ、同級生君おはよ』『妹っていつも朝早いよな』『そんな
ことないよ。同級生君こそ朝練?』『まあな。学校まで一緒に行こうか』『別にいい
よ』)

兄(まあ、こんなところだろう)

女「あのさ」

兄「・・・・・・うん?」

女「気にするなよ。妹ちゃんみたいな可愛い子がこれまで彼氏がいなかった方が不思議な
んだしさ。いくらドン引きするほどのシスコンのあんただって兄貴なんだから、妹ちゃん
が普通に正常な男女交際をしていた方が安心するでしょ」

兄「いや・・・・・・。それって考えすぎだろ、あれは単なるクラスメートだと思うよ」

女「クラスメート? 妹ちゃんって女子校じゃん」

兄「・・・・・・」

女「何とか言えよ」

兄「ああ」

女「まさか本気で落ち込んでるの?」

兄「ああ・・・・・・。割と本気で」

女「妹の彼氏に嫉妬するなんてありえなくね?」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・本気で妹ちゃんのこと好きなの?」

兄「・・・・・・うん」

女「ちょっと言い過ぎた。ごめん」


<シチュエーション萌えしているだけじゃないんですか?>




兄(卒業式典の予行練習しかなかったから、学校はすぐに終ってしまった)

兄(みんなは卒業を前にして名残惜しいのかなあ。せっかく学校が早く終ったんだからさ
っさと帰えればいいのに)

兄(俺も早く帰ろう・・・・・・って、家に帰って妹に顔を合わせるのはとてもつらい)

兄(かといってこのまま教室に残っていれば、そのうち女が俺のことを心配する振りをし
て俺をからかいに来るかもしれないし)

兄(そんなことないか。あいつは今日は兄友とデートだろうけどな)

兄(何というか卒業前のクラスの生温い馴れ合いの雰囲気に、今はは耐えられそうにな
い)

兄(俺は傷心なのだ)

兄(家に帰るのは嫌だけど、とりあえず学校を出るか)

兄(・・・・・・・)

兄(あのとき、妹が男に寄り添って、男の方を見上げて優しく微笑んでいた)

兄(あの微笑みって俺に悪口を言ってたとき、最後にいつも仲直りするように俺に見せて
くれた笑顔と同じだったような気がする)

兄(・・・・・・頭の中に何にも浮かばねえな。気の聞いたセリフとかこういうときこそ出すべ
きだろう)

兄(自虐ネタというのは本来妹とか女に対してではなく、こういうときこそ自分に対して
言うべきものなのにな)

兄(・・・・・・帰ろうかな)



妹友「こんにちは~。お兄さん」

兄「・・・・・・はい?」

妹友「こんにちは」

兄「はあ」

妹友「こんにちは」

兄「・・・・・・こんにちは」

妹友「昨日は妹ちゃんとのデートを邪魔しちゃってすいませんでした」

兄「はい?」

妹友「今、ちょっと時間あります?」

兄「はい?」

妹友「ちょっとお話しませんか」

兄「・・・・・・わざわざ校門前で待っていてくれたの?」

妹友「はい」

兄「えと~」

妹友「行きましょ。駅までは一緒に帰れますよね」

兄「はあ(何なんだ)」


妹友「・・・・・・」

兄(お話しませんかと誘われたわりには何も話しかけてこない)

兄(女の子に無視されるのは慣れているけど、自分から誘っておいて無視はねえだろ)

兄(だいたい、今は最愛の妹の浮気についてじっくりと考えかつ悩むべきであって、いく
ら可愛くても綺麗でも、そして胸がときめいていたとしても、妹友ちゃんと一緒に帰る気
になんてならねえよ)

妹友「お兄さん」

兄「うん(そこでにこっと微笑むなよ。突然だったから胸がときめいちゃったじゃない
か)

兄(あやうく妹の浮気を責めるどころか自分が浮気してしまうところだった)

妹友「お兄さん?」

兄「何?」

妹友「お兄さん、何か悩んでいるみたい」

兄「べ、別に」

妹友「・・・・・・」

兄「何でそんなこと言うのさ」

妹友「ひょっとしたら、お兄さん目撃しちゃいましたか?」

兄「・・・・・・何を」

妹友「今朝、初めて妹ちゃんと彼氏が一緒に登校したんですけど、お兄さんもしかして」

兄「・・・・・・彼氏?」

妹友「はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに
彼氏の気持ちを伝えたんですね」

兄「そ、そうだったんだ」

妹友「はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺
しみたいで彼氏も気の毒で」

兄「それで?」

妹友「何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよっ
て」

兄「・・・・・・そう」

妹友「それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登
校させたってわけです」

兄「・・・・・・」


妹友「お兄さん?」

兄「うん?」

妹友「余計なことしてごめんなさい」

兄「何で俺に謝るの?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんが好きでしょ」

兄「・・・・・・何言って」

妹友「好きでしょ」

兄「ま、まあ」

妹友「それが間違っていると思います」

兄「え?」

妹友「お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌
えているだけだと思います」

兄「・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど(自分でもよくわからんけど、何かちょっ
とムカッとしたぞ)」

妹友「お兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身
にまとった抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?」

兄「厨ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ」

妹友「お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するという
ラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃ
ないんですか?」



 別にそれは妹ちゃん本人じゃなくても『妹』というラベルが貼ってあれば誰でもいいんじゃないですか?

 例えばそれがあたしでも。

 妹友はそう言ってにっこりと笑った。


<お兄ちゃん、何で不機嫌なのよ!>






妹「おかえり」

兄「・・・・・・」

妹「何で返事しないのよ。しかも何か不機嫌そうな顔してるし」

兄「ただいま」

妹「何食べたい?」

兄「何で?」

妹「何でって、今日もパパとママが帰って来ないからさ。いくらあたしでも二晩連続して
お兄ちゃんにカップラーメンを食べさせるほど鬼じゃないし」

兄「・・・・・・」

妹「ねえ。お兄ちゃん、何で不機嫌なのよ」

兄「・・・・・・」

妹「何で何にも喋らないの? ひょっとして、昨日あたしを無視して他の女の子を見てい
たことであたしが怒っているとかって悩んでる?」

兄「・・・・・・」

妹「そうなんだ。全く何キモイこと考えているのよ。お兄ちゃんがどの女の子を眺めたっ
て本気であたしが気にしたりするわけないじゃん」

兄「そうか」

妹「そうだよ・・・・・・ねえ。本当にいい加減にしようよ。あたしは別に気にしてないから仲
直りしよ?」

兄「別に気にしてなんかねえよ」

妹「え」

兄「おまえにだって一緒にいちゃいちゃと登校する彼氏もできたようだし、俺なんかと仲
良くしすぎたらそいつに嫉妬されちゃうぞ」

妹「え・・・・・・」

兄「俺、今日は風呂入って寝るわ」

妹「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん」

兄「俺のシャツを掴むなよ。切れちゃうだろうが

妹「だって・・・・・・あ」

兄「携帯鳴ってるぞ」

妹「行かないで。電話切るから」

兄「出ればいいじゃん」

妹「はい・・・・・・。ああ、彼氏君? ごめん、いまちょっと電話できない。またメールする
から」

妹「だから、後でメールするって。違うよ、そうじゃないって。あ、お兄ちゃん待って」

兄「風呂行く。じゃあな、お休み」

妹「待ってよ・・・・・・え? 違うよ、今のは君に言ったんじゃないの。ごめんね、もう切る
から」

妹「お兄ちゃん」

兄「彼氏に電話してやったら?」

妹「なんで・・・・・」


今日は以上です


<こういうのもNTRって言うのかな>





兄(NTRという分野の作品がある)

兄(小説とかアニメとかドラマとか、もっと言えば2ちゃんのコピペでも確立されたジャ
ンルと言えよう)

兄(俺、あれ嫌いなんだよな。何かむずむずしてカタストロフィーのない決着のつかない
イライラ感しか感じないし)

兄(だけど今の俺の感情はNTR物のコピペを読んだ後のそれと同じだ)

兄(・・・・・・何か胃の下あたりが持ち上がってきて胸を締め付けるような嫌な感覚)

兄(だが、待て。確かに俺が妹のことが好きなことは自他共に認めているところだが)

兄(どう考えてもそれは一方通行で片道切符な恋愛感情なんだよな)

兄(つうことは、妹は俺のことなんかせいぜい良くても仲良く喧嘩できる兄貴としか見て
いないわけで)

兄(こういう状況もNTRって言うのかな)

兄(俺と愛しあっているわけでも何でもない妹相手じゃ、NTRなんか成り立たないじゃ
ないか)

兄(寝取られでさえないのか。じゃあ、これは単なる片想い野郎の失恋感情だということ
だな)

兄(なるほど。いろいろ辛いことは確かだけど、こうやって自分の状況と感情を分析して
みると少しは気持ちが楽になるな)

兄(・・・・・・あれ)

兄(だけど、あの時女は言ってたな)



女『なるほどね。あんたって心底からバカだな』

兄『何でそうなる』

女『妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない』

兄『あ?』

女『あ、じゃねえよ』



兄(あんなやつが適当に言った言葉なんか信用できないことは確かだが)

兄(・・・・・・それにしても、女は何で妹が妹友に嫉妬したなんて考えたんだろうな)


<こういうのもNTRって言うのかな>





兄(NTRという分野の作品がある)

兄(小説とかアニメとかドラマとか、もっと言えば2ちゃんのコピペでも確立されたジャ
ンルと言えよう)

兄(俺、あれ嫌いなんだよな。何かむずむずしてカタストロフィーのない決着のつかない
イライラ感しか感じないし)

兄(だけど今の俺の感情はNTR物のコピペを読んだ後のそれと同じだ)

兄(・・・・・・何か胃の下あたりが持ち上がってきて胸を締め付けるような嫌な感覚)

兄(だが、待て。確かに俺が妹のことが好きなことは自他共に認めているところだが)

兄(どう考えてもそれは一方通行で片道切符な恋愛感情なんだよな)

兄(つうことは、妹は俺のことなんかせいぜい良くても仲良く喧嘩できる兄貴としか見て
いないわけで)

兄(こういう状況もNTRって言うのかな)

兄(俺と愛しあっているわけでも何でもない妹相手じゃ、NTRなんか成り立たないじゃ
ないか)

兄(寝取られでさえないのか。じゃあ、これは単なる片想い野郎の失恋感情だということ
だな)

兄(なるほど。いろいろ辛いことは確かだけど、こうやって自分の状況と感情を分析して
みると少しは気持ちが楽になるな)

兄(・・・・・・あれ)

兄(だけど、あの時女は言ってたな)



女『なるほどね。あんたって心底からバカだな』

兄『何でそうなる』

女『妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない』

兄『あ?』

女『あ、じゃねえよ』



兄(あんなやつが適当に言った言葉なんか信用できないことは確かだが)

兄(・・・・・・それにしても、女は何で妹が妹友に嫉妬したなんて考えたんだろうな)


兄(妹も俺のこと気になっているのかな。恋愛的な要素ではないにしても)

兄(さっきは彼氏の電話を無理矢理終らせてでも俺のことを引き止めたいように見えた
し)

兄(自分に都合いい推論かもしれないが、とりあえず仮説として考えてみよう)

兄(仮に妹が俺のことをどういうわけか気にしているとする)

兄(そう考えるとさっきの妹は俺と話したくて、あと彼氏と携帯で話しているところを俺
に見られたくなくて、彼氏との電話を即切りしようとした)

兄(うーむ)

兄(・・・・・・あれ?)

兄(視点を変えるとこれはこれでNTRが成立しそうだな)

兄(彼氏の視点に立ってみれば、せっかく彼女に電話したのに他の男のことを気にしてい
る妹に電話を切られたんだからな)

兄(必死で俺に話しかけていた妹の声も届いていたかもしれないし、彼氏にとっては正し
くNTRだったのかもしれん)

兄(・・・・・・)

兄(何か不公平だな。何で妹ごときの勝手な行動によって俺とその彼氏がNTRされたよ
うなショックを受けなきゃならんのだ)

兄(自分のことを好きな男二人を手玉に取っているのは妹じゃねえのか)



兄の妄想

 燃えさかる男二人の嫉妬の炎を前にして高らかに笑う妹

『おーほっほっほ。悩むがいい。惑うがよい。この汚らわしき男どもめ! わらわに愛さ
れようなどと百万年早いわ』



兄(・・・・・・でも、さっき妹は泣きそうになって俺を引き止めていたしな)

兄(やめやめ。もう寝よう。だいたい実の妹に恋したって本気で報われるなんて思ってた
わけじゃねえし)

兄(・・・・・・じゃあ、何で俺妹スキーを公言してたんだろう)

兄(そういや妹友ちゃんが言ってたことって)


<妹友の呪縛>



妹友『お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌
えているだけだと思います』

兄『・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど』

妹友『お兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身
にまとった抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?』

兄『厨ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ』

妹友『お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するという
ラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃ
ないんですか?』



兄(最近の女子高生は恐い。しかもお嬢様学校の生徒なのに、あんな穿った見方ができち
ゃうだもんな)

兄(そうなのかな。俺って妹本人が好きなんじゃなくて、実の妹に恋する俺っていうシチ
ュエーションにはまってただけなんだろうか)

兄(まあ、有名なセリフがあるよな)

兄(「あたしはお兄ちゃんだから好きになったわけじゃない。本気で好きになった男の人
がたまたまお兄ちゃんだっただけだよ」)

兄(俺の妹萌えがシチュエーション萌えだとすると、このセリフとは対極な感情だよな)

兄(ちょっと対極のセリフを考えてみよう)

兄(「俺はあいつが自分の妹だったから好きになったんだ。別に妹本人のことを本気で好
きになったわけじゃない)

兄(うーん)

兄(こうしてセリフにしてみると結構最悪だな。とても他人には相談できん)

兄(それにしても、ごめんお兄ちゃんって泣きながら俺の部屋に来るはずの妹は全然来な
いな)

兄(さっきの件で本気で嫌われたんだろうか)

兄(・・・・・・眠れねえ)

兄(ひょっとして妹は彼氏と話でもしてるのかな)

兄(さっきの電話の言い訳をしてるとか。でも、あの対応の言い訳するのって大変そうだ
な。彼氏もショックだったろうし)

兄(さっきの妹の対応に彼氏がどう感じていたか脳内でシミュレートしてみるか)

兄(いや、無意味だ。それよりさっさと寝た方がいい。つっても大学に合格した今となっ
ては明日もろくに授業はないんだけど)

兄(少しだけ想像力を使ってみるか)


<逆の視点で再生>




兄の想像

彼氏(妹友さんを頼って正解だったな。かなり待たされたけど憧れの妹さんと今朝一緒に
登校できたし)

彼氏(友だちからって言ってたけど、俺が本気になれば妹さんも俺に惚れてくれるはず)

彼氏(ここまできたら時間の問題かもね。そうだ、まだそんなに遅い時間じゃないし。今
日ゲットした妹さんの携番に電話して見るか。メールもいいけど、あの可愛い声を間近で
聞きたいしな)

彼氏「いきなりごめんね。彼氏だけど」

妹『はい・・・・・・。ああ、彼氏君? ごめん、いまちょっと電話できない。またメールする
から』

彼氏「え? ちょっとだけ話せない?」

彼氏(何だよ。いきなり電話できないって)

妹『だから、後でメールするって』

彼氏「ちょっとでいいんだけど。それに何で慌ててるんだよ。まさか浮気じゃないよな
(ちょっとしたジョークで妹ちゃんを笑わせてやろう)」

妹『違うよ、そうじゃないって。あ、××ちゃん待って』

彼氏(なんだか本気で慌ててるんですけど。それによく聞こえなかったけど、××ちゃん
って誰だよ。しかも追いすがるように待ってとか言っちゃってるし)

彼氏「待ってってどういうこと? 俺ならいつまでも君を待ってるのに(いったい誰と話
してるんだよ)」

妹『え? 違うよ、今のは君に言ったんじゃないの。ごめんね、もう切るから』

彼氏「浮気してるのかよ? 初日から俺のことコケにしてるのかよ。××って誰だこのく
そビッチ」

彼氏(って、電話切れてるし)



兄(こんな感じかな)

兄(彼氏にとっても結構きついな、これ。正直、俺とそう変わらないくらいショックを受
けたかも知れん)

兄(そう考えると少し気が楽になってきた。別に妹が俺のことを好きだということじゃな
いにしても、あいつの彼氏が悩んでいるならそれはそれで嬉しい)

兄(あいつにとってみればこれはこれで、十分にNTRだもんな)

兄(俺って性格悪いな。今にして気がついたわけじゃねえけど)

兄(今日はもう寝るか)

兄(それにしても妹は来ねえな)

兄(ごめんお兄ちゃんって泣きながら俺の部屋をノックするはずだったのに)


<視点を変えてみれば>



兄(起きて階下のダイニングに行ったらもう妹はいなかった)

兄(どうやら本当に兄妹関係の破局が来たのかな)

兄(とりあえず登校しよう。学校に行ってももうろくな授業はないんだけど)

兄(この駅から電車に乗るのもあと半月か)

兄(このまま妹と仲直りしないまま引越しするのかな)

兄(・・・・・・)

兄(昨日想像した彼氏の気持ちって結構生々しかったな。事実がどうかはともかく)

兄(そういや昔、妹系のコピペを読んだときは素直に感動したんだけど)



コピペの妹『お兄ちゃんは、何であたしにこんなに優しくしてくれるの? プレゼントを
くれたり遊びにつきあってくれたり』

コピペの兄『何でって・・・・・・。おまえは大切な俺の妹だからな。情けない兄だけどさ、母
さんが亡くなってから仕事で遅い父さんが当てにならないんで、二人で協力して何とか暮
らしてきたんじゃないか。おまえは大事な戦友だよ』

コピペの妹『お兄ちゃん・・・・・・』

コピペの兄『俺はおまえに感謝してるんだよ! こんなだらしない俺をおまえは支えてく
れた。俺が大学に行けたのだって就職できたのだって、全部おまえのおかげだよ』

コピペの妹『だって。じゃあ、何で最近まであたしのことを無視してたのよ! あたし寂
しかったのにお兄ちゃんは滅多に家に帰って来ないし、帰ってきてもあたしの相手をして
くれなかったじゃない!』

コピペの兄『泣くなよ。だってしようがないじゃんか。おまえには○○君っていう彼氏が
いるんだぞ。今さら俺が兄貴面しておまえと並んで歩けるかよ。俺だって悩んだし辛かっ
たんだよ!』

コピペの妹『お兄ちゃん?』

コピペの兄『何だよ』

コピペの妹『もしかして。もしかしてだけど、お兄ちゃんあたしのこと好き?』

兄『・・・・・・ああ。好きだよ。文句あるか? 気持ち悪いって笑ってくれてもい
い。俺はおまえのことが一人の女性として好きなんだよ!!!』

コピペの妹『やっと言ってくれた。嬉しい。あたしもお兄ちゃんが大好き』

コピペの兄『おまえ、彼氏君はどうするの』

コピペの妹『お兄ちゃんは心配しないで。彼氏君には本当に悪いことしたけど、あたしは
もう自分の気持を偽れない』

コピペの兄『妹』

コピペの妹『お兄ちゃん。もうあたしのことを離さないで』


兄(つうストーリーだったな、確か。今思い出しても泣きそうなほど素晴らしい話だっ
た)

兄(ここで終ったんだけど、今にして思えば彼氏には何の罪も落ち度もないんだよな。こ
の後彼氏は妹に振られてどういう感情を抱いたんだろう)

兄(視点を変えてみたらどうなるのか)

兄(このシチュエーションでNTR物のコピぺ風に想像してみよ)



彼氏(何かおかしい。付き合い出してからあれだけラブラブだった俺と妹なのに)

彼氏(今日もキスしようとしたら拒否された。唇が荒れてるからごめんねって妹は言って
いたけど)

彼氏(今日だってせっかくの休みなのにデートに誘ったら断られた。女友だちと映画に行
く約束をしたからって言っていたけど。最近、何か妹って俺に冷たくねえか)

彼氏(妹を信じたいけど、やはり心配だ。よし、突然妹の家に行ってみよう。あいつはア
パート暮らしだけど、一応俺、合鍵もらってるから)

彼氏(妹の部屋の前まで来たけど。何か男の声が聞こえる・・・・・・)



男の声『泣くなよ。だってしようがないじゃんか。おまえには○○君っていう彼氏がいる
んだぞ。今さら俺が兄貴面しておまえと並んで歩けるかよ。俺だって悩んだし辛かったん
だよ!』

彼氏(え? つうか○○って俺のこと?)

妹の声『お兄ちゃん?』

男の声『何だよ』

妹の声『もしかして。もしかしてだけど、お兄ちゃんあたしのこと好き?』

男の声『・・・・・・ああ。好きだよ。文句あるか? 気持ち悪いって笑ってくれてもいい。ず
っと黙っていたけど、俺はおまえのことが一人の女性として好きなんだよ!!!』

妹の声『やっと言ってくれた。嬉しい。あたしもお兄ちゃんが大好き。小さな頃からずっ
とお兄ちゃん以外の男の人を好きになれなかったの』

男の声『おまえ、彼氏君はどうするの』

妹の声『お兄ちゃんは心配しないで。彼氏君には本当に悪いことしたけど、あたしはもう
自分の気持を偽れない』

彼氏(・・・・・・はい? 俺に大好きって言ったのは、俺に抱かれて喘いでいたのは、全部
嘘?)

男の声『妹』

妹の声『お兄ちゃん。もうあたしのことを離さないで』

彼氏(ま、まさか。妹に浮気されてたなんて。しかも相手はは実の兄? というか)

彼氏(お兄ちゃん以外の男の人を好きになれなかったって。俺はいったい)



兄(うわー。最悪。これって最悪のNTRじゃんか。しかも相手が実の兄ってどうよ。ド
ン引きだわー。この彼氏もかわいそうだな)

兄(・・・・・・)

兄(同じ状況のコピペなのに視点を変えればずいぶん印象も変わるんだな)

兄(俺もよく考えないといけないな)


<お兄ちゃんって呼んでいいですか>



妹友「おはようございます」

兄(いったい俺は寝取られたのか寝取ったのか)

兄(俺は神の視点にしまったのかもしれない。自分の無駄に優秀な洞察力を恨みたい気分
だ)

妹友「お兄さん? おはようございますってば」

兄(よりによって俺の恋のライバルである彼氏なんてやつに共感してしまうとは)

兄(・・・・・・俺って、妹にとってどんな存在なんだろ)

兄(妹ネタでオナニーまでしている俺を罵りながらも許容してくれる妹)

兄(ひょっとしたら母性愛みたいな義務感で俺と接してくれていたのかな、妹は)

兄(両親が多忙で滅多に家にいないから、しっかりしている妹にそういう気持ちが生まれ
たって不思議はないよな)

妹友「・・・・・・わっ!」

兄「な、何だ? 耳元で大声が」

妹友「おはようございいます」

兄「おはよう」

妹友「何であたしを無視したんですか。お兄さん」

兄(ちょっと恐いこの子)

兄「ああ、ごめん。ぼうっとしてて気がつかなかった」

妹友「ふーん」

兄「つうか、何でいるの?」

妹友「何でって、お兄さんと一緒に登校しようと思って」

兄「何で?」

妹友「もう答えましたよ? 頭沸いてるんですか」


兄(こいつも見た目は可愛いくせに妹と同じで口が悪いな)

兄「何で一緒に登校する必要があるんだって聞いてるんだよ」

妹友「主に罪悪感からですね」

兄「はい?」

妹友「罪悪感って単語、まだ習っていませんか? 解説しましょうか」

兄「そうじゃねえよ。何でおまえが罪悪感なんて感じてるんだって聞いてるの」

妹友「妹友ちゃんと彼氏の間を取り持ったのはあたしですから」

兄「え」

妹友「そのこと自体には全く後悔はしていないんですけど、ただ、お兄さんがそのために
妹ちゃんと一緒に過ごす時間が減ったためにへこんでいることは、さすがのあたしでも理
解できますし、ちょっと気にもなります」

兄「何言ってるんだ。俺は別にへこんでねえっつうの」

妹友「隠しても駄目ですよ、お兄さん」

兄「だからそうじゃねえよ」

妹友「お兄さんのこと、お兄ちゃんって呼んでもいいですか」

兄「・・・・・・・頭沸いてるの?」

妹友「ずいぶんとひどいことを言いますね」

兄「最初にこの言葉を口に出したのはおまえの方だ」

妹友「・・・・・・そんな、いきなりおまえだなんて。最初は君とかから始めたほうがよくない
ですか」

兄「黙れ。いったい何でお兄ちゃんと呼びたいのか説明しろ。俺と妹のことをからかうつ
もりだったら二度と君とは話をしない」

妹友「何で君? おまえじゃなかったんですか?」

兄「黙れ」

妹友「じゃあ、これからもお話できますね。あたしにはお兄さんをからかう意図なんて一
ミリだってありませんから」

兄「じゃあ、何で妹と同じ呼び方で俺を呼びたいんだよ」

妹友「決まってます。お兄さんは妹ちゃん萌えじゃなくて、自分の実の妹に恋しているお
兄さん自身萌えですから」

兄「わかりづらいが、まあわかった。でも・・・・・・仮にそうだとしても妹友には関係ないだ
ろ」

妹友「関係はありますよ」

 妹友は今まで浮かべていた薄笑いをひっこめて、どういうわけか急に真面目な目で俺を
見つめた。情けないことに年下の女の子の視線に俺は怯んだ。

「お兄ちゃんって呼べばあたしのことを意識してもらえるかもしれないじゃないですか」

 妹友は真面目な顔でそう言った。

「何のために俺に意識させたいの」

「お兄さん、じゃなかった。お兄ちゃんのことが大好きだからですよ。妹ちゃんなんかに
お兄ちゃんは渡しませんからね」

 彼女は俺の手を握った。妹の手に比べるとそれは酷く冷たい手だった。


今日は以上です

別スレの更新をしようと思うんで、次回はその後になると思います

需要のないスレにお付き合いしてくれた方、ありがとう


<そんなこと法律に書いてあるんですか>




兄「あのさあ」

妹友「何ですか? お兄ちゃん」

兄「お兄ちゃんって言うのよせ」

妹友「嫌です」

兄「俺のことをお兄ちゃんって呼べるのは世界で一人だけなんだよ」

妹友「そんなルールってどこで決まってるんですか」

兄「どこでって」

妹友「条約ですか」

兄「え?」

妹友「法律ですか、施行令?、それとも施行細則かな。条例とか施行規則?」

兄「法制度に詳しいんだね」

妹友「それともまさか自分で勝手に決めたルールなんですか」

兄「悪いかよ。俺のことをお兄ちゃんと呼ばせるのは妹だけだ。自分のことだから自分で
決めただけだ。だからおまえはお兄ちゃんと呼ぶな。どうしてもそう呼びたいなら他の男
を探してそいつのことをそう呼べばいいだろ」

妹友「・・・・・・また、あたしのことをおまえって呼んでくれましたね」

兄「いや、そんなことはどうでも」

妹友「それにお兄ちゃんなんて呼び方、あたしにとっては日常茶飯事で、単に誰かをお兄
ちゃんと呼びたいだけなら他の人を見つける必要なんてないんです」

兄「どういう意味?」

妹友「あたしにも兄がいますから。いつもお兄ちゃんって呼んでますよ? 兄のこと」

兄「兄貴がいるのかよ・・・・・・」

妹友「そんなに意外ですか?」

兄「だからお兄ちゃんはよせ。いや、考えてみれば兄貴がいるなんて別に珍しいことじゃ
ないか」

妹友「そうですよ」

兄「いや、だったら自分の兄貴に迫ればいいんじゃね? 何も友だちの兄貴に告んなくて
も」

妹友「あなたもしかしてバカですか?」

兄「お兄ちゃんと呼ばなくなったのはいいけど、バカはねえだろ。せめて苗字で呼んだっ
て・・・・・・呼び捨てでもいいから」

妹友「あたし、バカな人は嫌いです。せっかくのあたしの恋心を否定するような言動はつ
つしんでいただきたいです」

兄「はあ?」


妹友「あたしはお兄ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんが好きなんです。何でそんなことも理
解できないんですか」

兄「ちょっと待て。混乱してきた。俺じゃなくて俺が好きなのか。ってどういう意味?」

妹友「世界には兄と妹なんて数え切れないほどいるわけですけ、その兄と妹の全員が異性
的な恋愛感情を持っているとでも思っているのですか」

兄「そんなわけねえだろう。妹スキーな俺みたいな兄なんて、性的なマイノリティーなく
らいは理解しているるもりだ」

妹友「何でそこで誇らしげな態度に出れるのか理解できませんが、わかっているのならま
あいいでしょう。世間の兄妹のほとんどはお互いに恋愛感情を抱いたりはしません」

兄「だからそれは理解しているって」

妹友「それならわかるでしょう。あたしは自分の実のお兄ちゃんになんてこれっぽっちも
恋愛感情はないのです」

兄「お前がそう思うのならそうなんだろう」

妹友「・・・・・・お前ん中ではな」

兄「何? 少年ファイト好きなの?」

妹友「何でもありません。そんなことより、あたしには実のお兄ちゃんには恋愛感情はな
いことは理解していただけましたか」

兄「おまえになくてもおまえの兄貴にはあるかもしれないじゃん。おまえに対する欲求が。
たまに夜寝る前にパジャマ姿のおまえを見つめている兄貴の刺すような視線とか感じたこ
とがあるだろ? あるいは両親が留守の晩に執拗におまえと一緒にいようとする兄貴の姿
とかを見て怯えた夜だってあるんじゃないか?」

妹友「・・・・・・何で息が荒いんですか? それとも本当にそんなことを妹ちゃん相手にして
たんですか」

兄「・・・・・・あ、いや。つい」

妹友「してたんですね」

兄「まあ、妹のことは本気で愛しているからね」

妹友「開き直りましたか。まあ、いいです。とにかくあたしだけでなくあたしのお兄ちゃ
んもあたしに対しては恋愛感情はありません」

兄「何で言い切れるんだよ。兄貴の妹への恋は本人にも誰に対しても隠して表に出さず悩
むというのは基本だぞ」

妹友「それはよくわかります。とても人様に言えるようなことじゃないですからね」

兄「ま、まあそうだ」

妹友「でも、うちのお兄ちゃんは違います」

兄「何でそう言い切れる」

妹友「さっき話したじゃないですか。あたしが妹ちゃんと彼氏の仲を取り持ったって」

兄「うん、聞いた。正直余計なことをするなって思ったけど」

妹友「あたしも恋愛感情こそないですが、肉親に対する情はあります」

兄「はあ」

妹友「なので、お兄ちゃんが妹ちゃんが好きだとあたしに相談してきたときは、間を取り
持つくらいはしたいと思いました」


<妹ちゃんは別にお兄ちゃんのことなんか好きじゃなかったんですね>



兄「じゃあ、妹の彼氏って」

妹友「あたしのお兄ちゃんですよ。お兄ちゃん」

兄「ややこしい呼び方はよせ。じゃあ、おまえが妹を誑かしておまえの兄貴の情欲に塗れ
た腕に俺の可愛い妹を引き渡したのか」

妹友「確かにあたしはお兄ちゃんとはそんなに仲良しじゃないですけど、知り合ったばか
りのお兄ちゃんからあたしのお兄ちゃんのことを情欲塗れとかって言われる筋合いはあり
ません」

兄「ややこしいな。おまえの呼び方は。これでは人称を差別化できないから俺のことをお
兄ちゃんと呼ぶのはよせ。最大限に妥協してお兄さんと呼ぶことは許してやるから」

妹友「嫌です」

兄「何でだよ。わかりづらいだろうが」

妹友「誰かを呼ぶのに人の指図は受けません。それとも法律とか・・・・・・」

兄「法律とかには書いてねえよ」

妹友「A cat may look at a king」

兄「わかった。それ以上言わんでいい」

妹友「あたしのお兄ちゃんは中学生だった妹ちゃんを最初に見たときから一目ぼれだった
んですよ」

兄「妹とおまえの兄貴ってそんなに前から知り合いだったの?」

妹友「そうです。中一のとき、あたしと妹ちゃんが知り合って親友になって、そのうちう
ちに何度も妹ちゃんが遊びに来てくれたんですけど、そのころからお兄ちゃんは妹ちゃん
のことが好きになったみたいです」

兄「おまえらって中一の時から友だちだったの?」

妹友「はい」

兄「全然知らなかったわ。つうかおまえと知り合ったのだって昨日だしさ」

妹友「それはあたしの責任ではありません」

兄「別におまえのせいとか言ってないだろうが」

妹友「あたしは妹ちゃんがいつ家に来ても構わなかったんですけどね。妹ちゃんの方は滅
多に自分の家にあたしを誘ってくれなくて」


兄「何で?」

妹友「あたしだって妹ちゃんに誘われてお兄ちゃんの家に行ったことはあるんですよ」

兄「おまえと家で会ったことねえなあ。俺って帰宅部だし基本引きこもりなのにな」

妹友「妹ちゃんはいつも帰宅前にお兄ちゃんに電話するでしょ」

兄「確かにそういう習慣になってるな。親があまり家にいないんで自然にそういう習慣付
いたんだよ。買物とかそういう都合でさ」

妹友「あたしが何気なく注意していると、妹ちゃんがあたしを自宅に招いてくれるのは、
電話の結果お兄ちゃんが帰宅していないときに限っていることに気がついたのです」

兄「本当か」

妹友「本当です。あたしは自分のお兄ちゃんに妹ちゃんを紹介したというのに、妹ちゃん
はお兄ちゃんをあたしに紹介しないばかりか、あたしに会わせないようにしていたので
す」

兄(妹のやつ。バカだ。本当に。俺が妹友に心を奪われるとでも思って心配したんだろう
けど。確かに妹友は可愛いけど、俺にとって一番可愛いのはおまえに決まってるというの
に)

妹友「何で急ににやにやしてるんですか」

兄「いや。別に」

妹友「まあ、最初は妹ちゃんがお兄ちゃんとあたしを合わせまいとしているのかなって思
ったんですけど」

兄「ああ」

妹友「うちのお兄ちゃんと仲よく登校したところを見ると、妹ちゃんは別にお兄ちゃんの
ことなんか好きじゃなかったんですね」

兄「・・・・・・」

妹友「駅に着いちゃいましたね。ここからは反対方向の電車ですよね」

兄「ああ」

妹友「じゃあ、またです。お兄ちゃん」

兄「・・・・・・」


<お兄ちゃんってさ。本気であたしのこと好きなの>

兄「ただいま」

妹「お帰りお兄ちゃん」

兄「おまえいたの? 早かったな(何か昨日いろいろあったわりには普通に会話してくれ
るのな)」

妹「今日は卒業式の練習だからって、関係ない生徒は午前中で下校だったの」

兄「そうか」

妹「お兄ちゃんは遅かったね。もう卒業まで授業ないんでしょ」

兄「うちも卒業式の練習があったからな(あんなやりとりした後だけど、俺って普通に妹
に話せてるな)」

妹「そうか。そうだよね」

兄「ああ」

妹「・・・・・・今日もパパとママ帰れないって」

兄「ああ。どうせそんなことじゃないかと思ってたよ」

妹「あと、ママからお兄ちゃんに伝言がある」

兄「うん? 何だって」

妹「明日の土曜日、外で待ち合わせして一緒に出かけようって」

兄「何で? 俺はマザコンじゃないぞ。母さんと二人出かけても嬉しくないしな。どっち
かって言うと俺はむしろシスコンだし」

妹「・・・・・・四月からお兄ちゃんが住むアパートを探すんだって」

兄「ああ、そういうことか。確かに、そろそろ決めないとな」

妹「・・・・・・あのさ」

兄「うん?」

妹「今、お兄ちゃん言ったじゃん?」

兄「何を」

妹「何をって・・・・・・。その、お兄ちゃんがシスコンだって」

兄「・・・・・・言ったよ」

妹「お兄ちゃんってさ。本気であたしのこと好きなの」

兄「うん」

妹「ちゃんと答えてよ」

兄「ちゃんと答えているじゃんか」

妹「その・・・・・・。それって本気?」

兄「本気だよ」

妹「・・・・・・あたし、お兄ちゃんに何て言えばいいの?」

兄「そんなことは俺が知りたいくらいだ。それとも俺がおまえが言うべき言葉を教えれば
おまえはそのとおりに言ってくれるのか?」

妹「そんな・・・・・・でも実の兄妹だよね?」

兄「聞くまでもなく実の兄妹だな」

妹「あたし、お兄ちゃんに答えを言うように求められてる?」

兄「俺としてはそんなつもりはなかったんだが」

妹「だが?」

兄「ここまで事態をはっきっりとさせたのはおまえだ。俺はこれまでひた隠しにしていた
おまえへの感情を、おまえによってはっきりと口にさせられた」


妹「・・・・・・あれで、隠していたつもりだったんだ」

兄「ここまで来ちゃったらもう仕方ないだろ。おまえの返事を聞かせろ」

妹「そんなこと言われても」

兄「じゃあ、何で俺の気持を確認した?」

妹「それは・・・・・・」

兄「まあ、いい。さすがにすぐにとは言わん」

妹「うん」

兄「俺はこれから風呂に入る」

妹「ちょうどお風呂沸いたところだよ」

兄「だから、俺が風呂から出るまでに答を決めとけ」

妹「それはさすがに早すぎだよ。無理」

兄「おまえさ。妹友の兄貴のことを気にしているの?」

妹「何で知ってるの」

兄「それとも近親相姦の禁断の関係になることを気にしている?」


妹「・・・・・・自分でもよくわかんない」

兄「俺だって自分の気持を強要しているわけじゃないぞ。これまでおまえから何回も告白
みたいなことをされたこととか、何通ももらった手書きのお兄ちゃん大好きレターとか、
おまえが携帯を持ってから毎晩俺に送ってくるハート付きメールとか、そう言う積み重ね
によって実の妹を好きになった俺がいるわけだし」

妹「それは全部そのとおりだけど、そこまで深く考えていなかったよ」

兄「じゃあ、今考えろ。いくら偏差値が低いおまえでも誰が好きかくらいは簡単にわかる
だろ」

妹「偏差値はどうでもいいけど、あたしがお兄ちゃんを振ったら気まずくなっちゃうじゃ
ん。昨日の電話のときみたいなのは嫌だよ」

兄「じゃあ俺の愛を受け入れればいい」

妹「だって・・・・・・」

兄「妹友の兄貴のことが好きなのか?」

妹「別に好きじゃない」

兄「でも、友だちからならなんて言ったんだろ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「どした」

妹「妹友ちゃんから聞いたの?」

兄「あ、ああ。今朝、彼女が俺を迎えに家まで来てくれて」

妹「・・・・・・」

妹「ふざけんな」

兄「え」

妹「え、じゃないでしょ。あたしがこんなに真剣に悩んでるのに。お兄ちゃん、何であた
しに告白したのよ? 告白したのに何で妹友ちゃんとベタベタしてるのよ」

兄「ベタベタはしてないけど」

妹「不誠実だ。お兄ちゃんは誠実じゃないよね」

兄「おまえだって彼氏君と一緒に登校してたんじゃね?」

妹「そ、それは」

兄「まあ、不誠実と思うならそれでもいいよ」

妹「・・・・・・」

兄「風呂出るときまでとかも撤回。でも、明日には返事くれ。明日は土曜日だから何時に
なってもいいから」

妹「・・・・・・うん」


今日は以上です。前回の二重投稿すいません

あと別すれ更新すると言いましたけど、難航中なので少しこちらの投下を続けようと思います

乙です。ところで別スレって?


<そういうのって何かやだなあ>




妹「お兄ちゃん、もう少し早く歩かないと電車に間に合わないよ」

兄「まだ時間には余裕がある。逃したら次の電車に乗ればいいだろう」

妹「今日は休日ダイヤなんだから、一本遅れたら十五分くらい待つよ」

兄「・・・・・・というか、おまえは何で一緒に外出しているのだ。母さんからおまえもついて
来いと言われたのか」

妹「別に言われてない」

兄「じゃあ、なんで」

妹「お兄ちゃん、あたしと一緒じゃ嫌?」

兄「それは嫌なわけはないが、おまえにしてみれば俺の部屋探しなんかに一緒に来るメリ
ットがないだろう。それとも俺の部屋探しのどさくさに紛れて母さんから洋服でも買って
もらう気なのか」

妹「先月買ってもらっちゃったから、今日はちょっと無理かな」

兄「じゃあ何のために着いて来た?」

妹「何となく」

兄「何となく?」

妹「何となく。天気もいいしこんな休みの日に一人で家にいるのもつまんないし」

兄「一人ではないはずだぞ。昨日は職場で泊り込みだった母さんとは違って、父さんは深
夜に帰宅していたし朝食のときに今日はオフだって言ってだろ」

妹「パパがいたって一人でいるのと同じだよ」

兄「おまえもひでえな。父さんって娘ラブの人なのに」

妹「知ってるよ。パパもお兄ちゃんもあたしのことが大好きなのは」

兄「うん」

妹「パパのラブよりお兄ちゃんのラブの方がだいぶ重いけどね」

兄「・・・・・・おまえは今日は一日部屋に閉じこもって悩むんだと思っていたんだけどな」

妹「ちゃんと今日中には返事するから。だから一緒に行かせて」

兄「おまえな。返事が決まってるなら今返事してくれよ。俺だって内心はどきどきして緊
張してるんだぞ」


妹「そんなにどきどきしてるの?」

兄「ああ。俺の胸に触れて確かめるか?」

妹「いい。どうせ触ったら不公平だから俺にもおまえの胸を触らせろとか言い出す気でし
ょ」

兄「俺だっていつもふざけているわけじゃない」

妹「冗談だよ」

兄「冗談は時と場合を考えないとな」

妹「・・・・・・ねえ。お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「あたしがお兄ちゃんの告白を断ったら、お兄ちゃんはどうするの?」

兄「どうするって。そしたら失恋するな」

妹「違うよ。どうなるのじゃなくて、どうするのって聞いているの」

兄「どうするって。多分泣くよ」

妹「それだけ?」

兄「何だよ。おまえに振られて逆上した俺に、無理矢理レイプされるとでも心配している
のか」

妹「ばか。そんなんじゃないよ」

兄「泣いて、それからおまえを忘れるように努力するよ。そんで他に恋人でも作ろうとす
るかもな」

妹「・・・・・・誰? 女さん? それとも妹友ちゃん」

兄「何で俺にはその二択しかないって決めつけるんだよ」

妹「ああ、あと去年卒業した腐女子の生徒会長さんだっけ? お兄ちゃんに同じ大学を受
けようって言った人」

兄「あの先輩は大学で無事オタクの彼氏ができたそうだ。結局全然違う大学になっちゃっ
たしな」

妹「そういうのって何かやだなあ」

兄「何を自分勝手なことを言っているのだ。振られてもずっとおまえに片想いしていろと
言うつもりか」

妹「だってお兄ちゃん、あたしのこと好きなんでしょ。一度振られたくらいで女さんか妹
友さんに乗り換えるつもりなの」


<今日はやっぱり家に帰れよ>




兄「さっきから俺が振られる前提で話が進んでいるんだけど、それがおまえのファイナ
ルアンサーってことなのか」

妹「違うよ。回答期限は今日中でしょ? まだ時間あるじゃん」

兄「とにかく。おまえに振られたら俺だってこの先も生きていかなきゃいけないんだから、
全力でおまえを忘れて他の女の子を好きになる努力をするしかないだろうが」

妹「そしたらさ、あたしたちの関係はどうなっちゃうの?」

兄「どうって?」

妹「お兄ちゃん、あたしのこと好きじゃん? これまでどおりの兄と妹の関係が続く
の?」

兄「それは無理だ」

妹「何で」

兄「だって振られたらいくら俺だって冷静におまえと一緒に過ごしたりできるかよ」

妹「卑怯だ」

兄「何でそうなる」

妹「それって脅しじゃん。あたしがお兄ちゃんの告白に応えなきゃ、これまでどおりの仲
のいい兄妹関係はお終いだって言ってるんでしょ」

兄「脅しじゃねえよ。それにお終いと言ったって、表面だけ取り繕った最低限の会話くら
いはおまえとするように努力はするし。まあ、仮面兄妹っつうの?」

妹「やっぱり脅しじゃない」

兄「おまえが俺のことを好きじゃないならそんなこと気にならないだろうが。おまえには
友だちも彼氏君もいるんだし」

妹「だからお兄ちゃんのことは嫌いじゃないって」

兄「おまえ、好きの反対は嫌いじゃなく無関心だと言ってたよな」

妹「うん」

兄「嫌いの反対は何なの?」

妹「え」

兄「嫌いじゃないという感情を表わす単語を次の中から一つ選べ」

妹「あたし国語は苦手でだよ」


兄「1好き 2好き 3好き」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「何笑ってるんだよ」

妹「ベタなジョーク。そんなにあたしに好きって言わせたいの?」

兄「言わせたい」

妹「お兄ちゃん好きだよ」

兄「・・・・・・FA?」

妹「ううん。好きだけど、嫌いじゃないけど。でもやっぱり無理」

兄「・・・・・・好かれているのに振られるとはさすがに予想していなかった」

妹「うん。そうだよね。ごめんね」

兄「っていうか俺振られたのか」

妹「あ、思わず無理とか言っちゃった。今日の夜に返事するつもりだったのに」

兄「FAだよな?」

妹「うん、ごめん。お兄ちゃんとは付き合えない」

兄「まあ、しかたないよな」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「もともと自分の実の妹に本気で告るなんてこと自体が非常識なんだし。それでもおま
えが気持悪く思わず悩んでくれただけでも幸せだよ」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「ふざけあったりからかいあったりとか、今までみたいな兄妹の関係って、もうお終い
なの?」

兄「努力はしてみる」

妹「・・・・・・」

兄「最低でもあいさつとか事務的な会話はするように頑張る」

妹「・・・・・・」

兄「泣くなよ。どっちかって言えば泣きたいのは俺の方なんだし」

妹「・・・・・・」

兄「今日はやっぱり家に帰れよ」

妹「・・・・・・どうして」

兄「振られた直後だけに母さんと一緒にいておまえと普通にしている自信がない。おまえ
だって泣いちゃってるし」

妹「お兄ちゃん」

兄「じゃあ、次の電車には乗りたいから俺は行くな」

妹「・・・・・・」


<おまえに言われたくない>





兄(大学まで徒歩二十分のワンルームマンション。ロフト付き)

兄(一人暮らしなら十分だし、何より大学に近い)

兄(結構あっさりと決まったな。つうか母さんが勝手に探し出して勝手に決めたに近いけ
ど)

兄(まあ、部屋に不満があるわけじゃないし、金を出すのは親だし文句を言うことでもな
い)

兄(それにしても部屋を契約した後、母さんがまた仕事に戻るとは予想外だった)

兄(昼過ぎなんだし、可愛い息子にお昼をご馳走してくれるんじゃないかと思っていたん
だけど)

兄(今日は朝飯も抜きなのに。まあ、妹の返事を待つプレッシャーに負けて飯を食う気に
なんてなれなかったんだけどな)

兄(・・・・・・)

兄(やっぱり振られたか。半ば予想どおりの結末だったから、そんなにショックを受ける
ことはないと思っていたけど)

兄(母さんがいなくなったらいきなり手が震えるとは。何か足もがくがく震えてるような
感覚があるし)

兄(俺ってこんなに打たれ弱かったのか)

兄(それでも腹は減っている。朝、昼抜きとか考えられないしな)

兄(俺のこと好きだって言ってたな、あいつ)

兄(兄としてだろうけど)

兄(変な告白とかしてあいつにもプレッシャーかけちゃったから、明日からなるべく今ま
でどおりに接してやりたいけど)

兄(正直、自信がない)

兄(・・・・・・マックがあるな。昼飯食って行くか。妹がいる家にこんなに早く帰りたくない
し)

兄(結構並んでるな)

兄(・・・・・・前に並んでいる子、スタイルいいな)

兄(後姿だけでもい女であることが想像できる)

兄(どんな顔しているのかな)

兄(・・・・・・)


兄(あと一人だ。前の可愛い女の子がオーダーを終えれば俺の番だ。まさかこんなに待つ
とは思わなかった)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・いくらなんでも前の子、注文に時間かけすぎじゃね? ある程度は並んでいる
間に決めておけよ。何でカウンター前まで来てから悩みだすんだよ)

兄(いくら後姿が可愛いからって台無しだよ。だいだい、こういう気が遣えない女って性
格も優柔不断なんだよな)

?「あ、じゃあ、やっぱりシェイクは止めてアイスコーヒーにします」

兄(早くしろ)

?(で、テリヤキマックとポテトのSをください)

店員(それだとセットの方がお得なのでセットに変更させていただきます)

?(え? どういう意味ですか)

兄(こいつアホだろ)

?(はあ。じゃあそれでいいです)

兄(やっと注文が終ったか)

女(あれ、兄じゃん。何かさっきから背中にいやらしい視線を感じると思ったら)

兄「女かよ。いろいろ納得だわ。てか一瞬でも可愛いとかときめいた自分が情けないわ」

女「何よ。可愛いって何が?」

兄「何でもねえよ。おまえ、何でこんなとこにいるの」

女「四月から住むアパートを探しに来たの。なかなかいいとこって見つからないね」

兄「おまえもか」

女「あんたもアパート探し?」

兄「ああ。もう決めちゃったけどな」

女「いいなあ。あたしはまだ・・・・・・って、あんたも早く注文しなよ。こんだけ並んでいる
のに後ろの人に迷惑でしょうが」

兄「おまえに言われたくない」

女「何で?」

兄(自覚ねえのかよ)


兄「ついてくんなよ」

女「あんたも一人なんでしょ? 一緒に食べようよ」

兄「まあ、いいけど」

女「で、で? 決めたのってどんなとこ?」

兄「大学から徒歩二十分。日当たり良好。周囲は閑静な住宅街。ワンルームに
ロフト付き」

女「そこってさ、他には部屋空いていなかった?」

兄「さあ? 新築物件だったからまだ空きはあるかもしれないけど」

女「案内して」

兄「はい?」

女「その不動産屋さんに案内して。あたしもそこに済む」

兄「何でだよ」

女「何でってあたしも兄と同じ大学だし、その条件なら申し分ないじゃん」

兄「あのさ」

女「おう」

兄「おうじゃねえ。おまえってもっと広い部屋を探してなかった? 最終的には兄友と一
緒に同棲するからって」

女「うるさい」

兄「え?」

女「兄は死ね」

兄「何なんだ」

女「・・・・・・」

兄「泣くなよ(妹に続いて今日二人目だよ。目の前で女に泣かれるの)」

兄「どうしたんだよ」

女「振られた」

兄「え」

女「兄友に昨日振られた。他に好きな子ができたから別れたいって」

兄(あのアホ)

女「何となく態度がおかしかったことは気がついてたんだけど、きっと受験前だから気が
立っているんだろうなって思ってたの。そしたら昨日呼び出されたら、女の子と二人で一
緒にいてさ」

兄「そうか」

女「二股かけてたんだよ、あいつ。半年くらい前からずっと」

兄「相手の子ってうちの学校の子?」

女「うん。二年生の女の子。部活の後輩だって」

兄「そうか」

女「ごめんね。いきなりこんな話聞かせちゃって」


兄「おまえとは腐れ縁なのかな」

女「何で?」

兄「俺もさっき振られたとこ」

女「え?・・・・・兄って好きな子いたのかよ」

兄「おまえには前に話したぞ」

女「嘘? まさか本気で妹ちゃんに告ったの」

兄「うん。本気で告った。そんで全力で振られた」

女「そらそうでしょ。兄って本当にバカだったのね」

兄「反論はできないけど。でもこれでも一応落ち込んでるんだぞ」

女「あたしは兄友と会わなければそのうち傷も癒えると思うんだけど、あんたは一生妹ち
ゃんの兄貴なんでしょ? これからどうやって妹ちゃんに接していくの」

兄「それが問題だ。まあ、とりあえず四月になれば引越しできるから顔を合わすことはな
いんだけどな」

女「それはそうだろうけど」

兄「おまえは? 兄友だって俺たちと同じ大学だろ? 辛くないのか」

女「辛いに決まってるじゃん。でも、もうあいつとは縁を切るし話もしない。もちろん一
緒に住む話もなし」

兄「兄妹じゃなければそういうこともできるよな」

女「何よ。実の妹に告るんだったら、前もってそのくらいのことは考えておきなさいよ」

兄「いや、告るつもりはなかったんだけどさ」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

女「まあ、いいや。とにかく不動産屋に案内して」

兄「まあ、いいけど。妹の待つ家には帰りづらいし」

女「でしょ? その後飲みに行こう。お互いを慰めっこしようよ」

兄「マジで?(それもいいかもな。夜遅くに帰れば妹友顔を会わせずにすむし)」

女「じゃ、行こうよ」

兄「ちょっと待て。まだ食い終わってないって」


今日は以上です
また投下します

>>50
地の文だらけの長編ですので、ここと同じようなのを期待すると違うんですが、それでもよければ
読んでもらえたら嬉しいです


<実はあたしたちって見えないところで繋がっているのかもよ>




女「あたしたちってさ」

兄「何だよ」

女「何か運命的な縁が本当にあるのかもしれないね」

兄「縁だあ? 同じタイミングで失恋しているからか」

女「でもさ。それだけじゃないじゃん?」

兄「え」

女「大学が同じ」

兄「それはおまえと兄友が、同じ大学を目指してがんばろうねとかって恥かしい約束をし
たからだろうが」

女「・・・・・・二股かけられて振られたばかりの女にそれを言うか」

兄「あ、悪い」

女「まあ、それに学部も学科も一緒じゃん」

兄「おまえが兄友と同じ学部を受験する日にインフルエンザに罹ったからだろ」

女「そうだけどさ。あと、奇跡的に同じ賃貸マンションで、お互い隣の部屋同士でしょ」

兄「それは、さっきおまえが俺が契約したマンションを紹介させて、隣の部屋を契約した
からだろ」

女「何かお互いに今まではただの悪友みたいな関係だったけど、実はあたしたちって見え
ないところで縁があったのかも」

兄「人の話聞け。おまえちょっと飲みすぎ」

女「いいじゃん。もう入学式までたいしてすることもないんだし」

兄「未成年だろうが。万一ばれたら合格取り消しになるかもしれんぞ」

女「大丈夫だよ。生ビールお代わり頼んで」

兄「おい」

女「振られたばかりで言うのもなんだけどさ。何か大学に行くの楽しみじゃない?」

兄「そうかな」

女「だってさ。初めての一人暮らしだよ。何かわくわくするじゃん」

兄「俺には面倒くさいとしか思えないけどな(唯一の救いは妹と離れて暮らせることだけ
だ)」

女「一人暮らしに不安を感じてる?」

兄「まあ、正直そう言うことはあるな。掃除、洗濯、料理スキルなんか全くないしさ」

女「だったら、それこそ運命的な状況だと思わない?」


兄「おまえの言っていることはよくわからん」

女「掃除、洗濯、料理スキルが備わっている高校時代の同級生の美少女があんたの隣に住
んでるんだよ」

兄「美少女?」

女「美少女」

兄「あ、ああ」

女「何があ、ああよ」

兄「いや、別に」

女「あたしの後姿をガン見してたくせに。それも今日のマックだけじゃなくて前から」

兄「ガン見ってひでえこと言うなおまえ」

女「あたしの後姿を視姦してたくせに」

兄「してねえよ。つうか更に言葉がひどくなったぞ」

女「正直に言ってごらん? あたしのことを可愛いと思ってときめいたんでしょ?」

兄「・・・・・・あほ」

女「まあ、いいや。四月からよろしくね。あんたの面倒はあたしが見てあげるから」

兄「何でそうなる?」

女「お互いに振られたんだから別に誰に遠慮することもないでしょうが」

兄「おまえ、兄友に振られて自棄になってねえ」

女「自棄にはなってないよ。ただ、自ら抑えていたいろいろなことから自由になれただけ
で」

兄「何言ってんだかわからない」

女「あたしの後姿を熱心に見つめたことは認める?」

兄(こいつに嘘をついてもすぐにばれちゃうんだよな)

女「ほれ。何とか言え」

兄「ま、まあ」

女「酒も入っていることだし自分に正直になれ。楽になるぞ」

兄「一瞬、そう思ったことは認める」

女「え」

兄「おまえを見かけて、おまえとは知らず『あ、あの女の子の後姿、すらっとしてていい
な。スカートから覗く脚も白くて細くて・・・・・・あの子とお近づきになりたい。かといって
声をかける勇気はないし』とかって考えたことは確かに事実だ」

女「・・・・・・」

兄(恥かしいことを言ってしまった)

女「そうか。あんた、あたしのことをそういう目で見てたんだ」

兄(なぜ嬉しそうなんだ)


<それならあたしと付き合って>




兄「でもまあ、顔を見たらおまえだったんだけどな」

女「・・・・・・あたしさ」

兄「お、おう」

女「最初から兄友じゃなくてあんたと付き合えばよかった」

兄「へ?」

女「だって、そうじゃん。あんたはあたしのスタイルを好きなんでしょ? 後姿だけでも
気になるくらいに」

兄「前を見るまではな」

女「そうなの?」

兄「え」

女「あたしの顔とかはあんたは全然無理なんだ」

兄「だから何を言っているんだおまえは」

女「あたしって、妹ちゃんに比べたら可愛くない?」

兄「・・・・・・そんなことはないけど。おまえ結構もててたじゃん。兄友と付き合い出す前は
やたら告白されてたし」

女「あんたは?」

兄「うん?」

女「あんたはあたしのことどう思う?」

兄「どうって言われてもおまえは兄友の彼女だしな」

女「あたしはもうあいつの彼女じゃないよ」

兄「・・・・・・おまえさ」

女「何よ」

兄「もしかして自棄になってね?」

女「・・・・・・なってないよしつこいなあ」

兄「いや。俺の間違いならいいんだけどさ」

女「・・・・・・傷付いてはいるんだけど、ほっとした気持ちもある」

兄「そうなの?」

女「うん。兄友に振られて、二年生の女の子に負けて傷ついたけど」

兄「まあ、それは傷付くよな」

女「でも、今はちょっとだけ嬉しいかも」


兄「・・・・・・さっきから意味わかんないんだけど」

女「これで兄友に罪悪感とか感じないで自分の気持に素直になれるから」

兄「罪悪感って」

女「罪悪感って単語、知らないの? 解説しようか」

兄「(どっかで最近聞いたことのあるセリフだ)そうじゃねえよ。何でおまえが罪悪感な
んて感じてるんだよ」

女「兄友のことを、あんたへの気持を忘れるために利用したから」

兄「おい」

女「あんたが、妹ちゃんのことを好きなことなんて前から知ってたし」

兄「もしかして、ばれてたの」

女「ふふ。あれで隠していたつもりだったの」

兄「・・・・・・まあね(それも妹に言われたっけ)」

女「そんなの中学生の頃から知ってたって」

兄「だから何でそこで泣く」

女「あんたが好きだったの」

兄「え」

女「あたしはどうしたらよかった? 妹ちゃんしか見えていないあんたに玉砕覚悟で告れ
ばよかったの? それともずっとあんたに片想いし続ければよかったの?」

兄「・・・・・・」

女「でも、あんたは妹ちゃんしか目に入っていなかったでしょ」

兄「・・・・・・それは否定はしないし、できないけど(女が俺のこと好きだったってマジか
よ)」

女「あたしさ。あんたのことを諦めようと思ったとき、兄友に告られてさ。自分を変えた
かったこともあって兄友と付き合ったの」

兄「そうだったのか」

女「うん。でも、あんたのことを忘れたことなんかなかった。というか、忘れるために付
き合ったのに、一々いろいろ兄友とあんたのことを比較しちゃってさ。いつまでたっても
あんたを忘れられなかった」

兄(・・・・・・全然気がつかなかったよ)


女「それで、兄友に振られた次の日。まあ、今日なんだけどさ。偶然マックであったあん
たが、妹ちゃんに告って振られたっていうし」

兄「うん」

女「それならあたしと付き合って。振られた者同士、今なら誰も傷つけずに恋人同士にな
れるじゃん」

兄「いや」

女「何で? 妹ちゃんに振られたんでしょ。妹ちゃんにも大好きな彼氏が出来ちゃったん
でしょ」

兄「・・・・・・」

女「あたしのこと嫌い?」

兄「そんなことはねえよ」

女「じゃあ、いいじゃん。あんたのこと慰めてあげるよ」

兄(流されてもいいときなのかもしれないな。妹とはもう付き合えないし、俺が未練を残
していたら妹にも迷惑をかける)

兄(女だって兄友に振られて自棄になっているだけかもしれないけど、少なくとも一人で
うじうじ悩んでいるよりは前向きになれるかもしれない)

兄(俺と女が付き合っても妹も兄友も傷付くどころか罪悪感が薄れるだけだしな)

兄(これが一番いい解決方法かもな。それに女って可愛いことは確かだし。四月からはお
隣さんでもあるし)

女「何か言ってよ、兄。あたしいつもふざけていたけど、今はちょっと酔ってるけど本気
なんだよ」

兄「おまえの言うとおりかもな」

女「・・・・・・ほんと? 無理してない」

兄「おまえって可愛いし。妹に振られたばかりの俺が迫るのは信用ないかもしれないけ
ど」

女「そんなことないよ」

兄「何かおまえ、昨日までとキャラが違いすぎるんですけど」

女「信じられない? 兄友に振られてからあんたに告ったのは確かだけど、昔からあんた
のことが好きだったのは本当だよ」

兄「本当にキャラが違ったな。でも、そういうところも可愛いかもな(妹と女を傷つけな
いために)」

女「・・・・・・ばか」

兄「俺と付き合うか? (そのためにはこれが一番・・・・・・)」

女「うん。あんたがよければ」

兄「じゃあよろしくな・・・・・・って、酒がこぼれてるぞ。いきなり抱きつくなよ」

女「へへ。悪い」

兄「いいけど」

女「やっぱり運命的な繋がりがあったんだね」

兄(・・・・・・)


<でもよかった>





兄(俺に初めての恋人ができた。そんで帰りん電車の中では、いつも俺の悪口しか言わな
かった女が俺の腕にしがみついて俯いていた)

兄(そんで、どうしたって声をかけたら俺の胸に頭を擦りつけてきた)

兄(あいつの家のまで送って行って別れるとき、いきなり真っ赤な顔で俺にキスした)

兄(兄友に振られた次の日だぞ。女は悲しいとか思わないのかな)

兄(それとも女の言うとおり、本当は前から兄友じゃなくて俺の方が好きだったのか)

兄(ツンデレもいいとこだったのか。まさか女が俺のことを好きだったなんて思いもしな
かったぜ)

兄(じゃあ、俺は?)

兄(俺は妹を忘れるために、妹に余計な気を遣わせないために女と付き合ったのか)

兄(・・・・・・とりあえず、四月からぼっちになる心配だけはなさそうだな)

兄(女の他には友だちができないっていうことはあるかもしれんけど)

妹「おかえりお兄ちゃん」

兄(これからは妹じゃなくて女といつも一緒なのか)

妹「・・・・・・・」

兄「まあ、それも人生だ」

妹「おかえり。って何が人生なのよ」

兄「おまえか」

妹「ママは?」

兄「仕事」

妹「・・・・・・一緒じゃなかったの」

兄「部屋を決めるまではな」

妹「そうか」


兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・ご飯作っといたよ」

兄「そう。無理しなくてもいいのに」

妹「無理なんてしてないよ」

兄「今までだってカップ麺だったしな。別にそれでいいのに」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「何」

妹「もしかしてお酒飲んできた?」

兄「・・・・・・お願いです親には黙っててください」

妹「どうしようかなあ」

兄「おい」

妹「お兄ちゃんの弱みを握っちゃった」

兄「・・・・・・今さらだろう」

妹「どういうこと?」

兄「母さんに言いつけたら間違いなく俺が勘当されるくらいのネタを、今日おまえに掴ま
れたからな。飲酒くらいじゃびくともしない」

妹「何開き直ってるの」

兄「別に。振られたからやけ酒だよ」

妹「・・・・・・ママに言えるわけないでしょ。お兄ちゃんから告白されたなんて」

兄「それならまあいいが」

妹「でもよかった」

兄「振られたんだからよくはねえよ」

妹「そういう意味じゃないよ。思ったより普通に話してくれるから、よかったって思った
だけだよ」

兄「まあ、努力はすると約束したからな」

妹「努力してるの?」

兄「ちょっとは」

妹「ねえお兄ちゃん。普通に仲良しの兄妹に戻ろうよ」

兄「努力する」

妹「・・・・・・」


今日は以上です


<愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である>




兄(全然眠れなかった。頭がぐちゃぐちゃだ)

兄(夜明け前にようやく寝たと思ったら抱きついてくる妹の夢を見るし)

兄(顔を赤くして・・・・・・大好きだよお兄ちゃんって)

兄(一瞬、すごく幸せな感情が心に満ちてきたけど。起きてみれば振られた日の翌日の朝
なわけで、妹との両想いになったのは浅く短い夢の中だけだった。夢で幸福感を味わった
反動と現実を思い出した絶望感がやばい)

兄(このまま夢を見ないで一生眠り続けたい)

兄(いやいや。それじゃあ自殺願望じゃんか。さすがにそこまで落ちてはいないぞ)

兄(今日は日曜日。学校もないしもう少し寝ようか)

兄(いや。また妹の夢、しかも妹と付き合っている夢なんか見ちゃったら起きたときにつ
らすぎる。それくらいならいっそ起きてしまおう。今何時だ)

兄(まだ六時過ぎ。とりあえずコーヒーでも飲んで出かけてしまおう。行く先のあてはな
いけど家で妹と気まずいまま一緒にいるよりはましだ)

妹「おはよう」

兄「(こいつもおきてたのか)おはよう」

妹「・・・・・・早いね。今日は日曜日だよ」

兄「知ってるよ」

妹「そか」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「おまえこそ部活でもあるの?」

妹「そうじゃないけど」

兄「? そうか」

妹「朝ごはん食べる?」

兄「いいや」

妹「・・・・・・こんなに早い時間になんで着替えてるの? どっか出かけるの?」

兄「まあな」

妹「そう」

兄「おまえは?」

妹「出かけてくる」

兄「そう」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんは日曜日なのにこんなに早くからどこに行くの?」

兄「ちょっとな。おまえは?」

妹「・・・・・・うん。ちょっと」


兄「そうか」

妹「じゃ、じゃあね」

兄「もう出かけるのか?」

妹「ううん。自分の部屋に戻る。着替えないと」

兄「そうか」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ、俺はもう出かけるな」

妹「お兄ちゃん。今も努力してるの?」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃん無理してるの?」

兄「・・・・・・ちょっとだけな」

妹「ごめんなさい」

兄「何言ってるんだ」

妹「お兄ちゃんごめんなさい」

兄「何だかわからないけど謝るなよ」

妹「あれだけお兄ちゃんに好かれて優しくされたのに。あたしのせいで仲のいい家族関係
の一つを壊しちゃった」

兄「おまえバカか?」

妹「偏差値は低いけど」

兄「そんなことは聞いてねえよ」

妹「何?」

兄「おまえのせいじゃないって。どう考えたってわかるだろ。俺が実の妹に近親相姦の関
係になろうぜなんておまえに迫ったのが原因じゃんか」

妹「あたしだってお兄ちゃんのこと好きだもん。でも、お兄ちゃんの彼女になったら兄妹
関係は壊れないかもしれないけど、パパとママを裏切ることになるんだよ」

兄「それはそうかもな」

妹「だからお兄ちゃんの告白にはいって言えなかったの」

兄「わかった。もうわかったから」

妹「ごめんなさい」

兄「愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である」

妹「・・・・・・どういう意味?」

兄「アルベルト・カミュ」

妹「・・・・・・誰」

兄「フランスの作家。俺は不運だったのかもしれないいけど、不幸のままでいるよりはま
だしも救いがあるのかもな(俺は本気で女にのめり込むべきなんだろうな)」

妹「・・・・・・よくわからない」

兄「うん。わからんでもいいや。とにかく努力するから。俺のせいだから俺が努力するか
らさ。おまえはもうあまり気にするな」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「出かけてくるな」

妹「うん。行ってらっしゃい」


<早く起きてお洒落したりメークしたりしたかったんでしょうね>




兄「何でこんな早朝にここにいる」

妹友「おはようお兄ちゃん」

兄「質問に」

妹友「おはよう」

兄「・・・・・・おはよう」

妹友「さわやかな朝ですね」

兄「そうかな。雪でも降りそうなどんよりとした曇り空だけど」

妹友「ずいぶん朝早くから出かけるんですね」

兄「まあな」

妹友「どこに行くんですか」

兄「(行き先決めてねえ)いや、おまえには関係ない」

妹友「・・・・・・」

兄「何でそこで赤くなる」

妹友「やっぱりお兄ちゃんはあたしのことを、君じゃなくておまえって呼びたいんです
ね」

兄「・・・・・・脳みそわ」

妹友「もしかしてお兄ちゃん。語彙が乏しい残念な人なんですか」

兄「何でだよ」

妹友「この間から同じ単語しか口に出してないですよ」

兄「それはおまえがループするように同じことしか言わないからだ」

妹友「お兄ちゃんは少しは小説とか読んだ方がいいと思います。そうすれば自然と語彙が
豊富になりますよ」

兄「・・・・・・何でおまえにそこまで言われにゃならんのだ」

妹友「ずいぶん気が立っているようですね。そんなにお兄ちゃんと妹ちゃんの関係に悩ん
でるんですか」

兄「俺と妹の関係?」

妹友「違います。妹ちゃんとお兄ちゃんの関係です」

兄「ああ。おまえの兄貴とうちの妹の関係か」

妹友「この状況でそれ以外に聞くことがあるわけないでしょ。頭沸いてるんですか」

兄「おまえの語彙の貧困さも相当だな」

妹友「失礼なことを言わないでください」

兄「それで何の用だ? 妹なら外出前で着替え中だぞ」

妹友「そうですね」


兄「うん?」

妹友「それはあたしの予想の範囲内なので別に驚くほどのことではないです」

兄「そうなのか」

妹友「はい。なぜなら今日はうちのお兄ちゃんと妹ちゃんが初めての休日デートをする日
ですから」

兄「(そうなのか。だからあいつ早起きしてたのか)そうなんだ」

妹友「そうです。まあ待ち合わせ時間はずっと遅い時間ですけど、そこは女の子だから早
く起きてお洒落したりメークしたりしたかったんでしょうね」

兄「そうか」

妹友「そうですよ」

兄「まあそういうこともあるのかもな」

妹友「で話題は最初に巻き戻りますが、お兄ちゃんはどこに行くんですか」

兄「決めてない」

妹友「はあ?」

兄「妹と同じ家にいるのが耐えられなかっただけだから、どこに行こうかなんてこれから
考えるよ」

妹友「最低ですね」

兄「何で」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんのデートをストーキングしようとしているんですね」

兄「ちょっと待て。おまえは何か誤解しているぞ」

妹友「早めに家を出て妹ちゃんを尾行するつもりだったんですね」

兄「だからそうじゃねえよ」

妹友「潔白を証明したいならどこに行こうとしていたか話してもらいましょうか」

兄「わかんね」

妹友「わからないとはどういうことですか」

兄「だから。妹がデートなんて知らなかったからさ。気まずいから家を出ようと思っただ
けだよ」

妹友「今さら何で気まずいんですか」

兄「いや」

妹友「答えないと妹ちゃんのストーカーの罪で告発しますよ?」

兄「何言ってるんだ。まあ、いいや。隠してもしようがないし」

妹友「素直ですね。誉めてあげるから言ってみなさい」

兄「昨日、妹に告って振られた」

妹友「そうですか」

兄「そうですかって、感想はそれだけ?」

妹友「当然の結末ですからね。驚く要素は何もないです」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんには彼氏君、つまりあたしのお兄ちゃんがいるのですから、お兄ちゃんに
は勝ち目は最初からなかったんですよ。一ミリたりとも」


兄「追い討ちをかけなくてもいいよ。昨日はっきりと妹には振られたんだから」

妹友「そうですか」

兄「でも妹は言ってたぞ。別におまえの兄貴は好きじゃないって」

妹友「信じたんですか」

兄「え」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんを気遣ったその言葉を、お兄ちゃんはそのまま信じたんです
か」

兄「何を言っている」

妹友「あたしのお兄ちゃんと妹ちゃんはラブラブですよ。両想いですよ。」

兄(妹は俺たちの家族の関係を壊したくなかったって言ってた。俺を振ったのだってそれ
が理由だって)

兄(そして、妹は彼氏のことは好きじゃないって言ってた。そして、俺のことが好きだ
と)

妹友「自分のことが大好きなお兄ちゃんに気を遣って、妹ちゃんもはっきりは口にできな
かったんでしょうけど、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんにベタ惚れしてますよ」

兄「見え透いた嘘を言うな」

妹友「嘘じゃないです。何ならご自分の目で確かめて見ますか」

兄「どういうことだよ」

妹友「あたしと一緒に二人をストーキングしましょう」

兄「・・・・・・犯罪者になるのは嫌だ」

妹友「間違えました。一緒にあの二人を尾行しましょう」

兄「さっきとどう違うのかわかんねえけど」

妹友「恐いんですか」

兄「わからん」

妹友「じゃあ、はっきりと確かめた方がお兄ちゃんのためにもいいですよね」

兄「マジで言ってるの」

妹友「当然です。あ、妹ちゃん出てきました」

 妹友は俺の腕を抱えるようにして、隣の家のガレージの陰に俺を引き摺っていった。

 いつもより着飾った妹が俺が好きだった背を真っ直ぐ伸ばした姿勢のまま、俺たちの前
を足早に歩み去って行った。


短いけど今日は以上です


<そのつなぎ方は間違ってます>




妹友「行きますよお兄ちゃん」

兄「尾行したなんてあいつにばれたら今度こそ本気で終わりだな」

妹友「ばれなきゃ済む話でしょう」

兄「それはそうだけど」

妹友「妹ちゃんの気持を直接確かめたくないんですか」

兄「それは確かめたい気もするが、どっちにしても振られたことには変わらないわけだし、
こんなことをしてどうするんだという気持もある」

妹友「お兄ちゃんが振られたのは確定的な事実であってそのことに関しては微塵も疑いが
ないことは、おっしゃるとおりですが、振られた理由についてはまだ確定していないでし
ょう?」

兄「いやあ、あいつは俺のことは好きだけど、俺と付き合うことで家族の仲が気まずくな
るのはいやだから俺のことを振ったって」

妹友「妹ちゃんは優しい子ですからね。お兄ちゃんなんかに異性としての愛情なんか欠片
もなかったとは言いづらかったのでしょう。でもこの話はさっきもしましたよね」

兄「確かにさっきも聞いたけど、別に納得したわけじゃないぞ」

妹友「だからこそ、お兄ちゃんのその曇った眼差しで今こそ真実を直接確かめるべきなん
じゃないですか」

兄「別に俺の眼差しは曇ってはいない」

妹友「濁った眼差しで確かめるべきなんじゃないですか」

兄「・・・・・・本当に尾行するの?」

妹友「もちろんです。そろそろ追跡に入らないと妹ちゃんを見失ってしまいます。さあ、
行きますよ」

兄「おい。ちょっと待てって」

妹友「急がないと置いていきますよ」

兄「おまえ足早いな」

妹友「お兄さんは歩幅が狭いようですね。一足で前方に進む距離が他の人より短いようで
す。短足な人の特徴ではありますけど」

兄「おまえさ。本当に俺のこと好きなの?」

妹友「好きですよ。兄ちゃんに振り向いてもらえるように、さっきから無理に可愛らしい
自分を演出したり、お兄ちゃんの胸がどきどきするような好意的なセリフを、毒舌を吐き
たい気持を抑えて口にしているのはいったい何のためだと思っているんですか」

兄「おまえの愛情表現は非常に特殊だというところまでは理解した」

妹友「言いがかりです」

兄「そうじゃねえ」


妹友「お兄さん」

兄「何だよ」

妹友「そろそろ駅前で人目が増えてきました」

兄「そうだな」

妹友「このままだとあたしたちは、周囲の人たちからデートに向っている可愛い女子高生
をストーキングしている怪しい二人組みだと思われかねません」

兄「それが正しい理解だと思うけど」

妹友「なので偽装工作をしましょう」

兄「何だって?」

妹友「妹ちゃんとは無関係に休日デートを楽しんでいるカップルの振りをしましょう」

兄「具体的にはどうするんだ」

妹友「手をつなぎましょう。それであたしたちは完璧に彼氏彼女の間柄に見えると思いま
す」

兄「ちょっと待て。万が一おまえと手を繋いでいるところを妹に見られたら、俺は今度こ
そ本当に破滅だ」

妹友「おかしなことを言いますね」

兄「何がおかしい」

妹友「お兄ちゃんは既に完全に破滅しているじゃないですか。実の妹なんかにマジで告白
するという社会常識や世間一般のモラルに反した行動を選択した時点で」

兄「いやいや」

妹友「それにお兄ちゃんに対する愛情なんて元から妹ちゃんの中には存在しないわけだか
ら、お兄ちゃんが誰と手を繋ごうが全く気にしないと思いますけどね。むしろお兄ちゃん
に対しては妹ちゃん関心すら抱かないと思いますよ。好きの反対は無関心ですから」

兄(こいつも妹と同じことを言うのか)

妹友「では手を握ってください」

兄(仕方ない)

妹友「そのつなぎ方は間違ってます」

兄「どうして?」

妹友「父親が幼い娘の手を引いているんじゃないんですから。周囲から恋人に見られなけ
りゃ意味ないでしょうが」

兄「どうすりゃいいんだ」

妹友「仕方ないですね。こうするんです」

兄「これは」

妹友「これが世間で言われている恋人つなぎです。お兄ちゃん、知らないんですか」

兄「見聞きしたことはあるが実際にするのは初めてだ」

妹友「勉強になってよかったですね」

兄「・・・・・・それにしてもちょっと手に力を込めすぎじゃね」


<いつもよりお洒落してますね>




妹友「下り方向の電車に乗るようですね」

兄「ホームに上がって行ったな」

妹友「このまま尾行しますよ」

兄「お、おう」

妹友「やっとその気になりましたか」

兄「ここまできたら仕方ないだろうが」

妹友「改札に入りますよ」

兄「・・・・・・」

妹友「何で改札口前で止まるんですか。妹ちゃんを見失ってしまうでしょうが」

兄「いや。それなら手を離してくれないと」

妹友「ああ。確かにそうですね。仕方ないから一瞬だけ手を解きますよ」

兄「そうしてくれ」

妹友「何してるんですか」

兄「何って」

妹友「改札を抜けたのだから手を握らないと」

兄「ああ、そか」

妹友「だからそうじゃなくて」

兄「ああ、恋人つなぎね」

妹友「そうです。やれば出来るじゃないですか」

兄「まあ、このくらいなら」

妹友「そろそろ注意してください。同じホーム上にいると発見される確率が高くなります
から」

兄「そうだね」

妹友「少し離れたところから妹ちゃんの動静を見守りましょう」

兄「わかった」

妹友「・・・・・・最初からそれくらい素直になってくれれば楽だったのに」

兄「何だって」

妹友「独り言です」

兄「そう」

妹友「妹ちゃん、いつもよりお洒落してますね」

兄「そうか?」

妹友「間違いないです。普段は付けないアクセとかもしていますし」

兄「よくわからん」

妹友「お兄ちゃんに会うくらいでそんなに気合いれなくてもいいのに」


兄(よくわからなくなってきた。あいつは彼氏からの電話を無視するくらい俺を引きとめ
ようとしていたのに、本当は彼氏のことが好きなのかな)

兄(実の兄とかいう以前に俺なんかには全然好意なんてなかったんだろうか。妹友の話し
を聞いているとだんだんそんな気もしてきた)

兄(もちろんどっちにしても妹に振られたことには違いないんだけど、その理由によって
は俺は今以上に立ち直れないくらいのショックを受けるかも)

兄(いや。そんなことはもうどうでもいいと思わなきゃいけないな。俺だって今では女と
いう彼女がいるんだし)

兄(そう考えるとこんなところで妹友と恋人つなぎをしている場合じゃない)

兄(俺何やってるんだろ)

妹友「電車が来ました」

兄「ああ」

妹友「妹ちゃんが乗り込みました。あたしたちは隣の車両から監視を続行しましょう」

兄「う、うん」

妹友「妹ちゃんさっきからずっとスマホを見てますね。メールでしょうか」

兄「さあ」

妹友「お兄ちゃんからのメールでしょうか」

兄「いや、俺は妹にはメールしてないし」

妹友「違いますよ。お兄ちゃんじゃなくてお兄ちゃんからのメールのことです」

兄「おまえさ。頼むからお兄ちゃんという呼び方を何とかしてくれないか」

妹友「いやです」

兄「だってわかりづらいじゃん。どうしても呼びたいならせめてお兄さんと呼んでくれ。
おまえの兄貴のことなのか俺のことなのか混乱する。おまえだって俺に意図するところが
伝わらないと困るだろう」

妹友「別にそれほどは困りませんけど・・・・・・まあいいでしょう。不本意ですがお兄ちゃん
のことはお兄さんと呼ぶことにします」

兄「助かるよ」

妹友「感謝してね」

兄「何でだよ」

妹友「まずい。妹ちゃんがこっちの車両を眺めてます」

兄「ど、どうしよう」

妹友「誤魔化しましょう。妹ちゃんからは顔が見えないようにしましょう」

兄「だからどうすれば」

妹友「こうしましょう」

 妹友が不意に恋人つなぎをしていた手を解き、両腕を俺の首に回した。爪先立って背伸
びした妹友は、一瞬の出来事で何が起きたかわからない俺の顔を抱き寄せキスした。


<それなら嬉しいです>




兄「な、何を」

妹友「黙って」

兄「・・・・・・おい」

妹友「妹ちゃんに不自然なカップルだと思われてはいけません。もう一度キスしましょ
う」

兄「いやいや」

妹友「早く」

兄「え」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・こういうときは鼻で息をしてください」

兄「窒息するかと思った」

妹友「どんだけ奥手なんですか」

兄「ほっとけ。それよか妹は」

妹友「こっちを見るのをやめて再びスマホを眺めてます」

兄「どうにか誤魔化せたか」

妹友「はい。あたしの機転のおかげです」

兄「機転が利きすぎだ、おまえは」

妹友「そんなにいやでしたか」

兄「いやというわけでは」

妹友「じゃあ、よかったですか」

兄「よかったというか」

妹友「どっちなんです」

兄「・・・・・・悪くはなかったが」

妹友「それなら嬉しいです」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんがドアの方に向いました。次の駅で降りるようですね」

兄「あ、ああ」

妹友「行きますよ」

兄「うん」

妹友「手」

兄「え」

妹友「手ですよ」

兄「わかった」

妹友「お兄さんだいぶ慣れてきましたね」

兄「おかげさまで」

妹友「降りましょう」


兄「妹が改札から出て行くぞ」

妹友「残念ですが改札を抜けるために一時的に手を解きましょう」

兄「ああ」

妹友「妹ちゃん駅前広場の方に向ってますね」

兄「何かどきどきしてきた」

妹友「手」

兄「うん」

妹友「あ」

兄「どした」

妹友「お兄ちゃんが駅広の噴水前にいます」

兄「どれがおまえの兄貴だ? 人だらけでわからんぞ」

妹友「噴水前でスマホを弄っている人です」

兄「あいつか(イケメンだな。何だか勝てる気がしない)」

妹友「人の兄をあいつ呼ばわりは失礼ですよ。いくら恋のライバルだと言っても」

兄「すまん」

妹友「これ以上接近するのは危険です。この街路樹の陰から見守りましょう」

兄「うん」

妹友「あ、お互いに気がついた。お兄ちゃんが手を振ってますね」

兄(妹の反応は)

妹友「妹ちゃんも軽く手を振りましたね」

兄「ああ」

妹友「08時17分。ターゲットが接触」

兄「二人で歩き出したぞ」

妹友「どこに行くんでしょうか」

兄「さあ」

妹友「あの方向には図書館がありますが」

兄「図書館でデート? ねえだろ」

妹友「そうですか」

兄「いや。よくわからんけど」

妹友「あ」

兄「どうした? あ」

妹友「・・・・・・手をつなぎましたね」

兄「・・・・・・」

妹友「恋人つなぎですね」

兄「・・・・・・」


今日は以上です

また投下します


<それは異性に対する愛情じゃない>




妹友「休日だというのに二人揃って図書館に入って行きましたね」

兄「何なんだろうな。一緒に勉強でもするつもりなのかな」

妹友「お兄さんって思ったより打たれ強いんですね。見直しました」

兄「何がだ」

妹友「最愛の妹ちゃんがお兄ちゃんと恋人つなぎをしながらイチャイチャしていたという
のに、何でそんなに余裕かましていられるんですか」

兄「いや。結構距離も離れていたし、本当にそういう手のつなぎ方をしてたかどうかは確
認できなかったしな」

妹友「お兄さんの視力がいいのかどうか知りませんけど、あたしにははっきりと見えまし
たけど」

兄「あれだけ距離が離れていたのに、手のつなぎ方まで視認できるわけはないだろう」

妹友「そんなに現実逃避したいんですか。だいたいお兄さんは妹ちゃんから嫌われたわけ
だし、今さら妹ちゃんに好きな男がいるってわかったって何も事態は変らないでしょう
が」

兄「別に嫌われたわけじゃない」

妹友「何でそう思うんです? お兄さんの妹ちゃんへの愛情ははっきりと妹ちゃんに拒否
されたんでしょ」

兄「世の中にはな。互いに好きあっていてもどうしようもないことだってあるんだ」

妹友「・・・・・・なるほど」

兄「何がなるほどだ」

妹友「よく理解できました」

兄「ようやくわかってくれたか」

妹友「はい。お兄さんは現実逃避しない方が幸せになれると思います」

兄「何でそうなる」

妹友「気持はわかりますよ。妹ちゃんもお兄さんを愛している。彼女だって実の兄妹じゃ
なかったら本当はお兄さんの胸に飛び込みたいと思っている」

兄「まあそうだ」

妹友「・・・・・・そう思いたい気持ちはわかります。妹ちゃんとは本当は両想いだけど、両親
や世間への配慮から妹ちゃんが素直にお兄さんのことを好きだと言えない」

兄「・・・・・・お、おう」

妹友「そう思いたいんでしょ」

兄「自惚れるわけじゃないけど、実際にそれに近い葛藤があったんじゃないかなあ。妹の
心の中では」

妹友「あるわけないでしょ」

兄「え」

妹友「え、じゃないですよ。いい加減に現実を見つめましょうよ」

兄「・・・・・・」


妹友「妹ちゃんは優しい子です。そのことは中学高校と一緒に過ごしたあたしが一番よく
わかっています」

兄「まあ、兄貴の俺が言うのも何だが、確かにあいつは優しいな」

妹友「そうです。だから彼女はお兄さんに告られたとき、お兄さんには異性としての愛情
なんかこれっぽっちもないなんて言えなかったんですよ。そう言えばお兄さんのことを再
起不能なまでに追い詰めてしまうから」

兄「・・・・・・そうなの?」

妹友「そうです。お兄さんの告白なんて妹ちゃんにとっては気持悪いイベントに過ぎなか
ったんですよ。でも優しい妹ちゃんはそんなことをお兄さんには正直に言えなかった。な
ぜなら妹ちゃんの拒絶によってお兄さんが酷く傷付くだろうと心配したからです」

兄「何かひどく落ち込んできた」

妹友「なるべくお兄さんを傷つけずに断るためには、近親相姦とか両親との関係とかを持
ち出すしかなかったんでしょうね。本当はお兄さんのことなんて異性として考えてもいな
いのに」

兄「だけど、妹は彼氏の電話を切ろうとしてまで俺と話を続けたがっていたんだけど」

妹友「どこまで優しいんでしょうね、妹ちゃんは。そのときの電話で本当に大好きなうち
のお兄ちゃんを傷つけてしまった埋めあわせを今日しているんでしょ」

兄「それが恋人つなぎ?」

妹友「初めての登校デートのときは、そっと寄り添うだけで手をつないでなかったですか
らね。お兄さんを傷つけないように振る舞った行動の結果、妹ちゃんが大好きなうちのお
兄ちゃんを傷つけてしまった。その埋めあわせがさっきの恋人つなぎなんじゃないです
か」

兄「そうなのか」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんを好きだとすると、埋め合わせは恋人つなぎくらいでは終ら
ないでしょうけどね」

兄「嫌なことを平然と言うなおまえは。証拠もない話じゃんか。俺は妹を信じるぜ」

妹友「哀れですね。お兄さんが本当に妹ちゃんのことが好きだったら、もう妹ちゃんを解
放してあげたらどうですか」

兄「俺の妹への好意ってそんなにあいつにとって重荷なのか」

妹友「妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ」

兄「はい?」

妹友「ただ、それは異性に対する愛情じゃない」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性と
して好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自
分の兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対す
るものじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思いま
す」

兄「もういい」

妹友「聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは
言えなかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思
ったから」

兄「いや、そこまでは悩んでいない」

妹友「だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄さん
を振ったんでしょうね」

兄「わかったから、もう辞めてくれ」


<おまえのおかげで目が覚めた>




兄(自分でもひょっとしたらとは思っていたけど。他人にはっきりと口に出されると本気
で死にたくなるな)

兄(俺の気持があいつにとってそこまで迷惑だったとしたら。それなのに俺のことを想っ
て優しい嘘をついてくれていたのだとしたら)

兄(もうやめよう。妹と彼氏との関係を探る意味なんてない。妹友の言うことには残酷な
ほど説得力がある)

妹友「・・・・・・お兄さん?」

兄「ああ」

妹友「ごめんなさい。お兄さんには真実に目覚めて欲しかったんですけど、ちょっと急ぎ
過ぎました」

兄「いや。これくらいはっきりと言ってもらった方がよかったよ」

妹友「そうですか」

兄「ああ。でないと、このまま妹を監視して妹がおまえの兄貴とキスをしたところを目撃
したとしても、おれはまた都合のいい幻想でその場面を解釈しちゃったろうからな」

妹友「お兄さん」

兄「しかしおまえってよくそこまで人の気持がわかるのな」

妹友「それは」

兄「それにどうしてそこまで俺に厳しい、じゃなくて俺のことを考えてくれるんだ」

妹友「まあ、お兄さんを見るのも妹ちゃんをみるのも、あたしにとっては鏡を見ているよ
うなものですからね」

兄「え?」

妹友「いえ。何でもありません。それよりあたしたちも図書館内に侵入しましょう」

兄「俺もう帰る」

妹友「妹ちゃんとお兄ちゃんの仲を見届けないんですか?」

兄「もういいや。おまえの言うとおりだと思う。これ以上妹に迷惑をかけるわけにいかな
いし」

妹友「そうですか」

兄「ああ。今日はありがとな。おまえのおかげで目が覚めたよ」

妹友「・・・・・・それならよかったですけど」

兄「まあ、もう少ししたら引越しだしな。妹と物理的に離れれば俺も妹離れができるだろ
う。妹の方はとっくに兄離れできてるみたいだし」

妹友「そこまでは言ったつもりはないのですけど」

兄「いや。じゃあ、今日はありがと。またな」

妹友「・・・・・・またです。お兄さん」


兄(結果的にはこれでよかったんだ。自分でも感じていたはずなのに、妹への未練にしが
みついていたからはっきりと理解できなかったんだな)

兄(ショック療法みたいなものだけど、妹友のしてくれたことは結果的には俺のためにな
ったんだ)

兄(まあ、妹友も俺にキスとかはやりすぎだけど)

兄(あれは忘れよう。俺は女と付き合い出したんだし、覚えていられても妹友だって困る
だろうし)

兄(同じ大学で同じマンションの隣同士の女が俺の彼女。もう実家に住んでいる妹、しか
も好きな男がいる妹への変態的な欲望に悩むのはやめよう)

兄(好きの反対は無関心か。妹には俺に対する愛情はなかったのか。優しさはあるにして
も)

兄(妹にはこれまでどおりの関係でいるよう努力すると約束したけど、こうなったらそれ
ももう無理だ。これまでどおりに振る舞える自信なんてない)

兄(・・・・・・妹よ。弱い兄貴ですまん)

兄(家に帰って荷物をまとめよう。契約的には明日からは引越しできるわけだし、早めに
引っ越して妹のそばから消えてあげよう。その方が妹も気が楽だろうし)

兄(そうと決まれば今日は引越しの準備だ。それで引越し先から卒業式までの間、高校に
通えばいいんだ)

兄(それなら顔を会わせるたびに妹に気まずい想いをさせなくて済むし)

兄(女はいつ引っ越すのかな。俺もこれからはマジであいつのことだけを考えよう)

兄(女に電話しようかな)

兄(・・・・・・)

兄(妹は今頃・・・・・・)

兄(いや図書館だぞ。変なことができる環境じゃねえだろ)

兄(だから。そういうことを考えるのはやめよう。それにしてたっていいんだよ。俺にそ
んなことを止める権利なんかねえんだから)

兄(妹)

兄(今度こそ本当に、俺の生涯で最初で最後の妹離れをするときが来ちゃったんだな)

兄(とにかく家に帰って荷造りしよう)


<ひょっとしたら妹友って自分の兄貴のことが好きなんじゃね?>




兄(よし。そうと決めたらもう迷わず行動するのみ)

兄(荷造りをしよう。別に本格的な引越しをするわけじゃない。とりあえず見の回りの物
をもって引っ越してしまえばいいだけだ)

兄(幸いにも親は多忙で放任状態だし、母さんは部屋を一緒に決めただけで親の責任を果
たしたと思って満足しているしな)

兄(この鍵が手許にある以上、断固として引越しをする)

兄(妹にも黙って)

兄(・・・・・・いや、さすがに妹に黙ってはまずいか。両親が帰宅しなければあいつは一人で
この家で暮らすことになってしまうし)

兄(でも、俺がいない方があいつにとっては精神衛生上いいのかもしれない。たとえ両親
不在で一人きりになったとしても)

兄(それに俺がいなくなったらさっそく彼氏を家に引き込んだりして。ははは)

兄(・・・・・・自虐ネタはよそう)

兄(あれ)

兄(スマホが振動している)

兄(・・・・・・メールか)



from:妹
sub :無題
『ママから電話で今晩はパパもママも家に帰れないって。あたしも学校の友だちと遊んで
いるので少し家に帰る時間が遅くなると思うから、お兄ちゃんは適当にご飯食べてね』

『遅くなるのはママには内緒にしてね。ママすぐに怒るんだから。お兄ちゃんがあたしに
告白したことは黙っていてあげるからお願いします(はあと)』



兄(学校の友だちと遊んでいるだと。彼氏と一緒にいるくせに。おまえの学校はいつから
共学になったんだよ。しかも願いじゃなくて脅迫かよ)

兄(はあ)

兄(まあ、想定どおりの言い訳だ。妹友の言うとおりだ。やっぱり妹は彼氏のことが好き
なんだ)

兄(妹友には感謝しなきゃな。あいつのせいで俺は客観的に妹の感情に気がつくことがで
きたんだし)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・何で妹友は手をつないだりキスしてまで俺に気を遣ってくれるのかな)



妹友『お兄さん、じゃなかった。お兄ちゃんのことが大好きだからですよ。妹ちゃんなん
かにお兄ちゃんは渡しませんからね』


兄(何で妹友は俺にまとわり付くんだろ)

兄(本当に俺のことが好きなのか。会ったばかりなのに)

兄(・・・・・・あれ。前に明確に否定されたけどさ。ひょっとしたら妹友ってやっぱり自分の
兄貴のことが好きなんじゃね?)

兄(今日だって、会ったばかりの俺のためというより自分のために兄貴と妹を尾行したん
じゃねえか?)

兄(確証はねえけど、ろくに知らない俺のことを好きだというあいつの言葉には相当無理
がある)

兄(そういやあいつ。俺と妹を見るのは鏡を見るようだって言ってたけど、あれってやっ
ぱりそういう意味だったのかな)

兄(・・・・・・そう考えると妹友もかわいそうなやつなのか。もう少し気を遣ってやればよか
ったな)

兄(とにかく俺はもう迷わない。引越して女と二人で暮らすんだ。いや、もちろん同棲的
な意味ではないが。そうだ早めに引っ越すってことを女に知らせておくか)

兄(・・・・・・女のやつ電話に出ねえ。付き合い出したばかりだというのに)

兄(とりあえず最小限の荷造りでもしておくか)

兄(・・・・・・よし)


妹「何やってるの」

兄「・・・・・・妹?」

妹「何でこんな散らかった部屋の床で寝ちゃってるのよ」

兄「うん?」

妹「起きた?」

兄「・・・・・・」

妹「こら起きろって」

兄「何だ何だ(目が覚めた。つうか何で妹が俺の部屋にいるんだ)」

妹「お兄ちゃん、お風呂にも入らないでこんな夜中に何やってんの」

兄「おまえ、いつ帰ったの」

妹「今さっき」

兄「学校の友だちと一緒で遅くなるんじゃなかった?」

妹「・・・・・・そうだけど。みんな家を気にして早く帰りたがってたから、思っていたより早
く帰れたの」

兄(こいつ目を逸らしやがった。何が友だちと一緒だ。男と二人で一緒にいたくせに。ま
あ、俺なんかには平気で嘘をつけるってわけか)

妹「夕食は食べたの?」

兄「忘れてたわ」

妹「あのさあ」

兄「いや、ちょっと引越しの準備をしてたら思わず眠くなってさ」

妹「引っ越しって。いくらなんでも気が早過ぎるよ。まだ卒業だってしてないのに」

兄「後期合格組のやつが参入してくると引越屋も混むしな。何事も早目早目に動くのがコ
ツだ」

妹「そうか。じゃあこれからご飯作るね。食べてないんでしょ」

兄「いやいい」

妹「・・・・・・え」

兄「いい」

妹「何で? お兄ちゃんの好きなオムライス作るよ」

兄「食欲ないし」

妹「・・・・・・お兄ちゃん、今まであたしが夕ご飯を作るって言ったら今までは必ずて食べて
くれたのに」

兄「そんなことまでしなくても、おまえの帰りが遅かったなんてチクらねえから。それに
結果的には怒られるほど遅くなってねえじゃん、おまえ」

妹「やだ。あんなの冗談に決まってるじゃん。何でマジになってるの」

兄「ごめんな」

妹「・・・・・・何で謝るの? いつもみたいに笑えない冗談で返してよ」

兄「もう寝るな。お休み」

妹「ねえ。本当にどうしちゃったの? こんなのやだよ」

兄「何か本当に疲れてるんだわ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「・・・・・・俺、明日から新しいアパートで暮らすから」

妹「・・・・・・何でよ」

兄「何でって」


今回はここまで

また投下します


<新生活>





兄(とりあえず俺が学んだこと)

兄(大学というところはいくら講義をさぼっても、一週間行かなくても親に電話がかかっ
てこないということ)

兄(なので一人暮らしということもあって学校側から強制されない分、規則正しく大学に
行くには何らかのモチベーションが必要だということ)

兄(思うに学問すること自体が大学進学の目的になっているやつは別として、ほとんどの
連中は友だちと会うとかサークルに行くとかそう言う動機で大学に通っているのだろう。
つまり講義はそのついでと言ってもいいな)

兄(まあ、以前からわかってはいたことだけど、ぼっちが通学し続けるのには相当なイン
セティブがない限りは血の滲むような努力が必要になる)

兄(そこで負けたやつには留年とか中退とかそう言う道が待っている)

兄(言うまでもなく、半ば予想したとおりだが俺には大学で新しい友だちができなかっ
た。まあ、そのために努力したかと問われれば微妙だけど)

兄(・・・・・・)

兄(それなのに、俺がこれまで一度も講義をサボっていない理由。しかも体育実技も含め
てだけど)

兄(それはまあ)

女「ほら、もう行くよ。さっさと支度しなさいよ」

兄「わかってるって」

女「何よその顔。たかが夜中の三時まで一緒にゲームしてたくらいで何でそんなに憔悴し
きってるのよ」

兄「俺はもともと一日八時間は寝ないと元気が出ねえんだよ。だからもう止めて寝ようっ
て言ったのに」

女「勝ち逃げ禁止」

兄「もともとコンシューマーのゲームは好きじゃないんだよな」

女「何わけのわからない外国語を使って誤魔化してるのよ」

兄「いや。パソゲーの方が好きで」

女「ああ、エロゲのことか。確かに昔からあんたはそういうの好きだったんっだってね」

兄「なぜそれを。この年まで誰にも知られたことがないはずなのに」

女「『あかね色に染まる坂』、『ヨスガノソラ』、『SuGirly Wish』、『初恋』、『思春
期』、『絶対妹至上主義』。まだあったけど、メモしといたのはこんなところかな」

兄「なぜそれを」


女「あんたのPCを家捜ししたら出てきた。全部実の妹とエッチするゲームじゃん」

兄「・・・・・・言いわけしていい?」

女「しなくていいよ」

兄「え」

女「あんたシスコンなんでしょ? 妹ちゃんにマジで告白するくらいの。だから今さらこ
んなので驚かないよ。そりゃ、ロリコンモノとか熟女モノとか女教師モノとか出てきたら
引くけれども」

兄「ああ、それはない。安心して」

女「でもちょっと寂しいなあ。同級生モノとかないの?」

兄「あ、あるよ。昔のゲームの復刻版だけど」

女「そう? あんたも同級生の女の子と付き合う願望とかあったんだ。何か嬉しい」

兄「え? あ、まあ」

女「まだ大学行くまで時間あるからさ。さわりだけ見せてよ」

兄「(ここはシスコンの汚名を晴らして女ラブなところをアピールするチャンスだ)
いいよ。ちょっと待って」

女「まだ?」

兄「よし。起動した。オープニング画面をカットして」



『同級生2』



唯『お兄ちゃん?』

主人公『なんだ唯か』



女「・・・・・・ねえ。何でこの女はお兄ちゃんって言ってるの?」

兄「(しまった)ち、違う。唯は妹じゃなくて」

女「ふふ」

兄「え」

女「慌てるなバカ。こんなことくらいで動じるあたしじゃないって」

兄「いや唯は別に実の妹キャラじゃ」

女「あんたのそういうとこも含めて好きになったんだから」

兄「う、うん(本当に唯は妹キャラじゃないんだけどなあ)」

女「じゃあ、行こう。今日はニ限から講義だよ」

兄「おう」


<じゃあ、何であたしに手を出さないの?>




女「ねえ」

兄「うん?」

女「あんたさ。あたしのことうざいとか思ってない?」

兄「別に思ってねえけど」

女「本当?」

兄「うん。何で突然そんなこと聞くの」

女「だってさ。中学高校のときは単なる友達同士だったでしょ? あたしたちって」

兄「ああ。おまえには彼氏もいたしな」

女「それがさ、今では大学にいるときも、大学への行き帰りも家に戻ってからもずっと一
緒じゃん」

兄「まあ、履修登録のときに同じ授業ばっか登録したし、アパートの部屋は隣同士だし自
然とそうなるよな」

女「そのうえ夜はいつもどっちかの部屋でゲームしたりお酒飲んだりしてるじゃない?」

兄「うん」

女「あたしってうざくない?」

兄「全然そんなことは思ってねえよ。それよかバス来たぞ。あれに乗らないと二限がやば
いぞ」

女「うん」

兄「何とか間に合ったな。あそこに席が空いてるから座ろうぜ」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「本当にうざいって思ってない?」

兄「思ってねえよ(ちょっとだけうぜえ)」

女「じゃあ、何であたしに手を出さないの? 一緒に暮らし出してもう一月以上経つの
に」

兄「何でって言われても。手を出すってどういう意味?」

女「ばか。何度も言わせるなよ」

兄「・・・・・・俺。童貞だし経験ないし」

女「はあ? んなこと聞いてないよ」

兄「でもよ」

女「この一月、毎日一緒に登校して学内でも一緒にいて、帰りも一緒。帰ってからもどっ
ちかの部屋で食事してゲームしたりテレビ見たりしたでしょ」

兄「うん」

女「なのに何でキスもしないの? 何でシャワーから出てきたあたしから目を背ける
の?」


兄「あのさ」

女「・・・・・・」

兄「悪い。でも、おれそういうスキル皆無なんだよね」

女「何でよ。あんた昔からもててたじゃん。言いわけしないでよ」

兄「誤解するなよ?」

女「うん?」

兄「俺って昔から妹しか見えていなかったし。でも妹にそういうことをするなんて、それ
は脳内ではあったことはあったけど、実際にそんなことをしようなんて思ったこともなか
ったんだよね」

女「何が言いたいのよ」

兄「だからさ。うつ伏せに寝転んでゲームしているおまえに、そのムラムラしたことはあ
ったけど知識と経験と、何より勇気がなくてさ」

女「はあ? 何それ」

兄「笑うなよ。しかもそんなに大声で」

女「あはは。でもまあいいか。そういうことなら許してあげるよ」

兄「何で上から目線なんだよ」

女「別にそういうわけじゃないよ。でもまあいいか。気は晴れたし。じゃあ、これからは
お姉さんがリードしてあげるよ」

兄「おまえ俺と同い年だろうが。つうか誕生日だけ言えば俺の方が年上だ」

女「どうも兄とは経験値が違うみたいだしね」

兄「何を偉そうに。おまえだって兄友しか経験ないんだろうが」

女「え」

兄「それとさ。兄友はおまえにすぐに手を出したりしたの?」

女「・・・・・・」

兄「あ、すまん。その」

女「・・・・・・気になるの?」

兄「いや。そう言うわけじゃ」

女「・・・・・・着いたね。バス降りよ」

兄「うん」


<ダーリン?>





女「じゃあ、しばらくお別れだね。ダーリン」

兄「周囲のやつらがいちいち反応してるんですけど」

女「勝手に妄想させておけばいいじゃん。あたしとあんたのラブラブの仲を」

兄「だって恥かしいじゃん」

女「気にし過ぎだって。周りだってカップルなんて山ほどいるって」

兄「それはそうかもしれないけど」

女「しかし履修登録で完璧にあんたと一緒に過ごせるように計画したはずなのに」

兄「まあ、必修の体育実技だけは男女別だしな」

女「寂しいよダーリン」

兄「ああ、はいはい」

女「ダーリン冷たい」

兄「そろそろ更衣室行かないと体育に間に合わないぞ」

女「ダーリン?」

兄「そう呼ぶのよせって。何?」

女「あたしの着替え覗きたい?」

兄「てめえ。わざとやってるな」

女「ダーリン恐い」

兄「さっさと行け」

女「二号館のロビーで待ち合わせね」

兄「わかった」

女「じゃあ、体育頑張ってね」

兄「ほい。そっちもな」


兄(じゃあ俺も男子更衣室行こう。確か今日はストレッチするとか言ってたな)

兄(大学に入ってまで体育とかうぜえ)

兄(しかし、女がいなかったら絶対この単位は落としていたな。無理矢理朝起こされて連
れて来られるから何とか履修できているんだし)

?「兄じゃねえか」

兄「な、何だ」

?「おーい。久し振りじゃんか」

兄「(げ。今三番目に会いたくないやつが)おう。兄友じゃんか」

兄友「同じ大学に入ったのにおまえと会えたのは初めてだな」

兄「お、おう。そうだよな」

兄友「おまえこれから講義?」

兄「体育実技なんだけど」

兄友「何だよ。真面目にそんなの受けてるのかよ」

兄「だって必修じゃん」

兄友「体育実技は出席取らねえからさ。真面目に出席するだけ損だって」

兄「え。マジで?」

兄友「おう。サークルの先輩に聞いたんで間違いねえよ」

兄「これまで真面目に出席して損した」

兄友「おまえって情報に疎いのな。こんなの常識だぜ」

兄「まあ、友だちができないんでろくに話してないからな」

兄友「何だよ、おまえ。大学に入ってもぼっちなのかよ」

兄「ほっとけ」

兄友「まあそういうわけで、体育なんか出席しなくても平気だからよ。ちょっとどっかで
話そうぜ」

兄「おまえ講義は?」

兄友「ダチに出席票頼んできたから、出なくても平気だよ」

兄「・・・・・・」

兄友「じゃあ、行こうぜ。俺、今日はおまえを探してたんだよな。ちょうどよかったぜ」

兄「何なんだ」


<後輩の子にはめられたんだ>




兄「へえ。チェーンのカフェじゃなくこういう昔ながらの学生街の喫茶店みたいな店って
あるんだな」

兄友「おう。こういう店は先輩たちに教わらないとなかなか発見できないけどな」

兄「なるほどね」

兄友「ところでさ、今日はここは俺が奢るよ」

兄「別にいいって」

兄友「いや。その代わりに聞きたいんだけどよ」

兄「何を?」

兄友「言い難いんだけどさ。俺、女と別れたんだよな」

兄「ああ(つうかそんなことは女本人から聞いて知ってるつうの)」

兄友「驚いたよな? 俺さ、女を傷つけちゃったんだ」

兄「そうか」

兄友「驚かないのか」

兄「女から聞いたから」

兄友「そうか。まあ、おまえと女って前から仲良かったしな」

兄「そうでもねえよ」

兄友「たまにお前らが一緒にいるところを見ると、俺とおまえといったいどっちが女の彼
氏なんだって嫉妬したことがあるよ」

兄「おまえ、アホか」

兄友「まあいいや。俺さ、後輩の女の子に手をつけちゃってよ」

兄「手をつけるって? 手でもつないじゃったのか? それも恋人つなぎとか」

兄友「そんなんなら悩まねえよ。後輩の子を抱いちゃったんだよ」

兄「え」

兄友「笑えるだろ? そうなっちゃったらもう逆らえなくてよ。結局後輩の子の前で女を
振ることになったんだけど」

兄「実はそれは聞いた。あいつ、泣いてたぞ」

兄友「そうか。でも、本心じゃなかったんだ」

兄「それ、女に言っても信じないと思うけど」

兄友「本当だって。俺は後輩の子にはめられたんだ。妊娠したって言われて」

兄「何それ」


兄友「そう言われたら責任とるしかねえだろうが。俺だってつらかったけど、後輩に言わ
れたとおり女を振ったんだよ。俺はおまえより後輩の方が好きだから別れてくれって」

兄「・・・・・・」

兄友「あいつは別れてくれたよ。泣きながら、本当に悲しそうに泣きながら」

兄「で? 結局おまえはどうしたいの」

兄友「昨日さ、きっぱりと後輩ちゃんとは別れてきた。だって、あいつの妊娠って嘘だっ
たんだぜ。俺を女から奪おうとしたんだって」

兄「でもよ。おまえ、子どもができるようなことしたんだろ? 女がいるのに」

兄友「わかってる。でもあれは遊びのつもりだったんだ。女が許してくれるなら復縁した
い。女と一緒にこの大学で青春したい」

兄「おまえさ。その後輩とは別れたの?」

兄友「まあ。女とよりを戻せたら本気で別れる」

兄「まだ別れてないんだな?」

兄友「だってよ・・・・・・」

兄「おまえ、ふざけんな。どんだけ女が悩んだと思ってるんだよ!」

兄友「何でおまえが怒るんだよ。おまえは女じゃなくて俺のダチだろ」

兄「おまえはもう女に関わるな」

兄友「何でだよ? てめえに言われる筋合いはねえよこのシスコン野郎」

兄「・・・・・・女はおまえを忘れようとして努力してるんだ。おまえは黙ってフェイドアウト
した方がいいよ」

兄友「おまえさ。やっぱり女のこと狙ってるだろ。シスコンとかフェイクかましながら」

兄「・・・・・・」


<恐いよー。だからチューして>




女「おい。何で校外の喫茶店にいるんだよ。噴水のところで待ち合わせっていったじゃ
ん」

兄「あ、悪い」

兄友「女」

女「え・・・・・・。何で? 何で兄友が兄と一緒にいるの」

兄「気にしなくていいよ。次の講義に行こうぜ」

女「え、えと」

兄友「待ってくれ、女。俺が悪かったからちょっとだけ話を聞いてくれ」

女「・・・・・・どういうこと」

兄友「女。この間は本当に悪かったけど、俺は間違っていた」

女「何言ってんだてめえ」

兄友「悪かった。俺どうかしてたんだ。大切なおまえにあんなひどいこと言うなんて」

女「何? あんた今さら何言いたいの」

兄友「後輩ちゃんと浮気しちゃったのは事実だよ。本当に悪い。受験で気が立っていたし
おまえとも滅多に会えないところに付け込まれてさ。そんで妊娠したから責任取れって言
われて。もうそうなったら仕方ないと思って。本当にごめん」

女「はあ?」

兄友「悪い。本当に悪い。でも、やっぱり俺にはおまえしかいないんだ。頼むから俺とや
り直してくれ」

女「・・・・・・まあ、いいか」

兄(え?)

女「許してあげるよ。兄友が無節操なことなんて最初からわかってたしね」

兄(兄友のこと許すのかよ。俺、また失恋するの?)

兄友「ごめん。でも、今はおまえだけだよ。二度と他の女には目もくれないと誓うよ」

女「あはは」

兄友「え?」

兄(え?)

女「わかった。兄友のことは許すよ。それにそんなにあたしに気を遣わなくていいって」

兄友「許してくれるのか」

女「うん。許すよ」

兄(・・・・・・まあ、俺なんかじゃこんなもんか。女がこれで幸せなら何も言うまい)

兄(大好きな妹。てかなんでこんな修羅場で妹のことを思い出すんだろう)


兄友「じゃあさ、仲直りのしるしに今夜一緒に」

女「はあ?」

兄友「え」

女「兄友のことは許したよ。でも、何でそれが今夜一緒にとかってなるわけ?」

兄友「だってよ。せっかく復縁したんだし」

女「してないし」

兄友「だって俺のこと許してくれたんだろ」

女「あんたがあたしを振ったことは許した。でも、誰があんたと復縁するなんて言っ
た?」

兄友「え? そんなのねえよ」

女「あたしにはもう大好きなダーリンがいるんだし、あんたなんかとやり直す気なんてな
いよ」

兄友「おい。ふざけんなこのビッチ」

女「きゃあ恐い。ダーリン助けて」

兄「え」

女「兄君、助けて。恐いストーカーがあたしを襲うとしてるの」

兄「えと」

兄友「・・・・・・そういうことかよ」

女「そういうことよ。理解できたならさっさと消えて。せっかく許してあげたんだから」

兄友「おい兄。てめえはどこまで節操ねえんだよ。実の妹を好きになるわ、挙句に親友の
女に手を出すわ」

兄「ちょっと待てよ」

兄友「このままじゃ済まさねえからな」

女「きゃあ、恐いよう。兄君、あたしを抱きしめて」

兄「お、おい」

女「何よ。あたしの彼氏ならもっと強く抱きなさいよ」

兄友「お前ら、俺をコケにしたことを後悔させてやる」

兄「おい女」

女「兄~恐いよー。だからチューして」

兄友「・・・・・・ふざけるな。おまえらいい加減に」

兄「これでいい?」

女「うん。うふん、何か暖かい」

兄友「・・・・・・」


今日は以上です

また投下します


<まだ少しだけ兄友に気があるからじゃねえの?>




女「あはは。あいつの顔見た? 面白かったねえ」

兄「おまえ兄友に全然未練ないの」

女「ないよ。あいつの顔なんか二度と見たくないって思ってたけど、あたしとあんたがキ
スしたときのあいつの顔ったら超面白かったし。あいつと会えて結果オーライだったね」

兄「そうかな・・・・・・って、おまえキスしているときは目閉じろよ」

女「細かいことは気にすんな」

兄「気になるって。俺だけ目を瞑ってたらバカみたいじゃんか。まあいいけど」

女「ごめん。これからはちゃんと目を瞑るから」

兄「いや、まあいいけど」

女「うん」

兄(可愛い笑顔。今まで全然気がつかなかったな)

兄「おまえさ」

女「なあに」

兄「(う。可愛い)そのさ。兄友ってある意味後輩の子に騙された被害者じゃん?」

女「うん?」

兄「いやさ。確かに二股かけてたのは最低だけどさ。結局後輩の子が妊娠してないってわ
かったらあいつはおまえを選んだんでしょ」

女「だから何が言いたいのよ」

兄「いやさ。ちょっとは心を動かされねえのかなって思って」

女「あんたバカ?」

兄「いや」

女「あたし言ったでしょ? 兄友と付き合っていてもあんたのことが忘れられなかったっ
て」

兄「うん。わかってる」

女「じゃあ何でそんなこと言うのよ」

兄「だってさ。兄友が慌てている様子を見てさ」

女「何よ」

兄「兄友につらい思いをさせられたから、あんな腹いせみたいなことをして気が晴れたん
だろ」

女「うん。すっきりしたよ」

兄「それってまだ少しだけ兄友に未練があるからじゃねえの?」

女「そんなわけあるか」

兄「ならいいけど」

女「何でそう思ったのよ」

兄「いや。好きの反対は無関心らしいからさ。さっきのことで気が晴れたっていうことは、
まだ兄友に対して無関心になっていないからじゃねえの」


女「あんたも意外とよく考えているのね」

兄「何か変なこと言ってごめんな」

女「ううん。でも、本当にあいつには未練なんかないのよ。ただ、あんな振られ方して悔
しかったしさ。見返してやれて嬉しかっただけ」

兄「そう。まあ、何となくそういうのってわかる気がするよ」

女「うん。でももうすっきりした。これで本当にあいつとはおしまい」

兄「そうか」

女「お互いに振られて始まった交際だけどさ。あたしはもう元彼には何の未練もないよ。
あんたの言うとおり無関心。そういう意味ではやっぱりさっきあいつと会ったのは無駄じ
ゃなかったんだね」

兄「・・・・・・そうか」

女「正直あいつのことを少し引き摺っていたからね。これですっきりした」

兄「よし。わかったよ。変なこと言って悪かったな」

女「あんたは?」

兄「へ」

女「あんたもまだ失恋を引き摺ってるんでしょ」

兄「正直に言うとな」

女「うん」

兄「まだかなり引き摺っている」

女「まあ無理もないか。ついこの間のことだもんね」

兄「まあな」

女「じゃあ、次はあんたの問題を解決しようよ」

兄「何だって?」

女「あたしだけすっきりしたんじゃ不公平じゃん? それにあたしだって自分の彼氏に
はあたしだけを見て欲しいし」

兄「すまん。おまえが何を言っているのかわからん」

女「簡単なことなのに。何でわからないの?」

兄「何でと言われてもわからないものはわからないし」

女「今日のあたしの置かれた状況を自分に置き換えてみなよ」

兄「へ」

女「あ、やばい。次の講義が始まっちゃうよ。急ごう」

兄「ちょっと、待て。おまえ何言って」

女「なるべく後ろの席がいいな。そこで講義中に考えてなよ」

兄「待てって」


<つうかおまえ前とキャラ変わりすぎ>




女「こら起きろ」

兄「うおっ」

女「あんたちょっと寝すぎ」

兄「悩んでるんだよ言わせるな」

女「本気で悩んでいるやつがあんなに気持ち良さそうに眠るか」

兄「まあ、春だし寝不足だし。でも悩んでいるのは嘘じゃねえよ」

女「迷うことないじゃん。妹ちゃんを見返してやれよ」

兄「いや、俺は別にそういうのは」

女「何で? 妹ちゃんに振られたことがまだ割り切れないんでしょ?」

兄「うん。今でも胸の中はぐちゃぐちゃだよ」

女「あたしが彼女になったのに?」

兄「あ」

女「やっぱりね」

兄「ち、違う。つうかごめん」

女「どっちだよ」

兄「悪い」

女「ずっと妹ちゃんに黙っているつもり? あたしと付き合っていること」

兄「いや。そんなつもりはねえけど」

女「けど何? まさかあたしと付き合っていることを妹ちゃんに知られたら、妹ちゃん
が傷付くとでも考えている?」

兄「いくら何でもそこまで楽天的じゃねえよ」

女「じゃあ未練がある? あたしと一緒のところを見られたらもう本当に妹ちゃんと終っ
ちゃうとか考えてる?」

兄「そうじゃねえよ」

女「じゃあ、あたしのこと妹ちゃんに紹介して。俺の彼女だって」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・あのさ」

女「ごめん」

兄「え?」

女「ごめん。ちょっと急ぎ過ぎた。やだな、あたし。これまで付き合ってたときだってこ
んなに嫌な女になったことないのに」

兄「いや。多分俺が優柔不断なせいだよ」

女「・・・・・・あたしのこと嫌いにならないで」

兄「え? つうかおまえ前とキャラ変わりすぎ」

女「今日、あんたの部屋で寝てもいい? もう妹ちゃんのことは言わないから」

兄「別に・・・・・・いいけど」


兄「ずいぶん買い込んだな」

女「まあ、ちょっと気合入れてるんでさ」

兄「休みの日に昼飯作ってくれるのは初めてだな」

女「ふふ。そうだね」

兄「長い付き合いだけど、おまえって本当に料理とかできちゃうの?」

女「ふふふ」

兄「何だ?」

女「意外性とかってマンネリの最良のスパイスなんだって」

兄「マンネリってまだ付き合ったばっかじゃん」

女「ちょっと早いけどさ。何か本能的にやばい気がして」

兄「何で? 俺は別に」

女「自分じゃわからないものなのかもね」

兄「本気でおまえの言うことはわからん」

女「まあいいよ。あんたがどんなに妹ちゃんのことを好きだったとしても、絶対にあたし
の方に振り向かせてみせる」

兄「つうか、もう俺さ。おまえに告ったじゃんか」

女「え」

兄「・・・・・・だからさ。恋人同士になったんだろ、俺とおまえって」

女「うん」

兄「だからさ。もういいじゃん。兄友のことも妹のこともさ」

女「本気で言ってる?」

兄「ああ」

女「信じちゃうよ」

兄「何だよ。信じていいよ」

女「・・・・・・本気にするからね」

兄「女?」

女「何でもない。ご飯作るからもう邪魔すんな」

兄「お、おう。わかった」


<オムライス>




兄「おまえのオムライス、マジうめえ」

女「ほんと?」

兄「本当だよ。俺の母親って仕事してるから夕飯作ってくれなかったからさ」

女「あんたとはよく話していたのにそんなこと知らなかったよ。そういや昼がいつも購買
のパンか学食だったね。じゃあ、高校のときは朝と夜は食事はどうしてたの」

兄「朝は抜き。夕飯はコンビニ弁当とか」

女「とか?」

兄「あ、うん。まああと。その・・・・・・妹が」

女「・・・・・・妹ちゃんがあんたのご飯を作っていたわけか」

兄「ま、毎日じゃないぞ。妹も忙しかったし」

女「アホ。そんなことまで聞いてないでしょ」

兄「まあな」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「もっと食べてよ」

兄「ああ。しかしおまえって意外と家庭的なのな」

女「何言ってるの」

兄「料理スキル高えよな。これじゃ兄友だって未練がましいわけだ」

女「ばか。家以外で料理したのなんてこれが初めてだっつーの」

兄「そ、そうか。光栄だな」

女「何で目が泳いでるのよ」

兄「これもうめえ。おまえいい奥さんになるよ」

女「・・・・・・」

女「やめてよ」

兄「マジだったのに」

女「・・・・・・ばか」


女「ってあれ」

兄「チャイム鳴ったな。誰か来たのかな」

女「・・・・・・出て」

兄「おう」

女「早く帰ってきてね」

兄「宅配便だろ」

女「早く帰ってきてね」

兄「お、おう(可愛い)」

兄「はい。今開けます・・・・・・って、え?」

妹「来ちゃった」

兄「・・・・・・・何で」

妹「何でって」

兄「えーと」

妹「ママから預かったの。通帳と銀行のカードをお兄ちゃんに持ってけって」

兄「そうか」

妹「うん」

兄「それでわざわざ来てくれたの」

妹「ええとね。あと話もしたいなって思って」

兄「話って」

妹「・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「・・・・・・違うよ」

兄「(え? 何が違うんだ)何が」

妹「だから電話のこと」

兄(何が電話だ。何が違うだ。俺は恋人つなぎをして図書館に入っていったお前らを見て
るんだよ)

妹「あのさ。お兄ちゃん。あたし本当は」

女「兄? どうしたの」

妹「誰かいるの?」

兄「あ、いや」

女「あ、妹ちゃんだ。やっほー」

妹「・・・・・・女さん」

兄(どうしよう。何て言い訳しよう)

妹「何で女さんがいるの?」

兄「いやこれは」

女「妹ちゃんお久さしぶり~」

妹「どうも」

兄「あのさ」

妹「・・・・・・真面目に悩んだあたしがバカだった」


女「妹ちゃん一緒に飲もうよ、じゃない。一緒にオムライス食べない?」

兄「だからおまえは少し黙っとけ」

女「何でよ」

妹「・・・・・・あたし帰る。カードと通帳は置いとくね」

兄「ちょっと待て」

妹「・・・・・・腕痛い。離してよ」

兄「いきなり帰ることはねえだろ。そんなに俺の顔が見たくないのか」

妹「さっきまではすごくお兄ちゃんに会いたかった。顔も見たかった。お兄ちゃんは四月
から一度も家に帰って来てくれないし。でも、もうお兄ちゃんの顔なんか二度と見たくな
い」

兄「だから何で突然そうなる」

妹「悩んだのに。お兄ちゃんのこと傷つけちゃったって本気で悩んでたのに。お兄ちゃん
はもう女さんを部屋に連れ込んでるんだ。そんな程度の軽い想いで人に告白したりする
な!」

女「妹ちゃんもしかして怒ってる?」

妹「もしかしなくても怒ってます。ていうか女さん?」

女「なあに」

妹「兄友さんがいるのに、何でこんなやつと二人きりでいるんですか」

女「兄友とは別れたもん。そんで今ではあたしの彼は」

兄「ちょっと待て」

女「何で? あたし兄とは」

兄「あ~あ~あ~! 何も聞こえない」

妹「ちょっと黙れ。女さんの話が聞こえないでしょ」

兄「いや、これはその」

女「妹ちゃん。あたしと兄はお付き合いしてるの。お互いラブラブな仲なの。昨日だって
一緒にこの部屋で寝」

兄「・・・・・・もうよしてくれ。いっそ一思いに殺してくれ」

妹「・・・・・・」

女「妹ちゃんにだってわかるでしょ? あなたにだって年上の素敵な彼氏がいるみたいだ
し」

妹「誰に聞いたんですか」

女「誰って兄に決まってるじゃん」

妹「お兄ちゃん・・・・・・知ってたの」

兄「いや。知ってたというか知らされたというか」

女「あたしも見たよ。一緒に登校している妹ちゃんたちの姿を。彼、背高いね。何か寄り
添っちゃって超ラブラブって感じ?」

妹「・・・・・・あなたには関係ないでしょ」


女「関係あるよ。あたし、兄の彼女だもん」

妹「・・・・・・あたし帰る」

女「妹ちゃん何で不貞腐れてるの?」

妹「別に」

女「あんたさあ。兄とは付き合えないって言って兄のこと振ったんでしょ」

妹「そんなことまでペラペラ喋ったの? お兄ちゃん最低」

女「最低はあんただよ妹ちゃん」

妹「・・・・・・あなたなんかに言われたくありません」

女「じゃあさ。今日はいったい何しに来たの? 休日なのにわざわざ」

妹「通帳とカードを」

女「そんなの書留で送ればよくない?」

妹「・・・・・・」

女「自分は兄のことを振って彼氏とベタベタしてるくせに、兄があんたを忘れようとして
彼女を作ったら今度は兄に嫉妬かよ。答えてみ? 今日は本当は何しに来たの」

妹「あなたには関係ないでしょ」

女「当ててあげようか? どうせ妹ちゃんに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを
慰めてあげよ! とかって軽い気持で来たんでしょ。自分には彼氏がいるくせに」

妹「ち、違う」

女「そしたら兄の部屋に彼女がいたんでかっとなったてところでしょ。自分は彼氏がいて
兄を振ったくせに、その兄に彼女ができることが許せないんでしょ。あんた、どこまで身
勝手なのよ」

兄「いや。妹だってそこまでは考えてないよ。もうよせよ」

女「あたしはあんたが妹ちゃんに軽く扱われているのが気に入らないの。どうせ兄のとこ
ろに来るなら、彼氏と別れて兄に告白するくらいの覚悟で来いっつうの」

妹「・・・・・・らないくせに」

女「何言ってるのか聞こえませ~ん」

妹「あたしのことなんか何も知らないくせに。お兄ちゃんもあんたも大嫌い」

兄「ちょっと待て」

妹「うるさい! 離せ」

兄「おいって・・・・・・行っちゃった」

女「追い駆けちゃだめ」

兄「妹にあそこまで言うことはねえだろ。いったい何考えてるんだよ」

 俺は切れ気味に女を問い詰めた。女は俯いた。妹に話していたときの威勢の良さはもう
全く感じられなかった。

「ごめん」

 女の目には大粒の涙が浮かんでいた。問い詰めようとした俺は女のその様子に躊躇した。

 その場を嫌な沈黙が漂った。床には妹が置いていった通帳とカードの他に布製の小さな
手提げ袋が放置されていた。泣いている女に何と話しかけていいかわからなかった俺は、
時間稼ぎにその手提げを覗いた。

 その中には妹が作ったらしいオムライスを収めた透明なタッパーが入っていた。


今日はここまで

また投下します


<妹友>




『もはや愛してくれない人を愛するのは辛いことだ。けれども、自分から愛していない人
に愛されるほうがもっと不愉快だ』

『~ジョルジュ・クールトリーヌ フランスの劇作家、小説家』

兄(愛してくれない人を愛するのは辛いなんて当たり前だ。こんなのは格言でも何でもな
い)

兄(でも後半とセットになるといきなり人生の真実みたいに感じられるから不思議だ)

兄(でも俺は違うよな。確かに愛してない人に愛されるのは別に嬉しくもないのかもしれ
ないけど、俺には女への愛情は確かにある・・・・・・はずだ)

兄(妹が帰ったあと、女も今日は自分の部屋に帰るねって言っていなくなっちゃった)

兄(そして食卓の上には食いかけの女が作ってくれたオムライス)

兄(手提げの中のタッパーには妹が作って来てくれたオムライス)

兄(妹は逃げるように帰っちゃったし。女も泣いて部屋に戻っちゃったし。)

兄(どうしたものか。つうか妹と女を泣かせたのってもしかして俺のせい?)

兄(俺は妹に振られたわけだし、理論的に因果関係を整理すればどちらかというと泣いて
もいいのは俺の方だと思うんだけどなあ)

兄(それに女に至っては一方的に妹を責めてたわけで、何で女自身が泣く理由があるんだ
ろう)

兄(う~ん)

兄(・・・・・・そもそも妹は今さら俺のところに何しに来たんだ。女が言ってたとおり優越感
混じりの同情か。いや。妹はそんなことをするようなやつじゃない)

兄(そもそも昔から妹は我が家のアイドルだった。父さんも母さんも俺も、皆妹が大好き
で、妹の塾への送迎とか買物に付き合うときとかは妹のエスコート役を取り合いしてたく
らいだ)

兄(それでも妹はそれに付け上がるでもなく、いい気になってわがままを言うわけでもな
かった。本当に性格のいい優しいやつだった。だから女の言っていることは多分違う)

兄(何で妹は女に反論しなかったのかなあ)

兄(俺なんかが恋愛対象なんて考えられなかったのか、それとも兄妹の交際を嫌ったんの
かはさておいて、あいつの性格なら自分が振った俺の気持を考えてつらくなったのかもし
れないな。それにあいつは家族が大好きだったから、俺とも普通の兄妹関係に戻りたかっ
ただけなのかも。家族を壊したくなくて)

兄(そのためにオムライスを作って俺に会いに来たのかな)

兄(・・・・・・それとも)

兄(あいつ言ってたよな)


妹『ええとね。あと話もしたいなって思って』

妹『・・・・・お兄ちゃん』

妹『・・・・・・違うよ』

妹『だから電話のこと』

妹『あのさ。お兄ちゃん。あたし本当は』



兄(あいつはこのあと何を言おうとしてたんだろうな)

兄(・・・・・・いや。この目で見たことだけが現実だ。彼氏と手を恋人つなぎして寄り添って
歩いている妹を俺はあのときはっきりと見た)

兄(結局あれが全てだ。妹の曖昧な態度に対する俺の勝手な期待なんかで否定できるほど
、あれはやわな証拠じゃない)

兄(・・・・・・)

兄(とりあえずオムライスどうしよう。どっちのも通常サイズの1.5倍はあるサイズだ
から両方合わせて三人前のくらいの量だな。どっちを優先して食えばいいんだ)

兄(だから俺は優柔不断なんだ。考えるまでもなく彼女のオムライスが優先だろうが)

兄(でも妹のオムライスもわざわざ俺のために作ってここまで持ってきてくれたんだよ
な)

兄(妥協案で行くか。食べかけの女のオムライスは今食べて、晩飯に妹のオムライスを食
おう。冷蔵庫に入れておけば大丈夫だろう)

兄(明日も休日だけど、女と会えるのかな。このままでは気まずい)

兄(いや、妹の方も何とかしなきゃいけないんだけど)

兄(・・・・・・とりあえず女のオムライスを食っちゃおう)


<年上なんだから譲歩してください>




兄(チャイム? こんなに朝早くから?)

兄(女かな。とにかく女を逃がさずに俺の気持を伝えて)

兄「今開けるよ」

妹友「おはようございます」

兄「・・・・・・」

妹友「おはようございますお兄さん」

兄「何でいるの」

妹友「お兄さんに合いに来たからです。いちいち聞くことですか? それって」

兄「いやいや。おかしいだろ。だいたい何で俺の住んでいる場所を知ってるんだよ」

妹友「ふふ」

兄「ふふじゃねえ」

妹友「世の中にはお兄さんが知らない方が幸せな特別なコネとかルートとかがあるんです
よ」

兄「妹から聞き出しやがったか」

妹友「なぜそれを? まあそうなんですけど。お兄さん、部屋には入れてくれないんです
か」

兄「何の用だよ」

妹友「それとも部屋に入れるとまずいことでもあるんですか」

兄「別に何もねえよ」

妹友「よくそんなことが言えますね。どの口が言ってるのかな」

兄「って痛てえよ。口を手でひねるな」

妹友「本当にお兄さんは洞察力とかないんですね」

兄「何だ」

妹友「あたしが妹ちゃんから聞いたのがお兄さんの住所だけだったと思っているのです
か」

兄「え」

妹友「妹ちゃん泣いてましたよ。どういうわけか今日のお兄ちゃんとのデートまでキャン
セルしちゃったし。おかげでお兄ちゃんまで落ち込んで大変でした。いったいどうやって
この責任を取るつもりなんですか」

兄「責任って言われてもなあ。妹とあいつの彼氏ことなんか俺には関係ねえし」

妹友「無責任もいいところですね」

兄「何でだよ」

妹友「お兄さんは年上なんだから譲歩してください」

兄「譲歩って何だよ。それに兄貴なんだから妹より俺が年上なんて言うまでもないことじ
ゃんか」

妹友「ずっとここで立ち話も何ですから部屋の中で話しましょう」

兄「おい、勝手に入るなよ」

妹友「お気遣いなく」

兄「むしろおまえがもっと気を遣えよ」

妹友「ホストはお兄さんの方ですから」

兄「まあいい。適当に座れよ」


妹友「これ、つまらない物ですが。一応気を遣ってみました」

兄「え? いやそんなつもりで言ったんじゃねえよ」

妹友「大した物じゃないんで気にしないでください。たかが、朝の五時に起きて作っただ
けですから」

兄「重いって。朝の五時とか気にするなと言われても無理なレベルだ」

妹友「だからつまらない物ですって」

兄「じゃあありがたく頂くよ。で、これ何?」

妹友「手づくりのオムライスです」

兄「何だって?」

妹友「チキンライスに薄く焼いた玉子焼きを載せて、ケチャップをかけた料理です。日本
オリジナルの洋食と言われています」

兄「そんなことを聞いてるんじゃない」

妹友「お兄さんの好物がオムライスであることは特別なコネ」

兄「妹から聞きだしたのか」

妹友「・・・・・・はい」

兄「ずいぶん大きいな」

妹友「通常の1.5倍位の分量を目安に作りました」

兄「(三食連続オムライス・・・・・・しかも全部大盛り)ま、ありがとう」

妹友「どういたしまして」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・どうしました」

兄「何が」

妹友「食べないのですか? あたしに遠慮はいりません。あたしは朝食を済ませてきまし
たから」

兄「いや。俺も朝は食べたから、これはお昼にありがたく頂くよ」

妹友「そうですか」

兄「で、話の続きだが年上だからどうこうって言ってたけどどういう意味なんだ」


妹友「ああ。別にお兄さんと妹ちゃんのことではありません」

兄「じゃあどういうこと?」

妹友「うちのお兄ちゃんはあたしと妹ちゃんより一つ上です。つまりお兄ちゃんは高三な
ので、お兄さんより一つ下になるわけです」

兄「ふーん。そう」

妹友「だからお兄さん。年上の男の余裕を見せてください」

兄「意味がわからん」

妹友「妹ちゃんが彼氏を好きな気持を理解してあげてください」

兄「(本当に妹はこいつの兄貴に惚れてんのかなあ。そう考えると何かとてもつらい)理
解しろと言われても。妹とおまえの兄貴が好きなようにすればいい話じゃねえの」

妹友「昨日、妹ちゃんは泣いてました」

兄「おまえ妹と会ったの?」

妹友「はい。泣き腫らした目で電車から出てきたところを見かけたんで、とりあえずスタ
バに連れて行って話を聞きました」

兄(泣いてたのか。女に責められたからか。いや、あいつは優しいけど気は強い。それが
いわれのない中傷なら怒りこそすれ泣くようなやつじゃない。やっぱり女の話に思い当た
る節があったんだ)

妹友「聞いてるんですか? お兄さん」

兄「聞いてるよ」

妹友「何かわからないこととか単語とかあったら、悩まないで素直に聞いてくださいね。
そうでないと正確に意図が伝わりませんから」

兄「わかった」

妹友「ちなみにスタバというのは、スターバックスカフェの略称で、米国発祥の日本でも
大規模展開しているチェーンのカフェです」

兄「いやそのレベルで説明してくれなくてもいいから」

妹友「そうですか。まあ、それで妹ちゃんを宥めているとようやく彼女が泣いていた理由
を話してくれました」


<妹友の回想>




妹友『どうしたの? 今日はお兄さんのところに行くんじゃなかったっけ?』

妹『行ってきた』

妹友『それにしちゃずいぶん早く帰ってきたのね。お兄さんと喧嘩でもした?』

妹『・・・・・・』

妹友『まさか、お兄さんにその。無理矢理変なことを』

妹『・・・・・・違うよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がるようなことをする人じゃないもん』

妹友『じゃあ、どうしたの』

 最初、妹ちゃんは俯いているだけで何も話してくれなかったんですけど、あたしが辛抱
強く質問を繰り返しているとようやくぽつぽつと話し出してくれました。

 お兄さんに告白されてそれを断ったこととか。

妹『だって。二人きりの兄妹だしお兄ちゃんのことは大好きだけど、ずっと家族として生
きてきて、それは何よりも大事な家族だけど、それでもやっぱり恋人として付き合ってく
れって言われても素直にはいって言えなかった』

妹友『まあ、それが普通だよね。妹ちゃんが悩むことじゃないじゃん』

妹『・・・・・・でも。お兄ちゃん、あたしが妹友ちゃんのお兄さんと手をつないでいるところ
を見たらしくて』

妹友『そうか』

妹『タイミングが悪いよ。これじゃまるであたしがお兄ちゃんじゃなくて、妹友ちゃんの
彼氏の方を選んだって思って傷つけちゃったのかも』

妹友『だってそれ、別にもう誤解じゃないんじゃ・・・・・・』

妹『・・・・・・』

妹友『そんなことをお兄さんに言われたの? それで泣いて帰って来たの』

妹『お兄ちゃんの部屋に行って、お兄ちゃんに謝って今までどおりの兄妹の関係でいてく
ださいってお願いしようと思ったんだけど』

妹友『うん。それで』

妹『お兄ちゃんの部屋に女さんがいた』

妹友『女さんって誰だっけ』

妹『妹友ちゃんは多分知らないと思う。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ』

妹友『そんで?』

妹『女さんに怒られた。あたしがお兄ちゃんを振ったくせにのこのこ慰めに来るなんてっ
て。あたしには彼氏がいるくせに女さんに嫉妬するなんてって』

妹友『ちょっと待て。お兄さんって彼女いたの?』

妹『女さんは自分がお兄ちゃんの彼女だって言ってた。夜も一緒にお兄ちゃんの部屋で泊
まったって』

妹友『お兄さん最低。彼女がいるのに妹ちゃんに告白するなんて』

妹『・・・・・・あたしに断られてから付き合い出したっぽいけど』

妹友『そっか』

妹『女さんに言われた。どうせあたしに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを慰め
てあげよとかって軽い気持で来たんでしょって。そしたらお兄ちゃんの部屋に彼女がいた
んでかっとなったんでしょ、自分は彼氏がいて兄を振ったくせに、その兄に彼女ができる
ことが許せないんでしょ。どこまで身勝手なのよって」

妹友『う~ん』

妹『あと女さんに言われた。どうせお兄ちゃんのところに来るなら、彼氏と別れて兄に告
白するくらいの覚悟で来いって』


妹友『いやいや。それはおかしいでしょ。妹ちゃんが好きなのはうちの兄貴なのに』

妹『・・・・・・』

妹友『何とか言いなさいよ』

妹『しばらく妹友ちゃんのお兄さんとは会わないほうがいいのかも』

妹友『ちょっと待ってよ。あんたら付き合ってるんでしょ。何でそんな女に言いがかりを
付けられたくらいでそういうことになるのよ』

妹『でも・・・・・・』

妹友『でも、何よ』

妹『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

妹友『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで
何も問題ないじゃない』

妹『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

妹友『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴
は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』

妹『それはそうだけど』

妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬し
たの』

妹『・・・・・・』

妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

妹『・・・・・・違うよ』

妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』

妹友『・・・・・・妹ちゃん』


<妹にメール>




妹友「というわけです。どうですか」

兄「どうと言われても何がなんだかわからん」

妹友「妹ちゃんが自分のことを好きかも!? やったー! って単純に考えなかったのは
お兄さんにしては立派です」

兄「まあ、そんなに都合よくはいかないだろうしな。それに今では俺は」

妹友「お兄さんには女さんという彼女がいますしね。今さら妹ちゃんに告られても困りま
すよね」

兄「・・・・・・うん。まあそう・・・・・・かな」

妹友「その女さんって兄友さんっていう人から別れたばかりだって聞きましたけど、その
うえお兄さんにまで振られたら自殺しかねませんよね」

兄「・・・・・・」

妹友「うちのお兄ちゃんだってそうです。できたばっかの彼女に会えないって言われて落
ち込んでますし、このうえ振られでもしたら」

兄「そうだけど」

妹友「年上の男の余裕を見せてください」

兄「どうすればいいの」

妹友「妹ちゃんと仲直りしてください。単なる仲のいい兄妹として」

兄「・・・・・・」

妹友「そんで、お兄さんは女さんと、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと付き合えば何の問題
も生じないじゃないですか」

兄「そうかもな」

妹友「そうですよ」

兄「妹のことはわかった。俺だって一度は振られてるんだし妹に付きまとう気なんかねえ
よ。ちょっと意地になってたけど、妹とは普通に話せるように努力するよ」

妹友「それが一番いい解決策だと思います。誰も傷付かないし」

兄「じゃあ、善は急げだな。妹にメール出すぞ」

妹友「見直しました。優柔不断な人だと思ってましたけど、こうと決めたら無駄に実行力
がある人だったんですね」

兄「無駄には余計だ。ちょっと待ってろ」

妹友「はい」

兄「これでどうだろう」

妹友「拝見します」



to:最愛の妹
sub:無題
『昨日は悪かったな。いろいろおまえを悩ましちゃったことを後悔している。おまえの言
うとおり、俺とおまえはいい兄妹の仲に戻るべきだ。それがようやくわかったよ』

『もうおまえと彼氏の仲に嫉妬したりもしない。だからおまえも俺と女の仲を祝福して認
めてくれ』

『これからはなるべく実家に帰るようにするし、おまえが寂しかったらいつでも電話して
来い。まあ、おまえには彼氏がいるから余計なお世話かもしれないけど』

『じゃあ、もうわだかまりはなしな。また昔のようにバカな冗談を言い合おう』

『あ、そうだ。おまえのオムライス美味しかったよ。彼氏のを作るついででいいから、た
まには俺にも作ってな』


兄「こんなメールでどうだろう」

妹友「最愛の妹って。普通に妹って登録しとけばいいじゃないですか」

兄「それはちゃんと修正する」

妹友「何か微妙にうちのお兄ちゃんを引き合いに出して拗ねている雰囲気が感じられるの
ですが」

兄「それはおまえの思い過ごしだ」

妹友「まあいいでしょう。じゃあ、早速送信しちゃってください。それで兄貴も妹ちゃん
も女さんもみんな幸せになれますから」

兄「そうだな。でもその前に聞かせてくれ」

妹友「はい?」

兄「俺のことはいい。これで俺が幸せにあるかどうかはどうでもいいけど、おまえはこれ
で幸せになれるの?」

妹友「頭沸いてるんですか?」

兄「おまえ、前に言ってなかったっけ? 俺のことが大好きだって。妹なんかに俺は渡さ
ないって」

妹友「それは」

兄「あれ、嘘だよな?」

妹友「嘘じゃないです・・・・・・。何でそう思うんです?」

兄「あれが本当だったら、俺と女の仲を固めようなんてしないはずだろ」

妹友「あたしは」

兄「何を企んでるんだ」

妹友「別に。妹ちゃんやみんなが不幸になるのは嫌だから、自分がお兄さんから身を引く
方がいいのかと。それだけです」

兄「半分は嘘だな。身を引く気になったのは本当だろうけど、俺からじゃなくておまえの
兄貴からだろ」

妹友「・・・・・・何言ってるんですか」

兄「おまえ、自分の兄貴のことが好きだろ?」

妹友「それは兄妹ですから」

兄「異性として好きだろ?」

妹友「頭」

兄「沸いてねえよ。何で俺の妹とおまえの兄貴の仲を取り持ったりしたんだ? おまえが
つらくなるだけってわかっていたのに」

妹友「・・・・・・本当に無駄に察しがいいんですね。恋愛スキルもないくせに」

兄「お互い様だろ。俺もおまえも自分の実の妹とか兄とかしか見てこなかったんだか
ら。おまえを見てるとまるで鏡を見てるようだしな」

妹友「覚えていたんですね。前にうっかり失言しちゃったことを・・・・・・」

 妹友が泣き出した。普段は気の強いこいつの涙は、昨日の女の涙と変わらないほど大粒
だった。

 お兄ちゃんが好きです。

 妹友がようやく素直に話し始めた。


今日は以上です

また投下します


<正直、結果はわかっていたんですけど>




妹友「あたしもお兄さんの仲間なんです」

兄「兄貴のことが好きなんだね」

妹友「はい。男性として好きです。多分ずっと小さい頃から」

兄「やっぱりそうか。てか全く俺と同じ状況じゃんか」

妹友「そうですね。ふふ」

兄「(泣き笑いか。見ててつらくなるな)何でおまえの兄貴とうちの妹との仲を取り持っ
たりしたの?」

妹友「それは、前にお話したとおりなんです。お兄ちゃんはあたしが妹ちゃんを家に連れ
て来るうになった頃から妹ちゃんが好きだったみたいです。まだ三人とも中学生だった
頃なんですけど。それからずっとお兄ちゃんは妹ちゃんに片想いしてたんですって」

兄「それおまえの兄貴から聞いたの?」

妹友「そうです。実は二ヶ月前くらいなんですけど、お兄ちゃんに話しがあるって言われ
て。で、聞いてみたら妹ちゃんが好きなんで何とかならないかって」

兄「(情けない兄貴だな。自分で告白くらいしろよ。何で妹なんかに頼るんだよ)それで、
おまえが兄貴のためにうちの妹との仲を取り持ったっていうわけか」

妹友「ええまあ」

兄「おまえは平気だったの? 兄貴のために妹との仲を何とかするなんてどういう罰ゲー
ムだよ」

妹友「それは平気なわけないです。お兄ちゃんが部屋から出て行ったあと一晩中声を出さ
ないようにしながら泣いてました」

兄「それが普通だよな。好きな相手に彼女を作る手助けをするなんて」

妹友「ただ、一方でこれでよかったんだっていう気持もありました」

兄「どういうこと」

妹友「兄妹の恋愛なんて叶うはずはないし叶ったとしたって幸せになれるわけはない」

兄「・・・・・・」

妹友「あたしはそう思っていましたから。だからもう終わりにしようって思いました。妹
ちゃんがお兄ちゃんの彼氏ならかろうじて祝福できる。妹ちゃんのことは大好きでしたし。
そしてお兄ちゃんとは仲のいい兄妹でいようって思いました」

兄「そうか」

妹友「だからあたしは妹ちゃんを呼び出して、お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きなこと
を伝えたんです。正直、結果はわかっていたんですけど」

兄「わかっていたとは?」


妹友「妹ちゃんもお兄ちゃんとは親しく冗談を言い合える仲ではあったんですけど、男性
としてのお兄ちゃんへの好意が妹ちゃんにないのはわかっていました。これまでずっとそ
んな気配も素振りもなかったですし」

兄「だが実際あの二人は付き合い出したじゃないか」

妹友「あたしが妹ちゃんにお兄ちゃんの好意を伝えたとき、妹ちゃんは考えさせてと言い
ました。正直、そのときは仲のよかったお兄ちゃんやあたしへの配慮に過ぎなかったんだ
ろうと思いました」

兄「それで?」

妹友「というかその話は前にお兄さんにお話しました。あれは別に嘘じゃないですよ」

兄(何だっけ?)

兄(ああ、そうだ。妹と彼氏のツーショットを目撃した日、下校時の校門前にこの子が俺
を待っていたんだった)



妹友『はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに
彼氏の気持ちを伝えたんですね』

兄『そ、そうだったんだ』

妹友『はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺
しみたいで彼氏も気の毒で』

兄『それで?』

妹友『何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよっ
て』

兄『・・・・・・そう』

妹友『それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登
校させたってわけです』



兄「あのときの話か」

妹友「はい。これまで煮え切らないで返事を引き伸ばしていた妹ちゃんが、急に友だちか
らならって連絡してきたんです」

兄「まあ、いろいろおかしいよな。友だちからならって、親しくない男に告白されたとき
のセリフじゃねえか。中学の頃から仲がよかったおまえの兄貴に言うことじゃねえな」

妹友「そうは思ったんですけど、とりあえずお兄ちゃんにとっては前進だと思ったんで、
二人の待ち合わせをセッティングして一緒に登校させたわけです」

兄「おまえの兄貴ってどこの高校?」

妹友「うちらの学校の近くの男子校です」

兄「そうか」

妹友「妹ちゃんが友だちからならって連絡をくれたのは、お兄さんと一緒に帰る妹ちゃん
と駅前で出会った日の夜でした」

兄「そういやそんなこともあったな。おまえと初めて会った日のことだよな」

妹友「はい。あの日、妹ちゃんと何かありませんでしたか」


兄「えーと。あったといえばあったな、確か」

妹友「何です」

兄「妹と一緒に帰ったんだが、その途中で妹を無視して周りの可愛い女の子たちを眺めて
たら妹が切れた」

妹友「・・・・・・」

兄「どした?」

妹友「何だ自爆じゃないですか」

兄「何が」

妹友「自業自得というのかもしれません」

兄「・・・・・・あんなつまらないことで妹がおまえの兄貴に走ったとでも言いたいのか」

妹友「つまらないことかどうかは妹ちゃんの主観的な問題ですから何とも言えませんが、
あたしが妹ちゃんの立場ならお兄さんに平手打ちの百発や二百発くらいは食らわしていた
と思います」

兄「え~。それほどのことかあ」

妹友「お兄さん」

兄「どうした」

妹友「あたしの秘密がばれた以上は、もういろいろ誤魔化すのはやめます」

兄「そうしてくれるとありがたい」

妹友「妹ちゃんのお兄さんへの感情が異性への思慕なのか仲のいい兄貴への想いなのかは、
多分誰にもわかりません」

兄「そうかもな」

妹友「というか、妹ちゃん本人にだってよくわかってないんじゃないですか」

兄「何でそう思う」

妹友「お兄さんのことが本気で異性として好きなのか、あたしが妹ちゃんに聞いたとき、
彼女はわからないからよく考えてみるって言ったましたけど、あれは多分本音だと思いま
す」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さん?」


<妹はアイドル>




兄「ああ」

妹友「年上の余裕を見せてください」

兄「まだ、それを言うのか」

妹友「隠していた自分の秘密をお兄さんには気がつかれてしまったわけですけど、やっぱ
りお兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うのが一番うまくいくと思います」

兄「・・・・・・」

妹友「あたしもお兄さんも、自分の気持を追求していってもその先は行き止まりです。仮
に相思相愛になれたとして、ラブラブな恋人同士になったとしてもそこから先には行き場
所はありません」

兄「どういうこと」

妹友「解説なんていらないでしょう。お兄ちゃんと妹さんなら、あるいはお兄さんと女さ
んなら恋人同士の先にはいろいろと行く先があるんですよ。実際にそこまで行き着けるか
どうかは別としてですが。可能性としては、婚約して結婚してパパとママになって孫がで
きて」

兄「まあな」

妹友「あたしやお兄さんの恋は違いますよね? 奇跡的に想いがかなったとして、恋人同
士にはなれるかもしれない。でもその先はどうなるんです?」

兄「あくまでも仮定の話だけどさ。別に結婚とか出産とか育児とか、それだけが目標じゃ
ないカップルがいたっていいんじゃね」

妹友「一生恋人同士、それも人には言えない関係でっていうのもあるのかもしれませんけ
ど、他の選択肢があるのにわざわざそんなつらい一本道に入ることを選ぶ必要なんてない
でしょう」

兄「・・・・・・」

妹友「いろいろお兄さんを騙してしまってごめんなさい。あたしは別にお兄さんを好きで
も何でもないです」

兄「それは別にいい。俺だっておまえを好きになったわけじゃないし」

妹友「正直なのも過ぎると罪悪ですよ」

兄「何だって?」

妹友「まあいいです。でも、その上でやっぱりあたしはお兄さんにお願いします。うちの
お兄ちゃんのためだけではなく、お兄さんとあたしのためにも」

兄「何だよ」

妹友「そのメール。今すぐ送信してください。お願いします」

兄「・・・・・・」


兄(妹友の本心を無理矢理聞きだす形になったけど、妹友の兄貴への恋愛感情はよくわか
った。けれどもど結局メールを打ったときと今と何も状況は変わっていないんだ)

兄(妹の俺への感情はわからない。つうか妹友によると妹自身にもわかっていないらし
い。ちょっと期待したい感情はあるけど)

兄(だめだ。女のことを考えるともう迷っちゃだめだ)

兄(それに妹友の言っていることも本当だ。俺の感情だけで将来のない行き止まりの関係
に大切な妹を巻き込んでいいのか。妹友は多分そう考えて兄貴への気持を思いとどまった
のに)

兄(・・・・・・もう迷うまでもねえ)

妹友「お兄さん?」

兄「うちの妹ってさ」

妹友「はい」

兄「生まれときから我が家の中心というか、家族のアイドルでさ」

妹友「はあ」

兄「別にシスコンの俺だけじゃなくて、父さんも母さんも妹を溺愛してるんだよね」

妹友「確かに妹ちゃんは幸福な家庭で大切に育てられたという感じはしますね」

兄「うん。だから妹ラブなのは俺だけじゃなくて、妹を巡る俺のライバルは父さんと母さ
んだった時期もあったんだ」

妹友「まあ、その程度なら微笑ましい家族のエピソードじゃないですか」

兄「妹の塾の送迎する権利を俺と父さんがマジで争ったり、妹の買物に付き合う権利を俺
と母さんが争ったりとかな」

妹友「妹ちゃん、ちょっぴりうらやましいなあ」

兄「だからわかった。おまえのいうとおりにする」

妹友「はい?」

兄「俺も目が覚めたよ。妹が俺のことをどう思うかなんてどうでもいいや。むしろ妹をそ
こまで追い詰めて悩ませていることが問題なんだな」

妹友「よくわかりませんが」

兄「こんなところを両親に気がつかれたら申し訳ないぜ。同じ妹ラブ同盟の同志として」

妹友「はあ」

兄「というわけで送信っと」

妹友「あ・・・・・・」

兄「そ、送信したぞ」

妹友「・・・・・・無駄に」

兄「妹に関することなら行動力はあるぞ」

妹友「不覚にもちょっとだけ真面目にときめきました」

兄「え」

妹友「何でもないです。深く考えないでください」


兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・」

妹友「返事来ませんね」

兄「うん。来ないな」

妹友「メールに気づいていないのかもしれませんね」

兄「俺もよくそういうことはあるよ。特に家にいると油断するよな」

妹友「そうですね」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・まあ、悩みながら返信メールを入力中かもしれません」

兄「妹はフリック入力が苦手だったぞ、確か」

妹友「ああ。スマホにしたばかりだとあれ慣れるのに時間かかりますよね」

兄「そうそう。俺もしばらくは苦手だった」

妹友「でも妹ちゃんはあたしにはすぐに返信してくれますけどね」

兄「・・・・・・」

妹友「あ・・・・・・。ごめんなさい」

兄「いや」

妹友「あ、あの。そろそろお昼ですよ」

兄「うん」

妹友「よかったらオムライス食べてください」

兄「あ、そうか」

妹友「・・・・・・自分を騙した女の作った料理なんか食べられそうもないなら無理しなくても
いいんですけど」

兄「いや。頂こうかな」

妹友「いいんですか」

兄「何が?」

妹友「いえ」

兄「そうだ。これ量が多いから一緒に食おうぜ」

妹友「はい?」

兄「おまえも昼飯まだなんだしちょうどいいじゃん」

妹友「あたしはそろそろ失礼しますから」

兄「そうか」

妹友「ごめんなさい」

兄「何で謝る」

妹友「・・・・・・」

兄「妹の返信が気になる?」

妹友「はい」

兄「じゃあ、返事が来たらおまえにも連絡するよ」

妹友「はい。じゃあ、あたしのメアドと携番です」

兄「わかった」

妹友「じゃあ失礼します」

兄「またな」


<俺はひょっとして妹に続いて女にも失恋したのか>




兄(意外なことに、妹より女より、妹友のオムライスが一番美味しいとはどういうこと
だ)

兄(腹が減ってたからかな。もう夜だ)

兄(夕飯はどうしようかな)

兄(妹からの返信はまだ来ない)

兄(女も今日は全然顔を見せないな)

兄(・・・・・・つうか、隣なんだから俺が行けばいいじゃん)

兄(もう決めたんだから迷わずに女の部屋に突入すればいいんだ)

兄(妹の返信を待ってからにしようかな。女と一緒にいるとことに妹からメールが来たら、
開くのも悪いしかといって読まずにいられるほど神経は太くない)

兄(いっそこっちから妹に電話しちゃうか)

兄(いや。それはいくらなんでもハードルが高い)

兄(・・・・・・酒でも飲もうかな)

兄(確か女が持ち込んできた缶ビールが冷蔵庫にまだあったはず。どれ)

兄(ってえ!!)

兄(メールの着信音だ)

兄(妹からだろうか。恐くてディスプレーが見られない)

兄(とにかく開いちゃえ)


from:兄友
to:兄
sub:悪かった



兄(兄友? 妹じゃねえのかよ)

『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話す
るのはちょっと敷居が高いからメールした』

兄(何なんだ)

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は
反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

兄(また無駄なことを。どこまで自分勝手なやつなんだ)

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

兄(え? 何で)

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

兄(何これ? 悪い冗談か)

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』

『じゃあな』

兄(何これ? 画像って、これか)

兄(・・・・・・誰がどうやって撮影したかしらないけど、兄と女が恋人つなぎで微笑みあって
いる写真だな)

兄(ご丁寧に日付と時間まで入ってる。何だよ、ついさっきじゃんか)

兄(俺はひょっとして妹に続いて女にも失恋したのか)

兄(って電話だ・・・・・・え)

兄(妹)


<いますぐあたしのところに来て>




妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「メール読んだよ」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・あのさ」

妹「・・・・・・うん」

兄「いろいろ悪かったな」

妹「ううん」

兄「まあ、メールのとおりだ。俺もおまえとぎくしゃくするのあこんなつらいとは思わな
かったし」

妹「あたしも。お兄ちゃんと一月以上も喧嘩して口聞かないのって初めてだったから」

兄「うん。だから仲直りしようぜ」

妹「本気?」

兄「本気って。本気に決まってるだろ」

妹「違うよ。あのメールって本気なの?」

兄「まあ、本気って言えば本気だし」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「女さんと本気で付き合ってるんだよね?」

兄「え? ああ、いやその」

妹「誤魔化さないで」

兄「付き合ってた。でももう振られたみたい」

妹「何でそうなるのよ。昨日は一緒にお兄ちゃんの部屋にいたのに」

兄「よくわからんけど、どうも振られたみたいだぞ。まあ、本人から聞いたわけじゃない
んだけど」

妹「ひょっとしてあたしのせい?」

兄「関係ないんじゃね」


妹「お兄ちゃんの言ってることよくわからない」

兄「まあ、俺だってよくわかっていないんだし無理もない」

妹「あのメールって本気なの?」

兄「だから本気だって・・・・・・多分」

妹「あたしと彼氏君のことを認めてくれるの」

兄「うん。俺はおまえのいい兄貴になる」

妹「じゃあ、あたしもお兄ちゃんと女さんの仲を認めればいいの?」

兄「いや。その部分だけは無効ってことで」

妹「・・・・・・本当に女さんに振られたの。昨日の今日で」

兄「よくわかんないんだけど、写メを見るにその可能性は相当高そうだ」

妹「写メ?」

兄「悪い。何でもないや」

妹「もしかして、あたしのせい?」

兄「だから違うって。多分だけど」

妹「何で違うって言い切らないのよ」

兄「今知ったばかりだからまだ情報が整理できていないんだよ」

妹「じゃあ、あたしも彼氏君と別れる」

兄「ちょおま、何言って」

妹「別れる。あたしだけ付き合ってたら不公平だから」

兄「おまえ、脳みそ」

妹「沸いてないよ」

兄「・・・・・・」


妹「今、お部屋?」

兄「うん」

妹「明日は講義あるの」

兄「ああ」

妹「夕食はどうするの」

兄「(さっきから何の話だ)適当にコンビニ弁当でも買いに行くよ」

妹「・・・・・・家に帰って来て」

兄「何を言っているのだおまえは」

妹「メールでなるべく実家に帰るようにするって言ってくれてたじゃん」

兄「いや、そらそうだが」

妹「いますぐあたしのところに来て」

兄「ちょっとおまえ」

妹「・・・・・・来て」

兄「え~と」

妹「お兄ちゃんが来てくれないなら、あたしがお兄ちゃんの部屋に行く」

兄「あほか。夜におまえを一人で外出させられるか。父さんと母さんに殺されてしまう
わ」

妹「お兄ちゃんが来ないなら本気でこれから外出するからね」

兄「(脅迫かよ)・・・・・・わかった。今からすぐに行く」

妹「パパもママも仕事で帰ってこないから」

兄「え?」

妹「夕食の支度しておくね」

兄「・・・・・・うん」

妹「なるべく早く帰ってきてね」


今日は以上です

また投下します


<初めて妹と手をつないでしまった>




兄(全力で駆けつけてきたから思ったより早く家に着いてしまった)

兄(・・・・・・)

兄(何やってるんだ俺。自分の家なんだから鍵をあけてさっさと家の中に入ればいいの
に)

兄(何か緊張する。自分の妹、それも最愛の妹に会うのに何で足ががたがたと震えてるん
だろう)

兄(これは妹に非常識な告白して、あっさり振られたときと同じ症状だ)

兄(つうかあのときは絶対に自分の恋が成就するなんて思っていなかったから、返事を聞
くまでは余裕だったんだよな)

兄(いつまで玄関の前で震えながら立っているつもりなんだ俺は)

兄(もはや緊張する理由なんて何もないじゃんか。妹友のおかげで目が覚めた。とにか
く妹が悩まないで過ごせるようにすることだけを目的にすればいいんだ)

兄(つまりメールのとおりにすればいい。さっきの電話で妹は彼氏と別れるって言ってた
けど、こんなことを言わせてしまうこと自体、俺が妹を悩ませてしまっているってことな
んだろうな)

兄(俺が兄貴でなければ、俺が家族じゃなければ好きでもない俺なんかのために、彼氏と
別れるなんて言い出すわけがない)

兄(妹はうちの家族全員から溺愛されて育った。でも、妹の方も本当にこの家族全員が好
きだったんだ。だから、俺のことは異性としては考えられないけどそれでも俺を悲しませ
たり、兄貴との仲が変に壊れるのが嫌で仕方ないんだ)

兄(妹友は妹が俺のことを男として意識し出しているかどうかはわからないって言ってた
けど、それはどうでもいい。結局、前に妹友が俺に言ったとおりだったんだ)

兄(正直、妹は俺を好きででも禁断の関係に踏み込めなくて俺を振ったのならいいと思っ
ていた。それなら俺にとっては救いがあるもんな)

兄(でもそうじゃない。妹は俺のことなんか男としてはこれっぽちも意識していなかった
んだ。だから驚いて俺の告白を断った)

兄(でも、振られた俺が女々しく拗ねて、実家にも顔を出さず妹にも連絡しなかったから、
兄妹の仲が家族の仲が壊れそうになったことに妹はうろたえ、混乱した)

兄(それで滅多に作ってくれなかったオムライスを持って俺の部屋に来たり、挙句の果て
には自分の好きな彼氏と別れるとまで言い出した。全部、家族が大切なためだ)

兄(・・・・・・よし。さっき妹友に言ったことは間違ってない)


兄『俺も目が覚めたよ。妹が俺のことをどう思うかなんてどうでもいいや。むしろ妹をそ
こまで追い詰めて悩ませていることが問題なんだな』

妹友『よくわかりませんが』

兄『こんなところを両親に気がつかれたら申し訳ないぜ。同じ妹ラブ同盟の同志として』

妹友『はあ』



妹「こんなところで何してるの」

兄「いや。ちょうど今ここに着いたところだ」

妹「そうなの?」

兄「そうなのって何で」

妹「人の気配がしたからリビングでモニター見てたんだけど」

兄「・・・・・・いや」

妹「何で十分も玄関の前でじっと立ってたの?」

兄「大した意味はない。気にするな」

妹「でもお兄ちゃんが久し振りに家に帰ってきてくれて嬉しい」

兄「・・・・・・泣くなよ」

妹「いいの。家に入ろ」

兄(え。何これ)

妹「夕ご飯先に食べる? それともお風呂入ってからにしたい?」

兄(幼い頃はいざ知らず物心ついてから初めて妹と手をつないでしまった)

妹「さわらの西京漬け焼いたよ。オムライスの次に好きなんでしょ」

兄(俺の手汗ばんでないかな)

妹「お兄ちゃん?」

兄(恋人つなぎはさすがにしてくれないか・・・・・・って当たり前だろ俺。何考えてるんだ)

妹「お兄ちゃんてば」

兄「ああ」

妹「お風呂どうすんの」

兄「うん、入る」

妹「着替えあるの? 下着とか」

兄「持ってきてないよ」

妹「泊まるのに寝間着も持って来なかったの」

兄「ああ(そういや俺、今日ここに泊まるのか)」

妹「お兄ちゃんの部屋から適当に持ってくるからお風呂入ってて」

兄「自分で探すからいいよ」

妹「駄目だよ。夕ご飯遅くなっちゃうじゃん」

兄「うん・・・・・・」


<もうこれで十分じゃないのか>




妹「出たの?」

兄「うん。暖まったよ」

妹「じゃあ座って。用意できてるから」

兄「う、うん」

妹「どう? この西京漬け。スーパーのじゃなくてデパ地下の名店街で買ったんだよ」

兄「うまい(本当にうまい)」

妹「よかった」

兄「おまえは食べないの」

妹「食べてるじゃん」

兄「いや。いつもより食べるの遅くない? しかも普段は好きなものから先に食べるくせ
に」

妹「これお兄ちゃんにあげる」

兄「おまえ、さわらって嫌いだっけ」

妹「いいから食べて」

兄「じゃあ」

妹「うん」

兄(・・・・・・何か安らぐなあ)

妹「何か落ち着くね」

兄「そうだな」

妹「ご飯は」

兄「もういいや」

妹「じゃあお味噌汁」

兄「もらおうかな」

妹「赤味噌だよ。久し振りでしょ」

兄「うん。うまいな」

妹「ちょっと待ってて」

兄(やっぱりこれでいいんだよ。妹と一緒にいても安らぐだけで妹の彼氏への嫉妬なんて
心配したほどは感じないし)

兄(やっぱり家族なんだなあ。もうこれで十分じゃないのか)

兄(振られて拗ねて。偽装兄妹になれるよう努力するなんて言った俺って最悪だ。妹のた
めとかというより、自分のためにもこれでいいんだ)


妹「お粗末さまでした。はいほうじ茶」

兄「うん。ありがと」

妹「ううん」

兄「久し振りにおいしい飯を食えたよ。母さんの帰りがいつも遅かったからさ。俺のお袋
の味って実はおまえの作ってくれる飯の味だったんだなあ」

妹「・・・・・・何言ってるの」

兄「あやうく大切なものを失うところだったよ」

妹「意味わかんない」

兄「やっぱり俺にとって一番大事なのは家族だったんだなあってさ。わずかな間だけど一
人暮らししていて思い知らされたよ」

妹「いまさら何言ってるの。あたしはそんなことは昔からわかってたよ」

兄「そうか」

妹「そうだよ。あたしを一番大切にしてくれるのは、パパとママとお兄ちゃんだもん。彼
氏君と比べたってあたしにとって一番大事なのは家族だよ」

兄「おまえにはわかってんだなあ」

妹「うん。だってあたしは申し訳ないほど家族に愛されて育って来たって自分では思って
るし」

兄「それは本当だよ。おまえは生まれたときから我が家のお姫様だったしな」

妹「お姫様って」

兄「本当だって。父さんにいたってはおまえが生まれてからしばらくの間おまえのことを
妹姫って呼んでたぜ」

妹「ふふ」

兄「ばかだよな父さんも本当に」

妹「・・・・・・お兄ちゃんは」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃんもあたしのことをお姫様って呼んでたの?」

兄「何でそこで赤くなる」

妹「うっさい」

兄「口に出すのは恥かしかったからさ。心の中で呼んでたよ。つうか妹姫妹姫ってうるさ
い父さんは死ねって思ってた」

妹「うふふ。でもあたしのことなんかをそこまで大事で好きになってくれるのなんてうち
の家族だけだよね」

兄「そうかな」

妹「そうだよ」

兄「妹友のお兄さんは同じように思ってるんじゃね」

妹「あ・・・・・・」


<恋人つなぎ>




兄「そうじゃなかったらおまえと付き合いたいなんて思わないだろ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたし、彼氏君と別れるよ」

兄「何でそうなる」

妹「だって。お兄ちゃんって女さんに振られたんでしょ」

兄「いやそれは」

妹「やっぱりあたしってまだ子どもなのかなあ」

兄「何だそれ」

妹「よくドラマとか漫画とかでさ。彼氏とか彼女さえいれば何もいらないとか、全てを棄
てて駆け落ちするとかっていうシチュエーションがあるでしょ?」

兄「定番表現だな。家族とか仕事かと比較させることによってその恋愛がどんなに至高で
あるかを視聴者とか読者にわからせるための手法だ」

妹「あたしには少しもそんな風に思えないんだもん」

兄「どういうこと」

妹「この家族を棄ててとかお兄ちゃんと会えなくなってまで恋愛を優先したいとかって全
然考えられないの」

兄「そらそうだろ。そんなレベルの恋愛にいきなり遭遇するわけないじゃん。誰だって普
通はうまく彼氏と家族を両立させてるんだよ」

妹「だって両立できなかったもん。お兄ちゃん全然帰ってこなくなっちゃうし」

兄「それは悪かったけど、俺のメール読んだだろ」

妹「二百回くらいは読んだよ」

兄「さすがにそれは言いすぎだ」

妹「でも十回くらいは読んだ。これは本当」

兄「ならもうわかるだろ。いろいろ情けなく拗ねちゃって悪かったけど、もうそんな心
配はいらないから」

妹「ねえ、お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「後片付けは明日するから今日はもう寝ようか」

兄「うん? (突然何なんだ)まあ、いいけど」

妹「じゃあ、今日は一緒に寝よう」

兄「はい?」


妹「一緒に寝ていい?」

兄「な、何でそうなる。これまでだって一緒に寝たことなんかないし、それはいい家族の
域を逸脱しているぞ」

妹「一緒に寝たことなんか何度もあるじゃん」

兄「それは小学校低学年の頃までの話だろうが」

妹「あたしってさ。今でもお兄ちゃんにとってお姫様なの?」

兄「・・・・・・」

妹「ねえねえ」

兄「まあ今でもそう・・・・・・かな?」

妹「じゃあお姫様抱っこして」

兄「はあ?」

妹「昔あたしがリビングで寝ちゃったとき、パパやお兄ちゃんがそうやって部屋まで連れ
て行ってくれてたでしょ」

兄「確かにあったけど、あくまでも小学校低学年の頃な」

妹「久し振りにしてよ」

兄「体重が」

妹「何だと」

兄(今日くらいは何でも言うことを聞いてやるか)

兄「じゃ、じゃあ」

妹「うん」

兄「触るけど騒ぐなよ」

妹「変なとこは触らないでよ」

兄「触んねえよばか」

兄(じゃあ妹の首に手を回して、足にも片手をかけ)

妹「ひゃあ」

兄「・・・・・・変な声出すな」

妹「くすくす」

兄「笑うなよ~。って、おまえ軽いな」

妹「じゃあ、あたしの部屋のベッドまで連れて行って」

兄(ベッドに連れてけって・・・・・・)

妹「抱っこされたまま階段を上るのって結構恐かった。何か遊園地の絶叫系の乗り物に乗
っているのに近い感覚だね」

兄「安上がりでいいよな。遊園地と違って」

妹「・・・・・・もっと乱暴にドサっていう感じでベッドに下ろされるかと思ったのに」

兄「あそ(もうやだ。早く自分の部屋に引きこもりたい)」

妹「じゃあ、今夜はお兄ちゃんが壁と反対側の方に寝てね」

兄「はい?」

妹「今日は一緒に寝て」

兄「あのさ」

妹「・・・・・・」

兄「俺も悪かったよ。でも反省して前みたく仲のいい兄妹になるよ。何よりおまえと気軽
に話せないと俺が寂しいし」

妹「・・・・・・うん」

兄「でもよ。今までだって手をつないだりとか一緒に寝たりなんかしてねえじゃん。小さ
な頃は別だけど。今さらわざわざこんなことなんかしなくても俺たちは大丈夫だよ。おま
えを不安にさせて悪かったけど、もう俺は家族の仲を悪くしたりはしねえから」

妹「お兄ちゃんあたしね」

兄「うん」

妹「何度も繰り返して考えたんだけど、やっぱりお兄ちゃんとは付き合えない」

兄「わかってるよ。てか何を蒸し返してるんだよ(何で付き合えないのかが問題だけど、
多分答えはわかっているから聞かない)」

妹「メールも読んだけど、お兄ちゃんが女さんに振られちゃったのなら前提が狂っちゃう
し」

兄「何でそうなる。たまたま女に振られる前のメールだったからああいう書き方になった
けど、俺に彼女なんかいなくたっておまえは彼氏と付き合ってればいいんだよ。もう二度
と拗ねたり嫉妬したりしねえから」

妹「嘘よ。お兄ちゃんは今までどおり仲のいい兄妹として振る舞ってくれると思うけど、
それはお兄ちゃんのつらい思いのうえに成り立っている関係じゃないの」

兄「・・・・・・それは。努力するとしか」

妹「昔は違ったもん。お互いに嫉妬したりどっちかが一方的につらくなったりしないで仲
がよかったじゃん」

兄「だから時がたてば俺の痛みだって薄れるって」

妹「お兄ちゃんとは付き合えない。でもあたしも彼氏君と別れる。それで昔のとおりじゃ
ない。もうそれでいいよ。ずっとお互いに彼氏彼女なんか作らないで、パパとママと四人
でずっと仲よく一緒に暮らそうよ」

兄「・・・・・・その関係って行き場があるの?」

妹「うん?」

兄「それって行き場のない関係じゃん。お互いに恋人を作らずにずっと兄妹仲よくとか。
ある意味、俺とおまえが付き合って恋人同士になるのと同じくらい行き場のない関係じゃ
んか」

妹「・・・・・・どういう意味?」

兄「もうよそう」

妹「隣に寝て」

兄「ああ」

妹「手つないで」

兄「(何なんだ)ほら」

妹「そうじゃなくて、こうだよ」

兄(恋人つなぎ・・・・・・)


今日は以上です

また投下します。あと、今はほぼ連日投下できてますけど週末から別スレの更新を
再開するので、こちらの投下ペースは落ちると思います

ごめなさい。読んでくれてありがとうです

別スレ晒して欲しいんだけど
そういうのって自分で探せるもん?


<ついに一緒に寝ちゃったね>




兄(右腕がちょっと重い)

兄(朝?)

兄(げ。妹?)

兄(物心ついてからこんなに妹と密着したのって初めてじゃん)

兄(腕枕・・・・・・。こんなことは幼い頃だってしたことがなかったのに)

兄(俺に向かい合うように身体を横にして・・・・・・。まだ寝ているみたいだ)

兄(何かとてもいい匂い。心が落ち着く)

兄(妹を起こすのも可哀想だし、何よりも俺がもっとこうしていたいから)

兄(昨夜はいろいろ中途半端になっちゃったのに。不思議と今はいい気分だ)

兄(・・・・・・もう少し寝てようかな。このまま二度寝しちゃおうか)

兄(・・・・・・全く俺のお姫様は。無邪気な顔をして)

兄(こいつのためなら俺は一生独身で、こいつが恋愛して結婚して子どもを産んで俺抜き
で幸せになっていくのを、密かに眺めているだけでも俺は幸せなのかもな)

兄(やっぱり妹を悩ませちゃだめだ。こいつが彼氏と別れるなんてとんでもない)

兄(女に振られたことも何だかあんまり気にならなくなってきた。女があのクズの方がい
いならしかたない)

兄(平和だ。やっぱり二度寝しちゃおう。こんなに幸せな瞬間はこの先もう二度とないだ
ろうから。妹の彼氏君、今日だけは妹の駄目な兄貴のことを許してくれ)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・えーと)

兄(あれ? 何だか寝てはいけないような気がする)

兄(今何時なんだ。っていつもの場所に時計がない)

兄(そうか。ここは妹の部屋だからな。時計は・・・・・・・)

兄(あった。九時四十分か。休みのわりにはそんなに寝過ごしてないな)

兄(・・・・・・休み? 今日は月曜じゃん)

兄(げ)


兄「おい妹」

妹「うーん」

兄「(俺の腕に両手でしがみついてきた)起きろって」

妹「なあに」

兄「なあにじゃない。目を覚ませって」

妹「うー・・・・・・。あ」

兄「起きたか」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「やっと目を覚ましたか」

妹「うん。えへへ」

兄(う・・・・・・可愛い)

妹「おはよお兄ちゃん」

兄「おはよう」

妹「ついに一緒に寝ちゃったね」

兄「な、何言って(俺のお姫様よ。それってダブルミーニングになってるぞ)」

妹「お兄ちゃんが隣にいると落ち着くな。やっぱり家族っていいね」

兄「いや。それどころじゃねえから」

妹「お兄ちゃんは落ち着かないの」

兄「さっき時間に気がつくまではすげえ安らいでいたけど」

妹「時間って?」

兄「おまえ、今の時点で既に学校遅刻してるから」

妹「何だ、そんなことか」

兄「へ」

妹「昨日寝る前に目覚まし時計止めちゃった」

兄「そういやアラームの音に気がつかなかったな」

妹「今日は学校はサボり。お兄ちゃん、もう少ししたら担任に電話してね」

兄「何で俺が」

妹「父兄でしょ。あたしの」

兄「確かに父兄とは父と兄とは書くけど、そういう連絡は普通母さんの役目だろうが」

妹「サボりの連絡なんてママに頼めるわけないじゃん」

兄(・・・・・・こいつ確信犯かよ)


妹「・・・・・・もう少しこのままでいたいな」

兄「何で学校休むの? おまえ、いつもはどんなに体調が悪くても学校に行きたがってた
のに」

妹「誰かさんが一月以上もあたしを放って置いたからね。お兄ちゃん成分が不足している
から今日は不足していた分を摂取するの」

兄「おま・・・・・・。まあいいか」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん?」

妹「もしかしてすごく迷惑だった?」

兄「あほ。そんなわけねえだろ。俺はシスコンだぞ」

妹「えへへ」

兄「でも、あんまりくっつくなって」

妹「いいじゃん。あたしもブラコンになるんだもん」

兄「(夢を見ているみたいだ)おまえってやっぱりすげえ可愛いよな」

妹「え?」

兄「いやごめん。忘れて。いい兄貴は妹にそんなことは言わないよな」

妹「いいよ」

兄「あの」

妹「いいお兄ちゃんに戻ってくれるんでしょ? もっと誉めていいよ。てかむしろもっと
誉めてよ」

兄「あのなあ」

妹「こらこら。姫君に口ごたえしない」

兄「・・・・・・お姫様」

妹「なあにお兄ちゃん」

兄「いい兄貴でいるためにもさ。あまり俺にくっつかないでくれ」

妹「何でよ。お兄ちゃん分を取り戻しているのに」

兄「俺だって男の端くれだからさ。あまりおまえが胸を押し付けてくると」

妹「エッチ」

兄「(赤くなった)だってよ」

妹「ささやかって言ったくせに」

兄「ささやかながら感触はあるから」

妹「臣下のくせに姫に欲情するなんてどうよ」

兄「すいません。反省します」

妹「しかたないなあ。じゃあ、起きようか」

兄「・・・・・・もう起きちゃうの」

妹「クス」

兄「笑うなよ。頼むから」


<デートみたいだね>




兄「本当に付いてくるの?」

妹「何よ。迷惑なの?」

兄「そうじゃねえけどさ。学校休んでまで俺の大学見に来る必要なくない?」

妹「一緒にいたいからって言ったら?」

兄「それなら俺も大学休むから一緒に家にいようぜ」

妹「うそだよ。でもさ、お兄ちゃんの入学式ってパパもママも行かなかったんでしょ」

兄「仕事があったらしいからな」

妹「あたしが代わりに行くって言ったんだけどさ。学校休んで兄貴の入学式に行く妹がど
こにいるって言われて怒られた」

兄「まあ無理もない(両親は妹を溺愛しているけど、決して猫可愛がりはしないからな。
妹のために叱るところは叱るやつらだし)」

妹「だからあたしくらいはお兄ちゃんの大学を見ておきたいの」

兄「何でそんなに必死よ」

妹「・・・・・・不公平じゃん」

兄「何だって」

妹「あたしのイベントのときはパパもママもどんなに忙しくても仕事をやりくりしてくれ
て参加してくれたじゃない? 何でお兄ちゃんのときは同じようにしないんだろうって、
あたし前から悩んでたんだ」

兄「・・・・・・そうか。おまえは優しいよな」

妹「え? 何言ってんの?」

兄「あれだけ甘やかされても、スポイルされないでいい子に育ったよな」

妹「お兄ちゃんこそ、あたしやパパとママを恨んだことはないの?」

兄「ないな。つうかおまえは根本的に勘違いしてるよ」

妹「どういうこと?」

兄「俺はおまえとは立場が違うんだよ。おまえは家族から可愛がられ大切にされる側。俺
は父さんや母さんと同じでおまえを可愛がる側の人間だから」

妹「そんなに年齢は変わらないのに」

兄「年齢の問題じゃなくてな。まあ、家は昔からそう言う風なんだよ。俺自身がおまえを
お姫様扱いしてるんだから別におまえが気にすることじゃない」

妹「納得できません」

兄「だからそういうものだって割り切れよ。うちは昔からそうなの」


兄「俺、そろそろ大学行かないと」

妹「あたしも連れてってくれないなら、二度と腕枕もさせてあげないし恋人つなぎもして
あげないからね」

兄「・・・・・・」

妹「ちょっと・・・・・・何か言ってよ。あたしがばかみたいじゃん」

兄「ええと」

妹「もうオムライスだって作ってあげないし、さわらの西京漬けだってスーパーの安いや
つしか買ってあげない」

兄「・・・・・・それは困る」

妹「へへ。でしょ?」

兄「ついてきてもいいけど講義の間はどうする?」

妹「どっかで時間潰してるよ。キャンパス内にカフェとか本屋さんとかいろいろあるんで
しょ」

兄「・・・・・・あるけど」

妹「じゃあ行こうよ。ね?」

兄「退屈しても知らないぞ」

妹「しないよ。ちょうどいい機会だから志望校を見学しておくよ」

兄「うちの大学受けるの?」

妹「仲のいい兄妹は同じ学校に行くんだよ。あたしは中学高校と女子校に入れられちゃっ
たから、せめて大学くらいは同じ学校に行こうよ」

兄「いや」

妹「何よ。お兄ちゃんあたしと一緒の大学って嫌なの」

兄「もちろん嫌じゃないけど」

妹「じゃあ何よ」

兄「お姫様には非常に言いづらいのだけど、おまえの成績じゃとても」

妹「う」

兄「ま、まあ。これから頑張って偏差値を上げていけばあるいは」

妹「頑張るから」

兄「お、おう」

妹「マジで今日から勉強に集中する」

兄「本当にうちの学校に合格したいなら今から学校に行って勉強した方が」

妹「明日から頑張る。じゃあ、出かける前に電話して」

兄「どこに?」

妹「今ちょうど休み時間だからうちの担任に電話して。具合悪いから妹は休ませますっ
て」


兄「大丈夫か」

妹「上りの電車って結構混んでるんだね」

兄「まあ平日の午前中だから」

妹「うちから大学までどれくらい時間かかるの?」

兄「一時間半くらいだな」

妹「・・・・・・・だから迷わず実家を出たんだ」

兄「まあね。毎日これはつらいからさ。せめて座れればいいんだけど」

妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「あたしもう足ががたがただよ」

兄「次の駅で降りて少し休むか」

妹「お兄ちゃんが大学の講義に遅刻しちゃうじゃん」

兄「別にいいよ」

妹「だめ」

兄「おまえ自分だって休んだくせに」

妹「今までお兄ちゃんやパパたちがあたしにしてくれたことを、あたしそのままお兄ちゃ
んに返すことにしたの」

兄「はい? おまえ脳みそ」

妹「沸いてないって。もうこの話はおしまい。でもちょっと疲れたから身体を支えてくれ
る?」

兄「おう。ってどうしたらいいの」

妹「あたしおにいちゃんに寄りかかるから、お兄ちゃんはあたしの身体に手を回して支え
て」

兄「こ、こう?」

妹「そこじゃ寄りかかれないよ。もっと下。そう腰の辺りを抱いて抱き寄せて」

兄(せっかくいい兄貴になろうと決心したのに。こいつ、俺の決意を邪魔して楽しいの
か)

妹「うん。これなら何とか行けそうな気がする」

兄「そ、それはよかったな」

妹「お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「何かデートみたいだね」

兄(やめてくれ。何とか興奮を押さえないと)


<あたしにとって本当に大切な用事があったから>




兄「本当に一人で大丈夫か」

妹「平気だって」

兄「何か心配だ。俺やっぱ講義サボって」

妹「必修なんでしょ。だめ」

兄「いいか。男に声をかけられても無視するんだぞ。あ、かと言ってあまり冷たくあしら
っても逆切れされて無理矢理変なことされるかもしれないから、うまく断るんだぞ」

妹「よくわからないけど、わかった」

兄「つうか何かあったら電話しろ。すぐに駆けつけてやるから」

妹「大丈夫だって。ナンパされるのなんて慣れてるし」

兄「え」

妹「いつものことだもん。大丈夫だよ」

兄「おまえ、いつもそんなに危険な目にあってるの」

妹「そんなに毎日じゃないけど」

兄「・・・・・・ちょっと父さんに電話するな」

妹「え? いきなりパパに何を話すの?」

兄「妹が危険だから学校の行き帰りはなるべく車で父さんが送迎しろと」

妹「こらやめろ」

兄「だってよ」

妹「ママはともかく、パパとお兄ちゃんはちょっと過保護だよ」

兄「おまえに何かあってからじゃ取り返しが」

妹「何もないって。ちょっと心配し過ぎ。あたしだってもう子どもじゃないんだから」

兄「そうか?」

妹「そうだよ」

兄「わかった。俺は講義に出るけど何かあったらすぐに電話するんだぞ」

妹「講義中は電話になんか出られないでしょ」

兄「何があっても電話に出るから」

妹「もう。何もないって」

兄「・・・・・・」


兄(一般教養の第二外国語。履修のときに全部同じ科目を選択したから当たり前だけど)

兄(やっぱり女がいる。しかも女の友だち数人と一緒に何か楽しそうに会話しているな)

兄(今は女と話すべきときじゃないからして、なるべく離れた席に座ろう)

兄(つうか、ほぼ全部のコマが女と被ってるんだよな)

兄(一つ教訓になったよ。履修登録時には、彼女と別れた後のことも考えて講義を選択し
ておく必要があるって)

兄(これから毎日女を避けなきゃいけねえのかよ)

兄(あ)

兄(やべ。女と目を合わせてしまった)

兄(え・・・・・・? 女の方が目を逸らした。何か気まずそうな表情だった)

兄(今度こそ兄友は嘘を言っていなかったのか。兄友からのメールは・・・・・・・)



『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』



兄(まあ、もういいや。正直何が起こったのかわからずに悩んだけど。もういい)

兄(俺にはもう彼女なんかいらないんだ。彼女にはなってくれないけど。それどころか彼
氏さえいるけど、それでも俺の大切なお姫様がそばにいてくれれば)


兄(やっと講義が終了。妹からは電話もメールもなし)

兄(終ったとたんに女は俺の方を見もしないで友だちと一緒に部屋から出ていっちゃっ
た。やっぱ兄友のメールは嫌がらせじゃなくて本当のことだったのか)

兄(それどころじゃない。妹を放置してしまった。電話もメールもないし)

兄(電話しよ)

兄(・・・・・・)

妹『お兄ちゃん?』

兄「講義終ったけどおまえどこにいるの」

妹『ええと。ここどこだろ。ちょっと待って』

妹『すいません、ここってどこですか』

兄(げ。あいつ誰に話しかけてるんだよ)

妹『ああ、そうなんですか。お兄ちゃん?』

兄「おう」

妹『三号館と五号館の間の中庭だって。なんか噴水のあるところ』

兄「すぐに行くから」



妹「お兄ちゃん」

兄「(一人でいた。よかったあ)おう。おまえさっき誰に話しかけてたの」

妹「さあ」

兄「さあっておまえ」

妹「何かうろうろしてたら話しかけてくれて。それで高校生? って聞かれたから」

兄「何ナンパされてんだよおまえ」

妹「ええ? ナンパじゃないよ。受験のアドバイスとか校内の案内とかしてくれたんだ
よ」

兄(こいつは今日は私服姿とはいえ見た目は幼いからな。一目で高校生だとわかったはず。
高校生だと承知して妹に近づく男なんて)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ(もう今日は以降の講義は全部ブッチだ。妹が危険すぎる)」

兄(それにさすがに今日は女に無視されるのはつらいし)

妹「おなかすいた」

兄「じゃあ何か食おうぜ。学食は危険だから」

妹「危険って?」

兄「いや。学食は混んでいるから大学の外で食おう」

妹「そうなんだ。うん」



兄「何食べる?」

妹「お兄ちゃんがこんなお洒落なオープンカフェを知ってるなんてびっくりだよ」

兄「あんまり俺を舐めない方がいい(女に教えてもらったんだけどな)」


妹「周りはカップルだらけだね」

兄「そういやそうかな」

妹「あたしの学校って女の子しかいないからさ。何か新鮮」

兄「まあ、そうだよな。で、何食う?」

妹「この本日のオープンサンド、ドリンク付きっていうのにする」

兄「じゃあ俺も」

妹「ドリンクって何があるの?」

兄「メニューの下に書いてあるだろ」

妹「本当だ。わあ、ファミレスとは違うねえ。知らないドリンクがいっぱい」

兄「経験から言うと、どれ頼んでも味はそんなに変わらないぞ」

妹「人の楽しみに水を差さないでよ。この、アイスマンゴーハーブティーって美味しいか
な」

兄「それはだな。あ・・・・・・。電話出なよ。って切るなって。せっかく昼休だから彼氏から
電話してくれたんだろ」

妹「別にいいの!」

兄「・・・・・・出てやんなよ」

妹「・・・・・・いいの?」

兄「俺に聞くなよ」

妹『はい』

妹『うん、ごめんね。ちょっと今日は家の用事があって学校休んじゃった』

妹『妹友ちゃんから聞いたの?』

妹『大丈夫だよ。別に病気じゃないの。本当言うと仮病なんだ』

妹『いいじゃない別に』

妹『わかってるよ。でも今日はあたしにとって本当に大切な用事があったから』

妹『・・・・・・彼氏君? 何か怒ってる?』

妹『・・・・・・違うって。もういい加減にしてよ』

妹『もう切るね』

妹「・・・・・・何でこうなっちゃうんだろ」

兄「泣くなよ」

妹「・・・・・・お姫さまなんでしょ」

兄「え」

妹「あたしはお兄ちゃんのお姫様なんだよね?」

兄「・・・・・・うん」

妹「じゃ、慰めてよ」

兄「おい」

妹「さっきみたいにあたしを抱きしめてよ。だってあたし、お兄ちゃんのお姫様なんでし
ょ?」

兄「・・・・・・ああ、そうだよ。おまえは俺の大切なお姫様だよ」

妹「じゃあ抱き寄せて。違うよ、もっと肩に手を回して強く抱きしめるの」

兄「・・・・・・こう?」

妹「それでいいよ」


>>167
前のレスでURL貼ってますよ

今日は以上です
また投下します


しかしいつもこの>>1が書く作品は病んでるなぁ(いい意味で


<俺のこと祝福して迎えてくれよな>




兄「落ち着いた?」

妹「うん」

兄「いつまで並んで肩を抱いているのも目立つから、向かいの席に戻るわ」

妹「ありがと」

兄「いや」

妹「何を話してたか聞かないの」

兄「うん」

妹「そう」

兄「おまえが相談したいなら話聞くけど」

妹「うん・・・・・・いいや」

兄「(少しだけ笑った)オープンサンド来たぞ」

妹「うん。何これ大きいね」

兄「ここは洒落ているように見えて実は質実剛健な学生向け大盛り料理が出て来るんだ
ぞ」

妹「でもおいしそう。お腹すいちゃった」

兄「遠慮せず食べろよ。何ならデザートも頼んでいいぞ」

妹「やった」

兄「・・・・・・(可愛い)」

妹「なに?」

兄「いや。口の端にマヨネーズついてるぞ」

妹「やだ」

兄「ほれ」

妹「へ? あ、ありがと。って指舐めるな」

兄(赤くなった。でも元気になったみたいだな)

妹「お兄ちゃん」

兄「どした」

妹「これ、食べても食べても無くならないよ」

兄「ここの仕様だからな。残せばいいよ」

妹「うー。せっかく美味しいのに」

兄「デザート食えなくなるぞ」

妹「じゃあ、これお兄ちゃんが食べて」

兄「いや、俺だって普通に一人前食ってるんですけど」

妹「食べて・・・・・・ね?」

兄「(その下から見上げるような可愛い目線はよせ)おう。任せろ」


兄(しかし考えてみれば不思議だ。妹とここまで仲良くデートみたいなことをするのって
初めてだな)

兄(昔から仲は良かったと思うけど、一緒に手をつないで寝たり、外出時に妹の肩とか腰
を抱き寄せたりなんてしたことなかったよな。あーんだって初体験だったし)

兄(どういうわけか、妹に告って振られた後の方が妹との距離が縮まった。もちろん大学
に入って一月以上妹と会わなかった反動はあるんだろうけど)

兄(今ならもう本気で大丈夫な気がする。やっぱり妹友の言うとおりだ。俺は妹とたまに
こうして過ごせるなら、妹と彼氏のことだって本気で祝福できる気がする)

兄(どうして今まで気がつかなかっただろう。いくら妹が好きだからって、こいつに告っ
たのは妹のためじゃなくて俺自身のためじゃねえか。俺自身が幸せになるためのどうしよ
うもない身勝手な行為だったんだ)

兄(それが結果的に妹を苦しめた。悲しませた。こんなの本末転倒だ。俺は父さんや母さ
んと同じで、妹の幸せだけを考えてやらなきゃいけなかったのに)

兄(妹が彼氏と付き合って、それで今までどおり仲のいい家族と一緒に過ごせるようにし
てやること。それが俺の目標じゃんか。今まで俺は何を血迷ってたんだろう)

兄(父さん母さん。俺もようやくあんたたちと同じ境地に辿り着いたよ。俺のこと祝福し
て迎えてくれよな)

妹「お兄ちゃんさっきから何嬉しそうに笑ってるの?」

兄「おまえの食べ残したサンドイッチを食えたからさ。間接キスじゃん」

妹「何よいまさらそんなこと」

兄「嬉しいからいいんだって」

妹「変なの。ねえ、このアイスマンゴーハーブティーってあまり美味しくないね」

兄「だから言っただろ。経験者のアドバイスを信じろよ」

妹「じゃあデザートはお兄ちゃんに決めさせてあげる」

兄「俺が選ぶの?」

妹「うん。どうせ食べられないから一つでいいや。一緒に食べよ」

兄「お、おう(ほら。妹を彼女にすることを諦めただけで、俺だってこんなに幸せになれ
るじゃないか)」


<・・・・・・・手を出して>





妹「これ、本当に大丈夫? 何か量だけ多くて大味そう」

兄「大丈夫だって。甘すぎず酸っぱすぎずでさ。このフルーツがマジで美味い」

妹「まあフルーツパフェでフルーツが適当なのってよくあるけど、フルーツが美味しいな
ら大丈夫かな」

兄「保証する。大きいけど絶対全部食べちゃうぜおまえ」

妹「いくらなんでも一人じゃ無理。お兄ちゃんも責任とって」

兄「(何気ない言葉なのに深読みするんじゃない)おう、いくらでも責任取るぞ。何なら
結婚してもいい」

妹「そっち方面の責任じゃないって」

兄「冗談だよ」

妹「わかってるよ。でもまたお兄ちゃんとこういう会話ができるようになって楽しい」

兄「ああ。俺もだ」

妹「こんな話はお兄ちゃんとしかできないもんね」

兄「・・・・・・彼氏とだってできるだろうが」

妹「彼氏君は真面目だから・・・・・・こういう話し出したら冗談じゃすまなくなっちゃうって
いうか」

兄「・・・・・・そうか」

妹「あ、パフェきた。って何これ大きすぎ」

兄「山盛りになったフルーツもすごいだろ」

妹「本当に」

兄「あと生クリームも甘すぎず美味しいぞ」

妹「じゃあさっそく」

兄「何だよ」

妹「あーんして」

兄「おまえが食えよ」

妹「毒見だよ。ほら」

兄「だってよ」

妹「そちは姫君の命令が聞けぬと言うのか」

兄「お姫様の命令ならしかたな・・・・・・っておま。口をあけてからスプーンを近づけろよ。
顔にクリームが付いちゃったじゃねえか」

妹「はい、動かないでね」

兄「おい。おまえの手が汚れるって。つうか舐めるなよ」

妹「確かに美味しいね」

兄「おまえなあ」

妹「さっきの仕返しだよ。じゃあ、食べるか」

兄「結局、俺は食えてねえじゃん。顔にクリーム付けられただけで」

妹「・・・・・・本当に美味しい」


妹「もう動けないよー」

兄「結局、完食したもんな。おまえ」

妹「途中でやめようと思ったけど、麻薬的な美味しさだった」

兄「だから言っただろ。絶対に美味しいって。そろそろ行くか?」

妹「だからまだ動けないって。苦しいー」

兄「おまえはちょっとそのまま休んどけ」

妹「お兄ちゃん、次の講義の時間じゃないの」

兄「今日は自主休講」

妹「だめだよ。真面目に出席しなよ」

兄「仮病使って休んだやつに言われるとはな」

妹「・・・・・・う」

兄「今日はおまえとデートする気分なの」

妹「え」

兄「何だよ」

妹「これってデートだったの?」

兄「兄妹の健全なデートだろ? 違うのか」

妹「まあ、もうそれでもいいか」

兄「とにかく今日は休む。だから、このあとどっかに遊びに行こうぜ」

妹「じゃあ、カラオケ行きたい」

兄「却下」

妹「却下早すぎだよ」

兄「何でこんなに天気もいいのにカラオケなんぞに行かなきゃいけないわけ? 大学のと
隣の自然公園でも散歩しようぜ」

妹「あんたはジジイか」

兄「何でジジイだよ。有名なデートスポットなんだぞ」

妹「・・・・・・デートスポット?」

兄(ああ、いかん。妹に意識させるような言葉を言ってしまった)

妹「お兄ちゃんがそこに行きたいなら別にいいよ」

兄「いや。よく考えたらそんなに行きたくないや。別に俺たちって恋人同士じゃねえし
な」

妹「・・・・・・」

兄「よし。カラオケ行こうぜ。お姫様の命令は絶対だし」

妹「お兄ちゃん、それでいいの」

兄「聞き返すなよ。言いに決まってるだろ」

妹「・・・・・・・手を出して」

兄「へ」

妹「テーブルの上に手を出して」


兄「こうか」

妹「・・・・・・」

兄(俺の手を包むように両手で握った・・・・・・)

妹「ちゃんと聞こうと思ってたんだけど」

兄「うん」

妹「お兄ちゃん本当に女さんに振られたの?」

兄「多分」

妹「多分ってどういうこと。ちゃんと教えてくれてもいいでしょ」

兄「本当にわからねえんだよ」

妹「ねえ、お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「あたしも同じだから」

兄「何が」

妹「あたしも同じ。お兄ちゃんが言ってくれたことと同じ気持だから」

兄「・・・・・・」

妹「うちの家族が何よりも誰よりも大切で大好き。だからお兄ちゃんのことも大好き」

兄「うん」

妹「最初にお兄ちゃんの部屋にいる女さんを見たときはちょっと混乱しちゃったけど。で
もお兄ちゃんがあたしと彼氏君とのことに嫉妬しないって言ったでしょ」

兄「言ったけど(何なんだ)」

妹「だからあたしも女さんには嫉妬するのやめたの」

兄(もうこういうのやめてくれ。せっかく父さんと母さんの心情の域にまで達したという
のに。何で俺と女の仲におまえが嫉妬するんだよ)

妹「女さんと付き合いなよ。本当は振られてないんでしょ? お兄ちゃん、あたしのため
に女さんと別れようとしてるんじゃないの」


<お兄ちゃんには強力なライバルがいるんだよ>




兄「それ思い切り誤解だから」

妹「嘘つくな」

兄「嘘じゃねえって」

妹「もしお兄ちゃんが本当に女さんに振られたんだとしたら、絶対あたしのせいだよね」

兄「何でそうなる」

妹「こんなうざい妹がいる男なんて面倒くさくなったんじゃないの」

兄「何でおまえがうざいんだよ。妹に迫って告白したうざいやつは俺の方だろうが」

妹「・・・・・・」

兄「しようがねえなあ。ほれ、これ見ろ」

妹「携帯?」

兄「メール読んでみ」

妹「うん」



from:兄友
to:兄
sub:悪かった
『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話す
るのはちょっと敷居が高いからメールした』

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は
反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』

『じゃあな』


妹「・・・・・・そもそも女さんと兄友さんの二人には何があったの」

兄「兄友が後輩の女の子と女と二股かけていてな。そんで後輩ちゃんが妊娠したって嘘を
ついて、焦った兄友が追い詰められて女を振ったってことだな」

妹「本当なのそれ?」

兄「さあ。俺が直接見たわけじゃないしな。そんで俺もおまえとその、まあ何だ。振られ
た者同士慰め合っているうちに付き合おうかという話になって」

妹「そうだったんだ」

兄「だけど妊娠は嘘だったらしいよ。だから、兄友が本気で謝れば女だって一度は好きだ
った男のことなんだからさ、兄友のことを許しても不思議じゃねえよな」

兄(女の話も嘘だったのかもな)




女『これで兄友に罪悪感とか感じないで自分の気持に素直になれるから』

女『兄友のことを、あんたへの気持を忘れるために利用したから』

女『あんたが好きだったの』

女『あたしはどうしたらよかった? 妹ちゃんしか見えていないあんたに玉砕覚悟で告れ
ばよかったの? それともずっとあんたに片想いし続ければよかったの?』

女『あたしさ。あんたのことを諦めようと思ったとき、兄友に告られてさ。自分を変えた
かったこともあって兄友と付き合ったの』

女『うん。でも、あんたのことを忘れたことなんかなかった。というか、忘れるために付
き合ったのに、一々いろいろ兄友とあんたのことを比較しちゃってさ。いつまでたっても
あんたを忘れられなかった』

女『信じられない? 兄友に振られてからあんたに告ったのは確かだけど、昔からあんた
のことが好きだったのは本当だよ』



兄(あの言葉自体が甘い嘘だったのかもな。振られた自分を救うために、最初から兄友な
んか好きじゃなかった、本当に好きだったのは俺だったって自分に言い聞かせていたのか
も)

兄(女とは昔から悪友だったから、そういうことがあっても不思議じゃねえもんな。だか
ら女の言葉を俺は疑わなかったし、女も自分にそう言い聞かせることができたのかもしれ
ない)

妹「これ本当なのかな」

兄「本当って?」

妹「兄友さんのメール、何か現実感がないっていうか。まるで安っぽいドラマみたい」

兄「そうかな」

妹「これ、兄友さんが嘘ついてるんじゃないの?」

兄「何でそう思うの」


妹「あたしのせいで、お兄ちゃんと女さんは仲違いたんでしょ」

兄「違うよ」

妹「少なくともあたしが部屋に行ったせいで、女さんとはあの晩から話してないんでし
ょ」

兄「それはまあそうかもな」

妹「そういう行き違いを兄友さんが知って、こういうメールで揺さぶりをかけてきたんじ
ゃないかな」

兄「そんなの俺が女と話したらすぐにばれるじゃねえか」

妹「それはそうだけど」

兄「それにさ。さっきおまえを待たせていたときにさ。教室で女を見かけたんだよな」

妹「女さんどんな感じだった?」

兄「一瞬、目が合ったんだけどすぐに気まずそうに目を逸らされた」

妹「そうか・・・・・・」

兄「兄友のメールの内容と一致するだろ?」

妹「うーん」

兄「もういいって。それに俺だって女には悪いことしたっていう気持があるんだし」

妹「何でお兄ちゃんが?」

兄「俺が好きなのはおまえだけだったし。あのときは女の言葉が正しく思えて付き合おう
って言っちゃったけど、やっぱりおまえを忘れるために女と付き合うなんて最低じゃん」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「だからもういいんだ。俺には女へ未練もないし、女から振られたことで女への罪悪感
も覚えずにすんだ。おまえに告白して振られたことももう整理できた。おかげでおまえと
の関係もようやく正しい道がわかったんだから」

妹「正しい道って」

兄「昨日から何度も言っているじゃんか」

妹「なに」

兄「おまえは永遠に可愛い俺のお姫様で俺の妹だよ」

妹「ふふ。そうか」

兄「やっと理解してくれたか」

妹「念のために妹ラブなお兄ちゃんに言っておくけど、お兄ちゃんには強力なライバルが
いるんだよ」

兄「知ってるよ」

妹「あ・・・・・・違うよ。彼氏君じゃなくて」

兄「父さんと母さんだろ?」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあカラオケ行くか。俺の大切な可愛いお姫様」

妹「やっぱりいい」

兄「何が」

妹「カラオケはいい。お兄ちゃんが言ってたデートスポットの森林公園に行こう」

兄「おまえがいいいならそれでいいけど」

妹「あたしもそれでいいよ」

兄「じゃあ行こう・・・・・・手を離せよ」

妹「もうちょっとだこのまま握っていたい」


今日は以上です
また投下します

>>180
否定はしませんが今回のは以前よりもだいぶ軽いと思う


<無視すんな>




兄(公園でのデート以来、うざいくらいに妹からメールが来るようになったな)

兄(他愛のない内容なんだけど、何も自分の写メ付きで二時間おきに近況報告してくれな
くてもいいのに)

兄(いい家族ってこんなことまでしてたっけ? いや、しないな)

兄(思わず反語を思い浮かべちゃった)

兄(でも、正直に言うとすげー嬉しいし、楽しい)

兄(今まで知らなかった妹の学校生活をガイド付きツアーで見学しているようで)

兄(ただ、彼氏とのデートの報告メールだけは来ないな。もちろん写メも)

兄(・・・・・・当たり前だろ。そこは考え込むところじゃねえだろ)

兄(期せずして妹のセーラー服画像コレクションが充実してしまった。それも今までみた
いな盗み撮りじゃなくて妹本人が自撮りして送ってくれたやつだし)

兄(スマホの壁紙に設定しよう。どれにしようかな)

兄(何か楽しい。昔と違って合意なしに黙って撮影したわけじゃないから、堂々と選べる
な。何しろお姫様自ら送ってくれた画像だし)

兄(かといって一々返信もできん。万一、妹が彼氏と一緒だとすると何か気まずいしな。
きっと妹だってそうだろう。最も今は校内だろうからさすがに彼氏はいないだろうけど)

兄(あ、またメールだ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:無視すんな
『何でメール返して来ないの? 最愛のお姫様からのメールを無視するってどういうこと
よ』

『これ以上、あたしを無視するならパパとママに、お兄ちゃんが意地悪するって言いつけ
るからね(はあと)』



兄(冗談にしても笑えねえ。うちの両親って普段は温和なくせに妹のこととなると人柄変
わるからな。こんなことを言いつけられたら俺だってただじゃすまん)

兄(してないよ、無視してないって。講義中だったから返信できなかったけど姫からの
メールはちゃんと見たって・・・・・・。親バレは勘弁したって、と。よし送信)

兄(これでご機嫌を直してくれるといいんだけどな。って、あ)

兄(・・・・・・女が俺の方を見ていた)

兄(気のせいじゃないよな。一瞬だけど確かに目が合った)

兄(まあ、講義のときはいつもわざと離れた席に座っているから、そんなに至近距離じゃ
なかったけど、目が合ったのは気のせいじゃない)

兄(ずっと俺のこと無視しているくせに、今さら何なんだ)

兄(別に今となっては恨む気はないけど、それにしたって兄友の浮気で別れたくせに、浮
気される心の痛みは自分が一番わかってたくせに)

兄(結局女自身が浮気したんだもんな。俺と付き合ってたくせにさ)

兄(はあ。まあいいや。俺は一生一人で童貞のまま姫を見守って生きていくんだから)

兄(・・・・・・それにしても俺のことなんか何で見てたんだろ。一応、気にしてんのかな)


兄(携帯が振動してる。妹からメールだ・・・・・・てか返信早すぎだろ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:Re:Re:無視すんな
『まあ、講義中なら許してあげる。あれから女さんと話した? あ、返事は講義終ったら
でいいからね。あと、今度はいつ帰ってくる? あんまりあたしを放置して構ってくれな
いならあたし夜遊びしちゃうよ。何かあったらお兄ちゃんのせいだからね』



兄(可愛い。俺の姫って本当に可愛い)

兄(前にも思ったけど、こんなに妹との仲が改善されるんだったらもっと早く振られとく
んだった)

兄(・・・・・・)

兄(あいつもまだ女のこと気にしてるのかな。女に振られたのって全然あいつのせいじゃ
ねえのにな)

兄(女と話してもう気にするなって言ってやろうかな。実際、俺の方も妹を忘れるために
女と付き合ったっていうひけめもあるし)

兄(講義終ったら女に話しかけてみるか。女も気が楽になルるろうし妹だって安心するか
も)



兄「(よし。講義終了。女が消える前に側に行って話しかけるか)よ、よう」

女「え」

兄「ちょっといいか」

女「・・・・・・うん」

兄「あのさ俺」

兄友「講義終ったんだろ? 飯食いに行こうぜ」

兄「え」

兄友「あ。兄か」

兄「・・・・・・おう」

女「兄。あ、あのね」

兄友「兄、悪いな。早く行かないと学食混んじゃうからさ。女、さっさと行こうぜ」

兄「・・・・・・そうか」

女「ちょっと・・・・・・。引っ張らないでよ」

兄友「じゃあまたな。兄」

女「あ、兄・・・・・・ってちょっと」

兄(兄友に引っ張られて行っちゃったよ)

兄(何か兄友も必死だな。でもまあ、兄友と女が一緒に消えたわけだから兄友のメールは
嘘じゃなかったってことか)

兄(・・・・・・いけね。姫にメール返さないと)


<あたしと寝たい?>




from:兄
to:最愛の妹
sub:Re:Re:Re:無視すんな
『さっきは悪かったな。明日は土曜日だからそっちに帰るよ。だから夜遊びとか冗談でも
言うなよ。父さんと母さんがマジでへこむから』

兄(女のことは黙ってようかな。変に妹に悩まれても困るし)

『女とは体育実技以外の講義は全部一緒だけど、離れたところに座って顔を見ようともし
てないよ。てか、女のことはもういいよ。おまえが気にすることでもないしな』

『明日の晩も両親いないの? いないならまたオムライスお願い』

『じゃあ、明日の夜にまたな』



兄(さて、飯食うか。学食にでも)

兄(いかんいかん。兄友と女に出くわすかもしれん。妹と一緒に行ったカフェでオープン
サンドでも食うかな)



兄(・・・・・・敗残した。まさか満席とは思わなかった)

兄(しかたない。駅前の吉牛で牛丼でもって、あ)

兄(妹から返信だ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:Re:Re:Re:Re:無視すんな
『あたしも別に鬼ってわけじゃないからお兄ちゃんが明日帰ってくるなら夜遊びはしない
であげるよ』

『あと明日もパパとママいないよ~。オムライスは考えておいてあげる』

『女さんのことはわかった。しつこく聞いちゃってごめんなさい。あたしにはどうするこ
ともできないことなので、もうそのことを口に出すのはやめます。お兄ちゃん、本当にご
めんね』

『あとさ。せっかく両親いないんだし、明日もあたしと寝たい?』

『じゃあね。明日遅くならないでね』



兄(寝たいって、おまえ。誤解しそうになるような表現はよせ)

兄(せめて一緒に寝たいとかって言うならエッチ的な意味じゃなくて添い寝的な意味だっ
てわかるのに。まあでも前から語彙に乏しい姫にそこまで求めても無理だろう)

兄(でも。妹と添い寝か。したいかしたくないかって言えばしたいに決まってる)

兄(・・・・・・もう女のことはいいや。俺には家族がいるんだからそれで十分だ)

兄(早く明日になんねえかな)


兄(いくらなんでも早く着きすぎかもしれない。気合を入れてほぼ始発の電車に乗って実
家に帰って来てしまったからな)

兄(どうしようかな。ここから歩けば十五分で実家に帰れるんだけど)

兄(さすがに朝七時前の家に入っていくのは何となくためらわれる。実家なんだし気にし
過ぎなのかもしれないけど)

兄(駅前のファミレスが営業してるな。朝飯食ってないし、あそこで飯を食いがてら時間
を潰すか)

兄(さすがに土曜日の朝だから店内も空いてるな)

兄「あ、はい。一人です。禁煙席で」

兄(何、食うかな。どうせならこの和風モーニングセットとやらにするか)

兄「すいません」

妹友「あれ? お兄さんじゃないですか。おはようございます」

兄「げ」

妹友「・・・・・・今あたしの顔を見て、げって言いましたね」

兄「いや。おはよう妹友さん」

妹友「げって言いましたね」

兄「いや。おまえの気のせいだろう」

妹友「言いましたよね」

兄「ごめんなさい。ちょっとびっくりして思わず」

妹友「・・・・・・まあ、いいでしょう。お兄さんは何でこんなところにいるんですか」

兄「何でって言われても。朝飯を食おうとして」

妹友「何でですか」

兄「いや。俺だってお腹は空くし」

妹友「ここから徒歩圏内にご自宅があるじゃないですか。家で食事ができないような事情
でもあるんですか」

兄「そんなもんあるか。いいじゃんか、ファミレスで飯くらい食ったって」

妹友「まあ、別にどうでもいいんですけどね」

兄「なら聞くなよ」

妹友「失礼します」

兄「何で俺の席に勝手に座る」

妹友「別にいいじゃないですか。別にご馳走しろって言ってるわけじゃないのに」

兄「そういう問題じゃない」

妹友「じゃあどういう問題ですか」

兄「・・・・・・まあいいや」

妹友「すいません。オーダーお願いします」

兄「俺は和」

妹友「あたしは和風モーニングセットをください」

兄「・・・・・・洋風モーニングセットAを」

妹友「意外ですね。朝は和食派かと思ってました」

兄「何を根拠に言ってるんだ」

妹友「ソースは妹ちゃんです。うちのお兄ちゃんは朝はいつもご飯とお味噌汁がないとだ
めなの。ママがいつも面倒がってるって言ってました」


兄「そんなこと話してるんだ」

妹友「そのくせオムライスが大好きなお子様味覚だとか、焼き魚もさわらの西京漬けみた
いな面倒なものが好きだとか」

兄「妹ってそんなことまで話してたのか」

妹友「妹友ちゃんはお兄さんの話ばかりしてますからね」

兄(え)

妹友「興味の欠片もないお兄さんの話しばかり毎日聞かされて、正直あたしも最近少しい
らっとしてました」

兄「(妹のやつ何なんだ)それは悪かったな」

妹友「お兄さんが謝る必要なんてないですよ」

兄「そうか」

妹友「お兄さんごときに謝ってもらっても少しも気分は晴れないですから」

兄「・・・・・・(そうかよ)それで? おまえは朝早くからこんなところで何してるんだ」

妹友「お兄さんと話しながら朝食が運ばれて来るのを待ってます」

兄「・・・・・・いや、そうじゃなくて」

妹友「ここで時間を潰して駅の出口を監視しようと思って」

兄「何のために」

妹友「妹ちゃんが昨日嬉しそうに明日お兄ちゃんが帰ってくるのって、目を輝かせながら
言っていたので」

兄「もしかして俺を待ってたの」

妹友「はい。お話しがあって」

兄「話って?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんとはいい兄妹に戻ったんですよね」

兄「おまえも知ってのとおりだ。妹に送信する前にメールを見せたじゃんか」

妹友「そうですか。おかしいなあ」

兄「何か気になることでもあるのか」

妹友「実はそうなんですよ。で、てっきりお兄さんが性懲りもなくまた妹ちゃんを惑わせ
てるのかと」

兄「そんなことを疑ってたのかよ」

妹友「一番妥当な推論ですからね。お兄さん。嘘言ってないですよね」

兄「言ってねえよ。ちゃんと妹にも会っていい兄貴になるって、もうおまえを口説いたり
しないって宣言しったぞ」

妹友「嘘じゃなさそうですね」

兄「嘘じゃねえよ」

妹友「じゃあ、何で妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと会おうとしないのかなあ」

兄「え」

妹友「お兄ちゃん落ち込んで悩んじゃって。最近妹ちゃんが冷たくて、登校時も下校時も
休日のデートも全部断られてるんですって」

兄(・・・・・・まじかよ)


<本当は嬉しいくせに>




妹「あ、お兄ちゃんお帰り」

兄「ただいまお姫様」

妹「へへ。やっと帰って来た」

兄「おい。家の中で手をつながなくたって」

妹「パパとママ、もう出かけちゃったし平気だよ」

兄「そういう問題じゃ」

妹「何よ。嫌なの?」

兄「・・・・・・嬉しいけど」

妹「おまえはツンデレかよ」

兄「俺はおまえとは正しい兄妹関係で行こうとだな」

妹「何意識してるのよ。こんなの兄妹なんだから普通でしょ」

兄「いやいや。ってそうなの?」

妹「そうだよ。それに兄妹の数だけ兄妹の関係のあり方があるんだから。うちは家族みん
な仲がいいんだからこれでいいの」

兄「おまえがそういうなら」

妹「本当は嬉しいくせに」

兄「まあ、そうだけど」

妹「ふふ。ね、今日はどうする?」

兄「どうって?」

妹「昼間何して過ごす? デートする。それとも家でゆっくりしたい?」

兄「おまえは予定ねえの」

妹「別にないけど」

兄「だってせっかくの休日じゃん。彼氏君とデートとかしねえの」

妹「・・・・・・別に約束してないし」

兄「だってさ。おまえらって学校違うから普段はあまり会えないんだろ?」

妹「そうだけど」

兄「だったら休みの日くらいは毎週でも会いたくなるんじゃねえの」

妹「うるさいなあ。約束してないったらないの!」

兄「何きれてるんだよ」

妹「きれてない! お兄ちゃん、そんなにあたしを彼氏君とデートさせたいの?」

兄「そうじゃねえけど。俺なんかに気を遣ってるならいらん心配だぞ。俺はもう嫉妬しな
いって決めたんだから」


妹「・・・・・・ちょっとくらいは嫉妬しろ。ばか」

兄「聞こえないよ。もっと大きな声で話せ」

妹「もういい。お兄ちゃんが嫌なら別に無理に一緒にいてくれなくたっていいよ。アパー
トに帰ったら?」

兄「そんなこと言ってねえだろ」

妹「あたしのこと大切にするって言ってたのに」

兄「だからそれは嘘じゃねえって」

妹「おまえは俺の大切なお姫様だよって言ってくれたのに」

兄「・・・・・・おまえは俺の大切なお姫様だよ。これは本当」

妹「本当?」

兄「(また出た。妹の必殺上目遣い。可愛い)本当だって」

妹「何で意地悪したの」

兄「いや、意地悪じゃなくて心配したんだよ。おまえこの間、彼氏君と別れるって言って
たし」

妹「・・・・・・大丈夫だよ」

兄「何が大丈夫なの」

妹「お兄ちゃんのお姫様なんでしょ? あたし」

兄「うん」

妹「じゃあ、姫からお兄ちゃんへのご褒美ね」

兄「ちょ、ちょっとちょっと。おまえ何やって」

妹「・・・・・・へへ」

妹「お兄ちゃんにファーストキスあげたの」

兄「おまえなあ」

妹「こないだのカフェで間接キスしたって喜んでたじゃん、お兄ちゃん」

兄「う、うん(キスしてしまった。告って振られた妹に)」

妹「嫌だった?」

兄(こんなに心配そうな顔をされたら・・・・・・それに正直すげえ嬉しいし)

兄「いや。すごく嬉しかったよ」

妹「ならよかった」

兄(妹って彼氏君とは手をつないだだけなのか。初キスって言ってたし)

妹「お兄ちゃん」

兄「・・・・・・抱きつくなよ。襲うぞ」

妹「お兄ちゃんは姫にそんなことできないでしょ。信用してるよ」

兄(男ってそんなに単純じゃねえんだけどな)

妹「じゃあデートに行こう。うちで二人きりでもいいけど、天気もいいし外出しよ」

兄「おまえがそれでいいなら」

妹「着替えるからちょっと待っててね」

兄「わかった」

妹「覗かないでね」

兄「しねえよ」

妹「あはは」


今日は以上です
少し間があくかもしれないけどまた投下します

ご愛読感謝です


<いくら何でもこれは行き過ぎじゃねえの>




兄「で。どこ行くの」

妹「お兄ちゃんはどこに行きたい?」

兄「いや。どこって言われても」

妹「何にもデートプランを考えてこなかったの」

兄「何で軽く非難しているような目で俺を見る」

妹「だって、そういうのは男の人の役目なんじゃないの」

兄「それは違うな」

妹「何でよ」

兄「おまえは性差による役割分担論という一時代前の固定観念に何の疑いも抱いていない
ようだな。この守旧主義者め」

妹「あたしバカだから何言われてるかわからないけど、お兄ちゃんひどい」

兄「更に言えば今日外出するなんて聞いていなかったのに、行く先なんて考えているわけ
はないだろうが」

妹「ちょっとはっきりさせようか。お兄ちゃん」

兄「おう。望むところだ。おまえなんかに論破される気は全然しないしな」

妹「論破するとかされるとか、ちょっとお兄ちゃん必死すぎでみっともないよ」

兄「いいから反論してみ」

妹「あたしってお兄ちゃんにとって守旧主義者なの。それともお姫様なの」

兄「え」

妹「どっち?」

兄「・・・・・・」

妹「何か言ってよ」

兄「お姫様」

妹「ふーん。お兄ちゃんは姫に向って守旧主義者だとか、行く先なんて考えているわけな
いとかって言うんだ」

兄「いや。ちょっと待て」

妹「パパとママに」

兄「悪かった。俺が少し考えなしだったよ」

妹「ふふ」

兄「・・・・・・何?」

妹「冗談だって。お兄ちゃんと一緒にいるとついうきうきして冗談を言いたくなっちゃう
の。それだけ嬉しいからかな。あたしの方こそごめんね」

兄「いや(いくら何でもこれは行き過ぎじゃねえの。俺って妹から付き合えないって言わ
れたのにさ)」

妹「じゃあ行こう」

兄「どこに」

妹「どこでもいいよ。とにかく行こうよ」

兄「はいよ(何か告白が受け入れられたかのような錯覚に陥る。振ったやつにこんな思わ
せぶりな態度しちゃだめだろ。いくら仲のいい兄妹になることにしたにしても)」


妹「公園に行こうか」

兄「いいけど。確か前も大学の側の公園に行ったよな」

妹「そうだね。お兄ちゃんのお勧めの場所だったよね。行ってみたらカップルしかいなか
ったけど」

兄「別にそんなつもりで誘ったわけじゃ」

妹「わかってるよ。嫌だったなんて言ってないじゃん。楽しかったよ」

兄「(わかんねえなあ。こいつ本心では俺のこと、異性として好きなのかなあ)」

妹「あたしも穴場の公園を見つけたの。こないだのほど大きくなんだけど、結構雰囲気が
よくて人もあまりいないんだよ」

兄「そうなんだ。じゃあそこに行こうぜ」

妹「うん」

兄(・・・・・・変な話だよな。振られた後の方が以前より妹が俺にベタベタするようになっ
た気がする)

兄(確かに昔から俺たちは仲のいい兄妹、つうか両親を含めてすごく仲のいい家族だった
し)

兄(妹に告白なんて余計なことをしてそれを壊しかけたのは俺なんだけど。妹はそのこと
を本気で嫌がってたんだろう。こいつは家族が大好きだったし)

兄(それにしても最近のこいつの態度は少し行き過ぎだ。昔に戻るどころか通り越しちゃ
ってるじゃん。むしろ恋人同士みたいな反応を要求されている気がする)

兄(俺の思い過ごしならいいけどさ。確かにこいつのことをお姫様扱いしたり姫と呼んだ
り、今までだってなかったことを言い出したのは俺の方ではあるけどさ)

兄(・・・・・・妹も俺が自分に振られて傷付いてることに気がついて気を遣ってるのかなあ)

兄(そうだとしたら兄貴失格だ。つうかそんなことを父さんに知られたら確実に俺が終っ
てしまう。いろいろな意味で)

妹「何かよけいなこと考えてない?」

兄「ね、ねえよ」

妹「・・・・・・本当」

兄「本当だって!」

妹「なら、いいけど」

兄「それよかさ。いったいその穴場の公園っていうのはどこにあるんだよ」

妹「電車に乗るよ」

兄「わかったけど」

妹「図書館の横にあるの」

兄「へ」

妹「ね? 知らなかったでしょ。あたしもこの間知ったんだけど、市立図書館の横にある
公園がすごく雰囲気がいいの。小さな公園なんだけど」

兄「そうなんだ」

妹「楽しみでしょ」

兄「うん(図書館って。前に妹が彼氏と一緒に恋人つなぎをしながら行った場所じゃん。
二人で勉強でもしに来たのかと思ったのに、あのときちゃっかりと公園デートしてたのか
よ)」


<誤解されたらおまえに迷惑かけるしな>




妹「休みなのに座れないね」

兄「まあ休日ダイヤだと本数が極端に少なくなるからな。逆に電車とかバスは混むよな」

妹「吊り革に手が届かない」

兄「低身長乙」

妹「仕方ない」

兄「へ」

妹「お兄ちゃんに掴まろうっと」

兄「・・・・・・」

妹「何よ。嫌なの?」

兄「別に」

妹「あんたは沢尻エリカか」

兄「どんだけ昔のネタだよ」

妹「どっちなのよ」

兄「・・・・・・こっちの方が姫も楽だろうし」

妹「え」

兄「この方が楽だろ」

妹「・・・・・・確かにこれなら両手が塞がらないしね」

兄「そうだろ」

妹「でもさ。お兄ちゃんがあたしの肩を抱いて支えているところを誰かに見られたら確実
に恋人認定されちゃうね」

兄「その危険性はあるな。やめとくか」

妹「しっかりとあたしの肩を抱いておいて今さら辞めるとか何言っちゃってるのかな」

兄「まあ、見回したところでは知り合いは誰もいないようだし」

妹「そうだね」

兄「知り合い以外にどう思われようと別に構わないでしょ」

妹「意外とお兄ちゃんって大胆なんだね。さすが、真面目に実の妹に告って迫っただけの
ことはあるよね」

兄「その話はよせ」

妹「まあいか。この方が楽チンだし。その代わりちゃんと支えててよ」

兄「わかってる」

妹「あとその手を肩以外の場所に動かさないでよ」

兄「するか。そんなもん」

妹「・・・・・・」

兄(姫の顔が真っ赤だ。何だよこれ。振られたのにまた期待しちゃうじゃんか)

妹「・・・・・・何か喋ってよ」

兄「何かって」

妹「何かは何かだよ」


兄「次の次の駅だっけ。図書館って」

妹「え。ああ図書館ね。そうだよ」

兄「じゃあ、姫の肩を抱き寄せていられるのもあと少しだな」

妹「・・・・・・残念そうに言うな」

兄「だって残念なんだからしかたない(俺は何を言ってるんだ)」

妹「そ、そか。へへ」

兄「ああ(何だか満足そうだな)」

妹「じゃ、じゃあさ。今日は特別大サービスで、公園に行くまであたしの肩を抱きよせて
いてもいいよ」

兄「そうはいくか」

妹「・・・・・・何で? あたしがせっかく」

兄「誰かに見られたら恋人認定されちゃうんだろ」

妹「え」

兄「誤解されたらおまえに迷惑かけるしな」

妹「何でよ」

兄「何でって・・・・・・」

妹「何でもない。次の駅で降りるよ」

兄「おう(じゃあ、手を離すか)」

妹「この駅から歩いて十五分くらいだよ」

妹「じゃあ図書館まで歩こうか」

兄「そうだな」

妹「・・・・・・」

兄(何か妹が微妙に不機嫌と言うか、さっさと先に行ってしまうというか)

妹「・・・・・・」

兄「ちょっとさあ。俺を置いてどんどん先に行くなよ」

妹「お兄ちゃんが歩くのが遅いんじゃない」

兄「いやさ。せっかく一緒にいるのにこれじゃデートっぽくないというか」

妹「これってデートだったの?」

兄「おまえがデートプランとか言い出したんだろうが(面倒くせえ妹だな全く)」

妹「まあ、お兄ちゃんがこれをデートだと言い張るならあたしは別にそれもでもいいけ
ど」

兄「ああ、そうだよ。おまえが迷惑でも俺は妹とデートしたいの!」

妹「もう。本当に面倒くさいお兄ちゃん。したいならしたいってもっと早く言いなさい
よ」

兄「悪かったよ」

妹「じゃあ、デートなら仕方ない。はい」

兄「はいって何が」

妹「手をつないであげるって言ってんの」

兄「お、おう、ありがと」

妹「そうじゃないでしょ」

兄「ああ。恋人つなぎね」


<いつ帰ってくる?>




妹「嫌だった?」

兄「んなわけねえだろ。アホ」

妹「アホじゃないでしょ。姫でしょ」

兄「そうだった。はいはい」

妹「ここだよ」

兄「ほう。これはなかなか」

妹「でしょ? 最初に来たときから気に入ってたんだ。お兄ちゃんの大学のとこの公園も
いいけど、あそこはカップルがあっちこっちで変なことしてて落ち着かないし」

兄「確かにここは静かだな。人もほとんどいないし」

妹「うん。だから穴場なんだよ」

兄「本当にいいところだね」

妹「うん。一度お兄ちゃんと一緒に来たかったんだ」

兄「(深く考えるな、俺)そうなんだ」

妹「次はパパとママも誘ってお弁当もって来ようよ」

兄「いいね。ってあいつらにそんな時間があるかはともかくな」

妹「あたしが誘えばパパは来てくれるよ」

兄「まあ、確かに。両親ともにおまえを溺愛しているけど、どっちかていうと父さんの方
が溺愛の度合いがいろいろひどいしな」

妹「ふふ。まあそうだね。でも、あたしもパパのこと好きだよ」

兄「俺とどっちが好きなの」

妹「え」

兄「(何言ってんだ俺)いや、何でもない。今の忘れて」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあ、まあせっかく来たんだし園内を散策でもしようか」

妹「うん。ゆっくりと歩こうね」

兄「そうだな。この広さの公園だとすぐに一周しちゃいそうだしな」

妹「じゃあ行こうよ」

兄「おう(手を離すつもりはないんだな)」

妹「お兄いちゃん」

兄「うん?」

妹「何か鳥が赤い木の実を食べてるよ。可愛い」

兄「可愛いかあ? あれはヒヨドリじゃん」

妹「あれがヒヨドリかあ」

兄「冬になるとよくうちの庭にも来てるじゃん」

妹「そうなんだ」


兄「一周しちゃったな」

妹「うん」

兄「お昼どうする? 家に帰って食う?」

妹「・・・・・・ううん」

兄「じゃあ、好きなものご馳走するからさ。何食いたい? どっか行きたい店とかある
か」

妹「別に」

兄「おまえは沢尻」

妹「これ」

兄「へ?」

妹「一応、これお昼ごはん」

兄「何か手提げ袋を大切そうに抱えてると思ったら、弁当作ってくれてたのか」

妹「な! 別に大事そうになんか持ってないもん」

兄「そうかそうか」

妹「・・・・・・お兄ちゃん突然にやにやして気持悪い」

兄「そうじゃねえけどさ。それより弁当どこで食う?」

妹「この公園の中の噴水広場にベンチがあるから、そこで食べようよ」

兄「おお。いいねいいね」

妹「お兄ちゃんを餌付けするのって簡単だね」

兄「いや、まあな」

妹「誉めてないし」

兄「とにかく腹減ったな。お昼にしようよ」

妹「そうだね」

兄「いただきます」

妹「いっぱい食べてね」

兄「言われんでも」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「何だよ」

妹「少し落ち着いて食べなよ」

兄「だって腹減ってるし」

妹「朝ごはん食べなかったの?」

兄「(げ)あ、ああ。まあ」

妹「そうかあ。じゃあ仕方ないね」

兄「う、うん」

妹「夕ご飯はオムライスだからね」

兄「やった」

妹「この間作って持って行ったのって冷たかったでしょ?」

兄「まあね。でもおいしかったよ」

妹「やっぱり作りたての方がおいしいよね」

兄「まあ、そうかも」

妹「一緒に住んでればいつでも作り立てをお兄ちゃんに食べてもらえるのに」


兄「そのことなんだけどさ」

妹「うん?」

兄「ちょっと俺も考えたんだけど」

妹「何を?」

兄「俺、実家に戻ろうかと思ってさ」

妹「本当?!」

兄「え」

妹「あ、いや。そうじゃなくてさ。実家から大学って遠いんでしょ? 通学が大変じゃな
い」

兄「うん。大変だからアパート借りたんだけどさ。こういう状況になると女と隣の部屋っ
ていうのも気まずいしさ。女だって気まずいかもしれないし、兄友だっていい気分はしな
いだろうしな」

妹「何それ? 浮気したのは女さんの方でしょ。何でお兄ちゃんがあの二人に遠慮して引
っ越す必要があるのよ」

兄「それはそのとおりなんだけどさ。まあでも俺が引っ越す方がいろいろと手っ取り早い
し」

妹「何か納得できないなあ。引っ越すなら女さんが引っ越せばいいじゃん」

兄「まあそう言うなよ」

妹「お兄ちゃん、女さんに未練があるの? だから隣の部屋にいるのがつらいの?」

兄「それはない」

妹「だったらさ」

兄「俺さ。やっぱりシスコンだからおまえの側にいたいんだよね。それに両親だって滅多
に夜は家にいないしさ。おまえのことも心配だし」

妹「え・・・・・・つうか、え?」

兄「そうすれば姫といつも一緒にいられるじゃん」

妹「ま、まあ、そういうことなら仕方ないかな。でもさ、引越ししたばっかでまた引越し
とかさ。絶対パパとママに怒られるよ? お金だってかかるし」

兄「それが怒られないんだなあこれが」

妹「何でよ」

兄「おまえが夜家に一人でいると思うと心配でしかたない」

妹「へ? まさかそれ本当にパパかママに言ったの?」

兄「これから言う」

妹「この悪者め」

兄「俺がいない方がいいのか」

妹「一々確認しないでようざいなあ」

兄「じゃあ、しない」

妹「・・・・・・いつ帰ってくる?」


<何かあたしお邪魔みたい>




妹友「妹ちゃん」

妹「え。ああ妹友ちゃん」

妹友「偶然だね。図書館に勉強しに来てたの? 真面目だね」

妹「あ、別に」

妹友「沢尻かよ」

兄「だからネタが古いっつうの」

妹友「げ」

兄「おまえ今俺の顔を見てげって言ったろ」

妹友「あら。こんにちはお兄さん」

兄「げって言った。ぜってえ言った」

妹友「お久し振りですね」

兄「お久し振りじゃねえだろ。今朝、ファミレスで会ったばっかりじゃんか」

妹友「・・・・・・アホ」

兄「え?」

妹「何? 妹友ちゃんとお兄さんって今朝どっかで会ってたの」

兄「あ、いや」

妹友「低脳」

兄「すまん」

妹「・・・・・・何で二人だけで通じる言葉であたしをのけ者にしてくれてるのかなあ」

兄「違うよ」

妹友「全くお兄さんときたら。少しは頭を使うことを覚えたほうがいいですよ」

兄「おまえが、げっとか言うからだろうが」

妹友「今朝、最初にそう言ったのはお兄さんの方です」

兄「それはおまえが待ち伏せなんかしてるから」

妹友「お兄さんってバカでしょ」

妹「・・・・・・妹友ちゃんとお兄ちゃんって仲いいんだ。何かあたしお邪魔みたい」

妹友「ほら。どうするんですかこれ」

兄「どうするって」

妹「お兄ちゃんって、女さんの次は自分の妹の親友に手を出してたんだ」

兄「ちげえよ」

妹「じゃあ何で妹友ちゃんと密かに逢引したりしてるのよ」

兄「逢引って。言葉が古いよ」

妹友「そんなことより妹ちゃん」

妹「・・・・・・何よ」

妹友「ほら」


妹「あ・・・・・・何で」

妹友「お兄ちゃん、こっちですよ」

彼氏「ああ、そこにいたんだ。探しちゃったよ妹友のこと」

妹友「さっきからお兄ちゃんの側を離れてないじゃないですか」

彼氏「それもそうだ・・・・・・って、あ」

妹「・・・・・・彼氏君」

彼氏「妹ちゃん。何か久し振りだね」

妹「そ、そうかな」

彼氏「最近一緒に登下校してくれないから。何か久し振りに会う気がする」

妹「ごめん」

彼氏「別に君のこと責めてるわけじゃないんだ。・・・・・・今日は図書館で勉強?」

妹「う、うん」

彼氏「それなら僕のことも誘ってくれたらよかったのに」

妹「ごめん」

兄(俺の存在は全く無視されてるな)

兄(一言何か言ってやりたいな)

兄(・・・・・・)

兄(いや。俺は妹の兄貴に過ぎない。そして妹と彼氏の交際には嫉妬しないと決めたばか
りだ)

兄(とりあえず邪魔にならないようにフェイドアウトしようか)

兄(さいわいなことに妹と彼氏はお互いを気まずそうに見つめ合っているし。よし)


妹友「そうそうお兄ちゃん、紹介するね。この今にもここから逃げ出そうと姿勢を低くし
ようとしている人が、妹ちゃんのお兄さんだよ」

兄(てめえ妹友)

妹「・・・・・・ちょっと。やめてよ」

彼氏「ああ、お兄さん。妹友からお話は伺ってます。初めまして。妹友の兄の彼氏です。
妹さんとはお付き合いをさせていただいてます。よろしくお願いします」

兄「・・・・・・どうも」

彼氏「お兄さんとは初めてお会いできました。前から妹ちゃんには紹介してってお願いし
てたんですけど、彼女自分の家族には絶対紹介してくれないんですよ。僕ってそんなに頼
りないのかなあ。あはは」

兄「そうなんだ(あははじゃねえ。ムカつくやつだ。ちょっと顔とスタイルがいいからっ
て)」

妹友「お兄さん」

兄「俺?」

妹友「そうです。あたしたちは恋人同士の邪魔みたいですから一緒に消えましょう」

兄「いや、だってまだ弁当食ってないし」

妹友「あたしもお弁当を作ってきましたから。妹ちゃんのお弁当をお兄ちゃんが食べて、
あたしのお弁当をお兄さんが食べてくれればそれで無問題です」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

彼氏「へ? 妹友、おまえひょっとしてこのお兄さんのことが」

妹友「デリカシーがないですよ、お兄ちゃん」

彼氏「気がつかなかったよ。そうだったのか。お兄さん、ふつつか者ですが妹友のことを
よろしくお願いします」

兄「ちょっと待て。何の話だ」

妹「・・・・・・」

兄(妹が俺を睨んでいる、違うぞ姫。俺は潔白だ)

妹「さっきから黙って聞いてればみんな何勝手なこと言ってるのよ! いい加減にして」

兄・妹友・彼氏「え?」

兄(妹がマジできれた)


今日は以上です
また投下します


<お兄ちゃんに謝ってよ>




妹「・・・・・・」

彼氏「あ、ごめん。妹が勝手なこと言っちゃって。妹ちゃん今日はお兄さんと用事があっ
たんだよね」

妹「・・・・・・」

兄「もう行こうぜ」

妹友「はい。喜んで」

兄「そうじゃねえ」

妹「・・・・・・」

兄「彼氏君さあ。何か誤解しているみたいだけど」

彼氏「はい?」

兄「俺と君の妹は別に付き合ってないから」

妹友「あ、ばか。お兄さん何てこと言うんですか」

兄「だって本当じゃん。おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって言ってたじゃ
ん。あと親しい間柄じゃないのに俺のことバカとか言うのやめろ」

妹友「・・・・・・何でこのタイミングでそういうこと言うんですか。いろいろ計画が台なしじ
ゃないですか」

妹「計画?」

彼氏「計画って」

妹友「・・・・・・あ」

兄(このアホ自爆しやがった)

妹「本当?」

兄「ああ」

妹「お兄ちゃん、妹友ちゃんのことが好きなわけじゃないの?」

妹友「あたしの口から言うのも僭越なのですが、お兄さんは実はあたしのことを」

兄「好きじゃねえよ」

妹友「・・・・・・」

妹「今朝、妹友ちゃんと会っていたの?」

兄「偶然な」

妹友「いえ。偶然というか」

妹「そっか。偶然か」

兄「そ。信じるかどうかはおまえに任せるよ」

妹「信じる」


兄「うん」

妹「信じるよ。家族だもんね」

彼氏「そうだったんですか。勝手に妹と付き合っているなんて誤解しちゃってすいません
でした」

兄「あ、ああ。わかってくれたのなら気にしなくていいよ」

彼氏「それなら妹友とお兄さんを二人にするなんてご迷惑でしたね。妹がいろいろすいま
せん」

兄「気にしなくていいから」

妹「彼氏君・・・・・・。あのね、あたし」

彼氏「いいっていいって。全部うちの妹の勘違いが悪いんだから」

妹「そうじゃないの。あたしね」

彼氏「おい、妹」

妹友「はい」

彼氏「おまえは昔から暴走しすぎだ。お兄さんのことが大好きにしたって、まず相手の気
持を確かめてから行動しないといけないだろ」

妹友「お兄ちゃん、ごめんなさい」

兄(ずいぶん殊勝じゃねえか。俺に対する態度と違いすぎだろ)

彼氏「お兄さんが好きだっていう気持を咎めてるんじゃないんだぞ。むしろ人を好きにな
るっているのは尊いことだ。だけどまず相手も気持を思いやらないといけない」

兄(何言ってるんだこいつ)

妹友「うん。あたしが考えなしだったよ。お兄ちゃんの言うとおりだね」

兄(・・・・・・こいつも何言ってるんだ)

彼氏「人を好きな気持自体は悪くない。でも、恋人になりたいなら相手の気持も自分に向
いてないとな」

妹友「・・・・・・うん」

妹「・・・・・・」

兄(これ、ずっと聞いてなきゃいけないの?)

彼氏「おまえも知ってのとおり、僕だってずっと妹ちゃんに片想いしていた。でもそんな
自分の気持は常に自分の心の中に秘めていたし、妹ちゃんに押し付けたことなんかない。
何年も何年もだ」

妹友「そうだったね」

彼氏「それは妹ちゃんに迷惑をかけたくなかったからだ。おまえには相談してたから俺の
気持はわかるだろ?」

妹友「うん」

彼氏「僕は無理強いはしなかった。でも、あの日。おまえが間に入ってくれて妹ちゃんに
告白して、妹ちゃんがOKしてくれた日は本当に嬉しかったよ」

兄(やっぱりなあ。妹とこいつは正式に付き合ってたんだな)

妹「もうやめて」

彼氏「え? 何で」

妹「いい加減にして。約束が違うじゃない」

兄(約束?)

彼氏「え? でも図書館では」

妹「お兄ちゃん行こう」


<じゃあ、何であんなことをお兄ちゃんに言ったのよ!>




兄「へ」

妹「家に帰ろ。変な邪魔が入って気分が悪いし」

兄「だって弁当は? つうかデートはどうするの」

妹「外出すると外野が邪魔して鬱陶しいし。家の中なら誰にも邪魔されないじゃん」

兄「えーと」

彼氏「鬱陶しいって僕のこと?」

妹友「妹ちゃん、それはお兄ちゃんに対して言いすぎでしょ。お兄ちゃんに謝ってよ」

妹「謝らないよ。お兄ちゃん行こう」

兄「え? だってよ」

妹「・・・・・・それともお兄ちゃんは妹友ちゃんのお弁当を食べたいの」

兄「んなわけえねえだろ。でもおまえの弁当だって食いかけで」

妹「おうちで食べよう。やっぱり自分の家が一番いいよ。変な人も邪魔しないし」

妹友「変な人? もしかしてうちのお兄ちゃんのことを言ってるの」

妹「さあね。それが自分のことだって気がついていない人のことじゃないかな。約束も守
れない人なんてあたし大嫌い」

妹友「人の心ってそんなにマニュアルどおりになるものじゃないでしょ! ちょっとだけ
でもお兄ちゃんの気持も考えてよ」

妹「その言葉そっくり妹友ちゃんに返すよ」

妹友「・・・・・・どういう意味よ」

妹「ちょっとはあたしやあたしのお兄ちゃんの気持ちも考えたら? 何で妹友ちゃんはい
つも自分と自分のお兄さんの気持ばっかり優先するわけ?」

兄(話についていけないけど、とりあえず今が修羅場なのは理解した)

兄(しかし修羅場なのはわかったけど、それ以上は理解できねえ。いったいこの二人に、
いやこの三人に何があったんだ。お互いに親友だったはずなのに)

彼氏「妹友、もうよせ」

妹友「だってお兄ちゃん」

彼氏「妹ちゃんのいうとおりだよ。約束を破ったのは僕の方だ」

妹友「だって好きだっていう気持はしかたないじゃん。そんなの理不尽だよ」

彼氏「それでも約束したんだし」

妹友「妹ちゃんだっていけないじゃん。だってあの図書館の日にあんたはお兄ちゃんに」

妹「あ、あれは」

彼氏「もうよせ妹友」

妹友「お兄ちゃんはそれでいいの?」


彼氏「お兄さん、いろいろお騒がせしてすいませんでした」

兄「はあ(何が何だかわからねえ)」

彼氏「妹ちゃんもごめんね。うちの妹のことはちゃんと叱っておくから」

妹「・・・・・・謝るのはそこなの」

彼氏「・・・・・・ごめん」

妹友「じゃあ、何であんなことをお兄ちゃんに言ったのよ! 何であんな思わせぶりな態
度をお兄ちゃんに見せたのよ」

彼氏「もうよせ」

妹友「・・・・・・」

妹「・・・・・・いこ」

兄「(俺?)ああ」

妹「・・・・・・」

兄(何が起きたのかさっぱりわからねえ。どうも俺と妹友の仲を妹が嫉妬したとかってい
う単純な話じゃなさそうだ)

妹「・・・・・・」

兄「下りの電車来たけど」

妹「・・・・・・うん」

兄「家に帰るならこれに乗らないと」

妹「うん」

兄「(しゃあねえなあ)ほれ」

妹「あ」

兄「早く来いよ。乗り遅れるって」

妹「わかったから。あんまり強く手を握らないで。痛いから」

兄「さっさと行動しないおまえが悪い」

妹「ごめん」

兄「うるせえよ」

妹「え」

兄「いちいち謝るなって。俺はな(って何言おうとしたんだ俺)」

妹「・・・・・・俺はなって、何?」

兄「俺はさ。つうかよ、あんなやつらなんかどうでもいいじゃん」

妹「何で?」

兄「おまえの親友とおまえの彼氏のことを悪く言って申し訳ないけどよ」

妹「・・・・・・」

兄「あいつらうぜえよな。せっかく家族同士のデートだったのによ。いちいち変な感情を
むきだしにして絡んできやがって」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「おまえが他の男と浮気してたならわかるよ、あいつらの行動も。でもそうじゃねえじ
ゃん。兄妹で一緒にいただけなのに、勝手に俺と妹友のこととか決め付けるし、兄貴と一
緒にいただけのおまえを責めるしよ」

妹「ふふ。そうだね」


<もうあたしを放置しないで>




兄「わけわかんねえよ。俺だって今日くらいはおまえとゆっくりしたかったのに」

妹「うん。災難だったよね」

兄「あいつら勝手に修羅場にしちゃうしよ」

妹「本当に修羅場って感じだったね」

兄「だいたい、俺にとっての修羅場は、女の隣の部屋から実家に引っ越すときだっつう
の」

妹「まあそうか。引っ越すところを女さんに見つかったらどうするの?」

兄「(話題が逸れた。よし。この調子で)客観的に見れば俺は女に振られたんだしさ。し
かも浮気とか不倫みたいな感じだったじゃん?」

妹「うん。さすがに女さんには弁解の余地はないよね」

兄「だから別に見つかったってどうってことはないよ。女に引越しを非難されるいわれは
全くないし」

妹「吊り革って背伸びしなきゃ掴まれない」

兄「ああ、悪い」

妹「・・・・・・気がついてくれた?」

兄「うん」

妹「やっと肩を抱いてくれた。どんだけ姫を待たすのよ。転びそうになったじゃない」

兄「悪いな。慣れてないもんで」

妹「肩を抱かれるなんてあたしだって慣れてないよ。これが二度目だもん」

兄「え? 一度目は彼氏君? それとも他の男?」

妹「一度目はお兄ちゃん。さっき来るときの電車の中で」

兄「おまえなあ。慌てさせるなよ」

妹「こんなにさあ」

兄「何だよ」

妹「こんなに姫が悩んでるのに、お兄ちゃんってどんだけあたしを放置するのよ」

兄「してねえって」

妹「ちゃんとあたしを構わないとパパに言いつけるかね」

兄「それはやめて」

妹「じゃあ、もうあたしを放置しないで。あたしのわがままを何でも聞いて」

兄「何でもって」

妹「嫌ならパパに」

兄「・・・・・・常識的なわがままなんだろうな」

妹「むしろ非常識なわがままってどんなのよ」

兄「まあ、そう言われれば思いつかないけど(本当はいくらでも思いつくけどな。主に性
的な意味で)」


兄「とにかく来週は引越しだ。実家に戻るぞ」

妹「通学大変だね」

兄「いいよ別に。それよか姫と夜一緒に過ごすメリットの方が全然大きいし」

妹「・・・・・・夜一緒のメリットって。お兄ちゃん何か変なことを期待してない?」

兄「深読みすんな」

妹「そういう変なことするのは嫌だからね」

兄「だから変な期待なんてしてねえって」

妹「それならいいけど。じゃあ今日はあたしのためにお兄ちゃんが振り回されちゃった
し」

兄「おまえのせいじゃねえよ。あいつらのせいだ」

妹「とにかくお兄ちゃんに悪いからさ。お詫びにお兄ちゃんが引っ越すときにはあたしが
一緒にいてあげるね」

兄「何言ってるんだよ」

妹「何って言葉のとおりじゃん」

兄「・・・・・・引越しは平日にしようと思ってるんだけど」

妹「何で?」

兄「平日なら女は講義でいないしな」

妹「なるほど。お兄ちゃんにしてはよく考えたね」

兄「してはは余計だ」

妹「まあ、それでもあたしも一緒に行く」

兄「学校は」

妹「休む」

兄「・・・・・・誰が担任の先生に電話するの」

妹「そんなのお兄ちゃんに決まってるじゃん」

兄「・・・・・・」


妹「嫌なの? 姫の願いをかなえるのが。だったらパパに言いつけ」

兄「かなえます。もちろん俺のお姫様の願いなら」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「どうした?」

妹「・・・・・・嬉しい」

兄「え」

妹「引越しの途中に女さんが、お兄ちゃんにごめんとか、本当に愛しているのは兄友じゃ
なくて兄なのって復縁を迫ってきてもちゃんとあたしが女さんを撃退してあげるからね」

兄「ええと」

妹「電車降りよう。誰も邪魔しない家に帰ろう」

兄「うん(やっぱり姫が一番可愛い)」

妹「何か忘れてない?」

兄「ああ(手をつなぎたいのか。恋人つなぎで。でも、今俺がしたいのは)」

妹「へ? あの・・・・・・。お兄ちゃん?」

兄「ご近所さんに見られちゃうかな」

妹「・・・・・・まあ、見られてもお兄ちゃんだからいいか」

兄「兄妹だからな」

妹「お兄ちゃんに肩を抱かれるのはいいけど。ちょっと密着しすぎてない?」

兄「嫌か」

妹「ううん」

兄「それならよかった」

妹「・・・・・・へへ」

今日は以上です

また投下します


<ばかだよお兄ちゃんは>




妹「引越し屋さんって何時頃来るの?」

兄「十時頃だな」

妹「ええ? じゃあ、あと一時間くらいしかないじゃん」

兄「うん」

妹「うんじゃないって。この散らかった部屋の荷造りをわずか一時間でしなきゃいけない
ってことでしょ」

兄「何とかなるよ」

妹「・・・・・・付いて来てよかった」

兄「つうかおまえ、学校休み過ぎだろ」

妹「先生、何か言ってた?」

兄「いや。お大事にって」

妹「よかった」

兄「いや、よかったじゃなくてさ。万一これが親バレしたら、俺勘当されるぞ」

妹「バレなきゃいいんだって」

兄「越後屋。おぬしも悪じゃのう」

妹「越後屋じゃないもん。お姫様だもん」

兄「おまえさ。俺と同じ大学に入るつもりならマジでもう少し真面目に勉強しないとやば
いって」

妹「わかってるよ。明日から頑張る」

兄「この間も同じセリフを聞いたような」

妹「とにかく今はそれどころじゃないでしょ。荷造りしないとやばいって」

兄「まあ、そうだけど」

妹「あたしが指示するからお兄ちゃんは指示どおりに作業して」

兄「ええ?」

妹「絶対その方が早いって。お兄ちゃん、片すのとか苦手だし」

兄「まあそうだけどよ」

妹「じゃあ、姫の指示に従うように」

兄「おまえ、姫って呼ばれることにはまってない?」

妹「・・・・・・うっさいなあ」

兄「じゃあ、姫。指示をくださいな」

妹「まず服からね」

兄「おう」


妹「次は本を箱詰めして。終ったら本棚を分解して箱に入れるよ」

兄「はいはい」

妹「はいは一度ね」

兄「おう」

妹「もっと早くできないの」

兄「無茶言うな」

妹「だったらもっと早い時間に来て作業を始めればよかったのに」

兄「だってよ」

妹「お兄ちゃんって意外と計画性がないよね」

兄「そうじゃないって。ないのは計画性じゃなくて意思の強さだって」

妹「何言ってるのよ。わけわかんないんですけど」

兄「いや、一応前日にここに来て作業しとこうかと思ったんだけどさ」

妹「すればよかったじゃん」

兄「だから意思が弱くてさ」

妹「言い訳すんな」

兄「・・・・・・だってよ。昨日帰ってきて準備しておこうかと思ったんだけど」

妹「面倒くさくなったわけね」

兄「いや。おまえがあんまり可愛らしく俺にまとわりついてくるからさ」

妹「え」

兄「こんなことはもうあまりないだろうし、せっかくだからおまえと一緒にいたいって思
ってさ」

妹「・・・・・・」

兄「今は反省している」

妹「・・・・・・ばか」

兄「わかってるよ」

妹「違うよ。そんなのまた一緒に暮らすんだしいくらでもしてあげるのに。ばかだよお兄
ちゃんは」

兄「う、うん」

妹「まあ今さらそんなことを愚痴っていてもしかたないね」

兄「悪い」

妹「じゃあ、さっさと作業してよ。あと三十分で業者さんが来ちゃうよ」

兄「おお」


<あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないよ?>




妹「ぎりぎり何とか荷作りできたね」

兄「おまえって意外な才能があるのな」

妹「お兄ちゃんが要領悪すぎなんだよ」

兄「そうかなあ」

妹「そうだって」

兄「まあ、これでいつ引越業者が来ても大丈夫だな」

妹「そうだね」

兄「じゃあ少し休憩しようか」

妹「だめ」

兄「何で」

妹「荷造りした段ボール箱をアパートの外まで運んでおこう」

兄「そんなのは業者がやってくれるって」

妹「わかってないなあ」

兄「何が?」

妹「この作戦の重要な目的は敵に知られないうちに密かにこのアパートからお兄ちゃんが
撤退することでしょ」

兄「え? ああ、まあそうだな」

妹「だから平日午前中を作戦開始時間にしたんでしょ」

兄「女は講義中だからな」

妹「それなら万一のことを考えても少しでも早くこのアパートから撤収すべきでしょう
が」

兄「うん」

妹「うんじゃない。わかっているなら休憩とかぬるいことを言うな」

兄「・・・・・・そこまでマジになるほどのことじゃ」

妹「お兄ちゃんは引っ越すところを女さんに見られてもいいの」

兄「まあ、見られないほうがいいから引越は平日に設定したんだけどさ。別に見られたら
見られたで構わねえよ」

妹「目的意識が希薄だよね」

兄「へ」

妹「この作戦の真の目的は卑劣にもお兄ちゃんのことを裏切った女さんに精神的打撃を与
えることでしょうが」

兄「ちょっと待て。そんな目的なんか考えたこともないぞ」

妹「女さんに理解させてあげようよ。いきなり振られたお兄ちゃんの絶望を」

兄「いや。絶望とかしてないし」

妹「帰宅したら突然隣の部屋のお兄ちゃんがいなくなっている。それほどあたしはお兄ち
ゃんにひどい仕打ちをしたんだって女さんに思わせないと」


兄「確信犯だなおまえ」

妹「さあ? どうなのかな」

兄「どうりで俺の引越についてくるってうるさく騒いだわけだ。最初から女に一泡食わせ
るつもりで一緒に来たんだな」

妹「はい、よくできました」

兄「俺はそんなつもりは全然ないぞ。もう女を恨む気持なんか微塵もないんだし」

妹「あたしの大切な家族を傷つけた人には相応の報いを与えないとね」

兄「だから俺は傷付いてないって」

妹「うそ」

兄「うそじゃねえよ」

妹「・・・・・何でひどいやり方で女さんに振られたのに傷付かないのよ」

兄「結果的にそれで姫と仲直りできたから」

妹「え」

兄「おまえには振られたけど、何か前よりおまえとの距離が縮まったみたいだしさ」

妹「・・・・・・」

兄「だからもう女に裏切られたとかどうでもいい」

妹「・・・・・・あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないのよ?」

兄「当たり前だ。今の俺にはそんなことくらいわかってるよ」

妹「だったら」

兄「それでも嬉しいんだよ。姫が手をつないでくれて。一緒に寝てくれて。肩を抱いても
逃げないでいてくれて」

妹「バカみたい。そんなことくらいで」

兄「姫と仲良くできるならもうバカでも何でもいいや」

妹「本当にバカだよ。お兄ちゃんは」

兄「うちの家系は妹スキーばっかなんだな。きっと」

妹「あたしには彼氏がいるんだよ・・・・・・」

兄「わかってるよ」

妹「デートもキスもエッチも彼氏とするんだよ。お兄ちゃんとじゃなくて」

兄「わかってる」

妹「なんでそこまで自虐的な愛情に走れるわけ? あたしのことが本当に好きならそんな
のあり得ないでしょ」

兄「いーや。あり得るね」

妹「何で」

兄「家族だからさ。兄というよりむしろ親父目線なのかもしれない」

妹「親父目線って。パパはあたしに告白したり迫ったりしないよ」

兄「それは悪かった。でももう二度とそんなことはしない」


妹「あたしと彼氏君に嫉妬しないの?」

兄「しないようにする」

妹「どういうこと? 今は嫉妬してるの」

兄「その気持は何とかするからおまえは気にするな」

妹「・・・・・・ちょっとくらいは嫉妬してくれないの?」

兄(え)

妹「ううん。今のは何でもない」

兄「俺さ。おまえのこと見続けるよ」

妹「どういうこと?」

兄「父さんと一緒だよ。おまえが恋愛して結婚して子どもができて幸せになるのをさ」

妹「そんなの何十年もかかるじゃん。お兄ちゃんはその間どうしているの」

兄「もう彼女とかいいや。独身で童貞のまま姫を見守るよ」

妹「そんなのやだよ」

兄「何で」

妹「そんなのパパとママだって許さないと思う。お兄ちゃんにだって普通に幸せになって
欲しいって、両親だって願っていると思うし」

兄「だって、彼女とかできるより姫が幸せな方がいいし。それを気がつかせてくれたわけ
だから、女を恨む気なんかないんだ。だからさ、今日の引越だって別に女に見せ付ける必
要はないけど、あえて避ける必要もないよ」

妹「そんな人生なんてあり得ないよ。お兄ちゃんがよくてもあたしがいや」

兄「わがままだなあ、姫は。簡単なことじゃん。おまえが幸せになってくれれば俺も幸せ
になるんだって」

妹「もうやだ。あたし彼氏と別れるから」

兄「そうじゃねえのに」


<二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください>




兄友「女~、いるか」

兄(げ。兄友の声が廊下から)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ。気にするな。無視無視」

兄友「女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ」

兄(休んでる? じゃあひょっとして隣の部屋に女はずっといたのかな)

引越業者「兄さん、遅くなりました。○○便です」

兄友「あれ? そこは友だちの部屋ですけど、ひょっとして兄って引っ越すんですか」

兄(ええい。こんなときに面倒なやつだ)

兄「ドア開けるぞ」

妹「うん」

兄「どうもご苦労様です」

引越業者「どうも遅くなりました。梱包終ってるようですね」

兄「はい」

引越業者「じゃあ、トラックに積み込んでいいですか」

兄「お願いします」

兄友「よう兄」

兄「おう(女じゃなくてこいつが現われたか)」

兄友「・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?」

兄「まあな(誰のせいだと思ってるんだこのハゲ)」

兄友「おまえも気まぐれだよなあ」

兄(死ね)

兄友「あ。妹ちゃん、久し振り」

妹「・・・・・・お久し振りです」

兄友「相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは」

妹「どうも」

兄友「今日は兄の手伝い?」

妹「はい」

兄(まともにこんなやつを相手にするなよ)

兄友「兄のことが好きなんだねえ」

妹「はい。大好きです」

兄(おい)

兄友「そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな」

妹「そうですね」

兄友「しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?」

兄「実家に戻る」

兄友「何で? 通学つらくなるだろ」


兄「(ふざけるな。ちょっと嫌味くらい言ってやろう)女と隣りだとおまえも女も気まず
いだろうと思ってな」

兄友「ちょっと待て」

兄「何だよ。俺なんか邪魔だろ?」

兄友「俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ」

兄「・・・・・・」

兄友「本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入
れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ」

兄「そういうのいらないから」

兄友「だってよ」

妹「余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは」

兄友「そうじゃないよ」

妹「罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って」

兄友「俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし」

妹「お兄ちゃんの心のケアはあたしがします。あなたと女さんなんかに期待なんかしてい
ません。まして自分たちの心の安定のためにお兄ちゃんを利用なんかさせませんから」

兄友「何か誤解してるよ妹ちゃん」

妹「そう言うのならそれでもいいです。でも一つだけお願いがあります」

兄友「何?」

妹「二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください」

兄友「・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから」

妹「お兄ちゃん?」

兄「兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言って
おいてくれな」

兄友「・・・・・・待てよ」

兄「じゃあ、作業中だから」

兄友「おい。冗談だろ」

妹「冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃ
んにしたんですよ」

兄友「そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ」

妹「じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね」

兄友「せめて女を入れてもう一度だけ話を聞いてくれ。兄を傷つけたままじゃ俺も女も」

妹「お兄ちゃんのことはあたしが家族として責任を持ってケアをしますから。あなたたち
なんかに中途半端な心配をしてもらう必要はないです」

兄(妹姫・・・・・・さすがに半端ねえな)

兄友「ちょっと待ってくれよ。女に電話するから」

妹「ご勝手に。でも、もうすぐ引越のトラックは出発しちゃいますけどね」


今日は以上です

また投下します


<海辺とかドライブしたいな>




引越業者「積み込み終わりましたのでこれから引越先まで配送します」

兄「お願いします。電車で先に家の方に行って待ってますから」

引越業者「わかりました」

兄「・・・・・・落ち着いた?」

妹「最初から最後までずっと落ち着いてるよ」

兄「そうかあ?」

妹「そうだよ」

兄「じゃあそういうことにしといてやる」

妹「何よそのムカつく言い方」

兄「ありがとな」

妹「え・・・・・・。何が?」

兄「俺、父さんや母さんと同じ心境になってこれからはずっと姫を守るんだって思ってた
んだけどさ」

妹「うん。何度も聞いたそれ」

兄「図々しいのにも程があるくらい、まだ俺って思い違いしてたんだな」

妹「何言ってるのかわからない」

兄「守るどころかおまえに守られちゃったよ」

妹「・・・・・・」


兄「ありがと。さっきは助かった。兄友にあそこまで言ってくれて」

妹「兄妹じゃん。どっちが守るとかどっちが守られるなんて決めなくていいんだよ」

兄「うん、そうだな」

妹「頼りない姫だって大事な人のためには頑張れるの」

兄「うん」

妹「さっき兄友さんに言ったことは本当だよ。お兄ちゃんのケアはあたしがする。女さん
なんかに余計なことはさせないから」

兄「俺、おまえの兄貴でよかったよ」

妹「・・・・・・うん」

兄「おまえ、もしかし」

妹「泣いてないよ! それよかさっさと行かないとまたあのうざい人が戻って来ちゃうよ。
今度は女さんも一緒かもしれないし」


兄「しかし電車で何度も往復もするのって疲れるよな」

妹「本当に毎朝大学まで通えるの?」

兄「大丈夫。それに家に帰れば姫がいると思えばさ」

妹「うん。あたしもそれは嬉しい」

兄「だから心配するなって」

妹「朝何時ごろに出かけるの」

兄「一限がある日は七時頃かな」

妹「そうか」

兄「何で?」

妹「別に何でもない」

兄「うん」

妹「結局兄友さん戻ってこなかったね」

兄「そうだなあ」

妹「女さんと連絡取れなかったのかな」

兄「さあ(女って実は隣の部屋にいたんじゃねえかな。大学に来なかったって兄友が言っ
てたもんな)」

妹「何考えてるの」

兄「いや。車の免許でも取りに行こうかなって」

妹「え? 本当」

兄「うん」

妹「やった」

兄「何で喜んでるの」

妹「ドライブとかできるじゃん。あたし混んだ電車って好きじゃないし」

兄「じゃあ父さんに頼んでみようか。車があれば講義のない日とかはおまえの塾の迎えに
行けるしな」

妹「マジで車で迎えに来てくれるの?」

兄「うん」

妹「早く免許取ってね。あたし車でどっか行くの大好き」

兄「そういや両親が忙しすぎて最近家族でお出かけとかしてないもんな」

妹「そうだね」

兄「免許取れたら少し遠出してみようか」

妹「うん、するする」

兄「・・・・・・やっと落ち着いてくれたな」

妹「もともと落ち着いてるって」

兄「はいはい」

妹「何かムカつく」

兄「悪い。で、どこ行きたい?」

妹「海辺とかドライブしたいな」

兄「いいね」


<紐の千切れた風船みたいに>




兄「さっき荷造りしたばかりなのにもうほどくのか」

妹「しかたないじゃん。しないと生活できないよ」

兄「とりあえず今日はもうやめようぜ。明日も学校だし」

妹「だめだって。面倒くさくなっちゃうから今やっておいた方がいいって」

兄「今日は疲れたしなあ。明日も講義だし、片付けは週末に絶対やるからさ」

妹「だってこれじゃあ寝る場所もないじゃん」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。まさか、狙ってたんじゃ」

兄「違うって。俺はリビングのソファで寝るから」

妹「エッチ」

兄「おまえなあ」

妹「まあ、いいか。部屋が片付くまではあたしのベッドで一緒に寝る?」

兄「いいのか」

妹「もともとそれ狙いだったくせに」

兄「本当に違うって」

妹「・・・・・・絶対に変なことしないでよね」

兄「しないよ。今まで一緒に寝たときだっておとなしくしてただろうが」

妹「あたしに欲情したくせに」

兄「あれは」

妹「あたしの胸が当たって興奮しちゃったくせに」

兄「いや。あの程度の胸なら本当は大丈夫なんだ」

妹「死ね」

兄「・・・・・・俺が姫が嫌がることをするわけないだろ」

妹「うん。そこだけは信用してるよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がることだけは絶対にしな
いもんね」

兄「うん。常々そうありたいと精進している」

妹「何でそんなに必死なのよ? そんなにあたしと一緒に寝たいの」

兄「えーと」

妹「まあいいか」

兄「何が」

妹「お兄ちゃんのケアはあたしがするって大見得切っちゃったしね」

兄「ああ、兄友との話ね」

妹「だから一緒に寝てあげる」


兄「なあ」

妹「狭いしこれじゃ動けない」

兄「俺のせいかよ」

妹「あたし、これ以上もう壁の方には行けないよ。お兄ちゃん何であたしの方に摺り寄っ
て来るのよ」

兄「おまえが俺の手を引っ張ってるんだろうが」

妹「言い訳するな」

兄「・・・・・・」

妹「ねえ」

兄「何」

妹「何で離れちゃうの?」

兄「おまえが狭いって言うから」

妹「もっとこっち来てよ。離れていられると毛布に隙間にできて寒いじゃん」

兄「おまえなあ。どっちなんだよ」

妹「お兄ちゃん、姫のわがままは何でも聞いてくれるんじゃなかったけ」

兄「常識的なやつならな」

妹「じゃあ抱きしめてよ。両手であたしを」

兄「・・・・・・却下」

妹「非常識なお願いだった?」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「どうした」

妹「つなぎとめてよ」

兄「はあ?」

妹「つなぎとめて。あたしが紐の千切れた風船みたいにどっかにふらふら漂っていかない
ように」

兄「・・・・・・何の話?」

妹「あたしはずっとここにいたいの。お兄ちゃんとパパとママのところに」

兄「ずっといればいいじゃん。俺も父さんと母さんもおまえの側から離れない、つうか離
さないし」

妹「・・・・・・うん」

兄「・・・・・・」

妹「わかった。もういいや。平気だから」

兄「・・・・・・わかったって」

妹「ちょ・・・・・・ちょっと強く抱きすぎ」

兄「こんなものでどう?」

妹「それじゃ弱すぎ。もっと強くあたしをつなぎとめて」

兄「・・・・・・うん」


妹「こら起きろ」

兄「・・・・・・へ」

妹「何時だと思ってるの。さっさと起きてよ」

兄「ああ、おはよ。今何時?」

妹「六時だよ」

兄「そか。・・・・・・ってはあ? 起きるの早過ぎだろう」

妹「七時には家を出るんでしょ。今日は一限あるし」

兄「あ、そうか。ここは実家だったな」

妹「実家どころかあたしの部屋だっつうの」

兄「今日一限があるの何で知ってるんだよ」

妹「ほれ。そこ見てみ」

兄「うん?」

妹「ね」

兄「俺の予定表、コピーしたの」

妹「うん。居間のプリンターのコピー機能使った」

兄「何でそれがおまえの部屋の壁に貼ってあるんだよ。てか、ハートの模様だらけになっ
てるし」

妹「お兄ちゃんの行動を管理してあげる」

兄「え」

妹「美人秘書ができたみたいで嬉しいでしょ」

兄「いやいや」

妹「・・・・・・まだ寝ぼけてるの」

兄「んなことはな・・・・・・っておい」

妹「これでキスしたのニ回目だね」

兄「これも仲のいい兄妹なら普通の行動なのか?」

妹「そうだよ」

兄「そうか」


<ほんの少しの間だけ思考停止してもいいよな>




兄(きっかり七時に妹と手を恋人つなぎをしながら家を出たんだけど)

兄(そんで駅前まで妹に送られて。妹の電車は下りだから改札を入ったところで・・・・・・)

兄(・・・・・・結構、人もいたんだけどなあ)

兄(ここでバイバイだねって、妹にキスされて)

兄(俺、いい兄貴になる予定だったよな。仲のいい兄妹に戻ろうって思って)

兄(普通の仲のいい兄妹って別れ際に口にキスしたりするものなのか)

兄(・・・・・・考えるまでもない。んなことする兄妹なんていねえよ)

兄(妹は、兄妹の数だけ兄妹の関係があるんだよって言ってたけど)

兄(どう考えてもあり得ないよな。だいたい、彼氏に見られたら妹だって言い訳できねえ
だろうに)

兄(俺、本当に姫に振られたんだよな)

兄(いや、それは間違いないし。その後だって何回も妹にダメだしされた)



妹『あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないよ?』

妹『あたしには彼氏がいるんだよ』

妹『デートもキスもエッチも彼氏とするんだよ。お兄ちゃんとじゃなくて』



兄(あそこまではっきり言われたら誤解の余地なんかねえ)

兄(デートもキスも彼氏とだけするんじゃなかったのかよ)

兄(どう考えても俺ともしてるじゃん)

兄(妹のやつ、俺に気を遣ってるのかな。基本、家族思いの優しい子だし)

兄(自分に振られて、しかも女にも振られて傷付いた俺のことを思いやって、そのために
彼氏とも会わないで俺にベタベタしてくれてるんだろうか)

兄(・・・・・・姫の性格なら十分にあり得るよな)

兄(どうすりゃいんだよ。正直、俺はそんなあいつの態度が嬉しいし)

兄(しかもこれ)

兄(どう考えても五時前には起きて作ったんだろうな)

兄(弁当・・・・・・。大学生なんだから昼飯なんてどうにでもなるのに)

兄(正直、今はすごく幸せだけど、同時にすげえ不安だ。こんなことをしてたら妹だって
そのうち彼氏に愛想付かされるんじゃねえか)

兄(それで妹が悲しむなら本末転倒じゃん)

兄(あ、駅に着いた。降りよう)

兄(駅から大学までがまた結構距離があるんだよな)

兄(・・・・・・女と兄友には会わないようにしねえとな)

兄(つうか今日も一日女と全部講義が一緒じゃんか)

兄(鬱だ)


兄(メール?)

兄(姫からだ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:無題
『ちゃんと大学に着いた? 電車乗り過ごしてないでしょうね』

兄(大丈夫だよ姫)

『しっかり勉強しなさいよ。せっかくお弁当まで作ってあげたんだから』

兄(うんうん)

『お弁当の中身なんだと思う?』

兄(オムライス? さわらかな)

『それはお弁当箱を開けるまで秘密です。その方が楽しみでしょ』

兄(・・・・・・可愛すぎる。彼氏君には申し訳ないけど、やっぱり今の状態は俺にとって幸せ
すぎて、姫と距離を置くなんてできねえ)

『あたしはこれから体育です。お兄ちゃん、あたしの体操服姿を見たことがないだろうか
ら、特別に写メ送ってあげる。いつもこんな格好で頑張ってるんだよ』

兄(・・・・・・ほ、保存しないと。夢にまで出てきた妹の)

『じゃあね。講義頑張ってね。あと、今夜もパパとママは年末進行とかで帰れないんだっ
て。さっきメール来た。お兄ちゃんが家に帰ってきくれてパパもママも安心したみたい
よ』

『夕食作っておくけど何食べたい? 午後三時ごろまでにメールしてね。買物もあるか
ら』

『じゃあね(はあと)』



兄(・・・・・・少しだけ、ほんの少しの間だけ思考停止してもいいよな)

兄(この幸せをしばらく味わったってばちは当たらないだろ)

兄(いろいろ先々のことはそれから考えればいいや。今は素直に可愛い姫の気持に応えよ
うぜ)

兄(何かもう大学でぼっちでも女に手ひどく裏切られていても、そういうことはどうでも
よくなってきた。大学なんて勉強してりゃいいんだ。合コンとかサークルとかどうでもい
いや)

兄(家に帰れば妹がいる。一緒に寝て朝起こしてくれて朝食を作ってくれてお弁当を持た
せてくれて。こんな幸せが我が家の他のどこあるっていうんだ)

兄(いつまで続くかわからない幸運だけど、これだけでもう、俺は一生一人身で妹の幸せ
を眺めていられる自信がある)

兄(・・・・・・早く昼休にならねえかな。中庭で妹の弁当を食べたいな)


兄(やっと昼休みだ)

兄(午前中の講義には女の姿がなかったけど、何かあったのかな)

兄(いや。気にしちゃダメだ。一年間はこういう状況が続くんだし、女と顔を合わせたく
ないなんて考えたら講義を全部落としちまう。平常心で対応しないとな)

兄(中庭で妹のお弁当を食おう。これだけを楽しみにしてたんだし)

兄(ではいざ弁当箱オープン)

兄(・・・・・・まさかのキャラ弁。しかもこれベジータじゃん)

兄(意表を付かれ過ぎて、ははは)

兄(姫、大好きだぞ。家族的な意味で)

?(可愛いお弁当。彼女が作ってくれたの?)

兄「へ」

?「こんにちは兄君」

兄「え、ええと」

?「あたしのこと知らない? ほとんどの講義が被ってるのに」

兄「ごめん。誰だっけ」

?「ひっどーい。あたしってそんなに存在感薄いかな」

兄「いや。俺って大学で知り合いとかほとんどいないからさ」

?「兄君が? 嘘付け、リア充のくせに」

兄「いや。君は?」

?「女友って言うの。遊び人の君が手ひどく振って傷つけた女の友だちだよ」

兄「いや、振るって。女の知り合いなの?」

女友「うん。大学に入って仲良くなったんだけどね」

兄(振るって何だよ振るって。振られたのは俺の方じゃんか)

女友「そのお弁当、新しい彼女に作ってもらったの?」

兄「そんなんじゃねえよ」

女友「女は悩んでたよ。昔から好きだったあなたとようやく結ばれたのに、すぐに振られ
ちゃったって」

兄「・・・・・・女がそう言ったのか」

女友「厳密に言うとそうじゃないけどね。共通の知り合いがさ、女がそう言って悩んでた
って言ってたの。まあ、女の方も明らかに最近様子がおかしかったしね」

兄「そうか」

女友「・・・・・・ふーん」

兄「何だよ」

女友「何も言い訳しないんだね」

兄「え」


兄「え」

女友「気に入った」

兄「何だよ」

女友「いさぎいいね君。何にも言い訳しないし、卑屈にもならないで堂々としてるし」

兄(そうかなあ)

女友「まあ正直、好きだ嫌いだなんて個人的な問題じゃん?」

兄「そうかもな」

女友「そんなことを知り合い中に触れ回ってる女の友だちもどうかと思うしね」

兄「まあ、好きにすればいいんじゃね」

女友「余裕だね。そんなに愛されてるって自信があるんだ。そのお弁当の女の子に」

兄「自信なんて全然ないし、余裕だってねえよ」

女友「そうなの?」

兄友「まあね。でも、知り合いでもないあんたには関係ないもんな。変なこと言って悪か
った」

女友「・・・・・・へえ。こんなところにいたんだね」

兄「何だよ」

女友「正直、大学なんかに期待してなかったんだけどな」

兄(何言ってるんだこいつ)

女友「撮影現場にいるような男より格好いいじゃん。あたしってラッキーだな」

兄「何言ってるんだおまえ。頭大丈夫か」

女友「・・・・・・大学なんかで運命の出会いがあったとはね」

兄(何か関わりにならない方がよさそうだな)

女友「ふふ」

兄(ただ。こいつ、改めて眺めてみるとすげえレベル高いな。何、このスタイル。むき出
しの足もありえないほど長くて細いし。背も高い。こいつ、モデルかなんかやってるの
か)

女友「兄君、どうした」

兄「・・・・・・どうもしねえよ。昼飯食いたいからもう放っておいてくれ。女のことなら話す
ことなんてねえよ」

女友「兄君さ。今、あたしの身体をガン見してたでしょ」

兄「してねえてって」

女友「別に恥かしがらなくてもいいよ。あたし、この雑誌でモデルしてるんだ」

兄「何これ?」

女友「ファッション雑誌じゃん。表紙見てみ」

兄「・・・・・・これっておまえ?」

女友「可愛いでしょ」

兄「・・・・・・」


今日は以上です
次回は別スレを更新した後の投下になります


<あたしの勝ちだ>




女友「隣に座ってもいい?」

兄「迷惑です」

女友「そう? じゃあお言葉に甘えて」

兄「おまえちょっとは人の話を聞けって」

女友「聞いてるって。何カリカリしてるのよ。ひょっとして生理?」

兄「おまえってそんなにひどいの」

女友「まあ、わりと重い方かな。って何で人の生理の事情をさりげなく聞いてるのよ」

兄「おまえが勝手にペラペラ喋ったんだろうが」

女友「変態、セクハラ男」

兄「おまえに言われたくねえよ」

女友「あんたさあ。そのお弁当の彼女にもそんなセクハラ発言してるの?」

兄「してねえよ(あれ? ちょっとはしてるかな。つうかしてたよな)」

女友「あんた最低だね」

兄「つうかさ。俺は女を手ひどく振ってなんていねえし。その話を聞きたいならここにい
るだけ無駄だぞ」

女友「あ、それはもういいや」

兄「何だって」

女友「どうでもいい。あたしはあんたに興味を持ったんだから」

兄「いい加減にしろ」

女友「え」

兄「俺はこれから大切な人が作ってくれた弁当を食うんだからおまえは邪魔。どこかに行
っちゃって」

女友「へえ」

兄(とにかく弁当を食おう。まずベジータの髪の海苔の部分を)

女友「その女の子って君にとってそんなに大切な子なんだ」

兄「おまえ、まだいたの」

女友「うん」

兄「うんって、おまえ」

女友「まだ、感想を聞いてないし」

兄「感想って言われても、まだ食ってないし」

女友「あんたねえ。誰が他の女が作った弁当の感想を聞いたのよ? 表紙のあたしの写真
の感想だよ。どう? 可愛いかな」


兄「可愛いいんじゃねえの」

女友「投げやりだなあ」

兄(正直に言えばクソビッチとしか思えんわ。うちの姫のセーラー服姿とかこいつに見せ
て、絶望させてやりたいくらいだ。可愛いって言葉の意味を思い知らせてやりたい)

兄(いかん。とにかく弁当を食って妹に感想メールを送らないと)

兄(・・・・・・食ってはいるが落ちつかん。せっかくの姫の手づくり弁当なのに、何でこんな
雰囲気で食わなきゃいかんのだ)

兄(女友って何考えてるんだろ)

女友「あはは。やっぱり我慢できないであたしの方を見た」

兄「何だよ」

女友「あたしの勝ちだ」

兄「何言ってるんだよ」

女友「あたしは彼女の手作り弁当に勝ったのね」

兄「・・・・・・意味わかんないんだけど」

女友「だってさ、あんたお弁当に集中できないであたしの方をちらっと見たじゃん。だか
ら、あたしの勝ち」

兄「真面目な話、そろそろ一人にしてくれないかな」

女友「何で?」

兄「何でって、ゆっくり飯を食いたいし、おまえだってこれから昼飯だろ」

女友「ダイエット中なんだ」

兄「それ以上やせる必要なくね?」

女友「エッチ」

兄「何でだよ」

女友「ねえねえ。そのお弁当作った子の写メとかないの?」

兄「・・・・・・何で?」

女友「女ちゃんだってそれなりに綺麗じゃない? 黙ってれば」

兄「(よほど自分に自信があるのか、失礼な言い方だな。でもまあ黙ってればと言うのは
正しいかもしれん)まあそうだね」

女友「そんな女ちゃんを振るくらいに君を夢中にさせた子を見てみたいから」


<お姫様フォルダー>




兄「だから振ってねえって」

女友「じゃあ、まだ女ちゃんと付き合っているの? ひょっとして二股かけてるんだ」

兄「違うって」

女友「じゃあどういうことよ? だってもう付き合ってないんでしょ」

兄「うるせえなあ。俺が女に振られたんだよ」

女友「本当かなあ。兄友君の話と全然違うじゃん」

兄(やっぱり兄友が変な噂を言い触らしてたのか。あいつ昨日は必死に俺に謝ろうとして
たから、兄友にも罪に意識があるんだって思ったけど。兄友をはねつけた妹の判断の方が
正しかったのか)

女友「まあいいか。君のいうことが本当ならそのお弁当の子ってそんなに可愛くないんだ
ろうなあ」

兄「(姫が可愛くない? ふざけるな)何でそう思う?」

女友「だって女に振られたからしかたなく二番目の子で我慢してるってことじゃない?」

兄「(もう我慢できん。許せ妹)可愛くないとかふざけんな。ほら、写メだ」

女友「どれどれ。スマホ貸してよ。よく見えないじゃん」

兄「・・・・・・」

女友「・・・・・・うそ」

兄「何が?」

女友「超可愛いじゃんこの子。セーラー服ってことは高校生か。やだ、すっぴんなのにこ
んなに可愛いんだ」

兄「(それ見ろ)まあな」

女友「この子、本当にあんたの彼女なの?」

兄(え)

女友「君のことちょっといいなって思ったのは本当だけどさ。それにしてもこんなに可愛
い子が好きになるほどの男とは思えないんだけどなあ」

兄「言いたい放題言いやがって(でも本当のことだ。実際俺は妹に振られたんだし)」

兄(そろそろこいつは妹だって種明かしするか。)

兄「まあ実はそいつは」

女友「あ、体操服だ。何々、この子こんな写真まであんたに送ってくるの? マジ信じら
れないし」

兄「何勝手に人の写真フォルダーを開いてるんだよ」

女友「このフォルダー名、『お姫様フォルダー』って言うんだ。あははは」

兄「おいやめろ・・・・・・」


女友「何だか私服とか制服とかいっぱい画像があるんだね。カメラ目線だから隠し撮りっ
てわけじゃなさそうだし」

兄「もういいだろ。返せよ(いや。それは妹が送ってくれたやつだけど最初の方のはほぼ
全て隠し撮りだし)」

女友「はいはい。ほら返すよ」

兄「全く」

女友「でも確かに彼女可愛いわ。女ちゃんじゃ敵わなかったのもわかるなあ」

兄「さっきから一々上から目線だよなおまえって」

女友「本当はこの高校生の子と付き合いたかったから、女ちゃんを振ったんじゃないの」

兄「違うって」

女友「でもまあこれだけ可愛い子と付き合ってると他のことなんかどうでもよくなっちゃ
うかもね」

兄「何の話? つうか本当はこいつは俺の」

女友「君って大学で友だち作ろうとしないし、合コンも断ってるらしいじゃん」

兄「そういうのに興味ねえの。だいたい俺ってぼっちだし」

女友「この子ってどこに住んでるの?」

兄「(どこって同じ家だよ)いや、ここから電車で一時間半くらいのところ」

女友「紹介して」

兄「何だって?」

女友「彼女に会わせて」

兄「何でだよ」

女友「うちの事務所に紹介したいから。これだけ可愛ければすぐに人気モデルになると思
うよ」

兄「そういうの興味ねえから」

女友「あんたになくてもこの子には興味あるかもしれないじゃん」

兄「断る」

女友「ははーん」

兄「何がははーんだよ」

女友「やっぱり紹介できないんだ。本当はこの子、彼女でも何でもないんでしょ。君が勝
手に片想いしてるだけで」

兄「何だと(いや、それって本当のことだな)」


<姫を舐めるなよ>




女友「どういう関係なのかなあ。ひょっとして君はこの子の家庭教師をしてるとか?」

兄「違うね」

女友「じゃあ、親戚の女の子だ。単なる仲のいい従姉妹なんでしょ」

兄「(う。だんだん真実に近づいてきた)違うよ・・・・・・」

女友「紹介できないなんて何か怪しいじゃん。彼女じゃないから紹介できないんでしょ?
 あたしに見栄を張っちゃたんじゃないの」

兄「そこまで言うなら紹介してやろうじゃねえか(俺、何言ってるんだ)」

女友「やった。じゃあ、平日は彼女も高校があるだろうから今度の土曜日でどう?」

兄「今度の土曜日って、明後日じゃねえか(つうかこいつは実は妹だよって言うつもりだ
ったのに)」

女友「いいじゃん別に。どうせデートなんでしょ。ちょっとだけデートの時間を割いてく
れればそれでいいのよ」

兄「とにかく聞いてみるよ」

女友「そうして。じゃあ話がまとまったら連絡してね」

兄「連絡って言われても」

女友「ああ、そうか。じゃあアド交換しようか」

兄「・・・・・・」

女友「感謝しなさいよ。大学の男にアドレス教えるの、君が初めてなんだから」

兄「そんなこと知るか」

女友「強気だねえ。自分の彼女が美少女だとこうも強気になれるのかなあ。別に彼女が可
愛いのなんて君の手柄でも何でもないのにね。まあ彼女が君の本当の彼女だとしたらの話
だけどね」

兄「いちいちムカつくやつだな。おまえ友だち少ないだろ」

女友「こう見えても男の子のファンが多いのよあたし」

兄「モデルって同性に支持されなきゃいけないんじゃねえの」

女友「・・・・・・へえ。よくわかってるじゃん」

兄「いや、何となくだけど」

女友「写真のあたしは女の子にも人気あるから平気だよ。生身のあたしの方はともかく」

兄「(うん? 何かちょっと真面目な顔したぞ)そうなんだ」

女友「じゃあね。連絡して」

兄「・・・・・・」


兄(どうしよう。売り言葉に買い言葉で変なことを約束しちゃったよ)

兄(ここまで来たら今さら妹でした何て言えねえ)

兄(土曜日は妹が忙しいことにしようそうしよう)

兄(・・・・・・)

兄(いや。もう姫に嘘をつくのはやめだ。本当のことを言って、その上で女友に怒られば
かにされれば済む話だ)

兄(よし。そうしよう。もう小細工は弄さない)

兄(ベジータのキャラ弁食おう)

兄(・・・・・・おいしい)



妹「あ、おかえりお兄ちゃん」

兄「・・・・・・ただいま」

妹「どうだった?」

兄「決まってるだろ。すげえおいしかったよ」

妹「そうか。あれベジータなんだよ」

兄「それくらい見ればわかるって」

妹「お兄ちゃん好きだったもんね」

兄「うん。ありがとな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあシャワー浴びてくるかな」

妹「・・・・・・」

兄「えーと」

妹「何があったの? 女さんか兄友さんに何か言われた?」

兄「今日はその二人とは顔を会わせてもいねえよ」

妹「じゃあ何があったの」

兄「何もないけど」

妹「姫を舐めるなよ」


兄「え」

妹「何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるのよ」

兄「・・・・・・」

妹「何年お兄ちゃんと家族でいたと思ってるの」

兄「それは多分十六年か十七年間だと思うけど」

妹「それだけ妹やってるとね。ベテランの妹になるのよ」

兄「何だそれ」

妹「さっさと話しなさいよ。何でお兄ちゃんが悩んでいるのか」

兄「別に悩みなんかないって」

妹「うそ。今のお兄ちゃん悩んでるときの雰囲気だもん」

兄「・・・・・・何なんだよいったい」

妹「女さんにひどいことでも言われたんでしょ」

兄「だから今日はどの講義にも女はいなかったって」

妹「じゃあ兄友さん関係?」

兄「いや。あいつとも今日は会ってねえ」

妹「じゃあ何で悩んでるの?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・あたしにだけは何でも話してよ。二人きりの兄妹じゃない」

兄「(そうだな。妹には嘘をついちゃいけなんだ)わかった。実は」

妹「何だそんなことか」

兄「売り言葉に買い言葉でさ。ついおまえのこと妹だって言えなくなっちゃってさ。本当
にごめん」

妹「そんなに謝らなくてもいいよ。それに女友さんにそんなに可愛いって誉められるなん
てちょっと嬉しいし」

兄「おまえ女友のこと知ってるの?」

妹「あたしの年齢くらいの女の子ならみんな知ってると思うよ。ほら、この人でしょ」

兄「ああそうそう。この表紙を見せられたんだよな」

妹「最近人気が出てきているモデルだよ。大学生とは知ってたけどお兄ちゃんと同じ大学
だったんだ」

兄「こんなのが人気あるのかよ。これなら姫のほうが何百倍も可愛いのに」

妹「・・・・・・」

兄「あ。悪い」

妹「謝るな。むしろもっと誉めてって言ったでしょ」

兄「そうだった」

妹「じゃあ、女友さんにメールして土曜日の時間と待ち合わせ場所を決めて」


兄「はい?」

妹「はいじゃない。さっさとメールしちゃってよ」

兄「一緒に行ってくれるの」

妹「当然じゃない」

兄「何でまた。あ、ひょっとしておまえモデルとか芸能界とかに興味があるのか」

妹「んなわけないでしょ。そんな時間はないよ。ただでさえお兄ちゃんと同じ大学に行く
のに偏差値が足りないのに、そんなことしてたら勉強時間がなくなっちゃうじゃん」

兄「じゃあ何で女友に会おうなんて思ったんだよ」

妹「気に食わないから」

兄「へ」

妹「お兄ちゃんが女友さんにばかにされるなんて我慢できないから」

兄「いや、でも女友の言っていることは嘘じゃねえし」

妹「何が」

兄「俺、おまえに振られてるしさ。きっと兄貴じゃなかったら、俺なんかじゃおまえとは
口を聞くことすらできなかったろうし」

妹「いい加減にしないと怒るよ」

兄「だってよ」

妹「さっきからデモデモダッテとかうじうじ言うはよしなよ」

兄「う、うん」

妹「あとさ。土曜日はお兄ちゃんはあたしの手を握ったり肩を抱いたりしちゃだめだよ」

兄「・・・・・・え」

妹「あたしの方から手をつなぎに行ったり抱きついたりじっと見つめたりするからね」

兄「何で?」

妹「あたしの方がお兄ちゃんに夢中だっていうことを女友さんにわからせるためだよ。お
兄ちゃんはそんなあたしに半分うんざりしているようなクールな雰囲気を出してね」

兄「無理だよ」

妹「それくらいできるでしょ」

兄「おまえにそんなことされたらきっと嬉しくてにやにやしちゃうと思う」

妹「・・・・・・もう。仕方ないお兄ちゃんだ」

兄(姫よ。何でそこで真っ赤になる)


妹「早くしないと待ち合わせに遅れちゃうよ」

兄「う、うん」

妹「お兄ちゃんちょっと緊張しすぎ」

兄「だってよ。おまえと俺が恋人同士なんて」

妹「・・・・・・お兄ちゃんさ。まさかあたしたちが本当の恋人同士の関係になるなんて期待し
てるんじゃないでしょうね」

兄「ば、ばか。そんなこと考えてるわけねえだろ」

妹「それならいい」

兄「大切な妹にそんな変な感情を抱くわけねえだろ」

妹「だってお兄ちゃんには前科があるし」

兄「だからあれは謝っただろ。もう二度と変なことは考えないって」

妹「本当?」

兄「誓って本当だ」

妹「じゃあ何で今朝あたしが起きたとき、あたしの身体はベッドの上でお兄ちゃんの手と
足でがっちりとホールドされてたのかな?」

兄「言い訳してもいいか」

妹「いいよ」

兄「俺はもともと姫から三十センチ以上離れていようと努力してたんだ。これは本当だ
ぜ」

妹「努力とかどうでもいいし。結果が全てでしょ」

兄「とにかくそうやって努力してたらおまえが突然俺の手を引いて自分の体の方に俺を引
き寄せ」

妹「まあ、寝ぼけてるときのことまでは責任持てないよね」

兄「・・・・・・なあ」

妹「意識のないときの自分の行動を律することはできないしね。まあ自分でも知らない真
の願望が無意識に行動に出てしまうということはあるのかもしれないけど」

兄「おまえ本当によかったのか」

妹「何よ。お兄ちゃんに抱きしめられることくらいもう慣れたよ」

兄「恋人の振りをするなんてさ。万一彼氏君に知られたらおまえだってまずいだろ」

妹「あ、お兄ちゃんが気にしてたのはそっちか」

兄「別に俺が女友にバカにされようが放っておけ。おまえが心配することはねえよ」

妹「放っておかないし。心配もするよ。大切な兄貴のことだもん」

兄「え」

妹「あの人じゃない?」

兄「ああ、そうだな」

妹「お兄ちゃんは何もしなくていい。と言うか何もしないほうがいい」

兄「お、おう」


今日は以上です


<土曜日のデート>




女友「こんにちは。兄君」

兄「よう」

女友「偉い偉い。すっぽかさずにちゃんと来たんだ」

兄「何でだよ。来ない理由なんてないじゃん」

女友「強気だねえ。まあ無理もないか」

兄「・・・・・・」

女友「こんにちは」

妹「どうも」

女友「あれ? どうして兄君の背中に隠れちゃうの? あたしってそんなに恐いかなあ」

兄(姫め。おまえが初対面の女相手に俺の後ろに隠れるような殊勝な性格かよ。何企んで
るんだ)

女友「ちょっと。ちゃんと紹介してよ」

兄「ああ。こいつは俺のいもう・・・・・・(って痛っ)」

女友「今何って言ったの」

兄「・・・・・・俺の彼女。妹っていう名前ね」

妹「・・・・・・こんにちは」

女友「こんにちは。兄君の親友の女友だよ」

妹「・・・・・・」

兄「誰が親友だ誰が。おまえとは昨日知り合ったばかりだろうが」

女友「妹ちゃんっておとなしくて本当に可愛いなあ。何かお人形さんみたい」

兄「まあね(性格はそんなにおとなしくないんだけどな)」

女友「それにしても兄君なんかがよくもこんなに可愛い子をゲットできたね。とっても不
思議」

兄「うるせえ(全くもってそのとおりだけど)」

妹「・・・・・・」

女友「やだ。冗談だって。そんなに恐い目で睨まないでよ。兄君は十分に格好いいよ」

妹「・・・・・・」

女友「でも、おとなしいお人形さんみたいな子かと思ったら意外と気が強いのね。ますま
す気に入っちゃった」

兄「じゃあ、約束どおり紹介もしたことだし、俺たちもう行くわ」


女友「何言ってるのよ。まだ会ったばっかじゃん。話もこれからだし」

兄「話って何だよ(嫌な予感しかしねえ)」

女友「ね? ちょっとお茶でも飲もうよ妹ちゃん」

妹「・・・・・・はい」

女友「やった」

兄(え? 何でだよ。いったい姫のやつ何を考えてるんだ)

女友「無理言っちゃったからここはあたしがご馳走してあげるね。何でも好きなもの頼ん
でいいよ」

兄「いいよ。俺がおごるよ(こんなやつにご馳走されたら後が恐い)」

女「そう? じゃあ遠慮なく」

兄「おまえはどうする?」

妹「・・・・・アイスティー」

兄「何か食えばいいじゃん」

妹「あまりお腹空いてないし」

兄「じゃあ、この間一緒に食べたフルーツパフェにしろよ。あれ、美味しかったろ」

妹「だってあれすごく量が多いし・・・・・・じゃあ兄君も一緒に食べてくれる?」

兄「そうしようか」

女友「へえ。君たち仲がいいねえ」

妹「はい」

兄(おい)

女友「あたしもここの名物のジャンボフルーツパフェにしよっと。あとコーヒーね」

兄「(おいおい。遠慮しねえやつだな)おまえダイエットしてるんじゃねえの」

女友「今日はお休みする」

兄「あそ」

女友「そんなことはどうでもいいのよ。くだらない」

 そう吐き棄てるように言った彼女は、突然今までのような気楽な様子とは一変した表情
を隠さなくなった。


<いい加減に嘘付くのはやめようよ>




兄「くだらないって何だ。おまえが誘ってきたんだろう」

女友「あんたは知らないでしょうけどね。あたしは女ちゃんとは友だちなの」

兄「それは聞いたよ」

女友「親友と言ってもいいかも」

兄「大学に入って知り合ったのにもう親友なのかよ」

女友「悪い? モデルなんかやってるから学内でもサークルでも浮きまくっていたあたし
に、自然に声をかけてくれて一緒にいてくれたのが女ちゃんなんだよ」

兄「そうなのか(女からはそんな話聞いてねえけど)」

女友「モデル仲間ともそんなに仲良くないしさ。大学で友だちができるかなと思ってたら、
何か知らないけどみんなに敬遠されちゃって。こんなに見た目がいいのに実はぼっちなの。
あたしは」

兄(そういうこともあるんだな。リア充の典型みたいな女なのに)

女友「だからあたしに声をかけてくれた女ちゃんには感謝してるし、あたしは彼女のこと
を勝手に親友だと思ってるよ」

兄「・・・・・・そうか」

女友「それでも最初の頃はあまり彼女とは一緒にはいられなかった。その頃の女ちゃんに
は彼氏がいたからね」

兄「・・・・・・」

女友「それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏
と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの」

兄「でも女にはそのとき別の男がいたんじゃねえかな。確か兄友とかっていうチャらい男
がさ」

女友「兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだ
って。女ちゃんはそう言ってたけど?」

兄(何言ってやがる。ふざけんな)

女友「その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだって
さ」

兄(・・・・・・ここまで酷い筋書きを仕組まれるともう反論する気すらしねえ)

女友「さて。君は女ちゃんに振られたって言ってたよね? 君が振ったんじゃなくて君が
振られたってさ」

兄「そのとおりだよ」

女友「それで傷心の君はすぐに新しい恋を見つけた。その相手がこの妹ちゃんって訳なん
でしょ」

兄「・・・・・・ま、まあ。そうかな」

女友「今、気まずそうに目を逸らしたね」

兄「してねえよ」

女友「いい加減に嘘付くのはやめようよ」


女友「時系列が逆でしょ。あんたは妹ちゃんと付き合いたかった。そのためには女ちゃん
が邪魔だった」

兄「おまえさあ。妄想もそこまで行くと行き過ぎだぞ」

女友「・・・・・・そうかもね」

兄「何だって?」

女友「女ちゃんと別れたいけど自分が悪者になりなくなかった君は、自分が振られたと言
い触らすことにしたんでしょ。だから、兄友君にも自分が振られたってアピールまでした
のよね」

兄「事実無根だよ。おまえ、いったい何の証拠があって」

女友「たださあ。それって君がこの可愛い子と付き合いたかったからかなって思ってたん
だけど、どうも二人の様子を見るに全然そうじゃないかもって今日になって思った」

兄「何言ってるんだ(何言ってるんだこいつ)」

女友「純粋に女ちゃんがうざくなったんでしょ? 確かに女ちゃんって好きになるとのめ
り込みそうだもんね」

兄「・・・・・・・(こいつ何かややこしい誤解をしてるな。どうしたら目を覚まさせることが
できるのか)」

女友「今日わかったよ。自分は女ちゃんに振られて傷心だったけど、今では好きな子と付
き合えた。だからもう自分を振った女ちゃんには未練がない。女ちゃんにももう俺に構う
なって。あんたはそうアピールしたかったのね」

兄「何言ってるんだ」

女友「そこまでして女ちゃんを諦めさせたかったのか。わざわざ偽装カップルまで仕込ん
でさ」

兄(発想が斜め上過ぎて反論する気力すらおきねえ)

女友「妹ちゃん。あなたは誰? 何で兄君のためなんかに恋人役まで引き受けたの。お金
でももらったのかな。それともこいつに弱みでも握られた?」

妹「・・・・・・」

女友「何か言ってごらんよ。あんたのせいで今でも毎日泣いている女がいるんだよ」

兄「誤解だって。もうよせよ」

女友「何か本当のカップルって感じがしないのよね。君たちって」

妹「モデルの人って綺麗だけど頭の中身はちょっと残念な人が多いんでしょうか」

女友「・・・・・・どういう意味?」

兄(妹よ。煽ってどうするんだよおい)


妹「あなたって何がしたいんですか?」

女友「それは・・・・・・女ちゃんのために」

妹「女さんのために?」

女友「女ちゃん可哀想だしさ。元気になって欲しいし」

妹「兄君と女ちゃんを復縁させようとしてるんですか」

女友「それは、まあそうなればいいと」

妹「兄君の方にはそんな気がなくてもですか」

女友「そんなのは不誠実でしょ。勝手に振って勝手に女ちゃんを泣かせて」

妹「そんなことは聞いてないですよ。兄君にはもう女さんへの気持がないのに、形だけで
も女さんとやり直す振りをしろって言いたいの?」

女友「そんなことは言ってないでしょ」

妹「何か大袈裟に推理小説の謎解きみたいな話をするから、もっとちゃんと考えてるのか
と思ったのに。やっぱり見た目しか武器のない可愛そうな人なんですね。女さんって」

兄「おい。もうよせ」

妹「黙っててよ。だいたい兄君が女さんを振ったって何か証拠でもあるの? 女さん自身
は何も話してないんでしょ? 結局あのチャらい兄友さんの伝聞証拠だけで勝手に人のこ
とを決め付けてるけなんじゃない」

兄(姫こええ)

女友「じゃあ聞くけど、あんたは誰なのよ。兄君とはそういう関係? そうだお互いに自
己紹介しましょう。これがあたしの学生証ね。あと、この雑誌のプロフィールにはモデル
としてのあたしの名前と写真。さあ、あなたは誰なの? 家庭教師の兄君の教え子かな?
 それとも従姉妹? 後輩じゃないよね。写メの制服って女子校だもんね」

妹「まあ、しかたないか。はい、あたしの高校の生徒手帳」

女友「・・・・・・これって」

兄(どうなってんだよ。恋人の振りをしてくれるんじゃなかったのか)


<お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから>




女友「・・・・・・兄君の学生証見せて」

兄「何でだよ」

妹「この人に見せてあげて」

兄「(もうどうなっても知らないぞ)ほれ」

女友「苗字が同じだね。池山兄と池山妹か。これって偶然?」

妹「あなたの考えているとおりですよ。あたしたちは兄妹です」

女友「・・・・・・え」

兄(あーあ。言っちゃったよ)

女友「あは」

妹「・・・・・・」

女友「あははははは。兄妹なのかあ。何だ、そうだったのか」

兄(ちょっと笑いすぎだろ。でも、妹は冷静だな。少しも動揺していない)

女友「なるほどねえ。兄君って偽装カップルする相手すら妹しか調達できなかったのかあ。
あははは」

兄(・・・・・・何か惨めだ)

女友「ああ、おかしい。昨日はあたしに、妹以外に見せられる写メがなかったんだねえ。
それで妹に頭を下げて恋人の振りをしてもらったのかあ」

兄「もういいだろ。俺たちはもう帰るぞ」

女友「待ちなさいよ。こんな嘘つくほど女ちゃんのこと嫌いなの?」

兄「(ここまでこじれると説明する気力すらわかねえ)もういいよ」

女友「もういいって何でよ。ここまでして女ちゃんをコケにすることはないでしょ」

妹「あなたって本当に面倒くさい人だなあ。お兄ちゃん何でこの人と知り合いなの」

女友「お兄ちゃんだって。お兄ちゃんだってさ。ふふふ。何が恋人よ」

妹「恋人って嘘じゃないんだけどなあ」

女友「何でよ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「お、おい」

女友「あ、あんたたち何してるのよ!」

妹「キスですけど」

兄(こら。俺の首に廻した手をほどけ)

女友「何でここまで必死なの? 兄妹だってばれてるのに」

妹「だから嘘なんか付いてないって言ってるじゃないですか」

女友「どういうこと」

妹「お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから」

女友「自棄になって見え透いた嘘を付くのはやめたら?」


妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄(う)

女友「こらよせ。人前でベロチューしてるんじゃないわよ」

妹「ここまでしないとわかってもらえないかと思って」

女友「・・・・・・本当なの?」

妹「こんなこと冗談でできると思いますか」

女友「兄妹なのにお互いに好きなの?」

妹「いけませんか? あなたに迷惑をかけるわけじゃないでしょ」

女友「兄君? 本当なの」

兄(げ。もちろん妹の嘘だけどここは合わせたほうがいいのかな)

女友「どうなのよ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ(また姫の可愛い上目遣いが)」

妹「お兄ちゃんのお姫様は誰だっけ」

兄「妹に決まってるだろ(あ、素で答えちゃった)」

妹「お兄ちゃんがこの世の中で一番大切な女の子は誰?」

兄「おまえ」

妹「・・・・・・というわけです」

女友「マジで引くわー。あなたせっかくこんなに可愛いのに、何で好き好んで禁断の愛な
んかにのめり込むわけ?」

妹「あなたには関係ないですよね」

女友「もういい。わかったから、あたしの目の前で兄貴にべったり抱きつくのはやめて
よ」

妹「あなたに指図されるいわれはありません。目障りならあなたが消えたらいいでしょ」

女友「いつからなの」

妹「あなたには関係ないけど特別に教えてあげます。お兄ちゃんが女さんに振られて落ち
込んでいて、それを見てあたしもすごく辛くなって。そのとき、初めて自分が本当にお兄
ちゃんが好きなんだって気が付きました」

女友「マジなの?」

妹「お兄ちゃんもようやくあたしの気持に応えてくれて。あたしたち、恋人になることに
したんです」

兄(これも演技でフェイクだよな? まさか本当にそう思っているわけじゃないよな)

兄(・・・・・・女とか兄友とか女友なんて今さらどうでもいいし、悪く言われたって構わない
けど)

兄(妹の気持が気になってしかたねえ。俺、せっかくいい兄貴になると決めたのに何でこ
んなに気持が揺れるんだろ)


今日はここまで
また投下します


<こんなに可愛い年下の彼女が>




女友「まあ、そこまでしちゃうところを見ると嘘じゃないみたいね」

妹「口開けて」

兄「俺はいいって」

妹「あたし一人じゃ食べきれないもん。ほら」

兄「ああ、わかったから。ちょっと待って」

妹「はいどうぞ・・・・・・。美味しい?」

兄「う、うん」

女友「あたしを無視すんな」

兄「ああ悪い」

妹「ほら、お兄ちゃん。これも食べて。メロン好きでしょ」

兄「うん」

妹「へへ」

女友「わかった、わかった。君たちが恋人同士なことは認めるから、少し落ちつけ」

妹「落ちついてますよ。いつもどおりにしてるだけですけど。というかまだいたんですか
女友さん」

女友「あのさあ。何でこんな結構な秘密をあっさりとカミングアウトした?」

兄(そうだよな。妹は俺が女にバカにされないように彼女の振りをしてくれただけだ。兄
妹ってばれた時点で普通は諦めるのに)

兄(兄妹だってばれちゃって、それでも恋人だと言い張る意味なんかねえのに。しかも本
当は恋人でも何でもないのに。わざわざ嘘を言って自分たちを追い込んでるんじゃねえ
の? これ)

妹「あなたがお兄ちゃんをバカにしたからです。お兄ちゃんには妹以外にこんなことを頼
める子がいないって言いましたよね」

女友「・・・・・・言ったけど」

妹「お兄ちゃんにはこんなに可愛い年下の彼女がいたんですから訂正して謝ってくださ
い」

女友「可愛いって自分で言っちゃうの?」

妹「それが何か?」

女友「まあいいや。でもさ、結果的に間違ってないんじゃないかな。あたしの言ったこ
と」

妹「・・・・・・どういうことですか」


女友「やっぱり兄君ってもてないんだね。だってそうじゃん。彼女にできる候補が自分の
妹しかいなかったんでしょ。近親の恋愛なんて外でもてない同士が手近なところで手っ取
り早く恋愛欲求を満たしあっているだけなんじゃないの?」

兄(もてないって・・・・・・姫に向ってよくもそんな)

兄(あ、やべ。妹、本気で怒っているときの顔だ。例えて言えば鬼のような)

兄(知らねえぞ。妹は昔から男には告白されまくってたし、こないだ聞いた話ではどうも
街中でもよくナンパされてるというのに)

妹「何も知らないでよくそんなふざけたことが言えますね」

兄(落ちついた冷静な口調。これは姫が怒っているときによく見られる現象である)

妹「うちのお兄ちゃんは女の子には不自由していないですよ」

女友「はい?」

兄(え? 姫が怒ってるのって自分のことじゃなくて俺のこと?)

妹「あなたが親友だと言った女さんだって彼女の方から昔からお兄ちゃんが好きだったと
言って告白してきたんだし」

女友「何だ。自分のことじゃなくて兄貴のことでムカついてたのか。まあ、女ちゃんのこ
とは認めるよ。兄君に振られて落ち込んでいたくらいだし」

妹「それだけじゃありません。あたしの親友だって前からお兄ちゃんを紹介しろってうる
さいし。彼女がうちの家に遊びに来たがるのを阻止するのにずっと苦労してたんです」

兄(妹友が? いや。あいつが好きなのは俺じゃなくて自分の兄貴だろうに)

女友「わかったよ。訂正するよ」

妹「わかってもらえたならそれでいいです。ちなみにあたしの方も昔から男の子によく告
白され続けて今に至っています。まあ、全部断ってきたんですけどね」

兄(嘘付け。おまえは彼氏君の告白にOKしたんだろうが)

兄(・・・・・・いかん。何をエキサイトしてるんだ俺は。これは全部妹の俺を想ってのフェイ
クなんだ。嘘があって当たり前だ。妹友のことだってそうだ)

女友「つまりそんなにもててるあなたち兄妹が、本気で選んだ相手が実の兄であり妹であ
ったと言いたいわけね」

妹「よくわかりましたね。物分りが悪そうだからもっと理解させるのに時間がかかるかと
思ってたのに」

女友「言いたい放題言ってくれるね。ちょっとばっかし可愛いからって」

兄(ここまで来ると何が真実でどれがフェイクなのかわからなくなってきた)


<でもでもだって>




女友「そこまではわかった。でも本当にあたしが聞きたいことは全く聞けてないね」

妹「ちょっと、そうじゃないでしょ」

兄「あ、悪い」

妹「パパが娘の手を引いてるんじゃないんだから。もう。彼女の手を握るときは恋人つな
ぎしろって言ったじゃない」

兄「すまん」

妹「あと手を握るついでにスカートの上からあたしの足をそろっと撫でるのはやめてよ」

兄「それは本当に不可抗力だぞ」

妹「どうだか。お兄ちゃんにはいろいろ前科があるし」

兄「マジでおまえの勘違いだって」

女友「ちょっとは人の話聞けよ! このバカップルが」

妹「ああ、ごめんなさい。何のお話でしたっけ」

女友「・・・・・・もしかしてわざとあたしのことをおちょくってる?」

妹「そんなことないですよ。お兄ちゃんとあたしはお互いに相手のことしか見えてなかっ
ただけで。ごめんなさい」

女友「まあいいや。で、どうなのよ。女ちゃんは本当は振ったの? それとも振られた
の」

兄「だから何度も言ってるだろうが。女は兄友とよりを戻して俺を振ったんだって」

女友「何か証拠はあるの」

妹「お兄ちゃん、あれ見せてあげて」

兄「そうか。そうだったな。これ見てみ」

女友「メール?」

兄「兄友から来たメールだよ」

女友「・・・・・・」

女友「・・・・・・これって」

妹「ようやく理解できましたか」

女友「でも。でもだってさ」

妹「でもでもだってとか言い出すときは自分の中でいろいろ整理がついていないときです
よね。何がわからないんです? こんなにはっきりとした証拠があるのに」


女友「女ちゃんが泣いてた。泣きながら兄君と別れたって言ってた」

妹「別れたって言ってたんですよね? 振られたじゃなくて」

女友「そうだけど。でも泣いていたくらいだから、てっきり兄君に振られたんだと」

妹「はい。証拠のない思考停止の思い込みが一つはっきりしましたね」

女友「それに・・・・・・兄友君だって」

妹「あなた頭悪いでしょ」

兄(客観的に言うとモデルをしながらうちの大学に合格した女友の方が、姫よりも偏差値
は高いと思うのでその言い方はどうかと思うが)

女友「妹ちゃんさ。さっきから兄貴が大切なのはわかるけど、少し言い過ぎじゃないの?
 何であたしの頭の出来の問題になるのよ」

妹「兄友さんのメールを見たばかりでしょ。それとあなたがさっき言ってたことと比べた
らどんな結論が出るんですかね。あなたもちょっとは頭使ってみたら?」

女友「どんな結論って」

兄(どんな結論って・・・・・・。兄友は俺に女とやり直すことにしたっていうメールを送って
きた。そしてさっきの女友の話は)



女友『それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏
と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの』

女友『兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだ
って。女ちゃんはそう言ってたけど?』

女友『その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだって
さ』




兄(兄友は俺には女とやり直すことになった、悪いってメールして。で俺に振られたと思
って悲しんでいたらしい女を優しく慰めた)

兄(これは・・・・・・)

女友「あ」

妹「やっと理解しました? あたしはさっきのあなたの話を聞いてすぐに思いつきました
よ。兄友さんがお兄ちゃんに女さんを取られたくなくていろいろ頭の悪い策略を仕掛けた
んだって」

女友「じゃ、じゃあ」


<姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ>




妹「女さんもお兄ちゃんもお互いが知らない間に、お互いを振ったことにされちゃったん
でしょうね」

女友「まさか。兄友君が」

妹「他に誰がいるんですか」

兄(嘘だろ。こ、これも妹のフェイクなのか)

兄(いや・・・・・・。偽の恋人の話と違って、この話には筋が通っている。講義が終わったと
きに俺が女に話しかけたときの女の不安そうな態度。そして俺と女を引きはがすように女
を連れ去って行った兄友の行動)

兄(妹の言っていることは多分真実だ)

兄(女に振られたと思っていたのに・・・・・・。あれ、何だ。体が勝手に震えてるぞ)

兄「ちょっとごめん。トイレ(何か気持悪い)」

妹「お兄ちゃん?」

兄(・・・・・・トイレで吐いてしまった。もう吐けねえな。胃には何も残ってないし)

兄(十五分以上トイレで篭もっちゃったからな。そろそろ行かないと妹が心配する)

兄(立てるかな)

兄(・・・・・・何とか大丈夫そうだ)

兄「妹?」

妹「お兄ちゃんごめん」

兄「何が」

妹「ショックだった?」

兄「・・・・・・ちょっとだけな」

妹「ごめん。女友さんを懲らしめようと思ってちょっとやり過ぎた」

兄「姫のせいじゃねえよ。それにいつかは知らなきゃいけなかったんだよ、多分」

妹「お兄ちゃん」

兄「泣くなって」


女友「兄君、大丈夫?」

兄「ああ。悪かったな」

女友「ごめんなさい」

兄「へ?」

女友「妹ちゃんの言うとおりだ。あたし、頭を使わないで思考を停止してあんたが全部悪
いんだって思い込んでた」

兄「おまえが俺に話しかけてきたのって」

女友「うん。女ちゃんを泣かせた男を懲らしめようと思って、あんたに近づいた」

兄「そうだったんだ」

女友「もう一度女ちゃんと話してみる。そのメール、彼女に見せてもいいかな」

兄(どうなんだろ。確かに俺は吐くほどショックは受けたけど、今さら女に理解してもら
ったってしかたないしな)

妹「女さんにメール見せてみたら」

兄「え?」

女友「妹ちゃんはそれでもいいの? 兄友君が本当に二人の間に割り込んだんだとした
ら・・・・・・」

妹「したらどうなるんですか」

女友「・・・・・・兄友君の意図を知ったら、きっと女ちゃんは兄君と復縁しようとすると思う
けど」

妹「・・・・・・いいんじゃないですか。それでお兄ちゃんの気持を持っていかれたら、それは
あたしとお兄ちゃんの仲なんてそれまでだってことだし」

女友「それ本気?」

妹「本気ですよ」

女友「兄君もそれでいいの? やっぱり女ちゃんに未練がある?」

兄「ええと(正直言えばもう女に未練はない。というかもう誰とも付き合う気はない。妹
の幸せを兄として見ていられればいい)」

女友「ええとじゃないでしょ。君は妹ちゃんを選んだんでしょ? たとえそれが禁断の関
係であったとしても、そんなことは承知のうえで」

妹「・・・・・・」

兄「何言ってるんだ。おまえは女の親友なんだろうが」

女友「それでもさ。あたしって頭悪いかもしれないけど、直感は結構間違ってないと思う
んだ」

兄(間違いだらけだったじゃねえか)

女友「妹ちゃんのさっきの話さ。君が振られて落ち込んでいたときに自分の好きな人は君
だとわかったって言ってたじゃん。あれが嘘じゃないことくらいはわかった。本当は君た
ちがベロチューするまでもなく、あの話を聞いたときにもうわかったんだ。妹ちゃんの気
持ち嘘じゃないって」

兄(んなわけねえだろ。姫は優しいから俺のことを気遣って演技してるだけなのに。こい
つって本当に人の心が見抜けねえのな)


妹「・・・・・・」

兄「まあ、俺と女って結局縁がなかったんだと思うよ。兄友のやつが余計なことを仕掛け
たとしても、本当にお互いを信じてればとっくに会って話し合っていたはずだしな」

女友「それでいいならいいけどさ。あーあ。結局女ちゃんが傷付くのは一緒か。兄君に振
られたんじゃないとわかったとしても、兄君を妹ちゃんに取られちゃうんだもんね。兄友
君の勝ち逃げか」

妹「結果なんて話してみないとわからないですよ。あたしだって自分にそんなに自信なん
てないですし。それにたとえそうなったとしても、少なくとも不誠実な兄友さんから女さ
んを守ることはできますよね?」

女友「まあそうだね。とにかく兄友のやつは許せない。女ちゃんの目を覚まさせよう」

妹「それがいいと思います」

兄(妹の気持がよくわからん。こいつって前に俺が一生独身で姫を見守るって言ったらす
げえ怒ってたし)

兄(女友には誤解させちゃったけど、俺と妹は仲のいい兄妹以上の関係は何もない。今日
の妹の態度はちょっとやり過ぎだったけど、それは兄貴のことをバカにされたくない一心
でしてくれたことだ)

兄(そう考えると結論は一つだな。妹が女に兄友からのメールを見せたらって言うのは、
俺と女を復縁させたいからだ)



妹『引越しの途中に女さんが、お兄ちゃんにごめんとか、本当に愛しているのは兄友じゃ
なくて兄なのって復縁を迫ってきてもちゃんとあたしが女さんを撃退してあげるからね』



兄(妹がこう言っていたのは女が俺を振ったと思ってたからだろうな。それが今日そうじ
ゃないらしいことがわかったんで、きっと軌道修正したんだろう)

兄(女が俺のことを振ったんじゃないと知って、姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ。
自分も彼氏君と付き合っているからとか思ってるんだろう)

兄(そうじゃねえのに。俺の今の心境はもう父さんや母さんと一緒の域にまで達している
のに)

妹「じゃあ、決まりね」

兄「おい」

女友「まあ、君たちがいいなら女ちゃんにこの兄友君のメールを見せるよ。そんで兄友君
は絶対にお灸をすえてやる。女ちゃんの気持を弄んだ罰はきっと受けさせるから」

兄(女友は俺と妹のことを本当の恋人同士だと思っているからこの場じゃ言えねえ。俺は
本当に妹と彼氏君の仲を応援するなんて)

兄(でも俺にはもう一生彼女なんていらねえって。姫を守って行くためだけにこの先の人
生を捧げるんだって。大声でそう言いたいのに。つうか妹には何度もそう言ってきたの
に。まだわかってもらえてないのか)

女友「じゃあそのメールあたしに転送して」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」


今日は以上です
また投下します


<自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ>




兄「なあ」

妹「どうしたの」

兄「あれで本当によかったの」

妹「何が」

兄「いや。メールの方はともかく、女友のやつ本気で俺たち兄妹が恋人同士だって信じ込
んでるぜ」

妹「だってそういう風に仕向けたんだもん。成功したってことでしょ。何を浮かない顔し
てるの? それともまさかとは思うけど、お兄ちゃんあたしの演技をマジで受け取ったり
してないよね」

兄「え」

妹「あたしとお兄ちゃんは恋人でも何でもないのよ。女友さんの前で恋人同士の振りをし
ただけ。最初からそういう話だったでしょ」

兄「だってよ。あれは兄妹だっていうことを隠した上での話だったじゃん」

妹「そんなの隠せるわけないでしょ。女友さんが女さんとか兄友さんにあたしの名前を言
ったら、それで兄妹だってすぐにわかっちゃうじゃん」

兄「もしかしておまえ。今日はこうなるってわかってて」

妹「そうだよ。もうこうなったら兄妹で禁断の恋人関係になってるって言うしかないと思
ってた。もちろん、そんなのは本当のことじゃないけど」

兄「・・・・・・何でそこまでするの?」

妹「さあ? それよりあたしとお兄ちゃんの関係を知った女さんはどう考えると思う?」

兄「どういうこと」

妹「あたしたちにが嘘を言ってると見抜くかな。それともお兄ちゃんをあたしに取られた
と思って悲しむかな」

兄「見抜くんじゃねえの。俺が姫に告って玉砕したことを女は知ってるし」

妹「その方がいいんだけどね」

兄「まあそうだな。あいつが信じちゃったら、おまえが変な誤解をされるってことだし」

妹「こんな演技した時点でそんなことは織り込み済みだよ。誰に何を言われたって構わな
いよ。真実は一つなんだし。あたしはお兄ちゃんにだけ誤解されなければそれでいい」


兄「・・・・・・よくわからん。万一噂が広がって彼氏君とかにまで知られちゃったらどうすん
だよ」

妹「本当のことを言うよ。それを信じられないならそれだけの仲だったんだよ」

兄「まあ、女は信じないとは思うけどね」

妹「噂とか誤解なんかどうでもいいけど、でも女さんにとってもその方がいいよね」

兄「何で?」

妹「女友さんの話でわかったじゃん。女さんはお兄ちゃんを積極的には振ってなかったん
だって」

兄(ああ、そうだった。多分兄友のアホが仕掛けたことだったんだな)

妹「だからさ。あたしたちが付き合ってるなんて女さんが信じちゃったら、彼女可哀そう
過ぎるよ。お兄ちゃんを振ったって思ってたときは女さんなんかどうでもよかったけど、
今となってはね・・・・・・」

兄「いろいろ面倒くさいことになったな」

妹「もうちょっと情報があれば恋人同士の振りなんかしなかったのにね」

兄「今日早速女の家に行くって言ってたな、女友」

妹「今頃は会って話している頃かもね」

兄「おまえさあ。ひょっとして俺と女を復縁させようとかしてねえ?」

妹「すればいいなってちょっと思っただけ」

兄「だから兄友のメールを女に見せていいって言ったの?」

妹「少なくともそれで兄友さんの正体は理解するでしょ。あとは女さんがあたしとお兄ち
ゃんの仲をどう判断するかだよね」

兄「俺は女にはもう恨みはないけど、女とやり直す気はないよ」

妹「それならあたしは彼氏君と別れるだけだよ?」

兄「何でそうなる。俺はいい兄貴として」

妹「じゃあ、あたしはいい妹として、一生お兄ちゃんの幸せな結婚を祈りながら一生独身
で過ごすことにした」

兄「ふざけんなよ。そんなのは俺が嫌だ」

妹「自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ」

兄「・・・・・・」


兄「なあ」

妹「なあに」

兄「いつまでもこの店にいてもしかたないし、とりあえずどっか行こうぜ」

妹「何か注文して」

兄「うん? あのパフェ食ったのにもうお腹空いた?」

妹「そうじゃないけど」

兄「何なんだよ」

妹「ここいいた方がいいと思う。どうせすぐに女友さんから連絡入ると思うし」

兄「・・・・・・アイスマンゴーハーブティー?」

妹「うん。それでいいや」

兄「わかった」

兄(メールだ)

兄「メール来たよ」

妹「読んだら」

兄「うん」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「これから会いたいって」

妹「お兄ちゃんに?」

兄「君たちにって書いてあるから俺と姫にじゃね」

妹「誰と誰が」

兄「女と女友がだって」

妹「ここにいるからって返信して」

兄「本当に今日あいつらに会うの?」

妹「嫌なことを先送りしたり優柔不断なのってお兄ちゃんの悪いところだよ」

兄「まあ姫がいいなら」

妹「じゃあ早く返事して。あと今日は間違ってもあたしのことを姫って呼ばないでね。あ
たしもお兄ちゃんにべたべたしないから」

兄「わかった」


<あたしバカだった>




女友「まだここにいてくれて良かったよ。君たちの住んでるところまで行くんじゃ遠すぎ
るしね」

兄「ああ」

女友「じゃあ、お邪魔するね」

兄「・・・・・・」

女友「ほら。女ちゃんも座って」

妹「こんにちは女さん」

女「こんにちは」

兄「よう」

女「・・・・・・」

兄(俺にはあいさつなしかよ)

女友「さっきからずっとここにいたの?」

兄「そうだけど」

女友「いい加減、お店も迷惑だったんじゃないの」

兄「今、追加注文しようとしていたところだ」

女友「ちょうどいい。一緒にオーダーしようか」

店員「いらっしゃいませ」

女友「女は何にする?」

女「じゃあアイスマンゴーハーブティーを」

女友「それ美味しい? あたしもそれにしてみよ」

兄「じゃあ俺たちも」

妹「あたしは普通のアイスティーをください」

兄「・・・・・・俺もアイスティーで」

兄(さっきから女のやつ俺と妹と目を合わせないようにしてるな)

女友「さっきまでさ。女と話してた」

兄「ああ」

女友「結論から言うとさ。あんたが女を振ったわけじゃないことは完全に理解した。誤解
してごめん」

兄「それは別にいいけど」


女友「でもさ。女だって考えなしだったとは思うけど、一種の被害者であることは間違い
ないの」

兄「そうなんだ・・・・・・」

女友「女ちゃんどうする? あたしから話そうか」

女「いい。自分で話せるから」

女友「大丈夫なの」

女「・・・・・・うん」

女友「じゃあ任せる」

女「兄」

兄「お、おう」

女「いろいろごめん」

兄「何で謝るんだよ」

女「あたしバカだった」

兄「・・・・・・」

女「あんたの部屋で一緒にいたときに妹ちゃんが来たでしょ」

兄「うん」

女「あたし妹ちゃんに嫉妬してた。あんたが昔から妹ちゃんのことを好きだったことは知
ってたし」

兄「うん」

女「そんなことは承知のうえであんたに告ったのにね。あのときは冷静でいられなくて、
妹ちゃんに酷いこと言っちゃった。妹ちゃんもごめんなさい」

妹「・・・・・・」

女「あんたに何となく顔を合わせたくなくて、あんたを避けてたら偶然学内で兄友に会っ
て」

女「無視しようとしたんだけど。あいつ、話があるって言ったの。別におまえと復縁した
いとかおまえに謝るとかそういう話じゃなくて、兄のことで相談があるって」

兄「俺のこと?」

妹「・・・・・・」

女「うん。それで兄のことだって言うから思わずわかったって言っちゃって」

兄「どんな話だった?」

女「あんたと妹ちゃんの話」

兄「何だって」

女「あいつは言ったの」


兄友『おまえには悪いことをしたって思ってる。それについては言い訳のしようもないし、
もうおまえにやり直してくれって頼むのも諦めた』

女『やっと理解できたか。まあ、もう許すって言ったんだしそれはもういい。つか兄のこ
とで話があるんでしょ』

兄友『兄と付き合い出したばかりのおまえには言いづらいんだけどよ』

女『・・・・・・何よ』

兄友『ちょっと相談されちゃってさ。どうしたらいいのかまるでわからないんでさ』

女『相談って誰から? まさか兄からじゃ』

兄友『違うよ。妹ちゃんから』

女『妹ちゃんがあんたに相談?』

兄友『今度のことが起こるまでは俺は兄の親友だったし、妹ちゃんともそれなりに親しか
ったから』

女『・・・・・・彼女何だって?』

兄友『兄貴に告白されて断ったって』

女『そうか』

兄友『驚かねえのな』

女『兄に聞いていたからね』

兄友『そうか。それを知ったうえでおまえと兄は付き合い出したんだな』

女『うん。振られた者同士くっついたって誰も傷付かないしね』

兄友『それがそうでもなかったみたいだな』

女『あんたのこと?』

兄友『・・・・・・俺は傷付いたって自業自得だよ』

女『じゃあ誰が』

兄友『妹ちゃん』

女『そんなのおかしいよ。妹ちゃんには年上の彼氏がいるんだし、そもそも兄の告白を断
ったんじゃない』

兄友『いきなり兄貴に告白されて、両親の顔とか世間体とかが浮かんじゃって反射的にお
兄ちゃんとは付き合えないって言ちゃったんだって』

女『何よそれ』

兄友『今は後悔してるって。彼氏よりも誰よりも兄貴のことが好きなのにって泣いてた
よ』

女『・・・・・・ふざけんな』

兄友『まあ、俺からおまえにどうしろとか言う資格はねえからさ。ただ、俺一人の胸に収
めておくにはでか過ぎる話だからな』

女『あんたの相談ってこのこと?』

兄友『ああ悪い。相談っていうより聞いて欲しかっただけかな』

女『それを聞かせてあたしにどうしろって言うの』

兄友『だからそんなことを言う資格なんて俺にはねえよ』

女『・・・・・・』

兄友『あ、これはどうでもいいことだけど。俺も後輩と別れたから』

女『どうでもいいよ』

兄友『そうだよな。じゃあ本当に悪かった。それじゃな』


<・・・・・・死んじゃいたい>




女友「まあそういうわけだったみたいだよ」

兄「姫・・・・・・じゃない。妹?」

妹「あたしは兄友さんにそんなくだらない相談をした覚えはないよ」

女「そうだよね」

妹「だいたいお兄ちゃんには言わなかったけど、あたしはこんなことが起きる前から兄友
さんって大嫌いだったし」

兄「そうなの?」

妹「兄友さんに身の危険を覚えたことだって何度もあったし」

兄「おい何だって? 兄友め、ふざけやがって。今度会ったらぶん殴ってやる」

女「・・・・・妹ちゃんのことになるとそんなに必死になるんだね」

女友「こら。今はそんなことを言っている場合か。話を続けなよ」

女「兄友は別にあたしに何をしろとか言わなかった。でも、あたしはそれを聞いてから兄
と顔を合わせづらくなって、何となく兄と避けるようになったの」

兄「そうだったんだ」

女「きっと兄はあたしの態度に悩んでいるかなって思うこともあったし、逆にあたしがい
なくなって妹ちゃんとやり直しているかもっていう気持もあって。もう心の中はぐちゃぐ
ちゃだった」

女「兄友はその後もあたしに言い寄って来たりはしなかった。それどころかさりげなくあ
たしの側にいてあたしを慰めてくれた。正直、あたしは前にひどいことをされたことを忘
れてあいつに感謝し出したくらいに。かといってよりを戻す気なんて全然なかったけど」

女「そんなある日。あたしが講義に行く気すら失って家で引きこもっていると、廊下から
兄友の声がしたの」



兄友『女~、いるか』

兄友『女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ』

女(兄友・・・・・・もしかしてあたしを心配して来てくれたのかな)

兄友『よう兄』

女(え? 兄?)

兄『おう』

兄友『・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?』

兄『まあな』

兄友『おまえも気まぐれだよなあ』

兄友『あ。妹ちゃん、久し振り』

妹『・・・・・お久し振りです』

女(お久し振り? ついこの間、兄友に兄のこと相談したんじゃないの?)

兄友『相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは』

妹『どうも』

兄友『今日は兄の手伝い?』


妹『はい』

兄友『兄のことが好きなんだねえ』

妹『はい。大好きです』

女(やっぱりそうなんだ)

兄友『そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな』

妹『そうです』

兄友『しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?』

兄『実家に戻る』

女(・・・・・・)

兄友『何で? 通学つらくなるだろ』

兄友『ちょっと待て』

兄『何だよ。俺なんか邪魔だろ?』

兄友『俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ』

女(はい?)

兄友『本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入
れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ』

女(何の話? あたしが兄と会わなくて兄を傷つけたから? それであたしが謝るの?
でも何で兄友とあたしが一緒に謝るのよ)

兄『そういうのいらないから』

兄友『だってよ』

妹『余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは』

兄友『そうじゃないよ』

妹『罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って』

兄友『俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし』

妹『お兄ちゃんの心のケアはあたしがします。あなたと女さんなんかに期待なんかしてい
ません。まして自分たちの心の安定のためにお兄ちゃんを利用なんかさせませんから』

兄友『何か誤解してるよ妹ちゃん』

妹『そう言うのならそれでもいいです。でも一つだけお願いがあります』

兄友『何?』

妹『二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください』

女(何で? いったい何でよ)

兄友『・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから』

妹『お兄ちゃん?』

兄『兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言って
おいてくれな』

兄友『・・・・・・待てよ』

兄『じゃあ、作業中だから』

兄友『おい。冗談だろ』

妹『冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃ
んにしたんですよ』

兄友『そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ』

妹『じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね』

兄友『せめて女を入れてもう一度だけ話を聞いてくれ。兄を傷つけたままじゃ俺も女も』


女「何かひどく話が変だった。あたしは兄と距離を置いたのだけど、それが何で兄友とあ
たしが兄を傷つけたことになっているのかわからなかった」

女「それでも妹ちゃんが兄のケアは自分がするから、兄友とあたしには二度と兄に話しか
けないでくださいと言った言葉だけは本当はよく理解できたの。理解することを拒否して
ただけで。妹ちゃんの気持はやっぱりそうだったんだって」

女「そしてあたしが兄を取り返しのつかないほど傷つけてしまったことも」

女「それからは兄友にも不信感を覚えて距離置いた。いつもは女友ちゃんとだけ一緒にい
るようにした。彼女にだけはあたしは本音が言えた。入学して知り合ったばかりだけど親
友だと思っていたから」




女友『何? 何でいきなり泣き出すの?

女『・・・・・・死んじゃいたい』

女友『いきなりどうしたのよ』

女『大好きだったのに。彼のこと昔から大好きだったのに』

女友『・・・・・・失恋でもした?』

女『うん。大好きだった彼氏と別れた。悲しくて寂しくて死にたい』

女友『そうか』

女『何でこうなっちゃったんだろう』

女友『でもさ。女ちゃんには兄友君がいるじゃん。彼ってよく君に話しかけたりお昼に誘
ったりしてるよね』

女『彼はあたしの元彼なの。何かあたしに同情してくれて慰めてくれているだけだよ』

女友『そうなの? あんたの好きだった子って誰?』

女『兄』

女友『同じ学科の? いつも一人で過ごしている無愛想なあいつ?』

女『・・・・・・うん』



兄「もういいよ。それで兄友のメールは見た?」

女「うん。あたしはあいつにまた騙されたんだね。自分でもどうしようもないほど情けな
いよ。二股かけられた時点であいつのことは二度と信用しないって決めてたのに」

女友「まあ、そういうわけね。それでさ・・・・・・」

兄「うん」

女友「女はすごく後悔している。あんたを傷つけてしまったことも、引越のときの会話で
十分に理解して反省もしている」

兄「まあ、兄友が全部悪いんだしな」

女友「たださ。結果として君が傷付いて悩んでいたところを妹ちゃんが慰めてケアしてさ。
そんでその」


<傷つけちゃって本当にごめん>



女友「・・・・・・つまりさ」

妹「あたしとお兄ちゃんがそれをきっかけに男と女として付き合い出したってことを言い
たいんですね」

女友「うん。まあそういうこと。それを女ちゃんに話したら君たちに会いたいって」

妹「そうですか」

女友「ほら。言いたいことがあるんでしょ。言っちゃいなよ」

女「うん。あのさ、兄」

兄「ああ」

女「傷つけちゃってごめんなさい。あんたのことを考えたつもりだったけど、自分でも何
がなんだかわからなくなっちゃって」

兄「もういいよ。どっちかっていうとおまえだって兄友の被害者だしな」

女「だけど。あたしにいきなり振られたと思ったんでしょ」

兄「それは、まあそうだけど」

女「本当にごめん」

兄「もういいよ。今は立ち直ったし」

女「・・・・・・あのさ」

兄「おう」

女「女友ちゃんにさ。その・・・・・・妹ちゃんは兄と付き合っているって言ったって」

女友「確かに聞いた。つうかいろいろ見せつけられた」

女「・・・・・・」

妹「女さんが言いたいことってそのこと?」

女「え。あ、まあ。あたしには聞く資格はないかもしれないけど」

妹「女さんって今でも本当にお兄ちゃんのこと好きなの」

兄(おい。何を言い出すんだよ)

女「うん、大好き」

妹「そうなんだ」

女「妹ちゃん本当に兄と付き合ってるの」

妹「女さんはどう思うの?」

女「それは」

妹「兄友さんが言ったようにあたしがお兄ちゃんの告白を拒否したのは世間体を考えてだ
ったと思う?」


女「・・・・・・ううん。思わない」

妹「何でそう思うの?」

女「あたしは妹ちゃんとはそんなに親しくはなかったけど。それでも兄とは昔から知り合
いで、あなたのこともずっと見ていたし兄から話もきいていたから」

妹「それで?」

女「だから。妹ちゃんの性格からして、本当に兄のことが好きだとしたら世間体とか両親
への配慮とかで兄のことを振るような子じゃないと思ってたから」

妹「じゃあ何で兄友さんごときの嘘に乗せられちゃったんですか」

女「うん。自分でも変だと思うけど、きっと妹ちゃんに嫉妬して目が見えなくなっていた
んだと思う」

妹「そうなんだ。本当にバカな女」

兄(それはちょっと言いすぎなんじゃ)

女「うん。自分でもそう思うよ」

女友「妹ちゃんさ。さっきのベロチューはいったい何だったのよ」

女「ベロチュー?」

女友「そ。ベロチュー。あと、あ~んとか肩を抱いたりとか恋人にぎりで手をつないだり
とか」

女「何だ、そんなことか」

女友「何だってどういうことよ。普通の兄妹はそんなことはしないよ?」

女「だって兄と妹ちゃんは昔からすごく仲がいいもん。っていうかおじさんとおばさんも
含めて家族全員がすごく仲がいいんだよ」

女友「だからってベロチューはねえだろ。おい、兄君」

兄「何だよ」

女友「あんたんのところの仲のいい家族ではさ。あんたとあんたのお母さんもベロチュー
したりするの?」

兄「するわけねえだろ。気持悪いこと言うな」

女友「妹ちゃんとあんたの父親もベロチューしてるの?」

妹「パパはあたしにそんなことはしません」

女友「じゃあ何で君たちはしてるんだよ。仲のいい家族以上のことをしてるじゃん」

妹「パパとママに比べて、お兄ちゃんはまだ修行が足りないからかな」

兄「面目ない。でも俺だって学習して父さんたちの領域に入ったと思ってるぜ」


女友「入ってねえだろ。君たちはついさっき人の目の前で、つうか公衆の面前でベロチ
ューしてたくせに」

妹「女さんは? あたしとお兄ちゃんが付き合っていると思う?」

女「思わないよ。兄を大好きな妹ちゃんが恋人の振りをしただけだって思ってる」

妹「はい。よくできました。正解」

女友「あんたらなあ。あたしをおちょくって何が楽しいのよ」

女「それは多分、女友ちゃんが兄のことを煽ったからだと思うよ。妹ちゃんは家族が大好
きだし、あんたにバカにされたお兄ちゃんの名誉のために兄の恋人の振りをしたんだと思
う」

妹「ふふふ。あたしがそんなに感情に動かされる性格の女だと思います?」

女「ごめん妹ちゃん。でもそう思う」

妹「まあ、いいでしょう。女さんの言うとおりです。あたしとお兄ちゃんは恋人でも何で
もありません。仲のいい兄妹ではあるけど」

女友「あんたらは~・・・・・・こら。よくもあたしを騙したな。ベロチューまでしてさ」

妹「お兄ちゃんがバカにされないためならチューくらいしますよ。つうか、もっとすごい
ことだってできると思います。したことはないけど」

兄(それはいくらなんでも言いすぎだろ)

妹「あたしとお兄ちゃんは仲がいいのでそれくらいは全然平気ですし、そんなことで気
まずくなったりはしませんから」

兄(いやそんなことねえよ。少なくとも俺は)

妹「女さん」

女「うん」

妹「あなたがお兄ちゃんを積極的に振ったんじゃないことはわかりました」

女「・・・・・・ごめんね」

妹「それでもお兄ちゃんを傷つけたことには変わりありません」

女「わかってる」

妹「お兄ちゃんにどう落とし前をつけるつもりですか」

女「落とし前って。あたしにできるのは謝ることくらいで。あと嫌われても我慢すること
とか」


<あなたはバカですか>




妹「あなたはバカですか」

女「今となっては否定できないけど」

妹「傷付いたお兄ちゃんを癒す方法なんて一つしかないでしょ」

女「え」

女友「ちょっと待って」

妹「何ですか」

女友「妹ちゃんは・・・・・・。君は本当にそれでいいの?」

妹「何言ってるんですか」

女友「何って。あたしの勘はよく当たるんだけど」

妹「あたしもう帰る。彼氏にも電話してあげないとかわいそうだし」

女「妹ちゃん」

兄「じゃあ帰ろうか」

妹「お兄ちゃんってバカ?」

兄「何でだよ。おまえが帰るって言うから」

妹「一人で帰れるよ。お兄ちゃんは話し合いが終ったら帰ってきて」

女「妹ちゃん・・・・・・」

妹「本当に丸一日無駄にしちゃったよ。ここってドリンクはまずいし最低」

兄「だからアイスマンゴーハーブティーはよせって言ったろ」

妹「あたしが飲んだのはただのアイスティーだよ。じゃあ先に帰るからね」

兄「ちょっと待てって」

妹「じゃあね」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

女友「あちゃー。女ちゃんのためだったんだけど、妹ちゃんには酷いことしちゃったかな
あ」

兄「どういう意味だよ」

女「・・・・・・女友ちゃんまで巻き込んじゃってごめん」

女友「いいって。じゃあ、あたしもそろそろ行くね。実は今晩は撮影があるんだ。そろそ
ろ行かないと間に合わないし」

女「お仕事の邪魔しちゃってごめん」

女友「いいよ。あたしたちは友だちじゃん。じゃ兄君?」

兄「何だよ」

女友「ここの支払いはよろしくね」

兄「え?」

女友「今日は君のおごりだったでしょ。それに君と妹ちゃんにはすっかり騙されたしね」

兄「悪い」

女友「・・・・・・謝ることなんか本当はないのかもしれないね。じゃあね。ふたりともバイバ
イ。女ちゃんうまくやれよ」


女「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

女「あの・・・・・・さ」

兄「お、おう」

女「本当にごめん」

兄「おまえのせいじゃねえだろ。兄友のアホのせいだし」

女「でも、あんた。あたしに振られたと思って傷ついたんでしょ」

兄「まあ、そうかな?(本当はそのせいで俺も目が覚めたし、実際のところあんまり悩ん
でねえんだけどな。まあ兄友の策略を知ったときは動揺してトイレで吐いたりもしたけ
ど)」

女「そうだよね。あんたのこと傷つけちゃった」

兄「もう気にするな」

女「あのさ」

兄「おう(何かやばい気がする)」

女「あたしにはもうそんな資格なんてないのかもしれないけど」

兄「何言ってるんだよ(やばい)」

女「兄友のバカに騙されたあたしなんかにはもう愛想も尽きたと思うけど」

兄「・・・・・・何だよ」

女「あたしがあんたの部屋でオムライスを作った夜まで戻って、またやり直せないかな? あたしたち」

兄(やっぱりそうなるか)

女「・・・・・・妹ちゃんに嫉妬しちゃったこと。そのせいで兄友に付け込まれたことは否定し
ないよ」

兄「それはもういいって(問題はそうじゃねえんだよ)」

女「それでもさ。あたしやっぱり兄のことが好き。せめて友だちからでもやり直してくれ
ないかな」

兄「ええと」

兄(俺はもう一生恋なんかしないと自分に誓った。もっと言えば妹スキー同盟の父さんと
母さんにも誓った。心の中でだけだけど)

兄(一生を姫の幸せを見守るために捧げようと思った。姫の恋愛も結婚も出産も育児も全
てを陰ながら応援しようと思った。それが我が池山家の家風だからだ)

兄(幼稚園のことから、俺はいや俺たちは妹に夢中だった。妹は我が家に光臨した天使だ
った。お姫様だった。あいつがいるだけで我が家はすごく幸せだったんだ)

兄(その姫が俺と女を復縁させようとしている。しかも俺と女が復縁しなければ自分も彼
氏君と別れるって脅迫までして)

兄(女のことは嫌いじゃない。っていうか女に振られたんじゃないってわかったときはす
ごく嬉しかった。あれだけ妹に女のことはもう気にならないって言ってたくせに)


 お願い。

 そう言って女は俺を見つめて涙を流した。どういうわけかその顔に俺はいつぞや少しだ
け泣き顔だった姫の顔を重ねてしまっていたようだ。俺が見たくないものの頂点に立つの
が姫の悲しそうな表情だ。俺が女と付き合えば全てがうまく行くのだろうか。姫も彼氏君
と別れずに済むのだろうか。言ってしまえばこれは二度目の過ちということになる。姫に
振られた反動で最初に女の告白を受け入れたことに続く再度の過ちだ。

 でも前回俺が女を受け入れたのは半ば衝動からだった。女には申し訳ないけど妹と付き
合えないのならと俺は自棄になっていたのだ。今度はそれとは違うのだろうか。根源的に
は一緒かもしれないじゃないか。それに今さらだけど、俺は本当に女のことが好きなのだ
ろうか。憎からず思っていることは確かだけど、それは二度目の告白に応えるほどの好意
なのか。

 俺は迷った。でも、結局妹が俺の想いを否定したときのことが頭に浮かんだだけだった。
それは姫に振られて拒絶されたことではない。それとは別な機会に妹はこう言ったのだ。
それは俺が一生彼女なしで妹を見守ると言ったときだった。



 そんな人生なんてあり得ないよ。お兄ちゃんがよくてもあたしがいや

 もうやだ。あたし彼氏と別れるから



兄「俺たちやり直してみようか? 仲のいい友だちからになるけど」

女「・・・・・・嬉しい。ありがと」

兄「仲のいい友だちは抱きついたりしない・・・・・・っておい」

女「好き・・・・・・兄のこと大好き」

兄「うん・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


<ゴールデンウィーク>




父「姫と兄はちょっと来なさい」

母「はい、あんたたち。ちょっと集合して」

兄(普段はいないくせに何が姫だ)

妹「ほらお兄ちゃん。パパたちが呼んでるよ」
あたし
兄「そんなことはわかってる」

妹「じゃあ早くリビングに行こうよ」

兄「ちぇ」

妹「お兄ちゃん、どうしたの?」

兄「父さんめ。普段は家に寄り付かないで放置しているくせに何が姫だ」

妹「何だ。パパにヤキモチ焼いて拗ねてたのか」

兄「拗ねてねえって」

妹「お兄ちゃんも堂々とあたしを姫って呼ぶといいよ」

兄「俺はいいよ」

妹「ほら、はい」

兄「・・・・・・あいつらの前で手をつないでいいのか」

妹「別にいいんじゃない? 兄妹が仲良くしてるんだから。つうかパパとママをあいつら
って言うのよしなよ」

兄「・・・・・・わかったって」

妹「拗ねないでよ。ほら行こ」

兄「うん(手を離されちゃった。俺ってバカだ)」

父「おまえたちようやく来たか」

兄「何か用?」

父「うん。とっても言いづらいんだけどな」

妹「どうしたの」

母「それがねえ。せっかく予約もしたし妹ちゃんも楽しみにしていた旅行なんだけどね」

父「申し訳ない。パパもママも休み中出社しなきゃならなくなってな」

母「本当にごめんね」

妹「え~。初めての海外旅行だったのに。そんなのないよ」

父「妹姫には本当に悪いことをしたな。すまん」

母「妹ちゃんごめんね」

兄(だから父さんは妹姫妹姫ってうるさいって)

妹「・・・・・・でもお仕事だから仕方ないよね。わがまま言ってごめんなさい」

母「妹ちゃんが謝ることなんか何にもないのよ」

父「そうだよ。悪いのは私たちなんだから」

兄(まさかその私たちの中には俺まで含まれてるんじゃないだろうな)

妹「わかった。じゃあお兄ちゃんと一緒に留守番してるね」

父「それじゃあんまり姫がかわいそうだ。留守番は兄に任せて姫はどこかに遊びに行った
らどうだ」

母「お友だちとお出かけでもしたら? 海外は無理でもどこか近いところで」


妹「無理だよ。友だちはみんな家族と予定があるし、だいたいゴールデンウィーク直前な
のに宿とか予約できるわけないじゃん」

父「あ、そうだ。伯父さんの別荘なら空いてるんじゃないかな。兄貴のとこも家族で海外
に行くって言ってたし」

母「そうそう。あそこなら海辺だし遊びに行くにはちょうどいいわね。ほら、兄は昔行っ
たことあるでしょ」

兄「別荘ってあれのことかよ。単なる古い平屋じゃない。あの当時で既に半ば老朽化して
たような」

父「別荘には変わりないだろ」

妹「だからいいって。こんなに急に一緒に行ける友だちなんかいないし」

母「聞くだけ聞いてみたら? お仕事で休めないご家庭だってあるんじゃない」

妹「それはいるかもしれないけど、でもそしたらお兄ちゃんが一人になっちゃうし」

兄「俺は別にいいよ。気が楽だし」

父「・・・・・・本当に姫は優しい子に育ったなあ。兄のことを心配するなんて」

兄(だからそこで涙ぐむなよ。父さんを見ているとまるで自分を見ているような溺愛ぶり
だ。こういうのを同族嫌悪って言うんだろうな)

母「じゃあ、ついでだから兄も一緒に連れて行ってあげたら?」

兄(ついでって)

父「それがいい。姫に何かあったら困るからボディーガード代わりに連れて行きなさい」

母「兄は免許も取ったことだしパパの車を使えばいいわね。運転手兼ボディーガードって
ところかしらね」

兄(ふざけんな。誰が行くか)

妹「だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ」

父「おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか」

兄「嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)」

妹「・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん」

兄「おまえが兄貴と一緒でもいいならな」

妹「あたしは嬉しいけど」

兄「そ、そう(嬉しいのか)」

妹「じゃあちょっと友だちに聞いてみるね」

父「そうしなさい。パパは伯父さんに電話をしておくから」

妹「気が早いよパパ。まだ一緒に行ける友だちが見つかるかわからないのに」

母「そうしたら兄と二人で一緒に行っておいで。連休中に家にいるよりはいいでしょ」

妹「それもそうか。じゃあ、電話してみる」

兄(しかし買ったエロゲの妹ルート以外は全く攻略しないってのも俺くらいだろうな)

兄(正直どんなに可愛くても後輩ルートとか同級生ルートとか幼馴染ルートとか全然興味
が持てないもんな)

兄(まあ、今では俺は姫のいい兄貴なんだけどせめてエロゲの中くらいでは妹ルートを攻
略したっていいだろう)

兄(初恋の杏ルートのシナリオはマジで名作だな。これはもはやゲームの域を超えてい
る。親バレ、親離婚とかやたらにリアルなのもいい。普段は兄のことをからかいまくって
いる杏が実は密かに兄ラブだったっている設定も俺好みだしね)

兄(個人的には連休中は部屋に引きこもってずっとゲームしてても不満はないんだけど
な。でも妹にしてみれば大好きな家族と一緒に海外に行きたかったんだろうなあ)

兄(妹と妹の友だちの女子高生と一緒にお泊まり旅行か。あるいは妹と二人きりでお泊り旅行。
何かどっちにしても嫌な話はないじゃんか)


<意外といいやつかも>




兄「どうしてこうなる」

彼氏「お兄さん運転上手ですよね」

兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ」

彼氏「いやあ。本当に上手ですよ。初心者とは思えません」

兄「(俺にお世辞を言うなよ。どうせ妹のことしか頭にはないくせに)そういやさ」

彼氏「はい」

兄「おまえらって連休中は予定なかったの?」

彼氏「はい。父はホテルマンなんで」

兄「ああそうなんだ。じゃあ人が遊んでいるときに忙しくなる職業なんだな」

彼氏「そうなんですよ。だから妹ちゃんから誘ってもらって僕も妹も嬉しかったです」

兄「それならよかったけど(しかし何で助手席に姫じゃなくてこいつがいるんだ。何で姫
と妹友が後部座席なんだよ)」

彼氏「別荘なんてすごいですよね。楽しみです」

兄「伯父さんの別荘なんだけどさ。あまり期待しない方がいいぜ」

彼氏「何でですか」

兄「俺、昔そこに行ったことがあるんだけどさ。当時でさえ築百五十年くらい経ってるん
じゃないかと思ったほどの古い平屋の家だぜ」

彼氏「そうなんですか」

兄「まあ、別荘とは名ばかりの廃屋くらいに考えておいた方がいいな」

彼氏「何だか別な意味ですごそうですね」

兄「・・・・・・あのさ」

彼氏「はい」

兄「(後部座席の妹たちには聞こえないように)この前図書館脇の公園でおまえらと会っ
たじゃん?」

彼氏「はい。あのときは妹が失礼しました」

兄「それはいいんだけどさ。あのとき妹と妹友って喧嘩みたくなったじゃんか」

彼氏「そうでしたね」

兄「もう仲直りしたのかな」

彼氏「したんじゃないですかね。だってほら」

兄(後部座席で妹と妹友が楽しそうにお喋りしてる。ポテチとか食いながら)

彼氏「今日のお誘いだって妹は二つ返事だったみたいだし、妹ちゃんだってまっ先に妹に
声をかけてくれたみたいだし。とっくに仲直りしてるんでしょうね」

兄「それならよかった」

彼氏「お兄さんにご心配をおかけしてしまってすいません」

兄(・・・・・・何かこいつ。意外といいやつかも。妹の彼氏だっていうだけで偏見を持ってい
たのかもしれん。兄として考えるに兄友みたいなチャラいアホなんかより妹の彼氏として
は全然ましだよな。ちょっと空気読めないところはあるけどとりあえず真面目そうだし、
礼儀正しいし)

彼氏「お兄さんすいません。僕が免許を持ってれば運転を代われたのに」


兄「無茶言うな。高校在学中に免許なんか取れるかよ。そもそも受験生だろうが」

彼氏「はい」

兄「どこ受けるの?」

彼氏「お兄さんと同じ大学志望です」

兄「そうなんだ」

彼氏「ええ。妹ちゃんがそこを狙っているので」

妹「ねえ。お兄ちゃん」

兄「どうした?」

妹「まだ着くまでに時間かかるの?」

兄「ああ。渋滞してるしな。海が見えるまであと二時間くらいはかかるかもな」

妹「じゃあ、どっかでお昼食べようよ。その後は買物だってしなきゃいけないし」

兄「じゃあ次のファミレスで休憩しようか」

妹「うん。お腹空いちゃった。妹友ちゃんもそれでいい?」

妹友「うん」

彼氏「お兄さん」

兄「どした」

彼氏「あそこにファミレスがありますよ」

兄「おお。じゃああそこに入ろう」



妹「あー疲れたあ」

彼氏「おつかれ」

妹「彼氏君こそ疲れたでしょ? ずっとお兄ちゃんの隣で気を遣ったんじゃない?」

彼氏「そんなことないよ。お兄さんって話し上手だし」

妹「こら。嘘言うな。そもそもそういうのを気を遣うって言うんだよ」

彼氏「本当だって」

妹「まあそういうことにしておいてあげるよ」

兄(・・・・・・車内で妹とはほとんど会話できなかった分、車を降りたら姫と話せるかと思っ
てたのに)

妹「四人です。禁煙席をお願いします」

兄(まあそれは彼氏君も一緒だったんだけど。車を降りたとたんに妹と彼氏君が肩を並べ
て歩き出した。楽しそうに会話しながら)

兄(まあ、こいつらは付き合ってるんだしそれが自然なんだろう。だいたいいい兄貴にな
るって決めた俺がこんなことくらいで動揺することがおかしい)

妹友「・・・・・・お兄さん」

兄(俺が姫と仲良くしてどうする。姫が彼氏と一緒で楽しそうならそれで本望じゃねえ
か)

兄(父さんと母さんが言ってたとおりだ。俺は運転手兼ボディーガード。それで十分だ
ろ)


<座席の並び方>




妹友「お兄さん」

兄「あ、悪い」

妹友「どうかしましたか」

兄「いや、大丈夫だよ」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんは先に行っちゃいましたよ。あたしたちも席に行きましょ
う」

兄「そうだな」

妹友「そっちじゃないです、お兄さん。そっちは喫煙席ですから」

兄「お、おう悪い」

妹友「あそこみたいですよ」

兄「そうだな」

妹友「お待たせ」

妹「妹友ちゃんもお兄ちゃんも遅いよ。何してたのよ」

兄「何って別に」

妹「早く座って。お腹空いたってば」

彼氏「まあまあ。お兄さんは一人で運転してくれて疲れてるんだから。あんまりわがまま
言っちゃだめだって」

妹「だってさあ」

兄(あれ)

兄(奥に妹、その隣に彼氏君が並んで座っている)

兄(それはそうだよな。彼氏君と妹が並んで座るなんて当たり前じゃんか)

兄(何で妹が俺の隣に座るなんて思い込んでたんだろう)

兄(・・・・・・何かこの旅行って辛い気持になるばかりだな)

兄(いかんいかん。いい兄貴になるんだろ? 今さらこんなことくらいでダメージを受け
てどうする)

妹友「お兄さん奥に行きますか?」

兄「いや、妹友ちゃんが先に座りなよ。妹の向かいの方が話しやすいでしょ」

妹「・・・・・・」

妹友「それじゃあ」

兄「うん」

彼氏「お兄さんメニューをどうぞ」

兄「ありがとう。じゃあ、妹友ちゃん一緒にメニューを見ようか」

妹友「そうですね。二つしかないみたいだし」

彼氏「妹ちゃんは何にする?」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃん?」

妹「ああ、ごめん。どうしようかなあ」


兄「このリゾットって何だろ」

妹友「ああ、それはイタリアのお米を使った料理ですよ」

兄「雑炊みてえだな」

妹友「味は大分違いますけど、まあイメージはそんな感じです」

兄「雑炊ならいいや。何か肉食いたいな」

妹「・・・・・・今夜は海岸でバーベキューするんだよ。お昼からお肉を食べてどうすんのよ」

兄(何だよこいつ。ようやく話しかけてくれたと思ったら文句かよ)

妹友「まあ、でもお兄さんは運転で疲れてるでしょうし、好きなものを食べた方がいいで
すよね」

兄「ありがと妹友ちゃん」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃんは何食べるの?」

妹「どうしようかなあ。彼氏君は?」

彼氏「僕はこの渡り蟹のトマトソースパスタにしようかな」

妹「美味しそう。じゃあ、あたしは違うパスタにするね」

彼氏「何で?」

妹「違うやつにすれば二人で二種類のパスタを食べられるじゃん」

彼氏「え?」

妹「あたしは和風明太マヨスパゲッティーにしようかな」

妹友「じゃあ、お兄さんはこのサイコロステーキセットにするんですね」

兄「いや、ちょっと待ってくれ」

妹友「今度はいったい何ですか」

兄「こっちのステーキセットと同じグラム数なのにサイコロの方は何でこんなに安いんだ
ろ」

妹友「多分、成型肉を使ってるから安いんだと思いますよ」

兄「成型肉って何?」

妹友「肉の切れ端の部分は普通は棄てるんですけど、それを集めて圧力をかけてサイコロ
状にしたのがこのサイコロステーキだと思います。廃棄するところを使っているから安い
んですよ」

兄「そんなのを食うのはやだなあ」

妹友「じゃあこっちのヒレかロースのステーキにしたらどうですか」

兄「どう違うの?」


妹友「いちいち解説したらきりがないです。ロースの方が脂身が多い。それでいいでし
ょ」

兄「解説の手を抜くなよ」

妹友「お兄さんはロースステーキで決まりですね」

彼氏「・・・・・・妹ちゃん」

妹「何ひそひそと小さな声で話してるの?」

彼氏「また怒られちゃうかもしれないけど、うちの妹とお兄さんって結構お似合いだよ
ね」

妹「え」

兄「勝手に決めるな。俺はヒレの方が」

妹友「ヒレは赤身中心の肉なので、ギトギト系が好きなお兄さんが満足できないんじゃな
いですか」

妹「・・・・・・」

兄「え? そうなの。 じゃあ、ロースでいいや」

妹友「本当にそれでいいんですね?」

妹「・・・・・・いつまで選んでるのよ。いい加減に決めてよ!」

兄「え?」

彼氏「妹ちゃん?」

妹友「あ、ごめんなさい」

妹「あ。あたしの方こそごめんなさい」

兄(おまえが切れるなよ。彼氏と楽しそうにメニューを眺めてたくせに)

兄(いや。それでいいんだった。何で妹が切れたのかはわかんないけど、この座席順は結
果オーライだ。そう考えよう)


今日は以上です
また投下します


<ラブシャッフルかよ>




兄「どうしてこうなる」

妹友「お兄さん運転上手ですよね」

兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ・・・・・・って、おまえらって本当に兄妹
なんだな」

妹友「どういう意味です」

兄「彼氏君にもさっき同じことを言われたからさ」

妹友「単なる偶然ですよ」

兄「そうだろうけど」

妹友「あたしたちが本当に兄妹であることには残念ながら一点の疑義もありませんけど
ね」

兄「残念なのかよ」

妹友「義理ならよかったんですけどね」

兄「・・・・・・後ろに聞こえちゃうぞ」

妹友「そんな心配はないですよ」

兄「狭い車内なんだしさ」

妹友「だってほら」

兄「(仲良くお昼寝かよ。まあ密着しているわけじゃないことがせめてもの救いだけど)
なるほど」

妹友「今朝は早起きして出発しましたし、お腹もいっぱいになれば眠くなりますよね」

兄「まあそうだな。つうかおまえも眠かったら寝ちゃっていいぞ」

妹友「あたしは自分の身が可愛いですから」

兄「おまえなあ。居眠り運転なんかしねえよ。てか初心者でそんな余裕なんてねえよ」

妹友「そうじゃないです」

兄「じゃあ何だよ」

妹友「自分の傍らで寝入っているあどけない美少女の肢体に対してお兄さんがついつい悪
戯心を出してしまったらあたしの身が危険ですから」

兄「そんなことを心配してたのかよ。俺は性犯罪者じゃねえぞ。そもそもあどけない美少
女なんてどこにいるんだよ」

妹友「お兄さんに身体を悪戯されるくらいは許してあげてもいいのですけど、それ以上に
運転中に淫らな行為をしているお兄さんが運転を誤ったら生命維持的に大変なことになっ
てしまいます」

兄「そっちかよ」

妹友「冗談ですよ」

兄「おまえの冗談はたちが悪い。心臓にも悪い」

妹友「真面目に言うとお兄さん一人に運転させてあたしが寝ちゃうなんて申し訳なくてで
きません」

兄「後部座席の二人にはそんな気遣いはさらさらなさそうだけどな」

妹友「後ろの人のことは知りません。少なくともあたしは嫌なんです」

兄「んな気を遣わなくてもいいのに」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・だんだんと道が空いてきたな」

妹友「そうですね」


兄「それにしても何でいきなり席替えしたんだろうな」

妹友「その方が楽しいじゃないですか」

兄「そうかなあ」

妹友「あたしよりお兄ちゃんが隣にいた方が嬉しかったのですか」

兄「そうじゃねえけど」

妹友「・・・・・・え? まさかお兄さんってそっちの趣味が」

兄「何の話だよ」

妹友「冗談ですよ。お兄ちゃんと妹ちゃんだって隣にいたいんじゃないかと思って」

兄「おまえが提案したのか」

妹友「はい。二人からは言い出せないだろうと思ったので、あたしが犠牲になろうかと」

兄(・・・・・・俺の隣に座るのって犠牲とか言われるほどの苦行なのか)

妹友「自らお兄さんの隣に座りたいって妹ちゃんに駄々をこねてみました」

兄「・・・・・・そう」

妹友「せっかくそこまでして気を遣ってあげたのに二人して寝てしまうとはバカですよ
ね」

兄「さあ。俺にはよくわかんねえけど」

妹友「まあ、次の休憩でまた席替えをしましょう」

兄「ラブシャッフルかよ」

妹友「またずいぶんと懐かしいドラマのことを」

兄「おまえさ」

妹友「何でしょう」

兄「いつの間に妹と仲直りしたの」

妹友「今日のお誘いの電話をもらったときです」

兄「え? 喧嘩状態だったのに妹はおまえを旅行に誘ったんだ」

妹友「妹ちゃんも仲直りしたかったんじゃないですか。それで誘ってくれたんだと思いま
す」

兄「も?」

妹友「はい。あたしも同じでしたから」

兄「そうか。まあ、これがきっかけになったのならよかった」

妹友「お兄さんにはご迷惑をおかけしました」

兄「おまえに謝られると気持悪い」

妹友「・・・・・・お兄さんひどい」

兄「口の悪さはお互い様だ」

妹友「ふふ。そう言えばそうでしたね」

兄「自覚くらいはしてたのか」

妹友「はい。わかっててやってますから」

兄「本当にたちが悪いな」


妹友「まあ次のシャッフルでは助手席に座るのは妹ちゃんだからあんまり落ち込まないで
くださいね」

兄「俺は別に落ち込んでねえぞ」

妹友「態度でバレバレでしたよ。お兄さんが妹ちゃんと仲良くできなくて拗ねていること
が」

兄「それはおまえの誤解だ」

妹友「そうですか」

兄「おまえはどうなの」

妹友「え?」

兄「おまえだって大好きな兄貴の隣で一緒にいたいんじゃねえの」

妹友「まあ否定はしません。でも意外と楽しいんですよね」

兄「何が」

妹友「ファミレスでお兄さんの注文を手伝ったり、ドライブ中のお兄さんの隣の席にいる
ことがです」

兄「え(何言ってるんだこいつ)」

妹友「あたし、どうしちゃったんでしょうね。今までお兄ちゃん以外の男の人と一緒にい
て楽しいなんて思ったことはなかったのに」

兄「まあ何と言っていいのかわからんけど、それはそれでよかったのかもな(兄妹じゃど
うせ結ばれないんだしな)」

妹友「どういう意味?」

兄「(こいつ何赤くなって目を潤ませてんだ)いや、どういう意味って」

妹友「お兄さんもそうなんですか」

兄「いや。ほらさ、おまえ前に言ってたじゃん。兄妹の関係なんか行き場のない行き止ま
りの関係だって」

妹友「言いましたけど」

兄「だからさ。人のことは言えねえけどおまえも前を向き出してるってことじゃゃねえ
の」

妹友「お兄さんには言われたくないです」

兄「・・・・・・俺はもう割り切ったし。これからは姫のいい兄貴になるって決めたしね」

妹友「え?」

兄「何だよ。おまえに言われて気がついたことなのに何を意外そうに」

妹友「ぷ。ひ、姫だって」

兄(げ。やば)

妹友「姫って呼んでたんですね。妹ちゃんのこと。あははは」

兄「おい。ちょっと声がでかいって。後ろが起きちゃうだろうが」

妹友「おかしい~。ひ、ひ、ひ」

兄「ちょっと笑い過ぎだ」

妹友「ひ、姫かあ」

兄「もういいだろ」

妹友「ご、ごめんなさい」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんって幸せだなあ」

兄「・・・・・・そうかな」

妹友「あたしのお兄ちゃんとは大違い」


<海辺の夕暮れ>




兄「そうなのか」

妹友「まあ、いいんですけどね」

兄「海が見えた」

妹友「本当ですね。綺麗」

兄(・・・・・・こいつの横顔、結構綺麗だな)

兄(って俺は何を考えてる)

兄(でも。こいつもこいつの兄貴もそんなに嫌なやつじゃないのかもしれないな)

妹友「まだ時間かかるんですか」

兄「ここまで来たら、もう少しだと思う」

妹友「どこかで食材を調達するって妹ちゃんが言ってましたけど」

兄「今夜は庭でバーベキューをしたいんだって」

妹友「いいですね」

兄「もう少し海辺を走ったら街中に出ると思うから、そしたらスーパーを探さないとな」

妹友「それは任せてください」

兄「ああ頼むよ」

妹友「何か夕暮れになってきましたね」

兄「昼飯が遅かったからな」

妹友「ステーキ美味しかったですか」

兄「まあまあかな」

妹友「せっかく選んであげたのに」

兄「だって筋が多くて固かったし」

妹友「・・・・・・オムライスは?」

兄「へ」

妹友「あたしが作ったオムライスはどうでしたか? 考えてみればまだ感想を聞いてなか
ったです」

兄「美味しかったよ(あの日は三食連続オムライスだったわけだけど)」

妹友「よかった」

兄(何か微妙な雰囲気。例えて言えばお互い振られた同士が傷を舐めあっているような)

妹友「何か落ちつきますね」

兄「そう?」

妹友「はい。お兄ちゃんのことばかり考えていらいらしたり、妹ちゃんと口喧嘩になって
たときよりは、今の方が全然いいです」

兄(どういう意味だ)


妹友「前方にスーパーを発見しました」

兄「よし。ここで買物して行こう」

妹友「はい。じゃあ、そろそろ二人を起こしますね」

兄「そうして」

妹友「お兄ちゃん起きて。妹ちゃんも。買出しに行くよ」

妹「・・・・・・あれ? ここどこ」

兄(何言ってる)

彼氏「寝ちゃってたのか。お兄さんすいません」

兄「いいよ別に」

妹友「二人が寝ている間はあたしがお兄さんの話し相手をしてたから大丈夫だよ」

彼氏「そうか。妹も悪かったな」

妹友「いいって。海辺の道の景色すごくきれだったし。ねえ? お兄さん」

兄「まあな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあさっさと今夜のバーベキューの買物しちゃおうぜ」

妹友「そうですね」

妹「そんなに早く買物が終るわけないじゃん」

兄「何で? 肉と野菜を買えばいいんだろ」

妹「明日の朝食はどうすんの? お昼ご飯は」

兄「ああそうか」

妹「食材以外でも買うものはいっぱいあるの。簡単にさっさとか言わないでよ」

兄「え?」

妹「もういい。お兄ちゃんなんか頼りにならないや。妹友ちゃん、あたしたちで買物しち
ゃおう」

妹友「う、うん」

兄「おい(何怒ってるんだ)」


<逆切れするな>




彼氏「妹ちゃん機嫌悪かったですよね」

兄「ああ。いったい何が気に入らないんだろうな」

彼氏「何でしょうねえ。ファミレスまでは機嫌よかったのに」

兄「寝起きだからかな」

彼氏「そうでしょうか」

兄「おまえも彼氏なら何とかしろよ」

彼氏「無理ですよ。自信ありません」

兄「全く頼りにならないやつだな」

彼氏「お兄さんこそお願いしますよ」

兄「何で俺なんだよ」

彼氏「十七年間もずっと妹ちゃんと一緒に生きてきたんですよね。それくらいはできるは
ず」

兄「てめえ(何かだんだんこいつ調子に乗って馴れ馴れしくなってきてるな)」

彼氏「お願いします」

兄「しかたねえなあ。よし、俺の実力を見せてやる(何だかんだ言ってこいつら兄妹のこ
とが憎めなくなってきているような気がする)」

彼氏「はい!」

兄「よし。店内に入って妹たちを探すぞ」

彼氏「了解です」

兄「で。どこにいるんだ」

彼氏「さあ」

兄「バーベキューなんだから生肉売り場に行けばいるだろ」

彼氏「そうですね。あ、いました」

兄「よし。おまえは妹友ちゃんを妹から引き離せ」

彼氏「・・・・・・どうすればいいんですか」

兄「おまえの妹だろ? それくらいは自分で考えろよ」

彼氏「そう言われても」

兄「・・・・・・じゃあ、おまえがうちの妹の機嫌を直す役をするか」

彼氏「妹を何とかします」

兄「全く最初からそう言えって」


彼氏「妹、ちょっと」

妹友「お兄ちゃん? どうしたの」

彼氏「歯ブラシとか忘れちゃってさ。買っときたいんで一緒に来て」

妹友「何で一緒に行く必要があるの?」

兄(あのばか。もっとましな理由を作れねえのかよ)

彼氏「いや、どういうのがいいのか僕じゃよくわからないし」

兄(んなわけあるか。歯ブラシなんてどれでも一緒だろ。全く使えないやつだ)

妹友「もう。あたしがいないと歯ブラシも買えないんだから。しようがないなあ」

兄(え? マジなの)

妹友「妹ちゃんちょとだけごめん。お兄ちゃんの買物に付き合ってくるね」

妹「うん」

兄(マジかよ。つうか彼氏君もこんなことくらいで誇らしげに俺を見るなよ)

兄(・・・・・・よし。いつまでも妹と気まずいわけにはいかん。父さんと母さんに頼まれてる
んだし)

兄「何買ってるの」

妹「見てわからない?」

兄「いや、肉だよね」

妹「・・・・・・」

兄「あ。俺カート押すよ」

妹「・・・・・・」

兄「押させてくださいお願いします。つうかおまえにカートを押させてたなんて知れたら
父さんに殺される」

妹「別にいいけど。はい」

兄「籠の中は。肉はだいたい買ったのな」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあ野菜売り場に行こうぜ」

妹「わかってるよ」

兄「・・・・・・ほら」

妹「何よ」

兄「これ。おまえの好物じゃん」

妹「アスパラ?」

兄「昔さ。家族で庭でバーベキューした時はおまえアスパラばっか食ってたじゃん」

妹「・・・・・・・・まあそうだけど」

兄「母さんが買い忘れると、おまえすげえがっかりしてたもんな」

妹「・・・・・・そんなこと今まで忘れてた。よく覚えてたね」

兄「姫のことだからな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあこのアスパラ籠に入れるな」

妹「・・・・・・別にいいけど」


兄「ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも」

妹「勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね」

兄「本当は和食がいいのに妥協したんだぜ」

妹「当たり前でしょばか」

兄「・・・・・・やっといつもどおりの姫になった」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ、パンを買いに」

妹「何でよ」

兄「え」

妹「何で今日はあたしに構ってくれなかったのよ。もうあたしを放置するなって言ったで
しょ」

兄「してねえよ。つうか俺はいい兄貴になるんだから」

妹「今日のお兄ちゃんは全然いい兄貴じゃないじゃん。あたしのこと放っておいて妹友ち
ゃんとベタベタして。だいたいお兄ちゃんは女さんとやり直すんでしょ」

兄「・・・・・・女とは仲直りしただけだよ。この先どうするかなんてまだわかんない」

妹「だからって。あたしを無視することないでしょ。何よ。あたしと隣になるのも避けて
たくせに」

兄「おい。いい加減にしろよ」

妹「逆切れするな」

兄「いい兄貴としてはおまえと彼氏君の邪魔なんかできないだろうが。それは俺だって寂
しかったけど」

妹「何でファミレスで車を降りたときにあたしの側に来てくれなかったの?」

兄「おまえが彼氏君と一緒にいたから」

妹「弱虫」

兄「何だって?」

妹「・・・・・・本当に寂しかったの?」

兄「本当だよ。今日はおまえと全然仲良くできてないし」

妹「お兄ちゃんは見栄とか張らないでもっと素直になった方がいいと思う」

兄「(何か表情が和らいだ)でもさ」

妹「何」

兄「俺一度おまえに振られてるからさ。臆病になるくらいは理解してくれよ」

妹「そんなこと」


妹友「じゃあ買い忘れはないよね」

妹「大丈夫だと思う」

彼氏「まあ、忘れてたらまた買いに来ればいいんだしね」

兄「・・・・・・誰が運転すると思ってるんだよ」

妹友「じゃあ出発しましょう。もう薄暗くなってきちゃったし」

妹「そうだね。お兄ちゃん?」

兄「うん?」

妹「別荘まであとどれくらいかかる?」

兄「もう一時間もかからないかな」

妹「じゃあ行こう。妹友ちゃん、ついたらすぐに食事の支度ね」

妹友「うん。じゃあ、本日最後のシャッフルです」

彼氏「え」

妹「何々?」

妹友「席替えね。今度は妹ちゃんが助手席であたしとお兄ちゃんが後部座席ね」

彼氏「了解」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・うん」

兄「おまえはここに来るの初めてだっけ」

妹「うん」

兄「そうか」

妹「ねえ。伯父さんの別荘ってそんなに汚いの」

兄「昔の記憶だけどな。ぼろぼろだった印象がある」

妹「そうなんだ」

兄「うん。でもリフォームしたらしいな。出がけに父さんから聞いたけど」

妹「よかった」

兄「それに家はともかくロケーションは最高だぞ。寝室や庭から海が見えるし」

妹「寝室って何部屋あるの」

兄「寝室って言っても確か六畳の和室が二つだけだけど」

妹「・・・・・・さっきはごめんね」

兄「いや、拗ねてたのは俺の方だし」

妹「そうか。お兄ちゃんあたしと話せなくて拗ねてたのか」

兄「そうだよ、悪いか」

妹「でも、夜になったらいっぱいお話できるじゃん」

兄「どういうこと」

妹「あたしとお兄ちゃんで一部屋、彼氏君と妹友ちゃんで一部屋でしょ。今日は一緒に寝
るからいっぱい話せるよ」

兄(・・・・・・マジで?)

妹「・・・・・・はい。どうぞ」

兄(運転中なんだけど。手つなぐの?)


今日は以上です

しばらくは毎日の投下は無理っぽいです
すいません


<BBQ>



妹「ほら彼氏君、この肉取っちゃって」

彼氏「ありがと」

妹友「少し肉とか野菜を載せすぎじゃないかな」

妹「そうかな? この方が景気がいいじゃん」

妹友「食べる方が忙しい気がする」

妹「お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「何でそんなに隅っこで座ってるの」

兄「ちょっと疲れた」

妹友「ずっと一人で運転してくれたんですものね」

兄「おまえにそんな優しい言葉をかけられると混乱するわ」

妹友「何言ってるんですか。お皿出してください」

妹「・・・・・・」

兄「うん」

妹友「お肉とソーセージですよ。ちょうどよく焼けてますから」

兄「ありがとな」

妹「・・・・・・肉ばっかじゃん。ほら」

兄「何だよ」

妹「お皿貸して」

兄「ちょっと待て。ピーマンとか入れ過ぎだろ。玉ねぎももうそれくらいでいいって」

妹「子どもじゃないんだからちゃんと野菜も食べなよ」

兄「・・・・・・わかってるよ」

妹「彼氏君もソーセージ食べる?」

彼氏「うん。ありがと」

妹友「お兄ちゃんも野菜食べてないよね。ちょっとお皿貸して」

彼氏「食べるのはいいけど、ちょっと野菜だけ山盛り過ぎじゃない」

妹友「子どもじゃないんだよ。それくらい食べなさいよ」

彼氏「わかったよ」

妹友「海からのいい風が来るんだね」

妹「そうだね。風のせいで炭火なのに煙くなくっていいよね」

妹友「暗くてよく見えないけど、すぐ前はもう海岸なんでしょ」

妹「そうみたい。周りに人家もないし海水浴場でもないからプライベートビーチ状態だっ
てパパが言ってた」

妹友「さすがに泳ぐにはちょと早すぎるよね」

妹「どうだろう。少し冷たいかもね」

妹友「海辺に行くって聞いたんでさ。無駄かもと思いながら実は水着持ってきちゃった」

妹「え? マジで」

妹友「まず使わないだろうと思ったんだけどさ」

妹「・・・・・・実はあたしも」


彼氏「何か野菜のバーベキューみたいですね」

兄「おまえだけじゃないぞ。俺だってほら」

彼氏「たいしたことないじゃないですか。僕の皿に比べたら」

兄「ばか言え。俺の皿の方が大量のピーマンや玉ねぎが」

彼氏「いや。僕なんかこんなに人参とキャベツが」

兄「・・・・・・食うか」

彼氏「それしかないですね」

兄「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・お兄さんっていい人ですよね」

兄「何を言ってる」

彼氏「何かお兄さんとは気が合うような気がします」

兄「そうか(妹ともっと深い仲になるための策略か。将を射んとせば先ず馬を射よとはよ
く言ったもんだ)」

兄(確かに姫と俺の関係では姫が大将で俺はせいぜい姫の乗馬だもんな)

彼氏「何か妹がいるところとか境遇が似てますよね」

兄「逆に言うと妹がいる以外で似てるところはあるの?」

彼氏「さあ。それはわからないですけど。妹への距離感とかがすごく似ている気がしま
す」

兄「・・・・・・どういう意味だよ」

彼氏「仲がいいというか。良すぎるというかそういうところですね」

兄「おまえと妹友ちゃんって仲いいの?」

彼氏「ええ。昔から仲が良すぎるくらいで、両親に変な心配をされるくらいでした」

兄「変な心配って」

彼氏「まあ、さすがにそれは親の誤解なんですけどね。それでもそう言われてもしかたが
ないくらい、昔から妹とは仲良しでしたね」

兄「妹との仲のいいことを恥じることはねえよ。それが変な関係じゃねえんだったらなお
さらだ。むしろ誇ってもいいと思うぞ」

彼氏「そうですよね。僕もそう思ってましたけど、お兄さんからもそう言ってもらえて嬉
しいです」

兄「彼氏君さ。おまえ本当に俺の妹のことが好きなの?」

彼氏「本当です。妹ちゃんに告白して、OKしてくれてすごく幸せです」

兄「おまえの妹はどうなんだよ」

彼氏「・・・・・・お兄さんだから正直に言いますけど。妹は多分僕と妹ちゃんの仲に割り切れ
ない想いを抱えているんだろうと思います」

兄「やっぱりな。妹ちゃんってどう考えてもブラコンだもんな」

彼氏「さすがですね。やはりわかりますか」

兄「何がさすがかわからんけど、妹友と話しているとそんな気配がぷんぷんしてるもん
な」

彼氏「妹に慕われていることは嬉しいのですけど、恋愛感情となるとまた別です」

兄「まあおまえはうちの妹のことが好きなんだからしかたないね」


<おまえの前じゃ猫被ってんだよ>




彼氏「だからお兄さんのところの兄妹関係が僕の理想です。できれば妹とはそういう関係
になりたいんです」

兄「うちの関係?」

彼氏「はい。妹ちゃんはすごくお兄さんを尊敬していますし、信頼もしています。まだわ
ずかな間だけのお付き合いしかしていませんけど、それでもそれは十分に理解できまし
た」

兄「そうなんだ」

彼氏「それでもお兄さんと妹ちゃんは心からいい兄妹で、そこには変な感情は一切ない
し」

兄(ついこの間まで俺の方には変な感情が全開であったんだけどな)

彼氏「ある意味、仲のいい兄妹の理想像ですよ」

兄「・・・・・・そうか」

彼氏「妹ちゃんは恋愛感情とかじゃなくて純粋にお兄さんのことを慕っていますよね。う
ちの妹にもその境地に至って欲しいんですけどね」

兄「妹友ちゃんは頭がいい子だし。おまえが心配しているような近親相姦みたいな関係を
本気で望んだりはしないと思うけどな」

彼氏「はい。最近ではようやく僕もそう思えるようになってきました」

兄「そうか。それならよかったじゃんか」

彼氏「今まではだめだったんですよ。あいつは僕が言うのも何ですけど見た目は可愛いじ
ゃないですか」

兄「まあ確かに見た目はすごく可愛いよな(確かに可愛い。俺の姫には劣るけれども、女
とどっこいどっこいなくらいに)」

彼氏「そうでしょう。妹選抜総選挙があったとしたら、センターは確実ですよね」

兄「何、得意気に妹の自慢してんだよ。おまえの妹は見た目はいいが言動が痛すぎる」

彼氏「そうですか? その辺も普通に可愛いとしか思えませんけど」

兄(おまえの前じゃ猫被ってんだよ。その点、俺の妹は)

兄(俺の妹は・・・・・・。まあ、俺の前で猫被ったりはしないな。いろいろ問題はあると思う
けど、少なくとも俺の前では素直だと思う)

兄(つまり、わがままだったり俺のこと振ったくせに俺に嫉妬じみた行動したり、俺を放
っておいて彼氏君と仲良くした挙句、俺に放置されたと逆上したり)

兄(人から見たら最悪の妹だけど。面倒くささでいったら女友とか女とか妹友とかよりも
っと面倒くさい訳わかんない女だけど)

兄(俺が大切に思っている姫ってそういう女だからさ。別に俺が振り回されたっていいん
だ)

彼氏「こんなこと言うとまたお兄さんや妹ちゃんに怒られちゃうかもしれませんけど」

兄「何だよ」

彼氏「妹はお兄さんと知り合ってから少し変わったような気がします」

兄「何だって」


彼氏「さっき、妹ちゃんが寝ちゃたんで僕もうとうとしてたんですけど」

兄「ああ。ドライブ中の話ね」

彼氏「寝ちゃってすいません」

兄「それはいいけど」

彼氏「うとうとしてたら妹がお兄さんに話しかけてる声が聞こえて」

兄「うん」

彼氏「何かいい雰囲気でした。妹が僕以外の男に甘えたような口調で話すのを初めて聞き
ました」

兄「そ、そう」

彼氏「ちょうど海が見えた当たりですかね。夕暮れの中で妹がお兄さんに話している言葉
は全く聞こえなかったんですけど、その口調だけはわかりました」

兄「考えすぎじゃないのか」

彼氏「さあどうでしょうか。でもファミレスで妹がお兄さんとメニューを見ながら楽しそ
うに話しているのを聞いたときから、何かそんな予感がしていたんですね」

兄「まさか、おまえさ。本当に好きなのはうちの妹じゃなくて妹友ちゃんのことじゃねえ
だろうな」

彼氏「はい?」

兄「はいって」

彼氏「あいつは実の妹ですよ。そんな感情は全くないです」

兄「おまえら見てると何となくそういうのもありそうで恐い」

彼氏「でも。妹の方は正直よくわからなくて不安だったんですけど、少なくとも今は妹の
好きな男はお兄さんだと思います」

兄「違うと思うけどなあ(てめえの妹の好きな男は実の兄貴のおまえだっつうの。もっと
も妹友は近親相姦なんてありえないって考えているけど)」

兄(そうか。だから妹友は悩んでるんだ。ありえないって思いきれるほどの常識があるの
にもかかわらず、本当に好きな男が実の兄だっていう矛盾を抱ええて)

彼氏「お兄さん、妹のことをよろしくお願いします」

兄「ちょっと待て」

彼氏「別に妹と付き合ってくださいと言っているわけじゃないです。でもせめて妹を興味
半分に弄ばないでください」

兄「そんなことするかよ。それにそんなことできるほど女に慣れてないっつうの」

彼氏「変なこと言ってすいません」

兄「おまえの方こそ」

彼氏「え」

兄「えじゃねえよ。万一妹を悲しませたらマジで殺すぞ」

彼氏「はい。そんなことは絶対にありません」

兄「(即答かよ)それならいいけどよ」


<変なことをするのは禁止ね>




妹「ほら。お肉が焦げちゃうからさっさとお皿持ってきて」

兄「ほら行け。彼氏君」

彼氏「はい。行って来ます」

兄(・・・・・・いいやつだ。こういうちゃつなら妹を任せてもいいのかもしれないな)

兄(姫の彼氏が兄友みたいなどうしようもないクズじゃなくて幸運だったのかもしれな
い)

兄(姫も兄友君のことは好きみたいだし)



妹『もうやだ。あたし彼氏と別れるから』



兄(好きな相手と別れるなんて言わせちゃいけない。いくら姫が俺のことを兄として大事
にしてくれていたとしても)

妹友「お兄さんも来て下さい。このままじゃ肉が焦げてしまいます」

兄「ちょっと一度に載せすぎじゃねえの」

妹「何よ。その方が景気がいいじゃん。彼氏君、お皿出して」

彼氏「ありがと」

妹「美味しい?」

彼氏「うん。すげえ美味しい。妹ちゃんが焼いてくれてるからかな」

妹友「誰が焼いたって同じじゃん」

彼氏「俺には違いがわかるの」

妹友「ほう。じゃあこの肉を焼いたのはあたしか妹ちゃんか答えてみ?」

彼氏「え?」

妹友「違いがわかるんでしょ」

彼氏「お腹空いたからこの人参を食おう」

妹友「逃げたな」

妹「ちょっとトレイに行くね。妹友ちゃんあとお願い」

妹友「いいよ。ってこらお兄ちゃん誤魔化すな。誰が焼いたか言え」


妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「トイレって言って出て来ちゃった」

兄「・・・・・・そうか」

妹「また拗ねてるの? あたしと彼氏君の仲がいいことに」

兄「いや」

妹「あたしだってお兄ちゃんとなるべく一緒にいたい」

兄「そんなに俺に気を遣うなよ」

妹「本当だって」

兄「まあ、正直に言えば俺も姫をあいつに取られたみたいで寂しいことは寂しいけど」

妹「・・・・・・うん。お兄ちゃんがあたしたちに嫉妬してたことはわかってた」

兄「おまえトイレ行かなくていいの」

妹「単なる口実だもん」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・ふは」

妹「ふふ。またお兄ちゃんにキスしちゃった」

兄「・・・・・・おい。あいつらに見られたらやばいだろ」

妹「もう女友さんには見られてるじゃんん」

兄「あのときと違って今は恋人同士の振りをする必要なんてねえだろ」

妹「何よ。お兄ちゃん嫌なの?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「俺、確かにおまえに振られたんだよな?」

妹「うん。そうだよ」

兄「・・・・・・俺がいい兄貴でいようと我慢するにも限度があるんだけど」

妹「こんなことでもう限界なの?」

兄「・・・・・・何考えてるんだよ」

妹「さっさとバーベキューを終らせようよ。そんで後片付けしてお風呂に入って」

兄「・・・・・・そんで何だよ」

妹「伯父さんの別荘って寝室は二部屋しかないんでしょ」

兄「ああ」

妹「じゃあ。話の続きは一緒に寝てからしようよ」

兄「・・・・・・」

妹「あ。でも変なことをするのは禁止ね」

兄「・・・・・・わかった」


<寝室にて>




妹友「洗い物もだいたい終ったね」

妹「結局お兄ちゃんも彼氏君もバーベキューセットをしまったくらいで義務を果たした気
になってるし」

妹友「あはは。でも男の子なんてそういうもんだって」

妹「だってそんなの不公平じゃん」

妹友「そう言われてもさ。そういう風に育てられて来てるからね。お兄ちゃんも。きっと
お兄さんもそうだろうし」

妹「うちのお兄ちゃんはうざいくらいあたしの台所仕事を手伝いたがったけど」

妹友「うちのお兄ちゃんとは大違いだ」

兄「運んできたぞ。多分、これで洗い物は最後だ」

妹友「意外とお兄さんってまめなんですね」

兄「男女間の性差に基づく議論なら今からでも相手になってやるけど?」

妹「やめなよ。大人気ない」

妹友「いつでも相手になってあげます。けど、今は洗い物があるので」

兄「逃げたな」

妹「お兄ちゃん!」

兄「風呂入ってくる」

妹「お風呂から二度と出てくるな」

兄「遅かったな」

妹「普通はお客さんから最初に入ってもらうもんでしょうが」

兄「だってあいつらなかなか風呂に行かないんだもん」

妹「遠慮してるに決まってるでしょ。」

兄「風呂はリフォームしてあったな。思っていたよりだいぶ綺麗だった」

妹「お布団くっつけて」

兄「・・・・・・あいよ」


妹「お兄ちゃん。あたしを彼氏君に取られちゃったと思って寂しかった?」

兄「別にそんなことは」

妹「あたしたち兄妹なのに」

兄「わかってるって」

妹「単に妹にすぎないあたしと今日はあんまり話せなくて寂しかった?」

兄「いや、まあ。妹友が相手してれくたし」

妹「お兄ちゃんは妹友ちゃんが好きなの?」

兄「(何か姫が怒ってるし)いや。男女の仲って意味ならそこまでじゃない」

妹「女さんは? やり直そうって言われたんでしょ」

兄「そんなのわからねえよ」

妹「お兄ちゃんって本当に人を好きになったことあるの」

兄「何だよ」

妹「何が何でも、あたしを彼氏君から奪おうとか思ったことないでしょ」

兄「・・・・・・・何それ」

妹「何でもない。ごめん」

兄「・・・・・・」

妹「ごめん。もう寝るね」

兄(・・・・・神様。もう許してくれよ)


今日は以上です


<君が義理ならどんなにいいか>




兄(まだ夜明け前か。すいぶん早く目を覚ましてしまったな)

兄(・・・・・・妹が抱きついてるんじゃないかと期待したんだけどそんなことはなかった)

兄(何キモい期待してんだ俺。俺自身がちゃんといい兄貴の意識を持ててないから、妹も
混乱して矛盾だらけの行動を取っちゃうんだろうな)

兄(いい加減に落ちつかなくっちゃ。妹と彼氏君の仲に嫉妬とかして拗ねてる場合じゃね
え。明日は適度に妹と彼氏君を二人にしてやろう)

兄(姫の不機嫌を招くかもしれないけど、それは俺がうじうじとした態度だったからじゃ
ねえかな)

兄(妹友と一緒にいると姫が微妙に不機嫌だったのはちょっと気になるけど)

兄(今はいろいろお互いの関係とか距離感が不安定だからだろうな。現に女には俺に告る
ことを勧めるようなことを言ってたし)

兄(ずっと一人でいいと思ってた。一人で姫を見守ろうと。でもそれじゃあ姫のほうが安
定しないみたいだ)

兄(どうすっかなあ)

兄(しかし可愛い寝顔だな)

兄(・・・・・・君が義理ならどんなにいいか)

兄(まあ、兄貴でなかったら俺なんか姫には全く相手にされてなかったろうけどさ)

兄(とりあえず女とは仲直りしたけど、姫の言うとおり女と復縁した方がいいのかなあ)

兄(付き合ってた頃だって気は合ってたしな)

兄(それにそうすれば姫だって安心して彼氏君と付き合えそうだし)

兄(・・・・・・だめだもう眠れねえ)

兄(そろそろ明るくなるだろうし海辺でも散歩して頭を冷やすか)

兄(姫を起こさないようにそっと)

兄(・・・・・・行ってくるよ姫)

兄(・・・・・・)


兄(記憶よりずっと海が近いな。波のざわめく音がすぐ間近で聞こえる)

兄(さすがにまだ暗いから足元が危ないな。・・・・・・確か庭を出てそこの斜面を少し降りれ
ばもう海岸だったはず)

兄(少し明るくなってきたな。あ、海が見えた)

兄(しかし確かに周囲を崖と丘に囲まれてるし他に家もないから完全にプライベートビー
チ状態だな)

兄(夏なら泳げたのに)

兄(・・・・・・姫の水着姿か)

兄(いかん。邪念を払わないと)

兄(あれ?)

兄(何だ誰かいるじゃん。一人でゆっくり散歩しようと思ってたのに)

兄(気づかれるのも何か気まずいな。でもこんなに小さなビーチじゃ隠れようもない
し。しかたないから家に戻るか)

兄(あれ)

妹友「・・・・・・あ」

兄「妹友か」

妹友「おはようございますお兄さん」

兄「ずいぶん早起きなんだな」

妹友「たまたまです。何か目が覚めたら眠れなくなっちゃって」

兄「俺と同じだ」

妹友「そうなんですか」

兄「眠れないから少し散歩でもしようかと思ってさ」

妹友「何か意外です」

兄「意外って何が?」

妹友「お兄さんのことだからきっと少しでも長く妹ちゃんの側にいたいのかと思ってまし
た」

兄「・・・・・・」

妹友「あ。ごめんなさい。あたし・・・・・・」

兄「別にいいよ。てかおまえがそんな殊勝な態度を俺に見せるなんてそっちの方が意外じ
ゃんか」

妹友「そんなことないですよ」


兄「何だよ。実はツンデレでしたとでも言う気か」

妹友「・・・・・・」

兄「いやあの。冗談なんだけど」

妹友「今までのあたしは必死でしたから。必死になって強気を装って毒舌を吐くようにし
てましたから」

兄「何のこと?」

妹友「いいです。別に何でもないです」

兄「そうか」

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「海が見えてきました。大分明るくなりましたね」

兄「そうだな」

妹友「もっと海の近くに行きたいな」

兄「行ってみるか。つってもその靴じゃ砂浜を歩くのは厳しいかな」

妹友「大丈夫です。行きましょう」

兄「あまり走ると危ないぞ」

妹友「わあ。日の出ですよ。海から直接お日様が昇るんですね」

兄「本当だ」

妹友「きゃっ」

兄「おい危ないって、あ」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・大丈夫?」

妹友「はい。支えていただいたので転ばないですみました」

兄「いや。いったいどうしたの?」

妹友「波が靴にかかって冷たくてびっくりしちゃった」

兄「これで転んでたら全身びしょ濡れになるとこだったな」

妹友「ええ。ありがとう」

兄「いや別に」

妹友「あ、あの」

兄「どうした」

妹友「多分もう手を離していただいても大丈夫だと思います」

兄「あ、悪い」

妹友「・・・・・・いえ」


<おまえが罪悪感を感じることはないんだ>




兄「・・・・・・・(さっきから妹友が俯いて俺の顔を見ようとしないんだが)」

兄(とっさに転びそうになった妹友を抱きかかえてしまったんだが、あれに怒っているの
かな)

兄(だけどかかえなきゃ転んでたよな)

兄(それにしても抱きしめるようにしたのはまずかったか)

兄(・・・・・・こいつも妹と同じだった)

兄(女や女友は多分C、いやひょっとしたらDくらいはあるかもだけど)

兄(妹と妹友はBマイナスってとこか)

兄(貧乳、スレンダー、華奢好きな俺にとっては別に問題はないけれど)

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「これまでいろいろとごめんなさい」

兄「何で謝ってるの」

妹友「お兄さんの気持を左右したり変えたりする権利なんかあたしにはないのに」

兄「・・・・・・ああ」

妹友「妹ちゃんが公園で言ってましたよね。何で自分と自分の兄の気持ばっかり優先する
のって」

兄「言ってたな」

妹友「本当は妹ちゃんの言うとおりなんです。あたし、お兄さんの気持ちとか妹ちゃんの
気持とか全然考えてなかった」

兄「俺に年上の余裕を見せろって言ったことか」

妹友「はい。すごく勝手なことを言いました」

兄「・・・・・・」

妹友「本当にごめんなさい。あたしのお兄ちゃんに対する感情を解決するために、お兄さ
んと妹ちゃんまで巻き込んじゃいました」

兄「まあ、あまり気にしなくてよくね」

妹友「だって」

兄「おまえが言ってたことは間違ってないしな。確かに兄妹の恋愛に行き場なんかないし
さ」

妹友「お兄さん・・・・・・」

兄「それにそもそも妹には全然その気がなかったんだしさ。おまえのおかげで俺も目が覚
めたよ」


妹友「本当にそうなんでしょうか」

兄「何がだよ」

妹友「昨日の夜、あたし見ちゃいました」

兄「見たって何を?」

妹友「バーベキューの途中で妹ちゃんがトイレに行くと言っていなくなったんですけど」

兄(え)

妹友「お兄さんにお肉を持って行こうと思って。少し離れたところにいたお兄さんのとこ
ろまで行ったら、妹ちゃんがお兄さんにキスしていました」

兄「見られてたのか」

妹友「はい。お兄ちゃんが見てなくて本当によかった」

兄「・・・・・・言い訳していい?」

妹友「そんな必要はないですけど、話してくれるなら聞きます」

兄「妹はおまえの兄貴のこと好きだと思うよ」

妹友「はい」

兄「あいつが変になったのって俺があいつに告るなんて常識のないことをしたせいだと思
うんだ」

妹友「・・・・・・」

兄「あいつは常識的な行動をしたよ。俺の告白を断るという」

妹友「はい」

兄「だけど俺は、そのことに拗ねた俺は突然引越して家から消えたんだよな。それがどん
なにあいつを寂しがらせ傷つけるかなんてちっとも考えずに」

妹友「新学期になってから妹ちゃんは学校でも全然元気がありませんでした。元気付けよ
うとしても慰めようとしても、大丈夫だからと言うばかりで」

兄「そうか。うちの両親は都心に小さなアパートを借りててな。平日の夜はそこに泊まる
ことが多いんだよ。仕事で忙しいからさ」

妹友「じゃあ、お兄さんが家を出た後の妹ちゃんは」

兄「いつも一人で家にいたんだろうな」

妹友「あの寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃんがいつも夜一人で・・・・・・」

兄「ああ。確かそれからだよ。おまえに言われて妹にメールして仲直りしてさ。これから
は普通の兄貴として接するからって言ったんだけど」


妹友「だけど何ですか?」

兄「いやさ。妹らしくないんだけど、俺と一緒に寝ようとしたり手をつなぎたがったりと
かさ。そういう行動が始まったんだよな。これまではそんことは素振りさえなかったの
に」

妹友「お兄さんに対してデレだしたんですね」

兄「うん、まあ。でもさ、それって兄貴としての俺を失いたくなくて無意識にやってるん
じゃねえかと思うんだ」

妹友「昔から仲の良かったお兄さんを一月以上も失った。その原因は自分がお兄さんから
の求愛を断ったせいだって、妹ちゃんはそう考えたんですね」

兄「まさにそれだと思う。男としての俺を欲しているわけじゃない。でも女として俺に接
していないといい兄貴としての俺が自分から放れていっちゃうと思ったんじゃねえかな」

妹友「妹ちゃんかわいそう」

兄「そうだな。こんなことになるなら、こんなに妹を傷つけるくらいなら告白なんてしな
きゃよかった」

妹友「・・・・・・」

兄「だからさ。おまえが罪悪感を感じることはないんだ。全部俺のせいなんだから」

妹友「それが正しいとしてもですけど」

兄「何だよ」

妹友「いい兄貴をつなぎ止めるためだけのために、普通キスまでしますかね」

兄「あいつは家族が大好きだからな。それくらいしても不思議じゃない」

妹友「そうかなあ」

兄「何か間違っていると言うのか」

妹友「あたし、前にお兄さんに言ったじゃないですか」



妹友『妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ。ただ、それは異性に対する
愛情じゃない』

妹友『お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性と
して好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自
分の兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対す
るものじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思いま
す』

妹友『聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは
言えなかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思
ったから。だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄
さんを振ったんでしょうね』



兄「そうだったな。全くそのとおりだったけど」

妹友「でも妹ちゃんはこうも言いました」


<お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ>




妹友「お兄さんの部屋で女さんっていう人からひどいことを言われて傷付いていた妹ちゃ
んが言ったんですけど。ってもうこれは話しましたね」



妹『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

妹友『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで
何も問題ないじゃない』

妹『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

妹友『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴
は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』

妹『それはそうだけど』

妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬し
たの』

妹『・・・・・・』

妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

妹『・・・・・・違うよ』

妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』



妹友「これがもし妹ちゃんの本音だったとしたら」

兄「違うよ」

妹友「それならいいんですけど。それならあたしが傷つけたのはお兄さんだけで、妹ちゃ
んからお兄さんを引きはがしたことにはならないですし」

兄「・・・・・・おまえは悪くないよ」

妹友「でも結果的には引き離したのと同じことですね」

兄「・・・・・・もうやめようぜ」

妹友「はい」


兄「すっかり明るくなったな」

妹友「景色、綺麗ですね。今までは暗かったからわからなかった」

兄「久し振りにここに来たなあ」

妹友「今日って気温はどうなんでしょう」

兄「さあ。何で?」

妹友「その・・・・・・。ひょっとしたら泳げるかなと思って水着を」

兄「持ってきたの?」

妹友「ちょっと。どこ見てるんですか」

兄「ああ、すまん」

妹友「・・・・・・どうせあたしは胸はないです」

兄「へ? ああ、問題ない。その方が好みだから」

妹友「お兄さんのエッチ」

兄「ちなみにどんな水着なの」

妹友「教えてあげません」

兄「けち」

妹友「全くもう。今の今までシリアスな話をしてたというのにお兄さんときたら」

兄「おまえがいかにも俺に水着を見せたがっているような発言をするからだろ」

妹友「誰がそんなことを言いました。そんなわけないでしょ。どこまで自己中なんです
か」

兄「おまえとはキスした仲だしな(そうだ。これでいい)」

妹友「あ、あれは。妹ちゃんに発見されそうだったから偽装工作として」

兄「いやあ。でも女の子の唇って柔らかいのな(全部冗談にしてしまえば妹友だって悩ま
ないで済む)」

妹友「・・・・・・マジで殺す」

兄「つれないなあ。何ならもう一度してくれてもいいんだぜ(それで妹とも軟着陸す
るように頑張ろう。昔みたいなただ仲のいい兄妹に戻れるように)」

妹友「・・・・・・うっさい。死ね」

兄「おまえ顔真っ赤だぜ(あんな告白のせいでこんなに大変なことになるとはな。まさに
するは一瞬、戻すは百年だ)」

妹友「・・・・・・知りません」

兄「そろそろ戻るか。あいつらも起きる頃だろうし」

妹友「はい」


兄「じゃあ、行こうって・・・・・・!! おい!!!」

妹友「・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ」

兄「お、おまえなあ」

妹友「どっちかと言うとお兄さんの方が真っ赤じゃないですか」

兄(どういうつもりだ)

妹友「今日はどっかに遊びに行くんですか」

兄「・・・・・・妹は近くにある水族館に行こうって行ってたけど(いったい何なんだ)」

妹友「そうですか。一つお願いがあるんですけど」

兄「何だよ」

妹友「今日はあたしとずっと一緒にいてください」

兄「何で?」

妹友「その方がきっとお互いに楽ですよ」

兄「・・・・・・姫が嫉妬すると思う」

妹友「それに動揺しないで、いいお兄さんとして振る舞ってください」

兄「まあ、そうなんだが」

妹友「勝手言ってごめんなさい。あたしまた前と同じことをしようとしているのかもしれ
ないけど」

兄「まあ、正直に言えばそんな気もする」

妹友「でも動機は前とは全然違うんです」

兄「そうなの」

妹友「ええ。前はお兄ちゃんを諦めるためというのが主な理由だったんですけど」

兄「今は違うのか」

妹友「はい。今のお願いはどちらかというと自分の願望をかなえるためです。あたしのわ
がままですね」

兄「どういう意味?」

妹友「こういう意味です」

 妹友は爪先立って俺の首に手を巻きつけた。その朝、俺は妹友から二度もキスされたの
だった。


今日は以上です

たまたま連日投下できましたけど、今後はそれができるか不明です

ここまでお付き合いいただきありがとうございます


<朝食>




妹「あ、お兄ちゃん」

兄「おはよ」

妹「いったいどこ行ってたのよ。彼氏君と二人で家中探しちゃったじゃない」

兄「妹友と一緒に海岸を散歩してた。綺麗な景色だったぜ」

妹「え」

兄(これでいいんだよな妹友)

妹友「おはよう妹ちゃん」

妹「おはよ。二人で海まで行ってたの?」

妹友「早起きしちゃったから砂浜に下りたら偶然お兄さんと会ったの」

妹「そう」

妹友「お兄さんといっぱいお話しちゃった」

妹「・・・・・・どんなことを話していたの」

妹友「どんなって・・・・・・いろいろだけど。ね、お兄さん」

兄「うん」

妹「そうなんだ」

妹友「すごく綺麗な景色だったよ。妹ちゃんもお兄ちゃんと見てきなよ」

妹「後でね。それより朝ごはんの支度ができているから食べよ」

妹友「あ、ごめん。妹ちゃん一人にさせちゃって」

妹「慣れてるから平気だよ。気にしないでいいよ」

妹友「本当にごめん」

妹「いいって。じゃあ、食べよう。彼氏君はどこに行ったんだろう・・・・・・あ、いた。彼氏
君、妹友ちゃんたちいたよ」

彼氏「よかった。おまえいったいどこ行ってたんだよ。探しちゃったじゃないか」

妹「二人で海岸に行ってたんだって」

彼氏「二人? ああ、そうか。よかったな妹」

妹友「別にそんなんじゃ」

妹「・・・・・・」


兄「あれ? これって」

妹友「どうしたんですか」

兄「いや(何でご飯と味噌汁と干物なんだ? 旅先じゃあ面倒くさいからパンにするんじ
ゃ)」

妹「・・・・・・お兄ちゃんもさっさと食べちゃってよ。遊びに行く時間が減っちゃうじゃん」

兄(だって)



兄『ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも』

妹『勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね』

兄『本当は和食がいいのに妥協したんだぜ』

妹『当たり前でしょばか』



兄(黙って干物とか買って用意してくれたんだ)

兄(・・・・・・)

妹「・・・・・・何よ」

兄「いや。ありがとな」

妹「別にそんなことはいいからさっさと食べて」

妹友「・・・・・・」

妹「いったいどんだけお代わりするのよ。もうご飯ないよ」

兄「じゃあこれでいいや。ごちそう様」

妹「ほうじ茶飲む?」

兄「うん」

妹「妹友ちゃんと彼氏君は?」

彼氏「僕はいいや。ごちそう様」

妹「彼氏君、朝食はいつもパンだって言ってたから口に合わなかったでしょ」

彼氏「ううん。おいしかったよ。たまには朝の和食もいいよね」

妹「それならよかった。妹友ちゃんほうじ茶は」

妹友「・・・・・・あ、ごめん。ぼんやりして。あたしもいいや」


兄「で。今日はどうすんの」

妹「水族館と爬虫類パークと熱帯植物園に行きたい」

兄「それ全部回るの?」

妹「全部近い場所に固まってるから大丈夫じゃない?」

妹友「面白そう。ヘビとかトカゲとかワニとかがいるんでしょ」

兄「そりゃまあ、爬虫類パークっていうくらいだからな」

妹友「あたし、爬虫類って大好き」

兄「そらまた変わった趣味だな」

妹友「変わってないですよ。今、流行ってるんですよ」

妹「そうだよ。イグアナとか飼っている人、うらやましいな。あたしも一匹飼いたい」

兄「却下。俺はそんなのと同じ家で暮らしたくない」

妹「可愛いじゃん。ねえ彼氏君」

彼氏「いやあ。僕もちょっと遠慮したいなあ」

兄「ほれ見ろ」

妹「あの可愛さがわからないんなんて」

妹友「だよねえ」

兄「じゃあ、片づけしたら出かけようぜ。連休中だから多分すげえ混むと思うよ」

妹「そうだね。じゃあ洗い物しちゃおうか」

妹友「うん」


<水族館にて>




兄「チケットを買うだけでもう三十分以上もかかってるぞ」

妹友「連休中なんだからしかたないですよ。それに並んでくれてるのは妹ちゃんたちじゃ
ないですか」

兄「それはそうだけど、待っている方もつらい」

妹友「それよりお兄さん」

兄「どうした」

妹友「海辺での約束、覚えてくれてますよね」

兄「・・・・・・それはまあ」

妹友「妹ちゃんはきっと四人皆で行動しようと思っているでしょう」

兄「そうかもな」

妹友「この人混みですから水族館の中はきっと観光客でごった返しているはずです」

兄「それは容易に想像できるな」

妹友「はぐれましょう、わざと」

兄「はい?」

妹友「ですから妹ちゃんとお兄ちゃんとはぐれましょう」

兄「・・・・・・何でそんな手の込んだことをしなきゃいけないんだよ」

妹友「四人で見て回ろうって言われてるのにわざわざ二人きりになりたいなんて言いづら
いじゃないですか」

兄(こいつ、本当に俺のことが好きなのかな)

妹友「それに本心では妹ちゃんだってお兄ちゃんと二人きりになりたいに決まってます」

兄「そうかなあ(今朝、二回もキスされたしな。やっぱりこいつに好かれてるのかな
あ)」

妹友「あたしたちに遠慮して、二人きりになりたいなんて言い出せないだけですよ」

兄「まあ、妹友がそこまで言うならそうしようか」

妹友「・・・・・・」

兄「妹友?」


妹友「お兄さん、ひょっとしてあたしと二人きりになるのが嫌なんですか」

兄「そんなことねえけど」

妹友「それともやっぱり妹ちゃんのことが気になりますか」

兄「いや。それはやっぱり気にはなるけど、気にならないようにしなきゃいけないと思っ
てるよ。だからおまえと二人でも全然嫌じゃない」

妹友「そうですか」

兄「おまえはどうなの?」

妹友「どうと言いますと?」

兄「兄貴を取られちゃうみたいで落ちつかないんじゃねえの」

妹友「今はもう全然そんな気はなくなってしまいました。以前を考えるとまるで嘘のよう
に」

兄「どういうこと」

妹友「前は確かにお兄ちゃんと妹ちゃんが二人でいると落ちつかなかったんですけど」

兄「ブラコンだもんな。おまえ」

妹友「お兄さんにだけは言われる筋合いはこれっぽっちもないと思います」

兄「・・・・・・まあ、そうかもしれん。で、今はどうなの」

妹友「今はお兄さんと妹ちゃんが二人きりでいる方が心配で落ちつきません」

兄「どういう意味だよ」

妹友「そのままの意味ですよ」

兄「おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって前に言ってなかったっけ」

妹友「言いました」

兄「じゃあ何で」

妹友「そんなのわかりません。気になるんだから仕方がないでしょ」

兄「おまえひょっとして俺のこ」

妹「お待たせ。やっと買えたよチケット」

彼氏「チケットを買うだけで四十分ですからね。中は相当混雑しているでしょうね」

妹「はぐれないようにしないとね」


妹「順路に沿って行こうよ」

彼氏「最初にいきなり水槽の中を通るトンネルがあるんだって」

妹「見たい。早く行こう」

妹友「まだですよ」

兄「ああ(耳元で囁くなよ)」

妹「わあすごい。頭の上にも横にも魚がいる」

彼氏「ほら。あのエイすごく大きいよ」

妹「本当だ。あたしより大きいんじゃない?」

彼氏「僕の背丈と同じくらいの長さかな」



妹「もうトンネル終わっちゃったね」

彼氏「ここには何がいるんだろう。人が多すぎてよくわかんないね」

妹「あそこに人だかりがある。何かいるんじゃない」

彼氏「でかい水槽だね」

妹「あ、ペンギンだ。もっと近くに行こうよ」

彼氏「うん」

妹友「今ですお兄さん」

兄「あ、ああ」

妹友「二人はペンギンの方に向っています」

兄「そうだね」

妹友「この人が少ない地味な水槽の陰であの二人をやり過ごしましょう」

兄「地味な水槽って。なんだ、くらげか」

妹友「もう少し水槽の背後に回ってください。見つかってしまいます」

兄「ああ」


<罪悪感>




兄(妹の小さな背中が見える)

兄(夢中になってペンギンを眺めているんだろうな、きっと)

兄(別に俺のことを気にしている様子もないし。これならきっと妹友の言うとおり、二人
きりにしてやった方が親切なのかもしれん)

兄(そう考えると姫も成長したんだなあ)

兄(あいつが小学生の頃は俺にべったりだったもんな。親があまり家にいなかったせいも
あって、俺がちょっと視界から離れるとパニックになって泣いて俺のことを探してたのに
な)

兄(きっと妹も正しく成長してるってことなんだろう。いつも兄貴に頼っていた小さな女
の子はもういないんだ)

兄(これでいい。妹友には感謝しないとな)

妹友「お兄さんちょっと顔を出しすぎです。もっとあたしの方に寄ってください」

兄「これくらい離れてりゃ大丈夫だよ」

妹友「万一ということもありますから。ほら」

兄「こら、手を引っ張るな」

妹友「しばらくこうしていましょう」

兄「・・・・・・何で俺の腕に抱きついてるの?」

妹友「知りません。そんなこと一々聞かないでください、バカ」

兄(バカって)

兄(こいつ真っ赤だ。やっぱり俺のこと好きなのか)

兄(妹はいいとして、女のこともあるしなあ)

兄(これで妹友に走ったら今度こそ本気で俺が女を振ったことになっちまう)

兄(かと言って手を振り解くのも妹友を傷つけそうだし)

兄(あーあ。また俺の優柔不断ぶりが遺憾なく発揮されてしまうのかよ)

兄(こんなに胃が痛い思いをするならやっぱ一生一人身で姫を見守っていた方がよほど気
が楽だ)


兄(あれ?)

兄(妹がきょろきょろ周囲を見回している。俺たちがいないことに気がついたか)

妹友「妹ちゃんが気がついたみたいですね」

兄「どうもそのようだな。あっちこっちを探しているし」

妹友「すぐ諦めて二人で行っちゃいますよ。少しここで待ちましょう」

兄「うん」

兄(何か姫、すげえ勢いで周りを探してるな)

兄(彼氏君が宥めているみたいだけど)

兄(きっとすぐに会えるから先に行ってようとか言ってるんだろう)

妹友「あ」

兄「・・・・・・妹友が彼氏君の手を振り払った」

兄(何か普通じゃないな、姫の慌てようは)

兄(あいつパニックになってるんじゃ)

兄(スマホを取り出した。電話する気なんだ。って俺の携帯鳴ってるな)

兄「妹から電話が来てるんだけど」

妹友「着信に気がつかなかったことにしましょう。これだけ人だらけで周囲もうるさいの
で説得力もありますし。だから出ないでください」

兄「ああ」

兄(電話が切れた。ってまた着信だ)

兄(・・・・・・あの様子って、昔妹が俺とはぐれたときの様子と一緒じゃねえか)

兄(また着信だ)

兄(もう無理だ。妹友の言うことももっともだと思うけど、俺にはもう無理だ)

兄(妹を泣かすなんて一番してはいけないことじゃねえか)

兄(彼氏君のこととはまた別問題なんだ。あいつは昔から家族が大好きでしかも寂しがり
やだし)

兄(連休は久し振りに家族で一緒に旅行する予定だったのが、急にキャンセルになって)

兄(せめて俺とは一緒にいたかったんだろうに)


妹『だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ』

父『おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか』

兄『嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)』

妹『・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん』

兄『おまえが兄貴と一緒でもいいならな』

妹『あたしは嬉しいけど』



兄(姫に振られて勝手に引っ越したときの間違いをまた犯すところだった。妹友は何も悪
くないけど、やっぱり俺は妹を守らないと)

兄(着信が途絶えた。遠目ではよくわからないけど、あいつ俯いてるし泣いてるんじゃ)

兄「俺やっぱやめるわ」

妹友「・・・・・・何でですか」

兄「妹を宥めてやらないと」

妹友「それはもううちのお兄ちゃんの役目です」

兄「そうだけど・・・・・・そうだけど少なくとも今は違うんだよ。彼氏君じゃ無理だ」

妹友「どういう意味ですか? 妹ちゃんは本当はお兄さんの方が好きだとでも言いたいん
ですか」

兄「そうじゃねえよ。そういう問題じゃなくて、あいつには家族と一緒にいたい時があっ
て、そういうときに側に家族の誰かがいないとパニックみたいになることがあるんだよ。
だから今は彼氏君じゃ無理だ。俺の両親か俺自身じゃないと」

妹友「全くブラコンとシスコン同士はたちが悪いです」

兄「・・・・・・」

妹友「わかりました」

兄「悪い」

妹友「この埋め合わせはしてもらいますからね」

兄「おう」

妹友「じゃあすぐに行きましょう。妹ちゃんを救いに」


兄「よう姫」

妹「・・・・・・」

兄「悪い悪い。お前ら歩くの早いから見失ってたよ」

妹「・・・・・・バカ」

兄「え・・・・・・」

妹「お兄ちゃんのバカ。いったいどこをほっつき歩いてたのよ。人の気も知らないで!」

兄「(妹に思い切り抱きつかれた)わかってるよ。連休中は家族と一緒にいたかったんだ
もんな、おまえ」

妹「バカ。あたしのこと放置するなってあれだけお願いしたのに」

兄「悪かった。でも今はちゃんとおまえの側にいるだろ」

妹「・・・・・・」

兄「あ、悪い。髪が乱れちゃうな」

妹「・・・・・・いい」

兄「うん?」

妹「そんなことどうでもいい。もっと頭を撫でて」

兄「ああ(こいつ震えてる)」

妹「お兄ちゃんのお姫様は誰?」

兄「おまえ」

妹「・・・・・・だったらもう二度とこういうことしないで」

兄「悪かった」

妹「お兄ちゃん電話にも出てくれないし。あたし何度も電話したのに」

兄「気がつかなかったんだ。ごめんな」

妹「わかった。今回だけは許してあげる。一緒にペンギン見ようよ」

兄「そうだな(抱きつかれたまま歩くのはつらいけど)」

彼氏「・・・・・・いったいどうなってるの?」

妹友「今だけは放っておいてあげて」

彼氏「それはいいけど」

妹友「お兄ちゃんにはあたしが抱きついてあげるから」

彼氏「それはよせ」

妹「ほら見て。あのペンギン泳ぐのすごく早いよお兄ちゃん」

兄「そうだな」

兄(これでいいんだよな?)

兄(・・・・・・)


本日は以上です

別スレの更新も滞っているので明日の投下は期待しないでください

また投下します


<忘れてあげない。一生覚えているからね>




妹「お兄ちゃん、十二時からシャチのショーやるって書いてあるよ」

兄「見たい?」

妹「見たい」

兄「昼飯はどうすんの」

妹「そんなの見てからでいいじゃん。あれだけ朝お代わりしたんだから少しくらい平気で
しょ」

兄「いや。俺はいいけどさ。妹友と彼氏君はどうかな」

妹「そしたら別行動でもいいんじゃない?」

兄「ええと。さすがに昼飯くらいは一緒に食べた方が・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「いやあの」

妹「・・・・・・じゃあ聞いてみるね」

兄「うん。あの二人はどこだろう」

妹「さっきまで一緒だったよね」

兄「はぐれたか? 全くあいつら」

妹「お兄ちゃんは人のことは言えないでしょ。あたしを放置したくせに」

兄「いやまあそうなんだけど。電話してみるか」

妹「うん。電話するからちょっと待って」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「どうした」

妹「妹友ちゃん電話出ないよ」

兄「そしたら彼氏君に電話してみろよ」

妹「え? ああ、そうだね」

兄「早くしろって。シャチ見るならそろそろ並ばないと」

妹「ええと」

兄「いったい何だよ」

妹「彼氏君の電話番号わからないや」

兄「(え?)そんなわけねえだろ。何で彼氏の電話番号がわかんないんだよ」

妹「そんなこと言ったってわかんないんだからしかたないでしょ」

兄「何切れてんだよ(何でなんだ。一番大事な人の携番を登録してないとかあり得ないだ
ろ)」

妹「切れてないよ」

兄「じゃあメールしろよ」

妹「・・・・・・わかった」

兄(まあ最近の連中は電話よりメールをするのかもしれないな)

妹「したよ」

兄「返事ないのか」


妹「もう。妹友ちゃんメール見てないのかな」

兄「じゃあ彼氏君にメールしろよ」

妹「メアドわかんない」

兄「はあ?」

妹「何よ。あたしが彼氏君の携番とかメアドを知らないことがそんなに悪いことなの?」

兄「いや、そういう問題じゃなくて」

妹「じゃあ何よ」

兄「普通、彼氏のアドレスなんてすぐわかるだろ。つうかアドレス帳で検索できないなら
彼氏から来たメールに返信すりゃいいだろうが」

妹「彼氏君からメールなんてもらったことないもん」

兄「何でだよ」

妹「何でって・・・・・・」

兄(何なんだ)

兄(妹が彼氏君と付き合っているのは間違いない。こいつらが恋人つなぎで図書館に入っ
ていたところを目撃したし、何より妹友から馴れ初めまで聞いているんだから)

兄(昨日だって今日だって二人で仲良く寄り添って歩いていたし)

兄(まさか。今までずっと妹友を介して連絡を取り合っていたのか)

兄(付き合っているのにメアドも携番も教えあってない? あり得ないだろ。彼氏君よ。
おまえはどこまで奥手なんだ)

兄(人のことは言えないけど、俺だって女とか女友とかの携番とかアドレスを知ってるつ
うのに)

妹「あ。入場が始まったよ。早く列に並ばないと」

兄「だっておまえ。妹友と彼氏君はどうするんだよ」

妹「ほら急いで。シャチのショーを見られなかったらお兄ちゃんのせいだからね」

兄「こら。ちょっと待てって」

妹「全くもう。こんなに後ろの席になっちゃったじゃん」

兄「俺のせいじゃない。それに前の方が濡れるってアナウンスしてたぞ」

妹「別に濡れたっていいじゃん。せっかくでかいシャチを目の前で見ようと思ってたの
に」

兄「いや。それはまずいだろ」

妹「何でよ」

兄「おまえのその白Tだと濡れるといろいろまずいことに」

妹「・・・・・・ブラしてるもん」

兄「下着が透けて見えることはおまえ的にはOKなのかよ」

妹「そうじゃないけど。こんだけ人がいれば誰も気がつかないよ」


兄「俺が困る」

妹「何でよ」

兄「何でって言われても」

妹「いい兄貴になるんじゃなかったっけ」

兄「そのとおりだ」

妹「じゃあ、妹の貧乳なんて興味ないでしょ」

兄「おまえな。自分で貧乳とか言うなよ」

妹「え? あたしそれなりに胸あるかな?」

兄「・・・・・・いや。あまりないとは思うけど」

妹「じゃあ別にいいじゃん。どうせ透けて見えたってAカップのブラなんだし」

兄「おまえ・・・・・・せめてBじゃねえの?」

妹「・・・・・・死ね」

兄「いやさ。カップの問題じゃなくておまえの肢体が濡れたTシャツ越しに露わになるの
が問題なんだって(Bじゃなかったのか。さすがにそれは微乳過ぎる気がするけど)」

妹「だから誰も気にしないって」

兄「何度も言わせんな。俺が困るんだ」

妹「何で? お子様体型のあたしの上半身なんて見たくないんでしょ」

兄「舐めるなよ。俺は貧乳、スレンダー体型、華奢な身体が一番好きなのだ」

妹「・・・・・・そうなの?」

兄「おう。細ければ細いほど好みだ」

妹「・・・・・・」

兄「な、何だよ」

妹「ロリコン」

兄「ちげーよ。小さな子になんか興味ねえよ」

妹「だって」

兄「俺はロリコンじゃなくて、おまえが好みなの。おまえの体型も性格も何もかも」

妹「・・・・・・」

兄「あ。今のはなしね。忘れて」

妹「ふふふ」

兄「何だよ」

妹「何だ。ロリコンじゃないのか」

兄「あたりまえだ」

妹「このシスコン」

兄「いや。そうじゃなくて」

妹「忘れてあげない。一生覚えているからね」


<奇妙な組み合わせ>




妹「すごいすごい。あんなに高くジャンプしたよ」

兄「そうだな」

妹「あ。ほら、シャチの背中に飼育員の女の人が乗って走ってる」

兄「おう」

妹「ジャンプした!」

兄「ジャンプしたな」

妹「すごいね。あんなに大きな動物があそこまで高くジャンプするなんて」

兄「うん(あれ)」

兄(正面の席に並んで座っているのって妹友と彼氏君じゃね)

兄(あいつらもこのアリーナに来てたのか)

兄(客席が狭いせいかあいらのことよく見えるな)

兄(・・・・・・何かシャチを仲良く見ているっていう雰囲気じゃねえな)

兄(何かあいつら、真面目な顔で話し合ってるみたいだ)

兄(いや。あれは話し合いというよりもはや喧嘩だな。ここから見てもそうとしか思えね
え)

兄(言い争い? 彼氏君が伸ばした手を妹友が振り払った)

兄(何揉めてるんだあいつら)

兄(俺たちと違って、妹友には兄妹間の恋愛感情は少なくとも彼氏君にはないし)

兄(妹友もうあまり妹と彼氏君の仲を心配しないようになったって言ってたのに)

兄(あ。妹友が席を立った)

妹「ほら、お兄ちゃん。シャチが皆に頭を下げてる。あたしたちもお辞儀しようよ」

兄(彼氏君は妹友の後を追わないのか。一人で座ったままだ)

兄(いったいあいつらの間に何があったんだろう)

妹「面白かったねえ」

兄「うん」

妹「じゃあ、ショーも終ったし出口が混む前に外に出ようよ。彼氏君たちを見つけなきゃ
いけないし」

兄「そうだけど」

妹「何?」

兄「いや。そうだな。早くあいつらを見つけないとな」


妹「ねえお兄ちゃん」

兄「おう」

妹「さっきはお兄ちゃんとはぐれて、あたし本当に悲しくて寂しくなっちゃったんだけ
ど」

兄「悪かったよ」

妹「お兄ちゃんさ。この旅行って家族旅行だと思う? それともカップル同士のダブル
デートだと思う?」

兄「連休は家族みんなで過ごす予定だったしな。これはその代わりだから家族旅行だろう
な」

妹「うん。あたしもそう思うの」

兄「それがどうした?」

妹「四人で一緒にいるけどさ。その中であたしの家族ってお兄ちゃんだけでしょ」

兄「そうだけど」

妹「じゃあ家族旅行なんだからさ。あたしとお兄ちゃんが旅行中いつも一緒にいないのっ
て変じゃない?」

兄「・・・・・・おまえが言っている意味がよくわからん」

妹「これが正しい姿じゃないかな? お兄ちゃんとあたしがカップルで、彼氏君と妹ちゃ
んは一緒に行動しているのが」

兄「ある意味、グループ行動つう四人旅行みたいなものだからそんなにこだわらなくてい
いんじゃね(俺と姫、妹友と彼氏君が行動する方が組合せとしては奇妙だろ。何せ姫と彼
氏君は恋人同士なんだし)」

妹「だってここにはパパもママもいないじゃん」

兄「え」

妹「本当なら家族四人で香港に旅行していたはずでしょ」

兄「まあそれはそうだ」

妹「そしたらさ。絶対パパとママはべったりと一緒にいるに決まってるから、あたしとお
兄ちゃんが一緒に行動することになるでしょ」

兄「んなわけねえだろ」

妹「絶対そうだよ」

兄「あの妹ラブな父さんがおまえと離れて行動するわけねえじゃんか」

妹「そんなことないと思うよ。パパはママがいるときはいつだってママと一緒だったも
ん。あたしのことは大好きだと思うけど、あたしにはいつもお兄ちゃんに守ってもらえっ
て言ってたし」

兄「(マジかよ)そんなこと聞いてねえぞ」

妹「物覚えがよくないんだね。お兄ちゃんは」

兄「(全然思い出せねえ)それにしてもさ。いくら家族旅行といったって彼氏が一緒にい
たら彼氏の方を優先するだろ、普通は」


妹「だからお兄ちゃんはこの旅行中はいつもあたしの隣にいなきゃだめ。そうしないなら
パパとママに言いつけるからね」

兄「・・・・・・おまえがよければ別に俺もそれでいいけど。でも、さっきだっておまえが彼氏君と二人でどんどん先に行っちゃっただろうが」

妹「ばれてないつもりなの?」

兄「何言ってるんだよ」

妹「お兄ちゃんと妹友ちゃんがなるべく二人きりでいようといろいろ企んでたのなんて、
あたしに気づかれないとでも思ってた?」

兄「それはおまえの誤解だ」

妹「お兄ちゃんが妹友ちゃんと付き合うのを邪魔する権利なんてあたしにはないよ。そん
なことはわかってる。それにお兄ちゃんと女さんの復縁を応援するようなとを言ったのも
あたしだし」

兄「・・・・・・」

妹「でもさ。これだけは聞かせて。お兄ちゃんが一番ん大切にしているお姫様は誰な
の?」

兄(・・・・・・)

妹「誰なのよ」

兄「・・・・・・それは。おまえだけど」

妹「あたしのいい兄貴になるって言ったよね」

兄「言ったよ」

妹「じゃあこれは家族旅行なんだから。今から家に帰るまではいつもあたしの隣にいて。
あたしを放っておかないで」

兄「うん。わかった」

妹「妹友ちゃんから電話だ」

兄「おう」

妹「うん、あたし。もう、さっき電話したのに出ないんだもん。うん、そうだよ」

妹「シャチのショーをお兄ちゃんと二人で見てたの。妹友ちゃんは?」

妹「え。会場にいたんだ。わからなかったよ」

妹「でさ。そろそろ爬虫類パークに移動したいんで、出口で待ち合わせしようよ」

妹「へ。彼氏君と一緒はなかったの?」

妹「うん。じゃあ、彼氏君に電話して。どこかでお昼食べてから爬虫類パークに行くか
ら」

妹「よろしくね」

妹「妹友ちゃんもシャチのショー見てたんだって。でも彼氏君とは一緒じゃないみたい」

兄(何か揉めてたもんな)

妹「とりあえず出口まで移動しよう」

兄「俺、彼氏君を探してこようか?」

妹「・・・・・・ずっと一緒にいてって言ったでしょ」

兄「ああ、そうだった」


<姫は迷わず俺の隣に座った>




妹友「やっと会えました」

妹「何で電話にもメールにも反応しないのよ」

妹友「ごめん。ちょっとトラブってて」

妹「何かあったの」

兄(やはり彼氏君と何かあったのかな)

妹友「ああ、別にたいしたことじゃないんだけどさ。ちょっとつまらないことでお兄ちゃ
んと喧嘩しちゃって」

妹「何で喧嘩なんかしたの? いつもは仲がすごくいいのに」

妹友「・・・・・・別に」

妹「妹友ちゃん?」

妹友「別に妹ちゃんが心配することじゃないよ」

兄「それにしても今はぐれてるのはまずよな。ただでさえ混み合ってるんだしさ。さっさ
とここを出て昼飯食って、爬虫類何ちゃらとかに行かないと。まあ、爬虫類を諦めるなら
別に急ぐ必要はないけど」

妹・妹友「そんなわけないでしょ!」

兄「・・・・・・こわ。つうかそれなら誰か彼氏君と連絡を取れよ」

妹友「あたしはお兄ちゃんと喧嘩しちゃって気まずいから。妹ちゃん、お願い」

兄(・・・・・・)

妹「あ・・・・・・。ごめん妹友ちゃん。あたし彼氏君の携番もメアドも知らないの」

妹友「え? 何で」

妹「何でって・・・・・・」

妹友「付き合ってるのに何でそんなことも知らなかったの?」

妹「うん」

妹友「何でよ?」

妹「別に理由はないけど。何となく」

妹友「・・・・・・よくそれで今までお付き合いできてたね」

妹「それは・・・・・・」

妹友「信じられない。お兄ちゃんの彼女なのにお兄ちゃんと連絡手段さえないなんて」

妹「・・・・・・・」

兄「多分、彼氏君のほうも同じじゃねえか」

妹友「そんなはずないです。お兄ちゃんに限って」

兄「姫さあ。おまえ彼氏君に携番とかメアド教えたの」

妹「教えてない。妹友ちゃんが教えてなければ多分彼氏君もあたしの連絡先は知らないと
思う」

妹友「あたしが勝手に教えるわけないでしょ」

妹「じゃあ」

兄「じゃあ彼氏君も妹の連絡先を知らないんだな。仕方ない。妹友、おまえが彼氏君に電
話しろよ」


妹友「あたしはお兄ちゃんと喧嘩して」

兄「このまま彼氏君を放置して出発するわけにもいかねえだろ」

妹友「・・・・・・それはそうです」

兄「じゃあ頼むから彼氏君に連絡して出口で待っていると伝えてくれ」

妹友「わかりました。お兄さんの頼みならしかたないです」

妹「・・・・・・」

妹友「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃん?」

妹友「電話切らないで。お兄さんと妹ちゃんと合流したからお兄ちゃんもすぐに出口にき
て」

妹友「だから。あたしたちの喧嘩で妹ちゃんたちに迷惑はかけられないでしょ。とにかく
すぐに来て。食事して爬虫類パークに行くんだって」

妹友「うん、そう。喧嘩の相手は夜になったらまたしてあげるから」

兄「何だって?」

妹友「すぐに来るそうです」

兄「おまえら。何で喧嘩なんかしたの?」

妹友「それはお兄さんにだけは言われたくないです」

妹「・・・・・・」

兄「何でだよ」

妹友「言いたくありません」

兄(何なんだ)

妹「彼氏君」

彼氏「妹ちゃん、遅れてごめん」

妹「それは別にいいけど」

妹友「じゃあ、行きましょう。誰かさんが遅れたせいでだいぶ時間を食ってしまいまし
た」

彼氏「・・・・・・うるせえ」

兄(姫は迷わず俺の隣に座った)

兄(そして後部座席ではお互いに目も合わせない妹友と彼氏君の兄妹が、なるべくお互い
から離れるように座っている)

兄(何なんだ)

妹「お兄ちゃん、行こう。前に調べておいた金目鯛とか伊勢海老がおいしい店に行こう
よ」

兄「そいうのって混んでるし高いんじゃねえの」

妹「パパからお金もらってるし、予約もしてくれてるから」

兄(父さんめ。どこまで姫に甘いんだ)


今日は以上です
また投下します


<半分こしよう>




妹友「お昼のメニューは二種類しかないんですね」

兄「伊勢海老の鬼殻焼き定食と金目鯛の煮付け定食だな」

彼氏「妹ちゃんはどっちにする?」

妹「ねえお兄ちゃん」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃんはどっちにするの」

彼氏「・・・・・・」

兄「俺はお品書きを見た瞬間から伊勢海老に決めているけど」

妹「やっぱりね。お兄ちゃんなら絶対そうだと思った」

彼氏「・・・・・・」

兄「どうせおまえは金目鯛だろ? 昔から煮魚系が大好きだもんな」

妹「うん。でも伊勢海老も食べたい」

兄「二種類なんて食えるか。結構高いんだし」

妹友「お兄ちゃんはどうするんですか」

彼氏「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃん?」

妹「じゃあさ。お兄ちゃんの伊勢海老とあたしの金目鯛を半分こしよう。そしたら両方食
べられるじゃん」

彼氏「あ、うん。俺も妹ちゃんと同じやつで」

妹友「じゃあ、あたしはお兄さんと同じで伊勢海老にする」

彼氏「あの、妹ちゃん?」

妹「何?」

彼氏「よかったら俺のも半分あげようか」

妹「え? ・・・・・・ええと」

妹友「同じ金目鯛を半分こすることに何か意味があるの」

彼氏「あ。いけね。そうだった」

妹「お兄ちゃんいいよね? 伊勢海老半分ちょうだいね」

兄「しようがねえなあ」

妹友「お兄ちゃんが伊勢海老を食べたいなら、あたしのを分けてあげるけど」

彼氏「いや。別にいい」

妹友「・・・・・・」


妹「どっちもおいしかったねえ」

兄「しかしさ。あの伊勢海老小さすぎじゃねえの」

妹「ランチタイムのサービスメニューなんだからあんなもんだって」

兄「何か損した気分だ」

妹「パパが言ってたんだけどさ。あのお店は夜とかに行くと本当に大きな伊勢海老とか出
てくるんだって」

兄「じゃあ夜に行けばよかったじゃん」

妹「その代わり値段もさっきくらいじゃ済まないよ」

兄「うう」

妹「また来ればいいじゃん。伯父さんはいつでも別荘を使っていいよって言ってたらしい
し。今度は家族全員で来て夜にあのお店に連れて行ってもらおうよ」

兄「その前に香港だろ。あいつら約束破ったんだから」

妹「パパとママのことあいつらって言ったらだめ」

兄「わかったよ」

妹「遅くなったけど爬虫類パークに行こう」

兄「ああ」

妹「妹友ちゃん、そろそろ出発しようよ」

妹友「うん。イグアナ楽しみだなあ」

兄「理解できん」

妹「何でよ?」

妹友「お兄さんも実際に見ればあの可愛らしさがわかりますよ」

兄「ヘビの仲間の可愛さなどわかりたくもないわ」

妹「・・・・・・絶対に爬虫類好きにさせてやるから」

妹友「お兄ちゃん、行くよ」

彼氏「う、うん」

兄(また当然のように助手席に妹が座った)

兄(いくら何でもさすがに彼氏君が気の毒じゃんか)

兄(でも、姫に後部座席に行けなんていいづらいし。それでまた姫を悲しませた
ら・・・・・・)

兄「じゃあ、行くか」

妹「安全運転で急いでね」

兄「初心者マーク付けてる俺に無茶言うな」

妹「あたしの頼みが・・・・・・」

兄「わかったって」


<・・・・・・迷惑?>




兄「着いたけど、今度は駐車場待ちの自動車が並んでるし」

妹「連休だからそんなの当たり前だよ」

兄「この調子じゃ熱帯植物園はなしだな」

妹「ええ? そんなのだめだよ」

兄「だって時間ねえよ。ここだって駐車場に入ってから更に切符を買うのに並ぶんだぜ」

妹「うーん」

兄「植物園はまた別の機会でいいだろ」

妹「お兄ちゃんは姫の願いを無視する気?」

兄「姫だろうが女帝だろうがこれっばかりはどうしようもないぞ」

妹友「じゃあこうしましょう」

妹「妹友ちゃん、聞いてたの?」

妹友「うん。お兄ちゃん拗ねて寝ちゃったし」

妹「・・・・・・拗ねてって」

妹友「お兄さんたちが駐車場待ちしている間に、あたしが先に窓口に並んでチケットを買
っておくよ」

妹「・・・・・・いいの?」

妹友「水族館じゃ妹ちゃんとお兄ちゃんが並んでくれたし、今度はあたしの番だよ」

妹「あ、でもだめだ」

妹友「どうして?」

妹「パパの会社の割引券って、使うときに本人か家族の身分証明書がいるんだよ」

兄「そうなのか」

妹「あたしが行ってくるよ」

妹友「だって妹ちゃんはさっきも」

妹「いいって。妹友ちゃんはお兄ちゃんが順番待ちの間に寝ちゃわないように注意して
て」

妹友「わかった」

彼氏「じゃあ、僕も一緒に行くよ」

妹友「お兄ちゃん起きてたの?」

彼氏「今起きた」

妹「いいよ。さっきも付き合ってもらったし。彼氏君は寝てていいよ」

彼氏「お兄さんが眠れないのに僕だけ寝てるわけにはいかないし」

兄(てめえ。さっきまで普通に寝てたじゃねえか)

妹「気を遣わなくていいって」

彼氏「・・・・・・迷惑?」

妹「え」

妹友「・・・・・・」


妹友「結局、水族館のときと同じ組み合わせになりましたね」

兄「そうだな」

妹友「お兄さん、寝ちゃだめですよ」

兄「わかってるって」

妹友「お兄さんには不満もあるでしょうけど、お兄ちゃんも今日は辛かったと思うので許
してやってね」

兄「別に不満なんかねえよ」

妹友「・・・・・・あたしと二人きりでも?」

兄「ああ」

妹友「そうですか。それで? 妹ちゃんは救えたんですか」

兄「うん。多分これでしばらくは平気だと思う」

妹友「お兄さんも大変ですね」

兄「何が」

妹友「この調子だと、お兄さんは一生妹ちゃんの面倒をみることになりそうですね」

兄「・・・・・・妹が結婚するまでだけどな」

妹友「そうでしょうか」

兄「何で?」

妹友「今だって妹ちゃんには彼氏がいるんですよ。うちのお兄ちゃんが。それでも妹ちゃ
んはお兄さんに依存しているし、お兄さんもそんな妹ちゃんを構うことが使命みたくなっ
ちゃってるし」

兄「妹は寂しがり屋のうえに、昔から家族が大好きだったから」

妹友「昔からそうなんですか」

兄「そうといえばそうだけど・・・・・・・。でも最近は少し行き過ぎではあるね」

妹友「それはわかるような気がします」

兄「多分、それは俺のせいだ」

妹友「どうして?」

兄「俺が妹にマジで告白なんてしたから」

妹友「妹ちゃんには断られたんでしょ?」

兄「ああ。それで拗ねた俺は妹を一人にして一人暮らしを始めたり別に彼女を作ったりし
た。妹は親が帰って来ない家で一人きりになってしまった。それからだな。妹の行動がエ
スカレートしたのは。でもこれは前にも話したよな」

妹友「妹ちゃんはお兄さんに嫉妬しただけでは?」

兄「違うと思うよ。自分が俺を振ったせいで俺が妹から離れて行くって理解して、あいつ
は悩んだんだと思う。うろたえるほどに」

妹友「本当にそうですかね」


<共依存じゃないんですか>




妹友「妹ちゃんとお兄さんってちょっと普通じゃない感じがしますよね」

兄「あのなあ。おまえにだけは言われたくねえよ」

妹友「あ、違います。そういう意味じゃなくて」

兄「・・・・・・」

妹友「何て言うんでしょうか。無駄にお互いにお互いを必要だと思い込んでるっていう
か」

兄「どういう意味だよ。妹には俺への恋愛感情なんてないぞ。俺だってもうそういう不健
全な感情はきっぱりと諦めたし」

妹友「それだけなら理解できるんです。あたしだってそうでしたから」

兄「ああ、まあな」

妹友「そうじゃないんですね。お兄さんは言ってたじゃないですか。妹ちゃんは昔から家
族が何よりも誰よりも大好きだったって」

兄「まあな」

妹友「それが一応真実と仮定してですけど」

兄「本当だって」

妹友「お兄さんと妹ちゃんって。ご両親の不在とかそういうことが原因かもしれませんけ
ど」

兄「何だよ」

妹友「お兄さんと妹ちゃんって、結果的に共依存じゃないんですか」

兄「何だって」

妹友「共依存です。聞いたことはありますよね」

兄「聴いたことはあるような気はするけど、ちゃんとした意味はわかってない」

妹友「共依存とはお互いに精神的に過度に依存しあっている状態をいいます。それは決し
て精神的に健全な状態ではないです」

兄「どういうこと?」

妹友「例えばですけど」

兄「ああ」

妹友「麻薬に依存している彼氏を献身的に介助する彼女がいるとしましょう」

兄「それで?」

妹友「一見、美談に思えるでしょ」

兄「まあそうだな」

妹友「でもそれは実は非常に不安定で危険な関係なのです」

兄「どういうこと?」


妹友「麻薬中毒の彼は生活の全てを彼女に依存します。彼女はそんな彼の面倒を献身的に
みます。食事の支度や禁断症状が出たときの救急車への連絡まで。つまり彼にとっては献
身的な彼女がいないと生活が成り立たないのです」

兄「うん」

妹友「一方でそんなクズの彼氏に依存されている彼女にとっても、中毒者の彼氏が必要な
んですよ」

兄「何でだよ。そんなクズのことなんか放置して別れればいいのに」

妹友「普通に考えればそうなんですけど。この場合の彼女にとっては、自分を頼ってくる
彼の面倒を見ることが自分の生き甲斐、つまりアイデンティティになってしまっていると
したらどうですか」

兄「クズの女もしょせんはクズだなって思う」

妹友「そんなに簡単な話じゃないでしょ。彼女は麻薬中毒の彼氏を支えることが自分の第
一目標になっているんですから。そうしたら彼女にとって、何をすることが正しい方法な
んでしょうね」

兄「そのクズ男を薬物依存症治療の専門病院に放り込むことだろうが。んなことは考える
までもねえよ」

妹友「そうじゃないですよ。客観的に自分を見られる人なんてあんまりいないです。その
彼女の立場に立ってみればそんな選択肢はないでしょうね」

兄「じゃあ、その女の子はどうしたいの?」

妹友「徹底的に彼氏を甘やかすでしょう。彼氏が禁断症状で苦しんで再び麻薬に手を伸ば
しても彼のことを許容すると思います」

兄「それはそのクズのためにならねえじゃん」

妹友「そのとおりですけど、その彼女の行動原理だって自分のためなんですよ。彼氏が治
療によって治癒されてしまったら、薬物依存の彼を支えるという自分のアイデンティティ
がなくなっちゃうじゃありませんか」

兄「おまえ恐いこと言うな。それはずいぶんと病的な関係だな。つまり何か? 自分が彼
氏を支えたいために彼氏の薬物中毒を放っておくということか」

妹友「極端に言えばですけど。それは意識的なものではなく無意識かもしれませんけど。
だから片方からの一方的な依存ではなく共依存なんですよ」


兄「おまえさ。さっきから黙って聞いてれば、俺と妹もそういう関係だといいたいのか」

妹友「薬物依存みたいな悲惨な例とはちがうでしょうけど。根本的には同じじゃないです
か」

兄「俺と妹は仲がいい兄妹だってだけだろうが」

妹友「それだけの関係なら、何で妹ちゃんはさっきあたしたちが姿を消しただけでパニッ
クになったんですかね」

兄「それは」

妹友「両親が不在がちな環境。寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃん。そんな妹ちゃんが側
にいてくれる唯一の肉親であるお兄さんに依存したって別に変な話じゃないですよね」

兄「・・・・・・まあ、そこまでは」

妹友「そして。お兄さんも妹ちゃんが大好きだった。それが妹への肉親的な感情なのか男
女間の愛情なのかは別として」

兄「・・・・・・今は妹に変な感情なんて抱いてねえよ」

妹友「それでも、お兄さんにとっては妹ちゃんのそんな依存が嬉しかったんでしょ? そ
れが唯一の生き甲斐になるくらいに」

兄「・・・・・・」

妹友「そうしてお兄さんと妹ちゃんの共依存の関係が始まった。妹ちゃんはお兄さんに依
存して心の平穏を得た。お兄さんは妹ちゃんの心の平穏を保つことに自分の生き甲斐を感
じてきた」

兄「・・・・・・そうかなあ」

妹友「ね? 見事に教科書どおりの共依存関係が成立しているじゃないですか」

兄「・・・・・・」

妹友「さっきも言いましたけど。共依存は決して精神的に健全な状態ではないと言われて
います」

兄「だからって急に妹を突き放せるわけねえだろ」

妹友「そうですね。あたしもそこまでは言ってません」

兄「おまえの言うとおりだとしてさ。俺はどうすればいいんだよ」

妹友「お兄さんも彼女を作ればいいんじゃないですか」

兄「何でそんな極端な話になるんだ」

妹友「一生独身で妹の幸せを見守るなんて真顔で言っていること自体が共依存の典型的な
症状じゃないですか」

兄「いや、でも」

妹友「妹ちゃんにはお兄ちゃんがいます。お兄さんもいっそ女さんと復縁したらどうでし
ょう」

兄「・・・・・・女のことは自分でもどうしたらいいのかわからん」

妹友「じゃあ、あたしでは駄目ですか?」

兄「え?」


妹「お待たせ~」

妹友(!)

兄(!)

妹「チケット買えたよ。つうか、まだ駐車場に入れてないんだ」

兄「ああ、まあな」

妹「お兄ちゃん疲れたでしょ」

兄「いや。平気だよ。姫こそ二回も並んで疲れたんじゃないのか」

妹友「・・・・・・」

彼氏「姫?」

妹「・・・・・・このバカ兄貴。二人きりじゃないところで姫って呼ぶな」

兄「あ、ああ。悪い」

妹「全くお兄ちゃんは。何でそういう常識的な配慮ができないのかなあ」

兄「悪い」

妹「え? 何マジになってるの? 冗談だよ。別にあたしを姫って呼びたければ呼んでも
いいんだってば」

兄「いや。本当にごめん」

妹「ちょっと・・・・・・。冗談だって。やだ、真面目に受け取らないでよ」

兄(共依存か。妹友の言うとおりかもしれん)

妹「ねえ」

兄(だってだからと言って俺が彼女を作れば解決するのかよ)

妹「お兄ちゃん。何か言ってよ。ごめん、あたし謝るから」

妹友「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します


<お兄ちゃんの携番とメアドを妹ちゃんに送付しておくから>




妹友「何だ。真剣な顔で相談とか言うから何かと思ったじゃん」

妹「結構マジで悩んでるのに」

妹友「だってさあ。お兄さんとのトラブルとか相談されてもねえ。せめて好きな人のこと
とか相談されたんなら真面目に相談に乗ろうとか思うけどさ」

妹「あたしにとっては大問題なの!」

妹友「・・・・・・誇らしげにブラコンを公言するのはいい加減にしなって」

妹「そんなんじゃないよ」

妹友「昨日妹ちゃんとお兄さんのデートを邪魔したのは悪かったけどさ。妹ちゃんの部活
を休むほどの用事が、お兄さんと一緒に帰ることだったとはねえ」

妹「・・・・・・別にいいじゃん。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし」

妹友「まあ、いいけど。それにしても何? いったい夜中に電話してきて相談って何かと
思ったら。自分と一緒に歩いているのにお兄さんが他の女の子をガン見してるのどうしよ
うって。そんなことで一々電話して来るなよ」

妹「だってさ」

妹友「まさか兄妹喧嘩の相談をこんな夜中に受けるとは思わなかったよ」

妹「ごめん」

妹友「で? 妹ちゃんはどうしたいの?」

妹「どうって」

妹友「じゃあ聞き方を変えるけど、お兄さんとどうなりたいの」

妹「どうって・・・・・・。仲のいい兄妹になりたい」

妹友「それなら今でも仲良すぎるくらいじゃん。それ以上仲良くなってどうすんのよ」

妹「だって。せっかくあたしがお兄ちゃんの学校に迎えに行ってあげたのに、他の女の子
のことばかり見てるとかあり得ないじゃん」

妹友「何であり得ないって言い切れるのかよくわかんないけど。じゃあさ。いっそ妹ちゃ
んもお兄さんに嫉妬させてみたら?」

妹「どういうこと?」

妹友「そろそろさ。うちのお兄ちゃんの告白にも返事してやってよ。断るなら断るでいい
からさ。このまま保留じゃお兄ちゃんだって落ちつけないじゃん」


妹「彼氏君のことは嫌いじゃない。でも、男の人と付き合うのってあたしにはまだ早いよ
うな気がする」

妹友「もうすぐ高校二年になるのに付き合うのが早すぎるって」

妹「あたしにとっては、だよ。あたしは家に帰って家族と一緒にいるのが一番好きだから、
男の人とデートとかしたいとも思わないし。だからあたしはまだ子どもなんだと思う」

妹友「しょっちゅう他校の男の子に告らてくるくせに、いつも断っていたのはそういう理
由だったのか」

妹「うん」

妹友「でもさ。あたしがうちのお兄ちゃんの気持ちを伝えたときは、少し考えさせてって
言って保留したよね?」

妹「彼氏君は中学一年の頃からの知り合いだし、何よりも妹友ちゃんのお兄さんだし」

妹友「何を気にしてるのか、よくわかんないなあ。結局振るんだったら早いか遅いかの差
だと思うけどなあ。つうか待たされた分お兄ちゃんも余計につらいと思うけど」

妹「・・・・・・妹友ちゃんは平気なの?」

妹友「何が」

妹「彼氏君に彼女ができても妹友ちゃんは大丈夫なの」

妹友「どういう意味よ」

妹「だって妹友ちゃんって彼氏君のこと大好きじゃん」

妹友「ちょっと待ってよ。あたしは妹ちゃんみたくブラコンじゃないって」

妹「とてもそうは見えないよ」

妹友「本当だって。もしそうならお兄ちゃんの気持を妹ちゃんに伝えるなんてしないでし
ょ」

妹「・・・・・・」

妹友「話が逸れちゃったけどさ。お兄さんに嫉妬させてみたらお兄さんの妹ちゃんに対す
る気持もわかるんじゃないかな」

妹「どうやったらお兄ちゃんが嫉妬なんてするんだろ」

妹友「他の男の人と一緒にいるところを見せればいいだけでしょ」

妹「そんな人あたしにはいないもん」

妹友「うちのお兄ちゃんでいいじゃん」

妹「え」

妹友「お兄ちゃんなら喜んで妹ちゃんと一緒にいようとすると思うな」


妹「それはだめでしょ」

妹友「何で?」

妹「だって・・・・・・彼氏君を利用するようなことはできないよ」

妹友「お兄ちゃんは妹ちゃんが好きなんだから別にいいじゃん」

妹「それって本当のことを話して彼氏君に協力してもらうってこと?」

妹友「さすがにそれは無理。お兄ちゃんには珍しく妹ちゃんが一緒に登校したいって言っ
てるよって言う」

妹「それじゃまるで・・・・・・」

妹友「お兄さんの反応が見たいんでしょ?」

妹「彼氏君に悪いよ」

妹友「妹ちゃん、お兄ちゃんの告白を断るって決めたの?」

妹「・・・・・・それはまだ」

妹友「まだ決めてないならいいじゃん。心を決める参考になるかもしれないよ?」

妹「だって」

妹友「じゃあ、決まりね。早い方がいいから明日の朝お兄ちゃんに学校まで送ってもらっ
てね。お兄ちゃんにはこれから話しておくから」

妹「本当にやるの」

妹友「そうだよ。明日の朝七時に妹ちゃんの家の前の公園で待ち合わせね。それであたし
は別なところから妹ちゃんの家を監視してるから。それでお兄さんが出てきたら妹ちゃん
にメールするね。そしたらお兄ちゃんと一緒に駅の方まで歩いて行って」

妹「あたしが彼氏君と一緒のところをお兄ちゃんが見たら傷つくかも」

妹友「そうかなあ。それなら妹ちゃんと一緒にいるのに他の女の子なんかをよそ見したり
しないんじゃない?」

妹「・・・・・・まあそうかも」

妹友「お兄ちゃんと手くらいつないでね。お兄ちゃんにも言っておくけど」

妹「・・・・・・」

妹友「そろそろ電話切るね。あとでメールする。万一会えなかったときのためにお兄ちゃ
んの携番とメアドを妹ちゃんに送付しておくから。お兄ちゃんにも妹ちゃんのを教えるけ
どいいよね?」

妹「・・・・・・」


<偽装デート>




彼氏「おはよう妹ちゃん」

妹「・・・・・・おはよ」

彼氏「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

彼氏「何かこういうのって照れるね」

妹「うん」

彼氏「昨日夜中にいきなり妹に言われたときはびっくりしたよ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いやいや。むしろ嬉しい驚きっていうの? そういう感じ。マジで昨日はよく眠れ
なかったよ」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「じゃあ行こうか」

妹「ちょっと待って」

彼氏「え」

妹「もう少しここにいて」

彼氏「もちろんいいけど。妹ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるんだしむしろ大歓迎
だよ」

妹「ごめん」

彼氏「何、謝ってるの」

妹「ごめん」

彼氏「・・・・・・えと」

妹「・・・・・・」

彼氏「どうした?」

妹「ごめんね。ちょっとメール」

彼氏「あ、うん」

妹「・・・・・・」



from:妹友
to:妹
sub:無題
『お兄さんが家を出てきたよ。妹ちゃんはお兄ちゃんと寄り添って、なるべく仲よさそう
な振りをして駅に向って』


妹「あの」

彼氏「どうしたの」

妹「そろそろ行きましょう」

彼氏「うん」

妹「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・妹ちゃん?」

妹「うん」

彼氏「そんなにくっつかれると歩きにくいんだけど」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いや。もちろん僕としては嫌なわけなくて。大歓迎と言うか」

妹「・・・・・・」

彼氏「いや。変なこと言ってごめん」

妹「・・・・・・あたしの方こそごめん」

彼氏「・・・・・・」

妹「ごめん。またメールだ」

彼氏「うん」



from:妹友
to:妹
sub:緊急事態
『お兄さんは予定どおり妹ちゃんたちの後ろを歩いて駅に向っているけど、何か途中で結
構綺麗な女の人と出合って一緒に歩いてるよ』

『女の人の方も親し気にお兄さんに笑いかけてるし。ひょっとしてお兄さんってあんなに
綺麗な彼女がいたの?』

『気がつかれないように背後を見ることができるなら、ちょっと見てみ』



妹「・・・・・・」

妹「・・・・・・女さん。いったい何でお兄ちゃんと一緒に」

彼氏「うん? どうした」

妹「ごめん。何でもない」

彼氏「それならいいけど」

妹「ちょっと急ごうか」

彼氏「あ、うん」


妹「今日は学校まで送ってくれてありがと」

彼氏「いや。僕の方こそ一緒に登校できて嬉しかった。夢を見ているみたいだったよ」

妹「・・・・・・大袈裟だよ」

彼氏「嘘じゃないって」

妹「・・・・・・」

彼氏「あ、あのさ。せっかく電話とかアドレスとか交換したんだしさ」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「たまには電話したりメールしてもいい? あ、もちろんうざければ返事とかいらな
いし」

妹「うん」

彼氏「やった」

妹の同級生たち「妹ちゃんおはよう」

妹「あ。おはよ」

妹の同級生たち「朝から校門前で男の人と何やってんのよ。先生に見つかったらマズイ
よ」

妹「別にそんなことじゃないし」

彼氏「じゃあ行くね。さすがに富士峰女学院の校門前に男がいるのってまずいと思うし」

妹「うん。今日はありがとう」

彼氏「こちらこそ。じゃあまたね」



妹友「妹ちゃんお疲れ」

妹「・・・・・・もう。本当に疲れたよ」

妹友「しかし意外な邪魔が入ったね」

妹「・・・・・・女さんね」

妹友「知ってるの?」

妹「うん。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ」

妹友「嫌な女って」

妹「妹友ちゃんはお兄ちゃんの後をつけたの?」

妹友「うん。女さんっていう人と一緒になったんだけど、会話は聞けたから」

妹「・・・・・・」

妹友「よかったね。妹ちゃん。お兄さんは妹ちゃんに嫉妬全開だったよ」

妹「・・・・・・それ本当?」


<爬虫類パーク>




兄(何とか妹が落ちついてくれてよかった)

兄(しかし思わず妹のことをこいつらの前で姫と呼んでしまうとは大失敗だったな)

兄(共依存。本当にそうなのかな。俺と妹が共依存の関係だって言うなら前からそうだし
な。確かにここ最近の妹は少し行き過ぎている感じはあっるけど)

兄(精神的に不健全な関係だって? そんなことを言ったらうちの家族の基礎が全否定さ
れちまうじゃないか)

兄(妹友の言っていることには確かに説得力はある。客観的に見れば他人からはそういう
関係に見えるかもしれん)

兄(でもそれって本当に悪いことなのか。俺は妹と彼氏君の関係を受け入れた。妹も俺に
女と復縁するのを応援している)

兄(そう考えると、そういうことを前提に俺と妹が多少仲が良すぎたって別に問題ないじ
ゃないか)

兄(・・・・・・妹友は俺に彼女を作ればいいと言った。そんな単純な問題でもないだろうけ
ど)

兄(女とか? それとも)



妹友『・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ』

妹友『今日はあたしとずっと一緒にいてください』

妹友『じゃあ、あたしでは駄目ですか?』



兄(あいつ、前はおれのことなんか好きじゃないって言ってたんだよな。本当に好きなの
は自分の実の兄貴の彼氏君だって)

兄(でも。それにしては前から俺に接近してきたし)

兄(考えてみれば恋人つなぎとかキスとか、全部初めてはあいつとだったじゃんか)

兄(・・・・・・何を考えてるんだろうな。あいつは)

兄(今の俺には行動の自由がある。女とは一度は別れるてるし、姫は俺とは付き合えない
とはっきり言った)

兄(妹友と付き合うか?)

兄(確かにあいつは可愛いし、体型も妹に似て華奢でスレンダーだし)

兄(・・・・・・そういや、あいつ。水着持って来たって)

兄(・・・・・・・)


妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「ほら。あれがイグアナだよ。可愛いでしょ」

兄「・・・・・・ノーコメント」

妹友「ええ? 何でですか。あのつぶらな黒い瞳を見てください」

兄「・・・・・・見たけど」

妹「可愛いでしょ?」

兄「いや。別に」

妹友「妹ちゃん。お兄さんって意外とつまらない人だったね」

妹「本当。全くお兄ちゃんにはがっかりだよ」

兄「・・・・・・彼氏君は?」

彼氏「はい?」

兄「あれ、可愛いと思う?」

彼氏「いやその」

妹「彼氏君ならわかるよね」

妹友「お兄ちゃんならそこのだめだめ男とは違って理解できるでしょ」

彼氏「えーと」

兄「えーとじゃねえよ。遠慮せず思っていることを言え」

彼氏「正直気持悪いです」

兄「・・・・・・友よ」

彼氏「いやあの」

妹「二人ともセンスないの」

妹友「本当だ。最低」

兄「何でだよ」

妹「あ。あっちに大きなトカゲがいる」

妹友「え。マジ? 行ってみよう」

兄(ここに来てから四人行動になったのはよかった。またニ対ニじゃいろいろ気を遣うし
な)

彼氏「二人とも行っちゃいましたよ」

兄「どうでもいい。おまえはついって行ってやれよ」

彼氏「いや。僕もヘビの類いは正直苦手で」

兄「だよな。あそこのカフェみたいなとこで休んでるか」

彼氏「そうですね。そうしましょう」

兄(・・・・・・ある意味もっとも揉めなさそうな二対ニに分裂したか。これはこれで気が楽
だ)


妹友「二人ともこんなところにいたんですか」

妹「せっかくチケット買って入ってるのに、二人とも何も見てないじゃん」

兄「いや。俺たち二人は爬虫類とは折り合いが悪くてな」

彼氏「妹ちゃんたちが楽しんでくれれば十分だって」

妹「つまんないの」

妹友「全くだよ」

妹「一とおり見たから、お土産買いに行こう」

兄「お土産?」

妹「パパとママと、あと伯父さんにも」

兄「まあ伯父さんには買っていかないとまずいか」

妹「そうだよ。別荘を貸してくれたんだし」

妹友「お兄ちゃんもほら。両親に何も買って帰らないつもり?」

彼氏「ああ、まあそうだね」

妹「あとさ。超可愛いぬいぐるみがあったから。自分用に買いたいし」

兄「何が超可愛いだ。どうせヘビかなんかだろ」

妹「全然違うし」

兄「イグアナか」

妹「ガラパゴスオオトカゲのぬいぐるみだよ。等身大なの」

兄「・・・・・・あ、そ」



兄(妹のやつ。何か夢中でお土産を選んでるな)

兄(やっぱり姫って可愛いな。正直、ここにいっぱいいる女の子の中でも飛び抜けて可愛
いじゃんか)

兄(まあ、これは家族補正がかかってるのかもしれないけど)

妹友「お兄さん」

兄「おう。おまえお土産買ったの?」

妹友「ええ、まあ」

兄「ガラパゴスなんちゃらか」

妹友「あれは大き過ぎます。何せ等身大だそうですから」

兄「そうか」

妹友「あたしは諦めましたけど、妹ちゃんはまだ悩んでましたよ」

兄「あんなでかいぬいぐるみ、そもそも車に乗せられないだろうが」

妹友「お兄さん」

兄「うん?」

妹友「さっきは妹ちゃん、何でお兄ちゃんに電話しなかったんでしょうね」

兄「番号を知らなかったからだろ」

妹友「そんな訳ないです。妹ちゃんはお兄ちゃんの携番とメアドは登録していますよ」

兄「(そう言えばそうだ。前に俺の目の前で彼氏君から電話が来たことが何度かあったじ
ゃんか)どういうこと?」

妹友「さあ? 共依存にしても行き過ぎてますよね」

兄「・・・・・・さすがにそうかも」


今日は以上です
また投下します


<クズ、鈍感、ロリコン、シスコン!>




妹友「何であそこまでお兄ちゃんに拒否反応を示すんでしょうね」

兄「さあ?」

妹友「お兄ちゃんのことが嫌いなのかな」

兄「でもさ。図書館デートのときなんて彼氏君と妹は恋人つなぎして寄り添ってたし」

妹友「結局、お兄さんがいない場合に限って、妹ちゃんはお兄ちゃんに素直に寄り添える
んですよね」

兄「何だよそれ」

妹友「いったいどっちが妹ちゃんにとって正しい姿なんでしょうね。お兄さんに依存して
いる妹ちゃんか。お兄ちゃんと普通に恋人同士ができている妹ちゃんか」

兄「何かよくわからんけど」

妹友「わからないじゃなくてそろそろ考えた方がよくないですか? どっちが妹ちゃんに
とって幸せなのか」

兄「あのさ。おまえ本当に俺のこと好きなの?」

妹友「好きですよ」

兄「即答かよ」

妹友「常にそのことだけを考え続けてましたから」

兄「嘘付け」

妹友「まあ嘘ですけど。でもイグアナのことを考える合間にお兄さんのことも考えてまし
た。これは本当です」

兄「俺はイグアナの次かよ」

妹友「あたしがあんまり思いつめちゃったらお兄さんだって嫌でしょ」

兄「・・・・・・おまえ思ってたより気を遣えるやつなんだな」

妹友「何ですかいきなり」

兄「まあ、でもさ。兄貴のことを忘れるために次の恋を見つけようとしてるんだったら考
え直した方がいいぞ」

妹友「え」

兄「実際にそれをやってさらに傷口を深くした俺が言うんだから間違いない」

妹友「・・・・・・お兄さんのばか」

兄「ばかって」

妹友「クズ、鈍感、ロリコン、シスコン! もう知らない」

兄「おい待てって」


妹「お兄ちゃんお待たせ」

兄「その様子だと等身大とやらは買わなかったようだな」

妹「あんなの持って帰れないもん。妹友ちゃんは?」

兄「どっかに行っちゃった」

妹「どっかって・・・・・・喧嘩でもしたんじゃないでしょうね」

兄「いや」

妹「嘘じゃないよね」

兄「う、うん」

妹「・・・・・・目を逸らした。やっぱりあたしに嘘ついたんだ」

兄「おまえだって嘘ついたじゃん」

妹「何のこと?」

兄「彼氏君の電話番号とメアド。本当は知ってたんだろ」

妹「・・・・・・あ」

兄「別にいいけど」

妹「違うの。あれは」

兄「今度からもっと上手に嘘ついたら。妹友があんな嘘信じるわけねえだろ」

妹「妹友ちゃんから聞いたの? あたしが彼氏君の携番知ってるって」

兄(あれ。まずかったかな。姫に嘘つき呼ばわりされたんでつい勢いで言っちまったけ
ど)

妹「・・・・・・妹友ちゃん、また約束を破ったんだ」

兄「約束って何だよ」

妹「言わない」

兄「何で?」

妹「もうお兄ちゃんには嘘つきたくないから」

兄「・・・・・・本当のことを言えばよくね?」

妹「もう行こう」

兄「だって妹友が」

妹「彼氏君に電話してもらおう」

兄(さっきとは逆か。それにしても妹友はさっき彼氏君と喧嘩したって言ってたけど。そ
の後俺と気まずくなり、今度は妹を怒らせた。これじゃ旅行なんか全然楽しめないんじゃ
ないの? あいつ)


彼氏「ああ、お兄さんに妹ちゃん。ここにいたんですか」

妹「うん。そろそろここは出ようよ」

彼氏「そうですね。妹友はどこかな」

兄「さっきまでいたんだけどな。彼氏君ちょっと電話してよ」

彼氏「いいですけど、さっきちょっとあいつと言い争いしちゃったから電話でないかも」

兄「喧嘩しててもさっきは妹友ちゃんは彼氏君に電話してたぞ」

彼氏「そうですね。じゃあかけてみます」

彼氏「ああ出た。おまえ今どこにいるの? もうここ出るぞ」

彼氏「うん、そうか。じゃあな」

彼氏「妹はもう建物の外にいるので直接駐車場に行くそうです」

兄「そう。じゃあ俺たちも行こうぜ」

彼氏「はい」

妹「・・・・・・」

兄「いたいた。おまえどこ行ってたんだよ」

妹友「ごめんなさい」

妹「・・・・・・」

兄「別にいいけど」

妹友「・・・・・・ごめんなさい」

兄(今度は俺にだけ聞こえるように小声で言った)

妹「行こうお兄ちゃん」

兄「ああ。え?」

彼氏「どうしました?」

兄「いや(妹め。後部座席の彼氏君の隣にさっさと乗り込んでしまった)」

彼氏「妹ちゃん、また席をシャッフルするの」

妹「別にいいでしょ」

彼氏「う、うん」

兄(まあいいか)

妹友「・・・・・・あの、隣に座ってもいいいですか」

兄「いいも何もそこしか席ないじゃん。早くすわんなよ」

妹友「・・・・・・はい」


<それだけは信じて欲しかった>




兄「あのさ」

妹友「はい」

兄「さっきはごめんな。勝手におまえの行動の意味を決め付けるようなこと言って」

妹友「あたしこそひどいことを言ってごめんなさい。それに出会い方がああだったからお
兄さんには誤解されてもしかたないです」

兄「悪い」

妹友「でも今朝、夜明けの海岸で話したことは嘘じゃないです。それだけは信じて欲しか
った」

兄「今さらだけどわかったよ」

妹友「よかった」

兄「(おいおい)ちょっとさあ」

妹友「大丈夫です。妹ちゃんからは見えません」

兄「・・・・・・うん」

妹友「大丈夫ですよ。こんなことでお兄さんに選んでもらおうなんて考えていませんか
ら」

兄「別にそんなこと考えてたわけじゃねえよ」

妹友「何か急がなくてもいいような気がしてきました。妹ちゃんとの関係とか女さんとか
お兄さんはゆっくり考えたらいいんじゃないかと思います」

兄「そうだな」

妹友「それで少しでもいいからあたしのことも候補に入れておいてください」

兄「・・・・・・わかった」

妹友「お兄さんと仲直りできてよかった」

兄「やっと笑ったな」

妹友「へへ。あまり顔を見ないでください。さっき少し泣いちゃったから変な顔してるで
しょ」

兄「全然変じゃねえよ。むしろ可愛い」

妹友「・・・・・・やだ」

兄「いやそのだな」

妹友「でも、前向いてください。よそ見運転はだめです」

兄「確かに」


兄「あれ?」

妹友「どうしました」

兄「何となく運転してたけど、これからどこに行けばいいの」

妹友「最初の予定だと熱帯植物園に行く予定でしたよね」

兄「でも、もうこんな時間だぜ。今から行くの?」

妹友「もう五時ですね」

兄「ちょっと無理があるだろ。それに結構道も混んでるから植物園についたら六時近いと
思う」

妹友「どうしましょう」

兄「俺に聞かれても」

妹友「妹ちゃん。これからどうする? 熱帯植物園に行くのは無理っぽいって」

妹「・・・・・・」

兄(露骨に無視かよ。何で怒ってるんだろうなあ。約束っていったい何だろ)

妹友「妹ちゃん?」

彼氏「妹ちゃん、呼んでるよ」

妹「・・・・・・」

兄「(これはまずい)おい妹」

妹「・・・・・・あたしのこと、もう姫って呼ぶのやめたんだ」

妹友「え」

彼氏「え」

兄「(な!)そうじゃなくて。今日はもう家に帰ろうぜ」

妹「そう」

兄「それでいいな」

妹「・・・・・・」

兄(無視かよこいつ。いくらなんでもこの態度はねえだろ。どんだけ約束とやらを破られ
て傷付いたのかは知らねえけど)

兄「おまえいい加減に」

妹友「お兄さんやめて」

兄「・・・・・・ちぇ」

妹友「妹ちゃんは植物園で食虫植物を見るのを楽しみにしてましたし」

兄「はあ?」

妹友「だから元気がなくてもしかたないです。正直、あたしもがっかりです」

兄「んなもん一生見なくたって不都合はないだろう」

妹「・・・・・・・そんなんじゃないし」

妹友「妹ちゃん?」

兄(何拗ねているんだこいつ)


兄(せっかくの旅行が重い雰囲気になっちまったなあ。必ずしも妹だけが悪いわけじゃな
いのかもしれない。でも、妹ももう少し大人になって自分の感情を抑えたってよかったは
ずだ)

兄(今日の夕食はどうなるのかなあ。妹には聞きづらいし聞いたってどうせ無視されるだ
ろうし)

兄(だけどこれは結構切実な問題だぞ。妹と妹友が作ってくれるならスーパーに寄って食
材調達しなきゃいけないし。どっかで食っていくならそろそろ店を探さなきゃいけない)

兄(どっちにしろもう決めないと)

兄「なあ?」

妹友「はい」

兄「今日の夕飯ってどうなってるか聞いてねえ?」

妹友「・・・・・・さっき爬虫類パークで妹ちゃんと話していたときには、今日は二人で別荘で
料理しようよって言ってました」

兄「そうか。じゃあスーパーとかに寄って」

妹友「でも・・・・・・」

兄「何?」

妹友「今の妹ちゃんに料理する気があるかどうかは」

兄「そうか。そうだよな」

妹友「・・・・・・」

兄「ファミレスにでも寄って行くか」

妹友「・・・・・・いえ。スーパーに行きましょう」

兄「だって」

妹友「ちゃんと妹ちゃんと話してみます。最悪の場合でも、あたしが一人で料理しますか
ら」

兄「・・・・・・いいのか」

妹友「ええ。あたし、こう見えても料理得意なんですよ」

兄「そうなん?」

妹友「うちもお兄さんのお家と一緒で両親は共働きですし、料理は慣れてますから」

兄「じゃあ。おまえがいいならスーパーに行くか。最悪の場合は俺も手伝うから」

妹友「・・・・・・あの」

兄「うん?」

妹友「何か妹ちゃん怒ってるじゃないですか? ひょっとしてあたしに対して怒ってるん
でしょうか」

兄「その話は後で。ここじゃ妹に聞かれるかもしれないし」

妹友「・・・・・・やっぱりそうなんですね」


<スーパーマーケット>




兄「着いたぞ」

彼氏「え? ここどこですか」

兄「スーパーだよ。今夜の飯の準備しないとな」

彼氏「ああ、そうですか。そうですよね」

妹「・・・・・・」

彼氏「また妹ちゃんが作ってくれるの? 楽しみだなあ」

妹「知らない。あたし食欲ないし」

兄「(こいつ。ふざけんな)いや。今夜は妹友が作ってくれるって。な、妹友」

妹友「え? ええまあ」

兄「何作ってくれるの? そういやおまえの料理を食うのって前に作ってくれたオムライ
ス以来だな」

妹「・・・・・・」

妹友「何でそれを今言うんですか」

兄「え」

彼氏「何だ。やっぱり二人はそういう仲なんですね。僕の勘違いじゃなかったんだ」

兄「いやそうじゃない」

妹友「お兄ちゃんそれ飛躍しすぎだから」

彼氏「悪かったな。さっきはおまえと言い合いしちゃったけど。でもそういうことなら隠
さないでそう言ってくれれば喧嘩なんてしなくてすんだのに」

妹友「いいから、ちょっとお兄ちゃんは黙って」

妹「・・・・・・彼氏君、行こ」

彼氏「行くってどこへ」

妹「あたしお菓子とかジュース買いたい。付き合って」

彼氏「うん。喜んで。お兄さん、すいません。買物はお二人にお任せします」

兄「おい。待てって」

彼氏「それに邪魔者は消えた方が気が利いてますよね」

妹友「・・・・・・もうあんたは黙ってろ。今すぐに消えろ」

彼氏「だから消えるって。妹ちゃん行こ」

妹「・・・・・・うん」


兄「何かごめん」

妹友「どうしてお兄さんが謝るんですか」

兄「そう言えばどうしてかな」

妹友「何でオムライスの話なんかしたの?」

兄「別にわざとでは」

妹友「妹ちゃんを挑発するようなことも言うし」

兄「あいつの態度がひどかったからだよ」

妹友「ねえ」

兄「うん」

妹友「妹ちゃんは何であんなに怒ってるんですか。お土産を買うところまではすごく和や
かだったのに」

兄「よくわからんけどな。妹にさ、本当は彼氏君の携番とメアドを知ってたんだろって言
ったら」

妹友「あ」

兄「そしたら妹友から聞いたのかって聞かれて。そしたらまた約束を破ったとか言って切
れて怒り出した」

妹友「・・・・・・やだ」

兄「へ?」

妹友「あたし、またやっちゃった」

兄「どうしたの」

妹友「これから妹ちゃん謝りに行きます」

兄「よしとけ」

妹友「何でですか」

兄「あいつとは長年の付き合いだからな。こういうときは言い訳すればするほどあいつは
頑なになるぞ」

妹友「それは確かに」

兄「もう少し時間をおいて、妹が冷静になってからの方がいいよ」

妹友「はい」

兄「じゃあ買出ししようぜ。あいつらは当てにならねえし」

妹友「そうですね。ねえお兄さん?」

兄「うん?」

妹友「今夜は何を食べたいですか」

兄「何でもいいよ」

妹友「何でもいいは禁止ですよ。お兄さん」

兄(こんなときだけど。こいつの笑顔って結構可愛いな。姫といい勝負なんじゃね)


<図書館にて>




from:妹
to:彼氏君
sub:無題
『さっきは電話切っちゃってごめん。ちょっとお兄ちゃんと揉めてたから。何の用事だっ
た?』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re無題
『僕の方こそ取り込み中のところ悪かったね。明日一緒に図書館に行くって妹から聞いた
から。待ち合わせ場所は聞いたんだけど、時間とか全然決めてないみたいだから直接メー
ルしちゃった。何時にする?』


from:妹
to:彼氏君
sub:Re:Re無題
『妹友ちゃんの暴走だよ。迷惑でしょ? 無理しなくてもいいのに』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re:Re:Re無題
『迷惑なわけないじゃん。一緒に勉強しようよ。僕の方が年上だしわからないところがあ
ったら教えてあげる』



from:妹
to:彼氏君
sub:Re:Re:Re:Re無題
『ちょっと早いけど八時でどうですか。本当に勉強を教えてくれるの?』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re:Re:Re:Re:Re無題
『任せて。お兄さんと同じ大学が志望校なんだよね? ちゃんと合格圏まで偏差値を引き
上げてあげるから。じゃあ、また明日ね』



彼氏「おはよう」

妹「おはよ」

彼氏「じゃあ行こうか。ちょうど図書館の開館時間だよ」

妹「あの」

彼氏「どうしたの」

妹「今日は本当に勉強を教えてくれるだけだよね?」

彼氏「何?」

妹「え。何って」

彼氏「何心配してるの。妹からはちゃんと釘刺されてるし、君に変なことなんてしないっ
て」

妹「・・・・・・うん」


彼氏「さすがに休日の朝一だと場所取りも簡単だね」

妹「うん」

彼氏「本当にごめんね。手までつながせちゃって。嫌だったでしょう」

妹「・・・・・・あたしの方こそ。迷惑でしょ?」

彼氏「そんなことないって。じゃあ、勉強始めようか。妹ちゃんの場合はとりあえず理系
科目の対策かな」

妹「はい」

彼氏「正直言って君のお兄さんの大学はそんなにレベルは高くない。地方国大だし」

妹「・・・・・・そうなの?」

彼氏「うん。まあ、皆はバカにして駅弁大学っていうんだけどね」

妹「・・・・・・」

彼氏「あ。でもね、君の成績だとそこすら合格するのは危うい。駅弁っていったってセン
ター試験は通過しなきゃいけないし、妹ちゃんって数学とか理科とか苦手でしょ」

妹「うん」

彼氏「数Ⅲはいらないけど数ⅡBはもう少し理解しないとね」

妹「・・・・・・そうだね」

彼氏「正直、君みたいな子があんな駅弁大学に行く必要なんかないと思うけどね。富士峰
女学院大学に内部進学すればいいじゃん。あそこならすぐにハイスペックな彼氏とか結婚
相手だって見つかると思うし」

妹「でもあたしはあの大学に行きたいの」

彼氏「だったら甘えてないで必死で偏差値を上げないと」


彼氏「少し休憩しようか」

妹「はい」

彼氏「中庭のベンチに行こうよ」

妹「うん」

彼氏「妹ちゃんって真面目だよね。正直こんなに集中してもらえるとは思わなかった」

妹「そんなことないけど」

彼氏「いろいろ厳しいこと言ってごめんね。でもさ、引き受ける以上は安請け合いしたく
なかったんだ。本当に妹ちゃんには志望校に受かって欲しいから」

妹「彼氏君が謝ることなんてないよ。あたしの方こそ、さっきは変なこと言ってごめんな
さい」

彼氏「いや。当然の心配だと思うよ。確かに僕は妹ちゃんに告った。情けないことに妹友
経由だけど。でも君はすぐには返事できないって言ったでしょ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いやそうじゃないよ。責めてるんじゃないんだ。本当なら静かに考えてもらいたい
時期に、一日僕と付き合わされるなんて君にとってはいい迷惑だよね」

妹「・・・・・・」

彼氏「でも、できればうちの妹のことは恨まないでやってほしい。あいつは僕の気持ちを
考えただけで」

妹「そうじゃないよ。妹友ちゃんはあたしとお兄ちゃ」

彼氏「だから今日は勉強を徹底的に教える。厳しくもする。それが君の合格のためだか
ら」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「たださ。一つだけ妹ちゃんにお願いがあるんだ」

妹「え? 何ですか」


彼氏「妹ちゃんが僕のことを受け入れてくれるか、それとも拒否するのかは結論が出るま
ではいつまでだって待つよ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いや。君を責めてるんじゃないんだ。たださ、一つだけお願いを聞いてくれないか
な」

妹「何?」

彼氏「うちの妹のことなんだけど」

妹「妹友ちゃん?」

彼氏「すごく言いづらいんだけど。何かさ、あいつ僕のことを好きみたいで」

妹「そんなの前からわかってるよ。妹友ちゃんはブラコンじゃない」

彼氏「そんな軽いものなら悩まないんけどね」

妹「どういうこと?」

彼氏「最近、朝起きるといつも妹が僕のベッドで一緒に寝ている」

妹「うん」

彼氏「二人で外出するとやたらに僕と手をつなごうとしたり、抱きついてきたりする」

妹「ええと」

彼氏「びっくりしたでしょ。僕だってそうだよ。最近じゃあ、両親までおまえたち兄妹は
ちょっと仲良くしすぎだとか真顔で注意するようになったし」

妹「そうなんですか」

彼氏「あり得ないでしょ? 実の兄貴のベッドに潜り込んだり実の兄貴と外出中に抱きつ
いてきたりとか」

妹「そうかなあ」

彼氏「そうだよ。妹ちゃんとお兄さんだったらそんなことはないでしょ」

妹「・・・・・・」


<彼氏君のことを好きになってたかも>




彼氏「だから君にお願いがあるんだ」

妹「何ですか」

彼氏「敬語やめてよ。君が中学生の頃からの付き合いなのに」

妹「お願いってそれ?」

彼氏「そんなわけなでしょ。君ってもしかして偏差値以上にばか?」

妹「・・・・・・」

彼氏「ごめん。そうじゃないんだ。僕は妹の僕への不毛な恋愛感情を諦めさせたい」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「君が僕の告白にどう返事してくれるかはいつまででも待つよ。でもさ、結論が出る
間だけでもいいから、僕の彼女の振りをしてくれないかな」

妹「はあ? 別にそんなのあたしじゃなくても」

彼氏「頼むよ。僕だって妹は可愛いし、あいつの将来を歪めたくないんだ」

妹「でも、何で恋人の振りなんて」

彼氏「朝の登校だって今日の図書館だってあいつが仕組んだことだろ。あいつは君のこと
は好きなんだよ。他の子じゃだめなんだ。君なら妹だって納得して身を引くと思う」

妹「だってそんな。妹友ちゃんをだますなんてできないよ」

彼氏「でも、それがあいつのためなんだ」

妹「・・・・・・」

彼氏「頼む。このとおり」

妹「ちょっと。頭を上げてよ。周りの人が見ているじゃないですか」

彼氏「ごめん」

妹「・・・・・約束して」

彼氏「え」

妹「妹友ちゃんの前以外では恋人ごっこはなし。あたしのお兄ちゃんとか他の友だちとか
に、あたしたちが恋人同士だなんて誤解させるようなことは絶対しないって」

彼氏「約束するよ」

妹「それ、妹友ちゃんにもうまく言ってもらえないかな」

彼氏「・・・・・・だってあいつのために彼女ができた振りをするのに、あいつに言っちゃった
ら」

妹「うまく言って。しばらくは秘密にしたいとか大事に付き会いたいとかって」

彼氏「・・・・・・わかった。何とかする」

妹「それなら・・・・・・。いいよ。何か自分を省みると複雑な心境ではあるけど」

彼氏「どういう意味?」

妹「何でもない。彼氏君の彼女役やるよ。妹友ちゃんのためなら」


彼氏「ありがとう。本当にありがとう」

妹「もういいって」

彼氏「この先、本当に妹ちゃんに振られたとしても、今日の恩だけは絶対に忘れないよ」

妹「だからいいって。でも恋人ごっこって具体的には何をするの」

彼氏「図書館でデートする」

妹「図書館で?」

彼氏「うん。本当にデートするんじゃ妹ちゃんに悪いし、かといってデートしなきゃ妹友
に怪しまれるだろうし」

妹「妹友ちゃん、傷付かないかな」

彼氏「傷付くかもしれないな」

妹「そんなのかわいそうじゃん」

彼氏「あいつは可愛いし頭もいい。実の兄貴なんかに夢中になって青春を無駄にする方が
よっぽどかわいそうだよ」

妹「・・・・・・へえ」

彼氏「何?」

妹「彼氏君って本当に妹友ちゃんのこと大切にしてるんだ」

彼氏「変なこと言わないでよ」

妹「ちょっと見直しちゃった」

彼氏「ありがと」

妹「で、毎回図書館はいいけど、ここで何するの」

彼氏「せめてものお礼に妹ちゃんの偏差値をお兄さんの大学を狙えるとこまで持ってい
く」

妹「・・・・・・本当に優しいんだね」

彼氏「そんなことないよ」

妹「あたし、悩んでいるんだけど。でもその悩みの人がいなかったら彼氏君のことを好き
になってたかも」

彼氏「・・・・・・声が小さくてよく聞こえなかった。でも何か僕のことを好きになったって
聞こえたような」

妹「違うよ。忘れて」

彼氏「でも」

妹「条件追加。今のは忘れること。いい?」


彼氏「・・・・・・了解」


今日は以上です
また投下します


<新婚の夫婦みたい>




妹友「ここってお魚が異様に充実してますよね」

兄「海辺だし漁港も近いからかな」

妹友「・・・・・・どうしますか。何を作ればいいのかな」

兄「何でもいいって」

妹友「だって・・・・・・。妹ちゃんも食べるんだし」

兄「あ。そうか」

妹友「・・・・・・」

兄「そうだよな。じゃあ俺が決めるよ。それならおまえが文句を言われこともないだろ
う」

妹友「そういうことじゃないですけど。でも、お兄さんの好きなのを作りたいです」

兄「ありがと。じゃあ何か魚が食いたい」

妹友「何がいいですか。あと、どういう風にしましょうか。焼き魚?」

兄「いっぱいあるからなあ。ちょっと一緒に選ぼうよ」

妹友「・・・・・・うん」

兄「お、この赤いのって」

妹友「金目鯛ですよ。お昼に食べたじゃないですか」

兄「俺とおまえは伊勢海老だったじゃん」

妹友「お兄さんは妹ちゃんの金目鯛食べてたでしょ」

兄「そうだった」

妹友「・・・・・・こんなときに言うのもなんですけど」

兄「どうかした?」

妹友「お兄さんと一緒にお買物とかって、何か新婚の夫婦みたい」

兄「・・・・・・変なこと言うなよ」

妹友「そうですよね。ごめんなさい」

兄「これにしようか」

妹友「それはアジの開きです。でも、明日の朝ご飯用に買っておきましょうか」

兄「朝食に?」

妹友「ええ。お兄さんは朝は和食派でしょ?」


兄「朝もおまえが作ってくれるの」

妹友「はい。妹ちゃん次第ですけど」

兄「悪いな」

妹友「ううん。今朝は妹ちゃんに作ってもらっちゃったし、お料理は好きですから」

兄「じゃあ、これは?」

妹友「穴子? ですね」

兄「さすがにこれは無理か」

妹友「あ。でもそこで捌いてくれるって」

兄「これってどうやって食べるの」

妹友「煮つけとか、甘辛く煮て穴子丼にするとかかな」

兄「おお。穴子丼いいね。食いたい」

妹友「じゃあ、これにしましょう。さばいてもらえるならあたしでも料理できます」

兄「よし。あと買うものは」

妹友「お米もお味噌もあったし、あとサラダを作りたいので野菜とドレッシングだけ買っ
ておきましょう」

兄「野菜売り場はあっちにあったぞ」

妹友「行きましょ」

兄「・・・・・・ええと」

妹友「だめですか?」

兄「いや。別にいいけどさ。ちょっとカートが押しづらいかな(腕に抱きつかれた)」

妹友「お願い」

兄「・・・・・・何でそんなに必死なの」

妹友「妹ちゃんの前ではしませんから」

兄「別にそんなことは」

妹友「行こ」

兄「・・・・・・」


兄「野菜って何買うの?」

妹友「レタスでいいですか」

兄「何でもいい。つうか野菜は別になくてもいいくらいだ」

妹友「だめですよ」

兄「笑うなよ・・・・・・ってあれ」

妹友「・・・・・・」

兄「喧嘩してる?」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんが何か言い合ってますね」

兄「どう考えても喧嘩だな」

妹友「止めますか」

兄「・・・・・・いや。放っておこう」

妹友「お兄さんが妹ちゃんのこと放っておくなんて珍しい」

兄「痴話喧嘩に兄貴が入ってもな」

妹友「まあそうですけど・・・・・・」

兄「兄貴のことが心配か?」

妹友「・・・・・・そうじゃないですけど。まあ、でもそうですね。心配したってしかたない
か」

兄「行こうぜ」

妹友「はい」

兄「これでだいたい揃ったか」

妹友「ええ。今夜と明日の朝はこれで大丈夫です」

兄「そういや明日はどうするんだろ」

妹友「明後日は帰るので丸一日遊べるのは明日が最後ですね」

兄「何か予定聞いてる?」

妹友「いえ」

兄「全くどうしようもねえな。予定立てていたやつがへそを曲げるわ誰彼となく喧嘩する
わじゃ。いっそ勝手に予定立てちゃうか」

妹友「・・・・・・そういうわけには」


<仲直り>




兄「清算もしたしそろそろ帰るか」

妹友「そうですね。あ、荷物一つ持ちます」

兄「大丈夫だよ。それより」

妹友「まだ喧嘩しているんでしょうか」

兄「困ったな。これじゃ帰るに帰れん」

妹「ごめん」

兄「ああ、来たか」

妹「妹友ちゃんもごめんね」

妹友「え? ああ、とんでもない。あたしの方こそごめん」

兄(何なんだ)

妹「本当にごめん。ちょっと妹友ちゃんを恨んじゃったけど、誤解だった」

妹友「ええと」

妹「許してくれる」

妹友「うん。もちろん」

兄「おまえら今日は喧嘩したり仲直りしたり忙しいな」

妹「ふふ。本当だ」

妹友「言われてみれば確かにそうですね」

兄「ついでに姫も彼氏君と仲直りしちゃえよ」

妹「見てたの?」

兄「あれだけ派手にやってれば見たくなくても見えちゃうって」

妹「そうか」

妹友「妹ちゃん・・・・・・」

兄「妹友と彼氏君の喧嘩だってうやむやになったことだし、おまえも」

妹「仲直りはしないよ」

兄「そもそも何で喧嘩なんかしたんだよ」

妹「言いたくない」

兄「だってまだ旅行中なのに雰囲気が悪くなるだろうが」

妹「別にもう騒がないから大丈夫。でも彼氏君とは二人きりにはならない」

兄「困ったな」


妹友「まあしかたないです。別行動するときは、お兄ちゃんとはあたしかお兄さんが組む
ことにしましょう」

妹「ごめんね」

妹友「ちょっとお兄ちゃんを探してきます。妹ちゃんは助手席に座っちゃって」

妹「うん」

妹友「少し待っててくださいね」

兄「了解」

妹「・・・・・・さっきはごめん」

兄「まあいいけど」

妹「ねえ」

兄「うん?」

妹「いろいろな人といろいろな場所に行ってもさ」

兄「ああ」

妹「やっぱり一番安らいで一番あたしらしくいられる場所って、やっぱり家族のところな
んだよね」

兄「それはわかるけど。でもそんなことを決め付けるのはまだはえーよ。おまえも俺も」

妹「ううん。そんなことないよ。あたしにはわかるもん。この先、大学に入っても就職し
ても、やっぱり自分の本当の居場所はうちの家庭だけだって」

兄「子どもってのはな。いつかは家族から独立して新しい家族を作るもんなの」

妹「普通はそうなんだろうね」

兄「(こいつの家族好きは今に始まったことじゃないが、何か今日は極端だな)まあ、彼
氏君とだってすぐに仲直りできるよ」

妹「そういう問題じゃない・・・・・・それに、あたしだって努力はしてみたのよ」

兄「努力って」

妹「でも全然だめだ」

兄「意味わかんねえよ」

妹「本当にわからない?」


兄「うん」

妹「あたしさ。たまに思うんだけど、お兄ちゃんってあたしとは違って別にうちの家族の
ことにはそんなにこだわってないよね」

兄「そんなことはない。普通に家族のことは大事だけど。特に姫のことは」

妹「そうかなあ。一人暮らし始めた時だって別に問題なく環境に溶け込んだでしょ? す
ぐに彼女まで作ったし」

兄「いや、あれは。姫に振られたから」

妹「一月の間、あたしにもパパとママにも電話もメールもしてこなかったよね」

兄「まあ、そうだけど」

妹「お兄ちゃんはあたしのことを好きだって言ってくれたけど、本当はあたしがお兄ちゃ
んを想うほどにはあたしのことなんか好きでも大切でもないんじゃないの」

兄「そんなことは絶対にない」

妹「・・・・・・もうやだ」

兄「本当にどうしたんだよ」

妹「あたしね。お兄ちゃんには彼女を作って欲しかった。それが女さんでも妹友さんでも
いいし、女友さんでもいいんだけど。でもさ、お兄ちゃんは一生独身であたしのことを見
守るって言ってたでしょ」

兄「言ったよ。でも、おまえに言われたよな。自分がされて嫌なことをあたしに押し付け
るなって」

妹「・・・・・・言ったよ」

兄「だから俺も前を見ようかと思いだしたとこだ。姫のことを生涯見守ることには変わら
ねえけどさ。姫が負担になるなら俺も誰かと付き合おうかと」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「やっぱりあれはなし」

兄「あれって?」

妹「やっぱりお兄ちゃんは彼女作らなくていいよ」

兄「あれか? 一生童貞独身のままでおまえの幸せを見続けるってやつ? おまえ、それ
は駄目だって言ったじゃん」

妹「・・・・・・だからそれキャセル」

兄「何言ってるんだよ」

妹「あたしもそうするから」

兄「おい」

妹「前に一度言ったじゃん。お互いに彼氏彼女なんて作らないで一生一緒にいようよって。
お兄ちゃん。もうずっとあたしの側にいてよ」

兄「それって」

妹友「遅くなってごめんなさい」

彼氏「本当にすいませんでした」

兄「いや。別にいいよ。じゃあ帰ろうか」


<俺は全てを失ったと思っていたから>




兄「なあ」

妹「何」

兄「さっきの話だけど」

妹「今はだめ。彼氏君と妹友ちゃんもいるし」

兄「そうだよな。悪い」

妹「今夜寝る前に、ね?」

兄「・・・・・・うん」

妹友「妹ちゃん」

妹「あ、うん」

妹友「勝手に今夜の夕食のメニュー決めちゃった。ごめんね」

妹「ううん。あたしこそ手伝いもしないで全部任せちゃってごめんね」

妹友「今日ね。穴子を買ったの。それで穴子丼を作ろうかと」

妹「おおいいね。手伝うから作り方教えて」

妹友「妹ちゃんに教えることなんてないって」

妹「そんなことないよ。妹友ちゃんって穴子好きなの?」

妹友「うん。それにお兄さんが食べたいって言ってくれたから」

兄「・・・・・・(このタイミングで)」

妹「そうなんだ。お兄ちゃんが穴子が好きだなんて全然知らなかったよ」

兄「好きというか、一度食べてみたいというか」

妹「・・・・・・」

妹友「妹ちゃん?」

妹「ごめん。ちょっとぼうっとしちゃった」


兄「ご馳走様でした。いや、おいしかったよ」

妹友「そんな。無理して誉めてくれなくてもいいのに」

兄「いや。マジでうまかった。今度母さんに作ってもらおう」

妹友「妹ちゃんに作ってもらえばいいじゃないですか」

妹「やだよ。こんなの面倒くさい」

妹友「もう。素直じゃないなあ」

兄「じゃあ、俺風呂沸かしてくる」

妹友「お願いします。あたしたちは洗い物しちゃいますから」

妹「風呂沸かすってスイッチ押すだけでしょうが」

兄「ちげえよ。浴槽の掃除とか水を張るとかいろいろあんだよ」

妹「全部今朝のうちにしてあるよ。あとはスイッチ押すだけだって」

兄「・・・・・・言ってくれれば俺がしたのに」

妹「お兄ちゃんなんかに期待してないよ」

彼氏「あのさ。僕だけ何にもしないのも悪いし、洗い物手伝ってもいいかな」

妹「・・・・・・」

兄(おい。無視かよ)

彼氏「いや。かえって迷惑ならいいんだけど」

妹「・・・・・・」

兄「男じゃかえって邪魔になるらしいぜ。彼氏君、風呂の支度手伝ってくれ」

彼氏「あ、はい」

妹「お風呂のスイッチを二人で押すの? ばかみたい」

妹友「妹ちゃん・・・・・・」



兄「あのさあ」

彼氏「・・・・・・はい」

兄「俺言ったよね? 妹を泣かせたらマジ殺すって」

彼氏「はい」

兄「じゃあ何で妹と喧嘩してんだよ。何で妹があんなに落ち込んでるんだよ」

彼氏「・・・・・・」

兄「何とか言えって」

彼氏「本当は僕もお兄さんに全部話して相談したいんです」

兄「おう任せろ。何でも聞いてやるぞ」

彼氏「でも駄目なんですよ」

兄「何で?」

彼氏「約束ですから。妹ちゃんとした約束は守らないといけないですから」

兄「約束?」

彼氏「はい。うっかり破っちゃったんでさっきも妹ちゃんに怒られたばかりだし、これ以
上約束を破って話すわけにはいかないです」

兄「何なんだよいったい」


妹「お待たせ。お兄ちゃん」

兄「ずいぶん早かったな。ちゃんと体洗ったのか」

妹「洗ったよ。つうかお兄ちゃんのエッチ」

兄「何でだよ」

妹「妹に向って体とか言わないでよ」

兄「・・・・・・俺がシスコンであることは認めるけど、それはいくら何でも自意識過剰だろ」

妹「何よ。こういう会話をあたしとできることが嬉しいくせに」

兄「・・・・・・確かにな」

妹「え」

兄「確かに嬉しい。おまえに告って振られたときさ、俺は全てを失ったと思っていたか
ら」

妹「そうなの?」

兄「ああ。おまえさっき言ってたろ? 俺は別にうちの家族のことにそんなにこだわって
ないって」

妹「言ったよ。だってそうじゃん」

兄「全然ちげえよ。俺だって寂しくてたまらなかったよ。実家に帰りたくてさ。でも、自
分のせいで姫との関係を壊して、父さんたちにもとても言えないことをやらかしたんだ
ぞ」

妹「何よ。あたしがお兄ちゃんを振ったせいだって言いたいの?」

兄「んなこと言ってねえだろうが」

妹「じゃあなんで」


兄「告って振られたけど一応これまでどおりに振る舞おうとは思ったさ。でもできねえも
ん。おまえを見るだけでつらくてさ。つらいって言っても俺が失恋したことじゃねえぞ。
俺を振ったことでおまえが傷付いているのを見るのがつらくて」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「だからもういいだろ。俺は好きにする。彼女を作るかどうかはわかんないけど、とに
かく俺はいい兄貴としておまえを見守る。もうそんでいいじゃんか。彼氏君のことを俺が
応援したっていいじゃんかよ。これ以上、俺にストレスを与えないでくれよ」

妹「・・・・・・ごめん」

兄「あ、悪い。ついエキサイトしちゃった」

妹「ごめん」

兄「いや。今のは俺が悪いんだ。勝手に自分の感情を姫にぶつけただけだし」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「・・・・・・もういいじゃん。あたしたちは二人ともよく頑張ったよ。でもこのあたりがあ
たしたたちの限界だったんだよ」

兄「何言ってるの? おまえ」

妹「もうよそう。そろそろ現実を受け入れようよ。あたしとお兄ちゃんはきっと最初から
お互いに他の人じゃ駄目だったんだよ」

兄「・・・・・・え」

妹「お互いに恋人なんか作らないでいつまでも兄妹で一緒にいる運命だったんだよ」

兄「お互いに一人身でか?」

妹「・・・・・・・あのさ」

兄「・・・・・・」

妹「あたし、お兄ちゃんの彼女にはなれないけど。でも、お兄ちゃんが辛いならできるこ
とはするから」

兄「(ふざけんなよ)おい、よせ」

妹「キスしよ」

兄「おいちょっと(何で服を脱いでるんだよ!)」


今日は以上です
また投下します


<お兄ちゃんが好き>




兄「ちょっとよせって」

妹「・・・・・・」

兄「マジやばいって。つうかおまえ上半裸じゃんか」

妹「・・・・・・」

兄(ゆ、夢にまでみた姫の)

兄「(いやそんなこと言ってる場合か)もうやめ。服着ろ」

妹「何でよ」

兄「何でって」

妹「お兄ちゃんに一生彼女作らないでなんてひどいこと言ったんだもん。できることはす
るよ」

兄「何言ってるんだおまえ」

妹「姫って言ってよ」

兄「あのさあ」

妹「彼女なんか作らないでずっとあたしと一緒にいて」

兄「・・・・・・」

妹「でも一生その・・・・・・ど、童貞じゃなくてもいいんだよ」

兄「・・・・・・」

妹「何か言ってよ。それともあたしの身体なんかに興味ないの?」

兄「抱きつくなよ(いろいろとやばい)」

妹「お兄ちゃん」

兄「う。何すんだよ」

妹「そういうときは鼻で息するといいよ」

兄「おまえさあ」

妹「何よ」

兄「俺とは付き合えないんじゃなかったのかよ」

妹「そうだよ。兄妹で付き合えるわけないでしょ」

兄「じゃあいったいおまえは何をしたいんだよ」

妹「だってお兄ちゃんに彼女ができたらあたしと一緒にいてくれないでしょ」

兄「ずっと姫の側にいるって」

妹「嘘つき」


兄「何で嘘だよ」

妹「だってそうじゃん。今日だって妹友ちゃんとずっと一緒にいたし」

兄「あれは姫と彼氏君に遠慮したんだよ。妹友だってそうだ」

妹「もう彼氏君とは別れる。だからもう変な遠慮はしないで」

兄「おまえなあ。俺のためにならやめとけよ。彼氏君が気の毒だろうが」

妹「ねえ」

兄「今度は何? もう寝ようぜ」

妹「妹友ちゃんから告白されたの?」

兄「(・・・・・・姫には嘘はつけねえ)多分、そんな感じ」

妹「妹友ちゃんと付き合うの?」

兄「まだ返事はしてないよ」

妹「・・・・・・」

兄「姫?」

妹「好き」

兄「え? 好きって・・・・・・え」

妹「お兄ちゃんが好き」

兄「ちょっと」



兄(ようやく服を着せ寝かしつけたけど)

兄(・・・・・・確かに最初は俺の気持悪い告白から始まったことには違いない)

兄(でも、あれから反省もした。彼女も作ったし別れもした。最初の一月を除けば妹のこ
とを放置だってしていないはず)

兄(好きって)

兄(付き合えないけど兄としては大好きって意味だろうけど。そもそもキスしいてる時点
でおかしいじゃんか)



妹『一生彼女は作らないであたしと一緒にいて』

妹『でも一生その・・・・・・ど、童貞じゃなくてもいいんだよ』

妹『何か言ってよ。それともあたしの身体なんかに興味ないの?』


兄(・・・・・・あれってつまりそういう意味だよな)

兄(付き合う気がないのに何であんなことまでしようとしたんだろ。しかも好きって)

兄(まあ、姫もいろいろ悩んで混乱してるんだろう)

兄(だから俺はあれを真に受けちゃいけないんだ。むしろ優しく姫を諌めなきゃいけな
い)

兄(とりあえず妹友と女のことは保留だ。ひどい仕打ちだしそれで嫌われてもしかたな
いけど)

兄(姫がここまで思い詰めているんだ。俺くらいは側にいてやらないと)

兄(・・・・・・泣きつかれたのかよく寝てる)

兄(・・・・・・しかし綺麗だったな)

兄(今さらだけど肌白いし華奢だし。胸は小さいけど、美少女ならそれすらも武器にしち
ゃうんだな)

兄(いかん。思い出すといろいろやばい。もう寝よう)

兄「おやすみお姫様」



妹「ほら起きてお兄ちゃん」

兄「うん? もう朝?」

妹「こら寝ぼけるな。朝ごはんだからさっさと起きて顔洗って」

兄「わかった(何か普通な態度だな。吹っ切れたのかな)」

妹「ほら早く」

兄「・・・・・・うん(いかん思わず姫の胸に視線が)」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ歯磨きしてこよ」

妹「お兄ちゃんどこ見てんの」

兄「あ、悪い」

妹「エッチ」

兄「いやその」

妹「・・・・・・もしかして思い出してるんじゃないでしょうね」

兄「・・・・・・」

妹「何とか言え。つうか今すぐ忘れなさい」

兄「無茶言うなよ」

妹「もう。さっさと顔洗ってこい」

兄「うん」

妹「だから。人の胸ばっか見つめてるんじゃないの」

兄「すまん(悩んでねえのかな。もう元気になったのか?)」


<温水プールへ>




妹友「おはようございますお兄さん」

兄「おはよ」

彼氏「今日は遅いですね。運転とかで疲れましたか」

兄「うん、まあ」

妹「ほら。さっさと食べちゃってよ。早く出かけたいから」

兄「わかった。って今日はどうするの」

妹「最後の日だからね。妹友ちゃんと相談したんだけど」

兄「うん」

妹「泳ぎに行こう」

兄「はい?」

妹「去年買った水着持ってきたし」

兄「さすがにまだ寒いだろ。無理無理」

妹友「違いますよ。海で泳ぐんじゃなくて大きな温水プールがあるんです。ドームの中な
んですごく大きいんですよ」

兄「植物園は?」

妹「プールの方がいいから」

兄「おまえら水着持ってるみたいだけど、俺はねえもん。彼氏君は?」

彼氏「・・・・・・」

兄「彼氏君?」

彼氏「あ、すいません。水着は持ってません」

兄「だよなあ。どうする? 別行動するか」

妹「・・・・・・」

兄「(あ、いけね。妹に睨まれた。姫を放置しないって約束したんだったな)でも、水着
ないし」

妹「買えばいいじゃん」

兄「こんな季節に売ってねえだろ。あるにしたって街中まで出ないと無理だよ」

妹友「大丈夫ですよ。さっきスマホで調べたら施設内の売店で水着が売っているそうで
す」

兄「彼氏君どうする?」

彼氏「・・・・・・」

兄「彼氏君?」

彼氏「あ、すいません。どっちでもいいです。お兄さんにお任せします」

兄「そう?」


妹「こんな時期に泳げるなんて嬉しい」

兄「おまえらなあ。泳ぐなら事前に言っておいてくれればいいのに」

妹「今朝、二人で朝ごはんの支度しながら急に思いついたんだもん」

兄「全く」

妹「へへ」

兄「何だよ(今日も自然に俺の隣に座ったな)」

妹「本当は期待してるんでしょ?」

兄「期待って何が?」

妹「あたしと妹友ちゃんの水着姿」

兄「・・・・・・あのなあ」

妹「正直に言ってみ?」

兄「まあ、楽しみではあるけど」

妹「けど、何よ」

兄「昨夜もっとすごいのを見、って痛いつうか危ねえよ」

妹「だから忘れろって言ったでしょ」

兄「そんなに都合よく記憶操作なんかできるか。だいたい姫が勝手に脱い」

妹「死ね」

兄「わかったって。努力するから」

妹「全くお兄ちゃんはエッチなんだから」

兄「男なんてみんなそんなもんだ」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「うん?」

妹「興奮しちゃった?」

兄「おまえ何言って」

妹「あたしの裸の胸を見て、思わず妹と間違いを犯しそうになっちゃった?」

兄「・・・・・・正直に言うとまあそうかも」

妹「あたしの胸なんかじゃ興奮しないって言ってたくせに」

兄「小さめだけど綺麗だった、って、おい。だから危ないからよせって。姫の方が聞いて
きたんだろう」


妹「・・・・・・ねえ」

兄「もういい加減勘弁してくれ。俺が無理矢理脱がしたんじゃないぞ」

妹「違うよ。そのさ。本当に綺麗だった?」

兄「・・・・・・ああ本当だよ」

妹「じゃあ何で何もしなかったの?」

兄「姫は俺の妹だから」

妹「実の妹に告っておいて何で今さら道徳的なこと言ってるのよ」

兄「後悔したからさ」

妹「後悔って? あたしに振られたから?」

兄「違うよ。そんなのは自業自得だ。そうじゃなくて。俺が告白したことによっておまえ
からいい兄貴を取り上げておまえを悲しませたことだよ。悔やんでも悔やみきれん。だか
ら俺はもう二度といい兄貴から逸脱しないし、昨日の夜みたいな状況になっても絶対にお
まえには手を出さない」

妹「意味わかんない。日本語で言ってよ」

兄「立派な日本語だろうが」

妹「じゃあ。もし、もしもだよ。あたしがお兄ちゃんのことが大好きだって言ったら?」

兄「そんなことは前から知ってる。おまえが好きなのは俺と父さんと母さんだろ」

妹「違うよ。そうじゃなくて、もしあたしが男として異性としてお兄ちゃんのことが大好
きだって言ったら、お兄ちゃんはどうする」

兄「嘘付けって言うね」

妹「何でよ」

兄「あり得ないから。おまえが必死になってるのは俺を振ったことで兄貴を失うのが辛い
からだろ。だけどもう心配するな。おまえが結婚したってずっとおまえを見守っているか
ら」

妹「否定はしないよ。多分、自分の中ではそういう感情があったと思う。でもさ、あたし
が結婚したら、お兄ちゃんは見守ってくれるかもしれないけど、一緒にはいてくれないで
しょ」

兄「当たり前だ。新婚夫婦と一緒に暮らすなんてできるか」

妹「そう考えたら何か恐くなっちゃった。自分の人生からお兄ちゃんが消える日が来ると
思うと」

兄「心配するな。結婚したいと思うほど好きな男ができれば、俺のことなんか自然に忘れ
られるよ」

妹「そんな簡単なことじゃないんだけどなあ」

兄「いや。すごく簡単なことだよ。結婚するってそういうことだろ。いつかは家庭から旅
立って自分の家庭を新しく作るときが来るんだって」


<返事はもちろんイエスだよ。喜んでお兄ちゃんの彼女になるね>




妹「あのさ」

兄「まだ納得できない?」

妹「それならあたし、結婚なんかしないもん。そうすればお兄ちゃんがずっと一緒にいて
くれるんでしょ?」

兄「またその話かよ。いつまでも家族四人で暮らすって話だろ?」

妹「何がいけないのよ。お兄ちゃん、ずっと独身であたしを見守るって言ってたじゃん」

兄「こんなことは言いたくないけどさ。おまえが大好きな父さんと母さんだって永遠に生
きていてくれるわけじゃないんだぞ。いつかは別れが来るんだよ」

妹「・・・・・・そんなのずっと先の話じゃない。今考える必要なんかないよ」

兄「まあ確かに今考える必要はないな」

妹「あたしさ。前に妹友ちゃんに言われたのね」

兄「何て?」

妹「あたしがお兄ちゃんのアパートに行って、女さんと二人でいるところを見たことを妹
友ちゃんに相談したときだけど」

兄(あ。それ確か妹友に聞いた)



妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』



妹「自分でもよくわからなかったのね。でも、そのあのときは確かに女さんにお兄ちゃん
を取られたくないって思って。だから妹友ちゃんから問い詰められたときも即答できなく
て考えてみるって言ったんだけど」

兄(マジかよ)

妹「でも考えてもよくわからなかった。それからお兄ちゃんが女さんと別れて家に帰って
きてくれたから、あたしはとりあえず安心して、そのことはもうあまり考えないようにし
てたんだけど」

兄「ああ」

妹「でもさ。お兄ちゃんの学校に一緒に行って公園でデートしたり、女友さんに対抗して
お兄ちゃんの彼女の振りをしているうちにさ。何か変なんだけど」

兄「・・・・・・」

妹「とにかく楽しかったし気が楽なのよ。お兄ちゃんといると。それに彼女の振りをして
たとき、あたし本当はすごくドキドキして」

兄「おまえさ」

妹「ふと思ったの。これが恋なんじゃないかって」

兄「彼氏君のときだってそうだったんだろ」

妹「全然違うよ。ときめきもドキドキも何にもなかったもん」

兄「じゃあ何で付き合ったんだよ」

妹「それは言いたくない」


兄「・・・・・・(何なんだ。いかん、こっちまでドキドキしてきた)」

妹「昨日の夜、あたしが最後に言ったこと覚えてる?」

兄「・・・・・・ああ」



妹『・・・・・・』

兄『姫?』

妹『好き』

兄『え? 好きって・・・・・・え』

妹『お兄ちゃんが好き』

兄『ちょっと』



兄「あれって兄貴として好きって意味じゃねえの?」

妹「・・・・・・」

兄「えと」

妹「後ろの二人は?」

兄「寝てるよ。昨日よく眠れなかったのかな」

妹「じゃあ、言うね」

兄「言うって何を」

妹「お兄ちゃんの告白に対する返事」

兄「それはもう聞いた」

妹「前のは取り消し。あとお兄ちゃんにも彼女を作って欲しいというのも取り消し」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん。返事をやり直すね」

兄「おまえは何を言って」

妹「お兄ちゃん。あたしを好きになって告白してくれてありがとう」

兄「ちょ、おま」

妹「返事はもちろんイエスだよ。喜んでお兄ちゃんの彼女になるね」


妹友「お兄さん、あっちにウォータースライダーがありますよ」

兄「そうだね」

妹友「一人じゃ恐いので付き合ってください」

兄「ええと。妹も行く?」

妹「あたしはいいや。流れるプールでぷかぷか浮いてるから」

兄「そう?(くそ。こんなときなのに姫の水着姿から目が離せねえ)」

妹友「お兄さん。ちょっと妹ちゃんをガン見し過ぎです」

兄「ち、違うって」

妹「お兄ちゃんは昔からエッチだからね。妹友ちゃんも気をつけてね」

妹友「え?」

兄(だから胸を隠すな。隠すほどもないくせに。でもこいつも可愛いな)

妹友「ちょっと、あまりじろじろ見ないでください」

兄「見てねえよ」

妹「早く行っておいで。戻ったらお昼にしよ」

妹友「うん。あそこのレストランは水着のまま入れるんだって」

妹「いいね」

妹友「じゃ。ちょっとお兄さん借りるね」

妹「どうぞー」

兄(妹はさっきの告白で吹っ切れたみたいだ)



妹『返事は急がないよ。お兄ちゃんだって今は悩みも多いだろうし』

兄『おま、おまえ。あのとき俺のこと振ったくせに』

妹『だからあれはリセット。なかったことにしたの』

兄『おまえ、無理して言ってるだろ』

妹『無理なんかしてない。悩んだ末の結論だもん』

兄『俺はどうすればいいんだよ。せっかくいい兄貴になることにしたのに』

妹『お兄ちゃんには女さんと妹友ちゃんもいるんだから、よく考えればいいよ。その選択
肢の中にあたしも入れておいてくれればそれでいい』

兄『・・・・・・マジかよ』



妹友「あ。妹ちゃんが男の人に囲まれてますよ。あれちょっとやばいんじゃ」

兄「行ってくる」

妹友「あ。お兄ちゃんだ」

兄「彼氏君?」


<父さんのおかげかな>




兄(あいつら。姫をナンパするとはいい度胸だ。ガキの頃、数年間父さんの言いつけで無
理矢理空手道場に通わされた俺の実力を見せてくれるわ)

兄(かわいそうに。妹が野郎どもに囲まれて怯えてる。あいつら絶対許さん)

兄(彼氏君が野郎どもに話しかけているけど、おとなしく話を聞く玉じゃねえだろ、あい
つら)

兄(あ。彼氏君が男の一人に殴られた!)

兄(妹が彼氏君を庇っているな。くそ。もう許さん)

兄(あいつら何人だ? 五人か)

兄(とりあえず妹を抱えているやつを潰して、間をおかずに彼氏君を殴ってるやつを何と
かしよう。多分それで残りの三人は怯むだろうから、あとは周りの客に頼んで警備員を呼
んでもらって)

兄(よし。ここまでは俺は冷静だ)

兄「姫を放せこの野郎!」

妹「お兄ちゃん!」



兄(何とか姫を捕まえていたやつはプールの底に沈めてやったけど。彼氏君救出には至ら
ず逆に俺がボコボコにされてしまった)

兄(すぐに警備員の人が来てくれて助かったけど)

兄(情けねえ。姫の前で醜態をさらしてしまった)

兄(しかし、一度自転車に乗れたら何年乗ってなくても再び乗れるって言うけど、空手は
全然駄目だな。腰の沈め方から型まで全然覚えてなかった)

兄(まあ、でも姫が無事ならそれでいい。案外、俺のこの残念な有様を見てさっきの告白
の返事も思い直すかもしれないし)

兄「って体が重い」

妹「お兄ちゃん」

兄「おう、姫。無事でよかったな」

妹「・・・・・・大丈夫?」

兄「多分平気だと思う。おまえは? 何かひどいことをされてねえか?」

妹「うん。大丈夫」

兄「よかった」

妹「お兄ちゃん、すごく格好よかったよ」

兄「やられてボコボコにされたのにか」

妹「だって向こうは五人もいたんだし。それにあたしのことは助けてくれたじゃない」

兄「姫が無事でよかったよ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。大好き」

兄「いやその・・・・・・泣くなよ」

妹「本当にどこも痛くない?」

兄「平気だけど・・・・・・彼氏君は?」

妹「大丈夫みたい。殴られてはいたけど」


兄「あいつ、格好よかったよな。あんまり強そうには見えないけど、おまえを助けようと
必死だったもんな」

妹「・・・・・・うん」

兄「ところであのバカたちはどうなった?」

妹「警備員の人が警察を呼んで連れて行かれた。あとであたしたちからも事情を聞きたい
って」

兄「俺、どのくらい気を失ってたんだろ」

妹「十五分くらいだよ。さっきまでこの施設のお医者さんがいてくれた。もう大丈夫っ
て」

兄「そうか。妹友は?」

妹「彼氏君と一緒にいる。妹友ちゃんも彼氏君が殴られるとこを見てパニックになって大
変だった」

兄「あいつにとっては大好きな兄貴だもんな」

妹「そうだね」

兄「ここどこ?」

妹「医務室。気がついたらもう普通にここから出ていいって」

兄「じゃあ行くか。飯食ってないし」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「お兄ちゃん大好き。やっぱりあたしに何かあったときはお兄ちゃんが救ってくれるん
だね」

兄(妹に抱きつかれた。しかも水着姿の妹に)

妹「よくわかったよ。あたしは間違っていないって。やっぱりあたしを一番大切にしてく
れるのは世界でお兄ちゃんだけだって」

兄「彼氏君だって必死におまえを助けようとしてたんだぞ」

妹「でも、あたしを助けてくれたのはお兄ちゃんじゃん。あたしを抱きかかえてたやつ
をやっつけてくれて」

兄「・・・・・・父さんのおかげかな」

妹「どうして?」

兄「俺が昔、空手道場のジュニアコースに無理矢理入れられたの覚えてない?」

妹「覚えてるよ。お兄ちゃんすごく嫌がってたね」

兄「正直苦痛だった。空手なんかに全然興味なかったから」

妹「じゃあ、何で通ってたの」

兄「父さんに言われたから。何かあったとき、おまえが妹姫を守れるようになれって」

妹「・・・・・・」

兄「まさか、こんなに後になって役立つとは思わなかったけどな」

妹「・・・・・・もう無理」

兄「へ?」

妹「もう無理。もう無理だよ。お兄ちゃん、大好きだよ。キスして」

兄「おいって」

妹友「妹ちゃん、お兄さんは大丈夫?」

兄・妹「え?」

妹友「・・・・・・何やってるの? 二人とも」


今日は以上です
また投下しますが、連日投下は無理かも


<もうやだ>




妹友「何やってるの? 兄妹同士でキス・・・・・・しかもそんな裸同然の格好で抱きあって」

兄「ちょっと待て。落ちつけよ(いけね。二人とも水着のままだった)」

妹友「むしろお兄さんの方が落ちいつた方がいいんじゃないですか」

兄「いや、その(よく考えたら俺、妹の裸の背中に思い切り触ってんじゃん。自分の方に
抱きかかえるようにして)」

妹友「・・・・・・いい加減に離れたらどうですか」

兄「あ、ああ(つうか姫が離してくれん。むしろ俺の首に回している腕に力が篭もったし)」

妹友「もうやだ」

兄「ちょっと待て。これは違うんだ(逃げちゃった。追いかけて誤解を)」

妹「行かないで」

兄「え?」

妹「行っちゃだめ」

兄「だって妹友の誤解を」

妹「誤解なの?」

兄「・・・・・・だってよ」

妹「抱きついてキスしたのはあたしだよ。でも、お兄ちゃんの手だってあたしを肌に触れ
ている。あたしを抱きよせてくれてるじゃない」

兄「・・・・・・(そのとおりだ。姫に抱きつかれたとき、俺は姫を抱き寄せた。どんなに自分
に、そして妹友に言い訳したってこれだけは本当のことなんだ)」

妹「妹友ちゃんには悪いことしちゃったけど」

兄「・・・・・・うん」

妹「これからもっといろいろ大変なこととか嫌なこととかあると思うけど」

兄「・・・・・・どういうこと?」

妹「お兄ちゃんがもう一度あたしに告白してくれるなら、あたしはそれでもいい」

兄「俺・・・・・・」

妹「ごめんねお兄ちゃん」

兄(耳元で囁く姫の声)

兄(一時期はあれほど望んでいたことなのに)

兄(何でこんなに不安なんだろう。それでもようやく俺の腕の中に入った姫のことを俺
は・・・・・・)


妹「もう一度キスして」

兄(それでも妹には逆らえる気がしねえ)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「とっても素敵なキスだったよ」

兄(こんなこと言う子だっけ? 姫って)

妹「大切な人はやっぱり身近にいたんだね」

兄「何それ。青い鳥?」

妹「ふふ」

兄「何だよ(俺の胸に顔を埋めた。姫の髪の感触が俺の裸の肌をくすぐって。ちょっとや
ばいかも)」

妹「・・・・・・大好き」

兄「(ちくしょう可愛い・・・・・・が何とか冷静になるんだ)姫って、俺とは付き合えないの
かと思ってたよ」

妹「ごめん。でもあのときの返事はなしって言ったでしょ?」

兄「そうだけど」

妹「お兄ちゃんに抱かれてるとドキドキするんだけど、それでもなんか落ちつく。すごく
安心する」

兄「姫(我慢できねえ)」

妹「・・・・・・それはちょっと痛いかな」

兄「ごめん(すべすべしてた)」

妹「いいよ。でもそろそろここ出ないと医務室の人に変に思われちゃう」

兄「じゃあ行くか」

妹「どこも痛くない?」

兄「平気」

妹「よかった。お兄ちゃん。妹友ちゃんには悪いけど、今日はもうずっとあたしと一緒に
いて」

兄「・・・・・・そうする(流されてるな俺)」


妹「お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「お昼どうする?」

兄「水着で入れるレストランに行くんじゃなかった?」

妹「でも・・・・・・妹友ちゃんたちは?」

兄「そういや見当たらないな」

妹「先に行っちゃっていいのかな」

兄「携帯はロッカーの中だしなあ。少し探してみるか」

妹「そうだね」

兄(予想どおり姫に密着された。嬉しいけど何か複雑な気分だ)

兄(彼女を作る作らないに関わらず俺はずっと姫を見守る気になっていたし、そのこと
は姫にも伝わっていたはず)

兄(それなのに昨日の夜は・・・・・・服まで脱いで)



妹『お互いに恋人なんか作らないでいつまでも兄妹で一緒にいる運命だったんだよ』

兄「お互いに一人身でか?」

妹『あたし、お兄ちゃんの彼女にはなれないけど。でも、お兄ちゃんが辛いならできるこ
とはするから』



兄(最初はこうなって。そんで次に)



妹『・・・・・・』

兄『姫?』

妹『好き』

兄『え? 好きって・・・・・・え』

妹『お兄ちゃんが好き』

兄『ちょっと』



兄(それでさっき、前にした告白の返事のやり直しをされた。俺とは付き合えないんじゃ
なかったのかよ。つうか、お互いに一生独身で一緒にいるのと、俺の彼女になるって言う
のって意味としては全然違うと思うんだけど)

兄(妹も混乱してるんだろうか)

兄(妹友にも女にもずるずるってわけにはいかないよな)

兄(どうしたもんか)


<姫を自分だけのものにしたい>




妹「いないねえ」

兄「どこ行ったんだろうな。いくら大きなプールっていったって見逃すほどの規模でもね
えのにな」

妹「迷子の放送をお願いしてこようか」

兄「子どもじゃないんだから」

妹「じゃあどうするのよ。さすがに勝手に食事しちゃうわけにもいかないじゃん」

兄「・・・・・・じゃあ更衣室に行って携帯で電話してみるよ。これだけ探していないんだ。ひ
ょっとしたらもう着替えて外に出てるのかもしれないし」

妹「あたしたちに黙って勝手に?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・そうだね」

兄「それくらいのことをしちゃったんだし。しかも最中を見られたし」

妹「うん」

兄「いやさ。別に姫を責めてるわけじゃないぞ? 俺だって正直に言うと長年の夢がかな
ったみたいで嬉しかったし、姫に応えて、その、姫を抱きしめたりとかしちゃったし」

妹「本当に嬉しかった?」

兄「まあな」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・いやあの。別に深い意味はなくて」

妹「お兄ちゃんの長年の夢って何? 正直に聞かせて」

兄「(嘘は言えねえな。たとえ姫にドン引きされても)姫のことだけどさ」

妹「あたしのこと?」

兄「ああ。昔からそうだった。姫がまだ小学校低学年の頃から。まあ、多分そうだった」

妹「ちゃんとわかるように言ってよ」

兄「昔からそうだったんだよ。姫を自分だけのものにしたいって、姫の心も身体も全部俺
だけのものにしたいって思ってたよ。姫は自分の実の妹なのにな」

妹「・・・・・・そうか」

兄「おまえ可愛かったからね。見た目も性格もさ。そんな子が身近に家庭にいるんだぞ。
姫が中学生の頃さ、おまえは無邪気に俺にまとわりついていたけど。もう少しで襲い掛か
りそうになったことなんか何度でもあったよ」

妹「・・・・・・何で襲わなかったの」

兄「それだと姫の心までは奪えないからな。姫の身体だけ奪ったって意味ないんだよ。だ
から我慢してた。オナニーはしてたけど」

妹「そういやあたしの名前を呼びながら変なことしてたよね、あのときも」

兄「おまえにはそんなこと許可してないとかって言われたけどな」


妹「そうだった」

兄「正直ドン引きだろ? 姫が慕ってきた大好きな家族の一人がおまえに欲情を抱いてた
なんて知ったら」

妹「そんなことないよ。いまさら何言ってるの」

兄「・・・・・・だってよ」

妹「あたしの名前を呼びながら変なことしてた時点でそんなことはわかってたって」

兄(うん? そういやあれを見られたときの姫ってわりと落ちついてかな)

妹「それで?」

兄「それでって。まあ自分でも報われない想いなのはわかってたけどさ。とりあえず姫に
は彼氏もいないようだったから、あの頃の俺のライバルはうざい父さんだけだったんだよ
な。まあ、彼氏君と寄り添って歩いている姫を目撃するまではだけど」

妹「彼氏君なんてどうでもいいけど、今は?」

兄「へ?」

妹「正直に話してくれたのはわかった。けど、今の気持はどうなの? お兄ちゃんだって
妹友ちゃんとか女さんとかに誘われてるんでしょ」

兄「結局さ。こうなったらどうしたって誰かを傷つけちゃうんだよな。別に俺なんかがも
てもてのイケメンみたいなことを言うのも滑稽だろうけど」

妹「そんなことはないけど」

兄「今は悩んでるさ。正直、姫に振られておまえを自分のものにすることについてはきっ
ぱりと諦めた。無理矢理そうする気なんかなかったし、そのほかの選択肢なんかなかった
から。でもさ、家族の一人をそれで失った姫を見て、告白したことを心底後悔したんだよ
ね」

妹「うん」

兄「何度も言ったことだよなこれ。しつこく言って悪い」

妹「もういいから、ちゃんと答えて」

兄「答えてるけど」

妹「そうじゃないよ。今は? あたしがお兄ちゃんの彼女になるねって言ったことを聞い
たでしょ。それで今はどう考えてるの」

兄「わからん。夢にまで見た姫の身体の方は昨晩上半身のヌードを見せてもらったし、今
日はおまえを抱きしめて姫の素肌にも触れることができた。姫の心と身体のうち身体の方
は手に入れた気になった気がした」

妹「触っただけでいいの?・・・・・・つうか、あれだけはっきり告白に返事したのにまだ理解
してくれないの?」

兄「俺の告白に応えるってことはさ。おまえの好きな父さんと母さんを裏切ったり騙すっ
てことだぞ。そこまでわかってて俺の彼女になるねとかって言ってるのか」

妹「もしかしてお兄ちゃんって、あたしのことを本当にバカだと思ってる?」

兄「何でだよ」

妹「あたしが何でお兄ちゃんの告白を一度断ったと思ってるの」

兄「それは・・・・・・。俺のことなんか好きじゃなかったか、あるいは好きかもしれないけど
近親相姦なんて無理って思ったかどっちかだと」

妹「どっちも違うよ」

兄「どういうこと?」


妹「お兄ちゃんに告白されたとき、付き合えないって言ったのはね」

兄「・・・・・・うん」

妹「大切な家族の関係を壊したくなかったから。理由はそれだけ」

兄「え? じゃ、じゃあさ。俺のことが好きじゃないわけじゃ」

妹「昨日から何回も言ってるでしょ。あたしはお兄ちゃんのことが好き。異性として。昔
から」

兄「昔からって。そこまでは聞いてない」

妹「多分小学校の四年生くらいの頃かな。あたしがお兄ちゃんに初恋したのって」

兄(夢みたいだ)

妹「それからはずっと大好きで。でもそういうことをはっきり口にするとパパもママも悲
しむって次第にわかってきて。それからはとにかく仲のいい兄妹でいようと思った。それ
だけが目標だった」

兄「全然知らなかったよ」

妹「お兄ちゃんは鈍感だからね。あたしはお兄ちゃんの気持ちなんか昔から知ってたよ。
冗談めかして照れ隠しで偉そうに言ってるけど、この人って本当にあたしのことが好きな
んだなあって」

兄「(マジかよ。小学校の頃から姫と俺は両想いだったってことじゃん)じゃ、じゃあ」

妹「うん」

兄「何で今になって俺の彼女になるなんて言い出した? 父さんと母さんはどうなる」

妹「もともとお兄ちゃんが一人暮らしを始めた頃から限界だと思ってたの。もう我慢でき
ないって。それでそれからいろいろあったけど、今日お兄ちゃんがあたしを乱暴な男の人
から助けてくれて。それで嫌だった空手もあたしを守るために練習してくれていたことを
聞いたときにね」

兄「・・・・・・」

妹「もう自分の気持を偽るのは無理だと思った。もうあたしは選ばなきゃいけないって思
ったの」

兄「選ぶって」

妹「あたし、もう決めた。お兄ちゃんがあたしを欲しいって言ってくれたら、あたしもも
うそれでいい。パパとママを失うことになってもお兄ちゃんがずっとあたしの彼氏でいて
くれるならもうそれでいい」

兄「おまえさ。昔から何よりも家族のことが大好きだったのに」

妹「昔からお兄ちゃんのことが一番好きだった。いろいろ回り道したけど、お兄ちゃんが
あたしを受け入れてくれるならもうそれでいいって決めた」

兄「・・・・・・なら俺もそれでいいや。おまえのこと昔から愛してる」

妹「お兄ちゃん。あたし、それがFAって思ってもいいの?」

兄「ああ。姫のこと大好きだ」

妹「あたしも大好き。お兄ちゃん愛してる」


<キス>





兄「これ」

妹「メールに返信があったの?」

兄「うん」



from:妹友
to:お兄さん
sub:無題
『ごめんなさい。ちょっとお兄ちゃんと話もあったので勝手にバスで別荘に帰ってきてい
ます。連絡もしないで本当にすいません。お兄さんと妹ちゃんは予定どおりプールで一日
過ごしてから帰ってきてください』

『お昼も夕食も勝手に済ませますからお兄さんたちもそうしてください』



妹「そうか」

兄「とりあえず食事する?」

妹「もうプールはいいや。どっか外でお昼食べて帰ろ」

兄「おまえ、今日はろくに泳いでないんじゃない?」

妹「うん。でももういいや」

兄「そんじゃそうしようか」

妹「ひょっとして残念なの?」

兄「何が」

妹「もっと付き合い出したばかりの彼女の水着姿を見たかった?」

兄「・・・・・・まあな」

妹「真顔で答えないでよ。反則だよつうか照れるじゃん」

兄「姫と一緒で俺も吹っ切れたからね。今のは本音」

妹「じゃあ、お兄ちゃんがいい子にしてたらまた見せてあげる。今のは本音」

兄「真似するなよ」

妹「真似じゃないよ」

兄(・・・・・・また姫にキスされたけど。今度ばかりは本気で嬉しい)

妹「じゃあ着替えて入り口で待ち合わせね。遅れないでね」

兄「おう。一分でシャワー終らせるよ」

妹「そこはちゃんと洗えよ。じゃあね」

兄「おう」


兄「じゃあ行こうか。もうこの時間だから昼と夕食と一緒でいいな」

妹「いいよ。今度こそ二人きりでドライブだね」

兄「そうだな」

妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「車の中で二人きりなんだよ」

兄「そうだけど」

妹「今日はあたしがお兄ちゃんの彼女になった記念日じゃん」

兄「そうだけど・・・・・・あんまり恥かしいこと言うなって」

妹「照れることないでしょ。これからはつらいこともあるかもしれないんだし」

兄「それはそうだね」

妹「つらいことに対抗するにはきっと大切な思い出が武器になるんだと思うよ」

兄「ま、そうかな(よくわかんねえ)」

妹「こら。ここまで姫が譲歩して言ってるんだからいい加減にあたしにキスしなさいっ
て」

兄「・・・・・・了解」

妹「・・・・・・ちょっと!」

兄「・・・・・・うん」

妹「キスしろとは言ったけど。あ、お兄ちゃんいや」

兄「可愛いよ姫(すごく細いけどすごく柔らかい。そしてすべすべな肌)」

妹「・・・・・・もう。あんまり服とか髪を乱したら怒るよ」

兄「可愛いよ姫(夢にまで見た姫の身体のライン)」

妹「こら。信号青だって。もうおしまい」

兄「ああ」

妹「続きは夜でいいでしょ。全くエッチなんだから」

兄(妹萌えとはまさにこれか)


妹「お昼食べよう。もうあそこでいいね」

兄「またこの店かよ。伊勢海老と金目鯛しかないのに」

妹「どこでもいいじゃん。四人じゃなくて二人きりなら」

兄「そうか。そうだな(姫・・・・・・もう、どうにかしちゃいたいほど可愛い)」

妹「ほら、これ食べて」

兄「うん」

妹「もっと口開けてよ。あ~んってして」

兄「うん」

妹「美味しい?」

兄「美味しい。ほら、おまえも伊勢海老食え」

妹「食べさせて」

兄「ほら」

妹「うん。美味しい」

兄「不思議だな」

妹「何が?」

兄「四人で来たのと同じことやってるだけのに、姫と二人だと何か景色も食物の味も全然
違う気がする」

妹「それはね。ずっとお兄ちゃんとあたしが一緒に生きてきたからだよ。そしてその歴史
を踏まえて恋人同士になったんだもん。景色が違って当たり前だと思うよ」

兄「そうだな」

妹「着いちゃったね」

兄「何で残念そうよ」

妹「だって」

兄「(これで何度目の感想か忘れちゃったけど)姫、おまえ本当に可愛いよな」

妹「ちょっとしつこいよ・・・・・・。でもまあ、お兄ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」

兄「何度でも言うよ」

妹「あたしはもうお兄ちゃんだけのものだから。心も身体も」

兄「夢みたいだ。昔から片想いしてた姫が俺のものになるなんて」

妹「だから片想いじゃないって」

兄「そうだったな。そしたらもっと夢みたいだ」

妹「・・・・・・恥かしいよ。もうやめよ」

兄「だってさ。一度は永遠に諦めていたことが実現したんだし」

妹「そうか。待たせちゃってごめんね」

兄「いや。愛してるよ妹姫」

妹「あたしも愛してるよ、小さい頃からずっと」

兄「ありがとう姫」

妹「ありがとうって変だよ」

兄「そうかな」

妹「うん。別荘に入ろう」

兄「そうだな風呂入って一緒に寝ようか」

妹「あ」

兄「何?」

妹「あのね。お兄ちゃんのことは好きだし。その昨日みたいなのでもいいんだけど」

兄「(あ)そういうつもりじゃないって」

妹「・・・・・・昨日あれだけ迫ったのに今さらだと思うだろうけど。昨日は必死だったし、落
ちついて考えるとね。その最後までするなら」

兄「うん」

妹「初めては隣に妹友ちゃんたちがいないときの方がいいな」

兄「わかってるよ(姫を抱きしめたい)」

妹「・・・・・・うん」

兄「(逆に妹に抱きつかれた)じゃあ、入ろう」

妹「そうね」

兄「真っ暗だな。照明のスイッチは」

妹「あ」

妹友「・・・・・・」

 べったりと抱き合ってもつれるように別荘に入って照明をつけた俺たちの目の前に、妹
友と彼氏君がソファで半ば横たわりながら抱き合ってキスしている姿が目に入った。見た
くはなかったけど二人は半ば裸身のままだった。

 突然明るくなったことに驚いたらしい妹友が彼氏君の腕を振り解いて、俺たちの方を見
た。

「えと。これは違うの」

「邪魔すんなよ。ふざけんな。どこまで身勝手なんだおまえらは」

 妹友を離して体を起こした彼氏君が、何かを言いかけた妹友を遮るように怒鳴った。


今日はここまで
また投下します


<なぜ彼氏は自分の妹を襲ったのか>




兄(こいつら何をやって・・・・・・いやいや、全然こいつらのことをとやかく言える立場じゃ
ないけど。それにしても穏かで礼儀正しい彼氏君とは思えない言葉遣いだ)

彼氏「何か言えよ。おまえら二人して僕たち兄妹のことを見下しやがって。わざといちゃ
ついてるところを見せ付けて僕たちが悩んでるのをニヤニヤしながら面白がってたんだ
ろ」

兄「彼氏君、落ちつけよ。何か誤解してんぞ(でも本当に誤解か。前にも一度想像したこ
とがあるけど、彼氏君の立場に立てばこれは立派なNTRかもしれないな)」

彼氏「何が誤解だこの野郎。僕のことを親切に相手する振りしやがって。最初から惨めな
僕たちを眺めて楽しむつもりでこの旅行に誘いやがったくせに」

兄「何を言ってるんだおまえは。とにかく少し落ちつけって。ちゃんと話せばわかるよ」

彼氏「・・・・・・それ本気で言ってるのか」

兄「当たり前だろ」

彼氏「それならてめえのビッチな妹に聞いてみるんだな。何でこの旅行に俺たちを誘った
のか」

兄「(・・・・・・こいつ俺の姫のことをビッチだと。いや我慢だ。とにかくこいつの誤解を解
くのが先だ)もともとは家族旅行が駄目になったんで、親父が妹にせめて友だちとどっか
行けって言ったからだよ。ただそれだけなんだけど」

彼氏「んなわけねえだろ。あんたのクソ妹にはちゃんと目的があったんだよ。聞いてみろ
よ、あんたの大切なクソビッチに」

兄「(・・・・・・こいつ。もう我慢できん)黙って聞いてりゃいい気になりやがって。俺の姫
のことをそれ以上悪く言うと」

彼氏「悪く言うと何ですかあ? お得意の空手で僕と妹友をノックアウトするつもりなん
ですかね?」

兄「・・・・・・てめえ」

妹「お兄ちゃんだめ」

兄「だってこの野郎、姫のことを」

妹「暴力はだめ」

兄(彼氏め。もう一言でも姫のことを悪く言ってみろ。姫が何と言おうとただじゃすまさ
ん。これで見逃したら父さんにも申し訳が立たん)

妹友「お兄さん」

兄「え」

妹友「うちのお兄ちゃんの暴言についてはあたしがお詫びします。妹ちゃんも本当にごめ
んね」

兄「いや。おまえが謝る必要は」

彼氏「・・・・・・妹友は黙ってろ」

妹友「あと、ありがとうございました」


兄「え?」

妹「何言ってるの」

妹友「二人が入って来てくれて助かりました。あのままじゃあたしはお兄ちゃんにレイプ
されていたところでしたから」

兄「・・・・・・何だって?」

妹「・・・・・・妹友ちゃん、それって」

兄「おまえそれ本当なのか(最低だこいつ)」

彼氏「違う。僕たちはそこの淫乱なビッチに追い詰められて」

兄「(言うに事欠いて姫のことを)てめえ」

彼氏「離せよ! 僕は悪くない」

兄「黙れ」

妹「お兄ちゃん!」

彼氏「・・・・・・殴ったな」

兄「もう一言でも姫のことを悪く言ってみろ。こんなんじゃすまないぞ」

妹友「もうやめましょう。とりあえずこの格好では恥かしいので服を着させてください」

妹「そうだね。お兄ちゃん、寝室に行こう」

兄「あ、気がつかなくて悪い」

妹友「いえ。着替えたら声をかけます」



妹「お兄ちゃん、暴力はやめてって言ったのに」

兄「だってあいつ姫のことを淫乱とかビッチとか言いやがったから」

妹「さっきのプールのときとは状況が違うでしょ。彼氏君は手を上げたりしたわけじゃな
いんだし」

兄「俺だって最初は我慢したぞ。でもあいつは」

妹「とにかく最初に手を出した方が悪いことになっちゃうんだから。これからは気をつけ
てね」

兄「・・・・・・(だが姫を侮辱されて黙っているわけにはいかん。父さんにも姫を守るよう言
われてるんだし)」

妹「あたしはお兄ちゃんやパパが考えているようなか弱い女じゃないよ。お兄ちゃんたち
の幻想を壊しちゃって悪いけど」

兄「・・・・・・何言ってる。姫は今にも壊れそうな繊細な子だし、俺や父さんたちが守ってや
らないと」

妹「そんなことはないんだよ。本当は」

兄「・・・・・・だって」

妹「でもありがと。お兄ちゃんのしたことは間違っているけど、それでもあたしを庇って
くれて、守ってくれて嬉しかった。本当にあたしはお兄ちゃんに守られてるんだって実感
できた」

兄「・・・・・・」

妹「だからありがと。これはお礼ね」


妹「ねえ」

兄「うん」

妹「彼氏君が妹友ちゃんを・・・・・・その、無理矢理って本当かな」

兄「妹友がそう言ってったんだから嘘じゃねえだろ。あんなこと冗談で言えることじゃね
えよ。まして相手は自分の兄貴なんだし」

妹「何でそんなことしたんだろ。自分の妹なのに」

兄「普通は妹じゃなくたってレイプなんてしねえよ」

妹「それはそうだけど。さっき乱暴な人たちに連れて行かれそうになったあたしを、彼氏
君は助けてくれようとしたわけでしょ? それなのに自分が同じことをするなんて」

兄「人間って意外と複雑だしな。本当は何を考えているかなんか他人にはわからないし」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「うん」

妹「さっきの彼氏君が言ってた旅行の目的の話、あれはでたらめだからね」

兄「そんなのは当たり前だ」

妹「本当に連休中に予定のない友だちを探すつもりでいて。最初に一番仲のいい妹友ちゃ
んに声をかけたら、連休中は予定は空いてるよって言われたの」

兄「わかっ