男「ただいーーー」
父「いいから酒買って来い!酒だ酒!」
母「もういい加減にして!毎日毎日酒飲んでは暴れt」
父「うるせえ!!誰の金で生活していけてると思ってんだ!」ガシャパリィン!
男「いい影にしろよ・・・」
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俺が高校に上がる直前、両親は離婚した。
酒乱の父とそれに怯える母。もう見なくて済むのは清々すると思ったが・・・
祖母「いらっしゃい男ちゃん、今日からここがあんたの家よ。」
祖父「よう来たの男。街と比べたらここは自然が多いし静かじゃけぇの。嫌な事は忘れてのんびりしたらええ。」
祖母「空気も美味いし、食べ物も美味いしな。ほら食え、たんと食え」
祖父「今度イノシシでも撃ちに行くか?ワハハ」
離婚を機に母は帰省。俺もついて行く事になった。
豪快なじいちゃんと優しいばあちゃん、母。
そして木。見渡す限りの木。山、田んぼ、川。そして木。・・・あと木。
他には木がある。あとしいて言うなら木だろうか。
男「笑っちまう、自販機すらねぇ」
そんな生活が始まった。
祖母「美味しかったかい?男ちゃん」
祖父「がはは!男はえっと食うてえっと呑まにゃの!のう?男よ」
男「食った・・・めっちゃ食った。」
母「あんた二、三ヶ月したらブクブクなってるでしょうね」
祖母「男ちゃんはまだ未成年よ?それにあんたも酒控えなさいよ」
祖父「男は細いけぇもっと食って力つけにゃいかんぞ!」
男「ご馳走様。美味しかったよばあちゃん。わかったよじいちゃん」
タバコ吸うかなー
男「ちょっと外の空気吸ってくる」ガララララ
男「ふええええ・・・田舎さみぃな・・・三月の終わりでこれかよ」
勿論こっちの高校に行く事にした。
もとより友達も居ない俺には何の躊躇も・・・躊躇も・・・
男「はあ・・・高校まで自転車で30分ってどうなの」
母さん、俺、太らないと思う。
ーーーーーーー
祖父「おう!」祖母「おはよう男ちゃん!」
男「おはよう。あれ?母さんは?」
祖母「仕事探す言うてな、もう出てったんよ」
男「そっかー。」
祖父「学校もまだじゃろう?この辺歩いて来るとええ、街との違いがようわかる。」
祖母「高校生が家に帰れんようじゃいかんしねぇ!」
確かに道くらい覚えてないとなー。。
男「いってきまーす。」ガララララ
出て驚いた。芽吹き始めた木々の匂いと山々の迫力に圧倒される。
男「うーん。。シナチクの匂いがする」
お察しの通り、国語の成績は芳しくない。
散策していると山と山の間に遠くに国道?が見える。街では考えられないような速度で走る車。
そして異常な軽トラ率に何故か頬が緩みながら国道の方へ向かって歩く。
男「車を久しぶりに見た気がするのは気のせいか」
男「・・・ん?」
シュイイイン!ガガガガガ!ゴオオオ
何の音だろう。鉄と鉄がぶつかる音。ダクトの排気音。
不思議に思いながらも音のする方へ進む。
あった。ここだ。
KWorks?車屋、か。
道路から覗くと様々な車が置いてある。本当に様々。
これ運転してた人死んでるよね?からおばちゃんだろうなこれ。そしてーーーー
うっわあちょーイカついーーーーまで。
男「おぉ・・・。こんなとこに修理工場が」
???「兄ちゃん、修理工場って言うな、ウチは鈑金屋。わかった?」
突然の声に驚く。まさか聞かれてるとはいやそれよりその拘りがわからない
???「見ない顔だね兄ちゃん。どっからきたの?」
車の運転席側からボンネット越しにひょこっと顔が覗いた。
言葉遣いとは裏腹に、幼げで可愛い女性が首を傾げる。
男「昨日から越して来たんだ。それでこの辺を散策してるところ」
???「へぇ、またどうしてこんなとこに?・・・あー、兄ちゃんもしかしてお爺さんとこの孫か?」
男「そうだけど・・・なんでわかったん?」
???「あはは、やっぱり。顔似てるもんね、お爺さんいつも兄ちゃんの事自慢してるよ。ワシに似てええ男の孫がおるんじゃ!って」
???「うちはマキ。兄ちゃん車に興味あんなら見てけばー?」
そういって工具箱を持って消えた
黒髪のショート、小柄でも黒いツナギで歩く姿はさまになっている
てか、見てけっつっといてほったらかしかよ
ここで帰るのも気が引けた
正直このまま歩いてても他に何かあるとは思えない。悲しい。
ふうと息をつき、少し緊張しながらシンナーの甘ったるい匂いと機械音の喧騒の中、工場へ進む
工場の隣には道路に面して事務所が隣接されており、少し離れたところに椅子が一つ置いてある
マキ「社長は今塗装中だから邪魔すんなよな。ほれ、コレ飲みな?よっ!と」
溶けたバターみたいな笑顔
なのに缶コーヒーを投げる速度がおかしい
男「ってえぇ!もうちょっとゆっくり投げてよ」
マキ「帰ったらここでコーヒーご馳走になったってちゃんと話せよ?
お爺さんが持って来てくれる猪肉、けっこう美味いんだ」
男「・・・頂きます」
マキは悪戯っ子みたいな顔のまま、ん、と頷いた
男「今なにしてんの?」
マキ「何をしてるんですか?だろ?ガキンチョ」
男「なにしてんすか?」
マキ「まぁ許してやろう!
今からな、仮合わせが終わったからサンディングしてチッピング入れて塗装に回すんだ」
仮合わせ?サンディング?チッピング?
聞きなれない言葉に戸惑っていると察したマキが丁寧に説明してくれた
マキ「この車は左前をぶつけてな?バンパーとフェンダーがボッコボコだったのよ」
マキ「で、壊れた部品外して、交換する物は注文、治すところは治す、してな・・・
あー、見てた方がはやいから見てな」
俺は嘘をつきました。全然丁寧じゃありませんでした、ごめんなさい。
邪魔にならないようマキの後ろに立って作業を見る
マキ「コレが、あーっとまぁわかりやすく言えば紙やすり。見たことある?」
男「技術の授業で使った気がする。擦って傷つける物だよね?」
マキ「そうそう。でもこれは目が細かいんだ。コレは900番の紙やすり。コレをこのダブルアクションサンダーに貼ってーーーー
ブィィィィィン
丸い手の平サイズの機械に紙やすりを貼ってフェンダーの上を滑らせると途端にあたりに剥げた塗装の粉が舞う
マキ「コレがサンディング。英語はよくわかんないから知らないけどさ、まぁ擦るって意味だよ。きっと。」
この音何だっけ?・・・何処かで聞いた様な
マキ「なんか言ったか?」
男「いや、なんも。どうぞ続けて。」
あ、これ、ちょっと電マの音っぽいんだ
男「この、ふえんだー?は新品なの?治したの?」
マキ「コレは新品。本当は交換より修理した方が儲かるんだけどなー」
男「新品なのに色がぬってないんだ?」
マキ「それ殆どのお客さんが言うんだけどさ、新品の外装パネルは大抵色は吹いてないんだよ。」
マキ「それに車種メーカー毎に決まった塗料があって、ただそれを塗装するだけだと思ってる人も多いけど、そんな物無いからね」
男「じゃあどうすんの?」
マキ「とは言っても車種それぞれ色番号が決まっててな?
塗料メーカーがその色番号毎にどの色をどれ位つかってあるかをデータ化したものがある。
それを参考に一台一台自分で色を調合して作るんだ」
男「え、すっげー手間じゃんそれ」
マキ「手間なだけじゃないぞ?細かく言えば新車の時から色が違うんだ。
フロントバンパー、ボンネット、フェンダー、フロントドア、リアドア、リアフェンダー、ルーフにトランクリアバンパー。
それぞれ色が違う。ましてや車が違えば同じ車種同じ色番号でも色は違うしな。」
男「そんな事ってあるの?だって新車じゃん?」
マキ「何かが一滴多い、何かが一滴少ない、吹き方の違い
その日の温度湿度にちゃんとあったシンナーか、硬化剤かでも色がかわってくる。
なのによ、新車の生産ライン上、パネルは別々に塗装されたものを一つに集めて取り付けるんだ。そりゃ色が違うさね」
男「それを・・・データと勘で似せる、と。」
マキ「やってみるか?気が狂うぞぉ」
意地悪そうな笑みでしゃがんだままこちらを振り返る
上目遣いってもっと甘美で妖艶なものじゃなかったっけ・・・
マキ「あとは細かいとこ手で擦ってー・・・よし、出来上がりっとー」
ダブルアクションを外してエアーガンをつける
それをフェンダーに向けてガンを握るとすごい勢いで空気が放出されまとわりついた粉が飛んで行く
男「ちょっ、俺まで粉だらけになるじゃん」
マキ「男だろー?少々の汚れなんて気にしない方がかっこいいぞ?
あとでコレで吹かしてやっから大丈夫だいじょーぶ」
マキ「んでー、水に濡らしたタオルでしっかり粉を拭き取ってー・・・っと。ちゃんと乾くまで吹かすー」
男「ほうほう」
マキ「次はマスキングな」
男「マス・・・なに?いてっ」
頭を小突かれた
マキ「こ、これだから男ってのはよー。やんなっちゃうね全く」
頬を膨らませたままロール状に巻かれた紙とテープを持って来たマキ
すみません・・・もっかい殴ってくれていいです。
いいですから、もう一度マスって言ってもらえませんか?今晩どうしても必要なんです。
これを口に出したらトンカチで殴られそうでこわい
マキ「トンカチ・・・?ハンマーって言いな?」
やべえ口に出てたのか
そしてまた変な拘りがでましたね
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