侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 (1000)
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会SS
千歌「ポケットモンスターAqours!」
千歌「ポケットモンスターAqours!」 Part2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1557550388/)
の続編です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1667055830
......prrrr
......prrrrrr
pi!!
『……聞こえるかしら? 選ばれし子供たち』
『──ふふ、良い返事だわ』
『ごきげんよう、可愛い可愛いリトルデーモンたち。いよいよ、明日が旅立ちの日ね』
『改めて、私は堕天使ヨハネ。ここセキレイシティのツシマ研究所にて、博士をやっているわ。ヨハネ博士とでも呼んで頂戴。……と言っても、貴方たちとは既に何度も顔を合わせているし、今更名乗る必要もないかもしれないけど……──え? 善子? ……善子言うな!!』
善子『コホン……。こういうのは儀式みたいなもんなのよ。大人しく聴いてなさい』
善子『この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが、草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、私たちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする』
善子『私はここオトノキ地方で、そんなポケモンと人との関わり合いの文化を研究しているわ。そして、今回貴方たちにはその研究の一環として、ポケモンたちと一緒に冒険の旅に出て欲しいと思っている』
『ムマァ~ジ♪』
善子『って、うわぁ!? や、やめなさい、ムウマージ!! 今大切な話ししてるところだから!? 後で遊んであげるから、あっちいってなさい!!』
善子『はぁ……元気が有り余り過ぎてて困るわね……。……さて、最後に貴方たちの名前を改めて教えてくれるかしら? え? もう知ってるだろって? これも儀式みたいなものなのよ、いいから名乗りなさい』
…………
善子『……歩夢、かすみ、しずくね。ふふ、やっぱり私が選んだだけあって、みんな良い名前だわ』
善子『それじゃ3人とも。私は研究所で待ってるから。また明日──』
【セキレイシティ】
口================== 口
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❓ ❓ ❓
──ローズシティ。ニシキノ総合病院のとある一室。
聖良「…………」
綺麗な顔をしたまま、ベッドの上で何年も眠り続けている彼女の顔を見る。
──ピ……ピ……ピ……と、無機質なバイタルサインの音と、呼吸とともに僅かに上下する胸の動きで、まだ生きていることはわかった。
この地方を大きく揺るがすこととなった、グレイブ団事変から、すでに3年が経過しようとしている。
そのグレイブ団のボスも……勇敢なトレーナーたちに阻まれ、敗北し、その代償として今もなお眠り続けている。
こうしてわざわざ彼女の病室に忍び込んだのは……彼女への贖罪のつもりなのだろうか。それとも、同じ轍を踏まないための自分への戒めか。
我ながら、鬼にでも悪魔にでもなる心づもりだったのに、夢を語り、野望を胸に、戦っている人間を利用するのは……いや、利用したのは──胸が痛む。
それでも──選んだから。彼女がそうしたように、自分の目的のために、何かを犠牲にしてでも──取り戻したいものがあるから。
「…………」
最後に彼女の顔を一瞥して、病室を後にする。
もう迷うつもりはない。きっと……最後の迷いを断ち切るために、ここに来たのだ。
だから、迷わずに、進む。
何を犠牲にしてでも──取り戻すと、決めたのだから。
■Chapter001 『新たなる旅のはじまり』
実況『──ポケモンリーグ決勝戦!! この一戦でオトノキ地方の頂点のトレーナーが決定します!!』
大歓声の中、トレーナーがマントをたなびかせながら、ボールを携えてフィールドに現れる。
実況『先に現れましたのは、皆さんご存じオトノキ地方現チャンピオン!! 今リーグもほとんどの試合をほぼ1匹で勝ち抜いてきた無敵のポケモントレーナー!! チャンピオン・千歌!!!』
千歌さんの姿を認めると、盛り上がっていた会場の歓声は、さらに大きくなり会場を震わせる。
実況『そして、そんなチャンピオンに立ち向かうチャレンジャーは……!! なんと、今大会初出場!! 新進気鋭の超新星──せつ菜選手!!!!』
実況の紹介の中、堂々とした立ち振る舞いでバトルコートについたせつ菜ちゃんが天に向かって拳を突き上げると、またしても大きな歓声が会場を包み込む。
実況『なんと、こちらのせつ菜選手、6匹で戦うフルバトルルールにも関わらず、使用ポケモンは5体!! ですが、その圧倒的な実力でここまで全てのバトルを制してきました!!!』
両者がバトルフィールドにつき、ボールを構える。
実況『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後!! 決勝戦は実況の私に加え、元四天王で現在は故郷のダリアシティにてジムリーダーを勤めております、にこさんに解説をお願いしています!!』
にこ『みんな~おまたせ~♪ 大銀河No.1アイドルトレーナーのにこだよ~♪ よろしくお願いしまぁ~す♪』
実況『よろしくお願いします!! それでは、お待たせしました!! ただいまより、ポケモンリーグ決勝戦を開始いたします!!』
千歌さんとせつ菜ちゃんが同時にボールを構える。そして、審判の合図と共に──ボールが宙を舞った。
実況『バトル!!!!スタァーーーート!!!!!』
──ワアアアアアアア!!!と割れんばかりの歓声と共にバトルが始まり、両者のポケモンがフィールド上に現れる。
せつ菜『スターミー!!! 速攻で行きますよ!!』
『フゥッ!!!!』
実況『スターミー飛び出した!!』
にこ『せつ菜ちゃんは先発のスターミーで速攻を決めることが多いにこ~♪』
回転しながら、猛スピードで突進するスターミー、だけど、
千歌『ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!!』
『コァー』
『フゥッ!?』
せつ菜『スターミー!?』
真正面から突っ込んでくるスターミーを、持っている丸太でいとも簡単に叩き落とす。
実況『ネッコアラ、いとも簡単に猛スピードのスターミーを叩き落としたぞォ!? ネッコアラ本来の緩慢な動きが嘘のようだァ!!?』
にこ『千歌ちゃんはとにかく攻撃の精度が高いのが有名にこね~♪』
実況『ここまでもあの正確無比な一撃で多くのトレーナーを打ち破ってきました!! 決勝戦でも、やはり無敵のチャンピオンは無敵だった!! スターミー開始早々あえなく──』
にこ『……いえ、まだよ』
実況『え?』
実況の間の抜けた声と共に、スターミーに目をやると──スターミーがネッコアラの丸太の下で、光り輝いていた。
せつ菜『スターミー!!! “メテオビーム”!!!』
『フゥゥッ!!!!!』
千歌『!?』
そのまま、スターミーは至近距離から極太のビームをネッコアラに直撃させた。
千歌『ネッコアラ!?』
超威力のビームを至近で受けたネッコアラは吹っ飛ばされて、フィールドにドスンと落ちたあと──
『コァァ…』
戦闘不能になってしまった。
一瞬の静寂のあと──会場が一気に湧き上がる。
実況『な、な、なんということでしょう!!!! 数々のトレーナーたちを圧倒してきた、チャンピオンのネッコアラを、せつ菜選手のスターミーが打ち破りました!!! とんでもない番狂わせだァァァ!?』
にこ『……最初の突進はブラフで、せつ菜のスターミーが使っていたのは“コスモパワー”。最初から攻撃を受ける気で、懐に潜り込んだところに“メテオビーム”を叩きこむ作戦だったのね』
実況『ですが、“メテオビーム”はチャージが必要な技のはずですよね? その予兆は特になかったように思いますが……』
にこ『持ち物よ。“パワフルハーブ”を使った奇襲。せつ菜、あの子なかなかやるわね……』
実況『あの、にこさん、最初と口調が変わっていますが……』
にこ『っは……! な、なんのことにこ~? 千歌ちゃんも、せつ菜ちゃんも頑張れにこ~♪』
実況『にこさんも思わずキャラを忘れてしまうほどの熱戦ということですね!!』
にこ『キャラとか言わないでよ!!』
千歌『うーん、そっかぁ……やられちゃったな。でも、次はそうはいかないよ──ルカリオ!!』
『グォ…!!』
今度はボールから出て来たルカリオが、スターミーに向かって飛び出して──
「──もう、侑ちゃん!!」
興奮しながら、画面に食い入る私を現実に引き戻したのは──世界一聞き慣れた幼馴染の声だった。
侑「歩夢……今、良いところなんだけど……」
歩夢「知ってるよ。もう、そのビデオ、何度も一緒に観たもん」
侑「なら、もうちょっと、もうちょっとだけ……!!」
歩夢「もうちょっとって……このバトル、最後まで観てたら1時間くらい掛かっちゃうよ」
侑「そう! そうなんだよ! このバトルは1時間も続くポケモンリーグ史に残る名勝負なんだよね!! せつ菜ちゃんの手持ちはたった5匹しかいないのに、お互い激しい攻防と目まぐるしいポケモンチェンジで目が離せない試合の中、千歌さんの6匹目まで引きずりだして!!! でも、最後は結局千歌さんが2匹残して勝利……やっぱり、チャンピオンは最強だったってなるけど……でも、私はせつ菜ちゃんのチャンピオンの前でも臆さない、堂々とした戦い方がかっこよくて、すっごくときめいちゃって!!」
歩夢「もう何度も聞いたよ……それより、博士との約束に遅れちゃうよ?」
侑「え? もうそんな時間?」
言われて時計に目をやると──確かに約束の時間が迫っていたことに気付いた。
侑「じ、準備しなきゃ!」
歩夢「もう……侑ちゃんったら」
侑「あ、歩夢ー!! 手伝ってー!!」
歩夢「ふふ、はーい♪ もう、しょうがないなぁ、侑ちゃんは」
ニコニコする歩夢を後目に、私は慌ただしく出掛ける準備を始めるのだった。
😈 😈 😈
善子「さてと……あとは3人が来るのを待つだけね」
並んだ3つのモンスターボールと3色の図鑑を見ながら一息。
今日はやっと、新人トレーナーたちの旅立ちの日。
善子「私もついに、トレーナーを送り出せる日が来たのね……」
なんだか、感慨深い。……あの日、出来なかったことがやっと叶うのだ。
善子「…………」
脳裏に焼き付く苦い思い出を想起しながら、頭を振る。
今回は大丈夫。今日旅立つ3人は、入念に準備をして、セキレイシティのジムリーダーやポケモンスクールとも連携を取った上で慎重に選んだ3人だ。
善子「……」
わかっていても、なんだか落ち着かない。早く時間にならないかしら……。
善子「マリーも私たちを送り出すときはこんな感じだったのかしら……」
あの人、お気楽そうに見えて意外と繊細だしね。
善子「……外の空気でも吸いに行こ」
新鮮な空気を吸えば、少しは落ち着くかもしれない。そう思いながら席を立ったところに──
「ムマァ~~ジ♪」
相棒のムウマージがどこからともなく現れた。
善子「でたわね、イタズラっこ。どうかしたの?」
「ムマァ~♪」
何かと思ったら、ムウマージの傍には、私のポケギアが着信音を鳴らしながら、ふわふわ浮いていることに気付く。
善子「電話? 持ってきてくれたのね。ありがと」
「ムマァ~ジ♪」
お礼交じりに撫でてあげると、ムウマージは気持ちよさそうに声をあげる。
ご機嫌なムウマージはさておき、ポケギアの画面を見ると──
善子「……マリー?」
どうやら、先ほど頭に思い浮かべていた人物からの連絡だった。
緊張していそうな私への……激励とか?
善子「……ないない」
数年前に勝手に飛び出してきてしまった研究所の主だ。
今でこそ、こうして独立出来たけど、当時から褒められるのはずら丸の方で、私は叱られてばかりだったもの。
……まあ、昔のことはおいといて。
善子「もしもし? マリー?」
鞠莉『チャオ~♪ 善子、今いい?』
善子「ヨハネよ。何か用?」
鞠莉『Presentは届いたかなと思って』
善子「プレゼント……あのグレーの図鑑みたいなやつ?」
鞠莉『そうそう、それそれ』
自分で新人トレーナー向けの図鑑やら、ポケモンやらを工面するのに必死で、あまり気に掛けていなかったけど、言われてみればマリーからグレーの図鑑が送られて来ていたことを思い出す。
鞠莉『ちゃんと届いていたならよかったわ♪ ヨハネのために、グレーカラーでボディを作っておいたから♪ 好きでしょ? あの色♪』
善子「今更、図鑑を送られて来ても……データでも集めろって?」
オハラ研究所にいたとき、随分とデータ集めにあちこち奔走させられたことを思い出す。
鞠莉『そういうわけじゃないけど……あの図鑑、最新機能搭載型で──』
善子「こっちはこっちで、もう独立してるの。今更世話焼いてくれなくても結構よ」
鞠莉『む……何よ、その言い方』
善子「私はもう自分で図鑑も工面出来るし、ポケモンの手配も出来るってこと! いつまでも、子供扱いしないで! 今日は新しいトレーナーの旅立ちの日なんだから……用事、それだけならもう切るわよ」
鞠莉『全く……相変わらず、可愛くないわね……』
善子「うるさい」
鞠莉『All right, all right. あの図鑑、使わないなら千歌にでも渡しておいて』
善子「はいはい、会う機会があったらね」
全く……せっかく、気分転換しようと思っていたのに、却って気疲れしちゃったじゃない……。
口うるさい古巣の師からの連絡に眉を顰めながら、通話を切ろうとする。
鞠莉『善子』
善子「……だから、何よ」
鞠莉『頑張りなさい』
善子「……」
鞠莉『あなたはわたしのこと、あまり好きじゃないかもしれないけど……わたしはあなたのこと認めているし、応援もしているから。頑張って。それじゃあね、See you♪』
──ツーツー。ポケギアの向こうで通話が切れた音だけが流れる。
善子「……はぁ」
私は白衣にポケギアを突っ込んで溜め息を吐いた。
善子「……別にマリーのこと、好きじゃないとか……言った覚えないんだけど」
予想外な言葉のせいで、気持ちのやり場に困って視線を彷徨わせていると──
「ムマァ~ジ♪」
ムウマージがニヤニヤしながら、私のことを見つめていた。
善子「な、何よ……」
「ムマァ~♪」
善子「ご主人様のこと、からかうんじゃないわよ! おやつ抜きにするわよ!」
「ムマァ~ジ♪」
顔を顰めながら怒ると、ムウマージはご機嫌なまま、研究所内の壁に消えていった。
善子「全く……」
今日何度目かわからない溜め息を吐くと共に──
善子「……ん?」
先ほどまで自分がいた、新人用のモンスターボールと図鑑の前に、見覚えのある後ろ姿があることに気付く。
特徴的なアシンメトリーカットのショートボブの女の子。名前は──
善子「かすみ?」
かすみ「ぴゃぅ!?」
名前を呼ぶと、かすみはビクッと飛び跳ねながら、こっちに振り返る。
かすみ「こ、こんにちは~、ヨハ子博士~……」
善子「…………」
かすみ「…………」
走る沈黙。
善子「まさか、貴方……」
かすみ「ち、違いますぅ!! かすみん、抜け駆けなんてしようとしてませんよぉ!」
善子「はぁ……」
もともとイタズラ好きな子だというのはわかっていたけど、困ったものね。
善子「事前に説明したと思うけど、ポケモンを選ぶのは3人揃ってからよ」
かすみ「わ、わかってますよ~。ちょっとした下見です!」
善子「なら、いいけど……」
かすみ「……って、あー!!! かすみん、忘れ物しちゃいました!! 取りに戻らないと!!」
善子「え、ちょっと……!」
言いながら、かすみは研究所を飛び出して行ってしまった。
善子「……慌ただしい子ね」
やれやれと嘆息気味に、かすみが凝視していたモンスターボールに目を向けると、しっかりボールは3つ残っている。
まあ、さすがに白昼堂々かすめ取って行ったりしないか。
肩を竦めながら、時計に目をやると──そろそろ、約束の時間が近付いてきていた。
善子「……というか、かすみ……今から家に帰って、時間に間に合うのかしら?」
なんだか、先が思いやられるなと思いながらも、私は新人トレーナーたちを待つ……。
🎹 🎹 🎹
服を着替えて、バッグの中身を確認。忘れ物は……ない!
侑「よし!」
準備万端! 私が元気よく立ち上がると、
歩夢「あ、待って侑ちゃん。髪跳ねてるから」
言いながら歩夢が、跳ねた髪を直してくれる。
歩夢「……うん! もう大丈夫だよ!」
侑「ありがと、歩夢!」
今度こそ、出発だ!
侑「歩夢、行こう!」
歩夢「うん」
歩夢は頷きながら、私の部屋のベランダにたたたっと走って行き、
歩夢「サスケ! おいで!」
隣の部屋──歩夢の部屋に向かって声を掛ける。すると、
「シャー」
紫色のヘビポケモンがベランダの柵を伝って、そのまま歩夢の腕に巻き付くように登る。
侑「サスケ、おはよう」
「シャボ」
私が声を掛けると、サスケは歩夢の肩まで登りながら、鎌首をもたげ、私に向かって鳴き声をあげる。
歩夢「ふふ♪ サスケもおはようって言ってるよ♪」
「シャー」
侑「サスケ、連れてくんだね?」
歩夢「うん。サスケが一番仲良しだから、旅に行くなら一緒がいいなって思って♪」
「シャー」
侑「サスケがいるなら頼もしいね! よろしくね、サスケ!」
サスケはまるでタオルを首に掛けるかのように、歩夢の両肩に細長い体を乗せて、大人しくなる。ここがサスケの定位置だ。
ちなみにこのサスケというのは、ヘビポケモンのアーボのニックネームだ。
私たちが小さい頃から、歩夢と一緒に住んでいる幼馴染ポケモンってところかな。
侑「それじゃ、今度こそ出発!」
歩夢「おばさんたちに何か言わなくていいの?」
侑「旅立ち前の挨拶は、朝のうちにちゃんと済ませたから大丈夫!」
歩夢「そっか」
侑「歩夢は一回、家に寄る?」
歩夢「うぅん、私も挨拶は済ませたから」
侑「そっか! じゃ、行こう!」
歩夢「うん!」
歩夢と一緒に玄関の扉を押し開ける──さぁ、私たちの冒険──トキメキの物語の始まりだ……!
🎹 🎹 🎹
歩夢と二人、並んで研究所を目指す。
侑「そういえば、歩夢」
歩夢「ん? なぁに、侑ちゃん?」
侑「サスケはボールに入れないの?」
ボールっていうのは、モンスターボールのこと。
さすがにモンスターボールの詳しい説明はいらないよね? ポケモンを入れて携帯出来るカプセルのことです。
歩夢「あ、うん。出来れば外で伸び伸び過ごして欲しいから……ね、サスケ?」
「シャー」
侑「でも、ずっと肩に乗せてたら、重かったりしない?」
歩夢「うぅん、むしろ毎年ポケモンセンターでの健康診断のとき、軽いのを心配されちゃうくらい……サスケはちょっと小さめなアーボだから」
「シャー」
侑「へー……そうなんだ」
セキレイシティ近郊だと、アーボはほとんど生息していないから、小さいと言われてもあんまりピンと来ないけど……。
歩夢「この前測ったときは大きさが1.2mしかなかったんだよ。普通アーボは2m以上になるのに……。ご飯はちゃんとあげてるんだけどなぁ」
侑「うーん……比較対象がないと、ピンと来ないけど……案外歩夢の肩に乗れなくなるのが嫌だから、大きくならなかったりして」
歩夢「えー? そうなの? サスケ?」
「シャー」
サスケは「シャー」と鳴きながら、歩夢の頬に頭をこすりつけている。
歩夢「あはは♪ くすぐったいよ、サスケ♪」
「シャー」
サスケの言葉はわからないけど、きっと当たらずとも遠からずな気がする。
体の大きさが、そういうことで決まるのかはよくわからないけど……。
歩夢「でも、侑ちゃんの言うとおり、サスケが大きくなって私の肩に乗せられなくなっちゃったら、少し寂しいかも……」
侑「でしょ? だから、サスケはこのままでいいんだよ。ね、サスケ?」
「シャー」
歩夢「ふふ、そうかもしれない♪」
二人でサスケを見ながら、くすくす笑っていると──
「──侑せんぱーい! 歩夢さーん!」
後ろの方から名前を呼ばれる。この声は……。
侑「しずくちゃん?」
振り返ると、ロングヘア―と大きなリボンがトレンドマークの女の子が小走りでこっちに向かってくるところだった。
しずく「おはようございます。侑先輩、歩夢さん」
歩夢「おはよう、しずくちゃん」
「シャー」
しずく「サスケさんも、おはようございます♪」
侑「しずくちゃんも研究所に行くところ?」
しずく「はい! 私もご一緒して、いいでしょうか?」
侑「もちろん!」
この子はしずくちゃん。歩夢と一緒に選ばれた、ポケモンを貰う3人のうちの1人。ポケモンスクールでは一個下の学年で、私と歩夢の後輩だ。
しずく「そういえば、お二人ともかすみさんを見かけたりはしていませんか?」
侑「かすみちゃん? うぅん、見てないけど……」
歩夢「私たちもさっき家を出たところだから……」
かすみちゃんというのは、最初にポケモンを貰うことになった3人の内の最後の1人のことだけど……。しずくちゃんとは同級生で、かすみちゃんも私たちの後輩に当たる子だ。
しずく「そうですか……さっきから、ポケギアを鳴らしても全然反応がなくて……。寝坊とかしていなければいいんですけど……」
歩夢「きっと大丈夫だよ。かすみちゃんも今日の旅立ちすっごく楽しみにしていたし」
侑「案外、楽しみ過ぎてすでに到着してたりしてね」
しずく「それなら、いいんですが……」
しずくちゃんは、かすみちゃんと仲良しだからなぁ。私も歩夢と連絡が取れなくなったら、少し心配になるし、気持ちはちょっとわかる気がする。
しずく「そういえば、侑先輩」
侑「ん?」
しずく「結局、歩夢さんと一緒に行くことにされたんですね」
侑「ああ、うん」
私はしずくちゃんの言葉に頷く。
──本日ポケモンを貰うのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんの3人であって、実は私は関係ない。
じゃあ、なんでそんな私も一緒に研究所に向かっているのかというと……。
侑「私が一緒に旅をしたいっていうのもあったんだけど……歩夢のお母さんにお願いされちゃってさ。『侑ちゃん、歩夢のことよろしくね』って」
歩夢「私も一人だと心細いから、一緒にお願いしちゃったんだ、えへへ……」
しずく「確かにいきなり一人旅は不安がありますよね……そういう不安も込みで旅の醍醐味なのかもしれませんが……」
歩夢「それでも、いきなり一人で旅に行ってこいって言われたら、私どうすればいいかわからなくなっちゃうよ……」
「シャー!!」
歩夢「あ、ごめんね。サスケがいてくれるから一人ではないけど……」
侑「逆に言うなら、私は歩夢と違って、サスケみたいな子もいないから、むしろ私が歩夢に守ってもらうみたいになっちゃうかも……」
我が家にはポケモンがいなくて、お父さんお母さんと三人家族。
逆にお隣の歩夢は、お家にたくさんポケモンがいる。サスケはそのうちの1匹というわけだ。
私と歩夢の家は、昔から家族ぐるみの付き合いだったから、生活の中にポケモンがいないという感覚はなかったし、ポケモンに慣れていないみたいなことはないんだけど……。
とはいえ、旅に出るなら近場で1匹くらいは、捕まえてから街を出た方がいいかもしれない。
侑「そういえば二人とも、貰うポケモンはもう決めた? 確か、事前に教えてもらってるんだよね?」
しずく「はい。私はみずとかげポケモンのメッソンを選ぼうと思っています」
歩夢「私は可愛いから、うさぎポケモンのヒバニーがいいかなって」
しずく「私と歩夢さんは、被っていませんが……かすみさんがどの子を選ぶか次第ですね」
歩夢「かすみちゃんも可愛い子が好きだから……被っちゃうかも」
しずく「確かにかすみさんは教えて頂いた3匹の中だと、ヒバニーが好きそうではありますね……」
侑「被っちゃったらどうするんだろう……? 話し合いかな?」
しずく「それか、トレーナーらしくバトルの実力で決めたりするのかもしれませんね……」
歩夢「バ、バトル!? いきなりは自信ないよぉ……」
侑「えー、歩夢のバトルしてるところ、私は見てみたいけどなぁ」
歩夢「もう! 侑ちゃんったら、他人事だと思って……」
侑「あはは、ごめんごめん」
ぷくーと可愛く膨れる歩夢に謝りながら──間もなく、目的地の研究所に到着しようとしているところだった。
🎹 🎹 🎹
歩夢「ちょっと緊張してきたね……」
しずく「は、はい……」
研究所を前にして、歩夢としずくちゃんが少し身を強張らせる。そんな中、私は、
侑「はぁ~……ここがツシマ研究所……!」
思わず、研究所を見つめながら、うっとりしてしまう。
しずく「侑先輩? どうかしましたか?」
そんな私を見て、しずくちゃんが不思議そうに小首を傾げた。
歩夢「ふふ、入ったらすぐにわかると思うよ」
しずく「?」
侑「よし、行こう!」
意気揚々と研究所の入り口のドアを押し開ける。
歩夢「こんにちは~……」
しずく「し、失礼します……」
少し緊張気味な二人と共に、屋内へ足を踏み入れると──
善子「来たわね、リトルデーモンたち。ようこそ、ツシマ研究所へ」
入ってすぐ、待っていたヨハネ博士が出迎えてくれた。
歩夢「は、はい!」
しずく「ほ、本日はよろしくお願いします……!」
善子「こちらこそ。歩夢、しずく」
博士は歩夢としずくちゃんを順に見たあと、
善子「貴方は、確か……」
私に視線を向ける。
善子「侑、だったかしら?」
侑「! わ、私のこと知ってるんですか!?」
善子「ええ、ポケモンスクールの子たちは全員、顔と名前が一致するくらいには、知っているつもりよ」
侑「感激です!! ヨハネ博士に覚えてもらえているなんて!!」
善子「あら、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいわ」
侑「私、去年のヨハネさんの試合、会場で見てました!! 準決勝での千歌さんとの試合!! ネッコアラ1匹で勝ち進んでいた千歌さんに対して、あの大会中に初めて2匹目以降を出させたんですよね!! 特にアブソルが2匹連続で倒したときは私、ほんっとうにときめいちゃって!!」
善子「あーあの試合ね……確かに最初は調子よかったんだけど、結局最後は千歌のエースに圧倒されちゃったのよねぇ……」
侑「でも、すごかったです!!」
興奮気味にまくしたてる私を見て、
しずく「……なるほど、すぐにわかるというのはこういうことだったんですね」
歩夢「うん。侑ちゃん、ポケモントレーナーのことが大好きだから」
しずくちゃんは納得した様子。
善子「……褒められて悪い気はしないんだけど……侑、貴方はどうして研究所に?」
侑「歩夢の付き添いです! 今回、歩夢と一緒に旅に出ようと思っていて……」
歩夢「博士、一人旅じゃなくなっちゃうけど……いいですか?」
善子「もちろん構わないわ。どんな旅をするかは個人の自由よ。さすがに最初のポケモンはあげられないけど……」
歩夢「よかったぁ……一人で旅しなくちゃダメって言われたら、どうしようかと思ったよ……」
侑「よかったね、歩夢!」
博士からの許可も貰えて一安心したところで、私は改めて研究所内を見回す。
研究所内にはあちこちに水族館のような、大きなガラス張りの部屋の中に作られた飼育スペースがあり、その中にポケモンたちの姿が見える。
歩夢「見て、侑ちゃん! あっちのお部屋にいるの、ププリンだよ! 可愛い!」
しずく「あちらの森の環境を再現した部屋にいるのは、クルマユでしょうか? なんだかあの表情、見ているだけで癒されますね……」
二人も私同様、研究所内に興味を引かれている様子。研究所内なんて、なかなか見られる機会ないからね。私もこの機会によく見ておこう。
侑「こっちの雪の部屋にいるのは……見たことないポケモンだ」
私が見た部屋は雪原の環境を再現した部屋で、真っ白な丸っこい幼虫みたいなポケモンが数匹いるのがわかる。
善子「あれはユキハミよ。この地方では、グレイブマウンテンの北部側に極僅かに生息してるだけだからね。知らなくても無理ないわ」
しずく「主にガラル地方に生息しているポケモンですよね!」
善子「ええ、そのとおりよ。しずく、詳しいのね」
しずく「はい! 小さい頃、家族とガラル地方のキルクスタウンに旅行に行ったときに見たことあるんです!」
雪原や森の部屋の他にも、岩肌を再現した部屋や洞窟を模した部屋など、さまざまな飼育部屋があちこちにある。
侑「あ、あの! もっと近くで見学してもいいですか!?」
善子「ええ、構わないわ。約束の時間までまだあるしね。ただ、見るだけで触ったりしちゃダメよ?」
侑「はーい! 歩夢、行こう!」
歩夢「うん!」
🎹 🎹 🎹
しずく「……かすみさん、遅いですね」
研究所内をひととおり見て回れるくらいの時間は経った気がする。確かに遅いかもしれない。
善子「まあ、案の定って感じね……」
歩夢「どういうことですか?」
善子「かすみ、さっき一度研究所に来てたのよ。でも、忘れ物をしたって言って、一度家に帰ったわ」
しずく「もう……かすみさんったら、今日だけは遅刻しないようにって、ちゃんと言ったのに……」
善子「まあ、いないものは仕方ないわね。もう、約束の時間は過ぎてるし……これから選ぶ3匹との、顔合わせだけでもしちゃいましょうか」
歩夢「いいのかな……?」
善子「選ぶのは3人揃ってからだけどね。歩夢、しずく、こっちに」
博士に呼ばれて、二人は3つのモンスターボールと3色の図鑑が置かれている机の前に移動する。
善子「今回貴方たちに選んで貰うのはこの3匹よ」
博士が3つのモンスターボールの開閉スイッチを押すと──ボム、という独特な開閉音と共に、中からポケモンが飛び出す。
「バニー!!」「メッソ…」
歩夢「わぁ……!」
しずく「この子たちが、ヒバニーとメッソン……!」
歩夢「初めまして、歩夢って言います♪」
「バニーー!!!」
ヒバニーは歩夢から挨拶をされて、元気に飛び跳ねる。
歩夢「どうしよう侑ちゃん……写真で見るよりも全然可愛いよ!」
侑「ふふ、そうだね」
一方メッソン。
しずく「こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪」
「メソ…」
しずくちゃんに話しかけられたメッソンは、スーっと体が透明になっていく。
しずく「あ、あれ……? 消えちゃいました……」
どうやら、メッソンは少し臆病なポケモンらしい。ヒバニーとは対照的だ。
侑「それじゃ、残りの1匹は……?」
ボールの置かれたテーブルの方に目を配らせると、
善子「あら……? おかしいわね……」
博士が3つ目のボールの開閉スイッチをポチポチと押し込んでいるところだった。
侑「博士?」
善子「何で出てこないのかしら……? 緊張してる……? いやそんな性格の子じゃないはず……。顔見せの時間よ! 出て来なさい!!」
侑「どうしたんですか?」
善子「この子だけ、開閉スイッチを押しても出てこないのよ……。まさか、ボールの故障?」
博士はそう言いながら、件のボールを持ち上げて、軽く振ったり、叩いたりしている。
そのときだった。
「ガウーーー!!!!!」
善子「!?」
急にボールが──吠えた。
善子「な……!? はっ!?」
さすがの博士も突然の出来事に面食らったのか、咄嗟にボールを放る。
そのまま落ちたボールはまるで自分の意思でも持ったかのように、跳ねながら──今度は紫色の鈍い光に包まれた。
侑「な、何!?」
目の前の出来事に混乱しながらも、跳ねながら光るボールを目で追うと──ボールは、形を変え、
歩夢「え?」
しずく「あ、あの子って……」
善子「な、なに……?」
「ガウッ」
気付けば小さな黒い狐のような姿に変わっていた。
善子「……ゾロア?」
そこにいたのは──ばけぎつねポケモンのゾロアだった。
この場にいた全員が、急な展開にポカンとしてしまう。
「ニシシッ」
直後、イタズラっぽく笑ったゾロアは、近くにあったパステルイエローの図鑑を口に咥える。
──直感的にわかった。図鑑を持って逃げようとしている……!
侑「は、博士──」
善子「ドンカラスッ!!」
「カァーーーー!!!!」
「ガゥッ!?」
声をあげて、それを伝えようとした次の瞬間には、どこから現れたのか、博士のドンカラスがゾロアを上から大きな足で押さえつけているところだった。
「ガゥ、ガゥゥ!!!」
侑「は、はや……」
しずく「気付いたら、ゾロアが捕まっていました……」
歩夢「全然わからなかった……」
善子「……このゾロアに心当たりあるかしら?」
しずく「えっと……」
「ガゥゥ…」
押さえつけられて、弱々しく唸るゾロア。その姿は学校でも何度か見た覚えがあって……。
しずく「かすみさんのゾロアだと、思います……」
かすみちゃんがよく一緒にイタズラして、先生に叱られていた、見覚えのあるゾロアだった。
善子「……やってくれたわね……あの子……」
博士はカツカツとヒールを鳴らしながら、押さえつけられたゾロアに近付いていく。
善子「何が『かすみん、抜け駆けなんてしようとしてません』よ!!」
歩夢「もしかして、最後の1匹は……」
善子「かすみに持ち逃げされた……!!」
しずく「ああもう……かすみさん……」
困惑する歩夢、呆れるしずくちゃん、そして怒りに肩を震わせるヨハネ博士。そんな中、押さえつけられたゾロアが、
「ガゥァゥアァアァァァァァァ……!!!!!!!!!」
急に大声で泣き出した。
侑「うわわ!?」
善子「う、うるっさ……!!」
「ガゥ、ガゥガゥァァァァァッ!!!!!!!!」
大粒の涙を流しながら、ドンカラスの足元でじたばたと暴れまわるゾロア。
歩夢「あ、あの博士……ゾロアが泣いてます……」
善子「わかってるけど……」
歩夢「あの……放してあげてくれませんか……?」
善子「……いや、そう言われてもね」
歩夢「でも、あの子もかすみちゃんに指示されてやっただけだと思うし……あんなに泣いてるし……せめて、もう少し優しくしてあげて欲しいです……」
善子「…………」
歩夢の言葉に、博士は頭を掻きながら、
善子「ドンカラス、少し力を弱めに──」
指示を出した瞬間。
しずく「だ、ダメです!? それ、“うそなき”ですよ!?」
善子「え゛っ!?」
響き渡るしずくちゃんの言葉。
「…ニシシッ!!!!」
それと同時にゾロアの体から真っ黒なオーラが膨張を始めた。
善子「全員伏せなさいッ!!」
しずく「は、はいぃ!!」
侑「歩夢……!!」
歩夢「きゃっ!?」
咄嗟に歩夢に覆いかぶさるようにして伏せる。
その直後、膨れ上がった黒いオーラは衝撃波となって、私たちの真上の空気をびりびりと震わせる。
衝撃と共に、研究所内に物が落ちる音や割れるガラスの音が響き渡る。
歩夢「きゃあああ!?」
侑「歩夢!! 落ち着いて!!」
大きな音にパニック気味な歩夢を抱きしめたまま、しばらく待っていると──
しずく「お……終わりました……?」
侑「歩夢、大丈夫!?」
歩夢「う、うん……ありがとう、侑ちゃん……。サスケ、ヒバニー、怪我しなかった……?」
「シャー…」「バニー…」
怖がりながらも、歩夢はサスケとヒバニーを抱き寄せていたらしく、声を掛けられた2匹が歩夢の腕の中から顔を出す。どうやら、2匹に怪我はなさそうだ。
そして、ゾロアの攻撃は落ち着いたようで……研究所内は再び静かになった──のは一瞬だけだった。
顔を上げるのと同時に──バサバサバサ!!! と大きな羽音を立てて、何かが飛び立つ。
それが、先ほどの飼育部屋から飛び出したポケモンなんだとわかるのに、そう時間は掛からなかった。
気付けば家具やら壊れた何かの破片やらでごちゃごちゃになった研究所内には、飼育部屋から脱走したポケモンたちが走り回り飛び回り、好き放題している状態になっていた。
善子「ま、まずい……!?」
博士が真っ青な顔のまま、近くを走り回っているポケモンを咄嗟に覆いかぶさるようにして捕まえると──
「ピ!? ピ、チュゥゥゥゥッ!!!!!」
善子「んぎゃっ!?」
博士が小さく悲鳴をあげる。
ピチューの“でんきショック”だ。
侑「は、博士!!」
善子「だ、だいじょう……ぶ……むしろ、ピチューは、じ、自分で……痺れて、う、動けなくなってくれる、から……た、たすかる……わ……」
「ピ、チュゥゥ…」
博士の言うとおり、ピチューは自分の電気で痺れて目を回しているけど……。
しずく「そ、それより、ゾロアがいません!!」
言われてみれば、この惨状を作り出した張本人であるゾロアの姿がなくなっている。
ついでに先ほどゾロアが口に咥えていたパステルイエローのポケモン図鑑もだ。
善子「と、とりあえず、ゾロアはいい……先に逃げたポケモンたちを捕まえないと……」
よろよろと立ち上がる博士。
研究所内にはあちこちに逃げ出した、ポケモンたちの姿──最初のポケモンとポケモン図鑑を貰いに来たはずなのに……なんだか大変なことになっちゃった……!?
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
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||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち 未所持
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 歩夢
手持ち アーボ♂ Lv.5 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 しずく
手持ち ???? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter002 『パートナー』 【SIDE Yu】
善子「……とりあえず、捕まえられたのはこれで全部?」
ヨハネ博士は椅子に座ってモンスターボールを並べながら、眉を顰める。
善子「何匹か足りないわ……。外に逃げちゃったのね」
「ゲコガァ…」「ムマァ…」「カァー」「シャンディ…」「ヒュララァ」「ソル」「ゲルル…」
善子「貴方たちのせいじゃないわ。手伝ってくれてありがとう、みんな」
あの後、どこからともなく現れたヨハネ博士の手持ちによって、研究所内を走り回っていたポケモンたちは瞬く間に捕まえられたんだけど……何匹かが外に逃げてしまったらしい。それと──
しずく「メッソン! メッソーン! 出て来てくださーい! ……うぅ、ダメです……見当たりません……」
善子「……無理もないわね。メッソンは臆病なポケモンだから……」
先ほどの騒ぎに驚いたのか、メッソンも逃げ出してしまったらしい。
善子「メッソンともども、早く探しに行かないと……」
博士は椅子から立ち上がろうとして、
善子「ぅ……」
侑「わ! 危ない!!」
すぐによろけてしまったところを、慌てて支えに走る。
歩夢「ピチューの電撃を浴びちゃったんですから……無理しないでください」
善子「……面目ないわ」
再びゆっくりと椅子に座らせてあげると、博士は深く深く溜め息を吐いた。
善子「それにしても、かすみには困ったものね……」
侑「かすみちゃんもゾロアも、イタズラ好きだからね」
しずく「今回に関しては、いくらなんでも度を超えています! こんなやり方で抜け駆けしようとするなんて……」
侑「あはは……こんなことするほど、最初の1匹に拘りがあったのかもね」
しずく「……あれ?」
私の言葉を聞いて、しずくちゃんが首を傾げた。
侑「どうしたの?」
しずく「……かすみさん、最初のポケモン選びで出し抜くために、こんなことをしたんですよね?」
侑「う、うん? そうだと思うけど……」
しずく「なのにどうして、ヒバニーは残っていたのでしょうか……?」
歩夢「そういえば……」
「バニ?」
そういえば、ここに来る途中も話していたけど、かすみちゃんの趣味だとヒバニーを選びそうだって言ってたっけ?
侑「最後の1匹がもっと好みだったとか?」
しずく「えぇ……? かすみさんがあのポケモン選ぶのかな……?」
しずくちゃんはどうにもピンと来ないらしい。
侑「最後の1匹って、どんな子だったの?」
歩夢「えっと……最後の1匹はね──」
👑 👑 👑
かすみ「はっ……はっ……!! はぁ……はぁ……!! こ、ここまで来れば大丈夫だよね……?」
息を切らせながら、かすみんは後ろを振り返る。
うん、大丈夫、誰も追って来てない。
かすみ「最初の1匹、すごくすごく大事なパートナーだもんね! こればっかりは譲るわけにはいかないんです!!」
何せ、かすみんが欲しいのは今回選べる3匹の中で、とびっきり可愛いうさぎさんポケモンのヒバニー!
しず子と趣味が被るかは微妙だけど、歩夢先輩は絶対ヒバニーを選ぶに決まってます!
かすみ「かすみん最初のパートナーは絶対にヒバニーって決めてるんだから!」
あとで叱られるかもしれないけど、先にヒバニーと仲良くなってしまえば、さすがの歩夢先輩も、かすみんからヒバニーを取り上げたりはしないはずです! こういうのは既成事実さえ作ってしまえばいいんです!
ゾロアで誤魔化すのにも限界があるだろうし、善は急げ! 早速ボールから出して仲を深めていきましょう♪
かすみ「さぁ、出ておいでヒバニー♪」
私がヒバニー入りのモンスターボールを放ると──ボムという特有の開閉音と共に、
「──キャモ」
黄緑色のポケモンがボールから飛び出した。
かすみ「………………………………え?」
「キャモ」
……この子、誰??
うーんと、うーんと……えっとぉ……。
かすみ「たぶん、ヒバニーじゃなくてぇ……」
「キャモ」
事前に聞いた3匹のポケモンを冷静に思い出す。
1匹目はうさぎポケモンのヒバニー。めちゃくちゃ可愛くて絶対この子がいいって思ったかすみんイチオシのポケモン。
2匹目はみずとかげポケモンのメッソン。この子も可愛いんだけど、かすみんが好きなのは元気な可愛さ! だから、メッソンはかすみんのイメージとは違うなって思ったんだよね。
そして、3匹目は……。
「キャモ」
かすみ「もりトカゲポケモンの……キモリ」
正直かすみんはキモリが一番ないかなーって思ったんだよね。だって、他の2匹よりも可愛くないし!
「キャモ」
かすみ「…………もしかして、かすみん……選ぶモンスターボール……間違えた……?」
一人頭を抱えて蹲る。博士に見つかり掛けてたから、焦って選ぶボールを間違えちゃったみたい……。
かすみ「…………やっちゃった、かすみん、これは盛大にやらかしました……」
「キャモ」
普段のかすみんなら、ドジっ子なかすみんも可愛いかも♪ なんて自分に言い聞かせて乗り越えるところなんですが、今回ばかりは凹みます。マジ凹みしてます。
かすみ「うう……どうしよう……」
「キャモ」
かすみ「…………そうだ! もしかしたら、まだゾロアと入れ替わってるって、バレてない可能性もある!」
こうなったら今から研究所に戻って、しれっとボールを元に戻して、普通に3匹の内からヒバニーを選ぶしかないです!
当初の予定とは変わってしまいましたが、イレギュラーにも対応してこそ、一人前ですよね!
かすみ「よし、キモリ。ボールに戻って」
キモリをボールに戻してっと……。さあ、気を取り直して研究所に戻りましょう♪
👑 👑 👑
さぁさぁ、研究所に到着した、かすみんです!
かすみ「……さすがにもうしず子も歩夢先輩も到着してるよね」
研究所の扉を静か~に開いて中の様子を伺います。
かすみ「…………え?」
ただ、中の様子を見て、かすみんは愕然としてしまいました。
研究所の中は、まるで嵐でも過ぎ去ったかのように、荒れまくっていました。
そんな研究所の奥には、しず子と歩夢先輩……それと、あれは侑先輩……? そして、椅子に座っているヨハ子博士。
テーブルの上には、3つあったはずのモンスターボールは全部なくなっていて……ついでに机の上のポケモン図鑑もかすみんが好きそうなパステルイエローの図鑑がなくなっている状態です。(あ、かすみん目はすっごくいいので、入り口からでもばっちり見えちゃってますよ~☆)
……状況からして、すっごくいや~な予感がしてきましたね……。
かすみ「……たぶん、今入るのは自滅です。自殺行為です」
察して、静か~にドアを閉めて、そろりそろりと退却の姿勢を取ります。そのときです──
かすみ「わひゃっ!? な、何かふわっとしたものが足に……」
「ガゥッ!!」
かすみ「な、なんだ、ゾロアか……驚かさないでよ」
「ガゥッ!!!」
足元のゾロアを見ると、嬉しそうに尻尾を振りながら、口に咥えたパステルイエローのポケモン図鑑を差し出してきます。
かすみ「ふふ、さすが『かすみん2号』の異名を持つだけあって、ちゃーんと、かすみんのお願い聞いてくれたんだね、ありがとゾロア♪」
「ガゥガゥッ♪」
かすみ「でも、今はちょ~っと事情が変わっちゃってね」
「ガゥッ?」
かすみ「今から一旦退却しなくちゃいけないの」
「ガゥッ」
かすみ「よし! それじゃ、このまま一旦セキレイの外まで──」
「──行けると思ってるのかしら?」
かすみ「………………!?!!?」
振り返ると、そこには……──鬼がいました。鬼の形相をした、かつてヨハ子博士だった者がいました。
善子「かすみ」
かすみ「え、っと……あ、の……」
善子「……何か言うことがあるんじゃないかしら?」
かすみ「そ、の……。……か、かすみん、遅刻しちゃいました~☆ えへっ☆」
善子「よし、火責め水責めどっちがいいかしら? あ、氷責めっていうのもあるんだけど……」
「シャンディ」「ゲコガ」「ヒュララァ」
かすみ「ひっ!?」
かすみん、怖かったんですよ。もう生物としての本能で、今この場から全身全霊で逃げ出さないといけないって命令が、脳からシュピピピーンって全身に駆け巡って、反射的に走り出してたんですよ。
かすみ「──ガッ!?」
でも、そんなかすみんの動きは、次の瞬間に固まってしまいました。
善子「逃がさないって、言ったでしょ?」
かすみ「からだ、が、うご、かな……い……! なに、こ、れぇ……!」
善子「“かなしばり”よ。ご苦労、ユキメノコ」
「ヒュララ」
かすみ「……あ、あ、あ、あの、あの、あの……」
善子「覚悟はいいわね?」
かすみ「……ご、ごごごごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!! か、かすみんにも、かすみんなりの事情があって……!!!」
善子「ムウマージ、“サイコキネシス”」
「ムマァージ」
かすみ「ぴゃああああ!!? 身体が浮いたあぁぁぁ!?」
善子「じゃあ、その事情とやらは、中でゆっくり聴かせて貰おうかしらね?」
そう言いながらニヤッと口角を上げて笑うヨハ子博士の笑顔は──この世の中にこんなに怖い笑顔があるのかと思わせるくらい、とっても恐ろしい笑顔でした……。
かすみ「た、助けてええええええええええ!!!!!!!!」
🎹 🎹 🎹
かすみ「ひぐ……っ……えっぐ……っ……ご、ごべんなざい……っ……がずみんも、ごんな大事になるなんで……っ……おもっでなぐでぇ……っ……」
しずく「叱られて泣くくらいなら、最初からやらなければいいのに……」
かすみ「だっでぇ……ヒバニー欲しがっだんだもん……っ……」
しずく「だからって、こんなやり方しちゃ、めっでしょ?」
かすみ「ごめんなさいぃぃぃ……っ……」
「ガゥ…」
かすみ「かすみん、いっぱいいっぱい謝りますからぁ……許してくださいぃ……っ……せめて、ゾロアだけでもぉ……っ……」
侑「あはは……」
あの後、かすみちゃんは事情の説明を始めたわけだけど……終始冷やかな笑顔を浮かべるヨハネ博士の迫力があまりに怖かったのか──正直、傍で見ていてもめちゃくちゃ怖かった──ついに泣き出してしまって今に至る。
歩夢「あの……かすみちゃん? そんなにヒバニーがいいなら私……」
善子「ダメ。もはやかすみには選ぶ権利はないわ。歩夢としずくが選んだあとにしなさい」
しずく「そうですよ、歩夢さん! かすみさんをこれ以上甘やかしちゃいけません!」
善子「貴方は二人が選び終わるまで、このぐちゃぐちゃになった研究所の片付けを手伝いなさい。いいわね?」
かすみ「……そんなぁ……っ……」
研究所の床にへたり込んだまま、項垂れるかすみちゃん。まあ、さすがにこれは自業自得かな……。
善子「とはいえ……今はメッソンがいないから探しに行かなくちゃいけないわね……」
言いながら立ち上がる博士。かすみちゃんを捕まえるために研究所の外に出ていたし、動けないほどじゃないみたいだけど……まだ少し調子が悪そうだ。
しずく「研究所のポケモンも何匹か、逃げちゃってるんですよね……」
歩夢「どの子がいないのかって、わかってるんですか?」
善子「ええ、さすがに自分の研究所にいるポケモンくらいは把握してるからね……。今この場にいないのは、ミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹よ。早く見つけないとね……」
ふらふらと歩く博士を見て、私は──
侑「あの!」
善子「なに?」
侑「逃げちゃったポケモン、私たちが探してきます!」
気付いたら、そう提案していた。
しずく「それは名案ですね!」
歩夢「うん! 私も良いと思う!」
善子「え、いや……でも……」
侑「むしろ、そんな身体のまま、博士を行かせるわけにいきませんよ!」
善子「…………」
かすみ「そ、それなら、かすみんが行きます」
善子「いや、かすみ、貴方はここで……」
かすみ「かすみん、さすがに反省してるんです!! こうなっちゃったのも、元はと言えばかすみんのせいだし……。かすみんこれでも、バトルの成績はそこそこ良かったから、絶対逃げちゃったポケモンたち連れ戻してきますから!!」
善子「…………」
博士は困ったような顔をする。確かにこの状況でかすみちゃんを信用しろと言われても難しいかもしれないけど……。
しずく「あの……博士、私からもお願いします」
そんなかすみちゃんに助け舟を出したのは、しずくちゃんだった。
かすみ「し、しず子……!」
しずく「かすみさん、たまにやり過ぎちゃうことはあるけど……根は良い子なんです。今回も悪気があって、ここまでのことをしたわけじゃないみたいですし……今言っていることは、心の底からの言葉だと思うので。……チャンスをあげてくれませんか?」
善子「……ふむ」
博士は少し考えていたけど、
善子「……わかったわ。そこまで言うなら、しずくの言葉に免じて、もう一度だけ信じてあげる」
最終的には、首を縦に振ってくれた。
善子「ちゃんと出来る?」
かすみ「は、はい!! もちろんです!!」
善子「わかった。それじゃ、任せるわ」
かすみ「はい! かすみん、任されました!!」
しずく「よかったね、かすみさん」
かすみ「うん! ありがとね、しず子! それじゃ行くよ、ゾロア!」
「ガゥッ」
先ほどまで大人しくしていたゾロアはかすみちゃんの声に反応して、肩に飛び乗る。
しずく「それじゃ、行こっか」
かすみ「へ?」
しずく「まさか、一人で行くつもり? もちろん、私たちも探しに行くから」
侑「みんなで手分けした方がいいもんね。ほら、歩夢も」
歩夢「う、うん!」
かすみ「み、みなさん……!」
かすみちゃんは感激したのか、目の端にうっすら浮かべた涙をぐしぐしと手で拭う。
善子「なら、この研究所のポケモン用のモンスターボールを持っていきなさい。普通のボールじゃヨハネのポケモン扱いだから弾かれちゃうけど……このボールになら、ちゃんと入るはずだから」
かすみ「わかりました! ……よし! それじゃみんな! 行きますよー!!」
侑・歩夢・しずく「「「おーー!!!」」」
かすみちゃんの号令のもと、私たちは逃げ出したポケモンたちの捕獲作戦に出発するのでした。
🎹 🎹 🎹
侑「逃げ出したポケモンは3匹って言ってたよね」
しずく「メッソンも含めると4匹ですね……」
かすみ「そうなると、1人1匹ずつですね! かすみん、一番に捕まえて、みなさんのお手伝いしに行きますね!」
かすみちゃんは言うが早いか、街の南側目指して飛び出して行ってしまった。
しずく「あ、かすみさん……! ……行っちゃった」
侑「それじゃ、私は街の北側に……」
歩夢「じゃあ、私も侑ちゃんと一緒に行くね」
侑「え? 手分けした方が……」
歩夢「侑ちゃん……やっぱり、気付いてない」
侑「? 気付いてないって?」
歩夢の言葉に思わず首を傾げる。
歩夢「侑ちゃん……ポケモン持ってないでしょ? 手持ちポケモンもなしに捕まえるつもりなの?」
侑「……っは!」
歩夢に言われてハッとする。
侑「どうにかしなくちゃってことで頭がいっぱいで……全然気付いてなかった……」
歩夢「あはは、やっぱり……」
侑「あれ、でもそうなると私……足手まといなんじゃ……」
完全にいるだけの人なんじゃ……。
しずく「いえ、戦って捕獲したりすることが出来なくても、単純に探すだけなら人手が多いに越したことはないと思いますよ! 目撃情報を聞いて回るのにも、人手は必要ですし」
歩夢「うん♪ だから、侑ちゃんは私と一緒に探すのを手伝って欲しいな」
侑「ん、わかった。しずくちゃんはどうする?」
しずく「私は、メッソンを探そうと思っています。最初からメッソンを選ぼうと思っていましたし……何より、心配なので」
侑「わかった。それじゃ歩夢、行こう」
歩夢「うん」
しずく「それでは、お二人とも、またあとで」
しずくちゃんと別れて、歩夢と二人で街の北側に走り出す。
──捜索開始!
🎹 🎹 🎹
侑「あ、すいませーん!」
通行人「あら? なにかしら?」
侑「ちょっとポケモンを探してて……えっと、ゴルバット、ミミロル、ニャースなんですけど……」
通行人「うーん……ちょっと見てないわね」
侑「そうですか……ありがとうございます」
まずは聞き込み。不幸中の幸いで3匹とも、この近くには生息していないから、目撃情報があったらそれはイコール研究所から逃げ出したポケモンたちということだ。
歩夢「──……はい、そうですか……ありがとうございます」
侑「歩夢、そっちはどう?」
他の通行人に目撃情報を訊ねていた歩夢に声を掛ける。
歩夢「うぅん、特にそれらしいポケモンを見たって人は今のところ……」
侑「そっちもか……うーん」
歩夢「とりあえず、街の外まで行ってみる……? あてずっぽうにはなっちゃうけど……」
侑「……そうしよっか。南側はかすみちゃんたちが探してくれてるし、私たちはとりあえず北側を探そう」
歩夢「わかった」
頷く歩夢と一緒に、北側の10番道路方面に行こうとした矢先、
女性「──さっきから見てたんだけど~、君たちポケモンを探してるの~?」
突然のんびりとした口調の女性から声を掛けられた。
侑「あ、はい! ミミロル、ゴルバット、ニャースを探してるんですけど……」
女性「ミミロル、ゴルバット、ニャース……。確かだけど……その子たちってこの辺りには生息してなかったはずだよね~……?」
侑「は、はい……知り合いのところから逃げ出しちゃって……」
女性「むむ、それは大変だ~……。お姉さんが手伝ってあげよう~……と、言いたいところなんだけど……この後、妹を迎えに行かなくちゃいけなくて……ごめんね~……」
侑「い、いえ! 気にしないでください!」
なんだか、独特な雰囲気のお姉さん……。
女性「あ、でもでも、そのポケモンかはわからないけど、さっき大きな翼で羽ばたくポケモンなら、見かけた気がするよ~」
侑「ホントですか!?」
歩夢「ゴルバットかも……!」
侑「うん! どっちに行ったかわかりますか!?」
女性「あっちの方かな~」
お姉さんは街の西側を指差す。
歩夢「あっちってことは……西の6番道路の方だね」
侑「お姉さん、助かります!」
女性「ふふ、どういたしまして~。……そういえば、その子は違うのかな? その子も、野生では珍しいポケモンだと思うんだけど~……」
侑「……? その子……?」
お姉さんの視線を追うと──歩夢の足元あたりに、
「ヒ、バニ!!!」
ヒバニーがいた。
歩夢「あ、あれ? ヒバニー、付いてきちゃったの?」
「バニッ」
歩夢「どうしよう、侑ちゃん……」
侑「えっと……」
歩夢が困り顔で訊ねてくる。……というか、どうしてヒバニーは私たちに付いてきているんだろう……。
考えている間に、
「ヒ、バニッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」
ヒバニーはぴょんぴょんと跳ねるように歩夢の身体を駆け上がって、歩夢の頭の上にしがみつく形になる。それと同時に、
「シャーーーー!!!!!」
さっきまで大人しかったサスケが、歩夢の声に反応したのか、ご主人様を守るためにヒバニーを威嚇する。
歩夢「サ、サスケ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから……」
「…シャボ」
歩夢「ヒバニーどうしたのかな……?」
侑「もしかして、手伝ってくれるの?」
「バニッ!!」
ヒバニーは私の言葉に答えるように、首を縦に振る。
侑「もしかして……さっき、歩夢に助けられたからかな?」
歩夢「え? 私、助けたってほどのことはしてないけど……」
歩夢はそう言うものの、ゾロアの攻撃の中、確かにヒバニーとサスケを庇っていた。
侑「少なくとも……ヒバニーは守ってもらったって思ってるんじゃないかな」
「バニッ」
歩夢「えっと……それじゃ、お手伝い、お願いしていい?」
「ヒバニッ!!」
ヒバニーは歩夢の言葉に頷きながら、鳴き声をあげた。
女性「ふふ、それじゃポケモン探し、頑張ってね~」
侑「はい、ありがとうございます! 行こう、歩夢!」
歩夢「うん」
私たちは街の西側──6番道路を目指します。
👑 👑 👑
かすみ「ミミロルー! ゴルバットー! ニャースー! 可愛いかすみんはここですよー! 出て来てくださーい!」
「ガゥッ」
かすみ「うーん……全然、見当たりませんね。ゾロアは何か見つけた?」
「ガゥゥ…」
かすみんの肩に乗っかって周囲を見回しているゾロアも、特に収穫なし……。困りましたね。
探し方が悪いのかな……?
かすみ「うーん……」
かすみん少し考えます。
かすみ「こんな広い場所で探し物をするなら、まず大雑把に特徴を捉えた方がいいかも……?」
今探しているのはミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹。つまり、茶色いうさぎポケモン、紫のコウモリポケモン、白いネコさんポケモンを見つければいいんです。
ピンポイントでそのポケモンだけを探そうとするからいけないんですよ。特徴に着目して追いかけてみましょう!
「コラッタ!!!」
かすみ「紫だし、あれはネズミポケモン」
「ジグザグ」
かすみ「あれは茶色だし、タヌキさんですね」
「フニャァ…」
かすみ「あの子……ネコさんポケモンですけど、紫色ですね」
「ニャァ」
かすみ「……? あれは、なんか額に小判付いてる……ニャースっぽい? ……けど、灰色のネコさんですね……色が違います」
「エニャァ」
かすみ「わっ! ピンクのネコさん! 可愛い!! ……じゃなくて。……うーん……」
唸りながら、辺りをキョロキョロと見回していると──
かすみ「ん? あれって……」
しずく「──メッソーン!! メッソーン!! どこですかー!? 出て来てくださーい!!」
「マネネー」
メッソンを探す、しず子の姿。
かすみ「しず子ー!」
しずく「あ、かすみさん……」
「マネ」
かすみ「それにマネネも連れて来てたんだね」
しずく「うん……今回の旅はマネネも連れて行こうと思ってたから……」
「マネ」
マネネは学校にいたときから、しず子がよく連れていた子ですからね。かすみんのゾロアと同じような感じです。
かすみ「ところで、メッソン見つかった?」
しずく「うぅん……かすみさんはどう?」
「マネマネ…」
かすみ「全然ダメ……ネコさんポケモンはたくさん見つかったんだけど、色が違う子ばっかりで……」
しずく「あはは……確かにネコポケモンでも色が違うんじゃ、ダメだね……」
かすみ「紫のネコさん、灰色のネコさん、ピンクのネコさんは見つけたんですけどねぇ……」
しずく「えっ!?」
かすみ「わ!? な、なに!? 急におっきな声出さないでよ、しず子……」
しずく「か、かすみさん、灰色のネコポケモン見たの!?」
しず子は急に詰め寄って、私の両肩を掴んでくる。
かすみ「え? う、うん……でもニャースって白いネコさんだよね?」
しずく「……ああ、しまった……!! 伝え忘れてた……! 研究所にいたのは普通のニャースじゃないんだよ!!」
かすみ「……? 普通のニャースじゃない……?」
普通じゃないニャースってなんだろう……?
しずく「研究所のいたのはアローラニャースなの!!」
かすみ「アロー……? なにそれ……?」
しずく「えっとつまり……! 灰色のニャースなんだよ!!」
かすみ「えっ!? じゃあ!?」
さっきまで、灰色のネコポケモンがいた方向を急いで振り返る。
かすみ「い、いない……!! でも、まだ遠くには行ってないはず……!!」
とにかく、かすみんはさっき見た灰色のネコさんポケモンがいた方向に向かって、走り出します。
しずく「か、かすみさん!?」
かすみ「まだ、近くにいるかもしれないから! しず子、教えてくれてありがとう!! ニャースは絶対捕まえて戻るから、しず子は絶対メッソンのこと見つけてよね!!」
しずく「! わかった!」
かすみ「ゾロア、行くよ! ちゃんとニャースを捕まえて、汚名挽回です!!」
「ガゥッ!!!!」
ここで取り返さなくちゃいけないんだから!! かすみん、全力で頑張りますよ!!
しずく「あ……汚名は返上するもの……って、行っちゃった……」
「マネネェ…」
🎹 🎹 🎹
歩夢と一緒に、6番道路に向かう道すがら。
歩夢「…………」
侑「うーん……やっぱ、風斬りの道の方まで行っちゃってるのかな……」
歩夢「…………」
侑「……歩夢、大丈夫?」
歩夢「え? あ、ごめん、何かな?」
侑「……。……やっぱり、歩夢何か落ち込んでる?」
歩夢「え!? ど、どうしてそう思うの……?」
侑「なんか、研究所での一件以来、いつもより口数が少ないなってずっと思ってたんだ」
歩夢「あ……」
他に喋っている人がたくさんいたから、会話に入ってこなかっただけなのかとも思っていたけど……こうして二人っきりになると、いつもより明らかに口数が少ないのがよくわかる。
歩夢は私からの指摘を受けて、少し目を逸らしてから、それについて言うか否かを迷っている素振りをしていたけど……。
歩夢「……やっぱり、侑ちゃんには隠し事……出来ないね、あはは」
そう言いながら、力なく笑う。
侑「どうしたの? 話、聞くよ?」
歩夢「……えっと、ね」
侑「うん」
歩夢「……こうなっちゃった原因……私にもあるのかなって……」
侑「え?」
私はポカンとしてしまった。歩夢にも原因があるって……?
歩夢「ほら、博士のドンカラスがゾロアを捕まえたとき……私、泣いてるゾロアが見てられなくって……」
そこまで聞いて、歩夢が何を思い悩んでいるのかはわかった。歩夢らしいと言えば歩夢らしいかな……。
歩夢「……私があのとき“うそなき”だって、ちゃんと気付けてれば……博士を止めてなければ……あそこまでゾロアが大暴れして、研究所があんなことになったりしなかったんじゃないかなって……」
侑「考えすぎだよ」
歩夢「で、でも……!」
侑「確かに歩夢は素直すぎて、ああいう嘘が見抜けないところがあるのは知ってるよ、昔から」
歩夢「ぅぅ……」
侑「でも、それは歩夢が優しいからであって、悪い部分じゃないよ」
歩夢「……侑ちゃん……でも……」
侑「だから、歩夢はそのままの歩夢でいて欲しいな。歩夢が打算的になっちゃったら、私ちょっとやだな……ね、サスケもそう思うでしょ?」
「シャー」
歩夢「きゃっ……サ、サスケ、くすぐったいよ……」
私の言葉を受けて、サスケは歩夢の頬をチロチロと舐める。そして、そんなサスケ同様、
「バニバニッ」
ヒバニーも歩夢の頭の上でぴょこぴょこと跳ねる。
歩夢「わわ……! 頭の上で跳ねないで~……」
侑「ほら、サスケもヒバニーも、今の優しい歩夢でいて欲しいって言ってるよ」
歩夢「……うん」
侑「だから、自分が悪かったなんて思わないで欲しいな」
歩夢「侑ちゃん……うん」
侑「それにもし今後、歩夢を騙したり、歩夢に酷いことする人が現れたら……」
歩夢「現れたら……?」
侑「私が絶対、歩夢のこと守るからさ!」
歩夢「……!」
歩夢は私の言葉を聞いて、びっくりしたように目を見開いた。
歩夢「ホントに……?」
侑「もちろん! 何かあったら守るし、助けるよ! 約束する!」
歩夢「……そ、そっか……えへへ、ありがとう、侑ちゃん……」
歩夢は少し頬を赤らめながら、嬉しそうにはにかむ。ち、ちょっとかっこつけすぎたかな……?
いや、でも何かあったら歩夢のことは私が守る! それは本心!
歩夢「侑ちゃん」
侑「ん?」
歩夢「私も……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……」
侑「ふふ、ありがと、歩夢♪」
歩夢の言葉を聞いて安心する。
どうやら心のつっかえは取れたようでよかった。
一安心したところで、私たちは間もなく6番道路に差し掛かろうとしていた──そのとき、
侑「……あ!?」
歩夢「え、どうかし──あっ!!」
二人で同時に声をあげる。
なぜなら、ちょうど視線の先に──
「ロル…?」
茶色いうさぎポケモン──ミミロルの姿があったからだ。
侑「やっと1匹見つけた……!!」
本来探していたゴルバットとは違うけど、運よく見つけたミミロルに向かって、ダッシュする。
歩夢「侑ちゃん!?」
「ロル!?」
侑「ミミロル、確保ー!!!」
そのまま、ミミロルに飛び付くようにして、捕獲──
「ロルー!!!?」
侑「よし!! 捕まえた!!」
両手でしっかりとミミロルを捕まえることに成功……!!
「ロルッ!!! ロルゥッ!!!!!」
侑「わわ!? あ、暴れないで……!!」
私は暴れるミミロルをどうにか押さえながら、捕獲用のボールに手を伸ばす──その際に、私はミミロルの右耳に触れてしまった。
その直後──
「!!!!! ロォルッ!!!!!!!」
侑「っ!!?」
ミミロルの左耳が勢いよく伸びてきて、鼻っ柱に直撃。その勢いはとてつもなく、そのまま吹っ飛ばされて、私は地面を転がる。
侑「いったあああああ!?」
歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」
侑「ぐぅぅぅ……ど、どうにか……」
体育の授業で、ボールを顔面に食らったとき……いやそれ以上の衝撃だったかも……。鼻を押さえて、痛みを堪えながら、私はどうにか上半身だけでも身を起こす。
「ロルゥッ…!!!!!」
ミミロル、めちゃくちゃ警戒してる……ど、どうしよう……。
小柄で可愛らしいポケモンだったから、素手でも平気だと思ったんだけど……やっぱりポケモンのパワーはとんでもないことを思い知らされた。
歩夢「…………私が行くね」
侑「え!?」
突然、歩夢が一人で前に出る。
侑「あ、歩夢!! 危ないよ!!」
歩夢「…………大丈夫、私に任せて」
侑「あ、歩夢……」
歩夢「ミミロル。ごめんね、怖がらせて」
「ロルッ…!!!!!!」
ミミロルは依然警戒していて、歩夢のことを威嚇している。
歩夢「ごめんね、研究所で静かに暮らしてたのに……急に大きな音がして、怖かったんだよね」
「ロルゥゥゥッ!!!!!!!」
歩夢「あそこにいたら危ないって思って、逃げて来たんだよね……ごめんね、怖い思いさせて……」
「ロ、ロルゥ…!!!」
歩夢「だけど、お外には野生のポケモンもいて、もっと危ないの……だから、一緒に研究所に帰ろう?」
「ロ、ロル…!!!」
歩夢「大丈夫、怖くないよ」
歩夢は言いながら、ミミロルに手を伸ばす。
ミミロルの──耳に。
侑「!! だ、ダメ!! 歩夢ッ!!」
さっき殴られたからわかる。ミミロルは耳を触られると反射的に殴り返してくる……!!
私は跳ねるように立ち上がって、歩夢の方へダッシュしたけど──
歩夢「よしよし……良い子だね」
「ロルゥ…」
侑「……って……へ?」
ミミロルは歩夢に“右耳”を撫でられて、気持ちよさそうにしているだけだった。
侑「な、なんで……?」
さっきとあまりに違う状況に事態が飲み込めず、ポカンとする。
歩夢「あのね、この子の耳なんだけど……」
侑「……?」
歩夢「右耳は綺麗な毛並みなのに対して、左耳は何度も打ちつけたように荒れてるなって思って」
侑「え?」
歩夢に言われて、ミミロルをよく見てみると──確かにミミロルの耳は左右で毛並みが全然違っている。
歩夢「もしかして、普段からお手入れをしてもらってるのは右耳だけで、左耳は武器になってるから、あんまり触らないようにしてるのかなって思って」
「ロルゥ…」
侑「歩夢、知ってたの……?」
歩夢「うぅん、なんとなく……ミミロルのこと見てたら、そうなのかなって」
侑「そ、そっか……」
そういえば歩夢って、ポケモンを毛づくろいしてあげるのが、昔からすごくうまかったっけ……。
そのお陰か、いろんなポケモンとすぐ仲良くなれちゃうんだよね。
侑「歩夢は相変わらずすごいね……」
歩夢「え? 何が?」
侑「うぅん、ミミロル大人しくなってくれてよかったね」
歩夢「あ、うん!」
侑「とりあえず、ボールに……」
私は改めて、博士から渡されていた捕獲用のボールをミミロルに向けると──
「ロルッ!!」
耳が伸びてきてバシッ──とボールを弾き飛ばされる。
侑「あ、あれ……? なんか、私嫌われてる……?」
やっぱり、さっきうっかりミミロルが嫌がるところを触っちゃったのがよくなかったかな……。
歩夢「ミミロル、少しの間だけど……ボールの中で待っててくれないかな? すぐにお家に戻れるから……ね?」
「ロル…」
ミミロルは歩夢のお願いを聞くと、歩夢の腰辺りをもぞもぞと探ったあと、
「ロル──」
歩夢の腰についている空のボールに、自ら入って行った。
歩夢「ふふ、ありがとうミミロル♪」
侑「……」
歩夢「よし! それじゃ、このままゴルバットも……──侑ちゃん? どうかした?」
侑「いや、なんでもない。それより、ゴルバットだよね!」
歩夢「あ、うん!」
ミミロルからの扱いの差に思うところがないわけじゃないけど……今は捜索の続き、続き……!
👑 👑 👑
──セキレイシティ南の道路……8番道路。
かすみ「ニャースー!!! 出て来てくださーい!!」
「ガゥガゥッ」
ニャースを追いかけて8番道路まで来ちゃったけど……完全に見失っちゃいました……。
かすみ「8番道路って、特に特徴もない道なんですけど……だだっぴろいし、背の高い草むらも多くて探しづらいんですよね……」
「ガゥゥ…」
かすみ「こーなったら、高いところから見渡して……!」
かすみんは辺りをキョロキョロと見回します。
道幅の広い道路の中で高い場所といえば──
かすみ「看板!!」
この道路には『⑧』と書かれた、8番道路であることを示す標識ポールがあります。
高さで言うと、かすみん1.5人分くらいあります! 高さは十分のはず……!
かすみ「……あ、でもかすみん、今スカートでした……」
かすみんは旅のお洋服も可愛いのがいいから、お気に入りのスカートを履いてきているんです☆
かすみ「これは……看板を登るのは無理ですね」
「ガゥ…」
かすみ「ちょっと、ゾロア呆れないでよ!? 可愛い女の子として、ここは超えちゃいけないラインでしょ!? 呆れるくらいなら、ゾロアが登ってよ!」
「ガゥ」
ぷんぷん頬を膨らませる、かすみんの言葉を受けて、ゾロアがぴょんっとポールに飛び付きます。
──が、
「ガゥゥ…」
ゾロアは情けない声をあげながら、ずるずるとポールの根本まで滑り落ちていきます。
身軽なゾロアと言えど、さすがに表面がつるつるなポールを登るのは難しいみたい……。
かすみ「……というか、冷静に考えてみると、この垂直のポールを登るのはかすみんでも無理かも……」
「ガゥガゥッ!!!!」
かすみ「わ!? お、怒んないでよー!!」
でも、どうしよう……改めて辺りを見回しても、ぼーぼーな草むらのせいで、ガサガサガサガサと何かがいる音こそするものの、何がいるのかが全然見えません……。
かすみ「揺れてるところを虱潰しで探すしかないかなぁ……」
一周して戻って来てしまった結論に頭が痛くなる。早く見つけたいのにぃ……。
そのときだった──カタカタカタと、腰の辺りで何かが震え出す。
かすみ「わ!? な、なんですかなんですか!?」
慌てて、自分の腰周りに目をやると──
かすみ「……モンスターボール?」
何故か、モンスターボールが震えています。……あれ? かすみん、今連れているのはゾロアだけのはず──
かすみ「……あ!」
……そういえば、忘れていました!
腰のボールをポンっと放ると──
「キャモ」
かすみ「キモリ……返すのをすっかり忘れてました……」
ヨハ子博士に返し忘れていたキモリが顔を出しました。
よく考えてみればかすみん、ヨハ子博士のユキメノコに捕まったあとはそのまま折檻もといお説教を受けていたので、返すタイミングがありませんでしたね。
ところで、
かすみ「キモリは何しに出てきたの……?」
「キャモ…?」
訊ねるとキモリは、先ほどまでかすみんとゾロアが必死に登ろうとしていた看板ポールに飛び付き、
かすみ「お、おぉ……!?」
そのまま、ひょいひょいと上に登っていくじゃありませんか!
かすみ「もしかして、手伝ってくれるの!?」
「キャモ!!!」
あっという間に看板の上にまで登り切ったキモリは、そこから辺りを見回し始めます。
かすみ「キモリー! そこから、ニャースの姿、見えますかー?」
「キャモ…」
キモリは看板の上で、前傾姿勢になって、見下ろしていますが、どうにもうまく行ってないみたい。
やっぱり、背の高い草むらは上から見ても邪魔ということですね……。せめて、ニャースがもっと派手派手な色だったり光っていたりしてくれれば……。
かすみ「ん……? 光って……? ……そうだ!」
そこでキュピピーンと、かすみん名案を閃いちゃいました!
かすみ「キモリ!」
「キャモ…?」
かすみ「かすみんが、ニャースを“光らせます”! キラキラしたのを見つけたら、教えてくれますか!?」
「キャモッ!!」
キモリが頷いたのを確認して──
かすみ「行くよ! ゾロア! “にほんばれ”!!」
「ガゥガゥッ!!!!」
ゾロアに指示したのは“にほんばれ”! 日差しを強くする補助技です!
かすみん、ゾロアと一緒にイタズラする……じゃなくて、いろんな状況に対応するため、便利な技をたくさん覚えさせているんですよね!
ニャースの額には小判が付いています。だから、天から強い日差しが降り注げば──
「!! キャモッ!!!!」
──小判に光が反射するから、よく見えるはず!!
かすみ「そこですね!! ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
キモリが指差した先に、ゾロアを振り被って、
かすみ「いっけぇぇぇぇ!!!!」
投げ飛ばします!!
「ガゥゥゥッ!!!!!」
草むらに飛び込むと同時に行う奇襲の一撃!!
かすみ「ゾロア!! “ふいうち”!!!」
「ガゥァッ!!!!!」
「ンニャァッ!!!?!?」
かすみ「! 手応えありです!!」
かすみん、ニャースの鳴き声を確認すると同時に走り出します。
ニャースがいるであろう草むらを回り込んで逆側に走ると──
「ンニャッンニャァッ!!!!!」
「ガゥッガゥガゥッ!!!!」
草むらから追い出されたニャースが、ゾロアと取っ組み合いをしている真っ最中……!
かすみ「今です!! モンスターボール!!」
「ニャァッ!!!?」
かすみんの投げたボールはニャースの額の小判に直撃! そのままニャースは、ボールに吸い込まれていきました。
かすみ「……や、やったあああああ!!! 捕獲出来ましたぁー!!!」
「ガゥガゥッ!!!」
喜ぶかすみんに飛び付いてくるゾロア、そして──
「キャモッ」
かすみ「キモリも、ありがとね!」
「キャモッ」
任務を終えて、看板から降りて来たキモリにもお礼を言う。
かすみ「それじゃ、一旦戻りましょうか! 他のみんなのお手伝いに行きましょう!」
「ガゥッ」「キャモッ」
かすみんは8番道路をあとにして、一旦セキレイシティへと戻るのでした。
🎹 🎹 🎹
ミミロルを捕まえたその後──私たちは6番道路をさらに奥に進んでいた。
侑「ゴルバット……見当たらないなぁ」
歩夢「うん……」
「バニィ…」
それなりに大きなポケモンだし、飛んでいれば見つけられそうなものだけど……。
侑「もしかして、もう別の場所に行っちゃったのかなぁ……?」
歩夢「その可能性はあるよね……」
辺りを見回すと、ポッポやマメパトといった鳥ポケモンたちがたくさん飛んでいるのが目に入る。
ここ6番道路──通称『風斬りの道』はサイクリングロードとなっている橋の周りを、たくさんの鳥ポケモンが飛んでいることで有名だ。たぶん鳥ポケモンやひこうタイプのポケモンが好む気候なんだと思う。
もしかしたら、ひこうタイプのゴルバットも同じような理由で自然とここに来たのかと思ったけど……。
侑「とりあえず、橋の下だけでも確認してみよっか」
歩夢「うん。橋の上は自転車がないと探せないもんね」
橋の脇にある階段を伝って、河原の方へと降りていく。
侑「そういえば、小さい頃一緒に遊びに来たっけ」
歩夢「ふふ、そうだったね。ここは近くにある一番おっきな川だから、よくお母さんたちに連れて来てもらってたね」
侑「フワンテにだけは気を付けなさいよ~って言われたっけ」
歩夢「そうそう♪ あ、覚えてる? ここでかくれんぼしたときのこと……侑ちゃん、橋の下に隠れるの好きだったよね?」
侑「あったあった! 柱の裏側って意外と死角になったりするんだよね♪」
歩夢「お昼でも、日が当たらなくて薄暗くなる場所だと特に……侑ちゃん、いっつも黒い服着てるから、見つけるの大変だったよ……」
侑「あはは、私の作戦勝ちだね♪」
昔を懐かしみながら、橋桁の裏を覗く──案外私と同じでここに隠れていたりして……。
侑「……まあ、そんなに都合よく行かないか」
橋桁の裏は、昔歩夢と遊んだときのように、日が当たらず薄暗い。ゴルバットみたいなコウモリポケモンは好きそうだなって思ったんだけど……。
「…シャーボ」
歩夢「ん? サスケ? どうしたの?」
侑「ん?」
普段おとなしいサスケが急に鳴き声をあげた。
歩夢「そういえば……」
侑「ん?」
歩夢「かくれんぼのとき、最終的に侑ちゃんを見つけたの……サスケだったよね」
侑「……そうだったかも。たしか、アーボには熱で獲物を探す能力があるって、歩夢のお母さんが……」
気付けば、橋桁の上の方を見上げるサスケに釣られるように上を見る。
日が完全に遮られて薄暗い中、整備用に取り付けられたであろう小さな足場の先に──何かの影が見えた。
侑「!? 何かいる!?」
見つけたと同時に──その何かは大きく口を開いた。
侑「!! ゴルバ──」
──キィィィィィィィン!!!!!!
侑「い゛ッ!!?」
歩夢「っ゛!!?」
標的の名前を叫ぶと同時に──私の声を掻き消すように、耳障りな音が辺り一帯に響き渡る。
「ヒ、ヒバニッ…」
歩夢「ヒバニー……!?」
歩夢の頭にしがみついていたヒバニーが目を回して落っこちそうになったところを歩夢がキャッチする。
侑「こ、これ……ッ……ゴルバットの……ッ……“いやなおと”……ッ……!?」
もしかしたら、耳の大きなヒバニーには、この音の影響が大きいのかもしれない。
歩夢もすぐに気付いたのか、ヒバニーの耳を塞ぐように胸に抱き寄せる。
それだけじゃない、近くの草むらから小型の鳥ポケモンが一斉に飛び立ち、他にもコラッタやオタチといった小型のポケモンたちが草むらから飛び出して逃げ回っている。
歩夢「とにかく……っ……音を……どうにか、しなきゃ……っ……!!」
「シャボッ…!!」
歩夢「サスケ……!! “どくばり”……!!」
「シャーーーッ!!!!」
サスケがゴルバットに向かって、小さな毒の針を無数に吐き出す。
「ゴルバッ!!」
サスケの攻撃に気を散らされたのか、小さな鳴き声と共に“いやなおと”が止む。それと同時に──バサッと大きな翼が開かれ、ゴルバットが橋桁から飛び出した。
「ゴルバッ…!!!!」
ゴルバットは私たちの姿を認めると──大きく翼を振るって、
侑「!? 歩夢!! 危ない!!」
歩夢「え!? きゃっ……!!」
風の刃を飛ばしてきた。“エアカッター”だ。
間一髪、歩夢の手を引いて、無理やり自分の方に抱き寄せると──先ほど歩夢がいた場所が風の刃に切り裂かれて、河原の地面が軽く抉りとられる。
侑「歩夢!? 怪我は……!?」
歩夢「だ、大丈夫……ありがとう……」
ホッとするのも束の間──ゴルバットに目をやると、大きな翼で空を旋回しながら、私たちを睨みつけている。
侑「敵だと思われてる……?」
歩夢「ゴルバット……! 私たち、あなたをお家に返してあげようとしてるだけで……!」
「ゴルバッ!!!」
歩夢の声を掻き消すように、再び飛んでくる風の刃。
侑「っ……!!」
私は歩夢の腕を引いて、走り出す。
とどまってちゃダメだ……!!
歩夢「ゆ、侑ちゃん……! どうしよう……あのゴルバット、全然お話聞いてくれない……!」
侑「ミミロルみたいにはいかなさそうだね……! 歩夢、戦おう……!!」
歩夢「え、ええ!? で、でも……! 私、戦い方なんて、わ、わかんないよ……!!」
侑「でも、やらなきゃ……!」
歩夢と問答している間にも──
「ゴルバッ!!!!」
侑「!!」
ゴルバットが大きな牙を歩夢に向けて、飛び掛かってくる。やるしかない……!!
侑「サスケ!! “とぐろをまく”!!」
「シャーーーボッ!!!!」
私の指示と共に、歩夢の肩の上でサスケがとぐろを巻いて、防御姿勢を取る。
──ガッ!! 鈍い音と共にゴルバットの攻撃をサスケが体で受け止める。
今だ……!!
侑「モンスターボール!!」
腰から外したモンスターボールを投げつける──が、
「ゴルバッ…!!」
察知したのか、すんでのところで躱され、ゴルバットは再び上空へ。
侑「くっ……! 歩夢!! とにかく、隙を作って!!」
歩夢「わ、わかった……! が、がんばる……!」
「ヒバニッ」
歩夢「ヒバニー……! もう平気なの?」
「バニッ!!!!」
先ほど目を回していたヒバニーも復活したようで、歩夢の腕の中から外に飛び出す。
歩夢「じゃあ、お願い! 一緒に戦って! “ひのこ”!!」
「バニィーーー!!!」
「ゴルバッ!!!?」
小さな火球がゴルバットに直撃する。
侑「よし……!! 効いてるよ、歩夢!!」
歩夢「うん!」
このまま弱らせて、捕獲したい。とはいえ、ゴルバットもただやられてはくれない。
「ゴルバッ!!!!」
今度はヒバニーを標的とした“エアカッター”。
歩夢「ヒバニー!! 走って!!」
「バニッ!!!!」
ヒバニーは走り回りながら、“エアカッター”を避け、
「バニーーーッ!!!!!」
隙を見つけて、“ひのこ”をゴルバットに撃ち込む。
侑「よし……!! この調子で……!!」
「ゴルバァッ…!!!」
良い調子かと思ったら、
「ゴ、ルバァァッ!!!!!!」
急にゴルバットが辺り一帯に無差別に“エアカッター”を乱発し始めた。
侑「う、うわぁ!?」
歩夢「お、怒ったのかも……!」
侑「て、撤退ー!!」
歩夢の手を引いて、橋桁の裏へと走る。
その間もヒバニーは走り回りながら上手に攻撃を避け続けているけど……。
侑「ど、どうしよう……もっと強い攻撃を当てないと……!」
このままだと、いつかヒバニーも攻撃に被弾して、やられてしまうかもしれない。
歩夢「もうちょっと……もうちょっとだけ待てば……」
侑「え?」
歩夢「たぶん……もうちょっと頑張れば、強い攻撃……出来ると思う」
侑「ホントに……?」
歩夢「……うん」
歩夢が何をしようとしているのかはわからない。だけど、さっきのミミロルのように、歩夢は何かに気付いたのかもしれない。
なら、今はヒバニーと歩夢を信じて、そのときを──
「──……ブィ」
侑「え?」
歩夢「? 侑ちゃん?」
侑「今……何か……聞こえた気が……」
小さくか細い鳴き声が──
声の聞こえてきた方に目を凝らす。
ヒバニーがちょこまかと走り回りながら、ゴルバットの“エアカッター”を避け続けているバトルフィールドの少し先に──小さな何かが蹲っていた。あれは──ポケモン……!?
侑「!? 逃げ遅れた野生のポケモンだ!?」
歩夢「えっ!?」
先ほどの“いやなおと”で周りの野生ポケモンは全て逃げてしまったんだと思い込んでいたけど──逃げ遅れたポケモンがいたんだ……!!
侑「あのままじゃ、巻き込まれちゃう……!!」
私は咄嗟に橋桁から飛び出して、逃げ遅れたポケモンのもとへと走る。
歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」
侑「歩夢はそこにいて!!」
叫びながら、私は一直線に走る。
無謀なのは承知だ。でも、何も関係ない子を巻き込むわけにはいかない。
「ブイィィ……」
か細い鳴き声がどんどん近くなる。
それと同時に、風を薙ぐ音が何度も自分の間近を通り過ぎる。
急げ、急げ、急げ……!!
「ブィィィ……」
──あと、ちょっと……!!
あと大股で何歩か、というところで──私の背後から、風の刃の音が迫ってくるのが聞こえた。
歩夢「──侑ちゃん!!!! 避けてえええええ!!!!!」
歩夢の悲鳴のような声が響く。私の背後に“エアカッター”が迫っていることがわかった。
──ダメだ、今避けたら、あの子に当たる……!!
侑「うあああああああああああああっ!!!!」
一か八か……! 私は地面を蹴って、頭から飛び込んだ──
「ブイッ…!!!」
ポケモンを抱き寄せながら、
侑「……ッ!!!!」
地面を転がる。──ズシュッ! 嫌な音がした。
侑「……ッ゛……!!」
肩に走る鋭い痛み。
「ブイ……」
心配そうな鳴き声が、胸元から聞こえて来た。
侑「……あはは……大丈夫、大丈夫……掠っただけだから……それより、君は大丈夫だった……?」
「ブイ……」
侑「無事みたいだね……よかった……」
「ブィィ…」
侑「……早く、お逃げ……」
「ブイ…」
胸の中から這い出てくる小さなポケモンに逃げるように促し、その子の壁になるように片膝を突きながら立ち上がる。
肩の切り傷もだけど……河原の石の上を転がったから、全身が痛い。
「ゴルバッ!!!!!!!」
未だ怒り狂うゴルバットの姿。
その攻撃を避けながら、走り回るヒバニーの姿。そして、気付けば、走り回るヒバニーの足元は赤く赤熱していた。
これが歩夢の言っていた強い攻撃の予兆……!
もう少しで歩夢たちがどうにかしてくれると思った瞬間──再び、私に向かって、風の刃が飛んできた。
侑「──……あ」
──周りがスローモーションになったように感じた。ゆっくりと風の刃が私の真正面に迫ってくる。
──もうダメだと……思った。そのときだった。
「──ブイ」
──トンと、私の背中、肩、そして頭へと、何かが駆け上がっていく。
その何かは、そのまま私の頭を踏み切って──
「ブイィィィィ!!!!!」
私の目の前に迫る、風の刃の前で──眩く光った。
「ブイ」
侑「う、嘘……?」
気付けば、先ほどまで迫っていた風の刃はその光に掻き消され、綺麗さっぱり消えていた。
歩夢「ヒバニー!!!!」
侑「!」
目の前の光景に、呆けていたのも一瞬。歩夢の声で意識を引き戻される。
「バーーニニニニニ!!!!!!!」
気付けば、猛スピードになりながら、走った道を真っ赤に燃やすヒバニーの姿が目に入ってくる。
歩夢「いけっ! ヒバニー!!」
「バーーーニィ!!!!!!!」
ヒバニーは歩夢の合図と共に、進路を橋桁の方に変え──猛スピードの勢いのまま、橋桁を一気に垂直に駆け上がり──
「ゴルバァッ!!!!!!」
空中で怒り狂っているゴルバットに高度を合わせて──
「バーーーニィッ!!!!!!!」
柱を蹴る反動で──燃え盛りながら飛び出した……!!
歩夢「“ニトロチャージ”!!!」
「バニィィィーーーーーー!!!!!!!」
燃え盛る炎の突進が──
「ゴ、ルバァッ!!!!!?」
ゴルバットに直撃した。ゴルバットはその衝撃で河原に墜落し──
「ゴ、ゴルゥ……」
目を回して、戦闘不能になったのだった。
侑「……そうだ、捕獲……!!」
私は地面で伸びているゴルバットに向かってボールを投げつけた。
──パシュンと音がして、ゴルバットがボールに吸い込まれる。
侑「はぁ……よかった……」
へたり込んだまま、安堵する。
歩夢「よくないよっ!!」
侑「うわぁ!?」
気付けば、歩夢がすぐそこで私のことを見下ろしていた。……目の端に大粒の涙を浮かべて。
歩夢「なんで、あんな無茶したの!?」
侑「えーあー……いや……」
歩夢「もう少しで大怪我するところだったんだよ!?」
侑「その……でも、本当に掠り傷だったから……」
肩の傷も、ちょっと表面に切り傷が出来た程度で本当に掠っただけだ。
歩夢「侑ちゃんに何かあったら……私……っ……」
侑「ご、ごめん……歩夢……私、必死で……」
「ブイ…」
そのとき私の近くで鳴き声がして、ハッとする。
侑「そうだ……君が助けてくれたんだよね?」
「ブィ…」
気付けば先ほど助けたポケモン──茶色くてふわふわの毛を身に纏ったポケモン……イーブイが私に身を寄せてきていた。
侑「さっきの技……もしかして、“とっておき”?」
「ブィ…」
侑「すごい……!! “とっておき”って、千歌さんのネッコアラもよく使ってた大技だよね!?」
「ブイ…?」
侑「あれ? でも、“とっておき”って、いくつか技を使ったあとじゃないと、出せないんじゃないっけ……」
「ブイ…」
侑「あ……! もしかして、ずっと“なきごえ”をあげてたから……!?」
「ブイィ…」
歩夢「──……侑ちゃん? 反省してる?」
急に怒気の籠もった声にビクっとする。
侑「し、してるしてる!! ごめん!! でも、ホントに大した傷じゃなかったから、ね!?」
歩夢「はぁ……もう……」
「バニバニッ」
私たちの様子を見て、歩夢の頭にしがみついているヒバニーが笑っている。
侑「そういえば、さっきのヒバニーの技……」
歩夢「あ、うん……ヒバニーの足の裏と鼻の頭にある、この黄色い模様なんだけど……」
「ヒババニッ」
歩夢が説明しながら触れるとヒバニーはくすぐったそうに声をあげる。
歩夢「ここね、なんだかヒバニーが動くたびにちょっとずつ温かくなってる気がしたの」
侑「そうなの……?」
私もヒバニーの足の裏の黄色い模様に触れてみると、たしかに温かい。
歩夢「それで、ほのおタイプのポケモンだし……もしかしたら、ここから熱を放出して戦うんじゃないかと思って」
侑「そっか……! 走り回って上がった体温が、炎になってここから放出されるんだ……!」
歩夢「うん。そうなんじゃないかなって」
侑「すごいよ歩夢! よく気付いたね!」
歩夢「えへへ……なんとなく、そうなのかなって思っただけだったんだけど……当たっててよかったよ」
歩夢は言いながらはにかむ。
歩夢「それより、一旦研究所に戻ろう?」
侑「あ、うん。そうだね。ミミロルもゴルバットも捕まえたし……」
歩夢「侑ちゃんの怪我の治療もしなくちゃいけないし」
侑「え? それは別に……」
歩夢「ダメ! 怪我を甘く見ちゃいけないんだよ!」
侑「ぅ……はーい……」
「ブィ…」
歩夢は私の手を強引に引っ張りながら、研究所への道を戻っていくのだった。
💧 💧 💧
しずく「……はぁ」
「マネ…」
マネネと一緒に溜め息を漏らす。
しずく「メッソン……本当にどこに行ってしまったんでしょうか……」
「マネ…」
メッソンはみずポケモンです。研究所から比較的近い8番道路側の池や、街中の噴水なども探しましたが……メッソンを見つけることは出来ませんでした。
マネネと二人、項垂れていると、
かすみ「しず子~!」
しずく「あ……かすみさん」
8番道路側から、かすみさんが走ってくるのが見えた。
かすみ「見て見て! ニャース捕まえたよ!」
しずく「ほ、本当!?」
かすみさんはそう言いながら、ニャースが入っているであろうモンスターボールを私に見せてくれます。
かすみ「かすみんの大活躍、しず子にも見せてあげたかったよ~」
しずく「ふふ、かすみさん、頑張ったね。ナデナデ♪」
かすみ「えっへん! かすみんこれで名誉返上ですよ!」
しずく「あはは……」
「マネネ…」
名誉は挽回して欲しいなぁ……。
侑「かすみちゃーん! しずくちゃーん!」
かすみさんに苦笑いしていると、今度は街の西側から侑先輩の声。
しずく「侑先輩! 歩夢さん!」
かすみ「って、侑先輩ボロボロじゃないですかぁ!?」
かすみさんの言うとおり、侑先輩はあちこち傷だらけで、服もボロボロです……。
侑「あはは……ちょっといろいろあって……」
歩夢「侑ちゃん、すぐに無茶するから……」
歩夢さんがぷくーっと頬を膨らませると、侑先輩は罰が悪そうに目を逸らす。何があったのかはわかりませんが……侑先輩が相当身体を張ったのだということはわかりますね。
それと、もう一つ気になることが……。
しずく「あの侑先輩」
侑「ん?」
しずく「その子は……」
私は侑先輩の足元に視線を注ぐ──侑先輩の足元に寄り添っている、小さなポケモンに。
「ブイ…」
侑「あ、えっと……なんか、付いてきちゃって……」
歩夢「ふふ、すっかりなつかれちゃったね」
かすみ「って、そのポケモンイーブイじゃないですか!? 可愛いぃ! 羨ましい!」
しずく「……文脈を読み取るに……侑先輩が捕まえたわけじゃないんですね?」
侑「うん。野生の子なんだけど……」
侑先輩の言葉を聞いて、かすみさんの目が光る。
かすみ「だったら、かすみんが捕獲します!! バトルですよ!! イーブイ!!」
しずく「かすみさん、めっ!」
かすみさんの目の前で人差し指を立てながら、制止する。
かすみ「じ、邪魔しないでよ、しず子~!」
しずく「ポケモンにも“おや”を選ぶ権利があります。イーブイ、貴方はどうしたいですか?」
「ブイ…」
私がイーブイに向かって訊ねると、
「ブイ」
侑「わわ!?」
イーブイはぴょんぴょんと跳ねながら、器用に侑先輩の身体をよじ登り、
「ブイ…」
侑先輩の肩の上で腰を下ろして、落ち着いた。
歩夢「イーブイ、侑ちゃんと一緒にいたいみたいだね♪」
侑「……イーブイ、私と一緒に冒険してくれる?」
「ブイ」
しずく「ふふ、きっとイーブイも『うん』って言ってますよ♪」
かすみ「むー……わかりました。侑先輩、かすみんの分もそのイーブイ、可愛がってあげてくださいね」
侑「うん! 任せて!」
「ブイ」
欲望に忠実なかすみさんも、今回はどうにか納得してくれた様子。
しずく「そうだ……侑先輩、歩夢さん、首尾はどうですか?」
歩夢「あ、うん! 私たちはミミロルとゴルバットを捕まえたよ!」
かすみ「ホントですか!? かすみんはニャースをばっちり捕まえちゃいましたからね!」
侑「ホントに!? それじゃ、メッソンも……!」
3人の期待がこちらに向く。ですが……。
しずく「すみません……メッソンはまだ……。ご期待に沿えず申し訳ないです……」
かすみ「そっか……じゃあ、あとはメッソンを探そう!」
侑「4人で手分けすればきっと見つかるよ!」
歩夢「その前に、侑ちゃんは怪我の手当てが先……!」
侑「わわ!?」
歩夢さんが侑先輩を引き摺りながら、
歩夢「手当てが終わったら、すぐ手伝いに戻るからね」
侑「ふ、二人ともまたあとで~」
研究所の方へ行ってしまいました。
かすみ「……それじゃ、しず子! かすみんは東の9番道路の方探してみるね!」
しずく「わかった。お願いね、かすみさん!」
──パタパタと走り去るかすみさんの背中を追いながら、思う。
しずく「……皆さん、ちゃんとポケモンを見つけたんですね。……何も出来ていないのは……私だけ……」
「マネ?」
しずく「うぅん、なんでもない。頑張って見つけよう、マネネ」
「マネ…」
💧 💧 💧
──その後、私たちはメッソンの捜索を続けましたが……。
かすみ「しず子~!」
しずく「かすみさん……」
かすみ「一旦、研究所に戻ってこいって、ヨハ子博士が……」
しずく「……でも、まだメッソンが……」
かすみ「もう日が暮れちゃうからって……」
しずく「……」
確かに、気付けば日は傾き、空には茜が差し始めました。
しずく「……私はもう少しだけ」
かすみ「しず子……でも、夜になっちゃうよ」
しずく「……日が落ち切ったら、それこそ見つかるものも見つからなくなっちゃうよ。それに……」
かすみ「それに……?」
しずく「私だけ……まだ何も出来ていない。このまま、戻るわけには行かないよ……」
「マネ…」
マネネも心配しているのがわかる。だけど……私だけ何も出来ないままなわけにはいかない。
しずく「私だって……博士に選ばれたトレーナーなんだから……っ……」
かすみ「しず子」
かすみさんが私の肩を掴む。
かすみ「どうしちゃったの……? 今のしず子、なんか変だよ……」
しずく「……かすみさんも侑先輩も歩夢さんも、みんな自分の役割を全うしてるのに……私だけ……」
かすみ「でもでも、これは元はと言えばかすみんが悪いだけで……しず子のミスじゃないじゃん!」
しずく「…………」
かすみ「だから、しず子がそこまで気負う必要ないよ……確かに、メッソンを選ぶって決めてたしず子にとって、特別な思い入れがあるってことは、かすみんもわかってるけど……」
しずく「……そうじゃない」
かすみ「え?」
しずく「……これは、私のミスでもあるんだよ」
かすみ「……どういうこと……??」
かすみさんが困惑した表情になる。
しずく「……あのとき、ゾロアが暴れ出したとき、私は……私は、自分の身を守るので精一杯だった。歩夢さんは……すぐにヒバニーとサスケさんを抱き寄せていた。侑先輩は歩夢さんを庇って……なのに、私は……メッソンの一番近くにいた私は、何もしなかった」
かすみ「……」
メッソンが臆病なポケモンだってことは、わかっていたのに。あの場で、メッソンを守ってあげることが出来たのは、私だけだったのに。パートナーになろうって、前から決めていたはずの子の一番近くにいたはずなのに、私は……。
しずく「……それなのに、まだメッソンの手がかり一つ見つけられてない。このままじゃ……胸を張って、メッソンのトレーナーになんか、なれないよ……」
かすみ「しず子……」
歩夢さんには、ポケモンを想い、有り余る愛情がある。
かすみさんには、自分のやりたいことを貫く原動力と、それを実現する行動力がある。
じゃあ、私には何がある? 今日この日に一緒に旅立つ二人と肩を並べるには、何がある? わからない。わからないから、せめて──
しずく「メッソンは……私が見つけなくちゃ……!」
パートナーのことくらい、私が見つけてあげなくちゃ……!
かすみ「……わかった。しず子は意外と強情だもんね」
しずく「ごめんね、かすみさん。だから、博士にはもう少し掛かるって──」
かすみ「一旦、研究所。戻るよ」
──グイっと強引に、腕を引かれる。
しずく「えっ!? い、今の話聞いてた!?」
かすみ「聞いてた」
しずく「なら……!!」
かすみ「しず子の持ち味は、そういうとこじゃないもん」
しずく「え……?」
かすみさんは何を……? 持ち味って……? 私は軽く呆けてしまう。
かすみ「そういう諦めないぞ~!! みたいなのは、かすみんのキャラです!! しず子はこう……一歩引いて、冷静に考えて決めるタイプでしょ!!」
「マネマネ!!!!」
かすみ「ね、マネネもそう思うよね!」
「マネ!!」
しずく「……」
かすみ「だから、一旦研究所に戻って、頭冷やした方がいいよ」
しずく「……ごめん」
かすみ「いいよ。許す」
私はかすみさんに腕を引かれたまま、研究所へと戻っていく──
💧 💧 💧
善子「日、完全に落ちちゃったわね……」
博士が窓の外を見ながら、肩を竦める。
歩夢「……メッソン、どこに行っちゃったんだろう……」
善子「臆病なポケモンだからね……。隠れるのも上手なのよ」
侑「うーん……街の噴水広場とか、研究所の近くの池にはいなかったんだよね?」
かすみ「はい……その辺りはすでにしず子が何度も探してくれたので……」
善子「……とりあえず、探すのはまた明るくなってからかしらね……」
しずく「そんな……!」
善子「大丈夫、外はドンカラスとムウマージに捜索させてるわ。あの子たちは暗闇の方が得意だから、きっと見つけてくれる」
しずく「……」
善子「みんな、疲れたでしょ? ロズレイティーでも淹れてあげるわ」
歩夢「あ、手伝います……!」
侑「私も……!」
博士と歩夢さん、侑先輩が部屋から出ていく。
しずく「…………」
「マネ…」
かすみ「しず子……」
しずく「はぁ……ダメだな、私」
かすみ「そ、そんなことないよ!」
しずく「かすみさんはそう言ってくれるけど……良い案なんて全然思い浮かばない」
「マネェ…」
かすみ「だ、大丈夫だよ! メッソン絶対見つかるよ!」
しずく「ふふ……そうだね」
かすみ「気休めとかじゃなくって!! 絶対見つけられる!! だって、かすみんもゾロアも、かくれんぼでしず子から逃げきれたことないもん!! しず子は隠れてる人とかポケモンとか見つける才能、絶対あるから大丈夫だって!!」
しずく「ふふ、ありがと。かすみさん。……でも、ゾロアはともかく、かすみさんはわかりやすいからなぁ」
かすみ「む……そんなことないもん」
かすみさん、かくれんぼだって言うのに、バレバレなところというか……ちょっとだけ裏をかいた感じの場所に隠れるし。
しずく「なんか、性格どおりの場所に隠れるなぁって……」
かすみさんだったらどう考えるだろうって思いながらやると、意外と簡単に見つけられちゃうんだよね。
しずく「……?」
……そこでふと思う。
──『こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪』
『メソ…』
『あ、あれ……? 消えちゃいました……』──
メッソンは私と顔を合わせたときも、すぐに体を透明にして隠れてしまっていた。
しずく「──……そんな臆病で、人見知りな性格のポケモンが……外に逃げるのかな……?」
かすみ「しず子?」
ましてや、今まで研究所の中でしか生活をしたことのないようなポケモンが、緊急事態が起きたからといって、外に逃げ出す……?
いや、最初は気が動転して、逃げ出すかもしれないけど……すぐに戻る気がする。
少なくとも……もし、自分が臆病で人見知りが激しい性格だったとしたら……絶対外になんか、逃げない。
むしろ──
しずく「……もし、私がそうなら……」
私は立ち上がる。
歩夢「ロズレイティー、淹れて来たよ~」
侑「しずくちゃん?」
私は──博士が最初に並べていたボールが置かれた机の前に立つ。
善子「ああ、ボールはあの後一応、元の場所に戻したわ。かすみが持って行ったキモリのボールはないけどね」
かすみ「……ギクッ」
私が“もし、臆病なポケモンだったら”── 一番慣れ親しんだ、安全な場所に戻る。
しずく「──自分のモンスターボールの中に」
私が机の上のボールのボタンを押し込むと──ボムッ。
「メソ…」
しずく「やっと、見つけましたよ。メッソン」
メッソンがボールから飛び出してきた。
歩夢「メッソン、ボールの中に戻ってたの……!?」
侑「どうりで見つからなかったわけだ……!」
しずく「モンスターボールは中にポケモンが入っていても重さが変わるわけではありません。入っていないと思い込んでいたら、誰にも見つけることは出来ない。最高の隠れ場所なわけです」
「メソ…」
私はメッソンを抱き上げる。
しずく「ごめんなさい、メッソン……。もう、何があっても、離したりしませんからね」
「メソォ…」
ぎゅっと抱きしめると、メッソンは私の胸の中で、小さく鳴き声をあげた。
かすみ「しず子~!!」
しずく「きゃっ!?」
急にかすみさんが、私の背中に抱きついてくる。
しずく「か、かすみさん」
かすみ「しず子すごい!! すごいよー!! ホントに見つけちゃうなんて!!」
しずく「えへへ……かすみさんが信じてくれたお陰だよ、ありがとう♪」
「メソ…」
かすみ「……って、あれ? メッソン透明になっちゃいました……?」
しずく「あはは……まだ、かすみさんには慣れてないみたいだね。ボールに戻してあげなきゃ」
私は透明になったメッソンをボールに戻してあげる。
そして、改めてメッソンの入ったモンスタボールを握りしめる。
──確かに重さは変わらないけど、確実にメッソンの重さを感じる……そんな気がした。
善子「──しずく」
しずく「! ヨハネ博士……」
善子「大したものだわ。驚いた」
しずく「いえ……偶然です」
善子「いいえ、偶然なんかじゃないわ。メッソンのことを考えて、メッソンの気持ちに寄り添ったからこそ、貴方はその子を見つけることが出来た。貴方はメッソンのパートナーに相応しいわ」
しずく「……はい!」
善子「──歩夢」
歩夢「は、はい!」
善子「侑から聞いたわ。ヒバニーの能力を引き出して、戦ったそうね」
歩夢「い、いえ……なんとなく思いついただけで……」
「バニバニ」
善子「ふふ、その“なんとなく”がこれから貴方を幾度となく助けてくれると思うわ。ヒバニーと一緒に強くなりなさい」
歩夢「は、はい……!」
「バニ!!!」
善子「──そして、かすみ」
かすみ「! し、仕方ないですねぇ……。ヒバニーは歩夢先輩に、メッソンはしず子になついちゃってるし……かすみん、取り上げたりなんかしませんよ。それに、キモリも案外悪くないかも~って思ってるところもなくはないですし?」
善子「ふふ、納得してくれたなら嬉しいわ」
そして最後に、ヨハネ博士は侑先輩に向き直る。
善子「侑、貴方もありがとう」
侑「い、いえ!!」
善子「本当は、まだポケモンを持っていないって話だったから、この研究所の中から1匹くらい、研究用の子を旅のお供にあげようかと思ったんだけど……もう、問題なさそうね」
「ブイ…」
侑「はい。このイーブイと一緒に旅に出ます」
善子「わかった。心に決めた子がいるなら何よりだわ」
なんだか、旅立ち初日から、本当に大変な一日でしたが……無事最初のポケモンたちも決まり、これにて一件落着ですね♪
🎹 🎹 🎹
善子「最後に──貴方たちにポケモン図鑑を託すわ。……と言っても、かすみはもう持ってるけど」
かすみ「……っは! かすみん、図鑑も返し忘れてました……!」
かすみちゃんは罰が悪そうな顔で、ポケットからパステルイエローの図鑑を取り出す。
善子「歩夢にはこのライトピンクの図鑑を」
歩夢「はい!」
善子「しずくには、ライトブルーの図鑑を」
しずく「ありがとうございます」
善子「ポケモン図鑑があれば、ポケモンの詳細なデータを確認することが出来るわ。きっと、旅の中のいろいろな場面で役に立つはずよ。有効に使って頂戴。それと……」
侑「?」
博士は私の方に視線を向けてくる。
善子「侑、貴方にも何かあげたいんだけど……」
侑「え!? い、いいですよ、私はあくまで歩夢の付き添いなんで……!」
善子「そう? でも、貴方にも迷惑を掛けちゃったし……。……あ、そうだ、ちょっと待ってて」
博士は何かを思い出したように、奥の部屋に行ってしまう。
侑「なんだろう……」
かすみ「何かお宝をくれるのかもしれませんよ!」
侑「ええ……? ホントにいいのに……」
かすみ「貰えるものは貰っちゃった方がいいですよ、侑先輩! 『出されたご飯は残さず食べろ』です!」
歩夢「……?」
しずく「『据え膳食わぬは~』的なことを言いたいのかな……? それも意味がちょっと違うけど……あはは」
──しばらくして、戻って来た博士の手には、
善子「侑には、これを」
灰色の板状の端末があった。
侑「え、ええっと……これは……?」
善子「最新型のポケモン図鑑らしいわ」
侑「ええ!? う、受け取れません!?」
かすみ「最新型!? ずるいです!! かすみんにもください!!」
しずく「かすみさんはもう貰ったでしょ? めっ!」
最新型らしいポケモン図鑑は他のみんなのものと違って、薄い小型モニターに近い形をしていた。でも、最新型って……私付き添いで来ただけなのに、受け取れないよ……。
私が困っていると──
善子「遠慮しないで、持って行ってくれないかしら? ちょっと知り合いに、これのデータ収集を頼まれちゃったんだけど……私は研究が忙しくて、集めてる暇もないのよ」
侑「い、いいのかな……?」
かすみ「貰えるものは貰っちゃいましょ!」
歩夢「博士が持って行って欲しいって言うなら……いいんじゃないかな?」
侑「……わ、わかりました。そういうことなら……」
善子「ええ、お願いね」
期せずして、私もポケモン図鑑をいただくことに……。それにしても最新型の図鑑なんて……ホントにいいのかなぁ……?
善子「さて……渡すものは渡したわね、それじゃ──」
博士が話を締めくくろうとしたとき、
「──ヨーーーソローーー!!!!!!」
突然背後で、扉が勢いよく開く音と共に、元気な声が響き渡る。
振り返ると、そこには二人の女性の姿──
善子「うるっさ……もっと静かに入ってきなさいよ! 曜!!」
曜「いやー、新人たちもいるし、景気良い方がいいかなって思ってさ~。……って、随分散らかってるね?」
ことり「あはは……ごめんね? 善子ちゃん?」
善子「こ、ことりさん!?」
珍しく博士の声が裏返る。
侑「ことりさんに曜さん!」
歩夢「どうしたんですか!?」
かすみ「え、なんでなんで、ことり先輩と曜先輩が……!?」
私たちは驚きながら、ことりさんと曜さんのもとに駆け寄る。
しずく「皆さん知り合いなんですね?」
善子「二人とも……セキレイシティの有名人だからね」
しずく「まあ……サニータウンから来ている私でも知っているくらいには、お二人とも有名人ですけど……随分と仲良しなんだなと思って」
善子「二人とも慕われてるのよ。特に子供からはね」
ことり「ふふ♪ みんな久しぶりだね♪」
歩夢「はい、お久しぶりです!」
ことり「侑ちゃんと歩夢ちゃんにあげたポッポは元気かな?」
侑「はい! 2匹とも、今は歩夢の家で一緒に暮らしてますよ!」
ことり「あれ? 侑ちゃんにあげたポッポも、歩夢ちゃんの家にいるの?」
歩夢「はい。侑ちゃんが貰った♂のポッポは、私が貰った♀のポッポと仲良くなっちゃって……相談した結果、私の家で一緒に暮らしてるんです」
ことり「なるほど~そうだったんだね~♪ かすみちゃんにあげたスバメは元気かな?」
かすみ「えーあーえーっと……げ、元気……かも……?」
ことり「?」
しずく「あ……もしかして、そのスバメ……前に逃げられちゃったって、泣き付かれたことがあった……」
かすみ「しーー!!! しーーー!!! しず子、しーーーーっ!!!」
ことり「そっかぁ……スバメ逃げちゃったんだね。確かにすっごくお外が好きで、元気な子だったからね……そういうこともあるよね……」
かすみ「ご、ごめんなさいぃ……」
そういえば、そんなこともあったっけ。
善子「それはそうと、貴方たち何しに来たのかしら……?」
曜「いや、今日新人トレーナーが旅に出るからって言ったの善子ちゃんじゃん!」
善子「確かに教えたけど……というか、善子じゃなくてヨハネよ」
ことり「せっかく、ポケモントレーナーデビューする子たちだから──ポケモンジムに案内しようと思って♪」
かすみ「ジム!? ってことは、ジム戦して貰えるんですか!?」
かすみちゃんが勢いよく食いつく。確かにこの街にはセキレイジムがあるし、ポケモントレーナーだったら、ジムを巡るのも旅の目的の一つだ。
そのチュートリアルとして、この研究所に足を運んでくれたってことみたい。
かすみ「行きます行きます! かすみん、ジム戦やってみたかったんです!」
かすみちゃんはノリノリだけど……。
しずく「えっと……かすみさん」
かすみ「なに? もしかして、しず子もジム戦やりたいの? でも、一番乗りはかすみんに譲ってよ!」
しずく「そうじゃなくて……もしかして、忘れてる……?」
かすみ「何が……?」
善子「……かすみは研究所の片付けの手伝いが先よ」
かすみ「え゛!? ニャースを捕まえたからチャラなんじゃ……」
善子「誰もそんなこと言ってないわよ」
かすみ「そ、そんなぁ……!! 今日中に終わらないですよ~……!!」
しずく「かすみさん、私も手伝ってあげるから。頑張ろう?」
かすみ「しず子~……」
なんだかんだ、しずくちゃんってかすみちゃんに甘いよね……。
しずく「ですので、ジムには侑先輩と歩夢さんで行ってください」
侑「わかった」
歩夢「二人ともお片付け頑張ってね!」
曜「ん、話は付いたっぽいね! 侑ちゃんと歩夢ちゃんはジム戦には挑戦したいのかな?」
歩夢「わ、私は見るだけでいいかな……」
歩夢はやっぱりバトルにはまだ消極的みたい。でも、私は──
侑「私は……やってみたいです……!」
夢にまで見た、初めてのポケモンバトル。初めてのジム戦……! やってみたい!
ことり「わかりました♪ それじゃ、侑ちゃんをセキレイジム挑戦者として、ジムにご案内します♪」
侑「よろしくお願いします!!」
🎹 🎹 🎹
セキレイシティのポケモンジムは街の西側に位置している。
すっかり日も暮れたセキレイシティを4人で歩いて、セキレイジムを目指す。
ことり「着きました♪」
侑「……セキレイジム……!」
小さい頃から、街のバトル大会があるときにはここに観戦に来ていた。
そんな場所に今、挑戦者として立てるなんて……!
歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」
侑「うん! 全力でやってくる!」
ことり「それじゃ、侑ちゃんはチャレンジャースペースにお願いします♪」
曜「歩夢ちゃんはセコンドスペースで観戦するといいよ」
歩夢「あ、はい!」
ことりさんが開けてくれたジムの門扉を潜り──目の前に現れた大きな大きなバトルフィールドに向かって歩く。
私がバトルフィールドに着くと──ことりさんが私の横を通り過ぎ……審判席に着く。
そして、セキレイジムの奥、ジムリーダースペースへと着いたジムリーダーが──ボールを構える。
ことり「使用ポケモンはお互い1匹ずつ! 使用ポケモン全てが戦闘不能になったら、そこで決着です!」
侑「はい! それじゃ、よろしくお願いします──曜さん!!」
曜「こちらこそ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の初めての航海、私に見せて!!」
曜さんは敬礼すると共に──モンスターボールをバトルフィールドに投げ放つ。
ジム戦──開始……!!
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.7 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
バッジ 0個 図鑑 所有者を登録してください
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter003 『決戦! セキレイジム!』 【SIDE Yu】
曜「ゼニガメ! 出発進行!」
「──ゼニィ!!!」
侑「イーブイ! 行くよ!」
「ブイ」
私の肩に乗っていたイーブイが、バトルフィールドに降り立つ。
対する曜さんの使用ポケモンはゼニガメだ。
曜「ゼニガメ! “あわ”!」
「ゼニーー!!!」
侑「イーブイ! 技をよく見て!」
「ブイ」
ゼニガメが吐き出す“あわ”はふわふわと浮遊しながら、こっちに向かって飛んでくる。
でも、そのスピードはあまり速くなく、冷静に見ていれば避けられる!
「ブイ」
イーブイはひょいひょいと“あわ”を躱しながら、ゼニガメへと近付いていく。
曜「うんうん! 冷静な判断、大事だね!」
侑「イーブイ! “なきごえ”!」
「ブイーー!!!」
「ゼニッ!!?」
最初からこの戦闘の戦い方は決まっている。近付いて“なきごえ”をしてから──
侑「イーブイ! “とっておき”!!」
この大技で一気にバトルを決める……!!
……と、思ったんだけど、
「…ブィィ…」
イーブイは一瞬微かに光っただけで……その後は困ったように鳴きながら、こっちを振り返る。
曜「……? 不発?」
侑「え? あ、あれ?」
曜「……まあ、いいや! チャンスだよ、ゼニガメ! “かみつく”!!」
「ゼニガァッ!!!!」
「ブィッ!!?」
侑「わぁぁ!? イーブイ!?」
無防備なイーブイの前足にゼニガメが噛み付いてくる。
侑「ど、どうしよう……!? “とっておき”が使えない!?」
私は“とっておき”で決めるつもりだったので、技が不発してしまったことに気が動転してしまう。ど、どうにかしなきゃ!!
侑「ふ、振りほどいて!」
「ブ、ブイ…!!!」
イーブイは体を捩りながら、大きな尻尾を振るう。
「ゼ、ゼニ…!!」
曜「おとと、“しっぽをふる”だね」
もふもふの尻尾に怯んだゼニガメはイーブイに噛み付くのやめ、トントンとステップを踏みながら、曜さんの方へと後退していく。
侑「“しっぽをふる”……? イーブイが覚えてるのって“なきごえ”と“とっておき”だけなんじゃ……」
歩夢「侑ちゃん!!」
そのとき、セコンド席の方から歩夢の声。
侑「な、なに!?」
歩夢「そのイーブイ! さっきのゴルバットとの戦闘でレベルが上がって新しい技を覚えてるみたいだよ!!」
気付けば、歩夢はポケモン図鑑を手に持ち、そう伝えてくる。
きっとイーブイのデータを見てくれてるんだ……!
ことり「セコンド席、必要以上のアドバイスはダメですよー」
歩夢「す、すみません……!」
そっか……イーブイが新しい技を覚えたから“とっておき”が使えなかったんだ……!
“とっておき”は他に覚えている技をひととおり使ったあとじゃないと、使うことが出来ない技だ。
つまり──
侑「イーブイ!! 今出来ること全部やろう!!」
「ブイ!!!!」
イーブイが地を蹴って飛び出す。“たいあたり”だ……!
曜「真っ向勝負? いいよ! ゼニガメ、“たいあたり”!!」
「ゼニィ!!!」
──ドン! 2匹が“たいあたり”でぶつかり合う。
「ブイ…!!!」
「ゼニィ…!!!」
お互いの攻撃が相殺して、両者後退る。
いや……。
侑「ちょっとイーブイの方が強い? いけるかも!」
「ブイ!!」
気持ちだけど……ゼニガメの方がイーブイよりも、大きく後退している気がする。
曜「“なきごえ”に“しっぽをふる”が効いてきちゃってるね……」
侑「このまま、押し切ろう! イーブイ! もう一回“たいあたり”!!」
「ブイ!!」
曜「“からにこもる”!」
「ゼニッ!!」
ゼニガメは即座に体を甲羅に引っ込めて、防御姿勢を取る。
防御態勢になったゼニガメをイーブイがそのまま、“たいあたり”で吹っ飛ばすと、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、硬い音を立ててバトルフィールドを転がっていく。
侑「よーし! イーブイ!! もう一回!!」
「ブイ!!」
三たび、“たいあたり”で向かっていく。ゼニガメは今、甲羅に体を引っ込めて、動けない状況……! 今の内に畳みかける……!!
防御に徹しているゼニガメに“たいあたり”が炸裂した──と、思ったら、
「ブイィィ…!?!?」
侑「なっ!?」
逆にイーブイが吹っ飛ばされて、こちらに飛んでくる。
侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
「ブ、ブイィ…」
イーブイはバトルフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がる。
侑「な、なんで……? ゼニガメは今動けないはず……」
曜「侑ちゃん! そういう思い込みは、ダメだよ!」
侑「え?」
曜「ゼニガメ……GO!!」
曜さんの掛け声と共に──
「ゼニッ!!!!!」
ゼニガメが甲羅に籠もったまま──突っ込んで来た。
侑「なっ!? イ、イーブイ!! 避けて!?」
「ブイッ!!!!!」
真っ直ぐ迫ってくるゼニガメ。それから逃れるように、斜め前方にイーブイが急速ダッシュで回避する。
侑「! すごい! イーブイ!」
「ブイィ!!!」
曜「! “でんこうせっか”を回避に使ってきたね! でも、ゼニガメの追尾は終わらないよ!」
「ゼニィ!!!!」
曜さんの声と共にゼニガメが、再びイーブイに向かって飛び出す。
──位置関係上、ゼニガメを後ろから見ることが出来る位置になったため、やっとゼニガメの高速ダッシュのからくりが理解出来た。
侑「水を噴射してダッシュしてる!?」
そう、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、後ろ向きに水を噴射してダッシュしていた。
さっきイーブイが吹っ飛ばされたのはこれによって、逆に“たいあたり”されたからだ……!
曜「そのとおり! こうすれば防御しながら、攻撃も出来るんだよ!」
侑「イ、イーブイ! “でんこうせっか”!!」
「ブイィィィ!!!!!」
イーブイは再び土埃を巻き上げながら、高速で走り出す。
侑「とにかく逃げなきゃ……!!」
曜「そうだね! でも、“でんこうせっか”じゃ速すぎて、小回りが利かないんじゃないかな!」
確かに曜さんの言うとおり、“でんこうせっか”での移動は一定距離直線を高速で進むだけで、曲がりながらの移動は出来ていない。
でも、今はとにかく距離を取りたいから……!!
侑「イーブイ!! 連続で“でんこうせっか”!!」
「ブイッブイィッ!!!!」
一定距離真っ直ぐ進んでは、止まり、真っ直ぐ進んでは、止まりを繰り返し攪乱を行って──いるつもりだったけど、
曜「軌道がわかりやすすぎるよ!! ゼニガメ!!」
「ゼニッ」
ゼニガメは水の噴射と、甲羅を回転させながら……急に、曲がった。
侑「曲がっ……!?」
ゼニガメの攻撃が完全にイーブイの進路に合わせられたと気付いたときには、もう遅く、
「ブィィッ!!!?」
甲羅に籠もったままのゼニガメの“たいあたり”がイーブイに炸裂し、吹き飛ばされる。
侑「イーブイ!!」
「ブ、ブィィ…?」
まだ、立ってる……! よかった……でも、
曜「ゼニガメ! 畳みかけるよ!!」
「ゼニィ!!!」
休ませてくれない。ゼニガメは再び水を後ろ向きに噴射しながら、迫ってくる。
侑「で、“でんこうせっか”!!」
「ブイィィ!!!!」
再び始まる追いかけっこ。
曜「さーて、次のタイミング……狙っていくよー!」
侑「……っ」
これじゃ、またそのうち狙い撃ちされちゃう……!
なにより、こっちから攻撃が一切出来ていない。このままじゃ……!!
侑「どうにか……どうにかしなきゃ……」
ただ、イーブイがいくら新しい技を覚えたからと言っても、さすがに4つや5つも覚えているとは考えにくい。恐らく、これ以上打開できるような技があるとしたら──
侑「“とっておき”しかない……!!」
もう技は全部出し切ったと考えて、一か八か……!!
侑「イーブイ!!」
「ブイ」
私の声で静止するイーブイ。
曜「お、正面から受けるのつもりなのかな……!」
迫るゼニガメ。
お願い……! 決まって……!!
侑「“とっておき”!!」
「──ブイィィ!!!!」
イーブイの体が光を発する。
侑「やった……!! 出た……!!」
巨大な光がそのまま、突っ込んでくるゼニガメを呑み込もうとした……瞬間、ゼニガメの姿がブレる。
侑「!?」
曜「もちろん、そんなバレバレの大技に引っかかったりしないよ!!」
ゼニガメが軌道を変えて回り込んだんだと気付いたときには、
「ブィィッ…!!?」
イーブイは側面から突撃されて、吹き飛ばされていた。
侑「イーブイ!?」
「ブ、ブィィ…」
吹き飛ばされながらも、どうにかよろよろと立ち上がってはくれたものの……もう、限界が近い。
侑「どうする、どうする……!?」
逃げ回っても追い付かれる。大技を撃っても避けられる。どうにか、隙を作らないといけないのに……打つ手がない。
曜「ゼニガメ! GO!!」
「ゼニィッ!!!」
侑「っ! イーブイ!! ジャンプして!!」
「ブ、ブイッ」
苦し紛れの指示だったけど、高速で突っ込んでくるゼニガメをどうにか飛び越える。
曜「まだ避ける体力があるみたいだね! でも、どこまで続くかな!」
「ゼニィッ」
再び折り返してくるゼニガメ。でも曜さんの言うとおり、もう限界だ。
すぐにでも打開策を──
歩夢「侑ちゃーん!!! 覚えてるー!?」
侑「!?」
そのとき、急に響く歩夢の声。
歩夢「子供の頃、一緒に遊んだゲームのことーーー!!」
一緒に遊んだゲーム!? 急に歩夢は何を──
一緒に遊んだゲームなんて、落ちてくるブロックを消すゲームとか、カートでレースするゲームとか、ジャンプが得意なヒゲの主人公が冒険するアクションゲームとか……。
侑「!!」
あった……!! ゼニガメの隙を作る方法……!!
曜「さぁ、終わりだよ!!」
突っ込んでくるゼニガメ。
侑「イーブイ!!! 私の声を聞いて!!」
「ブイ!!!!」
迫るゼニガメ。
──まだ。まだだ。
一直線にイーブイに向かって突っ込んでくるゼニガメ。でも、私は待つ。
これは勘だった。ゼニガメは──きっとフェイントを掛けてくる。
「ブイ」
私はまだ、声をあげない。
イーブイの眼前に迫るゼニガメ。
でも、まだ……!
「ゼニッ」
次の瞬間ゼニガメは──軌道を変えた。
侑「!! 今!!」
「ブイッ!!!!」
曜「!? 読まれた!?」
ゼニガメのフェイントを読み切ったジャンプ。
曜「でも、何度も読み切れるものじゃないよ……!!」
わかってる。だからこれは、回避じゃない……!!
跳ねたイーブイが、重力に引かれて落ちていく先は──ちょうどゼニガメの真上!!
侑「イーブイ!! ゼニガメを踏んづけて!!」
「ブイッ!!!!」
曜「なっ!?」
「ゼニッ!?」
踏んづけられたゼニガメは──その勢いで上下逆さまになって、フィールド上を滑っていく。
「ゼ、ゼニィ!!?」
まさにひっくり返った亀の状態に……!
曜「ゼニガメ!? 落ち着いて!?」
急な天地逆転に動揺したゼニガメが顔を出してもがく。
この隙は絶対に見逃さない……!!
侑「イーブイ!! “たいあたり”!!」
「ブイブイ!!!!!」
「ゼニィッ!!!?」
イーブイの“たいあたり”が無防備なゼニガメに直撃し、その勢いでゼニガメが宙に浮く。
もう──逃げ場はない!!
侑「イーブイ!! “とっておき”!!」
「──ブイイーーーーー!!!!!!」
イーブイから巨大な光が溢れ出して──
「ゼニガァッ!!?」
曜「ゼニガメッ!?」
その光は宙を舞うゼニガメに──直撃した。
──ドサ。
攻撃が直撃したゼニガメは墜落したあと、
「ゼニィィ……」
目を回して、戦闘不能になったのだった。
侑「はぁ……はぁ……」
「ブイ」
侑「やった……」
「ブイブイ」
ことり「ゼニガメ、戦闘不能! よって、勝者セキレイシティの侑ちゃん!」
侑「……いやったああああああ!!! 勝ったよ!!! 私たち勝てたよ!! イーブイ!!」
「ブイーー!!!」
イーブイが私の胸に飛び込んでくる。
侑「ありがとう! イーブイ!!」
「ブイブイーー」
曜「いや、最後にやられたよ……まさか踏んづけてくるとは……」
曜さんがゼニガメをボールに戻しながら、こちらに歩いてくる。
ことり「ふふ♪ すごかったね、侑ちゃん♪」
侑「あ、いや……でも、これは歩夢のお陰でもあるというか……」
歩夢「……!?」
セコンド席の歩夢の方へ振り返ると、歩夢は気まずそうにわたわたと手を振る。
ことり「ん~……直接的なアドバイスじゃなかったから、今回はセーフにします♪」
歩夢「……っほ」
曜「でもまさか、テレビゲームをヒントに攻略されるとは思わなかったよ……あの赤い帽子のヒゲのおじさんのゲームでしょ? 私も昔千歌ちゃんとやったなぁ……カメ、確かに踏んづけると動けなくなるんだよね」
侑「成功するか、賭けでしたけど……あはは」
まさか、あんなに綺麗にひっくり返ってくれるとは思わなかったし……。
曜「なにはともあれ、勝ちは勝ちだし、負けは負け!」
曜さんがそう言いながら懐に手を入れ、
曜「勝者の侑ちゃんにはセキレイジムを突破した証として、この──“アンカーバッジ”を贈るよ」
曜さんから、錨型のジムバッジを手渡される。
侑「わぁ……!!」
ことり「あと初めてのジム戦だから、このバッジケースも。歩夢ちゃんにもあげるね♪」
歩夢「え、わ、私は……」
ことり「いいからいいから♪ いつか、挑戦したくなるかもしれないし。ね?」
歩夢「は、はい」
二人でバッジケースを受け取る。
曜「侑ちゃん、“アンカーバッジ”、はめてみて」
侑「は、はい!」
私は言われたとおり、バッジをケースの窪みにはめ込むと──カチリと小気味の良い音がした。
侑「えへへ♪ “アンカーバッジ”、ゲットだよ!」
「ブイブイ♪」
イーブイと一緒に掴み取った初めてのジムバッジに嬉しくなる。
ことり「このバッジはポケモンリーグ公認のバッジ。持っているだけで、そのトレーナーの実力を保証してくれる証明にもなるから、大事にしてね♪」
侑「はい!」
ことり「そして8つ集めたら、ポケモンリーグで四天王に挑戦出来るようにもなるからね♪」
侑「はい! いつか、ことりさんのところにも辿り着いてみせます!!」
ことり「ふふ♪ 楽しみにしてるね♪ ことりはいつでも四天王の一人として、侑ちゃんの挑戦を待っています♪」
侑「はい!」
私もいつか、この地方の四天王と──そして、その頂きに立つチャンピオン・千歌さんと戦えたりするのかな?
侑「イーブイ! 私すっごいトレーナーになるから! 一緒に強くなろうね!」
「ブイッ!!!」
私はイーブイに誓いを立てる。もっともっと強くなって……いつかは夢の舞台でもっとすごいトレーナーと戦いたい……!
私はそんな想いを胸に抱くのだった。
😈 😈 😈
かすみ「…………かしゅみん……すごい……とれーなーに……えへへ……zzz」
しずく「かすみさん、まだ寝ちゃダメだよー? かすみさーん……」
善子「いいわよ。寝かせておいてあげなさい」
しずく「すみません博士……私が少し休憩しようなんて提案したばかりに……」
善子「気にしなくていいのよ。今日、頑張ってくれたのは事実だしね。そろそろ体力的にも限界だったんでしょ」
しずく「そうですね……朝も早かったみたいですし」
善子「それがイタズラの仕込みのためじゃなければねぇ……」
しずく「あはは……」
御覧のとおり、研究所の片付け中、一息入れている間にかすみは眠りの国に旅立ってしまった。
まあ、なんだかんだで一日中行動していたわけだしね。
しずく「……ふぁ」
それは、かすみだけじゃないけどね。
善子「ふふ。しずくも疲れたでしょう? 今日は研究所に泊まっていいから、もう休みなさい。二階の部屋が空いてるから」
しずく「うぅ……面目ないです。それでは、お言葉に甘えて……かすみさん、部屋まで行くよー?」
かすみ「ふぇ……? もう、かすみん……お腹いっぱいですよぉ……?」
しずく「そんな絵に描いたような寝言言ってないで……」
「ガゥガゥ」
しずく「ゾロア?」
様子を見ていたゾロアがしずくの肩に飛び乗り“イリュージョン”で姿を変える。
しずく「……この姿……コッペパン……? ですか?」
善子「へー……かすみのゾロアは、食べ物にも化けられるのね」
かすみ「はぁぁ……おいしそうなコッペパン……」
しずく「……お腹いっぱいなんじゃなかったの?」
かすみの反応に、しずくが呆れ気味に肩を竦める。
善子「そのまま、上の階に誘導してあげなさい」
しずく「まあ……これで釣られてくれるなら、いいんですけど……。ほーらかすみさーん、おいしいコッペパンですよ~」
かすみ「うぇへへ~……まって~……」
コッペパン(ゾロア)に釣られて、よたよたと追いかけていくかすみ。……階段から転げ落ちそうね。
善子「ムウマージ」
「ムマァ~」
善子「手伝ってあげなさい」
「ムマァ~♪」
ムウマージがいれば、落ちても助けられるし大丈夫でしょう……。
善子「さて……私はもうひと頑張り……」
軽く伸びをしながら、作業に戻ろうとすると──
曜「──ヨーソロー♪ 善子ちゃん、さっきぶり♪」
やかましいのが戻って来たようだ。
善子「もう夜よ。静かにしなさい」
曜「あはは、ごめんごめん」
善子「ジム戦は終わったの?」
曜「うん、負けちゃった。侑ちゃん、きっと強くなるよ」
善子「それは何よりね」
曜「はぁーぁ……でもやっぱ、負けるのは悔しいなぁ。カメックスとなら、負けなかったのに」
善子「当たり前でしょ……もうジムリーダーになって結構経つんだから、慣れなさいよ……」
千歌ほどではないけど、曜も大概子供っぽいところがあるのよね……。
善子「それで、戻って来たのは曜だけ?」
曜「あ、うん。侑ちゃんと歩夢ちゃんは今日はもう遅いから一旦家に帰るってことだったから。ことりさんは二人を送って行ったよ」
善子「そういえば……ことりさんとあの二人、同じマンションに住んでたわね。……んで、何しに来たの?」
曜「む、なんか冷たい言い方だなぁ……せっかく、同期が遊びに来てるのにさ」
善子「本音は?」
曜「……今日泊めて! 明日、サニータウン方面に行かなくちゃいけなくってさ! 私の家、街の北側でしょ? ここからの方が近いから……お願いっ!」
善子「そんなことだろうと思った。いいわよ、適当に二階の部屋でも使って」
曜「さすが善子ちゃん! 持つべきものは優しい同期だね!」
善子「はいはい……あ、でも上でかすみとしずくが休んでるから、うるさくしないでね。あとヨハネよ」
曜「了解であります! ヨハネ博士!」
全く調子いいんだから……。まあ、さすがの曜でも一人で大騒ぎは出来ないでしょう。……たぶん。
曜「ところで、善子ちゃん」
善子「ヨハネ」
曜「善子ちゃん的には期待してる子とかいるの?」
善子「何よ……藪から棒に……貴方も協力してくれたから、知ってるだろうけど、今回のトレーナー選びは慎重に行った分、みんな同じように期待してるわ」
曜「ふーん、そっかそっか」
具体的に言うなら、しずくは座学の優秀さ、頭の良さを重視して選んだ。純粋な優等生タイプ。
逆にかすみは意外性重視。確かに今日みたいな突飛なことをしでかす可能性もあるけど、バトルの成績はそこそこいいし、ポテンシャルは確かに感じる。ちょっとピーキーだけどね。
善子「ただ、そうね……」
曜「?」
善子「強いて言うなら……その3人の中でも、歩夢は特別かもしれないわ」
曜「特別?」
善子「今日、成り行き上ではあったんだけど……あの子たちが研究所から逃げ出したポケモンを捕まえてくれて……」
曜「うん」
善子「……歩夢ね、ミミロルをバトル無しで捕獲したらしいのよ」
正直、侑に話を聞いたときは、冗談かと思ったけど……確かに、ミミロルは掠り傷一つ負っていなかった。
曜「それって……何かすごいことなの?」
善子「ミミロルってポケモンはね、警戒心が強く、気性が荒くて、なかなか人になつかないポケモンなのよ」
一説によれば、現在確認されているポケモンの中でも、最もなつきにくいという学説さえあるポケモンだ。
善子「そんなミミロルを説得して大人しくさせたらしいのよ」
曜「……確かにそれはすごいかも」
善子「もしかしたら……歩夢には少し特別な力があるのかもしれないわね」
ポケモンと仲良くなる才能……とでも言うのかしら。
実際、最初の3人を選ぶ際にも、歩夢に期待していたのはポケモンとすぐに仲良くなれるという評価から選ばせてもらったんだけど……想像以上かもしれない。
善子「……まあ、そんな感じよ」
曜「そっか。とにかく3人とも期待出来るってことだね」
善子「そうよ。ま、私が選んだリトルデーモンなんだから、当然よね」
曜「そっか。……善子ちゃん、良かったね」
善子「……何よ、急に」
曜「ずっと、心配してたんだよ……2年前のあの日以来、思い悩んでること、多かったから」
善子「…………」
2年前のあの日……ね。
私は先ほどまで、最初の3匹が並んでいた机の──引き出しを開ける。
引き出しの中にあるのは──とあるポケモンの入ったモンスターボール。
善子「…………」
曜「その子、結局どうするの? 私はてっきり、最初の3匹の中にその子も入れるんだと思ってたんだけど……」
善子「どうもしない。……この子を渡す相手は、もう決まってるんだから」
曜「……そっか」
善子「……」
僅かに沈黙が流れる。
善子「……曜、明日早いんでしょ。さっさと寝なさい」
曜「わかった、そうさせて貰うよ」
善子「おやすみなさい」
曜「ん、おやすみ」
二階へと上がっていく曜の背中を見送って。
──私は開けた引き出しを元に戻す。
善子「……さて、仕事を片付けましょうか」
こうして、夜は更けていく──
🎹 🎹 🎹
侑「──あー!! 疲れたー!!」
私は自室に戻ってくるなり、ベッドに倒れ込む。
侑「イーブイもおいで。疲れたでしょ?」
「ブイ」
イーブイに声を掛けると、ぴょんとベッドに飛び乗り、私の傍に身を寄せてくる。
侑「うわ、毛ぐしゃぐしゃになっちゃってるね……毛づくろいしてあげるよ」
「ブイ」
家に帰ってくるなり、お母さんにいたく気に入られたのか、撫でられまくってたから、綺麗な毛並みが荒れてしまった。
ブラシを使って、毛づくろいしてあげると、
「ブイィ…♪」
イーブイは気持ちよさそうにしている。
侑「イーブイ、気持ちいい?」
「ブィ♪」
侑「ふふ、よかった」
今日はイーブイのお陰で、初めてのジム戦にも勝利することが出来た。
だから、ちゃんと労ってあげないとね。
侑「……そういえば、イーブイ……また新しい技覚えたりしてるのかな?」
ジムでの戦闘によって、またレベルが上がって新しい技を覚えているかもしれない。
そうすると、“とっておき”はますます使いづらくなるかもしれないし、把握しておいた方がいいかも……。
侑「覚えてる技の確認……」
歩夢はポケモン図鑑を使って、教えてくれたっけ?
そういえば、図鑑……。
侑「博士に貰ってから、まだ起動もしてなかったっけ」
ミニサイズのモニター状のポケモン図鑑を取り出して、観察する。
侑「電源みたいなのが、どこかにあるのかな……?」
とりあえず、画面に触れてみると──
『指紋登録中。そのままお待ちください』
可愛らしい機械音声が図鑑から流れてくる。
侑「あ、これでいいのかな?」
たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。
しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。
──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。
えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。
侑「……? なにこれ?」
「ブィ?」
何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──
『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「……!?」
「ブィ…!!」
図鑑が話しかけてきた。
侑「へ……!? え……!?」
『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||
驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。
『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 || ~ ᨈ ~ ||
そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。
侑「……浮いた!?」
リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「え、えぇ……!?」
「ブィィ…」
私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。
たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。
しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。
──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。
えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。
侑「……? なにこれ?」
「ブィ?」
何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──
『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「……!?」
「ブィ…!!」
図鑑が話しかけてきた。
侑「へ……!? え……!?」
『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||
驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。
『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。
侑「……浮いた!?」
リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「え、えぇ……!?」
「ブィィ…」
私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.8 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:1匹 捕まえた数:1匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:10匹
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.6 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.6 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:3匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🐏
遥「なんだか、たくさん買っちゃったね……」
彼方「いいのいいの~久しぶりのお買い物だったんだから~。それより、重いでしょ~? お姉ちゃんが荷物持ってあげるよ~」
遥「ありがとう、お姉ちゃん」
私たち姉妹がセキレイデパートを出ると、もう日はとっぷりと暮れ、夜の時間が訪れていた。
彼方「二人ともお待たせ~」
遥「お待たせしてすみません……」
外で待っていた二人に声を掛ける。
穂乃果「そんなこと気にしなくていいんだよ♪」
千歌「そうそう、これも私たちのお仕事なんだから! それより、姉妹水入らずでのショッピング、楽しかった?」
遥「はい! すっごく楽しかったです!」
彼方「お陰様で、リフレッシュできたよ~。ありがと~」
やっぱり、たまにこうして息抜きしないと、疲れちゃうからね~。こうして、何気ない息抜きにも付き合ってくれる、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんには感謝しないとだよね~。
穂乃果「それじゃ、帰ろっか♪ 彼方さんはリザードンに」
「リザァ」
千歌「遥ちゃんはムクホークに乗ってね」
「ピィィ」
遥「はーい」
彼方「了解で~す」
私たちは月夜の中を飛び立って、セキレイシティを後にするのでした~。
………………
…………
……
🐏
■Chapter004 『──旅立ちの日』 【SIDE Yu】
侑「んー……! 今日もいい天気だね!」
「ブィ」
リナ『気温21℃、湿度48%、降水確率は0%、本当に良いお天気。リナちゃんボード「わーい」』 || > 𝅎 < ||
侑「そんなこともわかるんだ……」
リナ『博士にはありとあらゆるセンサーを搭載してもらった。なんでも聞いて』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
マンションの廊下から見上げる空は、雲一つない青空が広がっている。
変わったことと言えば……。
侑「……」
リナ『ん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||
不思議な喋る図鑑が私の傍にいることかな……。
今はこうして普通に会話しているけど……昨日のことを思い出す。
──────
────
──
侑「え、えっと……リナって言うのは……名前……?」
リナ『うん、そうだよ。でも、正確には「Record Intelligence Navigate Application system」の頭文字を取って「RINA」だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「……?」
あんまり説明になってないような……。
侑「えっと……つまり、リナちゃん……? ポケモン図鑑なの?」
リナ『図鑑に搭載されてるシステムAIだよ。最新鋭超高性能自己進化型AI』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そ、そっかぁ……」
なんだか、情報量の多い肩書きだ……。
侑「えっと……ロトム図鑑みたいな感じ……?」
世の中にはロトム図鑑という喋るポケモン図鑑があるらしいとは聞いたことがある。
ロトムは家電に棲み付くポケモンで、地方によってはいろんな機械にロトムが入って、人間をサポートしていると聞く。
なので、恐らくリナちゃんもそういう感じなのかな……? と思ったんだけど……。
リナ『うーん、ロトム図鑑とは少し違う。ポケモンじゃなくて、あくまでAI。……本当に何も説明を受けてないの?』 || ? _ ? ||
侑「うん……全く」
リナ『博士、こういうところがいい加減……。でも、私は博士から所有者と一緒に冒険をするように言われてる』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「言われてる……? そう指示されてるってこと?」
リナ『うん。私は自己進化型AIだから、いろんな情報を得ることによって、さらに進化する。あなたには、私がさらにすごいAIに進化するための、お手伝いをして欲しい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
つまり、リナちゃんと一緒に各地を回って、リナちゃんにいろんなことを覚えさせて欲しい……みたいなこと、だと思う。
リナ『もちろん、その代わりに私はポケモン図鑑として、あなたのサポートをする。ポケモントレーナーとして旅をするなら、悪い話じゃないと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「う、うーん……?」
悪い話じゃない……のかな……?
とはいえ、ヨハネ博士から託されたということは……私は博士から、リナちゃんに協力して欲しいと頼まれているのも同然のような気もするし……?
リナ『あまり反応が芳しくない。わかった、今から図鑑としての性能をお披露目する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
「ブイ…?」
リナちゃんはふわふわとイーブイに近付き、
リナ『イーブイ しんかポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.5kg
進化のとき 姿と 能力が 変わることで きびしい 環境に
適応する 珍しい ポケモン。 今 現在の 調査では なんと
8種類もの ポケモンへ 進化する 可能性を 持っている。』
イーブイの解説を読み上げてくれる。
侑「おぉ……!」
リナ『これだけじゃない。今、イーブイが覚えている技は“たいあたり”、“なきごえ”、“しっぽをふる”、“でんこうせっか”、“すなかけ”、“ほしがる”、“にどげり”、“とっておき”』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「覚えてる技まで……!」
リナ『ポケモン図鑑だから、これくらいの機能は当たり前。リナちゃんボード「ドヤッ」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
普通のポケモン図鑑と違って、自分で操作しなくても、言えば検索してくれるみたいだし……確かにこれは便利かも。
……まあ、それはいいんだけど……さっきから言っている、リナちゃんボードってなんだろう……?
あ、いや……名前はリナちゃんだし、見た目はボードだし、ある意味そのまんまかも……? 口癖みたいなものなのかな……?
かすみちゃんで言うところのそういうキャラ……的な?
侑「……というか、イーブイどんどん新しい技覚えてるね」
「ブイ…?」
やっぱり、“とっておき”は今後もあんまり多用出来ないかも……。
リナ『これで、図鑑の性能は信用してもらえたかな?』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん」
リナ『それじゃ、私と一緒に冒険してくれる? リナちゃんボード「ドキドキ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
侑「わかった。一緒に行こう」
私は首を縦に振る。
突然の出来事にびっくりしてただけで、最初から断るつもりだったわけじゃないし。
侑「これからよろしくね、リナちゃん」
リナ『よかった! こちらこそ、よろしく。……えーっと』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は侑だよ。タカサキ・侑」
リナ『侑さんだね! よろしく!』 || > ◡ < ||
──
────
──────
──と、言うわけで喋るポケモン図鑑・リナちゃんも一緒に旅に行くことになった。
リナちゃんの自己進化AIとやらが、あちこちでいろんな情報を得て進化するお手伝いをするらしいけど……。
侑「まさか、ポケモンだけじゃなくて、ポケモン図鑑も育成することになるとは……」
「ブイ…?」
リナ『そういえば、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ん?」
リナ『旅にはまだ行かないの?』 || ? ᇫ ? ||
侑「うん。歩夢を待ってるからね」
リナ『あゆむ?』 || ? ᇫ ? ||
そういえば、まだ歩夢のこと説明してなかったっけ。
侑「歩夢はね、私の幼馴染で、一緒に旅に行くことになってる子だよ」
リナ『そうだったんだ。今回の旅は侑さんだけじゃないんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
リナちゃんは少しの間を挟んだあと、
リナ『あの……侑さん。お願いがあるんだけど……』 || ╹ᇫ╹ ||
そう話を切り出す。
侑「お願い?」
リナ『うん。私のことなんだけど……侑さん以外の人にはロトム図鑑だって説明して欲しいんだ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え? どうして? 何か問題があるの?」
リナ『私の自己進化型AIはまだ開発段階で、世間に全く出回ってない。でも超高性能だから、人目に付きすぎると、もしかしたら企業スパイとかに狙われるかもしれない』 || 𝅝• _ • ||
侑「え、えぇ……?」
リナ『でも、ロトム図鑑としてなら喋るのも浮くのも、説明が付く。無用な争いを避けるためにも、お願い』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「わ、わかった……そういうことなら」
リナ『ありがとう、侑さん。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||
まあ、確かに私もこんなポケモン図鑑は見たことも聞いたこともないし……──いや、ポケモン図鑑の実物を見たのは昨日が初めてだけど……。
企業スパイ……? というのがどういうものなのかはいまいちピンと来ないけど……。
なんか、それくらい大事なモノを託されたってこと……なのかな?
というか、そんな大事なモノ、私が持ってっちゃっていいのかな……。でも、持って行ってくれって言われたし……。
一人悶々と考えていると──
「──侑ちゃ~ん……た、たすけて~……」
侑「ん?」
「ブイ…」
隣の部屋の玄関の方から、ヘルプを求める声──もちろん、歩夢の声だ。
私はドア越しに声を掛ける。
侑「歩夢? どうかしたの?」
歩夢『み、みんなが放してくれなくて~……』
侑「ああ、なるほど……」
歩夢の家を思い出して、納得する。
リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ん?」
リナ『この扉の先から、すごい数のポケモンの反応がある。エイパム、ポッポ、ベロリンガ、コダック、ニョロモ、ハネッコ、ゴースト、エネコ……種類もタイプもバラバラ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ああ、うん。見ればすぐにわかるよ」
私は歩夢を救出するためにも、扉を開ける。
──すると、
「エニャァ」
「ゴスゴス」
「ハネハネ」
歩夢「侑ちゃ~ん……」
「シャボ…」
頭にハネッコが乗っかり、ゴーストに肩を掴まれ、歩夢の足元をエネコがチョロチョロと走り回っている。
侑「相変わらず、大人気だね」
歩夢「連れていくのはサスケだけって、何度も説明したんだけど……」
「シャー」
リナ『わ……すごい数のポケモン。これって、全部歩夢さんのポケモンなの?』 || ? _ ? ||
侑「うん、そうだよ」
歩夢「え? 誰かいるの?」
ポケモンたちに気を取られていた歩夢が顔を上げると──リナちゃんと目が合った。
リナ『初めまして、私リナって言います』 || > 𝅎 < ||
歩夢「……へ?」
一瞬のフリーズのあと、
歩夢「……え!? ぽ、ポケモン図鑑が、し、喋ってる……!? しかも、浮いてるよ……!?」
歩夢が焦りと困惑の入り混じった表情になる。まあ、そうなるよね……。
侑「落ち着いて歩夢。この子はロトム図鑑のリナちゃんだよ」
歩夢「ロトム図鑑……?」
リナ『うん! 私ロトム図鑑のリナです!』 ||,,> 𝅎 <,,||
歩夢「え、えっと……ロトム図鑑ってロトムの入った図鑑だっけ……? えっと、それじゃロトム図鑑の中にいるロトムの名前がリナちゃんなの……?」
リナ『うん、そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「そうなんだ……侑ちゃんの図鑑は最新型って言ってたもんね。ロトム図鑑だったんだ」
侑「うん、そうなんだよ」
歩夢「前に少しだけ、しずくちゃんにロトム図鑑のお話を聞いたことがあったけど……本当に図鑑が喋るなんて、すごいね」
やや強引だった気もするけど……さすが歩夢。何も疑ってない。
私も一枚噛んでるとはいえ、幼馴染としてちょっと心配になる騙されやすさだ……。
「エニャァエニャァッ」
歩夢「きゃっ!? エ、エネコ……足元で暴れないで……」
侑「っと……そうだった」
歩夢を助けてあげないと……。屈んで、エネコを抱きかかえる。
「エニャァ」
侑「ほら、エネコ。部屋にお戻り。歩夢のお母さんに遊んでもらいな」
「ニャー」
歩夢「ゴースト、そろそろ放して……ね?」
「ゴス…」
侑「ほら、歩夢が困ってるよ」
「ゴス…」
ゴーストはしぶしぶ、歩夢から離れて、壁の向こうに消えていく。
侑「ハネッコは……」
たぶん、歩夢の頭に乗ってるだけかな……。
歩夢「うん……ハネッコ、『プロペラ』」
「ハネ~~」
歩夢が『プロペラ』と言うと、ハネッコは頭の葉っぱを回転させながら、ふわ~と浮上していく。
無事みんなから解放されたところで、
侑「歩夢、今のうちに」
歩夢「う、うん! みんな行ってくるね!」
歩夢の手を引いて、玄関から脱出。
歩夢「ふぅ……ありがとう、侑ちゃん」
侑「あはは、家から出るだけで一苦労だね」
毎度のことながら苦笑いしてしまう。歩夢は本当にポケモンに好かれる体質というか、なんというか。
リナ『すごい数のポケモンと暮らしてるんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「うん、お外で遊んでるときに、仲良くなった子が付いてきちゃったりとかで……気付いたら……」
リナ『それにしても、ゴーストが家庭にいるのは珍しい。あまり人のもとに居付くポケモンじゃないから』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「3年前にゴーストポケモンが大量発生したことがあって、そのときに住み着いたんだよね」
歩夢「うん、それ以来ずっと一緒に暮らしてるよ」
あのとき、最初は歩夢が攫われるかもって大騒ぎになったけど、結局歩夢はゴーストと遊んでただけだったんだよね……。
……っと、それはともかく。
侑「歩夢、準備は良い?」
歩夢「あ、うん!」
侑「それじゃ、旅に出発しよう!」
「ブイ♪」
予定より1日遅れてしまったけど、ついに私たちの冒険の旅のスタートです……!
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
🎹 🎹 🎹
──さて、旅が始まるのはいいんだけど……。
侑「どこに向かおうか……」
考えてみれば、旅の目的を特に決めていなかった。
セキレイシティは東西南北に道があるから、目的次第でどこに行くかが変わってくる。
歩夢「侑ちゃんはこの旅で何がしたい? 侑ちゃんが決めていいよ♪」
侑「え? でも、これは歩夢の旅だし……」
図鑑と最初のポケモンを託されたのは歩夢なわけだし……まあ、私も結果として図鑑を渡されたけど……。
歩夢「私は侑ちゃんの行きたい場所に行きたいな♪」
侑「うーん……なら、やっぱりジムを巡りたいかな……」
バッジケースを開くと、“アンカーバッジ”がキラリと光る。
せっかくなら、各地のジムを制覇して、このバッジケースをいっぱいにしたい。
リナ『そうなると、行先は北のローズシティ、西のダリアシティ、南のアキハラタウンから流星山を越えて、ホシゾラシティを目指すかのどれかだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「結局あんまり選択肢が減ってない……」
リナ『効率的に巡って行くなら西ルートか南ルートだと思う。北ルートはローズシティのあと、クロユリシティかヒナギクシティだけど、どっちも遠いし、ジムを終えたら来た道を戻らないといけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ヒナギクからは一応ダリアに行けなくもないけど……確かにカーテンクリフを越えるのは現実的じゃないかもね」
歩夢「南もすぐに山越えがあるから……そうなると、西ルートがいいのかな?」
侑「じゃあ、西ルートでダリアシティを目指そう!」
歩夢「はーい♪」
……と言うわけで、私たちは昨日と同じように西側の6番道路へ向かいます。
🎹 🎹 🎹
──6番道路・風斬りの道。
侑「歩夢! 準備OK?」
歩夢「うん、いつでも大丈夫だよ。サスケ、走るからね」
「シャー」
侑「イーブイも振り落とされないようにね」
「ブイ」
歩夢「あと……ヒバニー、出てきて!」
歩夢がボールを放ると──
「──バニ!!」
ヒバニーが顔を出す。
歩夢「ヒバニーは走るの大好きだから、一緒に走ろうね♪」
「バニバニ♪」
私たちは先ほどレンタルサイクルで借りた自転車にまたがったまま、今から走る道を見据える──5番道路まで続く長い大橋を。
この橋の上はサイクリングロードになっているから、自転車がないと通り抜けが出来ない。
なので、セキレイシティ⇔ダリアシティの行き来の際はこうして自転車を借りるのが基本となっている。
ちなみにポケモンは大型ポケモンでなければ走ってもOKだ。
侑「リナちゃんはどうする?」
リナ『あんまり速いと追いつけなくなっちゃうから、バッグの中にいる』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
侑「わかった」
リナちゃんがバッグに入ったのを確認して、
侑「よし、歩夢行こうか」
「ブイ」
歩夢「うん♪」
「シャボ」「バニバニッ」
私たちはサイクリングロードを走り出す。
🎹 🎹 🎹
侑「──風が気持ちいい~♪」
歩夢「ホントだね♪」
歩夢と並びながら、自転車で風を切って走る。
「バーニバニニニ!!!!!」
歩夢「ふふ♪ ヒバニーも楽しそう♪」
すぐ横の橋の柵上を並走してするヒバニーを見て、歩夢が嬉しそうに笑う。
侑「いいなぁ、私も一緒に走ってくれるポケモンがいれば……」
歩夢「ふふ♪ 大丈夫だよ、上を見て!」
侑「え?」
歩夢の言葉に釣られるように上を見ると──
侑「わぁ……!」
「ポポ」「スバーーー」「ピィィーー」「ミャァミャァ」
いろんな鳥ポケモンたちが私たちの上を飛び回っている。
ここ風斬りの道は鳥ポケモンの名所。気が付けば、あちこちに鳥ポケモンたちが飛び回っている姿を見ることが出来るようになっていた。
リナ『見えてないけど、かなりの数のポケモンの反応』
バッグからリナちゃんの声。
侑「ホントにすごい数かも!」
歩夢「すごいね、侑ちゃん!」
侑「うん!」
何匹かは歩夢のすぐ傍を並んで飛んでいる。もしかして、歩夢に寄って来てるのかな?
スバメやポッポ、ヤヤコマやムックルのような、街でもたまに見かけるポケモンの他にも──
侑「わ! あれってキャモメだよね!? 海で見るポケモン!」
歩夢「うん! キャモメだけじゃないよ! ペリッパーも!」
侑「! あれってヒノヤコマかな!? 初めて見るよ!」
旅……楽しい!!
旅立ち早々、見たこともないような景色に遭遇して、幸せな気持ちになってくる。
侑「でも、こんなにポケモンがいるなら……捕まえてみたいなぁ」
「ブイ…」
考えてみれば、イーブイは自然になついて仲間になってくれた子だから、実際にポケモンバトルをして、捕まえることが出来たポケモンはまだいない。
良い機会だし、1匹くらい狙ってみるのもいいかもしれない。
侑「おーい! 誰かー! 私とバトルしてよー!!」
空を飛ぶポケモンたちに声を掛けるけど──鳥ポケモンたちは、私のことなんか特に気にならない様子で、風を受けて飛び続けている。
侑「……相手にされてない」
歩夢「あはは……どっちにしろ、イーブイだけだと飛んでるポケモンたちと戦うのは難しいかもしれないよ?」
侑「まあ、それもそっか……」
残念だけど、歩夢の言うとおりかも……。大人しく、風斬りの道を抜けた先で捕獲しよう……。
と思った瞬間──
リナ『ポケモン反応!! 背後から急接近!!』
リナちゃんがバッグの中から叫ぶ。
侑「え!?」
「ワシャァーーー!!!!!」
振り返ろうとした瞬間、背負ったバッグを何かに掴まれる。
侑「ちょ、タ、タンマ……!!」
何かが強い力で後ろから引っ張ってきている。自転車で走っている真っ最中だから、このままだと……転んじゃう……!!
侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
「ブイ!!!」
頭の上のイーブイが──ヒュンと風を切りながら、後ろでバッグを掴んでいるポケモンに突進する。
「ワシャァッ!!!」
攻撃が直撃したのか、短い鳴き声と共に──
侑「っ!?」
後ろに引っ張る力が急になくなったせいで、前につんのめりそうになる。
歩夢「侑ちゃん!?」
侑「だい、じょう、ぶっ!!」
ブレーキをめいっぱい握りしめながら、足を地面に着けて、無理やり急ブレーキを掛ける。
──ギャギャギャっと、ちょっとヤバい音はしたものの、
侑「セ、セーフ……」
どうにか止まれた。
そのまま、すぐに後ろを振り返ると──
「ブイ…!!!」
「ワシャッ!!」
イーブイと1匹の鳥ポケモンが向き合って、睨み合っているところだった。
侑「リナちゃん!」
リナ『うん!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
リナちゃんがバッグから飛び出す。
リナ『ワシボン ヒナわしポケモン 高さ:0.5m 重さ:10.5kg
どんなに 強い 相手でも 見境なく 勝負を 仕掛ける。
倒れるたびに 傷つくたびに 強く たくましく 育っていく。
強い 脚力と 丈夫な ツメで 硬い 木の実も 砕く。』
侑「ワシボン……!」
好戦的なポケモンだから、私に飛び掛かって来たんだ……!
侑「いいよ! なら、バトルしよう! ワシボン!」
「ワシャ!!!!!」
ワシボンが空を切って突っ込んでくる。
侑「イーブイ! “たいあたり”!!」
「ブイィ!!!」
2匹が正面からぶつかり──
「ブィッ!!!」
「ワシャッ!!!」
両者、攻撃が打ち合って後退する。
「ワシャッ!!!!」
ワシボンは後退したと思ったら、すぐに近くの鉄橋のアーチの方に向かって飛んでいく。
侑「あ、あれ?」
もしかして、今ので逃げちゃうの……?
私が軽く拍子抜けした瞬間──
──ギャギャギャギャっと耳障りが音が響く。
侑「う、うるっさ……!? “いやなおと”!?」
リナ『ワシボンは“いやなおと”は覚えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「じゃあ何!?」
歩夢「つ、爪を研いでるんじゃないかな……っ?」
歩夢が耳を押さえながら近付いてくる。
リナ『歩夢さん正解! リナちゃんボード「ピンポーン♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「つ、つまりそれって……! “つめとぎ”……!?」
「ワシャァッ!!!!!」
爪を研ぎ終わったワシボンが、鉄橋のアーチを蹴って、一気にこちらに向かって飛び出す。
攻撃力を上げて突っ込んでくる……!?
「ブィィ!!?」
急なことに対応出来ず、イーブイに“つばさでうつ”が直撃する。
侑「イーブイ!?」
「ブ、ブイイィ…!!!」
イーブイは攻撃を受けて、吹っ飛び転がりながらもすぐに体勢を立て直す──が、
「ワッシャァッ!!!!!」
吹っ飛んだイーブイを追いかけるように、ワシボンが追撃してくる。
再び大きく振るった翼に──
侑「イーブイ!! “しっぽをふる”!!」
「ブーーイ!!!!」
大きな尻尾で追い払うように、攻撃を受ける──
「ブィ…ッ!!!」
ノーダメージとまではいかなかったけど、幸いにも十分勢いを殺せた……!
と、思った瞬間──
「ワシャァ!!!!!」
「ブィィ!!!?」
侑「ええ!?」
逆の翼が襲い掛かって来た。
リナ『あれは“ダブルウイング”!? あのワシボン珍しい技覚えてる!?』 || ? ᆷ ! ||
「ブ、ブィィ…!!!!」
イーブイはよろけながらも、後退しながらステップを踏むようにして、なんとか持ちこたている。
「ワシャァ!!!!」
再び翼を広げて、飛び掛かってくるワシボン。
リナ『侑さん!! また来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
二発来るってわかってるなら、こっちも……!!
侑「イーブイ!! “にどげり”!!」
「ブイッ!!!!」
イーブイは後ろ脚で、一発目の攻撃を受けるように翼を蹴り上げる。
「ワシャッ!!!!」
先ほどのように、飛んでくる逆の翼での攻撃も──
「ブイッ!!!!」
「ワシャッ!!!?」
二発目の蹴りで迎撃する。
侑「二連続で攻撃出来るのは、そっちだけじゃないよ!」
自慢の攻撃が捌かれたためか、ワシボンに一瞬動揺が見えた。
侑「今だ!! “すなかけ”!!」
「ブイッ!!!!」
「ワシャッ!!?」
一瞬の隙を突いて、ワシボンの顔に砂を直撃させる。
「ワ、ワシャァァ!!!!!」
目潰しを食らって、ワシボンはよたよたしながら、翼をぶんぶんといい加減に振り回す。
でも、そんな適当な攻撃は当たったりしない。この隙に決める……!!
侑「いっけぇ!! “たいあたり”!!」
「ブーーイ!!!!!」
「ワシャァ!!!?」
攻撃が直撃し、ワシボンが後ろに向かって吹っ飛んでいく。
そこに向かって私は──
侑「いっけーーー!! モンスターボール!!!」
モンスターボールを投擲した。
──パシュン!! ワシボンにボールが直撃し、中に吸い込まれる。
侑「お願いお願い……!!」
モンスターボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち……大人しくなった。
侑「……やった」
「ブィ」
侑「やったぁぁ!! 初捕獲成功ーーー!!!」
「ブィブィ♪」
イーブイが私の胸に飛び込んでくる。
侑「イーブイ! 私たち捕獲出来たよー!!」
「ブイブイ!!!」
二人で喜びを分かち合っていると──
歩夢「侑ちゃん、おめでとう!」
歩夢が自転車の乗ったまま、近寄ってくる。
侑「えへへ、ありがと歩夢♪」
歩夢「うん♪ それじゃ、イーブイは怪我を治そうね♪」
歩夢はそう言いながら、イーブイに“きずぐすり”を噴きかける。
「ブイー♪」
歩夢「よし♪ これで、元気になったね♪ ワシボンも治療してあげないと♪」
ニコニコしながら、今捕まえたばかりのモンスターボールの方へ近付いていく。
侑「あ、ちょっと歩夢!? 最初にボールから出すのは私がやるって!?」
リナ『確かにこれだと、どっちが“おや”なのかわからない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「私がワシボンの“おや”だからー!?」
初めての捕獲の喜びも束の間、私は歩夢に先を越されまいと、慌ただしくモンスターボールのもとへ急ぐのだった。
💧 💧 💧
──セキレイデパート。
しずく「“モンスターボール”は買いましたね。あとは“きずぐすり”と……“どくけし”や“まひなおし”も買っておかないと……」
「マネマネェ…」
私が道具の棚の前で腕組みしながら考えていると、足元でマネネも腕組みをして考える素振りをする。
しずく「マネネったら、また私の真似して……」
「マネネ」
「──あれ、しずくちゃん?」
しずく「?」
声を掛けられて振り返る。そこにいたのは──
しずく「あ……ことりさん」
ことり「こんにちは♪」
ことりさんだった。
ことり「旅に出たんだと思ってたけど……まだ、セキレイシティにいたんだね?」
しずく「はい。まだ、かすみさんが研究所で片付けの手伝いをしている真っ最中でして……」
ことり「待ってあげてるの?」
しずく「なんというか……かすみさんを一人放って行くのも少し気が引けますし……」
ことり「ふふ、そうなんだ♪ しずくちゃんは友達想いなんだね♪」
しずく「い、いえ……/// な、何より、一人で行かせるのが心配なので……!///」
ことり「そっかそっか♪」
しずく「うぅ……///」
「マネ…///」
なんだか見透かされているようで恥ずかしい。というか、マネネはこういうところまで真似しなくてもいいのに……。
ことり「それじゃ、かすみちゃんのお手伝いが終わるまで、しずくちゃんは時間があるんだね?」
しずく「はい……むしろ、すでに暇と言いますか……」
かすみさんのお手伝いはもう少し時間が掛かりそうですし……。
こうして、買い物をしに来てはいるものの、最低限の旅の準備は昨日の時点で終わっていたわけで……。
ことり「なら、しずくちゃん、ことりのお家においでよ♪」
しずく「……え?」
ことり「というか決定です♪ それじゃ、行こう~♪」
しずく「え!? えぇ~!!?」
「マネネェ!!?」
ことりさんは私の返事も聞かずに、私の手を引いて歩き出してしまいました。
💧 💧 💧
ことり「いらっしゃいませ♪ ことりのお家へ♪」
しずく「え、えっと……お邪魔します」
「マ、マネネェ…」
連れてこられたのは侑先輩と歩夢さんが住んでいるマンションの一番上のお部屋。
ことりさんも、同じマンションに住んでいたんですね……。
それにしても……。
「ピィー」「ポポ」「ピピピヨ」
しずく「すごい数の鳥ポケモン……」
「マネネェ」
さすが、ひこうタイプをエキスパートとしている四天王……。
……というか、私は何故ここに連れてこられたのでしょうか?
ことり「しずくちゃんはどんな鳥ポケモンが好き?」
しずく「え? えっと……どんなと言われると難しいですね……」
ことり「かわいいとか、かっこいいとか、そういう大雑把なことでもいいよ♪」
しずく「えっと……力強い美しさがあるポケモン……でしょうか」
鳥ポケモンに限らず、内に秘めたエネルギーがあるポケモンが好き……だと思う。
我ながら、具体性に欠ける気がするけど……。
ことり「力強い美しさだね♪ わかった、いい子がいるから待っててね!」
しずく「は、はぁ……」
ことり「ココラガ、おいで!」
ことりさんが呼ぶと──
「ピピピピィィーーー」
小さな鳥ポケモンが飛んできて、ことりさんの腕の上に止まる。
しずく「あ、このポケモン……」
目の前のポケモン──ココガラには、少しだけ見覚えがあった。
ことり「あれ? もしかして、ココガラ知ってるのかな? この地方では珍しいポケモンなんだけど……」
しずく「は、はい。小さい頃、両親と一緒に旅行で行ったガラル地方で見たことがありまして……」
確かこのポケモンは──
しずく「アーマーガアに進化するんですよね? ガラル地方では交通の便として、私も利用させて貰いました!」
ガラル地方では『空を飛ぶタクシー』として慣れ親しまれている、アーマーガアへ進化することで知られている。
しずく「アーマーガアの力強さ、そしてガラルという地方で人と共存し、生きている姿には幼いながらも感動させられた記憶があります……!」
あそこまで人とポケモンの生活が密接に結びついているのは、なかなか珍しいことだ。
ことり「そうなんだ! じゃあ、しずくちゃんにぴったりかも! よかったね、ココガラ♪」
「ピピピピィィーー」
しずく「よかった……? あの、ことりさん……私は一体何をすれば……」
というか、何をさせられるんでしょうか……? 困惑していると──
「ピピピピィーーー」
しずく「きゃっ!?」
ココガラはことりさんの腕から飛び立ち、今度は私の頭の上に止まる。
しずく「え、えっと……」
ことり「ふふ♪ ココガラもしずくちゃんが気に入ったみたいだね♪ それじゃ、よろしくね♪」
しずく「……? えっと、よろしくとは一体……?」
ことり「ココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」
どうにも、会話が噛み合っていないような……。
しずく「…………もしかして、このココガラ……頂いても良いということでしょうか?」
ことり「あれ? 言ってなかったっけ?」
しずく「えっと……とりあえず、今のところは何も……」
そういえば、この街の子供はみんな、ことりさんから鳥ポケモンを貰う習慣があると、前に学校で聞いたことを思い出す。
通っていたのがセキレイシティの学校だったため、生徒のほとんどは幼少期にことりさんから鳥ポケモンを貰っていると言っていた気がします。
もちろん、かすみさん、歩夢さん、侑先輩も例外ではなく……というか、この話は昨日もしていましたね。
ことり「私、セキレイシティの子には、鳥ポケモンをよくプレゼントしてるんだよ♪」
しずく「ですが……いいんですか?」
ことり「ん~?」
しずく「私はセキレイシティ出身ではなく、サニータウンから来ているので……」
ことり「でも、ここから旅立つんだったら、もうセキレイシティの子も同然だよ~♪」
そ、そういうものなんでしょうか……?
ことり「別にセキレイシティの子にあげるって決まりがあるわけじゃないし……実際セキレイシティの出身じゃない、曜ちゃんにもあげたことがあるし♪」
しずく「え、そうなんですか?」
ことり「うん♪ まだ曜ちゃんが駆け出しのトレーナーだった頃だけどね♪」
街の人たちに慕われているジムリーダーの曜さんが、駆け出しだった頃……あまり想像が出来ませんが……。
そういえば、ことりさんと曜さんは師弟関係だという話を聞いたことがあった気が……確かにそれなら、ポケモンを譲り受けていてもおかしくない……のかな。
ことり「これはあくまでトレーナーデビューしたしずくちゃんへの、お祝いの気持ちだよ♪ だから、しずくちゃんもココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」
しずく「……わかりました。そういうことでしたら、ありがたく頂戴します……! よろしくね、ココガラ」
「ピピピィィィーー」
ことり「うん♪ それじゃ、ことりはお仕事があるから、そろそろウテナシティのリーグに戻らなきゃ」
しずく「お、お仕事前だったんですか!? す、すみません……」
ことり「うぅん、気にしないで♪ ことりも好きでやってることだから♪」
ニコニコ笑いながら言うことりさんと共に、ことりさんの部屋を出る。
ことり「それじゃ、冒険の旅楽しんで来てね♪」
しずく「はい! ありがとうございます!」
「ピピピピィィーー」
ことり「ココガラも、しずくちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてあげてね♪」
「ピピピピピィィィーーー」
ことり「よし! それじゃ、またね、しずくちゃん!」
ことりさんはそう言いながら──突然、手すり壁に手を掛け身を乗り出し、マンションの廊下を飛び降りた。
しずく「!?」
ここ10階ですよ……!? 驚くのも束の間──目の前を、大きな綿雲の翼が飛翔していく。
しずく「チ、チルタリス……」
ことりさんは、空中で出したチルタリスに乗り、優雅に飛び去って行ったのでした。
しずく「さすが……ひこうタイプのエキスパート……」
移動も自由自在ですね……。
しばらく、感心やら驚嘆やらで呆然としていましたが……。
「マネマネ」「ピピピピィーー」
しずく「……あ、うん。ここでボーっとしてても仕方ないよね」
ポケモンたちの声で現実に引き戻された私は、かすみさんの様子を見に、研究所へと足を向けるのでした。
🎹 🎹 🎹
ワシボンを捕獲したあと、順調に橋を進んで──
侑「風斬りの道、抜けた~!」
5番道路に到着した。
歩夢「やっぱり自転車があると、早いね♪」
リナ『障害物がない一直線の道なのもあるかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
気付くと、風斬りの道を抜けたからか、リナちゃんも外に出てきている。
歩夢「この調子だと、すぐにダリアシティだね」
歩夢の言うとおり5番道路に入って、少し南下すればダリアシティはすぐそこにある。
宿の問題もあるし、早めにダリアシティに到着出来るに越したことはないんだけど──
侑「ねぇ、歩夢。ダリアシティもいいんだけどさ……」
歩夢「え?」
侑「せっかくここまで来たなら……もっと近くで見たくない?」
言いながら指差す先は──ここから北にある、オトノキ地方随一の断崖絶壁。
侑「カーテンクリフ……!」
歩夢「わ……! 気付いたら、クリフにこんなに近付いてたんだね」
まだ結構距離があるはずなのに、目の前に聳え立っている自然の大壁は、かなりの存在感を放ちながら私たちを見下ろしている。
侑「せっかくの旅なわけだしさ! 近くで見てみない?」
歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんが行きたいなら、いいよ♪」
侑「やった♪」
リナ『それじゃ、進路は一旦北の7番道路に変更だね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
「バニバニッ!!!!」
進路変更を聞いて、ヒバニーがぴょんぴょんと跳ねる。
歩夢「ヒバニー、まだ走る?」
「バニバニッ!!!!」
侑「もっと走れて嬉しいー! って感じかな?」
歩夢「うん、そうみたい」
侑「ヒバニー、ホントに元気だね」
歩夢「うん。サスケとは正反対」
「…zzz」
気付けばサスケは、歩夢の肩に乗ったままお昼寝中。器用だ……落ちないのかな。
侑「イーブイは走る?」
「ブイ…」
訊ねると、イーブイは私の肩に乗ったまま、小さく鳴くだけだ。
侑「あはは、イーブイも大人しいね……」
戦闘のときはあんなに頼もしいんだけどね……。
侑「よっし! とにかく、カーテンクリフ目指してレッツゴー!」
歩夢「おー♪」
リナ『はーい♪』 || > 𝅎 < ||
🎹 🎹 🎹
──しばらく自転車を走らせ、7番道路。
侑「着いたね……」
歩夢「うん……」
侑「見えてるのに、なかなか辿り着かないとは思ってたけど……」
辿り着いたカーテンクリフの麓から見上げる断崖絶壁は、予想以上のスケール感だった。
頂上は雲に遮られて、ここからだと全く見えない。ここまで続いていた道路を急に遮る形で存在しているソレは、まさにオトノキ地方のカーテンの異名に相応しいかもしれない。
歩夢「子供の頃から遠くに見てはいたけど……近くで見るとこんなにおっきいんだね……」
侑「うん……! やっぱ、実際に間近で見るとときめいちゃう……!」
歩夢「ふふ♪ ここまで来てよかったね♪」
侑「うん! あ、そうだ! せっかくだし、行けるところまで麓沿いに行ってみようよ! どれくらいカーテンなのかを自分の足で、もっと体感したい!」
私は自転車を停めて、麓沿いに駆け出す。
「ブイ…」
イーブイはのんびりしたかったのか、私の頭から飛び降りちゃったけど……まあ、いいや!
歩夢「あ、ちょっと待って侑ちゃん……!」
「バニバニ~!!!!」
歩夢「あ、ちょっと……! ヒバニーも……!」
侑「お、ヒバニー競争する?」
「バニバニ!!!!」
侑「じゃあ、どっちが先に端に辿り着くかの勝負だよ♪」
「バニー♪」
歩夢「端まで行ってたら日が暮れちゃうよぉ~……」
半ば歩夢を置いていきかねない勢いで、ヒバニーと一緒に走り出した矢先──
リナ『ゆ、侑さん!? 上!!』 || ? ᆷ ! ||
リナちゃんが急に大きな声をあげた。
侑「上?」
「バニ?」
ヒバニーと一緒に上を見上げると──大きな影が見えた。
侑「!?」
頭上から何かが落ちて来ていると気付いたときには──もう直撃ルートだった。
歩夢「侑ちゃん!! ヒバニー!!」
「ブイブイ!!!!」
侑「っ……!!」
咄嗟に足元のヒバニーを掴んで、
「バニッ!!!?」
歩夢の方に全力で放り投げる。
歩夢「! ヒバニー!!」
「バニッ」
歩夢がキャッチしたのを確認したけど──
侑「っ……!」
もう目と鼻の先に迫る落下物。もうダメだ──そう思って目を瞑った瞬間、
「──ウインディ!! “しんそく”!!」
響く声と共に、自分の身体がふわっと浮いた気がした。
──直後、ガァーーーン!!! 重い物が落下したんだとわかる大きな音が衝撃を伴って空気を震わせる。
「お怪我はありませんか!?」
侑「……え……?」
間近で声が聞こえて、目を開けると──
侑「!!?!? え、せつ……っ!!?!?」
目の前に、同い年くらいの見覚えのある女の子の顔。
そして、周りの景色が高速で流れている。
あまりの情報量の多さに混乱する中、
「ボスゴーーーードラァ!!!!!!!」
響き渡る、低い鳴き声。
「まだ、戦闘不能になってない……! このまま、決めます!! 掴まっていてください!!」
侑「へ!? えぇ!?」
「ウインディ!! “インファイト”!!」
「ワォォォーーーン!!!!!!」
揺れる景色がさらに激しくブレる。辛うじて前方に目を向けると──ウインディが、牙や頭、前足でボスゴドラに猛攻撃を食らわせているところだった。
「ゴォーードラァ…ッ」
そして、その攻撃を受け、ボスゴドラは吹っ飛ばされながら、崩れ落ちた。
「ふぅ……どうにかなりましたね。すみません、大丈夫でしたか?」
そう言いながら、目の前の女の子が私の顔を覗き込んでくる。
侑「は、はい……っ……///」
顔がカッと熱くなるのを感じた。何せそこにいたのは──
せつ菜「それなら、何よりです!」
──私の憧れのトレーナー、せつ菜ちゃんだったからだ。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【7番道路】【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
|| |●|. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.10 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.9 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:23匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.8 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:10匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.5 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:3匹
侑と 歩夢と しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🐥
只今ことりは、ウテナシティに戻る真っ最中。
ことり「……」
空を切りながら飛ぶチルタリスの背後から、
ことり「……やっぱり、視られてるよね」
「チルゥ」
ずっと視線を感じていた。
それも今日に限ったことじゃない、ここしばらくはずっとだ。
気のせいかな……とも思っていたけど、いい加減犯人さんを突き止めてしまった方がよさそうだ。
私は背後を振り返り、
ことり「追いかけてきている人!! 出て来てください!!」
背後に向かって大きな声で呼びかける。
ただ、ここは上空。隠れる場所なんてないはず。
だからこそ、ことりも気のせいだと思っていたんだけど……あまりに強い視線──というよりも、圧を背中に感じ続けていた。
何かがいるのはほぼ間違いないと、ことりの勘がそう言っていた。
その刹那──
ことり「きゃぁっ!?」
突風のように何かがことりの横を猛スピードで横切った。
ことり「やっぱり何かいる……!!」
「チルゥゥゥ!!!!!!」
一気に臨戦態勢に入るものの──ギュンッ!!
ことり「っ……! 回避っ!!」
「チルゥッ!!!」
咄嗟に回避を指示。
チルタリスは身を捩り、辛うじて避けられたものの、相手の動きが速過ぎて姿が捉えられない。
恐らく、純粋なスピードだけで逃げ切るのはチルタリスでは難しい。
もっと、スピード重視の子に入れ替えるのも考えたけど──
私はすぐに、純粋な速さ比べも力比べもするべきではないと判断する。
何故なら──私の知る限り、こんな高速で飛行しながら、攻撃を行うポケモンは“ひこうタイプ”には存在しないと思ったから。
相手が何者かもわからないまま、隠れる場所もないこの空中で、戦いを続けるのは得策じゃない。
ことり「……ならっ!!」
隠れる場所がないからこその、迎撃方法で立ち向かう……! ことりは両手で耳を塞ぎながら──
ことり「“ハイパーボイス”!!!」
「チィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!」
空間一帯を爆音で攻撃する。
チルタリスを基点に広がる振動のエネルギーが、周囲の空気を激しく震わせたのち──
ことり「……い、いなくなった……かな……?」
先ほどまで、空気を裂きながら飛翔していたポケモンの攻撃は、スンと止む。
ことり「……逃げたのかな……?」
無差別の音波攻撃によって、撃墜した可能性もあるけど……深追いは禁物かな。
ことり「チルタリス、少し時間掛かっちゃうけど……高度を下げて向かおっか」
「チル」
私は出来るだけ遮蔽物のある地表付近を飛びながら、ウテナシティを目指すことにする。
帰ったら、すぐに海未ちゃんに報告しないと……。
………………
…………
……
🐥
■Chapter005 『憧れのトレーナー』 【SIDE Yu】
せつ菜「──改めて、お怪我はありませんか?」
ウインディから降ろして貰うと、せつ菜ちゃんは再び私の顔を覗き込みながら、そう訊ねてくる。
侑「は、はい……っ」
軽く声を上ずらせながら返事をすると、せつ菜ちゃんは少し不思議そうに首を傾げる。
せつ菜「……やはり、どこか調子が悪いんじゃ……」
侑「い、いえっ!!」
せつ菜「そうですか……? なら、いいのですが……」
せつ菜ちゃんと直接話しているという事実に軽く動転していると、
歩夢「侑ちゃーん!!」
「ブイブイ!!!」「バニーー!!!!」
歩夢とイーブイ、そしてヒバニーがこちらに駆け寄ってくる。
「ブイーーー!!!!」「バニーーー!!!」
そのまま、イーブイとヒバニーが飛びついてくる。
侑「おとと……イーブイ、私は無事だよ。心配掛けてごめんね。ヒバニーも怪我がなさそうでよかったよ」
「ブイ…」「バニー!」
せつ菜「! あなたのポケモンと……そちらは連れの方ですか?」
歩夢「は、はい……! 侑ちゃんを助けていただいて……。……え?」
歩夢もせつ菜ちゃんに気付いたらしく、言葉を詰まらせる。まあ、あれだけ一緒にビデオ見てたし、歩夢も気付くよね……。
せつ菜「? どうかされましたか?」
侑「えっと……」
せつ菜「?」
侑「せつ菜ちゃん……ですよね?」
私がそう訊ねると、せつ菜ちゃんは少し考えたあと、
せつ菜「……もしかして、どこかでお会いしたことが……?」
と、明後日の方向に結論が出た模様。
侑「い、いや……ポケモンリーグ決勝戦での試合で見たことがあって……」
せつ菜「ああ、なるほど! 観戦してくださってたんですね!」
せつ菜ちゃん……自分が有名人だって自覚ないのかな……?
せつ菜「知ってくださっているなんて光栄です。そんな方を巻き込んでしまったなんて……面目ないです」
侑「巻き込んでしまった……? むしろ、助けてもらって……」
せつ菜「いえ……先ほど降ってきたボスゴドラは、上で私が戦っていた野生のポケモンなんです……」
歩夢「こんな場所でバトルを……?」
せつ菜「はい、修行のために……。ですが、ボスゴドラが落ちたあとに、下に人がいることに気付いて、急いで下って来たんです」
それはそれで、すごいような……。崖から落ちてくるボスゴドラに、追いついてきたってことだよね……?
せつ菜「なので、申し訳ありませんでした。まさか、カーテンクリフの麓に人がいるなんて思ってなくて……」
侑「い、いや、いいんです! お陰様で、このとおり無事ですし!」
せつ菜「そう言っていただけると助かります……。えーっと……」
侑「あ、私、侑って言います!」
歩夢「歩夢です、侑ちゃんと一緒に旅をしていて……」
せつ菜「侑さんと歩夢さんですね! 私はせつ菜って言います! ……って、もう知っているんでしたね」
せつ菜ちゃんはコホンと咳払いをする。
せつ菜「ところで、お二人とも見たところ同じくらいの歳に見えますが……」
侑「あ、はい! 私も歩夢も16歳です!」
せつ菜「ということは同い年ですね! でしたら、敬語は使わなくても大丈夫ですよ!」
侑「え、でも……」
せつ菜「どうか、お気になさらず! 私も敬語で話されるのはむず痒いので!」
侑「そ、そういうことなら……じゃあ、敬語は無しで話すね?」
せつ菜「はい!」
歩夢「私もそうした方がいいんだよね……?」
せつ菜「はい! お二人とも、それでよろしくお願いします!」
侑・歩夢「「…………」」
せつ菜ちゃんはまだ敬語なんだけど……。
リナ『お話、そろそろ終わった? 私も自己紹介したい』 || ╹ᇫ╹ ||
そんな中、マイペースに私たちのもとへと、飛んでくるリナちゃん。
せつ菜「おお!? 何やら機械が喋りながら浮いてますよ!?」
リナ『初めまして、リナって言います。ポケモン図鑑やってます』 || > ◡ < ||
せつ菜「ポケモン図鑑!? もしや、噂に聞くロトム図鑑とやらですか?」
リナ『そんな感じ。ロトム図鑑、名前はリナ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
せつ菜「初めて見ました……! ポケモン図鑑に……その子はヒバニーですよね?」
せつ菜ちゃんの視線はリナちゃん、そしてヒバニーを順に見やる。
「バニ?」
侑「あ、このヒバニーは歩夢のポケモンだけどね」
歩夢「図鑑なら私も持ってるよ。リナちゃんみたいに喋ったりしないけど……」
歩夢がせつ菜ちゃんに見せるために、ポケモン図鑑を取り出す。
せつ菜「ふむ、初心者向けポケモンにポケモン図鑑……もしや、新人トレーナーさんですか?」
歩夢「うん、昨日ポケモンを貰って、今日二人で旅に出たところで……」
せつ菜「なるほど……もしかして、それでクリフを見にここまで来られたということでしょうか?」
侑「あはは……実はそうなんだよね」
せつ菜「気持ち、わかりますよ! 確かに旅に出たら一度は近くで見てみたくなりますもんね!」
侑「だよね! 一度は自分の目で確かめてみたくってさ!」
せつ菜「ふふ、いいですね、初々しくて。私も旅に出た頃を思い出してしまいます……! ただ、私はポケモン図鑑や最初のポケモンみたいな子は貰っていませんが……」
せつ菜ちゃんは昔を懐かしむように言う。
せつ菜「少しだけ、お二人が羨ましいです。やはり、図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出るのは、多くのトレーナーにとって憧れですから」
確かにせつ菜ちゃんの言うとおり、最初にポケモンを貰って旅に出る……なんて機会を与えられる子供は、そんなに多くない。
私たちだって、学校にいる生徒の中から選ばれたのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんのたった3人しかいなかったわけだし。
せつ菜「ですので旅に出る前に、街の知り合いの方に捕獲を手伝ってもらって捕まえた──この子が最初の仲間、ということになりますね」
「ワォン」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、横でお行儀よく待っているウインディを撫でる。
侑「このウインディが最初のポケモンだったんだね……!」
せつ菜「はい!」
侑「この子が千歌さんのバクフーンと死闘を繰り広げた、せつ菜ちゃんの相棒だって思うと……! なんだか、ときめいてきちゃった!」
せつ菜「ふふ、ありがとうございます。結局、最後には負けてしまいましたけどね」
侑「でも、すっごい接戦だったよ! 私、あの試合が大好きで、何度もビデオに録画したの見てるんだよ!」
せつ菜「本当ですか? そう言っていただけると嬉しいです! 私もあんなに胸が熱くなった試合は初めてでした……やはり、全身全霊でぶつかり合う試合は心が震えますから!」
侑「うんうん!」
あのせつ菜ちゃんからの生感想にちょっと感激している自分がいる。
せつ菜「あのバトルは、言葉を交わしているわけではないのに、まるで千歌さんと会話をしているかのように千歌さんの気持ちが伝わってきて……本当に最高の試合でした」
侑「気持ちが伝わってくる……」
そっか、せつ菜ちゃん……あの試合のとき、そんなこと考えてたんだ。
話を聞いていたら、私も胸が熱くなってきた。
私も……そんなトレーナーになれるかな?
侑「……あ、あのさ、せつ菜ちゃん」
せつ菜「なんでしょうか?」
私は、せつ菜ちゃんを目の前にして、憧れのトレーナーを目の前にして、話を聞いて……どうしても、
侑「私とポケモンバトルしてくれないかな……!」
せつ菜ちゃんとバトルしてみたくなってしまった。
せつ菜「え?」
リナ『侑さん、それは無謀。どう考えてもレベルが違い過ぎる。今の侑さんじゃ、絶対勝てない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
せつ菜「いえ、勝負は時の運。どんな戦いにも絶対はありませんよ、リナさん」
リナ『……一理ある。訂正する。99.9%勝てないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃん意外と毒舌だね……。
侑「……それでも、一度戦ってみたいんだ! せつ菜ちゃんと! せつ菜ちゃんは私の目標だから……! 今の私とせつ菜ちゃんがどれくらい遠いのか、知りたくって!!」
せつ菜「……ふふ♪ そんな風に言われたら断れませんね! いいですよ、侑さん! バトルしましょう!」
せつ菜ちゃんが私からの挑戦に、嬉しそうに笑う。
歩夢「え、ええ!? 本当にバトルするの!?」
せつ菜「とはいえ、リナさんの言うとおり、レベルの違いというのは確かにあります」
リナ『それに侑さんの手持ちはまだ2匹しかいない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
せつ菜「ですので、こうしましょう! 今回私は、このウインディ1匹で戦います!」
「ワォン」
せつ菜「侑さんは今出来る全力でぶつかって来てください!」
侑「今出来る全力……! うん、わかった!」
私はボールベルトからボールを外して、構える。
歩夢「侑ちゃん……! 頑張ってね!」
侑「うん、ありがとう、歩夢」
歩夢がヒバニーを連れて後ろに下がったのを確認して、せつ菜ちゃんと向かい合う。
せつ菜「それではお相手させていただきます! 侑さん!」
侑「うん!」
すでに構えているウインディのもとへ、私がボールを放ち……ポケモンバトル──スタート!!
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ! ワシボン!!」
「──ワシャッ!!!!」
せつ菜「行きますよ! ウインディ!!」
「ワォン!!!!」
侑「ワシボン! 上昇!」
「ワッシャッ!!!!」
真っ向から打ち合ったら、それこそ勝ち目なんてゼロだからね! まずはウインディの攻撃の届かないところへ……!
せつ菜「常套手段ですが、いい作戦です……! なら、こちらは迎え撃つための準備をするまで! “とおぼえ”!!」
「ワォーーーーン!!!!!」
ウインディが上を向いて大きく口を開きながら、遠吠えする。
リナ『“とおぼえ”を使うと攻撃力が上昇する。放置してるとまずいかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「もちろん、のんびり戦うつもりはないよ!!」
「ワッシャッ!!!!」
ワシボンは一気にウインディの方へ急降下し、翼を構える。
侑「ワシボン! “ダブルウイング”!!」
「ワシボーッ!!!!!」
「ワゥッ!!!」
翼を使った二連撃をウインディの頭にお見舞いする。
せつ菜「ウインディ! 捕まえなさい!!」
「ワォンッ!!!!!」
ウインディはワシボンを捉えようと前足を振り上げるが、
「ワシボーー」
ワシボンは、上手くウインディの前足を潜り抜けるように回避して、またすぐに飛翔する。
せつ菜「身軽ですね……! 進化前特有の体の小ささを生かそうということですか……!」
侑「スピードもパワーもまだまだだけど、体の小ささは武器にもなるからね!」
せつ菜「ふふ……新人トレーナーとは思えない、良い着眼点ですね!!」
侑「えへへ……///」
あのせつ菜ちゃんに褒められるなんて……対戦相手だって言うのに嬉しくなっちゃう……!
侑「さぁ、このまま畳みかけるよ! ワシボン!」
「ワシィーー!!!!!」
再度の急降下──今度は爪を構える。
侑「“きりさく”!!」
「ワシィ!!!!」
この調子で、ヒットアンドアウェイを続ければ──と、思った矢先、
「ワシィッ!!!?」
ワシボンから悲鳴があがる。
侑「え!? どうしたの、ワシボン!?」
歩夢「侑ちゃん! ワシボンの脚!!」
侑「脚……!?」
歩夢の声に釣られるように、ワシボンの脚を見ると──ワシボンの脚は真っ赤な炎に包まれていた。
侑「炎がまとわりついてる!?」
せつ菜「確かに、ひこうポケモンの機動力と、小柄な体躯を利用したヒットアンドアウェイ。見事な作戦ですが……相手をよく見て攻撃しないといけませんよ!」
「ワォン」
気付けば、ウインディが体の表面にチリチリと小さな炎を纏っていることに気付く。
侑「な、なにあれ……!?」
せつ菜「“かえんぐるま”です! 触れたらやけどしますよ! ──そして、炎が届けばこちらのものです!」
「ワォンッ!!!!」
次の瞬間、ワシボンの脚にまとわりついていた炎は一気に火力を増して、
「ワシィッ!!!?」
侑「ワシボン!?」
ワシボンを包み込む渦へと成長していく。
せつ菜「“ほのおのうず”!!」
「ワァォンッ!!!!」
侑「ワ、ワシボン!! 炎を振り払って、空に離脱して!!」
「ワ、ワシィ…!!!」
ワシボンは必死にもがくけど……まとわりついた炎は一向に剥がせない。
リナ『“ほのおのうず”で拘束されてる……! バインド状態を解除しないと、逃げられない!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「っ……!!」
どうする、どうする!?
せつ菜「さぁ、ウインディ! 全力で行きましょう!」
「ワォーーーンッ!!!!!!!」
せつ菜ちゃんの掛け声に呼応するように、ウインディの体の周りにあった“かえんぐるま”がさらに勢いを増し──
せつ菜「“フレアドライブ”!!」
「ワォーーーーンッ!!!!!!!!」
より強力な炎を纏って、ワシボンに体ごとぶつかってくる。
「ワシャーー!!!!?」
侑「ワシボン!?」
“フレアドライブ”を受けたワシボンはそのまま吹っ飛ばされ──くるくる回りながら墜落する。
侑「ワ、ワシボン……!」
「ワシィ…」
リナ『……。ワシボン戦闘不能』 || 𝅝• _ • ||
侑「……そっか、頑張ったね、ワシボン。ボールの中でゆっくり休んでね」
あえなく戦闘不能になったワシボンをボールに戻す。
リナ『……侑さん、続ける?』 || 𝅝• _ • ||
侑「……うん」
リナ『でも……やっぱり、力の差がありすぎる……』 || > _ <𝅝||
侑「いいんだ、私からせつ菜ちゃんにお願いしたことだし。それにまだ勝負は終わってないから……!」
リナ『侑さん……。……わかった』 || 𝅝• _ • ||
私は立ち上がって、もう一度せつ菜ちゃんとウインディに目を向ける。
侑「せつ菜ちゃん」
せつ菜「なんでしょうか」
侑「最後まで……手、抜かないでね……!」
せつ菜「もちろんです! 私はいつだって、相手の全力には、全力でお応えしますよ!」
侑「うん! 行くよ!! イーブイ!!」
「ブィィィィ!!!!!」
私の肩からイーブイがバトルフィールドに踊り出す。戦意は十分……!
侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
「ブイッ!!!!!!」
──ヒュンッと風を切って、イーブイが飛び出す。
せつ菜「ウインディ!!」
「ワォンッ!!!!!」
せつ菜ちゃんは掛け声と共に、ウインディの向かって左側に身を躍らせ、ウインディは口の炎を溜めながら向かって右側を警戒する。
歩夢「トレーナーが動いた……!?」
リナ『!? これじゃ左右に死角がない!?』 || ? ᆷ ! ||
──知ってるよ……! せつ菜ちゃんが前に試合でやっている姿を見たことがある。
トレーナーがポケモンの死角を庇うことによって、より広い範囲に対する迎撃を可能にする戦術……!
でも、私が選んだのは右でも左でもなくって……!!
「ブイィッ!!!!!」
「ワゥッ!!!!?」
せつ菜「!? 正面!?」
イーブイの“でんこうせっか”がウインディの右側頭部に直撃する。
侑「よし! せつ菜ちゃんだったら、絶対に機動力での攪乱を警戒してくると思ったんだ!」
「ブイ!!!」
イーブイは攻撃を当てた反動を利用して、後ろに飛びながら華麗に着地する。
せつ菜「……! 素晴らしい読みと胆力です……!」
侑「さぁ、続けるよ! イーブイ!」
「ブイッ!!!」
再び“でんこうせっか”で風を切って、飛び出す。
リナ『次は右!? 左!? 前!?』 || ? ᆷ ! ||
せつ菜「右も左も前も後ろも関係ありません! “バークアウト”!!」
「ガゥワゥッ!!!!!!!!」
まくし立てるように大きな声で吠え始めるウインディ──全方位攻撃だ。
せつ菜「これで逃げ場は……!」
でも、私が知ってるせつ菜ちゃんなら、絶対に読み合い全体をケアする作戦を取ってくる……だったら、さらに裏をかく……!
せつ菜「……き、消えた!? イ、イーブイはどこですか!?」
「ワ、ワォンッ!!!?」
イーブイを見失ったせつ菜ちゃんとウインディが焦って辺りをキョロキョロと見回す。
侑「イーブイ! “スピードスター”!!」
「ブイィィィ!!!!!!」
「ワォォ!!!?」
突如ウインディの真下から、“スピードスター”が炸裂……!
せつ菜「……! 足元……!!」
「ブイッ!!!!」
視界外からの攻撃に動転したウインディの目の前に、イーブイが跳ねる。
侑「“にどげり”!!」
「ブーイッ!!!!」
「キャゥンッ!!!?」
そして鼻っ柱に、蹴りをお見舞いする。
……よし! 押してる……!! でも、
せつ菜「“ほのおのキバ”!!」
せつ菜ちゃんは冷静だった。
「ワァォンッ!!!!!」
「ブイッ!!!?」
ウインディは“にどげり”の反動で離脱しようとしていたイーブイに飛び掛かるようにして、噛み付いてくる。
侑「イーブイ!?」
燃え盛る牙で、そのままイーブイを捉え、
せつ菜「そのまま、放り投げなさい!!」
「ワォンッ!!!!」
上に向かって、放り投げられる。
リナ『空中だと、次の攻撃が避けられない!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「や、やばい!?」
空中に投げられ、回避が出来なくなったイーブイに、
せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
「ワォーーーーンッ!!!!!!!」
ウインディの口から、火炎が放射される。
侑「イーブイ!!」
絶体絶命の中、
「ブイ…!!!!」
宙に浮くイーブイの目は──まだ戦意を宿していた。
侑「……!」
イーブイが──ゴオッ、と音を立てる灼熱の炎に飲み込まれる。
せつ菜「思わぬ攻撃で苦戦しましたが……! 勝負、ありましたね……!」
「ワォーーーン!!!!」
勝利の雄たけびをあげるウインディ、だけど……。
侑「いや……まだ、終わってない……」
せつ菜「……え」
「…ブィィッ!!!!!」
炎に包まれながら落下したイーブイは──まだ、立っていた。
全身に“めらめら”と炎を宿しながら──
せつ菜「な……っ」
侑「行けっ!! イーブイ!!」
「ブィィィィィッ!!!!!!!!」
灼熱の炎を身に纏った、イーブイが地面を蹴って、飛び出す。
せつ菜「っ……!! ウインディ!! “フレアドライブ”!!」
「ワォンッ!!!!!」
2匹は全身に炎を纏って、真正面から衝突した……!
──ゴォッ! と音を立てながら、炎が爆ぜ、私たちのところまで、火の粉が飛び散ってくる。
歩夢「きゃぁっ!?」
侑「うわっ……!?」
せつ菜「す、すごい火力……!? 決着は……!?」
爆炎が飛び散ったあと、晴れた視界の先に見えたのは──
「ワゥ…」
膝を突くウインディと、
「ブィィ……」
目を回してダウンしている、イーブイの姿だった。
リナ『イーブイ、戦闘不能。よって、せつ菜さんの勝利』 || 𝅝• _ • ||
侑「イーブイ……!」
私はイーブイのもとへと駆け出す。
「ブィィ…」
侑「頑張ったね、イーブイ……! すごかったよ、さっきの技……!」
全力で戦ってくれた相棒を労いながら、抱きしめる。
せつ菜「侑さんっ!」
侑「わぁ!?」
せつ菜「い、今の技なんですか!? 初めて見ました!? イーブイがほのお技を使うことが出来るなんて、知りませんでした!? あれは一体なんという技なんでしょうか!?」
駆け寄って来たせつ菜ちゃんが興奮気味に捲し立ててくる。
せつ菜「あれはウインディから受けた“かえんほうしゃ”を身に纏っていた……? いえ、ですがイーブイは確実にあの炎を自分のモノとして操っているように見えました! 実際、2匹の技がぶつかった瞬間を見れば、あれが偶然自身を焦がす炎を利用したものではなく、イーブイ自身が彼女の意思で以って、炎を使役していたと考えるのが妥当だと思います!! もしや、最初からこんな大技を隠し持っていたんですか!? 侑さん!?」
侑「え、えぇっと……なんだろう……?」
せつ菜「なんだろう……?」
侑「正直、私も……何がなんだか……」
せつ菜ちゃんの言うとおり、私もイーブイがほのお技を使うなんて聞いたことがないし、あれはなんだったんだろう……?
侑「あ、そうだ……」
こんなとき、この疑問について、聞ける相手がいるんだった。
侑「リナちゃん、さっきの技って何か知ってる?」
リナ『うん。さっきの技は“相棒わざ”って言われる技だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
私の質問にリナちゃんは、そう答える。
せつ菜「“相棒わざ”……?」
リナ『イーブイは周囲の環境に適応して姿かたちを変えて進化する生態だけど……稀に進化前のイーブイがその力を操れるようになることがあるらしい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「じゃあ今のは……」
リナ『イーブイがせつ菜さんのウインディの強いほのおエネルギーに適応したんだと思う。技の名前は“めらめらバーン”』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「なんで、“相棒わざ”って言うの?」
リナ『野生のイーブイがこの技を使った例は一件もなくて……トレーナー──つまり相棒との信頼関係がないと、修得が出来ないからそう呼ばれてるみたい。その理由自体はよくわかってないけど』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……! えへへ、じゃあ私……イーブイに信頼されてるんだね……!」
「ブイィ…」
イーブイが抱かれたまま、私の腕をペロリと舐める。
侑「イーブイ、ありがとね……」
「ブィィ…♪」
お礼交じりに頭を撫でてあげるとイーブイは嬉しそうに鳴く。
……あ、そうだお礼と言えば……!
侑「せつ菜ちゃん! バトルしてくれて、ありがとう!」
せつ菜「いえ、こちらこそ……! まさか、こんなに胸が熱くなるバトルになるとは、思ってもいませんでした……! 私こそ、侑さんに感謝しなくては!」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、手を差し出してくる。
私もそれに応えるように手を差し出して──握手を交わす。
侑「あはは、でもやっぱりせつ菜ちゃんは強いなぁ……」
せつ菜「いえ、侑さんこそ新人トレーナーと聞いていましたが……私もウカウカしていると、すぐに追いつかれてしまうかもしれませんね!」
侑「だといいなぁ……」
もちろん、トレーナーになりたてで勝てるとは思ってなかったけど……結果としてハンデありでも敵わなかったわけだから、もっと頑張らないとね。
歩夢「侑ちゃん、お疲れ様」
侑「うん、ありがと歩夢」
歩夢「イーブイ、治療してあげるから、こっちおいで?」
「ブイ…」
歩夢が声を掛けると、イーブイは私の腕の中からぴょんと飛び出して、歩夢の胸に飛び込む。
歩夢「ワシボンも」
侑「あ、うん。ありがと」
言われるがまま、ワシボンのボールを歩夢に手渡す。
歩夢「それと、ウインディもおいで♪」
せつ菜「え!? そんな悪いですよ!? ウインディの治療はトレーナーの私が自分で……!」
「ワゥ…」
焦るせつ菜ちゃんを後目に、ウインディは歩夢の方へと歩み寄って行って、歩夢の頬をペロリと舐める。
せつ菜「こ、こら!? ウインディ!!」
歩夢「ふふ♪ 大丈夫♪ 今、“きずぐすり”使ってあげるね♪」
「ワォン♪」
ウインディは歩夢の前でゴロンとお腹を見せて、じゃれ始める。
侑「あはは……歩夢の前ではウインディも可愛い子犬に見えてくる」
せつ菜「驚きました……私のウインディが初対面の人にここまで心を許すなんて……」
侑「歩夢、とにかくポケモンに好かれる体質なんだよね」
せつ菜「世の中いろいろな方がいるものですね……」
せつ菜ちゃんは腕を組みながら、ウインディをじゃらしている歩夢を興味深く観察している。
歩夢「それじゃ、次はワシボンね」
「ワシー」
「バニ、バニッ!!!!」
歩夢「きゃっ……! もう、ヒバニーはバトルしてないでしょ?」
侑「ご主人様を取られたと思って、嫉妬してるんじゃない?」
歩夢「もう……順番ね?」
「バニィ…」
歩夢、大人気……。
リナ『それより、侑さん、歩夢さん、せつ菜さん』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢・せつ菜「?」
侑「どうしたの? リナちゃん?」
リナ『もういい時間だけど……この後、ダリアシティには向かうの?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんに言われて、辺りを見回すと──確かに空は茜色に染まり始めていた。
歩夢「ポケモンたちの治療をしてたら、夜になっちゃうかもね……」
侑「あーうーん……今から、ダリアまで行くのはちょっと大変かもね」
せつ菜「でしたら、今日はここでキャンプにしませんか? もちろん、お二人もご一緒に! 私は野営にも慣れていますし!」
歩夢「いいの?」
せつ菜「はい! とびっきりおいしいキャンプカレーをご馳走しますよ!!」
侑「ホントに!?」
せつ菜「はい! 任せてください! それでは、キャンプの設営をしてしまいますね!」
侑「私、手伝う!」
せつ菜「よろしくお願いします!」
期せずして出会った憧れの人と、まさか一緒にキャンプまで! もう、ホント旅に出てからときめいちゃうことばっかり……! 旅に出てよかった……!
🎀 🎀 🎀
侑「カレー、カレー♪ まだかな、まだかな~♪」
せつ菜「ふふ、もう少しですよ♪ 侑さんはお皿の準備をお願いします! 私はカレーに最後の仕上げをしてしまうので!」
侑「了解!」
私は二人が料理をしているのを、少し離れたところで、ポケモンたちと見守る。
歩夢「もう二人ともすっかり仲良しだなぁ……」
侑ちゃんとせつ菜ちゃんはすっかり打ち解けたようで、すごく楽しそう。
リナ『歩夢さん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||
歩夢「あ、リナちゃん。えっと……侑ちゃんとせつ菜ちゃん、楽しそうだなって思って」
リナ『私もそう思う。今日初めて会ったとは思えない』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「うん。やっぱり、ポケモンバトルをしたからなのかな?」
リナ『そうかもしれない。正直、羨ましい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「なら、リナちゃんもトレーナーになってみる? ……ポケモン図鑑兼トレーナーって、面白いかもしれないし」
リナ『その発想はなかった。斬新だけど、ありかもしれない』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
リナちゃんくらい感情豊かなら、案外本当になれちゃうかも……あ、でも中身はロトムなんだっけ? ポケモンがポケモントレーナーになっちゃうのはどうなんだろう……?
リナ『歩夢さんは?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「え?」
リナ『バトル。歩夢さんはしないのかなって』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「えっと……」
リナちゃんから逆に質問されると思ってなかったから、言葉に詰まってしまう。
……私は改めて、自分の気持ちについて、少し考えてみる。
歩夢「……まだね、バトルはちょっと……怖い、かな」
リナ『怖い?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「嫌ってほどじゃないんだけど……自分のポケモンが傷つくのも……相手のポケモンが傷ついちゃうのも、怖い」
リナ『じゃあ、やらない?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「……でもね、今日二人がバトルしてるのを見ていて……ちょっとだけ、胸が熱くなった」
リナ『……』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「私も、こんな風に夢中になれたりするのかなって……」
リナ『そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「うん、そんな感じかな」
曖昧な答えになっちゃったけど、嘘偽りなく言ったつもり。
もしかしたら、いつか侑ちゃんみたいに、バトルをする日が来るのかもしれない。
歩夢「そしたら、一緒に戦ってね」
「バニ?」
傍にいるヒバニーを撫でると、ヒバニーは不思議そうに首を傾げた。
リナ『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
歩夢「? どうかしたの?」
リナ『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「え? どこ?」
もう薄暗くなっている辺りを見回すと──1匹の小さなポケモンがこちらを見つめていた。
「ニャァ」
歩夢「わ、かわいい♪」
リナ『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』
歩夢「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」
敵意があるわけでもなさそうだし、こっちに手招きしてみる。
「ニャァ」
でも、ニャスパーはジッとこっちを見たまま動かない。
歩夢「警戒してるのかな……?」
リナ『野生ポケモンだから、警戒するのが普通。ただ、ニャスパーは大人しいポケモンだから、放っておいても大丈夫だと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「ん……そっかぁ」
可愛いから一緒に遊びたかったんだけど……仕方ないかな。
侑「歩夢ー! ご飯の準備出来たよー!」
歩夢「あ、呼ばれてる! みんな行こう!」
「バニバニ!!!」「ブイ」「ワシボー」
歩夢「ほら、サスケも起きて?」
「シャー…?」
みんながゾロゾロと席に移動する中、何故かウインディだけ大人しくしたまま、お座りの姿勢を解かない。
歩夢「ウインディ? 行かないの?」
「ワン」
歩夢「?」
どうしたんだろう……? お腹空いてないのかな……?
侑「歩夢~! 早く~! カレー冷めちゃう~!」
歩夢「あ、はーい!」
侑ちゃんに呼ばれて、席まで駆け出す。
気付けば、テーブルの上にはカレーが盛られたお皿が並べられている。
侑「あーもう私腹ペコ! 我慢出来ない! あむっ!!」
歩夢「もう、侑ちゃん……いただきますもしないなんて行儀悪いよ。あ、そうだせつ菜ちゃん、ウインディあそこにお座りしたままなんだけど……」
せつ菜「ウインディ……カレーはあまり好きじゃないみたいで……」
歩夢「そうなの?」
せつ菜「あとで、“きのみ”をあげるので、気にしないでください」
歩夢「……せつ菜ちゃんがそう言うなら」
“おや”が言うんだから、そうなんだよね。
せつ菜「さて私もお腹ペコペコですので……いただきます! ……あむっ! やっぱり、外で食べるカレーは格別ですね!」
歩夢「それじゃ、私も……。侑ちゃん、カレー美味しい?」
先に食べ始めていた侑ちゃんに味の感想を求めると──
侑「──」
侑ちゃんは机に突っ伏していた。
歩夢「え? 侑ちゃん……?」
せつ菜「あれ? 侑さん、どうしたんでしょうか……? もしかして、相当疲れていたんでしょうか……?」
歩夢「疲れて寝ちゃったってこと……? 食事中に……?」
今までそんなことあったかな……?
私は思わず首を傾げる。そのとき、ふと目に入ったのはイーブイ。
「クンクン…ブイ」
イーブイ……においを嗅いでから、そっぽを向いた気がする。一方ヒバニーは、
「バニーッ! バー、ニッ…」
歩夢「……!?」
カレーにがっつき、その後すぐに突っ伏した。
歩夢「…………」
リナ『歩夢さん、これ、たぶん、やばい』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
リナちゃんが、私の耳元まで飛んできて、そう囁く。
せつ菜「あむっ、あむっ。……? 歩夢さん、どうかされました? 食べないんですか?」
歩夢「あ、えーと……なんでもないよ、あはは」
せつ菜「そうですか? 冷める前に是非食べて欲しいです! 隠し味にとっておきのものを入れた自信作なので!」
歩夢「そ、そっかぁ……」
私はとりあえず、スプーンを付けて小さじ一杯程度を掬ってみてから──口に運ぶ。
歩夢「……っ……!?」
口の中に形容しがたい強烈な味……というか、刺激が走る。
歩夢「せ、せつ菜ちゃん……このカレーって、何入れたの?」
せつ菜「それはお教えできません! とっておきの隠し味を入れた特製カレーなので!」
歩夢「いや、隠れてな──……じゃなくて……お、美味しいから、自分で作るときの参考にしたいな~って思って……」
せつ菜「……うーん……本当は秘密なのですが、そういうことなら今回は歩夢さんにだけ、特別にお教えしましょう」
歩夢「わ、わーい」
せつ菜「“クラボのみ”をベースに作ったカレールー、具は前にキャンパーの方から頂いた、“やさいパック”と“あらびきヴルスト”を入れています!」
リナ『あれ、意外と普通……?』 || ? _ ? ||
せつ菜「そして、最後に隠し味に“リュガのみ”、“ヤゴのみ”、“ニニクのみ”を豪勢に使いました!」
歩夢「……!?」
せつ菜「どれも、稀少な“きのみ”ですよ! お陰でこんなにカレーがまろやかになっているんです! はぁ……美味しい……♪」
確か、リュガ、ヤゴ、ニニクって……。
リナ『どれも渋味や苦味がとてつもなく強い“きのみ”……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「そ、そういえば私ダイエット中だったの思い出したよ!」
せつ菜「え? そうなんですか?」
歩夢「カレーはカロリーが高いから、残念だけど、このくらいにしておくね……!」
せつ菜「歩夢さんは十分細いから大丈夫だと思いますよ! それに、旅をするならしっかり栄養を付けないと!」
歩夢「うぅ、いや、でも……そのぉ……っ」
こ、これ以外の言い訳、そんなすぐに思いつかないよぉ……!?
リナ『せつ菜さん。歩夢さん、ここに来る前にセキレイデパートで、たくさんスイーツを食べちゃったから。私のカロリー管理アプリ的にも、もうこれ以上は危険信号、乙女のピンチ。かなり、ヤバい』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「……! そ、そうなんだよね! 今日はもう完全にカロリーオーバーだから……!!」
せつ菜「そうですか……それは残念です」
シュンとするせつ菜さんには悪いけど……!
歩夢「き、今日は疲れちゃったから早めに休むね!」
せつ菜「はい、おやすみなさい、歩夢さん」
そそくさと、テーブルから離れテントに避難する。
歩夢「リナちゃん、ありがとう……っ」
リナ『カロリーはともかく、食べたら身体に響くのは間違いない……侑さんの犠牲だけで食い止められてよかった』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「侑ちゃん……ごめんね……」
私、あのカレーは食べられる気がしないよ……。
テントに向かう途中──お座りしたまま行儀よく待っているウインディと目が合う。
「ワォン…」
なんだか、物悲しそうな目をしている気がした。
リナ『ウインディも苦労してたんだね……』 || > _ <𝅝||
歩夢「あはは……」
今後、ポケモンたちのご飯の味には、これまで以上に拘ってあげよう……そんなことを考えながら、旅の初日の夜は更けていくのでした……。
……ちなみに、大量のカレーの行き先なんだけど……。
「シャボシャボッ!!!!!」
せつ菜「サスケさん、いい食べっぷりですね!! 私も丹精込めて作った甲斐があります!! どんどん食べてください!!」
「シャーーーボッ!!!!!」
ほとんどがサスケの胃袋に消えたそうです。……自分の手持ちの意外な一面を知ることができました……。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【7番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
|| |●|. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.14 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.12 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.9 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.10 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🐥
──ポケモンリーグ本部、理事長室。
ことり「海未ちゃん……! 報告したいことが……!」
海未「……ことり? どうかしましたか?」
私が理事長室に飛び込むと、事務仕事をしていたであろう海未ちゃんが、顔を上げる。
ことり「あ、あのね……実はここに戻ってくる最中なんだけど──」
──私は事の一部始終を説明する。
ここ最近、視線を感じることが多かったのと、今日ここに戻ってくる際に、何者かに襲撃されたこと、少なくともことりにはなんのポケモンかわからなかったこと。
そして、とりあえず撃退には成功したことを報告する。
海未「……ことり、どうしてもっと早く報告しなかったのですか」
ことり「だ、だって……気のせいかもしれないって思ってたから……。心配も掛けたくなかったし、確実な証拠が出てきたらにしようと思ってて……ごめんなさい」
海未「まあ、いいでしょう……。相手の特徴などは覚えていますか?」
ことり「えっと……動きが速過ぎてはっきりとは……」
ほぼ残像しか見えないような速度だったし……。
海未「色や大きさもわかりませんか?」
ことり「うーん……人間の大人くらいの大きさ……かな……? 色は……白かったような、黒かったような……」
海未「……ふむ」
海未ちゃんは口に手を当てて、少し考えたあと、再び口を開く。
海未「わかりました。遭遇した空域は、こちらで調査隊を出しましょう。ことりが倒している可能性もありますし、そうでなくとも、何かしらの手がかりが見つかるかもしれませんから」
ことり「うん……お願い」
海未「あと、希にも相談してみてください。彼女の占いなら、何かわかるかもしれませんから」
ことり「わかった。希ちゃん、今どこにいるかな?」
海未「四天王の間の自分の部屋にいると思いますよ。あそこが一番、精神統一出来るそうなので」
ことり「ありがとう、行ってみるね」
希ちゃんのもとに行くために、理事長室を後にしようとすると──
海未「ことり」
海未ちゃんに呼び止められる。
ことり「なぁに?」
海未「……襲撃されたことは心配ですが……ことりが無事で何よりです。……すみません、これは最初に言うべきでした」
ことり「海未ちゃん……うぅん。海未ちゃんが理事長に就任してから、そんなに時間も経ってなくて、いっぱいいっぱいなのも、ことりわかってるから! ありがとう、心配してくれて」
海未「……ふふ、ことりにそう言って貰えると、いくらか気が楽になります。こちらこそ、ありがとうございます」
ことり「どういたしまして♪ 調査、手伝えることがあったらなんでも言ってね」
海未「はい、そのときはお願いします。ただ、くれぐれも無理はしないでくださいね」
ことり「うん♪」
海未ちゃんの言葉に笑顔で返して、私は部屋を後にしたのでした。
………………
…………
……
🐥
■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】
せつ菜「──それじゃあこの辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」
侑「ああ……もう、お別れかぁ……」
せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」
侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」
せつ菜「楽しみにしています♪」
せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。
せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」
侑「うん……!」
それに応じて、握手を交わす。
せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」
歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」
リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||
せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」
「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」
歩夢が何故か苦笑いしてる……?
侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
「ブイ…」
リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||
「ブイブイ」
侑「……?」
なんだろ……? まあ、いっか。
せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」
侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」
せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。
侑「それじゃ、私たちも行こうか!」
歩夢「うん!」
リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。
■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】
せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」
侑「ああ……もう、お別れかぁ……」
せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」
侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」
せつ菜「楽しみにしています♪」
せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。
せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」
侑「うん……!」
それに応じて、握手を交わす。
せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」
歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」
リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||
せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」
「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」
歩夢が何故か苦笑いしてる……?
侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
「ブイ…」
リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||
「ブイブイ」
侑「……?」
なんだろ……? まあ、いっか。
せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」
侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」
せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。
侑「それじゃ、私たちも行こうか!」
歩夢「うん!」
リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。
👑 👑 👑
──ツシマ研究所。
善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」
しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」
かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
「ガゥガゥ…」
かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。
しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」
かすみ「挨拶の前にぃ~、ヨハ子博士~」
善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」
かすみ「頑張ったかすみんにぃ~、何かご褒美とかないんですかぁ~?」
善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」
しずく「あはは……」
ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!
善子「んーそうね……何かあったかしら」
そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。
かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」
善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」
かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる~♪」
「ガゥ♪」
しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」
善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」
そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。
かすみ「……なんですか、これ?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」
善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」
かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」
善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」
かすみ「効果……?」
しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」
善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」
かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」
しず子ばっかり、褒められててずるい……。
なんかアンカー含めてミスしまくってる…
>>115-117はなしで。
■Chapter006最初から投下し直します。
すみません
■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】
せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」
侑「ああ……もう、お別れかぁ……」
せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」
侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」
せつ菜「楽しみにしています♪」
せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。
せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」
侑「うん……!」
それに応じて、握手を交わす。
せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」
歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」
リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||
せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」
「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」
歩夢が何故か苦笑いしてる……?
侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
「ブイ…」
リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||
「ブイブイ」
侑「……?」
なんだろ……? まあ、いっか。
せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」
侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」
せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。
侑「それじゃ、私たちも行こうか!」
歩夢「うん!」
リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。
👑 👑 👑
──ツシマ研究所。
善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」
しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」
かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
「ガゥガゥ…」
かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。
しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」
かすみ「挨拶の前にぃ~、ヨハ子博士~」
善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」
かすみ「頑張ったかすみんにぃ~、何かご褒美とかないんですかぁ~?」
善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」
しずく「あはは……」
ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!
善子「んーそうね……何かあったかしら」
そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。
かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」
善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」
かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる~♪」
「ガゥ♪」
しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」
善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」
そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。
かすみ「……なんですか、これ?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」
善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」
かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」
善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」
かすみ「効果……?」
しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」
善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」
かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」
しず子ばっかり、褒められててずるい……。
善子「これがご褒美。好きなだけ持っていきなさい」
かすみ「す、好きなだけ!? ヨハ子博士太っ腹~!! 大好き~?」
「ガゥガゥ~♪」
善子「……あんた、たぶん大物になるわね」
しずく「あの……いいんでしょうか? ロメなんかは結構高価な“きのみ”ですよね……?」
善子「この研究所でたくさん栽培してる種類だから大丈夫よ。それにポケモンに使うだけじゃなくて、旅の食事用にもなると思うから」
しずく「何から何まで……ありがとうございます、博士」
善子「まあ、いいのよ。いろいろあったけど、私が自分で選んで、貴方たちにお願いしてるわけだからね」
かすみ「しず子も早く~!」
自分のバッグに“きのみ”をたくさん詰めながら、しず子を呼びます。
しずく「って、かすみさん、そんなに持ってくの!?」
かすみ「だって、好きなだけ持って行っていいって言ってたじゃん!」
「ガゥ♪」
しずく「いいって言っても限度があるでしょ!? 少しは遠慮しなさい!」
そう言いながら、しず子が私の手から“マトマのみ”を取り上げる。
かすみ「ちょ……! それかすみんのマトマ! 返してよぉ!」
しずく「これは戻すの……!」
かすみ「返してよ~!」
二人で取り合っていた“マトマのみ”でしたが──揉み合っている拍子に……ぐちゃっ。
しずく「あ……」
かすみ「あぁ!? しず子が離さないから、潰れちゃったじゃん!」
しずく「ご、ごめん……」
かすみ「もう、もったいない……」
「ガゥゥ…」
手にマトマの赤い汁が付いちゃいました……勿体ないですね……。かすみんは、手に付いた赤い汁を舌でペロっと舐める。
しずく「あ!? か、かすみさん、マトマの果汁なんか舐めたら!?」
かすみ「──からあぁあぁぁあぁあぁぁ!!?」
「ガゥッ!!?」
ちょっと舐めただけなのに、口の中が燃えるような辛さに襲われる。
叫ぶかすみんにゾロアもびっくりして、肩の上から転げ落ちる。
かすみ「水!!! 水ぅ!!!!?」
しずく「大変!! えっと、水……!! メッソン!!」
──ボム。しず子が投げたボールから、メッソンが出てくる。
「メソ…?」
しずく「かすみさんに向かって、“みずでっぽう”!」
「メソー」
ぷぴゅーと可愛らしい音と共に、メッソンから放たれた水が、かすみんに襲い掛かる。
かすみ「ぎゃー!!? 旅立ち前なのに服がびしょ濡れにぃー!? ってか、飲み水持ってきてよ!?」
しずく「あ、ごめん……」
かすみ「しず子のバカー!!」
普段、優等生ぶってる癖して、焦ると変なことするんだからぁ……。
善子「なんか、大変そうね……。私はそろそろ寝たいから、あとは好きにしなさい……夜型にはぼちぼち堪える時間なのよ……ふぁぁ……」
かすみ「こっちはこっちでダメ人間じゃないですか!!」
しずく「あはは……」
もう……! 旅立つ前だってのに、踏んだり蹴ったりですぅ……!!
👑 👑 👑
──さて、“きのみ”をたくさん貰ったあと、かすみんたちは研究所から出て、いよいよ旅立ちのときです!
かすみ「さぁ、行くよしず子! 冒険の旅が、かすみんのことを今か今かと待ってるよ!」
「ガゥ」
しずく「まずどこに向かうの?」
かすみ「もっちろん、最初はセキレイジム! 曜先輩のところに行くよ!!」
──
────
──────
セキレイジムに辿り着くと、扉の前に一枚の張り紙がありました。
──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』
かすみ「な、なんで……」
「ガゥ…」
かすみんはゾロアと一緒にがっくりと肩を落として項垂れます……一昨日、侑先輩とジム戦してたのに……。
しずく「あはは……曜さんって多忙でジムを空けてることが多いらしいね。よくサニータウンでも見かけてたし……」
かすみ「また出鼻を挫かれたぁ~……」
しずく「どうする? 帰ってくるの待ってみる?」
かすみ「何日掛かるかわからないし……いつまでも、セキレイでのんびりしてたら、歩夢先輩たちにどんどん置いてかれちゃうよっ!」
それに、ジム戦自体は最終的に全部制覇するなら、どの順番で行っても大差ないですもんね! 今ここでセキレイジムに拘る理由はありません!
しずく「そうなると……北のローズか、西のダリアかな? 南は山越えになるから、遠慮したいなぁ……あはは……。かすみさんはどっちに行きたい?」
かすみ「うーん……しず子はどこに行きたい?」
しずく「え? 私?」
しず子がきょとんとした顔をする。
しずく「私はジム巡りをするつもりはないから、どっちでもいいけど……」
かすみ「そうじゃなくて! 旅するって決まってから、いろいろ調べてたじゃん! 行きたいところとかあるんじゃないの?」
しずく「それは……そうだけど……。私が行きたいところはポケモンジムがないから、かすみさんの目的とは合致しないというか」
かすみ「とりあえず、それはいいから! しず子はどこに行きたいの?」
しずく「私は……フソウ島に……」
かすみ「フソウ島って、確かサニータウンから海を渡った先だよね」
しずく「うん。ここからだと東方面かな」
かすみ「じゃあ、進路は東に決定!」
しずく「いいの……?」
かすみ「だって、しず子、ずっとかすみんのこと待っててくれたし……行き先くらいはしず子が決めていいよ」
かすみんがそう言うと、
しずく「……ふふ♪」
何故か笑われる。
かすみ「な、なんで笑うの!」
しずく「うぅん♪ かすみさんって、そういうところは律義だなって思って……ふふ♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ゾロアもそう思うよね♪」
「ガゥ♪」
かすみ「ちょ……笑わないでよ! ゾロアも!」
しずく「それじゃ、9番道路に向かいましょう!」
「ガゥッ♪」
かすみ「ちょっとぉ!! かすみんのこと無視しないでよぉーー!!」
👑 👑 👑
──ジムから歩いてきて、今は9番道路を進行中です。
かすみ「……疲れた」
しずく「結構歩いたもんね。街の端から端を往復したわけだし」
ツシマ研究所は、街の南東側で、ポケモンジムは街の西側──風斬りの道に続く6番道路に近い場所にある。つまり街の端から端なので、結構距離があるわけです。
しずく「一旦休憩する?」
かすみ「さ、賛成~……」
しずく「じゃあ、あそこの木陰でお休みしよっか」
かすみんはふらふらと木陰まで歩き、
かすみ「きゅぅ……」
バッグを放り出して、そのまま倒れ込む。
しずく「かすみさん、大丈夫?」
かすみ「……昨日の疲れが抜けきってない感じがする……。ヨハ子博士、ホントに一日中手伝わせるんだもん……」
しずく「まあ、それはかすみさんが悪いから、仕方ないけど……」
しず子は苦笑いしながら、かすみんの隣に腰を下ろして、バッグの中からポケマメケースを取り出す。ポケマメっていうのは、ポケモンのおやつにもなるマメですね。
しずく「メッソン、おやつだよ」
「メソ…」
かすみ「うわ!? メッソン、いたんだ……」
しず子がポケマメを肩の辺りに差し出すと、スゥーーとメッソンが現れて、ポケマメを食べ始める。
しずく「メッソン、外に慣れてないみたいだから、連れ歩いてるんだ。普段はこんな感じで姿を消しちゃうんだけど……」
「メソ…」
ポケマメを食べると、またスゥーと消えてしまう。
かすみ「まだ、慣れるのには時間がかかりそうだね」
しずく「あはは……そうだね。ゆっくりでいいから、少しずつ慣れていこうね」
「メソ…」
しず子が新しいポケマメを差し出すと、またスゥーと現れる。これはこれで、ちょっと面白いかも。そんなしず子とメッソンを眺めていると──
「ガゥガゥ」
ゾロアがかすみんに向かって吠えてくる。
かすみ「はいはい、ゾロアもおやつね」
かすみんはポケットから、“マゴのみ”を取り出して、ゾロアにあげる。
「ガゥ♪」
ゾロアは嬉しそうにがっつき始めました。
かすみ「全く、ゾロアは食いしん坊ですねぇ。誰に似たんだか」
しずく「あれ……? さっき貰った“きのみ”に“マゴのみ”ってあったっけ?」
かすみ「うぅん、これはゾロアのおやつ用に普段から持ってるやつ。昔から“マゴのみ”が好きなんだよね」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「せっかくだし、他の子にもおやつをあげよっか」
しずく「そうだね。マネネ、ココガラ出て来て」
「マネネェ」「ピピピィ」
しず子がマネネとココガラを出す。かすみんも、ボールからキモリを外に出してあげる。
「キャモ」
かすみ「そういえば、キモリって何が好きなんだろう……? “マゴのみ”食べる?」
「キャモ…」
かすみ「なんか渋い顔してる……」
しずく「あはは……好みじゃないみたいだね」
「ピピピィ」
しずく「ココガラ、今あげるから焦らないで」
「ピピピィ♪」
「マネマネ♪」
しずく「マネネ? ケースから食べてもいいけど、食べ過ぎちゃダメだよ?」
「マネッ♪」
ココガラはしず子の頭の上にとまり、しず子の手からポケマメを受け取っておいしそうに食べている。
マネネはもうどこにおやつがあるのか知ってるみたいで、勝手にケースからポケマメを取り出している。
かすみ「かすみんもポケマメにすればよかったです……。あんま売ってるの見たことないけど……」
しずく「私は両親がアローラ地方から取り寄せているのを分けてもらっているから……」
かすみ「羨ましい……」
かすみんが羨ましがってると──
「マネッ」
「キャモ?」
かすみ「ん?」
マネネが、キモリのもとへ、ポケマメを1個持ってきてくれました。
かすみ「くれるの? マネネは良い子ですねぇ~?」
「マネマネッ!!!!」
「キャモッ!!?」
マネネはそのまま、ポケマメをキモリの口元にぐりぐりと押し付ける。
かすみ「……って何やってるの、あれ」
しずく「たぶん、私の真似だと思う……。ココガラにあげてるのを見て真似したくなっちゃったのかな……あはは」
マネネがひたすら、ポケマメをキモリの口元に押し付けていると、
「キャモッ!!!」
「マネェッ!!?」
あ、ついにキモリが怒った……。尻尾でマネネを追い払ってる……。
しずく「もう、マネネ……キモリにポケマメあげて戻っておいで」
「マネェ…」
「キャモ」
キモリはマネネから、ポケマメを受け取ってポリポリと食べ始める。
そんなみんなの様子を見ながら、かすみんは寝ころんだまま上を見上げる──木々の葉っぱの間から木漏れ日が差し込み、そよそよとそよ風に乗ってお花の良い香りがする。
お花畑が近いからですかねぇ……。平和ですねぇ……。
しずく「かすみさん、寝ちゃダメだよ?」
かすみ「っは……! 危うく意識が遠のきかけた……」
しずく「んー……それじゃ、何かお話しでもする? 寝ちゃわないように」
お話しか……。何か話題……。
かすみ「……そうだ。しず子、フソウ島に行きたいって言ってたけど、何か理由があるの?」
しずく「あ、うん。フソウ島には、オトノキ地方でも一番大きなコンテスト会場があるでしょ? それを見たくって……!」
かすみ「しず子、コンテストに興味あるの?」
しずく「コンテストというか……舞台に興味があるって感じかな」
かすみ「舞台……そういえばしず子、女優になりたいんだっけ?」
しずく「うん! 私、小さい頃から女優のカルネさんが大好きで……! 私もいつか、カルネさんみたいな大女優になりたいって思ってるの! カルネさんのように、いつかはポケウッドの舞台で……!」
かすみ「ポケウッド! ポケウッドの映画なら、かすみんもいくつか観たことあるよ! 『ハチクマン』とかだよね!」
しずく「ふふ、確かに有名な映画だね! 『ハチクマン』三部作はどれも名作だから……」
かすみ「かすみん的には登場人物だとハチクマンよりもルカリオガールが可愛くて好きなんだけど~……ハチクマンがゾロアークを使ってるところはセンスがいいなって思ったかも!」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「ゾロアもそう思うよね♪」
「ガゥ♪」
しずく「『ハチクマンの逆襲リターンズ』で使ってたよね! もちろん『ハチクマン』も好きだけど……私は『魔法の国の 不思議な扉』もよく見てたなぁ。主演のジュジュベ役のナツメさんがホントに素敵で……」
かすみ「あーわかる! でもでも、かすみん的にはやっぱりメイ姫が好きかなぁ♪ かすみんみたいな可憐なお姫様だしぃ♪」
しずく「ふふ、かすみさんらしいね♪ ねぇねぇ、ポケウッドだと他は何が好き!? 私が一番好きなのは、もちろんカルネさんが出てる作品なんだけど……!!」
かすみ「えーそうだなぁ……。……って、あれ? かすみんたち、ポケウッドの話してたんだっけ? フソウ島に行く理由の話だったような……」
しずく「っは……!」
しず子はハッとなり、熱くなって話してしまったのが恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめる。
しずく「……コホン/// えっと、だからね、フソウ島のポケモンコンテスト、一度見てみたいなって思って……。ポケウッドとは違うけど、何か表現の参考になりそうだし」
かすみ「ふむふむ、そういう理由だったんだね。参加はしないの?」
しずく「参加は……まだ早いかな。もちろんいつかはあの舞台に立ってみたいと思うけど。かすみさんこそ、コンテストに参加とかしないの? 好きそうだし、セキレイにも大きな会場があったよね?」
かすみ「え? ま、まあ……そのうち、コンテストも制覇しちゃいますけどね? 今は準備中というか……」
しずく「そっかぁ……お互い、いつか参加できるといいね」
セキレイ会場はかわいさコンテストの会場ですし、もちろんそのうち、かすみんが制覇しちゃう予定ですけど……。
あの会場は、永世クイーンに王手の現コンテストクイーンのことり先輩と、その前にクイーンの座についていた曜先輩の本拠地ですからね……。
入念な準備をして臨まないといけないわけです……。
しずく「ねぇ、かすみさん」
かすみ「ん?」
しずく「かすみさんは、この旅で何かしたいことってあるの? そういえば、聞いてなかったなって」
かすみ「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね、しず子」
かすみんはガバっと上半身を起こす。
かすみ「したいことというか、なりたいもの、なんだけど……!」
しずく「うん」
かすみ「かすみんは、ポケモンマスターになりたいの! だから、この旅はそんなポケモンマスターへの第一歩っていうわけなんだよ!」
かすみんが胸を張って言うと、
しずく「ポケモン、マスター……?」
しず子はポカンとしたあと、
しずく「……ふ、ふふふ♪」
何故かおかしそうに笑いだしました。
かすみ「ち、ちょっとぉ!? なんで笑うの!?」
しずく「ご、ごめんね……ふふ♪ かすみさんらしい目標だなって思って」
かすみ「むー……バカにしてるでしょ」
確かにポケモンマスターって、子供の夢っぽいし、具体的に何してる人なのかよくわかんないところはあるけど……。
しずく「してないよ♪ なれるといいね、ポケモンマスター♪」
かすみ「やっぱり、バカにしてるー!!」
しずく「してないしてない♪」
かすみ「むぅ……かすみん、いつかそんな態度取ったことを後悔させちゃうくらいの、ポケモンマスターになっちゃうんだからね……」
しずく「ふふ♪ 期待してるね♪」
全く、しず子ったら、失礼なんだから……! ぷんぷんと頬を膨らませていると──かすみんの上着の裾をくいくいと引っ張られる。
「ガゥガゥッ」
かすみ「ゾロア? もしかして、おやつのおかわり?」
「ガゥッ♪」
かすみ「もうないよ……ポケットにそんなに入んないもん」
「ガゥゥ……」
そんな、あからさまに落ち込まなくても……。
かすみ「あ、そうだ! せっかく、ヨハ子博士から、たくさん“きのみ”貰ったんですから、それをおやつにしちゃいましょう♪」
しずく「あ、確かにそれはいいかもね」
かすみ「それじゃ早速……──」
かすみんが、自分のバッグに目を向けると──
「クマ?」「ジグザク?」「ザグマ??」
いつの間にか口が開けられたかすみんのバッグに、茶色と黒の縞模様のちっちゃいタヌキさんのようなポケモンが群がっているところでした。
かすみ「ちょ!? かすみんの“きのみ”!?」
「ザグ?」「グマグマ??」「ジグザグ」
しずく「ジグザグマ……!? “きのみ”の匂いに釣られて寄って来たんだ……!」
「ザグザグ」「マグジグ」「クマァ」
というか、よく見たら、すでに口元にべったり果汁が付いてる……!?
かすみ「ちょっと!! 勝手に食べないでくださいぃ!?」
かすみんがバッグに飛び付くと──
「クマーー」「ジグザーー」「グマグーー」
ジグザグマたちは、それを避けるように散開する。
かすみ「かすみんの“きのみ”、すっごい減ってる……よ、よくもぉ……!」
──キッと、1匹のジグザグマを睨みつけると、
「クマ」
口元には、“ウブのみ”が咥えられていた。
かすみ「って、ちょっとぉ!? まだ持ってくの!?」
さらに、他のジグザグマも見てみると、他の子も“きのみ”を口に咥えている。
かすみ「ど、泥棒ーー!!」
叫びながら、1匹のジグザグマに飛び掛かると──
「ザグザグ」
ぴょんと避けて、
かすみ「ぐぇ」
かすみんの頭を踏んずけてから、
「ジグジグ」「ザグザグ」「クマー」
ジグザグマたちは、ぴゅーんと走り去って行ってしまいました。
かすみ「…………」
しずく「……完全に持っていかれちゃったね」
かすみ「……かすみん、ここまでコケにされたのは初めてです……。あのジグザグマたち、許しませんよ……!!」
かすみんはすっくと立ち上がる。
かすみ「ゾロア!! キモリ!! ジグザグマを捕まえますよ!!」
「ガゥ」「キャモ」
かすみんは2匹を従えて、走り出しました。絶対に許しませんからね!? あのジグザグマたちぃぃぃ……!!!
しずく「あ、ちょっとかすみさん!? 荷物置いたままじゃ、また盗られる……。……って、行っちゃった……」
👑 👑 👑
かすみ「確かこっちに行きましたよね……!!」
「ガゥガゥ」「キャモッ」
ジグザグマを追って辿り着いたのは──見渡す限りに広がるお花たち。
かすみ「“太陽の花畑”……」
ここはオトノキ地方でも有数の花園。
「ポポッコ~」「フラ~」「フラァ~」
ポポッコやハネッコたちがふわふわと飛んでいるのが目に入る。ジグザグマたちは、このお花の中に紛れ込んだようですね……。
かすみ「今とっつかまえてやりますからね……!!」
かすみん、気合い十分な感じで花畑を睨みつけます。……でも、この花畑の中で、どうやってジグザグマを見つけるか……。
かすみ「ん……?」
よく見ると──地面が何かの水分を吸って色を変えている場所があることに気付きます。
「ガゥ…クンクン」
かすみ「もしかして、この地面が濡れてる場所……“きのみ”の果汁?」
「ガゥガゥ!!」
かすみ「そうなんだね、ゾロア!」
「ガゥ!!!」
随分“くいしんぼう”な子がいるみたいですね。なら、やることは決まりました……!!
かすみ「ゾロア! キモリ! GO!」
「ガゥ!!」「キャモッ!!」
かすみんの指示で、ゾロアとキモリが花畑に突入する。
直後、
「ザグーー!!?」「ジグーーッ!!?」
ジグザグマがゾロアとキモリの攻撃によって、花畑から飛び出してくる。
かすみ「ふっふっふ、全くおまぬけさんですね、ジグザグマたち。こんな果汁を残していたら、居場所がバレバレですよ~?」
かすみん、花畑の外まで転がってきたジグザグマの前で、仁王立ちして見下ろしてやります。
「ジ、ジグザ…」「グザグマ…」
もちろん、ジグザグマたちは怯えて逃げようとしますが──そうは行きません。
「ガゥガゥッ!!!!」「キャモッ!!!」
「ジグザグ…」「ザグザグ…」
すぐに花畑から引き返してきたゾロアたちと、ジグザグマを挟み撃ちにします。
かすみ「もう逃げ場はありませんよ……ひっひっひ……」
「ザグゥ…」「マァ…」
さて、どうしてやりましょうか、このイタズラタヌキたち……と思った矢先、
かすみ「ぶぁ!!?」
かすみんの可愛いお顔に向かって、何かが飛んできました。
かすみ「ぺっぺっ……! な、なにこれ、“すなかけ”……?」
顔に砂をかけられて、怯んだ隙に、
「ザグザグ…!!」「ジグザグ…!!」
かすみ「あ!? ちょっと!?」
ジグザグマたちがかすみんの横をすり抜けて逃げていきます。そして、それと同時に──
「グマァ…!!!」
お花畑の方から急に、低く唸るような鳴き声。
「ガゥ…!!」「キャモ」
かすみ「なーんか、やる気まんまんって感じじゃないですか……」
確かにさっき逃げたジグザグマ……3匹くらいいたもんね。
かすみ「この気迫、群れのリーダーってところですか! いいですよ!! そっちから来てくれるなら、やってやりますよ!!」
「グマァッ!!!!」
次の瞬間、ジグザグマが花畑の中から、ゾロアに向かって飛び掛かってきました。
かすみ「ゾロア、“みきり”!!」
「ガゥ」
「グマッ!!?」
ゾロアが攻撃を見切り、外したジグザグマはびっくりしたまま、勢い余って地面を滑る。
かすみ「キモリ! “このは”!」
「キャモッ!!!」
キモリがシュッと鋭い“このは”を投げつける。
「クマァ!!!?」
かすみ「追撃の“でんこうせっか”!!」
「キャモッ!!!!」
さらに、息もつかせぬ追撃によって、決着──したかと思いましたが、
「クマ…!!!!」
「キャモッ!!?」
かすみ「んな!? 防がれた!? “まもる”!?」
さらにジグザグマは、防いだ反動で後ろに飛び退きながら、体を回転させ、
「ザーーグマーーー」
周囲に鋭い体毛を飛ばしまくる。
かすみ「い、いたたたた!!? ミ、“ミサイルばり”ですかぁ!!?」
「キ、キャモッ…!!」「ガゥゥ…!!」
まずいです……! むしタイプの技の“ミサイルばり”はキモリにもゾロアにも効果抜群……!
かすみ「や、やるじゃないですか……!! さすが、群れのボスだけありますね!!」
「グマッグマッ!!!」
さらに、怯んだ2匹に向かって、お得意の“すなかけ”を畳みかけてくる。
「ガ、ガゥゥ…」「キャモッ…」
かすみ「ゾロアもキモリも、怯まないで! このままじゃ、逃げられちゃう……!!」
「クマッ…!!」
かすみんの反応を見て、好機と思ったのか、ジグザグマが逃走を図ります。
かすみ「……まあ、逃げられちゃうなんて、嘘なんですけどね」
「クマッ!!?」
急にジグザグマが何かに足を取られ、つんのめりながら転ぶ。
──いつの間にか、ジグザグマの足元の葉っぱの葉先が結ばれて、ジグザグマの足を取っていました。
かすみ「キモリ! ナイス“くさむすび”!」
「キャモッ」
「クマッ!!?」
そうです、かすみん最初からジグザグマを油断させて、転ばせるつもりだったんです。
そして、転んでしまったジグザグマに──
「ガゥゥゥゥ…ッ!!!!!」
唸り声をあげながら、近付いていくゾロア。
「ク、クマァ…!!!」
かすみ「ゾロアも、“すなかけ”で能力を下げられて、お怒りですよね!」
「ガゥッ!!!!」
かすみ「ゾロア!! “うっぷんばらし”!!」
「ガァァァゥ!!!!!」
「クマァッ!!!?」
“うっぷんばらし”は能力を下げられた後だと、威力が倍になる技です。
怒りのパワーを乗せた、爪がジグザグマを切り付け、そのパワーで吹っ飛ばす。
「ク、クマァ…」
大きなダメージを受けて、もう逃げる体力も残っていないであろうジグザグマに、かすみんは歩いて近寄ります。
かすみ「ふっふっふ……人の物を盗った報いですよ」
「ク、クマァ…」
かすみ「泥棒はいただけませんが、目聡くレアなものを集めるところは嫌いじゃないですよ。なので、これからはその能力をかすみんの為に使ってください」
「クマ…?」
かすみんはポケットから取り出した空のモンスターボールを、ジグザグマに向かって投げつけた。
──パシュン。ジグザグマはボールに吸い込まれたのち、1回、2回、3回揺れて……大人しくなった。
かすみ「ジグザグマ、ゲットです!」
「キャモ」「ガゥガゥ♪」
かすみ「ふっふっふ……かすみんの“きのみ”を強奪した分、たくさん働いてもらいますよぉ……? 食べ物の恨みは怖いんですからねぇ……?」
しずく「──……どっちが悪役なんだか」
気付くと、後ろでしず子が呆れ気味に肩を竦めていました。
かすみ「あ、しず子、見て見て~イタズラジグザグマはこのとおり、捕まえたよ~」
しずく「あんまりジグザグマのこと、いじめちゃダメだよ?」
かすみ「いじめないよ! これからジグザグマはかすみんのために誠心誠意働いてくれるんだから~♪」
かすみんは、今しがた捕まえたジグザグマをボールから出す。
「──クマ…」
かすみ「ほーら、ジグザグマ~、あなたの“おや”のかすみんですよ~」
かすみんがジグザグマの頭を撫でようとすると、
「ガブッ」
かすみ「いったぁぁーーー!!!? 何するんですかぁ!!!?」
噛み付かれました。
しずく「そりゃそうだよ……捕まえたばかりで、まだなついてないでしょ?」
かすみ「えぇ……それじゃ、かすみんのお宝ザックザク計画はどうなるんですかぁ……」
しずく「なついて貰えるように頑張るしかないんじゃないかな」
かすみ「むー……困りましたね」
しずく「それよりかすみさん、バッグ……置きっぱなしだったよ」
そう言いながら、しず子がバッグを手渡してきます。
かすみ「ああ、ごめん。ありがと、しず子」
バッグを受け取る際──コロっと“ネコブのみ”が転がり落ちます。
「…! グマッ!!!」
そして、落ちたネコブをジグザグマがパクっと……。
かすみ「ああ!? まだ食べるの!?」
眉を顰めるかすみんとは裏腹に、
「…クマァ♪」
ジグザグマは幸せそうな笑顔を浮かべ、器用に後ろ脚で立ちながら、かすみんのバッグに前脚を伸ばしてくる。
かすみ「なんですか……まだ食べたいんですか?」
「クマァ」
かすみ「……伏せ」
「クマァ」
ジグザグマはかすみんの指示にすぐさま従って、身を屈める。
かすみ「……食べた瞬間、さっきの“なまいき”な態度が一変しましたね……」
しずく「あ、もしかして……」
かすみ「?」
しずく「“ネコブのみ”の効果じゃないかな? ポケモンがなつきやすくなるって言う……」
かすみ「……! なるほど! じゃあ、この“きのみ”をたくさん食べさせれば……! ジグザグマ!」
「クマ?」
かすみ「もっと、“きのみ”食べていいですよ! その代わり、これからかすみんにいっぱい協力してください!」
「クマァ♪」
バッグをひっくり返して、ジグザグマの前に“きのみ”を落とすと、ジグザグマは幸せそうに、“きのみ”にむしゃぶりつき始めました。
かすみ「ふっふっふ……これで、お宝ザックザク計画は成功したようなものです……ふへへ」
「ガゥガゥ♪」「キャモッ」
しずく「結局、“きのみ”食べられちゃってるけど……」
かすみ「? しず子どうしたの? 変な顔して……?」
しずく「まあ、かすみさんがいいなら、それでいいと思うよ……」
かすみ「……?」
しず子の言葉に首を傾げる中、
「クマァーー♪」
ジグザグマの幸せそうな鳴き声が、しばらくの間、太陽の花畑に響いているのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【太陽の花畑】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
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||. | |. | | | ||
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||. | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o ||
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口==================口
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.8 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.8 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.6 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:45匹 捕まえた数:4匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.6 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.6 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.6 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:3匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🐏
──ここはセキレイシティの北にある道路、10番道路……。
「ブーーーン!!!!」
虫の頭にムキムキの体をした敵が彼方ちゃんたちに殴り掛かってくる。
遥「お姉ちゃん!」
彼方「大丈夫、大丈夫~。バイウールー、“コットンガード”~」
「メェェェー」
相手の拳が──ボフッという音と共に、毛皮に飲み込まれる。
彼方「ふっふっふ~、肉弾戦で彼方ちゃんのバイウールを倒せるかな~?」
「マ、ッシブ…!?」
あれ……? なんか、ちょっとショック受けてる……?
「マッシ、ブーン!!!」
彼方「わぁ!? こっち来たぁ!?」
敵がバイウールーを無視して、私の方に突っ込んでくる。
彼方「お、怒らないでよ~!」
遥「ち、挑発なんてするから……!」
彼方「た、助けて~! 穂乃果ちゃ~ん! 千歌ちゃ~ん!」
彼方ちゃんが助けを呼ぶと、
千歌「ルカリオ!! “コメットパンチ”!!」
「グゥォッ!!!」
「ッシブッ!!!」
千歌ちゃんのルカリオが、敵に向かって拳を叩きこむ。
千歌「肉体が自慢なら、相手してあげるよ!」
「ブーンッ!!!」
彼方「た、助かった……」
遥「お姉ちゃん、大丈夫……?」
彼方「頼もしいボディガードのお陰で無事だよ~」
遥「良かった……」
彼方「それにしても、あのマッチョムシ……まさか、彼方ちゃんに直接殴り掛かってくるなんて……。さすがの彼方ちゃんも、肝が冷えたぜ……」
遥「マッチョムシって……勝手に変な名前つけちゃダメだよ、お姉ちゃん」
千歌ちゃんのルカリオと対峙したマッチョムシは、
「マッシブッ!!!!!」
急にポージングを始める。
千歌「お……?」
「ッシブッ!!!」
千歌「筋肉を自慢してるのかな……? よーし! それなら、ルカリオ! “ビルドアップ”!!」
「グゥォッ!!!!」
「マッシブッ!!!!」
千歌「やるね……!」
千歌ちゃんも張り合うように、ルカリオに“ビルドアップ”を指示して、ボディビルバトルを始める。
遥「あ、あの……千歌さん……倒さないと……」
千歌「え? ……そういえば、そうだった。ルカリオ! 拳、集中!」
「グゥォ──」
ルカリオが指示のもと、一気に精神を集中させて──拳に力を籠める。
──直後、カッと目を見開いて、
千歌「“きあいパンチ”!!」
風を切り裂くほどのスピードでマッチョムシに向かって、拳が放たれる。
これで決着──と思いきや、
「マッシブッ…」
マッチョムシは、ルカリオの拳を手の平で受け止めていた。
千歌「と、止められた!?」
「グゥォッ!!?」
「マッシブッ!!!!」
そのまま、ルカリオの腕を掴んで上に向かって放り投げる。
「グゥァッ!!!?」
千歌「ル、ルカリオー!?」
「マッシブッ!!!!」
そのまま、今度は千歌ちゃんに向かって飛び掛かってくる。
千歌「わ、やばっ! 穂乃果さん、バトンタッチ!!」
穂乃果「了解~!」
飛び掛かってくる、マッチョムシとの間に躍り出た穂乃果ちゃんがボールを投げる。
「ゴラァァーーースッ!!!!!」
穂乃果「ガチゴラス!! “かみくだく”!!」
ボールから飛び出した穂乃果ちゃんのガチゴラスが、空中のマッチョムシをガブリと大顎で捕まえ、そのまま地面に叩きつけた。
千歌「さっすがぁ!」
「マ…シブッ!!!」
でも、マッチョムシも負けていない。噛みつかれながらも腕を伸ばして、ガチゴラスの頭部に掴みかかる。
遥「あ、“あてみなげ”です!!」
“あてみなげ”は先行を譲る代わりに、確実に投げを成功させるカウンター技……! 超パワー系だと思ったのに、意外にもそんな返し技を隠していたらしい。
だけど、穂乃果ちゃんは全く怯まず、
穂乃果「“かいりき”!!」
「チゴラァァァーース!!!!」
むしろ、パワーで押さえつける。
遥「か、確実に成功するはずの投げ技が、力で抑え込まれてる……」
「マ、マッシブッ…」
さすがに、この展開は予想していなかったのか、マッチョムシのパワーが僅かに鈍った瞬間──ガチゴラスは一気に頭を上に向かって振って、
「ゴラァァスッ!!!!」
「ッシブッ!!!?」
マッチョムシを空に放り投げる。すぐさま、空中で翅をバタつかせ始めるが、飛行体制に入りきる前に──
穂乃果「“もろはのずつき”!!」
「ゴラアァァァァッスッ!!!!」
「…ッシブーーーンッ!!!!?」
落ちてきた、マッチョムシに破砕の一撃を叩きこんだ。
マッチョムシは数十メートル吹っ飛んだあと──
「…ブーーーーンッ!!!!」
空中に空いている“穴”の中へと逃げていった。
穂乃果「ふぅ……」
千歌「さすが、穂乃果さん!」
穂乃果「えへへ♪ パワー系、相手なら任せて!」
彼方「助かったよ~、穂乃果ちゃん~、千歌ちゃん~」
遥「お二人とも、ありがとうございます」
穂乃果「うぅん、彼方さんと遥ちゃんが無事で何よりだよ♪」
千歌「とりあえず、本部にメール打っておくね!」
穂乃果「うん、お願い!」
千歌ちゃんが簡単な事後処理を済ませて、
穂乃果「じゃあ、帰ろっか」
用事は済んだので、これから帰還しようと、穂乃果ちゃんがリザードンをボールから出したそのときだった。
「──そこにいるのは、もしや千歌さんではありませんか!?」
辺りに響く、通る声。
振り返るとそこには、ウインディに跨って、黒髪を風に靡かせている女の子の姿。
千歌「あれ? せつ菜ちゃん?」
せつ菜「こんなところで会うなんて、奇遇ですね!」
千歌「……ええと、せつ菜ちゃん、今さっきの戦闘って見てた?」
せつ菜「戦闘……? 特に何も見ていませんが……先ほどまで、野生のポケモンと戦っていたのでしょうか?」
千歌ちゃんの質問に、せつ菜ちゃんがきょとんとした顔をする。よしよし、見てなさそうだね。
せつ菜「それよりも、こんなところで出会ったのも何かの縁です!! トレーナー同士が出会ったら、することは一つ……!」
千歌「……ふっふっふっ、ポケモンバトルしかないよね……!」
両者、当然のようにボールを構えて戦闘態勢に……。
彼方「千歌ちゃんノリノリだ~」
穂乃果「えっと、それじゃ私は彼方さんと遥ちゃんを町まで送っちゃうね」
千歌「うん! バトルが終わったら追いかけるから!」
せつ菜「準備はいいですか!? 千歌さん!!」
千歌「いつでもOK!」
二人がボールを構えて、バトルを始めようとしているところを見ながら、リザードンが浮上していく。
穂乃果「リザードン、お願いね」
「リザァッ」
私たちは、リザードンの背に乗りながら、10番道路を後にするのでした~。
………………
…………
……
🐏
■Chapter007 『海を越えて!』 【SIDE Kasumi】
──ジグザグマを捕獲し、太陽の花畑を抜けたかすみんたちは……。
かすみ「サニータウン到着~! 見てよしず子! 海だよ、海! 潮の香りもしてきて……あぁ、かすみん今、冒険してる……」
しずく「私はここに住んでるから、毎日見てたんだけどね……」
そういえば、しず子は毎日この町から、学校のあるセキレイシティに通ってたんだった。
かすみ「あ、それじゃ、しず子は一旦家に帰る?」
しずく「うーん……それはいいかな。せっかく旅に送り出した娘が2日で家に帰ってきたら、逆に心配掛けちゃうよ」
かすみ「ふーん……?」
かすみんのパパとママは、かすみんが帰ってくるのはいつでも歓迎してくれるんですけどね?
まあ、しず子のお家って、なんか厳しそうだしなぁ……。
しずく「だから、サニータウンは出来るだけ早く素通りしたいかなって……」
かすみ「わかった。じゃあ、港に行こっか」
かすみんたちはそのまま、サニー港まで直行します。
👑 👑 👑
──サニー港から、すぐに船でフソウ島を目指そうとした、かすみんたちだったんですが……。
しずく「──エンジントラブルですか……?」
船乗り「ああ、そうなんだよ。最近調子が悪くなることが多くってね」
またまたまたまた、足止めを食らうことになってしまいました。なんと船がエンジントラブルで欠航しているそうです。
かすみ「日頃の整備が適当なんじゃないですか……?」
しずく「こ、こら! かすみさん! 失礼なこと言わないの!」
船乗り「ははは……耳が痛いね。ただ、この港から出る船は特に調整に気を遣うからね……他の港だったら、気にしないような些細な部分でも、ここでは必要以上に慎重になっちゃうんだよ」
かすみ「……? どういうことですか?」
船乗りさんの言葉に、かすみんは小首を傾げる。
しずく「……“船の墓場”、ですね」
船乗り「ああ、君は地元の子かい?」
しずく「はい。……それなら、仕方ありませんね、船の調整が終わるまで待つしかないです……」
船乗り「悪いね、お嬢ちゃんたち」
しずく「いえ、お仕事頑張ってください。かすみさん、行こう」
かすみ「う、うん……?」
しず子に言われるがまま、港を離れることに。かすみんは歩きながら、しず子に訊ねます。
かすみ「ねぇ、しず子。“船の墓場”って何?」
しずく「えっとね……サニータウンでは有名なんだけど……。この町から東側に抜けていく水道──つまり、15番水道はね、昔から船が沈むことがすごく多い海域なの」
かすみ「海が荒れやすいの?」
しずく「うぅん、特別荒れやすいってほどじゃないと思う」
かすみ「じゃあ、なんで船が沈むことが多いの……?」
海が荒れもしないのに、船が沈むなんて……やっぱり、整備不良なんじゃないですかね……?
しずく「原因はあんまりわからないけど……急に航行不能になって、そのまま沈んじゃうってことが多いって言われてるかな。海の怨霊のせいだなんて噂もあるくらいで……」
かすみ「な、なになに!? 怖い話!?」
しずく「まあ、怖い話かも……。船乗りさんってゲン担ぎを大切にする人が多いから、ここの港から出る船は少しでも不調が見られたら、基本的に欠航になるんだよ」
かすみ「……かすみん、フソウ島に渡るのやめようかな……」
しずく「調子が良ければ問題ないんだよ? あと不思議なことに、船以外での水難事故は少ないみたい」
かすみ「お、泳いで行けってこと!?」
しずく「うーん……さすがに遠すぎて、ポケモンの“なみのり”以外だと、フソウ島まで行くのは難しいかな……」
嫌なことを聞いてしまった気分です……。この後、船が直っても乗って行くのを躊躇しちゃいそう……。
しず子と話しながら、港沿いに歩いて行くと、綺麗な砂浜が視界に入ってくる。
かすみ「こんなに綺麗なビーチのある海なのに……」
そのとき突然、
「──クマァ♪」
ジグザグマが勝手にボールから飛び出してきました。
かすみ「ん? ジグザグマ、どうかしたの?」
「クマッ♪」
ジグザグマはそのまま、砂浜の方へと走り出す。
かすみ「砂浜で遊びたいのかな……?」
しずく「調整に時間もかかるだろうし、砂浜の方に行ってみる?」
かすみ「そうしよっか」
ジグザグマを放っておくわけにもいかないしね。
「ザグマァ♪」
かすみ「ジグザグマ? 何してるの?」
ジグザグマは砂浜の砂を掘り返している。
しずく「何か見つけたんじゃないかな? ジグザグマって、探し物が得意なポケモンだから」
かすみ「おお! 早速お宝ザックザク計画開始ってわけだね!」
しずく「そんなにうまくいかないと思うけどなぁ……」
「クマッ」
ジグザグマが何かを見つけたのか、口に咥えて、かすみんのところに持ってくる。
かすみ「何拾ってきたの? ……わぁ、なんか綺麗な欠片! 良い子だねぇ~ジグザグマには『かすみん4号』の称号をあげちゃいますよ~」
ジグザグマが拾ってきたのは黄色い綺麗な欠片みたいなものです。高く売れたりするかな? ワクワク♪ ──あ、ちなみに『かすみん3号』はキモリですよ!
しずく「そ、それって……“げんきのかけら”じゃない?」
かすみ「ほぇ?」
しずく「戦闘不能になったポケモンの元気を取り戻すアイテムだよ」
かすみ「おぉー! ホントに良い物じゃないですかー! ジグザグマ! もっと、探そう!」
「クマ♪」
しずく「お宝ザックザク計画……意外と順調……?」
この調子で、ここらのお宝たくさんゲットですよ~♪
👑 👑 👑
しずく「“きずぐすり”、“スーパーボール”、“なんでもなおし”、“げんきのかけら”……あとこれは“おおきなキノコ”かな……?」
かすみ「ジグザグマ~おりこうさんですね~♪」
「クマァ~♪」
しずく「“ものひろい”って思ったより、すごいのかも……」
かすみ「この調子でもっとたくさん集めますよ~♪」
「ザグマ~♪」
引き続き、お宝ザックザク計画を続行しようとしていると、
「──あれ? もしかして、かすみちゃんとしずくちゃん?」
突然、声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのはアッシュグレーでショートボブの先輩トレーナーさん──
かすみ「あれ? 曜先輩?」
曜「二人とも、こっち方面に進むことにしたんだね」
しずく「曜さんも今日はこちらでお仕事を?」
曜「うん、私の仕事はセキレイ~フソウ間をメインに、いろんなアミューズメントを考えることだからね」
かすみ「あれ? 曜先輩って、コンテスト運営委員会の人じゃなかったんですか?」
ジムリーダー以外には、そういう仕事をしているって聞いてましたけど……?
曜「それも私の仕事かな。コンテストを盛り上げるための一環として、オトノキ地方の二大会場がある、セキレイ、フソウにたくさん人が来るように考える。今はその仕事をしてるところだよ」
しずく「コンテスト会場に人を呼ぶのも、運営委員会の仕事なんですね」
曜「そういうこと。ところで、二人はここで何してるの?」
かすみ「お宝ザックザク計画の真っ最中です!」
曜「お宝ザックザク計画……?」
しずく「私たち、船が整備中で欠航しちゃって……直るのを待ってるところなんです」
曜「あーなるほど。……確かに、ここの港は出港にもすごく気を遣うからね……私たちにとっても困りの種なんだよね」
曜先輩も腕を組んで、困り顔になる。そりゃそうですよね、セキレイ~フソウへの人の往来を増やすために仕事をしているのに、肝心の船が欠航しやすいなんて、致命的です。
かすみ「いっそ、船なんかなくして、ポケモンでの渡し便を作っちゃえばいいのに……」
曜「……かすみちゃん、良い着眼点だね」
かすみ「はぇ?」
適当に言ったことだったので、曜先輩のリアクションに対して間抜けな声が出る。
曜「実は今、そういう方向で考えててね……って、実際に見てもらった方がいいかな! 二人とも、付いてきて!」
曜先輩はそう言いながら、颯爽と海の方へと、走って行く。
かすみ「え、ええ……?? なんだろう……」
しずく「とりあえず、行ってみる?」
かすみ「……うん」
かすみんたちは、お宝ザックザク計画を中断して、曜先輩に付いていきます。
👑 👑 👑
曜「二人とも、こっちこっち!」
──かすみんたちが連れてこられた場所は波打ち際で……なにやら、看板が立っています。
かすみ「なんですか、この看板のマーク……?」
しずく「……もしかして、マンタインですか?」
曜「しずくちゃん、正解! みんな、出ておいで!」
曜先輩が、ピューっと指笛を吹くと──
「マンター」「タイーン」「マンタァー」
マンタインたちが海から顔を出しました。そして、そのマンタインたちは背中になにやら手すりのようなボードが取り付けられています。
しずく「もしかして……マンタインサーフですか?」
曜「またまた、しずくちゃん正解!」
かすみ「マンタインサーフってなんですか……?」
しずく「アローラ地方にある、マンタインに乗ってサーフィンする遊びのことだよ。確か、競技にもなってたはず……波でジャンプしながら、技を決めてその技術を競い合うんだよ」
曜「うんうん! 船が出せなくてフソウ島に遊びに行けないんだったら、もう行くところから遊びにしちゃったらどうかなって思って!」
かすみ「えっと……つまり、マンタインサーフしながら、フソウ島まで渡っちゃおうってことですか?」
曜「そういうこと!」
なるほど。曜先輩が良い着眼点だって言っていたのは、これのことだったんですね。
曜「まあ、まだ調整中なんだけどね。もうちょっとしたら、正式に出来るようになると思うよ!」
かすみ「調整中ってことは、まだダメなんですか? マンタインはもういるのに……」
曜「十分な数のスタッフやライフジャケットの手配とか、ルート選定とか、あと本当に安全かのテスト運用も必要だから、すぐってわけにはなかなかね……。あーそうか……スタッフはともかく、慣れてない人も想定しないといけないから、テスト運用の際は一般公募枠も作らないとかな……」
かすみ「なんだか、何かをやるのって大変なんですね……」
曜「あはは、まあこれが仕事だし。大変だけど、考えるのも意外と楽しいんだよね」
しずく「なにはともあれ、うまく行くといいですね! これが実現すれば、セキレイやフソウだけでなく、サニータウンも活気付きますし!」
曜「そうだね、頑張って実現してみせるよ!」
力こぶを作って見せる曜先輩。確かに、この人の行動力なら、遠くないうちに実現しそうです。
──ふと、そこで、かすみん思いました。
かすみんたちは海を渡りたい。渡るには船よりポケモン。曜先輩は試しにやってくれる人を探している……。
かすみ「あの、曜先輩」
曜「ん? 何かな?」
かすみ「テスト運用で一般から人を集めたい、みたいなこと、さっき言ってたじゃないですか」
曜「うん、そうだね」
かすみ「それって、かすみんたちじゃダメですか?」
しずく「かすみさん?」
曜「……んっと、問題ないけど……予定とか大丈夫? 旅の途中でしょ?」
かすみ「大丈夫です!」
しずく「ち、ちょっと、かすみさん、勝手に……!」
かすみ「まさに今かすみんたちは、フソウ島へ渡ろうとしてるところですから!」
曜「え? 今?」
曜先輩は少し驚いた顔をしましたが、すぐに思案し始める。
曜「……確かにライフジャケット2着くらいなら今でもあるし……暫定ルートもある程度はマンタインたちに教えてある……いけるかも」
しずく「え、えっと……曜さん?」
曜「ちょっと今ライフジャケット取ってくるね!」
かすみ「はい! お願いします!」
曜先輩は身を翻して、近くの小屋に走って行く。恐らく、あそこにいろいろな機材やらと一緒にライフジャケットが置いてあるってことでしょう。
しずく「え、えええ!? ホントにやるつもりなの!?」
かすみ「早くサニータウンを出たいんでしょ? 船を待つくらいなら、マンタインで行っちゃおうよ!」
しずく「だ、大丈夫かな……」
かすみ「大丈夫だって~、しず子は心配性だなぁ~♪ 何事も当たって砕けろだよ!」
しずく「砕けたくはない……」
かすみ「せっかく海を渡れるなら、あれだよ……えーっと……なんだっけ」
しずく「……まさに渡りに船だね」
かすみ「それそれ! それが言いたかったの!」
程なくして、曜先輩が戻ってくる。
曜「かすみちゃん! しずくちゃん! ライフジャケット、持ってきたよ!」
──さぁ、レッツ・マンタインサーフです♪
👑 👑 👑
かすみ「ひゃっほーーー♪」
「タイーーン」
しずく「か、かすみさん! 先に行き過ぎないでー!」
「マンター」
マンタインは水しぶきをあげながら、波の上を進んでいく。
かすみ「お! また、波が来ましたね! 行きますよ~!」
「マンタイーン」
かすみんは波に向かうように、重心をずらしながらマンタインを操ります。
そして、スピードを殺さずに波の頂点から──
かすみ「ジャーンプ!!」
「タイーーン」
ハイジャンプ! ジャンプすると、マンタインが風を受けてくれるので、少しの間カイトの要領で空も飛べちゃいます!
かすみ「そして、ナイス着地~♪ 楽しい~♪」
しずく「かすみさん! だから、先行しすぎないでって!!」
しず子が、かすみんの横に追い付いてきて、ぷりぷりと文句を言う。
かすみ「しず子もちゃんと追い付いてこれてるじゃ~ん」
「タイーン」
しずく「もう! 曜さんに言われたでしょ!?」
うるさいなぁ……。
出発前に、曜先輩に言われたことを思い出す──
──────
────
──
曜「二人とも、あんまりスピードを出し過ぎないように。あと、あんまり高く飛び過ぎちゃダメだよ?」
かすみ「はーい♪」
しずく「わかりました」
曜「ライフジャケットがあるし、水に落ちてもマンタインがすぐに助けてくれるから慌てずにね! あともし、何かあったらポケギアに連絡してね? これ、私のポケギア番号だから──」
──
────
──────
かすみ「でも、マンタインサーフって本来、波でジャンプしたりして、競い合うってしず子自分で言ってたじゃん!」
「マンター」
しずく「私たちの目的はフソウ島まで、渡ることでしょ!?」
「タイーン」
かすみ「これはテストでもあるんだよ? じゃあ、本来のマンタインサーフをこなさなきゃ♪」
「マンタイー」
しずく「もう!! かすみさんっ!!」
「ンタイーン」
ぷりぷり怒るしず子をスルーしながら、視線を前に戻すと──さっきよりも大きな波が迫っていることに気付く。
かすみ「これは大技チャンスです♪」
しずく「かすみさん!!」
かすみ「行くよ、マンタイン!」
「タイーン」
大きな波に合わせて──
かすみ「ジャーーーーンプ!!!!」
「マンタイーーン」
──ああ、かすみん、今風になってる……♪
高く飛べば飛ぶほど、風を感じられる……マンタインサーフ、最っ高♪
しずく「────!!!」
うるさいしず子の声も、こーんなに高く飛んじゃったら、ほとんど聞こえないですねぇ~♪
風に乗って、カイトのように飛んでいると、しず子の姿がどんどん遠く──どんどん、遠く……?
かすみ「あ、あれ……? ち、ちょっと飛びすぎじゃない?」
「タイーーン」
かすみ「マンタイン、もういいよ~」
「タイーン…」
かすみんがもういいと言っても、マンタインは全然高度を下げません。
かすみ「マンタイン……?」
「タイーン」
あれ、なんか様子がおかしい……?
というか──
かすみ「なんか、加速してない……?」
眼下のしず子をどんどん引き離していく。
そこでやっと気付く。
かすみ「もしかして、風に煽られて、流されてる!?」
「タイーーン…」
かすみ「ち、ちょっと!! マンタイン、下りられないの!?」
「タイーン…」
そのとき──prrrrrrrrとポケギアが鳴り出す。
かすみ「い、今取り込み中なんですけどぉ!?」
ポケギアの着信を見ると──相手はしず子だった。
しずく『かすみさん!! 早く高度落として!! 進路から外れてる!!』
かすみ「か、風に煽られちゃって、下りられないの!!」
しずく『ええ!? だから、言ったのに……!!』
かすみ「ど、どうしよう……」
しずく『とにかく、どうにかして下りるしかないよ!!』
かすみ「ど、どうにかって……」
かすみん、どうすればいいかわからなくて、オロオロしてしまいます。
そして、オロオロしている間にさらに──ビュウっと突風が吹いてきました。
しずく『かすみさん!? また、加速してる!?』
かすみ「さ、さらに強い風が吹いてるー!? た、助けてー!?」
しずく『かすみさ──』
──ブツ、ツーツーツー。
かすみ「しず子!? しず子ー!!」
急にしず子との電話が途切れる、何かと思ってポケギアの画面を見ると──
かすみ「け、圏外……?」
電波が届かない場所まで、ルートを大きく外れてしまったみたいです。
かすみ「た、た、た、助けてーーー!!!!」
かすみんは風に流されて、どこまでも飛んでいきます……。
👑 👑 👑
かすみ「……うぅ……」
「タイーン…」
再び海に無事着水出来たときには……もう随分風に流されてしまいました。辺りは見渡す限り海海海……完全に沖まで飛ばされてしまいました……。
しず子の姿は全く見えなくなってしまったし、ポケギアも依然圏外のまま……。
かすみ「どうしよう……」
不幸中の幸いと言うべきなのは、落ちた先に地面がなかったことですかね。
激突していたら、大変なことになっていました……。
ただ、逆にここまで海しかないと、帰る方向もわからない……。
かすみ「……うぅ……こんなことなら、しず子の言うこと聞いておくんだった……」
「タイーーン…」
ぷかぷかと浮かぶマンタインの上で、膝を抱えていると──
かすみ「……っ!?」
急に背筋がゾクリとする。
かすみ「な、何……!?」
びっくりして顔を上げると……気付けば、辺りは霧に包まれていました。
かすみ「え、嘘……何これ……」
「タイーン…」
急な出来事に呆然としていると──
かすみ「!?」
霧の中に大きな影がヌッと現れる。
かすみ「な、な、な、なんなんですかぁ……っ……」
半べそをかきながら、影を睨みつけていると──霧の中からその影の正体が姿を現し始めた。
これは……。
かすみ「……ふ、船……?」
そう、かすみんの目の前に現れたのは、大きな大きな木製の船でした。
かすみ「えっと……」
かすみん、戸惑いを隠せませんが……。
「タィーン…」
かすみ「…………」
このまま漂流しているのは危ないし、この船に乗せてもらおう。そう思って、
かすみ「マンタイン、船の方に進んでくれる?」
「タイーン…」
かすみんは、船に近付いて行きます。
👑 👑 👑
かすみ「……でっか」
間近で見ると、船はものすごい大きさでした。
ただ、船自体は動くことなく、止まっています。
かすみ「もしかして、誰も乗ってないのかな……?」
見た感じ、壊れてたりはしなさそうだけど……?
かすみ「でも、壊れてないなら、こんなところに船だけあるのっておかしいよね……?」
「タイーン…」
むーっと、腕を組んで少し考えてみましたが……いつまでも海の上でぷかぷか浮いていても仕方ありません。意を決して……。
かすみ「すみませーーーーん!! 誰か乗ってませんかーーーー!!!」
大きな声で、船の上の方に呼びかける。
かすみ「ここまで流されちゃってーーー!!! 助けてもらえませんかーーー!!!」
船に向かって助けを求めるけど、
かすみ「…………」
反応はありません。
かすみ「やっぱり、誰も乗ってないのかな……」
まあ、無人なら無人で、どうにかして乗り込めれば少し落ち着けるかも……?
かすみ「……でも、どうやって……?」
特に周りに、はしごみたいなものがあるわけでもないし……よじ登るっていうのは、キモリじゃないと……。
かすみ「! そうだ、キモリ!」
閃いたかすみんはキモリのボールを船に向かって放り投げます。
「キャモッ!!!」
飛び出したキモリは、ボールから出ると同時に、船の外壁に足で張り付く。
かすみ「キモリ! 上にあがって、何か登るための道具とかないか見てきてくれるー?」
「キャモッ」
キモリがヒョイヒョイと壁面を登って行く。
──程なくして、パサっと音を立てて何かが垂れ下がってきた。
かすみ「! 縄ばしご……!」
縄ばしごの上の方を見ると──
「キャモーー」
キモリが上から、かすみんの方を見ています。
どうやら、キモリが見つけて下に投げてくれたようです。
かすみ「ありがとう、キモリ……!」
かすみんは、縄ばしごに手足を掛ける。
かすみ「マンタインはここで待っててもらっていい?」
「タイーン」
かすみ「ありがとう、ちょっと行ってくるね」
マンタインにはここで待機してもらう。マンタインを入れるボールを持っているわけじゃないし……かといって、かすみんのポケモンでもないから、捕まえることも出来ないからね……。
かすみ「よいしょ……よいしょ……」
縄ばしごなんか登ったことがないので知りませんでしたが、思った以上に揺れて登りづらい。
ゆっくりゆっくり登って行って……。
かすみ「はぁ……はぁ……登りきった……」
かすみんはやっと船の壁面を登り切りました。
「キャモ!!」
かすみ「キモリー! ありがとねっ!」
キモリをハグしながら、お礼を伝えて──降り立った船の甲板を見回します。
人影のようなものは全く見当たりませんが……。
かすみ「なんか……思ったより、綺麗な船……」
古めかしい木造の船で、港で見られるような船ではないけど……それなりに手入れもされていて、アンティークな見た目の割に、穴が空いていたり、木が傷んでいるといった感じもしない。
やっぱり、人が乗ってるのかな……?
かすみ「誰か、いませんかー?」
返事を期待して呼びかけるものの……かすみんの声は、霧の中に吸い込まれて消えていきます。
かすみ「うぅーん……」
奥の方にいるのかな……?
かすみ「とりあえず、奥まで行ってみる……?」
「キャモ」
とりあえず、船の奥の方に行ってみようと思い、歩き出した瞬間──
かすみ「……!?」
急に背後から、視線を感じて、背筋に悪寒が走った。
慌てて、振り返るけど──
かすみ「な、なにもいないよね……?」
「キャモ…?」
やっぱり、ここにいるのはかすみんとキモリだけ。
かすみ「な、なんだか、気味が悪いですね……」
「キャモ」
かすみ「……こ、ここはみんなで探索しましょう! ゾロア! ジグザグマ! 出て来てください!」
「ガゥ!」「ザグマァ」
かすみ「よし! 奥に行ってみますよ!」
「キャモ」「ガゥ」「ザグ」
かすみんはポケモンたちと一緒に探索を始めます。
👑 👑 👑
かすみ「すみませーん……誰かー……いませんかー……」
「ガゥガゥ」
甲板から、船の中に入り、狭い船内の廊下を歩きながら訊ね続ける。
でも、かすみんの可愛い~声が反響してくるだけで、乗組員からの反応のようなものは一切ないまま。
ただ、時折──
かすみ「……!? ま、また……!」
「ザグマ?」
背筋に悪寒が走る現象だけは定期的に発生している。
かすみ「もう……なんなんですかぁ……っ……」
「キャモ」
ポケモンたちが相槌を打ってくれるのが唯一の救いです……。一人だったら、心細すぎて、泣き出しちゃうかも……。
船内の廊下を区画分けしているであろう、ドアを一個ずつ開けながら、歩を進めていると急に──トントンと、肩を叩かれます。
かすみ「何? ゾロア?」
「ガゥ?」
ゾロアが足元で返事をします。
かすみ「あれ……? キモリ? ジグザグマ?」
「キャモ?」「クマ?」
これまた、足元から返ってくる2匹の鳴き声。
かすみ「え……? じゃあ、今の何……?」
恐る恐る振り返ると──黒い得体の知れない“なにか”がぼやぁっと浮かんでいました。
かすみ「!!?!? ぎゃああああああああああああああ!!!!!!? お化けえええええええええええ!!!?」
かすみんはびっくりして、尻餅をついてしまいます。
「キャモッ!!!」
それを見たキモリが、いの一番に飛び出して、お化けに向かって尻尾を振るう。
ですが、相手はお化け──案の定、スカッと攻撃が空振りしてしまう。
かすみ「だ、だ、だ、ダメだよ、キモリ……!! お化けだから、すり抜けちゃうよぉ……!!」
「キ、キャモ…」
「グルルルル…ガゥガゥガゥ!!!!!」
攻撃じゃダメと判断するや否や、ゾロアが“ほえる”。
「──!!! ……」
すると、お化けはスーッと壁の向こうに行ってしまいました。
かすみ「ゾ、ゾロア~……」
「ガゥガゥ♪」
ゾロアのお陰で助かりました……。
かすみ「なんですか、ここぉ……! 人どころか、お化けがいるんですけどぉ……」
かすみん、こんなところにはいられません。足が震えるのを我慢して、立ち上がる。
かすみ「に、逃げよう、みんな……!」
「ガゥ」「キャモ」「ザグ」
来た道を戻るために、通路のドアに手を掛ける。
──ガチャガチャ。
かすみ「あ、あれ……?」
──ガチャガチャガチャ。
何故か、ドアが開かない。
かすみ「う、うそ……」
これって、もしかしなくても……。
かすみ「と、と、閉じ込められましたぁーー!!!!」
「ガゥ!?」
ガンガンとドアを叩いてみるけど、頑丈なドアはうんともすんとも言いません。
──と、いうか……改めて辺りを見回すと、
かすみ「この船……ボロボロじゃん……」
先ほどまで、綺麗だと思っていた船は、あちこちの木が傷み、床も壁も天井もボロボロ。
何十年も人の手が入っていないことが一目でわかる有様です。
かすみ「かすみんたち……もしかして、幽霊船に誘い込まれた……?」
サァーっと血の気が引いて行く。
そして、次の瞬間──ボッボッボッと音を立てて、通路のランタンに青い炎が灯る。
かすみ「ぴゃあああああ!!?」
「キャモッ!!!」「ガゥガゥ!!!」「ザグマァ…!!」
そして、それと同時に──さっきのお化けが再び姿を現しました。
……今度はたくさんの仲間を連れて。
かすみ「いやあああああああ……っ……!!!!」
「キャモッ!!!?」「ガゥッ!!!」
かすみんは怖くなって、全速力で走り出します。全力ダッシュのかすみんを──
「────」「…………」「~~~」
飛んで追ってくる、お化けの姿。
かすみ「付いてこないでえええええ!!!!」
かすみんは絶叫しながら、夢中で走り続ける──
👑 👑 👑
かすみ「はぁ……はぁ……はぁ……」
どれくらい全力でダッシュし続けてたかわからない。夢中で走って走って走りまくって……気付いたら、お化けたちの姿は消えていた。
かすみ「うぅ……外に出るどころか……すごい奥まで来ちゃった……」
「ガゥ…」
急にかすみんが走り出したせいもあって、ゾロア以外とはぐれちゃったし……。
かすみ「探さないと……」
とは思うものの、今自分がいる場所もよくわからない……。
こうして夢中で逃げ込んで来たこの場所にあるのは──足が折れて使い物にならない椅子と、ボロボロで見るからに傾いている引き出しの付いた机。
そして、壁には帽子が掛けてある。
かすみ「ここ……船員さんのお部屋なのかな」
辛うじて、人間味のある物を見つけて、なんとなく安心する。
もちろん、ここにある物も、もう何年も人に触れられていないことがわかる代物だけど……。
傷んだ床を踏み抜かないように、慎重に歩きながら、机や帽子の掛かった壁の方に歩を進める。
「ガゥ」
かすみ「ゾロア……?」
一緒に探索していたゾロアが、机に飛び乗るや否や、鳴き声をあげる。
何かと思って、目を向けると──傾いて、勝手に空いてしまったであろう、机の引き出しの中に、
かすみ「なんだろ……?」
一冊のノートのようなものがあった。なんとなく手に取る。
かすみ「うわ、埃っぽい……」
パッパッと手で埃を払って、改めてよく見てみると──『Diary』の文字。
かすみ「これ、日記だ……」
パラパラとめくってみる。ところどころページが破けていて、読めないページも多いけど……なんとなく理解できる範疇だと、
かすみ「……えっと、この船……この海域の調査に来た船みたい」
「ガゥ?」
度重なる不審な船の沈没。その原因を探るために、この15番水道まで来た船らしい。
そして、その中に気になる記述を見つける。
かすみ「『原因が判明した。それは我々が当初から当たりを付けていたとおり、この海域に生息するゴーストポケモンの仕業だったのだ。』……ゴーストポケモン。……さっきのお化けの正体はポケモン……?」
「ガゥ?」
さらにページを捲っていくと──急に字が殴り書きになっているページに辿り着く。
かすみ「『もうダメだ、この船は完全にゴーストポケモンたちに包囲されてしまった。奴らには実体がなく、攻撃を当てることもままならない。逃げる最中に、せっかく取り寄せた秘密兵器もなくしてしまった。奴らはもうすぐそこまで迫ってきている。もはや、ここまで』」
そこで、日記は終わっていた。
かすみ「…………」
「ガゥ…?」
かすみ「いや、これ……かすみんも殺されちゃうパターンじゃないですかぁ……っ……!」
相手に実体がなくて攻撃できないって言うんなら、それこそどうしようもないです……。
逃げるしかないけど……結局逃げ道も塞がれちゃって……。
ただ、この日記には、一つ気になるところがあります。
かすみ「『せっかく取り寄せた秘密兵器』……これってもしかして、対ゴーストポケモン用の道具だったんじゃ……」
そうとなれば、やるべきことは決まりました。
かすみ「このまま、逃げることも倒すことも出来ないままやられるなんてまっぴらです! この秘密兵器とやらを見つけて、ゴーストポケモンたちをやっつけて、外に出ますよ!」
「ガゥガゥッ!!!!」
かすみんは希望が見えて、元気が出て来ました。その秘密兵器とやらを探すために、この船員さんのお部屋を出ようとしたそのときでした。
「────」「…………」「~~~~」
かすみん「ひぃ!?」
「ガゥガゥッ!!!!!!」
目の前に現れるお化けたち。
かすみ「ちょっと待ってぇ!? まだ、秘密兵器見つけてないよぉ!?」
「────」「…………」「~~~~~」
じりじりとかすみんの方に近付いてくる、お化けたち。
かすみ「こ、ここでかすみんの冒険、終わっちゃうの~……!?」
「ガゥガゥッ!!!!!」
「────」「…………」「~~~~」
ゾロアが“ほえる”けど、お化けたちはひるまずにじり寄ってくる。
かすみ「い、いやです……!! こんなところで、終わるなんて……!!」
「ガゥッ!!! ガゥッ!!!!」
「────」「…………」「~~~~」
かすみ「た、助けて……誰か……」
「ガゥゥゥ…!!!!」
「────」「…………」「~~~~」
かすみ「助けて……」
最期にかすみんの脳裏に浮かんだのは、
かすみ「しず子……!」
しず子だった。
「──ココガラ!! “きりばらい”!!」
「ピピピピィィィィ!!!!!!」
かすみ「!?」
急にお部屋の扉が勢いよく開いて、声と共に強風が吹き荒れる。
「────!!!」「…………!!!」「~~~~!!!」
その風に飛ばされるようにして、お化けたちはかき消えてしまった。
声の主の方に目を向けると、そこには──
しずく「かすみさん!? 大丈夫!?」
かすみ「し、しず子ぉ~~……っ……!」
しず子が絶体絶命のかすみんを助けに来てくれたところでした。
👑 👑 👑
かすみんたちは通路を走りながら、逃走中です。
かすみ「──しず子、どうしてかすみんがここにいるってわかったの!?」
しずく「ポケモン図鑑だよ!」
そう言いながら、しず子がこっちにポケモン図鑑を見せてくれる。
そこにはマップが表示されていて、15番水道の東の果て辺りがピコピコと光っています。
かすみ「なにこれ!?」
しずく「サーチ機能だよ! 私たちが貰った3つの図鑑はお互いに居場所をサーチできるようになってるみたいなの!」
かすみ「マジで!? そんな機能あったんだ……!」
初めて聞きましたが、お陰で助かりました……。
そんなやりとりをしている最中、
「────」「…………」「~~~~」
かすみ「うわ!? もう、復活した!?」
背後で謎の唸り声をあげながら、再びかすみんたちを追いかけてくるお化けたちの姿。
しずく「かすみさん、あれってなんなの!?」
かすみ「えぇ!? しず子、わからないまま追い払ってたの!?」
しずく「ガス状だったから、風で飛ばせるかなって思って……」
さすが、しず子……やりますね。
しずく「ただ、追い払うのがやっとで……攻撃してもダメージを与えられないし、気付いたらあちこちドアが開かなくなってるし……」
かすみ「って、あーーー!!! ここのドアも開かないーーー!!」
走りながら、ガチャガチャとドアを開けながら走る。
「────」「…………」「~~~~」
しずく「ココガラ! “きりばらい”!!」
「ピピピピィーーー!!!!!」
接近される度にしず子のココガラが吹き飛ばしてくれますが──
「────」「…………」「~~~~」
かすみ「ど、どんどん復活速度が速くなってるぅ~~!? 早く秘密兵器を見つけないと!!」
しずく「秘密兵器!? そんなものがあるの!?」
かすみ「船員さんの日記に書いてあったの! どこかに落としちゃったって! って、うわっ!?」
急にかすみんの足が何かに引っ張られて、前につんのめって転ぶ。
かすみ「ぐぇ!」
しずく「かすみさん!?」
かすみ「あ、足に何かが……ってひぃぃぃぃ!!!」
「────」
気付けば、お化けの1匹がかすみんの足元にガスをまとわりつかせているじゃないですか……!
かすみ「ちょっと、こっちの攻撃は当たらないのに、掴めるなんてずる過ぎますよぉ!!」
「────」
転んだかすみんに、お化けがどんどんにじりよってくる。
しずく「“きりばらい”!!」
「ピピピィィィィィーーー!!!!!!」
再び、ココガラが風で吹き飛ばします。
「…………」「~~~~」
他のお化けは吹き飛ばされていったけど、
「────」
かすみ「しず子~~!! 一番重要なのが、吹き飛ばせてないぃぃ~~!!」
かすみんの足を掴んでいるやつは飛んでいきません。
しずく「っく……! 正体さえ、わかれば……!」
「────」
かすみ「ひぃぃぃぃ!!!」
絶体絶命だったそのとき、上の方から、ガンッ! という大きな音と共に、上のダクトの中から、
「キャモッ!!!」「ザグマ~」
かすみ「キモリ!? ジグザグマ!?」
キモリとジグザグマが飛び降りてくる。
かすみんは咄嗟に、
かすみ「た、“タネマシンガン”!!」
「キャモモモモモモッ!!!!!!」
攻撃の指示。やっぱり攻撃はすり抜けちゃいますが、一瞬お化けの動きが鈍る。
かすみ「無事だったんだね……! よかった……!」
「キャモッ」「クマァ」
しずく「マネネ! “ねんりき”!!」
「マネネェ!!!」
「────」
気付けば、しず子がマネネを出して応戦している。
しずく「かすみさん、今のうちに!!」
かすみ「ありがと、しず子!!」
確かに実体はないけど、サイコパワーなら押し返すことは出来るみたいですね……!
かすみんはその隙に、どうにかまとわりついているガスから足を抜いて、脱出を図ります。
そうこうしている間にも、
「~~~~」「…………」
かすみ「また出て来た……!」
しずく「“きりばらい”!!」
「ピピピィィィィーーーー!!!!!」
出て来ては吹き飛ばすの繰り返しが続く。しず子が時間を稼いでくれてる間に、かすみんは秘密兵器を早く見つけなきゃ……!
「クマァ~~」
かすみ「ごめんね、ジグザグマは今は構ってる場合じゃ……ん?」
ジグザグマをよーく見てみると──なにやら双眼鏡のような形をしたスコープを咥えているじゃありませんか。
かすみ「!? これ、見つけたの!?」
「クマァ~~」
もしや、これが、秘密兵器!?
かすみ「お手柄だよ、ジグザグマ!! えっと、これどうやって使うんだろう……」
しずく「かすみさん……!! もう、これ以上もたない!!」
かすみ「ああもう!! とにかく使ってみるしかない!!」
かすみんは思い切って、そのスコープでお化けを覗いてみる。すると──
かすみ「!」
スコープ越しに映るお化けは、さっきと違う姿をしていることに気付く。
そして、それと同時にスコープから──ウイーンという音がする。
しずく「それもしかして、“シルフスコープ”!?」
かすみ「? なにそれ?」
未知のアイテムから出ている音の発生源を見てみると──双眼鏡の真ん中辺りがパカッと広き、そこから……ピカッ!!
「────!!!?」「…………!!!?」「~~~~!!!!?」
強烈な閃光が放たれ──
「ゴ、ゴスゴス」「ゴーースゥ」「ゴスゥゴスゥ…」
その光を浴びたお化けたちは、気付けばポケモンの姿として捉えられるようになっていました。
しずく「! ガスじょうポケモン、ゴース!!」
かすみ「! 完全に姿が見えました! ゴースたちがお化けの正体だったんですね……!」
『ゴース ガスじょうポケモン 高さ:1.3m 重さ:0.1kg
古くなって 誰も 住まなくなった 建物に 発生するらしい。
薄い ガスのような 体で 風が 吹くと 吹きとばされる。
毒を含んだ ガスの 体に 包まれると 誰でも 気絶する。』
かすみ「正体さえ、わかっちゃえばこっちのもんです!! ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
しずく「マネネ!!」
「マネッ!!!」
かすみ「“あくのはどう”!!」
しずく「“サイケこうせん”!!」
「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「マーーーネェェーーー!!!!」
「ゴスゥーー!!!?」「ゴゴゴーーース!!!!」
“あくのはどう”と“サイケこうせん”が炸裂して、2匹のゴースが吹っ飛んでいく。
しずく「効果は抜群ですね!」
「マネネ!!」
そして、最後の1匹のゴースは、
「ゴ、ゴーーースッ」
かすみ「あ、逃げた!?」
勝てないと悟ったのか、ぴゅーっと逃げていく。
かすみ「逃がしませんよ!!」
「ガゥッ!!!」
しずく「あ、ちょっと、かすみさん!?」
奇しくも、逃走を図るゴースはさっきかすみんの足にまとわりついていたやつです。
かすみ「絶対に逃がしませんよぉ~~~!!!」
怖い思いさせられた分は、しっかり倍返しにしてやりますからね!!!
「ゴ、ゴーーース」
全力で追いかけていると、逃げるゴースの先に扉が見えてきた。
そして、ゴースはそのまま、その扉をすり抜けて部屋の中に入って行く。
かすみ「逃がしませんよぉ!!!」
──バンッ!! と勢いよく扉を押し開け中に入ると、大きな舵のあるお部屋に辿り着きました。どうやら、操舵室のようです。
かすみ「いない!! どこですか!?」
操舵室内全体を見回しますが……ゴースの姿は見えず、その代わりに──
かすみ「え……? なにこれ……?」
しずく「か、かすみさん……深追いしちゃ……ダメ、だよ……はぁ……はぁ……」
かすみ「…………」
しずく「かすみさん……? ……え」
かすみ「しず子……これ、なんだと思う?」
しずく「…………」
しず子も無言になる。優等生なしず子でも知らないものらしい。
私たちの目の前にあったのは──穴だ。
拳大くらいの小さな穴。でも、それは……床や壁に空いた穴ではない。
かすみ「空間にあいた……穴」
しずく「…………」
そう、そこにあったのは──空間にあいた穴でした。穴が浮いていました。
しずく「もしかしたら……」
かすみ「?」
しずく「ゴースたちは、この穴を通って、ここに来たのかも……?」
かすみ「……どういうこと?」
しずく「だって、ここは海の上だし……突然ゴースが現れるなんておかしいし……」
かすみ「それは、まあ……」
確かに……言われてみれば、ゴーストポケモンが船を襲っていたのはわかりましたが……どうして、ゴーストポケモンがここにいるのかはよくわかりませんね……?
しずく「もし、これがゴーストポケモンの巣みたいなものなんだとしたら……」
かすみ「……したら?」
しずく「……仲間を呼んで戻ってくるかも」
かすみ「!?」
そ、それはまずいです……!?
かすみ「し、しず子!! 急いで船を出よう!!」
しずく「そうだね……これが本当にそういうものなのかはわからないけど……」
かすみ「もうゴーストポケモンは懲り懲りですぅ……!!」
「ガゥガゥ」
かすみんたちは、これ以上ゴーストポケモンたちと戯れるつもりはありません! 大急ぎで船から退散するのでした。
👑 👑 👑
かすみ「ドア、全部開くようになってたね」
しずく「……たぶんあれも、ゴースたちの仕業だったんだろうね」
二人で縄ばしごを使って船から降り、待ってくれていたマンタインと合流する。
かすみ「でも、ここからどうしよう……フソウ島ってどっち?」
しずく「フソウ島は、南方面だね」
かすみ「そ、それくらいわかるよ! 問題はどっちが南かって話で……。……って、しず子何見てるの?」
しずく「え? 何って、図鑑のコンパス機能だけど……」
かすみ「はい!? 図鑑にそんな機能あったの!?」
しずく「うん……。というか、方角がわからないと、かすみさんの図鑑をサーチしても、かすみさんのいる場所に辿り着けないし……」
かすみ「は……! い、言われてみれば……。え……それじゃあ、もしかしてその機能って……」
しずく「……かすみさんの図鑑にも搭載されてると思うよ」
かすみ「……」
かすみんはポチポチと図鑑を操作してみる。
かすみ「……あ、あった。…………」
かすみん、思わずマンタインの上でへたり込んでしまいます。
しずく「か、かすみさん!?」
かすみ「最初から気付いてれば……あんな怖い思いすることなかったのにぃ……」
しずく「あ、あはは……まあ、みんな無事に脱出出来てよかったって思うことにしよ? ね?」
「マネマネ」
かすみ「うぅ……もう二度とこんな場所来ませんからねぇ……」
軽い憎しみを込めて顔を上げると──
かすみ「あ、あれ……?」
さっきまで、ずっと視界を遮っていた深い霧はいつの間にか晴れ、かすみんたちは月に照らされていました。
そして、
かすみ「船は……?」
しずく「あ、あれ……?」
あの大きな船は、きれいさっぱりいなくなっていました。
しずく「……正真正銘の幽霊船だったって、ことかもね」
かすみ「……なんか、とんでもない目に遭いました……」
思わず溜め息を吐いてしまいます。
しずく「とりあえず、フソウ島まで急ごうか……もう、随分遅くなっちゃったし」
かすみ「朝までに着くのかなぁ……」
もうすっかり夜ですからね……。徹夜はお肌の敵なんですけど……。
そのとき──prrrrrrとポケギアが鳴り出す。画面に表示された相手を見ると……。
かすみ「……曜先輩!? もしもし!!」
曜『かすみちゃん!? よかった、繋がって……かすみちゃんもしずくちゃんも、遅いからずっと連絡入れてたのに、電波が届かないって言われて心配してたんだよ……?』
しずく「す、すみません! すぐ、フソウ島へ向かいますので!」
曜『二人とも怪我はない? 無事?』
かすみ「はい! 疲れましたけど、一応無事です!」
曜『そっかそっか。私、今14番水道にいるから、途中で合流しようね! ラプラス、GO!』
『キュゥ~』
電話を切ると──空に向かって、七色の綺麗な光の筋が一直線に夜空を切り裂いているのが見えた。
かすみ「わー……綺麗ー……」
しずく「恐らく、曜さんのラプラスの“オーロラビーム”ですね。あれを頼りに合流しようということだと思います」
かすみ「うん。それじゃ、マンタインお願い」
「タイーン」
かすみんたちは、あのオーロラの根元を目指して、海の上を走り出すのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【忘れられた船】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.11 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:4匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.8 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.8 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.8 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:3匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter008 『学徒の街ダリアシティ』 【SIDE Yu】
──せつ菜ちゃんと別れてから、しばらくして……。
私たちは次なる目的地に到着していた。
侑「ダリアシティ、到着だね!」
「ブイ」
歩夢「うん♪」
自転車をレンタルショップに返却して、私たちは街を歩いている真っ最中。
入ってすぐ、街の北側に位置する有名な建造物が見えてくる。
歩夢「見て、侑ちゃん! ダリアの大時計塔だよ!」
侑「すごい存在感……ボスでも潜んでそうだね」
歩夢「ふふ♪ 確かに、ゲームだったら魔王とか、伝説のポケモンがいそうだね♪」
大きな存在感を放っているのは、ダリアの大時計塔だ。テレビやガイドブックでもよく取り上げられるダリアシティの名所の一つ。
あの時計塔の中は、オトノキ地方でも最大の蔵書量を誇る図書館になっていて、いろんな地方から人が訪れるらしい。
そんなダリアシティはセキレイシティと雰囲気は違うものの、オトノキ地方の中では大きな街の一つで行き交う人が多く、活気に溢れている。
中でも目を引くのは──
侑「白衣を着てる人がたくさんいるね」
「ブイ…」
リナ『この街は学園都市だからね。学生さんや学校に関わる人、研究機関に携わってる人がすごく多い』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「じゃあ、あの白衣の人たちも……」
リナ『うん。たぶん、研究機関の人だと思う。それ以外にも、オトノキ地方最大の図書館があったり、とにかく教養に特化した街みたい。通称「叡智の集う街」』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「『叡智の集う街』……! かっこいい!」
「ブィィ」
リナ『一般開放されてて、見学が自由なところも多いから、行きたいところがあったら入ってみるといいかも』 || > ◡ < ||
リナちゃんの言うとおり、大通りを歩いているだけでも、一般開放されている研究室が目に入る。
面白そうなのがあったら、見てみるのもいいんだけど……。
歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんは、研究室見学よりも、先に行きたい場所があるんだよね♪」
侑「あはは、やっぱ歩夢にはお見通しだね……。まずは、ダリアジムに行きたい!」
リナ『ダリアジムは街の南側だよ、マップを表示する』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、お願い。イーブイ、頑張ろうね!」
「ブイッ!!」
私たちはとりあえず、街を一直線に抜けて、ダリアジム方面を目指す。
🎹 🎹 🎹
一直線に大通りを抜けて、街の南側に出ると、程なくしてダリアジムの建物が見えてきた。
途中ポケモンセンターにも寄り道して、イーブイたちのコンディションも完璧。
歩夢「ダリアシティのジムリーダーって……」
侑「にこさんだね!」
歩夢「ポケモンリーグの決勝のときに、解説をしてた人だよね」
侑「そうそう! しかも、元四天王! にこさんがどんなバトルをするのか、考えただけでもときめいちゃうよ♪」
リナ『ときめいちゃうのもいいけど、気を引き締めてね。にこさんは公式戦での戦績もすごく良い。間違いなく強敵』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「リナちゃんって、そんなデータまであるんだ」
リナ『データだけならね。私には経験値が圧倒的に足りないから、侑さんのバトル、期待してる』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 頑張るね!」
「ブイ」
──私はジムの前に立って、息を整える。
やっぱり、ポケモンジムに入るときは緊張する。……襟を正したくなるというか、なんとなくこれから神聖な場所に入るんだって気がするんだよね。
侑「……よし、行こう!」
「ブイ!!」
侑「た、たのもー!」
ジムに入ると──
にこ「あら、チャレンジャーかしら?」
すぐに、にこさんに出迎えられる。よかった……! スムーズにジム戦が出来そうだ……!
侑「はい! 私、セキレイシティから来た、侑って言います! ジムバッジは1個持ってます!」
にこ「じゃあ、これが2つ目のジム戦ってわけね」
侑「はい! お願いします! 行くよ、イーブイ!!」
「ブイブイ!!!」
バトルスペースについて、戦闘準備は万端!
にこ「気合いたっぷりじゃない! いいわ、かかってらっしゃい! ──……って、言いたいところなんだけどね」
侑「え?」
にこさんは何故か、自分のバトルスペースを離れてこっちに歩いてくる。
にこ「悪いけど、私は今ジムバトルは出来ないのよ」
侑「え……? あ、あの……もしかして、今は都合が悪かったとか……?」
にこ「いや、そういうことじゃなくてね」
侑「……?」
にこ「実はにこ──ダリアシティのジムリーダーじゃないのよ」
侑「…………?」
私はにこさんの言っている言葉の意味がわからず、首を傾げる。
侑「えっと……にこさんってダリアシティのジムリーダーですよね? 私、オトノキ地方のジムリーダーは全員ちゃんと覚えてるから、間違いないはず……」
にこ「ちゃんと予習してきてるのね、感心感心! どこかの誰かさんは、ジムリーダーのことなんか、ほとんど知らずに旅してたのにね。……っと、これはこっちの話だけど」
リナ『どういうこと? ダリアシティのジムリーダーはにこさんで間違いない。ポケモンリーグの公式な情報にもそう記載されている』 || ? ᇫ ? ||
にこ「あら……あなた、もしかしてロトム図鑑? 最近の子は良いモノ持ってるのね……」
侑「え、えっと……あの、それで……にこさんがジムリーダーじゃないって言うのは……。リナちゃんの言うとおり、公式の情報にも載ってるなら、それこそどういうことか……」
にこ「ああ、えっとね。実はそれ、フェイク情報なのよ」
侑「え!?」
リナ『フェイク!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「フェイクって……公式にもある情報なのに……?」
にこ「もちろん、リーグの承認も得てるからね。リーグ公認のフェイクジムリーダーってわけ」
歩夢「あ、あのー……」
後ろで話を聞いていた歩夢がおずおずと手をあげる。
にこ「あら、この子の連れの子ね。なにかしら」
歩夢「ジムリーダーって、街のシンボルみたいな人だから、フェイクはまずいんじゃ……」
にこ「もちろん、それも一理あるわ。だから、私は基本的にはジムリーダーと同等の権限を持っているわ。緊急事態には率先して出張ることが多いわね」
歩夢「じゃあ、どうしてフェイクジムリーダーなんか……」
にこ「新しいジムリーダーから提案があったのよ」
侑「新しいジムリーダーからの……?」
なんで、新しいジムリーダーはそんなことを……?
にこ「ジムリーダーってどんな仕事だと思う?」
侑「え? えっと……ポケモンジムでトレーナーからの挑戦を受けて、腕試しをする場所……ですか?」
リナ『補足すると、その腕試しによって、トレーナーの育成を行う意図がある』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「そうね。段階的にトレーナーの実力を試すことによって、トレーナーの育成を行う。それが、ポケモンジムの役割よ。ただ、このシステムには少し不都合があってね……」
歩夢「不都合……ですか?」
にこ「例えば、にこのエキスパートタイプって知ってるかしら?」
侑「フェアリータイプです!」
にこ「そのとおり。にこのエキスパートはフェアリータイプよ。侑の言うとおり、少し予習すればジムリーダーの使うタイプや手持ちはわかっちゃうのよ」
リナ『挑戦をする以上、事前に調べて対策をするのは当たり前のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「それもそのとおり。でも、トレーナーっていつでもどこでも自分が知ってる相手や、起こることがわかっている問題に直面するわけじゃないでしょ? というか、そういう機会の方が稀よ」
それは確かにそうかも……。私たちもつい昨日、そういう場面に直面したばっかりだし。
結果として、せつ菜ちゃんが助けてくれたけど……。
にこ「トレーナーの育成を謳っているのに、本来トレーナーに必要なイレギュラーへの対応能力が全然育たないのは問題じゃないかって、新しいジムリーダーの子から、リーグに対して問題提起があったのよ」
リナ『なるほど。一理ある』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
にこ「トレーナーは常に自分の足で歩いて、目で見て、耳で聴き、頭を使って戦うべきだってね。だから、このジムではただバトルするだけじゃない。前情報が一切ない相手とどう戦うか、そして……」
侑「そして……?」
にこ「自分が戦うべき相手をどうやって見つけるかの知恵を試すポケモンジムとして、やっていくことになったってわけ」
侑「どうやって見つけるか……? ってことは……」
にこ「ええ、察しのとおり、ここにはそのジムリーダー本人はいないわ。あなたたちは、このダリアシティのどこかにいるジムリーダーを探し当てて、戦わないといけないってこと」
侑「え、ええーー!!」
この広いダリアシティのどこかって……。
侑「ヒ、ヒントとかは……?」
にこ「そうねぇ……ジムリーダーは確実にダリアシティの中にいるわ。さすがにそれは守られてないとフェアじゃないからね」
侑「み、見た目とかは!?」
そこらへんで歩いている人の中にジムリーダーが紛れてたら、さすがにわからないよ……。
にこ「仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ」
リナ『意外に雑……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
まあ、確かにジムリーダーって貫禄のある人ばっかりだけど……。
にこ「あと、人に協力を頼むのはありよ。上手に人を頼るのも能力の一つだからね。それこそ、一緒にいるそこの貴方、えっと……」
歩夢「は、はい! 歩夢です……!」
にこ「歩夢に協力してもらっても、全然構わないってことね。それとこの課題への参加証明として、ポケギアの番号を教えて頂戴。何かあったときに連絡することもあるかもしれないから」
侑「あ、はい」
言われたとおりににこさんに、自分のポケギア番号を伝える。
にこ「ありがと」
リナ『ルールはそれだけ?』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「あとそうね……フェイクジムリーダーのことは、街の外に出たら口外禁止ってことだけ守ってくれればいいわ。こんなジムだから、街では事情を知ってる人も結構多いから、ダリアシティ内でまで口を噤んでおけとは言わないわ。他は何かある?」
侑「わ、わかりました! とにかく、街のどこかにいるジムリーダーを見つけて、バトルして勝てばいいんですよね!」
にこ「ええ、そうよ。それじゃ、健闘を祈るわ、侑」
……というわけで、ダリアのジム戦は予想外にも、人探しから始めることになりました。
🎹 🎹 🎹
歩夢「侑ちゃん、どうする……?」
侑「……とりあえず、街の人に訊いてみよう!」
「ブイ」
リナ『聞き込みは基本。ルール的にもOKって言われてた』 || ╹ ◡ ╹ ||
とりあえず、近くを歩いている白衣を着た通行人に声を掛ける。
侑「あの、すみません!」
通行人「あら? なにかしら?」
侑「私、この街のジムリーダーを探してるんですけど!」
通行人「……? ジムリーダーなら、南のポケモンジムにいると思うけど?」
侑「えーっと……そうじゃなくて……本当のジムリーダーを探してまして……」
通行人「?? ジムリーダーに本当とか、本当じゃないとかがあるの?」
侑「あ、いや……えっと……」
通行人「もういい? 私そろそろ研究室に向かわないといけないんだけど……」
侑「あ、はい……すみません……ありがとうございます」
「ブイイ…」
通行人は軽く会釈して、すたすたと歩き去ってしまう。
侑「全然ダメだ……」
「ブイ…」
歩夢「ジムのこと知らないのかな……?」
リナ『街の誰もが知ってるわけじゃないのかも……性質上、公にしているわけじゃなさそうだし』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……そうだね。とにかく聞き込みを続けてみよう!」
歩夢「うん、わかった! 手伝うね!」
🎹 🎹 🎹
──あの後も、聞き込みを続けていたんだけど……。
侑「……全然ダメだ……」
「ブィィ…」
歩夢「知ってる人……全然いないね……」
あまりに手応えがない結果に、イーブイ共々項垂れる。
大抵の人は最初に訊ねた人のように、なんのことかわからないという感じだった。
中には、何かあることを知っていそうな人こそ、いたにはいたんだけど──「たまにそう訊ねてくる旅人さんがいるけど……そういうイベントがあるの?」くらいの反応が返ってくる程度だ。
侑「私たちと同じように、ジム挑戦者が街の人に訊ねてることはあるみたいだけど……」
リナ『訊ねる相手を間違ってるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「訊ねる相手?」
リナ『この街はいろんな分野の学科や研究室がある。ポケモンジムについても、自分の勉強してることと関係ない人にとっては、そんなに関心がないのかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「なるほど……もっと、ポケモンジムに関心のある人たちに訊かないとダメってことだね……」
ポケモンジムに興味のある人って言うと……ポケモンバトルが好きな人とか?
侑「……そうだ、ポケモンバトルの研究室とかないかな?」
リナ『探せばあるはずだよ。ちょっと検索してみるね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「お願い、リナちゃん」
リナ『…………見つけた。こっちだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんに案内される形で、私たちはポケモンバトルの研究室へと赴く。
──歩くこと数分。それなりに大きな研究室が見えてきた。
侑「わあ……思ったより大きい……」
「ブィィ…」
歩夢「うん。私も研究室って、もっとちっちゃいイメージだったよ」
リナ『ポケモンバトルの研究室ともなれば、少なくともポケモンバトルが出来る大きさの施設が必要だから、必然的にこれくらいの大きさになるんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほど……でも、ここなら知ってる人もいそうだね!」
「ブイ」
私は早速、中に入ってみる。
侑「す、すみません!」
受付の人「あら? 見学の方ですか?」
侑「あ、えっと……見学というか、お訊ねしたいことがあって……」
受付の人「なんですか?」
侑「私、今ジムリーダーを探しているところでして……!」
受付の人「ダリアジムにはもう行かれましたか?」
侑「は、はい! にこさんには会ってきました!」
受付の人「ということはダリアジムのチャレンジャーの方ですね」
侑「!」
この反応、ジムチャレンジの内容がわかっているということだ。やっと事情を知っている人に会えた……!
ただ、私の期待とは裏腹に、
受付の人「ですが、残念ながらここにジムリーダーはいませんよ」
という答えが返ってくる。でも、せっかく知ってそうな人を見つけたんだ……もうちょっと、頑張らないと……!
侑「何かヒントとかありませんか?」
受付の人「というと?」
侑「どこにジムリーダーの人がいるかとか……」
受付の人「すみません、それは私たちも知らないんです」
侑「え……街の人はある程度、事情を知ってるんじゃ……」
受付の人「もちろん、ジムチャレンジの内容にジムリーダー探しがあるのは知っていますが……どこにいるかまでは……」
侑「そ、そんなぁ……。……せ、せめてどんな人かだけでも……」
せめて、容姿さえわかれば、と思って訊ねてみるけど、
受付の人「……すみません、見たことがある人もほぼいなくて……」
侑「嘘……!? この街にいるんですよね!?」
受付の人「そう聞いてはいますが……そもそも、容姿すら知っている人がほとんどいないので……」
侑「そうですか……」
せっかくここまで来たのに手がかりがあまり掴めないなんて……。
受付の人「あの……もし、よかったら、ダリアジムを突破したことのある者をお呼びしましょうか?」
侑「え!? いいんですか!? 是非、お願いします!」
受付の人「わかりました、少々お待ちください」
受付の人は、ポケギアを取り出して、連絡を取り始める。
歩夢「よかったね、侑ちゃん」
リナ『とりあえず、一歩前進』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん!」
受付の人「……連絡が取れました、今こちらに来てくれるそうなので、少々お待ちくださいね」
侑「はい! ありがとうございます!」
やった……! これで、ジムリーダーのもとへとたどり着ける……!
🎹 🎹 🎹
待つこと数分。研究室の奥の方から、エリートトレーナーらしき女性がこちらに向かってきた。
受付の人「こちらの方です」
トレーナー「君がジムへの挑戦者かい?」
侑「は、はい!」
トレーナー「何が訊きたいのかな?」
侑「あの、ジムリーダーの居場所を教えて欲しいんですけど……!」
私がストレートに訊ねる。
トレーナー「ははは! 君は素直だね! でも、さすがに答えそのものは教えてあげられないよ。それじゃ、ジムチャレンジの意味がないからね」
侑「ぅ……そうですよね……」
流石に直接的すぎた……。じゃあ、他に聞いておきたいことと言えば……。
侑「ジムリーダーの見た目とか……」
トレーナー「申し訳ないが、ジムに挑戦した際に、ジムリーダーの容姿等は他言しないという約束をしているんだ。だから、それは教えられない」
侑「そ、そんなぁ……」
リナ『やっぱり、その辺りはしっかり対策されてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うぅ……そうみたいだね……」
これじゃ、せっかく知っている人がいるところまでたどり着いたのに、大した成果も得られなさそう……私はがっくりと項垂れてしまう。
あまりに私ががっかりしているのが、不憫だったのか、
トレーナー「そうだな……じゃあ、一つヒントをあげよう」
トレーナーのお姉さんが自らヒントを教えてくれる。
侑「お、お願いします!」
トレーナー「ジムリーダーの容姿は言えないけど……この街のジムリーダーはね」
侑「は、はい……!」
トレーナー「きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ」
侑「…………」
「ブイ…」
トレーナー「ははは、不満そうな顔だね」
そりゃ、まあ……あんまりヒントになってないし……。
歩夢「やっぱり、にこさんが言っていたみたいに、雰囲気でわかるってことですか……?」
トレーナー「詳しくは教えられないけど、そういう感じだよ」
侑「むむむ……」
トレーナー「とにかく、もう少し頑張って考えてみるといい。それじゃ、私はそろそろ戻らせてもらうよ。ジムチャレンジ、頑張ってくれ」
侑「は、はい……ありがとうございます」
🎹 🎹 🎹
侑「結局ほとんど何もわからなかった……」
歩夢「人に聞いてもいいけど、自分たちで考えないと答えには辿り着かないってことなのかな……」
リナ『少ない情報の中から、いかに辿り着くかが課題なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「って言っても、情報が少なすぎるよ……」
「ブィィ…」
歩夢「とりあえず……今ある情報だけでも整理してみない?」
侑「……うん、そうだね」
私は歩夢の言葉に頷く。もしかしたら、手掛かりがあったかもしれないし。
侑「当たり前だけど、居場所はわからなくて……」
リナ『容姿は不明』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「街の人も見たことがある人はほとんどいなくて……」
侑「会えばわかる……らしい」
「…ブイ」
侑「やっぱ、何もわからないじゃん!?」
歩夢「あはは……」
リナ『逆に言うなら、わからないことはわかったかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……? どういうこと?」
リナ『これだけ人の多い街なのに、目撃情報すらほとんどないのは逆に違和感』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……えっと?」
私は首を傾げてしまったけど、歩夢はリナちゃんの言葉で、少しだけピンと来たらしい。
歩夢「……もしかして、ジムリーダーは常に人目に付かない場所にいるってこと……?」
リナ『確定ではないけど、十分そう推測出来るとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かに……」
今も周りにはたくさんの人の往来がある。ジムリーダーはどうやら、会えば雰囲気でわかるらしいし……そんな存在感の人がいたら、みんな気付くはずだよね……?
侑「となると……裏路地とか?」
「ブイ」
歩夢「確かに裏路地なら、人目には付かないかも……」
侑「よし、行ってみよう!」
歩夢「うん!」
🎹 🎹 🎹
──さて、あれから1時間ほど経過して……。
侑「見つからない……」
「ブイ…」
歩夢「そうだね……」
さっきから、虱潰しで裏路地に入って確認しては出ることの繰り返し。
今も裏路地を進んでいる真っ最中だけど──
侑「行き止まり……」
「ブイ…」
ただの行き止まりに辿り着いてしまうことが多い。
もちろん、たまに研究室に行き着いたりはするものの……一般開放されていない研究室だったりで、ジムリーダーの姿は影も形もない。
今入って来たここも、薄暗い裏路地があるだけで、何も収穫はなさそうだ。
侑「はぁ……戻ろうか」
「ブイ…」
「シャボ…」
歩夢「サスケ? どうかしたの?」
先ほどまで歩夢の肩で寝ていたサスケが、急に声をあげる。
「シャーボ」
歩夢「? 何かいるの?」
侑「え?」
言われて、よーく裏路地を観察してみると──
侑「あれ……?」
薄暗い裏路地の隅に小さい何かがいることに気付く。
「……ニャァ」
侑「ポケモン……?」
歩夢「あれ、この子……?」
リナ『ニャスパーだね』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「ニャスパーって街にもいるんだね」
侑「……にも?」
歩夢「この間、7番道路でも見かけたんだよ。そのニャスパーには警戒されちゃって、友達になれなかったんだけど……」
リナ『……いや、このニャスパー。あのときのニャスパーだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「え? あのときのニャスパーって……」
リナ『7番道路で出会ったニャスパーと全く同じ個体』 || ╹ᇫ╹ ||
「ニャァ」
侑「そんなことわかるの?」
リナ『性別や大きさ、鳴き声の波形、虹彩パターン、どれを見ても一致する。ほぼ間違いないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃん、そんな機能まであるんだ……。
歩夢「もしかして、ここまで付いてきちゃったのかな……?」
リナ『単純に7番道路から、ここまでが生息域なだけの可能性もある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「ニャァ」
侑「というか……」
「ニャァ」
歩夢「うん……。ずっと、こっち見てるね」
さっきからずっと、無表情な二つの目が私たちをずっと凝視している。
「ニャァ」
侑「やっぱり、付いてきたのかな……? ニャスパー、そうなの?」
「ニャァ」
名前を呼んでも、一切トーンの変わらない無機質な鳴き声が返ってくる。
歩夢「私たちに何かあるの?」
「ニャァ」
歩夢「お腹空いてるのかな……」
歩夢はバッグの中から、“きのみ”を取り出す。
歩夢「ニャスパー、“オレンのみ”だよ~?」
「ニャァ」
歩夢「……」
「ニャァ」
侑「……食べに来ないね」
歩夢「お腹が空いてるんじゃないのかな……」
ニャスパーは依然、その場にとどまったまま、こっちをじーっと見ているだけ……。
「ニャァ」
リナ『……ちょっと気になるけど、ここでにらめっこしてても仕方ない。早く、次の裏路地を探した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんが真っ先に痺れを切らしたのか、ふよふよと元来た道を戻って行く。
すると──
「ニャァ」
ニャスパーは急に空を見つめて鳴いたあと──ふわっと浮遊した。
侑「うわ、飛んだ……!?」
歩夢「サイコパワーで飛んでるのかな……?」
「ニャァ」
そして、また一鳴きしたあと──すぅーーっと飛び上がり、裏路地から飛んでどこかへ行ってしまったのだった。
侑「結局なんだったんだろう……?」
歩夢「わかんない……」
まあ、いっか……。ちょっとマイペースなポケモンだっただけだよね。
リナちゃんの言うとおり、私たちは今、裏路地の捜索中なんだし……そう思って、踵を返して戻ろうとしたそのときだった。
──ポツ。と私の頭に水滴が落ちてくる。
侑「……つめた!」
「…ブイ」
それは、次第に勢いを強めて降り出し始める。
侑「雨……」
歩夢「大変……! 今、傘出すね……!」
侑「いや、こんな狭い路地じゃ、傘が引っかかっちゃうよ! 一旦大通りに戻ろう!」
歩夢「……あ、うん!」
私は歩夢の手を引いて、走り出した。
🎹 🎹 🎹
侑「──これは、本降りになりそうだね……」
窓の外に流れる水滴を眺めながら、ぼんやりと言う。
歩夢「これだと、これ以上裏路地を探すのは大変だね……はい、エネココアだよ」
侑「歩夢、ありがと」
歩夢が、カウンターから持ってきたエネココアを私の前に置いてくれる。
歩夢「イーブイには“ポロック”あげるね。イーブイの好きな“ももいろポロック”だよ♪」
「ブイ♪」
「シャー」
歩夢「サスケにもあげるから、ちょっと待っててね」
歩夢がイーブイとサスケにおやつをあげているのを見ながら、エネココアのカップを傾ける。
甘く温かい液体が喉を滑り落ちていく。……ああ、落ち着く。
侑「……そういえばさ」
歩夢「?」
侑「私、さっき裏路地で傘を差そうとしてた歩夢を見て思ったんだけどさ」
歩夢「うん」
侑「あんな狭い場所で、ポケモンバトル……出来るのかな?」
リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||
裏路地には、積んである木箱やゴミ箱とかも置いてあったし……バトルが激しくなったら、何かの拍子に周りの物を壊してしまいそうだ。
侑「……もしかして、この課題の解き方って、そういうことなんじゃないかな」
歩夢「……そういうことって?」
──私たちは、自分たちが探してる相手は、顔も、名前も、どこにいるかも、何もわからないって思い込んでたけど……この課題には最初からわかっている重要なことがあるじゃないか。
侑「私たちが探してるのは──最初からジムリーダーなんだ」
歩夢「……?」
侑「ジムリーダーってことは、会ったらバトルが出来る場所にいないといけない……」
歩夢「……あ」
侑「そうなると、狭い場所じゃない……」
となると、裏路地のような狭い場所はそもそも探す候補から外れることになる。
侑「……それに、ジムリーダーは挑戦者を待ち続ける必要があるんだよね……」
リナ『ルール上、基本的にはそうだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「じゃあ、天気とかに左右される屋外も候補から外れる」
歩夢「確かに……それじゃあ、人目に付かないバトルが出来るくらい広い屋内ってことになるのかな……」
リナ『確かにそれなら、随分条件は限定されるかも』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「問題はそれがどこかだよね……」
リナ『さすがに一般開放されてる施設なのは間違いないと思う。そうなると、街中のバトル研究室系か、ポケモン生態研究所とか……』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「今度はそういう施設に絞って探してみればいいのかな?」
侑「……でも、そういう施設にいるとしても、どうやって探せばいいんだろう……」
歩夢「? どういうこと?」
侑「だって、事情を知ってる人でも、直接的に居場所や容姿を教えるのはダメなんでしょ?」
歩夢「あ、そっか……。もし、訪れた施設にいたとしても、本人を直接捕まえられないと結局ダメなんだ……」
侑「うん……」
それにもう一つ、ずっと気になっていることがある。
──『仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ』
──『きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ』
抽象的な表現なのに、ずいぶん断定的に“会えばわかる”と言っていたのが不思議でならない。
侑「雰囲気なんて言われても……ホントにわかるのかな」
私は机に突っ伏して頭を抱える。ジムリーダーだから、本当にすごいオーラみたいのを放っていて、一目でわかっちゃうのかもしれないけど……。
いや……。
侑「──少なくとも、小さい頃ことりさんのことはジムリーダーだって、わからなかった」
近所の優しいお姉さんくらいの認識だった。ポケモンバトルが好きになって、初めてすごいトレーナーだって認識して、すごく憧れを抱いたことを今でも覚えている。
もしかして……雰囲気っていうのは何かの例えなのかな……?
侑「うぅ~……わからないぃ……」
リナ『どっちにしろ、雨が止むまでは一旦お休みでもいいと思う。候補を虱潰しで当たるにしても、雨の中歩き回るのは非効率だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「それはそれで、落ち着かないよぉ……雨、早く止まないかな……」
歩夢「あはは……侑ちゃん、一度これをやる! って決めたら、止まるの苦手だもんね」
侑「そうかも……。歩夢は平気なの……?」
歩夢「うーん……そわそわしちゃうのはわかるかな。でも、その時々で楽しみ方を考えちゃうかも」
リナ『その時々で楽しみ方を考える? どういうこと?』 || ? _ ? ||
歩夢「例えば今だったら……雨がたくさん降ってて憂鬱だけど、こうして喫茶店で雨の音を聴きながらのんびりするのも、風流で楽しいかもって思ったり」
侑「……あ、それはわかるかも。なんか、喫茶店ってだけで、雨音もオシャレな音楽に聞こえてくるよね」
歩夢「そうそう♪」
リナ『なるほど……面白い考え方。勉強になる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「喫茶店の雰囲気がそうさせてくれるだけなのかもしれないけど……それでも、そういう風に考えたらちょっぴり雨の日も楽しい時間になるかなって」
侑「喫茶店の雰囲気……。……雰囲気……?」
──『雰囲気でわかると思うわ』。
侑「雰囲気で……わかる……?」
歩夢「侑ちゃん?」
侑「……そうか、雰囲気って、その人が持ってるものだけじゃない……その空間や、そのときの時間、うぅんそれだけじゃない……いろんなもので変わるんだ」
リナ『侑さん?』 || ? ᇫ ? ||
ポケモンジムに入る前は、襟を正さなくちゃいけない気持ちになる。そんな硬い“雰囲気”がポケモンジムにはある。
そうなると、どこだろう。会えば絶対にジムリーダーだと思えるような、ポケモンジムみたいな、そんな“雰囲気の空間”は、建物は……。
ふと顔を上げると──窓の外、雨に煙る街の中に、一際大きな建造物が見えた。
侑「……ダリアの大時計塔……」
大きな大きな存在感を放つ。いかにもボスが待ち構えていそうな、荘厳な建物が。
──ガタ! 私は、思わず椅子をはねのける様にして立ち上がった。
歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」
侑「……あそこだ」
リナ『侑さん??? さっきから、様子がおかしい』 || ? ᇫ ? ||
侑「……行くよ、イーブイ!」
「ブイ」
イーブイが机の上からぴょんと、私の肩に飛び乗ってくる。
歩夢「え、ち、ちょっと待って侑ちゃん!?」
リナ『あわわ、急に侑さんが走り出した!? 待って!?』 || ? ᆷ ! ||
私は、確かに感じた勘に──その“雰囲気”に従って、走り出していた。
🎹 🎹 🎹
私は先ほど思ったことを二人に説明しながら、ダリア図書館を目指す。
リナ『なるほど……確かに筋は通ってる』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「だから、にこさんは“雰囲気でわかる”なんて、曖昧な言葉を使ってたんだね……!」
侑「まだ、私の勘でしかないけどね」
「ブイ」
歩夢「でも、説得力はあると思う!」
侑「……うん!」
──二人への説明もそこそこに、私たちは辿り着いたダリア図書館に入館する。
侑「とりあえず、上の階に行こう」
歩夢「うん」
上の階に行く途中、館内のあちこちにエテボースやエイパムが本棚の整理や、荷物を運んで行き来しているのが目に入ってくる。
そして、館内のいたるところにいるミネズミやミルホッグは、監視の役割を担っているのかもしれない。
仕事中の彼らの邪魔にならないように、上の階、上の階へと階段を急ぎ、辿り着いた最上階には──
侑「………………」
「ブィ…?」
普通の図書館が広がっていた。
歩夢「あ、あれ……?」
侑「違った……?」
「ブイ…」
まさか、ここまで来て間違いなのかな……?
逆にここがそうじゃないなら、他にどこが……。
リナ『待って』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「リナちゃん?」
リナ『この階はまだ最上階じゃないと思う。外観の高さから考えて、まだ上に1~2階分は入るスペースがある』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え、それじゃあ……!」
リナ『恐らく、さらに上に行く方法があると思う』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
歩夢「侑ちゃん……!」
侑「歩夢! 探そう……!」
歩夢「うん!」
歩夢とリナちゃんと私とで、本がぎっしり詰まったこの階の探索を始める。
よく周りを確認してみると、この階にはここで働いている人間のスタッフや、エイパムたちの姿がほとんどない。
人気がすごく少ない階というのが、私の勘を後押ししてくれているようだった。
私はオトノキの史書コーナーの本を端から順番に見ながら奥に進んでいくと、
「ブイ」
イーブイが何かに気付く。イーブイの視線を追うと──1冊だけ、なんだか背表紙の色が浮いている本が目に入る。
侑「『叡智の試しの至る場所』……」
そこにあったのは、白地の背表紙にそんなタイトルの書かれた1冊のハードカバー。
その本を手に取り、開くと──ほぼ白紙のページしかない本だった。
パラパラとページを捲って、捲って……最後のページに、
侑「『叡智の最後の行き先は奥に押し込んだ先に開かれる』」
そう書かれていた。
侑「奥……」
奥ってなんだろうと、一瞬思ったけど……。
侑「……もしかして、本棚の奥?」
今しがた、この本を抜いたことによって、本棚に出来た穴を覗いてみると──
侑「……! あった……!」
奥に四角いボタンのようなものがあるのが見えた。
つまり、
侑「この本を……押し込む……!」
手に取った本を棚に戻し──そのまま、奥にボタンごと押し込む。
──ガコン!
歩夢「……侑ちゃん! 今の音……!?」
リナ『何か見つかった!?』 || ? ᆷ ! ||
音を聞きつけて、歩夢とリナちゃんが私のもとに駆け寄ってくる。
侑「見つけたよ、『叡智の最後の行き先』……──」
歩夢「……やったね! 侑ちゃん!」
リナ『侑さん、すごい!』 ||,,> 𝅎 <,,||
私は、ゆっくりと目の前に降りてくる折り畳み式の階段を一歩ずつのぼり始める……。
🎹 🎹 🎹
──ゆっくりと階段をのぼり、辿り着いたそこは、天井の高い部屋だった。
壁面には下の階同様、これでもかと本が本棚に詰め込まれているが……中央には何も置かれておらず、モンスターボールを象ったような線が引かれている。
これはまさに──ポケモンバトルのフィールドだ。
そして、そのフィールドを挟んだ部屋の奥に、
「──ようこそ、叡智に辿り着きし挑戦者さん」
小柄な女性が、本を片手に、椅子に腰かけていた。
侑「あなたが……ダリアシティのジムリーダーですね」
花丸「うん、マルの名前は花丸。あなたの言うとおり、このダリアシティのジムリーダーを務めさせてもらっているずら」
花丸さんは、本をパタンと閉じ、ゆっくりと椅子から立ち上がると、優しく笑う。
花丸「よくここまで辿り着いたね。……あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」
侑「……侑です。セキレイシティから来ました」
花丸「セキレイシティの侑ちゃん。あなたのその知恵を認め、ダリアジムのジムリーダーとして、ジム戦への挑戦権を与えます。もちろん、バトル……するよね?」
侑「……はい!!」
私はボールを構える。
花丸「使用ポケモンは2体だよ。それじゃ、始めよっか。ダリアジム・ジムリーダー『叡智の塔の歩く大図書館』 花丸。あなたの知恵で辿り着いたその先を、マルに見せて欲しいずら!」
花丸さんの手からボールが放たれた。ジム戦──開始……!!
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.15 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.13 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:27匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter009 『決戦! ダリアジム!』 【SIDE Yu】
花丸「ウールー、行くずら」
「メェェーー」
侑「出てきて! ワシボン!」
「ワシャ、ワシャッ!!!!」
こちらの1番手はワシボン。対する花丸さんは、ウールーを繰り出してくる。
リナ『ウールー ひつじポケモン 高さ:0.6m 重さ:6.0kg
パーマの かかった 体毛は 高い クッション性が ある
崖から 落ちても へっちゃら。 ただし 毛が 伸びすぎると
動けなくなる。 体毛で 織られた 布は 驚くほど 丈夫。』
侑「先手必勝! ワシボン! “ダブルウイング”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンが飛翔し、ウールーに飛び掛かる。
開幕、肉薄しての翼による二連撃……!!
「メェー」
素早いワシボンの動きに対応出来ないのか、無抵抗なウールーに──バスッ、バスッ!! と音を立てながら、攻撃を直撃させる。
侑「よし! 決まっ……た……?」
「メェー」
しかし、攻撃が直撃したはずのウールーは涼しい顔をしている。
侑「な……!? 効いてない!?」
「ワシャッ!!?」
花丸「ウールー、“ずつき”」
「メェーーー」
「ワシャボッ!!!?」
攻撃を耐え、そのままお返しと言わんばかりに“ずつき”をかましてくる。
侑「ワシボン!?」
「ワ、ワシャァッ」
さすがに、一発でやられるほどヤワじゃない。ワシボンは仰け反りながらも羽ばたいて、体勢を立て直す。
リナ『侑さん! ウールーの特性は“もふもふ”! 直接攻撃は半減されちゃうよ!』 || >ᆷ< ||
侑「! な、なるほど……」
あの体毛のせいで攻撃が通りにくいんだ……! なら……。
侑「ワシボン、“つめとぎ”!!」
「ワシャシャシャッ!!!!」
フィールドに降りて、床に爪を立てながら研ぎ始める。
そして、そのまま──地面を力強く蹴って、飛び出す。
侑「翼でダメなら、今度は爪で……!!」
「ワッシャボッ!!!!」
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワッシャッ!!!!」
研ぎ澄まされた鋭い足爪でウールーに切りかかる。
「メ、メェェェーー!!?」
侑「! よし! 効いてる!!」
ウールーは“ブレイククロー”に引き裂かれて、羊毛をまき散らしながら、フィールド上をテンテンと転がっていく。
花丸「ん……“ブレイククロー”で防御力が下がっちゃったね」
「メェーー…」
侑「たたみ掛けるよ!! 同じ場所を狙って!!」
「ワッシャッ!!!!」
ワシボンが間髪入れずに飛び掛かる。先ほどと同じように“ブレイククロー”を振り下ろす。今度はさっき引き裂いた毛の部分……致命傷は避けられないはず……!!
──と、思ったのに、
──ボフッ。
「ワシャッ!!!?」
侑「なっ!!?」
ワシボンの攻撃は受け止められてしまった。気付いたら、先ほど刈り取ったはずの羊毛が元に戻っている。
花丸「“ずつき”!」
「メェェェーーー!!!!」
「ワッシャボッ!!!!?」
再び炸裂する“ずつき”を食らって、ワシボンが吹き飛ばされ、地面を転がる。
侑「ワ、ワシボン! 頑張って!」
「ワ、ワシャ……!!」
ワシボンはどうにか起き上がるものの……。
侑「な、なんかさっきより強くなってない……!?」
さっき“ずつき”を受けたときは、もう少し余裕があると思ったのに……!?
リナ『ゆ、侑さん! 大変!』 || ? ᆷ ! ||
侑「え、何!?」
リナ『ワシボンの防御力が下がってる!』 || ? ᆷ ! ||
侑「え!?」
ウールーが防御力を下げてくるような技使ってた……!?
リナ『それだけじゃない! ウールーの防御力、元に戻ってる……』 || > _ <𝅝||
侑「な……」
さっき、確かに“ブレイククロー”で防御力を下げたはずなのに……なんで……!?
花丸「勝負を急ぎ過ぎだよ。侑ちゃん」
侑「……!」
花丸「下げられた防御力は、ワシボンにお返ししたよ」
侑「お、お返し……? お返しってどういう……?」
リナ『! まさか、“ガードスワップ”!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「“ガードスワップ”……?」
リナ『防御力の上昇下降をまるまる相手と入れ替える技……』 || > _ <𝅝||
侑「……!」
だから、ワシボンの防御力が下がって、ウールーの防御力が元に戻ってたんだ……!
侑「どうしよう……こっちが攻めてるはずなのに……」
「ワ、ワシャ…」
「メェー」
侑「こっちが押されてる……」
こっちから攻撃を仕掛けても、受け止められて、返されてしまう。
どうする……? 思考に入って、私が動きを止めると──
花丸「来ないの? それなら、こっちから行くずら。“こうそくいどう”!」
「メェーーー」
今度はウールーの方が地を蹴って飛び出す。
侑「っ……! 空に離脱!」
「ワ、ワシャ」
とりあえず、時間を稼ごうと空に逃げる。……が、
花丸「ウールーの毛は防御以外にも使い道があるずら」
ウールーの方から、パチパチ、パチパチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。
侑「な、何の音……!?」
あれ、でもどこかで聞いたことあるような……。パチパチパチパチ……あ……!?
侑「まさか……静電気……!?」
花丸「気付くのが遅いよ! “エレキボール”!!」
「メェーーー!!!」
体毛に蓄えた電気を球状にして、上空のワシボン向かって撃ち放ってくる。
「ワ、ワシャッ!!?」
突然の攻撃に回避もままならず、“エレキボール”がワシボンに直撃して、周囲に電撃の火花が走る。
「ワ、ワシャーーーー!!!!?」
侑「ワシボン!!」
ワシボンはそのまま、揚力を失って真っ逆さまに落っこちてくる。
──が、
「ワ、ッシャァッ!!!!」
地面に墜落する直前で、バサッと翼を羽ばたかせて、再び空に飛び立つ。
侑「ワシボン……! よかった……」
花丸「気合いは十分あるみたいだね。でも、気合いだけじゃ次は耐えられないよ」
侑「……っ」
花丸さんの言うとおり、次は恐らく耐えられない。
「メェーー」
考えている間にも、ウールーは再び──パチパチパチと音を立てながら、静電気を蓄え始める。
もう時間がない……!
──そのときだった。──バチンと大きな音がしたと思ったら。
「メ…!?」
ウールーの体毛の先がチリチリと燃えていた。
「メ、メェェ!!!?」
花丸「!? こ、転がって火を消して!」
「メ、メェェ」
コロコロと転がりながら、ウールーが自分の毛に点いた火を消しにかかる。
花丸「……静電気がショートしちゃったずら」
もしかして、あのモコモコの体毛……すごい防御力を誇る代わりに──すごく燃えやすい……?
侑「なら……!! ワシボン!!」
「ワシャッ!!!」
侑「“はがねのつばさ”!!」
「ワッシャッ!!!!」
ワシボンが空中からきりもみ回転をしながら、急降下を始める。
花丸「上から来るなら、狙い撃つまで! “エレキボール”ずら!」
「メェェーーー!!!!」
ウールーから放たれる“エレキボール”。確かにウールーに一直線に突っ込んで行ったら、この攻撃を避けるのは難しい。でも、ワシボンが狙ってるのは……!
「ワッシャッ!!!!」
──急にギュンと角度を変え、ワシボンが地面に向かって突っ込む。
花丸「ずらっ!?」
花丸さんの驚きの声と共に、鋼鉄の翼がフィールドの床を砕く。
砕かれた反動で浮き上がった瓦礫をそのまま、
侑「瓦礫を羽で弾いて!!」
「ワッシャァッ!!!!」
──ウールーに向けて、撃ち放つ……!!
侑「“がんせきふうじ”!!」
「メ、メェェェ!!!?」
花丸「し、しまった!?」
瓦礫に飲み込まれ、動きが封じられたウールー。
そして、ワシボンは、
「ワシャァッ!!!!!」
その場で、バサッと翼を大きく広げる。
そして、その翼を力強く羽ばたかせながら、送る風は──灼熱の風……!!
──ボゥッ!!
「メ、メェェェ!!!?!?」
ワシボンが覚える唯一のほのお技……!!
侑「ワシボン!! “ねっぷう”!!」
「ワッシャァァァァァ!!!!!!!!」
動けないままのウールーに、直撃した超高温の風は、“もふもふ”の体毛に引火する。
ウールーの毛は予想通り、とてつもなく燃えやすかったらしく、すぐに──ゴォォォォォ!! と音を立てながら、大きな火柱に成長し、
「メ、メェェェェェ!!!!!!」
ウールーを一気に灼熱の炎が飲み込んでいった。
体毛を燃料に、一瞬で焼き尽くされたウールーは、
「メ、ェェェ……」
体毛をぶすぶすと焦がされながら、戦闘不能になったのだった。
花丸「……戻って、ウールー」
侑「やったぁ! ワシボン! ナイスファイト!」
「ワシャ…」
ただ、ワシボンももう限界が近い。これ以上無理はさせられない……。
侑「ワシボン、よく頑張ったね……! ひとまずボールの中で休んで」
「ワ、ワシィ……」
ワシボンをボールに戻す。
あとは、
侑「イーブイ、行くよ!」
「ブィィッ!!!」
イーブイが、バトルフィールドに踊り出る。
花丸「2匹目はイーブイだね。マルの2匹目は……行け、カビゴン!!」
「カビーーー」
花丸さんの投げたボールから、現れた巨体は──ズンッ!! と重量感のある大きな音を立てながら、フィールドに降り立つ。
侑「2匹目はカビゴン……!」
リナ『カビゴン いねむりポケモン 高さ:2.1m 重さ:460.0kg
1日に 食べ物を 400キロ 食べないと 気がすまない。
基本的に 食うか 寝るかしか していないが なにかの
きっかけで 本気を出すと 凄い パワーを 発揮するらしい。』
花丸「カビゴン! “のしかかり”!」
「カビーーー」
のっしのっしとカビゴンがイーブイの方へと向かってくる。
あんな巨体にのしかかられたら、イーブイが潰れちゃう……!
侑「……でも、あの遅さなら、十分逃げられるね! イーブイ!」
「ブイッ!」
イーブイはフィールドを走り出す。
「カビーー」
カビゴンは逃げるイーブイを追いかけては来るけど……すばしっこいイーブイにはまるで追い付けてない。
“のしかかり”を注意しながら戦うなら──
「ブイッ!!」
イーブイがちょこまかと走り回りながら、カビゴンの背後に回り込んだところで、
侑「“でんこうせっか”!!」
「ブイッ!!!」
飛び出す、高速突進。
上手にヒットアンドアウェイしながら、ダメージを稼いで……と思っていたけど、カビゴンに“でんこうせっか”が直撃した瞬間。
──ぼよ~ん。
侑「……いっ!?」
「ブ、ブィィ!!!?」
イーブイはカビゴンの背中にめり込んだあと、元に戻る反動で跳ね返されて吹っ飛ばされてしまった。
リナ『体重差がありすぎて攻撃が通じてない……』 || >ᆷ< ||
侑「ち、直接攻撃じゃダメだ……!」
「ブ、ブィ」
イーブイは地面を転がりながら、すぐに体勢を立て直す。
ダメージこそ大したことはないものの、ぶつかり合っちゃダメだ……!
侑「“スピードスター”!!」
「ブイイーーー!!!!」
ピュンピュンと音を立てながら、星型のエネルギー弾がカビゴンを捉える。
「カ、カビ……」
侑「よし、効いてる!! カビゴンも肉弾戦のポケモンだから、この作戦で──」
花丸「ふふ、侑ちゃん。思い込みは良くないずらよ」
侑「え……?」
花丸「カビゴン! “かえんほうしゃ”!!」
「カーーービィーーーーー!!!!!!」
カビゴンが急に灼熱の炎を噴き出した。
侑「嘘!?」
「ブ、ブィィ!!!?」
イーブイは驚きながらも、どうにか“かえんほうしゃ”を紙一重で回避する。
侑「ほのお技なんて使えるの!?」
花丸「“ハイドロポンプ”!!」
侑「!?」
「カーーービーーーーー!!!!!」
「ブ、ブィィィ!!!!?」
今度は大量の水がカビゴンの口から発射される。
度重なる予想外の攻撃に、今度は回避しきれず、イーブイに激しい水流が直撃し、吹っ飛ばされる。
「ブ、ブイ……」
侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
「ブ、イ……」
リナ『だ、ダメージが大きい……このままじゃ』 || >ᆷ< ||
イーブイはどうにか、よろよろと立ち上がるものの、リナちゃんの言うとおり受けたダメージが大きい。
花丸「ポケモンバトルは知識が大事ずら」
侑「……?」
花丸「もし、侑ちゃんがカビゴンの覚える技がわかっていれば、対応が出来たかもしれない」
侑「そ、それは……」
花丸「このジム戦は最初から最後まで、知恵試しなんだよ」
花丸さんがスッと手を上にあげると──急に上の方から光が差し込んでくる。
どうやら、この部屋の上の方にある窓から日の光が差し込んで来ているようだ。
花丸「この技は……何かわかるかな?」
──空から差し込んできた光が……カビゴンに集まってる……?
侑「……っ! ……イーブイ、“でんこうせっか”!!」
「ブィィィ!!!!」
その場からイーブイが全力で飛び出す──と、同時に今の今までイーブイがいた場所に光線が降り注ぎ、床を焼く。
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「や、やっぱり、“ソーラービーム”を撃ってきた……っ」
花丸「ふふ、“ソーラービーム”のチャージだと気付けたのはさすがだね。でも、避けたのはいいけど──」
「カーービ」
花丸「焦ってカビゴンに近付いちゃったね」
侑「……っ!」
逃げる方向を指定する暇がなかったせいか、咄嗟に回避で使った“でんこうせっか”で皮肉にも──イーブイはカビゴンの目の前に躍り出てしまっていた。
そこはカビゴンの得意な肉弾戦の射程──
花丸「“メガトンパンチ”!!」
「カーーービ!!!!!!」
侑「“みきり”っ!!」
「ブィ!!!」
攻撃を間一髪で見切って躱せたものの──
「ブ、ブィィ……」
侑「な……」
気付けば、イーブイは捕まっていた──足を氷に取られる形で……。
花丸「“メガトンパンチ”をそのまま、“れいとうパンチ”に派生させたずら。イーブイが“みきり”を覚えるのは知ってたからね。ここぞというときに、使ってくると思ってたよ」
「ブ、ブィィ……」
──パキパキと音を立てながら、イーブイの足を取っている氷が侵食するように下半身……そして、上半身へと広がっていく。
花丸「イーブイは氷漬け。勝負あったずらね」
侑「……まだです。まだ、イーブイは戦闘不能になってません」
花丸「……そうだね。でも、氷漬けになったイーブイに反撃の術はないよ。ブースターだったら、違ったんだろうけど……」
侑「……いいえ。私のイーブイはまだ戦えます」
花丸「……?」
侑「私の“相棒”はまだ戦えます!! ね? イーブイ!!」
「ブイィィィィ!!!!!」
イーブイが雄たけびと共に──燃え上がる。
花丸「ずら!? イーブイが燃えてる!? そ、そんな技覚えるなんて話!?」
自身を捕える氷を溶かしながら──
花丸「……!? ま、まさか、“相棒わざ”!?」
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」
激しい炎を身に纏って、カビゴンに突撃する……!
「カ、カビィ!!?」
驚くカビゴンは、回避も防御もままならず、そのままイーブイは──カビゴンのお腹にめり込んでいく。
「カ、カビィィィィィ!!!!!?」
花丸「や、柔らかいお腹に!?」
侑「さすがにこれだけ激しい炎を纏っていたら、大ダメージですよね!」
「ブィィィィィィ!!!!!!」
柔らかい体が仇となり、お腹を直接焼かれ、カビゴンが苦悶の声をあげる。
侑「イーブイッ!! このまま、押し切──」
花丸「“のしかかり”!」
「…カビッ!!!」
──ズゥン!
侑「!」
リナ『お、お腹のイーブイごと……前に倒れ込んだ』 || > _ <𝅝||
花丸「はぁ……さ、さすがに焦ったずら」
侑「…………」
花丸さんが、汗を拭いながら、私に話しかけてくる。
花丸「でも、これでイーブイは、じきに戦闘不能。どうする? ワシボンに交代する?」
侑「…………花丸さん」
花丸「なにかな」
侑「……ここは知識を試すジムなんですよね」
花丸「? そうだけど……」
侑「そんなジムのジムリーダーの花丸さんなら……知ってるんじゃないですか? ──こんな絶体絶命のピンチをチャンスに変えるイーブイの技を……!」
花丸「……? ……ま、さか!?」
花丸さんの視線が、カビゴンに引き戻される。それと同時に──
「カビッ」
カビゴンが一瞬、僅かに宙に浮いた気がした。
花丸「ま、まずい!? カビゴン、すぐに起き上がって!?」
侑「逆にその巨体、倒れ込んだら、すぐには起き上がれないですよね!」
「カビィッ!!!?」
今度は、完全に目に見えて、カビゴンが僅かに浮いた。
次の瞬間──
「ブゥゥゥゥイイイイ!!!!!!!」
カビゴンの下で“じたばた”と激しくもがくイーブイが、カビゴンの巨体を完全に浮き上がらせた。
リナ『これは、“じたばた”……!? ダメージを大きく受けているときほど、威力が上がるカウンター技!!』 || ? ᆷ ! ||
──“じたばた”攻撃で浮き上がらされたカビゴンはバランスを崩し、よろけながら後退る。そこに向かって、
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥゥゥィ!!!!!!」
トドメの“相棒わざ”を無防備な頭部に叩きこむ。
「カビィィィ!!!?」
花丸「か、カビゴン!?」
大技の直撃により、カビゴンは吹っ飛ばされ、後ろに向かって転がりまくったのち、
「カ、ビィィィ……」
戦闘不能になり、大人しくなったのだった。
花丸「やられたずら……」
侑「……イーブイ!」
「ブィ!!!!」
名前を呼ぶと、イーブイが私の胸に飛び込んでくる、
侑「ありがとう!! 勝てたよ、私たち!」
「ブイブイッ!!!」
二人で喜びを分かち合っていると、
歩夢「侑ちゃん……!」
歩夢も駆け寄ってくる。
歩夢「侑ちゃん! すごかった! かっこよかったよ……!」
侑「うん!」
リナ『侑さん、すごい……私、もう絶対ダメだと思った』 || > _ <𝅝||
侑「あはは、イーブイのガッツのお陰でどうにか勝てたよ!」
「ブイッ!!」
リナ『最後まで諦めない心……すごく、勉強になった。リナちゃんボード「じーん」』 || 𝅝• _ • ||
仲間たちが労ってくれる中、
花丸「まさか、“相棒わざ”を覚えてるなんて……」
カビゴンをボールに戻した花丸さんも、会話に加わってくる。
侑「えっと、わかってたというか……花丸さんってノーマルタイプのエキスパートですよね?」
花丸「うん、見てのとおりノーマルタイプのジムリーダーずら」
侑「だから、同じノーマルタイプのイーブイの技もひととおりバレちゃってるかなって……。だからもし、意表を突くなら“相棒わざ”しかない! って……」
花丸「“れいとうパンチ”を待たれてたってことだね……」
侑「“れいとうパンチ”というか、こおり技ですけど……ほのお、みず、くさタイプといろいろ使って来てたので、こおり技もあるかもって!」
花丸「動きを止めるために選んだ“れいとうパンチ”が裏目に出たずらぁ……うぅん、そうじゃなくても“じたばた”はちゃんと意識しておくべきだったね……。焦って、頭から抜けちゃってたずら……まだまだ、修行が足りないね」
花丸さんは、自嘲気味に笑って、肩を竦めた。
花丸「……その知識と、勇気と、実力を認め、侑ちゃんをダリアジム公認トレーナーと認定します。この“スマイルバッジ”を受け取って欲しいずら」
侑「……はい!」
花丸さんから、丸い笑顔のマークのバッジを手渡される。
侑「えっへへ♪ “スマイルバッジ”、ゲットだね!」
「ブブイー♪」
これで、2つ目のバッジゲット……! 一時は辿り着けるかどうかも怪しいと思っていたけど、こうしてジムにも勝利出来て一安心だ。
花丸「あ、そうそう……このジムに挑戦した人みんなにお願いしてるんだけど……マルがジムリーダーだってことは、外では言わないでね?」
侑「あ、はい!」
歩夢「わかりました」
リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
花丸「そういえば、侑ちゃん手持ちは2匹?」
侑「はい。……そろそろ、新しい手持ちが欲しいなーとは思ってるんですけど」
花丸「それなら、ダリアの南にある4番道路のドッグランに行くといいずら。あそこはいろんな種類のポケモンがいるからね」
リナ『ドッグランなら、どちらにしろコメコへの通り道だからちょうどいい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
侑「じゃあ、次は南を目指して出発だね♪ 行こう!」
「ブブイ」
歩夢「そ、その前に……!」
侑「ん?」
歩夢「今日は、宿に泊まらない……? もう、夕方だよ?」
歩夢が上を見上げる。釣られて私も見上げてみると、上にある窓から夕日が差し込み始めていた。
どうやら、先ほどまでの雨も、バトル中に上がっていたらしい。
歩夢「今から4番道路に向かったら、夜になっちゃうから……」
花丸「それなら、宿を紹介してあげるから、そこに行くといいずら」
侑「え、いいんですか!?」
花丸「今日一日、ここに辿り着くために、街中走り回ったでしょ? そのお詫びというか、労いということで、挑戦者には宿を紹介してるずら。はい、これ紹介状。ホテルの受付に見せれば泊めてもらえるから」
侑「そういうことなら、お言葉に甘えて……」
花丸さんから、紹介状を受け取る。
花丸「それじゃ、侑ちゃん。ジム巡り頑張ってね! マルは滅多に外に出ないけど、ここから応援してるずら」
侑「はい! 頑張ります!」
結局、一日がかりでの挑戦になったダリアジムだったけど、どうにかクリア出来たことに胸を撫で下ろしながら──疲れを癒すために、私たちは宿へと向かうのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.18 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.15 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter010 『コンテストの島』 【SIDE Shizuku】
「ミャァミャァ」「ミャァミャァミャァ」「ミャァ」
──水を切る音に紛れて、キャモメの鳴き声が聞こえる。
しずく「──ん……んぅ……」
ゆっくりと目を開けると──朝日を反射してキラキラと光りながら流れていく水面が視界に飛び込んできた。
寝起きでぼんやりする頭に酸素を送って、少しでも早く覚醒させるために、朝の深呼吸。
しずく「……すぅー……はぁ……」
「メソ…」
しずく「メッソン。おはよう」
「メソ…」
私の肩の上で小さく鳴くメッソンを撫でてあげると、満足したのか、メッソンはまた姿を隠してしまった。
早く慣れてくれるように、積極的にボールの外に出してはいるものの、やっぱりまだまだ臆病で、外の世界が怖いのかもしれない。
とはいえ、こうして私が目を覚ましたのに気付いて、朝の挨拶をしてくれたのは、大事な一歩だろう。
私はとりあえず、ボールと荷物を確認する。
しずく「マネネのボールも、ココガラのボールもある……っと」
バッグ共々、身の回りの持ち物に異常がないことを確認。ついでに、隣にいる人も確認する。
かすみ「……むにゃむにゃ……えへへ、かすみん……さいきょーれす……」
「ガゥ…zzz」
かすみさんもいる……っと。まだ、ゾロアと一緒にお休み中だ。
最低限の身の回りの確認は出来たので、今度は私たちの前で座ったまま、私たちを送ってくれている方へ朝の挨拶です。
しずく「曜さん、おはようございます」
曜「お、しずくちゃん、起きたんだね」
しずく「あの……もしかして、曜さん徹夜ですか?」
曜「ラプラスに任せても問題ないんだけど……二人を送り届ける間に何かあったら困るから、一応ね」
しずく「すみません……ご迷惑をお掛けしてしまって……」
曜「むしろ、謝らなきゃいけないのはこっちだって! 二人を危ない目に合わせちゃったしさ……。マンタインサーフ、やっぱりもうちょっと安全性を考えて調整しないといけなさそうだね……あはは」
「タイーン」「マンタイーン」
私たちが乗せてもらっているラプラスの横には、並んで泳いでいる2匹のマンタインの姿。
昨日私たちをサーフで運んでくれていた子たちです。
──昨夜はあの後、ラプラスで沖まで来てくれた曜さんと合流し、フソウ島まで送ってもらうことになった。
その道中、私とかすみさんは、疲れ切っていたのもあって、気付けばラプラスの背の上で眠ってしまっていたというわけだ。
しずく「ラプラスも、ありがとうございます」
「キュゥ~~♪」
曜「乗り心地良いでしょ? 自慢の相棒なんだ♪」
「キュゥ♪」
しずく「はい、お陰様でぐっすりでした……あはは」
本当にあまりに熟睡しすぎてしまったくらいで、少し恥ずかしい。
曜「それなら、何よりだよ。このまま無事に二人のことを送り届けられそうだしね」
曜さんはそう言いながら、前方を指差す。その先には──
しずく「! かすみさん、起きて!」
かすみ「……ふぇ……? ……かすみんのサインはじゅんばんに……」
「…ガゥ?」
しずく「寝ぼけてる場合じゃなくて! 見て!」
かすみ「……んぇ? ……わ!」
しずく「見えてきたね……!」
かすみ「フソウ島!」
「ガゥ、ガゥッ♪」
噂に聞くリゾート島、フソウ島の到着が迫ってきていた。
曜「じゃあ、二人も起きたしラストスパート! 飛ばすよ、ラプラス!」
「キュゥ~~~♪」
波に揺られて、目的地まであと少し……。
💧 💧 💧
かすみ「到着ぅ! ああ、久しぶりに陸に降り立った気がしますぅ♪」
「ガゥ♪」
しずく「久しぶりって、1日も経ってないよ……」
上陸したのも束の間、テンション高めに飛び跳ねるかすみさんを見て、肩を竦める。
曜「まあ、普通の人は半日以上海上で過ごすことも滅多にないだろうからね」
かすみ「そういうことです!」
「ガゥッ!!」
曜「うんうん、かすみちゃんが元気そうで曜ちゃん先輩は嬉しいよ」
しずく「曜さん、ここまで送っていただいて、ありがとうございました」
曜「うぅん、二人に大事なくてよかったよ」
かすみ「かすみんたち、危うく冥界に連れてかれるところでしたからね……」
「ガゥゥ…」
曜「私は見たことがなかったんだけど、確かに昔からゴーストシップの噂はあったんだよね……。一応、私からリーグに報告しておくよ。あまり人が近寄らないようにしてもらわないと」
しずく「お手数ですが、よろしくお願いします」
曜「うん、任せて♪ これもジムリーダーのお仕事……ん?」
曜さんは取り出したポケギアを見て、画面を凝視したあと、少し眉を顰めた。
しずく「曜さん……? どうか、されたんですか?」
曜「ああいや、リーグに連絡しようと思ったら、そのリーグの方からちょうどメールが届いてびっくりしただけ」
そう言いながら、曜さんは再びラプラスに飛び乗る。
かすみ「あれ? 曜先輩、フソウタウンには行かないんですか?」
曜「うん。私は用事が出来たから、一旦セキレイに戻るよ」
しずく「い、一旦休まれた方が……」
曜さん、私たちのために徹夜までしてくれたのに、これから用事だなんて……。
私の心配が顔に出ていたのか、
曜「ありがと、しずくちゃん。でも帰りは一人だし、サニーまではラプラスに任せてお昼寝するから大丈夫だよ♪ お願いね、ラプラス」
「キュゥ♪」
曜さんはそんな言葉を返しながら、私にウインクしてくる。
しずく「そうですか……ですが、どうかご無理はなさらないでくださいね」
曜「了解♪ それじゃ、ラプラス! 全速前進ヨーソロー♪」
「キュゥ~♪」
曜さんを乗せたラプラスは再び海を進み始める。
かすみ「曜せんぱ~い、ありがとうございました~♪」
しずく「道中、お気を付けてくださーい!」
曜「ありがとー! 二人とも~! 良い旅を~!」
手を振りながら、海を駆ける曜さんを見送ったあと、
かすみ「それじゃ私たちも行こっか、しず子」
しずく「うん、そうだね」
私たちもフソウタウンへと歩を進める。
かすみ「いやぁ……曜先輩に会えてラッキーだったね。なんだかんだ、ここまで送ってもらえたし」
「ガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみ「これもかすみんの日頃の行いのなまものだよね~♪」
「ガゥ…?」
しずく「……賜物ね」
そう言う割に幽霊船と出会うなんて、よほどアンラッキーな気もしなくはないけど……とりあえず、黙っておくことにする。
しずく「そういえば……かすみさん、よかったの?」
かすみ「え? 何が?」
しずく「せっかく、曜さんに会えたのに、ジム戦のお願いとかしなかったけど……」
かすみ「…………あ!? ……か、完全に忘れてた……!?」
「ガゥゥ?」
しずく「……まあ、そんなことだろうと思ってたけど」
かすみ「曜せんぱ~い!? 待ってくださーい!! かすみんと、かすみんとジム戦だけしてくださ~い!! 曜先輩~!?」
「ガゥ…」
しずく「はぁ……私たちは、早く町の方に行こっか」
「メソ…」
海に向かって叫ぶかすみさんに半ば呆れながら、私はさっさと町の方へと歩いて行くのだった。
💧 💧 💧
──フソウタウンは、オトノキ地方でも最大規模を誇るコンテスト施設がある町だ。
頂点のポケモンコーディネーターを決める大会“グランドフェスティバル”もこの町で開催される。
この町には、ポケモンジムのようなバトル施設がない代わりに、コンテストを中心とした観光産業を主としていて、特別な催し事のある日でなくとも、あちらこちらに出店が立ち並んでいて、今日もたくさんの人で賑わっている。
そして──
かすみ「見て見てしず子! “バニプッチパフェ”! 買っちゃった♪ めちゃくちゃ可愛くない!?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「う、うん……」
絶賛、賑わっている人がここにも。
かすみ「って、あーー!? あれ、“ハートスイーツ”だよ、しず子!! あっ! 見て見て!! あそこに売ってる飴細工もめっちゃくちゃ可愛い! ちょっと買ってくる!!」
「ガゥッ」
しずく「か、かすみさん、そんなに買ったらおこづかいが……あ、行っちゃった……」
さっきから、気になる出店を見つけるたびに、かすみさんが買いに走っているせいか、なかなか前に進めていない。
しずく「コンテスト大会まではもう少し時間があるから、別にいいんだけど……」
今日開催される、うつくしさ大会のウルトラランクを見たいと思っているから、間に合うようにはしたいけど……恐らく開催時間の前に、かすみさんの財布が先に限界を迎える気がするし……。
かすみ「しず子~! “ハートスイーツ”ゲットしたよ~♪」
しずく「あ、戻ってきた……」
かすみ「フソウタウン最高かも! かすみんの好きな感じの可愛いスイーツがたっくさんあって幸せぇ~♪」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「ゾロアも嬉しいよね~♪ はい、“オレンアイス”あげるね♪」
「ガゥ♪」
かすみ「しず子は何も買わないの?」
しずく「え? うーん……」
これだけ出店が立ち並んでいると、食べ歩きをしたくなる気持ちはわかるんだけど……。恐らく、ここで尽きるであろう、かすみさんの旅の資金を補うのは、私のおこづかいからだろうし……少し躊躇する。
かすみ「せっかく、フソウタウンまで来たんだから、しず子も楽しまないと!」
「ガゥッ♪」
逆に楽しみを消費する速度が速過ぎて心配なんだけど……。でも、かすみさんの言うとおり、せっかくそういう町に来ているわけだし、少しくらいは見ていってもいいのかもしれない。
しずく「メッソン、何か欲しいのある?」
「メソ…」
肩に乗っているメッソンに訊ねると──スゥッと姿を現して、
「メソ…」
小さな手で派手な看板たちに隠れた、味のある看板のお店を指差す。
しずく「えっと、向こうにあるのは……。……! も、“もりのヨウカン”……!?」
「メソ…」
かすみ「えー? ヨウカン? 地味じゃない?」
しずく「何言ってるの!? シンオウ地方ハクタイシティの隠れた名物なんだよ! 一度食べてみたいと思っていたけど、こんなところで巡り合えるなんて……!」
かすみ「お、おぉう……そういえば、しず子って和菓子好きなんだっけ……?」
しずく「うん! 買ってくるね!」
「メソ…」
💧 💧 💧
──町の中央まで来て、今は噴水広場のベンチに腰掛けている。
しずく「んー……おいしい♪」
そして、早速“もりのヨウカン”を食べている。
初めて頂く“もりのヨウカン”は、上品な甘さとなめらかな舌触りが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになる。
かすみ「そんなにおいしいの?」
しずく「かすみさんも一口食べてみる?」
かすみ「うん!」
黒文字(菓子楊枝)を使って、一口大に切ってから、
しずく「はい、あーん」
かすみ「あーん♪」
かすみさんにおすそ分け。
かすみ「あむっ。もぐもぐ……」
しずく「どう?」
かすみ「こ、これは……! おいしい……!」
しずく「でしょでしょ! 糖分のべた付きを感じさせない滑らかな舌触りなのに、それでいて餡子の自然な甘味がしっかりと活きている……まさに至高の逸品だよね……」
かすみ「め、めっちゃ語るじゃん、しず子……」
しずく「メッソンもお食べ」
「メソ…」
メッソンの口元に運んであげると、小さな口で“もりのヨウカン”をもしゃもしゃと食べ始める。
しずく「おいしい?」
「メソ…♪」
しずく「あ、笑った♪」
「メソ…♪」
メッソンは凄く臆病で、いつも泣きそうにしているから、こうして笑ってくれるだけでなんだか嬉しくなる。
しずく「まだあるから、またあとで残りも食べようね♪」
「メソ…♪」
かすみ「それにしても、すごい町だね。……あむっ」
かすみさんが“バニプッチパフェ”を頬張りながら、辺りを見渡す。
かすみ「まだ午前中なのに、すごい賑わい。今日ってお祭りなの?」
しずく「聞いた話だと、一年中こういう感じらしいよ。今日はウルトラランクの開催日だから、その中でも特に活発な日だとは思うけど」
かすみ「ふーん……セキレイの賑やかさとは雰囲気が違うけど、かすみん的にはこういうお祭りっぽいのは大好物なんだよね♪ はい、しず子、お返し。口開けて♪」
しずく「……あむっ」
かすみ「どう? “バニプッチパフェ”は」
しずく「ふふっ、パフェもおいしいね」
かすみ「でしょでしょ! おいしいだけじゃなくて、見て可愛いのもポイント高いんですよねぇ♪」
「ガゥガゥ!!!」
かすみ「はいはい、ゾロアにもあげるから。あーん」
「ガーゥ♪」
かすみ「そういえば、しず子……行きたい場所があるんだったよね? コンテスト会場だっけ」
しずく「うん」
かすみ「それって、どこにあるの?」
しずく「ああ、それなら……」
私は振り返る。
かすみ「……噴水?」
しずく「じゃなくて……その奥。噴水がコンテスト会場なわけないでしょ……」
確かに噴水広場の噴水前のベンチだから、振り返ったらすぐそこに噴水はあるけども……。
──噴水のさらに向こう側にそびえる建物を指差す。
恐らく、この町において、最大の建造物に当たるであろう。フソウのコンテスト会場が鎮座している。
かすみ「え、あれ、コンテスト会場なの……!? セキレイのよりも遥かに大きい……」
しずく「オトノキ地方、最大規模のコンテスト会場だからね」
かすみ「何か他の競技場みたいなものかと思ってた……」
確かにかすみさんが驚くのも無理はない。
セキレイ会場もかなりの広さだけど、フソウ会場はその比ではなく、下手したら倍以上の大きさがある。
最大の収容人数、最大の演出設備等を誇り、同時にこの地方で最大のステージ舞台を擁する巨大施設なのだ。
しずく「確か、中にはスタッフやコンテストクイーンのために居住スペースもあったんじゃないかな……?」
かすみ「マジ!? かすみんもあそこに住みたい!」
しずく「なら、コンテストクイーンにならないとね……あ、ただ、今のコンテストクイーンはことりさんで、ことりさんはウテナシティのポケモンリーグで生活してるから、一般開放されてたはず……」
かすみ「え、じゃあ今がチャンスじゃん!」
しずく「……いや、一般開放って自由に住んでいいってわけじゃないからね? 見学出来るだけだよ」
かすみ「えー……なんだぁ……」
かすみさんは、がっくりと項垂れているけど……歴代のコンテストクイーンが代々利用してきた部屋を見られるのって結構すごいことなんだけどな……。
確か、一般開放に当たっていろいろ展示物もあるらしいし……せっかくだし、後で見に行きたい。
そんなことをぼんやり考えていると──
かすみ「ねぇ、しず子……」
かすみさんが袖を引っ張りながら、小声で話しかけてくる。
しずく「何?」
かすみ「あの人……なんか変じゃない?」
しずく「あの人……?」
かすみさんの視線を追うと──サングラスを掛けて、マスクと深めの帽子に、長めのコートを羽織ったお姉さんの姿。
しずく「変というか……」
一周して、変装しているのがバレバレな気がする。
しずく「有名なコーディネーターさんなのかな……?」
コーディネーターは人によっては人気すぎて、会場に辿り着けずに失格になるなんて事態が発生することがあるらしい。
だから、コンテストクイーンは会場内に居住区を持っているなんて噂さえあるくらいで……。
しずく「たぶん、変装してるんだと思うよ」
かすみ「いや、服装のことじゃなくて……」
しずく「?」
言われてもう一度、彼女に視線を戻すと──
「…………? …………」
何度も、手元の端末らしきものを確認しては、キョロキョロと辺りを伺い、また確認に戻って、また辺りを見回す。そんな行動を繰り返している。
あの端末……確か、ポケナビだっけ? 地図や通話機能を持っている端末だったはず……。
しずく「もしかして……道に迷ってる……?」
かすみ「そんなわけないでしょ……この島、港からここまで一本しか道なかったよ?」
しずく「確かに……。……ま、まさか……!」
かすみ「まさか……?」
しずく「密売人……とか……!」
かすみ「えぇ!?」
しずく「わざわざ島まで足を運んで、しきりに端末を確認している……いかにもだと思わない……?」
かすみ「い、いや……あんな目立つ場所で確認しなくても……」
しずく「それがカモフラージュなんだよ! 木を隠すなら森の中って言うように、人を隠すなら人の中! むしろ堂々としてる方が見つからないんだって!」
かすみ「じゃあ、なんで変装してるの!? 矛盾してない!?」
しずく「きっと、あのコートの下にいろんな秘密兵器が──」
お姉さん「──貴方たち、ちょっといいかしら?」
しずく・かすみ「「!?」」
気付いたら、怪しいお姉さんが目の前で、ベンチに座っている私たちを見下ろしていた。
しずく「な、ななな、なんですか……!?」
動揺で声が上ずる。ま、まさか今の会話を聞かれていて、私たち、消され……!?
お姉さん「コンテスト会場って……どっちかしら」
しずく「……へ?」
お姉さん「道に迷っちゃったみたいで……」
かすみ「…………」
かすみさんが隣でジト目をしているのが、見なくてもわかった。
しずく「え、えっと……会場ならすぐそこに……」
背後の建物を指差す。
お姉さん「あ、あらやだ……あれだったのね。……ごめんなさい、助かったわ」
しずく「い、いえ……」
お姉さん「貴方たちは観光に来たのかしら?」
しずく「は、はい……コンテストの観覧に」
お姉さん「あら……だったら、この後のウルトラランク、楽しみにしていてね♪」
お姉さんはそう残して、会場の方へ去って行った。
かすみ「…………」
しずく「…………」
かすみ「……で、誰が密売人だって?」
しずく「か、かすみさんだって、迷子はありえないって言ってたでしょ!?」
かすみ「密売人の方がありえないでしょ! しず子の妄想、途中で無理あるって自分で気付かなかったの!?」
しずく「ぅ……ごめん……」
かすみ「……はぁ、しず子ってたまに暴走するよね。そういうとこ、嫌いじゃないけどさ……」
ああ、恥ずかしい……。たまに、自分の中で妄想が膨らみ過ぎちゃうことがある。かすみさんはこうして理解してくれているからいいものの……今は旅の真っ最中だし、もう少し自重しなきゃ……。
それにしても……。
しずく「あの人の声……どこかで聞いたことあるような……」
かすみ「あれ、しず子も?」
しずく「え? かすみさんも?」
かすみ「うん」
しずく「私たちも声を知っているくらいの有名人ってことかな……?」
かすみ「……かも」
──まあ、その真相を知るなら、お姉さんの言っていたとおり、
しずく「……会場、そろそろ行こうか」
かすみ「あ、うん。ゾロア、行くよ」
「ガゥ」
ウルトラランク大会を見ればわかるってことだよね……?
💧 💧 💧
司会『──レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』
暗い舞台にスポットライトが灯り、眼鏡を掛けた司会のお姉さんの口上と共に、コンテスト大会がスタートした。
この旅で一番楽しみにしていたことの一つが、今目の前で始まったんだと思うと、ドキドキしてくる。
司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ニャルマー&優理!』
歓声と共に現れるコーディネーターと、そのポケモンのニャルマー。
かすみ「わぁ♪ 見て、しず子! あのニャルマーお洋服着てるよ! 可愛い!」
しずく「コンテストの一次審査はビジュアル審査だからね。ああいう風に着飾るコーディネーターさんが多いんだよ」
かすみ「なるほど……」
司会『エントリーNo.2……キリキザン&イザベラ!』
次に現れたキリキザンは、全身研ぎ澄まされた鋼鉄のボディを輝かせながらの入場。
しずく「あのキリキザン……全身の光沢がすごい。磨き抜かれていますね」
かすみ「確かに綺麗だけど……可愛くはないかなぁ」
しずく「あはは……」
うつくしさコンテストだから、可愛くなくてもいいんだけどね……。
司会『エントリーNo.3……ニンフィア&凪!』
3番目に現れたニンフィアは、ひらひらのドレスを身に纏っての登場だ。
かすみ「かっわいいっ!! しず子!! あのお洋服着たニンフィア、すっごい可愛い!!」
しずく「う、うん、わかったから、あんまり騒ぎすぎないでね……?」
私の希望で、ここに来ているはずなのに、かすみさんの方がテンションが高い気がする。
いや、楽しんでくれているなら、全然構わないんだけど。
司会『エントリーNo.4……キュウコン&果林!』
そして、最後のポケモンとコーディネーターが登壇する──と同時に、一気に歓声が大きくなる。
しずく「……あ」
そして私たちも彼女の姿を一目見ただけで思い出す。
しずく「あの人、さっきの……!」
かすみ「え!? テレビとかでよく見るモデルの……!?」
私たちが先ほど会場の外で出会った人のあの声は、テレビやCMで何度も聞いたことのある声だった。
彼女は──
司会『お、おおーっとぉ!! 割れんばかりの歓声です! さすがカリスマモデル……! ただし、これはポケモンコンテスト! キュウコンのうつくしさを見てあげてくださいね!』
しずく「──カリスマモデルの、果林さん……」
彼女は今やカリスマモデルとして、あちこち引っ張りだこの人気者──果林さんだった。
私が夢見ている、表の舞台に立つ人。もちろん、女優とモデルでは少し違うけど……それでも、人前に立ち、自分を表現する人間。
いや、それだけじゃない、
かすみ「あのキュウコン……きれい……」
しずく「うん……」
着飾られたアクセサリーはワンポイントの帽子だけで──とは言っても、帽子も意匠を凝らした物を被っている──少し寂しいようにも見えるけど……それを感じさせないくらいに、全身のきめ細かい黄金の体毛が光を反射してきらきらと輝いている。
キュウコン自体は何度か見たことがあったけど、今まで見たキュウコンとは毛並みが根本的に違う。
もはや、別のポケモンにすら見えてくる。
しずく「……あの毛並みを殺さないために、必要以上に着飾らないようにしてる……」
着飾ることを生業にしているはずの彼女が、ポケモンを魅せるために、自分が普段行っていることとは逆の手法で、キュウコンの魅力を引き出している。
あの人は恐らく、根本的に“魅せることが何か”を理解している。
その証拠に、
かすみ「…………すごい」
先ほどまで、大はしゃぎで、ニャルマーやニンフィアを可愛い可愛いと褒めちぎっていたかすみさんが、キュウコンの“うつくしさ”に魅了されている。
しずく「──そっか……表現をどう魅せるか考えることに、人も、ポケモンも、関係ないんだ……」
これは果林さんの──プロの世界の表現を見ることが出来るまたとないチャンス。
私はこのステージを、しっかりとこの目に焼き付けなくてはいけない。そう直感した。
司会『さあ、それでは一次審査を開始します! 皆さんお手元にペンライトの準備はよろしいでしょうか──』
💧 💧 💧
しずく「…………」
かすみ「……なんか、すごかったね」
前方のメインスクリーンに目を向けると──エントリーNo.4のキュウコン&果林の審査メーターだけが飛び抜けていた。
誰もが認める、キュウコンと果林さんの完全勝利。会場全てが彼女たちのうつくしさに魅了されていた。……それはもう、圧倒的だった。
仮にもこの大会はウルトラランクだと言うのに……。
かすみ「なんか、ポケモンからしてレベルが違ったって感じがしたよね……あのキラキラした毛並み、反則級だったかも」
しずく「……うぅん、そうじゃない」
かすみ「え?」
私はずっと、果林さんとキュウコンを観察していた。そのときに、気付いたことがあった。
──あのキュウコンの毛並み、輝きすぎている、と。もちろん、普段からの手入れも最上級に拘っているんだろうけど……。
しずく「私の気のせいじゃなければ……会場の照明の位置から、どこに立てばキュウコンの毛並みが最も綺麗に輝くかを計算しながら演技をしていた……」
かすみ「え、う、うそ……?」
私も自分で演劇で舞台に立つ際に、考えることはある。自分の衣装が最も映える照明の角度。何度も他の演者と調整しながら、一番良い場所を探って行くのだが……コンテストライブの照明は、もちろんコンテスト主催側の裁量でしかない。
その癖を一瞬で見抜いて、自分たちが一番輝ける場所を探り当てていたとでも言うのだろうか。
しずく「それだけじゃない……カメラが自分たちに向いたら、一瞬でカメラに目線を向けていた……キュウコンも、果林さんも……」
一次審査も二次審査もずっと、一瞬たりとも気を抜かず、動く照明、動かない照明、自分たちを捉えるカメラ、それら全てを意識しながら、圧倒的なパフォーマンスをこなす。
そんなことが、本当に可能なのか……? どれだけの研鑽を積めば、あんなことが──
しずく「あれが、プロの世界……カリスマモデル・果林さんたちの表現……」
侮ってはいなかったつもりだ。自分も舞台に立つ一人の表現者として、アーティストとして、戦える物を持っている気がしていた。
でも、それは思い上がりだった。果林さんとキュウコンの演技は……私の表現とは比べ物にならない、遥か遠くに感じるくらいレベルが高かった。
観客1「──今、エントランスホールに果林さん、いるらしいよ!」
観客2「ホントに!? 私、アクセサリー贈りたい!」
観客1「行こう行こう!」
しずく「……!」
どうやら、今なら彼女と話が出来るらしい。
しずく「行かなきゃ……!」
かすみ「あ、しず子!?」
突き動かされるように、私はライブ会場を飛び出した。
💧 💧 💧
──エントランスホールは、人でごった返していた。
キャーキャーと響く、黄色い歓声──恐らくこの先に、果林さんがいる。
しずく「……と、通して……ください……!」
人込みの中を無理やりかき分けながら、前に進む。
普段なら、こんな強引なことは滅多にしない。でも私は、今あの人と話がしたい。
ファン1「果林さん! わたしのアクセサリー受け取ってください!」
ファン2「ち、ちょっとずるい! 私のアクセサリーを……!」
果林「待って待って、順番に……」
しずく「果林さん……!!」
果林「だから、順番に──あら……? 貴方……さっき、外で」
しずく「……!」
果林さんの視線が私に向く。チャンスだと思った。
果林「さっきは会場を教えてくれてありがとう。お陰で助かったわ」
しずく「あ、あの!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
しずく「どうすれば、果林さんみたいなパフォーマンスが出来るようになりますか……!?」
果林「あら……そんなに私のパフォーマンス、よかったって思ってくれたのね」
しずく「はい……! 見ていて、私もあんなパフォーマンが、演技が出来るようになりたいって思って……私……!」
必死に自分の言葉を紡ぐ私に、
女の子「はぁ……貴方、おこがましいですよ」
急に傍にいた、黒髪の女の子がイライラしたような口調で噛み付いてくる。
しずく「え……あ、えっと……」
女の子「果林さんが素晴らしいのは当たり前です。日々、血の滲むようなトレーニングや研究を積み重ねて、この場に臨んでる。そんな果林さんのようになりたい? 簡単に言ってくれますね」
しずく「ご、ごめんなさい……」
果林「こら、ケンカしちゃダメでしょ?」
女の子「で、ですが……」
果林「ダメでしょ?」
女の子「す、すみません……」
果林さんが窘めると、その子は急に大人しくなる。
しずく「あの、ごめんなさい……私……」
果林「ふふ、いいのよ。貴方も私のパフォーマンスに魅了されちゃっただけだものね」
しずく「果林さん……」
果林「憧れてくれて光栄だわ。……そうね、もし私みたいに、なりたいって思うのなら」
しずく「なら……?」
果林「舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみると、いいんじゃないかしら?」
しずく「自分の役割と……その上で最高の自分を演じる……」
果林「役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。チャンスが巡ってきたらそのときは──今、私がこの舞台で一番輝いてるって、胸を張ってパフォーマンスをする……ね?」
しずく「は、はい……!」
女の子「そろそろいいでしょうか?」
気付けば、先ほどの女の子が私を静かに見つめていた。
しずく「す、すみません……!」
確かに、これだけのファンに囲まれている中で、私だけがいっぱい話しかけていたら、不満もあるだろう。
私は、果林さんに一礼してから、その場を撤退しようとしたその背中に、
果林「貴方、名前は?」
しずく「……! し、しずくです!」
果林「しずくちゃんね。覚えておくわ。頑張ってね♪」
しずく「は、はい……!///」
思わぬ激励を貰って、胸がドキドキする。
最後にさっきの女の子から、さらに強い視線を背中に受けた気がするけど……なんだか、どうでもよくなってしまった。
どうにか人込みから抜け出すと、かすみさんがニヤニヤしていた。
かすみ「一発目から、推しに認知されるなんて……しず子、やるじゃん」
しずく「認知って……そういうんじゃ……///」
かすみ「よかったね、しず子♪」
しずく「……うん///」
かすみ「あと、さっきの子……あんまり気にしなくてもいいと思うよ」
しずく「え?」
かすみ「しず子を待ってる間に周りのファンの子に聞いたんだけど……あの人、果林先輩が無名だった時代からのファンらしいよ。いわゆる古参ファンってやつ」
しずく「そうなんだ……」
言われてみれば、果林さんも少し砕けた感じに接していた気がする。
確かに、昔からのファンからしたら、新たに現れた人が急に「果林さんみたいになりたい」なんて言い出したら生意気だと思われても仕方ないか……。
かすみ「もういいの?」
しずく「うん……聞きたいことは聞けたから。それに、ずっとこの人込みの中にいるの大変だったでしょ? 待たせてごめんね、かすみさん」
かすみ「うぅん、全然大丈夫だよ。じゃあ、行こっか」
私はかすみさんに手を引かれて、人込みを縫うようにして、会場を後にする。
しずく「──自分を……演じる」
さっき貰った言葉を何度も反芻しながら──
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【フソウタウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| ● ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.9 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.9 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.9 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.12 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:4匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter011 『フソウエレクトリカルパニック』 【SIDE Shizuku】
かすみ「しず子、この後はどうする?」
コンテストの観覧も終わり、ひとまず私の目的は達成されたことになる。
今のところ、次の目的みたいなものは特別設定していないけど……。
しずく「とりあえず、今日泊まる場所を探しちゃった方がいいかなって思うんだけど……」
かすみ「あー……確かにそれもそっか」
ただ、かすみさんはチラチラと出店の方に視線を送っている。
しずく「まだ出店を見たいなら、かすみさんは見ていてもいいよ。ホテルは私が探しておくから」
かすみ「え、いいの!?」
しずく「うん。コンテストには付き合ってもらったし、フソウに来たかったのは私の都合だから、宿泊先を探すくらいはしなくちゃ」
かすみ「じゃ、お言葉に甘えて……行くよ、ゾロア!」
「ガゥガゥ!!」
しずく「あんまり、お金使すぎないようにね~」
かすみさんを見送り、私はホテルを探すために、ポケモン図鑑を開く。
しずく「……あれ?」
しかし、何故かマップアプリを開いてもなかなか地図が表示されない。しばらくして、通信エラーと出てしまった。
しずく「電波の調子が悪いのかな……?」
仕方ないと思い、近くのマップを表示している電光掲示板を探す。
ここは中央広場だし、探せばあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回すと──予想通り、電光掲示板はすぐに見つかった。
近寄って、近くのホテルの位置を確認しようとする。
しずく「……?」
……確かに、地図は表示されている。問題はないと言えばないのだが……。
しずく「何か……表示がおかしいような……?」
建物の名前の表示が、文字化けしていて読むことが出来ない状態になっていた。
しずく「故障かな……?」
少し悩んだものの、フソウ島は観光地な上、大きな島ではないし、時間帯的にはまだ日中だ。
無理に地図を使わなくても、ホテルを見つけることは出来るだろうと思い、足で探すことにする。
しずく「良いお散歩にもなるしね。マネネ、ココガラ、出ておいで」
「マネッ!!」「ピピピピィ」
ついでに、みんなと一緒にお散歩しようと、マネネとココガラも外に出してあげる。
しずく「みんな、お散歩しながら、今日泊まるホテルを探そう」
「マネ!!」「ピピピィッ」
元気に鳴く2匹。そして、すでにボールから出て私の肩に乗っていたメッソンが──スゥッと姿を現して、
「メソッ」
ぴょんと跳ねて、地面に降りた。
しずく「メッソンもお散歩する?」
「メソ」
メッソンはコクンと頷いて、とてとてと歩き出す。
「マネ、マネネ♪」「メッソ」「ピピピィ♪」
やっと外や仲間たちにも慣れてきてくれたのかもしれない。
しずく「ふふ♪」
私は微笑ましく思いながら、みんなと散歩をし始めた。
👑 👑 👑
かすみ「……むー」
破れたポイを見つめて唸る。
かすみ「おじさん、この『トサキントすくい』、ホントにすくえるんですかぁ……? インチキとかしてないですよね……?」
おじさん「ははは、残念だったね嬢ちゃん。でも、ずるとかはしてないよ」
かすみ「ホントですかぁ……?」
おじさん「カントー地方には名人がいるらしくてね、それと同じポイで全部すくっちまうらしいよ」
かすみ「へー……」
世の中すごい人がいるんですね……。
かすみ「まあ、いいです。気を取り直して、次の屋台に行きましょう!」
「キャモ」「ガゥ」「ザグマァ」
ポケモンたちを従えて屋台を回る。フソウの大通りの屋台は、食べ物屋さんだけじゃなくて、縁日みたいな遊びもたくさんあって、お祭り気分に浸れます。
何を隠そう、かすみんお祭りは大好きですからね! セキレイでも、年に一度6番道路の河原で花火大会があって、そこの縁日でたくさん遊んだ記憶があります。
屋台のおじさん「そこの可愛いお嬢ちゃん、『アーボわなげ』やっていかないかい?」
かすみ「えぇ~? 可愛いって、もしかしてかすみんのことですかぁ~? どうしよっかなぁ~♪」
それに屋台のおじさんは、かすみんのこと、たくさん可愛いって言ってくれるから好きです♡
でも、『アーボわなげ』かぁ……。ぴょこぴょこ出てくるディグタに向かって、輪になったアーボを投げるゲームですよね。
歩夢先輩が好きそうだけど……かすみん的にはちょっと疲れちゃいそうだからなぁ……。
かすみ「ごめんなさい、今はちょっと他のを見て回りたいんで~」
屋台のおじさん「そうかい、また気が向いたら来てくれよお嬢ちゃん!」
かすみ「は~い♪」
おじさんに手をふりふりしながら、『アーボわなげ』の屋台を通り過ぎる。
なんだかこうしていると、人気者になったみたいで気分がいいですね!
賑わう縁日は歩いているだけで楽しい気分になってくる。そんな中、かすみんの目を引くものが一つ……。
かすみ「わ、きれい~……!」
屋台のおばさん「あら、お嬢ちゃん、こういうの好きかい?」
かすみ「なんですか、この宝石みたいな枝は……」
屋台のおばさん「これは、サニーゴの角だよ」
かすみ「サニーゴ? サニーゴって、さんごポケモンのサニーゴですか?」
屋台のおばさん「そうだよ。綺麗な水の養分を取り込んだサニーゴの角は、太陽の光を浴びると宝石のように七色に光るんだ」
かすみ「へぇ~……」
屋台のおばさん「場所によっては、安産祈願のお守りとしても有名だね」
安産祈願ですか……さすがにかすみん、赤ちゃんが出来る予定は当分ないですが……。
綺麗だし、そういうの抜きでもちょっと欲しいかも。
かすみ「でも、サニーゴたち、角を折られちゃうの、可哀想じゃないですか……?」
屋台のおばさん「サニーゴの角は簡単に折れるけど、3日もするとすぐ元に戻るんだよ。もちろん、取り過ぎないように制限はあるけどね」
かすみ「3日で元に戻るんですか!」
屋台のおばさん「そうだよ。それに、ここフソウからホシゾラを繋ぐ13番水道は有名なサニーゴの群生地だからね。しかも、他の地方と違って、ここは水色をした色違いのサニーゴも多いんだよ」
確かに言われてみれば、サニーゴの角はピンクのものと、水色のものが並んでいる。水色のやつは色違いなんですね。
せっかくだし、1本買っちゃおうかな、とも思ったけど……。
かすみ「そういえばおばさん、ここはサニーゴがたくさん生息してるって言ってましたよね?」
屋台のおばさん「そうだね。海の方に行けばたくさんいるよ」
かすみ「その野生のサニーゴって、バトルして捕まえちゃってもいいんですか?」
屋台のおばさん「野生のポケモンだからね、問題ないはずだよ。乱獲みたいなやり方をすると、よくないだろうけどね」
普通に捕まえる分には、よしってことですね……!
かすみ「みんな!」
「キャモ?」「ガゥ」「ザグマァ」
かすみ「サニーゴ! 捕まえに行くよ!」
「キャモ」「ガゥガゥ♪」「グマァ~」
せっかくなら、自分の手で捕まえてみたいじゃないですか! かすみん、次の目的が決まりました! サニーゴゲット大作戦です!
屋台のおばさん「捕まえに行くのかい? お嬢ちゃん、“ダイビング”出来そうなポケモンは持ってなさそうだね」
かすみ「はい、みずポケモンは持ってなくて……。……もしかして、潜らないとダメ系ですか……!?」
屋台のおばさん「いや、サニーゴは“つりざお”でも釣り上げることが出来るよ」
かすみ「ホントですか!?」
屋台のおばさん「あっちに釣り道具のショップがあるから、行ってごらん」
かすみ「ありがとうございます~!」
かすみん、意気揚々と釣り道具ショップへと向かいます♪
👑 👑 👑
かすみ「……高い」
釣り道具のショップに来ましたが……“つりざお”って思った以上に値が張るんですね。
かすみん、結構屋台でおこづかい使っちゃったし……ちょっと足りない。
かすみ「……無念です」
「キャモ」「ガゥゥ…」「ザグマァ?」
かすみんが肩を落として、店から出ると──
おじさん「おやぁ、お嬢ちゃん、もしかして釣り道具を買いに来たのかな?」
おじさんに話しかけられる。今日のかすみん、おじさんにモテモテですね。
かすみ「はい。でも、高くてちょっと買えそうになくて……サニーゴ釣りたかったんだけどなぁ」
おじさん「そうか、確かにそりゃ残念だったな……。でも、お嬢ちゃん、ラッキーだったね」
かすみ「へ?」
おじさん「実はおじさんも釣り道具を売る商売をしていてね」
かすみ「は、はぁ……」
おじさん「“つりざお”、安く売ってあげようか?」
かすみ「……安くって、どれくらいですか?」
おじさん「そうだなぁ……お嬢ちゃん、可愛いからサービスして……500円でどうだい?」
かすみ「ご、500円!? え、そこのお店の何分の一ですか、それ!?」
おじさん「どうだい、買うかい?」
かすみ「買います!! ください!!」
おじさん「毎度あり♪」
やっぱり、かすみんには幸運の女神でも憑いているんでしょうか……!
サニーゴゲット作戦、これで実行できそうです……!!
👑 👑 👑
──フソウ港。
かすみ「よし、やりますよ!」
「キャモ」「ガゥガゥ」「ザグマァ」
無事、“つりざお”を入手したかすみんは早速、港の釣りが出来る場所までやってきました。
かすみ「さぁ、行きます!」
善は急げです。かすみん、“つりざお”を振り被って、水面にキャストします。
──ちゃぽん。針が水中に潜り、浮きが水面にぷかぷかと浮かぶ。
かすみ「釣りは忍耐らしいです! 頑張るぞ~!」
「ガゥガゥ♪」「キャモ」「ザグマ」
これから腰を据えて待つぞ、と思った矢先でした。
急に手元が海の方に引かれる。
かすみ「!? 早速ヒット!?」
もしかして、かすみん釣りの才能あるんじゃ!?
せっかくかかった獲物を逃がさないように、“つりざお”を引き上げます。
かすみ「ん~~~~!! やぁ!!」
思いっきり引っ張ると、水の中からポケモンが釣り上げられてきました──
かすみ「来た!! サニーゴ!?」
「──コ、コココココ」
かすみ「……」
陸に釣り上げられたポケモンがびちびちと跳ねています。このポケモンって……。
かすみ「コイキング……」
「コ、コココ、ココココ」
せっかく釣り上げたので、バトルして捕まえるか、少し悩みましたが……。
かすみ「かすみんの狙いはあくまで、サニーゴです。逃がしてあげましょう」
「コ、ココココ」
コイキングを持ち上げて、そのまま海に放流する。
かすみ「……でも、すぐに釣れたのは幸先良しです! 次こそ釣りますよ、サニーゴ! ……やぁ!!」
サニーゴが釣れるまで、いくらでもかすみん頑張りますからね!!
気合いと共に、再び海に向かってキャストするのでした。
💧 💧 💧
──あの後、ホテルを探すこと30分ほど、のんびり歩きながら散歩をしている。
ただ、ホテルが密集している地区は北の港から、中央のコンテスト会場を挟んで反対側だったらしく、地図がない今結構な遠回りをしてしまった。
しずく「この辺りがホテルがある地区かな?」
「メソ…」
しずく「ごめんね、メッソン。疲れた? 肩に乗っていいよ」
「メソ…」
足元に寄ってきたメッソンを肩に乗せてあげる。
しずく「よしよし」
「メソ…」
メッソンは私の肩に乗ると、スゥッと姿を消してしまった。さすがにあの小さい足でずっと歩き続けていたから、疲れたのだろう。
「マネ…!!」
しずく「マネネは真似して登らないの……」
「ピピピィ…」
しずく「ココガラまで……」
ココガラが私の頭の上でリラックスし始めた……。マネネもよじ登ってきたし、3匹に乗られるとさすがにちょっと重い……。
「マネマネ」
しずく「って、マネネ……どうして、バッグに入るの?」
よじ登る最中、マネネが私のバッグに頭を突っ込み始めて、何かと思ったけど、
「マネ!!」
しずく「……あ、“もりのヨウカン”」
どうやらおやつが食べたかったらしい。勝手にバッグから見つけて、封を開けだす。
しずく「めっ! かすみさんみたいなことしちゃダメでしょ?」
「マネェ…」
叱りながら、“もりのヨウカン”を没収する。
しずく「食べるなら、みんなで分けようね」
手で3分の1ずつに分けて、その一欠片をマネネにあげると、
「マネ♪」
マネネは嬉しそうに鳴き声をあげながら、ヨウカンを食べ始めた。
しずく「ココガラ」
「ピピピィ♪」
頭に乗っているココガラにも、一欠片与え、
しずく「メッソンも、お食べ」
肩の近くに最後の欠片を持っていくと、メッソンがスゥッと現れて、
「メソ…♪」
ヨウカンを受け取って、もしゃもしゃと少しずつ食べ始める。
「マネ!!」
しずく「マネネ、もう食べちゃったの……? もうないよ」
「マネ…!?」
もうないと伝えると、マネネは辺りをキョロキョロしはじめる。いくら見回したところで、もうないものはないんだけど……。
そんなマネネの様子を見て、盗られると思ったのか、
「メソ…」
メッソンはヨウカンを食べながら──スゥッと透明になって消えてしまった。
騒がしい手持ちたちに思わず肩を竦める。
……というか、みんなくつろいでいるけど、私も結構歩いているので、そこそこ疲れているんだけど……。
しずく「私も飲み物でも買って、少し休憩でもしようかな……」
近くに自動販売機とかないかな……。
しずく「あっ……ありました」
少し見回すと、すぐに見つけることが出来た。
お金を投入して、ボタンを押そうとして──ボタンが点灯していないことに気付く。
しずく「あ、あれ……これも故障……?」
随分あちこちでいろんな機械が故障している気がする。
“サイコソーダ”が飲みたかったんだけど……ボタンは点灯していないが、一縷の望みに賭けてボタンを押すと──
「コッチがオススメだヨ」
という機械音声と共に──“モーモーミルク”が排出された。
しずく「勝手に決められた……? なんですか、この自動販売機……?」
さすがに、これは納得が行かない。自動販売機の管理会社の情報とか、どこかに書いてないかな……。
連絡先を探すため、中腰になって自動販売機の表面をじーっと見ていると──
「ナニジロジロみてるンだ」
中腰になっていた私の顔に──ゴン!
しずく「いったぁ!?」
取り出し口から、ジュース缶が飛び出してきて直撃した。
びっくりして、そのまま尻餅をつく。
「マ、マネ…!?」
しずく「本当になんなんですか、この自販機!?」
思わずジュース缶の直撃を食らった鼻を押さえてしまう。コロコロと転がっている、私の顔面に攻撃を食らわせた缶ジュースを見ると、“サイコソーダ”と書かれていた。
……当初の予定のものが出て来ていた。
「ヨカッたネ」
しずく「よくないです!!」
思わず、自販機を睨めつける。
かすみさんのような反応をしてしまっている気がしなくもないけど、さすがに一方的に暴力を浴びせられて、黙っているのも何か違う気がする。
ただ、この自動販売機、とにかく人を追い払いたいのか、
「アッチいケ」
再びジュース缶を飛ばしてきた。
しずく「マネネ! “ねんりき”!」
「マネ!!」
それを、“ねんりき”によって、空中で静止させる。
しずく「今度は“ミックスオレ”……」
「アッチいケ」
しずく「…………」
「アッチいケ」
どうしても、この自動販売機は向こうに行って欲しいらしい。
しずく「……わかりました、もう構いません。ただ、管理会社に電話して、撤去してもらわないと」
「ムダなコトヲ」
ポケギアを取り出して、画面を見る。あることに気付いたけど、そのまま先ほど見た番号をプッシュして、耳に当てる。
しずく「……もしもし。すみません、フソウ島にある自販機のことでお電話を差し上げたんですが……」
「!? “かいでんぱ”の影響でポケギアは使えないはずロト!!?」
しずく「ロト……?」
「あ、いや…ナゼポケギアがつかエる」
ロト……。そういえば、ガラル地方では、そんな語尾で喋る機械があったことを思い出す。
つまり、これは──
しずく「マネネ、あの技使える?」
「マネ」
小声でマネネにとっておきの技を指示して、再び自販機を睨めつける。
「ダカラ、アッチにイけ」
──パカっと取り出し口が開いたが、
「ロ、ロト!? ジュースが飛んでかないロト!!?」
しずく「やっぱり、貴方ポケモンですね」
「ギク!! ワれはドウミテもジハンキ」
しずく「今更、嘘吐いても無駄ですよ。貴方が飛ばしていたものは実質“どうぐ”扱いされるものなので、マネネの使った“マジックルーム”により、使えなくなりました」
「ロト!!?」
“マジックルーム”は一定時間、使用者の周囲での“どうぐ”を使用できなくする技だ。
しずく「あと、ついでに教えてあげます。さっきポケギアで通話していたのは演技です」
「ロトト!!?」
しずく「画面を見た時点で、画面表示がおかしくなっていたので、一芝居打たせていただきました。動揺して、まんまと尻尾を出しましたね。貴方、ロトムですよね?」
「ひ、卑怯者ロト!!!」
しずく「それはこっちの台詞です! 自販機に化けて、しょうもないイタズラをしている貴方の方がよほど卑怯者です!」
「ロト…!!? よくも侮辱してくれたロトね…でも、ここから出なければ関係ないロト。どうせ、お前は何も出来ないロト」
しずく「やっぱり、卑怯者じゃないですか……」
「なんとでも言えロト、そこで指でも咥えてればいいロト」
確かに、自販機に入ったままじゃ、手の出しようがない。でも、それなら──引き摺りだせばいいだけのこと。
「ボクの完全勝利ロト」
しずく「そうですか? 踊りたくなってきませんか?」
「ロト? 何言って…な、なん…!? ボクの体が勝手に…!? お前、何したロト!!!?」
「マネ、マネ~~♪」
しずく「さぁ、一緒に踊りなさい! “フラフラダンス”!」
マネネが私の肩から飛び降りて、不思議なステップを踏み始めると、自販機の中のロトムもそれに釣られて動き出す。“フラフラダンス”は強制的に自分の周りのポケモンも一緒に踊らせて“こんらん”させる範囲技。
自販機の中に隠れていようが、相手がポケモンであるなら効果がないわけがない……!
「ちょ、と、止め──」
直後──スポーーン! と自販機からロトムが飛び出してくる。
「ロ、ロトーーー!!!?」
しずく「マネネ!! “サイケこうせん”!!」
「マーーネェ!!!!」
マネネから飛び出す、七色の光線が一直線にロトムを捉える。
技が決まった──と思った瞬間。
“サイケこうせん”を押し返すように黒い球体が飛んできて──
「マネッ!!!?」
しずく「なっ!?」
“サイケこうせん”に完全に撃ち勝ち、そのままマネネを吹き飛ばす。
しずく「今の、“シャドーボール”!?」
ロトムは今、“こんらん”しているはずなのに……!?
慌てて、ロトムに視線を戻すと、
「ロト、ロトトト??」
確かにロトムは“こんらん”しているのかおかしな挙動で飛んでいる。
偶然と思ったが、その直後──ピュン! と光線が飛んできて、私のすぐ頭上を掠めた。
私の頭上を掠めたということは──
「ピ、ピピピィ~~~!!?」
私の頭の上に乗っていたココガラを、撃ち抜かれたということ。
しずく「ココガラ……!!」
「ピ、ピピィ~~……」
今のは“チャージビーム”……!?
どうして!? ロトムは“こんらん”しているはずなのに、こんな正確に攻撃を……!?
驚く私を次に襲ったのは──バチン! という音と共に、手に痛みが走る。
しずく「いった……!」
思わず手に握っていたポケギアを落としてしまう。
しずく「ポケギアがショートした……っ……!?」
火花を散らせ、アスファルトの上を跳ねるポケギアから、急に、
「よくもやってくれたロトね…」
音声が響く。
しずく「な……」
「お陰でフラフラするロト」
気付けばさっきまで、そこで浮いていたロトムがいない。
恐らくあの一瞬の隙に、私のポケギアを乗っ取ったんだ。
しずく「“こんらん”しながら、そんな判断……」
「お前のミスはボクの強さを侮ったことロト。場数が違うロト」
しずく「場数……?」
「ボクはこれでも、歴戦のポケモンロト。ちょっと“こんらん”して頭がフラフラしても、止まってるポケモンくらい、勘で攻撃出来るロト」
しずく「……!」
苦し紛れの言い訳のようにも聞こえるけど──その言葉からは、強者の持つ特有の圧のようなものを感じた。
ふざけたポケモンだけど……このロトム、本当に強い……!
「お仕置きロト」
ロトムの言葉と共に──フワリと、私の周囲に落ちていた飲み物たちが浮遊する。
しずく「“ポルターガイスト”……っ!?」
逃げなくちゃと思い、戦闘不能にされたマネネとココガラを急いでボールに戻して、駆けだそうとしたが──足元に“モーモーミルク”の瓶が転がりこんで来て、
しずく「あっ!?」
瓶を踏んづけて、私はそのまま尻餅をつかされる。
しずく「いった……っ」
尻餅をついたことに驚く間もなく、今度は周囲に浮遊していた、“サイコソーダ”と“ミックスオレ”の缶の天井部がスパッと切れて吹き飛び──バシャァッとひっくり返したコップのように、中身が私の頭に掛かる。
しずく「…………」
“サイコソーダ”と“ミックスオレ”でずぶ濡れになった私を見て、
「いい気味ロト~♪」
ロトムは機嫌良さそうに笑う。
完全に遊ばれてる……。“ポルターガイスト”は“マジックルーム”では無効化出来ないし、これ以上ロトムの動きを制限出来ない。
「もうお前は手持ちも残ってないロト♪ さぁ、次は何をしてやるか、ロトトトト♪」
しずく「……! ……貴方みたいなポケモン、野放しにするわけに行きません……」
「ロト? じゃあ、どうするロト??」
嘲笑するように声をあげるロトムの入ったポケギアに向かって──人差し指と中指を前に、親指を立てて、手で銃を作るようなジェスチャーをする。
「何のつもりロト?」
しずく「……貴方が実は歴戦のロトムだったように、私も隠してたことがあるんですよ……」
「ロト?」
しずく「私、実は……エスパー少女なんです」
「ロトト!! それは傑作ロト!! じゃあ、その指の先からエネルギー弾でも撃ってみればいいロト!!!」
しずく「……」
「ほら、動かないから狙ってみろロト!!!」
指先の銃口を……しっかり、ポケギアに向けて──
しずく「……今っ!!」
私の声と共に──勢いよく飛び出した“みずでっぽう”が、ポケギアを貫いた。
「んなぁロト!!!? ホ、ホントにエスパーだったロト!!?」
驚くロトム、
「だ、脱出ロト…!!」
ポケギアから逃げるつもりだ……! させない……!
しずく「“なみだめ”!!」
「メェェェェ……ッ!!」
──スゥッと姿を現したメッソンが目から大量の水を放出し、ポケギアごと“みずびたし”にする。
「ロ、ロトガボボボボ」
ロトムの体は電気で出来ている。だからこそ、電子機器を乗っ取ることが出来るし、空気中に飛び出せば目にも留まらぬスピードで動き回るけど……!
しずく「電気の体じゃ、水中に閉じ込められたら、逆に脱出できないですよね……!」
「ロトボボボボボ!!!?」
滝のように、メッソンが水を浴びせかけている場所に──先ほど先端を切り裂かれて、コップ状になっている、ミックスオレの缶を引っ手繰るように掴んでロトムの上から──ガン!! と音を立てながら思いっきり覆いかぶせた。
しずく「はぁ……はぁ……!」
「メソ…」
水自体は電気を激しく通すが、水の中から、電気が空気中に逃げていくのは伝導率があまりに違い過ぎて、簡単に行かないはずだ。
溜まった水に沈められたら、全身電気で出来ているロトムにとっては、檻も同然になる。
「ロド、ロドドドドド!!?!?」
しずく「苦しいでしょう……? メッソンの涙は、タマネギ100個分の催涙成分を持っていますからね……! 近くにいるだけで、涙が止まらなくなる水に閉じ込められたら、どんなに強くても無事ではいられないはずです……!」
後は缶を押さえながら、ロトムが諦めるのを待つだけだ。
私は自分の体重を乗せて、上から缶を押さえつける。
その際、一瞬──
しずく「──……っ゛……!?」
全身を電撃が走るような衝撃があったけど、手は離さない。外になんか絶対逃がさない。そんな強い意思で、缶を押さえ続けていたら──10秒もかからずに、ロトムは大人しくなった。
しずく「……か、勝った……」
「メソ…」
私が安心してへたり込むと、メッソンが泣きそうな顔で寄り添ってくる。
しずく「……ありがとう、メッソン……。メッソンがずっと、透明になって姿を消していたから、ロトムが勝手に私にはもう手持ちがいないって勘違いしてくれたよ……」
「メソ…」
正直かなりギリギリの戦いだった。恐らく全身超強力な催涙液に浸からされて、気絶しているだろうけど……。
しずく「ボールに入れるために、水中から出すのも危険だよね……」
私はバッグの中から、ゴム手袋を取り出す。出来るだけ水を零さないように、素早く缶を上向きに戻した後、ロトムが潜んでいる壊れたポケギアごと、ゴム手袋の中に流し込んで口を結ぶ。
しずく「このまま、ポケモンセンターに連れていこう……」
「メソ…」
お陰で、手持ちもメッソン以外、戦闘不能になってしまったし……。
念のため、もう片方のゴム手袋も使って、二重に縛ったのち、私は歩き出す。
しずく「そういえば……」
「メソ…」
しずく「どうして、メッソンは“こんらん”していなかったんだろう……?」
ロトムに追い詰められた際、姿を隠したメッソンが私の手の方に移動してくる感覚があったから、エスパー少女の芝居を打ったわけだけど……。
“フラフラダンス”はその場にいる全てのポケモンを“こんらん”させる技だ。
すぐ戦闘不能にさせられたココガラもだが……メッソンも例外ではなかったはず。
そんな私の疑問に答えるように、
「メソ…」
メッソンは小さな黒い欠片を、丸まった尻尾の中から取り出す。
しずく「それ、もしかして……“もりのヨウカン”の欠片?」
そこでふと思い出す。“もりのヨウカン”をポケモンが食べたときの効果って、確か──
しずく「ポケモンの状態異常を回復する効果……」
「メソ…」
しずく「そっか、マネネに盗られると思って、少しずつ食べてたんだね」
「メソ…」
しずく「ありがとう、メッソンの機転のお陰で助かったよ」
「メソ…」
普段は臆病で内気だけど、実は勇敢で賢い相棒を労いながら、私はポケモンセンターへの道を急ぐのだった。
💧 💧 💧
しずく「──モンスターボールに入れられない……?」
ジョーイ「はい……。このロトム、すでに誰かの捕獲済みのポケモンのようでして……」
ポケモンセンターに着いた私がジョーイさんに言われたのは、ロトムをモンスターボールで捕まえることが出来ないという内容だった。
暴れていたロトムを捕まえたということで、急いでモンスターボールに入れられないかの相談をしているところだったこともあって、それが出来ないと言われて少し動揺してしまう。
しずく「誰かが逃がしたポケモンということですか……?」
ジョーイ「いえ……もし、“おや”の意思で逃がしたポケモンであれば、再度の捕獲が可能なので……。逃げ出したポケモンと考えた方がいいかと……」
しずく「逃げ出したポケモン……」
考えてみれば、あんなに強いロトムが野生にいるとは思えない。……というか、町中に野生でいるとは考えたくない。
それなら、どこかから逃げ出してきたと考える方が納得の行く話だ。
ジョーイ「一応ポケモンセンターでなら、一時的に他のボールに移動する方法がありますが……どうされますか?」
ポケモンセンターではモンスターボールが破損した際に、新しいボールへポケモンを移す手続きなどが出来る。その延長線のようなことなのだろう。
人のポケモンに勝手にそんなことをしていいのかとも思うものの……どちらにしろ、このままこのイタズラロトムを野放しにしておくわけにもいかない。
しずく「わかりました。お願いできますか?」
ジョーイ「承知しました。では、新しいボールに移動しますね」
しずく「はい」
💧 💧 💧
しずく「さて……どうしましょう」
「メソ…」
ポケモンセンターのレスト用の席に腰掛けながら、ロトムの入ったモンスターボールと睨めっこをしている。
一応、ボールには入れたものの──ボムッ!
「ロト? ロト!! ロト、ロトトト!!!!」
しずく「ボールに入れたくらいでは、勝手に出てきますよね……」
「ロト!!! ロトロトロトトト!!!」
しずく「特殊な捕獲用の檻に入れてもらっていますから、出られないですよ」
「ロト!? ロトトト!!!!」
先ほどまで暴れていたことは伝えてあったので、いざというときのために、用意してもらった物だ。
暴れる電気ポケモンの治療や鎮静の際に用いる特殊な檻らしく、電気を弾く特殊なコーティングと、檻の格子一本一本から、特殊な磁場を発生させることによって、一切の電撃攻撃をカット出来るとのこと。
体が電気で出来ているロトムでは、隙間から脱出することも出来ない。
さすが、ポケモンのための専用医療施設なだけあって、対ポケモン用の道具は豊富に揃っているらしい。
「ロトーーー!!! ロトトーーーー!!!!」
しずく「暴れないでください。これ以上、暴れるなら……」
「メソ…」
メッソンがスゥッと姿を現して、目に涙を溜め始める、
「ロトッ!!?」
それを見たロトムは、ビクッとしたあと、大人しくなる。
メッソンの涙で溺れたのが、相当トラウマになっているのだろう。
しずく「さて、行きますよ。ボールに戻ってください」
私は檻ごと持ち上げる。
「ロ、ロトッ!!?」
しずく「当分は檻から出しません。ボールでしばらく大人しく出来たら、考えてあげます」
「ロ、ロト、ロト、ロトトトトト!!!!」
しずく「なんですか?」
「ロト…ロトォ…」
ロトムは力なく、チカチカと点滅する。
……多少、気の毒ではありますね。
しずく「……はぁ、絶対に暴れないって約束できますか?」
「! ロト! ロト!!」
しずく「……わかりました」
私は頷いて、ポケットから図鑑を取り出す。
「ロト…?」
しずく「檻の中に図鑑を入れるのでこれに入ってください。ただし、壊したりしたら、本当に許しませんからね?」
「メソ…」
ポケギアは先ほどの戦闘で完全に使えなくなってしまったし、ポケモン図鑑まで壊されたら本当に堪ったものではない。図鑑がなくなってしまっては、博士も困るでしょうし……。
私が格子の隙間から、図鑑を差し入れると──
「ロ、ロト…」
ロトムは少し迷っていましたが──結局、観念したのか、図鑑へと侵入を試み始める。
「ロ、ロト…」
しずく「こんにちは、ロトムさん」
「こ、こんにちはロト…あの…」
しずく「なんですか?」
「こ、ここから出してもらえないでしょうかロト…」
しずく「出してもらえると思いますか?」
「ロト…」
しずく「ボールに戻って、今後絶対に自分からボールの外に出ないと誓えるなら、考えてあげるのですが……」
「も、もちろんロト!! 勝手に外に出ないと約束するロト!!!」
しずく「もちろん、信用出来ないので、当分はこの檻のまま運ぶことになるでしょうね」
「ロ、ロトォ!!? 酷いロト!! お前、人でなしロト!!!」
しずく「メッソン、まだ涙出そう?」
「メソ…」
「ヒィィィィィ!!!! 嘘ですごめんなさいロト!!! 許してロト!!!」
しずく「はぁ……。あと、私は“お前”ではありません。“しずく”という立派な名前があります」
「し、しずく…様」
しずく「様付けはしなくていいです」
「しずく……ちゃん」
しずく「まあ、それでいいでしょう……」
とりあえず、ホテルを探すのがまだ途中だ。いつまでもポケモンセンターに居たら日が暮れてしまう。
私は、先ほどの宣言通り、ロトムの入った檻ごと持ち上げて、ホテルのある地区へと移動を開始する。
「だ、出せ…じゃなくて、出して頂けないでしょうかロト…」
檻はかなり小さいサイズで重量もそこまでないため、多少荷物になる程度だからいいが……いかんせん、喧しい。
ロトムの主張を無視しながら歩く中、ふと先ほどジョーイさんが言っていたことを思い出す。
せっかく喋れるんだし、本人──というか、本ポケモンに聞いてみることにする。
しずく「ロトム、貴方脱走ポケモンなんですよね?」
「…ギクッ!! ち、違うロト…」
しずく「今ギクッって言いましたよね……」
今日日、図星を言い当てられて本当に「ギクッ」なんて言う人……どころか、ポケモンに出会うとは……。
……いや、かすみさんは言うかも。
しずく「それで、どこから逃げてきたんですか?」
「も、もしかして、ボクを“おや”に返すロト…?」
しずく「当たり前ではありませんか……ポケモンセンターにいつまでも預けておくわけにもいかない、逃がすわけにもいかないとなったら、持ち主に返す以外ないでしょう」
「ま、ままま、待って欲しいロト!!! ボクをしずくちゃんの手持ちに加えて欲しいロト!!!」
しずく「……すごく嫌なんですが」
「ボク強いロト!!! 絶対戦力になるロト!!! だから、お願いロト!!!」
確かに強いのは嫌というほど知っているけど……。
「も、もし、このままあの“おや”のもとに帰ったら…か、確実に殺されるロト…」
しずく「殺されるって……そんな酷いトレーナーだったんですか?」
「それはもう…普段から、ご飯もロクにくれなくて…泣く泣く脱走して、自販機で電気を食べていたところだったロト…」
しずく「それは、まあ……大変かもしれませんね」
「もし、しずくちゃんの手持ちに入れてくれるなら、しばらくは檻の中でも我慢するロト!!! お願いだから、“おや”探しは止めて欲しいロト!!!」
先ほどまでの要求を覆している辺り、“おや”のもとに帰りたくないというのはどうやら本当らしい。
私は、少し悩んだものの、
しずく「……わかりました。とりあえず、今は“おや”を探すのは止めておきましょう」
とりあえず、ロトムの要求を呑むことにする。
「ホ、ホントロト!?」
しずく「その代わり、当分檻の中になりますけど、それでもいいんですか?」
「…や、やむを得ないロト…。ただ、ご飯だけはくださいロト…」
しずく「ふむ……」
私は、しおらしいロトムの態度を見て──ガチャリ、
「ロ、ロト…?」
しずく「檻から出ていいですよ」
檻の鍵を開けてあげる。
「い、いいロトか…?」
しずく「ただし、当分は図鑑から出ないでください」
「ロト…?」
しずく「ポケモン図鑑から少しでも外に出たら、“おや”を探してもらうよう、はぐれポケモンとして届け出を出しますからね。それくらいの条件は呑めますよね?」
「わ、わかったロト…」
ポケモン図鑑は戦闘用のフォルムではないから、自由に飛び回られるより制御もしやすいだろうし。
「そ、それで、本当に“おや”は探さないでくれるロト…?」
しずく「はい」
私は頷く。……積極的に“おや”に返すように働きかけるつもりはない程度だけど……。
もし、旅の途中で見つかるようなら、引き渡すつもりだ。
このまま、制御の効かないロトムを檻に閉じ込めたまま一緒に旅するより、とりあえず表面上の要求を呑んで、言うことを聞いてもらう方がいいと判断したという話でしかないが。
「ありがとうロト!! それじゃ、しずくちゃん、これからよろしくロト!!」
しずく「はい、よろしくお願いします。それでは、早速図鑑のマップ機能でホテルを探してもらえますか?」
「え…ボクがやるロト?」
しずく「もちろんですよ。貴方は今、私のポケモン図鑑なんですから。まあ、嫌なら持ち主のもとへ……」
「わ、わかったロト!!! 今すぐ検索するロト!!」
しずく「はい、お願いしますね」
成り行き上とは言え、喧しい仲間が増えてしまった感は否めないが……“おや”を見つけるまでは、どうにかやって行くしかない。
「こっちロト!!」
早速ホテルを見つけたロトムの後を追って、ホテルを目指す。
気付けば、フソウの町は夕方の茜に包まれている時間だ。
そろそろ、かすみさんにも連絡をしないと……そう思い、ポケギアを手に取ろうとして、
しずく「あ……ポケギア……もう、ないんだった」
連絡手段がないことに気付く。
島の北側に居ることはわかっているから、早くホテルの部屋を取って、探しに行かないと。
しずく「ロトム、急ぎでお願いします」
「ガ、ガッテンショウチロトー」
私はロトムと一緒に茜色に焼ける町中を急ぐのだった。
👑 👑 👑
かすみ「……! かかりました!!」
──かすみん、思いっきり竿を持ち上げます。
すると糸の先から、水面が盛り上がりそこから、
「──コココココココ!!!!!」
コイキングが釣り上げられます。
かすみ「…………」
「コココココココ!!!!!」
釣り上げられて、びちびちと跳ね回るコイキングをすぐに海へとリリース。
かすみ「もう……何匹目……コイキングばっかじゃん、この海……」
「ガゥ…」「キャモ」
もう何時間、釣りを続けているでしょうか……。
でも、釣れるのはコイキングばっかり……。この海、本当にサニーゴいるんですかね……?
しょぼい結果に疲れてきたかすみんの唯一の癒しは──
「ジグザグ」
かすみ「あ、ジグザグマ! また、拾ってきたんだ! 良い子ですね~♪」
「ザグマァ~♪」
こうして、ジグザグマが“ものひろい”でアイテムを拾って集めて来てくれることくらいです。
……ふむふむ、また“げんきのかけら”。回復アイテムが豊富に揃っているのは良いことですね!
かすみ「さて……もうひと頑張りです……!」
再び竿を構えて、キャストしようとしていたら──
しずく「──かすみさーん!」
背後からしず子の声が聞こえてきた。
かすみ「あ、しず子!」
しずく「ここにいたんだね」
「ボクの言うとおりだったロト!!」
しずく「図鑑サーチを使っていますからね……これでいなかったら困ります」
かすみ「なんで、しず子の図鑑……喋ってるの……?」
しずく「ああ、えっと……説明すると長くなっちゃうんだけど……」
「ボクロトムロト!! キミがかすみちゃんロトね? 今日からしずくちゃんの仲間になったロト!! よろしくロト!!」
かすみ「しず子、新しいポケモン捕まえたの!?」
しずく「捕まえたというか……まあ、成り行きで……。詳しくは後で説明するよ」
しず子は少し疲れた顔で言う。……なにかあったんですかね?
しずく「それより、もう夜になっちゃうし、ホテルに行こう? ちゃんと部屋見つけたから」
確かにしず子の言うとおり、もう辺りは薄暗くなり始めている。
かすみ「これは……次がラストチャンスになりますね……!」
しず子に続いてかすみんも、新しい仲間を手に入れなきゃ……!
かすみん、“つりざお”を振り被って、サニーゴゲット大作戦との最後の戦いに挑みます。
チャポンと音を立てながら、浮きが水面に浮かぶ。
しずく「かすみさん、釣りしてたんだね」
かすみ「はい……! 狙うは、サニーゴです!」
しずく「……え?」
かすみ「? どしたの?」
しずく「え、えっと……かすみさん……その……」
かすみ「なに? 言いたいことがあるならはっきり言いなよ」
しずく「じ、じゃあ……。……その“つりざお”だと、サニーゴ釣れないと思うよ……」
かすみ「……え?」
しず子の言葉に思わずフリーズする、かすみん。
その直後、浮きが沈み──
「コココココココ!!!!!」
引いても居ないのに、勝手にコイキングが水の中から飛び出して──びちびちとコンクリートの上を跳ね回る。
かすみ「う、嘘……?」
しずく「私、家が海に近かったから、釣りは何度かしたことがあるんだけど……かすみさんが持っているのは“ボロのつりざお”だから……」
かすみ「“ボロのつりざお”……?」
言われてみれば、この“つりざお”、棒っ切れに糸を付けただけの簡素な物。安いから、こんなものかなと思ったんですけど……。
しずく「サニーゴは“いいつりざお”か“すごいつりざお”じゃないと釣れないんだよ……その“つりざお”、どこで手に入れたの?」
かすみ「えっと……釣りショップの前で、通りがかりのおじさんが安く売ってくれて……」
しずく「買ったの……? そこらへんにある枝に糸を付けただけだから、100円もしないと思うけど……」
かすみ「100円もしない!?」
かすみん、とうとう気付いてしまいました。
かすみ「だ、だ、だ、騙されたぁ~っ!? この“つりざお”500円もしたんですよ!?」
しずく「あ、あはは……完全にやられちゃったみたいだね」
かすみ「こ、こんな棒っ切れ、返品してやりますっ!!」
「ガゥガゥ」「キャモッ!!」「ザグマァ~」
かすみんは顔を真っ赤にして、さっきおじさんから“つりざお”を売りつけられた場所に向かって走り出しました。
しずく「あ、ちょっと!? かすみさん!?」
「慌ただしい子ロト」
しずく「どの口が言うんですか……」
👑 👑 👑
かすみ「くっ!! どこに行きやがりましたか!!」
もう完全に日も落ち切った中、釣りショップの周囲をキョロキョロと見回す。
しずく「はぁ……はぁ……かすみさん……もし、詐欺をしているような人だったら……もう、いないんじゃ……」
かすみ「うぅん! あの手慣れた感じ、ここでよく観光客をカモにしてる感じだったもん! たぶん、この辺りでいつもやってるんだよ!」
釣りショップから出てきた人を狙い撃ちしているとしか思えないタイミングだったし、絶対常習犯です!
「カモにされた観光客が言うと説得力があるロト」
しずく「余計なこと言わないであげてください……」
街頭が灯り始める中、周囲を見回していると──
「キャモッ!!」
キモリが鳴き声をあげながら、建物の影の辺りを指差す。
そこでは、さっきのおじさんが“ボロのつりざお”をしまっているところだった。
かすみ「み~つ~け~ま~し~た~よ~……!!」
おじさん「お? どうしたんだい? “こわいかお”して……おじさんの素早さが下がっちゃうじゃないか。なんつってな、がはは」
かすみ「怖い顔してじゃないです!! この“ボロのつりざお”返品します!!」
おじさん「おや、それは困るよお嬢ちゃん。もう使用済みだろ? 返品は受け付けられないねぇ」
かすみ「使用済みも何も、そこらへんにある棒と糸じゃないですか!! こんなの商品じゃないです!! サニーゴ釣れないし!!」
おじさん「コイキングは釣れただろう? “つりざお”としての役割は十分果たされているじゃないか」
かすみ「かすみんはサニーゴが釣りたかったんです!!」
おじさん「サニーゴが釣れるなんて、言った覚えはないねぇ」
かすみ「そもそもかすみんは最初から、サニーゴが釣りたくてって話してたはずです!! そんな理屈通じませんよ!! お金返してください!!」
かすみんはおじさんを睨みつけながら、捲し立てる。
だって、こんなの絶対納得いかないもん!
おじさん「はぁ、全く困ったねぇ……ときどき、君みたいないちゃもん付けてくる客がいるんだよ」
かすみ「かすみんをクレーマー呼ばわりですか!? いい度胸ですね……!! ゾロア!!」
「ガゥガゥ!!」
おじさん「おっと、暴力は勘弁してくれよ……わかった、返品は受け付けられないが、とっておきのモノを売ってあげよう」
かすみ「はぁ!? まだ、何か売りつけるつもりですか!?」
おじさん「まあ、話を聞いてくれって。要はサニーゴが手に入ればいいんだろう?」
かすみ「……え、ええ、まあ、そうですけど……」
おじさん「だから、そのサニーゴを売ってあげようって言ってるんだ」
かすみ「……はい?」
そう言いながら、おじさんはがさごそとバッグを漁り、そこから1個のモンスターボールを取り出してかすみんに見せてきます。
おじさん「この中に、サニーゴが入ってる」
かすみ「はぁ……そんなあからさまな嘘吐かれても、かすみんわかっちゃうんですからね」
溜め息を吐きながら、ポケモン図鑑をボールにかざす。
これで、別のポケモンの名前が表示され──ると思ったんだけど、
かすみ「……あ、あれ……?」
確かにそこには『サニーゴ』の名前が表示されていた。
かすみ「ホントにサニーゴだ……」
おじさん「だから、言ってるだろう? こいつを3000円で君に譲ってあげよう」
かすみ「高いです」
おじさん「そこの釣りショップで“つりざお”を買ったら、安いものでも5000円はする。さっき売った“つりざお”と合わせてもお釣りがくるんじゃないかい?」
かすみ「せめて1000円にしてください」
おじさん「2500円」
かすみ「1200円」
おじさん「2000円」
かすみ「……1500円。これ以上は譲れません」
おじさん「……仕方ないな、1500円だ」
かすみ「……」
かすみんは、無言で1500円を支払い、サニーゴの入ったモンスターボールを受け取る。
おじさん「これで、チャラだからね。全く商売上がったりだよ」
おじさんはそう言いながら肩を竦めて、街頭の灯る夜の道の中、町の方へと消えていった。
しずく「かすみさん、よかったね」
かすみ「……よく、はないけど……とりあえず、欲しかったサニーゴは手に入りました」
ホントは自分で捕まえたかったけど、仕方ない……。
かすみんは早速新顔を確認するために、モンスターボールからサニーゴを出します。
かすみ「出ておいで、サニーゴ」
──ボムという音と共に、サニーゴが姿を現すと共に、コロコロと地面を転がる。
「…………」
かすみ「サニーゴ、これからよろしくね」
「…………」
メチャクチャ、反応薄いですね……。というか、転がってるし……。
かすみ「角がないじゃないですか……あのおじさん、角を折ってから売り付けましたね……」
最後までコスいことする奴ですね……。まあ、3日で再生するらしいし、これくらいは許してやりますよ。
しずく「このサニーゴ……白い」
かすみ「え?」
辺りが薄暗いから気付いてなかったけど……確かにこのサニーゴ、白いかも……?
というか……。
かすみ「さっきから、微動だにしてない気がするんだけど……」
「…………」
かすみ「も、もしも~し、サニーゴ……?」
「…………」
「しずくちゃん、こいつガラルサニーゴロト」
しずく「……あ、やっぱり……」
かすみ「ガラルサニーゴ?」
しずく「姿は見たことがなかったけど……ガラルに白いサニーゴがいるって聞いたことはあったんだ……」
かすみ「……ふーん? それじゃ、この子はそのガラルのサニーゴなんだ」
「…………」
かすみんは改めて図鑑を開いてサニーゴの項目を確認してみることにした。
『サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:0.5kg
急な 環境の 変化で 死んだ 太古の サニーゴ。 大昔
海だった 場所に よく 転がっている。 体から 生える 枝で
人の 生気を 吸い 石ころと 間違えて 蹴ると たたられる。』
かすみ「え……死ん……え??」
「ガラルサニーゴはゴーストタイプロト」
かすみ「…………」
「…………」
地面に転がる真っ白なサニーゴが緩慢な動きで、少し浮く。
「…………」
かすみ「…………」
のろのろと浮かび上がりながら、こちらに向ける顔は──綺麗で美しいサニーゴのソレとは思えないくらい、虚ろな目をしていた。
しずく「あ、あはは……か、可愛がってあげようね、かすみさん……」
苦笑いする、しず子。そして──
かすみ「……あああああーーー!!! また、騙されたあああああーーーーー!!!!」
「…………」
夜のフソウ港に、かすみん今日一の叫びが響き渡ったのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【フソウタウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| ● ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.14 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.11 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.11 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.13 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.15 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.11 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:5匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter012 『ドッグランでの“ワン”ダフルな出会い?』 【SIDE Ayumu】
──ダリアジムでのバトルから一晩明けて、
侑「んー……!」
歩夢「侑ちゃん。はい、傘」
侑「ありがとう、歩夢」
宿の外で空を見上げながら、身体を伸ばしていた侑ちゃんに、傘を手渡す。
……生憎、本日の天気は雨模様です。
リナ『今日の降水確率は100%……きっと一日中雨……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「昨日は途中で上がったのに……結局、雨になっちゃったね」
侑「まあ、仕方ないよ。こればっかりは私たちにはどうにもならないし」
「ブイ」
もちろん、雨を嫌ってダリアシティでもう一泊するかという意見も出たには出たんだけど……。
侑「これくらいの雨なら、雨具があれば問題ないし、旅を続けるなら雨にも慣れないといけないしね」
歩夢「確かに、いつも晴れの中で旅が出来るとは限らないもんね……」
結局、雨がいつ上がるかわからないし、いつでもどこでも快適に旅が出来る保証はないということで、早く慣れるためにも、私たちは先を急ぐことにした。
リナ『幸いこの先の4番道路は進むだけならほぼ平原だから、雨旅に慣れるにはもってこいだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「確か、ドッグラン……って言ってたよね?」
リナ『うん。犬ポケモンがたくさん生息している区域だよ。数百年前から、農業が盛んだったコメコシティの牧羊犬ポケモンたちが長い歴史の中で棲み付いて野生化した場所って言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「へー……」
リナ『ただ、世界的に見ても、あれだけ犬ポケモンが集中している場所は他に類を見ないみたい。全体的になだらかな地形が彼らの生態にマッチしたのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
歩夢「侑ちゃんはそこで新しい子を捕まえたいんだよね?」
侑「うん、出来ればね」
歩夢「わかった! 私も全力で手伝うね♪」
侑「ありがとう、歩夢」
雨の中で、どこまでお手伝い出来るかはわからないけど……侑ちゃんも今後のジム戦では要求手持ち数も増えてくるって言ってたし、どうにか新しい子を捕獲させてあげたいな。
リナ『準備万端。それじゃ、ドッグランに向けてレッツゴー♪』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑・歩夢「「おー!」」
リナちゃんの掛け声と共に、私たちは雨のダリアシティを、南方面に向かって歩き出した。
「…ニャァ」
🎀 🎀 🎀
ダリアシティの南に位置するポケモンジムを素通りして、さらにその先にある4番道路へとたどり着く。
雨の中だから、多少見通しは悪いけど……リナちゃんが言っていたとおり、4番道路に入ると一気に視界が開けて草原のような景色が広がっていた。
歩夢「一気に景色が変わった感じがするね」
侑「ダリアシティって人工物が多いから、ギャップがあってそう感じるのかもね……」
リナ『ここは環境保護区域でもあるから、自由な開発が禁止されてるのも関係してると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かに……ザ・自然って感じかも」
リナ『左側にある大岩と、右側の林の間にある草原が4番道路──通称ドッグランって呼ばれている地帯になってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「ずっと先だけど……かすかに海も見えるかも」
雨にけぶる平原の先の方に、少し荒れ気味な海が見える。
リナ『途中に川もあるよ。岩石地帯、森林地帯、河川や海まで隣接してる草原だから、多種多様な犬ポケモンが生息出来るんだって言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「確かにこんな大自然だったら、手を加えるのを禁止するのも納得かも……」
ただ、そんな自然だらけの4番道路でも、差し掛かってすぐ──1ヶ所だけ木造の建物が立っていた。
侑「でも、なんだろ……あの小屋……? というか、家……?」
歩夢「あそこは育て屋さんだと思うよ」
侑「育て屋さん?」
リナ『そのとおり。ポケモン育て屋さん。この地方で唯一ここにある施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「へー」
ポケモン育て屋さんでは、タマゴが見つかることで有名で、この地方ではダリアシティの南──ここ4番道路にしかない施設となっている。
私の家のポケモンの中にはタマゴから生まれた子もいたから、タマゴの育て方について調べていたときに、この施設のことも知っていたというわけだ。
写真で何度も見た育て屋の外観を眺めながら歩いていると、ふと、
歩夢「あれ……?」
侑「? どうかしたの、歩夢?」
歩夢「育て屋さんの前……誰かいない?」
侑「え?」
育て屋さんの軒下に、人影が見えた。
何やら、空を見上げて、その場に留まっている様子。
侑「こんな雨の中、どうしたんだろう……?」
歩夢「何かあったのかな?」
侑「行ってみようか」
歩夢「うん」
私たちが育て屋の軒下まで歩いていくと、やはり彼女は空を仰いだまま立ち尽くしていた。
明るめの金髪のセミロングをポニーテールに縛っている女の人。
歳は……私たちの少し上か、同い年くらいかな……?
侑「あの、どうかしたんですか……?」
女の人「……ん?」
歩夢「雨具がないんだったら、お貸ししましょうか……?」
女の人「ああ、いやいや! 傘は持ってるよ、ほら!」
彼女はそう言いながら、左手に持った畳まれた傘を持ち上げて見せる。
女の人「もしかして君たち、心配して声掛けてくれたの?」
侑「は、はい……立ち往生してるように見えたので……」
歩夢「何か困ってるのかなって……」
愛「うわっ! 君たちやさしーね! 愛さん、ちょっと感動しちゃったよ! あ、アタシ、愛って言うんだけど、君たちは?」
侑「私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
「ブイ」
歩夢「歩夢です。肩に乗ってるのはアーボのサスケです」
「シャボ」
愛「侑とイーブイ、それに歩夢とアーボのサスケだね! それと、そこに浮いてるのは……」
愛さんが、浮遊しているリナちゃんへと視線を向けると、
リナ『私はリナって言います』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
リナちゃんがそれに答えるように挨拶する。
愛「え……?」
すると、愛さんは驚いたような顔で固まってしまった。
……確かに突然喋り出したらびっくりするよね。
侑「あ、えっと、この子はロトム図鑑のリナちゃんって言うんです!」
愛「ロトム図鑑? ……あ、ああ、リナって言うのはロトムのニックネームなんだね」
リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||
愛「そっかそっか……あはは、愛さんちょっとびっくりしちゃったよ」
歩夢「最初は驚きますよね……。私も初対面のときは、浮いて喋ってることにびっくりしちゃって……」
愛「ああ、いやいや! ロトム図鑑だってことはなんとなく見たときからわかってたんだけどさ! 友達に同じ名前の子がいて、それに驚いちゃっただけなんだよね」
リナ『なるほど。でも、リナって名前の人、結構いると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「まあ、そのとおりなんだけどね。ちょっと喋り方の雰囲気って言うのかな? それがその友達と似ててさ。ごめんね」
リナ『うぅん、気にしてない』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「それより……愛さんは、どうして雨の中こんな場所に?」
歩夢「愛さん、傘も持ってるみたいですし……」
愛「さん付けとかしなくていいよ! 敬語もなしでOK! その代わりアタシも、タメ語でいいかな? って、もう使っちゃってるんだけど……」
侑「あ、うん! 私は全然大丈夫だよ!」
歩夢「私も、平気だよ」
愛「サンキュー♪ ゆうゆ♪ 歩夢♪」
侑「ゆうゆ?」
愛「あだ名♪ こういうのある方が親近感湧くでしょ? ゆうゆってあだ名、なんか一発でピンと来ちゃったんだよね! いいかな?」
侑「うん! 全然構わないよ!」
愛「あんがと♪ それで愛さんがここで立ち往生してるわけだったよね。えっと実はね……」
愛ちゃんが説明を始めようとした瞬間──カッ! と周囲が一瞬明るくなり、直後──ピシャァーーンッと激しい雷鳴が辺りに響き渡った。
歩夢「きゃぁっ!?」
私は大きな音に驚いて、咄嗟に侑ちゃんの腕にすがりついてしまう。
侑「お、おとと……大丈夫?」
歩夢「ご、ごめん……ちょっと、びっくりして」
侑「歩夢、昔から雷が苦手だったもんね」
歩夢「音が大きいから、近くで鳴るとびっくりしちゃうんだよね……」
侑「あはは、わかるよ。……えっと、それで愛ちゃん、話が途切れちゃったけど……」
侑ちゃんが話を続けるために視線を戻すと──先ほどまでそこに居たはずの愛ちゃんの姿が見えなかった。
侑「あ、あれ!? 愛ちゃんは……!?」
リナ『侑さん、歩夢さん、下』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「下……?」
リナちゃんに言われて、私たちが下の方に目を向けると──
愛「…………ち、ちょっと、不意打ちはダメだって……」
愛ちゃんは建物のすぐ傍にお腹を押さえる様にしたまま、軽く涙目になって蹲っていた。
侑「……もしかして、愛ちゃんがここで立ち往生してた理由って……雷……?」
「ブイ?」
🎀 🎀 🎀
愛「──愛さん大抵のモノは平気なんだけど……雷だけはダメなんだよね……」
愛ちゃんは相変わらずお腹を押さえたまま、軒下で肩を竦める。
リナ『愛さん、さっきからお腹押さえてる』 || ? ᇫ ? ||
愛「だっておへそを隠しておかないと、雷様におへそ盗られちゃうんだよ!?」
リナ『そうなの?』 || ? ᇫ ? ||
おへそが盗られるかはともかく、愛ちゃんは雷が苦手だから、ここで立ち往生していたらしい。
侑「でも、さっきまで雷雨になるような、雨じゃなかったはずなのに……」
侑ちゃんが空を仰ぎながら言っている間にも、雨雲がゴロゴロと音を立てている。
愛「このドッグランには、ラクライってポケモンが生息しててねぇ……」
歩夢「ラクライ?」
リナ『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
空気の 摩擦で 電気を 発生させて 全身の 体毛に
蓄えている。 体毛に 溜めた 電気を 使い 筋肉を
刺激することで 爆発的な 瞬発力を 生み出す。』
歩夢「そのラクライが雷を落としてるの……?」
リナ『うぅん、ラクライにはそこまでのエネルギーを操る個体は少ないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「直接的な問題はラクライじゃなくて、その進化系なんだよ……」
侑「進化系って言うと……確か、ライボルトだっけ?」
リナ『ライボルト ほうでんポケモン 高さ:1.5m 重さ:40.2kg
たてがみから 強い 電気を 発している。 空気中の 電気を
たてがみに 集め 頭の 上に 雷雲を 作りだし 稲妻を
落として 攻撃する。 雷と 同じ スピードで 駆けると 言う。』
愛「姿は滅多に見せないんだけど……群れのボスらしくってね。ラクライの群れがいる場所にはライボルトもいるみたいなんだよ」
リナ『確かにドッグランには広範囲でラクライが生息してる。走り回るポケモンだから、活動範囲も広めかも』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「うん……だから、ドッグランはちょっとでも雨が降ると、一帯が雷雨になりがちなんだよね」
侑「そうだったんだ……」
私たち、慣れるためになんて言ってたけど……雨のドッグランってもしかしてすっごく危ないんじゃ……。
リナ『でも、問題ないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「? どういうこと?」
リナ『ラクライやライボルトの特性は“ひらいしん”。大抵の雷は彼ら自身が吸い寄せるから、近寄らなければ雷に撃たれる可能性は低い。むしろ、雷を吸い寄せてくれる分、逆に安全とすら言える』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「でも、雷鳴とか稲光は……」
リナ『そこは我慢してもらうしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「うぅ……だよねぇ……」
リナちゃんの言葉を聞いて、私は思わず肩を落とす。
侑「……じゃあ、どうにか突っ切っちゃう方がいいのかな?」
愛「うん……アタシもコメコで待ち合わせしてる人がいるから、早めに戻りたいんだけどさ……」
リナ『じゃあ、我慢するしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
愛「いや、さすがに愛さんもいくら雷が苦手だからって言っても、音とか光が無理ーなんて我儘言うつもりはないよ! ラクライたちを避けられない理由があるんだよ」
侑「避けられない理由?」
愛「愛さんがここ──育て屋に来た理由と関係しててね……」
愛ちゃんはそう言いながら、腰からモンスターボールを外して放る。中から出てきたポケモンは──
「エレエレ…」
頭に白い稲妻のような模様を付けた紫色の小さなポケモン。
侑「初めて見るポケモンだ……」
歩夢「私も……」
リナ『エレズン あかごポケモン 高さ0.4m 重さ11.0kg
体内の 毒袋に 溜めた 毒素を 皮膚から
分泌。 毒素を 化学変化 させて 電気を 出す。
電力は 弱いが 触ると ビリビリと 痺れる。』
侑「へー、エレズンって言うんだ」
愛「この子はつい昨日タマゴから孵ったばっかのエレズンなんだよね」
侑「育て屋さんで受け取ったタマゴから生まれた子ってこと?」
愛「そういうこと。エレズンも無事に“孵った”から、さっさとコメコに“帰った”ろうと思ったんだよね~」
侑「ぷっ」
愛「そしたら、雨が降ってきて、ラクライたちの落雷で、サンザンダー! 思わず気分が暗~い気分になってきて、泣いちゃいそうだよ……Cryだけに……」
侑「あ、あはははは、あはははははっ!!」
「ブイ…?」
愛「おお! ゆうゆ、めっちゃバカウケじゃん♪」
侑「だ、だって……! サンダーでサンザンダー……ぷっ、あははははははっ! 暗い気分でCry、く、くくくっ、あはははははっ!」
「ブイ…」
リナ『すごいウケてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「侑ちゃん、笑いのレベルが赤ちゃんだから……」
侑ちゃん、昔からすごい笑い屋というか……テレビでもお笑いどころか、ちょっとしたギャグとかダジャレでも、大笑いして過呼吸気味になっちゃうんだよね……。
リナ『イーブイが軽く引いてる』 || ╹ᇫ╹ ||
「ブイ…」
歩夢「イーブイ、侑ちゃんしばらく笑い続けるから、こっちにおいで」
「ブイ…」
イーブイは笑い転げる侑ちゃんのもとから離れて、私の頭の上までぴょんぴょんと上ってくる。
愛「愛さんのダジャレでこんな風に笑ってくれる人、久しぶりに会ったよ! 嬉しいから、渾身のダジャレ100連発、見せちゃおっかなぁ~?」
侑「あははは、あははははっ、や、やめてっ、これ以上笑ったら、し、死んじゃうっ」
リナ『正直、私も嫌いじゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||
愛「お? いいねぇ、じゃあダジャレ100連発スタート──」
──ピシャァーーーンッ、ゴロゴロゴロゴロ!!!
愛「ひゃあぁぁぁぁっ!!?」
歩夢「きゃっ!?」
大きな雷の音で、再び愛ちゃんがおへそを隠して蹲る。
侑「はぁ、はぁ……わ、笑い死ぬかと思った……」
愛「あ、愛さんの渾身のギャグが、雷に中断された……サンザンダー」
侑「ぷっ、く、くくく……」
歩夢「それ、さっきと同じダジャレ……」
「ブイ…」
私は溜め息を吐く。侑ちゃんがダジャレで笑い転げているせいで、話が全然進まない……。
歩夢「それで、愛ちゃん……そのエレズンがどうしたの?」
愛「え? ああ、そうだった。えっとね……実はこのエレズンの特性が問題なんだ」
侑「特性……? エレズンの特性って……」
リナ『そのエレズンの特性は“せいでんき”。……なるほど、理解した』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「どういうこと?」
愛「特性“せいでんき”はね……野生のでんきタイプのポケモンを引き寄せちゃうんだよ……」
リナ『ボールに入れていても常時発動する……確かに、これじゃラクライが寄ってきちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに雷雲の原因が近寄ってきちゃうのは確かに困るかも……。
愛「エレズンの周りには近寄らないように言ってやりたいよ……ラクライたち! “Say! 出禁!”なんつって!」
侑「あ、あはははははははっ!! “せいでんき”と“Say! 出禁!” あはははははははっ」
愛「“せいでんき”も普段は役に立つ、“特製”の“特性”なんだけどね~」
侑「あはははははははっ! やめ、やめてっ! お、お腹痛い! し、死んじゃうっ!」
どうやら愛ちゃんはよほどのダジャレ好きらしい。
それはいいんだけど、話の腰を折らないで欲しい……侑ちゃんとの相性が悪い──いや、ある意味良すぎる──せいか、話がすぐ脱線してしまう。
歩夢「と、とにかく、愛ちゃんはコメコに行きたいんだよね!?」
愛「あ、うん! 実はコメコで約束してる人が居てね。明日までには戻りたいんだけど……それで途方に暮れちゃってさぁ。明日までに雨が止む保証もないし」
侑「はぁ……はぁ……ふぅ……な、なるほど……」
愛「……まあ、こうなったら、寄ってくるラクライを全部撃退しながら、進むしかないかもね……」
歩夢「雷雨が止むまで待つのはダメなの……? 約束してる人も説明すればわかってくれるんじゃ……」
愛「なかなか、そういうわけにもいかない相手なんだよねぇ……」
言いながら、愛ちゃんは自分の首に付けられたチョーカーをさすりながら肩を竦める。
愛「……ま、ここでいつまでもうだうだしてても仕方ないか! 女は度胸! 覚悟を決めて、突っ込んでくるよ!」
侑「待って、愛ちゃん!」
愛「?」
侑「それなら、一緒に行こうよ! 一人で行くよりも、みんなで行く方が少しは安全だと思うし!」
侑ちゃんの言葉に愛ちゃんは目を丸くする。
愛「いいの?」
侑「どっちにしろ、私たちもコメコシティに向かおうとしてる。目的は一緒だし……何より、困ってるのに放っておけないよ!」
愛「ゆうゆ……!」
歩夢「わ、私も……! バトルはそんなに得意じゃないけど、何か手伝えることがあれば……!」
リナ『「旅は道連れ、世は情け」って言う。私もお手伝いする』 || ╹ ◡ ╹ ||
愛「歩夢にリナちゃんも……! わかった! 一緒に行こう!」
愛ちゃんは嬉しそうに頷いて、
愛「みんなで一緒に“ドッグラン”を“グッドラン”で駆け抜けようー!! なんつって!」
渾身のダジャレで、出発の音頭を取るのだった。
侑「ぷっ、あ、あははははは!! も、もうやめ、やめてぇ! あははははははは!!」
歩夢「……大丈夫かな?」
「ブイ…」
🎀 🎀 🎀
──ドッグランを歩くこと数分。
傘をしまい、レインコートを着込んで、ドッグランを前進中。
歩夢「……だんだん、ゴロゴロって音……大きくなってきてるね」
侑「うん。それだけ雷雲に近付いてるってことだと思う」
リナ『恐らく、もう少しでラクライの群れの活動圏内に入ると思う。気を付けて』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「それじゃ、作戦のおさらいだよ」
先頭を歩いていた愛ちゃんが、レインコートのフードを目深に被り直しながら、最後の確認を促してくる。
愛「襲い掛かってくるラクライは迎撃するけど、基本的には前進を優先すること! いちいち全部相手するには数が多すぎるからね」
侑「うん、わかった」
愛「“キリ”がないから、“キリキリ”進むこと! なんつって!」
侑「ぷふっ……く、くくく……」
「ブイ…」
歩夢「愛ちゃん、話を進めてもらっていい?」
愛「OKOK! 先頭は愛さんが切り開くから、後ろからサポートお願いね」
侑「く、くく……はぁ……。……え、えっと、私はしんがりを勤めるね」
愛「お願いね、ゆうゆ! 最後に戦力の確認!」
愛ちゃんがモンスターボールから手持ちを出す。
「ルリ…」「ソーナノッ!!」「シャンシャン♪」
愛「愛さんの手持ちの、ルリリ、ソーナノ、リーシャンだよ♪ エレズンは生まれたばっかだから、今回は戦闘には出さない方向で!」
リナ『エレズンはラクライたちから狙われるだろうし、それが無難』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
愛「ゆうゆと歩夢のポケモンは、イーブイとサスケ以外にもいるのかな?」
侑「うん。出ておいで、ワシボン」
「──ワッシャッ」
歩夢「ヒバニー、出てきて」
「──バニバニッ!!」
愛「ワシボンにヒバニーだね」
「バニー…」
歩夢「でも、この雨だから……ヒバニーあんまり元気がなくて……」
愛「ほのおタイプだから、そこは仕方ないね……ワシボンもでんきタイプのラクライ相手に無理はさせられないね」
「ワッシャァッ!!!」
侑「うん。でも、ワシボン自身はやる気まんまんみたい」
愛「あはは、頼もしいね♪」
最後の確認もそこそこに──
「ラクラ…」「ライ?」「ラクライ…」
ラクライの群れが前方に見えてくる。
ラクライたちは、ボールに入ったままのエレズンの“せいでんき”に気付き始めているのか、こちらに向かってちらちらと視線を送りながら、うろうろしている。
リナ『戦闘に入ったら、ラクライが押し寄せてくると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「後戻りは出来ない。とにかく、みんな前進あるのみ! OK?」
歩夢「う、うん!」
侑「行こう!」
愛「よし……レディーゴー!!」
私たちは、愛ちゃんを先頭に、ラクライたちの群れに向かって走り出した。
「…ニャァ」
🎀 🎀 🎀
愛「道を作るよ!! リーシャン、“ハイパーボイス”!!」
「リリリリリリリリ!!!!!!」
「ライ!!?」「ラクラァッ!!!」「ライィ!!?」
開幕、愛ちゃんのリーシャンが“ハイパーボイス”で前方に居たラクライたちの群れを吹き飛ばす。
ラクライたちが吹き飛んで出来た道の真ん中を駆け抜けると同時に──
「ライィ!!!」「ラクラァッ!!!!」
早くも攻撃態勢に入ったラクライが左右から1匹ずつ、私に向かって飛び込んできた。
歩夢「!?」
どっちを倒せばいい!?
突然のことに、困惑する私。
侑「“スピードスター”!!」
「ブイィィ!!!」
愛「“サイコショック”!!」
「リシャーンッ!!」
「ラィ!!?」「ギャゥッ!!!」
歩夢「!」
私が迷っている間に、侑ちゃんと愛ちゃんが前後からラクライを撃退する。
侑「歩夢! 大丈夫!?」
歩夢「う、うん……!」
愛「これからさらに攻撃が激しくなるから、足止めないようにね!」
リナ『完全に群れの中に突入した。止まったら囲まれるから、一気に走り抜けよう!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
歩夢「わ、わかった!」
──そう言っている間にも、
「ガゥ!!!!」「ライライッ!!!」「ラクラァッッ」「ラィィ!!!!」
数匹が先頭の愛ちゃんに向かって飛び掛かってくる。
歩夢「あ、愛ちゃん!」
愛「道を開けろぉー!!! ルリリ!!」
「ルリ!!」
愛ちゃんがルリリを手の平に乗せて、掲げると──ルリリは自分の尻尾をぶん、と振り回して、
「ギャゥッ!!?」
“たたきつける”!
そして、その勢いを殺さぬまま、尻尾を高い位置でぶんぶんと回し始める。
愛「“ぶんまわす”!!」
「ルーーリィーー!!!!」
「ラィィッ!!!?」「ラクラゥ!!!?」「ラァァイッッ」
飛び掛かってきていたラクライが尻尾を叩きつけられて、どんどん撃ち落とされていく。
侑「愛ちゃん、すごい!!」
愛「へっへーん♪ 任せろ♪」
「ルリッ!!」
そのとき、背後から──パチ、と音が聞こえた気がした。
歩夢「! 侑ちゃん!! 電撃来るかも!! 後ろから!!」
侑「! イーブイ! “スピードスター”!!」
「ブィィ!!!」
「ギャゥッ!!?」
ラクライの鳴き声と共に、火花の音が止む。攻撃が防げたと思うと共に──今度は愛ちゃんの前方に何匹か毛が逆立っているラクライが見えた。
歩夢「愛ちゃん! 前に3匹! “じゅうでん”してる子がいる!」
愛「!? どいつ!?」
歩夢「あの子とあの子とあの子!!」
一瞬、首だけこちらに振り向いた愛ちゃんに、指で指し示す。
愛「! マジじゃん! リーシャン、“サイコショック”! ルリリ、“バブルこうせん”!」
「リシャーーーンッ」「ルリィーー!!!」
「ギャゥ!!」「ギャァッ!!?」
2匹を遠距離技で攻撃し、“じゅうでん”によるチャージ攻撃を阻止したものの、
「ラァァァイィィィ!!!!」
残った1匹のラクライが“でんげきは”を愛ちゃんに向かって放ってくる。
侑「愛ちゃん!」
愛「任せなって! ソーナノ! “ミラーコート”!」
「ソーーーナノッ!!!」
愛ちゃんの頭の上に乗っていたソーナノが、飛んできた“でんげきは”をそっくりそのまま跳ね返し、
「ラクラァッ!!?」
ラクライを返り討ちにする。
歩夢「愛ちゃん、すごい!」
愛「それほどでもないって♪ 歩夢こそ、すごいじゃん! よくラクライたちの“じゅうでん”に気付いたね!」
歩夢「なんだか、毛が逆立ってる子がいたから……。……!」
受け答えしている間にも、肌がピリピリとする感じがして、前方に目をやると──ラクライたちが密集し始めているのが視界に入ってくる。
集まってお互いの体毛を擦り合わせてる……?
歩夢「ま、また電撃してきそう!」
リナ『前方!? 密集した、ラクライたちから高エネルギー!?』 || ? ᆷ ! ||
次の瞬間、周囲一帯に網目のように、稲妻が走り──ゴロゴロ、ピシャァーーンッと空気を轟かせる。
一帯のラクライが一気に“10まんボルト”で攻撃をしてきた。
愛「わぁ!? “10まんボルト”が“じゅうまん”してる!?」
侑「ぶふっ!」
歩夢「愛ちゃん、真剣に戦ってぇ!!」
愛「わかってるって!! ソーナノ! “ミラーコート”!!」
「ソーナノッ!!!」
咄嗟にソーナノが反射するものの、相手の手数が多すぎる。
歩夢「さ、サスケ、“たくわえる”から“あなをほる”!」
「シャボッ!!!」
足りない防御の手数を補うために、サスケがエネルギーを“たくわえる”と共に地面に潜る。そして、地中を経由して、愛ちゃんの前に体をくねらせながら、躍り出し──
「シャーーーーボッ!!!!」
電撃を身をもって受け止める。
愛「ちょ!? サスケ、大丈夫なの!?」
“たくわえる”で特防が上がっているとは言え、確かにダメージはある。でも──
「シャーーーボッ!!!!」
電撃を受けたサスケは即座に体の表面の電撃を受けて痺れた皮を“だっぴ”して破り捨てる。
愛「やるじゃん、サスケ!!」
「シャーーボッ!!!」
愛「お陰で距離は十分詰められた! リーシャン! もう一発いくよ!」
「リシャァーー!!!」
歩夢「サスケ! 戻っておいで!」
「シャボッ!!!」
リーシャンの攻撃態勢を確認して、すぐさま声を掛けてを呼び戻すと、サスケは地中に潜って私の方に戻ってくる。
──これで、リーシャンの攻撃には巻き込まれない……。と、思った矢先、
侑「歩夢!! 右っ!!」
歩夢「え!?」
サスケに意識が向いていて、反応が遅れた。
咄嗟に右を向くと眼前に迫るラクライが“ワイルドボルト”を身に纏って飛び込んできている。
間に合わない──そう思った瞬間、
「バニ、バニッ!!!」
「ギャゥッ!!?」
ヒバニーが飛び上がり、“にどげり”でラクライを撃退してくれる。
歩夢「! ヒバニー!」
「バニッ!!」
侑「あ、焦った……」
歩夢「ごめん、ありがとう! ヒバニー! 侑ちゃん!」
「バニッ!!」
侑「うぅん、歩夢が無事でよかったよ……」
安堵する侑ちゃん、そして──
愛「“ハイパーボイス”!!」
「リシャァァァーーー!!!!!」
リーシャンが一気に前方のラクライたちを蹴散らす。
リナ『みんな、そろそろラクライたちの縄張りを抜ける! あともう少し、頑張って!』 || >ᆷ< ||
愛「よっしゃぁ! “ラストスパート”! このまま、“ラストスパっと”終わらせるぞ! なんつって!」
侑「く、ぷくく……!!」
歩夢「ダジャレを挟まないでぇ!!」
全員でラクライを迎撃しながら、前進を続ける。
すると──視界の先にラクライが目に見えて少ない平原が見えてくる。
侑「! 縄張りから抜ける!」
愛「よっしゃ!! 最後のダッシュだよ!」
歩夢「うん!」
みんなで一気に駆け抜けるため、最後の加速をする。
そのとき突然、急に全身の毛が逆立つのを感じた。
歩夢「!?」
侑「歩夢、どうし──」
──バチンッ!
侑「──ガッ……!?」
私が悪寒を感じた直後、火花のはじける音と共に、背後から短く聞こえる侑ちゃんの声。
歩夢「侑ちゃん!?」
思わず立ち止まって振り返る。
侑「……っ゛……」
「ブ、ブイッ」「ワシャァ…」
すると、転んだ侑ちゃんと、それを心配するように身を寄せるイーブイとワシボンの姿が目に入る。
歩夢「侑ちゃん!! 立って!!」
侑「……っ……ぅ……」
侑ちゃんが顔を上げて、私の方に視線を送ってくるけど、侑ちゃんは全然起き上がろうとしない。
もしかして──
歩夢「電撃で痺れてる……!?」
私は侑ちゃんを助けるために、転んだ侑ちゃんに駆け寄ろうとして、走り出し──た瞬間、バチバチバチ!! と大きな音が周囲を劈く。
歩夢「きゃぁっ!!?」
轟音に怯み、頭を抱えてしゃがみ込む。
──音に驚いてる場合じゃない……!!
勇気を振り絞ってすぐさま顔を上げると──
「ラァァッ!!!!」「クライッ!!!!」
私の方に向かって、飛び込んでくる2匹のラクライの姿。
歩夢「……あ」
──バチバチと激しい稲妻を全身に纏いながら飛び込んでくる。
咄嗟に身を逃がすように、後ろに下がったら、足がもつれてそのまま尻餅をつく。
すぐ立ち上がって逃げなきゃと思うのに、身体がうまく言うことを聞かない。
その間にもどんどん迫るラクライ。そのとき、何故か、ラクライたちの動きがやたらスローモーションで飛び込んでくるように見えた。
なのに、身体は動かなかった。動けなかった。
ゆっくりと迫るラクライ。あと数センチ、全身の毛が静電気で逆立ち、“スパーク”の熱で肌に熱さを感じた。
──怖くて、目を瞑った。
愛「“しねんのずつき”!! “すてみタックル”!!」
「リーーーシャンッ!!!!」「ルーーーリィッ!!!!」
「ギャウッ!!!!?」「ギャンッ!!!!!」
愛「歩夢!? 大丈夫!?」
歩夢「……え」
ゆっくり目を開けると──先ほどのラクライたちは、リーシャンとルリリの攻撃で戦闘不能になっていた。
歩夢「あ……うん」
愛ちゃんが助けてくれた。そう理解して、すぐに立ち上がろうとしたけど、
歩夢「あ、あれ……」
脚が腕が、いや……全身がガタガタと震えて、うまく立ち上がれなかった。
愛「……無理しないで、歩夢はここで待ってて。ソーナノ、ついててあげて」
「ソーナノッ!!」
歩夢「……そ、そうだ……侑ちゃん……」
震えながら、顔を上げて侑ちゃんの方を見ると──
侑「イーブイ、“とっしん”……! ワシボン、“ブレイククロー”……!」
「ブイッ!!!」「ワシャッ!!!」
侑ちゃんは、ふらつきながらも立ち上がって、ラクライたちを迎撃しているところだった。
愛「アタシはゆうゆをフォローしてくる! もうラクライの縄張りはほぼ抜けてるから、動けそうだったら歩夢は先に行って!」
歩夢「愛……ちゃん……わた……し……」
愛「もう大丈夫だから、あとはアタシたちに任せて♪」
愛ちゃんはニカっと笑って、侑ちゃんのもとへと走って行った。
歩夢「…………私」
──『……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……』
歩夢「…………私……約束……したのに……」
「バニ…」「シャボ…」
歩夢「……私……」
🎹 🎹 🎹
「ブイ!!!」「ワシャァッ!!!」
飛び掛かってくるラクライたちを、イーブイとワシボンの攻撃でひたすら捌く。
侑「はぁ……! はぁ……!」
数が多い……! どうにか、脱出したいけど……──まだ、足が痺れていて、満足に走れる自信がない。
電撃を受けたのは一瞬だった。足に軽い“ほうでん”を受けた程度だと思う。
それでも、私の足を止めるには十分すぎた。
「ラィ!!!」「クラァィ!!!!」「ラクラァ!!!!」
縄張りに侵入してきた外敵を許すまいと、次から次へと攻撃してくるラクライたち。
このままじゃ、ジリ貧……!
愛「──ルリリ! “ぶんまわす”!! リーシャン!! “さわぐ”!!」
「ルーーリィ!!!」「リシャァァァァァ!!!!!」
「ガゥッ!!!」「キャゥンッ!!?」「ラクラァッ!!!!」
侑「! 愛ちゃん!」
愛「ゆうゆ! 加勢に来たよ!」
侑「ありがとう……! 足に電撃を受けちゃって、走れなくて……」
愛「わかった! 時間を稼ぐから、先に行って!」
侑「うん……! ありがとう……!」
痺れる足を引き摺りながら、コメコ方面へと、脱出を図る。
愛「さぁ、リーシャン!! 存分に暴れていーからね!」
「シャァァァァァァン!!!!!!」
ラクライたちの中心で、“さわぐ”リーシャン。
しばらくの間、騒ぎ続けて、周囲を音で攻撃し続ける技だ。
あの技が切れる前に、縄張りの外まで逃げてしまいたい。
そう思いながら、足を引き摺っていた──そのとき、
「──アォォォーーーーーーーン!!!!」
辺り一帯に響き渡る、ポケモンの鳴き声。
侑「“とおぼえ”!?」
「ブイ…」
そして、その“とおぼえ”と同時に──ラクライたちが一気にリーシャンの周囲に群がってきた。
愛「わぁ!? な、何!?」
愛ちゃんが驚きの声をあげたのとほぼ同時に──ピシャァーーーーンッ!!!! と轟音を立てながら、リーシャンに向かって雷が迸る。
愛「ちょっ……!! リーシャンッ!!!」
「リー…シャ…」
愛「戻って!!」
“かみなり”で黒焦げになったリーシャンを、愛ちゃんがすかさずボールに戻す。
そして、先ほどまでリーシャンが騒いでいたバトルフィールドの先から──のっしのっしと毅然とした態度で歩いてくるポケモンの姿。
青い体に、黄色の鬣。あのポケモンは……!
侑「ライ、ボルト……!」
愛「……どうやら、ボスのお出ましみたいだね」
「ライボ…」
こちらを睨みつけてくるライボルト。そして、それに呼応するように、周囲のラクライたちも一斉にこちらに視線を向けてくる。
愛「ゆうゆ、走れる?」
侑「……少しなら。でも、逃げ切れるかな……」
リナ『ライボルトは“かみなり”を自在に操れる……逃げるのは厳しいと思う』 || > _ <𝅝||
侑「だってさ」
愛「なら、やるっきゃないね……! ルリリ!!」
「ルリッ!!!」
ルリリが尻尾を掲げて、ぶんぶんと振り回し始める。
得意の“ぶんまわす”の態勢だ。
侑「愛ちゃん、周りのラクライ、お願いできる? 私はあんまり範囲攻撃が出来ないから……」
愛「OK. わかった。ライボルト、一人で行ける?」
侑「やるしかないかな」
愛「あはは、違いないね♪ 可能な限り早く蹴散らして、サポートするよ! ルリリ! GO!」
「ルーーーリィ!!!!」
ルリリの尻尾が一気に周囲のラクライを蹴散らし始める。
侑「行くよ! イーブイ!」
「ブイッ!!!」
ワシボンは相性が悪すぎるから、一旦待機。イーブイが戦闘態勢に入る。
侑「“でんこうせっか”!!」
「ブイッ!!!」
ライボルトに向かってイーブイが飛び出す。
イーブイの最速の攻撃で一気に肉薄して、速攻を仕掛ける──つもりだったのに、
「ライボ…」
愛「っ!?」
気付けば、ライボルトは愛ちゃんに肉薄していた。
侑「え!?」
愛「速すぎ……!!」
目にも止まらぬとは、まさにこのことだった。
──バチバチと音を立てながら、ライボルトが愛ちゃんに飛び掛かる。
侑「愛ちゃん!!」
愛「くぉんのっ!!」
愛ちゃんは咄嗟に身を屈めて、飛び掛かってくるライボルトの下をすり抜ける。
だけど、それと同時に──
「ラァクッ!!!!」「ラァィッ!!!!!」
ラクライたちが愛ちゃんの足元に群がってくる。
愛「っ!? や、やばっ!!」
あのラクライたちは──ライボルトのための“ひらいしん”だ。
愛ちゃんが咄嗟に腰のボールに手を掛けたのが見えたけど──もうその瞬間には天の雷雲が眩く光っていた。
侑「愛ちゃん!!」
愛「っ……!」
導雷針に導かれるように、愛ちゃんの頭上に稲妻が走ったその瞬間──
愛「え?」
侑「!?」
稲妻が──愛ちゃんを避けた。
正確には、当たる直前でカクッと、愛ちゃんを避けるように稲妻が方向転換をした。
そして、稲妻が曲がった、ちょうどその場所には──
「──ニャァ」
小さな灰色のネコのようなポケモンが浮遊していた。
リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||
愛「……君……」
「ニャァ」
侑「ニャスパーが……愛ちゃんを、助けた……? なんで……?」
どうやら、急に現れたニャスパーがサイコパワーで“かみなり”の軌道を捻じ曲げたらしい。
なんで、ニャスパーはそんなことを……いや、それ以前にニャスパーがなんでこんなところに……。
「ライボッ!!!」
侑「……!」
ライボルトの声で我に返る。 いや、考えるのは後だ……!
ライボルトはもうすでに次の“かみなり”の姿勢に入っている。
侑「相殺しきれるかわからないけど……!! やるしかない!! イーブイ!!」
「ブイッ!!!」
今の状況はひたすらライボルトにとって有利な環境、だけど……!
侑「どんな環境にでも適応するのが、イーブイの能力!」
「ブイッ!!」
「ライボッ!!!」
──カッ! と天空が光ったのと同時に、その根元に向かって、
侑「イーブイ!! “まねっこ”!!」
「ブイッ!!!」
イーブイが全身の体毛を逆立てながら、空から“かみなり”を呼び込む。“まねっこ”は直前に見た技と全く同じ技を使うことが出来る技だ。
──二つの“かみなり”が同時に轟音をあげながら、上空で衝突する。
強烈な閃光を発しながら、空気を一瞬で熱し、爆縮しながら雷轟が響き渡る。
愛「うわっ!?」
侑「っ……!!」
激しいエネルギーがぶつかり合い、発する光と音と熱が激しい衝撃波を発生させる。
「ラァクッ!!!?」「クラァァィッ!!!?」「ラクラァッ!!!」
衝撃でラクライたちが吹き飛ばされる中、揺れる空気が落ち着いたと思ったら、
「ライボッ…」
再びチャージ態勢に入るライボルト、今度は自身の体に帯電を始める。
恐らく、今度は“かみなり”ではなく、自身から放つ電撃技によって、こっちを確実に狙ってくるつもりだ。
だけど……“まねっこ”で出来るのは直前に見た技だけ。
“かみなり”はそこらへんにいるラクライに引き寄せられてしまうから相殺には使えても能動的な攻撃として真似することは難しい。
どうする……! どうする……!?
激しく思考しながら、イーブイに目を向けると──イーブイの体も、何故かバチバチと帯電を始めていた。
侑「イーブイ!?」
「ブイッ…!!!」
リナ『イーブイから、強いでんきエネルギーを検知!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「でんきエネルギー!? まさか……!?」
強力なでんきエネルギーが充満した、このフィールドに──イーブイが適応した……!?
つまり……!
侑「新しい、“相棒わざ”!?」
リナ『侑さん!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「うん! イーブイ!!」
「ブイィィ!!!!」
──バチバチと音を立てながら、イーブイが激しく放電する。
「ライボッ!!!」
「ブイィッ!!!」
ライボルトとイーブイ、2匹の電撃が空中で激しくぶつかり合い──バヂバヂと音を立てながら──相殺した。
「ライボッ…!!?」
毅然としていたライボルトだったが、ここで初めて動揺を見せた。
まさか、イーブイが自前の電撃を撃ってくるとは思ってなかったのかもしれない。
この隙を見逃すわけにはいかない。
侑「ワシボン!! 上空まで飛んで!!」
「ワシャボッ!!!!」
私の肩の上で待機していた、ワシボンを上空に送り出す。
ライボルトに隙がなかったせいで、いつ“かみなり”を落とされるかわからなかったから出来なかったけど、今この瞬間に狙うしかない……!!
愛「ゆうゆ!? 何するつもり!?」
侑「一瞬だけ!! 晴れさせる!!」
ただ、一点。それだけでいい……!
ワシボンは一気にライボルトの直上の空に飛翔し、
侑「ワシボンッ!! “にほんばれ”!!」
「ワシャァッ!!!!」
雲に一番近い場所で、ワシボンが羽ばたき、ライボルトの真上の雲だけを一瞬吹きとばす。
すると──つよい日差しがライボルトの直上から地上に向かって降り注いでくる。
「ライボッ!!?」
侑「雨のせいで、半減してた炎も──この日差しの下なら最大火力だよ!!」
「ブイブイブイブイッ!!!!!」
全身に炎を纏ったイーブイが、ライボルトに向かって走り出す。
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブーーーイッ!!!!!」
「ライボッ!!!?」
晴れのパワーで強化された、“めらめらバーン”がライボルトに炸裂する。
「ラ、ライボォッ…!!」
“やけど”を負いながら、地面を転がるライボルト。
リナ『侑さん!! 無力化させるなら、捕獲しよう!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「うん! いっけぇ、モンスターボール!!」
私はモンスターボールを放り投げた。
真っ直ぐ飛んでいくボールはライボルトにぶつかり──パシュンと音を立てながらボール内部に吸い込む。
──カツーンカツーンカツン。音を立てながら地面に落ちたボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち──大人しくなった。
侑「……ライボルト、捕獲完了……!」
そして、それと同時に──
「ラク…」「ライィ…!!」「ラクラァ…!!」
ボスの敗北を悟ったラクライたちが、逃走を始めた。
侑「……か、勝ったぁ……」
リナ『侑さん、すごい!』 || > ◡ < ||
侑「あはは……ギリギリだったけどね」
愛「いやいや、マジですごかったよ! ゆうゆ!」
侑「わわっ!?」
愛ちゃんが抱き着いてきて、思わず尻餅をつく。
愛「あの土壇場でよくあんな作戦ひらめいたね!」
侑「さっき歩夢が言ってたとおり、ヒバニーと同じでイーブイも主力のほのお技が雨で半減しちゃってる状態だったから……一瞬だけでも、イーブイの火力を最大まで引き出すには、雨雲を晴れさせるしかなかったからね」
「ワシャボッ」
侑「おかえり。ありがとうワシボン。うまく行ってよかった」
「ワシャッ」
肩にとまったワシボンを撫でながら労う。そして、
「ブイッ」
ライボルトの入ったボールを咥えたイーブイが私のもとに戻ってくる。
侑「イーブイ、ありがとう。新しい“相棒わざ”のお陰で、また助けられたよ」
「ブイッ!!」
リナ『さっきの技は“びりびりエレキ”って技だよ』 || > ◡ < ||
侑「“びりびりエレキ”……この調子でどんどん新しい“相棒わざ”も増えていくのかな?」
「ブイ」
リナ『いろんな環境の場所に行けば、増えていくかもしれない』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「だってさ、イーブイ」
「ブイ?」
……そういえば、イーブイの新しい技にも助けられたけど……。
侑「ニャスパーは……」
愛「……それが、もうどっか行っちゃったんだよね」
侑「え……?」
確かに、愛ちゃんの言うとおり、周囲を見渡しても、ニャスパーの姿はもうすでになかった。
侑「なんだったんだろう……」
愛「とりあえず今は助かったことを喜ぼうよ♪」
侑「まあ、それもそうだね……」
どうにか、ドッグランは無事に抜けられそうなわけだし……。
侑「……そうだ、歩夢は……!?」
愛「……歩夢なら、先に行ってるはずだよ」
侑「そ、そっか……すぐに迎えに行ってあげなきゃ!」
きっと、一人で不安だろうし……!
私が勢いよくその場から立ち上がると──視界がグラっと傾き始めた。
侑「あれ……?」
そのまま、景色はどんどん傾いて行き──最後には完全に横向きになった。
「──ゆうゆ!?」『──侑さん!?』
愛ちゃんとリナちゃんの声が、なんだか遠くに聞こえるとぼんやり思いながら──私の視界はゆっくりと暗闇に飲み込まれていくのだった。
🎀 🎀 🎀
──コメコシティ、ポケモンセンター。
歩夢「…………」
侑「…………すぅ…………すぅ…………」
「ブイ…」「ワシャ…」
歩夢「…………」
「シャボ」「バニー…」
薄暗い部屋の中、静かに寝息を立てる侑ちゃんの傍らに座って、ただ黙っていた。
聞こえるのは侑ちゃんの寝息と、ときおり心配そうに鳴き声をあげるポケモンたちの声だけ。
歩夢「…………」
──ガチャ。薄暗い部屋のドアが開いて、廊下から少しだけ光が伸びてくる。
私はその光源に向かって、ゆっくりと顔を上げる。
愛「歩夢、ゆうゆ眠ってるだけだって先生が言ってたよ」
歩夢「……」
愛「少しだけど、電撃を浴びちゃったからね……。戦闘が終わって気が抜けた拍子に、そのときのダメージと疲労で気を失っちゃったみたいだね。でも、大きな怪我をしてたわけじゃないし、明日になれば目を覚ますだろうって」
歩夢「……」
愛ちゃんの言葉に多少の安心こそしたものの、私の心中は穏やかじゃなかった。
言葉が出てこないまま、私は再び眠ったままの侑ちゃんに視線を落とす。
侑「…………すぅ…………すぅ…………」
歩夢「……」
愛「歩夢……。みんな無事だったんだからさ、よかったじゃん」
歩夢「…………」
愛「トラブルはあったけど、全員無事にコメコまで来られた、それで──」
歩夢「私……約束、したの……」
愛「え?」
歩夢「侑ちゃんになにかあったら……私が、守る……って……」
愛「……」
なのに、私は──
歩夢「私……侑ちゃんに、守られてばっかりだ……」
研究所での騒動のときも、ゴルバットの捕獲のときも、カーテンクリフでの落石のときも。
真っ先に侑ちゃんは飛び出して、私や私のポケモンたちを守ってくれたのに。
私は──
歩夢「……私……ラクライが飛び掛かって来たとき……怖くて、動けなかった……」
侑ちゃんだったら、自分の危険を顧みずに、私を助けてくれたのに。
歩夢「私は……侑ちゃんを、守ってあげられなかった……」
愛「…………」
歩夢「……私……」
愛「…………」
歩夢「…………ごめん。こんな話されても、困るよね……あはは……」
愛「もし……」
歩夢「……?」
愛「もし、歩夢が本当にゆうゆを守りたいって本気で思ってるなら……強くなるしかないよ」
歩夢「……」
愛「戦うのは、怖い?」
歩夢「…………」
私は愛ちゃんの言葉に、控えめに首を縦に振った。
戦うのは、怖い。
愛「傷つくの傷つけるのも、嫌?」
その質問にも、頷く。
愛「……そっか。……それが、悪いことだとは思わない。だけどね、力がなかったら……弱いままだったら、何も守れないよ」
歩夢「……」
愛「守りたいなら強くなりな、歩夢。強くないと……大切なモノが、自分の手の平から全部零れていっちゃうから……」
愛ちゃんはそう言いながら、遠い目をしていた。何かに想いを馳せるかのように、何かを思い出すかのように。
愛「ゆうゆが目を覚ますまで待ちたかったけど……愛さん、約束があるからもう行くね。ゆうゆが目を覚ましたら、よろしく伝えておいて」
歩夢「……うん」
愛「大丈夫。歩夢には、強くなれる素質はあるから」
歩夢「……うん、ありがとう」
それが愛ちゃんの優しさで、慰めの言葉だとわかっていても、少しだけ救われた気分だった。
愛「それじゃ、またどこかで」
愛ちゃんが部屋を後にして……再び、部屋が薄暗い闇に包まれる。
侑「…………すぅ…………すぅ…………」
歩夢「……私、強く……ならなきゃ……」
穏やかに寝息を立てる侑ちゃんを見ながら、そう口にすると──何故だか、ポロポロと涙が溢れてきた。
「ブイ…」「ワシャ…」
歩夢「…………強く……っ……なり、たい……っ……」
「シャボ…」「バニ…」
侑ちゃんを起こさないように、声を押し殺すけど──悔しくて、情けなくて、そして……こんな自分が本当に強くなれるのか不安で、そんな風に思う自分がさらに情けなく思えて、涙が止まらなかった。
歩夢「…………ぅ……っ…………くっ……ぅ…………っ…………」
私はしばらくの間、ずっと声を押し殺したまま、泣き続けていた。
穏やかな顔で眠る侑ちゃんの傍らで──
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___●○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.24 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:3匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.14 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:67匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission👏
ゆうゆの寝ている部屋を後にして、ロビーに行くと、
リナ『あ。愛さん』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがふわふわと浮いていた。
愛「や、ここに居たんだね」
リナ『……今の歩夢さん、そっとしておいた方がいいと思ったから』 || 𝅝• _ • ||
愛「うん、その方がいいと思うよ」
リナ『愛さんはもう行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「約束があるからね」
リナ『そっか。……最後に聞きたいことがあるんだけど……いい?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「何かな?」
リナ『なんで、“そんなもの”を付けてるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
“そんなもの”。リナちゃんの視線は──私の首に巻かれたチョーカーに向けられていた。
愛「……このチョーカー、似合ってないかな?」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
愛「…………」
リナ『言えない事情があるなら、これ以上追及はしない』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「そっか。質問はそれだけ?」
リナ『もう一つ』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「何?」
リナ『何で、あんな場所で待ってたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「……。理由は説明したと思うけど……」
リナ『愛さんの強さなら……一人でも問題なかった気がする』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「あはは、それは買いかぶりすぎだよ。ゆうゆたちがいなかったら、愛さんここまで来れなかったって」
リナ『……そっか。じゃあ、質問はこれだけ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
愛「そう? それじゃ、もう行くね」
リナ『うん、ごめんなさい。変なこと聞いて』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「いいよ。それじゃ、二人によろしくね」
リナ『うん、伝えておく』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんに手を振りながら、私はポケモンセンターを後にする。
街灯の少ないコメコシティの夜道を歩きながら、考える。
愛「リナちゃん……ね」
名前といい、あの妙な鋭さ、物言い。思い出してしまう。
そして、
愛「あのニャスパー……」
私を助けたとき、ニャスパーと一瞬だけ、目が逢った。
あのニャスパー……。
愛「……いや、まさか」
そんなことは、ありえない。
これは、偶然だ。
こんな偶然で、アタシはブレちゃいけない。
アタシはもう……。とっくの昔に、覚悟を決めているのだから。
………………
…………
……
👏
■Chapter013 『農業の町コメコシティ』 【SIDE Yu】
侑「……ん……ぅ……」
瞼の裏に朝日を感じて、意識がゆっくりと浮上していく。
ぼんやりと目を開けると──
「ブイ…」「ワシャ」
イーブイとワシボンが私の顔を覗き込んでいた。
侑「おはよう、イーブイ、ワシボン」
「ブイ…」「ワッシャ」
2匹は私に体を摺り寄せて甘えてくる。
イーブイもワシボンも「こんなに甘えんぼだったっけ?」と一瞬疑問に思ったけど……自分の最後の記憶を辿ってみたら、なんとなく理由がわかってきた。
侑「……私あの後、気失っちゃったんだ……」
そう独り言ちて、ゆっくりと上半身を起こすと──
歩夢「侑ちゃん、おはよう」
傍らに座っていた、歩夢がにこっと笑う。
侑「おはよう、歩夢……心配掛けちゃったみたいだね」
歩夢「うん……心配したよ」
侑「ごめん……」
歩夢「うぅん、侑ちゃんが無事ならいいよ。……身体の調子はどう?」
歩夢の言葉を受けて、軽く肩を回したり、上半身を捻ってみる。
侑「……特に問題なさそう」
歩夢「痛いところとか、動かしにくいところとかない?」
侑「うん、平気」
ベッドから這い出て、そのままぴょんぴょんと軽く跳ねてみる。
歩夢「ゆ、侑ちゃん!? いきなり、そんなに激しく動いたら……!」
侑「……本当に何も問題なさそう。むしろ、ぐっすり眠ったお陰かな、むしろ快調かも!」
実際に電撃が掠った足も、全く問題ないし。
歩夢「ならいいんだけど……」
歩夢が安堵していると──
「…ライボ」
侑「!?」
部屋の隅の方から、鳴き声が聞こえて、思わず身が竦んだ。
歩夢「あ、ライボルトも起きたんだね」
「ライボ…」
侑「ボ、ボールから出したの……?」
歩夢「うん。ジョーイさんに回復してもらったあとは、ボールから出してたよ。ね、ライボルト」
「ライボ…」
ライボルトはのっしのっしとこちらに歩いてきて、歩夢の傍に身を伏せる。
侑「……い、意外と大人しい……?」
歩夢「昨日の内に仲良くなったんだよ。ね、ライボルト」
「ライボ…」
ライボルトは表情こそ変えないものの、昨日の激しい戦闘が嘘のように大人しい。
侑「相変わらず、すぐポケモンと仲良くなれるんだね……歩夢は」
歩夢「え? 普通だよ……この子は大人しかったし」
「ライボ…」
歩夢が傍らのライボルトの鬣を撫でると、短く鳴き声をあげる。
……相変わらず、どっちが“おや”なのかわからなくなってくるなぁ。
歩夢「ライボルト、あなたの“おや”の侑ちゃんだよ」
「ライボ…」
何故か、歩夢から紹介されてるし……。
侑「よ、よろしくね、ライボルト」
昨日の激闘の手前、少しおっかなびっくりになってしまうが、
「ライボ」
ライボルトは再びのっしのっしと歩きながら、私の傍らまで近づいて、
「ライボ」
短く鳴きながら、頭を垂れた。
歩夢「ライボルトも侑ちゃんの強さを認めてくれてるみたいだね」
侑「……そっか」
どうやら、“おや”として、認めてくれてはいるようで安心する。
侑「ライボルト、これからよろしくね」
「ライボ」
これで手持ちも無事3匹目。これで、コメコジムに──
歩夢「そうだ、侑ちゃん!」
侑「?」
歩夢「私ね、侑ちゃんが寝てる間に、この町のこといっぱい調べたんだ♪ それでね、行ってみたい場所があるの! 朝食を取ったら、一緒に行こう?」
侑「え、でも……」
「私はジム戦に行きたい」と言い掛けたけど──
歩夢「……お願い」
歩夢は私の手を握りながら、言う。
侑「歩夢……?」
歩夢「侑ちゃんと一緒に……行きたいな」
侑「……。……あはは、そう言われたら断れないね♪ じゃあ、歩夢の行きたい場所、案内して!」
歩夢「……!」
私の言葉を受けて、歩夢の表情がぱぁっと明るくなる。
歩夢「うん!」
歩夢はニコッと笑いながら頷く。
歩夢「それじゃ、朝ごはん早く食べに行こう♪」
侑「ふふ、わかった♪」
私も笑って頷いて、部屋を後にする。
ただ、気付いてしまった──さっき私の手を握った歩夢の手は……確かに震えていたということに。
🎹 🎹 🎹
──朝食を取りながら、私が気を失っていた間に愛ちゃんはもう行ってしまったことを聞いた。
まあ、愛ちゃんは先を急いでいたわけだからね。またどこかで出会えたら、お礼を言いたいかな。
朝食後、荷物を纏めて二人でロビーまで歩いて行くと──
リナ『侑さん、歩夢さん、おはよう』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんがふわふわと近付いてくる。
侑「リナちゃん、ここにいたんだね」
「ブイ」
リナ『うん。侑さん、気分はどう?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「一晩ぐっすり寝て、すっきりだよ♪」
リナ『それなら、よかった。歩夢さんはちゃんと眠れた?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「うん。ゆっくり休めたよ」
リナ『二人とも万全みたいで嬉しい。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||
どうやら、リナちゃんは私や歩夢がゆっくり休めるように気を遣ってくれていたらしい。
侑「リナちゃんこそ、ゆっくり休めた?」
リナ『スタンバイモードで十分な休息は取ったから平気』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「そういうモードがあるんだね。……あれ、そういえばリナちゃんってご飯はどうしてるの?」
リナ『今日みたいに晴れてる日に、ソーラー充電してるよ』 || > ◡ < ||
歩夢「……? ロトムのご飯って太陽の光で、大丈夫なの?」
リナ『……あ、えーっと、それは』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「ほ、ほら! ロトムのご飯って、電気だから! 図鑑のバッテリーをソーラー充電して、それをご飯にしてるんだよ!」
リナ『そ、そうそう、そんな感じ』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「あ、そうだったんだ……そういえば、今までもご飯食べたりしてなかったもんね」
リナ『うん、今日も電気がおいしい』 ||;◐ ◡ ◐ ||
私もうっかり忘れかけていたけど、歩夢にはリナちゃんはロトム図鑑だって説明しているんだった……。
どうにか、それっぽく誤魔化せたようだ。
リナ『えっと、それはそうと、今日はどうするの? やっぱり、ジムせ──』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「私ね、コメコ牧場に行ってみたいんだ♪」
リナちゃんに質問に対して、歩夢が食い気味に答える。
歩夢「コメコ牧場って、すっごくゆったりとした雰囲気で、ミルタンクやメェークルの乳搾りが体験できるんだって♪ せっかく、自然豊かな町に来たんだから、行ってみたいなって」
リナ『なるほど。確かにコメコシティは農業が盛んで、自然も豊富。近くのコメコの森では森林浴も有名だし、いいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「うん♪ それじゃ、行こう侑ちゃん♪」
侑「あ、うん」
歩夢が私の手を引いて、歩き出す。
リナ『今日の歩夢さん、なんだか積極的』 || > ◡ < ||
侑「あはは、そうだね」
「ブイブイ」
強く、強く、私の手を握って、歩夢は歩き出す……。
🎹 🎹 🎹
歩夢「コメコ牧場は町の北側にあるみたいだよ」
侑「結構歩くんだね」
「ブイ」
リナ『コメコシティはこの地方でも随一の農業地帯。南部に居住地があって、北部はほぼ全域が畑や田んぼ、牧場になってるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「へー」
自然豊かという前評判のとおり、気付けば辺りは広い田んぼと畑が続いている。
セキレイシティで生まれ育った私としては、ここまで建物がなく、ただ農業地帯が続いているというのは初めて見る光景だ。
田畑には今も農作業をしている人たちが何人も見えるけど、それ以上に気になるのは……。
侑「人だけじゃなくて、ポケモンも一緒に農業をしてるんだね」
先ほどから、田んぼの脇の道を歩いているけど、田んぼの中にはあちこちにドロバンコがいるのがわかる。
リナ『ドロバンコ うさぎうまポケモン 高さ:1.0m 重さ:110.0kg
頑固で マイペースな 性格。 土を 食んで 泥を 作って
泥遊び するのが 日課。 かなりの 力持ちで 自分の
体重の 50倍の 荷物を 乗せられても まるで 平気だ。』
歩夢「見て、侑ちゃん! あっちの畑にいるのは、ディグダだよ♪」
侑「ホントだ!」
ディグダがぴょこぴょこと頭を出しながら、畑を耕している姿が目に入る。
リナ『ディグダ もぐらポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.8kg
ディグダが 棲む 土地は 耕され フンで 豊かに
なるため 多くの 農家が 大切に 育てている。
光に 照らされると 血液が 温められて 弱ってしまう。』
侑「ドロバンコもディグダも一緒になって農業をしてるんだ……」
リナ『コメコシティは遥か昔から、ポケモンと共存してきた町って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
セキレイシティでもポケモンが街に居ることはあるけど……確かに、ここまで人との距離感が近いのは初めて見るかも。
リナ『この町では、ポケモンの力で田畑を耕して、人の知恵で作物を育てて、出来た食物を分け合って……それが昔からずっと続いている、伝統的な農業地帯だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「すごいね……人とポケモンが、同じ目線で協力し合って暮らしてるなんて……」
歩夢は目をキラキラさせながら言う。
歩夢はポケモンと家族同然に暮らしてきた子だし、これほどまでに人とポケモンとの間に隔たりがないこの町に、感じるものがあるのかもしれない。
侑「いい町だね」
歩夢「……うん」
セキレイ、ダリアとこの地方でも大きな街が続いていたからか、コメコシティのゆったりと流れる時間の中にいると落ち着く気がする。
そんな道のりの中、水田に水を引いている近くの小河にもポケモンがいるのが目に入る。
「ゼル」
歩夢「わ、侑ちゃん! ブイゼルだよ!」
侑「ホントだ、でもまだちっちゃいね。子供なのかな?」
リナ『この町では数年前くらいから、繁殖期になると、ブイゼルが海から上ってきて、ここで子育てをするようになってるらしいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「へー」
リナ『最初は人間や田畑のポケモンと縄張り争いになったりしてたらしいけど……今では、子育てする場所を提供してもらう代わりに、ディグダやドロバンコを外敵から守る役割をしてるみたい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「今でも、新しい共存の工夫をしてるんだ……!」
リナちゃんの話を聞いて、歩夢が目を輝かせる。
侑「……ふふ」
歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」
侑「うぅん、なんでもない。牧場楽しみだなって思ってさ」
歩夢「ふふ♪ そうだね♪」
よかった……。さっきまで歩夢の様子が少しおかしかったけど……いつもの元気が戻ってきた気がする。
それを見て私は一人、胸を撫で下ろす。
でも、その間もずっと……歩夢は私の手をぎゅっと掴んで離すことはなかった。
🎹 🎹 🎹
歩夢に手を引かれたまま、田畑の脇道を進んで行くと、だんだんと周囲の景色が田畑から、草原と柵、そして小屋のような建物が増えてきた。
恐らく、あれがポケモンたちの飼育小屋になっているんだと思う。
「モォ~」「モォォォーー」
侑「だんだん、ミルタンクやケンタロスが増えてきたね」
歩夢「うん」
道の脇、柵を挟んで向こう側には先ほどとは趣の違うポケモンたちの姿。
リナ『ミルタンク ちちうしポケモン 高さ:1.2m 重さ:75.5kg
栄養満点の ミルクを 出すことから 古くから 人間と
ポケモンの 暮らしを 支えてきた。 牧場の 質が 良い
土地ほど 出す ミルクは コクがあり 美味しい。』
リナ『ケンタロス あばれうしポケモン 高さ:1.4m 重さ:88.4kg
スタミナに あふれた 暴れん坊。 走り出すと たいあたりするまで
どこまでも ひたすら 突き進む。 群れの 中で 1番 太く 長く
キズだらけの ツノを持つのが ボス。 荒っぽい 性格で 有名。』
伸び伸びと飼育されている、ミルタンクやケンタロスを眺めながら歩を進めると、程なくして大きめの施設が見えてきた。
リナ『あそこが乳搾り体験が出来る牧場施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「だってさ、侑ちゃん行こ♪」
侑「うん」
歩夢に手を引かれながら施設内に入ると、まさに牧場の飼育小屋といった感じの屋内の中、柵で仕切られたスペースの中にミルタンクたちの姿。
そして、そんなミルタンクたちを多くの作業員の人たちがお世話をしている。
作業をしている人たちはほとんどが高齢のおじいさんやおばあさんだけど……その中で一人だけ、目を引く若い女性の姿があった。
若い女性「あれ? お客さんかな?」
その女性は私たちに気付くと、持っていたミルタンク用らしき牧草を近くに下ろし、小走りで駆け寄ってきた。
歩夢「はい! あの、ここで乳搾り体験が出来るって聞いたんですけど……」
若い女性「わぁ! それで来てくれたんだね! 体験用のスペースは奥の方にあるから案内するね♪ 女の子二人と、イーブイにアーボ……それにロトム図鑑さんかな? 案内するね♪」
「ブイ」「…シャボ」
リナ『よろしくお願いします』 || > ◡ < ||
ご機嫌な様子の女性の案内で、奥に通される。
その際にも、周囲を見回していると、作業をしている人がたくさんいるけど……この女性のような若い人の姿はほぼない。
若い女性「どうかしたの?」
侑「あ、いえ……」
案内の最中、私の視線に気付いたのか、目の前の女性は小首を傾げる。
侑「お姉さんだけ、周りの人に比べてお若いなって……」
若い女性「あ、なるほど。えっとね、この町の若い人は大人になると他の町に出ていっちゃう人が多いらしくって……」
歩夢「らしい……?」
やや他人事気味な物言いに歩夢が首を傾げると、
若い女性「わたし、実はこの町の出身じゃないの。もともとカロス地方の近くにある山村に住んでたんだよ」
侑「そこから、この町に?」
若い女性「うん♪ コメコシティはね、農業をやってる人にとっては世界的にも有名な町なんだよ♪ だから、前から興味があって、こうして実際に来ちゃったんだ~♪」
女性がニコニコ笑いながら言うと、近くで作業をしていたおじいさんやおばあさんが顔を上げる。
おじいさん「エマちゃんが来てくれたお陰で助かってるよ~」
エマ「わたしも毎日、素敵な体験させてもらってます♪」
おばあさん「ホント、一生ここに居て欲しいくらいだよ~」
エマ「うふふ♪ わたしもここの生活は楽しいから、そんなこと言われたら迷っちゃうよ~♪」
この人はエマさんと言うらしい。エマさんは口々に褒め言葉を投げ掛けてくるおじいさん、おばあさんに笑い掛けながらひらひらと手を振る。
どうやら、この牧場内でも、かなりの人気者らしい。
エマさんが前を通ると、作業をしているおじいさん、おばあさんがひっきりなしに話しかけてくる。
そして、一人一人ににこやかに笑いながら返事をしている辺り、エマさんも相当ここが気に入っていることがよくわかる。
エマ「えーと、そういえばまだ名前、聞いてなかったね」
侑「あ、私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
「ブイブイ♪」
歩夢「歩夢です。この子はアーボのサスケ。侑ちゃんと一緒に旅してます」
「…シャーボ」
リナ『ロトム図鑑のリナです。よろしくお願いします。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||
エマ「侑ちゃん、歩夢ちゃん、イーブイちゃんと、サスケちゃん、リナちゃんだね♪ 旅人さんなんだね~」
侑「はい。セキレイシティから来ました」
エマ「えっと、あんまりこの地方の地理には詳しくないんだけど……確か、すっごい大きな街だよね? 前に果林ちゃんが教えてくれた気がする」
侑「……かりんちゃん?」
エマ「あ、えっとね、果林ちゃんはわたしのお友達なんだ♪」
侑「あ、エマさんのお友達が言ってたんですね」
果林……どこかで聞いたことある名前な気がするけど……。
まあ、それはいいや。
エマ「二人はどうして旅してるの?」
歩夢「あ、えっと……実はセキレイシティで最初のポケモンと、ポケモン図鑑を博士から貰って……」
エマ「わぁっ! じゃあ、リナちゃんはもしかして──」
侑「はい、リナちゃんは私のポケモン図鑑なんです」
エマ「それじゃ、歩夢ちゃんも?」
歩夢「え?」
エマさんの言葉に歩夢は逡巡する。
歩夢「は、はい……一応」
歯切れ悪く返事をすると、控えめにポケットから取り出したポケモン図鑑をエマさんに見せる。
エマ「わぁ~♪ それじゃ、選ばれたトレーナーさんなんだね♪」
侑「あはは……私は運良く貰えただけというか……選ばれたのはむしろ歩夢の方で……」
エマ「そうなの?」
歩夢「え、あ……は、はい……」
エマ「そうなんだ~、すごいなぁ。わたし、戦うのはちょっと苦手だから、ポケモントレーナーさんはすごいなって思っちゃうよ~」
歩夢「…………」
エマさんの言葉に、歩夢が息を詰まらせたのがわかった。
侑「え、えっと……せっかくこの町に来たから、牧場に行きたいって歩夢が提案してくれたんです! ね、歩夢!」
歩夢「え? あっ、う、うん!」
エマ「そうだったんだ~! こうして、他の町から来た人が、興味を持ってくれるのはすっごく嬉しいな♪ そうだ! 二人はミルタンクとメェークル、どっちの乳搾りがしてみたい?」
侑「えっと、どう違うんですか?」
イメージだけで言うなら、乳搾りと言えばミルタンクだけど……メェークルの方がミルタンクよりも小さいから、ハードルは低い気もするかな……?
エマ「えっとね、ここのミルタンクの“モーモーミルク”はすっごく甘くて美味しいの! 特に搾りたてはすっごく美味しくって、飲みやすさもあるんだよ♪」
侑「……ん?」
エマ「メェークルのミルクはあっさりした味だけど、独特の風味はあるかな? 私はメェークルのミルクの方が好きなんだけど……あっ! バターやチーズを作るときでも、それぞれ全然違った味わいになってね、どっちも美味しいんだけど──」
侑「ま、待ってエマさん! 味の話じゃなくて……」
エマ「え?」
侑「あの、乳搾り自体がどう違うのかが聞きたくて……」
エマ「あ、そ、そうだよね! ごめんね……ここの牧場で採れるミルクはどれも絶品だから、つい……えへへ」
エマさんは少し恥ずかしそうに、頬を掻きながら笑う。
エマ「えっとね、ミルタンクは座ってる状態のミルタンクから、お乳を搾らせてもらうんだけど……メェークルはミルタンクみたいに座らせてお乳は搾れないから、お腹の下に手を伸ばして搾ることになるかな。初めてならミルタンクの方がイメージが掴みやすいかもしれないけど……乳搾り体験をお手伝いしてくれる子は、みんな大人しい子だから、どっちでもそんなに難しくはないと思うよ」
侑「なるほど……歩夢はどっちがいいと思う?」
歩夢「私は、侑ちゃんが選んでくれた方でいいよ」
侑「えー? うーん……どうしよう……やっぱり乳搾りって言ったら“モーモーミルク”だし、ミルタンクだけど……メェークルの乳搾りが出来るなんて珍しいし……」
私は腕を組んで、唸ってしまう。
エマ「ふふ♪ それなら、両方体験してみる?」
侑「それだ! お願いします!」
エマ「はーい♪ それじゃ、準備するからそこで待っててね♪」
🎹 🎹 🎹
エマ「──そうそう、その調子で優しく搾ってあげてね♪」
侑「はーい……よっと……」
「モォ~」
エマ「そうそう、上手上手♪」
エマさんの指導のもと、ミルタンクから“モーモーミルク”を搾らせてもらっている真っ最中。
最初はなかなかうまくミルクが出てこなかったけど、エマさんが親切に教えてくれるお陰で、すぐに出来るようになってきた。
エマ「侑ちゃん、上手だね♪」
何よりエマさんが教え上手の褒め上手だから、なんだか頑張ってしまうというのもある。
そろそろ、バケツ半分くらいになるかな……? もう随分搾らせてもらった気がするけど……。
侑「エマさん、ミルタンクって1日にどれくらいミルクが出るんですか?」
エマ「うーんと、ここにあるバケツ2杯分くらいかなぁ? 元気な子だと、3杯分くらいお乳を出してくれる子もいるんだよ~」
リナ『ミルタンクは1日に20リットルの乳を出すって言われてる。このバケツは1杯8.8リットルだから、確かに2杯ちょっとくらいだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え、そんなに……」
エマ「わぁ♪ すごいね、リナちゃん! バケツの容量までぴったりだよ~」
リナ『今日も測量センサーの感度ばっちり。任せて欲しい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
エマ「そういうことだから、遠慮せずにたくさん搾ってもらっていいからね♪」
エマさんはニコニコ笑っているけど、なんだかんだで乳搾りの力加減には結構気を遣わないといけないし、まだバケツ半分ということは、この作業の4倍やってやっと1匹分が終わりということだ。
しかも、この牧場にいるミルタンクはたくさんいる……思ったより途方もない作業かも。
エマ「? どうしたの? わたしの顔、じーっと見つめて?」
侑「いえ……農業って大変なんだなって思って……」
エマ「ふふ、それがわかってもらえたなら、こうして乳搾り体験を教えてる甲斐があるよ~♪」
農業従事者たちの日頃の苦労に感謝しながら、乳搾りをせっせと続けていると──
「…ブイ」
頭の上で大人しくしていた、イーブイが急に身を乗り出してくる。
侑「わわっ、イーブイ!? そんな身を乗り出したら落ちちゃうよ?」
「ブイ…」
どうやら、“モーモーミルク”の溜まったバケツを覗き込んでいるらしい。
エマ「ふふ♪ “モーモーミルク”の良い香りが気になっちゃってるのかも♪ イーブイちゃん、搾りたてのちょっと飲んでみる?」
「ブイ!!」
侑「いいんですか?」
エマ「ご主人様が頑張ってる間、ポケモンちゃんにとってはちょっと退屈だもんね。ちょっと待っててね♪」
エマさんが搾乳用バケツの下の方にある栓を抜いて、ミルクをイーブイが飲みやすいサイズのお皿に注いでくれる。
侑「歩夢も、サスケに飲ませてあげたら?」
私の隣でさっきからもくもくと乳搾りをしている歩夢にも訊ねると──
「シャボッ」
歩夢「…………」
返って来たのはサスケの鳴き声だけ。
侑「……歩夢?」
歩夢「……え? あ、ご、ごめん。何かな?」
侑「エマさんがポケモンたちに搾りたての“モーモーミルク”を飲ませてくれるって」
歩夢「あ、そうなんだ。サスケ」
「シャボッ」
サスケはご主人様のOKが出ると、普段ののんびりゆったりとした様が嘘のように俊敏な動きで、ミルクの入ったお皿へと移動していく。
歩夢「ふふ♪ もう、サスケったら食いしん坊なんだから」
エマ「イーブイちゃんもサスケちゃんも好きなだけ飲んでいいよ~♪」
「シャボッ」「ブイブイ♪」
2匹が“モーモーミルク”をぺろぺろと舐め始める。
侑「イーブイ、おいしい?」
「ブイ♪」
イーブイも納得の味なようでご満悦だ。
エマ「それじゃ、侑ちゃんと歩夢ちゃんは乳搾りの続きをしようね♪」
侑・歩夢「「はーい」」
二人して乳搾りを再開したはいいんだけど、
歩夢「…………」
歩夢は相変わらず、もくもくと乳搾りをしている。
歩夢「………………はぁ」
たまに漏れ出てくる小さな溜め息。
そんな歩夢の様子が気になったのか、
エマ「……ねぇ、侑ちゃん」
エマさんが私に耳打ちしてくる。
エマ「歩夢ちゃんっていつもああいう感じなの……?」
侑「……いえ、普段はもう少し元気なんですけど」
エマ「そっかぁ……」
エマさんは少しうーんと考えたあと、
エマ「ねえ、侑ちゃん」
侑「なんですか?」
エマ「メェークルの乳搾りはまた今度でもいいかな? その代わり二人を案内したいところがあるんだけど」
そう提案してきた。
侑「え、はい、それは構いませんけど……?」
エマ「よかった♪ それじゃ、ミルタンクの乳搾り、わたしも手伝うから、頑張って終わらせちゃおっか♪」
ニコニコしながら、“モーモーミルク”搾りに加勢するエマさんは、両手を使って、同時に2つのお乳から手際よく搾り始め──文字通りあっという間に乳搾りを終わらせてしまった。
やっぱり、農業をやっている人ってすごいと舌を巻かざるを得ない。
……ただ、その間も歩夢は、
歩夢「…………」
ずっと、ぼんやりとしたまま、口数少な目に乳搾りを続けているだけだった。
🎹 🎹 🎹
──乳搾り体験を切り上げて、私たちがエマさんに連れてこられたのは、
エマ「それじゃ、行こっか♪」
歩夢「ここって……」
侑「森……?」
コメコタウンの東側に位置する、大きな森だった。
リナ『ここはコメコの森。オトノキ地方の中でも一番大きな森だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
エマ「でも、道は舗装されてるから変に脇道に逸れなければ迷ったりはしないよ♪」
二人の説明を聞きながら見回してみると、視界のほぼ全てが樹木に覆われている、まさに森だ。
セキレイシティの近くでも、少し外れればちょっとした林くらいはあったけど……ここまで、いわゆる森と言えるような景色を見るのは初めてかもしれない。
歩夢「あ、あの……」
そんな中、おずおずと手を挙げる歩夢。
エマ「ん~? どうしたの?」
歩夢「ここ……野生のポケモンが出るんじゃ……」
エマ「そうだね~。自然の森だから、野生のポケモンさんはたくさんいるよ♪」
歩夢「そ、そうですか……」
エマさんの返答を聞くと、歩夢は私の腕をきゅっと掴んで自分の方へと引き寄せる。
侑「あ、歩夢……?」
歩夢「侑ちゃん……離れないでね……」
侑「う、うん」
エマ「そんなに怖がらなくても、ここの子は大人しい子ばっかりだから大丈夫だよ~」
リナ『この辺りに出るポケモンはナゾノクサやチュリネ、モンメン、スボミー、ハネッコみたいな、小型のくさポケモンくらいだから、こっちから刺激しなければ襲ってくることはないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「それなら、いいけど……」
と言いつつも、歩夢は私から離れようとしない。
エマ「奥まで歩くから、みんなはぐれないようにね♪」
侑「はーい」
歩夢「……はい」
エマさんに先導される形で森の中を歩き出す。
森というだけあって、いくら進んでも景色はずっと草木に覆われている。
ただ、もともとよくある森の鬱蒼としたイメージとは裏腹に、このコメコの森は常に葉と葉の間から木漏れ日が差し込んで来ていて明るく、先ほどエマさんの言ったとおり、人が通るであろう道は整備されているのかしっかり確保されている。
ちょっとした、ハイキング気分だ。
何より──
侑「すぅ…………はぁ…………」
空気がおいしい。緑が多いからなんだと思う。
「ブィ…」
頭の乗っているイーブイも随分リラックスしているのがわかる。
なんだか、この空気の中にいるだけで、気分が落ち着く。
でも、歩夢は……。
歩夢「…………」
ぎゅーっと私の腕を掴んだまま、辺りをキョロキョロと警戒しながら歩いているようだった。
侑「歩夢」
歩夢「……え? な、なにかな?」
侑「ここのポケモンたちは、そんなに危なくないと思うよ」
周囲を見回すと、すでに視界には木漏れ日の中を気ままに漂っているハネッコやモンメンの姿が見て取れる。
野生のポケモンには違いないけど、彼らは本当に風に流されて飛んでいるだけで、襲ってくることなんて本当になさそうだ。
歩夢「……でも、ここは町の中じゃないから……」
私の腕を引く力が、さらに込められた気がした。
侑「……そっか」
──それから歩くこと数分。
エマ「──着いたよ~♪」
エマさんに連れてこられたのは、森の奥の方にある少し開けた場所だった。
そして、そこには周囲の木々がまるで意識的に避けているかのように──中央に苔むした大きな岩が鎮座していた。
エマ「ここね、わたしのお気に入りの場所なの♪」
エマさんがニコニコしながら振り返る。
エマ「みんなこっちにおいで♪」
エマさんは手招きしながら、苔むした岩の傍に腰を下ろす。
侑「歩夢、行こう」
歩夢「う、うん」
言われたとおり、私たちもエマさんの隣に腰を下ろす。
すると──
「ブイ」
イーブイが私の頭から跳ねて、苔むした岩の上に飛び乗る。
そしてそのまま、
「ブイブイ…」
気持ちよさそうに伸びをしたあと、その岩の上で丸くなってリラックスし始める。
侑「ふふ、イーブイ早速気に入ったの?」
「ブィィ…」
エマ「ふふ♪ この岩、ひんやりしてて気持ちいいよね♪」
イーブイの様子を見て、嬉しそうに笑うエマさん。
ただ、そんな中でも、
歩夢「…………」
歩夢はまだ硬い顔をしたまま、私の腕を掴んでいる。
侑「…………」
さすがにそろそろ話をしないといけないと思った。
なんとなく、歩夢の様子がおかしい理由には見当が付いている。
私が口を開こうとした、そのとき、
エマ「歩夢ちゃん」
私よりも先に声を掛けたのは、エマさんだった。
歩夢「……? ……なんですか……?」
エマ「深呼吸、してみよっか♪」
歩夢「……え?」
エマ「はい、大きく息を吸って~」
歩夢「え? えぇ?」
エマ「歩夢ちゃん、息を吸うんだよ♪ すぅ~…………」
エマさんがお手本だと言わんばかりに、両手を大きく上に伸ばしながら、息を深く吸う。
歩夢「…………すぅー…………」
歩夢がそれに倣うように、ゆっくりと息を吸う。
エマ「……吐いて~……ふぅ~……」
歩夢「……ふー…………」
エマ「……ふふ♪ もう一回。吸って~……」
歩夢「…………すぅー…………」
エマ「……吐いて~……」
歩夢「…………ふー…………」
歩夢はそのまま、何度か深呼吸を繰り返す。
歩夢が深呼吸をするたびに──私の腕を掴むのに込められていた力が、抜けていくのがわかった。
歩夢「………………ふー…………」
エマ「ふふ♪ 深呼吸すると、気持ちが落ち着くでしょ?」
歩夢「………………はい」
エマ「しばらくここでのんびりしよっか♪ ここはすっごく空気が綺麗だから、リラックス出来ると思うよ♪」
歩夢は少し困ったような表情で私の顔を見る。エマさんがどうして、急にこんなことを言い出したのかがわからない、と思っているのかもしれない。
ただ、私はなんとなくエマさんのしたいことがわかった気がした。だから、黙って首を縦に振る。
歩夢は私の首肯を確認すると、岩に背をもたれたまま、ゆっくりと木々を見上げる。
私も釣られるように、顔を上げると──そよそよと風に揺れる木々の間から、僅かに木漏れ日が差し込んでくる。
エマ「……そのまま、目を瞑って、風と緑の匂いを感じてみて」
歩夢「……はい」
私も歩夢と同じように目を瞑る。
そよそよと吹く風に、緑の匂いが運ばれてくる。
息をするたび、美味しい空気が肺を満たして、身体の力が抜けていく気がした。
そのまましばらく目を瞑ったまま、これが森林浴か……などと思っていると、急に肩に僅かな重みを感じた。
歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」
侑「……歩夢?」
歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」
エマ「歩夢ちゃん、寝ちゃったね。きっと疲れてたんだね」
侑「……みたいですね」
エマ「歩夢ちゃん、理由はわからないけど……ずっと気を張ってるみたいだったから」
侑「……はい」
エマ「でも、ずーっと気を張ってたら……心が疲れちゃうよね」
侑「……そうですね」
歩夢「………………すぅ………………すぅ………………」
穏やかに寝息を立てる歩夢の顔を見て、私は何故だかすごく安堵していた。
ずっと、強張った歩夢の表情を見ていて、私も自然と気が張っていたのかもしれない。
エマ「余裕がなくなっちゃうと、いろんなものが見えなくなっちゃうから。疲れたときは、こうして自然の中でリラックスして、心を落ち着かせてあげた方がいいんだよ♪ 歩夢ちゃんも、侑ちゃんも」
侑「……はい」
歩夢だけじゃなくて……私も気付かないうちに疲れていたらしい。
エマさんはそんな私たちのために、このとっておきの場所に連れて来てくれたんだ。
侑「エマさん、ありがとうございます」
エマ「どういたしまして♪」
改めて、私は深く息を吸い込んでみる。
肺に新鮮な空気が流れ込んで来て、気持ちがいい。
侑「……ふぁぁ……」
そして、思わず欠伸が出る。
エマ「…………ふぁ……」
気付けばエマさんも欠伸をしていた。
眠いかも……。
リナ『侑さん、エマさん。何かあったら私が起こすから、眠っちゃってもいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そう……?」
エマ「それじゃ、お言葉に甘えて、わたしもお昼寝しようかな……」
隣で、もうすでにうとうとしているエマさん。
私も目を瞑る。
「ブイ…zzz」
岩の上からはイーブイの寝息が聞こえる。
歩夢「………………すぅ………………すぅ………………ゆ、ぅ……ちゃん…………」
侑「おやすみ……歩夢…………」
程なくして、私の意識はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
🎹 🎹 🎹
「──はい、順番。すぐにあげるから待っててね」
「ハネ~」「ハネ~」「モンメ」「チュリチュリ」
何やら楽しげな声が聞こえてきて、少しずつ意識が浮上してくる。
侑「ん……」
ぼんやりと目を開けると、
歩夢「あなたは“モモンのみ”かな? そっちのチュリネは“クラボのみ”がいいかな?」
「ハネ~」「チュリ♪」
歩夢が周りに群がる大量のくさポケモンたちに“きのみ”をあげているところだった。
侑「……あはは、やっぱり歩夢は大人気だ」
歩夢「あ、侑ちゃん。おはよう」
侑「おはよう」
目を覚ました私に気付いて、歩夢が顔をこちらに向けると、その拍子に、
「ハネ~」
歩夢の頭の上でくつろいでいたハネッコがぽ~んと跳んで行った。
歩夢「あ、ハネッコ……跳んでっちゃった」
侑「あはは、ハネッコは軽いからね」
くすくすと笑いながら、歩夢を見つめる。
穏やかな表情で、野生のポケモンたちと戯れている姿は──すっかりいつもの歩夢だった。
侑「エマさんの言ってたとおり、みんな大人しいね」
歩夢「うん。起きたら、ハネッコとモンメンに視界を埋め尽くされてた時はびっくりしちゃったけどね……あはは」
侑「やっぱり歩夢は特別ポケモンに好かれるみたいだね」
歩夢「あはは、そうなら嬉しいかな」
侑「……歩夢」
歩夢「なに?」
侑「野生のポケモン、怖くない?」
歩夢「……全然怖くないわけじゃないよ。でも、怖い子ばっかりじゃない……大人しい子だったり、優しい子だったり、甘えんぼの子だったり。野生のポケモンにもいろんな子がいるんだよね……」
歩夢が近くを漂っているハネッコに手を伸ばすと──ハネッコが歩夢の手の平の上にふよふよと着地する。
歩夢「ラクライたちだって……自分たちの縄張りを守ろうとしてただけなんだよね……」
侑「歩夢……」
話をするなら、今だと思った。
侑「歩夢、ごめん」
歩夢「? 突然どうしたの?」
侑「歩夢に……すっごく怖い思いさせたんだって、やっと気付いた」
歩夢「侑ちゃん……」
侑「私、せつ菜ちゃんに褒められたり、ジム戦が順調だったから……今回もどうにかなるって、調子に乗ってたところ……あったと思う」
歩夢「そ、そんなことないよ……!」
侑「ラクライの電撃を受けたとき、私の横をラクライたちがすり抜けていって……歩夢に飛び掛かって行った瞬間、本当に肝が冷えた。愛ちゃんが助けに来てくれなかったらって思うと……あのとき、歩夢怖かったよね。ごめん」
歩夢「侑、ちゃん……」
侑「私の方がバトルに慣れてるんだから……私はなんとしてでも歩夢を守ってあげるべきだったんだ。そのせいで、歩夢に怖い思いさせて……」
歩夢「…………」
歩夢は何か言いたげだったけど、私は言葉を続ける。
侑「だから、もう歩夢に怖い思いさせないためにも、私はもっともっと強くなるよ。強くなって、歩夢を守る」
歩夢「……!」
侑「歩夢にとって、この旅が怖い思い出にならないように……! 私が全力で守るから!」
そう誓って、歩夢の手を自らの両の手でぎゅっと握りしめた。
歩夢「ゆ、侑ちゃん……///」
侑「だから、もう怖がらないで大丈夫だよ。私が傍にいるから」
歩夢「……うん///」
歩夢は顔を赤くして、小さくもごもごと口を動かす。
歩夢「──本当はそういう理由じゃないんだけど……」
侑「え?」
歩夢「うぅん! なんでもない♪ 侑ちゃんが守ってくれるなら……もう怖くないよ、えへへ♪」
侑「そっか、よかった」
歩夢が幸せそうに笑う姿を見て、私は安堵した。
これでやっといつもどおりだ。
歩夢「……えへへ///」
歩夢は頬を赤く染めたまま、私の手をぎゅっと握り返してきた。
なんだか、昔に戻ったみたいだった。
子供の頃から、お互い気持ちがすれ違ってしまったときは、こうして手を握り合って、気持ちを伝え合って仲直り。それを何度もしてきた。
旅の中慌ただしくて、タイミングを計り損ねていたけど……こうして、気持ちを落ち着けられる場所に連れてきてくれたエマさんには感謝しないと。
二人でぎゅっとお互いの手を握りしめたままでいると、
リナ『侑さん、歩夢さん』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「きゃっ!?///」
急にリナちゃんが私たちの目の前に下りてきた。
それに驚いたのか、歩夢がパッと手を離す。
侑「どうしたの?」
リナ『何か、いる』 || ╹ _ ╹ ||
侑「え……?」
歩夢「何かって……」
二人で顔を上げて、周囲を見回しながら、聞き耳を立てる。
エマ「……くぅ……くぅ……zzz」
可愛らしく寝息を立てるエマさんの他に──ガサガサと、茂みの奥の方から、草をかき分けるような音がしていることに気付く。
侑「……歩夢、下がって」
歩夢「ポ、ポケモンじゃないかな……?」
リナ『うぅん、あそこにいるのは、ポケモンじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはポケモン図鑑だ。リナちゃんがポケモンじゃないと言うなら、間違いなくポケモンではない。
歩夢を背に庇うようにしながら、近くで眠っているエマさんの肩を揺する。
侑「エマさん、起きてください」
エマ「……んぅ……? ……どうしたの……?」
眠そうに目をこすりながら、身を起こすエマさん。
侑「何かが……います」
エマ「え……?」
私の言葉を聞くと、すぐにエマさんも音の源の方に視線を送る。
──ガサ……ガサ……。未だに鳴り続けている、茂みの音を聞いて、
エマ「ポケモンさん……じゃないね」
そう言いながら、腰のボールに手を伸ばしたのがわかった。
どうやらエマさんには、音を聞けばポケモンの出している物音ではないことがわかるらしい。
エマ「出てきて、パルスワン」
「──ワンッ」
エマさんが、ボールから犬ポケモンを繰り出す。
エマ「この子は普段、牧羊犬のお仕事をしている子で、外敵が近付いてくるのに敏感なんだよ。パルスワン、茂みの向こう……Vai!」
「ワンッ!!!」
エマさんの指示と共に、パルスワンが茂みの方に向かって走り出した──と思ったら、
「…クゥーン」
パルスワンは茂みの手前で、足を止めてしまった。
エマ「あ、あれ……?」
侑「止まった……?」
歩夢「……パルスワン、尻尾振ってる」
歩夢に言われて、パルスワンの尻尾を見てみると──確かにふりふりと振りながらお座りをしていた。
侑「……どういうこと……?」
私がその様子に首を傾げていると、
エマ「パルスワンが警戒を解いたちゃった……? ……あっ! もしかして……!」
エマさんが、何か思い当たる節があったのか、先ほどの茂みの方に向かって突然駆け出した。
侑「え、エマさん!?」
エマ「もしかして、そこにいるの……! 果林ちゃん!?」
エマさんがそう呼びかけると──
「──……もしかして……エマ……?」
人の声が返ってきた。
そして、その声と共に茂みの奥から、ガサガサと長身のお姉さんが姿を現した。
エマ「やっぱり……!」
果林「エマぁ……助けてぇ……さっきから、ずっとコメコシティに向かっているはずなのに、同じところに辿り着いちゃうの……」
エマ「もう……なんで、“そらをとぶ”を使わずに森の中を歩いてきちゃうの……?」
果林「今日は大丈夫な気がしたのよ……」
どうやら、先ほどからの物音は、あの人が原因だったらしい。……というか、
侑「あの人って……もしかして……!」
歩夢「……う、うん」
侑「スーパーモデルの果林さん!?」
私が大きな声をあげると、
果林「……!?」
果林さんは一瞬ビクッとしたあと、こちらに視線を向けてくる。
エマ「果林ちゃん?」
果林「…………」
エマさんに泣きつくような姿勢だった果林さんは、急に背筋を伸ばし、
果林「……あ、あら、貴方たち、もしかして私のこと知っているの?」
動揺を隠しきれない様子のまま、綺麗な笑顔を作って微笑みかけてくる。
侑「え、あ、はい……」
リナ『全然、取り繕えてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あ、あはは……」
果林「………………っ……///」
リナちゃんの指摘に果林さんの顔がカァーっと赤くなるのがわかった。
果林「ち、ちょっと森林浴してただけよ!!///」
侑「は、はい……なんか、すみません」
果林「は、早く帰らないとね……!!」
そう言いながら、立ち去ろうとする果林さん。
エマ「か、果林ちゃん! そっちはホシゾラシティ方向だよ!」
果林「…………」
そしてすぐに立ち止まる。
侑「もしかして……」
歩夢「方向音痴……?」
果林「…………っ……///」
果林さんは耳まで赤くして、ぷるぷる震えている。
──果林さんと言えば、テレビでもよく見る有名なモデルさんだ。
もちろん、私や歩夢も何度も目にしたことのある有名人。
せつ菜ちゃんのように、旅をしていたら、テレビの向こう側にいる人と会えたりするんじゃないかとワクワクしていたんだけど……まさか、こんな形で遭遇することになるとは思ってもみなかった。
現在進行形で道に迷っているところを私たちに見られて堪えているところに、追い打ちを掛けるように──くぅ~……と可愛らしい音が鳴る。
たぶん、果林さんのお腹が鳴る音だ。
エマ「果林ちゃん、結構迷ってたのかな? お腹空いたんだね? もう暗くなっちゃうし、早くコメコに帰ろう?」
果林「………………っ……///」
果林さんはもはや何も言い返さず、無言でエマさんの言葉に頷くだけだった。
気付けば、森の木々の隙間から見える空は夕闇が迫り始めていた。
エマ「わたしたちは、このままコメコに帰るけど……二人はどうする?」
侑「私たちも一旦帰ろうか」
歩夢「うん」
コメコシティにはまだ用事があるし、このまま帰った方がいいと思ったんだけど、
侑「……あ」
歩夢「? どうしたの?」
侑「今日の宿……まだ探してなかった」
歩夢「……あ」
昨日はポケモンセンターに泊めてもらっていたから、うっかりしていた。
今からコメコに戻って宿を探さないといけない。
もちろん、もう一泊ポケモンセンターに泊めてもらうというのも手だけど……あそこは泊めてもらえるというだけで、宿泊施設というわけではない。
昨日の私たちのような怪我人や病人が休めるように、出来るだけ自分たちで宿を見つけて、部屋を埋めない方が望ましい。
侑「リナちゃん、コメコの宿って……」
リナ『……コメコ自体旅人が泊まれる宿が少ない。もうこの時間だと部屋が埋まってる可能性が高いかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「だよね……」
お昼に町中を歩いているときから、そんな気はしていた。
あるにはあるんだろうけど……もし、部屋が埋まっていたら……。
歩夢「……どうしよっか」
侑「うーん……」
とはいえ、出来れば野宿も避けたい。
宿が空いていることに賭けて、コメコに戻るべきかな……。
私が唸っていると、
エマ「あ、そうだ! 宿を探してるなら、この先にある森のロッジに行ったらいいんじゃないかな?」
と、エマさんが提案してくれる。
歩夢「この先にあるんですか?」
エマ「うん! 旅人さんが自由に使えるロッジだよ!」
侑「ホントですか!? リナちゃん、場所わかる?」
リナ『もうすでに検索中……。……確かにロッジ、すぐ近くにあるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「助かったぁ……じゃあ、今日はそこに泊まらせてもらおう」
エマ「あ、ただ……今は長期で使ってるトレーナーさんがいるから、その人たちと一緒に泊まることになっちゃうと思うけど……」
侑「それくらいなら、全然問題ないです! いいよね、歩夢?」
歩夢「うん、もちろん」
むしろ、トレーナーの人と一緒に泊まって、あわよくば話が出来たら、ジム戦前にいい刺激になるかもしれないし……!
侑「それじゃ、私たちはそのロッジを目指します!」
エマ「うん、わかった♪ すぐに暗くなっちゃうと思うから気を付けてね」
侑「はい! いろいろ、ありがとうございました!」
歩夢「ありがとうございました、エマさん」
歩夢ともども、エマさんに頭を下げる。
エマ「どういたしまして♪ 今度はメェークルの乳搾りもやろうね♪」
侑「はい! 是非お願いします!」
エマ「それじゃ、果林ちゃん行こっか」
果林「…………ええ」
エマさんと果林さんがコメコの方へと向かう背中を見送る。
侑「歩夢、私たちも」
歩夢「うん」
侑「イーブイ、行くよ」
「…ブイ…?」
イーブイが眠っていたはずの、岩の上を見やると──
侑「……?」
確かにイーブイは岩の上にいたんだけど……。
侑「……この岩、こんなだったっけ……?」
イーブイの周囲には豆の木を連想させるような木がにょろにょろと生えていて、さらにその周囲に何個か大きめのタネのようなものが落ちている。
歩夢「これ……もしかして、“やどりぎのタネ”……?」
侑「え?」
歩夢「家のいたハネッコの“やどりぎのタネ”に似てる……ハネッコが使ってたのより、ずっと大きいけど」
「ブイ…?」
イーブイが首を傾げながら、ピョンと岩から飛び降りると、その拍子に──コロコロとイーブイの尻尾から、岩の上に落ちていたものと同じタネが飛び出してきた。
侑「え!?」
「ブイ…?」
歩夢「このタネ……イーブイから、出てきた……?」
侑「でも、イーブイが“やどりぎのタネ”を覚えるなんて聞いたことないし……。野生のポケモンにこっそり植え付けられてたとか……?」
リナ『うぅん、今イーブイは“やどりぎのタネ”状態になってないよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「えっと……それじゃ、これは……」
「ブイ?」
本来イーブイが覚えるはずのない、新しいくさタイプの技……。
侑「もしかして新しい、“相棒わざ”……?」
リナ『この自然の中で、イーブイがくさエネルギーに適応したみたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「寝てただけなのに……」
リナ『でもこの岩、すごく純度の高いくさエネルギーを検知出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「なるほど……」
確かに、近くにいるだけで私も歩夢もエマさんも、すごくリラックス出来たわけだし……イーブイも同様に自然のエネルギーをたくさんもらえた、ということなのかもしれない。
リナ『データを参照するに、この“相棒わざ”の名前は“すくすくボンバー”。大きな“やどりぎのタネ”を相手にぶつけて攻撃することが出来るみたいだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そ、そっか……何はともあれ、新しい技だよ! イーブイ!」
「ブイ…?」
完全に寝耳に水──というか、寝耳に種? なせいで、リアクションに困るけど、新しい技が増えたのは純粋にめでたいことだ。
肝心のイーブイも本当に寝ていたら習得していたようで、自覚らしい自覚もないみたいだけど……。
リナ『……とりあえず、そろそろロッジを目指した方がいい。本格的に、日が落ちてからだと移動が大変になる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……っと、そうだった」
道がしっかりしているとはいえ、ここは森の中だった。
夜になったら、足元も見えづらくなって危ないだろう。
私たちはロッジへの道を急ぐことにした。
🎹 🎹 🎹
リナちゃんの案内に従いながら森の中を進み、件のロッジに辿り着いたのはもうすっかり日も暮れた頃だった。
歩夢「あ、侑ちゃん! あれじゃないかな?」
侑「ホントだ! ライボルト、もう“フラッシュ”やめても大丈夫だよ。ありがとう」
「ライボ…」
暗がりを照らしてくれていたライボルトをボールに戻し、窓から明かりの漏れるロッジに歩を進める。
確かにエマさんの言うとおり、すでに先客がいることを示す灯りだ。
私がノックをしようと、手を上げたそのときだった。
「──いってきま~す!!」
元気な声とともに、扉が勢いよく開かれたのだ。
侑「うわっとと……!!」
飛び退くようにして、開く扉を回避する。
「わっ!? ご、ごめんね! 人がいるなんて思わなくって……!!」
侑「い、いえ、だいじょ、う……ぶ……?」
目の前で慌て気味に謝罪をする人の顔を見て、私は固まってしまった。
歩夢「……え……!?」
同じように歩夢も目を丸くしているであろうことがわかる、驚きの声が聞こえてくる。
「あ、あの……大丈夫? やっぱり、怪我させちゃったかな……?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくるけど……でも、私は固まったまま動けなかった。
何故なら──目の前にいた人は、
千歌「……ど、どうしよう……全然反応がない……。とりあえず、中に入る……?」
オトノキ地方・現チャンピオン──千歌さんその人だったからだ。
🎹 🎹 🎹
千歌「彼方さ~ん! 遥ちゃ~ん! ちょっと来て~!」
「な~に~?」
「千歌さん……? どうかしたんですか?」
ロッジの中に呼びかける千歌さんを見ながら、私は完全に呆けてしまっていた。
なんで? なんで、こんなところに千歌さんが? 千歌さんってチャンピオンだよね? ウテナシティのポケモンリーグにいるはずだよね? なんでコメコの森にいるの??
ぐるぐると思考だけが空回りしている中、
歩夢「侑ちゃん、とりあえず、中に入ろう……?」
侑「……あ……うん」
私よりはまだ冷静だった歩夢が私の手を引く。
ロッジは木製の二階建てで、なかなかに立派な作りの建物だった。
これだと人が4~5人いても有り余るくらいだから、泊まらせてもらうのには何一つ不便がなさそうだけど……。
ぼんやり室内を見回していると、二階に通じる階段から人が二人ほど降りてきた。
侑「……あれ?」
「およ?」
そのうちの一人はどこかで見覚えのある人だった。
歩夢「あ……セキレイでゴルバットの居場所を教えてくれた……」
彼方「すご~い、こんなところで会うなんて~。彼方ちゃんびっくりだよ~」
遥「お姉ちゃんの知り合い?」
彼方「えっとね~、この間セキレイシティにいたときにポケモンを探してたから、目撃情報を教えてあげた子たちなんだよ~。ポケモンたちは無事に見つけられた~?」
侑「は、はい! お陰様でみんな見つけられました!」
彼方「それはよかったよ~。……っと、自己紹介がまだだったね~。わたしは彼方って言いま~す。この超絶可愛い子はわたしの妹の遥ちゃん!」
遥「お、お姉ちゃん……。えっと、遥です。よろしくお願いします」
侑「あ、私は侑って言います!」
歩夢「歩夢です」
リナ『リナって言います』 || > ◡ < ||
彼方「お~! 最近の若い子はハイテクなものを持ってるんだね~」
まさかこんなところで、再会するなんて……彼方さんの言うとおりびっくりだ。
いや、それはいいんだけど……。
千歌「えっと……それで、その、大丈夫かな?」
侑「あ、えっと……は、はい……。……あの」
千歌「ん?」
侑「ち……千歌さん……ですよね……?」
千歌「あ、もしかして私のこと知ってるの?」
侑「あ、当たり前じゃないですか!? チャンピオンですよ!?」
私がもはや叫びに近いような声をあげると、
「──あはは、千歌ちゃんは有名人だもんね~」
部屋の奥の方から、さらにもう一人……。
今日は驚きの出会いがとにかく多くて、正直頭が追い付かなさそうなんだけど……さすがにもう誰が来ても驚かない自信がある。
千歌「う~ん……まあ、有名なの自体は悪い気はしないかなぁ?」
彼方「穂乃果ちゃんは有名じゃないの~?」
穂乃果「え、うーん……私は千歌ちゃんほど表に露出しなかったからなぁ」
どうやら、この人は穂乃果さんと言うらしい。……表に露出しなかったってなんのことだろう?
一方で、
リナ『……とんでもない人がいる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんが驚いていた。
歩夢「とんでもない人……?」
リナ『この人……穂乃果さんはオトノキ地方の歴代チャンピオンの一人……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「……はい?」
……歴代チャンピオン?
穂乃果「わっ! 私のことも知ってるの?」
リナ『データベースの情報だけだけど……。公式戦無敗のオトノキ地方歴代最強のチャンピオンらしい……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
穂乃果「えへへ~歴代最強だなんて、照れちゃうな~」
千歌「そーなんだよー! 穂乃果さんには結局一度も勝ててないままなんだよね……」
──私は再び空いた口がふさがらない状態になっていた。
……え、何この空間?
セキレイシティで会ったお姉さん──彼方さんと偶然再会。その妹の遥さんと……オトノキ地方現チャンピオンの千歌さん。そして、歴代最強のチャンピオンの穂乃果さん……?
普段だったら感動のあまり、今まで見た試合の感想を捲し立てていそうなものなのに、あまりの展開にもはや呆けるしか出来なくなってしまっている。
遥「……そういえば、千歌さん。ウテナに行くんじゃ……」
穂乃果「歓送迎会って言ってたよね? 早く行かないと遅刻しちゃわない?」
千歌「……あ! そ、そうだった! 遅刻したら、ダブルでお説教されちゃう……!!」
彼方「ボールベルト忘れてないー?」
千歌「うん! 今日も着けっぱなし! それじゃ、行ってきます! 穂乃果さん、あとお願いします!」
穂乃果「了解~。任せて~!」
千歌「侑ちゃん! さっきはぶつかりそうになってごめんね!」
侑「あ、いえ……」
思い出したかのように、慌ただしくロッジを飛び出していく千歌さん。
……玄関で鉢合わせたということは、千歌さんは出掛けようとしていたんだから、そりゃそうだよね。
彼方「そういえば、侑ちゃんたちはどうしてここに来たの~?」
言われてみれば、本題がまだだった。
侑「えっと……今日の宿を探していて、ここに来れば泊めてもらえるって聞いたので……」
彼方「あ~なるほど~」
歩夢「あの突然でご迷惑じゃないでしょうか……?」
遥「迷惑なんてとんでもないです! 本来、旅人が自由に使えるロッジをこうして長期で貸していただいているのは私たちの方なので……お気になさらずくつろいでください」
どうやら、腰を落ち着けることは出来そうだ。
……いや、でも、このままじゃ別の意味で落ち着かない。
侑「あ、あのー……」
彼方「ん~なにかな~?」
侑「その……彼方さんたちはどういう理由でここに滞在しているんですか……?」
事細かに訊きたいことはいろいろあるんだけど……とりあえず、どういう理由でチャンピオンたちがここに集まっているのかが気になってしょうがない。
だけど、その問いに対しては、
穂乃果「残念だけど、それは機密事項で話せないんだ~。ごめんね?」
と煙に巻かれてしまった。
侑「あ、い、いえ……! だ、大丈夫です……! す、すみません、こちらこそ急に変なこと聞いちゃって……!」
穂乃果「うぅん。確かにいろいろ気になっちゃうよね~」
考えてみれば歴代チャンピオンが一つの場所に二人もいるなんて、それこそ普通じゃないし……。
何か人に言えない重要な理由がある……んだと思う。とりあえず、それで納得しておこう。
彼方「とりあえず、みんなお腹空いてない~? そろそろご飯を作ろうと思うんだけど~」
歩夢「あ、それなら私、手伝います!」
侑「私も!」
「ブイ!!」
彼方「ありがと~。そっちのイーブイちゃんにもおいしいご飯作るからね~。今日はいつも以上に賑やかなご飯になりそうだね~」
穂乃果「ふふ、そうだね♪ それじゃ、私はご飯を作ってる間に、周囲の見回りしてくるね」
遥「すいません、いつも……。よろしくお願いします」
穂乃果「任せて♪ いってきま~す」
彼方「いってらっしゃ~い」
見回りってなんだろう……?
彼方「は~い、それじゃみんなで美味しい夕食を作ろうね~」
侑「あ、はーい!」
……まあ、この状況、気になること全てを聞いていたら、時間がいくらあっても足りない気がするし……。
とりあえず、目の前のことから片付けていこうかな……。
どうにか頭を切り替えながら、彼方さんを手伝うために、ロッジのキッチンに向かうのであった。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコの森】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回●__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.25 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:55匹 捕まえた数:3匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.15 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission👠
果林「──ごちそうさま」
エマ「おそまつさまでしたー♪」
エマの作ってくれる料理は、美味しいから好き。
……ただ、少しカロリー高めなメニューが多いのは玉に瑕だけど。
また明日からカロリー調整、意識しないとね……。
「チャム」「ヤンチャー」
エマ「あれ? ヤンチャムちゃんたち、まだ足りないかな?」
果林「こーら。貴方たち、自分の分はさっきちゃんと食べたでしょ?」
「チャム」「チャムチャー」
果林「全く……」
我儘なんだから……。特にこの2匹は食いしん坊で困っちゃうわ……。まあ、そんなところも可愛いのだけど。
エマ「果林ちゃんのお家は可愛いヤンチャムちゃんがたくさんいて楽しいね~♪」
朗らかに笑いながら、部屋の中を見回すエマ。
確かに、この家には5匹もヤンチャムがいるから賑やかではある。
果林「……あんまり、外でこのこと言わないでね?」
エマ「えー? 気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ……」
果林「私にもイメージってものがあるの。あのスーパーモデルの果林が普段はヤンチャムに囲まれてるなんて、イメージと全然違うじゃない」
エマ「そういう果林ちゃんも可愛くて私は良いと思うよ?」
果林「……/// そ、そういうのはエマの前だけでいいってこと!」
エマ「そっかー。えへへ~」
全くこの子は……わかって言ってるんじゃないかしら?
エマ「さて……それじゃ、わたしはそろそろ帰るね」
果林「ええ。ご飯まで作ってくれて、助かったわ」
エマ「うぅん。果林ちゃん、なかなか帰って来ないから……いるときくらいはお世話させて♪ また来るね♪」
果林「ふふ、ありがとう。おやすみなさい」
エマ「うん、おやすみなさ~い♪」
ひらひらと手を振りながら、エマが家を後にする。
果林「…………」
エマが出て行ったドアを数秒見つめ──十分に人の気配がなくなったことを確認して、私は家の奥にある書斎へと足を運ぶ。
そのまま、書斎の奥の棚にある一冊の本を押し込むと──ゆっくりと本棚がスライドする。
棚がスライドしたその先には、カメラのレンズ。それを覗き込むように、目を近づける。
──ピッと小さな音で網膜センサーの認証音が鳴り。今度はパスコード入力用のテンキーが現れる。
パスコードを入力し、最後に指紋センサーで自分の指紋を認証させたら──エレベーターへの入り口がやっと開かれる。
果林「相変わらず厳重すぎるほど厳重ね……」
一人呟きながら、エレベーターに乗り込むと、私は地下へと運ばれる。
エレベーターが動きを止め、目的地の地下階へと降り立つと──
「ベベノー」
白と黄色のボディが特徴的な小さなポケモンがふよふよと自由気ままに漂っていた。
そして、そのさらに奥には、このポケモンの主、大きなモニターの前に座った子が、金髪のポニーテールを揺らしながら、こちらに振り返る。
愛「やー、カリン。重役出勤だね~」
果林「愛……。悪かったわ。ちょっとエマに捕まっちゃって」
愛「見てたよ~。いやいや、仲睦まじそうで愛さん嬉しいよ。昔のカリンのこと思い出すみたいで」
果林「茶化さないで。というか、見ないで欲しいんだけど」
愛「それはダメだって。エマっちを監視しないわけにいかないっしょ? カリンにあれだけ近い存在なんだから」
果林「…………」
愛「そんな顔しないでって、アタシがそれだけ真面目に仕事してるってことじゃん」
果林「……そうね」
愛「アタシ結構頑張ってたんだからね? まさかカリンが丸一日も遅刻するなんて思わないじゃん?」
果林「だから、悪かったって言ってるでしょ……」
愛「ま、カリンのことだから、カナちゃんの様子見に行ったついでに、森で道に迷ったとかそんな感じでしょ?」
果林「……ここにいたなら発信機で概ね見当が付いてるんでしょ……」
愛「あっはは♪ ま、そうなんだけどね~」
わざわざ、こんなことを言ってくるのは遅刻したことへの当てつけなのか、それとも……。
愛「んで、カナちゃんはどうだったの?」
果林「相変わらずよ。チャンピオン二人が脇を固めているから、近寄れないわ」
愛「だよね~。ま、今チカッチは離れてるっぽいけど」
果林「穂乃果ちゃんがいるなら、どっちにしろ厳しいわね……」
相手は元とはいえチャンピオンだ。二人いるときよりはマシとは言え、私一人で相手取るには少々厳しいものがある。特に穂乃果ちゃんは……。
愛「ま、それはそれとして……ことりの方はどうだったの?」
果林「……あえなく撃墜されたわ。やっぱり私が指示を出せない状態で襲撃してもダメね」
愛「ひゃー……やっぱ、さすがの強さだね。んで、撃墜された後どうしたの? 回収できたん?」
果林「ええ。このとおりよ」
私は腰からボールを取り出して愛に見せる。
愛「カリンが撃墜地点まで行って回収したの? それって足付かない?」
果林「回収は姫乃にしてもらったわ」
愛「その後、姫乃っちとどっかで合流した感じ? 周りに人いない場所でやった?」
果林「いいえ。むしろ、コンテストで優勝したあと、ファンに囲まれている中で受け取ったわ」
愛「……相変わらず無茶するねぇ」
果林「ああいうのは、こそこそしている方がバレるものよ。人の多い場所でやった方がむしろ目立たないわ」
愛「木を隠すなら森の中~人を隠すなら~ってやつ? ま、わからなくもないけどね~」
私の報告を聞き終わると、愛は再びモニターに向き直って、キーボードで情報を整理し始める。
その際に、辺りに携帯食料の袋がいくつも落ちているのが目に入る。
果林「……愛、もしかしてずっとここに居たの?」
愛「誰かさんが遅刻したからね~」
果林「それは悪かったって言っているでしょ? ……私の居場所に見当が付いていたなら、食料の調達くらい……」
愛「あっはは、ダメダメ♪ カリンはアタシの居場所は24時間どこに居てもわかるわけじゃん?」
そう言いながら、愛はこちらに振り返り、自分の首に付けられたチョーカーをわざとらしく弄って見せる。
愛「私はカリンにリードで繋がれてるんだからさ~。ここで大人しくご主人様の帰りを待ってないとね~」
果林「……当てつけみたいに言わないでくれる?」
愛「へいへい」
愛は肩を竦めながら、再びモニターに向き直ってしまう。
果林「……愛」
愛「んー?」
果林「……これでも私は、今でも“SUN”は貴方が相応しいと思ってるつもりよ」
愛「でも、上の人たちはそんなの許さないでしょ」
果林「……」
愛「別にいいって。“SUN”はカリンが、“MOON”は姫乃っちがって、ちゃんと役割決まってるんだからさ。アタシはサポートエンジニアでいいんだって」
果林「愛……」
愛「そんな心配する前に“STAR”の奪還の方が大事でしょ」
果林「……わかってるわよ」
私が口を閉じると、室内がカタカタという無機質なキーボードの音だけになる。
しばらく、その音だけが空間を支配していたが、
愛「……あ、そうだ」
ふと、思い出したかのように愛が口を開いた。
愛「ちょっと、面白い子見つけたんだよね~」
果林「……面白い子?」
愛「この子なんだけどさ」
そう言って、一枚のデータ端末ボードを投げ渡してくる。
目を通す──
果林「……あら……この子」
愛「お? もしかして、知ってる?」
果林「……知ってるってほどじゃないけど、さっき偶然すれ違ったわ」
愛「ふーん。その子ね、たぶん天才だよ」
果林「天才?」
愛「まだ、芽が出る前だけど……とんでもない逸材だと思うよ。いやー、わざわざ張ってた甲斐があったよ」
果林「……へぇ」
愛「是非、アタシたちの計画に欲しいくらいだよ」
果林「……詳しく教えてくれるかしら?」
愛「OK.OK. この子はね~」
モニターの明かりだけが照らす薄暗いこの部屋で──私たち、DiverDivaの情報共有は朝方まで続く……。
「ベベノーー」
………………
…………
……
👠
■Chapter014 『ホシゾラの暴れる蕾』 【SIDE Shizuku】
──フソウタウンでの夜が明けて……。私たちは今、
しずく「んー……潮風が気持ちいいね、メッソン」
「メソ…」
ホシゾラシティに向かう船に乗っているところだ。
フソウからは無事にホシゾラ行きの便に乗れたため、私は快適な船の旅を楽しんでいる。
でも一方で、かすみさんは、
かすみ「…………」
「…………」
甲板の隅にしゃがみ込んで、転がっている真っ白なサニーゴを見つめながら、黙り込んでいた。
しずく「もう……かすみさん、いつまでそうしてるつもり?」
かすみ「じっと念を送り続ければ、普通のサニーゴにならないかなって……」
「なるわけないロトー」
かすみ「夢くらい見させてよ!」
「…………」
しずく「あはは……」
まあ、騙されちゃったわけだし、ダメージを受けるのも仕方ないのかな……。
とはいえ、ずっと落胆しているのは気の毒だし、何よりサニーゴも可哀想だ。
しずく「かすみさん、ショックなのはわかるけど……でも、もうかすみさんはそのサニーゴの“おや”なんだから。いつまでもそんな顔してたら、サニーゴが可哀想だよ?」
かすみ「……わかってるよぅ」
「…………」
しずく「ほら、この子もよく見れば愛嬌がある顔してるような気もするし」
かすみ「……そうかな」
「…………」
かすみさんと二人でサニーゴの顔を覗き込む。
その瞳は、深淵を彷彿とさせるような闇が、奥に広がっている気がした。
ずっと、見ていたら魂を吸い込まれそうな……。
しずく「……っは」
「あんまりジーっと覗き込んでると呪われそうロト」
危うく意識が遠のきかけた。やはり、ゴーストタイプは伊達じゃないということだろうか。
かすみ「……決めた」
しずく「?」
かすみ「確かに本当に欲しかったのは普通のサニーゴだったけど……この子も、かすみんのところに来てくれた大切なポケモンだもん」
しずく「! そうそう、そうだよ! かすみさん!」
かすみ「だから、この子の魅力を磨きに磨いて、普通のサニーゴ以上にとびっっっっきり可愛くしてみせるんだから!」
「それは難しそうロトー」
しずく「ロトムは静かにしていてください」
「酷いロト」
せっかく、かすみさんがやる気を取り戻したところに、水を差さないで欲しい。
かすみ「自分のポケモンを魅力的に成長させるのも、ポケモンマスターになるには必要なことだもんね! これから、とびっきり可愛いサニーゴに育ててあげるからね!」
「…………」
当のサニーゴはかすみさんの言葉に、少しだけ身動ぎしたものの、相変わらず反応は乏しい物だった。
……いや、反応があっただけいいことなのかな?
かすみ「そして、ポケモンマスターへの第一歩のためにも! ホシゾラシティでジムを攻略しちゃいますよ!!」
「…………」
しずく「うん! その意気だよ! かすみさん!」
やっといつもの調子に戻ってきたかすみさんの姿に安心しながら、船は間もなくホシゾラシティに到着しようとしていた。
💧 💧 💧
──ホシゾラシティに到着して、私たちは真っ先にホシゾラジムに来ました。
かすみ「…………」
だけど、かすみさんの視線はジムのドアに貼られた一枚の張り紙に注がれる。
『ジムリーダー不在のため、ジム戦の受付を停止しています』
しずく「……あ、あの、かすみさん……」
かすみ「……かすみん、ポケモンジムから嫌われてるのかな……」
しずく「そ、そんなことないよ! 偶然! 偶然だよ!」
かすみ「じゃあ、偶然から嫌われてるんだ……」
しずく「う……え、えっと……。そうだ! このまま、ウチウラシティまで行こう! ウチウラシティにもジムはあるし、ここからそこまで遠くないから、きっとそこでならジム戦も出来るよ!」
かすみ「うぅ……ホント……?」
しずく「う、うん!」
さすがにウチウラジムまでジムリーダー不在なんてことはないと思う。……思いたい。
結局セキレイでもタイミングが合わずにジム戦を逃しているわけだし、さすがにこのままだと、かすみさんが不憫だ。
ホシゾラシティに着いたばかりだけど、とりあえず、ウチウラシティを目指す方向に舵を切ろうとすると、
「ウチウラシティ方面は良くないロト」
何故かロトムが割って入ってきた。
しずく「……? 良くないって、何がですか?」
「フウスイ的な何かが良くない気がするロト」
しずく「……なんですか、それ」
かすみ「ウチウラシティもダメなんだ……」
ロトムの話を真に受けてしまったのか、かすみさんはふらふらとした足取りで歩き出す。
しずく「か、かすみさん!? そっちはウチウラシティ方面じゃ……!」
かすみ「かすみん、ポケモンセンターでちょっとお休みさせてもらいます……運気を回復しないと……」
「お大事にロトー」
しずく「ちょっとロトム! かすみさんが、また落ち込んでしまったではないですか!?」
「仕方ないロト。あっちは不吉ロト」
……詰まるところ、ロトムは南のウチウラシティ方面には行きたくないらしい。
つまり……。
しずく「……ロトムにとって都合の悪いものが南方面にある……?」
「ギクッ」
しずく「……次の目的地は決まりましたね」
「しずくちゃん、そっちは危険ロト」
しずく「そうですか」
「しずくちゃん」
とりあえず、ロトムを無視しながら、かすみさんの後を追う。
どうにか説得して、ウチウラシティ方面に向かうとしよう。
それにしても、ロトムのこんなわかり切った嘘にまで引っかかってしまうなんて、かすみさんは相当ダメージを受けているようだ。
……まあ、確かに落ち込むことが続いていたし、仕方ないか。
どうやって、説得するかを考えながら歩いていると──
かすみ「ぎゃわーーーーーー!!!!!」
しずく「!?」
前方のかすみさんから、悲鳴があがった。
しずく「かすみさん!? どうしたの!?」
かすみ「な、なんか、花粉みたいなの……くしゅんっ!!」
しずく「花粉……!?」
駆け寄って、かすみさんの足元を見ると、
「…ボミー」
小さな蕾のようなポケモンが、頭部から花粉をぼふぼふとばらまいているところだった。
このポケモンは確か……。
しずく「スボミー……?」
『スボミー つぼみポケモン 高さ:0.2m 重さ:1.2kg
周りの 温度変化に 敏感。 暖かい 日差しを 浴びると
つぼみが 開き 激しい くしゃみと 鼻水を 引き起こす
花粉を ばら撒く。 きれいな 水の 近くが 住処。』
ロトムがスボミーの図鑑を開いて解説をしてくれる。
その最中もかすみさんは、
かすみ「くしゅんっ……!! くしゅん!!」
何度もくしゃみを繰り返している。
しずく「た、大変!」
スボミーの花粉を吸い込んでしまったのは見ればわかる。
スボミーは何故だか目の端を釣り上げて、激しく花粉をばらまきまくっている。
とりあえず、大人しくさせなきゃ……!!
しずく「メッソン!! “みずのはどう”!!」
「…メッソ」
肩の上で透明になっていたメッソンがスゥッと姿を現して、みずエネルギーの波動をスボミーにぶつける。