男「よーし、いいぞ、次はしょんべんだ……」ｺﾞｿｺﾞｿ

犬「バウバウバウバウ！」ｶﾞｯｶﾞｯ

男「ばーかｗｗｗ鎖が切れるかよｗｗｗ」

犬「バウ！」ｶﾞｯ

スポッ

男「あっ、首輪が外れた」

男「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

男「地面舐めますから、地面舐めまわしますから許してください。てゆーか、この際なんでも舐めますから」

男「俺がクズでした、ゴミでした、役立たずでした。童貞のオナニーに使われるコンドームぐらい無意味な存在でした」

犬「ウー……」

男「違うんです！　実は俺、命令されて嫌々……」

犬「バウｯ！」ｶﾞﾂ

ﾌﾟﾁｯ

男「　」

ー病院ー

女「…………」

後輩「入りますね」ｺﾝｺﾝ

女「……ああ、どうぞ」

後輩「お久しぶりです男さん……いや、女さん」ｶﾞﾗｯ

女「わざわざありがとうな、見舞いに来てくれて」

後輩「……その、」

女「うん?」

後輩「なんで化粧してるんですか？」

女「開き直ったから、かな」

後輩「は、はあ」

後輩「大変でしたね、その……」

女「あー、いや、その先は言わなくても大丈夫」

後輩「首輪の外れた犬に襲われている子供を助けようとして、そうなったとか聞きましたけど……」

女「…………」

女「うん、そうだよ」ﾆｯｺﾘ

後輩「先輩……」ｸﾞｽｯ

後輩「なんでアナタは、いつもそんなに不器用なんですか」

女「仕方ないだろ、どうにも正義感の強い性分でさ」

後輩「先輩……」

後輩「でも、私、そんな不器用でおバカさんな先輩のことが……」ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ

女「え、今なんて言った？」ﾆﾔﾆﾔ

後輩「……むぅ」

後輩「私、先輩のことが今でも大好……」

ガラッ

看護婦「犬に小便かけようとして性転換した女ちゃーん！」

後輩「……先輩、あの人」

女「や、やだなー！　冗談きついですって看護婦さん！」

後輩「……」ｼﾞﾄｰ

女「……あれは嘘、だよ。ほら、あの人虚言癖があって」

後輩「先輩……」ｸﾞｽｯ

後輩「なんでアナタは、いつもそんなにバカなんですか……」

女「違うよ！　本当に違うよ！　だってそんなことしても、誰も得しないもの！」

後輩「帰ります、今世紀はもう来ません」

女「それってもう二度と来ないってことだよね！」

女「ま、待ってくれよ！　違うんだってば！」

女「俺にはもう後輩ちゃんしかいないんだってば！　親だって見舞いに来る気配がないんだぞ、なあ！」

後輩「軽薄で軽率で変態だから仕方ありませんね、ご愁傷様です」ﾀｯﾀｯﾀｯ

ガラッ

女「……」

女「なんでだよぉ……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

看護婦「元気出せよ女」ﾆﾔﾆﾔ

女「死ね、氏ねじゃなくて死ね」

女「なんで俺ってこんなに不幸なんだろう」

看護婦「ここは病院よ、アンタより不幸な人間なんて一掴み何円レベルでごろごろいるわ」

女「さっきのはお前のせいだけどな」

看護婦「相部屋のあの子を見なさいよ。チンコだけで済んで良かったと思いなさい、大型犬に咬まれて、もう足が動かないかもしれないって……」

少女「ボクを見せ物みたいに言わないでください」

看護婦「あっはは……ごめんね」

少女「それと、遠回しに言わなくても大丈夫ですよ。もう足が治らないの、しってますから」

看護婦「じゃあ、私は忙しいから仕事に戻るね」

女「あんた、何しに来たんだよ……」

看護婦「冷やかしと嫌がらせ？」

女「なんで疑問系なんだよ」

看護婦「じゃあ、頑張ってねー」ﾀｯﾀｯﾀｯ

女「……コノヤロウ」

少女「お兄さ……お姉さんも犬に咬まれてたんだ」

女「言い直されると余計辛いからやめて」

少女「お兄さん」

女「そういう意味じゃなくって……」

少女「なんだか、親近感湧くね」

女「湧かねーよ」

少女「湧くよ。だって、お兄さんもお見舞い、来ないんでしょう？」

女「結局お兄さんかよ……。お前、家族とかいないのか？」

少女「ボク、三人兄妹の真ん中だったんだ」

女「……」

少女「だから、もうこんな壊れちゃった子はいらないの」

女「……そんなことはないだろ」

少女「あるよ。だって、現に誰も来ないもの」

少女「ボク、お兄さんが来るずっと前からここにいるのに、だよ」