侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 (1000)

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会SS

千歌「ポケットモンスターAqours!」
千歌「ポケットモンスターAqours!」 Part2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1557550388/)

の続編です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1667055830

......prrrr

......prrrrrr

pi!!


 『……聞こえるかしら? 選ばれし子供たち』

 『──ふふ、良い返事だわ』

 『ごきげんよう、可愛い可愛いリトルデーモンたち。いよいよ、明日が旅立ちの日ね』

 『改めて、私は堕天使ヨハネ。ここセキレイシティのツシマ研究所にて、博士をやっているわ。ヨハネ博士とでも呼んで頂戴。……と言っても、貴方たちとは既に何度も顔を合わせているし、今更名乗る必要もないかもしれないけど……──え? 善子? ……善子言うな!!』

善子『コホン……。こういうのは儀式みたいなもんなのよ。大人しく聴いてなさい』

善子『この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが、草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、私たちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする』

善子『私はここオトノキ地方で、そんなポケモンと人との関わり合いの文化を研究しているわ。そして、今回貴方たちにはその研究の一環として、ポケモンたちと一緒に冒険の旅に出て欲しいと思っている』
 『ムマァ~ジ♪』

善子『って、うわぁ!? や、やめなさい、ムウマージ!! 今大切な話ししてるところだから!? 後で遊んであげるから、あっちいってなさい!!』

善子『はぁ……元気が有り余り過ぎてて困るわね……。……さて、最後に貴方たちの名前を改めて教えてくれるかしら? え? もう知ってるだろって? これも儀式みたいなものなのよ、いいから名乗りなさい』


…………


善子『……歩夢、かすみ、しずくね。ふふ、やっぱり私が選んだだけあって、みんな良い名前だわ』

善子『それじゃ3人とも。私は研究所で待ってるから。また明日──』


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
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  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
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  ||. /              o回/         ||
 口==================口






    ❓    ❓    ❓





──ローズシティ。ニシキノ総合病院のとある一室。


聖良「…………」


綺麗な顔をしたまま、ベッドの上で何年も眠り続けている彼女の顔を見る。

──ピ……ピ……ピ……と、無機質なバイタルサインの音と、呼吸とともに僅かに上下する胸の動きで、まだ生きていることはわかった。

この地方を大きく揺るがすこととなった、グレイブ団事変から、すでに3年が経過しようとしている。

そのグレイブ団のボスも……勇敢なトレーナーたちに阻まれ、敗北し、その代償として今もなお眠り続けている。

こうしてわざわざ彼女の病室に忍び込んだのは……彼女への贖罪のつもりなのだろうか。それとも、同じ轍を踏まないための自分への戒めか。

我ながら、鬼にでも悪魔にでもなる心づもりだったのに、夢を語り、野望を胸に、戦っている人間を利用するのは……いや、利用したのは──胸が痛む。

それでも──選んだから。彼女がそうしたように、自分の目的のために、何かを犠牲にしてでも──取り戻したいものがあるから。


 「…………」


最後に彼女の顔を一瞥して、病室を後にする。

もう迷うつもりはない。きっと……最後の迷いを断ち切るために、ここに来たのだ。

だから、迷わずに、進む。

何を犠牲にしてでも──取り戻すと、決めたのだから。




■Chapter001 『新たなる旅のはじまり』





実況『──ポケモンリーグ決勝戦!! この一戦でオトノキ地方の頂点のトレーナーが決定します!!』


大歓声の中、トレーナーがマントをたなびかせながら、ボールを携えてフィールドに現れる。


実況『先に現れましたのは、皆さんご存じオトノキ地方現チャンピオン!! 今リーグもほとんどの試合をほぼ1匹で勝ち抜いてきた無敵のポケモントレーナー!! チャンピオン・千歌!!!』


千歌さんの姿を認めると、盛り上がっていた会場の歓声は、さらに大きくなり会場を震わせる。


実況『そして、そんなチャンピオンに立ち向かうチャレンジャーは……!! なんと、今大会初出場!! 新進気鋭の超新星──せつ菜選手!!!!』


実況の紹介の中、堂々とした立ち振る舞いでバトルコートについたせつ菜ちゃんが天に向かって拳を突き上げると、またしても大きな歓声が会場を包み込む。


実況『なんと、こちらのせつ菜選手、6匹で戦うフルバトルルールにも関わらず、使用ポケモンは5体!! ですが、その圧倒的な実力でここまで全てのバトルを制してきました!!!』


両者がバトルフィールドにつき、ボールを構える。


実況『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後!! 決勝戦は実況の私に加え、元四天王で現在は故郷のダリアシティにてジムリーダーを勤めております、にこさんに解説をお願いしています!!』

にこ『みんな~おまたせ~♪ 大銀河No.1アイドルトレーナーのにこだよ~♪ よろしくお願いしまぁ~す♪』

実況『よろしくお願いします!! それでは、お待たせしました!! ただいまより、ポケモンリーグ決勝戦を開始いたします!!』


千歌さんとせつ菜ちゃんが同時にボールを構える。そして、審判の合図と共に──ボールが宙を舞った。


実況『バトル!!!!スタァーーーート!!!!!』


──ワアアアアアアア!!!と割れんばかりの歓声と共にバトルが始まり、両者のポケモンがフィールド上に現れる。


せつ菜『スターミー!!! 速攻で行きますよ!!』
 『フゥッ!!!!』

実況『スターミー飛び出した!!』

にこ『せつ菜ちゃんは先発のスターミーで速攻を決めることが多いにこ~♪』


回転しながら、猛スピードで突進するスターミー、だけど、


千歌『ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!!』
 『コァー』

 『フゥッ!?』
せつ菜『スターミー!?』


真正面から突っ込んでくるスターミーを、持っている丸太でいとも簡単に叩き落とす。


実況『ネッコアラ、いとも簡単に猛スピードのスターミーを叩き落としたぞォ!? ネッコアラ本来の緩慢な動きが嘘のようだァ!!?』

にこ『千歌ちゃんはとにかく攻撃の精度が高いのが有名にこね~♪』

実況『ここまでもあの正確無比な一撃で多くのトレーナーを打ち破ってきました!! 決勝戦でも、やはり無敵のチャンピオンは無敵だった!! スターミー開始早々あえなく──』

にこ『……いえ、まだよ』

実況『え?』


実況の間の抜けた声と共に、スターミーに目をやると──スターミーがネッコアラの丸太の下で、光り輝いていた。


せつ菜『スターミー!!! “メテオビーム”!!!』
 『フゥゥッ!!!!!』

千歌『!?』


そのまま、スターミーは至近距離から極太のビームをネッコアラに直撃させた。


千歌『ネッコアラ!?』


超威力のビームを至近で受けたネッコアラは吹っ飛ばされて、フィールドにドスンと落ちたあと──


 『コァァ…』


戦闘不能になってしまった。

一瞬の静寂のあと──会場が一気に湧き上がる。


実況『な、な、なんということでしょう!!!! 数々のトレーナーたちを圧倒してきた、チャンピオンのネッコアラを、せつ菜選手のスターミーが打ち破りました!!! とんでもない番狂わせだァァァ!?』

にこ『……最初の突進はブラフで、せつ菜のスターミーが使っていたのは“コスモパワー”。最初から攻撃を受ける気で、懐に潜り込んだところに“メテオビーム”を叩きこむ作戦だったのね』

実況『ですが、“メテオビーム”はチャージが必要な技のはずですよね? その予兆は特になかったように思いますが……』

にこ『持ち物よ。“パワフルハーブ”を使った奇襲。せつ菜、あの子なかなかやるわね……』

実況『あの、にこさん、最初と口調が変わっていますが……』

にこ『っは……! な、なんのことにこ~? 千歌ちゃんも、せつ菜ちゃんも頑張れにこ~♪』

実況『にこさんも思わずキャラを忘れてしまうほどの熱戦ということですね!!』

にこ『キャラとか言わないでよ!!』


千歌『うーん、そっかぁ……やられちゃったな。でも、次はそうはいかないよ──ルカリオ!!』
 『グォ…!!』


今度はボールから出て来たルカリオが、スターミーに向かって飛び出して──


 「──もう、侑ちゃん!!」


興奮しながら、画面に食い入る私を現実に引き戻したのは──世界一聞き慣れた幼馴染の声だった。


侑「歩夢……今、良いところなんだけど……」

歩夢「知ってるよ。もう、そのビデオ、何度も一緒に観たもん」

侑「なら、もうちょっと、もうちょっとだけ……!!」

歩夢「もうちょっとって……このバトル、最後まで観てたら1時間くらい掛かっちゃうよ」

侑「そう! そうなんだよ! このバトルは1時間も続くポケモンリーグ史に残る名勝負なんだよね!! せつ菜ちゃんの手持ちはたった5匹しかいないのに、お互い激しい攻防と目まぐるしいポケモンチェンジで目が離せない試合の中、千歌さんの6匹目まで引きずりだして!!! でも、最後は結局千歌さんが2匹残して勝利……やっぱり、チャンピオンは最強だったってなるけど……でも、私はせつ菜ちゃんのチャンピオンの前でも臆さない、堂々とした戦い方がかっこよくて、すっごくときめいちゃって!!」

歩夢「もう何度も聞いたよ……それより、博士との約束に遅れちゃうよ?」

侑「え? もうそんな時間?」


言われて時計に目をやると──確かに約束の時間が迫っていたことに気付いた。


侑「じ、準備しなきゃ!」

歩夢「もう……侑ちゃんったら」

侑「あ、歩夢ー!! 手伝ってー!!」

歩夢「ふふ、はーい♪ もう、しょうがないなぁ、侑ちゃんは」


ニコニコする歩夢を後目に、私は慌ただしく出掛ける準備を始めるのだった。




    😈    😈    😈





善子「さてと……あとは3人が来るのを待つだけね」


並んだ3つのモンスターボールと3色の図鑑を見ながら一息。

今日はやっと、新人トレーナーたちの旅立ちの日。


善子「私もついに、トレーナーを送り出せる日が来たのね……」


なんだか、感慨深い。……あの日、出来なかったことがやっと叶うのだ。


善子「…………」


脳裏に焼き付く苦い思い出を想起しながら、頭を振る。

今回は大丈夫。今日旅立つ3人は、入念に準備をして、セキレイシティのジムリーダーやポケモンスクールとも連携を取った上で慎重に選んだ3人だ。


善子「……」


わかっていても、なんだか落ち着かない。早く時間にならないかしら……。


善子「マリーも私たちを送り出すときはこんな感じだったのかしら……」


あの人、お気楽そうに見えて意外と繊細だしね。


善子「……外の空気でも吸いに行こ」


新鮮な空気を吸えば、少しは落ち着くかもしれない。そう思いながら席を立ったところに──


 「ムマァ~~ジ♪」


相棒のムウマージがどこからともなく現れた。


善子「でたわね、イタズラっこ。どうかしたの?」
 「ムマァ~♪」


何かと思ったら、ムウマージの傍には、私のポケギアが着信音を鳴らしながら、ふわふわ浮いていることに気付く。


善子「電話? 持ってきてくれたのね。ありがと」
 「ムマァ~ジ♪」


お礼交じりに撫でてあげると、ムウマージは気持ちよさそうに声をあげる。

ご機嫌なムウマージはさておき、ポケギアの画面を見ると──


善子「……マリー?」


どうやら、先ほど頭に思い浮かべていた人物からの連絡だった。

緊張していそうな私への……激励とか?


善子「……ないない」


数年前に勝手に飛び出してきてしまった研究所の主だ。

今でこそ、こうして独立出来たけど、当時から褒められるのはずら丸の方で、私は叱られてばかりだったもの。

……まあ、昔のことはおいといて。


善子「もしもし? マリー?」

鞠莉『チャオ~♪ 善子、今いい?』

善子「ヨハネよ。何か用?」

鞠莉『Presentは届いたかなと思って』

善子「プレゼント……あのグレーの図鑑みたいなやつ?」

鞠莉『そうそう、それそれ』


自分で新人トレーナー向けの図鑑やら、ポケモンやらを工面するのに必死で、あまり気に掛けていなかったけど、言われてみればマリーからグレーの図鑑が送られて来ていたことを思い出す。


鞠莉『ちゃんと届いていたならよかったわ♪ ヨハネのために、グレーカラーでボディを作っておいたから♪ 好きでしょ? あの色♪』

善子「今更、図鑑を送られて来ても……データでも集めろって?」


オハラ研究所にいたとき、随分とデータ集めにあちこち奔走させられたことを思い出す。


鞠莉『そういうわけじゃないけど……あの図鑑、最新機能搭載型で──』

善子「こっちはこっちで、もう独立してるの。今更世話焼いてくれなくても結構よ」

鞠莉『む……何よ、その言い方』

善子「私はもう自分で図鑑も工面出来るし、ポケモンの手配も出来るってこと! いつまでも、子供扱いしないで! 今日は新しいトレーナーの旅立ちの日なんだから……用事、それだけならもう切るわよ」

鞠莉『全く……相変わらず、可愛くないわね……』

善子「うるさい」

鞠莉『All right, all right. あの図鑑、使わないなら千歌にでも渡しておいて』

善子「はいはい、会う機会があったらね」


全く……せっかく、気分転換しようと思っていたのに、却って気疲れしちゃったじゃない……。

口うるさい古巣の師からの連絡に眉を顰めながら、通話を切ろうとする。


鞠莉『善子』

善子「……だから、何よ」

鞠莉『頑張りなさい』

善子「……」

鞠莉『あなたはわたしのこと、あまり好きじゃないかもしれないけど……わたしはあなたのこと認めているし、応援もしているから。頑張って。それじゃあね、See you♪』


──ツーツー。ポケギアの向こうで通話が切れた音だけが流れる。


善子「……はぁ」


私は白衣にポケギアを突っ込んで溜め息を吐いた。


善子「……別にマリーのこと、好きじゃないとか……言った覚えないんだけど」


予想外な言葉のせいで、気持ちのやり場に困って視線を彷徨わせていると──


 「ムマァ~ジ♪」


ムウマージがニヤニヤしながら、私のことを見つめていた。


善子「な、何よ……」
 「ムマァ~♪」

善子「ご主人様のこと、からかうんじゃないわよ! おやつ抜きにするわよ!」
 「ムマァ~ジ♪」


顔を顰めながら怒ると、ムウマージはご機嫌なまま、研究所内の壁に消えていった。


善子「全く……」


今日何度目かわからない溜め息を吐くと共に──


善子「……ん?」


先ほどまで自分がいた、新人用のモンスターボールと図鑑の前に、見覚えのある後ろ姿があることに気付く。

特徴的なアシンメトリーカットのショートボブの女の子。名前は──


善子「かすみ?」

かすみ「ぴゃぅ!?」


名前を呼ぶと、かすみはビクッと飛び跳ねながら、こっちに振り返る。


かすみ「こ、こんにちは~、ヨハ子博士~……」

善子「…………」

かすみ「…………」


走る沈黙。


善子「まさか、貴方……」

かすみ「ち、違いますぅ!! かすみん、抜け駆けなんてしようとしてませんよぉ!」

善子「はぁ……」


もともとイタズラ好きな子だというのはわかっていたけど、困ったものね。


善子「事前に説明したと思うけど、ポケモンを選ぶのは3人揃ってからよ」

かすみ「わ、わかってますよ~。ちょっとした下見です!」

善子「なら、いいけど……」

かすみ「……って、あー!!! かすみん、忘れ物しちゃいました!! 取りに戻らないと!!」

善子「え、ちょっと……!」


言いながら、かすみは研究所を飛び出して行ってしまった。


善子「……慌ただしい子ね」


やれやれと嘆息気味に、かすみが凝視していたモンスターボールに目を向けると、しっかりボールは3つ残っている。

まあ、さすがに白昼堂々かすめ取って行ったりしないか。

肩を竦めながら、時計に目をやると──そろそろ、約束の時間が近付いてきていた。


善子「……というか、かすみ……今から家に帰って、時間に間に合うのかしら?」


なんだか、先が思いやられるなと思いながらも、私は新人トレーナーたちを待つ……。




    🎹    🎹    🎹





服を着替えて、バッグの中身を確認。忘れ物は……ない!


侑「よし!」


準備万端! 私が元気よく立ち上がると、


歩夢「あ、待って侑ちゃん。髪跳ねてるから」


言いながら歩夢が、跳ねた髪を直してくれる。


歩夢「……うん! もう大丈夫だよ!」

侑「ありがと、歩夢!」


今度こそ、出発だ!


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん」


歩夢は頷きながら、私の部屋のベランダにたたたっと走って行き、


歩夢「サスケ! おいで!」


隣の部屋──歩夢の部屋に向かって声を掛ける。すると、


 「シャー」


紫色のヘビポケモンがベランダの柵を伝って、そのまま歩夢の腕に巻き付くように登る。


侑「サスケ、おはよう」

 「シャボ」


私が声を掛けると、サスケは歩夢の肩まで登りながら、鎌首をもたげ、私に向かって鳴き声をあげる。


歩夢「ふふ♪ サスケもおはようって言ってるよ♪」
 「シャー」

侑「サスケ、連れてくんだね?」

歩夢「うん。サスケが一番仲良しだから、旅に行くなら一緒がいいなって思って♪」
 「シャー」

侑「サスケがいるなら頼もしいね! よろしくね、サスケ!」


サスケはまるでタオルを首に掛けるかのように、歩夢の両肩に細長い体を乗せて、大人しくなる。ここがサスケの定位置だ。

ちなみにこのサスケというのは、ヘビポケモンのアーボのニックネームだ。

私たちが小さい頃から、歩夢と一緒に住んでいる幼馴染ポケモンってところかな。


侑「それじゃ、今度こそ出発!」

歩夢「おばさんたちに何か言わなくていいの?」

侑「旅立ち前の挨拶は、朝のうちにちゃんと済ませたから大丈夫!」

歩夢「そっか」

侑「歩夢は一回、家に寄る?」

歩夢「うぅん、私も挨拶は済ませたから」

侑「そっか! じゃ、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢と一緒に玄関の扉を押し開ける──さぁ、私たちの冒険──トキメキの物語の始まりだ……!





    🎹    🎹    🎹





歩夢と二人、並んで研究所を目指す。


侑「そういえば、歩夢」

歩夢「ん? なぁに、侑ちゃん?」

侑「サスケはボールに入れないの?」


ボールっていうのは、モンスターボールのこと。

さすがにモンスターボールの詳しい説明はいらないよね? ポケモンを入れて携帯出来るカプセルのことです。


歩夢「あ、うん。出来れば外で伸び伸び過ごして欲しいから……ね、サスケ?」
 「シャー」

侑「でも、ずっと肩に乗せてたら、重かったりしない?」

歩夢「うぅん、むしろ毎年ポケモンセンターでの健康診断のとき、軽いのを心配されちゃうくらい……サスケはちょっと小さめなアーボだから」
 「シャー」

侑「へー……そうなんだ」


セキレイシティ近郊だと、アーボはほとんど生息していないから、小さいと言われてもあんまりピンと来ないけど……。


歩夢「この前測ったときは大きさが1.2mしかなかったんだよ。普通アーボは2m以上になるのに……。ご飯はちゃんとあげてるんだけどなぁ」

侑「うーん……比較対象がないと、ピンと来ないけど……案外歩夢の肩に乗れなくなるのが嫌だから、大きくならなかったりして」

歩夢「えー? そうなの? サスケ?」
 「シャー」


サスケは「シャー」と鳴きながら、歩夢の頬に頭をこすりつけている。


歩夢「あはは♪ くすぐったいよ、サスケ♪」
 「シャー」


サスケの言葉はわからないけど、きっと当たらずとも遠からずな気がする。

体の大きさが、そういうことで決まるのかはよくわからないけど……。


歩夢「でも、侑ちゃんの言うとおり、サスケが大きくなって私の肩に乗せられなくなっちゃったら、少し寂しいかも……」

侑「でしょ? だから、サスケはこのままでいいんだよ。ね、サスケ?」

 「シャー」
歩夢「ふふ、そうかもしれない♪」


二人でサスケを見ながら、くすくす笑っていると──


 「──侑せんぱーい! 歩夢さーん!」


後ろの方から名前を呼ばれる。この声は……。


侑「しずくちゃん?」


振り返ると、ロングヘア―と大きなリボンがトレンドマークの女の子が小走りでこっちに向かってくるところだった。


しずく「おはようございます。侑先輩、歩夢さん」

歩夢「おはよう、しずくちゃん」
 「シャー」

しずく「サスケさんも、おはようございます♪」

侑「しずくちゃんも研究所に行くところ?」

しずく「はい! 私もご一緒して、いいでしょうか?」

侑「もちろん!」


この子はしずくちゃん。歩夢と一緒に選ばれた、ポケモンを貰う3人のうちの1人。ポケモンスクールでは一個下の学年で、私と歩夢の後輩だ。


しずく「そういえば、お二人ともかすみさんを見かけたりはしていませんか?」

侑「かすみちゃん? うぅん、見てないけど……」

歩夢「私たちもさっき家を出たところだから……」


かすみちゃんというのは、最初にポケモンを貰うことになった3人の内の最後の1人のことだけど……。しずくちゃんとは同級生で、かすみちゃんも私たちの後輩に当たる子だ。


しずく「そうですか……さっきから、ポケギアを鳴らしても全然反応がなくて……。寝坊とかしていなければいいんですけど……」

歩夢「きっと大丈夫だよ。かすみちゃんも今日の旅立ちすっごく楽しみにしていたし」

侑「案外、楽しみ過ぎてすでに到着してたりしてね」

しずく「それなら、いいんですが……」


しずくちゃんは、かすみちゃんと仲良しだからなぁ。私も歩夢と連絡が取れなくなったら、少し心配になるし、気持ちはちょっとわかる気がする。


しずく「そういえば、侑先輩」

侑「ん?」

しずく「結局、歩夢さんと一緒に行くことにされたんですね」

侑「ああ、うん」


私はしずくちゃんの言葉に頷く。

──本日ポケモンを貰うのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんの3人であって、実は私は関係ない。

じゃあ、なんでそんな私も一緒に研究所に向かっているのかというと……。


侑「私が一緒に旅をしたいっていうのもあったんだけど……歩夢のお母さんにお願いされちゃってさ。『侑ちゃん、歩夢のことよろしくね』って」

歩夢「私も一人だと心細いから、一緒にお願いしちゃったんだ、えへへ……」

しずく「確かにいきなり一人旅は不安がありますよね……そういう不安も込みで旅の醍醐味なのかもしれませんが……」

歩夢「それでも、いきなり一人で旅に行ってこいって言われたら、私どうすればいいかわからなくなっちゃうよ……」
 「シャー!!」

歩夢「あ、ごめんね。サスケがいてくれるから一人ではないけど……」

侑「逆に言うなら、私は歩夢と違って、サスケみたいな子もいないから、むしろ私が歩夢に守ってもらうみたいになっちゃうかも……」


我が家にはポケモンがいなくて、お父さんお母さんと三人家族。

逆にお隣の歩夢は、お家にたくさんポケモンがいる。サスケはそのうちの1匹というわけだ。

私と歩夢の家は、昔から家族ぐるみの付き合いだったから、生活の中にポケモンがいないという感覚はなかったし、ポケモンに慣れていないみたいなことはないんだけど……。

とはいえ、旅に出るなら近場で1匹くらいは、捕まえてから街を出た方がいいかもしれない。


侑「そういえば二人とも、貰うポケモンはもう決めた? 確か、事前に教えてもらってるんだよね?」

しずく「はい。私はみずとかげポケモンのメッソンを選ぼうと思っています」

歩夢「私は可愛いから、うさぎポケモンのヒバニーがいいかなって」

しずく「私と歩夢さんは、被っていませんが……かすみさんがどの子を選ぶか次第ですね」

歩夢「かすみちゃんも可愛い子が好きだから……被っちゃうかも」

しずく「確かにかすみさんは教えて頂いた3匹の中だと、ヒバニーが好きそうではありますね……」

侑「被っちゃったらどうするんだろう……? 話し合いかな?」

しずく「それか、トレーナーらしくバトルの実力で決めたりするのかもしれませんね……」

歩夢「バ、バトル!? いきなりは自信ないよぉ……」

侑「えー、歩夢のバトルしてるところ、私は見てみたいけどなぁ」

歩夢「もう! 侑ちゃんったら、他人事だと思って……」

侑「あはは、ごめんごめん」


ぷくーと可愛く膨れる歩夢に謝りながら──間もなく、目的地の研究所に到着しようとしているところだった。





    🎹    🎹    🎹





歩夢「ちょっと緊張してきたね……」

しずく「は、はい……」


研究所を前にして、歩夢としずくちゃんが少し身を強張らせる。そんな中、私は、


侑「はぁ~……ここがツシマ研究所……!」


思わず、研究所を見つめながら、うっとりしてしまう。


しずく「侑先輩? どうかしましたか?」


そんな私を見て、しずくちゃんが不思議そうに小首を傾げた。


歩夢「ふふ、入ったらすぐにわかると思うよ」

しずく「?」

侑「よし、行こう!」


意気揚々と研究所の入り口のドアを押し開ける。


歩夢「こんにちは~……」

しずく「し、失礼します……」


少し緊張気味な二人と共に、屋内へ足を踏み入れると──


善子「来たわね、リトルデーモンたち。ようこそ、ツシマ研究所へ」


入ってすぐ、待っていたヨハネ博士が出迎えてくれた。


歩夢「は、はい!」

しずく「ほ、本日はよろしくお願いします……!」

善子「こちらこそ。歩夢、しずく」


博士は歩夢としずくちゃんを順に見たあと、


善子「貴方は、確か……」


私に視線を向ける。


善子「侑、だったかしら?」

侑「! わ、私のこと知ってるんですか!?」

善子「ええ、ポケモンスクールの子たちは全員、顔と名前が一致するくらいには、知っているつもりよ」

侑「感激です!! ヨハネ博士に覚えてもらえているなんて!!」

善子「あら、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいわ」

侑「私、去年のヨハネさんの試合、会場で見てました!! 準決勝での千歌さんとの試合!! ネッコアラ1匹で勝ち進んでいた千歌さんに対して、あの大会中に初めて2匹目以降を出させたんですよね!! 特にアブソルが2匹連続で倒したときは私、ほんっとうにときめいちゃって!!」

善子「あーあの試合ね……確かに最初は調子よかったんだけど、結局最後は千歌のエースに圧倒されちゃったのよねぇ……」

侑「でも、すごかったです!!」


興奮気味にまくしたてる私を見て、


しずく「……なるほど、すぐにわかるというのはこういうことだったんですね」

歩夢「うん。侑ちゃん、ポケモントレーナーのことが大好きだから」


しずくちゃんは納得した様子。


善子「……褒められて悪い気はしないんだけど……侑、貴方はどうして研究所に?」

侑「歩夢の付き添いです! 今回、歩夢と一緒に旅に出ようと思っていて……」

歩夢「博士、一人旅じゃなくなっちゃうけど……いいですか?」

善子「もちろん構わないわ。どんな旅をするかは個人の自由よ。さすがに最初のポケモンはあげられないけど……」

歩夢「よかったぁ……一人で旅しなくちゃダメって言われたら、どうしようかと思ったよ……」

侑「よかったね、歩夢!」


博士からの許可も貰えて一安心したところで、私は改めて研究所内を見回す。

研究所内にはあちこちに水族館のような、大きなガラス張りの部屋の中に作られた飼育スペースがあり、その中にポケモンたちの姿が見える。


歩夢「見て、侑ちゃん! あっちのお部屋にいるの、ププリンだよ! 可愛い!」

しずく「あちらの森の環境を再現した部屋にいるのは、クルマユでしょうか? なんだかあの表情、見ているだけで癒されますね……」


二人も私同様、研究所内に興味を引かれている様子。研究所内なんて、なかなか見られる機会ないからね。私もこの機会によく見ておこう。


侑「こっちの雪の部屋にいるのは……見たことないポケモンだ」


私が見た部屋は雪原の環境を再現した部屋で、真っ白な丸っこい幼虫みたいなポケモンが数匹いるのがわかる。


善子「あれはユキハミよ。この地方では、グレイブマウンテンの北部側に極僅かに生息してるだけだからね。知らなくても無理ないわ」

しずく「主にガラル地方に生息しているポケモンですよね!」

善子「ええ、そのとおりよ。しずく、詳しいのね」

しずく「はい! 小さい頃、家族とガラル地方のキルクスタウンに旅行に行ったときに見たことあるんです!」


雪原や森の部屋の他にも、岩肌を再現した部屋や洞窟を模した部屋など、さまざまな飼育部屋があちこちにある。


侑「あ、あの! もっと近くで見学してもいいですか!?」

善子「ええ、構わないわ。約束の時間までまだあるしね。ただ、見るだけで触ったりしちゃダメよ?」

侑「はーい! 歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」





    🎹    🎹    🎹





しずく「……かすみさん、遅いですね」


研究所内をひととおり見て回れるくらいの時間は経った気がする。確かに遅いかもしれない。


善子「まあ、案の定って感じね……」

歩夢「どういうことですか?」

善子「かすみ、さっき一度研究所に来てたのよ。でも、忘れ物をしたって言って、一度家に帰ったわ」

しずく「もう……かすみさんったら、今日だけは遅刻しないようにって、ちゃんと言ったのに……」

善子「まあ、いないものは仕方ないわね。もう、約束の時間は過ぎてるし……これから選ぶ3匹との、顔合わせだけでもしちゃいましょうか」

歩夢「いいのかな……?」

善子「選ぶのは3人揃ってからだけどね。歩夢、しずく、こっちに」


博士に呼ばれて、二人は3つのモンスターボールと3色の図鑑が置かれている机の前に移動する。


善子「今回貴方たちに選んで貰うのはこの3匹よ」


博士が3つのモンスターボールの開閉スイッチを押すと──ボム、という独特な開閉音と共に、中からポケモンが飛び出す。


 「バニー!!」「メッソ…」

歩夢「わぁ……!」

しずく「この子たちが、ヒバニーとメッソン……!」

歩夢「初めまして、歩夢って言います♪」
 「バニーー!!!」


ヒバニーは歩夢から挨拶をされて、元気に飛び跳ねる。


歩夢「どうしよう侑ちゃん……写真で見るよりも全然可愛いよ!」

侑「ふふ、そうだね」


一方メッソン。


しずく「こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪」
 「メソ…」


しずくちゃんに話しかけられたメッソンは、スーっと体が透明になっていく。


しずく「あ、あれ……? 消えちゃいました……」


どうやら、メッソンは少し臆病なポケモンらしい。ヒバニーとは対照的だ。


侑「それじゃ、残りの1匹は……?」


ボールの置かれたテーブルの方に目を配らせると、


善子「あら……? おかしいわね……」


博士が3つ目のボールの開閉スイッチをポチポチと押し込んでいるところだった。


侑「博士?」

善子「何で出てこないのかしら……? 緊張してる……? いやそんな性格の子じゃないはず……。顔見せの時間よ! 出て来なさい!!」

侑「どうしたんですか?」

善子「この子だけ、開閉スイッチを押しても出てこないのよ……。まさか、ボールの故障?」


博士はそう言いながら、件のボールを持ち上げて、軽く振ったり、叩いたりしている。

そのときだった。


 「ガウーーー!!!!!」
善子「!?」


急にボールが──吠えた。


善子「な……!? はっ!?」


さすがの博士も突然の出来事に面食らったのか、咄嗟にボールを放る。

そのまま落ちたボールはまるで自分の意思でも持ったかのように、跳ねながら──今度は紫色の鈍い光に包まれた。


侑「な、何!?」


目の前の出来事に混乱しながらも、跳ねながら光るボールを目で追うと──ボールは、形を変え、


歩夢「え?」

しずく「あ、あの子って……」

善子「な、なに……?」

 「ガウッ」


気付けば小さな黒い狐のような姿に変わっていた。


善子「……ゾロア?」


そこにいたのは──ばけぎつねポケモンのゾロアだった。

この場にいた全員が、急な展開にポカンとしてしまう。


 「ニシシッ」


直後、イタズラっぽく笑ったゾロアは、近くにあったパステルイエローの図鑑を口に咥える。

──直感的にわかった。図鑑を持って逃げようとしている……!


侑「は、博士──」

善子「ドンカラスッ!!」
 「カァーーーー!!!!」

 「ガゥッ!?」


声をあげて、それを伝えようとした次の瞬間には、どこから現れたのか、博士のドンカラスがゾロアを上から大きな足で押さえつけているところだった。


 「ガゥ、ガゥゥ!!!」

侑「は、はや……」

しずく「気付いたら、ゾロアが捕まっていました……」

歩夢「全然わからなかった……」

善子「……このゾロアに心当たりあるかしら?」

しずく「えっと……」

 「ガゥゥ…」


押さえつけられて、弱々しく唸るゾロア。その姿は学校でも何度か見た覚えがあって……。


しずく「かすみさんのゾロアだと、思います……」


かすみちゃんがよく一緒にイタズラして、先生に叱られていた、見覚えのあるゾロアだった。


善子「……やってくれたわね……あの子……」


博士はカツカツとヒールを鳴らしながら、押さえつけられたゾロアに近付いていく。


善子「何が『かすみん、抜け駆けなんてしようとしてません』よ!!」

歩夢「もしかして、最後の1匹は……」

善子「かすみに持ち逃げされた……!!」

しずく「ああもう……かすみさん……」


困惑する歩夢、呆れるしずくちゃん、そして怒りに肩を震わせるヨハネ博士。そんな中、押さえつけられたゾロアが、


 「ガゥァゥアァアァァァァァァ……!!!!!!!!!」


急に大声で泣き出した。


侑「うわわ!?」

善子「う、うるっさ……!!」

 「ガゥ、ガゥガゥァァァァァッ!!!!!!!!」


大粒の涙を流しながら、ドンカラスの足元でじたばたと暴れまわるゾロア。


歩夢「あ、あの博士……ゾロアが泣いてます……」

善子「わかってるけど……」

歩夢「あの……放してあげてくれませんか……?」

善子「……いや、そう言われてもね」

歩夢「でも、あの子もかすみちゃんに指示されてやっただけだと思うし……あんなに泣いてるし……せめて、もう少し優しくしてあげて欲しいです……」

善子「…………」


歩夢の言葉に、博士は頭を掻きながら、


善子「ドンカラス、少し力を弱めに──」


指示を出した瞬間。


しずく「だ、ダメです!? それ、“うそなき”ですよ!?」

善子「え゛っ!?」


響き渡るしずくちゃんの言葉。


 「…ニシシッ!!!!」


それと同時にゾロアの体から真っ黒なオーラが膨張を始めた。


善子「全員伏せなさいッ!!」

しずく「は、はいぃ!!」

侑「歩夢……!!」

歩夢「きゃっ!?」


咄嗟に歩夢に覆いかぶさるようにして伏せる。

その直後、膨れ上がった黒いオーラは衝撃波となって、私たちの真上の空気をびりびりと震わせる。

衝撃と共に、研究所内に物が落ちる音や割れるガラスの音が響き渡る。


歩夢「きゃあああ!?」

侑「歩夢!! 落ち着いて!!」


大きな音にパニック気味な歩夢を抱きしめたまま、しばらく待っていると──


しずく「お……終わりました……?」

侑「歩夢、大丈夫!?」

歩夢「う、うん……ありがとう、侑ちゃん……。サスケ、ヒバニー、怪我しなかった……?」
 「シャー…」「バニー…」


怖がりながらも、歩夢はサスケとヒバニーを抱き寄せていたらしく、声を掛けられた2匹が歩夢の腕の中から顔を出す。どうやら、2匹に怪我はなさそうだ。

そして、ゾロアの攻撃は落ち着いたようで……研究所内は再び静かになった──のは一瞬だけだった。

顔を上げるのと同時に──バサバサバサ!!! と大きな羽音を立てて、何かが飛び立つ。

それが、先ほどの飼育部屋から飛び出したポケモンなんだとわかるのに、そう時間は掛からなかった。

気付けば家具やら壊れた何かの破片やらでごちゃごちゃになった研究所内には、飼育部屋から脱走したポケモンたちが走り回り飛び回り、好き放題している状態になっていた。


善子「ま、まずい……!?」


博士が真っ青な顔のまま、近くを走り回っているポケモンを咄嗟に覆いかぶさるようにして捕まえると──


 「ピ!? ピ、チュゥゥゥゥッ!!!!!」
善子「んぎゃっ!?」


博士が小さく悲鳴をあげる。

ピチューの“でんきショック”だ。


侑「は、博士!!」

善子「だ、だいじょう……ぶ……むしろ、ピチューは、じ、自分で……痺れて、う、動けなくなってくれる、から……た、たすかる……わ……」
 「ピ、チュゥゥ…」


博士の言うとおり、ピチューは自分の電気で痺れて目を回しているけど……。


しずく「そ、それより、ゾロアがいません!!」


言われてみれば、この惨状を作り出した張本人であるゾロアの姿がなくなっている。

ついでに先ほどゾロアが口に咥えていたパステルイエローのポケモン図鑑もだ。


善子「と、とりあえず、ゾロアはいい……先に逃げたポケモンたちを捕まえないと……」


よろよろと立ち上がる博士。

研究所内にはあちこちに逃げ出した、ポケモンたちの姿──最初のポケモンとポケモン図鑑を貰いに来たはずなのに……なんだか大変なことになっちゃった……!?




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち 未所持
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 歩夢
 手持ち アーボ♂ Lv.5 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 しずく
 手持ち ???? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




■Chapter002 『パートナー』 【SIDE Yu】





善子「……とりあえず、捕まえられたのはこれで全部?」


ヨハネ博士は椅子に座ってモンスターボールを並べながら、眉を顰める。


善子「何匹か足りないわ……。外に逃げちゃったのね」
 「ゲコガァ…」「ムマァ…」「カァー」「シャンディ…」「ヒュララァ」「ソル」「ゲルル…」

善子「貴方たちのせいじゃないわ。手伝ってくれてありがとう、みんな」


あの後、どこからともなく現れたヨハネ博士の手持ちによって、研究所内を走り回っていたポケモンたちは瞬く間に捕まえられたんだけど……何匹かが外に逃げてしまったらしい。それと──


しずく「メッソン! メッソーン! 出て来てくださーい! ……うぅ、ダメです……見当たりません……」

善子「……無理もないわね。メッソンは臆病なポケモンだから……」


先ほどの騒ぎに驚いたのか、メッソンも逃げ出してしまったらしい。


善子「メッソンともども、早く探しに行かないと……」


博士は椅子から立ち上がろうとして、


善子「ぅ……」

侑「わ! 危ない!!」


すぐによろけてしまったところを、慌てて支えに走る。


歩夢「ピチューの電撃を浴びちゃったんですから……無理しないでください」

善子「……面目ないわ」


再びゆっくりと椅子に座らせてあげると、博士は深く深く溜め息を吐いた。


善子「それにしても、かすみには困ったものね……」

侑「かすみちゃんもゾロアも、イタズラ好きだからね」

しずく「今回に関しては、いくらなんでも度を超えています! こんなやり方で抜け駆けしようとするなんて……」

侑「あはは……こんなことするほど、最初の1匹に拘りがあったのかもね」

しずく「……あれ?」


私の言葉を聞いて、しずくちゃんが首を傾げた。


侑「どうしたの?」

しずく「……かすみさん、最初のポケモン選びで出し抜くために、こんなことをしたんですよね?」

侑「う、うん? そうだと思うけど……」

しずく「なのにどうして、ヒバニーは残っていたのでしょうか……?」

歩夢「そういえば……」
 「バニ?」


そういえば、ここに来る途中も話していたけど、かすみちゃんの趣味だとヒバニーを選びそうだって言ってたっけ?


侑「最後の1匹がもっと好みだったとか?」

しずく「えぇ……? かすみさんがあのポケモン選ぶのかな……?」


しずくちゃんはどうにもピンと来ないらしい。


侑「最後の1匹って、どんな子だったの?」

歩夢「えっと……最後の1匹はね──」





    👑    👑    👑





かすみ「はっ……はっ……!! はぁ……はぁ……!! こ、ここまで来れば大丈夫だよね……?」


息を切らせながら、かすみんは後ろを振り返る。

うん、大丈夫、誰も追って来てない。


かすみ「最初の1匹、すごくすごく大事なパートナーだもんね! こればっかりは譲るわけにはいかないんです!!」


何せ、かすみんが欲しいのは今回選べる3匹の中で、とびっきり可愛いうさぎさんポケモンのヒバニー!

しず子と趣味が被るかは微妙だけど、歩夢先輩は絶対ヒバニーを選ぶに決まってます!


かすみ「かすみん最初のパートナーは絶対にヒバニーって決めてるんだから!」


あとで叱られるかもしれないけど、先にヒバニーと仲良くなってしまえば、さすがの歩夢先輩も、かすみんからヒバニーを取り上げたりはしないはずです! こういうのは既成事実さえ作ってしまえばいいんです!

ゾロアで誤魔化すのにも限界があるだろうし、善は急げ! 早速ボールから出して仲を深めていきましょう♪


かすみ「さぁ、出ておいでヒバニー♪」


私がヒバニー入りのモンスターボールを放ると──ボムという特有の開閉音と共に、


 「──キャモ」


黄緑色のポケモンがボールから飛び出した。


かすみ「………………………………え?」
 「キャモ」


……この子、誰??

うーんと、うーんと……えっとぉ……。


かすみ「たぶん、ヒバニーじゃなくてぇ……」
 「キャモ」


事前に聞いた3匹のポケモンを冷静に思い出す。

1匹目はうさぎポケモンのヒバニー。めちゃくちゃ可愛くて絶対この子がいいって思ったかすみんイチオシのポケモン。

2匹目はみずとかげポケモンのメッソン。この子も可愛いんだけど、かすみんが好きなのは元気な可愛さ! だから、メッソンはかすみんのイメージとは違うなって思ったんだよね。

そして、3匹目は……。


 「キャモ」
かすみ「もりトカゲポケモンの……キモリ」


正直かすみんはキモリが一番ないかなーって思ったんだよね。だって、他の2匹よりも可愛くないし!


 「キャモ」
かすみ「…………もしかして、かすみん……選ぶモンスターボール……間違えた……?」


一人頭を抱えて蹲る。博士に見つかり掛けてたから、焦って選ぶボールを間違えちゃったみたい……。


かすみ「…………やっちゃった、かすみん、これは盛大にやらかしました……」
 「キャモ」


普段のかすみんなら、ドジっ子なかすみんも可愛いかも♪ なんて自分に言い聞かせて乗り越えるところなんですが、今回ばかりは凹みます。マジ凹みしてます。


かすみ「うう……どうしよう……」
 「キャモ」

かすみ「…………そうだ! もしかしたら、まだゾロアと入れ替わってるって、バレてない可能性もある!」


こうなったら今から研究所に戻って、しれっとボールを元に戻して、普通に3匹の内からヒバニーを選ぶしかないです!

当初の予定とは変わってしまいましたが、イレギュラーにも対応してこそ、一人前ですよね!


かすみ「よし、キモリ。ボールに戻って」


キモリをボールに戻してっと……。さあ、気を取り直して研究所に戻りましょう♪





    👑    👑    👑





さぁさぁ、研究所に到着した、かすみんです!


かすみ「……さすがにもうしず子も歩夢先輩も到着してるよね」


研究所の扉を静か~に開いて中の様子を伺います。


かすみ「…………え?」


ただ、中の様子を見て、かすみんは愕然としてしまいました。

研究所の中は、まるで嵐でも過ぎ去ったかのように、荒れまくっていました。

そんな研究所の奥には、しず子と歩夢先輩……それと、あれは侑先輩……? そして、椅子に座っているヨハ子博士。

テーブルの上には、3つあったはずのモンスターボールは全部なくなっていて……ついでに机の上のポケモン図鑑もかすみんが好きそうなパステルイエローの図鑑がなくなっている状態です。(あ、かすみん目はすっごくいいので、入り口からでもばっちり見えちゃってますよ~☆)

……状況からして、すっごくいや~な予感がしてきましたね……。


かすみ「……たぶん、今入るのは自滅です。自殺行為です」


察して、静か~にドアを閉めて、そろりそろりと退却の姿勢を取ります。そのときです──


かすみ「わひゃっ!? な、何かふわっとしたものが足に……」
 「ガゥッ!!」

かすみ「な、なんだ、ゾロアか……驚かさないでよ」
 「ガゥッ!!!」


足元のゾロアを見ると、嬉しそうに尻尾を振りながら、口に咥えたパステルイエローのポケモン図鑑を差し出してきます。


かすみ「ふふ、さすが『かすみん2号』の異名を持つだけあって、ちゃーんと、かすみんのお願い聞いてくれたんだね、ありがとゾロア♪」
 「ガゥガゥッ♪」

かすみ「でも、今はちょ~っと事情が変わっちゃってね」
 「ガゥッ?」

かすみ「今から一旦退却しなくちゃいけないの」
 「ガゥッ」

かすみ「よし! それじゃ、このまま一旦セキレイの外まで──」

 「──行けると思ってるのかしら?」

かすみ「………………!?!!?」


振り返ると、そこには……──鬼がいました。鬼の形相をした、かつてヨハ子博士だった者がいました。


善子「かすみ」

かすみ「え、っと……あ、の……」

善子「……何か言うことがあるんじゃないかしら?」

かすみ「そ、の……。……か、かすみん、遅刻しちゃいました~☆ えへっ☆」

善子「よし、火責め水責めどっちがいいかしら? あ、氷責めっていうのもあるんだけど……」
 「シャンディ」「ゲコガ」「ヒュララァ」

かすみ「ひっ!?」


かすみん、怖かったんですよ。もう生物としての本能で、今この場から全身全霊で逃げ出さないといけないって命令が、脳からシュピピピーンって全身に駆け巡って、反射的に走り出してたんですよ。


かすみ「──ガッ!?」


でも、そんなかすみんの動きは、次の瞬間に固まってしまいました。


善子「逃がさないって、言ったでしょ?」

かすみ「からだ、が、うご、かな……い……! なに、こ、れぇ……!」

善子「“かなしばり”よ。ご苦労、ユキメノコ」
 「ヒュララ」

かすみ「……あ、あ、あ、あの、あの、あの……」

善子「覚悟はいいわね?」

かすみ「……ご、ごごごごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!! か、かすみんにも、かすみんなりの事情があって……!!!」

善子「ムウマージ、“サイコキネシス”」
 「ムマァージ」

かすみ「ぴゃああああ!!? 身体が浮いたあぁぁぁ!?」

善子「じゃあ、その事情とやらは、中でゆっくり聴かせて貰おうかしらね?」


そう言いながらニヤッと口角を上げて笑うヨハ子博士の笑顔は──この世の中にこんなに怖い笑顔があるのかと思わせるくらい、とっても恐ろしい笑顔でした……。


かすみ「た、助けてええええええええええ!!!!!!!!」



    🎹    🎹    🎹





かすみ「ひぐ……っ……えっぐ……っ……ご、ごべんなざい……っ……がずみんも、ごんな大事になるなんで……っ……おもっでなぐでぇ……っ……」

しずく「叱られて泣くくらいなら、最初からやらなければいいのに……」

かすみ「だっでぇ……ヒバニー欲しがっだんだもん……っ……」

しずく「だからって、こんなやり方しちゃ、めっでしょ?」

かすみ「ごめんなさいぃぃぃ……っ……」
 「ガゥ…」

かすみ「かすみん、いっぱいいっぱい謝りますからぁ……許してくださいぃ……っ……せめて、ゾロアだけでもぉ……っ……」

侑「あはは……」


あの後、かすみちゃんは事情の説明を始めたわけだけど……終始冷やかな笑顔を浮かべるヨハネ博士の迫力があまりに怖かったのか──正直、傍で見ていてもめちゃくちゃ怖かった──ついに泣き出してしまって今に至る。


歩夢「あの……かすみちゃん? そんなにヒバニーがいいなら私……」

善子「ダメ。もはやかすみには選ぶ権利はないわ。歩夢としずくが選んだあとにしなさい」

しずく「そうですよ、歩夢さん! かすみさんをこれ以上甘やかしちゃいけません!」

善子「貴方は二人が選び終わるまで、このぐちゃぐちゃになった研究所の片付けを手伝いなさい。いいわね?」

かすみ「……そんなぁ……っ……」


研究所の床にへたり込んだまま、項垂れるかすみちゃん。まあ、さすがにこれは自業自得かな……。


善子「とはいえ……今はメッソンがいないから探しに行かなくちゃいけないわね……」


言いながら立ち上がる博士。かすみちゃんを捕まえるために研究所の外に出ていたし、動けないほどじゃないみたいだけど……まだ少し調子が悪そうだ。


しずく「研究所のポケモンも何匹か、逃げちゃってるんですよね……」

歩夢「どの子がいないのかって、わかってるんですか?」

善子「ええ、さすがに自分の研究所にいるポケモンくらいは把握してるからね……。今この場にいないのは、ミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹よ。早く見つけないとね……」


ふらふらと歩く博士を見て、私は──


侑「あの!」

善子「なに?」

侑「逃げちゃったポケモン、私たちが探してきます!」


気付いたら、そう提案していた。


しずく「それは名案ですね!」

歩夢「うん! 私も良いと思う!」

善子「え、いや……でも……」

侑「むしろ、そんな身体のまま、博士を行かせるわけにいきませんよ!」

善子「…………」

かすみ「そ、それなら、かすみんが行きます」

善子「いや、かすみ、貴方はここで……」

かすみ「かすみん、さすがに反省してるんです!! こうなっちゃったのも、元はと言えばかすみんのせいだし……。かすみんこれでも、バトルの成績はそこそこ良かったから、絶対逃げちゃったポケモンたち連れ戻してきますから!!」

善子「…………」


博士は困ったような顔をする。確かにこの状況でかすみちゃんを信用しろと言われても難しいかもしれないけど……。


しずく「あの……博士、私からもお願いします」


そんなかすみちゃんに助け舟を出したのは、しずくちゃんだった。


かすみ「し、しず子……!」

しずく「かすみさん、たまにやり過ぎちゃうことはあるけど……根は良い子なんです。今回も悪気があって、ここまでのことをしたわけじゃないみたいですし……今言っていることは、心の底からの言葉だと思うので。……チャンスをあげてくれませんか?」

善子「……ふむ」


博士は少し考えていたけど、


善子「……わかったわ。そこまで言うなら、しずくの言葉に免じて、もう一度だけ信じてあげる」


最終的には、首を縦に振ってくれた。


善子「ちゃんと出来る?」

かすみ「は、はい!! もちろんです!!」

善子「わかった。それじゃ、任せるわ」

かすみ「はい! かすみん、任されました!!」

しずく「よかったね、かすみさん」

かすみ「うん! ありがとね、しず子! それじゃ行くよ、ゾロア!」
 「ガゥッ」


先ほどまで大人しくしていたゾロアはかすみちゃんの声に反応して、肩に飛び乗る。


しずく「それじゃ、行こっか」

かすみ「へ?」

しずく「まさか、一人で行くつもり? もちろん、私たちも探しに行くから」

侑「みんなで手分けした方がいいもんね。ほら、歩夢も」

歩夢「う、うん!」

かすみ「み、みなさん……!」


かすみちゃんは感激したのか、目の端にうっすら浮かべた涙をぐしぐしと手で拭う。


善子「なら、この研究所のポケモン用のモンスターボールを持っていきなさい。普通のボールじゃヨハネのポケモン扱いだから弾かれちゃうけど……このボールになら、ちゃんと入るはずだから」

かすみ「わかりました! ……よし! それじゃみんな! 行きますよー!!」

侑・歩夢・しずく「「「おーー!!!」」」


かすみちゃんの号令のもと、私たちは逃げ出したポケモンたちの捕獲作戦に出発するのでした。





    🎹    🎹    🎹





侑「逃げ出したポケモンは3匹って言ってたよね」

しずく「メッソンも含めると4匹ですね……」

かすみ「そうなると、1人1匹ずつですね! かすみん、一番に捕まえて、みなさんのお手伝いしに行きますね!」


かすみちゃんは言うが早いか、街の南側目指して飛び出して行ってしまった。


しずく「あ、かすみさん……! ……行っちゃった」

侑「それじゃ、私は街の北側に……」

歩夢「じゃあ、私も侑ちゃんと一緒に行くね」

侑「え? 手分けした方が……」

歩夢「侑ちゃん……やっぱり、気付いてない」

侑「? 気付いてないって?」


歩夢の言葉に思わず首を傾げる。


歩夢「侑ちゃん……ポケモン持ってないでしょ? 手持ちポケモンもなしに捕まえるつもりなの?」

侑「……っは!」


歩夢に言われてハッとする。


侑「どうにかしなくちゃってことで頭がいっぱいで……全然気付いてなかった……」

歩夢「あはは、やっぱり……」

侑「あれ、でもそうなると私……足手まといなんじゃ……」


完全にいるだけの人なんじゃ……。


しずく「いえ、戦って捕獲したりすることが出来なくても、単純に探すだけなら人手が多いに越したことはないと思いますよ! 目撃情報を聞いて回るのにも、人手は必要ですし」

歩夢「うん♪ だから、侑ちゃんは私と一緒に探すのを手伝って欲しいな」

侑「ん、わかった。しずくちゃんはどうする?」

しずく「私は、メッソンを探そうと思っています。最初からメッソンを選ぼうと思っていましたし……何より、心配なので」

侑「わかった。それじゃ歩夢、行こう」

歩夢「うん」

しずく「それでは、お二人とも、またあとで」


しずくちゃんと別れて、歩夢と二人で街の北側に走り出す。

──捜索開始!





    🎹    🎹    🎹





侑「あ、すいませーん!」

通行人「あら? なにかしら?」

侑「ちょっとポケモンを探してて……えっと、ゴルバット、ミミロル、ニャースなんですけど……」

通行人「うーん……ちょっと見てないわね」

侑「そうですか……ありがとうございます」


まずは聞き込み。不幸中の幸いで3匹とも、この近くには生息していないから、目撃情報があったらそれはイコール研究所から逃げ出したポケモンたちということだ。


歩夢「──……はい、そうですか……ありがとうございます」

侑「歩夢、そっちはどう?」


他の通行人に目撃情報を訊ねていた歩夢に声を掛ける。


歩夢「うぅん、特にそれらしいポケモンを見たって人は今のところ……」

侑「そっちもか……うーん」

歩夢「とりあえず、街の外まで行ってみる……? あてずっぽうにはなっちゃうけど……」

侑「……そうしよっか。南側はかすみちゃんたちが探してくれてるし、私たちはとりあえず北側を探そう」

歩夢「わかった」


頷く歩夢と一緒に、北側の10番道路方面に行こうとした矢先、


女性「──さっきから見てたんだけど~、君たちポケモンを探してるの~?」


突然のんびりとした口調の女性から声を掛けられた。


侑「あ、はい! ミミロル、ゴルバット、ニャースを探してるんですけど……」

女性「ミミロル、ゴルバット、ニャース……。確かだけど……その子たちってこの辺りには生息してなかったはずだよね~……?」

侑「は、はい……知り合いのところから逃げ出しちゃって……」

女性「むむ、それは大変だ~……。お姉さんが手伝ってあげよう~……と、言いたいところなんだけど……この後、妹を迎えに行かなくちゃいけなくて……ごめんね~……」

侑「い、いえ! 気にしないでください!」


なんだか、独特な雰囲気のお姉さん……。


女性「あ、でもでも、そのポケモンかはわからないけど、さっき大きな翼で羽ばたくポケモンなら、見かけた気がするよ~」

侑「ホントですか!?」

歩夢「ゴルバットかも……!」

侑「うん! どっちに行ったかわかりますか!?」

女性「あっちの方かな~」


お姉さんは街の西側を指差す。


歩夢「あっちってことは……西の6番道路の方だね」

侑「お姉さん、助かります!」

女性「ふふ、どういたしまして~。……そういえば、その子は違うのかな? その子も、野生では珍しいポケモンだと思うんだけど~……」

侑「……? その子……?」


お姉さんの視線を追うと──歩夢の足元あたりに、


 「ヒ、バニ!!!」


ヒバニーがいた。


歩夢「あ、あれ? ヒバニー、付いてきちゃったの?」
 「バニッ」

歩夢「どうしよう、侑ちゃん……」

侑「えっと……」


歩夢が困り顔で訊ねてくる。……というか、どうしてヒバニーは私たちに付いてきているんだろう……。

考えている間に、


 「ヒ、バニッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」


ヒバニーはぴょんぴょんと跳ねるように歩夢の身体を駆け上がって、歩夢の頭の上にしがみつく形になる。それと同時に、


 「シャーーーー!!!!!」


さっきまで大人しかったサスケが、歩夢の声に反応したのか、ご主人様を守るためにヒバニーを威嚇する。


歩夢「サ、サスケ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから……」
 「…シャボ」

歩夢「ヒバニーどうしたのかな……?」

侑「もしかして、手伝ってくれるの?」

 「バニッ!!」


ヒバニーは私の言葉に答えるように、首を縦に振る。


侑「もしかして……さっき、歩夢に助けられたからかな?」

歩夢「え? 私、助けたってほどのことはしてないけど……」


歩夢はそう言うものの、ゾロアの攻撃の中、確かにヒバニーとサスケを庇っていた。


侑「少なくとも……ヒバニーは守ってもらったって思ってるんじゃないかな」

 「バニッ」
歩夢「えっと……それじゃ、お手伝い、お願いしていい?」
 「ヒバニッ!!」


ヒバニーは歩夢の言葉に頷きながら、鳴き声をあげた。


女性「ふふ、それじゃポケモン探し、頑張ってね~」

侑「はい、ありがとうございます! 行こう、歩夢!」

歩夢「うん」


私たちは街の西側──6番道路を目指します。





    👑    👑    👑





かすみ「ミミロルー! ゴルバットー! ニャースー! 可愛いかすみんはここですよー! 出て来てくださーい!」
 「ガゥッ」

かすみ「うーん……全然、見当たりませんね。ゾロアは何か見つけた?」
 「ガゥゥ…」


かすみんの肩に乗っかって周囲を見回しているゾロアも、特に収穫なし……。困りましたね。

探し方が悪いのかな……?


かすみ「うーん……」


かすみん少し考えます。


かすみ「こんな広い場所で探し物をするなら、まず大雑把に特徴を捉えた方がいいかも……?」


今探しているのはミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹。つまり、茶色いうさぎポケモン、紫のコウモリポケモン、白いネコさんポケモンを見つければいいんです。

ピンポイントでそのポケモンだけを探そうとするからいけないんですよ。特徴に着目して追いかけてみましょう!


 「コラッタ!!!」

かすみ「紫だし、あれはネズミポケモン」

 「ジグザグ」

かすみ「あれは茶色だし、タヌキさんですね」

 「フニャァ…」

かすみ「あの子……ネコさんポケモンですけど、紫色ですね」

 「ニャァ」

かすみ「……? あれは、なんか額に小判付いてる……ニャースっぽい? ……けど、灰色のネコさんですね……色が違います」

 「エニャァ」

かすみ「わっ! ピンクのネコさん! 可愛い!! ……じゃなくて。……うーん……」


唸りながら、辺りをキョロキョロと見回していると──


かすみ「ん? あれって……」

しずく「──メッソーン!! メッソーン!! どこですかー!? 出て来てくださーい!!」
 「マネネー」


メッソンを探す、しず子の姿。


かすみ「しず子ー!」

しずく「あ、かすみさん……」
 「マネ」

かすみ「それにマネネも連れて来てたんだね」

しずく「うん……今回の旅はマネネも連れて行こうと思ってたから……」
 「マネ」


マネネは学校にいたときから、しず子がよく連れていた子ですからね。かすみんのゾロアと同じような感じです。


かすみ「ところで、メッソン見つかった?」

しずく「うぅん……かすみさんはどう?」
 「マネマネ…」

かすみ「全然ダメ……ネコさんポケモンはたくさん見つかったんだけど、色が違う子ばっかりで……」

しずく「あはは……確かにネコポケモンでも色が違うんじゃ、ダメだね……」

かすみ「紫のネコさん、灰色のネコさん、ピンクのネコさんは見つけたんですけどねぇ……」

しずく「えっ!?」

かすみ「わ!? な、なに!? 急におっきな声出さないでよ、しず子……」

しずく「か、かすみさん、灰色のネコポケモン見たの!?」


しず子は急に詰め寄って、私の両肩を掴んでくる。


かすみ「え? う、うん……でもニャースって白いネコさんだよね?」

しずく「……ああ、しまった……!! 伝え忘れてた……! 研究所にいたのは普通のニャースじゃないんだよ!!」

かすみ「……? 普通のニャースじゃない……?」


普通じゃないニャースってなんだろう……?


しずく「研究所のいたのはアローラニャースなの!!」

かすみ「アロー……? なにそれ……?」

しずく「えっとつまり……! 灰色のニャースなんだよ!!」

かすみ「えっ!? じゃあ!?」


さっきまで、灰色のネコポケモンがいた方向を急いで振り返る。


かすみ「い、いない……!! でも、まだ遠くには行ってないはず……!!」


とにかく、かすみんはさっき見た灰色のネコさんポケモンがいた方向に向かって、走り出します。


しずく「か、かすみさん!?」

かすみ「まだ、近くにいるかもしれないから! しず子、教えてくれてありがとう!! ニャースは絶対捕まえて戻るから、しず子は絶対メッソンのこと見つけてよね!!」

しずく「! わかった!」

かすみ「ゾロア、行くよ! ちゃんとニャースを捕まえて、汚名挽回です!!」
 「ガゥッ!!!!」


ここで取り返さなくちゃいけないんだから!! かすみん、全力で頑張りますよ!!


しずく「あ……汚名は返上するもの……って、行っちゃった……」
 「マネネェ…」





    🎹    🎹    🎹





歩夢と一緒に、6番道路に向かう道すがら。


歩夢「…………」

侑「うーん……やっぱ、風斬りの道の方まで行っちゃってるのかな……」

歩夢「…………」

侑「……歩夢、大丈夫?」

歩夢「え? あ、ごめん、何かな?」

侑「……。……やっぱり、歩夢何か落ち込んでる?」

歩夢「え!? ど、どうしてそう思うの……?」

侑「なんか、研究所での一件以来、いつもより口数が少ないなってずっと思ってたんだ」

歩夢「あ……」


他に喋っている人がたくさんいたから、会話に入ってこなかっただけなのかとも思っていたけど……こうして二人っきりになると、いつもより明らかに口数が少ないのがよくわかる。

歩夢は私からの指摘を受けて、少し目を逸らしてから、それについて言うか否かを迷っている素振りをしていたけど……。


歩夢「……やっぱり、侑ちゃんには隠し事……出来ないね、あはは」


そう言いながら、力なく笑う。


侑「どうしたの? 話、聞くよ?」

歩夢「……えっと、ね」

侑「うん」

歩夢「……こうなっちゃった原因……私にもあるのかなって……」

侑「え?」


私はポカンとしてしまった。歩夢にも原因があるって……?


歩夢「ほら、博士のドンカラスがゾロアを捕まえたとき……私、泣いてるゾロアが見てられなくって……」


そこまで聞いて、歩夢が何を思い悩んでいるのかはわかった。歩夢らしいと言えば歩夢らしいかな……。


歩夢「……私があのとき“うそなき”だって、ちゃんと気付けてれば……博士を止めてなければ……あそこまでゾロアが大暴れして、研究所があんなことになったりしなかったんじゃないかなって……」

侑「考えすぎだよ」

歩夢「で、でも……!」

侑「確かに歩夢は素直すぎて、ああいう嘘が見抜けないところがあるのは知ってるよ、昔から」

歩夢「ぅぅ……」

侑「でも、それは歩夢が優しいからであって、悪い部分じゃないよ」

歩夢「……侑ちゃん……でも……」

侑「だから、歩夢はそのままの歩夢でいて欲しいな。歩夢が打算的になっちゃったら、私ちょっとやだな……ね、サスケもそう思うでしょ?」

 「シャー」
歩夢「きゃっ……サ、サスケ、くすぐったいよ……」


私の言葉を受けて、サスケは歩夢の頬をチロチロと舐める。そして、そんなサスケ同様、


 「バニバニッ」


ヒバニーも歩夢の頭の上でぴょこぴょこと跳ねる。


歩夢「わわ……! 頭の上で跳ねないで~……」

侑「ほら、サスケもヒバニーも、今の優しい歩夢でいて欲しいって言ってるよ」

歩夢「……うん」

侑「だから、自分が悪かったなんて思わないで欲しいな」

歩夢「侑ちゃん……うん」

侑「それにもし今後、歩夢を騙したり、歩夢に酷いことする人が現れたら……」

歩夢「現れたら……?」

侑「私が絶対、歩夢のこと守るからさ!」

歩夢「……!」


歩夢は私の言葉を聞いて、びっくりしたように目を見開いた。


歩夢「ホントに……?」

侑「もちろん! 何かあったら守るし、助けるよ! 約束する!」

歩夢「……そ、そっか……えへへ、ありがとう、侑ちゃん……」


歩夢は少し頬を赤らめながら、嬉しそうにはにかむ。ち、ちょっとかっこつけすぎたかな……?

いや、でも何かあったら歩夢のことは私が守る! それは本心!


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「私も……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……」

侑「ふふ、ありがと、歩夢♪」


歩夢の言葉を聞いて安心する。

どうやら心のつっかえは取れたようでよかった。

一安心したところで、私たちは間もなく6番道路に差し掛かろうとしていた──そのとき、


侑「……あ!?」

歩夢「え、どうかし──あっ!!」


二人で同時に声をあげる。

なぜなら、ちょうど視線の先に──


 「ロル…?」


茶色いうさぎポケモン──ミミロルの姿があったからだ。


侑「やっと1匹見つけた……!!」


本来探していたゴルバットとは違うけど、運よく見つけたミミロルに向かって、ダッシュする。


歩夢「侑ちゃん!?」

 「ロル!?」

侑「ミミロル、確保ー!!!」


そのまま、ミミロルに飛び付くようにして、捕獲──


 「ロルー!!!?」
侑「よし!! 捕まえた!!」


両手でしっかりとミミロルを捕まえることに成功……!!


 「ロルッ!!! ロルゥッ!!!!!」
侑「わわ!? あ、暴れないで……!!」


私は暴れるミミロルをどうにか押さえながら、捕獲用のボールに手を伸ばす──その際に、私はミミロルの右耳に触れてしまった。

その直後──


 「!!!!! ロォルッ!!!!!!!」
侑「っ!!?」


ミミロルの左耳が勢いよく伸びてきて、鼻っ柱に直撃。その勢いはとてつもなく、そのまま吹っ飛ばされて、私は地面を転がる。


侑「いったあああああ!?」

歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」

侑「ぐぅぅぅ……ど、どうにか……」


体育の授業で、ボールを顔面に食らったとき……いやそれ以上の衝撃だったかも……。鼻を押さえて、痛みを堪えながら、私はどうにか上半身だけでも身を起こす。


 「ロルゥッ…!!!!!」


ミミロル、めちゃくちゃ警戒してる……ど、どうしよう……。

小柄で可愛らしいポケモンだったから、素手でも平気だと思ったんだけど……やっぱりポケモンのパワーはとんでもないことを思い知らされた。


歩夢「…………私が行くね」

侑「え!?」


突然、歩夢が一人で前に出る。


侑「あ、歩夢!! 危ないよ!!」

歩夢「…………大丈夫、私に任せて」

侑「あ、歩夢……」

歩夢「ミミロル。ごめんね、怖がらせて」

 「ロルッ…!!!!!!」


ミミロルは依然警戒していて、歩夢のことを威嚇している。


歩夢「ごめんね、研究所で静かに暮らしてたのに……急に大きな音がして、怖かったんだよね」

 「ロルゥゥゥッ!!!!!!!」

歩夢「あそこにいたら危ないって思って、逃げて来たんだよね……ごめんね、怖い思いさせて……」

 「ロ、ロルゥ…!!!」

歩夢「だけど、お外には野生のポケモンもいて、もっと危ないの……だから、一緒に研究所に帰ろう?」

 「ロ、ロル…!!!」

歩夢「大丈夫、怖くないよ」


歩夢は言いながら、ミミロルに手を伸ばす。

ミミロルの──耳に。


侑「!! だ、ダメ!! 歩夢ッ!!」


さっき殴られたからわかる。ミミロルは耳を触られると反射的に殴り返してくる……!!

私は跳ねるように立ち上がって、歩夢の方へダッシュしたけど──


歩夢「よしよし……良い子だね」
 「ロルゥ…」

侑「……って……へ?」


ミミロルは歩夢に“右耳”を撫でられて、気持ちよさそうにしているだけだった。


侑「な、なんで……?」


さっきとあまりに違う状況に事態が飲み込めず、ポカンとする。


歩夢「あのね、この子の耳なんだけど……」

侑「……?」

歩夢「右耳は綺麗な毛並みなのに対して、左耳は何度も打ちつけたように荒れてるなって思って」

侑「え?」


歩夢に言われて、ミミロルをよく見てみると──確かにミミロルの耳は左右で毛並みが全然違っている。


歩夢「もしかして、普段からお手入れをしてもらってるのは右耳だけで、左耳は武器になってるから、あんまり触らないようにしてるのかなって思って」
 「ロルゥ…」

侑「歩夢、知ってたの……?」

歩夢「うぅん、なんとなく……ミミロルのこと見てたら、そうなのかなって」

侑「そ、そっか……」


そういえば歩夢って、ポケモンを毛づくろいしてあげるのが、昔からすごくうまかったっけ……。

そのお陰か、いろんなポケモンとすぐ仲良くなれちゃうんだよね。


侑「歩夢は相変わらずすごいね……」

歩夢「え? 何が?」

侑「うぅん、ミミロル大人しくなってくれてよかったね」

歩夢「あ、うん!」

侑「とりあえず、ボールに……」


私は改めて、博士から渡されていた捕獲用のボールをミミロルに向けると──


 「ロルッ!!」


耳が伸びてきてバシッ──とボールを弾き飛ばされる。


侑「あ、あれ……? なんか、私嫌われてる……?」


やっぱり、さっきうっかりミミロルが嫌がるところを触っちゃったのがよくなかったかな……。


歩夢「ミミロル、少しの間だけど……ボールの中で待っててくれないかな? すぐにお家に戻れるから……ね?」
 「ロル…」


ミミロルは歩夢のお願いを聞くと、歩夢の腰辺りをもぞもぞと探ったあと、


 「ロル──」


歩夢の腰についている空のボールに、自ら入って行った。


歩夢「ふふ、ありがとうミミロル♪」

侑「……」

歩夢「よし! それじゃ、このままゴルバットも……──侑ちゃん? どうかした?」

侑「いや、なんでもない。それより、ゴルバットだよね!」

歩夢「あ、うん!」


ミミロルからの扱いの差に思うところがないわけじゃないけど……今は捜索の続き、続き……!





    👑    👑    👑





──セキレイシティ南の道路……8番道路。


かすみ「ニャースー!!! 出て来てくださーい!!」
 「ガゥガゥッ」


ニャースを追いかけて8番道路まで来ちゃったけど……完全に見失っちゃいました……。


かすみ「8番道路って、特に特徴もない道なんですけど……だだっぴろいし、背の高い草むらも多くて探しづらいんですよね……」
 「ガゥゥ…」

かすみ「こーなったら、高いところから見渡して……!」


かすみんは辺りをキョロキョロと見回します。

道幅の広い道路の中で高い場所といえば──


かすみ「看板!!」


この道路には『⑧』と書かれた、8番道路であることを示す標識ポールがあります。

高さで言うと、かすみん1.5人分くらいあります! 高さは十分のはず……!


かすみ「……あ、でもかすみん、今スカートでした……」


かすみんは旅のお洋服も可愛いのがいいから、お気に入りのスカートを履いてきているんです☆


かすみ「これは……看板を登るのは無理ですね」
 「ガゥ…」

かすみ「ちょっと、ゾロア呆れないでよ!? 可愛い女の子として、ここは超えちゃいけないラインでしょ!? 呆れるくらいなら、ゾロアが登ってよ!」
 「ガゥ」


ぷんぷん頬を膨らませる、かすみんの言葉を受けて、ゾロアがぴょんっとポールに飛び付きます。

──が、


 「ガゥゥ…」


ゾロアは情けない声をあげながら、ずるずるとポールの根本まで滑り落ちていきます。

身軽なゾロアと言えど、さすがに表面がつるつるなポールを登るのは難しいみたい……。


かすみ「……というか、冷静に考えてみると、この垂直のポールを登るのはかすみんでも無理かも……」
 「ガゥガゥッ!!!!」

かすみ「わ!? お、怒んないでよー!!」


でも、どうしよう……改めて辺りを見回しても、ぼーぼーな草むらのせいで、ガサガサガサガサと何かがいる音こそするものの、何がいるのかが全然見えません……。


かすみ「揺れてるところを虱潰しで探すしかないかなぁ……」


一周して戻って来てしまった結論に頭が痛くなる。早く見つけたいのにぃ……。

そのときだった──カタカタカタと、腰の辺りで何かが震え出す。


かすみ「わ!? な、なんですかなんですか!?」


慌てて、自分の腰周りに目をやると──


かすみ「……モンスターボール?」


何故か、モンスターボールが震えています。……あれ? かすみん、今連れているのはゾロアだけのはず──


かすみ「……あ!」


……そういえば、忘れていました!

腰のボールをポンっと放ると──


 「キャモ」

かすみ「キモリ……返すのをすっかり忘れてました……」


ヨハ子博士に返し忘れていたキモリが顔を出しました。

よく考えてみればかすみん、ヨハ子博士のユキメノコに捕まったあとはそのまま折檻もといお説教を受けていたので、返すタイミングがありませんでしたね。

ところで、


かすみ「キモリは何しに出てきたの……?」
 「キャモ…?」


訊ねるとキモリは、先ほどまでかすみんとゾロアが必死に登ろうとしていた看板ポールに飛び付き、


かすみ「お、おぉ……!?」


そのまま、ひょいひょいと上に登っていくじゃありませんか!


かすみ「もしかして、手伝ってくれるの!?」

 「キャモ!!!」


あっという間に看板の上にまで登り切ったキモリは、そこから辺りを見回し始めます。


かすみ「キモリー! そこから、ニャースの姿、見えますかー?」

 「キャモ…」


キモリは看板の上で、前傾姿勢になって、見下ろしていますが、どうにもうまく行ってないみたい。

やっぱり、背の高い草むらは上から見ても邪魔ということですね……。せめて、ニャースがもっと派手派手な色だったり光っていたりしてくれれば……。


かすみ「ん……? 光って……? ……そうだ!」


そこでキュピピーンと、かすみん名案を閃いちゃいました!


かすみ「キモリ!」

 「キャモ…?」

かすみ「かすみんが、ニャースを“光らせます”! キラキラしたのを見つけたら、教えてくれますか!?」

 「キャモッ!!」


キモリが頷いたのを確認して──


かすみ「行くよ! ゾロア! “にほんばれ”!!」
 「ガゥガゥッ!!!!」


ゾロアに指示したのは“にほんばれ”! 日差しを強くする補助技です!

かすみん、ゾロアと一緒にイタズラする……じゃなくて、いろんな状況に対応するため、便利な技をたくさん覚えさせているんですよね!

ニャースの額には小判が付いています。だから、天から強い日差しが降り注げば──


 「!! キャモッ!!!!」


──小判に光が反射するから、よく見えるはず!!


かすみ「そこですね!! ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」


キモリが指差した先に、ゾロアを振り被って、


かすみ「いっけぇぇぇぇ!!!!」


投げ飛ばします!!


 「ガゥゥゥッ!!!!!」


草むらに飛び込むと同時に行う奇襲の一撃!!


かすみ「ゾロア!! “ふいうち”!!!」

 「ガゥァッ!!!!!」

 「ンニャァッ!!!?!?」

かすみ「! 手応えありです!!」


かすみん、ニャースの鳴き声を確認すると同時に走り出します。

ニャースがいるであろう草むらを回り込んで逆側に走ると──


 「ンニャッンニャァッ!!!!!」
 「ガゥッガゥガゥッ!!!!」


草むらから追い出されたニャースが、ゾロアと取っ組み合いをしている真っ最中……!


かすみ「今です!! モンスターボール!!」

 「ニャァッ!!!?」


かすみんの投げたボールはニャースの額の小判に直撃! そのままニャースは、ボールに吸い込まれていきました。


かすみ「……や、やったあああああ!!! 捕獲出来ましたぁー!!!」

 「ガゥガゥッ!!!」


喜ぶかすみんに飛び付いてくるゾロア、そして──


 「キャモッ」

かすみ「キモリも、ありがとね!」
 「キャモッ」


任務を終えて、看板から降りて来たキモリにもお礼を言う。


かすみ「それじゃ、一旦戻りましょうか! 他のみんなのお手伝いに行きましょう!」
 「ガゥッ」「キャモッ」


かすみんは8番道路をあとにして、一旦セキレイシティへと戻るのでした。





    🎹    🎹    🎹





ミミロルを捕まえたその後──私たちは6番道路をさらに奥に進んでいた。


侑「ゴルバット……見当たらないなぁ」

歩夢「うん……」
 「バニィ…」


それなりに大きなポケモンだし、飛んでいれば見つけられそうなものだけど……。


侑「もしかして、もう別の場所に行っちゃったのかなぁ……?」

歩夢「その可能性はあるよね……」


辺りを見回すと、ポッポやマメパトといった鳥ポケモンたちがたくさん飛んでいるのが目に入る。

ここ6番道路──通称『風斬りの道』はサイクリングロードとなっている橋の周りを、たくさんの鳥ポケモンが飛んでいることで有名だ。たぶん鳥ポケモンやひこうタイプのポケモンが好む気候なんだと思う。

もしかしたら、ひこうタイプのゴルバットも同じような理由で自然とここに来たのかと思ったけど……。


侑「とりあえず、橋の下だけでも確認してみよっか」

歩夢「うん。橋の上は自転車がないと探せないもんね」


橋の脇にある階段を伝って、河原の方へと降りていく。


侑「そういえば、小さい頃一緒に遊びに来たっけ」

歩夢「ふふ、そうだったね。ここは近くにある一番おっきな川だから、よくお母さんたちに連れて来てもらってたね」

侑「フワンテにだけは気を付けなさいよ~って言われたっけ」

歩夢「そうそう♪ あ、覚えてる? ここでかくれんぼしたときのこと……侑ちゃん、橋の下に隠れるの好きだったよね?」

侑「あったあった! 柱の裏側って意外と死角になったりするんだよね♪」

歩夢「お昼でも、日が当たらなくて薄暗くなる場所だと特に……侑ちゃん、いっつも黒い服着てるから、見つけるの大変だったよ……」

侑「あはは、私の作戦勝ちだね♪」


昔を懐かしみながら、橋桁の裏を覗く──案外私と同じでここに隠れていたりして……。


侑「……まあ、そんなに都合よく行かないか」


橋桁の裏は、昔歩夢と遊んだときのように、日が当たらず薄暗い。ゴルバットみたいなコウモリポケモンは好きそうだなって思ったんだけど……。


 「…シャーボ」
歩夢「ん? サスケ? どうしたの?」

侑「ん?」


普段おとなしいサスケが急に鳴き声をあげた。


歩夢「そういえば……」

侑「ん?」

歩夢「かくれんぼのとき、最終的に侑ちゃんを見つけたの……サスケだったよね」

侑「……そうだったかも。たしか、アーボには熱で獲物を探す能力があるって、歩夢のお母さんが……」


気付けば、橋桁の上の方を見上げるサスケに釣られるように上を見る。

日が完全に遮られて薄暗い中、整備用に取り付けられたであろう小さな足場の先に──何かの影が見えた。


侑「!? 何かいる!?」


見つけたと同時に──その何かは大きく口を開いた。


侑「!! ゴルバ──」


──キィィィィィィィン!!!!!!


侑「い゛ッ!!?」

歩夢「っ゛!!?」


標的の名前を叫ぶと同時に──私の声を掻き消すように、耳障りな音が辺り一帯に響き渡る。


 「ヒ、ヒバニッ…」
歩夢「ヒバニー……!?」


歩夢の頭にしがみついていたヒバニーが目を回して落っこちそうになったところを歩夢がキャッチする。


侑「こ、これ……ッ……ゴルバットの……ッ……“いやなおと”……ッ……!?」


もしかしたら、耳の大きなヒバニーには、この音の影響が大きいのかもしれない。

歩夢もすぐに気付いたのか、ヒバニーの耳を塞ぐように胸に抱き寄せる。

それだけじゃない、近くの草むらから小型の鳥ポケモンが一斉に飛び立ち、他にもコラッタやオタチといった小型のポケモンたちが草むらから飛び出して逃げ回っている。


歩夢「とにかく……っ……音を……どうにか、しなきゃ……っ……!!」
 「シャボッ…!!」

歩夢「サスケ……!! “どくばり”……!!」
 「シャーーーッ!!!!」


サスケがゴルバットに向かって、小さな毒の針を無数に吐き出す。


 「ゴルバッ!!」


サスケの攻撃に気を散らされたのか、小さな鳴き声と共に“いやなおと”が止む。それと同時に──バサッと大きな翼が開かれ、ゴルバットが橋桁から飛び出した。


 「ゴルバッ…!!!!」


ゴルバットは私たちの姿を認めると──大きく翼を振るって、


侑「!? 歩夢!! 危ない!!」

歩夢「え!? きゃっ……!!」


風の刃を飛ばしてきた。“エアカッター”だ。

間一髪、歩夢の手を引いて、無理やり自分の方に抱き寄せると──先ほど歩夢がいた場所が風の刃に切り裂かれて、河原の地面が軽く抉りとられる。


侑「歩夢!? 怪我は……!?」

歩夢「だ、大丈夫……ありがとう……」


ホッとするのも束の間──ゴルバットに目をやると、大きな翼で空を旋回しながら、私たちを睨みつけている。


侑「敵だと思われてる……?」

歩夢「ゴルバット……! 私たち、あなたをお家に返してあげようとしてるだけで……!」

 「ゴルバッ!!!」


歩夢の声を掻き消すように、再び飛んでくる風の刃。


侑「っ……!!」


私は歩夢の腕を引いて、走り出す。

とどまってちゃダメだ……!!


歩夢「ゆ、侑ちゃん……! どうしよう……あのゴルバット、全然お話聞いてくれない……!」

侑「ミミロルみたいにはいかなさそうだね……! 歩夢、戦おう……!!」

歩夢「え、ええ!? で、でも……! 私、戦い方なんて、わ、わかんないよ……!!」

侑「でも、やらなきゃ……!」


歩夢と問答している間にも──


 「ゴルバッ!!!!」

侑「!!」


ゴルバットが大きな牙を歩夢に向けて、飛び掛かってくる。やるしかない……!!


侑「サスケ!! “とぐろをまく”!!」

 「シャーーーボッ!!!!」


私の指示と共に、歩夢の肩の上でサスケがとぐろを巻いて、防御姿勢を取る。

──ガッ!! 鈍い音と共にゴルバットの攻撃をサスケが体で受け止める。

今だ……!!


侑「モンスターボール!!」


腰から外したモンスターボールを投げつける──が、


 「ゴルバッ…!!」


察知したのか、すんでのところで躱され、ゴルバットは再び上空へ。


侑「くっ……! 歩夢!! とにかく、隙を作って!!」

歩夢「わ、わかった……! が、がんばる……!」
 「ヒバニッ」

歩夢「ヒバニー……! もう平気なの?」
 「バニッ!!!!」


先ほど目を回していたヒバニーも復活したようで、歩夢の腕の中から外に飛び出す。


歩夢「じゃあ、お願い! 一緒に戦って! “ひのこ”!!」
 「バニィーーー!!!」

 「ゴルバッ!!!?」


小さな火球がゴルバットに直撃する。


侑「よし……!! 効いてるよ、歩夢!!」

歩夢「うん!」


このまま弱らせて、捕獲したい。とはいえ、ゴルバットもただやられてはくれない。


 「ゴルバッ!!!!」


今度はヒバニーを標的とした“エアカッター”。


歩夢「ヒバニー!! 走って!!」
 「バニッ!!!!」


ヒバニーは走り回りながら、“エアカッター”を避け、


 「バニーーーッ!!!!!」


隙を見つけて、“ひのこ”をゴルバットに撃ち込む。


侑「よし……!! この調子で……!!」

 「ゴルバァッ…!!!」


良い調子かと思ったら、


 「ゴ、ルバァァッ!!!!!!」


急にゴルバットが辺り一帯に無差別に“エアカッター”を乱発し始めた。


侑「う、うわぁ!?」

歩夢「お、怒ったのかも……!」

侑「て、撤退ー!!」


歩夢の手を引いて、橋桁の裏へと走る。

その間もヒバニーは走り回りながら上手に攻撃を避け続けているけど……。


侑「ど、どうしよう……もっと強い攻撃を当てないと……!」


このままだと、いつかヒバニーも攻撃に被弾して、やられてしまうかもしれない。


歩夢「もうちょっと……もうちょっとだけ待てば……」

侑「え?」

歩夢「たぶん……もうちょっと頑張れば、強い攻撃……出来ると思う」

侑「ホントに……?」

歩夢「……うん」


歩夢が何をしようとしているのかはわからない。だけど、さっきのミミロルのように、歩夢は何かに気付いたのかもしれない。

なら、今はヒバニーと歩夢を信じて、そのときを──


 「──……ブィ」

侑「え?」

歩夢「? 侑ちゃん?」

侑「今……何か……聞こえた気が……」


小さくか細い鳴き声が──

声の聞こえてきた方に目を凝らす。

ヒバニーがちょこまかと走り回りながら、ゴルバットの“エアカッター”を避け続けているバトルフィールドの少し先に──小さな何かが蹲っていた。あれは──ポケモン……!?


侑「!? 逃げ遅れた野生のポケモンだ!?」

歩夢「えっ!?」


先ほどの“いやなおと”で周りの野生ポケモンは全て逃げてしまったんだと思い込んでいたけど──逃げ遅れたポケモンがいたんだ……!!


侑「あのままじゃ、巻き込まれちゃう……!!」


私は咄嗟に橋桁から飛び出して、逃げ遅れたポケモンのもとへと走る。


歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」

侑「歩夢はそこにいて!!」


叫びながら、私は一直線に走る。

無謀なのは承知だ。でも、何も関係ない子を巻き込むわけにはいかない。


 「ブイィィ……」


か細い鳴き声がどんどん近くなる。

それと同時に、風を薙ぐ音が何度も自分の間近を通り過ぎる。

急げ、急げ、急げ……!!


 「ブィィィ……」


──あと、ちょっと……!!

あと大股で何歩か、というところで──私の背後から、風の刃の音が迫ってくるのが聞こえた。


歩夢「──侑ちゃん!!!! 避けてえええええ!!!!!」


歩夢の悲鳴のような声が響く。私の背後に“エアカッター”が迫っていることがわかった。

──ダメだ、今避けたら、あの子に当たる……!!


侑「うあああああああああああああっ!!!!」


一か八か……! 私は地面を蹴って、頭から飛び込んだ──


 「ブイッ…!!!」


ポケモンを抱き寄せながら、


侑「……ッ!!!!」


地面を転がる。──ズシュッ! 嫌な音がした。


侑「……ッ゛……!!」


肩に走る鋭い痛み。


 「ブイ……」


心配そうな鳴き声が、胸元から聞こえて来た。


侑「……あはは……大丈夫、大丈夫……掠っただけだから……それより、君は大丈夫だった……?」
 「ブイ……」

侑「無事みたいだね……よかった……」
 「ブィィ…」

侑「……早く、お逃げ……」
 「ブイ…」


胸の中から這い出てくる小さなポケモンに逃げるように促し、その子の壁になるように片膝を突きながら立ち上がる。

肩の切り傷もだけど……河原の石の上を転がったから、全身が痛い。


 「ゴルバッ!!!!!!!」


未だ怒り狂うゴルバットの姿。

その攻撃を避けながら、走り回るヒバニーの姿。そして、気付けば、走り回るヒバニーの足元は赤く赤熱していた。

これが歩夢の言っていた強い攻撃の予兆……!

もう少しで歩夢たちがどうにかしてくれると思った瞬間──再び、私に向かって、風の刃が飛んできた。


侑「──……あ」


──周りがスローモーションになったように感じた。ゆっくりと風の刃が私の真正面に迫ってくる。

──もうダメだと……思った。そのときだった。


 「──ブイ」


──トンと、私の背中、肩、そして頭へと、何かが駆け上がっていく。

その何かは、そのまま私の頭を踏み切って──


 「ブイィィィィ!!!!!」


私の目の前に迫る、風の刃の前で──眩く光った。


 「ブイ」

侑「う、嘘……?」


気付けば、先ほどまで迫っていた風の刃はその光に掻き消され、綺麗さっぱり消えていた。


歩夢「ヒバニー!!!!」

侑「!」


目の前の光景に、呆けていたのも一瞬。歩夢の声で意識を引き戻される。


 「バーーニニニニニ!!!!!!!」


気付けば、猛スピードになりながら、走った道を真っ赤に燃やすヒバニーの姿が目に入ってくる。


歩夢「いけっ! ヒバニー!!」

 「バーーーニィ!!!!!!!」


ヒバニーは歩夢の合図と共に、進路を橋桁の方に変え──猛スピードの勢いのまま、橋桁を一気に垂直に駆け上がり──


 「ゴルバァッ!!!!!!」


空中で怒り狂っているゴルバットに高度を合わせて──


 「バーーーニィッ!!!!!!!」


柱を蹴る反動で──燃え盛りながら飛び出した……!!


歩夢「“ニトロチャージ”!!!」

 「バニィィィーーーーーー!!!!!!!」


燃え盛る炎の突進が──


 「ゴ、ルバァッ!!!!!?」


ゴルバットに直撃した。ゴルバットはその衝撃で河原に墜落し──


 「ゴ、ゴルゥ……」


目を回して、戦闘不能になったのだった。


侑「……そうだ、捕獲……!!」


私は地面で伸びているゴルバットに向かってボールを投げつけた。

──パシュンと音がして、ゴルバットがボールに吸い込まれる。


侑「はぁ……よかった……」


へたり込んだまま、安堵する。


歩夢「よくないよっ!!」

侑「うわぁ!?」


気付けば、歩夢がすぐそこで私のことを見下ろしていた。……目の端に大粒の涙を浮かべて。


歩夢「なんで、あんな無茶したの!?」

侑「えーあー……いや……」

歩夢「もう少しで大怪我するところだったんだよ!?」

侑「その……でも、本当に掠り傷だったから……」


肩の傷も、ちょっと表面に切り傷が出来た程度で本当に掠っただけだ。


歩夢「侑ちゃんに何かあったら……私……っ……」

侑「ご、ごめん……歩夢……私、必死で……」
 「ブイ…」


そのとき私の近くで鳴き声がして、ハッとする。


侑「そうだ……君が助けてくれたんだよね?」
 「ブィ…」


気付けば先ほど助けたポケモン──茶色くてふわふわの毛を身に纏ったポケモン……イーブイが私に身を寄せてきていた。


侑「さっきの技……もしかして、“とっておき”?」
 「ブィ…」

侑「すごい……!! “とっておき”って、千歌さんのネッコアラもよく使ってた大技だよね!?」
 「ブイ…?」

侑「あれ? でも、“とっておき”って、いくつか技を使ったあとじゃないと、出せないんじゃないっけ……」
 「ブイ…」

侑「あ……! もしかして、ずっと“なきごえ”をあげてたから……!?」
 「ブイィ…」

歩夢「──……侑ちゃん? 反省してる?」


急に怒気の籠もった声にビクっとする。


侑「し、してるしてる!! ごめん!! でも、ホントに大した傷じゃなかったから、ね!?」

歩夢「はぁ……もう……」
 「バニバニッ」


私たちの様子を見て、歩夢の頭にしがみついているヒバニーが笑っている。


侑「そういえば、さっきのヒバニーの技……」

歩夢「あ、うん……ヒバニーの足の裏と鼻の頭にある、この黄色い模様なんだけど……」
 「ヒババニッ」


歩夢が説明しながら触れるとヒバニーはくすぐったそうに声をあげる。


歩夢「ここね、なんだかヒバニーが動くたびにちょっとずつ温かくなってる気がしたの」

侑「そうなの……?」


私もヒバニーの足の裏の黄色い模様に触れてみると、たしかに温かい。


歩夢「それで、ほのおタイプのポケモンだし……もしかしたら、ここから熱を放出して戦うんじゃないかと思って」

侑「そっか……! 走り回って上がった体温が、炎になってここから放出されるんだ……!」

歩夢「うん。そうなんじゃないかなって」

侑「すごいよ歩夢! よく気付いたね!」

歩夢「えへへ……なんとなく、そうなのかなって思っただけだったんだけど……当たっててよかったよ」


歩夢は言いながらはにかむ。


歩夢「それより、一旦研究所に戻ろう?」

侑「あ、うん。そうだね。ミミロルもゴルバットも捕まえたし……」

歩夢「侑ちゃんの怪我の治療もしなくちゃいけないし」

侑「え? それは別に……」

歩夢「ダメ! 怪我を甘く見ちゃいけないんだよ!」

侑「ぅ……はーい……」
 「ブィ…」


歩夢は私の手を強引に引っ張りながら、研究所への道を戻っていくのだった。





    💧    💧    💧





しずく「……はぁ」
 「マネ…」


マネネと一緒に溜め息を漏らす。


しずく「メッソン……本当にどこに行ってしまったんでしょうか……」
 「マネ…」


メッソンはみずポケモンです。研究所から比較的近い8番道路側の池や、街中の噴水なども探しましたが……メッソンを見つけることは出来ませんでした。

マネネと二人、項垂れていると、


かすみ「しず子~!」

しずく「あ……かすみさん」


8番道路側から、かすみさんが走ってくるのが見えた。


かすみ「見て見て! ニャース捕まえたよ!」

しずく「ほ、本当!?」


かすみさんはそう言いながら、ニャースが入っているであろうモンスターボールを私に見せてくれます。


かすみ「かすみんの大活躍、しず子にも見せてあげたかったよ~」

しずく「ふふ、かすみさん、頑張ったね。ナデナデ♪」

かすみ「えっへん! かすみんこれで名誉返上ですよ!」

しずく「あはは……」
 「マネネ…」


名誉は挽回して欲しいなぁ……。


侑「かすみちゃーん! しずくちゃーん!」


かすみさんに苦笑いしていると、今度は街の西側から侑先輩の声。


しずく「侑先輩! 歩夢さん!」

かすみ「って、侑先輩ボロボロじゃないですかぁ!?」


かすみさんの言うとおり、侑先輩はあちこち傷だらけで、服もボロボロです……。


侑「あはは……ちょっといろいろあって……」

歩夢「侑ちゃん、すぐに無茶するから……」


歩夢さんがぷくーっと頬を膨らませると、侑先輩は罰が悪そうに目を逸らす。何があったのかはわかりませんが……侑先輩が相当身体を張ったのだということはわかりますね。

それと、もう一つ気になることが……。


しずく「あの侑先輩」

侑「ん?」

しずく「その子は……」


私は侑先輩の足元に視線を注ぐ──侑先輩の足元に寄り添っている、小さなポケモンに。


 「ブイ…」
侑「あ、えっと……なんか、付いてきちゃって……」

歩夢「ふふ、すっかりなつかれちゃったね」

かすみ「って、そのポケモンイーブイじゃないですか!? 可愛いぃ! 羨ましい!」

しずく「……文脈を読み取るに……侑先輩が捕まえたわけじゃないんですね?」

侑「うん。野生の子なんだけど……」


侑先輩の言葉を聞いて、かすみさんの目が光る。


かすみ「だったら、かすみんが捕獲します!! バトルですよ!! イーブイ!!」

しずく「かすみさん、めっ!」


かすみさんの目の前で人差し指を立てながら、制止する。


かすみ「じ、邪魔しないでよ、しず子~!」

しずく「ポケモンにも“おや”を選ぶ権利があります。イーブイ、貴方はどうしたいですか?」

 「ブイ…」


私がイーブイに向かって訊ねると、


 「ブイ」
侑「わわ!?」


イーブイはぴょんぴょんと跳ねながら、器用に侑先輩の身体をよじ登り、


 「ブイ…」


侑先輩の肩の上で腰を下ろして、落ち着いた。


歩夢「イーブイ、侑ちゃんと一緒にいたいみたいだね♪」

侑「……イーブイ、私と一緒に冒険してくれる?」
 「ブイ」

しずく「ふふ、きっとイーブイも『うん』って言ってますよ♪」

かすみ「むー……わかりました。侑先輩、かすみんの分もそのイーブイ、可愛がってあげてくださいね」

侑「うん! 任せて!」
 「ブイ」


欲望に忠実なかすみさんも、今回はどうにか納得してくれた様子。


しずく「そうだ……侑先輩、歩夢さん、首尾はどうですか?」

歩夢「あ、うん! 私たちはミミロルとゴルバットを捕まえたよ!」

かすみ「ホントですか!? かすみんはニャースをばっちり捕まえちゃいましたからね!」

侑「ホントに!? それじゃ、メッソンも……!」


3人の期待がこちらに向く。ですが……。


しずく「すみません……メッソンはまだ……。ご期待に沿えず申し訳ないです……」

かすみ「そっか……じゃあ、あとはメッソンを探そう!」

侑「4人で手分けすればきっと見つかるよ!」

歩夢「その前に、侑ちゃんは怪我の手当てが先……!」

侑「わわ!?」


歩夢さんが侑先輩を引き摺りながら、


歩夢「手当てが終わったら、すぐ手伝いに戻るからね」

侑「ふ、二人ともまたあとで~」


研究所の方へ行ってしまいました。


かすみ「……それじゃ、しず子! かすみんは東の9番道路の方探してみるね!」

しずく「わかった。お願いね、かすみさん!」


──パタパタと走り去るかすみさんの背中を追いながら、思う。


しずく「……皆さん、ちゃんとポケモンを見つけたんですね。……何も出来ていないのは……私だけ……」
 「マネ?」

しずく「うぅん、なんでもない。頑張って見つけよう、マネネ」
 「マネ…」





    💧    💧    💧





──その後、私たちはメッソンの捜索を続けましたが……。


かすみ「しず子~!」

しずく「かすみさん……」

かすみ「一旦、研究所に戻ってこいって、ヨハ子博士が……」

しずく「……でも、まだメッソンが……」

かすみ「もう日が暮れちゃうからって……」

しずく「……」


確かに、気付けば日は傾き、空には茜が差し始めました。


しずく「……私はもう少しだけ」

かすみ「しず子……でも、夜になっちゃうよ」

しずく「……日が落ち切ったら、それこそ見つかるものも見つからなくなっちゃうよ。それに……」

かすみ「それに……?」

しずく「私だけ……まだ何も出来ていない。このまま、戻るわけには行かないよ……」
 「マネ…」


マネネも心配しているのがわかる。だけど……私だけ何も出来ないままなわけにはいかない。


しずく「私だって……博士に選ばれたトレーナーなんだから……っ……」

かすみ「しず子」


かすみさんが私の肩を掴む。


かすみ「どうしちゃったの……? 今のしず子、なんか変だよ……」

しずく「……かすみさんも侑先輩も歩夢さんも、みんな自分の役割を全うしてるのに……私だけ……」

かすみ「でもでも、これは元はと言えばかすみんが悪いだけで……しず子のミスじゃないじゃん!」

しずく「…………」

かすみ「だから、しず子がそこまで気負う必要ないよ……確かに、メッソンを選ぶって決めてたしず子にとって、特別な思い入れがあるってことは、かすみんもわかってるけど……」

しずく「……そうじゃない」

かすみ「え?」

しずく「……これは、私のミスでもあるんだよ」

かすみ「……どういうこと……??」


かすみさんが困惑した表情になる。


しずく「……あのとき、ゾロアが暴れ出したとき、私は……私は、自分の身を守るので精一杯だった。歩夢さんは……すぐにヒバニーとサスケさんを抱き寄せていた。侑先輩は歩夢さんを庇って……なのに、私は……メッソンの一番近くにいた私は、何もしなかった」

かすみ「……」


メッソンが臆病なポケモンだってことは、わかっていたのに。あの場で、メッソンを守ってあげることが出来たのは、私だけだったのに。パートナーになろうって、前から決めていたはずの子の一番近くにいたはずなのに、私は……。


しずく「……それなのに、まだメッソンの手がかり一つ見つけられてない。このままじゃ……胸を張って、メッソンのトレーナーになんか、なれないよ……」

かすみ「しず子……」


歩夢さんには、ポケモンを想い、有り余る愛情がある。

かすみさんには、自分のやりたいことを貫く原動力と、それを実現する行動力がある。

じゃあ、私には何がある? 今日この日に一緒に旅立つ二人と肩を並べるには、何がある? わからない。わからないから、せめて──


しずく「メッソンは……私が見つけなくちゃ……!」


パートナーのことくらい、私が見つけてあげなくちゃ……!


かすみ「……わかった。しず子は意外と強情だもんね」

しずく「ごめんね、かすみさん。だから、博士にはもう少し掛かるって──」

かすみ「一旦、研究所。戻るよ」


──グイっと強引に、腕を引かれる。


しずく「えっ!? い、今の話聞いてた!?」

かすみ「聞いてた」

しずく「なら……!!」

かすみ「しず子の持ち味は、そういうとこじゃないもん」

しずく「え……?」


かすみさんは何を……? 持ち味って……? 私は軽く呆けてしまう。


かすみ「そういう諦めないぞ~!! みたいなのは、かすみんのキャラです!! しず子はこう……一歩引いて、冷静に考えて決めるタイプでしょ!!」

 「マネマネ!!!!」

かすみ「ね、マネネもそう思うよね!」

 「マネ!!」

しずく「……」

かすみ「だから、一旦研究所に戻って、頭冷やした方がいいよ」

しずく「……ごめん」

かすみ「いいよ。許す」


私はかすみさんに腕を引かれたまま、研究所へと戻っていく──




    💧    💧    💧





善子「日、完全に落ちちゃったわね……」


博士が窓の外を見ながら、肩を竦める。


歩夢「……メッソン、どこに行っちゃったんだろう……」

善子「臆病なポケモンだからね……。隠れるのも上手なのよ」

侑「うーん……街の噴水広場とか、研究所の近くの池にはいなかったんだよね?」

かすみ「はい……その辺りはすでにしず子が何度も探してくれたので……」

善子「……とりあえず、探すのはまた明るくなってからかしらね……」

しずく「そんな……!」

善子「大丈夫、外はドンカラスとムウマージに捜索させてるわ。あの子たちは暗闇の方が得意だから、きっと見つけてくれる」

しずく「……」

善子「みんな、疲れたでしょ? ロズレイティーでも淹れてあげるわ」

歩夢「あ、手伝います……!」

侑「私も……!」


博士と歩夢さん、侑先輩が部屋から出ていく。


しずく「…………」
 「マネ…」

かすみ「しず子……」

しずく「はぁ……ダメだな、私」

かすみ「そ、そんなことないよ!」

しずく「かすみさんはそう言ってくれるけど……良い案なんて全然思い浮かばない」
 「マネェ…」

かすみ「だ、大丈夫だよ! メッソン絶対見つかるよ!」

しずく「ふふ……そうだね」

かすみ「気休めとかじゃなくって!! 絶対見つけられる!! だって、かすみんもゾロアも、かくれんぼでしず子から逃げきれたことないもん!! しず子は隠れてる人とかポケモンとか見つける才能、絶対あるから大丈夫だって!!」

しずく「ふふ、ありがと。かすみさん。……でも、ゾロアはともかく、かすみさんはわかりやすいからなぁ」

かすみ「む……そんなことないもん」


かすみさん、かくれんぼだって言うのに、バレバレなところというか……ちょっとだけ裏をかいた感じの場所に隠れるし。


しずく「なんか、性格どおりの場所に隠れるなぁって……」


かすみさんだったらどう考えるだろうって思いながらやると、意外と簡単に見つけられちゃうんだよね。


しずく「……?」


……そこでふと思う。


──『こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪』
 『メソ…』

 『あ、あれ……? 消えちゃいました……』──


メッソンは私と顔を合わせたときも、すぐに体を透明にして隠れてしまっていた。


しずく「──……そんな臆病で、人見知りな性格のポケモンが……外に逃げるのかな……?」

かすみ「しず子?」


ましてや、今まで研究所の中でしか生活をしたことのないようなポケモンが、緊急事態が起きたからといって、外に逃げ出す……?

いや、最初は気が動転して、逃げ出すかもしれないけど……すぐに戻る気がする。

少なくとも……もし、自分が臆病で人見知りが激しい性格だったとしたら……絶対外になんか、逃げない。

むしろ──


しずく「……もし、私がそうなら……」


私は立ち上がる。


歩夢「ロズレイティー、淹れて来たよ~」

侑「しずくちゃん?」


私は──博士が最初に並べていたボールが置かれた机の前に立つ。


善子「ああ、ボールはあの後一応、元の場所に戻したわ。かすみが持って行ったキモリのボールはないけどね」

かすみ「……ギクッ」


私が“もし、臆病なポケモンだったら”── 一番慣れ親しんだ、安全な場所に戻る。


しずく「──自分のモンスターボールの中に」


私が机の上のボールのボタンを押し込むと──ボムッ。


 「メソ…」
しずく「やっと、見つけましたよ。メッソン」


メッソンがボールから飛び出してきた。


歩夢「メッソン、ボールの中に戻ってたの……!?」

侑「どうりで見つからなかったわけだ……!」

しずく「モンスターボールは中にポケモンが入っていても重さが変わるわけではありません。入っていないと思い込んでいたら、誰にも見つけることは出来ない。最高の隠れ場所なわけです」
 「メソ…」


私はメッソンを抱き上げる。


しずく「ごめんなさい、メッソン……。もう、何があっても、離したりしませんからね」
 「メソォ…」


ぎゅっと抱きしめると、メッソンは私の胸の中で、小さく鳴き声をあげた。


かすみ「しず子~!!」

しずく「きゃっ!?」


急にかすみさんが、私の背中に抱きついてくる。


しずく「か、かすみさん」

かすみ「しず子すごい!! すごいよー!! ホントに見つけちゃうなんて!!」

しずく「えへへ……かすみさんが信じてくれたお陰だよ、ありがとう♪」
 「メソ…」

かすみ「……って、あれ? メッソン透明になっちゃいました……?」

しずく「あはは……まだ、かすみさんには慣れてないみたいだね。ボールに戻してあげなきゃ」


私は透明になったメッソンをボールに戻してあげる。

そして、改めてメッソンの入ったモンスタボールを握りしめる。

──確かに重さは変わらないけど、確実にメッソンの重さを感じる……そんな気がした。


善子「──しずく」

しずく「! ヨハネ博士……」

善子「大したものだわ。驚いた」

しずく「いえ……偶然です」

善子「いいえ、偶然なんかじゃないわ。メッソンのことを考えて、メッソンの気持ちに寄り添ったからこそ、貴方はその子を見つけることが出来た。貴方はメッソンのパートナーに相応しいわ」

しずく「……はい!」

善子「──歩夢」

歩夢「は、はい!」

善子「侑から聞いたわ。ヒバニーの能力を引き出して、戦ったそうね」

歩夢「い、いえ……なんとなく思いついただけで……」
 「バニバニ」

善子「ふふ、その“なんとなく”がこれから貴方を幾度となく助けてくれると思うわ。ヒバニーと一緒に強くなりなさい」

歩夢「は、はい……!」
 「バニ!!!」

善子「──そして、かすみ」

かすみ「! し、仕方ないですねぇ……。ヒバニーは歩夢先輩に、メッソンはしず子になついちゃってるし……かすみん、取り上げたりなんかしませんよ。それに、キモリも案外悪くないかも~って思ってるところもなくはないですし?」

善子「ふふ、納得してくれたなら嬉しいわ」


そして最後に、ヨハネ博士は侑先輩に向き直る。


善子「侑、貴方もありがとう」

侑「い、いえ!!」

善子「本当は、まだポケモンを持っていないって話だったから、この研究所の中から1匹くらい、研究用の子を旅のお供にあげようかと思ったんだけど……もう、問題なさそうね」

 「ブイ…」
侑「はい。このイーブイと一緒に旅に出ます」

善子「わかった。心に決めた子がいるなら何よりだわ」


なんだか、旅立ち初日から、本当に大変な一日でしたが……無事最初のポケモンたちも決まり、これにて一件落着ですね♪




    🎹    🎹    🎹





善子「最後に──貴方たちにポケモン図鑑を託すわ。……と言っても、かすみはもう持ってるけど」

かすみ「……っは! かすみん、図鑑も返し忘れてました……!」


かすみちゃんは罰が悪そうな顔で、ポケットからパステルイエローの図鑑を取り出す。


善子「歩夢にはこのライトピンクの図鑑を」

歩夢「はい!」

善子「しずくには、ライトブルーの図鑑を」

しずく「ありがとうございます」

善子「ポケモン図鑑があれば、ポケモンの詳細なデータを確認することが出来るわ。きっと、旅の中のいろいろな場面で役に立つはずよ。有効に使って頂戴。それと……」

侑「?」


博士は私の方に視線を向けてくる。


善子「侑、貴方にも何かあげたいんだけど……」

侑「え!? い、いいですよ、私はあくまで歩夢の付き添いなんで……!」

善子「そう? でも、貴方にも迷惑を掛けちゃったし……。……あ、そうだ、ちょっと待ってて」


博士は何かを思い出したように、奥の部屋に行ってしまう。


侑「なんだろう……」

かすみ「何かお宝をくれるのかもしれませんよ!」

侑「ええ……? ホントにいいのに……」

かすみ「貰えるものは貰っちゃった方がいいですよ、侑先輩! 『出されたご飯は残さず食べろ』です!」

歩夢「……?」

しずく「『据え膳食わぬは~』的なことを言いたいのかな……? それも意味がちょっと違うけど……あはは」


──しばらくして、戻って来た博士の手には、


善子「侑には、これを」


灰色の板状の端末があった。


侑「え、ええっと……これは……?」

善子「最新型のポケモン図鑑らしいわ」

侑「ええ!? う、受け取れません!?」

かすみ「最新型!? ずるいです!! かすみんにもください!!」

しずく「かすみさんはもう貰ったでしょ? めっ!」


最新型らしいポケモン図鑑は他のみんなのものと違って、薄い小型モニターに近い形をしていた。でも、最新型って……私付き添いで来ただけなのに、受け取れないよ……。

私が困っていると──


善子「遠慮しないで、持って行ってくれないかしら? ちょっと知り合いに、これのデータ収集を頼まれちゃったんだけど……私は研究が忙しくて、集めてる暇もないのよ」

侑「い、いいのかな……?」

かすみ「貰えるものは貰っちゃいましょ!」

歩夢「博士が持って行って欲しいって言うなら……いいんじゃないかな?」

侑「……わ、わかりました。そういうことなら……」

善子「ええ、お願いね」


期せずして、私もポケモン図鑑をいただくことに……。それにしても最新型の図鑑なんて……ホントにいいのかなぁ……?


善子「さて……渡すものは渡したわね、それじゃ──」


博士が話を締めくくろうとしたとき、


 「──ヨーーーソローーー!!!!!!」


突然背後で、扉が勢いよく開く音と共に、元気な声が響き渡る。

振り返ると、そこには二人の女性の姿──


善子「うるっさ……もっと静かに入ってきなさいよ! 曜!!」

曜「いやー、新人たちもいるし、景気良い方がいいかなって思ってさ~。……って、随分散らかってるね?」

ことり「あはは……ごめんね? 善子ちゃん?」

善子「こ、ことりさん!?」


珍しく博士の声が裏返る。


侑「ことりさんに曜さん!」

歩夢「どうしたんですか!?」

かすみ「え、なんでなんで、ことり先輩と曜先輩が……!?」


私たちは驚きながら、ことりさんと曜さんのもとに駆け寄る。


しずく「皆さん知り合いなんですね?」

善子「二人とも……セキレイシティの有名人だからね」

しずく「まあ……サニータウンから来ている私でも知っているくらいには、お二人とも有名人ですけど……随分と仲良しなんだなと思って」

善子「二人とも慕われてるのよ。特に子供からはね」


ことり「ふふ♪ みんな久しぶりだね♪」

歩夢「はい、お久しぶりです!」

ことり「侑ちゃんと歩夢ちゃんにあげたポッポは元気かな?」

侑「はい! 2匹とも、今は歩夢の家で一緒に暮らしてますよ!」

ことり「あれ? 侑ちゃんにあげたポッポも、歩夢ちゃんの家にいるの?」

歩夢「はい。侑ちゃんが貰った♂のポッポは、私が貰った♀のポッポと仲良くなっちゃって……相談した結果、私の家で一緒に暮らしてるんです」

ことり「なるほど~そうだったんだね~♪ かすみちゃんにあげたスバメは元気かな?」

かすみ「えーあーえーっと……げ、元気……かも……?」

ことり「?」

しずく「あ……もしかして、そのスバメ……前に逃げられちゃったって、泣き付かれたことがあった……」

かすみ「しーー!!! しーーー!!! しず子、しーーーーっ!!!」

ことり「そっかぁ……スバメ逃げちゃったんだね。確かにすっごくお外が好きで、元気な子だったからね……そういうこともあるよね……」

かすみ「ご、ごめんなさいぃ……」


そういえば、そんなこともあったっけ。


善子「それはそうと、貴方たち何しに来たのかしら……?」

曜「いや、今日新人トレーナーが旅に出るからって言ったの善子ちゃんじゃん!」

善子「確かに教えたけど……というか、善子じゃなくてヨハネよ」

ことり「せっかく、ポケモントレーナーデビューする子たちだから──ポケモンジムに案内しようと思って♪」

かすみ「ジム!? ってことは、ジム戦して貰えるんですか!?」


かすみちゃんが勢いよく食いつく。確かにこの街にはセキレイジムがあるし、ポケモントレーナーだったら、ジムを巡るのも旅の目的の一つだ。

そのチュートリアルとして、この研究所に足を運んでくれたってことみたい。


かすみ「行きます行きます! かすみん、ジム戦やってみたかったんです!」


かすみちゃんはノリノリだけど……。


しずく「えっと……かすみさん」

かすみ「なに? もしかして、しず子もジム戦やりたいの? でも、一番乗りはかすみんに譲ってよ!」

しずく「そうじゃなくて……もしかして、忘れてる……?」

かすみ「何が……?」

善子「……かすみは研究所の片付けの手伝いが先よ」

かすみ「え゛!? ニャースを捕まえたからチャラなんじゃ……」

善子「誰もそんなこと言ってないわよ」

かすみ「そ、そんなぁ……!! 今日中に終わらないですよ~……!!」

しずく「かすみさん、私も手伝ってあげるから。頑張ろう?」

かすみ「しず子~……」


なんだかんだ、しずくちゃんってかすみちゃんに甘いよね……。


しずく「ですので、ジムには侑先輩と歩夢さんで行ってください」

侑「わかった」

歩夢「二人ともお片付け頑張ってね!」

曜「ん、話は付いたっぽいね! 侑ちゃんと歩夢ちゃんはジム戦には挑戦したいのかな?」

歩夢「わ、私は見るだけでいいかな……」


歩夢はやっぱりバトルにはまだ消極的みたい。でも、私は──


侑「私は……やってみたいです……!」


夢にまで見た、初めてのポケモンバトル。初めてのジム戦……! やってみたい!


ことり「わかりました♪ それじゃ、侑ちゃんをセキレイジム挑戦者として、ジムにご案内します♪」

侑「よろしくお願いします!!」





    🎹    🎹    🎹





セキレイシティのポケモンジムは街の西側に位置している。

すっかり日も暮れたセキレイシティを4人で歩いて、セキレイジムを目指す。


ことり「着きました♪」

侑「……セキレイジム……!」


小さい頃から、街のバトル大会があるときにはここに観戦に来ていた。

そんな場所に今、挑戦者として立てるなんて……!


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」

侑「うん! 全力でやってくる!」

ことり「それじゃ、侑ちゃんはチャレンジャースペースにお願いします♪」

曜「歩夢ちゃんはセコンドスペースで観戦するといいよ」

歩夢「あ、はい!」


ことりさんが開けてくれたジムの門扉を潜り──目の前に現れた大きな大きなバトルフィールドに向かって歩く。

私がバトルフィールドに着くと──ことりさんが私の横を通り過ぎ……審判席に着く。

そして、セキレイジムの奥、ジムリーダースペースへと着いたジムリーダーが──ボールを構える。


ことり「使用ポケモンはお互い1匹ずつ! 使用ポケモン全てが戦闘不能になったら、そこで決着です!」

侑「はい! それじゃ、よろしくお願いします──曜さん!!」

曜「こちらこそ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の初めての航海、私に見せて!!」


曜さんは敬礼すると共に──モンスターボールをバトルフィールドに投げ放つ。

ジム戦──開始……!!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
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  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.7 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 0個 図鑑 所有者を登録してください

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter003 『決戦! セキレイジム!』 【SIDE Yu】





曜「ゼニガメ! 出発進行!」
 「──ゼニィ!!!」

侑「イーブイ! 行くよ!」
 「ブイ」


私の肩に乗っていたイーブイが、バトルフィールドに降り立つ。

対する曜さんの使用ポケモンはゼニガメだ。


曜「ゼニガメ! “あわ”!」
 「ゼニーー!!!」

侑「イーブイ! 技をよく見て!」
 「ブイ」


ゼニガメが吐き出す“あわ”はふわふわと浮遊しながら、こっちに向かって飛んでくる。

でも、そのスピードはあまり速くなく、冷静に見ていれば避けられる!


 「ブイ」


イーブイはひょいひょいと“あわ”を躱しながら、ゼニガメへと近付いていく。


曜「うんうん! 冷静な判断、大事だね!」

侑「イーブイ! “なきごえ”!」
 「ブイーー!!!」

 「ゼニッ!!?」


最初からこの戦闘の戦い方は決まっている。近付いて“なきごえ”をしてから──


侑「イーブイ! “とっておき”!!」


この大技で一気にバトルを決める……!!

……と、思ったんだけど、


 「…ブィィ…」


イーブイは一瞬微かに光っただけで……その後は困ったように鳴きながら、こっちを振り返る。


曜「……? 不発?」

侑「え? あ、あれ?」

曜「……まあ、いいや! チャンスだよ、ゼニガメ! “かみつく”!!」
 「ゼニガァッ!!!!」

 「ブィッ!!?」
侑「わぁぁ!? イーブイ!?」


無防備なイーブイの前足にゼニガメが噛み付いてくる。


侑「ど、どうしよう……!? “とっておき”が使えない!?」


私は“とっておき”で決めるつもりだったので、技が不発してしまったことに気が動転してしまう。ど、どうにかしなきゃ!!


侑「ふ、振りほどいて!」
 「ブ、ブイ…!!!」


イーブイは体を捩りながら、大きな尻尾を振るう。


 「ゼ、ゼニ…!!」
曜「おとと、“しっぽをふる”だね」


もふもふの尻尾に怯んだゼニガメはイーブイに噛み付くのやめ、トントンとステップを踏みながら、曜さんの方へと後退していく。


侑「“しっぽをふる”……? イーブイが覚えてるのって“なきごえ”と“とっておき”だけなんじゃ……」

歩夢「侑ちゃん!!」


そのとき、セコンド席の方から歩夢の声。


侑「な、なに!?」

歩夢「そのイーブイ! さっきのゴルバットとの戦闘でレベルが上がって新しい技を覚えてるみたいだよ!!」


気付けば、歩夢はポケモン図鑑を手に持ち、そう伝えてくる。

きっとイーブイのデータを見てくれてるんだ……!


ことり「セコンド席、必要以上のアドバイスはダメですよー」

歩夢「す、すみません……!」


そっか……イーブイが新しい技を覚えたから“とっておき”が使えなかったんだ……!

“とっておき”は他に覚えている技をひととおり使ったあとじゃないと、使うことが出来ない技だ。

つまり──


侑「イーブイ!! 今出来ること全部やろう!!」
 「ブイ!!!!」


イーブイが地を蹴って飛び出す。“たいあたり”だ……!


曜「真っ向勝負? いいよ! ゼニガメ、“たいあたり”!!」
 「ゼニィ!!!」


──ドン! 2匹が“たいあたり”でぶつかり合う。


 「ブイ…!!!」
 「ゼニィ…!!!」


お互いの攻撃が相殺して、両者後退る。

いや……。


侑「ちょっとイーブイの方が強い? いけるかも!」
 「ブイ!!」


気持ちだけど……ゼニガメの方がイーブイよりも、大きく後退している気がする。


曜「“なきごえ”に“しっぽをふる”が効いてきちゃってるね……」

侑「このまま、押し切ろう! イーブイ! もう一回“たいあたり”!!」
 「ブイ!!」

曜「“からにこもる”!」
 「ゼニッ!!」


ゼニガメは即座に体を甲羅に引っ込めて、防御姿勢を取る。

防御態勢になったゼニガメをイーブイがそのまま、“たいあたり”で吹っ飛ばすと、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、硬い音を立ててバトルフィールドを転がっていく。


侑「よーし! イーブイ!! もう一回!!」
 「ブイ!!」


三たび、“たいあたり”で向かっていく。ゼニガメは今、甲羅に体を引っ込めて、動けない状況……! 今の内に畳みかける……!!

防御に徹しているゼニガメに“たいあたり”が炸裂した──と、思ったら、


 「ブイィィ…!?!?」
侑「なっ!?」


逆にイーブイが吹っ飛ばされて、こちらに飛んでくる。


侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
 「ブ、ブイィ…」


イーブイはバトルフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がる。


侑「な、なんで……? ゼニガメは今動けないはず……」

曜「侑ちゃん! そういう思い込みは、ダメだよ!」

侑「え?」

曜「ゼニガメ……GO!!」


曜さんの掛け声と共に──


 「ゼニッ!!!!!」


ゼニガメが甲羅に籠もったまま──突っ込んで来た。


侑「なっ!? イ、イーブイ!! 避けて!?」
 「ブイッ!!!!!」


真っ直ぐ迫ってくるゼニガメ。それから逃れるように、斜め前方にイーブイが急速ダッシュで回避する。


侑「! すごい! イーブイ!」
 「ブイィ!!!」

曜「! “でんこうせっか”を回避に使ってきたね! でも、ゼニガメの追尾は終わらないよ!」
 「ゼニィ!!!!」


曜さんの声と共にゼニガメが、再びイーブイに向かって飛び出す。

──位置関係上、ゼニガメを後ろから見ることが出来る位置になったため、やっとゼニガメの高速ダッシュのからくりが理解出来た。


侑「水を噴射してダッシュしてる!?」


そう、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、後ろ向きに水を噴射してダッシュしていた。

さっきイーブイが吹っ飛ばされたのはこれによって、逆に“たいあたり”されたからだ……!


曜「そのとおり! こうすれば防御しながら、攻撃も出来るんだよ!」

侑「イ、イーブイ! “でんこうせっか”!!」
 「ブイィィィ!!!!!」


イーブイは再び土埃を巻き上げながら、高速で走り出す。


侑「とにかく逃げなきゃ……!!」

曜「そうだね! でも、“でんこうせっか”じゃ速すぎて、小回りが利かないんじゃないかな!」


確かに曜さんの言うとおり、“でんこうせっか”での移動は一定距離直線を高速で進むだけで、曲がりながらの移動は出来ていない。

でも、今はとにかく距離を取りたいから……!!


侑「イーブイ!! 連続で“でんこうせっか”!!」
 「ブイッブイィッ!!!!」


一定距離真っ直ぐ進んでは、止まり、真っ直ぐ進んでは、止まりを繰り返し攪乱を行って──いるつもりだったけど、


曜「軌道がわかりやすすぎるよ!! ゼニガメ!!」
 「ゼニッ」


ゼニガメは水の噴射と、甲羅を回転させながら……急に、曲がった。


侑「曲がっ……!?」


ゼニガメの攻撃が完全にイーブイの進路に合わせられたと気付いたときには、もう遅く、


 「ブィィッ!!!?」


甲羅に籠もったままのゼニガメの“たいあたり”がイーブイに炸裂し、吹き飛ばされる。


侑「イーブイ!!」
 「ブ、ブィィ…?」


まだ、立ってる……! よかった……でも、


曜「ゼニガメ! 畳みかけるよ!!」
 「ゼニィ!!!」


休ませてくれない。ゼニガメは再び水を後ろ向きに噴射しながら、迫ってくる。


侑「で、“でんこうせっか”!!」
 「ブイィィ!!!!」


再び始まる追いかけっこ。


曜「さーて、次のタイミング……狙っていくよー!」

侑「……っ」


これじゃ、またそのうち狙い撃ちされちゃう……!

なにより、こっちから攻撃が一切出来ていない。このままじゃ……!!


侑「どうにか……どうにかしなきゃ……」


ただ、イーブイがいくら新しい技を覚えたからと言っても、さすがに4つや5つも覚えているとは考えにくい。恐らく、これ以上打開できるような技があるとしたら──


侑「“とっておき”しかない……!!」


もう技は全部出し切ったと考えて、一か八か……!!


侑「イーブイ!!」
 「ブイ」


私の声で静止するイーブイ。


曜「お、正面から受けるのつもりなのかな……!」


迫るゼニガメ。

お願い……! 決まって……!!


侑「“とっておき”!!」
 「──ブイィィ!!!!」


イーブイの体が光を発する。


侑「やった……!! 出た……!!」


巨大な光がそのまま、突っ込んでくるゼニガメを呑み込もうとした……瞬間、ゼニガメの姿がブレる。


侑「!?」

曜「もちろん、そんなバレバレの大技に引っかかったりしないよ!!」


ゼニガメが軌道を変えて回り込んだんだと気付いたときには、


 「ブィィッ…!!?」


イーブイは側面から突撃されて、吹き飛ばされていた。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィィ…」


吹き飛ばされながらも、どうにかよろよろと立ち上がってはくれたものの……もう、限界が近い。


侑「どうする、どうする……!?」


逃げ回っても追い付かれる。大技を撃っても避けられる。どうにか、隙を作らないといけないのに……打つ手がない。


曜「ゼニガメ! GO!!」
 「ゼニィッ!!!」

侑「っ! イーブイ!! ジャンプして!!」
 「ブ、ブイッ」


苦し紛れの指示だったけど、高速で突っ込んでくるゼニガメをどうにか飛び越える。


曜「まだ避ける体力があるみたいだね! でも、どこまで続くかな!」
 「ゼニィッ」


再び折り返してくるゼニガメ。でも曜さんの言うとおり、もう限界だ。

すぐにでも打開策を──


歩夢「侑ちゃーん!!! 覚えてるー!?」

侑「!?」


そのとき、急に響く歩夢の声。


歩夢「子供の頃、一緒に遊んだゲームのことーーー!!」


一緒に遊んだゲーム!? 急に歩夢は何を──

一緒に遊んだゲームなんて、落ちてくるブロックを消すゲームとか、カートでレースするゲームとか、ジャンプが得意なヒゲの主人公が冒険するアクションゲームとか……。


侑「!!」


あった……!! ゼニガメの隙を作る方法……!!


曜「さぁ、終わりだよ!!」


突っ込んでくるゼニガメ。


侑「イーブイ!!! 私の声を聞いて!!」
 「ブイ!!!!」


迫るゼニガメ。

──まだ。まだだ。

一直線にイーブイに向かって突っ込んでくるゼニガメ。でも、私は待つ。

これは勘だった。ゼニガメは──きっとフェイントを掛けてくる。


 「ブイ」


私はまだ、声をあげない。

イーブイの眼前に迫るゼニガメ。

でも、まだ……!


 「ゼニッ」


次の瞬間ゼニガメは──軌道を変えた。


侑「!! 今!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「!? 読まれた!?」


ゼニガメのフェイントを読み切ったジャンプ。


曜「でも、何度も読み切れるものじゃないよ……!!」


わかってる。だからこれは、回避じゃない……!!

跳ねたイーブイが、重力に引かれて落ちていく先は──ちょうどゼニガメの真上!!


侑「イーブイ!! ゼニガメを踏んづけて!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「なっ!?」
 「ゼニッ!?」


踏んづけられたゼニガメは──その勢いで上下逆さまになって、フィールド上を滑っていく。


 「ゼ、ゼニィ!!?」


まさにひっくり返った亀の状態に……!


曜「ゼニガメ!? 落ち着いて!?」


急な天地逆転に動揺したゼニガメが顔を出してもがく。

この隙は絶対に見逃さない……!!


侑「イーブイ!! “たいあたり”!!」
 「ブイブイ!!!!!」

 「ゼニィッ!!!?」


イーブイの“たいあたり”が無防備なゼニガメに直撃し、その勢いでゼニガメが宙に浮く。

もう──逃げ場はない!!


侑「イーブイ!! “とっておき”!!」
 「──ブイイーーーーー!!!!!!」


イーブイから巨大な光が溢れ出して──


 「ゼニガァッ!!?」
曜「ゼニガメッ!?」


その光は宙を舞うゼニガメに──直撃した。

──ドサ。

攻撃が直撃したゼニガメは墜落したあと、


 「ゼニィィ……」


目を回して、戦闘不能になったのだった。


侑「はぁ……はぁ……」
 「ブイ」

侑「やった……」
 「ブイブイ」

ことり「ゼニガメ、戦闘不能! よって、勝者セキレイシティの侑ちゃん!」

侑「……いやったああああああ!!! 勝ったよ!!! 私たち勝てたよ!! イーブイ!!」
 「ブイーー!!!」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「ありがとう! イーブイ!!」
 「ブイブイーー」

曜「いや、最後にやられたよ……まさか踏んづけてくるとは……」


曜さんがゼニガメをボールに戻しながら、こちらに歩いてくる。


ことり「ふふ♪ すごかったね、侑ちゃん♪」

侑「あ、いや……でも、これは歩夢のお陰でもあるというか……」

歩夢「……!?」


セコンド席の歩夢の方へ振り返ると、歩夢は気まずそうにわたわたと手を振る。


ことり「ん~……直接的なアドバイスじゃなかったから、今回はセーフにします♪」

歩夢「……っほ」

曜「でもまさか、テレビゲームをヒントに攻略されるとは思わなかったよ……あの赤い帽子のヒゲのおじさんのゲームでしょ? 私も昔千歌ちゃんとやったなぁ……カメ、確かに踏んづけると動けなくなるんだよね」

侑「成功するか、賭けでしたけど……あはは」


まさか、あんなに綺麗にひっくり返ってくれるとは思わなかったし……。


曜「なにはともあれ、勝ちは勝ちだし、負けは負け!」


曜さんがそう言いながら懐に手を入れ、


曜「勝者の侑ちゃんにはセキレイジムを突破した証として、この──“アンカーバッジ”を贈るよ」


曜さんから、錨型のジムバッジを手渡される。


侑「わぁ……!!」

ことり「あと初めてのジム戦だから、このバッジケースも。歩夢ちゃんにもあげるね♪」

歩夢「え、わ、私は……」

ことり「いいからいいから♪ いつか、挑戦したくなるかもしれないし。ね?」

歩夢「は、はい」


二人でバッジケースを受け取る。


曜「侑ちゃん、“アンカーバッジ”、はめてみて」

侑「は、はい!」


私は言われたとおり、バッジをケースの窪みにはめ込むと──カチリと小気味の良い音がした。


侑「えへへ♪ “アンカーバッジ”、ゲットだよ!」
 「ブイブイ♪」


イーブイと一緒に掴み取った初めてのジムバッジに嬉しくなる。


ことり「このバッジはポケモンリーグ公認のバッジ。持っているだけで、そのトレーナーの実力を保証してくれる証明にもなるから、大事にしてね♪」

侑「はい!」

ことり「そして8つ集めたら、ポケモンリーグで四天王に挑戦出来るようにもなるからね♪」

侑「はい! いつか、ことりさんのところにも辿り着いてみせます!!」

ことり「ふふ♪ 楽しみにしてるね♪ ことりはいつでも四天王の一人として、侑ちゃんの挑戦を待っています♪」

侑「はい!」


私もいつか、この地方の四天王と──そして、その頂きに立つチャンピオン・千歌さんと戦えたりするのかな?


侑「イーブイ! 私すっごいトレーナーになるから! 一緒に強くなろうね!」
 「ブイッ!!!」


私はイーブイに誓いを立てる。もっともっと強くなって……いつかは夢の舞台でもっとすごいトレーナーと戦いたい……!

私はそんな想いを胸に抱くのだった。




    😈    😈    😈





かすみ「…………かしゅみん……すごい……とれーなーに……えへへ……zzz」

しずく「かすみさん、まだ寝ちゃダメだよー? かすみさーん……」

善子「いいわよ。寝かせておいてあげなさい」

しずく「すみません博士……私が少し休憩しようなんて提案したばかりに……」

善子「気にしなくていいのよ。今日、頑張ってくれたのは事実だしね。そろそろ体力的にも限界だったんでしょ」

しずく「そうですね……朝も早かったみたいですし」

善子「それがイタズラの仕込みのためじゃなければねぇ……」

しずく「あはは……」


御覧のとおり、研究所の片付け中、一息入れている間にかすみは眠りの国に旅立ってしまった。

まあ、なんだかんだで一日中行動していたわけだしね。


しずく「……ふぁ」


それは、かすみだけじゃないけどね。


善子「ふふ。しずくも疲れたでしょう? 今日は研究所に泊まっていいから、もう休みなさい。二階の部屋が空いてるから」

しずく「うぅ……面目ないです。それでは、お言葉に甘えて……かすみさん、部屋まで行くよー?」

かすみ「ふぇ……? もう、かすみん……お腹いっぱいですよぉ……?」

しずく「そんな絵に描いたような寝言言ってないで……」

 「ガゥガゥ」

しずく「ゾロア?」


様子を見ていたゾロアがしずくの肩に飛び乗り“イリュージョン”で姿を変える。


しずく「……この姿……コッペパン……? ですか?」

善子「へー……かすみのゾロアは、食べ物にも化けられるのね」

かすみ「はぁぁ……おいしそうなコッペパン……」

しずく「……お腹いっぱいなんじゃなかったの?」


かすみの反応に、しずくが呆れ気味に肩を竦める。


善子「そのまま、上の階に誘導してあげなさい」

しずく「まあ……これで釣られてくれるなら、いいんですけど……。ほーらかすみさーん、おいしいコッペパンですよ~」

かすみ「うぇへへ~……まって~……」


コッペパン(ゾロア)に釣られて、よたよたと追いかけていくかすみ。……階段から転げ落ちそうね。


善子「ムウマージ」
 「ムマァ~」

善子「手伝ってあげなさい」
 「ムマァ~♪」


ムウマージがいれば、落ちても助けられるし大丈夫でしょう……。


善子「さて……私はもうひと頑張り……」


軽く伸びをしながら、作業に戻ろうとすると──


曜「──ヨーソロー♪ 善子ちゃん、さっきぶり♪」


やかましいのが戻って来たようだ。


善子「もう夜よ。静かにしなさい」

曜「あはは、ごめんごめん」

善子「ジム戦は終わったの?」

曜「うん、負けちゃった。侑ちゃん、きっと強くなるよ」

善子「それは何よりね」

曜「はぁーぁ……でもやっぱ、負けるのは悔しいなぁ。カメックスとなら、負けなかったのに」

善子「当たり前でしょ……もうジムリーダーになって結構経つんだから、慣れなさいよ……」


千歌ほどではないけど、曜も大概子供っぽいところがあるのよね……。


善子「それで、戻って来たのは曜だけ?」

曜「あ、うん。侑ちゃんと歩夢ちゃんは今日はもう遅いから一旦家に帰るってことだったから。ことりさんは二人を送って行ったよ」

善子「そういえば……ことりさんとあの二人、同じマンションに住んでたわね。……んで、何しに来たの?」

曜「む、なんか冷たい言い方だなぁ……せっかく、同期が遊びに来てるのにさ」

善子「本音は?」

曜「……今日泊めて! 明日、サニータウン方面に行かなくちゃいけなくってさ! 私の家、街の北側でしょ? ここからの方が近いから……お願いっ!」

善子「そんなことだろうと思った。いいわよ、適当に二階の部屋でも使って」

曜「さすが善子ちゃん! 持つべきものは優しい同期だね!」

善子「はいはい……あ、でも上でかすみとしずくが休んでるから、うるさくしないでね。あとヨハネよ」

曜「了解であります! ヨハネ博士!」


全く調子いいんだから……。まあ、さすがの曜でも一人で大騒ぎは出来ないでしょう。……たぶん。


曜「ところで、善子ちゃん」

善子「ヨハネ」

曜「善子ちゃん的には期待してる子とかいるの?」

善子「何よ……藪から棒に……貴方も協力してくれたから、知ってるだろうけど、今回のトレーナー選びは慎重に行った分、みんな同じように期待してるわ」

曜「ふーん、そっかそっか」


具体的に言うなら、しずくは座学の優秀さ、頭の良さを重視して選んだ。純粋な優等生タイプ。

逆にかすみは意外性重視。確かに今日みたいな突飛なことをしでかす可能性もあるけど、バトルの成績はそこそこいいし、ポテンシャルは確かに感じる。ちょっとピーキーだけどね。


善子「ただ、そうね……」

曜「?」

善子「強いて言うなら……その3人の中でも、歩夢は特別かもしれないわ」

曜「特別?」

善子「今日、成り行き上ではあったんだけど……あの子たちが研究所から逃げ出したポケモンを捕まえてくれて……」

曜「うん」

善子「……歩夢ね、ミミロルをバトル無しで捕獲したらしいのよ」


正直、侑に話を聞いたときは、冗談かと思ったけど……確かに、ミミロルは掠り傷一つ負っていなかった。


曜「それって……何かすごいことなの?」

善子「ミミロルってポケモンはね、警戒心が強く、気性が荒くて、なかなか人になつかないポケモンなのよ」


一説によれば、現在確認されているポケモンの中でも、最もなつきにくいという学説さえあるポケモンだ。


善子「そんなミミロルを説得して大人しくさせたらしいのよ」

曜「……確かにそれはすごいかも」

善子「もしかしたら……歩夢には少し特別な力があるのかもしれないわね」


ポケモンと仲良くなる才能……とでも言うのかしら。

実際、最初の3人を選ぶ際にも、歩夢に期待していたのはポケモンとすぐに仲良くなれるという評価から選ばせてもらったんだけど……想像以上かもしれない。


善子「……まあ、そんな感じよ」

曜「そっか。とにかく3人とも期待出来るってことだね」

善子「そうよ。ま、私が選んだリトルデーモンなんだから、当然よね」

曜「そっか。……善子ちゃん、良かったね」

善子「……何よ、急に」

曜「ずっと、心配してたんだよ……2年前のあの日以来、思い悩んでること、多かったから」

善子「…………」


2年前のあの日……ね。


私は先ほどまで、最初の3匹が並んでいた机の──引き出しを開ける。

引き出しの中にあるのは──とあるポケモンの入ったモンスターボール。


善子「…………」

曜「その子、結局どうするの? 私はてっきり、最初の3匹の中にその子も入れるんだと思ってたんだけど……」

善子「どうもしない。……この子を渡す相手は、もう決まってるんだから」

曜「……そっか」

善子「……」


僅かに沈黙が流れる。


善子「……曜、明日早いんでしょ。さっさと寝なさい」

曜「わかった、そうさせて貰うよ」

善子「おやすみなさい」

曜「ん、おやすみ」


二階へと上がっていく曜の背中を見送って。

──私は開けた引き出しを元に戻す。


善子「……さて、仕事を片付けましょうか」


こうして、夜は更けていく──




    🎹    🎹    🎹





侑「──あー!! 疲れたー!!」


私は自室に戻ってくるなり、ベッドに倒れ込む。


侑「イーブイもおいで。疲れたでしょ?」
 「ブイ」


イーブイに声を掛けると、ぴょんとベッドに飛び乗り、私の傍に身を寄せてくる。


侑「うわ、毛ぐしゃぐしゃになっちゃってるね……毛づくろいしてあげるよ」
 「ブイ」


家に帰ってくるなり、お母さんにいたく気に入られたのか、撫でられまくってたから、綺麗な毛並みが荒れてしまった。

ブラシを使って、毛づくろいしてあげると、


 「ブイィ…♪」


イーブイは気持ちよさそうにしている。


侑「イーブイ、気持ちいい?」
 「ブィ♪」

侑「ふふ、よかった」


今日はイーブイのお陰で、初めてのジム戦にも勝利することが出来た。

だから、ちゃんと労ってあげないとね。


侑「……そういえば、イーブイ……また新しい技覚えたりしてるのかな?」


ジムでの戦闘によって、またレベルが上がって新しい技を覚えているかもしれない。

そうすると、“とっておき”はますます使いづらくなるかもしれないし、把握しておいた方がいいかも……。


侑「覚えてる技の確認……」


歩夢はポケモン図鑑を使って、教えてくれたっけ?

そういえば、図鑑……。


侑「博士に貰ってから、まだ起動もしてなかったっけ」


ミニサイズのモニター状のポケモン図鑑を取り出して、観察する。


侑「電源みたいなのが、どこかにあるのかな……?」


とりあえず、画面に触れてみると──


 『指紋登録中。そのままお待ちください』


可愛らしい機械音声が図鑑から流れてくる。


侑「あ、これでいいのかな?」


たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 || ~ ᨈ ~ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。



たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.8 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:1匹 捕まえた数:1匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.6 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.6 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:3匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🐏



遥「なんだか、たくさん買っちゃったね……」

彼方「いいのいいの~久しぶりのお買い物だったんだから~。それより、重いでしょ~? お姉ちゃんが荷物持ってあげるよ~」

遥「ありがとう、お姉ちゃん」


私たち姉妹がセキレイデパートを出ると、もう日はとっぷりと暮れ、夜の時間が訪れていた。


彼方「二人ともお待たせ~」

遥「お待たせしてすみません……」


外で待っていた二人に声を掛ける。


穂乃果「そんなこと気にしなくていいんだよ♪」

千歌「そうそう、これも私たちのお仕事なんだから! それより、姉妹水入らずでのショッピング、楽しかった?」

遥「はい! すっごく楽しかったです!」

彼方「お陰様で、リフレッシュできたよ~。ありがと~」


やっぱり、たまにこうして息抜きしないと、疲れちゃうからね~。こうして、何気ない息抜きにも付き合ってくれる、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんには感謝しないとだよね~。


穂乃果「それじゃ、帰ろっか♪ 彼方さんはリザードンに」
 「リザァ」

千歌「遥ちゃんはムクホークに乗ってね」
 「ピィィ」

遥「はーい」

彼方「了解で~す」


私たちは月夜の中を飛び立って、セキレイシティを後にするのでした~。


………………
…………
……
🐏


■Chapter004 『──旅立ちの日』 【SIDE Yu】





侑「んー……! 今日もいい天気だね!」
 「ブィ」

リナ『気温21℃、湿度48%、降水確率は0%、本当に良いお天気。リナちゃんボード「わーい」』 || > 𝅎 < ||

侑「そんなこともわかるんだ……」

リナ『博士にはありとあらゆるセンサーを搭載してもらった。なんでも聞いて』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


マンションの廊下から見上げる空は、雲一つない青空が広がっている。

変わったことと言えば……。


侑「……」

リナ『ん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||


不思議な喋る図鑑が私の傍にいることかな……。

今はこうして普通に会話しているけど……昨日のことを思い出す。



──────
────
──


侑「え、えっと……リナって言うのは……名前……?」

リナ『うん、そうだよ。でも、正確には「Record Intelligence Navigate Application system」の頭文字を取って「RINA」だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……?」


あんまり説明になってないような……。


侑「えっと……つまり、リナちゃん……? ポケモン図鑑なの?」

リナ『図鑑に搭載されてるシステムAIだよ。最新鋭超高性能自己進化型AI』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そ、そっかぁ……」


なんだか、情報量の多い肩書きだ……。


侑「えっと……ロトム図鑑みたいな感じ……?」


世の中にはロトム図鑑という喋るポケモン図鑑があるらしいとは聞いたことがある。

ロトムは家電に棲み付くポケモンで、地方によってはいろんな機械にロトムが入って、人間をサポートしていると聞く。

なので、恐らくリナちゃんもそういう感じなのかな……? と思ったんだけど……。


リナ『うーん、ロトム図鑑とは少し違う。ポケモンじゃなくて、あくまでAI。……本当に何も説明を受けてないの?』 || ? _ ? ||

侑「うん……全く」

リナ『博士、こういうところがいい加減……。でも、私は博士から所有者と一緒に冒険をするように言われてる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「言われてる……? そう指示されてるってこと?」

リナ『うん。私は自己進化型AIだから、いろんな情報を得ることによって、さらに進化する。あなたには、私がさらにすごいAIに進化するための、お手伝いをして欲しい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


つまり、リナちゃんと一緒に各地を回って、リナちゃんにいろんなことを覚えさせて欲しい……みたいなこと、だと思う。


リナ『もちろん、その代わりに私はポケモン図鑑として、あなたのサポートをする。ポケモントレーナーとして旅をするなら、悪い話じゃないと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「う、うーん……?」


悪い話じゃない……のかな……?

とはいえ、ヨハネ博士から託されたということは……私は博士から、リナちゃんに協力して欲しいと頼まれているのも同然のような気もするし……?


リナ『あまり反応が芳しくない。わかった、今から図鑑としての性能をお披露目する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

 「ブイ…?」


リナちゃんはふわふわとイーブイに近付き、

リナ『イーブイ しんかポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.5kg
   進化のとき 姿と 能力が 変わることで きびしい 環境に
   適応する 珍しい ポケモン。 今 現在の 調査では なんと
   8種類もの ポケモンへ 進化する 可能性を 持っている。』

イーブイの解説を読み上げてくれる。


侑「おぉ……!」

リナ『これだけじゃない。今、イーブイが覚えている技は“たいあたり”、“なきごえ”、“しっぽをふる”、“でんこうせっか”、“すなかけ”、“ほしがる”、“にどげり”、“とっておき”』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「覚えてる技まで……!」

リナ『ポケモン図鑑だから、これくらいの機能は当たり前。リナちゃんボード「ドヤッ」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


普通のポケモン図鑑と違って、自分で操作しなくても、言えば検索してくれるみたいだし……確かにこれは便利かも。

……まあ、それはいいんだけど……さっきから言っている、リナちゃんボードってなんだろう……?

あ、いや……名前はリナちゃんだし、見た目はボードだし、ある意味そのまんまかも……? 口癖みたいなものなのかな……?

かすみちゃんで言うところのそういうキャラ……的な?


侑「……というか、イーブイどんどん新しい技覚えてるね」
 「ブイ…?」


やっぱり、“とっておき”は今後もあんまり多用出来ないかも……。


リナ『これで、図鑑の性能は信用してもらえたかな?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」

リナ『それじゃ、私と一緒に冒険してくれる? リナちゃんボード「ドキドキ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「わかった。一緒に行こう」


私は首を縦に振る。

突然の出来事にびっくりしてただけで、最初から断るつもりだったわけじゃないし。


侑「これからよろしくね、リナちゃん」

リナ『よかった! こちらこそ、よろしく。……えーっと』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は侑だよ。タカサキ・侑」

リナ『侑さんだね! よろしく!』 || > ◡ < ||



──
────
──────



──と、言うわけで喋るポケモン図鑑・リナちゃんも一緒に旅に行くことになった。

リナちゃんの自己進化AIとやらが、あちこちでいろんな情報を得て進化するお手伝いをするらしいけど……。


侑「まさか、ポケモンだけじゃなくて、ポケモン図鑑も育成することになるとは……」
 「ブイ…?」

リナ『そういえば、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『旅にはまだ行かないの?』 || ? ᇫ ? ||

侑「うん。歩夢を待ってるからね」

リナ『あゆむ?』 || ? ᇫ ? ||


そういえば、まだ歩夢のこと説明してなかったっけ。


侑「歩夢はね、私の幼馴染で、一緒に旅に行くことになってる子だよ」

リナ『そうだったんだ。今回の旅は侑さんだけじゃないんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんは少しの間を挟んだあと、


リナ『あの……侑さん。お願いがあるんだけど……』 || ╹ᇫ╹ ||


そう話を切り出す。


侑「お願い?」

リナ『うん。私のことなんだけど……侑さん以外の人にはロトム図鑑だって説明して欲しいんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え? どうして? 何か問題があるの?」

リナ『私の自己進化型AIはまだ開発段階で、世間に全く出回ってない。でも超高性能だから、人目に付きすぎると、もしかしたら企業スパイとかに狙われるかもしれない』 || 𝅝• _ • ||

侑「え、えぇ……?」

リナ『でも、ロトム図鑑としてなら喋るのも浮くのも、説明が付く。無用な争いを避けるためにも、お願い』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わ、わかった……そういうことなら」

リナ『ありがとう、侑さん。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||


まあ、確かに私もこんなポケモン図鑑は見たことも聞いたこともないし……──いや、ポケモン図鑑の実物を見たのは昨日が初めてだけど……。

企業スパイ……? というのがどういうものなのかはいまいちピンと来ないけど……。

なんか、それくらい大事なモノを託されたってこと……なのかな?

というか、そんな大事なモノ、私が持ってっちゃっていいのかな……。でも、持って行ってくれって言われたし……。

一人悶々と考えていると──


 「──侑ちゃ~ん……た、たすけて~……」

侑「ん?」
 「ブイ…」


隣の部屋の玄関の方から、ヘルプを求める声──もちろん、歩夢の声だ。

私はドア越しに声を掛ける。


侑「歩夢? どうかしたの?」

歩夢『み、みんなが放してくれなくて~……』

侑「ああ、なるほど……」


歩夢の家を思い出して、納得する。


リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『この扉の先から、すごい数のポケモンの反応がある。エイパム、ポッポ、ベロリンガ、コダック、ニョロモ、ハネッコ、ゴースト、エネコ……種類もタイプもバラバラ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ああ、うん。見ればすぐにわかるよ」


私は歩夢を救出するためにも、扉を開ける。

──すると、


 「エニャァ」
 「ゴスゴス」
 「ハネハネ」
歩夢「侑ちゃ~ん……」
 「シャボ…」


頭にハネッコが乗っかり、ゴーストに肩を掴まれ、歩夢の足元をエネコがチョロチョロと走り回っている。


侑「相変わらず、大人気だね」

歩夢「連れていくのはサスケだけって、何度も説明したんだけど……」
 「シャー」

リナ『わ……すごい数のポケモン。これって、全部歩夢さんのポケモンなの?』 || ? _ ? ||

侑「うん、そうだよ」

歩夢「え? 誰かいるの?」


ポケモンたちに気を取られていた歩夢が顔を上げると──リナちゃんと目が合った。


リナ『初めまして、私リナって言います』 || > 𝅎 < ||

歩夢「……へ?」


一瞬のフリーズのあと、


歩夢「……え!? ぽ、ポケモン図鑑が、し、喋ってる……!? しかも、浮いてるよ……!?」


歩夢が焦りと困惑の入り混じった表情になる。まあ、そうなるよね……。


侑「落ち着いて歩夢。この子はロトム図鑑のリナちゃんだよ」

歩夢「ロトム図鑑……?」

リナ『うん! 私ロトム図鑑のリナです!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「え、えっと……ロトム図鑑ってロトムの入った図鑑だっけ……? えっと、それじゃロトム図鑑の中にいるロトムの名前がリナちゃんなの……?」

リナ『うん、そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「そうなんだ……侑ちゃんの図鑑は最新型って言ってたもんね。ロトム図鑑だったんだ」

侑「うん、そうなんだよ」

歩夢「前に少しだけ、しずくちゃんにロトム図鑑のお話を聞いたことがあったけど……本当に図鑑が喋るなんて、すごいね」


やや強引だった気もするけど……さすが歩夢。何も疑ってない。

私も一枚噛んでるとはいえ、幼馴染としてちょっと心配になる騙されやすさだ……。


 「エニャァエニャァッ」
歩夢「きゃっ!? エ、エネコ……足元で暴れないで……」

侑「っと……そうだった」


歩夢を助けてあげないと……。屈んで、エネコを抱きかかえる。


 「エニャァ」
侑「ほら、エネコ。部屋にお戻り。歩夢のお母さんに遊んでもらいな」
 「ニャー」

歩夢「ゴースト、そろそろ放して……ね?」
 「ゴス…」

侑「ほら、歩夢が困ってるよ」

 「ゴス…」


ゴーストはしぶしぶ、歩夢から離れて、壁の向こうに消えていく。


侑「ハネッコは……」


たぶん、歩夢の頭に乗ってるだけかな……。


歩夢「うん……ハネッコ、『プロペラ』」
 「ハネ~~」


歩夢が『プロペラ』と言うと、ハネッコは頭の葉っぱを回転させながら、ふわ~と浮上していく。

無事みんなから解放されたところで、


侑「歩夢、今のうちに」

歩夢「う、うん! みんな行ってくるね!」


歩夢の手を引いて、玄関から脱出。


歩夢「ふぅ……ありがとう、侑ちゃん」

侑「あはは、家から出るだけで一苦労だね」


毎度のことながら苦笑いしてしまう。歩夢は本当にポケモンに好かれる体質というか、なんというか。


リナ『すごい数のポケモンと暮らしてるんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「うん、お外で遊んでるときに、仲良くなった子が付いてきちゃったりとかで……気付いたら……」

リナ『それにしても、ゴーストが家庭にいるのは珍しい。あまり人のもとに居付くポケモンじゃないから』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「3年前にゴーストポケモンが大量発生したことがあって、そのときに住み着いたんだよね」

歩夢「うん、それ以来ずっと一緒に暮らしてるよ」


あのとき、最初は歩夢が攫われるかもって大騒ぎになったけど、結局歩夢はゴーストと遊んでただけだったんだよね……。

……っと、それはともかく。


侑「歩夢、準備は良い?」

歩夢「あ、うん!」

侑「それじゃ、旅に出発しよう!」
 「ブイ♪」


予定より1日遅れてしまったけど、ついに私たちの冒険の旅のスタートです……!


リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||




    🎹    🎹    🎹





──さて、旅が始まるのはいいんだけど……。


侑「どこに向かおうか……」


考えてみれば、旅の目的を特に決めていなかった。

セキレイシティは東西南北に道があるから、目的次第でどこに行くかが変わってくる。


歩夢「侑ちゃんはこの旅で何がしたい? 侑ちゃんが決めていいよ♪」

侑「え? でも、これは歩夢の旅だし……」


図鑑と最初のポケモンを託されたのは歩夢なわけだし……まあ、私も結果として図鑑を渡されたけど……。


歩夢「私は侑ちゃんの行きたい場所に行きたいな♪」

侑「うーん……なら、やっぱりジムを巡りたいかな……」


バッジケースを開くと、“アンカーバッジ”がキラリと光る。

せっかくなら、各地のジムを制覇して、このバッジケースをいっぱいにしたい。


リナ『そうなると、行先は北のローズシティ、西のダリアシティ、南のアキハラタウンから流星山を越えて、ホシゾラシティを目指すかのどれかだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「結局あんまり選択肢が減ってない……」

リナ『効率的に巡って行くなら西ルートか南ルートだと思う。北ルートはローズシティのあと、クロユリシティかヒナギクシティだけど、どっちも遠いし、ジムを終えたら来た道を戻らないといけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ヒナギクからは一応ダリアに行けなくもないけど……確かにカーテンクリフを越えるのは現実的じゃないかもね」

歩夢「南もすぐに山越えがあるから……そうなると、西ルートがいいのかな?」

侑「じゃあ、西ルートでダリアシティを目指そう!」

歩夢「はーい♪」


……と言うわけで、私たちは昨日と同じように西側の6番道路へ向かいます。





    🎹    🎹    🎹





──6番道路・風斬りの道。


侑「歩夢! 準備OK?」

歩夢「うん、いつでも大丈夫だよ。サスケ、走るからね」
 「シャー」

侑「イーブイも振り落とされないようにね」
 「ブイ」

歩夢「あと……ヒバニー、出てきて!」


歩夢がボールを放ると──


 「──バニ!!」


ヒバニーが顔を出す。


歩夢「ヒバニーは走るの大好きだから、一緒に走ろうね♪」
 「バニバニ♪」


私たちは先ほどレンタルサイクルで借りた自転車にまたがったまま、今から走る道を見据える──5番道路まで続く長い大橋を。

この橋の上はサイクリングロードになっているから、自転車がないと通り抜けが出来ない。

なので、セキレイシティ⇔ダリアシティの行き来の際はこうして自転車を借りるのが基本となっている。

ちなみにポケモンは大型ポケモンでなければ走ってもOKだ。


侑「リナちゃんはどうする?」

リナ『あんまり速いと追いつけなくなっちゃうから、バッグの中にいる』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

侑「わかった」


リナちゃんがバッグに入ったのを確認して、


侑「よし、歩夢行こうか」
 「ブイ」

歩夢「うん♪」
 「シャボ」「バニバニッ」


私たちはサイクリングロードを走り出す。





    🎹    🎹    🎹





侑「──風が気持ちいい~♪」

歩夢「ホントだね♪」


歩夢と並びながら、自転車で風を切って走る。


 「バーニバニニニ!!!!!」
歩夢「ふふ♪ ヒバニーも楽しそう♪」


すぐ横の橋の柵上を並走してするヒバニーを見て、歩夢が嬉しそうに笑う。


侑「いいなぁ、私も一緒に走ってくれるポケモンがいれば……」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫だよ、上を見て!」

侑「え?」


歩夢の言葉に釣られるように上を見ると──


侑「わぁ……!」

 「ポポ」「スバーーー」「ピィィーー」「ミャァミャァ」


いろんな鳥ポケモンたちが私たちの上を飛び回っている。

ここ風斬りの道は鳥ポケモンの名所。気が付けば、あちこちに鳥ポケモンたちが飛び回っている姿を見ることが出来るようになっていた。


リナ『見えてないけど、かなりの数のポケモンの反応』


バッグからリナちゃんの声。


侑「ホントにすごい数かも!」

歩夢「すごいね、侑ちゃん!」

侑「うん!」


何匹かは歩夢のすぐ傍を並んで飛んでいる。もしかして、歩夢に寄って来てるのかな?

スバメやポッポ、ヤヤコマやムックルのような、街でもたまに見かけるポケモンの他にも──


侑「わ! あれってキャモメだよね!? 海で見るポケモン!」

歩夢「うん! キャモメだけじゃないよ! ペリッパーも!」

侑「! あれってヒノヤコマかな!? 初めて見るよ!」


旅……楽しい!!

旅立ち早々、見たこともないような景色に遭遇して、幸せな気持ちになってくる。


侑「でも、こんなにポケモンがいるなら……捕まえてみたいなぁ」
 「ブイ…」


考えてみれば、イーブイは自然になついて仲間になってくれた子だから、実際にポケモンバトルをして、捕まえることが出来たポケモンはまだいない。

良い機会だし、1匹くらい狙ってみるのもいいかもしれない。


侑「おーい! 誰かー! 私とバトルしてよー!!」


空を飛ぶポケモンたちに声を掛けるけど──鳥ポケモンたちは、私のことなんか特に気にならない様子で、風を受けて飛び続けている。


侑「……相手にされてない」

歩夢「あはは……どっちにしろ、イーブイだけだと飛んでるポケモンたちと戦うのは難しいかもしれないよ?」

侑「まあ、それもそっか……」


残念だけど、歩夢の言うとおりかも……。大人しく、風斬りの道を抜けた先で捕獲しよう……。

と思った瞬間──


リナ『ポケモン反応!! 背後から急接近!!』


リナちゃんがバッグの中から叫ぶ。


侑「え!?」

 「ワシャァーーー!!!!!」


振り返ろうとした瞬間、背負ったバッグを何かに掴まれる。


侑「ちょ、タ、タンマ……!!」


何かが強い力で後ろから引っ張ってきている。自転車で走っている真っ最中だから、このままだと……転んじゃう……!!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイ!!!」


頭の上のイーブイが──ヒュンと風を切りながら、後ろでバッグを掴んでいるポケモンに突進する。


 「ワシャァッ!!!」


攻撃が直撃したのか、短い鳴き声と共に──


侑「っ!?」


後ろに引っ張る力が急になくなったせいで、前につんのめりそうになる。


歩夢「侑ちゃん!?」

侑「だい、じょう、ぶっ!!」


ブレーキをめいっぱい握りしめながら、足を地面に着けて、無理やり急ブレーキを掛ける。

──ギャギャギャっと、ちょっとヤバい音はしたものの、


侑「セ、セーフ……」


どうにか止まれた。

そのまま、すぐに後ろを振り返ると──


 「ブイ…!!!」
 「ワシャッ!!」


イーブイと1匹の鳥ポケモンが向き合って、睨み合っているところだった。


侑「リナちゃん!」

リナ『うん!』 || ˋ ᨈ ˊ ||


リナちゃんがバッグから飛び出す。


リナ『ワシボン ヒナわしポケモン 高さ:0.5m 重さ:10.5kg
   どんなに 強い 相手でも 見境なく 勝負を 仕掛ける。
   倒れるたびに 傷つくたびに 強く たくましく 育っていく。
   強い 脚力と 丈夫な ツメで 硬い 木の実も 砕く。』

侑「ワシボン……!」


好戦的なポケモンだから、私に飛び掛かって来たんだ……!


侑「いいよ! なら、バトルしよう! ワシボン!」

 「ワシャ!!!!!」


ワシボンが空を切って突っ込んでくる。


侑「イーブイ! “たいあたり”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹が正面からぶつかり──


 「ブィッ!!!」
 「ワシャッ!!!」


両者、攻撃が打ち合って後退する。


 「ワシャッ!!!!」


ワシボンは後退したと思ったら、すぐに近くの鉄橋のアーチの方に向かって飛んでいく。


侑「あ、あれ?」


もしかして、今ので逃げちゃうの……?

私が軽く拍子抜けした瞬間──

──ギャギャギャギャっと耳障りが音が響く。


侑「う、うるっさ……!? “いやなおと”!?」

リナ『ワシボンは“いやなおと”は覚えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「じゃあ何!?」

歩夢「つ、爪を研いでるんじゃないかな……っ?」


歩夢が耳を押さえながら近付いてくる。


リナ『歩夢さん正解! リナちゃんボード「ピンポーン♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「つ、つまりそれって……! “つめとぎ”……!?」

 「ワシャァッ!!!!!」


爪を研ぎ終わったワシボンが、鉄橋のアーチを蹴って、一気にこちらに向かって飛び出す。

攻撃力を上げて突っ込んでくる……!?


 「ブィィ!!?」


急なことに対応出来ず、イーブイに“つばさでうつ”が直撃する。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブイイィ…!!!」


イーブイは攻撃を受けて、吹っ飛び転がりながらもすぐに体勢を立て直す──が、


 「ワッシャァッ!!!!!」


吹っ飛んだイーブイを追いかけるように、ワシボンが追撃してくる。

再び大きく振るった翼に──


侑「イーブイ!! “しっぽをふる”!!」
 「ブーーイ!!!!」


大きな尻尾で追い払うように、攻撃を受ける──


 「ブィ…ッ!!!」


ノーダメージとまではいかなかったけど、幸いにも十分勢いを殺せた……!

と、思った瞬間──


 「ワシャァ!!!!!」
 「ブィィ!!!?」

侑「ええ!?」


逆の翼が襲い掛かって来た。


リナ『あれは“ダブルウイング”!? あのワシボン珍しい技覚えてる!?』 || ? ᆷ ! ||


 「ブ、ブィィ…!!!!」


イーブイはよろけながらも、後退しながらステップを踏むようにして、なんとか持ちこたている。


 「ワシャァ!!!!」


再び翼を広げて、飛び掛かってくるワシボン。


リナ『侑さん!! また来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


二発来るってわかってるなら、こっちも……!!


侑「イーブイ!! “にどげり”!!」
 「ブイッ!!!!」


イーブイは後ろ脚で、一発目の攻撃を受けるように翼を蹴り上げる。


 「ワシャッ!!!!」


先ほどのように、飛んでくる逆の翼での攻撃も──


 「ブイッ!!!!」
 「ワシャッ!!!?」


二発目の蹴りで迎撃する。


侑「二連続で攻撃出来るのは、そっちだけじゃないよ!」


自慢の攻撃が捌かれたためか、ワシボンに一瞬動揺が見えた。


侑「今だ!! “すなかけ”!!」
 「ブイッ!!!!」

 「ワシャッ!!?」


一瞬の隙を突いて、ワシボンの顔に砂を直撃させる。


 「ワ、ワシャァァ!!!!!」


目潰しを食らって、ワシボンはよたよたしながら、翼をぶんぶんといい加減に振り回す。

でも、そんな適当な攻撃は当たったりしない。この隙に決める……!!


侑「いっけぇ!! “たいあたり”!!」
 「ブーーイ!!!!!」

 「ワシャァ!!!?」


攻撃が直撃し、ワシボンが後ろに向かって吹っ飛んでいく。

そこに向かって私は──


侑「いっけーーー!! モンスターボール!!!」


モンスターボールを投擲した。

──パシュン!! ワシボンにボールが直撃し、中に吸い込まれる。


侑「お願いお願い……!!」


モンスターボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち……大人しくなった。


侑「……やった」
 「ブィ」

侑「やったぁぁ!! 初捕獲成功ーーー!!!」
 「ブィブィ♪」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「イーブイ! 私たち捕獲出来たよー!!」
 「ブイブイ!!!」


二人で喜びを分かち合っていると──


歩夢「侑ちゃん、おめでとう!」


歩夢が自転車の乗ったまま、近寄ってくる。


侑「えへへ、ありがと歩夢♪」

歩夢「うん♪ それじゃ、イーブイは怪我を治そうね♪」


歩夢はそう言いながら、イーブイに“きずぐすり”を噴きかける。


 「ブイー♪」

歩夢「よし♪ これで、元気になったね♪ ワシボンも治療してあげないと♪」


ニコニコしながら、今捕まえたばかりのモンスターボールの方へ近付いていく。


侑「あ、ちょっと歩夢!? 最初にボールから出すのは私がやるって!?」

リナ『確かにこれだと、どっちが“おや”なのかわからない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「私がワシボンの“おや”だからー!?」


初めての捕獲の喜びも束の間、私は歩夢に先を越されまいと、慌ただしくモンスターボールのもとへ急ぐのだった。





    💧    💧    💧





──セキレイデパート。


しずく「“モンスターボール”は買いましたね。あとは“きずぐすり”と……“どくけし”や“まひなおし”も買っておかないと……」
 「マネマネェ…」


私が道具の棚の前で腕組みしながら考えていると、足元でマネネも腕組みをして考える素振りをする。


しずく「マネネったら、また私の真似して……」
 「マネネ」

 「──あれ、しずくちゃん?」

しずく「?」


声を掛けられて振り返る。そこにいたのは──


しずく「あ……ことりさん」

ことり「こんにちは♪」


ことりさんだった。


ことり「旅に出たんだと思ってたけど……まだ、セキレイシティにいたんだね?」

しずく「はい。まだ、かすみさんが研究所で片付けの手伝いをしている真っ最中でして……」

ことり「待ってあげてるの?」

しずく「なんというか……かすみさんを一人放って行くのも少し気が引けますし……」

ことり「ふふ、そうなんだ♪ しずくちゃんは友達想いなんだね♪」

しずく「い、いえ……/// な、何より、一人で行かせるのが心配なので……!///」

ことり「そっかそっか♪」

しずく「うぅ……///」
 「マネ…///」


なんだか見透かされているようで恥ずかしい。というか、マネネはこういうところまで真似しなくてもいいのに……。


ことり「それじゃ、かすみちゃんのお手伝いが終わるまで、しずくちゃんは時間があるんだね?」

しずく「はい……むしろ、すでに暇と言いますか……」


かすみさんのお手伝いはもう少し時間が掛かりそうですし……。

こうして、買い物をしに来てはいるものの、最低限の旅の準備は昨日の時点で終わっていたわけで……。


ことり「なら、しずくちゃん、ことりのお家においでよ♪」

しずく「……え?」

ことり「というか決定です♪ それじゃ、行こう~♪」

しずく「え!? えぇ~!!?」
 「マネネェ!!?」


ことりさんは私の返事も聞かずに、私の手を引いて歩き出してしまいました。





    💧    💧    💧





ことり「いらっしゃいませ♪ ことりのお家へ♪」

しずく「え、えっと……お邪魔します」
 「マ、マネネェ…」


連れてこられたのは侑先輩と歩夢さんが住んでいるマンションの一番上のお部屋。

ことりさんも、同じマンションに住んでいたんですね……。

それにしても……。


 「ピィー」「ポポ」「ピピピヨ」

しずく「すごい数の鳥ポケモン……」
 「マネネェ」


さすが、ひこうタイプをエキスパートとしている四天王……。

……というか、私は何故ここに連れてこられたのでしょうか?


ことり「しずくちゃんはどんな鳥ポケモンが好き?」

しずく「え? えっと……どんなと言われると難しいですね……」

ことり「かわいいとか、かっこいいとか、そういう大雑把なことでもいいよ♪」

しずく「えっと……力強い美しさがあるポケモン……でしょうか」


鳥ポケモンに限らず、内に秘めたエネルギーがあるポケモンが好き……だと思う。

我ながら、具体性に欠ける気がするけど……。


ことり「力強い美しさだね♪ わかった、いい子がいるから待っててね!」

しずく「は、はぁ……」

ことり「ココラガ、おいで!」


ことりさんが呼ぶと──


 「ピピピピィィーーー」


小さな鳥ポケモンが飛んできて、ことりさんの腕の上に止まる。


しずく「あ、このポケモン……」


目の前のポケモン──ココガラには、少しだけ見覚えがあった。


ことり「あれ? もしかして、ココガラ知ってるのかな? この地方では珍しいポケモンなんだけど……」

しずく「は、はい。小さい頃、両親と一緒に旅行で行ったガラル地方で見たことがありまして……」


確かこのポケモンは──


しずく「アーマーガアに進化するんですよね? ガラル地方では交通の便として、私も利用させて貰いました!」


ガラル地方では『空を飛ぶタクシー』として慣れ親しまれている、アーマーガアへ進化することで知られている。


しずく「アーマーガアの力強さ、そしてガラルという地方で人と共存し、生きている姿には幼いながらも感動させられた記憶があります……!」


あそこまで人とポケモンの生活が密接に結びついているのは、なかなか珍しいことだ。


ことり「そうなんだ! じゃあ、しずくちゃんにぴったりかも! よかったね、ココガラ♪」
 「ピピピピィィーー」

しずく「よかった……? あの、ことりさん……私は一体何をすれば……」


というか、何をさせられるんでしょうか……? 困惑していると──


 「ピピピピィーーー」

しずく「きゃっ!?」


ココガラはことりさんの腕から飛び立ち、今度は私の頭の上に止まる。


しずく「え、えっと……」

ことり「ふふ♪ ココガラもしずくちゃんが気に入ったみたいだね♪ それじゃ、よろしくね♪」

しずく「……? えっと、よろしくとは一体……?」

ことり「ココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」


どうにも、会話が噛み合っていないような……。


しずく「…………もしかして、このココガラ……頂いても良いということでしょうか?」

ことり「あれ? 言ってなかったっけ?」

しずく「えっと……とりあえず、今のところは何も……」


そういえば、この街の子供はみんな、ことりさんから鳥ポケモンを貰う習慣があると、前に学校で聞いたことを思い出す。

通っていたのがセキレイシティの学校だったため、生徒のほとんどは幼少期にことりさんから鳥ポケモンを貰っていると言っていた気がします。

もちろん、かすみさん、歩夢さん、侑先輩も例外ではなく……というか、この話は昨日もしていましたね。


ことり「私、セキレイシティの子には、鳥ポケモンをよくプレゼントしてるんだよ♪」

しずく「ですが……いいんですか?」

ことり「ん~?」

しずく「私はセキレイシティ出身ではなく、サニータウンから来ているので……」

ことり「でも、ここから旅立つんだったら、もうセキレイシティの子も同然だよ~♪」


そ、そういうものなんでしょうか……?


ことり「別にセキレイシティの子にあげるって決まりがあるわけじゃないし……実際セキレイシティの出身じゃない、曜ちゃんにもあげたことがあるし♪」

しずく「え、そうなんですか?」

ことり「うん♪ まだ曜ちゃんが駆け出しのトレーナーだった頃だけどね♪」


街の人たちに慕われているジムリーダーの曜さんが、駆け出しだった頃……あまり想像が出来ませんが……。

そういえば、ことりさんと曜さんは師弟関係だという話を聞いたことがあった気が……確かにそれなら、ポケモンを譲り受けていてもおかしくない……のかな。


ことり「これはあくまでトレーナーデビューしたしずくちゃんへの、お祝いの気持ちだよ♪ だから、しずくちゃんもココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」

しずく「……わかりました。そういうことでしたら、ありがたく頂戴します……! よろしくね、ココガラ」
 「ピピピィィィーー」

ことり「うん♪ それじゃ、ことりはお仕事があるから、そろそろウテナシティのリーグに戻らなきゃ」

しずく「お、お仕事前だったんですか!? す、すみません……」

ことり「うぅん、気にしないで♪ ことりも好きでやってることだから♪」


ニコニコ笑いながら言うことりさんと共に、ことりさんの部屋を出る。


ことり「それじゃ、冒険の旅楽しんで来てね♪」

しずく「はい! ありがとうございます!」
 「ピピピピィィーー」

ことり「ココガラも、しずくちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてあげてね♪」

 「ピピピピピィィィーーー」

ことり「よし! それじゃ、またね、しずくちゃん!」


ことりさんはそう言いながら──突然、手すり壁に手を掛け身を乗り出し、マンションの廊下を飛び降りた。


しずく「!?」


ここ10階ですよ……!? 驚くのも束の間──目の前を、大きな綿雲の翼が飛翔していく。


しずく「チ、チルタリス……」


ことりさんは、空中で出したチルタリスに乗り、優雅に飛び去って行ったのでした。


しずく「さすが……ひこうタイプのエキスパート……」


移動も自由自在ですね……。

しばらく、感心やら驚嘆やらで呆然としていましたが……。


 「マネマネ」「ピピピピィーー」
しずく「……あ、うん。ここでボーっとしてても仕方ないよね」


ポケモンたちの声で現実に引き戻された私は、かすみさんの様子を見に、研究所へと足を向けるのでした。





    🎹    🎹    🎹





ワシボンを捕獲したあと、順調に橋を進んで──


侑「風斬りの道、抜けた~!」


5番道路に到着した。


歩夢「やっぱり自転車があると、早いね♪」

リナ『障害物がない一直線の道なのもあるかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


気付くと、風斬りの道を抜けたからか、リナちゃんも外に出てきている。


歩夢「この調子だと、すぐにダリアシティだね」


歩夢の言うとおり5番道路に入って、少し南下すればダリアシティはすぐそこにある。

宿の問題もあるし、早めにダリアシティに到着出来るに越したことはないんだけど──


侑「ねぇ、歩夢。ダリアシティもいいんだけどさ……」

歩夢「え?」

侑「せっかくここまで来たなら……もっと近くで見たくない?」


言いながら指差す先は──ここから北にある、オトノキ地方随一の断崖絶壁。


侑「カーテンクリフ……!」

歩夢「わ……! 気付いたら、クリフにこんなに近付いてたんだね」


まだ結構距離があるはずなのに、目の前に聳え立っている自然の大壁は、かなりの存在感を放ちながら私たちを見下ろしている。


侑「せっかくの旅なわけだしさ! 近くで見てみない?」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんが行きたいなら、いいよ♪」

侑「やった♪」

リナ『それじゃ、進路は一旦北の7番道路に変更だね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

 「バニバニッ!!!!」


進路変更を聞いて、ヒバニーがぴょんぴょんと跳ねる。


歩夢「ヒバニー、まだ走る?」
 「バニバニッ!!!!」

侑「もっと走れて嬉しいー! って感じかな?」

歩夢「うん、そうみたい」

侑「ヒバニー、ホントに元気だね」

歩夢「うん。サスケとは正反対」
 「…zzz」


気付けばサスケは、歩夢の肩に乗ったままお昼寝中。器用だ……落ちないのかな。


侑「イーブイは走る?」
 「ブイ…」


訊ねると、イーブイは私の肩に乗ったまま、小さく鳴くだけだ。


侑「あはは、イーブイも大人しいね……」


戦闘のときはあんなに頼もしいんだけどね……。


侑「よっし! とにかく、カーテンクリフ目指してレッツゴー!」

歩夢「おー♪」

リナ『はーい♪』 || > 𝅎 < ||





    🎹    🎹    🎹





──しばらく自転車を走らせ、7番道路。


侑「着いたね……」

歩夢「うん……」

侑「見えてるのに、なかなか辿り着かないとは思ってたけど……」


辿り着いたカーテンクリフの麓から見上げる断崖絶壁は、予想以上のスケール感だった。

頂上は雲に遮られて、ここからだと全く見えない。ここまで続いていた道路を急に遮る形で存在しているソレは、まさにオトノキ地方のカーテンの異名に相応しいかもしれない。


歩夢「子供の頃から遠くに見てはいたけど……近くで見るとこんなにおっきいんだね……」

侑「うん……! やっぱ、実際に間近で見るとときめいちゃう……!」

歩夢「ふふ♪ ここまで来てよかったね♪」

侑「うん! あ、そうだ! せっかくだし、行けるところまで麓沿いに行ってみようよ! どれくらいカーテンなのかを自分の足で、もっと体感したい!」


私は自転車を停めて、麓沿いに駆け出す。


 「ブイ…」


イーブイはのんびりしたかったのか、私の頭から飛び降りちゃったけど……まあ、いいや!


歩夢「あ、ちょっと待って侑ちゃん……!」

 「バニバニ~!!!!」
歩夢「あ、ちょっと……! ヒバニーも……!」

侑「お、ヒバニー競争する?」
 「バニバニ!!!!」

侑「じゃあ、どっちが先に端に辿り着くかの勝負だよ♪」
 「バニー♪」

歩夢「端まで行ってたら日が暮れちゃうよぉ~……」


半ば歩夢を置いていきかねない勢いで、ヒバニーと一緒に走り出した矢先──


リナ『ゆ、侑さん!? 上!!』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんが急に大きな声をあげた。


侑「上?」
 「バニ?」


ヒバニーと一緒に上を見上げると──大きな影が見えた。


侑「!?」


頭上から何かが落ちて来ていると気付いたときには──もう直撃ルートだった。


歩夢「侑ちゃん!! ヒバニー!!」
 「ブイブイ!!!!」

侑「っ……!!」


咄嗟に足元のヒバニーを掴んで、


 「バニッ!!!?」


歩夢の方に全力で放り投げる。


歩夢「! ヒバニー!!」
 「バニッ」


歩夢がキャッチしたのを確認したけど──


侑「っ……!」


もう目と鼻の先に迫る落下物。もうダメだ──そう思って目を瞑った瞬間、


 「──ウインディ!! “しんそく”!!」


響く声と共に、自分の身体がふわっと浮いた気がした。

──直後、ガァーーーン!!! 重い物が落下したんだとわかる大きな音が衝撃を伴って空気を震わせる。


 「お怪我はありませんか!?」

侑「……え……?」


間近で声が聞こえて、目を開けると──


侑「!!?!? え、せつ……っ!!?!?」


目の前に、同い年くらいの見覚えのある女の子の顔。

そして、周りの景色が高速で流れている。

あまりの情報量の多さに混乱する中、


 「ボスゴーーーードラァ!!!!!!!」


響き渡る、低い鳴き声。


 「まだ、戦闘不能になってない……! このまま、決めます!! 掴まっていてください!!」

侑「へ!? えぇ!?」

 「ウインディ!! “インファイト”!!」
  「ワォォォーーーン!!!!!!」


揺れる景色がさらに激しくブレる。辛うじて前方に目を向けると──ウインディが、牙や頭、前足でボスゴドラに猛攻撃を食らわせているところだった。


 「ゴォーードラァ…ッ」


そして、その攻撃を受け、ボスゴドラは吹っ飛ばされながら、崩れ落ちた。


 「ふぅ……どうにかなりましたね。すみません、大丈夫でしたか?」


そう言いながら、目の前の女の子が私の顔を覗き込んでくる。


侑「は、はい……っ……///」


顔がカッと熱くなるのを感じた。何せそこにいたのは──


せつ菜「それなら、何よりです!」


──私の憧れのトレーナー、せつ菜ちゃんだったからだ。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.10 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.9 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:23匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.8 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:10匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.5 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:3匹


 侑と 歩夢と しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




 ■Intermission🐥



只今ことりは、ウテナシティに戻る真っ最中。


ことり「……」


空を切りながら飛ぶチルタリスの背後から、


ことり「……やっぱり、視られてるよね」
 「チルゥ」


ずっと視線を感じていた。

それも今日に限ったことじゃない、ここしばらくはずっとだ。

気のせいかな……とも思っていたけど、いい加減犯人さんを突き止めてしまった方がよさそうだ。

私は背後を振り返り、


ことり「追いかけてきている人!! 出て来てください!!」


背後に向かって大きな声で呼びかける。

ただ、ここは上空。隠れる場所なんてないはず。

だからこそ、ことりも気のせいだと思っていたんだけど……あまりに強い視線──というよりも、圧を背中に感じ続けていた。

何かがいるのはほぼ間違いないと、ことりの勘がそう言っていた。

その刹那──


ことり「きゃぁっ!?」


突風のように何かがことりの横を猛スピードで横切った。


ことり「やっぱり何かいる……!!」
 「チルゥゥゥ!!!!!!」


一気に臨戦態勢に入るものの──ギュンッ!!


ことり「っ……! 回避っ!!」
 「チルゥッ!!!」


咄嗟に回避を指示。

チルタリスは身を捩り、辛うじて避けられたものの、相手の動きが速過ぎて姿が捉えられない。

恐らく、純粋なスピードだけで逃げ切るのはチルタリスでは難しい。

もっと、スピード重視の子に入れ替えるのも考えたけど──

私はすぐに、純粋な速さ比べも力比べもするべきではないと判断する。

何故なら──私の知る限り、こんな高速で飛行しながら、攻撃を行うポケモンは“ひこうタイプ”には存在しないと思ったから。

相手が何者かもわからないまま、隠れる場所もないこの空中で、戦いを続けるのは得策じゃない。


ことり「……ならっ!!」


隠れる場所がないからこその、迎撃方法で立ち向かう……! ことりは両手で耳を塞ぎながら──


ことり「“ハイパーボイス”!!!」
 「チィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!」


空間一帯を爆音で攻撃する。

チルタリスを基点に広がる振動のエネルギーが、周囲の空気を激しく震わせたのち──


ことり「……い、いなくなった……かな……?」


先ほどまで、空気を裂きながら飛翔していたポケモンの攻撃は、スンと止む。


ことり「……逃げたのかな……?」


無差別の音波攻撃によって、撃墜した可能性もあるけど……深追いは禁物かな。


ことり「チルタリス、少し時間掛かっちゃうけど……高度を下げて向かおっか」
 「チル」


私は出来るだけ遮蔽物のある地表付近を飛びながら、ウテナシティを目指すことにする。

帰ったら、すぐに海未ちゃんに報告しないと……。


………………
…………
……
🐥


■Chapter005 『憧れのトレーナー』 【SIDE Yu】





せつ菜「──改めて、お怪我はありませんか?」


ウインディから降ろして貰うと、せつ菜ちゃんは再び私の顔を覗き込みながら、そう訊ねてくる。


侑「は、はい……っ」


軽く声を上ずらせながら返事をすると、せつ菜ちゃんは少し不思議そうに首を傾げる。


せつ菜「……やはり、どこか調子が悪いんじゃ……」

侑「い、いえっ!!」

せつ菜「そうですか……? なら、いいのですが……」


せつ菜ちゃんと直接話しているという事実に軽く動転していると、


歩夢「侑ちゃーん!!」
 「ブイブイ!!!」「バニーー!!!!」


歩夢とイーブイ、そしてヒバニーがこちらに駆け寄ってくる。


 「ブイーーー!!!!」「バニーーー!!!」


そのまま、イーブイとヒバニーが飛びついてくる。

侑「おとと……イーブイ、私は無事だよ。心配掛けてごめんね。ヒバニーも怪我がなさそうでよかったよ」
 「ブイ…」「バニー!」

せつ菜「! あなたのポケモンと……そちらは連れの方ですか?」

歩夢「は、はい……! 侑ちゃんを助けていただいて……。……え?」


歩夢もせつ菜ちゃんに気付いたらしく、言葉を詰まらせる。まあ、あれだけ一緒にビデオ見てたし、歩夢も気付くよね……。


せつ菜「? どうかされましたか?」

侑「えっと……」

せつ菜「?」

侑「せつ菜ちゃん……ですよね?」


私がそう訊ねると、せつ菜ちゃんは少し考えたあと、


せつ菜「……もしかして、どこかでお会いしたことが……?」


と、明後日の方向に結論が出た模様。


侑「い、いや……ポケモンリーグ決勝戦での試合で見たことがあって……」

せつ菜「ああ、なるほど! 観戦してくださってたんですね!」


せつ菜ちゃん……自分が有名人だって自覚ないのかな……?


せつ菜「知ってくださっているなんて光栄です。そんな方を巻き込んでしまったなんて……面目ないです」

侑「巻き込んでしまった……? むしろ、助けてもらって……」

せつ菜「いえ……先ほど降ってきたボスゴドラは、上で私が戦っていた野生のポケモンなんです……」

歩夢「こんな場所でバトルを……?」

せつ菜「はい、修行のために……。ですが、ボスゴドラが落ちたあとに、下に人がいることに気付いて、急いで下って来たんです」


それはそれで、すごいような……。崖から落ちてくるボスゴドラに、追いついてきたってことだよね……?


せつ菜「なので、申し訳ありませんでした。まさか、カーテンクリフの麓に人がいるなんて思ってなくて……」

侑「い、いや、いいんです! お陰様で、このとおり無事ですし!」

せつ菜「そう言っていただけると助かります……。えーっと……」

侑「あ、私、侑って言います!」

歩夢「歩夢です、侑ちゃんと一緒に旅をしていて……」

せつ菜「侑さんと歩夢さんですね! 私はせつ菜って言います! ……って、もう知っているんでしたね」


せつ菜ちゃんはコホンと咳払いをする。


せつ菜「ところで、お二人とも見たところ同じくらいの歳に見えますが……」

侑「あ、はい! 私も歩夢も16歳です!」

せつ菜「ということは同い年ですね! でしたら、敬語は使わなくても大丈夫ですよ!」

侑「え、でも……」

せつ菜「どうか、お気になさらず! 私も敬語で話されるのはむず痒いので!」

侑「そ、そういうことなら……じゃあ、敬語は無しで話すね?」

せつ菜「はい!」

歩夢「私もそうした方がいいんだよね……?」

せつ菜「はい! お二人とも、それでよろしくお願いします!」

侑・歩夢「「…………」」


せつ菜ちゃんはまだ敬語なんだけど……。


リナ『お話、そろそろ終わった? 私も自己紹介したい』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、マイペースに私たちのもとへと、飛んでくるリナちゃん。


せつ菜「おお!? 何やら機械が喋りながら浮いてますよ!?」

リナ『初めまして、リナって言います。ポケモン図鑑やってます』 || > ◡ < ||

せつ菜「ポケモン図鑑!? もしや、噂に聞くロトム図鑑とやらですか?」

リナ『そんな感じ。ロトム図鑑、名前はリナ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

せつ菜「初めて見ました……! ポケモン図鑑に……その子はヒバニーですよね?」


せつ菜ちゃんの視線はリナちゃん、そしてヒバニーを順に見やる。


 「バニ?」
侑「あ、このヒバニーは歩夢のポケモンだけどね」

歩夢「図鑑なら私も持ってるよ。リナちゃんみたいに喋ったりしないけど……」


歩夢がせつ菜ちゃんに見せるために、ポケモン図鑑を取り出す。


せつ菜「ふむ、初心者向けポケモンにポケモン図鑑……もしや、新人トレーナーさんですか?」

歩夢「うん、昨日ポケモンを貰って、今日二人で旅に出たところで……」

せつ菜「なるほど……もしかして、それでクリフを見にここまで来られたということでしょうか?」

侑「あはは……実はそうなんだよね」

せつ菜「気持ち、わかりますよ! 確かに旅に出たら一度は近くで見てみたくなりますもんね!」

侑「だよね! 一度は自分の目で確かめてみたくってさ!」

せつ菜「ふふ、いいですね、初々しくて。私も旅に出た頃を思い出してしまいます……! ただ、私はポケモン図鑑や最初のポケモンみたいな子は貰っていませんが……」


せつ菜ちゃんは昔を懐かしむように言う。


せつ菜「少しだけ、お二人が羨ましいです。やはり、図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出るのは、多くのトレーナーにとって憧れですから」


確かにせつ菜ちゃんの言うとおり、最初にポケモンを貰って旅に出る……なんて機会を与えられる子供は、そんなに多くない。

私たちだって、学校にいる生徒の中から選ばれたのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんのたった3人しかいなかったわけだし。


せつ菜「ですので旅に出る前に、街の知り合いの方に捕獲を手伝ってもらって捕まえた──この子が最初の仲間、ということになりますね」
 「ワォン」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、横でお行儀よく待っているウインディを撫でる。


侑「このウインディが最初のポケモンだったんだね……!」

せつ菜「はい!」

侑「この子が千歌さんのバクフーンと死闘を繰り広げた、せつ菜ちゃんの相棒だって思うと……! なんだか、ときめいてきちゃった!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。結局、最後には負けてしまいましたけどね」

侑「でも、すっごい接戦だったよ! 私、あの試合が大好きで、何度もビデオに録画したの見てるんだよ!」

せつ菜「本当ですか? そう言っていただけると嬉しいです! 私もあんなに胸が熱くなった試合は初めてでした……やはり、全身全霊でぶつかり合う試合は心が震えますから!」

侑「うんうん!」


あのせつ菜ちゃんからの生感想にちょっと感激している自分がいる。


せつ菜「あのバトルは、言葉を交わしているわけではないのに、まるで千歌さんと会話をしているかのように千歌さんの気持ちが伝わってきて……本当に最高の試合でした」

侑「気持ちが伝わってくる……」


そっか、せつ菜ちゃん……あの試合のとき、そんなこと考えてたんだ。

話を聞いていたら、私も胸が熱くなってきた。

私も……そんなトレーナーになれるかな?


侑「……あ、あのさ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか?」


私は、せつ菜ちゃんを目の前にして、憧れのトレーナーを目の前にして、話を聞いて……どうしても、


侑「私とポケモンバトルしてくれないかな……!」


せつ菜ちゃんとバトルしてみたくなってしまった。


せつ菜「え?」

リナ『侑さん、それは無謀。どう考えてもレベルが違い過ぎる。今の侑さんじゃ、絶対勝てない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「いえ、勝負は時の運。どんな戦いにも絶対はありませんよ、リナさん」

リナ『……一理ある。訂正する。99.9%勝てないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃん意外と毒舌だね……。


侑「……それでも、一度戦ってみたいんだ! せつ菜ちゃんと! せつ菜ちゃんは私の目標だから……! 今の私とせつ菜ちゃんがどれくらい遠いのか、知りたくって!!」

せつ菜「……ふふ♪ そんな風に言われたら断れませんね! いいですよ、侑さん! バトルしましょう!」


せつ菜ちゃんが私からの挑戦に、嬉しそうに笑う。


歩夢「え、ええ!? 本当にバトルするの!?」

せつ菜「とはいえ、リナさんの言うとおり、レベルの違いというのは確かにあります」

リナ『それに侑さんの手持ちはまだ2匹しかいない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ですので、こうしましょう! 今回私は、このウインディ1匹で戦います!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんは今出来る全力でぶつかって来てください!」

侑「今出来る全力……! うん、わかった!」


私はボールベルトからボールを外して、構える。


歩夢「侑ちゃん……! 頑張ってね!」

侑「うん、ありがとう、歩夢」


歩夢がヒバニーを連れて後ろに下がったのを確認して、せつ菜ちゃんと向かい合う。


せつ菜「それではお相手させていただきます! 侑さん!」

侑「うん!」


すでに構えているウインディのもとへ、私がボールを放ち……ポケモンバトル──スタート!!





    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!!」
 「──ワシャッ!!!!」

せつ菜「行きますよ! ウインディ!!」
 「ワォン!!!!」

侑「ワシボン! 上昇!」
 「ワッシャッ!!!!」


真っ向から打ち合ったら、それこそ勝ち目なんてゼロだからね! まずはウインディの攻撃の届かないところへ……!


せつ菜「常套手段ですが、いい作戦です……! なら、こちらは迎え撃つための準備をするまで! “とおぼえ”!!」
 「ワォーーーーン!!!!!」


ウインディが上を向いて大きく口を開きながら、遠吠えする。


リナ『“とおぼえ”を使うと攻撃力が上昇する。放置してるとまずいかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、のんびり戦うつもりはないよ!!」
 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンは一気にウインディの方へ急降下し、翼を構える。


侑「ワシボン! “ダブルウイング”!!」
 「ワシボーッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!」


翼を使った二連撃をウインディの頭にお見舞いする。


せつ菜「ウインディ! 捕まえなさい!!」
 「ワォンッ!!!!!」


ウインディはワシボンを捉えようと前足を振り上げるが、


 「ワシボーー」


ワシボンは、上手くウインディの前足を潜り抜けるように回避して、またすぐに飛翔する。


せつ菜「身軽ですね……! 進化前特有の体の小ささを生かそうということですか……!」

侑「スピードもパワーもまだまだだけど、体の小ささは武器にもなるからね!」

せつ菜「ふふ……新人トレーナーとは思えない、良い着眼点ですね!!」

侑「えへへ……///」


あのせつ菜ちゃんに褒められるなんて……対戦相手だって言うのに嬉しくなっちゃう……!


侑「さぁ、このまま畳みかけるよ! ワシボン!」
 「ワシィーー!!!!!」


再度の急降下──今度は爪を構える。


侑「“きりさく”!!」
 「ワシィ!!!!」


この調子で、ヒットアンドアウェイを続ければ──と、思った矢先、


 「ワシィッ!!!?」


ワシボンから悲鳴があがる。


侑「え!? どうしたの、ワシボン!?」

歩夢「侑ちゃん! ワシボンの脚!!」

侑「脚……!?」


歩夢の声に釣られるように、ワシボンの脚を見ると──ワシボンの脚は真っ赤な炎に包まれていた。


侑「炎がまとわりついてる!?」

せつ菜「確かに、ひこうポケモンの機動力と、小柄な体躯を利用したヒットアンドアウェイ。見事な作戦ですが……相手をよく見て攻撃しないといけませんよ!」
 「ワォン」


気付けば、ウインディが体の表面にチリチリと小さな炎を纏っていることに気付く。


侑「な、なにあれ……!?」

せつ菜「“かえんぐるま”です! 触れたらやけどしますよ! ──そして、炎が届けばこちらのものです!」
 「ワォンッ!!!!」


次の瞬間、ワシボンの脚にまとわりついていた炎は一気に火力を増して、


 「ワシィッ!!!?」
侑「ワシボン!?」


ワシボンを包み込む渦へと成長していく。


せつ菜「“ほのおのうず”!!」
 「ワァォンッ!!!!」

侑「ワ、ワシボン!! 炎を振り払って、空に離脱して!!」
 「ワ、ワシィ…!!!」


ワシボンは必死にもがくけど……まとわりついた炎は一向に剥がせない。


リナ『“ほのおのうず”で拘束されてる……! バインド状態を解除しないと、逃げられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「っ……!!」


どうする、どうする!?


せつ菜「さぁ、ウインディ! 全力で行きましょう!」
 「ワォーーーンッ!!!!!!!」


せつ菜ちゃんの掛け声に呼応するように、ウインディの体の周りにあった“かえんぐるま”がさらに勢いを増し──


せつ菜「“フレアドライブ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!!」


より強力な炎を纏って、ワシボンに体ごとぶつかってくる。


 「ワシャーー!!!!?」
侑「ワシボン!?」


“フレアドライブ”を受けたワシボンはそのまま吹っ飛ばされ──くるくる回りながら墜落する。


侑「ワ、ワシボン……!」
 「ワシィ…」

リナ『……。ワシボン戦闘不能』 || 𝅝• _ • ||

侑「……そっか、頑張ったね、ワシボン。ボールの中でゆっくり休んでね」


あえなく戦闘不能になったワシボンをボールに戻す。


リナ『……侑さん、続ける?』 || 𝅝• _ • ||

侑「……うん」

リナ『でも……やっぱり、力の差がありすぎる……』 || > _ <𝅝||

侑「いいんだ、私からせつ菜ちゃんにお願いしたことだし。それにまだ勝負は終わってないから……!」

リナ『侑さん……。……わかった』 || 𝅝• _ • ||


私は立ち上がって、もう一度せつ菜ちゃんとウインディに目を向ける。


侑「せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか」

侑「最後まで……手、抜かないでね……!」

せつ菜「もちろんです! 私はいつだって、相手の全力には、全力でお応えしますよ!」

侑「うん! 行くよ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィ!!!!!」


私の肩からイーブイがバトルフィールドに踊り出す。戦意は十分……!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!!!!」


──ヒュンッと風を切って、イーブイが飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!!!」


せつ菜ちゃんは掛け声と共に、ウインディの向かって左側に身を躍らせ、ウインディは口の炎を溜めながら向かって右側を警戒する。


歩夢「トレーナーが動いた……!?」

リナ『!? これじゃ左右に死角がない!?』 || ? ᆷ ! ||


──知ってるよ……! せつ菜ちゃんが前に試合でやっている姿を見たことがある。

トレーナーがポケモンの死角を庇うことによって、より広い範囲に対する迎撃を可能にする戦術……!

でも、私が選んだのは右でも左でもなくって……!!


 「ブイィッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!!?」
せつ菜「!? 正面!?」


イーブイの“でんこうせっか”がウインディの右側頭部に直撃する。


侑「よし! せつ菜ちゃんだったら、絶対に機動力での攪乱を警戒してくると思ったんだ!」
 「ブイ!!!」


イーブイは攻撃を当てた反動を利用して、後ろに飛びながら華麗に着地する。


せつ菜「……! 素晴らしい読みと胆力です……!」

侑「さぁ、続けるよ! イーブイ!」
 「ブイッ!!!」


再び“でんこうせっか”で風を切って、飛び出す。


リナ『次は右!? 左!? 前!?』 || ? ᆷ ! ||

せつ菜「右も左も前も後ろも関係ありません! “バークアウト”!!」
 「ガゥワゥッ!!!!!!!!」


まくし立てるように大きな声で吠え始めるウインディ──全方位攻撃だ。


せつ菜「これで逃げ場は……!」


でも、私が知ってるせつ菜ちゃんなら、絶対に読み合い全体をケアする作戦を取ってくる……だったら、さらに裏をかく……!


せつ菜「……き、消えた!? イ、イーブイはどこですか!?」
 「ワ、ワォンッ!!!?」


イーブイを見失ったせつ菜ちゃんとウインディが焦って辺りをキョロキョロと見回す。


侑「イーブイ! “スピードスター”!!」
 「ブイィィィ!!!!!!」

 「ワォォ!!!?」


突如ウインディの真下から、“スピードスター”が炸裂……!


せつ菜「……! 足元……!!」

 「ブイッ!!!!」


視界外からの攻撃に動転したウインディの目の前に、イーブイが跳ねる。


侑「“にどげり”!!」
 「ブーイッ!!!!」

 「キャゥンッ!!!?」


そして鼻っ柱に、蹴りをお見舞いする。

……よし! 押してる……!! でも、


せつ菜「“ほのおのキバ”!!」


せつ菜ちゃんは冷静だった。


 「ワァォンッ!!!!!」
 「ブイッ!!!?」


ウインディは“にどげり”の反動で離脱しようとしていたイーブイに飛び掛かるようにして、噛み付いてくる。


侑「イーブイ!?」


燃え盛る牙で、そのままイーブイを捉え、


せつ菜「そのまま、放り投げなさい!!」
 「ワォンッ!!!!」


上に向かって、放り投げられる。


リナ『空中だと、次の攻撃が避けられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「や、やばい!?」


空中に投げられ、回避が出来なくなったイーブイに、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!」


ウインディの口から、火炎が放射される。


侑「イーブイ!!」


絶体絶命の中、


 「ブイ…!!!!」


宙に浮くイーブイの目は──まだ戦意を宿していた。


侑「……!」


イーブイが──ゴオッ、と音を立てる灼熱の炎に飲み込まれる。


せつ菜「思わぬ攻撃で苦戦しましたが……! 勝負、ありましたね……!」
 「ワォーーーン!!!!」


勝利の雄たけびをあげるウインディ、だけど……。


侑「いや……まだ、終わってない……」

せつ菜「……え」

 「…ブィィッ!!!!!」


炎に包まれながら落下したイーブイは──まだ、立っていた。

全身に“めらめら”と炎を宿しながら──


せつ菜「な……っ」

侑「行けっ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィィッ!!!!!!!!」


灼熱の炎を身に纏った、イーブイが地面を蹴って、飛び出す。


せつ菜「っ……!! ウインディ!! “フレアドライブ”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


2匹は全身に炎を纏って、真正面から衝突した……!

──ゴォッ! と音を立てながら、炎が爆ぜ、私たちのところまで、火の粉が飛び散ってくる。


歩夢「きゃぁっ!?」

侑「うわっ……!?」

せつ菜「す、すごい火力……!? 決着は……!?」


爆炎が飛び散ったあと、晴れた視界の先に見えたのは──


 「ワゥ…」


膝を突くウインディと、


 「ブィィ……」


目を回してダウンしている、イーブイの姿だった。


リナ『イーブイ、戦闘不能。よって、せつ菜さんの勝利』 || 𝅝• _ • ||

侑「イーブイ……!」


私はイーブイのもとへと駆け出す。


 「ブィィ…」
侑「頑張ったね、イーブイ……! すごかったよ、さっきの技……!」


全力で戦ってくれた相棒を労いながら、抱きしめる。


せつ菜「侑さんっ!」

侑「わぁ!?」

せつ菜「い、今の技なんですか!? 初めて見ました!? イーブイがほのお技を使うことが出来るなんて、知りませんでした!? あれは一体なんという技なんでしょうか!?」


駆け寄って来たせつ菜ちゃんが興奮気味に捲し立ててくる。


せつ菜「あれはウインディから受けた“かえんほうしゃ”を身に纏っていた……? いえ、ですがイーブイは確実にあの炎を自分のモノとして操っているように見えました! 実際、2匹の技がぶつかった瞬間を見れば、あれが偶然自身を焦がす炎を利用したものではなく、イーブイ自身が彼女の意思で以って、炎を使役していたと考えるのが妥当だと思います!! もしや、最初からこんな大技を隠し持っていたんですか!? 侑さん!?」

侑「え、えぇっと……なんだろう……?」

せつ菜「なんだろう……?」

侑「正直、私も……何がなんだか……」


せつ菜ちゃんの言うとおり、私もイーブイがほのお技を使うなんて聞いたことがないし、あれはなんだったんだろう……?


侑「あ、そうだ……」


こんなとき、この疑問について、聞ける相手がいるんだった。


侑「リナちゃん、さっきの技って何か知ってる?」

リナ『うん。さっきの技は“相棒わざ”って言われる技だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


私の質問にリナちゃんは、そう答える。


せつ菜「“相棒わざ”……?」

リナ『イーブイは周囲の環境に適応して姿かたちを変えて進化する生態だけど……稀に進化前のイーブイがその力を操れるようになることがあるらしい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「じゃあ今のは……」

リナ『イーブイがせつ菜さんのウインディの強いほのおエネルギーに適応したんだと思う。技の名前は“めらめらバーン”』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「なんで、“相棒わざ”って言うの?」

リナ『野生のイーブイがこの技を使った例は一件もなくて……トレーナー──つまり相棒との信頼関係がないと、修得が出来ないからそう呼ばれてるみたい。その理由自体はよくわかってないけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……! えへへ、じゃあ私……イーブイに信頼されてるんだね……!」
 「ブイィ…」


イーブイが抱かれたまま、私の腕をペロリと舐める。


侑「イーブイ、ありがとね……」
 「ブィィ…♪」


お礼交じりに頭を撫でてあげるとイーブイは嬉しそうに鳴く。

……あ、そうだお礼と言えば……!


侑「せつ菜ちゃん! バトルしてくれて、ありがとう!」

せつ菜「いえ、こちらこそ……! まさか、こんなに胸が熱くなるバトルになるとは、思ってもいませんでした……! 私こそ、侑さんに感謝しなくては!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、手を差し出してくる。

私もそれに応えるように手を差し出して──握手を交わす。


侑「あはは、でもやっぱりせつ菜ちゃんは強いなぁ……」

せつ菜「いえ、侑さんこそ新人トレーナーと聞いていましたが……私もウカウカしていると、すぐに追いつかれてしまうかもしれませんね!」

侑「だといいなぁ……」


もちろん、トレーナーになりたてで勝てるとは思ってなかったけど……結果としてハンデありでも敵わなかったわけだから、もっと頑張らないとね。


歩夢「侑ちゃん、お疲れ様」

侑「うん、ありがと歩夢」

歩夢「イーブイ、治療してあげるから、こっちおいで?」
 「ブイ…」


歩夢が声を掛けると、イーブイは私の腕の中からぴょんと飛び出して、歩夢の胸に飛び込む。


歩夢「ワシボンも」

侑「あ、うん。ありがと」


言われるがまま、ワシボンのボールを歩夢に手渡す。


歩夢「それと、ウインディもおいで♪」

せつ菜「え!? そんな悪いですよ!? ウインディの治療はトレーナーの私が自分で……!」

 「ワゥ…」


焦るせつ菜ちゃんを後目に、ウインディは歩夢の方へと歩み寄って行って、歩夢の頬をペロリと舐める。


せつ菜「こ、こら!? ウインディ!!」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫♪ 今、“きずぐすり”使ってあげるね♪」
 「ワォン♪」


ウインディは歩夢の前でゴロンとお腹を見せて、じゃれ始める。


侑「あはは……歩夢の前ではウインディも可愛い子犬に見えてくる」

せつ菜「驚きました……私のウインディが初対面の人にここまで心を許すなんて……」

侑「歩夢、とにかくポケモンに好かれる体質なんだよね」

せつ菜「世の中いろいろな方がいるものですね……」


せつ菜ちゃんは腕を組みながら、ウインディをじゃらしている歩夢を興味深く観察している。


歩夢「それじゃ、次はワシボンね」
 「ワシー」

 「バニ、バニッ!!!!」
歩夢「きゃっ……! もう、ヒバニーはバトルしてないでしょ?」

侑「ご主人様を取られたと思って、嫉妬してるんじゃない?」

歩夢「もう……順番ね?」
 「バニィ…」


歩夢、大人気……。


リナ『それより、侑さん、歩夢さん、せつ菜さん』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢・せつ菜「?」

侑「どうしたの? リナちゃん?」

リナ『もういい時間だけど……この後、ダリアシティには向かうの?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんに言われて、辺りを見回すと──確かに空は茜色に染まり始めていた。


歩夢「ポケモンたちの治療をしてたら、夜になっちゃうかもね……」

侑「あーうーん……今から、ダリアまで行くのはちょっと大変かもね」

せつ菜「でしたら、今日はここでキャンプにしませんか? もちろん、お二人もご一緒に! 私は野営にも慣れていますし!」

歩夢「いいの?」

せつ菜「はい! とびっきりおいしいキャンプカレーをご馳走しますよ!!」

侑「ホントに!?」

せつ菜「はい! 任せてください! それでは、キャンプの設営をしてしまいますね!」

侑「私、手伝う!」

せつ菜「よろしくお願いします!」


期せずして出会った憧れの人と、まさか一緒にキャンプまで! もう、ホント旅に出てからときめいちゃうことばっかり……! 旅に出てよかった……!





    🎀    🎀    🎀





侑「カレー、カレー♪ まだかな、まだかな~♪」

せつ菜「ふふ、もう少しですよ♪ 侑さんはお皿の準備をお願いします! 私はカレーに最後の仕上げをしてしまうので!」

侑「了解!」


私は二人が料理をしているのを、少し離れたところで、ポケモンたちと見守る。


歩夢「もう二人ともすっかり仲良しだなぁ……」


侑ちゃんとせつ菜ちゃんはすっかり打ち解けたようで、すごく楽しそう。


リナ『歩夢さん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||

歩夢「あ、リナちゃん。えっと……侑ちゃんとせつ菜ちゃん、楽しそうだなって思って」

リナ『私もそう思う。今日初めて会ったとは思えない』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん。やっぱり、ポケモンバトルをしたからなのかな?」

リナ『そうかもしれない。正直、羨ましい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「なら、リナちゃんもトレーナーになってみる? ……ポケモン図鑑兼トレーナーって、面白いかもしれないし」

リナ『その発想はなかった。斬新だけど、ありかもしれない』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


リナちゃんくらい感情豊かなら、案外本当になれちゃうかも……あ、でも中身はロトムなんだっけ? ポケモンがポケモントレーナーになっちゃうのはどうなんだろう……?


リナ『歩夢さんは?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え?」

リナ『バトル。歩夢さんはしないのかなって』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「えっと……」


リナちゃんから逆に質問されると思ってなかったから、言葉に詰まってしまう。

……私は改めて、自分の気持ちについて、少し考えてみる。


歩夢「……まだね、バトルはちょっと……怖い、かな」

リナ『怖い?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「嫌ってほどじゃないんだけど……自分のポケモンが傷つくのも……相手のポケモンが傷ついちゃうのも、怖い」

リナ『じゃあ、やらない?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「……でもね、今日二人がバトルしてるのを見ていて……ちょっとだけ、胸が熱くなった」

リナ『……』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「私も、こんな風に夢中になれたりするのかなって……」

リナ『そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん、そんな感じかな」


曖昧な答えになっちゃったけど、嘘偽りなく言ったつもり。

もしかしたら、いつか侑ちゃんみたいに、バトルをする日が来るのかもしれない。


歩夢「そしたら、一緒に戦ってね」
 「バニ?」


傍にいるヒバニーを撫でると、ヒバニーは不思議そうに首を傾げた。


リナ『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「? どうかしたの?」

リナ『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え? どこ?」


もう薄暗くなっている辺りを見回すと──1匹の小さなポケモンがこちらを見つめていた。


 「ニャァ」

歩夢「わ、かわいい♪」

リナ『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
   プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
   内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
   漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』

歩夢「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」


敵意があるわけでもなさそうだし、こっちに手招きしてみる。


 「ニャァ」


でも、ニャスパーはジッとこっちを見たまま動かない。


歩夢「警戒してるのかな……?」

リナ『野生ポケモンだから、警戒するのが普通。ただ、ニャスパーは大人しいポケモンだから、放っておいても大丈夫だと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「ん……そっかぁ」


可愛いから一緒に遊びたかったんだけど……仕方ないかな。


侑「歩夢ー! ご飯の準備出来たよー!」

歩夢「あ、呼ばれてる! みんな行こう!」
 「バニバニ!!!」「ブイ」「ワシボー」

歩夢「ほら、サスケも起きて?」
 「シャー…?」


みんながゾロゾロと席に移動する中、何故かウインディだけ大人しくしたまま、お座りの姿勢を解かない。


歩夢「ウインディ? 行かないの?」
 「ワン」

歩夢「?」


どうしたんだろう……? お腹空いてないのかな……?


侑「歩夢~! 早く~! カレー冷めちゃう~!」

歩夢「あ、はーい!」


侑ちゃんに呼ばれて、席まで駆け出す。

気付けば、テーブルの上にはカレーが盛られたお皿が並べられている。


侑「あーもう私腹ペコ! 我慢出来ない! あむっ!!」

歩夢「もう、侑ちゃん……いただきますもしないなんて行儀悪いよ。あ、そうだせつ菜ちゃん、ウインディあそこにお座りしたままなんだけど……」

せつ菜「ウインディ……カレーはあまり好きじゃないみたいで……」

歩夢「そうなの?」

せつ菜「あとで、“きのみ”をあげるので、気にしないでください」

歩夢「……せつ菜ちゃんがそう言うなら」


“おや”が言うんだから、そうなんだよね。


せつ菜「さて私もお腹ペコペコですので……いただきます! ……あむっ! やっぱり、外で食べるカレーは格別ですね!」

歩夢「それじゃ、私も……。侑ちゃん、カレー美味しい?」


先に食べ始めていた侑ちゃんに味の感想を求めると──


侑「──」


侑ちゃんは机に突っ伏していた。


歩夢「え? 侑ちゃん……?」

せつ菜「あれ? 侑さん、どうしたんでしょうか……? もしかして、相当疲れていたんでしょうか……?」

歩夢「疲れて寝ちゃったってこと……? 食事中に……?」


今までそんなことあったかな……?

私は思わず首を傾げる。そのとき、ふと目に入ったのはイーブイ。


 「クンクン…ブイ」


イーブイ……においを嗅いでから、そっぽを向いた気がする。一方ヒバニーは、


 「バニーッ! バー、ニッ…」
歩夢「……!?」


カレーにがっつき、その後すぐに突っ伏した。


歩夢「…………」

リナ『歩夢さん、これ、たぶん、やばい』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||


リナちゃんが、私の耳元まで飛んできて、そう囁く。


せつ菜「あむっ、あむっ。……? 歩夢さん、どうかされました? 食べないんですか?」

歩夢「あ、えーと……なんでもないよ、あはは」

せつ菜「そうですか? 冷める前に是非食べて欲しいです! 隠し味にとっておきのものを入れた自信作なので!」

歩夢「そ、そっかぁ……」


私はとりあえず、スプーンを付けて小さじ一杯程度を掬ってみてから──口に運ぶ。


歩夢「……っ……!?」


口の中に形容しがたい強烈な味……というか、刺激が走る。


歩夢「せ、せつ菜ちゃん……このカレーって、何入れたの?」

せつ菜「それはお教えできません! とっておきの隠し味を入れた特製カレーなので!」

歩夢「いや、隠れてな──……じゃなくて……お、美味しいから、自分で作るときの参考にしたいな~って思って……」

せつ菜「……うーん……本当は秘密なのですが、そういうことなら今回は歩夢さんにだけ、特別にお教えしましょう」

歩夢「わ、わーい」

せつ菜「“クラボのみ”をベースに作ったカレールー、具は前にキャンパーの方から頂いた、“やさいパック”と“あらびきヴルスト”を入れています!」

リナ『あれ、意外と普通……?』 || ? _ ? ||

せつ菜「そして、最後に隠し味に“リュガのみ”、“ヤゴのみ”、“ニニクのみ”を豪勢に使いました!」

歩夢「……!?」

せつ菜「どれも、稀少な“きのみ”ですよ! お陰でこんなにカレーがまろやかになっているんです! はぁ……美味しい……♪」


確か、リュガ、ヤゴ、ニニクって……。


リナ『どれも渋味や苦味がとてつもなく強い“きのみ”……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「そ、そういえば私ダイエット中だったの思い出したよ!」

せつ菜「え? そうなんですか?」

歩夢「カレーはカロリーが高いから、残念だけど、このくらいにしておくね……!」

せつ菜「歩夢さんは十分細いから大丈夫だと思いますよ! それに、旅をするならしっかり栄養を付けないと!」

歩夢「うぅ、いや、でも……そのぉ……っ」


こ、これ以外の言い訳、そんなすぐに思いつかないよぉ……!?


リナ『せつ菜さん。歩夢さん、ここに来る前にセキレイデパートで、たくさんスイーツを食べちゃったから。私のカロリー管理アプリ的にも、もうこれ以上は危険信号、乙女のピンチ。かなり、ヤバい』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「……! そ、そうなんだよね! 今日はもう完全にカロリーオーバーだから……!!」

せつ菜「そうですか……それは残念です」


シュンとするせつ菜さんには悪いけど……!


歩夢「き、今日は疲れちゃったから早めに休むね!」

せつ菜「はい、おやすみなさい、歩夢さん」


そそくさと、テーブルから離れテントに避難する。


歩夢「リナちゃん、ありがとう……っ」

リナ『カロリーはともかく、食べたら身体に響くのは間違いない……侑さんの犠牲だけで食い止められてよかった』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「侑ちゃん……ごめんね……」


私、あのカレーは食べられる気がしないよ……。

テントに向かう途中──お座りしたまま行儀よく待っているウインディと目が合う。


 「ワォン…」


なんだか、物悲しそうな目をしている気がした。


リナ『ウインディも苦労してたんだね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「あはは……」


今後、ポケモンたちのご飯の味には、これまで以上に拘ってあげよう……そんなことを考えながら、旅の初日の夜は更けていくのでした……。

……ちなみに、大量のカレーの行き先なんだけど……。


 「シャボシャボッ!!!!!」
せつ菜「サスケさん、いい食べっぷりですね!! 私も丹精込めて作った甲斐があります!! どんどん食べてください!!」

 「シャーーーボッ!!!!!」


ほとんどがサスケの胃袋に消えたそうです。……自分の手持ちの意外な一面を知ることができました……。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.14 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.12 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.9 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.10 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🐥



──ポケモンリーグ本部、理事長室。


ことり「海未ちゃん……! 報告したいことが……!」

海未「……ことり? どうかしましたか?」


私が理事長室に飛び込むと、事務仕事をしていたであろう海未ちゃんが、顔を上げる。


ことり「あ、あのね……実はここに戻ってくる最中なんだけど──」


──私は事の一部始終を説明する。

ここ最近、視線を感じることが多かったのと、今日ここに戻ってくる際に、何者かに襲撃されたこと、少なくともことりにはなんのポケモンかわからなかったこと。

そして、とりあえず撃退には成功したことを報告する。


海未「……ことり、どうしてもっと早く報告しなかったのですか」

ことり「だ、だって……気のせいかもしれないって思ってたから……。心配も掛けたくなかったし、確実な証拠が出てきたらにしようと思ってて……ごめんなさい」

海未「まあ、いいでしょう……。相手の特徴などは覚えていますか?」

ことり「えっと……動きが速過ぎてはっきりとは……」


ほぼ残像しか見えないような速度だったし……。


海未「色や大きさもわかりませんか?」

ことり「うーん……人間の大人くらいの大きさ……かな……? 色は……白かったような、黒かったような……」

海未「……ふむ」


海未ちゃんは口に手を当てて、少し考えたあと、再び口を開く。


海未「わかりました。遭遇した空域は、こちらで調査隊を出しましょう。ことりが倒している可能性もありますし、そうでなくとも、何かしらの手がかりが見つかるかもしれませんから」

ことり「うん……お願い」

海未「あと、希にも相談してみてください。彼女の占いなら、何かわかるかもしれませんから」

ことり「わかった。希ちゃん、今どこにいるかな?」

海未「四天王の間の自分の部屋にいると思いますよ。あそこが一番、精神統一出来るそうなので」

ことり「ありがとう、行ってみるね」


希ちゃんのもとに行くために、理事長室を後にしようとすると──


海未「ことり」


海未ちゃんに呼び止められる。


ことり「なぁに?」

海未「……襲撃されたことは心配ですが……ことりが無事で何よりです。……すみません、これは最初に言うべきでした」

ことり「海未ちゃん……うぅん。海未ちゃんが理事長に就任してから、そんなに時間も経ってなくて、いっぱいいっぱいなのも、ことりわかってるから! ありがとう、心配してくれて」

海未「……ふふ、ことりにそう言って貰えると、いくらか気が楽になります。こちらこそ、ありがとうございます」

ことり「どういたしまして♪ 調査、手伝えることがあったらなんでも言ってね」

海未「はい、そのときはお願いします。ただ、くれぐれも無理はしないでくださいね」

ことり「うん♪」


海未ちゃんの言葉に笑顔で返して、私は部屋を後にしたのでした。


………………
…………
……
🐥


■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それじゃあこの辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。




■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。




    👑    👑    👑





──ツシマ研究所。


善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」

しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」

かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
 「ガゥガゥ…」


かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。


しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」

かすみ「挨拶の前にぃ~、ヨハ子博士~」

善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」

かすみ「頑張ったかすみんにぃ~、何かご褒美とかないんですかぁ~?」

善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」

しずく「あはは……」


ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!


善子「んーそうね……何かあったかしら」


そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。


かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」

善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」

かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる~♪」
 「ガゥ♪」

しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」

善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」


そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。


かすみ「……なんですか、これ?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」

善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」

かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」

善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」

かすみ「効果……?」

しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」

善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」

かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」


しず子ばっかり、褒められててずるい……。

なんかアンカー含めてミスしまくってる…
>>115-117はなしで。
■Chapter006最初から投下し直します。

すみません


■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。




    👑    👑    👑





──ツシマ研究所。


善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」

しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」

かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
 「ガゥガゥ…」


かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。


しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」

かすみ「挨拶の前にぃ~、ヨハ子博士~」

善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」

かすみ「頑張ったかすみんにぃ~、何かご褒美とかないんですかぁ~?」

善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」

しずく「あはは……」


ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!


善子「んーそうね……何かあったかしら」


そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。


かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」

善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」

かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる~♪」
 「ガゥ♪」

しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」

善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」


そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。


かすみ「……なんですか、これ?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」

善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」

かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」

善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」

かすみ「効果……?」

しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」

善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」

かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」


しず子ばっかり、褒められててずるい……。


善子「これがご褒美。好きなだけ持っていきなさい」

かすみ「す、好きなだけ!? ヨハ子博士太っ腹~!! 大好き~?」
 「ガゥガゥ~♪」

善子「……あんた、たぶん大物になるわね」

しずく「あの……いいんでしょうか? ロメなんかは結構高価な“きのみ”ですよね……?」

善子「この研究所でたくさん栽培してる種類だから大丈夫よ。それにポケモンに使うだけじゃなくて、旅の食事用にもなると思うから」

しずく「何から何まで……ありがとうございます、博士」

善子「まあ、いいのよ。いろいろあったけど、私が自分で選んで、貴方たちにお願いしてるわけだからね」

かすみ「しず子も早く~!」


自分のバッグに“きのみ”をたくさん詰めながら、しず子を呼びます。


しずく「って、かすみさん、そんなに持ってくの!?」

かすみ「だって、好きなだけ持って行っていいって言ってたじゃん!」
 「ガゥ♪」

しずく「いいって言っても限度があるでしょ!? 少しは遠慮しなさい!」


そう言いながら、しず子が私の手から“マトマのみ”を取り上げる。


かすみ「ちょ……! それかすみんのマトマ! 返してよぉ!」

しずく「これは戻すの……!」

かすみ「返してよ~!」


二人で取り合っていた“マトマのみ”でしたが──揉み合っている拍子に……ぐちゃっ。


しずく「あ……」

かすみ「あぁ!? しず子が離さないから、潰れちゃったじゃん!」

しずく「ご、ごめん……」

かすみ「もう、もったいない……」
 「ガゥゥ…」


手にマトマの赤い汁が付いちゃいました……勿体ないですね……。かすみんは、手に付いた赤い汁を舌でペロっと舐める。


しずく「あ!? か、かすみさん、マトマの果汁なんか舐めたら!?」

かすみ「──からあぁあぁぁあぁあぁぁ!!?」
 「ガゥッ!!?」


ちょっと舐めただけなのに、口の中が燃えるような辛さに襲われる。

叫ぶかすみんにゾロアもびっくりして、肩の上から転げ落ちる。


かすみ「水!!! 水ぅ!!!!?」

しずく「大変!! えっと、水……!! メッソン!!」


──ボム。しず子が投げたボールから、メッソンが出てくる。


 「メソ…?」
しずく「かすみさんに向かって、“みずでっぽう”!」

 「メソー」


ぷぴゅーと可愛らしい音と共に、メッソンから放たれた水が、かすみんに襲い掛かる。


かすみ「ぎゃー!!? 旅立ち前なのに服がびしょ濡れにぃー!? ってか、飲み水持ってきてよ!?」

しずく「あ、ごめん……」

かすみ「しず子のバカー!!」


普段、優等生ぶってる癖して、焦ると変なことするんだからぁ……。


善子「なんか、大変そうね……。私はそろそろ寝たいから、あとは好きにしなさい……夜型にはぼちぼち堪える時間なのよ……ふぁぁ……」

かすみ「こっちはこっちでダメ人間じゃないですか!!」

しずく「あはは……」


もう……! 旅立つ前だってのに、踏んだり蹴ったりですぅ……!!





    👑    👑    👑





──さて、“きのみ”をたくさん貰ったあと、かすみんたちは研究所から出て、いよいよ旅立ちのときです!


かすみ「さぁ、行くよしず子! 冒険の旅が、かすみんのことを今か今かと待ってるよ!」
 「ガゥ」

しずく「まずどこに向かうの?」

かすみ「もっちろん、最初はセキレイジム! 曜先輩のところに行くよ!!」


──
────
──────


セキレイジムに辿り着くと、扉の前に一枚の張り紙がありました。

──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』


かすみ「な、なんで……」
 「ガゥ…」


かすみんはゾロアと一緒にがっくりと肩を落として項垂れます……一昨日、侑先輩とジム戦してたのに……。


しずく「あはは……曜さんって多忙でジムを空けてることが多いらしいね。よくサニータウンでも見かけてたし……」

かすみ「また出鼻を挫かれたぁ~……」

しずく「どうする? 帰ってくるの待ってみる?」

かすみ「何日掛かるかわからないし……いつまでも、セキレイでのんびりしてたら、歩夢先輩たちにどんどん置いてかれちゃうよっ!」


それに、ジム戦自体は最終的に全部制覇するなら、どの順番で行っても大差ないですもんね! 今ここでセキレイジムに拘る理由はありません!


しずく「そうなると……北のローズか、西のダリアかな? 南は山越えになるから、遠慮したいなぁ……あはは……。かすみさんはどっちに行きたい?」

かすみ「うーん……しず子はどこに行きたい?」

しずく「え? 私?」


しず子がきょとんとした顔をする。


しずく「私はジム巡りをするつもりはないから、どっちでもいいけど……」

かすみ「そうじゃなくて! 旅するって決まってから、いろいろ調べてたじゃん! 行きたいところとかあるんじゃないの?」

しずく「それは……そうだけど……。私が行きたいところはポケモンジムがないから、かすみさんの目的とは合致しないというか」

かすみ「とりあえず、それはいいから! しず子はどこに行きたいの?」

しずく「私は……フソウ島に……」

かすみ「フソウ島って、確かサニータウンから海を渡った先だよね」

しずく「うん。ここからだと東方面かな」

かすみ「じゃあ、進路は東に決定!」

しずく「いいの……?」

かすみ「だって、しず子、ずっとかすみんのこと待っててくれたし……行き先くらいはしず子が決めていいよ」


かすみんがそう言うと、


しずく「……ふふ♪」


何故か笑われる。


かすみ「な、なんで笑うの!」

しずく「うぅん♪ かすみさんって、そういうところは律義だなって思って……ふふ♪」

 「ガゥガゥ♪」

しずく「ゾロアもそう思うよね♪」

 「ガゥ♪」
かすみ「ちょ……笑わないでよ! ゾロアも!」

しずく「それじゃ、9番道路に向かいましょう!」

 「ガゥッ♪」
かすみ「ちょっとぉ!! かすみんのこと無視しないでよぉーー!!」





    👑    👑    👑





──ジムから歩いてきて、今は9番道路を進行中です。


かすみ「……疲れた」

しずく「結構歩いたもんね。街の端から端を往復したわけだし」


ツシマ研究所は、街の南東側で、ポケモンジムは街の西側──風斬りの道に続く6番道路に近い場所にある。つまり街の端から端なので、結構距離があるわけです。


しずく「一旦休憩する?」

かすみ「さ、賛成~……」

しずく「じゃあ、あそこの木陰でお休みしよっか」


かすみんはふらふらと木陰まで歩き、


かすみ「きゅぅ……」


バッグを放り出して、そのまま倒れ込む。


しずく「かすみさん、大丈夫?」

かすみ「……昨日の疲れが抜けきってない感じがする……。ヨハ子博士、ホントに一日中手伝わせるんだもん……」

しずく「まあ、それはかすみさんが悪いから、仕方ないけど……」


しず子は苦笑いしながら、かすみんの隣に腰を下ろして、バッグの中からポケマメケースを取り出す。ポケマメっていうのは、ポケモンのおやつにもなるマメですね。


しずく「メッソン、おやつだよ」
 「メソ…」

かすみ「うわ!? メッソン、いたんだ……」


しず子がポケマメを肩の辺りに差し出すと、スゥーーとメッソンが現れて、ポケマメを食べ始める。


しずく「メッソン、外に慣れてないみたいだから、連れ歩いてるんだ。普段はこんな感じで姿を消しちゃうんだけど……」
 「メソ…」


ポケマメを食べると、またスゥーと消えてしまう。


かすみ「まだ、慣れるのには時間がかかりそうだね」

しずく「あはは……そうだね。ゆっくりでいいから、少しずつ慣れていこうね」
 「メソ…」


しず子が新しいポケマメを差し出すと、またスゥーと現れる。これはこれで、ちょっと面白いかも。そんなしず子とメッソンを眺めていると──


 「ガゥガゥ」


ゾロアがかすみんに向かって吠えてくる。


かすみ「はいはい、ゾロアもおやつね」


かすみんはポケットから、“マゴのみ”を取り出して、ゾロアにあげる。


 「ガゥ♪」


ゾロアは嬉しそうにがっつき始めました。


かすみ「全く、ゾロアは食いしん坊ですねぇ。誰に似たんだか」

しずく「あれ……? さっき貰った“きのみ”に“マゴのみ”ってあったっけ?」

かすみ「うぅん、これはゾロアのおやつ用に普段から持ってるやつ。昔から“マゴのみ”が好きなんだよね」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「せっかくだし、他の子にもおやつをあげよっか」

しずく「そうだね。マネネ、ココガラ出て来て」
 「マネネェ」「ピピピィ」


しず子がマネネとココガラを出す。かすみんも、ボールからキモリを外に出してあげる。


 「キャモ」
かすみ「そういえば、キモリって何が好きなんだろう……? “マゴのみ”食べる?」

 「キャモ…」
かすみ「なんか渋い顔してる……」

しずく「あはは……好みじゃないみたいだね」
 「ピピピィ」

しずく「ココガラ、今あげるから焦らないで」
 「ピピピィ♪」

 「マネマネ♪」
しずく「マネネ? ケースから食べてもいいけど、食べ過ぎちゃダメだよ?」

 「マネッ♪」


ココガラはしず子の頭の上にとまり、しず子の手からポケマメを受け取っておいしそうに食べている。

マネネはもうどこにおやつがあるのか知ってるみたいで、勝手にケースからポケマメを取り出している。


かすみ「かすみんもポケマメにすればよかったです……。あんま売ってるの見たことないけど……」

しずく「私は両親がアローラ地方から取り寄せているのを分けてもらっているから……」

かすみ「羨ましい……」


かすみんが羨ましがってると──


 「マネッ」
 「キャモ?」

かすみ「ん?」


マネネが、キモリのもとへ、ポケマメを1個持ってきてくれました。


かすみ「くれるの? マネネは良い子ですねぇ~?」

 「マネマネッ!!!!」
 「キャモッ!!?」


マネネはそのまま、ポケマメをキモリの口元にぐりぐりと押し付ける。


かすみ「……って何やってるの、あれ」

しずく「たぶん、私の真似だと思う……。ココガラにあげてるのを見て真似したくなっちゃったのかな……あはは」


マネネがひたすら、ポケマメをキモリの口元に押し付けていると、


 「キャモッ!!!」
 「マネェッ!!?」


あ、ついにキモリが怒った……。尻尾でマネネを追い払ってる……。


しずく「もう、マネネ……キモリにポケマメあげて戻っておいで」
 「マネェ…」

 「キャモ」


キモリはマネネから、ポケマメを受け取ってポリポリと食べ始める。

そんなみんなの様子を見ながら、かすみんは寝ころんだまま上を見上げる──木々の葉っぱの間から木漏れ日が差し込み、そよそよとそよ風に乗ってお花の良い香りがする。

お花畑が近いからですかねぇ……。平和ですねぇ……。


しずく「かすみさん、寝ちゃダメだよ?」

かすみ「っは……! 危うく意識が遠のきかけた……」

しずく「んー……それじゃ、何かお話しでもする? 寝ちゃわないように」


お話しか……。何か話題……。


かすみ「……そうだ。しず子、フソウ島に行きたいって言ってたけど、何か理由があるの?」

しずく「あ、うん。フソウ島には、オトノキ地方でも一番大きなコンテスト会場があるでしょ? それを見たくって……!」

かすみ「しず子、コンテストに興味あるの?」

しずく「コンテストというか……舞台に興味があるって感じかな」

かすみ「舞台……そういえばしず子、女優になりたいんだっけ?」

しずく「うん! 私、小さい頃から女優のカルネさんが大好きで……! 私もいつか、カルネさんみたいな大女優になりたいって思ってるの! カルネさんのように、いつかはポケウッドの舞台で……!」

かすみ「ポケウッド! ポケウッドの映画なら、かすみんもいくつか観たことあるよ! 『ハチクマン』とかだよね!」

しずく「ふふ、確かに有名な映画だね! 『ハチクマン』三部作はどれも名作だから……」

かすみ「かすみん的には登場人物だとハチクマンよりもルカリオガールが可愛くて好きなんだけど~……ハチクマンがゾロアークを使ってるところはセンスがいいなって思ったかも!」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「ゾロアもそう思うよね♪」
 「ガゥ♪」

しずく「『ハチクマンの逆襲リターンズ』で使ってたよね! もちろん『ハチクマン』も好きだけど……私は『魔法の国の 不思議な扉』もよく見てたなぁ。主演のジュジュベ役のナツメさんがホントに素敵で……」

かすみ「あーわかる! でもでも、かすみん的にはやっぱりメイ姫が好きかなぁ♪ かすみんみたいな可憐なお姫様だしぃ♪」

しずく「ふふ、かすみさんらしいね♪ ねぇねぇ、ポケウッドだと他は何が好き!? 私が一番好きなのは、もちろんカルネさんが出てる作品なんだけど……!!」

かすみ「えーそうだなぁ……。……って、あれ? かすみんたち、ポケウッドの話してたんだっけ? フソウ島に行く理由の話だったような……」

しずく「っは……!」


しず子はハッとなり、熱くなって話してしまったのが恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめる。


しずく「……コホン/// えっと、だからね、フソウ島のポケモンコンテスト、一度見てみたいなって思って……。ポケウッドとは違うけど、何か表現の参考になりそうだし」

かすみ「ふむふむ、そういう理由だったんだね。参加はしないの?」

しずく「参加は……まだ早いかな。もちろんいつかはあの舞台に立ってみたいと思うけど。かすみさんこそ、コンテストに参加とかしないの? 好きそうだし、セキレイにも大きな会場があったよね?」

かすみ「え? ま、まあ……そのうち、コンテストも制覇しちゃいますけどね? 今は準備中というか……」

しずく「そっかぁ……お互い、いつか参加できるといいね」


セキレイ会場はかわいさコンテストの会場ですし、もちろんそのうち、かすみんが制覇しちゃう予定ですけど……。

あの会場は、永世クイーンに王手の現コンテストクイーンのことり先輩と、その前にクイーンの座についていた曜先輩の本拠地ですからね……。

入念な準備をして臨まないといけないわけです……。


しずく「ねぇ、かすみさん」

かすみ「ん?」

しずく「かすみさんは、この旅で何かしたいことってあるの? そういえば、聞いてなかったなって」

かすみ「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね、しず子」


かすみんはガバっと上半身を起こす。


かすみ「したいことというか、なりたいもの、なんだけど……!」

しずく「うん」

かすみ「かすみんは、ポケモンマスターになりたいの! だから、この旅はそんなポケモンマスターへの第一歩っていうわけなんだよ!」


かすみんが胸を張って言うと、


しずく「ポケモン、マスター……?」


しず子はポカンとしたあと、


しずく「……ふ、ふふふ♪」


何故かおかしそうに笑いだしました。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? なんで笑うの!?」

しずく「ご、ごめんね……ふふ♪ かすみさんらしい目標だなって思って」

かすみ「むー……バカにしてるでしょ」


確かにポケモンマスターって、子供の夢っぽいし、具体的に何してる人なのかよくわかんないところはあるけど……。


しずく「してないよ♪ なれるといいね、ポケモンマスター♪」

かすみ「やっぱり、バカにしてるー!!」

しずく「してないしてない♪」

かすみ「むぅ……かすみん、いつかそんな態度取ったことを後悔させちゃうくらいの、ポケモンマスターになっちゃうんだからね……」

しずく「ふふ♪ 期待してるね♪」


全く、しず子ったら、失礼なんだから……! ぷんぷんと頬を膨らませていると──かすみんの上着の裾をくいくいと引っ張られる。


 「ガゥガゥッ」

かすみ「ゾロア? もしかして、おやつのおかわり?」
 「ガゥッ♪」

かすみ「もうないよ……ポケットにそんなに入んないもん」
 「ガゥゥ……」


そんな、あからさまに落ち込まなくても……。


かすみ「あ、そうだ! せっかく、ヨハ子博士から、たくさん“きのみ”貰ったんですから、それをおやつにしちゃいましょう♪」

しずく「あ、確かにそれはいいかもね」

かすみ「それじゃ早速……──」


かすみんが、自分のバッグに目を向けると──


 「クマ?」「ジグザク?」「ザグマ??」


いつの間にか口が開けられたかすみんのバッグに、茶色と黒の縞模様のちっちゃいタヌキさんのようなポケモンが群がっているところでした。


かすみ「ちょ!? かすみんの“きのみ”!?」

 「ザグ?」「グマグマ??」「ジグザグ」

しずく「ジグザグマ……!? “きのみ”の匂いに釣られて寄って来たんだ……!」

 「ザグザグ」「マグジグ」「クマァ」


というか、よく見たら、すでに口元にべったり果汁が付いてる……!?


かすみ「ちょっと!! 勝手に食べないでくださいぃ!?」


かすみんがバッグに飛び付くと──


 「クマーー」「ジグザーー」「グマグーー」


ジグザグマたちは、それを避けるように散開する。


かすみ「かすみんの“きのみ”、すっごい減ってる……よ、よくもぉ……!」


──キッと、1匹のジグザグマを睨みつけると、


 「クマ」


口元には、“ウブのみ”が咥えられていた。


かすみ「って、ちょっとぉ!? まだ持ってくの!?」


さらに、他のジグザグマも見てみると、他の子も“きのみ”を口に咥えている。


かすみ「ど、泥棒ーー!!」


叫びながら、1匹のジグザグマに飛び掛かると──


 「ザグザグ」


ぴょんと避けて、


かすみ「ぐぇ」


かすみんの頭を踏んずけてから、


 「ジグジグ」「ザグザグ」「クマー」


ジグザグマたちは、ぴゅーんと走り去って行ってしまいました。


かすみ「…………」

しずく「……完全に持っていかれちゃったね」

かすみ「……かすみん、ここまでコケにされたのは初めてです……。あのジグザグマたち、許しませんよ……!!」


かすみんはすっくと立ち上がる。


かすみ「ゾロア!! キモリ!! ジグザグマを捕まえますよ!!」
 「ガゥ」「キャモ」


かすみんは2匹を従えて、走り出しました。絶対に許しませんからね!? あのジグザグマたちぃぃぃ……!!!


しずく「あ、ちょっとかすみさん!? 荷物置いたままじゃ、また盗られる……。……って、行っちゃった……」





    👑    👑    👑





かすみ「確かこっちに行きましたよね……!!」
 「ガゥガゥ」「キャモッ」


ジグザグマを追って辿り着いたのは──見渡す限りに広がるお花たち。


かすみ「“太陽の花畑”……」


ここはオトノキ地方でも有数の花園。


 「ポポッコ~」「フラ~」「フラァ~」


ポポッコやハネッコたちがふわふわと飛んでいるのが目に入る。ジグザグマたちは、このお花の中に紛れ込んだようですね……。


かすみ「今とっつかまえてやりますからね……!!」


かすみん、気合い十分な感じで花畑を睨みつけます。……でも、この花畑の中で、どうやってジグザグマを見つけるか……。


かすみ「ん……?」


よく見ると──地面が何かの水分を吸って色を変えている場所があることに気付きます。


 「ガゥ…クンクン」

かすみ「もしかして、この地面が濡れてる場所……“きのみ”の果汁?」
 「ガゥガゥ!!」

かすみ「そうなんだね、ゾロア!」
 「ガゥ!!!」


随分“くいしんぼう”な子がいるみたいですね。なら、やることは決まりました……!!


かすみ「ゾロア! キモリ! GO!」
 「ガゥ!!」「キャモッ!!」


かすみんの指示で、ゾロアとキモリが花畑に突入する。

直後、


 「ザグーー!!?」「ジグーーッ!!?」


ジグザグマがゾロアとキモリの攻撃によって、花畑から飛び出してくる。


かすみ「ふっふっふ、全くおまぬけさんですね、ジグザグマたち。こんな果汁を残していたら、居場所がバレバレですよ~?」


かすみん、花畑の外まで転がってきたジグザグマの前で、仁王立ちして見下ろしてやります。


 「ジ、ジグザ…」「グザグマ…」


もちろん、ジグザグマたちは怯えて逃げようとしますが──そうは行きません。


 「ガゥガゥッ!!!!」「キャモッ!!!」

 「ジグザグ…」「ザグザグ…」


すぐに花畑から引き返してきたゾロアたちと、ジグザグマを挟み撃ちにします。


かすみ「もう逃げ場はありませんよ……ひっひっひ……」

 「ザグゥ…」「マァ…」


さて、どうしてやりましょうか、このイタズラタヌキたち……と思った矢先、


かすみ「ぶぁ!!?」


かすみんの可愛いお顔に向かって、何かが飛んできました。


かすみ「ぺっぺっ……! な、なにこれ、“すなかけ”……?」


顔に砂をかけられて、怯んだ隙に、


 「ザグザグ…!!」「ジグザグ…!!」
かすみ「あ!? ちょっと!?」


ジグザグマたちがかすみんの横をすり抜けて逃げていきます。そして、それと同時に──


 「グマァ…!!!」


お花畑の方から急に、低く唸るような鳴き声。


 「ガゥ…!!」「キャモ」
かすみ「なーんか、やる気まんまんって感じじゃないですか……」


確かにさっき逃げたジグザグマ……3匹くらいいたもんね。


かすみ「この気迫、群れのリーダーってところですか! いいですよ!! そっちから来てくれるなら、やってやりますよ!!」

 「グマァッ!!!!」


次の瞬間、ジグザグマが花畑の中から、ゾロアに向かって飛び掛かってきました。


かすみ「ゾロア、“みきり”!!」
 「ガゥ」

 「グマッ!!?」


ゾロアが攻撃を見切り、外したジグザグマはびっくりしたまま、勢い余って地面を滑る。


かすみ「キモリ! “このは”!」
 「キャモッ!!!」


キモリがシュッと鋭い“このは”を投げつける。


 「クマァ!!!?」

かすみ「追撃の“でんこうせっか”!!」
 「キャモッ!!!!」


さらに、息もつかせぬ追撃によって、決着──したかと思いましたが、


 「クマ…!!!!」

 「キャモッ!!?」
かすみ「んな!? 防がれた!? “まもる”!?」


さらにジグザグマは、防いだ反動で後ろに飛び退きながら、体を回転させ、


 「ザーーグマーーー」


周囲に鋭い体毛を飛ばしまくる。


かすみ「い、いたたたた!!? ミ、“ミサイルばり”ですかぁ!!?」
 「キ、キャモッ…!!」「ガゥゥ…!!」


まずいです……! むしタイプの技の“ミサイルばり”はキモリにもゾロアにも効果抜群……!


かすみ「や、やるじゃないですか……!! さすが、群れのボスだけありますね!!」

 「グマッグマッ!!!」


さらに、怯んだ2匹に向かって、お得意の“すなかけ”を畳みかけてくる。


 「ガ、ガゥゥ…」「キャモッ…」
かすみ「ゾロアもキモリも、怯まないで! このままじゃ、逃げられちゃう……!!」

 「クマッ…!!」


かすみんの反応を見て、好機と思ったのか、ジグザグマが逃走を図ります。


かすみ「……まあ、逃げられちゃうなんて、嘘なんですけどね」

 「クマッ!!?」


急にジグザグマが何かに足を取られ、つんのめりながら転ぶ。

──いつの間にか、ジグザグマの足元の葉っぱの葉先が結ばれて、ジグザグマの足を取っていました。


かすみ「キモリ! ナイス“くさむすび”!」
 「キャモッ」

 「クマッ!!?」


そうです、かすみん最初からジグザグマを油断させて、転ばせるつもりだったんです。

そして、転んでしまったジグザグマに──


 「ガゥゥゥゥ…ッ!!!!!」


唸り声をあげながら、近付いていくゾロア。


 「ク、クマァ…!!!」

かすみ「ゾロアも、“すなかけ”で能力を下げられて、お怒りですよね!」
 「ガゥッ!!!!」

かすみ「ゾロア!! “うっぷんばらし”!!」
 「ガァァァゥ!!!!!」

 「クマァッ!!!?」


“うっぷんばらし”は能力を下げられた後だと、威力が倍になる技です。

怒りのパワーを乗せた、爪がジグザグマを切り付け、そのパワーで吹っ飛ばす。


 「ク、クマァ…」


大きなダメージを受けて、もう逃げる体力も残っていないであろうジグザグマに、かすみんは歩いて近寄ります。


かすみ「ふっふっふ……人の物を盗った報いですよ」

 「ク、クマァ…」

かすみ「泥棒はいただけませんが、目聡くレアなものを集めるところは嫌いじゃないですよ。なので、これからはその能力をかすみんの為に使ってください」

 「クマ…?」


かすみんはポケットから取り出した空のモンスターボールを、ジグザグマに向かって投げつけた。

──パシュン。ジグザグマはボールに吸い込まれたのち、1回、2回、3回揺れて……大人しくなった。


かすみ「ジグザグマ、ゲットです!」
 「キャモ」「ガゥガゥ♪」

かすみ「ふっふっふ……かすみんの“きのみ”を強奪した分、たくさん働いてもらいますよぉ……? 食べ物の恨みは怖いんですからねぇ……?」

しずく「──……どっちが悪役なんだか」


気付くと、後ろでしず子が呆れ気味に肩を竦めていました。


かすみ「あ、しず子、見て見て~イタズラジグザグマはこのとおり、捕まえたよ~」

しずく「あんまりジグザグマのこと、いじめちゃダメだよ?」

かすみ「いじめないよ! これからジグザグマはかすみんのために誠心誠意働いてくれるんだから~♪」


かすみんは、今しがた捕まえたジグザグマをボールから出す。


 「──クマ…」
かすみ「ほーら、ジグザグマ~、あなたの“おや”のかすみんですよ~」


かすみんがジグザグマの頭を撫でようとすると、


 「ガブッ」
かすみ「いったぁぁーーー!!!? 何するんですかぁ!!!?」


噛み付かれました。


しずく「そりゃそうだよ……捕まえたばかりで、まだなついてないでしょ?」

かすみ「えぇ……それじゃ、かすみんのお宝ザックザク計画はどうなるんですかぁ……」

しずく「なついて貰えるように頑張るしかないんじゃないかな」

かすみ「むー……困りましたね」

しずく「それよりかすみさん、バッグ……置きっぱなしだったよ」


そう言いながら、しず子がバッグを手渡してきます。


かすみ「ああ、ごめん。ありがと、しず子」


バッグを受け取る際──コロっと“ネコブのみ”が転がり落ちます。


 「…! グマッ!!!」


そして、落ちたネコブをジグザグマがパクっと……。


かすみ「ああ!? まだ食べるの!?」


眉を顰めるかすみんとは裏腹に、


 「…クマァ♪」


ジグザグマは幸せそうな笑顔を浮かべ、器用に後ろ脚で立ちながら、かすみんのバッグに前脚を伸ばしてくる。


かすみ「なんですか……まだ食べたいんですか?」
 「クマァ」

かすみ「……伏せ」
 「クマァ」


ジグザグマはかすみんの指示にすぐさま従って、身を屈める。


かすみ「……食べた瞬間、さっきの“なまいき”な態度が一変しましたね……」

しずく「あ、もしかして……」

かすみ「?」

しずく「“ネコブのみ”の効果じゃないかな? ポケモンがなつきやすくなるって言う……」

かすみ「……! なるほど! じゃあ、この“きのみ”をたくさん食べさせれば……! ジグザグマ!」
 「クマ?」

かすみ「もっと、“きのみ”食べていいですよ! その代わり、これからかすみんにいっぱい協力してください!」
 「クマァ♪」


バッグをひっくり返して、ジグザグマの前に“きのみ”を落とすと、ジグザグマは幸せそうに、“きのみ”にむしゃぶりつき始めました。


かすみ「ふっふっふ……これで、お宝ザックザク計画は成功したようなものです……ふへへ」
 「ガゥガゥ♪」「キャモッ」

しずく「結局、“きのみ”食べられちゃってるけど……」

かすみ「? しず子どうしたの? 変な顔して……?」

しずく「まあ、かすみさんがいいなら、それでいいと思うよ……」

かすみ「……?」


しず子の言葉に首を傾げる中、


 「クマァーー♪」


ジグザグマの幸せそうな鳴き声が、しばらくの間、太陽の花畑に響いているのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【太陽の花畑】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.8 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.8 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.6 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:45匹 捕まえた数:4匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.6 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.6 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.6 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:3匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🐏



──ここはセキレイシティの北にある道路、10番道路……。


 「ブーーーン!!!!」


虫の頭にムキムキの体をした敵が彼方ちゃんたちに殴り掛かってくる。


遥「お姉ちゃん!」

彼方「大丈夫、大丈夫~。バイウールー、“コットンガード”~」
 「メェェェー」


相手の拳が──ボフッという音と共に、毛皮に飲み込まれる。


彼方「ふっふっふ~、肉弾戦で彼方ちゃんのバイウールを倒せるかな~?」

 「マ、ッシブ…!?」


あれ……? なんか、ちょっとショック受けてる……?


 「マッシ、ブーン!!!」

彼方「わぁ!? こっち来たぁ!?」


敵がバイウールーを無視して、私の方に突っ込んでくる。


彼方「お、怒らないでよ~!」

遥「ち、挑発なんてするから……!」

彼方「た、助けて~! 穂乃果ちゃ~ん! 千歌ちゃ~ん!」


彼方ちゃんが助けを呼ぶと、


千歌「ルカリオ!! “コメットパンチ”!!」
 「グゥォッ!!!」

 「ッシブッ!!!」


千歌ちゃんのルカリオが、敵に向かって拳を叩きこむ。


千歌「肉体が自慢なら、相手してあげるよ!」

 「ブーンッ!!!」

彼方「た、助かった……」

遥「お姉ちゃん、大丈夫……?」

彼方「頼もしいボディガードのお陰で無事だよ~」

遥「良かった……」

彼方「それにしても、あのマッチョムシ……まさか、彼方ちゃんに直接殴り掛かってくるなんて……。さすがの彼方ちゃんも、肝が冷えたぜ……」

遥「マッチョムシって……勝手に変な名前つけちゃダメだよ、お姉ちゃん」


千歌ちゃんのルカリオと対峙したマッチョムシは、


 「マッシブッ!!!!!」


急にポージングを始める。


千歌「お……?」

 「ッシブッ!!!」

千歌「筋肉を自慢してるのかな……? よーし! それなら、ルカリオ! “ビルドアップ”!!」
 「グゥォッ!!!!」

 「マッシブッ!!!!」

千歌「やるね……!」


千歌ちゃんも張り合うように、ルカリオに“ビルドアップ”を指示して、ボディビルバトルを始める。


遥「あ、あの……千歌さん……倒さないと……」

千歌「え? ……そういえば、そうだった。ルカリオ! 拳、集中!」
 「グゥォ──」


ルカリオが指示のもと、一気に精神を集中させて──拳に力を籠める。

──直後、カッと目を見開いて、


千歌「“きあいパンチ”!!」


風を切り裂くほどのスピードでマッチョムシに向かって、拳が放たれる。

これで決着──と思いきや、


 「マッシブッ…」


マッチョムシは、ルカリオの拳を手の平で受け止めていた。


千歌「と、止められた!?」
 「グゥォッ!!?」

 「マッシブッ!!!!」


そのまま、ルカリオの腕を掴んで上に向かって放り投げる。


 「グゥァッ!!!?」
千歌「ル、ルカリオー!?」

 「マッシブッ!!!!」


そのまま、今度は千歌ちゃんに向かって飛び掛かってくる。


千歌「わ、やばっ! 穂乃果さん、バトンタッチ!!」

穂乃果「了解~!」


飛び掛かってくる、マッチョムシとの間に躍り出た穂乃果ちゃんがボールを投げる。


 「ゴラァァーーースッ!!!!!」
穂乃果「ガチゴラス!! “かみくだく”!!」


ボールから飛び出した穂乃果ちゃんのガチゴラスが、空中のマッチョムシをガブリと大顎で捕まえ、そのまま地面に叩きつけた。


千歌「さっすがぁ!」

 「マ…シブッ!!!」


でも、マッチョムシも負けていない。噛みつかれながらも腕を伸ばして、ガチゴラスの頭部に掴みかかる。


遥「あ、“あてみなげ”です!!」


“あてみなげ”は先行を譲る代わりに、確実に投げを成功させるカウンター技……! 超パワー系だと思ったのに、意外にもそんな返し技を隠していたらしい。

だけど、穂乃果ちゃんは全く怯まず、


穂乃果「“かいりき”!!」
 「チゴラァァァーース!!!!」


むしろ、パワーで押さえつける。


遥「か、確実に成功するはずの投げ技が、力で抑え込まれてる……」

 「マ、マッシブッ…」


さすがに、この展開は予想していなかったのか、マッチョムシのパワーが僅かに鈍った瞬間──ガチゴラスは一気に頭を上に向かって振って、


 「ゴラァァスッ!!!!」

 「ッシブッ!!!?」


マッチョムシを空に放り投げる。すぐさま、空中で翅をバタつかせ始めるが、飛行体制に入りきる前に──


穂乃果「“もろはのずつき”!!」
 「ゴラアァァァァッスッ!!!!」

 「…ッシブーーーンッ!!!!?」


落ちてきた、マッチョムシに破砕の一撃を叩きこんだ。

マッチョムシは数十メートル吹っ飛んだあと──


 「…ブーーーーンッ!!!!」


空中に空いている“穴”の中へと逃げていった。


穂乃果「ふぅ……」

千歌「さすが、穂乃果さん!」

穂乃果「えへへ♪ パワー系、相手なら任せて!」

彼方「助かったよ~、穂乃果ちゃん~、千歌ちゃん~」

遥「お二人とも、ありがとうございます」

穂乃果「うぅん、彼方さんと遥ちゃんが無事で何よりだよ♪」

千歌「とりあえず、本部にメール打っておくね!」

穂乃果「うん、お願い!」


千歌ちゃんが簡単な事後処理を済ませて、


穂乃果「じゃあ、帰ろっか」


用事は済んだので、これから帰還しようと、穂乃果ちゃんがリザードンをボールから出したそのときだった。


 「──そこにいるのは、もしや千歌さんではありませんか!?」


辺りに響く、通る声。

振り返るとそこには、ウインディに跨って、黒髪を風に靡かせている女の子の姿。


千歌「あれ? せつ菜ちゃん?」

せつ菜「こんなところで会うなんて、奇遇ですね!」

千歌「……ええと、せつ菜ちゃん、今さっきの戦闘って見てた?」

せつ菜「戦闘……? 特に何も見ていませんが……先ほどまで、野生のポケモンと戦っていたのでしょうか?」


千歌ちゃんの質問に、せつ菜ちゃんがきょとんとした顔をする。よしよし、見てなさそうだね。


せつ菜「それよりも、こんなところで出会ったのも何かの縁です!! トレーナー同士が出会ったら、することは一つ……!」

千歌「……ふっふっふっ、ポケモンバトルしかないよね……!」


両者、当然のようにボールを構えて戦闘態勢に……。


彼方「千歌ちゃんノリノリだ~」

穂乃果「えっと、それじゃ私は彼方さんと遥ちゃんを町まで送っちゃうね」

千歌「うん! バトルが終わったら追いかけるから!」

せつ菜「準備はいいですか!? 千歌さん!!」

千歌「いつでもOK!」


二人がボールを構えて、バトルを始めようとしているところを見ながら、リザードンが浮上していく。


穂乃果「リザードン、お願いね」
 「リザァッ」


私たちは、リザードンの背に乗りながら、10番道路を後にするのでした~。


………………
…………
……
🐏


■Chapter007 『海を越えて!』 【SIDE Kasumi】





──ジグザグマを捕獲し、太陽の花畑を抜けたかすみんたちは……。


かすみ「サニータウン到着~! 見てよしず子! 海だよ、海! 潮の香りもしてきて……あぁ、かすみん今、冒険してる……」

しずく「私はここに住んでるから、毎日見てたんだけどね……」


そういえば、しず子は毎日この町から、学校のあるセキレイシティに通ってたんだった。


かすみ「あ、それじゃ、しず子は一旦家に帰る?」

しずく「うーん……それはいいかな。せっかく旅に送り出した娘が2日で家に帰ってきたら、逆に心配掛けちゃうよ」

かすみ「ふーん……?」


かすみんのパパとママは、かすみんが帰ってくるのはいつでも歓迎してくれるんですけどね?

まあ、しず子のお家って、なんか厳しそうだしなぁ……。


しずく「だから、サニータウンは出来るだけ早く素通りしたいかなって……」

かすみ「わかった。じゃあ、港に行こっか」


かすみんたちはそのまま、サニー港まで直行します。





    👑    👑    👑





──サニー港から、すぐに船でフソウ島を目指そうとした、かすみんたちだったんですが……。


しずく「──エンジントラブルですか……?」

船乗り「ああ、そうなんだよ。最近調子が悪くなることが多くってね」


またまたまたまた、足止めを食らうことになってしまいました。なんと船がエンジントラブルで欠航しているそうです。


かすみ「日頃の整備が適当なんじゃないですか……?」

しずく「こ、こら! かすみさん! 失礼なこと言わないの!」

船乗り「ははは……耳が痛いね。ただ、この港から出る船は特に調整に気を遣うからね……他の港だったら、気にしないような些細な部分でも、ここでは必要以上に慎重になっちゃうんだよ」

かすみ「……? どういうことですか?」


船乗りさんの言葉に、かすみんは小首を傾げる。


しずく「……“船の墓場”、ですね」

船乗り「ああ、君は地元の子かい?」

しずく「はい。……それなら、仕方ありませんね、船の調整が終わるまで待つしかないです……」

船乗り「悪いね、お嬢ちゃんたち」

しずく「いえ、お仕事頑張ってください。かすみさん、行こう」

かすみ「う、うん……?」


しず子に言われるがまま、港を離れることに。かすみんは歩きながら、しず子に訊ねます。


かすみ「ねぇ、しず子。“船の墓場”って何?」

しずく「えっとね……サニータウンでは有名なんだけど……。この町から東側に抜けていく水道──つまり、15番水道はね、昔から船が沈むことがすごく多い海域なの」

かすみ「海が荒れやすいの?」

しずく「うぅん、特別荒れやすいってほどじゃないと思う」

かすみ「じゃあ、なんで船が沈むことが多いの……?」


海が荒れもしないのに、船が沈むなんて……やっぱり、整備不良なんじゃないですかね……?


しずく「原因はあんまりわからないけど……急に航行不能になって、そのまま沈んじゃうってことが多いって言われてるかな。海の怨霊のせいだなんて噂もあるくらいで……」

かすみ「な、なになに!? 怖い話!?」

しずく「まあ、怖い話かも……。船乗りさんってゲン担ぎを大切にする人が多いから、ここの港から出る船は少しでも不調が見られたら、基本的に欠航になるんだよ」

かすみ「……かすみん、フソウ島に渡るのやめようかな……」

しずく「調子が良ければ問題ないんだよ? あと不思議なことに、船以外での水難事故は少ないみたい」

かすみ「お、泳いで行けってこと!?」

しずく「うーん……さすがに遠すぎて、ポケモンの“なみのり”以外だと、フソウ島まで行くのは難しいかな……」


嫌なことを聞いてしまった気分です……。この後、船が直っても乗って行くのを躊躇しちゃいそう……。

しず子と話しながら、港沿いに歩いて行くと、綺麗な砂浜が視界に入ってくる。


かすみ「こんなに綺麗なビーチのある海なのに……」


そのとき突然、


 「──クマァ♪」


ジグザグマが勝手にボールから飛び出してきました。


かすみ「ん? ジグザグマ、どうかしたの?」
 「クマッ♪」


ジグザグマはそのまま、砂浜の方へと走り出す。


かすみ「砂浜で遊びたいのかな……?」

しずく「調整に時間もかかるだろうし、砂浜の方に行ってみる?」

かすみ「そうしよっか」


ジグザグマを放っておくわけにもいかないしね。


 「ザグマァ♪」
かすみ「ジグザグマ? 何してるの?」


ジグザグマは砂浜の砂を掘り返している。


しずく「何か見つけたんじゃないかな? ジグザグマって、探し物が得意なポケモンだから」

かすみ「おお! 早速お宝ザックザク計画開始ってわけだね!」

しずく「そんなにうまくいかないと思うけどなぁ……」

 「クマッ」


ジグザグマが何かを見つけたのか、口に咥えて、かすみんのところに持ってくる。


かすみ「何拾ってきたの? ……わぁ、なんか綺麗な欠片! 良い子だねぇ~ジグザグマには『かすみん4号』の称号をあげちゃいますよ~」


ジグザグマが拾ってきたのは黄色い綺麗な欠片みたいなものです。高く売れたりするかな? ワクワク♪ ──あ、ちなみに『かすみん3号』はキモリですよ!


しずく「そ、それって……“げんきのかけら”じゃない?」

かすみ「ほぇ?」

しずく「戦闘不能になったポケモンの元気を取り戻すアイテムだよ」

かすみ「おぉー! ホントに良い物じゃないですかー! ジグザグマ! もっと、探そう!」
 「クマ♪」

しずく「お宝ザックザク計画……意外と順調……?」


この調子で、ここらのお宝たくさんゲットですよ~♪





    👑    👑    👑





しずく「“きずぐすり”、“スーパーボール”、“なんでもなおし”、“げんきのかけら”……あとこれは“おおきなキノコ”かな……?」

かすみ「ジグザグマ~おりこうさんですね~♪」
 「クマァ~♪」

しずく「“ものひろい”って思ったより、すごいのかも……」

かすみ「この調子でもっとたくさん集めますよ~♪」
 「ザグマ~♪」


引き続き、お宝ザックザク計画を続行しようとしていると、


 「──あれ? もしかして、かすみちゃんとしずくちゃん?」


突然、声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのはアッシュグレーでショートボブの先輩トレーナーさん──


かすみ「あれ? 曜先輩?」

曜「二人とも、こっち方面に進むことにしたんだね」

しずく「曜さんも今日はこちらでお仕事を?」

曜「うん、私の仕事はセキレイ~フソウ間をメインに、いろんなアミューズメントを考えることだからね」

かすみ「あれ? 曜先輩って、コンテスト運営委員会の人じゃなかったんですか?」


ジムリーダー以外には、そういう仕事をしているって聞いてましたけど……?


曜「それも私の仕事かな。コンテストを盛り上げるための一環として、オトノキ地方の二大会場がある、セキレイ、フソウにたくさん人が来るように考える。今はその仕事をしてるところだよ」

しずく「コンテスト会場に人を呼ぶのも、運営委員会の仕事なんですね」

曜「そういうこと。ところで、二人はここで何してるの?」

かすみ「お宝ザックザク計画の真っ最中です!」

曜「お宝ザックザク計画……?」

しずく「私たち、船が整備中で欠航しちゃって……直るのを待ってるところなんです」

曜「あーなるほど。……確かに、ここの港は出港にもすごく気を遣うからね……私たちにとっても困りの種なんだよね」


曜先輩も腕を組んで、困り顔になる。そりゃそうですよね、セキレイ~フソウへの人の往来を増やすために仕事をしているのに、肝心の船が欠航しやすいなんて、致命的です。


かすみ「いっそ、船なんかなくして、ポケモンでの渡し便を作っちゃえばいいのに……」

曜「……かすみちゃん、良い着眼点だね」

かすみ「はぇ?」


適当に言ったことだったので、曜先輩のリアクションに対して間抜けな声が出る。


曜「実は今、そういう方向で考えててね……って、実際に見てもらった方がいいかな! 二人とも、付いてきて!」


曜先輩はそう言いながら、颯爽と海の方へと、走って行く。


かすみ「え、ええ……?? なんだろう……」

しずく「とりあえず、行ってみる?」

かすみ「……うん」


かすみんたちは、お宝ザックザク計画を中断して、曜先輩に付いていきます。





    👑    👑    👑





曜「二人とも、こっちこっち!」


──かすみんたちが連れてこられた場所は波打ち際で……なにやら、看板が立っています。


かすみ「なんですか、この看板のマーク……?」

しずく「……もしかして、マンタインですか?」

曜「しずくちゃん、正解! みんな、出ておいで!」


曜先輩が、ピューっと指笛を吹くと──


 「マンター」「タイーン」「マンタァー」


マンタインたちが海から顔を出しました。そして、そのマンタインたちは背中になにやら手すりのようなボードが取り付けられています。


しずく「もしかして……マンタインサーフですか?」

曜「またまた、しずくちゃん正解!」

かすみ「マンタインサーフってなんですか……?」

しずく「アローラ地方にある、マンタインに乗ってサーフィンする遊びのことだよ。確か、競技にもなってたはず……波でジャンプしながら、技を決めてその技術を競い合うんだよ」

曜「うんうん! 船が出せなくてフソウ島に遊びに行けないんだったら、もう行くところから遊びにしちゃったらどうかなって思って!」

かすみ「えっと……つまり、マンタインサーフしながら、フソウ島まで渡っちゃおうってことですか?」

曜「そういうこと!」


なるほど。曜先輩が良い着眼点だって言っていたのは、これのことだったんですね。


曜「まあ、まだ調整中なんだけどね。もうちょっとしたら、正式に出来るようになると思うよ!」

かすみ「調整中ってことは、まだダメなんですか? マンタインはもういるのに……」

曜「十分な数のスタッフやライフジャケットの手配とか、ルート選定とか、あと本当に安全かのテスト運用も必要だから、すぐってわけにはなかなかね……。あーそうか……スタッフはともかく、慣れてない人も想定しないといけないから、テスト運用の際は一般公募枠も作らないとかな……」

かすみ「なんだか、何かをやるのって大変なんですね……」

曜「あはは、まあこれが仕事だし。大変だけど、考えるのも意外と楽しいんだよね」

しずく「なにはともあれ、うまく行くといいですね! これが実現すれば、セキレイやフソウだけでなく、サニータウンも活気付きますし!」

曜「そうだね、頑張って実現してみせるよ!」


力こぶを作って見せる曜先輩。確かに、この人の行動力なら、遠くないうちに実現しそうです。

──ふと、そこで、かすみん思いました。

かすみんたちは海を渡りたい。渡るには船よりポケモン。曜先輩は試しにやってくれる人を探している……。


かすみ「あの、曜先輩」

曜「ん? 何かな?」

かすみ「テスト運用で一般から人を集めたい、みたいなこと、さっき言ってたじゃないですか」

曜「うん、そうだね」

かすみ「それって、かすみんたちじゃダメですか?」

しずく「かすみさん?」

曜「……んっと、問題ないけど……予定とか大丈夫? 旅の途中でしょ?」

かすみ「大丈夫です!」

しずく「ち、ちょっと、かすみさん、勝手に……!」

かすみ「まさに今かすみんたちは、フソウ島へ渡ろうとしてるところですから!」

曜「え? 今?」


曜先輩は少し驚いた顔をしましたが、すぐに思案し始める。


曜「……確かにライフジャケット2着くらいなら今でもあるし……暫定ルートもある程度はマンタインたちに教えてある……いけるかも」

しずく「え、えっと……曜さん?」

曜「ちょっと今ライフジャケット取ってくるね!」

かすみ「はい! お願いします!」


曜先輩は身を翻して、近くの小屋に走って行く。恐らく、あそこにいろいろな機材やらと一緒にライフジャケットが置いてあるってことでしょう。


しずく「え、えええ!? ホントにやるつもりなの!?」

かすみ「早くサニータウンを出たいんでしょ? 船を待つくらいなら、マンタインで行っちゃおうよ!」

しずく「だ、大丈夫かな……」

かすみ「大丈夫だって~、しず子は心配性だなぁ~♪ 何事も当たって砕けろだよ!」

しずく「砕けたくはない……」

かすみ「せっかく海を渡れるなら、あれだよ……えーっと……なんだっけ」

しずく「……まさに渡りに船だね」

かすみ「それそれ! それが言いたかったの!」


程なくして、曜先輩が戻ってくる。


曜「かすみちゃん! しずくちゃん! ライフジャケット、持ってきたよ!」


──さぁ、レッツ・マンタインサーフです♪





    👑    👑    👑





かすみ「ひゃっほーーー♪」
 「タイーーン」

しずく「か、かすみさん! 先に行き過ぎないでー!」
 「マンター」


マンタインは水しぶきをあげながら、波の上を進んでいく。


かすみ「お! また、波が来ましたね! 行きますよ~!」
 「マンタイーン」


かすみんは波に向かうように、重心をずらしながらマンタインを操ります。

そして、スピードを殺さずに波の頂点から──


かすみ「ジャーンプ!!」
 「タイーーン」


ハイジャンプ! ジャンプすると、マンタインが風を受けてくれるので、少しの間カイトの要領で空も飛べちゃいます!


かすみ「そして、ナイス着地~♪ 楽しい~♪」

しずく「かすみさん! だから、先行しすぎないでって!!」


しず子が、かすみんの横に追い付いてきて、ぷりぷりと文句を言う。


かすみ「しず子もちゃんと追い付いてこれてるじゃ~ん」
 「タイーン」

しずく「もう! 曜さんに言われたでしょ!?」


うるさいなぁ……。

出発前に、曜先輩に言われたことを思い出す──



──────
────
──


曜「二人とも、あんまりスピードを出し過ぎないように。あと、あんまり高く飛び過ぎちゃダメだよ?」

かすみ「はーい♪」

しずく「わかりました」

曜「ライフジャケットがあるし、水に落ちてもマンタインがすぐに助けてくれるから慌てずにね! あともし、何かあったらポケギアに連絡してね? これ、私のポケギア番号だから──」


──
────
──────


かすみ「でも、マンタインサーフって本来、波でジャンプしたりして、競い合うってしず子自分で言ってたじゃん!」
 「マンター」

しずく「私たちの目的はフソウ島まで、渡ることでしょ!?」
 「タイーン」

かすみ「これはテストでもあるんだよ? じゃあ、本来のマンタインサーフをこなさなきゃ♪」
 「マンタイー」

しずく「もう!! かすみさんっ!!」
 「ンタイーン」


ぷりぷり怒るしず子をスルーしながら、視線を前に戻すと──さっきよりも大きな波が迫っていることに気付く。


かすみ「これは大技チャンスです♪」

しずく「かすみさん!!」

かすみ「行くよ、マンタイン!」
 「タイーン」


大きな波に合わせて──


かすみ「ジャーーーーンプ!!!!」
 「マンタイーーン」


──ああ、かすみん、今風になってる……♪

高く飛べば飛ぶほど、風を感じられる……マンタインサーフ、最っ高♪


しずく「────!!!」


うるさいしず子の声も、こーんなに高く飛んじゃったら、ほとんど聞こえないですねぇ~♪

風に乗って、カイトのように飛んでいると、しず子の姿がどんどん遠く──どんどん、遠く……?


かすみ「あ、あれ……? ち、ちょっと飛びすぎじゃない?」
 「タイーーン」

かすみ「マンタイン、もういいよ~」
 「タイーン…」


かすみんがもういいと言っても、マンタインは全然高度を下げません。


かすみ「マンタイン……?」
 「タイーン」


あれ、なんか様子がおかしい……?

というか──


かすみ「なんか、加速してない……?」


眼下のしず子をどんどん引き離していく。

そこでやっと気付く。


かすみ「もしかして、風に煽られて、流されてる!?」
 「タイーーン…」

かすみ「ち、ちょっと!! マンタイン、下りられないの!?」
 「タイーン…」


そのとき──prrrrrrrrとポケギアが鳴り出す。


かすみ「い、今取り込み中なんですけどぉ!?」


ポケギアの着信を見ると──相手はしず子だった。


しずく『かすみさん!! 早く高度落として!! 進路から外れてる!!』

かすみ「か、風に煽られちゃって、下りられないの!!」

しずく『ええ!? だから、言ったのに……!!』

かすみ「ど、どうしよう……」

しずく『とにかく、どうにかして下りるしかないよ!!』

かすみ「ど、どうにかって……」


かすみん、どうすればいいかわからなくて、オロオロしてしまいます。

そして、オロオロしている間にさらに──ビュウっと突風が吹いてきました。


しずく『かすみさん!? また、加速してる!?』

かすみ「さ、さらに強い風が吹いてるー!? た、助けてー!?」

しずく『かすみさ──』


──ブツ、ツーツーツー。


かすみ「しず子!? しず子ー!!」


急にしず子との電話が途切れる、何かと思ってポケギアの画面を見ると──


かすみ「け、圏外……?」


電波が届かない場所まで、ルートを大きく外れてしまったみたいです。


かすみ「た、た、た、助けてーーー!!!!」


かすみんは風に流されて、どこまでも飛んでいきます……。





    👑    👑    👑





かすみ「……うぅ……」
 「タイーン…」


再び海に無事着水出来たときには……もう随分風に流されてしまいました。辺りは見渡す限り海海海……完全に沖まで飛ばされてしまいました……。

しず子の姿は全く見えなくなってしまったし、ポケギアも依然圏外のまま……。


かすみ「どうしよう……」


不幸中の幸いと言うべきなのは、落ちた先に地面がなかったことですかね。

激突していたら、大変なことになっていました……。

ただ、逆にここまで海しかないと、帰る方向もわからない……。


かすみ「……うぅ……こんなことなら、しず子の言うこと聞いておくんだった……」
 「タイーーン…」


ぷかぷかと浮かぶマンタインの上で、膝を抱えていると──


かすみ「……っ!?」


急に背筋がゾクリとする。


かすみ「な、何……!?」


びっくりして顔を上げると……気付けば、辺りは霧に包まれていました。


かすみ「え、嘘……何これ……」
 「タイーン…」


急な出来事に呆然としていると──


かすみ「!?」


霧の中に大きな影がヌッと現れる。


かすみ「な、な、な、なんなんですかぁ……っ……」


半べそをかきながら、影を睨みつけていると──霧の中からその影の正体が姿を現し始めた。

これは……。


かすみ「……ふ、船……?」


そう、かすみんの目の前に現れたのは、大きな大きな木製の船でした。


かすみ「えっと……」


かすみん、戸惑いを隠せませんが……。


 「タィーン…」
かすみ「…………」


このまま漂流しているのは危ないし、この船に乗せてもらおう。そう思って、


かすみ「マンタイン、船の方に進んでくれる?」
 「タイーン…」


かすみんは、船に近付いて行きます。





    👑    👑    👑





かすみ「……でっか」


間近で見ると、船はものすごい大きさでした。

ただ、船自体は動くことなく、止まっています。


かすみ「もしかして、誰も乗ってないのかな……?」


見た感じ、壊れてたりはしなさそうだけど……?


かすみ「でも、壊れてないなら、こんなところに船だけあるのっておかしいよね……?」
 「タイーン…」


むーっと、腕を組んで少し考えてみましたが……いつまでも海の上でぷかぷか浮いていても仕方ありません。意を決して……。


かすみ「すみませーーーーん!! 誰か乗ってませんかーーーー!!!」


大きな声で、船の上の方に呼びかける。


かすみ「ここまで流されちゃってーーー!!! 助けてもらえませんかーーー!!!」


船に向かって助けを求めるけど、


かすみ「…………」


反応はありません。


かすみ「やっぱり、誰も乗ってないのかな……」


まあ、無人なら無人で、どうにかして乗り込めれば少し落ち着けるかも……?


かすみ「……でも、どうやって……?」


特に周りに、はしごみたいなものがあるわけでもないし……よじ登るっていうのは、キモリじゃないと……。


かすみ「! そうだ、キモリ!」


閃いたかすみんはキモリのボールを船に向かって放り投げます。


 「キャモッ!!!」


飛び出したキモリは、ボールから出ると同時に、船の外壁に足で張り付く。


かすみ「キモリ! 上にあがって、何か登るための道具とかないか見てきてくれるー?」

 「キャモッ」


キモリがヒョイヒョイと壁面を登って行く。

──程なくして、パサっと音を立てて何かが垂れ下がってきた。


かすみ「! 縄ばしご……!」


縄ばしごの上の方を見ると──


 「キャモーー」


キモリが上から、かすみんの方を見ています。

どうやら、キモリが見つけて下に投げてくれたようです。


かすみ「ありがとう、キモリ……!」


かすみんは、縄ばしごに手足を掛ける。


かすみ「マンタインはここで待っててもらっていい?」
 「タイーン」

かすみ「ありがとう、ちょっと行ってくるね」


マンタインにはここで待機してもらう。マンタインを入れるボールを持っているわけじゃないし……かといって、かすみんのポケモンでもないから、捕まえることも出来ないからね……。


かすみ「よいしょ……よいしょ……」


縄ばしごなんか登ったことがないので知りませんでしたが、思った以上に揺れて登りづらい。

ゆっくりゆっくり登って行って……。


かすみ「はぁ……はぁ……登りきった……」


かすみんはやっと船の壁面を登り切りました。


 「キャモ!!」
かすみ「キモリー! ありがとねっ!」


キモリをハグしながら、お礼を伝えて──降り立った船の甲板を見回します。

人影のようなものは全く見当たりませんが……。


かすみ「なんか……思ったより、綺麗な船……」


古めかしい木造の船で、港で見られるような船ではないけど……それなりに手入れもされていて、アンティークな見た目の割に、穴が空いていたり、木が傷んでいるといった感じもしない。

やっぱり、人が乗ってるのかな……?


かすみ「誰か、いませんかー?」


返事を期待して呼びかけるものの……かすみんの声は、霧の中に吸い込まれて消えていきます。


かすみ「うぅーん……」


奥の方にいるのかな……?


かすみ「とりあえず、奥まで行ってみる……?」
 「キャモ」


とりあえず、船の奥の方に行ってみようと思い、歩き出した瞬間──


かすみ「……!?」


急に背後から、視線を感じて、背筋に悪寒が走った。

慌てて、振り返るけど──


かすみ「な、なにもいないよね……?」
 「キャモ…?」


やっぱり、ここにいるのはかすみんとキモリだけ。


かすみ「な、なんだか、気味が悪いですね……」
 「キャモ」

かすみ「……こ、ここはみんなで探索しましょう! ゾロア! ジグザグマ! 出て来てください!」
 「ガゥ!」「ザグマァ」

かすみ「よし! 奥に行ってみますよ!」
 「キャモ」「ガゥ」「ザグ」


かすみんはポケモンたちと一緒に探索を始めます。




    👑    👑    👑





かすみ「すみませーん……誰かー……いませんかー……」
 「ガゥガゥ」


甲板から、船の中に入り、狭い船内の廊下を歩きながら訊ね続ける。

でも、かすみんの可愛い~声が反響してくるだけで、乗組員からの反応のようなものは一切ないまま。

ただ、時折──


かすみ「……!? ま、また……!」
 「ザグマ?」


背筋に悪寒が走る現象だけは定期的に発生している。


かすみ「もう……なんなんですかぁ……っ……」
 「キャモ」


ポケモンたちが相槌を打ってくれるのが唯一の救いです……。一人だったら、心細すぎて、泣き出しちゃうかも……。

船内の廊下を区画分けしているであろう、ドアを一個ずつ開けながら、歩を進めていると急に──トントンと、肩を叩かれます。


かすみ「何? ゾロア?」
 「ガゥ?」


ゾロアが足元で返事をします。


かすみ「あれ……? キモリ? ジグザグマ?」
 「キャモ?」「クマ?」


これまた、足元から返ってくる2匹の鳴き声。


かすみ「え……? じゃあ、今の何……?」


恐る恐る振り返ると──黒い得体の知れない“なにか”がぼやぁっと浮かんでいました。


かすみ「!!?!? ぎゃああああああああああああああ!!!!!!? お化けえええええええええええ!!!?」


かすみんはびっくりして、尻餅をついてしまいます。


 「キャモッ!!!」


それを見たキモリが、いの一番に飛び出して、お化けに向かって尻尾を振るう。

ですが、相手はお化け──案の定、スカッと攻撃が空振りしてしまう。


かすみ「だ、だ、だ、ダメだよ、キモリ……!! お化けだから、すり抜けちゃうよぉ……!!」
 「キ、キャモ…」

 「グルルルル…ガゥガゥガゥ!!!!!」


攻撃じゃダメと判断するや否や、ゾロアが“ほえる”。


 「──!!! ……」


すると、お化けはスーッと壁の向こうに行ってしまいました。


かすみ「ゾ、ゾロア~……」
 「ガゥガゥ♪」


ゾロアのお陰で助かりました……。


かすみ「なんですか、ここぉ……! 人どころか、お化けがいるんですけどぉ……」


かすみん、こんなところにはいられません。足が震えるのを我慢して、立ち上がる。


かすみ「に、逃げよう、みんな……!」
 「ガゥ」「キャモ」「ザグ」


来た道を戻るために、通路のドアに手を掛ける。

──ガチャガチャ。


かすみ「あ、あれ……?」


──ガチャガチャガチャ。

何故か、ドアが開かない。


かすみ「う、うそ……」


これって、もしかしなくても……。


かすみ「と、と、閉じ込められましたぁーー!!!!」
 「ガゥ!?」


ガンガンとドアを叩いてみるけど、頑丈なドアはうんともすんとも言いません。

──と、いうか……改めて辺りを見回すと、


かすみ「この船……ボロボロじゃん……」


先ほどまで、綺麗だと思っていた船は、あちこちの木が傷み、床も壁も天井もボロボロ。

何十年も人の手が入っていないことが一目でわかる有様です。


かすみ「かすみんたち……もしかして、幽霊船に誘い込まれた……?」


サァーっと血の気が引いて行く。

そして、次の瞬間──ボッボッボッと音を立てて、通路のランタンに青い炎が灯る。


かすみ「ぴゃあああああ!!?」
 「キャモッ!!!」「ガゥガゥ!!!」「ザグマァ…!!」


そして、それと同時に──さっきのお化けが再び姿を現しました。

……今度はたくさんの仲間を連れて。


かすみ「いやあああああああ……っ……!!!!」
 「キャモッ!!!?」「ガゥッ!!!」


かすみんは怖くなって、全速力で走り出します。全力ダッシュのかすみんを──


 「────」「…………」「~~~」


飛んで追ってくる、お化けの姿。


かすみ「付いてこないでえええええ!!!!」


かすみんは絶叫しながら、夢中で走り続ける──





    👑    👑    👑





かすみ「はぁ……はぁ……はぁ……」


どれくらい全力でダッシュし続けてたかわからない。夢中で走って走って走りまくって……気付いたら、お化けたちの姿は消えていた。


かすみ「うぅ……外に出るどころか……すごい奥まで来ちゃった……」
 「ガゥ…」


急にかすみんが走り出したせいもあって、ゾロア以外とはぐれちゃったし……。


かすみ「探さないと……」


とは思うものの、今自分がいる場所もよくわからない……。

こうして夢中で逃げ込んで来たこの場所にあるのは──足が折れて使い物にならない椅子と、ボロボロで見るからに傾いている引き出しの付いた机。

そして、壁には帽子が掛けてある。


かすみ「ここ……船員さんのお部屋なのかな」


辛うじて、人間味のある物を見つけて、なんとなく安心する。

もちろん、ここにある物も、もう何年も人に触れられていないことがわかる代物だけど……。

傷んだ床を踏み抜かないように、慎重に歩きながら、机や帽子の掛かった壁の方に歩を進める。


 「ガゥ」
かすみ「ゾロア……?」


一緒に探索していたゾロアが、机に飛び乗るや否や、鳴き声をあげる。

何かと思って、目を向けると──傾いて、勝手に空いてしまったであろう、机の引き出しの中に、


かすみ「なんだろ……?」


一冊のノートのようなものがあった。なんとなく手に取る。


かすみ「うわ、埃っぽい……」


パッパッと手で埃を払って、改めてよく見てみると──『Diary』の文字。


かすみ「これ、日記だ……」


パラパラとめくってみる。ところどころページが破けていて、読めないページも多いけど……なんとなく理解できる範疇だと、


かすみ「……えっと、この船……この海域の調査に来た船みたい」
 「ガゥ?」


度重なる不審な船の沈没。その原因を探るために、この15番水道まで来た船らしい。

そして、その中に気になる記述を見つける。


かすみ「『原因が判明した。それは我々が当初から当たりを付けていたとおり、この海域に生息するゴーストポケモンの仕業だったのだ。』……ゴーストポケモン。……さっきのお化けの正体はポケモン……?」
 「ガゥ?」


さらにページを捲っていくと──急に字が殴り書きになっているページに辿り着く。


かすみ「『もうダメだ、この船は完全にゴーストポケモンたちに包囲されてしまった。奴らには実体がなく、攻撃を当てることもままならない。逃げる最中に、せっかく取り寄せた秘密兵器もなくしてしまった。奴らはもうすぐそこまで迫ってきている。もはや、ここまで』」


そこで、日記は終わっていた。


かすみ「…………」
 「ガゥ…?」

かすみ「いや、これ……かすみんも殺されちゃうパターンじゃないですかぁ……っ……!」


相手に実体がなくて攻撃できないって言うんなら、それこそどうしようもないです……。

逃げるしかないけど……結局逃げ道も塞がれちゃって……。

ただ、この日記には、一つ気になるところがあります。


かすみ「『せっかく取り寄せた秘密兵器』……これってもしかして、対ゴーストポケモン用の道具だったんじゃ……」


そうとなれば、やるべきことは決まりました。


かすみ「このまま、逃げることも倒すことも出来ないままやられるなんてまっぴらです! この秘密兵器とやらを見つけて、ゴーストポケモンたちをやっつけて、外に出ますよ!」
 「ガゥガゥッ!!!!」


かすみんは希望が見えて、元気が出て来ました。その秘密兵器とやらを探すために、この船員さんのお部屋を出ようとしたそのときでした。


 「────」「…………」「~~~~」

かすみん「ひぃ!?」 
 「ガゥガゥッ!!!!!!」


目の前に現れるお化けたち。


かすみ「ちょっと待ってぇ!? まだ、秘密兵器見つけてないよぉ!?」

 「────」「…………」「~~~~~」


じりじりとかすみんの方に近付いてくる、お化けたち。


かすみ「こ、ここでかすみんの冒険、終わっちゃうの~……!?」
 「ガゥガゥッ!!!!!」

 「────」「…………」「~~~~」


ゾロアが“ほえる”けど、お化けたちはひるまずにじり寄ってくる。


かすみ「い、いやです……!! こんなところで、終わるなんて……!!」
 「ガゥッ!!! ガゥッ!!!!」

 「────」「…………」「~~~~」

かすみ「た、助けて……誰か……」
 「ガゥゥゥ…!!!!」

 「────」「…………」「~~~~」

かすみ「助けて……」


最期にかすみんの脳裏に浮かんだのは、


かすみ「しず子……!」


しず子だった。


 「──ココガラ!! “きりばらい”!!」
  「ピピピピィィィィ!!!!!!」

かすみ「!?」


急にお部屋の扉が勢いよく開いて、声と共に強風が吹き荒れる。


 「────!!!」「…………!!!」「~~~~!!!」


その風に飛ばされるようにして、お化けたちはかき消えてしまった。

声の主の方に目を向けると、そこには──


しずく「かすみさん!? 大丈夫!?」

かすみ「し、しず子ぉ~~……っ……!」


しず子が絶体絶命のかすみんを助けに来てくれたところでした。





    👑    👑    👑





かすみんたちは通路を走りながら、逃走中です。


かすみ「──しず子、どうしてかすみんがここにいるってわかったの!?」

しずく「ポケモン図鑑だよ!」


そう言いながら、しず子がこっちにポケモン図鑑を見せてくれる。

そこにはマップが表示されていて、15番水道の東の果て辺りがピコピコと光っています。


かすみ「なにこれ!?」

しずく「サーチ機能だよ! 私たちが貰った3つの図鑑はお互いに居場所をサーチできるようになってるみたいなの!」

かすみ「マジで!? そんな機能あったんだ……!」


初めて聞きましたが、お陰で助かりました……。

そんなやりとりをしている最中、


 「────」「…………」「~~~~」

かすみ「うわ!? もう、復活した!?」


背後で謎の唸り声をあげながら、再びかすみんたちを追いかけてくるお化けたちの姿。


しずく「かすみさん、あれってなんなの!?」

かすみ「えぇ!? しず子、わからないまま追い払ってたの!?」

しずく「ガス状だったから、風で飛ばせるかなって思って……」


さすが、しず子……やりますね。


しずく「ただ、追い払うのがやっとで……攻撃してもダメージを与えられないし、気付いたらあちこちドアが開かなくなってるし……」

かすみ「って、あーーー!!! ここのドアも開かないーーー!!」


走りながら、ガチャガチャとドアを開けながら走る。


 「────」「…………」「~~~~」

しずく「ココガラ! “きりばらい”!!」
 「ピピピピィーーー!!!!!」


接近される度にしず子のココガラが吹き飛ばしてくれますが──


 「────」「…………」「~~~~」

かすみ「ど、どんどん復活速度が速くなってるぅ~~!? 早く秘密兵器を見つけないと!!」

しずく「秘密兵器!? そんなものがあるの!?」

かすみ「船員さんの日記に書いてあったの! どこかに落としちゃったって! って、うわっ!?」


急にかすみんの足が何かに引っ張られて、前につんのめって転ぶ。


かすみ「ぐぇ!」

しずく「かすみさん!?」

かすみ「あ、足に何かが……ってひぃぃぃぃ!!!」

 「────」


気付けば、お化けの1匹がかすみんの足元にガスをまとわりつかせているじゃないですか……!


かすみ「ちょっと、こっちの攻撃は当たらないのに、掴めるなんてずる過ぎますよぉ!!」

 「────」


転んだかすみんに、お化けがどんどんにじりよってくる。


しずく「“きりばらい”!!」
 「ピピピィィィィィーーー!!!!!!」


再び、ココガラが風で吹き飛ばします。


 「…………」「~~~~」


他のお化けは吹き飛ばされていったけど、


 「────」

かすみ「しず子~~!! 一番重要なのが、吹き飛ばせてないぃぃ~~!!」


かすみんの足を掴んでいるやつは飛んでいきません。


しずく「っく……! 正体さえ、わかれば……!」

 「────」

かすみ「ひぃぃぃぃ!!!」


絶体絶命だったそのとき、上の方から、ガンッ! という大きな音と共に、上のダクトの中から、


 「キャモッ!!!」「ザグマ~」

かすみ「キモリ!? ジグザグマ!?」


キモリとジグザグマが飛び降りてくる。

かすみんは咄嗟に、


かすみ「た、“タネマシンガン”!!」
 「キャモモモモモモッ!!!!!!」


攻撃の指示。やっぱり攻撃はすり抜けちゃいますが、一瞬お化けの動きが鈍る。


かすみ「無事だったんだね……! よかった……!」
 「キャモッ」「クマァ」

しずく「マネネ! “ねんりき”!!」
 「マネネェ!!!」

 「────」


気付けば、しず子がマネネを出して応戦している。


しずく「かすみさん、今のうちに!!」

かすみ「ありがと、しず子!!」


確かに実体はないけど、サイコパワーなら押し返すことは出来るみたいですね……!

かすみんはその隙に、どうにかまとわりついているガスから足を抜いて、脱出を図ります。

そうこうしている間にも、


 「~~~~」「…………」

かすみ「また出て来た……!」

しずく「“きりばらい”!!」
 「ピピピィィィィーーーー!!!!!」


出て来ては吹き飛ばすの繰り返しが続く。しず子が時間を稼いでくれてる間に、かすみんは秘密兵器を早く見つけなきゃ……!


 「クマァ~~」
かすみ「ごめんね、ジグザグマは今は構ってる場合じゃ……ん?」


ジグザグマをよーく見てみると──なにやら双眼鏡のような形をしたスコープを咥えているじゃありませんか。


かすみ「!? これ、見つけたの!?」
 「クマァ~~」


もしや、これが、秘密兵器!?


かすみ「お手柄だよ、ジグザグマ!! えっと、これどうやって使うんだろう……」

しずく「かすみさん……!! もう、これ以上もたない!!」

かすみ「ああもう!! とにかく使ってみるしかない!!」


かすみんは思い切って、そのスコープでお化けを覗いてみる。すると──


かすみ「!」


スコープ越しに映るお化けは、さっきと違う姿をしていることに気付く。

そして、それと同時にスコープから──ウイーンという音がする。


しずく「それもしかして、“シルフスコープ”!?」

かすみ「? なにそれ?」


未知のアイテムから出ている音の発生源を見てみると──双眼鏡の真ん中辺りがパカッと広き、そこから……ピカッ!!


 「────!!!?」「…………!!!?」「~~~~!!!!?」


強烈な閃光が放たれ──


 「ゴ、ゴスゴス」「ゴーースゥ」「ゴスゥゴスゥ…」


その光を浴びたお化けたちは、気付けばポケモンの姿として捉えられるようになっていました。


しずく「! ガスじょうポケモン、ゴース!!」

かすみ「! 完全に姿が見えました! ゴースたちがお化けの正体だったんですね……!」


 『ゴース ガスじょうポケモン 高さ:1.3m 重さ:0.1kg
 古くなって 誰も 住まなくなった 建物に 発生するらしい。
 薄い ガスのような 体で 風が 吹くと 吹きとばされる。
 毒を含んだ ガスの 体に 包まれると 誰でも 気絶する。』


かすみ「正体さえ、わかっちゃえばこっちのもんです!! ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」

しずく「マネネ!!」
 「マネッ!!!」

かすみ「“あくのはどう”!!」
しずく「“サイケこうせん”!!」
 「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「マーーーネェェーーー!!!!」

 「ゴスゥーー!!!?」「ゴゴゴーーース!!!!」


“あくのはどう”と“サイケこうせん”が炸裂して、2匹のゴースが吹っ飛んでいく。


しずく「効果は抜群ですね!」
 「マネネ!!」


そして、最後の1匹のゴースは、


 「ゴ、ゴーーースッ」

かすみ「あ、逃げた!?」


勝てないと悟ったのか、ぴゅーっと逃げていく。


かすみ「逃がしませんよ!!」
 「ガゥッ!!!」

しずく「あ、ちょっと、かすみさん!?」


奇しくも、逃走を図るゴースはさっきかすみんの足にまとわりついていたやつです。


かすみ「絶対に逃がしませんよぉ~~~!!!」


怖い思いさせられた分は、しっかり倍返しにしてやりますからね!!!


 「ゴ、ゴーーース」


全力で追いかけていると、逃げるゴースの先に扉が見えてきた。

そして、ゴースはそのまま、その扉をすり抜けて部屋の中に入って行く。


かすみ「逃がしませんよぉ!!!」


──バンッ!! と勢いよく扉を押し開け中に入ると、大きな舵のあるお部屋に辿り着きました。どうやら、操舵室のようです。


かすみ「いない!! どこですか!?」


操舵室内全体を見回しますが……ゴースの姿は見えず、その代わりに──


かすみ「え……? なにこれ……?」

しずく「か、かすみさん……深追いしちゃ……ダメ、だよ……はぁ……はぁ……」

かすみ「…………」

しずく「かすみさん……? ……え」

かすみ「しず子……これ、なんだと思う?」

しずく「…………」


しず子も無言になる。優等生なしず子でも知らないものらしい。

私たちの目の前にあったのは──穴だ。

拳大くらいの小さな穴。でも、それは……床や壁に空いた穴ではない。


かすみ「空間にあいた……穴」

しずく「…………」


そう、そこにあったのは──空間にあいた穴でした。穴が浮いていました。


しずく「もしかしたら……」

かすみ「?」

しずく「ゴースたちは、この穴を通って、ここに来たのかも……?」

かすみ「……どういうこと?」

しずく「だって、ここは海の上だし……突然ゴースが現れるなんておかしいし……」

かすみ「それは、まあ……」


確かに……言われてみれば、ゴーストポケモンが船を襲っていたのはわかりましたが……どうして、ゴーストポケモンがここにいるのかはよくわかりませんね……?


しずく「もし、これがゴーストポケモンの巣みたいなものなんだとしたら……」

かすみ「……したら?」

しずく「……仲間を呼んで戻ってくるかも」

かすみ「!?」


そ、それはまずいです……!?


かすみ「し、しず子!! 急いで船を出よう!!」

しずく「そうだね……これが本当にそういうものなのかはわからないけど……」

かすみ「もうゴーストポケモンは懲り懲りですぅ……!!」
 「ガゥガゥ」


かすみんたちは、これ以上ゴーストポケモンたちと戯れるつもりはありません! 大急ぎで船から退散するのでした。





    👑    👑    👑





かすみ「ドア、全部開くようになってたね」

しずく「……たぶんあれも、ゴースたちの仕業だったんだろうね」


二人で縄ばしごを使って船から降り、待ってくれていたマンタインと合流する。


かすみ「でも、ここからどうしよう……フソウ島ってどっち?」

しずく「フソウ島は、南方面だね」

かすみ「そ、それくらいわかるよ! 問題はどっちが南かって話で……。……って、しず子何見てるの?」

しずく「え? 何って、図鑑のコンパス機能だけど……」

かすみ「はい!? 図鑑にそんな機能あったの!?」

しずく「うん……。というか、方角がわからないと、かすみさんの図鑑をサーチしても、かすみさんのいる場所に辿り着けないし……」

かすみ「は……! い、言われてみれば……。え……それじゃあ、もしかしてその機能って……」

しずく「……かすみさんの図鑑にも搭載されてると思うよ」

かすみ「……」


かすみんはポチポチと図鑑を操作してみる。


かすみ「……あ、あった。…………」


かすみん、思わずマンタインの上でへたり込んでしまいます。


しずく「か、かすみさん!?」

かすみ「最初から気付いてれば……あんな怖い思いすることなかったのにぃ……」

しずく「あ、あはは……まあ、みんな無事に脱出出来てよかったって思うことにしよ? ね?」
 「マネマネ」

かすみ「うぅ……もう二度とこんな場所来ませんからねぇ……」


軽い憎しみを込めて顔を上げると──


かすみ「あ、あれ……?」


さっきまで、ずっと視界を遮っていた深い霧はいつの間にか晴れ、かすみんたちは月に照らされていました。

そして、


かすみ「船は……?」

しずく「あ、あれ……?」


あの大きな船は、きれいさっぱりいなくなっていました。


しずく「……正真正銘の幽霊船だったって、ことかもね」

かすみ「……なんか、とんでもない目に遭いました……」


思わず溜め息を吐いてしまいます。


しずく「とりあえず、フソウ島まで急ごうか……もう、随分遅くなっちゃったし」

かすみ「朝までに着くのかなぁ……」


もうすっかり夜ですからね……。徹夜はお肌の敵なんですけど……。

そのとき──prrrrrrとポケギアが鳴り出す。画面に表示された相手を見ると……。


かすみ「……曜先輩!? もしもし!!」

曜『かすみちゃん!? よかった、繋がって……かすみちゃんもしずくちゃんも、遅いからずっと連絡入れてたのに、電波が届かないって言われて心配してたんだよ……?』

しずく「す、すみません! すぐ、フソウ島へ向かいますので!」

曜『二人とも怪我はない? 無事?』

かすみ「はい! 疲れましたけど、一応無事です!」

曜『そっかそっか。私、今14番水道にいるから、途中で合流しようね! ラプラス、GO!』
 『キュゥ~』


電話を切ると──空に向かって、七色の綺麗な光の筋が一直線に夜空を切り裂いているのが見えた。


かすみ「わー……綺麗ー……」

しずく「恐らく、曜さんのラプラスの“オーロラビーム”ですね。あれを頼りに合流しようということだと思います」

かすみ「うん。それじゃ、マンタインお願い」
 「タイーン」


かすみんたちは、あのオーロラの根元を目指して、海の上を走り出すのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【忘れられた船】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.11 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:4匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.8 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.8 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.8 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:3匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter008 『学徒の街ダリアシティ』 【SIDE Yu】





──せつ菜ちゃんと別れてから、しばらくして……。

私たちは次なる目的地に到着していた。


侑「ダリアシティ、到着だね!」
 「ブイ」

歩夢「うん♪」


自転車をレンタルショップに返却して、私たちは街を歩いている真っ最中。

入ってすぐ、街の北側に位置する有名な建造物が見えてくる。


歩夢「見て、侑ちゃん! ダリアの大時計塔だよ!」

侑「すごい存在感……ボスでも潜んでそうだね」

歩夢「ふふ♪ 確かに、ゲームだったら魔王とか、伝説のポケモンがいそうだね♪」


大きな存在感を放っているのは、ダリアの大時計塔だ。テレビやガイドブックでもよく取り上げられるダリアシティの名所の一つ。

あの時計塔の中は、オトノキ地方でも最大の蔵書量を誇る図書館になっていて、いろんな地方から人が訪れるらしい。

そんなダリアシティはセキレイシティと雰囲気は違うものの、オトノキ地方の中では大きな街の一つで行き交う人が多く、活気に溢れている。

中でも目を引くのは──


侑「白衣を着てる人がたくさんいるね」
 「ブイ…」

リナ『この街は学園都市だからね。学生さんや学校に関わる人、研究機関に携わってる人がすごく多い』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「じゃあ、あの白衣の人たちも……」

リナ『うん。たぶん、研究機関の人だと思う。それ以外にも、オトノキ地方最大の図書館があったり、とにかく教養に特化した街みたい。通称「叡智の集う街」』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「『叡智の集う街』……! かっこいい!」
 「ブィィ」

リナ『一般開放されてて、見学が自由なところも多いから、行きたいところがあったら入ってみるといいかも』 || > ◡ < ||


リナちゃんの言うとおり、大通りを歩いているだけでも、一般開放されている研究室が目に入る。

面白そうなのがあったら、見てみるのもいいんだけど……。


歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんは、研究室見学よりも、先に行きたい場所があるんだよね♪」

侑「あはは、やっぱ歩夢にはお見通しだね……。まずは、ダリアジムに行きたい!」

リナ『ダリアジムは街の南側だよ、マップを表示する』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、お願い。イーブイ、頑張ろうね!」
 「ブイッ!!」


私たちはとりあえず、街を一直線に抜けて、ダリアジム方面を目指す。




    🎹    🎹    🎹





一直線に大通りを抜けて、街の南側に出ると、程なくしてダリアジムの建物が見えてきた。

途中ポケモンセンターにも寄り道して、イーブイたちのコンディションも完璧。


歩夢「ダリアシティのジムリーダーって……」

侑「にこさんだね!」

歩夢「ポケモンリーグの決勝のときに、解説をしてた人だよね」

侑「そうそう! しかも、元四天王! にこさんがどんなバトルをするのか、考えただけでもときめいちゃうよ♪」

リナ『ときめいちゃうのもいいけど、気を引き締めてね。にこさんは公式戦での戦績もすごく良い。間違いなく強敵』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんって、そんなデータまであるんだ」

リナ『データだけならね。私には経験値が圧倒的に足りないから、侑さんのバトル、期待してる』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 頑張るね!」
 「ブイ」


──私はジムの前に立って、息を整える。

やっぱり、ポケモンジムに入るときは緊張する。……襟を正したくなるというか、なんとなくこれから神聖な場所に入るんだって気がするんだよね。


侑「……よし、行こう!」
 「ブイ!!」

侑「た、たのもー!」


ジムに入ると──


にこ「あら、チャレンジャーかしら?」


すぐに、にこさんに出迎えられる。よかった……! スムーズにジム戦が出来そうだ……!


侑「はい! 私、セキレイシティから来た、侑って言います! ジムバッジは1個持ってます!」

にこ「じゃあ、これが2つ目のジム戦ってわけね」

侑「はい! お願いします! 行くよ、イーブイ!!」
 「ブイブイ!!!」


バトルスペースについて、戦闘準備は万端!


にこ「気合いたっぷりじゃない! いいわ、かかってらっしゃい! ──……って、言いたいところなんだけどね」

侑「え?」


にこさんは何故か、自分のバトルスペースを離れてこっちに歩いてくる。


にこ「悪いけど、私は今ジムバトルは出来ないのよ」

侑「え……? あ、あの……もしかして、今は都合が悪かったとか……?」

にこ「いや、そういうことじゃなくてね」

侑「……?」

にこ「実はにこ──ダリアシティのジムリーダーじゃないのよ」

侑「…………?」


私はにこさんの言っている言葉の意味がわからず、首を傾げる。


侑「えっと……にこさんってダリアシティのジムリーダーですよね? 私、オトノキ地方のジムリーダーは全員ちゃんと覚えてるから、間違いないはず……」

にこ「ちゃんと予習してきてるのね、感心感心! どこかの誰かさんは、ジムリーダーのことなんか、ほとんど知らずに旅してたのにね。……っと、これはこっちの話だけど」

リナ『どういうこと? ダリアシティのジムリーダーはにこさんで間違いない。ポケモンリーグの公式な情報にもそう記載されている』 || ? ᇫ ? ||

にこ「あら……あなた、もしかしてロトム図鑑? 最近の子は良いモノ持ってるのね……」

侑「え、えっと……あの、それで……にこさんがジムリーダーじゃないって言うのは……。リナちゃんの言うとおり、公式の情報にも載ってるなら、それこそどういうことか……」

にこ「ああ、えっとね。実はそれ、フェイク情報なのよ」

侑「え!?」

リナ『フェイク!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「フェイクって……公式にもある情報なのに……?」

にこ「もちろん、リーグの承認も得てるからね。リーグ公認のフェイクジムリーダーってわけ」

歩夢「あ、あのー……」


後ろで話を聞いていた歩夢がおずおずと手をあげる。


にこ「あら、この子の連れの子ね。なにかしら」

歩夢「ジムリーダーって、街のシンボルみたいな人だから、フェイクはまずいんじゃ……」

にこ「もちろん、それも一理あるわ。だから、私は基本的にはジムリーダーと同等の権限を持っているわ。緊急事態には率先して出張ることが多いわね」

歩夢「じゃあ、どうしてフェイクジムリーダーなんか……」

にこ「新しいジムリーダーから提案があったのよ」

侑「新しいジムリーダーからの……?」


なんで、新しいジムリーダーはそんなことを……?


にこ「ジムリーダーってどんな仕事だと思う?」

侑「え? えっと……ポケモンジムでトレーナーからの挑戦を受けて、腕試しをする場所……ですか?」

リナ『補足すると、その腕試しによって、トレーナーの育成を行う意図がある』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「そうね。段階的にトレーナーの実力を試すことによって、トレーナーの育成を行う。それが、ポケモンジムの役割よ。ただ、このシステムには少し不都合があってね……」

歩夢「不都合……ですか?」

にこ「例えば、にこのエキスパートタイプって知ってるかしら?」

侑「フェアリータイプです!」

にこ「そのとおり。にこのエキスパートはフェアリータイプよ。侑の言うとおり、少し予習すればジムリーダーの使うタイプや手持ちはわかっちゃうのよ」

リナ『挑戦をする以上、事前に調べて対策をするのは当たり前のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「それもそのとおり。でも、トレーナーっていつでもどこでも自分が知ってる相手や、起こることがわかっている問題に直面するわけじゃないでしょ? というか、そういう機会の方が稀よ」


それは確かにそうかも……。私たちもつい昨日、そういう場面に直面したばっかりだし。

結果として、せつ菜ちゃんが助けてくれたけど……。


にこ「トレーナーの育成を謳っているのに、本来トレーナーに必要なイレギュラーへの対応能力が全然育たないのは問題じゃないかって、新しいジムリーダーの子から、リーグに対して問題提起があったのよ」

リナ『なるほど。一理ある』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

にこ「トレーナーは常に自分の足で歩いて、目で見て、耳で聴き、頭を使って戦うべきだってね。だから、このジムではただバトルするだけじゃない。前情報が一切ない相手とどう戦うか、そして……」

侑「そして……?」

にこ「自分が戦うべき相手をどうやって見つけるかの知恵を試すポケモンジムとして、やっていくことになったってわけ」

侑「どうやって見つけるか……? ってことは……」

にこ「ええ、察しのとおり、ここにはそのジムリーダー本人はいないわ。あなたたちは、このダリアシティのどこかにいるジムリーダーを探し当てて、戦わないといけないってこと」

侑「え、ええーー!!」


この広いダリアシティのどこかって……。


侑「ヒ、ヒントとかは……?」

にこ「そうねぇ……ジムリーダーは確実にダリアシティの中にいるわ。さすがにそれは守られてないとフェアじゃないからね」

侑「み、見た目とかは!?」


そこらへんで歩いている人の中にジムリーダーが紛れてたら、さすがにわからないよ……。


にこ「仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ」

リナ『意外に雑……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


まあ、確かにジムリーダーって貫禄のある人ばっかりだけど……。


にこ「あと、人に協力を頼むのはありよ。上手に人を頼るのも能力の一つだからね。それこそ、一緒にいるそこの貴方、えっと……」

歩夢「は、はい! 歩夢です……!」

にこ「歩夢に協力してもらっても、全然構わないってことね。それとこの課題への参加証明として、ポケギアの番号を教えて頂戴。何かあったときに連絡することもあるかもしれないから」

侑「あ、はい」


言われたとおりににこさんに、自分のポケギア番号を伝える。


にこ「ありがと」

リナ『ルールはそれだけ?』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「あとそうね……フェイクジムリーダーのことは、街の外に出たら口外禁止ってことだけ守ってくれればいいわ。こんなジムだから、街では事情を知ってる人も結構多いから、ダリアシティ内でまで口を噤んでおけとは言わないわ。他は何かある?」

侑「わ、わかりました! とにかく、街のどこかにいるジムリーダーを見つけて、バトルして勝てばいいんですよね!」

にこ「ええ、そうよ。それじゃ、健闘を祈るわ、侑」


……というわけで、ダリアのジム戦は予想外にも、人探しから始めることになりました。





    🎹    🎹    🎹





歩夢「侑ちゃん、どうする……?」

侑「……とりあえず、街の人に訊いてみよう!」
 「ブイ」

リナ『聞き込みは基本。ルール的にもOKって言われてた』 || ╹ ◡ ╹ ||


とりあえず、近くを歩いている白衣を着た通行人に声を掛ける。


侑「あの、すみません!」

通行人「あら? なにかしら?」

侑「私、この街のジムリーダーを探してるんですけど!」

通行人「……? ジムリーダーなら、南のポケモンジムにいると思うけど?」

侑「えーっと……そうじゃなくて……本当のジムリーダーを探してまして……」

通行人「?? ジムリーダーに本当とか、本当じゃないとかがあるの?」

侑「あ、いや……えっと……」

通行人「もういい? 私そろそろ研究室に向かわないといけないんだけど……」

侑「あ、はい……すみません……ありがとうございます」
 「ブイイ…」


通行人は軽く会釈して、すたすたと歩き去ってしまう。


侑「全然ダメだ……」
 「ブイ…」

歩夢「ジムのこと知らないのかな……?」

リナ『街の誰もが知ってるわけじゃないのかも……性質上、公にしているわけじゃなさそうだし』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……そうだね。とにかく聞き込みを続けてみよう!」

歩夢「うん、わかった! 手伝うね!」





    🎹    🎹    🎹





──あの後も、聞き込みを続けていたんだけど……。


侑「……全然ダメだ……」
 「ブィィ…」

歩夢「知ってる人……全然いないね……」


あまりに手応えがない結果に、イーブイ共々項垂れる。

大抵の人は最初に訊ねた人のように、なんのことかわからないという感じだった。

中には、何かあることを知っていそうな人こそ、いたにはいたんだけど──「たまにそう訊ねてくる旅人さんがいるけど……そういうイベントがあるの?」くらいの反応が返ってくる程度だ。


侑「私たちと同じように、ジム挑戦者が街の人に訊ねてることはあるみたいだけど……」

リナ『訊ねる相手を間違ってるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「訊ねる相手?」

リナ『この街はいろんな分野の学科や研究室がある。ポケモンジムについても、自分の勉強してることと関係ない人にとっては、そんなに関心がないのかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「なるほど……もっと、ポケモンジムに関心のある人たちに訊かないとダメってことだね……」


ポケモンジムに興味のある人って言うと……ポケモンバトルが好きな人とか?


侑「……そうだ、ポケモンバトルの研究室とかないかな?」

リナ『探せばあるはずだよ。ちょっと検索してみるね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「お願い、リナちゃん」

リナ『…………見つけた。こっちだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんに案内される形で、私たちはポケモンバトルの研究室へと赴く。

──歩くこと数分。それなりに大きな研究室が見えてきた。


侑「わあ……思ったより大きい……」
 「ブィィ…」

歩夢「うん。私も研究室って、もっとちっちゃいイメージだったよ」

リナ『ポケモンバトルの研究室ともなれば、少なくともポケモンバトルが出来る大きさの施設が必要だから、必然的にこれくらいの大きさになるんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほど……でも、ここなら知ってる人もいそうだね!」
 「ブイ」


私は早速、中に入ってみる。


侑「す、すみません!」

受付の人「あら? 見学の方ですか?」

侑「あ、えっと……見学というか、お訊ねしたいことがあって……」

受付の人「なんですか?」

侑「私、今ジムリーダーを探しているところでして……!」

受付の人「ダリアジムにはもう行かれましたか?」

侑「は、はい! にこさんには会ってきました!」

受付の人「ということはダリアジムのチャレンジャーの方ですね」

侑「!」


この反応、ジムチャレンジの内容がわかっているということだ。やっと事情を知っている人に会えた……!

ただ、私の期待とは裏腹に、


受付の人「ですが、残念ながらここにジムリーダーはいませんよ」


という答えが返ってくる。でも、せっかく知ってそうな人を見つけたんだ……もうちょっと、頑張らないと……!


侑「何かヒントとかありませんか?」

受付の人「というと?」

侑「どこにジムリーダーの人がいるかとか……」

受付の人「すみません、それは私たちも知らないんです」

侑「え……街の人はある程度、事情を知ってるんじゃ……」

受付の人「もちろん、ジムチャレンジの内容にジムリーダー探しがあるのは知っていますが……どこにいるかまでは……」

侑「そ、そんなぁ……。……せ、せめてどんな人かだけでも……」


せめて、容姿さえわかれば、と思って訊ねてみるけど、


受付の人「……すみません、見たことがある人もほぼいなくて……」

侑「嘘……!? この街にいるんですよね!?」

受付の人「そう聞いてはいますが……そもそも、容姿すら知っている人がほとんどいないので……」

侑「そうですか……」


せっかくここまで来たのに手がかりがあまり掴めないなんて……。


受付の人「あの……もし、よかったら、ダリアジムを突破したことのある者をお呼びしましょうか?」

侑「え!? いいんですか!? 是非、お願いします!」

受付の人「わかりました、少々お待ちください」


受付の人は、ポケギアを取り出して、連絡を取り始める。


歩夢「よかったね、侑ちゃん」

リナ『とりあえず、一歩前進』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん!」

受付の人「……連絡が取れました、今こちらに来てくれるそうなので、少々お待ちくださいね」

侑「はい! ありがとうございます!」


やった……! これで、ジムリーダーのもとへとたどり着ける……!





    🎹    🎹    🎹





待つこと数分。研究室の奥の方から、エリートトレーナーらしき女性がこちらに向かってきた。


受付の人「こちらの方です」

トレーナー「君がジムへの挑戦者かい?」

侑「は、はい!」

トレーナー「何が訊きたいのかな?」

侑「あの、ジムリーダーの居場所を教えて欲しいんですけど……!」


私がストレートに訊ねる。


トレーナー「ははは! 君は素直だね! でも、さすがに答えそのものは教えてあげられないよ。それじゃ、ジムチャレンジの意味がないからね」

侑「ぅ……そうですよね……」


流石に直接的すぎた……。じゃあ、他に聞いておきたいことと言えば……。


侑「ジムリーダーの見た目とか……」

トレーナー「申し訳ないが、ジムに挑戦した際に、ジムリーダーの容姿等は他言しないという約束をしているんだ。だから、それは教えられない」

侑「そ、そんなぁ……」

リナ『やっぱり、その辺りはしっかり対策されてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うぅ……そうみたいだね……」


これじゃ、せっかく知っている人がいるところまでたどり着いたのに、大した成果も得られなさそう……私はがっくりと項垂れてしまう。

あまりに私ががっかりしているのが、不憫だったのか、


トレーナー「そうだな……じゃあ、一つヒントをあげよう」


トレーナーのお姉さんが自らヒントを教えてくれる。


侑「お、お願いします!」

トレーナー「ジムリーダーの容姿は言えないけど……この街のジムリーダーはね」

侑「は、はい……!」

トレーナー「きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ」

侑「…………」
 「ブイ…」

トレーナー「ははは、不満そうな顔だね」


そりゃ、まあ……あんまりヒントになってないし……。


歩夢「やっぱり、にこさんが言っていたみたいに、雰囲気でわかるってことですか……?」

トレーナー「詳しくは教えられないけど、そういう感じだよ」

侑「むむむ……」

トレーナー「とにかく、もう少し頑張って考えてみるといい。それじゃ、私はそろそろ戻らせてもらうよ。ジムチャレンジ、頑張ってくれ」

侑「は、はい……ありがとうございます」





    🎹    🎹    🎹





侑「結局ほとんど何もわからなかった……」

歩夢「人に聞いてもいいけど、自分たちで考えないと答えには辿り着かないってことなのかな……」

リナ『少ない情報の中から、いかに辿り着くかが課題なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「って言っても、情報が少なすぎるよ……」
 「ブィィ…」

歩夢「とりあえず……今ある情報だけでも整理してみない?」

侑「……うん、そうだね」


私は歩夢の言葉に頷く。もしかしたら、手掛かりがあったかもしれないし。


侑「当たり前だけど、居場所はわからなくて……」

リナ『容姿は不明』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「街の人も見たことがある人はほとんどいなくて……」

侑「会えばわかる……らしい」
 「…ブイ」

侑「やっぱ、何もわからないじゃん!?」

歩夢「あはは……」

リナ『逆に言うなら、わからないことはわかったかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……? どういうこと?」

リナ『これだけ人の多い街なのに、目撃情報すらほとんどないのは逆に違和感』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……えっと?」


私は首を傾げてしまったけど、歩夢はリナちゃんの言葉で、少しだけピンと来たらしい。


歩夢「……もしかして、ジムリーダーは常に人目に付かない場所にいるってこと……?」

リナ『確定ではないけど、十分そう推測出来るとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かに……」


今も周りにはたくさんの人の往来がある。ジムリーダーはどうやら、会えば雰囲気でわかるらしいし……そんな存在感の人がいたら、みんな気付くはずだよね……?


侑「となると……裏路地とか?」
 「ブイ」

歩夢「確かに裏路地なら、人目には付かないかも……」

侑「よし、行ってみよう!」

歩夢「うん!」





    🎹    🎹    🎹





──さて、あれから1時間ほど経過して……。


侑「見つからない……」
 「ブイ…」

歩夢「そうだね……」


さっきから、虱潰しで裏路地に入って確認しては出ることの繰り返し。

今も裏路地を進んでいる真っ最中だけど──


侑「行き止まり……」
 「ブイ…」


ただの行き止まりに辿り着いてしまうことが多い。

もちろん、たまに研究室に行き着いたりはするものの……一般開放されていない研究室だったりで、ジムリーダーの姿は影も形もない。

今入って来たここも、薄暗い裏路地があるだけで、何も収穫はなさそうだ。


侑「はぁ……戻ろうか」
 「ブイ…」

 「シャボ…」
歩夢「サスケ? どうかしたの?」


先ほどまで歩夢の肩で寝ていたサスケが、急に声をあげる。


 「シャーボ」
歩夢「? 何かいるの?」

侑「え?」


言われて、よーく裏路地を観察してみると──


侑「あれ……?」


薄暗い裏路地の隅に小さい何かがいることに気付く。


 「……ニャァ」

侑「ポケモン……?」

歩夢「あれ、この子……?」

リナ『ニャスパーだね』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ニャスパーって街にもいるんだね」

侑「……にも?」

歩夢「この間、7番道路でも見かけたんだよ。そのニャスパーには警戒されちゃって、友達になれなかったんだけど……」

リナ『……いや、このニャスパー。あのときのニャスパーだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え? あのときのニャスパーって……」

リナ『7番道路で出会ったニャスパーと全く同じ個体』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ」

侑「そんなことわかるの?」

リナ『性別や大きさ、鳴き声の波形、虹彩パターン、どれを見ても一致する。ほぼ間違いないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃん、そんな機能まであるんだ……。


歩夢「もしかして、ここまで付いてきちゃったのかな……?」

リナ『単純に7番道路から、ここまでが生息域なだけの可能性もある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」

侑「というか……」

 「ニャァ」

歩夢「うん……。ずっと、こっち見てるね」


さっきからずっと、無表情な二つの目が私たちをずっと凝視している。


 「ニャァ」

侑「やっぱり、付いてきたのかな……? ニャスパー、そうなの?」

 「ニャァ」


名前を呼んでも、一切トーンの変わらない無機質な鳴き声が返ってくる。


歩夢「私たちに何かあるの?」

 「ニャァ」

歩夢「お腹空いてるのかな……」


歩夢はバッグの中から、“きのみ”を取り出す。


歩夢「ニャスパー、“オレンのみ”だよ~?」

 「ニャァ」

歩夢「……」

 「ニャァ」

侑「……食べに来ないね」

歩夢「お腹が空いてるんじゃないのかな……」


ニャスパーは依然、その場にとどまったまま、こっちをじーっと見ているだけ……。


 「ニャァ」

リナ『……ちょっと気になるけど、ここでにらめっこしてても仕方ない。早く、次の裏路地を探した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんが真っ先に痺れを切らしたのか、ふよふよと元来た道を戻って行く。

すると──


 「ニャァ」


ニャスパーは急に空を見つめて鳴いたあと──ふわっと浮遊した。


侑「うわ、飛んだ……!?」

歩夢「サイコパワーで飛んでるのかな……?」

 「ニャァ」


そして、また一鳴きしたあと──すぅーーっと飛び上がり、裏路地から飛んでどこかへ行ってしまったのだった。


侑「結局なんだったんだろう……?」

歩夢「わかんない……」


まあ、いっか……。ちょっとマイペースなポケモンだっただけだよね。

リナちゃんの言うとおり、私たちは今、裏路地の捜索中なんだし……そう思って、踵を返して戻ろうとしたそのときだった。

──ポツ。と私の頭に水滴が落ちてくる。


侑「……つめた!」
 「…ブイ」


それは、次第に勢いを強めて降り出し始める。


侑「雨……」

歩夢「大変……! 今、傘出すね……!」

侑「いや、こんな狭い路地じゃ、傘が引っかかっちゃうよ! 一旦大通りに戻ろう!」

歩夢「……あ、うん!」


私は歩夢の手を引いて、走り出した。





    🎹    🎹    🎹





侑「──これは、本降りになりそうだね……」


窓の外に流れる水滴を眺めながら、ぼんやりと言う。


歩夢「これだと、これ以上裏路地を探すのは大変だね……はい、エネココアだよ」

侑「歩夢、ありがと」


歩夢が、カウンターから持ってきたエネココアを私の前に置いてくれる。


歩夢「イーブイには“ポロック”あげるね。イーブイの好きな“ももいろポロック”だよ♪」
 「ブイ♪」

 「シャー」
歩夢「サスケにもあげるから、ちょっと待っててね」


歩夢がイーブイとサスケにおやつをあげているのを見ながら、エネココアのカップを傾ける。

甘く温かい液体が喉を滑り落ちていく。……ああ、落ち着く。


侑「……そういえばさ」

歩夢「?」

侑「私、さっき裏路地で傘を差そうとしてた歩夢を見て思ったんだけどさ」

歩夢「うん」

侑「あんな狭い場所で、ポケモンバトル……出来るのかな?」

リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||


裏路地には、積んである木箱やゴミ箱とかも置いてあったし……バトルが激しくなったら、何かの拍子に周りの物を壊してしまいそうだ。


侑「……もしかして、この課題の解き方って、そういうことなんじゃないかな」

歩夢「……そういうことって?」


──私たちは、自分たちが探してる相手は、顔も、名前も、どこにいるかも、何もわからないって思い込んでたけど……この課題には最初からわかっている重要なことがあるじゃないか。


侑「私たちが探してるのは──最初からジムリーダーなんだ」

歩夢「……?」

侑「ジムリーダーってことは、会ったらバトルが出来る場所にいないといけない……」

歩夢「……あ」

侑「そうなると、狭い場所じゃない……」


となると、裏路地のような狭い場所はそもそも探す候補から外れることになる。


侑「……それに、ジムリーダーは挑戦者を待ち続ける必要があるんだよね……」

リナ『ルール上、基本的にはそうだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「じゃあ、天気とかに左右される屋外も候補から外れる」

歩夢「確かに……それじゃあ、人目に付かないバトルが出来るくらい広い屋内ってことになるのかな……」

リナ『確かにそれなら、随分条件は限定されるかも』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「問題はそれがどこかだよね……」

リナ『さすがに一般開放されてる施設なのは間違いないと思う。そうなると、街中のバトル研究室系か、ポケモン生態研究所とか……』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「今度はそういう施設に絞って探してみればいいのかな?」

侑「……でも、そういう施設にいるとしても、どうやって探せばいいんだろう……」

歩夢「? どういうこと?」

侑「だって、事情を知ってる人でも、直接的に居場所や容姿を教えるのはダメなんでしょ?」

歩夢「あ、そっか……。もし、訪れた施設にいたとしても、本人を直接捕まえられないと結局ダメなんだ……」

侑「うん……」


それにもう一つ、ずっと気になっていることがある。

──『仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ』

──『きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ』

抽象的な表現なのに、ずいぶん断定的に“会えばわかる”と言っていたのが不思議でならない。


侑「雰囲気なんて言われても……ホントにわかるのかな」


私は机に突っ伏して頭を抱える。ジムリーダーだから、本当にすごいオーラみたいのを放っていて、一目でわかっちゃうのかもしれないけど……。

いや……。


侑「──少なくとも、小さい頃ことりさんのことはジムリーダーだって、わからなかった」


近所の優しいお姉さんくらいの認識だった。ポケモンバトルが好きになって、初めてすごいトレーナーだって認識して、すごく憧れを抱いたことを今でも覚えている。

もしかして……雰囲気っていうのは何かの例えなのかな……?


侑「うぅ~……わからないぃ……」

リナ『どっちにしろ、雨が止むまでは一旦お休みでもいいと思う。候補を虱潰しで当たるにしても、雨の中歩き回るのは非効率だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「それはそれで、落ち着かないよぉ……雨、早く止まないかな……」

歩夢「あはは……侑ちゃん、一度これをやる! って決めたら、止まるの苦手だもんね」

侑「そうかも……。歩夢は平気なの……?」

歩夢「うーん……そわそわしちゃうのはわかるかな。でも、その時々で楽しみ方を考えちゃうかも」

リナ『その時々で楽しみ方を考える? どういうこと?』 || ? _ ? ||

歩夢「例えば今だったら……雨がたくさん降ってて憂鬱だけど、こうして喫茶店で雨の音を聴きながらのんびりするのも、風流で楽しいかもって思ったり」

侑「……あ、それはわかるかも。なんか、喫茶店ってだけで、雨音もオシャレな音楽に聞こえてくるよね」

歩夢「そうそう♪」

リナ『なるほど……面白い考え方。勉強になる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「喫茶店の雰囲気がそうさせてくれるだけなのかもしれないけど……それでも、そういう風に考えたらちょっぴり雨の日も楽しい時間になるかなって」

侑「喫茶店の雰囲気……。……雰囲気……?」


──『雰囲気でわかると思うわ』。


侑「雰囲気で……わかる……?」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「……そうか、雰囲気って、その人が持ってるものだけじゃない……その空間や、そのときの時間、うぅんそれだけじゃない……いろんなもので変わるんだ」

リナ『侑さん?』 || ? ᇫ ? ||


ポケモンジムに入る前は、襟を正さなくちゃいけない気持ちになる。そんな硬い“雰囲気”がポケモンジムにはある。

そうなると、どこだろう。会えば絶対にジムリーダーだと思えるような、ポケモンジムみたいな、そんな“雰囲気の空間”は、建物は……。

ふと顔を上げると──窓の外、雨に煙る街の中に、一際大きな建造物が見えた。


侑「……ダリアの大時計塔……」


大きな大きな存在感を放つ。いかにもボスが待ち構えていそうな、荘厳な建物が。

──ガタ! 私は、思わず椅子をはねのける様にして立ち上がった。


歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」

侑「……あそこだ」

リナ『侑さん??? さっきから、様子がおかしい』 || ? ᇫ ? ||

侑「……行くよ、イーブイ!」
 「ブイ」


イーブイが机の上からぴょんと、私の肩に飛び乗ってくる。


歩夢「え、ち、ちょっと待って侑ちゃん!?」

リナ『あわわ、急に侑さんが走り出した!? 待って!?』 || ? ᆷ ! ||


私は、確かに感じた勘に──その“雰囲気”に従って、走り出していた。





    🎹    🎹    🎹





私は先ほど思ったことを二人に説明しながら、ダリア図書館を目指す。


リナ『なるほど……確かに筋は通ってる』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「だから、にこさんは“雰囲気でわかる”なんて、曖昧な言葉を使ってたんだね……!」

侑「まだ、私の勘でしかないけどね」
 「ブイ」

歩夢「でも、説得力はあると思う!」

侑「……うん!」


──二人への説明もそこそこに、私たちは辿り着いたダリア図書館に入館する。


侑「とりあえず、上の階に行こう」

歩夢「うん」


上の階に行く途中、館内のあちこちにエテボースやエイパムが本棚の整理や、荷物を運んで行き来しているのが目に入ってくる。

そして、館内のいたるところにいるミネズミやミルホッグは、監視の役割を担っているのかもしれない。

仕事中の彼らの邪魔にならないように、上の階、上の階へと階段を急ぎ、辿り着いた最上階には──


侑「………………」
 「ブィ…?」


普通の図書館が広がっていた。


歩夢「あ、あれ……?」

侑「違った……?」
 「ブイ…」


まさか、ここまで来て間違いなのかな……?

逆にここがそうじゃないなら、他にどこが……。


リナ『待って』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃん?」

リナ『この階はまだ最上階じゃないと思う。外観の高さから考えて、まだ上に1~2階分は入るスペースがある』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え、それじゃあ……!」

リナ『恐らく、さらに上に行く方法があると思う』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃん……!」

侑「歩夢! 探そう……!」

歩夢「うん!」


歩夢とリナちゃんと私とで、本がぎっしり詰まったこの階の探索を始める。

よく周りを確認してみると、この階にはここで働いている人間のスタッフや、エイパムたちの姿がほとんどない。

人気がすごく少ない階というのが、私の勘を後押ししてくれているようだった。

私はオトノキの史書コーナーの本を端から順番に見ながら奥に進んでいくと、


 「ブイ」


イーブイが何かに気付く。イーブイの視線を追うと──1冊だけ、なんだか背表紙の色が浮いている本が目に入る。


侑「『叡智の試しの至る場所』……」


そこにあったのは、白地の背表紙にそんなタイトルの書かれた1冊のハードカバー。

その本を手に取り、開くと──ほぼ白紙のページしかない本だった。

パラパラとページを捲って、捲って……最後のページに、


侑「『叡智の最後の行き先は奥に押し込んだ先に開かれる』」


そう書かれていた。


侑「奥……」


奥ってなんだろうと、一瞬思ったけど……。


侑「……もしかして、本棚の奥?」


今しがた、この本を抜いたことによって、本棚に出来た穴を覗いてみると──


侑「……! あった……!」


奥に四角いボタンのようなものがあるのが見えた。

つまり、


侑「この本を……押し込む……!」


手に取った本を棚に戻し──そのまま、奥にボタンごと押し込む。

──ガコン!


歩夢「……侑ちゃん! 今の音……!?」

リナ『何か見つかった!?』 || ? ᆷ ! ||


音を聞きつけて、歩夢とリナちゃんが私のもとに駆け寄ってくる。


侑「見つけたよ、『叡智の最後の行き先』……──」

歩夢「……やったね! 侑ちゃん!」

リナ『侑さん、すごい!』 ||,,> 𝅎 <,,||


私は、ゆっくりと目の前に降りてくる折り畳み式の階段を一歩ずつのぼり始める……。





    🎹    🎹    🎹





──ゆっくりと階段をのぼり、辿り着いたそこは、天井の高い部屋だった。

壁面には下の階同様、これでもかと本が本棚に詰め込まれているが……中央には何も置かれておらず、モンスターボールを象ったような線が引かれている。

これはまさに──ポケモンバトルのフィールドだ。

そして、そのフィールドを挟んだ部屋の奥に、


 「──ようこそ、叡智に辿り着きし挑戦者さん」


小柄な女性が、本を片手に、椅子に腰かけていた。


侑「あなたが……ダリアシティのジムリーダーですね」

花丸「うん、マルの名前は花丸。あなたの言うとおり、このダリアシティのジムリーダーを務めさせてもらっているずら」


花丸さんは、本をパタンと閉じ、ゆっくりと椅子から立ち上がると、優しく笑う。


花丸「よくここまで辿り着いたね。……あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」

侑「……侑です。セキレイシティから来ました」

花丸「セキレイシティの侑ちゃん。あなたのその知恵を認め、ダリアジムのジムリーダーとして、ジム戦への挑戦権を与えます。もちろん、バトル……するよね?」

侑「……はい!!」


私はボールを構える。


花丸「使用ポケモンは2体だよ。それじゃ、始めよっか。ダリアジム・ジムリーダー『叡智の塔の歩く大図書館』 花丸。あなたの知恵で辿り着いたその先を、マルに見せて欲しいずら!」


花丸さんの手からボールが放たれた。ジム戦──開始……!!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.15 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.13 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:27匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




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■Chapter009 『決戦! ダリアジム!』 【SIDE Yu】





花丸「ウールー、行くずら」
 「メェェーー」

侑「出てきて! ワシボン!」
 「ワシャ、ワシャッ!!!!」


こちらの1番手はワシボン。対する花丸さんは、ウールーを繰り出してくる。


リナ『ウールー ひつじポケモン 高さ:0.6m 重さ:6.0kg
   パーマの かかった 体毛は 高い クッション性が ある
   崖から 落ちても へっちゃら。 ただし 毛が 伸びすぎると
   動けなくなる。 体毛で 織られた 布は 驚くほど 丈夫。』

侑「先手必勝! ワシボン! “ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンが飛翔し、ウールーに飛び掛かる。

開幕、肉薄しての翼による二連撃……!!


 「メェー」


素早いワシボンの動きに対応出来ないのか、無抵抗なウールーに──バスッ、バスッ!! と音を立てながら、攻撃を直撃させる。


侑「よし! 決まっ……た……?」

 「メェー」


しかし、攻撃が直撃したはずのウールーは涼しい顔をしている。


侑「な……!? 効いてない!?」

 「ワシャッ!!?」

花丸「ウールー、“ずつき”」
 「メェーーー」

 「ワシャボッ!!!?」


攻撃を耐え、そのままお返しと言わんばかりに“ずつき”をかましてくる。


侑「ワシボン!?」
 「ワ、ワシャァッ」


さすがに、一発でやられるほどヤワじゃない。ワシボンは仰け反りながらも羽ばたいて、体勢を立て直す。


リナ『侑さん! ウールーの特性は“もふもふ”! 直接攻撃は半減されちゃうよ!』 || >ᆷ< ||

侑「! な、なるほど……」


あの体毛のせいで攻撃が通りにくいんだ……! なら……。


侑「ワシボン、“つめとぎ”!!」
 「ワシャシャシャッ!!!!」


フィールドに降りて、床に爪を立てながら研ぎ始める。

そして、そのまま──地面を力強く蹴って、飛び出す。


侑「翼でダメなら、今度は爪で……!!」

 「ワッシャボッ!!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」

 「ワッシャッ!!!!」


研ぎ澄まされた鋭い足爪でウールーに切りかかる。


 「メ、メェェェーー!!?」

侑「! よし! 効いてる!!」


ウールーは“ブレイククロー”に引き裂かれて、羊毛をまき散らしながら、フィールド上をテンテンと転がっていく。


花丸「ん……“ブレイククロー”で防御力が下がっちゃったね」
 「メェーー…」

侑「たたみ掛けるよ!! 同じ場所を狙って!!」

 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンが間髪入れずに飛び掛かる。先ほどと同じように“ブレイククロー”を振り下ろす。今度はさっき引き裂いた毛の部分……致命傷は避けられないはず……!!

──と、思ったのに、

──ボフッ。


 「ワシャッ!!!?」

侑「なっ!!?」


ワシボンの攻撃は受け止められてしまった。気付いたら、先ほど刈り取ったはずの羊毛が元に戻っている。


花丸「“ずつき”!」
 「メェェェーーー!!!!」

 「ワッシャボッ!!!!?」


再び炸裂する“ずつき”を食らって、ワシボンが吹き飛ばされ、地面を転がる。


侑「ワ、ワシボン! 頑張って!」
 「ワ、ワシャ……!!」


ワシボンはどうにか起き上がるものの……。


侑「な、なんかさっきより強くなってない……!?」


さっき“ずつき”を受けたときは、もう少し余裕があると思ったのに……!?


リナ『ゆ、侑さん! 大変!』 || ? ᆷ ! ||

侑「え、何!?」

リナ『ワシボンの防御力が下がってる!』 || ? ᆷ ! ||

侑「え!?」


ウールーが防御力を下げてくるような技使ってた……!?


リナ『それだけじゃない! ウールーの防御力、元に戻ってる……』 || > _ <𝅝||

侑「な……」


さっき、確かに“ブレイククロー”で防御力を下げたはずなのに……なんで……!?


花丸「勝負を急ぎ過ぎだよ。侑ちゃん」

侑「……!」

花丸「下げられた防御力は、ワシボンにお返ししたよ」

侑「お、お返し……? お返しってどういう……?」

リナ『! まさか、“ガードスワップ”!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「“ガードスワップ”……?」

リナ『防御力の上昇下降をまるまる相手と入れ替える技……』 || > _ <𝅝||

侑「……!」


だから、ワシボンの防御力が下がって、ウールーの防御力が元に戻ってたんだ……!


侑「どうしよう……こっちが攻めてるはずなのに……」
 「ワ、ワシャ…」

 「メェー」

侑「こっちが押されてる……」


こっちから攻撃を仕掛けても、受け止められて、返されてしまう。

どうする……? 思考に入って、私が動きを止めると──


花丸「来ないの? それなら、こっちから行くずら。“こうそくいどう”!」
 「メェーーー」


今度はウールーの方が地を蹴って飛び出す。


侑「っ……! 空に離脱!」
 「ワ、ワシャ」


とりあえず、時間を稼ごうと空に逃げる。……が、


花丸「ウールーの毛は防御以外にも使い道があるずら」


ウールーの方から、パチパチ、パチパチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。


侑「な、何の音……!?」


あれ、でもどこかで聞いたことあるような……。パチパチパチパチ……あ……!?


侑「まさか……静電気……!?」

花丸「気付くのが遅いよ! “エレキボール”!!」
 「メェーーー!!!」


体毛に蓄えた電気を球状にして、上空のワシボン向かって撃ち放ってくる。


 「ワ、ワシャッ!!?」


突然の攻撃に回避もままならず、“エレキボール”がワシボンに直撃して、周囲に電撃の火花が走る。

 「ワ、ワシャーーーー!!!!?」
侑「ワシボン!!」


ワシボンはそのまま、揚力を失って真っ逆さまに落っこちてくる。

──が、


 「ワ、ッシャァッ!!!!」


地面に墜落する直前で、バサッと翼を羽ばたかせて、再び空に飛び立つ。


侑「ワシボン……! よかった……」

花丸「気合いは十分あるみたいだね。でも、気合いだけじゃ次は耐えられないよ」

侑「……っ」


花丸さんの言うとおり、次は恐らく耐えられない。


 「メェーー」


考えている間にも、ウールーは再び──パチパチパチと音を立てながら、静電気を蓄え始める。

もう時間がない……!

──そのときだった。──バチンと大きな音がしたと思ったら。


 「メ…!?」


ウールーの体毛の先がチリチリと燃えていた。


 「メ、メェェ!!!?」
花丸「!? こ、転がって火を消して!」

 「メ、メェェ」


コロコロと転がりながら、ウールーが自分の毛に点いた火を消しにかかる。


花丸「……静電気がショートしちゃったずら」


もしかして、あのモコモコの体毛……すごい防御力を誇る代わりに──すごく燃えやすい……?


侑「なら……!! ワシボン!!」

 「ワシャッ!!!」

侑「“はがねのつばさ”!!」

 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンが空中からきりもみ回転をしながら、急降下を始める。


花丸「上から来るなら、狙い撃つまで! “エレキボール”ずら!」
 「メェェーーー!!!!」


ウールーから放たれる“エレキボール”。確かにウールーに一直線に突っ込んで行ったら、この攻撃を避けるのは難しい。でも、ワシボンが狙ってるのは……!


 「ワッシャッ!!!!」


──急にギュンと角度を変え、ワシボンが地面に向かって突っ込む。


花丸「ずらっ!?」


花丸さんの驚きの声と共に、鋼鉄の翼がフィールドの床を砕く。

砕かれた反動で浮き上がった瓦礫をそのまま、


侑「瓦礫を羽で弾いて!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


──ウールーに向けて、撃ち放つ……!!


侑「“がんせきふうじ”!!」

 「メ、メェェェ!!!?」
花丸「し、しまった!?」


瓦礫に飲み込まれ、動きが封じられたウールー。

そして、ワシボンは、


 「ワシャァッ!!!!!」


その場で、バサッと翼を大きく広げる。

そして、その翼を力強く羽ばたかせながら、送る風は──灼熱の風……!!

──ボゥッ!!


 「メ、メェェェ!!!?!?」


ワシボンが覚える唯一のほのお技……!!


侑「ワシボン!! “ねっぷう”!!」
 「ワッシャァァァァァ!!!!!!!!」


動けないままのウールーに、直撃した超高温の風は、“もふもふ”の体毛に引火する。

ウールーの毛は予想通り、とてつもなく燃えやすかったらしく、すぐに──ゴォォォォォ!! と音を立てながら、大きな火柱に成長し、


 「メ、メェェェェェ!!!!!!」


ウールーを一気に灼熱の炎が飲み込んでいった。

体毛を燃料に、一瞬で焼き尽くされたウールーは、


 「メ、ェェェ……」


体毛をぶすぶすと焦がされながら、戦闘不能になったのだった。


花丸「……戻って、ウールー」

侑「やったぁ! ワシボン! ナイスファイト!」
 「ワシャ…」


ただ、ワシボンももう限界が近い。これ以上無理はさせられない……。


侑「ワシボン、よく頑張ったね……! ひとまずボールの中で休んで」
 「ワ、ワシィ……」


ワシボンをボールに戻す。

あとは、


侑「イーブイ、行くよ!」
 「ブィィッ!!!」


イーブイが、バトルフィールドに踊り出る。


花丸「2匹目はイーブイだね。マルの2匹目は……行け、カビゴン!!」
 「カビーーー」


花丸さんの投げたボールから、現れた巨体は──ズンッ!! と重量感のある大きな音を立てながら、フィールドに降り立つ。


侑「2匹目はカビゴン……!」

リナ『カビゴン いねむりポケモン 高さ:2.1m 重さ:460.0kg
   1日に 食べ物を 400キロ 食べないと 気がすまない。
   基本的に 食うか 寝るかしか していないが なにかの
   きっかけで 本気を出すと 凄い パワーを 発揮するらしい。』

花丸「カビゴン! “のしかかり”!」
 「カビーーー」


のっしのっしとカビゴンがイーブイの方へと向かってくる。

あんな巨体にのしかかられたら、イーブイが潰れちゃう……!


侑「……でも、あの遅さなら、十分逃げられるね! イーブイ!」
 「ブイッ!」


イーブイはフィールドを走り出す。


 「カビーー」


カビゴンは逃げるイーブイを追いかけては来るけど……すばしっこいイーブイにはまるで追い付けてない。

“のしかかり”を注意しながら戦うなら──


 「ブイッ!!」


イーブイがちょこまかと走り回りながら、カビゴンの背後に回り込んだところで、


侑「“でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!」


飛び出す、高速突進。

上手にヒットアンドアウェイしながら、ダメージを稼いで……と思っていたけど、カビゴンに“でんこうせっか”が直撃した瞬間。

──ぼよ~ん。


侑「……いっ!?」

 「ブ、ブィィ!!!?」


イーブイはカビゴンの背中にめり込んだあと、元に戻る反動で跳ね返されて吹っ飛ばされてしまった。


リナ『体重差がありすぎて攻撃が通じてない……』 || >ᆷ< ||

侑「ち、直接攻撃じゃダメだ……!」

 「ブ、ブィ」


イーブイは地面を転がりながら、すぐに体勢を立て直す。

ダメージこそ大したことはないものの、ぶつかり合っちゃダメだ……!


侑「“スピードスター”!!」
 「ブイイーーー!!!!」


ピュンピュンと音を立てながら、星型のエネルギー弾がカビゴンを捉える。


 「カ、カビ……」

侑「よし、効いてる!! カビゴンも肉弾戦のポケモンだから、この作戦で──」

花丸「ふふ、侑ちゃん。思い込みは良くないずらよ」

侑「え……?」

花丸「カビゴン! “かえんほうしゃ”!!」
 「カーーービィーーーーー!!!!!!」


カビゴンが急に灼熱の炎を噴き出した。


侑「嘘!?」
 「ブ、ブィィ!!!?」


イーブイは驚きながらも、どうにか“かえんほうしゃ”を紙一重で回避する。


侑「ほのお技なんて使えるの!?」

花丸「“ハイドロポンプ”!!」

侑「!?」

 「カーーービーーーーー!!!!!」

 「ブ、ブィィィ!!!!?」


今度は大量の水がカビゴンの口から発射される。

度重なる予想外の攻撃に、今度は回避しきれず、イーブイに激しい水流が直撃し、吹っ飛ばされる。


 「ブ、ブイ……」
侑「イーブイ!? 大丈夫!?」

 「ブ、イ……」

リナ『だ、ダメージが大きい……このままじゃ』 || >ᆷ< ||


イーブイはどうにか、よろよろと立ち上がるものの、リナちゃんの言うとおり受けたダメージが大きい。


花丸「ポケモンバトルは知識が大事ずら」

侑「……?」

花丸「もし、侑ちゃんがカビゴンの覚える技がわかっていれば、対応が出来たかもしれない」

侑「そ、それは……」

花丸「このジム戦は最初から最後まで、知恵試しなんだよ」


花丸さんがスッと手を上にあげると──急に上の方から光が差し込んでくる。

どうやら、この部屋の上の方にある窓から日の光が差し込んで来ているようだ。


花丸「この技は……何かわかるかな?」


──空から差し込んできた光が……カビゴンに集まってる……?


侑「……っ! ……イーブイ、“でんこうせっか”!!」
 「ブィィィ!!!!」


その場からイーブイが全力で飛び出す──と、同時に今の今までイーブイがいた場所に光線が降り注ぎ、床を焼く。


リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「や、やっぱり、“ソーラービーム”を撃ってきた……っ」

花丸「ふふ、“ソーラービーム”のチャージだと気付けたのはさすがだね。でも、避けたのはいいけど──」

 「カーービ」

花丸「焦ってカビゴンに近付いちゃったね」

侑「……っ!」


逃げる方向を指定する暇がなかったせいか、咄嗟に回避で使った“でんこうせっか”で皮肉にも──イーブイはカビゴンの目の前に躍り出てしまっていた。

そこはカビゴンの得意な肉弾戦の射程──


花丸「“メガトンパンチ”!!」
 「カーーービ!!!!!!」

侑「“みきり”っ!!」
 「ブィ!!!」


攻撃を間一髪で見切って躱せたものの──


 「ブ、ブィィ……」
侑「な……」


気付けば、イーブイは捕まっていた──足を氷に取られる形で……。


花丸「“メガトンパンチ”をそのまま、“れいとうパンチ”に派生させたずら。イーブイが“みきり”を覚えるのは知ってたからね。ここぞというときに、使ってくると思ってたよ」

 「ブ、ブィィ……」


──パキパキと音を立てながら、イーブイの足を取っている氷が侵食するように下半身……そして、上半身へと広がっていく。


花丸「イーブイは氷漬け。勝負あったずらね」

侑「……まだです。まだ、イーブイは戦闘不能になってません」

花丸「……そうだね。でも、氷漬けになったイーブイに反撃の術はないよ。ブースターだったら、違ったんだろうけど……」

侑「……いいえ。私のイーブイはまだ戦えます」

花丸「……?」

侑「私の“相棒”はまだ戦えます!! ね? イーブイ!!」
 「ブイィィィィ!!!!!」


イーブイが雄たけびと共に──燃え上がる。


花丸「ずら!? イーブイが燃えてる!? そ、そんな技覚えるなんて話!?」


自身を捕える氷を溶かしながら──


花丸「……!? ま、まさか、“相棒わざ”!?」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」


激しい炎を身に纏って、カビゴンに突撃する……!


 「カ、カビィ!!?」


驚くカビゴンは、回避も防御もままならず、そのままイーブイは──カビゴンのお腹にめり込んでいく。


 「カ、カビィィィィィ!!!!!?」
花丸「や、柔らかいお腹に!?」

侑「さすがにこれだけ激しい炎を纏っていたら、大ダメージですよね!」
 「ブィィィィィィ!!!!!!」


柔らかい体が仇となり、お腹を直接焼かれ、カビゴンが苦悶の声をあげる。


侑「イーブイッ!! このまま、押し切──」

花丸「“のしかかり”!」
 「…カビッ!!!」


──ズゥン!


侑「!」

リナ『お、お腹のイーブイごと……前に倒れ込んだ』 || > _ <𝅝||

花丸「はぁ……さ、さすがに焦ったずら」

侑「…………」


花丸さんが、汗を拭いながら、私に話しかけてくる。


花丸「でも、これでイーブイは、じきに戦闘不能。どうする? ワシボンに交代する?」

侑「…………花丸さん」

花丸「なにかな」

侑「……ここは知識を試すジムなんですよね」

花丸「? そうだけど……」

侑「そんなジムのジムリーダーの花丸さんなら……知ってるんじゃないですか? ──こんな絶体絶命のピンチをチャンスに変えるイーブイの技を……!」

花丸「……? ……ま、さか!?」


花丸さんの視線が、カビゴンに引き戻される。それと同時に──


 「カビッ」


カビゴンが一瞬、僅かに宙に浮いた気がした。


花丸「ま、まずい!? カビゴン、すぐに起き上がって!?」

侑「逆にその巨体、倒れ込んだら、すぐには起き上がれないですよね!」

 「カビィッ!!!?」


今度は、完全に目に見えて、カビゴンが僅かに浮いた。

次の瞬間──


 「ブゥゥゥゥイイイイ!!!!!!!」


カビゴンの下で“じたばた”と激しくもがくイーブイが、カビゴンの巨体を完全に浮き上がらせた。


リナ『これは、“じたばた”……!? ダメージを大きく受けているときほど、威力が上がるカウンター技!!』 || ? ᆷ ! ||


──“じたばた”攻撃で浮き上がらされたカビゴンはバランスを崩し、よろけながら後退る。そこに向かって、


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥゥゥィ!!!!!!」


トドメの“相棒わざ”を無防備な頭部に叩きこむ。


 「カビィィィ!!!?」
花丸「か、カビゴン!?」


大技の直撃により、カビゴンは吹っ飛ばされ、後ろに向かって転がりまくったのち、


 「カ、ビィィィ……」


戦闘不能になり、大人しくなったのだった。


花丸「やられたずら……」

侑「……イーブイ!」
 「ブィ!!!!」


名前を呼ぶと、イーブイが私の胸に飛び込んでくる、


侑「ありがとう!! 勝てたよ、私たち!」
 「ブイブイッ!!!」


二人で喜びを分かち合っていると、


歩夢「侑ちゃん……!」


歩夢も駆け寄ってくる。


歩夢「侑ちゃん! すごかった! かっこよかったよ……!」

侑「うん!」

リナ『侑さん、すごい……私、もう絶対ダメだと思った』 || > _ <𝅝||

侑「あはは、イーブイのガッツのお陰でどうにか勝てたよ!」
 「ブイッ!!」

リナ『最後まで諦めない心……すごく、勉強になった。リナちゃんボード「じーん」』 || 𝅝• _ • ||


仲間たちが労ってくれる中、


花丸「まさか、“相棒わざ”を覚えてるなんて……」


カビゴンをボールに戻した花丸さんも、会話に加わってくる。


侑「えっと、わかってたというか……花丸さんってノーマルタイプのエキスパートですよね?」

花丸「うん、見てのとおりノーマルタイプのジムリーダーずら」

侑「だから、同じノーマルタイプのイーブイの技もひととおりバレちゃってるかなって……。だからもし、意表を突くなら“相棒わざ”しかない! って……」

花丸「“れいとうパンチ”を待たれてたってことだね……」

侑「“れいとうパンチ”というか、こおり技ですけど……ほのお、みず、くさタイプといろいろ使って来てたので、こおり技もあるかもって!」

花丸「動きを止めるために選んだ“れいとうパンチ”が裏目に出たずらぁ……うぅん、そうじゃなくても“じたばた”はちゃんと意識しておくべきだったね……。焦って、頭から抜けちゃってたずら……まだまだ、修行が足りないね」


花丸さんは、自嘲気味に笑って、肩を竦めた。


花丸「……その知識と、勇気と、実力を認め、侑ちゃんをダリアジム公認トレーナーと認定します。この“スマイルバッジ”を受け取って欲しいずら」

侑「……はい!」


花丸さんから、丸い笑顔のマークのバッジを手渡される。


侑「えっへへ♪ “スマイルバッジ”、ゲットだね!」
 「ブブイー♪」


これで、2つ目のバッジゲット……! 一時は辿り着けるかどうかも怪しいと思っていたけど、こうしてジムにも勝利出来て一安心だ。


花丸「あ、そうそう……このジムに挑戦した人みんなにお願いしてるんだけど……マルがジムリーダーだってことは、外では言わないでね?」

侑「あ、はい!」

歩夢「わかりました」

リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

花丸「そういえば、侑ちゃん手持ちは2匹?」

侑「はい。……そろそろ、新しい手持ちが欲しいなーとは思ってるんですけど」

花丸「それなら、ダリアの南にある4番道路のドッグランに行くといいずら。あそこはいろんな種類のポケモンがいるからね」

リナ『ドッグランなら、どちらにしろコメコへの通り道だからちょうどいい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

侑「じゃあ、次は南を目指して出発だね♪ 行こう!」
 「ブブイ」

歩夢「そ、その前に……!」

侑「ん?」

歩夢「今日は、宿に泊まらない……? もう、夕方だよ?」


歩夢が上を見上げる。釣られて私も見上げてみると、上にある窓から夕日が差し込み始めていた。

どうやら、先ほどまでの雨も、バトル中に上がっていたらしい。


歩夢「今から4番道路に向かったら、夜になっちゃうから……」

花丸「それなら、宿を紹介してあげるから、そこに行くといいずら」

侑「え、いいんですか!?」

花丸「今日一日、ここに辿り着くために、街中走り回ったでしょ? そのお詫びというか、労いということで、挑戦者には宿を紹介してるずら。はい、これ紹介状。ホテルの受付に見せれば泊めてもらえるから」

侑「そういうことなら、お言葉に甘えて……」


花丸さんから、紹介状を受け取る。


花丸「それじゃ、侑ちゃん。ジム巡り頑張ってね! マルは滅多に外に出ないけど、ここから応援してるずら」

侑「はい! 頑張ります!」


結局、一日がかりでの挑戦になったダリアジムだったけど、どうにかクリア出来たことに胸を撫で下ろしながら──疲れを癒すために、私たちは宿へと向かうのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.18 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.15 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter010 『コンテストの島』 【SIDE Shizuku】





 「ミャァミャァ」「ミャァミャァミャァ」「ミャァ」


──水を切る音に紛れて、キャモメの鳴き声が聞こえる。


しずく「──ん……んぅ……」


ゆっくりと目を開けると──朝日を反射してキラキラと光りながら流れていく水面が視界に飛び込んできた。

寝起きでぼんやりする頭に酸素を送って、少しでも早く覚醒させるために、朝の深呼吸。


しずく「……すぅー……はぁ……」
 「メソ…」

しずく「メッソン。おはよう」
 「メソ…」


私の肩の上で小さく鳴くメッソンを撫でてあげると、満足したのか、メッソンはまた姿を隠してしまった。

早く慣れてくれるように、積極的にボールの外に出してはいるものの、やっぱりまだまだ臆病で、外の世界が怖いのかもしれない。

とはいえ、こうして私が目を覚ましたのに気付いて、朝の挨拶をしてくれたのは、大事な一歩だろう。

私はとりあえず、ボールと荷物を確認する。


しずく「マネネのボールも、ココガラのボールもある……っと」


バッグ共々、身の回りの持ち物に異常がないことを確認。ついでに、隣にいる人も確認する。


かすみ「……むにゃむにゃ……えへへ、かすみん……さいきょーれす……」
 「ガゥ…zzz」


かすみさんもいる……っと。まだ、ゾロアと一緒にお休み中だ。

最低限の身の回りの確認は出来たので、今度は私たちの前で座ったまま、私たちを送ってくれている方へ朝の挨拶です。


しずく「曜さん、おはようございます」

曜「お、しずくちゃん、起きたんだね」

しずく「あの……もしかして、曜さん徹夜ですか?」

曜「ラプラスに任せても問題ないんだけど……二人を送り届ける間に何かあったら困るから、一応ね」

しずく「すみません……ご迷惑をお掛けしてしまって……」

曜「むしろ、謝らなきゃいけないのはこっちだって! 二人を危ない目に合わせちゃったしさ……。マンタインサーフ、やっぱりもうちょっと安全性を考えて調整しないといけなさそうだね……あはは」
 「タイーン」「マンタイーン」


私たちが乗せてもらっているラプラスの横には、並んで泳いでいる2匹のマンタインの姿。

昨日私たちをサーフで運んでくれていた子たちです。

──昨夜はあの後、ラプラスで沖まで来てくれた曜さんと合流し、フソウ島まで送ってもらうことになった。

その道中、私とかすみさんは、疲れ切っていたのもあって、気付けばラプラスの背の上で眠ってしまっていたというわけだ。


しずく「ラプラスも、ありがとうございます」

 「キュゥ~~♪」

曜「乗り心地良いでしょ? 自慢の相棒なんだ♪」
 「キュゥ♪」

しずく「はい、お陰様でぐっすりでした……あはは」


本当にあまりに熟睡しすぎてしまったくらいで、少し恥ずかしい。


曜「それなら、何よりだよ。このまま無事に二人のことを送り届けられそうだしね」


曜さんはそう言いながら、前方を指差す。その先には──


しずく「! かすみさん、起きて!」

かすみ「……ふぇ……? ……かすみんのサインはじゅんばんに……」
 「…ガゥ?」

しずく「寝ぼけてる場合じゃなくて! 見て!」

かすみ「……んぇ? ……わ!」

しずく「見えてきたね……!」

かすみ「フソウ島!」
 「ガゥ、ガゥッ♪」


噂に聞くリゾート島、フソウ島の到着が迫ってきていた。


曜「じゃあ、二人も起きたしラストスパート! 飛ばすよ、ラプラス!」
 「キュゥ~~~♪」


波に揺られて、目的地まであと少し……。





    💧    💧    💧





かすみ「到着ぅ! ああ、久しぶりに陸に降り立った気がしますぅ♪」
 「ガゥ♪」

しずく「久しぶりって、1日も経ってないよ……」


上陸したのも束の間、テンション高めに飛び跳ねるかすみさんを見て、肩を竦める。


曜「まあ、普通の人は半日以上海上で過ごすことも滅多にないだろうからね」

かすみ「そういうことです!」
 「ガゥッ!!」

曜「うんうん、かすみちゃんが元気そうで曜ちゃん先輩は嬉しいよ」

しずく「曜さん、ここまで送っていただいて、ありがとうございました」

曜「うぅん、二人に大事なくてよかったよ」

かすみ「かすみんたち、危うく冥界に連れてかれるところでしたからね……」
 「ガゥゥ…」

曜「私は見たことがなかったんだけど、確かに昔からゴーストシップの噂はあったんだよね……。一応、私からリーグに報告しておくよ。あまり人が近寄らないようにしてもらわないと」

しずく「お手数ですが、よろしくお願いします」

曜「うん、任せて♪ これもジムリーダーのお仕事……ん?」


曜さんは取り出したポケギアを見て、画面を凝視したあと、少し眉を顰めた。


しずく「曜さん……? どうか、されたんですか?」

曜「ああいや、リーグに連絡しようと思ったら、そのリーグの方からちょうどメールが届いてびっくりしただけ」


そう言いながら、曜さんは再びラプラスに飛び乗る。


かすみ「あれ? 曜先輩、フソウタウンには行かないんですか?」

曜「うん。私は用事が出来たから、一旦セキレイに戻るよ」

しずく「い、一旦休まれた方が……」


曜さん、私たちのために徹夜までしてくれたのに、これから用事だなんて……。

私の心配が顔に出ていたのか、


曜「ありがと、しずくちゃん。でも帰りは一人だし、サニーまではラプラスに任せてお昼寝するから大丈夫だよ♪ お願いね、ラプラス」
 「キュゥ♪」


曜さんはそんな言葉を返しながら、私にウインクしてくる。


しずく「そうですか……ですが、どうかご無理はなさらないでくださいね」

曜「了解♪ それじゃ、ラプラス! 全速前進ヨーソロー♪」
 「キュゥ~♪」


曜さんを乗せたラプラスは再び海を進み始める。


かすみ「曜せんぱ~い、ありがとうございました~♪」

しずく「道中、お気を付けてくださーい!」

曜「ありがとー! 二人とも~! 良い旅を~!」


手を振りながら、海を駆ける曜さんを見送ったあと、


かすみ「それじゃ私たちも行こっか、しず子」

しずく「うん、そうだね」


私たちもフソウタウンへと歩を進める。


かすみ「いやぁ……曜先輩に会えてラッキーだったね。なんだかんだ、ここまで送ってもらえたし」
 「ガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」

かすみ「これもかすみんの日頃の行いのなまものだよね~♪」
 「ガゥ…?」

しずく「……賜物ね」


そう言う割に幽霊船と出会うなんて、よほどアンラッキーな気もしなくはないけど……とりあえず、黙っておくことにする。


しずく「そういえば……かすみさん、よかったの?」

かすみ「え? 何が?」

しずく「せっかく、曜さんに会えたのに、ジム戦のお願いとかしなかったけど……」

かすみ「…………あ!? ……か、完全に忘れてた……!?」
 「ガゥゥ?」

しずく「……まあ、そんなことだろうと思ってたけど」

かすみ「曜せんぱ~い!? 待ってくださーい!! かすみんと、かすみんとジム戦だけしてくださ~い!! 曜先輩~!?」
 「ガゥ…」

しずく「はぁ……私たちは、早く町の方に行こっか」
 「メソ…」


海に向かって叫ぶかすみさんに半ば呆れながら、私はさっさと町の方へと歩いて行くのだった。




    💧    💧    💧





──フソウタウンは、オトノキ地方でも最大規模を誇るコンテスト施設がある町だ。

頂点のポケモンコーディネーターを決める大会“グランドフェスティバル”もこの町で開催される。

この町には、ポケモンジムのようなバトル施設がない代わりに、コンテストを中心とした観光産業を主としていて、特別な催し事のある日でなくとも、あちらこちらに出店が立ち並んでいて、今日もたくさんの人で賑わっている。

そして──


かすみ「見て見てしず子! “バニプッチパフェ”! 買っちゃった♪ めちゃくちゃ可愛くない!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「う、うん……」


絶賛、賑わっている人がここにも。


かすみ「って、あーー!? あれ、“ハートスイーツ”だよ、しず子!! あっ! 見て見て!! あそこに売ってる飴細工もめっちゃくちゃ可愛い! ちょっと買ってくる!!」
 「ガゥッ」

しずく「か、かすみさん、そんなに買ったらおこづかいが……あ、行っちゃった……」


さっきから、気になる出店を見つけるたびに、かすみさんが買いに走っているせいか、なかなか前に進めていない。


しずく「コンテスト大会まではもう少し時間があるから、別にいいんだけど……」


今日開催される、うつくしさ大会のウルトラランクを見たいと思っているから、間に合うようにはしたいけど……恐らく開催時間の前に、かすみさんの財布が先に限界を迎える気がするし……。


かすみ「しず子~! “ハートスイーツ”ゲットしたよ~♪」

しずく「あ、戻ってきた……」

かすみ「フソウタウン最高かも! かすみんの好きな感じの可愛いスイーツがたっくさんあって幸せぇ~♪」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「ゾロアも嬉しいよね~♪ はい、“オレンアイス”あげるね♪」
 「ガゥ♪」

かすみ「しず子は何も買わないの?」

しずく「え? うーん……」


これだけ出店が立ち並んでいると、食べ歩きをしたくなる気持ちはわかるんだけど……。恐らく、ここで尽きるであろう、かすみさんの旅の資金を補うのは、私のおこづかいからだろうし……少し躊躇する。


かすみ「せっかく、フソウタウンまで来たんだから、しず子も楽しまないと!」
 「ガゥッ♪」


逆に楽しみを消費する速度が速過ぎて心配なんだけど……。でも、かすみさんの言うとおり、せっかくそういう町に来ているわけだし、少しくらいは見ていってもいいのかもしれない。


しずく「メッソン、何か欲しいのある?」
 「メソ…」


肩に乗っているメッソンに訊ねると──スゥッと姿を現して、


 「メソ…」


小さな手で派手な看板たちに隠れた、味のある看板のお店を指差す。


しずく「えっと、向こうにあるのは……。……! も、“もりのヨウカン”……!?」
 「メソ…」

かすみ「えー? ヨウカン? 地味じゃない?」

しずく「何言ってるの!? シンオウ地方ハクタイシティの隠れた名物なんだよ! 一度食べてみたいと思っていたけど、こんなところで巡り合えるなんて……!」

かすみ「お、おぉう……そういえば、しず子って和菓子好きなんだっけ……?」

しずく「うん! 買ってくるね!」
 「メソ…」





    💧    💧    💧





──町の中央まで来て、今は噴水広場のベンチに腰掛けている。


しずく「んー……おいしい♪」


そして、早速“もりのヨウカン”を食べている。

初めて頂く“もりのヨウカン”は、上品な甘さとなめらかな舌触りが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになる。


かすみ「そんなにおいしいの?」

しずく「かすみさんも一口食べてみる?」

かすみ「うん!」


黒文字(菓子楊枝)を使って、一口大に切ってから、


しずく「はい、あーん」

かすみ「あーん♪」


かすみさんにおすそ分け。


かすみ「あむっ。もぐもぐ……」

しずく「どう?」

かすみ「こ、これは……! おいしい……!」

しずく「でしょでしょ! 糖分のべた付きを感じさせない滑らかな舌触りなのに、それでいて餡子の自然な甘味がしっかりと活きている……まさに至高の逸品だよね……」

かすみ「め、めっちゃ語るじゃん、しず子……」

しずく「メッソンもお食べ」
 「メソ…」


メッソンの口元に運んであげると、小さな口で“もりのヨウカン”をもしゃもしゃと食べ始める。


しずく「おいしい?」
 「メソ…♪」

しずく「あ、笑った♪」
 「メソ…♪」


メッソンは凄く臆病で、いつも泣きそうにしているから、こうして笑ってくれるだけでなんだか嬉しくなる。


しずく「まだあるから、またあとで残りも食べようね♪」
 「メソ…♪」

かすみ「それにしても、すごい町だね。……あむっ」


かすみさんが“バニプッチパフェ”を頬張りながら、辺りを見渡す。


かすみ「まだ午前中なのに、すごい賑わい。今日ってお祭りなの?」

しずく「聞いた話だと、一年中こういう感じらしいよ。今日はウルトラランクの開催日だから、その中でも特に活発な日だとは思うけど」

かすみ「ふーん……セキレイの賑やかさとは雰囲気が違うけど、かすみん的にはこういうお祭りっぽいのは大好物なんだよね♪ はい、しず子、お返し。口開けて♪」

しずく「……あむっ」

かすみ「どう? “バニプッチパフェ”は」

しずく「ふふっ、パフェもおいしいね」

かすみ「でしょでしょ! おいしいだけじゃなくて、見て可愛いのもポイント高いんですよねぇ♪」
 「ガゥガゥ!!!」

かすみ「はいはい、ゾロアにもあげるから。あーん」
 「ガーゥ♪」

かすみ「そういえば、しず子……行きたい場所があるんだったよね? コンテスト会場だっけ」

しずく「うん」

かすみ「それって、どこにあるの?」

しずく「ああ、それなら……」


私は振り返る。


かすみ「……噴水?」

しずく「じゃなくて……その奥。噴水がコンテスト会場なわけないでしょ……」


確かに噴水広場の噴水前のベンチだから、振り返ったらすぐそこに噴水はあるけども……。

──噴水のさらに向こう側にそびえる建物を指差す。

恐らく、この町において、最大の建造物に当たるであろう。フソウのコンテスト会場が鎮座している。


かすみ「え、あれ、コンテスト会場なの……!? セキレイのよりも遥かに大きい……」

しずく「オトノキ地方、最大規模のコンテスト会場だからね」

かすみ「何か他の競技場みたいなものかと思ってた……」


確かにかすみさんが驚くのも無理はない。

セキレイ会場もかなりの広さだけど、フソウ会場はその比ではなく、下手したら倍以上の大きさがある。

最大の収容人数、最大の演出設備等を誇り、同時にこの地方で最大のステージ舞台を擁する巨大施設なのだ。


しずく「確か、中にはスタッフやコンテストクイーンのために居住スペースもあったんじゃないかな……?」

かすみ「マジ!? かすみんもあそこに住みたい!」

しずく「なら、コンテストクイーンにならないとね……あ、ただ、今のコンテストクイーンはことりさんで、ことりさんはウテナシティのポケモンリーグで生活してるから、一般開放されてたはず……」

かすみ「え、じゃあ今がチャンスじゃん!」

しずく「……いや、一般開放って自由に住んでいいってわけじゃないからね? 見学出来るだけだよ」

かすみ「えー……なんだぁ……」


かすみさんは、がっくりと項垂れているけど……歴代のコンテストクイーンが代々利用してきた部屋を見られるのって結構すごいことなんだけどな……。

確か、一般開放に当たっていろいろ展示物もあるらしいし……せっかくだし、後で見に行きたい。

そんなことをぼんやり考えていると──


かすみ「ねぇ、しず子……」


かすみさんが袖を引っ張りながら、小声で話しかけてくる。


しずく「何?」

かすみ「あの人……なんか変じゃない?」

しずく「あの人……?」


かすみさんの視線を追うと──サングラスを掛けて、マスクと深めの帽子に、長めのコートを羽織ったお姉さんの姿。


しずく「変というか……」


一周して、変装しているのがバレバレな気がする。


しずく「有名なコーディネーターさんなのかな……?」


コーディネーターは人によっては人気すぎて、会場に辿り着けずに失格になるなんて事態が発生することがあるらしい。

だから、コンテストクイーンは会場内に居住区を持っているなんて噂さえあるくらいで……。


しずく「たぶん、変装してるんだと思うよ」

かすみ「いや、服装のことじゃなくて……」

しずく「?」


言われてもう一度、彼女に視線を戻すと──


 「…………? …………」


何度も、手元の端末らしきものを確認しては、キョロキョロと辺りを伺い、また確認に戻って、また辺りを見回す。そんな行動を繰り返している。

あの端末……確か、ポケナビだっけ? 地図や通話機能を持っている端末だったはず……。


しずく「もしかして……道に迷ってる……?」

かすみ「そんなわけないでしょ……この島、港からここまで一本しか道なかったよ?」

しずく「確かに……。……ま、まさか……!」

かすみ「まさか……?」

しずく「密売人……とか……!」

かすみ「えぇ!?」

しずく「わざわざ島まで足を運んで、しきりに端末を確認している……いかにもだと思わない……?」

かすみ「い、いや……あんな目立つ場所で確認しなくても……」

しずく「それがカモフラージュなんだよ! 木を隠すなら森の中って言うように、人を隠すなら人の中! むしろ堂々としてる方が見つからないんだって!」

かすみ「じゃあ、なんで変装してるの!? 矛盾してない!?」

しずく「きっと、あのコートの下にいろんな秘密兵器が──」

お姉さん「──貴方たち、ちょっといいかしら?」

しずく・かすみ「「!?」」


気付いたら、怪しいお姉さんが目の前で、ベンチに座っている私たちを見下ろしていた。


しずく「な、ななな、なんですか……!?」


動揺で声が上ずる。ま、まさか今の会話を聞かれていて、私たち、消され……!?


お姉さん「コンテスト会場って……どっちかしら」

しずく「……へ?」

お姉さん「道に迷っちゃったみたいで……」

かすみ「…………」


かすみさんが隣でジト目をしているのが、見なくてもわかった。


しずく「え、えっと……会場ならすぐそこに……」


背後の建物を指差す。


お姉さん「あ、あらやだ……あれだったのね。……ごめんなさい、助かったわ」

しずく「い、いえ……」

お姉さん「貴方たちは観光に来たのかしら?」

しずく「は、はい……コンテストの観覧に」

お姉さん「あら……だったら、この後のウルトラランク、楽しみにしていてね♪」


お姉さんはそう残して、会場の方へ去って行った。


かすみ「…………」

しずく「…………」

かすみ「……で、誰が密売人だって?」

しずく「か、かすみさんだって、迷子はありえないって言ってたでしょ!?」

かすみ「密売人の方がありえないでしょ! しず子の妄想、途中で無理あるって自分で気付かなかったの!?」

しずく「ぅ……ごめん……」

かすみ「……はぁ、しず子ってたまに暴走するよね。そういうとこ、嫌いじゃないけどさ……」


ああ、恥ずかしい……。たまに、自分の中で妄想が膨らみ過ぎちゃうことがある。かすみさんはこうして理解してくれているからいいものの……今は旅の真っ最中だし、もう少し自重しなきゃ……。

それにしても……。


しずく「あの人の声……どこかで聞いたことあるような……」

かすみ「あれ、しず子も?」

しずく「え? かすみさんも?」

かすみ「うん」

しずく「私たちも声を知っているくらいの有名人ってことかな……?」

かすみ「……かも」


──まあ、その真相を知るなら、お姉さんの言っていたとおり、


しずく「……会場、そろそろ行こうか」

かすみ「あ、うん。ゾロア、行くよ」
 「ガゥ」


ウルトラランク大会を見ればわかるってことだよね……?




    💧    💧    💧





司会『──レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


暗い舞台にスポットライトが灯り、眼鏡を掛けた司会のお姉さんの口上と共に、コンテスト大会がスタートした。

この旅で一番楽しみにしていたことの一つが、今目の前で始まったんだと思うと、ドキドキしてくる。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ニャルマー&優理!』


歓声と共に現れるコーディネーターと、そのポケモンのニャルマー。


かすみ「わぁ♪ 見て、しず子! あのニャルマーお洋服着てるよ! 可愛い!」

しずく「コンテストの一次審査はビジュアル審査だからね。ああいう風に着飾るコーディネーターさんが多いんだよ」

かすみ「なるほど……」


司会『エントリーNo.2……キリキザン&イザベラ!』


次に現れたキリキザンは、全身研ぎ澄まされた鋼鉄のボディを輝かせながらの入場。


しずく「あのキリキザン……全身の光沢がすごい。磨き抜かれていますね」

かすみ「確かに綺麗だけど……可愛くはないかなぁ」

しずく「あはは……」


うつくしさコンテストだから、可愛くなくてもいいんだけどね……。


司会『エントリーNo.3……ニンフィア&凪!』


3番目に現れたニンフィアは、ひらひらのドレスを身に纏っての登場だ。


かすみ「かっわいいっ!! しず子!! あのお洋服着たニンフィア、すっごい可愛い!!」

しずく「う、うん、わかったから、あんまり騒ぎすぎないでね……?」


私の希望で、ここに来ているはずなのに、かすみさんの方がテンションが高い気がする。

いや、楽しんでくれているなら、全然構わないんだけど。


司会『エントリーNo.4……キュウコン&果林!』


そして、最後のポケモンとコーディネーターが登壇する──と同時に、一気に歓声が大きくなる。


しずく「……あ」


そして私たちも彼女の姿を一目見ただけで思い出す。


しずく「あの人、さっきの……!」

かすみ「え!? テレビとかでよく見るモデルの……!?」


私たちが先ほど会場の外で出会った人のあの声は、テレビやCMで何度も聞いたことのある声だった。

彼女は──


司会『お、おおーっとぉ!! 割れんばかりの歓声です! さすがカリスマモデル……! ただし、これはポケモンコンテスト! キュウコンのうつくしさを見てあげてくださいね!』


しずく「──カリスマモデルの、果林さん……」


彼女は今やカリスマモデルとして、あちこち引っ張りだこの人気者──果林さんだった。

私が夢見ている、表の舞台に立つ人。もちろん、女優とモデルでは少し違うけど……それでも、人前に立ち、自分を表現する人間。

いや、それだけじゃない、


かすみ「あのキュウコン……きれい……」

しずく「うん……」


着飾られたアクセサリーはワンポイントの帽子だけで──とは言っても、帽子も意匠を凝らした物を被っている──少し寂しいようにも見えるけど……それを感じさせないくらいに、全身のきめ細かい黄金の体毛が光を反射してきらきらと輝いている。

キュウコン自体は何度か見たことがあったけど、今まで見たキュウコンとは毛並みが根本的に違う。

もはや、別のポケモンにすら見えてくる。


しずく「……あの毛並みを殺さないために、必要以上に着飾らないようにしてる……」


着飾ることを生業にしているはずの彼女が、ポケモンを魅せるために、自分が普段行っていることとは逆の手法で、キュウコンの魅力を引き出している。

あの人は恐らく、根本的に“魅せることが何か”を理解している。

その証拠に、


かすみ「…………すごい」


先ほどまで、大はしゃぎで、ニャルマーやニンフィアを可愛い可愛いと褒めちぎっていたかすみさんが、キュウコンの“うつくしさ”に魅了されている。


しずく「──そっか……表現をどう魅せるか考えることに、人も、ポケモンも、関係ないんだ……」


これは果林さんの──プロの世界の表現を見ることが出来るまたとないチャンス。

私はこのステージを、しっかりとこの目に焼き付けなくてはいけない。そう直感した。


司会『さあ、それでは一次審査を開始します! 皆さんお手元にペンライトの準備はよろしいでしょうか──』





    💧    💧    💧





しずく「…………」

かすみ「……なんか、すごかったね」


前方のメインスクリーンに目を向けると──エントリーNo.4のキュウコン&果林の審査メーターだけが飛び抜けていた。

誰もが認める、キュウコンと果林さんの完全勝利。会場全てが彼女たちのうつくしさに魅了されていた。……それはもう、圧倒的だった。

仮にもこの大会はウルトラランクだと言うのに……。


かすみ「なんか、ポケモンからしてレベルが違ったって感じがしたよね……あのキラキラした毛並み、反則級だったかも」

しずく「……うぅん、そうじゃない」

かすみ「え?」


私はずっと、果林さんとキュウコンを観察していた。そのときに、気付いたことがあった。

──あのキュウコンの毛並み、輝きすぎている、と。もちろん、普段からの手入れも最上級に拘っているんだろうけど……。


しずく「私の気のせいじゃなければ……会場の照明の位置から、どこに立てばキュウコンの毛並みが最も綺麗に輝くかを計算しながら演技をしていた……」

かすみ「え、う、うそ……?」


私も自分で演劇で舞台に立つ際に、考えることはある。自分の衣装が最も映える照明の角度。何度も他の演者と調整しながら、一番良い場所を探って行くのだが……コンテストライブの照明は、もちろんコンテスト主催側の裁量でしかない。

その癖を一瞬で見抜いて、自分たちが一番輝ける場所を探り当てていたとでも言うのだろうか。


しずく「それだけじゃない……カメラが自分たちに向いたら、一瞬でカメラに目線を向けていた……キュウコンも、果林さんも……」


一次審査も二次審査もずっと、一瞬たりとも気を抜かず、動く照明、動かない照明、自分たちを捉えるカメラ、それら全てを意識しながら、圧倒的なパフォーマンスをこなす。

そんなことが、本当に可能なのか……? どれだけの研鑽を積めば、あんなことが──


しずく「あれが、プロの世界……カリスマモデル・果林さんたちの表現……」


侮ってはいなかったつもりだ。自分も舞台に立つ一人の表現者として、アーティストとして、戦える物を持っている気がしていた。

でも、それは思い上がりだった。果林さんとキュウコンの演技は……私の表現とは比べ物にならない、遥か遠くに感じるくらいレベルが高かった。


観客1「──今、エントランスホールに果林さん、いるらしいよ!」

観客2「ホントに!? 私、アクセサリー贈りたい!」

観客1「行こう行こう!」

しずく「……!」


どうやら、今なら彼女と話が出来るらしい。


しずく「行かなきゃ……!」

かすみ「あ、しず子!?」


突き動かされるように、私はライブ会場を飛び出した。





    💧    💧    💧





──エントランスホールは、人でごった返していた。

キャーキャーと響く、黄色い歓声──恐らくこの先に、果林さんがいる。


しずく「……と、通して……ください……!」


人込みの中を無理やりかき分けながら、前に進む。

普段なら、こんな強引なことは滅多にしない。でも私は、今あの人と話がしたい。


ファン1「果林さん! わたしのアクセサリー受け取ってください!」

ファン2「ち、ちょっとずるい! 私のアクセサリーを……!」

果林「待って待って、順番に……」

しずく「果林さん……!!」

果林「だから、順番に──あら……? 貴方……さっき、外で」

しずく「……!」


果林さんの視線が私に向く。チャンスだと思った。


果林「さっきは会場を教えてくれてありがとう。お陰で助かったわ」

しずく「あ、あの!!」


自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。


しずく「どうすれば、果林さんみたいなパフォーマンスが出来るようになりますか……!?」

果林「あら……そんなに私のパフォーマンス、よかったって思ってくれたのね」

しずく「はい……! 見ていて、私もあんなパフォーマンが、演技が出来るようになりたいって思って……私……!」


必死に自分の言葉を紡ぐ私に、


女の子「はぁ……貴方、おこがましいですよ」


急に傍にいた、黒髪の女の子がイライラしたような口調で噛み付いてくる。


しずく「え……あ、えっと……」

女の子「果林さんが素晴らしいのは当たり前です。日々、血の滲むようなトレーニングや研究を積み重ねて、この場に臨んでる。そんな果林さんのようになりたい? 簡単に言ってくれますね」

しずく「ご、ごめんなさい……」

果林「こら、ケンカしちゃダメでしょ?」

女の子「で、ですが……」

果林「ダメでしょ?」

女の子「す、すみません……」


果林さんが窘めると、その子は急に大人しくなる。


しずく「あの、ごめんなさい……私……」

果林「ふふ、いいのよ。貴方も私のパフォーマンスに魅了されちゃっただけだものね」

しずく「果林さん……」

果林「憧れてくれて光栄だわ。……そうね、もし私みたいに、なりたいって思うのなら」

しずく「なら……?」

果林「舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみると、いいんじゃないかしら?」

しずく「自分の役割と……その上で最高の自分を演じる……」

果林「役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。チャンスが巡ってきたらそのときは──今、私がこの舞台で一番輝いてるって、胸を張ってパフォーマンスをする……ね?」

しずく「は、はい……!」

女の子「そろそろいいでしょうか?」


気付けば、先ほどの女の子が私を静かに見つめていた。


しずく「す、すみません……!」


確かに、これだけのファンに囲まれている中で、私だけがいっぱい話しかけていたら、不満もあるだろう。

私は、果林さんに一礼してから、その場を撤退しようとしたその背中に、


果林「貴方、名前は?」

しずく「……! し、しずくです!」

果林「しずくちゃんね。覚えておくわ。頑張ってね♪」

しずく「は、はい……!///」


思わぬ激励を貰って、胸がドキドキする。

最後にさっきの女の子から、さらに強い視線を背中に受けた気がするけど……なんだか、どうでもよくなってしまった。

どうにか人込みから抜け出すと、かすみさんがニヤニヤしていた。


かすみ「一発目から、推しに認知されるなんて……しず子、やるじゃん」

しずく「認知って……そういうんじゃ……///」

かすみ「よかったね、しず子♪」

しずく「……うん///」

かすみ「あと、さっきの子……あんまり気にしなくてもいいと思うよ」

しずく「え?」

かすみ「しず子を待ってる間に周りのファンの子に聞いたんだけど……あの人、果林先輩が無名だった時代からのファンらしいよ。いわゆる古参ファンってやつ」

しずく「そうなんだ……」


言われてみれば、果林さんも少し砕けた感じに接していた気がする。

確かに、昔からのファンからしたら、新たに現れた人が急に「果林さんみたいになりたい」なんて言い出したら生意気だと思われても仕方ないか……。


かすみ「もういいの?」

しずく「うん……聞きたいことは聞けたから。それに、ずっとこの人込みの中にいるの大変だったでしょ? 待たせてごめんね、かすみさん」

かすみ「うぅん、全然大丈夫だよ。じゃあ、行こっか」


私はかすみさんに手を引かれて、人込みを縫うようにして、会場を後にする。


しずく「──自分を……演じる」


さっき貰った言葉を何度も反芻しながら──




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     ●  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.9 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.9 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.9 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.12 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:4匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter011 『フソウエレクトリカルパニック』 【SIDE Shizuku】





かすみ「しず子、この後はどうする?」


コンテストの観覧も終わり、ひとまず私の目的は達成されたことになる。

今のところ、次の目的みたいなものは特別設定していないけど……。


しずく「とりあえず、今日泊まる場所を探しちゃった方がいいかなって思うんだけど……」

かすみ「あー……確かにそれもそっか」


ただ、かすみさんはチラチラと出店の方に視線を送っている。


しずく「まだ出店を見たいなら、かすみさんは見ていてもいいよ。ホテルは私が探しておくから」

かすみ「え、いいの!?」

しずく「うん。コンテストには付き合ってもらったし、フソウに来たかったのは私の都合だから、宿泊先を探すくらいはしなくちゃ」

かすみ「じゃ、お言葉に甘えて……行くよ、ゾロア!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「あんまり、お金使すぎないようにね~」


かすみさんを見送り、私はホテルを探すために、ポケモン図鑑を開く。


しずく「……あれ?」


しかし、何故かマップアプリを開いてもなかなか地図が表示されない。しばらくして、通信エラーと出てしまった。


しずく「電波の調子が悪いのかな……?」


仕方ないと思い、近くのマップを表示している電光掲示板を探す。

ここは中央広場だし、探せばあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回すと──予想通り、電光掲示板はすぐに見つかった。

近寄って、近くのホテルの位置を確認しようとする。


しずく「……?」


……確かに、地図は表示されている。問題はないと言えばないのだが……。


しずく「何か……表示がおかしいような……?」


建物の名前の表示が、文字化けしていて読むことが出来ない状態になっていた。


しずく「故障かな……?」


少し悩んだものの、フソウ島は観光地な上、大きな島ではないし、時間帯的にはまだ日中だ。

無理に地図を使わなくても、ホテルを見つけることは出来るだろうと思い、足で探すことにする。


しずく「良いお散歩にもなるしね。マネネ、ココガラ、出ておいで」
 「マネッ!!」「ピピピピィ」


ついでに、みんなと一緒にお散歩しようと、マネネとココガラも外に出してあげる。


しずく「みんな、お散歩しながら、今日泊まるホテルを探そう」
 「マネ!!」「ピピピィッ」


元気に鳴く2匹。そして、すでにボールから出て私の肩に乗っていたメッソンが──スゥッと姿を現して、


 「メソッ」


ぴょんと跳ねて、地面に降りた。


しずく「メッソンもお散歩する?」
 「メソ」


メッソンはコクンと頷いて、とてとてと歩き出す。


 「マネ、マネネ♪」「メッソ」「ピピピィ♪」


やっと外や仲間たちにも慣れてきてくれたのかもしれない。


しずく「ふふ♪」


私は微笑ましく思いながら、みんなと散歩をし始めた。





    👑    👑    👑





かすみ「……むー」


破れたポイを見つめて唸る。


かすみ「おじさん、この『トサキントすくい』、ホントにすくえるんですかぁ……? インチキとかしてないですよね……?」

おじさん「ははは、残念だったね嬢ちゃん。でも、ずるとかはしてないよ」

かすみ「ホントですかぁ……?」

おじさん「カントー地方には名人がいるらしくてね、それと同じポイで全部すくっちまうらしいよ」

かすみ「へー……」


世の中すごい人がいるんですね……。


かすみ「まあ、いいです。気を取り直して、次の屋台に行きましょう!」
 「キャモ」「ガゥ」「ザグマァ」


ポケモンたちを従えて屋台を回る。フソウの大通りの屋台は、食べ物屋さんだけじゃなくて、縁日みたいな遊びもたくさんあって、お祭り気分に浸れます。

何を隠そう、かすみんお祭りは大好きですからね! セキレイでも、年に一度6番道路の河原で花火大会があって、そこの縁日でたくさん遊んだ記憶があります。


屋台のおじさん「そこの可愛いお嬢ちゃん、『アーボわなげ』やっていかないかい?」

かすみ「えぇ~? 可愛いって、もしかしてかすみんのことですかぁ~? どうしよっかなぁ~♪」


それに屋台のおじさんは、かすみんのこと、たくさん可愛いって言ってくれるから好きです♡

でも、『アーボわなげ』かぁ……。ぴょこぴょこ出てくるディグタに向かって、輪になったアーボを投げるゲームですよね。

歩夢先輩が好きそうだけど……かすみん的にはちょっと疲れちゃいそうだからなぁ……。


かすみ「ごめんなさい、今はちょっと他のを見て回りたいんで~」

屋台のおじさん「そうかい、また気が向いたら来てくれよお嬢ちゃん!」

かすみ「は~い♪」


おじさんに手をふりふりしながら、『アーボわなげ』の屋台を通り過ぎる。

なんだかこうしていると、人気者になったみたいで気分がいいですね!

賑わう縁日は歩いているだけで楽しい気分になってくる。そんな中、かすみんの目を引くものが一つ……。


かすみ「わ、きれい~……!」

屋台のおばさん「あら、お嬢ちゃん、こういうの好きかい?」

かすみ「なんですか、この宝石みたいな枝は……」

屋台のおばさん「これは、サニーゴの角だよ」

かすみ「サニーゴ? サニーゴって、さんごポケモンのサニーゴですか?」

屋台のおばさん「そうだよ。綺麗な水の養分を取り込んだサニーゴの角は、太陽の光を浴びると宝石のように七色に光るんだ」

かすみ「へぇ~……」

屋台のおばさん「場所によっては、安産祈願のお守りとしても有名だね」


安産祈願ですか……さすがにかすみん、赤ちゃんが出来る予定は当分ないですが……。

綺麗だし、そういうの抜きでもちょっと欲しいかも。


かすみ「でも、サニーゴたち、角を折られちゃうの、可哀想じゃないですか……?」

屋台のおばさん「サニーゴの角は簡単に折れるけど、3日もするとすぐ元に戻るんだよ。もちろん、取り過ぎないように制限はあるけどね」

かすみ「3日で元に戻るんですか!」

屋台のおばさん「そうだよ。それに、ここフソウからホシゾラを繋ぐ13番水道は有名なサニーゴの群生地だからね。しかも、他の地方と違って、ここは水色をした色違いのサニーゴも多いんだよ」


確かに言われてみれば、サニーゴの角はピンクのものと、水色のものが並んでいる。水色のやつは色違いなんですね。

せっかくだし、1本買っちゃおうかな、とも思ったけど……。


かすみ「そういえばおばさん、ここはサニーゴがたくさん生息してるって言ってましたよね?」

屋台のおばさん「そうだね。海の方に行けばたくさんいるよ」

かすみ「その野生のサニーゴって、バトルして捕まえちゃってもいいんですか?」

屋台のおばさん「野生のポケモンだからね、問題ないはずだよ。乱獲みたいなやり方をすると、よくないだろうけどね」


普通に捕まえる分には、よしってことですね……!


かすみ「みんな!」
 「キャモ?」「ガゥ」「ザグマァ」

かすみ「サニーゴ! 捕まえに行くよ!」
 「キャモ」「ガゥガゥ♪」「グマァ~」


せっかくなら、自分の手で捕まえてみたいじゃないですか! かすみん、次の目的が決まりました! サニーゴゲット大作戦です!


屋台のおばさん「捕まえに行くのかい? お嬢ちゃん、“ダイビング”出来そうなポケモンは持ってなさそうだね」

かすみ「はい、みずポケモンは持ってなくて……。……もしかして、潜らないとダメ系ですか……!?」

屋台のおばさん「いや、サニーゴは“つりざお”でも釣り上げることが出来るよ」

かすみ「ホントですか!?」

屋台のおばさん「あっちに釣り道具のショップがあるから、行ってごらん」

かすみ「ありがとうございます~!」


かすみん、意気揚々と釣り道具ショップへと向かいます♪




    👑    👑    👑





かすみ「……高い」


釣り道具のショップに来ましたが……“つりざお”って思った以上に値が張るんですね。

かすみん、結構屋台でおこづかい使っちゃったし……ちょっと足りない。


かすみ「……無念です」
 「キャモ」「ガゥゥ…」「ザグマァ?」


かすみんが肩を落として、店から出ると──


おじさん「おやぁ、お嬢ちゃん、もしかして釣り道具を買いに来たのかな?」


おじさんに話しかけられる。今日のかすみん、おじさんにモテモテですね。


かすみ「はい。でも、高くてちょっと買えそうになくて……サニーゴ釣りたかったんだけどなぁ」

おじさん「そうか、確かにそりゃ残念だったな……。でも、お嬢ちゃん、ラッキーだったね」

かすみ「へ?」

おじさん「実はおじさんも釣り道具を売る商売をしていてね」

かすみ「は、はぁ……」

おじさん「“つりざお”、安く売ってあげようか?」

かすみ「……安くって、どれくらいですか?」

おじさん「そうだなぁ……お嬢ちゃん、可愛いからサービスして……500円でどうだい?」

かすみ「ご、500円!? え、そこのお店の何分の一ですか、それ!?」

おじさん「どうだい、買うかい?」

かすみ「買います!! ください!!」

おじさん「毎度あり♪」


やっぱり、かすみんには幸運の女神でも憑いているんでしょうか……!

サニーゴゲット作戦、これで実行できそうです……!!





    👑    👑    👑





──フソウ港。


かすみ「よし、やりますよ!」
 「キャモ」「ガゥガゥ」「ザグマァ」


無事、“つりざお”を入手したかすみんは早速、港の釣りが出来る場所までやってきました。


かすみ「さぁ、行きます!」


善は急げです。かすみん、“つりざお”を振り被って、水面にキャストします。

──ちゃぽん。針が水中に潜り、浮きが水面にぷかぷかと浮かぶ。


かすみ「釣りは忍耐らしいです! 頑張るぞ~!」
 「ガゥガゥ♪」「キャモ」「ザグマ」


これから腰を据えて待つぞ、と思った矢先でした。

急に手元が海の方に引かれる。


かすみ「!? 早速ヒット!?」


もしかして、かすみん釣りの才能あるんじゃ!?

せっかくかかった獲物を逃がさないように、“つりざお”を引き上げます。


かすみ「ん~~~~!! やぁ!!」


思いっきり引っ張ると、水の中からポケモンが釣り上げられてきました──


かすみ「来た!! サニーゴ!?」

 「──コ、コココココ」

かすみ「……」


陸に釣り上げられたポケモンがびちびちと跳ねています。このポケモンって……。


かすみ「コイキング……」

 「コ、コココ、ココココ」


せっかく釣り上げたので、バトルして捕まえるか、少し悩みましたが……。


かすみ「かすみんの狙いはあくまで、サニーゴです。逃がしてあげましょう」

 「コ、ココココ」


コイキングを持ち上げて、そのまま海に放流する。


かすみ「……でも、すぐに釣れたのは幸先良しです! 次こそ釣りますよ、サニーゴ! ……やぁ!!」


サニーゴが釣れるまで、いくらでもかすみん頑張りますからね!!

気合いと共に、再び海に向かってキャストするのでした。





    💧    💧    💧





──あの後、ホテルを探すこと30分ほど、のんびり歩きながら散歩をしている。

ただ、ホテルが密集している地区は北の港から、中央のコンテスト会場を挟んで反対側だったらしく、地図がない今結構な遠回りをしてしまった。


しずく「この辺りがホテルがある地区かな?」
 「メソ…」

しずく「ごめんね、メッソン。疲れた? 肩に乗っていいよ」
 「メソ…」


足元に寄ってきたメッソンを肩に乗せてあげる。


しずく「よしよし」
 「メソ…」


メッソンは私の肩に乗ると、スゥッと姿を消してしまった。さすがにあの小さい足でずっと歩き続けていたから、疲れたのだろう。


 「マネ…!!」
しずく「マネネは真似して登らないの……」

 「ピピピィ…」
しずく「ココガラまで……」


ココガラが私の頭の上でリラックスし始めた……。マネネもよじ登ってきたし、3匹に乗られるとさすがにちょっと重い……。


 「マネマネ」
しずく「って、マネネ……どうして、バッグに入るの?」



よじ登る最中、マネネが私のバッグに頭を突っ込み始めて、何かと思ったけど、


 「マネ!!」
しずく「……あ、“もりのヨウカン”」


どうやらおやつが食べたかったらしい。勝手にバッグから見つけて、封を開けだす。


しずく「めっ! かすみさんみたいなことしちゃダメでしょ?」
 「マネェ…」


叱りながら、“もりのヨウカン”を没収する。


しずく「食べるなら、みんなで分けようね」


手で3分の1ずつに分けて、その一欠片をマネネにあげると、


 「マネ♪」


マネネは嬉しそうに鳴き声をあげながら、ヨウカンを食べ始めた。


しずく「ココガラ」
 「ピピピィ♪」


頭に乗っているココガラにも、一欠片与え、


しずく「メッソンも、お食べ」


肩の近くに最後の欠片を持っていくと、メッソンがスゥッと現れて、


 「メソ…♪」


ヨウカンを受け取って、もしゃもしゃと少しずつ食べ始める。


 「マネ!!」
しずく「マネネ、もう食べちゃったの……? もうないよ」

 「マネ…!?」


もうないと伝えると、マネネは辺りをキョロキョロしはじめる。いくら見回したところで、もうないものはないんだけど……。

そんなマネネの様子を見て、盗られると思ったのか、


 「メソ…」


メッソンはヨウカンを食べながら──スゥッと透明になって消えてしまった。

騒がしい手持ちたちに思わず肩を竦める。

……というか、みんなくつろいでいるけど、私も結構歩いているので、そこそこ疲れているんだけど……。


しずく「私も飲み物でも買って、少し休憩でもしようかな……」


近くに自動販売機とかないかな……。


しずく「あっ……ありました」


少し見回すと、すぐに見つけることが出来た。

お金を投入して、ボタンを押そうとして──ボタンが点灯していないことに気付く。


しずく「あ、あれ……これも故障……?」


随分あちこちでいろんな機械が故障している気がする。

“サイコソーダ”が飲みたかったんだけど……ボタンは点灯していないが、一縷の望みに賭けてボタンを押すと──


 「コッチがオススメだヨ」


という機械音声と共に──“モーモーミルク”が排出された。


しずく「勝手に決められた……? なんですか、この自動販売機……?」


さすがに、これは納得が行かない。自動販売機の管理会社の情報とか、どこかに書いてないかな……。

連絡先を探すため、中腰になって自動販売機の表面をじーっと見ていると──


 「ナニジロジロみてるンだ」


中腰になっていた私の顔に──ゴン!


しずく「いったぁ!?」


取り出し口から、ジュース缶が飛び出してきて直撃した。

びっくりして、そのまま尻餅をつく。


 「マ、マネ…!?」
しずく「本当になんなんですか、この自販機!?」


思わずジュース缶の直撃を食らった鼻を押さえてしまう。コロコロと転がっている、私の顔面に攻撃を食らわせた缶ジュースを見ると、“サイコソーダ”と書かれていた。

……当初の予定のものが出て来ていた。


 「ヨカッたネ」

しずく「よくないです!!」


思わず、自販機を睨めつける。

かすみさんのような反応をしてしまっている気がしなくもないけど、さすがに一方的に暴力を浴びせられて、黙っているのも何か違う気がする。

ただ、この自動販売機、とにかく人を追い払いたいのか、


 「アッチいケ」


再びジュース缶を飛ばしてきた。


しずく「マネネ! “ねんりき”!」
 「マネ!!」


それを、“ねんりき”によって、空中で静止させる。


しずく「今度は“ミックスオレ”……」

 「アッチいケ」

しずく「…………」

 「アッチいケ」


どうしても、この自動販売機は向こうに行って欲しいらしい。


しずく「……わかりました、もう構いません。ただ、管理会社に電話して、撤去してもらわないと」

 「ムダなコトヲ」


ポケギアを取り出して、画面を見る。あることに気付いたけど、そのまま先ほど見た番号をプッシュして、耳に当てる。


しずく「……もしもし。すみません、フソウ島にある自販機のことでお電話を差し上げたんですが……」

 「!? “かいでんぱ”の影響でポケギアは使えないはずロト!!?」

しずく「ロト……?」

 「あ、いや…ナゼポケギアがつかエる」


ロト……。そういえば、ガラル地方では、そんな語尾で喋る機械があったことを思い出す。

つまり、これは──


しずく「マネネ、あの技使える?」
 「マネ」


小声でマネネにとっておきの技を指示して、再び自販機を睨めつける。


 「ダカラ、アッチにイけ」


──パカっと取り出し口が開いたが、


 「ロ、ロト!? ジュースが飛んでかないロト!!?」

しずく「やっぱり、貴方ポケモンですね」

 「ギク!! ワれはドウミテもジハンキ」

しずく「今更、嘘吐いても無駄ですよ。貴方が飛ばしていたものは実質“どうぐ”扱いされるものなので、マネネの使った“マジックルーム”により、使えなくなりました」

 「ロト!!?」


“マジックルーム”は一定時間、使用者の周囲での“どうぐ”を使用できなくする技だ。


しずく「あと、ついでに教えてあげます。さっきポケギアで通話していたのは演技です」

 「ロトト!!?」

しずく「画面を見た時点で、画面表示がおかしくなっていたので、一芝居打たせていただきました。動揺して、まんまと尻尾を出しましたね。貴方、ロトムですよね?」

 「ひ、卑怯者ロト!!!」

しずく「それはこっちの台詞です! 自販機に化けて、しょうもないイタズラをしている貴方の方がよほど卑怯者です!」

 「ロト…!!? よくも侮辱してくれたロトね…でも、ここから出なければ関係ないロト。どうせ、お前は何も出来ないロト」

しずく「やっぱり、卑怯者じゃないですか……」

 「なんとでも言えロト、そこで指でも咥えてればいいロト」


確かに、自販機に入ったままじゃ、手の出しようがない。でも、それなら──引き摺りだせばいいだけのこと。


 「ボクの完全勝利ロト」

しずく「そうですか? 踊りたくなってきませんか?」

 「ロト? 何言って…な、なん…!? ボクの体が勝手に…!? お前、何したロト!!!?」

 「マネ、マネ~~♪」
しずく「さぁ、一緒に踊りなさい! “フラフラダンス”!」


マネネが私の肩から飛び降りて、不思議なステップを踏み始めると、自販機の中のロトムもそれに釣られて動き出す。“フラフラダンス”は強制的に自分の周りのポケモンも一緒に踊らせて“こんらん”させる範囲技。

自販機の中に隠れていようが、相手がポケモンであるなら効果がないわけがない……!


 「ちょ、と、止め──」


直後──スポーーン! と自販機からロトムが飛び出してくる。


 「ロ、ロトーーー!!!?」

しずく「マネネ!! “サイケこうせん”!!」
 「マーーネェ!!!!」


マネネから飛び出す、七色の光線が一直線にロトムを捉える。

技が決まった──と思った瞬間。

“サイケこうせん”を押し返すように黒い球体が飛んできて──


 「マネッ!!!?」
しずく「なっ!?」


“サイケこうせん”に完全に撃ち勝ち、そのままマネネを吹き飛ばす。


しずく「今の、“シャドーボール”!?」


ロトムは今、“こんらん”しているはずなのに……!?

慌てて、ロトムに視線を戻すと、


 「ロト、ロトトト??」


確かにロトムは“こんらん”しているのかおかしな挙動で飛んでいる。

偶然と思ったが、その直後──ピュン! と光線が飛んできて、私のすぐ頭上を掠めた。

私の頭上を掠めたということは──


 「ピ、ピピピィ~~~!!?」


私の頭の上に乗っていたココガラを、撃ち抜かれたということ。


しずく「ココガラ……!!」
 「ピ、ピピィ~~……」


今のは“チャージビーム”……!?

どうして!? ロトムは“こんらん”しているはずなのに、こんな正確に攻撃を……!?

驚く私を次に襲ったのは──バチン! という音と共に、手に痛みが走る。


しずく「いった……!」


思わず手に握っていたポケギアを落としてしまう。


しずく「ポケギアがショートした……っ……!?」


火花を散らせ、アスファルトの上を跳ねるポケギアから、急に、


 「よくもやってくれたロトね…」


音声が響く。


しずく「な……」

 「お陰でフラフラするロト」


気付けばさっきまで、そこで浮いていたロトムがいない。

恐らくあの一瞬の隙に、私のポケギアを乗っ取ったんだ。


しずく「“こんらん”しながら、そんな判断……」

 「お前のミスはボクの強さを侮ったことロト。場数が違うロト」

しずく「場数……?」

 「ボクはこれでも、歴戦のポケモンロト。ちょっと“こんらん”して頭がフラフラしても、止まってるポケモンくらい、勘で攻撃出来るロト」

しずく「……!」


苦し紛れの言い訳のようにも聞こえるけど──その言葉からは、強者の持つ特有の圧のようなものを感じた。

ふざけたポケモンだけど……このロトム、本当に強い……!


 「お仕置きロト」


ロトムの言葉と共に──フワリと、私の周囲に落ちていた飲み物たちが浮遊する。


しずく「“ポルターガイスト”……っ!?」


逃げなくちゃと思い、戦闘不能にされたマネネとココガラを急いでボールに戻して、駆けだそうとしたが──足元に“モーモーミルク”の瓶が転がりこんで来て、


しずく「あっ!?」


瓶を踏んづけて、私はそのまま尻餅をつかされる。


しずく「いった……っ」


尻餅をついたことに驚く間もなく、今度は周囲に浮遊していた、“サイコソーダ”と“ミックスオレ”の缶の天井部がスパッと切れて吹き飛び──バシャァッとひっくり返したコップのように、中身が私の頭に掛かる。


しずく「…………」


“サイコソーダ”と“ミックスオレ”でずぶ濡れになった私を見て、


 「いい気味ロト~♪」


ロトムは機嫌良さそうに笑う。

完全に遊ばれてる……。“ポルターガイスト”は“マジックルーム”では無効化出来ないし、これ以上ロトムの動きを制限出来ない。


 「もうお前は手持ちも残ってないロト♪ さぁ、次は何をしてやるか、ロトトトト♪」

しずく「……! ……貴方みたいなポケモン、野放しにするわけに行きません……」

 「ロト? じゃあ、どうするロト??」


嘲笑するように声をあげるロトムの入ったポケギアに向かって──人差し指と中指を前に、親指を立てて、手で銃を作るようなジェスチャーをする。


 「何のつもりロト?」

しずく「……貴方が実は歴戦のロトムだったように、私も隠してたことがあるんですよ……」

 「ロト?」

しずく「私、実は……エスパー少女なんです」

 「ロトト!! それは傑作ロト!! じゃあ、その指の先からエネルギー弾でも撃ってみればいいロト!!!」

しずく「……」

 「ほら、動かないから狙ってみろロト!!!」


指先の銃口を……しっかり、ポケギアに向けて──


しずく「……今っ!!」


私の声と共に──勢いよく飛び出した“みずでっぽう”が、ポケギアを貫いた。


 「んなぁロト!!!? ホ、ホントにエスパーだったロト!!?」


驚くロトム、


 「だ、脱出ロト…!!」


ポケギアから逃げるつもりだ……! させない……!


しずく「“なみだめ”!!」
 「メェェェェ……ッ!!」


──スゥッと姿を現したメッソンが目から大量の水を放出し、ポケギアごと“みずびたし”にする。


 「ロ、ロトガボボボボ」


ロトムの体は電気で出来ている。だからこそ、電子機器を乗っ取ることが出来るし、空気中に飛び出せば目にも留まらぬスピードで動き回るけど……!


しずく「電気の体じゃ、水中に閉じ込められたら、逆に脱出できないですよね……!」

 「ロトボボボボボ!!!?」


滝のように、メッソンが水を浴びせかけている場所に──先ほど先端を切り裂かれて、コップ状になっている、ミックスオレの缶を引っ手繰るように掴んでロトムの上から──ガン!! と音を立てながら思いっきり覆いかぶせた。


しずく「はぁ……はぁ……!」
 「メソ…」


水自体は電気を激しく通すが、水の中から、電気が空気中に逃げていくのは伝導率があまりに違い過ぎて、簡単に行かないはずだ。

溜まった水に沈められたら、全身電気で出来ているロトムにとっては、檻も同然になる。


 「ロド、ロドドドドド!!?!?」

しずく「苦しいでしょう……? メッソンの涙は、タマネギ100個分の催涙成分を持っていますからね……! 近くにいるだけで、涙が止まらなくなる水に閉じ込められたら、どんなに強くても無事ではいられないはずです……!」


後は缶を押さえながら、ロトムが諦めるのを待つだけだ。

私は自分の体重を乗せて、上から缶を押さえつける。

その際、一瞬──


しずく「──……っ゛……!?」


全身を電撃が走るような衝撃があったけど、手は離さない。外になんか絶対逃がさない。そんな強い意思で、缶を押さえ続けていたら──10秒もかからずに、ロトムは大人しくなった。


しずく「……か、勝った……」
 「メソ…」


私が安心してへたり込むと、メッソンが泣きそうな顔で寄り添ってくる。


しずく「……ありがとう、メッソン……。メッソンがずっと、透明になって姿を消していたから、ロトムが勝手に私にはもう手持ちがいないって勘違いしてくれたよ……」
 「メソ…」


正直かなりギリギリの戦いだった。恐らく全身超強力な催涙液に浸からされて、気絶しているだろうけど……。


しずく「ボールに入れるために、水中から出すのも危険だよね……」


私はバッグの中から、ゴム手袋を取り出す。出来るだけ水を零さないように、素早く缶を上向きに戻した後、ロトムが潜んでいる壊れたポケギアごと、ゴム手袋の中に流し込んで口を結ぶ。


しずく「このまま、ポケモンセンターに連れていこう……」
 「メソ…」


お陰で、手持ちもメッソン以外、戦闘不能になってしまったし……。

念のため、もう片方のゴム手袋も使って、二重に縛ったのち、私は歩き出す。


しずく「そういえば……」
 「メソ…」

しずく「どうして、メッソンは“こんらん”していなかったんだろう……?」


ロトムに追い詰められた際、姿を隠したメッソンが私の手の方に移動してくる感覚があったから、エスパー少女の芝居を打ったわけだけど……。

“フラフラダンス”はその場にいる全てのポケモンを“こんらん”させる技だ。

すぐ戦闘不能にさせられたココガラもだが……メッソンも例外ではなかったはず。

そんな私の疑問に答えるように、


 「メソ…」


メッソンは小さな黒い欠片を、丸まった尻尾の中から取り出す。


しずく「それ、もしかして……“もりのヨウカン”の欠片?」


そこでふと思い出す。“もりのヨウカン”をポケモンが食べたときの効果って、確か──


しずく「ポケモンの状態異常を回復する効果……」
 「メソ…」

しずく「そっか、マネネに盗られると思って、少しずつ食べてたんだね」
 「メソ…」

しずく「ありがとう、メッソンの機転のお陰で助かったよ」
 「メソ…」


普段は臆病で内気だけど、実は勇敢で賢い相棒を労いながら、私はポケモンセンターへの道を急ぐのだった。





    💧    💧    💧





しずく「──モンスターボールに入れられない……?」

ジョーイ「はい……。このロトム、すでに誰かの捕獲済みのポケモンのようでして……」


ポケモンセンターに着いた私がジョーイさんに言われたのは、ロトムをモンスターボールで捕まえることが出来ないという内容だった。

暴れていたロトムを捕まえたということで、急いでモンスターボールに入れられないかの相談をしているところだったこともあって、それが出来ないと言われて少し動揺してしまう。


しずく「誰かが逃がしたポケモンということですか……?」

ジョーイ「いえ……もし、“おや”の意思で逃がしたポケモンであれば、再度の捕獲が可能なので……。逃げ出したポケモンと考えた方がいいかと……」

しずく「逃げ出したポケモン……」


考えてみれば、あんなに強いロトムが野生にいるとは思えない。……というか、町中に野生でいるとは考えたくない。

それなら、どこかから逃げ出してきたと考える方が納得の行く話だ。


ジョーイ「一応ポケモンセンターでなら、一時的に他のボールに移動する方法がありますが……どうされますか?」


ポケモンセンターではモンスターボールが破損した際に、新しいボールへポケモンを移す手続きなどが出来る。その延長線のようなことなのだろう。

人のポケモンに勝手にそんなことをしていいのかとも思うものの……どちらにしろ、このままこのイタズラロトムを野放しにしておくわけにもいかない。


しずく「わかりました。お願いできますか?」

ジョーイ「承知しました。では、新しいボールに移動しますね」

しずく「はい」





    💧    💧    💧





しずく「さて……どうしましょう」
 「メソ…」


ポケモンセンターのレスト用の席に腰掛けながら、ロトムの入ったモンスターボールと睨めっこをしている。

一応、ボールには入れたものの──ボムッ!


 「ロト? ロト!! ロト、ロトトト!!!!」

しずく「ボールに入れたくらいでは、勝手に出てきますよね……」

 「ロト!!! ロトロトロトトト!!!」

しずく「特殊な捕獲用の檻に入れてもらっていますから、出られないですよ」

 「ロト!? ロトトト!!!!」


先ほどまで暴れていたことは伝えてあったので、いざというときのために、用意してもらった物だ。

暴れる電気ポケモンの治療や鎮静の際に用いる特殊な檻らしく、電気を弾く特殊なコーティングと、檻の格子一本一本から、特殊な磁場を発生させることによって、一切の電撃攻撃をカット出来るとのこと。

体が電気で出来ているロトムでは、隙間から脱出することも出来ない。

さすが、ポケモンのための専用医療施設なだけあって、対ポケモン用の道具は豊富に揃っているらしい。


 「ロトーーー!!! ロトトーーーー!!!!」

しずく「暴れないでください。これ以上、暴れるなら……」
 「メソ…」


メッソンがスゥッと姿を現して、目に涙を溜め始める、


 「ロトッ!!?」


それを見たロトムは、ビクッとしたあと、大人しくなる。

メッソンの涙で溺れたのが、相当トラウマになっているのだろう。


しずく「さて、行きますよ。ボールに戻ってください」


私は檻ごと持ち上げる。


 「ロ、ロトッ!!?」

しずく「当分は檻から出しません。ボールでしばらく大人しく出来たら、考えてあげます」

 「ロ、ロト、ロト、ロトトトトト!!!!」

しずく「なんですか?」

 「ロト…ロトォ…」


ロトムは力なく、チカチカと点滅する。

……多少、気の毒ではありますね。


しずく「……はぁ、絶対に暴れないって約束できますか?」

 「! ロト! ロト!!」

しずく「……わかりました」


私は頷いて、ポケットから図鑑を取り出す。


 「ロト…?」

しずく「檻の中に図鑑を入れるのでこれに入ってください。ただし、壊したりしたら、本当に許しませんからね?」
 「メソ…」


ポケギアは先ほどの戦闘で完全に使えなくなってしまったし、ポケモン図鑑まで壊されたら本当に堪ったものではない。図鑑がなくなってしまっては、博士も困るでしょうし……。

私が格子の隙間から、図鑑を差し入れると──


 「ロ、ロト…」


ロトムは少し迷っていましたが──結局、観念したのか、図鑑へと侵入を試み始める。


 「ロ、ロト…」

しずく「こんにちは、ロトムさん」

 「こ、こんにちはロト…あの…」

しずく「なんですか?」

 「こ、ここから出してもらえないでしょうかロト…」

しずく「出してもらえると思いますか?」

 「ロト…」

しずく「ボールに戻って、今後絶対に自分からボールの外に出ないと誓えるなら、考えてあげるのですが……」

 「も、もちろんロト!! 勝手に外に出ないと約束するロト!!!」

しずく「もちろん、信用出来ないので、当分はこの檻のまま運ぶことになるでしょうね」

 「ロ、ロトォ!!? 酷いロト!! お前、人でなしロト!!!」

しずく「メッソン、まだ涙出そう?」
 「メソ…」

 「ヒィィィィィ!!!! 嘘ですごめんなさいロト!!! 許してロト!!!」

しずく「はぁ……。あと、私は“お前”ではありません。“しずく”という立派な名前があります」

 「し、しずく…様」

しずく「様付けはしなくていいです」

 「しずく……ちゃん」

しずく「まあ、それでいいでしょう……」


とりあえず、ホテルを探すのがまだ途中だ。いつまでもポケモンセンターに居たら日が暮れてしまう。

私は、先ほどの宣言通り、ロトムの入った檻ごと持ち上げて、ホテルのある地区へと移動を開始する。


 「だ、出せ…じゃなくて、出して頂けないでしょうかロト…」


檻はかなり小さいサイズで重量もそこまでないため、多少荷物になる程度だからいいが……いかんせん、喧しい。

ロトムの主張を無視しながら歩く中、ふと先ほどジョーイさんが言っていたことを思い出す。

せっかく喋れるんだし、本人──というか、本ポケモンに聞いてみることにする。


しずく「ロトム、貴方脱走ポケモンなんですよね?」

 「…ギクッ!! ち、違うロト…」

しずく「今ギクッって言いましたよね……」


今日日、図星を言い当てられて本当に「ギクッ」なんて言う人……どころか、ポケモンに出会うとは……。

……いや、かすみさんは言うかも。


しずく「それで、どこから逃げてきたんですか?」

 「も、もしかして、ボクを“おや”に返すロト…?」

しずく「当たり前ではありませんか……ポケモンセンターにいつまでも預けておくわけにもいかない、逃がすわけにもいかないとなったら、持ち主に返す以外ないでしょう」

 「ま、ままま、待って欲しいロト!!! ボクをしずくちゃんの手持ちに加えて欲しいロト!!!」

しずく「……すごく嫌なんですが」

 「ボク強いロト!!! 絶対戦力になるロト!!! だから、お願いロト!!!」


確かに強いのは嫌というほど知っているけど……。


 「も、もし、このままあの“おや”のもとに帰ったら…か、確実に殺されるロト…」

しずく「殺されるって……そんな酷いトレーナーだったんですか?」

 「それはもう…普段から、ご飯もロクにくれなくて…泣く泣く脱走して、自販機で電気を食べていたところだったロト…」

しずく「それは、まあ……大変かもしれませんね」

 「もし、しずくちゃんの手持ちに入れてくれるなら、しばらくは檻の中でも我慢するロト!!! お願いだから、“おや”探しは止めて欲しいロト!!!」


先ほどまでの要求を覆している辺り、“おや”のもとに帰りたくないというのはどうやら本当らしい。

私は、少し悩んだものの、


しずく「……わかりました。とりあえず、今は“おや”を探すのは止めておきましょう」


とりあえず、ロトムの要求を呑むことにする。


 「ホ、ホントロト!?」

しずく「その代わり、当分檻の中になりますけど、それでもいいんですか?」

 「…や、やむを得ないロト…。ただ、ご飯だけはくださいロト…」

しずく「ふむ……」


私は、しおらしいロトムの態度を見て──ガチャリ、


 「ロ、ロト…?」

しずく「檻から出ていいですよ」


檻の鍵を開けてあげる。


 「い、いいロトか…?」

しずく「ただし、当分は図鑑から出ないでください」

 「ロト…?」

しずく「ポケモン図鑑から少しでも外に出たら、“おや”を探してもらうよう、はぐれポケモンとして届け出を出しますからね。それくらいの条件は呑めますよね?」

 「わ、わかったロト…」


ポケモン図鑑は戦闘用のフォルムではないから、自由に飛び回られるより制御もしやすいだろうし。


 「そ、それで、本当に“おや”は探さないでくれるロト…?」

しずく「はい」


私は頷く。……積極的に“おや”に返すように働きかけるつもりはない程度だけど……。

もし、旅の途中で見つかるようなら、引き渡すつもりだ。

このまま、制御の効かないロトムを檻に閉じ込めたまま一緒に旅するより、とりあえず表面上の要求を呑んで、言うことを聞いてもらう方がいいと判断したという話でしかないが。


 「ありがとうロト!! それじゃ、しずくちゃん、これからよろしくロト!!」

しずく「はい、よろしくお願いします。それでは、早速図鑑のマップ機能でホテルを探してもらえますか?」

 「え…ボクがやるロト?」

しずく「もちろんですよ。貴方は今、私のポケモン図鑑なんですから。まあ、嫌なら持ち主のもとへ……」

 「わ、わかったロト!!! 今すぐ検索するロト!!」

しずく「はい、お願いしますね」


成り行き上とは言え、喧しい仲間が増えてしまった感は否めないが……“おや”を見つけるまでは、どうにかやって行くしかない。


 「こっちロト!!」


早速ホテルを見つけたロトムの後を追って、ホテルを目指す。

気付けば、フソウの町は夕方の茜に包まれている時間だ。

そろそろ、かすみさんにも連絡をしないと……そう思い、ポケギアを手に取ろうとして、


しずく「あ……ポケギア……もう、ないんだった」


連絡手段がないことに気付く。

島の北側に居ることはわかっているから、早くホテルの部屋を取って、探しに行かないと。


しずく「ロトム、急ぎでお願いします」

 「ガ、ガッテンショウチロトー」


私はロトムと一緒に茜色に焼ける町中を急ぐのだった。





    👑    👑    👑





かすみ「……! かかりました!!」


──かすみん、思いっきり竿を持ち上げます。

すると糸の先から、水面が盛り上がりそこから、


 「──コココココココ!!!!!」


コイキングが釣り上げられます。


かすみ「…………」

 「コココココココ!!!!!」


釣り上げられて、びちびちと跳ね回るコイキングをすぐに海へとリリース。


かすみ「もう……何匹目……コイキングばっかじゃん、この海……」
 「ガゥ…」「キャモ」


もう何時間、釣りを続けているでしょうか……。

でも、釣れるのはコイキングばっかり……。この海、本当にサニーゴいるんですかね……?

しょぼい結果に疲れてきたかすみんの唯一の癒しは──


 「ジグザグ」

かすみ「あ、ジグザグマ! また、拾ってきたんだ! 良い子ですね~♪」
 「ザグマァ~♪」


こうして、ジグザグマが“ものひろい”でアイテムを拾って集めて来てくれることくらいです。

……ふむふむ、また“げんきのかけら”。回復アイテムが豊富に揃っているのは良いことですね!


かすみ「さて……もうひと頑張りです……!」


再び竿を構えて、キャストしようとしていたら──


しずく「──かすみさーん!」


背後からしず子の声が聞こえてきた。


かすみ「あ、しず子!」

しずく「ここにいたんだね」
 「ボクの言うとおりだったロト!!」

しずく「図鑑サーチを使っていますからね……これでいなかったら困ります」

かすみ「なんで、しず子の図鑑……喋ってるの……?」

しずく「ああ、えっと……説明すると長くなっちゃうんだけど……」
 「ボクロトムロト!! キミがかすみちゃんロトね? 今日からしずくちゃんの仲間になったロト!! よろしくロト!!」

かすみ「しず子、新しいポケモン捕まえたの!?」

しずく「捕まえたというか……まあ、成り行きで……。詳しくは後で説明するよ」


しず子は少し疲れた顔で言う。……なにかあったんですかね?


しずく「それより、もう夜になっちゃうし、ホテルに行こう? ちゃんと部屋見つけたから」


確かにしず子の言うとおり、もう辺りは薄暗くなり始めている。


かすみ「これは……次がラストチャンスになりますね……!」


しず子に続いてかすみんも、新しい仲間を手に入れなきゃ……!

かすみん、“つりざお”を振り被って、サニーゴゲット大作戦との最後の戦いに挑みます。

チャポンと音を立てながら、浮きが水面に浮かぶ。


しずく「かすみさん、釣りしてたんだね」

かすみ「はい……! 狙うは、サニーゴです!」

しずく「……え?」

かすみ「? どしたの?」

しずく「え、えっと……かすみさん……その……」

かすみ「なに? 言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

しずく「じ、じゃあ……。……その“つりざお”だと、サニーゴ釣れないと思うよ……」

かすみ「……え?」


しず子の言葉に思わずフリーズする、かすみん。

その直後、浮きが沈み──


 「コココココココ!!!!!」


引いても居ないのに、勝手にコイキングが水の中から飛び出して──びちびちとコンクリートの上を跳ね回る。


かすみ「う、嘘……?」

しずく「私、家が海に近かったから、釣りは何度かしたことがあるんだけど……かすみさんが持っているのは“ボロのつりざお”だから……」

かすみ「“ボロのつりざお”……?」


言われてみれば、この“つりざお”、棒っ切れに糸を付けただけの簡素な物。安いから、こんなものかなと思ったんですけど……。


しずく「サニーゴは“いいつりざお”か“すごいつりざお”じゃないと釣れないんだよ……その“つりざお”、どこで手に入れたの?」

かすみ「えっと……釣りショップの前で、通りがかりのおじさんが安く売ってくれて……」

しずく「買ったの……? そこらへんにある枝に糸を付けただけだから、100円もしないと思うけど……」

かすみ「100円もしない!?」


かすみん、とうとう気付いてしまいました。


かすみ「だ、だ、だ、騙されたぁ~っ!? この“つりざお”500円もしたんですよ!?」

しずく「あ、あはは……完全にやられちゃったみたいだね」

かすみ「こ、こんな棒っ切れ、返品してやりますっ!!」
 「ガゥガゥ」「キャモッ!!」「ザグマァ~」


かすみんは顔を真っ赤にして、さっきおじさんから“つりざお”を売りつけられた場所に向かって走り出しました。


しずく「あ、ちょっと!? かすみさん!?」
 「慌ただしい子ロト」

しずく「どの口が言うんですか……」





    👑    👑    👑





かすみ「くっ!! どこに行きやがりましたか!!」


もう完全に日も落ち切った中、釣りショップの周囲をキョロキョロと見回す。


しずく「はぁ……はぁ……かすみさん……もし、詐欺をしているような人だったら……もう、いないんじゃ……」

かすみ「うぅん! あの手慣れた感じ、ここでよく観光客をカモにしてる感じだったもん! たぶん、この辺りでいつもやってるんだよ!」


釣りショップから出てきた人を狙い撃ちしているとしか思えないタイミングだったし、絶対常習犯です!


 「カモにされた観光客が言うと説得力があるロト」
しずく「余計なこと言わないであげてください……」


街頭が灯り始める中、周囲を見回していると──


 「キャモッ!!」


キモリが鳴き声をあげながら、建物の影の辺りを指差す。

そこでは、さっきのおじさんが“ボロのつりざお”をしまっているところだった。


かすみ「み~つ~け~ま~し~た~よ~……!!」

おじさん「お? どうしたんだい? “こわいかお”して……おじさんの素早さが下がっちゃうじゃないか。なんつってな、がはは」

かすみ「怖い顔してじゃないです!! この“ボロのつりざお”返品します!!」

おじさん「おや、それは困るよお嬢ちゃん。もう使用済みだろ? 返品は受け付けられないねぇ」

かすみ「使用済みも何も、そこらへんにある棒と糸じゃないですか!! こんなの商品じゃないです!! サニーゴ釣れないし!!」

おじさん「コイキングは釣れただろう? “つりざお”としての役割は十分果たされているじゃないか」

かすみ「かすみんはサニーゴが釣りたかったんです!!」

おじさん「サニーゴが釣れるなんて、言った覚えはないねぇ」

かすみ「そもそもかすみんは最初から、サニーゴが釣りたくてって話してたはずです!! そんな理屈通じませんよ!! お金返してください!!」


かすみんはおじさんを睨みつけながら、捲し立てる。

だって、こんなの絶対納得いかないもん!


おじさん「はぁ、全く困ったねぇ……ときどき、君みたいないちゃもん付けてくる客がいるんだよ」

かすみ「かすみんをクレーマー呼ばわりですか!? いい度胸ですね……!! ゾロア!!」
 「ガゥガゥ!!」

おじさん「おっと、暴力は勘弁してくれよ……わかった、返品は受け付けられないが、とっておきのモノを売ってあげよう」

かすみ「はぁ!? まだ、何か売りつけるつもりですか!?」

おじさん「まあ、話を聞いてくれって。要はサニーゴが手に入ればいいんだろう?」

かすみ「……え、ええ、まあ、そうですけど……」

おじさん「だから、そのサニーゴを売ってあげようって言ってるんだ」

かすみ「……はい?」


そう言いながら、おじさんはがさごそとバッグを漁り、そこから1個のモンスターボールを取り出してかすみんに見せてきます。


おじさん「この中に、サニーゴが入ってる」

かすみ「はぁ……そんなあからさまな嘘吐かれても、かすみんわかっちゃうんですからね」


溜め息を吐きながら、ポケモン図鑑をボールにかざす。

これで、別のポケモンの名前が表示され──ると思ったんだけど、


かすみ「……あ、あれ……?」


確かにそこには『サニーゴ』の名前が表示されていた。


かすみ「ホントにサニーゴだ……」

おじさん「だから、言ってるだろう? こいつを3000円で君に譲ってあげよう」

かすみ「高いです」

おじさん「そこの釣りショップで“つりざお”を買ったら、安いものでも5000円はする。さっき売った“つりざお”と合わせてもお釣りがくるんじゃないかい?」

かすみ「せめて1000円にしてください」

おじさん「2500円」

かすみ「1200円」

おじさん「2000円」

かすみ「……1500円。これ以上は譲れません」

おじさん「……仕方ないな、1500円だ」

かすみ「……」


かすみんは、無言で1500円を支払い、サニーゴの入ったモンスターボールを受け取る。


おじさん「これで、チャラだからね。全く商売上がったりだよ」


おじさんはそう言いながら肩を竦めて、街頭の灯る夜の道の中、町の方へと消えていった。


しずく「かすみさん、よかったね」

かすみ「……よく、はないけど……とりあえず、欲しかったサニーゴは手に入りました」


ホントは自分で捕まえたかったけど、仕方ない……。

かすみんは早速新顔を確認するために、モンスターボールからサニーゴを出します。


かすみ「出ておいで、サニーゴ」


──ボムという音と共に、サニーゴが姿を現すと共に、コロコロと地面を転がる。


 「…………」

かすみ「サニーゴ、これからよろしくね」
 「…………」


メチャクチャ、反応薄いですね……。というか、転がってるし……。


かすみ「角がないじゃないですか……あのおじさん、角を折ってから売り付けましたね……」


最後までコスいことする奴ですね……。まあ、3日で再生するらしいし、これくらいは許してやりますよ。


しずく「このサニーゴ……白い」

かすみ「え?」


辺りが薄暗いから気付いてなかったけど……確かにこのサニーゴ、白いかも……?

というか……。


かすみ「さっきから、微動だにしてない気がするんだけど……」
 「…………」

かすみ「も、もしも~し、サニーゴ……?」
 「…………」

 「しずくちゃん、こいつガラルサニーゴロト」
しずく「……あ、やっぱり……」

かすみ「ガラルサニーゴ?」

しずく「姿は見たことがなかったけど……ガラルに白いサニーゴがいるって聞いたことはあったんだ……」

かすみ「……ふーん? それじゃ、この子はそのガラルのサニーゴなんだ」
 「…………」


かすみんは改めて図鑑を開いてサニーゴの項目を確認してみることにした。


 『サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:0.5kg
 急な 環境の 変化で 死んだ 太古の サニーゴ。 大昔
 海だった 場所に よく 転がっている。 体から 生える 枝で
 人の 生気を 吸い 石ころと 間違えて 蹴ると たたられる。』


かすみ「え……死ん……え??」

 「ガラルサニーゴはゴーストタイプロト」

かすみ「…………」
 「…………」


地面に転がる真っ白なサニーゴが緩慢な動きで、少し浮く。


 「…………」
かすみ「…………」


のろのろと浮かび上がりながら、こちらに向ける顔は──綺麗で美しいサニーゴのソレとは思えないくらい、虚ろな目をしていた。


しずく「あ、あはは……か、可愛がってあげようね、かすみさん……」


苦笑いする、しず子。そして──


かすみ「……あああああーーー!!! また、騙されたあああああーーーーー!!!!」
 「…………」


夜のフソウ港に、かすみん今日一の叫びが響き渡ったのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     ●  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.14 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.11 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.11 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.13 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.15 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.11 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:5匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter012 『ドッグランでの“ワン”ダフルな出会い?』 【SIDE Ayumu】





──ダリアジムでのバトルから一晩明けて、


侑「んー……!」

歩夢「侑ちゃん。はい、傘」

侑「ありがとう、歩夢」


宿の外で空を見上げながら、身体を伸ばしていた侑ちゃんに、傘を手渡す。

……生憎、本日の天気は雨模様です。


リナ『今日の降水確率は100%……きっと一日中雨……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「昨日は途中で上がったのに……結局、雨になっちゃったね」

侑「まあ、仕方ないよ。こればっかりは私たちにはどうにもならないし」
 「ブイ」


もちろん、雨を嫌ってダリアシティでもう一泊するかという意見も出たには出たんだけど……。


侑「これくらいの雨なら、雨具があれば問題ないし、旅を続けるなら雨にも慣れないといけないしね」

歩夢「確かに、いつも晴れの中で旅が出来るとは限らないもんね……」


結局、雨がいつ上がるかわからないし、いつでもどこでも快適に旅が出来る保証はないということで、早く慣れるためにも、私たちは先を急ぐことにした。


リナ『幸いこの先の4番道路は進むだけならほぼ平原だから、雨旅に慣れるにはもってこいだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「確か、ドッグラン……って言ってたよね?」

リナ『うん。犬ポケモンがたくさん生息している区域だよ。数百年前から、農業が盛んだったコメコシティの牧羊犬ポケモンたちが長い歴史の中で棲み付いて野生化した場所って言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「へー……」

リナ『ただ、世界的に見ても、あれだけ犬ポケモンが集中している場所は他に類を見ないみたい。全体的になだらかな地形が彼らの生態にマッチしたのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃんはそこで新しい子を捕まえたいんだよね?」

侑「うん、出来ればね」

歩夢「わかった! 私も全力で手伝うね♪」

侑「ありがとう、歩夢」


雨の中で、どこまでお手伝い出来るかはわからないけど……侑ちゃんも今後のジム戦では要求手持ち数も増えてくるって言ってたし、どうにか新しい子を捕獲させてあげたいな。


リナ『準備万端。それじゃ、ドッグランに向けてレッツゴー♪』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑・歩夢「「おー!」」


リナちゃんの掛け声と共に、私たちは雨のダリアシティを、南方面に向かって歩き出した。




 「…ニャァ」




    🎀    🎀    🎀





ダリアシティの南に位置するポケモンジムを素通りして、さらにその先にある4番道路へとたどり着く。

雨の中だから、多少見通しは悪いけど……リナちゃんが言っていたとおり、4番道路に入ると一気に視界が開けて草原のような景色が広がっていた。


歩夢「一気に景色が変わった感じがするね」

侑「ダリアシティって人工物が多いから、ギャップがあってそう感じるのかもね……」

リナ『ここは環境保護区域でもあるから、自由な開発が禁止されてるのも関係してると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かに……ザ・自然って感じかも」

リナ『左側にある大岩と、右側の林の間にある草原が4番道路──通称ドッグランって呼ばれている地帯になってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ずっと先だけど……かすかに海も見えるかも」


雨にけぶる平原の先の方に、少し荒れ気味な海が見える。


リナ『途中に川もあるよ。岩石地帯、森林地帯、河川や海まで隣接してる草原だから、多種多様な犬ポケモンが生息出来るんだって言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「確かにこんな大自然だったら、手を加えるのを禁止するのも納得かも……」


ただ、そんな自然だらけの4番道路でも、差し掛かってすぐ──1ヶ所だけ木造の建物が立っていた。


侑「でも、なんだろ……あの小屋……? というか、家……?」

歩夢「あそこは育て屋さんだと思うよ」

侑「育て屋さん?」

リナ『そのとおり。ポケモン育て屋さん。この地方で唯一ここにある施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー」


ポケモン育て屋さんでは、タマゴが見つかることで有名で、この地方ではダリアシティの南──ここ4番道路にしかない施設となっている。

私の家のポケモンの中にはタマゴから生まれた子もいたから、タマゴの育て方について調べていたときに、この施設のことも知っていたというわけだ。

写真で何度も見た育て屋の外観を眺めながら歩いていると、ふと、


歩夢「あれ……?」

侑「? どうかしたの、歩夢?」

歩夢「育て屋さんの前……誰かいない?」

侑「え?」


育て屋さんの軒下に、人影が見えた。

何やら、空を見上げて、その場に留まっている様子。


侑「こんな雨の中、どうしたんだろう……?」

歩夢「何かあったのかな?」

侑「行ってみようか」

歩夢「うん」


私たちが育て屋の軒下まで歩いていくと、やはり彼女は空を仰いだまま立ち尽くしていた。

明るめの金髪のセミロングをポニーテールに縛っている女の人。

歳は……私たちの少し上か、同い年くらいかな……?


侑「あの、どうかしたんですか……?」

女の人「……ん?」

歩夢「雨具がないんだったら、お貸ししましょうか……?」

女の人「ああ、いやいや! 傘は持ってるよ、ほら!」


彼女はそう言いながら、左手に持った畳まれた傘を持ち上げて見せる。


女の人「もしかして君たち、心配して声掛けてくれたの?」

侑「は、はい……立ち往生してるように見えたので……」

歩夢「何か困ってるのかなって……」

愛「うわっ! 君たちやさしーね! 愛さん、ちょっと感動しちゃったよ! あ、アタシ、愛って言うんだけど、君たちは?」

侑「私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
 「ブイ」

歩夢「歩夢です。肩に乗ってるのはアーボのサスケです」
 「シャボ」

愛「侑とイーブイ、それに歩夢とアーボのサスケだね! それと、そこに浮いてるのは……」


愛さんが、浮遊しているリナちゃんへと視線を向けると、


リナ『私はリナって言います』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんがそれに答えるように挨拶する。


愛「え……?」


すると、愛さんは驚いたような顔で固まってしまった。

……確かに突然喋り出したらびっくりするよね。


侑「あ、えっと、この子はロトム図鑑のリナちゃんって言うんです!」

愛「ロトム図鑑? ……あ、ああ、リナって言うのはロトムのニックネームなんだね」

リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「そっかそっか……あはは、愛さんちょっとびっくりしちゃったよ」

歩夢「最初は驚きますよね……。私も初対面のときは、浮いて喋ってることにびっくりしちゃって……」

愛「ああ、いやいや! ロトム図鑑だってことはなんとなく見たときからわかってたんだけどさ! 友達に同じ名前の子がいて、それに驚いちゃっただけなんだよね」

リナ『なるほど。でも、リナって名前の人、結構いると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「まあ、そのとおりなんだけどね。ちょっと喋り方の雰囲気って言うのかな? それがその友達と似ててさ。ごめんね」

リナ『うぅん、気にしてない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「それより……愛さんは、どうして雨の中こんな場所に?」

歩夢「愛さん、傘も持ってるみたいですし……」

愛「さん付けとかしなくていいよ! 敬語もなしでOK! その代わりアタシも、タメ語でいいかな? って、もう使っちゃってるんだけど……」

侑「あ、うん! 私は全然大丈夫だよ!」

歩夢「私も、平気だよ」

愛「サンキュー♪ ゆうゆ♪ 歩夢♪」

侑「ゆうゆ?」

愛「あだ名♪ こういうのある方が親近感湧くでしょ? ゆうゆってあだ名、なんか一発でピンと来ちゃったんだよね! いいかな?」

侑「うん! 全然構わないよ!」

愛「あんがと♪ それで愛さんがここで立ち往生してるわけだったよね。えっと実はね……」


愛ちゃんが説明を始めようとした瞬間──カッ! と周囲が一瞬明るくなり、直後──ピシャァーーンッと激しい雷鳴が辺りに響き渡った。


歩夢「きゃぁっ!?」


私は大きな音に驚いて、咄嗟に侑ちゃんの腕にすがりついてしまう。


侑「お、おとと……大丈夫?」

歩夢「ご、ごめん……ちょっと、びっくりして」

侑「歩夢、昔から雷が苦手だったもんね」

歩夢「音が大きいから、近くで鳴るとびっくりしちゃうんだよね……」

侑「あはは、わかるよ。……えっと、それで愛ちゃん、話が途切れちゃったけど……」


侑ちゃんが話を続けるために視線を戻すと──先ほどまでそこに居たはずの愛ちゃんの姿が見えなかった。


侑「あ、あれ!? 愛ちゃんは……!?」

リナ『侑さん、歩夢さん、下』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「下……?」


リナちゃんに言われて、私たちが下の方に目を向けると──


愛「…………ち、ちょっと、不意打ちはダメだって……」


愛ちゃんは建物のすぐ傍にお腹を押さえる様にしたまま、軽く涙目になって蹲っていた。


侑「……もしかして、愛ちゃんがここで立ち往生してた理由って……雷……?」
 「ブイ?」





    🎀    🎀    🎀





愛「──愛さん大抵のモノは平気なんだけど……雷だけはダメなんだよね……」


愛ちゃんは相変わらずお腹を押さえたまま、軒下で肩を竦める。


リナ『愛さん、さっきからお腹押さえてる』 || ? ᇫ ? ||

愛「だっておへそを隠しておかないと、雷様におへそ盗られちゃうんだよ!?」

リナ『そうなの?』 || ? ᇫ ? ||


おへそが盗られるかはともかく、愛ちゃんは雷が苦手だから、ここで立ち往生していたらしい。


侑「でも、さっきまで雷雨になるような、雨じゃなかったはずなのに……」


侑ちゃんが空を仰ぎながら言っている間にも、雨雲がゴロゴロと音を立てている。


愛「このドッグランには、ラクライってポケモンが生息しててねぇ……」

歩夢「ラクライ?」

リナ『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 全身の 体毛に
  蓄えている。 体毛に 溜めた 電気を 使い 筋肉を
  刺激することで 爆発的な 瞬発力を 生み出す。』

歩夢「そのラクライが雷を落としてるの……?」

リナ『うぅん、ラクライにはそこまでのエネルギーを操る個体は少ないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「直接的な問題はラクライじゃなくて、その進化系なんだよ……」

侑「進化系って言うと……確か、ライボルトだっけ?」

リナ『ライボルト ほうでんポケモン 高さ:1.5m 重さ:40.2kg
  たてがみから 強い 電気を 発している。 空気中の 電気を
  たてがみに 集め 頭の 上に 雷雲を 作りだし 稲妻を
  落として 攻撃する。 雷と 同じ スピードで 駆けると 言う。』

愛「姿は滅多に見せないんだけど……群れのボスらしくってね。ラクライの群れがいる場所にはライボルトもいるみたいなんだよ」

リナ『確かにドッグランには広範囲でラクライが生息してる。走り回るポケモンだから、活動範囲も広めかも』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「うん……だから、ドッグランはちょっとでも雨が降ると、一帯が雷雨になりがちなんだよね」

侑「そうだったんだ……」


私たち、慣れるためになんて言ってたけど……雨のドッグランってもしかしてすっごく危ないんじゃ……。


リナ『でも、問題ないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「? どういうこと?」

リナ『ラクライやライボルトの特性は“ひらいしん”。大抵の雷は彼ら自身が吸い寄せるから、近寄らなければ雷に撃たれる可能性は低い。むしろ、雷を吸い寄せてくれる分、逆に安全とすら言える』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「でも、雷鳴とか稲光は……」

リナ『そこは我慢してもらうしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「うぅ……だよねぇ……」


リナちゃんの言葉を聞いて、私は思わず肩を落とす。


侑「……じゃあ、どうにか突っ切っちゃう方がいいのかな?」

愛「うん……アタシもコメコで待ち合わせしてる人がいるから、早めに戻りたいんだけどさ……」

リナ『じゃあ、我慢するしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

愛「いや、さすがに愛さんもいくら雷が苦手だからって言っても、音とか光が無理ーなんて我儘言うつもりはないよ! ラクライたちを避けられない理由があるんだよ」

侑「避けられない理由?」

愛「愛さんがここ──育て屋に来た理由と関係しててね……」


愛ちゃんはそう言いながら、腰からモンスターボールを外して放る。中から出てきたポケモンは──


 「エレエレ…」


頭に白い稲妻のような模様を付けた紫色の小さなポケモン。


侑「初めて見るポケモンだ……」

歩夢「私も……」

リナ『エレズン あかごポケモン 高さ0.4m 重さ11.0kg
  体内の 毒袋に 溜めた 毒素を 皮膚から
  分泌。 毒素を 化学変化 させて 電気を 出す。
  電力は 弱いが 触ると ビリビリと 痺れる。』

侑「へー、エレズンって言うんだ」

愛「この子はつい昨日タマゴから孵ったばっかのエレズンなんだよね」

侑「育て屋さんで受け取ったタマゴから生まれた子ってこと?」

愛「そういうこと。エレズンも無事に“孵った”から、さっさとコメコに“帰った”ろうと思ったんだよね~」

侑「ぷっ」

愛「そしたら、雨が降ってきて、ラクライたちの落雷で、サンザンダー! 思わず気分が暗~い気分になってきて、泣いちゃいそうだよ……Cryだけに……」

侑「あ、あはははは、あはははははっ!!」
 「ブイ…?」

愛「おお! ゆうゆ、めっちゃバカウケじゃん♪」

侑「だ、だって……! サンダーでサンザンダー……ぷっ、あははははははっ! 暗い気分でCry、く、くくくっ、あはははははっ!」
 「ブイ…」

リナ『すごいウケてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「侑ちゃん、笑いのレベルが赤ちゃんだから……」


侑ちゃん、昔からすごい笑い屋というか……テレビでもお笑いどころか、ちょっとしたギャグとかダジャレでも、大笑いして過呼吸気味になっちゃうんだよね……。


リナ『イーブイが軽く引いてる』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ブイ…」

歩夢「イーブイ、侑ちゃんしばらく笑い続けるから、こっちにおいで」
 「ブイ…」


イーブイは笑い転げる侑ちゃんのもとから離れて、私の頭の上までぴょんぴょんと上ってくる。


愛「愛さんのダジャレでこんな風に笑ってくれる人、久しぶりに会ったよ! 嬉しいから、渾身のダジャレ100連発、見せちゃおっかなぁ~?」

侑「あははは、あははははっ、や、やめてっ、これ以上笑ったら、し、死んじゃうっ」

リナ『正直、私も嫌いじゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「お? いいねぇ、じゃあダジャレ100連発スタート──」


──ピシャァーーーンッ、ゴロゴロゴロゴロ!!!


愛「ひゃあぁぁぁぁっ!!?」

歩夢「きゃっ!?」


大きな雷の音で、再び愛ちゃんがおへそを隠して蹲る。


侑「はぁ、はぁ……わ、笑い死ぬかと思った……」

愛「あ、愛さんの渾身のギャグが、雷に中断された……サンザンダー」

侑「ぷっ、く、くくく……」

歩夢「それ、さっきと同じダジャレ……」
 「ブイ…」


私は溜め息を吐く。侑ちゃんがダジャレで笑い転げているせいで、話が全然進まない……。


歩夢「それで、愛ちゃん……そのエレズンがどうしたの?」

愛「え? ああ、そうだった。えっとね……実はこのエレズンの特性が問題なんだ」

侑「特性……? エレズンの特性って……」

リナ『そのエレズンの特性は“せいでんき”。……なるほど、理解した』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「どういうこと?」

愛「特性“せいでんき”はね……野生のでんきタイプのポケモンを引き寄せちゃうんだよ……」

リナ『ボールに入れていても常時発動する……確かに、これじゃラクライが寄ってきちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに雷雲の原因が近寄ってきちゃうのは確かに困るかも……。


愛「エレズンの周りには近寄らないように言ってやりたいよ……ラクライたち! “Say! 出禁!”なんつって!」

侑「あ、あはははははははっ!! “せいでんき”と“Say! 出禁!” あはははははははっ」

愛「“せいでんき”も普段は役に立つ、“特製”の“特性”なんだけどね~」

侑「あはははははははっ! やめ、やめてっ! お、お腹痛い! し、死んじゃうっ!」


どうやら愛ちゃんはよほどのダジャレ好きらしい。

それはいいんだけど、話の腰を折らないで欲しい……侑ちゃんとの相性が悪い──いや、ある意味良すぎる──せいか、話がすぐ脱線してしまう。


歩夢「と、とにかく、愛ちゃんはコメコに行きたいんだよね!?」

愛「あ、うん! 実はコメコで約束してる人が居てね。明日までには戻りたいんだけど……それで途方に暮れちゃってさぁ。明日までに雨が止む保証もないし」

侑「はぁ……はぁ……ふぅ……な、なるほど……」

愛「……まあ、こうなったら、寄ってくるラクライを全部撃退しながら、進むしかないかもね……」

歩夢「雷雨が止むまで待つのはダメなの……? 約束してる人も説明すればわかってくれるんじゃ……」

愛「なかなか、そういうわけにもいかない相手なんだよねぇ……」


言いながら、愛ちゃんは自分の首に付けられたチョーカーをさすりながら肩を竦める。


愛「……ま、ここでいつまでもうだうだしてても仕方ないか! 女は度胸! 覚悟を決めて、突っ込んでくるよ!」

侑「待って、愛ちゃん!」

愛「?」

侑「それなら、一緒に行こうよ! 一人で行くよりも、みんなで行く方が少しは安全だと思うし!」


侑ちゃんの言葉に愛ちゃんは目を丸くする。


愛「いいの?」

侑「どっちにしろ、私たちもコメコシティに向かおうとしてる。目的は一緒だし……何より、困ってるのに放っておけないよ!」

愛「ゆうゆ……!」

歩夢「わ、私も……! バトルはそんなに得意じゃないけど、何か手伝えることがあれば……!」

リナ『「旅は道連れ、世は情け」って言う。私もお手伝いする』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「歩夢にリナちゃんも……! わかった! 一緒に行こう!」


愛ちゃんは嬉しそうに頷いて、


愛「みんなで一緒に“ドッグラン”を“グッドラン”で駆け抜けようー!! なんつって!」


渾身のダジャレで、出発の音頭を取るのだった。


侑「ぷっ、あ、あははははは!! も、もうやめ、やめてぇ! あははははははは!!」

歩夢「……大丈夫かな?」
 「ブイ…」





    🎀    🎀    🎀





──ドッグランを歩くこと数分。

傘をしまい、レインコートを着込んで、ドッグランを前進中。


歩夢「……だんだん、ゴロゴロって音……大きくなってきてるね」

侑「うん。それだけ雷雲に近付いてるってことだと思う」

リナ『恐らく、もう少しでラクライの群れの活動圏内に入ると思う。気を付けて』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「それじゃ、作戦のおさらいだよ」


先頭を歩いていた愛ちゃんが、レインコートのフードを目深に被り直しながら、最後の確認を促してくる。


愛「襲い掛かってくるラクライは迎撃するけど、基本的には前進を優先すること! いちいち全部相手するには数が多すぎるからね」

侑「うん、わかった」

愛「“キリ”がないから、“キリキリ”進むこと! なんつって!」

侑「ぷふっ……く、くくく……」
 「ブイ…」

歩夢「愛ちゃん、話を進めてもらっていい?」

愛「OKOK! 先頭は愛さんが切り開くから、後ろからサポートお願いね」

侑「く、くく……はぁ……。……え、えっと、私はしんがりを勤めるね」

愛「お願いね、ゆうゆ! 最後に戦力の確認!」


愛ちゃんがモンスターボールから手持ちを出す。


 「ルリ…」「ソーナノッ!!」「シャンシャン♪」

愛「愛さんの手持ちの、ルリリ、ソーナノ、リーシャンだよ♪ エレズンは生まれたばっかだから、今回は戦闘には出さない方向で!」

リナ『エレズンはラクライたちから狙われるだろうし、それが無難』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

愛「ゆうゆと歩夢のポケモンは、イーブイとサスケ以外にもいるのかな?」

侑「うん。出ておいで、ワシボン」
 「──ワッシャッ」

歩夢「ヒバニー、出てきて」
 「──バニバニッ!!」

愛「ワシボンにヒバニーだね」

 「バニー…」
歩夢「でも、この雨だから……ヒバニーあんまり元気がなくて……」

愛「ほのおタイプだから、そこは仕方ないね……ワシボンもでんきタイプのラクライ相手に無理はさせられないね」

 「ワッシャァッ!!!」
侑「うん。でも、ワシボン自身はやる気まんまんみたい」

愛「あはは、頼もしいね♪」


最後の確認もそこそこに──


 「ラクラ…」「ライ?」「ラクライ…」


ラクライの群れが前方に見えてくる。

ラクライたちは、ボールに入ったままのエレズンの“せいでんき”に気付き始めているのか、こちらに向かってちらちらと視線を送りながら、うろうろしている。


リナ『戦闘に入ったら、ラクライが押し寄せてくると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「後戻りは出来ない。とにかく、みんな前進あるのみ! OK?」

歩夢「う、うん!」

侑「行こう!」

愛「よし……レディーゴー!!」


私たちは、愛ちゃんを先頭に、ラクライたちの群れに向かって走り出した。




 「…ニャァ」





    🎀    🎀    🎀





愛「道を作るよ!! リーシャン、“ハイパーボイス”!!」
 「リリリリリリリリ!!!!!!」

 「ライ!!?」「ラクラァッ!!!」「ライィ!!?」


開幕、愛ちゃんのリーシャンが“ハイパーボイス”で前方に居たラクライたちの群れを吹き飛ばす。

ラクライたちが吹き飛んで出来た道の真ん中を駆け抜けると同時に──


 「ライィ!!!」「ラクラァッ!!!!」


早くも攻撃態勢に入ったラクライが左右から1匹ずつ、私に向かって飛び込んできた。


歩夢「!?」


どっちを倒せばいい!?

突然のことに、困惑する私。


侑「“スピードスター”!!」
 「ブイィィ!!!」

愛「“サイコショック”!!」
 「リシャーンッ!!」

 「ラィ!!?」「ギャゥッ!!!」

歩夢「!」


私が迷っている間に、侑ちゃんと愛ちゃんが前後からラクライを撃退する。


侑「歩夢! 大丈夫!?」

歩夢「う、うん……!」

愛「これからさらに攻撃が激しくなるから、足止めないようにね!」

リナ『完全に群れの中に突入した。止まったら囲まれるから、一気に走り抜けよう!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

歩夢「わ、わかった!」


──そう言っている間にも、


 「ガゥ!!!!」「ライライッ!!!」「ラクラァッッ」「ラィィ!!!!」


数匹が先頭の愛ちゃんに向かって飛び掛かってくる。


歩夢「あ、愛ちゃん!」

愛「道を開けろぉー!!! ルリリ!!」
 「ルリ!!」


愛ちゃんがルリリを手の平に乗せて、掲げると──ルリリは自分の尻尾をぶん、と振り回して、


 「ギャゥッ!!?」


“たたきつける”!

そして、その勢いを殺さぬまま、尻尾を高い位置でぶんぶんと回し始める。


愛「“ぶんまわす”!!」
 「ルーーリィーー!!!!」

 「ラィィッ!!!?」「ラクラゥ!!!?」「ラァァイッッ」


飛び掛かってきていたラクライが尻尾を叩きつけられて、どんどん撃ち落とされていく。


侑「愛ちゃん、すごい!!」

愛「へっへーん♪ 任せろ♪」
 「ルリッ!!」


そのとき、背後から──パチ、と音が聞こえた気がした。


歩夢「! 侑ちゃん!! 電撃来るかも!! 後ろから!!」

侑「! イーブイ! “スピードスター”!!」
 「ブィィ!!!」

 「ギャゥッ!!?」


ラクライの鳴き声と共に、火花の音が止む。攻撃が防げたと思うと共に──今度は愛ちゃんの前方に何匹か毛が逆立っているラクライが見えた。


歩夢「愛ちゃん! 前に3匹! “じゅうでん”してる子がいる!」

愛「!? どいつ!?」

歩夢「あの子とあの子とあの子!!」


一瞬、首だけこちらに振り向いた愛ちゃんに、指で指し示す。


愛「! マジじゃん! リーシャン、“サイコショック”! ルリリ、“バブルこうせん”!」
 「リシャーーーンッ」「ルリィーー!!!」

 「ギャゥ!!」「ギャァッ!!?」


2匹を遠距離技で攻撃し、“じゅうでん”によるチャージ攻撃を阻止したものの、


 「ラァァァイィィィ!!!!」


残った1匹のラクライが“でんげきは”を愛ちゃんに向かって放ってくる。


侑「愛ちゃん!」

愛「任せなって! ソーナノ! “ミラーコート”!」
 「ソーーーナノッ!!!」


愛ちゃんの頭の上に乗っていたソーナノが、飛んできた“でんげきは”をそっくりそのまま跳ね返し、


 「ラクラァッ!!?」


ラクライを返り討ちにする。


歩夢「愛ちゃん、すごい!」

愛「それほどでもないって♪ 歩夢こそ、すごいじゃん! よくラクライたちの“じゅうでん”に気付いたね!」

歩夢「なんだか、毛が逆立ってる子がいたから……。……!」


受け答えしている間にも、肌がピリピリとする感じがして、前方に目をやると──ラクライたちが密集し始めているのが視界に入ってくる。

集まってお互いの体毛を擦り合わせてる……?


歩夢「ま、また電撃してきそう!」

リナ『前方!? 密集した、ラクライたちから高エネルギー!?』 || ? ᆷ ! ||


次の瞬間、周囲一帯に網目のように、稲妻が走り──ゴロゴロ、ピシャァーーンッと空気を轟かせる。

一帯のラクライが一気に“10まんボルト”で攻撃をしてきた。


愛「わぁ!? “10まんボルト”が“じゅうまん”してる!?」

侑「ぶふっ!」

歩夢「愛ちゃん、真剣に戦ってぇ!!」

愛「わかってるって!! ソーナノ! “ミラーコート”!!」
 「ソーナノッ!!!」


咄嗟にソーナノが反射するものの、相手の手数が多すぎる。


歩夢「さ、サスケ、“たくわえる”から“あなをほる”!」
 「シャボッ!!!」


足りない防御の手数を補うために、サスケがエネルギーを“たくわえる”と共に地面に潜る。そして、地中を経由して、愛ちゃんの前に体をくねらせながら、躍り出し──


 「シャーーーーボッ!!!!」


電撃を身をもって受け止める。


愛「ちょ!? サスケ、大丈夫なの!?」


“たくわえる”で特防が上がっているとは言え、確かにダメージはある。でも──


 「シャーーーボッ!!!!」


電撃を受けたサスケは即座に体の表面の電撃を受けて痺れた皮を“だっぴ”して破り捨てる。


愛「やるじゃん、サスケ!!」

 「シャーーボッ!!!」

愛「お陰で距離は十分詰められた! リーシャン! もう一発いくよ!」
 「リシャァーー!!!」

歩夢「サスケ! 戻っておいで!」

 「シャボッ!!!」


リーシャンの攻撃態勢を確認して、すぐさま声を掛けてを呼び戻すと、サスケは地中に潜って私の方に戻ってくる。

──これで、リーシャンの攻撃には巻き込まれない……。と、思った矢先、


侑「歩夢!! 右っ!!」

歩夢「え!?」


サスケに意識が向いていて、反応が遅れた。

咄嗟に右を向くと眼前に迫るラクライが“ワイルドボルト”を身に纏って飛び込んできている。

間に合わない──そう思った瞬間、


 「バニ、バニッ!!!」

 「ギャゥッ!!?」


ヒバニーが飛び上がり、“にどげり”でラクライを撃退してくれる。


歩夢「! ヒバニー!」
 「バニッ!!」

侑「あ、焦った……」

歩夢「ごめん、ありがとう! ヒバニー! 侑ちゃん!」
 「バニッ!!」

侑「うぅん、歩夢が無事でよかったよ……」


安堵する侑ちゃん、そして──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァーーー!!!!!」


リーシャンが一気に前方のラクライたちを蹴散らす。


リナ『みんな、そろそろラクライたちの縄張りを抜ける! あともう少し、頑張って!』 || >ᆷ< ||

愛「よっしゃぁ! “ラストスパート”! このまま、“ラストスパっと”終わらせるぞ! なんつって!」

侑「く、ぷくく……!!」

歩夢「ダジャレを挟まないでぇ!!」


全員でラクライを迎撃しながら、前進を続ける。

すると──視界の先にラクライが目に見えて少ない平原が見えてくる。


侑「! 縄張りから抜ける!」

愛「よっしゃ!! 最後のダッシュだよ!」

歩夢「うん!」


みんなで一気に駆け抜けるため、最後の加速をする。

そのとき突然、急に全身の毛が逆立つのを感じた。


歩夢「!?」

侑「歩夢、どうし──」


──バチンッ!


侑「──ガッ……!?」


私が悪寒を感じた直後、火花のはじける音と共に、背後から短く聞こえる侑ちゃんの声。


歩夢「侑ちゃん!?」


思わず立ち止まって振り返る。


侑「……っ゛……」
 「ブ、ブイッ」「ワシャァ…」


すると、転んだ侑ちゃんと、それを心配するように身を寄せるイーブイとワシボンの姿が目に入る。


歩夢「侑ちゃん!! 立って!!」

侑「……っ……ぅ……」


侑ちゃんが顔を上げて、私の方に視線を送ってくるけど、侑ちゃんは全然起き上がろうとしない。

もしかして──


歩夢「電撃で痺れてる……!?」


私は侑ちゃんを助けるために、転んだ侑ちゃんに駆け寄ろうとして、走り出し──た瞬間、バチバチバチ!! と大きな音が周囲を劈く。


歩夢「きゃぁっ!!?」


轟音に怯み、頭を抱えてしゃがみ込む。

──音に驚いてる場合じゃない……!!

勇気を振り絞ってすぐさま顔を上げると──


 「ラァァッ!!!!」「クライッ!!!!」


私の方に向かって、飛び込んでくる2匹のラクライの姿。


歩夢「……あ」


──バチバチと激しい稲妻を全身に纏いながら飛び込んでくる。

咄嗟に身を逃がすように、後ろに下がったら、足がもつれてそのまま尻餅をつく。

すぐ立ち上がって逃げなきゃと思うのに、身体がうまく言うことを聞かない。

その間にもどんどん迫るラクライ。そのとき、何故か、ラクライたちの動きがやたらスローモーションで飛び込んでくるように見えた。

なのに、身体は動かなかった。動けなかった。

ゆっくりと迫るラクライ。あと数センチ、全身の毛が静電気で逆立ち、“スパーク”の熱で肌に熱さを感じた。

──怖くて、目を瞑った。


愛「“しねんのずつき”!! “すてみタックル”!!」
 「リーーーシャンッ!!!!」「ルーーーリィッ!!!!」

 「ギャウッ!!!!?」「ギャンッ!!!!!」

愛「歩夢!? 大丈夫!?」

歩夢「……え」


ゆっくり目を開けると──先ほどのラクライたちは、リーシャンとルリリの攻撃で戦闘不能になっていた。


歩夢「あ……うん」


愛ちゃんが助けてくれた。そう理解して、すぐに立ち上がろうとしたけど、


歩夢「あ、あれ……」


脚が腕が、いや……全身がガタガタと震えて、うまく立ち上がれなかった。


愛「……無理しないで、歩夢はここで待ってて。ソーナノ、ついててあげて」
 「ソーナノッ!!」

歩夢「……そ、そうだ……侑ちゃん……」


震えながら、顔を上げて侑ちゃんの方を見ると──


侑「イーブイ、“とっしん”……! ワシボン、“ブレイククロー”……!」
 「ブイッ!!!」「ワシャッ!!!」


侑ちゃんは、ふらつきながらも立ち上がって、ラクライたちを迎撃しているところだった。


愛「アタシはゆうゆをフォローしてくる! もうラクライの縄張りはほぼ抜けてるから、動けそうだったら歩夢は先に行って!」

歩夢「愛……ちゃん……わた……し……」

愛「もう大丈夫だから、あとはアタシたちに任せて♪」


愛ちゃんはニカっと笑って、侑ちゃんのもとへと走って行った。


歩夢「…………私」


──『……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……』


歩夢「…………私……約束……したのに……」
 「バニ…」「シャボ…」

歩夢「……私……」





    🎹    🎹    🎹





 「ブイ!!!」「ワシャァッ!!!」


飛び掛かってくるラクライたちを、イーブイとワシボンの攻撃でひたすら捌く。


侑「はぁ……! はぁ……!」


数が多い……! どうにか、脱出したいけど……──まだ、足が痺れていて、満足に走れる自信がない。

電撃を受けたのは一瞬だった。足に軽い“ほうでん”を受けた程度だと思う。

それでも、私の足を止めるには十分すぎた。


 「ラィ!!!」「クラァィ!!!!」「ラクラァ!!!!」


縄張りに侵入してきた外敵を許すまいと、次から次へと攻撃してくるラクライたち。

このままじゃ、ジリ貧……!


愛「──ルリリ! “ぶんまわす”!! リーシャン!! “さわぐ”!!」
 「ルーーリィ!!!」「リシャァァァァァ!!!!!」

 「ガゥッ!!!」「キャゥンッ!!?」「ラクラァッ!!!!」

侑「! 愛ちゃん!」

愛「ゆうゆ! 加勢に来たよ!」

侑「ありがとう……! 足に電撃を受けちゃって、走れなくて……」

愛「わかった! 時間を稼ぐから、先に行って!」

侑「うん……! ありがとう……!」


痺れる足を引き摺りながら、コメコ方面へと、脱出を図る。


愛「さぁ、リーシャン!! 存分に暴れていーからね!」
 「シャァァァァァァン!!!!!!」


ラクライたちの中心で、“さわぐ”リーシャン。

しばらくの間、騒ぎ続けて、周囲を音で攻撃し続ける技だ。

あの技が切れる前に、縄張りの外まで逃げてしまいたい。

そう思いながら、足を引き摺っていた──そのとき、


 「──アォォォーーーーーーーン!!!!」


辺り一帯に響き渡る、ポケモンの鳴き声。


侑「“とおぼえ”!?」
 「ブイ…」


そして、その“とおぼえ”と同時に──ラクライたちが一気にリーシャンの周囲に群がってきた。


愛「わぁ!? な、何!?」


愛ちゃんが驚きの声をあげたのとほぼ同時に──ピシャァーーーーンッ!!!! と轟音を立てながら、リーシャンに向かって雷が迸る。


愛「ちょっ……!! リーシャンッ!!!」
 「リー…シャ…」

愛「戻って!!」


“かみなり”で黒焦げになったリーシャンを、愛ちゃんがすかさずボールに戻す。

そして、先ほどまでリーシャンが騒いでいたバトルフィールドの先から──のっしのっしと毅然とした態度で歩いてくるポケモンの姿。

青い体に、黄色の鬣。あのポケモンは……!


侑「ライ、ボルト……!」

愛「……どうやら、ボスのお出ましみたいだね」

 「ライボ…」


こちらを睨みつけてくるライボルト。そして、それに呼応するように、周囲のラクライたちも一斉にこちらに視線を向けてくる。


愛「ゆうゆ、走れる?」

侑「……少しなら。でも、逃げ切れるかな……」

リナ『ライボルトは“かみなり”を自在に操れる……逃げるのは厳しいと思う』 || > _ <𝅝||

侑「だってさ」

愛「なら、やるっきゃないね……! ルリリ!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリが尻尾を掲げて、ぶんぶんと振り回し始める。

得意の“ぶんまわす”の態勢だ。


侑「愛ちゃん、周りのラクライ、お願いできる? 私はあんまり範囲攻撃が出来ないから……」

愛「OK. わかった。ライボルト、一人で行ける?」

侑「やるしかないかな」

愛「あはは、違いないね♪ 可能な限り早く蹴散らして、サポートするよ! ルリリ! GO!」
 「ルーーーリィ!!!!」


ルリリの尻尾が一気に周囲のラクライを蹴散らし始める。


侑「行くよ! イーブイ!」
 「ブイッ!!!」


ワシボンは相性が悪すぎるから、一旦待機。イーブイが戦闘態勢に入る。


侑「“でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!」


ライボルトに向かってイーブイが飛び出す。

イーブイの最速の攻撃で一気に肉薄して、速攻を仕掛ける──つもりだったのに、


 「ライボ…」

愛「っ!?」


気付けば、ライボルトは愛ちゃんに肉薄していた。


侑「え!?」

愛「速すぎ……!!」


目にも止まらぬとは、まさにこのことだった。

──バチバチと音を立てながら、ライボルトが愛ちゃんに飛び掛かる。


侑「愛ちゃん!!」

愛「くぉんのっ!!」


愛ちゃんは咄嗟に身を屈めて、飛び掛かってくるライボルトの下をすり抜ける。

だけど、それと同時に──


 「ラァクッ!!!!」「ラァィッ!!!!!」


ラクライたちが愛ちゃんの足元に群がってくる。


愛「っ!? や、やばっ!!」


あのラクライたちは──ライボルトのための“ひらいしん”だ。

愛ちゃんが咄嗟に腰のボールに手を掛けたのが見えたけど──もうその瞬間には天の雷雲が眩く光っていた。


侑「愛ちゃん!!」

愛「っ……!」


導雷針に導かれるように、愛ちゃんの頭上に稲妻が走ったその瞬間──


愛「え?」

侑「!?」


稲妻が──愛ちゃんを避けた。

正確には、当たる直前でカクッと、愛ちゃんを避けるように稲妻が方向転換をした。

そして、稲妻が曲がった、ちょうどその場所には──


 「──ニャァ」


小さな灰色のネコのようなポケモンが浮遊していた。


リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||

愛「……君……」
 「ニャァ」

侑「ニャスパーが……愛ちゃんを、助けた……? なんで……?」


どうやら、急に現れたニャスパーがサイコパワーで“かみなり”の軌道を捻じ曲げたらしい。

なんで、ニャスパーはそんなことを……いや、それ以前にニャスパーがなんでこんなところに……。


 「ライボッ!!!」

侑「……!」


ライボルトの声で我に返る。 いや、考えるのは後だ……!

ライボルトはもうすでに次の“かみなり”の姿勢に入っている。


侑「相殺しきれるかわからないけど……!! やるしかない!! イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」


今の状況はひたすらライボルトにとって有利な環境、だけど……!


侑「どんな環境にでも適応するのが、イーブイの能力!」
 「ブイッ!!」

 「ライボッ!!!」


──カッ! と天空が光ったのと同時に、その根元に向かって、


侑「イーブイ!! “まねっこ”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが全身の体毛を逆立てながら、空から“かみなり”を呼び込む。“まねっこ”は直前に見た技と全く同じ技を使うことが出来る技だ。

──二つの“かみなり”が同時に轟音をあげながら、上空で衝突する。

強烈な閃光を発しながら、空気を一瞬で熱し、爆縮しながら雷轟が響き渡る。


愛「うわっ!?」

侑「っ……!!」


激しいエネルギーがぶつかり合い、発する光と音と熱が激しい衝撃波を発生させる。


 「ラァクッ!!!?」「クラァァィッ!!!?」「ラクラァッ!!!」


衝撃でラクライたちが吹き飛ばされる中、揺れる空気が落ち着いたと思ったら、


 「ライボッ…」


再びチャージ態勢に入るライボルト、今度は自身の体に帯電を始める。

恐らく、今度は“かみなり”ではなく、自身から放つ電撃技によって、こっちを確実に狙ってくるつもりだ。

だけど……“まねっこ”で出来るのは直前に見た技だけ。

“かみなり”はそこらへんにいるラクライに引き寄せられてしまうから相殺には使えても能動的な攻撃として真似することは難しい。

どうする……! どうする……!?

激しく思考しながら、イーブイに目を向けると──イーブイの体も、何故かバチバチと帯電を始めていた。


侑「イーブイ!?」
 「ブイッ…!!!」

リナ『イーブイから、強いでんきエネルギーを検知!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「でんきエネルギー!? まさか……!?」


強力なでんきエネルギーが充満した、このフィールドに──イーブイが適応した……!?

つまり……!


侑「新しい、“相棒わざ”!?」

リナ『侑さん!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! イーブイ!!」
 「ブイィィ!!!!」


──バチバチと音を立てながら、イーブイが激しく放電する。


 「ライボッ!!!」

 「ブイィッ!!!」


ライボルトとイーブイ、2匹の電撃が空中で激しくぶつかり合い──バヂバヂと音を立てながら──相殺した。


 「ライボッ…!!?」


毅然としていたライボルトだったが、ここで初めて動揺を見せた。

まさか、イーブイが自前の電撃を撃ってくるとは思ってなかったのかもしれない。

この隙を見逃すわけにはいかない。


侑「ワシボン!! 上空まで飛んで!!」
 「ワシャボッ!!!!」


私の肩の上で待機していた、ワシボンを上空に送り出す。

ライボルトに隙がなかったせいで、いつ“かみなり”を落とされるかわからなかったから出来なかったけど、今この瞬間に狙うしかない……!!


愛「ゆうゆ!? 何するつもり!?」

侑「一瞬だけ!! 晴れさせる!!」


ただ、一点。それだけでいい……!

ワシボンは一気にライボルトの直上の空に飛翔し、


侑「ワシボンッ!! “にほんばれ”!!」
 「ワシャァッ!!!!」


雲に一番近い場所で、ワシボンが羽ばたき、ライボルトの真上の雲だけを一瞬吹きとばす。

すると──つよい日差しがライボルトの直上から地上に向かって降り注いでくる。


 「ライボッ!!?」

侑「雨のせいで、半減してた炎も──この日差しの下なら最大火力だよ!!」
 「ブイブイブイブイッ!!!!!」


全身に炎を纏ったイーブイが、ライボルトに向かって走り出す。


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「ライボッ!!!?」


晴れのパワーで強化された、“めらめらバーン”がライボルトに炸裂する。


 「ラ、ライボォッ…!!」


“やけど”を負いながら、地面を転がるライボルト。


リナ『侑さん!! 無力化させるなら、捕獲しよう!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! いっけぇ、モンスターボール!!」


私はモンスターボールを放り投げた。

真っ直ぐ飛んでいくボールはライボルトにぶつかり──パシュンと音を立てながらボール内部に吸い込む。

──カツーンカツーンカツン。音を立てながら地面に落ちたボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち──大人しくなった。


侑「……ライボルト、捕獲完了……!」


そして、それと同時に──


 「ラク…」「ライィ…!!」「ラクラァ…!!」


ボスの敗北を悟ったラクライたちが、逃走を始めた。


侑「……か、勝ったぁ……」

リナ『侑さん、すごい!』 || > ◡ < ||

侑「あはは……ギリギリだったけどね」

愛「いやいや、マジですごかったよ! ゆうゆ!」

侑「わわっ!?」


愛ちゃんが抱き着いてきて、思わず尻餅をつく。


愛「あの土壇場でよくあんな作戦ひらめいたね!」

侑「さっき歩夢が言ってたとおり、ヒバニーと同じでイーブイも主力のほのお技が雨で半減しちゃってる状態だったから……一瞬だけでも、イーブイの火力を最大まで引き出すには、雨雲を晴れさせるしかなかったからね」
 「ワシャボッ」

侑「おかえり。ありがとうワシボン。うまく行ってよかった」
 「ワシャッ」


肩にとまったワシボンを撫でながら労う。そして、


 「ブイッ」


ライボルトの入ったボールを咥えたイーブイが私のもとに戻ってくる。


侑「イーブイ、ありがとう。新しい“相棒わざ”のお陰で、また助けられたよ」
 「ブイッ!!」

リナ『さっきの技は“びりびりエレキ”って技だよ』 || > ◡ < ||

侑「“びりびりエレキ”……この調子でどんどん新しい“相棒わざ”も増えていくのかな?」
 「ブイ」

リナ『いろんな環境の場所に行けば、増えていくかもしれない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「だってさ、イーブイ」
 「ブイ?」


……そういえば、イーブイの新しい技にも助けられたけど……。


侑「ニャスパーは……」

愛「……それが、もうどっか行っちゃったんだよね」

侑「え……?」


確かに、愛ちゃんの言うとおり、周囲を見渡しても、ニャスパーの姿はもうすでになかった。


侑「なんだったんだろう……」

愛「とりあえず今は助かったことを喜ぼうよ♪」

侑「まあ、それもそうだね……」


どうにか、ドッグランは無事に抜けられそうなわけだし……。


侑「……そうだ、歩夢は……!?」

愛「……歩夢なら、先に行ってるはずだよ」

侑「そ、そっか……すぐに迎えに行ってあげなきゃ!」


きっと、一人で不安だろうし……!

私が勢いよくその場から立ち上がると──視界がグラっと傾き始めた。


侑「あれ……?」


そのまま、景色はどんどん傾いて行き──最後には完全に横向きになった。


 「──ゆうゆ!?」『──侑さん!?』


愛ちゃんとリナちゃんの声が、なんだか遠くに聞こえるとぼんやり思いながら──私の視界はゆっくりと暗闇に飲み込まれていくのだった。




    🎀    🎀    🎀





──コメコシティ、ポケモンセンター。


歩夢「…………」

侑「…………すぅ…………すぅ…………」
 「ブイ…」「ワシャ…」

歩夢「…………」
 「シャボ」「バニー…」


薄暗い部屋の中、静かに寝息を立てる侑ちゃんの傍らに座って、ただ黙っていた。

聞こえるのは侑ちゃんの寝息と、ときおり心配そうに鳴き声をあげるポケモンたちの声だけ。


歩夢「…………」


──ガチャ。薄暗い部屋のドアが開いて、廊下から少しだけ光が伸びてくる。

私はその光源に向かって、ゆっくりと顔を上げる。


愛「歩夢、ゆうゆ眠ってるだけだって先生が言ってたよ」

歩夢「……」

愛「少しだけど、電撃を浴びちゃったからね……。戦闘が終わって気が抜けた拍子に、そのときのダメージと疲労で気を失っちゃったみたいだね。でも、大きな怪我をしてたわけじゃないし、明日になれば目を覚ますだろうって」

歩夢「……」


愛ちゃんの言葉に多少の安心こそしたものの、私の心中は穏やかじゃなかった。

言葉が出てこないまま、私は再び眠ったままの侑ちゃんに視線を落とす。


侑「…………すぅ…………すぅ…………」

歩夢「……」

愛「歩夢……。みんな無事だったんだからさ、よかったじゃん」

歩夢「…………」

愛「トラブルはあったけど、全員無事にコメコまで来られた、それで──」

歩夢「私……約束、したの……」

愛「え?」

歩夢「侑ちゃんになにかあったら……私が、守る……って……」

愛「……」


なのに、私は──


歩夢「私……侑ちゃんに、守られてばっかりだ……」


研究所での騒動のときも、ゴルバットの捕獲のときも、カーテンクリフでの落石のときも。

真っ先に侑ちゃんは飛び出して、私や私のポケモンたちを守ってくれたのに。

私は──


歩夢「……私……ラクライが飛び掛かって来たとき……怖くて、動けなかった……」


侑ちゃんだったら、自分の危険を顧みずに、私を助けてくれたのに。


歩夢「私は……侑ちゃんを、守ってあげられなかった……」

愛「…………」

歩夢「……私……」

愛「…………」

歩夢「…………ごめん。こんな話されても、困るよね……あはは……」

愛「もし……」

歩夢「……?」

愛「もし、歩夢が本当にゆうゆを守りたいって本気で思ってるなら……強くなるしかないよ」

歩夢「……」

愛「戦うのは、怖い?」

歩夢「…………」


私は愛ちゃんの言葉に、控えめに首を縦に振った。

戦うのは、怖い。


愛「傷つくの傷つけるのも、嫌?」


その質問にも、頷く。


愛「……そっか。……それが、悪いことだとは思わない。だけどね、力がなかったら……弱いままだったら、何も守れないよ」

歩夢「……」

愛「守りたいなら強くなりな、歩夢。強くないと……大切なモノが、自分の手の平から全部零れていっちゃうから……」


愛ちゃんはそう言いながら、遠い目をしていた。何かに想いを馳せるかのように、何かを思い出すかのように。


愛「ゆうゆが目を覚ますまで待ちたかったけど……愛さん、約束があるからもう行くね。ゆうゆが目を覚ましたら、よろしく伝えておいて」

歩夢「……うん」

愛「大丈夫。歩夢には、強くなれる素質はあるから」

歩夢「……うん、ありがとう」


それが愛ちゃんの優しさで、慰めの言葉だとわかっていても、少しだけ救われた気分だった。


愛「それじゃ、またどこかで」


愛ちゃんが部屋を後にして……再び、部屋が薄暗い闇に包まれる。


侑「…………すぅ…………すぅ…………」

歩夢「……私、強く……ならなきゃ……」


穏やかに寝息を立てる侑ちゃんを見ながら、そう口にすると──何故だか、ポロポロと涙が溢れてきた。


 「ブイ…」「ワシャ…」

歩夢「…………強く……っ……なり、たい……っ……」
 「シャボ…」「バニ…」


侑ちゃんを起こさないように、声を押し殺すけど──悔しくて、情けなくて、そして……こんな自分が本当に強くなれるのか不安で、そんな風に思う自分がさらに情けなく思えて、涙が止まらなかった。


歩夢「…………ぅ……っ…………くっ……ぅ…………っ…………」


私はしばらくの間、ずっと声を押し殺したまま、泣き続けていた。

穏やかな顔で眠る侑ちゃんの傍らで──



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.24 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.14 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:67匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👏



ゆうゆの寝ている部屋を後にして、ロビーに行くと、


リナ『あ。愛さん』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがふわふわと浮いていた。


愛「や、ここに居たんだね」

リナ『……今の歩夢さん、そっとしておいた方がいいと思ったから』 || 𝅝• _ • ||

愛「うん、その方がいいと思うよ」

リナ『愛さんはもう行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「約束があるからね」

リナ『そっか。……最後に聞きたいことがあるんだけど……いい?』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「何かな?」

リナ『なんで、“そんなもの”を付けてるの?』 || ╹ᇫ╹ ||


“そんなもの”。リナちゃんの視線は──私の首に巻かれたチョーカーに向けられていた。


愛「……このチョーカー、似合ってないかな?」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」

リナ『言えない事情があるなら、これ以上追及はしない』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「そっか。質問はそれだけ?」

リナ『もう一つ』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「何?」

リナ『何で、あんな場所で待ってたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……。理由は説明したと思うけど……」

リナ『愛さんの強さなら……一人でも問題なかった気がする』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「あはは、それは買いかぶりすぎだよ。ゆうゆたちがいなかったら、愛さんここまで来れなかったって」

リナ『……そっか。じゃあ、質問はこれだけ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

愛「そう? それじゃ、もう行くね」

リナ『うん、ごめんなさい。変なこと聞いて』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「いいよ。それじゃ、二人によろしくね」

リナ『うん、伝えておく』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんに手を振りながら、私はポケモンセンターを後にする。

街灯の少ないコメコシティの夜道を歩きながら、考える。


愛「リナちゃん……ね」


名前といい、あの妙な鋭さ、物言い。思い出してしまう。

そして、


愛「あのニャスパー……」


私を助けたとき、ニャスパーと一瞬だけ、目が逢った。

あのニャスパー……。


愛「……いや、まさか」


そんなことは、ありえない。

これは、偶然だ。

こんな偶然で、アタシはブレちゃいけない。

アタシはもう……。とっくの昔に、覚悟を決めているのだから。


………………
…………
……
👏


■Chapter013 『農業の町コメコシティ』 【SIDE Yu】





侑「……ん……ぅ……」


瞼の裏に朝日を感じて、意識がゆっくりと浮上していく。

ぼんやりと目を開けると──


 「ブイ…」「ワシャ」


イーブイとワシボンが私の顔を覗き込んでいた。


侑「おはよう、イーブイ、ワシボン」
 「ブイ…」「ワッシャ」


2匹は私に体を摺り寄せて甘えてくる。

イーブイもワシボンも「こんなに甘えんぼだったっけ?」と一瞬疑問に思ったけど……自分の最後の記憶を辿ってみたら、なんとなく理由がわかってきた。


侑「……私あの後、気失っちゃったんだ……」


そう独り言ちて、ゆっくりと上半身を起こすと──


歩夢「侑ちゃん、おはよう」


傍らに座っていた、歩夢がにこっと笑う。


侑「おはよう、歩夢……心配掛けちゃったみたいだね」

歩夢「うん……心配したよ」

侑「ごめん……」

歩夢「うぅん、侑ちゃんが無事ならいいよ。……身体の調子はどう?」


歩夢の言葉を受けて、軽く肩を回したり、上半身を捻ってみる。


侑「……特に問題なさそう」

歩夢「痛いところとか、動かしにくいところとかない?」

侑「うん、平気」


ベッドから這い出て、そのままぴょんぴょんと軽く跳ねてみる。


歩夢「ゆ、侑ちゃん!? いきなり、そんなに激しく動いたら……!」

侑「……本当に何も問題なさそう。むしろ、ぐっすり眠ったお陰かな、むしろ快調かも!」


実際に電撃が掠った足も、全く問題ないし。


歩夢「ならいいんだけど……」


歩夢が安堵していると──


 「…ライボ」

侑「!?」


部屋の隅の方から、鳴き声が聞こえて、思わず身が竦んだ。


歩夢「あ、ライボルトも起きたんだね」

 「ライボ…」

侑「ボ、ボールから出したの……?」

歩夢「うん。ジョーイさんに回復してもらったあとは、ボールから出してたよ。ね、ライボルト」

 「ライボ…」


ライボルトはのっしのっしとこちらに歩いてきて、歩夢の傍に身を伏せる。


侑「……い、意外と大人しい……?」

歩夢「昨日の内に仲良くなったんだよ。ね、ライボルト」

 「ライボ…」


ライボルトは表情こそ変えないものの、昨日の激しい戦闘が嘘のように大人しい。


侑「相変わらず、すぐポケモンと仲良くなれるんだね……歩夢は」

歩夢「え? 普通だよ……この子は大人しかったし」

 「ライボ…」


歩夢が傍らのライボルトの鬣を撫でると、短く鳴き声をあげる。

……相変わらず、どっちが“おや”なのかわからなくなってくるなぁ。


歩夢「ライボルト、あなたの“おや”の侑ちゃんだよ」

 「ライボ…」


何故か、歩夢から紹介されてるし……。


侑「よ、よろしくね、ライボルト」


昨日の激闘の手前、少しおっかなびっくりになってしまうが、


 「ライボ」


ライボルトは再びのっしのっしと歩きながら、私の傍らまで近づいて、


 「ライボ」


短く鳴きながら、頭を垂れた。


歩夢「ライボルトも侑ちゃんの強さを認めてくれてるみたいだね」

侑「……そっか」


どうやら、“おや”として、認めてくれてはいるようで安心する。


侑「ライボルト、これからよろしくね」
 「ライボ」


これで手持ちも無事3匹目。これで、コメコジムに──


歩夢「そうだ、侑ちゃん!」

侑「?」

歩夢「私ね、侑ちゃんが寝てる間に、この町のこといっぱい調べたんだ♪ それでね、行ってみたい場所があるの! 朝食を取ったら、一緒に行こう?」

侑「え、でも……」


「私はジム戦に行きたい」と言い掛けたけど──


歩夢「……お願い」


歩夢は私の手を握りながら、言う。


侑「歩夢……?」

歩夢「侑ちゃんと一緒に……行きたいな」

侑「……。……あはは、そう言われたら断れないね♪ じゃあ、歩夢の行きたい場所、案内して!」

歩夢「……!」


私の言葉を受けて、歩夢の表情がぱぁっと明るくなる。


歩夢「うん!」


歩夢はニコッと笑いながら頷く。


歩夢「それじゃ、朝ごはん早く食べに行こう♪」

侑「ふふ、わかった♪」


私も笑って頷いて、部屋を後にする。

ただ、気付いてしまった──さっき私の手を握った歩夢の手は……確かに震えていたということに。





    🎹    🎹    🎹





──朝食を取りながら、私が気を失っていた間に愛ちゃんはもう行ってしまったことを聞いた。

まあ、愛ちゃんは先を急いでいたわけだからね。またどこかで出会えたら、お礼を言いたいかな。

朝食後、荷物を纏めて二人でロビーまで歩いて行くと──


リナ『侑さん、歩夢さん、おはよう』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんがふわふわと近付いてくる。


侑「リナちゃん、ここにいたんだね」
 「ブイ」

リナ『うん。侑さん、気分はどう?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「一晩ぐっすり寝て、すっきりだよ♪」

リナ『それなら、よかった。歩夢さんはちゃんと眠れた?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん。ゆっくり休めたよ」

リナ『二人とも万全みたいで嬉しい。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||


どうやら、リナちゃんは私や歩夢がゆっくり休めるように気を遣ってくれていたらしい。


侑「リナちゃんこそ、ゆっくり休めた?」

リナ『スタンバイモードで十分な休息は取ったから平気』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「そういうモードがあるんだね。……あれ、そういえばリナちゃんってご飯はどうしてるの?」

リナ『今日みたいに晴れてる日に、ソーラー充電してるよ』 || > ◡ < ||

歩夢「……? ロトムのご飯って太陽の光で、大丈夫なの?」

リナ『……あ、えーっと、それは』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「ほ、ほら! ロトムのご飯って、電気だから! 図鑑のバッテリーをソーラー充電して、それをご飯にしてるんだよ!」

リナ『そ、そうそう、そんな感じ』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「あ、そうだったんだ……そういえば、今までもご飯食べたりしてなかったもんね」

リナ『うん、今日も電気がおいしい』 ||;◐ ◡ ◐ ||


私もうっかり忘れかけていたけど、歩夢にはリナちゃんはロトム図鑑だって説明しているんだった……。

どうにか、それっぽく誤魔化せたようだ。


リナ『えっと、それはそうと、今日はどうするの? やっぱり、ジムせ──』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「私ね、コメコ牧場に行ってみたいんだ♪」


リナちゃんに質問に対して、歩夢が食い気味に答える。


歩夢「コメコ牧場って、すっごくゆったりとした雰囲気で、ミルタンクやメェークルの乳搾りが体験できるんだって♪ せっかく、自然豊かな町に来たんだから、行ってみたいなって」

リナ『なるほど。確かにコメコシティは農業が盛んで、自然も豊富。近くのコメコの森では森林浴も有名だし、いいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「うん♪ それじゃ、行こう侑ちゃん♪」

侑「あ、うん」


歩夢が私の手を引いて、歩き出す。


リナ『今日の歩夢さん、なんだか積極的』 || > ◡ < ||

侑「あはは、そうだね」
 「ブイブイ」


強く、強く、私の手を握って、歩夢は歩き出す……。





    🎹    🎹    🎹





歩夢「コメコ牧場は町の北側にあるみたいだよ」

侑「結構歩くんだね」
 「ブイ」

リナ『コメコシティはこの地方でも随一の農業地帯。南部に居住地があって、北部はほぼ全域が畑や田んぼ、牧場になってるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー」


自然豊かという前評判のとおり、気付けば辺りは広い田んぼと畑が続いている。

セキレイシティで生まれ育った私としては、ここまで建物がなく、ただ農業地帯が続いているというのは初めて見る光景だ。

田畑には今も農作業をしている人たちが何人も見えるけど、それ以上に気になるのは……。


侑「人だけじゃなくて、ポケモンも一緒に農業をしてるんだね」


先ほどから、田んぼの脇の道を歩いているけど、田んぼの中にはあちこちにドロバンコがいるのがわかる。


リナ『ドロバンコ うさぎうまポケモン 高さ:1.0m 重さ:110.0kg
   頑固で マイペースな 性格。 土を 食んで 泥を 作って
   泥遊び するのが 日課。 かなりの 力持ちで 自分の
   体重の 50倍の 荷物を 乗せられても まるで 平気だ。』


歩夢「見て、侑ちゃん! あっちの畑にいるのは、ディグダだよ♪」

侑「ホントだ!」


ディグダがぴょこぴょこと頭を出しながら、畑を耕している姿が目に入る。


リナ『ディグダ もぐらポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.8kg
   ディグダが 棲む 土地は 耕され フンで 豊かに
   なるため 多くの 農家が 大切に 育てている。
   光に 照らされると 血液が 温められて 弱ってしまう。』

侑「ドロバンコもディグダも一緒になって農業をしてるんだ……」

リナ『コメコシティは遥か昔から、ポケモンと共存してきた町って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


セキレイシティでもポケモンが街に居ることはあるけど……確かに、ここまで人との距離感が近いのは初めて見るかも。


リナ『この町では、ポケモンの力で田畑を耕して、人の知恵で作物を育てて、出来た食物を分け合って……それが昔からずっと続いている、伝統的な農業地帯だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「すごいね……人とポケモンが、同じ目線で協力し合って暮らしてるなんて……」


歩夢は目をキラキラさせながら言う。

歩夢はポケモンと家族同然に暮らしてきた子だし、これほどまでに人とポケモンとの間に隔たりがないこの町に、感じるものがあるのかもしれない。


侑「いい町だね」

歩夢「……うん」


セキレイ、ダリアとこの地方でも大きな街が続いていたからか、コメコシティのゆったりと流れる時間の中にいると落ち着く気がする。

そんな道のりの中、水田に水を引いている近くの小河にもポケモンがいるのが目に入る。


 「ゼル」

歩夢「わ、侑ちゃん! ブイゼルだよ!」

侑「ホントだ、でもまだちっちゃいね。子供なのかな?」

リナ『この町では数年前くらいから、繁殖期になると、ブイゼルが海から上ってきて、ここで子育てをするようになってるらしいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー」

リナ『最初は人間や田畑のポケモンと縄張り争いになったりしてたらしいけど……今では、子育てする場所を提供してもらう代わりに、ディグダやドロバンコを外敵から守る役割をしてるみたい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「今でも、新しい共存の工夫をしてるんだ……!」


リナちゃんの話を聞いて、歩夢が目を輝かせる。


侑「……ふふ」

歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「うぅん、なんでもない。牧場楽しみだなって思ってさ」

歩夢「ふふ♪ そうだね♪」


よかった……。さっきまで歩夢の様子が少しおかしかったけど……いつもの元気が戻ってきた気がする。

それを見て私は一人、胸を撫で下ろす。

でも、その間もずっと……歩夢は私の手をぎゅっと掴んで離すことはなかった。





    🎹    🎹    🎹





歩夢に手を引かれたまま、田畑の脇道を進んで行くと、だんだんと周囲の景色が田畑から、草原と柵、そして小屋のような建物が増えてきた。

恐らく、あれがポケモンたちの飼育小屋になっているんだと思う。


 「モォ~」「モォォォーー」

侑「だんだん、ミルタンクやケンタロスが増えてきたね」

歩夢「うん」


道の脇、柵を挟んで向こう側には先ほどとは趣の違うポケモンたちの姿。


リナ『ミルタンク ちちうしポケモン 高さ:1.2m 重さ:75.5kg
   栄養満点の ミルクを 出すことから 古くから 人間と
   ポケモンの 暮らしを 支えてきた。 牧場の 質が 良い
   土地ほど 出す ミルクは コクがあり 美味しい。』

リナ『ケンタロス あばれうしポケモン 高さ:1.4m 重さ:88.4kg
   スタミナに あふれた 暴れん坊。 走り出すと たいあたりするまで
   どこまでも ひたすら 突き進む。 群れの 中で 1番 太く 長く
   キズだらけの ツノを持つのが ボス。 荒っぽい 性格で 有名。』


伸び伸びと飼育されている、ミルタンクやケンタロスを眺めながら歩を進めると、程なくして大きめの施設が見えてきた。


リナ『あそこが乳搾り体験が出来る牧場施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「だってさ、侑ちゃん行こ♪」

侑「うん」


歩夢に手を引かれながら施設内に入ると、まさに牧場の飼育小屋といった感じの屋内の中、柵で仕切られたスペースの中にミルタンクたちの姿。

そして、そんなミルタンクたちを多くの作業員の人たちがお世話をしている。

作業をしている人たちはほとんどが高齢のおじいさんやおばあさんだけど……その中で一人だけ、目を引く若い女性の姿があった。


若い女性「あれ? お客さんかな?」


その女性は私たちに気付くと、持っていたミルタンク用らしき牧草を近くに下ろし、小走りで駆け寄ってきた。


歩夢「はい! あの、ここで乳搾り体験が出来るって聞いたんですけど……」

若い女性「わぁ! それで来てくれたんだね! 体験用のスペースは奥の方にあるから案内するね♪ 女の子二人と、イーブイにアーボ……それにロトム図鑑さんかな? 案内するね♪」

 「ブイ」「…シャボ」

リナ『よろしくお願いします』 || > ◡ < ||


ご機嫌な様子の女性の案内で、奥に通される。

その際にも、周囲を見回していると、作業をしている人がたくさんいるけど……この女性のような若い人の姿はほぼない。


若い女性「どうかしたの?」

侑「あ、いえ……」


案内の最中、私の視線に気付いたのか、目の前の女性は小首を傾げる。


侑「お姉さんだけ、周りの人に比べてお若いなって……」

若い女性「あ、なるほど。えっとね、この町の若い人は大人になると他の町に出ていっちゃう人が多いらしくって……」

歩夢「らしい……?」


やや他人事気味な物言いに歩夢が首を傾げると、


若い女性「わたし、実はこの町の出身じゃないの。もともとカロス地方の近くにある山村に住んでたんだよ」

侑「そこから、この町に?」

若い女性「うん♪ コメコシティはね、農業をやってる人にとっては世界的にも有名な町なんだよ♪ だから、前から興味があって、こうして実際に来ちゃったんだ~♪」


女性がニコニコ笑いながら言うと、近くで作業をしていたおじいさんやおばあさんが顔を上げる。


おじいさん「エマちゃんが来てくれたお陰で助かってるよ~」

エマ「わたしも毎日、素敵な体験させてもらってます♪」

おばあさん「ホント、一生ここに居て欲しいくらいだよ~」

エマ「うふふ♪ わたしもここの生活は楽しいから、そんなこと言われたら迷っちゃうよ~♪」


この人はエマさんと言うらしい。エマさんは口々に褒め言葉を投げ掛けてくるおじいさん、おばあさんに笑い掛けながらひらひらと手を振る。

どうやら、この牧場内でも、かなりの人気者らしい。

エマさんが前を通ると、作業をしているおじいさん、おばあさんがひっきりなしに話しかけてくる。

そして、一人一人ににこやかに笑いながら返事をしている辺り、エマさんも相当ここが気に入っていることがよくわかる。


エマ「えーと、そういえばまだ名前、聞いてなかったね」

侑「あ、私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
 「ブイブイ♪」

歩夢「歩夢です。この子はアーボのサスケ。侑ちゃんと一緒に旅してます」
 「…シャーボ」

リナ『ロトム図鑑のリナです。よろしくお願いします。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||

エマ「侑ちゃん、歩夢ちゃん、イーブイちゃんと、サスケちゃん、リナちゃんだね♪ 旅人さんなんだね~」

侑「はい。セキレイシティから来ました」

エマ「えっと、あんまりこの地方の地理には詳しくないんだけど……確か、すっごい大きな街だよね? 前に果林ちゃんが教えてくれた気がする」

侑「……かりんちゃん?」

エマ「あ、えっとね、果林ちゃんはわたしのお友達なんだ♪」

侑「あ、エマさんのお友達が言ってたんですね」


果林……どこかで聞いたことある名前な気がするけど……。

まあ、それはいいや。


エマ「二人はどうして旅してるの?」

歩夢「あ、えっと……実はセキレイシティで最初のポケモンと、ポケモン図鑑を博士から貰って……」

エマ「わぁっ! じゃあ、リナちゃんはもしかして──」

侑「はい、リナちゃんは私のポケモン図鑑なんです」

エマ「それじゃ、歩夢ちゃんも?」

歩夢「え?」


エマさんの言葉に歩夢は逡巡する。


歩夢「は、はい……一応」


歯切れ悪く返事をすると、控えめにポケットから取り出したポケモン図鑑をエマさんに見せる。


エマ「わぁ~♪ それじゃ、選ばれたトレーナーさんなんだね♪」

侑「あはは……私は運良く貰えただけというか……選ばれたのはむしろ歩夢の方で……」

エマ「そうなの?」

歩夢「え、あ……は、はい……」

エマ「そうなんだ~、すごいなぁ。わたし、戦うのはちょっと苦手だから、ポケモントレーナーさんはすごいなって思っちゃうよ~」

歩夢「…………」


エマさんの言葉に、歩夢が息を詰まらせたのがわかった。


侑「え、えっと……せっかくこの町に来たから、牧場に行きたいって歩夢が提案してくれたんです! ね、歩夢!」

歩夢「え? あっ、う、うん!」

エマ「そうだったんだ~! こうして、他の町から来た人が、興味を持ってくれるのはすっごく嬉しいな♪ そうだ! 二人はミルタンクとメェークル、どっちの乳搾りがしてみたい?」

侑「えっと、どう違うんですか?」


イメージだけで言うなら、乳搾りと言えばミルタンクだけど……メェークルの方がミルタンクよりも小さいから、ハードルは低い気もするかな……?


エマ「えっとね、ここのミルタンクの“モーモーミルク”はすっごく甘くて美味しいの! 特に搾りたてはすっごく美味しくって、飲みやすさもあるんだよ♪」

侑「……ん?」

エマ「メェークルのミルクはあっさりした味だけど、独特の風味はあるかな? 私はメェークルのミルクの方が好きなんだけど……あっ! バターやチーズを作るときでも、それぞれ全然違った味わいになってね、どっちも美味しいんだけど──」

侑「ま、待ってエマさん! 味の話じゃなくて……」

エマ「え?」

侑「あの、乳搾り自体がどう違うのかが聞きたくて……」

エマ「あ、そ、そうだよね! ごめんね……ここの牧場で採れるミルクはどれも絶品だから、つい……えへへ」


エマさんは少し恥ずかしそうに、頬を掻きながら笑う。


エマ「えっとね、ミルタンクは座ってる状態のミルタンクから、お乳を搾らせてもらうんだけど……メェークルはミルタンクみたいに座らせてお乳は搾れないから、お腹の下に手を伸ばして搾ることになるかな。初めてならミルタンクの方がイメージが掴みやすいかもしれないけど……乳搾り体験をお手伝いしてくれる子は、みんな大人しい子だから、どっちでもそんなに難しくはないと思うよ」

侑「なるほど……歩夢はどっちがいいと思う?」

歩夢「私は、侑ちゃんが選んでくれた方でいいよ」

侑「えー? うーん……どうしよう……やっぱり乳搾りって言ったら“モーモーミルク”だし、ミルタンクだけど……メェークルの乳搾りが出来るなんて珍しいし……」


私は腕を組んで、唸ってしまう。


エマ「ふふ♪ それなら、両方体験してみる?」

侑「それだ! お願いします!」

エマ「はーい♪ それじゃ、準備するからそこで待っててね♪」




    🎹    🎹    🎹





エマ「──そうそう、その調子で優しく搾ってあげてね♪」

侑「はーい……よっと……」

 「モォ~」

エマ「そうそう、上手上手♪」


エマさんの指導のもと、ミルタンクから“モーモーミルク”を搾らせてもらっている真っ最中。

最初はなかなかうまくミルクが出てこなかったけど、エマさんが親切に教えてくれるお陰で、すぐに出来るようになってきた。


エマ「侑ちゃん、上手だね♪」


何よりエマさんが教え上手の褒め上手だから、なんだか頑張ってしまうというのもある。

そろそろ、バケツ半分くらいになるかな……? もう随分搾らせてもらった気がするけど……。


侑「エマさん、ミルタンクって1日にどれくらいミルクが出るんですか?」

エマ「うーんと、ここにあるバケツ2杯分くらいかなぁ? 元気な子だと、3杯分くらいお乳を出してくれる子もいるんだよ~」

リナ『ミルタンクは1日に20リットルの乳を出すって言われてる。このバケツは1杯8.8リットルだから、確かに2杯ちょっとくらいだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え、そんなに……」

エマ「わぁ♪ すごいね、リナちゃん! バケツの容量までぴったりだよ~」

リナ『今日も測量センサーの感度ばっちり。任せて欲しい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

エマ「そういうことだから、遠慮せずにたくさん搾ってもらっていいからね♪」


エマさんはニコニコ笑っているけど、なんだかんだで乳搾りの力加減には結構気を遣わないといけないし、まだバケツ半分ということは、この作業の4倍やってやっと1匹分が終わりということだ。

しかも、この牧場にいるミルタンクはたくさんいる……思ったより途方もない作業かも。


エマ「? どうしたの? わたしの顔、じーっと見つめて?」

侑「いえ……農業って大変なんだなって思って……」

エマ「ふふ、それがわかってもらえたなら、こうして乳搾り体験を教えてる甲斐があるよ~♪」


農業従事者たちの日頃の苦労に感謝しながら、乳搾りをせっせと続けていると──


 「…ブイ」


頭の上で大人しくしていた、イーブイが急に身を乗り出してくる。


侑「わわっ、イーブイ!? そんな身を乗り出したら落ちちゃうよ?」
 「ブイ…」


どうやら、“モーモーミルク”の溜まったバケツを覗き込んでいるらしい。


エマ「ふふ♪ “モーモーミルク”の良い香りが気になっちゃってるのかも♪ イーブイちゃん、搾りたてのちょっと飲んでみる?」

 「ブイ!!」
侑「いいんですか?」

エマ「ご主人様が頑張ってる間、ポケモンちゃんにとってはちょっと退屈だもんね。ちょっと待っててね♪」


エマさんが搾乳用バケツの下の方にある栓を抜いて、ミルクをイーブイが飲みやすいサイズのお皿に注いでくれる。


侑「歩夢も、サスケに飲ませてあげたら?」


私の隣でさっきからもくもくと乳搾りをしている歩夢にも訊ねると──


 「シャボッ」
歩夢「…………」


返って来たのはサスケの鳴き声だけ。


侑「……歩夢?」

歩夢「……え? あ、ご、ごめん。何かな?」

侑「エマさんがポケモンたちに搾りたての“モーモーミルク”を飲ませてくれるって」

歩夢「あ、そうなんだ。サスケ」
 「シャボッ」


サスケはご主人様のOKが出ると、普段ののんびりゆったりとした様が嘘のように俊敏な動きで、ミルクの入ったお皿へと移動していく。


歩夢「ふふ♪ もう、サスケったら食いしん坊なんだから」

エマ「イーブイちゃんもサスケちゃんも好きなだけ飲んでいいよ~♪」
 「シャボッ」「ブイブイ♪」


2匹が“モーモーミルク”をぺろぺろと舐め始める。


侑「イーブイ、おいしい?」
 「ブイ♪」


イーブイも納得の味なようでご満悦だ。


エマ「それじゃ、侑ちゃんと歩夢ちゃんは乳搾りの続きをしようね♪」

侑・歩夢「「はーい」」


二人して乳搾りを再開したはいいんだけど、


歩夢「…………」


歩夢は相変わらず、もくもくと乳搾りをしている。


歩夢「………………はぁ」


たまに漏れ出てくる小さな溜め息。

そんな歩夢の様子が気になったのか、


エマ「……ねぇ、侑ちゃん」


エマさんが私に耳打ちしてくる。


エマ「歩夢ちゃんっていつもああいう感じなの……?」

侑「……いえ、普段はもう少し元気なんですけど」

エマ「そっかぁ……」


エマさんは少しうーんと考えたあと、


エマ「ねえ、侑ちゃん」

侑「なんですか?」

エマ「メェークルの乳搾りはまた今度でもいいかな? その代わり二人を案内したいところがあるんだけど」


そう提案してきた。


侑「え、はい、それは構いませんけど……?」

エマ「よかった♪ それじゃ、ミルタンクの乳搾り、わたしも手伝うから、頑張って終わらせちゃおっか♪」


ニコニコしながら、“モーモーミルク”搾りに加勢するエマさんは、両手を使って、同時に2つのお乳から手際よく搾り始め──文字通りあっという間に乳搾りを終わらせてしまった。

やっぱり、農業をやっている人ってすごいと舌を巻かざるを得ない。

……ただ、その間も歩夢は、


歩夢「…………」


ずっと、ぼんやりとしたまま、口数少な目に乳搾りを続けているだけだった。





    🎹    🎹    🎹





──乳搾り体験を切り上げて、私たちがエマさんに連れてこられたのは、


エマ「それじゃ、行こっか♪」

歩夢「ここって……」

侑「森……?」


コメコタウンの東側に位置する、大きな森だった。


リナ『ここはコメコの森。オトノキ地方の中でも一番大きな森だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

エマ「でも、道は舗装されてるから変に脇道に逸れなければ迷ったりはしないよ♪」


二人の説明を聞きながら見回してみると、視界のほぼ全てが樹木に覆われている、まさに森だ。

セキレイシティの近くでも、少し外れればちょっとした林くらいはあったけど……ここまで、いわゆる森と言えるような景色を見るのは初めてかもしれない。


歩夢「あ、あの……」


そんな中、おずおずと手を挙げる歩夢。


エマ「ん~? どうしたの?」

歩夢「ここ……野生のポケモンが出るんじゃ……」

エマ「そうだね~。自然の森だから、野生のポケモンさんはたくさんいるよ♪」

歩夢「そ、そうですか……」


エマさんの返答を聞くと、歩夢は私の腕をきゅっと掴んで自分の方へと引き寄せる。


侑「あ、歩夢……?」

歩夢「侑ちゃん……離れないでね……」

侑「う、うん」

エマ「そんなに怖がらなくても、ここの子は大人しい子ばっかりだから大丈夫だよ~」

リナ『この辺りに出るポケモンはナゾノクサやチュリネ、モンメン、スボミー、ハネッコみたいな、小型のくさポケモンくらいだから、こっちから刺激しなければ襲ってくることはないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「それなら、いいけど……」


と言いつつも、歩夢は私から離れようとしない。


エマ「奥まで歩くから、みんなはぐれないようにね♪」

侑「はーい」

歩夢「……はい」


エマさんに先導される形で森の中を歩き出す。

森というだけあって、いくら進んでも景色はずっと草木に覆われている。

ただ、もともとよくある森の鬱蒼としたイメージとは裏腹に、このコメコの森は常に葉と葉の間から木漏れ日が差し込んで来ていて明るく、先ほどエマさんの言ったとおり、人が通るであろう道は整備されているのかしっかり確保されている。

ちょっとした、ハイキング気分だ。

何より──


侑「すぅ…………はぁ…………」


空気がおいしい。緑が多いからなんだと思う。


 「ブィ…」


頭の乗っているイーブイも随分リラックスしているのがわかる。

なんだか、この空気の中にいるだけで、気分が落ち着く。

でも、歩夢は……。


歩夢「…………」


ぎゅーっと私の腕を掴んだまま、辺りをキョロキョロと警戒しながら歩いているようだった。


侑「歩夢」

歩夢「……え? な、なにかな?」

侑「ここのポケモンたちは、そんなに危なくないと思うよ」


周囲を見回すと、すでに視界には木漏れ日の中を気ままに漂っているハネッコやモンメンの姿が見て取れる。

野生のポケモンには違いないけど、彼らは本当に風に流されて飛んでいるだけで、襲ってくることなんて本当になさそうだ。


歩夢「……でも、ここは町の中じゃないから……」


私の腕を引く力が、さらに込められた気がした。


侑「……そっか」


──それから歩くこと数分。


エマ「──着いたよ~♪」


エマさんに連れてこられたのは、森の奥の方にある少し開けた場所だった。

そして、そこには周囲の木々がまるで意識的に避けているかのように──中央に苔むした大きな岩が鎮座していた。


エマ「ここね、わたしのお気に入りの場所なの♪」


エマさんがニコニコしながら振り返る。


エマ「みんなこっちにおいで♪」


エマさんは手招きしながら、苔むした岩の傍に腰を下ろす。


侑「歩夢、行こう」

歩夢「う、うん」


言われたとおり、私たちもエマさんの隣に腰を下ろす。

すると──


 「ブイ」


イーブイが私の頭から跳ねて、苔むした岩の上に飛び乗る。

そしてそのまま、


 「ブイブイ…」


気持ちよさそうに伸びをしたあと、その岩の上で丸くなってリラックスし始める。


侑「ふふ、イーブイ早速気に入ったの?」
 「ブィィ…」

エマ「ふふ♪ この岩、ひんやりしてて気持ちいいよね♪」


イーブイの様子を見て、嬉しそうに笑うエマさん。

ただ、そんな中でも、


歩夢「…………」


歩夢はまだ硬い顔をしたまま、私の腕を掴んでいる。


侑「…………」


さすがにそろそろ話をしないといけないと思った。

なんとなく、歩夢の様子がおかしい理由には見当が付いている。

私が口を開こうとした、そのとき、


エマ「歩夢ちゃん」


私よりも先に声を掛けたのは、エマさんだった。


歩夢「……? ……なんですか……?」

エマ「深呼吸、してみよっか♪」

歩夢「……え?」

エマ「はい、大きく息を吸って~」

歩夢「え? えぇ?」

エマ「歩夢ちゃん、息を吸うんだよ♪ すぅ~…………」


エマさんがお手本だと言わんばかりに、両手を大きく上に伸ばしながら、息を深く吸う。


歩夢「…………すぅー…………」


歩夢がそれに倣うように、ゆっくりと息を吸う。


エマ「……吐いて~……ふぅ~……」

歩夢「……ふー…………」

エマ「……ふふ♪ もう一回。吸って~……」

歩夢「…………すぅー…………」

エマ「……吐いて~……」

歩夢「…………ふー…………」


歩夢はそのまま、何度か深呼吸を繰り返す。

歩夢が深呼吸をするたびに──私の腕を掴むのに込められていた力が、抜けていくのがわかった。


歩夢「………………ふー…………」

エマ「ふふ♪ 深呼吸すると、気持ちが落ち着くでしょ?」

歩夢「………………はい」

エマ「しばらくここでのんびりしよっか♪ ここはすっごく空気が綺麗だから、リラックス出来ると思うよ♪」


歩夢は少し困ったような表情で私の顔を見る。エマさんがどうして、急にこんなことを言い出したのかがわからない、と思っているのかもしれない。

ただ、私はなんとなくエマさんのしたいことがわかった気がした。だから、黙って首を縦に振る。

歩夢は私の首肯を確認すると、岩に背をもたれたまま、ゆっくりと木々を見上げる。

私も釣られるように、顔を上げると──そよそよと風に揺れる木々の間から、僅かに木漏れ日が差し込んでくる。


エマ「……そのまま、目を瞑って、風と緑の匂いを感じてみて」

歩夢「……はい」


私も歩夢と同じように目を瞑る。

そよそよと吹く風に、緑の匂いが運ばれてくる。

息をするたび、美味しい空気が肺を満たして、身体の力が抜けていく気がした。

そのまましばらく目を瞑ったまま、これが森林浴か……などと思っていると、急に肩に僅かな重みを感じた。


歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」

侑「……歩夢?」

歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」

エマ「歩夢ちゃん、寝ちゃったね。きっと疲れてたんだね」

侑「……みたいですね」

エマ「歩夢ちゃん、理由はわからないけど……ずっと気を張ってるみたいだったから」

侑「……はい」

エマ「でも、ずーっと気を張ってたら……心が疲れちゃうよね」

侑「……そうですね」

歩夢「………………すぅ………………すぅ………………」


穏やかに寝息を立てる歩夢の顔を見て、私は何故だかすごく安堵していた。

ずっと、強張った歩夢の表情を見ていて、私も自然と気が張っていたのかもしれない。


エマ「余裕がなくなっちゃうと、いろんなものが見えなくなっちゃうから。疲れたときは、こうして自然の中でリラックスして、心を落ち着かせてあげた方がいいんだよ♪ 歩夢ちゃんも、侑ちゃんも」

侑「……はい」


歩夢だけじゃなくて……私も気付かないうちに疲れていたらしい。

エマさんはそんな私たちのために、このとっておきの場所に連れて来てくれたんだ。


侑「エマさん、ありがとうございます」

エマ「どういたしまして♪」


改めて、私は深く息を吸い込んでみる。

肺に新鮮な空気が流れ込んで来て、気持ちがいい。


侑「……ふぁぁ……」


そして、思わず欠伸が出る。


エマ「…………ふぁ……」


気付けばエマさんも欠伸をしていた。

眠いかも……。


リナ『侑さん、エマさん。何かあったら私が起こすから、眠っちゃってもいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そう……?」

エマ「それじゃ、お言葉に甘えて、わたしもお昼寝しようかな……」


隣で、もうすでにうとうとしているエマさん。

私も目を瞑る。


 「ブイ…zzz」


岩の上からはイーブイの寝息が聞こえる。


歩夢「………………すぅ………………すぅ………………ゆ、ぅ……ちゃん…………」

侑「おやすみ……歩夢…………」


程なくして、私の意識はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。





    🎹    🎹    🎹





 「──はい、順番。すぐにあげるから待っててね」
  「ハネ~」「ハネ~」「モンメ」「チュリチュリ」


何やら楽しげな声が聞こえてきて、少しずつ意識が浮上してくる。


侑「ん……」


ぼんやりと目を開けると、


歩夢「あなたは“モモンのみ”かな? そっちのチュリネは“クラボのみ”がいいかな?」
 「ハネ~」「チュリ♪」


歩夢が周りに群がる大量のくさポケモンたちに“きのみ”をあげているところだった。


侑「……あはは、やっぱり歩夢は大人気だ」

歩夢「あ、侑ちゃん。おはよう」

侑「おはよう」


目を覚ました私に気付いて、歩夢が顔をこちらに向けると、その拍子に、


 「ハネ~」


歩夢の頭の上でくつろいでいたハネッコがぽ~んと跳んで行った。


歩夢「あ、ハネッコ……跳んでっちゃった」

侑「あはは、ハネッコは軽いからね」


くすくすと笑いながら、歩夢を見つめる。

穏やかな表情で、野生のポケモンたちと戯れている姿は──すっかりいつもの歩夢だった。


侑「エマさんの言ってたとおり、みんな大人しいね」

歩夢「うん。起きたら、ハネッコとモンメンに視界を埋め尽くされてた時はびっくりしちゃったけどね……あはは」

侑「やっぱり歩夢は特別ポケモンに好かれるみたいだね」

歩夢「あはは、そうなら嬉しいかな」

侑「……歩夢」

歩夢「なに?」

侑「野生のポケモン、怖くない?」

歩夢「……全然怖くないわけじゃないよ。でも、怖い子ばっかりじゃない……大人しい子だったり、優しい子だったり、甘えんぼの子だったり。野生のポケモンにもいろんな子がいるんだよね……」


歩夢が近くを漂っているハネッコに手を伸ばすと──ハネッコが歩夢の手の平の上にふよふよと着地する。


歩夢「ラクライたちだって……自分たちの縄張りを守ろうとしてただけなんだよね……」

侑「歩夢……」


話をするなら、今だと思った。


侑「歩夢、ごめん」

歩夢「? 突然どうしたの?」

侑「歩夢に……すっごく怖い思いさせたんだって、やっと気付いた」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「私、せつ菜ちゃんに褒められたり、ジム戦が順調だったから……今回もどうにかなるって、調子に乗ってたところ……あったと思う」

歩夢「そ、そんなことないよ……!」

侑「ラクライの電撃を受けたとき、私の横をラクライたちがすり抜けていって……歩夢に飛び掛かって行った瞬間、本当に肝が冷えた。愛ちゃんが助けに来てくれなかったらって思うと……あのとき、歩夢怖かったよね。ごめん」

歩夢「侑、ちゃん……」

侑「私の方がバトルに慣れてるんだから……私はなんとしてでも歩夢を守ってあげるべきだったんだ。そのせいで、歩夢に怖い思いさせて……」

歩夢「…………」


歩夢は何か言いたげだったけど、私は言葉を続ける。


侑「だから、もう歩夢に怖い思いさせないためにも、私はもっともっと強くなるよ。強くなって、歩夢を守る」

歩夢「……!」

侑「歩夢にとって、この旅が怖い思い出にならないように……! 私が全力で守るから!」


そう誓って、歩夢の手を自らの両の手でぎゅっと握りしめた。


歩夢「ゆ、侑ちゃん……///」

侑「だから、もう怖がらないで大丈夫だよ。私が傍にいるから」

歩夢「……うん///」


歩夢は顔を赤くして、小さくもごもごと口を動かす。


歩夢「──本当はそういう理由じゃないんだけど……」

侑「え?」

歩夢「うぅん! なんでもない♪ 侑ちゃんが守ってくれるなら……もう怖くないよ、えへへ♪」

侑「そっか、よかった」


歩夢が幸せそうに笑う姿を見て、私は安堵した。

これでやっといつもどおりだ。


歩夢「……えへへ///」


歩夢は頬を赤く染めたまま、私の手をぎゅっと握り返してきた。

なんだか、昔に戻ったみたいだった。

子供の頃から、お互い気持ちがすれ違ってしまったときは、こうして手を握り合って、気持ちを伝え合って仲直り。それを何度もしてきた。

旅の中慌ただしくて、タイミングを計り損ねていたけど……こうして、気持ちを落ち着けられる場所に連れてきてくれたエマさんには感謝しないと。

二人でぎゅっとお互いの手を握りしめたままでいると、


リナ『侑さん、歩夢さん』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「きゃっ!?///」


急にリナちゃんが私たちの目の前に下りてきた。

それに驚いたのか、歩夢がパッと手を離す。


侑「どうしたの?」

リナ『何か、いる』 || ╹ _ ╹ ||

侑「え……?」

歩夢「何かって……」


二人で顔を上げて、周囲を見回しながら、聞き耳を立てる。


エマ「……くぅ……くぅ……zzz」


可愛らしく寝息を立てるエマさんの他に──ガサガサと、茂みの奥の方から、草をかき分けるような音がしていることに気付く。


侑「……歩夢、下がって」

歩夢「ポ、ポケモンじゃないかな……?」

リナ『うぅん、あそこにいるのは、ポケモンじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはポケモン図鑑だ。リナちゃんがポケモンじゃないと言うなら、間違いなくポケモンではない。

歩夢を背に庇うようにしながら、近くで眠っているエマさんの肩を揺する。


侑「エマさん、起きてください」

エマ「……んぅ……? ……どうしたの……?」


眠そうに目をこすりながら、身を起こすエマさん。


侑「何かが……います」

エマ「え……?」


私の言葉を聞くと、すぐにエマさんも音の源の方に視線を送る。

──ガサ……ガサ……。未だに鳴り続けている、茂みの音を聞いて、


エマ「ポケモンさん……じゃないね」


そう言いながら、腰のボールに手を伸ばしたのがわかった。

どうやらエマさんには、音を聞けばポケモンの出している物音ではないことがわかるらしい。


エマ「出てきて、パルスワン」
 「──ワンッ」


エマさんが、ボールから犬ポケモンを繰り出す。


エマ「この子は普段、牧羊犬のお仕事をしている子で、外敵が近付いてくるのに敏感なんだよ。パルスワン、茂みの向こう……Vai!」
 「ワンッ!!!」


エマさんの指示と共に、パルスワンが茂みの方に向かって走り出した──と思ったら、


 「…クゥーン」


パルスワンは茂みの手前で、足を止めてしまった。


エマ「あ、あれ……?」

侑「止まった……?」

歩夢「……パルスワン、尻尾振ってる」


歩夢に言われて、パルスワンの尻尾を見てみると──確かにふりふりと振りながらお座りをしていた。


侑「……どういうこと……?」


私がその様子に首を傾げていると、


エマ「パルスワンが警戒を解いたちゃった……? ……あっ! もしかして……!」


エマさんが、何か思い当たる節があったのか、先ほどの茂みの方に向かって突然駆け出した。


侑「え、エマさん!?」

エマ「もしかして、そこにいるの……! 果林ちゃん!?」


エマさんがそう呼びかけると──


 「──……もしかして……エマ……?」


人の声が返ってきた。

そして、その声と共に茂みの奥から、ガサガサと長身のお姉さんが姿を現した。


エマ「やっぱり……!」

果林「エマぁ……助けてぇ……さっきから、ずっとコメコシティに向かっているはずなのに、同じところに辿り着いちゃうの……」

エマ「もう……なんで、“そらをとぶ”を使わずに森の中を歩いてきちゃうの……?」

果林「今日は大丈夫な気がしたのよ……」


どうやら、先ほどからの物音は、あの人が原因だったらしい。……というか、


侑「あの人って……もしかして……!」

歩夢「……う、うん」

侑「スーパーモデルの果林さん!?」


私が大きな声をあげると、


果林「……!?」


果林さんは一瞬ビクッとしたあと、こちらに視線を向けてくる。


エマ「果林ちゃん?」

果林「…………」


エマさんに泣きつくような姿勢だった果林さんは、急に背筋を伸ばし、


果林「……あ、あら、貴方たち、もしかして私のこと知っているの?」


動揺を隠しきれない様子のまま、綺麗な笑顔を作って微笑みかけてくる。


侑「え、あ、はい……」

リナ『全然、取り繕えてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あ、あはは……」

果林「………………っ……///」


リナちゃんの指摘に果林さんの顔がカァーっと赤くなるのがわかった。


果林「ち、ちょっと森林浴してただけよ!!///」

侑「は、はい……なんか、すみません」

果林「は、早く帰らないとね……!!」


そう言いながら、立ち去ろうとする果林さん。


エマ「か、果林ちゃん! そっちはホシゾラシティ方向だよ!」

果林「…………」


そしてすぐに立ち止まる。


侑「もしかして……」

歩夢「方向音痴……?」

果林「…………っ……///」


果林さんは耳まで赤くして、ぷるぷる震えている。

──果林さんと言えば、テレビでもよく見る有名なモデルさんだ。

もちろん、私や歩夢も何度も目にしたことのある有名人。

せつ菜ちゃんのように、旅をしていたら、テレビの向こう側にいる人と会えたりするんじゃないかとワクワクしていたんだけど……まさか、こんな形で遭遇することになるとは思ってもみなかった。

現在進行形で道に迷っているところを私たちに見られて堪えているところに、追い打ちを掛けるように──くぅ~……と可愛らしい音が鳴る。

たぶん、果林さんのお腹が鳴る音だ。


エマ「果林ちゃん、結構迷ってたのかな? お腹空いたんだね? もう暗くなっちゃうし、早くコメコに帰ろう?」

果林「………………っ……///」


果林さんはもはや何も言い返さず、無言でエマさんの言葉に頷くだけだった。

気付けば、森の木々の隙間から見える空は夕闇が迫り始めていた。


エマ「わたしたちは、このままコメコに帰るけど……二人はどうする?」

侑「私たちも一旦帰ろうか」

歩夢「うん」


コメコシティにはまだ用事があるし、このまま帰った方がいいと思ったんだけど、


侑「……あ」

歩夢「? どうしたの?」

侑「今日の宿……まだ探してなかった」

歩夢「……あ」


昨日はポケモンセンターに泊めてもらっていたから、うっかりしていた。

今からコメコに戻って宿を探さないといけない。

もちろん、もう一泊ポケモンセンターに泊めてもらうというのも手だけど……あそこは泊めてもらえるというだけで、宿泊施設というわけではない。

昨日の私たちのような怪我人や病人が休めるように、出来るだけ自分たちで宿を見つけて、部屋を埋めない方が望ましい。


侑「リナちゃん、コメコの宿って……」

リナ『……コメコ自体旅人が泊まれる宿が少ない。もうこの時間だと部屋が埋まってる可能性が高いかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「だよね……」


お昼に町中を歩いているときから、そんな気はしていた。

あるにはあるんだろうけど……もし、部屋が埋まっていたら……。


歩夢「……どうしよっか」

侑「うーん……」


とはいえ、出来れば野宿も避けたい。

宿が空いていることに賭けて、コメコに戻るべきかな……。

私が唸っていると、


エマ「あ、そうだ! 宿を探してるなら、この先にある森のロッジに行ったらいいんじゃないかな?」


と、エマさんが提案してくれる。


歩夢「この先にあるんですか?」

エマ「うん! 旅人さんが自由に使えるロッジだよ!」

侑「ホントですか!? リナちゃん、場所わかる?」

リナ『もうすでに検索中……。……確かにロッジ、すぐ近くにあるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「助かったぁ……じゃあ、今日はそこに泊まらせてもらおう」

エマ「あ、ただ……今は長期で使ってるトレーナーさんがいるから、その人たちと一緒に泊まることになっちゃうと思うけど……」

侑「それくらいなら、全然問題ないです! いいよね、歩夢?」

歩夢「うん、もちろん」


むしろ、トレーナーの人と一緒に泊まって、あわよくば話が出来たら、ジム戦前にいい刺激になるかもしれないし……!


侑「それじゃ、私たちはそのロッジを目指します!」

エマ「うん、わかった♪ すぐに暗くなっちゃうと思うから気を付けてね」

侑「はい! いろいろ、ありがとうございました!」

歩夢「ありがとうございました、エマさん」


歩夢ともども、エマさんに頭を下げる。


エマ「どういたしまして♪ 今度はメェークルの乳搾りもやろうね♪」

侑「はい! 是非お願いします!」

エマ「それじゃ、果林ちゃん行こっか」

果林「…………ええ」


エマさんと果林さんがコメコの方へと向かう背中を見送る。


侑「歩夢、私たちも」

歩夢「うん」

侑「イーブイ、行くよ」

 「…ブイ…?」


イーブイが眠っていたはずの、岩の上を見やると──


侑「……?」


確かにイーブイは岩の上にいたんだけど……。


侑「……この岩、こんなだったっけ……?」


イーブイの周囲には豆の木を連想させるような木がにょろにょろと生えていて、さらにその周囲に何個か大きめのタネのようなものが落ちている。


歩夢「これ……もしかして、“やどりぎのタネ”……?」

侑「え?」

歩夢「家のいたハネッコの“やどりぎのタネ”に似てる……ハネッコが使ってたのより、ずっと大きいけど」

 「ブイ…?」


イーブイが首を傾げながら、ピョンと岩から飛び降りると、その拍子に──コロコロとイーブイの尻尾から、岩の上に落ちていたものと同じタネが飛び出してきた。


侑「え!?」
 「ブイ…?」

歩夢「このタネ……イーブイから、出てきた……?」

侑「でも、イーブイが“やどりぎのタネ”を覚えるなんて聞いたことないし……。野生のポケモンにこっそり植え付けられてたとか……?」

リナ『うぅん、今イーブイは“やどりぎのタネ”状態になってないよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「えっと……それじゃ、これは……」
 「ブイ?」


本来イーブイが覚えるはずのない、新しいくさタイプの技……。


侑「もしかして新しい、“相棒わざ”……?」

リナ『この自然の中で、イーブイがくさエネルギーに適応したみたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「寝てただけなのに……」

リナ『でもこの岩、すごく純度の高いくさエネルギーを検知出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「なるほど……」


確かに、近くにいるだけで私も歩夢もエマさんも、すごくリラックス出来たわけだし……イーブイも同様に自然のエネルギーをたくさんもらえた、ということなのかもしれない。


リナ『データを参照するに、この“相棒わざ”の名前は“すくすくボンバー”。大きな“やどりぎのタネ”を相手にぶつけて攻撃することが出来るみたいだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そ、そっか……何はともあれ、新しい技だよ! イーブイ!」
 「ブイ…?」


完全に寝耳に水──というか、寝耳に種? なせいで、リアクションに困るけど、新しい技が増えたのは純粋にめでたいことだ。

肝心のイーブイも本当に寝ていたら習得していたようで、自覚らしい自覚もないみたいだけど……。


リナ『……とりあえず、そろそろロッジを目指した方がいい。本格的に、日が落ちてからだと移動が大変になる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……っと、そうだった」


道がしっかりしているとはいえ、ここは森の中だった。

夜になったら、足元も見えづらくなって危ないだろう。

私たちはロッジへの道を急ぐことにした。




    🎹    🎹    🎹





リナちゃんの案内に従いながら森の中を進み、件のロッジに辿り着いたのはもうすっかり日も暮れた頃だった。


歩夢「あ、侑ちゃん! あれじゃないかな?」

侑「ホントだ! ライボルト、もう“フラッシュ”やめても大丈夫だよ。ありがとう」
 「ライボ…」


暗がりを照らしてくれていたライボルトをボールに戻し、窓から明かりの漏れるロッジに歩を進める。

確かにエマさんの言うとおり、すでに先客がいることを示す灯りだ。

私がノックをしようと、手を上げたそのときだった。


 「──いってきま~す!!」


元気な声とともに、扉が勢いよく開かれたのだ。


侑「うわっとと……!!」


飛び退くようにして、開く扉を回避する。


 「わっ!? ご、ごめんね! 人がいるなんて思わなくって……!!」

侑「い、いえ、だいじょ、う……ぶ……?」


目の前で慌て気味に謝罪をする人の顔を見て、私は固まってしまった。


歩夢「……え……!?」


同じように歩夢も目を丸くしているであろうことがわかる、驚きの声が聞こえてくる。


 「あ、あの……大丈夫? やっぱり、怪我させちゃったかな……?」


心配そうに私の顔を覗き込んでくるけど……でも、私は固まったまま動けなかった。

何故なら──目の前にいた人は、


千歌「……ど、どうしよう……全然反応がない……。とりあえず、中に入る……?」


オトノキ地方・現チャンピオン──千歌さんその人だったからだ。





    🎹    🎹    🎹





千歌「彼方さ~ん! 遥ちゃ~ん! ちょっと来て~!」

 「な~に~?」

 「千歌さん……? どうかしたんですか?」


ロッジの中に呼びかける千歌さんを見ながら、私は完全に呆けてしまっていた。

なんで? なんで、こんなところに千歌さんが? 千歌さんってチャンピオンだよね? ウテナシティのポケモンリーグにいるはずだよね? なんでコメコの森にいるの??

ぐるぐると思考だけが空回りしている中、


歩夢「侑ちゃん、とりあえず、中に入ろう……?」

侑「……あ……うん」


私よりはまだ冷静だった歩夢が私の手を引く。

ロッジは木製の二階建てで、なかなかに立派な作りの建物だった。

これだと人が4~5人いても有り余るくらいだから、泊まらせてもらうのには何一つ不便がなさそうだけど……。

ぼんやり室内を見回していると、二階に通じる階段から人が二人ほど降りてきた。


侑「……あれ?」

 「およ?」


そのうちの一人はどこかで見覚えのある人だった。


歩夢「あ……セキレイでゴルバットの居場所を教えてくれた……」

彼方「すご~い、こんなところで会うなんて~。彼方ちゃんびっくりだよ~」

遥「お姉ちゃんの知り合い?」

彼方「えっとね~、この間セキレイシティにいたときにポケモンを探してたから、目撃情報を教えてあげた子たちなんだよ~。ポケモンたちは無事に見つけられた~?」

侑「は、はい! お陰様でみんな見つけられました!」

彼方「それはよかったよ~。……っと、自己紹介がまだだったね~。わたしは彼方って言いま~す。この超絶可愛い子はわたしの妹の遥ちゃん!」

遥「お、お姉ちゃん……。えっと、遥です。よろしくお願いします」

侑「あ、私は侑って言います!」

歩夢「歩夢です」

リナ『リナって言います』 || > ◡ < ||

彼方「お~! 最近の若い子はハイテクなものを持ってるんだね~」


まさかこんなところで、再会するなんて……彼方さんの言うとおりびっくりだ。

いや、それはいいんだけど……。


千歌「えっと……それで、その、大丈夫かな?」

侑「あ、えっと……は、はい……。……あの」

千歌「ん?」

侑「ち……千歌さん……ですよね……?」

千歌「あ、もしかして私のこと知ってるの?」

侑「あ、当たり前じゃないですか!? チャンピオンですよ!?」


私がもはや叫びに近いような声をあげると、


 「──あはは、千歌ちゃんは有名人だもんね~」


部屋の奥の方から、さらにもう一人……。

今日は驚きの出会いがとにかく多くて、正直頭が追い付かなさそうなんだけど……さすがにもう誰が来ても驚かない自信がある。


千歌「う~ん……まあ、有名なの自体は悪い気はしないかなぁ?」

彼方「穂乃果ちゃんは有名じゃないの~?」

穂乃果「え、うーん……私は千歌ちゃんほど表に露出しなかったからなぁ」


どうやら、この人は穂乃果さんと言うらしい。……表に露出しなかったってなんのことだろう?

一方で、


リナ『……とんでもない人がいる』 ||;◐ ◡ ◐ ||


リナちゃんが驚いていた。


歩夢「とんでもない人……?」

リナ『この人……穂乃果さんはオトノキ地方の歴代チャンピオンの一人……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「……はい?」


……歴代チャンピオン?


穂乃果「わっ! 私のことも知ってるの?」

リナ『データベースの情報だけだけど……。公式戦無敗のオトノキ地方歴代最強のチャンピオンらしい……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

穂乃果「えへへ~歴代最強だなんて、照れちゃうな~」

千歌「そーなんだよー! 穂乃果さんには結局一度も勝ててないままなんだよね……」


──私は再び空いた口がふさがらない状態になっていた。

……え、何この空間?

セキレイシティで会ったお姉さん──彼方さんと偶然再会。その妹の遥さんと……オトノキ地方現チャンピオンの千歌さん。そして、歴代最強のチャンピオンの穂乃果さん……?

普段だったら感動のあまり、今まで見た試合の感想を捲し立てていそうなものなのに、あまりの展開にもはや呆けるしか出来なくなってしまっている。


遥「……そういえば、千歌さん。ウテナに行くんじゃ……」

穂乃果「歓送迎会って言ってたよね? 早く行かないと遅刻しちゃわない?」

千歌「……あ! そ、そうだった! 遅刻したら、ダブルでお説教されちゃう……!!」

彼方「ボールベルト忘れてないー?」

千歌「うん! 今日も着けっぱなし! それじゃ、行ってきます! 穂乃果さん、あとお願いします!」

穂乃果「了解~。任せて~!」

千歌「侑ちゃん! さっきはぶつかりそうになってごめんね!」

侑「あ、いえ……」


思い出したかのように、慌ただしくロッジを飛び出していく千歌さん。

……玄関で鉢合わせたということは、千歌さんは出掛けようとしていたんだから、そりゃそうだよね。


彼方「そういえば、侑ちゃんたちはどうしてここに来たの~?」


言われてみれば、本題がまだだった。


侑「えっと……今日の宿を探していて、ここに来れば泊めてもらえるって聞いたので……」

彼方「あ~なるほど~」

歩夢「あの突然でご迷惑じゃないでしょうか……?」

遥「迷惑なんてとんでもないです! 本来、旅人が自由に使えるロッジをこうして長期で貸していただいているのは私たちの方なので……お気になさらずくつろいでください」


どうやら、腰を落ち着けることは出来そうだ。

……いや、でも、このままじゃ別の意味で落ち着かない。


侑「あ、あのー……」

彼方「ん~なにかな~?」

侑「その……彼方さんたちはどういう理由でここに滞在しているんですか……?」


事細かに訊きたいことはいろいろあるんだけど……とりあえず、どういう理由でチャンピオンたちがここに集まっているのかが気になってしょうがない。

だけど、その問いに対しては、


穂乃果「残念だけど、それは機密事項で話せないんだ~。ごめんね?」


と煙に巻かれてしまった。


侑「あ、い、いえ……! だ、大丈夫です……! す、すみません、こちらこそ急に変なこと聞いちゃって……!」

穂乃果「うぅん。確かにいろいろ気になっちゃうよね~」


考えてみれば歴代チャンピオンが一つの場所に二人もいるなんて、それこそ普通じゃないし……。

何か人に言えない重要な理由がある……んだと思う。とりあえず、それで納得しておこう。


彼方「とりあえず、みんなお腹空いてない~? そろそろご飯を作ろうと思うんだけど~」

歩夢「あ、それなら私、手伝います!」

侑「私も!」
 「ブイ!!」

彼方「ありがと~。そっちのイーブイちゃんにもおいしいご飯作るからね~。今日はいつも以上に賑やかなご飯になりそうだね~」

穂乃果「ふふ、そうだね♪ それじゃ、私はご飯を作ってる間に、周囲の見回りしてくるね」

遥「すいません、いつも……。よろしくお願いします」

穂乃果「任せて♪ いってきま~す」

彼方「いってらっしゃ~い」


見回りってなんだろう……?


彼方「は~い、それじゃみんなで美味しい夕食を作ろうね~」

侑「あ、はーい!」


……まあ、この状況、気になること全てを聞いていたら、時間がいくらあっても足りない気がするし……。

とりあえず、目の前のことから片付けていこうかな……。

どうにか頭を切り替えながら、彼方さんを手伝うために、ロッジのキッチンに向かうのであった。



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.25 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:55匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.15 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👠



果林「──ごちそうさま」

エマ「おそまつさまでしたー♪」


エマの作ってくれる料理は、美味しいから好き。

……ただ、少しカロリー高めなメニューが多いのは玉に瑕だけど。

また明日からカロリー調整、意識しないとね……。


 「チャム」「ヤンチャー」

エマ「あれ? ヤンチャムちゃんたち、まだ足りないかな?」

果林「こーら。貴方たち、自分の分はさっきちゃんと食べたでしょ?」
 「チャム」「チャムチャー」

果林「全く……」


我儘なんだから……。特にこの2匹は食いしん坊で困っちゃうわ……。まあ、そんなところも可愛いのだけど。


エマ「果林ちゃんのお家は可愛いヤンチャムちゃんがたくさんいて楽しいね~♪」


朗らかに笑いながら、部屋の中を見回すエマ。

確かに、この家には5匹もヤンチャムがいるから賑やかではある。


果林「……あんまり、外でこのこと言わないでね?」

エマ「えー? 気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ……」

果林「私にもイメージってものがあるの。あのスーパーモデルの果林が普段はヤンチャムに囲まれてるなんて、イメージと全然違うじゃない」

エマ「そういう果林ちゃんも可愛くて私は良いと思うよ?」

果林「……/// そ、そういうのはエマの前だけでいいってこと!」

エマ「そっかー。えへへ~」


全くこの子は……わかって言ってるんじゃないかしら?


エマ「さて……それじゃ、わたしはそろそろ帰るね」

果林「ええ。ご飯まで作ってくれて、助かったわ」

エマ「うぅん。果林ちゃん、なかなか帰って来ないから……いるときくらいはお世話させて♪ また来るね♪」

果林「ふふ、ありがとう。おやすみなさい」

エマ「うん、おやすみなさ~い♪」


ひらひらと手を振りながら、エマが家を後にする。


果林「…………」


エマが出て行ったドアを数秒見つめ──十分に人の気配がなくなったことを確認して、私は家の奥にある書斎へと足を運ぶ。

そのまま、書斎の奥の棚にある一冊の本を押し込むと──ゆっくりと本棚がスライドする。

棚がスライドしたその先には、カメラのレンズ。それを覗き込むように、目を近づける。

──ピッと小さな音で網膜センサーの認証音が鳴り。今度はパスコード入力用のテンキーが現れる。

パスコードを入力し、最後に指紋センサーで自分の指紋を認証させたら──エレベーターへの入り口がやっと開かれる。


果林「相変わらず厳重すぎるほど厳重ね……」


一人呟きながら、エレベーターに乗り込むと、私は地下へと運ばれる。

エレベーターが動きを止め、目的地の地下階へと降り立つと──


 「ベベノー」


白と黄色のボディが特徴的な小さなポケモンがふよふよと自由気ままに漂っていた。

そして、そのさらに奥には、このポケモンの主、大きなモニターの前に座った子が、金髪のポニーテールを揺らしながら、こちらに振り返る。


愛「やー、カリン。重役出勤だね~」

果林「愛……。悪かったわ。ちょっとエマに捕まっちゃって」

愛「見てたよ~。いやいや、仲睦まじそうで愛さん嬉しいよ。昔のカリンのこと思い出すみたいで」

果林「茶化さないで。というか、見ないで欲しいんだけど」

愛「それはダメだって。エマっちを監視しないわけにいかないっしょ? カリンにあれだけ近い存在なんだから」

果林「…………」

愛「そんな顔しないでって、アタシがそれだけ真面目に仕事してるってことじゃん」

果林「……そうね」

愛「アタシ結構頑張ってたんだからね? まさかカリンが丸一日も遅刻するなんて思わないじゃん?」

果林「だから、悪かったって言ってるでしょ……」

愛「ま、カリンのことだから、カナちゃんの様子見に行ったついでに、森で道に迷ったとかそんな感じでしょ?」

果林「……ここにいたなら発信機で概ね見当が付いてるんでしょ……」

愛「あっはは♪ ま、そうなんだけどね~」


わざわざ、こんなことを言ってくるのは遅刻したことへの当てつけなのか、それとも……。


愛「んで、カナちゃんはどうだったの?」

果林「相変わらずよ。チャンピオン二人が脇を固めているから、近寄れないわ」

愛「だよね~。ま、今チカッチは離れてるっぽいけど」

果林「穂乃果ちゃんがいるなら、どっちにしろ厳しいわね……」


相手は元とはいえチャンピオンだ。二人いるときよりはマシとは言え、私一人で相手取るには少々厳しいものがある。特に穂乃果ちゃんは……。


愛「ま、それはそれとして……ことりの方はどうだったの?」

果林「……あえなく撃墜されたわ。やっぱり私が指示を出せない状態で襲撃してもダメね」

愛「ひゃー……やっぱ、さすがの強さだね。んで、撃墜された後どうしたの? 回収できたん?」

果林「ええ。このとおりよ」


私は腰からボールを取り出して愛に見せる。


愛「カリンが撃墜地点まで行って回収したの? それって足付かない?」

果林「回収は姫乃にしてもらったわ」

愛「その後、姫乃っちとどっかで合流した感じ? 周りに人いない場所でやった?」

果林「いいえ。むしろ、コンテストで優勝したあと、ファンに囲まれている中で受け取ったわ」

愛「……相変わらず無茶するねぇ」

果林「ああいうのは、こそこそしている方がバレるものよ。人の多い場所でやった方がむしろ目立たないわ」

愛「木を隠すなら森の中~人を隠すなら~ってやつ? ま、わからなくもないけどね~」


私の報告を聞き終わると、愛は再びモニターに向き直って、キーボードで情報を整理し始める。

その際に、辺りに携帯食料の袋がいくつも落ちているのが目に入る。


果林「……愛、もしかしてずっとここに居たの?」

愛「誰かさんが遅刻したからね~」

果林「それは悪かったって言っているでしょ? ……私の居場所に見当が付いていたなら、食料の調達くらい……」

愛「あっはは、ダメダメ♪ カリンはアタシの居場所は24時間どこに居てもわかるわけじゃん?」


そう言いながら、愛はこちらに振り返り、自分の首に付けられたチョーカーをわざとらしく弄って見せる。


愛「私はカリンにリードで繋がれてるんだからさ~。ここで大人しくご主人様の帰りを待ってないとね~」

果林「……当てつけみたいに言わないでくれる?」

愛「へいへい」


愛は肩を竦めながら、再びモニターに向き直ってしまう。


果林「……愛」

愛「んー?」

果林「……これでも私は、今でも“SUN”は貴方が相応しいと思ってるつもりよ」

愛「でも、上の人たちはそんなの許さないでしょ」

果林「……」

愛「別にいいって。“SUN”はカリンが、“MOON”は姫乃っちがって、ちゃんと役割決まってるんだからさ。アタシはサポートエンジニアでいいんだって」

果林「愛……」

愛「そんな心配する前に“STAR”の奪還の方が大事でしょ」

果林「……わかってるわよ」


私が口を閉じると、室内がカタカタという無機質なキーボードの音だけになる。

しばらく、その音だけが空間を支配していたが、


愛「……あ、そうだ」


ふと、思い出したかのように愛が口を開いた。


愛「ちょっと、面白い子見つけたんだよね~」

果林「……面白い子?」

愛「この子なんだけどさ」


そう言って、一枚のデータ端末ボードを投げ渡してくる。

目を通す──


果林「……あら……この子」

愛「お? もしかして、知ってる?」

果林「……知ってるってほどじゃないけど、さっき偶然すれ違ったわ」

愛「ふーん。その子ね、たぶん天才だよ」

果林「天才?」

愛「まだ、芽が出る前だけど……とんでもない逸材だと思うよ。いやー、わざわざ張ってた甲斐があったよ」

果林「……へぇ」

愛「是非、アタシたちの計画に欲しいくらいだよ」

果林「……詳しく教えてくれるかしら?」

愛「OK.OK. この子はね~」


モニターの明かりだけが照らす薄暗いこの部屋で──私たち、DiverDivaの情報共有は朝方まで続く……。


 「ベベノーー」


………………
…………
……
👠




■Chapter014 『ホシゾラの暴れる蕾』 【SIDE Shizuku】





──フソウタウンでの夜が明けて……。私たちは今、


しずく「んー……潮風が気持ちいいね、メッソン」
 「メソ…」


ホシゾラシティに向かう船に乗っているところだ。

フソウからは無事にホシゾラ行きの便に乗れたため、私は快適な船の旅を楽しんでいる。

でも一方で、かすみさんは、


かすみ「…………」
 「…………」


甲板の隅にしゃがみ込んで、転がっている真っ白なサニーゴを見つめながら、黙り込んでいた。


しずく「もう……かすみさん、いつまでそうしてるつもり?」

かすみ「じっと念を送り続ければ、普通のサニーゴにならないかなって……」

 「なるわけないロトー」

かすみ「夢くらい見させてよ!」
 「…………」

しずく「あはは……」


まあ、騙されちゃったわけだし、ダメージを受けるのも仕方ないのかな……。

とはいえ、ずっと落胆しているのは気の毒だし、何よりサニーゴも可哀想だ。


しずく「かすみさん、ショックなのはわかるけど……でも、もうかすみさんはそのサニーゴの“おや”なんだから。いつまでもそんな顔してたら、サニーゴが可哀想だよ?」

かすみ「……わかってるよぅ」
 「…………」

しずく「ほら、この子もよく見れば愛嬌がある顔してるような気もするし」

かすみ「……そうかな」
 「…………」


かすみさんと二人でサニーゴの顔を覗き込む。

その瞳は、深淵を彷彿とさせるような闇が、奥に広がっている気がした。

ずっと、見ていたら魂を吸い込まれそうな……。


しずく「……っは」

 「あんまりジーっと覗き込んでると呪われそうロト」


危うく意識が遠のきかけた。やはり、ゴーストタイプは伊達じゃないということだろうか。


かすみ「……決めた」

しずく「?」

かすみ「確かに本当に欲しかったのは普通のサニーゴだったけど……この子も、かすみんのところに来てくれた大切なポケモンだもん」

しずく「! そうそう、そうだよ! かすみさん!」

かすみ「だから、この子の魅力を磨きに磨いて、普通のサニーゴ以上にとびっっっっきり可愛くしてみせるんだから!」

 「それは難しそうロトー」

しずく「ロトムは静かにしていてください」

 「酷いロト」


せっかく、かすみさんがやる気を取り戻したところに、水を差さないで欲しい。


かすみ「自分のポケモンを魅力的に成長させるのも、ポケモンマスターになるには必要なことだもんね! これから、とびっきり可愛いサニーゴに育ててあげるからね!」
 「…………」


当のサニーゴはかすみさんの言葉に、少しだけ身動ぎしたものの、相変わらず反応は乏しい物だった。

……いや、反応があっただけいいことなのかな?


かすみ「そして、ポケモンマスターへの第一歩のためにも! ホシゾラシティでジムを攻略しちゃいますよ!!」
 「…………」

しずく「うん! その意気だよ! かすみさん!」


やっといつもの調子に戻ってきたかすみさんの姿に安心しながら、船は間もなくホシゾラシティに到着しようとしていた。





    💧    💧    💧





──ホシゾラシティに到着して、私たちは真っ先にホシゾラジムに来ました。


かすみ「…………」


だけど、かすみさんの視線はジムのドアに貼られた一枚の張り紙に注がれる。

『ジムリーダー不在のため、ジム戦の受付を停止しています』


しずく「……あ、あの、かすみさん……」

かすみ「……かすみん、ポケモンジムから嫌われてるのかな……」

しずく「そ、そんなことないよ! 偶然! 偶然だよ!」

かすみ「じゃあ、偶然から嫌われてるんだ……」

しずく「う……え、えっと……。そうだ! このまま、ウチウラシティまで行こう! ウチウラシティにもジムはあるし、ここからそこまで遠くないから、きっとそこでならジム戦も出来るよ!」

かすみ「うぅ……ホント……?」

しずく「う、うん!」


さすがにウチウラジムまでジムリーダー不在なんてことはないと思う。……思いたい。

結局セキレイでもタイミングが合わずにジム戦を逃しているわけだし、さすがにこのままだと、かすみさんが不憫だ。

ホシゾラシティに着いたばかりだけど、とりあえず、ウチウラシティを目指す方向に舵を切ろうとすると、


 「ウチウラシティ方面は良くないロト」


何故かロトムが割って入ってきた。


しずく「……? 良くないって、何がですか?」

 「フウスイ的な何かが良くない気がするロト」

しずく「……なんですか、それ」

かすみ「ウチウラシティもダメなんだ……」


ロトムの話を真に受けてしまったのか、かすみさんはふらふらとした足取りで歩き出す。


しずく「か、かすみさん!? そっちはウチウラシティ方面じゃ……!」

かすみ「かすみん、ポケモンセンターでちょっとお休みさせてもらいます……運気を回復しないと……」

 「お大事にロトー」

しずく「ちょっとロトム! かすみさんが、また落ち込んでしまったではないですか!?」

 「仕方ないロト。あっちは不吉ロト」


……詰まるところ、ロトムは南のウチウラシティ方面には行きたくないらしい。

つまり……。


しずく「……ロトムにとって都合の悪いものが南方面にある……?」

 「ギクッ」

しずく「……次の目的地は決まりましたね」

 「しずくちゃん、そっちは危険ロト」

しずく「そうですか」

 「しずくちゃん」


とりあえず、ロトムを無視しながら、かすみさんの後を追う。

どうにか説得して、ウチウラシティ方面に向かうとしよう。

それにしても、ロトムのこんなわかり切った嘘にまで引っかかってしまうなんて、かすみさんは相当ダメージを受けているようだ。

……まあ、確かに落ち込むことが続いていたし、仕方ないか。

どうやって、説得するかを考えながら歩いていると──


かすみ「ぎゃわーーーーーー!!!!!」

しずく「!?」


前方のかすみさんから、悲鳴があがった。


しずく「かすみさん!? どうしたの!?」

かすみ「な、なんか、花粉みたいなの……くしゅんっ!!」

しずく「花粉……!?」


駆け寄って、かすみさんの足元を見ると、


 「…ボミー」


小さな蕾のようなポケモンが、頭部から花粉をぼふぼふとばらまいているところだった。

このポケモンは確か……。


しずく「スボミー……?」

 『スボミー つぼみポケモン 高さ:0.2m 重さ:1.2kg
 周りの 温度変化に 敏感。 暖かい 日差しを 浴びると
 つぼみが 開き 激しい くしゃみと 鼻水を 引き起こす
 花粉を ばら撒く。 きれいな 水の 近くが 住処。』


ロトムがスボミーの図鑑を開いて解説をしてくれる。

その最中もかすみさんは、


かすみ「くしゅんっ……!! くしゅん!!」


何度もくしゃみを繰り返している。


しずく「た、大変!」


スボミーの花粉を吸い込んでしまったのは見ればわかる。

スボミーは何故だか目の端を釣り上げて、激しく花粉をばらまきまくっている。

とりあえず、大人しくさせなきゃ……!!


しずく「メッソン!! “みずのはどう”!!」
 「…メッソ」


肩の上で透明になっていたメッソンがスゥッと姿を現して、みずエネルギーの波動をスボミーにぶつける。

スボミーは臆病なポケモンだ。攻撃して驚かせれば逃げていくはず──と、思ったら。


 「スボーーー!!!!」

しずく「!?」


逃げるどころか、“みずのはどう”を突っ切るようにして、こっちに走り出してきた。

そして、そのまま私の目の前でジャンプして──ボフッ!!! と音を立てながら、花粉を炸裂させた。


しずく「っ……! くしゅんっ!! くしゅんっ!!」


途端にくしゃみが止まらなくなる。それと同時に、花粉が目に染みて、涙が止まらなくなる。


 「スボーー…」

かすみ「くしゅんっ!! はっくしゅっ!」

しずく「くしゅん……っ! ……っ……!」


二人してくしゃみが止まらない。


しずく「か、花粉を……っ……どうにか……くしゅんっ!」

 「仕方ないロトね」


ロトムの声が聞こえたと思ったら、急に周囲に強い風が吹き始める。


 「スボッ!?」

 「“きりばらい”で花粉は吹き飛ばしたロト」

かすみ「はぁ……はぁ……やっと、収まった……」

しずく「はぁ……はぁ……ロトム……あ、ありがとうございます……」

 「スボ…!!」


花粉を吹き飛ばされて形勢が悪くなったと思ったのか、スボミーは短い足をせかせか動かしながら、どこかへ走り去っていってしまった。


かすみ「……た、助かったぁ……」

しずく「……い、今のは……一体……」


どうして、急にスボミーに襲われたのか見当もつかないが……。とりあえず、くしゃみのし過ぎで頭が痛い。

涙もまだ止まらないし……。

私たちが蹲っていると、


女の子「あ、あなたたち大丈夫!? もしかして、スボミーに襲われたの!?」


通行人らしき、女の子が駆け寄ってくる。


しずく「は、はい……ちょっと、花粉を浴びせられてしまって……」

女の子「大変……! ポケモンセンターに連れていくから、肩貸すよ……!」

しずく「す、すみません……お願いします……」

女の子「そっちの子も……!」

かすみ「は、はいぃ……」


私たちは二人揃って、通りすがりの女の子に連れられ、ポケモンセンターへ……。





    💧    💧    💧






しずく「──最近暴れまわっているスボミー……ですか……」

女の子「うん……。数週間くらい前から、よく町に現れるようになったんだ……」


ポケモンセンターで治療を受けながら聞いた話によると──あのスボミーは最近ホシゾラシティで頻繁に現れて、暴れまわっているポケモンらしい。


かすみ「スボミーって思った以上に恐ろしいポケモンだったんですね……スボミーのイメージ変わっちゃいました……くしゅんっ」

しずく「かすみさんは、まだ花粉が抜けてなさそうだね……」


私は顔を洗って、うがいをしたら、症状が落ち着いたけど……かすみさんは私よりもたくさん花粉を吸い込んでしまったらしく、未だにくしゃみや鼻水が止まらないようだ。


 「小さくても、どくタイプなだけはあるロト」

女の子「ただ、スボミーはベイビーポケモンだから……半日も大人しくしてれば症状も落ち着くと思うよ。この町で襲われた人も、そんな感じだから」

かすみ「……うぅ、かすみんしばらく大人しくしてますぅ……ずび……」


しばらくはここで休憩になりそうだ。


しずく「……それにしても、あのスボミーどうしてあんなに怒ってたんだろう」

かすみ「たまたま狂暴な子なんじゃないの……? ……くしゅっ!」

しずく「まあ、そうなのかもしれないけど……」


そういう性格だと言われればそれまでだけど……スボミーというポケモンは本来大人しく、戦いを好まない。

もちろん外敵から襲われれば、毒の花粉で応戦はするだろうけど、基本的には群れを作って暖かい日差しを求めながら、のんびりと生活する生態のはずだ。

私は今まで結構な数の野生のスボミーを見たことがあるつもりだけど……あんなに好戦的──しかも、自分から人に襲い掛かってくるようなスボミーを見たのは初めてだ。


かすみ「そういえば、よく現れるって言ってましたけど、普段はどうしてるんですか……? やっぱり、追っ払ってる?」

女の子「うん……。ただ、普段はジムリーダーの凛さんが対応してたんだけど……今は不在で」

しずく「ジムリーダーが直々にですか……?」


いくら狂暴な野生ポケモンとはいえ、相手はスボミーだ。

地方でもトップクラスの実力者が、直々に対応するほどのことなんだろうか?

……いや、それ以前に、


かすみ「えー? この町のジムリーダーはスボミー1匹やっつけるのに何週間も掛かっちゃってるんですかぁ……?」


かすみさんも、私と同様の疑問を抱いたようだった。

そう、ジムリーダークラスの人間がスボミー1匹を無力化出来ないとは考えづらい話なのだ。


女の子「えっとね……凛さんはあくまで穏便に済ませたいみたいで……」

しずく「穏便に……とは?」

女の子「凛さんは自然保護派だから、出来れば野生のポケモンは自然に還してあげたいって考えみたいなの……」


確かにホシゾラシティのジムリーダーであるところの凛さんは、自然を愛するジムリーダーというのは有名な話だ。

この町の北に位置する流星山の頂上にあるホシゾラ天文台の所長を務める傍ら、普段は流星山やホシゾラシティ近郊の自然保護活動にも従事していると聞いたことがある。


女の子「この町は昔から自然に囲まれているし、町の人たちもそんなこの町で育ったから、凛さんの考えに賛同する人は多いんだけど……中には、早く捕獲するなり、討伐するなりしようとする人も居て……」

かすみ「討伐って……随分物騒な物言いですね」

しずく「うーん……」


まあ、どちらの意見もわかる話ではある。

野生のポケモンとはいえ、むやみやたらと傷つけるものではないというのは概ね同意出来る。

だけど、実害が出ているとなると、わかりやすく排除してしまった方がいいと考える人がいるのも道理だ。

ただ、少し疑問がある。


しずく「あの……ジムリーダーは具体的にどういった対応をされていたんですか?」

女の子「えっと、毎回コメコの森に逃がしてあげてるみたいだよ」

しずく「……? ということは、あのスボミーは森に逃がしたのに、またわざわざこの町に戻ってきているということですか……?」


私は思わず眉を顰めてしまう。普通、野生のポケモンは町の中には現れない。

何故なら、野生のポケモンからしたら、人間の存在は十分に脅威足りうるからだ。

だから、一部の例外を除けば、野生のポケモンは森、海、山や洞窟と言った人の居住していない場所に生息している。

凛さんもそれがわかっているから、コメコの森──本来のスボミーの生息地に還してあげているんだろうけど……スボミーは何故か、町にまた戻ってきてしまう。

どうにも腑に落ちない。眉根を顰めたまま、何か理由があるのか考えていると──


 「──そっちに行ったぞー!!」


ポケモンセンターの外から、大きな声が聞こえてきた。


かすみ「? なんですか?」


窓から外を伺ってみると──


  「スボーーー!!!!」

 「そっちだ!! 捕まえろ!!」


大人が数人、大きな声をあげて、網を振り回しながら、先ほどのスボミーを追い回しているところだった。


かすみ「あ、あれって、今言ってた過激派の人たちじゃないですかぁ!?」

女の子「た、大変……! 凛さんがいないからって、あの人たち……!」

しずく「……確かにあのままでは、危ないですね」


スボミーが、ではない。

あの人たちが、だ。

小さな子とはいえ、相手はポケモンに変わりない。

ポケモンの持っているパワーは人のソレとは比べ物にならないし、少なくとも虫取り網で捕まえられるような相手ではない。


しずく「あの人たち、ポケモントレーナーではないんですか?」

女の子「う、うん……この町にはポケモントレーナーはあんまりいないというか……ポケモントレーナーは旅に出ちゃうから……」


なるほど。だから、凛さんくらいしか事の対応に当たれる人がいなかったのか。

言われてみれば、この町は石材の切り出しや、加工が主な産業だったはず。

セキレイやローズ、ダリアとは違ってポケモンバトル施設などもジム以外にはないし、トレーナーの数が少ないのもおかしな話ではない。

……もしかして、凛さんが苦戦していたのは、無謀な住人たちを抑えるのにも労力を割いていたからなんじゃないかとも思わなくはない。


しずく「とにもかくにも……放っておくわけにも行きませんね」


私は立ち上がって、彼らの説得ないし沈静に向かうことにする。


かすみ「あっ、かすみんも! くしゅんっ!!」

しずく「かすみさんはまだそこで休んでて。私がどうにかしてくるから」

かすみ「でも……しず子一人で大丈夫なの……?」

しずく「私もポケモントレーナーなんだから。任せて」

かすみ「……む、無茶しないでよ……?」

しずく「うん、わかってる」

女の子「気を付けてね……」

しずく「はい。行って参ります!」




    💧    💧    💧





しずく「皆さん!! 下がってください!! 危険ですから!!」


虫取り網片手にスボミーを追いかけまわす大人たちの集団に向かって、声を張りあげながら追いかける。


町人「なんだい、お嬢ちゃん……? 今忙しいんだ、後にしてくれないか」


集団の一番後ろに居た男性が立ち止まって、嫌そうな顔を私に向けてくる。


しずく「はぁ……はぁ……危ないので、スボミーを追いかけまわすのはやめていただけませんか……?」

町人「危ないから、こうして捕まえようとしているんじゃないか」

しずく「だから、それが危ないんです……相手はポケモンなんですから、虫取り網なんかじゃ捕まえられませんよ……」

町人「そんなことはみんなわかっているよ」

しずく「ならなんで……」

町人「ジムリーダーのいない今、私たちが捕まえるしかないだろう。それとも、暴れ回るスボミーを黙って見ていろとでも言うのかい?」

しずく「そ、それは……」

町人「次は自分の家族が襲われるかもしれない。そうなる前にどうにかしなくちゃいけないんだ。もう私は行くよ。邪魔はしないでくれ」


そう言い残して、男性は再びスボミーを追いかけて走り去ってしまう。


 「勇敢と無謀を履き違えているロトね」

しずく「……」


ロトムが毒づく。……確かに無謀だ。恐らく放っておけば怪我人が出る。

だけど、男性の言うことも尤もだった。放っておいても、スボミーがここに現れる続けるなら、さっきの私やかすみさんのように被害者はきっと増え続ける。

そうなれば、無茶でも無謀でも立ち向かおうとする人間が出てくるのは頷ける。

……なら、私はどうする?


 「しずくちゃん。これはこの町の問題ロト」

しずく「……そうですね」


ロトムが遠回しに、首を突っ込むなと言ってくる。

理由は恐らく──今、私がどうにかする術を持ってしまっているからだ。

私は、無言のまま手持ちのポケモンたちをボールの外へと出す。


 「マネ!!」「ピィィ」「メソ…」

しずく「みんな、力を貸して」
 「マネネ!!」「ピィィィ!!」「メッソ…」

 「しずくちゃんが、あの人たちの代わりにスボミーを倒すつもりロト?」


そう、私はポケモンと戦う術を持っている。だから、スボミーと戦って無力化することは出来るはずだ、でも……私がしたいのはそういうことじゃない。


しずく「私は……あのスボミーがどうして人を襲っているのかをちゃんと知る必要があると思うんです」

 「どうしてロト?」

しずく「私の家は、サニータウンにあったので……毎日学校に通うために、セキレイシティに行く通り道の太陽の花畑で、何度も野生のスボミーを見てきました──」


それこそ、今までに数え切れないほどのスボミーを見たと思う。

彼らは私の足音を聞くだけで、花や草木にすぐに隠れてしまうくらい臆病だった。

基本的に群れを成して、身を寄せ合い、暖かい場所で温厚に暮らしている。

そんなスボミーたちと掛け離れた行動をしている目の前のスボミー……どうしても、理由がある気がしてならない。

恐らく、凛さんも同じように考えていたからこそ、穏便に、慎重に事を進めていたのではないだろうか。


 「……しずくちゃんはお人好しロトね」


私が自分の考えを話すと、ロトムはまるで溜め息でも吐くかのように言う。


しずく「だって、本当の自分を知ってもらえないまま……理解してもらえないまま、一人ぼっちになるなんて、寂しいじゃないですか……」

 「ロト?」


──『しずくちゃんの言ってること、難しくてよくわかんない』


しずく「…………」


不意に思い出した、幼い頃の記憶を頭を振って掻き消しながら、


しずく「みんな、行こう!」
 「メソ」「マッネ!」「ピピィィ~」


私は再び駆け出す。





    💧    💧    💧





──私が全力で走って追いついたころには、事態は悪い方向に進んでいた。


町人「よし!! 捕まえたぞ!!」

しずく「……!?」


何かを囲むようにして、集まる大人たちの中心からそんな声が聞こえてきた。

大人たちの集団の中、僅かな隙間の先に見えたのは──虫取り網を上から覆いかぶせられたスボミーの姿。


しずく「いけない……!!」


そんな刺激の仕方をしたら……!!


 「スボォォーーーー!!!!」

町人「う、うわぁ!!?」


スボミーがボフンッ!! と大きな音を立てながら、周囲にとんでもない量の花粉を噴き出した。

視界を覆い尽くさんばかりの量の花粉。これはまずいと咄嗟に口と鼻を腕で覆うようにして、吸い込まないようにする。


 「“しびれごな”ロト!!」


上から響くロトムの声。そして、前方から、


 「か、身体が痺れ……」

 「う、動けな……」


“しびれごな”をモロに吸い込んでしまったであろう、町人たちの声。


しずく「……っ……ココガラ、“きりばらい”!」
 「ピィィィ!!!」


とにかく、花粉が充満したままでは危険だと判断し、ココガラの風で吹きとばす。

視界が晴れると共に、開けた視界の先には──大の大人が数人地面に横たわっている姿と、


 「スボーーーー!!!!」


網の中で怒りを露わにしている、スボミーの姿。


 「言わんこっちゃないロト」

しずく「動ける人は負傷者を連れて、今すぐここから退避してください!!」

町人「なんだ、君は……!!」

町人2「せっかく、ここまで追い詰めたのに、あきらめろって言うのか!?」

しずく「だから、このまま、ここに居ちゃ危ないんです!!」

町人3「危ないのは百も承知だ!!」

町人4「よそ者は黙っててくれ!!」

しずく「……っ……」


もうすでに負傷者が出ているというのに、まるで聞く耳を持ってくれない。

私の言葉じゃ、感情的になったこの人たちを抑えきれない……そう思ったそのとき──ピシャーーーーンッ!! と轟音を立てながら、一筋の稲妻が迸った。


しずく「……!?」

町人「な、なん……!?」


あまりに突然のことに、驚き唖然とする町人たち。

今のって……。


 「全く追い詰められてないし、邪魔だから怪我人連れて下がれって言ってるロト」

しずく「ロトム……」


ロトムの“かみなり”だった。

音と光に驚いた大人たちが、静寂に包まれた今なら……!


しずく「私はポケモンを持っています!! トレーナーです!! この問題、私が今日この場で解決するとお約束します!! ですから、皆さんは負傷者を連れて、今すぐ退避してください!!」


そう声を張りあげると、


町人「……て、撤退しよう……! 動けるやつは負傷者に肩を貸してくれ……!」


雷鳴に驚いた拍子に少し冷静になったのか、大人たちは負傷者を連れて退避を始めた。


 「…これだから人間は…ロト」

しずく「ロトム……ありがとうございます」

 「ボクは話を聞かないやつが嫌いなだけロト」


ロトムは不機嫌そうに言う。今まで協力的な姿勢を見せていなかったので、こうして手を貸してくれたのは意外ではあったものの……彼にも何か思うところがあったのかもしれない。

周囲から大人たちが逃げ出す中、網を覆いかぶせられたスボミーは──


 「スボッ!!!」


──ヒュンッと風を切る音を立てながら、“はっぱカッター”で網を切り裂いているところだった。


 「まったくあんなちんけな網でよく捕まえられると思ったロトね」

しずく「やはり、虫取り網で捕まえるのは難しかったみたいですね……」

 「それにしても、解決を約束するって確信でもあるロト?」

しずく「ああ言うのが、最も効果的だと思っただけです」

 「しずくちゃん、女優ロトね」

しずく「まだ女優志望ですけどね」


さて、これ以上無駄口を叩いている暇はない。


 「スボーーーッ!!!!」


お怒りのスボミーを中心に草の嵐が渦を巻きながら、こちらに飛んでくる。


しずく「“リーフストーム”……! マネネ!!」
 「マネッ!!!」

しずく「“ひかりのかべ”!!」
 「マネーッ!!!」


前に飛び出したマネネが壁を張って“リーフストーム”を防御する。

吹き荒ぶ草の嵐が、“ひかりのかべ”にぶち当たり、大きな音を立てる。


しずく「く……! さすがに大技だけあって、威力がありますね……!」
 「マ、ネネェ…!!」

 「スボーーー!!!!」


スボミーの“リーフストーム”がなかなか止まない。

恐らく、攻撃を放ち続けているということだ。


 「マ、ネネェッ!!!」
しずく「マネネ! 頑張って……!」


“リーフストーム”は大技だ。なら──そろそろ仕掛けた技の効力が活きてくるはず。


 「ス…ボッ!?」


急に、“リーフストーム”が勢いを失って不発し、スボミーが困惑した表情になる。


 「…“うらみ”ロトね」

しずく「はい。ココガラの“うらみ”でパワーポイントを削らせてもらいました」
 「ピピィ~!!」


“うらみ”は直前に相手が使った技のPPを削る技だ。

ただでさえ大技でPPの少ない“リーフストーム”は、PPを削られたらすぐに使えなくなってしまって当然ということ。


 「スゥボォォォ!!!!」


怒り心頭な様子で、頭の蕾を開こうとするスボミー。

でも、そんなスボミーの背後で、


 「──メソ」


突然──スゥッとメッソンが姿を現す。


 「スボッ!!?」

しずく「“しめつける”!!」

 「メッソッ!!」


メッソンが自分の尻尾を、スボミーの頭の上にある蕾に巻き付かせた。


 「ス、スボーー」

しずく「これでもう、蕾は開けませんよ」


蕾が開けなくなれば、もう花粉をばらまくこともできなくなる。


 「スボーーー!!! スボーーーー!!!!」

しずく「ありがとう、メッソン。そのままでお願い」

 「メソッ」


私はメッソンに蕾を締め付けさせたまま、スボミーに近付いていく。


しずく「手荒な真似してごめんね、スボミー」

 「スボーーッ!!!! スボーーーッ!!!!」

しずく「…………どうして、貴方はそんなに怒っているの?」

 「スボォーーー!!!」

しずく「貴方が何を思って、こんなことをしているのか……私はそれが知りたいんです」

 「スボォーーー!!!!」

しずく「何か理由があって、怒っているんですよね?」

 「スボォーーー!!!!!」


怒り心頭のスボミーの前に膝をついて、スボミーの頭を撫でる。


 「スボ……ッ!!!」


触れると、スボミーは一瞬ビクリとし、私を睨みつける様に、見上げてくる。


しずく「……理由を訊くのに、締め付けられたままじゃ嫌だよね。メッソン、もういいよ」
 「…メッソ」

 「し、しずくちゃん、拘束を解くのは危ないロト…」

しずく「大丈夫」


メッソンが尻尾の締め付けを緩めて解放すると──


 「スボッ!!!」


スボミーが頭の先の蕾をパカッと開いて、私に突き付けた。


しずく「…………」

 「スボッ…」

しずく「いいよ、それで貴方の怒りが収まるなら」

 「スボ…」

しずく「怒りって、簡単には落ち着かないもんね。大丈夫、貴方の怒りも受け止めてあげるから。落ち着いたら、貴方の気持ちを私に教えてくれないかな?」


スボミーはしばらく、開いた蕾の先を私に向けたまま、固まっていたけど、


 「ス、スボ…」


結局花粉と飛ばすことなく──パタンと自分の蕾を閉じたのだった。


しずく「やっぱり、話せばわかってくれると思ってました」

 「無茶するロトね」


ふわりとロトムが私とスボミーのすぐ傍まで下りてくる。


 「それで、なんでこんなことしたロト?」

 「…スボ、スボボ…スボ、スボ」

 「…ふむふむ、ふむ、ロト」

しずく「……あ、そっか。ロトムはポケモンだから、言葉がわかるんですね……」


普段うるさいくらいに人の言葉を喋るから忘れかけていたけど……通訳が可能だということに気付く。

しばらく、ふむふむと話を聞いていたロトムだったけど、


 「なるほどロトね……」

しずく「なんて言っているんですか?」

 「…このスボミーは他のスボミーに比べて生まれつき体が大きかったらしいロト」

しずく「うん」


言われてみれば、少し大きめのサイズかもしれないかな……?


 「加えて…元から少し気性が荒い性格みたいロト」

しずく「まあ、それは……そうかもしれませんね」

 「群れに襲い掛かってくる敵もこのスボミーが倒していたらしいロト」

しずく「みんなのリーダーみたいな存在だったということですね」

 「その結果…群れから追い出されたらしいロト。どうりで、何度森に還しても、また戻ってくるわけロト」

しずく「……え?」

 「群れを追い出されて町まで来たら…野生のポケモンが入り込んだと大騒ぎになって、咄嗟に花粉をばら撒いて反撃したら引っ込みが付かなくなって──」

しずく「ま、待ってください!」

 「ロト?」

しずく「どうして、群れを追い出されたんですか!? 話が繋がっていないじゃないですか!」

 「しずくちゃん、スボミーはどんなポケモンか、自分で言ってたじゃないロトか」

しずく「え……?」

 「スボミーは小さな物音でも隠れてしまうくらい臆病で、身を寄せ合って温厚に暮らしているロト」

しずく「……はい」

 「基本的にスボミーは戦いを好まないロト。せいぜい花粉をばら撒いて逃げるくらいロト」

しずく「…………」


少しだけど……意味がわかってきた。


しずく「じゃあ、スボミーたちは……積極的に戦って自分たちを守ってくれるこのスボミーが……怖くなってしまったということですか……?」

 「簡単に言うと、そういうことロト」

しずく「そんな……」


スボミーは仲間を守っていただけなのに……?


しずく「そんな……そんなの酷すぎます……」

 「ポケモンにはポケモンごとの生存戦略があるロト」

しずく「え……?」

 「スボミーの生存戦略は逃げることロト。でも、こいつは戦いを選んだ。異分子だったロト」

しずく「…………」

 「普通のポケモンの群れは、自分たちと違う考えや行動をするやつは怖いと考えるロト。人間と同じロト」

しずく「……!」


──『しずくちゃんの見てる映画、むずかしくてよくわかんない』

──『しずくちゃんっていっつも字がたくさんの本ばっかりよんでるねー?』

──『しずくちゃんへんなのー』


しずく「…………」

 「群れで生きるなら、合わせる必要はあるロト」

 「スボ…」

しずく「……違います」

 「ロト?」

しずく「スボミーは自分らしくあるために、自分であるために、自分の考えを貫いて、仲間を守った。それだけです」

 「スボ…?」


それが例え周りと違っても。


しずく「周りのスボミーには、貴方の勇敢さは恐ろしいモノに映ったのかもしれません。でも、私はそうは思いません」

 「スボ…」

しずく「周りの仲間が怖がっていると気付いていても……守らなきゃいけないと思って、前に立ち続けた。違いますか?」

 「…スボ」


スボミーが小さく頷く。


しずく「貴方はみんなの為に、自分の為に、嫌われてでも、自分を貫いた。それは、誇らしいことですよ」

 「スボ…」

しずく「少なくとも……私には出来なかった……」

 「スボ…?」


──私は小さい頃から、親の趣味で古い映画や小説に囲まれて育った。

そのせいか、幼い頃は周りの友人たちと好きなものや価値観が噛み合わずに……孤立しかけた。

だから、私は自分を隠そうとした。自分の好きなモノを口にせず、みんなが好きなモノが好きな振りをするようになった。

……自分を出すのが……怖くなった。

自分であり続けることが……出来なくなった。


しずく「……ねぇ、スボミー」
 「スボ…?」


でも、そんな私を変えてくれた人が居た。

──『かすみんは自分の好きを貫くって決めてるんだもん!』

──『だから、しず子も自分の好きを貫けばいいんだよ!』

私は、自信満々にそんなことを言うあの子に──かすみさんに憧れた。

そんな彼女に近付けるように。私も心の底から、自分の好きを貫けるようになるために。


しずく「私は……ありのままの貴方を受け止めるから、一緒に旅をしませんか?」
 「ス…ボ…」


ずっと吊り上がっていたスボミーの目尻が下がり──じわっと目の端に涙が浮かんだ。


 「スボ…スボボ、スボ…」

 「…でも、自分は怒りっぽいから、迷惑を掛けるって言ってるロト」

しずく「迷惑なんかじゃないよ」


私はスボミーを抱きしめる。


しずく「あのね、怒るのって実はすっごく難しいことなんだよ?」
 「スボ…?」

しずく「私ね、怒りの演技って苦手なんだ。喜怒哀楽の中で……一番苦手かもしれない。でも、きっと怒りって人にとっても、ポケモンにとっても、大事な感情の一つだと思うんだ」
 「スボ…」

しずく「それを自然に出せるのは、スボミーの個性だよ」
 「スボォ…」

しずく「ふふ、大丈夫。私の手持ちは陽気な子だったり」
 「ピィィー♪」

しずく「真似してばっかりの子だったり」
 「マネネ♪」

しずく「泣き虫な子だったり」
 「メソ…」

しずく「みんな個性的な子ばっかりだから。1匹くらい、怒りんぼな子が居ても大丈夫だよ♪ むしろ、私の演技の幅を広げるためにも、私の傍で怒って見せて?」


そう伝えたら、


 「…ス、スボォ…スボォォォ…」


スボミーは大粒の涙を流しながら、泣き始めてしまった。


しずく「……って、これじゃ泣き虫が増えちゃったみたいですね。ふふ♪」
 「スボォォ……スボォォォォォ……」

しずく「スボミー、一緒に行こう」
 「スボォ……」


泣きながらも、スボミーは私の言葉に頷いてくれた。


 「…そういえば、マリーも昔はボクのこと…」

しずく「え?」

 「…い、いや、なんでもないロト」

しずく「……そうですか?」


こうして、ホシゾラシティで暴れまわるスボミーを仲間に加えるということで事態は一件落着。

私は泣きじゃくるスボミーを抱きかかえたまま、かすみさんたちのいるポケモンセンターへと戻るために、歩き出したのだった。





    💧    💧    💧





かすみ「それじゃ、スボミーはしず子がゲットしたんだね」


──ポケモンセンターに戻ると、かすみさんはすっかり元気になっていた。

そして、説明をした。

このスボミーはもともと気性が荒くて群れから追い出されてしまったこと。

町にも森にも居場所がなかったスボミーを、連れていくと決めたこと。


しずく「もう森には帰れないかもしれないけど……これからは私の傍に居ればいい」

かすみ「良かったね、スボミー。しず子なら優しいから安心していいよ。かすみんが保証してあげる」

 「スボ」

女の子「あの……ごめんね、スボミー。……群れを追い出されていたなんて、私たち知らなくて……」

しずく「スボミーが暴れていたのも事実ですから……」
 「スボ…」

かすみ「まあでもどっちにしろ、しず子が連れていくなら、解決ってことだよね」

しずく「そうだね」

かすみ「……さて、それじゃ、かすみんも次の町に向けて頑張らないとですね!」


言いながら、かすみさんが元気よく立ち上がる。


しずく「もう休憩はいいの?」

かすみ「しず子を見てたら、かすみんも頑張らないとって気合い入っちゃったんだよね! えっと、次は……」

 「西のコメコシティロト」

しずく「南のウチウラシティを目指そうか」

 「しずくちゃん、だからそっちは運気が悪いロト」

しずく「ウチウラシティはホシゾラシティから近いから、今から行けば日が落ちる前にはウチウラジムに挑戦できると思うよ」

かすみ「じゃあ、次に目指すはウチウラシティだね!」

 「2人とも話を聞いて欲しいロト」


十中八九、こっちの方向にロトムに関する何かしらの情報があることも間違いなさそうだし、行き先は一択だ。


かすみ「それじゃ、ウチウラシティに向けて、レッツゴー♪」

しずく「おー♪」
 「スボッ」

 「…ボク今回は頑張ったのに…ロト」




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.15 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.15 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.15 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.14 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:74匹 捕まえた数:5匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.14 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.15 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.13 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:5匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter015 『浜辺の決戦!』 【SIDE Shizuku】





──ホシゾラシティを出て2番道路を歩くこと数時間。

そろそろ、日も傾きかけてきたという頃……。


かすみ「……やっと、着いたぁー!!」


私たちは、ようやく次の目的地のウチウラシティに到着しました。


しずく「どうにか、今日中に辿り着けたね」

かすみ「うん! さーて、早速ジムを探さなきゃ……!」

しずく「ロトム。ジムはどちらですか?」
 「知らないロト」

しずく「マップを開いてください」
 「マップ機能は故障中ロト」

しずく「……」


どうやら、ロトムはウチウラジムには行きたくないらしい。


しずく「仕方ないですね……かすみさん、図鑑でマップ開ける?」

かすみ「了解! ちょっと待ってて」


ポチポチと図鑑を操作しながら、かすみさんがタウンマップを開く。


かすみ「ジムはあっちみたい」


無事、目的地の場所もわかり、時間もないのですぐに移動を始める。


 「それじゃ、ボクはポケモンセンターで待ってるロト」

しずく「ロトム、行きますよ」
 「イヤロト」


頑なに拒否をしてくるが、とりあえず図鑑ボディごと掴んで歩き出す。


 「しずくちゃん、離してほしいロト」
しずく「さて、本当に日が沈む前に、ジムに辿り着かないとね」

かすみ「うん! かすみん、燃えてきましたよー!!」

 「しずくちゃん、無視しないで欲しいロト」


ロトムが行くのを拒んでいるということは、順調に彼の持ち主に近付いているということだと思う。

そういえば……ウチウラジムの昔のジムリーダーがでんきポケモンのエキスパートだった気が……。

ロトムは相当の手練れが育てたポケモンなのは間違いないので、もしかしたらウチウラジム先代ジムリーダーの手持ちだったりするのかな……?




    💧    💧    💧





程なくして、ウチウラジムへと到着した私たち。


かすみ「よ、よし……! 行くよ、しず子!」


かすみさんはジムのドアの前で緊張気味に手を掛けた、そのときだった──ドアの方が自分から開いた。

そして、中から二つの人影。


 「それでは、わたくしは行きますから。頑張るのですよ、ルビィ」

 「う、うん!」


長い黒髪を携えた女性と、幼さを残す顔立ちの赤髪の女の子。一目見てピンと来る──まあ、ポケモンジムだし、誰が見ても関係者だってことはわかると思うけど……。


しずく「ダイヤさん、ルビィさん……ですよね?」

ダイヤ「あら……? すみません、扉の前に人がいるとは気付きませんでしたわ。いかにも、わたくしはダイヤですが」

ルビィ「る、ルビィです!」


ダイヤさんとルビィさんは姉妹でポケモントレーナーだ。このジムは代々彼女たちの一族がジムリーダーを務めているというのも有名な話だし、何度も彼女たちの姿は書籍などで拝見したことがある。


かすみ「あ、あの……!」


かすみさんは突然現れた姉妹の姿にやや面食らいながらも、


かすみ「た、たのもぉー!!」


少し気の抜ける、挑戦文句を目の前のジムリーダーに叩きつける。


ルビィ「ピギィ……!?」


突然大きな声を出されて驚いたのか、ルビィさんが驚きながら小さく跳ねる。


ダイヤ「あら、挑戦者の方でしたのね」

かすみ「はい!! ジム戦、お願いします!」

ルビィ「あ、あの……ごめんなさい……。ジム戦、実は今出来なくて……」

かすみ「……え?」

ルビィ「ジムの中がまだ改装中で……」


そう言いながら、ルビィさんの後ろにあるジム内へと目をやると──確かに、フィールドのあちこちに機材やらが置いてあったり、まさに改装の真っ最中という感じだった。


かすみ「そ、そんな……かすみん、またジム戦出来ないんですか……」

ルビィ「近いうちに終わるとは思うんだけど……」

かすみ「……あ、あんまりですぅ……」


かすみさんは心底悲しそうに項垂れる。


ルビィ「ご、ごめんなさい……」

かすみ「………………ぅ……」

ルビィ「どうしよう、お姉ちゃん……すっごく落ち込んじゃった……」

しずく「すみません……ここまで2つのジムを巡ってきたんですが、どちらもジムリーダー不在でジム戦が出来なかったもので……」


さすがに3連続ともなると、かすみさんに同情してしまう。


ダイヤ「なるほど……それは災難でしたわね」

かすみ「かすみんは不幸星に生まれた、不幸なかすみんになってしまいました……」

ルビィ「ご、ごめんなさい……」

しずく「いえ……改装中なら仕方ないですよ。ウチウラジムは今、いろいろ忙しいでしょうし」

かすみ「忙しい……? どゆこと……?」

しずく「かすみさん……知らないの? ニュースにもなってたでしょ?」


さすがに世間知らずな級友に呆れてしまう。


しずく「ウチウラジムはつい最近、ジムリーダーが代替わりしたところなんだよ」

ダイヤ「ええ、そのとおりですわ」


そう言いながら、ダイヤとしずくの視線がルビィに集中する。


ルビィ「え、えっと……! ウチウラジムの新しいジムリーダーになった、る、ルビィです……!」

かすみ「え!? こっちの人がジムリーダーだったの!?」

ルビィ「え、あ、ご、ごめんなさい……ルビィ、弱そうだよね……」

しずく「かすみさん! 失礼なこと言わないの! す、すみません、ルビィさん……!」

ルビィ「うぅん、確かにルビィ……お姉ちゃんみたいに威厳がないって昔から言われるから……」

かすみ「てっきり、かすみんはそっちのお姉さんがジムリーダーなんだと……」

しずく「だ・か・ら! ダイヤさんからルビィさんに代替わりしたの!!」


どうやら、かすみさんはそもそもウチウラジムのジムリーダーが誰かすらわかっていなかったらしい。本当に勉強不足だ。

もはや、自分の住んでいる地方のジムリーダーが誰かなんて、一般常識に近いものなのに……。


しずく「重ね重ね、かすみさんが失礼なことを言ってしまってすみません……」

ダイヤ「仕方ありませんわ。ウチウラジムはこの地方でも最南端に位置する端のジムですから」

かすみ「それじゃ、ダイヤ先輩はジムリーダーは引退しちゃったってことですか?」

ダイヤ「引退……とは少し違いますわね」

しずく「だから……ああもう……」


これまた失礼の重ね掛けに頭が痛くなってくる。


しずく「ダイヤさんは、リーグ公認でジムリーダーのさらに上に昇格したんだよ、かすみさん」

かすみ「ジムリーダーの上……? それって……」

ルビィ「四天王だよっ!」

かすみ「わっ、びっくりした!?」


急に大きな声を出すルビィさんに、今度はかすみさんが驚いて跳ねる。


ルビィ「お姉ちゃんはね、クロサワのお家でも初めて、四天王に就任したんだよ!」

かすみ「え、っと……確か四天王って……」

しずく「この地方のポケモンリーグ最高位に位置する4人のトレーナーの1人ってことだよ」

かすみ「えぇ!? めちゃくちゃすごい人じゃないですか!?」


かすみさんはやっと目の前の人物が誰なのかを理解して目を丸くする──失礼だから、もっと早く気付いて欲しかったけど……。


ダイヤ「ありがたいことに、この度オトノキ地方の四天王に就任させていただきましたわ。今はちょうど、ジムリーダーの引継ぎの真っ最中でして、ジムが改装中なのです」

かすみ「そ、そういうことだったんですね……なら、しょうがないか……はぁ……」

ルビィ「ご、ごめんなさい……だから、また後日──」

ダイヤ「ルビィ」


ジム戦を止む無く断るルビィさんを、ダイヤさんが食い気味に制す。


ルビィ「な、なに……?」

ダイヤ「せっかく苦労してここまで来てくださったのです。ジム戦用のポケモンも準備は出来ている。なのに場所が準備出来ていないから出直してくださいと追い返してしまうのは、挑戦者に失礼ですわよ」

ルビィ「え、でも……ジムが……」

ダイヤ「ポケモンバトルは、貴方と貴方のポケモンたちがいれば、どこでも出来るでしょう?」

ルビィ「……!」


ルビィさんはダイヤさんの言葉にハッとする。


かすみ「え、なになに……? ジム戦、やってもらえるんですか……?」

ダイヤ「ええ、少し変則ルールになってしまうかもしれませんが、それでよろしければ。いいですわよね、ルビィ?」

ルビィ「う、うん! かすみちゃん、ジムバッジは何個ですか?」

かすみ「えっと、ここが最初のジムかな」

ルビィ「わかりました! じゃあ、今ポケモンを用意するからここで待っててください!」


そう言ってルビィさんはジムの中へ、パタパタと駆けていく。

どうやら、今回はちゃんとジム戦に挑戦出来るようだ。


しずく「よかったね、かすみさん」

かすみ「うん! さぁ、やりますよー! かすみんの手持ちたち!」


かすみさんはぐるぐると肩を回しながら、やる気十分な様子。


ダイヤ「さて、それではわたくしはリーグに行かなくてはいけないので、ここで」

かすみ「あ、はい!! ありがとうございます!!」


お礼を言うかすみさんに向かってニコリと嫋やかに笑ったあと、ダイヤさんは私に近付いてきて、


ダイヤ「──その背中にくっついているの、どうしてここにいるのかわかりませんが、たぶんアワシマにあるオハラ研究所に連れて行くといいですわよ」


そう耳打ちしてきた。


しずく「え?」


そういえば忘れていたけど、普段喧しいはずの子が全く喋っていないことに気付く。

背中にくっついているのって……。


 「ロ、ロト…」

ダイヤ「ふふ。それでは」


ダイヤさんはいたずらっぽく笑ったのち、ボールからオドリドリを出し、その子の足に掴まって、飛び去って行った。


しずく「アワシマ……オハラ研究所……」


どうやら、ダイヤさんはこのロトムについて何か知っているらしかった。

なにはともあれ、ジム戦後の行き先も決まったようだ。


かすみ「しず子? 今、ダイヤ先輩と何話してたの?」

しずく「うぅん、ちょっとね。今後のことを」

かすみ「ふーん……? まあ、いいや! それよりルビ子とジム戦です……!」

しずく「ルビ子って……」

かすみ「あの子、ルビィって言うんでしょ? だから、ルビ子です!」


──あの子……。かすみさん、もしかしてまだ何か勘違いしてるんじゃ……。訂正をしようか悩んでいると、


ルビィ「お待たせしました!」


件のルビィさんがボールを携えて、ジムから出てくる。


ルビィ「それじゃ、こっち! 付いてきてください!」


ルビィさんはそう言って、バトルフィールドとなる場所へと先導を始める。


かすみ「よーーっし!! 絶対かすみんが勝つんだから!!」


気合い十分に、ルビィさんの後を追いかけるかすみさん。


しずく「まあ……いっか」


とりあえずはジムバトルに集中させてあげようと思い、私は黙ってかすみさんを追いかけるのだった。





    👑    👑    👑





ルビ子の後を付いてきて十数分。


かすみ「ルビ子……どこまで行くんだろう」


気付けば民家とかもなくなってきたし……町の外れって感じ。

それに、


 「ピ、ピピー」


ルビ子の頭上には何かが浮いている。


かすみ「あのポケモン……ルビ子のポケモンかな?」

しずく「あのポケモンは確か……メレシーだったかな?」

かすみ「メレシー……」


かすみん、図鑑を開きます。

 『メレシー ほうせきポケモン 高さ:0.3m 重さ:5.7kg
  地下深くの 高温 高圧な 環境で 生まれた ポケモン。
  体の 宝石が 曇らないように メレシーの 群れでは
  ふわふわの ヒゲで お互いを 磨き合うのだ。』


かすみ「へー……ほうせきポケモン」


確かによく見ると、あちこちに赤い宝石がついているのがわかります。

見た感じ……いわタイプ、かな……?


かすみ「そういえば、ルビ子ってなんのタイプのジムリーダーなの? しず子?」

しずく「え?」

かすみ「え? じゃなくて……しず子なら知ってるでしょ?」


優等生なしず子なら、間違いなく知ってると思ったんだけど……。


しずく「えっと……新しいジムリーダーだから、エキスパートタイプは知らないかも……」

かすみ「えぇ!? じゃあ、どのポケモン出せばいいかわからないじゃん!!」

しずく「そんなこと言われても……」

かすみ「じゃあ、あのメレシーってポケモンは何タイプ!?」

しずく「メレシーはいわ・フェアリータイプだったかな……」

かすみ「いわ・フェアリーだと……えっと確か、いわタイプはみずタイプとこおりタイプに弱くて……? フェアリーはいわタイプに弱い……?」

しずく「全然違うよ……。いわ・フェアリータイプの弱点だと、みず、くさ、じめん、はがねかな。特にはがねタイプには弱いと思う」

かすみ「はがねタイプは持ってない……」


かすみんの手持ちはゾロア、キモリ、ジグザグマ、サニーゴの4匹。

あく、くさ、ノーマル、ゴーストだから……。


かすみ「うん、決めた! この子で戦う!」


かすみんが戦いに出す子を決めたところで、前を歩いていたルビ子が足を止めた。


ルビィ「ここで戦います!」


そう言いながら振り返る。

ここって……。


かすみ「浜辺……?」


すっかり日も落ちてしまい、暗くてよく見えないけど……。

近くに海があって、潮の香りがするし、なにより波の音がすぐ近くで聞こえる。


ルビィ「ここでジム戦をします!」

かすみ「ここで?」

しずく「かなり視界が悪いですが……大丈夫でしょうか?」

ルビィ「うん、だからお願いね。コラン」
 「ピピピ♪」


ルビ子から、コランと呼ばれたメレシーはフワリと空中に浮きあがって、


ルビィ「“フラッシュ”!」
 「ピピィーーーー!!!!!」


眩く光って辺りを照らす。


かすみ「おぉー、辺りが一気に明るくなったよ、しず子!」

しずく「確かにこれなら、対戦に支障はなさそうですね」

ルビィ「うん! それじゃ、使用ポケモンは2体です! かすみちゃん、準備はいい?」

かすみ「もちろんです!」


かすみんとルビ子は同時にボールを構えます。


ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ! 精一杯頑張ります!」


お互いのボールが放たれて──……バトル、開始です!!





    👑    👑    👑





かすみ「行くよ! キモリ!!」
 「キャモ!!」


かすみんの1番手はキモリ! これでいわ・フェアリータイプのメレシーが来ても大丈夫──


ルビィ「お願いね、オドリドリ」
 「ピヨピヨ」

かすみ「……あれ?」


出てきたのは、深紅を基調としたボディと黒い縞模様を羽と尾羽に持った鳥ポケモン。


かすみ「……あれ、そういえばメレシーは照明係なんだっけ……?」


ということは……。


かすみ「バトルとメレシー関係ないじゃん!?」

ルビィ「オドリドリ! “めざめるダンス”!!」
 「ピヨピヨ!!!」


オドリドリが踊りだすと、それに合わせて一気に炎が押し寄せてくる。


かすみ「ちょ!? 炎!?」
 「キャモッ!!?」

かすみ「み、“みきり”!!」
 「キャモッ!!!」


押し寄せる炎の波に対して、砂浜にある凹凸に身を滑り込ませて、炎を紙一重で回避する。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? ルビ子って、いわタイプとかフェアリータイプのジムリーダーなんじゃないの!?」

ルビィ「え? えっと……ルビィは、ほのおタイプのジムリーダーなんだけど……」

かすみ「ほのお!?」


ちょっとそれ完全にくさタイプの弱点じゃないですか!?


かすみ「しず子!? タイプ全然違うじゃん!?」

しずく「だから、私はわからないって言ったでしょ……。相手はオドリドリ、“めらめらスタイル”! ほのお・ひこうタイプのポケモンだよ!!」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……お陰でここぞというときの“みきり”を使っちゃったじゃん……」


“みきり”という技は相手の攻撃を確実に避けることが出来る代わりに、使えば使う程、回避の精度が下がっていく技です。


かすみ「うぅ……! こうなったら、一気に畳みかけますよ! キモリ、“こうそくいどう”!!」
 「キャモッ!!!!」


砂浜を蹴って、キモリが飛び出し、一気に距離を詰めて、そのまま、オドリドリの背後を取る。


かすみ「“つばめがえし”!!」

 「キャモッ!!!!」

 「ピヨッ…!!」


素早い動きで翻弄しながら、尻尾を使って攻撃する。回避不能の攻撃にオドリドリがよろけた足元に、


かすみ「“くさむすび”!!」

 「キャモッ!!」

 「ピヨヨッ!!?」


急に草が生えてきて、バランスを崩させる。


ルビィ「オドリドリ、落ち着いて! 一旦空に離脱!」
 「ピ、ピヨッ」


オドリドリはルビ子の指示を受けると、すぐさま自分の足を取っている草を嘴を使って千切り、空へと逃げていく。


かすみ「ちっ……逃がしました。でも、それならそれで、次の準備を整えちゃいますからね!! キモリ、“つるぎのまい”!!」
 「キャモッ!!!」

しずく「あ!? か、かすみさん、ダメだよ!?」

かすみ「え?」


キモリが“つるぎのまい”によって、攻撃力を上昇させ始めると──


 「ピヨピヨピヨ!!!」


何故かそれに合わせて、オドリドリも踊り出した──と思ったら、


ルビィ「“ついばむ”!!」


そのままシームレスに攻撃に移行して、ロケットのようにオドリドリがキモリに向かって突っ込んできた。


かすみ「は、速っ……!?」


まだ、“つるぎのまい”を踊っている最中のキモリは避けることもままならず、


 「キャモォッ!!!?」


なすすべもなく、海まで吹っ飛ばされる。


かすみ「き、キモリー!?」


バシャァーーンッ!! と大きな音をあげながら、激しく水しぶきがあがる。


かすみ「ちょ……なんですかなんですか!? 今のはなんですか!?」

ルビィ「オドリドリの特性は“おどりこ”。相手のダンスの効果をそっくりそのままコピーできる特性だよ」

かすみ「そんなの聞いてないよぉ!!」

しずく「そりゃ、対戦相手なんだから言わないでしょ……」


しず子が呆れたようなことを言っていますが、不意打ちなものは不意打ちです。


かすみ「許すまじ……」

ルビィ「ピ、ピギィ!? え、えっと……オドリドリ! “エアカッター”!!」
 「ピヨピヨヨ!!!!」


かすみんの迫力にちょっとビビりながらも、ルビ子は次の攻撃を畳みかけてくる。

海に吹き飛ばされたキモリに向かって、飛んでくる風の刃たち。


しずく「かすみさん!! くさタイプのキモリに直撃するとまずいよ!!」

かすみ「わかってるって!」


対抗するため、海に向かって叫ぶ。


かすみ「“まねっこ”!!」


──指示を叫ぶと共に、海側からも“エアカッター”が飛び出してきて、空中の風刃と相殺しあう。


ルビィ「え、あれ……?」


ルビ子が急に驚いたような顔をした。

──ネタ晴らしはもう少し先にしたかったんですけどね。


かすみ「──“あくのはどう”!!」


今度は海の方から、黒い波動が飛んできて、


 「ピ、ピヨヨッ!!!?」


飛んでいる、オドリドリを撃ち落とした。


ルビィ「あ、“あくのはどう”……!?」


ニシシ……! 驚いてる驚いてる。


ルビィ「お、オドリドリ! とりあえず、回避に専念を……!」

かすみ「させませんよ!! “じんつうりき”!!」

 「ガァァーーーゥッ!!!!」

 「ピヨヨッ!!?」


今度は雄たけびと共に、逃げようとするオドリドリを念動力によって、砂浜に向かって叩き落とす。


ルビィ「あのポケモン、キモリじゃない……!?」


いい加減ルビ子も気付いたようですね。


かすみ「ふっふっふ……そうです、この子はキモリじゃなくて──ゾロアですよー!!」
 「ガゥガゥッ!!!!」

しずく「“イリュージョン”……!? 全然気付かなかった……」

かすみ「さっきからキモリも覚える技しか使ってなかったからね!」

ルビィ「オドリドリ! “こうそくいどう”!!」
 「ピ、ピヨヨッ…!!!」


オドリドリは地面に撃ち落とされながらも、どうにか体勢を立て直して、砂浜を素早く走り始める。

能力を上げながら、立て直すつもりですね。……でも、そうは行きません!


かすみ「ゾロア!」
 「ガゥガゥッ!!!!」


ゾロアも猛スピードで砂浜を走り始める。

こっちはもうすでにさっき“こうそくいどう”で素早さを上昇させ済みですからね!

加速の真っ最中のオドリドリの背後を取ったゾロアが飛び掛かる。


かすみ「こそこそ逃げながら能力を上げようとする、悪い子には──“おしおき”が必要ですね~♪」
 「ガゥワゥッ!!!!」

 「ピヨヨヨヨォッ!!!!?」


背後から、飛び掛かったゾロアはそのまま、鋭い爪でオドリドリを切り伏せた。

激しい爪撃が直撃したオドリドリは、その衝撃で砂浜をゴロゴロと転がりながら、


 「ピ、ヨォォォ……」


砂まみれになりながら、目を回して引っ繰り返った。


ルビィ「うゅ……オドリドリ、戦闘不能。……戻って」


オドリドリがボールに戻される。


しずく「か、かすみさんすごい!」

かすみ「ふっふ~ん! ま、かすみんにかかればこんなもんですよ!」

ルビィ「全然ゾロアだって気付けなかった……かすみちゃん、すごいね」

かすみ「ふふん♪ もっと、褒めてくれていいんですよ~♪」

ルビィ「うん! かすみちゃん、ホントにすごいよ! ルビィ嘘吐くのとか苦手だから……そういう戦術は得意じゃないんだ……。でも、負けるつもりはないよ」


そう言いながら、ルビ子が出した2匹目は、


ルビィ「行くよ、アチャモ」
 「チャモッ」

かすみ「わ! 可愛い♪」


ひよこポケモンのアチャモです。

 『アチャモ ひよこポケモン 高さ:0.4m 重さ:2.5kg
  トレーナーに くっついて ちょこちょこ 歩く。 口から
  飛ばす 炎は 摂氏 1000度。 相手を 黒コゲにする
  灼熱の 玉だ。 抱きしめると ぽかぽかして 温かい。』


かすみ「摂氏……1000度!?」

ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!」
 「チャーーーモーーー!!!!!」


ボボボッ! と音を立てながら、“ひのこ”が飛んでくる。


かすみ「そんなの当たったら熱いじゃ済まないじゃないじゃん!? ゾロア、“シャドーボール”!!」
 「ガーーウゥッ!!!」


ゾロアから放たれた“シャドーボール”が“ひのこ”と撃ち合って相殺した。

その際、ぶつかり合ったエネルギーの衝撃で、浜辺の砂が舞い上がる。


かすみ「うぅ……砂埃がすごい……」


砂煙が晴れると──


かすみ「あれ……? アチャモは?」


アチャモが姿を消していた。そして──


 「チャモチャモチャモチャモッ!!!!!」


鳴き声が動きながら移動していることに気付く。


かすみ「な、なに!?」
 「ガゥッ!?」


音の源を目で追うと──アチャモが砂浜を猛スピードで走り回っていた。

しかも、


かすみ「アチャモが走ったところ……燃えてない!?」


砂浜のアチャモが通ったところは、赤熱し、高温なのが一目でわかる状態になっていた。

しかも、アチャモはどんどん“かそく”しながらかすみんとゾロアの周りをぐるぐる回っている。


ルビィ「“ニトロチャージ”!!」
 「チャァモォッ!!!!!」

 「ガゥッ!!!?」
かすみ「ちょ!? ゾロアっ!?」


目で追うのが精一杯だった、かすみんはうまく指示することも出来ず、アチャモの燃える突撃がゾロアに直撃する。


かすみ「ぞ、ゾロア……!」
 「ガゥゥ…」


見るからに強力な一撃に、ゾロアはなすすべもなく戦闘不能になってしまった。

とりあえず、ゾロアをボールに戻す。けど……。


かすみ「…………」

ルビィ「かすみちゃん? 次のポケモンは……」

かすみ「だ、出しますよ……?」


次のポケモンは──


かすみ「……い、行きますよ、キモリ!」
 「キャモッ」


今度こそ正真正銘キモリだ。

このバトルで使用するポケモンはキモリでなくてはならない。

何故なら、このバトルでの使用ポケモンは2体。つまりゾロアが“イリュージョン”で化けていたポケモンを出さないと、ルール上反則になってしまう。

でも、キモリはほのおタイプを苦手とするくさタイプ……。


かすみ「キモリと一緒に……やるしかない……」
 「キャモッ」


相性は確実に不利。……ただ、全く策がないわけじゃないです。


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!!」


再び飛んでくる灼熱の火球。もちろん、あんなもの直撃するわけにはいきません。


かすみ「キモリ! “このは”!!」
 「キャモッ!!!」


鋭く飛ばした複数枚の“このは”を的確に火球にぶつける。

“このは”自体は瞬く間に燃えてしまうけど、火球の勢い自体は殺すことが出来る。


かすみ「要は攻撃がキモリに届かなければいいんです!」
 「キャモ」


──そのとき、突然、


ルビィ「“でんこうせっか”!!」
 「チャモッ!!!!」


引火して燃える“このは”の向こうから、アチャモが炎の中を猛スピードで突っ込んで来た。

 「キャモッ!!?」
かすみ「!? “ファストガード”!!」
 「キャモッ!!!」

咄嗟に攻撃を防ぐと、それによって弾けるように、アチャモが空中に跳ねる。

そして、そのまま──


ルビィ「“きりさく”!!」
 「チャモォッ!!!!」


足の爪をキモリに向かって、振り下ろしてきた。


 「キャモォッ!!?」
かすみ「き、キモリッ!!」


突然の連撃に対応しきれず、直撃。

しかも──爪で切りつけられた部分は、


 「キャモ…ッ」
かすみ「!! や、“やけど”してる……!?」


熱で炎症を起こして、“やけど”状態になっていた。


ルビィ「いっぱい走って、足に熱を溜めてたんだよ! アチャモのままだと“ブレイズキック”は覚えられないんだけど……こうやって足を他の技で熱すれば同じようなことが出来るんだよ!」

しずく「疑似“ブレイズキック”……ということですね」

かすみ「……っ」


いや、まだです……!


 「キャモ…」


“やけど”状態のキモリが尻尾の中から──丸い緑色の“きのみ”を取り出した。

そして、それをパクリと飲み込む。

すると、キモリの“やけど”がみるみるうちに回復していく。


しずく「! あれは“ラムのみ”!」

かすみ「ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきた“きのみ”だよ!」


戦闘に備えて持たせておいてよかった……。とはいえ、回復出来るのはあくまで状態異常のみ。ダメージが回復出来るわけじゃない。


ルビィ「ならもう一回!! アチャモ! “きりさく”!!」
 「チャモォッ!!!」


再び切りかかってくるアチャモ。


かすみ「……キモリ!! 思いっきり跳んで!!」
 「キャーーーモッ!!!!」


キモリは砂浜を蹴って、一気に跳ねた──その跳躍力はアチャモを飛び越えるどころか、3メートルほどの大ジャンプになり、攻撃を余裕で回避しきる。


ルビィ「えぇ!? なんで、そんなにジャンプ出来るの!?」


驚くルビ子。


しずく「……そうか、“かるわざ”!」

かすみ「そうです……! かすみんのキモリの特性は“かるわざ”! 身のこなしでは負けませんよ!!」
 「キャモッ!!!」

ルビィ「なら、追いかけるだけだもん! アチャモ! “ニトロチャージ”!!」
 「チャーモチャモチャモ!!!!」


再び、アチャモが砂浜を蹴って、走り出す。

砂浜を真っ赤にするほどの熱を帯びたダッシュは確かに速い。だけど──


 「キャモッ、キャモッ!!!」


キモリは砂浜の上を軽々と飛び回る。

一方でアチャモは砂に足を取られながらだからか、思うように追い付けていない。


かすみ「動きにくい砂浜でも、“かるわざ”のあるキモリなら、自由に動き回れますよ!!」

しずく「しかも、縦軸も使って逃げられるキモリの方が、地面を走り回るアチャモ以上に逃げやすい……!」


そして、逃げながら、攻撃を加えてやれば……!


かすみ「“タネマシンガン”!!」
 「キャモモモモモッ!!!!」


キモリの口から撃ち出されるタネが、猛スピードで走り回るアチャモに直撃する。


 「チャ、チャモ、チャモッ」


アチャモは“タネマシンガン”を嫌がりながらも、減速せずに走り回っている。


ルビィ「一発一発はそんなに威力がないよ! ひるまないで!」
 「チャモォッ!!!」

かすみ「でも、ダメージが蓄積していけば、いつかは倒せるはず!!」
 「キャモォッ!!!」


跳ね回りながら、“タネマシンガン”でちくちく攻撃するキモリと、懸命にダッシュしながら追いかけてくるアチャモ。

“タネマシンガン”が体力を削り切るのが先か、追いついて一発でも燃える突進を炸裂させるのが先か。

勝負はそこに委ねられました。


かすみ「こーなったら、最後まで逃げ切りますよ!! キモリ!!」
 「キャモォッ!!!」

ルビィ「アチャモ!! 諦めないで!!」
 「チャモォッ!!!!」


懸命に追いかけて来るアチャモ。だけど、キモリは上手にいなしながら、着実にダメージを蓄積させていく。このままなら……勝てる!!

かすみんが勝利を確信したとき、


しずく「……ルビィさんの攻撃……どうして、急にこんな単調に……?」


後ろの方から、しず子の呟きが聞こえてきた。

……言われてみれば、突然ルビ子の攻撃が突進一辺倒になったような気も……。

でも、それはキモリが逃げに徹してるから……。


かすみ「……いや、相手が跳んで逃げながら遠距離攻撃をしてくるなら、アチャモ側も遠距離攻撃で撃ち合った方が、いいような……?」


確かにルビ子の戦い方は少し違和感がある。

逃げながら、跳びはねるキモリの足元には、アチャモが走り回って赤熱した砂浜が──円を描いていた。


かすみ「……!? ま、まさか!?」


先ほど、ルビ子は──“ニトロチャージ”によって、アチャモの技を疑似的に炎の蹴撃へと強化した。

じゃあ、もしそれを──フィールドを使って、さらに大規模な技に昇華させようとしているのだとしたら……?


かすみ「やば!? キモリ、逃げ──」


かすみんが気付いたときにはもう時すでに遅し、熱された砂浜は──ゴォッと燃える火炎へと成長を始めていた。


 「キャモッ!!?」


それはまるで、キモリを囲む円筒状の炎の壁──


ルビィ「“ほのおのうず”!!」
 「チャモォォッ!!!!」

かすみ「キモリッ!!!?」
 「キャモォォォォ!!!?」


激しく燃え盛る炎の嵐がキモリを呑み込む。もちろん、逃げることなんて不可能だ。


かすみ「キモリっ!!!」
 「キャ、モォォォォォォ!!!!」


でも、名前を呼ぶと、キモリが苦しそうに鳴き声を返してくる。

……まだ、キモリは負けていない!


かすみ「キモリ!!! 負けないで!!!」
 「キャモォォォォ!!!!」


くさタイプにこの灼熱の“ほのおのうず”。根性だけでどうにかならないかもしれない。

でも、それでも、


かすみ「キモリはかすみんが認めたパートナーなんだから!!」
 「…!!」


最初は全然興味がなかったけど、一緒に戦って、意外と息が合うってわかって、この子を選んで、キモリと一緒に強くなろうって決めたから。


かすみ「かすみんはっ!! 最後までキモリのこと、信じるからっ!!!」


そのときだった、


 「キャモォォォォォォ!!!!!」


キモリの雄たけびと共に、炎の壁の向こうで──キモリが激しく光を放った。


かすみ「!? な、なに!?」

しずく「これは……まさか……」

ルビィ「進化の……光……!?」

 「──ジュプトゥルァァァァ!!!!!」


大きな鳴き声と共に、炎の円筒が──上の方から、一閃された。


かすみ「……うそ」


そして、斬り裂かれた炎の嵐の中には、


 「ジュプト…」


腕に大きな草の刃を携えたポケモンと、


 「チャモォ…」


それに斬り裂かれて、戦闘不能になっているアチャモの姿があった。


かすみ「……え……っと……?」

ルビィ「アチャモ、戻って」


ルビ子がアチャモをボールに戻す。


ルビィ「……あはは、ルビィ負けちゃったね」

かすみ「……か、かすみん……勝ったんですか?」

ルビィ「うん! かすみちゃんのキモリ……うぅん──ジュプトルの“リーフブレード”でアチャモの“ほのおのうず”は破られちゃったから」

かすみ「ジュプトル……」
 「ジュプト」

かすみ「……い……いやったあああああああああ!!! ジュプトル!!! やりましたよ!!! かすみんたち、勝ちましたよおおおお!!!」
 「ジュプト♪」


喜びのあまり、思わずジュプトルに抱き着いてしまう。


かすみ「もう、いきなり立派な姿になっちゃって……!! さすが、かすみんの選んだパートナーなだけありますね!!」
 「プトル♪」

しずく「おめでとう、かすみさん♪」


バトルが終わって、しず子もかすみんの近くに寄ってきて、祝福の言葉を掛けてくれる。


かすみ「うん! やったよ、しず子!」

しずく「うん、すごかったよ!」


そして、気付けば、


ルビィ「かすみちゃん」


バトルを終えた、ルビ子もかすみんの傍に来ていました。


ルビィ「あなたをウチウラジム公認トレーナーとして認め──この“ジュエリーバッジ”を進呈します」

かすみ「! う、うん!」


ルビ子からバッジを受け取る。


かすみ「えへへ……見て、ジュプトル! 初めてのジムバッジだよ!」
 「プトォル♪」

ルビィ「それと、かすみちゃんにはこのバッジケースも。今後集めていくバッジを保管するための入れ物だから、大事にしてね」

かすみ「ありがとう! ルビ子!」

ルビィ「えへへ、この先のジムも頑張ってね、かすみちゃん」

かすみ「任せて! ルビ子みたいなちっちゃい子も頑張ってるんだから、かすみん負けないように頑張っちゃうんだからね!」


ルビ子みたいなちっちゃな子供でも、ジムリーダーをやってるんだもん! かすみんもすぐにすごいトレーナーになっちゃうんですからね!

そんなことを言っていたら、急にしず子が、神妙な顔で話に割って入ってくる。


しずく「あ、かすみさん……そのことなんだけど……」

かすみ「? そのことって……?」

しずく「ルビィさん……かすみさんが思ってるより、ちっちゃい子ではないと思うよ」

かすみ「……? どういうこと?」

しずく「かすみさん、今何歳?」

かすみ「何歳って……15歳だけど……」

ルビィ「あ、えっと……ルビィ、18歳……」


……18……歳……?


かすみ「……年上!? え、ルビ子、かすみんより3つも年上!?」

ルビィ「あはは……確かにルビィ、背もちっちゃいし……年上に見えないよね」

かすみ「つまり、かすみんずっと先輩トレーナーに向かって……」


本来ルビィ先輩と呼ばなくてはいけない相手だったらしいです……これは、不覚です……。


ルビィ「あ、うぅん! ルビ子って呼び方、なんか新鮮で嬉しかったから……かすみちゃんが嫌じゃなかったら、これからもそう呼んでくれると嬉しいな」

かすみ「え? そ、そうですか……? な、なら、これからもルビ子って呼ばせてもらおうかな……!」

ルビィ「うん♪ ところで、二人とも今日の宿って決まってる?」

しずく「いえ……町に着いたらすぐにジムを訪ねたので……」

ルビィ「だったら、ジムにあるルビィのお家に泊まって行って」

かすみ「いいの?」

ルビィ「うん! お姉ちゃんから、挑戦者の人はちゃんとおもてなしするようにって言われてるから!」

しずく「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせて頂きますね」

かすみ「これから、宿探しだと思ってたから、本当に助かる……ありがとう、ルビ子」

ルビィ「うぅん! それじゃ、ジムに戻ろっか!」


ルビ子の先導のもと、再びウチウラジムへと戻っていく。


かすみ「そういえば……」

しずく「どうしたの?」

かすみ「なんか……ロトム、やたら大人しくない?」

しずく「あー……そうだね」

かすみ「なんかあったの? ねぇ、ロトム」


何故か、しず子の背中に張り付いているロトムに声を掛ける。


 「ボクはただの板ロト」

かすみ「……なにこれ?」

しずく「さぁ……。……たぶん、正体を知られたくない人が近くにいるんじゃないかなー」
 「…ギクッ」

かすみ「……?」

ルビィ「二人とも、どうしたの?」

しずく「いえ、なんでもありません。ほら、かすみさん早く行こ?」

かすみ「あ、うん」


なんだか、よくわからないけど……まあ、いっか?

なにはともあれ、無事ジムバッジを手に入れることも出来たし、なにより──


かすみ「かすみんのパートナーの頼もしい姿も見れたしね♪」
 「ジュプト」

かすみ「これからもよろしくね、ジュプトル♪」
 「ジュプト♪」


今日はなんだか、気分がいいです。

こんな気持ちのいい日は──ぐっすり眠れる気がしますね。

かすみんは軽く伸びをしながら、ウチウラシティの綺麗な星空の下、相棒と一緒に帰路に就くのでした。



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.16 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.16 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.14 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.15 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.15 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.15 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.14 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:5匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🍊



──ウテナシティ。ポケモンリーグ本部。


海未「それでは、千歌。乾杯の音頭をお願いします」

千歌「え? 私でいいんですか?」

海未「はい。チャンピオンから直々にお願いします」

千歌「そういうことなら……」


私はグラスを掲げる。


千歌「──ダイヤさんの四天王就任と海未師匠の理事長就任を祝して……かんぱーい!!」

四天王たち「「「かんぱーい!」」」

千歌「んくんくんく……ぷはぁっ! やっぱ、オレンジュース最高!」

ツバサ「千歌さんったら、良い飲みっぷりね」

ことり「千歌ちゃんが成人してたら、みんなでお酒が飲めたのにね~。んくんくんく……は~おいしい~♪」

希「あと1年の辛抱やんね。そしたら、千歌ちゃんも含めてみんなで飲もうね」


四天王が口を揃えて、一緒にお酒を飲みたいと言ってくる。……飲んだことないからわかんないけど、お酒ってそんなにおいしいのかな?


千歌「そんなにおいしいなら……お試しで一口くらい……」


そーっと、机にあるお酒の瓶に手を伸ばすと──バシッと手を叩かれる。


千歌「いったぁ!?」

海未「お酒は成人してからですよ。千歌」

千歌「何も叩くことないじゃないですか!!」


海未師匠はこんなときでもお堅いし、私に厳しいんだよなぁ……。


ダイヤ「……ふふ」


そんな私を見て、ダイヤさんがくすくすと笑う。


千歌「むー……ダイヤさんまで」

ダイヤ「ふふ、ごめんなさい。四天王の皆さんと随分打ち解けているんだなと思いまして」

ツバサ「千歌さんがチャンピオンに就任してから、もう3年だものね。打ち解けもするわ」

ことり「わたしはまだ2年くらいだけどね。希ちゃんも、もう3年くらいになるんだっけ……?」

希「せやね。えりちから推薦を受けたのがそれくらいだから、そろそろ3年かな」

ツバサ「千歌さんが四天王に挑戦したときから考えると、あのときの四天王は私だけになっちゃったわね」


──ツバサさんの言うとおり、私が四天王へ挑戦した3年前とメンバーが随分入れ替わっている。

にこさんは戦ったときに言っていたとおり、私がチャンピオンに就任後、ダリアのジムリーダーに戻ることになった。

そして、その空いた枠を埋めるために絵里さんからの推薦と昇格試験への合格で、希さんが四天王になった。

当の絵里さんは……その半年後に、一度修行をしにアローラに戻りたいとリーグに申し出があったそうだ。


千歌「絵里さん……元気かなぁ」

希「この前、メールが来てたよ。元気にやってるみたい」

海未「彼女も真面目ですからね。バトルでもコンテストでも負けてしまいましたから、思うところがあったのでしょう」

千歌「なんかその言い方だと私が辞めさせたみたいじゃないですか……」

海未「結果だけ見たら、そういう部分もあるかもしれませんね」

千歌「い、いじわるなこと言わないでくださいよー……」

海未「ふふ、冗談です。絵里にとっても自分を見つめなおす良い機会だったということでしょう」


というわけで、絵里さんが退任し、そこに、ことりさんが入ることに。

そして、海未師匠は──リーグ理事長に就任するため、四天王を退くことになったということだ。

その代わりに四天王になったのが、


千歌「それにしても、まさかダイヤさんが四天王になるなんて思ってませんでした」

ダイヤ「あら……それはどういう意味ですか? わたくしでは実力不足だと思っていたと?」

千歌「ち、ちがっ、そういうことじゃないですって!」

ダイヤ「ふふ、冗談ですわ」

千歌「もう! 二人揃ってなんなんですかー!!」

ダイヤ「確かに、ジムリーダー序列では、わたくしよりも英玲奈さんの方が上でしたからね」


──ジムリーダー序列というのは、ジムリーダー同士で総当たりで戦ったときの戦歴で決められる、成績上のジムリーダーの強さと前に聞いたことがある。

1年に1回程度のペースでリーグ側から実力監査の名目で、試合を行うらしい。

エキスパートタイプによる有利不利もあるから、単純な勝ち負けではなく、試合の運び等も見られる試験で、その中でトップの英玲奈さんは、序列2位のダイヤさんよりも上だったそうだ。


ツバサ「英玲奈はねー……」

千歌「そういえば、ツバサさんって英玲奈さんと同じでクロユリ出身なんですよね?」

ツバサ「ええ。昔は英玲奈とはライバルのような関係だったわ」

千歌「ツバサさんもいるなら、一緒に四天王出来たのに」

ツバサ「ふふ、確かに千歌さんはそういう風に考えるタイプかもしれないわね」

海未「英玲奈にも四天王試験を勧めはしたんですよ」

千歌「え? そうなんですか?」

海未「ですが、拒否されました」

千歌「拒否って……」

海未「『同郷の人間がいると、鍛錬に身が入らない』と」

希「英玲奈さんストイックだもんね」

ツバサ「それもそうだけど……クロユリの町を守りたいって気持ちもあったんだと思うわ」

千歌「そっかー……」


確かにジムリーダーを離れる際は後任を決めないといけないから、簡単な序列だけで決まる問題でもない。

ことりさんは曜ちゃんを推薦して、ジムリーダーを交代したけど、希さんも後任探しは苦労していたのを思い出す。


ダイヤ「いろいろな結果の上で、わたくしが偶然条件に一致したというだけですわ」

希「ふんふん、そうやねそうやね~♪」

ダイヤ「な、なんですか、希さん……?」

希「ダイヤちゃん、そうは言いながらも、昇格戦は鬼気迫る勢いだったな~って思って」

ダイヤ「そ、そうでしたか……? ですが、希さんには手も足も出ませんでしたし……」


──四天王昇格戦はそもそも参加資格からして厳しい試験だ。

前提条件として、ジムリーダー序列が8人中3位以上であること、さらに四天王からの直接の指名を受けるか、地方内のジムリーダー半数以上からの承認が必要になる。

そして、やっと資格を得ても、そこからの試験も過酷だ。

現行の四天王と直接戦い、少なくとも誰か1人には勝たないと四天王に昇格することは出来ないらしいのだ。

つまり、ダイヤさんは四天王たち──希さん、ことりさん、ツバサさん、海未師匠の4人と戦ったということだ。そんな中で、ダイヤさんが誰に勝利して昇格資格を得たかというと──


ことり「でも、ダイヤちゃん、海未ちゃんに勝ったんでしょ? ことりも海未ちゃんに公式戦で勝てたことってほとんどないのに……」

ツバサ「昇格戦で海未さんに勝てた人間は史上初なのよ? もっと胸を張っていいと思うわ」


──そう、海未師匠に勝ったのだ。


海未「偶然で勝てる相手だと思われていたと言われると、私も複雑ですね」

ダイヤ「あ、いえ……その、そういうわけでは……」

希「ダイヤちゃんがここにいるのは、偶然なんかじゃないんよ?」

海未「そうです。貴方は実力で勝ち上がった、それだけです」

希「ついでに愛の力やんね♪」

ダイヤ「んなっ!?///」


ダイヤさんの顔が急に真っ赤になる。


千歌「……愛って?」

ダイヤ「ち、ちょっと希さん!?/// 何を言っているのですか!?///」

希「だって、ダイヤちゃん、海未ちゃんには絶対負けたくなかったみたいやん?」

千歌「そうなんですか?」

ダイヤ「し、知りませんっ///」


私が訊ねると、ダイヤさんは急に、プイっと顔を背けてしまう。


千歌「……?」


私が怪訝な顔をしていると、


ことり「──ダイヤちゃんね、ずっと千歌ちゃんが海未ちゃんのことばっかり師匠師匠って慕ってたから、『自分も恩師のはずなのに』っていじけちゃってたんだって。果南ちゃんがそう言ってたよ」


ことりさんがそう耳打ちしてきた。


千歌「え? じゃあ、ダイヤさんが四天王になったのって……」


思わず、ダイヤさんをじーっと見つめてしまう。


ダイヤ「な、なんですか……///」

千歌「……えへへ♪ こうして、またポケモンリーグで一緒になれて、嬉しいよ、ダイヤ先生♪」

ダイヤ「……!///」


ダイヤさんは私の言葉を受けて、少し視線を彷徨わせたけど。


ダイヤ「……ま、まあ……千歌さんが、手のかかる教え子なのは今も変わりありませんから。近くで見ていられる方が安心しますからね……///」


そう言いながら、軽く咳払いするのだった。


ダイヤ「尤も……最近リーグには居ないことが多いそうですが」

海未「確かに……果南と違って、リーグ所属のチャンピオンになってくれたのは助かるのですが……最近リーグに不在なことが多いですよね?」

千歌「……あ、えーっと……まあ、いろいろございまして……」


──リーグ所属チャンピオンというのは、文字通りリーグに所属しているチャンピオンということだ。

だからリーグの人間として、いろいろお仕事があるんだけど……実はチャンピオンというのは、チャンピオンになった時点で、リーグに所属するかしないかが選べるのだ。

歴代のチャンピオンだと穂乃果さんや果南ちゃんはリーグに所属しなかったらしい。所属しなかった理由は──


海未「まあ……必要な仕事をしてくれていれば、特に私から言うことはないんですが……。実際、千歌にはリーグのトップとして、公に露出してもらっていますし。果南たちは絶対にこういうことをしたがりませんからね」


そう、メディア露出等の仕事がやりたくなかったかららしい。

ただ、単純に強さを求め続けていた果南ちゃんと、自由奔放な穂乃果さんがやりたがらなさそうだと言うのはわからなくもない。


ダイヤ「逆に千歌さんがリーグ所属を選んだのも意外でしたが」

千歌「ん、そうですか?」

ダイヤ「貴方も堅苦しいのは好きではない子だったので……自分から、そういう立場を選ぶのは意外でした」


なるほど、言われてみればそうかもしれない。


千歌「……まあ、強いて理由を言うなら……」

ダイヤ「なら?」

千歌「曜ちゃんや、梨子ちゃんに負けたくなかったから……かも」

ダイヤ「……ふふ、なるほど」


同期である曜ちゃん、梨子ちゃんはそれぞれ、トップコーディネーターと有名な芸術家として、テレビや雑誌で目にすることも増えた。

今考えてみると、こうしてリーグ所属を選んだのは、それぞれの道で名を上げていく彼女たちに負けたくなかったのかもしれない。


千歌「それに、いろんな人たちに、ポケモンバトルの魅力を知って欲しいって気持ちもあるし!」

海未「今は強力なライバルもいますからね」

千歌「ホントに!」

ことり「それって……もしかして、せつ菜ちゃんのこと?」

千歌「はい!」

ダイヤ「せつ菜さん……確か、去年のポケモンリーグの決勝戦のお相手でしたわね」

ツバサ「それだけじゃないわ。せつ菜さんはこの間、四天王を全員突破して、千歌さんのもとまで辿りついてるのよ」

ダイヤ「え!? そ、そうなのですか……!?」

希「せやんね。せつ菜ちゃんはホントに強かったよ」

海未「結局、千歌がチャンピオン防衛をしたので、チャンピオン交代ということにはなりませんでしたけどね」

千歌「いやー、正直結構ギリギリだったよ! まあ、それでもまだ負けるつもりはないけどね!」

海未「そういえば、聞きましたよ? せつ菜と会うと、毎回バトルしているそうじゃないですか」

千歌「え? まあ、トレーナー同士、目が合ったらバトルするのが礼儀ですし!」

海未「貴方、まさかチャンピオン戦をしてはいないですよね?」

千歌「し、してないです!! チャンピオンマントは基本ポケモンリーグに置きっぱなしだし……」

海未「ならいいのですが……。公式戦をする際は必ず一報入れるように」

千歌「わかってますって……」


海未師匠の言っているチャンピオン戦というのは、文字通りポケモンリーグのチャンピオンとして、挑戦者と相対する公式戦のことだ。

公式、非公式で何が違うのかと言うと──当たり前だけど、公式戦では、チャンピオンの称号を懸けての戦いになるということ。

別に野良試合のような方式で公式のチャンピオン戦をしてはいけないという決まりはないけど……海未師匠の言うとおり、それなりに意味や価値を持つ戦いなのには間違いないのだ。

だから、普段そこらへんで出会ったトレーナーと戦うように、カジュアルに公式チャンピオン戦を行うことは基本的にはない。

そして、公式非公式を分ける証として、公式チャンピオン戦を行うときは、多くの場合チャンピオンマントを身に着けて戦うことが慣習となっている。

チャンピオンマントは文字通り、この地方のチャンピオンにだけ渡されるマントで、逆に言うなら、これを身に着けて戦うときは公式にチャンピオンの座を掛けて戦うという意志の表れということになる。


海未「ある日気付いたら、チャンピオンが変わっていたなんて言われたら、いろいろと困りますからね……」

千歌「だから、大丈夫ですって! 師匠は心配性すぎるんですよ!」

海未「ですが、千歌ですよ?」

ダイヤ「まあ、千歌さんですからね……心配するのはわかります」

千歌「もぉーーー!! 二人してなんなんですかーーー!!」


この二人、私の師のはずなのに、どうしてこんなに私への信頼が薄いんだろうか……。


千歌「全く……失礼しちゃうな……」

ことり「もう海未ちゃんもダイヤちゃんも、あんまり口煩く言っちゃダメだよ? 千歌ちゃん、頼もしいところもたくさんあるんだから」

千歌「あぁ~もう! チカのことわかってくれるのは、ことりさんだけです……!」

ことり「うんうん♪ むしろ、海未ちゃんのことしっかり見張っててね? 海未ちゃん放っておくと、ずーーーっと仕事しちゃうから……」

千歌「任せてください!!」

海未「こ、ことり……私の話は別に……」

ことり「良い機会だから言うけど、海未ちゃんは普段から無理しすぎです! 少しは自分を大切にしてくれないと、ことりが怒るからね!」

海未「う……ぜ、善処します」

ツバサ「ふふ、歴代最強の四天王も幼馴染の前では形無しね」

希「せやねぇ♪」


そんなこんなで楽しげな宴の席は続く。

しばらく、みんなで談笑を楽しみながら、時間が過ぎていく中……。


ことり「……お母さん、遅いね」


ことりさんがふと、そう呟いた。

実は、この宴の席、もう一人来る予定のはずの人がいる。

ことりさんのお母さんで、今はポケモンリーグ相談役──つまり前理事長だ。


千歌「まだ仕事してるのかも……私がお酒とご飯を持っていきます」

ことり「あ、ならわたしも……!」

千歌「あはは、ご飯持ってくくらい私一人で大丈夫ですから!」


私はお盆とお皿を持ってきて、そこに適当に選んだご飯とお酒を載せて相談役のもとに行く準備を整える。


ことり「それじゃ……お願いね、千歌ちゃん」

千歌「はーい! ことりさんが心配してるってことも伝えておきますね!」

ことり「うん、ありがとう」


私は踵を返して、部屋を後にした。



    🍊    🍊    🍊





相談役の部屋の前に立ち、扉をノックする。


相談役『どうぞ』

千歌「──失礼します」


許可が出たので、料理を持ったまま、部屋の中へ。


相談役「千歌さん。どうかしましたか?」

千歌「歓送迎会になかなか顔を出さないから、料理とお酒を持ってきました」

相談役「あら、ありがとう。そこに置いておいて。あとで頂くわ」

千歌「はい。……あの、まだお仕事中ですか?」

相談役「ええ。……仕事と言っても、先方からの返事待ちだけどね」

千歌「そうですか……」

相談役「……ボールベルトの調子はどうかしら?」

千歌「あ、はい! これすっごくいいですね!」


私は、腰に巻かれたボールベルトを手で撫でる。


相談役「それは何よりです。特注品ですから、大切にしてくださいね」

千歌「もちろんです」


これは相談役から私と穂乃果さん宛てに貰った物で、ある機能を備えた特別なボールベルトだ。

……今の私たちには必要なもの。


千歌「……あの」

相談役「なんですか?」

千歌「ことりさんや海未師匠には、今やってること、言わないんですか?」

相談役「……先方があまり多くの人間に情報を共有したくないみたいなの。だから引き続き、穂乃果さんと千歌さんの二人にお願いするしかないわ。……負担が大きくて申し訳ないけど」

千歌「い、いえ! 穂乃果さんもいるし、それは全然大丈夫なんですけど……。ことりさん、心配してたので……」

相談役「そう……。あとで少し、ことりのところにも行ってみるわ」

千歌「はい、そうしてあげてください」


顔を見せてあげれば、ことりさんも少しは安心すると思うしね……。


千歌「……それじゃ、私は戻りますね」

相談役「ええ、ありがとう」


私が踵を返して、部屋を出ていこうとする背中に、


相談役「千歌さん」


声が掛けられる。


千歌「はい」

相談役「“Fall”のこと、お願いね。今は、貴方たちしか頼れる人がいないから」

千歌「はい、任せてください!」


私は力強く返事をして、今度こそ部屋を後にするのだった。


………………
…………
……
🍊




■Chapter016 『決戦! コメコジム!!』 【SIDE Yu】





──朝。コメコの森のロッジ。


侑・歩夢「「お世話になりました!」」
 「ブイ」

彼方「いえいえ~」

遥「侑さんはこれからジム戦ですよね! 頑張ってくださいね!」

侑「うん! ありがとう、遥ちゃん!」

歩夢「彼方さん、ご飯すっごくおいしかったです! よかったら、今度教えて欲しいです……!」

彼方「是非是非~、教えてあげるから、また遊びに来てね~。リナちゃんとイーブイちゃんとサスケ君もまたね~」

 「ブイブイ」「シャボ」

リナ『ありがとうございました。リナちゃんボード「ぺこりん」』 || > ◡ < ||


彼方さんと遥ちゃんに見送られながら、ロッジを出る。

穂乃果さんにも挨拶したかったけど……。


侑「穂乃果さん……随分朝早くから、出ていっちゃいましたね」

彼方「穂乃果ちゃんは、朝の見回りがあるからね~」

侑「そっか……」


昨日の夜は彼方さんや遥ちゃんといろいろ話をしたけど……穂乃果さんは何やら忙しそうにしていて、あまり話を聞いたりすることは出来なかった。

やっぱり、元でもチャンピオンは何かしら忙しいのかもしれない。


歩夢「穂乃果さんにも、よろしく伝えておいてください」

彼方「了解~。伝えておくよ~」


最後に歩夢と二人で彼方さんたちに会釈をして、コメコシティに向かって歩き出す。


侑「……それにしても、なんか昨日はすごい話聞いちゃった気がする」

歩夢「侑ちゃん、大興奮だったもんね」

侑「いや、興奮もするよ!」


私は昨日の会話を思い出す──



──────
────
──


食卓を囲みながら、私たちは雑談に花を咲かせていた。


彼方「それじゃ、侑ちゃんは千歌ちゃんの大ファンなんだね~」

侑「はい! だから、さっき会ったときは頭の中が真っ白になっちゃって……ああ、ポケモンリーグのときの話とかいろいろ聞きたかったのに……。あ、でも千歌さん急いでたんだっけ……」

歩夢「侑ちゃん本当に、ポケモンリーグの千歌さんの試合、好きだもんね」

侑「だって、今まで一度も公式戦で使ってこなかった新顔のネッコアラだけで準決勝まで勝ち抜いてくの、本当にチャンピオンの風格って感じですごすぎたんだもん!」

彼方「ほほ~、侑ちゃん、千歌ちゃんのネッコアラ好きとは、いいセンスしてるね~。彼方ちゃんも鼻高々だよ~」

リナ『鼻高々? 彼方さんの話じゃないよ?』 || ? _ ? ||


確かに何故か彼方さんが胸を張っていた。ただ、その理由はすぐにわかる。


彼方「何を隠そう、ネッコアラでの戦い方を千歌ちゃんに教えたのは、この彼方ちゃんなのだ~♪」

侑「……え? ……えええええぇえぇぇえぇぇ!!?」


驚きすぎて、思いっきり立ち上がってしまう。椅子はひっくり返るわ、机の上の食器たちが揺れてカチャカチャと音を立てるほど、驚いてしまった。


歩夢「ゆ、侑ちゃん、行儀悪いよ……」

侑「だ、だ、だって、え、え、え!? そ、それじゃ、彼方さんって、千歌さんのお師匠様!?」

彼方「はっはっは~、彼方ちゃんをもっと褒めるがいいぞ~。……って言いたいところだけど、彼方ちゃんが教えたのはネッコアラの使い方だけだよ~。彼方ちゃんもたまたまネッコアラを使ってたからね~」

侑「な、なんだ……でも、千歌さんに教えられることがあるなんて、それだけですごい……」

彼方「まあね~。彼方ちゃん、バトルは結構強い方だから~。それでも、千歌ちゃんや穂乃果ちゃんは、彼方ちゃんとは比べ物にならないほど強いけどね~」

遥「私もお姉ちゃんみたいに、バトルが強ければなぁ……」

彼方「遥ちゃんは可愛いからいいんだよ~」

遥「もう! そういう話じゃないよ……」

彼方「大丈夫大丈夫~遥ちゃんは彼方ちゃんが守ってあげるから~」


──
────
──────



侑「千歌さんのネッコアラの強さは彼方さんの教えだったなんて……」

リナ『公にそんな情報はなかったから、私もびっくりだった』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「またいろいろ話が聞けるといいな~♪」

歩夢「ふふ、そうだね」

侑「今日の宿も、あのロッジに泊めてもらっちゃおうかなぁ……? もしかしたら、今日は千歌さんともお話できるかもしれないし!」

リナ『侑さん。それよりも今はジム戦に集中した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「っと……それもそうだった。頑張ろうね、イーブイ!」
 「ブイ」


リナちゃんに指摘されて我に返る。

そうだった、これからジム戦だった……集中集中!

私たちは森を抜けて、コメコシティへと戻って行きます。




    🎹    🎹    🎹





コメコシティに戻ってきて、一直線にジムを目指す。


リナ『コメコジムはこの道を一直線に進めば着くはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、ありがとう、リナちゃん」

歩夢「……侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「その……昨日はごめんね」

侑「?」

歩夢「ジム戦行くの……止めちゃったから」

侑「ああ、そのことね。気にしてないよ。むしろ、リフレッシュ出来てよかったくらいだよ!」

歩夢「そっか、よかった……。もう、私……怖くないから。今日は侑ちゃんのこと、全力で応援するね!」

侑「うん! お願いね!」


そう、私は強くなるんだ。歩夢を守れるように。そのためにも、また一つずつジムを勝ち進んで、強くなる!

心持ちも新たに、私たちがコメコジムに辿り着くと──ジムの前に二人の女性がいた。


侑「ん……? あれって……?」


私は、ジムの前にいる二人に向かって駆け寄りながら、声を掛ける。


侑「あのー! すいませーん!」

女性「え?」


ショートボブの女性が私の声に振り返る。


侑「あの! 花陽さんですよね! ジムリーダーの!」

花陽「う、うん。そうだけど……」

侑「それと……」


花陽さんの隣にいる女性の方にも目を向ける。


侑「ホシゾラジムの凛さん、ですよね?」

凛「あれ? よくわかったね?」

侑「はい! ジムリーダーの皆さんの顔は全員覚えているので!」

花陽「わぁ、そうだったんだね♪ 嬉しいなぁ♪」

侑「あ、私、侑って言います! この子は相棒のイーブイ!」
 「ブイ」

歩夢「ゆ、侑ちゃーん……待ってー……はぁ、はぁ……」


急に駆け出したからか、歩夢が息を切らせながら追いかけて来る。


侑「こっちは一緒に旅をしてる歩夢です」

花陽「侑ちゃんとイーブイちゃんと、それに歩夢ちゃんだね。よろしくね」

凛「それで、侑ちゃんたち……ポケモンジムに来たってことは、もしかして挑戦者?」

侑「はい!」


どうして凛さんがいるのかはわからないけど、ジムリーダーが二人揃っている場面なんて、なかなか出くわせないことだし、思わずときめいてしまう。

もしかして、交流戦とか練習試合のために来てるのかな!? なんて、思いながらワクワクしていると、


花陽「あ、えっと……実はわたしたち、今から出掛けないといけないの……」


そんなワクワクとは正反対の回答が返ってきた。


侑「え?」

凛「ちょっと用事があってね。凛はかよちんを迎えに来たところなんだ」

侑「そ、それじゃ……ジム戦は……」

花陽「ごめんね……。帰ってきてからになっちゃう……」

侑「そ、そんなぁ……」


せっかくのジム戦日和だと思って意気揚々とここまで来たのに、出鼻をくじかれてしまった気分だ。

まあ……用事があるなら仕方ないか。ジムリーダーも人間だし……いつでもどこでもどんなときでもジム戦が出来るわけじゃないもんね。


花陽「本当にごめんね……。昨日だったら……ジム戦してあげられたんだけど……」

歩夢「……え……」


私の隣で、歩夢が声を漏らした。

そして、小さな声で、


歩夢「………………………………私の…………せいだ………………」


そんな呟きが聞こえた。


侑「歩夢……?」


──歩夢は急に前に出て、


花陽「きゃっ!?」


花陽さんの腕を掴んだ。


歩夢「……お、お願い……します……侑ちゃんと……ジム戦を……して、くれませんか……?」

花陽「え!? で、でも、これから用事が……」

歩夢「……い、一回だけで、いいんです……お、お願いします……」

侑「ち、ちょっと、歩夢……!」


私は思わず、歩夢の肩を掴んで止める。だけど、


歩夢「……お、お願い……します……お願い、します……」


歩夢は私の制止も聞かず、声を震わせながら、花陽さんに必死にお願いをしていた。


侑「歩夢……! 私は大丈夫だから……!」

歩夢「お、お願い、します……っ……!!」

花陽「……えっと……」


今にも泣き出しそうな歩夢の様子に、花陽さんもどうすればいいか困惑しているようだった。

そんな中、横でその様子を見ていた凛さんが、口を開く。


凛「歩夢ちゃん、だったっけ?」

歩夢「……っ……。……は、はい……」

凛「今日じゃなくちゃ、ダメなのかな? かよちん、困ってる」

歩夢「…………っ……!」


少し鋭さを帯びた声音に、歩夢がビクリと身を竦める。


侑「歩夢……いいから、ね?」

歩夢「…………っ……」


私も歩夢の肩を掴んで下がらせる。


凛「それじゃ、かよちん。行こう」


凛さんはそのまま花陽さんの手を引いて、この場を去ろうとするが、


花陽「待って、凛ちゃん」


それを制したのは花陽さんだった。


凛「かよちん……?」

花陽「ジム戦をしたいのは侑ちゃんだけなんだよね?」

侑「え、は、はい……」

花陽「まだ、少しだけ時間に余裕があるから、1戦くらいなら出来ると思う。ジム戦しよっか」

侑「……え。……いいんですか?」

歩夢「! ほ、ほんとですか……!」

凛「か、かよちん!」

花陽「大丈夫だよ凛ちゃん。それに、わたしたちはジムリーダーだもん。せっかく来てくれた挑戦者を無下には出来ないよ」

凛「にゃ……それはそうだけど……」


凛さんは複雑そうな表情を浮かべて、小さく唸りながら考え始める。


凛「えっと……侑ちゃん、バッジはいくつ持ってる?」

侑「“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”の2つです」

凛「ってことは、セキレイから逆時計回り……コメコジムが終わったら、ホシゾラジムにも挑戦するってことだよね」

侑「……そうなりますね」

凛「ただ、凛たちは数日は戻れないと思うんだ。今ここで無理にジムバトルをしても、どちらにしろホシゾラシティで足止めさせることになっちゃうよ。それでも……歩夢ちゃんは今、この場でジム戦をしないとダメだって言うの?」


凛さんはそう言いながら、歩夢に視線を向ける。


歩夢「……ぁ……えっと……その……」


再び、言外の拒絶の意を受けて、歩夢が半歩下がる。


花陽「凛ちゃん、そんな言い方しちゃダメだよ……」

凛「かよちんは優しすぎ。凛たちジムリーダーにも事情があるんだよ。確かに挑戦者を大切にしなくちゃいけないのはわかるけど……」

花陽「うーん……でも……」

侑「あ、あの! ホントに大丈夫ですから! 歩夢、行こう!」


私は歩夢の腕を掴んで、退散することにした。

これ以上、ジムリーダーの二人に迷惑を掛けるわけにはいかない。

だけど、


歩夢「…………今日じゃなきゃ……だ、ダメ……です……」


歩夢は、引こうとしなかった。


侑「歩夢……!」

歩夢「今じゃなきゃ……ダメ、なんです……」

侑「…………歩夢」


歩夢は断固として譲らないけど、その声は尻すぼみに小さくなっていく。

頑なな意志を見せる歩夢に、


凛「……わかった」


凛さんは溜め息混じりに肩を竦めて言う。


凛「なら、こうしよっか。あくまでジム戦を急ぐっていうなら、凛もジム戦をしてあげる。挑戦者が待ってるってわかったままじゃ、出掛けた後も落ち着かないし……」

花陽「え、でも……」

凛「ただ、2戦やる暇はないから──ジム戦は同時にやる」

侑「同時……?」

凛「そう。凛とかよちんのタッグとのマルチバトル」

侑「!? じ、ジムリーダー二人と同時に……!? わ、私ダブルバトルの経験は……」


いきなりジムリーダー二人を同時に相手して、勝てる気がしない。


花陽「り、凛ちゃん……! それはいくらなんでも……!」

凛「もちろん、一人で戦えなんて言わないよ。マルチとダブルで勝負するなんて、マルチ側が圧倒的に有利だし」

侑「じ、じゃあ……」

凛「そっちも二人、いるでしょ?」


そう言いながら、凛さんの視線が、歩夢を突き刺す。


歩夢「え……」

凛「これはあくまで譲歩だよ。これが嫌なら挑戦は諦めて欲しいかな」

歩夢「…………」

侑「ま、待ってください!! 歩夢はバトルはあんまり得意じゃなくて……!」

凛「なら一人で凛たち二人と戦う? 腕に自信があるなら、それでも構わないけど」

侑「ぅ……それは……」


そんなことをしても、結果は火を見るよりも明らかだ。

でも、歩夢にバトルはさせられない……。

なら、やっぱり、私が頑張ってダブルバトルで勝つしかない。

そう、思ったときだった。


歩夢「……やり……ます……」


か細い声で歩夢が言った。


歩夢「……わ、私も……バトル……します……」


歩夢は震える声で、そう答えたのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「……歩夢、大丈夫?」

歩夢「……うん」


ジム内部のバトルスペースに向かう途中、話しかけた歩夢はまだ少し震えていた。


歩夢「…………ごめんね……無茶苦茶なこと……言って……」

侑「うぅん。歩夢がチャンスを作ってくれたお陰で、ジム戦が出来ることになったんだから、むしろ感謝してるよ!」

歩夢「……侑ちゃん」

侑「だから、このチャンス無駄にしたくない! 私、頑張るからさ!」

歩夢「……うん」

侑「歩夢と二人なら、なんか出来る気がするからさ! 勝とう! 二人で!」

歩夢「……うん!」


歩夢が私の言葉に力強く頷く。それと一緒に震えも止まったようだ。


歩夢「私、頑張るね……!」

侑「うん!」

リナ『……侑さん、歩夢さん、準備はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがふよふよと漂いながら、問いかけてくる。


リナ『相手はじめんタイプのエキスパートの花陽さんと、かくとうタイプのエキスパートの凛さんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん」


じめんタイプとかくとうタイプ相手となると、私や歩夢の手持ちでは、どうしても一方的に有利なタイプ相性で戦うことは難しいだろう。

多少思い切りが必要になるかもしれない。


侑「大丈夫」

リナ『わかった。私も全力でサポートするね』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「よろしくね、リナちゃん」

リナ『任せて!』 || > ◡ < ||


私たちは、バトルスペースにつく。




    🍚    🍚    🍚





バトルスペースに赴く道すがら、


凛「かよちんは、優しすぎるにゃ」


凛ちゃんがさっきと同じことを言う。


花陽「あの歩夢ちゃんって子……何か事情があるみたいだったから」

凛「だからって……」

花陽「見ていて思ったの。歩夢ちゃん、普段は主張の強い子じゃないんじゃないかって。……わたしも同じだったから、なんとなくわかるんだ」

凛「……」

花陽「そんな子が、友達のために頑張ってジム戦をして欲しいってお願いしてきたんだよ。断れないよ」

凛「やっぱり、かよちんは優しすぎるにゃ……」

花陽「そうかな? わたしも凛ちゃんのためだったら、頑張ってお願いすると思うよ? 凛ちゃんは、してくれないの?」

凛「……すると思うにゃ」

花陽「だよね♪」

凛「やっぱり、かよちんには敵わないにゃ……わかった、もう何も言わないよ」


やっと凛ちゃんも納得してくれたみたいで安心する。


凛「ただ、バトルは別。凛、相手にどんな事情があっても、わざと負けるつもりなんかないからね」

花陽「それはもちろん! ジムリーダーとしての真剣勝負だからね!」


凛ちゃんの言葉に力強く頷きながら、バトルスペースについた。





    🎹    🎹    🎹





花陽「ルールは各自使用ポケモン2体ずつ……つまり4対4のマルチバトルです!」

凛「お互いのポケモンが全て戦闘不能になったら、その時点で決着だよ!」

侑「歩夢、行ける?」

歩夢「……うん! 行くよ、サスケ!」
 「シャーー!!」


4人のトレーナーがそれぞれ構える。


花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」

凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」

花陽「全力で行きます!」
凛「全力で行くにゃ!」


4匹の手持ちたちが同時にフィールドに向かって放たれた──バトル、開始……!




    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!」
 「──ワッシャァッ!!!」
歩夢「サスケ、お願いね!」
 「シャーボ」

花陽「ディグダ、頑張ろう!」
 「──ディグディグ」
凛「ズルッグ、行くよー!」
 「──ズルッグ」


こちらはワシボンとサスケ、片や花陽さんと凛さんはディグダとズルッグを繰り出してきた。


侑「ワシボン! 先手必勝だよ!」
 「ワシャァッ!!!」


ワシボンが羽ばたきながら飛び出していく。


凛「ズルッグ! 来るよ!」
 「ズルッ!!」


凛さんのズルッグが迎え撃つ態勢になる。

だけど──ワシボンはズルッグの目の前で、軌道を横に逸らす。


凛「にゃ!?」


私の狙いは──


侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!」

 「ディ、ディグッ!!?」
花陽「狙いはディグダの方!?」


凛さんも花陽さんも、かくとうタイプのズルッグを狙ってくると思ったに違いない。

完全に予想と違う攻撃に面食らったのか、爪がそのまま、ディグダを切り付ける。


侑「畳みかけるよ!!」
 「ワシャッ!!!」

花陽「ディグダ! “あなをほる”で一旦退避!!」
 「ディ、ディグ」

侑「逃がさない!!」
 「ワッシャァーーー!!!!」


穴に頭を引っ込めようとするディグダの頭を猛禽の爪でガッチリと掴む。


 「ディ、ディグディグ」

凛「ディグダを離すにゃー!!」
 「ズルッグッ!!!!」


ディグダを襲っているワシボンに向かって、ズルッグが飛び出そうとしてくる。

が、


歩夢「“どろばくだん”!!」
 「シャーーーボッ!!!」


サスケが後方からの遠距離攻撃をズルッグに向かって放つ。


凛「邪魔っ!!」
 「ズルッグッ!!!!」


ズルッグは鳴き声と共に飛んできた、“どろばくだん”を拳で破壊し、再び攻撃態勢に戻ろうとするが、


 「シャーーーボッ」


その隙にサスケは地を這いながら移動し、ズルッグの進路に立ちふさがる。


凛「邪魔するなら、どいてもらうだけ!! “ずつき”!!」
 「ズルッ!!!!」


頭を前に突き出して、突撃してくるズルッグに対して、サスケはその場で、


歩夢「“とぐろをまく”!!」
 「シャボッ」


とぐろを巻いて、攻撃を受け止める。さらに、


歩夢「“へびにらみ”!!」
 「シャーーーーーッ!!!!」

 「ズ、ズルッ!!!?」


蛇の眼光で睨みつけ、ズルッグを怯ませる。“へびにらみ”は相手を“まひ”状態にする補助技だ。

歩夢がうまくズルッグを引き付けてくれている。今のうちに……!


侑「ワシボン!! 私たちでディグダを止めるよ!!」
 「ワッシャッ!!!!」


逃げようとするディグダを爪でガッチリ掴んでホールドする。

ディグダは自由にさせない……!

そう思っていたけど、花陽さんもただでは止まってくれない。


花陽「ディグダ! “じならし”!!」
 「ディーーグッ!!!!」


ディグダは掴まれながらも、体を使って、地面を揺らす。


 「シャーボッ…!!」


全体を巻き込む範囲攻撃。サスケも一瞬身動きが取れなくなる一方、


 「ズルッ」


凛さんのズルッグは、長い皮に身を隠し、出来るだけ自分にダメージが通らないように防御姿勢を取っている。

そしてこの“じならし”、本来空を飛んでいるワシボンには当たらない技だけど、


 「ワ、ワシャッ…!」


地面を揺らしているディグダ本体を掴んでいるためか、ワシボンも体が揺すられて、一瞬怯んでしまった。


花陽「今!!」
 「ディグッ!!!」

 「ワシャッ!!!?」


その隙を見逃さず、逆にワシボンの爪足を巻き込むようにして、地面に潜り始める。


侑「やばっ!? 逃げて、ワシボン!?」


さすがに、地面に引き摺りこまれるのはまずい!?


 「ワッシャッ…!!!」


ワシボンも咄嗟にディグダを掴んでいたのとは逆の足で地面を踏ん張るが、


 「ディグ、ディグ、ディグ」


ディグダは鼻や体を器用に使って、ワシボンの足にまとわりつき、無理やり地面の中に引きずり込もうとしてくる。

ワシボンも堪えているものの、体勢が悪いせいか、力負けしはじめ、体が少しずつ地中に──


侑「っ……! ワシボン!!」

歩夢「助けなきゃ!? サスケ!!」
 「シャーーーボッ!!!」


歩夢の合図で、サスケも“あなをほる”で地面に飛び込んだ、瞬間──


 「ワシャァッ!!?」


ワシボンが突然、空に向かってすっぽ抜けた。


侑・歩夢「「っ!?」」


歩夢共々、何が起こったのかわからず、声にならない声をあげた。


リナ『侑さん!! 歩夢さん!! ディグダ、地面に出てきてる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「え!?」


リナちゃんの言葉に、視線を地面に戻すと、確かに、


 「ディグ」


ディグダは顔を地面から出していた。

ワシボンを引き摺りこもうとしていたディグダが急に地上に戻ったから、そのせいで勢い余ってワシボンが吹っ飛んでいったんだ。

そして、同時に──花陽さんの狙いに気付く。


侑「っ……!? 誘われた……っ!!?」


花陽さんの狙いは──最初からワシボンじゃない!?


花陽「“マグニチュード”!!!」
 「ディィィィグ!!!!!!」


ディグダが全身を使って、地面を激しく揺らし始めた。


歩夢「きゃぁっ!?」


歩夢がバランスを崩してよろけるほどの大きな震動がトレーナースペースまで届いてくる。

そして、そんな大きなエネルギーを最も近くで直撃したのは、


 「──シャーーーーボッ」


地面の中にいた、サスケだ。

大ダメージを受けて、サスケが堪らず地面から飛び出してくる。


歩夢「サスケっ!?」

リナ『“マグニチュード”は地面の中にいるポケモン相手だと、倍近いダメージになる。サスケが“あなをほる”のを誘われてた』 || > _ <𝅝||

侑「っ……!」


この大揺れの中、せめて私はズルッグへ攻撃を……!!

幸い飛んでいるワシボンに“マグニチュード”の効果はない。なら、地面でモロに影響を受けているであろうズルッグを狙い撃つのは容易なはず……!

そう思って、地面に目を向けた、が、


侑「!? ズルッグはどこ!?」


気付いたときには、ズルッグの姿が見えなくなっていた。


凛「──ワシボンとおんなじ場所だよ!」

侑「え!?」


凛さんの声に視線を空中に向けると──


 「ズル」


ズルッグが飛び跳ねたまま、ワシボンに迫っているところだった。


凛「“とびひざげり”!!」
 「ズルッ!!!!」

 「ワッシャッ!!!?」


空中で“とびひざげり”が炸裂し、ワシボンがジムの壁の方まで一気に吹っ飛ばされ、叩き付けられる。


侑「ワシボンっ!!」

 「ワ、ワシャァッ…!!!」


ダメージは大きいが、ワシボンはどうにか気合いで立ち上がる。

まだ戦闘不能になっていないことに少しだけほっとするものの、状況はかなり悪い。

恐らく花陽さんが“マグニチュード”を撃つのがわかっていて、それに合わせて、ジャンプ攻撃に切り替えてきたということだ。

……でも、


侑「ズルッグは“へびにらみ”で“まひ”してたはずじゃ……」


そんな体のまま、あんな跳躍が出来るはずは……。


凛「ふふん、ズルッグの特性は“だっぴ”。皮を脱いで状態異常は回復しちゃうよ!」

侑「……しまった、忘れてた……」


先手を取ったはずなのに、悉く作戦を返されてしまう。

サスケも大ダメージを負って戦闘不能になってしまったし、このままじゃまずい……と思った瞬間だった。


 「シャーーーーボッ!!!!!」

 「ディ、ディグーーー!!?」
花陽「え!?」


戦闘不能になったかと思っていたサスケが、ディグダの頭に噛み付いていた。

歩夢が何か作戦を指示していたのかと思ったけど、


歩夢「さ、サスケ!?」


当の歩夢も驚きの声をあげていた。ということは……。


 「シャーーボッ、シャーーーー」


満身創痍なサスケが、自分の意思で攻撃しているということ。

もうボロボロで戦う力はほとんど残っていないはずなのに。


歩夢「サスケ……っ!! もういいからっ!!」


歩夢も、もうサスケに戦う力がほとんど残っていないことがわかっているのか、サスケを制止するものの、


 「シャーーーーーッ」


それでも、サスケは自分のキバでしっかり、ディグダに噛み付き続ける。


 「ディ、ディグググッ」


予想外の攻撃に驚いたディグダはサスケに噛み付かれたまま、地面に潜っていく。

ワシボンと違い、細長い体躯のサスケはそのまま地中へと引っ張られていく。

このままだと、サスケの体力が尽きるのは時間の問題……だけど、


侑「サスケが作ってくれたチャンスだ……!! ワシボンっ!!」
 「ワシャァッ!!!!」


ワシボンが気合いの雄たけびと共に、バサっと翼を開いて飛び立つ。

フィールドから2匹が地中に潜っているこの瞬間。ズルッグとの1対1に私たちが勝つしかない……!!

そう息巻いて飛び出した。が、凛さんの判断も速かった。


凛「“とびひざげり”!!」
 「ズルッッグ!!!!」


すでに再び対空蹴り攻撃に移行していたズルッグが、ワシボンの正面に迫る。

絶体絶命。お互い直線軌道でぶつかり合うと思った、次の瞬間──ワシボンが急降下した。


凛「にゃ!?」
 「ズルッ!!?」


急な軌道変更に対応しきれず、ズルッグはそのまま勢いよく壁に膝を激突させる。


 「ズ、ズルゥゥゥゥッ!!!?」


膝をぶつけた痛みに悶絶するズルッグ。

そして、回避に成功したワシボンは、そのまま孤を描くように切り返す。

予測不可能な軌道とともに、相手に回避させない必中の飛行技──


侑「“つばめがえし”!!」
 「ワシャァァァッ!!!!」

 「ズルゥゥゥ!!!?」


膝の痛みに悶絶していたズルッグに、翼の一撃を直撃させた。


凛「ズルッグ!?」
 「ズ、ズルゥゥゥ…」


自傷ダメージと効果抜群のひこう技を連続で受けて、ズルッグは堪らず戦闘不能になった。


侑「ナイス! ワシボン!」
 「ワ、ワシャァァッ!!!」


ワシボンも満身創痍ではあるものの、辛くもズルッグとの撃ち合いには勝利。

そして、サスケとディグダは──


 「ディグ…ッ」


地面にぴょこっと顔を出した、ディグダ。その頭にはまだサスケが噛み付いていたけど──ディグダがぶんと体を振ると、


 「シャボ…」


もう限界だったのか、サスケのキバが抜けて、フィールドに放り出される。


歩夢「さ、サスケ……」


歩夢が真っ青な顔でその場にへたり込んでしまう。

バトルで自分の手持ちが傷つく姿に、まだ慣れていないのだろう。

とりあえず、お互いのポケモンが1体ずつ戦闘不能になった今、ポケモンチェンジもあるし、一旦仕切り直しかな……。


侑「歩夢……サスケ、ボールに戻してあげて」

歩夢「……うん」


歩夢が戦闘不能になったサスケをボールに戻す。


歩夢「サスケ……ごめんね……痛かったよね……ごめんね……」


ぎゅっとサスケの入ったボールを胸に抱くようにして、謝罪を口にする。


侑「歩夢、サスケのこと、後でいっぱい褒めてあげてね」

歩夢「……うん」


サスケの善戦により、劣勢だった展開からイーブンまで持ち込めた。

……と、思ったら、


 「ディ、ディグ…」
花陽「ディグダ!?」


急にディグダも目を回して、気絶してしまった。


侑「え? どういうこと……?」

リナ『ディグダ、“もうどく”状態になってた。そのダメージに耐えられなかったみたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「“もうどく”ってことは……」

花陽「さっきの噛みつき……“どくどくのキバ”だったんだね」

歩夢「サスケ……最後まで頑張ったんだね、偉いよ……」

侑「サスケ、大手柄だ……!」


イーブンどころか、これで残りは3対2……!


凛「ごめんかよちん……ワシボン倒しきれなかった……」

花陽「うぅん。わたしもディグダを相打ちまで持ち込まれちゃった……ごめんね」

凛「仕方ない。切り替えていこう!」

花陽「うん!」


ジムリーダーたちが2匹目のボール構える。


侑「このバトル……勝てるよ、歩夢!」

歩夢「……うん!」


歩夢は一度、息を整えながらゆっくり立ち上がり、2匹目のボールを構えた。


歩夢「お願い、ヒバニー!」
 「ヒバニッ!!」


もちろん、歩夢の2匹目はヒバニーだ。


花陽「ドロバンコ! 出てきて!」
 「ンバコ」

凛「オコリザル、行くにゃ!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


花陽さんの凛さんの最後のポケモンはドロバンコとオコリザル。

さあ、試合再開だ……!


侑「ワシボン! ドロバンコに“ダブルウイング”!!」
 「ワシャァッ!!!!」


勢いよく飛び出すワシボン。もう体力も残り少ないし、最後まで戦い切れる可能性は低いから、とにかく相手の体力を少しでも削ることに専念する。

ワシボンの両翼がしっかりとドロバンコを捉えるが、


 「ンバコー」

侑「あ、あんまり効いてないかも……?」


スピードの速いワシボンに対して、ドロバンコは非常に緩慢で、まるで避ける気がない。

加えて、防御力が高いのか、あまりダメージを受けているようには見えない。

そんなワシボンに向かって──


凛「オコリザル!! “からてチョップ”!!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


オコリザルが飛び掛かってくる。


侑「くっ……!! “ブレイククロー”!!」
 「ワシャァッ!!!」


どうにかギリギリで、チョップと爪を撃ち合わせて相殺させる。


凛「畳みかけるにゃ!!」
 「ムキィィィィ!!!!」


オコリザルは一発撃ち合った程度では、攻撃の手を緩めてくれない。

再び、地面を蹴って、ワシボンへ飛び掛かってくる。

──やばい、逃げ切れないかも……!

相手もまずは手負いのワシボンを倒したいということだろう、


歩夢「ヒバニー! “ひのこ”!!」
 「バニーーー!!!」


そんな中、ヒバニーがオコリザルにちょっかいを掛けるように、“ひのこ”を飛ばす。


 「ムキィィィィィ!!!!」

歩夢「わわっ!? すっごい、怒ってる……」


鼻息を荒くしながら、オコリザルは今度はヒバニーに向かって猛ダッシュを始める。


歩夢「ひ、ヒバニー、逃げて!」
 「バニー♪」


ヒバニーはご機嫌な様子でフィールドを走り始める。

オコリザルは確かに素早いポケモンだけど──かけっこならヒバニーも負けていない。

今のうちに──


侑「ワシボン!! “エアスラッシュ”!!」
 「ワシャァッ!!!」


ドロバンコの体力を削る……!

空気の刃がドロバンコを切り裂くけど、


 「ンバコー」

侑「か、硬い……!」


平気な顔をしている。ダメージが通っている感じが全然しない……!

当のドロバンコは足を踏み鳴らして、飛び回るワシボンを目で追っているだけだけど……。


侑「と、とにかく! 空からなら、一方的に戦えるはず!! もう一回、“エアスラッシュ”!!」
 「ワシャァー!!!」


再び風の刃で攻撃するが、


花陽「ドロバンコ、落ち着いて」
 「ンバコー」


風の刃を身に受けながら、ドロバンコはじーっとワシボンを見つめている。

何度か攻撃を繰り返すうちに、


 「ワ、ワシャ…」


さすがに、ワシボンも疲れが見え始める。

体力も底を尽きかけている中、飛び回って攻撃を続けているんだから、無理もないかもしれない。

一旦ボールに戻した方がいいかな……? そんなことを考えていると、


花陽「……今!! “うちおとす”!!」
 「ンバコーーー!!!!」


急にドロバンコが足を踏み鳴らして砕いていた岩をワシボンに向かって、蹴り飛ばしてきた。


 「ワシャッ!!?」
侑「!?」


完全に不意打ちだった。直撃を受けたワシボンは戦闘不能。


侑「っ……! 戻って、ワシボン!! イーブイ、お願い!」
 「ブイ!!!」


素早くワシボンをボールに戻し、そのままイーブイを出す。これでバトル参加者全員が最後の1匹になった。


侑「あの硬さ、厄介すぎる……!!」


ドロバンコの防御力を突破しないと、じり貧になってしまう。


リナ『ドロバンコの特性は“じきゅうりょく”。元々タフだけど、攻撃を加えれば加えるほど、防御力が上昇しちゃう』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「そんなこと言われてもどうすれば……」


攻撃をしないと体力は削れないけど、攻撃をしたらどんどん硬くなっていくなんて……それこそどうすれば……。


リナ『どうにか攻撃をクリーンヒットさせるしかないかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「急所を狙えってこと!?」


そんなの狙って出来る気がしない。そもそも、ドロバンコの急所がどこかわからないし……。

困惑する私。だけど、歩夢は、


歩夢「……」


ドロバンコをじーっと見つめていた。


歩夢「ドロバンコの急所、狙えばいいんだよね」

侑「う、うん……そうなんだけど」

歩夢「……やってみる」

侑「え!?」


歩夢はもう一度、ドロバンコを見つめる。

そして、そんな中フィールドを走り回るヒバニーは、


 「ヒーーーーバニーーーーー!!!!!!」


爆走しながら、“きあいだめ”を始める。


歩夢「オコリザルの気、引ける?」

侑「わ、わかった! イーブイ、“すくすくボンバー”!」
 「ブイ」


ヒバニーを追いかけて走り回るオコリザルの進路を予測して、イーブイが尻尾を振ると──大きな蔦状の樹がにょきにょきと生えてきて、そこから大きなタネをフィールドに落とし始める。


凛「わわ!? その技何にゃ!? “かわらわり”!!」
 「ムーーキィィィィィ!!!!」


自分に向かって落下してくるタネをオコリザルがチョップで叩き割ると──中から“やどりぎのタネ”の蔦が飛び出してきて、オコリザルの腕に絡みつく。


 「ムーーーキィィィィィ!!!!」
凛「わぁ!? ホントになんなのその技ー!?」


オコリザルが蔦を払うために、ヒバニーから意識を逸らす。


侑「歩夢! 今のうちに!」

歩夢「うん! ヒバニー!!」
 「ヒーーーバニーーー!!!!!」


歩夢の掛け声と共に、ヒバニーがさらに加速して、一気にトップスピードに突入する。

そのまま、一直線にドロバンコの方へ迫っていく。


歩夢「さっきからワシボンの攻撃を受けるとき、あのドロバンコ……少しだけ頭を振りながら、攻撃をいなしてた」

侑「え? そ、そうだった?」


全く気付かなかったけど……。


歩夢「たぶん……頭に攻撃を当てられたくない場所があるんだ」

侑「……」


こういうときの歩夢のポケモンに対する観察力は、私の理解を遥かに超えている。

ここは歩夢に任せよう。


 「ヒーーーバニニニニニニ!!!!!!」
歩夢「──きっと、急所は正中線!! 額の真ん中!!」

花陽「! ドロバンコ!! “てっぺき”!!」
 「ンバコーーー」


身を固めて、防御姿勢を取るドロバンコの前で、ヒバニーはスピードを乗せたまま、踏み切って──跳躍した。

走り回った熱で、メラメラと足に炎を滾らせながら、


歩夢「“ブレイズキック”!!!」
 「ヒーーーバニーーーー!!!!!!」


燃える蹴撃をドロバンコの額のど真ん中に炸裂させた。でも、


歩夢「…………」

侑「……っ……。だ、ダメだ……」


ドロバンコは倒れてくれない。


侑「……くっ……どうにか次の策を……」

歩夢「うぅん。大丈夫」

侑「え?」

 「ン、バコォ…」


少しのタイムラグのあと、ゆっくりとドロバンコは横向きに倒れたのだった。


花陽「……!」

凛「にゃ!? 本当に一発で急所に当てたの!?」

侑「す、すごい!! 歩夢!!」

歩夢「えへへ、やったよ! 侑ちゃん!」


これで残るは凛さんのオコリザルだけ……!! そして、そんな私たちの優勢を後押しするように──ヒバニーが光を放ちだした。


歩夢「!? あれって……!?」

リナ『進化の光だよ!! ヒバニーが進化する!!』 || > 𝅎 < ||


フィールド上を走り回るヒバニーは光に包まれ──


 「──ラフット!!!!」


新しい姿で、フィールド駆け回り始める。


リナ『ヒバニーがラビフットに進化したよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

リナ『ラビフット うさぎポケモン 高さ:0.6m 重さ:9.0kg
   ふかふかの 体毛で 寒さに 強くなり さらに 高温の
   炎技を 出せるようになった。 手を 使わずに 木の
   枝から 木の実を 摘み取り リフティングの 練習をする。』

歩夢「ラビフット……!」

侑「歩夢! 勝てるよ!!」

歩夢「うん!」


流れが私たちの方に向いている。このままなら、押し切れるはずだ……!


花陽「凛ちゃん、ごめんね……」

凛「うぅん! あとは凛に任せて!」


対戦は最終局面に突入する──





    🎀    🎀    🎀





──胸がドキドキしていた。

ほぼ初めてのバトル。野生のポケモンを除けば、トレーナー同士では、本当に初めてのポケモンバトル。

最初は怖かったけど、侑ちゃんが隣にいてくれれば、一緒に戦ってくれれば、怖いものなんてないんだ……!

さっき、攻撃を急所に当てたとき、自分でも信じられないくらい集中して、相手を見ることが出来た。

──私もちゃんと戦えるんだ……!

これで勝てたら私は──やっと、自分に自信を持てる気がする。

これで、やっと──


歩夢「──……侑ちゃんの……役に立てる……」

侑「え?」

歩夢「うぅん……! なんでもない……!」


だから、この勝負は絶対に勝ちたい……!


歩夢「行くよ!! ラビフット!!」
 「ラビッ!!!」

花陽「凛ちゃん……!」

凛「凛、少しあの子のこと見くびってたかも……でも」
 「ムキィィィィッ!!!!」

凛「負けるつもり、ないよ!! オコリザル!! “じだんだ”!!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


さっきから、侑ちゃんとイーブイが時間稼ぎのために周りをウロチョロしていたのがよほど鬱陶しかったのか、オコリザルは激しく“じだんだ”を踏みながら、イーブイを威嚇する。


侑「わぁっ!? イーブイ、一旦離脱!!」
 「ブ、ブイ!!!」


激しく地面を打ち鳴らし始めたせいで、イーブイもおいそれと近づけない。

相手はかくとうポケモン、タイプ的にも一撃が怖いイーブイだから、侑ちゃんも無理が出来ないんだと思う。

なら──私が頑張らなくちゃ……!!

再び、オコリザルを観察し始める。

ただ、オコリザルはさっき倒したドロバンコに比べると、わかりやすかった。

しきりに鳴らしているあの大きな鼻。あそこがきっと弱点だ。

──狙える。


歩夢「ラビフット!!」
 「ラビッ!!!!」


ラビフットが私の声に反応して、駆け出し始める。


侑「歩夢!?」

歩夢「侑ちゃん、私に任せて!!」


さっきの感覚だ。相手をよく見て、弱点をピンポイントで攻撃する、あの感覚。


 「ラビビビビビ!!!!!」


加速しながら、再びラビフットの足が燃え盛る。


歩夢「これで──決めます!!」
 「ラビィッ!!!!」


ラビフットが地面を踏み切る。脚を引き──一直線にオコリザルの急所へと、燃える足を振り被る。

何故か確信があった。絶対に次の攻撃も急所を捉えられる。

侑ちゃん……! 私が侑ちゃんを勝ちに導くよ……!


侑「ダメだ!! 歩夢!!」

歩夢「!?」


侑ちゃんの声が響いた。

攻撃は──


 「ム…キィ……」


オコリザルの鼻を芯から捉えていた。

急所に攻撃が突き刺さっていた。


歩夢「だ、大丈夫だよ、侑ちゃん! ちゃんと攻撃は急所を捉え──」

 「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

歩夢「っ!?」


耳を劈く怒りの雄たけびが、ジム内に響き渡った。

そして、次の瞬間──ヒュンと、風を切りながら、何かが吹っ飛んできた。


歩夢「……え?」


恐る恐る、吹っ飛んできた何かに目を向けると──


 「ラ…ラビ……」


ラビフットがフィールドを通り越して、私たちの背後の壁に叩きつけられて、蹲っていた。


歩夢「………………え」

侑「イーブイ!! 逃げて!!」
 「ブ、ブイ!!!」


何が起こったのかわからないまま、


 「ブムキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


怒り狂うオコリザルが、猛スピードで侑ちゃんのイーブイに迫っていた。


凛「“ばくれつパンチ”!!!」
 「ブ、ムキィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」

侑「……っ!! “みきり”っ!!」
 「ブゥィィッ!!!!」


イーブイは肉薄したオコリザルの拳をすんでのところで、回避する。

透かされた攻撃は、そのまま地面に突き刺さって──デタラメな威力で、フィールドごと吹き飛ばした。


 「ブィィィィィッ!!!!!」
侑「イーブイっ!!!」


もはや、爆発のようだった。

拳とは思えない、破壊的な一撃がフィールドごと割り砕き──その衝撃に巻き込まれたイーブイは回避も虚しく、


 「ブ、ィィィ……」


床を転がったあと、大人しくなった。


歩夢「……え」


私は何が起こったのか、まだ理解出来ていなかった。

確かに私たちの攻撃は、芯を捉えたはずだった。手応えがあった。


凛「……ラビフット、イーブイ、戦闘不能だね。……危なかったにゃぁ……」

侑「……負けた」

歩夢「………………」


負けた……?


歩夢「…………なん……で……?」

侑「オコリザルの“いかりのツボ”を刺激しちゃったみたい……だね、あはは」

歩夢「“いかりのツボ”……って……なに……?」

リナ『“いかりのツボ”は攻撃が急所に当たると、怒りのパワーで強化される特性。特性が違ってれば、間違いなく侑さんたちが勝ってた……すごく惜しかった』 || > _ <𝅝||

歩夢「え……」


……じゃあ、この敗北は、


歩夢「………………私の……せい……?」


さっきまでの高揚感が嘘のように、急に足元がなくなったような感覚がした。





    🎹    🎹    🎹





侑「ジム戦、ありがとうございました! すみません、無理を聞いてもらっちゃって……」

花陽「うぅん、すごい接戦でドキドキしたよ。ね? 凛ちゃん」

凛「悔しいけど、ギリギリの戦いで、凛もハラハラしちゃったよ……。ごめんね、歩夢ちゃん。凛、ちょっと誤解してた」

歩夢「え……」

凛「歩夢ちゃんも立派なポケモントレーナーだったよ。また、機会があったらバトルしようね!」

歩夢「あ……はい……」

花陽「それじゃ、わたしたちはもう行くね。……ジムの再戦が先になっちゃうのは申し訳ないけど」

侑「いえ、大丈夫です! 花陽さんたちが戻ってくるまで、たくさん修行して待ってるんで!」

花陽「楽しみにしてるね! それじゃ、凛ちゃん、行こう」

凛「うん。それじゃ、二人とも、またね!」


そう言いながら花陽さんたちは、手持ちであろうトロピウスの背に乗って飛び去っていった。


リナ『さっきの試合……すごく惜しかった』 || 𝅝• _ • ||

侑「……そうだね。でも、すっごく楽しい試合だったよ! 歩夢のすごいところも見られたし」

歩夢「…………」

侑「花陽さんたちが戻ってくるまでに、しっかり修行しないといけないね!」


これからのことを口に出すと、歩夢は、


歩夢「…………私の……せい、だ……」


消え入りそうな声で、言う。


歩夢「…………私の……せいで……負けちゃった……」

侑「そんなことないよ。歩夢、精一杯頑張ってたじゃん!」

歩夢「………………私が……何も、知らなかったから……」


“いかりのツボ”のことかな。確かに歩夢が狙った急所によって、特性が発動してしまったわけだけど……。


侑「最初から、知ってるものじゃないし、私も先に教えておくべきだったよね……。ごめんね、歩夢」

歩夢「……なんで、侑ちゃんが謝るの……?」

侑「なんでって……」

歩夢「私が……悪いのに……なんで……?」

侑「い、いやだから、歩夢が悪いんじゃないよ!」

歩夢「…………」

侑「一緒に戦ったんだから、連帯責任! 逆転負けは確かに悔しいけどさ。バトルしてたらこういうこともあるって!」

歩夢「……私が……余計なこと……したから……侑ちゃんが、負けちゃった……」

侑「あ、歩夢……だからさ」


困った、なんて声を掛ければいいんだろう。

迷ったけど、こういうときは、


侑「歩夢」


私は歩夢の手を取る。


侑「全力で戦った結果だから、悔いはないよ。だから、歩夢も気にしないで! 今回は負けちゃったけど、次勝てるように頑張ればいいだけだからさ! ね?」


手を握って、目を見て、想いを伝える。

そうすれば歩夢もわかってくれる。いつも、そうしてきたみたいに。

……だけど、歩夢は、


歩夢「……なんで……怒らないの……」


目を伏せたまま、そう言葉を漏らした。


侑「いやだって、怒る理由が……」

歩夢「あるよっ!!」


歩夢は突然、声を張りあげた。


侑「あ、歩夢……?」


気付けば目の前の歩夢は、ポロポロと大粒の涙を零していた。


歩夢「私のせいで負けちゃったんだよ……っ!! それくらい、私にもわかるよ……っ!!」

侑「だ、だから、それは……!!」

歩夢「なんで怒ってもくれないの……っ!? 初心者だからっ!? 失敗してもしょうがないから……っ!? 怒ったら、私が可哀想だから……っ!?」

侑「ち、違」

歩夢「私が……弱いから……っ……?」

侑「違う!! そうじゃないよ!!」

歩夢「何が違うの……っ!?」

侑「歩夢頑張ってたよ……! 私のためにジム戦お願いしてくれて、突然だったのに一緒に戦ってくれて……! それなのに、なんで私が歩夢を責めたりしなくちゃいけないの……? その方がおかしいじゃん……」

歩夢「ジム戦だって、昨日私が止めなければ普通に出来てたもん……っ!! それに……頑張ったって……侑ちゃんの邪魔になったら……意味、ないよ……っ……」

侑「意味……ないって……」

歩夢「私……侑ちゃんの足……引っ張ってる……」

侑「そんなことないって……! なんで、わかってくれないの……?」

歩夢「だって……っ……侑ちゃん……今……──すっごく、悔しそうな顔……してるもん……」

侑「え……」


言われて思わず、ジムのガラス張りになったドアに顔を向けると──涙でぐしゃぐしゃになった幼馴染の横に、今まで見たこともないような、悔しさを隠しきれていない表情をしている、自分の顔が映っていた。


歩夢「私が……侑ちゃんに、そんな顔……させたんだ……」

侑「あ、いや……その、これは、違くて……」

歩夢「…………っ……」

侑「だ、だから、歩夢は悪くなくって……」

歩夢「…………もう、いいよ……っ……」


歩夢は私の手を振り払う。


侑「あ、歩夢……?」

歩夢「…………こんな私じゃ……侑ちゃんと一緒に、旅……出来ないよ……っ……」


歩夢は私に背を向けて走り出してしまう。


侑「っ!? 待って!! 歩夢……!!」


咄嗟に歩夢を追いかけて、走り出そうとしたそのとき──後ろから肩の辺りを引っ張られた。


侑「っ!?」


振り返ると──


彼方「うーん……今は……そっとしておいてあげた方がいいんじゃないかな……?」


彼方さんが私の肩を掴んで止めているところだった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
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  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
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 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.26 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.22 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.18 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.17 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:85匹 捕まえた数:11匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter017 『すれ違い』 【SIDE Yu】





──気付けば、私の肩を掴む彼方さんの姿。彼方さんの後ろには、遥ちゃんの姿もある。


侑「追いかけるなって言うんですか……!?」

彼方「だって、今追いかけても、またさっきみたいに言い合いになっちゃうでしょ?」

侑「そ、それは……」

彼方「それに、リナちゃんも困ってるよ?」

リナ『……ごめんなさい。何言えばいいかわからなくて……』 || > _ <𝅝||

侑「あ……ご、ごめん……」


私たちが目の前で言い合いを始めてしまったから、リナちゃんを困らせてしまっていたらしい。


彼方「実は彼方ちゃんたち、こっそりジム戦を覗いてたんだよね~。ジム戦が終わって外に出てきたと思ったら、急に二人がケンカを始めて、彼方ちゃんびっくりしちゃったよ~……」

侑「それはその……ごめんなさい。……でも私……やっぱり、歩夢を追いかけないと……」

遥「あの、侑さん……余計なお世話かもしれませんが……私も、今はそっとしておいてあげた方がいいんじゃないかと思います……」

侑「遥ちゃんまで……」

遥「私も……お姉ちゃんに守られてばっかりだから、歩夢さんの気持ち……ちょっと、わかる気がします」

侑「…………」

彼方「歩夢ちゃんもいろんなことがあって、頭の中がこんがらがっちゃってるんだと思うよ~。気持ちを整理する時間が必要だろうし、今はそっとしておいてあげた方がいいよ」

侑「…………」

彼方「それにさ、とりあえず、ジム戦で傷ついたポケモンたちを回復させてあげた方がいいんじゃないかな?」

侑「あ……」


歩夢とのことで頭がいっぱいで、ポケモンたちのことまで考えが至っていなかった。

私のために戦って傷ついたポケモンをないがしろにしているなんて……私も少し頭を冷やした方がいいのかもしれない。


侑「わかりました……」

彼方「それじゃ、一旦ポケモンセンターにレッツゴーだね~♪」





    🎹    🎹    🎹





──ポケモンたちをジョーイさんに預けて、今はポケモンセンターのレストスペース。


侑「…………」


──『なんで怒ってもくれないの……っ!? 初心者だからっ!? 失敗してもしょうがないから……っ!? 怒ったら、私が可哀想だから……っ!?』

──『私……侑ちゃんの足……引っ張ってる……』

──『…………こんな私じゃ……侑ちゃんと一緒に、旅……出来ないよ……っ……』


侑「……はぁ」


生まれたときから幼馴染の歩夢。ケンカすることはたまにあったけど……あんなことを言われたのは初めてだった。


リナ『侑さん……大丈夫?』 || 𝅝• _ • ||

侑「……ごめん、あんまり大丈夫じゃないかも」

彼方「はい、侑ちゃん、エネココアだよ。甘い物を飲むと気持ちが少し落ち着くと思うから。彼方ちゃんの奢りだよ~」


彼方さんが、机に突っ伏して落ち込んでいる私の前に、エネココアの入ったカップを置く。


侑「ありがとうございます……」


とりあえず、口を付ける。……甘くて温かい液体が体の中にゆっくりと落ちていくのがわかる。


彼方「落ち着いた?」

侑「……多少は」


腰を落ち着けてみて、さっきの自分は確かに少し頭に血が上っていたかもしれないと思う。

とは言うものの、


侑「……なんて言えばよかったんだろう……」


そんなことがずっと頭の中をぐるぐるしている。


彼方「そうだねぇ……難しいけど、ちょっと歩夢ちゃんに気を遣い過ぎちゃったのが却ってよくなかったのかもね~」

遥「私も……歩夢さんの立場だったら、怒ってくれた方がって思っちゃうかもしれません……」

侑「……。……でも、歩夢だけのせいじゃないですし」

彼方「歩夢ちゃん、初めてのことが多すぎて、心がびっくりしちゃったのもかもしれないね~……だから少しの間、ゆっくり考える時間をあげた方がいいんじゃないかなって彼方ちゃんは思うよ~」

侑「……はい」

彼方「今はゆっくり歩夢ちゃんのことを待つときだよ。その間は彼方ちゃんと遥ちゃんが、侑ちゃんのお話し相手になってあげるから~」

侑「それは、ありがたいですけど……。いいんですか……?」


チャンピオンたちと行動を共にしているわけだし、何かと忙しいんじゃないかと思ったけど、私の心配に対して彼方さんは、


彼方「大丈夫大丈夫~、基本は暇だからね~。コメコシティから出なければ問題ないよ~」


とのこと。……本当に何をしている人なんだろう?

会ったのは昨日の今日だから、よくわからないのはある意味当然かもしれないけど……改めて考えてみると、彼方さんは謎の多い人だ。

ふわふわしている人だと思いきや、バトルの腕は相当──何せ、あの千歌さんにポケモンの使い方を指南したことがあるらしいし。

穂乃果さん曰く、言えないこともいろいろあるらしいけど……。


彼方「侑ちゃんは、なにか彼方ちゃんとお話ししたいこと、あるかな~?」

侑「え、えーっと……」

遥「お姉ちゃん……そんなこといきなり言われても侑さん困っちゃうよ……」


遥ちゃんの言うとおり、突然話題がないかと言われてもちょっと困る。……というか──先ほどのジム戦のことで頭がいっぱいで、雑談するという気分でもなかった。

とにかく、歩夢が今どうしているかが気になる。心配だし、出来れば今すぐ歩夢を探しに行きたい気持ちでいっぱいだけど……彼方さんの言うとおり、今歩夢を探しに行っても同じことの繰り返しな気はする。

……歩夢を探すこと以外で、するんだとしたら……。


侑「今日のバトルの……反省……」

彼方「おぉ……侑ちゃん、真面目だね~。彼方ちゃん、バトルの後は疲れちゃって、すぐにすやぴしたいくらいなんだけど……」

侑「だって私……歩夢のミスをカバーしきれなかった……」

彼方「……ふむ」

侑「私の方が歩夢より経験もあって、バトルにも慣れてて強いんだから……歩夢がミスしちゃっても、本当は私が全部フォローしてあげなくちゃいけなかったんだ……」


……そうだよ。元はと言えば、私が最後、オコリザルに勝ち切ってさえいれば、こんなことにもならなかったんだ。


侑「私は……もっともっと……強くならないと……」

彼方「……」

侑「……そうだ」


そこでふと、思いつく。


侑「彼方さんって、ポケモンバトル得意なんですよね!?」

彼方「ん~まあね~。千歌ちゃんや穂乃果ちゃんに比べると、さすがに敵わないけど~」


彼方さんが戦っているところを実際に見たことはないけど、限定的な条件とはいえ、現チャンピオンを師事したというのは紛れもなく実力者の証。

考えようによっては──これはチャンスなのかもしれない。


侑「だったら、あの……! 私に稽古を付けてくれませんか……!」

彼方「稽古?」

侑「はい! 私、もっと強くなりたいんです!!」


歩夢が自分のミスを気にしなくてもいいくらい、私が強くなる……!

そうすれば、歩夢ももっと伸び伸び戦えるかもしれない。


彼方「……ふむ~」


彼方さんは、少し考えていたけど、


彼方「わかった~。じゃあ、彼方ちゃん、侑ちゃんが強くなるためのお手伝いしてみるよ~」


最終的には、了承して頷いてくれた。


侑「ありがとうございます!」


やった……! 実力者に直接教えを乞えるなんて、またとない機会だ……!


侑「もっと強くなって……歩夢を安心させるんだ……!」

彼方「…………」

リナ『彼方さん……? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……うぅん、なんでもない。それじゃ、そろそろポケモンちゃんたちも回復したころだろうし、手持ちたちと一緒に南の浜辺に移動しよう~」

侑「はい! お願いします!」


私は急いでエネココアを飲み干して、席を立つ。

甘くておいしいこのエネココアも、次はまた、歩夢と一緒に飲めるように、今は頑張るんだ……!




    🎀    🎀    🎀





──あれからどれだけ、一人で泣いていただろうか。


歩夢「…………」


無我夢中で走ってきて、気付けば町の外れだった。

泣きすぎたせいか、頭が痛い。


歩夢「……私……どうしよう……」


本当は、あんなことを言いたかったわけじゃないはずだったのに。

頭の中がぐしゃぐしゃになって、侑ちゃんに酷いことを言ってしまった。


歩夢「……どうしよう……サスケ」


思わず、いつも自分の肩に乗っているサスケに訊ねるけど、


歩夢「……あ」


サスケは先ほどのジム戦でボロボロになってしまい、今はモンスターボールの中でお休みしていることを思い出す。


歩夢「……私……サスケも……ラビフットも……回復してあげてない……」


私のために精一杯戦ってくれたのに。

自分のことで頭がいっぱいで、労いの一つもしてあげていない。


歩夢「……ポケモントレーナー……失格、だよ……っ……」


今の自分が、情けなさ過ぎて、また涙が溢れてきた。


歩夢「…………ぅ……っ……ひっく……っ……」


泣いてちゃダメだって、思うのに。涙が止まらない。

やっと自分に自信が持てるかもしれないと思ったのに……今は、自信なんて、一欠片も残っていない気がした。

いくら泣いても、いつも私を支えてくれるポケモンたちは、みんな倒れてしまった。私のせいで。

そして──いつもみたいに優しく慰めてくれる侑ちゃんも……いない。私のせいで。

心がどんどん泥沼にはまっていくようで、寂しさと悲しさ……そして悔しさが、どんどん自分の中で膨れ上がっていく。


歩夢「………………ゅぅ……ちゃん…………っ……」


消え入りそうな声で、また侑ちゃんの名前を呼んでしまった。

そのとき、


 「──……どうしたの?」


声を掛けられた。


歩夢「……え」


びっくりして、顔を上げると──


エマ「……大丈夫? 歩夢ちゃん?」


心配そうにエマさんが私の顔を覗き込んでいた。


歩夢「え、エマ……さん……」

エマ「泣いてるの? 何かあった?」

歩夢「ぁ……い、いえ……その……な、なんでもなくて……!」


エマさんに心配を掛けちゃいけないと思って、咄嗟に誤魔化そうとするが、


エマ「何か……辛いことがあったんだね……」


エマさんはそう言いながら、


エマ「……よしよし。頑張ったね」


私の頭を優しく撫でてくれた。

急に人の優しさに触れてしまったからだろうか、


歩夢「…………ぁ…………っ……」


頑張って引っ込めようとしていたはずの涙が、またポロポロと溢れ出してきた。


エマ「……ちゃんと傍にいてあげるから、今は泣いちゃっても大丈夫だよ」

歩夢「……っ……! ……ぅ……ぅぅ……えま、さん……っ……」

エマ「……うん。……大丈夫だよ、歩夢ちゃん」

歩夢「………………わた、し…………わたし……っ……!」

エマ「……ぎゅー」


エマさんに抱き寄せられて、ついに私は、小さい子供のように、泣きじゃくり始めてしまった。


歩夢「…………ぅ……っ……ひっく……っ……ぅぇぇぇぇ……っ……」

エマ「……よしよし」


エマさんは私が泣き止むまでずっと、ぎゅっと抱きしめたまま、頭や背中を撫でながら、優しく慰め続けてくれたのだった──





    🎀    🎀    🎀





エマ「はい、歩夢ちゃん。温めた“モーモーミルク”だよ♪」

歩夢「……ありがとうございます」


銀色のカップを傾けてミルクを飲むと、自然な甘味が口の中を満たしてくれる。


エマ「温かいものを飲むと、不思議と気持ちが落ち着かない?」

歩夢「……はい」


エマさんの言うとおり、温かい液体が身体に優しく染み渡っていき、気分が落ち着いていく気がした。


エマ「ふふ♪ 表情も少し和らいだ気がするし、歩夢ちゃんがちょっとでも元気になってくれてよかった♪」


エマさんがニコニコと笑いながら言う。

本当に掛け値なしに優しい人だということがその笑顔から伝わってくる。


歩夢「あの、エマさん……すみません、お仕事中だったのに……」

エマ「うぅん、気にしないで。もう午前のお仕事は片付けて、ゆっくりお散歩してただけだったから」


私は今、エマさんに連れられて、コメコ牧場の休憩室で腰を落ち着けているところだった。

──私がエマさんの前で泣き出してしまってから、自分がどれくらい泣いていたのか、よくわからなくなるくらい泣いていた気がする。

涙も枯れてきた頃になって、エマさんに手を引かれて、気付けば牧場の休憩室にいた。

泣き疲れていて判断力が鈍っていたのかもしれないけど……まるで何の疑問も持たずに、お母さんに手を引かれている子供のときのような気分のまま、ここに来たと思う。


エマ「歩夢ちゃんのポケモンちゃんたちも、今回復中だから、すぐに元気になると思うよ」

歩夢「すみません……ありがとうございます」


傷ついたポケモンたちは牧場のミルタンクから“ミルクのみ”で回復させてもらっているところ。

ミルタンクのミルクは栄養満点だから、これを飲めばすぐに回復するそうだ。

ポケモンセンターに寄る余裕もなかったから、本当にエマさんには頭が上がらない。

そんなエマさんから、


エマ「それで……何があったのか、訊いてもいい……?」


そう訊ねられる。


歩夢「あ……えっと……」

エマ「もちろん言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど……もしかしたら、わたしが力になれることかもしれないし!」

歩夢「…………」


こうして、優しく世話を焼いてくれているエマさんに、こんな情けない自分の話……聞かせていいのかな。

私は言うかを迷ったけど……逆に言うなら、助けてもらったのに何も事情を説明しないのも不義理だと思い、


歩夢「…………その……すごく、しょうもない……というか……情けない、話……というか……」


途切れ途切れに話し始める。


歩夢「……何から、話せばいいか……」

エマ「歩夢ちゃんのペースで大丈夫だよ。ここで、ちゃんと聞いてるから」

歩夢「…………私と一緒に旅をしていた侑ちゃんなんですけど……幼馴染なんです」

エマ「うん」

歩夢「産まれたときから……うぅん、産まれる前から侑ちゃんとは、ずっとお隣さんで──幼馴染でした」


両親は私たちが生まれる前からマンションの部屋がお隣で、病院でお母さんのお腹にいたときから私たちは隣同士。

侑ちゃんが少しだけ先に産まれて……そのあと、私が産まれた。

物心が付いた時には、侑ちゃんは当たり前のように隣にいたし。昨日も今日も……ずっと隣にいた。


歩夢「私も侑ちゃんも、小さい頃からポケモンが大好きで……私の家にはポケモンがたくさんいたから、よくポケモンたちと一緒に遊んでました。……ただ、私はポケモンと一緒にお話するのが好きだったんですけど……侑ちゃんはポケモンバトルを観るのが大好きな子でした」


それは身近とはいえ、一緒に暮らしていたか、そうでなかったかの違いもあったのかもしれない。

理由はどうあれ、侑ちゃんは子供の頃は今以上に元気いっぱいで、外を走り回るのが好きな子で、近くの道路で戦っているトレーナーたちのバトルをこっそり覗きに行くのが大好きな子だった。

私もそんな侑ちゃんに連れられて、一緒にポケモンバトルを覗いていたけど……私は侑ちゃんほど、ポケモンバトルを好きになることはなかった。

もちろん、嫌いというほどじゃないし、ポケモンリーグのような競技シーンで熱戦を繰り広げるポケモンたちに夢中になる人たちの気持ちも理解は出来る。

いわゆる名試合と呼ばれるような試合では、侑ちゃんと一緒に胸を熱くしながら観ていたことだってある。

……だけど、私よりかは侑ちゃんの方が、ポケモンバトルを真剣に観ていたのは間違いないし、ポケモントレーナーに憧れていたのも、間違いなく侑ちゃんだ。


歩夢「でも……先にポケモントレーナーになったのは……私だった」


ある日、通っているポケモンスクールにいるときに校長室に呼び出されて、何かと思いながら向かうと──そこでヨハネ博士が待っていた。

私たちの住んでいるセキレイシティの研究所にいる博士で、その博士に呼ばれたということだった。

もちろんそこには、かすみちゃんとしずくちゃんもいて……私たちはポケモン図鑑とパートナーポケモンを貰って旅に出る3人のトレーナーに選ばれたということだった。


歩夢「最初は……侑ちゃんを差し置いて、私がポケモントレーナーになってもいいのかなって……思ったんです、でも……侑ちゃんは」


──『歩夢、博士に選ばれたのってホント!? それってホントにすごいことだよ!! おめでとう!! 私も幼馴染として、誇らしいよ!!』


歩夢「侑ちゃんは、自分のことのように喜んでくれて……私もそれが嬉しくて……そのときは立派なポケモントレーナーになりたいなって、思いました。ただ……」

エマ「ただ?」

歩夢「私は……立派なポケモントレーナーになれるか……ずっと不安でした」


──だって私には……何もないから。

一緒に選ばれたかすみちゃんは、いたずらっ子で校内でも有名だったけど、ゾロアのことをよくわかっていて、先生たちを出し抜いて悪さをすることもしばしば。

もちろん後でこっぴどく叱られるんだけど……先生たちも手を焼くほど、ポケモンの扱いに長けた子だった。

お勉強はともかく、バトルの成績は優秀で、学校のポケモンを借りて戦うバトルの授業でも、上級生に引けを取らなかったし、ポケモントレーナーになるべくしてなったような子だと思う。

逆にしずくちゃんは、かすみちゃんとは全然違うタイプだけど……座学もバトルも成績優秀な子で、学校では1年生でありながらポケモン演劇部──ポケモンと一緒に舞台演劇をする部活──のエース。

ポケモンたちと息を合わせながら舞台を創るその姿は、下級生とは思えないほどだったし、しずくちゃんが博士に選ばれたのも納得だった。

だけど──私は……なんで選ばれたんだろう。

確かに座学の成績は悪くはなかったとは思う。……ただ、バトルの授業はあまり好きじゃなかったし、それに関しては侑ちゃんの方がずっと優秀だった。

だから、どうして私が選ばれたのか……わからなかった。

私がポケモンを貰って、ポケモントレーナーとして旅に出るくらいなら──侑ちゃんが選ばれるべきだと思った。

……だけど、せっかく選んでもらったのに、私がそんな態度でいたら失礼だと思ったし……もしかしたら……もしかしたらだけど、博士は私を見て、何かすごい……私自身も気付いていない、特別な何かに期待してくれているんじゃないかって、そう思ったんです。

──ポケモン図鑑を貰ったトレーナーたちは、ほぼ例外なくその才能を花開かせて、一目置かれる存在になるらしい。

それは侑ちゃんの大好きなチャンピオンの千歌さんや、街のみんなも知っている実力者のことりさんや曜さん。そして、ヨハネ博士も昔は図鑑を貰って旅に出たトレーナーだったそうです。

なら、私も……私も、そんな人たちのような、特別な何かが眠っているのかもしれない……そんな風に思って……。

あまり自分に自信がない私だったけど……ポケモン図鑑と最初のポケモンを託される人に──特別な人に選ばれたということが少しだけ嬉しくて、その事実だけで少しだけ自分に自信が付いたような気がして。


歩夢「でも……それも全部、ただの思い上がりだった……」

エマ「思い上がり……?」

歩夢「私は……弱いままだったんです……。少し上手く行っただけで、自分は特別なんだって……思い込んで……」


あのとき……ジムバトルをしている間、どうして自分に特別な力があるって思い込んでしまったんだろう。


歩夢「その思い上がりのせいで……失敗して……侑ちゃんの大切なジム戦を……台無しにして……」


ジム戦だけじゃない。

ドッグランでも私は何も出来なかった。怯えて、尻餅をついて、ただ震えているだけだった。

侑ちゃんが目の前で倒れていたのに……いつも私や私のポケモンたちを身を挺して守ってくれた侑ちゃんが、目の前で倒れていたのに、私は怖くて何も出来なかった。

先に離脱して、コメコシティで待っていたところに、気を失った侑ちゃんを背負った愛ちゃんが現れたときは、血の気が引いた。

もしバトルをして、また同じように侑ちゃんが怪我をしたら? そう思ったら、侑ちゃんがバトルに赴くこと自体が怖くなった。

だから、無理やりジム戦に行かせないような真似をして……挙げ句、一緒に戦っても足を引っ張ってばかりで……。


歩夢「私はきっと……最初からポケモントレーナーになんて向いてなくて……本当に何かの間違いで、図鑑を貰って……ポケモンを貰って……ここにいるのかなって……」

エマ「……」

歩夢「……そんな自分が悪いだけなのに……侑ちゃんに八つ当たりして……酷いこと言っちゃって……そんな自分が情けなくて……許せなくて……」

エマ「歩夢ちゃん……」

歩夢「侑ちゃんは優しいから……私が謝ったら、許してくれると思います……だけど、そうやって侑ちゃんの優しさに甘えてたら、結局私はずっと侑ちゃんのお荷物のままで……」

エマ「……侑ちゃんは歩夢ちゃんのこと、そんな風に思わないんじゃないかな」

歩夢「…………」


確かに侑ちゃんはそんなこと考えもしないと思う。だけど……。


歩夢「侑ちゃんはきっと、弱い私のことを守ろうとしちゃうから……私は……これ以上……侑ちゃんの負担に、なりたくない、です……」


きっと侑ちゃんは一人でいた方がトレーナーとして強くなれる気がする。

だから、足手まといな私が……これ以上、侑ちゃんの傍にいるべきじゃない。


歩夢「……ごめんなさい。やっぱり、こんなしょうもない話……聞かされても困っちゃいますよね……」

エマ「……しょうもなくなんかないよ。ありがとう、話してくれて」

歩夢「いえ……」


私は目を伏せる。

少しだけ空間が沈黙に包まれる。私から、何か言った方がいいかな……などと考えているとき、


 「シャボー」「ラフット!!」


急に休憩室のドアを押し開けて、サスケとラビフットが部屋に入り込んできた。


歩夢「さ、サスケ!? ラビフットも……」
 「シャボ」「ラビ」


サスケは器用に体をくねらせながら、いつもの定位置まで登り、私の肩の上で鎌首をもたげながら、頬ずりしてくる。

ラビフットもぴょんぴょんと飛び跳ねながら、私の膝の上に乗ってくる。


歩夢「サスケもラビフットも、もう元気いっぱいだね……よかった」


私は回復した2匹の姿を見て、心底安堵した。手持ちがあそこまで傷つくという経験も初めてだったから、尚更だ。


エマ「……歩夢ちゃん」

歩夢「?」

エマ「歩夢ちゃんは、これから……どうしたい?」

歩夢「どう……したい……。……私……どうしたいんだろう……」


私の旅には、これといった目的があったわけじゃない。……ただ、侑ちゃんと一緒に旅がしたかっただけだ。

侑ちゃんの隣にいられなくなった今……私は自分がどうすればいいのか、どうしたいのかもわからなくなっていた。

ただ……。


歩夢「今は……バトルは……したくないな……」

エマ「……そっか」


これ以上、自分が惨めになるのは……辛い。

そして、もう誰にも迷惑を掛けたくなかった。

もちろん……エマさんにも。


歩夢「……聞いてくれて、ありがとうございました。話したら、少しだけすっきりしました。えへへ……」


私は席を立って、ペコリと頭を下げる。


歩夢「これ以上いたら、本当にお仕事のお邪魔になっちゃうと思うので……」


そう言って、この場を去るため、部屋を出ていこうとすると、


エマ「待って」


引き止められた。


歩夢「あの、本当にもう大丈夫なので……これ以上、迷惑は……」

エマ「うぅん、そうじゃなくて」

歩夢「?」

エマ「この後、時間があるなら──昨日出来なかったメェークルの乳搾り、してみない?」


私を引き留めたエマさんは、そんな提案をしてきたのだった。





    🎹    🎹    🎹





彼方「とうちゃ~く!」


私たちは彼方さんがさっき言ったとおり、コメコシティの南にある浜辺を訪れていた。


リナ『ここで何するの?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんの言うとおり、ここでどんな稽古をつけてくれるのか気になる……。


侑「やっぱり王道だと……砂浜ダッシュとか?」

彼方「そういうのもいいけど~……今回するのは違うかな~」


言いながら、彼方さんはボールを1個、砂浜に放り投げる。

──ボムという音と共に現れたのは……。


 「パルル…」


1匹の貝のようなポケモンの姿。確か、このポケモンは……。


侑「パールル?」

リナ『パールル 2まいがいポケモン 高さ:0.4m 重さ:52.5kg
   頑丈な 殻に 守られて 一生の うちに 1個 だけ
   見事な 真珠を 作る。 本体が カラに 収まり
   切らなくなると 進化の 瞬間が 近付いた 証拠。』

侑「このパールルを……どうするんですか?」

 「パル…」


そう言っている間も、寄せては返す波に攫われるようにして、パールルが海の方へと移動していく。

水に潜ろうとしてるのかな……?


彼方「このパールルはね、彼方ちゃんにとって、自慢の防御力を誇る子なんだよ~」

侑「まあ、確かに……見るからに硬そう」

彼方「それでね侑ちゃん。ジムバッジって持ってるかな?」

侑「え? はい……2つだけですけど」


ここまで集めてきた、ジムバッジ──“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”をケースから取り出す。


彼方「ちょっと貸してもらっていい?」

侑「はい」


言われたとおり彼方さんに手渡す。


彼方「おー、立派なバッジだ~」

リナ『ポケモンジム公認バッジは特注製だから立派なのは当然だと思う。しかもすごく頑丈で、ポケモンの攻撃で壊れないように出来てるらしい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「ほうほう~。それなら、尚更安心だね~」

遥「安心?」


遥ちゃんが彼方さんの言葉に首を傾げる。


侑「あの……そろそろいいですか……」


大切なジムバッジだ。ずっと人の手に預けたままだと、なんだか落ち着かない。

だけど、彼方さんはそれをぎゅっと手に握りこむ。


侑「彼方さん……?」

彼方「あのね、これから侑ちゃんに稽古を付けてあげるんだけど……そういうのって、漫然とやってても身にならないだと思うんだよね~」

侑「は、はい……」

彼方「だから、いつだって危機感を持ってやる必要があるってこと」

侑「……危機感……ですか?」

彼方「そうそう~。だから~」


急に彼方さんが──バッジを握った手を振り被った。


侑「え!?」

彼方「とりゃ~!!」


そして、そのまま海に向かって──バッジを投擲した。


侑「ええええ!?」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

遥「お、お姉ちゃん!?」


海に向かって放り投げられた2つのバッジは──


 「パ、ルル」


海に浸かったまま、大きく殻開いたパールルがキャッチし──そのままパタンと蓋を閉じてしまった。


侑「わ、私のバッジ……」

遥「お、お姉ちゃん!? 何してるの!?」

彼方「何ってこれから修行を始めるんだよ~」

侑「そ、それって、どういう……」

彼方「やることは簡単だよ」


彼方さんがビシっとパールルを指差す。


彼方「侑ちゃんは彼方ちゃんのパールルの殻をこじ開けて、ジムバッジを取り戻す! それだけ」

侑「え」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんはあっちで見てるから。侑ちゃん、頑張ってね~」


彼方さんはそう言って、ふりふりと手を振りながら離れていく。


侑「……ええええええええええ!?」


私の驚きの声は、青空と寄せては返す海の波に攫われて──消えていくのだった……。





    🎀    🎀    🎀





 「メェーー」
歩夢「おい……しょ……」

エマ「そうそう、上からゆっくり……優しく……うん、上手上手♪」


メェークルのお乳を握ると、ミルクが出てきて、それが少しずつミルクバケツに溜まっていく。

昨日やったミルタンクの乳頭と違って、メェークルのものは小さく、難しい。

ただ、何度かやっているうちにだんだんコツがわかってきた。


歩夢「よいしょ……よいしょ……」
 「メェーー」


コツがわかってくると、リズミカルにお乳を搾りだせるようになってきて……なんだか、楽しい。


エマ「ふふ♪ 歩夢ちゃん、楽しそうだね♪」

歩夢「あ……はい。上手に出来ると、楽しいです」

エマ「うん♪ 楽しんでくれてるみたいでよかった♪」

歩夢「エマさんの教え方が上手だからだと思います」

エマ「ふふ、ありがとう♪ でも、歩夢ちゃん本当に筋がいいよ!」


エマさんがすごく褒めてくれて嬉しい。

いっそこのまま、この牧場で働く人でも目指そうかな……と思ってしまう。どうせ、他にやりたいことも、達成したい目標があるわけでもないし……。

なんて考えながら乳搾りをしていたら、


 「メェーーー」「メェーーー」「メェェ」


他の場所にいたメェークルたちも何故か寄ってきていた。


歩夢「え、えぇ……? どうしたのかな……?」

エマ「歩夢ちゃんにお乳を搾って欲しいみたいだね。それくらい上手だって、思われたみたいだよ♪」

歩夢「そ、そうなんだ……」


ポケモンたちから認めてもらったらしく、それはなんだか純粋に嬉しかった。


 「メェーー」「メェメェ」「メェェェェー」

歩夢「わわわ……順番、順番にね?」

エマ「ふふ♪ 大人気だね♪」


エマさんがくすくすと笑う。


歩夢「メェークルって、お乳を搾ってもらうのが好きなんですね」

エマ「うーん、人に慣れやすいポケモンだから、嫌がる子は少ないけど……乳搾りしてるところに、自分たちから寄ってくるのはちょっと珍しいかも」

歩夢「そうなんですか?」

 「メェーー」


次の子のお腹の下にバケツを用意して、また搾り始めると、


牧場おじさん「おー、お嬢ちゃん上手だねぇ」

牧場おばさん「メェークルがこんなに寄ってくるなんてね~」

牧場おじさん「いっそ、ここで働かないか~?」


牧場のおじさんやおばさんたちも感心したように声を掛けてくる。


エマ「もう~ダメだよ~? 歩夢ちゃんは旅人さんなんだから~」

牧場おばさん「そうだよ、若い子は今からなら、何にだってなれるんだから! エマちゃんもね! 他にやりたいことがあったら、おばちゃんたちは応援するから!」

エマ「あはは、ありがと~♪ でも、しばらくはここで働きたいかな♪」


エマさんが手を振りながら微笑み掛けると、おじさんもおばさんも笑いながら、休憩室の方へと歩いていく。


歩夢「何にだってなれる……か」


思わず呟いてしまう。本当に何にでもなれるなら、どれだけよかっただろうか。

何にでもなれると言っても、やっぱり向き不向きはある。

少なくとも私は、ポケモントレーナーには向いてないし。

ああ、ダメだ……考えないようにしてたのに……。

ネガティブな考えを打ち消すように、小さく頭を振りながら、メェークルの右乳から、左乳に手を移動させる。


歩夢「よいしょ……よいしょ……」
 「メェー」


ミルクが勢いよく出てきて、バケツにどんどん溜まっていく。

やっぱり……私にはこういうのんびりポケモンたちと触れ合ってすることの方が向いているんだと思う。

そんな中、


エマ「歩夢ちゃん、よく気付いたね……?」


エマさんが、突然そんなことを言った。


歩夢「え?」


なんのことだろうと逆に首を傾げてしまう。


エマ「今、右のお乳から、左のお乳に手を変えたでしょ?」

歩夢「えっと……さっきの子よりも、お乳の張り……? みたいなのが、左の方がよかったから……こっちの方がよく出るのかなって」


実際思ったとおりで、その方がミルクの出がよかったので、乳の状態で搾る方を選んでいる。


エマ「すごい! それに気付くのって、普通だったら何年も掛かるのに……言われる前に気付くなんて」

歩夢「そうなんですか……?」

エマ「というか、言われても違いがわからない人も多いんだよ! 歩夢ちゃん、本当に才能があるのかも!」

歩夢「そ、そうかな……えへへ」


私が照れながら笑っていると、


 「メェーー」「メェェ」


まだお乳を搾られていないメェークルたちが、「まだか?」と言いたげに鳴き声をあげながら、私に身を摺り寄せてくる。


歩夢「だ、だからぁ……順番だから待ってってばぁ……」


そして、それを見たサスケが、


 「シャボ」


負けじと頬ずりを、


 「ラビフ」


ラビフットも脚に抱き着くようにまとわりついてくる。


歩夢「う、動きづらい~……」


気付けばポケモンたちにおしくらまんじゅうされているような状態になっていた。


エマ「……ねぇ、歩夢ちゃん」

歩夢「な、なんですかー?」


どうにか、押し寄せてくるポケモンたちを優しくのけながら返事をする。


エマ「さっき、自分には何もないって言ってたけど……歩夢ちゃんは十分すごいと思うよ」

歩夢「え、いや……そんなこと、ないです……」

エマ「うぅん。ポケモンをよく見てるし……すごくポケモンのことを大切に想ってる」

歩夢「そんなの普通のことですよ……」

エマ「普通じゃないよ。今こうしてポケモンたちが歩夢ちゃんの傍に寄ってきてるのが何よりの証拠だよ。ポケモンたちは自分たちをいい加減に想っている人のところには近寄ってこないもん。そういう人って歩夢ちゃんが思っている以上にたくさんいると思うよ?」

歩夢「…………」

エマ「わたしね……さっき歩夢ちゃんの話を聞いてから、ずっと考えてたの。立派なポケモントレーナーってどんな人なのかなって」


エマさんは、真剣な顔で私を見つめていた。


エマ「ポケモントレーナーってただ、ポケモンバトルが上手な人のことじゃないと思う。ポケモンを見て、触れて、お話しして、知って、わかり合って……信頼しあって、大切に想い合える人が、ポケモントレーナーなんじゃないかって」

歩夢「……」

エマ「歩夢ちゃんは、自分は違うって思っちゃうのかもしれないけど……少なくともわたしには、今まで見てきたどんなトレーナーさんよりも、歩夢ちゃんは素敵なトレーナーさんに見えるよ」

歩夢「エマさん……」


私はエマさんの言葉にどう答えていいかわからず、思わず目を逸らしてしまう。


エマ「……そんなに急いで、自分が向いてるか向いてないかを決めなくてもいいんじゃないかな」

歩夢「…………」

エマ「少なくとも……歩夢ちゃんのことを素敵なトレーナーさんだと思っている人間が、ここに一人いるから」

歩夢「…………はい」


……私、ポケモントレーナーでいても……いいのかな……。

ぼんやり考えながら、ミルクの溜まっていくバケツを見つめていると──


 「ミル~」

歩夢「!?」


バケツの中から、ふわりとミルクが浮いてきた。

いや、これって……。


歩夢「ポケモン……?」
 「ミル~」


搾りたてのミルクのような色をしたポケモン。初めて見るポケモンだ。


エマ「マホミル……!」

歩夢「マホミル……?」


どうやら、このポケモンはマホミルと言うらしい。


エマ「甘い香りの成分が集まって出来たポケモンって言われてて……ミルクの匂いに反応して出てきたのかも」

歩夢「そうなんだ……」
 「マホミ~♪」


マホミルが私の目の前をふよふよと漂うと、確かに甘い良い香りがする。


歩夢「ここのミルク……確かに甘くて美味しいですもんね。よく見かけるんですか?」

エマ「うぅん……少なくとも、このコメコ牧場では滅多に現れないすごく珍しいポケモンだよ」

歩夢「え……」
 「マホミ~」


マホミルは鳴き声をあげながら、私の周囲をふよふよと漂っている。

逃げるような素振りは全くなく、


 「マホ~♪」


むしろ、ご機嫌な様子だった。


エマ「わたしも、実際にマホミルを見たのは初めてなの! やっぱり、歩夢ちゃんすごいよ!」

歩夢「わ、私は何も……」

エマ「でも、現にマホミルは歩夢ちゃんになついてるし」

 「マホマホ~♪」


確かにマホミルは明らかに私を意識して、周囲を漂っている。


エマ「歩夢ちゃん、さっき自分に何を期待されているのかわからないって言ってたよね」

歩夢「は、はい……」

エマ「もしかしたら、博士が歩夢ちゃんに期待してることって……そういうことなんじゃないかな」

歩夢「そういう……こと……」

エマ「ポケモンたちを心から想って……そして、ポケモンたちから想われる力……」

歩夢「…………」

エマ「それはきっと……歩夢ちゃんにしかない、すごい才能なんじゃないかな」


ポケモンを大切に想うなんて、当たり前すぎて意識したこともなかったし……今もあまりピンと来ていない。

だけど……それを才能と言って認めてくれる人がいるなら、


歩夢「──もう少し」


こんな私を認めてくれる人が、いてくれるなら、


歩夢「もう少しだけ……頑張ってみよう……かな……」

エマ「! うん! 絶対そうした方がいいと思う!」

歩夢「……はい」
 「マホミ~♪」


もう一度だけ、立派なポケモントレーナーを目指して頑張ってみよう……私はそんな風に思ったのだった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.26 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.22 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.18 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.17 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.15 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:12匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter018 『侑の弱点?』 【SIDE Yu】





侑「私の……バッジ……」


思わず浜辺で項垂れてしまう。

まさか、こんなことになるなんて……。

私の大切なジムバッジを、パールルに食べさせてしまった当の彼方さんは……いつの間にか、少し離れた場所にレジャーシートを敷いてくつろいでいた。

遥ちゃんとリナちゃんも最初は心配そうにしていたけど、彼方さんに促されて一緒にレジャーシートの上で待っている。

……自分でどうにかしろ、ということかもしれない。


侑「……切り替えよう。これは修行なんだ」


私は浜辺の浅い場所に沈んでいるパールルに目を向ける。

体は全部海の水に浸かってしまっているものの、水位は膝くらいまでしかない。

これなら、みずタイプのポケモンがいなくても、パールルを攻撃することは可能だ。

彼方さんの手持ちだし……レベルは高いかもしれないけど、幸いこっちにはパールルの苦手なでんきタイプのポケモンもいる。


侑「行くよ! ライボルト!」
 「ライボッ!!」


ボールからライボルトを繰り出す。とにかく戦闘不能にすれば、きっと貝も開くはずだ……!


侑「“10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」


──バチバチという放電の音と共に、電撃がパールルに向かって飛んでいく。

電撃は音と光を伴って、パールルの沈んでいる海面直上に落ちるが……パールルは全くノーリアクションだった。


侑「……あ、あれ……? も、もう一回!」
 「ライボッ!!!」


再び電撃をパールルの直上に撃ち落とすが──やっぱり、パールルはびくともしなかった。


侑「電撃……届いてるよね……?」


海の水は電気を通すはずだし、確実にパールルにも電撃は通ってるはずなのに……。


侑「威力が足りないのかもしれない……次はイーブイも一緒にやってみよう」
 「ブイ」


イーブイが私の頭からピョンと飛び降りる。


侑「ライボルト、“10まんボルト”! イーブイ、“びりびりエレキ”!」
 「ライボォ!!!!」「ブーイィ!!!」


今度は2匹の電撃が同時に、パールルに向かって迸る。……が、


侑「……だ、ダメだ……」


やはり、パールルはうんともすんとも言わなかった。


侑「もしかして、あの貝殻で防がれてるのかな……」


貝殻の表面を電気が伝っているだけで、本体には届いていないのかもしれない。

となると……。


侑「でんきタイプで弱点を突くだけじゃダメ……」


まあ、さすがにそんな簡単な課題出してくるわけないか……。


侑「なら、次は物理攻撃で……! ワシボン!!」
 「ワシャァッ!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ボールから出したワシボンがパールルの上から、猛禽の爪で襲い掛かる。

──バシャっと音を立てながら、水中のパールルに爪を立てるものの、


 「ワ、ワシャァ…」


やはり、パールルは微動だにしない。


侑「ぐぬぬ……力で押してもダメかも……」


考え方を変えないといけないかも……。

こういうとき、強い人はどうするかな……。

今まで自分が見てきたバトルを思い出す。

硬い殻を持ったような相手を倒すって言うと……。


侑「……相手の急所を狙った必殺の一撃とか……!」


千歌さんが得意としている戦術。よし、これで行こう!

ただ、私は千歌さんみたいに、急所を見切ることは出来ないから……。


侑「ワシボン! たくさん攻撃して、パールルの急所を探そう!」
 「ワシャッ!!!!」


とにかく、手当たり次第にいろんな場所を攻撃してみることにした。





    🐏    🐏    🐏





彼方「侑ちゃん苦戦してるね~」


レジャーシートの上でくつろぎながら、侑ちゃんの姿をのんびり眺める。


遥「お姉ちゃん他人事みたいに……」

リナ『侑さん、さっきから手当たり次第に攻撃してる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「急所を探してるのかもねー」

リナ『パールルの特性は“シェルアーマー”。パールルの貝殻はそもそも急所を持たない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そうだねー。だから、あれじゃダメそうだね~」

リナ『私、教えてくる』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが侑ちゃんにアドバイスしに行こうとするので、


彼方「それはダメ~。アドバイスは禁止だよ~」


と言って、リナちゃんを止める。


リナ『どうして?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「この修行は、侑ちゃんに足りないものを補うための修行だからね。侑ちゃんが一人でこなして気付かないと、意味が薄くなっちゃう」


侑ちゃんの戦いは今日やっていたジムバトルしか見ていないけど……それだけでも、侑ちゃんの弱点はたくさん見えてきた。

今回、侑ちゃんに課した試練は、内容こそ単純だけど、それなりに考えて侑ちゃんのウィークポイントを補強するものにしたつもりだ。


遥「侑さんに足りないものって……?」


一方で遥ちゃんはピンと来ていなかった模様。


彼方「侑ちゃんってね、すごく得手不得手がはっきりしてる子なんだよね」

リナ『というと?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「素早い戦闘においては、判断や反応が早いし、大技に対する切り返しが上手……ピンチをチャンスに変えるのが上手って感じかな」

リナ『確かに、今までのバトルでもそういう場面は多かったかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「でしょ? でも、逆に相手が一歩も動かないような守りを固められると、急に戦い方が雑になっちゃうんだよねー」


今日の戦闘を見ていてもそうだった。防御を固めるドロバンコに対して、無暗矢鱈と攻撃をしているだけで、全然攻撃を有効に通せていなかった。


リナ『言われてみればそうかもしれない……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「その証拠に、今もああして闇雲に攻撃を始めちゃった」


侑ちゃんを見ると、ワシボンが上空から何度も爪や翼を立て、イーブイが“とっしん”し、ライボルトが“かみつく”。

まあ、その程度じゃ彼方ちゃんのパールルはびくともしないんだけど。


遥「でもそれって、いろんな場所を攻撃して急所を探してるんだよね……?」

リナ『でもパールルの殻に急所は存在しない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そう。だから、あのままじゃ一生突破出来ないかもね~」

リナ『だから、教えてあげた方がいい。あのままじゃ特性に気付くまで時間が掛かる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん、そこも侑ちゃんの悪いところ」

リナ『どういうこと?』 || ? _ ? ||

彼方「侑ちゃん、オコリザルの“いかりのツボ”は知ってたのに……なんで、パールルの“シェルアーマー”は知らないの?」

リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「パールルの殻は柔らかい中の本体を守るために、とにかく頑丈に出来てる……なんて、普通の感覚だったら、見ればわかることなんだけどね~」

遥「……? 侑さん、パールルの殻が柔らかいなんて思ってないと思うけど……」

彼方「でも、侑ちゃんは何故か殻を割ることにばっかり意識が行ってる。別にバッジさえ取り戻せれば課題はクリアだから、そもそも割る必要はないんだよね。もちろん割れるなら割ってもいいけど」


まあ、無理だろうけどね。水に潜っているパールルに加える攻撃は水の抵抗で100%の力を通せないだろうし、どちらにしろ今の侑ちゃんの手持ちのレベルじゃパワー不足。


遥「なら……正解は物理攻撃じゃなくて、さっきみたいな電撃とかってこと……?」

彼方「まぁ、闇雲に物理攻撃をし続けるよりはいいかもしれないけど……。彼方ちゃんがパールルに何を持たせてるかわかる?」


リナちゃんにそう訊ねる。


リナ『あのパールルは“しんかいのウロコ”を持ってる。“しんかいのウロコ”はパールルの特殊防御力を倍増させる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「お~さすがポケモン図鑑だ~♪ だから、電撃でも攻撃はあんまり通らないかなー」

リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「何か言いたげだね、リナちゃん」

リナ『侑さん……いつもは機転の利く人なのに、どうして今日に限って気付かないんだろう……?』 || ╹ᇫ╹ ||


恐らくリナちゃんの言うとおり、今までの戦いでもピンチをチャンスに変える妙手が侑ちゃんの戦闘を支えてきたんだろう。


彼方「どうしてだと思う?」

遥「どうしてって……」


遥ちゃんも答えがわからない様子。


彼方「それは、パールルは侑ちゃんが“見たことない相手”だからだよ」

リナ『見たことない相手……?』 || ? _ ? ||

彼方「侑ちゃんがポケモントレーナーになったのってつい最近なんだよね」

リナ『うん』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「なのに侑ちゃんは、ポケモンバトルに詳しすぎる」

遥「確かに侑さん……昨日お話ししたときも、いろんなバトルの話をしてたね」

彼方「侑ちゃんはポケモントレーナーになる前から、たくさんバトルを観てきたんだと思うんだよね」


特にポケモンリーグ大会のような、上位のトレーナーたちの試合をたくさん観てきたに違いない。


彼方「それによって侑ちゃんは、ピンチでもそれをひっくり返す展開や作戦をたくさん知ってる。……そういうバトルは印象にも残りやすいからね~」


──そう、侑ちゃんのバトルを支えている根幹は、侑ちゃんが今まで好きで観てきた、他のトレーナーの試合。


彼方「逆に言うなら、テレビとかで取り上げられるような試合にあんまり出てこないポケモンや戦術は、侑ちゃんは“知らない”んだよ」

遥「で、でも……耐久するポケモンも大会には出てくるんじゃ……」

リナ『……確かに耐久戦術を使うトレーナーは上位にもいる……けど』 || ╹ᇫ╹ ||

遥「けど……?」

リナ『テレビとかメディアで流れることは……少ないかもしれない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「画面映えしないからね~。防御主体の戦術で勝ってる試合なんかは、ダイジェストになっちゃったりしがちだよね」

遥「言われてみれば……そうかも……」

彼方「逆に耐久ポケモンが出てくる試合でも、圧倒的な攻撃力で防御を貫くトレーナーの試合や、千歌ちゃんみたいな必殺の一撃で防御そのものを無効化する試合はたくさん見たことがあると思うんだよね。だから、侑ちゃんの中ではそれが耐久破りの“正解”になっちゃってる」


正解だと思っているんだから、それを繰り返すのは当然かもしれない。


彼方「でも、それは多くのポケモンと戦ってきた経験や技、育ててきたポケモンたちのパワーとか、そういうもののお陰で実現してる。だけど、今の侑ちゃんにはそんなパワーも技術も経験も揃ってない」

リナ『侑さんは、それに気付いてない……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そこを補うために、トレーナーは今自分たちに何が出来るかを的確に判断して、自分たちに出来る最善手を編み出すことが必要なんだけど……侑ちゃんにはそれが出来てない」

リナ『なるほど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

遥「じゃあ、さっき言ってたオコリザルの特性は知ってて、パールルの特性を知らない理由って……」

彼方「きっとオコリザルが“いかりのツボ”で大逆転する試合を観たことがあったんだろうね~」


もちろん、知っていることは悪いことではない。ただ、侑ちゃんの場合は知らないことに対する視野が狭すぎるのが問題だ。


彼方「さっきも言ったけど、パールルをよく観察すれば、あの殻がすごく硬くて、直接的な攻撃で破るのが得策じゃないってことは普通わかるんだよ。だから、1つの作戦がダメだったときは、観察して他のアプローチを考えるのがポケモントレーナーのお仕事なの」

リナ『でも侑さんは……それを覆すような試合をたくさん観てきたから……』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「うん。自分たちには出来ないことだと気付けず、それをやろうとしちゃってるってことだね~」


詰まるところ、侑ちゃんは基礎が出来ていないまま、バトル上級者の行動を真似してしまっている。

それはいろんなところで、実際の侑ちゃんの実力と噛み合わず、これからの戦いにも歪みを生ませてしまう。

今日のジム戦はそのいい例だったということだ。

だから、これは……侑ちゃんがそれに気付くための修行ということ。


リナ『彼方さんの考えは理解した。私も黙って見守ることにする』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん。これも侑ちゃんのためだからね~」


あとは当の侑ちゃんがそれに気付けるか……だけどね。





    🎹    🎹    🎹





……あれから、パールルをひたすら攻撃し続けて数時間。


侑「……はぁ……はぁ……」
 「ブィィ…」「ライボ…」「ワ、ワシャァ…」


攻撃が通る兆しが全く見えないまま、私たちは疲れ果ててしまっていた。

気付けば周囲は日も暮れ暗くなり始めている……。


彼方「侑ちゃん」

侑「! 彼方さん!」


そして、そんな私たちのもとに、彼方さんが声を掛けてくる。


彼方「苦戦してるね~」

侑「これ、無理ですよ……」

彼方「あはは、そんな簡単に諦めちゃダメだぞ~」


彼方さんは笑いながら言うけど……本当にどうしようもないんだけど……。


彼方「でも、今日はもうそろそろ暗くなっちゃうから終わりにしよっか~。戻れ、パールル」


パールルが彼方さんのボールに戻される。

……もちろん、私のジムバッジごとだ。


侑「……」

彼方「続きは明日ね~。今日もロッジに泊まるといいよ~」

侑「……はい。ワシボン、ライボルト戻って」


私も手持ちをボールに戻し、


侑「イーブイ、行こう」
 「ブイ」


いつものようにイーブイを頭に乗せて、砂浜を後にする。


リナ『侑さん、お疲れ様』 || ╹ ◡ ╹ ||

遥「お疲れ様です!」

侑「ありがとう、リナちゃん、遥ちゃん。……全然ダメだったけど」

リナ『ドンマイ。また明日頑張ろう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

遥「ま、まだ、始まったばっかりですから!」

侑「うん、そうだね」

彼方「それじゃ、みんな帰るよ~」


彼方さんを先頭に、再びコメコの森のロッジへと帰ることに。

そういえば……。


侑「歩夢……泊まる場所とか、大丈夫かな……」
 「ブイ…」


あの様子で、宿をちゃんと探せているかな……。

今は一人にしてあげた方がいいというのはわかるけど、さすがに一人で野宿とかになったら危ない気がする……。


リナ『歩夢さんなら、牧場の方にいるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え? リナちゃんどうして知ってるの……?」
 「ブイブイ?」

リナ『図鑑サーチで場所がわかるだけだけど』 || ╹ᇫ╹ ||


……なるほど。歩夢の図鑑を探知して、位置がわかるということみたい。


彼方「あ、そうそう~。歩夢ちゃんはエマちゃんのお家に泊まるみたいだよ~」

侑「エマさんの家に?」

彼方「うん。さっきエマちゃんから連絡があってね~。もし、侑ちゃんに会ったら伝えておいてって~」

リナ『エマさん、良い勘してる。まさに彼方さんと一緒にいる』 || > ◡ < ||

侑「……というか、彼方さん、エマさんと知り合いだったんですね」

遥「はい! エマさんにはいろいろお世話になったので……」

彼方「エマちゃんは、彼方ちゃんたちの命の恩人と言ってもおかしくないくらいの人なんだよ~」

侑「命の恩人……?」

彼方「エマちゃんがいなかったら今頃、彼方ちゃんと遥ちゃんは永久にすやぴしてるところだったもん……」

リナ『随分、物騒な話……』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

遥「いろいろあったので……あはは」

彼方「そうそう、いろいろね~」


その話、すごい気になるんだけど……それはともかく、歩夢はどうやら無事にエマさんのもとにいるらしいので一安心だ。

ほっとしたついでに──ぐぅ~……。


侑「……///」
 「ブイ…」


腹の虫が大きな主張をしてきた。


彼方「侑ちゃん頑張ってたからね~。彼方ちゃんが美味しいご飯作ってあげるから、早く帰ろうね~」

侑「はい……///」


照れを隠しながら、ロッジへの道を歩む。

気付けば日はすっかり沈み、夕闇が迫りつつあった。

……旅に出てから初めて、歩夢と離れて過ごす夜が訪れる。





    🎹    🎹    🎹





ロッジに着くと、


穂乃果「あ、彼方ちゃん、遥ちゃんおかえり~」


穂乃果さんがちょうど、出掛けるところに出くわす。


彼方「穂乃果ちゃん、また見回りなの?」

穂乃果「うん……ちょっとここ数日不安定みたいで、数時間置きに見て回ってるんだ」

遥「すみません……苦労をお掛けしてしまって……」

穂乃果「あはは、遥ちゃんたちのせいじゃないって~。それじゃ、行ってくるね! 侑ちゃんたちも、ゆっくりくつろいでね」

侑「は、はい、ありがとうございます!」
 「ブイ」


穂乃果さんはそれだけ言うと、夜の森の中を、ピカチュウの“フラッシュ”で照らしながら行ってしまった。


侑「穂乃果さん……やっぱり、忙しいんですね」

彼方「まあ、ちょっといろいろあってね~……」


彼方さんが曖昧な言い方をしている辺り、昨日穂乃果さんが言っていた詳しく言えない話なんだろうけど……。


彼方「それじゃ、すぐにご飯作っちゃうから待っててね~♪」


彼方さんはそう言いながら、キッチンへ行ってしまった。


侑「待ってる間……どうしよう」

遥「それなら、ポケモンたちのブラッシングをしてあげるっていうのはどうですか? 私もそろそろ、ハーデリアのブラッシングの時間ですし」

侑「ブラッシング……いいかも」
 「ブイ?」


頭の上のイーブイを降ろして、バッグからブラシを探す。


侑「イーブイ、ブラッシングするよー」
 「ブイ」

遥「ハーデリア、ブラッシングするねー」
 「ワフ」


ソファに座り、私の膝の上でくつろいでいるイーブイにブラッシングを始める。

気付けば遥ちゃんも、自分のポケモンらしきハーデリアをボールから出して、ブラッシングを始めていた。


 「ブィィ…」


ブラッシングをしてあげると、イーブイが気持ちよさそうに鳴き声をあげる。


遥「ふふ♪ 気持ちよさそうですね♪」

侑「イーブイはブラッシング好きだからね」
 「ブィ♪」

リナ『でも……侑さんが毛づくろいしてるところ、あんまり見た記憶がないかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「普段は気付いたら歩夢がしちゃってたから……あはは」


それこそ、リナちゃんを起動する直前にやっていたけど……旅に出てからは、イーブイだけじゃなくて、ワシボンもライボルトも歩夢がお世話していた気がしなくもない。


遥「歩夢さん、昨日も侑さんがお風呂に入ってる間に毛づくろいしてあげてましたしね」

侑「え、そうだったの……?」

リナ『うん、してた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ホントに誰が“おや”なのか、わからなくなるよ……」
 「ブイ?」

侑「歩夢、ちょっと毛並みが崩れるだけで気付くからなぁ……」

遥「歩夢さんって本当にポケモンたちのこと、よく見てるんですね」

侑「歩夢はちっちゃい頃から、ずっとポケモンに囲まれて暮らしてきたからね……私とはポケモンと触れ合ってる時間が比べ物にならないから」


きっと、そんな歩夢だからこそ、ポケモンたちのちょっとした変化にも気付けるんだろう。

今日のジム戦でもその観察力のすごさには感心したし、それは間違いなく、歩夢にしか出来ないことだ。


侑「……そうだ、せめてそれを言ってあげればよかった……」


歩夢と口論になったとき、それを言ってあげられれば、少しは歩夢を傷つけずに済んだのかもしれない……。

今更そんなことを考えても後の祭りだけど……。

思わず天井を仰いでしまう。


侑「ん……?」


そのとき、天井に変わったオブジェのようなものがあることに気付く。

金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている。


侑「……綺麗な飾り……」


少し遠くて見えづらいけど、周りの金色のフレームはまるで日輪を彷彿とさせる。はたまた、真ん中の水晶は深い星空のようだった。


リナ『あれ……ポケモン?』 || ? _ ? ||

遥「え!?」


リナちゃんの言葉に遥ちゃんが、ビクッと肩を跳ねさせる。


侑「? あれ、ポケモンなの?」

遥「い、いえ、ポケモンってわけじゃ……!? あ、でもリナさんって、ポケモン図鑑……」

侑「……?」


なんだか、遥ちゃんが妙に焦っている気がする。なんか……聞いちゃまずかったかな。


侑「リナちゃん、結局ポケモンなの?」

リナ『……? わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わからない?」

リナ『ポケモンのような気がしたけど……さっきから何度サーチしても「NO DATE」って結果に辿り着いちゃう。だから、たぶんポケモンじゃないと思う』 || ╹ _ ╹ ||

侑「へー……そんなことあるんだね」


リナちゃんって、ポケモンだけじゃなくて、いろんな道具とか生活用品とかも検索してたから、何でもわかるんだと思ってた……。

まあ、知らないことがあるから、データ集めのために私たちと一緒に旅してるわけだし……そういうこともあるか。


遥「そ、それより、侑さん! ブラッシングの手、止まってますよ!」

 「ブイ…」
侑「あ、ああ、ごめんね、イーブイ」


言われて手元を見ると、イーブイが「集中してやれ」とでも言いたげに、私のことを見上げていた。


侑「はいはい、真面目にやりますよ」
 「ブイ」


イーブイの機嫌を損ねないように、集中してブラッシングを続けていると、


彼方「──二人とも~、そろそろ出来るから、お皿用意して~」


と、キッチンの方から彼方さんの声が聞こえてきた。

今日は朝からジム戦があって……歩夢とあんなことがあって……。さらにその後はずっと修行していたので、もうお腹がぺこぺこ……お待ちかねのご飯の時間だ。


侑・遥「「はーい」」


私は遥ちゃんと二人、彼方さんの呼びかけに応じて、食事の準備に向かうのだった。





    🐏    🐏    🐏





みんなでご飯を食べ終えてから、しばらくして、


侑「…………すぅ…………すぅ…………zzz」


侑ちゃんは疲れもあってか、すっかりすやぴモードになっていました。


リナ『侑さん、寝ちゃった』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「今日はいろいろあったからねー」

遥「侑さん……寝るなら、お布団で寝ないと、風邪引いちゃいますよ……」


遥ちゃんが侑ちゃんの肩を優しく揺する。


侑「…………ん……んぅ……?」

遥「ベッド、行きましょう?」

侑「……うん…………」

遥「私、侑さんをお布団まで連れていくね」

彼方「ん、わかった~。遥ちゃんも早く寝るんだよ~」

遥「はーい。侑さん、行きましょう。イーブイも行こうね」

侑「…………ふぁ~い……」
 「ブイ」


寝ぼけまなこの侑ちゃんを遥ちゃんが寝室へと連れていき、その後ろをイーブイがトコトコと付いていく。

自然と部屋に残ったのは彼方ちゃんとリナちゃんだけになる。


リナ『彼方さんは寝ないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「彼方ちゃんは穂乃果ちゃんが帰ってくるのを待つつもりだよ~。穂乃果ちゃんのご飯を温めてあげないといけないし。リナちゃんこそ、休まなくて平気?」

リナ『もう少ししたら、私も休むつもり。だけど、その前に彼方さんに聞きたいことがある』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「聞きたいこと?」

リナ『今日のジム戦のこと。もっと詳しく聞きたい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「詳しくって?」

リナ『侑さんが修行をしてるときに話してくれたこと。すごく興味深かった。私にはない視点だったし、彼方さんみたいなバトルが上手い人はあの試合をどう思ったのか、本音が知りたい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「本音かー……」


正直、言うか迷うこともたくさんあるんだけどなぁ……。彼方ちゃんがどこまで言うのか迷っていると、


リナ『私は侑さんのサポートをしてる。私にはデータはあるけど、戦略や立ち回りの考え方はよくわからない。だから、教えて欲しい。今後、もっと侑さんをサポートするためにも』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……なるほどね~」


それがリナちゃんの役割であり、リナちゃんが侑ちゃんのために必要だと思うことらしい。


彼方「ちょっと厳しめのことも言うけど、いい?」

リナ『構わない。むしろ、今の侑さんに何が足りてないのか、私もちゃんと把握しておきたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「わかった。じゃあ、出来るだけ本音で話すね」


侑ちゃんは良い仲間に恵まれているなと思いながら、彼方ちゃんはあのバトルで感じたことを話すことにした。


彼方「まず何から聞きたい?」

リナ『そもそも……侑さんは花陽さんに勝てたと思う?』 || ╹ᇫ╹ ||


恐らく、最初から1対1のちゃんとしたジム戦を挑んだときに、勝利することが出来ていたかという意味だろう。


彼方「勝負は時の運もあるから、絶対にこうだったとは言えないけど……たぶん勝てなかったと思う」

リナ『どうして?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「お昼にも言ったけど……侑ちゃんは相手の防御戦術や搦め手が苦手だからね~。花陽ちゃんは下手したらこの地方のジムリーダーの中でも、侑ちゃんが一番苦手な相手かもしれないね」

リナ『でも、花陽さんの手持ちは2匹とも戦闘不能まで追い込んでたよ?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「よく思い出してリナちゃん。花陽ちゃんのポケモンを倒したのは2匹とも歩夢ちゃんだったでしょ?」


“どくどくのキバ”で相打ちにしたディグダと、ラビフットが急所を狙って倒しきったドロバンコの2匹だ。決まり手はどちらも歩夢ちゃんのポケモンだった。


彼方「それに立ち回りの面で言っても……侑ちゃんの戦い方はあんまりベストとは言いづらかったかも」

リナ『具体的には?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「まず侑ちゃんは最初にズルッグじゃなくて、ディグダを攻撃したよね」

リナ『うん』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「でもワシボンなら、タイプ相性的にディグダよりもズルッグを狙った方が、たくさんダメージを与えられるはずだよね。それなのに、侑ちゃんはディグダを狙った」

リナ『恐らく……歩夢さんの手持ちを考慮してだと思う。アーボもヒバニーもじめんタイプは苦手だから』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そうだね。だから、侑ちゃんは歩夢ちゃんのポケモンを守るために、ディグダを優先した」

リナ『仲間を守るのも重要な作戦じゃない?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「確かにね~。だけど、問題は歩夢ちゃんを守る必要があったのか、なんだよね」

リナ『守る必要があったか? どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「……彼方ちゃんが見た感じだと、歩夢ちゃんってすごーく相手をよく観察して戦う子に見えたし、戦い方自体も防御や補助が主体。前に出るときも、しっかり準備を整えてから攻撃に移る子なんだよね」


歩夢ちゃんの技選びは終始すごく堅実だった。“とぐろをまく”で防御姿勢を取り、“へびにらみ”で相手の動きを制限したり、攻撃に移る前にも“ニトロチャージ”や“きあいだめ”で技を確実に決める準備をしっかり行っていた。


彼方「歩夢ちゃんもタイプ相性くらいは理解してるだろうし、侑ちゃんがズルッグを狙って相手の数を削ることを優先したら、その間ちゃんとディグダの攻撃を受け切れたんじゃないかなって」

リナ『相性が悪くても?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「じめんタイプの技は仲間を巻き込んじゃう技も多いから、ズルッグをしっかり地上に釘付けにしておけば、“じならし”、“マグニチュード”みたいな技は撃ちづらくなるからね~」

リナ『……なるほど』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「でもディグダを狙った結果、逆にワシボンが捕まって地面に引き摺り込まれそうになった。それを助けようとしたサスケ君が、大ダメージを受けることになっちゃったよね。だからこれは、侑ちゃんの判断ミスだったんじゃないかな?」

リナ『確かに……。でも、それは結果論とも言える。相手もディグダの方に攻撃が来たのには驚いてたし、侑さんの行動に向こうが対応した結果、起こったことでしかないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「確かにそれはそうだね~。だから、そういう行動を取ることがそもそも間違いだった、とまでは彼方ちゃんも言うつもりはないかな~。問題は……その行動の動機かな」

リナ『動機?』 || ? _ ? ||


そう、問題は行動の動機だ。そして、これが今回のバトルに置いて侑ちゃんが最も反省しなくちゃいけない部分。


彼方「そこまでして歩夢ちゃんのポケモンに攻撃が行かないようにしてたのって──裏を返せば、歩夢ちゃんのことを信頼してなかったってことにならない?」

リナ『……なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||


いかに歩夢ちゃんに負担を掛けないか、いかに歩夢ちゃんを戦いに参加させないか、それは初心者に対する侑ちゃんなりの気遣いだったのかもしれないけど……。結局、歩夢ちゃんを信頼していなかったということに他ならない。


彼方「そもそもマルチバトルで一番重要なのは、パートナーを信頼すること。その点、凛ちゃんと花陽ちゃんは息ぴったりだったよね」


花陽ちゃんが全体攻撃を選ぶ瞬間、凛ちゃんのポケモンは必ず防御姿勢を取るか、技の当たらない場所にいた。

花陽ちゃんは凛ちゃんが巻き添えを受けない行動を取ることを信頼していたし、凛ちゃんは花陽ちゃんがどうしたいかを汲み取って戦っていた。


彼方「そして侑ちゃんだけじゃなくて、歩夢ちゃんも……最終的に二人で攻めればいいところを一人で先走って、敗北の決定打になる行動をしちゃった。二人の戦いは本来マルチバトルで必要な信頼とは掛け離れてて、なんだか二人のトレーナーが一人ずつ戦ってるみたいだったよ」

リナ『つまり、結果はどうあれ、そもそもチームワークが不足していた』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そんな感じかなー」


そして、その侑ちゃんが歩夢ちゃんを信頼しきれていなかったという事実は、無意識な部分で歩夢ちゃんにも伝わってしまっていたんだと思う。

だからこそ、起こった衝突だと……少なくとも彼方ちゃんはそう感じた。


 「──でも、息を合わせて戦うのって難しいんだよねー……」


そのとき、急に背後から声。


彼方「およよ? 穂乃果ちゃん、帰ってたんだね? おかえりなさ~い」

穂乃果「うん、ただいま!」


声の主は穂乃果ちゃんだった。


穂乃果「私も昔、何度も海未ちゃんに怒られたよ……『ちゃんと周りを見て戦え』って」

彼方「確かに難しいよねー……彼方ちゃんも気を付けないと、遥ちゃんを守ることで頭がいっぱいになっちゃうからー……」

リナ『彼方さんたちでも難しいんだ……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「信頼って口で言うほど簡単じゃないからねー」

穂乃果「バトル中は他にも考えることがいっぱいあるから尚更だねー。ただ、マルチバトルは悪いことばっかりじゃないんだよ」

リナ『というと?』 || ╹ᇫ╹ ||

穂乃果「私が苦手な相手でも、パートナーにとっては得意な相手なときもあるから、対応の幅はぐっと広がるんだよ」

彼方「うん。だから、パートナーがどんな戦い方が得意なのか、それも考えてあげられると、動きがすごくよくなるんだよね~」


特に侑ちゃんと歩夢ちゃんは得手不得手の相手が違うタイプだ……だから、信頼し合えれば、きっともっと強くなれるはず。


彼方「侑ちゃんがそこに気付けるかどうかが、今後の課題だね」

リナ『なるほど……すごく勉強になった』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「……歩夢ちゃんが侑ちゃんと、どうありたいと思ってるかに、気付いてあげることも含めて、ね」


彼方ちゃんはひととおり話し終えたので、立ち上がって、キッチンに向かうことにする。


彼方「穂乃果ちゃん、今ご飯温めなおすね~」

穂乃果「ありがとうー! もうお腹ぺこぺこで……」

彼方「すぐに出来るから、ちょっと待っててね~」


──さて、穂乃果ちゃんのご飯が終わったら、彼方ちゃんもすやぴしようかなー。

明日も侑ちゃんの修行を見守らないといけないからね~。

火に掛けたシチューをかき混ぜながら、彼方ちゃんはぼんやり、そんなことを考えるのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.27 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.24 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.27 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:3匹


 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🏹



──ローズシティ。

本日はこのローズで大きな会議室を一つお借りして、人を集めました。

ポケモンリーグ理事長である、私──海未は会議室内に集まった面々を見渡す。

映える赤髪を指で弄りながら待っている、この街のシンボルとも言える存在。ローズシティ・ジムリーダー真姫。

先ほどから、私の横に座っていることりや千歌と、しきりに手を振り合っているのは、セキレイジム・ジムリーダー曜。

飛行手段に乏しいホシゾラジム・ジムリーダーの凛は今回も山を越えてくるのかと思いましたが……今回はコメコジム・ジムリーダーの花陽に相乗りさせてもらう形でローズを訪れたようです。

そして、ジムリーダーはもう一人。ダリアジム・ジムリーダーのにこ。……正確には、にこはダリアジムの正ジムリーダーではありませんが、花丸が正ジムリーダーであることは、リーグ内でも私とにこしか知りません。

もしかしたら、親しい人間は知っている可能性もありますが、口外禁止なため、こういった公の席では基本的に、にこが出席します。

……正ジムリーダーでないだけで、にこ自身はジムリーダー資格もありますし、ジムリーダーとしての権限はほぼ通常どおりに与えられているので、どちらかというとダリアはジムリーダーが二人いるという認識の方がわかりやすいのかもしれませんね。

閑話休題。


真姫「……そろそろ、時間かしら」


真姫がチラリと室内の時計に目を配らせながら言う。

確かに通達した開始時間にはなっているのですが……。


海未「……招集したジムリーダー7人の内、来たのは5人ですか……」


私は思わず眉を顰める。出席率が悪いですね……。

まあ……想定の範囲内です。ヒナギクとクロユリのジムリーダーは、こういった会議の席にはなかなか顔を出さないというのは元々なので……。


海未「それでは……時間になりましたので、会議を始めさせていただきます。まず、真姫。場所の提供ありがとうございます」

真姫「どういたしまして」

海未「ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイのジムリーダーの皆さんもご足労感謝します。……それと先に補足しておくと、ウチウラシティのジムリーダーはルビィですが、就任して日が浅いので、本日は元ウチウラジム・ジムリーダーであり、現四天王のダイヤに名代をお願いしています」

ダイヤ「よろしくお願いしますわ。今はもうジムリーダーではありませんが……今日この場では、ウチウラジムのジムリーダーとして、お話に参加させていただきますわ」

海未「そして、リーグ本部からは、ことり、希、ツバサ。さらにチャンピオンの千歌にも参加してもらっています」


ジムリーダー5人。四天王4人。チャンピオンと私リーグ理事、合わせて11人の場になっているはずですが……。

もう1人──真姫の後ろに黒髪に眼鏡を掛け、髪を三つ編みにしている少女がいた。


海未「……真姫。その方は?」

真姫「私の秘書だけど。いたら、まずいかしら?」

海未「リーグ内機密の話もあるので、出来れば席を外していただけると助かります」

真姫「わかった。菜々、下がって」

菜々「承知しました」


菜々と呼ばれた少女は恭しく頭を下げると、背筋を伸ばしたまま会議室から退室していった。


凛「かよちん聞いた? 秘書だって……」

花陽「う、うん! 秘書さんがいるなんて……やっぱ真姫ちゃんは住んでる世界が違うかも……」

にこ「ぐぬぬ……このにこにーにだって、秘書なんていないのに……」

真姫「はぁ……秘書くらいでいちいち騒がないでよ……」

海未「そこ、うるさいですよ」


あそこの4人は昔から仲が良いのはいいのですが……。集まると少々姦しいと思うことがある。

まあ……いいでしょう。


海未「それでは、本題に入ります。すでに四天王とチャンピオンには、簡単に話しているので再度の確認になってしまうかもしれませんが……。先日、ことりがセキレイシティからウテナシティへ戻る際──何者かから襲撃を受けました」

曜「え!?」


驚いたような声をあげたのは曜。まあ、自分の師が襲われたなんて聞かされたら驚きもするでしょう。


ことり「あ、でも怪我とかはしなかったから大丈夫だよ、曜ちゃん」

曜「う、うん……」

真姫「……場所は?」

海未「クリスタルレイクの東……16番道路の外れの上空辺りですね」

花陽「何者かって言うのは……相手が誰かわかってないってこと?」

海未「はい。詳しくはことりの方から」


私が目配せをすると、ことりがコクリと頷いて話し始める。


ことり「ここしばらく、飛行中にずっと何かの視線を感じるような気がしてて……気のせいかなとは思ってたんだけど、やっぱり誰かに見られてるって思って、出てくるように声を掛けたの」

にこ「そしたら、襲ってきた……と」

ことり「うん。出てくるよう呼びかけた瞬間、突進してきて……」

凛「ことりちゃんに空中戦を挑むなんて無謀だにゃー……」

ことり「確かに、範囲攻撃で強引に撃墜は出来たと思うんだけど……相手が速過ぎて、なんのポケモンだったのかとかはわからなかったんだ……」

曜「……ことりさんが、わからなかった?」


ことりの言葉に、首を傾げたのは曜。


曜「空中戦だったってことは、相手もひこうタイプだったんだよね? ひこうタイプのエキスパートのことりさんが、わからないなんてことあるの?」

ことり「……少なくとも、私はあのスピードで高速機動出来るひこうポケモンはいないと思う」

ツバサ「一応、私も考えてみたけど……ドラゴンタイプでも、目に見えないほどのスピードで飛ぶポケモンにはちょっと心当たりがないわね」

千歌「カイリューとかボーマンダとかは該当しないんですか? 飛ぶのめちゃくちゃ速いけど」

ツバサ「確かに速いけど……何分、体が大きいから、姿を全く捉えられないということはないと思うわ」

ダイヤ「ことりさんのように空中の相手を捉えることに慣れている人なら尚更ですわね……」

真姫「……テッカニンとかは?」

凛「あ、確かにテッカニンは目にも止まらぬスピードで飛び回るよね!」

ことり「確かに一番イメージには近いかもしれないけど……テッカニンが飛び回るには高度もあったし、何より飛行距離が長すぎる気がするかな……」

ツバサ「一応むしタイプのエキスパートの英玲奈にも確認はしたわ。ことりさんと同じような答えが返って来たから、恐らくテッカニンである可能性も薄いわね」

海未「こちらでも、いろいろな説を考えましたが……私たちの知識の範疇では、どのポケモンか断定することは難しいという結論に至りました」

真姫「リーグ所属の人間に断定が難しかったら、誰にもわからないんじゃない?」


確かに真姫の言うとおり、リーグ所属の人間はタイプエキスパートが揃っている。つまり、リーグ全体を合わせれば、ほとんどのポケモンの生態を把握していると言っても言い過ぎではないと言える。

だが、その上で断定が不可能という以上、可能性は……。


海未「はい、ですから私は……今回ことりを襲撃したのは、新種のポケモンではないかと考えています」


本当に誰も知らないポケモンという結論だ。


曜「新種のポケモン……確かにそれならわからなくてもおかしくないのかな」

真姫「まあ……理には適ってる」

海未「希にも占ってもらいましたが……」

希「ことりちゃんに残ってたポケモンの残留思念って言うのかな? それはウチも見たことがないタイプのオーラだったよ」


エスパー少女である希がそう言っているのが後押しになって、新種のポケモン説に落ち着いたというのもある。

もちろん、それだけで断定は出来ないが、経験則から言って希の占いの的中率は相当な物だ。意見の1つとしての価値は十分にある。


海未「当の撃墜ポイントでも、それらしきポケモンは発見出来ませんでした……もしかしたら、まだどこかに潜んでいる可能性もあります。それか……」


それか──


海未「──すでにそのポケモンの持ち主が回収済みか」

真姫「……なるほどね。言いたいことがわかってきた」

にこ「この地方のどこかに……ことりを襲うような輩がいるかもしれないってことね」

海未「そういうことです」


これが誰かの手持ちのポケモンであったのならば、ひこうタイプのエキスパートに直接空中戦を挑むあたり、腕に自信があるトレーナーの可能性は高い。

だからこそ、こうして地方の実力者たちにこの件を共有することにしたのだ。


海未「こちらでも引き続き調査はしますが……ジムリーダー各位には、自分たちの町の安全確保と、もし何かわかったときは、リーグ本部の方に情報を寄せていただくと助かります。わかっていることはまだ少ないですが……1日も早く、地方内から不安を取り除くためにも、原因究明に協力をお願いします」





    🏹    🏹    🏹





会議も終わり、私も手早く荷物をまとめて出ようとしていると、


真姫「海未、ちょっといいかしら」


真姫が話しかけてくる。


海未「なんですか?」

真姫「……ちょっと聖良のことで、話があるの」

海未「聖良のことで?」


聖良と言えば……もう3年も眠り続けているグレイブ団の元首領だ。

グレイブ団自体、多くの職員がいたものの、理亞共々実情を把握出来ていたものは皆無に等しく、ほとんど全ての計画を聖良一人が動かしていたようなものだった。

そのため、3年経った今でもグレイブ団事変についてはほとんど調査が進められていない状況だ。

なにせ、事情を知っている唯一の人物が眠り続けているのだから……。

そんな聖良の話を、私に持ちかけてくるということは……。


海未「……聖良に回復の兆しが見えたとか?」


と、少し期待してしまう。


真姫「……まあ、見えたというか……なんというか……」

海未「?」


ただ、真姫は何故か歯切れが悪い。


真姫「……実際に見てもらった方が早いと思う」

海未「わかりました……では、ニシキノ総合病院に向かいましょう」


私は真姫と一緒に、病院の一室で眠る聖良のもとへと赴きます。





    🏹    🏹    🏹





──聖良の病室。


海未「…………」


私はその光景を見て、絶句した。


聖良「………………」


ベットに横たわる聖良は──目を開けていた。


海未「どういうことですか……これは」

真姫「意識が戻った……って言うのかしらね」


ただ、その姿には酷く違和感があった。

顔に精気がない……とでも言うのでしょうか。


海未「彼女は……起きているんですか……?」

真姫「……脳波を見る限り、人間の覚醒状態には近いと思う」


そう言いながら、真姫は聖良の顔の前でゆっくりと指を横に動かす。

すると、聖良の瞳はそれをゆっくりと追いかける。


海未「……確かに、見えていますね」

真姫「ただ、これは反射に近いというか……呼びかけても応じたりするわけじゃないのよね」


なるほど……確かにこれは説明されるよりも見た方が早いと言っていたのも理解出来る。


真姫「呼吸も自発的に出来てるし、目も見えてる。恐らく五感も正常に機能してるんだけど……思考しているように見えない」

海未「……ふむ」

真姫「強いて言うなら……意識はあるけど、意思がない……心がない、とでも言うのかしら」

海未「心が……ない」


確かに、植物状態や、記憶障害や意識障害とも何かが違う様子なのは、私の目から見てもわかる。

ただ……。


海未「心がない……というのはありえるんですか?」


その現象も正直よくわからない。心がないなんて状態の人間を考えたことがないからというのもあるが……。


真姫「本来はあり得ない。……だけど、やぶれた世界なんていう訳のわからない場所で、伝説のポケモンと戦ったり、メガシンカを一度に3匹同時に使ったり、ディアンシーの攻撃を直接受けたり……何が起こってもおかしくないとは思う」

海未「……なるほど。……このことは理亞には?」

真姫「言ってないわ。……ちょっと、この光景をあの子に見せるのは少し躊躇しちゃって……」

海未「……そうですね」


確かに、実の家族には、今の状態の聖良を見せるのは酷かもしれない。

ましてや、理亞にとっては唯一残った家族だ。……もちろん、だからこそ伝えた方が良いという考え方も出来るが……。


真姫「理亞には、もう少し精密に検査をして、聖良の状況がわかってきてから、伝えたいと思ってる」

海未「その方が良いかもしれませんね……。……それにしても、どうして急にこのようなことに……」

真姫「それなんだけど……」

海未「?」

真姫「聖良が目を覚ます数日前……夜中に誰かがこの病室に忍び込んだ形跡があったの」

海未「病室に忍び込んだ……?」


聖良はグレイブ団事変の主犯格故に、この病室はかなり厳重な管理を敷かれている。

そこに忍び込んだというのは、並々ならぬことだ。


真姫「ご丁寧に、忍びこんで来たときの監視カメラはハッキングされて、監視映像を差し替えられてた。してやられたって感じね……」

海未「……相手は随分な技術を持っているようですね」

真姫「ホントに……」

海未「ですが……そこまでして、聖良に何をしたんでしょうか」

真姫「それはわからない。その侵入者が聖良に何かをしたのか、聖良がその侵入者に反応して、目を覚ましたのか……それとも実は目が覚めたのは偶然で全く関係ないのか、何もわからない状態。だけど、報告だけはしておこうと思って」

海未「なるほど……ありがとうございます。もし、何か続報があったら……」

真姫「ええ、海未には率先して報告するわ」

海未「助かります」


ことりへの襲撃……そして、聖良の不自然な覚醒と、彼女の病室への侵入者……。


海未「一体……この地方で、何が起こっているんでしょうか……」


私はグレイブ団事変以来の、地方の異変を肌で感じ始めていた。


………………
…………
……
🏹


■Chapter019 『侑と歩夢』 【SIDE Yu】





夜も明けて。本日も私たちはコメコシティ南部の砂浜に訪れていた。


侑「ワシボン! “ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


ワシボンが鋭い爪を立てると、水の中からゴッ……と鈍い音が響いてくる。

でも、


侑「やっぱ……ダメだ……」
 「ワシャァ…」


水中のパールルはびくともしない。殻に傷一つ付けられないまま、時間がどんどん過ぎ去っていく。


侑「電撃も何度も試したけど……効果はないし……」
 「ライボ」「ブイ…」


他にも“すくすくボンバー”で“やどりぎのタネ”を植え付けたりもしてみたけど……。結局殻に阻まれて、やどりぎも無効化されてしまっている。


侑「うーん……」


どうしたものか。

弱点のでんきタイプもくさタイプ無効となると……やっぱり、パワーでどうにかする以外の方法がない。

じゃあ……。


侑「もっと物理攻撃がしっかり通せるようにしないといけないってことかな……。よし」


私は靴を脱いで、パールルのいる浅瀬までじゃぶじゃぶと入っていく。


侑「水中にいるから、攻撃がうまく通らないんだ! なら、陸に上げちゃえば……!」


パールルの前で屈みながら、大きな貝殻そのものに手を掛けて持ち上げる


侑「ふん……ぬぬぬ……!」


持ち上げ、


侑「……ぬぬぬぬぬ……!!」


持ち……上がらない。


侑「お、重すぎる……」
 「ワシャ!」「ライボ」「ブイブイ!!」

侑「みんな、手伝ってくれるの? よし、どうにかしてパールルを水から上げるよ!」
 「ブイ!!」「ワシャー」「ライ」




    🐏    🐏    🐏





彼方「お、やっと違うことを始めたね」


今日もレジャーシートの上でのんびり見ていると、侑ちゃんはパールルへの攻撃を止めて、海から運び出そうとし始めた。


遥「でも全然動いてないね……重そう」

リナ『パールルの体重は52.5kgもある。たぶん侑さんより重い』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「殻が大きいからね~。でも、みんなで力を合わせてるから、どうにか動かせそうだよ」


ワシボンが脚でガッチリ掴み、ライボルトが後ろから押して、侑ちゃんが引っ張っている。

イーブイは侑ちゃんの服の裾を噛んで引っ張っているけど……あれはあんまり意味なさそう。

イーブイだと浅瀬でも、溺れちゃうから仕方ないけどね。


リナ『そういえば、水から出しちゃうのはルール的にOKなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「別に禁止はしてないよ~。条件は貝殻を開いてバッジを取り戻せばいいだけだし。……ただー」

遥「……ただ?」

彼方「そんな簡単にはいかないというか……んーまあ、見てればわかるよー」





    🎹    🎹    🎹





侑「よい……っしょ……!」


パールルを運び出す作戦を始めて数十分。


侑「……はぁ……はぁ……! やっと……海から、出せた……!」


みんなの力を合わせて、どうにか水の中から引きずり出して、砂浜の上にパールルを連れてこられた。

パールルを引っ張っているときに手が滑ってすっぽ抜け、何度もひっくり返ったため、すでに全身ずぶ濡れだけど……。


侑「とにかく、これで攻撃を100%通せるはず……! ……ん?」


よーく見ると、パールル……薄っすら貝殻を開けてるような……?

そんな気がして、貝の合わせの部分を覗き込んだ瞬間、その隙間から水が噴き出してきて、


侑「わぷっ!?」


私の顔に直撃した。そのまま、尻餅をつく。


侑「ぺっぺっ……しょ、しょっぱ……」


突然のことだったため、“しおみず”が口の中に入ってきた。しょっぱい……海の水の味がする……。


 「ブ、ブイー!?」「ライッ…!!」「ワシャボーッ!!?」


気付けば、私の手持ちたちも同様に、パールルから“みずでっぽう”を浴びせかけられていた。

ダメージこそそんなに大きくないものの、水に阻まれて攻撃どころじゃなくなっている。

しかも、


侑「あ……!?」


パールルは僅かではあるものの、水の逆噴射でちょっとずつ海の方へと戻っていっている。


侑「ま、まずい……! せっかく、海の外に出したのに……!」


思わず、その動きを止めるためにパールルに駆け寄ると、


侑「わぷっ!!」


再び、同じように“みずでっぽう”で顔を狙撃された。


 「ブ、ブイィ…」


転んだ私のもとにイーブイが駆け寄ってくる。


侑「……だ、大丈夫だよ……水がしょっぱいだけだから……」


イーブイを撫でながら、パールルに目を向けると──もうすでに寄せては返す波に攫われて、海の中へと戻って行っているところだった。


侑「…………」
 「ブイィ…」

侑「……反撃してくるなんて、聞いてないよぉ……」

彼方「反撃しないとも言ってないよ~」


気付けば、尻餅をついたまま項垂れる私の背後に彼方さんが近付いてきていた。


侑「彼方さん……」

彼方「着眼点は悪くなかったと思うよ~」

侑「……ありがとうございます」

彼方「とりあえずそろそろお昼ご飯の時間だから、一旦休憩にしようね~。彼方ちゃんが特製お弁当作ってきたから~」

侑「……はい。イーブイ、ワシボン、ライボルト、休憩にしよう」
 「ブイ」「ワシャ」「ライボ」


なんだか、不意打ちを食らったようで釈然としないけど、確かに彼方さんの言うとおり、パールルが反撃してこないなんて一言も言っていなかったのは確かだ。

言われるがまま、リナちゃんと遥ちゃんが待つレジャーシートに行くと、すでに美味しそうなお弁当が広げられていた。


遥「侑さん、惜しかったですね……」

侑「あはは……陸までは引き摺りだせたんだけどね……」

リナ『でも、あんなに反撃されると近づけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そうだよね……」


思った以上に正確な狙撃のせいで、近付くことすら困難な状態。

しかも……攻撃したところで殻を壊せる保証が全くないし……言うほど、惜しくもない気がする。

状況は振り出しに戻ったというか……何も進歩していないというか……。


侑「やっぱ、あのパールルも……“おとなしい”ように見えて、バトル慣れしてるんですね……」

彼方「まあ、彼方ちゃんのパールルだからね~。はい、侑ちゃんの分のおにぎりだよ~」

侑「ありがとうございます……あむ。……お、美味しい!」

彼方「彼方ちゃん特製混ぜご飯のおにぎりだよ~。具も調味料も全部彼方ちゃんが考えたオリジナルなんだよ~」

侑「ホントに美味しい……! いくらでも、食べられそうです……!」

彼方「うむうむ。しっかりスタミナ付けて、午後も頑張ろうね~」

侑「はい……!」


こうしてご飯をしっかり用意してサポートをしてくれている辺り、特訓には真面目に付き合ってくれている……んだと思う。

課題がいじわるな気がしてならないけど……。


彼方「ポケモンちゃんたちもご飯にしようね~」
 「ブイ」「ワシャ~♪」「ライ」

彼方「侑ちゃん、この子たちの好きな味とかわかる?」

侑「あ、えーっと……確かイーブイが甘い味が好きで、ワシボンとライボルトは辛い味が好き……なはず」

彼方「はず?」


私の物言いに彼方さんが首を傾げる。


リナ『ポケモンたちのご飯は大体、歩夢さんが用意してた』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「あ~……なるほどね~」


ポケモンたちのご飯はいつも、気付いたら歩夢が用意していたから、味の好みまでは、少し曖昧だったりする。


彼方「それじゃあ、イーブイちゃんにはこのモモンサンドだね~。ワシボン君とライボルト君には焼きマトマをあげよう~」
 「ブイ♪」「ワッシャァッ♪」「ライボ」


3匹が彼方さんのご飯に群がって、食べ始める。

反応を見る限り、どうやら味の好みはあっていたようだ。……よかった。


侑「イーブイ、美味しい?」
 「ブイ♪」

侑「そっか、よかったね」
 「ブイ♪」


撫でてあげると、イーブイは上機嫌に鳴く。

これなら、午後もフルパフォーマンスで挑めそうだ。

……でも、


侑「どうやって、攻略すればいいんだろう……」


硬い防御、的確な反撃。

正直崩す手段が思いつかない。


侑「相手はほとんど動かないパールル1匹のはずなのに……強すぎる……」

彼方「まあ、彼方ちゃんのパールルだからね~」


えへんと胸を張る彼方さん。


侑「パールルがあんなに強いなんて……。進化系のサクラビスとかハンテールならともかく……」

彼方「それは育て方次第だと思うよ~?」


簡単に言うけど……パールルって大人しくて戦闘向きのポケモンじゃないし……。

ふと、彼方さんはどうやってこんなに強く育てたのかが気になってくる。


侑「あの……彼方さんのポケモンって、どうしてそんなに強いんですか……?」

彼方「ん~? どうしてか~」

侑「育て方にコツとかがあるんですか?」

彼方「育て方は……よくわかんないかな~」

侑「わからない?」

彼方「正確には覚えてないというか~」

侑「……覚えてない……?」

彼方「気付いたときには彼方ちゃんの手持ちだったからね~」

侑「……?」

彼方「実はね~彼方ちゃんね~、昔の記憶がないんだ~」

侑「……え?」


突然のカミングアウトに一瞬意味が飲み込めず、ポカンとしてしまう。


侑「記憶がないって……記憶喪失……ってことですか……?」

彼方「うん、そんな感じ~」

侑「…………あの、なんか……すいません」


軽い気持ちで聞いたつもりだったけど、思った以上に重い理由が返ってきて、恐縮してしまう。


彼方「あはは、そんなに気にしないで大丈夫だよ~。別に記憶がなくても、そんなに不便なわけじゃないし~。遥ちゃんもいるし~」

遥「……お姉ちゃんはちょっと能天気すぎるような……。えっと、実は私もお姉ちゃんと同じで昔の記憶がないんです」

侑「そうなんだ……」

遥「私とお姉ちゃん……4年くらい前に、この浜辺で倒れているところを発見されて……」

彼方「目が覚めたときにはもう記憶がなかったんだよね~。それでそのとき、彼方ちゃんと遥ちゃんを見つけてくれたのがエマちゃんだったんだ~」

侑「エマさんが……」

リナ『昨日言ってた、エマさんが命の恩人って言うのは……』 || ╹ᇫ╹ ||

遥「はい……浜辺で気を失ったまま、衰弱しきった私たちを助けて看病してくれたのがエマさんだったんです」

彼方「だから、しばらくはエマちゃんと一緒に暮らしてたんだよー。その後、いろいろあって、穂乃果ちゃんや千歌ちゃんと出会って、今に至るって感じかなー」


そのいろいろがかなり気になるけど……まあ、たぶんそれは言えないことなんだろうから、これ以上聞くのは止めておこう。


彼方「目が覚めたときには、記憶はほとんどなくって、自分の名前が彼方で、遥ちゃんが大切な妹だってことしか覚えてなかったんだ。ただ、バトルは身体が覚えてたんだよね。きっと、記憶がなくなる前はすっごいトレーナーだったんじゃないかなー?」

遥「反面私は、バトルはからっきしで……」

彼方「きっと、記憶がなくなる前から、彼方ちゃんが遥ちゃんのことを守ってたんだろうね~」

遥「私も少しは強ければなぁ……」

彼方「だいじょ~ぶ! 遥ちゃんは彼方ちゃんが守ってあげるから~!」


確かに彼方さんくらい強ければ……私も歩夢を守ってあげられるんだろうな……。

そんなことを思いながら空を仰ぐと──灰色の雲が少しずつ勢力を増してきていた。

曇天の予兆。まるで、今の私の心のもやもやを表しているかのようだった。




    🎀    🎀    🎀





──コメコ牧場。


歩夢「よいっしょ……よいしょ……」

 「モ~」

歩夢「ふぅ……これくらいでいいかな」
 「ラフット」


ミルタンクの乳搾りを一段落させて、私が袖で汗を拭っていると、そこにラビフットが近付いてきて、タオルを差し出してくれる。


歩夢「ありがとう、ラビフット♪ 持ってきてくれたんだね」
 「ラフット♪」


お礼を言いながら、頭を撫でてあげると、ラビフットは上機嫌のまま、再び牧場内を走りだす。

牧場が広くて自由に走り回れるからか、今日は特にご機嫌だ。

ラビフットを見送っていると、


 「ミルミル~♪」


足元のミルクバケツの方から鳴き声が聞こえてきて視線をそこに移す。

すると、いつの間にやってきたのか、マホミルがバケツを覗き込んでいるところだった。


歩夢「あ、ダメだよマホミル。このミルクはあなたのおやつじゃありません」
 「ミル~?」

歩夢「ちゃんとあとで、“マゴのみ”をあげるから、大人しくしててね?」
 「ミル~♪」


あとで好物の“きのみ”をあげると伝えると、マホミルは嬉しそうにふよふよと休憩室の方へと飛んでいく。よしよし、ちゃんと言うこと聞いてくれてる。


エマ「ふふ、マホミルとも、もうすっかり仲良しだね♪」

歩夢「あ、エマさん! ミルタンクの乳搾り終わりました!」

エマ「もう終わったの? 歩夢ちゃんって、ホントに手際がいいんだね」

歩夢「いや、そんな……たまたまこの子のお乳の出がよかっただけですよ。ね、ミルタンク」

 「モ~」

エマ「ふふ、牧場のおじさんたちじゃないけど……ここで働いてみる?」

歩夢「え? えーっと……どうしようかな……」


エマさんのリップサービスだとわかっていても、これだけたくさん褒められると嬉しくなっちゃう……。

正直、ここで働くのも悪くないなとも思っちゃうけど……。


歩夢「牧場でお仕事しながら、ポケモントレーナー……出来るかな……」

エマ「あ、冗談だよ、冗談! でも、そう言いたくなっちゃうくらい、歩夢ちゃんのお仕事が上手ってこと!」

歩夢「えへへ……ありがとうございます」

エマ「ありがとうはこっちのセリフだよ~! 歩夢ちゃんが手伝ってくれて、大助かりだよ~」

歩夢「お家に泊めて貰っているので、これくらいはさせてください」

エマ「そんなに気を遣わなくてもいいんだよ~? わたしが好きでやってることなんだから」

歩夢「エマさん……ありがとうございます」


エマさんは本当に優しいな……。

昨日は心の中が悲しい気持ちでいっぱいで、もうどうすればいいのかわからなかったけど……エマさんの優しさに触れていたら、だんだん気持ちも落ち着いてきた気がする。

侑ちゃんとのことは……どうすればいいのか、まだ答えは出ていないけど……。

ぼんやりとそんなことを考えていると、


 「シャボ…」


急にサスケが小さく鳴きながら、天を仰ぐ。


歩夢「サスケ?」


私も釣られて、空を見上げると──灰色の雲が少しずつ空を覆い始めていた。


エマ「天気……曇ってきたね。もしかしたら、雨になるかも……」

歩夢「早めに牧場の子たちを飼育小屋に入れた方がいいですか?」

エマ「そうだね……。……特にメリープとかウールーは雨に打たれると、毛が水を吸い過ぎて動けなくなっちゃうから……」

歩夢「それじゃ、私はウールーたちを小屋に入れてきますね」

エマ「ありがとう~助かるよ~。それじゃ、わたしはメリープたちを……」


早速ウールーたちの放牧地帯に行こうとした、そのとき、


歩夢「……?」


何か、変な感じがした。

肌がピリピリする。変な感じ。


エマ「歩夢ちゃん? どうかした?」

歩夢「あ、いえ、なんでもないです! 行ってきます!」

エマ「うん。何かあったら呼んでね!」

歩夢「はーい」


私は今度こそ、ウールーたちの所へと足を向ける。


歩夢「気のせい……だよね……?」


正体不明の違和感に首を傾げながら……私はなんとなく、妙な胸騒ぎを感じていた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「みんなー、こっちだよ~」

 「メェ~~」「メェ~~~」「メェェ~」


飼育小屋の前からウールーたちを呼ぶと、コロコロ転がりながらこっちに向かってくる。


 「メェ~」「メメェ~」「メ~~」

歩夢「わわ!? 私じゃなくて、小屋の中に入ってー!?」


飼育小屋に入らず、何故かウールーたちが私に向かって群がってくる。


歩夢「も、もう……早くしないと雨降ってきちゃうから……」


こうして群がられてしまうと、“もふもふ”で動きづらくて仕方がない。

少し可哀想だけどこのままじゃ埒が明かないので、1匹ずつ持ち上げて、小屋の中に放り投げる。

ウールーたちはかなりの数がいるけど、1匹1匹コツコツと小屋の中に入れていくと、次第に数が減ってくる。


歩夢「あなたが最後だね」

 「メェ~」


最後の1匹を抱えたまま小屋に入って、中から外を見ると、ちょうど──ぽつぽつと雨が降り出した。


歩夢「よかった……間に合った」


安心で、一息。

そのとき──ピシャーーーンッ!! という轟音と共に稲妻が迸った。


歩夢「きゃぁっ!?」


思わずびっくりして、耳を押さえながら、蹲ってしまう。


歩夢「び、びっくりした……」
 「シャボ」

歩夢「……だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから……ありがとう、サスケ」


心配して鳴き声をあげるサスケの頭を撫でながら立ち上がる。

雨の中、雷が落ちた方角を確認する。あっちの方って……。


歩夢「メリープ牧場の方だよね……」


エマさん、大丈夫かな……。

お手伝いに向かった方がいいかな……そう考えていたら──ピシャーンッ!! とまた雷が鳴る。

──と思ったら、さらにゴロゴロという音と共に、雷が轟き、また空を光らせた。


歩夢「……!?」


驚いて目を見開いている間にも、次の雷が轟音を立てながら空気を震わせる。まるで、雷が意思を持ったかのように、メリープ牧場付近に降り注いでいるようにも見えた。

あの光景には見覚えがあった。


歩夢「行かなきゃ……!!」


私は気付いたら雨の中を走り出していた。




    🎹    🎹    🎹





──お昼休憩も終わって。


侑「うーん……」


私は浜辺で唸っていた。


侑「結局のところ、攻撃は通用しないし……もう一度、海から出してみる……?」


でも、海から出したところで、さっきと同じことになっちゃうだろうし……“みずでっぽう”を防ぐ手段を考えてからじゃないと……。


侑「うーん……」


私が唸ったまま、指示を決めあぐねていると、


 「ブイ、ブイ」


イーブイは、浅瀬にいるパールルの貝殻の上に乗って、ぱしゃぱしゃと水を立てながら叩いている。

さすがに、それくらいじゃノーダメージどころじゃないけど……。

でも、イーブイがああしたくなる気持ちもわかる。

本当に打つ手がない……。

でも、どうにかしてパールルの殻を破らないと、私のバッジも戻ってこないし……。


侑「どうしよう……」


思わず頭を抱える。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、


 「ブイ」


諦めたのか、それとも飽きたのか、イーブイが海から上がって、私のもとに戻ってくる。

そして、ブルブルと体を振るって、濡れた毛の海水を飛ばしてくる。


侑「わっ!? もう、濡れるの嫌なら、勝手に行かないでよ……ん?」


ふと、イーブイの全身が──泡だらけなことに気付く。


侑「イーブイ、その泡……どうしたの?」
 「ブイ?」

侑「パールルって“あわ”とか吐いてなかったよね……」
 「ブイ」


パールルの攻撃とかでないなら、なんだろう……。そう思いながら、手で軽く泡を拭ってあげると──拭ったそばから、また泡がぷくぷくと溢れだしてくる。


侑「……イーブイの体から出てる?」


……まさか、これって……。


侑「リナちゃーん!」


イーブイを抱きかかえたままリナちゃんを呼ぶと、すぐにふよふよとこちらに向かって飛んでくる。


リナ『侑さん? どうかした?』 || ? ᇫ ? ||

侑「これ、イーブイの新しい“相棒わざ”じゃない!?」


そう言いながら、泡まみれのイーブイをリナちゃんに見せる。


リナ『ホントだ。ずっと海で修行してたから、水の多い環境にイーブイが適応したみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「それじゃ、みずタイプの“相棒わざ”なんだね!」
 「ブイ」

リナ『うん。みずタイプの“相棒わざ”、”いきいきバブル”だよ。泡を通して相手からHPを吸収できる技みたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「“いきいきバブル”……! やったね、イーブイ! 新しい技だよ!」
 「ブイ?」


私は新技にテンション高めに話しかけるけど、当のイーブイはあまり興味がないらしく。


 「ブイ」


いつまでも持ち上げられたままなのが嫌だったのか、泡を使って、私の手から滑るように逃げ出す。


侑「テンションに落差がある……」

リナ『イーブイ的には適応しただけであって、新しい技を覚えたって感覚がないのかも』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ブイィ…」


“あくび”してるし……。まあ、もともと“おくびょう”な子だったし、すっかり私にも慣れてくれたってことだと思う。たぶん。

イーブイのマイペースさに少し呆れていると──ポツ。


侑「つめた……!」


頭の上に水が落ちて来た。

思わず空を見上げると──


侑「……雨だ」
 「ブイ」


気付けばすっかり灰色の雲に覆われた空から、雨が降り出していた。


彼方「──侑ちゃーん! 一旦こっち戻っておいでー!」

侑「あ、はーい」


彼方さんに呼ばれて、シートの方に戻ると、気付けばパラソルが立っていた。


彼方「しばらくはここで雨宿りだねー」

遥「でもこの雨……すぐ止まなさそう……」

侑「確かに……」


少しずつ雨足が強くなっていく空をぼんやり眺めていると、


 「ブイ」


イーブイが耳をピクリと動かして、急に町側の方に顔を向けた。


侑「イーブイ? どうしたの?」


私も釣られて、町の方を見ると──何やら、町の人たちが慌ただしく走っている姿が目に入ってきた。


侑「……? 何かあったのかな?」

遥「なんだか、随分慌ててるような……」

彼方「どうしたんだろう? 彼方ちゃんちょっと聞いてくるね」

侑「あ、私も!」


彼方さんの後を追って、町の方へ。彼方さんが、右往左往している町の人に声を掛ける。


彼方「あのー? 何かあったんですかー?」

町人「あ、ああ……どうやら、牧場の方が野生ポケモンに襲われてるらしいんだ……」

侑「え!?」


思わず驚きの声をあげるのとほぼ同時に──牧場方面の空がカッと光る。


彼方「あれ、もしかして……でんきポケモンの“かみなり”……?」

町人「牧場の方に野生ポケモンが来ることなんて滅多にないんだが……。とはいえ、この町にはトレーナーもほとんどいないし、どうしたもんかと……」

遥「……す、すぐに穂乃果さんに連絡します!」


遥ちゃんがポケギアを取り出して、穂乃果さんに連絡を取り始める。

そんな中、


リナ『侑さん! 大変!?』 || ? ᆷ ! ||


急にリナちゃんが大きな声をあげる。


侑「え、ど、どうしたの?」

リナ『今、コメコ牧場に──歩夢さんの図鑑の反応がある!』 || ? ᆷ ! ||

侑「な……!?」


じゃあ、まさか今、歩夢は……!?


侑「野生ポケモンに襲われてる……!? い、行かなきゃ!! みんな!!」
 「ブイ」「ワシャー!」「ライボ」

彼方「あ、ちょっと待って、侑ちゃん!?」


私は彼方さんの制止も聞かず、手持ちたちを引き連れ一目散に飛び出した。

早く、早く助けに行かなくちゃ……!!


侑「歩夢は戦えないんだ……!! 私が助けなきゃ……!!」





    🎀    🎀    🎀





──ウールーの小屋から飛び出すと、雨足はすぐに強くなり、激しい雨が降り出した。

その中を全力疾走で、メリープ牧場の方へ向かう。

向かう最中にも、空は光り、稲妻が迸る。

稲光の筋がどんどん数を増やしながら、雷鳴が絶え間なく鳴り響いている。


歩夢「急がなきゃ……!」


私が必死に走って向かっていると、


 「ラフット!!」「マホミ~」
歩夢「ラビフット! マホミル!」


ラビフットとマホミルも異変に気付いたのか、走っている私に並ぶようにして追いかけてくる。


歩夢「みんな、行こう……!」
 「ラビ!」「マホ~」「シャーボ」


走ること数分、見えてきたメリープ牧場には──


 「メェーーー!!!!」「メェェーー!!!!」「メェメェーーー!!!!」


逃げ惑うメリープたちの姿と、


 「ラクゥ!!!」「ラァイッ!!!!」「ラクラァッ!!!!」

歩夢「!! やっぱり……!!」


その向こう側、牧場をぐるっと囲う柵の外側に、ラクライの大群が押し寄せていた。

そして、そんなラクライたちが柵の内側に入ってこないように、


エマ「ゴーゴート! “はっぱカッター”!」
 「ゴォーート!!!」

 「ギャゥッ!?」「ラクラァッ!?」


逃げ惑うメリープたちの前に立って、エマさんが戦っているところだった。


歩夢「エマさん!」

エマ「歩夢ちゃん!? 危ないから来ちゃダメ!!」


エマさんが私に近付かないように、促す間にも、


 「ラィィッ!!!!」


ラクライが飛び掛かってくる。


歩夢「エマさん、危ない!!」

エマ「ガルーラ!! “ピヨピヨパンチ”!!」
 「ガァーール!!!!」

 「ギャンッ!!!」


至近距離まで迫っていたラクライを、エマさんのガルーラがパンチで迎撃する。

エマさんはどんどん押し寄せてくるラクライたちを、どうにか捌き続けているけど……ダメだ、


歩夢「数が多すぎる……!」


やっぱり、加勢しないと……! そう思って、私も前に出ようとしたその瞬間──ピシャーーーーンッ!!!


歩夢「きゃぁっ!!?」


私の数歩前に雷が落ちてきて、思わず尻餅をつく。

大きな雷轟と共に、草が焼け焦げたような、嫌な臭いが漂ってくる。


エマ「歩夢ちゃん!! 危ないから、下がって!!」

歩夢「……っ」


立たなきゃ。立って戦わなきゃ、そう思うのに……膝が震えていた。

……怖い。


エマ「大丈夫だよ!! 歩夢ちゃん!!」

歩夢「エマさん……」

エマ「この牧場にいる子たちは、みんなわたしの家族だから……!! 絶対にわたしが守るから……!!」


──バチン!! 大きな音を立てて、飛び込んで来たラクライの“スパーク”が爆ぜる。


エマ「きゃぁっ!?」
 「ガ、ガルッ…!!」

歩夢「エマさんっ!?」

エマ「ガルーラ、大丈夫!?」
 「ガ、ガルッ」


ガルーラはどうにか持ちこたえて、飛び込んできたラクライを掴んで投げ飛ばす。

でも、確実に大きなダメージが入ってしまった。

それを皮切りに、一気にラクライたちがなだれ込んでくる。


エマ「っく……頑張って!! ガルーラ!! ゴーゴート!!」
 「ガルゥッ!!!」「ゴーーットッ!!!」


このままじゃ……持ちこたえられない。

そんなことは、私の目から見ても明らかだった。

だけど、


エマ「絶対に……みんなを守らなきゃ……!!」


エマさんは、一歩も引かなかった。

どうして? どうして、そこまで出来るの?

いや……そんなの、


歩夢「……守りたいからだ……」


守らなくちゃいけないモノが自分の後ろにあるから、エマさんは諦めないんだ。諦めずに戦っているんだ。

じゃあ、私は……? 何のためにここまで来たの?

私はこのまま……守られているだけでいいの?


歩夢「いいわけ……ないよ」


震える脚に力を込めて、立ち上がる。


歩夢「私だって……ポケモントレーナーだもん……」


顔を上げると、稲妻が迸り、雷光と雷鳴が視覚へ聴覚へ、その凄まじさを主張してくる。

怖い。

数日前に見た、あのときと全く同じ恐怖が込み上げてくる。

だけど、


歩夢「もう……あんな想い、したくない……」


自分が無力なせいで、目の前で大切な人たちが傷つく姿を……ただ、見ているだけなんて、そんなの──もう嫌だ。


 「シャーボッ!!」「ラビフットッ!!!」「マホミ~~!!!」


私は──1人じゃない。仲間たちがいるんだ。


歩夢「みんな!! 力を貸して!!」
 「シャボッ!!!」「ラフットッ!!!」「マホミ~~ル!!!」





    🎹    🎹    🎹





侑「──歩夢っ……!! 歩夢っ!!」


全力で駆けてきて辿り着いた牧場は、大変なことになっていた。

激しい雷雨にさらされ、絶え間なく落雷が続いている。

その雷を目印に、とにかく走る。


侑「歩夢……!! 歩夢……!!」


きっと、今歩夢は怖くて震えてる。

私が助けてあげなきゃダメなんだ。

今行くから……! 歩夢……!

走って走って走って……やっとたどり着いた、雷たちの根本にラクライの群れと──世界で一番見慣れた、幼馴染の姿が見えてきた。

ただ、


侑「え……」


歩夢は……怖くて震えてなんか、いなかった。

歩夢は──戦っていた。





    🎀    🎀    🎀





 「ガ…ル…」「ゴー…ット…」


攻撃を受け続けたエマさんのガルーラとゴーゴートが、ゆっくりと崩れ落ちるのが見えた。


エマ「ガルーラ……! ゴーゴート……!」


そして、今度はエマさんに向かって、


 「ラァーーークッ!!!!」「クライッ!!!!」


ラクライが飛び掛かる。


エマ「……っ!!」

歩夢「ラビフット!! “にどげり”!!」
 「ラフットッ!!!!」

 「ギャンッ!!?」「キャゥンッ!!?」


間一髪のところで、ラビフットがラクライを蹴り飛ばす。


エマ「歩夢ちゃん……!?」

歩夢「もう……逃げません……!」


私はしっかりと前を、目の前のラクライたちを見据える。


 「グルルルルル…」「ラィィィィ!!!!」


ラクライたちは、バチバチと火花を爆ぜさせながら、低い唸り声をあげて、こちらを睨みつけてくる。

怖い。すごくすごく怖い。だけど、


歩夢「私の大切な人たちが、傷つく方が……もっと怖い……」

エマ「歩夢ちゃん……」

歩夢「大切な人たちの笑顔が守れるなら……!! ……怖くても、戦えます……!!」


 「ラィィ!!!」


ラクライがまた1匹飛び込んでくる。

その前に身をくねらせながら、躍り出るように、サスケが飛び出していく。


歩夢「サスケ!! “ポイズンテール”!!」
 「シャーーーーボッ!!!!」

 「ギャゥンッ!!?」


飛び込んでくる勢いを逆に利用して、ラクライの鼻っ柱に、サスケの尻尾が叩きつけられる。

迎撃しながら、周囲を見渡す。

辺りは激しい雷雨の影響か、フィールド自体が電気を帯びているような気がした。

直感だったけど、なんとなく、この自然と形勢された電撃のフィールドが、ラクライたちを活気付けているものな気がした。


歩夢「なら、まずはフィールドを書き換えなきゃ……!! マホミル!」
 「ホミ~ル!!」

歩夢「“ミストフィールド”!!」
 「マホミ~~」


マホミルを中心に、霧が立ち込め、電撃を帯びたフィールドを上書きしていく。

しかも、“ミストフィールド”はポケモンたちの状態異常を予防する効果がある。

これによって、“まひ”で痺れることはなくなった。

さらに、


歩夢「“アロマミスト”!!」
 「マホーー!!!」


マホミルが周囲に不思議なアロマの香りを振り撒く。


歩夢「サスケ!! 前に出ながら“たくわえる”!!」
 「シャーーーボッ!!!」


サスケがエネルギーを蓄えながらラクライたちの前に飛び出す。

それと同時に、


 「ラァァーークッ!!!!」


ラクライから“でんげきは”が飛んでくるが、


 「シャァーーーボッ!!!!」

 「ラクラッ!!?」


“アロマミスト”と“たくわえる”によって、一気に耐久を上昇させたサスケには、ほとんどダメージが通らない。

そして、ほとんどノーリアクションのサスケに驚いた、ラクライに向かって、


歩夢「“はきだす”!!」
 「シャーーーボッ!!」

 「ギャゥンッ!!!?」


サスケが蓄えたエネルギーをそのまま吐きだして、直撃させる。

激しく思考しながら、飛び掛かってくるラクライたちを、とにかく撃退し続ける。


歩夢「ラビフット、“ずつき”! マホミル、“ドレインキッス”! サスケ、“ヘドロばくだん”!」
 「ラフットッ!!!」「マホミィ~」「シャーーーーッ!!!!」


ただ、数が多すぎるのには変わらない。全部倒しきるのは不可能かもしれない。

迎撃をしながら、どうすればいいかを考える。

侑ちゃんたちは、一体どうやって、あの群れを撃退したか。

きっと──ボスであるライボルトを捕まえたことによって、バトルを収束させたはず。

なら、


歩夢「新しいボスがいるはず……!!」


一朝一夕でラクライがライボルトに進化してボスになったということは考えづらい。

恐らく、群れの中から1匹、一番強いラクライが群れのボスに選ばれているはずだ。


歩夢「ボスは……どの子……!?」


雷轟と稲光の中、飛び掛かってくるラクライたちを必死に観察する。

新しくボスになるとしたらどの子……!?

体毛が長い子!? 短い子!? 色が鮮やかな子!?

それとも、群れのボスなら一番後ろで構えている子だろうか。

いや、


歩夢「違う……!!」


こんなに好戦的な子たちの中で、一番後ろで戦闘を回避している子が群れのボスなわけない……!!

この激しく動き回るラクライたちの中で、もっともわかりやすい強さのシンボルを持った子がいるとしたら──


歩夢「一番素早く動き回ってる、好戦的なラクライ!!」


でも、動きの速さなんて、この激しい戦闘中に見ても簡単に区別は付かない。だから、今見るべきは──ラクライの脚だ。


歩夢「マホミル!! “あまいかおり”!!」
 「マホミーーー!!!!」


マホミルがフィールド全体に“あまいかおり”を発して、ラクライたちの動きを鈍らせる。

そして、私はその隙にラクライたちの脚に視線を向ける。

ラクライの瞬発力は、彼らが発する電撃で筋肉を刺激して、生み出されている。

実際に、ラクライたちがダッシュするその直前には彼らの脚の周りが僅かにスパークしていた。

だから、一番速いラクライはきっと── 一番大きな電撃で筋肉を刺激しているはず。

動きを鈍らせた上で、一際大きな火花を爆ぜさせているラクライがいないか、必死に探す。

すると──動きの鈍ったラクライたちの中に、一際大きな“スパーク”を爆ぜさせている個体を発見した。


歩夢「あの子がボス……!! ラビフット!!」
 「ラーービッ!!!!」


ラビフットが、群れのボスに向かって、跳躍する。

チャンスは一度。膝に全ての威力を集約した、大技──


歩夢「“とびひざげり”!!」
 「ラーーービフットッ!!!!」

 「ギャウンッ!!!!!」


空中からの強烈な一撃がラクライに直撃する。


 「キ、キャゥンッ…」

 「ラ、ラク」「ラィィ…」「クライ…」


ボスが倒れたことに気付いたラクライたちは、一目散に撤退を始めた。


歩夢「はぁ……はぁ……」


私は思わずへたり込む。


エマ「あ、歩夢ちゃん……!!」


そんな私にエマさんが駆け寄ってくる。


歩夢「えへへ……私、今度はみんなのこと……守れました……」

エマ「うん……うん! 歩夢ちゃん、かっこよかったよ……!」


エマさんがぎゅーっと抱きしめてくる。


エマ「やっぱり、歩夢ちゃんはすっごいポケモントレーナーだよ……!」

歩夢「えへへ……嬉しいです」
 「ラビ!」「シャボ」「マホマホ♪」

歩夢「みんなも……ありがとう。みんなのお陰で私、ちゃんと戦えたよ」
 「ラビフ!!」「シャボシャボ」「マホ~~」


傍に寄ってきたラビフット、サスケ、マホミルを順に撫でながら労ってあげる。

そのとき、ふと──少し離れたところに人影があることに気付く。

その人影は、私と目が合うと……すぐに踵を返して走り出してしまった。

──特徴的な、ツインテールを揺らしながら。


歩夢「今の……侑ちゃん……?」





    🎹    🎹    🎹





──バシャバシャとぬかるむ地面を踏みしめながら、私は走る。

牧場から、砂浜に向かって。来た道を全力疾走する。

その途中、


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

彼方「あ、侑ちゃん……!?」


リナちゃんや彼方さんたちとすれ違ったけど、その横をそのまま通り過ぎて──私は砂浜に走る。


侑「私……何やってるんだ……」


何が、歩夢は戦えないだ。

何が、私が守ってあげなきゃだ。

少なくとも私には、ラクライの群れのボスがどの子かなんてわからなかった。

ラクライたちを捌きながら、ラクライのボスを的確に見抜いた歩夢が戦えない? そんなわけない。

──『私の大切な人たちが、傷つく方が……もっと怖い……。大切な人たちの笑顔が守れるなら……!! ……怖くても、戦えます……!!』──

歩夢は、野生のポケモンが怖かったんじゃない。


侑「私が傷つく姿を見るのが怖かったんだ……私を守れない……自分が許せなかったんだ……」


だから、バトルから遠ざけたり、自分を責めるようなことを言っていたんだ。

何度も気付くチャンスなんてあったのに。

どうして、気付いてあげられなかったんだ。

私は幼馴染で、歩夢のことを一番わかっているつもりだった。

でも、私は……歩夢のこと、全然わかっていなかった。

ずっと歩夢は──


侑「私の力になりたいって、そう思って頑張ってくれてたのに……っ……」


歩夢が弱いから、戦いに慣れていなかったから、ジム戦に負けたんじゃない。

歩夢は立派に戦っていた、なのに私は──歩夢が戦わなくて済むようにすることばかり考えていて、


侑「私が……歩夢を信じてあげられなかっただけじゃん……っ……!!」


本当に足を引っ張っていたのは、自分だった。

守るどころか、守られていた。

そんなことに今更気付いて。


侑「はぁ……はぁ……!!」


砂浜まで、全速力で戻ってきて。

海に目を向けると──パールルは今も海の中にいた。

今のままじゃ、歩夢に顔向けなんて出来ない。

だから、せめて──


侑「この課題を……今この場で、クリアする……!」


彼方さんからの課題をクリアして、歩夢にちゃんと謝ろう。

──パールルに視線を向ける。

今も尚、硬い殻に身を隠し、じっとしている。

さぁ、どうする。ちゃんと、考えろ。

私は、自分が今まで観てきたバトルの知識を、総動員して考える。

千歌さんだったらどうする? きっと、必殺の一撃で、殻を割り砕く。

せつ菜ちゃんだったらどうする? 上手に攪乱しながら、自分の全力をぶつけられる状況を作り上げる。

パワーが自慢のあのトレーナーだったら? スピードが自慢のあのトレーナーだったら? テクニックが自慢のあのトレーナーだったら?

歩夢だったら……? どうする……?

……そこまで考えて、やっとわかった。


侑「みんな……違うやり方で、自分のやり方で、戦ってるんだ……」


じゃあ、私は誰の真似をすればいい?

……違う、そうじゃない。


侑「私の──私たちのやり方を見つけないといけないんだ」
 「ブイ」「ワシャ」「ライボ」


私には、千歌さんみたいな必殺技はないし、せつ菜ちゃんみたいな戦術もない。

パワーも足りない、スピードも足りない、テクニックだってまだまだだ。

なら、どうすればいい?


侑「そんなのわかりきってるじゃん……」


答えは簡単だった。そもそもポケモントレーナーが、やらなくてはいけないこと。


侑「自分たちに今出来る中で、ポケモンたちが一番の力を出せる方法を考えることだ……」


こんなこと、学校の授業でも教わる基本的なことなのに。


侑「……すぅー…………ふぅー……」


一旦、深呼吸。

当たり前のことがわかっていなかった自分を悔やむのは後でいい。

わかったなら、今は考えるんだ。


侑「まず、あのパールルの防御力……」


正攻法での突破は不可能と考えた方がいい。

物理攻撃でも特殊攻撃でも、あの殻に攻撃したところで、ほとんどダメージはない。

ならどうする?


侑「…………陸に出すのも、海に逃げられちゃって、上手く行かなかったし……」


結局、陸に上げたところで、逃げかえられるのがオチだ。


侑「……ん?」


そこでふと思った。


侑「なんで、海に戻ろうとするんだろう……?」


確かに“みずでっぽう”で邪魔してきたりしたけど……。そもそも、陸に上げたところで、あの殻を破れるのかな?

確かに地上の方がフルパワーで物理攻撃を通せるとは思うけど……今の私たちに本当にそれが出来るんだろうか。

もちろん、試せていないからわからないと言えばわからないけど……そこまで劇的に変わるんだろうか。地上に出したところで、貝殻そのものが柔らかくなるわけでもないし。


侑「もしかして、他の理由がある……?」


パールルが海の中にずっといる理由……貝ポケモンが海の中にいる理由……?

それは思った以上に簡単な答えだったことに気付く。


侑「……呼吸だ」


みずタイプのポケモンの中には、コイキングやトサキント、ケイコウオのような完全に魚タイプのポケモンが数多く存在する。

彼らは泳ぎこそ得意なものの、足がないため、陸に上げると、かなり動きを制限される上に、長時間陸地にさらされると弱ってしまう。

その理由は簡単で、水の中にいる方が生きるのに適しているからだ。

ある程度は陸上でも活動は出来るが、基本的には水中にいることを前提としている。

それはすなわち──生き物にとって重要な呼吸をするときも水中の方が適しているということ。


侑「パールルって確か……深海に棲んでるんだっけ」


正直パールルの知識があまりないから、自信はないけど……少なくとも進化系のサクラビスやハンテールは海底を主な生息域にするポケモンたちだった気がする。

即ち、野生のパールルは一生を海底で過ごすと言っても過言ではない。

なら、


侑「……水がないと困るんだ」


そして、もう一つ。陸に上げても貝の隙間から“みずでっぽう”を撃ってきた、ということは──


侑「貝を閉じてても……水を吸ったり吐いたりしてるはず」


少なくとも水を溜め込むために、大なり小なり水を吸い込んでいると考えてもいいだろう。

呼吸するためにはある程度循環もさせているだろうし……。

仮にこの考えが正しいなら……一つ思いついたことがある。


侑「イーブイ、ちょっと私に考えがあるんだけど」
 「…ブイ!!」




    🎹    🎹    🎹





私はイーブイを抱えたまま、パールルの目の前に移動する。

今も浅瀬の水に体を完全に沈めた状態で、殻を閉じている。


侑「イーブイ、その貝殻の合わせのあたり」
 「ブイ」


イーブイの準備は出来た。


侑「ワシボンも、ライボルトも、準備はいい?」
 「ワッシャァッ!!」「ライボ」


ワシボンとライボルトも頷く。


侑「それじゃ、イーブイ、行くよ!」
 「ブブイ!!」


イーブイが尻尾の先をすっと、貝殻の合わせの部分にくっつける。

そして、それと同時にぷくぷくと泡が出始める。


侑「“いきいきバブル”!」
 「ブーイ!!」


ブクブクブクブクと一気に泡が立ち始め、それがパールルの貝の合わせ辺りに一気に充満していく。

この技はみずタイプ──つまり、基本的には水だ。

貝殻を閉じているパールルは周囲の状況を確認して水を吸い込んでいるわけじゃないだろうし、一緒に吸い込まれるはず。

ただ泡ということは──空気でもある。

空気がもし貝殻の中に満たされていったら……?


侑「……水が欲しくて、泡を吐きだす……!」


案の定──パールルは僅かに貝殻を開いて、入ってしまった泡を吐きだし始めた。


侑「ワシボン!! 今!!」
 「ワッシャァッ!!!」


その一瞬を見逃さず、ワシボンが薄っすら空いた隙間に爪を差し込み、そのまま上昇する。


侑「“フリーフォール”!!!」
 「ワシャーーーッ!!!!」

 「パ、パルルッ!!?」


急に上向きに引っ張られたと思ったら、そのまま空中に浮き上がらされたパールルはびっくりして、上向きの上昇の力と重力による下向きの力によって、貝殻を一瞬開いてしまう。

そして、空中で中身を晒したパールルに向かって、


侑「ライボルト!! “チャージビーム”!!」
 「ライボッ!!!!!」


電撃のビームで狙撃する。


 「パルルルルルルッ!!!!?」


攻撃が直撃したパールルは、目を回して気絶してしまった。

そして、その際に──キラキラと輝くものが2つ降ってきた。

私はそれをキャッチする。


侑「バッジ、返してもらうね」


パールルに食べられていた、“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”を握りしめる。


侑「ワシボン、もう降ろしていいよ」
 「ワシャ」


気絶したパールルを砂浜に降ろしてあげると、


彼方「──よく出来ました。侑ちゃん、合格だよ~」


彼方さんが私の後ろで拍手をしていた。


彼方「さて、侑ちゃん。ここまでやってみて、この課題は何が目的だったかって理解出来たかな?」

侑「……自分たちより強くて硬い相手に対して、よく観察して、どうすれば自分たちの力を一番発揮できるかをちゃんと考えること……ですか?」

彼方「うん! 満点! よく出来ました~」


彼方さんがポンポンと頭を撫でててくれる。


彼方「それじゃ、それと一緒に……侑ちゃんが反省するべきこともわかったんじゃないかな?」

侑「はい……。ごめんなさい……」

彼方「待って待って。謝る相手は彼方ちゃんじゃないでしょ?」


そう言いながら、彼方さんが振り返る。その先には、


歩夢「侑ちゃん……」

侑「……歩夢」


──歩夢が立っていた。


歩夢「あのね……牧場で、走ってく侑ちゃんを見かけて……その途中で彼方さんに会って、話を聞いたの」

侑「……そうなんだ」


正直、ばつが悪くて仕方がなかったけど、


彼方「侑ちゃん」


彼方さんに背中を押されて、歩夢の前に出る。


侑「……歩夢」

歩夢「……なぁに?」


歩夢の前に立って、


侑「……ごめん」


私は歩夢に向かって頭を下げた。


侑「私、歩夢は戦いたくないんだって……勝手に思い込んでた。そうじゃなくて……私に傷ついて欲しくなかったんだよね」

歩夢「侑ちゃん……。うぅん……旅をしてたら、そういうことがあることくらいわかってたのに……私が我慢できなくて……」

侑「それだけじゃないんだ……私、歩夢の気持ち……全然わかってなかった」

歩夢「私の……気持ち……?」

侑「……歩夢。私、歩夢のことを守りたい。歩夢が傷つかないように、強くなって、歩夢を守りたい」

歩夢「……うん、そう言ってくれて、想ってくれて……嬉しいよ」

侑「でもそれってさ……歩夢も同じだったんだって」

歩夢「…………」

侑「歩夢も、私に傷ついて欲しくないって思ってくれてるし、守りたいって思ってくれてるんだって……」

歩夢「……そうだよ……そんなの当たり前だよ……。だって、大切な幼馴染なんだよ……っ……」

侑「ごめん、歩夢……私、歩夢のその気持ちを……ちゃんとわかってなかった……」

歩夢「…………ぐす……っ……私も……ごめんなさい……っ……ちゃんと、伝えられなくて……っ……」


歩夢が目元を拭いながら言う。


歩夢「私……強くなりたい……っ……侑ちゃんの傍で……侑ちゃんを守ってあげられるくらい……っ……でも、全然うまくいかなくって……っ……」

侑「そんなことないよ……私、ずっと歩夢に助けられてたんだよ?」

歩夢「え……?」

侑「私一人じゃ、毛づくろいもちゃんと出来ない……ほら、見て」
 「ブイ?」


イーブイを抱き上げて、歩夢に見せる。


侑「今のイーブイの毛並み……ぼさぼさ。歩夢がしてくれると、ちょっとのバトルじゃ乱れないくらい完璧な毛並みになるのに」
 「ブイィ…」

歩夢「……ふふ。ちゃんと毛づくろいしろって、睨まれちゃってるね」

侑「それに、イーブイたちの好きな味もあやふやで……。私はずっと歩夢に支えて貰ってた」

歩夢「……うん。でもね、私は……それ以外でも侑ちゃんのことを支えたくて……」

侑「もちろん、バトルでも」

歩夢「え」


歩夢は心底、驚いたように声をあげながら目を見開く。


侑「昨日のジムバトル……もし私一人だったら、花陽さんには勝てなかったと思う」

歩夢「そ、そんなことないよ!」

侑「うぅん……今ならわかるんだ。あのときの私じゃ、絶対に勝てなかった」


きっと、耐久ポケモン相手と愚直に戦って、負けてしまっていたと思う。


侑「だけど、歩夢は花陽さんのポケモンに勝ってた……! 確かに試合には負けちゃったけど……歩夢がいたから、あそこまで善戦出来たんだ。だから、ありがとう……歩夢」

歩夢「侑ちゃん……っ……。……うぅん、最後、一人で先走っちゃって……ごめんね……」

侑「私ももっと早くアドバイス出来なくて、ごめん……。……歩夢」

歩夢「なぁに……っ……?」

侑「私と一緒に、強くなろう……! それで、次は勝とう……!」

歩夢「……! ……うんっ……!」


自然と二人で手を握り合う。


侑「私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる」

歩夢「私も……怖がらないで、侑ちゃんを守れるように、強くなるね……っ……」

侑「うん、頼りにしてるよ、歩夢」

歩夢「うんっ」


歩夢は頷きながら、やっと満面の笑顔を見せてくれる。

そんな私たちのもとに、リナちゃんが飛んでくる。


リナ『やっと二人が仲直りしてくれた。リナちゃんボード「ホッ」』 || > _ <𝅝||

歩夢「リナちゃん……ごめんね」

侑「ごめんね……心配掛けて」

リナ『うぅん、無事に仲直り出来たから問題ない』 || > ◡ < ||


やっとこれで元通りということだ。


彼方「一件落着みたいだね~」

エマ「歩夢ちゃん、よかったね」

歩夢「は、はい……ご心配をおかけしました……」

侑「あ、あれ? エマさんもいたんですか?」

エマ「うん、歩夢ちゃんが急に走り出すから何かと思って追いかけて来たんだよ」

歩夢「ご、ごめんなさい……侑ちゃんの後を追いかけるのに必死だったから」

エマ「ふふ、大丈夫♪ 侑ちゃんと仲直り出来たなら、私も嬉しいよ♪」

歩夢「はい……ありがとうございます」

遥「とりあえず、今日はお二人とも疲れたと思いますから……一旦ロッジに帰りませんか?」

侑「あはは……確かにもうくたくただし……そうしようかなぁ」

歩夢「わ、私も……実はさっきからずっと、膝が笑ってて……」

彼方「それじゃ、二人の仲直り記念に、彼方ちゃんがご馳走を作ってあげよう~♪ エマちゃんも一緒にどう~?」

エマ「え、いいの!? 彼方ちゃんの作るご飯は本当においしいから、行きたい! あ、それなら一旦牧場に戻って新鮮な“モーモーミルク”を持ってくるよ♪」

彼方「お~助かる~♪ 今日は“モーモーミルク”パーティーだね~♪ それじゃ、ロッジに帰るよ~♪」

侑・歩夢「「はーい!」」


気付けば、雨もすっかり上がって綺麗な夕日が雲の隙間から差し込んでいた。


侑「歩夢」

歩夢「? なぁに?」

侑「これからも、よろしくね」

歩夢「ふふ♪ こちらこそ、これからもよろしくね♪」


その差し込んでくる綺麗な夕日はまるで──今の私の嬉しい気持ちを表しているかのようだった。




エマ「──そういえば……どうして、牧場に、あんなにラクライたちが押し寄せてきてたんだろう……? ……今まであんなこと一度もなかったのになぁ……」



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.29 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.26 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:61匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.19 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:90匹 捕まえた数:12匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👠



──ここはコメコシティの地下に作られたDiverDivaの前線基地。


果林「……そろそろかしらね」


私がモニターを見つめながら振り返ると、ちょうどいいタイミングで、


愛「──戻ったよー」

 「ベベノ~!」
愛「おっとと……ただいま。善い子にしてたか~? ウリウリ~♪」
 「ベノベノ♪」


愛が戻ってくるなり、飛び付いてきた手持ちのポケモンとじゃれ始める。


果林「愛、お疲れ様」

愛「あんがと、カリン。……って言っても別に大したことしたわけじゃないから特に疲れてもいないんだよねぇ。エレズン連れて、ドッグランから北上して、コメコ牧場の方まで逃げてただけだし」


エレズンの特性は“せいでんき”。野生のラクライたちは、それに引かれて、エレズン目掛けて追いかけてくるが……牧場にはエレズンと同じ“せいでんき”の特性を持つ大量のメリープがいる。

牧場まで近づけばラクライたちは自動的に、数の多いメリープたちに引き寄せられ、牧場に襲い掛かるという寸法だ。

確かに愛の実力を考えると、ただの囮役というのはやや役不足感が否めないかもしれない。


果林「でもお陰で、満足の行く成果が得られたわ。愛の言っていたとおり、良いものが見られた」

愛「そりゃ何よりで。……にしてもカリンって、いっつも強引な計画ばっかり考えるよね」

果林「そうかしら?」

愛「今回だって、歩夢がラクライたち撃退しきれなかったらどうするつもりだったん? エマっちも無事じゃ済まなかったかもよ?」

果林「そのときは私がエマを助けに行っただけよ」

愛「うわ……マッチポンプだ。失敗しても、エマっちの好感度が稼げると……」

果林「好感度が稼げるって……別にそんなんじゃないわよ」

愛「普段あれだけイチャイチャしてるのに、よくそんなこと言えるね」

果林「イチャ……/// ……し、してないわよ! エマが勝手に世話を焼きに来てるだけ」

愛「まー私は別にいいんだけどさー。この間、姫乃が怒ってたよ?」

果林「え? 姫乃が……?」

愛「『最近、あの現地人と距離が近すぎる~』って」

果林「…………」


姫乃の目から見ると、そう見えるのかしら……。


果林「と、とにかく……エマとはそんなんじゃないから」

愛「へいへい、そんじゃそういうことでいいよー」


愛は適当に返事をすると、席に座って端末を弄り始める。


果林「本当に違うのに……まあ、いいけど」


全く、私が現地の人間にそんなに肩入れするはずないのに。

だって、私たちには──譲ることのできない目的があるのだから。

目的達成の邪魔になるのだったら……もし、その相手が例えエマであっても私は……。


果林「…………」


思わず、ぎゅっと胸の前で拳を握る。


果林「……何を犠牲にしてでも……やり遂げるわ……」


一人、そう呟くのだった。


………………
…………
……
👠

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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■Chapter020 『ロトム 前編』 【SIDE Shizuku】





かすみ「風が気持ちいい~♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、あんまり身を乗り出して、落ちないでよ?」

かすみ「平気平気~♪」
 「ガゥ♪」


甲板で風を受けながらご機嫌な様子のかすみさん。

今、私たちはアワシマに向かう連絡船に乗っている真っ最中だ。


かすみ「それにしても、しず子……あの島に何か用事でもあるの?」

しずく「うん……まあ」

 「ロト…」

しずく「逃げないでください」


 そろりそろりと逃げ出そうとするロトムを掴んで引き戻す。


 「しずくちゃん、ホントに行きたくないロト」

しずく「はぁ……いい加減、観念してください」


往生際の悪いロトムの様子に、思わず天を仰いでしまう。

仰いだ空には、とっくに南中高度を通り過ぎた太陽が見える。


しずく「本当は朝から向かうつもりだったんだけどなぁ……」


気付けば、もうすっかりお昼過ぎだ。


しずく「どこかの誰かが寝坊するから……」

かすみ「し、仕方ないじゃん! 疲れてたんだもん……」


まあ、確かに昨日は朝から船でフソウを出て、お昼にホシゾラシティでスボミーの騒動。その後、ウチウラシティでジム戦を行うという、かなり忙しない一日だったし、疲労があったのも致し方ない。

お昼前にやっと起きだしてきたかすみさんと共に、泊めて貰っていたルビィさんの家を後にし、アワシマ行きの船に乗り込んだ。

そして、この船に乗るまでも、度々逃げようとするロトムを捕まえていたせいで、すっかり遅くなってしまった。

……とにもかくにも、これでようやくロトムのことについては片が付きそうだ。


 「……ロト」




    💧    💧    💧





アワシマは大きな島ではないため、目的地は自然と限られてくる。

もちろん、私たちの行き先はアワシマにあるオハラ研究所だ。


かすみ「わー……立派な研究所……。ここに用事があるの?」
 「ガゥ?」

しずく「うん。行きますよ、ロトム」

 「…ロト」


ロトムをひっつかんだまま、研究所のドアを押し開ける。


しずく「し、失礼します……」


所内に入ると、ヨハネ博士の研究所でも見たような機材たちが所狭しと並んでいる。まさかに研究室らしい様相の室内だ。

さらにそこでは、


 「ブイブイ~」「ハニー」「ピカ?」


ポケモンたちが元気に走り回っていた。


かすみ「わ、可愛い~♪ 研究所の人は誰もいないんですかね?」

しずく「うーん……奥の部屋にいるのかな……?」


ダイヤさんの言っていたとおり、ここにこのロトムのことを知っている人がいるなら、それは十中八九この研究所の主である──オハラ博士だろう。

研究所のエントランスまでは一般開放だろうけど、さすがに奥は勝手に立ち入るわけにもいかない。

誰か取り次いでくれる人でもいればと思い、室内を見回していると、


 「ポリ」


1匹のポケモンがこちらをジッと見つめていた。


かすみ「なんかこっち見てるよ?」

しずく「あのポケモンは……ポリゴンですね」

 「…あのポリゴンが通信で来客を中に教えるロト。すぐに案内の人間が来るロト」

しずく「……! やはり、貴方……ここを知っているんですね」

 「…ロト」


程なくして、ロトムの言うとおり、部屋の奥の扉が開いて、


使用人「──お待たせいたしました」

かすみ「わっ! メイドさん!? かすみん、本物は初めて見ました!」


いかにも、メイドさんのような姿をした人が顔を出す。

メイドさんは入室と共に、恭しく頭を下げたあと、こちらに顔を向けて、


使用人「あら……?」


私たちの方を見て、目を丸くした。


 「…ロト」


それと同時にロトムが私の後ろに隠れる。

恐らく……ロトムに反応したのだろう。


しずく「あの……オハラ博士にお話がありまして……」

使用人「……そちらのポケモンについてですね。かしこまりました。こちらへ」


皆まで説明するまでもなく、奥に通してもらえる。

……やはり、このロトムは……。


しずく「行きましょうか」

 「…ロト」


ここまで来ると観念したのか、ロトムは逃げることなく、大人しく後ろを付いてくる。

メイドさんに案内され、奥の部屋の扉の前に辿り着くと、


使用人「こちらが、博士の研究室です」


メイドさんはそう説明しながら、扉をノックする。


女性の声『──入っていいわよ』


扉の奥から声が返ってきたのを確認すると、メイドさんは、


使用人「失礼します」


と言いながら、戸を開ける。すると中では金髪の女性が机に向かって何かの作業をしている真っ最中だった。


使用人「博士、お客様です」

女性「お客……? 特に約束はなかった気がするけど……」


そう言いながら振り返ったこの研究所の主──オハラ・鞠莉博士は私たちを見て、首を傾げた。


鞠莉「あら……あなたたちは確か……善子のところから旅立った子……よね?」

かすみ「かすみんたちのこと知ってるんですか!?」

鞠莉「ええ、簡単に教えてもらった程度だけど……。……あ、わたしは鞠莉。このオハラ研究所の所長よ」

しずく「私はしずくと言います。実は、オハラ博士に……」

鞠莉「ふふ、オハラ博士なんて堅苦しい呼び方しなくて大丈夫よ。マリーって呼んで?」

しずく「えっと……それじゃ──鞠莉博士にお聞きしたいことがあって……」

鞠莉「なにかしら?」

しずく「……出てきてください」


私が背後に声を掛けると、


 「…ロト」


ロトムが言われたとおり、前に出てくる。


鞠莉「……!? ロトム!? あなたどこに行ってたのよ!?」

 「…ロト」

しずく「やはり……鞠莉博士のポケモンでしたか……」

かすみ「え? なになに? どーいうこと? ロトムってしず子のポケモンじゃなかったの?」


そういえば、かすみさんに説明するのをすっかり忘れていた。


鞠莉「……はぁ、ごめんなさい。しずく……だったわね? どこでこの子を?」

しずく「フソウ島の自動販売機で見つけました。ポケモンセンターで聞いたら、既に持ち主がいるとのことだったので……」

鞠莉「そうだったのね……。……ごめんなさい。わたしの手持ちが迷惑を掛けたみたいね」

しずく「いえ……持ち主のもとへ送り届けることが出来て何よりです」

鞠莉「ロトムのせいで何か困ったこととかなかった?」

しずく「あ、えっと……実は最初、ロトムと戦闘になって……そのときにポケギアが……」

鞠莉「なるほど……そういうことなら、ポケギアは弁償させてもらうわ。すぐ手配するから」

しずく「え!? そ、そこまでしていただかなくても……!」

鞠莉「いいえ、こんなんでもわたしのポケモンだから。責任は取らせて」


そんな鞠莉博士の言葉を受けてか、


 「ボ、ボクはしずくちゃんの手持ちロト」


ロトムがそんなことを言い出した。


しずく「は、はい……?」

 「ボクはもうしずくちゃんの手持ちロト!! マリーの手持ちには戻らないロト!!」

しずく「いや、えっと……」

鞠莉「ロトム。バカなこと言ってないで……」

 「しずくちゃんもボクが手持ちから抜けたら、すごく戦力が落ちるロト!!」

しずく「えぇっと……」


まあ、確かにレベルだけ見るなら、ロトムは群を抜いて高いけど……戦闘にはほぼ使っていなかったし……。


鞠莉「たぶん、その心配はないと思うわよ」

 「ロト…?」

鞠莉「しずくの手持ちから、強いエネルギー反応があるから」

しずく「え?」

鞠莉「さっきから、ここの機器が反応しているわ」


確かに鞠莉博士の目の前の機械が何やらランプを点滅させている。さらに──腰につけたボールが2つ。僅かにブルブルと震えていることに気付く。

メッソンとココガラのボールだ。

2匹をボールから出してみると、


 「メ、メソ…」「ピィィィ…」


2匹はブルブルと身を震わせながら、目を瞑っていた。


しずく「メッソン、ココガラ……どうしたの……?」


目線を合わせようと、腰をかがめた瞬間──2匹はカッと眩い光を放ち始めた。


しずく「!?」

かすみ「こ、これって、キモリのときと同じ……!?」

しずく「進化の……光……!!」


進化の光に包まれたメッソンとココガラは──


 「──ジメ…」「──カァァァ!!!」

しずく「進化した……!」

鞠莉「経験値が溜まっていたのかもしれないわね。メッソンはジメレオンに、ココガラはアオガラスに進化したわ」

しずく「ど、どうしてわかったんですか!?」

鞠莉「この研究所はポケモンの道具や、それに関連した進化の研究をしているからね~。ちょうどこのマシンが進化のエネルギーを観測検知するためのものなのよ」

しずく「な、なるほど……!」

鞠莉「見たとおり、しずくはトレーナーとしてちゃんと成長している。ロトム、あなたの出る幕はないんじゃないかしら?」

 「ぐ、ぬぬぬ…ロト」

鞠莉「意地張ってないで戻ってきなさい。いつまでもヒトサマに迷惑かけるんじゃありまセーン」

 「絶対にイヤロトーーー!!!!」


ロトムは大きな声をあげると共に、“でんきショック”で周囲に火花を散らせる。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? 危ないじゃん!?」
 「ガゥガゥ!!!」

鞠莉「っ!? や、やめなさい、ロトム!?」


ロトムは放電しまくりながら、暴れまわったあと、


 「出て行けって言ったのはそっちロト!!!! 絶対マリーのところになんか戻ってやらないロトーーー!!!!」


そう捲し立て、室内から飛び出して行ってしまった。


鞠莉「ああ、もう……二人とも大丈夫?」

かすみ「は、はいぃ……なんともないですぅ……」
 「ガゥ」

しずく「…………」

鞠莉「しずく?」

しずく「え? あ、はい、なんともありません」

鞠莉「そう? ならいいけど……いや、良くはないか。……全くロトムにも困ったものね」

かすみ「というか、しず子なんであんなにバチバチしてたのに平然としてられるの……?」


かすみさんが電撃に驚いて身を屈めている間──私は立ち尽くしていた。

何故なら──ロトムは誰も狙っていなかったから。


しずく「…………」

鞠莉「ごめんなさい。昔から“なまいき”な子で……。あのボディ、しずくの図鑑よね?」

しずく「あ……はい」


そういえば、まだ自分の図鑑に入ったままだったことを言われて思い出す。


鞠莉「あとで捕まえて図鑑から追い出すから……それまでは待っててもらえるかしら? ……お詫びと言ってはなんだけど、研究所内を好きに見てもらっていて構わないから」

かすみ「え、いいんですか!?」

しずく「すぐにロトムを追いかけないんですか?」

鞠莉「ちょっと、手が離せないことをやってる最中でね……。これが終わったらすぐに向かうから。本当にごめんなさい」

しずく「あ、いえ……! むしろ、そんな忙しいときにすみませんでした」


私はペコリと頭を下げる。


しずく「それでは……少しの間、研究所内を見学させてもらいますね」

鞠莉「ええ。何かあったら、所内にいる使用人に言ってくれればいいから」

しずく「わかりました。かすみさん、行こ」

かすみ「うん! この研究所、入り口だけでも可愛いポケモンがいっぱいいたから、見て回るの楽しみかも~♪ 行こ、ゾロア!」
 「ガゥガゥ♪」


私はジメレオンとアオガラスをボールに戻しながら、鞠莉博士の部屋を後にする。


かすみ「さて……どこから見て回る?」


ノリノリなかすみさん。対して、私は、


しずく「……私は、ちょっとロトムを探してみるよ」


そう答える。


かすみ「え? でも、あとで博士が捕まえてくれるんでしょ?」

しずく「まあ、そうなんだけど……」


私はなんだか、ロトムの態度に少し引っかかりを感じていた。

……短い間とはいえ、一緒にいたから、情が湧いたというのもあるのかもしれない。


かすみ「何か気になるの?」

しずく「まあ、うん……ちょっと……だから、かすみさんは一人で見て回ってていいから──」

かすみ「なら、かすみんも一緒に探してあげる!」

しずく「え? いいの?」

かすみ「だって、気になるんでしょ? 二人で手分けして探した方がきっと早いし!」

しずく「かすみさん……ありがとう。それじゃ、お願いしていい?」

かすみ「任せて! 行くよー! ゾロア!」
 「ガゥガゥ!!」


かすみさんはゾロアと一緒に、元気よく駆け出して行った。

私もかすみさんに続くように、ロトムを探しにアワシマ内を歩き始める──




    💧    💧    💧





……が、結論から言うと、かすみさんの助力はそこまで必要がなかった。

研究所から外に出て、真っ直ぐ行ったところにある浜辺に、


 「……ロト」


ロトムはいた。

ただ、かすみさんの姿は見えないので、恐らく今頃、違う場所を駆け回っているんだと思う。


しずく「ロトム」

 「ロト…しずくちゃん…」

しずく「本当に鞠莉さんのところには戻らないつもりなんですか?」

 「さ、最初からそう言ってるロト…!! 絶対に戻ってなんかやらないロト…!!」

しずく「なら、どうして──アワシマまで付いてきたんですか?」

 「ロ、ロト…!? だ、だって嫌がるボクをここまで連れて来たのはしずくちゃんロトよ!?」

しずく「……貴方が本気で抵抗したら、逃げるのなんて訳なかったんじゃないですか?」

 「……ロト」

しずく「でも、貴方は逃げませんでした」

 「……」


正直、途中から薄々気付いていたことだけど……ロトムは口で言うほど、“おや”のもとに戻ることにあまり抵抗していなかった。

私はいつでもどこでもロトムを捕まえられるような準備が出来ていたわけではないし、ロトムが本気で抵抗してきたら、恐らく私にもかすみさんにも止めることは出来なかっただろう。


しずく「本当は──鞠莉さんのところに戻りたいんじゃないんですか?」

 「……う」

しずく「う?」

 「う、うるさいロトーーー!!! ボクは絶対に戻らないロトーーー!!!!」


ロトムはそう大声をあげながら、海の上をピューンと飛び去って行ってしまった。


しずく「ロトム……」


どうして、あそこまで頑ななんだろうか。

『本当は戻りたい』というのは、そこまで外していない気がするのに……。

うーんと一人で考えていると──


 「ガゥガゥ!!!」
かすみ「こっちから、声が聞こえました!! ……って、しず子じゃん」

しずく「かすみさん……」


声を聞きつけたかすみさんが、こちらに駆けつけてくる。


かすみ「ロトム、こっちにいなかった!? 今、ロトムの声が聞こえたんだけど!」

しずく「ああ、うん。海の方に飛んでいっちゃった」

かすみ「ええ!? しず子、捕まえるんじゃなかったの?」

しずく「うーん……強引に捕まえたいわけじゃないんだよね……」

かすみ「……? どゆこと?」


結局のところ、無理やり鞠莉さんのもとに戻されても、根本的な問題が解決していない気がする。

たぶん……ロトムは戻りたいと思っている気がする。だけど、それを頑なに拒否している理由がわからないとどうにもならないような……。

再び、考え出した矢先、


かすみ「──ひ、ひぃぃ!? な、なんか出てきた!?」

しずく「……え?」


かすみさんが急に悲鳴をあげ、私の腕にすがるようにしながら、海の方を指さす。釣られて、私も海の方に目を向けると──何かが海の中から這い出て来るではないか。


しずく「あれ……人……?」

かすみ「え……? 人……?」


かすみさんは目をぱちくりとさせながら、改めてその人影に目を向ける。


かすみ「……ホントだ……女の人だ」


冷静に見てみればなんてことはない。そこにいたのは、ウェットスーツを身に纏った女性だった。

紺碧のポニーテールから水をしたたらせながら、陸に上がってくる。


女の人「あれ……? もしかして、お客さん? 珍しいね、こんなところに……?」

しずく「えっと……私たち、鞠莉博士に……なんというか、ポケモンを届けにきたというか……」

女の人「鞠莉に? ……あ、もしかしてロトム?」

しずく「は、はい」

女の人「さっき、ロトムっぽい声が聞こえた気がして上がってきたんだけど……気のせいじゃなかったんだね」


どうやら、この女の人はある程度事情を知っている人らしい。


女の人「それで、これから鞠莉のところに行く感じ?」

しずく「いえ……博士とはさっきお会いしたんですが……」

女の人「? ……ってことは、結局また仲直り出来ずに逃げ出したってこと……? はぁ……相変わらずだなぁ……」

かすみ「相変わらず? じゃあ、あのロトムってよく脱走してたんですか?」

女の人「割と頻繁にね。……今回ほど、長くいなかったのは初めてだったんだけどさ」

しずく「鞠莉博士やロトムのことに詳しいんですね」

女の人「まあね。もうかれこれ10年以上の付き合いだから……鞠莉とも、ロトムともね」


博士やロトムと旧知の仲。この人だったら……もっと詳しい事情を知っているかもしれない。


しずく「あの……よかったら、ロトムのこと、詳しく教えてもらえませんか……?」

女の人「詳しく? それは別に構わないけど……よかったら、先に名前を教えてもらえるかな?」

しずく「あ、すみません……私はしずくと言います」

かすみ「かすみんはかすみんです!」

女の人「しずくちゃんと……かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」


女性は首を傾げる。


かすみ「かすみんはかすみんです!! かすみんちゃんじゃありません!!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「えっと……この子の名前はかすみさんです……」

女の人「ああ、そういうあだ名ね。了解」

かすみ「あだ名じゃなくて愛称……まあいいや」

果南「私は果南。ここで海洋調査をしてるんだ」

かすみ「研究所の人ですか? ……じゃあ、博士の助手ってこと?」

果南「助手……とはちょっと違うかな。鞠莉みたいな研究目的の調査とはちょっと違うというか……まあ、趣味みたいなもんかな?」

かすみ「へー……いろんな趣味があるんですね」

しずく「それで、果南さん……ロトムのことなんですけど」

果南「ああ、そうだったね。何が聞きたいの?」

しずく「どうして、ロトムは……ここを飛び出して行ってしまったんですか?」

果南「鞠莉とケンカしたんだよ。えっとね……」


果南さんは事の顛末を話し始めた。



──────
────
──


鞠莉「──ロトム!! あなたなんてことしてくれたの!?」


怒声が研究所内に響き渡ってきて、私は「またか」と思いながら、手を止めて、鞠莉の研究室に赴く。

鞠莉の研究室のドアを開けると同時に、


 「!! 果南ちゃん助けてロトーー」


ロトムが飛び付いてくる。


果南「おとと……鞠莉、またやってんの……?」


ロトムを受け止めながら、溜め息混じりに言うと、


鞠莉「今度という今度は許さないわ……! 果南、ロトムをこっちに渡して!!」


鞠莉は肩を怒らせながら、こちらに迫ってくる。


果南「何があったのさ……」

鞠莉「ロトムが環境再現装置の電力を勝手に食べちゃったのよ!! お陰で半年掛けた研究が一瞬でパーよ!」

果南「……なるほどね」


確かに、ここしばらく鞠莉はこの研究に付きっ切りだったし、怒るのもわからなくはない。


果南「ロトム、どうしてそんなことしたの?」

 「ロト…」

鞠莉「どうせ、ロクな理由じゃないわよ! いつものしょーもないイタズラに決まってるわ!」

果南「鞠莉、決めつけるのは……」

 「…そんなんだから、善子ちゃんも花丸ちゃんも研究所を辞めちゃうんだロト」

鞠莉「んなっ!? ひ、人が気にしていることを……!!」

 「優しくしないとボクもいなくなっちゃうロト」

鞠莉「別にいいわよ! むしろ、いない方が研究が捗って清々するわ!」

 「!? それでも“おや”ロト!?」

鞠莉「そんなに嫌なら、好きに出ていきなさいよ!」

 「い、言ったロトね~!? もうマリーなんて知らないロト!!」

鞠莉「でも、出ていくなら図鑑ボディは置いていきなさいね? それはあなたのものじゃないから」

 「上等ロト!!! こんなマリーのチューンしたポンコツボディ、こっちから願い下げロト!!!」

鞠莉「はぁ~!?」

 「マリーのバーカバーカ、ボクがいなくなって寂しくなっても知らないロトからね~!!」


ロトムは捨て台詞を残し、図鑑ボディーから飛び出して、研究所を飛び出していった。


果南「はぁ……鞠莉、これ何回目……?」

鞠莉「……知らない」

果南「いいの? ロトム、どっか行っちゃったよ?」

鞠莉「どうせ、半日くらいしか持たないわよ。根性無しなんだから」

果南「まぁ、別にいいけどさ……」

鞠莉「……しばらく、外で頭を冷やせばいいのよ!」


──
────
──────



果南「ってことがあって……」

しずく「それでフソウまで……」


海を渡っての移動だから、結構時間も掛かっただろう。

だから、空腹を満たすために、自販機で電気を食べていたわけだ。

そして、それを邪魔しようとした私に襲い掛かってきた、と……。


果南「ただ、鞠莉も言い過ぎたって反省はしててさ。むしろ、何日も戻ってこないから心配してたんだよ。迷子ポケモンとして届け出を出すか迷ってるくらいだったし」

かすみ「そう考えると鞠莉博士は優しいですねぇ。かすみんだったら半年も頑張ったことを台無しにされたら、絶対に許せませんよ!」

しずく「かすみさんがそれ言うの……?」


イタズラ常習犯で年がら年中叱られていたのに……。


果南「まあ……あれで、鞠莉はロトムに甘いところもあるから」

かすみ「そうなんですか?」

果南「何せ、あのロトムは鞠莉にとっての初めてのポケモンだからね」

しずく「初めてのポケモン……」


私にとってのマネネ、かすみさんにとってのゾロアと同じような、昔からの友達のポケモンということらしい。


果南「ただ、最近はケンカしてばっかだったからね。……付き合いが長すぎて逆にって感じかな。昔はロトムと一緒にイタズラしてばっかりで、鞠莉のご両親も手を焼いてたくらいなのになぁ……」

かすみ「え、鞠莉博士も、一緒にイタズラしてたんですか!?」

果南「そりゃもう……イタズラのスケールがデカすぎて、ダイヤなんかよく泣かされてて……。っと……これはダイヤから言うなって言われてたんだった。今のなしで」

しずく「昔は本当に仲良しだったんですね」

果南「うん。名コンビって感じだったよ」

かすみ「大人になって、だんだん考えが合わなくなっちゃったんですかねぇ……」

果南「ロトム自体ゴーストタイプだし、人を驚かせたり、イタズラするのが好きなところがあるからね。感性は子供の頃の方が近かったのかもしれないなぁ」

しずく「……」


私は思わず、腰につけたマネネのボールに触れる。

マネネも人の真似をしたがる、少し子供っぽい、種族の気質がある。

そして、かすみさんも同様、


かすみ「? どしたの、しず子? かすみんの顔見つめて?」
 「ガゥ?」


ゾロアもイタズラ好きの子供のような気質だ。

私たちも大人になるにつれて、相棒たちと気持ちが離れて行ったりしてしまうのだろうか。

それは少し……いや、すごく寂しいことのような気がする。


しずく「どうにか……してあげられないかな」


少なくとも、本人たちの価値観がすれ違っているだけで、決して仲違いがしたいわけじゃないだろうし……。


果南「まあ、人間とポケモンだと心の成長の仕方が違うってことなのかもね……」

かすみ「でも、あのロトム、人の言葉を喋りますよね?」

しずく「あのロトムがというか……機械に入ったロトムは人の言葉を喋ることが出来るだけだよ、かすみさん」


ガラルに1度でも行ったことがあればわかることだけど、あの地方ではあちこちでロトムが生活をサポートしていて、喋る姿を見ることが出来る。

だから、あのロトムが喋ることもそこまで不思議なことではないはず。


果南「いや、鞠莉のロトムは特別だよ」

しずく「え?」

果南「ガラルとかで喋るロトムやロトミは、機械側にロトムの言葉を翻訳するプログラムが組み込まれてるらしいんだ。だけど、鞠莉のロトムはそういうプログラムを介さずに人の言葉を喋れる」

しずく「つまり、人の言葉を正確に理解してる……?」

果南「そういうこと。だから、図鑑ボディじゃなくても、音声の出せる機械ならどれに入っても喋れるんだよ」


……確かに、考えてみれば自動販売機やポケギアに、ロトムのための翻訳プログラムが組み込まれているとは考えにくい。

あまりに自然に喋るから勝手にそういうものなんだと思い込んでいたけど……どうやら、あのロトムは機械音声をちゃんと考え、人の言葉に組み立てて喋っていたということだ。


かすみ「もしかして……あのロトムって、めちゃくちゃすごい?」

果南「少なくとも、普通のロトムとは、ちょっと違うかな」


人の言葉を解すポケモンは確かに存在する。ラプラスなんかは有名だし、それこそロトムも人の生活に密接故、頭の良いポケモンに数えられるだろう。

とはいえ、人語を完全に理解するのは普通のことじゃない。

人間だって、外国の言葉を習得するには、大変な労力が必要なわけで……。

どう考えたって、ロトムは最初から人の言葉がわかっていたわけじゃないだろうし、それはつまり──自らの力で習得したということだ。

多大な労力を払って。


しずく「どうして、そこまでして……」


ポケモンがそこまでする理由が私にはピンと来なかったけど、


かすみ「え? そんなの簡単じゃない?」


逆にかすみさんはすぐに理解出来たようだった。


かすみ「そんなの、人とお話ししたかったからに決まってるじゃん!」

しずく「……確かに」


そのお話ししたかった人って……どう考えても、


しずく「鞠莉博士と……お話しするために……」

果南「……そうだね」


鞠莉さんのために種族の壁を超えて、人の言葉を覚えたロトム。

そんな絆を持った人とポケモンが、すれ違ってしまうのは……有り体に言えば、なんだか嫌だった。


しずく「果南さん」

果南「ん?」

しずく「もう少し……詳しく教えてもらえませんか。ロトムと……鞠莉博士のこと」

果南「……そうだなぁ。それじゃ、鞠莉とロトムの出会いのこと、話すね。私も鞠莉から聞いたことまでしかわからないけど……──」





    💧    💧    💧





果南「──……ってわけで、ロトムは鞠莉のポケモンになったんだ」

かすみ「……なんだか、すごくドラマチックな話だった」

しずく「うん……」


果南さんから聞いた話は、鞠莉博士とロトムの結びつきを確かに感じられる素敵なお話だった。


かすみ「なんか、こんな話聞いちゃったら……かすみんも鞠莉博士とロトムに仲直りして欲しいって思っちゃいます……」

果南「まあね……。心の奥では、お互いのことを大事に想ってるのは間違いないんだよね」

かすみ「昔のことすぎて、忘れちゃったんでしょうか……」

果南「そうかもね……出来事としては覚えていても、気持ちはあのときと比べて薄れちゃったのかもね」


なんだか、それもわかる気がした。

小さい頃大好きで毎日抱きしめて寝ていたぬいぐるみも、気付けばベッドの隅にあるインテリアになってしまったり。

大好きで一生遊んでいたいと思っていたおもちゃも、気付けば倉庫の中。

成長していく過程で、いろんなものを見て、知って、子供の頃、一番大切だったものよりも、さらに大切なものが見つかったり、好きなものが増えて、相対的に価値が薄まって行ったり……。

それは寂しいことであると同時に、成長しているということ。やむを得ず、そしてありふれた当たり前のこと。


しずく「…………」


でも、確かにあったことなんだ。ロトムと鞠莉博士の間には。確かにあった出来事で、大切な思い出で、大切な絆のはず。

だから、


しずく「……忘れないで欲しい」

かすみ「しず子……」

果南「そうだね。……でも、人は忘れる生き物だからさ」

しずく「なら……思い出させてあげましょう」

果南「え?」

かすみ「思い出させる……?」

しずく「ロトムにも、鞠莉博士にも、そのときの気持ちを思い出してもらいましょう。私に考えがあります」


私は二人に耳打ちをする。


果南「……なるほど」

かすみ「しず子らしいね! いいと思う!」

しずく「ただ、お二人にも協力していただくことになってしまいますが……」

かすみ「もう! 何、水臭いこと言ってんの! かすみんとしず子の仲でしょ?」

果南「ま、世話の掛かる幼馴染のためだからね。いいよ、私も協力するよ」

しずく「ありがとうございます! それと──ゾロアも協力してね?」

 「ガゥ?」


私はロトムと鞠莉博士のために、あることを実行するための準備を始める。





    💧    💧    💧





──その晩。


しずく「すみません果南さん……お家に泊めていただいてしまって」

果南「いいっていいって。アワシマって、鞠莉の研究所か私の家くらいしか寝泊まり出来る場所もないしさ」

しずく「ありがとうございます。お陰で集中して作業が出来そうです……!」


そんなに時間の余裕がないので、集中して早めに終わらせてしまいたい。


かすみ「しず子、何か手伝えることある?」

しずく「うぅん、大丈夫だよ。かすみさんは先に寝ちゃってて?」

かすみ「でも……」

しずく「むしろ、明日は朝早くから覚えてもらうことになるから……早めに寝ちゃった方がいいと思う」

かすみ「……わかった。それじゃ、先に寝るね」

しずく「うん、おやすみ。かすみさん」

かすみ「おやすみ、しず子。ゾロア、行くよ」
 「ガゥ」


かすみさんが寝室に行くのを見送る。


果南「それじゃ、私も先に寝ようかな……しずくちゃんもあんまり遅くならないようにね」

しずく「はい。私も早めに終わらせて、すぐに寝るので」

果南「ん、そっか。おやすみなさい」

しずく「おやすみなさい」


果南さんも部屋を出ていき、残ったのは私一人。


しずく「よし……やるぞ」


気合いを入れて、机に向かおうとすると、


 「マネマネ!」


マネネが、ぴょんぴょんと跳ねながら机によじ登ってくる。


しずく「マネネ?」
 「マネマネ」


マネネは、机に転がっていたペンを持つと、小さな体でノートの端に線を書き始める。

恐らく私の真似をしているんだろう。


しずく「ありがとう、マネネ。手伝ってくれるんだね♪」
 「マネ♪」


お礼を言いながら頭を撫でてあげると、マネネはご機嫌な様子。

ニコニコ笑うマネネを見ていると、それだけで心がほっこりとする。

大好きなポケモンと何気なく触れ合う時間。この時間は失くしたくない。

もしかしたら私も、大人になったら……この気持ちを忘れてしまうのかもしれないけど……。


しずく「もし忘れちゃうんだとしても……思い出して欲しいよね」
 「マネ?」

しずく「うぅん、なんでもない」
 「マネ」


そのためにも、絶対に成功させなくちゃ……!

私は胸中で意気込んで、再び机に向かうのだった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アワシマ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.17 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.16 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.15 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:103匹 捕まえた数:7匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.17 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.17 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.14 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.16 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:6匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




ポケモンSV発売記念
▽過去の自分を取り戻す生放送。

『ポケモンプラチナ金ネジキ
世界記録91連勝/一発勝負配信』
(18:31~放送開始)

https://youtube.com/watch?v=Rf8uZtijqzo

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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■Chapter021 『ロトム 後編』 【SIDE Shizuku】





──翌日。時刻はお昼過ぎ。場所はアワシマ島内の浜辺。

ちょうど今、目の前でかすみさんが果南さんとポケギアで連絡を取り合っている真っ最中。


かすみ「しず子! 鞠莉博士は果南先輩が連れてきてくれるって!」

しずく「そっか、よかった……それじゃ、あとは私たちがロトムを見つけるだけだね」


こちらの準備は整った。あとは、ロトムを見つけるだけだが……当のロトムがなかなか見つからない。


かすみ「さっきから、島中歩き回ってるのに全然見つからないぃ……」

しずく「島はひととおり見て回ったし……外にはいないのかな……」

かすみ「もし海の上とかだったらどうしようもないよぉ……」

しずく「うーん……ずっと飛んでるのも疲れるだろうから、海の上ではないと思いたいけど……」

かすみ「ねぇ~……しず子~……ロトムの電波をビビビッとキャッチできる道具とかないの~……?」

しずく「そんなものがあったらとっくに使って……。……あれ、そういえば……?」

かすみ「え、ホントにあるの……?」


よくよく考えてみれば、ロトムは今……私のポケモン図鑑に入っているから……。


しずく「かすみさんの図鑑で位置を調べられるんじゃ……」

かすみ「……あ! 言われてみればそうじゃん!」

しずく「なんか、前にもこんなことあったよね……」

かすみ「あ、あのときは知らなかっただけだもん!」


忘れていた今回は尚悪いような気もするけど……。まあ、忘れていた私も、人のことは言えないかな……。


かすみ「あ、結果出たよ! しず子!」

しずく「どこにいるかわかった?」

かすみ「えっと……ここ」


言いながら、かすみさんが図鑑の画面を見せてくる。

場所は──研究所の中だった。


かすみ「って、ロトム研究所内に戻ってるじゃん!?」

しずく「……でも、ずいぶん奥まった場所だね」

かすみ「とりあえず、行ってみよ!」

しずく「うん、そうだね」


私たちは地図の表示に従って移動を開始した。




    💧    💧    💧





──辿り着いたそこは、研究所の地下の部屋。


しずく「ここ……倉庫かな……?」

かすみ「うぅ……埃臭い……」
 「ガゥゥ…」


いかにもな様相の倉庫だった。

長いこと人が訪れていないのだろうか、置かれているものは埃を被っている。

その中に、


 「…ロト」


ロトムはいた。大きな埃を被ったテレビの前で、止まったまま浮いていた。


しずく「ロトム、ここにいたんですね」

 「しずくちゃん…」

しずく「そのテレビ……もしかして……鞠莉博士と初めて出会ったときのテレビですか?」

 「? どうして、しずくちゃんがそのことを…?」


やっぱり、ロトムは……鞠莉博士のことを今でも……。

なら、尚更だ。


しずく「ロトム。来てください」

 「ロト…ボクは戻るのは…」

しずく「いいから。見せたいものがあるんです」

 「ロト…?」





    💧    💧    💧





ロトムを引き連れて、私たちは果南さんの家に戻ってきた。


果南「しずくちゃん。待ってたよ、ロトムは?」

しずく「はい、ここに」

 「ロ、ロト…果南ちゃん…」

果南「ロトム、中に入って待っててくれる?」

 「ロト…」


急な展開にロトムが動揺しているのがわかったけど、


しずく「ロトム。お願いします」


私がお願いすると、


 「…わかったロト」


ロトムはそれ以上は何も言わず、中に入ってくれた。


果南「これで、準備は完了だね。……ごめんね、広い屋内ってここくらいしか用意できなくて」

しずく「いえ、十分です。──演じることは身一つあれば出来ますから。かすみさん、準備はいい?」

かすみ「もちろん! ゾロアも準備万端!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「それでは──オウサカ劇場……開演です!」





    ✨    ✨    ✨





鞠莉「……さて、何が始まるのかしら」


果南に割と強引に連れてこられて、待つこと数十分。

今、私が待たされている薄暗いコンテナ倉庫の中は、いつもの水上バイクやら小型船舶が運び出されて、随分と広々としている。

そこに簡素なパイプ椅子が2つ置かれていた。恐らく座って待っていろということだと思ったので、黙って座って待っているけど……。


鞠莉「いい加減、研究に戻りたいんだけど……」


そんな中、コンテナの入り口の方から──


 「…マ、マリー…」

鞠莉「……ロトム」


ロトムが中に入ってきた。

なるほど……何かはわからないけど、わたしとロトムに何かを見せたいらしい。


 「…ロト」

鞠莉「……ふよふよ浮いてないで、そこの椅子に降りたら?」

 「ロト…」

鞠莉「わたしたち……これから、何か見せられるみたいだから」

 「ロト…?」


困惑しながらも、ロトムが私の隣のパイプ椅子に図鑑ボディのまま降り立つ。

程なくして──急に目の前で強い光が点灯する。


鞠莉「まぶし……」


目を慣らしながら、ゆっくりとその光の方を見ると──


しずく「…………」

鞠莉「しずく……?」

 「しずくちゃん…?」


そこにはしずくが立っていた。

光は“スポットライト”を当てるように彼女を照らしていた。

光源を追って上を見てみると──


鞠莉「Lanturn...?」


ランターンが、まさに“スポットライト”でしずくを照らしているところだった。

そんな中、


しずく『──はぁ~ぁ……今日もこのおやしきの中ですごすのかぁ……』


しずくは急に大きな、通る声で喋り始めた。


しずく『毎日毎日……おやしきの中でたいくつ……。どうして、パパもママもわたしが外に出るのをゆるしてくれないのかしら』


これ……もしかして……演劇……?


しずく『まどの外には鳥ポケモンもいるけど……見てばっかりじゃ、やっぱりたいくつ……わたしも外であそびたい』
 『カァ~~カァ~~』


アオガラスがパタパタと飛んできて、屋内を軽く飛んだあと、捌けていく。


しずく『……でも、外に出たらおこられるしなぁ……。……はぁ、今日もおやしきの中をたんけんしようかな』


しずくはパントマイムをするように、ドアを開ける仕草をする。恐らく、登場人物は今部屋を出て、お屋敷の中を探検し始めたのだろう。

そして、そんなしずくの前に、


かすみ『お嬢さま~探検ですか~?』


メイド服に身を包んだかすみが現れて、声を掛ける。

……というか、あれ……わたしの使用人のメイド服じゃないかしら……。


しずく『うん。でも、もう2階も3階も4階も5階もたんけんしきっちゃったから……どこに行こうかな……』

かすみ『あとは~……地下階くらいですかね』

しずく『地下か~……うん、じゃあ今日は地下をたんけんしてみよ』

かすみ『いってらっしゃいませ。何かあったら呼んでくださいね』

しずく『うん。ありがとう』


しずくは再び歩き始める。程なくして、目的地にたどり着いたようだ。


しずく『ここが地下……何かおもしろそうなもの……あるといいな』


しずくは、ドアを開け、


しずく『うーん……なんにもないわね』


首を振りドアを閉め、他の部屋のドアを開けては、


しずく『ここにも……とくにおもしろそうなものはない』


また首を振って閉める。そんなことを何度か繰り返す。


しずく『……はぁ……ここには、わたしのたいくつをまぎらわしてくれるものは何もなさそう……』


心底がっかりしたような溜め息を吐きながら──次のドアを開く。

すると、


しずく『わ、なにここ……!』


急にしずくが目を輝かせる。それと同時に──何やらガラクタらしきものが、しずくの目の前に運ばれてくる。

コンテナ内の端の方に目をやると……暗がりの中に薄っすらプルリルの姿が見えた。恐らく、プルリルの“ポルターガイスト”だろう。


しずく『すごいすごい! いっぱいものが置いてある!』


しずくは無邪気に笑いながら、ガラクタたちを手に取って、眺め始める。

手に取って、じーっと見つめたあと、首を傾げたかと思うと、それを置いて今度は別の物を手に取る。

そしてまた手に取った物に飽きたら、次の物を手に持ち、興味深そうに眺める。

そんな中で、


しずく『……! なにこれなにこれ!』


──ガラクタの中に、何かを見つけた。

しずくの台詞と共に──周囲のガラクタが、サーっと捌けて、“スポットライト”が彼女とその何かを照らす。


鞠莉「え……」

 「ロ、ロト…!?」


あれは──


しずく『もしかして……テレビ……かな? でも、すっごくおっきい……』


それは大きな大きなブラウン管のテレビ。ただ、そのテレビには見覚えがあった。

今でも研究所の倉庫にあるはずの……テレビ。


しずく『お部屋のテレビはもっと薄かったけど……後ろに何か入ってるのかな?』


しずくは画面を手で払ってみたり、軽く叩いたりしている。

すると次の瞬間──画面がブンと点き、


 『ロトロトトトトト!!!!!!』


甲高い鳴き声と共に──画面から激しい光が漏れ、甲高い鳴き声の中に耳障りな雑音が流れ出し、さらに周囲にバチバチと“でんきショック”が走る。

普通の子供だったら……いや、大人でも驚くような光景の中、しずくは──


しずく『わぁ♪ なにこれなにこれ!! すごいすごい!!』


大喜びしていた。


しずく『これ、あなたがやってるの!?』

 『ロト…??』

しずく『もしかして、あなた……ポケモン!?』

 『ロトロトト』

しずく『えっと……なに言ってるのかよくわかんないけど、きっとポケモンなのよね!』

 『ロト? ロトト?』

しずく『わたしね、ポケモンとお話しするのはじめてなの!』

 『ロト』

しずく『あ……でも、わたしがポケモンとお話ししてるって、パパやママがしったら……おこられちゃうかな。もしかしたら、おいだしちゃうかも……』


しずくが心配そうに言っている場所に──


かすみ『お嬢さま~? 今何か大きな音がしましたけど……』


少し離れた場所から、かすみが声を掛ける。


しずく『わ……! い、いけない……かくれてかくれて!』

 『ロト?』

しずく『見つかったらおこられちゃうから! おねがい!』

 『ロト』


しずくがそう言うと共に、テレビの光が消え、それと同時にかすみがしずくのもとに駆け寄ってくる。


かすみ『お嬢さま? 先ほどこちらから大きな音がしましたが……』

しずく『ごめんなさい、ちょっとつんであったものをくずしちゃって……』

かすみ『え、ええ!? お怪我はございませんか!?』

しずく『うん、だいじょうぶ、ありがとう。もんだいはないから、さがって平気よ』

かすみ『そ、そうですか……あまり危ないことはなさらないでくださいね』

しずく『はーい』


かすみが部屋から出ていくと。


しずく『もういいよ!』


しずくは再び、テレビに向かって話しかける。

すると、再びテレビの画面が映って、


 『ロト』


ポケモンが鳴き声をあげる。


しずく『言うこときいてくれて、ありがと! ポケモンさん!』

 『ロト』

しずく『あなたはそのテレビをあやつってるんだよね?』

 『ロト?』

しずく『もし、いやじゃなかったら……テレビからでてきて、あなたのすがたを見せてくれないかしら?』

 『ロト』

しずく『わたしね! あなたとおともだちになりたいの!』

 『ロト』


しずくの言葉を聞くと、ポケモンはそのテレビから──飛び出した。


 『ロト』


小さな丸い体にとんがった頭頂部を持ち、体の表面に薄緑色のオーラのようなものを纏った、オレンジ色のポケモン──ロトムだった。


しずく『それが、あなたのすがたなのね!』
 『ロト』

しずく『お名前はなんて言うの?』
 『ロト』

しずく『ロト? ……ロトって言うんだ!』
 『ロト』

しずく『よろしくね、ロト! 今日からわたしとあなたはおともだちだよ!』
 『ロト』


かすみ『──お嬢さま~? やっぱり、そこに何かいるんですか~?』


しずく『わっ! 今日はこれいじょうここにいると、見つかっちゃうかも……。また明日くるから、ちゃんとここにいてね!』
 『ロト』

しずく『やくそくだよロト! また明日ね!』


そう言って、しずくは部屋から駆け出して行き、場面が暗転する。

そして、再び“スポットライト”がしずく一人を照らす。


しずく『──これが、わたしとロトの出会い。わたしはこの日を境に、毎日のように地下にある倉庫のロトに会うため、ここを訪れた。ロトはわたしが来るたびにその姿を現して、音と光と電気でわたしをもてなしてくれた。わたしもそれに応えるように、精一杯今日何があったか、どんなお勉強をしたかをロトに教えてあげた。毎日のお勉強で使っている教科書とか、好きなご本とかも持っていってたくさん読み聞かせたりして……。私自身、お勉強をしているうちに、目の前のポケモンの名前がロトじゃなくてロトムだと知ったときは、少しばつが悪かったけど……。でも、それを話したらロトムはおかしそうに笑っていた。それに釣られて、わたしもたくさん笑ってしまった。……ロトムと一緒に過ごす時間は、退屈なわたしの日常を一変させてくれた。……そんな日々がしばらく続いたんだけど……ある日、恐れていたことが起こった──』


しずくのいる室内に、一人の人間が入室してくる。


果南『しずく』

しずく『ママ? どうしたの?』


どうやら、果南は母親役らしい……。


果南『貴方、最近地下倉庫によく行っているそうですね』

しずく『う、うん……』

果南『何をしているのですか?』

しずく『え、えっと……お、おそうじ?』

果南『……はぁ。……貴方、ポケモンと会っていますね』

しずく『!? 会ってない!! 会ってない!! ポケモンなんていないよ!』

果南『嘘を吐かない。パパに頼んで、もう倉庫内は調べてもらいました』

しずく『え!?』

果南『あの古いテレビ……ロトムが棲んでいたのですね』

しずく『え、いや……その……』

果南『貴方にはまだ、ポケモンは早いです。今後は倉庫には近づかないようにしなさい』

しずく『…………』

果南『返事は?』

しずく『……はい』

果南『よろしい』


それだけ伝えると踵を返して出ていこうとする母親。


しずく『ま、まって!』

果南『なに?』

しずく『ろ、ロトムは……どうするの……?』

果南『どうって……追い出すに決まってます』

しずく『お、おいだすって……! やめてあげて! あそこはロトムのおうちなの!』

果南『いいえ、ここは私たちの家ですよ』

しずく『……っ』

果南『あのね……ロトムはすごくイタズラ好きな、人に迷惑を掛けるポケモンなんですよ』

しずく『そ、そんなこと……ないもん……』

果南『いいえ、研究者のパパがそう言っていたんだから間違いないわ。そして、そんなポケモンと遊ぶのは貴方の教育にもよくない』

しずく『そんな……』

果南『……ロトムのことは忘れなさい』


最後にそう残すと、今度こそ母親は部屋から出て行った。


しずく『……ダメだよ』


しずくは絞り出すように言う。


しずく『ぜったいに……おいださせたりなんか、しない』


しずくが駆けだし、場面が暗転する。


しずく『ロトム!!』
 『ロト』

しずく『よかった……!! まだぶじだったんだね……!!』


そう言いながら、しずくは辺りにあるガラクタをドアの前に動かし始める。


 『ロト…?』

しずく『あのね、このままじゃロトムがおいだされちゃうかもしれないの……だから、ここにろうじょうしよう!』
 『ロト』

しずく『ママったら、ひどいの……あなたはきょういくによくないって……だから、おいだすって……』
 『ロト』

しずく『あなたはイタズラ好きのわるいポケモンだって……そんなことないよね』
 『ロト』

しずく『うん……わたしの言ってることがわかる、かしこいポケモンだもんね。あのね、人のことばをりかいできるポケモンってすくないんだよ。だから、ロトムはきっとすっごくかしこいポケモンで、ぜったいきょういくにわるいなんてことないもん!』
 『ロト』

しずく『だから、わたしはそれをパパとママにわかってもらうまで、ここでろうじょうする!』
 『ロト』

しずく『ぜったい、ロトムをおいださせたりなんかしないからね!』
 『ロト』


そのとき──ドンドンドン!! と激しくドアを叩くような音が鳴り響く。


果南『開けなさい!! 開けて出てきなさい!!』

しずく『イヤ! ロトムがきょういくにわるいポケモンじゃないってわかってくれるまで、外に出ない!』

果南『聞き分けの悪い子ですね……こうなったら実力行使です』


──ガン!! 扉を叩く音がさらに強くなる。

恐らく何かしらのポケモンの力で扉を壊そうとしているのだろう。


しずく『……っ……だいじょうぶだよ、ロトム。わたしがロトムのことぜったいおいださせたりなんか、しないから……!』
 『ロト』


──ガンッ!! さらに扉を打ちつける音が大きくなる。

しずくは、


しずく『……だいじょうぶだよ……っ……』


ポロポロと涙を流しながら、ロトムを抱きしめていた。


 『ロト…』


でも、結局、扉が破られるのは時間の問題で──バァン!! という大きな音と共に、扉が無理やりこじ開けられたしまった。

そして、中に入ってくる母親。


果南『観念しなさい』

しずく『イヤ……!』

果南『理解して。その子は貴方にとってよくないポケモンなの』

しずく『そんなことないもん!! ロトムはわたしのことばをりかいできる、すっごいかしこいポケモンなんだもん!! きょういくにわるくなんかないもん!!』

果南『そう思っているのは貴方だけですよ。適当に相槌を打つように鳴いているだけで……ロトムは貴方の言葉なんて理解していません』

 『ロト…』

しずく『そんなこと……ないもん……』
 『ロト…』


そのとき、抱きしめられたロトムが急にしずくの腕をすり抜けて──


しずく『あ!? ロトム……!?』


──ヒュン、とテレビの中に入り込んでしまった。

そして、次の瞬間──ブンとテレビが点き、


 『…………マ…………リー…………』

しずく『え……?』


──名前を呼んだ。


果南『え……』

しずく『ロトム……?』

 『………………マ、リー…………ナカ……イ、デ…………』


ブツブツの機械音声で、ロトムが、


 『…………ナカ…………ナイ、デ…………』


ロトムが、喋っていた。


果南『嘘……』

しずく『ロトム……わたしのことば……わかるの……?』

 『…………ワカ……ル…………』

しずく『……うん……っ……』

 『…………ボ、ク…………マリー……スキ……イッショ、イタ……イ……』

しずく『うん……!』


しずくはその言葉聞いて、立ち上がり、


しずく『ママ! ロトムは、わたしのことば、りかいしてるよ!! これでも、この子はきょういくにわるいポケモンなの!?』

果南『そ、それは……』

しずく『ねぇ、ママ……おべんきょうもちゃんとする、言うこともちゃんときく……だから、ロトムを──わたしのおともだちを、うばわないで……』

 『マリー……トモダ、チ……』

果南『…………はぁ。わかりました……今回はママの降参です』


そう言いながら、母親は両手を挙げて降参するのだった。


しずく『こうして、ロトムは──わたしの友達は、改めてこの家に迎えられることになりました。どうやら、ロトムは……わたしが持ち込んだ教科書や好きな本を見て、言葉を覚えていたらしい。パパも驚いていたけど……それ以外には考えられないって言っていたわ。世界には……稀に人の言葉を扱えるようになるポケモンがいるらしく、嘘か真か……ニャースが言葉を喋るなんてことがあったりなかったりするとか、そんなことも言ってたかな。……まあ、そんなことは置いておいて。……わたしはこうして、大切な友達と離れ離れにならずに済んだのでした』

しずく「──あれから、何年も経ってしまったと思います。……それでも、鞠莉さんにとって、ロトムは今も大切な友達なんじゃないですか? あのときの気持ちが消えてなくなったりなんて、してないですよね……?」

鞠莉「…………」
 「ロト…」

鞠莉「…………ロトム」
 「ロト…?」

鞠莉「……わたし、まだあなたに聞いてないことがあったなって」
 「聞いてないことロト…?」

鞠莉「どうして……装置の電気を食べたの?」
 「そ、それは…」

鞠莉「装置が止まったら、研究が止まること……わかっていたわよね。でも、どうして装置の電気を食べたの?」
 「…ロト」

鞠莉「怒らないから、聞かせて」
 「…………マリー…あの研究を始めてから、寝る間も惜しんで、頑張ってて…何度もうまくいかないって、すごく苦しそうで…だから、ボク…マリーがそんなに辛いなら…いっそ…って…」

鞠莉「…………そっか」


だから、“もうわたしが、これ以上苦しい研究をしなくてもいいように”装置を止めたんだ。


鞠莉「…………ごめんね、ロトム。わたし、あなたのこと……全然見てあげてなかった……」
 「…ロト」

鞠莉「本当は……イタズラしてくるのも、わたしが研究にかまけて、あなたの相手をしてあげなかったからだったって……気付いてた」
 「……」

鞠莉「ほんっとうに……酷い“おや”だね、わたし……っ……」
 「マリー…」

鞠莉「ごめんね……ロトム……っ……」
 「マリー…ナカナイデ…」


ロトムが──しずくの図鑑から飛び出して、わたしの頬にその身を摺り寄せてくる。


 「ロト、ロトトロト」
鞠莉「ふふ、今回は許してあげる……。でも、次からはちゃんと、言葉にして教えてね……?」

 「ロト、ロトロ、ロトトロトロト」
鞠莉「うん、これからは昔みたいに……いっぱいお話しして、伝え合おうね……」


果南「一件落着……みたいだね」

かすみ「やったね、しず子」

しずく「……うんっ」





    💧    💧    💧





──オハラ研究所。


鞠莉「はー……まさか、あんなことしてくるなんて思ってもみなかったわ……」

しずく「す、すみません……。ロトムと出会ったときの気持ちを思い出せば……仲直り出来るんじゃないかなって思って……」

鞠莉「……いいえ、むしろお礼を言わせて。ありがとう、しずく。……お陰で、初心を取り戻すことが出来た気がするわ」


そう言いながら、鞠莉博士はロトムを撫でる。


 「ロト」
鞠莉「なんのためにポケモンの研究をしているのか……見失うところだったわ。人とポケモンがもっとよりよく付き合っていくために研究しているわたしが、ポケモンの気持ちをないがしろにしちゃいけないわよね……」

果南「ま、たまにはいい薬だったってことだね」

鞠莉「む……なんか果南に言われると、素直に反省出来ないかも」

果南「えーなんでさ」

鞠莉「だって、マリーとロトムの秘密を勝手に教えたの、果南でしょ」

果南「いいじゃん、減るもんでもないんだし」

鞠莉「はぁ……相変わらず大雑把なんだから……」


博士は果南さんの態度に呆れたように溜め息を吐く。


鞠莉「それにしても……しずく、あれ1日で考えたの? ポケモン演劇ってやつよね?」

しずく「は、はい! 私、スクールではポケモン演劇部に所属していたので……こうすれば、昔の気持ちを思い出してくれるんじゃないかと思って……」

かすみ「しず子はポケモン演劇部のエースだったんですよ!」

鞠莉「どうりで……素晴らしい舞台だったわ」

しずく「あ、ありがとうございます……!」

鞠莉「そういえば……あのロトム役なんだけど……」

かすみ「もっちろん、かすみんのゾロアですよ! ねー、ゾロア♪」
 「ガゥガゥ♪」

鞠莉「“イリュージョン”を応用して、ここまで出来るなんて大したものだわ」

かすみ「テレビを再現するのになかなか苦労しましたけど……本番前に実物を見られたからどうにかなりました!」
 「ガゥッ♪」


日々、学校の用具に化けて、イタズラを繰り返していたからこそ出来たであろうということは、今日は黙っておくことにしよう。

ゾロアには本当に助けられたわけだしね。


鞠莉「あと、あの機械音声……どうやって作ったの?」

しずく「えっと……かすみさんのポケモン図鑑の音声再生機能から、1文字ずつ……地道に録音して作りました」

かすみ「あれ、大変だったよね……間違えて違う部分録音しちゃってやり直しになったり……」

鞠莉「Oh...努力のタマモノデース……」


ある意味今回用意するものの中で、一番大変だったかもしれない……。

まあ、苦労した分、納得の行くものが出来てよかったけど。


鞠莉「ところで、しずく」

しずく「なんでしょうか?」

鞠莉「ロトムの懸念も一応払拭しておこうと思って」
 「ロト?」


そう言いながら、博士は──ボールを1個私に向かって差し出してきた。


しずく「えっと……これは……?」

鞠莉「今日のお礼……ってことで、受け取ってもらえないかしら。研究所のポケモンなんだけど。きっと戦力になると思うから」

しずく「い、いいんですか?」

鞠莉「むしろ受け取ってもらわないと、ロトムが納得してくれないわ」
 「ロト」

しずく「そういうことでしたら……!」


私は博士からボールを受け取り、すぐにボールを放って、外に出してみる──


 「…キル」
しずく「このポケモンは……!? キルリア!!」

かすみ「わぁ、可愛い~!!」

しずく「本当にいいんですか!?」

鞠莉「ええ、大切に育ててくれると嬉しいわ」

しずく「ありがとうございます!!」

かすみ「……なんか、しず子、いつにも増してテンション高くない?」

しずく「だって……! キルリアの進化系は、あのカルネさんの切り札のサーナイトなんだよ! この地方にはラルトスがあんまりいないから、手に入れられないと思ってたのに……! まさかこんな形で手に入るなんて!!」


期せずして、憧れの人の手持ちと同じポケモンを手に入れることが出来て、思わずテンションが上がってしまう。


鞠莉「それなら……一緒にこれも渡しておくわね」


鞠莉博士がさらに私に、“どうぐ”を2つ、手渡してくる。

一つは不思議な色をした珠。もう一つはブローチのようなものの中心に先ほどのよりも小さな珠が埋まったモノだ。


しずく「これは……?」

鞠莉「“キーストーン”と“メガストーン”よ」

しずく「え!? それってまさか……!」

鞠莉「ええ、メガシンカに使うためのアイテムよ。小さい珠が埋まっているのはメガブローチ。トレーナーが身に着けるもので、一回り大きい方の珠はサーナイトをメガシンカさせるための“サーナイトナイト”よ」

しずく「あ、ありがとうございます! こんな貴重な物を……!」

かすみ「えー!? しず子ばっかりずるいずるい!!」

鞠莉「もちろんかすみにも。はい」


そう言いながら、博士はかすみさんにも、“どうぐ”を手渡す。


鞠莉「かすみにはその“メガブレスレット”を。……“メガストーン”は、たまたまわたしが“サーナイトナイト”を持っていただけだから、かすみの手持ちに対応したストーンを探してもらうことになっちゃうけど……」

かすみ「いえ! “キーストーン”が貰えただけでも、かすみん大満足です!」

鞠莉「ふふ♪ それなら、よかったわ♪」

果南「ところで二人とも、次はどこに向かうの?」

かすみ「あー、えーっと……どこに向かうの?」

しずく「なんで、かすみさんが知らないの……。……えっと、またジムを巡るので、一旦ホシゾラに戻って、コメコ方面を目指すことになると思います」

鞠莉「それなら、ウチウラシティまでビークインで送ってあげるわ。宿の手配もしておくから、今日はウチウラシティに泊まるといいわ」

果南「アワシマに泊まるよりも、動きやすいだろうしね」

しずく「なにからなにまで……ありがとうございます」

鞠莉「気にしないで、世話になったのはこっちもだから。それじゃ、行きましょうか」

かすみ「はーい! よろしくお願いしまーす!」

しずく「お願いします」


私たちは、研究所を後にし、ウチウラシティへ──




    💧    💧    💧





──ウチウラシティ。


鞠莉「それじゃ、二人とも気を付けてね」

果南「私たちは大抵アワシマにいるからさ。会いたくなったら、また来てよ」

しずく「はい、ありがとうございます。お世話になりました」

かすみ「次会うときはきっとメガシンカを使いこなしてますからね!」

鞠莉「ふふ、楽しみにしてるわ」


鞠莉博士と果南さんに挨拶をし……そして、最後に。


しずく「ロトム」
 「ロト」

しずく「短い間でしたし、迷惑も掛けられましたが……今思えば、楽しい旅路でした」
 「ロトト」

しずく「何度か助けられたこともありましたね。ありがとうございました」
 「ロト」

しずく「鞠莉博士とこれからも仲良くしてくださいね」
 「ロトト♪」


もう図鑑ボディもないため、人の言葉は喋っていないけど……なんとなく、何を言っているのかはわかる気がした。


しずく「それじゃ、かすみさん、行こっか!」

かすみ「うん! 旅の続きへ!」

しずく「まあ、とりあえず今から向かうのは宿だけどね……あはは」


フソウ島で出会ったロトムを無事“おや”である鞠莉博士に送り届け、また新たな目的地に向けて……私たちの旅は続くったら続く──




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口

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 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.17 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.15 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.17 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.19 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.15 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.16 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:97匹 捕まえた数:6匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter022 『再会! ホシゾラシティ!』 【SIDE Yu】





侑・歩夢「「──お世話になりました!」」


早朝のコメコの森の中、二人でお礼を言いながら、頭を下げる。


エマ「もう、行っちゃうんだね……」

彼方「花陽ちゃんが戻ってくるまでゆっくりしてればいいのに~……」

遥「お姉ちゃん、そんなこと言ったら侑さんたち、行きづらくなっちゃうよ。……私も寂しいけど」


エマさんも彼方さんも遥ちゃんも、名残惜しそうだけど……。


侑「二人で話し合って決めたので……。今は前に進もうと思います」

歩夢「ジムへの再挑戦は、旅の中でもっと強くなってからにしようって……」

侑「もちろん、歩夢と二人でね」

歩夢「うん♪」

リナ『二人ともすっかり仲直りしてくれて、私嬉しい。リナちゃんボード「ハッピー」』 || > ◡ < ||

彼方「まあ、そういうことなら仕方ないか~……」


彼方さんは、そう言いながら肩を竦める。


侑「彼方さん、本当にありがとうございました。彼方さんのお陰で大切なことに気付くことが出来ました」

彼方「うんうん。これからも、その気持ちを忘れずに頑張るんだよ~」

侑「はい! 遥ちゃんもいろいろありがとう!」

遥「とんでもないです! この先の旅も、頑張ってくださいね!」

侑「うん!」


私は二人から激励を貰い、感謝の言葉を返す。


エマ「歩夢ちゃん。疲れたときは、またコメコ牧場に来てね♪ いつでも大歓迎だから!」

歩夢「はい! また遊びに行きます!」

エマ「わたし、歩夢ちゃんはきっと、すっごいトレーナーになれると思ってるから……! 応援してるね!」

歩夢「えへへ……ありがとうございます……!」


歩夢もエマさんから激励を受けて、嬉しそうだ。

……さて、いつまでもこうしていたら、別れが名残惜しくて先に進めなくなっちゃう。


侑「穂乃果さんと千歌さんに、よろしく伝えておいてください」

彼方「うん、わかった~。伝えておくよ~」


結局、私が滞在している間、千歌さんは帰ってこなかったし、穂乃果さんは今日も今日とて、朝からロッジを空けていた。

二人とも忙しくて、しっかりとお話が出来たわけじゃないけど……チャンピオンたちと出会ったということ自体が良い刺激になったと思う。


侑「それじゃ、行こうか! 歩夢! リナちゃん!」
 「ブイブイ」

歩夢「うん!」

リナ『次の目的地に向けて出発進行~!』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはお世話になった彼方さんたちと別れて──再び、旅への一歩を踏み出した。





    🎹    🎹    🎹





明るいうちに進むコメコの森はすごく歩きやすく、1時間もしないうちに森を抜けることが出来た。

森を抜け、3番道路を抜けた先に──


侑「……ホシゾラシティだ!」
 「ブブイ~」

歩夢「うん!」


新たな町が広がっていた。


リナ『ホシゾラシティは北の流星山、南のスルガ海、西のコメコの森、東のスタービーチに囲まれた、自然の町だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「確か……石材の切り出しとか加工をやってる町なんだっけ?」

リナ『うん。ここで切り出されて加工された石材は、オトノキ地方中に出荷されてくんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


どうやら、コメコに続いて、この町も自然産業の町のようだ。

確かにリナちゃんや歩夢が言うとおり、町のところどころに切り出された石材が並べられている。

自然の町だけど、コメコシティとは雰囲気が全然違い、新しい町にやってきたんだという実感が湧いてくる。


リナ『そういえば二人とも、この後はどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あー……どうしようか」
 「ブイ?」


ホシゾラシティにもポケモンジムはあるけど……今朝の時点で花陽さんが帰ってきていなかったということは、たぶん凛さんもまだジムを空けたままな気がするけど……。


侑「……とりあえず、一度ジムに行ってみようか。今挑戦するかはともかくとして、もし戻ってきてるなら凛さんに挨拶くらいしたいし。歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん。それじゃ、ジムに行ってみよっか」

リナ『わかった。じゃあ、ジムへの道案内を始めるね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「よろしくね、リナちゃん」


リナちゃんの案内に従って、私たちはホシゾラジムを目指すことにする。

──町中を歩くこと数分。ジムまではさほど掛からずに辿り着く。


リナ『──あそこにあるのがホシゾラジムだよ』 || > ◡ < ||


リナちゃんの言うとおり、いかにもポケモンジムらしい建物が見えてくる。

そのとき突然、歩夢の方から──pipipipipi!! と音が聞こえてくる。


侑「? 何の音?」

歩夢「え?」


どうやら、音は歩夢の上着のポケットから鳴っているようだった。

歩夢がポケットに手を入れると──


歩夢「ポケモン図鑑が鳴ってる……?」──pipipipipipipi!!!


歩夢が自分のポケモン図鑑を見て小首を傾げながら、図鑑のボタンを押すと、すぐに音が鳴り止む。


歩夢「あ、止まった……」

侑「なんだったの?」

歩夢「うーん……わかんない……」


どうやら、歩夢にもなんで鳴っていたかに心当たりがないらしい。

……けど、その理由はすぐにわかった。

少し離れたところ──ジムの方から、同じように、pipipipipipi!!!! と音が聞こえてきたからだ。

音のする方に目を向けると、二人の女の子の姿。


女の子1「わわっ、急になになに!?」──pipipipipipipi!!!
 「ガゥゥ…?」

女の子2「これもしかして……」──pipipipipipipi!!!

女の子1「何か知ってるの……? ってか、しず子のも鳴ってんじゃん!」──pipipipipipi!!!

侑「あれ……!?」

歩夢「もしかして……!」

侑「うん!」

リナ『?』 || ? ᇫ ? ||


歩夢と頷き合って、ジムの前にいる女の子たちに駆け寄り、声を掛ける。


侑「かすみちゃん! しずくちゃん!」

かすみ・しずく「「え?」」──pipipipipipi!!!


名前を呼ぶと、女の子たち──もとい、かすみちゃんとしずくちゃんがこちらに振り返った。


かすみ「え!? 侑先輩に歩夢先輩!? なんでなんで!? なんでここにいるんですか!? ってか、これうるさいんだけど!」──pipipipipipipi!!!
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、図鑑のボタンを押せば止まるよ」

かすみ「……あ、ホントだ」


しずくちゃんが言ったとおりに、かすみちゃんが図鑑のボタンを押すと、音が鳴り止む。


かすみ「これ、なんの音だったの……?」

しずく「図鑑の共鳴音だよ。同じセットの3つの図鑑が揃うと鳴るって聞いていたけど……こういう感じなんだね」

侑「へー……ポケモン図鑑にそんな機能が……」


どうりで歩夢の図鑑も鳴っていたわけだ。


歩夢「それにしても……ちょっと会わなかっただけなのに、久しぶりに会ったみたいな気がするね。私たち、今さっきこの町に着いたところで、とりあえずジムに来てみたら、二人がいてびっくりしちゃった」

しずく「そうだったんですね。私とかすみさんも、今さっきこの町に戻ってきたところでして……」

侑「戻ってきた? 前にも一度来たってこと?」

しずく「あ、はい! 前に来たとき、ジムが開いていなかったので、一旦ウチウラシティ方面に行っていたんです」

かすみ「でも、結局ハズレみたいですぅ……ちょっと間を空ければ再開すると思ってたんですけどぉ……」


言われてジムの扉を見ると──確かに、『ジムリーダー不在のため、ジム戦の受付を停止しています』との張り紙がしてあった。


歩夢「やっぱり、凛さんもまだ戻ってなかったね」

侑「まあ、わかってたことだから、仕方ないね」


となると、次は私たちもウチウラシティ方面かな……などと考えていると、


リナ『……侑さん、そろそろこの二人のこと紹介して欲しい』 || ╹ᇫ╹ ||


私の目の前にリナちゃんが下りてくる。


侑「ああ、ごめんね。そういえばリナちゃんはまだ会ったことなかったね。この二人はかすみちゃんとしずくちゃん。歩夢と一緒に図鑑を貰った子たちだよ」

リナ『なるほど。一緒に旅に出たお友達なんだね』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「あれれ? 侑先輩の図鑑もロトム図鑑だったんですか?」

侑「かすみちゃん、ロトム図鑑のこと知ってるの?」

しずく「実は私たち、いろいろあって、少しの間ですが、ロトム図鑑と一緒に旅をしていたんですよ」

歩夢「そうだったんだ。今はもういないの?」

しずく「はい、もともと私のロトムではなかったので……持ち主にお返ししました」


事情はよくわからないけど、ロトム図鑑のことを知っているなら話が早い。

……リナちゃんは実はロトム図鑑じゃないから、言う前にロトム図鑑だと納得してくれるならそれに越したことはない。変に誤魔化さないで済むしね。


リナ『かすみちゃん、しずくちゃん、初めまして。私はロトム図鑑のリナって言います』 || > ◡ < ||

かすみ「こっちのロトム図鑑はニックネームが付いてるんですね! じゃあ、リナ子だね! よろしく!」

しずく「また勝手にあだ名付けて……。よろしくね、リナさん」

リナ『よろしくね、二人とも』 || ╹ ◡ ╹ ||


挨拶もそこそこに。


歩夢「とりあえず、ジム戦は出来なさそうだし……どこか落ち着ける場所に移動しない?」

しずく「そうですね! お互い、積もる話もあるでしょうし……! 近くに落ち着いた感じのカフェがあったので、そこはどうでしょうか?」

歩夢「わぁ! いいかも! 行こう行こう♪」


歩夢としずくちゃんが、ガーリーな会話をしながら盛り上がっている。

まあ、一旦腰を落ち着けて話したいのは確かだよね。


侑「私たちも行こうか、かすみちゃん」


歩夢たちに倣って、カフェに行こうとした、そのとき、


かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」


かすみちゃんが大きな声をあげながら、私たちを制止する。


しずく「何? かすみさん、カフェに行かないなら置いてっちゃうよ?」

かすみ「カフェには行く! でも、その前にやることがあるでしょ!」

歩夢「やること……?」

かすみ「ここにはポケモントレーナーが4人もいるんですよ! ポケモントレーナー同士、目が合ったらやることは1つじゃないですか!!」


なるほど、そういうことか。


侑「ポケモンバトル……だね!」
 「ブブイ!!」

かすみ「そうですそうです! さっすが侑先輩!」
 「ガゥガゥ!!」

かすみ「さぁさぁ!! しず子と歩夢先輩も準備してください!!」


かすみちゃんが歩夢としずくちゃんにもバトルを促すと、


歩夢「え、えっと……バトルもいいんだけど……私はみんなとお話がしたいかなぁ……あはは」

しずく「私も……お話ししてからじゃダメかな……?」


二人とも、バトルよりも早くカフェに行きたいようだった。


かすみ「えぇー……もういいです! 侑先輩! 二人でバトルしましょう!」

侑「いいよ! イーブイ! お願い!」
 「ブイ!!!」

かすみ「ゾロア!! 行くよ!!」
 「ガゥッ!!!」


すでに外に出ていたイーブイとゾロアが飛び出して向かっていく。


かすみ「ゾロア! “ひっかく”!」
 「ガゥゥッ!!!」

侑「イーブイ! “とっしん”!」
 「ブブイッ!!!」


2匹がぶつかり合う、その瞬間だった。ゾロアとイーブイの間に──突然、小さな何かが降ってきた。


侑・かすみ「「!!?」」

侑「イーブイ、ストップ!?」

かすみ「ゾロア、止まってぇっ!?」

 「ブイッ!?」「ガゥゥッ!!?」


咄嗟にそれを巻き込まないようにストップを掛ける。

突然の指示だったけど、どうにかイーブイもゾロアも、ギリギリで止まることが出来た。


侑「あ、危なかった……」

かすみ「ちょっとぉ!? なんなんですかぁ!?」


改めて、落ちて来たモノに目を向けると──


 「…ニャァ」

侑「……え?」


ニャスパーがこちらをじーっと見つめていた。


かすみ「って、なんですかなんですか!! この可愛いポケモンは!!」

歩夢「あ、あれ……? このニャスパーって、もしかして……?」

リナ『また、このニャスパー……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もしかして……ここまで付いてきたの……?」

 「ニャァ」


相変わらず表情の読めないニャスパー。理由はわからないけど……ドッグランからさらに、ここホシゾラシティまで追いかけて来たらしい。


しずく「付いてきたって、どういうことですか?」

歩夢「えっとね……最初は7番道路で会ったんだけど……」

しずく「7番道路……カーテンクリフの麓ですね」

歩夢「うん……。そこから、ダリアシティ、ドッグランでも会って……」

しずく「えぇ……? それって随分な距離ですよね? 野生のポケモンが移動する距離ではないような……」

歩夢「私もそう思うんだけど……」


しずくちゃんの言うとおり、どう考えても普通の野生ポケモンの移動距離ではない……。となると、


侑「やっぱり、私たちを追いかけてきてる……?」

リナ『そう考える方が、自然かも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」


相変わらず、私の方をずっと見つめてるし……。


かすみ「あのあのあの!! 侑先輩!!」

侑「? どうしたの、かすみちゃん?」

かすみ「この子、野生のポケモンなんですよね!?」

侑「う、うん……たぶん」

かすみ「じゃあ、かすみんが捕まえちゃっていいですか!? いいですよね!!」

侑「え? え、えーっと……?」

しずく「ちょっと、かすみさん! 侑先輩たちの話聞いてたの!?」

かすみ「聞いてたって~。つまり遠くまで侑先輩たちを追いかけてきた野生のポケモンってことでしょ?」

しずく「ま、まあ……それは、あってるけど……」

かすみ「そして、偶然その場にかすみんが居合わせたわけです! これって運命だと思わない!?」

しずく「……自分にとって都合の良い解釈過ぎるような」

かすみ「いやいや! こんな可愛いくて、かすみんにゲットされるために生まれてきたようなポケモン、捕まえないとむしろ失礼です!」

 「ニャァ」

しずく「歩夢さん、侑先輩……かすみさんを止めてくださいぃ……」


暴走するかすみちゃんに、早くも白旗を上げるしずくちゃん。……確かにかすみちゃん思い込みが激しいところあるからなぁ。


歩夢「うーんと……えーっと……。……でも、野生なら誰かのポケモンってわけじゃないし……」

侑「文句を言うのもおかしいよね……」

リナ『確かに。野生ポケモンの捕獲機会は全てのトレーナーにとって、平等であるべき』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「え、ええ……。……まあ、侑先輩たちがそれでいいなら、私はいいんですけど……」


しずくちゃんの言わんとしていることもわかるけど……。なんというか、かすみちゃんを止める理由もないというか……。


かすみ「話は付きましたね! それじゃ、行きますよ!」

 「ニャァ?」

かすみ「モンスターボール!!」


かすみちゃんが、空のモンスターボールをニャスパーに向かって投擲する。

相手は全く動かず、私の方をじーっと見つめているだけのニャスパーだ。外すわけもなく。


 「ニャッ」


ボールは──コンとニャスパーの頭にぶつかったあと……弾かれて、地面を転がる。


かすみ「……あ、あれ……??」

しずく「ボールに……入らない……?」

かすみ「ど、どうして……!? もう1回……!!」


かすみちゃんは再びボールをニャスパーに向かって投げつけるが、


 「ニャッ」


弾かれて──テンテンテンと音を立てながら、地面を転がるだけだった。


かすみ「なんでですかぁ……っ……?」

侑「……? どういうこと……?」

しずく「もしかして……誰かの捕獲済みのポケモンなんじゃないでしょうか」

歩夢「捕獲済みのポケモン?」

しずく「はい、前にも同じようなことがあって……すでに誰かが捕獲したポケモンは、他の人間が捕獲することは出来ないんです」

侑「そうなの?」


思わずリナちゃんに確認を取ると、


リナ『うん。モンスターボールとポケモンは紐づけされるから、“おや”以外がボールに入れることは出来なくなる』 || ╹ᇫ╹ ||


とのこと。


かすみ「じ、じゃあ……かすみんはこの子を捕獲出来ないってことですか……?」

 「ニャァ」

リナ『そうなる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「そんなぁ~……」


かすみちゃんはガックリと項垂れてしまう。


歩夢「そうなると、この子にはすでに“おや”がいるってことになるけど……」

 「ニャァ」

侑「……その“おや”って誰……?」

 「ニャァ」


……やっぱり、ニャスパーはこっちをじーっと見つめたままだし。


かすみ「……実は侑先輩が“おや”なんじゃないんですか……。……ずっと、侑先輩のこと見てるし」

侑「いや、まさか……」


ニャスパーを捕まえた覚えはないしなぁ……。

一応試しては見るけど……。

ボールを手に持って、ニャスパーに近付き。


侑「ちょっとごめんね」

 「ニャァ?」


ボールを手に持ったまま、ニャスパーにボールを押し当ててみる。


 「フニャァ~…」


しばらく押し付けてみるけど……。


侑「やっぱり、ボールには入らないよ……」


私でもボールに収めることは出来なかった。


しずく「となると……迷子のポケモンかもしれませんね」

歩夢「どこかから逃げ出しちゃった子ってこと……?」

しずく「はい……恐らくは」

歩夢「それだと、トレーナーの人……今頃、探してるかもしれないね」

侑「そうだね……」

 「ニャァ?」


ニャスパーは私たちの話がわかっているのか、いないのか……無表情のまま小首を傾げている。


侑「……とりあえず、一度ポケモンセンターに連れて行ってみようか」

しずく「それが良いかもしれませんね。もしかしたら、捜索願いが出ているかもしれませんし」

侑「うん。ニャスパー、ちょっとポケモンセンターまで行こうね」

 「ニャァ?」


腰を屈めて、ニャスパーを抱き上げる。

……ここまで、近付いてボールを押し付けても逃げたりしなかった辺り、大丈夫だとは思っていたけど……ニャスパーは私が抱きかかえても全く抵抗しなかった。


リナ『ポケモンセンターへ案内する』 || ╹ᇫ╹ ||


私たちは一旦、ポケモンセンターへと向かう──





    🎹    🎹    🎹





──ポケモンセンターにて。


侑「はい、そうですか……ありがとうございます」


私が代表して、ジョーイさんに捜索願いが出ているかを訊ねてみたけど……。


しずく「侑先輩、どうでしたか?」

侑「うぅん……特にそういう届け出はポケモンセンターには来てないみたい」

歩夢「“おや”の人は探してないのかな……?」

しずく「ですが、ボールに入らない以上、逃がされたポケモンではないはずなので……。この子の持ち主の方がなんらかの理由で探せない状態にある……とかでしょうか」

 「ニャァ?」

かすみ「トレーナーの人が病気で動けないとか?」

リナ『確かに、そういう可能性はあると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「あと可能性としては……すでに──」


しずくちゃんは、そこまで言い掛けて、


しずく「……いえ、こういうことはあまり言うべきではありませんね」


最終的に、言葉を濁す。


リナ『まあ……可能性として、なくはない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「え? なになに? どういうこと?」

しずく「なんでもないよ、かすみさん」

歩夢「とりあえず……このニャスパーをどうするかだね」

 「ニャァ?」

侑「……私はこの子のトレーナーを探してあげた方がいいと思う」


ポケモンがトレーナーと離れ離れになるなんて……もし、それが自分のことだったら、すごく寂しいだろうし。


かすみ「かすみんも同感です! こんな可愛い子、理由もなくほったらかしにしてると思えませんし!」

しずく「となると……一旦ボールに入れてしまった方が良いかもしれませんね。連れ歩きをし続けるのは、何かと不便もあるでしょうし……」

リナ『そうだね。また逃げ出す原因にもなる』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「でも、ボールに入れられないんじゃないの?」

しずく「ポケモンセンターでなら、ボールの移動が出来ますよ。まあ、強いて問題があるとしたら……」

リナ『誰のボールに入れるか』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「じゃあ、かすみんが連れて行きます!」

しずく「ほら……」


しずくちゃんは、案の定とでも言いたげな顔で、溜め息を吐く。


かすみ「なんで溜め息吐くの!?」

しずく「私はかすみさんよりも、侑先輩が連れていくべきだと思います。このニャスパー、理由はわかりませんが、ずっと侑先輩を意識している気がしますし……」

 「ニャァ?」

歩夢「私も侑ちゃんと一緒の方がいいと思う……」

かすみ「えぇー……侑先輩、かすみんが連れていっちゃダメですかぁ……?」


かすみちゃんが瞳を潤ませながら、おねだりするように上目遣いでお願いしてくる。


侑「ええっと……」


ただ、私に委ねられても、ちょっと困ってしまう。

確かにニャスパーはよく私のことを見ているけど、私にはこのニャスパーとの繋がりになんら心当たりがない。

そう考えると、誰が連れていっても、出来ることはそんなに変わらないような……。

……こうなったら、本人──というか、本ポケモンに聞くべきだ。


侑「ニャスパーは誰と一緒がいい?」

 「ニャァ?」


でも、ニャスパーは訊ねても小首を傾げるだけだ。

困ったなぁ……。そんな中で、


リナ『私から提案がある』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんがフワリと前に躍り出る。


リナ『せっかくトレーナー同士なんだから、バトルで決めればいいと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

しずく「なるほど……一理ありますね。一緒に旅をするなら、より強いトレーナーのもとにいた方が安全ですし」

かすみ「その話乗りました! 侑先輩! バトルで決めましょう!」

侑「わかった。このまま悩んでても決まらなさそうだしね」


どっちにしろ、かすみちゃんとはバトルしたかったしね。


歩夢「ニャスパーもそれでいい?」


歩夢が訊ねると、


 「ニャーニャー」


ニャスパーは頭上のリナちゃんの方を見ながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。


かすみ「ニャスパーも賛成みたいですね!」

しずく「動くリナさんに目を引かれて、飛び跳ねてるだけのような……」

侑「あはは……まあ、一応OKということで」

歩夢「それじゃ……侑ちゃんとかすみちゃんが、全力でバトル出来るように、広い場所がいいよね?」

リナ『それなら、3番道路の流星山の麓がいいと思う。案内する』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんがいつものように、ふわふわと飛びながら道案内を始める。


歩夢「ニャスパーはしばらく、私と居ようね」

 「ニャァ?」


歩夢がニャスパーを抱き上げて、私たちは移動を開始した。




    🎹    🎹    🎹





──3番道路。流星山の麓までやってきた。

辺りは岩肌が露出している開けた場所。確かにここなら、思う存分戦うことが出来そうだ。


かすみ「そういえば、侑先輩はポケモン何匹持ってるんですか?」

侑「私の手持ちは今は3匹だよ」

かすみ「なら、かすみんも3匹で戦いますね!」

侑「いいの?」

かすみ「はい! 正々堂々勝たないと、気持ちよくニャスパーと冒険出来ませんから!」

侑「わかった。それじゃ、お互い使用ポケモンは3匹ね」

かすみ「それ以外のルールはありません! とにかく、相手のバトルポケモンを全部倒した方が勝ちです!」

リナ『シンプルなルール。侑さん、頑張ってね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん!」


お互い、ボールを構える。


歩夢「侑ちゃーん! 頑張ってねー!」

侑「うーん! 頑張るー!」


少し離れたところで観戦している歩夢に手を振る。


しずく「侑さーん! かすみさんに負けないでくださいねー!」

かすみ「ちょっとぉ!? しず子はかすみんを応援する流れでしょ!?」

しずく「はいはい、かすみさんも頑張ってねー」

かすみ「ぐぬぬ……いいもんいいもん! かすみん勝っちゃいますからね!」


両者、ボールを振り被って──


リナ『……バトル──スタート!!』 || > 𝅎 < ||


最初のポケモンを繰り出した。──バトル、開始!




>レポート

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【3番道路】
 口================== 口

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  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
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  ||.  |___回○_●.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
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  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:90匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.18 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.19 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.17 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:98匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:108匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




長時間配信(寝休憩あり)

『ポケモン新作・SVクリアするまで
飯も食わないし息もしない』Part.1
(土)15:00~放送開始

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


■Chapter023 『決戦! ライバル・かすみ!』 【SIDE Yu】





──お互いが最初のポケモンを繰り出す。


侑「行くよ、ワシボン!」
 「ワシャァッ!!」

かすみ「サニーゴ! 行くよ!」
 「……」


私の1番手はワシボン。

相手はサニーゴ……いや、なんか随分血色が悪いような。


侑「まあいいや……ワシボン! “ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


先手必勝! ワシボンが飛び掛かるようにして、サニーゴに爪を立てるように切り付ける……が、サニーゴの角を狙って振り被った足爪は、


 「ワシャッ!!?」


──スカッ! とすり抜けてしまった。


侑「!? すり抜けた!?」

かすみ「サニーゴ! “かなしばり”!」
 「……」

 「ワシャッ!!?」


攻撃を空振って、動揺しているワシボンを“かなしばり”で縛り付けてく──“かなしばり”……!?


侑「え!? サニーゴってみず・いわタイプじゃ……!?」

かすみ「そのまま、“ちからをすいとる”!」
 「…………」

 「ワ、ワシャ…」


そのまま、パワーを吸い取られて、攻撃力を奪われてしまう。


侑「……! あのサニーゴ、普通のサニーゴじゃない……!」

リナ『侑さん! あのサニーゴはガラルサニーゴ! ゴーストタイプの姿だよ!』 || >ᆷ< ||

侑「ゴーストタイプ……!?」


どうりで、ノーマルタイプの“ブレイククロー”が効かないわけだ……! 確かによく見たら、あのサニーゴちょっと浮いてるし……もっと相手をよく観察しなくちゃ……!


侑「一旦交代!! 戻ってワシボン!」
 「ワシャ──」

侑「行け! ライボルト!」
 「ライボッ!!!」


試合開始早々、選手交代。2番手はライボルト!


侑「“10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」

かすみ「“シャドーボール”!!」
 「……」


電撃とゴーストタイプのエネルギー弾が空中でぶつかり合う。


侑「でんきタイプとゴーストタイプなら、相性は五分のはず……!!」


しかもこっちは進化系のライボルト……! 単純な攻撃のパワーなら迫り勝てる……!


 「ライボォッ!!!!」

かすみ「あ、あわわ!? 押されてるよ!? サニーゴ!?」
 「…………」

侑「いっけぇ!!」


ライボルトの電撃は“シャドーボール”を撃ち抜き──そのまま、サニーゴに電撃が直撃し、バチバチと音を立てながらサニーゴにダメージを与える。


 「…………!」
かすみ「さ、サニーゴっ!?」


しばらく、電撃をその身に受けたあと──サニーゴはポトッと地面に落ちてしまった。


侑「よし! まず1匹……!」
 「ライボッ!!!」

かすみ「サ、サニーゴ……」
 「…………」

かすみ「……な~んちゃって~♪」


かすみちゃんがペロリと舌を出す。


侑「!?」


直後、グラグラと地面が揺れ始め──ボンッ! と音を立てながら、ライボルトの足元が爆発した。


 「ライボッ…!!?」
侑「な、何!?」

リナ『“だいちのちから”!? まだ、サニーゴは戦闘不能になってない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!?」

かすみ「表情が読めないのが、役に立つこともあるんですよ~♪ さぁ、畳みかけますよ!」
 「……」


再びサニーゴがふわりと浮くと同時に、またゴゴゴと地鳴りが聞こえてくる。


侑「また、“だいちのちから”……!? なら……! “でんじふゆう”!!」
 「ライボ…!!」


ライボルトが電磁力によって、ふわりと浮き上がる。

これで、じめんタイプの技は避けられるはず……!


かすみ「さすが抜かりないですねぇ……でも、これはじめん技じゃないですよ!」

侑「え!?」


確かに、地面からの攻撃はいつまで経っても来ない。ただ、地鳴りはまだ聞こえてくる。……でも、


侑「音は山側から……!?」


地鳴りの音源が、すぐ傍の山側からだと気付き、目を向けると──大岩がこっちに向かって大量に転がってきていた。


侑「“いわなだれ”!?」

かすみ「“しぜんのちから”をお借りしましたよ!」

リナ『岩場での“しぜんのちから”は“いわなだれ”になる!? 侑さん、避けて!?』 || ? ᆷ ! ||


避ける……!? 無理だ……!?

この量の岩じゃ、“でんじふゆう”していても飲み込まれてしまう。こうなったら、


侑「ライボルト!! 電撃を一点集中!!」
 「ライボッ!!!」


一か八か……!! 自分たちに向かってくる分だけ、撃ち抜いて破壊する!! 急速に“じゅうでん”を始めたライボルトは、ギリギリまで引きつけてから、岩に向かって集束した電撃による防御、


侑「“チャージビーム”!!」
 「ライ、ボォォォォ!!!!!」


眩く閃光が迸る。ギリギリまで引き付けたおかげで、光線はどうにか岩を穿ち、大きな岩の直撃だけはどうにか回避する。


侑「あ……あっぶな……!」
 「ラ、ライボッ…!!」


でも、全てを捌き切ることは出来なかった。小さな石の礫や塊は、ライボルトに直撃していた。

そのため、体力的にもうそろそろまずい。


かすみ「! やりますね、侑先輩!」


かすみちゃんの声に視線を前に戻すと──サニーゴの姿が見えなかった。


かすみ「でも、これで終わりですよ! “パワージェ──」

侑「──“かみなり”!!!」
 「ライボッ!!!!!」


空から、ライボルトに向かって、一筋の“かみなり”が迸った。


かすみ「んなぁ!?」


かすみちゃんの驚きの声と共に──ひゅーんとサニーゴが落っこちてきて、地面を転がった。


 「………………──」
かすみ「さ、サニーゴぉ!?」

侑「さすがに、今度こそ戦闘不能だよね……」


ここまでの戦闘でダメージも蓄積していただろうし、大技が直撃したんだから、これで倒れてくれないとさすがに困る……。


かすみ「ちょ……なんで、サニーゴのいる場所がわかったんですかぁ!?」


サニーゴの居場所──それは、頭上。ライボルトの真上だった。


侑「“いわなだれ”の処理でサニーゴを目で追えてなかったけど……。逆に言うなら、サニーゴからしても周りの岩が邪魔で攻撃しづらいからね」


そうなると、空を飛べるサニーゴにとって絶好の攻撃ポジションはどこか?


侑「そうなったら、頭上に位置取るかなって思って」

かすみ「ぎ、逆に誘い込まれたってことですかぁ……?」

侑「ふふ、まあね♪」

かすみ「ぐぬぬ……や、やるじゃないですか……!」


かすみちゃんの戦い方は、とにかく相手を攪乱しながら、自分のペースに巻き込んで、動揺したところに確実に攻撃を加えていくスタイルだ。

学校でイタズラを叱られて逃げるときも、自分たちの隠れ場所とは別の場所で音を鳴らして、注意が逸れた隙に逃げたりしていたし……恐らく、今回の戦闘でも同じような感じで、私の視線を誘導してくると思った。

だからこそ、あまり予想しづらい上空から攻撃をしてくると読めたということ。

本来相手に行動を予想させないはずの作戦だけど、付き合いの長さが仇になったわけだ。


かすみ「サニーゴ……戻って」
 「……──」

かすみ「……次、行きますよ!! ジュプトル!!」
 「──プトルッ!!!」

侑「次はジュプトル……! キモリの進化系!」


──ただ、この試合前にかすみちゃんは、ゾロアをボールに戻している。

ということは、


侑「“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!!」


あれはゾロアが化けている姿……!

周囲一帯を範囲攻撃で迎撃する。攻撃を食らったら“イリュージョン”は解けてしまうからだ。


侑「さぁ、これで──」


電撃によって、化けの皮を剥がされたゾロアが姿を現す──と思った、瞬間だった。


 「──プトル…!!」

 「ライッ!!?」
侑「!?」


すでに目の前に肉薄していた、ジュプトルが腕の刃を構えているところだった。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!!!」


── 一閃。至近距離から袈裟薙ぎに斬り裂かれたライボルトは、


 「ラ、イ…ッ」


そのまま、力尽きて倒れてしまった。


かすみ「侑先輩知らないんですか~? くさタイプにはでんきタイプは効果いまひとつなんですよ~?♪」

侑「ぞ、ゾロアじゃない……!?」

かすみ「“イリュージョン”は無理に使わなくても、手持ちにいるだけで、相手を騙せちゃうんですよね~♪」


逆に決め打ちしすぎて、裏の裏を掛かれた……。さすがに一筋縄ではいかない……切り替えなくちゃ。


侑「ありがとうライボルト、戻って。もう一度行くよ! ワシボン!」


ライボルトをボールに戻して、再度ワシボンを繰り出す。


 「──ワッシャァ!!!」


ボールから飛び出すとともに、ジュカインに向かって肉薄する。


侑「“ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


一方かすみちゃんはそれを迎撃する形で、


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!」


ジュプトルの両腕の刃で、攻撃を受け止める。

2匹の攻撃がぶつかると同時に弾け、その勢いのまま両者が後退する。


侑「勢いを殺さずに畳みかけるよ! “ブレイククロー”!!」
 「ワシャァッ!!!」


旋回しながら、勢いを保って、再び近接攻撃の姿勢に。

爪を突きだし、空中から飛び掛かる。一直線にジュプトルに向かって行く中で、


かすみ「“やどりぎのタネ”!!」
 「ジューーープッ!!!!」


ジュプトルは空中に向かって、“やどりぎのタネ”を吐きだしてきた。

もちろん、一直線に飛んでいたため、


 「ワシャッ!!?」


回避は出来ず直撃するが、


侑「怯まないで!!」
 「ワ、ワシャァッ!!!!」


そのまま、爪を使って、ジュプトルに斬撃を与え、再び空中へと離脱する。


 「ジュ、ジュプトッ!!!」
かすみ「これくらいなら誤差です! “グラスフィールド”!!」

 「プトルッ!!!」


かすみちゃんの指示と共に、ジュプトルを中心に辺りに草が生い茂り始める。


リナ『“グラスフィールド”は地上にいる間、HPが回復し続ける技だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

かすみ「さらに、“こうごうせい”です!」
 「ジュプトォ!!!」


“こうごうせい”も回復技……。まずい持久戦に持ち込むつもりだ。

私の苦手な展開……。いや、だからこそ冷静に……!


侑「1個ずつ対策するよ! まず、“あまごい”!!」
 「ワシャァッ!!」


──ポツポツと雨が降り始める。


かすみ「って、わわわ!? なんてことするんですかぁ!?」

リナ『雨が降ってると、“こうごうせい”の効果は半減する! 良い対策!』 || > ◡ < ||


恐らくかすみちゃんが持久戦を選んできた理由は──


侑「ジュプトルは相性的に有効打が少ないからだよね……!」

かすみ「ギクッ」


積極的な撃ち合いを避けるんだったら、私にも考えがある。


侑「ワシボン!! “エアスラッシュ”!!」
 「ワシャシャッ!!!」


ワシボンが風の刃を連続で放つ。


かすみ「あーもう!! “れんぞくぎり”!!」
 「プトルルルッ!!!!」


一方で、ジュプトルはそれを的確に斬撃で相殺してくる。

──でも、それでいい。


 「ワッシャァッ!!!」

 「プトォルッ!!?」
かすみ「!? 突っ込んで来たぁ!?」


“エアスラッシュ”は目くらましだ。

撃った“エアスラッシュ”を追いかけるようにして、飛び込んでいったワシボンはそのまま、


 「ワシャッ!!!」


猛禽の爪でガッチリとジュプトルの両肩を掴む。


侑「そのまま飛ぶよ! “フリーフォール”!!」
 「ワシャァッ!!!!」

 「ジュ、ジュプト!!!」


ジュプトルは、ジタバタともがくが、ガッチリとホールドされている上に、空中に運び出されて自由が効かない。

さらに空に持ち上げてしまえば、“グラスフィールド”による回復の効果もなくなる。


かすみ「そ、それで回復を封じたつもりですか! まだ“やどりぎのタネ”があるもん!」


──確かにかすみちゃんの言うとおり、これは時間稼ぎであって根本的な解決にはなっていない。

“フリーフォール”だって、いつまでも持ち上げ続けているわけにはいかない。

だけど、“フリーフォール”は防御のためだけの技というわけではない。これはあくまで攻撃技だ。

ぐんぐん上空へと上昇したあと──


 「ワシャッ!!」


ワシボンは食いこませた爪をパッと放す。


 「プ、プトォッ!!」


もちろん、ここまでは相手も予想済みだろう。


かすみ「ジュプトルーーーー!!! 受け身取ってーーーー!! 受け身ーーー!!」

 「プ、プトォッ!!!!!」


上空に向かって叫ぶかすみちゃん。数秒と経たないうちに重力に引かれて地面に墜落したジュプトルは、接地と同時にゴロゴロと転がりながら、落下のダメージを殺す。


 「プ、プトォ…ッ…」
かすみ「せ、セーフ……! “グラスフィールド”があって助かりました……」


草の生い茂る地面のお陰か、どうにか立ち上がるジュプトル。さすがの身のこなしだ。

だけど、上空から叩きつけられたのは、小さくないダメージのはず。

そして──私が本当に狙っていたのは、この次だ。


 「プ、プトォ…!!?」


急に、ふわっとジュプトルの体が浮く。


かすみ「へ!? な、なに!?」

侑「わざわざ雨にしたんだから、利用しなくちゃ!!」


雨の中、上空に残ったワシボンは激しく翼を羽ばたかせながら、大きな風の渦を作り始めていた。


かすみ「!!? た、竜巻ぃ!!?」


竜巻のような大きな風の渦がジュプトルを引き寄せるようにして、宙に持ち上げていた。

普段はなかなか成功率が低いけど……風雨の中では一気に技を出しやすくなる大技……!!


侑「“ぼうふう”!!」

 「ワシャァァァァァ!!!!!!」

 「ジ、ジュプトォォォォ!!!?」


そのまま、ジュプトルは再び上空へと巻き上げられる。


かすみ「じ、ジュプトルー!!?」


上空にいるワシボンの場所まで打ち上げられた無防備なジュプトルに攻撃を加えるのはなんてことはない。


侑「“つばさでうつ”!!!」

 「ワシャァァァァァァッ!!!!!!」

 「プットォルッ!!!?」


上から思いっきり翼を叩きつけての一撃!

一気に落下して、ズドンと地面に叩きつけられたジュプトルは、


 「プ、プトォ…」


“グラスフィールド”による落下ダメージの軽減があっても耐え切れず、2度目の落下で今度こそ戦闘不能になった。


かすみ「も、戻ってジュプトル……」

侑「さぁ、残り1匹だね」


ただ、ワシボンも結構な時間、“やどりぎのタネ”で体力を吸われていた。そろそろ、HPも限界が近いだろう。


侑「戻ってワシボン」
 「ワシャ──」


一旦ワシボンは引かせる。そして、


侑「イーブイ! 最後、決めるよ!」
 「ブイ!!」


私の傍でずっと出番を待っていたイーブイが、フィールドに踊りだす。


かすみ「むむむ……ピンチです……。でも、かすみん負けるつもりはないですよ! ゾロア!」
 「──ガゥッ!!!」

侑「やっぱり、最後はゾロアだね……!」


恐らくかすみちゃんが最も信頼しているであろう相棒、ゾロア。だけど、“イリュージョン”は使っていないから、真っ向勝負だ……!


かすみ「ゾロア! “ちょうはつ”!!」
 「ガガゥッガゥガゥッ♪」

 「…ブイ?」


ゾロアがベロっと舌を出しながら、尻尾を振ってイーブイを“ちょうはつ”してくる。

イーブイは明らかに不機嫌そうな顔でゾロアを睨みつける。

“ちょうはつ”は相手の戦意を刺激して、補助技を使わせなくする技だ。


侑「望むところだよ! こっちは最初から搦め手で戦うつもりなんてないし! イーブイ! “でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!!」


飛び出すイーブイ。一方ゾロアは、


かすみ「“みきり”!!」
 「ガゥッ!!!」


初っ端から“みきり”での回避。


侑「最初から使っちゃっていいのかな!!」


“みきり”は使えば使うほど、成功率が下がっていく技だ。

それに隠しておいた方が便利な技でもある。だけど、かすみちゃんは最初からその札を切ってくる。


侑「2度目は外さない!! もう1度──」

かすみ「“いちゃもん”!!」
 「ガゥガゥッ!!!」

 「…ブイ」


今度は文句を付けるように、激しく吠える。イーブイはさらに不機嫌そうな顔になりながら、攻撃の足を止めてしまう。


リナ『“いちゃもん”されると同じ技が連続で出せなくなっちゃう!』 || > _ <𝅝||

侑「っ……! また、補助技……!」

かすみ「動きを制限した今のうちに! “わるだくみ”!!」
 「ガゥ! シシシッ」


今度は自身の特攻を強化する、“わるだくみ”。

こっちの動きを制限しながら自分を強化して、有利に戦闘を運ぶつもりのようだ。


侑「相手を自由にさせちゃダメだ! “スピードスター”!!」
 「ブーーイッ!!!!」


イーブイから星型のエネルギー弾が発射される。

“スピードスター”は相手を追跡する、必中技……!


かすみ「遅いですよ! こっちの準備はもう十分です! “あくのはどう”!!」
 「ガーーゥッ!!!!!」


ゾロアを中心に一気に、黒い波動が広がり、“スピードスター”を飲み込み──


 「ブ、ブィィ!!?」


さらにそのまま、イーブイに襲い掛かる。


侑「イーブイ、大丈夫!?」
 「ブ、ブイ!!」


攻撃は直撃したものの、“スピードスター”で威力を殺せた分もある。

お陰で致命傷にはならなかったけど……。


侑「……相手の能力が上がってる分、攻撃が力負けしてる……!」


なら……。


かすみ「次の攻撃は回避したいって思いますよね!」

侑「!?」

かすみ「“みきり”は使わせませんよ! “ふういん”!!」
 「ガゥッ!!!」

 「ブ、ブイ!?」
侑「し、しまった……!?」


ゾロアが鳴くと、イーブイが一瞬ビクリと竦む。見た目にはほとんど変わりはないけど──“ふういん”は自分が覚えているのと同じ技を使えなくする技だ。

つまり、いくら私が“みきり”を温存しても、ゾロアが覚えている以上、この技は使えないということになる。


かすみ「ついでに“スピードスター”も使えませんよ~? 貴重な遠距離攻撃技がなくなっちゃいましたね~!」

侑「……」


確かに、イーブイは本来、進化後にいろんな姿になる分、進化前のエネルギーを蓄えている間は、技のバリエーションが少ないポケモンだ。

だけど──私の相棒は違う。


かすみ「さぁ、畳みかけますよー!!」
 「ガゥッ!!!!」


ゾロアから再び、黒いエネルギーが漏れだそうとした瞬間、


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーイッ!!!!」


イーブイの体毛がパチパチと音を立てながら──電撃を放った。


かすみ「!?」
 「ガゥッ!!?」


かすみちゃんは急なことに面食らい、ロクに指示も出せないまま、ゾロアに電撃が直撃する。


 「ガ、ガガガガゥ!!!?」

かすみ「えぇーー!? な、なんで、イーブイが電撃撃ってるんですかぁ!!? ゾロア、大丈夫!?」
 「ガ、ガゥ…」


ダメージはあるものの、ゾロアは倒れてはいない。ただ、痺れてしまって、明らかに動きが鈍っている。


かすみ「ま、“まひ”しちゃったってことですか!? な、なんてことを……!」


“まひ”してしまえば、こっちのものだ。


侑「“すくすくボンバー”!!」
 「ブーーィッ!!!!」


イーブイが尻尾をブンと振ると、種子が飛び散り、それが地面に埋まって── 一気に巨大な蔦状の樹が成長し始める。

そして、蔦から巨大なタネがゾロアに向かって複数落下する。


かすみ「な、な、なんですかー!? それー!?」
 「ガ、ガゥゥ…」


麻痺して、満足に動けないゾロアは、予想外の攻撃を防げず、


 「ガゥゥゥッ!!!」


降ってきたタネの直撃を受けて、地面を転がった。


 「ガ、ガゥゥゥ…」


そして、力なくその場に倒れ込んだ。


リナ『ゾロア、戦闘不能。侑さんの勝利』 || > ◡ < ||

かすみ「そ、そんなぁ……。補助技に集中しすぎましたぁ……。……というか、なんですかさっきの技ぁ……っ……」

侑「えっと、“相棒わざ”って言う特別な技なんだけど……」
 「ブイ」

かすみ「そんなの聞いてませんよぉ……! ずるいですぅ……っ……」

侑「あーえーっと……」


かすみちゃんが涙目で詰め寄ってくる。

確かに初見殺しなところはあったかもしれないけど……。


しずく「でも、負けは負けだよ、かすみさん」

かすみ「しず子までぇ……」

歩夢「侑ちゃん、やったね!」

侑「うん。ありがとう、歩夢」


戦闘が終わって、歩夢としずくちゃんもこちらに寄ってくる。


しずく「それでは、最初に決めたとおり、ニャスパーは侑先輩が連れていくということでいいですね?」

かすみ「そんなぁ~……」

侑「……そういえば、そうだった」


バトルに夢中で忘れてた……。


侑「ニャスパー、それでもいい?」


最後に、歩夢が抱きかかえたままのニャスパーに訊ねてみるも、


 「ニャァ」
侑「……相変わらず何考えてるか、わからないね……」


ニャスパーは無表情のまま鳴くだけなので、やっぱりよくわからなかった。


リナ『嫌がってるわけでもなさそうだから、それで問題ないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ~」

侑「……そうだね。それじゃ、ポケモンセンターでボールに入れる手続きしてこようか」

しずく「ですね。ほら、かすみさん、いつまでしょげてるの?」

かすみ「うぅ……わかったよぉ……。侑先輩、ニャスパーのこと、お願いしますね……」

侑「うん、任された」


というわけで、ニャスパー争奪戦(?)は私の勝利でとりあえず落ち着いたのだった。





    🎹    🎹    🎹






──さて、ポケモンセンターに戻ってきて、早速ニャスパーのボール移動をお願いしたのはいいんだけど……。


侑「時間がかかる……?」

ジョーイ「はい……普通だったら1時間も掛からないはずなんですが……」


預けてから、言われたとおり1時間後くらいにまた受付のジョーイさんのもとに受け取りにきたら……まだ時間がかかると言われてしまった。


しずく「何かトラブルでもあったんですか……?」

ジョーイ「トラブルと言いますか……元のボール情報の解析にてこずっていまして……」

かすみ「元のボール情報ってなんですか?」

リナ『ポケモンをボールから移動する際、元のボールに紐づけされた情報の解除が必要になる。それの解析のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

ジョーイ「はい……。それが、あまり見ないボール情報でして……」


どうやら、ニャスパーの“おや”の人がもともと入れていたボールが特殊なものだったらしい。

そのボールが具体的にどういうものなのかはわからないけど……。


歩夢「どれくらい掛かりそうなんですか?」

ジョーイ「……さすがに明日までには終わると思います」

かすみ「明日ですかぁ……」

侑「となると、今日はここで泊まりだね」

歩夢「うん、その方がよさそうだね」

ジョーイ「すみません、お待たせしてしまって……」

侑「あ、いえ! こちらこそ、急にお願いしちゃって、ごめんなさい……」

ジョーイ「いえいえ、それもポケモンセンターの仕事なので。もうしばらく、お待ちくださいね」

侑「はい、お願いします」


──というわけで、今日は一日ホシゾラシティで過ごすことになりそうだ。

まあ、そうは言っても……。


しずく「久しぶりに会ったわけですから、積もる話もありますし」

かすみ「ですです~! せっかくですから、侑先輩と歩夢先輩の旅であったこと、聞かせてください~!」

歩夢「私たちも、かすみちゃんとしずくちゃんの旅であったこと聞きたい!」

侑「うん! 早めに宿を探して、みんなで旅の報告会しよっか! 二人がどんなポケモン捕まえたのかも見てみたいし!」

かすみ「それじゃ、善は急げです! ちゃちゃっと宿を見つけちゃいましょ~!」

侑・歩夢・しずく「「「おー!」」」


私たちは、お互いの旅の進捗を報告し合うために、意気揚々と宿を探しに町の探索に行くのだった。





    🎹    🎹    🎹





──その晩。4人部屋で取った旅館の一室。


侑「しずくちゃんはもう手持ちが5匹もいるんだね……」
 「ブイ?」「ワシャ」「…ライ」

かすみ「そうなんですよぉ……しず子ばっかりずるいと思いませんか?」
 「ガゥガゥ!」「…プトル」「ザグマ」「……」

しずく「あはは……なんというか、巡り合わせがよかったというか……。かすみさんもすぐに仲間が増えると思うよ」
 「マネマネ」「ジメ…」「カァカァ♪」「スボ」「…キルリ」

歩夢「私と侑ちゃんはまだ3匹だもんね……。……あ、でもニャスパーがいるから、一番手持ちの数が少ないのは私になるのかな……」
 「シャボ…」「ラフット」「マホミ~♪」

侑「う、うーん……? ニャスパーは私の手持ちになるというわけでもないからなぁ……」


まあ、一応便宜上、私が連れ歩くことにはなるけど……。


しずく「それにしても……これだけポケモンがいると、広めの部屋でも、狭く感じますね……」

侑「人間4人に、ポケモン15匹だからね……」


お互い手持ちを見せ合うために、みんなをボールから出しているせいで、広い部屋を取ったのに随分手狭な感じになっていた。

そんな中、


 「マホミ~♪」
歩夢「マホミル? どうしたの?」


マホミルがみんなの荷物をまとめている壁際にふわふわと近寄っていく。

そして──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込み始める。


歩夢「え、ち、ちょっとマホミル!?」

かすみ「あれれ~? 歩夢先輩、かすみんのバッグから物を盗ろうなんて、躾がなってないんじゃないですか~?」

歩夢「ご、ごめんね! マホミル、ダメだよ!」
 「マホミ~?」


歩夢に叱られるも、よくわかっていないのか、きょとんとするマホミル。


リナ『マホミルは甘い匂いが好きだから、バッグの中に何か甘いものがあるのかも?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「甘い物……なにか入れてたかな……?」

しずく「そういえば、かすみさん。フソウ島でいろいろスイーツとか買ってなかった?」

かすみ「……あ、そうだった! いろいろ買い込みましたし……そういえば、侑先輩と歩夢先輩へのおみやげも買ったんだった!」

侑「え、おみやげがあるの!?」

かすみ「はい! ちょっと待っててくださいね~……」

 「マホミ~?」


かすみちゃんはマホミルに見つめられながら、バッグを漁る。


かすみ「はい! これ、おみやげです!」


そう言ってかすみちゃんが取り出したのは──


歩夢「わぁ♪ これ、もしかして“アメざいく”?」

かすみ「ですです~♪ すっごく可愛かったんで、たくさん買っちゃったんです~♪」


様々な形をした、可愛らしい“アメざいく”だった。

いちごにハート、ベリー、よつば、おはな……とにかくたくさん種類があった。


侑「本当にたくさん買ったんだね」

かすみ「はい♪ その中でも、侑先輩にはこの“スターアメざいく”をあげちゃいます♪ 歩夢先輩にはこの“リボンアメざいく”をどうぞ!」

歩夢「ありがとう、かすみちゃん♪」

侑「ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「どういたしましてです~♪」


受け取った“アメざいく”はビニールを被せているのに、すごく甘くて良い匂いがする。

確かに職人たちの手で作られた“アメざいく”たちは可愛らしく、いつまでも見ていられるけど──ぐぅぅ……。良い匂いに食欲がそそられたのか、お腹が鳴る。


侑「……た、食べてもいい、かな……?」

かすみ「え、えぇー!? 食べちゃうんですか!?」

侑「う、うん……ダメかな……? すごい良い匂いするし……」

しずく「確かフソウ島の“アメざいく”は原料にも凝っているという話だった気がします。見た目もさることながら、味も絶品だったはずですよ」

かすみ「え、そうなの?」

しずく「なんで買った人が知らないの……」

かすみ「で、でもでも……そんな可愛い“アメざいく”食べちゃうのは勿体なくないですか……?」

しずく「かなり日持ちするとは思うけど……ずっとそのままにしておいても悪くなっちゃうだろうから、おいしい間に食べてもらっちゃった方がいいと思うよ?」

かすみ「……まあ、それはそうだけどぉ……」

侑「それじゃ、いただきまーす!」


袋を開けて、星型の“アメざいく”を口の中に放り込むと──まろやかな甘さが口いっぱいに広がる。


侑「おいひぃ……♪」

歩夢「侑ちゃん、よかったね♪」

侑「うん……♪ かすみちゃん、ありがとう……♪」

かすみ「いえいえ、気に入っていただけたなら何よりです! 歩夢先輩はどうします?」

歩夢「うーん……私はすぐに食べちゃうのは勿体ないって感じちゃうなぁ……」


そう言いながら、歩夢が悩んでいると──


 「マホミ~♪」


マホミルが歩夢の手に乗っている“アメざいく”を袋ごとかっさらっていく。


歩夢「あ、マホミル~……」
 「マホミッマホミ~♪」


マホミルは“リボンアメざいく”を手に持って、匂いを嗅ぎながら幸せそうにしている。


リナ『きっと、匂いがすごく好みなんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「だから、かすみんのバッグを漁ろうとしてたんですね」

歩夢「まあ……好きな匂いなら仕方ないかな……。よかったね、マホミル」
 「マホミ~♪」


どうやら、歩夢はこの“アメざいく”をマホミルにあげることにしたようだった。


しずく「さて……それでは、今度は私の話を聞いてもらえますか? かすみさんが屋台巡りをしている間に出会った、不思議なロトムの話をしようかなと」

侑「不思議なロトムの話? 聞きたい聞きたい!」

かすみ「あ、その話、実はかすみんも気になってたんだよね」

しずく「少し長い話になりますが……」

歩夢「それじゃ、私お茶淹れるね♪」


──友達とわいわいしながら喋る旅の話はかなり盛り上がり、旅館の一室は夜遅くまでその灯りをともしたまま、夜が更けていくのであった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:96匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.20 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.18 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:101匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:110匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter024 『決戦! ホシゾラジム!』 【SIDE Yu】





──ホシゾラシティでみんなと再会した翌日。


かすみ「ん~……! 良いお天気ですねぇ~!」


かすみちゃんが旅館から出て日光を浴びながら伸びをする。

確かにかすみちゃんの言うとおり、今日は雲一つない快晴。ぽかぽか陽気で、まさに最高の冒険日和だ。


しずく「それにしても……随分ゆっくりなチェックアウトになってしまいましたね」

歩夢「昨日は、かなり遅くまで盛り上がっちゃったもんね……あはは」

リナ『みんな、起こしても全然起きる気配がなかった。ぐっすりだったね』 || ╹ᇫ╹ ||


しずくちゃんたちの言うとおり、昨日は夜遅くまでみんなで旅の話をしていたため、全員揃って朝寝坊。

チェックアウトを済ませた今は、すでにお昼前くらいになっていた。


かすみ「でも、これならさすがにニャスパーのボール移動も完了してるはずですよね!」

侑「そうだね。とりあえず、ポケモンセンターにニャスパーを迎えに行こう」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > 𝅎 < ||


私たちはポケモンセンターへと足を向ける。





    🎹    🎹    🎹





ジョーイ「──お待たせしました! こちらのボールになります!」

侑「ありがとうございます」


ニャスパーの入れられたモンスターボールを受け取り、ジョーイさんにお礼を言って、待っている歩夢たちのもとへと戻る。


歩夢「ニャスパー、受け取れた?」

侑「うん。出ておいで、ニャスパー」


早速受け取ったボールから、ニャスパーを出してあげる。


 「ニャァ」

かすみ「きゃぅ~ん♡ やっぱり、可愛いですぅ~♡」

 「ニャァ?」

侑「ニャスパー。ボールの中は居心地悪くない?」
 「ニャァ」

侑「……相変わらず、無表情で何考えてるのかわからない」

歩夢「あはは……」

しずく「ただ、嫌がっているわけでもなさそうなので……」

侑「うん。ニャスパー、これがしばらくの間、君のお家だからね?」
 「ニャァ」

侑「すぐに君のトレーナー、見つけてあげるからね」
 「ニャァ」

侑「……わかってるのかな……?」

リナ『暴れたりしていなければ、とりあえず問題はないと思う……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」

侑「あはは……とにかく、早く“おや”のところに帰してあげないとね」


とりあえず、ニャスパーの様子だけ確認して、ボールに戻す。


侑「ちゃんと、ボールにも戻せるっと……」


ボールの移し替えに手こずっていると聞いたときは少し心配だったけど、無事に出し入れどちらも出来ることを確認出来て一安心だ。


しずく「ニャスパーも無事ボールに入れられましたし……この後はどうしますか?」

かすみ「ジム戦! かすみん、ホシゾラジムに行きたいです!」


まあ確かに、凛さんが花陽さんと一緒に出掛けてから3日くらい経つし、今日くらいには戻ってきていてもおかしくないはずだ。


侑「それじゃ、一度ホシゾラジムに行ってみようか。歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん、わかった」


歩夢は頷いたあと、


歩夢「……」


一瞬、何か考える素振りをする。


侑「歩夢? どうかした?」

歩夢「あ、うぅん! なんでもないよ!」

侑「気になることがあるなら、言って欲しいな……」


以前のこともあるし……。


歩夢「えっと……ちょっぴり考え事してるだけだよ。考えがまとまったら、ちゃんと侑ちゃんにも説明するから!」

侑「……そう? わかった」


少なくとも、前みたいな悩み方とは違うようだ。

なら、歩夢の方から言ってくれるのを待とうかな……。


かすみ「それじゃ、ホシゾラジムに向かってしゅっぱ~つ♪」

リナ『お~♪』 || > 𝅎 < ||


意気揚々と走り出した、かすみちゃんの背中を追って、私たち一行はホシゾラジムへと移動する。





    🎹    🎹    🎹





到着したホシゾラジムの扉には──昨日のようなジム休業中の張り紙はなくなっていた。


かすみ「張り紙がない……ということは……つまり……!!」

しずく「ジム、再開してるみたいだね」

かすみ「やりました、ついにやりましたよ! たのもぉーー!!」


かすみちゃんはそのまま我先にとジムの中へと入っていく。

私たちもそれに続くようにして、ジムへと入る。

──ホシゾラジムの中は板張りの床で、まるで格闘道場のような内装になっている。さすが、かくとうタイプのポケモンジムなだけはある。

そして、その奥には──


凛「にゃ? 挑戦者かな?」


凛さんの姿。


かすみ「はい!! かすみん、セキレイシティから来ました! ジム戦してください!」

凛「いいよいいよ~! えっと、一緒に来てる子たちは応援──……って、あれ?」


そこで、凛さんと目が合う。


凛「あ、あれれ? 侑ちゃんと歩夢ちゃんだよね?」

侑「はい!」

歩夢「えっと、こんにちは」

凛「二人とも、ホシゾラジムに来てくれたんだね! 嬉しいにゃ~!」


凛さんが本当に嬉しそうに、こちらに手を振ってくる。


凛「もしかして、二人もホシゾラジムに挑戦かな!? 凛、また二人とはバトルしたかったんだ~!」

かすみ「ちょっとちょっと待ってください~!! 先にジム戦への挑戦を申し出たのはかすみんですよ~!!」

凛「あ、そうだったね、ごめんごめん。……まあ、順番は誰が最初でも構わないんだけど……」

かすみ「侑先輩っ!! 1番はかすみんに譲ってください!! かすみんこれが3度目の正直なんですぅ……」


かすみちゃん、ジムリーダー不在でなかなか挑戦出来なかったみたいだからね……。


侑「最初からそのつもりだよ。思う存分、バトルに集中して! 私は応援してるから!」

かすみ「やった~!! さすが、侑先輩わかってますね~!! ……と、言うことでかすみんが1番最初に挑戦します!!」

凛「それじゃ、挑戦者かすみん! 持ってるバッジはいくつ?」

かすみ「1つです!」

凛「わかった。それじゃ、使用ポケモンは2匹。全てのバトルポケモンが戦闘不能になった時点で決着だよ!」

かすみ「はい! わかりました!」


かすみちゃんと凛さんがそれぞれ、バトルスペースへと移動する。

私たちも、その間にかすみちゃんの後ろの観戦用の席に腰を下ろす。

そして、お互いが手にボールを構える。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛! 正々堂々、勝負だよ!!」


両者のボールが同時に宙に舞った──バトル、スタート……!!





    👑    👑    👑





かすみ「行くよ! ジュプトル!」
 「ジュプトーール!!!」

凛「コジョフー! 行くにゃ!」
 「コジョッ!!!」


かすみんの1番手はジュプトル! 対する、りん子先輩の1番手はコジョフーです!

さあ、まずは相手の様子を伺って──


凛「“ねこだまし”!!」
 「コジョッ!!!」

かすみ「!?」
 「プトルッ!!?」


と思った瞬間、ジュプトルの目の前でコジョフーが、両手を叩いて“ねこだまし”してくる。

唐突な攻撃に怯むジュプトル。そして、そこに向かって、


凛「“とびげり”!!」
 「コッジョッ!!!」

 「プトッ!!?」


顔面に炸裂する“とびげり”攻撃。ジュプトルはそのまま、後ろに吹っ飛ばされる。


 「ジュ、プトルッ…ッ!!!」


が、自慢の身のこなしで受け流すように、バク転しながら、ダメージを少しでも殺す。


かすみ「い、いきなり何するんですかぁ!?」

凛「コジョフーのバトルスタイルは先手必勝! もたもたしてると、一気に勝負がついちゃうよ!」

かすみ「むむむ……スピードなら、こっちも負けてないもん! “こうそくいどう”!!」
 「プトルッ!!!!」


ジュプトルは飛び出しながら、一気に加速する。


凛「こっちも“こうそくいどう”だよ!」
 「コジョッ!!!」


2匹が同時に“こうそくいどう”を始め、フィールド内を走り回る。


かすみ「う……向こうも速い……」


お互いがある程度距離を取りながら、間合いを測っているため、自然とフィールド内を大きな円を描きながら回る形になる。

いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかないし、どこかで距離を詰めないと……!


かすみ「仕掛けるよ! ジュプトル!」
 「プトォールッ!!!!」


かすみんの掛け声と共に、ジュプトルが強く踏み込みながら、フィールドを旋回中のコジョフーに向かって一直線に飛び出す。

一気に肉薄したジュプトルは、腕の刃をコジョフーに向かって振り下ろす。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「ジュプトォッ!!!!」


上から一閃する斬撃はそのまま、コジョフーを捉え、


 「コジョッ!!」

かすみ「やった! 直撃です!」


これで形勢は逆転──と、思ったら、


 「コジョォ…!!!」


コジョフーはその場で足を踏ん張り、攻撃を耐えていた。


かすみ「んな!?」

凛「“こらえる”から──“ローキック”!!」
 「コッジョッ!!!!」

 「プトォル!!?」


至近で攻撃を耐え、そのまま足払いを食らわされて、バランスを崩して前につんのめるジュプトル。

そのまま、体勢を崩したジュプトルに向かって、コジョフーは両手を添え、


凛「“はっけい”!!」
 「コジョッ!!!!」

 「プトォッ!!!?」


気功のエネルギーで吹っ飛ばした。


かすみ「じ、ジュプトル!?」
 「ジ、ジュプト…ッ」


壁際まで吹っ飛ばされるジュプトル。どうにか立ち上がるものの、ダメージが大きい。


かすみ「ぐ、ぬぬ……防御はそんなに高くなさそうだから、押し切れると思ったのに……」

凛「その程度のスピードじゃ、簡単に見切れちゃうよ」

かすみ「むむむ……」

凛「それに、“ローキック”で素早さが下がった上に、“はっけい”には相手の筋肉を痺れさせる効果のある技にゃ。これでもうジュプトルは、スピードでコジョフーには追い付けないよ」
 「コジョッ!!」

かすみ「……っ」

凛「さぁ、トドメだよ! コジョフー!!」
 「コジョッ!!!」


コジョフーが床を蹴りながら、拳を構えて飛び掛かってくる。


 「プトル…ッ」


肉薄するコジョフー、構えた拳が当たる瞬間──ジュプトルの姿が突然掻き消えた。


 「コジョッ!!!?」
凛「にゃ!?」


驚きの声をあげる、りん子先輩とコジョフー。


かすみ「ニッシッシ……誰がもうコジョフーに追い付けないんですか~?」
 「──プトルッ!!!!」


気付けば、コジョフーの背後に回ったジュプトルが刃を振るう、


凛「こ、“こらえる”!!」
 「コジョッ!!!」


間一髪で振り向き、腕で攻撃を防ぐ。


かすみ「やりますね! でも、何度も堪えられませんよ!」
 「プトルッ!!!」


再び、掻き消えるジュプトル。


かすみ「さぁ、追いつけますか!! かすみんのジュプトルに!!」

凛「な、なんで、こんなスピードが……!? と、とりあえずコジョフー!! 一旦フィールドの中央まで、逃げ──」

かすみ「遅いです!! “アクロバット”!!」
 「プトォーーールッ!!!!」


高速機動でフィールド内を縦横無尽に跳ね回っていたジュプトルは、狙いを定めて、コジョフーに尻尾を振り下ろした。


 「コジョォッ!!!?」


余りに速すぎるジュプトルの攻撃に対応しきれず、コジョフーはあえなく戦闘不能となりました。


かすみ「ナイス、ジュプトル!」
 「プトルッ!!」

凛「……戻って、コジョフー」
 「コ、コジョ…──」


りん子先輩がコジョフーをボールに戻す。


凛「なんで、“まひ”したはずのジュプトルがあんなスピードで……」

かすみ「ふっふ~ん、実は最初から状態異常は対策してたんですよ~♪」

凛「対策……? ……“きのみ”」

かすみ「そのと~りです! ジュプトルには予め“ラムのみ”を持たせていました!」

凛「そして、“まひ”を回復すると共に、“かるわざ”を発動させて、素早さを逆転された……」

かすみ「ですです~♪ バトルは準備段階から始まってるんですよ~!」

凛「そのとおりだね……。いい奇襲作戦にまんまとやられちゃった」

かすみ「いえいえ、それほどでも……こっちも“はっけい”での“まひ”がなかったら、かなりやばかったですから……。……とはいえ、もうここまで体の温まったジュプトルがいれば、2匹目も楽勝でしょうけどね~♪」
 「ジュプトォル!!!」


もはや、このスピードのジュプトルに追い付けるポケモンがいるとは思えない。

これで、かすみんの勝利は約束されたようなものですね!


凛「確かに……その速さはピンチかも。……でも、勝負は最後までわからないよ! 行くよ! ゴーリキー!」
 「──ゴォーリキッ!!!」


りん子先輩の最後のポケモンはゴーリキー。これまた、かくとうタイプらしい、かくとうタイプのポケモンが出てきました。


かすみ「さぁ、ジュプトル! このまま、決めちゃうよ!」
 「プトルッ!!!」


ジュプトルが床を蹴って飛び出した。

一気に肉薄し、ゴーリキーに向かって、腕を振り下ろす。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトォル!!!!」

 「リキ…ッ!!」


あまりのスピードに回避もままならず、攻撃が直撃し、うめき声をあげるゴーリキー。


凛「“からてチョップ”!!」
 「リキッ!!!」


ゴーリキーも負けじと、攻撃を返してくるけど、


 「プトル!!!」
かすみ「そんな攻撃当たりませんよ~!」


ヒット&アウェイで離脱するジュプトルはなんなく攻撃を回避する。


かすみ「ふっふ~ん♪ これは楽勝な流れですね~!」
 「プトルッ!!!」


再び接近し、ヒット&アウェイを狙った“リーフブレード”を振り下ろした、瞬間──ゴーリキーが自分から前に出てきた。


かすみ「!?」
 「プトルッ!!?」


まさか前に飛び出してくると思わなかったため、ジュプトルの縦薙ぎの攻撃は、ゴーリキーの肩辺りに振り下ろされる。

ジュプトルの腕は──ガッと音を立てながら、ゴーリキーの肩に上からぶつかり、


凛「そこっ!!」
 「リキッ!!!」

 「プトルッ!!?」


ゴーリキーは自分の肩にぶつかった、ジュプトルの腕をがしりと掴んだ。


かすみ「え!? や、やば!?」

凛「“あてみなげ”!!」
 「ゴーーーリキッ!!!!」

 「ジュプトォ!!?」


ゴーリキーは身を捻りながら、ジュプトルを背負い投げして、地面に叩きつける。


 「プ、プトォッ…!!」


地に伏せったジュプトルに向かって、


 「リキッ!!!!」


ゴーリキーが腕を引く。


かすみ「やばっ!!? ジュプトル、回避!! 今すぐ起きて!!」
 「ジュ、プ、トォッ!!!」

凛「“メガトンパンチ”!!」
 「リキィッ!!!!!」


猛スピードで振り下ろされる拳を、跳ね起きの要領でギリギリ回避する。

──先ほどまで、ジュプトルがいた場所には、拳が突き刺さり、床板に風穴が空く。


かすみ「あ、あっぶな……!」


当たってたら間違いなく倒されてた……! ジュプトルはそのまま、ゴーリキーから一旦距離を置く。


かすみ「近付いたらダメかも……。じゃあ、遠距離攻撃に変更! “タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルルッ!!!!!」


近接攻撃でカウンターを狙われるなら、遠距離から攻撃しちゃえば問題ないはず……!!


凛「“ビルドアップ”!!」
 「ゴーーリキッ!!!!」


りん子先輩の指示と共に、ゴーリキーはボディビルのようなボーズをしながら、筋肉に力を入れる。

力が籠もって、大きく盛り上がった筋肉は、飛んできた“タネマシンガン”をその身で弾きながら、


 「リキ」


少しずつ前進してくる。


かすみ「き、効いてない……!? 遠距離攻撃じゃ威力が足りてないってことですか!?」

凛「もう、逃げ回らせないよ。“じならし”!!」
 「ゴーリキッ!!!」


ゴーリキーがダンッと床に向かって、震脚し、地面を揺らす。


 「ジ、ジュプトッ」
かすみ「わ、わわわ……!?」


もう体力が限界に近いジュプトルは踏ん張るのも限界だったのか、一瞬揺れに足を取られる。

その一瞬を見逃さず、ゴーリキーが走り出した。


かすみ「こ、こっち来たぁ!?」
 「ジ、ジュプトッ…!!」


足をもつれさせる、ジュプトルに迫るゴーリキー。


 「リキィ!!!」


再び腕を引き、振り被る。絶体絶命のこの瞬間、かすみんは──


かすみ「ジュプトル!! ゴーリキーの顔を見てっ!!」
 「プトッ!!!」

かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
 「プトォォォルッ!!!!」


ジュプトルの口から青い炎が音を立てながら吹き出した。


 「リ、リキッ!!!」


顔面に“りゅうのいぶき”を浴びたゴーリキーがよろける。


かすみ「こ、これで倒れてください……っ!!」


顔面という急所に直撃させ、この一撃で決着してくれることを祈る──が、その祈りは届くことはなく、


 「リキ…」


ゴーリキーはまだ、ジュプトルの目の前に立っていた。


かすみ「……っ……!」

凛「“からげんき”!!」
 「ゴォォォォリキィ!!!!」


全力のパワーを載せたチョップが、足を取られ床で蹲るジュプトルに直撃した。


 「ジュ、プトォ…」


さすがに、この一撃は耐え切れず。ジュプトルは戦闘不能になって気絶してしまった。


かすみ「戻って、ジュプトル……ありがとう」
 「ジュ、プ…──」

凛「今度はこっちが“りゅうのいぶき”の“まひ”を利用させてもらったにゃ」
 「リキ」

凛「“からげんき”は状態異常になると威力が倍増する技。さらにゴーリキーの特性は“こんじょう”。状態異常になった今、攻撃力はさらに増大してるよ」

かすみ「…………」


さっきと状況が逆転してしまった。苦し紛れに放った“りゅうのいぶき”が却って悪い方向に働いてしまいましたね……。

もともとジュプトルで勝ち切るつもりだったから、結構ピンチな状況に見えますけど……。


かすみ「……ふっふっふ……この勝負、貰いましたよ」

凛「にゃ?」

かすみ「かすみんには対かくとうタイプ用に残しておいた秘策があるんですよ!」


かすみんはフィールドに向かって、最後のポケモンを繰り出す。


かすみ「行くよ! サニーゴ!!」
 「──…………」

凛「サニーゴ……その見た目、ガラルサニーゴだね」

かすみ「さすがジムリーダーですね! そのとおり、この子はガラルサニーゴです! つまり、ゴーストタイプです!」

凛「……なるほど、ゴーストタイプには、かくとうタイプの攻撃が通らないね」

かすみ「そういうことです! メインの攻撃手段を失ったゴーリキーにどこまで出来ますかねぇ~?」

 「リキ」


ゴーリキーがのっしのっしとサニーゴの方に近付いてくるけど、出来ることなんてほとんどないはずです。

あとはじわりじわりと攻めていけば勝ちは盤石──


 「リキ…」


ゴーリキーは拳を握りしめたまま、前進を続ける。


かすみ「気合い十分なのはわかりますよ~。でも、効かない物は効きませんから!」

凛「“きあいパンチ”!!」
 「リ、キィッ!!!」

かすみ「だから~、サニーゴにかくとうタイプの技は──」


──ヒュンと何かが、かすみんの真横を横切る。


かすみ「へ?」


後ろを振り返ると──サニーゴがジムの壁に突き刺さっていた。


かすみ「へ!? ちょ、な、なんで!?」


何故か、かくとうタイプが効かないゴーストタイプのサニーゴに攻撃が直撃していた。


凛「確かに、かくとうタイプの攻撃はゴーストタイプには効かない。……だけど、それを破る技があるんだよ」

かすみ「へぇ!? な、なんですかそれぇ!?」

凛「“みやぶる”。この技を使えば、ゴーストタイプの正体を見破って、かくとうタイプやノーマルタイプの攻撃が当たるようになるにゃ」

かすみ「う、うそぉ……!」


……や、やばいです……完全に計算が狂いました……。

完全に狼狽えるかすみん。

ですが、いつの間にかはまった穴から抜け出したのか、ふわ~っとサニーゴが近付いてきました。


かすみ「さ、サニーゴ……?」
 「………………サ、コ」

かすみ「!」


仲間になってから初めて、サニーゴが鳴き声をあげました。


かすみ「……もしかして、やる気ってこと……?」
 「…………」


今度はスーっと、かすみんの前に躍り出る。

この絶体絶命なシチュエーションの中、どうやらサニーゴは戦意を失っていないようだった。


かすみ「……わかった。サニーゴ、信じるよ!」
 「…………」

かすみ「“シャドーボール”!!」
 「…………サ」


影で出来た弾がゴーリキーに向かって撃ちだされる。


凛「“からてチョップ”!!」
 「リキッ!!!」


ゴーリキーはそれを直接チョップで叩き落とす。


かすみ「ち、直接殴って防いでくるなんて……! なら、数で勝負です!! “パワージェム”!!」
 「…………コ」


今度は宝石のようなきらめく光が複数発射される。


凛「“クロスチョップ”!!」
 「リキィィ!!!!」


今度は、腕をクロスにしたチョップで、一気に薙ぎ払う。


かすみ「……っ! これも、ダメ……っ……!」

凛「いつまでも、遠距離技に付き合うつもりはないよ!!」
 「リキィ!!!」


カイリキーが再び、手刀を構えながら迫ってくる。


かすみ「サニーゴ! 逃げ──……るのは無理かも……」
 「…………」


相手が“まひ”しているとはいえ、動きが絶望的にのろのろなサニーゴが迫ってくるゴーリキーから逃げるのは無理……!


かすみ「なら、迎え撃つしかない……!!」

凛「“からてチョップ”!!」
 「リキィッ!!!!」

かすみ「“てっぺき”!!」
 「………………ニ」


──ゴッ!! と硬いモノを叩く音と共に、チョップが炸裂する。

真上からの強烈な一撃に、浮いていることもままならず、サニーゴを床に叩き落とされ、そのまま床板にめり込んでしまう。


凛「さぁ、トドメ……!!」


再び、ゴーリキーが手を振り上げた瞬間──ゴーリキーの動きが止まった。


凛「……!? ゴーリキー!? なんで、攻撃しないにゃ!?」
 「リ、リキ…」


いや、止まったんじゃない。ゴーリキーは腕を“振り下ろせなくなった”だけ。


かすみ「今、触りましたよねぇ~?」

凛「にゃ……?」

かすみ「触れられたら、たまーに発動するんですよ……この子の特性は……!!」

凛「特性……? まさか、“のろわれボディ”……!?」

かすみ「そのとーりです!! サニーゴの特性は“のろわれボディ”!! 直接触った部位に呪いを掛けて技を使えなくしますよ!! もう、ゴーリキーの拳は封じました!!」


これはかなり大きなアドバンテージです……!! 拳を封じた今のうちに、次の策を──


凛「──“メガトンキック”!!」
 「リキィッ!!!!」


──考える間もなく、サニーゴは蹴り飛ばされて、


かすみ「……あ」


バゴッ!! と音を立てながら、再びかすみんの背後の壁にめり込んでいた。


凛「拳が使えないなら、蹴ればいいよ」
 「リキッ!!!」

かすみ「…………」

 「………………ゴ」
かすみ「……! サニーゴ……!」


まだ、サニーゴは戦闘不能じゃない……! 壁から抜け出して、ふらふらしながら飛んでいる。


凛「すごいタフさだけど……もう、さすがに限界みたいだね。今度こそ、トドメだよゴーリキー!」


りん子先輩の指示で歩き出したカイリキーは、


 「…リ、キッ」


急に膝を突いた。


かすみ・凛「「……え!?」」


二人で同時に驚きの声をあげる。

だって、サニーゴの攻撃はほとんど有効に通ってなかったのに、どうして……!?

サニーゴが何かをしたのかと思って、振り返ると──


かすみ「……っ!!!?」


サニーゴの虚ろな目の奥に──他に形容しがたいような、不吉な炎を宿したような光が見えた。

まるで何かを恨めしく呪うような──


かすみ「……あ」


そこで、気付いて思い出す。以前見た図鑑説明の文章を──

 『サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:0.5kg
 急な 環境の 変化で 死んだ 太古の サニーゴ。 大昔
 海だった 場所に よく 転がっている。 体から 生える 枝で
 人の 生気を 吸い 石ころと 間違えて 蹴ると たたられる。』


かすみ「……サニーゴを蹴っとばしたから、呪われたんだ……!」


つまり──今のゴーリキーは“のろい”で体力が削られ続けている状態だから、膝を突いたということ……!!


凛「ご、ゴーリキー!! あと少しだから……!!」
 「リ、リキ…」


ただでさえ、ジュプトルとの戦いでHPを削られていたゴーリキーは、“のろい”のダメージも相まって満身創痍。


 「………………サ、ニ、ィ、ゴ、ォ……!!!!!!」


そこに向かって、サニーゴが今まで聞いたことのないようなおどろおどろしい鳴き声をあげると──


 「……リ、キ……ッ……」


急にゴーリキーはビクンと震えるように痙攣したあと──その場に大の字になって倒れ込んでしまったのだった。


かすみ「……へ」

凛「……うそ」

かすみ「……も、もしかして、勝ったの……? 私たち……?」

凛「……ゴーリキー戦闘不能……よって、チャレンジャーかすみんの勝利にゃ」

かすみ「…………や、やったぁぁぁ!! なんか、わかんないけど、勝ちましたーー!!!」
 「…………サ」


気付けば、かすみんの近くに飛んできていたサニーゴを抱きしめる。


かすみ「ありがとうーー!! サニーゴ!! お陰で勝てたよー!!」
 「…………ニ」

凛「最後の攻撃は“たたりめ”だね……。状態異常の相手に使うと威力が倍になる技だよ。“まひ”してたのもあったし、とてもじゃないけど耐えられなかったにゃ……」


りん子先輩はゴーリキーをボールに戻しながら、話を続ける。


凛「まさか、蹴ったことが原因で呪われるなんて……」

かすみ「かすみんも驚きました……完全にラッキーだったというか……」

凛「でも、負けは負けだね……。その実力を認めて、この──“コメットバッジ”を進呈するにゃ」


そう言って、りん子先輩は取り出した隕石の形をしたジムバッジをかすみんに手渡してくれました。


かすみ「ありがとうございます!! えへへ~♪ やりましたよ~! しず子~! 侑先輩~! 歩夢先輩~!」
 「………………ゴ」


サニーゴを抱きかかえたまま、観戦していた、しず子たちのもとへと走る。


しずく「やったね、かすみさん! すごかったよ!」

歩夢「うん……! 特にサニーゴの逆転劇、すごかった……」


今回ばかりは素直に褒めてくれるしず子と、いつもどおり優しい歩夢先輩。そして──


侑「かすみちゃん!!」

かすみ「うわぁ!?」


侑先輩が目を輝かせながら、顔を近づけて来た。


侑「今のバトル、ほんっとうにすごかった!! 全然予想出来ない展開に、形勢が何度も入れ替わって……そして、最後のどんでん返しの大逆転!! 私、すっごくときめいちゃった!!」

かすみ「えへへ~♪ それほどでもありますけど~♪」
 「………………サ」

かすみ「かすみんのことばっかじゃなくて、この子も褒めてあげてください♪」

侑「うん! サニーゴ! ホントすごかったよ!!」

 「……………………ニ」
かすみ「うんうん♪ サニーゴも褒められて喜んでますね♪」

しずく「そうなの……?」

歩夢「ふふ♪ きっと、喜んでるんだと思うよ♪」


仲間たちと勝利の余韻を味わっていると──


凛「さて……それじゃ、次は侑ちゃん? それとも、歩夢ちゃんかな?」


りん子先輩が、こちらにやってきて、そう問いかけて来た。


歩夢「あ……えっと……」


迷う素振りを見せる歩夢先輩。そんな歩夢先輩に、


侑「──歩夢、どうしたい?」


侑先輩がそう訊ねた。その顔は──すごくすごく優しい表情だった。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……?」

侑「歩夢は、どうしたい?」

歩夢「私は……」


侑ちゃんがすごく優しい口調と表情でそう問いかけてくれる。


歩夢「……私は──ちゃんとやり直したい」


あのとき、うまく出来なかったことを、出来ないまま、終わりにしたくない。私の答えを聞くと、


侑「うん! 歩夢なら、きっとそう言うと思ってたよ!」


侑ちゃんはニッコリと笑って、そう返す。


侑「凛さん、ジム戦についてなんですけど」

凛「?」

歩夢「……凛さんと花陽さんの二人とマルチバトルでやらせてもらえませんか」

凛「……!」


凛さんは私たちの提案を聞くと、少し驚いたような顔をしたけど、


凛「そうだね、再戦が違う形だと歩夢ちゃんも侑ちゃんもすっきりしないもんね!」


すぐに納得してくれたようで、笑顔で頷いてくれた。


凛「でも、かよちんにも予定があるから、それだとすぐには出来ないから……後日ってことになるけど、いい?」

歩夢「はい!」

侑「もちろんです!」

凛「ありがとにゃ! それじゃ、かよちんがこっちに来られる日に都合がついたら、二人に連絡するよ!」

歩夢「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


私と侑ちゃんは、凛さんとポケギアの番号を交換する。

再戦は後日──ホシゾラシティで、凛さん、花陽さんと戦う。

侑ちゃんと一緒に……!





    🎹    🎹    🎹





──ホシゾラジムを後にして……。


かすみ「侑先輩たちはこれからどうするんですか?」

侑「うーんと……ホシゾラジムのジム戦はすぐに出来ないだろうから、一旦ウチウラシティの方を目指すことになるかな? 歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん、大丈夫だよ」


というわけで、私たちの次の進路はウチウラシティだ。


歩夢「かすみちゃんたちはどうするの?」

かすみ「えーっと、次のジムは……」

しずく「西のコメコシティかな」

かすみ「じゃあ、そっちです!」

しずく「というわけで、コメコの森に行くことになりますね」


かすみちゃんたちは私たちが来た方向へと進むようだ。私たちとは逆回りで巡っていたみたいだし、予想通りではあるけど。


侑「それじゃ、ここでお別れだね」

かすみ「もうお別れですか……かすみん、寂しいですぅ……」

歩夢「きっとまたすぐに会えるよ♪」

しずく「ですね。旅をしていれば、またどこかですれ違うでしょうから」

かすみ「……侑先輩、次は負けませんからね!」

侑「望むところだよ! 私だって、次も負けるつもりないから!」

しずく「全員、次会うときはさらに成長した姿を見せられるように、邁進しましょう!」

歩夢「うん! そうだね♪」


4人みんなで笑い合って、


侑「それじゃ、またね! 二人とも!」

歩夢「何か困ったことがあったら、いつでも連絡してね?」

しずく「侑先輩、歩夢さん、道中お気を付けて」

かすみ「次会うとき、あんまりにすごくなったかすみんに腰抜かさないでくださいよ~!!」


またそれぞれの旅路へと歩き出すのであった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:71匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:98匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:103匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:112匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『適当に話ながらポケモン厳選する』
SVレート戦準備編#1
(19:02~放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


■Chapter025 『スボミーの森』 【SIDE Shizuku】





──時刻はお昼を過ぎ、太陽が少しずつ傾き始めた頃。


かすみ「それじゃ、コメコシティに向かってレッツゴー♪」

しずく「日が暮れる前に森を抜けないとね」


3番道路を通過し、コメコの森に差し掛かった。

コメコの森は、オトノキ地方最大の森だけど、道さえ外れなければ抜けるのはさほど難しくない場所だ。

野生のポケモンの気性も大人しいポケモンが多いし、苦労することもないだろう。

そんな中、私の腰についているボールが1つ、震え出す。


しずく「ん……?」


どうやら、外に出たがっているようなので、ボールを投げて、外に出す。


 「──スボ…」
しずく「スボミーどうしたの?」

 「スボ…」


ボールから出たがっていたのはスボミーだ。スボミーは外に出ると辺りをキョロキョロ見回しながら、とてとてと歩き始める。


かすみ「そういえば、しず子のスボミーってこの森のポケモンだったんだよね?」

しずく「うん……まあ、そうだね」

かすみ「やっぱり、故郷の空気が恋しかったのかな」

しずく「……そうかもしれないね」


……とはいえ、結果として群れから追い出されてしまった子だから、自分から外に出たがるとは思っていなかったけど……。


 「スボ…スボミ」


スボミーは辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いている。


かすみ「なんだろう……見回りでもしてるみたいかも」

しずく「もしかして……敵がいないか見張ってるの?」
 「スボ」

しずく「大丈夫だよ、スボミー。この森は大人しいポケモンが多いから……。……あれ……?」

かすみ「どしたの、しず子?」

しずく「いや……」


ふと、思う。……このスボミーが群れから追い出された理由は、ロトムの言っていたことが正しいのなら、外敵に自分から攻撃を仕掛けていたからだ。

しかし、この森のポケモンは基本的に大人しい気性のポケモンばかり。……じゃあ、スボミーは一体何と戦っていたんだろうか……?


しずく「…………」


もしかして……スボミーたちの外敵足りうる何かが、この森には潜んでいる……?

森の木々が風に揺れ、葉同士が揺れて擦れ合う特有の音が聞こえてくる。

普段だったら、平和の象徴のような、穏やかな自然のBGMも、そんな疑念のせいか、少し不気味な音に聞こえる気もする。


しずく「考えすぎ……かな」


あたりを見回すと、


 「スボ…」「スボミ…」「ボミィ…」


いつのまにか、私たちを遠巻きに見つめるスボミーたちが、あちこちにいることに気付く。


しずく「スボミー……このスボミーが元居た群れの子たちかな……」
 「スボ」

かすみ「なんか、遠巻きに見てる……やっぱり怖がられてるみたいだね」

しずく「うん……」


ただ、スボミーはそんなことを気にも留めず、辺りをしきりに見回している。


しずく「スボミー……どうしたのかな……」

かすみ「やっぱり今でも、元居た群れの仲間たちが心配なのかもよ?」

しずく「……そういうことなのかな」


そういう理由なら、いいんだけど……。なんだが、スボミーの警戒の仕方に少しだけ異様なものを感じ始めた、そのときだった──


 「──フェロ」

かすみ「……え?」

しずく「……!?」


気付いたときには──細く、真っ白なポケモンが私たちの目の前に立っていた。

長身な人間くらいの高さで、透き通るような白い体躯の初めて見るポケモン。

姿を認めた次の瞬間──気付けば、私は尻餅をついていた。


しずく「……え?」


余りに自然に膝が折れて、尻餅をついている自分に驚いた。

それと同時に、身体が震えていることに気付く。

さらに、全身から嫌な汗を掻き始める。

──それは、生物としての本能だった。

理由はわからないけど、このポケモンは……まずい。脳が警鐘を鳴らしている。

咄嗟に、かすみさんにも視線を向けると、


かすみ「……あ、え……?」


かすみさんも同じような状態で尻餅をついていた。


 「フェロ…」


目の前のポケモンが、私に視線を向けて来る。目が──逢った。

視線が交わった瞬間──動けなくなった。


しずく「……だ、ダメ……」


脳が本格的に危険信号を発し始めたが、身体が動かない。

そんな中、


 「スボォォォーーーー!!!!!」


スボミーが雄たけびを上げながら、そのポケモンに向かって飛び掛かって行った。


しずく「だ、ダメ……!? スボミー……っ……!」


私の制止も虚しく、


 「フェロ」

 「スボォッ!!!?」


スボミーは目の前の白いポケモンに足蹴にされた。

吹きとばされるスボミー。

ここからはほぼ反射だった。力の入らない身体を必死に動かして、


しずく「スボミー……ッ!!!」


飛んでくるスボミーに向かって、抱き留めるようにして飛び付き、スボミーを抱きかかえると──そのまま、視界が回った。

あまりに強い勢いで蹴られたスボミーを受け止めたせいか、威力が殺しきれずに一緒に吹き飛ばされていたのだ。

そのまま、地面を転がり、


しずく「……ぐっ……!!」


森の木に背中を打ちつける形でやっと止まった。


かすみ「し、しず子……ッ!!」

しずく「…………ぁ……ぐ……っ……」


かすみさんの声がずいぶん遠くに聞こえる……。

いや、恐らくそれくらい吹っ飛ばされたんだ。

痛みを堪えながら、


しずく「スボミー……だい、じょうぶ……?」


スボミーに向かって、安否を訊ねる。


 「ス、スボ…」


すると、私の胸の中で、スボミーが鳴き声をあげた。


しずく「無事……みたい、だね……よかった……」
 「スボ…」


やっとわかった。スボミーが戦っていた外敵は──あのポケモンだ。

そして、あのポケモンは危険だ。危険すぎる。

立ち上がって、逃げなくちゃ。今すぐに。

顔を上げると──


かすみ「し、しず子……っ……!」


かすみさんがこちらに這いながら、寄ってきているところだった。

恐らくかすみさんも、目の前のポケモンの危険性には気付いている。

どうにか、逃げるんだ。

私も起き上がろうとした、そのとき、ふと──胸がドキドキと高鳴っていることに気付く。


しずく「……え?」


胸が高鳴っている。恐怖によるものではない。

気持ちが昂揚し、興奮しているときの、胸の高鳴り。

こちらに這って近付いてくる、かすみさんの先に──


 「フェロ」


先ほどのポケモンが私たちを見下すように立っていた。

そのポケモンを見て、思った──思ってしまった。


しずく「──綺麗……」


よく見ると、そのポケモンは美しかった。今まで見た、どんなポケモンよりも。

私がさっき視線を外せなかったのは、恐ろしかったからじゃない。

あのポケモンが美しすぎて、目を離せなかったんだ。

そんなことに気付いて、


しずく「……あは、あははは……♪」


何故か、笑いが込み上げてきた。


かすみ「し、しず子……?」

しずく「すごい……すごい……!! あのポケモン綺麗……今まで見たどんなモノよりも美しいポケモンだよ……」


なんだか、うっとりとしてしまう。


かすみ「ちょっと、しず子、どうしちゃったの!?」


やっと、私のもとに辿り着いたかすみさんが、私の両肩を掴む。


しずく「あ、か、かすみさん……あのポケモンが見えないよ……!!」

かすみ「しず子!? 何言ってるの!?」

しずく「もっともっと、目に焼き付けないと……♪」


私の顔を覗き込むかすみさんを避けるように、あのポケモンを視界に入れる。

──噫、美しい……♪ その透き通るように白くて、スラっとした細長い体躯は木漏れ日を反射しながら、輝いている。

見ているだけで、心が洗われるようだ。こうして視界に入れているだけで、幸福感が胸を満たしていくのがわかる。


 「スボォッ!!!」


そのとき、胸元で急にスボミーがボフンッ! と音を立てながら、花粉をまき散らした。


しずく「ぐ、げほげほ……っ……」
 「スボ、スボボ!!!」

しずく「あ……あれ……私……今……?」


今、私……何言ってたっけ……?

頭の中におかしな靄が掛かっていたような……。


かすみ「しず子!! 逃げるよ!!」


かすみさんがフラフラしながら立ち上がり、私の手を掴んで走りだそうとする、が、


かすみ「……わっ!?」


まだ身体の自由が効いていないのか、すぐにバランスを崩して、転んでしまう。


しずく「か、かすみさん!? 大丈夫!?」

かすみ「……っ……そ、それはこっちの台詞だよ……っ!!」

しずく「え……?」

かすみ「って、あぁ!! こっちに来てる!!」

しずく「え?」


振り返ろうとした瞬間、


かすみ「見ちゃダメ!!」


かすみさんが、私の頭を抱えるようにしてハグしてきた。


しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「しず子は絶対あいつのこと見ちゃダメ!!」

しずく「え、ええ……?」


私が動揺する中、


 「スボッ!!!」


スボミーが私の胸元から飛び出していく。


しずく「あ、スボミー!?」


そして、それと同時にスボミーが眩く光り出した。


しずく「!? まさか、このタイミングで進化!?」


視界のほとんどがかすみさんで埋まっているせいで、ちゃんと確認は出来てなかったけど、一瞬視界の端で捉えたあの光は恐らく進化の光だった。


かすみ「スボミー……!! しず子を守るために……!!」

 「──ロゼェッ!!!!」


そして耳に届いてくるのは、スボミーが進化したポケモン──ロゼリアの鳴き声。


かすみ「今のうちに……!! 逃げるよ……!!」

しずく「待って!? ロゼリアが戦っているのに“おや”の私が逃げるわけにいかないよっ!!」

かすみ「ロゼリアが時間を稼いでくれてる間に逃げるの!!」


二人で言い合いを始めた、次の瞬間には、


 「──ロゼェッ…!!!?」


ロゼリアは私たちのすぐ傍まで吹きとばされて、ぐったりとしていた。


しずく「ロゼリア……!?」
 「ロゼ…」

かすみ「だ、ダメです……っ……れ、レベルが違い過ぎます……」


私を抱きしめたまま、かすみさんが震え出す。

このままじゃ埒が明かない。


しずく「ごめん、かすみさん……っ!!」


かすみさんを引き剥がすようにして、


かすみ「きゃんっ!?」


両手でかすみさんを押すと、かなり弱い力だったのに、かすみさんは再び尻餅をついてしまった。

でも、このままじゃ全滅しかねない。

私は決意し、あの白いポケモンと対峙するために振り返った。


かすみ「見ちゃダメ、しず子っ!!」

 「フェロ」

しずく「……あ」


視界に入れた瞬間。全身の力が抜けて、再びへたり込む。


しずく「あ、えへへ……すごい……きれい……?」


あのポケモンの一挙手一投足を見ているだけで、脳が溶けるような気分になった。

一歩ずつ、一歩ずつ、私の目の前に迫り。


しずく「あ……?」


そのポケモンは、私の目の前で、その長い脚を振り上げた。


かすみ「しず子っ!!!!」


──あ、きっと死ぬ。

猛スピードで振り下ろされる脚が、何故かスローモーションのように見えた。

でも、自分が今際の際にいることすら、どうでもよく思えるくらい──美しかった。


 「──バイウールー!!! “コットンガード”!!!」


──が、その瞬間、私とそのポケモンの間に白いもこもことしたものが割り込んできて、ボフッと音を立てながら、蹴りを受け止めた。


しずく「……ぁぇ……?」

かすみ「しず子……っ!!」


かすみさんが飛びついてきて、再び抱きしめられる。


かすみ「大丈夫!? 怪我してない!?」

しずく「?? ????? ???」

女性「──大丈夫!?」


知らない人の声が聞こえる。


かすみ「た、助けてくださいっ!! しず子が、しず子がおかしくなっちゃって……!!」

女性「ウルトラビーストの毒が回ってるね……遥ちゃん、診てあげて」

女の子「う、うん! ちょっと失礼します!!」


急に、かすみさんから剥がされて、視界に現れたのは明るい茶髪のツインテールの女の子の顔。


女の子「……瞳孔の動きがおかしい……かなり、毒が回ってる……」

しずく「?? ???」

かすみ「毒!? 毒ってなんなんですか!?」

女の子「えっと……あのウルトラビーストには、特殊なフェロモンで人やポケモンを魅了する力があるんです」

かすみ「フェロモン!? だから、しず子がおかしくなって……!!」

女の子「とにかく、戦闘はお姉ちゃんたちに任せて、一旦離れましょう!!」

かすみ「は、はい!! わかりました!!」

しずく「??? ????」


私の身体が、ツインテールの女の子と、かすみさんの二人掛かりで持ち上げられる。


かすみ「しず子!! 今、助けるからね!!」

しずく「??? ?????」





    🐏    🐏    🐏





──ウルトラビーストの反応がして、すぐに駆け付けたら、人が襲われている場面に遭遇した。


 「フェロ!!!」

彼方「もいっかい! “コットンガード”!!」


振り下ろされる脚を、さらに増量した毛皮でガードする。


 「フェロ…ッ」


攻撃がうまく通らず忌々しそうにするフェローチェの背後から、


穂乃果「ピカチュウ!! “アイアンテール”!!」
 「ピッカァッ!!!」


穂乃果ちゃんのピカチュウが飛び込んできて、横薙ぎに“アイアンテール”を炸裂させる。


 「フェロッ…!!!」


吹っ飛ばされながらも、フェローチェはその身のこなしで受け身を取り──


 「フェロォ…!!!」


とてつもない、瞬発力で飛び回り始める。

このウルトラビーストは一瞬で時速200㎞にも到達する瞬発力を持っていて、目で追うのはほぼ不可能に近い。

でも、こんなスピードタイプ相手には──


穂乃果「千歌ちゃん!! 任せた!!」

千歌「了解です!! ルカリオ、行くよ」
 「グォゥッ!!!」


千歌ちゃんが、目を閉じる。

風を切りながら、森の中を飛び回るフェローチェの音──いや、気配を察知して、


千歌「……そこっ!! “いあいぎり”!!」
 「グゥォッ!!!!」


── 一閃した。


 「フェ、ロッ…!!!!」


高速機動をしながら、必殺の一撃で切り裂かれたフェローチェはそのままバランスを崩して、森の木にぶつかり、一瞬蹲ったあと──空中にあいた“穴”へと逃げていった。


穂乃果「おみごと! 千歌ちゃん!」

千歌「ふぅ……一発で成功してよかったぁ……」

彼方「それより、さっきの子たち……!!」

穂乃果「そうだった……!! 急ごう!!」

千歌「はい……!」


私たちは、遥ちゃんと一緒にいるはずの、さっき襲われた子たちのもとへと急ぐ。





    👑    👑    👑





しず子を二人掛かりで抱きかかえるようにして、少し離れた場所に逃げることが出来た。


かすみ「あ、あの……!! しず子は……!?」

遥「かなり……危ない状態です」


移動している最中に、遥と名乗った子はしず子の状態を確認しながら、そう言う。


かすみ「あ、危ないって……」

遥「フェローチェの毒は……感受性の強い人にとっては猛毒になります。……このまま毒が回りすぎると、精神汚染されてしまって……最後は……」

かすみ「精神、汚染……」


なんですか、その物騒なワードは……。


遥「とにかく、すぐに専門の治療をしないと……! 本部に連絡を入れます……!」


本部が何かはわからないけど……。


かすみ「それって、すぐに来てくれるんですよね!? 間に合うんですよね!?」

遥「……わかりません。でも、出来るだけ急いでもらいます」

かすみ「そんな……」


それじゃ、このままじゃ、しず子は……。


しずく「……ぁ」


さっきまで、虚ろな目で黙っていたしず子が小さく声をあげた。


かすみ「しず子……?」

しずく「……さっきの、さっきのポケモンは、どこ? ねぇ、どこ? どこどこどこ!?」

かすみ「!?」

遥「い、いけません!? もう禁断症状が!?」


さっきのポケモンの姿を求めて、急に暴れ出すしず子。


しずく「もっと、もっと見てたいのっ!!! ねぇ、どこ、どこどこどこ!!?」


大声をあげながら、暴れるしず子に向かって、


かすみ「しず子っ!!!」


かすみんは大きな声で呼びかけながら、肩を掴んで顔を覗き込んだ。


かすみ「かすみんを見てッ!!!!」

しずく「ッ!!?」

かすみ「あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?」

しずく「……ッ!!!?」

かすみ「毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんなの変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!」


ただ、必死に叫ぶ。1秒でも早くしず子に──大切なしず子に、いつものしず子に戻って欲しい一心で、叫んだ。


しずく「……か、すみ……さん……?」

かすみ「!! しず子!! うん!! かすみんだよ!!」

しずく「……かすみ……さん……」

かすみ「しず子、大丈夫っ!! かすみんがいるから……っ!!」


ぎゅっとしず子を抱きしめると、


しずく「…………う、ん…………」


しず子は小さく返事をしたあと、かすみんの胸の中で、クタっとなってしまった。


かすみ「し、しず子!?」

遥「発作が……収まった……」

かすみ「あ、あのあのあの!? しず子がクタって……!?」

遥「大丈夫です、発作が落ち着いて、気を失っただけだと思うので……」

かすみ「へ……? そ、そっか……」


かすみんも力が抜けて、しず子を抱きかかえたまま、へたり込んでしまう。

そこに──


 「おーい!! 遥ちゃーん!!」


さっきかすみんたちを助けてくれた、バイウールーのトレーナーのお姉さんが、向こうから駆けてくるのが見えた。


遥「お姉ちゃん!! こっち!!」


どうにか、撃退にも成功したようだった。

かすみんとしず子は……どうやら、九死に一生を得たことをここでやっと確信して、安堵するのでした。





    👑    👑    👑





あの後、気を失ったしず子をおんぶして、近くにあるロッジまで移動してきた。

どうやら、かすみんたちを助けてくれた人たちが借りているロッジらしい。

そこのベッドにしず子を寝かしつけ、遥──もといはる子が再び診察を始めた。


かすみ「あの……しず子は……」

遥「……とりあえず、症状は落ち着いてるみたいです。……目を覚ましてみないと、今後どうなるかわからないけど……すぐに大事に至ることはないと思います」

かすみ「ホント!? ホントに!?」

彼方「遥ちゃんが言うなら間違いないね~。遥ちゃん、ずっとウルトラビースト症についてのお勉強してたから~」

遥「……私は戦えないし、これくらいしか出来ないから……でも、症状が落ち着いてるというのは間違いないです。安心してください」

かすみ「……よかったぁ……」

遥「強く声を掛けたのが、よかったのかもしれません」


どうやら、かすみんの必死の叫びが届いたらしい。本当によかった……。

あとは、本部? とやらから、専門の治療をしてくれる人を待つだけですね……。


かすみ「あの、ところで……さっきから言ってる、ウルトラビーストってなんなんですか……?」

彼方「あ……流れで言っちゃった」

千歌「まぁ……巻き込んじゃった以上、説明しないわけにもいかないし、いいんじゃないかな」

穂乃果「緊急時どうするかは、私たちに任せられてるしね、へーきへーき」


……というか、しれっとこの地方のチャンピオンがいる気がするんですけど……簡単な自己紹介くらいならさっきしたとはいえ……結局なんなんでしょうか、この人たち。


穂乃果「全部は説明出来ないけど……ざっくり言うと、この世界じゃない場所から来たポケモン、みたいな感じかな」

かすみ「この世界じゃない場所から来たポケモン……? なんですか、それ……?」

千歌「文字通り、ここじゃない場所から来た、めちゃくちゃ強いポケモンだよ。まあ、詳しいことはあんまりわかってないんだけど……たまにこっちの世界に迷い込んでくるのを、私たちが撃退してるんだけど……」

穂乃果「今回は、私たちが駆けつけるのが遅れたせいで、かすみちゃんとしずくちゃんを巻き込んじゃった……ごめんなさい」

かすみ「え、い、いや……それなら、穂乃果先輩たちのせいじゃないじゃないですか……謝らないでください」

穂乃果「えへへ……ありがとう。でも、こうならないために、私たちがいるんだから……反省はしないとね」

千歌「うん……そうだね」

穂乃果「あ、それと……これ本当は秘密にしなくちゃいけないことだから、他の人には絶対話さないでね? パニックが起きちゃうから」

かすみ「は、はい、わかりました」


つまり、詳しいいきさつはわかりませんが、超強いトレーナーたちが異世界から襲ってくるエイリアンポケモンたちを撃退していたけど、たまたまそいつらにかすみんたちが遭遇しちゃった……という感じみたい。


彼方「とりあえず、今日は疲れたでしょ? ここなら、彼方ちゃん含めて、めちゃくちゃ強いトレーナーが3人もいるから、安心して休んで~」

かすみ「……はい、そうさせてもらいます……」


かすみんも緊張の糸が切れたのか、眠くなってきました……。ああ、でも……汗くらいは流さないと……うら若き乙女がお風呂にも入らず、寝るなんて言語道断です。


かすみ「ふぁぁ……お風呂、貸してください……」

遥「はい! こっちが浴室なので!」


はる子に案内されて、浴室へ向かう。

部屋から出ていく際、ベッドのしず子に目を向けると──


しずく「…………すぅ…………すぅ…………」


静かに寝息を立てながら眠っている姿に、再度安心して、今日の疲れを癒すために、お風呂を目指すのでした。

──あまりに疲れすぎていたせいか、湯船で寝かけて溺れそうになったのは、ヒミツですよ?




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口

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 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:120匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『先着☆6テラレイドしまくる+配布会』
(16:32~放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


■Chapter026 『潮騒の町・ウチウラシティ』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんたちと別れてから、2番道路を歩くこと数時間。


リナ『侑さん、見えてきたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! あれが次の町……!」
 「ブイ」

歩夢「ウチウラシティだね!」


次の目的地、ウチウラシティへと到着した。


リナ『ウチウラシティは東西を海に囲まれてる海の町だよ。海産資源が多くて、別名・潮騒の町って呼ばれてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「確かに、町の中でも、潮の香りがするね」

侑「コメコシティとかホシゾラシティでも近くに海はあったけど……この町は本当に海の町! って感じかも!」
 「ブイブイ!」


少し遠くを見渡せば、西側に傾き始めた太陽に照らされた海とビーチが見える。

ここからでは、ちょっと遠くて見えないけど……今見ているのと逆側にも、真っ直ぐ進んで行けば海があるはずだ。


侑「どっちにも海があるのって不思議かも……!」

リナ『ここウチウラシティから、半島の南端のウラノホシタウンまでを繋ぐ1番道路は別名「海の道」とも呼ばれてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「地図で見るとわかりやすいけど、海を割るように半島が突き出てるから、そう言われてるんだよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー! せっかくだから、ウラノホシタウンまで行ってみたいなぁ……」

リナ『でも、ウラノホシにはジムはないよ?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ふふ、でも侑ちゃんは行きたいんだよね」

侑「うん! だって、ウラノホシタウンと言えば──千歌さんの出身地だもん! チャンピオンの生まれ育った町に行けば、千歌さんの強さの秘密が何かわかるかもしれないし!」

リナ『なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと、この近くには研究所もあるからね! 行ってみたい場所はたくさんあるよ!」


凛さんと花陽さんの都合が付くまで、少し時間も掛かるだろうし……その間に、この一帯をいろいろ見て回れればいいな。


リナ『それじゃとりあえず、ジムに行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うーん……もうそろそろ夕方になるし……。まずは宿探しかな」

歩夢「じゃあ、ジム戦は明日にする?」

侑「うん。たくさん歩いて、ポケモンたちも疲れちゃっただろうし」
 「ブイ」

歩夢「ふふ、侑ちゃんも……でしょ?」

侑「あはは、バレちゃった?」

歩夢「今日はゆっくり休んで、明日のジム戦に備えようね♪」

侑「うん! それじゃ、張り切って良い宿を探そう~!」

リナ『今、宿の候補を検索するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「お願い、リナちゃん!」


いつもどおり、リナちゃんに検索をお願いして、私たちは宿を探し始めた。




    🎹    🎹    🎹





──あの後、海辺の旅館に宿を取って、腰を落ち着けた。


侑「はぁ~……おいしかった~♪」
 「ブイブイ♪」


晩御飯に出てきた海の幸を堪能出来て、幸せな気分。


侑「しかも、この後は温泉~♪」

リナ『侑さん、ご機嫌だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ご飯もおいしいし、温泉にも入れるって言われたら、そりゃご機嫌にもなるよ~! イーブイたちも温泉でゆっくりしようね!」
 「ブイ♪」「ワシャー♪」

侑「ニャスパーもだよ」
 「ニャァ?」

侑「温泉、お風呂。わかるかな?」
 「ニャァ」


説明してみるものの、ニャスパーは興味なさげに自分のモンスターボールで遊び始める。……まあいっか、ニャスパーがマイペースなのは、いつものことだし。


侑「ライボルトは……」
 「…ライ」


部屋の隅で、身を伏せて目を瞑っている。温泉には興味なさそう……。

ライボルトはなんというか……孤高というか、あんまりスキンシップを取りたがらないんだよね……。


侑「ま、いっか……」


お風呂の準備をしようとしていると、


歩夢「よいしょ……」


何故か歩夢が、上着を羽織っていることに気付く。


侑「歩夢? 外に行くの?」

歩夢「あ、うん。ちょっと、お散歩しようかなって思って」

侑「もう暗いよ?」

歩夢「近くを歩くだけだから、大丈夫だよ」

侑「私も付いていこうか……?」

歩夢「……ちょっと一人でお散歩したい気分なんだ。大丈夫、すぐに戻ってくるから」

侑「そう……? 何かあったらすぐに連絡するんだよ?」

歩夢「うん、わかった」


歩夢は頷くと手を振りながら、部屋を出ていく。


リナ『歩夢さん、どうしたんだろう?』 || ? _ ? ||

侑「わかんない……」


ただ、歩夢が一人になりたいと言うなら、止めるのも違う気がするし……。


侑「まあ……サスケもいたし、手持ちのボールも持ってたから、大丈夫だと思う」

リナ『そうだね。いざってときでも、図鑑があれば位置もわかるし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん」





    🎀    🎀    🎀





私は一人、ウチウラシティの西にある浜を歩く。


歩夢「……もう、侑ちゃんったら、相変わらず過保護なんだから……」


そうやって、気に掛けてくれることが嬉しい自分もいるけど……。

でも、今は……そんな侑ちゃんの優しさに甘えてちゃいけないとき。


歩夢「ラビフット、マホミル、出てきて」
 「ラフット!!」「マホミ~♪」


2匹をボールから出し、


歩夢「サスケも」
 「シャボ」


定位置にいたサスケも砂浜に降ろす。


歩夢「それじゃ、始めよっか」
 「ラフット!!」「マホミ~♪」「シャーーボ!!」





    🎀    🎀    🎀





砂浜の砂を盛って、そこに拾った木の棒を立てる。


歩夢「──サスケ! “どろばくだん”!」
 「シャーーボッ!!!!」


その木の棒目掛けて、サスケが“どろばくだん”を放つ。

サスケの攻撃は木の棒を吹きばしたけど……それと同時に、盛った砂の山も吹き飛ばしてしまった。


歩夢「これじゃダメ……もっと的確に攻撃を当てないと……。サスケ、もう1回!」
 「シャーーボッ!!!」


いくつか作った砂の山に立てた木の棒に向かって攻撃を飛ばす。木の棒だけ狙い撃てればそれで成功だ。成功するまで、何度も繰り返す。


 「シャーーーボッ!!!」

歩夢「! やった! 今度は成功だよ! サスケ!」
 「シャボッ」

歩夢「それじゃ、次はラビフット!」
 「ラフット!!!」

歩夢「行くよ……! はい!」


同時に2つ放り投げた、小石を、


歩夢「“にどげり”」
 「ラビ、フット!!!!!」


的確に2つ蹴り飛ばす。


歩夢「うん! 上手だよ! もう1回!」
 「ラフット!!!」

 「──ふふ、特訓ですか?」

歩夢「っ!?」


急に声を掛けられて、ビクっとしてしまう。


歩夢「あ、えっと……」

女の人「あら……ごめんなさい。驚かせるつもりはなくて」

歩夢「い、いえ……」

女の人「こんな暗い中特訓なんて、精が出ますわね。ポケモントレーナーさんですか?」

歩夢「は、はい」


私に話しかけてきたのは、髪の長いお姉さんだった。

夜の砂浜は街灯もないため、髪が長いくらいの特徴しかわからないけど……とにかく、優しい声と柔らかい口調で喋る人だ。


女の人「技の命中精度を上げる特訓ですか……」

歩夢「はい。……少しでも、強くなりたくて」

女の人「ふふ、強くなるためには、焦りは禁物ですわよ? 実力というものはゆっくりと時間を掛けて身に着けても……」

歩夢「……私、近いうちに大事な試合があるんです」

女の人「……では、それに向けての特訓……ということですか」

歩夢「はい。……その試合、実は再戦で……今度は絶対に勝ちたいんです。それに、マルチバトルだから、一緒に戦ってくれる子の足を引っ張らないように、少しでも強くならないと……」

女の人「なるほど……。少し、ここで見ていてもいいですか?」

歩夢「え? いいですけど……きっと、面白くないですよ?」

女の人「いえ、頑張っている人を見るのが好きなので」

歩夢「は、はぁ……」


なんだか変わった人だなと思った。

でもまあ……本当に見ているだけなら、別に断る理由もないかな……。


歩夢「えっと……それじゃ、次はマホミル」
 「マホミ~♪」


私はマホミルから少し離れた場所に移動して、


歩夢「マホミル! “アロマセラピー”!」

 「マホ~~」


マホミルの匂いが届くのを待つ。


歩夢「……えっと、じゃあ次はこっちに移動して……もう1回!」

 「マホミ~♪」

歩夢「……うーん、ここだともう届かない……」


恐らく移動して、風上に来てしまったというのもありそうだ。


歩夢「そこから、もう少し“アロマセラピー”の範囲、広げられる?」

 「マホ~~~!!!」


マホミルがさっきよりも大きな鳴き声をあげながら、“アロマセラピー”を発動すると、


歩夢「あ……ちょっとだけ、匂いが届くね! その調子!」


今度は私のもとに匂いが届いてきた。


女の人「なるほど……補助の得意なマホミルは少しでもサポート出来る範囲を広げるための特訓、ということですね」

歩夢「あ、はい」

女の人「ふふ、面白い特訓方法ですわね」


女の人は思ったよりも、楽しそうに私の特訓を観察していた。ホントに変わった人かも……。


歩夢「じゃあ、もう少し離れたところまで──」


私がマホミルの方を見ながら、少しずつ距離を取って後退していたそのとき、


歩夢「きゃっ!?」
 「──タマッ」


何かに躓いて背中側から転んでしまう。


歩夢「いたた……」

女の人「大丈夫ですか……?」


転んだ私を見て、女の人が駆け寄ってくる。


歩夢「は、はい、下が砂だったので、怪我とかは……。……突然、何かに躓いて……」


足元を見ると、


 「タマッ…」


青くて丸いポケモンが蹲っていた。


歩夢「ポケモン!? ご、ごめんね!? 怪我してない!?」
 「タマ…」


間近で見て確認をすると、少し怯えてこそいるものの、怪我はしていなさそうで安心する。


女の人「このポケモンは……タマザラシですわね」

歩夢「タマザラシ……? タマザラシって、寒い海にいるポケモンですよね?」

女の人「はい、ですからあまりこの辺りにはいないのですが……何分まだ泳ぐのが苦手なポケモンなので、たまにこうして流されて来てしまうことがあって……」

歩夢「そうなんですか……」


つまり、群れからはぐれてしまった子のようだ。


 「タマ…」


タマザラシは不安そうに、私に身を寄せてくる。


歩夢「お腹空いてるの? ……あ、“きのみ”があるから、ちょっと待っててね」


私はバッグから“フィラのみ”を取り出して、タマザラシに与える。


女の人「あ、その“きのみ”は……!」

 「タマ…♪」


タマザラシは“フィラのみ”を見ると、おいしそうに食べ始めた。


歩夢「ふふ、好きな味だもんね♪ まだ、たくさんあるからね♪」
 「タマ♪」

女の人「……あの」

歩夢「? なんですか?」

女の人「どうして、その子が辛い味が好きだとわかったのですか?」

歩夢「え?」

女の人「“フィラのみ”は強い辛味成分を含む“きのみ”で、苦手なポケモンは食べたら“こんらん”してしまうほどです……味の好みを完全に把握していないと、普通はあげられないのではと思いまして……」

歩夢「えっと……でも、この子、私に擦り寄ってきたので……“さみしがり”な子なのかなって。“さみしがり”な子は辛い味が好きで、すっぱい味が嫌いですし……」

女の人「この短時間で、初めて出会ったポケモンの性格を……」

歩夢「……?」

女の人「やはり、貴方は面白いトレーナーですわね」

歩夢「は、はぁ……ありがとうございます……?」


なんだかよくわからないけど……感心されてしまった。


女の人「そのタマザラシ、よかったら貴方が連れていってあげてください」

歩夢「え?」

女の人「群れからはぐれたタマザラシが元の群れに追い付くのは難しいでしょうし……“きのみ”をくれた貴方を信用しているようですから」

 「タマァ♪」

歩夢「……タマザラシ、私と一緒に冒険してくれる?」
 「タマ、タマァ♪」


問いかけると、タマザラシは嬉しそうに身を寄せてきた。


歩夢「うん。それなら、一緒に行こうか♪」
 「タマ♪」

女の人「ふふ、素敵なものを見せてもらったところで……わたくしはそろそろ帰りますわね」

歩夢「あ、はい。暗いのでお気を付けて……」

女の人「貴方も。……そうそう、貴方の特訓を見ていて思いましたが……」

歩夢「?」

女の人「貴方の持ち味は、鋭い攻撃や精度の高い技ではなくではなく……きっと、その優しさや愛情、ポケモンをよく見ている、その観察力にあると思いますわ。……なんて、余計なお世話かもしれませんが」

歩夢「……前にも、他の人から同じようなことを言われました」


少し言葉の選び方は違うけど……ニュアンス的にはエマさんが言っていたことに似ている気がする。


女の人「それを鍛えていくのではダメなのですか?」

歩夢「ダメ、というか……。……自信が欲しいんです」

女の人「自信、ですか……?」

歩夢「さっき大事な試合があるって言いましたよね。……その試合のことを考えると、まだ不安で。また負けちゃうんじゃないかなって……そんな風に考えちゃって……」


次こそは、胸を張って、自信を持って戦いたいと思うのに。どうしても、弱気な自分が顔を出してしまう。そんな状態から抜け出したくて、こうして侑ちゃんには秘密で特訓をしにきたわけだけど……。


女の人「今日の特訓で、自信は付きましたか?」

歩夢「……正直、あんまり」


技の精度や威力は、少しずつ上がっていっているのを実感している。でも……それでも、自分がまた負けてしまうんじゃないかという不安が頭から離れていってくれない。


女の人「そうですか……。……でしたら、最後にもう一つお節介を焼きますわね」

歩夢「?」

女の人「実戦で失った自信は、実戦でしか取り戻せないものです。その大事な試合とやらの前に、一度どこかで戦ってみてはどうでしょうか」

歩夢「どこかでバトルを……」

女の人「もちろん、決めるのは貴方自身ですが……。それでは、今度こそ帰りますわね」

歩夢「あ……すみません、引き留めたみたいになっちゃって……」

女の人「いえ、お気になさらず。……それでは、またお会いしましょう。おやすみなさい」

歩夢「はい、おやすみなさい」


女の人は小さく手を振ると、背筋を伸ばしたまま、夜の浜を後にして、町の方へと消えていくのだった。


歩夢「……? ……またお会いしましょう……?」


またどこかで会うのかな……? いや、社交辞令の一環みたいなものだよね……?


 「ラビフ!!」「シャボ」「マホミ~♪」「タマァ」
歩夢「……そうだね、私たちもそろそろ戻ろうか」


あんまり長く続けていると、侑ちゃんも心配するだろうし……。

みんなを引き連れて、私も夜の浜辺を後にするのだった。





    🎹    🎹    🎹





歩夢が帰ってきたのは、散歩に出てから1時間くらいしてからのことだった。

特に変わった様子もなく、普通に戻ってきたから一安心……したんだけど。


 「タマ♪」
歩夢「タマザラシもお風呂入りたいの? こおりタイプでも、温泉って入って大丈夫なのかな?」

侑「歩夢の手持ちが増えてる……」

歩夢「あ、うん。さっき、そこの浜辺でお友達になったの」
 「タマ♪」


しかも、すごく懐いているし……。


歩夢「それじゃ、私お風呂行ってくるね」

侑「あ、私も!」

歩夢「え? 先に入ったんじゃ……」

侑「歩夢のこと待ってたんだ! ゆっくり温泉を楽しむなら、歩夢と一緒がいいなって思って」

歩夢「……ふふ♪ そっか♪」


歩夢は嬉しそうに笑いながら、


歩夢「じゃあ、早く行こ♪」


私の手を引く。


侑「わっとと、今行くから焦らないでって!?」

歩夢「ダ~メ♪ 私いっぱい歩いて疲れちゃったから、早くお風呂でのんびりしたいの♪」

侑「そ、そうなんだ……? あ、イーブイ、ワシボン、ニャスパーもいくよー!」
 「ブイブイ」「ワシャ~♪」「ニャァ?」

歩夢「みんなもおいで~!」
 「ラフット」「シャボ」「マホマホ~♪」「タマァ♪」


私たちは手持ちたちと一緒に賑やかな雰囲気のまま、一日の疲れを癒すために、温泉へと向かうのだった。




>レポート

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【ウチウラシティ】
 口================== 口

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 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.25 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.21 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:13匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎹



──震えている女の子に、抱かれていた。


 「……おとうさん……おかあさん……」

 「こっちに来ちゃダメ……!」

 「逃げるんだ……!」

 「おとうさん……っ……おかあさん……っ……!!」


……直後、視界は眩い光に包まれて──ホワイトアウトする。



──ところ変わって……ご飯を食べる場所。


 「…………」

 「──もしかして、喋れないのかい……?」

 「…………」

 「そうかい……辛い思い……したんだね……」

 「…………」

 「おばちゃんで良ければ、頼ってね……ご飯を作ってあげることくらいしか出来ないけど……」

 「…………」


女の子は、頷いた。



 「…ニャァ」



──────
────
──



侑「……ん……ぅぅ…………?」


目が覚める。


侑「…………夢…………?」


なんだか……おかしな夢を見た。

あまりに身に覚えがない光景……。

いや、夢だから、そういうこともあるのかもしれないけど……。

内容はよくわからなかったけど……妙にリアリティがある夢だったような……。

ぼんやりと身を起こすと──


歩夢「…………すぅ……すぅ……」
 「ラビ…zzz」「…zzz」「マホ…zzz」「タマァ…zzz」


眠っている歩夢と、そのポケモンたち。


 「ブイ…zzz」「ワシャ…zzz」「ニャァ…zzz」「…ライボ」


私のポケモンたち。

そして、


リナ『侑さん……? どうかしたの? まだ早いよ?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが居た。


侑「あ、うぅん……ちょっと変な夢見て起きちゃっただけ……」

リナ『そう?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もうちょっと……寝ようかな……」

リナ『うん、その方がいいと思う。時間になったら起こすから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん、お願い……」


私は再び目を瞑って、眠りへと……落ちていくのだった。



………………
…………
……
🎹


■Chapter027 『決戦! ウチウラジム!』 【SIDE Yu】





──ウチウラシティで一晩を過ごし、その翌日。


侑「あー……緊張してきた」
 「ブイ」


ウチウラジムを前に、緊張で跳ねる鼓動を落ち着けようと深呼吸をする。


歩夢「侑ちゃん、頑張ってね!」

リナ『侑さん、ファイト』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「うん、頑張る!」


歩夢とリナちゃんの激励を受けながら、覚悟を決めて、ジムの扉をくぐる。

ジムの中は学校の体育館のような内装で、その床にはバスケットコートの様に、ポケモンバトル用のフィールドを示すラインが引かれている。

ここウチウラジムはポケモンスクールが併設されているから、ジム戦がないときは体育館としても使っているのかもしれない。

そんなジム内を見回しながら、奥に目を向けると──赤い髪の女の子が一人。


侑「ウチウラジムのジムリーダー──ルビィさん……!」

ルビィ「……チャレンジャーの方ですか?」

侑「はい! セキレイシティから来た、侑って言います! ジム戦、お願いします!」

ルビィ「わかりました! バトルスペースについてください!」

侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」


セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラに続いて訪れた5つ目のポケモンジムにして、私の3つ目のジムバッジを懸けた戦いが始まる。

未だに緊張で高鳴る胸を、深呼吸でどうにか落ち着かせながら、チャレンジャーのスペースに向かう。

その最中、


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」


私の背後のセコンドスペースから歩夢の声。

私は力強く頷いてみせてから、再びルビィさんの方へと振り返ろうとした、そのときだった。


 「──そのジム戦、少し待ってもらえませんか?」


凜とした声が、ジム内に響き渡った。


侑「え?」

歩夢「……あれ、この声……?」

ルビィ「ぅゅ……? お姉ちゃん……?」


ルビィさんの背後から、歩いてくる黒髪の女性の姿を見て、私は目を見開いた。


侑「う、嘘……!? あの人って、まさか……!!」


チャンピオン率いる、4人の最強ポケモントレーナー──四天王の1人。その中でも鉄壁の防御力を誇ると言われるくさタイプのエキスパート──


侑「だ、ダイヤ……さん……」

ダイヤ「あら、わたくしのこと、ご存じなのですね。ありがとうございます」

侑「あ、あああ、当たり前じゃないですか!!」


ダイヤさんと言えば、元ウチウラジムのジムリーダーで、つい最近四天王に就任したというのはニュースにもなっていたし、知っていて当然だ。

この町に訪れる際も四天王の出身の町だし、もしかしたらどこかで会えるかもなどと淡い期待をしていなかったわけじゃないけど──まあ、セキレイシティも四天王出身の街だけど──まさか、もう去ったと思っていたこのウチウラジムで会えるとは思ってもみなかった。


侑「さ、さささ、サイン!! サインください!!」

ダイヤ「ふふ。わたくしのサインなんかでよろしければ、ジム戦が終わったあとに差し上げますわ」

侑「や、やったーーー!! 歩夢!! ダイヤさんからサイン貰えるって!!」


興奮気味に歩夢の方を振り返ると──


歩夢「……あの」


歩夢は何やら困惑していた。


侑「歩夢……?」

歩夢「えっと……」


そして、そんな歩夢の視線は私を通り過ぎて──ダイヤさんに注がれている。


ダイヤ「ふふ、昨日振りですわね」

歩夢「……やっぱり」

侑「え、何? 昨日振りって、どういうこと?」

歩夢「私……昨日、浜辺でダイヤさんと会ったの」

侑「え、嘘!? なんで教えてくれなかったの!?」

歩夢「真っ暗でほとんど顔とかは見えてなくて……まさか、四天王の人だったなんて……」

侑「な、なるほど……」


確かにそんな場面で会った人がまさか四天王の1人だなんて、想像出来ないかも……。


ルビィ「それより、お姉ちゃん……どうしたの? 今日はお休みだって言ってたのに……」

ダイヤ「確かに今は休暇中ですが……少し、そちらの方に用事がありまして」


そう言いながら、ダイヤさんの視線は再び歩夢に向けられる。


歩夢「……」

侑「歩夢に……!? やっぱ、昨日何かダイヤさんと話したの!?」


四天王のダイヤさんと歩夢がした会話……すごく気になる……!!


ダイヤ「昨日わたくしが最後にした話、覚えていますか?」

歩夢「……はい」

ダイヤ「でしたら、わたくしがここに出てきた理由も、なんとなくおわかりなのではないでしょうか?」

歩夢「……」


ダイヤさんの言葉を聞いて、歩夢が不安げな瞳を私に向けてきた。


侑「歩夢……?」

歩夢「……あの……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……あの、ね……わがまま、言っていい?」


目を泳がせながら、不安げに言う歩夢に向かって。


侑「いいよ」


私は即答した。


歩夢「侑、ちゃん……」

侑「歩夢、何かしたいことがあるんだよね。だったら、私は協力する!」

ダイヤ「聞く前から、了承してしまっていいのですか?」

侑「はい! 歩夢のお願いですから!」


歩夢はいつも一歩引いている子だった。

私が好きなものに突っ走って、引っ張って、連れ回しても、文句一つ言わず、いつも私の傍にいてくれた。

そんな歩夢が、自分から、自分のしたいことを、わがままを、私に言ってくれることが、なんだか嬉しかった。


侑「どんなお願いでも、わがままでも、私が力になるからさ!」

歩夢「侑ちゃん……ありがとう」

ダイヤ「……ふふ、決まりですわね」

ルビィ「……?」

ダイヤ「ルビィ、このジム戦、少し特殊ルールにさせてもらってもいいですか?」

ルビィ「特殊ルール?」

ダイヤ「はい、特殊ルールとして──このジム戦はわたくしとルビィの二人で、チャレンジャーのお二人のお相手をさせていただきますわ」





    🎀    🎀    🎀





侑「──まさか、四天王と戦えるなんて……!!」
 「ブイ」


ダイヤさんとの話を終えて、戦いの準備取り掛かる中、侑ちゃんは興奮気味に言う。


歩夢「あの……侑ちゃん、本当に良かったのかな」


今更ながら、こんなことを私の一存で決めてしまってよかったのかと不安になるけど、


侑「いやいや、むしろありがとうって言いたいくらいだよ!! ジム戦が出来るだけでも贅沢なのに、四天王のダイヤさんと戦えるんだよ!? こんな機会普通ないんだから! 楽しまないと!」

歩夢「ふふ、侑ちゃんは本当にポケモンバトルが大好きなんだね」

侑「うん!」


嬉しそうな侑ちゃんを見て、安心する。

また私のわがままのせいで、大事なジム戦の難易度を上げてしまったかと思ったけど、それも杞憂のようだ。

──そして、このバトルをする以上は、


歩夢「……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……私、勝ちたい」


勝ちたい。勝って、自分の自信にするために。


侑「違うよ、歩夢」

歩夢「え?」

侑「勝ちたい、じゃなくて──勝とう!」

歩夢「……! うん!」


侑ちゃんの手をぎゅっと握って、頷き合って、決意する。勝つんだ……!


リナ『二人とも頑張ってね。私もサポート頑張る』 || ˋ ᨈ ˊ ||

侑「うん、お願いね! リナちゃん!」

歩夢「頑張るね!」


リナちゃん含めて、戦いの準備が整ったところで、フィールドの向かい側にいるダイヤさんとルビィさんが声を掛けてくる。


ダイヤ「さて、準備はよろしいですか?」

ルビィ「こ、今回のルールは特別ルールで、それぞれのトレーナーが2匹ずつのポケモンを使ってのマルチバトルです!」

ダイヤ「そして、もちろんですがそちらが勝った暁には、ジムバッジをお二人に差し上げますわ。ただし、こちらの手持ちは侑さんのジムバッジ2個相当に合わせて選ばせていただきます。ジムバッジを持っていない歩夢さんには少し厳しい条件になりますが、そこはご容赦を」

侑「わかりました!」

歩夢「も、問題ありません!」

ルビィ「それじゃ、ジム戦を開始します……!」

ダイヤ「今は四天王ですが、本日はジムリーダーの一人として、お相手いたしますわ」


二人がボールを構える。


ダイヤ「ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ」

ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ!」

ダイヤ「さあ、ルビィ。行きますわよ!」

ルビィ「うん! お姉ちゃん!」


4つのボールが放たれて──……バトル、スタート……!!





    🎀    🎀    🎀





侑「行くよ! ライボルト!!」
 「──ライボッ!!!」

歩夢「ラビフット、お願いね!」
 「──ラフット!!!」


侑ちゃんの最初のポケモンはライボルト、私はラビフットを繰り出す。

対する、ジムリーダー側は、


ルビィ「行くよー! ヒトモシ!」
 「──トモシ~」

ダイヤ「さぁ行きましょう、カリキリ」
 「──カリキリ」


ろうそくのようなポケモンと、小さなカマキリのようなポケモン。


リナ『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg
   明かりを 灯して 道案内を するように 見せかけながら
   生命力を 吸い取っている。 吸い取る 命が 若ければ
   若いほど 頭の 炎は 大きく 妖しく 燃え上がる。』

リナ『カリキリ かまくさポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
   昼間は 光を浴びて 眠り 夜に なると より 安全な
   寝床を 探し 歩き出す。 太陽の 光を 浴びると 甘く
   よい香りが するので 虫ポケモンたちが 寄ってくる。』


今のウチウラジムのエキスパートタイプは、ほのおタイプ。そして、先代ジムリーダーのダイヤさんのエキスパートタイプは、くさタイプだったはず。

侑ちゃんもそれは知っているだろうから、その上でくさタイプに相性のいいワシボンを出さなかったということは──


侑「ライボルト!! ヒトモシに向かって“チャージビーム”!!」
 「ライボッ!!!!」


開始早々、ライボルトの攻撃がヒトモシに向かって飛んでいく。


ルビィ「ヒトモシ、“ちいさくなる”!!」
 「トモシィ~…」

侑「くっ、避けられた……! ライボルト、畳みかけるよ!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが侑ちゃんの指示でヒトモシに向かって飛び出して行く。

その際、一瞬だけ私に目配せをしてくる。


歩夢「……!」


侑ちゃんの言いたいこと、伝えたいことが自然とわかった。

──『ヒトモシは私たちが引き付けるから、カリキリをお願い!』

私はそれに応えるように、力強く頷いて見せる。


ダイヤ「──ボーっとしている余裕はありませんわよ!」

歩夢「!?」


ダイヤさんの声にハッとして視線を前に戻すと──カリキリがラビフットに向かって飛び掛かってきているところだった。


歩夢「避けてっ!?」
 「ラビフッ!!」


私の咄嗟の指示で、ラビフットは身を引くものの、完全には回避しきれず、


 「カリッ」


飛び掛かってきたカリキリが、ラビフットの脚に引っ付いた。


ダイヤ「“きゅうけつ”!!」
 「カリ、キリッ!!」


そして、そのままラビフットの脚にガブリと噛みついてくる。


 「ラ、ラビフッ!!」


カリキリは顎で噛みつき、体力の吸収を始める──剥がさなきゃ……!!

幸いこっちは有利なほのおタイプ。付かれた場所が脚ならすぐに剥がせる……!!


歩夢「“ブレイズキ──」

ダイヤ「“タネマシンガン”!!」

歩夢「……!?」


でも、私の指示よりもコンマ数秒早く、


 「カリカリリリリリリ」


カリキリはラビフットの脚から口を離して、タネを吐き出して攻撃してくる。


 「ラ、ラビッ!!?」


ダメージこそ大きくないものの、カリキリは吐き出すタネの反動で距離を取ってくる。


歩夢「せっかく、反撃のチャンスだったのに……」


いや、切り替えよう。距離を取ってくれたのなら、それはそれでいいんだ。


歩夢「ラビフット! “かえんほうしゃ”!!」
 「ラビ、フゥゥゥ!!!!!」


今度は口から火炎を噴いて攻撃する。近接攻撃じゃなくても、ほのお技で攻めていけば、こっちが有利だもん……!

──だけど、ダイヤさんは極めて冷静に、次の指示を出す。


ダイヤ「“このは”!」
 「カリ!!」


……“このは”……?

カリキリの目の前に大量の“このは”が集まってきて、


歩夢「……!?」


ラビフットの“かえんほうしゃ”を壁になって受け止める。


歩夢「う、うそ……くさタイプの技でほのおタイプの技を防いでる……!?」


予想外の防御手段に驚く。……とはいえ、いくら防いだと言っても、壁となっているのは、あくまで“このは”だ。

このまま、“かえんほうしゃ”を続けていれば“このは”の壁を焼き破るのはそんなに難しくないはず……!


歩夢「こ、このまま、“かえんほうしゃ”を続けて……!!」
 「ラビフゥゥゥーー!!!!!」


火炎で燃やされた“このは”の壁はメラメラと音を立てながら燃え上がる。

この調子ならもうすぐ、破れ──


ダイヤ「“きりばらい”!」
 「カリキリーー」

歩夢「!?」


そう思った瞬間、カリキリが強烈な風を巻き起こし、“このは”の壁もろとも、炎が霧散していく。

そして、何故か噴き付ける“かえんほうしゃ”は、カリキリを迂回するように逸れていってしまう。


歩夢「な、なんで……」


確かに“きりばらい”によって、吹いている風が炎の方向を操っているのかもしれないけど……ここまで、強い防御の技になるとは思えない。

当惑している私に向かって、ダイヤさんが口を開く。


ダイヤ「炎は風に煽られ、より燃えやすい方へと流れていきました」

歩夢「より、燃えやすい方……?」


何を言っているのかと思ったけど……よく見たら、炎が流れていった場所には──1本の道のように草が生い茂っていた。


歩夢「“グラスフィールド”……」

ダイヤ「そのとおり。炎の流れは草のフィールドと風の力でコントロールさせていただきました」

歩夢「……っ」


どうしよう、確実にこっちの方が相性は有利なはず……どうにか攻撃を当てなくちゃ……。


ダイヤ「攻撃がうまく決まらず、焦っていますわね」

歩夢「……」

ダイヤ「一つ、教えて差し上げますわ」

歩夢「……?」

ダイヤ「わたくしのエキスパートタイプ──くさタイプにはいくつ弱点があるかご存じですか?」


えっと……くさタイプの弱点は……。


歩夢「……ほのお、こおり、ひこう、むし、どくタイプです」

ダイヤ「正解。すらすら出てくるあたり、よく勉強されていますね。そんなくさタイプのポケモンたちですが……実は攻撃面でもそこまで恵まれてはいませんわ」


……確かに、同タイプのくさタイプをはじめ、ほのお、どく、ひこう、むし、ドラゴン、はがねと攻撃が半減されてしまう対象も多い。


ダイヤ「そんな相性の面では恵まれているとは言い難いくさタイプのポケモンたちが、どうすれば戦えるか、わたくしはずっと考えてきました。多い弱点も弱点にならないように、いくつも対策を考えて」


つまり……ダイヤさんが言いたいことは──


歩夢「ただ、弱点を突いただけじゃ……勝てない……」


今さっき、ほのおタイプの攻撃をいなされてしまったように、ダイヤさんは弱点のタイプへの対策が完璧なんだ……。

最初にやろうとした、“カウンター”としての“ブレイズキック”も、偶然ではなく、こっちの反撃を読み切っての回避行動だったということ。


歩夢「……っ」


圧倒的な実力差を感じる。


ダイヤ「さあ、次はどうされますか?」


強い……これが、四天王の実力。

──だけど、


歩夢「…………すぅ…………はぁ…………」


私は一度、深呼吸をする。

落ち着こう。落ち着いて、よく考えるんだ。

きっと何か打開する方法があるはずだ。

──もう簡単に諦めない。強くなるって、決めたから。

侑ちゃんの隣で、強くなるって、決めたんだから。





    🎹    🎹    🎹






──横で歩夢がダイヤさんに苦戦しているのが、目に見えてわかる。

どうにか、加勢したいけど……。


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシィ!!?」
ルビィ「わわ!? 回避率を上げてても、その技は当たっちゃう!?」

リナ『“でんげきは”は必中技! 侑さん、ナイス技選択!』 ||,,> 𝅎 <,,||

ルビィ「なら──“マジカルフレイム”!!」
 「トモーー!!」


ルビィさんの指示と共に、飛んできた青白い炎がライボルトに纏わりつくように燃え上がる。


 「ライボッ!!!!」
侑「ライボルト! 落ち着いて! そんなに威力の大きい攻撃じゃないから!」


炎を受け、慌てるライボルトを落ち着かせながら、ルビィさんを見る。


ルビィ「……」


ルビィさんは、目の前で戦っている私から、出来るだけ視線は外さないものの──さっきからチラチラとラビフットの方を気にしている気がする。


侑「リナちゃん」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ヒトモシの特性って、もしかして“もらいび”だったりする?」

リナ『うん、そうだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「やっぱり……」


ヒトモシの特性は知らなかったけど、進化系のシャンデラの特性と同じらしい。

あのロウソクの体は見るからに炎によって強化されそうだし……恐らくさっきから、ラビフットを気にしているのは、ラビフットからの炎攻撃を受けて強化したいからだ。

相手はほのおタイプのエキスパート。そして、今ルビィさんが一緒に戦っているダイヤさんはくさタイプのエキスパート。

姉妹の二人のことだ。くさタイプを使うダイヤさんをフォロー出来るポケモンを意識して使っているというのは、想像に難くない。

そのために、“もらいび”のヒトモシを使っているとなると、


侑「やっぱり、ルビィさんを自由にさせるわけにはいかない……」


今は歩夢を信じて、ルビィさんのヒトモシに集中しよう。


侑「ライボルト! “かみくだく”!!」
 「ライボッ!!!!」


私の指示と共に、ライボルトが駆け出す。

“ちいさくなる”のせいで技は当たりづらいし、“マジカルフレイム”の効果によって、特殊攻撃力が下げられている。

なら、接近して直接攻撃をした方が手っ取り早い。


 「ライッ!!!!」


標的は小さいけど、自慢の俊足で肉薄したライボルトは、しっかりと目標を捉えてキバを突き立て──た、と思った瞬間、


侑「うぇ!?」


噛み付いたはずのヒトモシが──ドロリと溶けた。


リナ『侑さん! “とける”だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「物理もダメ……!」


しかも、その直後、


 「ラ、ライボッライィッ」


急にライボルトがたたらを踏みながら、むせ始めた。


侑「ライボルト!?」


焦ってライボルトを確認すると──口元から、何やら黒い煙が……。


侑「まさか、“スモッグ”!?」

ルビィ「えへへ、成功だよ! ヒトモシ!」
 「トモ~」

ルビィ「そのまま、“たたり──」

侑「“スパーク”!!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシッ!!!?」
ルビィ「ピギィ!!?」


その場で激しく“スパーク”し、すぐさまヒトモシを追い払う。

それと共に、ライボルトは後退し、一旦相手から距離を取る。


侑「あ、あぶな……! “どく”状態から、さらに“たたりめ”を受けるところだった……」


どうにか最大打点は防いだものの、


 「ライボ…」


“どく”を受けてしまったことには変わりない。このままだと、まずいかも……。

何か思い切った攻め手を打つべきか……いや、でも、


ルビィ「ヒトモシ! ライボルトから目を離しちゃダメだよ!」
 「トモッ!!」


ルビィさんの狙いがいまいち掴み切れない。

さっきから、ラビフットを気にしているかと思いきや、ライボルトの相手はしっかりしている。

あれだけ多彩な補助技があるなら、ライボルトの攻撃を掻い潜ってラビフットの方に行くのも無理ではないはず。


侑「……いやむしろ、そうしないのはおかしいような……」


思わず口に出して呟いてしまう。

考えてみれば、ヒトモシの仮想敵は最初から、ダイヤさんの手持ちのくさタイプが呼ぶ、ほのおタイプやこおりタイプの相手なんだとしたら、大真面目にライボルトの相手をし続けているのには違和感がある。

加えて、でんきタイプの通りが悪い、くさタイプのポケモンがライボルトの相手をしに来る方が絶対に戦闘の効率もいいはず。

でも戦局はライボルトVSヒトモシ、ラビフットVSカリキリの構図になっている。……だけど、対戦相手を入れ替えようともしていない、そうしないだけの理由があるはずだ。


 「トモシ」


指示どおり、ライボルトから視線を外さないヒトモシ。そして、


ルビィ「…………」


相変わらずラビフットを気にしながら、私たちの次の行動を待っているルビィさん。

──私が知る限りでは、ルビィさんの公式試合での戦い方には、独特な緩急があるイメージだ。

膠着したような試合運びのように見えて、突然何かのきっかけで、一気に自分の方に展開を持ち込むような逆転型の戦い方が特徴のトレーナー。


侑「……」


もしかして──何か特定の行動を……待っている……?

そのとき、ふと、


ダイヤ「──さあ、次はどうされますか?」


ダイヤさんが歩夢の次の行動を促す言葉が聞こえてきた。


歩夢「……っ」


歩夢も攻撃を捌かれて焦っているのがわかる。

ダイヤさんは防御戦術の名手として知られている。

相性がよくても、なかなかあの防御力を崩せず苦戦するのも無理はない。


ダイヤ「どうしましたか? もうすでに最大火力の技は使ってしまいましたか?」


再び、攻撃を誘うような言葉。

そこでふと──一瞬だけ、ダイヤさんがライボルトの方をチラリと見たのを、私は見逃さなかった。


侑「……!」


──もしかして……そういうこと……?

……ただ、わかったとして、どうする?

歩夢に伝えたら、相手にもこっちが気付いたことを気取られる。

……いや──


侑「ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!」
 「ライボッ!!」


──ガァンッ!!! と激しい音を立てて、ライボルトが地面に鋼鉄の尻尾を叩き付ける。

その大きな音と突然の行動に、


ルビィ「ピギィ!?」

歩夢「きゃっ!?」


ルビィさんと歩夢が同時に驚きの声を上げる。


歩夢「侑ちゃん……?」

ダイヤ「一体何を……?」


思いっきり攻撃をぶつけた床は、崩れて小さな礫が転がる。


侑「歩夢、これ使える?」

歩夢「え……」


歩夢は一瞬、私の言葉に目を丸くしたけど、


歩夢「うん」


すぐに頷いた。

それを確認すると、ライボルトが礫を咥えてから、ラビフットの方に放り投げる。


 「ラビフッ」


ラビフットはそれを器用にリフティングし始める。


ダイヤ「! 武器の調達ということですか」


ダイヤさんはこの意図には、すぐに気付いたようだ。


侑「歩夢、相手はどっちも守りがすごく堅い」

歩夢「う、うん……」

侑「だから、イチかバチか、私の合図で一気に最大火力で攻めてみよう」

歩夢「で、でも……」


歩夢の戸惑いの声。恐らく、我武者羅に突っ込んでも、また捌かれるだけかもしれないという心配だろう。

ただ、私は、


侑「大丈夫。私を信じて」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「……いや、違うかな」

歩夢「?」

侑「私は歩夢のことを信じてるよ」

歩夢「! ……わかった」


歩夢も了承してくれた。

……あとは一発勝負だ。


 「ライボォッ…!」


ライボルトが足回りの筋肉に“じゅうでん”を始める。


侑「1,2,3で同時に行くよ……!」

歩夢「うん! 行くよ、ラビフット!」
 「ラビフッ!!!」


リフティングをしているラビフットの脚がメラメラと炎を宿す。


ダイヤ「ルビィ、来ますわよ!」

ルビィ「うん!」


相手方も迎え撃つ準備は万端のようだ。


侑「よし……! 行くよ、歩夢!」

歩夢「うん! いつでも!」

侑「1……2……3!! 行け! ライボルト!!」
 「ライボッ!!!!」

歩夢「ラビフット!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビフットッ!!!!」


──ライボルトが充填した電気エネルギーを解放した“でんこうせっか”でヒトモシに向かって飛び出し、ラビフットが“ブレイズキック”で石に着火しながら、カリキリに向かって蹴り飛ばす。


ダイヤ「さあ、来なさい!!」
 「カリキリ」

ルビィ「ヒトモシ! 行くよ!!」
 「トモシッ!!!」


猛スピードで前進するライボルトと、それに並ぶように飛んでいく燃え盛る礫。

2つの攻撃が真っすぐ目の前の対象を捉えたその瞬間──ルビィさんの声。


ルビィ「“サイド──」

侑「“エレキボール”!!」
 「ライボッ!!!」

ルビィ「──チェンジ”!! え!?」


ルビィさんが技の指示を出し切る前に、ライボルトが尻尾から“エレキボール”を放つ──背後のラビフットに向かって。


侑「歩夢!! 本命のボールはそっちっ!!!!」

歩夢「!! ラビフット!! 蹴り返して!!」
 「!! ラビフット!!!!!!」


ラビフットが“エレキボール”を蹴り返すのと同時に──燃えた礫が急に上方向に軌道をずらし、ヒトモシの頭の上スレスレを通り抜けていく。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「な、なんで!?」


驚きの声を上げる姉妹。

それもそのはず。最初から仲間と場所を入れ替える技──“サイドチェンジ”でヒトモシが“もらいび”で受け止めるつもりだったが、その受け止めるはずの炎の礫がヒトモシを避けるように天井に吸い寄せられていくからだ。


ダイヤ「っ!? “でんじふゆう”を使ったデコイ!?」


──そう、そのとおり。あの礫はライボルトが口に咥えたときに“でんじふゆう”で磁力を帯びさせていた。

最初から当てるつもりのない、囮の攻撃……! ラビフットが蹴り飛ばした直後にライボルトが一帯に強力な電場を作り出して、浮遊させたというわけだ。

礫が熱を帯びていたせいで、思ったよりも磁力で上に飛ばせなかったけど──ヒトモシにさえ当たらなければ十分だ……!

この一瞬でそれに気付いたダイヤさんはさすがだけど、


ダイヤ「カ、カリキリ!! “このは”!!」
 「カ、カリキ!!!」


この状況で防御の指示まで間に合うか──いや、間に合わせない!!


 「ライボッ!!!」


土壇場で作った“このは”の壁を猛スピードの突進で無理やり突き破り、


侑「“ほのおのキバ”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「カリィ!!?」


燃え盛るキバでカリキリを抑えつけたまま、


侑「“オーバーヒート”!!!」
 「ライボォォォォ!!!!!!」

 「カリキィィィィィ!!!?」


ありったけの熱波を至近距離で解放して焼き尽くした。

そして、それと同時に──


 「トモシィ!!!?」
ルビィ「ヒ、ヒトモシー!!」


デコイの燃える礫を吸収する気満々で前に出てきたヒトモシは、ラビフットのキックで加速しながら跳ね返ってきた“エレキボール”が直撃して、


 「ヒ、トモォ…」


目を回して、戦闘不能になるのだった。


侑「……せ、成功したぁ……」


かなり無茶な作戦がどうにか成功して、思わずへたり込む。


ルビィ「う、うそ……」

ダイヤ「……してやられましたわね。戻って、カリキリ」
 「…カリィ──」

ダイヤ「ルビィも。ヒトモシを戻してあげてください」

ルビィ「あ……うん。お疲れ様、ヒトモシ……」
 「…トモ──」


戦闘不能になった2匹がボールに戻される。

相手のポケモンを先に2匹撃破した。このアドバンテージは大き──


歩夢「侑ちゃんっ!」

侑「わぁ!?」

歩夢「もう、あんな無茶なことするなんて聞いてないよっ!」


歩夢が軽く涙目になりながら、抗議してくる。


侑「ご、ごめんっ! 声に出したら向こうにバレちゃうって思ったから……!」

歩夢「そうだとしても、ホントにびっくりしたんだから! “エレキボール”がこっちに向かって飛んできたとき、私、一瞬頭が真っ白になっちゃったんだよ!?」

侑「だからごめんって! でもね、歩夢!」

歩夢「?」

侑「歩夢なら絶対に、私の作戦、すぐに理解してくれるって信じてたから、成功したよ!」


そう言って、ニコっと笑顔を作ると、


歩夢「も、もう……そういう言い方、ずるいよ……」


歩夢は可愛らしく、ぷくーっと頬を膨らませるのだった。


リナ『二人ともすごかった! ナイスコンビネーション!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、ありがとう、リナちゃん」

歩夢「はぁ……今度から、こういう作戦は出来るだけ、あらかじめ決めておくようにしようね……」

侑「あはは、了解。でも、これで今回のバトルは4対2に持ち込めた……!」

リナ『うぅん、3対2だと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え?」


言われて、フィールドを見ると、


 「ライ、ボッ…」


ライボルトが蹲っていた。


侑「しまった……“どく”のダメージがそろそろ限界だった……!」


ライボルトは“スモッグ”で受けた“どく”のダメージで、これ以上の戦闘は厳しそうだ。


侑「戻って、ライボルト! ありがとう!」
 「ライボ…──」


ライボルトをボールに戻して、歩夢以外が一斉にポケモン交換のため、バトルは一旦仕切り直しだ。


ダイヤ「──ポケモンを入れ替える前に、一つ聞いてもいいでしょうか?」

侑「なんですか?」

ダイヤ「ルビィのヒトモシの“サイドチェンジ”……わかっていたのですか?」


ダイヤさんからのそんな問い。


侑「あーえっと……“サイドチェンジ”をヒトモシが使えるかは知らなかったんですけど……」

ダイヤ「けど?」

侑「ルビィさんはずっとラビフットを気にしてたし……ダイヤさんも、不利相性のはずなのに歩夢の攻撃をいなすばっかりで、全然攻撃を仕掛けてなかったから、最初からラビフットに強力なほのお技を撃たせようとしてるんじゃないかなって。となれば、ヒトモシとカリキリのどっちかが、場所を入れ替わる技“サイドチェンジ”を使えるんじゃないかって思って」


“サイドチェンジ”自体はダブルバトルの試合で何度か見たことがあったけど、ヒトモシかカリキリがそれを使えるかどうかは、ある意味賭けだったけどね……。


ダイヤ「……なるほど」

ルビィ「ピギッ!?」


私の言葉を聞いて、ダイヤさんの鋭い視線がルビィさんに送られる。


ダイヤ「ルビィ、あれほど視線には注意しなさいと、いつも言っているでしょう……」

ルビィ「え、えぇ……ルビィ、ラビフットの方は見ないようにしてたつもりなのに……そんなに見ちゃってたかなぁ……」

ダイヤ「尤も……確信をしたのは、わたくしもどこかでライボルトの方を見てしまったから、なのかもしれませんが……」


恐らく、ダイヤさんもルビィさんに合図を送るために、わかりやすく大技を引っ張り出すタイミングを調整していたんだと思う。

その際、ダイヤさんが一瞬だけライボルトを見たのは、位置を入れ替えたカリキリが有利な展開を運ぶための策を考えるための確認だったんだろう。


ダイヤ「……とはいえ、あの一瞬であれだけの作戦を組み立てて実行する胆力。マルチバトルのパートナーを信頼していないと出来ない芸当。素直に称賛しますわ」

ルビィ「う、うん……確かにすごかった……」

侑「えへへ……だってさ、歩夢!」

歩夢「もう! 私まだ許してないよ! ……でも、侑ちゃんが私を信じてくれたのは……嬉しかったよ。えへへ……///」


さて、話も終わったところで、


ダイヤ「……さて、こうしてわたくしたちは不利な状況になってしまいましたが……。……2匹目はそう簡単には行きませんわよ」

ルビィ「侑さん! 次のポケモンの準備はいいですか!」

侑「はい!」


ダイヤさんとルビィさんがボールを放る。


侑「さぁ、出番だよ! イーブイ!」
 「ブイ!!」


後ろで待っていた、イーブイがバトルフィールドに飛び出し、それと同時に2つのボールがフィールドに放たれた。

さあ、第二ラウンドだ……!





    🎹    🎹    🎹




 「──ジャノビ」
ダイヤ「ジャノビー、お願いしますわね」

 「──シャモッ!!」
ルビィ「ワカシャモ! 行くよ!」


ダイヤさんはジャノビー、ルビィさんはワカシャモを繰り出してくる。


リナ『ジャノビー くさへびポケモン 高さ:0.8m 重さ:16.0kg
   生い茂った 草木の 陰を 潜り抜け 攻撃を 回避し
   巧みな ムチさばきで 反撃。 体が 汚れると 葉っぱで
   光合成が できなくなるので いつも 清潔に している。』

リナ『ワカシャモ わかどりポケモン 高さ:0.9m 重さ:19.5kg
   野山を 走り回って 足腰を 鍛える。 スピードと パワーを
   兼ね備えた 足は 1秒間に 10発の キックを 繰り出す。
   戦いに なると 体内の 炎が 激しく 燃え上がる。』


侑「歩夢、何してくるかわからないから気を付けて……!」

歩夢「う、うん」


──結果として相手の作戦は失敗したとはいえ、ルビィさんは場全体を巻き込んだトリッキーな戦略を仕掛けてきた。

今度も、姉妹で何か策を巡らせているかもしれない。そう思った矢先、


ルビィ「お姉ちゃん! ラビフットはルビィが──」

ダイヤ「いえ、ルビィはイーブイをお願いします」

ルビィ「え、でも……」


ダイヤさんは標的を指定する。


ダイヤ「むしろ、手を出さないように」

ルビィ「え、えぇ!?」

ダイヤ「……このままでは、わたくしが作戦のためだけに虚勢を張ったようではありませんか」


──なんの話だろう……? と思ったけど、


歩夢「あ、さっきの話……」


歩夢はすぐに思い至ったようだ。

ヒトモシと戦いながらだったから、しっかりは聞いていなかったけど──相性だけ良くても、自分のくさタイプのポケモンたちを突破は出来ない……みたいな話だったかな。


ルビィ「で、でも……あれはそういう作戦で……」

ダイヤ「とにかく、手を出さないように」

ルビィ「ぅ、ぅん……」


どうやら、ダイヤさん的に、このままではくさタイプのエキスパートとしてのプライドが許さないらしい。

──もちろん、これもさっきみたいな作戦の可能性もあるけど……。


侑「……でも、関係ない! イーブイ!!」
 「ブイ!!!」


私の声と共にイーブイが駆け出す──ジャノビーに向かって。


侑「歩夢!! 集中攻撃で先にジャノビーを倒すよ!!」

歩夢「う、うん! わかった!」


ダイヤさんもルビィさんも残る手持ちは1匹ずつ。なら、片方をさっさと倒してしまえば、2対1を作り出せる。

わざわざ、相手の拘りに乗ってあげる理由はない。これはバトルなんだ……!

駆け出したイーブイの体毛が赤く燃え上がる。


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹のほのお技で一気に片を付ける……!

そう、思った瞬間──イーブイの前に影が躍り出て、


ルビィ「──“ブレイズキック”!!」
 「シャァモッ!!!!」

 「ブイッ!!!?」
侑「イーブイ!?」


イーブイを蹴り返した。

真っ向からキックを食らったイーブイは、ジムの床を転がりながらも、受け身を取ってどうにか体勢を立て直す。


歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」

侑「だ、大丈夫、致命傷にはなってないよ! びっくりしたけど……」


完全にジャノビーとの間に立って、イーブイを遮るように立ち塞がるワカシャモ。

それにしても──


侑「全然ワカシャモからの攻撃に気付けなかった……!」


ジャノビーに狙いを定めていて注意が向いていなかったとは言え、ワカシャモは弾丸のような目にも留まらぬスピードでイーブイに攻撃をしてきた。

さっきの腰を据えた戦い方をしていたヒトモシとは打って変わって──ワカシャモはとんでもないスピードタイプらしい。


ルビィ「イーブイさんのお相手は、ルビィたちがします!」
 「シャモォ……!!」


あくまでラビフットの相手は、ダイヤさんとジャノビーがするということらしい。


ダイヤ「さて、今度こそ、くさタイプの真髄、お見せしますわ」
 「ジャノー」


……いや、でも考えようによってはチャンスかも。


侑「歩夢。ダイヤさんはああ言ってるけど、ほのおタイプの方が有利なことには変わりないよ!」

歩夢「う、うん!」


確かに迫力はあるけど、向こうから有利な相性で戦ってくれるなら、望むところのはずだ。

むしろ、考えないといけないのは私の方。


 「シャモォ…!!」


かくとうタイプ特有の隙のない構えのまま、ジャノビーとの射線を塞いで立っているワカシャモ。

ノーマルタイプのイーブイにとっては、不利な相性の相手だ。

私たちこそ、慎重にいかなくちゃ……!


侑「でも……弱点を突けるのは私たちも同じだけどね!」
 「ブイッ!!!」


私の声を共に、イーブイの体からぷくぷくと泡のようなものが湧き出してくる。


侑「“いきいきバブル”!!」
 「ブーィッ!!!!」


ワカシャモは私たちがどうにかするから、ジャノビーは任せるよ、歩夢……!





    🎀    🎀    🎀





ルビィ「──ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモォォォーー!!!!」

 「ブ、ブィィ」
侑「ぐぅっ……! すごい、火力……! 負けないで、イーブイ……!」


隣ではイーブイとワカシャモが、激しい攻撃の応酬を繰り広げていた。

相性は良いはずなのに、ワカシャモの“かえんほうしゃ”は、イーブイの“いきいきバブル”をジュウジュウと音を立てながら蒸発させている。


歩夢「侑ちゃん……!!」

侑「こっちはいいから!! 歩夢はダイヤさんとジャノビーに集中して!!」

歩夢「……っ! わ、わかった……!」


ルビィさんが侑ちゃんを遮ったように、こうなったらダイヤさんも私が侑ちゃんの加勢に行くことを許してはくれないだろう。


歩夢「やるしか……ない……」

ダイヤ「腹を括ったようですわね。さあ、どこからでもどうぞ」
 「ジャノ」


ただ、いざ相対したはいいけど──どうやって攻めればいいの……?


 「ラビ…」


ラビフットも困惑している。何せ、さっきのカリキリとの戦いでは、侑ちゃんの機転で突破出来たとはいえ、私たちはほとんど攻撃を有効に通せていなかった。

だから、頭を過ぎる……また、さっきみたいに捌かれてしまうんじゃないかという未来が。


ダイヤ「……警戒して来ませんか、なら──こちらから……!」
 「ノビー…!!」

歩夢「!」


ダイヤさんの指示で、ジャノビーが滑るようにして、こちらに向かって飛び出してきた。


歩夢「ラビフット! 走って!」
 「ラビフッ!!!」


それを見て、私はラビフットを走らせる。

ジムの外側を回るようにして走り出したラビフットを追って、ジャノビーが地を這う。


ダイヤ「逃げますか……。……いや」


私の逃げのように見える手は恐らくすぐに看破される。

でも、真っすぐ戦っても、さっきみたいにいなされるだけだ。

なら──


歩夢「走って! ラビフット!! 全速力で!!」
 「ラビフッ!!!」


スピードの戦いに持ち込む……!


ダイヤ「“ニトロチャージ”ですか……」


──そう、ラビフットはヒバニーのとき同様、走れば走るほど体に熱が蓄積されて加速していく。

いくらジャノビーが素早い身のこなしでも、極限まで速くなったラビフットには追い付けないはず……!


 「ラビビビビビ!!!!!」


侑ちゃんとルビィさんの戦いに巻き込まれない程度にフィールド上で円を描きながら加速するラビフット。

この調子で攪乱しながら、攻撃の機会を──


歩夢「あ、あれ……?」


気付くと、さっきまでラビフットと追いかけっこ状態だったジャノビーは、何故かフィールドのど真ん中で立ち尽くしていた。


歩夢「追って、来てない……?」


それと同時に、


歩夢「きゃっ……!?」


突然、身体が前に引っ張られるような感覚がして、声をあげてしまった。

──いや、気のせいじゃない。足をしっかり踏みしめて身を引いていないと、体が前のめりになってしまう。


歩夢「な、なに……!?」

ダイヤ「相手が逃げ回るなら……引き寄せればいいだけですわ」
 「ジャノォーー!!!」


ハッとして、再度ジャノビーに目を向けると──さきほどまで、フィールドを覆っていたグラスフィールドが、吸い寄せられるように渦を巻きながら、ジャノビーに向かって集まっている。

まさか……。


歩夢「この引き寄せる力は……風!? ジャノビーが操ってるの!?」

ダイヤ「この子はヘビポケモンですが……ヘビは1000年生きれば──龍となると言われていますのよ」


ダイヤさんのその言葉を皮切りに──吸い寄せる風はジャノビーを中心に渦巻きながら、一気に成長し始める。


ダイヤ「“たつまき”!!」


──ゴォッ!! と、音を立てながら、大きな“たつまき”が発生する。


 「ラ、ラビッ…!!」


ラビフットもその吸引力に引っ張られないように、必死に走り回るが、徐々にスピードを殺され始めていた。


歩夢「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ラビフーーー!!!!」


苦し紛れに“かえんほうしゃ”を“たつまき”に向かって放ってみるけど──火炎はみるみる内に風の渦に飲み込まれて掻き消えていく。


歩夢「……っ」


こんなフィールド全体を巻き込むような大規模な技、どうすれば……!


歩夢「フィールド全体……? ゆ、侑ちゃんたちは……!?」


ハッとしながら、イーブイの方に目を向けると──


侑「イーブイ……!! とにかく、“いきいきバブル”で耐えて……!!」
 「ブ、ブィィ!!!」


風に抗いながらで体勢を崩してしまっていた。

そんな中で襲いくるワカシャモの“かえんほうしゃ”。イーブイから仕掛けていたはずなのに、気付けば炎の勢いに押され気味になっていた。


歩夢「な、なんでワカシャモはこんな風の中でも攻撃が……」

リナ『わ、ワカシャモの足腰は強靭……! それにするどい爪を床に立てて体勢を保ってる……!』 || >ᆷ< ||

歩夢「リナちゃん!?」


風に煽られながら、頼りなく私に近寄ってくるリナちゃんを抱きとめる。


リナ『ありがとう歩夢さん……このままじゃ、“たつまき”に吸い込まれるところだった……』 || > _ <𝅝||

歩夢「う、うぅん、それはいいんだけど……」


リナちゃんの言うとおり、ワカシャモの方を見ると、


 「シャモォォォォ!!!!」


鋭い爪を地面に突き立てて姿勢を安定させたまま、“かえんほうしゃ”をイーブイに放っているところだった。


歩夢「このままじゃ……侑ちゃんたちも……」


──つまり、私がジャノビーを止めなくちゃいけない。


歩夢「……私に……出来るの……?」


目の前の巨大な“たつまき”を前に、気が遠くなりかけた、そのとき、


侑「歩夢!!」

歩夢「……!」

侑「大丈夫!! 歩夢なら、出来るよ!! ……うわっちち!!? イーブイ、もっと泡出して~!!」
 「ブ、ブィィ!!!」

歩夢「侑ちゃん……」


懸命に炎を消火しながらも、私を励ましてくれる侑ちゃんの言葉に、私は、


歩夢「……出来るかじゃない……やらなくちゃ……!」


勇気を振り絞る。風に抗うように自分の足でしっかり立って。

──このままじゃ、イーブイもろともやられちゃう。

とにかく、あの“たつまき”を止めないと……。

でも、どうする? ……とにかく考えるんだ。

発生源はジャノビーだから、ジャノビーを直接攻撃すればいいのかな……。

でも、正面から炎で攻撃しても、風の壁に阻まれて、ジャノビーを止められない……。

じゃあ、


 「ラ、ラビビビビビ…!!!」


今も懸命に“ニトロチャージ”を続けるラビフットの加速した突撃で、壁を突き破る、とか……?

……それも無茶な気がする。


歩夢「せめて……風の吹いてない隙間でもあれば……」


それなら、どうにか中に飛び込むことが出来るかもしれないのに……。


リナ『隙間かわからないけど……風が吹いてない場所、あるよ』 || >ᆷ< ||

歩夢「え?」


抱きかかえたリナちゃんからの言葉に、一瞬なんのことかと思ったけど、


歩夢「……そっか! “たつまき”には一点だけ、風の吹いてない場所がある……!」


すぐにその意味に気付く。

あとはそこにたどり着く方法だけど──頭を過ぎった方法は、またしても無茶な作戦。でも──


歩夢「……さっきよりは出来そう……!!」


私は意を決して、ラビフットに向かって叫んだ。


歩夢「ラビフット!! “ニトロチャージ”!!」
 「!!! ラビフッ!!!!」


私は困惑気味だったラビフットに、道を示す。


歩夢「走って走って……とにかく走って!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


ラビフットは迷いがなくなったのか、ジムの床を蹴りながら再び猛加速を始める。


ダイヤ「どうするつもりですか……?」


ダイヤさんはヤケでも起こしたのかと言いたげだったけど──


歩夢「とにかく速く、速く走って!! ラビフット!!」
 「ラビィィィィィ!!!!」


ラビフットは──ぐんぐん加速していく。

先ほどのスピードとは比べ物にならない速さで……!


ダイヤ「……! まさか……!」

リナ『ラビフット、“たつまき”を利用して、加速してる!?』 || ? ᆷ ! ||


──そう、“たつまき”が渦を巻きながら、周囲のモノを吸い込んでいるということは、


歩夢「渦の方向に逆らわなければ、それはむしろ“おいかぜ”になる……!」
 「ラビィィィィィ!!!!!」


風の力を利用して、爆発的な加速をするラビフット。その通り道は、大きな熱エネルギーによって、赤く赤く赤熱した跡を床に残しながら、さらにスピードを増していく。


ダイヤ「その爆発的なスピードで、突き破る気ですか……! なら、こちらももっと壁を堅牢にするまでですわ!! ジャノビー!!」
 「ジャノビィィーー!!!」


ダイヤさんの声と、“たつまき”の中から響くジャノビーの声と共に、周囲の“グラスフィールド”から巻き上げられた葉っぱたちが、まるで意思をもったかのように、“たつまき”を緑色に染め上げていく。


リナ『これは、“グラスミキサー”!?』 || ? ᆷ ! ||

ダイヤ「そのとおりですわ! 風だけではありません、大量の草を巻き上げて、さらに堅牢になった壁、打ち破れますか!」

歩夢「……ラビフット!! 今だよ!!」
 「ラビッ!!!!!」


加速しきったラビフットは急転換しながら、一点に向かって飛び出して行く。

ただ──


ダイヤ「……なっ!?」


行き先は“たつまき”の方じゃない……!


ダイヤ「何故、壁に向かって……!?」


そう、行き先は──ジムの壁……!


歩夢「ラビフット!! そのまま走って登ってーーー!!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


真っ赤な線を引きながら、壁に突撃していったラビフットは──猛スピードのまま、壁を垂直に登っていく──


ダイヤ「なっ!?」


だけでは留まらず──そのエネルギーのまま、天井を逆さまに走っていく。

今、ラビフットの目指している場所……“たつまき”の風のない場所、それは──


ダイヤ「目的は……“たつまき”の目……!?」


そう、風のない場所とは、“たつまき”の中心点だ。

そしてそこに向かうため、少しでも風の壁が薄い場所があるとすれば──天井スレスレしかない。


歩夢「お願い!! ラビフット!!」
 「ラビッ!!!」


天井を逆さまに走りながら、“たつまき”の中心点に達したラビフットは、天井を蹴りながら、真下に向かって飛び降りる。

溜めに溜めた熱を宿した足を振り下ろしながら、


歩夢「“ブレイズキック”っ!!」

ダイヤ「……!!」


膨れ上がる熱が内側から、“グラスミキサー”を吹き飛ばす……!!


歩夢「きゃっ!!」


弾け飛ぶ草と風に、思わず顔を腕で庇ってしまう。

でも──


歩夢「出来た……! “たつまき”、攻略出来た!!」


あの絶望的な光景を打ち破った……!!


ダイヤ「……大したものですわ」


内側から膨れ上がる熱に、草と風が吹き飛ばされる中、


ダイヤ「……ですが」


今さっきまで“たつまき”のど真ん中だったであろう場所には、


歩夢「え……」

 「ジャノ」

 「…ラ、ラビフッ」


脚をジャノビーの“つるのムチ”に絡めとられながら、拘束されているラビフットの姿だった。


歩夢「な、なんで……」

ダイヤ「……まさか、あの“たつまき”をあんな方法で攻略されるとは思いませんでしたが……。……風のない場所で自由に動けるのは、ジャノビーも同じだったということですわ」

歩夢「あ……」


勝手にアドバンテージを取ったと思い込んでしまっていたけど──風の影響を受けていなかったのはジャノビーも同じ、いやそれどころか……。


ダイヤ「真上から一直線に落ちてくるとわかっていれば、容易ではなくとも、いなすことくらいは出来ますわ」

歩夢「そんな……」

ダイヤ「……“しぼりとる”」


そのまま、絡めとられて地に伏せったラビフットは、


 「ラ、ラビ…」


“つるのムチ”で縛り上げられて──戦闘不能になってしまった。


歩夢「……」


……ダメだった。……今回はうまく行くと思ったのに……。

思わず唇を噛みそうになった、そのときだった。


 「シャモォォォォーーー!!!?」

歩夢「……!」


響くワカシャモの声に視線を向けると、泡まみれになって、ダメージを負っているワカシャモに向かって、


侑「イーブイ!! “すてみタックル”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「シャモォォォ!!!!!?」


イーブイが“すてみタックル”を炸裂させているところだった。


ルビィ「ワカシャモ!? 大丈夫!?」
 「シャ、シャモォ…!!」

ダイヤ「い、いつの間に形勢が……!?」

ルビィ「あ、あのイーブイ……かなり攻撃してたはずなのに、全然倒れてくれなくって……」


確かに、イーブイはずっと押されていたはずなのに……いつの間にか状況が逆転していた。


ダイヤ「確かあれは“相棒わざ”……存在は知っていましたが、効果までは把握しきれていませんが……状況を鑑みるに、恐らく吸収技ですわね」


どうやら、“いきいきバブル”の相手の体力を吸収する効果のお陰で持久戦に迫り勝ったということみたいだ。


ダイヤ「ルビィ、一旦ワカシャモを後ろに下げてください」

ルビィ「う、うん……! ワカシャモ、距離を取って……!」
 「シャモ…!」


手負いのワカシャモは跳ねるようにして、イーブイたちから距離を取って、フィールドの奥の方へと下がっていく。


リナ『状況がこっちに傾いてる! 今が攻め時だよ!』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「歩夢とラビフットのお陰だね!」

歩夢「……え」

侑「歩夢たちが、ジャノビーのあの大技を打ち破ってくれたからだよ!」

歩夢「……でも、結局勝てなくて……」

侑「それでもすごいよ! 私だったら、あんな作戦思いつかなかったと思うもん!」

歩夢「……だけど、また同じことされたら……」


──次はもう突破出来る気がしない。だけど、そんな私の心配に、


リナ『その心配はないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが答える。


歩夢「……え?」

リナ『あんなフィールド全体を巻き込むような大技、最終進化系じゃないジャノビーには連発出来ないんじゃないかな』 || ╹ᇫ╹ ||

ダイヤ「……」


リナちゃんの言葉に対して、ダイヤさんは沈黙で答える。

その沈黙は即ち肯定を意味しているのに等しい。

私は、負けて倒れてしまった、ラビフットに目を向ける。

……確かに勝つことは出来なかったけど、


 「…ラビ…」


……役割は果たしたとでも言わんばかりに、ラビフットが小さく鳴いたのだった。


歩夢「……うん」


私は、ラビフットをボールに戻す。そのボールをぎゅっと胸に抱き寄せて、


歩夢「ありがとう……ラビフット」


お礼を言った。


侑「歩夢! 勝てるよ!」

歩夢「……うん!」


私は、この試合の最後のポケモンをフィールドに繰り出す。


 「──マホミ~♪」
歩夢「行くよ、マホミル!」


試合は最終局面へ──




    🎀    🎀    🎀





ダイヤ「“グラスフィールド”」
 「ジャノッ」


手始めに、ダイヤさんは“グラスフィールド”を再展開する。


ダイヤ「ワカシャモには“グラスフィールド”で体力を回復しながら、後方支援をお願いします」

ルビィ「わかったよ、お姉ちゃん!」
「シャモ…!!」

リナ『相手は時間を稼いで体力を回復する気だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「そんな暇与えない!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーイッ!!!」


イーブイが全身から泡を飛ばして、後方のワカシャモを狙うけど、


ダイヤ「“リーフブレード”!!」


前で構えているジャノビーの草の刃で泡を斬り裂かれて無効化される。


ダイヤ「さすがに狙いが見え見えすぎますわ!」

侑「っ……“いきいきバブル”じゃ攻撃のスピードが遅すぎる……。なら、これならどうですか……!」


──パチパチとイーブイの体毛から火花が爆ぜる音と共に、電撃が飛び出す。


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブイイイ!!!!」


泡の攻撃と違って、電撃は動きが速く捉えづらい。そんな侑ちゃんの思惑に対してダイヤさんは、


ダイヤ「“つるのムチ”を伸ばして!!」
 「ジャノ!!」

“つるのムチ”を電撃に向かって伸ばす。すると、電撃は“つるのムチ”の先端に向かって、吸い込まれていく。


侑「嘘!? “つるのムチ”を避雷針代わりにした!?」

ダイヤ「確かに電撃は動きが速いですが、操作もされやすい。攻撃は後ろには通させませんわ」


ワカシャモに通りの良い、みずタイプやでんきタイプをジャノビーが受け止めて、その間に“グラスフィールド”で回復する作戦。

単純だけど、対処が難しい。なら……!


歩夢「マホミル! “ミストフィールド”!」
 「マホミ~!!」

ダイヤ「!」


回復手段のフィールドを書き換えちゃえばいいんだ……!


ダイヤ「“グラスフィールド”!」
 「ジャノッ!!!」

歩夢「“ミストフィールド”!」
 「マホミ~!!!」


ダイヤさんも黙ってフィールドの書き換えを許すわけはないから、自然とフィールド展開の応酬が始まる。


ダイヤ「……っ! ルビィ!!」

ルビィ「うん! ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーーッ!!!!」


これ以上のフィールド展開を許すまいと、マホミルに向かって後方から火炎が飛んでくる。


侑「させない!! “めらめらバーン”!!」
 「ブイッ!!!」


その炎を全身の炎で相殺するように、イーブイが盾となって受け止める。


ダイヤ「……先にマホミルを狙わないといけませんわね。“グラスフィールド”を一旦諦めましょう」


ダイヤさんが“グラスフィールド”の展開を諦めると同時に──身をくねらせて、突貫してきた。


侑「なっ……!?」

歩夢「え!?」


腰を据えた防御をしてくると思い込んでいた私たちは一瞬反応が遅れる。

ジャノビーは目にも留まらぬスピードでイーブイの横を通過し、


ダイヤ「“グラスミキサー”!!」
 「ジャノーーッ!!!!」

 「マホミーーー!!!?」


草の旋風をマホミルの真下から発生させて、渦の中にマホミルを捕える。


歩夢「マホミル!?」

侑「しまった……!? イーブイ! マホミルを援護──」

ルビィ「“かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーー!!!!」

侑「っ!?」


今度はワカシャモがイーブイとジャノビーの間に火炎を噴き出し、進路を妨害してくる。


ダイヤ「わたくし、防御の方が得意ですが、もちろん攻撃も抜かりありませんわよ……!」

 「マホミーーーー!!!」
歩夢「……っ……どうにか、どうにかしなきゃ……」


考えるんだ、自分と相手のポケモンをよく見て、何か解決策を──


歩夢「……あれ……?」


ふと、草の渦の中で、くるくると回転しているマホミルを見て、思った。


 「マホミーーーー♪」


──マホミル……楽しそう……?

反時計回りに渦を巻く、“グラスミキサー”の中で、マホミルは苦しそうというより……楽しそうだ。

理由はわからない、だけど……。


歩夢「侑ちゃん! 私たちのことはいいから、ワカシャモに集中して!」

侑「え!?」

歩夢「どうにか、出来ると思うから……!」

侑「な、なんかよくわからないけど、わかった! 歩夢を信じる!! イーブイ! 炎を纏ったまま、ワカシャモに突撃!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイはマホミルへの援護を諦めて、ワカシャモの方へと走り出す。

そして私は再び渦の中で楽しそうに回り続けるマホミルに目を向ける。

──理由はわからないけど、あの子があんなに楽しそうにしているなら、きっとこれはピンチじゃない!

次の瞬間、


 「マホミーーー♪」


マホミルが渦の中で──光り輝き始めた。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「これって!?」

侑「まさか!?」

歩夢「……進化の……光……!」


光の中から、マホミルの進化した姿──ピンク色のホイップクリームの体に、かすみちゃんから貰った“リボンあめざいく”を付けた姿のポケモン。


リナ『マホミルがマホイップに進化した!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「マホイップ……! それが、あなたの新しい姿なんだね!」
 「マホイップ♪」

リナ『マホイップ(ミルキィルビー) クリームポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.5kg
   手から 生みだす クリームは マホイップが 幸せなとき
   甘味と コクが 深まる。 進化の 瞬間 体の 細胞が
   揺れ動く ことで 甘酸っぱい フレーバーに なった。』

ダイヤ「この土壇場で進化を……!?」

歩夢「マホイップ! あなたの新しい力を見せて!」
 「マホイ~♪」


マホイップが楽しげに鳴き声をあげると、


 「ジ、ジャノッ!!?」


急にジャノビーの体がふわりと浮いて、自ら出したはずの“グラスミキサー”の渦の中に引きずり込まれる。


ダイヤ「これは“サイコキネシス”!? ジャノビー!? 今すぐ、脱出してください!?」
 「ジ、ジャノー!!?」


脱出の指示も虚しく、ジャノビーは為すすべもなく、渦の中で振り回される。

そして、渦の中心で楽しそうに回り続けるマホイップの周囲に、ポポポポっと紫色の炎が出現する。


歩夢「いけーーー!! マホイップ!! “マジカルフレイム”!!」
 「マホイップッ♪」


現れた紫色の炎は、“グラスフィールド”に巻き込まれる形で── 一気に紫色の炎の火炎旋風へと昇華した。


 「ジ、ジャノオオオッ!!!!?」


逃げ場のない、“マジカルフレイム”の旋風に巻き込まれたジャノビーは、そのまま炎の中を打ち上げられたあと──地面に落ちてきて、


 「ジ、ジャノ……」


目を回してひっくり返っていた。


ダイヤ「……ジャノビー、戦闘不能ですわ」

歩夢「やった……! やったよ! マホイップ!」
 「マホイ♪」


勝利の余韻に浸るのも束の間、


歩夢「……そうだ、侑ちゃんたちは……!」


まだ試合は終わっていない。

イーブイは、


 「ブイイイイイイ……!!!!!」

 「シャモオオオオオオオ!!!!!!!」


“めらめらバーン”を身に纏ったまま、ワカシャモの“かえんほうしゃ”の中、どうにか前に進もうとしているところだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「イーブイ!! 頑張れー!!」
 「ブ、ブイイイイイ……!!!!!」

ルビィ「ワカシャモ! 火力で負けちゃダメだよ!」
 「シャモオオオオオ!!!!!」


イーブイがワカシャモに向かって攻撃してくることに気付いたルビィさんは、すぐに標的をイーブイに切り替えてきた。

どうにか“めらめらバーン”で炎の勢いを相殺しながら、接近しようとしているけど、


 「ブ、ブイイイイ……!!!!」


いかんせん相手の火力が強い。でも……でも──


侑「歩夢たちが頑張って作ってくれたチャンスなんだ……!! 絶対に負けない……!!」
 「ブイイイイイイイッ!!!!!!」


ここが正念場だ、この炎さえ突破出来れば──


ルビィ「ワカシャモ!! とっておきの炎、行くよーーー!! “だいもんじ”!!!」
 「シャモオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

侑「なっ!?」
 「ブイッ!!!?」


まだ、これ以上の技を隠してた……!?

“かえんほうしゃ”の中を懸命に進むイーブイに向かって──より集束された大の字の炎の塊が飛んでくる。


侑「……っ!!」


そのとき、イーブイは、


 「ブイッ!!?」


炎の中で──“なにか”に躓いた。


侑「……!! イーブイ!! 突き進め!!」
 「ブイイイイイッ!!!!!!」


私の言葉、イーブイの雄たけびと共に──“だいもんじ”が着弾して、爆発を起こす。


侑「っ……!!」


強い熱波に思わず、顔を庇う。


ルビィ「いくらイーブイさんの“相棒わざ”が強くても、これは耐えられませんよね……!」

侑「……そう、ですね……」


ルビィさんの言葉と共に、爆炎が晴れていく。その中に、


侑「──……当たってたら、ですけど」


イーブイの姿は──なかった。


ルビィ「え!?」


そこにあったのは──小さなだけ穴だった。


ルビィ「え、何……? 穴……? イーブイは……?」

ダイヤ「ルビィ!! 下です!!」

侑「もう遅いです!!」
 「──ブイッ!!!!」


ワカシャモの真下から、急にイーブイが飛び出して、


 「シャモォッ!!!!?」


“ずつき”をかました。

──ゴンッという鈍い音と共に、吹っ飛ばされたワカシャモは、


 「シャ、シャモォ…」


ここまで蓄積したダメージもあってか、耐えきれずに倒れこむのだった。


ルビィ「あ……ワカシャモが……」

ダイヤ「ワカシャモ……戦闘不能ですわ」


ダイヤさんが口にする判定と共に、


侑「……ぃやったあぁぁぁぁ……!!」


声が漏れた。


侑「歩夢! 私たち──」

歩夢「侑ちゃん……!!」


私が声を掛けようとした瞬間、それを遮るかのように、歩夢が私に抱き着いてくる。


歩夢「侑ちゃん……! 私……私たち……っ……!!」

侑「……うん。……勝ったよ、私たち……」

歩夢「ホントに……ホントに勝ったんだよね……? ……私たち……っ……」


泣きそうな声で言う歩夢に向かって、


ダイヤ「……ええ。正真正銘、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんがそう答えながら、こちらに歩いてくるところだった。


ダイヤ「自分のポケモンと、自分のパートナーを信じて戦い抜いた、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんは試合中の表情が嘘のように、柔らかい笑顔でそう告げる。


歩夢「は……はい……っ……!」

侑「ふふ……やったね、歩夢!」

歩夢「うん……っ……!」


目に一杯の涙を浮かべながら喜ぶ歩夢のもとに、


 「マホ~♪」「ブイ♪」


試合を終えた、マホイップとイーブイが駆け寄ってくる。


歩夢「マホイップ……イーブイ……ありがとう……っ……。……ラビフットも、ライボルトも、みんなが頑張ってくれたから……私たち、勝てたよ……っ……」

ダイヤ「歩夢さん、勝者がそんな泣いていてはいけませんわよ」

歩夢「す、すみません……っ……」

ダイヤ「……自信は付きましたか?」

歩夢「……はい……っ!」

ダイヤ「それは何よりです」


ダイヤさんは歩夢の返事に満足げな表情をするのだった。


ルビィ「あ、あの……侑さん。聞きたいことがあるんですけど……」

侑「? なんですか?」

ルビィ「最後……よく“あなをほる”……間に合いましたね。……ジムの床板もあるのに……」

侑「ああ、えっと……」


私はイーブイが最後に掘った穴に目を向ける。


侑「炎を凌ぐのに夢中で、ぎりぎりまで気付かなかったんですけど……炎の中でイーブイが躓いたんですよね」

ルビィ「躓いた……?」

侑「それで、気付いたんです」


──『ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!』


侑「イーブイが躓いたのは、ライボルトが“アイアンテール”で床板を砕いた場所だったんだって」

ルビィ「あ……」

ダイヤ「それだけではありませんわ。ルビィ、気付きませんか? この香りに」

ルビィ「え? 香り……? ……言われてみれば、なんか甘い良い匂いがするかも……?」

ダイヤ「これは、マホイップの放っている“アロマミスト”ですわよね?」

歩夢「は、はい……」

ダイヤ「“アロマミスト”によって、上昇した特防で攻撃を耐えつつ、砕いた板材の下に咄嗟に潜り込んで“だいもんじ”を回避した、ということですわね」

侑「最後の最後で運がよかっただけかもしれないですけど……あはは」

ダイヤ「いいえ、運を引き寄せるのも、引き寄せた運を好機に変えたのも、貴方の実力ですわ。それでは、ルビィ」

ルビィ「う、うん」


ダイヤさんに促されたルビィさんは、ポケットから2つ──宝石のようなシルエットをしたバッジを取り出した。


ルビィ「侑さん、歩夢さんの実力を認め、お二人にはこの──“ジュエリーバッジ”を進呈します!」

侑・歩夢「「はい!」」


二人で1つずつ“ジュエリーバッジ”を受け取る。


侑「やったね、歩夢♪」

歩夢「うん……♪」

リナ『二人ともおめでとう♪ 見ていてずっとドキドキハラハラしっぱなしで、すごい試合だった!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「リナちゃんも、サポートありがとう」

歩夢「ありがとね、リナちゃん♪」

リナ『どういたしまして♪ 二人の役に立てて、私、嬉しい♪』 ||,,> ◡ <,,||

ダイヤ「ふふ、ロトム図鑑さんも含めて、良いチームワークでしたわ」

ルビィ「うん! すごかったです!」


称賛の言葉もそこそこに、


ダイヤ「それで、この後はどうされるおつもりですか?」


ダイヤさんはそう訊ねてくる。


侑「えっと……この近くに研究所がありましたよね? そこに行ってみたいなって……」

ダイヤ「アワシマ研究所ですわね。港から定期便が出ていますので、それを使えばすぐに行けると思います。あと、そちらの所長とは古い仲ですから、こちらからお二人のこと、連絡しておきますわね」

侑「いいんですか!?」

ダイヤ「ええ、もちろん。善子さんのところから旅立ったトレーナーが来ると聞いたら、きっと喜びますから。是非、訪ねてあげてください」

侑「わかりました!!」


次の行き先も無事決定。そして、ダイヤさんは最後に歩夢に向き直る。


ダイヤ「歩夢さん」

歩夢「は、はい……!」

ダイヤ「貴方はポケモンをよく見ている。きっとその目は、これからも貴方を助けてくれると思いますわ。今日の気持ちを、経験を忘れずに、精進してください」

歩夢「はい」

ダイヤ「……ふふ、いけませんわね。また説教臭いことを言ってしまいましたわ。教師時代の癖が抜けていませんわね……」


ダイヤさんはそうおどける。


ダイヤ「大切な試合。頑張ってください」

歩夢「はい! ありがとうございます!」


こうして私たちは激闘の末、四天王とジムリーダータッグの変則ジムバトルに勝利し──ジムバッジを手に入れたのでした!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.34 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.30 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.30 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:104匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter028 『葛藤』 【SIDE Shizuku】





──『しず子っ!!!』


かすみさんの声。


──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』


かすみさんが、私に向かって、叫んでいる。


──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』


かすみさんの声が、私の中で木霊していた。



──
────
──────



しずく「──…………ん……」


──瞼の裏に光を感じて、ぼんやりと目を開けると、見慣れない天井があった。


しずく「ここ……どこ……?」


自分がどうしてこんな場所にいるのか、寝起きの頭を働かせて思い出そうとするけど──記憶に靄がかかったかのように、直近のことがほとんど思い出せなかった。

ホシゾラシティで侑さんたちと別れて……コメコの森に入ったところまでは覚えている。


しずく「…………」


ゆっくりと身を起こすと、酷い眩暈に襲われた。

頭が……重い……。

重い頭を押さえながら、傍らに目を向けると──


 「…ロゼ…zzz」


ロゼリアが眠っていた。


しずく「……ロゼリア……? ……もしかして、スボミー……?」


──そういえば……スボミーが進化していたような……。記憶の中の靄の向こうに手を伸ばそうとした瞬間、


しずく「……いた……っ……!」


頭がズキンと痛んだ。

私は一体どうしてしまったのか……。

頭を押さえながら、改めて、周囲を確認していると──


かすみ「…………すぅ…………すぅ…………zzz」


私の寝ているベッドにもたれかかるようにして、かすみさんが寝息を立てていた。


しずく「かすみさん……? ダメだよ、かすみさん……寝るならちゃんとベッドで寝ないと……風邪引いちゃうよ……」

かすみ「……ん、ぇ……?」


私が声を掛けると、かすみさんは少しビクっとしてから、顔を上げて──


かすみ「……しず子……?」


目を丸くする。


しずく「かすみさん……?」

かすみ「…………よ」

しずく「……よ?」

かすみ「よかったぁぁぁぁぁ!!! しず子~~~!!!!」

しずく「きゃぁっ!?///」


突然かすみさんが、抱き着いてくる。




しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「よかった、よかったよぉ……! 痛いところとかない!? 大丈夫!?」

しずく「え、えっと……強いて言うなら……重い、かな……?」

かすみ「んなぁ!?」


ベッドの上で飛び付かれたから、軽くのしかかられている状態なわけだし……。


かすみ「か、かすみん重くないもん!! 確かに彼方先輩の作ってくれるご飯おいしくって3回もおかわりしちゃったけど……育ちざかりだから、すぐに消費されるもん!!」

しずく「あはは……冗談だよ。……彼方先輩……?」

かすみ「あ、うん! かすみんたちを助けてくれた人たちの一人なんだよ!」

しずく「助けてくれた……? ……えっと……どういうこと……?」

かすみ「え……? もしかして、しず子……なんにも覚えてないの?」

しずく「……う、うん……コメコの森に入ったところくらいから……記憶が曖昧で……」

かすみ「…………やっぱ、ウルトラビースト症……の後遺症……」

しずく「……え?」

かすみ「あ、いや! なんでもないよ! とりあえず、お医者さんがいるから──えっと、はる子って言うんだけど……! すぐ呼んでくるから、待ってて!」

しずく「あ、いいよ。お世話になったんだったら、私の方から挨拶に行かないと──」

かすみ「今起きちゃダメ!!」

しずく「!?」


かすみさんが珍しく激しい剣幕で声をあげる。

普段のぷりぷりと怒るような可愛い感じの雰囲気ではなく──本当に私が行くことに対して、否定的な意思を示しているのが嫌でもわかる……それくらいの剣幕だった。


かすみ「いいから、しず子はここで待ってて!」

しずく「わ、わかった……」


言い返すことも出来ず、素直に頷くと、


かすみ「絶対勝手に歩き回ったりしたらダメだからね!」


そう残して、パタパタと駆けていってしまった。

どうやら、相当身体のことを心配されているらしい。


しずく「…………本当に、私……どうかしちゃったのかな……?」


一抹の不安を覚えながら、しばしかすみさんを待つことに──





    💧    💧    💧





遥「──ひとまず……問題はなさそうですね」

かすみ「……よかったぁ……」

しずく「ありがとうございます。遥さん」


かすみさんが呼んできたお医者さんこと──遥さん。

そして、そんな遥さんと一緒に部屋に来たのは、


彼方「遥ちゃんが平気って言うなら間違いないよ~。よかったね、しずくちゃん」


そんな彼女のお姉さんだという、おっとりした雰囲気の人──彼方さん。

さらに、


千歌「何かあったらすぐ言ってね? 飛んでくるから!」


まさかのチャンピオン・千歌さんの姿。

そして、最後に、


穂乃果「とりあえず、しずくちゃんとは今後のことをお話ししたいんだけど……いいかな?」


初めて見る人だったけど……チャンピオンもいるようなこの場をまとめていることから、只者ではなさそうな──穂乃果さん。

かすみさん含めて、今私がいるベッドの周りには5人も集まってきていた。


しずく「今後のこと……ですか」


──今後のこと。

先ほど、自分がどうしてこんな場所で眠っていたのか、その理由を簡単な診察を受けながら聞かされた。

ただ……。


しずく「正直、何も覚えていないので……実感が湧かないというか……」


ウルトラビーストという未知の世界から来たポケモンに襲われ、命を失いかけたこと。

彼方さんたちが間一髪で助けに来てくれて、かすみさんともども命拾いしたこと。

そして、そんなウルトラビーストの毒に侵され、危ない状態を治療してもらって今に至ると説明されたが、正直頭が追い付いていない。


遥「フェローチェの毒は精神に強く作用します……だから、記憶に混濁が発生するのは仕方ないと思います……」

彼方「とはいえ、襲われちゃったのは事実だからね~……」

遥「奇跡的に回復こそしていますが……いつ発作が現れるかも、わかないので……」

しずく「発作……ですか……」


その発作が具体的にどういったものかはわからないが……未知の毒に侵されている以上、楽観的な状況ではなさそうだ。


遥「今こちらに、もう少し精密に検査をするための機器を送ってもらっているんですけど……」

彼方「どっちにしろ、一旦本部に来てもらって、ちゃんとした設備で精密検査をした方がいいかもしれないね~……」

しずく「精密検査……。それって、どれくらい時間が掛かるものなんですか……?」

遥「経過観察もあるので……1ヶ月から……最悪1年くらいは見てもらうことになるかもしれません……」

かすみ「1年!?」


遥さんの回答に、かすみさんが悲鳴のような声をあげた。


かすみ「それじゃ、旅は!? 旅はどうするの!?」

穂乃果「……残念だけど、中断してもらうしかないかな」

しずく「……そう、ですよね……」

かすみ「そ、そんな……」


私は穂乃果さんの言葉に俯いてしまう。

とはいえ、起こってしまったことは仕方がない。


しずく「わかりました……私の旅は一旦ここで──」


やむを得ないと、首を縦に振ろうとしたら、


かすみ「ち、ちょっと待ってよ、しず子!! しず子はそれでいいの!?」


かすみさんが、ベッドに手をつくようにして、身を乗り出しながら言う。


しずく「私だって旅を諦めたくはないけど……」

かすみ「じゃあ、諦めちゃダメだよ!!」

しずく「……でも」

かすみ「少なくともかすみんは、しず子が一緒に来てくれなきゃイヤだもん!!」

しずく「かすみさん……」


かすみさんの気持ちは理解出来る。……だけど、


彼方「あのね、かすみちゃん。……かすみちゃんが思ってるよりも、これって重い事態なの」

遥「ちゃんとした設備があれば、ウルトラビースト症の発作が起こったとしても、すぐに治療が出来ます……。なので、しずくさんには本部の医療施設に入ってもらって──」

かすみ「──しず子が旅出来なくなることの方が、重い事態ですっ!!」


説得を試みる彼方さん、遥さんの言葉をかき消すように、かすみさんが大声で反発する。


しずく「かすみさん……もういいから。ありがとう、私は大丈夫だよ……」

かすみ「大丈夫じゃないっ!!」

しずく「かすみさん……」

かすみ「私知ってるもん!! しず子がこの旅に出るために、どれだけ勉強してたか、頑張ってたか……! 旅立ちが決まった後もいっぱいいろんな下調べして、いろんな街のこととか勉強してたのも知ってるもん!!」

しずく「それは……」

かすみ「それに……旅してる間のしず子、いっつも楽しそうだった……。新しい仲間に出会う度に、学校じゃ見たことなかったような嬉しそうな顔して……新しい景色を見るたびにワクワクしたような顔してたの……知ってるもん……」

しずく「……」

かすみ「そんなしず子が……もういいなんて、旅を諦めてもいいなんて……思ってるわけないもん……」


何か、説得する言葉を探すけど──私は言葉が出なかった。それくらい、かすみさんは私の気持ちを言い当てていた。

そんな中で、どうにか絞り出せたのは、


しずく「……子供みたいなこと……言っちゃ、ダメだよ……」


そんな弱々しい言葉だった。


かすみ「しず子のしたいことが出来なくなるのを協力するのが大人なら、かすみん子供でいいもん……」

しずく「……」


先ほどまで、説得を行っていた彼方さんや遥さんも、かすみさんの悲痛な言葉に、なんと言えばいいかわからない様子だった。

そんな中、口を開いたのは、


穂乃果「……じゃあ、かすみちゃん。聞くけどさ」


穂乃果さんだった。


穂乃果「しずくちゃんが発作を起こすところ、かすみちゃんは見たんだよね?」

かすみ「……はい」

穂乃果「……あの発作が起こるとまずいってことは、わかるよね?」

かすみ「それはわかります……でも、かすみんがまたいっぱい声掛けて、しず子の目を覚まさせます……!」

穂乃果「……なるほど。……じゃあ、もう一つ教えておくね」

かすみ「……?」

穂乃果「一度ウルトラビーストに魅入られた人は……また、ウルトラビーストと出会う確率が高くなるんだ」

かすみ「え……?」


──それは初耳だけど……。思わず、遥さんの方に視線を向けると……遥さんは黙ったまま頷く。事実らしい。


穂乃果「しずくちゃんと一緒に旅をするってことは、かすみちゃんもまたウルトラビーストに襲われる可能性が高いんだよ。ウルトラビーストがどれほど強いかは……かすみちゃんが一番よくわかってるんじゃないかな」

かすみ「それ……は……」

穂乃果「しずくちゃんだけじゃない。次は、かすみちゃんの命に関わることが起こるかもしれない」

かすみ「…………」

穂乃果「その反面、本部でなら、いつでもしずくちゃんを守ってあげられるし、絶対に身の安全は保証する。だから──」

かすみ「…………っ」


大人の理屈だった。でも、それ故に正しかった。

こんな理屈を突き付けられたら、誰も反論なんて出来ない。出来ない……はずなんだけど、


かすみ「なら……」

穂乃果「?」

かすみ「なら、ウルトラビーストに負けないくらい、かすみんが強ければいいってことじゃないですか……!!」

穂乃果「……」


かすみさんが急に机上の空論を言い出すからか、穂乃果さんも呆れて、言葉を止めてしまった。


穂乃果「…………どうしよう、確かにそれはそのとおりかも……」


──いや、違った。あれ、もしかしてこの人……実はかすみさんに近しい側の人……?


彼方「ほ、穂乃果ちゃん……重要なところで負けないでよ~……」

穂乃果「いやでも、かすみちゃんがウルトラビーストより強ければ、確かに問題ないし……」


ま、まあ……かすみさんが強ければ解決するのは確かなんだけど……。

今、重要なのはそこじゃないような……。


かすみ「なら話は早いです!!」


かすみさんは、いそいそと荷物をまとめ始める。


しずく「かすみさん、どこに……?」

かすみ「ポケモントレーナーが強さを示すなら行く場所は一つ……! 今すぐコメコジムでジムバッジを手に入れてくるから、待ってて!!」


それだけ言うと、かすみさんは部屋を飛び出して行ってしまった。


しずく「え、あ、ちょっと待って、かすみさ──……行っちゃった……」


強さを示すのはいいにしても……ジムバッジ3個程度じゃ、穂乃果さんたちが納得する強さの証明にならないと思うんだけど……。

恐らく誰もがそう思っているだろうという中、口を開いたのは、


千歌「……少し、様子を見てもいいんじゃないかな」


ずっと黙ったまま、話を聞いていた千歌さんだった。


彼方「そういえば、千歌ちゃん……ずっと、黙ったままだったね~……?」

千歌「あーうん……必死なかすみちゃん見てたら、なんか思い出しちゃって……」

彼方「思い出しちゃった……?」

千歌「……自分が旅をしてたときのこと。私も無茶なことたくさんしたなぁって……」


千歌さんは昔を懐かしむように言う。


千歌「そのたびに、危ない目に遭って……。それを周りの大人に反対されたこともあった。でも……それでも、ポケモンたちとそれを乗り越えてきてさ。……その先に今の私があるって思ったら……なんか、かすみちゃんの気持ち、簡単に否定出来ないなって……」

穂乃果「むー……千歌ちゃんばっかりずるいよ~! 私だって、おんなじこと考えてたけど、今はしずくちゃんとかすみちゃんの身の安全が大事だって思って喋ってたのに……!」

千歌「ご、ごめんなさい……。でも、やっぱり、かすみちゃんの気持ち……全部無視するのは出来なくて……。……もちろん、しずくちゃんの気持ちも」

しずく「…………」


彼女たちも昔、ポケモントレーナーとして旅をして、今があるからこそ、私やかすみさんの旅に水を差すことに、思うところがあるのだろう。

……だけど、大人が大人として、私やかすみさんの身の安全を守ろうとしていることも、かすみさんが私と旅を続けられるように必死になっていることも、どちらの心情も理解出来るからこそ……私はどうすればいいのかがわからなかった。


千歌「私は……しずくちゃんがどうしたいかも大事だと思う」

しずく「……私は……」

千歌「素直に答えて欲しいんだけど……旅を続けたい?」

しずく「……それは……。……はい。続けたいです……かすみさんと一緒に」

千歌「だよね……。じゃあ、私たちの意思だけで勝手にダメだって決めつけちゃうのも……」

しずく「……でも……それと同じくらい……怖いって気持ちも、あります……」


少なくとも命が脅かされていることに覚える恐怖はある。

未知の毒に侵食されているかもしれない。またその原因と出会うことになるかもしれない。

そして、なによりも──次はかすみさんも命の危険にさらすことになるかもしれない。

それはどうしようもなく……恐ろしいことだと、私はそう思う。


穂乃果「……わかった。とりあえず、今後どうするか、しずくちゃん自身でよく考えてみてもらっていいかな?」

しずく「……はい」

穂乃果「その答え次第で、私たちもまた考えるから。……状況によっては、しずくちゃんやかすみちゃんの要望通りに出来るとは限らないけど……」

しずく「……わかりました」


私は穂乃果さんの言葉に頷く。

かすみさんの意向や行動に関わらず、私も自分自身がどうしたいのか、決断する必要があるだろう。


遥「とりあえず今日は安静にしていてくださいね。この後、簡易検査用の機器が届いたら、私が検査をするので……」

しずく「はい、よろしくお願いします」


とりあえず、今私に出来ることは、ここで考えながら安静にして待つことだ。


彼方「ん~じゃあ、とりあえず話もひと段落したし、彼方ちゃんご飯作ってくるね~。みんな、いっぱいお話しして、お腹空いちゃったでしょ?」

穂乃果「それじゃ、私たちは彼方さんがご飯を作ってくれてる間に、見回りに行こうか」

千歌「そうですね……森にウルトラビーストが出現したばっかりだから、警戒をちゃんとしておいた方がいいだろうし……」


それぞれが持ち場に戻っていき、人口密度の高かった室内が一気に寂しくなる。

私も、いろいろ考えて少し疲れてしまった……一旦、休ませてもらおうかな……。

そう思い、横になる。


しずく「…………私は……どうすればいいのかな……」


私はそう呟いて……目を閉じたのだった。





    👑    👑    👑





──ロッジを飛び出したあと、かすみんはジムの前でぼんやりしています。

何故なら、ジムの扉にこんな張り紙がしてあったからです。

──『農作業のため、ジムに御用の方は午後以降にお願いします』──だそうです。

だから、こうしてジムの前でジムリーダーが戻ってくるまで待っているわけです。


かすみ「かすみん、誰かからジム戦はスムーズに出来ない呪いでも掛けられてるんですかね……」
 「ガゥ?」


……とはいえ、今回に関してはここで待っていれば絶対に来るわけですし、まあいいでしょう。


かすみ「それにしても、コメコのジムリーダーは働き者ですねぇ。ジムリーダーをやってるのに、農業もやってるなんて……」


コメコと言えば、農業の町で有名ですし、かすみんもお料理の買い物をするときは、よくコメコ産のお野菜とか果物とかを選んでいた気がします。

──くぅぅぅ~……。食べ物のことを考えていたら、かすみんのお腹から可愛らしい音が鳴る。


 「ガゥ」
かすみ「お腹空いた……」


やっぱり、何も食べずに飛び出してきたのは失敗でしたね……。

彼方先輩の作ってくれるおいしいご飯を食べて、ジム戦に備えるべきでした。

……なんてこと、今更言っても仕方ないので、今はそこのおにぎり屋さんで買った、塩むすび──豪勢な具を選べるようなお小遣いも残っていない──で我慢します。


かすみ「ゾロアも食べよ?」
 「ガゥ♪」


大きめの塩むすびをゾロアと半分こして、パクつくと、


かすみ「……! お、おいしい……!」
 「ガゥガゥ♪」


恐らく質素な味だろう思っていた塩むすびは、そんな予想に反して、思わず感想を口にしてしまうくらいおいしかった。

お米一粒一粒がしっかり感じられて、でも硬いわけではなくて、炊き立てのようにふっくらとした食感。

お米特有の風味が口いっぱいに広がり、それでいて炭水化物特有の口に残るような癖もほとんどない。

そんなおにぎりだからなのか、米そのものの味をしっかり感じられて──それを際立たせる絶妙な塩加減。


かすみ「かすみん……こんなおいしい塩むすび、初めて食べました……!」

 「──ですよねですよね!! コメコのお米は世界一なんですよ!!」

かすみ「わひゃぁ!?」


──気付けば、知らない人の顔が至近距離にありました。


かすみ「だ、誰ですかぁ!?」

花陽「あ、ご、ごめんなさい……私、花陽って言います……。お米農家をしていて、うちのお米をおいしそうに食べてくれていたから、つい嬉しくなっちゃって……」

かすみ「な、なーんだ……そういうことですか。でも、このおにぎり本当においしいです!」

花陽「えへへ、ありがとう♪」


目の前の花陽という人は本当に嬉しそうにお礼を言ってくる。


かすみ「むしろお礼を言いたいのは、かすみんの方ですよ!」

花陽「かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」

かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんです! かすみだから、かすみんなんです!」

花陽「あ、そういうことだったんだね! よろしくね、かすみちゃん!」

かすみ「……」


な~んか……テンポが狂う感じがしますねぇ……。


かすみ「……と、とにかく。おいしいお米、ありがとうございます! お陰で元気出てきたんで、ジム戦もばっちりこなせそうです!」

花陽「あれ? もしかして、ジムの挑戦者さん?」

かすみ「はい。見たとおり、まだジムリーダーが帰ってきてなくて……」


確か、ここのジムリーダーの名前は……。なんか、りん子先輩が言ってたような……かよち? かよ……なんだっけ。


かすみ「かよ……子先輩でいいや。その人を待ってるんです」

花陽「かよ子……? ……あ、もしかして凛ちゃんに会ったのかな?」

かすみ「あれ、もしかしてりん子先輩と知り合いなんですか?」

花陽「うん♪ 凛ちゃんとは幼馴染なんだ♪」

かすみ「へぇ~、そうだったんですね」


隣の町とはいえ、世間は意外と狭いものですねぇ。


花陽「それじゃ、凛ちゃんを倒して、ここに来たってことだね」

かすみ「はい!」

花陽「そっか! なら、私も気合い入れて頑張らないと……」

かすみ「……?」

花陽「ジムリーダーとして、全力でお相手するよ! よろしくね、かすみちゃん!」

かすみ「……はい? えっと、かすみんが待ってるのは、ジムリーダーであって……」

花陽「あ、えっとね。実は私がそのジムリーダーなんだ♪」

かすみ「…………へ?」


間抜けな声が出た。


かすみ「え、で、でも名前が……」

花陽「凛ちゃんからは、昔から、かよちんってあだ名で呼ばれてるんだ♪ だから、きっとかすみちゃんの言ってる、かよ子先輩は私のことだと思う!」

かすみ「じ、じゃあ、かすみんたち敵同士じゃないですかっ!!」


思わず、飛び退いてしまう。

ジム戦前に、ジムリーダーと仲良く談笑してる場合じゃないんですよ、かすみんは!!


かすみ「お米はおいしかったですし、それはありがとうって思いますけど……ジムリーダーなら話は別です!! かすみんは敵さんと仲良しこよししに来たんじゃないんです!!」

花陽「え、ええ!? ジムリーダーとチャレンジャーってだけだから……バトル外では仲良くしても……」

かすみ「それじゃ、戦いづらくなっちゃうじゃないですか!!」

花陽「た、確かにそうかも……。わかった! それじゃ、仲良くお話するのはバトルの後にするね! それじゃ、ジムの中に入ってください!」


かよ子先輩の先導でジムの中へと案内される。かすみんもゾロアをボールに戻しながら、その後ろを付いていく。

……なんだかおっとりしていて、良い人そうだけど、今日のかすみんは1ミリ足りとも手加減してやるつもりはありません。

ジムリーダーだろうがなんだろうが、完膚なきまでに叩きのめしてやるくらいのつもりです。


かすみ「しず子のために……圧倒するくらいじゃないと、ダメなんだから……!!」


今日は、完璧な勝利をもぎ取らなくちゃいけない。かすみんがしず子を守れるんだってことを、示すためにも……!!




    👑    👑    👑





ジムに入ると、中は地面を敷き詰めて作ったフィールドになっていた。

りん子先輩の道場のような板張りのジムとはだいぶ印象が違いますね……。


花陽「ルールの確認です! 使用ポケモンは3体ずつ! 全てのポケモンが戦闘不能になったら、その時点で決着です!」


ジムリーダーのバトルスペースから、かよ子先輩がそう伝えてくる。


かすみ「わかりました」


かすみんは軽く深呼吸をします。


かすみ「しず子……待っててね」


絶対絶対、何がなんでも、勝つ。そう意気込んで、ボールを構える。


花陽「それでは、これよりジム戦を開始します! コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽! よろしくお願いします……!」


かすみんとかよ子先輩、お互いのボールが同時に宙を舞う。バトル……スタートです……!!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.22 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:6匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter029 『激闘! コメコジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「──行きますよ、ジュプトル!!」
 「プトルッ!!!」


かすみんの1番手はジュプトル! 今日は出し惜しみなしです! 最初からエースで一気に決めちゃいますよ!


花陽「お願い、ホルード!」
 「ホルー!!」


相手のポケモンはホルード……なんか、うさぎさんっぽいのに絶妙に可愛くない……。

 『ホルード あなほりポケモン 高さ:1.0m 重さ:42.4kg
  大きな 耳は 1トンを 超える 岩を 楽に 持ち上げる。
  ショベルカー並みの パワーで 固い 岩盤も コナゴナに
  する。 穴を 掘り終えると ダラダラと 過ごす。』


かすみ「パワーはすごそうですけど、その分のろまさんっぽいですね……!」


図鑑をパタンと閉じる。どうやら、図鑑によればじめんタイプっぽいですし、有利相性で攻め込めますね……!


かすみ「ジュプトル! “リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!!」


──ダンッ! と音を立てながら飛び、速攻で切りかかる。


 「ホル!?」


予想どおり、のろまさんなのか、急に飛び出してきたジュプトルに驚いて動けなくなってますね……ふふふ。


 「プトォルッ!!!!」


そのまま、縦に振り下ろした、草の刃が直撃し──パシッ。


かすみ「……へぇ!?」


──して、なかった。


花陽「ホルード、ナイスだよ!」
 「ホル~」


耳を使って、真剣白羽取りの要領で受け止められていた。

そして、ジュプトルの腕の葉っぱを掴んだまま、


花陽「“アームハンマー”!!」
 「ホルーー!!!!」


地面に叩きつけようとしてくる。


かすみ「やばっ!? ジュプトル!!」
 「ジュプトォッ!!!」


ジュプトルは咄嗟に口から、タネを吐き出す。

吐き出したタネは──ボンッ!と音を立てて、ホルードの前で爆発する。


 「ホ、ホル…!!」


爆裂したタネに驚いたホルードの耳は、思わずジュプトルを放す。

勢いはあったため、ぶん投げられこそしたものの、


 「プ、プトルッ」


そこは自慢の身のこなしで華麗に着地する。


かすみ「セ、セーフ……」

花陽「咄嗟の防御に“タネばくだん”を使うなんて……!」


素早さで攪乱出来ると思ってたけど……そこは、さすがジムリーダー。一筋縄では行きませんね……。

遠距離技で一旦様子を見ようとしていた矢先、


花陽「“マッドショット”!」
 「ホールーッ!!!!」


ホルードは泥の塊を複数飛ばしてくる。


かすみ「“リーフブレード”で斬り払って!」
 「プトルッ!!!」


泥の塊を的確に斬り落としての防御。

多少、捌ききれずにぶつかりますが、こっちはくさタイプ。じめんタイプの攻撃ではそんなにダメージは通りません!


花陽「なら……!」
 「ホルッ!!!」


急にホルードが自分の耳を土に突っ込むと、耳を突き立てた部分が赤みを帯びる。


花陽「“ねっさのだいち”!」
 「ホルーーッ!!!」


そして、耳を使ってその土をひっくり返すように、こっちに向かって投げつけてくる。


 「プトル…ッ」
かすみ「あ、あちち!? あついですぅ!?」


熱された土は、水分を失ったからなのか、砂になってジュプトルを襲う。

その熱量はかなりのもので、離れた場所から指示しているはずのかすみんのところにも熱気が届いてきている。


かすみ「ジュプトル、“やけど”しなかった!?」
 「プトルッ!!」


どうやら、状態異常は免れたらしい。ラッキーです……!

ただ、熱にひるんだかすみんたちに、かよ子先輩は畳みかけるように攻撃を続ける、


花陽「“でんこうせっか”!」
 「ホルッ!!!」

かすみ「いっ!? “ファストガード”!?」
 「プ、プトルッ!!!!」


のろのろだと思っていたホルードが急に、猛スピードで突っ込んでくる。

咄嗟に、ガードをするけど──あまりに強力なスピードとかすみんの指示が相手よりワンテンポ遅れていたためか、完全に防ぎきれず、


 「ジュプトォッ…!!!」


またしても、吹っ飛ばされる。


かすみ「受け身とって!!」
 「プトルッ!!!」

かすみ「よし! いい子ですよ、ジュプトル!」
 「ジュプトッ!!!」


攻撃を受けてもどうにか受け身で威力を殺している。身のこなしの軽さが活きているけど……。


かすみ「あの破壊力……どこかで攻撃が直撃したら……」


恐らく直撃は食らったら終わり……!

どうにか、攻撃を直撃させられる前に策を練らないとと思うのに、


花陽「“メガトンパンチ”!!」
 「ホルッ!!」

かすみ「ぴきゃぁぁぁ!? 逃げて逃げて!?」
 「プ、プトォル!!!」


かよ子先輩は攻撃の手を緩めない。


花陽「──“とっしん”!!」
 「ホル!!!」

花陽「──“アイアンヘッド”!!」
 「ホーールッ!!!!」

花陽「──“10まんばりき”!!」
 「ホルーーーー!!!!!」


畳みかけられる近接攻撃。とにかく回避に専念させて、逃げ回らせる。

それでも、ホルードはしつこくジュプトルを追い回しながら、攻撃をしまくってくる。


かすみ「当たったら終わり、当たったら終わり……!」
 「プトル…ッ」


が、避けながら後退をしすぎたのか──気付けば壁際に追い込まれていました。

いや、


かすみ「も、もしかして、誘導されてた~!?」
 「プ、プトルッ…!!!」


あんな無茶苦茶に技を振りまくってるように見えて、少しずつジムの角の方に追い込まれていた。


花陽「これで、逃げ場はないよ! “ばかぢから”!!」
 「ホーーーールーーー!!!!!」


壁に追い詰められたジュプトルに向かって、耳を大きく引きながら、殴りかかってくるホルード。


かすみ「っ……! 飛び越えて! “アクロバット”!!」
 「ジュプトォル!!!!」


咄嗟の指示。飛び出したジュプトルは、ホルードの頭に手を突きながら、身を捻って、耳と耳の間をすり抜けながら飛び越える。


花陽「!」


かよ子先輩が驚いて息を呑むのが聞こえた。そして、その直後──ドゴォッ!! と大きな音を立てながら、ホルードの攻撃はジムの壁に炸裂する。


かすみ「……ひ、ひいぃぃ! か、壁に穴が……!」


“ばかぢから”でぶん殴られた壁は、一発でジムの壁をぶち抜いて、そこから先に外が見える。

あの人、自分のジムなのに、容赦なくぶっ壊してきましたよ!?

あんなの当たったら本当に一溜りもありません……! 避けられてよかった……。


花陽「逃げてばっかりじゃ、勝てないよ!」

かすみ「そんなのわかってますよぉ! でも、そんなバカみたいな破壊力ズルじゃないですかぁ!!」

花陽「そ、そんなこと言っても、ホルードの特性は“ちからもち”なんです! これは、そういう個性ですから……!」


そんな特性を持っているなら尚更、真正面から戦うなんて出来ません……!

とにかく今は、距離を取って──


花陽「あくまでも逃げるんだね……なら──」
 「ホル」


ホルードがまた耳を地面に突き刺す。また“ねっさのだいち”!? と身構えたけど、いつまで経っても、耳を引き抜かない。


かすみ「? な、なにを……」


いつ土をひっくり返してくるかと警戒していたけど──警戒する方向はそっちじゃなかった。


 「プトルッ!!?」
かすみ「!? ジュプトル、どうしたの!? って、えぇ!?」


ジュプトルの驚く鳴き声に反応して、目を向けると──ジュプトルの足が砂に絡め取られていた。


花陽「“すなじごく”!」
 「ホルッ!!!」

かすみ「こ、拘束までしてくるなんて、聞いてないですよー!!」
 「プ、プトルッ」

花陽「これで……もう逃がしません……」

かすみ「脱出! 全力で脱出!」
 「プ、プトォル…」


脱出を指示するも、完全に足が砂に埋まってしまっていて、逃げるのはもはや困難。

やばい、やばい……!! どうにかしないと、と考えている間にも、ホルードはジュプトルに迫ってくる。

回避は無理……! なら、近寄らせないしかない……!


かすみ「“タネマシンガン”……!」
 「プトルルルル!!!!」


“タネマシンガン”でけん制をするものの、


 「ホルー」


ホルードは耳で払い飛ばしながら、のっしのっしと迫ってくる。

小さいダメージはこの際気にしていないようだった。

そりゃぁ、あの破壊力だと、こっちは一発貰ったら終わりだから、わかる気もしますけどぉ……!?


かすみ「あ、あのパワーをどうにか……」


とはいえ、特性ということは、あのポケモンの唯一無二の性質みたいなものです。

どうにかするって言っても、どうにも……。


かすみ「……? 特性……?」


そこでかすみんはハッとする。


かすみ「そうだ……! ジュプトル! あれです! ……“タネばくだん”!」
 「!!! プットルッ!!!!」


ジュプトルはまたしても、口からタネを飛ばす。


花陽「また“タネばくだん”ですね……! でも、もうここまで来たら関係ないです! ひるまないで、確実に攻撃を仕掛けて!」
 「ホルーー」


もはや回避するつもりもない。そのままタネは──ゴッと音を立てて、ホルードの頭に直撃した。


花陽「不発……?」

かすみ「う、うそ……」

花陽「ふふ……最後の最後で運が悪かったですね」


もうホルードはジュプトルの目と鼻の先。


かすみ「“リーフブレード”ォ……!!」
 「プトォルッ!!!!」


苦し紛れに振るう草の刃、だけど、


花陽「受け止めて!」
 「ホルッ!!!」


またしても、真剣白刃取りの要領で受け止められる。


花陽「これで、終わりです! “アームハンマー”!!」


最初と同じ展開で、今度は動けないジュプトルに向かって、ホルードの耳が振り下ろされ──……なかった。


花陽「!? ホルード、どうしたの!?」
 「ホ、ホル…!!!」

 「プトル…!!!」


何故か、ホルードはジュプトルの刃を掴んだまま、ほぼ力の釣り合った押し合いに発展していた。


花陽「な、なんで!? ホルードの方がパワーは圧倒的に上なのに!?」

かすみ「……にっしっし……引っ掛かりましたね~?」

花陽「え……!?」

かすみ「さっきの“タネばくだん”……本当にただ不発なだけだったと思いますか~?」

花陽「……!? まさか、さっきの他の技……!?」

かすみ「そのとおりです! 特性“ちからもち”は“ふみん”に書き換えさせて貰いましたよ!」


そうさっきの技は“タネばくだん”ではなく──


花陽「──“なやみのタネ”……!?」


相手の特性を“ふみん”にする技──“なやみのタネ”だったというわけです。


花陽「……そ、それでもまだ力比べでなら、拮抗してる……! ホルード! 頑張って!」
 「ホルゥゥゥ!!!!!」

 「プ、プトルッ!!!」


特性を失った今でも、どうにか押し切ろうと、踏ん張りながら迫り合いを続ける。

さすが、ジムリーダーのポケモンとでも言いましょうか。よく育てられていて、“ちからもち”が消えちゃったあとでも、本当に押し切られちゃいそうですけど──

迫り合いを続ける最中、ホルードが耳で掴んでいる部分が、急に内側から光り出す。


花陽「なっ!?」

かすみ「……ここまで来て、かすみんたちは真正面から力比べなんてしませんよ!」
 「プトルッ!!!!」


その光はどんどん輝きを増し──大きな刃となって、ホルードを貫く……!


かすみ「“ソーラーブレード”ッ!!」
 「プトォル!!!!!!」

 「ホルゥゥゥ!!!?」


ジュプトルの草の刃が──光の刃となって、ホルードの脳天から直撃した。


花陽「!! ホルード!!」
 「ホ、ホルゥ……」


こんな至近距離で大技を食らったら、もうとてもじゃないけど、立ってるのは無理ですよね。

ホルードは太陽光の刃に吹き飛ばされて、気絶したのでした。


花陽「……やられちゃった。……ありがとう、ホルード。戻って」
 「ホルゥ…──」

かすみ「……ふぅ、どうにか1匹目、突破です……」
 「プトルッ」


かよ子先輩がホルードをボールに戻して、次のボールを投げる。


花陽「……お願い、ダグトリオ!」
 「──ダグダグ!!」


──次に出てきたポケモンは、ダグトリオ。

 『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
  チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。
  3匹は とても仲良し。 3つの 頭が 互い違いに 動いて
  どんなに 硬い 地層でも 地下100キロまで 掘り進む。』


かすみ「さぁ、どんどん行きますよ! ジュプトル!」
 「ジュプトォル!!!!」


ダグトリオ目掛けて、“リーフブレード”を構えて飛び出すジュプトル。この流れに乗って、2匹目も討ち取ってやります……!

肉薄して、横薙ぎにリーフブレードを一閃──したのですが、


かすみ「……あ、あれ……?」


そこにはダグトリオの姿はなく……。穴っぽこが空いているだけ。


かすみ「潜って逃げられた……! ジュプトル、気を付けて!」
 「プトルッ」


ジュプトルともども、キョロキョロとフィールド内を見回しながら警戒する。

どこから出てきても追い付いて攻撃するくらいのつもりで、神経を尖らせる。

そんな中……もこっと地面が盛り上がった場所は、


かすみ「……!? 真下……!? ジュプトル、逃げ──」

花陽「“ふいうち”!!」
 「ダグッ!!!」

 「プトォルッ!!?」


真下から突き上げられて、ジュプトルが真上に吹っ飛ぶ。

相手が逃げてるんだと思い込んでいたせいで、攻撃への対処が遅れた……!


かすみ「ぐぬぬ……! そのまま、“リーフブレード”!」
 「…プトォォル!!!」


ただ、転んだままでいるつもりはない。尻尾を器用に使って空中で体勢を立て直し、そのまま落下のスピードを加えて、反撃を試みる。

──縦薙ぎの刃がダグトリオの直上から、一閃されるが、


 「ダグッ──」

かすみ「……っ! また、潜られた……!」


またしても、ジュプトルの攻撃は空振り。


かすみ「ジュプトル、足元注意だよ!」
 「プトル…!!」


次の攻撃は受けないと、足元に警戒を回したら──今度はジムの隅っこの方の地面が盛り上がる。


花陽「“トライアタック”!!」
 「ダグダグダグ!!!!」

 「プトォル!!!?」
かすみ「ちょ……! 今度は、遠距離!?」


三角形の頂点にほのお・でんき・こおりを宿したエネルギー弾がジュプトルに直撃する。


かすみ「ぐぅ……! “タネマシンガン”……!」
 「プトルルルルルッ!!!!」


すかさず、遠距離技で反撃をするも、


 「ダグッ──」

かすみ「ああーもう……! また、逃げられた……!」


ダグトリオはすぐに穴に潜って逃げてしまう。


かすみ「悠長に相手を待ってたら、ただの的ですね……! ジュプトル!」


かすみんがバッと手をあげると、


 「! プトルッ!!」


ジュプトルは地面を蹴って跳躍し──壁に張り付いた。


かすみ「これなら、少なくとも近接攻撃は当たりません!」

花陽「! なるほど……」


キモリの時代から、壁や樹に登るのは得意技なんですから……!

近距離攻撃を予防してしまえば、あとは遠距離攻撃対策に絞るのみ……!

と、思った瞬間──グラグラと地面が揺れ始めた。


かすみ「ひゃぁっ!? な、なんですかぁ!?」
 「プ、プトォル…!!」


壁に張り付いたジュプトルを振り落とすような激しい揺れ。


かすみ「まさか、“じしん”ですか!?」

花陽「そのとおりだよ! 逃がさない……!」

かすみ「が、頑張ってジュプトル!」
 「プ、プトル…ッ」


かすみんの応援も虚しく──ジュプトルは揺れに耐えきれず、壁から振り落とされてしまう。


かすみ「……っ! 起き上がって、ダッシュ!!」
 「プトル…ッ!!」


振り落とされても、ひるんでいる場合じゃない。着地と同時に受け身を取って起き上がり、すぐに走り回り始める。

狙いを定めさせるわけにはいかない……!

でも、ダグトリオは、


 「ダグッ!!!」

 「プトルッ!!?」
かすみ「ひゃぁぁ!? なんで進路上に出てくるのぉ!?」

花陽「地面に潜ったポケモンは地上の振動を感知して攻撃するんです! “ヘドロばくだん”!!」
 「ダグッ!!!」

かすみ「そんなのズルじゃないですかぁ~!! タ、“タネマシンガン”……!!」
 「プトルルルルッ!!!!!」


苦し紛れに相殺を狙うけど、ヘドロの塊を消し飛ばしきることは出来ず、


 「プトォル……ッ!!!」


真正面からダメージを負う。

次の瞬間にはもうダグトリオは地面の中だし……!


かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! ひ、卑怯ですよぉ……!!」

花陽「ごめんなさい……でも、これも戦略だから……」

かすみ「むきーっ!! ジュプトル!! “タネマシンガン”!! “タネマシンガン”ですぅ!!」
 「プートルルルルルッ!!!!!」


ジュプトルがフィールド一帯を手当たり次第に“タネマシンガン”で攻撃させる。


花陽「ヤケを起こしちゃったら、勝てないよ……?」

かすみ「うるっさいですっ!!」

花陽「……なら、もう決めちゃおう! ダグトリオ!」


かよ子先輩の指示と同時に──ジュプトルの足元がもこっと盛り上がった。


花陽「──“10まんばりき”っ!!」


直下からの大技──でしたが、


かすみ「……引っ掛かりましたねぇ~?」

花陽「え!?」


ダグトリオは何故か──頭の先っちょだけ出たところで止まってしまっていた。


花陽「な、なんで!?」

かすみ「かよ子先輩、本当にかすみんがヤケっぱちを起こして、“タネマシンガン”をばらまいてたと思ってたんですかぁ?」

花陽「……!? ダグトリオ! 一旦潜りなおして!」
 「ダ、ダグッ」


先っちょだけ出ていたダグトリオは、すぐに地面に潜りなおして離脱する。


花陽「い、一体何が……」

かすみ「かよ子先輩~、二度もおんなじ作戦に引っ掛かってたら……勝てる勝負も勝てませんよ~?」

花陽「同じ作戦……? ……まさか、さっきの……“タネマシンガン”じゃない……!?」


今更気付いても、もう遅い。さっきのブラフの“タネばくだん”同様……今回の“タネマシンガン”も実は“タネマシンガン”じゃなくって──


かすみ「もうダグトリオが掘った穴の中は──“やどりぎのタネ”から出た芽が張り巡らされてますよ!」

花陽「……!?」


さっきばら撒いていたのは、“やどりぎのタネ”……!

それをダグトリオが空けた穴目掛けて、打ち込みまくったというわけです。

穴同士は繋がっているわけですから、穴の中を縦横無尽に伸びまくるやどりぎの芽から逃げる方法なんて皆無です……!

そして、やどりぎに体力を吸収され続けていることがわかった今、


かすみ「そっちは無理やりにでも攻撃せざるを得ませんよね!」


──離れたところでもこっと盛り上がった地面目掛けて、


花陽「“トライアタック”……!!」
 「──ダグ…ッ」

かすみ「“エナジーボール”!!」
 「プトォーールッ!!!!」


勢いよく飛び出した“エナジーボール”が、まっすぐ“トライアタック”を捉えて相殺し、エネルギーが弾けた衝撃で周囲の土を巻き上げる。

──その土煙を突っ切るようにして、


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトォルッ!!!!」


ジュプトルがダグトリオを袈裟薙ぎに斬り裂いた。


 「ダ、グ…」


効果抜群。たまらずダグトリオは戦闘不能となりました。


花陽「……戻って、ダグトリオ」

かすみ「……あと……1匹……!」


自分が今、かつてない程バトルに集中していることを実感できた。でも、それは当たり前──


かすみ「今日のかすみんは……圧倒的に、絶対的に、無敵な感じを見せつけに来たんですから……!!」


しず子を守れるって証明するために──かすみんはジムリーダーに圧勝しに来たんです……!!


花陽「……かすみちゃん、強いね。びっくりしちゃった」

かすみ「そうでしょう、そうでしょう! 今日のかすみんは無敵なんですから!」

花陽「でも、私にもジムリーダーとしての意地があるから……この切り札で、劣勢を覆します……!」


かよ子先輩が、最後のポケモンのボールをフィールドに投げ込んだ。





    👑    👑    👑





花陽「お願い、ナックラー!」
 「──…ナク」


最後に出てきたポケモンは……ナックラー。


かすみ「なんか……最後によわっちそうなのが出てきましたね……」


今までで一番弱そうかも……。と、思った矢先、


 「プトッ!?」


ジュプトルが驚きの声をあげながら、少しずつ前進……いや、滑ってる……?


かすみ「……違う!? 何かに、引っ張られてる!?」


かすみんは状況把握のために、図鑑を開いて、ナックラーのページを開く。

 『ナックラー ありじごくポケモン 高さ:0.7m 重さ:15.0kg
  すり鉢状の 巣穴の 底で じっと 獲物が 落ちて くるのを
  待ち続けている。 大きな アゴは 大岩を 噛み砕く。 頭が
  大きいので ひっくり返ると なかなか 起き上がれなくなる。』


かすみ「アリジゴク……!? じゃあ、ジュプトルを引っ張ってるのは……砂!?」


気付けば、いつの間にかジュプトルの足元どころか──ナックラーを中心にして、フィールド全体に大きな流砂が発生していた。


かすみ「やば……! 脱出! ジャンプ、ジャンプ!!」
 「プトルッ…!!」


すかさずジャンプで脱出……! 身のこなしの軽いジュプトルなら、体が埋まる前なら、十分脱出が出来ます。

でも、相手もそれくらいはわかっていたようで、


花陽「“マッドショット”!!」
 「ナックラ」

 「ジュプトッ…!!」


泥の弾を飛ばしてきて、空中のジュプトルを撃ち落としにかかってくる。


かすみ「ああもう……! せっかく逃げたのに……!」


叩き落されて、すぐに状況はリセット……いや、それどころか、


花陽「“すなあらし”!」
 「クラ~」


──ゴォッと音を立てながら、“すなあらし”が発生する。


かすみ「ぐぅ……!」
 「プ、プトル…」


足元が悪いだけでなく、さらに砂がバシバシとぶつかってくる。しかも、視界まで悪くなってきた。


かすみ「これじゃ、遠くからナックラーが狙えないじゃないですかぁ……!」


そんな、かすみんの不満を無視するように、


花陽「“ねっさのだいち”!!」
 「ナックラー」

 「プトォル…!!!」
かすみ「あち、あちち!? だから、それ熱いんですってば!?」


飛んでくる灼熱の砂。向こうは容赦なく、範囲攻撃で攻めてくる。


かすみ「とにかく、近寄らなきゃ……! もう逃げるのはなし! ジュプトル、“リーフブレード”!!」
 「…プトルッ!!!」


砂を蹴って、ジュプトルが前方へ飛ぶ。

足を取られて、動きづらいのは確かですが、この流砂はナックラーを中心にして引き寄せられている。

なら、近接攻撃はその流れに逆らわなければ、確実に相手に届くんです……!


 「──プトォルッ!!!」


“すなあらし”の先で、ジュプトルが草の刃を振り下ろす影が見えた。

真っすぐに振りぬかれた攻撃は、ジュプトルの足元にいるであろう、ナックラーらしき影に直撃する。


かすみ「やりました……!」


相性ではこっちが有利……! 直撃さえしてしまえば、こっちのもの……!

だけど──


かすみ「……? ジュプトル……?」


ジュプトルの影が、動かない。


かすみ「な、なに……?」


“すなあらし”の先に、必死で目を凝らすと──


かすみ「……なっ!?」


ジュプトルの草の刃は──


 「ナク」
花陽「捕まえたよ……!」


ナックラーの大アゴで完全に受け止められていた。

考えてみれば……悪い視界の中、流砂の流れに従って行けば確実に敵に行きつくのと同様に、相手からしても攻撃してくる方向が簡単にわかってしまう。


かすみ「逆っ!! 逆の刃で、“リーフブレード”!!」

 「プ、プトルッ!!!!」


当てさえすればいいんです……! 捕まってるなら、相手だって、動けないはずだもん……!!

だけど、かよ子先輩は、


花陽「“あなをほる”!」
 「ナック」

かすみ「んなぁ!?」
 「プトル…!?」


ジュプトルもろとも、地面に引き摺りこんできた。

悪い足場の中、どうにか踏ん張りながら、攻撃を仕掛けていたジュプトルはいとも簡単に体勢を崩して、ナックラーの巣穴に頭から突っ込む。


かすみ「やばっ!? 逃げて、ジュプトル、逃げてー!!」


かすみんの言葉も虚しく、頭から砂に埋もれて、下半身だけを外に出してもがいている状態のジュプトルに、脱出の手段など残されておらず、


花陽「“むしくい”!!」
 「ナックナクナク」


地中から、好き放題噛みつかれたあと──気絶してしまったのか、もがいていた下半身は動かなくなってしまった。


かすみ「も、戻って、ジュプトル……!」

花陽「ジュプトル、戦闘不能だね」

かすみ「ぐぬぬ……」


パーフェクトは叶わず。……でも、まだまだこっちが優勢ですもん!


かすみ「ジグザグマ!」
 「──ザグマァ!!」


ジグザグマを繰り出す、が……。


 「ク、クマァ!!?」


ジグザグマは出てきて早々、足を砂に取られる。


かすみ「と、止まっちゃダメ! “しんそく”!」
 「ザ、ザグマァ!!!」


足に力を込めて飛び出す。……が、“すなあらし”の邪魔もあってか、思うように速度が出ない。

速度が出なければまた自然と足を取られて──


 「グ、グマァ…」
かすみ「ジ、ジグザグマぁ~!?」


ジグザグマは砂にずぶずぶと沈んでいく。


花陽「ふふ……選出を間違えちゃったみたいだね」

かすみ「ぐぬぬ……! “じたばた”!」
 「ザ、ザグマァ!!!」


ジグザグマは手足を“じたばた”暴れさせ、周囲の砂を吹き飛ばしながら、これ以上沈むのを耐える。


花陽「じゃあ、追撃の“すなじごく”」
 「ナク」

 「グマァ~~!?」


抵抗虚しく、ジグザグマはみるみる砂に沈んでいく。

程なくして──ジグザグマの姿は完全に見えなくなってしまった。


かすみ「あ……」

花陽「これで2匹目も戦闘不能だね。ちょっとくらいなら砂に埋まっていても、ボールを投げれば手元に戻してあげられると思うから」

かすみ「…………」

花陽「かすみちゃん、ジグザグマをボールに戻して、次のポケモンを出してもらえるかな?」

かすみ「…………」

花陽「かすみちゃん、悔しいのはわかるけど、早くポケモンの交替を……」

かすみ「………………まだです」

花陽「? まだ……?」

かすみ「……まだ……ジグザグマは戦闘不能じゃ──ありませんよ……!」


次の瞬間──


 「ナックッ!!!?」


ナックラーの体が砂の中に引っ張られるように、沈み込んだ。


花陽「えっ!?」

かすみ「かすみんのジグザグマはですね、穴掘りは得意なんですよ! 前に何時間も砂浜で、“ものひろい”をしてたくらいなんですから! 最初っから砂に足を取られてなんかなかったんですよ!」

花陽「……!? じゃあ、ナックラーのさらに下に潜り込んで……!?」

かすみ「相手を捕えたつもりが、逆に捕らえられちゃいましたね! 逃げ場のない砂の中で、爆音を食らわせてやりますよっ!! ──“ハイパーボイス”!!」

 「──ザグマアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」


地中から砂をぶっ飛ばす大音量で、ジグザグマが“ハイパーボイス”をぶっ放す。

そして、その大量の砂に交じって、


 「……クラァ……」


至近距離からの大爆音に卒倒したナックラーが宙をくるくると回転しながら──ボスッと砂のフィールドの上に落ちていった。


花陽「…………ナックラー、戦闘不能。……このジム戦、かすみちゃんの勝利です」

かすみ「……やったー!! ジグザグマ! よく頑張りましたね!」
 「ザグマァ♪」


飛びついてきたジグザグマを抱きしめる。


かすみ「あらら……こんなに砂だらけになっちゃって……」


体に付いた砂を払ってあげながら頭を撫でると、


 「ザグマァ♪」


ジグザグマをご機嫌な鳴き声をあげるのでした。


花陽「まさか……最後の1匹を見ることなく負けちゃうなんて……」

かすみ「ふふん、どうですか? かすみんの実力は!」

花陽「すっごく強かったよ……! 残りポケモンに差を付けられての負けって、ジム戦でもあんまりないから……びっくりしちゃった」

かすみ「そうでしょうそうでしょう! 今日のかすみんは最強なんですから……!」

花陽「うん、そうだね……! その証として──この“ファームバッジ”を受け取ってください!」


かよ子先輩から、稲穂型のバッジを受け取る。


かすみ「えへへ、ありがとうございます!」


本当は1匹も倒されないくらいの圧勝がしたかったけど……十分快勝だったと言えるレベルでしょう。たぶん。


かすみ「これなら……少しくらい、しず子を守れるって証明も──」

 「──かすみさんっ!」


そのとき、声と共に──誰かが私を背中側から抱きしめてきた。

いや、誰かは……声を聞けばわかるんだけど……。


かすみ「し、しず子……!?」

しずく「かすみさん……バトル、すごかったよ……」

かすみ「え、えぇ!? み、見てたの……!?」

しずく「うん……途中からだったけど……」

かすみ「か、体は!? 体はもうなんともないの!?」

しずく「うん……簡易検査で、とりあえず動いても問題ないって言われたから……見に来たんだ」

かすみ「そ、そうだったんだ……」


しず子が後ろからぎゅーっと抱きしめてくる。


かすみ「しず子……苦しい……」

しずく「……ごめん……」


しず子は「ごめん」と謝った割には、全然力を緩めてくれなかった。


かすみ「しず子」

しずく「……なに……?」

かすみ「しず子のことは……かすみんが守るから」

しずく「……うん」

かすみ「だから──」

しずく「一緒に冒険……続けよう」


かすみんが口にする前に──しず子に言われてしまった。

それだけ言うと、しず子はやっとかすみんを解放してくれる。

振り返ると──今の今までかすみんを抱きしめていたはずなのに、今はこっちに背中を向けていた。


かすみ「しず子? なんで、背中向けてるの?」

しずく「えっとね……かすみさんに言わないといけないことがあって……」

かすみ「言わないといけないこと?」

しずく「実は……旅、続けても大丈夫って、言われたんだ」

かすみ「……はい?」


しず子のカミングアウトに変な声が出た。


しずく「簡易検査の結果がすごくよかったみたいで……精密検査とかも大丈夫ってことで、旅を続けてもいいよって」

かすみ「………………」


え、じゃあ、かすみんの頑張りの意味は……?


かすみ「せっかく、かすみん……めちゃくちゃ頑張ったのに……」

しずく「……ふふ♪ でも、今日のかすみさん、すっごくかっこよかったよ♪」


しず子はいたずらっぽく笑いながら、かすみんに向かって振り返る。


しずく「それじゃ、一旦ロッジに戻ろうか」

かすみ「えー? 戻らなくてもよくないー? もう、しず子、特に身体とかに問題ないんでしょ?」

しずく「でも、帰ったら彼方さんの作ってくれるご飯が食べられるよ?」

かすみ「……! た、確かにそれは魅力的……」

しずく「それに、もう一晩くらい泊めて貰ったほうがいいんじゃないかな? かすみさん、お小遣い結構ピンチだし、宿代、浮かせたいでしょ?」

かすみ「……し、仕方ないなぁ……しず子がそう言うなら、戻ってあげますよ~」

しずく「ふふ、ありがとう、かすみさん♪」


まあ、今日は気分もいいですしね。かすみんのジム戦での活躍でも語りながら、彼方先輩の作った、おいしい晩御飯を頂くとしましょう……!

かすみんは意気揚々とロッジを目指して、ジムを後にするのでした。




しずく「──……ありがとう、かすみさん。……今度は……私が頑張る番だよ……」





    💧    💧    💧





──時刻は深夜を回ろうかという時間帯。

かすみさんはジム戦の疲労もあってか、鼻高々にジム戦のことを語りながらご飯を食べたあと、すぐに寝てしまった。

かすみさんが先に就寝し、この場には穂乃果さん、千歌さん、彼方さん、遥さん……そして、私が残っている。

そんな中で私は──


しずく「…………」


三つ指をついて、頭を下げていた。

自分で言うことではないかもしれないが、我ながら美しい姿勢で頭を下げていると思う。

厳しく躾けてくれた両親には感謝しなくてはいけない。


遥「し、しずくさん……あ、頭を上げてください……」

しずく「…………」

彼方「しずくちゃん……えっと……あのね……。彼方ちゃんたちも困っちゃうというか……」

しずく「…………」


結論から言うと──私の簡易検査の結果はあまり芳しいものではなかった。

すぐさま、どうこうと言うほどのものではなかったが……ウルトラビーストが持つ、特有のエネルギーのような毒素が体の中に留まってしまっているらしく、出来る限り専門の医療施設で治療を受けて欲しいと説明を受けた。

……だから、その頼みを断るために、私を診てくれた遥さんの厚意を無下にするために、こうして頭を下げている。


しずく「……私が──私たちが旅を続けることを、許してもらえませんか……」

遥「……ど、どうしよう……お姉ちゃん……」

彼方「う、うーん……」


頭を下げ懇願する私と、困惑する彼方さんと遥さん。それを見かねてか、


穂乃果「……しずくちゃん、一度顔を上げてもらえないかな」


穂乃果さんがそう口にする。


しずく「……許可を頂けるなら」

穂乃果「……ちゃんと顔を見て話したいから、顔を上げて」

しずく「…………」


私は渋々顔を上げる。


穂乃果「……しずくちゃん、自分が何を言ってるか、わかってる?」

しずく「……わかってます」

穂乃果「しずくちゃんはいつ発作が起こってもおかしくないし……ウルトラビーストにまた襲われる可能性も高い……って言うのは、朝説明したとおりなんだけどさ」

遥「……少なくとも、しずくさんを診た人間としては……本部の医療施設に入って欲しいと思っています……」

しずく「……診ていただいたこと、治療していただいたことには感謝しています。……ですが」


私は──


しずく「……私は、かすみさんと一緒に……旅を続けたい」


本当は今日、あの場に観戦をしに行ったのは……検査の結果を受けて、専門の医療施設に入るため……かすみさんにお別れを言うためにジムに赴いていた。

だけど……かすみさんが必死に戦う姿を見て。

私と一緒に旅を続けるために、その力を示すために戦う姿を見て──自然と涙が溢れてきた。

諦めないかすみさんの姿を見て、私も簡単に諦めたくなくなってしまった。


しずく「……無茶を言っていることは承知しています。……ですが、この旅は……かすみさんと、ポケモンたちとする冒険の旅は、この一度きりしかないと思うんです……。……お願いします、私に、私たちに……時間をください」


私はただ懇願して、頭を下げる。

私が頭を下げると、再び場が静まり返る。

沈黙の中、ただひたすらに頭を下げ続けている中──沈黙を破ったのは、


千歌「……じゃあ、こうしよう、しずくちゃん」


千歌さんだった。

彼女は腰のボールベルトからボールを外して、ポケモンを出す。


 「──グゥオ」

しずく「ルカリオ……?」


千歌さんのルカリオが私に近付いてきて、手をかざすと──ボォっと青いオーラのようなものが見えた。


千歌「今、しずくちゃんの波導をルカリオに覚えてもらってる」

しずく「波導……?」

千歌「人の持ってるエネルギー……みたいな感じかな? 波導は距離が離れてても、集中してれば、ある程度感知が出来るんだ。だから、こうしてしずくちゃんの波導を覚えさせておけば、もし何か異常があったときに、すぐルカリオが報せてくれる」

しずく「……監視、ということですね」

千歌「うん。もし、しずくちゃんがウルトラビーストと遭遇したり、それこそ発作が起こるようなことがあったら、すぐに飛んで行くから」


──飛んで行く……というのは、私にとってプラスな理由だけではなく……発作が起こるようなことがあったら、今度こそ医療施設に入ってもらう、ということでもあるのだろう。

ただ、今は私の身を慮って言ってくれた提案を蹴って、無茶な要求を聞いてもらっている立場だ。これくらいの条件は付いていて当たり前。


しずく「わかりました」

千歌「穂乃果さん、彼方さん、遥ちゃん。それでいいかな?」


千歌さんが、3人に確認を取る。


遥「……わかりました。ただ、しずくさん、無茶だけはしないでくださいね……」

彼方「みんなが納得してるなら、彼方ちゃんからはこれ以上何か言うつもりはないよ~……」

穂乃果「……わかった。ただ、しずくちゃんにはいくつか注意して欲しいことがあるんだけど……」

しずく「注意してほしいこと……ですか?」

穂乃果「何かおかしな気配を感じたら、何がなんでも逃げるのを優先すること。異常を感じたら、真っ先に私たちの誰かに連絡をすること。出来るかな」

しずく「は、はい……! もちろんです……!」


私が穂乃果さんの言葉に首を縦に振ると、


穂乃果「うん、ならオッケー!」


先ほどまで神妙な面持ちだった穂乃果さんは、柔らかい雰囲気で笑いながら、許可をしてくれたのでした。


彼方「そうと決まったら、今日は早く寝るんだよ~? 明日からまた旅が始まるんだから~」

しずく「は、はい……! そうさせてもらいます……!」


気付けば随分深い時間になりつつある。

明日もかすみさんと、ポケモンたちと共に旅を続けるのであれば、しっかり睡眠を取って明日に備えなければ。

寝室に行くために、リビングを出ていく際、


しずく「……皆さん、私のわがままを聞いてくださって……本当にありがとうございます」


もう一度、深々と頭を下げてから、部屋を後にしたのだった。




    💧    💧    💧





かすみ「…………ふぇへへ…………どーれすかー…………かすみん…………むてきの…………トレーナー………………むにゃむにゃ……」


──寝室に入ると、かすみさんが寝言を言っているところだった。


しずく「ふふ……今日のジム戦の夢でも見てるのかな」


思わず、くすくす笑ってしまう。本当に今日のバトルはかすみさんの中でも会心の結果だったんだろう。

……実際、すごくかっこよくて、胸を打たれる戦いだった。


しずく「……ありがとう、かすみさん。これからもよろしくね」

かすみ「………………ふぇ…………? …………しず子ぉ……? …………なんか、言ったぁ…………?」

しずく「なんでもないよ。おやすみって言っただけ」

かすみ「……ん~……そぅ…………………………すぅ……すぅ…………」


寝言で会話するなんて、かすみさんらしいなと思って、またくすくすと笑ってしまった。


しずく「…………」


これから先、私はどうなってしまうんだろうか。

不安はあるけど……。


かすみ「…………zzz」


かすみさんと一緒なら、きっと大丈夫。

今はそう思うから。

私は今度こそ、明日に備えて、布団に潜るのだった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.29 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.23 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.22 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:118匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🐏



遥「あの……穂乃果さん」

穂乃果「ん?」

遥「……本当に……行かせてしまっていいんでしょうか……」

彼方「遥ちゃん、もう決めたことだから、これ以上何か言うのはダメだよ~? 今更、やっぱりダメって言っても、しずくちゃんもかすみちゃんも納得できなくなっちゃうし」

遥「でも……」

彼方「遥ちゃんは優しい子だからね~……しずくちゃんのことが心配なんだよね。でも、今はしずくちゃんたちのこと……信じてみよう」

遥「……うん」


実際、自分たちの意思に関わらず、自由を縛られるというのが、どれほど大変なことかは、私も遥ちゃんもよくわかっているつもりだ。

しずくちゃんが心配だって気持ちは、もちろん私にもあるけど……彼女の自由を奪いたくないという気持ちもある。そしてそれは遥ちゃんも同じだと思う。だからこそ葛藤しているんだと思うしね。


穂乃果「それに……千歌ちゃんにあそこまでされたら、私も折れるしかないな~って」

千歌「あはは……まあ、その~……真っすぐ気持ちぶつけられると……弱くて……」

彼方「……? あそこまでされたらって、どういうこと……?」


穂乃果ちゃんの発言に首を傾げる。

千歌ちゃんにとって、ルカリオでしずくちゃんの波導を管理するのは大変だからなのかな……? くらいに思ったけど、


千歌「んっとね、完全に離れた場所の人の波導を感知し続けるってなると、ルカリオはほぼバトルには使えないんだよね」


大変なんてもんじゃなかった。ルカリオといえば、千歌ちゃんにとって、一番信頼しているエースのはずなのに……。


彼方「じゃあ……千歌ちゃんはエースを手持ちから外してまで……。……まあ、確かにしずくちゃん……すごい頑張ってお願いしてたもんね~……」

千歌「しずくちゃんだけじゃなくて……かすみちゃんもかな」

彼方「かすみちゃんも?」

千歌「ご飯食べながら今日のジム戦のこと、聞いてたけどさ……私、自分が旅してるときに花陽さんとのジム戦で結構ギリギリの勝利だったんだよね。でも、かすみちゃんはジムリーダー相手に危うげなく勝ってきて……ちゃんと強さを証明して見せた」

彼方「なるほど~……」

千歌「何かを背負いながらの戦いって、焦っちゃったりして、自分の力が発揮しきれなかったりするけど……かすみちゃんはそんな中でも、ちゃんと結果を見せてくれた。やっぱり、その努力には報いてあげたいなって」


千歌ちゃんなりに彼女たちの努力に報いた結果が、ああいう形だったということらしい。


千歌「それに……私たちにも落ち度はあるし……」

穂乃果「……そうだね。こうならないために、普段から見回って、一般人が接触する前に撃退してきたわけだし……。今回みたいに巻き込んじゃったのは、私たちの落ち度だね……」


そこは彼方ちゃん含めて、反省しなくちゃいけないことかも……。

だからこそ、これが彼女なりの責任の取り方なのかもしれない。


穂乃果「……ごめんね、千歌ちゃんだけに責任取らせるみたいになっちゃって……」

千歌「あはは、ダイジョブですよ! その代わり、穂乃果さんにはルカリオの分まで頑張ってもらうつもりなんで!」

穂乃果「ふふ、そういうことなら任せて! ……ところで、空いた手持ちの分は、補充するの?」

千歌「えっと……今、善子ちゃんの研究所にルガルガンを預けてるんですけど、あの子を手持ちに戻そうかなって。……あ、でも健康診断もするから一度ローズに連れてくとか言ってたっけ……。すぐにってわけにはいかないかも……」


一応手持ちの補充の当てはあるみたい。確かネッコアラと入れ替えで外してた子だったかな?

ただ、来るまでは時間が掛かっちゃうみたいだから……その間は、彼方ちゃんも頑張ってフォローしないと……!

フォローをしっかりするためにも……彼方ちゃんもしっかり、睡眠を取って明日に備えなきゃ……!


彼方「じゃあ、私たちも明日に備えて、そろそろ寝ちゃおうか~」

遥・千歌・穂乃果「「「は~い」」」


ロッジの夜はこうして、更けていくのでした~……。


………………
…………
……
🐏




■Chapter030 『オハラ研究所』 【SIDE Yu】





──ジム戦を終えて……。

今は船に揺られて移動の真っ最中。


侑「潮風が気持ちいい~!」
 「ブイ~♪」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……! そんなに身を乗り出したら危ないよ……!」


甲板の手すりから身を乗り出して風を感じていると、歩夢が甲板口の方から声を掛けてくる。


侑「平気平気~! ほら、歩夢もおいでよ!」

歩夢「い、いいよ……船って思ったより揺れるし……」

侑「いいからいいから!」


半ば強引に歩夢の手を引く。


歩夢「きゃ……!」
 「…シャボ」

歩夢「だ、大丈夫だよ、サスケ。ちょっとびっくりしただけだから……」
 「シャーボ」

侑「ほら! 風……気持ちよくない?」

歩夢「……ほんとだ」

侑「ね!」


セキレイシティには海がないから、船に乗ることなんてまずないし、せっかく経験出来ることは進んでしなくちゃ損だからね!

歩夢は初めて乗る船が思った以上に揺れることにおっかなびっくりだったものの、連れ出してしまえば、気持ちよさそうに風を感じてくれていた。

二人で船旅を満喫していると、間もなく、目指していた島に到着しようとしていた。


侑「もう着いちゃうのかぁ……まだ、もう少し乗ってたかったなぁ」

歩夢「あはは……島自体は最初から見えてたもんね」


すぐそこに迫った目的地は、近くで見ると思ったよりも大きく存在感を放っている。


侑「ここが……アワシマ……! オハラ研究所のある場所……!」
 「ブイ」

リナ『アワシマ……ちょっと懐かしい』 || > ◡ < ||

歩夢「リナちゃんは、あの島に行ったことがあるの?」

リナ『うん! 私のボディはあそこの研究所で作ってもらったんだよ!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「へー! そうだったんだ!」

歩夢「それじゃあ、リナちゃんにとっては里帰りなんだね」

リナ『そんな感じかも!』 ||,,> ◡ <,,||


リナちゃんを作った場所っていうのも気になるし……本当に楽しみになってきた……!

今の今まで、船での移動が終わるのを名残惜しんでいたのに、気付けば気持ちは研究所を見られることに移り変わっていた。

一体、どんな場所なんだろう……! オハラ研究所……!




    🎹    🎹    🎹





──島に降り立ち、船着き場から歩くこと数分。


侑「……わぁ……!」


研究所が見えてきて、思わず声をあげてしまう。


侑「見て、歩夢! 研究所だよ!」

歩夢「ふふ、そうだね♪」

侑「小さな島にぽつりと佇む施設……! THE研究所って感じがするよね……! はぁー……なんかときめいてきちゃった……!!」
 「ブイ」

リナ『外観を見ただけでここまでテンション上がるの……ある意味すごいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃん、ポケモンに関する施設は大好きだもんね」

侑「うん! その中でも、ポケモン研究所って言ったら、いろんなポケモントレーナーが最初のポケモンを貰う場所なわけだし……! それこそ、千歌さんはここで最初のポケモンを貰ったトレーナーだし、曜さんやルビィさん、ヨハネ博士もここから旅に出たんだよ! そう考えたらすごいよ……! 今のチャンピオンやジムリーダーたちの歴史が始まった場所なんて言われたら、そりゃテンション上がるに決まってるじゃん……!!」

リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ふふ、そうだね。それじゃ、ここで話してても仕方ないし……早く入ろっか」


歩夢にそう促されたけど、


侑「ま、待って……! 一度、深呼吸させて……!」


いざ、そんな場に立ち入ろうと思ったら、急に緊張してきた……。


リナ『大袈裟すぎる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


大きく息を吸って、吐いて……。


侑「よし……!」

歩夢「大丈夫?」

侑「うん! い、行こう……!」

リナ『侑さん、手と足が一緒に出てる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……大丈夫かな……」

 「ブイ…」





    🎹    🎹    🎹





──研究所の中に入ると、


 「ピカチュ?」「ハニ~?」


可愛らしく小首を傾げる、ピカチュウとミツハニーに出迎えられた。


歩夢「わ、可愛い♪ こんにちは♪」

 「ピカピカ~♪」「ハニ~♪」


このピカチュウたちは、研究所内で放し飼いにされているようだ。

そして、そんなポケモンはピカチュウやミツハニーだけでなく……。


 「カラ」「…ラル」


カラカラやラルトスのようなポケモンたちの姿も見える。

そんな放されているポケモンたちの中でも、一際私の目を引いたのは、


 「ブイ」「ブイ~?」「イブイッ!!」

侑「わ~! イーブイがこんなにいっぱい……!」
 「ブイ…!!」


イーブイたちの姿。

イーブイはあまり数の多くない珍しいポケモンだから、これだけ集まっているところを見たのは初めてかもしれない。


歩夢「侑ちゃんのイーブイも、同じイーブイがいっぱいいるから興味があるみたいだね」

侑「同じイーブイ同士、仲良くなれるんじゃないかな? どう?」
 「ブイ…」


肩に乗っているイーブイに訊ねてみるけど、当のイーブイは興味こそあれど、あまり気が進まないというか……私の頭を盾にして隠れてしまった。


侑「うーん……やっぱ初対面相手だと“おくびょう”な子だったことを思い出すね……」


私たちには随分と慣れてきたから忘れていたけど、人見知り──いやこの場合、ポケ見知り……?──する子なんだった。


歩夢「ふふ、帰るまでに仲良くなれるといいね♪」

侑「そうだね」
 「ブイ…」


じゃれているイーブイたちのさらに奥には、これまた珍しいポケモンがいた。


 「ポリ」

侑「わ……! あれって、もしかしてポリゴン!?」

歩夢「確か……珍しいポケモンだよね?」

侑「うん! すっごく珍しいポケモンだよ! 私こんな近くで見るの初めてだよ……!」

リナ『ここでは、あのポリゴンが来客番をしてるんだよ。だから、もうすぐ迎えの人が来ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そんなところまでポケモンがやってくれてるんだ!? さすが、ポケモン研究所……!」


ヨハネ博士の研究所でも思ったけど、研究所では珍しいポケモンをたくさん見ることが出来て本当に楽しい……!

次は何が見られるかなと、ワクワクしていると──奥の扉が開く。


使用人「──お待ちしておりました。侑さんと歩夢さんですね」


扉からは、恭しい言葉遣いと共にメイド服に身を包んだ人が姿を見せる。


侑「今度はメイドさん!? 歩夢! 私本物のメイドさん初めて見たよ!?」

歩夢「う、うん……私もメイドさんを見たのは初めてだけど……これは研究所だからなのかな……?」

リナ『この研究所の職員は、みんな博士に仕えてるメイドさんなんだよ』 || > ◡ < ||

歩夢「それはそれですごいかも……」

使用人「奥で博士がお待ちです。ご案内します」

侑「はい! よろしくお願いします!」


背筋をピンと伸ばしたメイドさんに案内されて、私たちはついに、この研究所の博士のいるところまで案内してもらいます……!


リナ『そういえば、歩夢さん。なんだか、落ち着いてるけど……あんまりこういう場所好きじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「うぅん、そんなことはないよ? むしろ、いろんなポケモンが見られるのは楽しいかな。けど……」

リナ『けど?』 || ? ᇫ ? ||

侑「はぁ……ポケモン研究所……最高……♪」

歩夢「侑ちゃんがあれだけテンション高いと、逆に落ち着いちゃって……」

リナ『……なるほど』 ||;◐ ◡ ◐ ||





    🎹    🎹    🎹





──メイドさんに連れられて、研究所内の奥の方までやってきた。


使用人「博士、失礼します。お二人とも、どうぞ中へ」


言われるがままに部屋の中に入ると──


鞠莉「あなたたちが侑と歩夢ね? ようこそ、オハラ研究所へ。私がここの所長の鞠莉よ。待っていたわ」


鞠莉博士に出迎えられる。


侑「……!! ほ、本物の鞠莉博士……!」

鞠莉「あら~、わたしのこと知ってくれていたのね?」

侑「も、も、もちろんです……!! あ、あ、あの……!!」

鞠莉「ん~?」

侑「さ、サイン……!! サイン貰ってもいいですか……!?」


バッとサイン色紙を差し出す。


鞠莉「あらあら♪ わたしのサインなんかでよかったら、いくらでも書いちゃうわよ~♪」


鞠莉博士は、わたしのサイン色紙を受け取ると、慣れた手付きでサラサラとサインを書いていく。


鞠莉「はい、どうぞ♪」

侑「わぁ……! 鞠莉博士の直筆サイン……!! か、感激です……!!」


思わず感動してしまう。

今日はダイヤさんやルビィさんからもサインを貰っちゃったし……最高の日だ。


リナ『侑さんって、そんなに博士が好きだったの? 知らなかった』 || ? ᇫ ? ||

歩夢「う、うん……私も……。侑ちゃんってトレーナーが好きなんだと思ってたけど……」

侑「何言ってるの二人とも!?」

歩夢「!? え、えーっと……」


思わず、歩夢たちに詰め寄ってしまう。


侑「鞠莉博士と言えば、9年前のポケモンリーグでトリプル、ローテーション、シューターの3部門で優勝してる超凄腕トレーナーでもあるんだよ!?」

歩夢「そ、そうなの……?」

リナ『うん。確かに鞠莉博士はポケモンリーグでも結果を残してる。最近の大会では、出場自体してないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが補足するように解説してくれる。

さすがに10年近く前の大会のことだったから、歩夢は知らなかったみたいだけど……。

そんな中、鞠莉博士は私たちの会話内容よりも──


鞠莉「あら……? もしかして、あなた……リナ?」


リナちゃんに反応を示した。


リナ『うん! 博士、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「え、ええ、久しぶりなのはいいんだけど……。どうして、侑たちと一緒に……?」

リナ『……? 博士が侑さんに私を渡したんじゃないの?』 || ? ᇫ ? ||

侑「え……? 私はヨハネ博士からリナちゃんを渡されたんだけど……」

リナ『?? どういうこと??』 || ? ᇫ ? ||

侑「……?」


私もどういうことって感じだけど……?


鞠莉「……ははぁーん……そういうことね……。……あの堕天使……」


ただ、鞠莉さんは一人納得した様子。


鞠莉「リナ。侑とはうまくやれているかしら?」

リナ『うん! 侑さんとの旅はいろんな発見があって楽しい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「私も、リナちゃんにはいっつも助けられてるよ!」

リナ『それなら嬉しい! リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「そっか。リナが順調に経験を積めているならいいの。侑、これからもリナのこと、よろしくね」

侑「は、はい!」


……なにか、ちょっとした手違いがあったのかな?

話が食い違っている部分があるけど……まあ、よろしくって言われたし、大丈夫ってことだよね?


鞠莉「それよりも、あなたたち。ダイヤ、ルビィとマルチバトルして勝ったって聞いたわ!」

侑「は、はい! 先ほど、ジムで戦わせてもらって……」

歩夢「侑ちゃんと一緒だったから、勝てました……えへへ」

鞠莉「大したものだわ……特に歩夢。あなたのことは、ダイヤもすごく褒めていたわ」

歩夢「え? わ、私ですか……?」

鞠莉「ええ。ポケモンをよく見ていて、心から寄り添える素敵なトレーナーだって」

歩夢「そ、そうですか……///」


鞠莉さんから、ダイヤさんの称賛の言葉を貰って、歩夢が恥ずかしそうに頬を染める。


侑「ふふ、よかったね。歩夢」

歩夢「う、うん……///」


歩夢は褒められたことが純粋に嬉しいのか、顔を赤くしながらも笑っていた。

私も自慢の幼馴染が褒められて、なんだか嬉しい気持ちになってくる。


鞠莉「あと、侑のことも褒めていたわ」

侑「え? 私のことも……?」

鞠莉「あなたは歩夢とは逆に、トレーナーをよく見てるって」

侑「トレーナーのこと……?」

鞠莉「トレーナー個々の癖や戦術、やろうとしてることを見抜く力に長けているって評価していたわ。相手に対する下調べもしっかりしていて、なかなか出来ることじゃないって」

侑「そ、そんな……/// ただ、ダイヤさんやルビィさんの試合はたまたま見たことがあったってだけで……///」

歩夢「ふふっ、侑ちゃん顔赤いよ♪」

侑「あ、歩夢だって、さっき顔真っ赤だったじゃん……っ!///」


褒められ慣れてないというのもあるけど……まさか、現役の四天王にこうして褒められるなんて思ってもいなかったから、すごく顔が熱かった。

でも……嬉しいな。

こうして褒められると、俄然やる気が湧いてくる。


侑「……もっともっと、強くなろうね、歩夢……!」

歩夢「うん、そうだね……えへへ」

鞠莉「なんだか、初々しくて、昔のこと思い出しちゃうわね……」

リナ『昔のことって?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「もちろん、チカッチたちを送り出したときのことよ。あの子たちは6人とも……最初のポケモンを渡すときから大変だったんだから」

侑「……! そ、その話もっと詳しく聞きたいです!」


チャンピオンの千歌さんと、その同期の人たちが最初の3匹を選ぶときの話なんて、めちゃくちゃ興味があるし、聞いてみたい……!


鞠莉「あらそう? それじゃあ、どこから話そうかしら……。そうね、それじゃ一番最初にポケモンを持って行っちゃった子のことから話そうかしら──」

侑「はい!」


私はわくわくしながら、鞠莉さんの思い出話に耳を傾ける──




    🎹    🎹    🎹





鞠莉「──……そして、ルビィはアチャモを、花丸はナエトルを連れていくことになったってわけね」

侑「……花丸さんも、ここの研究所で最初の3匹を選んだ1人だったんですね……」

鞠莉「あら、花丸のこと知ってるの?」

侑「はい! ダリアで……えーっと、たまたま会っただけなんですけど……」


途中まで言いかけて、ダリアのジムリーダーのことは、あまり詳しく言っちゃいけなかったことを思い出して、適当に言葉をぼかす。


鞠莉「あら、そうだったのね。ダリアで大学に入ったあと、そのまま向こうの研究室に入ったみたいなのよね。連絡はちょくちょくくれるんだけど……今は何をやってるのかしらねぇ」


どうやら、鞠莉さんは花丸さんがジムリーダーをしていることを知らなさそうだ。セーフ、言わなくてよかった……。

それにしても、千歌さんたちの旅立ちの話は、興味深い話だった。

千歌さん、曜さん、ヨハネ博士、ルビィさん、花丸さんと……今でも一線級で活躍している人ばっかりだし……。

あ、でも……梨子さんって人のことはあんまり知らないかも……。


歩夢「あ、あの……」

鞠莉「ん~? なにかしら?」

歩夢「もしかして、梨子さんって……今カントーで活躍してる芸術家の梨子さんですか……?」

鞠莉「Oh! That's right! その通りよ!」

侑「歩夢、知ってるの……?」

歩夢「うん! 梨子さんは絵を描いたり、作曲も手掛けてて……『星』って作品群がすっごく有名なの。ある地方を旅したときに見た輝きを表現したってインタビューで言ってたんだけど……それって」

鞠莉「……ふふ、そうね。きっとこの地方での旅のことよ」

歩夢「やっぱり……!」


歩夢は目をキラキラさせながら言う。

芸術家か……そこまで把握しきれてなかった……。


侑「私も見てみたい……」

歩夢「ふふ、今度家に帰ったら、梨子さんの出した本とCDがあるから、一緒に鑑賞しよっか♪」

侑「うん!」

鞠莉「あと梨子は、バトルも優秀な子だったわよ。ジムバッジも8つ全て集めていたし、千歌のライバルだったからね~」

侑「そうなんですか!? ど、どんなトレーナーだったんですか……!?」

鞠莉「そうねぇ……最初はさっき言ったとおり、ちょっと困った子だったんだけど──」


鞠莉さんが梨子さんの話をし始めた、そのとき、


 「──鞠莉~? いる~?」


鞠莉さんの研究室に知らない人が入ってきた。

深い海のような髪をポニーテールに縛っているお姉さん。


果南「あ、ごめん……来客中だったんだ」

鞠莉「あら、果南……っと……もうこんな時間だったのね。思ったより話し込んじゃったわね」


どうやらこの人は果南さんと言うらしい。


果南「今タイミング悪いなら、後にするけど……ん?」


鞠莉さんとやり取りをしていた果南さんの視線は──ふよふよと浮かぶリナちゃんに留まる。


果南「あれ!? もしかして、リナちゃん!?」

リナ『うん! 果南さん、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||

果南「どうしてリナちゃんがここに……!?」

鞠莉「いろいろあってね。今はそこにいる侑がリナと一緒に旅してるのよ」

侑「わ、私が侑です」


鞠莉さんから紹介を受けて、頭を下げて挨拶する。


果南「私は果南、よろしくね。そっちの子は?」

歩夢「私は歩夢って言います」

果南「歩夢ちゃんだね。よろしく」

鞠莉「この子たちは、善子のところから最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た子たちなのよ」

果南「へー。ってことは、かすみちゃんやしずくちゃんと一緒に旅に出た子たちってこと?」

鞠莉「そうなるわね」


そういえば、かすみちゃんたちもこの島に来たって話を、ホシゾラで聞いたっけ。


歩夢「あ、あの……果南さんは、鞠莉さんに何か用事があったんじゃ……」

果南「……っと、そうだった。……ただの定例報告みたいなもんなんだから、後でもいいんだけど……」

歩夢「い、いえ……! お仕事の邪魔をするわけにはいかないので……! ね、侑ちゃん」

侑「う、うん」


正直もっと鞠莉さんの話は聞きたいけど……確かに仕事の邪魔をするのは忍びない。

歩夢に手を引かれて、部屋を後にしようとするけど……名残惜しいというのが顔に書かれていたのか、


鞠莉「うーん、それじゃあ……侑たちがイヤじゃなかったら、今日はここに泊まっていったらどうかしら?」


と、鞠莉さんが提案してくれる。


侑「い、いいんですか!?」

鞠莉「ええ。だから、仕事が片付いたら、またお話ししましょ?」

侑「は、はい! 是非!」

鞠莉「それまでは、研究所の中を好きに見て回っていていいから。何かあったら、そこらへんにいる所員に聞いてくれれば対応するわ」

歩夢「ありがとうございます。侑ちゃん、リナちゃん、行こっか」

侑「うん」

リナ『お仕事頑張ってね。リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||


歩夢とリナちゃんと一緒に、私たちは一旦、博士の研究室を後にした。




    🎹    🎹    🎹





──あの後、研究所内をくまなく見て回って……鞠莉博士の仕事が片付いたあと、ここから旅立って行ったトレーナーたちの話をたっぷり聞かせてもらった。

ついでに夕食も頂き──メイドさんが作ってくれた絶品料理に舌鼓を打った──その後、お湯を頂き、今は所内にある客用寝室のベッドの上に寝転んでいる。


侑「いたれりつくせりだぁ……幸せぇ……♪」
 「ブイ~…」

歩夢「ご飯、すっごくおいしかったね。ホテルのご飯みたいで、ポケモンたちも大喜びだったし」
 「シャーボ♪」

侑「大浴場まであるなんて、本当にホテルだよぉ……」

歩夢「侑ちゃん、風邪引いちゃうから、先に髪乾かさないとダメだよ? イーブイはこっちおいで♪ 毛繕いしようねー♪」
 「ブイ♪」

侑「えー……イーブイばっかりずるいー……私にもブラッシングしてー……」

歩夢「ダーメ、ポケモンたちが先だよ」

侑「うー……わかったよー……」


私はもそもそと立ち上がって、ドライヤーをバッグから取り出して、髪を乾かし始める。


リナ『侑さんが見たことないくらい、だらけきってる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「あまりに尽くされすぎて……ずっとここにいると、ダメ人間になりそう……」

歩夢「もう……侑ちゃんったら……。でも、本当にすごいね、この研究所……。所員……というかメイドさんもすごい数いるし、ご飯もお風呂も本当にホテルみたい……」

リナ『みたいというか、もともとホテルなんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『博士のお祖父さんが経営してたホテルなんだけど、お父さんに代替わりしたときに研究所に改装したんだって』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「どうりで……あの大浴場ホントにすごかったもんなぁ」

歩夢「ホテルは辞めちゃったの?」

リナ『うぅん。海外とかでは今でもグループ展開で経営してるみたいだよ。鞠莉さんが博士になったときにお父さんとお母さんはそっちに集中するために、研究職は辞めたらしいけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「じゃあ、あのメイドさんって……元従業員?」

リナ『従業員というよりは、鞠莉さんの使用人かな。信頼出来るメイドさんを残して研究所で働いてもらってるみたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「へー……じゃあ、本物のメイドさんなんだね」

歩夢「本物のメイドさんにお世話される生活って、なんか想像出来ないかも……」

侑「確かに……今日の今日まで本物のメイドさんなんて見たことなかったし……」


庶民の私たちとは住む世界が根本的に違うのかも……。


 「イッブィ…♪」
歩夢「……んー? ここ気持ちいいんだねー?」


そんな会話をしながらも、せっせとイーブイの毛繕いをしてあげている歩夢。

この甲斐甲斐しさなら、メイドとしてもやっていけるんじゃないかな……? なんて思ってしまう。


歩夢「? どうしたの? じーっとこっち見て……?」

侑「いや、イーブイ気持ちよさそうだなって」

歩夢「ふふ、イーブイ毛繕い好きだもんね~?」
 「ブイ♪」

歩夢「たまには侑ちゃんもしてみる?」


そう言いながら、歩夢がイーブイを抱きかかえて私のもとに運ぼうとすると、


 「ブイィ…」


イーブイはイヤイヤと首を振る。


歩夢「あ、あれ……?」

侑「歩夢の毛繕いがいいんだってー……」


全く、本当にどっちが“おや”なんだか……。


歩夢「じゃあ、もう少し……」


再び歩夢がブラシを握ると、


 「タマァ…」
歩夢「きゃ!? ど、どうしたの、タマザラシ?」


タマザラシが歩夢の腰辺りに身を摺り寄せていた。


侑「タマザラシも毛繕いしてほしいんじゃない?」

歩夢「えっと……今はイーブイにしてあげてるから」
 「タマァ…」

歩夢「ど、どうしよう……侑ちゃん……」


歩夢、相変わらずポケモンに大人気……。


侑「ほら、イーブイ。こっちおいで。もう十分してもらったでしょ?」

 「ブイ…」

侑「タマザラシと交替。歩夢のこと困らせたくないでしょ?」

 「…ブイ」


説得すると、イーブイは歩夢の膝から降り、私の隣まで来て腰を下ろす。

よしよし、こういうときにわがまま言わずに言うこと聞くなら、まだ“おや”としての威厳が保てている。……はず。


歩夢「それじゃ、タマザラシ、おいでー」
 「タマァ♪」

侑「タマザラシ、随分甘えん坊なんだね」

歩夢「群れからはぐれちゃった子だからってのはあるのかも……ラビフットやマホイップに比べると……」


確かにラビフットやマホイップはワシボンと一緒に遊んでいるし、あそこまで歩夢に甘えるって感じではないかもしれない。

ちなみに、ライボルトとサスケはすでに寝ている──ライボルトに関しては目を瞑っているだけかもしれないけど。

あともう1匹──ニャスパーは、


 「ニャァ…」

リナ『ずっと視線を感じてる』 || ╹ _ ╹ ||

侑「やっぱり、リナちゃんが気になるみたいだね、ニャスパー」


何故か、リナちゃんを目で追いかけていることが多い。


歩夢「やっぱり、動くものが気になるのかな……?」

リナ『確かにネコポケモンは動く物体を追いかける習性がある。ここまで興味を持ち続けるのは珍しい気がするけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ふーん……。……ねぇ、ニャスパー」

 「ニャァ?」

侑「もしかして、リナちゃんのこと好きなの?」

リナ『私、好かれてる? リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||

 「ニャァ」

侑「……ダメだ、全然わからない」


鳴いて相槌こそ打つものの、無表情すぎる。


侑「この子の“おや”だったら、わかるのかなぁ……?」

歩夢「早く、見つかるといいんだけどね……」

侑「そうだねぇ……」


まあ、今のところ手掛かりもない状態だからなぁ……。

すっかり髪も乾かし終わり、再びベッドに身を投げ出すと──


侑「……ふぁぁ」


あくびが出る。


侑「眠くなってきた……」

歩夢「ふふ。今日は朝からジム戦もしたから、そろそろ休もうか」

侑「そうだね……」


もぞもぞと動きなら、布団を被ると──


 「…ブイ」


イーブイが私のベッドを抜け出して、歩夢のいるベッドにぴょんと飛び移る。


歩夢「イーブイ、私と一緒に寝る?」
 「ブイ♪」

 「タマァ…」
歩夢「タマザラシも一緒に寝ようね~」
 「タマァ…♪」

侑「……」

リナ『侑さん、ドンマイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||


全く……ホントに誰が“おや”なんだか……。

イーブイの歩夢ラブなところに内心呆れながらも、私は目を瞑る。

歩夢の言ったとおり、今日は朝からジム戦もあったし、疲れからか睡魔はすぐに訪れた。

おやすみなさい……また、明日も頑張ろう……。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.35 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.30 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.32 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.26 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.26 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.20 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission✨



──時刻は深夜を回り……みんなが寝静まった時間。


果南「……」

鞠莉「……さて、そろそろかしら」


果南と一緒に研究室で待ち続けていると──扉が開く。


鞠莉「ご苦労様、ポリゴン」
 「ポリ」


ポリゴンZは私からのお礼を受けると、恭しく頭を下げた後、持ち場へと戻っていく。


果南「……ホントにポリゴンZとは思えない律義さだ……」

鞠莉「まあ、ポリゴンZというか、ポリゴンZじゃないというか……」


まあ、それはいい……。目的はポリゴンZの観察じゃなくて──


リナ『博士、話ってなぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||


そのポリゴンZが連れて来てくれた、リナと話すことだ。


リナ『部屋にいたら、急にポリゴンから通信が入ってびっくりした』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「とりあえず、こっちにいらっしゃい」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


ふよふよと浮かぶリナを室内に迎える。


鞠莉「こうして3人で話すのも久しぶりかしらね……」

果南「もう……1年振りくらいかな?」

リナ『図鑑ボディに入ってから果南さんとは話してないし……それくらいになるかも』 || ╹ _ ╹ ||

鞠莉「組み込むのに結構手間取ったものねー……」

リナ『でもお陰で今はこんなに自由に喋れるし、動き回れる。ありがとう、博士』 ||,,> 𝅎 <,,||

鞠莉「どういたしまして。……それで、本題なんだけど……何か、変化はあった?」

リナ『……全然』 || ╹ _ ╹ ||

鞠莉「……まあ、そうよね」

リナ『どうすれば、他の部分にアクセス出来るかの見当もついてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「何か外部刺激を受ければ変化があるかと思ったけど……やっぱり領域が連結されてないと、うまく読み込めないと考えるべきなのかしらね……」


まあ……ここまでは予想の範疇だ。……となると、打開策は──視線は果南へと移る。


果南「期待の視線を向けられてる中、申し訳ないけど、こっちも難航中だよ」

鞠莉「そうよね……わたしの方も全然手掛かりなし……」

果南「……そういえば……クロサワの入り江の裂け目って今どうなってるの? 何かの間違えで復活してたりとかしない?」

鞠莉「ずっと豆粒みたいなサイズだったけど、この間完全に閉じちゃったわ……何か変化があったら教えて欲しいとはルビィに言ってあるんだけど……」


わたしも果南もリナも……それぞれの進捗は芳しくないと言ったところのようだ……。

とはいえ、


鞠莉「手掛かりなしのまま足踏みしてるわけにもいかない……とは思ってる」

果南「……まあ、やっぱり気になるしね」

鞠莉「大した理由がないならそれでもいいけど……わたしにはどうしても、もっと何か大切な意味があるって気がするから……」


あの日、リナと出会ったときのことを思い出す。

最初はたった9文字の信号でしかなかった──『・・・---・・・』。

あくまで直感でしかないと言われれば、それまでかもしれない。でも……それでも……わたしはこの信号にただならぬ何かを感じた。

少なくとも──意思を持った存在から送られた信号であったことには間違いなかったからだ。


リナ『そういえば、博士』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なにかしら?」

リナ『私……侑さんと旅する予定じゃなかったの?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「ああ、そのこと……。……ええ、本来は千歌か善子と一緒に行動してもらうつもりだったわ。何かの手違いというか……善子が一度もあなたを起動もせずに、侑に渡しちゃったのは予想外だったけど」

リナ『そうなんだ……今からでも、千歌さんか善子さんの場所に行った方がいい……?』 || 𝅝• _ • ||

鞠莉「……いいえ、侑の傍にいてくれればいいわ。リナも侑のこと、気に入ってるんでしょう?」

リナ『うん……! 侑さん優しいし、一緒にいるといろんな経験が出来て楽しい……!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「なら、それでいい。侑のこと、サポートしてあげて」

リナ『わかった!』 ||,,> ◡ <,,||


……それに、今は何やらキナ臭いことが起こっているという噂も耳にしている。

実力者への襲撃……。リナの存在が……もし、この襲撃に関与しているのだとしたら、千歌や善子みたいな、名前が知れ渡っている人間の傍に置いておくよりも、侑の傍の方が安全かもしれないし……。


鞠莉「……何より、リナが居たい場所に居られる方がいいものね」

果南「……ふふ。……かもね」


私が漏らした小さな呟きに果南が小さく笑うのだった──


………………
…………
……


『ポケモンSV大戦会 vs視聴者』
(22:00~開始)

https://youtube.com/watch?v=Q1b22FkS5P0


■Chapter031 『悠揚の町・ウラノホシタウン』 【SIDE Yu】





侑・歩夢「「──お世話になりました」」


──翌日、私たちは鞠莉博士に見送られる形で、オハラ研究所を後にするところだった。


侑「興味深いお話、たくさん聞かせてくれてありがとうございます!」

鞠莉「また、いつでも遊びに来て頂戴ね」

歩夢「はい!」

鞠莉「それと侑。リナのこと、よろしくね」

侑「はい!」

リナ『博士、行ってきます!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「侑、歩夢、リナ──Good luck! 良い旅を」


博士が手を振りながら、私たちを送り出してくれる。


侑「それじゃ、行こうか……!」
 「ブイ」

歩夢「うん」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> ◡ <,,||





    🎹    🎹    🎹





──アワシマから船に揺られること、数十分。


侑「やっぱいいなぁ、船旅……! 気に入っちゃったよ♪」
 「ブイ」


苦手な人は苦手らしいけど、風が気持ちいいし、この独特の揺れも非日常感がして、私は嫌いじゃない。


歩夢「ふふ、今回は乗船時間が長くてよかったね、侑ちゃん」

侑「うん!」


ご機嫌な船旅で私たちが目指す先は──ウラノホシタウンだ。

本数は少ないものの、アワシマからウラノホシの南端の港を行き来する船があって、今はそれでウラノホシタウンへと移動中ということだ。

船着き場からすでに島が見えているウチウラシティとは違って、ウラノホシタウンの港は岬を迂回するため、少し時間が掛かる。

私としては、お陰で船旅が満喫出来て嬉しい。


歩夢「あ、見て侑ちゃん! あそこ……入江の洞窟になってるよ!」

侑「え、ホント?」


今まさに、迂回しようとしている岬の下には──歩夢の言うとおり、洞窟の口がぽっかりと口を開けていた。


侑「うわぁ~! すっごい! こんなの写真でしか見たことなかったよ!」

歩夢「うん!」


実際に目の当たりにすると、小舟くらいだったら飲み込んでしまいそうな大きさの洞窟が海にせり出してきている様子は圧巻だった。

そんな自然の作り出す光景を目の当たりにして、歩夢と二人で興奮してしまう。


リナ『あそこはクロサワの入江だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「クロサワ? ってことは……」

リナ『うん、ルビィさんやダイヤさんの一族が管理してる場所なんだよ。入江の洞窟内は、メレシーってポケモンがキラキラ輝いてて、オトノキ地方に3つある、夜の虹の1つって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「あ、オトノキの3つの夜の虹って、聞いたことあるよ! 大樹・音ノ木、クロサワの入江、クリスタルケイヴのことだよね」

リナ『歩夢さん、大正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||

侑「夜の虹……! なんかもう響きだけで、ときめいてきちゃう! 私、見に行きたい!」

リナ『残念だけど、今は一般開放はされてない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「え、そうなの……?」

歩夢「3年前のグレイブ団事変のときに、戦いの場になったらしくって……それ以来は、調査以外では立ち入り出来ないんだったよね」

リナ『うん。洞窟内部もかなり崩れちゃったところもあるらしいし……関係者じゃないと中に入るのは難しい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そっかぁ……」


せっかく名所の近くに来たのに、見られないのは残念……。でもまあ、入れないなら仕方ないか……。


侑「じゃあせめて、ウラノホシタウンは満喫するぞー!」

リナ『ウラノホシは温泉旅館が有名だから、のんびり過ごせると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ウラノホシの旅館はご飯もおいしいって話だよ」

侑「おいしいご飯……今から楽しみ……!」


なんだかここ数日、おいしいものを食べてばっかりな気はするけど……でも、各地のおいしいご飯も旅の醍醐味だよね……!


歩夢「ポケモン用のご飯を作ってくれる場所も多いみたいだから、着いたらみんなで食べようね♪」
 「シャボ♪」「ブイブイ♪」


ポケモンたちもご機嫌な様子。

私たちはわくわくしながら──船は間もなく、ウラノホシの南の港へと到着します……!





    🎀    🎀    🎀





──港で船から降り、船着き場を抜けると……すぐに緑の溢れる景色が見えてきた。


歩夢「自然豊かな町なんだよね、ウラノホシは」

リナ『うん。木々と海に囲まれた町で、すごく穏やかなところだと思う。悠揚の町なんて呼ばれ方をすることもあるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「悠揚の町……本当にゆっくり過ごせそうだね」

リナ『そうだね。温泉旅館も多いから、ここに来る人の大半はのんびりとした休暇を取りに訪れることが多いみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「最近、バトルも多かったから……ポケモンたちと一緒に今日くらいはゆっくりしたいなぁ。侑ちゃんはどうする?」

侑「……」

歩夢「……侑ちゃん?」


侑ちゃんの方を見ると──何故か、侑ちゃんがぷるぷると震えている。


侑「……こ」

歩夢「……こ?」

侑「……ここが……チャンピオンの生まれ育った町なんだぁ……!」


侑ちゃんはぱぁーっと目を輝かせて、周囲をキョロキョロし始める。


歩夢「侑ちゃん……。千歌さんのこともいいけど、少しは町の雰囲気を楽しもうよー……」

リナ『侑さんはいつもどおりだね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「いや、楽しんでるよ! この自然溢れる町で、千歌さんは日々鍛錬に励んでたんだって思うだけで、あちこちが輝いて見えるよ……! この海で遠泳とか砂浜ダッシュとかしてたのかな……!」

歩夢「いや……鍛錬は旅しながらしてたんじゃ……」

リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんったら相変わらず、好きなもののことになると、周りが見えなくなる子なんだから……。

少し呆れ気味に──でも、そんなところも可愛いなと思いながら、侑ちゃんのことを眺めていた、そのとき、


 「──……侑さ~ん! ……歩夢さ~ん! ……リナさ~ん!」


近くの砂浜の方から、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


リナ『呼ばれてる?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「あれ、この声……」

侑「もしかして……!」
 「ブイ」


声のする方に目を向けると──黒髪のストレートロングを右側で一房括った髪型の少女が、ウインディと並走しながら、こちらに向かってくる。

あの子は……。


侑「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「……はい! こんなところでお会い出来るなんて……!」

歩夢「カーテンクリフ以来だね……! せつ菜ちゃん!」

せつ菜「そうですね! 砂浜ダッシュをしていたら、遠くに侑さんたちが見えて……! またお会いできて嬉しいです!」

リナ『せつ菜さんはなんで、ここで砂浜ダッシュしてたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、ここはチャンピオンである千歌さんの出生の地……! きっと、彼女もこの大自然の中で、日々鍛錬を積んでいたに違いありませんから! 私もそれに倣って、ポケモンたちと鍛錬をしているところだったんです!」

侑「……! せつ菜ちゃんもそう思う!? やっぱり、そうだよね!」

せつ菜「はい……!! こうして、ここで修行すれば、千歌さんの強さの秘訣がわかるかもしれませんし!」

侑「うんうん!」

歩夢「いや、だから……それはたぶん、旅の道中で……」

リナ『歩夢さん、ファイト』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんと同じようなことを考えている人がまた一人……あれ、私がおかしいのかな……?


せつ菜「それはそうと、侑さん、歩夢さん、旅の方は順調ですか?」

侑「あ、うん! せつ菜ちゃんと別れた後いろいろあったけど……」

歩夢「ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラと進んできて、さっきアワシマから船でここに到着したところなんだよ」

せつ菜「そうだったんですね!」

侑「ジムバッジもほら……!」


侑ちゃんがせつ菜ちゃんにバッジケースを開いて見せる。


せつ菜「おぉ! もうバッジが3つも……! つい数日前に旅に出たばかりだというのに……これは、私たちもウカウカしていられませんね!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんが頑張っているのを聞いたら、なんだか燃えてきました……! ウインディ! もう一本、砂浜ダッシュ行きますよ!」
 「ワォン!!」

侑「あ、なら私も一緒にやってもいい!?」

せつ菜「是非是非!! 侑さんもポケモンたちと一緒に汗を流しましょう!」

歩夢「ストップ! ストーーップ!!」


今にも走り出そうとする侑ちゃんたちを制止する。


歩夢「さ、先に今日泊まる場所見つけよ? ね?」

リナ『確かに宿を確保してからの方がいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……それはそうかも」


どうにか納得してもらえてホッとする。

今のこの二人の熱量だと、それこそウラノホシで過ごす時間のほとんどがトレーニングになっちゃいそうだし……。


せつ菜「確かに……まだ宿をお決めになっていないなら、そっちを優先した方がいいですね……」

侑「あ……! せっかく宿を探すなら、せつ菜ちゃんも一緒に泊まらない!? いいよね、歩夢?」

歩夢「うん、私は構わないけど」

せつ菜「ホントですか!? 是非……! ……と、言いたいところなんですが……実は明日の朝までには、一度ローズの方に帰らなくてはいけなくて……」

リナ『そうなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「はい……皆さんとご一緒したいのはやまやまなんですが……外せない用事があるので」

侑「そうなんだ……残念……」

せつ菜「ただ、夜までは滞在しているつもりなので……! それまで、ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」

侑「それはもちろん! ね、歩夢?」

歩夢「うん♪」


それには異論はないかな。私もせっかく会えたんだから、せつ菜ちゃんとお話ししたい気持ちもあるし。


せつ菜「それでは、まずは侑さんたちの宿を見つけるところからですね……! あ、そうだ!」


せつ菜ちゃんが何かを思いついたかのように、ポンと両手を叩く。


せつ菜「もしよかったら、千歌さんのご実家の旅館にご案内しますよ!」

侑「え!? 千歌さんの実家……!?」

せつ菜「はい! 千歌さんのお家は温泉旅館を営んでいるんですよ!」

侑「そうなの……!?」

せつ菜「ただ、素敵な旅館はたくさんあるので、それ以外の場所を探すのもありだと思いますが──」

侑「うぅん! そこ! 絶対そこに泊まりたい! いいよね、歩夢!?」

歩夢「ふふ、いいよ♪ じゃあ、せつ菜ちゃん、そこに案内してもらってもいい?」

せつ菜「はい、お任せください! こちらです!」


私たちは、せつ菜ちゃんに案内される形で、千歌さんのご実家の旅館目指して歩き始めた。




    🎹    🎹    🎹





侑「──ここが千歌さんの育った家なんだぁ……」
 「ブイ」


訪れた旅館は、木造の大きな旅館だった。


せつ菜「チャンピオンのご実家というだけあって、ウラノホシの旅館の中でも人気なんですよ」

リナ『なら、なくなる前に部屋を確保しないとだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「ですね。侑さん、歩夢さん、中に入りましょう」

歩夢「はーい」

侑「う、うん」


ちょっと緊張する。


引き戸を開けて、中に入ると──外観からも見てわかるとおり、和風の造りになっている館内。そして、そんな館内の受付に立っている妙齢の女性が一人。


女性「あら……? せつ菜ちゃん! いらっしゃい♪」

せつ菜「こんにちは、志満さん!」


どうやら、この人は志満さんというらしい。


志満「また泊まりに来てくれたの?」

せつ菜「いえ……私は日帰りなので……。ただ、友達が是非ここに泊まりたいとのことなので、案内していたんです」

志満「あら、そうだったのね。ありがとう、せつ菜ちゃん」


志満さんはせつ菜ちゃんにふわりと笑いかけたあと、


志満「ようこそ、お越しくださいました。旅館トチマンへようこそ」


綺麗なお辞儀と共に私たちを迎えてくれる。


志満「一部屋でよろしいですか?」

侑「は、はい! よろしくお願いします!」

歩夢「お世話になります」

志満「かしこまりました、少々お待ちくださいね」


志満さんは、そう言うと手続きを始める。よかった……部屋、まだ残っていたみたいだ。

そんな中、せつ菜ちゃんが、


せつ菜「こちらの志満さん、千歌さんのお姉さんなんですよ」


と、耳打ちしてくる。


侑「ええっ!? ち、千歌さんの……!?」

志満「あら……? もしかして、千歌ちゃんのファンの子かしら?」

侑「は、ははは、はい!!」

志満「妹のこと、応援してくれて嬉しいわ♪ 千歌ちゃんがいたら、お部屋への案内とかを任せたんだけど……最近、あんまり帰ってこなくて……ごめんなさいね」

侑「い、いえっ!? お構いなくっ!?」


千歌さんに、案内なんてしてもらったら、申し訳なくて逆にいたたまれなくなっちゃうよ……!?


志満「それでは、こちらに宿泊者のお名前と連絡先をいただけますか?」

侑「は、はーい」


渡された用紙に、必要事項を書いて渡す。


志満「タカサキ・侑ちゃんとウエハラ・歩夢ちゃんね。一緒に泊まるポケモンは4匹ずつの計8匹で大丈夫?」

侑「は、はい!」

志満「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」

歩夢「はい、お願いします」

侑「よ、よろしくお願いします!」

志満「ふふ、侑ちゃん。あんまり緊張しなくていいのよ。千歌ちゃんはチャンピオンだけど、ここは普通の旅館だから」


私があまりに緊張しているように見えたのか、志満さんがクスリと笑う。


侑「は、はい……」

歩夢「ふふっ♪」


ついでに歩夢にも笑われてしまった。……だってあの千歌さんのお家なんだし……緊張くらいするよ……。


せつ菜「それでは、私は待合ロビーで待っていますので」

侑「あ、うん! 荷物置いたらすぐ戻ってくるね!」

歩夢「ちょっと待っててね、せつ菜ちゃん」


私たちは、志満さんに部屋まで案内してもらう。

その際、


歩夢「侑ちゃん、そういえばさ……」


歩夢が耳打ちをしてくる。


侑「も、もう緊張してないけど……?」

歩夢「えっと……そうじゃなくてね。千歌さんのこと」

侑「千歌さんのこと?」

歩夢「うん。せつ菜ちゃん、千歌さんのこと探してるみたいだけど……千歌さんのいる場所ってコメコの森だよね?」

侑「ああ……」


確かに、しばらくあそこに滞在しているみたいだし、コメコの森のロッジに行けば会える可能性はかなり高い。けど……。


侑「千歌さん、かなり忙しそうだったし……なんか、あんまり大っぴらにあそこにいるよって言わない方がいい感じだったよね……」


詳細はわからないけど……なんか、言えないことが多い仕事をしているっぽかったし……。


歩夢「……だよね。侑ちゃんならそう言うと思った。じゃあ、せつ菜ちゃんに悪いけど……千歌さんのことは内緒にしようね。リナちゃんも」

リナ『了解』 || ╹ ◡ ╹ ||


なるほど、これの確認がしておきたかったってことね。

まあ、確かにある程度示し合わせておかないと、誰かがぽろっと言っちゃうかもしれないしね。

内緒話をしていると、志満さんがとある部屋の前で足を止める。

どうやら、話している間に部屋に着いたようだった。


志満「こちらがお二人のお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」

侑「はい、ありがとうございます」

歩夢「お世話になります」


案内してくれた志満さんにお礼を言うと、志満さんは柔らかく笑ってから、「くつろいでいってね」と言葉を残して、フロントの方へと戻っていった。


侑「それじゃ、私たちも早く荷物置いて、戻ろっか」

歩夢「うん、そうだね」


せつ菜ちゃんをいつまでも待たせちゃいけないからね!





    🎹    🎹    🎹





侑「──じゃあ、せつ菜ちゃんはよくこの町に来るんだ」

せつ菜「はい! 今回でもう何度目かわからないくらいですね!」


せつ菜ちゃん曰く、この町には頻繁に足を運んでいるようだった。

そんな私たちの会話が聞こえたのか、受付カウンターにいる志満さんから「いつもご贔屓にしてくれてありがとうね♪」との声が。

志満さんが千歌さんのお姉さんだと言うのはさっき聞かされたことだけど、千歌さんにはもう一人お姉さんがいるらしく、名前は美渡さん。

千歌さんは三姉妹の末っ子らしく、次女が美渡さんで、長女が志満さんだそうだ。


侑「それにしても……千歌さんにお姉さんが二人もいたなんて……」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんはトレーナーとしての部分以外には、なかなか興味が向かないところがあるからね」

侑「わ、笑うことないじゃん……」


確かに歩夢が言うとおり、千歌さんのバトルの腕にばかり目が行っていて、家族についてなんて全然考えたことなかったけど……。


せつ菜「確かにポケモントレーナーとしてだと、千歌さんは突出していますよね。ですが、志満さんもコーディネーターとしては有名な方らしいですよ!」

歩夢「コーディネーターって、ポケモンコンテストの?」

せつ菜「はい! なんでも、現コンテストクイーンのことりさんとはライバル関係だったとか」

侑「ことりさんと……!」


私たちにとって馴染み深い名前が出てきて反応してしまう。まさか、千歌さんのお姉さんがことりさんとライバルだったなんて……世間って思ったより狭いんだなぁ……。


侑「そういえば……せつ菜ちゃんがこの町によく来るのって……」

せつ菜「もちろん、千歌さんにお手合わせをお願いするためです! って、言っても……空振りになっちゃうことも多いんですけどね、あはは」

志満「──千歌ちゃん、本当にたまにしか帰ってこないんだもの……」


私たちが会話をしていると、いつの間にか志満さんがお茶を載せたお盆をこちらに運んで来てくれていた。


志満「よかったら、お茶菓子もどうぞ。ポケモンちゃんたちにも♪」

 「ブイブイ♪」「シャーボ」

歩夢「あ、ありがとうございます」

侑「お、お気遣いなく~……!」

志満「ふふ、お客様なんだから気遣いますよ」


……確かに。


せつ菜「私までいただいてしまっていいんですか……?」

志満「もちろん♪ お得意様ですから♪」

せつ菜「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきますね」

志満「ええ。それじゃ、ごゆっくり」


志満さんはまた柔和な笑みを浮かべてから、パタパタと奥の方へと消えていく。


リナ『せつ菜さん、志満さんからすごく気に入られてるんだね!』 || > ◡ < ||

せつ菜「本当に何度も千歌さんを訪ねて来ていますからね。……本人に会えたのは数回ですが……」

リナ『千歌さんに会ってどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、バトルです! 千歌さんはお優しい方なので、チャンピオンでありながら、野良試合をほとんど断らないことでも有名なんですよ」

侑「そうなんだ……!」


じゃあ、私も千歌さんが帰ってくるのを待っていたら、バトルしてもらえたのかな? ……って、言っても今の私じゃ、全然歯が立たないだろうけど。


せつ菜「もちろん、公式戦ではないので、それで千歌さんに勝ってもチャンピオンの称号などは貰えませんが……。……と言っても、勝てたことはないんですけどね」


せつ菜ちゃんは自嘲気味に言う。


侑「で、でも……! せつ菜ちゃんは千歌さんに負けないくらい強いトレーナーだと私は思ってるよ……!」

せつ菜「ありがとうございます、侑さん。……ですが、千歌さんと実際に戦ってみるとわかるんです。私はまだまだだなと……。……もちろん、いつかは超えたいと思っていますが……!」

リナ『どうして、そこまで千歌さんに拘るの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん──チャンピオンを目指しているからです!」


リナちゃんの言葉に迷いなく答えるせつ菜ちゃん。


侑「かっこいい……!」


堂々と言い切るせつ菜ちゃんに思わずときめいてしまう。

うん、そうなんだよ……! 実力ももちろんだけど、この堂々とした言動、立ち振る舞いがせつ菜ちゃんの魅力なんだ……!


歩夢「それじゃ、こうして千歌さんを何度も訪ねてるのは……」


歩夢が、サスケとイーブイに貰ったお菓子を食べさせてあげながら、せつ菜ちゃんに訊ねると、


せつ菜「はい。少しでも……彼女の強さに迫るためです」


せつ菜ちゃんは力強く頷きながら、そう答える。


せつ菜「私は……強くならなきゃいけないんです。強くなって、証明したい」

侑「証明……?」


──証明。その言葉に首を傾げる。どういう意味だろうか。


せつ菜「あ、すみません。これだけ言われても、何を証明したいのか、よくわからないですよね。えっとですね……」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、何故か浮遊するリナちゃんに視線を向ける。


リナ『?』 || ╹ _ ╹ ||

せつ菜「……歴代のチャンピオンと言われる人には共通点があるんです」

歩夢「共通点?」

せつ菜「はい。このオトノキ地方の歴代チャンピオンは──全員がポケモン図鑑の所有者なんです」


それは初耳だ。


侑「そうなの……?」


思わず、私もリナちゃんの方を見て確認してしまう。

すると、


リナ『確かに歴史上、この地方のチャンピオンは最初のパートナーポケモンとポケモン図鑑を貰って旅に出た人しかいないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


との回答が返ってくる。せつ菜ちゃんの言う共通点というのは、事実らしい。


せつ菜「もちろん、それをずるいとは思いませんし、ポケモン図鑑やパートナーポケモンの有無が、トレーナーの強さに直結するとも思いません。実際に図鑑とパートナーを貰って旅に出るトレーナーはそれ相応の才能を認められて選ばれるものですから」

リナ『図鑑を貰う人はそもそも強くなる素質を認められて選ばれることも少なくないからね。図鑑所有者がチャンピオンになるのは、ある意味道理なのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

せつ菜「そうですね。……ですが、この地方にはたくさんのトレーナーがいます。その誰も彼もがポケモン図鑑と最初のパートナーを手にするチャンスがあるわけではありません」


せつ菜ちゃんは、一息吸ってから、


せつ菜「だから私は……そんなポケモン図鑑や最初のパートナーを持つ資格を得られなかった人間でも、最強の称号を手に入れられるんだと……証明したい」


そう言葉にする。はっきりと。

……ただ、その余韻のように、


せつ菜「──……そうじゃないと……私は……存在出来ないから……」


消え入るような声で、せつ菜ちゃんはそう漏らした。


侑「……え?」

せつ菜「……あ、す、すみません! 最後のは無しで……!」

侑「えっと……」


少し動揺してしまう。存在出来ないって……。


せつ菜「それくらい、私にとって強くなることは、重要だということですよ!」

リナ『それがせつ菜さんの、レゾンデートルなんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「レゾン……?」

歩夢「存在理由って意味だよ、侑ちゃん」

侑「なるほど」


それくらい、せつ菜ちゃんは強くなることにひたむきなんだ……。

そのひたむきさに胸を打たれたからか、


侑「きっと……なれるよ、チャンピオン……!」


私は自然とそう口にしていた。


せつ菜「侑さん……」

侑「わ、私が言っても……生意気に聞こえるかもしれないけど……」

せつ菜「いえ……嬉しいです! 応援してくれる侑さんのためにも、何が何でもチャンピオンにならなくてはなりませんね!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら立ち上がって、


せつ菜「そうとなったら、もっと鍛えなくてはいけませんね……!! なんだか、やる気が湧いてきました……!!」


嬉しそうに笑う。

よかった。少しでもせつ菜ちゃんの背中を押せたんだったら、嬉しいな。


せつ菜「この気持ちがあるうちにもうひとっ走り……! と、行きたいところですが……」


せつ菜ちゃんが壁掛け時計の方に目を向ける。釣られて私も時間を確認すると──もう夕方と言っても差し支えない時刻になっていた。


せつ菜「名残惜しいですが……私はそろそろ、帰らないといけませんね……」

侑「もう、こんな時間……」

歩夢「ふふ、侑ちゃん、夢中でお話ししてたもんね」

せつ菜「あ……す、すみません、バトルのお話しばかりで……歩夢さん、退屈ではありませんでしたか?」

歩夢「うぅん! 全然退屈なんかじゃなかったよ! 私もせつ菜ちゃんのバトルのお話、聞いてみたかったから」

侑「歩夢も、あれからバトルをするようになったし、強くなったんだよ! ね?」

歩夢「そ、そんなに言うほどじゃないけど……うん、今はバトルの魅力もわかってきたと思う」

せつ菜「そうですか……! それはいいことですね! ……では、いつか歩夢さんとも、バトル出来る日が来るということですね!」

歩夢「え、えぇ……!? せ、せつ菜ちゃんとバトル出来るくらいになるまでだと……すっごい時間掛かっちゃうかも……」

せつ菜「大丈夫です! 歩夢さんが強くなるまで、チャンピオンとして待っていますから! もちろん、侑さんのこともですよ!」

リナ『まだチャンピオンになってないのに気が早い』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ふふ♪ そうですね♪」

侑「あはは♪」

歩夢「ふふ♪」


思わず3人で顔を見合わせて笑ってしまう。


せつ菜「いつか──最高の舞台でお会いしましょう!」


せつ菜ちゃんはそう言って、最高の笑顔を見せてくれるのだった。




    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──お見送り、ありがとうございます」

侑「もっと話したかったなぁ……」
 「ブイ」

せつ菜「ふふ、きっとまたどこかで会えますよ」

侑「……うん。そうだね!」


こうしてウラノホシタウンで会えたんだから、またどこかで偶然会うこともあるよね!


歩夢「もう日も落ちちゃったね……暗いから気を付けて帰ってね」

せつ菜「お気遣いありがとうございます。ですが、帰りは“そらをとぶ”でひとっとびなので、ご安心を!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、ボールからポケモンを外に出す。


 「ムドー!!」

侑「わぁ! せつ菜ちゃんのエアームド!」

せつ菜「さすが侑さん、ご存じでしたか」

侑「うん! 攻守隙の無いせつ菜ちゃんのエアームド……大好きなんだ……!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。エアームド、褒められていますよ」
 「ムド」


せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、エアームドはペコリとお辞儀をする。


侑「礼儀正しい……!」

せつ菜「ふふ、頭のいい子なので」

歩夢「……あ、そうだ!」

せつ菜「?」


歩夢は何かを思い出したらしく、バッグの中から、紙と袋を取り出す。


歩夢「これ、せつ菜ちゃんに」

せつ菜「これは……?」


せつ菜ちゃんが紙を開く。


せつ菜「『ウインディ:からいポフィン(赤)』『スターミー:あまいポフィン(桃)』……これは……メモ、ですか?」

歩夢「うん♪ 私が作ったポケモンのお菓子だよ! せつ菜ちゃんのポケモンの好みに合わせて作ってあるから!」

せつ菜「え? 私の手持ちの好みにですか……?」

歩夢「うん! 前にせつ菜ちゃんが試合で出してた5匹しかわからなかったけど……」

せつ菜「バトルを見ただけで私の手持ちの好みがわかったんですか……?」

歩夢「? うん。好きな色の“ポフィン”がメモに書いてあるから、そのとおりに食べさせてあげてね!」

せつ菜「わかりました! ありがとうございます!」

歩夢「絶対メモのとおりにあげてね」

せつ菜「? はい!」

歩夢「人が作ったものを勝手にアレンジとかしちゃだめだよ? 絶対に、書かれたとおりに、食べさせてあげてね」

せつ菜「は、はい……な、なんだか、ちょっと圧が強いですけど……承知しました!」

歩夢「うん」

リナ『歩夢さん。きっと、ウインディたちも泣いて喜ぶ』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「?」


いつになく歩夢がぐいぐい行ってるけど……そんなに会心の出来だったのかな?

まあ、せっかく作ったのなら、好きな味のものを食べて欲しいもんね。


せつ菜「さて……」


せつ菜ちゃんがエアームドの背に飛び乗る。


せつ菜「またどこかでお会いしましょう!」

侑「うん! またね! せつ菜ちゃん!」
 「ブイブイ!!」

歩夢「案内してくれてありがとう!」

リナ『次会えるとき、楽しみにしてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「はい! それでは──エアームド、行きますよ!」
 「ムドーー!!!」


エアームドが鋼鉄の翼を羽ばたかせ、一気に飛翔する。


侑「ばいばーい!」

歩夢「またねー!」


手を振って見送る中、暗闇を切り裂く鋼の翼は、ぐんぐんと遠ざかり──すぐに見えなくなった。


侑「やっぱせつ菜ちゃんのエアームド、速いなぁ……」

リナ『すごくよく育てられてる証拠』 || ╹ ◡ ╹ ||


やっぱり、せつ菜ちゃんとそのポケモンたちはすごいんだって、感じちゃうなぁ。

そんなせつ菜ちゃんに追い付けるように。


侑「よし、私も頑張るぞ……!」


一人気合いを入れる。


歩夢「ふふ♪」


そんな私を見て、歩夢が微笑ましそうに笑う。

ふいに──潮の香りを孕んだ、夜風が吹き抜ける。


歩夢「……風、気持ちいいね」

侑「うん、そうだね」


これだけ自然豊かだからだろうか。空気がおいしくて、こうした何気ない風も、心地がいい。

旅館に戻る前に、もう少し外の空気を感じていたいなと思った。

どうやら、歩夢も同じことを考えていたらしく、


歩夢「侑ちゃん、少し……歩かない?」

侑「うん、そうだね」


私たちは少しだけ、夜道を散歩をすることにした。





    🎹    🎹    🎹





 「──ブイ、ブイ」

侑「イーブイー! あんま遠く行っちゃダメだよー!」


夜の砂浜を無邪気に駆け出すイーブイに声を掛けながら、私は歩夢とのんびり砂を踏みしめる。


歩夢「夜の海って……綺麗だね」

侑「そうだね……」


夜の水面は、昼のような澄んだ青さこそないものの──真っ暗な境界面に星や月の光を反射して、まるでもう一つ夜空がそこにあるかのような、幻想的な風景を作り出している。

きっと、こんな景色も……旅に出なかったら、見ることはなかったんだ。


侑「歩夢」

歩夢「なぁに?」

侑「私と旅に出てくれて、ありがとう」

歩夢「ふふ。どうしたの、急に?」

侑「歩夢が居てくれたから、私はこうして旅が出来てるんだって思ったら……お礼言いたくなっちゃった」

歩夢「もう……お礼を言いたいのはそれこそ私の方だよ。一緒に旅してくれてありがとう、侑ちゃん」

侑「……あはは♪」

歩夢「うふふ♪」


お互いお礼を言い合っているのがなんだか可笑しくって、今度は二人で顔を見合わせて笑ってしまう。


リナ『二人だけ、ずるい』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「もちろん、リナちゃんも! いつもありがとう!」

歩夢「リナちゃんがいっぱいサポートしてくれるから、楽しい冒険が出来てるよ♪」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||


セキレイから始まって、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラ……そしてウラノホシと進んできた。


侑「ここまで……いろんなものを見てきたね」

歩夢「うん。短い間にいろいろあったね」

侑「力を合わせて進んだり……」

歩夢「ケンカもしちゃったね」

侑「そうだね……」

歩夢「でも……今になってみたら、ああやってケンカして、思ってることを言い合えたから、もっと侑ちゃんのこと、理解出来た気がする」


そう言いながら、歩夢は私の手を握ってくる。

だから、私も歩夢の手を握り返す。


歩夢「侑ちゃんと一緒に旅に出られて……よかった」

侑「歩夢……」


なんだか、胸があたたかかった。

空は暗闇の中に浮かぶ星と月だけで、お日様はとっくに沈んでしまっているのに、歩夢の言葉を聞いていると、ぽかぽかとお日様に照らされているような、あたたかさを感じる。


侑「……歩夢はお日様みたいだね」

歩夢「え?」

侑「いつも私の心を、あったかい太陽みたいに照らしてくれる」

歩夢「ええ……? それなら、太陽は侑ちゃんの方だよ! 侑ちゃんの隣にいると、すっごくあったかいもん……侑ちゃんの手も……」

侑「歩夢の手の方があったかいよ。だから、やっぱり太陽は歩夢の方だよ」

歩夢「えー? 侑ちゃんの方があったかいよ」

侑「歩夢の方があったかい」

歩夢「侑ちゃんの方が……」

侑「……っぷ」

歩夢「……ふふ♪」


言い合っているのが可笑しくて、また二人で笑ってしまう。


侑「じゃあ、二人とも、お互いがお互いの太陽ってことで!」

歩夢「ふふ、そうだね♪」


ああ、なんか……いいな、こういう時間。


侑「私……この旅、ずっと続けてたいな」

歩夢「ふふ、そうだね」

リナ『まだまだ、この地方は行ってない場所の方が多い。まだまだ、旅は終わらないよ』 ||,,> ◡ <,,||

侑「……旅を名残惜しむにはまだ早いか」


バッジもまだ半分も集まってないしね。旅はこれからだ……!

漣の音を聴きながら、胸中で決意をしていると、ふと──


侑「……? 何……?」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「……何か……聞こえる……?」


──海の方から、何かが呼んでいる気がした。

その声に引き寄せられるように、波打ち際に視線を向けると──


侑「え……?」


それは、落ちていた。

波打ち際に、ぽつんと。

角の取れた、丸石のような、でも、それは石じゃなくて──


歩夢「侑ちゃん、これって……」

侑「──ポケモンの……タマゴだ……」


そこにあったのは──ポケモンのタマゴだった。





    🎹    🎹    🎹





あの後、旅館に戻って、志満さんにタマゴの落とし物があったこと、探している人がいないかを訊ねたけど、


志満「──……少なくとも、この旅館には心当たりのいる人はいなかったわ……」


宿泊客に確認を取ってくれた志満さんからは、そんな回答が返ってきた。

この旅館の前の浜辺で拾ったから、誰か知っている人がいないかなと思ったんだけど……。


美渡「志満姉~、役場にも確認してみたけど、タマゴの落とし物探してるみたいな届け出はなかったよ~」


そんな風に志満さんに報告をしているのは、先ほど話に聞いた、千歌さんのもう一人のお姉さんの美渡さんだ。


志満「ありがとう美渡。……っていうことで、私たちにはそのタマゴのことはちょっとわからないわね……」

侑「そうですか……ありがとうございます」

歩夢「どうしようか、そのタマゴ……」

侑「う~ん……」


誰か落とした人がいるならその人に返したいけど……。


美渡「誰も持ち主が居ないなら、貰っちゃってもいいんじゃないかな?」

侑「え、でも……」

美渡「もしかしたら、誰かの捨てたタマゴとかなのかもしれないし……」

志満「こら、美渡! 滅多なこと言わないの!」

リナ『……でも確かに、その可能性はある。強いポケモンを厳選する人の中には余らせたタマゴを捨てちゃう人もいないわけじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「タマゴって……ポケモンみたいに“おや”はわからないの?」

リナ『タマゴは生まれたときに、一番近くにいた人が“おや”になる。だから、まだ“おや”と呼ばれる人間は決まってない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

美渡「それに、タマゴは元気なトレーナーと一緒にいないと、孵化しないって言うしさ……警察とかに届けて持ち主が現れるのを待つのもありだけど……その間ずーっとタマゴのまま待ち続けるのも、気の毒だなって思うし」

志満「それはまあ……そうねぇ……」

侑「うーん……」


……普通に考えたら、もともとタマゴを持っていた人が居て、なんらかの理由で落としちゃったとかな気がするけど、


侑「…………」


私は何故か……理由はうまく説明できないけど、このタマゴはそういうものではない気がした。

このタマゴは──私を呼んでいた気がする。

少し考えたけど、


侑「……わかりました。私、このタマゴ、育ててみます」


……私はこのタマゴを、受け取ることにした。


歩夢「侑ちゃん、いいの……?」

侑「うん。もし、持ち主を探すにしても……タマゴのままじゃ、他のタマゴと見分けも付かないし……生まれてきたポケモンを見てから探した方がいいだろうしさ」


仮に落とし主がいるんだとしても、生まれてきたポケモンの種類を見れば、タマゴのままの状態よりは探す手がかりも見つけやすいだろうしね……。


美渡「うん、そうしな。一応、タマゴを探してるみたいな人が居たら、連絡はしてあげるからさ」

侑「はい、ありがとうございます」

志満「侑ちゃんたちがそれでいいなら、私はいいんだけど……」


こうして私たちは、ウラノホシの町でせつ菜ちゃんと出会い、そして……ふしぎなタマゴを拾うことになった。

……一体、このタマゴ……どんなポケモンが生まれてくるんだろう……?




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウラノホシタウン】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
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  ||.       /.         回 .|     回  ||
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  ||. /              o●/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.36 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.32 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.33 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.27 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.27 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.22 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎹



──暗い部屋にいた。


 「んー? 今日の──は甘えん坊だなぁ~」

 「…………」

 「じゃあ、──が寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」

 「うん……」


なんだか……幸せな光景を見ている気がした。

私も嬉しかった。


 「……私は──突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」


そうじゃないと──お父さんとお母さんが……報われないから……。

そんな声が……頭の中でぼんやりと木霊していた……。



 「ニャァ…」



──
────
──────


侑「……んぅ…………」


ぼんやりと目を開ける。


侑「…………」


また、変な夢を見た……なんなんだろ……。

……まあ、夢に意味を求めてもしょうがないんだけどさ。

頭を掻きながら、枕元を見ると、


 「ニャァ……zzz」


ニャスパーが眠っていた。


リナ『侑さん、おはよう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「おはよう……リナちゃん」

リナ『今日は朝一でメールが届いてたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「メール?」

リナ『凛さんから』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「! 凛さんからってことは……!」

リナ『うん! ジム戦の日取りが決まったみたい! 明日ホシゾラジムで待ってるって!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「明日……!」


ついに、再戦の時が来たということだ。

ホシゾラまでは1日もあれば十分戻れるから、今日は移動になるだろう。


歩夢「……んぅ……侑ちゃん……?」


リナちゃんと話していると、隣の布団で寝ていた歩夢も、目を覚ましたようだ。


侑「あ、おはよ、歩夢。ジムの再戦の日取り、決まったよ!」

歩夢「え、本当に!?」

侑「うん! 明日、ホシゾラジムで待ってるって! 急いで戻らないとだね」

歩夢「うん!」


変な夢のこともすっかり忘れて、私は朝から、ジムへの闘志で心を燃やすのだった。


………………
…………
……
🎹


■Chapter032 『ジグザグジグザグドッグラン?』 【SIDE Kasumi】





──朝。コメコの森のロッジ。


しずく「それでは、行ってまいります」

かすみ「お世話になりました! 彼方先輩! ご飯すっごくおいしかったです!」


私はしず子と一緒に、お世話になった彼方先輩たちへお礼交じりに挨拶をする。


彼方「ふふ、またいつでもおいで~。次も腕によりをかけてご飯作ってあげるから~」

遥「お身体にお気をつけて……」

穂乃果「二人とも、無茶しちゃダメだよ~?」

千歌「何かあったら、いつでも連絡してね!」

しずく「はい、ありがとうございます」


ロッジの皆さんの送り出しの言葉にしず子が深々と頭を下げる。

この短い数日の間に、いろいろあったもんね。

かすみんもそれに倣って、ぺこっとお辞儀します。


かすみ「……さて、それじゃいこっか!」

しずく「うん!」


さぁ、冒険の旅の再開です!





    👑    👑    👑





さて、ロッジを颯爽と旅立った、かすみんたちが次に向かう先は──


かすみ「……わぁ~!! 広~い!」


眼前に広がる、広大な草原。

いわゆる都会で育ってきた、かすみんたちからしてみると、こんなに広い草原はほとんど見たことがない。

そんなここは──コメコシティとダリアシティを繋ぐ4番道路。通称『ドッグラン』です!

これだけ広々としていると、かすみんも開放的な気持ちになっちゃいますね!

ただ、そんなかすみんよりも、


しずく「──見て見てかすみさん!! ヨーテリーとハーデリアの群れだよ! あ! あっちにはガーディ!」


しず子は、さらにテンションが高かった。目をキラキラさせながら、かすみんの腕をぐいぐい引っ張ってくる。


かすみ「し、しず子~そんなに引っ張らないでよ~」

しずく「あそこでボールを追いかけてるのは、ワンパチだよ! ワンパチはね、“たまひろい”って特性で、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ! ……私もボールを投げたら、取ってきてくれるかな」


聞いてないし……。言うまでもなく、普段しず子のテンションがここまで高くなることはそんなにない。

ただ、理由ははっきりしています。


かすみ「しず子ってホントに犬ポケモン好きだよね」

しずく「うん! だって、あんなに可愛いんだよ!? 誰だって大好きだよ!」


しず子は筋金入りの犬ポケモン大好きっ子なんです。


 「イヌヌワンッ!!」
しずく「見て見てかすみさん! ワンパチがボール拾ってきてくれたよ!」

かすみ「うんうん、よかったね、しず子」


何はともあれ、しず子が楽しそうで何よりです。

大丈夫だとは言われているけど、しず子は病み上がり。

かすみん、これでも結構気を付けて見ていたんですけど……これだけ元気なら本当に大丈夫そうですね。


しずく「ほーら、とっておいでー♪」
 「イヌヌワンッ!!」


しず子が再びボールを放り投げると、ワンパチがそれに向かって駆け出す。

……野生ポケモンなのに、ここまで野生を忘れていると、ちょっと心配になりますね。

ボールを追いかけるワンパチを目で追いかけていると──そのワンパチの目指す場所に人影があることに気付く。


かすみ「あれ? あの人って……」


その人影には見覚えがあった。

青みがかった黒髪をウルフカットにしている、女性の後ろ姿──


しずく「!? も、もしかして──果林さんじゃないですか!?」

果林「?」


しず子の声に気付いて、果林先輩が振り返る。


果林「あら、貴方たちは……」


かすみんたちの姿を認め、こちらに近付いてくる。


果林「一週間振りくらいかしら? 確か……しずくちゃん、だったわよね?」

しずく「はい! 名前、覚えていてくださったんですね! でも、どうして果林さんがここに……お仕事ですか?」

果林「今日はオフよ」

かすみ「じゃあ、なんでこんなところに……?」

果林「こんなところなんて言ったら、コメコの人に怒られるわよ。えっと……貴方は……」

かすみ「かすみんは、かすみんです!」

果林「かすみんちゃん……? 変わった名前ね……?」

かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんはかすみん──」

しずく「えっと、ごめんなさい! この子はかすみさんって言うんです!」

果林「ああ、なるほど……そういうことね」


果林先輩は納得したように、片手を顎に当てて、小さく頷いて見せた。


かすみ「それで、どうして果林先輩はドッグランにいるんですか?」

果林「ああ、えっとね……ちょっと友達と待ち合わせしてるところで……」


果林先輩が言いかけた矢先、


 「──果林ちゃ~ん!」


彼女の名前を呼びながら、コメコ方面から駆け寄ってくる女の人の姿。


果林「ああ、言ってる傍から来たみたい」

エマ「──おはよう、果林ちゃん!」

果林「おはようエマ」

エマ「ごめんね、待たせちゃったみたいで……」

果林「大丈夫よ、私もさっき着いたところだから」


赤毛を三つ編みおさげにしている青い目の女の人──果林先輩が待っていたこの人は、エマ先輩というらしい。


エマ「えっとあなたたちは……果林ちゃんのお友達?」

果林「前、コンテスト会場で見に来てくれた子たちよ」

エマ「あ、もしかして果林ちゃんのファンの子ってことかな?」

しずく「は、はい!」

かすみ「まあ、かすみんはそいうわけじゃ……」

しずく「か、かすみさん……! 本人の前でそんなこと……!」

果林「別にいいわよ。そんな気を遣わなくても」


慌てるしず子とは裏腹に、当人は涼しい顔をしている。なんか随分サバサバしてる人ですねぇ……。


エマ「コンテストってことは、フソウからここまで……? でも、この辺りでは見たことないし……もしかして旅人さん?」

しずく「あ、はい」

かすみ「何を隠そうかすみんたちは──ポケモン図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出た、選ばれしトレーナーなんですよ~」


かすみんは胸を張って自慢します。ポケモン図鑑の所有者に選ばれたトレーナーなんて、どこにでもいるわけじゃないですからね!

さぞ珍しがって、敬って貰えるかと思ったんですが、


エマ「あ! もしかして、歩夢ちゃんと侑ちゃんのお友達なのかな!?」


全然珍しがって貰えていませんでした。


しずく「侑先輩たちをご存じなんですか!?」

エマ「うん! 二人もちょっと前にコメコに来たんだよ!」


……考えてみれば、侑先輩たちはかすみんたちと逆回りでホシゾラシティまで辿り着いていたわけですから、コメコに知り合いが居てもおかしくないですね……。


エマ「わたしはエマ、よろしくね♪」

かすみ「あ、えっとかすみんは──」

しずく「こちらはかすみさんです。私はしずくと言います」

かすみ「ちょっとぉ!! 人の自己紹介、邪魔しないでよぉ!!」

しずく「だって、どうせ私が訂正する羽目になるし……」

かすみ「むー……」

エマ「かすみちゃんとしずくちゃんだね♪」


嬉しそうに笑いながら握手を求めてくるエマ先輩。

果林先輩とは真逆で、フレンドリーな人ですね~。

一方で、件の果林先輩は、


果林「……へー……貴方たちが、図鑑所有者……」


かすみんたちのことをジロジロと観察していた。


かすみ「ちょ……な、なんですか……」

果林「あら、ごめんなさい……図鑑所有者と聞いて、少し興味が湧いちゃって」

かすみ「……へー、果林先輩もそういうの気になるんですね。いいですよいいですよ! 好きなだけかすみんを見てください!」


注目されているって言うなら満更でもない。かすみんは思わず得意になって、胸を張ってしまいます。


果林「しずくちゃん、貴方、図鑑所有者だったのね……」

しずく「え、あ、は、はい……///」

かすみ「もう、こっち見てない!?」


なんなんですか、期待させておいて……! ぐぬぬ……!

このかすみんを適当にスルーした癖に、果林先輩は、


果林「……」

しずく「あ、あの……果林さん……ち、近くないですか……?///」


しず子の顔を覗き込むようにして、じっくりと観察している。


果林「……ふふ、そう」

しずく「か、果林さん……?///」


果林先輩は一人で勝手に納得したように笑う。


果林「良い目になったわね、しずくちゃん」

しずく「そ、そうですか……?」

果林「ええ。……真の美を理解したような目になったわ」

しずく「し、真の美……ですか……?」


果林先輩の言葉にきょとんとするしず子。

……ってか、


かすみ「ホントに近いですよ!! 近すぎます!! 離れて離れて!!」


なんかちゃっかり、しず子の顎に手を添えて、顔を覗き込んでるし!

二人の間に割って入るようにして、引きはがす。


果林「あら、ごめんなさい」

しずく「……///」

かすみ「しず子も何、満更でもなさそうな顔してんの!」

しずく「だ、だって……///」


しず子にとっては憧れの人みたいだし……わからなくはないけどさぁ。


エマ「ところで、二人はこれからドッグランを抜けてダリアに行こうとしてるのかな?」

しずく「あ、はい。そのつもりです」

エマ「だったら、ちょっと気を付けた方がいいかも……」

かすみ「気を付ける? 何をですか?」

果林「今ドッグランは、野生ポケモンの縄張りがちょっと不安定らしいわよ」

かすみ「縄張りが不安定……?」

エマ「もともと犬ポケモンって、それぞれしっかりとした縄張りを持ってて、お互いがそれに干渉しないようにしてることが多いんだけど……最近ラクライの群れの縄張りが不安定みたいで……」

果林「それで、一旦それを落ち着かせるために、エマが駆り出されたってわけ。私はその手伝い」


果林先輩はそう言いながら、腕を組んで肩を竦める。

まさにそのとき、遠方の雲がピカっと光る。


かすみ「あれ、雷ですか……?」


かすみんがそう訊ねる頃に──ゴロゴロと音が聞こえてくる。


しずく「……2~3kmくらい先ですね」

エマ「うん。今はあの辺りにいるみたいだね」


しず子の言葉にエマ先輩が頷いた。


かすみ「なんで、わかるの……?」

しずく「光は音より速いから、秒数を数えればなんとなくの距離がわかるんだよ」

かすみ「……ふーん……?」


なんかよくわからないけど、そうらしい。


果林「場所がわかったのはいいけど……こんなこと、わざわざエマがどうにかするようなことなのかしら……?」

エマ「あのね、ドッグランはコメコの人が昔から管理してきた場所なんだよ。だから、コメコの一員として、ドッグランの平和を守るのも私の仕事だよ!」

果林「そう……まあ、エマがそれでいいならいいけど」

エマ「それにラクライ以外にも、変な子が紛れちゃってるらしいし……そっちの対策もしないと……」

かすみ「変な子?」

エマ「えっとね……最近ドッグランにもともといなかったポケモンを間違って逃がしちゃった人がいるらしくって……」

しずく「確かドッグランは保護区域だから……特定の種類のポケモン以外は逃がしちゃいけなかったはずですよね」

かすみ「ええ? じゃあ、犬ポケモンたちの中に猫ポケモンが紛れちゃってるみたいな……?」

エマ「確認されてる子は一応犬ポケモンなんだけど……もともとここにはいない犬ポケモンだったの。だから、間違えちゃっただけだと思うんだけど……」

果林「だから、そういう本来いない種類の子たちを捕まえるのも、コメコの人たちの仕事の一つらしいわ」

かすみ「へー……そうなんですね」

エマ「そういうことだから、二人とも、ここを抜けるなら気を付けてね」

しずく「はい、ありがとうございます」


この場所を維持するのも大変なんですねぇ……。


果林「それじゃ、早く終わらせちゃいたいし、私たちも行きましょ、エマ」

エマ「うん、そうだね! それじゃあね、二人とも」


エマ先輩が手をふりふりしながら、ドッグランを奥の方へと歩き出す。

そして、その後に付いていくように果林先輩も、歩き出しながら──振り返る。


果林「……それじゃあ、またどこかで会いましょう」


果林先輩は最後にそう残してから、エマ先輩と行ってしまった。


しずく「また、どこかで……えへへ……」

かすみ「ちょっとしず子、何ニヤニヤしてんの」

しずく「べ、別にニヤニヤなんかしてないもん……」


しず子がぷくっと頬を膨らませる。

全く、こんなに可愛いかすみんが傍にいるのに、ちょ~っと果林先輩がリップサービスしただけで、チョロチョロなんですから……。





    👑    👑    👑





果林先輩たちと別れたあと、かすみんたちはのんびりとドッグランを進んでいるところです。


 「──クマァ♪」
かすみ「わぁ♪ ジグザグマ、また拾ってきたんですね、偉いですよ~♪」

しずく「今日はたくさん拾ってきてるね?」

かすみ「平原が広がってるから、見つけやすいのかな?」


この穏やかでだだっ広い場所だからか、今日はジグザグマの“ものひろい”が絶好調です。


かすみ「この調子でたくさん集めようね~♪」
 「クマァ♪」


ジグザグマから受け取った“げんきのかけら”をバッグに押し込む。


しずく「まだ集めるの……? もうかすみさんのバッグ、パンパンだけど……」

かすみ「手に入れられるものは手に入れておいて損はないの!」

しずく「でも、そこまでパンパンだと逆に物が取り出しづらくない? 少し間引いた方が……」

かすみ「ダメ! せっかく、ジグザグマがかすみんのために拾ってきてくれたものなんだから、全部かすみんが使うの! それに『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「それを言うなら『備えあれば憂いなし』ね……。あと『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉もあるんだけど……」

かすみ「ふーんだ、そんなこと言うしず子には、後で必要になっても分けてあげないんだから」


口うるさいしず子に言い返しながら、バッグを背負おうとした、その時──かすみんの足元を、猛スピードで何かが通り過ぎた。


かすみ「わっ!?」


急なことに驚いて、足がもつれる。そしてその拍子に、重いバッグが重力に引っ張られて、かすみんは後ろ向きにひっくり返る。


しずく「か、かすみさん!? もう、言わんこっちゃない……!」

かすみ「いたた……今何かが足元を……」


頭を上げて、何かが通り過ぎて行った方向に目を向けると──白と黒の縞模様をした細長いポケモンが、長い舌を見せながらこっちを見つめていた。


かすみ「……何あいつ……?」

しずく「……もしかして、ガラルマッスグマ?」

かすみ「マッスグマって……ジグザグマの進化系だっけ」

しずく「うん、そうなんだけど……あれはガラルの姿で、本来ドッグランには普通の姿のマッスグマしかいなかったはず……」

かすみ「じゃあもしかして、エマ先輩が言ってた変な子って……」

しずく「たぶん、ガラルの姿のマッスグマを逃がしちゃった人がいたってことじゃないかな……」


そんな話をしている間に、マッスグマはかすみんたちに背を向けて、猛スピードで走り去っていく。


かすみ「なんか、ガラルのマッスグマはずいぶんと凶悪な顔をしてるんだね……」

しずく「あくタイプが加わってて、こっちのジグザグマやマッスグマと比べると凶暴だって言うからね……」

かすみ「ふーん……」


それにしても、なんで急にかすみんのこと転ばせてきたんだろう。

それ以上、何か攻撃してくるでもなく、そのまま走って行っちゃったし……。

……まあ、いいや。

かすみんは起き上がって、周囲を伺います。

すると、転んだ拍子にバッグから散らばってしまった、アイテムの数々。


かすみ「……盛大に散らばっちゃった……」


落ちたアイテムを拾おうとした、瞬間──手を伸ばしたアイテムが目の前から掻き消えた。


かすみ「……へ?」


びっくりして顔を上げると──ジグザグマが居た。

でも、かすみんのジグザグマじゃない。

白と黒の──さっきのマッスグマと同じような色をしたジグザグマ。

それも1匹じゃない。2匹、3匹、4匹──いや、10匹はいる。

しかも……全員、今しがたかすみんが落としたアイテムを咥えている。


かすみ「ち、ちょっと! それかすみんのですよ!」

 「グマグマ」「ググマー」「グママ」


かすみんが声をあげると、ジグザグマたちは散り散りになりながら、アイテムを持ち逃げしていく。


かすみ「こ、こらー!? 泥棒ー!?」

しずく「あれ全部ガラルジグザグマ……!? もしかして、さっきのマッスグマの子分……!?」

かすみ「んな……じゃあ、もしかしてかすみんを転ばしたのって……」

しずく「た、たぶん、最初から転んで散らばった“どうぐ”を奪うため……」

かすみ「むっかー……!! 寄ってたかって人の物を奪うなんて、許せません……!!」
 「クマァ」

かすみ「行くよ、ジグザグマ! 絶対取り返してやるんだから!!」
 「クマァ!!」


かすみんは怒り心頭、白黒のジグザグマたちを追いかけて、駆け出します。


しずく「あ、ちょっとかすみさん! 待ってってばー!?」



    👑    👑    👑





かすみ「むむむ……どこに行きやがりましたか~……」

しずく「行きやがったって……まだそんなにたくさんあるんだから、ちょっとくらい良いんじゃない……?」


しず子はかすみんのバッグを見て、そんなことを言う。


かすみ「ダメ! これは、せっかくジグザグマが頑張って拾ってきてくれたものなんだから! それに……」

しずく「それに?」

かすみ「まんまと奪われたままなんて、悔しいじゃん!」

しずく「……はぁ……。わかった……私も取り戻すの手伝うよ」

かすみ「ホントに!? やっぱ、しず子わかってる~!」

しずく「わかってるというか、諦めてるだけだけど……。でも、どうやって探すの? 見失っちゃったけど」

かすみ「それを今考え中なの!」


最初は足跡を追えばいいかなと思っていたんだけど……ジグザグマたちは逃げている間も好き勝手ジグザグに走るせいか、逆に居場所を特定しづらい。


しずく「ジグザグマたち、結構逃げなれてる感じがするね……足跡を大量に作ってるのも、わざと攪乱するためなのかも」

かすみ「姑息な奴らですねぇ……!」


こうなったら、足跡を虱潰しに追うしかない……?

頭を抱えていると、


 「クマ」


かすみんのジグザグマが足跡をくんくんと嗅いだあと、


 「クマ」


とてとてと先に向かって歩き始める。


かすみ「もしかして、においで追える?」
 「クマァ」

かすみ「さすが、かすみんのジグザグマです! あのガラルのジグザグマたち、すぐに追いついてやりますからね!」
 「クマ」


ジグザグに歩きながら、においを追って進むジグザグマを追いかける。

気付けば、徐々に草原エリアから外れて、ちょっとした林のようなエリアに入ろうとしていた。


しずく「……ジグザグに進むからか、進みが遅いね……」

かすみ「ま、まあ……ジグザグマだし……。マッスグマよりも可愛げあっていいじゃん!」

しずく「別に悪いとは言ってないけど……」


確かに探し物をしているときは真っすぐ目的に向かって進んでくれたら嬉しいけど……これが、ジグザグマの可愛いところでもあるわけだし。


しずく「……そういえばさ」

かすみ「なに?」

しずく「かすみさん、ジグザグマの進化、キャンセルしてるよね?」


──進化のキャンセルとは、書いて字のとおり、進化をさせずそのままの姿にしているということです。

自分のポケモンの進化タイミングでポケモン図鑑にあるボタンをぽちっと押すと、進化させない電波が出るらしく、それで進化前の姿を維持できるんです。


しずく「進化させないの?」

かすみ「んー……進化させちゃうと可愛くなくなっちゃうし……」

しずく「そうかな? 私はマッスグマも愛嬌ある顔してると思うけど」

かすみ「うーん……」


マッスグマは見たことあるけど……かすみん的には少しシャープすぎるなぁって思うんですよね。

ただ──なんとなく、しず子の顔を見る。


しずく「……? どうかした?」

かすみ「……なんでもない」


穂乃果先輩に言われたように、かすみんたちはウルトラビーストに襲われる可能性がある。

なら、少しでも進化した方が強くなれるのかな……なんて思うけど……。


かすみ「……やっぱ、今はジグザグマのままでいい」

しずく「そう?」


かすみんはやっぱり可愛いポケモンたちに囲まれていたいんです──まあ、もうすでになんかそれっぽくない手持ちもいる気はしますが……。

もちろん、どうしても進化の必要性を感じたら、進化させることもあるかもしれないけど……それは今じゃない気がする。


しずく「まあ、進化させない方が育ちも速くなるし、かすみさんがそうしたいなら、それでいいと思うよ」

かすみ「うん」


林の中を、結構奥の方へと進んできたと思う。

そんな中、においを嗅いでいるジグザグマの動きに変化があった。


 「クマ…」

しずく「ジグザグマ、さっきから行ったり来たりしてるね……?」

かすみ「ジグザグマ、どうかしたの?」

 「クマ」


ジグザグマは困ったように周囲をキョロキョロとしている。


しずく「においがここで途切れちゃってるのかな……?」

かすみ「えーでも、なんもないし……」


さっきまで順調だったのに、急ににおいが途切れるものなんだろうか。

すると、ジグザグマは、


 「クマ」


地面に鼻をこすりつけながら、そこを掘り返し始める。

すると──黄色いキラキラとした欠片のようなものが顔を出す。


しずく「! “げんきのかけら”……!」

かすみ「もしかしてこれ、かすみんたちの!? やりました! 取り返してやりましたよ!」

しずく「いや待って……なんでこんな場所に埋まってるの」

かすみ「へ?」


考えてみれば……なんでせっかく盗ってきた物を埋めちゃうんでしょうか。

しかも、集めて埋めてるわけでもなくて、これ1個だけ……。


かすみ「まるで見つけてくださいとでも言ってるような……」

しずく「……たぶん、そういうことだよ、かすみさん」


そう言いながら、しず子がかすみんの背中に、自分の背中を合わせてくる。


かすみ「え、なになに? どういうこと?」

しずく「周り……見て」

かすみ「え?」


しず子に言われて気付く。周囲の木々の影に──


 「グマ」「グマァァ…」「ジグザ…」


白黒のジグザグマの姿が見切れていた。

その数、5匹……10匹……いや、


かすみ「な、なんかものすごい数いない……?」


さっきかすみんの道具を持ち逃げしていった子たちの倍以上……20匹以上はいる気がする。


かすみ「か、完全に囲まれてる……もしかして……」

しずく「……私たち……まんまと誘い込まれたみたい」

かすみ「え、ヤバイじゃんそれ!?」


かすみんが声をあげた瞬間、


 「グマッ」「グマァッ!!!!」「グママ!!!」


ジグザグマたちが四方八方から一気に飛び掛かってきた。


かすみ「わぁ!? こっち来た!?」

しずく「く……! 出てきて、キルリア!! マネネ!!」
 「──キル!!」「──マネネッ!!」

しずく「キルリア! “チャームボイス”!!」
 「キル~~♪」

 「グマッ!!?」「グザグザッ!!」「ザグマァッッ!!!」


しず子のキルリアが音波攻撃で飛び掛かってくるジグザグマたちを吹っ飛ばす。


かすみ「し、しず子、どうしよう!?」

しずく「とにかく逃げるしかないよ!! かすみさんもポケモン出して!!」

かすみ「えぇ、盗られたかすみんの“どうぐ”は!?」

しずく「言ってる場合!?」


ちょっと口論している間にも、次のジグザグマたちが飛び掛かってくる。


かすみ「ジ、ジュプトル! “シザークロス”!!」
 「──ジュプトッ!!!」

 「グマッ…!!!?」「グマァッ!?」


ジュプトルを出して、飛び掛かってくるジグザグマを撃ち落とすけど──数が多い。

倒しても倒してもどんどん次が襲い掛かってくる。


かすみ「ぐぬぬ……わかったよ、もう!! 逃げればいいんでしょ!!」

しずく「来た道を戻ろう!! 後ろは任せて! マネネ、“リフレクター”!!」
 「マネッ!!!」


マネネが背後に物理攻撃を防ぐ壁を発生させると、そこにジグザグマたちが衝突して、地面に落ちる。

その隙にかすみんは今来た道を塞ぐように群がっているジグザグマたちに向かって、


かすみ「ジュプトル!! “りゅうのいぶき”!!」
 「ジュプトォォォォ!!!!!」

 「グマ!!?」「ジグザググ!!!!」


攻撃を放って、道を開く。


かすみ「しず子!! 走るよ!!」

しずく「うん!」


しず子の手を取って、かすみんは走り出します。

その間にも四方八方からジグザグマたちが飛び掛かってきますが、


かすみ「“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル!!!!!」

しずく「“マジカルシャイン”!!」
 「キルゥッ!!!!」


どうにか、迎撃しながら突き進む。


しずく「マネネ! 振り落とされないようにね!」
 「マネッ」


全力で包囲網を突破すると──先ほどまで引っ切り無しに飛び掛かってきていたジグザグマたちの姿が見えなくなる。


かすみ「やった、群れを抜けた……!!」


が、安心するのも束の間、林の中を並走するようにして猛追してくる白黒の影、


 「マッスグ!!!!」「グマグマッ!!!」

しずく「今度はマッスグマ……!」

かすみ「もう勘弁してくださいよぉ!!」


両サイドから追ってくる2匹のマッスグマ。

樹々を縫うように、直角カーブを繰り返しながら、少しずつかすみんたちの方に幅寄せするように迫ってくる。


かすみ「は、挟まれる~……!! “エナジーボール”!!」
 「ジュプトッ!!!」


追い返すために、エネルギー弾を放ちますが、


 「グマグマグマッ」


相手が速すぎる上に、攻撃が樹に阻まれて、うまく撃退出来ない。


かすみ「そ、そうだ、しず子!! エスパータイプの技でどうにかしてよ!!」

しずく「ガラルマッスグマはあくタイプだから、エスパータイプは効果ないんだよ!!」

かすみ「そ、そんな~!!」


もう、とにかく走るしかない。必死に足を動かしていると──林の樹々の隙間から光が見えてくる。


かすみ「!! 出口……!!」


林から出てしまえば、その先は広い草原だ。

この視界の悪い林に比べたら、絶対に戦局も有利になるはず……!

かすみん、最後の力を振り絞って、全力でダッシュします。


しずく「かすみさん!! 前、なんかいる!!」

かすみ「へっ!?」


しず子に言われて視線を前に向けると──確かに、何かが立ち塞がっていた。

でも、咄嗟のことで反応しきれず、


かすみ「ぎゃんっ!?」

しずく「きゃぁっ!」


正面からソレに衝突して、かすみんはしず子ともども、すっ転んで尻餅をつく。


かすみ「いたた……」

しずく「かすみさん、大丈夫……?」

かすみ「しず子こそ、平気……?」

しずく「う、うん、でも……」


尻餅をついて蹲るかすみんたちの左右には、


 「グマグマグマッ」「マッスグゥッ」


ガラ悪く舌をベロりと出したマッスグマたち、


 「グマグマ」「ググマァッ」「ジグザグ」


そして、背後から追いかけてくるジグザグマたちの鳴き声。

さらに、かすみんたちがぶつかった前方の主は──


 「……グマァッ」


大きな体躯で立ち塞がり、見下ろしていた。

ガラルのマッスグマをさらに一回り大きくして、ゴツくしたようなポケモン……。


かすみ「な、なんですか……こいつ……」

しずく「た、タチフサグマ……」

かすみ「タチフサグマ……?」

しずく「ガラルマッスグマの進化系だよ……」

かすみ「し、進化系!? マッスグマってさらに進化するの!?」

 「──グマァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマはかすみんたちに向かって声を轟かせながら、威嚇してくる。


かすみ「う、うるさい……」

しずく「た、タチフサグマは大きな声で相手を威嚇するの……」


至近距離で叫ばれたせいか、頭がガンガンする。

でも、とにかく目の前のこいつをぶっ飛ばさないと、それこそ袋叩きにされる。


かすみ「ジュプトル……!! “リーフブレード”!!」
 「ジュプトォッ!!!!」


自慢の草の刃で切り抜けようと、縦薙ぎに振り下ろされた、“リーフブレード”は、


 「グマァッ!!!!」

 「プトルッ!!!!?」


タチフサグマが前方でクロスしている腕に防がれて、弾かれてしまった。


かすみ「んなぁ!?」

しずく「あれは“ブロッキング”……!」


タチフサグマは、弾き飛ばしてよろけたジュプトルに肉薄し、クロスした腕を開くようにして、“クロスチョップ”をジュプトルに炸裂させた。


 「ジュプトォッ…!!!」

かすみ「ジュプトル!?」


吹っ飛ばされるジュプトルをすかさずボールに戻す。


かすみ「あいつ強い……」

しずく「ごめん、かすみさん……」

かすみ「なんで急に謝るの……?」

しずく「まんまとタチフサグマのいる方に誘導されてた……私のせいだ……」

かすみ「しず子のせいじゃないって!!」

しずく「で、でも、このままじゃ……」

かすみ「だから、今考えてるの……!!」


背後からはすでにジグザグマたちが飛び掛かってきていて、マネネの張ってくれた“リフレクター”も限界までは時間の問題。

どうする? 後方のジグザグマたちをどうにか倒して逃げる? ……いや、また林の中に戻っちゃったら、マッスグマから逃げられない。

左右のマッスグマを振り切るのも、かなり難しそうだし……じゃあ、目の前のタチフサグマを倒す……?

かすみんの手持ちのエース、ジュプトルでも歯が立たなかった。

ゾロアでどうにか策を考える……? サニーゴで最悪相打ちを取るとか……いやでも、そもそも相性で負けてるし……。

必死で考えるけど、この場を切り抜けるビジョンがどうにも浮かんでこない。

そんな中でも、


 「グマァッ」


タチフサグマがこちらに向かって歩を進めてくる。

絶体絶命。

もう、どうしようもない……。


かすみ「しず子……」

しずく「な、なに……?」

かすみ「かすみんがあいつに突っ込むから、その間に脇を通り抜けて林を出て」

しずく「!? だ、ダメだよ!! そんなことしたらかすみさんが……!」

かすみ「もうこれしかないの!!」

しずく「嫌!! せっかく一緒にまた旅に出られたのに、かすみさんだけおいてなんかいけない!!」

かすみ「しず子、お願いだから……!!」

しずく「嫌!! 絶対に嫌……」


しず子がぎゅっとかすみんの袖を握ってくる。

眼前にはタチフサグマが迫る。

タチフサグマが大きく息を吸ったのが見えた。

かすみんはもうダメだって思っちゃって……目を瞑った。……そのときだった、


 「グマ──」
 「──クマァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマの雄叫びをかき消すように──大きな鳴き声が響き渡った。

この声は、ずっとかすみんの聞いてきた鳴き声。


かすみ「ジグザグマ……?」
 「クマァッ!!!!」


ジグザグマはかすみんの前に立って、自分の何倍もあるタチフサグマの前で、全身の毛を逆立てながら、威嚇していた。


かすみ「何やってるんだ……私……」


何勝手に諦めてるんだ……まだ、自分のポケモンは戦う意思を失ってないのに……。


かすみ「ジグザグマ……!! やるよ!!」
 「クマァッ!!!」

しずく「かすみさん!? 無茶だよ!?」

かすみ「無茶でも、ジグザグマがやる気なんです!! “ミサイルばり”!!」
 「クママママッ!!!!!」


逆立った体毛を飛ばして、タチフサグマを攻撃する。


 「グマ…」


タチフサグマは両腕を上げて防御。ダメージはあんまりなさそうだけど……。足は止まった。


かすみ「しず子!! ジグザグマとマッスグマ任せるから、とにかく時間を稼いで!!」

しずく「……! わ、わかった! やってみる……!」
 「キルッ」「マネネッ!!!」


周りの手下たちはしず子にどうにかしてもらう。

かすみんはとにかく、こいつを倒す……!

さっきから見ていると、タチフサグマはカウンター的な攻撃が得意らしい。

つまり、自分から積極的に攻撃してくるタイプではなさそうだ。


かすみ「なら、“はらだいこ”!」
 「クマ、クマ~」


ジグザグマは座るような体勢になって、ぽんぽことお腹を叩き始める。

自分を鼓舞して、攻撃力をフルパワーにする技です。

そっちから来る気がないなら、今のうちに準備を整えるまで、


 「グマ…!!」


ですが、相手も戦い慣れしているのか、すぐにこっちの思惑に気付いて、走り出す。

地面にいる小さなジグザグマを、両手でガッと抑えつけると──そのまま、自分もろとも後ろに転がり始める。


しずく「か、かすみさん!! “じごくぐるま”だよ!!」

かすみ「わかってる!! しず子は雑魚散らしに集中してて!!」


相手は見た目通り、近距離技主体のポケモン。

何かしら肉弾戦を仕掛けてくるのはわかっていたから、ここまでは想像の範疇。

あとは──タイミングを間違えるな。


 「ク、クマァァ」
 「グマァッ!!!!」


“じごくぐるま”は相手もろとも転がったのち、回転の勢いを使って相手を投げ飛ばし、地面に叩きつける技。

叩きつけられるその一瞬、


かすみ「今です!! “こらえる”!!」
 「クマァッ!!!!」


ゴッ!! と鈍い音を立てながら、地面に叩きつけられるジグザグマ。

ですが、どうにか攻撃を堪えて耐えきります。


 「グマァッ!!!」


もちろん、すぐに追撃しようと、タチフサグマは起き上がって、ジグザグマに向かって走り出しますが、


 「グ、マァッ!!?」


急にタチフサグマが痛そうな声を上げて怯んだ。


しずく「え!?」

かすみ「……痛いですよねぇ!! 足に鋭い欠片がぶっ刺さったら!!」

しずく「欠片……!? って、まさか……!?」


タチフサグマが痛そうに持ち上げた足の下には──黄色の輝く欠片が一つ。


しずく「“げんきのかけら”!?」


そう……! “じごくぐるま”を受けてる最中に、さっき拾った“げんきのかけら”を地面に突き立てて、即席の“まきびし”代わりにしたわけです!!

一発怯ませれば十分……!!


 「クマァッ!!!!」


今度は逆にタチフサグマの懐に飛び込んでやります。


 「グマッ!!?」

かすみ「かすみんたちのフルパワー!! 食らいやがれです!! “じたばた”!!!!」
 「クマクマクマァァァァァ!!!!!!」


ジグザグマはタチフサグマの懐に潜り込みながら、全身の硬い毛を擦り付けるようにして、激しく攻撃する。


かすみ「“こらえる”で体力もギリギリ!! しかも、“はらだいこ”でフルパワーになった最大威力の“じたばた”です!!」
 「クマァッ!!!」

 「グマァァッ!!!!」


全身をくねらせながら、硬い毛と爪と牙で無茶苦茶に攻撃しまくって、タチフサグマをぶっ飛ばす。


 「グマァッ…!!!」


見た目からは想像も出来ないようなパワーで吹っ飛ばされたタチフサグマは、樹に背中を打ち付けられて、ガクりと首を垂れたのでした。


かすみ「よっしゃぁ!! やってやりました!!」
 「クマァッ…」


が、喜びも束の間で、


 「マ、マネネェッ!!」
しずく「きゃぁっ!!?」


──パリンという何かが砕ける音と共にしず子の悲鳴。

“リフレクター”が破られた。


かすみ「……っ!?」


せっかく、タチフサグマを倒したのに、このままじゃ逃げ切れない。


かすみ「しず子……!!」


しず子に向かって飛び掛かるジグザグマたちがスローモーションに見えた。

視界の端では、マッスグマたちが“リフレクター”が壊れたことを認識して、飛び出そうと構えているのもわかった。

ダメだ。間に合わない。


かすみ「しず子ぉぉぉぉ!!!! 逃げてええええぇぇぇ!!!!」


叫ぶかすみん。だけど、しず子たちはもう逃げる余裕なんてなくて──白黒の毛むくじゃらがしず子たちに爪を立てようとした、瞬間、


 「──キュウコン! “ひのこ”!!」
  「コーーンッ!!!!!」


9つの火の玉が──飛び掛かってくるジグザグマたちをピンポイントで撃ち抜いた。


しずく「え……?」

かすみ「へ……」


突然の攻撃に驚いたのか、


 「グマッ!!?」「グママ、グマグマッ」「グマ、ググマッ!!!」


ジグザグマたちは一目散に逃げ出し始める。


かすみ「あ、そ、そうだ……! マッスグマは……!」

 「そっちも、大丈夫だよ」


優しい声と共に、


 「ワンワンッグルルルルッ!!!!!」


激しいうなり声をあげる、黄色と黒の犬ポケモン──パルスワンが視界に入る。その傍らにはすでに1匹仕留めたのか、マッスグマが伸びていた。

バチバチと牙の周りに稲妻を迸らせて、もう1匹のマッスグマを威嚇している。


 「グ、グマ…」


形勢が悪くなったと思ったマッスグマが逃げ出すと、


 「ワンッ!!!!!」


パルスワンは駆け出し、追いかけていく。

気付けば……あれだけいたジグザグマやマッスグマの群れは、1匹残らずいなくなっていたのでした。


かすみ「た、助かった……?」

 「大丈夫? 二人とも?」

 「このタチフサグマ、かすみちゃんがやったの? すごいわね、お姉さん、ちょっとかすみちゃんのこと見直しちゃったわ」


声の主の方へ振り返ると──先ほどのお姉さんたちの姿。


しずく「果林さん!!」

かすみ「エマ先輩ぃぃぃ!!」

エマ「二人とも、怪我してない?」

果林「怪我の手当てもいいけど……一旦、林から出ましょうか。ここだと見晴らしが悪いわ」


エマ先輩と果林先輩の助太刀によって、どうにか窮地を脱したのでした。




    👑    👑    👑





かすみ「パルスワン……戻ってきませんけど……」

エマ「パルスワンは三日三晩走っても大丈夫だから、疲れて動けなくなったマッスグマをちゃんと捕まえて戻ってきてくれるはずだよ」

果林「スピードでもマッスグマに負けてないしね」


エマ先輩の言葉に、果林先輩がそう補足する。


果林「それにしても、タチフサグマの雄叫びが聞こえて向かってきたら……貴方たちが戦っているんだもの。驚いたわ」

しずく「危ないところを助けていただいて……ありがとうございました……」

エマ「こっちこそごめんね……こんな場所に縄張りを作ってたなんて知らなかったから……」

しずく「あのガラルジグザグマたちが、本来ここにいないポケモン……ということですよね」

エマ「うん! だから、全部捕まえちゃうつもり!」

果林「って言っても、ボスはかすみちゃんが倒してくれたから、まとまりのなくなったジグザグマたちを捕まえるくらいならわけないと思うわ」


そう言いながら、果林先輩は今しがた捕獲した、タチフサグマの入ったボールをエマ先輩に手渡しながら言う。


エマ「ちょこちょこ草原エリアで目撃情報はあったんだけど……巣や縄張りがわからなくて捜索にずっとてこずってたんだ……。でも、二人のお陰で、どうにか全部捕まえられそうだよ~。ありがとう」

かすみ「とりあえず……もう当分あんなのとは戦いたくないです……」

果林「ふふ、ジャイアントキリングだったものね」


そう言いながら、果林先輩がかすみんのジグザグマに視線を落とす。


果林「早速、その経験が反映されそうだけど?」

かすみ「え?」


言われてジグザグマを見ると、ジグザグマがぶるぶると震えていた。

進化の兆候だ。


かすみ「いけないいけない……!」


かすみんは図鑑を取り出して、キャンセルボタンを押す。


果林「あら……進化キャンセルしちゃうの?」

かすみ「はい! かすみんたち……まだしばらくはこのままでいいかなって」
 「クマ」

かすみ「この姿でも工夫次第で戦えること、わかっちゃいましたから!」
 「クマァ♪」


だから、進化はもうちょっと先でいいかな? いつか、本当に力が必要になったときまで、進化はお預けです!


エマ「二人はこのまま、ダリアに行くんだよね?」

しずく「はい、そのつもりです」

エマ「それじゃ、ドッグランを抜けるまで付き合うね! って言っても……他にはそんなに好戦的なポケモンはいないと思うけど……」

かすみ「助かりますぅ……かすみんもう結構くたくたなんで」


万が一にも、もうバトルはしたくない。

何かあったらエマ先輩たちに戦ってもらいましょう……。


果林「それじゃ、早く行きましょう。日が暮れちゃう前にエマを家まで送りたいし」

エマ「果林ちゃーん! そっちは、コメコ方面だよー!!」

果林「……わ、わかってるわよ……/// まだジグザグマが残ってないか確認しようとしただけ……///」

かすみ「……バトルもコンテストも強くて、スーパーモデルなのに……方向音痴……」

果林「……あら、何か言ったかしら~?」

かすみ「ぴぇ! な、なんでもないですぅ~! 早く行きましょう~!」

果林「全く……」


ぞろぞろとダリア方面へと歩き出す。


かすみ「……あれ?」

しずく「どうしたの? かすみさん?」

かすみ「何か忘れてるような……」


そもそも、何か目的があって、ジグザグマたちを追いかけてたんじゃないっけ……。


かすみ「あっ!! 盗られた“どうぐ”!!」

しずく「もう、諦めよう。本当に日が暮れちゃうよ」

かすみ「そ、そんなぁ~……かすみんたち頑張ったのにぃ……」

エマ「ジグザグマたちを捕獲するときに見つけたら、かすみちゃん宛てにポケモンセンターに届けておくよ」

かすみ「うぅ……そうしてくれると助かりますぅ……。ジグザグマ、また頑張って集めようね……」
 「クマァ♪」


傾き始めた日が照らす中、落ち込むかすみんとは対照的に、ジグザグマは尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに鳴き声をあげるのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  ●|          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.31 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.25 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.30 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.23 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:130匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.21 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.20 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.20 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.20 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.22 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:139匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👏



──コメコシティ・DiverDiva拠点。


姫乃「──姫乃、戻りました」

愛「あれ? 姫乃っちじゃん」


声に振り向いてみると、姫乃っちの姿があった。

この子は大抵カリンの企み事に付き合って、地方中を行ったり来たりしているから、こうして拠点で会うのは珍しい。


姫乃「はい、今は果林さんから特に指示もないので……一度拠点に顔を出そうかと思って……」


そう言いながらしきりにキョロキョロとしている姫乃っち。


愛「カリンならいないよー」

姫乃「そうなのですか……?」


露骨に残念そうな顔をする。


姫乃「して……果林さんはどちらへ?」

愛「カリンなら、今エマっちとドッグランにいるよ」

姫乃「は?」

愛「なんでも、ラクライの縄張りを元の場所まで引っ張るのをお願いされたんだとさー。自分で牧場側に呼び出す作戦立てておいて、よくやるよねー」

姫乃「ありがとうございます、愛さん。それでは行ってまいります」

愛「待った待った。どこ行くつもりよ」

姫乃「もちろんドッグランへ……」

愛「ダメに決まってるでしょ。ってか、カリンに怒られるよ」


姫乃っちはカリンが自由に動くために、外での接触タイミングはかなり限られている。

ましてや、エマっちとカリンが一緒にいるタイミングで出て行くなんて言語道断だ。


姫乃「……」

愛「愛さんに向かって、そんな不機嫌そうな顔されても困るんだけど」

姫乃「果林さんは、あの現地人と距離が近すぎます……」

愛「それは前にも聞いたし、カリンにも伝えたよ。でもまあ、しょうがないじゃん?」

姫乃「愛さんはいいんですか」

愛「何が?」

姫乃「果林さんがあの現地人にうつつを抜かしていても何も思うことがないと」

愛「やることやってくれてれば私はどっちでもいいんだよねー。それに──私はカリンに逆らえないし」


そうおどけながら、首輪をつまんで見せる。


姫乃「そうですか……まあ、貴方には期待していません」

愛「酷いこと言うねぇ、姫乃っち」

姫乃「そうですか? ご自分にどうして、そんな首輪が着いているかを考えればわかることでは?」

愛「……」

姫乃「……失礼。言いすぎました」

愛「ま、いいよ、別に」


まあ、姫乃っちからしたら、アタシは目の上のたんこぶみたいなもんだからね。

別にいちいち怒るようなことでもない。


姫乃「お詫びと言ってはなんですが……面白い情報を手に入れてきましたよ」

愛「面白い情報?」


姫乃っちが私にデータの入ったUSBを手渡してくる。

早速データを読み込むと──人物資料が入っていた。


愛「ナカガワ・菜々……? ……ローズのジムリーダーの秘書……?」


情報に適当に目を通していく。ローズのジムリーダーと言えばマッキーだけど……。


愛「……って、ずいぶん若いね」


16歳で、ジムリーダーの秘書……? トレーナーとしてはそれくらいで大成してる人はいくらでもいるけど……トレーナーとしての経歴もないし……。


姫乃「はい、私もそう思いまして。合間に調べていたんですが……面白い人物と結びつきまして」

愛「面白い人物……?」


画面を下にスクロールしていくと──その人物の情報があった。


愛「……マジで?」

姫乃「十中八九、間違いないかと」

愛「……なるほどね」


なるほどどうして……これは叩けば埃が出そうな話だ。


愛「いいね……カリン、こういうの好きだと思うよ」

姫乃「ありがとうございます。果林さんに伝えておいてください」


そう言うと、姫乃っちは背を向けて、拠点から出ていこうとする。


愛「カリンに会ってかないの?」

姫乃「私の役目は果林さんの役に立つことですから。また、何か情報を探してきます」


そう残して、姫乃っちは拠点から出て行ってしまった。


愛「真面目だねぇ」


思わず肩を竦める。

それにしても──


愛「これは……面白いことになるかもね」


私はモニターに映る人物の資料を見ながら、一人呟くのだった。



 「ベベノー」


………………
…………
……
👏


■Chapter033 『叡智の行き先?』 【SIDE Kasumi】





──ドッグランを抜けて、ダリアシティに着いた頃にはすっかり日も落ちていて……。

エマ先輩たちと別れた後はすぐに宿を探して、部屋に入った後は特に何をするでもなく寝てしまった。

……疲れていましたからね。

と、言うわけで、


かすみ「改めて……ダリアシティ、到着しましたよー!」


ホテルを出ると、すでに白衣を纏った人たちがちらほらと歩いているのが見える。


かすみ「博士がたくさんいるんですかね、この街は……」

しずく「当たらずとも遠からずかな。ここは学園都市だからね。きっと、あの人たちは研究者の人たちだよ」

かすみ「へー……」


かすみんからしてみると、好き好んで勉強をしているなんて、物好きな人たちって思っちゃいますけど……。


しずく「ところで、これからどうするの? やっぱりジム?」

かすみ「もちろん! ……と、言いたいところなんだけど」

しずく「……? かすみさんがジムに直行しないなんて珍しい……どこか行きたいところでもあるの?」

かすみ「行きたいところというか……新しい手持ちが欲しいんだよね」

しずく「新しい手持ち……? ジム戦に備えてってこと?」

かすみ「そゆこと!」

しずく「え……? 本当にそういうことなの?」

かすみ「何、その反応」

しずく「……もしかして、熱ある?」

かすみ「何!? その反応!?」

しずく「だって……行き当たりばったりなかすみさんが、ジム戦のために準備だなんて……」


なんて失礼なしず子なんでしょうかね。


かすみ「かすみんだって、準備くらいするもん! ……それに、ここのジムリーダーには絶対負けられないんですよ……」

しずく「ダリアのジムリーダーって言うと……にこさんだっけ」

かすみ「そう!! ヤザワ・にこです!!」

しずく「なんでフルネーム……」

かすみ「ヤザワ・にこと言えば、アイドルポケモントレーナーなんですよ!!」

しずく「ああ、うん。そうだね。テレビとかでも見ることあるよね」

かすみ「許せません!!」

しずく「……だから、何が?」

かすみ「かすみんとキャラが被ってるじゃん!!」

しずく「被って……るかな……?」

かすみ「だから、かすみん、ここのジムリーダーにだけはぜーったい負けたくないんですよ!!」

しずく「はー……だから、対策用のポケモンが欲しいのね」

かすみ「そういうこと! んで、しず子!」

しずく「今度は何?」

かすみ「ジムリーダーのタイプと相性の良いタイプ教えて!」

しずく「あ、そこは知らないんだ……」


しず子は呆れたように、肩を竦める。


しずく「えっと……にこさんのエキスパートタイプはフェアリーだね。となると……相性が良いのは、はがねタイプかな……」

かすみ「はがねタイプぅ~……? はがねタイプって、どこにいるんだろう……」

しずく「うーん……山岳地帯に多いイメージだけど……」

かすみ「えー山ぁ~? なんかもっと楽そうな場所にいないの?」

しずく「楽そうな場所って言われても……。……あ、そうだ」


しず子は何かを思いついたようで、ポンと手を叩く。


かすみ「なになに? 良い場所思い浮かんだ?」

しずく「うん! 良い場所思い浮かんだよ!」





    👑    👑    👑





──と、言うわけでやってきたのは……。


かすみ「野生ポケモン捕獲研究室……?」

しずく「ダリアにはたくさんの研究室があってね。野生のポケモンと捕獲についての研究室があったことを思い出したの」

かすみ「……で、ここがどうしたの?」

しずく「なんとね、ここの中では野生ポケモンが生息する環境が再現されていて、しかも、ここにいるポケモンを野生ポケモンと同様に捕獲していいことになってるんだよ!」

かすみ「え、ホントに?」

しずく「その代わり捕獲のときに使った技やボールとかは記録されるけどね。ここなら、はがねタイプも探しやすいかもよ」

かすみ「なるほど! しず子、冴えてる!」


かすみん、早速研究室にお邪魔します。


かすみ「失礼しま~す!」

室員「おおっ? 見ない顔だけど、見学者かな?」


入ると、いかにもな白衣を着て、眼鏡を掛けた人に出迎えられる。

──いかにもって言う割に、他の部分は赤髪を両サイドで縛っている、背の低い人で……ビジュアル的には本当にこの人研究者さんなのかなと思ったけど。


かすみ「はい! ここでポケモンを捕まえられるって聞いて!」

室員「カッカッカッ! 吾輩たちの研究室も随分有名になったものだな! ああ、確かにここでは自由に捕獲が出来るぞ」


……なんか、随分キャラが濃い人が出てきましたね。口調にやや面食らっていると、


しずく「はい。私たち、はがねタイプのポケモンを探してまして……」


しず子が事情の説明を始める。


室員「はがねタイプか……わかった、案内しよう」

しずく「はい、お願いします。かすみさん、行こう」

かすみ「あ、うん」


しず子は気にならないのかな……って思ったけど……まあ、研究者さんって変わり者が多そうだし、そういうものなのかも。

適当に自分を納得させつつ、案内された奥の部屋へと到着する。


室員「ここが、はがねタイプのポケモンがいるエリアだ。あとは自由に捕獲してくれたまえ」


そう言って、研究員の人は出ていこうとする。


かすみ「あれ? 記録する人とかいないんですか? 使った技とかボールとか記録するって聞きましたけど……」

室員「ああ、その辺は全てロボットが使用技やボールを判別するから、誰かが見て確認することはないんだ。吾輩たちも何かと忙しいからね。ただのデータ収集なら機械化してしまうに越したことはないしな」

かすみ「へ、へー……そうなんですね」


随分とハイテクですね……。確かに言われてみれば、そこらへんに観測機っぽいものがたくさんある。

なるほど、あれで技とかは判別するってことですね……。


室員「それに、自然環境では観測者は普通いないからね。少しでも野生捕獲を再現するためには必要なことなのだよ」

かすみ「な、なるほどー」

室員「それじゃ、後は好きに捕獲してくれたまえ」


そう残して、研究室の人は部屋を出て行ってしまった。


かすみ「……なんか、変わった人だった」

しずく「確かに独特の雰囲気ではあったね……」

かすみ「まあ、いいや……今は捕獲!」


新戦力拡充のためにも、案内された室内を見回す。

はがねタイプのために部屋の中を見回すと──どう見ても人工の研究室といった感じの室内だった。


かすみ「……? これのどこが自然再現なの……?」

しずく「あ、かすみさん、ここにこの部屋の解説掲示があるよ」


しず子に言われて、入り口のすぐ傍にある説明書きを見てみると、


かすみ「『無人発電所の環境再現』……?」


と書いてあった。


しずく「なるほど……。確かに無人の発電所とかには野生ポケモンが棲み付くって聞いたことあるかも」

かすみ「へー……はがねタイプってそういうところにいるもんなの?」

しずく「確かに人工物に棲み付くポケモンには、はがねタイプのポケモンもいたと思う」

かすみ「例えば?」

しずく「えーっと……コイルとか」

かすみ「コイルって……あの丸っこいやつだっけ」


かすみんは頭にコイルを思い浮かべる。

丸いボディに磁石をくっつけたような見た目のあのポケモン。

かすみんがぼんやりコイルを頭に思い浮かべている矢先、


しずく「あ……! 早速いたよ! コイル!」


早速コイルが機材の物陰から、浮遊して出てきた。

確かにかすみんの記憶通りのコイルです。

 『コイル じしゃくポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.0kg
  生まれつき 重力を さえぎる 能力を もち 電磁波を
  出しながら 空中を 移動する。 電線に くっついて
  電気を 食べ 停電の 原因に なることがある。』


しずく「どうかな、コイル。はがねタイプだし、結構可愛いと思うんだけど」

かすみ「う、うーん……確かに、可愛いと言えば可愛いけど……」

 「ビ、ビビ?」


コイルと目が合う。一つ目でジロジロとかすみんを観察していますが……。


かすみ「なんか……こういう可愛いじゃないというか……」

しずく「ええ……わがままだなぁ……」

かすみ「他! 他にいないかな!」


かすみん、とりあえずコイルは保留です。

まだ1匹目だし、せっかく捕まえるなら吟味したいもん!


しずく「あとは……あ、見て! ギアルがいるよ!」

かすみ「ギアル?」


しず子が指差す方に目をやると──歯車が2つ合わせたようなポケモンがいた。


かすみ「あれがギアル……」


 『ギアル はぐるまポケモン 高さ:0.3m 重さ:21.0kg
  2つの 体は 組み合わせが 決まっている。 別の 体とは
  噛み合わずに 離れてしまう。 大昔に ギアルを 見た
  人間が 歯車の 構造を 思いついたと 言われている』


しずく「あのポケモンもはがねタイプだよ。どう?」

かすみ「……」

しずく「あの表情とか可愛くない?」

かすみ「なんか、無機質な感じがする……」

しずく「……もう! かすみさん、文句ばっかり!」

かすみ「だって、かすみんの可愛いのイメージと違うんだもん! しょうがないじゃん!」

しずく「……はぁ。……じゃあ、どういう子がかすみんさんの可愛いのイメージなの……?」

かすみ「えぇ~? それは、ピカチュウとかピッピみたいな、いかにも妖精みたいな感じの子かなぁ~?」

しずく「はがねタイプでそんなポケモンいたかな……」


しず子はうーんと頭を悩ませ始める。


かすみ「しず子、頑張って思い出して! かすみんの新しい手持ちが懸かってるんだから!」

しずく「かすみさんも考えてよ……」

かすみ「だって、かすみん、しず子ほどポケモンの種類、わかんないし……」

しずく「頼ってくれるのは嬉しいけど……あんまり、人任せにしてると罰が当たるよ?」

かすみ「罰当たりでも地獄に落ちても、可愛いは最重要の正義なの!」

しずく「ええー……まあ、いいけど……そうだなぁ……」


しず子が考えてくれている間、辺りを見回すけど──コイルやギアルばっかり。

なんだか、ここには目ぼしいポケモンは居ないのかも……。

ジム戦用の新しいポケモン、どうしようかな……。そう思いながら、偶然壁際にあった、腰掛が目に入る。

待ってる間疲れちゃうし座ってよっかな。

かすみんが腰掛に座った瞬間──ガクンと身体が後ろに傾いた。


かすみ「え!?」


そのまま、かすみんの視界はぐるっと回転し──天井が見えたかと思ったら、すぐに暗闇に包まれる。

しかも、謎のスピード感と浮遊感──もしかして、かすみん……落ちてる!?


かすみ「きゃぁぁぁぁぁ!!?」


気付いたときには、かすみんは何やら狭い管のようなものの中を頭から滑り落ちていた。


かすみ「なになになになに、なんなのぉぉぉぉ!!?」


絶叫するかすみん。

が、すぐに管は終わり──開けた場所に放り出される。

……もちろん、そんな管から飛び出した場所は地面なんかではなくて、


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 落ちるぅぅぅぅぅ!!!」


かすみんは開けた空間の中を真っ逆さまに落ちていく。

時間として数秒もしないうちに──ぼふっと音を立てて、何かの上に落着した。


かすみ「……はぁ、はぁ……い、生きてる……?」


心臓がバクバクと爆音を上げているが、どうやら何か柔らかいものの上に落ちたらしい。

お陰でどうにか助かったらしい。……でも、


かすみ「く、臭い……」


強烈な悪臭が立ち込めている場所だった。鼻が曲がりそうになって、思わずハンカチを取り出して鼻と口を覆う。


かすみ「ここ、どこ……」


周囲を見渡してみるも、真っ暗で全然わからない。


かすみ「そうだ……出てきてジュプトル」
 「──ジュプト」

かすみ「“フラッシュ”」
 「プト」


ジュプトルが腕の葉っぱの先を光らせ、周囲を明るく照らす。

“フラッシュ”によって照らされたここは……大きなビニール袋があちこちに積まれている場所だった。

かく言うかすみんが落ちた柔らかいものの上というのも、ビニール袋の上……。


かすみ「……ここ、どこ……?」


眉を顰める。めっちゃ暗くて、割と広くて、かなり臭い場所……。

さっきまで研究室にいたはずなのに……。


 「──……ゴミの保管所だよ」


かすみんの疑問に答えたのは上から降ってきた声。

声のする方に視線を向けると、


かすみ「あ、しず子!」


しず子がアオガラスに掴まって、ゆっくり下りてきているところだった。


しずく「もう……突然消えたかと思ったら、悲鳴が聞こえてきて、何かと思ったよ……。……それにしても、すごい臭い……」


しず子もかすみんと同じようにハンカチで鼻と口を覆いながら、そんなことを言う。


かすみ「……ってか、今ゴミの保管所って言った? かすみん、なんでそんな場所にいるの? かすみん、腰掛に座ろうとしただけなんだけど……」

しずく「はぁ……かすみさん、口の空いてるダスト・シュートに腰掛けたでしょ……」

かすみ「“ダストシュート”……? なにそれ……? ポケモンの技……?」

しずく「そっちじゃない。簡単に言うと、建物に付けられたゴミ捨て場への直通の管みたいなものかな……」

かすみ「え……じゃあ、かすみんもしかしてゴミ捨て場に落ちちゃったってこと!?」

しずく「さっきからそう言ってるでしょ」


しず子が呆れた顔で肩を竦める。


かすみ「なんでそんな危ないものの口、開けっ放しにしておくの!?」

しずく「鉄製だったから、コイルたちがいたずらで開けちゃったのかもしれないね……危ないことには代わりないけど。でも、元はといえばロクに確認もせず腰掛けたかすみさんが悪い」

かすみ「う……」

しずく「早速罰、当たったね」

かすみ「……」

しずく「……あ、どっちかいうと地獄に落ちたの方がそれっぽいか……。ゴミ捨て場なんて、ある種の地獄みたいなものだし……」

かすみ「半端にうまいこと言わないでよ……」


思わず項垂れてしまう。

可愛いポケモンを探しに来たはずなのに、よりにも寄ってゴミ捨て場に落ちてきちゃうなんて……。


かすみ「とにかく早く上に戻ろう……」

しずく「そうしたいのは山々なんだけど……」

かすみ「?」

しずく「あそこまで飛ぶのはちょっと難しいかも……」


そう言いながらしず子が見上げる先を目で追うと──結構高い場所に穴が見えた。

どうやら、あそこから落ちてきたらしい。


かすみ「え、じゃあどうするの?」

しずく「ここ自体がゴミ処理場なわけじゃないから……ゴミを運搬するための出入り口がどこかにあるはずだよ。そこを探そう」


そう言いながら、しず子はかすみんの手を取って、ゴミ袋の山を一歩ずつ下り始める。


しずく「足元……不安定だから、また転がり落ちないようにね」

かすみ「……ねぇ、しず子」

しずく「何?」

かすみ「もしかして……こんな場所だってわかってて、助けに来てくれたの……?」

しずく「そりゃそうでしょ……目の前で落っこちたら、助けに行かないわけにいかないし……」

かすみ「ふ、ふーん……そうなんだ……」

しずく「なんで嬉しそうなの」

かすみ「いやその……しず子だったら、呆れて自分でどうにかしなさいとか言うのかなって思ったから……」

しずく「呆れてはいるけど……言わないよ。私だって……何度もかすみさんに助けられてるんだから。お互い様」

かすみ「しず子……」

しずく「とにかく、早く外に出ちゃおう。腐敗したガスとかが充満してるだろうし……長くいると身体に悪いと思うから」

かすみ「う、うん! そうだね!」


かすみんたちは少しでも早く脱出するために、転ばない程度に早足でゴミ袋の山を駆け下ります。




    👑    👑    👑





かすみ「思った以上に広いね……ここ……」

しずく「街全体のゴミを全部ここに集めてるらしいからね……ダリアの地下ほぼ全域に広がってるって聞いたことがあるかも……」


結構歩いたつもりですが、景色はゴミ山が続いている。

見通しが悪く、足場も悪いためか思った以上に前に進めてないというのはあるだろうけど……それでも、かなり広い空間であることには違いない。

気付けば、ジュプトルの“フラッシュ”だけでは心もとなかったのか、しず子もキルリアとマネネを出して“フラッシュ”をしているお陰で、暗闇で困るということはなくなった。

かすみんの手持ちはほとんど灯りになる技が使えないから助かりますね……。


かすみ「それにしても……なんでこんな大きなゴミ捨て場を使ってるんだろう……? セキレイではダスト・シュートなんてなかったよね?」

しずく「もともとダリアって街の東側が切り立った崖になってて……街中でゴミを運び出すよりも、一旦街の地下に落として、崖下の6番道路から運び出すのが効率がいいからって聞いたことがあるかな。通称『叡智のゴミ捨て場』なんて言われることもあるみたい」

かすみ「へー……じゃあ、ゴミ捨て場のためだけに、わざわざ地下を掘ったってこと?」

しずく「うぅん、ここは元からあった空間みたい」

かすみ「元から? どゆこと?」

しずく「もともとは、大昔ダリアに住んでいた貴族が有事の際に逃げ込むための地下壕として掘られたとか」

かすみ「え、ここってお姫様とかが住んでたの?」

しずく「お姫様かはわからないけど……貴族制度があった時代では、ここが首都的な扱いだったらしいね。今でこそ、貴族なんて階級もなくなって、残された街は学園都市になったけど……ダリア図書館の時計塔なんかはその当時から残ってる建造物の1つらしいよ」

かすみ「へー、しず子めっちゃ詳しいじゃん」

しずく「歴史の授業で習ったと思うんだけど……」

かすみ「歴史の授業なんて、起きてたことない……」

しずく「はぁ……全く……。……上層に街を発展させる中で、下層を有効活用するために、ここが大規模なゴミの保管施設がなったみたいだね。……まさか、こんなに大きいとは私も思ってなかったけど」

かすみ「なんかそれっぽく言ってるけど、ゴミを毎日出すのがめんどくさくなっただけだったりして……」

しずく「あはは……あながち間違いでもないかもね……研究者たちが1分1秒でも多く時間を使うために、ゴミをまとめてここに捨ててただけって言う説もあるからね……」


しず子からダリアの歴史について聞きながら、歩を進めていく。


しずく「……ふぅ」

かすみ「しず子、疲れた?」

しずく「ちょっと……」


この足場の悪い場所でずっと歩き続けているんだから無理もない。


かすみ「少し休憩しよっか」

しずく「いや……大丈夫だよ」

かすみ「いいから」


しず子にはあまり無理をさせたくない。空気が悪いから、あまり留まらない方がいいというのは確かだけど……。

少しでもゴミの少なそうな場所を探して、周囲をキョロキョロと見回していると──ガサガサッと、音を立てながら……ゴミ袋が動いていた。


かすみ「!? ……ゴミ袋が動いた!?」

 「ヤブ…」


かすみんが声をあげると、それに反応して、ゴミ袋が──睨んできた。そして、その直後、


 「ヤブーー!!!!」


鳴き声をあげながら、こっちに向かって飛び掛かってきた。


かすみ「な、なんかこっちきたぁ!? じ、ジュプトル、“エナジーボール”!!」
 「プトォル!!!」

 「ヤブゥッ!!?」


咄嗟に“エナジーボール”で迎撃すると、そいつは吹っ飛びながら、ゴミ袋の上を転がっていく。


しずく「かすみさん! あれ、ポケモンだよ!」

かすみ「ポケモン!?」


かすみんはすぐさま図鑑を開きます。

 『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg
  不衛生な 場所を 好む。 満腹まで ゴミを 喰らうと
  口から 毒ガスを 吐き出す。 うっかり かぐと 即 入院
  ゴミで 汚したまま 放っておくと 部屋にも 現れて 棲みつく。』


かすみん「ホントだ……! ヤブクロン……!」


これだけゴミがたくさんある場所だ。ゴミが好きなポケモンたちからしてみれば楽園……いてもおかしくはない。


 「ヤブクゥ…」


吹っ飛ばされたヤブクロンはすぐに身を起こして、再びこっちを睨みつけてくる。


 「ヤブクゥーー!!!」


突然叫んだかと思ったら──周囲のゴミ袋の中から、


 「ヤブ」「ブクロン」「ヤーブク」


ヤブクロンたちが飛び出してきた。


かすみ「こ、これって、もしかしてヤバイ……?」

しずく「た、たぶん、縄張りを荒らされたと思って……怒ってるんじゃないかな」

かすみ「だ、だよねー」

 「ヤブクゥッ!!!!」


最初の1匹の合図と同時に、一気にヤブクロンたちが飛び掛かってきた。


かすみ「やば……!! 逃げるよ、しず子!!」


しず子の手を取って、走り出す。


しずく「かすみさん!? 下!?」

かすみ「へっ!?」


しず子の声で、真下に顔を向けると──


 「ヤブク…!!!!」


足元から飛び出してきたヤブクロンがかすみんの顔に張り付いてきた。


かすみ「!!?!!? ──む、むぐー!!!」

しずく「キルリア!! “ねんりき”!!」
 「キルゥッ!!!」

 「ヤブッ!!?」


すぐさま、しず子のキルリアがサイコパワーで引きはがしてくれる。


かすみ「うっ、げほっげほっ……!! くっさ……!!」

しずく「かすみさん、大丈夫!?」

かすみ「う、うん……ガス吸ったわけじゃないから……っ……でも、鼻曲がりそう……っ……」


再びハンカチを口元に当てて走り出すけど、あまりの激臭に泣きそう……。

その間もヤブクロンたちはひっきりなしに飛び掛かってくる。


しずく「マネネ! “サイケこうせん”!! アオガラス! “みだれづき”!!」
 「マネッ!!!」「カカカカカァッ!!!!!」

かすみ「ジュプトル! “りゅうのいぶき”!!」
 「プトルッ!!!!」


飛び掛かってくるのを迎撃しますが、不安定な足場のせいで思うように前に進めない。

このままじゃ物量で潰される……!!


かすみ「そ、総力戦です!! ゾロア、ジグザグマ、サニーゴ!! 出て来て!」
 「──ガゥッ!!!」「──クマァッ」「──……」

しずく「私も……! ジメレオン、ロゼリア!」
 「──ジメ…」「──ロゼッ!!!」


それぞれ手持ちを全部出して、飛び掛かってくる大量のヤブクロンたちを撃退する。


かすみ「“あくのはどう”!! “ずつき”!! “ナイトヘッド”!!」
 「ガーゥゥッ!!!!」「ク、マァッ!!!」「……ニ」

しずく「“みずのはどう”!! “マジカルリーフ”!!」
 「ジメェ…!!」「ロッゼッ!!!!」

 「ヤブッ!!!?」「ブクローンッ!!!?」「クロンッ!!!?」

かすみ「よっし……! どうにか捌き切れてる……! サニーゴ行くよ!!」
 「……サ……」


どうにか追っ払いながら、しず子の手を取り、動きが鈍いサニーゴを小脇に抱えて、ゴミ捨て場の中を駆け回る。

その際、


しずく「かすみさん!! あれ、なんか変じゃない!?」


しず子がそう言いながら、かすみんの手を引っ張る。


かすみ「へっ!?」


言われて、見てみると──


 「ヤブッ」「ブクロンッ」「ヤブゥッ」


大量のヤブクロンが何かに群がっている。

最初は餌があそこにあるのかなと思ったけど……雰囲気的に何かに怒っているような感じだった。


かすみ「なんかを攻撃してる……!?」

しずく「まさか、私たちみたいに落ちてきた人なんじゃ……!」

かすみ「……!?」


さすがにそれは放っておくわけにはいかない。


かすみ「しず子!! サポートして!!」

しずく「う、うん!」


かすみんは一人でヤブクロンたちが群がってる場所に駆け寄りながら、抱えたサニーゴを前方にかざす。


かすみ「“パワージェム”!!」
 「……ニゴ……」


──ヒュンヒュンと輝くエネルギー弾が飛び出し、


 「ヤブ…!!?」「クロンッ…!!!」


数匹を弾き飛ばす。


 「ブクロン…」「クロンッ」


それと同時に、かすみんたちの攻撃に気付いたヤブクロンたちが、一斉にこっちに振り返り──飛び掛かってきた。


しずく「キルリア!! マネネ!! “サイコキネシス”!!」
 「キルッ!!!」「マネネッ!!!」


が、ヤブクロンたちはしず子たちの攻撃で、空中で動きを止める。


かすみ「ナイスしず子!! ジュプトル!! “きりさく”!!」
 「プトルッ!!!」


踏み切って高く跳んだジュプトルが、空中で釘付けにされていたヤブクロンたちを、1匹ずつ斬り裂いていく。

その隙にかすみんは、ヤブクロンたちに襲われていた人のもとへ滑り込む。


かすみ「だいじょう……ぶ!?」


かすみんが突っ込んだ先にいたのは──


 「…ヤブ」


またしても、ヤブクロンだった。


かすみ「へ!? ヤブクロンがヤブクロンを襲ってたの!? どゆこと!?」

しずく「かすみさん! そこにいた人は無事!?」

かすみ「それが……」


駆け寄ってくるしず子に、身を退けて、ヤブクロンの姿を見せると、


しずく「え、ヤブクロン……!?」


しず子も困惑したような顔になる。

が、考える間もなく、


 「ヤブゥッ!!!」「ヤブクゥッ!!!!」


ヤブクロンたちがまた背後から追い付いてきた。

そして、それに反応するように、


 「ヤブゥ……」


目の前のヤブクロンは怯え始める。


かすみ「なんかわかんないけど、この子いじめられてるみたい……」


なんだか、放っておけずに立ち止まってしまう。


しずく「かすみさん!! 来てるよ!!」


でも、ここで立ち止まっているわけにはいかない、でも置いてくわけには……。


かすみ「……そうだ、ヤブクロンたち……このゴミの臭いが好きなんだよね。しず子!! 逆にめっちゃ良い匂いにしたら、ヤブクロンたち嫌がるんじゃない!?」

しずく「……! なるほど! やってみる!! ロゼリア!!」
 「ロゼッ!!!」

しずく「“アロマセラピー”!!」
 「ロゼェーー!!!!!」


しず子の指示と共にロゼリアを中心に、お花の良い香りが一気に周囲を包み込む。


 「ヤ、ヤブ…」「ブクロンッ…」「ヤブゥ…!!!!」


すると、ヤブクロンたちはその匂いから逃げるように、一目散に撤退を始めたのだった。


しずく「……せ、成功した……」

かすみ「……はぁ……最初からこうすればよかったね……」


二人でその場にへたり込む。ただ、すぐにまだ目の前に自分が助けたヤブクロンがいたことを思い出す。


かすみ「あわわ、そうだった、ヤブクロンには苦しいよね……!?」


慌てて、目の前のヤブクロンに目を向けると、


 「ヤブクゥ♪」


ヤブクロンはご機嫌な鳴き声をあげていた。


かすみ「あ、あれ……? 平気なの……?」
 「ヤブゥ♪」


ヤブクロンはむしろ元気になっているような……。

ついでに言うなら……さっきまで襲い掛かってきていた灰色のヤブクロンたちと違って、紺色をしていた。

そんなヤブクロンは急に、


 「ヤブゥ♪」


かすみんの顔に飛びついてきた。


かすみ「むがっ!?」

しずく「かすみさん!? ヤブクロン! 助けてもらって嬉しいのはわかるけど、飛びつかないでください!?」

 「ヤブク…?」


しず子が焦って、引きはがす。


しずく「大丈夫、かすみさん!?」

かすみ「…………」

しずく「……かすみさん?」

かすみ「しず子……このヤブクロン……」

しずく「?」

かすみ「めっちゃ良い匂いする……」

しずく「……え?」





    👑    👑    👑





かすみ「くんくん……やっぱり、すごく良い匂いするよ、この子」
 「ブクロン♪」

しずく「……うん、確かに。普通のヤブクロンと色も違うし……特殊個体なのかな」

かすみ「特殊個体? そんなのいるの?」

しずく「ヤブクロンって普段からゴミを食べてるから、あの臭いと強い毒性を持つポケモンなんだけど……個体によって、好きなゴミが違うらしいの」

かすみ「ゴミが違う……?」

しずく「廃液が好きだったり、生ごみが好きだったり、ボロボロになったおもちゃとかが好きってこともあるんじゃないっけ……」

かすみ「人で言う、好きな食べ物の好み的な……?」

しずく「そういうことだと思う……。それでこの子は……」


 「ヤブクゥ♪」
 「ロゼ」


ロゼリアが腕にある花から花弁を1枚、ヤブクロンの前に落とすと──ヤブクロンはそれをむしゃむしゃと食べ始めた。


 「ヤブ♪」

かすみ「お花が好きってこと……?」

しずく「まあ、確かに……散って落ちた花弁も広義の意味ではゴミかもしれないね……」

かすみ「良い匂いのお花が好きだから、このヤブクロンも良い匂いがするんだ……。ってか、ロゼリアは花食べられてもいいの?」

 「ロゼ」
しずく「もともとリーダー気質の子だから……子分に餌を分けてあげてる気分なのかも」

かすみ「ふーん……そういうものなんだ……」


まあ、別にロゼリアが嫌がってないならいいんだけど……。


かすみ「もしかして、このヤブクロンがいじめられてたのって……」

しずく「たぶん、この匂いのせいだろうね……。私たちにとっては良い匂いだけど、ヤブクロンからしたら“あくしゅう”ってことだろうし……」

かすみ「それだと……この子、またいじめられちゃうんじゃ……」
 「ブクロン?」

しずく「だろうね……」

かすみ「そんなの……可哀想……ヤブクロンは自分の好きなものを食べてるだけなのに……」

しずく「かすみさん……」

かすみ「どうにか……してあげられないかな……」

しずく「難しいかもしれないね……野生ポケモンたちは自分たちと違うことをしてる個体を追い出して、群れを守ろうとする習性があるから……」
 「ロゼ…」


そういえば、しず子のロゼリアも似たような感じなんだっけ……。

そうなると、この子はこれからもいじめられるし、いつかはここを追い出されるってこと……。

……それなら、いっそ──


かすみ「……い、いや……それは…………でも……」

しずく「…………」

 「ブクロン?」
かすみ「……そ、そんな顔してもダメです……か、かすみんは可愛いポケモンでチームを作るって決めてて……」

しずく「かすみさん」

かすみ「……」

しずく「心配なら、連れて行ってあげれば? それにどくタイプなら、フェアリータイプにも有利だし、探していた条件にも合ってるよ?」

かすみ「ぅぅ……でもぉ……」


かすみんはピカチュウとかピッピみたいな、いかにもな可愛いポケモンが……。


 「ヤブクゥ…」

しずく「ほら、見ようによってはヤブクロンも愛嬌があって可愛いよ? この子は他のヤブクロンと違って臭くもないし」

かすみ「……あぁもう!! わかったわかりました!! 連れて行きます!! 一緒に行こう、ヤブクロン!!」
 「ヤブク…♪」

しずく「ふふっ♪ 新しい仲間が増えてよかったね、かすみさん♪」

かすみ「うん……そうだね……。なんでだろ……かすみんの当初想像してた6匹からどんどん離れて行ってる気がする……」


ただまあ……。


 「ヤブク♪」


嬉しそうなヤブクロンを見ていたら、悪くはないのかな、なんて思ったり思わなかったりするのでした。




    👑    👑    👑





その後、かすみんたちは叡智のゴミ捨て場の中を彷徨い──


かすみ「やっと出れた……光ですぅ……外の光ぃ……」
 「ブクロン♪」

しずく「外への道をヤブクロンが知ってて助かったね」

かすみ「それはホントに……」


ヤブクロンがいなかったら、未だに中を彷徨っていたかもしれないと思うと、少しゾっとする……。

そして、外に出た頃にはもうすっかり太陽は傾き始め、空が茜色に染まっていました。


しずく「もう夜になっちゃいそうだね……」

かすみ「ジム戦は明日にしよう……」


とにかく今はお風呂に入りたい……。

ずっとゴミ捨て場に居たせいで……たぶん、臭う……。

かすみんはくたくたな体にムチ打ちながら、乙女の尊厳を守るために、ホテル目指して、ダリアシティに戻っていくのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【叡智のゴミ捨て場】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回●    . |_回o |     |       :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.32 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.28 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.24 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter034 『激闘! ダリアジム!』 【SIDE Kasumi】





──翌日。


かすみ「ふっふっふっ。雲一つない快晴……絶好のジム戦日和ですねぇ……!」


ホテルを出ると、空には青空が広がっていた。

まさに今日という日が、かすみんを祝福してくれているようです。


かすみ「対ヤザワ・にこ決戦兵器を手に入れたかすみんに敗北の文字はありません! もう戦う前から勝ったも同然ですね!!」

しずく「あはは……。それにしてもヤブクロン、ちゃんとどく技を使えてよかったね」

かすみ「それはホントに……」


こうして今日のために捕獲したヤブクロンですが……1つ懸念がありました。それはヤブクロンがまともにどくタイプの技を扱えるのかということです。

ご存じのとおり、かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違って、良い匂いがします。

それは、本来のヤブクロンたちとは毒性が違うということを意味していて……もしかしたら、どくタイプの技が使えない説がありました。

ただ、それはしず子と二人でいろいろ試した結果──


しずく「草花にも有毒種はあるもんね。それこそ、ロゼリアにもどくタイプはあるし……」

かすみ「そこからちゃんと毒を作り出してるみたいだね」


くさタイプのポケモンが使う毒に似たような成分のどく技が使えることがわかりました。

これで、どくタイプの技が全く使えないなんて言われたら、ジム戦対策で捕まえた意味がなくなっちゃいますからね……。

ただ、本来どくタイプのポケモンが使うような、いかにもやばそうな毒ではなさそうですが……むしろ、クリーンなイメージのかすみんにはぴったりですね!

──というわけで、準備は万端です!

しず子と話しているうちに、あっという間にジムへとたどり着いてしまいました。


かすみ「さぁ、勝負ですよ、ヤザワ・にこ……! たのもーー!!」


かすみんは気合い十分に、ジムへと入っていきます。

ジムに入ると、目的の人物はチャレンジャーを待っているところでした。


にこ「チャレンジャーね? いらっしゃい」

かすみ「はい! セキレイシティからきた、かすみんって言います!! どっちが本物のアイドルトレーナーに相応しいか、勝負ですよ!! ヤザワ・にこ!!」

にこ「……なんか、随分威勢の良い子が来たわね」

しずく「す、すみません……! かすみさん、ダメでしょ! 初対面の人にそんな失礼な態度取ったら……!」

かすみ「これから戦うんだもん! 勢いで負けちゃダメなんだもん!」


勝負は試合が始まる前から始まっているんです……!


にこ「あーえっと……気合いたっぷりなところ、悪いんだけど……実はにこはバトルは出来ないのよね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「どういうことですか?」

にこ「実はにこ、今はここのジムリーダーじゃないのよ」

かすみ「はぁ? 何言ってるんですか?」

しずく「こら、かすみさん! ……ですが、ダリアのジムリーダーは、にこさんで間違いないはず……ポケモンリーグ公式の情報でもそうなってたはずですよね?」

にこ「実はね……それ、フェイクなのよ。このジムでは、バトルの実力だけではなくて、それ以外の知恵を試すための──」

かすみ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


かすみんは思わず、人生最大級の溜め息が漏れてしまいます。


にこ「……今説明してるところなんだけど」

かすみ「……またこれです……なんなんですか……かすみんがジムに挑もうとすると、だいたいこれじゃないですか……セキレイでも、ホシゾラでも、ウチウラでも、コメコでも……かすみんはまず出鼻をくじかれてばっかです……」

にこ「えっと……急にどうしたの……この子……?」

しずく「……すみません。こちらのかすみさん、ジム戦がスムーズに出来た試しがなくて……」

かすみ「それでダリアでもですか……あーやだやだ……ポケモンジムっていつでもトレーナーたちの挑戦を待ってるなんて言っておきながら、いっつもこんなんばっかり……」

しずく「か、かすみさん、ジムリーダーの人たちにも事情があるからさ……」

かすみ「わかってるよ? 今までがたまたまタイミングが悪かっただけだってことくらい。でも、なんですか。こっちはちゃんと案内見て、この人と戦うんだって、いろんなこと考えてやっとの思いでジムにたどり着くんですよ? なのに、目の前にジムリーダーはいるのに、自分は本当はジムリーダーじゃないとか、酷くないですか?」

にこ「ぐ……。痛いところを……」

しずく「そんないじけなくても……」

かすみ「いじけてないもん……」

にこ「……なんか、悪かったわね。……でも、このジムはそういうルールなのよ……」

かすみ「……いいですよ。じゃあ、早くそのルールとやら、説明してくださいよ。別にいいですよ、にこ先輩となんて戦わなくたって、かすみんの方が可愛いアイドルトレーナーに向いてることなんて、最初からわかってたんですから」


別にかすみんとしては、白黒付けてやろうとしていただけで、勝つことなんて最初から決まっていましたし、別にいいんです。

ただ、当のにこ先輩は、


にこ「……なんですって?」


かすみんの言葉を聞いて、キッと睨みつけてくる。


かすみ「えーだって、アイドルトレーナーって言う肩書の割に、やってることはただの受付さんじゃないですか~。どっちかというと、裏方的な? そんな人、アイドル性でも、ポケモンバトルでもかすみん負ける気しないですし……というか、もう興味なくなっちゃいました」

にこ「……言ってくれんじゃない……こちとら、元四天王よ? アイドルとしてもバトルでも、そんじょそこらの新米トレーナー如きに、後れを取るとでも?」

かすみ「なんで新人トレーナーだって決めつけるんですか!?」

にこ「じゃあ、トレーナー歴何年よ? ジムバッジはいくつ持ってるの? こちとら歴戦のアイドルトレーナーで通ってんのよ、立ち振る舞い見れば、新米かどうかなんて一目瞭然じゃない。よくそんなんで、負ける気しないなんて大口叩けたもんね。無知って怖いわねぇ~」

かすみ「はぁ~~~~!? 先にバトルから逃げたのはそっちじゃないですかぁ!? 何逆ギレしてるんですか!?」

にこ「逃げてないわよ!? ルールがそうだって言ってんでしょ!? あんた話聞いてたの!?」

かすみ「聞いてましたぁ~! 要約したら、かすみんに恐れ慄いて、逃げ出したって内容だったってだけですぅ~!」

にこ「ぬぅわんですってぇ!? ああもう、あったま来た……!! バトルスペースに出なさい! そこまで言うなら相手してやるわよ!!」

かすみ「いや、いいですよ~? 今更無理しないで、本当のジムリーダーさんと戦うんで~? かすみんに恐れ慄いた逃げ出したジムリーダーさん」

にこ「むっかぁーーー!! さすがのにこも、ここまでコケにされて黙ってられないわよ!! いいわ!! 私がジム戦してやろうじゃない!!」

かすみ「いいんですか~? 負けて、泣いちゃっても知りませんよ~?」

にこ「はっ! それはこっちの台詞よ!! ボコボコにしてやるわよ!!」


にこ先輩は肩を怒らせながら、奥へと歩いていく。


にこ「ちょっと今、一本連絡入れてくるから、そこで待ってなさい!! 逃げるんじゃないわよ!!」

かすみ「にこ先輩こそ、逃げないでくださいね~」

にこ「~~~っ!!! 絶対ぎったんぎったんにしてやる……!!」


そう言いながら、にこ先輩はジムの奥にある部屋に消えていきました。

なんか知らないですけど、バトル出来るらしいです。

ま、別にかすみんはジムリーダーが誰でもいいんですけどね? どうせ勝つのはかすみんですし。

そんな中で、私たちのやり取りを見ていたしず子が一言ボソッと呟いた。


しずく「……確かにこれはキャラ被ってるかも」

かすみ「……でしょ! でも、これで白黒つけてやるから! 真のアイドルトレーナーはかすみんです!」

しずく「……そういうことじゃないんだけどなぁ……」

かすみ「え?」

しずく「うん、まあ、気にしないで。ジム戦、頑張ってね」

かすみ「任せて!」


かすみんの実力見せつけてやりますよ……!!





    💮    💮    💮





花丸「今日も平和ずらぁ……」


天窓から入ってくる太陽の光を浴びながら、今日も読書。

今日は挑戦者来るかなぁ……。

お茶を啜りながら、ぼんやり過ごしていると──prrrrと備え付けの電話が鳴る。


花丸「もしもし?」

にこ『花丸、ちょっといい?』

花丸「にこさん。何かあったずら?」

にこ『今、ジムに挑戦者が来たんだけど』

花丸「あ、はーい。いつ来てもいいように、準備を──」

にこ『私が相手することになったから』

花丸「ずら?」

にこ『それだけ、じゃあね──』

花丸「あ、ちょっと、にこさ……切れちゃった……」


なんか、事情が全くわからなかったんだけど……。


花丸「まあ……それならそれでいっか……」


マルは再びお茶を一口。


花丸「今日も平和ずらぁ……」


再び読書に没頭するために、本を手に取るのだった。





    👑    👑    👑





にこ「待たせたわね……」

かすみ「お構いなく~。かすみんはどっかのジムリーダーと違って、いつでもどこでも準備万端ですので~」

にこ「いちいち、むかつく言い方するわね……まあ、いいわ。バトルが始まったらそんな余裕かましてる場合じゃないだろうから。所持バッジの数はいくつ?」

かすみ「3つです」

にこ「わかった。使用ポケモンは3体。全て戦闘不能になった時点で決着よ」

かすみ「にしし……今回しっかり対策もしてきましたから、かすみん圧勝しちゃいますよ~」

にこ「せいぜい今のうちに粋がっておくといいわ!」


両者、ボールを構える。


にこ「ダリアジム・ジムリーダー『大銀河宇宙No.1! フェアリーアイドル』 にこ! こてんぱんにしてやるからかかってきなさい!!」


チャレンジャー、ジムリーダー、両者の手からボールが放たれて──バトル開始です!





    👑    👑    👑





かすみ「いくよ! ヤブクロン!」
 「ブクロン!!」

にこ「トゲチック! 目に物見せてやりなさい!」
 「トゲチックッ!!!」


にこ先輩の1番手はトゲチック。

 『トゲチック しあわせポケモン 高さ:0.6m 重さ:3.2kg
  優しい人の そばに いないと 元気が でなくなってしまう。
  羽を動かさずに 空に浮かべる。 純粋な 心の 持ち主を
  みつけると 姿を 現し 幸せを 分け与えると 言われる。』

そして、かすみんの1番手はもちろん、昨日捕まえたばっかりのヤブクロンです!


にこ「はぁ……」


が、にこ先輩、かすみんのヤブクロンを見るや否や溜め息を吐きました。


かすみ「なんですか……」

にこ「フェアリーのジムだからって、はがねタイプとかどくタイプを用意してくる。芸がないわね……」

かすみ「む……かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違います!」
 「ブクロン!!」

にこ「確かに色違いだけど……」

かすみ「舐めてかかってると痛い目見ますよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ブクローンッ!!!」


ヤブクロンの口から毒の塊が飛び出す。


にこ「それが芸がないって言ってんのよ。“サイコキネシス”!」
 「チックッ!!!」


が、“ヘドロばくだん”はトゲチックに届くことなく、空中で静止する。


かすみ「んな!?」

にこ「こちとら、弱点タイプへの対策なんて出来てるに決まってるでしょ。トゲチック、それは捨てちゃいなさい」
 「チック!!」


トゲチックは空中で止めた、“ヘドロばくだん”を脇に放り投げる。

べしゃっと音を立てて、何もない場所に散る“ヘドロばくだん”。


かすみ「ぐぬぬ……! “どくどく”!!」
 「ブクロッ!!!」


今度は鋭く毒液を飛ばす。


にこ「無駄よ! “しんぴのまもり”!」
 「チックッ!!!」


今度は現れたしんぴのベールが“どくどく”を阻む。


かすみ「こ、攻撃が通らない……!」

にこ「もちろん、対策は防御だけじゃないわよ!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


にこ先輩の指示と同時にヤブクロンの周囲にブロックのようなものが現れて、


 「ヤブクロッ!!!?」


ヤブクロンに向かって突撃してきた。


かすみ「わ、わー!! ヤブクロン!?」

にこ「どくタイプのヤブクロンには、効果抜群ね」

かすみ「フェアリータイプの癖に、エスパータイプの技使うなんてずるいですよ!!」

にこ「ずるくないわよ。これは対策。あんたがこのジムに挑戦する前にしてたことと同じよ」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……言い返せない……」

にこ「さらに畳みかけるわよ!! “じんつうりき”!!」
 「チックッ!!!」

 「ブクロッ!!!?」


さらに追撃で、念動力による衝撃がヤブクロンを吹っ飛ばす。


かすみ「は、反撃しなきゃ……! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤ、ヤブクーーーッ!!!!」


再び、ヘドロの塊を発射する。


にこ「だから、効かないって言ってるでしょ!!」
 「トゲチックッ!!!」


でも、やっぱりこっちの攻撃は“サイコキネシス”で逸らされてしまう。


かすみ「ぐ、ぐぬぬ……!! 一旦逃げる!! ヤブクロン! 走り回って!」
 「ブクロン!!」

にこ「あら、もう逃げの一手?」

かすみ「うるさいですねぇ! 今、次の作戦を考えてるんですよ!!」


とにかく狙いの的にされないように……。


にこ「なら、“みらいよち”よ!」
 「トゲチックッ!!!」

かすみ「!?」


トゲチックの周囲に何かエネルギーの塊のようなものが現れたと思ったら、それはすぐに掻き消える。


かすみ「な、なんですか今の……」

にこ「“みらいよち”は未来に向かって予め攻撃をしておく技よ。逃げ回るのは結構だけど、もうあんたたちが逃げ回る先に、攻撃は置いてきた」

かすみ「う、うぇぇ!? そんなのズルじゃないですかぁ!?」

にこ「さぁ、いくらでも逃げ回ればいいわ!! “みらいよち”の攻撃が来る前に対策を思いつかないと、あんたの負けだけどね!」

かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! 徹底して、エスパー技ばっかり……!!」

にこ「対策の対策なんて簡単なのよ。相手がしてくることがわかりやすくて、逆に大助かりだわ。あんた単純そうだし」

かすみ「う、うるさいですっ! こうなったら、肉弾戦ですぅ!!」
 「ブクロンッ!!」


走り回っていた、ヤブクロンは、トゲチックの方に方向転換する。


にこ「相手するわけないでしょ! “サイコキネシス”!!」
 「チックッ!!!!」


トゲチックがこっちに向かって手をかざすと──


 「ブ、ブクロ!!!?」


ヤブクロンは天井に向かって、吹っ飛んでいく。


かすみ「わー!!!? ヤブクロン!! 着地!! 天井に着地!!」
 「ブクロンッ!!!!」


ヤブクロンは身を捻って、どうにか天井に両足で着地、そのまま天井を蹴って、飛び出す。


にこ「へー! やるじゃない! でも、空中じゃ技が避けられないわね!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


空中から一直線にトゲチックに向かっていく、ヤブクロンの進行方向に、大量の念力で出来たブロックが出現する。

そこに突っ込むようにして、飛び込んでいくヤブクロン。


 「ブ、ブクロンッ…!!!」

かすみ「頑張ってヤブクロン……!!」


そのまま、エスパーエネルギーの障害物を突っ切って、


かすみ「抜けた……!! お返ししますよ!! “しっぺがえし”!!」

 「ヤーーブクロンッ!!!!」


全身を使って、トゲチックに反撃を試みる。


 「チチック…!!!」
にこ「よく耐えたって言ってあげたいけどね、エスパー技は遠距離だけじゃないのよ!!」

かすみ「!?」

にこ「“しねんのずつき”!!」
 「チックッ!!!!」


至近距離にいるヤブクロンに返しの“しねんのずつき”が炸裂する。


 「ブ、ブクロンッ!!!?」


ずつかれたヤブクロンは、一瞬怯んでたたらを踏む。


にこ「“じんつう──」

かすみ「怯まないで!! “ひっかく”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


すかさず追撃してくるにこ先輩。でも距離を取らせたら、またやり直しだ……!

ヤブクロンは足を踏ん張って、そのまま短い手を振りかぶって、トゲチックに喰らいつく。


にこ「苦し紛れね!! そんなのほとんど効かないわよ!! “しねんのずつき”!!」

かすみ「受け止めて!!」
 「ブクロンッ!!!!」


再び、頭から突っ込んでくる、トゲチックを──真正面から受け止める。


にこ「んな!?」

かすみ「ヤブクロン!! 放しちゃダメだよ!!」
 「ブクロンッ!!!」

にこ「結構攻撃してるはずなのに……どんだけタフなのよ……!!」

かすみ「だから、言ったじゃないですか!! かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違うんです!!」

にこ「……まあ、それは認めてあげるわ。でも、あんた何か忘れてるんじゃないの?」

かすみ「え?」

にこ「……あんたたちは過去から攻撃されることが決まってるって言ったわよね!」

かすみ「!? あ、やばっ!?」


直後、ヤブクロンの周囲の空間がぐにゃりと歪む。

“みらいよち”による強大な念動力の力がヤブクロンに向かって、襲い掛かって来る。


かすみ「ヤブクロン、逃げ……!?」


かすみん、咄嗟に指示を出しますが、組み合った状態のヤブクロンは逃げる暇もなく。


 「ブ、ブクローーンッ!!!!?」


なすすべもなく、“みらいよち”の攻撃がヤブクロンを直撃した。


かすみ「……あ」

にこ「……“しねんのずつき”を受け止められたときは正直ビビったけど……。さすがにこれは耐えきれないでしょ。エスパータイプの中でも最強クラスの威力の技なんだから」


にこ先輩は得意げに言う。

……が、


 「ト、トゲチッ!!!?」
にこ「え……?」


トゲチックの焦るような鳴き声に、にこ先輩が視線を向けると、


 「ブクロン…!!!!」


ヤブクロンはまだその場に立って、トゲチックの頭を抑えつけたままだった。


にこ「……はぁ!? どうなってんのよ!? “みらいよち”が当たったのよ!?」
 「ト、トゲッ!!!」


焦るにこ先輩とトゲチック。ヤブクロンに捕まったまま、自由の効かないトゲチックに向かって、


かすみ「“ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーブクッ!!!!!」


至近距離から“ヘドロばくだん”をお見舞いする。


 「ト、トゲチッ…!!?」


ヘドロが派手に炸裂して、後方に吹っ飛ばされるトゲチック。


にこ「い、一旦撤退……!!」

かすみ「逃がしません!! “こうそくいどう”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


逃げようとするトゲチックに、“こうそくいどう”で肉薄する。


 「チ、チックッ!!?」
にこ「はぁ!? “こうそくいどう”!? そんな技覚えないでしょ!?」

かすみ「そもそもヤブクロンは、“ひっかく”を覚えませんよ!」

にこ「!?」

かすみ「トドメです!! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーブクゥッ!!!!!」


至近距離から二度目の“ヘドロばくだん”を炸裂させ、


 「ト、トゲチィィィ…」


ヘドロまみれになった、トゲチックは耐えきれず、その場に倒れこんだのだった。


にこ「う、うそ……」

かすみ「……あっれぇ~? 対策の対策は完璧なんじゃないんですかぁ~?」

にこ「ぐ、ぐぬぬ……こ、こんなの初見でわかる訳ないじゃない!!」


激昂するにこ先輩の前で、ヤブクロンの姿が靄のようにブレる。

そして、その姿はどんどん小さくて黒い狐のような、シルエットに変わっていく。そう、この子はヤブクロンじゃない、


かすみ「にっしっし……ナイスだよ、ゾロア!!」
 「──ガゥッ!!!」


“イリュージョン”で化けたゾロアだったんです。


にこ「ず、ずるなのはどっちよ!!」

かすみ「ずる? これは対策って言うんですよ~。いや~こっちもにこ先輩が対策の対策をしてくるだろうなんて、わかりきってたんで、対策の対策の対策を仕込んできたんですよね~」


まあ、ホントのことを言うと、エスパータイプで対策を打ってくると予想したのはしず子なんだけど……。

あくタイプのゾロアにとって、エスパータイプの攻撃は効果がありません。

だから、最初から食らっている振りをして、チャンスを伺っていたというわけです。


かすみ「あれ、なんでしたっけ? 芸がないとか、わかりやすくて助かるとか、誰かが言ってたような気がするんですけど~」

にこ「ぐぬぬぬぬぬぬ……。……って、ちょっと待ちなさいよ! “サイコキネシス”で吹っ飛ばされてたじゃない!!」

かすみ「ああ、あれは“とびはねる”ですよ。派手に吹っ飛ばされた演技をしてました」

にこ「な、なんて姑息な……」

かすみ「姑息? これはかすみんとゾロアの作戦勝ちですよ。それに、にこ先輩がヤブクロンは“ひっかく”を覚えないって知ってれば、見破ることも出来たはずですよ~?」

にこ「……ぐぬぬ……確かにそれを言われると、こっちの知識不足だったと言わざるを得ない……」


にこ先輩はそう言って、項垂れる。


にこ「……まあ、いいわ。ネタがわかっちゃえば、相性有利なゾロアなんて、数の内に入らないわ」

かすみ「……」


にこ先輩は負け惜しみのようなことを言うけど……あながちただの負け惜しみとも言い切れない。

ゾロアで出来るのは、それこそ不意を打っての一発勝負だけで、真っ向から戦って勝つのは少し厳しい。


かすみ「ゾロア、お疲れ様、戻って」
 「ガゥッ──」


だからかすみんは、ゾロアをボールに戻す。


にこ「賢明ね」


こうすれば次にゾロアを出したときに、また“イリュージョン”で姿を変えて場に出せるけど……。

たぶん、次は真っ先に“イリュージョン”を破るのを優先してくるはずだから、実質ゾロアが出来ることはここまで。


かすみ「さぁ、今度こそ出番ですよ、ヤブクロン!」
 「──ブクロン!!!」

にこ「今度こそ出てきたわね……。さぁ行くわよ、ペロリーム」
 「──ペロリ~」


にこ先輩の2番手はペロリーム。

 『ペロリーム ホイップポケモン 高さ:0.8m 重さ:5.0kg
  嗅覚は 人の 1億倍以上。 空気中に 漂う わずかな においでも
  まわりの 様子が すべて わかる。 体毛に たくさん 空気を
  含んでいるので 触り心地は 柔らかく 見た目より 軽い。』


にこ「今度こそ、“サイコキネシス”!!」
 「ペロリ~」


早速のエスパー攻撃。

今度は本当のヤブクロンなので、無効には出来ませんが──


 「…ヤブゥ」


ヤブクロンはちょっと浮いただけで、すぐにポトっと地面に落ちる。


にこ「なんかしょぼいことになってる……!?」

かすみ「“ドわすれ”をしたから、エスパー技もそんなに痛くないですよ!!」


“ドわすれ”は痛みすらも忘れて、相手の特殊攻撃の威力を大幅に抑える技。

お陰でタイプ相性の悪いヤブクロンでも十分対策しきれます!


にこ「さすがにあそこまでやってくるのに、対策してないわけないか……! ただ、ヤブクロンに関しては、ダリアの人間は詳しいのよ! ペロリーム、“アロマセラピー”!!」
 「ペロリ~~」


ジム内に良い匂いが充満する。


にこ「“あくしゅう”が大好きなヤブクロンからしてみたら、この芳香は激臭のはずよ! 苦しみなさい!」

 「ヤブク~♪」

にこ「……って、なんか嬉しそうなんだけど!?」

かすみ「だから、かすみんのヤブクロンは特別だって言ったじゃないですか! 良い匂いは大好きですよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤブックッ!!!!」


今度こそ、本物のヤブクロンから放たれる“ヘドロばくだん”ですよ!


にこ「やば……! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリ~~~!!!!」


ペロリームから、放たれる“かえんほうしゃ”が“ヘドロばくだん”を相殺する。


にこ「“10まんボルト”!!」
 「ペロ~~~!!!!」


畳みかけるように飛んでくる電撃が、ヤブクロンに直撃する。


かすみ「わわっ!? 大丈夫!? ヤブクロン!?」
 「ヤブク~…」

かすみ「“ドわすれ”が活きてる……!」

にこ「く……厄介ね……!」


そこまでダメージの通りはよくない。とはいえ、さっきから多彩な技ですね……!

何か仕掛けられる前に、動くべきですね……!


かすみ「ヤブクロン、動くよ!!」
 「ブク…ロロロロ」

にこ「うわぁ!? なんか、吐き出した!? ……って、花!?」


かすみんの合図と共に、ヤブクロンが体内のゴミを吐き出し始める。

まあ、お花なんですけど……。


かすみ「軽くなったね! 行けー! ヤブクロン!」
 「ヤブクーー」


ヤブクロンがペロリームに向かって走り出す。


にこ「って、速っ……!?」


にこ先輩も驚くほどの猛スピードで走り出したヤブクロン。

今さっきやったのは、“ボディパージ”。自分の体を構成するゴミを外にパージして、軽くなるのと同時に、速くなる技です!!


かすみ「“とっしん”!!」
 「ヤブクーーー」


近接戦に持ち込み、ペロリームに真正面から突撃する、が、


にこ「“コットンガード”!」
 「ペロッ」


もこもこになった体毛にボフっと音を立ててぶつかり、勢いが殺される。


かすみ「防御された……! でも、速さで攪乱すればチャンスはいくらでもありますよ!」

にこ「動き回られると厄介ね……! でも、素早さ操作はこっちも得意なのよ……!」


高速で離脱しようとした矢先、


 「ヤ、ヤブ…」


ヤブクロンは今しがた突っ込んだ体毛から抜け出したと思ったら、急に動きが鈍くなる。


かすみ「!? 何かされた!?」


動きづらそうにするヤブクロンの体のあちこちに、綿がまとわりついている。


かすみ「まさか、“わたほうし”……!?」

にこ「正解よ! さらに、その綿はよく燃えるわよ! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリーーーー!!!!」

 「ヤ、ヤブクーーーー!!!?」


ペロリームの噴き出した火炎が、ヤブクロンに纏わりついていた綿に引火し、ヤブクロンを一気に燃やしていく。


かすみ「やばっ!? “ころがる”で消火して!!」
 「ヤ、ヤブクーー!!!!」


ヤブクロンは体を転がして、フィールドに押し付けながら消火を図る。

ただ、“わたほうし”は本当によく燃えるらしく、なかなか火の勢いが収まらない。


かすみ「こーなったら、そのまま突っ込んじゃえ!!」
 「ヤブクーーー」

 「ペ、ペロリーー!!?」
にこ「のわーー!? こっち来るんじゃないわよ!!」


そのまま、ペロリームに突撃すると──ペロリームの体毛に引火して、2匹は一気に炎に包まれる。


 「ペ、ペロォォォ!!!!」
 「ブ、ブクロンーー!!!!」

にこ「ちょっとぉ!! 何してくれてんのよ!?」

かすみ「先に火つけてきたのはそっちじゃないですかぁ!?」


でももはや、こうなったら後は根比べ……!


かすみ「“ドわすれ”してるから、こっちに分がある……と思う!! ヤブクロン苦しいかもしれないけど、頑張って!!」
 「ブ、ブクローーーン!!!!!」

 「ペ、ペロリィィィィ!!!!!」
にこ「く、ヤバイ……! これじゃ、ペロリームの方が先に……!」


あくまでくっつけられた綿毛が燃えているだけのヤブクロンと、自身の体毛が燃えているペロリームでは炎によるダメージにも差が出てくる。


かすみ「この勝負、もらいましたよ!!」

にこ「ぐ……!! こうなったら、止むを得ない……! 最後の手段よ、ペロリーム!!」

かすみ「え!?」

にこ「“ミストバースト”!!」
 「ペロ、リィィィィィィィィ!!!!!!!!」

 「ブクロォォォォ!!!!?」


にこ先輩の合図と共に、ペロリームがピンク色の光と共に──大爆発した。


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!? 何してくれてるんですかぁ!!!?」

にこ「ああなったらもう、死なばもろともよ……!!」


ピンクの爆炎が晴れると──


 「ブ、ブクロン……」

 「リィ~~~ム……」


ヤブクロンとペロリームが2匹とも、戦闘不能になっていた。


かすみ「ぐぬぬ……あのままなら、勝ってたのはこっちだったのに……」

にこ「勝てないと踏んだら、相討ちを取りに行くのも立派な戦略よ」

かすみ「この卑怯者!! 恥ずかしくないんですか!?」

にこ「先に相討ち覚悟で突っ込んできたのはそっちでしょ!?」

かすみ「ぐぬぬ……」

にこ「さぁ、早く次のポケモン、出しなさいよ」

かすみ「そ、そっちこそ……!」


二人で次のポケモンを選択する。

ゾロアを出す……? いや、“イリュージョン”がバレている状態で、フェアリータイプのエキスパートと戦うのは、かなり苦しい……。

実質、最後の手持ちがやられたら負けと言っても過言ではない。

なら……ここでやりきるしかない。


かすみ「頼みますよ……! かすみんのエース!」
 「──ジュプト!!!」

にこ「ジュプトルね。こっちはこの子よ!」
 「──フィァ」

かすみ「ニンフィア……!」

にこ「へー、よく知ってるじゃない」


そりゃ知ってますよ……ヤザワ・にこのエースと言えばニンフィアなんですから……。

もちろん、今回のはジム戦用の個体でしょうけど……。

 『ニンフィア むすびつきポケモン 高さ:1.0m 重さ:23.5kg
  リボンのような 触角から 敵意を 消す 波動を 発して 争いを
  やめさせる。 ひとたび 戦いとなれば 自分の 何倍もある
  ドラゴンポケモンにも いっさい怯まず 飛びかかっていく。』


にこ「さぁ行くわよ、ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

 「ジュプトォ…ッ!!!!!!!」


出会い頭から、大音量の音波攻撃でジュプトルを吹っ飛ばされる。

──吹っ飛ばされながらも、ジュプトルは受け身を取って立ち上がり、フィールド内を走り始める。


かすみ「とにかく、あの音攻撃……! 食らわないようにしないと……!」


単純だけど、爆音による攻撃は強いと言わざるを得ない。

威力もだけど、何より範囲が広すぎる。

避けるとなると、距離を取って、少しでもダメージを抑えるか、あとは音が発せられるニンフィアの前方から逃げるかだ。

かすみんの選択は後者! ジュプトルの身のこなしを活かして、とにかく回り込んで避ける!

相手の横や背後を取れば、攻撃のチャンスも訪れるはずです……!


にこ「最後は逃げ回るのね! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

かすみ「ジュプトル!! とにかく、ニンフィアの前に行かないように!!」
 「ジュプトォ!!!!!」

にこ「ちょこまかと……!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


床を蹴り、壁を蹴り、身のこなしを生かして、どうにか攻撃を回避しながら、フィールド内を駆け回る。

この制圧力は本当に厄介だし、それこそゾロアじゃ対抗できない……!

ジュプトルでどうにか決め切らないと……!!


にこ「逃げてばっかりじゃ、勝てないわよ!!」


にこ先輩がなんか吠えてますけど、こればっかりは避けないわけにはいかない。


にこ「あくまで逃げるってことね……なら、これならどう! “スピードスター”!!」
 「フィァーー!!!!」


ニンフィアから、ピンク色をした星型弾が飛び出して、ジュプトルを追尾し始める。


かすみ「なんか追ってきてるし……!!」

にこ「“スピードスター”はホーミングよ!! 逃がさないわ!!」

かすみ「ぐぅ……! とにかく、足を止めちゃだめだよ、ジュプトル!!」
 「プトルッ!!!」

にこ「足ならこっちから、止めてあげるわ!!」


にこ先輩がそう言うと、ニンフィアがジュプトルの進行方向に、顔を向ける。

そりゃ、“スピードスター”からの逃げ先に撃ってきますよねぇ……!?


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

かすみ「やばっ! ジュプトル!! 180度切り替えし!!」
 「プトルッ!!!」


音波の射程から逃れるために、今追ってきている“スピードスター”の方にあえて突っ込ませる。

突っ込みながらも、“スピードスター”の弾と弾の合間を掻い潜るように、身を捩らせながらの回避。


かすみ「せ、セーフ……」

にこ「へー! やるじゃない! でも、まだ“スピードスター”は追ってくるわよ!」


にこ先輩の言うとおり、“スピードスター”も折り返して、再びジュプトルを追いかけまわす。


にこ「今の回避はなかなかだけど、そう何度も避け続けられるかしらね!」

かすみ「ぐぅ……!」


確かにこのままじゃジリ貧だ。

どこかで攻撃に転ずるしかない。


かすみ「ジュプトル! “スピードスター”に向かって、“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル゚!!!!!!」


逃げ回りながらも、“スピードスター”を迎撃して、少しでも余裕を作ろうとする。

が、


にこ「なら追加の“スピードスター”よ!」
 「フィァーー!!!!!」

かすみ「ぎゃーー!? 増えたーー!?」


撃ち落としたところで、また新しい“スピードスター”が飛んでくるだけ。

このままじゃキリがない……!


にこ「どんだけ頑張って逃げても無駄よ無駄。音よりも速く動けない以上、逃げ切ることなんて不可能だわ」

かすみ「ぐぬぬ……」


悔しいけど、こればっかりはにこ先輩の言うとおりかもしれない。

確か、前にしず子が言っていた気がする……音ってめっちゃ速いんだよね。

ジュプトルがいかに素早いとは言え、音の速さより速く動くことは難しい。


かすみ「どうする……どうする……」


頭を回転させながら、どうにか打開策を考えるけど……逃げるのが精いっぱいで、なかなかいい案が浮かばない。


かすみ「やっぱり音より速く攻撃するしか……」


でも、そんな方法……。


かすみ「……あ、あれ?」


記憶の中で、何かが引っ掛かった。

音がすごく速いって、確かにしず子から聞いたけど……音が一番速いって話じゃなかった気がする。

なんだっけ、何か……音よりも速いものがあるって……。


かすみ「そうだ……ジュプトル!!」
 「プトル!!」

かすみ「音を、速さで、ぶち抜くよ!!」
 「プトルッ!!!!」


かすみんが天を指さしながら言うと、ジュプトルは壁を蹴りながら、ジムの上の方へと駆けあがっていく。


にこ「何するつもりか知らないけど、そんな方向に行ったら完全に的よ!!」
 「フィア!!!!」


ニンフィアが空中のジュプトルに向かって、口を開く。

“ハイパーボイス”が来る……!!

チャンスは一度……!

天窓から差し込んだ光を背に受けながら、ジュプトルは──腕の刃を前に構えた。


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」


……あとで教えてもらったことだけど、この距離だとニンフィアの音波が届くまでの時間は1秒にも満たないらしいです。そんな時間の中──


にこ「な……!」


それよりも速く、天窓から集めた一筋の光が、一直線にニンフィアを貫いていた。


かすみ「──“ソーラーブレード”……!!」


直後、爆音の直撃を受けて、ジュプトルが天窓に叩きつけられ、さらに追い打ちをかけるように、“スピードスター”がジュプトルを襲って、エネルギーが爆ぜる。


 「ジ、プトォ……」


無防備な空中でありったけの攻撃を受けたジュプトルは、戦闘不能になって落下してきますが、


かすみ「……はぁ……はぁ……! かすみんたちの、勝ちです!!」

 「フィ、ァ……」


光速の剣で撃ち抜かれたニンフィアも、攻撃に耐えきれずに、地に伏せったのでした。

ワンテンポ遅れて、ドサっと地面に落ちたジュプトルは、


 「プトォ…ル」


最後の力を振り絞って、かすみんに向かって親指を立ててきた。

最後の力を振り絞ってやることがサムズアップだなんて、なんて粋なんでしょうね、この子は……!

まさにかすみんのエースに相応しいです!

思わず、かすみんも親指を立てて返しちゃいます。


かすみ「ナイスファイトだよ! ジュプトル!」
 「プトォル…!!!」

にこ「……う、うそでしょ……?」

かすみ「さぁ、にこ先輩。言うことがあるんじゃないですか? まだ、かすみんの手持ちにはゾロアが残ってますよ!」

にこ「ぐ……。……3匹全て戦闘不能。よってこの勝負、チャレンジャーかすみの勝利よ……」

かすみ「ふっふっふっ……どんなもんですか!!」

にこ「…………」

かすみ「やっぱ、かすみんに敗北の二文字はなかったってことですねぇ~」

にこ「…………ニンフィア、ありがとう。ゆっくり休んで」


にこ先輩はニンフィアをボールに戻しながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。


かすみ「ほらほら、どうですか、かすみんの実力は? 褒めてくれていいんですよ? 崇めてくれていいんですよ?」

にこ「…………」


にこ先輩が無言で近寄ってくる。


かすみ「……あ、あの……もしかして、めっちゃ怒ってます……?」

にこ「…………」

かすみ「あ、あのあのあの……こ、これも勝負なので……お、怒んないでくださいよ……!」

にこ「かすみ」

かすみ「ぴゃ、ぴゃぃ!?」

にこ「……にこの負けよ」

かすみ「……へ?」


かすみん、間抜けな声を出してしまいました。


にこ「……見くびってたわ。正直、生意気な態度について言いたいことはいくらでもあるけど……勝負で負けたことについては、認めざるを得ないわ。あんたの勝ちよ」


そう言いながら、にこ先輩はかすみんの手に何かを握らせる。


かすみ「あ……これ……」

にこ「ダリアジムを突破した証──“スマイルバッジ”よ。持って行きなさい」

かすみ「にこ先輩……」

にこ「何よ?」

かすみ「もしかして……にこ先輩、結構良い人ですか?」

にこ「……あんた最後まで失礼な奴ね……」


にこ先輩はそう言って溜め息を吐く。


しずく「──す、すみません、にこさん……! かすみさん、そういう態度取っちゃ、めっ! だよ!」

かすみ「だ、だって……」

しずく「正々堂々バトルした相手には、最後に言うことがあるでしょ」

かすみ「ぅ……。……にこ先輩、ジム戦ありがとうございました……」

にこ「……ふふ。どういたしまして」


にこ先輩は苦笑いしながら、肩を竦めた。


にこ「それにしても……よく“ハイパーボイス”の中心を“ソーラーブレード”で撃ち抜こうなんて思ったわね」

かすみ「え、えっと……光の方が音より速いって……前にしず子が言ってたから……」

にこ「なるほどね……。でも、それを実行する胆力は大したものよ」

かすみ「えへへ……そ、それほどでも……」

にこ「にこの次にすごいと認めてやってもいいわ」

かすみ「……はぁ~~~?」

にこ「最近の新米トレーナーも捨てたもんじゃないわね」

かすみ「勝ったのはかすみんなんですけど~? この期に及んで、まだ自分の方がかすみんより上だと思ってるんですか~?」

にこ「はぁ……ジムリーダーにはね、本気の手持ちってのがあるのよ。ジム戦突破の実力はもちろん認めてあげるけど、本気のにこに勝とうなんて、100年早いわ」

かすみ「な、な、な……!! なんですか、その態度!! じゃあ、本気の手持ち出してくださいよ!! かすみんがボコボコにしてやりますよ!!」

にこ「やめときなさい。泣いて帰る羽目になるわよ」

かすみ「それはこっちの台詞ですよ!! ぼっこぼこにしてやりますから、フィールドについてください!! しず子!! 手持ち回復して!! かすみんのバッグの道具使っていいから!!」

しずく「え、いやー……本当にやめておいた方が……」

かすみ「いいから!! 早く、今すぐ!!」

にこ「本当にいいのね? 本気の手持ちを使っても」

かすみ「当たり前です!! これで手加減なんかしたら、かすみん許しませんからね!!」





    👑    👑    👑





にこ先輩の本気の手持ちとやらとの戦いは……かすみんの手持ちの数に合わせて5匹対5匹で行われました。

結果は──


かすみ「──……ぅ……ぇぐ……しず子ぉ……っ……」

しずく「よしよし。頑張った頑張った」

かすみ「……がずみん……でもあじもでながっだよぉ……っ……」

しずく「仕方ないよ、相手は本当に歴戦のトレーナーなんだから。いつか強くなって、見返せるように頑張ろう! ね?」

かすみ「ぅ……ひぐ……っ……うん……っ……」


にこ先輩の1匹目のポケモンに5匹全員為すすべもなくやられるという惨敗に終わりました。


かすみ「……いつか……かすみんが勝つもん……」

しずく「うん、その意気だよ、かすみさん!」


いつか、誰にも負けないポケモントレーナーになってやります……。

もちろんアイドルトレーナーとしても一番になれるように、かすみん、これからも強くなるんですから……!

一番星が輝くダリアの星空の下、涙をぐしぐしと拭いながら、次へ進むために、歩いて行きますよ……かすみんは……!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.32 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎙



──ローズシティ。ローズジム。


菜々「真姫さん、こちらが今週の予定です」

真姫「ありがとう、菜々」


組んだスケジュールが入力された端末を手渡すと、真姫さんはそれに目を通し始める。

ジムリーダーを務める傍ら、医者としての研究、さらにこの街の多くの企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢である真姫さんは、常に多忙だ。

こうして、秘書をやらせてもらうようになり、実際に彼女のスケジュールを管理していると、それがよくわかる。

管理と言っても……私がやっているのは、彼女に来るアポイントメントを整理している程度だけど……。


真姫「うん。これで問題ないわ」

菜々「ありがとうございます」

真姫「それじゃ、今回の仕事はこれで終わりよ。また何日かしたら顔を出してくれればいいから」

菜々「え!?」

真姫「どうかしたの?」

菜々「いや……私、つい先ほど戻ってきたばかりですよ?」

真姫「そうね」

菜々「そうねって……」


せっかく仕事をしに、ローズまで戻ってきたのに……。


真姫「でも、このスケジュール完璧よ? 菜々にお願いしているのは、基本的にアポの管理業務なわけだし、貴方の仕事はここまででいいのよ」

菜々「で、ですが……! さすがにこれだけでは……申し訳ないと言いますか……」

真姫「菜々ったら、相変わらず真面目ね」

菜々「ま、真面目とかそういう話ではなく……!」

真姫「菜々は優秀な秘書になりたいの? 違うでしょ?」

菜々「……そ、それは……」


確かにそれは違うけど……。


真姫「貴方がなりたいモノは何?」

菜々「……チャンピオンです」

真姫「なら、それに向かって努力をすればいい」

菜々「どうしてそこまでしてくれるんですか……」

真姫「ひたむきに頑張る人の夢を応援するのに、理由が必要かしら?」

菜々「真姫さん……」

真姫「わかったら、早く行きなさい。貴方には最強を目指せるだけの資質があるんだから」

菜々「……ありがとうございます!」


──真姫さんにはずっとお世話になってばかりだ。

こうして、私が私らしく、私の好きなことをしていられるのも……全部、真姫さんのお陰。

もし、そんな彼女に報いることが出来るとしたら──1秒でも早く、この地方のチャンピオンになることなんだろう。


菜々「……」


眼鏡を外し、三つ編みを解く。これが、私が……菜々が──せつ菜に変わる、スイッチ。


せつ菜「──ユウキ・せつ菜……! 行って参ります!」


──せつ菜として、最強を目指すために、私はまた修行の旅に出る。


………………
…………
……
🎙


■Chapter035 『再戦! ホシゾラ・コメコジム!』 【SIDE Ayumu】





──朝、ホシゾラシティの旅館から出る。


侑「見て、歩夢……良い天気だ」
 「イブイ!!」

歩夢「うん」


雲一つない、青い空。


リナ『快晴! ジム戦日和!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ、そうだね♪ 侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「ジム戦、頑張ろうね!」

侑「うん! もちろん!」


一日掛けて、ウラノホシタウンからホシゾラシティまで戻ってきて──ついに迎えた再戦当日。

私の心には、以前コメコジムに挑戦したときのような迷いはなく……晴れ渡っていた。今日のこの青空のように。

なんの迷いもなく、真っすぐ、正々堂々、戦える気がした。


歩夢「みんなも……よろしくね」


手持ちの入ったボールに話しかけると──みんな元気いっぱいにボールを震わせながら応えてくれる。


 「シャーボ」
歩夢「うん! もちろん、サスケもよろしくね!」

侑「それじゃ、行こう! 歩夢!」
 「ブイ!!!」

歩夢「うん!」


私たちはホシゾラジムへ向かいます。





    🎀    🎀    🎀





──ホシゾラジムへ向かうと、ジムの前に人影が二つ。


凛「あ! 侑ちゃ~ん、歩夢ちゃ~ん!」


私たちの姿に気付いた凛さんが、ぶんぶんと手を振ってくる。


侑「凛さん、花陽さん!」

花陽「こんにちは♪ 二人とも元気だった?」

歩夢「はい! あの……今日は再戦を受けてくださって、ありがとうございます」

花陽「うぅん、こちらこそ、再戦を申し込んでくれてありがとう♪ 凛ちゃんと一緒に、全力でお相手するね♪」

侑「よろしくお願いします!」

凛「それじゃ、いこっか!」


そう言って凛さんが歩き出して、ジムから離れていく。


侑「あ、あれ……?」

歩夢「あの……ジム戦は……?」

花陽「あれ? もしかして、凛ちゃんから聞いてないの?」

侑・歩夢「「え?」」


二人で同時に首を傾げる。

聞いてないとは……?


凛「……あ! 言うの忘れてた!」

花陽「凛ちゃん……もう……。……あのね、今回のバトルは屋外でやろうと思って……」

歩夢「外でですか……?」

凛「理由は……まあ、移動しながら話そっ! こっちこっち!」

侑「は、はい、わかりました」


凛さん先導のもと、私たちは移動を開始します。





    🎀    🎀    🎀





侑「わー! 高いよ! イーブイ!」
 「ブイブイ!!」

凛「でしょでしょ! 流星山ロープウェイからの景色は絶景なんだよ! ホシゾラの自慢の一つだにゃ!」


──凛さんの案内で連れてこられたのは、ロープウェイだった。現在4人でロープウェイを使って、流星山を登山中。


歩夢「あの……もしかして、バトルするのって……」

花陽「うん。流星山の頂上だよ」

侑「流星山の頂上で!?」

凛「ホシゾラジムみたいな床張りの場所だと、ディグダみたいなポケモンは使いづらいからね」

侑「あぁ、なるほど」


確かにディグダみたいな体が地面に埋まっているポケモンは、床張りのジムだと動きが制限されちゃいがちかも……。


花陽「私はそれでも大丈夫って言ったんだけど……」

侑「いえ! やるなら、お互いが全力で戦える場所でバトルしたいです! ね、歩夢!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」

凛「二人なら、そう言ってくれると思ったにゃ♪」

花陽「ありがとう、侑ちゃん、歩夢ちゃん。正々堂々戦おうね♪」

侑・歩夢「「はい!」」


話していると、ロープウェイは間もなく頂上へと到着します──




    🎀    🎀    🎀





流星山の頂上は思った以上に広々とした場所だった。


侑「うわぁ~、頂上って思ったより広いんですね! 普通にバトルフィールドくらいの広さは余裕でありそう……」

リナ『この辺りは天体観測用の機材を置いたりすることも多いから、整備されてるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「言われてみれば……流星山って天体観測で有名だったね」

凛「そうそう! ちょっと行けば、凛が所長をやってるホシゾラ天文所もあるから、遊びに来て欲しいにゃ! ……っと、それはさておき」


凛さんが花陽さんと一緒に奥の方へと歩いていき──こちらを振り返る。


凛「それじゃ、時間も勿体ないし、はじめよっか!」

花陽「二人とも、準備はいい?」


凛さん、花陽さんがボールを構える。


侑「はい! 歩夢、行ける?」

歩夢「もちろん!」

リナ『二人ともファイト~』 || > ◡ < ||


私たちもそれぞれボールを構える。


凛「使用ポケモンはそれぞれ3匹ずつの計6匹対6匹だよ!」

花陽「全てのポケモンが戦闘不能になった時点で決着です!」

侑・歩夢「「はい!」」


侑ちゃんと二人で頷く。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」

花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」

凛「さぁ、楽しいバトルにしようね!」
花陽「二人の全力……! 私たちに見せて!」


4人が同時にボールをフィールドに放った──バトル、開始です……!!





    🎀    🎀    🎀





歩夢「お願い、サスケ!」
 「シャーーーボッ!!!!」

侑「ワシボン! 行くよ!」
 「ワッシャァ!!!!」


私たちの最初のポケモンは、前回と同じサスケとワシボン。

一方、凛さん花陽さんは、


凛「行くよ、サワムラー!」
 「シャェェイ!!!!」

花陽「ダグトリオ、お願いね!」
 「ダグダグダグ」


サワムラーとダグトリオ。

ダグトリオは前回戦ったディグダの進化系だ。


リナ『サワムラー キックポケモン 高さ:1.5m 重さ:49.8kg
   脚が 自由に 伸び縮みして 遠く 離れている 場合でも
   相手を 蹴り上げることが できる。 はじめて 戦う 相手は
   その 間合いの 広さに 驚く。 別名 キックの鬼。』

リナ『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
   チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。 3つの
   頭が 互い違いに 動いて どんなに 硬い 地面でも 地下
   100キロまで 掘り進む。 地面の下は だれも 知らない。』


──開幕早々、サワムラーの手が伸びてくる。


凛「“ねこだまし”!」
 「シェイッ!!!!」

侑「“まもる”!」
 「ワシャッ!!!」


その手を、翼を目の前でクロスするようにしながら、ワシボンがガードする。


凛「!? 防がれた!?」

侑「サワムラーの初手“ねこだまし”は定石! わかってれば、防げる!」


サワムラーは伸びる手足でリーチに優れているポケモン。それを生かした先制攻撃だったけど、侑ちゃんはそれを読んで防御をしていた。


侑「しかも、失敗すれば、腕を引き戻す間リスクになる……!」

 「シ、シェイ」

侑「いけ!!」
 「ワシャッ!!!」


侑ちゃんの指示で、翼を広げ、ワシボンが飛び出した。

戻っていくサワムラーの腕を追いかけながら、翼を構える。


花陽「“がんせきふうじ”!!」
 「ダグダグ!!!!」


ただ、これはマルチバトル。横から、花陽さんのフォローの迎撃が飛んでくる、けど、


歩夢「“アシッドボム”!!」
 「シャーーーボッ!!!!!」


フォロー出来るのは、こっちも同じ……!

サスケの“アシッドボム”が、“がんせきふうじ”で飛んできた岩に直撃し、煙を出しながら、溶かしてしまう。


花陽「ええ!? 飛んできた岩を撃ち落とした!?」

歩夢「いいよ! サスケ!」
 「シャーボッ」


特訓の成果が出てる……!

技の命中率を上げる訓練をしていたのが功をなした。


侑「ありがとう、歩夢!」


もう邪魔するものはないとでも言わんばかりに、構えた翼がサワムラーを捉える。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャァッ!!!!」

 「シェェェイッ!!!!?」


攻撃が直撃し、吹き飛ぶサワムラー。


凛「サワムラー!」
 「シェイッ!!!!」


でも、凛さんもただやられるばかりじゃない。

吹き飛びながらも、地面に手を伸ばし、それを軸にしながらカポエイラのように身を捻る。

すると、2本の脚がうねるように伸びながら、ワシボンに襲い掛かってくる。


凛「どんな体勢からでも攻撃出来るのが、サワムラーの強みだよ! “まわしげり”!!」

侑「ワシボン! 怯まず突っ込め!!」
 「ワシャァッ!!!」

凛「え、突っ込んでくるの……!? どうにか、追っ払うよ! サワムラー!」
 「シェェェイ!!!!」


うねる脚を掻い潜りながら、ワシボンとサワムラーの攻防が始まる中、


歩夢「サスケ! “たくわえる”!」
 「シャーーーボッ」


サスケは自分の態勢を整える。

サスケの要は防御と遠距離からのサポート……!


歩夢「ダグトリオに向かって、“どろばくだん”!!」
 「シャーー、ボッ!!!!!」

花陽「! こっちも“どろばくだん”!」
 「ダグッ!!!」


サスケとダグトリオの“どろばくだん”が、ぶつかりあって相殺する。

私の役目は、花陽さんの注意を引くこと……!

サスケとダグトリオが攻撃を撃ち合っている間に、


 「ワッシャァッ!!!!」
 「シェェェイッ!!!!」


ワシボンはさらに距離を詰めて、サワムラーに大きな爪で襲いかかっている真っ最中だった。


侑「ワシボン!! そのまま、地面に押さえつけて!」
 「ワシャァァァッ!!!」


サワムラーは、体を上から押さえつけられながらも、


凛「離れるにゃぁー!! “ブレイズキック”!!」
 「シェェェェェイ!!!!!」


自分に覆いかぶさるワシボンに向かって、脚を伸ばしながら燃える蹴撃を放つ、


 「ワッシャッ!!!」


攻撃を察知して、飛び立つワシボン。

そして、攻撃を避けたら、


 「ワシャァ!!!!」


再び、爪で襲いかかる。


凛「こ、これじゃ動けない……!」

侑「自由にはさせません!!」


凛さんの苦戦が見て取れたのか、


花陽「ダグトリオ! サワムラーを助けるよ!」
 「ダグダグ!!!」


ダグトリオが、組み合うサワムラーとワシボンの方に顔を向けた──瞬間、


 「シャーーーボッ!!!!!」


ダグトリオの進行方向の地面から、サスケが飛び出す。


花陽「“あなをほる”!? いつの間に!?」


さっき相殺して飛び散った泥を目くらましにしながら、潜らせて接近させていたんだ。

飛び出したサスケとダグトリオの視線が交差する。


歩夢「“へびにらみ”!!」
 「シャーーーーー、ボッ!!!!!」

 「ダ、ダグッ!!!?」


ヘビに睨まれて、“まひ”したように身を竦めて動けなくなるダグトリオ。


歩夢「いいよサスケ! 畳みかけて!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが大口を開けながら、ダグトリオに向かって飛び出す。


歩夢「“かみつく”!!」

花陽「あ、“あなをほる”!!」
 「ダ、ダグッ」


あともう少しのところで、ダグトリオが地面に頭を引っ込めて、サスケの攻撃が空振りする。


花陽「……ま、まずいよぉ」


花陽さんは焦り気味にチラチラとサワムラーを気にしている。

それもそのはず、


 「ワシャッ!!!」
 「シェェイッ!!!」


取っ組み合いを続けるサワムラーは── 一瞬足りとも地面から飛び上がることが出来ない状態になっている。

ダグトリオは地面に潜って、“じしん”や“じならし”で全体を攻撃したいだろうけど、サワムラーを巻き込みそうで、攻撃が出来ずにいる。

いや──侑ちゃんが、サワムラーを地面から逃がさないようにしているんだ。

ダグトリオは潜って逃げたとはいえ、“まひ”して自由が効きにくい、なら……!


歩夢「攻めるなら今……! サスケ、“まきつく”!!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが尻尾を伸ばす──


 「シェェィッ!!!?」


──サワムラーの脚の根本に。


凛「にゃ!?」

歩夢「そのまま、“まとわりつく”!!」
 「シャボッ!!!」


そのまま“まとわりつく”に派生して、身をくねらせながら、サワムラーの両足、両手の根本に絡みついていく。

四肢を完全に縛られたサワムラーは身動きが取れず、


侑「ナイス、歩夢! ワシボン、決めるよ!!」
 「ワシャァッ!!!!」


その隙にワシボンが垂直に飛び上がり──空中で身を翻して、重力で加速しながら、一直線に突撃する……!


侑「“ブレイブバード”!!」
 「ワッシャァァァァ!!!!!!!」

 「シェェェェイ!!!!?」


サスケにホールドされて、逃げることもままならないまま、大技が直撃したサワムラーは、


 「シェ、シェィィ…」


そのまま、目を回して戦闘不能になった。


歩夢「侑ちゃん!」

侑「うん! ワシボン!」
 「ワシャッ!!!」


攻撃を決めた直後、ワシボンは、サスケの体を爪で掴んで、


侑「“そらをとぶ”!!」
 「ワシャッ!!!」


サスケごと、一気に飛翔する。

直後──グラグラと地面が大きく揺れる。

この揺れは──さっき地面に潜った、ダグトリオの“じしん”だ。


侑「味方が倒れた瞬間だったら、巻き込むことを心配しないで、範囲攻撃が出せるもんね」

歩夢「ありがとう、侑ちゃん」


だから、サスケはワシボンに掴んでもらって、空に逃げたということだ。


リナ『二人ともすごい! ここまで完璧!』 ||,,> ◡ <,,||

花陽「り、凛ちゃん……これも読まれちゃってる……どうしよう……」

凛「……二人とも、前とはまるで別人だにゃ……」


凛さんはサワムラーをボールに戻しながら言う。


花陽「うん……チームワークが全然違う」

凛「しっかり、成長してきたってことだね……! 燃えてきたにゃ!」


凛さんが、次のボールをフィールドに放る。


凛「次はサワムラーのようにはいかないよ。行くよ、ズルズキン!」
 「──ズキン!!」

侑「今度はズルッグの進化系……!」

リナ『ズルズキン あくとうポケモン 高さ:1.1m 重さ:30.0kg
   縄張りに 入ってきた 相手を 集団で たたきのめす。 口から
   酸性の 体液を 飛ばす。 粗暴だが 自分の 家族や 群れの
   仲間や 縄張りを とっても 大切にしている ポケモンなのだ。』

凛「ズルズキン! “ちょうはつ”!!」
 「ッペ」


ズルズキンが地面に唾を吐いて“ちょうはつ”してくる。


 「ワシャ…ッ?」


ワシボンは明らかに不快そうな顔をして、ズルズキンの方に急降下を始める。


リナ『“ちょうはつ”に乗せられてる……』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ワシボン、結構短気なところあるからね……」

歩夢「地上に引き摺り落として、ダグトリオで一掃するつもりかな……」

侑「たぶんね……」


となると、ダグトリオを止める役割が必要だ。


歩夢「侑ちゃん、ダグトリオは私たちに任せて」

侑「OK! 任せるよ! ワシボン! サスケを放して、“ダブルウイング”!」
 「ワッシャァーー!!!!」


ワシボンはサスケをパッと放しながら、急降下の勢いを乗せて、両翼を振りかぶる。


凛「“てっぺき”!」
 「ズキンッ!!!!」


ズルズキンは自身の皮を被って、防御に徹する。

攻撃が直撃して──ガス、ガス、と鈍い音が鳴るけど、


 「ズキン」


防御をしていただけあって、ダメージはあまり通っていないのがわかる。

一方、地面に降り立ったサスケは、


 「シャボ」


地面を凝視していた。

チロチロと舌を出しながら、じーっと地面を観察したあと、


歩夢「“あなをほる”!」
 「シャボッ」


勢いよく頭から地面を掘って潜り始める。

──アーボには、敵を探すための能力が生まれつきいくつか備わっている。

舌先は非常に敏感に匂いを感じ取り、さらに──熱を感知して相手を探す能力がある。

今こうして地面に潜ったのは……地中のダグトリオを追跡するため……!


花陽「! ダグトリオ! 地面の外に顔を出して!」


花陽さんもこちらの思惑に気付いたのか、ダグトリオに外に出てくるように指示を出す。

だけど、ダグトリオは“へびにらみ”で“まひ”している状態。

相手の位置を正確に探れるサスケなら──狙った獲物は逃がさない!!


 「ダ、ダグゥ!!!!」
 「シャーーーボッ!!!!」


地面から飛び出してきたダグトリオの頭には、すでにサスケが噛み付いている状態だった。


花陽「だ、ダグトリオ!! “さわぐ”!!」
 「ダーーーダグダグダグダグ!!!!!!!!!!!」


3匹のダグトリオが大騒ぎし始める。

激しい騒音でサスケを振り払うつもりだ。

でも、


歩夢「させない……! “とぐろをまく”!」
 「シャボ」


サスケは騒ぎまくるダグトリオの頭に噛みついたまま、その身をぐるぐるとダグトリオに巻き付けていく。


歩夢「絶対に放さない……! ダグトリオは私が任されたから!」
 「シャーーボッ!!!」


もちろんこの状況、サスケはただ噛み付いて耐えているだけじゃない。


歩夢「“ギガドレイン!”」
 「シャーボッ!!!」


噛み付いた部分から、“ギガドレイン”で相手の体力を吸い取る。


 「ダ、ダグ、ダグググ…」


騒ぎ続けるダグトリオも、体力を直接吸収され、次第に元気がなくなっていき、


 「ダ、ダグ…」


最終的には力尽きておとなしくなった。


花陽「も、戻って、ダグトリオ……!」

歩夢「やったね、サスケ!」
 「シャーボッ」


ダグトリオ撃破……!

それで侑ちゃんたちは……!?


凛「“かわらわり”!!」
 「ズルッ!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワシャッ!!!」


2匹の攻撃が相殺しあう。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャッ!!!」

 「ズルズ…!!」


凛「“しっぺがえし”!!」
 「ズルゥッ!!!」

 「ワシャァッ!!?」


一進一退の肉弾戦。


歩夢「侑ちゃん、今加勢に……!」


サスケを向かわせようとした、瞬間──ボムッと音がして、


 「…ブルルル」


大きな馬ポケモンがサスケの行く手を阻む。


花陽「通しません……!」

リナ『あのポケモンは、バンバドロ……! ドロバンコの進化系だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


花陽さんの2番手だ。


リナ『バンバドロ ばんばポケモン 高さ:2.5m 重さ:920.0kg
   10トン ある 荷物を 引きながら 三日三晩 休まずに
   山道を 歩き続けることが 出来る。 泥で 固めた 脚は
   岩より 硬くなり 一撃で トラックを 破壊する 威力。』


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!」

歩夢「さ、サスケ! 逃げよう!」
 「シャ、シャボッ」


あんな大きな足で踏みつけられた、一溜りもない。

サスケはバンバドロの足元を縫うようにして、すり抜けていく。


花陽「逃がさない……! “すなじごく”!!」
 「ブルルルル!!!!!!」


バンバドロが乱暴に足を踏み鳴らすと──足場の岩が砕かれて細かくなっていく。


 「シ、シャボォ…!!!」


砕かれた岩は砂利になり砂になり──そして、バンバドロを中心に流砂へと成長していく。


侑「サスケ……! 早く、ズルズキンをどうにかしなきゃ……!」


侑ちゃんが、サスケのピンチに気付き、助けようとするけど、


 「ワッシャァッ!!!」

 「ズキンッ!!!」


ワシボンとズルズキンは今も攻撃の応酬をしている。

サスケのサポートに入るのは難しい状況……。

なら、私たちに出来ることは──


花陽「バンバドロ! “10まんばりき”!!」
 「ブルルルルルッ!!!!!!」


バンバドロが全身全霊の力を込めて、サスケを踏みつける。


 「シャ、シャーーーボォッ……!!!!」


サスケは踏みつけられて、じたばたともがくけど、相手が重すぎて、逃げることなんて到底できそうになかった。


 「シャ、シャボォ……」


結局、途中で力尽きて戦闘不能に。

私はサスケをボールに戻す。


歩夢「ありがとう、お疲れ様、サスケ……」


サスケは十分仕事をしてくれた。

サスケの頑張りは、次のポケモンが引き継げばいい。


歩夢「いくよ、マホイップ!」
 「──マホ~」


私はマホイップをバンバドロの前に繰り出す。

小さい小さいマホイップは、バンバドロを見上げる形になる。


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!!」


バンバドロの足一本よりも小さいマホイップは、ぐしゃっと踏みつぶされてしまう。


 「ブルル…?」
花陽「……手応えがなさすぎる……」


バンバドロが足を持ち上げると──


 「マホ~♪」


ぺちゃんこ──というか、ドロドロになった、マホイップが楽しそうに鳴き声を上げた。


花陽「……“とける”……!?」

歩夢「いくら踏みつぶされても、マホイップにはダメージになりません!」
 「マホ~♪」


ここからは持久戦です……!




    🎹    🎹    🎹





歩夢のマホイップがバンバドロを受けながら、時間を稼ぎ始める。

なら、ズルズキンは私たちでどうにかしないと……!


 「ワッシャァ!!!」

 「ズキンッ!!!!」


2匹は未だに、肉弾戦の応酬を続けている。

ただ、いい加減“ちょうはつ”の効果も切れているはず。

なら、正直に付き合い続ける必要もない!


侑「ワシボン! “そらをとぶ”!」
 「ワシャァッ!!!」


ガッと爪で攻撃する反動を利用して、ワシボンは一気に空へと離脱する。

これで、距離を取って、一旦態勢を立て直す……!

……が、凛さんの対応は早かった。


凛「逃がさないよ!! “うちおとす”!!」
 「ズルッ!!!」


ズルズキンは足元の小石を拾って──それをワシボンに投げつけてきた。


 「ワシャッ!!?」
侑「やばっ!?」


──石が頭に直撃して、今空に飛び立ったばかりのワシボンは、真っ逆さまに落ちてくる。

無防備に落ちてくる相手を、見逃してくれるわけもなく、


凛「“アイアンヘッド”!!」
 「ズ、キンッ!!!!!」


硬質化した頭でもって、地面に叩きつけられる。

逃げを打った結果、大きな隙を晒す羽目になったしまった。

……だけど、


侑「ワシボン……! まだ、終わりじゃないよね!」
 「ワシャァ…!!!!」


押しつぶしてくるズルズキンの頭の下で──ワシボンが“ばかぢから”で踏ん張っていた。


凛「嘘!? まだ耐えるの……!?」


ワシボンの闘志はまだ潰えていない……!!

自分を押しつぶしてくるズルズキンの頭を“ばかぢから”で少しずつ押し返していく。

迫り勝てる……!! そう思った瞬間だった、

──足元を大きな揺れが襲った。


侑「わぁ!!?」

歩夢「きゃぁ!!?」


隣にいる歩夢ともども、大きな揺れに驚きの声をあげる。

それと同時に、踏ん張っていたワシボンも大きな揺れの影響を受け、


 「ワ、ワシャァァァ…!!!」


せっかく、押し返せそうだったのに、ズルズキンの頭に押し返されていた。

そして、トドメと言わんばかりに、


 「ズキン!!!!」


もう一度振りかぶって、振り下ろされた“ずつき”を脳天に食らって、


 「ワ、ワシャァ……」


ついに、気絶してしまった。


侑「く……戻って、ワシボン」


勝てると思ったのに……。

それにしても今の揺れ……。


侑「バンバドロの“じしん”……だよね」

花陽「ごめんね、凛ちゃん……出来れば、ズルズキンは巻き込みたくなかったんだけど……」

凛「うぅん、助かったよ……ありがと、かよちん」


凛さんのピンチに花陽さんが機転を利かせたということらしい。


歩夢「ご、ごめん侑ちゃん……止められなかった」


どうやら、歩夢との持久戦の中で、無理やり全員を巻き込んで攻撃してきたらしい。

歩夢は防御に徹して時間を稼いでいたし、やむを得ない。


侑「うぅん、大丈夫!」


それより次だ。まだ私の手持ちは2匹残ってる。

ただ、問題は……イーブイとライボルト、どっちを先に出すかだ。

ライボルトは花陽さんのじめんタイプと相性が悪いし、イーブイは凛さんのかくとうタイプと相性が悪い。

どっちを先に出しても、どうにか相性を覆す必要がある。

ボールに手を掛けながら、次のポケモンを迷っていると──腰につけたままのボールの一つから、ボムッと音がした、


侑「へ……!?」


びっくりして、振り返ると、


 「…ニャァ」


ニャスパーが出て来ていた。


侑「に、ニャスパー! 今、バトル中で……」
 「ニャァ?」

凛「にゃ? どうかしたの?」

侑「あ、えっと、ごめんなさい! この子勝手に出てきちゃったみたいで……!」

凛「そういうことなら、戻しても大丈夫だよ」

侑「す、すみません! ニャスパー、ボールに戻って!」
 「ニャァ」


すぐさまボールに戻そうとするけど、ニャスパーは知らんぷりして、とてとてとフィールドへと歩いていく。


侑「ニャスパー……?」

リナ『もしかしたら……侑さんたちが戦ってるところを間近で見て、闘争本能が刺激されたのかも』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ~」
侑「……一緒に、戦ってくれるの?」

 「ニャァ」
侑「……」


相変わらず何考えてるかわからないけど……。少なくとも、明らかに戦っている中で、自分から前に出たということは、乗り気……と捉えてもいいのかもしれない。


侑「……わかった。すみません! やっぱり2匹目はこの子で戦います!」

歩夢「ええ!? ゆ、侑ちゃん!? 大丈夫なの!?」


まだ、この子のことはよくわからないことばっかりだけど、


 「ニャァ~」


私たちのバトルを見て、自分も戦いたいと思ってくれたってことは……私たちの戦いを見て、少しでも熱くなってくれたということ。


侑「せっかくやる気を出して、自分から出て来てくれたんだから。その気持ちに応えてあげたいんだ!」

歩夢「侑ちゃん……。……わかった!」

凛「じゃあ、その子が侑ちゃんの2匹目でいいんだね?」

侑「はい! それじゃ行くよ、ニャスパー! 初陣だ!」
 「ニャ~~~」





    🎹    🎹    🎹





リナ『侑さん、ニャスパーがなんの技を使えるかはわかる?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「大丈夫! 予習済みだから!」


ニャスパーが仲間になった後から、ニャスパーの覚える技は調べていた。

いつか、一緒に戦うこともあるかもって思ってたしね!

──まさか、それがジム戦の真っ最中になるとは思ってなかったけど。


侑「ニャスパー! ズルズキンに向かって、“シグナルビーム”!」
 「ニャァ~~」


ニャスパーから、点滅する光線が発射される。


 「ズルズッキンッ…!!!!」


ズルズキンに攻撃が直撃する。技自体はすごく威力が高いわけじゃないから、倒しきるのは難しいけど……。

ズルズキンは遠距離技に乏しいし、特殊技に対する防御手段も少ない。

となると、


凛「ズルズキン! “とびひざげり”!」
 「ズキンッ!!!」

侑「接近してくるよね!」


ズルズキンは助走を付けて、ニャスパーに向かって飛び掛かってくる。

なら……!


侑「ニャスパー! “じゅうりょく”!」
 「ニャ~」

 「ズキンッ!!!?」


空中に浮いていたズルズキンは無理やり、地面に叩き落される。

“じゅうりょく”が発動すると、周囲のポケモンは空を飛べなくなるし、“とびげり”や“とびひざげり”を使うことが出来なくなる。

全員が飛べなくなるということは、裏を返せば、すべてのポケモンが“じしん”や“じならし”を回避できなくなるということでもある。

これで、花陽さんは凛さんのポケモンを巻き添えにしないで、“じしん”を撃つことは出来なくなったわけだ。


リナ『侑さん、すごい! 初めてなのに、ニャスパーの技を使いこなしてる!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「えへへ、実は結構イメトレしてたんだよね!」


ニャスパーが覚える技を眺めているとき、面白い技がたくさんあるとは思っていたんだ。

エスパータイプは思った以上にいろんなことが出来て、面白い戦いが出来そうだなって……!


凛「無理にジャンプしなくても、出来る技なんてたくさんあるよ!! “じごくづき”!!」
 「ズキンッ!!!!」


ダッシュで突っ込んできた、ズルズキンが“じごくづき”をしようと、迫ってくる。

ニャスパーにとっては弱点タイプのこの技だけど──狙い通りだ!

次の瞬間、ズルズキンの“じごくづき”は──ベシャという音を立てた。


凛「にゃ!?」
 「ズキンッ!!?」

花陽「え!?」
 「ブルル…!!?」


驚きの声をあげる凛さんと花陽さん。そして、それぞれの手持ちのポケモンたち。

それもそのはず──ズルズキンの攻撃した場所には、


 「マホ~♪」


“とける”で物理攻撃に強い耐性を持ったマホイップの姿。

そして、先ほどから地面を踏み鳴らしまくっていたバンバドロは、


 「バ、バンバ…!!!!」


脚を上げたまま、静止していた。

しかもその足元には──


 「ニャァ~~~」


ニャスパーの姿。


侑「成功! “サイドチェンジ”!」


ダイヤさん、ルビィさんとの戦いで使われた技だ。

使いどころを選べば、奇襲を掛けながら、有利なマッチアップを作り出せるテクニカルな技。


凛「ま、マホイップはまずいにゃ……!!」

歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!」
 「ホイップ~~♪」

 「ズルゥーーッ!!!?」


輝く閃光がズルズキンを圧倒する。


リナ『あく・かくとうタイプのズルズキンには、フェアリータイプはこうかばつぐん!』 ||,,> ◡ <,,||


先ほどから、効果があまりないとわかっていても、バンバドロが攻撃によってマホイップを足止めし続けていたのは、ズルズキンと戦わせないためだということには気付いていた。

だからこそ、足止めしていたはずのマホイップが目の前に現れたのには面食らったことだろう。

加えて──


 「ニャァ~~~」

 「ブ、ブルルル…」
花陽「バンバドロがパワーで押し負けてる……!?」


耳をわずかに開いたニャスパーが、バンバドロの足を少しずつ押し上げる。


侑「やっぱり、ニャスパーのサイコパワーは強力だって、図鑑に書いてあったとおりだ……!」


繊細なコントロールこそ苦手なものの、純粋に重いものを持ち上げたり吹っ飛ばしたりする、力任せな使い方なら、バンバドロのパワーにも負けてない……!


 「ニャァ~~~」

 「ブルルッ!!!?」


ニャスパーはそのまま、バンバドロをひっくり返してしまう。


侑「すごいよ! ニャスパー!」
 「ニャァ~」

侑「畳みかけるよ!!  “サイコショック”!!」
 「ニャァ~~」


実体化したサイコパワーが、バンバドロを集中砲火する。


 「ブ、ブルルル…!!!!」
花陽「く……強力な攻撃だけど……バンバドロの特性は“じきゅうりょく”です! 攻撃を受ければ受けるほど、防御力が増して……」

 「ブ、ブルル……」
花陽「え……!? ぜ、全然受けきれてない……!?」


転んで動けなくなった状態で、“サイコショック”の集中砲火を受けたバンバドロは、


 「ブ、ブルルゥ…………」


ダメージに耐えきれず気絶してしまった。


花陽「え、え……どういうこと……?」


動揺する花陽さん。

それに答えたのは、


歩夢「……サスケが最後にした技、何かわかりますか」


歩夢だった。


歩夢「バンバドロが“10まんばりき”で踏みつける瞬間……サスケは技を使ってたんです」

花陽「え……?」

歩夢「“いえき”を」

花陽「……! だから、“じきゅうりょく”が……!」


“いえき”は相手の特性を消してしまう技だ。

それによって、バンバドロは“じきゅうりょく”を失っていたため、ニャスパーの攻撃に耐えることが出来なかったというわけだ。


花陽「完全にやられちゃったね……」

凛「侑ちゃんも、歩夢ちゃんも、すごいね……! すっごく強くなった!」

花陽「うん! そうだね。びっくりするくらい強くなってる!」

凛「でも、まだ凛もかよちんも、とっておきの子が残ってるからね! 最後まで勝負はわからないよ!」


凛さんと花陽さんは、それぞれズルズキンとバンバドロをボールに戻しながら言う。

二人の最後のポケモンは──


凛「行くよ、オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!!」

花陽「ドリュウズ! お願い!」
 「ドリュ!!!!」


オコリザルとドリュウズ。

特にオコリザルは、私たちにとっては因縁の相手だ。


歩夢「……オコリザル」

侑「歩夢」


緊張気味に相手の名前を呟く歩夢の肩をぽんと叩く。


侑「もうあのときみたいに、知らないままじゃないから。大丈夫」

歩夢「……うん、そうだね!」

侑「このまま、行くよ!」

歩夢「うん!」


さぁ、ジム戦も最終局面だ……!




    🎹    🎹    🎹





花陽「ドリュウズ! “あなをほる”!」
 「ドリュ!!!」


最初に動き出したのは花陽さんのドリュウズ。

頭と爪のドリルを使って、地面に潜っていく。

狙いは恐らく──


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」


マホイップだ。

相手は恐らく、数を削りたいだろう。

そうなると、マホイップと相性の良いドリュウズをぶつけてくるはずだ。


歩夢「マホイップ! “とける”!」
 「マホ~~」


ならばと、歩夢はさらに物理攻撃への耐性を上昇させる。

無敵ではないにせよ、これでタイプで不利なドリュウズ相手でも十分時間を稼げるはずだ。

そして、その間に、


 「ニャ~~」


ニャスパーでオコリザルを倒す……!


凛「オコリザル! 行くにゃ!」
 「ムキィーーーー!!!!」

侑「行くよ、ニャスパー!」
 「ニャ~」


飛び出してくるオコリザルを迎え撃とうと、ニャスパーが前に走り出した瞬間──

ニャスパーの足元から、


 「ドリュッ!!!!!!」

 「ニャァッ!!!?」


ドリュウズが飛び出してきた。


侑「なっ!?」


──読みが外れた!?


花陽「“ドリルライナー”!!」
 「ドリュゥ!!!!!」

侑「さ、“サイコキネシス”!!」
 「ニ、ニャァ~~~~」


下から突き上げるように、ドリュウズが体を回転させながら迫る。

それをサイコパワーでどうにか押し返しながら耐えるニャスパー。


侑「……そうだ、オコリザルは!?」


オコリザルはどうにか拮抗しているニャスパーとドリュウズ目掛けて走りこんできている真っ最中。

そこでやっと、相手はマホイップではなく、ニャスパーへ集中攻撃を選んだんだと気付いて、ハッとする。

今必死にドリュウズを抑えているニャスパーへ攻撃をされたらまずい……!


歩夢「マホイップ!」
 「マホ~~~」


歩夢もそれに気付いて、マホイップを前線に送り出す。

──ただ、これが相手の狙いだった。

なんと、オコリザルは──ニャスパーとドリュウズの横を素通りした。


侑「え!?」


オコリザルの狙いは──マホイップ!?


凛「行けっ!! オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!」

歩夢「! マホイップ!」
 「マホ~~」


ドロドロの状態のマホイップに向かって、オコリザルが拳を突き刺した。

──ドチャッという粘性の高い液体の音が鳴る。

その音がオコリザルの物理攻撃は効果が薄いと物語っているはずなのに、


 「マ、マホ…マホイ…ッ!!!?」
歩夢「え!?」


急にマホイップが苦しみだした。


凛「もう一発!!」
 「ム、キィィィ!!!!!」

 「マ、マホ~~~~!!!?」


マホイップが悲鳴をあげながら、オコリザルと距離を取ろうとする。

確実にダメージが入っているということ。

何……!? 何をされてるの……!?

必死で頭を回転させる。

フェアリータイプのマホイップには、かくとうタイプは効果が薄いはずだ。

となると、あれはかくとうタイプの技じゃないのは間違いない。

フェアリータイプへの有効打となると、ドリュウズのようなはがねタイプや──


侑「……どく、タイプ……?」


そこでやっと気付く。


侑「歩夢!! “どくづき”だ!!」

歩夢「“どくづき”……!?」


“どくづき”は毒タイプの物理技。確か、オコリザルも覚えることが出来たはずだ、


侑「ただの物理攻撃に見せかけて、拳から毒を注入してるんだ!」

歩夢「!?」

凛「バレちゃったね! でも、もう遅いよ!!」
 「ムキィィィ!!!!!」


3発目の拳が、マホイップに突き刺さる。


 「マ、マホィィィ…!!!」


苦しむマホイップ。


侑「歩夢、早く対策を……!」

花陽「歩夢ちゃんのポケモンを気にしていて大丈夫ですか?」

侑「!?」


花陽さんの声にハッとして、ニャスパーの方を見ると、


 「ニ、ニャァァァァ…!!!!!」

 「ドリュゥゥゥゥ!!!!!」


ドリュウズのドリルに今にも押し負けそうになっているところだった。

完全に注意がマホイップに向いていて、指示がおろそかになっていた。

花陽さんは、その隙を逃してはくれなかった。


花陽「“つのドリル”!!」
 「ドリュゥゥゥ!!!!!!」

 「ゥニャァァァァ!!!!?」


一撃必殺……!

“つのドリル”が直撃して、ニャスパーは回転しながら、吹き飛ばされた。


侑「ニ、ニャスパー!!」


吹っ飛ばされたニャスパーは、


 「フ、フニャァァァ…」


地面に落っこちて、戦闘不能になってしまった。

そして、それと同時に──


 「マ、マホ…」
歩夢「マホイップ……! ……ありがとう、戻って」


マホイップも“どく”に耐えきれずに戦闘不能になったところだった。


侑「……ニャスパーもありがとう。戻れ」


私もニャスパーをボールに戻す。

やってしまった。


侑「……っ」


一気に流れが変わったのを感じる。

その原因を作ったのは……恐らく私だ。

完全に向こうの作戦を読み違えた。

百歩譲ってそこは仕方ないとしても……読み違えたことに動揺して、完全にその後の指示を間違えた。

嫌な汗が出てくる。この展開はよくない。これは逆転を許す流れだ。

どうにか、どうにかこの悪い流れを切らないと──

そんな焦る私を引き戻したのは──


歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」

侑「え……?」


歩夢の言葉だった。


歩夢「大丈夫だよ」

侑「歩夢……」

歩夢「大丈夫」

侑「……」


ああ……私、何一人で焦ってるんだ。


侑「……すぅー……はぁー……」


深呼吸をする。


歩夢「落ち着いた?」

侑「うん……ありがとう、歩夢」


焦ることなんてない。

私には──こんなに頼もしいパートナーがいるんだから。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「勝とう!」

侑「……!」


いつかのバトルで私が歩夢に言った言葉だ。


侑「……うん! 勝とう! 二人で!」

歩夢「うん!」


私たちは最後のポケモンを繰り出す。


侑「行くよ! イーブイ!!」
 「イブイッ!!!」

歩夢「ラビフット! お願い!」
 「ラビフッ!!!!」


イーブイとラビフット。奇しくも前回、敗北したときと同じ組み合わせ。

だけど──負けるつもりなんてさらさらない。


侑「歩夢! 行くよ!」

歩夢「うん!」

侑「イーブイ! オコリザルに“すくすくボンバー”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが尻尾を振ると、目の前に樹が生えてくる。

そして、その樹からオコリザル目掛けてタネを落としまくる。


凛「もう、それは前に食らったもんね! オコリザル、相手しちゃダメだよ!」
 「ムキィィ!!!」


凛さんは冷静に距離を取らせる。

この技はビジュアル的なインパクトこそすごいものの、技が敵に届くまで少々時間が掛かるという難点がある。

とはいえ、後ろに下げさせただけでも十分だ。

その隙に、


歩夢「ラビフット! ドリュウズに“かえんほうしゃ”!」
 「ラーーービィィィィ!!!!!!!!!」


ラビフットがドリュウズに向かって、炎を噴き出す。


花陽「“あなをほる”!」
 「ドリュ!!!!」


それを回避するように、またしてもドリュウズは穴に潜っていく。

さぁ、今度はどっちに来る……!


歩夢「侑ちゃん」

侑「歩夢?」

歩夢「任せて」

侑「! オッケー任せるよ! イーブイ!」
 「ブイッ」


イーブイは、自分で生やした“すくすくボンバー”の樹をぴょんぴょんと跳ねながら登っていく。

地中を突き進むドリュウズの射程外に行くために。


凛「にゃ!? 何かする気だね! オコリザル!」
 「ムキィィィ!!!!!」


凛さんの指示で、オコリザルが再びこっちに走ってくるが、


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

凛「わわっ!?」
 「ムキィッ!!?」


オコリザルの目の前に電撃を落として威嚇する。

歩夢の邪魔はさせない……!




    🎀    🎀    🎀





侑ちゃんが、私を信じて、私が戦うステージを作ってくれている。


歩夢「行くよ、ラビフット」
 「ラビ!!!」


地中から迫るドリュウズ。

地面のどこから飛び出すか、出てくるまで目に見えない攻撃。

だけど、大丈夫。

──ヒバニーの頃から、この子の大きな耳は、いろんな音を聴き分ける。


歩夢「──よく聴いて」
 「ラビ」


集中すれば、


 「──ドリュ!!!!」


どこから、飛び出してくるかも、きっとわかる……!!

──ドリュウズが飛び出した瞬間、掠るようにギリギリで攻撃を躱しながら、


歩夢「そこっ!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビッフッ!!!!!」


ドリュウズのボディに、横から炎の蹴撃を炸裂させた。


 「ド、ドリュゥ!!!!?」


完全に攻撃を直撃させるルートに入ったと思い込んでいたドリュウズは、攻撃に対応できずに、吹っ飛ばされる。

そこに畳みかける。


 「ラビビビビビビ!!!!!!!」


“ニトロチャージ”で加速しながら、全身を炎を纏ったラビフットが飛び込んでいった。


歩夢「“フレアドライブ”!!」
 「ラーービフゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」

 「ドリュゥッ!!!?」


燃え盛る炎の一撃を、ドリュウズに炸裂させた。


花陽「ドリュウズ……!」
 「ド、ドリュゥ…」


リナ『ドリュウズ、戦闘不能……!』 || > ◡ < ||

侑「やった!」


そして、ドリュウズを倒すと同時に──


 「ラビ…!!!!──」


ラビフットの体が光に包まれる。


侑「こ、これって……もしかして……!?」

歩夢「進化の……光……」


ラビフットが、最後の姿へと、その身を変える。


 「──バーーーース!!!!!」

侑「歩夢……! ラビフットが、進化したよ!!」

リナ『最後の姿……エースバーンだよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

リナ『エースバーン ストライカーポケモン 高さ:1.4m 重さ:33.0kg
   小石を リフティングして 炎の サッカーボールを つくる。 するどい
   シュートで 相手を 燃やす。 攻守に 優れ 応援されると さらに
   燃えるが スタンドプレイに 走り ピンチを 招くこともある。』

歩夢「エースバーン……!」


残るポケモンは、


花陽「ごめん凛ちゃん……また、先にやられちゃった……」

凛「大丈夫! 凛がどうにかするから!」
 「ムキィィィィ!!!!!」


凛さんのオコリザルと、侑ちゃんのイーブイ。

そして、新しい姿を得た、私のエースバーン。

前回とほとんど同じシチュエーション。


侑「歩夢、大丈夫?」

歩夢「え?」

侑「前のときと……ほとんど同じだから」

歩夢「……」


確かに、ちょっとドキドキしていた。

また、同じ失敗をするかもって、そんな気にもなるけど。


歩夢「うぅん、平気。前の私だったら、プレッシャーを感じてたかもしれないけど……」


今は、大丈夫。

むしろ、今は、


歩夢「あのときの失敗を、乗り越えるチャンスなんだって、思えるんだ」

侑「歩夢……」


あの大失敗から、ずっと私の心につっかえていたものを、前に進むことを遮っていた壁を──全部、全部、壊して、前に進めるんだって。


侑「……うん! 進もう! 前に!」

歩夢「うん! 行こう! 前に!」




    🎀    🎀    🎀





歩夢「エースバーン! 行くよ!」
 「バーーーースッ!!!!」

侑「イーブイ! GO!」
 「ブイッ!!!!!」


エースバーンとイーブイが一緒に走り出す。


凛「オコリザル!! “クロスチョップ”!!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


オコリザルが、イーブイに向かって飛び掛かってくる。

それを横から、


歩夢「“ブレイズキック”!!」
 「バースバーー!!!!」

 「ムキィィィ!!!!!」


蹴り飛ばす。吹っ飛ばされ、転がりながらも、オコリザルは受け身を取って立ち上がる。


凛「地面に向かって、“メガトンパンチ”!!」
 「ムキィィィッ!!!!!」


今度は、地面に拳を叩きつけ──


凛「“かいりき”!」
 「ムッキィィィィィ!!!!!」


パンチで砕いた大岩を持ち上げる。


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」

 「ムッキィィィィィ!!!!!!!」


そして、大岩をこっちに向かって放り投げてくる。

それと同時に、


 「ムキィィィィ!!!!!!」


オコリザルが走り出す。


侑「オコリザルは私たちが止める!! 歩夢は岩を!! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブイ!!!!」

歩夢「うん! エースバーン!」
 「バース!!!!」


エースバーンは足元にある小石を、足で器用にリフティングし始める。

そこに自身の炎を宿らせながら、火球を作り出す。

──ポーンと一際高く蹴り上げた燃えるボールを、


歩夢「“かえんボール”!!」
 「バーースバーーーッ!!!!!!」


大岩に向かって、蹴り飛ばす!

猛スピードで蹴り出された炎のボールは──大岩にぶつかると同時に、炎のエネルギーを散らしながら炸裂した。

大岩は轟音を立てながら、バラバラと砕け散る。

そして、その下ではイーブイが、


 「ブイイイイイ!!!!!!!」

 「ム、ムキィィィィィ!!!!!!」


オコリザルの“クロスチョップ”に対して、全身に炎を纏いながら、迫り合っているところだった。


侑「イーブイ!! いっけぇぇぇ!!」
 「ブィィィィィ!!!!!!!!!」

凛「かくとうタイプの意地、見せるにゃぁぁぁぁ!!」
 「ムッキィィィィィィ!!!!!!!!!!」


最後の迫り合い。


歩夢「加勢に行って、エースバーン!!」
 「バースバーーーッ!!!!!!」


駆け出すエースバーン。

──恐らく、普通だったら、ここで決着だったんだと思う。

だけど、最後の最後で──神様がいたずらをした。

エースバーンが砕いた岩が、バラバラに砕け散って大量の礫が降っている。

その礫の一つが──偶然、


 「ブヒッ!!!!!!」


オコリザルの鼻っ柱──オコリザルの急所にぶつかった。


侑「なっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『嘘っ!?』 || ? ᆷ ! ||

凛「にゃっ!?」

花陽「えぇ!?」


誰も予想をしていなかった展開に、この場にいる全員が驚きの声をあげた。


 「ムッキィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──“いかりのつぼ”が発動した。


 「ブイッ!!!?」
 「バースッ!!!?」


オコリザルはイーブイの“めらめらバーン”で体が燃やされているのもお構いなしに、腕を引く。


凛「……“ばくれつパンチ”ィ!!!!」
 「ムッキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」


オコリザルのフルパワーの拳が──爆発した。

そう……爆発と言って差し支えなかった。


 「ブ、ブィィィィィィィ!!!!?」
 「バァァァァス!!!!!!」


至近距離にいたイーブイはもちろん、援護をしようと駆け寄っている真っ最中だったエースバーンもろとも吹き飛ばす、爆発に匹敵する超威力の拳。

──また、負けるの?

吹き飛ぶエースバーンとイーブイを見て、そう思った。

……やだ。

やだ。


歩夢「……やだっ!! 負けたくないっ!!」

侑「歩夢っ!!!!」

歩夢「!?」

侑「まだだっ!!!!」


宙を舞う、エースバーンと、イーブイは、


 「バース、バァァァァ!!!!!!」
 「ブイィィィィィッ!!!!!!」


まだ闘志の炎を失っていない。


侑「イーブイッ!! “めらめらバーン”ッ!!!」
 「ブゥゥゥゥイィィィィィィ!!!!!!!!」


──ゴォっと音を立てながら、イーブイが燃え上がる。

そのとき、侑ちゃんとイーブイのやろうとしていることが、自然とわかった。


侑「歩夢ーーーーっ!!! いけーーーーっ!!!」

歩夢「エースバーンッ!!!! イーブイに向かって、“ブレイズキック”ッ!!!」


エースバーンは身を捻りながら──


 「バァァァァァァーーースッ!!!!!!!!!!!!!!」


空中のイーブイを、蹴り飛ばした。


 「ブゥゥゥゥイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


燃える火球となったイーブイが猛スピードで、


 「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


怒り狂うオコリザルの──急所を捉えた。

炸裂と共に、2匹分のほのおのエネルギーが一気に膨張し──爆裂した。


歩夢「きゃぁっ!!?」

侑「くっ……!!」


激しい爆風に思わず尻餅をつく。

そんな爆風が収まり──炎が晴れた先では、


 「ム、キィィィィ……」


丸焦げになったオコリザルが、白目を向いて、ひっくり返っていた。


 「ブ、ブイ…ブィィ…」


そして、オコリザルの傍らには、ふらふらになりながら立っているイーブイ。

少し離れたところで、


 「バ、バァス…」


こちらも満身創痍ながら、どうにか立っているエースバーンの姿があった。


歩夢「え、っと……」


なんだか、ポカンとしてしまった。


侑「歩夢」

歩夢「侑ちゃん……?」

侑「私たちの──勝ちだよ」

歩夢「……ぁ」


オコリザル、戦闘不能。よって、この勝負は──


歩夢「私たち……勝ったんだ……っ……」


自然と涙が溢れてきた。


歩夢「勝ったんだ……っ……」

侑「うん……! 勝ったよ! 二人で!」

歩夢「……勝った……勝てたよぉ……っ……侑ちゃんと、二人で……っ……ひっく……っ……」

侑「うんっ! 歩夢が居たから、勝てたよ!」

歩夢「侑、ちゃん……っ……、ゆう……ちゃん……っ……!」


私は嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなくて。

何度も何度も侑ちゃんの名前を呼びながら、しゃくりをあげて泣きじゃくる。


侑「歩夢……ありがとう……」

歩夢「……ぅぇ……っ……ひっく……っ……わ、わた、しも……あり、がとう……ゆう、ちゃ……っ……」

侑「うん……」


ぎゅっと抱きしめてくれる侑ちゃんの胸の中で、しばらくの間、泣き続けていました。




    🎀    🎀    🎀





侑「落ち着いた?」

歩夢「……うん///」


なんだか、ものすごく泣いてしまった。

ちょっと恥ずかしい……。


侑「ふふ、ならよかった」


侑ちゃんがクスリと笑う。


歩夢「むー……笑わないでよ……///」

侑「ふふ、ごめんごめん」


また笑うし……。

そんな私たちのもとに、


凛「逆転勝ちだと思ったのににゃー……」

花陽「ふふ、そうだね」


凛さんと花陽さんが歩いてくる。


凛「でも、すっごい楽しいバトルだった!」

花陽「うん!」

凛「侑ちゃん、歩夢ちゃん。こっちにおいで」

侑「はい! ……歩夢」


侑ちゃんが私の手を引いて、立ち上がらせてくれる。


歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」

侑「どういたしまして♪」


二人で、並んで凛さんと花陽さんの前に立つ。


凛「二人の果てしない信頼、強さ、勇気を認めて──この“コメットバッジ”と」

花陽「“ファームバッジ”を進呈します♪」

侑・歩夢「「……はい!!」」


バッジを受け取り、私は思わず天を仰いだ。

すると、来るときは透き通るように青かった空は──綺麗な茜色に染まっていた。

きっと明日も晴れ渡っているんだろうな──今の私の心のように。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「これまで、ありがとう……!」

侑「ふふっ、こちらこそ」


私はやっとこれで一区切り出来た気持ちだった。

だから、これまでのお礼と、


歩夢「これからも、よろしくね!」

侑「うん!」


これからの気持ちを全部込めて、侑ちゃんに伝えるのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.33 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:138匹 捕まえた数:15匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『SVレート初戦』
(21:37~)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


■Chapter036 『朧月の夢の中で』 【SIDE Ayumu】





流星山で激闘の末、凛さん、花陽さんとの戦いに勝利した私たち。

気付けば、すっかり日も落ちて、夜の時間が訪れようとしていた。


侑「歩夢……空、すごいね」
 「ブィ~!!」

歩夢「……うん」


ふと空を見上げると、まだ日が落ちて間もないのに、空にはたくさんの星が瞬き始めていた。


リナ『流星山は天体観測の名所だからね。空気が澄んでて星がよく見える』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言うとおり、話には聞いていたけど……実際に見ていると、満天の星たちが今にも落ちてくるんじゃないかという錯覚に陥る。


 「…シャボ」


バトルの後、回復してあげて、すっかり元気になったサスケも、私に釣られて空を見上げる。


侑「サスケが、ご飯以外に興味を示すなんて珍しい……」

歩夢「ふふ、そうかも♪」
 「シャボ」


だって、本当にすごい星空なんだもん。普段ご飯にしか興味のないサスケだって、気になっちゃうよね。

──さて、ジム戦を終えたのに、どうしてまだ私たちがこの流星山に残っているのか、その理由は……。


侑「っと……あんまりのんびりして、凛さんたちを待たせてちゃいけないね」

歩夢「うん、そうだね」


凛さんの提案で今日はホシゾラ天文所に泊めてもらえることになったからだ。

凛さんと花陽さんは、一足先に天文所に行って宿泊手続きをしてくれている。

なので、私は侑ちゃんと一緒にのんびり夜空を見上げながら、天文所に向かっているところというわけだ。

とはいえ、この星空を堪能していたら、本当に一晩中、空を見上げたまま、ここに根っこが生えてしまいそう。

だから、一旦夜空の鑑賞はここまでにして、天文所へ向かうことにする。


侑「花陽さんが、コメコで採れた食材でご飯を作ってくれるらしいし!」

 「シャボッ!!!!」


ご飯と聞いて、サスケが私の肩から降りて、天文所に猛スピードで向かっていく。


歩夢「もう、サスケったら……」

侑「あはは♪ ジム戦頑張ったし、きっとお腹空いてるんだよ。私もお腹ペコペコだし……」
 「ブイ」


イーブイも侑ちゃんに同調するように、鳴く。

確かに、あんな激戦の後だから、私もお腹空いたかも……。


リナ『それじゃ、早く天文所に行こう♪』 || > ◡ < ||

侑「だね! 歩夢、行こう!」


そう言って、侑ちゃんが駆け出す。


歩夢「あ、侑ちゃん! 暗いから、走ったら危ないよ!」

侑「平気平気!」

歩夢「もう……!」


慌てて侑ちゃんの後を追いかけようとした、そのときだった。

少し離れたところに、星空を見上げる小さなポケモンが居た。


 「…ピィ」


小さな小さな星型のシルエット。

あれって……。


歩夢「……ピィ?」


ほしがたポケモンのピィ。

可愛らしくて、小さい頃から好きなポケモンなんだけど……すごく珍しいポケモンだから、野生の姿を見るのは初めてだった。

もっと近くで見てみたくて、ピィに近寄ろうとしたら、


 「ピ?」


ピィは私に気付いたようで。


 「ピィ~」


ぴょんぴょん跳ねながら、どこかに逃げて行ってしまった。


歩夢「あ……行っちゃった……」


仲良くなりたかったんだけどな……。

ちょっぴり残念に思っていると、


侑「──歩夢~? 何してるの~? 早く行こうよ~?」


侑ちゃんが呼び掛けてくる。


歩夢「あ、うん! 今行く!」


逃げられちゃったのは残念だけど……この山に生息しているなら、また会えるかな?

天文所に着いたら、凛さんに聞いてみようかな。

私は胸の内でそう決めて、侑ちゃんの後を追いかけるのだった。




    🎀    🎀    🎀





凛「──にゃ? ピィ?」


天文所の食堂で、花陽さんの作ってくれたご飯を食べながら、私はピィのことを凛さんに訊ねていた。


歩夢「はい、さっき見かけたんです」

侑「えー! 私もピィ見たかったなぁ……言ってくれればよかったのに……」

歩夢「だって、侑ちゃんどんどん先に行っちゃうんだもん……」


尤も、いの一番に飛び出して行っちゃったのはサスケなんだけど……。

羨ましがる侑ちゃんに対して、


凛「うーん……」


凛さんは腕を組んで唸っていた。


花陽「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「うーんと……ピィかぁ……」

歩夢「……?」


凛さんの不思議な反応に首を傾げていると、リナちゃんがふわふわと近付いてきて、


リナ『流星山にはピィは生息してないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||


そんなことを言う。


歩夢「え?」

侑「そうなの?」

リナ『うん。流星山にピィはいない。少なくとも図鑑の分布データでは生息してないってことになってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「えぇ……?」

侑「もしかして、他のポケモンと見間違えた?」

歩夢「そんなはずないと思うんだけど……」


あの独特な星型のシルエット……見間違えるかな……?


凛「確かに……流星山にはピィは生息してないよ」

侑「やっぱり、見間違えたんじゃない?」

歩夢「えぇ……? あれはピィだったと思うんだけど……」


絶対にピィだったと思うんだけど……なんだか、みんなに言われると、自信がなくなってくる。


凛「ここ自体が研究施設だから、周辺のポケモン分布とかはしっかり調査されていて、ピィはいないってことになってるんだけど……」

歩夢「……そうなんですか」


思わずしょんぼりしてしまう。しょんぼりしてから、


歩夢「……いないってことになってる?」


不思議な言い回しだったことに気付く。


凛「実はね、天文所が出来るよりずーーーっと前。凛が生まれるよりもずっとずっと昔から、流星山にはちょっとした伝説が残ってるんだ」

歩夢「伝説……ですか?」

凛「流れ星の夜になると、月の世界からピィが流れ星に乗って遊びに来るっていう伝説。実際、流星山の周辺でたびたびピィを見たって情報があってね……」

歩夢「じゃあ、やっぱりあれは……!」

凛「……ただね。何度調査しても、ピィは発見されてないんだ。だから、ここの所長として言うなら、ピィは生息してない……って答えになっちゃうかも」

歩夢「そんなぁ……」

凛「ただ、夢のあるお話だから、凛もいるって信じたいんだけどね」


凛さんは苦笑いする。


侑「その伝説ってピィが遊びに来るってだけのお話なんですか? それだけだと伝説って言うよりはただの噂っぽい気が……」

凛「あはは、確かにそれだけだと噂だよね。なんでも、ピィは龍神様の遣いなんだって」

侑「龍神様……?」


侑ちゃんが首を傾げる。


歩夢「龍神様ってもしかして……龍の止まり樹の龍神様ですか?」

凛「歩夢ちゃん、よく知ってるね! その龍神様だよ」

侑「え、なにそれ?」

歩夢「ほら、セキレイの南におっきな樹があるでしょ?」

侑「ああうん、大樹・音ノ木だよね。この地方のシンボル」

歩夢「そこの頂上でお休みする龍のお話、聞いたことない?」

侑「……ああ、そういえば絵本で読んだことあるかも」


私が説明すると、侑ちゃんはなんとなく思い出したようだ。


侑「龍の咆哮だよね。毎年季節になると、大樹から龍の鳴き声がするってやつ。ちょうど今くらいが季節なんじゃないっけ?」

花陽「でも、あれはメテノが衝突する音なんだよね?」


確かに私もそう教わった。昔の人はそれが龍神様の咆哮だと思い込んでいただけだったって……。


凛「うん。今ではそう言われてるね。ただ、それは別の現象なだけで、本当は実際に龍神様がいるって考えもあるんだよ」

歩夢「そうなんですか?」

凛「普段は人目に付かないところでひっそり暮らしてるんじゃないかって。……そして、そんな龍神様のもとに導いてくれるのが、ピィだって言われてるんだよ」

歩夢「じゃあ、あれは……」

凛「もしかしたら、龍神様が近くに来てて、その遣いのピィも流星山に遊びに来てるのかもしれないにゃ」

侑「ホントなら、龍神様、会ってみたいなぁ……!」

凛「でも龍神様は、怒ると怖いらしいよ~? 怒らせると、町一つくらいだったら簡単に消し飛ばしちゃうんだって!」

リナ『随分おっかないね、龍神様……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

凛「まあ、お伽噺の一つだからね。ちょっと大袈裟に表現してるんだと思う。ホシゾラの町では、親が子供に『言うこと聞かないと龍神様が怒って出て来るぞ!』なんて言って脅かすんだよ。凛も小さい頃お母さんから、よく言われたにゃ……」

花陽「ふふっ、凛ちゃんちっちゃい頃はよくいたずらして怒られてたもんね♪」

リナ『お伽噺はあんまり私のデータにないから興味深い』 || ╹ ◡ ╹ ||


話はすっかり、龍神様の話題になってしまったけど、


歩夢「やっぱり、あれは……ピィだったのかな……」


私は龍神様の遣いのピィのことがすごく気になっていた。





    🎀    🎀    🎀





──夜も更けてきた頃合い。

私たちは、用意してもらった宿泊部屋で過ごしていた。

もういい時間なので、隣では侑ちゃんがイーブイの毛繕いをしながら、船をこぎ始めている。

そんな中、


歩夢「……よし」


私は上着を羽織って、外に出る準備をする。


侑「んぁ……? 歩夢、外行くの……?」

歩夢「うん。ちょっと星が見たくて……」

侑「……私も……行く……」

歩夢「もう眠そうだし、無理しないで? 私もちょっと見たら、戻ってくるから」

侑「んー……そういうことなら……」


もともと一人で行くつもりだったし、完全にうとうとしている侑ちゃんを連れて行くほどではない。

ちょっと確認がしたいだけ。

さっきピィがいた場所を確認して、ピィがいなかったらすぐに戻るつもりだ。


歩夢「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

侑「んー……いってらっしゃーい……」


ふにゃふにゃと手を振る侑ちゃんに見送られて、私はさっきの場所に一人で赴く。





    🎀    🎀    🎀





真っ暗な夜道を、足元に気を付けながら歩いていく。


歩夢「確か……この辺りだよね……」
 「シャボ」


さっきピィを見かけた場所は、天文所からそう離れた場所じゃなかったから、すぐにたどり着いた。

ただ、


歩夢「ピィ……いないね」
 「シャボ」


ピィの姿はないし、鳴き声のようなものも聞こえない。聞こえるのは、私の言葉に相槌を打ってくれるサスケの鳴き声くらい。


歩夢「やっぱり……見間違いだったのかな」


結構自信あったんだけどな……。

ちょっとしょぼんとしてしまう。

でも、見間違いだってことがわかっただけでも、すっきりしたかな。


歩夢「早く戻ろっか」
 「シャボ」


私が来た道を戻ろうとした、そのときだった。


 「──ピィ」


背後から、鳴き声がした。


歩夢「え?」


声がする方に振り返ると、


 「…ピィ」


いつの間にか、星型のシルエット──ピィが少し離れた場所にいた。


歩夢「……いた」

 「ピィ」


本当にいた……。

ピィは少し離れた場所で、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら、踊っている。

何をしているんだろう。

今度こそ、間近で見たくて、私がピィの方へ歩を進めると、


 「ピッ!?」


私の足音に気付いたのか、ビクッとして、


 「ピピィッ!!!」


逃げ出してしまう。


歩夢「あ、待って……!」


慌てて追いかける。


 「ピ、ピィ!!!」


ピィはぴょこぴょこ跳ねながら、岩山を奥へ奥へと逃げていく。


歩夢「待って! ちょっとお話ししたいだけなの……!」

 「ピ…?」


私の言葉を理解したのかしていないのか、ピィが足を止める。


歩夢「ごめんね、びっくりさせちゃったみたいで……」

 「ピィ」


ゆっくり近付くと、ピィはおとなしく私を待ってくれている。

出来るだけ大きな音を立てないようにして近付き……ピィの目の前にしゃがみこんで、声を掛けてみる。


歩夢「こんばんは。私、歩夢」
 「ピィ」

歩夢「あなたは……龍神様の遣いさんなの?」
 「ピィ?」


ピィは私の言葉に小首を傾げる。


歩夢「って言ってもわかんないか……」


人間の作ったお伽噺でそう言われているだけだもんね。


歩夢「あなたはここに住んでるの?」
 「ピィ?」

歩夢「それともここじゃないどこかから来たの?」
 「ピィ」

歩夢「あはは、よくわからないや……」
 「ピィ」


手を伸ばして、優しく撫でてみる。


歩夢「よしよし♪」
 「ピィ♪」


ご機嫌に鳴くピィ。

触れるし……本当に目の前にいるのは確かだ。

でもデータ上、ピィがここには生息していないというのも恐らく事実なんだと思う。

嘘を言う理由がないし……。

そうなると、普段ピィは人目に付かない場所にいるってことになるけど……。


歩夢「あなたは普段どこにいるの?」
 「ピィ?」


そう訊ねると、ピィは、


 「ピィ…」


月を見上げる。


歩夢「お月様から来たの……?」
 「ピィ」

歩夢「……やっぱり、この子……龍神様の……?」


確証はないけど……やっぱり、なんだか不思議な感じがする。

ただ、しばらく撫でていたら、飽きてしまったのか。


 「ピィ」


私の手から離れて、またぴょこぴょこと岩山を奥へと跳ねていく。

少し名残惜しかったけど……なんだか、捕まえるという感じではないし、そっとしておいた方がいい気がした。

実際に、ピィがいることが確認出来てすっきりもしたし。

今度こそ、戻ろうかなと思った瞬間──遠くで大きな音がした。


歩夢「龍の咆哮……?」


さっき侑ちゃんが言っていたとおり、今はちょうど龍の咆哮の季節だ。

北側を見ると、音ノ木に向かって虹色の流星の筋が見えた。

色とりどりのメテノたちの姿だ。


 「シャボ」
歩夢「ああ、うん。戻るんだったね」


改めて戻ろうとした、そのとき、


 「ピィーーー!!!?」
歩夢「!?」


ピィの鳴き声が響く。

声がする方に、バッと振り返ると──


 「ピ、ピィィ!!!?」


ピィが岩の突き出た崖から落ちそうになっていた。短い手で必死に崖を掴んでいる。

まさか、龍の咆哮に驚いて、バランスを崩した……!?


歩夢「あ、危ない……!?」


私は咄嗟に、ピィのもとへと駆け出して、


歩夢「ピィ……! 今助けるからね!」
 「ピ、ピィィ…」


突き出した岩の上で腹ばいになって、ピィに手を伸ばす。


歩夢「おとなしくしててね……!!」
 「ピィィィ…」


ピィの小さな手を掴んで、手繰り寄せる。


 「ピィ…」
歩夢「もう、大丈夫だよ……」


しっかりと胸に抱き寄せる。

これで安心だ。

そう思った、瞬間──ガクンと視界が揺れた。


歩夢「っ!?」


急な浮遊感に、頭が真っ白になる。

突き出た岩が私の体重を支え切れずに──崩れた。


 「シャーーボッ!!!!!」


サスケが咄嗟に、私の腕に尻尾を巻き付けて、


 「シャボッ!!!!!」


崖に牙を突き立てて、噛み付く。

それによって、宙ぶらりん状態になるが、


 「シャ、シャボォォォォ…!!!」


サスケの小さな体で、私の体重を支えるのは無理だ……!


歩夢「サスケっ!? ダメ!! サスケじゃ支えきれないよ!?」
 「シャボォォォォ…!!!!」

歩夢「サスケだけでも、上にあがって!! 私のことはいいから!!」
 「シャァァボォォォォォ…!!!!」


このままじゃサスケの体がちぎれちゃう……!!


歩夢「サスケ、私を放して!!」
 「シャァァァァボォォォォォォ……」

歩夢「お願い!! 言うこと聞いて!!」
 「シャァァァァボ……」


だけど、一向にサスケは私を放そうとしない。

腕に食い込むくらいの力で尻尾を巻き付けてくる。

──ビシ。

頭上でさらに嫌な音がした。

直後──再び、全身が浮遊感に包まれる。

サスケが噛み付いていた崖ごと──崩れた。

でも、落ちながら──サスケがちぎれちゃうより、マシだなんて思ってしまった。


歩夢「サスケ……! ピィ……!」


落ちながら2匹のポケモンをぎゅっと抱き寄せる。

神様、お願い……! この子たちだけでも、助けて……!!


歩夢「お願い……!! 龍神様──」





    🎀    🎀    🎀





 「──シャボ」


──声が……聞こえる……。


 「──ピピィ…?」「シャボ」


──サスケと……ピィの……声……?


歩夢「……ん……ぅ……」


ぼんやりと目を覚ますと──


 「シャボッ!!!」「ピピィ!!」


サスケとピィが私の顔を覗き込んでいた。


歩夢「……サスケ……ピィ……」
 「シャーボッ」「ピィ」

歩夢「……私……生きてる……?」


ゆっくりと身を起こす。

まだ、ぼんやりしている頭のまま、周囲を見回すと──洞窟の中のような場所にいた。

でも、ただの洞窟というわけではなく……灯りがある。

壁に火の灯った松明が掛けられていて、お陰で視界が確保されていた。

それに、私が寝ていた場所も……平たい岩の上に藁が敷き詰められていて……寝床のような状態になっていた。


歩夢「ここ……どこ……?」


私……崖から落ちたんだよね……?

キョロキョロと周囲を見回していると──


 「──……目を覚まされたんですね」


背後から声を掛けられて、振り返る。

そこには、見たことのないデザインの和装──民族衣装かな──を身に纏い、やや緑掛かった黒髪をボブカットにし、左側を髪飾りで留めている女の子の姿があった。


歩夢「あなたが、助けてくれたの……?」

女の子「いえ、助けたのは、そこのピィですよ」

歩夢「え……?」

女の子「その子が、貴方をここに連れて来たんです」

歩夢「どういうこと……?」


まさか、ピィが私を持ち上げてここまで運んできた……とか……?

疑問が顔に出ていたのか、女の子は、


女の子「ピィが持ち上げて運んできたわけではありませんよ」


私の心の中の疑問を正確に復唱しながら否定する。


女の子「ピィが貴方をここに導いたんです」

歩夢「導いた……? えっと、ここはどこなの……?」

女の子「ここは……そうですね。どこでもない場所です」

歩夢「……?」


いまいち話が要領を得ない気がするんだけど……。

またしても、疑問が顔に出ていたんだろう。


女の子「そうですね……強いて言うなら、“朧月の洞(おぼろづきのうろ)”と呼ばれることがあります」


女の子はそう教えてくれる。


歩夢「朧月の……洞……?」

女の子「ええ。それと、ピィを助けてくださったようで、ありがとうございます」

歩夢「えっと……」


助けたのか、助けられたのか……ここはどこで、目の前の子は誰なんだろう……?

疑問だらけで、頭の中がこんがらがりそうになる。


女の子「順を追って説明をしましょう。……とりあえず、場所を移したいのですが……立てますか?」

歩夢「あ……うん……」


ゆっくりと立ち上がってみせると、目の前の女の子は一度小さく頷いてから、


栞子「私は栞子と言います。こちらへどうぞ」


そう名乗ってから、奥へと歩いていく。

私はその後ろを付いていく形で歩を進める。


 「シャボ」「ピィ」


サスケとピィも私に付いてくる。

私が眠っていた部屋からちょっと歩くと、開けた部屋に出た。

そこには──


 「ピッピ」「ピピッピ?」「ピッピプ~」

歩夢「ピッピ……?」


たくさんのピッピがいた。

ピッピたちの群れを見た瞬間、


 「ピィ」


ピィがピッピたちの群れに向かって、とことこと駆け出していく。


 「ピピッピ?」「ピピピ」
 「ピィ」
 「ピピップ」「ピッピ」


何やら話をしながら、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。


栞子「あのピィは群れで一番幼い子でして、時折勝手に外に遊びに出かけてしまうんです」

歩夢「は、はぁ……」

栞子「外は、身を守る手段の乏しいピィには危険な場所なので、行かないように言っているのですが……やんちゃで言うことを聞かないことが度々あって……」

歩夢「あの……外、って言うのは……」


さっきも言っていた、外とか、どこでもない場所、とか……。


栞子「そうですね……ここは、特別な結界の中にある場所……と言えば、少しはわかりやすいでしょうか」

歩夢「結界……?」

栞子「そう、結界……。外の世界とは隔絶された、特別な空間」

歩夢「……」


要領を得ないことには変わりないけど……私の頭の中で一つ、結びついたことがあった。


歩夢「龍神様の……遣い……」

栞子「そうですね、外でピィがそのように呼ばれることがあるのは把握しています」


私の言葉に、栞子ちゃんは首を縦に振る。

つまり、ここは……。


歩夢「龍神様のいるところ……ってこと……?」

栞子「はい、そうですね」

歩夢「あの話……本当、だったんだ……」


まさか、ピィが本当に龍神様の遣いだったなんて……。


栞子「ですが、本来は外の人間がここに来ることはありません」

歩夢「え? じゃあ、どうして私は……」

栞子「貴方が、落ちそうになったピィを、身を挺して助けてくれたからです」

歩夢「身を挺してって……あのときはただ夢中だっただけで……」

栞子「その姿勢が、龍神様のお気に召したのでしょう。仮に遣いの案内があっても、心の穢れた人間は入ることすら出来ない場所ですから」

歩夢「…………」


恐らく、龍神様の聖域……みたいな場所なんだと理解する。

落ちそうなピィを助けた結果、私も一緒に落ちちゃったけど……落ちている最中に、ピィがこの空間に私を飛ばして、助けてくれたということらしかった。

それはわかった……けど、


歩夢「あの……」

栞子「なんでしょうか?」

歩夢「あなた……栞子ちゃんは、どうしてここにいるの?」


この子がここにいる理由がよくわからなかった。そもそもこの子は誰なんだろう……?


栞子「いきなりちゃん付けですか……」

歩夢「あ、ご、ごめんなさい……! 馴れ馴れしかったかな……?」

栞子「いえ……あまり、そのように呼ばれたことがなかったので驚いただけです。呼び方は貴方のご自由に」

歩夢「あ……私は歩夢って言います!」


そういえば、まだ名乗っていなかった。


栞子「歩夢さんですね。覚えておきます。……それで、どうしてここにいるか、ですが……」

歩夢「うん」

栞子「私は……巫女なんです」

歩夢「……巫女……? えっと、龍神様の……ってこと?」

栞子「はい。私たちの一族は代々、龍神様の巫女として仕えてきました。その中でも当代の巫女は“翡翠の巫女”と呼ばれています」

歩夢「それじゃあ……栞子ちゃんがその翡翠の巫女なの?」

栞子「そうなります」

歩夢「ここには他の人はいないの?」

栞子「はい。私の一族は基本的には隠れ里に住んでいて、翡翠の巫女だけが、龍神様の傍にお仕えする決まりになっているんです。龍神様はあまり人間がお好きではなく……最低限の人間しか傍に置きたがらないので」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、栞子ちゃんはずっと一人で……」

栞子「一人ではありませんよ。ポケモンたちがいますから」

歩夢「ポケモンたちって……ピッピたち?」

栞子「ピッピたちもそうですが……。見た方がわかりやすいと思います。こちらへどうぞ」


栞子ちゃんはそう言って、さらに奥の部屋へと私を案内する。


栞子「このピッピたちの部屋は、月と星を通じて、ここと外界を繋ぐ部屋……つまるところ、この結解の玄関のような場所なんです」


栞子ちゃんの案内で、ピッピたちのいた部屋の隣の部屋へ入る。

そこは先ほどよりは小ぢんまりとしていて──部屋の中には、お布団や畳んだ衣服が置かれていた。


歩夢「もしかして、栞子ちゃんの部屋……?」

栞子「はい」


通された彼女の部屋の中から、生き物の気配がする。


栞子「みんな、出て来てください」


栞子ちゃんが声を掛けると、


 「キュゥ…」「ワン」「ビリリリ」「ウォー」


ポケモンたちが顔を出す。


栞子「こちら歩夢さんです。ピィを助けてくれたんですよ」
 「キュウ…」「ワンワン」「ビリリ」「ウォー」


出て来たポケモンは4匹。でも、どれも見たことのないポケモンばかり。


栞子「歩夢さん、こちら一緒に住んでいるポケモンたちです。ゾロア、ガーディ、ビリリダマ、ウォーグルです」

歩夢「え?」


ただ、栞子ちゃんの紹介する名前はどれも知っているポケモンの名前ばかりだった。

特にゾロアなんかは、かすみちゃんのゾロアを何度も見てきたから、馴染み深い。

でも、目の前にいるゾロアは、かすみちゃんのゾロアのような黒い毛ではなく……真っ白な毛並みをしていた。

ゾロア以外も、ガーディは白いもこもこで目が覆われているし、ビリリダマは……なんだか質感が木のようだ。

私が知っているガーディやビリリダマとは違う姿をしている。

ウォーグルは……実物を見たことがないから、あまりわからないけど……少なくとも、テレビで見たことがある姿とは何か違う気がする。


栞子「この姿、あまり馴染みがないかもしれませんね」

歩夢「う、うん……」

栞子「この子たちは今はもうない、ヒスイ……という地に生息していたポケモンなんです」

歩夢「ヒスイ……」

栞子「翡翠の巫女は、龍神様にお仕えすることの他に、このヒスイの地に生まれたポケモンたちを人知れず守るのも使命の一つとして代々受け継いできたんです」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、この子たちは栞子ちゃんの家族なんだね?」

栞子「家族……そうですね。私の家族です」

歩夢「そっか……じゃあ、私とおんなじだ」

栞子「?」

歩夢「私もお家にたくさんポケモンがいてね、小さい頃から家族同然に過ごしてきたんだ」

栞子「……だからですね」

歩夢「え?」

栞子「歩夢さんからは、少し不思議な雰囲気を感じていました」

歩夢「不思議な雰囲気……?」

栞子「はい。本来ここに住んでいるピィは警戒心が強くて、滅多に人間には近寄らないのですが……歩夢さんにはポケモンの警戒心を解く、不思議な雰囲気があるようです。それは恐らく、幼い頃から、ポケモンと家族同然に育ってきたからこそ、身に付いたものなのでしょう」

歩夢「そう……なのかな?」

栞子「ええ。だからこそ、ピィも心を許してくれたんだと思いますよ」


自覚はないけど……そうらしい。


栞子「他の部屋にも、別のヒスイのポケモンたちがいますが……特に仲の良い子はこの子たちなんです。あ、もちろん、ピィやピッピとも仲良しですよ」

歩夢「大切な子たちなんだね」

栞子「はい。この子たちがいるから、私は寂しくないんです。……寂しくありません」


そういう栞子ちゃんの声は……なんだか、強がっているような気がした。

歳は私と同じか……少し下くらいかな……。

そんな女の子がこんな薄暗い洞窟の中で、ずっと一人で過ごしていて、寂しさを感じないわけなんてない。

だから私は、


歩夢「……ねぇ、栞子ちゃん」

栞子「なんですか?」

歩夢「私と……お友達になってくれないかな?」


自然とそう提案していた。


栞子「お友達……ですか……?」

歩夢「うん。ダメかな……?」

栞子「ダメ……ではないです。そう言ってくださって嬉しいです。ですが……もう会うこともないでしょうから」

歩夢「え……」

栞子「本来、ここに外の人間が入ることも、存在を知らせることも、許されていないんです。今回はあくまで特例ですから」

歩夢「そっか……」

栞子「ですから……今日ここで見たことは、歩夢さんの心の中だけにしまっておいてください」

歩夢「……うん、わかった」

栞子「それでは……帰りの道をご案内します」


栞子ちゃんと一緒にさっきのピッピたちの部屋へと戻る。


栞子「そこの中央の丸い岩の上に」

歩夢「うん」


ピッピたちが踊る部屋の真ん中にある──大きな真ん丸のテーブルのような岩の上に立つ。

すると、不思議なことに、洞窟の中なのに、頭上に空が見えて、月の光が降り注いでくる。


栞子「そこを通れば、外の世界に戻れますよ」

歩夢「ありがとう、栞子ちゃん」

栞子「いえ……こちらこそ、ピィを──家族を、助けていただいて、感謝しています」


栞子ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。


歩夢「もう、会えないんだよね……?」

栞子「はい。不思議な夢を見たと、そう思ってください」

歩夢「……せっかくお友達になれたのに……ちょっと、寂しいな」

栞子「寂しくありませんよ。きっと外で、歩夢さんの大切な人たちが待っていますから」

歩夢「……うん……ばいばい、栞子ちゃん」

栞子「はい。お元気で」


私は──ゆっくりと、空にある朧月へと、吸い込まれていき……不思議な浮遊感に包まれながら、元の世界へと帰っていく──





    🎀    🎀    🎀





気が付いたときには、


侑「…………すぅ……すぅ……zzz」
 「ブイ…zzz」


ホシゾラ天文所の宿泊部屋にいた。

ベッドの上で侑ちゃんが眠っているから間違いないだろう。


歩夢「戻ってきた……」
 「シャボ」


なんだか、随分と不思議な体験をしてしまった気がする。

あまりに不思議すぎて……。


歩夢「……夢、だったのかな」


寝ぼけていただけなのかと、一瞬思ったけど……。

ピィも、ピッピも、ヒスイのポケモンたちも。

──栞子ちゃんも。

全部全部、鮮明に覚えている。

──『不思議な夢を見たと、そう思ってください』

栞子ちゃんには、そう言われたけど。


歩夢「……」


どうして栞子ちゃんが、ヒスイの家族たちを紹介してくれたのか。

ただ送り返すだけでもよかったはずなのに。

それは、もしかして……。


歩夢「……自分を、知って欲しかったから……じゃないかな」


たった一人で、龍神様に仕える中で、偶然現れた私に、自分という存在を伝えたかったんじゃないかな。

ここにいるよ。ここで使命を全うしているよ。ここで家族と暮らしているよ。

そんなことを、知って欲しかったんじゃないかなって。

わかんないけど……私の想像でしかないけど。

もう会うことはないって言われたけど……でも、


歩夢「忘れないでいれば……いつか、どこかで会うかもしれないから」


──たった、一時だけど、朧月の夢の中で出会った不思議な女の子……栞子ちゃんのことを。今日あった不思議な出来事を、忘れないように胸にしっかり刻んで、しまうことにした。

また、いつか……あの朧月の夢の中で出会える日を、願って……。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.34 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:15匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹


 歩夢と 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎹



──そこは温かい丘だった。


 「ベベノ~♪」

 「ベノ~」「ベノム~」「ベベベノ~」


その温かい丘で、小さなポケモンがたくさん楽しそうに飛んでいる。

みんな同じポケモンで紫色のポケモンだけど……そのうちの1匹だけは目を引くような白と黄色の白光色をしていた。


  「ベノ~♪」
 「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」

 「うん。きっとそう」


──女の子二人がそんな会話をしていた。


そのうちの一人に──


 「ベベノ?」


さっきの小さなポケモンが1匹近づいてくる。

この子はたくさんいる紫色の子のうちの1匹だ。

その子は白光色の子と一緒に踊り始める。


  「ベベノ~♪」「ベベノ~♪」

 「この子なら、仲良くなれそう」

 「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
  「ベベノ~♪」

 「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
  「ベベノ~♪」「ベベノ~♪」

 「また、賑やかになるね」

 「だね~♪」


なんだか楽しくて、嬉しくて、温かな光景だった……。



 「ニャァ…」



──
────
──────


侑「……んぅ……」


目が覚める。


侑「…………まただ」


また、この夢……。

最近、よく見る……。


侑「なんなんだろ……?」


最初は何も気にしていなかったけど……さすがに短い間に何度も見ると、何か意味があるのかと考えてしまう。

そういえば、夢の中に出てきた女の子……。どこかで見たような……?


侑「…………夢の記憶が曖昧で…………思い出せない……」


さすが夢とでも言うべきだろうか……。なんとなくの印象はあったけど……容姿を鮮明に覚えていないというか……。


歩夢「……ん……ぅ…………ゆうちゃん……?」

侑「あ、ごめん……起こしちゃった?」

歩夢「んーん……大丈夫……」


歩夢は眠そうに目を擦りながら身を起こす。


リナ『おはよう。侑さん、歩夢さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「おはよう、リナちゃん」

歩夢「……おはよう…………ふぁ……」

リナ『歩夢さん、まだ眠そう』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ん……ちょっと……」

侑「まだ寝てていいよ。ごめんね、起こしちゃって」

歩夢「……じゃあ……もう少しだけ……」


そう言うと、歩夢はぽてっと横になると……すぐに、すぅすぅと寝息を立て始めた。


リナ『歩夢さんの寝起きが悪いなんて、珍しいね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かにそうだね」


リナちゃんと二人ひそひそ声で話す。

歩夢は朝に強い方だから、私も珍しいもの見ちゃったかも。


侑「昨日、寝るの遅かったのかな? リナちゃん、知ってる?」

リナ『うぅん。スリープモードにしてたから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そっか。まぁ……昨日はジム戦もあったし、もう少しゆっくり休ませてあげよう」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


さて……歩夢が起きるまで、どうしようかな……。

あまり音を立てないように、ベッドの上で身体を伸ばしていると、


リナ『そういえば、侑さん。今日はどうする予定?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう訊ねてくる。


侑「うーんと……せっかく流星山の頂上まで来たし、北に向かって、アキハラタウンを目指す感じになるかな?」

リナ『となると、流星山の北側を下山するんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん。アキハラタウンでは特にやることもないから……そのまま、セキレイを目指すことになると思う」


アキハラタウンはセキレイシティの南に位置する小さな田舎町。

二つの町を繋ぐ8番道路ものどかで、野生のポケモンも大人しいことから、ポケモンを持つ前にも、歩夢とお散歩で何度か行ったことがある場所でもある。

大樹・音ノ木があるから、観光地としては有名だけど、私たちセキレイ住民にとっては地元の範疇。

ジムもないし……この旅では素通りするだけになりそうだ。


侑「流星山の下山って厳しかったりする?」

リナ『登りよりは大変かもしれないけど、最近北側にも、山道が出来たから、大丈夫だと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そっか、よかった。それじゃ、歩夢が起きたら、出発しよっか」

リナ『うん』 || > ◡ < ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


………………
…………
……
🎹

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■Chapter037 『カーテンの裾にて』 【SIDE Shizuku】





かすみ「さぁ~次の目的地に向かって、旅立つよ~!」
 「ガゥガゥ♪」


──かすみさんのジムチャレンジが終わった翌日。

ダリアシティから、次の目的地を目指して出発する。


かすみ「ところで、次ってどこに行くの?」

しずく「えーと……ダリアからだと、北のヒナギクか、東に行ってセキレイに戻る感じになるかな……ただ、ヒナギクに行くためにはカーテンクリフを越えないといけないから、私たちには難しいかも……」

かすみ「カーテンクリフって……あれだよね?」


かすみさんが街の北側に目を向けると──大きな岩の壁が見える。

カーテンクリフとはオトノキ地方の西側にある大きな山脈のことだ。

ダリアシティとヒナギクシティの間を割るように東西に伸びている断崖絶壁で、山というより、もはや大きな岩盤を縦向きにしたかのような急傾斜をしている。

それがまるでカーテンを引いたかのような様から、カーテンクリフの名が付けられたと言われている。


かすみ「それにしても、ダリアから見ると、ホントに壁みたいだね……」


大きな山脈なので、セキレイからも見ることは出来るが、位置関係的に、カーテンを斜めから見るような形になる。

そして、ダリアから見ると真正面に横切っている形になるため、より『壁』という印象が強くなる。


かすみ「ヒナギクに行けないのはわかったけど……セキレイに戻る前に、一度近くで見てみない?」

しずく「そうだね。せっかく、こうして近くに来てるんだし、行ってみよっか」


今まで見てるだけだった場所に、実際に訪れてみるのも旅の醍醐味だろう。

私はかすみさんの意見に賛成する。


かすみ「それじゃ、カーテンクリフへレッツゴー♪」
 「ガゥガゥ♪」


私たちはカーテンクリフ目指して、ダリアシティを発つ──





    💧    💧    💧





ダリアの北の道路──5番道路を歩く。


かすみ「……もう結構歩いたよね?」

しずく「そうだね」

かすみ「なんか……思ったより、遠いね……」

しずく「カーテンクリフはとにかく大きいからね……」


あまりに大きい岩の壁を目の前に望みながら歩いていると、だんだん遠近感がおかしくなってくる。

とりあえず、目の前にずっと背の高い断崖絶壁があることがわかるという感じで、なかなか近付いている実感が湧かないのも無理はない。


しずく「カーテンクリフは5番道路と7番道路を続けて進んでいかないといけないからね」

かすみ「2つ分道路があるんだ……」

しずく「うん。ほぼ直線で繋がってるから、違う道路って印象は薄いけど……ダリアからカーテンクリフへの道のりは、この地方の中でもローズの北にある11番道路の次に長い道になってるんだよ」

かすみ「へー……さすが、しず子。物知り。とりあえず、すごい長い道なんだね」

しずく「あはは……まあ、大雑把に言うと、そんな感じかな」

かすみ「それにしても……ほんっとにでっかい山だねぇ……見上げてると、首が痛くなっちゃいそう」
 「ガゥゥ…」


かすみさんが、肩に乗っているゾロアと一緒にカーテンクリフを見上げる。


かすみ「どうすればこんな高い山になるんだろう……」

しずく「いろいろ説があるけど……ヒナギク周辺の山脈はほとんどが、陸がぶつかって隆起して出来たらしいよ。だから、グレイブマウンテンやカーテンクリフでは、かなり高い場所なのに、太古の海にいたポケモンの化石が見つかることがあるんだって」

かすみ「陸が……ぶつかって……? りゅーき……?」

しずく「ああ、えっと……無理やり押されて、高くなったって感じかな……」

かすみ「ふーん……?」


たぶん、わかってなさそう……。

まあ……これもあくまで学説の一つでしかなく、それこそ『こんなものが自然に出来るわけがない!』、『神が創った!』、なんて言う人たちも少なくない。

実際、カーテンクリフの西端の頂上には遺跡があるらしく、遥か昔から信仰があったと言われている。高い場所に位置し、天に近い遺跡故に太陽信仰や月信仰があったのではないかと考えられているらしい。

専ら、今は信仰というよりは、オカルト好きな人たちによって、神が創ったと主張されていることの方が多いらしいけど……。

わかっているのかは怪しいけど、かすみさんの何気ない疑問に答えながら進んでいると、


かすみ「……あ! しず子、あそこがカーテンの一番下の部分じゃない!?」


やっと、クリフの麓が見えてくる。……いや、麓というには、かなり切り立った岩肌になっているけど。


しずく「麓まで、こんなに明確に壁のようになっているなんて……さすが、カーテンというだけはあります……」


上から下まで……特に、ダリア側からは超が付くほどの急勾配だとは聞いていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に聞いていた通りで、感動すら覚える。

やはり、実際に見に来てみるものだ。


かすみ「こうして根本が見えたら、もうあと少し! 行くよ、ゾロア!」
 「ガゥ!!」


かすみさんの合図で、ゾロアが肩から飛び降りて、一緒に走り出す。


かすみ「しず子~♪ どっちが先に着くか競争だよ~! 負けた方は、あとでジュース奢りね~♪」
 「ガゥ♪」

しずく「あ、ずるい!?」

かすみ「さぁ、しず子は、かすみんに追い付けるかな~?」

しずく「ま、負けないんだから……!」




    💧    💧    💧





かすみ「……ぜぇ……はぁ……はぁ……。……ま、まだ思ったより……距離が……あった……」
 「ガゥ?」


クリフの麓に到着する頃には、かすみさんは息絶え絶え、満身創痍な状態だった。


しずく「かすみさん、大丈夫?」

かすみ「……しず子……足速くない……? かすみん普通に追い越されたんだけど……」

しずく「ポケモン演劇部で走り込みとかしてたからね。演劇は体力必要だから」


文化部だから、体力がないように思われがちですが、実は運動神経は良い方なんです。

球技は……苦手なんですけど……。


かすみ「そんなのずるい~……」

しずく「ずるくありません。それじゃ、あとでジュース奢ってね?」

かすみ「ちぇ、わかったよー……セキレイ戻ったらね」

しずく「よろしい」


何のジュースを奢ってもらおうかなと考えながら──すぐ傍に聳えるカーテンクリフに目をやる。


かすみ「……本当に壁って感じだね」

しずく「うん……」


これが自然に出来た物だとは、にわかに信じがたい。

神様を信じているわけじゃないけど……神が創ったなんて言う人が出てくるのも頷ける。

垂直に近い形で天に向かって伸びている岩のカーテンは、並大抵の鳥ポケモンでも飛んで越えることが出来ないと言われている。


しずく「……。……出てきて、アオガラス」
 「──カァーー!!!」

しずく「上まで、飛べる?」
 「カァー」


訊ねると、アオガラスは翼を羽ばたかせながら、垂直に飛翔していく。


かすみ「なになに? どうしたの?」
 「ガゥ?」

しずく「今の私たちで、どこまで行けるのか、試してみたくって……」


きっと、アオガラスのままでは難しい。

案の定、下で見ていると、岩の壁の中腹辺りで、アオガラスがバテ始めているのが見て取れた。


しずく「アオガラスー! 無理はしなくていいからねー!」

 「カ、カァーー…!!!」


そろそろ限界のようだったけど……アオガラスはバタバタと翼を羽ばたかせて、少しでも高く飛ぼうとする。


しずく「無理しなくていいって言ってるのに……」

かすみ「アオガラス、見栄っ張りですねぇ」

しずく「かすみさんには言われたくないと思うけど……」


かなり我武者羅に羽根をバタつかせながら、頑張っていたけど……。


 「カ、カァ……」


最終的には無理だと悟ったのか、ゆっくりと下に降りてくる。


かすみ「半分いけたくらい?」

しずく「そうだね……」


ここが今の私の手持ちの限界ということだろう。

もちろん、垂直の壁を登ったらそれで終わりというわけではなく、そこから山脈が始まるから、今の実力ではどう頑張ってもクリフを超えるのは無理ということだ。


 「カァ…」

しずく「ごめんね、無茶振りしちゃって。でも、ナイスファイトだったよ、アオガラス」
 「カァ~……」

かすみ「鳥ポケモンでこんなんなのに、越えられる人なんているのかな……?」

しずく「きっと、進化してアーマーガアになれば、越えられると思う」

かすみ「そうなの?」

しずく「うん。アーマーガアに進化すると、飛翔高度も距離も、飛び続けられる時間も桁違いになるから」


実際ガラルでは、アーマーガアが地方全体の移動の要になっているくらいで、その飛行能力は折り紙付きだ。


しずく「アオガラスも、いつか進化したら、ここを越えられるようになるはずだから……! 頑張ろうね!」
 「カァ~~~!!!」

かすみ「えーかすみんも空の旅したい~!」

しずく「ふふ♪ いつかオトノキ地方中の空を、一緒に巡ろっか♪」
 「カァ~♪」

かすみ「やった~! 約束だからね! しず子! アオガラス!」

しずく「うん♪」
 「カァカァ♪」


そのためにも、私もアオガラスをアーマーガアに進化させられるくらい強くならなきゃ。

かすみさんに負けていられないな。


かすみ「さて、それじゃ……実際に見て、越えられないこともわかったし、セキレイシティに向かおっか~」
 「ガゥ♪」

しずく「そうだね。風斬りの道を越えていくなら、自転車が必要だから……一旦、ダリアに戻って、レンタルサイクルかな……」
 「カァ~」

かすみ「……あっ!?」

しずく「ど、どうしたの? 急に大きな声出して……?」

かすみ「最終的にセキレイシティに行くってわかってたんだから……最初から、ダリアで自転車を借りればよかったんじゃ……」

しずく「……あ」


確かに、言われてみればそうだ……。


かすみ「ち、ちょっとぉ~……かすみん、走り損じゃないですかぁ~……しかも、これからまた長い道を戻るの~……?」

しずく「走ったのはかすみさんが勝手にやったことだと思うんだけど……」

かすみ「もうやだ~……かすみん、歩けない~……」
 「ガゥゥ…」


かすみさんはその場にへたり込む。


しずく「今向かおうって言ったばっかでしょ……」

かすみ「だって、ホントだったら、今頃自転車でスイスイだったんだよ!? そう考えたら、足が重く……もう一歩も動けない~……」

しずく「はぁ……もう、そんなことばっかり言ってると、置いてくよ?」
 「カァカァ」


溜め息交じりに、振り返って歩き出そうとしたとき、


 「──ガドーン」

しずく「……!?」


そいつは気付けば、目の前に、居た。

パステルカラーで彩られた細長い体躯に真ん丸の頭の異形。

突然のことに身体が固まる。


かすみ「しず子っ!! こっちっ!!」


だが、かすみさんの反応は早かった。

呆気に取られて動けなくなってしまった私の手を、強引に引いて走り出す。


しずく「きゃっ……!?」

かすみ「足ぃ!! 動かしてぇ!! とにかく走ってぇ!!」
 「ガゥガゥ!!!!」


足がもつれて転びそうになるけど、どうにか踏ん張って走り出す。

全速力で走りながら、やっと少しずつ頭が回り出す。

あれは──あの異様な雰囲気のポケモンは……!


しずく「ウルトラビースト……っ……! 確か、名前はズガドーン……!!」

かすみ「なんで名前知ってんの!?」

しずく「遥さんに、ウルトラビーストのデータをいくつか見せてもらったんだよ! その中にいたウルトラビースト!」


ズガドーンは、その場から動こうとしないが──その周囲に紫の炎がポポポッと出現する。


 「ガドーン」

かすみ「なんかしてくる!? しず子伏せてっ!!」
 「ガゥッ!!!」

しずく「きゃっ!?」


かすみさんが覆いかぶさるようにして、私を地面に押し倒す。

その上を、紫の色の炎──“マジカルフレイム”が素通りする。


かすみ「あ、あちちっ!?」

しずく「かすみさん!?」

かすみ「だ、大丈夫……! ちょっと熱かっただけ……!」


掠ってすらいないはずなのに、とてつもない熱気を感じる。

それが相手の攻撃の威力を物語っていた。

──絶対に勝てない。とにかく、逃げなきゃ……!


かすみ「しず子、立って!」

しずく「……うん……!」


二人で立ち上がって再び距離を取るために走り出す。

幸いとでも言うべきか、今のところズガドーンはあまり熱心にこちらを追いかけてくる素振りはない。

それが逆に不気味でもあるが……。


しずく「……そうだ! 千歌さんたちに連絡を……!」


私は大急ぎでポケギアを取り出し、千歌さんに通話を飛ばすと──


千歌『──しずくちゃん!!』


千歌さんが秒で通話に出る。


しずく「ち、千歌さん、今……!!」

千歌『もう向かってる!! 7番道路だよね!? ウルトラビーストの種類は!?』

しずく「ず、ズガドーンです!」

千歌『わかった!! 15分……うぅん、10分で着くから、とにかく逃げて!』

しずく「は、はい!!」


通話を切って、


しずく「かすみさん、千歌さんがすぐに来てくれるから──」

かすみ「な、なんかあいつ、様子がおかしくない!?」

しずく「えっ!?」


言われて、ズガドーンを振り返ると、


 「ガドーーン」


ズガドーンが──自分の頭が取り外して、手に持っていた。


かすみ「あの頭取れんの!?」


確か、遥さんに見せてもらったデータでは──


しずく「に、逃げなきゃ……!!」

かすみ「わわっ!?」


あの珍妙な行動に、リアクションを取っている場合じゃない……!

今度は私がかすみさんの手を強引に引っ張って走り出す。


かすみ「ちょ、しず子!?」

しずく「とにかく……! とにかく、距離を……!!」


少しでも距離を離そうと全力疾走する。

……が、ズガドーンは逃げる私たちに向かって──自分の頭を放り投げてきた。


かすみ「な、投げてきたー!?」
 「ガゥワゥッ!!!?」

しずく「っ……!」


私は咄嗟に、手持ち全員をボールから出す。


 「ジメ…」「ロゼ!!!」「キル」「マネネッ」

しずく「“みずびたし”っ! “わたほうし”っ! “サイコキネシス”っ! “ひかりのかべ”っ! “きりばらい”っ!」


先に出ていたアオガラス含め、手持ち全員に叫ぶように指示を出す。

直後──目の前に鮮やかな色の花火が散った。

それと同時に全身が浮遊感に包まれ──吹っ飛ばされた。

あの頭が、目の前で大爆発したのだ。


しずく「ぐ……ぅぅぅ……っ……!!」


爆風を受けて、地面を転がる。


かすみ「……し、死ぬかと思ったぁ……!」
 「ガ、ガゥゥ…」

しずく「ど、どうにか、間に合った……」
 「ジ、ジメ…」「ロゼ…」「キルゥ…」「マ、マネェ…」「カァ…」


私たちは手持ちもろとも吹っ飛ばされたが、敷き詰められた“わたほうし”の上を転がることで、なんとか怪我せずに済んだ。


しずく「か……かすみさん……無事……?」

かすみ「な、なんとか……い、今の何……?」

しずく「“ビックリヘッド”……頭を大爆発させて攻撃する技みたい」

かすみ「なにそれこわっ!」

しずく「あんまり怖がらない方がいいと思う……」

かすみ「え?」

しずく「ズガドーンはそれで、驚かせた相手から生気を奪い取るらしいから……」

かすみ「ま、全く、それでかすみんを驚かせたつもりですかぁー!?」


取って付けたような強がりが出来ている時点で、かすみさんも無事なのは間違いないだろう。

それにしても、“ビックリヘッド”がどういう技があらかじめわかっていなかったら、本当に無事じゃ済まなかった。

ほのおタイプの爆発技。

“みずびたし”で爆弾自体を湿らせ、少しでも爆発と爆風の威力を殺すための“ひかりのかべ”と“きりばらい”。

身体を地面に叩きつけられないように、“サイコキネシス”で僅かに浮かせて、“わたほうし”を敷き詰めた地面に軟着陸。

手持ち全員が力を合わせてどうにか、耐えきった。

でも、まだ戦闘は終わっていない。

とにかく、千歌さんたちが来るまで逃げ続けないと……!

再びかすみさんの手を取って、逃げ出そうと、顔を上げると──


 「ガドーン」


ズガドーンが眼前に迫っていた。


しずく「……っ……!」

かすみ「わ、わぁぁぁぁ!!?」


ズガドーンの手に炎が灯る。

攻撃の予兆。

ダメだ、避けられない。


かすみ「しず子っ!!」


かすみさんが庇うように、ズガドーンに背を向ける形で、私を抱きしめる。

ズガドーンの手がこちらを向く。

炎が噴き出す。

もうダメだ。

そう思った瞬間、


 「──“ハイドロポンプ”!!」
  「フゥッ!!!!!!」

 「ガドーーンッ!!!!?」


声と共に、真上から激しい水流の筋飛んできて、ズガドーンを吹っ飛ばした。


かすみ「へ……な、なに……?」

しずく「い、今のは……?」


事態が呑み込めず、二人で唖然とする。

そんな私たちの頭上から──フワリと降りてくる影。

大きな星型のポケモン──スターミーに乗って、突然目の前に現れた一人の女の子。


女の子「大丈夫ですか!?」

かすみ「え……」

しずく「嘘……」


彼女の姿は、何度も見たことがあった。

ただ、会ったことがあるわけではない。

テレビの中で、だ。


かすみ「……せ……せ……!?」

せつ菜「何やらお困りのようですね! 僭越ながら、助太刀させていただきます!!」


前回ポケモンリーグの準優勝者──せつ菜さん、その人だった。




    💧    💧    💧





 「ガドォーン…」

せつ菜「見たことがないポケモンですね……。この地方はあちこち見て回ってきたつもりですが、まだ新しいポケモンに出会うことがあるなんて……やはり、世界は広いですね!」


スターミーの上に乗ったまま、ズガドーンと相対するせつ菜さん。

あまりに予想外の展開が続くせいで、また呆気にとられそうになったが……。

この人をウルトラビーストと戦わせちゃダメだ……!


しずく「せ、せつ菜さん! 戦わずに逃げてください!」

かすみ「そいつ、めっちゃくちゃ強いんですっ!」

せつ菜「逃げる? 強いというなら、ますます背中を見せるわけにはいきません!」

 「ズガ──」

せつ菜「“パワージェム”!!」
 「フゥッ!!!」


ズガドーンが動き出そうとしたときには既に、輝く閃光がズガドーンを貫いていた。


かすみ「は、はや……!?」


攻撃が直撃し、地面を転がるズガドーン。


 「ガ、ガドーン」

せつ菜「“10まんボルト”!」
 「フゥッ!!!」

 「ガドドドドッ!!!!?」


畳みかけるように、電撃による追撃。

が、ズガドーンもただでやられてはいない。


 「…ガ、ドォーンッ!!!!」

せつ菜「耐えますか……!」

 「ドォーーンッ!!!!!」


そして、黒い球体を猛スピードで、スターミーに向かって放ってきた。


 「フゥッ!!!?」
せつ菜「うわぁっ!!?」


ズガドーンの攻撃がスターミーに直撃し、その衝撃で上に乗っていたせつ菜さんが飛ばされる。

が、せつ菜さんは軽やかな身のこなしで、身体を捻りながら、地面に着地する。


 「フ、フゥ…」
せつ菜「やりますね……! “シャドーボール”ですか……! まさか、私のスターミーが一発でやられるなんて……!」


せつ菜さんはスターミーをボールに戻しながら、ズガドーンの強さに感心したように言う。


せつ菜「なら、この子はどうですか!」


だが、怯むどころか、間髪入れずに次のポケモンを繰り出す。


 「ゲンガッ!!!」
せつ菜「ゲンガー! 暴れますよ!」

 「ゲンガッ!!!!」

 「ガドォーーンッ」


再び、ズガドーンが黒い球体──“シャドーボール”を作り出し、撃ち放つ。


せつ菜「こちらも“シャドーボール”です!」
 「ゲンガッ!!!!」


一方せつ菜さんも対抗するように、“シャドーボール”を撃ち出し──双方のシャドーボールが衝突する。

両者の攻撃はぶつかると、その場で相殺し合い、黒い影を周囲に散らす。


しずく「ご、互角……」

せつ菜「私のゲンガーの“シャドーボール”……威力には自信があったんですが……!」


自分の予想を裏切るほどの相手の強さに感心するものの、せつ菜さんはやはり臆さない。


せつ菜「その強さに……敬意を示します! 私の全力、受け止めてみなさい!!」


そう言いながら、せつ菜さんの手首に嵌めていた腕輪が輝きを放ち始めた。


かすみ「あ、あれって……!?」

しずく「“キーストーン”……!?」


せつ菜「さぁ、行きますよゲンガー!! メガシンカです!!」
 「ゲンガァーー!!!!」


せつ菜さんが叫ぶと、ゲンガーも眩い光に包まれ──ゲンガーの体にある棘、腕、そして尻尾がより鋭角的に、さらに自身の体は足元の影と一体化し、


 「ゲンガァァァ!!!!!!」


赤紫色の怪しい光を放つ──メガゲンガーへと姿を変えた。

メガゲンガーの持つ妖気……とでも言えばいいんだろうか。

姿を変えた瞬間、肌がびりびりとするのを感じた。それくらい、すさまじいパワーを身に秘めているのが、素人目でも理解できる。


 「ズ、ガドォォォォーーー!!!!!!」


が、ズガドーンも全く臆することなく、再び“シャドーボール”を放ってくる。


せつ菜「今度は先ほどのようには行きませんよ!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァーーッ!!!!!」


二度目となる同じ技の撃ち合い。

だけど、今回は──


かすみ「……で、でかっ!?」


メガゲンガーの放った“シャドーボール”は先ほどより一回りも二回りも大きいもので、


 「ガドッ!!!?」


ズガドーンの放った“シャドーボール”をいとも簡単に呑み込んで──


 「ガ、ガドォォォォンッ!!!!!!!」


ズガドーンに衝突すると同時に、影のエネルギーが収縮し、ズガドーンを押しつぶしたあと──黒い影を散らしながら、爆散した。


 「ガ、ガドォォォォン……」


影が晴れると、ふらふらになったズガドーンの姿、


 「ガ、ガドォォォン……!!」


勝てないと悟ったのか、ズガドーンはスゥーっと地面に潜るようにして、消えてしまった。


せつ菜「あ……逃げられました。……メガゲンガーの“かげふみ”から逃げられるということは、やはりゴーストタイプだったようですね……」
 「ゲンガ──」


せつ菜さんは肩を竦めながら、メガゲンガーをボールに戻す。


しずく「う、嘘……」

かすみ「やっつけちゃった……」


またしても二人して呆けていると、


せつ菜「お二人とも、お怪我はありませんか?」


せつ菜さんは私たちのもとに駆け寄ってきて、そう訊ねてくる。


しずく「は、はい……」

かすみ「とりあえず、大丈夫です……」

せつ菜「それは何よりですね。真下で大きな爆発音が聞こえたので、何かと思いましたが……野生のポケモンに襲われるとは災難でしたね」

しずく「い、いえ……お陰で助かりました……」

せつ菜「……あ、自己紹介がまだでしたね! 私はせつ菜って言います! よくここにポケモン修行をしに来ているんです!」


存じております……。ここで修行をしているのは、知らなかったけど。


しずく「私は、しずくです……。こちらはかすみさん」

かすみ「あ、えっと……よろしくお願いします……」


あまりの展開に未だ頭が付いていっていないのか、かすみさんも自己紹介でのかすみん問答を忘れているほどだ。


せつ菜「お怪我はされていないようですが……心配なので、近くの街までお送りしますね! えっと、近くだとダリアかヒナギク……ん?」


そのとき、せつ菜さんは自分の腰のボールが震えていることに気付いて、その子を外に出す。


 「ワォンッ」
せつ菜「ウインディ? どうかしたんですか?」

 「ワォン」


せつ菜さんが訊ねると、ウインディは鳴きながら、クリフの上の方を見上げる。


せつ菜「ん……?」


せつ菜さんは少し考えたあと、


せつ菜「……あ、そうでした……! さっきまで、ご飯を作っている真っ最中でした……上に全部置いてきちゃいましたね。貰った“ポフィン”も……」


どうやら調理中に飛び出してきたということを思い出したらしい。


 「ワォンッ!!!」
せつ菜「ち、ちょっとウインディ!? 引っ張らないでください……! もう! 歩夢さんから“ポフィン”を貰って以来、随分食いしん坊になりましたね……?」

 「ワォンッ!!!」

しずく「あ、あの……私たち、街には戻れると思うので……」

せつ菜「……すみません、いつもはこんなに食に貪欲じゃないはずなんですが……」
 「ワォンッ!!!」

せつ菜「わ、わかったから……! 引っ張らないで……!」


せつ菜さんは少し焦りながらも、ウインディの背にまたがる。


せつ菜「それでは、すみませんが失礼します!」
 「ワォンッ」


せつ菜さんが背にまたがると、ウインディは跳ねるようにして、カーテンクリフを登って行ってしまった。


かすみ「……なんで、この壁、登れるの……?」

しずく「…………」


レベルが違うとは、こういうことを言うのかもしれない……。


かすみ「なんか……すごかったね……」

しずく「う、うん……」


ウルトラビーストとの遭遇もだが……それ以上に颯爽と現れ、風のように去っていったせつ菜さんのインパクトがあまりにすごすぎて、私たちはしばらくの間、その場で動けずに呆けてしまっているのだった。





    💧    💧    💧





──その後、間もなくして千歌さんたちが到着した。


彼方「──……ってことは、せつ菜ちゃんがやってきて、ズガドーンを倒しちゃったんだ……」

しずく「はい……」

かすみ「圧倒してました……」

千歌「さすが、せつ菜ちゃん……」

遥「でも、どうしましょう……一般人のウルトラビーストとの接触案件ですけど……」

しずく「まだ、クリフの上にいるとは思いますが……」

千歌「んー……会って説明した方がいいのかなぁ……?」

穂乃果「うーん……」


穂乃果さんは少し悩む素振りを見せる。


穂乃果「しずくちゃん、かすみちゃん。せつ菜ちゃん、ウルトラビーストを見て、どんな反応してたか覚えてる?」

かすみ「えっと……強い相手なら逃げるわけにいかない……って。全然怖がってませんでした」

しずく「そうですね……強い野生ポケモンの一種と認識していた気がします」


その強さに感じるものはあったのかもしれないけど……少なくとも外世界から来た異質なポケモンだと認識していたとは考えにくかった。


穂乃果「……となると、無理に説明したりしないで、そういうものだと思い込んでもらったままの方がいいかもしれないね。もちろん、本部へは一応報告するけど」

彼方「そうだね~……特異な存在だって知っちゃうと、逆に関わりを持っちゃうから……」

千歌「まあ……せつ菜ちゃんなら、仮にまた遭遇しても同じように対処しちゃいそうだしね……あはは」


千歌さんは過去に覇を競い合った相手なだけあって、せつ菜さんの強さをよく理解しているようだった。

彼女たちがそう判断したのなら、私たちからこれ以上言うことは特にない。


千歌「それじゃ、近くの街まで送ってくよ。ダリアでいい?」

かすみ「はい……今日中にセキレイに行くつもりでしたけど、もうくたくたなので、ダリアで休みたいです……」

彼方「それじゃ~そんなかすみちゃんに彼方ちゃんが元気が出るご飯を作ってあげよう~」

かすみ「え、ホントですか!? キッチン付きのホテル探さなきゃですね……!」


現金なモノで、彼方さんがご飯を作ってくれると聞くと、かすみさんは意気揚々と歩き出す。

まだ元気、結構余っている気がするんだけど……。

そんな中、遥さんが、


遥「あの、しずくさん」

しずく「? なんでしょうか……?」

遥「再び襲われた今でも……旅を続けたいと思いますか」


真剣な目で、そう訊ねてきた。


しずく「……はい」

遥「……わかりました」


それだけ言うと、遥さんも彼方さんたちを追って先に行ってしまった。


しずく「……」

穂乃果「遥ちゃん、ずっと心配してたからね」

しずく「はい……」


遥さんに診てもらい助けてもらった手前、罪悪感はある。

そんな私の胸中を察したのか、


穂乃果「旅を続けるって決めたなら、しずくちゃんはそれを頑張ればいいんだよ」


穂乃果さんは優しい声でそんな風に言う。


しずく「はい……ありがとうございます」

穂乃果「それじゃ、行こう。ダリアへの道は長いから、急がないと日が暮れちゃう」

しずく「そうですね……」


私は穂乃果さんの言葉に頷いて──再び道を歩き始めるのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.27 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.27 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.27 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.27 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.34 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.33 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:140匹 捕まえた数:7匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『ポケモンSVさらに精度を上げていく』
レート戦/戦力集め・その3 (14:21~開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817


■Chapter038 『凱旋セキレイシティ』 【SIDE Shizuku】





かすみ「──さぁ! セキレイシティに向かって、出発するよ~!」
 「ガゥ!!」


かすみさんが自転車にまたがりながら、元気よく拳を突き上げる。


かすみ「さぁさ! 早く行かないと、日が暮れちゃうから!」

しずく「どこかの誰かさんが、チェックアウトギリギリまで起きなかったからね……」

かすみ「ぅ……! だ、だって、疲れてたんだもん……! しず子だって、いつもよりは起きるの遅かったって言ってたじゃん!」


まあ、確かに……昨日は全く想定外のウルトラビーストとの戦闘があったため、疲れていたというのはある。……精神的にも、肉体的にも。

ただ、私が起きるのが遅かったというのは、普段6時に目を覚ますのが6時半になった程度のものだ。

一方かすみさんは、起こそうとしても全く起きる気配がなく、本当にホテルのチェックアウトギリギリに焦って起こしたくらいだし……。

かすみさんより遥か前に起きた穂乃果さんや千歌さんたちは、「また何かあったら連絡してね」と残し去って行った。

彼方さんは「まさか彼方ちゃんよりお寝坊さんな子がいるとはね~」なんて笑っていたし……。

まあ、かすみさんに寝坊癖があるのは、今に始まったことじゃないけど……。


かすみ「と、とにかく……! セキレイシティに行くの!」

しずく「はいはい、わかりました」

かすみ「出発進行~!」
 「ガゥ♪」





    💧    💧    💧





かすみ「風が気持ちいい~♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」


かすみさんの寝坊に苦言を呈しはしたけど、ダリア~セキレイ間は、風斬りの道を自転車で駆け抜けるだけだ。

途中に草むらがあるわけでもなく、隅から隅まで人の手が入った橋を越えていくだけ。

時折、周囲を飛んでいる鳥ポケモンが下りてくることがあるらしいけど……基本的には風を斬りながら走るサイクリングを楽しむ道だ。

その証拠に橋の上では私たち以外にも、サイクリングを楽しんでいる人がちらほら見える。

……まさか、ここでもウルトラビーストに襲われるなんてことはないと信じたい。


かすみ「このペースなら、すぐ着いちゃうね~♪」

しずく「うん。お昼過ぎくらいにはセキレイに着けそうかな?」

かすみ「なら、時間に余裕もあるね!」

しずく「かすみさん、セキレイに到着したらどうするつもりなの? 一旦、家に帰る?」

かすみ「もちろん、一度お家には帰るつもりだけど……それよりも、大事なところがあるじゃん!」

しずく「大事なところ……? あ、ポケモンスクールへの挨拶?」

かすみ「……もう! ポケモンジムに決まってんじゃん!!」


言われて思い出す。


しずく「そういえば、かすみさん、まだセキレイジムに挑戦出来てなかったね……」

かすみ「忘れないでよ!!」


セキレイシティのジムは、ポケモンスクールにも近いし……あまりに地元感が強くて、すっかり忘れていた。


かすみ「今日という今日こそは、セキレイジムで曜先輩とバトルしてもらうんだもん! かすみん、5個目のバッジも絶対ゲットしちゃうんだから!」
 「ガゥ!!」

かすみ「なんかそう考えたら、いち早く到着して挑戦したくなってきちゃった……! 全速力です!!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみさんが、急にペダルを全速力でこぎ始める。


しずく「あ、ち、ちょっと!? そんなに飛ばしたら危ないって!?」

かすみ「今かすみん燃えてるの! しず子も早く来ないと置いてっちゃうよ!」


そう言いながら、かすみさんはどんどん突っ走っていく。


しずく「ああもう……」


やれやれと思いながら、私も立ち漕ぎになりペースを上げて、かすみさんを追いかける。

このやる気が空回りしないといいけど……。





    💧    💧    💧





──セキレイシティ。セキレイジム前。


かすみ「……何故」


ジムの前にはこんな張り紙──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』。

前回来たときと同じ状態だった。


かすみ「もう~!! なんで、曜先輩はいつもいないんですかぁ~!!」
 「ガゥゥ…」

しずく「あはは……セキレイジムって何かとジムリーダー不在なこと多いよね……」


前任のことりさんもだが、セキレイジムのジムリーダーはバトルだけでなくコンテストにも携わっているからか、不在なことが多い。

それでも、ジムリーダーとして籍を置いているのは、街の人からの支持が高いことが理由らしい。

確かに、ことりさんも曜さんも、街の人から慕われているのが一目でわかる人気者だ。


かすみ「はぁ……さすがにこれは待つしかないよね……」

しずく「そうだね……」

かすみ「でも、待ってる間何してよう……。家に帰ろうかな……」

しずく「あ、待って! 帰る前に行かなくちゃいけないところがあるよ!」

かすみ「行かなくちゃいけないところ……? えーでも……ポケモンスクールは正直」

しずく「いや、スクールじゃなくて……」

かすみ「? じゃあ、どこ……?」

しずく「どこって……決まってるでしょ!」

かすみ「えっと……?」


どうやら、本当に見当が付いていないらしい。思わず、溜め息が漏れそうになる。


しずく「ツシマ研究所! 博士に旅の報告しないと!」

かすみ「……あ、あー!!」

しずく「もう……なんで忘れるのよ……」


私たちを旅に送り出してくれた張本人なのに……。


かすみ「い、いや、もちろん覚えてたよ? 今から、行こうと思ってたもん! ね、ゾロア!」
 「ガゥ?」

しずく「……」


思わず、かすみさんにジト目を向けてしまう。


かすみ「さぁ、行くよしず子! ツシマ研究所目指してレッツゴー!」
 「ガゥ」


かすみさんが、調子よさげに研究所に向かって走り出す。


しずく「はぁ……」


私は思わず額に手を当てながら、かすみさんの後を追うのだった。





    🎹    🎹    🎹





──流星山を北側から下山し、アキハラタウンを抜け、その先の8番道路を歩くこと数十分。


侑「帰ってきたね……!」
 「イブイ」

歩夢「うん!」
 「シャボ」


私たちはセキレイシティに戻ってきていた。

旅に出て大体2週間くらいだろうか。

すごく長い時間離れていたわけではないけど、今まで2週間も故郷から離れていたことなんてなかったし、こうして地方の南半分くらいを自分たちの足で歩いてきたと考えると、なんだか感慨深い。

それだけで見慣れた故郷の景色のはずなのに、一周回って新鮮に見えてくる。


リナ『とりあえず、どうするつもり?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「えっと……せっかく、セキレイまで戻ってきたから、一度家には寄ろうかなって思うけど……」

侑「まずは……あそこだよね」


私と歩夢の視線は──ここからすでに見えているツシマ研究所に向けられる。

ツシマ研究所は街の南側に位置しているから、8番道路からだと、すぐなのだ。


侑「ヨハネ博士への旅の報告!」
 「ブィ~♪」

歩夢「だね♪」

リナ『なるほど』 || > ◡ < ||


早速ツシマ研究所へと近付いていくと、

──pipipipipipi!!! と、以前どこかで聞いた音が歩夢の方から鳴りだす。


歩夢「これ、図鑑の共鳴音……?」──pipipipipipi!!!
 「シャボ…?」

侑「ってことは……!?」


私がキョロキョロと辺りを見回すと──


 「侑せんぱーい! 歩夢せんぱーい!」──pipipipipipi!!!


共鳴音と一緒に元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見つける。


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」

かすみ「はぁ……はぁ……! なんでなんで!? すごい偶然ですぅ~!」

リナ『共鳴音が鳴ってるってことは、しずくちゃんもいるってことだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、うん! そろそろ来ると思うけど……」


かすみちゃんが来た方向に目を向けると、一足遅れてしずくちゃんがこちらに小走りで駆けてくる姿が目に入る。


しずく「侑先輩! 歩夢さん! お二人もセキレイに戻ってきていたんですね……! 突然、図鑑が鳴りだしたから、驚きました……!」

歩夢「うん! 今から博士のところに、報告に行こうと思ってたところで……」

かすみ「先輩たちもですか!? ほんとすっごい偶然です~! かすみんたちも今博士への報告に行こうと思ってたところなんですよ!」

しずく「……かすみさんはさっきまで忘れてたけどね」

かすみ「ちょっとしず子! 余計なこと言わないでよ!」

侑「あはは……」


二人ともいつもどおりで安心する。


歩夢「それじゃ、みんな揃って、博士に報告だね♪」

しずく「はい、そうですね」

侑「じゃ、行こうか!」


──4人揃って、研究所のドアを押し開け、中に入る。


侑「失礼しまーす!」


研究所の中に入ると、ヨハネ博士は奥の方で、ポケモンの世話をしている真っ最中だった。

博士が私たちの声に気付いて、こちらに顔を向けると、


善子「──あら、貴方たち……セキレイに戻ってきてたのね。ちょっと待ってて、今餌やり済ませちゃうから」
 「ハミィ?」


ヨハネ博士は手早くユキハミの飼育部屋の中に、新しい雪を補充したあと、私たちのもとへとやってくる。


善子「おかえりなさい、リトルデーモンたち。4人揃って戻ってくるとは、相変わらず仲良しみたいでなによりだわ」

侑「4人揃ったのはたまたまなんですけどね……」

しずく「今さっき、研究所の前で会ったところなんです」

善子「それだけ気が合うってことじゃないかしら。そういう偶然、運命に導かれている感じがして、私は好きよ」


ヨハネ博士はうんうんと頷きながら言う。


善子「それに、みんな顔つきが変わったわね。頼もしくなった」

かすみ「そうでしょうそうでしょう! かすみんめっちゃ強くなっちゃったんですから!」
 「ガゥガゥ♪」


胸を張る、かすみちゃん。


歩夢「えっと……そうなら、嬉しいです……えへへ」


控えめにはにかむ歩夢。


しずく「自分ではあまり自覚はありませんが……確かにいろいろなことを経験した分、成長出来たんじゃないかと思います!」


冷静に分析するしずくちゃん。


侑「みんなバラバラだね……あはは」

善子「気が合うんだか、合わないんだか……。侑は、どうかしら?」

侑「私は……いろんな場所を巡っている間に、たくさん仲間が増えました!」
 「ブイ♪」

善子「ふふ、それは何よりね」


ヨハネ博士は優しく笑ってから、一人一人の顔を順に見回す。


善子「……かすみ……しずく……歩夢……そして、侑──……ん?」


そして、私の隣で目を留める。


リナ『初めまして、ヨハネ博士! 私リナって言います!』 ||,,> ◡ <,,||

善子「!? え、これ侑に渡した図鑑よね!? なんで、喋ってんの!? ってか、浮いてるじゃない!?」

侑「えっと……?」


そういえば、鞠莉博士もなんか変な反応してたっけ……。


リナ『そのことについて、鞠莉博士から言伝を預かってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「こ、言伝……?」

リナ『「人から渡されたモノを、断りもなく勝手に他の人に預けるんじゃありまセーン! そのことについて話があるから、後で、直接連絡を寄越すように!」』 || ˋ ᇫ ˊ ||

善子「!?」

侑「えーっと……?」


何やら事態がよく呑み込めないんだけど……。


善子「……そーゆーことか……」


ヨハネ博士は、気まずそうに頭を掻きながらも、どうやら何かを察したようだった。


リナ『とりあえず、鞠莉博士からはそれだけ! 私のことについては鞠莉博士から聞いてね!』 || > ◡ < ||

善子「わかったわ……」

侑「えっと、私はどうすれば……?」


私の知らないところで、何かが起こっているっぽいんだけど……。


リナ『うぅん、鞠莉博士とヨハネ博士の話だから、侑さんは気にしないで』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そう……?」


まあ、リナちゃんが気にしないでと言うなら……。


善子「コホン……。気を取り直して……旅の調子はどうかしら?」

侑「あ……! そうそう、旅でたくさん集めたんです……!」

かすみ「あ、旅で集めたって言ったら……もしかして……!」

侑「いろんなトレーナーから貰ったサイン!!」

かすみ「いや、サインの話ですかっ!?」

侑「はい! ダリアのにこさん、コメコの花陽さん、ホシゾラの凛さん、ウチウラではルビィさんとダイヤさんのサイン……! それに鞠莉博士からも貰っちゃいました!」

歩夢「侑ちゃん、いつの間に……」

しずく「なんというか……さすが侑先輩……」


実は花丸さんにも書いてもらったんだけど、これは言っちゃいけないから、黙っておく。


かすみ「もう、侑先輩! これはただの観光の旅じゃないんですよ!?」

善子「あのね、侑……」

かすみ「ほら! ヨハ子博士も言ってやってください!」

善子「私、サイン書いてないんだけど」

かすみ「そっち!?」

侑「っは……言われてみれば、バタバタしてたから貰い忘れてた……! ヨハネ博士、サインください!」

善子「くっくっくっ……苦しゅうない……」


ヨハネ博士は私から色紙を受け取ると、サラサラとサインを書いていく。


侑「わーい! ありがとうございます!!」

善子「大切にするのよ?」

侑「はい!」


新しいコレクションが増えて、思わずホクホクしてしまう。


かすみ「一体なんの報告ですかぁ……」

歩夢「あはは……」

かすみ「はぁ……ま、かすみん、サインは集めてませんけど、ジムバッジは4つも集まったんですよ!」

侑「あ、私もジムバッジは5つ集めたよ!」

かすみ「かすみんこの流れでバッジの数も負けてるんですか!?」

しずく「かすみさん……ドンマイ」


かすみちゃんが悔しそうに項垂れる。


善子「さっきのサインラインナップからしても、地方の南を回ってきたのかしら? となると、セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラのジムよね」

侑「はい!」

善子「となるとかすみは、どんなルートだったの……? ジム4つを巡るルートって結構限られると思うけど……」

しずく「あ、えっと、私たちはサニーからフソウに渡って、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリアと進んで、セキレイに戻ってきました」

かすみ「セキレイジムがまだなんですぅ~……曜先輩が全然捕まらなくてぇ……」

善子「あぁ、なるほどね。曜だったら、たぶんサニーにいると思うわ」

しずく「前と同じように、まだサニーでお仕事をされているんですね」

善子「ええ。当分はあっちにいるって言ってたから……ジム戦をしたいなら、サニーに行った方が早いかもしれないわね」

かすみ「じゃあ、次の目的地はサニーかなぁ……」

しずく「あ、それじゃあ、今日は私、サニーに帰ってもいいかな? 皆さん、今日はさすがにご自分のお家に帰られるでしょうし……かすみさんも家に帰るって言ってたよね?」

かすみ「うん。さすがにセキレイに戻ってきたわけだし……」

しずく「それなら、私も今日くらいは家に帰りたいかな。ついでに、サニーで曜さんに会ったら、明日にでもジム戦をしてもらえるように、お願いしておくよ」

善子「確かにそれが確実かもね。曜って落ち着きがないから、ちゃんと予定押さえておかないと、なかなか捕まらないし」

かすみ「じゃあ、しず子、曜先輩に会ったらお願いね!」

しずく「うん、わかった」


というわけで、かすみちゃんはジム戦のために東に向かうみたいだ。


歩夢「私たちはどうする……?」

侑「うーん……今日はさすがに家に帰るけど……」

リナ『ジム巡りを続けるなら、次に目指すのは北のローズシティだと思うよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「だよね。なら、次はローズを目指そっか」


次は順当に、まだ行っていない北に進むことになりそうだ。


善子「あ、ちょっと待って。ローズに行くなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

侑「お願い、ですか……?」


なんだろう……?


善子「ローズシティにいる真姫に渡して欲しいポケモンがいるの」

しずく「真姫さんって言うと……ローズジムのジムリーダーですよね?」

侑「渡して欲しいポケモンって言うのは……?」

善子「えっと、ちょっと待っててね」


そう言うと、ヨハネ博士は一旦奥の部屋へと下がっていく。

恐らく件のポケモンを探しに行ったのだろう。

すぐに目的のポケモンを見つけて戻ってきた博士は、


善子「この子よ」


そう言いながら、一個のボールからポケモンを出す。

ボールから出て来たのは、


 「──ワォン」


黄昏色の毛色をした、オオカミようなポケモン。


侑「え……!?」


でも、私はこのポケモンにすごく見覚えがあった。


侑「こ、このポケモンってもしかして……!! 千歌さんのルガルガンじゃないですか!?」

歩夢「そうなの?」

侑「うん! この黄昏色の体毛……間違いないよ!」


この“たそがれのすがた”のルガルガンはオトノキ地方では、今のところ千歌さんしか持っていないと聞いたことがある。


侑「数が少ないから、研究のために千歌さんの手を離れてることがあるって噂には聞いてたけど……まさか、ツシマ研究所にいたなんて……!」

善子「あら……よく知ってるわね。ただ、つい最近千歌から手持ちに戻したいって言われてね」
 「ワォン」

しずく「千歌さんの……ポケモン……ですか……」

歩夢「しずくちゃん? どうかしたの?」

しずく「あ、いえ、なんでもありません。……えっと、それでどうしてそのルガルガンをローズシティの真姫さんに?」

善子「健康診断のために、千歌の手持ちに返す前に、一度ローズで診てもらうのよ。あそこは医療設備も整ってるからね」

かすみ「えー……でも、それくらいならパソコンで転送しちゃえばいいじゃないですかぁ~……?」

善子「そうしたいのは山々なんだけどね……チャンピオンのポケモンってなると、欲しがる人なんて、ごまんといるから、転送でやり取りするのは不安があるのよ」

リナ『確かに、万が一でも、クラッキングで気付かない間に、転送先を変えられてたりしたら、大事だね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「そういうこと。だから、出来るだけ人から人で受け渡しする方が確実なのよ。ただ、私もちょっと手が離せない研究があって、ここを離れる時間を作るのが難しくって……」

侑「なるほど! そういうことなら、私が真姫さんに届けます!」

善子「そうしてくれると助かるわ」

侑「はい! ……それに、あの千歌さんのポケモンと一瞬でも一緒に過ごせるなんて、貴重だよ……貴重すぎるよ……! 絶対に私がやりたい……!」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、心の声が漏れだしてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢とリナちゃんが苦笑してる──ついでにイーブイも呆れてる──けど……これは絶対私がやりたいんだもん! 仕方ないじゃん。


善子「あー……ただ……。お願いしておいて悪いんだけど……すぐにってわけにはいかないのよね……」

侑「? どういうことですか?」

善子「ホント唐突に言われたもんだから、こっちもルガルガンの必要な観察データがまだ取り切れてないのよ……。今大急ぎで進めてるから、明後日には送り出せると思うんだけど……」

リナ『そうなると……すぐには、ローズに行けないね』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そういうことでしたら……私たちが、ローズまでお届けしましょうか? サニーで曜さんとジム戦を終えたら、私たちもローズに向かうと思いますし……」

侑「いや! 絶対、私がやりたい!」

歩夢「あはは……侑ちゃんなら、そう言うよね」


千歌さんの手持ちと過ごせるチャンス……! これだけは絶対に譲れない……!


歩夢「それなら……私たちも、かすみちゃんと一緒にサニータウン方面に行ってもいいかな?」

かすみ「え? かすみんは別に構いませんけど……」

歩夢「私たち、今回の旅でサニーにはまだ行ってないし……太陽の花畑を、ポケモンたちに見せてあげたいの」


太陽の花畑といえば、一年中四季折々の花が咲き誇る、オトノキ地方でも有数の大きな花畑だ。

かなり穏やかな場所で、野生のポケモンが大人しく、ポケモントレーナーでなくても安全に訪れることが出来る。

特に歩夢は、あそこがすごくお気に入りで、この季節になると毎年一緒にピクニックに出かけていたっけ。


歩夢「私の大好きな景色……旅で出会ったみんなにも見て欲しくって……」

侑「そういうことなら!」

歩夢「えへへ、じゃあ決まりだね♪」


歩夢は嬉しそうに言う。


善子「それじゃ、悪いけど……明後日にまた、研究所までルガルガンを引き取りに来てもらえる?」

侑「はい! わかりました!」

かすみ「となると、しばらくは侑先輩と歩夢先輩も一緒ってことですね!」

歩夢「うん、よろしくね♪」

リナ『旅路が賑やかになるね。リナちゃんボード「ハッピー♪」』 ||,,> ◡ <,,||


というわけで、私たちはしばらくかすみちゃんたちと行動を共にすることになりました。

明日は太陽の花畑を抜けて、いざサニータウンへ……!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──それでは皆さん、また明日」

侑「うん! またね、しずくちゃん!」

歩夢「気を付けて帰ってね」

しずく「はい、ありがとうございます」

かすみ「しず子~、曜先輩のことお願いね~!」

しずく「うん、任せて!」


しずくちゃんは手を振って、サニータウンへと帰っていった。


侑「それじゃ、私たちも帰ろっか」
 「ブブイ」

歩夢「うん」

かすみ「はーい!」


3人で帰り道を歩き出す。


歩夢「なんだか、こうして3人で歩いてると、スクールに居た頃みたいだね」

侑「あはは、確かにそうかも♪」

かすみ「でもでも、今はあのときとはもう違いますから!」
 「ガゥ♪」


かすみちゃんが元気に言うと、ゾロアが同調するように鳴く。


かすみ「今はかすみんたち、ポケモントレーナーなんですから!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」


歩夢がくすくすと笑う。

なんだか、いつものセキレイシティの景色の中で、ポケモントレーナーになった歩夢やかすみちゃんと歩くのは不思議な感覚だった。

旅に出る前には考えられないくらい、いろんな人やポケモンと出会って、これまでにいろんなことがあった。

そして、何より──


 「ブイ?」


私には新しい仲間がいる。

歩夢にも、かすみちゃんにも、しずくちゃんにも。


リナ『侑さん、なんか嬉しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 私たち、前に進んでるんだなって思って、なんか嬉しいなって」

リナ『そっか。侑さんが嬉しそうにしてると私も嬉しい』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、ありがとうリナちゃん」


そして、リナちゃんもこの旅で出会った大切な仲間だ。

このオトノキ地方での旅は、こうしてセキレイシティに戻ってきたことによって、地方全体の凡そ半分くらいを旅してきたことになると思う。


侑「この先には……何があるのかな……!」


私は旅の続きが楽しみで楽しみで堪らない。

大きな期待を胸に、未来に希望を抱きながら、私は無限に広がっている空を仰いで、この先に続いているまだ見ぬ地を思い描きながら、帰路に就くのだった。





    🎹    🎹    🎹





……さて。

久しぶりに我が家へ帰宅した私だったんだけど……。


侑「まさか帰宅早々、夕飯の買い出しをやらされるとは……」
 「ブイ?」


セキレイデパートの中をげんなりした顔で歩いていた。


侑「まあ、突然帰ってきたから、食材が足りなかったってのは、わかるけどさ……」

リナ『侑さん侑さん! 今日の“パイルのみ”普段の価格よりも22%もお得だよ』 || > 𝅎 < ||

侑「リナちゃんが毎日買い物についてきてくれたら、お母さん喜びそうだね……」


帰るや否や、買い物袋とお金を渡されて、自宅をUターンしてしまったため、まだロクに旅の仲間も紹介出来てないし……。

帰ったら、リナちゃんや新しく捕まえたポケモンたちも紹介しないとね。


侑「ま……余ったお金で好きなモノ買っていいって言ってたし、いっか……」

リナ『侑さんのお母さん、太っ腹だね』 || > ◡ < ||


太っ腹って言うなら、むしろ久しぶりに帰ってきた娘を労って欲しいものなんだけど……。


リナ『ところで、何か欲しいものとかあるの?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「うん。まあ、なんとなくは」


デパートの中をうろうろしながら、私はお花のコーナーに足を向ける。


リナ『お花買うの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。ちょっとね」


私は並べられた色とりどりの花を眺めながら考える。


侑「どれがいいかな……」

リナ『……あ、もしかして……贈り物?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……ま、まあ……そんなところかな、あはは」


リナちゃん、意外と鋭いんだよなぁ……。ちょっと恥ずかしい。

並べられた花は、一輪の物から、ブーケになっているもの、ドライフラワーや、アクセサリーに加工してあるものもある。

そんな中、


侑「あ……これ……」


小さな、花飾りが私の目に留まった。

横にある小さなポップに、この花飾りに使っているお花の花言葉が書いてあって──


侑「……これにしよう」


私はこれしかないと思い、それを手に取って、レジに向かうのだった。




    🎹    🎹    🎹





──その夜。


侑「んー……やっぱ自分の部屋は落ち着くなぁ……」


自室のベッドに寝転がってくつろいでいた。

突然の帰宅だったのに、お母さんが私の好きなものをたくさん作ってくれて、お腹もいっぱいだ──その夕飯のための買い出しに駆り出されたのは少々不服ではあるけど……。

──まあ、その買い出しのお陰で、良いものも買えたし、いいんだけどさ。

私がリラックスして、だらけていると、


 「ブイ…」


イーブイがちょっと不機嫌そうに鳴く。


侑「ああ、ごめんごめん! 毛繕いするんだった! おいで」
 「ブイ」


イーブイは呼ばれると、私の膝の上で素直に丸くなる。

手に取ったブラシで毛繕いをしてあげると、


 「ブイィ♪」


ご機嫌そうに鳴く。


リナ『“おくびょう”だったイーブイもすっかり侑さんに慣れたね』 || > ◡ < ||

侑「慣れすぎて、軽くふてぶてしいけどね……」
 「ブイ?」


お父さんとお母さんの前では、人見知りを発動して、お人形さんみたいになっていたのに……。

そんな家族での夕食の際、当初の計画通りイーブイ以外の手持ちたちも家族に紹介したし、


リナ『それにしても、侑さんのお父さんとお母さん、二人とも優しかった』 || > ◡ < ||


リナちゃんのことも、しっかりと紹介出来た。

もちろん、最新型AIではなくロトム図鑑だと説明したけど……。

お父さんもお母さんも、最初は驚いていたものの……ロトム図鑑というものがあるのを説明したら、すんなり受け入れてくれて、しばらく私そっちのけでリナちゃんと談笑していたくらいだ。


リナ『いっぱいお話し出来て嬉しかった』 || > ◡ < ||

侑「お父さんもお母さんも、順応性高いんだよね……」


のほほんとしているというかなんというか……。

まあ、変に勘繰られるよりずっといいんだけど。

リナちゃんともすぐ仲良くなれるくらいの順応性のお陰で、イーブイ以外の手持ちたちも、可愛がってくれていたし。


侑「ライボルトを撫でまくってるときはちょっとひやひやしたけど……」

 「ライボ…」


苦笑いしながら言うと、いつものように部屋の隅で伏せて目を瞑っていたライボルトが静かに鳴く。


リナ『ライボルト、あんまり触られるの好きじゃないもんね』 || ╹ᇫ╹ ||


ライボルトは頭の良い子だから、気を遣って大人な対応をしてくれたんだろう……。


侑「お母さんたちがごめんね、ライボルト」

 「…ライボ」


相変わらず、目を瞑ったまま、気にするなとでも言わんばかりに相槌だけ打つライボルト。……クールだ。

イーブイの毛繕いをしながら、ライボルトと会話していると、


 「ワシャッ」
侑「おとと……」


頭の上にワシボンが止まる。


侑「ワシボンも毛繕いしてほしいの?」
 「ワシャ!」

侑「イーブイ、ワシボンも毛繕いして欲しいって」
 「ブイ…」


私がそう言うと、イーブイは私の膝の上からぴょんと飛び降りて、ワシボンに場所を譲る。


侑「よしよし、仲良く出来て、良い子良い子」
 「…ブイ♪」

侑「じゃあ、ワシボン、毛繕いするよー」
 「ワシャ♪」


リナ『侑さんの手持ちたちも随分打ち解けたよね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「やっぱり、一緒に旅してると、仲間意識が湧くんだろうね」


手持ち同士の仲が悪かったりすると本当に大変だって言うから、その点は助かっている。

ただ、


 「ニャァ~」


ニャスパーはなんというか……我が道突き進むというか、周りのポケモンにあまり関心がない。

相変わらず、リナちゃんを目で追いかけながら、とてとてと歩き回っていて、イーブイやワシボンと遊んだりもしないし……。


侑「ニャスパーは本当にリナちゃんが好きだよね……」

 「ニャァ~」
リナ『リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||


このニャスパー……本当にどこの誰のポケモンなんだろう。


リナ『もっと動きまわった方がいいのかな』 || > ◡ < ||
 「ニャァ~」


リナちゃんが飛び回ると、ニャスパーは上を見上げながら、短い足でとてとてと追いかけ始める。

正直この光景に関しては、微笑ましいことこの上ない。


侑「やっぱネコポケモンは動くものが好きなんだね」

リナ『だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……よし! ワシボン、毛繕い終わったよ」
 「ワシャ♪」

 「ブイブイ」
 「ワシャ~」


しっかり毛並みを整えてあげると、ワシボンはご機嫌に鳴きながら、イーブイと追いかけっこを始める。


侑「イーブイ、ワシボン、あんまり暴れちゃダメだよ~」
 「ブイ♪」「ワシャ~」


イーブイ、ワシボン、ライボルト、ニャスパー、なかなか個性的な手持ちになってきた気がする。

そして……最後の手持ち、と言っていいのかな。

私はその子をボールから外に出す。

丸いラグビーボール大くらいの──タマゴ。


リナ『そのタマゴ、全然変化がないね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……」


たまにボールの外に出して、撫でてみたり、優しく抱きしめてみたりしているけど……あんまり変化はない。


侑「本当に生まれてくるのかな……」


タマゴに直接耳を当ててみるけど……特に何も聴こえない。

どんなポケモンが生まれてくるのかわからないと、この子をどうするかの方針も立たないんだけどなぁ……。


リナ『まだまだ時間がかかりそうだね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうだね……」


まあ、根気よく待つしかないかな……。

何か早く生まれさせる方法があるわけでもないし。


リナ『……あ、侑さん』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「ん?」

リナ『歩夢さんから、メールだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「歩夢から?」

リナ『ベランダ、今出られるかって、訊いてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「ん、わかった」


私は上着を羽織って、ベランダの外に出る。

ベランダに出ると──歩夢が隣の部屋のベランダの手すりにもたれかかりながら、空を見ていた。

私も歩夢と同じようにベランダの手すりに手を掛けながら、歩夢に声を掛ける


侑「歩夢」

歩夢「あ、侑ちゃん。ごめんね、急に呼び出して」

侑「うぅん、平気だよ。どうしたの?」

歩夢「なんだか……お話ししたくなっちゃって」

侑「ふふ、そっか。旅に出る前はよくこうして話してたもんね」


そんなに前のことじゃないはずなのに、なんだかこうしてベランダで話すのも懐かしい気持ちになってくる。

そう思っていたのは歩夢も同じだったようで。


歩夢「ふふ♪ なんだか、そんなに前のことじゃないのに、懐かしい気持ちになっちゃうね♪」


そう言って笑う。


歩夢「侑ちゃん、お部屋で何してた?」

侑「ポケモンたちと遊んでた」

歩夢「ふふ、私と同じだね♪」

侑「旅で出会ったポケモンたちが、自分の部屋にいるのはなんか不思議な気分だけどね」

歩夢「そうだね。……私たち、旅してきたんだね」


歩夢は空を見上げながら、しみじみと言う。


歩夢「ちょっと前まで……旅してる自分を全然想像出来なかったんだけど……」

侑「そうだね……」

歩夢「旅に出たら、やっぱり戸惑うことばっかりで……大変だなって思うこともいっぱいあったけど……」

侑「うん」

歩夢「旅に出てよかったって……思ってるよ」

侑「なら、よかった」

歩夢「侑ちゃんが居てくれたお陰だよ♪」

侑「それはこっちの台詞だよ。歩夢、いつもありがとう」

歩夢「えへへ……なんか、照れちゃうね」


歩夢は嬉しそうにはにかむ。

そんな歩夢を見て、今かなと思った。


侑「ねぇ、歩夢」

歩夢「?」

侑「実は、歩夢にプレゼントがあるんだ」

歩夢「え、プレゼント……?」

侑「歩夢のお陰で旅が出来て、歩夢のお陰で毎日が幸せだからさ……そのお礼というか」

歩夢「そ、そんな……感謝してるのはこっちだよ……! それに私、何も用意してないし……」

侑「私が歩夢にあげたいって思っただけだからさ。受け取って欲しいな」


そう言って、私は上着のポケットから、小さな小箱を取り出して歩夢に渡す。


歩夢「……開けていい?」

侑「もちろん」


歩夢がゆっくりと小箱を開けると──


歩夢「……わぁ♪ 可愛い……♪」


中から、桃色の花飾りが顔を出す。


侑「さっき、夕飯の買い物に行ったときにたまたま見つけて……歩夢に似合うと思ってさ」

歩夢「ありがとう、侑ちゃん……♪」


歩夢はそう言いながら、早速花飾りを着けて見せてくれる。


歩夢「……どうかな?」

侑「ふふっ。やっぱり私が思ったとおりだ。すっごく、よく似合ってるよ♪」

歩夢「えへへ……ありがとう……///」


歩夢は照れ臭そうに笑う。


侑「この旅をしててさ……私、歩夢の知らないところ、たくさんあったんだなって思ったんだ」

歩夢「そうなの?」

侑「うん。だから、ケンカもしちゃったし……」

歩夢「あ……そうだね……」

侑「あ、でも、あのときケンカしちゃったことは、今となってはよかったって思ってるよ。ちゃんとお互い思ってることを言い合えたから」

歩夢「侑ちゃん……。うん、私もそう思うよ」

侑「だからさ、その……なんていうか……。これから先、もしかしたら、また気持ちがすれ違っちゃうこととか、一緒にいられないことが、あるのかもしれないけど……」

歩夢「……うん」

侑「……私はいつでも、歩夢を大切に思ってる。そんな気持ちを込めたから……何かあったら、その花飾りを見て、思い出してくれたら嬉しいなって……」

歩夢「侑ちゃん……。……うん、わかった」


歩夢が優しい表情で笑い返してくれる。本当に心の底から、私の言葉を受け止めて笑ってくれているんだって。

なんだか、それが妙に気恥しくて、


侑「……そ、それじゃ、そろそろ明日に備えて寝ないとね///」


思わず、話を切り上げてしまう。


歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」


くすくすと笑いながら言う歩夢。

なんだか、今の私の気持ちを見透かされているみたいで、余計恥ずかしくなってくる。


歩夢「おやすみ」

侑「う、うん、おやすみ! また明日!」


半ば逃げるように、部屋に戻ろうと踵を返す。


歩夢「侑ちゃん」

侑「?」

歩夢「私の侑ちゃんへの想いも、ずっと変わらないから……安心してね」

侑「……うん、ありがとう」


──なんだかこそばゆい気持ちだけど、今日は良い夢を見られそうな気がする。

ふと見上げた夜空では、旅していたときと変わらず、月明りが優しく私たちを照らしていたのだった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.38 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.34 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.29 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.38 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.36 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.34 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.29 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:146匹 捕まえた数:15匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission😈



──ツシマ研究所にて。

子供たちを家に帰して、ひととおり仕事を片付けたところだ。


善子「……さて……気は進まないけど、連絡しようかしらね……」


私はパソコンの前に座って、ビデオ通話を掛ける。

アプリの呼び出し音が鳴る中、先方が応じるのを待つ。

10秒……20秒……30秒……。


善子「出ない……」


あのルーズな古巣の師を思い出して、溜め息が出る。

連絡してくるときは突然なのに、こっちから連絡してもなかなか捕まらないのだ。昔から。


1~2分待って、諦めようかと思ったとき、


鞠莉「チャオ~、善子~」


やっと、マリーは通話に応じてくれた。


善子「それでマリー、用件は?」

鞠莉「そっちから掛けてきたのに、すごい切り出し方するわね……。そんな言い方するってことは、リナに会ったのね」

善子「ええ。とりあえず、あのリナってポケモン図鑑がなんなのか、教えて欲しいんだけど」

鞠莉「リナは自分のこと、ロトム図鑑って言ってなかった?」

善子「……ロトム図鑑じゃないことくらいわかるわよ」

鞠莉「あら……さすがね」

善子「誰の研究所で助手やってたと思ってるのよ……」


ロトム図鑑とはそれなりに付き合いが長い。一目見れば、違うことはすぐにわかった。

問題は──じゃあ果たして何なのかということ。


鞠莉「AIよ」

善子「マリーが作った……わけないわよね」

鞠莉「あら、失礼ね……マリーには出来ないってこと? わたしはこれでも、そっち方面も出来るのよ?」

善子「それは知ってる。だけど、あのポケモン図鑑──リナはあまりに感情が豊かすぎる」


あんなに感情豊かなAIは、見たことがない。

というか、今の技術で作れるのかも怪しい。


鞠莉「……ふふふ」

善子「何笑ってんのよ」

鞠莉「さすが、わたしの弟子だと思って」

善子「誰がマリーの弟子よ……」

鞠莉「あなたの言うとおり、あんなに感情豊かなAIは今の技術では作れない……」

善子「じゃあ、あのリナってポケモン図鑑は何?」

鞠莉「逆に聞くけど、なんだと思う?」

善子「……」


ああもう……この人のこういうところが苦手だ。

ただ、何故こんなまどろっこしい訊き返し方をしてくるのか。それを考えればなんとなくわかった。


善子「……マリーも知らないってことね」

鞠莉「正解。いや、正確には、確信が持てていないだけだけどね」

善子「……もう一度聞くけど、あのリナってポケモン図鑑はなんなの? いや……違うか──」


私は、この質問では不十分だと思って言い直す。


善子「──私にあの子を託して、どうするつもりだったの?」


あのポケモン図鑑は、侑の手に渡らなければ私か、千歌の手にあるはずのものだった。

確認をしなかった私の落ち度だけど──当初は本当に図鑑データ収集の雑用をさせられると思ったし──この人選には、意味がある。


善子「私か千歌にあのポケモン図鑑を任せるってことは──自分であんまこういうこと言いたくないんだけど……マリーにとって信頼のおける人物の手に置く必要があった」

鞠莉「……続けて」

善子「そして、何故マリーの手元にあるだけではダメなのか。……あの子により多くのデータを与えるため。言うなれば……リナに進化を促す、とでも言えばいいのかしら」


恐らく自己学習型のAIだと言うのは少し会話をしただけでも、想像に難くない。

なら、そのために必要なのは経験だ。それを得やすい人のもとに預けておくのは理に適っている。


鞠莉「……ふむ。当たらずとも遠からずね」

善子「そりゃ、どーも……」


とはいえ、私の推測で考えられるのはここまでが限界。

ここでマリーから正解と言ってもらえなかったということは──私には知りえない情報がまだあるということだ。


鞠莉「リナを成長させたいというのは合ってるわ。あなたの考えているとおり。ただ、進化って言うのは……正確じゃないかな」

善子「まあ……成長でも進化でも、表現はなんでもいいんだけど……」


言い回しに拘るのは、ある意味研究者らしい返答だ。


善子「その上で、あの子に経験を積ませて……何が起こるの?」

鞠莉「……リナは……あの子はね──Keyよ」

善子「……キー……? 鍵?」

鞠莉「そう──これから、この地方で起こる、何かに対する重要なKey factor」

善子「……何か……?」

鞠莉「善子、あの子……リナの正体は──」


私は、マリーの言葉を聞いて……驚き、目を見開いてしまった。

そんなこと……ありえるの……?


………………
…………
……
😈


■Chapter039 『歩夢と桃色の花』 【SIDE Ayumu】





歩夢「──ん~……! 今日はぽかぽかしてて、気持ちいいね~……」

侑「こうぽかぽか陽気だと眠くなってくる……」
 「ブイ…」

歩夢「ふふ♪ 確かに、お昼寝したくなっちゃうね♪」


眠そうな侑ちゃんとイーブイを見て、くすくすと笑ってしまう。


リナ『今日は一日中晴れだと思うよ! お散歩日和になってよかったね、歩夢さん!』 || > ◡ < ||

歩夢「うん♪」


私たちは今、セキレイの街を東にある9番道路方面に向かって歩いているところ。

まだ午前中だと言うのに、今日はぽかぽかとした、まさにお散歩日和な日だ。

二人で歩き慣れたセキレイの街を進んでいると、


かすみ「──侑せんぱ~い! 歩夢せんぱ~い!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみちゃんの呼ぶ声が聞こえてきて振り返る。


侑「おはよう、かすみちゃん」

歩夢「おはよう♪」

かすみ「おはようございます! って、あー! 歩夢先輩、なんですかなんですか、その新しい髪飾り! めっちゃ可愛いじゃないですかぁ~!」

歩夢「あ、これ……えへへ、実は昨日、侑ちゃんに貰ったんだ……///」

かすみ「えー!? ずるいずるい! 侑先輩、かすみんにはプレゼントないんですかぁ~!?」

侑「あ、えーっと……ごめん。かすみちゃんの分はちょっと用意してないや……」

かすみ「えー……むー……まあ、いいですけど。その代わり、今日のジム戦の応援、全力でお願いしますね」

侑「あはは、それなら任せて!」


というわけで、私たちはこれからサニータウンへ向かうために、セキレイシティを東に進んでいきます。

そしてその途中には──太陽の花畑がある。

私はこの太陽の花畑をすごくすごく楽しみにしている。

特に今日みたいなぽかぽか陽気な日に、あのお花畑をお散歩出来たら、きっとすごく気持ちいいに違いない。


歩夢「早くみんなに見せてあげたいな……♪」


素敵な景色を、私の大切なポケモンたちに見せてあげられるんだと思っただけで、気持ちがうきうきしていた。




    🎀    🎀    🎀





──セキレイを東に抜けて、しばらく9番道路を歩いた先、


歩夢「見えてきたよ!」


気持ちが逸っていたのか、自然と少し前を歩いて、先導するような形になっていた私は、侑ちゃんとかすみちゃんを振り返りながら、前方を指差す。

そこには──色とりどりの花が、ずーっと先まで広がっている光景。


侑「うわぁ~! 久々に来たけど、やっぱすごいね!」
 「ブィ~~!!!」

歩夢「うん!」


ここが、セキレイの東にある大きなお花畑──太陽の花畑だ。


かすみ「かすみんはちょっと前に来たんですけど……そのときとなんかちょっと違うかも?」
 「ガゥゥ?」

歩夢「ちょうど開花時期のお花もあるからだと思うよ♪ この時期は、一番咲いてるお花の種類が多くて綺麗なんだ♪」

かすみ「へーそうなんですね! 前来たときは、コソ泥さんを追いかけてて、ゆっくり見る暇もなかったけど……こうしてみると、やっぱり絶景ですね!」

歩夢「うん!」


まさに花の絨毯と言っても差し支えない光景を目の当たりにしながら、


歩夢「みんな、出てきて!」


みんなをボールから出す。


 「バースッ!!」「マホイ~♪」「タマァ…」


エースバーンは一面に広がる風景に目を丸くしていたけど、


 「バスッ♪」


ご機嫌になって、花畑を駆け出す。

進化した今でも、走り回るのが大好きみたい。


 「マホ~♪」


マホイップは、近くにあるお花に近付いて、匂いを嗅いでいる。


 「マホ~♪」
歩夢「ふふっ♪ いい匂いするよね♪」


マホミルの頃から、甘い匂いが好きだったマホイップも、ニコニコしながら、あっちこっちの花の匂いを嗅いでいる。

ただ、そんな中、


 「タマ…」


タマザラシは私の足元から離れようとしない。


歩夢「タマザラシ、お花綺麗だよ?」
 「タマァ~…」

侑「歩夢と離れたくないんじゃない?」

歩夢「そっか……じゃあ、一緒にお花、見よっか♪」
 「タマァ…♪」


頭を撫でながら言うと、タマザラシは嬉しそうに鳴く。

この子はさみしがりやで甘えん坊だから、綺麗なお花畑よりも、私から離れたくないみたい。

まあ、私から離れないのはサスケも同じなんだけど……。


 「シャボ…」


いつものように私の肩の上にいるサスケは、鳴きながら軽く目を開けたけど、


 「シャボ…zzz」


すぐに目を瞑って、眠りだす。


侑「あはは……サスケは相変わらずだね」

リナ『ご飯あげれば起きるかもよ?』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「花より団子だからなぁ……サスケは……」


これに関しては昔から変わらないかも。


かすみ「それじゃ、せっかくですし、かすみんもポケモンたちを外に出してあげようかな~♪」

侑「私も!」


侑ちゃんとかすみちゃんが私に倣うように、自分たちの手持ちを外に出す。


 「ワシャッ♪」「ライボ」「ニャァ~」
 「ジュプトッ」「ザグマァ~」「……サ」「ブクロン♪」


ボールから飛び出すと、ワシボンとジグザグマが元気よく飛び出して行く。


侑「あんまり、遠くに行っちゃダメだよ~?」

 「ワシャ~」

かすみ「ジグザグマ~! 何か見つけたら、ちゃんとかすみんのところに持ってくるんだよ~!」

 「クマァ~♪」


一方で、ニャスパーとサニーゴはいつもどおり、ぼんやりしている。


 「ニャァ~」「…………サ」


侑「ニャスパー。遊んできていいんだよ?」
 「ニャァ~…?」


侑ちゃんが言うと、ニャスパーは近くの花に顔を近づけたり、手でてしてしと叩いてみたりしている。


かすみ「サニーゴは……うーん、まあいつもどおりですね」
 「…………ニ」


サニーゴは興味があるのかないのか、いつもどおりの無表情で、花畑の上をゆっくりと浮きながら移動している。


かすみ「あれ、楽しいのかな……」

リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「イーブイも、行っていいよ」
 「ブイ♪」


侑ちゃんの肩の上で待機していたイーブイも、侑ちゃんから許可をもらうと、元気よく花畑に飛び出して行く。

そんな、イーブイを追いかけるように、


 「ガゥガゥ♪」


ゾロアも、駆け出す。


かすみ「やっぱり、こ~んな大きなお花畑があると、みんな開放的な気分になるんですね!」

侑「ふふ、そうだね。せっかくだし、タマゴも外に出してあげよっかな」


侑ちゃんはタマゴをボールから出して、落とさないようにしっかりと胸に抱える。


歩夢「タマゴ、何か変化あった?」

侑「全然……。でも、こうやって歩いてたら、何か刺激になるかもしれないしさ」

かすみ「昨日もちょっとだけ見せてもらいましたけど、一体どんなポケモンが生まれるんでしょうね?」

侑「そればっかりは生まれてみないとかなぁ」


そんな話をしながら、私たちも花畑の中を歩き出す。

すると、タマザラシはコロコロと転がりながら、さらにその後ろから、ジュプトルとライボルトが警護でもしているかのように、ゆっくりと付いてくる。


かすみ「ジュプトルも遊べばいいのに……」

侑「ライボルトとジュプトルは、遊ぶって感じじゃないみたいだね」

歩夢「でも、お花に囲まれて、嬉しそうだよ♪」


いつもどおりのクールな表情でこそあるものの、足取りは気持ち軽やかに見える。


かすみ「あれ……そういえば、ヤブクロンは……?」


そういえば、飛び出して行った子たちの中にヤブクロンはいなかった。かすみちゃんがキョロキョロと辺りを見回すと、ヤブクロンはたくさんの花の影に隠れていて、


かすみ「ああ、そんなところにいたんだね。……って!?」
 「ヤブ…」


もしゃもしゃとお花を食べているところだった。


かすみ「わー!? ヤブクロン、勝手に食べちゃダメでしょ!?」
 「ヤブ…?」

侑「かすみちゃんのヤブクロン、お花食べるの?」

かすみ「は、はい……お花が大好物なんです……。でも、お花畑の花は食べちゃダメでしょ!」
 「ヤブ…」

かすみ「そんな不機嫌そうな顔されても……勝手に食べたら、かすみんが叱られちゃいますよぉ……」

歩夢「うーん……ちょっとくらいなら大丈夫だと思うよ?」

かすみ「えぇ……? そんな、歩夢先輩まで……。管理してる人とかに叱られちゃわないですか……?」

リナ『太陽の花畑には管理人はいないよ』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「はぇ……? え、だって、お世話してる人がいるでしょ?」

歩夢「あのね、かすみちゃん。太陽の花畑は、自然のお花畑で、人の手は入ってないんだよ」

かすみ「え!? こんなに大きくて、いろんな種類のお花があるのに!?」


かすみちゃんが驚くのも無理はない。

私も昔は、誰かが手入れをして、作ったものだと思っていたもの。


リナ『この花畑は花にとって、特別な環境になってるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「特別な環境って、具体的には?」

歩夢「ここのお花畑はね、太陽のエネルギーに溢れてるって言われてるの」

かすみ「太陽のエネルギーに溢れてる……?」

歩夢「うん。あそこにある大きな花……見える?」


私は花畑の中央の方を指差す。


かすみ「ああ、あのでっかいヒマワリですよね! ここの名物ですから、あれは知ってますよ!」

侑「確か……大輪華・サンフラワーだっけ?」

かすみ「どうすれば、あんなに大きく成長するんですかねぇ……」

歩夢「あのヒマワリはね、太陽のエネルギーの塊だって言われてるの」

侑「太陽のエネルギーの塊……?」

かすみ「えぇ? じゃあ、あのおっきなヒマワリが、周りのお花を育ててるって言うことですかぁ?」


かすみちゃんが不思議そうに小首を傾げる。


歩夢「えっと……進化の石ってあるでしょ?」

侑「ああ、“ほのおのいし”とか“みずのいし”とかのことだよね」

歩夢「うん。あれは小さい手の平のサイズの石なんだけど……自然界には、あの進化の石と同じようなエネルギーを持った場所があるんだって」

リナ『ここはそんな“たいようのいし”のエネルギーが満ちてる場所って言われてるんだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

かすみ「え? じゃあ、“たいようのいし”いらずってことですか?」

歩夢「うん。チュリネやヒマナッツはここにいるだけで、進化することがあるみたいだよ」

かすみ「え!? ほ、ホントに“たいようのいし”いらずだった……」

リナ『そんなエネルギーの恩恵を受けて、多くの花が自生してるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「でも、どうしてそんなエネルギーがここにはあるの?」

リナ『正確な理由はわかってないみたい……。私のデータにもない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「でもね、あのサンフラワーにまつわる伝説は残ってるんだよ」

かすみ「伝説ですか?」


私は、このお花畑が好きでもっと知りたくて……以前、学校の図書館で調べた、大輪華の伝説のことを話し始める。


歩夢「ここは最初は何もなかったんだけど……。このオトノキ地方に最初の輝きを与えたと言われるポケモン──ディアンシーは自らの輝きを地方中に分け与えたんだって」

かすみ「輝きって、なんかふわふわした言い方ですね?」

リナ『今ではこの輝きって言うのは生命エネルギーだったとか、宝石や鉱石だったんじゃないか、なんて言われてるね』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「うん。その輝きの一つはここ……太陽の花畑に。大きな大きな、太陽の輝き。その太陽の輝きの上に、たまたま一つのヒマワリの種が芽吹いたんだって。そして、そのヒマワリの種は太陽の輝きの中に芽を伸ばして──大きく、大きく成長した」


私は、大輪華を見上げる。


侑「……もしかして、その太陽の輝きって……」

歩夢「うん。巨大な“たいようのいし”だったんじゃないかって言われてるみたい」


“たいようのいし”のエネルギーを吸って成長したから、サンフラワーはあんな大きな大輪を咲かせたと考えられているそうだ。


歩夢「だから、サンフラワー自身が強い太陽のエネルギーを放って、土地を潤し続けてる。そんな場所だから、長い年月を掛けて、自然といろんな種類のお花が集まってきたんだって」

かすみ「へ~……なんだか、壮大な話ですねぇ……」

侑「だから、人の管理は必要ないんだね」

歩夢「うん。あ、でもね……人以外がお花のお世話をしてるんだよ」

侑・かすみ「「人以外……?」」


侑ちゃんとかすみちゃんの声が重なる。


歩夢「えっとね……」


私はキョロキョロと辺りを見回す。

真ん中の方に来ると、いつもだいたい何匹かいるんだけど……そう思って、周囲を確認していると、


歩夢「あ、いた……」


 「エッテ」「エッテ~」「エッテエッテ♪」


歩夢「あの子たちがお世話してるんだよ」


少し離れたお花の上で、漂うように飛んでいる、小さなポケモンたちを指差す。


かすみ「わ、可愛い~♡」

侑「あのポケモンは……確か、フラエッテだっけ?」

リナ『フラエッテ いちりんポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.9kg
   自分の パワーを 花に 与え 心を こめて 世話を する。
   あちこちの 花畑を 飛び回り 枯れかけた 花を 見つけると
   世話を 始める。 花の 秘められた 力を 引き出して 戦う。』

侑「確か、フラベベの進化系で……さらにフラージェスに進化するんだっけ」

歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」


ポケモンの話題になると、急に饒舌になるのが侑ちゃんらしくて、ちょっと笑ってしまう。


歩夢「フラエッテたちがお花のお世話をして、ここでお気に入りの花を見つけたフラベベたちが、花に乗って飛んでくんだよ」


そう説明していると、風が吹いて、ちょうど目の前で花に乗ったフラベベたちが花畑を飛び立っていく。


リナ『フラベベ いちりんポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.1kg
   気に入った 花を 見つけると 一生 その花と 暮らす。 花の
   力が ないと 危険だが 好きな 色と 形が 見つかるまで
   旅を 続ける。 見つけると 風に 乗って 気ままに 漂う。』

歩夢「そうやって、世界中にお花を広げていくんだって♪」

かすみ「なんかロマンチックな話ですね! それにこれだけいろんな種類があったら、フラベベも絶対にお気に入りのお花が見つけられますもんね!」

歩夢「そうだね♪」


そして、お気に入りの花を見つけて飛び立っていったフラベベたちは、成長してフラエッテになると、お花のお世話をしにここに戻ってくるらしい。

まさにこのお花畑は、自然とポケモンが密接に結びついて繁栄させてきた、自然の楽園というわけだ。


侑「なんか身近な場所だったのに、全然知らなかったや……」

歩夢「ふふっ♪ 侑ちゃんは花よりポケモンだもんね♪」

侑「でも、ポケモンとも関わりがあるってわかったら、興味湧いてきたよ!」


やっぱり侑ちゃんらしくて、くすくす笑ってしまう。

そんな中、急に──prrrrrとポケギアのコール音が鳴る。

私のじゃない……。侑ちゃんを見ると、侑ちゃんも首を左右に振る。

じゃあ、


かすみ「あ、かすみんのポケギアです。……あれ、しず子から? もしもし、しず子?」

しずく『もしもし、かすみさん? 今どこ?」


私たちにも聞こえるように、かすみちゃんがスピーカーモードにしてくれる。


かすみ「太陽の花畑だけど……」

しずく『えっと……まだサニーに着くまで時間かかりそう? 曜さん、もう待ってくれてるんだけど……』

かすみ「え? ……って、もうこんな時間じゃん!?」

侑「……わぁ!? もうとっくにお昼過ぎてる!?」


どうやら、花畑でのんびりしすぎたらしい。


かすみ「すぐに行くって曜先輩に伝えてくれる!?」

しずく『うん、わかった。待ってるね』


──piと通話を切り、


かすみ「みんな~! サニーまで行くから、戻ってきて~!」


手持ちを呼び戻している。


侑「曜さんのこと待たせちゃってるみたいだね……歩夢、ちょっと急ごうか」

歩夢「うん。曜さん、忙しい中、予定空けてくれてるんだもんね」


私と侑ちゃんもポケモンたちを呼び戻し始める。


歩夢「みんな~! 戻ってきて~!」


タマザラシをボールに戻しながら呼び掛けると、


 「バース!!」


エースバーンがすぐに戻ってくる。

あとは、マホイップ……。


歩夢「マホイップ~……どこ行っちゃったの~……?」


呼んでも全然マホイップの姿が見えない。

恐らく、花の匂いに夢中になっているんだと思う。

マホイップは小さいから、花の影に隠れちゃうし……呼ばれていることに気付いてくれないと探すのが大変なんだけど……。

どうしようかと考えていると、


 「…シャボ」


私の意図を汲んだのか、さっきまで寝ていたはずのサスケが私の身体を伝って、するすると地面に降りていく。

舌をチロチロとさせたあと、花を掻き分けて、進んでいく。

どうやら、探してくれるようだ。

舌先で匂いを嗅ぎ分けるサスケの後に付いていくと、


 「マホ~…♪」


マホイップは案の定、お花の匂いに夢中になっているところだった。


歩夢「やっと見つけた……ありがとう、サスケ」
 「シャボ」

歩夢「マホイップ。そろそろ、行くよ」
 「マホ?」


屈んで、マホイップを抱き上げる。

その際、ふと──小さなポケモンが地面にいることに気付く。


 「ベベ…」

歩夢「……フラベベ?」


いや、フラベベなら周りにたくさんいる。

ただフラベベが居ただけなら、特に気にしなかったんだろうけど……。

本来花に乗り、風を受けて空を漂っているはずなのに、そのフラベベは──地面をぴょんぴょんと跳ねていた。

つまり、花を持っていなかった。


歩夢「あなた……お花はないの?」

 「ベベベ…」


訊ねると、ふるふると首を振る。


歩夢「お花がないと、危ないよ?」

 「ベベベ…」


フラベベは花の力がないと、満足に戦えないポケモンだし、こうして花もないまま1匹でいるのは、少し心配になる。


歩夢「……好きなお花、見つからないの?」

 「ベベ…」


そう訊ねると、フラベベは頭を垂れて、しゅんとしてしまう。


歩夢「そっか……」


これだけいろんなお花があるから、こんな風にお気に入りの花を見つけられないフラベベがいるなんて考えたことがなかった。


侑「──歩夢~!! どこ~!?」

歩夢「あ、いけない……」


花畑の中で屈んでいたからか、侑ちゃんが大きな声で私を探し回っている。


歩夢「侑ちゃん、ここだよ~!」

侑「あ、いた!」

かすみ「歩夢せんぱ~い! 早く行きますよ~!」

歩夢「う、うん」


かすみちゃんに促されて、行こうと思ったけど。


 「……ベベ」

歩夢「……」


なんとなく、このフラベベを放っておけなくって……。


歩夢「……ごめん、侑ちゃん、かすみちゃん、先に行ってもらってていい?」

侑「え? いいけど……一人で大丈夫?」

歩夢「うん、大丈夫。すぐに追いつくから」

かすみ「それじゃ、かすみんたち、先に行きますね! 行きますよ、侑先輩!」

侑「あ、うん! それじゃ、歩夢、何かあったら連絡してね!」

歩夢「うん、わかった」


侑ちゃんたちが先に行ったのを確認してから、もう一度花畑の中でしゃがみこむ。


歩夢「フラベベ」
 「…ベベ?」


私はフラベベの小さな体を抱き上げる。

……抱き上げると言っても、フラベベは手の平に乗るくらいのすごく小さなサイズだから、手の平で掬い上げる……くらいの表現が正確かもしれないけど。


歩夢「私もあなたのお花探し、一緒にしていい?」
 「ベベ?」

歩夢「あなた一人じゃ移動も大変だろうし……どうかな?」


訊ねると、


 「ベベ、ベベ」


フラベベはコクコクと頷く。


歩夢「ありがとう♪ それじゃ、素敵なお花、見つけよっか♪」
 「ベベ♪」


私は太陽の花畑で、フラベベのお花探しをお手伝いすることにしました。




    🎀    🎀    🎀





歩夢「フラベベ、このお花は?」
 「ベベ…」

歩夢「んー……じゃあ、こっちは?」
 「ベベ…」

歩夢「そっかぁ……」


フラベベを手に乗せたまま、太陽の花畑を歩き回ること数十分。

新しい種類の花が目に入るたびに、フラベベに訊ねているけど、フラベベは首を振るばかり。


歩夢「うーん……」


フラベベにとって花は一生を共にする相手。

しっくりこない限り、身の危険があるにも関わらず、いつまでも花を探し続けるらしいし……。

フラベベの多くが花畑に生息するのは、少しでも早く自分にあった花を見つけるためなんだと思う。

とはいえ、このまま虱潰しに探していたら、日が暮れてしまうかもしれない。


歩夢「まずは系統を絞らなくちゃ……!」
 「ベベ…?」

歩夢「ちょっと待っててね」


私はバッグの中から“ポロックケース”を取り出す。

このケースの中にはその名のとおり、“ポロック”が入っている。

“ポロック”というのはポケモンのお菓子のこと。いろんな味の“ポロック”があって、これを与えることによって、ポケモンのコンディションを整えることが出来ると言われている。

ポケモンコーディネーターが好んでポケモン与えるものだ。


歩夢「えっと……赤、青、桃、緑、黄、紫、紺、茶、空、黄緑、灰、白……」


色とりどりの“ポロック”をフラベベの前に並べる。

“ポロック”は味によって、種類が変わるんだけど……今回は重要なのは味じゃなくて……。


歩夢「フラベベ、どの色が好き?」


フラベベに聞きたいのは好きな色。


 「ベベ」


フラベベは“ももいろポロック”を指差す。


歩夢「色はピンクだね……」
 「ベベ」


となるとここからは出来るだけ、ピンク系統で探してみた方がいいのかな……。

お花探しの方針を考えていると、


 「ベベ…」


フラベベは並べられた“ポロック”をじーっと見つめている。


歩夢「もしかして、お腹空いてるの?」
 「ベベ…」


フラベベはコクコクと頷く。


歩夢「ふふ、そっか♪ 食べていいよ♪」
 「ベベ…♪」


許可してあげると、フラベベは“あおいろポロック”を食べ始める。“おっとり”した性格だから、渋い味の“あおいろポロック”が好きみたい。

それはそれとして……好きな色はわかったから……あとは、形かな。


歩夢「フラベベ、好きな形はどういうのがいいの?」
 「ベベ…?」


ひとえに花と言っても、様々な形がある。

サクラのようなポピュラーな形のお花から、アサガオのように漏斗型の物、壺のようなスズランや、バラのような幾重にも花びらが重なっているものもある。

もちろん、フラベベが乗るお花は、茎のあるものじゃないといけないけど……。


歩夢「自分の好きな形のお花があったら、指差して教えてくれないかな? 形がわかったら、それに似た形で好きな色のお花を探せると思うから」
 「ベベ」


そう言うと、フラベベは私の顔を見上げてくる。


歩夢「? どうしたの?」
 「ベベ」


今度は私の方を指差してきた。


歩夢「あはは……えっと、私じゃなくて……お花を……」


そこまで言い掛けて、


歩夢「……。……もしかして……?」


気付く。

私は自分の髪に留めた、花飾りを外して、


歩夢「……これ?」


フラベベに見せてみると、


 「ベベ、ベベ♪」


フラベベは嬉しそうに鳴きながら、花飾りに手を触れる。


 「ベベ、ベベ!!」


すると、今度はあっちあっちと言わんばかりに花畑の向こう側を指差し始める。


歩夢「もしかして……あっちにあるの?」
 「ベベ!!」

歩夢「わかった、行ってみよっか」




    🎀    🎀    🎀





フラベベを手に乗せたまま、花畑を進んでいくこと10分ほど。


 「ベベ♪ ベベ♪」
歩夢「ホントにあった……」


花畑の一角に──ピンク色の可愛らしい花びらのお花が僅かに咲いていた。

数はそんなに多くないけど、間違いない。私が侑ちゃんから貰ったこの花飾りと同じお花だ。

どうしてここに咲いていることをフラベベが知っていたのかはわからないけど……。

もしかしたら、フラベベは一度触れることで、同じ種類の花の持っているエネルギーのようなものを感じ取ることが出来るのかもしれない。

花と共生するポケモンだし、そういうことが出来てもなんらおかしくはない……のかな?

──私は、フラベベを手に乗せたまま、その花に近付く。


歩夢「ここでいい?」
 「ベベ♪」


花のすぐそばにフラベベを下ろしてあげる。

すると、フラベベは嬉しそうに、その花の上に登り、


 「ベベ♪」


嬉しそうに鳴き声をあげた。

どうやら、気に入ってくれたようだ。


歩夢「ふふっ♪ よかったね♪」
 「ベベ♪」


フラベベが再び嬉しそうに鳴くと同時に、フラベベが花ごとフワリと浮き上がる。

きっと、風に吹かれて、旅に出るんだと思う。


歩夢「ばいばい、元気でね」
 「ベベ♪」


せっかく、私と同じお花が好きな子と出会えたから、こうしてすぐお別れになっちゃうのは少しだけ寂しかったけど……。

フラベベはそういうポケモン。いつかフラエッテに進化したら、ここに戻ってきてくれるだろうから……きっとまた会える。

風に乗って、飛んでいくフラベベを見送っていたら──急に、強い風が吹いた。


歩夢「きゃ……!」


風はすぐに止む。そして、気付くと、


 「ベベ♪」


今さっき飛び立ったはずの、フラベベが私の目の前に戻ってきていた。

そして、それと同時に──フラベベがカッと光輝いた。


歩夢「これってまさか……進化の光……!?」
 「──エッテ♪」


──フラベベから姿を変えたフラエッテは、先ほど乗っていた花に、今度はぶら下がりながら、私の手の上に降りてくる。


歩夢「ふふっ♪ ……もう進化して戻ってきちゃったの?」
 「エッテ♪」


進化までして、もう戻ってきちゃったマイペースなフラエッテ。

この子がどうして戻ってきてくれたかなんて、わざわざ確認なんてしなくても、その気持ちはわかった気がした。


歩夢「一緒に行こっか、フラエッテ♪」
 「エッテ♪」


コツンと優しくボールを押し当てると、フラエッテはボールに吸い込まれていった。


歩夢「これからよろしくね、フラエッテ♪」


ボールに向かって話しかけると、カタカタと揺れて返事をしてくれた。


歩夢「さて……それじゃ、早くサニータウンに向かわないと……!」


もうとっくにジム戦は始まってしまっているだろうから、急がないと……!

私は新しくフラエッテを仲間に加え、サニータウンへ急ぐため、花の絨毯の中を駆け出したのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【太陽の花畑】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__●__.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:154匹 捕まえた数:16匹


 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





■Chapter040 『激闘! セキレイジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「──歩夢先輩……遅いですねぇ……」

侑「そうだね……」


かすみんたちは、サニータウンの東の浜辺で、歩夢先輩を待っていたんですが……歩夢先輩は一向に現れません。


侑「リナちゃん、歩夢ってまだ太陽の花畑にいるの?」

リナ『うん。図鑑サーチすると……太陽の花畑をうろうろしてるみたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「何やってるんだろう……歩夢」


侑先輩は心配そうですけど……。


しずく「ですが、さすがにこれ以上お待たせするのは、曜さんに悪い気がします……」


さっき合流したしず子が、浜辺で作業をしている曜先輩に目を配らせながら言う。


侑「それもそうだね……。これ以上は待つわけにもいかないし、かすみちゃん、ジム戦始めてもらおっか」

かすみ「えぇ、いいんですか?」

侑「歩夢もちっちゃい子供じゃないし……太陽の花畑なら危ないこともないだろうからさ」

かすみ「……わかりました。それじゃ……曜せんぱ~い!」


かすみんは、浜辺に向かって、駆け出しながら曜先輩に声を掛ける。


曜「お? もういいの? 歩夢ちゃん、結局来てないみたいだけど?」

かすみ「はい! 歩夢先輩、ちょっと遅れてくるみたいなんで、ジム戦始めちゃおうと思います!」

曜「なんかごめんね、急かしちゃったみたいで……」

かすみ「いえいえ! 急なお願いしたのはかすみんの方ですから!」

曜「そう言ってもらえると助かるよ」

かすみ「ところで……どこでバトルするんですか? この浜辺ですかね?」


キョロキョロと辺りを見回しても、バトルフィールドらしい場所は見当たらない。

となると、フリーバトルのように、この浜辺で戦うのかなと思っていたけど、


曜「うぅん、フィールドは用意出来てるんだ。こっちだよ」


曜先輩はそう言いながら、浜辺に向かって歩いていく。

そして、水面に向かって──ピュ~~~イと、指笛を吹く。


 「マンタ~」「マンタイ~ン」「タイ~ン」

かすみ「あ、マンタイン!」

曜「前に来たときに、かすみちゃんたちが一緒にマンタインサーフをした子たちだよ」

しずく「お久しぶりです!」

 「タイ~ン」

曜「このマンタインに乗ってちょっと移動するから、付いてきて!」


曜さんはそう言いながら、かすみんたちにライフジャケットを手渡し、ぴょんとマンタインに乗って、海を進みだす。


かすみ「え、ええ……?」

曜「ほら、早く早く~!」

侑「えっと……マンタインに乗って移動すればいいんだよね?」

しずく「恐らくは……」

かすみ「と、とにかく曜先輩を追いかけなきゃ……!」


かすみんたちはせっせとライフジャケットを装備し、マンタインに乗って曜先輩を追いかけます。





    👑    👑    👑





ちょっとの間、マンタインに乗って、海を移動していると──それはすぐに見えてきました。


侑「わぁ~!! すごい!!」


侑先輩が、見るまでもなく目を輝かせているのがわかる声音で、歓声をあげた。

そこにあったのは──


しずく「これ……バトルフィールドですか……!?」


水上に浮かぶ、バトルフィールドでした。


曜「そのとーり!」

侑「なんでこんな場所にバトルフィールドがあるんですか!?」


ウッキウキで訊ねる侑先輩。


曜「実は、レジャー開発の中で、バトルも出来たらいいんじゃないかって意見があってね。何か面白いものが作れないかなーって考えてたんだけど……海上のバトルフィールドって面白いんじゃないかなって思ってさ!」

侑「わぁ~~~!!! それ絶対面白いです!! このフィールドでしか出来ないバトル、絶対ありますよね!! 想像するだけで、ときめいてきちゃった……!!」
 「ブィ…?」

曜「今回せっかくだから、これの試用も兼ねてみようかなって思って!」

侑「い、いいなぁ~……!! 新生のバトルフィールドで戦えるなんて……羨ましい……!!」
 「ブイ…」


侑先輩がかすみんに向かって、本当に心底羨ましいんだなってことがわかる表情を向けてくる。


かすみ「ここで、ジム戦するんですね……」


見たところ、浮島はやや太めのアーチを向かい合わせたような形をしていて、中央にある大きな穴からは海面が覗いている。

そして大きな中央の穴のちょうど真ん中に半径1mくらいの丸い浮島があって、そこにも乗ることが出来るようです。

簡単に言うと、モンスターボールのようなシルエットをしています。


曜「この浮島を中心とした、周囲の海もバトルフィールドになってるんだけど……かすみちゃん、ジム戦はここででもいいかな?」


曜先輩がそう訊ねてくる。

このフィールド……みずタイプのポケモンが戦いやすいつくりになっているのは一目でわかりますけど……。


かすみ「どんな場所でも戦えてこそ立派なポケモントレーナーです! もちろん、受けて立ちます!」

曜「あはは♪ かすみちゃんなら、きっとそう言ってくれると思ってた! それじゃ、フィールドに上がって!」

かすみ「はい!」


曜先輩に促されて、かすみんはマンタインから浮島の端っこに乗り移る。

乗った瞬間──波に合わせて上下する特有の揺れを感じる。


かすみ「う……結構揺れる……」

曜「まだ観戦席が完成してないから、侑ちゃん、しずくちゃんはマンタインの上から観戦してもらってもいいかなー?」

しずく「はーい! 承知しましたー!」

侑「わかりましたー! ……くぅ~……私もあそこに乗ってみたかったぁ……!」

リナ『まだ言ってる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「イブィ…」


かすみんは、浮島の上で軽く跳ねてみる。

特有の揺れこそあるものの、立っていられないとか、そんなことはないし、簡単にひっくり返ったり、沈んだりということもまずなさそうな、しっかりとした浮島で少し安心する。

これなら、きっと大丈夫……!


曜「ちなみにこのバトルフィールドにはトレーナースペースはないから、フィールド内でだったら、トレーナーも自由に動きまわって大丈夫だからね! ただし、わざと相手トレーナーを狙ったり、相手のポケモンの攻撃をトレーナーが身体で防ぐのは禁止だよ」


フィールドの形だけじゃなくて、フリーバトルに近い形式みたいですね……! かすみん好みの面白そうなルールじゃないですか……!


曜「さて、それじゃ始めようか! かすみちゃん、準備はいい?」

かすみ「はい! お願いします!」

曜「使用ポケモンは4匹! 全員戦闘不能になったら決着だよ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の全力の航海、私に見せて!」


曜先輩は敬礼してから、ボールをフィールドに向かって投げ放った。

バトル──開始です……!!





    👑    👑    👑





かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
 「ブクロン!!」


かすみんの1番手はヤブクロン! 対する曜先輩は、


曜「タマンタ! 出発進行!」
 「タマ~」


マンタインを二回りくらいちっちゃくしたポケモン、タマンタが1番手。

タマンタは、ボールから飛び出すと同時に、中央の水中にザブンとダイブする。


リナ『タマンタ カイトポケモン 高さ:1.0m 重さ:65.0kg
   2本の 触角で 海水の 微妙な 動きを キャッチする。
   とても 人懐っこく 人間の 船の 近くまで 寄ってくる。
   テッポウオの 群れに 混ざって 泳ぐことが 多い。』

侑「タマンタって確か……マンタインの進化前だよね?」

しずく「はい、そうですね……」


かすみんの後ろで流れるリナ子の図鑑解説とその感想を聞く限り、タマンタはまだ進化していない姿らしい。


かすみ「曜先輩ったら、ジム戦用のポケモンなのに進化させてないで大丈夫なんですかぁ~?」

曜「ふふ♪ 舐めてかかると痛い目見るよ! “バブルこうせん”!」
 「タマ~~!!!」


水面から顔を覗かせたタマンタが、泡の光線を吐き出してくる。


かすみ「ヤブクロン! “ヘドロこうげき”!」
 「ヤブッ!!!!」


対抗するように、ヤブクロンが口から毒液を飛ばし、両者の攻撃がぶつかり合って、相殺する。


しずく「か、かすみさん! 海にヘドロなんか流したら……」

かすみ「え、ええ!? そんなこと言われても困るんだけどぉ!?」

曜「大丈夫だよ。このフィールド内は外の海からは隔離されてるから」

かすみ「そ、そういうことは先に言ってくださいよぉ!!」

曜「あはは、ごめんごめん♪」


むむ……曜先輩は顔馴染みということもあって、なんだか緊張感がない……。

で、でもでも! かすみん、手を抜いたりなんかしないんですから……!


かすみ「ヤブクロン、追撃の──……あ、あれ……?」


攻撃を畳みかけようとした矢先、


かすみ「た、タマンタはどこですか……!?」
 「ヤ、ヤブクゥ…」


気付けばタマンタはさっき顔を出していた水面から姿を消していた。

かすみんがキョロキョロと周囲を見回していると──ちょうど、背後からバシャっと何かが跳ねる音がした。


曜「タマンタ! “エアスラッシュ”!!」

 「タマァ~~!!!」

かすみ「!?」


驚いて振り向くかすみんの真横を“エアスラッシュ”が横切って、


かすみ「し、しまっ……!?」
 「──ヤブゥ!!!?」


ヤブクロンに直撃した。


かすみ「ヤブクロン、大丈夫……!?」


思わずヤブクロンに駆け寄る。


 「ヤ、ヤブ…!!」


すぐに起き上がるヤブクロン。どうやら、大きなダメージにはなっていないようで安心する。


侑「そうか……浮島の下は海だから、潜られると簡単に背後を取られちゃうんだ……」


侑先輩の分析どおり、タマンタは海中に潜って背後を取ってきたわけです。

気付けば、タマンタはまた海に潜って姿を消してるし……。


リナ『しかも、このルール……トレーナー自身もフィールド内にいるから、背後を取られたときに気付きにくい……』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに、フィールド全体を後ろから把握できる普段の戦闘と違って、トレーナーの後ろ側にもポケモンが来る可能性がある。

そうなると、意識を前だけじゃなくて、前後左右に配らないといけないから……。


かすみ「や、ヤブクロンは後ろ見て! かすみんが前見るから!」
 「ヤ、ヤブッ!!!!」


こうなったら、役割分担です!

かすみんが前半分、ヤブクロンが後ろ半分をカバーすれば、死角を減らせる……!

あえてかすみんが前を見ている理由は──


曜「さぁ、次はどっちから来るかわかるかな?」


曜先輩を見るため──直後、曜先輩が一瞬だけ、向かって左側に視線を向けたのを見逃しませんでした。


かすみ「ヤブクロン、左から来──」

曜「“つばさでうつ”!!」
 「タマァッ!!!!」

 「ヤブゥッ!!!?」


ヤブクロンに指示を出した瞬間、右側から飛来してきたタマンタの“つばさでうつ”で吹っ飛ばされる。


かすみ「ぎ、逆!? 今、一瞬左側見て……!?」

曜「ふふ♪」


余裕そうに笑う曜先輩を見て、すぐ気付く。

──視線に誘われた。

かすみんに見られているのを理解した上で、曜先輩は一瞬左側に視線を送り、それに釣られて死角になった右側からの攻撃。


かすみ「ぐ、ぬぬぬ……!」


完全に術中にはまっている感じがする。


しずく「かすみさーん! 落ち着いてー!!」


しず子の声が飛んでくる。

こんなときこそ冷静にならなきゃ……!


かすみ「でも、相手がどこから飛び出してくるかわかんない……そうだ、それなら……! ヤブクロン、“まきびし”!!」
 「ヤブゥッ!!!!」


ヤブクロンが周囲にトゲトゲ状の硬いモノを吐き出し、それはぽちゃんぽちゃんと海に落下する。


かすみ「さらに、“タネばくだん”!」
 「ヤブッ!!!」


続けざまに、今度は“タネばくだん”を吐き出して、それも海にばらまく。


かすみ「さぁ、どうですか……! これなら、海の中はトラップだらけですよ……!」

曜「! なるほどね……」


無暗に動き回れば“まきびし”が刺さるし、“タネばくだん”に触れればドカンです!


曜「でも、かすみちゃん! タマンタは海の中で簡単に障害物に当たったりしないよ!」


曜先輩の言葉と共に、タマンタがザバァッ!! っと音を立てて海面から飛び出してくる。

──もちろん、“まきびし”や“タネばくだん”によって負傷した形跡はない。


曜「“ハイドロポンプ”!!」
 「ターーマァーーーッ!!!!!」

かすみ「わぁーー!!? ヤブクロン、“ボディパージ”!!?」
 「ヤ、ブェェェェ…」


上空から襲い来る強烈な水流に対して、ヤブクロンは咄嗟に体から大量の花を吐き出し、身を軽くし、辛うじて回避する。

空振った“ハイドロポンプ”は、浮島に突き刺さり、


かすみ「わ、わわわ!?」


かすみんたちの足元がグラグラと揺れる。

かすみんは転ばないように、思わず四つん這いになってしまう。


曜「咄嗟に身を軽くして、避けられた……!」


ただ、曜先輩の言うとおり、回避には成功している。

“ハイドロポンプ”は大技だし、タマンタは飛び回りながらの攻撃。

ヤブクロンまでちょこまか動き回っていたら、なかなか狙いを定めるのは難しいはずです。


かすみ「ヤブクロン……! もっと“まきびし”と“タネばくだん”!!」
 「ヤブクッ!!!」


ヤブクロンはフィールド走り回りながら、さらにトラップを設置していく。


曜「あくまでトラップ設置をするんだね」

かすみ「……タマンタが頭の触角で、海流を察知して避けられるのはわかります」


それはさっき図鑑で読んだところだし。


かすみ「でも、これだけ大量にあったら、全部は避けきれないんじゃないですか?」

曜「むむ……」


しかも“タネばくだん”は1つが起爆すれば、他も誘爆します。“まきびし”への被弾で体勢を崩せば、それもまた“タネばくだん”への被弾の可能性が増えますし、もはや海中はタマンタにとって安全な場所ではありません。


かすみ「もはや、こうなったらあとは時間の問題ですね、曜先輩! 次、海に戻ったときが決着のときです!」


かすみんは早く下りて来い下りて来いと念じながら、空を飛ぶタマンタを見つめる。


曜「“みずでっぽう”!!」
 「タマァー!!」

かすみ「悪あがきですね! そんなの当たりませんよ!」
 「ヤブクッ!!!」


空を旋回しながら、“みずでっぽう”を撃ち下ろしてくるけど、お互いが高速で動き回っているせいか、狙いが定まらない様子。

……お陰で、浮島がめっちゃ揺れて酔いそうなんですけど……。


かすみ「で、でも、そろそろ限界なんじゃないですか……!」


揺れるフィールドの上で四つん這いになりながら、タマンタを見上げると──


かすみ「……あ、あれ……? 全然下りてきてないような……?」


むしろ……ちょっとずつ高く上がってるような……?


侑「かすみちゃーん!! タマンタ、“みずでっぽう”の反動で飛んでるよ!?」

かすみ「はぁ!?」


言われてやっと気付く。

タマンタは攻撃のために“みずでっぽう”を撃ってきたんじゃなくて──反動で、揚力を得るために水を噴射していた。

カイトの要領で旋回していたから、そのうち落ちてくると思ったのに……これじゃ、いつまで経っても着水しない。

海中をトラップで制圧したつもりだったのに、これじゃ……。


曜「さぁ……空からの攻撃、いくら素早くても、一生避け続けられるもんじゃないんじゃないかな……!」

かすみ「っ……!」


形勢が逆転している。

いくら命中精度が悪い状態とはいえ、ずっと撃ち続けられていたら、いつか当たってしまってもおかしくない。

きっと攻撃が命中したら、怯んだ隙をついて、畳みかけてくるはずだ。


かすみ「──……ま~、自分から空に留まってくれるなら、こっちとしては万々歳なんですけどねぇ~……♪」

曜「……え?」


かすみんはあまりに事がうまく運びすぎて、思わずニヤッと笑ってしまう。


曜「もう、かすみちゃん……そんな言葉で揺さぶろうなんて……」


曜先輩は溜め息交じりに言いながら──急にハッとして、かすみんと同じように身を屈めた。


曜「こ、この臭い……!? タマンタ!! 高度落として!!」
 「タ、タマァ…」


気付けば、空で滑空するタマンタの軌道はふらふらとし始めていた。


かすみ「もう遅いですよ!! ……とっくにこの上空には“どくガス”が充満してますからね!!」

曜「で、でも、ヤブクロンはそんな素振り……。いや……まさか、あの“ボディパージ”……!?」


曜先輩はカラクリに気付いたようで、ヤブクロンが“ボディパージ”でフィールド上に吐き出した──ヤブクロンの体の中で発酵された花に目を向けた。


かすみ「にっしっし……♪ そうです、そのヤブクロンが吐き出したお花がずっと“どくガス”になって上空に昇り続けてたんですよ!」


ヤブクロンにはあえて──毒性の強い花を吐き出すように予め打合せをしておくことで、“ボディパージ”はただ素早さを上げるだけでなく、“どくガス”発生装置にもなるということです!!


曜「く……! “ハイドロポンプ”で吹っ飛ばして!!」
 「タ、マァァァーーー!!!!」


上空から、ゴミを洗い流すように、浮島上が水流で掃除される。

ただ、もう今更掃除しても遅い。“どく”は十分に回っています……!!

動きの鈍ったタマンタの進行方向辺りに、


かすみ「ヤブクロン! “ベノムトラップ”!!」
 「ヤッブゥッ!!!」


霧状の毒液を散布する。滑空しているタマンタは咄嗟に方向転換できず、“ベノムトラップ”に突っ込んだ。


 「タ、マァァァ……!!!?」
曜「タマンタ……!?」


さらにふらふらになるタマンタ。


リナ『“ベノムトラップ”は“どく”状態の相手の能力を一気に下げる技……!』 || > ◡ < ||

しずく「かすみさん! 今だよ!!」


かすみ「言われなくても……!」


満身創痍のタマンタを撃ち落とすなんて、造作もありません!


かすみ「“ベノムショック”!!」
 「ヤーーーブゥッ!!!!!」


ブッ!! と毒液を鋭く吐き出して──


 「タマァッ!!!!?」


タマンタに直撃させた。

タマンタは完全にバランスを崩して、海に落っこち──

その直後──ドォンッ!! と特大の水柱が上がった。

海中の“タネばくだん”たちが大爆発したようです。

──打ち上げられた水が雨のように、サァァっと降り注ぐ中、


 「…タ、タマァ…」


タマンタがお腹を上にした状態でプカァっと浮かび上がってきたのだった。


曜「……戻って、タマンタ」

かすみ「ヤブクロン! 作戦大成功だね!」
 「ヤブッ」

曜「四つん這いになってたのも、揺れるのが怖くて屈んでたんじゃなかったんだね……」

かすみ「ええ! かすみんが“どくガス”を吸わないように、しゃがんでただけですよ!」

曜「いやぁー……かすみちゃんはこういうことしてくるって、警戒してたつもりだったんだけどなぁ……」


曜先輩は頭を掻きながら言う。


かすみ「かすみんと知恵比べで勝とうなんて思わない方がいいですよ!」


しずく「かすみさんの場合、知恵比べというよりかは、化かし合いとか騙し合いのような……」

リナ『詐欺、偽計、譎詐、嘘のつき合いとか?』 || ╹ᇫ╹ ||


かすみ「外野! うるさい!!」

曜「あはは、確かに私はそういうので戦うよりも──真っ向から戦った方が向いてるかも」


曜先輩はそう言いながら──後ろに向かって2匹目のポケモンの入ったボールを放り投げる。

すると──


かすみ「……!?」


曜先輩の背後に巨大な壁が出現する。

いや、壁じゃない……あれは……!?


曜「行くよ、ホエルオー!!」
 「ボォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」


壁に見えていたのは──あまりにも巨大な体躯を持ったポケモンだった。

ホエルオーは出て来るや否や、海に潜っていく。


かすみ「で、でっか……!? なにあれ!?」

リナ『ホエルオー うきくじらポケモン 高さ:14.5m 重さ:398.0kg
   見つかった 中では 最大級の ポケモン。 大海原を ゆったりと
   泳ぎ 大きな 口で 一気に 大量の エサを 食べる。 獲物を
   追い立てる ために 水中から ジャンプして 水しぶきを あげる。』

しずく「ホエルオー……!」

侑「うっわぁーー!! 私、実物のホエルオー見たの初めて!!」
 「ブ、ブィィ」


侑先輩が目をキラキラさせているのが、振り返らなくてもわかりますけど……あれは敵……。


かすみ「というか、あんなの倒せるんですか……!?」

曜「ふふ、それはかすみちゃん次第だよ……!」


曜先輩がすっと腕を真っすぐ振り上げると──海面が急に盛り上がっていく。


かすみ「!?」

曜「ホエルオー!! “とびはねる”!!」
 「ボォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」


海中から、大量の水を巻き上げながら──ホエルオーが飛び出した。


かすみ「と、とんで……!?」


その体躯からは想像出来ないくらいに、明確に跳んでいた。宙にいた。

思わず、呆気に取られてしまった。

そんな巨体が海に落ちてきたら、どうなるかなんて、考えるまでもなく──


曜「“なみのり”!!」


巨大な波が一気にかすみんたちに向かって押し寄せてきた。


かすみ「ぎゃーーー!!?」
 「ヤ、ヤブゥ!!!?」


逃げ場なんてどこにもなく、かすみんはヤブクロンともども、巨大な波に押し流されて海に放り出される。


しずく「き、きゃぁぁぁ!!?」

侑「す、すごい迫力だぁぁぁぁ♪」
 「ブ、ブィィ…」

リナ『退避退避ぃ~!?』 || ? ᆷ ! ||


観戦席の方からも悲鳴が聞こえてくる。

いや、なんか一人歓声だった気もするけど……。


かすみ「はぁ……はぁ……」
 「タィーン」


気付けば、かすみんをここまで連れて来てくれたマンタインが足場代わりになってくれていた。


かすみ「あ、ありがとうマンタイン……」
 「タィーーーン」


マンタインはかすみんを浮島に戻すと、再びフィールドから離れていく。

ヤブクロンは……と海を見渡すと、少し離れたところで、


 「ヤ、ブゥゥゥ…」


大量の水波を叩きつけられ、戦闘不能になった状態でぷかぷか浮かんでいるところだった。


かすみ「戻って、ヤブクロン」


ヤブクロンをボールに戻す。


曜「あはは♪ すごいでしょ、私のホエルオー」


曜先輩がけらけらと笑いながら言う。


かすみ「や、やりすぎですよ……」

曜「ごめんごめん♪ バトルに出してもらえることなんて滅多にないから、張り切っちゃったみたいでさ。ね、ホエルオー」
 「ボォォォォォォォォ」


そりゃ、このサイズで、しかも地上で出せないポケモンとなると、バトルに出て来ることなんて滅多にないでしょうね……。


曜「でも、安心して! 何かあってもマンタインがかすみちゃんたちの身の安全は保証するから!」

かすみ「それは、安心ですね……」


気付けば観客席の方にも、波を回避した侑先輩たちが戻ってきていた。


侑「ねぇ、今のすごかったね!! あんな大迫力、間近で見られるなんて!! 完全にときめいちゃった!! もう一度やってくれないかな!?」

しずく「わ、私は……遠慮したいです……あはは……」

リナ『ポケモン好きもここまで来ると、ちょっと怖い』 ||;◐ ◡ ◐ ||


もう一度やられるなんて、シャレにならない……。

となると、次使うのは──


かすみ「サニーゴ! お願い!」
 「──……サ」

曜「ガラルサニーゴ! 珍しいポケモン持ってるね、かすみちゃん!」


とりあえず、あんなバカみたいな“とびはねる”からの“なみのり”攻撃を食らっていたら、試合にならない。


かすみ「“かなしばり”!!」
 「……サ」

 「ボォォォォ」
曜「おっと……」


大波を起こすための一連の行動を封じる。


曜「なるほどね、じゃあこれならどうかな! “しおふき”!!」
 「ボォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」


ホエルオーの頭から、大量の潮が噴出され──それが降り注いでくる。


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」
 「…………サ」


大量の水が上から降り注いできて、思わず膝を折る。

これは作戦とかじゃなくて──無理!! 水の勢いで立ってられない!!

サニーゴも、浮くのもままならず、浮島に押し付けられている。

必死に耐えて耐えて耐えて──やっと、上から降ってくる潮水の雨が止む。


かすみ「はぁ……はぁ……」


相手の攻撃の規模が大きすぎる。


かすみ「こんなの……は、反則……ですよぉ……」
 「……サ」


まだこっちから何も出来ていないのに、息が切れてしまう。

とにかく、攻撃をしなくちゃ……!


かすみ「……し、“シャドーボール”……!!」
 「…………サ、コ」


影の弾が発射され──ホエルオーに向かって、当たって弾けた。


 「ボォォォォォォ」
曜「そんなちっちゃい攻撃じゃ効かないよ!」

かすみ「あ、相手が……大きすぎる……」


勝てるビジョンが思い浮かばない。

さすがにヤバイと思ったとき、


 「…………サ、コ……」


サニーゴがのろのろとホエルオーに向かって、進んでいっていることに気付く。


かすみ「サニーゴ……?」


のろのろと前進しながら、サニーゴはゆっくりとこっちを振り返る。


 「………………ゴ」


相変わらず、吸い込まれるような虚ろな目。だけど、何故だか──今日のサニーゴはいつになくやる気なんだと言うことが自然と理解出来た。


かすみ「……私が弱気になっちゃダメだ」


サニーゴは戦う意思を見せてくれている。

なら、トレーナーが諦めるわけにはいかない。

だけど、どうする。パワーもだけど、あの大きさじゃ小細工が通用しない。

そのとき、ふと──


かすみ「……あ」


作戦が思い浮かんだ。


かすみ「え、いや、でもぉ……」


正直、この策を取るのは、嫌というかなんというか……癪だった。

だけど……。


 「ボォォォォォ…」


あの巨大な相手を倒すには……たぶん、これしかない。


かすみ「サニーゴ……!」
 「…………サ」

かすみ「“ハイドロポンプ”!!」
 「──サゴ」


サニーゴが口から勢いよく水流を発射した──


曜「……!?」


それを見て、曜先輩が驚いた顔をする。

何故なら──“ハイドロポンプ”を後ろ向きに噴射していたからだ。


かすみ「一気に近付くよ!!」


水流の逆噴射で、一気にホエルオーに接近するサニーゴ。


曜「でも、近付いてどうするつもりかな!?」
 「ボォォォォォ……!!!!」


ホエルオーが大口を開け、“おたけび”を上げながら、サニーゴを待ち構えている。

そんなホエルオーの大口目掛けて──


かすみ「つっこめーーー!!」


サニーゴは勢いよく、飛び込んだ。


曜「え!?」


さすがに自分から食べられに来たのは予想外だったのか、曜先輩が動揺の声をあげた。


曜「え、ち、ちょっと!? さすがに、ジム戦で相手のポケモン食べちゃうのはまずいって!? ホエルオー、吐き出さないと!?」
 「ボォォォォ」

かすみ「その必要は、ありませんよ」

曜「な、なにいって……!?」


ああもう、ホントにこういう作戦は可愛くないからやりたくないし……何より、あのにっくき──にこ先輩と同じ戦術なんてしたくなかったのに。


かすみ「“じばく”!!」

曜「っ!?」


──ボォンッ!!!! と大きな音が、ホエルオーの方から発せられ、びりびりと空気を震わせた。

少しの間、辺りが波の音だけになる。

……が、


 「ボ、ォォ…」


程なくして、ホエルオーの体がひっくり返るように転覆し始める。


曜「わ、わぁぁぁ!? 戻って、ホエルオー!?」


曜先輩が慌てて、戦闘不能になったホエルオーをボールに戻すと──ホエルオーのいた場所に、


 「──……サ」


戦闘不能になって動かなくなったサニーゴがぷかぷか浮かんでいた。


かすみ「サニーゴ、戻って!」


ボールを投げて、サニーゴを戻してあげる。


かすみ「ありがとう、サニーゴ……“じばく”なんてさせて、ごめんね」


これしかなかったとは言え、最初から“じばく”特攻をさせるのはさすがに心が痛む。

ジム戦が終わったら、たくさん労ってあげよう。


曜「……す、すごいことするね、かすみちゃん……」

かすみ「出来れば、やりたくなかったですけど……」


まさか、にこ先輩に打開のヒントを貰うことになるとは思いませんでした……。

まあ、結果としてはうまく行きましたし……少しくらい感謝してやらなくもないですね。

──とにもかくにも、


かすみ「これで2対2……!」


お互い残りの手持ちは半分です。


曜「ホエルオーで勝ち切るつもりだったんだけどなぁ……ま、いいや! 切り替えていこー!」


曜先輩が3匹目のボールを構える。

かすみんも同じようにボールを構えて──後半戦スタートです!




    👑    👑    👑





かすみ「さぁ、行くよ、ジグザグマ!」
 「クマァ~」

曜「ラプラス! 出発進行!」
 「キュゥ~♪」


かすみんの3匹目はジグザグマ、曜先輩はラプラスです。


リナ『ラプラス のりものポケモン 高さ:2.5m 重さ:220.0kg
   人の 言葉を 理解する 高い 知能を持ち 背中に 人を
   乗せて 海を泳ぐのが 好きな ポケモン。 寒さに 強く
   氷の 海も 平気。 ご機嫌に なると 美しい 声で 歌う。』


曜「ラプラス! “うたかたのアリア”!」
 「キュ~~♪」


ラプラスが曜先輩の指示で歌を歌い始める。


しずく「わぁ~……♪ 素敵な歌声です……♪」

侑「うん……! ときめいちゃう……♪」
 「ブイ~…♪」


オーディエンスたちはどっちの味方なんでしょうか……。

確かにキレイな歌声なのはわかりますけど、これは攻撃なんです……!

その証拠に──ラプラスの周囲には水で出来たバルーンのようなものが複数浮かんでいる。


かすみ「歌で水を操る技ってことですね……!」

曜「正解!」
 「キュ~~~♪」


水のバルーンたちがジグザグマに向かって飛んでくる。


かすみ「ジグザグマ、“ミサイルばり”!!」
 「クマァッ!!!」


対抗するように、水のバルーン向かって、硬く尖った体毛を飛ばす。

薄い音の膜のようなものに包まれたバルーンは“ミサイルばり”が直撃すると、破裂して、ただの水に戻る。

対策としては正解っぽいんだけど……。


かすみ「か、数が多い……!」
 「ク、クマッ」


撃ち落としても撃ち落としても、四方八方から、バルーンが飛んでくる。


曜「声が届く範囲にいる以上、“うたかたのアリア”からは逃げられないよ!」


どうやら、音の届く範囲内の水を操作できる技らしい。


かすみ「なら……! “しんそく”!」
 「ク、マァッ!!!!」


浮島を蹴って、ジグザグマが一気に飛び出す。

襲い掛かってくるバルーンたちを掻い潜るようにして、浮島を飛び出し──ザブンッ!!


曜「!? 自分から海に……!?」

かすみ「海の中なら、音は響いてきませんよ!」

曜「なるほどね……でも、みずタイプ相手に潜るとはね! ラプラス、行くよ!」
 「キュゥッ!!!」


曜先輩はラプラスに掴まって、海に潜っていく。


かすみ「あー……これ、いいのかな?」


かすみん、すでにジグザグマに指示してる技があるんですけど……。

ま、まあ、わざとじゃないし大丈夫だよね! ちょっとビリっとしますけど!

直後──海中から、バチバチと放電が発生する。

そして、それと同時に──ザバッと音を立てながら、


曜「げ、げほっげほっ……!! び、びりっときたぁ……!!」
 「キ、キュゥゥ…」


ジグザグマの“10まんボルト”に痺れて顔を出す曜先輩とラプラス。

水は電気を良く通しますからね。一緒に潜ったら、曜先輩もビリビリです。


かすみ「曜先輩、大丈夫ですか……?」

曜「う、うん、平気……」

かすみ「まだまだビリビリしちゃいますから、もう潜らないでくださいね!」


ジグザグマは、相手が倒れるまで“10まんボルト”をするはずですからね!

そんなことを考えている間にも、バチバチと海上の表面を火花が放電する。

ただ──ラプラスはなぜか平気な顔をしていた。


かすみ「あ、あれ……?」

曜「ふっふっふ、かすみちゃん、水は電気を通すのにって思ってるでしょ? でも、ラプラスはもう水の中にいないよ!」

かすみ「はい?」


いや、どう考えても水面に浮かんでいるようにしか──と、思ってら、ラプラスの真下は、


かすみ「!? こ、凍ってる!?」


分厚い氷になっていた。

というか、気付けば、


かすみ「へ……へ……へくしっ……! さ、寒い……!」


春の暖かい陽気が嘘のように、どんどん肌寒くなっていく。


曜「“ぜったいれいど”!!」
 「キュゥ~~♪」


直後、ラプラスを中心として、海が一気に氷漬けになる。


かすみ「わぁーーー!!!? な、なにしてくれてるんですかぁ!!?」


かすみんは大慌てで、氷の上を走り出す。

分厚い氷を上から覗き込むと──足元の氷の中で、戦闘不能になって動けなくなっているジグザグマの姿があった。


かすみ「じ、ジグザグマぁー!!!」

曜「確かに海は電気を通しやすいけど……冷気も伝わりやすいからね」

かすみ「そ、それより、助けてあげてくださいぃ!!」

曜「了解! ラプラス、“つのドリル”!」
 「キュゥ♪」


ラプラスが頭の角で、氷を砕き──ジグザグマのいるところまでボールが届くように穴を空けてくれる。


かすみ「ジグザグマ、戻って……!」


穴からボールに戻して、一安心。

でも……。


曜「さぁ、かすみちゃん。最後のポケモンになっちゃったね」


そうです。かすみん、次が最後のポケモンです……。

追い詰められたけど……。


かすみ「かすみん、まだ全然諦めてませんよ……!」

曜「お、いいね! かすみちゃんのそういうところ、私好きだなぁ♪」

かすみ「毎回頼ってばっかりだけど……今回も頼みますよ! かすみんのエース!」
 「──ジュプトォッ!!!」


最後のポケモンはもちろん、ジュプトル……!


かすみ「行くよジュプトル!!」
 「ジュプトッ!!!!」


ジュプトルは浮島を蹴って飛び出し──氷の上を駆ける。

ジグザグマはやられちゃったけど……結果として、ジュプトルの走り回るフィールドを増やしてくれました……!


曜「“フリーズドライ”!!」


迫るジュプトルに向かって、ラプラスは自分の周囲に冷気を発してくる。


かすみ「当たりませんよ!」
 「プトォルッ!!!」


ジュプトルは、氷の床を踏み切って、跳躍する。

地表の上を放射状に伝わる冷気攻撃。一見すると範囲の広い攻撃ですけど──ジュプトルは縦の動きにも強いんです!

冷気の届かない上空から、腕の刃を振りかぶる。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトォルッ!!!!」


縦に薙いだ刃をラプラスに直撃──させたつもりだったけど、


かすみ「んなっ!?」


気付けばラプラスの口には、大きな氷の結晶が咥えられていて、それを使ってジュプトルの攻撃を受け止めていた。


曜「“こおりのつぶて”には、こういう使い方もあるんだよ!」
 「キュウッ!!!」


そのまま、ラプラスは首を振って、刃を交えていたジュプトルを追い払う。

どうやら、大きく結晶化させた“こおりのつぶて”でジュプトルの攻撃を受け止めたらしい。

そして、その流れのまま、


 「キュウッ!!!」


“こおりのつぶて”をジュプトルに向かって投擲してくる。

もちろん、本来の先制技のような奇襲性は失われているため、


 「プトォル!!!!」


ジュプトルは、冷静に飛んできた氷の結晶を斬り裂いて対処する。


曜「“うたかたのアリア”!」
 「キュゥ~~~♪」


再び、“うたかたのアリア”で周囲に水のバルーンが浮き上がり──ジュプトルに向かって襲い掛かってきた。


かすみ「迎え撃つよ!!」
 「プトォルッ!!!!」


だけど、かすみん怯みません!

周囲が凍っている分、さっきよりも攻撃の物量が少ない。

それにジュプトルなら──絶対に捌ききってくれるという信頼があった。

──次々に、飛び掛かってくるバルーンを斬り裂きながら立ち回る。


曜「いつまで持ちこたえられるかな……!」
 「キュ~~♪」


ただ、曜先輩とラプラスの攻撃も止まない。

斬り裂いても斬り裂いても、新しいバルーンが飛んでくる。

周りは海だから、無限に燃料があるような状態。

一度に出せる量が減っているんだとしても、確かにこのままじゃジリ貧……そんなことはかすみんもわかってます。


かすみ「だから、手はもう打ってます!!」

曜「ここから、どうする気かな!」


そのとき、ふいに風が吹いた。

海風にさらわれて──フィールドの上を草が舞っていた。


曜「……え、草……?」


曜先輩が目を丸くする。

そりゃそうですよね──ここは海のど真ん中!

草が舞うなんておかしいですもんね!!


曜「……!?」


そして、曜先輩はやっと気付く──自分たちの足元が生い茂る草に覆われていることに……!


曜「まさか、これ……“グラスフィールド”!!?」

かすみ「そのとおりです!! 技を捌きながら、フィールドを展開してたんですよ!!」
 「プトォルッ!!!!」


力強い緑のフィールドは、浮島だけでなく、ラプラスの作った分厚い氷の上にも緑の絨毯を広げ──ラプラスまで繋がる道を作り出していた。

そして、この緑の絨毯の上でだけ使える──最速の一撃がある。


曜「ま、まずい……!! ラプラス、一旦海に逃げ──」

かすみ「遅いです!! “グラススライダー”!!」
 「──プトォルッ!!!!」


── 一瞬だった。

気付いたときには、草の絨毯をラプラスの背後まで滑り抜け、刃で袈裟薙ぎに一閃していた。


 「キ、キュゥ…」


そして、ワンテンポ遅れて、斬り裂かれたことに気付いたかのように、ラプラスが崩れ落ちた。


侑「すっごーーーい!! 何今の!? すっごいかっこよかった!! ときめいちゃう!!」

しずく「今のは“グラススライダー”ですね。“グラスフィールド”上だと、高速の一撃になる技です」


うんうん。オーディエンスたちも魅了する、ちょーかっこいい、かすみんのエースの一撃が決まりましたね!

かすみんも会心の結果に思わず腕組みして頷いていると──


 「プトォ──」


ジュプトルが光り輝きだした。


かすみ「!? ま、まさかこれって……!!」

曜「進化の光……」


ラプラスを倒して──経験値を得たジュプトルが、新たな姿に……!


 「──ジュ、カイィィンッ!!!!」

かすみ「ジュプトルが進化……! 進化しました~!!」


思わず、新しい名前を確認するために、図鑑を開く。

 『ジュカイン みつりんポケモン 高さ:1.7m 重さ:52.2kg
  腕に 生えた 葉っぱは 大木も すっぱり 切り倒す 切れ味。
  密林の 戦いでは 無敵。 背中の タネには 樹木を 元気にする
  栄養が 沢山 詰まっていると いわれ 森の 木を 大事に 育てる。』


かすみ「ジュカインって言うんだね……!」
 「ジュカィンッ!!!」


凛々しくなって……キモリからこうして成長してきたことを考えると、なんだか目頭が熱くなってきちゃいます……。


かすみ「さぁ、曜先輩! 最後のポケモンを出してください! かすみんとジュカインがスパッとやっつけちゃいますから!!」
 「ジュカィンッ!!!」

曜「ふふ、言うねかすみちゃん! 私も最後はエースポケモン。負ける気なんてないよ!」


曜先輩がそう言いながら繰り出した最後のポケモンは──


 「ガメーーー!!!!」
曜「さぁ、カメックス!! 全速前進だよ!!」

かすみ「カメックス……!」


ゼニガメの最終進化系ですね……!

 『カメックス こうらポケモン 高さ:1.6m 重さ:85.5kg
  甲羅の 噴射口の ねらいは 正確。 水の 弾丸を 50メートル
  離れた 空き缶に 命中させる ことが できる。 噴き出す
  水流は 分厚い 鉄板も 一発で 貫く 破壊力が ある。』


曜「さぁ、行くよ、かすみちゃん!!」
 「ガメェェェ!!!!!」

かすみ「望むところです!!」
 「ジュカインッ!!!!」


最終戦の火蓋が切って落とされる。

とはいえ、すでに周囲は“グラスフィールド”が生い茂っている、ジュカインにとって有利な状況……!

この勝負貰いました……!

と、思った矢先、


曜「まずは氷を溶かすよ!! “ねっとう”!!」
 「ガメェーー!!!!」


カメックスは背中のロケット砲から“ねっとう”を出して、周囲の氷を溶かし始める。


かすみ「わー!? 何やってるんですかぁ!?」


土台の氷が溶かされれば、もちろんその上に展開されていた“グラスフィールド”も消えるわけで……。

──とりあえず、ジュカインは“ねっとう”を浴びないようにかすみんの目の前まで戻ってきたけど……。

すっかり、周囲の氷は溶かされつくして、浮島上に“グラスフィールド”が展開されている以外は、最初の状態に戻ってしまった。

そして、そんな中、


 「ガメッ!!!」


カメックスは中央の浮島を陣取ってくる。

中央から狙いを定めて──


曜「“ハイドロポンプ”!!」
 「ガメェーーーーッ!!!!」


水砲で攻撃してくる。


かすみ「ジュカイン! “リーフブレード”!!」
 「ジュカイッ!!!!」


ジュカインは、真っ向から飛んでくる水の塊を、腕の刃で斬り裂く。

縦に一閃した、斬撃により斬り裂かれた水砲は、左右にわかれて後ろに海面に着弾する。

それと同時に背後で2つの水柱が上がる。


かすみ「ひ、ひぇぇ……す、すごい威力じゃないですかぁ……」


思わず、直撃したときのことを考えてヒヤッとしたけど──逆に言うなら、進化して新しい力を得たジュカインなら、あの威力でも斬り裂けるということ……!


かすみ「この勝負……本当に貰いましたよ……!」


勝ちを確信したそのとき、


曜「なるほどね……。じゃあ、こっちも本当に切り札、使わせてもらうよ……!」


そう言って、曜先輩はシャツの中から、イカリを模したようなネックレスを取り出した。

その中央には──キラリと光る珠が嵌め込まれていた。


かすみ「!? あ、あれってまさか……!?」

曜「カメックス──メガシンカ!!」
 「ガメェーーー!!!!!」


カメックスが眩い光に包まれる。

そしてその光の中から──


 「ガーーメェッ!!!!!」


両腕に2本のアームキャノン、そして背中に一際大きなキャノン砲を背負った姿で現れる。


かすみ「め、めめめ、メガシンカを使うなんて聞いてないですよぉー!!?」


完全に予想外の展開に動揺が声に出てしまう。


しずく「かすみさーん! 5人目のジムリーダーからは、メガシンカの使用が許可されてるんだよー!!」

かすみ「だからそういうのは先に言ってってば!?」

曜「さぁ、行くよ! カメックス!!」
 「ガーーーメッ!!!!」


曜先輩の掛け声と共に、メガカメックスの3門の砲全てがこちらを向く。


かすみ「や、やばっ!!」

曜「“ハイドロポンプ”!!」
 「ガーーーメェッ!!!!!」


指示と同時に、3つの水の塊がかすみんたちに向かって猛スピードで飛んでくる。

受ける前から、直感でわかった。この攻撃は防ぎきれない。


かすみ「ジュカインッ!! “みきり”!!」
 「カインッ!!!!」


背後に向かって、飛び退くジュカイン。だけど、メガカメックスの攻撃力はかすみんの予想を遥かに超えていて──

着弾と共に、爆発に近い衝撃と共に──浮島ごと吹き飛ばされた。


かすみ「っ……!!」


悲鳴をあげる暇もなく、ジュカインもろとも海に投げ出される。

視界が真っ青な海に包まれ、周囲にはかすみんたちが落ちた衝撃で、大量の泡が舞っていた。

かすみんは咄嗟に、ジュカインを探して周囲を見回す。

水の中のせいで、見えづらいけど……ジュカインは思いのほか近くにいた。

どうやら幸いなことに、同じ方向に飛ばされてきていたようだ。

少しだけホッとする。かすみんは、そのうちマンタインが助けに来てくれるけど、ジュカインは場所がわからなければ、狙い撃ちにされちゃうし……。

いや、その心配は居場所がわかったところでそんなに変わっていない。

どうする……。考えている時間はそんなにない。すぐに決断しないと──

普通のカメックスの攻撃だったら、斬り裂けたけど……メガカメックスの攻撃は“リーフブレード”じゃ、斬り裂けない。

じゃあ、どうやって攻略する……。

どうにか、策を巡らせるけど──あまりに相手のパワーが大きすぎる。

思わず水中で天を仰いでしまう。

天を仰ぐといっても……ここは海の中だから、海面が見えるだけなんだけど……。

見上げた海面からは──太陽の光が差し込んできていた。

幻想的な風景だった。

真っ青な世界の中に差し込む──太陽の、光……。

……太陽の光。

そうだ、“リーフブレード”で足りないなら、もっと強い刃を用意するしかない。

──“ソーラーブレード”。

ジュカインの切り札と言ってもいい、最終奥義。

かすみんは泳いで、ジュカインの肩に掴まる。


かすみ「──」
 「──」


水の中、お互い声は出せないけど、目を見つめ合って、気持ちを交わし合う。

ジュカインはコクリと頷き、陽光の下へと泳ぎ、ソーラーエネルギーのチャージを始める。

恐らく──チャンスは1回。

斬り裂ければ勝ち。出来なければ負けだ。

チャージをしながら──ジュカインは自分の足元に“タネばくだん”をいくつか漂わせる。

“タネばくだん”によるロケットスタート──準備は万端……行きますよ……!





    💧    💧    💧





しずく「かすみさん……」


メガシンカの圧倒的なパワーを前に、かすみさんたちは海に放り出されてしまった。

ただ、私たちはあくまでオーディエンス。見守るしか出来ない。


曜「やば……威力強すぎて、浮島ごと吹っ飛ばしちゃった……」
 「ガメェッ!!!」

曜「ま、いいや! カメックス!」
 「ガメッ!!!」


曜さんがカメックスの名を呼ぶと、カメックスは前傾姿勢になって、砲を海面に向ける。


曜「水の中でも関係ない……! 全部吹っ飛ばす!!」


さらなる追撃の姿勢を取る。


しずく「かすみさん……!」


私は思わず両手を合わせて祈ってしまう。どうにかかすみさんに逆転の一手を……!


侑「しずくちゃん、大丈夫」

しずく「侑先輩……」

侑「かすみちゃんを信じよう」

しずく「……はい」


私は息を整えてから──かすみさんに届くように、


しずく「かすみさーん!! 頑張ってー!!」


海に向かって叫んでみる。

どうか……かすみさん……!

その声に応えるかのように──急に海面が盛り上がり、ザパッと音を立てながら、ジュカインの背中にしがみついたまま、かすみさんが飛び出してきた。


しずく「かすみさん……!!」


ジュカインはその腕に、光を蓄えて……!!





    👑    👑    👑





かすみ「行くよ!! ジュカインッ!!」
 「ジュカイッ!!!!」

曜「飛び出してきた!! カメックス!! 照準を上空に!!」
 「ガメェッ!!!!」


3門のキャノン砲に集束された、みずのエネルギーが今まさに、こちらに向かって撃ち出されようとしているところだった。

それに対抗するように、ジュカインが右腕を振り上げる。


かすみ「曜先輩!! カメックス!! 勝負です!!」


小細工なしの最後の戦い……!!


曜「“ハイドロポンプ”!!」
 「ガーーーーメェッ!!!!!!!!!」


3門から同時に発射され、集束して襲い掛かる水砲。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「ジュカーーインッ!!!!!」


振り下ろされる、陽光剣が──水塊にぶつかる。

みずタイプのエネルギーと太陽のエネルギーがぶつかり合う。


かすみ「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
 「カーーーイーーーンッ!!!!!!」


太陽の熱が、重く分厚い水の砲弾を、斬り裂いていく。


かすみ「ああああああっ!!!!」
 「ジュカァァァァイッ!!!!!!」


大きく眩く伸びた光剣が──水塊を真っ二つに切り裂いた。


かすみ「やったっ……!!」


割れた水塊の先には──カメックス。


 「ガメーーッ!!!!」


今まさに、目の前に降り立とうとするジュカインに対して──カメックスはガパッと口を開けた。


曜「カメックスは──口からも水を出せるよ」


最後の最後で、曜先輩が隠し持っていた──まさかの4門目。

今しがた使ったジュカインの“ソーラーブレード”は……強力な水塊と相殺しきって、もう輝きを失っていた。


 「ガーーーメェッ!!!!!」


カメックスの口から放たれる──“ハイドロポンプ”が自由落下中のかすみんたちに向かって飛んでくる。

もう、太陽の剣は消えてしまった。

──……右腕のは……!


かすみ「“ソーラーブレード”ォ!!!!!」
 「カィィィィンッ!!!!!!!」


ジュカインは左腕に宿した太陽の光を──振り下ろした。


曜「!!」


カメックスの最後の“ハイドロポンプ”を斬り裂きながら──ジュカインは中央の浮島に、ダンッ!! と音を立てながら着地した。


かすみ「はぁ……はぁ……っ……!!」


左腕の陽光剣で──カメックスを縦に一閃しながら。

フィールドが静寂に包まれる。


かすみ「……カメックスに口があるなら……ジュカインにも両腕があるんですよ……!!」

 「ガ…メ…」


カメックスが目の前で、崩れ落ちた。


かすみ「ぜぇ……はぁ…………これが……かすみんたちの……実力です……!!」
 「ジュカィィィンッ!!!!!」

曜「……は、はははっ!! かすみちゃん、すごい!! まさか、メガカメックスが真正面から負けるなんて、思ってなかったや!!」


曜先輩は負けたのに、心底嬉しそうに笑っていました。

かすみんはもうくたくただったし、安心で気が抜けたのもあって、中央の浮島でへたり込んでしまう。

そんなかすみんの背中に、


しずく「──かすみさんっ!」


いつの間にやら、マンタインでこっちまで来ていたしず子が抱き着いてくる。


かすみ「わとと……」

しずく「かすみさん、お疲れ様……」

かすみ「ふふん……かすみん、すごいかったでしょ?」

しずく「うん、すごかったよ……!」

侑「かすみちゃん本当に良い試合だった……! 最後の攻防、本当に……胸がときめいちゃった……」

かすみ「あはは……全く侑先輩ったら……今日何度ときめけば気が済むんですか~……」

侑「それくらい、すごい試合だったんだもん! ね、リナちゃん!」

リナ『うん! 感動した!』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「それは……何よりです……」


オーディエンスも魅了出来たということで……かすみん、今日はオールオッケーって感じですね……。めちゃくちゃ疲れましたけど……。


曜「──かすみちゃん」


前方からの声に顔を上げると、曜先輩が中央の浮島まで、移動してきていた。

……というか、ずぶ濡れなんですけどこの人。……ここまで、泳いで来たみたい。

曜先輩は濡れる髪をかき上げながら、私の目の前で片膝を折って、身を屈める。


曜「私の完敗! かすみちゃんの諦めない心、立ち向かう勇気、仲間たちへの信頼、そして……その強さを認めて──この“アンカーバッジ”を贈るよ。受け取って!」


曜先輩がかすみんの手に小さなバッジを手渡してくれる。


かすみ「えへへ……♪ “アンカーバッジ”ゲットです……♪」
 「ジュカィィーンッ!!!!」


こうして、激闘の末──かすみんは5つ目のジムに無事、勝利したのでした。





    👑    👑    👑





──ジム戦を終えて、サニータウンに戻ってくると……。

──pipipipipipi!!! と図鑑が鳴り始める。図鑑の共鳴音です。

ということは……。


歩夢「おーい……! みんなー!」


浜辺に着くとほぼ同時に、歩夢先輩が手を振りながら駆け寄ってくるところだった。


侑「歩夢! よかった、ちゃんとたどり着けたんだね」
 「ブィブィ♪」

歩夢「うん。遅くなっちゃったけど……」

かすみ「全くですよぉ……かすみんの大活躍、見逃しちゃったんですからね」

歩夢「ご、ごめんね、かすみちゃん……。でも、大活躍したってことは……!」

かすみ「はい、このとおりです!」


かすみんは歩夢先輩に今しがた貰った“アンカーバッジ”を見せつける。


歩夢「おめでとう、かすみちゃん♪」

かすみ「ありがとうございます!」

しずく「今日のかすみさん、本当に頑張ったよね♪」

かすみ「でしょでしょ! 今日のかすみんは主役だよね!」

しずく「ふふ、そうだね♪」


珍しくしず子も素直に褒めてくれて気分がいいですね♪


曜「みんな、この後はどうするの? もう日も暮れ始めてるけど……」


曜先輩がそう訊ねてくる。

確かにもうサニータウンの空は夕暮れに包まれている。


かすみ「家に着く前に日が暮れちゃいそうですね……」

しずく「それなら、今日は私の家に泊まらない?」

かすみ「え、いいの?」

しずく「もちろんだよ! 侑先輩と歩夢さんもどうでしょうか?」

歩夢「迷惑じゃないなら、行きたい!」

侑「私も!」
 「イブィ♪」

リナ『全員合意、レッツゴー♪』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「それじゃ、ちゃちゃっと移動しちゃいましょう~」


かすみんもうくたくたですからね……。


かすみ「曜先輩、今日は本当にありがとうございました!」

曜「こちらこそ、楽しいバトルだったよ! ジム戦とか抜きに、またバトルしたくなっちゃった!」

かすみ「えへへ、是非また今度戦いましょう! それじゃ、今日はこの辺で……」

曜「うん! みんな、気を付けて帰るんだよ!」

かすみ・しずく・侑・歩夢「「「「はーい!」」」」


4人揃って、しず子の家に向かって歩き出す。


しずく「……あ。歩夢さん。その髪飾り、どうしたんですか? 昨日はしてませんでしたよね?」

歩夢「あ、えっと……これは、侑ちゃんから貰ったの……えへへ」

侑「んっん……///」


侑先輩はわざとらしく、咳払いをして、


侑「それより、かすみちゃん! さっきのバトルの感想語ってもいいかな!」


かすみんの方に話を振ってくる。


かすみ「もう~仕方ないですね~! いくらでも聞いちゃいますよ~!」


歩夢先輩に対する照れ隠しなのはバレバレですけど、かすみんを褒めてくれるならオールオッケーです!


しずく「可愛らしいお花の髪飾りですね……素敵です」

歩夢「侑ちゃんが、私のこと大切に想ってるって……そんな気持ちを込めて贈ってくれたの……えへへ」

しずく「それは、大切にしないといけませんね」

歩夢「うん♪」


侑「え、えっとぉ……/// き、今日の試合、まずヤブクロンVSタマンタの話からなんだけど……!」


照れを隠しながら、必死にかすみんの試合の感想を言う侑先輩はちょっと可愛かったです。

そんなサニータウンの夕暮れ時。かすみんたちは、楽しくおしゃべりをしながら、しず子のお家へ向かうのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【サニータウン】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.●‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.39 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.35 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.36 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.32 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.32 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.29 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.29 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.29 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.42 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.41 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.38 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.32 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹


 かすみと しずくと 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👏



──コメコシティ・DiverDiva拠点


果林「……姫乃ったら、とんでもない爆弾を見つけて来たみたいね」


カリンは数日前に姫乃から預かっていたデータを見ながら、そう漏らす。


愛「ホントにね。で、どうすんの?」

果林「利用しない手はないでしょ」

愛「ま、カリンならそう言うと思ってたけどね」


アタシはカリンに向かって、小さなフラッシュメモリを投げ渡す。


果林「……これは?」

愛「直近のマッキーのスケジュール」

果林「よくこんなもの手に入れられたわね……?」

愛「あっちこっちクラッキングして、やっとこさ入手した。セキュリティが厳重で足が付かないようにやるには結構苦労したよ……」

果林「ふふ、さすが愛ね」


果林は不適に笑いながら、メモリ内のデータを閲覧し始める。


愛「ホントギリギリになっちゃうけど、明後日……マッキーはいくつかの会社と、合同でビジネス発表会の会議があるはずだし、もしかしたらワンチャンそこに──菜々って子も現れるかもしんないよ」

果林「なるほど……。ただ……秘書を確実に同席させるなら、先方にスケジュール交渉をするように仕向けた方が……。時間がないわ……今すぐ、策を考えましょう」


カリンは拠点に戻ってきたところだと言うのに、次のミッションのために作戦を練り始める。

相変わらずストイックだ。まあ、カリンのそういうところは嫌いじゃないけど。

私もなんか手伝おうかと考えていると──拠点内をふよふよと漂っていた小さなポケモンが私の傍に近寄ってきた。


 「ベベノー♪」
愛「おおー、急にどうした?」

 「ベベノ、ベベノ♪」
愛「愛さんにかまって欲しいのか~? 甘えんぼさんめ~♪」


抱きしめて、撫でてあげると、相棒は嬉しそうに鳴き声をあげる。


果林「……仕事しないなら、外行ってくれる?」

愛「あーはいはい、手伝う手伝う。また後で遊んであげるから、待っててね」
 「ベベノ」


全く、このストイックさに付き合っていたら、パートナーと遊ぶ暇もないんだから。

アタシは肩を竦めながら、カリンとの作戦会議に興じるのだった。


………………
…………
……
👏


■Chapter041 『最初で最後のポケモン図鑑』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんのジム戦も無事終わり……私たちはその翌日、約束どおりツシマ研究所を訪れていた。


侑「こんにちはー!」
 「ブィ」

かすみ「ヨハ子博士~! 可愛いかすみんが来ましたよ~♪」
 「ガゥガゥ♪」


私たちが研究所に入ると──博士はモンスターボールを磨いているところだった。


善子「あら、来たわね、リトルデーモンたち」


大切そうに磨いているボールを見て──


侑「も、もしかして、そのボール……! 千歌さんのルガルガンが入ってるボールですか!?」


思わず目を輝かせて、詰め寄ってしまう。


善子「ん、あー……残念ながら、これは千歌のルガルガンのボールじゃないわ」

侑「あ……そうなんだ……」

しずく「それにしても、随分丁寧に磨かれているんですね」

かすみ「もしかして~……めっちゃ貴重なポケモンなんじゃないですかぁ~? それなら、見せてくださいよ~!」

善子「……まあ、確かに貴重なポケモンだけど……貴方たちには見せられないわ」


そう言いながら、博士はボールを引き出しにしまってしまう。

その際──その引き出しの中にちらっとだけど……赤い板状のものが見えた。

あれって……?


かすみ「えー!! ヨハ子博士のケチー!!」

歩夢「か、かすみちゃん……そんなこと言ったら博士も困っちゃうよ……」

善子「まぁ……普通のポケモンだったら見せてあげてもいいんだけどね。……この子だけはちょっと特別なのよ」

侑「特別……?」

善子「……ま、そんなことはいいの。今ルガルガンを連れてくるから、ここで待ってて」

侑「! はいっ!」

リナ『侑さん、テンション爆上がり』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「イブィ…」


──程なくして、博士が奥の部屋から、戻ってくる。

もちろん、ルガルガンと一緒に、だ。


侑「わぁ~~~!!!」


ヨハネ博士の横で、毅然とした態度で歩いてくる黄昏色のルガルガンを見て、私のボルテージは最高潮に達する。


侑「ち、千歌さんのルガルガンだぁ~!!」

 「ワォン」

侑「はぁ~~~♪ やっぱ何度見ても実物で見ると、迫力が全然違う……! さ、触ってもいいですか!?」

善子「ルガルガン、触りたいって言ってるけど?」


ヨハネ博士がそう訊ねると、


 「ワォン」


ルガルガンは私の目の前で、伏せの姿勢を取る。


善子「許可が下りたみたいね」

侑「あ、ありがとうございますっ!!」


膝を折って、ルガルガンを優しく撫でてみると、柔らかい毛並みの感触が手に伝わってくる。


侑「こ、これが、あの伝説のルガルガン……私触っちゃった……! か、感激……!」

歩夢「ふふ、侑ちゃん、よかったね」

侑「うん……!」

善子「感動してるところ悪いけど……これから、この子を連れてくんだってこと忘れてないわよね? そんなテンションじゃローズまでもたないわよ……?」

侑「だ、大丈夫です! 責任持って送り届けます!」

善子「なら、いいんだけど。ルガルガン、戻りなさい」
 「ワォン──」


ヨハネ博士はルガルガンをボールに戻して──


善子「それじゃ、千歌のルガルガン……確かに渡したからね」


ボールが私に手渡される。


侑「……はい!」


ぎゅっとボールを握りしめる。千歌さんの大切なルガルガン……責任を持って送り届けなくちゃ……!


かすみ「それはそうと~……ヨハ子博士~」

善子「? 何かしら」

かすみ「かすみん、昨日ジム戦すっごい頑張ったんですよ~」

善子「そういえば、曜とジム戦をしてたんだったわね」

かすみ「ホントに激闘の末の勝利だったんですよぉ~」

善子「そう」

かすみ「……」

善子「……えっと、なに?」

かすみ「もう! せっかく、自分のところから旅立ったかすみんが頑張ったのに、労いの言葉もないんですか!」

善子「あのねぇ……私は学校の先生じゃないのよ……」

かすみ「むーー!! ヨハ子博士のケチ!! 減るもんでもないんだし、褒めてくれてもいいじゃないですか!」

善子「かすみ、貴方は応援がないと頑張れないの?」

かすみ「頑張れませんっ! かすみんは人から応援されるのがパワーの源なんですっ!」
 「ガゥガゥ」


ゾロアと同調しながら、ぷりぷりと文句を言うかすみちゃん。

そんなかすみちゃんを見てヨハネ博士が溜め息を吐く。


善子「はぁ……先が思いやられるわ……」

 「──こら、善子ちゃん! そんな風に言っちゃダメでしょ!」


急に私たちの背後から、聞き覚えのある声が響く。

振り返ると、そこにいたのは、ちょうど昨日も会った──


侑「曜さん!」

曜「ふふ、みんな、昨日振り!」

かすみ「曜せんぱ~い……! ヨハ子博士がいじめますぅ~……! かすみん、いっぱい頑張ったのに、ちっとも褒めてくれなくて~……!」

曜「うんうん、酷い博士だよね~……」

善子「曜……何しに来たのよ。あと、ヨハネって呼びなさい」

曜「えっと、昨日のバトルで水上フィールドが壊れちゃって……ちょっと耐久の見直しが必要だと思って、家まで設計資料を取りにセキレイに戻ってきたところだったんだけど……。ちょうど、研究所の前を通りかかったら、みんなの声が聞こえたからさ」

善子「それで、わざわざ寄ったってことね……」

曜「それより、善子ちゃん! 大切な図鑑所有者たちに、そんな冷たくしたらダメでしょ!」

かすみ「そうですそうです!」
 「ガゥガゥ!!」

曜「そんな風に、冷たく接してると……もう嫌だーって辞めちゃうかもしれないよ!」

かすみ「そうですそうで……え、いや、それはかすみんも困るんですけど……」
 「ガゥ?」


曜さんがヨハネ博士を窘める。私はてっきり、いつもみたいに軽くあしらうんだと思っていたんだけど……。


善子「……わ、悪かったわ……ごめんなさい……」


ヨハネ博士は気まずそうに、頭を下げる。


かすみ「あ、あれ……意外と素直に謝ってきましたね……」

曜「もう……善子ちゃん、本当は自分のもとから旅立った子たちが活躍してて嬉しい癖に、なんで素直に褒めてあげられないのかな」

善子「う……/// うっさいわね……余計なお世話よ……」


曜さんの言葉に、ヨハネ博士はプイっと顔を背ける。


曜「ごめんね、みんな……。善子ちゃん、前に失敗してるのもあって、君たちとの距離感を掴み損ねてるみたいでさ……」

しずく「失敗……?」

善子「あ、ちょっと、曜……! 余計なこと……!」

曜「やっぱりまだ言ってなかったんだね……」

善子「…………」

曜「善子ちゃん、そろそろ……この子たちには話してあげてもいいんじゃない?」

侑「……?」


一体、何の話だろう……?


善子「…………」

曜「善子ちゃんが、この子たちにどういう期待をしてて、どんな気持ちで旅に送り出したのか。その願いと想い……伝えてもいいんじゃないかな」

善子「でも、そんなの……私のエゴよ」


ヨハネ博士は困ったような表情をして言うけど、


しずく「あ、あの……もし、ヨハネ博士に何か特別な想いがあるのでしたら……私は、聞きたいです」

善子「しずく……」

歩夢「き、期待に応えられるかはわからないですけど……私も、ヨハネ博士が何か考えてるなら……ちゃんと知りたいです」

善子「歩夢……」

かすみ「もう、ヨハ子博士、この期に及んで何を隠すことがあるんですか! 気になることがあるなら、このかすみんに話してくださいよ~!」

善子「かすみ……あんたはなんか腹立つわね」

かすみ「なんでですかっ!?」


ヨハネ博士が選んだ3人からの言葉。


侑「あの、ヨハネ博士……私は博士に選んでもらったトレーナーじゃないですけど……みんなヨハネ博士のこと尊敬してるし、感謝してます! もし、何か気になることがあるなら、力になりたいです……!」

善子「侑……」


ヨハネ博士は少し悩む素振りを見せる。


善子「……もう、曜が余計なこと言うからよ……」

曜「こうしてあげないと、どこかの誰かさんはいつまでも抱え込むからね」

善子「……はぁ……わかったわよ」


ヨハネ博士は観念したように、溜め息を吐きながら──先ほど磨いていたボールをしまった引き出しを開けて、中から赤い板状の物を取り出した。


侑「あ、それ……」


さっきちらっと見たのと同じ物──


侑「ポケモン……図鑑……」

善子「……そうよ」


それは、真っ赤なポケモン図鑑だった。


かすみ「え、どういうことですか? 実はさらにもう1個ポケモン図鑑があったってこと?」

善子「……ええ。どの図鑑ともペアリングされてない。たった1つだけ……残された図鑑」

かすみ「ええ? なら、なんで侑先輩にはそれじゃなくて、リナ子を渡したんですか? リナ子はたまたま知り合いに頼まれて渡された~みたいなこと言ってませんでしたっけ?」

善子「この図鑑を渡す相手は……もう決まってるの。ずっと……ずっと前から……」

侑「それって、どういう……」

善子「今から話すのは……2年前の話。私がこの研究所を持つ前のことよ──」


ヨハネ博士はそう切り出して──過去のことを話し始めた。




    😈    😈    😈

──────
────
──




──2年前。


善子「やっと……やっと、手に入れた……!!」


私は現在建設中の研究所の前で、小躍りしたくなるくらい嬉しかった。

私の手元に届いたのは──真っ赤な旧式のポケモン図鑑。

旧式と言っても、それはガワだけで、中身は最新のモノだ。

本当は外身も最新型の物が欲しかったんだけど……いかんせん、博士の地位を得たばかりで……しかも、自分の研究所も建設中の私にそんなツテがあるはずはなかった。

どうにかこうにか、方々に頭を下げ、あちこちを自分の足で回り、やっとの思いで手に入れることが出来たのが、この旧式のポケモン図鑑だったというわけだ。

そして、図鑑と同時に──わざわざ遠い地方まで探しに行って手に入れた、最初のポケモン。

これで……これでやっと……!


善子「私も博士として……新人トレーナーを送り出せるのね……!」


私の研究のテーマは人とポケモンとの関わり合いの文化だ。

もちろん、自分の足で、目で、それを調べることは重要だし、自分自身で出来ることはたくさんあるけど……。

それ以上に、ポケモンと共に旅に出て、共に成長していくトレーナーから得られる情報が必要だと考えていた。

それに、何より……過去に古巣の師が私たちを送り出してくれたように、博士として、新しいトレーナーを送り出せる人間になりたかった。

マリーには口が裂けても言えないけど……私にとって、あの人は憧れだ。

ケンカしてばっかりだけど、いつかマリーみたいな研究者になって、追い付くんだって、そう思っていた。

これはその第一歩なんだ……!


善子「早速トレーナーを……! 旅立ちを待ってるトレーナーを探さないと……!!」





    😈    😈    😈





善子「…………」

曜「善子ちゃん、元気出しなよ」


項垂れる私に、カフェの向かいの席から、曜が言葉を掛けてくる。


善子「だって……全然……見つからないし……」

曜「まあ、鞠莉さんも新人トレーナー探しには苦戦してたもんね……」

善子「でも、ここセキレイよ!? ウラノホシとは違うのよ!?」

曜「そんなこと私に言われても……」


セキレイになら、明日にでも旅に出たくてうずうずしている子供がわんさかいると思っていたのに……まさかのマッチする子が誰も見つからない状態だった。


善子「やっぱり私……不幸な堕天使なのね……」

曜「うーん……図鑑と最初のポケモンが1組しかないからかなぁ……」

善子「たぶんね……」


図鑑を貰って旅に出るとき、ポケモン図鑑と最初のポケモンは3組あるのが普通だ。

でも、私の手元にあるのは1組のみ……。


善子「やっぱり、最初のポケモンを選べないってのが、よくないのかしら……」

曜「まあ、一番最初の楽しみみたいなところあるもんね……」

善子「そうよね……」


今から、あと2組手に入れる……? いや、それこそ無理よ……。1組揃えるだけで、どれだけ大変だったか……。


曜「鞠莉さんに相談してみたら?」

善子「それは絶対嫌」

曜「はぁ……意地張らずにお願いすればいいのに……」

善子「絶対嫌よ……」


半ば強引に飛び出してきて独立したのに、なんやかんやあって、研究所を建てる際にも……頼んでもいないのにマリーが半ば強引に話を付けて研究所設立のお金を貸してくれたりして……。

そのお陰でどうにか自分の研究所を建てることが出来たようなものだったし……。

結局、私はあの人の世話になってばかりなのだ。

マリーは面倒見がいいし、お願いすれば、最初のポケモンどころか、ポケモン図鑑も工面してくれるかもしれない。

だけど……それじゃ、いつまで経っても私はマリーの腰巾着。あの人の隣になんていつまで経っても立つことが出来ない。


曜「なら……めげずに探し続けるしかないんじゃないかな」

善子「……わかってるわよ……」


机に突っ伏したまま、窓の外をちらりと見ると──まるで今のヨハネの気持ちを表したかのような、曇天に包まれていた……。

これは一雨来そうね……。





    😈    😈    😈





善子「──あーもうっ!! やっぱり降られた……!!」


ずぶ濡れになりながら、マンションの自室に駆け込む。

玄関でびしょ濡れになった靴を脱いでいると、


 「ムマァ~ジ♪」


ムウマージがタオルを持ってきてくれる。


善子「ありがとう、ムウマージ……」


タオルを受け取り、雨で濡れた身体を拭きながら、家に入る。

……お風呂沸かさないとね。

部屋に入ると、既にドンカラスがくちばしで器用にお風呂の給湯器を操作しているところだった。

自分の手持ちでありながら、賢い子が多くて助かる……。


善子「みんな、ただいま」

 「カァ」「ゲコガ」「ヒュラ」「シャンディ」「ゲルル…」


ドンカラス、ゲッコウガ、ユキメノコ、シャンデラ、ブルンゲル……アブソルだけ返事がないけど……。

少し探すと、アブソルは部屋の隅の方で丸くなっていた。少し窮屈そうだ。

研究所が完成すれば、この子たちにも窮屈な思いをさせずに済むかもしれない。

もう少しの辛抱だ。


善子「とにかく今は……トレーナー探し……!」


お風呂が沸くまでの間に、パソコンを立ち上げる。

まだ研究所が建設中とはいえ、研究者の端くれ。

情報収集やメールチェックもしなくてはいけないのだ。

……知り合いがまだ少ないから、ほとんどはマリーから一方的にメールが送られてくるくらいだけど……。

──メーラーを開いて、カリカリとスクロールしながら、目を通す。


善子「スパム……多い……」


嘆息気味に目を滑らせながらスクロールしていくと──


善子「……え?」


一通のメールが目に留まった。

そこには──『新人トレーナー募集のお話について』と銘打ったメール。

開くと、そこには、こんな内容が書いてあった。


『初めまして。突然のご連絡、失礼いたします。この度、ツシマ研究所にて新人トレーナーを探されているとお伺いしました。もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか?』


善子「……来た」
 「ムマァ~ジ?」

善子「来た……!! 来たわ!! 新人トレーナーから連絡!!」


私はびしょ濡れで早くお風呂に入りたかったことなんてすっかり忘れて、メールに即行で返事をする。

メールに対するお礼と、こちらの詳細な連絡先、連絡可能時間、出来ればポケギアでいいので、一度直接話したい旨を送信する。

その際、送り主の名前を再度確認する。


善子「──ナカガワ・菜々……」


この子が、私が図鑑と最初のポケモンを託すことになる……最初のトレーナーなんだ……。


善子「くぅぅ……やった……やったわ……!」


思わず、拳を握りしめてしまう。それくらい嬉しかった。

まだ見ぬ、ナカガワ・菜々という少女と早く連絡が取りたい、そう思っていると──ピコンとメールの受信音。


善子「嘘!? もう返事来た!?」


まさにそのナカガワ・菜々さんから返事だった。

今すぐにでも、話したいという旨と彼女の連絡先が書かれていた。

私はポケギアを引っ張り出し、すぐにその番号をプッシュした。

通話先の主は──ワンコールも掛からずに、電話に応じてくれた。


 『……も、もしもし……』


ギアの向こうから、緊張気味な少女の声が聞こえてきた。


善子「ナカガワ・菜々さんね……?」

菜々『は、はい……ツシマ・善子博士ですか……?』


咄嗟に善子じゃなくてヨハネと言いそうになったけど、今はそれよりも大事な用件だから、言葉を呑み込む。


善子「ええ……! そのとおりよ、私がツシマ・善子よ」

菜々『よかった……ちゃんと繋がって……』

善子「それで……新人トレーナー募集の話なんだけど……」

菜々『は、はい……私、ポケモンと旅……ずっとしてみたくて……偶然、博士が新人トレーナーを探してるって話を聞いて……連絡してみたんです……』

善子「そうだったのね……」


ああ、私のやってきたことは無駄じゃなかった。

思わず涙ぐみそうになる。


菜々『あ、あの……もしかして……もう旅立ちの子、決まっちゃってたりとか……』

善子「ええ、決まってるわ」

菜々『え、あ……そんな……』

善子「貴方よ」

菜々『……え?』

善子「菜々。……貴方が、私のもとから旅立つことになる新人トレーナーよ……!」

菜々『……! はい!』


これが、私と菜々のファーストコンタクトだった。




    😈    😈    😈





私は菜々と何度かやり取りをして、彼女のプロフィールを教えてもらった。

ナカガワ・菜々。

歳は15歳。

住んでいるのはローズシティ。

そして、驚くことにローズの名門スクールに通っている子だった。

そのスクールは今どき珍しい座学メインで、ポケモンの授業がほとんどない学校。

ほとんどの生徒がそのままローズの大企業に就職すると聞く。

そんな学校に通うだけあって、今までポケモンに触れた経験はなし。

ただ、本人はポケモンにすごく興味があり、どうしても旅に出てみたくて、いろいろ調べているうちに、偶然私が新人トレーナーを探しているということにたどり着いたらしかった。

これから初めてポケモンと関わって、一緒に過ごして、繋がりを作っていこうとしている少女……。まさに私が探している人物像そのものだった。

運命すら感じた。


善子「──菜々は、どんなポケモントレーナーになりたい?」

菜々『すっごく強いポケモントレーナーになりたいです……! 誰にも負けない、ポケモントレーナー! 私……そんなトレーナーになれますか……?』

善子「ええ、きっとなれるわ。そういう風に言ってて、本当に強くなった友達がいるの」

菜々『本当ですか……!』


菜々との打ち合わせは順調に進んでいった。

──そして、彼女の旅立ちまであと1週間と迫ったある日のことだった。

ポケギアが鳴り響き、画面を確認すると、いつものように、菜々の番号からだった。


善子「もしもし、菜々?」

菜々『……ヨハネ……博士……っ……』

善子「……菜々?」


通話越しでも、すぐに理解できた。

菜々の声が、震えていた。


善子「どうしたの、菜々!? 何かあったの!?」

菜々『ご、ごめん……なさい……。あ、あの……お、親に……代わり、ます……』

善子「え……?」


親……?


菜々父『──初めまして、ツシマ博士でしょうか』


ポケギアの向こうから聞こえてきたのは、男性の声だった。

つまり、菜々の父親だろう。

真面目そうで、堅い……威圧感のある声。


善子「は、はい……間違いありません」

菜々父『この度は、娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません』

善子「はい……? い、いえ、ご迷惑だなんて……」

菜々父『いえ、ギリギリになって、旅立ちのお断りの連絡を入れることになってしまって、申し訳ない……』

善子「……は?」


今、なんて言った……?

旅立ちを断る……?


善子「え、ち、ちょっと待ってください、どういうことですか……!?」

菜々父『今回、娘が勝手に博士に連絡を入れて、旅立ちの約束をしてしまったと伺いまして』

善子「……な……」


完全に予想外だった。

菜々は15歳という年齢でありながら受け答えもしっかりしていて、よく出来た子だったから、てっきり保護者とも話がついているんだと思い込んでいた。


菜々父『直前の連絡になってしまったことは、私たちの監督不行き届きに他なりません。本当に申し訳ない』

善子「ち、ちょっと待ってください……!」

菜々父『なんでしょうか』

善子「菜々は……菜々さんはなんと言ってるんですか……!?」


確かに親の了解を取っていなかったのはまずい。とはいえ、話が一方的すぎる。

私はずっと菜々がどれだけ旅を楽しみにしていたのか知っている。期待を、希望を、夢を、全て聞いてきた。

それなのに、二の句を継がせずに、旅に出させないという話になっているのは、あまりに急すぎる。

だけど、菜々の父親は、


菜々父『娘の意見は関係ありません』


その一言で切り捨てた。


善子「な……」

菜々父『我が家の教育方針では、ポケモンとは関わる必要はないと考えています』

善子「ポケモンと関わる必要がないって……」

菜々父『菜々はスクールでも主席。私たちもこの子の未来には期待しています。学校を卒業して、ローズの企業に就職すれば、ポケモンと関わらなくてもそこまで問題はないはずです』

善子「…………それは」


確かにローズシティにはそういう人が少なくない。

人口も多く、他の街に比べると、街中にいるポケモンは少ない方で、このオトノキ地方でも、一生涯ポケモンを持たずに暮らす人間が最も多いと言われている。

安全管理が徹底しているから、野生のポケモンに至ってはほぼゼロと言って差し支えないほどに少ないのがローズシティという街なのだ。

ポケモンを排除しようとしているのではない。人が多いからこそ、ポケモンとの住み分けをしっかりし、お互いの領域を守る。そういう理念で動いている街。


菜々父『それなのに、わざわざポケモンと旅に出るなんて、危険な真似をさせたがる親がいますか?』

善子「…………」


言葉に詰まる。

だけど、ダメだ。ここで何も言い返さなかったら──菜々の夢がここで終わってしまう。


善子「で、ですが……ローズもポケモンの力を全く借りていないわけじゃないはずです」


当たり前だが、この世界でポケモンと全く無関係に生きるというのは不可能なはずだ。

程度の問題であって、ゼロではない。


善子「ポケモンのことを実際に自分の目で見て、知ることは教育の上でも重要だと私は考えていて──」

菜々父『それは貴方の考えでしょう』


ぴしゃりと返される。

……怯むな。


善子「ローズシティと言えば、この地方のモンスターボール生産の98%を占めていますよね? モンスターボール事業に関わることになれば、ポケモンの知識が重要に──」

菜々父『逆にお聞きします。この地方でポケモンによって起こる事件・事故の発生件数がどれほどのものか……博士ならご存じですよね?』

善子「それ……は……」

菜々父『並びにローズではそのような事件・事故がどれだけ少ないかも』

善子「…………」


ポケモンが街中にほとんどいないというのは裏を返せば、ポケモンによる事件や事故は格段に少ない。

そりゃそうだ。居ないのだから、起こるはずがない。


菜々父『その上でお訊ねします。娘を危険な目に遭わせたくない。だから、ポケモンと距離を置かせる。そう考える私の考えはおかしいでしょうか?』


──極端だ。そう思った。

だけど、親が子を守るための方便として、これ以上のものはなかった。


善子「……仰る通りだと思います」

菜々父『わかっていただけたなら、幸いです』

善子「いえ……」

菜々父『この度は本当に、申し訳ございませんでした』

善子「いえ……こちらこそ、確認不足でいらぬご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……」

菜々父『とんでもないです』


思わず、下唇を噛む。

私は、こんなことが言いたいんじゃないのに。


善子「……あの」

菜々父『なんでしょうか』

善子「最後に……菜々さんとお話させてもらえませんか……」

菜々父『わかりました』


菜々のお父さんの了承の言葉のあと、


菜々『ヨハネ……博士……っ……』


菜々の声が聞こえてきた。震える、菜々の声。


善子「菜々……」

菜々『ご迷惑おかけして……申し訳……ございません……。……私には、まだ……ポケモンは……早かった……みたい、です……』

善子「……っ……!!」


──頭がカッとなる感覚がした。

もちろん菜々への怒りではない。菜々の親への怒りだ。

こんな──どう考えても言わされているような言葉。

私は菜々の想いを散々聞いてきたからわかる。こんなの菜々の本心じゃない。


菜々『最初のポケモンと図鑑は……他の子にあげてください……。きっと……私が貰うより……幸せだから……』

善子「菜々……っ……私は……っ」

菜々『いっぱいお話聞いてくれて……ありがとう、ございました……』


──ツーツーツー。その言葉を最後に、通話は切れてしまった。


善子「…………何よ、これ……」


私は思わず椅子にもたれかかって、天井を仰いだ。





    😈    😈    😈





その日の深夜のことだった。

どうしても眠る気分になんてなれずに、ボーっと椅子に腰かけていると──prrrrrとポケギアが鳴った。


善子「…………深夜2時よ、何考えて──」


ぼやきながらギアの画面を見て、目を見開いた。

急いで通話に応じる。


善子「菜々……!?」

菜々『……よは、ね……はか……せ……っ……。……わた……し……っ……たびに……でたい、です……っ……』


菜々は通話の向こうで泣いていた。

悲痛な声で、親の前では言うことを許されなかった気持ちを、吐露しながら。


善子「菜々……っ……いいわ、私が許可する……!! 私の所に来たら、旅に送り出してあげるから……!!」

菜々『……たくさん……ポケモンと……っ……なかよく、なって……っ……つよい……とれー、なーに……なり、たい……です……っ……』

善子「なれるわ……っ!! 菜々なら、絶対……っ!!」

菜々『ほん、と……ですか……?』

善子「ええ!! 私が保証する!!」

菜々『でも……お父さんも、お母さんも……ゆるして、くれない……から……っ……』

善子「説得しましょう……!! いえ、ヨハネが説得してあげるわ……!! 旅が危ないって言うなら、ヨハネが貴方の旅に付いていってもいい……!! だから……!!」

菜々『………………ぐすっ……。…………ありがとう、ございます……っ……。……はかせ……っ……わたし……もうちょっとだけ……がんばります……っ……』

善子「菜々……?」

菜々『……当日……待っててください……絶対、ツシマ研究所に……行きます……から……』

善子「……ええ、待ってるわ。……菜々のこと、待ってるから……!」

菜々『……はいっ』


──だけど、当日……菜々が姿を現すことはなかった。

そして、この通話が、菜々との最後の会話になった。

これ以降はメールも返事がなくなり、ポケギアも通じなくなってしまった。

そして、その数ヶ月後──


善子「……手紙……?」


研究所のポストに入った一通の手紙。宛先は書いていなかった。

封筒を開けると、中から一枚の便箋が出てくる。


──『ごめんなさい』──


とても綺麗な文字で、たった6つの文字だけが書いてある手紙だった。

その綺麗な文字を見るだけで、育ちの良さが伺える。そんな筆跡だった。

それが逆に、菜々の痛みを体現しているかのようで、私は胸が締め付けられるような気持ちになるのだった──




──
────
──────

    🎹    🎹    🎹





善子「──何度か、菜々の家を直接訪ねようと思ったこともなかったわけじゃないんだけど……。……これ以上、私が口を挟むと、余計に菜々を傷つけるんじゃないかと思って……出来なかったわ」

侑「……じゃあ、その図鑑と、モンスターボールは……」

善子「……ええ。菜々に渡すはずだったものよ」


博士はそう言いながら、ポケモン図鑑を大切そうに引き出しに戻す。


善子「これは……菜々以外が持っちゃいけない……」

侑「……」


それは重さを感じる言葉だった。


善子「そこから2年……ようやく、3組の図鑑と最初のポケモンを揃えることが出来た」

歩夢「それによって、旅立つことになったのが……」

しずく「私たち……なんですね」

善子「……そうよ」


少し、研究所の中が静かになる。


善子「……ごめんなさい。やっぱり、こんな重い話、聞きたくなかったわよね……」


ヨハネ博士は申し訳なさそうに言う。

が──


かすみ「そんなわけないじゃないですかっ!!」


かすみちゃんが、真っ先に声をあげた。


善子「か、かすみ……?」

かすみ「むしろ、なんでそんな大事なこと、今の今まで黙ってたんですかっ!!」

善子「え、えっと……」

しずく「そのとおりです、ヨハネ博士」

善子「しずくまで……」

しずく「もちろん私たちは、その菜々さんにはなれません……ですが、意志を受け継ぐことくらい出来ます」

かすみ「菜々先輩の分まで、かすみんたちが立派なトレーナーになってやりますよっ!! 当り前じゃないですかっ!!」

善子「貴方たち……」


力強く、自分たちの意志を示す、かすみちゃんとしずくちゃん。


歩夢「……博士」

善子「歩夢……?」

歩夢「私……実はずっと、どうして自分が選ばれたのかわからなくて、悩んでました。だけど……この旅で、侑ちゃんと一緒にいろんな場所を巡って、いろんな人と会って、戦って、ポケモンたちと友達になって──ちょっとずつだけど、自分が旅で出た意味がわかってきた気がするんです」

善子「……」

歩夢「それに、今の話を聞いて……もっともっと、博士が選んでくれたことを誇りに思おうって、今はそう思ってます。もしどこかで……私たちの先輩──菜々さんに会ったときに恥ずかしくない私になれるように……」

善子「貴方たち……っ……」


ヨハネ博士は目頭を押さえて、顔を背ける。


曜「……ふふ。ちゃんと言ってよかったでしょ?」


曜さんがそう言いながら、博士の背中をポンと叩く。


曜「善子ちゃんが選んだこの子たちは、確実に信用出来る強さを持った、立派なトレーナーに成長していってるよ」

善子「うっさいバカ……当たり前じゃない……っ……。この子たちは、私が選んだリトルデーモンなんだから……っ」

曜「あはは、ホント素直じゃないんだから」


やれやれと言った感じで、曜さんが優しく笑う。


侑「ヨハネ博士」

善子「……侑」

侑「私は歩夢のお陰で偶然図鑑を貰っただけかもしれません……だけど、私も今の話を聞いて、博士の力になりたいって思いました。私も博士から図鑑を貰った人間として、この研究所から旅立ったトレーナーとして、一人の図鑑所有者として恥ずかしくないトレーナーを目指します!」

リナ『私、侑さんと一緒に頑張る! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||

善子「侑もリナも……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」


ヨハネ博士は涙を拭いながら、お礼の言葉を返してくれる。


かすみ「そうとなったら、もたもたしてられませんね!! かすみん、菜々先輩の代わりに最強のトレーナーになっちゃいますよ!!」

しずく「目指すはローズシティだね!」

侑「残るジムは、あと3つ……!」

歩夢「セキレイから北の、オトノキ地方の残り半分……どんなポケモンに会えるかな?」

リナ『きっと、みんなとなら、素敵な冒険が待ってる!』 || > ◡ < ||


私たちは、決意を新たに──ローズシティに向かって旅立ちます……!!




    😈    😈    😈





善子「……あの子たち、行っちゃったわね」

曜「よかったね、善子ちゃん」

善子「……ヨハネだってば。……それにしても……子供たちの成長は、早いわね」

曜「そうだね。旅立った頃からは比べ物にならないくらい逞しくなってたね。……鞠莉さんも案外こういう気持ちだったのかもね」

善子「そうね。当時のヨハネの成長は目を見張るものがあっただろうし」

曜「ふふ♪ ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、梨子ちゃんも、千歌ちゃんも──私も。みんな旅の中でいろんな経験したもんね」

善子「……ええ」


なんだか、自分たちが旅をしていた頃が、遠い昔のように感じる。


善子「……菜々。貴方の意志は貴方の後輩たちが受け継いでくれるって……」


私はそう独り言ちた。

今、彼女がどうしているかはわからない。

でも、きっと……あの子の想いは無駄になんてならない。ちゃんと、繋がったから。

今は少しだけ、そう思えて……心が救われたような気分だった。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.44 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.44 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.38 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.37 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.23 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『続・マジ強パーティー出来たから見てくれ。』
SVレート(シングル)/ハイボ~マスボ級:Round.4
(19:00~放送開始)

https://youtube.com/watch?v=vTP4Azqbcww


 ■Intermission😈



曜「そういえばさ、善子ちゃん」

善子「ヨハネだって言ってんでしょ。ってかあんた、いつまでいるのよ」

曜「千歌ちゃんのルガルガンから、何のデータ取ってたの?」

善子「聞きなさいよ!!」


全く、このヨーソローは本当に昔から私の話を聞かないのよね……。


善子「えっと……千歌のルガルガンって特殊個体でしょ?」

曜「うん。なんかこの地方にはあんまりいないんだっけ……?」

善子「今確認されてるのは進化見込みのイワンコを含めて9匹だけね」

曜「少ないって聞いてたけど、そんなに少ないんだ……」

善子「しかも、3年前に突然生まれたのよね……」


一応原因は──地方の危機を察知したルガルガンたちが、生存本能から特殊な変異個体を生んだんじゃないか……なんて言われてるけど、実際のところはまだ調査中だ。

ルガルガンたちの縄張りで問題が起こってしまったため、特殊なイワンコたちは派遣された調査団によって保護され……グレイブ団事変解決後にはパタリと生まれなくなったらしい。


曜「じゃあ、それの真相究明みたいな?」

善子「それもあるけど……私の研究テーマ、覚えてる?」

曜「えーっと……人とポケモンの関わりの文化……だっけ?」

善子「そう。……ポケモンの中には、いろんな姿を持ってる種類がいるでしょ?」

曜「オドリドリとか、ポワルンとか……それこそ、ルガルガンもだよね」

善子「ええ。オドリドリのように、アイテムによって姿を変えるポケモン。天候によって姿を変えるポワルンやチェリム。ルガルガンのように、進化の際に別の見た目になるものもいる」

曜「確か……カラナクシなんかは、地方によっては違う姿があるんだよね」

善子「水色の個体ね。この地方にはピンク色の個体しかいないからね。ガラルやシンオウで見られる姿らしいわ」

曜「そうなんだ」

善子「あとは♂♀で姿が違うポケモンもいるわ」

曜「ニャオニクスとかイエッサンとか?」

善子「それもそうだけど……もっと明確に違うのは、ニドランやバルビート、イルミーゼね」

曜「え、あれって姿の違いなの?」

善子「ポケモン図鑑だと一応別種って扱いになってるけど、生物学的にはほぼ同じ種類って考えられてるのよ」


実際、イルミーゼのタマゴやニドラン♀のタマゴからは、バルビートやニドラン♂が生まれるしね。


善子「それと──メガシンカも」

曜「メガシンカもなの?」

善子「当然よ。そして、メガシンカはトレーナーとのキズナの力によって姿を変えるわけだけど……」

曜「うん」

善子「極稀に……メガシンカとは違う方法で、姿を変えるポケモンがいるらしいの」

曜「メガシンカと違う……? “キーストーン”と“メガストーン”を使わないってこと?」

善子「ええ。……“キーストーン”や“メガストーン”を介さずに、ポケモンとの強いキズナで同調して、力を引き出すポケモンがいるらしいのよ」

曜「……なんかずいぶんふわふわしてるね?」

善子「何分資料がほとんどないからね……。数百年に一度確認されることがあるとかないとか……“キズナ現象”って呼ばれてるってことだけはわかってるんだけど」

曜「つまり、善子ちゃんは今……その“キズナ現象”って言うのについて研究してるんだ」

善子「そういうこと。ただ、あまりに情報が少なすぎてね……もしかしたら、特殊な姿をしている個体なら何か関係があるかもって思って、千歌のルガルガンを調べさせてもらってたってわけよ」

曜「なるほどね。それで、何かわかったの?」

善子「……正直収穫としては微妙ね。まあ、これでわかったら最初から苦労してないしね」


研究とは得てして地道なものだ。これくらいのことでへこたれている場合じゃない。


善子「でも……“キズナ現象”は人とポケモンの関わり合いの文化の中では、重要なファクターになってくるはずよ……」


それこそ、人とポケモンが関わり合いの中で、新たな力に目覚めるなんて、まさに私の研究したいことそのものなのだ。

もしその謎の解明が出来れば……人とポケモンはさらに一歩先に進めるんじゃないか。そんな気がする。

真剣な顔をしながら、次のことを思案していると、


曜「ふふ、善子ちゃん、すっかり研究者さんなんだね」


曜は笑いながら言う。


善子「前から研究者よ。あとヨハネだって言ってるでしょ」

曜「ごめんごめん。“キズナ現象”、解明出来るといいね」

善子「任せなさい。ヨハネが絶対解明してみせるんだから……!」


………………
…………
……
😈


■Chapter042 『菜々──せつ菜』 【SIDE Setsuna】





──カーテンクリフで修行していた私は、急な仕事が入ったため、一旦ローズシティへと帰ってきていた。

どうやら、直近の会議の中でスケジュールそのものを調整しなくてはいけないらしく、それなら秘書である私も同席せざるを得ない。

会議は明日の朝一からあるため、前日のうちにローズへ戻ってきたというわけだ。


せつ菜「三つ編み……大丈夫。髪留めも……よし。ちゃんと外してる」


手鏡で自分の姿を確認。

あとは……ポケモンたち。


せつ菜「みんな、窮屈かもしれないけど……少しの間、我慢してくださいね」


ボールをベルトごと外して、カバンに入れる。

最後に、上着のポケットから眼鏡を取り出して──

ユウキ・せつ菜は……ナカガワ・菜々になる。


菜々「……ふぅ」


小さく息を整えてから、私は──久しぶりに帰ることになった自宅を目指して、歩き始めた。





    🎙    🎙    🎙





菜々「……ただいま」

菜々母「あら、菜々。おかえり」


帰宅して、自宅のリビングへ赴くと、母親が紅茶を飲みながら映画鑑賞をしているところだった。

ただ、ポケウッドでやっているような溌剌なものではなく、いかにも貴婦人が好みそうな洋画であることが、今ワンシーンをちらりと見ただけでもよくわかった。

なんというか……いつものお母さんの昼下がりだ。


菜々「……お父さんは?」

菜々母「お仕事よ。平日だもの。今日は遅くなるみたいで、帰ってくるのは深夜になるって言ってたわ」

菜々「……そっか」


今日帰ることは予め連絡していたんだけどな……。

久しぶりに娘が帰ってきたというのに、仕事熱心なようで何よりだ。


菜々母「それより菜々こそ、お仕事の方はどう? 順調?」

菜々「うん。真姫さんも優しいし……仕事もやりがいがあって楽しいよ」

菜々母「なら、安心だわ。あの真姫お嬢様の秘書になるって聞いたときは驚いたけど……誰もが出来る仕事じゃないものね。お母さんも誇らしいわ」


そう言いながら、ニコっと笑うお母さん。


菜々母「今日は菜々の好きな物、作ってあげるわ♪」

菜々「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」


私は簡潔に返事をして、踵を返す。


菜々「ちょっと疲れてるから……部屋で休むね」

菜々母「そう? それじゃあ、夜ごはんになったら、部屋まで呼びに行くわね」

菜々「うん」





    🎙    🎙    🎙





普段は真姫さんの手配してくれた社員寮で寝泊まりしている──ということになっている──ため、家に帰ってくること自体が随分久しぶりだ。

──そんな久しぶりの自室。

一息吐くために、荷物を置いて、使い慣れた机に向かって腰を下ろす。

久しぶりに帰ってきたというに妙にしっくりくるのは、何度もこの机で勉強をしてきたからだろう。

回転椅子の上で振り返り、久しぶりの自室を見回すと──本棚にはたくさんの参考書たち……そして、賞状やトロフィーが飾られている。

読書感想文や、スクールで主席に送られるもの。陸上で表彰されたときのものや……文武問わずいろいろなモノがある。

これも全て、幼い頃から両親の期待に必死に応え続けてきた結果……。

だけど──そこにポケモンに関わるモノは一つものなかった。


菜々「…………」


まるで私──ナカガワ・菜々という人間の歴史全てを物語っているような部屋だと思った。

幼い頃から、ナカガワ・菜々の生活の中には、驚くくらいにポケモンが存在していなかった。

スクールに入るまで、実際にポケモンを目にしたことがなかったし、そういうものがいる、くらいの認識しかしていなかったと言えば、その異常さがわかるかもしれない。

ほぼフィクションの存在。私にとっては全てのポケモンが伝説の存在のようなものだった。

ただ……この世界でそんなことが可能なのか? 今では、そう思う。

この世界では……至る所にポケモンが居る。それはもう、数えきれないくらいに。

そんな重度の箱入り娘を作り上げたのは、他でもない──両親の影響だったというのは言うまでもないだろう。

両親は父母二人揃って、ポケモンが苦手だと聞く。……特に父親は相当なポケモン嫌いらしく、母親が話題に出すことを忌避するくらいだ。

どうやら、父は小さい頃にポケモンに襲われたことがあるらしく……それ以来、ポケモンを毛嫌いしている節があるそうだ。

そんな家で育ったが故に……私は、酷くポケモンと遠ざけられて育ってしまった。

お陰で我が家ではポケモンの話をしたことは、一度もなかった。

そんな私がポケモンに興味を持ったのは──忘れもしない……3年前。

世に言うグレイブ団事変と言われる大事件でのこと。

街中にゴーストポケモンが大量発生し、ポケモンに耐性のない人が多いこのローズシティは大パニックに陥った。

それは私たちも例外ではなく……民家であろうが、お構いなしに壁をすり抜け侵入してくるゴーストポケモンから逃げる母親に手を引かれて、逃げ惑うことになった。


──────
────
──



菜々「はぁ……はぁ……」

菜々母「菜々、頑張って走って……!!」


息が切れて、苦しかった。

もう何時間逃げ回っているんだろうか。

もういい加減休みたかった。

ただ──ゴーストポケモンは人の命を奪うらしい。

それが恐ろしくて、怖くて、ただ逃げていた。

ただ、ずっと走り続けていれば、体力に限界は来るもので、


菜々「……あっ!」

菜々母「菜々……!?」


私は足をもつれさせて、転んでしまった。


菜々「……っ……」

菜々母「菜々、大丈夫……!?」

菜々「う、うん……。……っ゛……!」


立ち上がろうとすると、足に痛みが走った。

足をくじいてしまったらしい。

どうにか立ち上がろうとしていた、矢先、


菜々母「きゃぁぁぁっ!!」


お母さんが私の背後を見て、悲鳴をあげた。

恐る恐る振り返ると──


 「サマヨーー…」


一つ目のゴーストポケモンが私の背後に立っていた。


菜々「……ヒッ!」


私は転んだまま、強引に足を引きずって、どうにか距離を取ろうとするけど、


 「サマヨーー」


ゴーストポケモンは一歩一歩にじり寄ってくる。

怖くて怖くて仕方なかった。


 「サマヨーー」


そのゴーストポケモンは、大きな手を私に伸ばしてくる。

もうダメだと思った。

そのとき──


 「──“バレットパンチ”!!」
  「ハッサムッ!!!!」

 「サマヨォッ!!!!?」


弾丸のような速度で、真っ赤なポケモンが、ゴーストポケモンを殴り飛ばしていた。

そして、それと同時に、一人の女性が駆け寄ってくる。


女性「大丈夫!?」

菜々「は……はい……っ」

菜々母「あ、ありがとうございます……!!」


気付けば周囲では、その女性以外にも、駆け付けた“ポケモントレーナー”と呼ばれる人たちが、ゴーストポケモンたちと応戦を始めていた。


女性「ポケモンは私たちがどうにかするから、早く行きなさい!」

菜々母「は、はい……! 菜々、立てる?」

菜々「う、うん……」


お母さんに肩を貸してもらって、私は足を引きずりながら歩き出す。


菜々母「お父さんの会社まで行けば、きっと安全だから……! 頑張って……!」

菜々「う、うん……」


ローズの大きな会社は災害時にも機能を失わないために、非常に頑丈なつくりをしている。

父の会社も例外ではなく、しかもゴーストポケモンが侵入出来ないように、特殊な磁場で防ぐ機構もあるそうだ。

そこを目指して、再び進み始める。


菜々母「きっと、大丈夫だからね、菜々……!」

菜々「うん……」


私は逃げながら──ふと、今助けてくれた人の方を振り返る。


女性「“バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「ゴスゴスッ!!!?」


女性は今も懸命にゴーストポケモンたちを撃退し続けている。

いや、その人だけじゃない……。


男性トレーナー「キリキザン! “メタルクロー”!!」
 「キザンッ!!!」

女性トレーナー「クチート! “アイアンヘッド”!!」
 「クチッ!!!」


たくさんのトレーナーたちが、街の人を守るために、戦っていた。

私はその姿を見て、心の底から……思った。


菜々「──……かっこいい……!」


──
────


今までポケモンをほぼ見たことすらなかった私にとって、その経験は今までの人生全ての価値観をひっくり返してしまうほどに、衝撃的だったのは言うまでもない。

この頃には、両親がポケモン嫌いなことに気付いていたものの……私は湧き上がる好奇心とトレーナーへの強い憧れを抑えることが出来なかった。

両親に隠れて、図書館でポケモンバトルを題材にした作品を読み漁り、スクールの帰りにこっそり街の隅にあるバトル施設を見に行ったりもした。

そこには、私の知らない世界が広がっていた。

トレーナーがポケモンと力を合わせて、ぶつかり合い、競い合い──切磋琢磨し合う……そんな世界。

私は一瞬で、ポケモンとポケモントレーナーという存在の虜になった。

そして、そんな私がその次に考えることは、もちろん──


菜々「──私も……ポケモントレーナーになりたい……!!」


止め処なく溢れる熱い感情に突き動かされ、私はどうすれば自分がポケモントレーナーになれるかを必死に考えた。

調べて調べて調べて……そして、たどり着いたのが、


菜々「ツシマ研究所……新人用ポケモンと……ポケモン図鑑……」


ヨハネ博士だった。

ヨハネ博士は連絡を取ると、私のことを歓迎してくれて、私を旅立ちのトレーナーとして、選んでくれた。

嬉しかった。

ただ、懸念はあった。

もちろん、両親のことだ。

果たしてあの両親が……特に父親が私の旅立ちを認めてくれるのだろうか。

勢いで旅立ちを決めてしまったけど……許してもらえるんだろうか。

怖かったけど……。


菜々「……説得するんだ」


そのときの私は、きっとこの気持ちを真っすぐ伝えればわかってくれるなんて、そんな甘いことを考えていた。


──
────



菜々「お母さん、お父さんいつ帰ってくる……?」

菜々母「お父さん? そうね……今日も遅くなるんじゃないかしら」

菜々「そっか……」

菜々母「何か話があるなら、私が伝えておくけど……」

菜々「うぅん、お父さんがいるときに、直接伝える」

菜々母「そう?」


多忙な父とはなかなかタイミングが合わず……気付けば、旅立ちの日が迫っていた。

そんな中──父が休みの日に、やっと話が出来るタイミングがあって……。


菜々「よし……今日、お父さんに話すんだ……!」


ギリギリになっちゃったから……叱られるかな。こんな急だと、さすがに来週に旅に出る……なんてことを許してもらうのは急すぎて無茶かもしれない。

でも、今はとにかく気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……!

自室でそう意気込んでいると──コンコンとドアがノックされた。


菜々父「菜々」


父の声だった。


菜々「は、はい……!」


意気込んでいたところだったから、少し面食らったけど、私は慌ててドアを開く。

開いたドアの向こうに立っていた父は、私の姿を確認すると、


菜々父「私の部屋に来なさい」


それだけ言うと踵を返してしまう。


菜々「……お父さん……?」


私は言われるがままに、父の書斎へ足を運ぶ。

書斎に入ると、父は鋭い視線で私を見つめていた。

なんだか、背筋が凍るような視線だった。

……でも、今しかない。


菜々「…………あのお父さん、実は話が……」

菜々父「最近、誰かとしきりに連絡を取っているようだな、菜々」

菜々「え、あ……うん。……そのことについてなんだけど……」

菜々父「ツシマ研究所だそうだな」

菜々「……!? し、知ってたの……?」

菜々父「最近様子がおかしいと、お母さんから聞いた」


どうやら、お母さんに電話しているところを聞かれていたらしい。

頻繁に連絡を取っていたし……様子がおかしいことに気付いていたなら、不思議なことでもないかもしれない。


菜々父「ポケモンを貰って旅に出る……か」

菜々「う、うん……!」

菜々父「今すぐにでも断りの連絡を入れないといけないな……」

菜々「……え」


一気に血の気が引いた。


菜々父「……今からツシマ研究所に連絡するから、ポケギアを取ってきなさい」

菜々「え、あ……いや……」

菜々父「早くしなさい。わざわざこのために仕事を休んだのだから」

菜々「……ま、待って……わ、私……」

菜々父「早くしなさい」

菜々「……っ!」


静かな口調だった。

静かで……とても、強い口調。

有無を言わせない、そんな、口調。


菜々「……は……はい……っ……」


──ああ、私……なんで説得出来るなんて思い上がってしまったんだろう。

取り付く島なんて、どこにもなかった。

私がトレーナーになれる可能性なんて──最初からなかったんだ……。



──
────
──────



菜々「…………」


なんだか、辛いことを思い出してしまった。

ヨハネ博士に断りの連絡を入れたその日の深夜に、私は親が寝静まったあと……ヨハネ博士に一度だけ電話をした。

励ましてくれて、『ヨハネが説得してあげるわ……!!』──そう言ってくれた博士の言葉に勇気を貰って、もう一度だけお父さんに話をしたけど……それが逆鱗に触れてしまったのか、ポケギアを没収され、連絡する手段すらも失ってしまった。

あの後……ヨハネ博士に会った──というか、見かけたのは1回だけ……ポケモンリーグ本選の会場で見かけたとき。

そのときは、思わず声を掛けそうになってしまったけど……。

今更、どの面を下げて話せばいいのかもわからず……結局、話しかけることは出来なかった。

何より……そのときの私は菜々ではなく──せつ菜でしたし。


菜々「……そう考えると……今が信じられないな……」


あのときはもう本当に、一生ポケモントレーナーになれないんだと思っていたから。

あの人が──私に“せつ菜”をくれたから。

──prrrrrr!!!!


菜々「あ、電話……」


仕事を始めてから、再び持たせてもらうようになったポケギアには──今思い浮かべていた人の名前が書かれていた。


菜々「はい、菜々です」

真姫『菜々、明日のことだけど……』

菜々「大丈夫ですよ、もうローズに戻っていますから」

真姫『急だったのに対応してくれてありがとう』

菜々「いえ、これも仕事ですから、気にしないでください。……ですが、本当に急でしたね」

真姫『なんでも先方がちょっと特殊な業種の人らしくて……』

菜々「特殊な業種……ですか?」

真姫『ええ。モデルらしいわ』

菜々「モデルさん……?」

真姫『今度のビジネス発表会に出てくれることが急に決まったらしくて……諸々の擦り合わせをしなくちゃいけなくてね……』

菜々「なるほど……」


確かにそうなると、両者で確認をしながら、直接スケジュールを押さえる必要が出てくることもあるだろう。


真姫『今は寮?』

菜々「いえ、実家です」

真姫『実家なの……?』

菜々「はい。たまには顔くらい見せないと……両親に悪いですし……」

真姫『大丈夫……?』

菜々「ふふっ、大丈夫も何も、自分の家ですよ」

真姫『それはそうだけど……』

菜々「心配してくれて、ありがとうございます。……お父さんもお母さんも、厳しいですけど……私のことを想って言ってくれてるだけですから」


そんなお父さんとは会えそうもないですけど……。


真姫『そう……。……でも無理はしちゃダメよ』

菜々「はい、ありがとうございます」


いろいろと事情を知っている真姫さんは、何かと気遣ってくれる。

彼女には本当に頭が上がらない。


真姫『それと今日の午後から天気が崩れそうだから、気を付けてね。それじゃ』

菜々「はい」


通話が切れる。

ふと窓から外を見ると──真姫さんの言うとおり、空は曇天に覆われていた。


菜々「これは……確かに天気が崩れそうですね……」


あまり酷くならないと良いのですが……。





    🍅    🍅    🍅





真姫「…………」


菜々との通話を終えて、私は少し複雑な気分だった。

菜々は……なんというか、危うさがある。

優しすぎると言うか……真面目すぎるというか……無垢というか……一切ズルさがないのだ。

まあ……だからこそ、面倒を見ている節はあるのだけど……。

梨子のことと言い、私はどうやら、ああいう子たちを放っておけない性質らしい。



──────
────
──


──菜々と出会ったのは、ローズシティの外周区にあるポケモンバトル施設でのことだった。

私はローズジムのジムリーダーとして、たまに街のバトル施設に視察に赴くことがある。

グレイブ団事変ではっきりしたが……この街は有事の際に戦えるトレーナーが非常に少ない。

ローズシティの人とポケモンの住み分けをしっかり行う考え方にはそこまで反対する気はないが、少し極端な考えを持った人が見られるのは難しいところだ。

ただ……どうしても、ポケモンが苦手な人というのも居て、そういう人たちがローズに集まってくるからこそ、そういう文化が形成されやすいのは仕方のない話なのかもしれない。

ポケモンが苦手な人間に、無理にポケモンと触れ合えというのもまた道理の違った話なので、ポケモンリーグに所属するジムリーダーの一人としては──この街に今いるトレーナーたちを大切にすることが重要だと考えている。

だから、こうして折を見て、視察を行っているわけだ。

セキレイほどではないが、こうしてローズのバトル施設を訪れると、そこそこの数の人が居る。

人口比率で言うとやや物足りないのかもしれないが……それでも、こうしてバトルに興味を持ってくれている人がいるのは良いことだ。

観戦席から、トレーナーたちの戦っている様を観察していると──


 「……違う、私だったら……ここは“シャドーパンチ”……ああ……だから言ったのに……」


何やら、ぶつぶつと言いながら観戦している少女がいることに気付く。

──結論から言うと、この子が菜々だった。

フィールドを見ると、ゴーストの放った“シャドーボール”をソーナンスが“ミラーコート”で反射して、ゴーストがやられてしまっているところだった。

……確かに、彼女の言うとおり相手のソーナンスからしたら、“ミラーコート”をしたいというのはわかりきっている盤面。

“シャドーパンチ”なら、意表を付けるし、仮に“カウンター”をされても、かくとうタイプだからゴーストにはダメージがない。

ただ……。


真姫「あのゴースト……“シャドーパンチ”は覚えてなかったんじゃなかしら」

菜々「え?」

真姫「ごめんなさい、独り言が聞こえちゃって……ゴーストは特殊攻撃が得意だから、物理技を覚えさせていないトレーナーは少なくないわ」

菜々「確かにそうかもしれません……だとしても、今のは悪手です」

真姫「どうして?」

菜々「相手の次の行動は読めている……なら交換すればいい。ゴーストタイプには“かげふみ”が効かないですし……」

真姫「……確かにそうね」


確かにそのとおりだ。“かげふみ”という特性はゴーストタイプ相手には効果がない。第一印象としては、よくバトルの勉強をしている子だと思った。


真姫「貴方、ポケモントレーナー?」

菜々「……いえ、私は……ポケモントレーナーではありません……」

真姫「トレーナーじゃないのに、随分バトルに詳しいのね」

菜々「……ポケモンバトルを……見るのが……好きなので……」


言葉とは裏腹に──彼女は、酷く寂しそうに返事をする。


菜々「あ……もうこんな時間……そろそろ、帰らないと……」


彼女はそう言って立ち上がり、私に会釈をしたあと、駆け足でその場を去ってしまった。


真姫「ポケモンバトルを見るのが好き……ね」


その割に──随分悲しそうな顔で観戦するのね……私はそう思った。




    🍅    🍅    🍅





それからというもの、


菜々「ああ……そこは一旦“まもる”で時間を稼いで……」

真姫「あの子……またいる」


彼女をよくこのバトル場で見かけることが多くなった。


真姫「また来てたのね」

菜々「あ……こんにちは……」


彼女は相変わらず、沈んだ声音で独り言を呟きながら、バトルを観戦していた。

何度かこの子を観察していてわかったのは……恐らくこの子は毎日ここにきている。

恐らくというのは、他の仕事で、ここに訪れるのが少しでも遅れるとこの子には会えないからだ。

滞在時間は恐らく10~15分ほど……1試合見るか見ないかくらいで、帰ってしまう。


真姫「ねぇ、貴方」

菜々「……なんでしょうか」

真姫「いつもここに来てるけど……観戦しかしないのね」

菜々「……私は……ポケモントレーナーではないので……」

真姫「……興味はないの?」

菜々「……あります。……ありますけど……私は、ポケモントレーナーに……なれなかった……。……なっちゃ……いけなかった……」


最初からなんとなく勘付いてはいたけど……どうやら訳アリらしい。


真姫「貴方、名前は?」

菜々「……知らない人には名乗るなと……親からきつく言われています」

真姫「……ごめんなさい。貴方の言うとおりね。自分から名乗りもしない相手に、名前なんて教えられないわよね。私は真姫。ローズジムのジムリーダーよ」


こちらから、名乗ると、


菜々「……え?」


少女はこちらを向いて、目をぱちくりとさせる。


菜々「……ジ、ジムリーダー……?」

真姫「嘘じゃないわよ。ほら、このとおりローズジム公認の証の“クラウンバッジ”も持ってるし」


ポケットから、ジムバッジを取り出して見せる。


菜々「じ、ジムバッジ……! 初めて見ました……!」


彼女はバッジを見ると目を輝かせる。


真姫「ふふ、やっと笑った」

菜々「え……?」

真姫「貴方……ずっと、この世の終わりみたいな顔しながら、バトルを見ていたから……」

菜々「……私……そんな顔をしていましたか……?」

真姫「ええ。絶望の底にいるみたいだったわよ」

菜々「そう……ですか……」


私の言葉を聞くと、少女は俯いて、再びしゅんとしてしまう。


真姫「……ポケモントレーナーになっちゃいけないって、どういうことか聞いてもいい?」

菜々「…………」


少女は少し迷ったあと、


菜々「……私……本当は旅に出たかったんです……」


ぽつりぽつりと話し始めた。


菜々「……博士と、最初のポケモンと……ポケモン図鑑を貰う約束までして……。……博士もそれを喜んでくれて……歓迎してくれて……。……でも……結局、親に反対されちゃって……」

真姫「……ダメになっちゃったのね」

菜々「……はい」

真姫「親御さんには貴方の気持ちは伝えたの?」

菜々「……取り付く島もありませんでした。……私の気持ちは……関係ないって……聞いてすらくれませんでした……」

真姫「…………」


どこかで聞いたような話だった。

親が全て判断して、親が全てを決めて、こちらの意思も、言葉も、全て無視されて。

所詮、子供言うことだとあしらわれて。大切に扱ってもらえなくて。


菜々「……私のお父さん……小さい頃にポケモンに襲われて大怪我をしたことがあるそうです……。……そのときに、お父さんのお母さん──私のお祖母さんは、お父さんを庇って……もっと酷い大怪我をして……それが原因で亡くなってしまったそうです……」

真姫「……だから、ローズに住んでいるのね」

菜々「……はい」


この街に住んでいれば、ポケモンに襲われる可能性は格段に減る。

実際、それが目的でここに移住している人は多いし。


菜々「私……もう15歳なのに、最近になるまで、ほとんどポケモンを見たことすらなかったんです……。両親がずっと……私からポケモンを遠ざけていたんだって……最近になってやっと気付いて……」

真姫「なら……どうやってポケモンバトルを好きになったの?」

菜々「……助けてもらったんです。ある日突然、野生のポケモンが街中に現れて……襲われたときに、ポケモントレーナーの方が助けてくれたんです。あまりに急なことだったので……助けてくれたトレーナーの方の顔もよく覚えてないのですが……」


恐らく、グレイブ団事変のときのことだろう。あのときは多くの人が野生のポケモンに襲われたし、私も数えきれない人数を保護した記憶がある。

もしかしたら、この子もそんな人たちの中の一人だったのかもしれない。


菜々「ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」

真姫「それはすごく立派なことよ。私はこの街のジムリーダーとして……貴方みたいな人にトレーナーになって欲しいわ」

菜々「あはは……ありがとうございます。……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……」

真姫「…………」

菜々「……あ……もう、こんな時間だ……。……帰って勉強しないと……親に怒られちゃいます……」


そう言って彼女はいつものように、立ち上がって、踵を返す。

その折に、


菜々「……菜々です。……ナカガワ・菜々」


彼女はそう名乗った。


真姫「……知らない人には名乗っちゃいけないんじゃないの?」

菜々「えへへ……この街のジムリーダーなら、知ってる人みたいなものです。お話を聞いてくれて、ありがとうございました」


そしていつものように会釈をして──去って行った。


真姫「……ままならないものね」


この世界はポケモンと共存して回っている。だけれど、そんなポケモンの人智を越えたパワーに恐怖する人間は決して少なくない。

ポケモンに命を救われる人がいる中で、ポケモンによって命を落とす人もいる。

だから、ポケモンを忌避し、関わらないように生きる人がいることはわかっているし、否定する気はない。

だけど……ポケモンと関わりたくて、力を合わせたくて、強くなろうとしている子の気持ちが……捻じ曲げられてしまうのを見ているのは……心苦しかった。

ただ、親の言葉というのは……年端もいかない子供にとっては絶対と言っても差し支えないほど、大きな大きな影響力を持って降りかかってくる。

──私もそうだったから。

あのとき、凛と花陽が、私を連れだしてくれなかったら……私は今でも親の敷いたレールの上を走り続けていたのかもしれない。

……菜々は、あのとき誰からも手を取ってもらえなかった……私なんじゃないか。

そう思えて仕方がなかった。


真姫「ナカガワ……菜々……。……ナカガワ……?」


そういえば、ナカガワって名前……どこかで聞いた気が……。





    🍅    🍅    🍅





真姫「……やっぱり」


私は関連企業役員の名簿を見て、一人納得していた。

ナカガワというファミリーネーム、どこかで聞いたことがあると思ったら……ニシキノ家が出資している企業の中の一つにナカガワという名前の社長が居た。

彼は優秀な人物であると共に──ポケモン嫌いなことで有名な人でもあった。

有事の際にポケモンに頼らなくてもいいように、会社の外装や外壁に、“リフレクター”や“ひかりのかべ”と似たような効果を持たせた頑強なビルを建てていて、実際にグレイブ団事変のときも、住民の避難所として重宝した。

その理由は前述したとおり、ポケモン嫌い故にポケモンに頼らなくてもポケモンからその身を守ることが出来るように、そのような設計をしたというのは、グループ内では有名な話だ。

もちろん、ただファミリーネームが同じだけという可能性もなくはないが……。


真姫「菜々の話とも辻褄が合う……。十中八九、このナカガワ社長が菜々のお父さんで間違いないわね……」


確か……数回程度だけど、私も父親と一緒に会ったことがあった気がする……。

そういえば、優秀な娘が居るという自慢をしていたような……。


真姫「ゆくゆくは娘も……ニシキノのグループ傘下の会社に……とかも言ってたような」


私は、菜々の言葉を思い出す。

──『ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」──

──『……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……』──

15歳そこそこの女の子が、そんな風に自分の夢を諦めていいのだろうか。


真姫「……ダメよ、そんなの」


……正直リスクはある。だけど、今の菜々は昔の自分を見るようで──黙って見ていることが出来なかった。

それに私には、それを可能に出来るカードが揃っている。


真姫「……梨子のときと言い……私ってお節介焼きなのかしら……」


自分ではドライな方であるつもりなのにね。


真姫「……いいわ、私がどうにかしてあげようじゃない」





    🍅    🍅    🍅





──次の日。

バトル施設に赴くと、


真姫「菜々。こんにちは」

菜々「……あ、真姫さん……」


菜々は今日もバトル施設に来ていた。


菜々「あの……昨日はおかしな話を聞かせてしまって……」

真姫「そんなことは良いの、ちょっと一緒に来てくれない?」


私は菜々の手を取って、立ち上がらせる。


菜々「え、えぇ……?」


困惑気味の菜々を強引に引っ張って歩き出した。




    🍅    🍅    🍅





私が来たのは──ローズジム。


菜々「こ、ここ……ポケモンジム……」


菜々がポカンと口を開けている。

まあ、急に連れてこられたら驚くわよね。


真姫「菜々。正直に答えて欲しいんだけど」

菜々「……?」

真姫「貴方、トレーナーになりたい?」

菜々「え……」

真姫「貴方の正直な気持ちを教えて」


菜々の目を真っすぐ見つめて、問いかける。


菜々「……えっと…………」


菜々は少し、言葉に迷う素振りを見せたけど……。


菜々「…………なりたい……です……」


迷いながらも、確かにそう口にした。


真姫「……なら、私が貴方をポケモントレーナーにしてあげる」

菜々「……え?」


菜々は私の言葉に目を丸くする。


菜々「いや、あの……む、無理なんです……私は……」

真姫「貴方のお父さんは貴方にちゃんとした企業に就職して欲しいと思っているのよね」

菜々「は、はい……だから……」

真姫「なら、私が貴方を雇うわ。私の専属秘書として」

菜々「……え?」


菜々はまたしても目を丸くする。


真姫「私は貴方のお父さんの会社にも出資している。何度か会ったこともあるわ。そんな私から指名で専属秘書になれば、安定した就職については納得してくれるわよね」

菜々「そ、それはそうかもしれませんが……」

真姫「そして、その仕事をこなしてもらいながら──貴方をその裏でトレーナーとして、育ててあげる」

菜々「へ……」


菜々は目をパチクリとさせる。

無理もない。こんな突拍子もない提案をされたら、誰だって驚く。

だけど、私は──私には、今のこの子を助けるだけの力がある。


真姫「決して楽な道じゃない……。普通のトレーナーよりも何倍も、何十倍も大変な道になるかもしれない。……それでも、やりたいなら、やるべきよ。親に何を言われたんだとしても」

菜々「で、でも……」


ただ、菜々は困惑している。


菜々「お、お父さんが……ダメ……って……。……ダメ、だって……」

真姫「菜々。貴方の人生は貴方のモノよ」

菜々「……!」

真姫「貴方が決めなさい」


私は手を差し伸べる。


真姫「この手を掴むか……貴方が決めなさい。今ここで」

菜々「…………私……ポケモントレーナーになって……いいんですか……?」

真姫「それも全部、貴方が決めることよ」

菜々「…………」


菜々は私の言葉を聞いて、自分の手を胸の前にぎゅっと引き寄せる。

その手が、震えているのがわかった。

きっと彼女の中では今、たくさんの葛藤がぶつかり合っているに違いない。

不安、期待、恐怖、憧れ、悲哀、希望、後悔、いろんな感情がぶつかり合っているはずだ。

でも私は……この子はその感情の奔流に負けない子だと信じられた。

会って間もないけど、この子の好きは、ポケモンが、ポケモントレーナーが、ポケモンバトルが好きだという言葉は気持ちは──嘘じゃないと断言出来たから。


菜々「…………」


考えて、考えて、考えた菜々は震える手で──


菜々「……私は……ポケモントレーナーに……なりたい。……なります……!」


確かに、自分の意思で、意志で──私の手を握った。





    🍅    🍅    🍅





菜々「──い、今でも……胸がドキドキしてます……」

真姫「ふふ、頑張ったわね」


本当に勇気を振り絞って、私の手を取ったことは言うまでもない。

そんな彼女の最初の勇気を労って、頭が撫でてあげる。


菜々「えへへ……。……それで……あの……私はどうすればいいんでしょうか……」

真姫「そうね……秘書の件は貴方の親御さんたちと話さないといけないとして……」

菜々「さ、最初のポケモン……とか……」

真姫「それは、用意はしてあげられないから、一緒に捕まえるしかないわね。それよりも、必要なことがあるわ」

菜々「必要なこと……?」

真姫「トレーナーとしての名前よ」

菜々「トレーナーとしての……?」

真姫「菜々って名前のままトレーナーになったら、公式戦に出たときにご両親に感付かれる可能性があるでしょう?」

菜々「あ……確かに……」


菜々の父親は、話を聞く限り筋金入りのポケモン嫌いみたいだし……。

そうなると、そのままの名前でトレーナーになるのはあまり得策とは言えない。

トレーナーとしての登録名自体を変えた方が安全だ。

それに……。


真姫「見た目もね……」


三つ編みに眼鏡。いかにも優等生でポケモンバトルをしなさそうなこの子の見た目は、バトルフィールドに立つと却って目立ちそうだ。


真姫「ちょっとじっとしてて」

せつ菜「は、はい……」

真姫「三つ編み、解くわね」


結ばれた三つ編みを解いて、髪を下ろし──


真姫「眼鏡も外した方がいいわね……後でコンタクトを買いに行きましょう」


眼鏡を取る。

あとは……。


真姫「……髪留め持ってる?」

菜々「ゴムしか持ってないです……」

真姫「……じゃあ、これ」


私はポケットから、髪留めを一つ取り出す。

──これは梨子から貰ったものだ。私は髪留めは使わないと言ったんだけど、まさかこんな形で使うことになるとはね。

髪を菜々の右側頭部で結んで、それを髪留めで留めてあげる。


真姫「……いい感じじゃない」


菜々の手を引いて、私の部屋の姿見の前まで連れていく。


菜々「……これ、私……?」

真姫「そうよ。これが貴方の新しい姿。名前はどうしましょうか……」

菜々「ゆ、ユウキと、セツナ……!!」

真姫「え?」

菜々「わ、私……図書館でポケモンのお話をたくさん読んで……! その中で、大好きな作品の主人公がユウキくんとセツナちゃんなんです……!」

真姫「……ふふ、いいじゃない。どっちも貰っちゃいましょう」

菜々「……はい!」


菜々は元気よく返事をして、


せつ菜「私は今日から──ユウキ・せつ菜です……!」


ここにユウキ・せつ菜という一人のトレーナーが誕生したのだった。



──
────
──────



真姫「あれからもう2年か……」


あのときはまさか、せつ菜がここまで強くなるとは思ってなかったけど……。

彼女は──本当に強くなった。

それこそ、チャンピオンまであと一歩のところまで来ている。

これも全て、あの子の努力の結果。


真姫「願わくば……このまま、せつ菜が夢を叶えてくれればいいんだけどね……」


気付けば、空は今にも雨が降り出しそうな灰色の雲に覆われていた──




    🎹    🎹    🎹





歩夢「空……曇ってきたね……」

侑「ちょっと急いだ方がいいかな……?」
 「ブイ…」


まだセキレイを出て、10番道路に差し掛かったところなんだけど……。


かすみ「行けます行けます!! 今のかすみん、ちょーーー気合い入ってますから!! レッツゴーです!!」
 「ガゥガゥ♪」

リナ『レッツゴー♪』 || > ◡ < ||


元気よく飛び出す、かすみちゃんとリナちゃん。


しずく「大丈夫かな……」

侑「とにかく、雨が降り出す前に出来るだけ急ごう!」

歩夢「うん!」


──私たちは、曇天の空の下、ローズシティを目指して、10番道路を駆け出しました。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【10番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____●|____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.45 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.45 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.39 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.38 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.24 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission👠



──DiverDiva拠点。


愛「カリン、調子どう?」


愛は端末をいじりながら、こちらに顔を向け、そう訊ねてくる。


果林「……大体まとまったわ。当日は愛にも手伝ってもらうけど」

愛「ん、りょーかい。それはそうと、報告があるんだけど」

果林「報告?」

愛「“星のガス”が十分に溜まったよ」

果林「……いいタイミングね」


私はそれだけ返すと、席を立つ。


愛「どっか行くの?」

果林「……ええ。今夜はエマと約束しているから」

愛「そっか」


愛はそれだけ答えると、また端末の方へと向き直り、作業を始める。


果林「……いつもみたいに、茶化してこないのね」

愛「ま、今日くらいはね」

果林「……」


今日くらいは──それが何を意味しているのかは、言うまでもない。


果林「行ってくるわ」

愛「ん、行ってら~」

 「ベベノ~」


私は今日もきままに漂っている愛の相棒の、のんきな鳴き声を聞きながら、拠点を後にする。



愛「……まあ、今日くらいは監視はやめといてあげようかな。……たぶん、最後の機会だろうしね」


 「ベベノ~」





    👠    👠    👠





 「チャムー」「ヤンチャー」「チャム」


今日もヤンチャムたちが元気に鳴いている部屋で、私はエマと食卓を囲む。


エマ「──果林ちゃん、おいしい?」

果林「ええ、すごくおいしいわ。ありがとう、エマ」


私はエマの作ってくれたクリームシチューを食べながら、お礼を言う。


エマ「えへへ♪ 今日のはね、搾りたての“モーモーミルク”で作ったんだよ♪」

果林「ふふ♪ この前も同じこと言ってたわよ?」

エマ「でもね、でもね! 今日は特別ミルタンクの元気がよくてね! お乳の出もすっごく調子がよかったから、きっといつもよりもおいしいよ!」


エマは幸せそうに笑いながら、シチューを口に運び、


エマ「ん~、ボーノ……♪」


一口食べるたびに、もっともっと幸せそうに笑いながら、つぼめた指先を唇に当ててキスをする。

彼女の生まれ育った国における、すごく美味しいということを表す仕草らしい。


果林「ふふ」

エマ「んー? どうかしたの、果林ちゃん?」

果林「エマっていっつも幸せそうに食べるから……見てる私もなんか嬉しくなっちゃっただけ」

エマ「えへへ♪ だって、おいしいものを食べてると幸せになるんだもん♪」


エマが嬉しそうに笑っていると、


 「チャムー!!」「ヤンチャー!!!」「チャムチャム!!!」「チャムチャー!!」「ヤンチャムッ!!」


ヤンチャムたちが、空になったお皿を持って、エマの足元に群がってくる。


果林「こら、貴方たち……まだエマがご飯食べてるんだから……」

エマ「うぅん、大丈夫だよ。ヤンチャムちゃんたちもおかわりが欲しいんだよね? すぐによそってあげるね♪」

 「チャムー!!」「チャムチャー」「ヤンチャ!!」

果林「いつもごめんなさいね……」

エマ「うぅん、わたしも好きでやってるだけだから♪ この子たちを連れて来たのも、わたしだし!」

果林「そういえば、そうだったわね……」


このヤンチャムたちは……ある日突然、エマが私にくれたポケモンだった。

もうずいぶん昔のことのように感じる。


果林「ねぇ、エマ」

エマ「ん~?」

果林「……いつも、ありがとう」

エマ「ふふ、どうしたの?」

果林「ここに来てから……私はずっとエマのお世話になりっぱなしだっただから……」

エマ「そんなことないよ、果林ちゃんもわたしのこと助けてくれたもん♪」

果林「……そんなことあったかしら」


……心当たりがない。


エマ「あったよ? 私がここに来て1年くらいのとき……ケンタロスが暴れて逃げ出しちゃって……それを果林ちゃんが止めてくれたんだよ!」

果林「ああ……初めて会ったときのことね」

エマ「うん! そのときね、この地方にはこんなに優しい人がいるんだって、すっごく嬉しくなっちゃって!」


もう、耳にタコが出来るくらいこの話は聞いた。あれはただの気まぐれというか……私もここに来たばかりで──計画のために、面倒な騒ぎが起こるのが嫌だったから、手を出しただけ。

でも……それがきっかけでエマにはいたく気に入られ、その後、彼女はなにかと私の世話を焼いてくれるようになった。

ヤンチャムたちも……その中で貰ったポケモンだ。


エマ「それに、御守りの石もくれたし……今も大切にしてるんだよ?」

果林「まだ持ってたのね……」

エマ「当たり前だよ! 果林ちゃんからの贈り物だもん! 一生大切にするに決まってるよ!」


一生の宝物だなんて大袈裟な……。

あれは……ただ私の故郷で拾っただけの石なのに。

エマにとっては……本当にただの石ころのはずなのに……。


果林「そういえば……前から聞きたかったんだけど……」

エマ「?」

果林「どうして、ヤンチャムをくれたの?」


ある日突然ヤンチャムを渡され──次会ったときにも……またその次会ったときにもと、あれよあれよとヤンチャムの数は増えていった。

あまりに毎回ヤンチャムを渡されるから、さすがに6匹目で止めたんだけど……。


エマ「だって果林ちゃん、ヤンチャムが好きみたいだったから」

果林「え……? そんなことがわかる機会……あったかしら……?」

エマ「あったよ~! 果林ちゃん、いっつもテレビでヤンチャムが出てくると、じーっと見てたもん!」

果林「そ、そうかしら……」


こっちに関しては逆に心当たりがあった。

私は……ここに来るまで、ヤンチャムというポケモンを見たことがなかった。

初めて見たときから、あの白と黒のボディに丸っこいフォルムが妙に私のツボを突いてきて── 一目惚れだったと思う。

エマはそれを見逃さなかったということらしい。

本当にエマは、私のことをよく見ている。……ずっと、ずっと見ていてくれた。


果林「……ねぇ、エマ」

エマ「なにかな?」

果林「もし……もしね、私がここを離れなくちゃいけないって言ったら……どうする……?」

エマ「……」


私の言葉を聞いて、エマはスプーンを持った手を止める。そして、


エマ「……やっぱり、果林ちゃん……いなくなっちゃうんだね」


そう続ける。


エマ「果林ちゃん……ここを出ていこうとしてるんだよね」

果林「……気付いてたの?」

エマ「なんとなく……そうなのかなって」

果林「……そう」


エマは……本当に私をよく見てくれていたようだ。

そして、それは……私も。

最初は、そんなつもりはなかった。……こっちの人と仲良くするつもりなんてなかった。……情が湧いてしまうから。

なのに、エマはどんなにあしらっても、私の傍に居て……笑ってくれた。

いつの間にか、エマは──……私にとって、大切だと思える存在になってしまっていた。

だから、私は……エマは……エマだけは……巻き込みたくなかった。

私はここまで、自分を殺して頑張ってきたつもりだ。……一つくらい、わがままを言ってもいいんじゃないか。

だから、


果林「……エマ」

エマ「……ん」

果林「何も言わずに……私と一緒に……来て……」


気付けばそう、言葉にしていた。


エマ「……」

果林「貴方は私が守るから……だから……」


私の言葉を受けてエマは、


エマ「……ごめんね」


そう言って、首を横に振った。


果林「……」

エマ「わたしね、この町が大好きなの。牧場も、牧場の人たちも、牧場のポケモンたちも、大好きなんだ。だから、今ここから離れることは出来ない……」

果林「エマ……」

エマ「だから……果林ちゃんとは一緒にいけない」

果林「……そっか」

エマ「……ごめんね」

果林「……こっちこそ、ごめんなさい。変なこと聞いて」

エマ「……うぅん」

果林「……」

エマ「……あ、果林ちゃん、おかわりよそうよ? 食べる?」

果林「……ええ、お願い」

エマ「……うん♪」




    👠    👠    👠





エマ「──それじゃ、また来るね!」

果林「ええ、またね」

エマ「あ! ここを出て行くときは、ちゃんと一言言ってね? 勝手にいなくなったら……わたし、怒っちゃうから!」

果林「ええ、わかってる」

エマ「うん! 約束だよ♪」


エマは笑いながら去って行った。


果林「…………」


私はエマが出て行ったドアを──しばらく見つめていた。





    👠    👠    👠





程なくして、DiverDiva拠点に戻る。


愛「あ、カリン、お帰り」

果林「……愛、荷物をまとめて。次の作戦が始まったら──ここにはもう戻らないと思うから」

愛「……カリン、エマっちは?」

果林「……何の話かしら」

愛「……まあ、カリンがいいなら、いいけどさ」


愛は言われたとおり、テキパキと荷物をまとめ始める。


 「ベベノ~」

愛「お、手伝ってくれんの? お前はいい子だな~♪ 愛してるぞ~♪」
 「ベベノ~♪」

果林「……明朝には発ちましょう」

愛「りょうか~い」


愛が作業を始める中、拠点内の大モニターに目をやると──先ほどまでエマと一緒に食事をしていた部屋のカメラだけが真っ黒になっていた。

恐らく……愛が気を遣ってくれたのだろう。

当初の予定からは、想像出来ないくらい……ここには長く居ついてしまった。

あまり持たないようにしていたのに……愛着も、少しだけ湧いてしまった。……けど、


果林「……思い出作りは……もう十分、出来たから……。──さようなら。……エマ」


私は最後の踏ん切りをつけるために──小さく別れの言葉を呟いたのだった。


………………
…………
……
👠


■Chapter043 『マネネ? まねっこ? ものマネネ?』 【SIDE Shizuku】





──ローズシティを目指して10番道路を北上している私たちですが……。


 「ヒヒィーーンッ!!!」

侑「かすみちゃん、ごめん! ギャロップそっちに行った!!」

かすみ「任せてください! ゾロア! “ナイトバースト”!!」
 「ガァゥゥッ!!!!!」

 「ヒヒィンッ!!!?」


突撃してくるギャロップを、かすみさんのゾロアが迎撃する。


歩夢「侑ちゃん! 茂みの奥にマルノームがいるよ!」

侑「え、どこ!?」

 「マァールノォー!!!」


今度は、マルノームが茂みの奥から、“ヘドロばくだん”を侑先輩に向かって放ってきた、


侑「う、うわぁ!?」

しずく「キルリア! “サイコキネシス”!!」
 「キルゥ!!」


その“ヘドロばくだん”をキルリアが念動力で逸らす。


侑「あ、ありがとう、しずくちゃん……! ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ライボォォォ!!!!!」


反撃する侑先輩、だが──マルノームは近くにあった岩を丸呑みにし始めた。


 「マル、ノー」


すると、不思議なことに、ライボルトの“10まんボルト”を意にも介さなくなる。

ほとんどダメージが通っていない。


侑「くっ……“たくわえる”で耐えてきた……」
 「ライボ…!!」


持久戦が苦手な侑先輩は苦い顔をする。

マルノームは緩慢な動きで、攻撃の姿勢に移ろうとするが、


歩夢「タマザラシ、“アンコール”!」
 「タマァ~~♪」


歩夢さんのタマザラシがパチパチで手を叩くと、


 「マル、ノー…」


マルノームは再び、“たくわえる”をし始める。

“アンコール”は相手のポケモンに前使ったのと同じ技を強制させる補助技だ。

それで出来た隙に向かって、


侑「ライボルト、“オーバーヒート”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
 「ライボォォォ!!!!」「ブーーイィッ!!!!!」

 「マ、マルノォーーー」


2匹のほのお技で一気に圧倒する。


侑「歩夢、ありがとう!」

歩夢「ふふ、どういたしまして♪」

リナ『二人とも、まだ来るよ! 上空から、オオスバメ!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

 「スバァーーー!!!!!」


リナさんの言うとおり、鳴き声をあげながら突撃してくるオオスバメの姿。


かすみ「ああもう次から次へと……!! ヤブクロン!! “ヘドロこうげき”!!」
 「ヤーブッ!!!」


ヤブクロンが向かってくるオオスバメに向かって、ヘドロを吐きつけるけど、


 「スバッ!!!」


攻撃を察知し、オオスバメは上空へと回避する。


歩夢「フラエッテ! “ようせいのかぜ”!!」
 「ラエッテッ!!」


オオスバメが逃げた上空に向かって、歩夢さんのフラエッテが“ようせいのかぜ”を放つが、オオスバメはダメージを受けるどころから、風攻撃の届かない範囲ギリギリを飛んで、おちょくっている。


歩夢「あ、あれ……?」

かすみ「歩夢先輩、全然攻撃が届いてないですよぉ~!」

侑「相手が速すぎるんだ……!」


ひこうタイプにとって、地上からの攻撃はさぞ回避しやすいのだろう。

だけど、それならこちらにも考えがある。


しずく「ジメレオン」
 「ジメ…」


ジメレオンは手の平に水の玉を作り始める。

ジメレオンというポケモンは自分の体液で膜を作ることによって、水をボール状に丸めることが出来る。

その水のボールを、


 「ジメッ…!!」


空中を旋回しながら様子を伺っているオオスバメに向かって、投擲する。

でも、


かすみ「し、しず子~!! 投げてる方向が全然違うじゃん!?」

 「スバ…」


ボールは明後日の方向に飛んでいく。

オオスバメもあまりのノーコンっぷりに、空中で鼻を鳴らす。


しずく「ふふっ、ジメレオンは頭脳戦が得意なんですよ」

かすみ「……はぇ?」


明後日の方向に飛んでいたはずの水のボールは──急に空中で軌道を変えた。


侑「空中で動きが変わった!?」

 「スバッ!?」


急に変化したボールの動きに対応出来ず、水のボールがオオスバメに炸裂し、驚いたオオスバメはバランスを崩す。


しずく「今度こそ、ストレートで決めるよ!」
 「ジーーメッ!!!!」


ジメレオンは用意していた2球目を、オオスバメに向かって、投球し、


 「ス、スバァーーーッ!!!?」


剛速の水球は先ほどよりも強い威力で炸裂する。

オオスバメは弾けた水の塊に吹き飛ばされて、戦闘不能になった。


しずく「やったね、ジメレオン♪」
 「…ジメ」

かすみ「ちょっと、しず子、今何したの!? ボールが空中で変な動きしたけど……!?」

しずく「ふふっ♪ 上空に吹いていた風を利用しただけだよ♪」

歩夢「もしかして……フラエッテの“ようせいのかぜ”?」

しずく「はい♪ 使わせていただきました♪」


すでに空中で吹いていた“ようせいのかぜ”にジメレオンの水球を乗せ、軌道を変えて攻撃を当てたということだ。

ジメレオンは水のボールを使って、相手を追い詰めていくのが得意なポケモン。

うまく意表を突く展開で、ジメレオンの良さが生かすことが出来た。


侑「とりあえず……これで、野生のポケモンは落ち着いたかな」

かすみ「ですねぇ……ちょっと、疲れましたぁ……」

歩夢「一度にたくさん出てきて、びっくりしちゃったね……」

しずく「それに1匹1匹が、今まで戦ったきた野生のポケモンより強かった気がします……」

リナ『オトノキ地方は北側の方が野生のレベルも高いからね』 || ╹ᇫ╹ ||


先ほどから、こんな感じで何度も野生ポケモンの群れと出くわしている。

こちらも4人いるので、負けることはないが……何度も戦いながらのため、いかんせん進みが遅い。


かすみ「“むしよけスプレー”でも買っておけばよかったですぅ……」

歩夢「私は……“むしよけスプレー”はあんまり好きじゃないかも……。ポケモンが可哀想だし……」


かすみさんの言葉に遠慮がちに言う歩夢さん。


侑「私はみんなで戦いながら進むのも楽しいけどな~。みんなのポケモンが戦う姿も見られるし!」

リナ『それに、強い相手と戦うのは悪いことばっかじゃないからね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「そうなの?」

リナ『経験値がたくさんもらえる。その証拠に、ほら』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


そう言いながら、リナさんの視線が私の傍らのキルリアに向けられる。


 「キルゥ…」


気付けば、キルリアはぶるぶると震えていて……次の瞬間、カッと眩い光を放つ。


歩夢「これって……!」

侑「進化の光だ……!」


光が晴れると──


 「──…サナ」


キルリアはサーナイトに進化していた。


しずく「サーナイト……」

かすみ「わ、やったじゃん、しず子!」

しずく「…………」

かすみ「……しず子? どうしたの?」

しずく「……え?」

かすみ「なんか反応薄いよ? サーナイト、前から欲しかったって言ってたのに……」

しずく「あ、う、うぅん! 嬉しいよ! 新しい姿にちょっと感動してただけ!」
 「サナ」

しずく「サーナイト、これからもよろしくね!」
 「サナ」


サーナイトは恭しく頭を下げる。


リナ『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
   未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知したとき
   最大 パワーの サイコエネルギーを 使うと 言われている。
   空間を ねじ曲げ 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。』


リナさんの図鑑解説を聞きながら、


侑「わかるよ、しずくちゃん! 新しいポケモンを見ると、なんか言葉失っちゃうよね!」


侑先輩が目を輝かせながら、私の手を握ってくる。


しずく「は、はい……」

リナ『侑さんはちょっと感動しすぎなところあるけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
 「ブイ…」

しずく「あ、あはは……」



呆れ気味なイーブイとリナさんを見て、苦笑してしまう。

そのとき、突然、


かすみ「──つめたっ!」


かすみさんが、声をあげた。

空を見上げると──パラパラと雨の粒が降り始めたところだった。


かすみ「わー!? 雨、降ってきちゃったぁ!?」
 「ガゥゥ…」

侑「本降りになる前に急ごう……!」
 「イブィッ」


侑先輩たちは大急ぎで手持ちをボールに戻して、10番道路を駆け出す。

私も、サーナイトとジメレオンをボールに戻す。

ボールに戻して──今しがた姿を変えたサーナイトのボールをまじまじと見つめてしまう。


しずく「…………私も……侑先輩みたいに、思えたら……」


──小さく独り言ちる。


歩夢「しずくちゃん……?」


そんな私の呟きが聞こえたのかどうかはわからないが、歩夢さんが足を止めて、こちらに振り返り、


歩夢「大丈夫……?」


ととっと近付いてきて、私の顔を心配そうに覗き込みながら訊ねてくる。


しずく「あ、いえ……すみません! なんでもないんです……!」

歩夢「そう……?」


咄嗟に誤魔化すものの、歩夢さんはやはり心配そうに私の顔を見つめている。


かすみ「しず子~! 歩夢せんぱ~い! 何してるんですかぁ~!? 早く行きますよ~!!」

しずく「あ、う、うん!! 歩夢さん、行きましょう!」

歩夢「……うん」


歩夢さんの視線から逃げるように、私はかすみさんたちを追って駆け出した。


歩夢「…………」





    💧    💧    💧





──10番道路は長い道路だ。

二つの大きな都市に挟まれている割に、自然豊かで様々な種類のポケモンが生息している。

また東側を上流とする河川も流れていて、道路の中腹辺りには橋が架かっている。

多少勾配はあるものの、基本的には歩きやすく、多種多様なポケモンとの邂逅を求めて、多くのトレーナーが訪れるそうだが……。


かすみ「ほ、本降りですぅぅ~~!!!」
 「ガゥ、ガゥガゥッ!!!!」


今日みたいな土砂降りだと、話は変わってくる。

私たちはバッグからレインコートを取り出して、ぬかるむ道を疾走中だが……かすみさんだけは何故か、レインコートを羽織っていない。


侑「かすみちゃん、雨具持ってないの!?」

かすみ「バッグの奥底にあって取り出せないんですぅ~!!」

リナ『かすみちゃんは荷物を持ちすぎなんだと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


だから普段から、道具を持ちすぎだって言ってるのに……。


しずく「それにしても……本当に酷い雨ですね……」


レインコートを羽織っていても、靴の中に水は入り放題だし、地面の状態は最悪だ。

あまりにも雨足が強すぎて──前方を走る、かすみさんと侑先輩の姿を追いかけるのがやっとな状態。


歩夢「しずくちゃん、平気?」

しずく「は、はい……! かなり置いていかれちゃってますから、急がないとですね……」


先ほどから歩夢さんは、しきりに私に声を掛けてくれている。

恐らく……先ほどの私の様子が気になっているのだろう。


歩夢「体調が悪かったら言ってね……?」

しずく「は、はい……ありがとうございます」


面倒見が良い歩夢さんらしいなと思った。

だからこそ、先ほどのような態度を見せてしまったのは失敗だったなと反省する。

後輩が急に無口になったら心配もするだろう。

この雨を抜けたら、本当になんでもないことを伝えなくては……。

──バシャバシャと音を立てながら、ぬかるむ道をひた走る。

走り続けていると、道路の中腹を横切る河川が見えてくる。

もちろんこんな大雨の中だ。川の水はかなり増水し、茶色い濁流となっている。

気付けば、かすみさんたちは橋をすでに渡り始めていて、そろそろ向こう岸に着こうとしていた。


しずく「い、急がないと……!」


私がもたもたしていたせいで、随分遅れてしまっている。

焦り気味に、橋へと差し掛かった瞬間──ミシっという嫌な音がした。

直後、視界がガクンと揺れる。


しずく「っ!?」


この大雨によって──橋が、壊れた。

急なことに、なすすべもなく私は濁流に投げ出される。


歩夢「──しずくちゃん……!!」


視界の端に居た歩夢さんが──濁流に飛び込んでくる姿が見えた。

──歩夢さん、来ちゃ、ダメです……!!

叫ぼうとするが、濁流に呑まれながら声を発することなど出来るはずもなく、私は流されていく。

溺れないように、必死に顔を水面に出そうとするが、激しい濁流の中では自由が全く効かず、私の視界は──気付けば全てが濁った水の中で、回転していた。

上も下も右も左もわからない。

洗濯機の中にでも放り込まれたような気分だった。

もはや水面がどっちかすらわからない。

──私……死んじゃうのかな。

ウルトラビーストに襲われたとかじゃなくて……まさか、川で溺れて死んじゃうなんて……。

情けないな……。

だんだん、抗う気力もなくなってきて……ただ流されていく私の腕を──何かが掴んで引っ張りあげるような感覚がした。


しずく「──ぷはっ……! げほっ! げほっ!」

歩夢「しずくちゃん、平気!?」
 「シャーボ!!!」


私を引っ張りあげたのは──歩夢さんだった。サスケさんが私の腕に頭側を絡みつかせ、尻尾側は歩夢さんの腕に絡みつき、私を引っ張っていた。

そのまま、サスケさんを伝って、歩夢さんが手を伸ばし、私の腕を掴む。

歩夢さんに引き寄せられた状態で、濁流の中辛うじて顔だけを水面から出したような状態のまま、流されている。


しずく「あ、あゆむ……さん……っ……」

歩夢「サスケ……! 絶対、私から離れちゃダメだよ……!」
 「シャーボッ!!!」

歩夢「タマザラシ……! 頑張って、岸まで……!」
 「タマァァ…!!」


歩夢さんがタマザラシに掴まって泳いでいることに気付く。

そうだ私も……!


しずく「ジメレオン、出てきて……!」
 「ジメッ!!」


私もジメレオンに掴まり、歩夢さんのタマザラシと力を合わせて、岸に向かおうとする──が、


歩夢「な、流れが……速すぎて……っ」

しずく「二人とも岸まで行くのは無理です……! ジメレオン、タマザラシと協力して、歩夢さんだけでも……!」
 「ジ、ジメ…」

歩夢「そんなの絶対にダメ……!!」

しずく「ですが……っ」


歩夢さんは私を助けるために、飛び込んできたのだ。

私が落ちたりしなければ、歩夢さんが危険な目に遭うなんてことなかった。


しずく「どちらかしか助からないなら……歩夢さんが──」

歩夢「どっちが助かるかなんて考えないでっ!」

しずく「!」

歩夢「タマザラシ、お願い……!!」
 「タマァァァ…!!」


そのとき──タマザラシの体が眩く光り始めた。


 「──グラァッ!!!!」

しずく「トドグラーに……進化した!?」

歩夢「! これなら……! トドグラー、お願い!」
 「グラーー!!!」


進化して、パワーアップしたトドグラーは、濁流の中でも私たちをぐんぐん引っ張って──どうにか岸へとたどり着いたのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「エースバーン、“ひのこ”」
 「バース」


歩夢さんのエースバーンが集めた枝に火を点けてくれる。


歩夢「これで……ちょっとはあったかくなるかな」

しずく「はい……あったかいです」


水に浸かっていたせいで完全に冷え切ってしまった身体を、焚火が温めてくれる。

私たちは、あの後どうにか岸に上がり、川から少し離れた場所にあった大きな木陰の下で雨宿りをしていた。


歩夢「……結構流されちゃったみたいだね」


歩夢さんは図鑑のタウンマップを確認しながらそう言う。


しずく「すみません……私が不甲斐ないばっかりに」


私はしゅんとしてしまう。


しずく「歩夢さんまで巻き込んでしまって」

歩夢「…………」


歩夢さんは無言で立ち上がって、


しずく「……歩夢さん……?」


私の目の前にしゃがみこみ──そのまま、私のことをぎゅっと抱きしめてきた。


歩夢「……そんな悲しいこと言わないで……私たち、友達でしょ?」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「しずくちゃんが困ってたら……助けるよ。……だから、巻き込んだなんて言わないで欲しいかな……」

しずく「……ごめんなさい……」

歩夢「……もう言っちゃダメだよ、そんなこと」

しずく「……はい」


私が謝ると、歩夢さんは私を離したあと、頭を撫でてニコっと笑う。


歩夢「……雨、止むまでは動けないね」

しずく「そうですね……かすみさんたち、心配してますよね……」

歩夢「さっき、リナちゃんにメッセージは送っておいたよ。……あ、返事来てる」

しずく「侑先輩たちはなんて……?」

歩夢「『二人とも無事でよかった。天気が落ち着いたら、すぐに迎えに行くからそこで待ってて』って」

しずく「そうですか……。……くしゅんっ」

歩夢「わわ……! 風邪引いたら大変……! 私の上着、ちょっとだけ乾いてきたから、羽織ってて!」

しずく「い、いえ、そんな……! 歩夢さんこそ風邪引いちゃいます……!」

歩夢「私は大丈夫だから、ね?」

しずく「でも……」

歩夢「はい、どうぞ」

しずく「……ありがとう……ございます……」


歩夢さんには独特の押しの強さがあるというか……なんだか、気付くと言うことを聞いてしまっているような、不思議な雰囲気がある。


歩夢「いいんだよ、こんなときは甘えても。私の方がお姉さんなんだから♪」

しずく「は、はい……///」


なんだか、少し気恥ずかしくなってくる。


歩夢「他に困ったことはないかな?」

しずく「大丈夫ですよ。それこそ、そこまで気を遣っていただかなくても……」


そのとき──くぅ~……とお腹の辺りから音が鳴る。


しずく「あ、あの、これは……///」

歩夢「ふふ♪ 確かにお腹空いちゃったね♪」

しずく「ぅぅ……///」

歩夢「何かあるかな……」


歩夢さんは自分のバッグの中身を確認し始める。

ただ、先ほどまで濁流を流されていたこともあって──


歩夢「……うーん……。……やわらかい“きのみ”はほとんどダメになっちゃってるかも……」


持っている“きのみ”の多くがダメになってしまったようだ。


しずく「あ、あの……歩夢さん、本当に大丈夫ですから……」

歩夢「あ……そうだ!」


歩夢さんは何かを思いついたらしく、ぽんと手を叩いて、バッグの中から何かの箱を取り出した。


歩夢「よかった……ケースの中身は無事みたい」

しずく「それって……“ポフィンケース”ですか?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はポケモンのおやつだけど……少し貰っちゃおうかなって。はい♪」


そう言いながら、ケースから“ポフィン”を取り出し、私に薄黄色の“ポフィン”を手渡してくれる。


しずく「いただいてしまって、いいんですか……?」

歩夢「もちろん♪」
 「シャーーボッ!!!」「バーースッ!!」

歩夢「ふふ♪ サスケとエースバーンにもあげるから、慌てないで♪ はい♪」
 「シャボッ」「バーース♪」


サスケさんとエースバーンは歩夢さんからそれぞれ、緑色と黄色い“ポフィン”を貰うと、おいしそうに食べ始める。


 「グラァ…」

歩夢「トドグラーもおいで♪」
 「グラ…♪」


トドグラーは歩夢さんに呼ばれると、彼女に身を摺り寄せる。

歩夢さんはトドグラーを優しく撫でながら、口元に赤い“ポフィン”を持っていき、食べさせ始める。


歩夢「ふふ♪ 進化しても、トドグラーは甘えん坊だね♪」
 「グラァ…♪」


歩夢さんはトドグラーに“ポフィン”を与えながら、


歩夢「ジメレオンくんもおいで♪」

 「ジメ…」


桃色の“ポフィン”を取り出して、私のジメレオンのことも呼ぶ。

ジメレオンは少し困惑気味だったけど、


歩夢「手渡しだと緊張しちゃうかな? ここにおいておくね♪」


歩夢さんがそっと“ポフィン”を置くと、


 「ジメ…」


そろそろと近付いて、“ポフィン”を食べ始めた。


しずく「……」

歩夢「私も食べようかな♪」


そう言いながら、歩夢さんも桃色の“ポフィン”を取り出して、口に運ぶ。


歩夢「……えへへ♪ おいしく出来てる♪ しずくちゃんも遠慮せずに食べてね。たくさんあるから!」

しずく「は、はい……」


私も遠慮気味に貰った“ポフィン”を口の運ぶ。一口食べると──甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。

甘さの中にある酸っぱさが、疲労した身体に染み渡っていくようだ。


しずく「おいしい……」

歩夢「よかった♪ しずくちゃん、少し疲れてたそうだったから、“すっぱあまポフィン”を選んだんだけど……他の味もあるから、食べたい味があったら言ってね♪」

しずく「ありがとうございます、歩夢さん」

歩夢「ふふ♪ どういたしまして♪」


歩夢さんが優しく笑う。


 「グラー…」

歩夢「トドグラー、おかわり欲しいの? 今日は頑張ったもんね。はい♪」
 「グラァ…♪」

しずく「歩夢さんは……すごいですね」

歩夢「え?」

しずく「こんなときでも……ポケモンたちを大切にしていて……。……私は、いつも自分のことで精いっぱいで……ポケモンたちには助けてもらってばかりで……」

歩夢「しずくちゃん……?」


口に出してから、またやってしまったと思った。


しずく「す、すみません……! なんでもないんです……」

歩夢「……」


……でも、こんなことを言って誤魔化しても、歩夢さんがなんでもないなんて思ってくれるはずもなく。


歩夢「トドグラー、ちょっとごめんね」
 「グラァ…」


“ポフィン”を食べているトドグラーの傍から離れて、歩夢さんは私の隣に腰を下ろす。


歩夢「やっぱり……何か、悩んでるんだね」


すぐ隣で私の顔を心配そうに覗き込んでくる歩夢さん。


しずく「……それは…………」


でも、私はなんだか気まずくて、目を逸らしてしまう。


歩夢「……もしかして──……最近マネネをあんまりボールから出してないことと、何か関係あるのかな……?」

しずく「……え?」


私はその言葉に驚いて、せっかく目を逸らしたのに、思わず歩夢さんの方をまじまじと見つめてしまう。


歩夢「えっと……あんまり、聞かれたくなかったかな……?」

しずく「あ、いえ……その……。……歩夢さんには……そう、見えましたか……」

歩夢「……うん。しずくちゃん、いつもマネネと一緒だったのに……セキレイに戻ってきてから、あんまりマネネをボールから出してなかったから、何かあったのかなって……」

しずく「…………歩夢さんには、敵いませんね……」

歩夢「マネネと何かあったの……?」

しずく「何か……というわけではないんですが……」


私はマネネのボールを手に取って、見つめる。

すると、ボールがカタカタと震えるのがわかった。


しずく「前に……ロトムの話をしましたよね」

歩夢「うん。鞠莉さんのロトムのお話だよね」

しずく「……ロトムはイタズラ好きなポケモンで、すごく子供っぽいと言いますか……。その気性が故に、精神的に成長していく鞠莉さんと少しずつ噛み合わなくなっていって……ケンカをしてしまったそうです」

歩夢「でも、しずくちゃんが昔の気持ちを思い出させてあげて……また仲直り出来たんだよね?」

しずく「……はい」


ただ、私はそのとき……いいや、正確にはその後、だけど……思ってしまった。


しずく「……でも、それは鞠莉さんが子供のときの気持ちを思い出してくれたから、うまく行っただけであって……ポケモン側が変わってしまったら、難しかったんじゃないかって……」

歩夢「……? どういうこと?」

しずく「……マネネってすごく子供っぽいポケモンなんです。主人の“まねっこ”をしたがる……そんなポケモン」

歩夢「うん」

しずく「でも……進化してバリヤードになったら、そういう子供っぽさはなくなるそうなんです……」

歩夢「……。……もしかして、マネネに進化して欲しくないから、あんまりボールから出してなかったの……?」

しずく「……意識してそうしていたつもりはなかったんです。……だけど、今、歩夢さんから言われて……ああ、私、そう思ってたのかもしれないって……」


いつも、私の近くで無邪気に子供っぽく、“まねっこ”をしていたマネネが、違う姿になってしまうことが、うまく想像出来なかった。

想像出来なくて……もし、変わってしまったマネネは、どうなってしまうのか、私を見てどう思うのか……なんだか、そんなことを無意識に考えてしまっていた自分に気付いてしまった。


しずく「本当はこんなこと考えちゃいけないことはわかってるんです……。大切な手持ちが成長するのは、トレーナーとして喜ぶべきことですから……」


ただ、この短い間にあまりにいろんなことがあって……。私の中に少しずつ迷いが生まれ始めて……。


しずく「姿が変わったら……私はどう映るのかなって……。……私は……今の私に……自信が、ないんです……」


だって私は──いつ自分がおかしくなっても、不思議じゃないから。

今でも、私の心のどこかで──ウルトラビーストの毒が私を蝕んでいる気がするのだ。

もし、私が私じゃなくなったら……私のポケモンたちは私をどう思うんだろう。

一番付き合いの長いマネネは、もし私がおかしくなってしまっても……きっと私の傍にいてくれる。そう思えたけど……もし、マネネが進化して、今のマネネじゃなくなったら……。


しずく「私……ダメですね……」

歩夢「……しずくちゃん」

しずく「……進化して欲しくなかったら……かすみさんみたいに、進化キャンセルをすればいいんですよね……でも」


だけど、かすみさんと私では少し事情が違う。

かすみさんは可愛いポケモンに拘りがあって……その上で強い。無理に進化させなくても、ポケモンたちを信じられるし、その強さを引き出せる自信があるのだ。

ポケモンたちも、かすみさんが望むものを理解して、かすみさんを信頼している。

だから、彼女と彼女のポケモンたちにとっては無理に新しい姿を手に入れる必要はないのだろう。

だけど、私は……私が進化して欲しくないのは、私が不安なだけなのだ。


しずく「……私の事情で、ポケモンたちの成長を止めてしまうのは……私のエゴなんじゃないかって……」

歩夢「……そっか」

しずく「……ごめんなさい。……変ですよね、こんなこと悩んでるなんて……」

歩夢「うぅん。そんなことないよ。ずっとお友達だったポケモンの姿が変わっちゃったら、びっくりしちゃうの、わかる気がするよ」


そう言いながら、歩夢さんは肩の上で鎌首をもたげているサスケさんの頭を撫でる。


 「シャボ」
歩夢「私もね、サスケがアーボックに進化したらどうなっちゃうのか、想像出来ないもん」

 「シャボ」

しずく「そういえば……サスケさんのレベルだと、もうアーボックに進化していてもおかしくないですよね」


歩夢さんもかすみさん同様、サスケさんには進化キャンセルをしているんだと思っていたけど、


歩夢「うん。ただ、サスケ……進化しないんだよね」

しずく「え? 歩夢さんがキャンセルしているんじゃないんですか……?」

歩夢「うん。だから、きっとサスケ自身がずっと私の肩の上にいたいって思ってるから進化しないのかなって……。アーボックになったら、さすがに肩には乗せられないだろうし……」
 「シャーボ」


歩夢さんがサスケさんの頭を撫でると、サスケさんもそれに応えるように、歩夢さんに身を摺り寄せる。


歩夢「でも、私もサスケが進化しちゃったら……びっくりして戸惑っちゃうかもしれないなって……。だから、しずくちゃんがそう思う気持ち、ちょっとわかるんだ」

しずく「歩夢さん……」

歩夢「だから、全然変なことじゃないよ。そんなに自分がおかしいだなんて、自分を追い詰めなくてもいいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれる。

なんだか、歩夢さんが優しすぎて──ポロリと……涙の雫が零れてしまった。


しずく「……ぐすっ……す、すみません……」

歩夢「大丈夫だよ、しずくちゃん」


かすみさんの前では、ずっと気丈に振舞っていたからだろうか。

何故だか、年上のお姉さんである歩夢さんの前では、普段言えない気持ちも素直に言えてしまう気がした。

──もちろん……それでも、ウルトラビーストのことは歩夢さんには言えないけど……。


歩夢「ねぇ、しずくちゃん」

しずく「……なんでしょうか」

歩夢「しずくちゃんがマネネとどうやって出会ったのか……聞いてもいい? そういえば私、聞いたことなかったなって……」

しずく「マネネとの出会い……ですか」


そういえば、あまり人に話したことはなかったかもしれない。

いい機会だし、歩夢さんに聞いてもらうのも悪くないのかもしれない。


しずく「……私がマネネと出会ったのは、両親に連れられて、ガラル地方に旅行に行ったときのことでした……」



──────
────
──



初めて訪れるガラルの地。

目に映るもの全て、オトノキ地方とは全然違って──はしゃいでいた私は、気付いたら親から離れて迷子になってしまっていました。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこですか……っ……」


ブラッシータウンでべそをかきながら、両親を探す私。

異国の地で不安になりながら、とぼとぼと歩いていると、


 「マネ…マネネ…」

しずく「……?」


足元で、私みたいにベソをかいているポケモンがいた。


しずく「……あなたもまいごなんですか……?」


私が小首を傾げながら訊ねると、


 「マネ?」


そのポケモンは私を見上げて、小首を傾げる。


しずく「……?」


そのポケモンが何を考えているのかよくわからなくて、私が不思議そうに見つめると、


 「…?」


そのポケモンも私を不思議そうに見つめ返してくる。


しずく「もしかして……私のまねしてるんですか……?」
 「マネ、マネネマネ?」

しずく「ま、まねしないでください……」
 「マ、マネマネネ」

しずく「だから……まねしないで……!」
 「マネ、マネネ!!!」


ただでさえ不安で心細いのに、からかわれているようで嫌だった私は、そのポケモンを無視して、歩き出す。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこ……」

 「マネー…マネネー…」

しずく「だから、付いてこないでください……!」
 「マネ、マネネマネッ!!」

しずく「うぅ……」
 「マネェ…」


異国の地でただでさえ不安で不安でしょうがないのに、変なポケモンにまで付きまとわれて、もう限界だった。


しずく「ぅ、…ぅぇぇん……っ……おとうさん……おかあさん……どこぉ……っ……ひっく……っ……」
 「マ、マネ…!?」


その場に蹲って、しゃくりをあげながら泣き出してしまう私に、さすがに面食らったのか、マネネが私の周りでおろおろし始めた。


しずく「……ひっく……っ……かえりたい、ですぅ……っ……」
 「マ、マネ…」


泣きじゃくる私、不安だし、寂しいし、お腹も空いてきた。もう帰りたい。


 「マ、マネ…!!」


そんな、私の目の前で、マネネがぴょんぴょんと跳ね始める。


しずく「……こ、こんどは……っ……なん、ですか……っ……」


涙を拭いながら、マネネに文句を言うと、


 「マネ」


マネネは私に向かって──青色をした“きのみ”を差し出していた。


しずく「これ……くれるんですか……?」
 「マネ」


当時はこれがなんの“きのみ”かはわからなかったが、今考えてみると“カゴのみ”でした。

お腹も空いていたし……せっかくくれたから、食べてみることにする。

思い切って、齧ってみると、


しずく「……か、硬い……」


とてつもなく硬かった。

でも、頑張って、ガリっと噛み砕いて口に含むと、


しずく「…………ちょっと、しぶい……」


よく家で飲む、お茶のような渋みがあった。

くれたのはありがたいけど……このまま食べるのには、向いていないかもしれない。


しずく「ちょっと、しぶくて……これいじょう、たべられないです……」


そう言いながら、マネネに“きのみ”を返すと、


 「マネ」


マネネはまた私の真似をして、“きのみ”に齧りつく。

ガリっと硬い“きのみ”を口に含むと、


 「マ、マネェェェ…」


“きのみ”の渋い味に、顔を顰めた。


しずく「……くすくす♪ わたし、そんなかおしてませんよ♪」
 「マ、マネェ…」


さっきまでひたすら“まねっこ”していたのに、自分で持ってきた“きのみ”の味に険しい顔をするマネネが面白くて、なんだか笑ってしまった。

私がくすくすと笑うと、


 「マネマネ♪」


私を真似して、マネネもくすくすと笑う。


しずく「もう……また、まねしてる……」


よほど、人の“まねっこ”をするのが好きなポケモンらしい。

少し呆れてしまうけど──お陰で、少しだけ元気が出てきた気がする。


しずく「……わたし、しずくっていいます。あなたは?」
 「マネネッ!!」

しずく「マネネ……でいいのかな? いっしょにおとうさんとおかあさん……さがしてくれますか?」
 「マネ♪」



──
────
──────


その後、マネネと一緒に両親を探して……ブラッシータウンの駅で両親と再会することが出来ました。


しずく「──これが、私とマネネの出会いでした」

歩夢「素敵な出会いだったんだね」

しずく「はい……大切な思い出です。私にとっての……初めての友達……」


だから……だからこそ、マネネとの距離感が変わってしまうことが怖かった。


しずく「……マネネ、出てきて」


私は握ったボールから、マネネを外に出す。


 「──マネ♪」

歩夢「しずくちゃん……いいの?」

しずく「はい……なんだか、マネネとお話ししたくなっちゃって……」
 「マネ♪」


進化してしまうのは、変わってしまうのは、怖いけど……でも、マネネと話したい気持ちもある。


しずく「マネネは……“まねっこ”が大好きなポケモンですが……それが“まねっこ”ではなく、“ものまね”になったとき、バリヤードに進化するそうです」
 「マネ?」

しずく「果たして“まねっこ”と“ものまね”の何が違うのか……よくわかりませんが……」


技としては、“まねっこ”は直前に見たのと同じ技を繰り返す。“ものまね”は直前に見た技を覚えて使えるようになる……という違いだが、何が起こると“まねっこ”が“ものまね”になるのかはよくわからない。

結局人の真似をしているということには何も変わりがないわけだし……。


しずく「でも……私がこんな悪あがきをしていても……マネネは成長して、いつかは進化しちゃうんでしょうけどね……」

歩夢「……私は、大丈夫だと思うな」

しずく「大丈夫……ですか……?」

歩夢「きっと、マネネは進化しても、しずくちゃんのこと、大切にしてくれると思う」

しずく「…………どうして、そう言い切れるんですか」


これだけ話したのに、そんな風に言う歩夢さんの言葉が、少し無責任に聞こえて、むっとした声になる。


しずく「ポケモンは進化して、新しい姿を得たら、気性が変わるのは事実なんです……保証なんてどこにも……」

歩夢「あるよ」


でも、歩夢さんは頑なだった。


歩夢「だって、それはしずくちゃんが今話してくれたよ」

しずく「……え? 私、そんな話……」

歩夢「ガラルで迷子になったとき、見ず知らずのマネネと出会ったしずくちゃんはどうしてマネネと仲良くなれたの?」

しずく「え……?」

歩夢「マネネの優しさをしずくちゃんが受け取ったからだよ」

しずく「…………」

歩夢「マネネから貰った“きのみ”を食べたとき、しずくちゃんはどう思った?」

しずく「どう……」


あのとき、マネネがくれた──あの渋い“きのみ”。

おいしくなかった、あの“きのみ”。

だけど……。


しずく「……心が……あったかく、なりました……」


泣きじゃくる私に、小さなマネネが考えた、精いっぱいの優しさで、胸が温かかった。


歩夢「姿が変わったら、気性が変わっちゃうポケモンがいるのは、しずくちゃんの言うとおりだと思う」

しずく「…………」

歩夢「子供っぽくて、甘えん坊なマネネじゃなくなっちゃうかもしれない。……だけど、しずくちゃんと出会ったときの優しい気持ちは──きっとそんなに簡単に変わらないよ」

しずく「……歩夢さん」

歩夢「変わっていくことで、気持ちがわからなくなっちゃうこともあるかもしれない……。だけど、そのときはまたいっぱいお話しして、仲直りすればいい」

しずく「……はい」

歩夢「だから、変わることを怖がらなくていいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれた。


しずく「……はい……っ……」


本当はわかっていたんだ。

だって今、歩夢さんが言っていることは、私がロトムと鞠莉さんに伝えたかったことだから。伝えたことだから。

悲しいこと、怖いことがたくさんあって、いつの間にか私も見失っていたんだ。

歩夢さんに話してみて、やっと心のつかえが取れた気がして──安心と一緒に、また涙が零れる。


しずく「す、すみません……っ……私、泣いてばかりで……っ……」

歩夢「うん、大丈夫だよ。しずくちゃん」


ポロポロと涙を零す私。そんな私を優しく撫でる歩夢さん。

そんな私たちを見て、


 「マネ…」


マネネは私の肩までよじ登り。


 「マネ…」


歩夢さんのように、私の頭を優しく撫でてくれる。

……そこで私は、やっと気付いた──……そっか、そういうことだったんだ。

“まねっこ”と“ものまね”の違い。

──“まねっこ”はただ、目の前の人の仕草を真似るだけだけど……。

──“ものまね”は、その行動の意味を、気持ちを、自分で理解して、することなんだ。

今のマネネのように。泣いている私を、慰めたいって、優しい気持ちで──歩夢さんの“ものまね”をしているように。


しずく「……いつの間にか……成長、してたんだね……っ……マネネ……っ……うぅん……っ……」
 「──バリ」

しずく「バリヤード……っ……」
 「バリ♪」


“まねっこ”は“ものまね”に。マネネは──バリヤードに。


しずく「今まで、構ってあげられてなくて……ごめんね……っ……」
 「バリバリ♪」


私はバリヤードを抱きしめる。

こんなに優しい、私の友達。私の最初の友達。

姿が変わったくらいで、なくなってしまうわけなかったんだ。


しずく「どんなに姿が変わっても……ずっと、一緒だよ……」
 「バリバリッ♪」


私は姿が変わっても、こんなに愛おしいんだと、再確認出来て──やっと心の底から、安堵したのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「落ち着いた?」

しずく「……はい。すみません、いろいろご迷惑を……」

歩夢「もう……だから、そういうこと言っちゃダメだよ!」

しずく「す、すみませ……あ、えっと……。…………すみません」

歩夢「……ふふ♪ しずくちゃんらしいけど♪」

 「バリバリ♪」

しずく「むぅ……バリヤードまで……」


少し膨れてしまう。


歩夢「それにしても……私が知ってるバリヤードと少し違うかも……」

しずく「はい。この子はガラルで出会ったマネネが進化したバリヤードなので……」


図鑑を開いて歩夢さんに見せる。

 『バリヤード(ガラルのすがた) ダンスポケモン 高さ:1.4m 重さ:56.8kg
  タップダンスが 得意。 足の 裏から 出す冷気で つくった
  氷の 床を 蹴り上げ バリヤーの ごとく 身を 守る。
  凍らせた 床の 上で 1日 タップダンスに 励んでいる。』


歩夢「ガラルのバリヤードは、こおりタイプもあるんだね」

しずく「はい♪」
 「バリバリ♪」


歩夢さんとバリヤードの新しい姿について話しているうちに──激しい雨の音はすっかり消えており、


歩夢「……雨……あがったね……!」

しずく「……はい!」


気付けば雲の隙間から、夕日の茜が差し込んできて、私たちを照らしていた。

それとほぼ同時に──


侑「おーーい!! 歩夢ーーー!! しずくちゃーーん!!」
かすみ「やっと見つけましたよー!! しず子ーーー!! 歩夢せんぱーい!!!」


川の向こう岸から、かすみさんと侑先輩が、私たちを呼んでいた。


歩夢「侑ちゃーん! かすみちゃーん! 今そっちに行くねー! トドグラー、もう一度向こう岸まで泳げる?」


雨も落ち着いて、少しずつ大人しくなってきた川を渡ろうとする歩夢さん。


しずく「歩夢さん、もう泳いで渡らなくても大丈夫ですよ」

歩夢「え?」

しずく「ね、バリヤード♪」
 「バリバリ♪」


バリヤードがタップダンスを踏みながら、川へと歩いていくと──彼の足元が凍り付いて、氷の道が出来上がる。


歩夢「わぁ……!」

しずく「行きましょう、歩夢さん♪ 二人が待ってます♪」

歩夢「うん♪」


私はバリヤードと共に──雨の晴れた10番道路を、再び歩き始めたのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【10番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      ●| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.25 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.32 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.32 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:172匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.43 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.41 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.38 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.33 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.28 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:170匹 捕まえた数:17匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.48 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.48 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.45 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.39 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:167匹 捕まえた数:5匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.43 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.40 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.39 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.37 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.38 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:8匹



 しずくと 歩夢と 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




『雑談しながらポケモンSVランクマ考察する2』
(14:51~開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817

 ■Intermission🎹



──4人の女の子が、砂漠のような世界を歩いているのを足元から見上げていた。


 「……あつ、すぎ……る……」

 「我慢しなさい……暑いのはみんな同じよ……」

 「こんなときのために、発明したものがある」

 「発明?」

 「自立式自動日傘ロボット『パラソル君』」

 「おぉ~傘が開いた」

 「いや……大きすぎでしょ……どこにしまってたのよ……」

 「布部分は真空圧縮してる。携帯性抜群」

 「でも、快適だよ~……生き返る~……」

 「はぁ……じゃあ、進みましょうか」


そう言って、リーダーらしき女の子の一声で一行は歩き出すけど──


 「……いや、遅すぎるんだけど……」

 「風の抵抗をモロに受けるから、このスピードが限界」

 「むしろ、これくらいゆっくりな方が楽でい~よ~♪」

 「今すぐ閉じて進むわよ」

 「えぇ~!? なんで~!?」

 「ま、日が暮れると砂漠はめちゃくちゃ冷えるからね……それはそれでしんどいし」

 「ちぇ~……わかったよぉ~……」


のんびり屋さんっぽい女の子が項垂れると同時に── 一陣の風が吹く。


 「……!? い、今のって~……!?」

 「……お出ましみたいね」

 「──、下がって……」

 「う、うん……」


女の子に抱き上げられながら、下がっていく。

緊迫する空気の中──


 「──フェロッ」


真っ白な体躯のポケモンが、猛スピードで突っ込んできた──



──
────
──────


侑「…………」


身を起こす。


侑「…………また…………変な夢……」


もうこの夢を見るのは何度目だろうか。

今回はいつもよりも登場人物が多かったけど……。……しかも、見覚えがあるような、ないような……。

だけど、やっぱり絶妙に思い出せない……。

暗がりの中で、ぼんやりと周囲を見回すと、


歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
 「…zzz」


歩夢がシュラフの中で、サスケと一緒に寝息を立てていた。


リナ『侑さん? どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||


私が起きたことに気付いたのか、リナちゃんがふわりと私の目の前に現れる。


侑「ちょっと目が覚めちゃっただけだよ」

リナ『雨の音のせいかな?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんにそう言われて──確かに私たちのテントに雨粒が当たっている音がしていることに気付く。


侑「せっかく止んだのに……また降ってきちゃったんだね」

リナ『10番道路は天候が変わりやすいから仕方ない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんと話していると、


 「ブイ…?」


私のシュラフで一緒に寝ていたイーブイが、寝ぼけまなこで私のことを見上げていた。


侑「あ、ごめんね。起こしちゃったね……まだ寝てていいよ」


イーブイを撫でながら言うと、


 「ブイ…♪」


気持ちよさそうな声をあげたあと、また丸くなって、眠り始めた。

イーブイや歩夢たちの睡眠の妨げにならないように、私は声のボリュームを1段階落とす。


侑「かすみちゃんたちのテントは平気かな……?」

リナ『川からは離れてるし、雨自体もそんなに強くないから大丈夫だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ならいいんだけど……。…………ふぁぁ……」

リナ『まだ朝まで時間があるから、ちゃんと寝ておいた方がいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……そうする……」


もぞもぞとシュラフに潜り込み、もふもふのイーブイを抱きしめる。


侑「イーブイ……あったかい……」
 「……ブィ…zzz」


もふもふでぽかぽかなイーブイを抱きしめていると、私の意識はまたすぐに眠りへと落ちていくのだった。


………………
…………
……
🎹


■Chapter044 『急転』 【SIDE Setsuna】





菜々「……やはり、雨ですね」


マンションのエントランスから空を見上げると、灰色の空から雨が降り注いでいた。

不幸中の幸いとも言えるのは、昨日の午後のような、記録的な土砂降りではないことくらいだろうか。

昨日は大雨のせいで、公共交通機関にも乱れが生じるほどだったそうだ。

夕方ごろに一度、晴れこそしたものの……また明け方に掛けて天気が崩れ、雨になっている。

ただ、ここは整備の行き届いたローズシティ。

普通の雨くらいなら、舗装された道路を歩くのも、そこまで苦ではない。

私は真っ赤な傘を差して、仕事へと向かう。





    🎙    🎙    🎙





本日の仕事は、数週間後に控えた、ビジネス発表会のための打ち合わせだそうだ。

会議を行うビジネスタワーで入館手続きを済ませ中に入ると、ローズシティ内の様々な企業の人たちの姿が目に入る。

件のビジネス発表会というのは、このローズシティの中でもかなり大きなビジネスショウの一つで、ローズ中の会社が集うイベントとなる。

真姫さんはローズシティにある、かなりの数の企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢ということもあり、顔を出さないわけにはいかない。

そして、そんな真姫さんのスケジュール管理と業務補佐をするのは、秘書である私の役目だ。


菜々「真姫さんは……もう会議室の方に行ってるのかな」


エントランスホール内には姿が見えないので、私は会議室の方へと足を運ぶ。

それにしても、本日の会議は急に決まったものだと言うのに人が多い。

やはり──噂のスーパーモデルの飛び入り参加が大きいのだろう。

一応、昨日のうちに件の人物については調べておいた。

──アサカ・果林。4年ほど前に突如モデル界に現れ、その抜群のプロポーションと人の目を引くカリスマ性で、そちらの界隈ではかなり話題になっていたそうだ。

私は……家庭の方針でそういう浮ついたものには触れさせてもらえなかったので、あまり知らなかったけど……。

今ではファッション業界や化粧品会社などから、多くの仕事を請け、広告塔としても有名のようだ。

そんな彼女とお近づきになっておきたい企業はいくらでもある。

だから、このような急なスケジュールでも、多くの企業から人が出張ってきているのだろう。

エントランスホールから廊下を抜け、エレベーターホールに差し掛かったとき、


菜々「……あ」


ちょうど、エレベーターに乗り込むお父さんの後ろ姿がちらっと見えた。

──お父さんも、今日の会議にいるんだ……。

お父さんもニシキノグループの関連企業の人間だ。いてもおかしくはないけど……。

父の姿を見ると、少しだけ緊張してしまう。


菜々「……落ち着きなさい、菜々。……私はあくまで秘書として、仕事をこなすだけです」


小さく呟きながら、自分を落ち着かせる。

いつもどおり、真姫さんの傍で真姫さんを補佐することに専念すればいい。

次のエレベーターが来るのを待ちながら、息を整えていると──エレベーターホールの向こう側から、


 「──……もう……会議室はどっちなのぉ……?」


そんな声が聞こえてきた。


菜々「……?」


エレベーターホールの向こう側って……非常階段だよね?

私はエレベーターホールを抜けて、非常階段の方に足を向ける。

すると──深い青みがかった髪をウルフカットにしている、長身の女性がいた。

まさに昨日調べていた人、


菜々「……アサカ・果林さん……?」

果林「……え?」


──アサカ・果林さんその人だった。


菜々「こんなところで、どうかされたんですか?」

果林「え、えぇっと……。……会議室に行きたいんだけど」

菜々「会議室ですか……?」


もしかして……道に迷っている?

いやでも……会議室はエントランスホールからエレベーターホールで上の階に行くだけだし……。

どうやっても、この非常階段に来る間にエレベーターの前は通るはずなんだけど……。

……まあ、いいか。困っているのなら、助けることに理由はいらないでしょう。


菜々「私も会議室に用があるので、よろしければ一緒に行きましょうか」

果林「ホントに……? 助かるわ……」

菜々「こちらです」


私は果林さんと共に会議室へと赴く──





    🎙    🎙    🎙





──エレベーターで上階へ昇りながら、


果林「貴方……もしかして、真姫さんの秘書かしら?」

菜々「え……?」


果林さんから、そう話を振ってきた。


菜々「えっと……はい、確かにそうですが……」

果林「やっぱり」

菜々「よくご存じでしたね……」

果林「真姫さんの秘書は若い女の子だって聞いていたから……。このビルで見かけた人の中でも、貴方は飛びぬけて若い子だったから、もしかしてと思って」

菜々「なるほど……」

果林「確か……ナカガワ・菜々さんよね」

菜々「はい」

果林「まだ16歳って本当なの?」

菜々「は、はい……真姫さんに直接秘書にならないかとお声を掛けていただいて……」

果林「若いのに、有能なのね」

菜々「い、いえ、そんな……///」

果林「それに、可愛い顔してる……」

菜々「はいっ!?///」


果林さんの言葉に、思わず声が裏返る。


果林「その容姿なら、きっと人気者になれるわよ?」

菜々「か、か、からかわないでくださいっ!!///」


思わず、果林さんから目を逸らす。

この人は急に何を言い出すんだ。


果林「ふふっ、ごめんなさい。でも、可愛いって思ったのは本当よ?」

菜々「ぅぅ……///」


顔が熱い。ポケモンバトルを褒められることはよくあるけど、こんな風に容姿を褒められるのには慣れていない。

しかも──今の私は菜々モードだ。眼鏡に三つ編みで、比較的地味な見た目にしているはずなのに……。


果林「ふふ……隠してもダメよ? お姉さんには、わかっちゃうんだから」

菜々「だ、だから……か、からかわないでください……///」

果林「ふふ、ごめんなさい♪」


果林さんが、いたずらっぽく笑うのとほぼ同時に──ピンポーン。という音と共に、エレベーターが目的の階に到着する。

エレベーターのドアが開くと果林さんは、


果林「案内してくれてありがとう、それじゃまた後でね」


そう残して、先に行ってしまった。


菜々「……はぁ……///」


一緒にエレベーターに乗っていただけなのに、なんだか気疲れしてしまった。


菜々「……これから、大事な会議なんだから、しっかりしないと」


私は動揺を飛ばすために頭を振り、果林さんの後を追ってエレベーターを降りるのだった。

──余談ですが、何故か果林さんが会議室に姿を現したのは、会議開始時間ギリギリでした。……ちゃんと会議室まで案内してあげた方がよかったのかもしれません。




    🎙    🎙    🎙





──さて……。会議は滞りなく終わり、


菜々「真姫さん、お疲れ様です。こちら、本日の内容を簡単にまとめたものです」

真姫「ありがとう、菜々」


他の参加者たちはまばらに退室を始めているところだ。

真姫さんに情報をまとめた端末を渡しながら、周囲を軽く確認すると──果林さんはもう退室していて少しだけ安心する。

それと……お父さんの姿も、すでに会議室内にはなかった。

真姫さんもお父さんの姿がもうないことを確認したのか、


真姫「菜々、大丈夫だった?」


そう訊ねてくる。


菜々「はは……確かに、父と同じ場所で仕事をしていると思うと、少し緊張はしましたが……会話をしたわけでもないですし……問題ありません」

真姫「なら、いいけど」


……始まる前や終わった後に、少しくらい話しかけられるかなと思ったけど……そんなこともなかったし……。


真姫「私たちも、出ましょうか」

菜々「はい」


私は真姫さんと一緒に、会議室を後にする。

二人でエレベーターを降りながら、真姫さんはふと会議中のことを思い出したらしく、


真姫「そういえば、貴方……アサカさんから随分熱い視線を送られてた気がするけど……知り合いだったの?」


そう訊ねてくる。


菜々「え、ええっと……ここに来る前に、会議室の場所がわからずに困っていたので……場所をお教えした際に少しお話ししまして……」

真姫「あら……少し話しただけで随分気に入られたのね」

菜々「き、気に入られたというか……私が分不相応に若いから、気になっただけですよ……」


本当に気に入られたというよりも、からかわれただけですし……。

場が場だけに、私は一際若い……というか、他の人から見たら子供ですし……。


真姫「案外、トップモデルから見ても、光るモノを感じられたのかもしれないわよ?」

菜々「ま、真姫さんまで……やめてください……///」


恥ずかしいから、からかわないで欲しい。

せつ菜モードでなら、褒められてもうまく対応できるのに、菜々モードのときにこういうことを言われるとワタワタしてしまう。


真姫「それにしても……そういうのはマネージャーの仕事だと思うんだけど……」

菜々「言われてみればそうですね……」


会議中、果林さんの背後には、スーツを着た金髪のお姉さんが居ましたが……恐らくあの方がマネージャーなんだと思います。

会議室にギリギリで入ってきたときは一緒にいたので、会議室のある階で合流出来たのかもしれませんが……。


真姫「まあ……滞りなく会議も終わったし、別にいいけど」


確かに向こうの事情は向こうにしかわからない。

果林さんはあまりマネージャーに頼らない方針なのかもしれないし……。

せめて、行き先にたどり着けるようにしてあげて欲しいですが……。

二人で話しながら、エントランスホールへと戻ってくる。


菜々「……そういえば、真姫さん。そろそろ、ジムの挑戦者受付時間ですよね?」

真姫「ええ、わかってる。私はジムに戻るから、菜々は……」

菜々「私は今日の会議の内容をちゃんと纏めて、後で持って行きますね」

真姫「ありがとう。お願いね」

菜々「はい。お任せください」


真姫さんはジムに戻るために、一足先にビジネスタワーを後にする。

私は……どうしようかな。タワー内には一般の人も使える、カフェスペースがあるし……そこで資料を纏めようかな。





    👠    👠    👠





愛「カリンさー、どうすれば一本道で迷うわけ?」

果林「い、いいじゃない……ちゃんとたどり着けたんだから……。それに愛こそ、マネージャー役なのに、私を無視して先に行っちゃうのはどうなのかしら?」

愛「気付いたら、いなくなってただけじゃん……せっつーもカリンを見つけたときはさぞ驚いただろうね。“タワー”にカリンおっ“たわー”! って感じで」

果林「はいはい……じゃあ、私が悪かったってことでいいわよ……」

愛「いや、愛さんに悪いところ一つもないと思うんだけどなー……。それより、この後どうすんの? 逃走経路の確保と、ここらの監視カメラのクラッキングはやっておいたけどさ」

果林「大丈夫よ。もう全部──仕掛けてあるから」


──直後、ドンッと何かが壊れるような大きな音がする。


果林「さて……どうなるかしらね」


私は今後の展開を思い、口角を釣り上げた──




    🎙    🎙    🎙





菜々「……これでいいかな」


ある程度今日の会議の内容が纏まって来たところで一息。

目の前がガラス張りになっているカウンター席で、エントランスホールを眺めながら、コーヒーを飲む。

程よい苦みと香りが心地いい。

作業もスムーズに進んだし、この後は少し時間が浮く。

真姫さんへ資料を渡したあと、久しぶりにローズの街を散歩するのも悪くないかもしれない。

どうせ、また明日からはせつ菜として、この街を離れるわけだし……。

ぼんやりと今後のことを思案していた──そのときだった。

──ドンッ!! と急に大きな音が、響く。


菜々「!? ……な、なに……?」


爆発……? 周囲のお客さんも突然の大きな音に、ざわついている。

音がしたのは……エレベーターホールの方……?

何が起きたのか考えている間に──エレベーターホールの方から、逃げ惑う人の波がエントランスの方へと押し寄せて来た。

その姿にさらにざわめく店内。

何かがあったのは間違いなかった。

私はバッグをひったくるように手に取り、店の外に駆けだす。

カフェスペースから外に出る頃には──この騒動の正体が、すでにエントランスホールまで姿を現していた。


 「──バーンギッ!!!!!」


エレベーターホールの方から、怪獣のような巨体が、我が物顔で歩いてくるではないか。


菜々「ば、バンギラス……!?」


姿を現したのは、よろいポケモン、バンギラス。当たり前だが、こんなところにいるはずがない。

ここはローズシティの、それも中央地区にあるビジネスタワーだ。

突然のことに動揺を隠せないが──それ以上に、エントランスホール内の混乱は酷かった。

逃げ惑う人たちから、怒号が飛び交い、押し合い圧し合いで、逃げ惑う。

まさに、パニック状態だった。

パニックの最中、


女性「きゃぁ……!!」


逃げ惑う人たちに押されて、転んだ女性が目に入る。


 「バンギィ…!!!!」


バンギラスは声をあげながら、転んだ彼女の方に視線を向ける。


女性「……い、いや……! だ、誰か……たすけ……!」

菜々「……! いけない……!!」


私は咄嗟に走り出す。

迷っている暇なんかなかった。

バッグの中から、ボールベルトごと引っ張り出して、


 「バァンギッ!!!!!」

女性「いやぁっ……!!」


女性に向かって襲い掛かるバンギラスに向かってボールを投げた。

──ボムという音と共に、


 「──ドサイッ!!!」

 「バンギッ…?」


現れた巨体が、バンギラスの拳を受け止める。


菜々「ドサイドン!! “ロックブラスト”!!」
 「ドサイッ!!!」


組み合った手とは逆の掌を、バンギラスに突き付け──至近距離で岩石の砲弾を発射する。


 「バンギッ!!?」


──ドンッ、ドンッ! と音を立てながら、岩の砲弾がバンギラスを吹き飛ばす。


菜々「大丈夫ですか……!?」

女性「は、はい……っ……」

菜々「ここは私がどうにかします……! 貴方は逃げてください!」

女性「あ、ありがとうございます……っ……」


よろよろと立ち上がる彼女を手助けしながら、どうにか送り出すと──


 「バァンギッ!!!!」


鳴き声と共に、私たちの方に向かって大岩が飛んでくる。


菜々「……っ! “ドリルライナー”!!」
 「ドサイッ!!!」


頭のドリルを回転させて、飛んできた岩を破壊する。

が、その隙に、


 「バァンギッ!!!!」


バンギラスが突撃してくる、


菜々「くっ……!」


まだ背後には逃げ遅れた人たちがいる。止めなくちゃ……!


せつ菜「ドサイドン! 受け止めなさい!!」
 「ドサイッ!!!」

 「バンギッ!!!!」


二つの岩の巨体がぶつかって、がっぷり四つで組み合う形になる。

私のドサイドンはパワーが自慢。組み合いさえしてしまえば並のポケモン程度にはまず力負けしない──


 「バンギィッ!!!」

 「ド、ドサィ…ッ!!!」
菜々「な……!?」


が、私の予想と反して、ドサイドンが押され始める。

さらに、


 「バァンギッ!!!!」


組み合いながら、バンギラスが首を伸ばして、ドサイドンの肩に噛みついてくる。

この状況で“かみくだく”……!?

いや、それだけじゃない。パキパキと音を立てながら、バンギラスの噛み付いた部分が凍り付いていく。


菜々「まさか“こおりのキバ”……!?」


このバンギラス──強い。しかも、恐ろしく戦い慣れている。


 「ド、ドサイッ…!!!」


これは──これ以上、組み合っちゃいけない……!


菜々「“アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!」


ドサイドンは片手を振り上げ、それをバンギラスの肩の辺りに勢いよく振り下ろす。

──ガンッ! と大きな音を立てながら殴りつけられたバンギラスは、


 「バンギッ…!!!」


さすがに、噛みつき続けていられずに、体勢を崩す。

そこに向かって、


菜々「“アイアンテール”!!」
 「ドサイッ!!!!」


ドサイドンが身を捻りながら、尻尾にある大きな石鎚を叩きつけた。


 「バァンギッ!!!?」


遠心力を利用した尻尾のハンマーの威力に、バンギラスが数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 「バン、ギッ…」


崩れる瓦礫と砂煙の中──やっとバンギラスは大人しくなる。

と同時に──バンギラスが何かに吸い込まれて小さくなっていく。


菜々「……!?」


一瞬、何かと思ったが──


菜々「まさか、トレーナーがいる……!?」


今のは、バンギラスがボールに戻されただけだ……!!

そう気付いて、


菜々「待ちなさい……!!」


私は駆け出した。

だけど、砂煙と瓦礫に視界を遮られているせいで──犯人の姿を見つけるのは、とてもじゃないが困難だった。


菜々「く……」


先ほどバンギラスが倒れた瓦礫の向こう側に辿り着いた時には──すでに人影のようなものは見当たらず……。


菜々「逃げられましたね……」


私は苦々しい顔で、肩を落とす。

それにしても……どうしてこんなことが……。

これが人為的なものであるなら……ポケモンによるテロ行為と言って差し支えない。

到底許されるものではない……。

私が怒りに肩を震わせながら、振り返ると──


菜々「……え」


そこには──お父さんがいた。

お父さんが、信じられないものを見るような目で──私を見つめていた。


菜々「お、とう……さん……」

菜々父「……菜々、どういうことだ」


──どういうことだ。

その言葉が、この事態に対する説明要求──でないことは、すぐに理解出来た。

父の表情を見て──理解、してしまった。

ポケモンと、共に戦う私に対しての──『どういうことだ』。


 「ド、ドサイ…」
菜々「こ、れは……そ、の……」


何か誤魔化さなきゃ。そう思ったけど、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。

言い訳なんて、出来るはずがない。

自分の気が──どんどん遠くなっていくのを感じた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「到着しましたー!! ローズシティ!!」
 「ガゥガゥ♪」

侑「うん!」
 「イブィ♪」


──雨模様の10番道路の長い道のりを越え……私たちはようやく、ローズシティにたどり着いた。

さて、ローズシティに着いたならまずは……。


侑「ローズジムだよね!」

かすみ「侑先輩、さすがわかってますねぇ~!」


かすみちゃんと二人で黒と黄色の傘を並べながら意気揚々と、歩き出す。


歩夢「あ、侑ちゃん……ローズを歩くなら、イーブイをボールに入れないと……」

侑「え? どういうこと?」


歩夢の言葉に首を傾げる。


リナ『ローズシティでは、あんまりポケモンの連れ歩きが推奨されてない。基本的にボールに入れてた方がいい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、そうなの?」

しずく「本当に厳しいのは中央区だけなんだけど……基本的にはポケモンはボールに入れておいた方がいいかもね」

リナ『無用なトラブルは避けたいしね。郷に入っては郷に従え』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「ポケモンを出しちゃいけないなんて、珍しい街ですね~?」
 「ガゥ?」

侑「うーん……でも、そういうルールなら従わないわけにもいかないよね……」

かすみ「まあ、それもそうですね……戻って、ゾロア」
 「ガゥ──」


かすみちゃんがゾロアをボールに戻す。

歩夢も同様に、


歩夢「ちょっと窮屈だけど……ボールの中で大人しくしててね」
 「シャボ──」


サスケをボールに戻していた。

私も、イーブイを戻さないと……。


侑「イーブイ、しばらくボールの中に──」


私がボールを近づけると、


 「ブイッ」


イーブイは前足でボール弾き飛ばした。


侑「…………」
 「ブィィ…ッ!!!」

かすみ「なんかめっちゃ怒ってますよ、イーブイ……」

歩夢「侑ちゃんのイーブイ……ボールに入るのが嫌いなんだよね」

侑「そうなんだよね……」


実はイーブイをボールに入れたことは一度しかなくて……自分の手持ちとして登録する際に一瞬ボールに入れたときだけだ。

何度かボールに戻そうとしたことはあるにはあったんだけど……ものすごく嫌がられるし、私の頭の上か、肩の上にいるのが好きみたいだから、ずっとボールには入れてなかったんだよね。


侑「どうしよう……」

しずく「ボールに入れられないなら……抱きかかえて歩くのがいいかもしれませんね。……抱きしめていれば、突然飛び出したりしないとわかってもらえるでしょうし……」

リナ『しずくちゃんの言うとおり、たぶん抱っこしてれば大丈夫だと思う。中央区にはあんまり行かない方がいいだろうけど、ジムがあるのは街の外側だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん……そうするしかないね……」
 「ブイ…?」

侑「歩夢、ちょっと傘持っててもらっていい?」

歩夢「うん」


歩夢に傘を持ってもらい、頭の上のイーブイを両手で掴んで、そのまま胸に抱きかかえる。


侑「これならいい?」
 「ブイ♪」


どうやら、これなら許してもらえたようだ。歩夢から傘を受け取りながら、空いた方の手でイーブイをしっかり胸に抱き寄せる。


侑「それじゃ、ジムに行こっか!」

かすみ「はい! 腕が鳴りますね~!!」


私たちはローズジムを目指して、ローズシティの地に足を踏み入れます!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──ローズシティは外側部は低い建物が多くて、中央区に近付くほど、高いビルが増えていくんですよ」

侑「じゃあ……あっちの方向が中央区なんだね」


私は一際背の高いビルの方に目を向ける。


リナ『一番高いのはセントラルタワーって言うんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

しずく「一番背の高いセントラルタワーを中心に、同心円状にビルの高さが変わって行くんです。なので、夜のローズシティを上空から見ると、夜景が光の山のように見えるそうですよ」

かすみ「なにそれなにそれ~! 絶対きれいなやつじゃん!」

リナ『ただ、中央区の中でもセントラルタワーの上空付近は飛行許可を取らないと、“そらをとぶ”も使えないから、一般人が見るのはなかなか大変みたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「噂には聞いてたけど……ローズシティって本当に厳重なんだね……」

しずく「この地方の商業、工業の要ですからね……。この街の中央区が止まると、同時にいろんな物流が止まってしまうそうなので……」

リナ『モンスターボールなんかも、このローズシティから出回ってるしね。ボールの出荷が停止すると、どこも困っちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ポケモンは少ないけど、トレーナーにとっても重要な街なんだね」
 「イブィ?」


オトノキ地方の大きな街の中でも、いろんなポケモンの姿が見られるセキレイシティとは真逆だけど……この街はこの街で、重要な役割を担っているみたいだ。


しずく「中央区とは逆に外周区には、ポケモン用の施設が多くあります。ポケモンセンターやバトル施設……それこそ、ポケモンジムも外周区にありますね」

リナ『多いって言っても、街の規模に対して考えると少ないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「まあ、そのお陰でこーんなおっきな街でも、すぐにジムにたどり着けるけどね!」


そう言いながら、私たちはまさにローズジムの前に到着したところだった。


侑「ここがローズジム……! なんだか、今からジム戦するって考えただけで、ときめいてきちゃう!」
 「イブィ♪」


ローズジムの真姫さんとはどんなバトルになるんだろう……! 楽しみで、今からときめきが止まらない……! ついでにサインも貰わないと……!


リナ『侑さん、ときめくのはいいけど、もう一個目的があるの忘れないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「もちろん! 千歌さんのルガルガンを渡すことだよね!」


このために研究所から、真っすぐローズシティまできたわけだしね!


侑「それじゃ、入ろうか」


私は早速ローズジムの中に入ると、


真姫「──あら、いらっしゃい。チャレンジャーかしら?」


ジムの中には、早速ジムリーダー──真姫さんの姿。


侑「わ……! 本物の真姫さん……! とりあえず、サイン色紙……」

リナ『侑さん、目的……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢が苦笑している。

一方で真姫さんは、


真姫「あら……? そのロトム図鑑……もしかして、貴方が侑?」


何故か私の名前を言い当ててくる。


侑「え!? な、なんで知ってるんですか……!?」

真姫「善子から聞いてるわ。ジムに挑戦するついでに、千歌のルガルガンを持ってきてくれたのよね」

侑「あ、は、はい!」


私は小走りで真姫さんのもとに駆け寄り、


侑「このモンスターボールの中に、千歌さんのルガルガンが入ってます……!」


真姫さんに手渡す。


真姫「ありがとう。確かに受け取ったわ」

侑「は、はい! あ、あの……それと……」

真姫「何かしら?」

侑「もしよかったら……サインください!」

真姫「ふふ、いいわよ」

侑「やったー! ありがとうございます!」


私がバッグから、サイン色紙を取り出そうとすると、


かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」


かすみちゃんが大きな声をあげる。


かすみ「侑先輩! サインは後ですよ! かすみんたちはジム戦をしに来たんですから!!」


そう言いながら、かすみちゃんが前に出てくる。


真姫「あら……ということは貴方もチャレンジャーかしら?」

かすみ「はい! かすみんは、セキレイシティから来たかすみんです!」

真姫「かすみん……? 変わった名前ね?」

しずく「す、すみません……この子の名前はかすみさんって言います……。……もう、初対面の人に変な自己紹介したら、めっ! って何度も言ってるでしょ!」

真姫「ああ……にこちゃんのにこにー的なアレね……」

かすみ「ちょっとぉ!! あんなのと同じにしないでくださいよ!」

真姫「まあ、それはいいんだけど……侑とかすみ、どっちと先にジム戦すればいいのかしら?」


真姫さんは私とかすみちゃんを交互に見ながら、そう訊ねてくる。


しずく「そういえば、どっちが先にジム戦をするかの話、してなかったね……」

かすみ「……侑せんぱ~い……? かすみんが先にジム戦しちゃダメですかぁ~……?」


かすみちゃんが可愛くおねだりしてくる。


侑「ふふ、いいよ♪ 私はかすみちゃんの後で大丈夫だから!」


そう答えて、私は一旦見学スペースの方へと歩いていく。


かすみ「あ~ん♡ 侑先輩優しいですぅ~♪ 好き好き~♡」

しずく「侑先輩……いいんですか?」

侑「うん。むしろ後の方が、かすみちゃんとの試合を見て、対策も立てられるし」

かすみ「任せてください! かすみんがしっかり勝ち方を見せてあげちゃいますから!」


かすみちゃんは私と入れ替わるように歩み出て、チャレンジャー用のスペースに着く。


真姫「話は付いたみたいね。それじゃ、さっさと始めましょうか」

かすみ「よろしくお願いします!」


真姫さんがジム戦用のポケモンのボールを携え、フィールドに立った──そのときだった。


使用人「──お嬢様、お電話が入っております」


ジムの奥から、いかにもな使用人さんが電話を持って現れる。


真姫「電話……? ちょっと待ってもらっていいかしら」

かすみ「あ、はい。わかりました」

真姫「ありがとう」


真姫さんはお礼を言いながら、使用人さんの持ってきた受話器を受け取る。


真姫「誰から?」

使用人「それが……警察の方からです……」

真姫「……警察?」


真姫さんは電話の主を聞いて、眉を顰める。


真姫「もしもし……真姫だけど」


かすみ「今、警察って言いませんでした……?」

リナ『ジムリーダーは街の治安維持も仕事だから、警察から連絡が来ることもあるとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「うん……何か、あったのかな?」

かすみ「なーんか、嫌な予感がしますぅ……」


ひそひそと話しながら、通話の行く末を見守っていると、


真姫「………なんですって?」


真姫さんの眉間にシワが寄るのがわかった。──そのまま目を細めて通話先の話を聴き、


真姫「……わかった。すぐ行くわ」


そう返して、通話を切った。

そして、かすみちゃんに向かって、


真姫「ごめんなさい……ちょっと、急用が出来て、どうしても出なくちゃいけなくなったわ」


申し訳なさそうに、そう伝えて来る。


かすみ「や、やっぱり……」

真姫「本当にごめんなさい……」

かすみ「あ、あのぉ……それじゃ、ジム戦……いつなら出来ますか……?」

真姫「……ちょっと、本当に緊急事態だから、しばらくジムを閉めるかもしれないわ」

かすみ「ええ!? そ、そんなぁ……!」

真姫「本当に急ぐから申し訳ないけど、ジムは他の場所から巡って頂戴」


それだけ残すと、真姫さんは私たちの横を通り過ぎ、駆け足でジムから立ち去ってしまった。


かすみ「ま、またこのパターン……」

リナ『かすみちゃん……ドンマイ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

しずく「ここまで来ると、なんて声を掛ければいいやら……」

かすみ「……もう、いいです。慣れました……」


がっくりと肩を落とす、かすみちゃん。


しずく「と、とりあえず、ポケモンセンターのカフェスペースにでも行こ! ね?」

かすみ「……うん」


とぼとぼとジムから出ていくかすみちゃんと、そんなかすみちゃんを慰めるしずくちゃん。


歩夢「侑ちゃん、私たちも行こっか」

侑「う、うん」


とりあえず、ジムリーダーがいなくなってしまったし、この場にいても仕方ないので、私たちは一旦ポケモンセンターへと移動することに……。




    🎹    🎹    🎹





私たちがポケモンセンターに到着すると、どうして真姫さんが飛び出して行ったのかがわかった。

カフェスペースに備え付けてあるテレビモニターからは──警察車両に囲まれた建物の映像。


しずく「中央区のビル内で人がポケモンに襲われたって……」

かすみ「だ、大事件じゃないですかぁ!?」

歩夢「怪我人も出てるって……大丈夫かな……心配……」


3人の言うとおり、ビジネスタワーのビル内で、ポケモンが大暴れする事件が発生したらしい。

偶然居合わせたポケモントレーナーによって、どうにかそのポケモンを無力化することは出来たらしいけど……怪我人も出ているらしい。

不幸中の幸いというべきなのは、怪我人は転んで軽傷を負った程度のもので、襲われたことが原因で大怪我をした人はいないとのこと。


侑「これじゃ……ジムを飛び出して行ってもおかしくないよね……」
 「ブィ…」

リナ『うん。ジムリーダーは街を守るのも仕事だからね』 || ╹ᇫ╹ ||


それこそ、ジム戦をしている場合じゃない状況だ。


しずく「こうなってくると……当分の間はジム戦は難しそうですね……」

かすみ「うぅ……さすがにこれは仕方ないよねぇ……」

リナ『中央区は安全確認が出来るまで、立ち入りも出来ないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


となると……この街で出来ることはかなり限られてくる。

それに、どのタイミングでジム戦受付が再開されるかもわからないし……。


侑「……真姫さんの言ってたとおり、他のジムを先に巡っちゃう方がいいかもしれないね」

しずく「そうですね……ここで待っていても、本当にいつジム戦の受付を再開するかもわからないですし……」

リナ『そうなると……東のクリスタルレイクを越えた先のクロユリシティに行くか、街を北に抜けて11番道路沿いに西のヒナギクシティを目指すかになると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「クロユリかヒナギクかぁ……」

歩夢「クロユリとヒナギクは、ローズシティを経由するから……どちらにしろ、どっちかの町に行ったら、ローズに戻ってくることになるね」

侑「考えようによっては、むしろ都合がいい気もするけど……」


どちらにしろ、ローズにジム戦をしに戻ってくる必要はあるわけだしね。

ただ、問題はどっちに進むかだ。


侑「私は……クロユリに行きたいかな」

リナ『何か理由があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「私、クロユリのジムリーダーの英玲奈さんに会ってみたいんだ」


──彼女はこのオトノキ地方の中で最強のジムリーダーと呼ばれている。

ジムリーダー序列というジムリーダー内での総当たり試合の勝率でも頭一つ抜けているし、その実力は四天王と同等……もしくはそれ以上なんて噂もあるくらいの人だ。

ストイックで鍛錬に余念がなく、むしポケモンによる畳みかけるようなバトルスタイルから、付いた通り名は『壮烈たるキラーホーネット』。

まさにポケモンバトルのスペシャリストみたいな人だ。

もちろん、全てのジムを回る以上、いつかは会えるとは思うんだけど……クロユリかヒナギクかと言われたら、私はポケモンバトルのスペシャリストである英玲奈さんに会ってみたかった。


かすみ「じゃあ、次はクロユリシティですかね?」


行き先が決定しかける中、


しずく「あ、あのぉ~……」


しずくちゃんが遠慮がちに手を上げる。


歩夢「どうしたの? しずくちゃん?」

しずく「私は……その……。……ヒナギク側に行きたいなって……」


ここで予想外なことに、しずくちゃんから反対方向へ行きたいとの意見が出てきた。


かすみ「なになに? ヒナギクシティに何かあるの?」

しずく「うん……。私、クマシュンってポケモンと会ってみたくって……」

かすみ「クマシュン?」

歩夢「クマシュンって確か……寒い場所にいるシロクマポケモンだよね?」

しずく「はい……! ポケウッドスターのハチクさんの相棒──ツンベアーの進化前で……すっごく可愛いんです! 旅をするなら、実際に一度見てみたいとずっと思っていて……」

リナ『確かにクマシュンはグレイブマウンテンにしかいないから、会うならヒナギク方面に行かないといけないね』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに旅をするならジム巡り以外にも、そこにしかいないポケモンに会うのも楽しみの一つだよね。


侑「そういうことなら……ヒナギク方面に行く?」

しずく「えっと……でも、侑先輩はクロユリ方面が良いんですよね……?」

侑「それはそうなんだけど……後から行っても英玲奈さんには会えるし……」

しずく「その理屈で言うなら、私もクロユリに行った後でも大丈夫です……! すみません、後から余計なことを言ってしまって……」

侑「うぅん、ここはしずくちゃんの意見を優先しよう」

しずく「い、いえ、侑先輩の行きたい場所を優先に……」

かすみ「もう! なんで二人して譲り合ってるんですか!」


譲り合い合戦が始まってしまった私たちの間に、かすみちゃんが割って入る。


かすみ「なら侑先輩! 競争しませんか!」

侑「競争……?」

かすみ「はい! かすみんとしず子はヒナギク方面に、侑先輩と歩夢先輩はクロユリ方面に進んで──どっちが先にジム攻略出来るか、競争しましょう!」

侑「なるほど……」


確かに言われてみれば、4人で行動しなくちゃいけないわけじゃないし……行き先が割れちゃうなら、前みたいに、かすみちゃんはしずくちゃんと、私は歩夢と二人で旅をすればいい話だ。


侑「歩夢はそれでいい?」

歩夢「うん♪ 侑ちゃんと一緒なら、私はどっち方向でも♪」

リナ『それじゃ、決まりだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「かすみんたちは、ヒナギク方面へ!」

侑「私たちは、クロユリ目指して! 負けないよ、かすみちゃん!」

かすみ「かすみんも負けるつもりはないですよ! そうと決まったら、スタートダッシュです!」


かすみちゃんはいそいそと荷物を纏めて、


かすみ「しず子、行くよ!」

しずく「え、ええ!? 今すぐ行くの!?」

かすみ「だって、そうじゃないと侑先輩に負けちゃうじゃん! 早くして!」

しずく「わ、わかったから、引っ張らないで~……! ゆ、侑先輩、歩夢先輩、またローズで合流しましょう……!」

かすみ「レッツゴー!」


半ば強引にしずくちゃんの手を引きながら、かすみちゃんたちは慌ただしく旅立って行った。


侑「それじゃ、私たちも行こうか、歩夢、リナちゃん」
「イブィ♪」

歩夢「うん♪」

リナ『クロユリシティ目指して、リナちゃんボード「レッツゴー♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちもクロユリシティを目指して、ローズシティを後にするのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.50 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.50 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.48 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.42 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:176匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.44 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.42 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.35 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.30 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:17匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.45 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.42 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.40 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.38 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.39 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:171匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.28 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.33 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.33 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:11匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🍅



真姫「……これは予想以上に酷いわね」


──現場に到着した私は、『KEEP OUT』のテープを潜りながら、眉を顰める。


先ほど会議をしたビジネスタワーは外から見ても、中の惨状がよくわかる状況だった。

あちこちガラスは割れているし、中にはあちこちに瓦礫があって、砂煙が立ち込めている。

ここで戦闘があったというのは本当らしい。

私が、タワー内に立ち入ると、


ジュンサー「真姫さん……! お待ちしておりました!」


ジュンサーが私に気付いて、駆け寄ってくる。


真姫「これはまた……派手にやられたみたいね」

ジュンサー「はい……。ですが、お陰で助かりました……」

真姫「お陰で……? なんの話?」

ジュンサー「もしかして、まだご存じないんですか……? ポケモンを撃退したトレーナー──真姫さんの秘書の方と伺ったんですが……」

真姫「菜々が……?」


確かに菜々なら、並大抵のポケモンには負けることはないと思う。

ただ、そうなってくると、逆に気になることがある。


真姫「……それで、菜々──私の秘書は事件後、どこにいったのかしら……?」


これだけのことがあったのに、何故、菜々本人から連絡がないのかが不可解だ。


ジュンサー「警察の方から軽く事情を伺ったあと、彼女のお父様と一緒に帰られましたよ」

真姫「……え?」

ジュンサー「どうかされましたか……? 顔色が悪いですが……」

真姫「……いえ、大丈夫よ」

ジュンサー「それなら、いいんですが……。詳しい事件の詳細をお話ししますので、こちらに」

真姫「……ええ」


──まさか……菜々が戦っている場面に、菜々の父親もいたのでは……?

そんな疑惑が頭を過ぎる。


真姫「菜々……」




    🎙    🎙    🎙





菜々父「……この5つで持っているポケモンのボールは全てか?」

菜々「……はい」


──私は今、父の会社の社長室にいる。

そして、父の座る社長室の机の上には……5つのモンスターボールが並べられていた。

もちろん、私のポケモンたちだ。


菜々父「私の知らないところで、こんなものを……」

菜々「そ、その子たちを……どうするつもり……?」

菜々父「業者に引き渡して、逃がしてもらう」

菜々「!? だ、ダメ……!!」


私は、机の上に並べられたボールに覆いかぶさるようにして、自分の胸に抱き寄せる。


菜々父「……菜々、言うことを聞きなさい」

菜々「この子たちは、私の大切な仲間なの……! そんなこと出来ないよ……!」

菜々父「ポケモンは危険な生き物なんだ。これもお前のためを思って──」

菜々「どうしてお父さんは、そんなにポケモンを嫌うの!?」


大切な仲間たちを渡すまいと、私は5つのモンスターボールを抱きかかえたまま、後退る。


菜々「ポケモンは怖い生き物なんかじゃないよ!! お父さんはポケモンのことを知らないまま怖がってるだけだよ……!!」

菜々父「知らないまま、怖がっているだけか……」


お父さんは椅子から立ち上がり、私から背を向ける。


菜々「それなのに、知ろうともしないで危険だ、近寄るななんて言われても、納得できないよ……!!」

菜々父「……菜々……エレキッドというポケモンを知っているか」

菜々「え?」


まさか父の口からポケモンの名前を聞くことがあるなんて、思ってもいなかったから、面食らってしまう。


菜々「し……知ってるけど……」

菜々父「私は小さな山村に生まれてな。ある日、山の中で弱っているエレキッドを見つけたんだ」

菜々「……」

菜々父「私は放っておけず、そのエレキッドを家に連れ帰り、両親を説得した。元気になるまで、家で世話をさせてくれと」


……正直、私は驚いていた。あの父が、そんな風にポケモンに優しくしていた時期があったなんて、まるで想像が出来なかったから。


菜々父「保護したエレキッドは、みるみる回復していった。特にケチャップが好きなやつでな。あげると喜んで食べていたよ。次第にエレキッドは私たち家族に溶け込んでいき……我が家の一員となった」

菜々「……な、なら、どうして……」


この話のどこにポケモンを嫌う要素があるのだろうか。


菜々父「ある日……エレキッドが進化したんだ」

菜々「……エレブーに……?」

菜々父「そうだ。ただ姿が変わっただけだと思っていた私が、いつものようにエレブーにケチャップを持って行ったら──あいつは暴れ出した」

菜々「え……」

菜々父「これは後で知ったことだが……エレブーは赤いものを見ると、興奮して暴れ出す習性があるそうだ。……暴れるエレブーは、どんなに声を掛けても聞く耳を持たず、周囲に無差別に“ほうでん”を繰り返し、家は瞬く間に炎に包まれた」

菜々「……そんな」

菜々父「燃える家から命からがら逃げだす中、私の母親は、私を庇って“ほうでん”を受けた。……あのときの母さんの叫び声は、今も覚えている」

菜々「…………」

菜々父「その後、私も気を失ったらしい。父さんがどうにか、私と母さんを近くの病院まで運んで……次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。母さんは……酷い火傷と感電によって、包帯でぐるぐる巻きのままベッドに寝かされ──数日後に帰らぬ人になったよ」


お父さんは、私の方に振り返る。


菜々父「……何度自分を呪ったか。あのとき、もっと知識があれば。あのとき、エレキッドを助けなければ。あのとき……ポケモンと、関わらなければ、と」


お父さんは深く息を吐きながら、


菜々父「人とポケモンは……根本から違う生き物なんだと……」


そう、言葉にした。


菜々「おとう……さん……」


お父さんがそんな風にポケモンと触れ合っていたなんて、知らなかった。

ただ襲われて、ポケモンを嫌いになってしまっただけだと思っていた。


菜々父「……私は、ポケモンを知らないまま怖がっているかい。菜々」

菜々「それは……」


私は思わず言葉に詰まる。お父さんの苦しみは……ポケモンから受けた痛みは……きっと計り知れないものだったのだろう。

それも助けたポケモンに、家族を奪われるなんて……。


菜々「でも……そういうポケモンばかりじゃない……ポケモンと触れ合って、わかり合っていけば、どうやって接すればいいかもわかるはずだよ……!」

菜々父「今日のバンギラスのように、人を傷つけるポケモンもいる」

菜々「そうだけど……! でも、人を守るポケモンたちだっているよ……!」


私は今日みんなを守って見せたドサイドンのボールを手に持ち、前に突き出す。

この子が多くの人の命を守ったんだ。それはお父さんだって見ていたはず。

でも、お父さんはそんなことを意にも介していないかのように、質問を投げかけてきた。


菜々父「なら、聞こう。菜々。そのポケモンたちと一緒に過ごす間に、菜々は掠り傷一つ負わなかったか?」

菜々「……え?」

菜々父「菜々の大切な仲間たちは──私の大切な娘に掠り傷一つ負わせなかったか?」

菜々「え……と……」


私は思わず言葉に詰まる。

──捕まえたばかりのヒトデマンが何を考えているかわからなくて、無理やり言うことを聞かせようとして、顔に“みずでっぽう”を噴きかけられたことがある。

──いたずら好きのゴースに何度驚かされて、転んで擦り傷を作ったか。

──エアームドの抜け落ちた鋭い羽根で、ザックリ手を切ってしまったときは、血がたくさん出て、すごく焦った。

──サイホーンがなかなか懐かなくて、何度も追い回されたし、あの角でお尻を小突かれて痛い思いをした。

──最初の友達のガーディにだって……最初の頃は、何度も手を噛まれた。


菜々父「ポケモンは、人とは違う常識と、人とは違う力を持っている。思い当たる節があるんじゃないか」

菜々「……だから、ポケモンは危ないって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「だから、ポケモンと関わるなって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「そんなの、おかしいよ!!」


私は思わず声を張り上げる。


菜々「お父さんの言いたいこともわかるよ……でも、だからって、一生関わらないのが正解だなんて、おかしいよっ!!」

菜々父「……」

菜々「確かに最初はわかんなくって怪我したこともあったけど……それでも、今はちゃんと信頼し合えてる!! 人とポケモンはわかり合えるよ!!」


私はそうやってポケモンと手を取り合って強くなってきた。それは胸を張って言える。


菜々父「その保証がどこにある」

菜々「なんでわかってくれないのっ!?」

菜々父「お前に危ないことをして欲しくないだけだ」

菜々「っ……」


お父さんの言い分はわかる。

私を想って言ってくれていることもわかる。

だけど……だから、もうポケモンと関わるのは諦めろなんて言われても、納得なんて出来ない。


菜々父「どうやってポケモンとわかり合えることを証明する?」


どうすれば父を説得できるか。それが頭の中をぐるぐるする。

勉強してポケモンドクターの資格を取るとか……? ……そんなの一朝一夕でなれるようなものじゃない。

ポケモン研究者として、ポケモンの生態を研究し尽くして……。……いや、それだって、ポケモンと実際に触れ合わないと無理だ。

それに、なると言ってなれるものではない。

ポケモンの専門家たちは、途方もない時間を掛けて、やっとその地位や資格を手に入れるのだ。

私に出来ることなんて……バトルしか──


菜々「……!」


そうだ。私には……ポケモンバトルがある。


菜々「……チャンピオン」

菜々父「……なに?」

菜々「もし……私が、この地方で一番ポケモンを上手に扱える人だったら……証明になるはずだよ」


チャンピオン──それは、誰よりもポケモンたちと信頼し合って、誰よりも強くなったトレーナーに贈られる称号。


菜々父「菜々、いい加減に──」

菜々「すぐにでも、私がチャンピオンになって……証明するからっ!!」


私はそれだけ言うと、踵を返して、部屋から飛び出したのだった。





    🎙    🎙    🎙





──お父さんの会社から駆け足で飛び出すと、


真姫「菜々っ!?」


真姫さんとすれ違う。


菜々「真姫さん……」

真姫「菜々、お父さんと話したの……?」

菜々「……真姫さん、これ」


ポケットから、今日の会議内容を纏めたデータの入ったメモリを手渡す。


真姫「今はこんなのはどうでもいいの……!」

菜々「真姫さん」

真姫「……何?」

菜々「少し、お休みをください」

真姫「え……?」

菜々「私──」


三つ編みを解いて、眼鏡を外す。


せつ菜「──チャンピオンになってくるので……!」


決意を伝えて、走り出す。


真姫「ち、ちょっと待ちなさい……! 菜々……!!」


雨の降る、ローズシティを駆け──中央区を抜けて、


せつ菜「エアームド!! ウテナシティへ!!」
 「──ムドーー!!!!」


エアームドの背に飛び乗り──チャンピオンになるため、雨雲を切り裂くように、空へと飛び立ったのだった。


………………
…………
……
🎙


■Chapter045 『水晶洞窟でうらめしや~?』 【SIDE Yu】





──ローズシティから一旦10番道路に戻り、そこから東に歩くこと数時間ほど。

私たちは、雨でぬかるむ丘を登っているところだった。


侑「歩夢、足滑らせないようにね」

歩夢「うん」


丘といっても、比較的なだらかで、ある程度道も舗装されているため、すごく大変というほどではないんだけど……。

やっぱり、雨のせいで足元の状態は悪いし、傘を差しながら勾配を進むのはなかなかに骨が折れる。


 「ブイ」


こんな雨模様の丘登りだと、イーブイを歩かせるのも忍びなくて、いつものように頭の上に乗せている。

今歩かせたら、絶対泥まみれになっちゃうだろうしね……。


リナ『二人とも、もう少しで頂上だから、頑張って』 || >ᆷ< ||


近くをふよふよ漂っているリナちゃんからの応援を受けながら登っていくと──急に視界が開ける。頂上だ。


侑「……わぁ!」
 「ブイ~♪」


丘を登りきると──そこは大きな湖が広がっていた。


侑「ここが、クリスタルレイク……!」

歩夢「テレビで何度も見たことあったけど……実際に見るとすっごく大きいね……!」

侑「うん、そうだね……!」


ここクリスタルレイクは、オトノキ地方の絶景スポットとして、とても有名な湖で、地理にあまり詳しくない私でも、何度も見聞きしたことがあるくらいの場所。

ただ、惜しむらくは……。


歩夢「晴れてると、湖に太陽の光が反射して、すごく綺麗って聞いてたけど……」

侑「この雨じゃ、それはちょっと見れそうにないね……」


大分、雨足が弱まってきているものの、陽光を反射する湖面を見ることは出来なさそうだ。


リナ『でも、雨雲レーダーを見る限り、夜になれば天気もよくなってくると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「あ、それなら……夜まで待ちたいな」

侑「じゃあ、今日はこの辺りでキャンプにしよっか」

歩夢「うん♪」


私がそう言うと、歩夢は嬉しそうに頷く。

このクリスタルレイク……ただ、陽光が反射して綺麗な大きな湖というだけで、オトノキ屈指の名所だなんて言われているわけではない。

この湖の本当の絶景は、夜にこそ見れる。


歩夢「湖面の夜空……楽しみ♪」


歩夢は本当に楽しみな様子で、目を瞑ってその光景を思い浮かべうっとりしている。

──湖面の夜空。クリスタルレイクは非常に特殊な生態系をしていて、湖中に生息しているポケモンはたった1種類しかいない。

その1種類はケイコウオというポケモンだ。


歩夢「あ、見て侑ちゃん! ケイコウオが跳ねてるよ!」

侑「ホントだ!」


まさに今も目の前の湖でケイコウオが跳ね、その姿を見せてくれる。

ケイコウオというポケモンは、日中に太陽の光を溜め、夜になるとそれを鮮やかに光らせることで知られるポケモン。

そんなケイコウオしか生息していない、このクリスタルレイクでは、夜になると湖の中でたくさんのケイコウオたちが一斉に光り輝き、湖面をまるで星空のように輝かせる。

その光景を通称『湖面の夜空』と呼んでいるというわけだ。そんなことを頭の中でおさらいしながら……ふと思う。


侑「そういえば……ケイコウオって海にいるポケモンだよね……?」


海水と淡水だと、生息するポケモンが変わってくると思うんだけど……。

ただ、私のそんな疑問に、歩夢が答えてくれる。


歩夢「クリスタルレイクは塩湖だから、海と似たような環境なんだよ」

侑「え? こんな丘の上なのに……?」

リナ『クリスタルレイクは大昔、地殻変動で海がそのまま持ち上がって出来たって言われてる。だから、ここの地層は多くの海水由来のミネラルを含んでいて、湖の塩分濃度もほぼ海水と同じらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなんだ……ここが昔、海だったって言われても、ピンと来ないね……」

歩夢「何百年、何千年、何万年って時間を掛けて、この不思議な湖が出来たって思うと……ちょっとドキドキしちゃうね」

侑「うん……」


それも人の手を借りず、自然の力だけで形作られたというのは本当に、大自然の神秘と言うしかない。


リナ『夜には晴れるし、きっと明日の朝には朝日に照らされる、クリスタルレイクも見られると思う』 ||,,> ◡ <,,||

侑「なんか、今から楽しみになってきちゃった……!」
 「イブィ♪」

リナ『そのためにも、早く野営の準備をしちゃおう~!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、そうだね!」

歩夢「おー♪」


私たちは夜に備えて、野営の準備を始めるのだった。




    🎹    🎹    🎹





──テントを張り、野営の準備が出来る頃には、


侑「雨、止んだね」

歩夢「うん♪」


雨はすっかり止んでいた。

時刻的には、もうそろそろ夕方くらいかな。

西の空の雲の切れ間から──夕日が差し込んできて、湖面を赤く染めている。

そんな幻想的な風景を横目に、歩夢が食事を作ってくれている真っ最中だ。


歩夢「よし……! 後は、しばらく煮込めばシチューの完成だよ♪」

侑「歩夢のシチュー、おいしいから好きなんだよね♪ もう待ちきれない~♪ ちょっと、味見しちゃダメ?」

歩夢「ダメだよ? シチューはちゃんと煮込んであげた方がおいしくなるんだから」

 「シャーボ」
侑「ほら、サスケも待ちきれないって!」

歩夢「もう……侑ちゃんもサスケも食いしん坊なんだから……。でも、完成するまで待っててね? せっかく食べてもらうなら、おいしく出来たものを食べて欲しいもん」

侑「うぅ……わかった……」
 「シャボ…」


空腹でお腹がぐーぐー鳴っているけど、完成するまで我慢我慢……。

私とサスケがシチューの完成を今か今かと待ち構えている中、


 「イブイ♪」


イーブイは夕日を反射して光るクリスタルレイクを、キラキラとした目で眺めていた。


侑「イーブイ、湖もっと近くで見る?」
 「イブィ♪」


訊ねるとイーブイは嬉しそうに鳴きながら、湖に向かって駆けだしていく。

ご飯が出来るのを眺めていたら、余計にお腹が空きそうだし、私もイーブイと一緒に近くに行ってみようかな。


侑「ちょっと行ってくるね」

リナ『私も付いてく』 || > ◡ < ||

歩夢「うん、行ってらっしゃい」


歩夢に見送られながら、私ははしゃぐイーブイを追いかけて、湖畔へ向かう。


 「イブイ、ブイ♪」
侑「ふふっ♪」


嬉しそうにはしゃぐイーブイを見ていると、なんだか私も嬉しくなってくる。

さっきまで湖からは少し離れた場所で、テントの設営をしていたけど……こうして近くに寄ってみると、クリスタルレイクの湖畔は思ったよりも凸凹としていた。


侑「思ったよりも歩きづらい……」

リナ『この辺りは野生のイワークが地中を掘り進んでるから、イワークの通った後の地面が盛り上がって凸凹になることがあるらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「へー、イワークがいるんだ」

リナ『クリスタルレイクの地下にはイワークが掘って出来た洞窟があるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あ、もしかして……クリスタルケイヴ?」

リナ『正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||


クリスタルレイクの地下には、大きな洞窟があるというのは有名な話だけど……イワークが掘ったものだったんだ。


リナ『だから、たまに丘の上まで顔を出すイワークを見られるらしいよ。基本は地下を掘り進んでるから、丘の上で会えるのは稀だけど』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「せっかくだから、出て来てくれないかな……!」

リナ『イワークにとっては地中を掘り進むのは食事みたいなものだからね。狙って会うのはなかなか難しいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


イワークは土や岩石を食べるポケモンだから、食べ進んでいる間に、地上に出て来てしまうということらしい。

──そこでふと思う。


侑「イワークが顔を出した場所って、穴になってるのかな?」


あの太い、いわヘビポケモンが顔を出したら、そこはきっと大きな穴っぽこになるよね……?


リナ『うん。その穴がクリスタルケイヴへの入り口になるんだよ。丘の上から入る人は滅多にいないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「確かに、地下からここまで上ってきた穴だと、すごい勾配になってるだろうしね……」


もはや縦穴みたいになってるかもしれない……。


リナ『……あ、侑さん。歩夢さんからメッセージ。シチュー出来たって』 || > ◡ < ||

侑「やった♪ すぐ戻らないとね! イーブイ! 戻るよー!」

 「イブイ」


私が呼び掛けると、水辺で遊んでいたイーブイが私のもとへと駆け出してくる。

私もイーブイを迎えに歩き出す。

──さて、ここは非常に凸凹した地形になっているためか、起伏に隠れて見えづらくなっているものがある。

それは──穴だ。イワークが顔を出したために出来た……大きな縦穴。

角度的に、私にも今の今まで全く気付けなかった位置に、大きな穴が空いていた。そして──それは、今まさにこちらに向かって駆けてくる、イーブイの進路上にあった。


侑「……!? イーブイ、ストップ!?」

 「ブイ?」


イーブイが私の声に気付いて、ブレーキを掛け──ギリギリ、穴の手前で止まってくれた。


侑「せ、セーフ……」


あのままだと絶対に落っこちていたに違いない。早く迎えに行ってあげないと……。

私は穴を迂回するように、駆け出す。

そんな私の姿を見て、自分の行き先に何かがあることに気付いたイーブイは、自分の足元を覗き込むようにして、身を乗り出す。


 「ブ、ブィィ!!?」


そこでやっと、自分の目の前に縦穴があることに気付いたらしい。

ただイーブイは、急に視界に入ってきた奈落に驚いてしまったのか、逃げるように踵を返す。

だけど、それが却ってよくなかった。

雨が降った直後の湿った岩で──イーブイが足を滑らせた。


 「ブイッ!!!?」

侑「!? イーブイ!?」


イーブイはずるりと足を滑らせて──その身が投げ出される。

もちろん──縦穴の真上に。


 「ブ、ブィィィィ!!!!?」


イーブイが重力に従い、縦穴に吸い込まれていく。


侑「イーブイッ!!!」


そこからは、身体が勝手に動いていた。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私はイーブイの落ちた縦穴に、自ら飛び込んでいた。

──風を切る音と共に、私は猛スピードで穴を真っすぐ落ちていく。


 「ブ、ブイィィィ!!!!」
侑「イーブイッ!!!」


真っすぐ自由落下しながら──私は、イーブイに手を伸ばす。

空中でどうにか掴んで手繰り寄せ──そして、抱きしめる。


 「ブイ、ブイィッ!!!!」
侑「っ……!!」


もちろん、イーブイを抱き寄せても、落下は終わらない。

猛スピードで、縦穴を真っすぐ落ちながら、私はイーブイをぎゅっと抱きしめる。


侑「イーブイ……! 私がいるから……!」
 「ブ、ブィィッ…」


不安げに鳴くイーブイを抱きかかえたまま──私たちは奈落へと落ちていった。





    🎹    🎹    🎹




 「ブイィ…」
侑「……生きてる」


とんでもない高さを真っ逆さまに落ちたのに、何故か私たちは無事だった。

薄暗い空間の中で仰向けになっている私の視界のずーっと先には、小さな穴の先に夕焼け空が見える。

私たちが今しがた落ちてきた縦穴だろう。

私はゆっくりと身を起こす。


 「ブイィ…」
侑「よしよし、怖かったね……もう、大丈夫だよ」


ぶるぶると震えるイーブイを優しく撫でながら、声を掛ける。

相当びっくりしたに違いない。

しばらく抱きしめていたら、イーブイは次第に落ち着いてくる。


 「ブイ…」
侑「怪我してない?」

 「…ブイ」


訊ねると、イーブイは首を小さく縦に振る。


侑「よかった……」


もう一度ぎゅっと抱きしめる。

本当にイーブイが怪我しなくてよかった……。


侑「それにしても……これだけの高さから落ちて、よく無事だったね、私たち……」
 「ブイ…」


座ったまま、周囲を確認する。

縦穴を落ちてきただけあって、完全に洞窟内だけど……かなり狭い通路のような場所──恐らくここもイワークの通った道なんだろう──で、周囲には何やらキラキラとした粉のようなものが舞っている。

そして、私のお尻の下には──何やら白くてぶよぶよしたものがあった。


侑「これが、クッションになって助かったみたいだね……。でも、なんだろ、これ……」
 「ブイ…?」


手で押してみると、強い弾力性があって押し返してくる。


侑「うーん……?」


全く見当も付かず、頭を捻っていると──


リナ『──侑さーん……!』


真上からリナちゃんの声が聞こえてきた。


侑「リナちゃん!」

リナ『よかった、侑さん無事だった……』 || > _ <𝅝||

侑「うん、これのお陰で助かったみたい」


私は自分たちの真下にある、白いぶよぶよを指差す。


侑「これ、なんだろ?」

リナ『これは……キノコの一種みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「キノコ……? じゃあ、周りに漂ってる粉みたいなのは……」

リナ『たぶん胞子』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「どうしてこんなところにキノコが……?」

リナ『クリスタルケイヴは、ネマシュの生息地だからだと思う。たぶんここは、ネマシュたちの巣だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……お陰で助かったよ……」
 「ブイ…」


私たちはどうやらネマシュたちに救われたようだ。


リナ『でも、このままここにいると、眠らされて養分にされる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「それは困るね……」


とりあえず、早く移動した方がよさそうだ。

そう思って、腰を上げたちょうどそのとき、


 「──侑ちゃーん!! 大丈夫ー!?」


遥か上の方から、歩夢の声が聞こえてきた。


リナ『あ、そうだ……歩夢さんに侑さんとイーブイが穴に落ちちゃったってメッセージ送ったんだった』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「それで様子を見に来てくれたんだ……。──歩夢ー!! 私たちは無事だよー!!」


上に向かって、叫び返す。


歩夢「──よかったー!! 私たちも、他の入り口から、クリスタルケイヴに入るねー!!」


侑「わかったー!! 図鑑のナビを使って、どうにか合流しようー!!」


歩夢「うーん!!」


とりあえず、歩夢に無事を伝えることは出来たから、今は移動だ。

ぶよぶよのキノコの上を、イーブイを抱えたまま歩き出す。


リナ『とりあえず、奥に行けば開けた場所がある。夜の虹の場所辺りで合流するのがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「夜の虹って……確か、クリスタルケイヴの名所だよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった、そこを目指そう」

リナ『了解! ナビするね!』 ||,,> ◡ <,,||


リナちゃんが先導する形で前を飛ぶ。


侑「……それにしても、ネマシュたちの巣って言う割に、姿が見えないね」

リナ『ネマシュやマシェードは夜行性だから、日中は暗い洞窟内で過ごして、日が沈み始めると16番道路の方に出ていくみたい。全くいないわけじゃないと思うけどね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ってことは、もうそろそろ夜ってことだね……」


私たちが落ちたときに夕方だったから、考えてみれば当たり前だけど……洞窟内だと外からの光がないから、時間の感覚がなくなってくる。


リナ『そろそろ、夜の虹がある場所に出るよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの案内通り、細い通路を抜けて、開けた空間に出る。

そして、その空間の天井には──


侑「わぁ……!」


大きな水晶で出来た天然の水槽があった。

これが夜の虹の一つ──クリスタルケイヴの大水槽だ。

まだ、ケイコウオたちが光り出す時間になっていないのか、水晶の天井の向こうで何かが泳いでいる影が見える程度だけど……。

迫り出すような形で圧倒的な存在感を示している、巨大な水晶の水槽だけでも、十二分に迫力があった。


侑「確かに、これはすごいかも……」
 「ブイィ♪」


さらにこれが七色に光るんだと想像するだけで──なんだか、ときめいてきた。


リナ『ここで歩夢さんと合流しよう。歩夢さんにここの座標を送っておくね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、お願い」


ここで歩夢を待つわけだけど……もうかなり日も暮れているだろうし、そろそろ夜の虹の時間になっちゃうかな……?

私たちのせいで、湖畔の夜空は見られるか怪しいけど……せめて、夜の虹は歩夢と一緒に見たいな……。

歩夢が来るまで、夜の虹が視界に入らない場所で待っていようかな……などと考えていた、そのとき──トントンと肩を叩かれた。


侑「? リナちゃん、どうかしたの?」


私が振り返ると、


 「メシヤァ~~~~~♪」

侑「わぁーーーーっ!!?」
 「ブイッ!!?」


目の前に急にポケモンが現れて、思わず声をあげながら尻餅をつく。


侑「え、な、なに……!?」
 「ブイ…?」

 「メシヤ~~~♪」


そのポケモンは私が驚いている姿を見ると、満足げに笑い、飛び去ってしまう。


侑「い、いつの間に私の背後に……?」


気配とかも何もしなかったし……ホントに急に現れた気がするんだけど……。


リナ『今のは、ドラメシヤだね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ど、ドラメシヤ……?」


先ほど見たポケモンの名前は、ドラメシヤと言うらしい。

緑色のボディに、特徴的な角と、ニョロッとした尻尾を生やして、空を飛んでいた。

いや、飛んでいた……というか──


 「メシヤ~~」「ドラメシ~」「メシヤ~~~」


気付けば、この空間内がドラメシヤだらけだった。


侑「わ、わぁ!? な、なにこれ!?」
 「ブ、ブイ」

リナ『確かにここはドラメシヤの生息地だけど……これだけ大量発生してるのは珍しい』 || ╹ᇫ╹ ||

リナ『ドラメシヤ うらめしポケモン 高さ:0.5m 重さ:2.0kg
   古代の 海で 暮らしていた。 ゴーストポケモンとして
   よみがえり かつての すみかを さまよっている。 1匹では
   非力だが 仲間の 協力で 鍛えられ 進化して 強くなる。』


そういえば、さっきもここは、大昔に海だったって言ってたっけ……。


リナ『でも、ドラメシヤはあんまり好戦的なポケモンじゃないから、放っておいても大丈夫だと思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「なら、いいんだけど……」


さすがにこれだけ大量に現れたらびっくりもするよ……。

とりあえず、危なくはないらしいから、安堵の息を漏らす。

ただ、そのときだった。


 「──ロンチ~」

侑「……!?」


ドラメシヤと似たようなカラーリングだけど──ドラメシヤよりも何倍も大きなポケモンが、いつの間にか私の目の前にいて、思わず固まってしまった。

そして、そのポケモンは──


 「ロンチ」

 「ブイ!?」


ひょい、と私の腕からイーブイを取り上げ、頭の上に乗せて──


 「ローンチ」

 「ブ、ブイーー!!!?」


目にも止まらぬスピードで、その場から逃げ去ってしまった。

──突然のことに、呆気に取られてしまったけど……すぐにハッと我に返る。


侑「い、イーブイ!?」


イーブイを連れ去られた……!?

私は大急ぎで立ち上がって、そのポケモンが逃げて行った方に駆け出す。


リナ『イーブイ連れてかれちゃった!? 今のポケモンはドロンチって、ポケモンだよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ドロンチ……!?」

リナ『ドラメシヤの進化系!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

リナ『ドロンチ せわやくポケモン 高さ:1.4m 重さ:11.0kg
   飛行速度は 時速200キロ。 ドラメシヤと 一緒に 戦い 無事に
   進化するまで 世話をする。 ドラメシヤを 頭に 乗せていないと
   落ち着かないので ほかの ポケモンを 乗せようとする。』

侑「ドラメシヤなら、いくらでもいるじゃん……!?」


とにかく、早くイーブイを取り返さなきゃ……!!

私はドロンチを追いかけて、クリスタルケイヴを奥へと進んでいく──





    🎹    🎹    🎹





ドロンチを追いかけ、クリスタルケイヴ内の細い道を進んでいくと──程なくして、小部屋のような場所にたどり着く。

小部屋に入ると、


 「ローンチ♪」
 「ブ、ブイ…」


ドロンチとイーブイの姿をすぐに見つけることが出来た。


侑「いた……!」


ドロンチはイーブイを頭の上に乗せたままで──尻尾で器用に“きのみ”を持ち上げながら、それを自分の頭の上に置く。

目の前に現れた“きのみ”を見たイーブイは、


 「ブ、ブィィ…」


警戒しているのか、食べたりはせず、ふるふると首を振っている。


侑「あれ……何してるんだろう……?」

リナ『たぶん……イーブイのお世話をしてるんだと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……なるほど」


さすが、“せわやくポケモン”というだけはある……。

ただ、部屋の中に落ちている“きのみ”は、“ナナシのみ”や“パイルのみ”と言った、すっぱい“きのみ”ばっかりだ。

それはイーブイの好きな味じゃない。

私はイーブイのお世話をしている、ドロンチの前に出る。


侑「……ドロンチ」

 「ロン?」

侑「イーブイを返してくれないかな。その子は私の相棒なんだ」

 「ロン」


でも、ドロンチは首を横に振る。

まあ、奪っていくようなポケモンに説得しようとしてもダメかな……。


侑「……イーブイ、戻っておいで」

 「イブィ…!!」


私が呼び掛けると、イーブイはドロンチの頭の上から、私の方に向かって飛び跳ねる。

だけど──


 「ローンチ」

 「ブイ!?」


ドロンチは尻尾を伸ばして、イーブイを捕まえ──再び自分の頭の上に乗せてしまう。


リナ『返す気はないみたい……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「みたいだね……」


出来れば、話し合いで解決したかったけど……。


侑「ワシボン、出てきて!」
 「──ワッシャァ!!!」

 「ローンチ…」

侑「言うこと聞いてくれないなら、力ずくで返してもらうよ! ワシボン、“ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァ!!!」


ワシボンが飛び出し、ドロンチに向かって、両翼を叩きつける。


 「ロン…!!!」


攻撃を受けて一瞬怯むが、すぐに顔を上げ──


 「ローンッ!!!!」


口から“りゅうのはどう”を、至近距離にいるワシボンに向かって発射する。


 「ワッシャァッ!!?」


“りゅうのはどう”に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたワシボンに向かって、


 「ローンッ!!!!」


追撃するように飛び掛かってくる。


リナ『侑さん!! “ドラゴンダイブ”だよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「なら……!! ワシボン! 壁に向かって、“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンは、猛禽の爪で壁を蹴り砕き、即座に離脱──それによって壁が崩れて、岩壁が崩れ落ちてくる。


侑「“がんせきふうじ”!!」

 「ローンッ!!!?」


勢いよく崩れてくる岩石に巻き込まれ、ドロンチが体勢を崩す。

その拍子に──


 「ブ、ブィィ!!!?」


ドロンチの頭の上にいたイーブイが放り出される。


侑「イーブイ!!」


私は、地面を蹴って走り出し──滑り込むようにして、イーブイを受け止めた。


 「ブィィ…」
侑「おかえり、イーブイ」


私がイーブイを抱きしめると、イーブイも私の胸にすりすりと身を寄せてくる。

一方でドロンチは、


 「ローンチ…!!!!」


イーブイを取り返されたのが気に食わないようで、不機嫌そうに鳴いたあと──ユラリと姿が掻き消える。


侑「……! “ゴーストダイブ”……!」


恐らく、イーブイを奪った私──私のイーブイなんだけど──を直接狙うつもりだろう。


リナ『侑さん、きっと狙われてる!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんもそれに気付いたのか、逃げるように促してくるけど……恐らく、ドロンチのスピードからは逃げきれない。

追い付かれたら、また力ずくでイーブイを奪われる。そうなるくらいなら……!


侑「私はここだよ!! ドロンチ!!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私は挑発するように、声を張り上げる。それと同時に腰のボールに手を掛けながら、前に飛び出す態勢を取る。

直後──


 「──ローンチ」


背後から、ドロンチの鳴き声と共に──私は背後から大きな尻尾を叩きつけられ、吹き飛ばされた。


侑「ぐっ……」


強い衝撃に、思わず声が漏れる。でも、私は手に掛けたボールを放って手持ちを出す。


侑「ニャスパーっ! “テレキネシス”!!」
 「──ニャー!」


ニャスパーはボールから飛び出すと同時に、私の身体を浮き上がらせ、それによって落下の衝撃をゼロにする。


侑「いっつつ……」

リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……後ろから攻撃してくることはわかってたから、どうにか……」


“ゴーストダイブ”は相手の背後を取って死角から攻撃することが多い技だ。

背後から来るとわかっていれば、前に向かって飛びながら当たって、“テレキネシス”で床や地面に叩きつけられないようにすれば、大方の衝撃を殺せる。

……と、言ってもさすがポケモンのパワーなだけあって、結構痛い。

どうにか、起き上がって振り返ると──


 「ローンッ…!!!」


相変わらず、ドロンチが不機嫌そうに鳴いている。


侑「でも……これだけやった甲斐はあったよ。ね、イーブイ!」
 「ブイ!!」

 「ロン…?」


吹き飛ばれたのに、何故か得意げな私たちを見て、ドロンチが首を傾げた──直後、ドロンチの足元から、太い樹が地面から飛び出し、


 「ロンッ!!!?」


それはドロンチを巻き込みながら成長し、洞窟内の天井に叩きつけた。

ドロンチを天井に押し付けながらも、樹はどんどん成長し、蔦と枝に絡め取っていく。


 「ロ、ローン…」

侑「そうなったら、もう身動き取れないよね!」
 「イブィ♪」「ワッシャ♪」「ニャー」

 「ローン…」

リナ『この樹……もしかして、“すくすくボンバー”!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん。ドロンチが“ゴーストダイブ”で消えた瞬間、足元に仕込んでおいたんだ」
 「イブィ♪」


相手は見るからに、ドラゴンタイプとゴーストタイプのポケモン。

そうなると、イーブイの相棒技──“めらめらバーン”、“びりびりエレキ”、“いきいきバブル”、“すくすくボンバー”はどれも相性が悪い。

唯一使えるとしたら、この狭い空間での制圧力の高さを活かして、“すくすくボンバー”なんだけど……“すくすくボンバー”は技を出してから、決まるまでに時間が掛かるのが難点だった。

……なら、ドロンチが“ゴーストダイブ”で私を狙ってくるってわかっているわけだし、あらかじめ私の足元に“すくすくボンバー”を仕込んでおけばいいだけだ。

そうすれば、ドロンチが私を攻撃して吹っ飛ばしたあと、時間差で足元から生えてくる樹に巻き込まれて、動けなくなるという寸法だ。


リナ『侑さん、意外と無茶する……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「逃げるだけじゃ、勝てないと思ったからね……いてて……」
 「ブイ…」


イーブイが心配そうに、私の胸の中で鳴く。


侑「あはは、大丈夫だよ。ニャスパーのお陰で壁にぶつかったりはしなかったから」
 「ブイ…」


もしかしたら、尻尾がぶつかったところは軽い打ち身くらいにはなってるかもしれないけど……。


 「ローン…」

リナ『ドロンチ、どうする……?』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うーん……」


“すくすくボンバー”はしばらくしたら枯れちゃうから、放っておけば自由になれるだろうけど……。


侑「放っておいたら、また別のポケモンを頭に乗せようと彷徨い始めるのかな……」

リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


それはそれで、次にここに訪れた人が危ないような気もする……。


侑「そもそも、なんでこのドロンチは、ドラメシヤを頭に乗せないんだろう……?」


ドラメシヤなんて、洞窟内にあんなにたくさんいるのに……。


リナ『たぶん、ここのドラメシヤが特殊なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「特殊?」

リナ『そもそもクリスタルレイクとクリスタルケイヴって、環境がすごく特殊だから、ここにしかいない変わった生態のポケモンが多いんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『外敵が少ないからか、ケイコウオは滅多にネオラントに進化しないし、イワークもここの土中に含まれる水晶をよく食べるからか、水を泳げる個体が目撃されたこともあるみたいだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「い、イワークが泳ぐの……?」


ちょっと想像出来ない……。


リナ『たぶん、ドラメシヤたちも外敵が少ないから、普通と違って強くなる必要があんまりなくて、お世話係を必要としてないんじゃないかな。実際、群れの中に絶対数匹はいるはずのドロンチは滅多に目撃されないらしいし……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……」


だから、何かの拍子でドラメシヤが進化してしまうと、逆にお世話する相手がいなくて落ち着かなくなっちゃうってことか……。

それはそれで、なんだか気の毒な気もしてくる。


 「ローンチ…」

侑「うーん……」


どうにかしてあげたいけど……イーブイを取り上げられるのはさすがに困る……。

そのとき、ふと、


侑「ん?」


腰のボールが僅かに揺れた。揺れたボールをベルトから外してみる。


侑「このボールって……タマゴの入ってるボールだ」

リナ『少し揺れた?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん」


長らく全然変化のない、このタマゴだけど……。

少しは孵化の時が近付いてきているのかもしれない。


侑「あ……そうだ!」

リナ『?』 || ? ᇫ ? ||


私は良いことを思いつく。


侑「ねぇ、ドロンチ!」

 「ローン…?」

侑「一つ提案があるんだけど……聞いてくれないかな?」

 「ロン…?」


私はドロンチにその考えを話し始めた──





    🎹    🎹    🎹





──さて、あの後、私たちが水晶の水槽の部屋に戻る最中、


歩夢「あ……侑ちゃん! やっと見つけた……!」


図鑑を片手に、向こう側から歩いてくる歩夢と鉢合わせになる。


歩夢「もう……水晶の水槽の部屋で待ってるって、メッセージくれたのに……」

侑「ごめんね、ちょっとトラブルがあって……」
 「ローン」

歩夢「あれ? そのポケモンは……」

侑「私の新しい仲間のドロンチだよ!」
 「ローン♪」


私の紹介を受けて、ドロンチがご機嫌に鳴く。

そして、彼の頭の上には──


歩夢「タマゴを乗せてるけど……? 侑ちゃんの持ってたタマゴ?」

侑「うん、そうだよ」


私は思いついたこと、それは──私のタマゴのお世話をしてもらうということだった。


リナ『侑さんはドロンチにタマゴを守ってもらえて安心だし、ドロンチはタマゴをお世話出来て安心するし、Win-Winだね!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「なんだかよくわからないけど……。私、歩夢。よろしくね、ドロンチさん」

 「ローン♪」


挨拶もそこそこに、


歩夢「それより侑ちゃん、来て♪」


歩夢に手を引かれる。

手を引かれ、通路から大広間に出ると──


侑「わぁ……!!」
 「イブィ~!!」


水晶の大水槽の中から、ケイコウオたちの光が乱反射して、洞窟内を虹色に照らしていた。


侑「すっごい……!!! こんなの見たら── 」

歩夢「ときめいちゃうよね♪」

侑「もう、歩夢! それ私の台詞!」

歩夢「ふふっ、ごめんね♪」


歩夢がいたずらっぽく笑う。


侑「……それにしても……本当に綺麗だね……」
 「ブィ…♪」

歩夢「……うん、そうだね」


厚い水晶の壁の向こうから、揺蕩う虹色の光たち。

それに照らされる洞窟の中にいると、まるでオーロラの中にでもいるような気がしてくる。

まさに夜の虹の名に相応しい、幻想的な光景だった。


侑「こんなの見たら、落ちたのも悪くなかったなって思っちゃうよ……」

歩夢「もう……私、すっごい心配したんだよ……?」

侑「あはは、ごめんね……。でも、見たとおり元気だから!」

歩夢「もう、侑ちゃんったら……」

侑「この調子で湖面の夜空も見ちゃう?」
 「イブィ♪」

リナ『ケイコウオたちは、日が昇るまで光り続けるから、いいと思う』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ♪ 私たち、すっごく夜更かしすることになりそうだね♪」

侑「たまにはいいじゃん、そういうのも♪」


どうやら今日は楽しい夜になりそうだ。

私たちは、幻想的な虹の光に包まれながら、わくわくした気持ちで、クリスタルケイヴでの夜を過ごすのでした。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クリスタルケイヴ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ●        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.52 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.52 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.49 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.43 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.50 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:6匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.45 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.44 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.40 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.36 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.33 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:182匹 捕まえた数:17匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎙



──ウテナシティ、ポケモンリーグ。


せつ菜「チャンピオンは不在ですか……」

ダイヤ「はい……申し訳ありません。四天王戦は通常通り出来ますが、勝ち抜いてもチャンピオン戦は……」

せつ菜「いつ戻られるかはわかりますか……?」

ダイヤ「すみません……最近、千歌さんは捕まらないことが多くて……。こちらから連絡は入れておきますが……」

せつ菜「……わかりました。ありがとうございます」


私はダイヤさんに頭を下げ、踵を返して、ポケモンリーグを後にする。

チャンピオンの不在を聞いて、私は早速出鼻を挫かれてしまった。

ただ不在なだけならまだしも……ダイヤさんのあの口振りだと、チャンピオン戦をするためにリーグに戻ってきてもらえるかも怪しい。

そうなると──


せつ菜「やはり、地方のどこかにいる千歌さんをどうにか見つけて、バトルしてもらうしかない……」


もちろん野良試合で勝っても、すぐさまチャンピオンになることは出来ないだろう。

だけど、私は千歌さんとは何度もバトルしているからわかる。彼女は野良バトルだから負けてもよかった、なんて思えるタイプじゃない。

きっと私が善戦したら、決着をつけなくては気が済まなくなるはず。

だからこそ、今はとにかく千歌さんを見つけてバトルを申し込む。

それが、私が最速でチャンピオンになる方法なのには、間違いがない。


せつ菜「問題は千歌さんがどこにいるか……」


せつ菜として地方を回っている間は、頻繁に千歌さんを探していたつもりではあったけど……最近はウラノホシのご実家にも帰られていなかったようだし……。


せつ菜「最後に会ったのは、確か10番道路ですね……」


なら、もう一度10番道路に向かって、会えることに賭けるべきか……?

いや、あそこで何をしていたかは定かではないけど、用もなく道路のど真ん中にいるとは到底思えない。


せつ菜「せめて、何か手掛かりがあれば……」


私は必死に頭を動かして考える。

一刻も早く千歌さんを見つけなくては。

お父さんの手前であんな啖呵を切ってしまった以上、1秒でも早く結果を出さなくてはいけない。

チャンピオンになると宣言したからと言って、いつまでも黙って待っていてくれる人じゃないことなんて、もうわかっていることだ。


せつ菜「会えれば……千歌さんとバトルさえ出来ればいいんです……!」


今まで、勝ったことはないけど──あと、ちょっとのところまで来ている。そういう手応えは確かにあるんだ。

私のチャンピオンへの道は──もう、すぐそこに見えているんだ。

だからこそ、探さなくちゃ……!


せつ菜「千歌さんの居場所を知っている人がいれば……」


そう独り言ちた、そのときだった。


 「──千歌ちゃんの居場所なら、知っているけど?」

せつ菜「え?」


背後から聞き覚えのある声がして、振り返ると──


果林「こんにちは。……いえ、初めましての方がいいのかしら?」

せつ菜「……果林さん……?」


私は一瞬ポカンとしてしまった。何故、ここに果林さんが……?

……いや、それよりも、果林さんは今、なんて言った……?


果林「チャンピオン……探してるんでしょ?」

せつ菜「……! 千歌さんの居場所をご存じなんですか!?」

果林「ええ」

せつ菜「お、教えてください……!! 私、今すぐにでも千歌さんに会わないといけないんです……!!」


思わず果林さんに詰め寄ってしまう。


果林「落ち着いて。私は千歌ちゃんの今現在の居場所を知っているわけじゃないの」

せつ菜「え、で、でも、さっき知ってるって……」

果林「今いる場所は知らない……でも、近いうちに現れる場所は知ってる」

せつ菜「え……と……」


どういうことだろう。


果林「でも、もう日も沈んじゃったし、今その場所に行っても、千歌ちゃんには会えない。でも、これから千歌ちゃんが行く場所は知ってる」

せつ菜「…………」


この人は何を知っているんだろうか。何故そんなことがわかるんだろうか。

正直、怪しいと思ったけど──それ以上に、今の私は藁にもすがりたい気持ちだった。


果林「明日、ここに行ってみるといいわ」


そう言って、果林さんは私に一枚のメモ紙を手渡してくる。


果林「それじゃ、頑張ってね♪ 未来のチャンピオン──ユウキ・せつ菜さん♪」


最後にそう言い残してから、果林さんはボールから出したファイアローの脚に掴まって、飛び去ってしまった。


せつ菜「……」


果林さんから貰ったメモ紙を開いてみると──時刻と地名が書かれていた。

明日、この時間、この場所に、千歌さんが……?

わからないことだらけだけど……。


せつ菜「行ってみるしかない……!」


せっかく手掛かりを得たのだから。


せつ菜「……あれ? ……そういえば……果林さん、どうして私の名前、知っていたのでしょうか……?」


菜々のときにしか面識はなかったような……?


………………
…………
……
🎙


■Chapter046 『森とキノコと魔法使い』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティを出て数時間。かすみんたちは11番道路を進んでいる真っ最中です。


かすみ「るんる~ん♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、ご機嫌だね」

かすみ「そりゃそうだよ~! だって、かすみんの集めたお宝、返ってきたんだもん♪」
 「ガゥ♪」


そう言いながら、かすみんは物がたくさん詰まってパンパンになったバッグをしず子に見せつける。

返ってきたお宝とは何か──話はローズシティを出る前に遡ります……。



────
──



かすみ「さて……侑先輩たちも行っちゃいましたし、かすみんたちも行こっか!」

しずく「うん、そうだね」


ローズシティのポケモンセンターで侑先輩たちと別れて、かすみんたちも11番道路に向かおうとした矢先──prrrrrr!!! とポケギアが鳴りだしました。


かすみ「あれあれ~? かすみんのファンの人からのラブコールかなぁ~……?」

しずく「……馬鹿なこと言ってないで、早く出なさい」

かすみ「もー……しず子ったら、ノリ悪~い……」


失礼なことを言うしず子を後目に、ポケギアの通話に応じると──


エマ『もしもし、かすみちゃん? エマだよ~♪』

かすみ「エマ先輩?」


お相手はエマ先輩でした。


エマ『今、大丈夫かな?』

かすみ「はい、大丈夫ですよ~。どうかしたんですか?」

エマ『うん♪ 前、言ってたものが見つかったから、かすみちゃんのパソコンに送っておいたよ♪』

かすみ「前言ってたもの……?」


何かエマ先輩に頼んでいたものとかありましたっけ……?


エマ『ゆっくりお話ししたいんだけど……私はまだ、お仕事の途中だから。確認してみてね!』

かすみ「は、はい。ありがとうございます……?」

エマ『それじゃ、またね~♪』


それだけ言うと、エマ先輩からの通話は切れてしまいました。

本当に用件を伝えるための連絡だったみたいです。


しずく「エマさんから?」

かすみ「うん」

しずく「なんだって?」

かすみ「前、言ってたものが見つかったから、かすみんのパソコンに送っておいたって……何かあったっけ?」


かすみん、さっぱり思い出せないんですけど……。……でも、しず子はしっかり覚えていたようで、


しずく「……あ、もしかして……あれじゃないかな?」

かすみ「……あれ?」

しずく「とにかく、パソコンを確認してみたら?」

かすみ「ま、それもそっか」


かすみんはエマ先輩からの贈り物を確認するために、ポケモンセンターへとトンボ返りするのでした。



──
────



そして、そんなかすみんのパソコンに入っていたものは──


かすみ「まさか、ドッグランでジグザグマたちに盗られた“げんきのかけら”が戻ってくるなんて~♪」


そう、エマ先輩から送られてきたのは、ドッグランでジグザグマたちの群れに強奪された、大量の“げんきのかけら”だったんです!

ドッグランで数を減らしちゃったあとも、コツコツ集めていたけど──もう戻ってこないと思っていた分が戻ってきたお陰で、かすみんのバッグはもはや宝の山状態になったというわけです!


しずく「はぁ……せっかく減ったのに……。そんなに持ち歩いてたら重くて疲れちゃうよ……?」

かすみ「いーの! 『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「『備えあれば憂いなし』ね……」


しず子は呆れ気味だけど……これはジグザグマがかすみんのために、頑張って集めてくれた宝物だもん。一つも無駄になんて出来ません!


しずく「でも、本当にその大荷物で大丈夫……? 11番道路は結構長い道のりになるよ?」

かすみ「へーきへーき! これはかすみんの宝物だから、荷物のうちに入らないも~ん♪」

しずく「……後で文句言わないでよ?」

かすみ「言わない言わな~い♪ それじゃ、レッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」




    👑    👑    👑





かすみ「──しず、子……もぅ……無理……き、休憩……しよ……」
 「ガゥ?」

しずく「はぁ……だから、言ったのに……。……わかった、ここでちょっと休憩にしようか」

かすみ「しず子~! やっぱ、話がわかる~!」

しずく「全く、調子いいんだから……」


11番道路を歩くこと数時間。

かすみんはすっかりバテバテモードになっていました。

しず子に注いでもらったお茶を飲みながら、


かすみ「……11番道路がこんなに歩きづらい道だと思わなかった……」


そうぼやく。

今かすみんたちのいる、この11番道路は本当に荒れ地って感じで、ゴツゴツした岩があちこちに飛び出している。

さっきから道も登ったり下ったり……しかも地面も硬いし、歩きづらいのなんの……。


しずく「11番道路はローズシティから、ヒナギクシティを繋ぐために強引に作った道だからね。これでも十分人の手が加えられてるんだよ」

かすみ「これでぇ……?」

しずく「ヒナギクシティはもともと四方を山に囲まれた町だったんだよ。しかも南北はカーテンクリフとグレイブマウンテン……。比較的低い山だった東側を切り開いて、ローズからの道を繋いだみたい」

かすみ「へー……。ヒナギクシティの人たちはそれまでどうやって暮らしてたんですかね……? あそこって雪とか降るくらい寒いんでしょ?」


四方が山って、満足に生活出来てたのかな?


しずく「そうだね……ローズとの道が開通するまでは相当厳しい環境だったみたいだよ。外から物資が入ってくることも、ほとんどなかっただろうし……」

かすみ「食べるものとかあったのかな……」


かすみん、おいしいご飯が食べられない場所で暮らすなんて、考えただけでゾッとしちゃいます……。


しずく「一応ヒナギクの東側には小さな森があるから、そこで調達してたみたいだね」

かすみ「森があるの? オトノキ地方の森って、コメコの森だけだと思ってた」

しずく「森って言っても、コメコの森と比べると、かなり小さいからね。知らない人も多いと思うよ」

かすみ「ふーん……じゃあ、その森で採れる“きのみ”とかを食べて暮らしてたんだ」

しずく「うん。あとはキノコかな」

かすみ「キノコ? ……キノコって、あのにょきにょき生えてるキノコ?」

しずく「そう、そのキノコ。ヒナギクの東の森には、すごく生命力の強いキノコが群生していて、森全域にたくさんキノコが生えてるらしいよ。だから、ヒナギクの東の森は通称マッシュルームフォレストなんて言われることもあるみたい」

かすみ「へー! 名前になっちゃうくらいたくさんキノコが採れるんだ! ちょっと、かすみんも食べてみたいかも!」

しずく「うーん……。やめておいた方がいいと思うよ。毒キノコらしいし……」

かすみ「……え? 毒キノコなのに、食べてたの……?」

しずく「それくらい食べるものがなかったんだよ。あの辺りに生息してるジオヅムってポケモンの“しおづけ”で何ヶ月も掛けて水分を飛ばして、毒素を薄めて……それでやっと食べられる状態にしてたみたい。それでも、毒を完全に抜ききることは出来なくて、食中毒で亡くなる人も多かったって聞いたかな……」

かすみ「ひ、ひぇぇ……過酷すぎる……」


かすみん、今の時代にセキレイシティで生まれてよかったです……。


しずく「まあ、それも昔の話で……今は観光地としてそれなりに賑わってるみたいだから、ヒナギクに着けばおいしいご飯も食べられると思うよ。ポケモンジムがあるくらいだしね」

かすみ「本当に今の時代に生まれてよかった……」

しずく「さて……そろそろ行けそう?」

かすみ「あ、うん! かすみん休憩して元気回復したから!」
 「ガゥ♪」


かすみんが元気よく立ち上がると、ゾロアもご主人様の復活が嬉しいのか、ご機嫌な鳴き声をあげる。


かすみ「この調子でさっさとヒナギクまで行っちゃいましょー!」

しずく「ふふ、そうだね」





    👑    👑    👑





──あれから歩くこと、さらに数時間。


かすみ「……なにこれ」


かすみんはあるものを見上げて、唖然としていました。

そのあるものとは──


かすみ「これ……キノコ……?」

しずく「……だね」


めちゃくちゃでかいキノコでした。

どれくらいでかいかと言うと……軽く3mは超えていると思います。


しずく「この巨大キノコが森の入り口の目印だね」

かすみ「さすがマッシュルームフォレスト……」


コメコの森よりは小さいと聞いていたものの……とんでもないサイズのキノコの圧迫感と、森の樹々はなんというか、鬱蒼としていて……おだやかな森だったコメコの森に比べると、大分ホラーな感じがします……。

たぶん、その怖い感じに拍車を掛けているのは……いつの間にか出始めてきた霧も関係しているのかも……。


しずく「とりあえず……もう日も暮れ始めちゃってるし、霧も濃くなってきたから、森には入らずに、ここで野宿にしようか……」

かすみ「えー!! また野宿……2日連続じゃん……。ローズで泊まればよかった……」

しずく「言ってても仕方ないよ。早くテント張っちゃおう」

かすみ「うん……そうだね……」


かすみんがテンション低めに、テントの設営をお手伝いしようとしたそのとき──森の奥の方で、何かがチカチカと光るのが見えた。


かすみ「あれ……? 今なんか光った……?」


……気になる。

かすみんは、目を凝らして森の奥に目を向ける。すると──また、チカチカと何かが光る。


かすみ「やっぱ、なんかある……!」


霧のせいで、ぼやーっとした光が点滅しているのがわかる程度ですけど……確実に何かが光っている。


しずく「かすみさん? どうかしたの?」

かすみ「あそこでなんか光ってる……ちょっと確認してくる」

しずく「……もう暗いし、森に入らない方がいいと思うけど……」

かすみ「すぐそこだし、ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから!」

しずく「まあ、それくらいなら……。……絶対に奥まで入っちゃダメだよ?」

かすみ「わかってるって~♪ ゾロア、行くよ!」
 「ガゥ」


ゾロアと一緒に光に向かって駆け出す。

巨大なキノコの脇をすり抜けて、入った森の中──光っていた目的物は本当にすぐ近くにあった。

チカチカと光っていたのは──


かすみ「……キノコ?」


またしてもキノコだった。

大きな傘をした──って言っても入り口のキノコよりは全然小さい30㎝くらいの──真っ白なキノコ。


かすみ「なーんだ……見に来て損した……」
 「ガゥ…」


なんかお宝的なものを期待してたのに……。まあ、光るキノコは珍しいけどさ……。

かすみんは振り返って、


かすみ「しず子ー!! 光ってるの、ただの光るキノコだったー!」


しず子に向かって、報告するために声をあげる。

そして、しず子の反応を待つこと、数秒……数十秒……。


かすみ「あ、あれ……?」


しず子からの反応が返ってこない……。

森から少ししか入っていないのに、すでに入り口は霧に覆われていて、ほぼ見えないし……。

かすみんは駆け足で、先ほどまでしず子が居た場所に戻ると──そこには、設営途中のテントを残して……しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子……? どこ行ったのー? おーい!」
 「ガゥガゥーー!!」


ゾロアと一緒に呼んでみるけど、しず子からの反応は一向に返ってこない。

もしかしたら緊急事態か何かで席を外してるのかな……? お花摘みとか……。

そう思って、かすみんは少しの間、その場で待つことにした。




    👑    👑    👑





かすみ「……おかしい」


どれだけ待てども、しず子は一向に戻ってこなかった。

テントの設営もすっかり終わっちゃったし……。


かすみ「しず子が何も言わずに、こんなに戻ってこないなんて考えられない……やっぱ何かあったとしか……」


でも音もなく消えちゃうなんてことあるのかな……。

あまりに霧が濃すぎて、帰り道を見失っちゃったとか……?

しっかりもののしず子に限って、そんなことあるかな……。


かすみ「とにかく、探さなきゃ……!」


ここで考えていても仕方ありません。

しず子に何かあったなら、かすみんが見つけないといけないし、道に迷ってるんだとしても、探さなくちゃ!


かすみ「……そうだ、図鑑!」


図鑑のサーチ機能を思い出して、図鑑を取り出し、ぽちぽちと操作する。


かすみ「えーっと……確か、こうしてこうして……あ、出た!」


しず子の図鑑の位置を検索すると──それはすぐ傍に表示された。


かすみ「……? なんだ、思ったより近くにいるじゃん……」


表示された場所は本当にすぐ傍だった。たぶん2mも離れていない。

テントの場所から、少し森の方へ歩いた方向……。

深い霧の中、しず子の図鑑が表示されている位置に一歩ずつ歩を進めていく。


かすみ「……ここだ」


図鑑の表示の真上に立つ。……だけど、しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子ー! どこー?」
 「ガゥガゥー!!」


その場でキョロキョロと辺りを見回しながら探していると──足に何かが当たった。


かすみ「ん……?」


屈んでそれを確認してみると──


かすみ「……!? これ、しず子のバッグ……!?」
 「ガゥガゥ!!」


それはしず子が使っていた、バッグだった。

そして、そのバッグから少しだけ離れたところに──赤い布切れが見えた。

近寄って確認してみると──


かすみ「しず子の……リボン……!?」


しず子のトレードマークとも言える、大きな赤いリボンだった。

バッグなら落とす可能性はある。だけど、身に着けているリボンを落とすなんて、普通ありえない。


かすみ「しず子に何かあったんだ……!!」


──なんでもっと早く気付かなかったんだ。

かすみんに何も言わずに、しず子が急にいなくなった時点でおかしいって思うべきだった。

その時点ですぐに探しに行くべきだった。


かすみ「いや、反省は後です……!! 探しに行くよ、ゾロア!!」
 「ガゥ!!!」


かすみんはしず子のバッグとリボンを拾い──マッシュルームフォレストの中へと駆け出した。





    👑    👑    👑





かすみ「しず子ー!! しず子ーー!!」
 「ガゥガゥッ!!!!!」


しず子の名前を呼びながら、森の中を駆け回る。

だけど、鬱蒼とした森な上に、深い霧が立ち込めているせいで、とにかく視界が悪い。

同じような樹々と同じようなキノコがたくさんあるだけ──キノコの中には、たまに光るやつもいるけど、本当にそれくらいだ。

あまりにも手掛かりがなさすぎる……。というか……。


かすみ「はぁ……はぁ……バッグ……重……」


自分のバッグが重いというのもあるけど……今はしず子のバッグも一緒に持っている。

さすがにこの状態で走り回ると息が上がってしまう。

一旦荷物の一部をテントに置いてきた方がいいかもしれない……そう思い、踵を返そうとして──


かすみ「あ、あれ……? かすみん……どっちから来たんだっけ……?」
 「ガゥ…?」

かすみ「ゾロアは……どっちから来たか覚えてる……よね?」
 「ガゥゥゥ…」

かすみ「……」
 「ガゥ……」

かすみ「もしかして、かすみんたち……迷子……?」
 「ガゥ…」

かすみ「あー、うー……どうしよう……しず子は見つからないし、かすみんたちは迷子だしぃ……」


思わずちょっぴり涙目になって、蹲る。

蹲っていると──バッグを後ろから何かに引っ張られるような感覚がして、


かすみ「わぁっ!?」


そのまま、仰向けにひっくり返る。


かすみ「い、いたた……な、なに……?」

 「ベロバーーーー!!!!!!!」

かすみ「ぎゃーーーーーっ!!?」


仰向けになったかすみんの目の前に──ピンク色の何かが急に現れた。


 「ガゥガゥッ!!!!」


ご主人様の叫び声を聞いて、ゾロアがそいつに向かって飛び掛かる。


 「ベロバッ!!?」
 「ガゥガゥゥゥッ!!!!」


その隙に、かすみんは起き上がって距離を取る。


かすみ「はぁ……はぁ……あれ、ポケモン……!?」


ゾロアと取っ組み合いをしている相手は、ピンクの体色に紫の模様と紫のベロという、とにかく毒々しい色をしたポケモンだった。


 「ベロバッ!!!!!」
 「ガゥッ…!!」


そいつは取っ組み合いしながら、ゾロアに“かみつく”で攻撃してくる。


かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガーーゥゥゥッ!!!!!」

 「ベロバー!!!?」


それを内から溢れる黒いオーラで吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされこそしたものの、ピンクのポケモンはすぐに起き上がって、


 「ベロベー、ベロベロバー」


“ちょうはつ”するように踊りだす。


かすみ「もう、なんなんですか、こいつ……!」


その仕草に苛立ちながらも、バッグを持って立ち上がろうとして──さっきまであれだけ重かったバッグが妙に軽いことに気付く。


かすみ「……!? バッグの中身がまた減ってる!?」


さっきすっころんだときにぶちまけたのかと思って周囲を伺うと、


 「ベロバー」「ベロベロバー」「ベロ」

かすみ「……!?」


かすみんの周囲には、さっきゾロアと取っ組み合いをしていたピンクのと同じ種類のポケモンが大量にいた。

しかも──“げんきのかけら”を持っている。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? それ、せっかく戻ってきたかすみんのお宝!?」

 「ベロ」「ベロバーー♪」「ベロベロバー」


そして、そのまま散り散りに持ち逃げしていく。


かすみ「ま、また盗まれた……」
 「ガ、ガゥ…」


そして、気付けば、さっきゾロアと戦っていた個体もいなくなっている。


かすみ「あーーーもーーー……!! なんなのこの森ーーーー!!!」


かすみんの叫びは虚しくも霧の森に呑み込まれていく……。





    👑    👑    👑





かすみ「もうやだ……早くこの森から出たい……」
 「ガゥゥ…」


しず子もいなくなっちゃったし……またかすみんのお宝も奪われて……。

そういえば、さっきのポケモン……図鑑で調べてみたら、どうやらベロバーというポケモンらしい。

 『ベロバー いじわるポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.5kg
  常に 舌を 出している。 民家に 忍びこみ 盗みを
  働き さらに 悔しがる 人や ポケモンの 発する
  マイナスエネルギーを 鼻から 吸い込み 元気になる。』


かすみ「つまり、かすみんを悔しがらせて食事をしてた……ってことだよね」


まんまとしてやられたのが悔しくてたまらないけど、ここで悔しがると、それを餌にされるらしい。

それは癪だ……。


かすみ「早くしず子を見つけて、この森……脱出しなきゃ……」
 「ガゥゥ…」


ゾロアと一緒に霧の森の中を彷徨っていると──急に霧が薄くなってきた。


かすみ「こ、今度はなにぃ……?」


もうこの得体のしれない森にうんざりしてきた。

今度は何かと身構えながら、周囲を伺う。


かすみ「……? ここだけ、霧が晴れてる……?」


どうしてかはわからないけど、かすみんはちょうど球状に霧が晴れている空間に入り込んでいたようだった。

まるでバリアで霧の侵入を阻んでいるような……そんな不思議な空間。

ただ、その空間内にあるのは、相も変わらずここまで見てきたのと同じような樹と……中心に光る大きなキノコがあるだけ。


かすみ「……? なんで、ここだけ……?」


首を捻りながら、中心にある光るキノコへと歩を進めると──キノコの下から、小さな何かが飛び出してきて、


 「ミ、ミブーー!!!!」「ミブリーーー!!!!」

かすみ「わ……!?」


鳴き声をあげながら、逃げていく。


かすみ「えっと……今のもポケモンだよね……?」


かすみん何もしてないんだけど……。

図鑑を開く。

 『ミブリム おだやかポケモン 高さ:0.4m 重さ:3.4kg
  人気の ない 場所が 好き。 頭の 突起で 生物の
  気持ちを 感じとる。 穏やかな ものにしか 心を 開かず
  強い 感情を 感じとると 一目散に 逃げ出してしまう。』


かすみ「ミブリムって言うんだ……」


かすみん、どうやらミブリムたちの巣にお邪魔しちゃったみたいですね……。


かすみ「ミブリムたちには悪いですけど……ちょっとここで休憩させてもらいましょう……」
 「ガゥ」


視界の開けた場所で、今後どうするかを少し考えたい。

そう思って、大きな光るキノコに背を預けようとしたら──キノコの影から、


 「テブリ…」


また新しいポケモンが現れた。

帽子のような髪の毛を被った、先ほどのミブリムを少し大きくしたようなポケモン。


かすみ「わ……! 可愛い……?」


その姿は愛らしく、子供の頃テレビアニメで見た魔女っ娘を小さくしたような見た目で、可愛いポイントがものすごく高いポケモンです。


かすみ「ミブリムと雰囲気が似てるし……もしかして、ミブリムが進化した姿なのかな?」

 「テブ…」

かすみ「怖くないですよ~。かすみん、敵じゃありません♪」


その愛らしさに思わず手を伸ばして、撫でようとした──そのときだった。


かすみ「んがっ!!?」


急に顎下から強烈な衝撃と共に、目の前に星が舞った。

次、気付いた時には、かすみんはまたしても仰向けにひっくり返っていた。


かすみ「…………はっ!?」


今、ものすごい衝撃に吹っ飛ばされて、一瞬意識が飛んだ。

顎がすごい痛い……。起き上がろうとすると、頭がふらふらする。


かすみ「え、な、なに……?」

 「テブリィ…」


どうにか身を起こすと、先ほどの魔女っ娘ポケモンがゆっくりとこちらに迫ってきていた。


かすみ「え、えっとぉ……あ、あのぉ……も、もしかして怒ってます……?」

 「テブリィ…」

かすみ「ま、待ってください……!! かすみん、本当に敵とかじゃなくて、可愛いからちょっと仲良くしたいなって思っただけで……!」


かすみんの必死の説得も虚しく、


 「テブッ!!!!」

かすみ「んがぁっ!?」


かすみんは魔女っ娘ポケモンの頭の房に、鼻っ柱を殴り飛ばされていました。

強烈なパンチで殴り飛ばされて、またしても地面を転がる。


かすみ「いったぁぁぁぁぁ!! もう、なんなんですか!? 魔女っ娘ポケモンに見せかけて、とんだ脳筋ポケモンじゃないですかぁ!?」

 「テブリィ…?」

かすみ「あ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい」


睨みつけられて、即ごめんなさいする。

この子、見た目に反して、めちゃくちゃおっかなくないですか!?

図鑑を開いて確認してみる。

 『テブリム せいしゅくポケモン 高さ:0.6m 重さ:4.8kg
  強い 感情を もつ ものは それが 誰であれ 黙らせる。
  その手段は じつに 乱暴で プロボクサーさえ 一発
  KOの 破壊力が ある 頭の房で 相手を 殴り飛ばす。』

すごい見た目詐欺ポケモンです……。


 「ガゥ…」
かすみ「大丈夫だよ、ゾロア……。そもそも、テブリムたちの巣にお邪魔してるのはかすみんたちですから……」


心配して身を摺り寄せてくるゾロアを撫でる。

元はと言えば、勝手に巣にお邪魔している方が悪いわけですから……。


かすみ「ただ、あのぉ……本当にこれ以上近付かないので、ここで休憩だけさせてください……」

 「テブリ…」


不機嫌そうなテブリムだけど……結局のところ、それは許可してくれたのか、わざわざ近付いて暴力を振るってくることはなかった。

とりあえず、一安心……ここで、作戦を考えないと……。

しず子をどうにか見つけなくちゃいけないけど……。

恐らくしず子も、この不思議な森の不思議な何かのせいで、出られなくなってる……もしくは元の場所に戻れなくなってるって考えればいいのかな……。

その何かがなんなのかわからなくて困ってるんだけど……。


かすみ「うーん……どうしたものか……」
 「ガゥ…」


腕組みをしながら悩んでいると──


 「ミブーーー!!!」


巣の中の、かすみんたちがいるのとは反対側の方から、ミブリムが鳴き声をあげながら逃げ込んできた。

そして、その後ろからは──


 「ベロバーー!!!」「ベロベロバーー!!!!」「ベローーー!!!!」

かすみ「ベロバー……!!」


ベロバーたちがミブリムを追いかけて巣に侵入してくる。

あいつら、ミブリムたちにもいじわるしてるんですね……!!

ベロバーたちを追い払おうとボールに手を掛けた瞬間、


 「テブリッ!!!!」

 「ベロバッ!!!?」


テブリムがベロバーを殴り飛ばして、巣の中から追い出し始める。


かすみ「テブリム、めちゃつよじゃないですか……」


次々とベロバーを拳で追っ払うテブリム。……これは手伝う必要はなさそうですね。

そう思った矢先──樹の上から影が飛び降りてきた。


かすみ「!?」

 「テブッ!!?」


ちょうどテブリムの背後に着地した影は──


 「ギモッ!!!!」


テブリムの顔の目の前で、両掌を合わせて叩き、大きな音を立てる──“ねこだまし”だ。


 「テブッ!!!?」


頭上からの奇襲攻撃に反応できなかったテブリムが怯む。


 「ギモッ!!!!」


そして、相手のポケモンがその勢いのまま、追撃を仕掛けようとした瞬間、かすみんはボールを投げ放っていた。


かすみ「ジュカインッ!! “でんこうせっか”!!」
 「──カインッ!!!!」

 「ギモォッ!!!?」


ボールから出ると同時に、高速の一撃で肉薄しながら、敵を斬り裂いた。


かすみ「テブリム、大丈夫ですか!?」

 「テブ…」


かすみんはテブリムに駆け寄る。


かすみ「全く、“ふいうち”なんて卑怯なやつですね……!」

 「ギ、ギモ…」

かすみ「お前、ベロバーたちの親玉ですね! もう許しませんよ……!!」

 「ギ、ギモー!!!」


かすみんに恐れ慄いたのか、急にそいつは膝をついて土下座をし始める。


かすみ「全く……情けないですねぇ。勝てないと思ったら、土下座なんて」
 「カイン」


でも、そんなことされても、許してなんてやりませんもんね。

ジュカインはのっしのっしと近付いていく。

あんなやつ巣からつまみ出してやります。

その間に、あいつの名前を調べるために図鑑を開く。

 『ギモー しょうわるポケモン 高さ:0.8m 重さ:12.5kg
  悪知恵を 使って 夜の 森に 誘い込もうとする。
  土下座して 謝る 振りをして 槍のように 尖った
  後ろ髪で 突き刺してくる 戦法を 使ってくる。』


かすみ「!? 土下座は罠!?」

 「ギモッ…!!!」


十分に近づいたと判断した瞬間、ギモーは髪の毛を尖らせてジュカインに突き刺してくる。


 「カインッ…!!」

 「ギモ、ギモモモ!!!!」


引っ掛かったと言わんばかりに下卑た笑い声をあげるギモー。

……が、


 「…カイン」


ジュカインは突き刺さった髪の毛を──手で掴む。


 「ギ、ギモ…!?」

かすみ「かすみんのエースは、その程度じゃ怯みもしませんよ!」
 「ジュ、カインッ!!!」


髪の毛を直接握って捕まえたギモーに向かって、


かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
 「ジュ、カイーーンッ!!!!」


至近距離から“りゅうのいぶき”を噴き付けた。


 「ギ、ギモォォォッ!!!!?」


ドラゴンエネルギーの炎に焼かれ、地面を転がりながら、


 「ギ、ギモ、ギモモモ!!!!」


ギモーは一目散に逃げ出していく。


かすみ「ふん! おととい来やがれです!」
 「カインッ」


かすみんが鼻を鳴らして勝ち誇ると、


 「ミブ♪」「ミブリー♪」「ミブミブー♪」


ミブリムたちがかすみんとジュカインの足元に掛けよってきた。


かすみ「わわ……!? え、えっと……認めてもらえた感じ、ですかね……?」


恐る恐る、テブリムの顔色を伺うと、


 「…テブ」


先ほどまで睨むような目つきだったテブリムも気持ち穏やかな表情になっている気がした。


かすみ「ほ……」


これなら、もうさっきみたいにぶん殴られる心配もなさそうです。


かすみ「これでゆっくり考えられます……」


かすみんが、ミブリムたちの中央に腰を下ろすと、


 「ミブ…?」


1匹のミブリムが、かすみんのバッグに結んでいた──しず子のリボンに反応を示した。


かすみ「……? ミブリム、もしかしてこのリボン、見覚えあるの?」

 「…ミブ」


ミブリムはかすみんの言葉に首──というか体を左右に振りながら否定する。

でも……その代わりとでも言いたげに、さっきテブリムにぶん殴られて伸びているベロバーを指差す。


かすみ「ベロバーがどうかし……ん……?」


そういえば、さっき図鑑で……ミブリムは生物の気持ちを感じとるって……。


かすみ「……」


さらにギモーは悪知恵で夜の森に誘い込む……ベロバーはギモーの手下で……。

しず子の持ち物を見て、気持ちを感じ取れる力を持つミブリムがベロバーを指差した……。

だんだん、話が見えてきました……。

ミブリムはきっとこう言いたいんだと思う。そのリボンの持ち主は、ベロバーたちのところにいる……って。つまり──


かすみ「しず子は……ギモーたちに連れ去られたんだ……!!」


かすみんは立ち上がる。

そうとわかれば、今すぐにでもギモーたちの巣を見つけて、しず子を助けないと……!


かすみ「行くよ、ゾロア!! ジュカイン!!」
 「ガゥッ!!!」「カインッ!!!」


かすみんが駆け出そうとした、そのとき、


 「テブッ!!!」


テブリムが自分の頭の房を使って、器用にジャンプし、かすみんの頭の上に飛び乗ってくる。


かすみ「わとと……!? ……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブリ」


テブリムは頷くと、伸びてるベロバーを指差し、頭の房で殴るようなジェスチャーをする。

……どう見てもベロバーやギモーたちとは仲悪そうでしたし、自分も乗り込んでボコボコにしてやろうってことなのかも……。


かすみ「まあ、構いませんよ! かすみんも好き放題やられて頭に来てるのは同じですからね!」
 「テブリッ!!」

かすみ「テブリム! 一緒にギモーたちをぼっこぼこのけちょんけちょんにしてやりましょう!!」
 「テブリッ!!!!」


テブリムが進むべき方向を指差して教えてくれる。


かすみ「こっちにいるんですね! 行きますよ!」
 「テブッ!!!」


さぁ、好き放題やってくれたギモーたちに反撃開始ですよ……!!





    💧    💧    💧





しずく「……むー……!! むー……!!」


激しく抗議の意思を表してみる、

だけど、


 「…ロン」


私を拘束しているこの黒い髪は全く力を緩めようとしない。

私を捕えているのは──ベロバー、ギモーの最終進化系である、オーロンゲだ。

森の光るキノコに誘われて、かすみさんが私の近くを離れた直後だった。

森の奥から伸びてきた髪の毛に、手足を絡め取られ、


しずく『な、なに……!? かすみさ──むぐっ……!』


声をあげる前に、口も髪で塞がれて──


しずく『むー……! むー……!!』


森の奥に引き摺りこまれた。


しずく「……」


ベロバーとその進化系たちは、人のマイナスエネルギーを餌とするポケモンだ。

恐らくこうして近くを通った人間やポケモンを捕まえて恐怖を与えることで、自分たちの糧としているのだろう。

たぶん、かすみさんを光るキノコで引き付けて、私と引き離したのも、ギモーの悪知恵だと思う。

そうすれば、恐怖に怯える私と、私がいなくなったことで焦ったり不安になるかすみさんからもマイナスエネルギーを奪えて一石二鳥というわけだ。

ただ、誤算があるとしたら──


 「ロンゲ…」


私を至近距離で睨みつけてくるオーロンゲ。

それもそうだろう。私が全然怯えないからだ。


しずく「……むー……」


そんな風に睨みつけても無駄ですよ。

私は貴方なんか怖くもなんともありません。

──絶対かすみさんが助けに来てくれますから。


 「…ロンゲ」


オーロンゲは機嫌悪そうに鳴く。

私が希望を失っていないから。

そして、私に希望を与えてくれるあの人は──


 「──しず子ー!! どこー!!」


やっぱり、来てくれた。





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン! “マジカルリーフ”!! ゾロア! “スピードスター”!!」
 「カインッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」

 「ベロ!!?」「ベベロバッ!!!?」「ベロベー!!!?」


そこらへんにいるベロバーたちを必中の遠距離技で片っ端から倒しながら突き進む。

そして、


 「ベローー!!!」「ギモーーッ!!!!」「ギモォ!!!!」


飛び掛かってくるベロバーやギモーは、


かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”!!」
 「テブリーーー!!!!!」

 「ベベローー!!?」「ギモッ!!!?」「ギモォッーーー!!!!」


かすみんの頭の上で拳を振り回すテブリムが全部ぶっ飛ばします。


かすみ「しず子ーーー!! 迎えに来たよーー!! どこーー!?」


もう完全にベロバーやギモーたちの縄張りに入っている。

いるとしたら、ここしかありえない。


かすみ「テブリム! しず子のもっと詳しい居場所、わかる!?」
 「テブ」


テブリムが自らの額を、しず子のリボンに近付ける。

恐らく、またしず子の思念みたいなものを読み取っているんだろう。


 「テブ!!」
かすみ「あっちだね! 了解!!」


テブリムが指差す方向へと走る。

ベロバーやギモーたちをぶっ飛ばしながら、走っていくと──大きな樹が見えてきた。


 「テブ!!」
かすみ「あの樹!? よっし……じゃあ、行きますよ!!」


大きな樹にダッシュで駆け寄り──


かすみ「テブリム!! お願いします!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが樹木に向かって拳を叩きつけると──樹木の表面がバラバラと崩れ、大きな洞が現れる。

そして、


しずく「──むー……!!」

かすみ「しず子!!」


そこには、黒いひも状のもので縛られたしず子が居た。


 「ロンゲ…」

 「テブッ!!!」
かすみ「お前がしず子を攫ったやつですね……!!」


ギモーたちよりもずっと大きな背丈の──恐らく群れのボスらしきポケモンに向かって、テブリムが飛び出していく。

体を捻りながら、テブリムが渾身のパンチを繰り出すと──


 「ロンゲッ!!!!」


相手も、身を捻りながら、拳を突き出し、2匹の拳が真っ向からぶつかり合うが──


かすみ「ご、互角……!?」
 「テブッ…!!」

 「ロンゲッ」


2匹のパワーは互角で、お互い相殺し合っている。

テブリムのパンチ力は身をもって体験している。それなのに、それと互角に撃ち合ってくるなんて……!!


しずく「──かすみさんっ!! 攻撃を緩めないで!!」

かすみ「!?」


気付けば先ほどまで、口を塞がれていたしず子が、私に向かってそう伝えてくる。


しずく「オーロンゲは全身の髪の毛で、自分の筋力を増強するの!! だから、攻撃に使っていたら、私を拘束できなく──むぐっ……!!」

かすみ「なるほど! そういうことなら……!! テブリム!!」
 「テーブッ!!!!」


テブリムは、オーロンゲと呼ばれたポケモンの前に立って、連続で拳を繰り出す。


 「ロンゲ…!!!」


もちろん、そうなればオーロンゲも応戦するしかなくなり、


しずく「……ぷはっ!」


しず子の拘束が緩んだ隙に、


かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!!」


ジュカインが自慢の身のこなしで洞内の壁を蹴りながら、しず子を救出して、すぐに離脱する。


かすみ「ナイス! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」


すぐに、ジュカインがしず子を抱きかかえたまま、私のもとに戻ってくる。


しずく「かすみさん……!」

かすみ「しず子! よかった、無事で……!」

しずく「うん……! 絶対助けに来てくれるって信じてたよ!」

かすみ「当たり前じゃん!」


再会を喜び合うのも束の間、


 「テ、テブーー!!!」


テブリムがこちらに吹っ飛ばされてくる。


かすみ「テブリム!? 大丈夫!?」
 「テ、テブ!!」

しずく「オーロンゲも私の拘束に使っていた分を、全部攻撃に回してきたみたいだね……」

 「ロンゲ…」


忌々しそうにこちらを睨みつけてくるオーロンゲ。

そして、背後からは、


 「ギモーーー!!!!!」「ギモモ!!!!」「ギーーモッ!!!!」


この洞に向かって、ギモーたちが殺到してきている。


しずく「後ろは任せて」

かすみ「! そういうことなら……!! オーロンゲ、倒しますよ!!」
 「テブッ!!!!」

しずく「出てきて、ジメレオン!!」
 「ジメ…」


ジメレオンはボールから出ると同時に、手に大量の水の球を作り出し、


 「ジメッ!!!」


それを連続で投擲──投げられた水の球は、森の樹々を反射しながら、


 「ギモッ!!!?」「ギモッ!!!!」「ギィ!!!?」


予測不可能な軌道で、ギモーたちを次々と撃ち落としていく。


しずく「1匹たりとも、ここは通しません!!」
 「ジメ…!!」


しず子とジメレオンがギモーたちを抑えてくれている間に、


かすみ「テブリム……!! “ぶんまわす”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが頭の房を振り回しながら、オーロンゲに飛び掛かる。


 「ロンゲ!!!!」

 「テブッ…!!!」


が、やはりフルパワーのオーロンゲ相手だと、力負けしてテブリムが吹っ飛ばされる。


かすみ「なら……!! “マジカルシャイン”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムは吹っ飛ばされながらも、激しく閃光を放って反撃。


 「ロン…!!?」


暗い洞の中で急に激しい閃光が放たれたことによって、オーロンゲが一瞬怯む。


かすみ「そこです!! テブリム!!」
 「テーーーブッ!!!!」


怯んだところに──テブリムが走り込み、オーロンゲの顎に向かってアッパーカットを叩きこんだ。


 「ロンゲッ!!!?」


オーロンゲは体が宙を浮くほどの強烈な一撃を食らい、洞の中で倒れこむ。


 「ロンゲ…!!」


まだ倒しきれていないのか、オーロンゲはすぐに起き上がるけど……確実に大きなダメージを与えたはず……!!


かすみ「この調子でもう一発……!」


さらなる追撃を加えようとした瞬間、


 「ロンゲッ!!!」


オーロンゲは、髪の毛で強化した腕を──洞内の壁に思いっきり叩きつけた。


かすみ「壁に向かって“アームハンマー”……!?」


それと同時に──洞の壁が吹き飛び、それによって耐えきれなくなった樹木が倒壊を始める。


かすみ「や、やば……!?」
 「カインッ!!!」


かすみんが指示するよりも早く、ジュカインが私としず子を抱きかかえ、脱出を試みる。

テブリムやゾロア、ジメレオンもジュカインの大きな尻尾にしがみついているし──お陰でどうにか、全員倒壊に巻き込まれることなく脱出が出来た。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン」
 「カインッ」

かすみ「そうだ、オーロンゲは……!!」


気付けば、オーロンゲの姿は見えなくなっていた。


かすみ「に、逃げられた……!」


周囲にいたギモーやベロバーたちも、樹々の影に隠れて逃げ始めている。


しずく「恐らく逃げて態勢を立て直すつもりだろうね……。森の中は彼らのテリトリーだから、一旦引いて態勢を立て直せば、いくらでも策はあるだろうし……」

かすみ「冷静に分析してる場合じゃないって~!?」

しずく「大丈夫だよ、かすみさん」

かすみ「え?」

しずく「今回は──私もかなり怒ってるから」


静かに怒りを顕わにするしず子の声に同調するように──


 「ジメ──」


ジメレオンが光り出した。


かすみ「これって、まさか……!?」

しずく「かすみさんのキモリはジュカインに、歩夢さんのヒバニーもエースバーンになって……私のメッソンも、最終進化の時が近いってわかってたから」
 「──インテ」

しずく「行くよ、インテレオン」
 「インテ」


進化し、新しい姿を得たジメレオン……改めインテレオンは、指を銃口のようにかざし、


しずく「この森では貴方たちは隠れ放題、逃げ放題って思ってるかもしれないけど……私の“スナイパー”は、絶対に外さない──“ねらいうち”」
 「インテ──」


指先から──超速度の水の弾丸を撃ち出した。

ヒュン、と風を切る音と共に、水の弾丸は樹々の間をすり抜けて──


 「ロンゲェッ!!!!!!」


オーロンゲの悲鳴に変えて、直撃を私たちに報せてくれた。


 「…インテ」
しずく「これに懲りたら、今後は無暗矢鱈に人を襲わないことだね。……もう、聞こえてないだろうけど」

かすみ「か、かっこよ……」


インテレオンの必殺の一撃によって──マッシュルームフォレストで起こった、一連の騒動は終息するのでした。





    👑    👑    👑





かすみ「テブリム。協力してくれてありがとね」
 「テブ」


あの後かすみんたちは、テブリムの巣に戻ってきました。

──あ、ちなみに盗まれた“げんきのかけら”は、崩れた樹の近くにまとめて置いてありました。もちろん全部取り戻してめでたしめでたしです。


かすみ「それじゃ……これからもミブリムたちを守ってあげてね」
 「テブ」

かすみ「よし……! それじゃ、しず子! さっさと森、抜けちゃおっか! 朝になっちゃう!」


かすみんはテブリムへの挨拶を終えて、しず子に振り返る。


しずく「かすみさん、いいの……? テブリム、捕まえなくても……?」

かすみ「いいのいいの! あの子は群れのリーダーなんだから、いなくなったらみんな困っちゃうもん」


せっかく一緒に戦った仲だし、ちょっと寂しくはありますけど……。


しずく「そっか……。……でも、テブリムはそう思ってないみたいだよ?」

かすみ「え?」


そう言われてテブリムの方へ振り返ると──


 「テブ」


テブリムは私の足元に居た。


かすみ「テブリム……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブ」

かすみ「でもミブリムたちは……」

 「ミブー!!」「ミブ、ミブーーー!!!」「ミブリーー!!!!」

しずく「ふふ、旅に出る仲間を応援してくれてるね♪」

かすみ「……野生のポケモンってたくましいですね……」


嬉しそうに飛び跳ねるミブリムたちを見ていると、まるで「私たちは私たちでどうにかやっていくから、心おきなく旅に行っておいで」と群れのリーダーの門出を祝っているようだった。


 「テブリ」


テブリムはまた器用に頭の房を使ってジャンプすると、


かすみ「わっとと……」


かすみんの頭に飛び乗ってくる。


 「テブ」

しずく「かすみさんの頭の上で腕組んでるね」

かすみ「……なーんか、ちょっと偉そうですね、このテブリム……」

しずく「群れのみんなも大切だけど……頼りない子分が心配だから、付いて行ってやろうって感じなのかな……?」

 「テブ」

かすみ「えぇ!? なにそれ!? 頼りない子分ってかすみんのこと!?」
 「テブテブ」

かすみ「むー……ま、いいけどさー……。……これからよろしくね、テブリム」
 「テブ!!」


霧に包まれ、キノコが群生する、この不思議な森で……新たな仲間を加えて、かすみんたちは再び、ヒナギクシティを目指して出発するのでした。

──ちなみに、森を出る頃には完全に朝になっていました……。うぅ……徹夜は美容の敵なのに……。




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【11番道路】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回_●__  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.48 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.45 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.42 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.39 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.41 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.40 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:9匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.37 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.32 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.36 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.36 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.36 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:187匹 捕まえた数:12匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🎙



せつ菜「……ここ、ですね……。エアームド、下に降りてください」
 「ムドー」


夜が明けて──私たちがやってきたのは、クロユリシティのちょうど北西部に存在する大きなカルデラ湖。その中心に鎮座している火山島だ。

未だに活発な活火山で、名前は──天睛山(てんせいざん)、とりわけその火山洞は天睛の火道(てんせいのかどう)と呼ばれています。

活火山なだけあって、危険を伴う場所で、人があまり近寄らず、街から繋がる道もない。大きなカルデラ湖から中央の火山島へ渡る船などもないため、ポケモンの力を借りずに来る方法はほぼないと言っていい。

──果林さんから貰ったメモには、『オトノキ北の火山洞奥。20~』とだけ書かれていた。

オトノキ北の火山と言われたらここしかないし、20~というのは20時以降を示しているものだろう。

ただ……。


せつ菜「本当にこんな場所に千歌さんが来るのでしょうか……」


流れ出す溶岩を横目に見ながら、私は溶岩洞に足を踏み入れる。

溶岩洞窟内は大きさこそあるものの、入り組んだ道ではなかった。

溶岩洞の入り口から真っすぐ進んでいくと、大きな広間のような空間に出る。


せつ菜「入り口は一つしかありませんでしたし……もし来るんだとしたら、ここに居れば必ず鉢合わせるはず……」


だだっ広い空間ではあるが、赤熱した溶岩のお陰で洞窟内は意外と明るかった。

その光景自体は自然の力強さを感じる幻想的な風景ではあるのだが──


せつ菜「さすがに……暑いですね……」


ドロドロとした溶岩がそこかしこに見られるだけあって、非常に暑い。

私は暑さにはかなり耐性がある方だけど……それでも、ずっと居たくはないと思うくらいには暑かった。


せつ菜「本当に、ここに千歌さんが来るの……?」


何度目かわからない自問。

千歌さんがここに来ることが想像できない。出来ない、のだが……。


せつ菜「当てもなく探し回るよりは、いい……はず」


何せ、彼女がどこにいるかは本当に見当が付いていないのだ。

もし来ないのであれば、それはそのとき考えればいい。

今は、もし彼女がここに訪れたらどうするかを考える方が建設的だ。

──これから彼女とするであろう、戦いのシミュレーションを。

一匹一匹手持ちのボールに触れながら、戦い方を頭の中で思い浮かべる。

千歌さんの手持ちとどう渡り合うかを一つ一つ考えて。


せつ菜「……」


正直、不安はあった。

今の私で勝てるのか。

今の力で通用するのか。

でも、


せつ菜「……大丈夫」


私が信じて進んできた道に、間違いはない。

あと、少しで手が届くという手応えだって、ずっと感じていた。

だから、今日、ここで、超える。

弱気になんてなっちゃダメだ。


せつ菜「私は……チャンピオンになるんだ」


私は自分に言い聞かせるように、そう言葉にした──





    🎙    🎙    🎙





──時刻は20時半を回ろうとしていた。


せつ菜「…………」


溶岩洞の内部は、今も灼熱の溶岩が流れ続けるだけ。

20~と書かれていたが、千歌さんは未だ姿を現していなかった。


せつ菜「…………また、からかわれてしまったみたいですね……」


菜々のときだけではなく、せつ菜であってもからかわれてしまったようだ。

さて、これからどうしたものだろうか……。

次の策を思案し始めた、そのときだった。


 「──こっちであってるよね!?」


入り口からこの広間へ向かう通路の方から、声が聞こえてきた。


せつ菜「……え?」


その声は、あまりに聞き覚えのある声で──程なくして、


千歌「はぁ……はぁ……! どこ……!?」


千歌さんが、この火山洞の中に、姿を現した。


せつ菜「本当に……来た……」


私は唖然としてしまった。

まさか本当に来るなんて。

キョロキョロと何かを探していた千歌さんは、


千歌「……え?」


私を視界に入れた瞬間、目を丸くする。


千歌「せつ菜ちゃん……?」


千歌さんもポカンとしていた。

まさか、私がこんな場所にいるなんて思っていなかったとでも言わんばかりに。

呆然としながら、見つめ合う私たち。そして、その背後から、


彼方「千歌ちゃーん……待って~……」


息を切らせながら、広間に入ってくる女性の姿。

確か……彼方さんと呼ばれていた気がします。

そしてその後ろから、ツインテールの少女と、さらにサイドテールの女性が姿を現す。

遥さんと……穂乃果さんと呼ばれていたと思います。

最近、千歌さんと会うときに大体一緒に行動している方たちです。


千歌「あ、えっと……彼方さん……」

彼方「はぁ……はぁ……あ、あのねー……大変なのー……。……ここに入ったら、急に反応が、消えちゃって……」

千歌「え? そうなの……?」

彼方「うん……」

遥「勝手に戻っていったということでしょうか……」

穂乃果「今までそんなことあったっけ……?」


何やら話をしていますが……こうして千歌さんと出会えたのなら、


せつ菜「……あの!!」


私は私の目的を果たさねばならない。


せつ菜「千歌さん!! 私とバトルしてください!!」

千歌「あ、えっと……」


千歌さんは少し動揺した様子だった。


彼方「あれ……? なんで、せつ菜ちゃんがいるの~……?」

遥「まさか、またせつ菜さんが……?」

千歌「えーっと……」


千歌さんは背後の穂乃果さんを伺うように、チラりと視線を送る。


穂乃果「……とりあえず、反応が消えちゃったなら、私たちには何も出来ないし……大丈夫だと思う」

千歌「……まあ、それもそっか」


どうやら、向こうも話が付いたらしく。


千歌「どうしてここにせつ菜ちゃんがいるのかはわからないけど……トレーナー同士、目が合ったら戦うのが礼儀だもんね!」

せつ菜「……! はい!!」


──やった……! バトルまで、漕ぎつけた。

後は──戦って勝つ……!! 勝って、実力を示して、チャンピオン戦をしてもらう!!

私はボールから手持ちを繰り出す。


せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「ゲンガッ!!!」

千歌「出てきて、バクフーン!」
 「──バクフーン!!!!」


お互いの手持ちが相対して、今まさにバトルが始まろうとした──その瞬間だった。

──ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

けたたましいブザー音のようなものが洞窟内に響き渡った。


千歌「……!?」

せつ菜「な、なに……!?」


千歌さん共々、ブザー音の発信源に目を向けると──それは彼方さんの持っている端末から鳴っている音だった。


彼方「……うそ」

穂乃果「彼方さん、場所は……!?」

彼方「叡智のゴミ捨て場付近と……フソウ島」

遥「二ヶ所同時……!?」

穂乃果「しかも、ここと真逆……!?」

彼方「それに、どっちも市街地が近い場所だよ~……!」

穂乃果「……っ……私はフソウに飛ぶ!! 千歌ちゃんは、ダリアの方に行って!!」


そう言って、穂乃果さんは踵を返して駆け出して行く。


千歌「は、はい……!」


千歌さんも動揺しながらも、踵を返して出て行こうとする。


せつ菜「ま、待って……!?」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! バトルはまた今度……!!」


そう言って、千歌さんが洞窟内から駆け出して行く。

どうしよう。戦わなくちゃいけないのに。私は、すぐにでも千歌さんと戦って示さなくちゃいけないのに。

私の頭の中は、それでいっぱいだった。

だから、私は、


千歌「んぎっ!?」

彼方「千歌ちゃん!?」

遥「どうしたんですか……!?」

千歌「身体が……う、動かない……!!」

せつ菜「……トレーナーとの戦いが始まったのに、背を向けるんですか……」


“メガバングル”を輝かせながら、言う。


 「ゲンガァー…!!!!!」

千歌「め、メガゲンガー……! “かげふみ”……!」

彼方「ち、千歌ちゃん……!」

千歌「二人は穂乃果さんと、先に行って……!」

遥「わ、わかりました……!」

彼方「ご、ごめんよ~……!」


彼方さんと遥さんが千歌さんを置いて駆け出して行く。


せつ菜「……バトルの最中に……相手に背を向けるんですか……チャンピオンが……」

千歌「……っ……せつ菜ちゃん、今は緊急事態で……バトルなら、今度会ったときに改めてやろう! ね!?」

せつ菜「今度って……いつですか……次会うのはいつですか……!!」

千歌「え、いや、それは……わ、わかんないけど!!」

せつ菜「──それじゃ、ダメなんですっ!!」

千歌「……っ!?」


自分でも驚くくらい、大きな声が火山洞内で反響する。

次会えるのなんて、いつになるかわからない。

今ここでこの機会を逃したら──全てを失ってしまう気がした。


せつ菜「今……!! 今、バトルしてください……!!」

千歌「だ、だから……!! 緊急事態なんだって!! 今行かないと大変なことに……」

せつ菜「私だって、今バトル出来ないと困るんですっ!!!」

千歌「……っ」


私の無茶な要求に千歌さんも困っていたし、苛立ちがあったのかもしれない。

だから、彼女は私に向かって──言ってしまった。


千歌「──ポケモントレーナーだったら、バトルなんていつだって出来るじゃんっ!!!!」

せつ菜「────」


その言葉を聞いて、私の中で──何かが切れてしまった。


せつ菜「いつだって……出来る……?」

千歌「そうだよ、いつだって出来る、だから……!」

せつ菜「……ゲンガー!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガーーッ!!!!」

千歌「!? “かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーンッ!!!!!」


ゲンガーの放った“シャドーボール”が“かえんほうしゃ”で相殺されて、爆発する。

爆発の衝撃で、朦々と立ち込める煙の向こうに立つ千歌さんを、見据える。


せつ菜「……そうですよね、貴方はいつだって、どこでだって、好きなときに、好きなだけ、戦える。トレーナーでいられる。何不自由なく、縛られることなく、誰に言われることもなく」

千歌「せつ菜ちゃん、やめてって!! 今は戦えないって言ってるじゃん!!」

せつ菜「戦う気がないなら……戦う気にさせてあげますよ……!!」


私は──ボールを4つ放った。


 「ムドー!!!」「フゥ!!!」「ドサイッ!!!」「ワァォン!!!!」

せつ菜「エアームド、“ステルスロック”! スターミー、“ハイドロポンプ”! ドサイドン、“ロックブラスト”! ウインディ、“かえんほうしゃ”!」
 「ムドーーー!!!!」「フゥッ!!!!」「ド、サイッ!!!!」「ワァーーーオーーーンッ!!!!!」

千歌「……っ!」
 「バクフッ!!!」


私の手持ちたちの総攻撃に、千歌さんはバクフーンに掴まり、駆け出して回避する。


千歌「せつ菜ちゃんっ!! いい加減にしてよっ!!」

せつ菜「私は本気です!! 本気で貴方と戦う意志を持って今ここにいるんですっ!! だから、千歌さんも私と本気で戦ってくださいっ!!」


彼女なら、意志を見せれば、向き合ってくれると思った。

だけど──そうじゃなかった。


千歌「あーーーーもーーーーっ!!! 今は無理って言ってるでしょーーーー!!!!」


千歌さんが叫ぶのと同時に──彼女の腕に付けたリングが、強烈な閃光を放ち始めた。


せつ菜「……!?」


千歌さんとは何度も戦ってきたけど、これは、こんな光景は、一度も見たことがなかった。

彼女の腕の光は、千歌さんの腕から──バクフーンへと流れ込み、


 「バクフーーー!!!!!!!」


離れていても、ビリビリとほのおのエネルギーを感じるほどに、すさまじい熱気を放ち、


千歌「──“ダイナミックフルフレイム”!!」
 「バーーーーク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!」

せつ菜「う……そ……」


見たこともないような、巨大な火球が──


 「ゲンガッ!!!?」「フゥ…!!!」「ドサイ…!!!」「ムドーッ!!!?」「ワォンッ!!!?」


私たちの手持ち5匹全てを呑み込み──直後、膨れ上がったほのおエネルギーが大爆発を起こした。


せつ菜「うぁっ……!!」


強烈な爆音と爆風が衝撃波となって、私に襲い掛かってくる。

立っていることもままならず、吹き飛ばされて地面を転がる。


せつ菜「……っ……」


轟音が洞窟内で何度も反響し、火山全体を大きく揺さぶる。

目の前で大噴火が起こったのかと錯覚するような、とてつもない熱量。

──やっと、余波が収まった頃に顔を上げて、どうにか身を起こす……。


せつ菜「…………」

千歌「はぁ……! はぁ……!」

せつ菜「………………」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! 私、行くから……!!」


千歌さんは今度こそ踵を返して、洞窟から駆け出して行く。

彼女が去ったあとの洞窟内をぼんやりと見回すと、


 「ゲ、ン…」


ゲンガーが倒れていた。


 「ムドー…」


エアームドも力なく地に伏せ、


 「フ、ゥ…」


ほのおタイプが得意なはずのスターミーもコアを点滅させ、


 「ド、サイ…」


溶岩さえ耐える、硬い岩の皮膚を持つドサイドンも丸焦げにされ、


 「ワ、ォン…」


同じほのおタイプのはずのウインディも、力尽きて倒れていた。


せつ菜「……なに……いま、の……」


私は──思い上がっていた。

もう少しで手が届くと思っていたのは、ただの勘違いだった。

私のポケモンたちは──たった一撃で全滅してしまった。

千歌さんは、あんな技を隠していた、あんな特別な、技を……。


せつ菜「あ、……あはは、あははははははっ……」


笑いが込み上げてきた。

笑いと一緒に──涙も。


せつ菜「あはは、あははははははっ……千歌さんは、本気じゃなかったんだ……ずっと私なんか相手に、本気なんて出してなかったんだ……」


本当はいつでも一撃で終わらせられる技を持ってたんだ。そんな──『特別』を持っていたんだ。

私にはまだ──チャンピオンなんて遠かったんだ。

ただ、負けただけなら……いつもだったら、どうすれば勝てるかを考えていた。

だけど……今回は、そう思えなかった。そんな風に、考えられなかった。


せつ菜「なんで……っ……。なんで……その技なんですか……っ……。なんで……バクフーンなんですか……っ……」


ずっと、言わないようにしていた言葉が……勝手に溢れ出してきた。


せつ菜「なんで……選ばれた貴方が……選ばれた技で……選ばれたポケモンで……──選ばれなかった私から、全てを奪うんですか……っ!!」


もう言葉が止まらなかった。


せつ菜「私だって、選ばれたかった……っ!!! 博士からポケモン図鑑を貰って、最初のパートナーを貰って、旅に出たかった……!! 私だって、そうしたかった……そうありたかった……」


──結局。


せつ菜「結局……貴方は選ばれたから、なんですか……? 私は選ばれなかったから……勝てないんですか……? そんなの……そんなのって……っ……」


力無く項垂れる私の背後から──


 「──……そうよね、酷いわよね」


女性の声がした。

聞き覚えのある、声だった。


せつ菜「果林……さん……?」

果林「酷い……酷すぎるわ……」


そう言いながら、彼女は私のことを後ろから抱きすくめる。


果林「選ばれた人間が……選ばれなかった人間をめちゃくちゃにする。……どんなに頑張っても、結局選ばれた人たちだけが、笑って、貴方たちの努力あざ笑う」

せつ菜「…………」

果林「可哀想なせつ菜……。でも、大丈夫よ、せつ菜……」


果林さんは私の頭を優しく撫でながら、私の耳元で、


果林「──私が、選んであげるから」


そう、言葉にした。


せつ菜「え……?」

果林「貴方に……『特別』な力をあげる」


『特別』──その言葉は……今の私には、あまりにも甘美な響きだった。


果林「私と一緒に、来なさい……せつ菜。私が貴方を──『特別』にしてあげる」

せつ菜「…………はい」


今の私は、その甘い毒に、抗う術を持っていなかった──


………………
…………
……
🎙


■Chapter047 『激闘! ヒナギクジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「さて、今日はついにヒナギクジムに挑戦の日です!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」

かすみ「昨日は1日お休みした分、かすみん元気全開! 気合い入りまくってるんだから!」
 「ガゥ♪」

しずく「うんうん、頑張ろうね♪」


昨日の朝方、ヒナギクに到着したかすみんたちは、もちろん宿に直行しました。

あまりに疲れていたのもあって、起きたら夕方……そこからジム戦に行くのもタイミングが悪いということで、結局その日は休息日ということにしたわけです。

お陰でたくさん寝られましたし、お肌もつるつる、髪もつやつや、乙女の尊厳も守りながら、元気全開、パワー全開でジムに挑むことが出来ますよ!

さあ、早速ジムにレッツゴーです!





    👑    👑    👑





かすみ「…………」


──『現在ジムリーダーは留守です』

お決まりの留守札がかかっている、ジムのドアを見て、かすみん思わずしかめっ面になります。


しずく「あはは……なんか、なんとなくこうなるかなーって気はしてたんだけど……」

かすみ「はぁ……かすみん呪われてるんですかねぇ……」
 「ガゥ?」

しずく「い、いっそ、このまま全ジム制覇出来ちゃうかもしれないよ……?」

かすみ「そんなジム制覇したくないよぉ~……」


全部のジムで出鼻を挫かれるなんて嫌すぎます……。って言っても、結局後回しになっちゃったローズジムを含めたら、これで7個目ですからね……。

制覇も近い……。

ジムの前で項垂れるかすみんなんですが……そんなかすみんに向かって、


女の子1「あら……お前たち、ジム挑戦者かしら?」

女の子2「この時間……ジムリーダーは基本的にジムにいない……」


たまたま通りかかったっぽい、女の子たちが声を掛けてくる。

黒いゴスロリ服に身を包んだアッシュグレーの髪の女の子と、それとは対照的に白いゴスロリ服に長い黒髪を携えた女の子の二人組。

……この、いかにもな服装……オカルトマニアかな……?


かすみ「ジムリーダーはこの時間はいつも留守なんですか?」

女の子2「うん……この時間は基本留守」

しずく「どこかに出かけているんですか?」

女の子1「ええ……この時間はいつもグレイブガーデンにいるみたいよ」

かすみ「グレイブガーデン……?」

しずく「グレイブガーデンって……ヒナギクの北にある、墓地ですよね……?」

かすみ「え、墓地? お墓参りってこと……?」

女の子1「みたいね……毎日朝夕に欠かさず行っているみたいよ」

しずく「毎日……ですか」

かすみ「この町のジムリーダーは、随分マメな人なんですね……」

女の子2「ただ、誰のお墓参りなのかは誰も知らない。聞いても答えてくれないから」

女の子1「噂では、ここのジムリーダーは過去に“機関”に属していて、そのときに犠牲にしてしまった命への弔いだなんて言われているわ……」

しずく「き、“機関”……!? こ、ここのジムリーダーはまさか壮絶な過去を……」

かすみ「しず子~……こういうの本気で相手しない方がいいよ~……?」


オカルトマニアが言うことなんて大体適当なんだし……。


女の子1「まあ、信じる信じないはお前たちの勝手だけどね……行くわよ、咲良」

女の子2「うん……姉さん」


そう言い残して、二人は去って行ってしまった。


しずく「今の二人、姉妹だったんだね」

かすみ「この町……癖強い人が多いよねぇ……」


軽く周囲を見渡してみても、さっきの姉妹のようなゴスロリっぽい衣装の人や、魔女みたいな服装の人とか……今日は仮装パーティの日なのかと疑いたくなるような人たちがたくさんいる。


しずく「あはは……この町は南北を霊峰に挟まれてるからね……そっち系の人は多いらしいよ。……それで、どうする? ここでジムリーダーが帰ってくるの待つ?」

かすみ「うーん……」


かすみん少し悩みましたが、


かすみ「グレイブガーデンにいるって言うなら、行ってみよう。もしかしたら、また急用でジム戦出来ない~とか言われたら嫌だから、直接捕まえるべきです!」

しずく「捕まえるって……ポケモンじゃないんだから……」

かすみ「とにかく! グレイブガーデンへレッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみんたちは、町の北にあるグレイブガーデンを目指します。




    👑    👑    👑





──グレイブガーデンはジムからそこまで遠くなくて、すぐにたどり着きました。


かすみ「うわ……一面お墓だらけ……」
 「ガゥ」

しずく「墓地だからね。……あんまり変なことすると呪われちゃうかもよ~……?」

かすみ「ひぅっ!?」

しずく「ふふ、なーんて。冗談だよ。でも、お墓だから、いつもみたいにはしゃぎすぎないようにね?」

かすみ「お、脅かさないでよ! ま、まあ、別にかすみんそれくらいじゃ全く怖くないですけど~? ゾロアもいるし……」
 「ガゥ?」

しずく「もう……じゃあ、なんで私の後ろに隠れるの?」

かすみ「ほ、ほら……しず子の背中になんか憑かないようにと思って……!」

しずく「ふふ、そっか、ありがとね」

かすみ「ほら、前に進まないと!」
 「ガゥ」

しずく「はいはい、わかりました」


しず子を盾──じゃなかった……しず子の背中を守りながら、グレイブガーデンを進んでいきます。


かすみ「それにしても……ホントにすごい数だね……」

しずく「厳しい環境の町だからね……開拓前は多くの人が亡くなったって言うし……」

かすみ「そうなんだ……」

しずく「人だけじゃなくて、ポケモンもね……。あと、この共同墓地はヒナギクの人やポケモンだけじゃなくて、地方のいろんな町から、お墓を建てに来る人がいるみたいだよ」

かすみ「確かに、セキレイではお墓ってあんまりないよね……」

しずく「特にポケモンのお墓はね。オトノキ地方以外でも、カントーのポケモンタワー、ホウエンの送り火山、シンオウのロストタワー、イッシュのタワーオブヘブン、アローラのハウオリ霊園とか……ポケモンを弔う場所は共同墓地として置かれてることが多いかな……」


しず子の説明を聞きながら、グレイブガーデンを進んでいくと、


しずく「あ……」

かすみ「むぎゅっ!」


しず子が急に足を止めた。そのせいで、しず子の背中に顔を押し当ててしまう。


かすみ「き、急に止まらないでよ……」

しずく「かすみさん、あの人じゃないかな」

かすみ「え?」


言われて、しず子の影から覗いてみると──確かに、お墓の前で手を合わせている女の子がいた。

赤紫の髪をツインテールに結っている女の子だ。


しずく「ちょうどお墓参りしてるところみたいだね」

かすみ「さすがに終わるまで待った方がいいよね?」

しずく「そうだね」


さすがにお墓参り中に話しかけるなんて、非常識な真似はしません。

少し離れた位置で見守ることにする。


女の子「…………」

かすみ「……真剣に手を合わせてますね」

しずく「よほど大切な人なのかもね……」


だとしても、これを毎日しているというのは、大変な気がする。

すごく優しくて、真面目な人なのかもしれない。

しばらく待っていると、女の子は目を開けて、立ち上がる。


女の子「──ごめんなさい、待たせたみたいね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「もしかして、私たちに気付かれてました……?」

女の子「なんとなく気配でわかった」

かすみ「そ、そうですか……」


こうして目の前に立つ女の子は、背こそ低いものの、眼光は鋭く、立ち居振る舞いって言うんでしょうか……なんだか毅然としていて……簡単に言うと、なんか強そうな感じがします。


女の子「こうしてここまで私に会いに来たってことは……ジム戦に来たのよね」

かすみ「は、はい……!」

理亞「私は理亞。ヒナギクジムのジムリーダーよ」

かすみ「よ、よろしくお願いします! わ、私はかすみって言います!」

しずく「私はしずくです」

理亞「よろしく。あと貴方も」


そう言いながら、理亞先輩はゾロアの頭を撫でる。


 「ガゥ♪」

理亞「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。すぐにジム戦の準備するから、ジムに行きましょう」

かすみ「は、はい!」


理亞先輩を先頭に、来た道を戻っていく。


しずく「そういえば、かすみさん……珍しくまともに自己紹介してたね」

かすみ「な、なんというか……ふざけちゃいけない空気を感じたというか……いや別に、かすみんがかすみんなのは、ふざけてるわけじゃないけどね?」
 「ガゥ?」

しずく「普段も挨拶のときくらいは、それくらい空気を読めればいいのに……」

かすみ「む……まるで普段が空気読めてないみたいじゃん」


全く、失礼なしず子ですね……!

かすみんがぷんぷんしていると、


理亞「それにしても、良いタイミングだった」


理亞先輩が話しかけてくる。


かすみ「良いタイミング……ですか?」

理亞「実は明日からローズに行くためにジムを空けようと思ってたから」

しずく「ローズにですか?」

かすみ「今、ローズはバタバタしてますよ?」

理亞「知ってる。中央区でテロがあったって。……ただ、姉がローズの病院に入院してるから、様子を見に行こうかと思って」

しずく「そういうことでしたか……」

理亞「もちろん病院の方は問題ないってことは聞いてるけど……一度見に行った方がいいと思ったから」


ってことは、かすみん珍しく、間がよかったみたいですね……!

最初留守札を見たときはまたかって思っちゃいましたけど……やっぱり、こういうときに日頃の行いが出るんですよね~。


理亞「だから、もし挑戦に失敗しても、再戦は出来ないから」

かすみ「む……もちろん、かすみん1回で勝つつもりで来てますよ」

理亞「そ。でも、手加減するつもりとかないから」


なかなか自信家さんみたいですねぇ……でも、かすみんだって負けるつもりなんてありませんから!


かすみ「……そういえば、しず子」

しずく「ん、なに?」


かすみんは、理亞先輩に聞こえないように、こっそりしず子に耳打ちをします。


かすみ「理亞先輩って何タイプ使うの……?」

しずく「そこは私頼りなんだね……。えっと……理亞さんはこおりタイプのエキスパートだよ」

かすみ「こおりタイプ……」


ジュカインが苦手なタイプですね……。これはちょっと考えないといけないかも……。

作戦を練りながら、かすみんたちはヒナギクジムへ向かいます。





    👑    👑    👑





──ヒナギクジムに到着すると、理亞先輩は早速バトルスペースに赴きます。


かすみ「よろしくお願いします!」

理亞「ん、よろしく。使用ポケモンは4体。全員戦闘不能になったらその時点で決着だから」


めんどくさいやり取りは抜きで、お互いボールを構える。


理亞「これ……一応、戦う前に言うやつらしいから。ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。負けて、泣かないようにね」


両者のボールがフィールドに放たれて──バトル、開始です!!




    👑    👑    👑





理亞「行くよ、マニューラ」
 「マニュッ!!!」


理亞先輩の1匹目はマニューラ。対するかすみんは、


かすみ「さぁ、行きますよ! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」

しずく「い、いきなりジュカイン!?」


驚きの声をあげるしず子。こおりタイプはジュカインにとっては苦手な相手です。

最後の1匹に残して、相性不利のまま戦うくらいなら、最初に全力で戦ってもらって、数を削る方が得策と考えました。


理亞「へぇ……こおりタイプのジムでくさタイプ先発……いい度胸してる」

かすみ「相性が悪くても、当たらなければ問題ありません! かすみんのジュカインは速いですよ!」
 「カインッ!!」

理亞「そ。でも──もう、当たりそうだけど」

かすみ「え……!?」


気付いたときには、フィールド上からマニューラの姿が掻き消えていた。

フィールド全体を見渡しても、マニューラの姿はどこにも見えない。

そんな中──突然かすみんの頭上に影が差した。


かすみ「!? 上!?」

理亞「“つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!!」


ジュカインの真上に跳躍したマニューラは冷気を放ち、それを塊にして降らせてくる。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


でも、動き出しで負けても、ジュカインがスピード自慢なのには変わりありません!

落ちてくるつららを1本ずつ正確に切り落としていく。


かすみ「これなら、捌ききれ──」

理亞「──ると思う?」


大量のつららに紛れて──


 「マニュッ!!!!」

かすみ「!?」


マニューラが爪を構えながら、降ってくる。


理亞「“きりさく”!!」

 「マニュッ!!!!」

 「カインッ…!!!」


マニューラは鋭い爪で、ジュカインの胸部を切り裂きながら、床に着地する。


かすみ「着地隙逃がしちゃだめ!! “アイアンテール”!!」
 「カァ、インッ!!!!」


ジュカインは床を踏みしめながら、体を捻って前方に着地したマニューラに向かって大きな尻尾を振るう。

でも、


理亞「遅すぎ」

 「マニュッ!!!」


マニューラはすぐにジャンプをして、尻尾を回避し、さらに、


理亞「“トリプルアクセル”!!」

 「マニュ、マニュ、マニュッ!!!!!」


跳ねながら回転し、3連続キックを繰り出してくる。


 「カインッ!!!?」


身を捻って向けた背に、氷の蹴撃を食らって、ジュカインがうつ伏せに倒れる。


かすみ「ジュカイン!?」

理亞「トドメ……! “れいとうパンチ”!!」

 「マニュッ!!!!」


倒れたジュカインの背に向かって、“れいとうパンチ”が迫る。


かすみ「わ、“ワイドブレイカー”!!」
 「…!!! カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!?」


咄嗟に尻尾を大きく振るって、マニューラを迎撃する。


理亞「ちっ……仕留めそこなった」

 「マニュッ…!!!」


“ワイドブレイカー”が当たりこそしたものの、こちらも体勢が悪い状態での攻撃だったため、大きなダメージにはなっていない。

マニューラは軽い身のこなしでフィールドに着地しながら、


理亞「“つるぎのまい”」
 「マニュッマニュッ!!!!」


“ワイドブレイカー”で下げられた攻撃を元に戻している。

ジュカインもすぐさま、全身のバネを使って起き上がり、迎撃態勢を取るけど──完全に劣勢だ。


かすみ「せめて、一瞬でも隙が作れれば……」


かすみんはチラりとジムの天窓を見る。

寒い寒いヒナギクシティだけど、日中になればちゃんと日が照ってくれる。

“ソーラーブレード”さえ叩き込めれば勝機はあるんだけど……。


かすみ「……あ」


……かすみん、良いこと考えついちゃいました。

ソーラーの使い道は“ソーラーブレード”だけじゃありません……!


理亞「マニューラ、“こうそくいどう”」
 「マニュッ!!!」


またマニューラの姿が掻き消える。

確かにめちゃくちゃ速いです。全然目で追えない。

……でも、


かすみ「目で追えなくても、目で追われてればいいんです!」

理亞「……は?」


理亞先輩がかすみんの言葉に怪訝な顔をした瞬間、


 「マニュッ!!!!」


マニューラがジュカインの頭上後方から飛び掛かってくる。

完全な死角からの高速奇襲。絶対回避不可能な位置関係だけど──


かすみ「“フラッシュ”!!」
 「カインッ!!!!」


ジュカインは自身に溜まっている太陽のエネルギーを光にして、一気に放出する。


 「マ、マニュッ!!!?」

理亞「な……!?」


至近距離での強烈な閃光を受け、驚いたマニューラはそのまま、地面に落っこちる。

ジュカインは、目を潰されて隙だらけになったマニューラの頭上に尻尾を振り上げる。


かすみ「“アイアンテール”!!」
 「カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!!?」


今度こそ、“アイアンテール”を頭上から直撃させた。


 「マ、マニュ…」


鋼鉄の尻尾を叩きつけられたマニューラはあえなく戦闘不能。


理亞「……戻れ、マニューラ」

かすみ「よし!! まず一勝です!!」

理亞「マニューラは素早い代わりに、防御が弱い……やられた」

かすみ「さぁ、この調子で行きますよ! 早く次のポケモンを出してください!」

理亞「それはそっちもね」

かすみ「……え?」


直後──


 「カインッ…」


ジュカインが崩れ落ちた。


かすみ「え、ええ!? ジュカイン!? どうしちゃったの!?」

理亞「熱くなりすぎて、気温の変化に気付いてないんじゃない?」

かすみ「へ……?」


言われてみれば……。


かすみ「な、なんか……さ、寒い……?」

しずく「……! まさか、“こごえるかぜ”……?」

かすみ「え?」

理亞「マニューラは場に出たときから、ずっと“こごえるかぜ”で少しずつフィールドの気温を下げながら戦ってた。ジュカインは寒さに弱いから、それでじわじわ体力が削られてたことに気付いてなかったみたいね」

かすみ「う、うそぉ……」


せっかく、大逆転したと思ったのに……。


理亞「さ……仕切り直し」

かすみ「くぅ……戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻す。

さすがに6人目のジムリーダーともなると、一筋縄ではいかなさそうです……!


かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
 「──ヤブゥッ!!!」

理亞「バイバニラ、よろしく」
 「──バニーラ♪」「──バニーラ♪」


理亞先輩の2匹目のポケモンが現れると同時に──ジム内に“ゆき”が舞い始める。


かすみ「わ!? なんか、“ゆき”が降ってきた!?」

しずく「かすみさん! 特性“ゆきふらし”だよ!」

かすみ「ゆ、“ゆきふらし”……」


かすみん、確認のために図鑑を開きます。

 『バイバニラ ブリザードポケモン 高さ:1.3m 重さ:57.5kg
  体温は マイナス6度 前後。 水を 大量に 飲み込んで
  体内で 雪雲を 作る。 2つの頭 それぞれに 脳があり
  両者の 意見が 一致すると 猛吹雪を 吐いて 敵を 襲う。』


かすみ「めっちゃ冷たいポケモンだってことはわかりました……。もたもたしてると氷漬けですね……! なら、さっさと倒しちゃいましょう! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーーブッ!!!!!」


ヤブクロンがヘドロの塊を球状にして発射する。

相手のバイバニラはさっきのマニューラとは打って変わって、動きが速い感じはしない。

避ける素振りも見せず、攻撃が直撃するかと思った瞬間──パキンと音を立てて、“ヘドロばくだん”が凍り付いた。


かすみ「んなっ!?」

理亞「“フリーズドライ”で凍らせた」


“ヘドロばくだん”は炸裂することなく、空中で急激に冷やされたあと、バキリと真っ二つに割れ、バイバニラに当たることなく落ちてしまった。


理亞「“ふぶき”!」
 「バーニラ♪」「バニーラ♪」

かすみ「んぎゃーー!! さ、寒いぃぃぃ!!」
 「ヤ、ヤブゥゥ…!!!」

かすみ「ヤブクロン、“ドわすれ”……!」
 「ヤブゥ……」


寒さを忘れて凌ぎ切ります。

さ、先にかすみんがダメになりそうですけど……が、頑張る!


理亞「ボーっとしてていいの? “れいとうビーム”」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


それぞれの頭から“れいとうビーム”が発射され──ボーっとしているヤブクロンに直撃する。


 「ヤブ──」


直撃したビームは一瞬でヤブクロンを氷漬けにしてしまう。


理亞「寒さを忘れて防ぐことが出来るんだとしても……凍らせれば関係ない」

かすみ「ぐぬぬ……」


確かにそのとおりです。あれはあくまで寒さを忘れるだけで、物理的に凍らされることを防ぐことは出来ません。

ただ、凍った状態を脱する方法も考えています……!

──ジュゥ……。


理亞「……? なんの音……?」


──ジュー……ジュゥゥゥゥ……。

何かが焼けるような音が響く。


理亞「……ヤブクロンの方……? まさか……」

かすみ「ふふん、凍らされても溶かせばいいんです! “アシッドボム”!」
 「──ヤブクゥ…」


寒さは“ドわすれ”で防いで、凍らされても落ち着いて“アシッドボム”で溶かす!

完璧です!

あとはゆっくり“どくガス”なりなんなり、体力を削る手段で──


理亞「“ぜったいれいど”」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


──パキリ……と音を立てながら、ヤブクロンが氷漬けになった。


かすみ「んなぁ!?」

理亞「“ぜったいれいど”は命中率が低い技だけど、動かない相手にはさすがに当たる」

かすみ「やややや、ヤブクロン!! “アシッドボム”で溶かしてぇ!?」

理亞「無理。“ぜったいれいど”は一撃必殺。“アシッドボム”すら使えないくらいに、完全に氷漬けになって気絶してるから」

かすみ「ぅ、ぅぅぅぅぅぅ!! 戻って、ヤブクロン!!」


かすみん、ヤブクロンをボールに戻します。

あっけなく2匹目が戦闘不能に……。


かすみ「サニーゴ!! 行きますよ!!」
 「……サ」

かすみ「“パワージェム”!!」
 「…………ニ」


輝くいわタイプのエネルギーが発射される。


理亞「“ラスターカノン”!!」
 「バニーラ♪」「バニーラ♪」


対するバイバニラは、“ラスターカノン”で“パワージェム”を迎撃してくる。

ただ、バイバニラはさっきから避けようとしない。

マニューラと違って、スピードにはそんなに自信がないことがわかる。


かすみ「なら、これならどうですか!! “ナイトヘッド”!!」
 「……ゴ」


サニーゴの目が怪しく光ると──


 「バ、バニーラ…」


バイバニラの片側が苦しみ始める。

“ナイトヘッド”は直接攻撃を飛ばしたりする技と違って、相手に恐ろしい幻を見せて攻撃する技。

これなら相殺は出来ませんし、さらに──


 「バ、バニーラ…」「バ、バニバニ」


バイバニラは図鑑の説明通りなら、お互いの意見が一致しないと技がうまく出せなくなるはずです……!


かすみ「最初からこうすればよかったですね……バイバニラ攻略です!」


と、思った瞬間、


理亞「“ボディパージ”!!」
 「バ、ニーーーラッ!!!!!」


バイバニラは──“ナイトヘッド”受けている片側の頭を、サニーゴに向かって発射してきた。


かすみ「うそぉ!?」


飛んできたバイバニラの頭は──ボスッ! と音を立てながらサニーゴに直撃し、サニーゴの体がバイバニラの頭に埋まってしまう。


かすみ「ちょ、何やってるんですか!?」

理亞「バイバニラの脳は完全に独立してる。片方が溶けても、問題なく生きられるし、溶けてもそのうち戻る」

かすみ「それ逆にどうなってんですか!?」

理亞「ついでに“ボディパージ”をしたら、速くなるから」
 「バニーーーラ!!!!」


素早い動きで、飛んできたバイバニラは──さっき飛ばしたもう半分の頭に合体し、元の形になる。

即ち──サニーゴを完全に体内に取り込んだ形になる。


かすみ「ちょっとぉ!?」

理亞「バイバニラの体温はマイナス6度……あとは氷漬けになって、戦闘不能になるのを待つだけ」

かすみ「そ、そんなぁ……」

理亞「これで3体目……もうサニーゴにこの状態を脱する手段がない。今のうちに、4匹目の準備をしておいたら?」

かすみ「…………」


こおりタイプによる場の支配力が強すぎます……。……強すぎますけど……。


 「──バ…!!?」「──ニーラ…!!!?」


急にバイバニラが奇声をあげた。


理亞「な……!? なに……!?」

かすみ「確かに、氷漬け……怖いですけど……──“こおり”を溶かす技もあるんですよ!!」

理亞「……!?」


むしろ、動きがノロノロなサニーゴでどうやって、接近するかを考えていた。

相手から、自分の体内に取り込んでくれるなら、むしろ好都合です!!


かすみ「“ねっとう”!!」
 「ニー……ーゴ」

 「バ、バニィィィィ…」「ィィィィィラ…」


内側から高温のお湯で溶かされたバイバニラは、ドロドロに溶けて、その場にべしゃりと音を立てて、落っこちた。これはさすがに戦闘不能でしょう。


かすみ「ふふん♪ 3匹目の準備をしてください?」

理亞「……戻れ、バイバニラ」


理亞先輩が戦闘不能になったバイバニラをボールに戻す。


理亞「モスノウ、出てきて」
 「──スノォ…」


次に出てきたポケモンは、モスノウ。


しずく「かすみさん! モスノウはユキハミの進化系だよ!」

かすみ「ユキハミ……ヨハネ博士の研究所に居たやつだよね……」


 『モスノウ こおりがポケモン 高さ:1.3m 重さ:42.0kg
  はねの 温度は マイナス180度。 冷気を 込めた りんぷんを
  雪の ように ふりまき 野山を 飛ぶ。 野山を 荒らすものには
  容赦せず 冷たいはねで 飛びまわり 吹雪を 起こし 懲らしめる。』


かすみ「マイナス180度!?」

理亞「“ふぶき”!」
 「スノォ…」


モスノウが“こおりのりんぷん”をまき散らしながら、“ふぶき”を発生させる。


かすみ「さ、さっむ……!!」
 「サ……」


冷たいのはあくまで翅の温度で、“ふぶき”自体がマイナス180度あるわけじゃないだろうけど──それでもあの冷たい翅から繰り出される“ふぶき”は猛烈に寒い。

しかも、バイバニラが降らせた“ゆき”もフィールド全体を覆いつくすのに一役買っている。


かすみ「こ、このままじゃ、サニーゴが凍っちゃう……! “ねっとう”!」
 「ニ、ゴー……」


口から“ねっとう”を吐き出し、自分の身体が氷漬けになるのだけは防いでいるけど──“ねっとう”はサニーゴから少し離れたら、すぐに凍って落ちてしまって全然前に飛んでいかない。


理亞「それじゃ攻撃、届かないけど?」

かすみ「ぐぬぬ……で、でもでも、防御は出来てますもんね!!」


あの冷たい翅で直接触られない限り、いくら“ふぶき”をされても“ねっとう”で氷を溶かし続ければ、簡単にはやられません!

今のうちにどうにか、反撃の一手を──


理亞「なら……“まとわりつく”」
 「スノォ…」


モスノウがゆったりとした動きで、こちらに羽ばたいてくる。


かすみ「ぎゃー!? こっち来ないでくださいー!? “パワージェム”!!」
 「サ……」


またしても、いわエネルギーの光を集束させて発射する。


理亞「……! “オーロラビーム”!」
 「モスノォー」

かすみ「おろ……?」


サニーゴが“パワージェム”を発射すると、モスノウは近付くのを中断して、“オーロラビーム”で迎撃を始めた。


かすみ「もしかして……“パワージェム”には当たりたくない感じですか?」

しずく「──かすみさん! モスノウはこおり・むしタイプだから、いわタイプにはかなり弱いはずだよ!」

かすみ「なるほど……! そういうことなら、連打連打です! “パワージェム”!!」
 「サ、コ……」


──サニーゴから発せられた輝きが、モスノウに襲い掛かります。


理亞「“オーロラベール”」
 「スノォ」


が、モスノウに当たった輝きはオーロラの輝きにかき消されて霧散してしまった。


かすみ「わ、わあぁぁぁぁ!? かき消すなんてずるいですぅ~!!」
 「サ、コ……」

理亞「ずるくない」

かすみ「こ、こっちこないでー!? “パワージェム”!! “パワージェム”!!」


どうにか追っ払おうと、“パワージェム”を連打するけど──全部“オーロラベール”にかき消されてしまう。

ゆったりサニーゴの眼前に迫ったモスノウは、


理亞「“まとわりつく”」

 「スノォ……」


今度こそ、マイナス180度の翅で、サニーゴを包み込む。


かすみ「さ、サニーゴ!!」
 「サ……」


翅で触れられると、サニーゴの体がみるみるうちに凍り始める。


かすみ「ね、“ねっとう”!!」
 「サ……」


咄嗟に、モスノウに向かって“ねっとう”を噴射する。

ただ、モスノウの翅の冷たさは常軌を逸していて、“ねっとう”すらも一瞬で凍りつかせていく。


かすみ「が、頑張って、サニーゴ!!」
 「サ、コー……」


かすみんが声を掛けると──サニーゴの噴射の勢いが少しだけ強まり、凍った“ねっとう”がどうにかモスノウを押し返す。


かすみ「よ、よし! 今のうちに逃げ──」

理亞「られるわけないでしょ」

 「スノォ……」


でも、当然と言わんばかりにまたモスノウが“まとわりつく”。


かすみ「うぅ、“ねっとう”!!」
 「サ……」


噴き出す“ねっとう”──もとい氷の塊で押し返しては、またまとわりつかれて、凍りそうになり、それをまた“ねっとう”で溶かして押し返し……だ、ダメです……! このままじゃ、ジリ貧です……!


かすみ「ど、どうにか……どうにかしないと……」


でも、“ねっとう”すら一瞬で凍り付かせる冷気に対抗する術が……。


かすみ「……! そうだ、氷だ!!」


かすみん、やっと反撃の一手をひらめきました……!


かすみ「サニーゴ、“あまごい”!!」
 「サ……」

理亞「“あまごい”……?」


理亞先輩が怪訝な顔をする。

“ゆき”を降らせていた雪雲が── 一気に雨雲にとってかわり、大粒の雨を降らせ始める。

大粒の雨が降ったところで、モスノウの冷気が全てを凍らせてしまうけど──それでいい……!!


理亞「悪あがき……モスノウ、トドメを」


理亞先輩が、サニーゴにトドメを刺そうとした、そのとき──


 「ス、スノゥ…!?」


モスノウが突然、地面に叩き落とされた。


理亞「な……!?」

かすみ「ふっふっふ……この“あまごい”は──攻撃技です!!」


そう、これは攻撃です……!!


理亞「!? まさか……!? 凍った雨粒が、翅に刺さってる……!?」


そのとおりです! 大粒の雨は降ったそばから、凍り付いて──大粒の雹に変わるんです!!

翅や体の軟らかいモスノウは、上空から叩きつけてくる大量の雹に耐えられず、落っこちる!

そして、


 「サ……コ」


硬い体のサニーゴなら、問題なく耐えられる……!!


理亞「天候を“ゆき”に戻して……!」

 「ス、スノォ……」


理亞先輩はすぐさま、“あまごい”を再び“ゆきげしき”で上書きして、態勢を立て直そうとするけど──もう遅いです!


かすみ「サニーゴ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「サ、コー……」


サニーゴの口から、強烈な水流が発射され、それは冷気によって一瞬で凍り付き──


 「スノォ……」


急激に成長する氷の柱が、真正面から、モスノウをぶっ飛ばしました。


理亞「モスノウ……!」
 「ス、スノォ……」


大きな氷の塊を叩きつけられたモスノウは、吹っ飛ばされた先で転がって、ついに戦闘不能になったのでした。


かすみ「さぁ、これで形成逆転ですよ!!」


かすみんの残りは2匹、理亞先輩は残り1匹です!

この勝負、貰いましたよ……!!

と、思った瞬間──ゴトっと何か重いものが落ちるような音がする。


かすみ「へ?」


何かと思って、音のした方に目を向けると──


 「サ……」


サニーゴが──でかい氷柱を口元にくっつけたまま、地面に落下していた。


かすみ「ってぇ!? サニーゴと氷がくっついてる!?」

理亞「この氷点下で“ハイドロポンプ”を使ったら、普通そうなるでしょ。オニゴーリ」
 「──ゴォーーリ!!!!」


理亞先輩が、最後のポケモン──オニゴーリを繰り出す。


かすみ「わーーー!! ちょっとタンマ!! タンマです!!」

理亞「待たない。“フリーズドライ”」
 「ゴォーーリ!!!!」


氷柱の重さで動けないサニーゴは、波状に飛んでくる冷気の直撃を受け。


 「────」


完全に氷漬けになって、戦闘不能になってしまった。


かすみ「あぁーー!? サニーゴーー!?」

理亞「意表を突くのもいいけど……その後まで考えてやった方がいいんじゃない?」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……返す言葉がない……」


サニーゴをボールに戻しながら、相手を確認する。

 『オニゴーリ がんめんポケモン 高さ:1.5m 重さ:256.5kg
  氷を 自在に 扱う 力を 持ち 岩の 体を 氷の よろいで
  かためている。 空気中の 水分を 一瞬で 凍らせる 力で
  獲物を 冷凍し 動けなくなったところを バリバリと 頂くのだ。』


かすみ「またおっかないポケモンですね……」


そんなオニゴーリに対抗する最後のポケモンは──


かすみ「行くよ! テブリム!」
 「──テブリッ!!!」


手に入れたばっかの新顔、テブリムです!


理亞「まさか、ここまで追い詰められると思ってなかった……。オニゴーリ、メガシンカ!」


そう言いながら、理亞先輩の腕にあるブレスレットが眩く光り──


 「ゴォォォォーーーーリ!!!!!!!!!」


雄叫びと共に、メガオニゴーリへと姿を変える。

大きく開いた口から、冷気が溢れ出し、周囲を凍結させる。

距離は十分にあるはずなのに、刺さるような冷気が伝わってくる。


理亞「オニゴーリ、“ふぶき”!」
 「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!!!!」


大きく開いた口から、強烈な冷気が“ふぶき”となって襲い掛かってくる。

フィールド全体を巻き込むような、強烈な寒波。だけど、


かすみ「“サイコキネシス”!!」
 「テブッ!!!」


テブリムは自分の周囲に球状のサイコパワーを展開し、メガオニゴーリの“ふぶき”から逃れる。

この子は巣でもこうやって、霧を払っていたんです!

それが霧から冷気に変わっただけ!


理亞「へぇ……これ、防げるんだ」

かすみ「当然です! さらに、こんなことも出来ちゃいますよ!」
 「テブ!!」


テブリムが前方に手をかざすと──紫色の炎がぽぽぽぽっと発生する。


かすみ「“マジカルフレイム”!!」
 「テーブゥッ!!!!」


その炎を一気に発射する。


理亞「“こごえるかぜ”!!」
 「ゴォォーーーリッ!!!!」

かすみ「か、かき消された!? 炎なのに!?」

理亞「炎だから、温度が低すぎれば消える」

かすみ「なら、“サイコショック”!」
 「テブッ!!!」


今度はオニゴーリの周囲に、サイコパワーで生成したキューブが現れ──それが一気にオニゴーリに襲い掛かる。


 「ゴォォーーリ…!!!!」

かすみ「そのでかい図体じゃ避けられませんよね!」


今度は問題なく技が直撃する。相手の氷の鎧が硬いのか、致命傷にこそなっていませんが、


かすみ「このまま、攻め攻めで行きますよ!」
 「テブッ!!!」


テブリムのサイコパワーなら攻防同時に展開できる!

これなら一方的に、有利が取れると思った矢先、


理亞「遠距離からちまちまやられるのは面倒……! オニゴーリ、“ころがる”!!」
 「ゴォーーーリッ!!!」


メガオニゴーリはゴロゴロと転がりながら、こっちに迫ってくるじゃないですか……!


かすみ「ちょ、動けるの!?」

理亞「動けないなんて言ってない」

かすみ「テブリム!」
 「テブッ!!!」


テブリムは髪の毛の房を使って──跳ねる。


かすみ「かすみんのテブリムはジャンプも得意なんですよ!! 転がってたら、空中には手を出せませんよね!!」
 「テブッ!!」


さぁ、上から攻撃して、今度こそ──テブリムが攻撃を構えた、そのときだった。

突如前方に、大きな柱のようなものが現れ──それがテブリムに向かって勢いよく振り下ろされた。


 「テブッ!!!?」
かすみ「テブリム!? な、なに!?」


テブリムはそれに押しつぶされるような形でフィールドに叩きつけられる。

その柱の根本を辿ると──


 「ゴォォォーーーリ…」


それは、メガオニゴーリの体から伸びているものだった。


理亞「オニゴーリは空間内の水分を自在に凍らせられる。相手がどこにいようが、関係ない」

 「ゴォォォーーリ!!!!」


そして、テブリムを押しつぶした氷の柱を一旦持ち上げてから──


 「ゴォォォーーーリッ!!!!」

理亞「これで終わり……!」


再度、テブリムに向かって、勢いよく振り下ろしてきた。

──ガシャァンッ!! とド派手な音がジム内に響き渡り、衝撃で雪や氷の欠片が舞い上がって、フィールド内を真っ白な煙が包み込む。


かすみ「…………」

理亞「……これで──」

かすみ「……終わりじゃありません!」

理亞「……!?」


煙の中で──


 「テブッ!!!」


テブリムは立っていた。


理亞「な……!?」


目を見開く理亞先輩。そりゃ、無理もありません。

だって──先ほどテブリムに向かって振り下ろされた氷柱は、中央辺りでボッキリ折れていたんですから!


理亞「ど、どうやって!?」

かすみ「殴って折りました!!」
 「テブッ!!!」

理亞「はぁ!?」


テブリムのサイコパワーは確かに強力ですけど──やっぱり、一番の自慢はあのパンチ力です!!

テブリムは腕を組み、頭の房でのっしのっしと歩を進めながら──


 「テブッ!!!!」


メガオニゴーリから伸びている、砕けた氷柱を、真正面から殴りつける。

──ゴッ!! と鈍い音と共に、氷柱がバキバキと音を立てながらひび割れ、その衝撃は氷柱の根本にいたメガオニゴーリ本体まで吹っ飛ばす。


 「ゴ、ゴォォォーーリ…!!!!」

理亞「お、オニゴーリ!?」


さらに追撃と言わんばかりに、


 「テブッ!!!!!」


折れて転がっていた、氷柱の片割れをメガオニゴーリに向かって、殴り飛ばす。


理亞「う、受け止めろ!!」
 「ゴォォーーリッ!!!」


メガオニゴーリは咄嗟に氷の盾を作り出して、キャッチしますが、


 「テーーーブッ!!!!!」


テブリムはその氷の盾に向かって、間髪入れずに飛び掛かり──拳を叩きつける。

──ビキッ!! 1撃目で強烈な拳でヒビが入る。

──バキッ!! 2撃目でさらにヒビが広がり、

──バギンッ!! 3撃目で氷の盾を粉々に粉砕した。


理亞「嘘……!?」

 「テブッ!!!」

かすみ「テブリム!!! いっけーー!!!」


砕け散る氷が舞う中、メガオニゴーリの脳天目掛けて──テブリムが両拳を合わせて、叩きつけた。


 「ゴォォォーーーリ…!!!!」


至近距離から、脳天に向かって振り下ろされた拳は、メガオニゴーリの全身の氷の鎧にヒビを入れるほどの威力で、


 「ゴ、ォォォ…リ…」


その破壊力に耐えられず、メガオニゴーリは目を回して、戦闘不能になったのでした。


 「テブッ!!!!」

かすみ「やったー!! テブリムー!!」


かすみん、思わずテブリムに駆け寄っちゃいます。

そして、ハグ──しようと思ったら。


 「テブッ!!!」


テブリムはぴょんと跳ねて、かすみんの頭に飛び乗ってきました。


かすみ「わっとと……!!」
 「テブッ!!!」


そして、いつものように腕を組んで鼻を鳴らす。


かすみ「あ、相変わらずかすみんは子分扱いなんだね……」
 「テブッ」


まあ、いいんだけど……ちょっと複雑です。

そんな私たちのもとへ、


理亞「まさか……最後にパワー負けすると思わなかった」


理亞先輩が近づいてくる。


かすみ「ふふんっ! かすみん自慢のテブリムですからね!」
 「テブテブッ!!!」

理亞「負けたのは悔しいけど、貴方の強さは認めざるを得ない。これ……“スノウバッジ”」


そう言って、理亞先輩は雪の結晶を模したジムバッジを手渡してくる。


かすみ「はい! ありがとうございます! やったね、テブリム!」
 「テブテブッ!!」


こうして、かすみんたちは、理亞先輩との激戦を制し──無事に6個目のジムバッジを手に入れたのでした!

にしし……これは侑先輩たちより早くジム攻略しちゃったかもしれませんね~? これは、ローズでの結果報告が楽しみですね~♪





    👑    👑    👑





理亞「それじゃ、私はグレイブガーデンに行くから」

かすみ「はい! ジム戦ありがとうございました!」


ペコっと頭を下げると、理亞先輩はひらひらと手を振りながら、グレイブガーデンの方へと消えていった。


かすみ「ホントに朝夕欠かさず、お墓参りしてるんですね……」

しずく「みたいだね」


というわけで、気付けば夕方です。


かすみ「そういえば……しず子、グレイブマウンテンに行きたいって言ってたよね? クマシュンだっけ? そのポケモンに会いたいって」

しずく「あ、うん。……でも、今から山に入るのはちょっと難しいだろうから……グレイブマウンテンは明日かな。それよりも、ちょっと町を観光しない?」

かすみ「言われてみれば、あんまり観光出来てなかったね……。よーし! じゃあ今日は夜までヒナギクシティを巡ろ~!」

しずく「うん♪」


夕日に照らされるヒナギクの町で、かすみんたちはのんびり一息つくことにしました♪

明日はしず子のために山登りですから! 今のうちに英気を養いますよ~♪

おいしいモノとかあればいいな~♪

るんるん気分で、町へと繰り出す、かすみんなのでした!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ヒナギクシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.51 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.47 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.44 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.45 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.44 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.44 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:183匹 捕まえた数:9匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.38 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.35 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.38 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.38 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.38 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:12匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission🍊





──結局、天睛の火道から飛び出して、叡智のゴミ捨て場にたどり着いた時には、すでにウルトラビーストの反応は消えていた。

穂乃果さんも同様だったらしく、フソウに到着すると同時にパタリと反応が消えてしまったそうだ。

そして、私は……あの後すぐに、天睛の火道に戻ってきたんだけど……。

そこに、せつ菜ちゃんの姿はもうなかった。


千歌「せつ菜ちゃん……様子がおかしかったよね……」


それはわかっていたんだけど……私もウルトラビーストのもとへ急行しなくちゃいけなかったし、完全にテンパってしまっていた。

意識して、使わないようにしていたZ技まで使っちゃったし……。


千歌「せつ菜ちゃんに悪いことしちゃったな……」


結果として、私がダリアの方に行く意味はなかったわけだし……。

まあ、どちらにしろ放っておくわけにはいかなかったけど……。


千歌「今度会ったら、ちゃんと謝らなくちゃ……! そんでもって、せつ菜ちゃんが満足出来るまで、バトルに付き合ってあげよう!」


私はそう心に決めて──天睛の火道を後にし、もう一つの目的地に飛ぶことにした。





    🍊    🍊    🍊





──ローズシティ、ローズジム。


真姫「はい、ルガルガン」

千歌「ありがとうございます、真姫さん」


私はローズシティの真姫さんのもとへ訪れていた。

理由はもちろん、ルガルガンを手持ちに戻すためだ。


真姫「ルガルガン、どこも異常なく健康だったわ」

千歌「はい、ありがとうございます!」


心身共に問題もないそうで、これで抜けたルカリオの穴も埋まったし、一安心。


真姫「そうだ、千歌……」

千歌「なんですか?」

真姫「最近、せつ菜に会ったりした……?」

千歌「え!?」


ちょっとタイムリーな名前が出てきて、思わず驚きの声をあげてしまう。


真姫「……会ったの?」

千歌「え、えっと……まあ……その……バトルを申し込まれたんですけど……急用で中断することになっちゃって……」

真姫「……そう」

千歌「でもでも、今度会ったらせつ菜ちゃんの気が済むまでバトルするつもりなんで!」

真姫「そう……。……そうしてあげてくれると嬉しいわ」

千歌「はい! ……っと、もうこんな時間……早く帰らないと……」


彼方さんが今日は何かと振り回されて、疲れただろうからって、ご馳走を振舞ってくれると言っていたし、みんな待っているはずだ。


千歌「それじゃ、真姫さん! ありがとうございました!」

真姫「ええ。気を付けて帰りなさいね」

千歌「はーい!」


私は元気よく返事して──ムクホークに乗り、コメコの森を目指すのでした。


………………
…………
……
🍊


■Chapter048 『決戦! クロユリジム!』 【SIDE Yu】





侑「歩夢! リナちゃん! 見えてきたよ!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん!」

リナ『やっと到着だね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん! クロユリシティ!」
 「ブイブイ♪」

歩夢「結局ローズから、ここまで来るのに2日も掛かっちゃったね……」

侑「ちょっとクリスタルレイクでのんびりしすぎたからね……あはは」


──クリスタルケイヴで夜の虹を見たあと、私たちは洞窟で話していたとおり、再びクリスタルレイクまで登り、湖面の夜空を鑑賞。

ついでに朝日に照らされて輝くクリスタルレイクの時間まで起きて、クリスタルレイク三景をしっかり見た。

……そんな夜更かしをした結果、その日私たちが起き出したのは、昼下がり頃……。

もともと、クリスタルレイクからクロユリシティに行くのにも、16番道路と18番道路の2つの道路を経由しなくちゃいけないこともあって、どうやってもその日のうちにクロユリに到着するのは無理だった。

そんなこんなで、私たちはローズを発ってから、次の町にたどり着くまで2日間掛かってしまったというわけだ。


歩夢「でも、クリスタルレイク……すっごくキレイだったから、見られてよかったかな……えへへ」

侑「ふふ、そうだね♪ 夜の虹も、湖面の夜空も、朝日の湖も、最高だったよ!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん♪」

リナ『思い出に残る経験が出来たみたいで、私も嬉しい! リナちゃんボード「ハッピー」』 ||,,> ◡ <,,||


クリスタルレイクでは本当に良い経験が出来た。

そして、そんな経験を経て、たどり着いたここクロユリシティでの目的はもちろん──


侑「さぁ……! 今からジム戦だ!」

歩夢「頑張ってね、侑ちゃん! イーブイも♪」

侑「任せて!」
 「イブィ♪」

リナ『侑さん! 頑張ろうね! 私も全力でサポートする! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「うん! よろしくね、リナちゃん!」


いざ、クロユリジムへ!




    🎹    🎹    🎹





クロユリは非常に自然豊かな町で──雰囲気としては、林の中に点々と民家が建っている、そんな印象を受ける町だ。


侑「なんだか、今まで来た町とは全然印象が違うね……」

リナ『クロユリは、自然を大切にする町だからね。むしろ、自然の中に住まわせてもらってるって考え方みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「人口も少ないんだよね。……確か、オトノキ地方の町の中だと……今はヒナギクよりも少ないんだっけ……?」

リナ『うん。地方の中では、住んでる人が一番少ない町のはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、この町は強いトレーナーが多いんだよね! 住んでる人ほとんどがトレーナーらしいよ!」

歩夢「そうなの?」

リナ『これだけ自然に囲まれてると、町中でも野生のポケモンが出るからね。そういう環境で暮らしてると自然とポケモントレーナーとして戦えるようになってるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||


そして、そんな町で生まれ育った強者……それが、オトノキ地方最強のジムリーダー・英玲奈さんだ。


侑「英玲奈さんと戦えるなんて……想像しただけでときめいちゃうよ……!」

リナ『ときめくのはいいけど、油断しないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「大丈夫大丈夫! バトルは全力でやるから!」


みんなで話しながら、林の間を抜けていくと──間もなくクロユリジムが見えてきた。


侑「よし……たのもー!!」


ジムの扉を押し開けて入る。

すると、ジムの中央で、目を瞑って待っている人が一人。

もちろん──


侑「ほ、本物の英玲奈さんだ……!」

英玲奈「……挑戦者か」

侑「は、はい! 侑って言います!」

英玲奈「私はクロユリジムのジムリーダー・英玲奈だ。ジムバッジはいくつだい?」

侑「5つです!」

英玲奈「わかった。難しい言葉は必要ないな。自らを語るよりも、お互いポケモン勝負をした方が早いだろう。バトルスペースにつくといい」

侑「は、はい!」


噂通りのストイックな感じ……! なんかドキドキしてきちゃった……!


英玲奈「使用ポケモンは4体。全て戦闘不能になった時点で決着だ。構わないね?」

侑「はい! よろしくお願いします!」


私はボールを構える。


英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。さぁ、存分に戦おう」


私と英玲奈さん、両者が同時にボールを放って──バトル、開始です!!




    🎹    🎹    🎹





英玲奈「行け! ヘラクロス!」
 「──ヘラクロッ!!!」


英玲奈さんの1番手はヘラクロス。

私の1番手は、


侑「ドロンチ! 初陣だよ!」
 「ローンチ」


ドロンチだ。


英玲奈「……頭に乗せたタマゴは降ろした方がいいんじゃないか?」

侑「え? あ、そうだった……! ドロンチ、タマゴこっちに頂戴!」
 「ローンチ…」

侑「そんな不機嫌そうな顔しないで! バトル中だけだから! ね?」
 「ローンチ…」


渋々渡してくれたタマゴを受け取る。


侑「歩夢! バトル中、預かってて!」

歩夢「あ、うん」


セコンドスペースにいる歩夢にタマゴを預けて、大急ぎでバトルスペースに戻る。


侑「し、失礼しました!」

英玲奈「いや、構わない。それでは、始めようか」
 「ヘラクロ!!!」

リナ『ヘラクロス 1ぽんヅノポケモン 高さ:1.5m 重さ:54.0kg
   一直線に 敵の 懐に 潜り込み たくましい ツノで すくい上げ
   投げ飛ばす。 ものすごい 怪力の 持ち主で 自分の 体重の
   100倍の 重さでも 楽に ぶん投げる。 甘いミツが 大好き。』


リナちゃんの解説を聞きながら考える。

このマッチアップは悪くない。肉弾戦主体のヘラクロスだけど、ゴーストタイプのドロンチなら多くの攻撃を透かせる。


英玲奈「ヘラクロス!! “メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

侑「ドロンチ! まずは飛ぶよ!」
 「ローンチ!!」


ツノを下げて、前傾姿勢で突っ込んでくるヘラクロスに対して、ドロンチはフワリと浮き上がる。


侑「とにかく、空中戦で行こう!」
 「ローンチ!!」

英玲奈「なるほど、悪くない作戦だ。だが、ヘラクロスにも翅はあるぞ!」
 「ヘラクロッ!!!」


ヘラクロスが翅を広げて、飛び立ち──ツノをドロンチに向けたまま、突っ込んでくる。


侑「“かえんほうしゃ”!!」
 「ローンチッ!!!!!」


真正面から突っ込んでくるドロンチに向かって、火炎で迎撃する。

当たり前だけど、むしタイプのヘラクロスはほのおタイプに弱い。

翅があるから、空中まで追ってくることは出来るけど、地上と違って踏ん張りが効かない分、パワーも落ちる。

遠距離から弱点の技を選んで立ち回れば、ヘラクロスは攻略出来るはずだ……!!

だけど、


英玲奈「ヘラクロス!! 突っ込め!!」

侑「え!?」


英玲奈さんは怯むことなく、ヘラクロスを突っ込ませてくる。

“かえんほうしゃ”の中を真正面から突っ切り──


 「ヘラクロッ!!!!」

 「ロンチッ!!!?」


ドロンチの首元辺りにツノを突き立てる。


侑「ドロンチ!?」

英玲奈「畳みかけろ!!」

 「ヘラクロッ!!!!」


ヘラクロスは、怯んだドロンチの上に回り込み──


英玲奈「“10まんばりき”!!」

 「ヘラクロッ!!!!!」


真上から、思いっきりツノを振り下ろして、


 「ロンチッ!!!?」


ドロンチを地面に向かって叩き落とす。


 「ロン、チッ…!!!」


ドロンチは下方に吹っ飛ばされながらも、地面スレスレで体勢を立て直して、どうにか再び飛行に移行する。


侑「とにかく、距離を取らなきゃ……!」


地面スレスレを飛びながら逃げるドロンチに向かって、再びヘラクロスが、ドロンチの真上に並ぶようにして、追いかけてくる。


侑「く……追いかけてくる……! なら、“りゅうのはどう”!!」

 「ロンッ!!!」


飛行しながら、体を捻って真上を向き、口から“りゅうのはどう”を発射した──直後、ヘラクロスの姿が急に掻き消えた。


侑「え、消え……!?」

 「ロンッ!!?」


ヘラクロスを見失って、動揺する私とドロンチ。

その直後、


英玲奈「“つばめがえし”!!」

 「ヘラクロッ!!!!」

 「ロン、チッ!!!?」


いつの間にか、真横に回り込んでいたヘラクロスがツノを叩きつけて、ドロンチを吹っ飛ばした。

消えたんじゃない……! “つばめがえし”で急に軌道を変えられたから、一瞬見失ったんだ……!


 「ロ、ロンッ…!!!」

侑「ドロンチ……!!」


さすがに飛行を維持出来ず、地面に墜落するドロンチ。

器用に尻尾を振るいながらバランスを取って、すぐに体勢を復帰させるけど、


 「ヘラクロッ!!!!」


ヘラクロスはもうすでにドロンチの眼前に迫っていた。


英玲奈「“じごくづき”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

 「ロンッッ!!!!!!!」


ヘラクロスのツノが、ドロンチの胸部に突き立てられ、その勢いでドロンチはジムの壁まで吹っ飛ばされた。

──ドンッと大きな音を立てて、壁に叩きつけられるドロンチ。


侑「ドロンチ……!!」

 「ロ、ロン…」

侑「……ありがとうドロンチ、戻って」


ドロンチ戦闘不能……。私はドロンチをボールに戻す。

──全く手も足も出なかった……。

パワーもスピードもテクニックも、どれも一級品だ。

これが、最強のジムリーダー……英玲奈さん……。


英玲奈「……確かに、ヘラクロス相手に近接戦を挑まないようにする立ち回りは悪くない。定石と言ってもいいだろう」

侑「……」

英玲奈「が、この私に対して、そんな消極的な戦い方で勝てると思っているなら、随分と舐められたものだな」

侑「……!」


そうだ……私はチャレンジャーなんだ……。安全安心な勝ち方なんて、最初から考えちゃいけない。

ジム戦用に使用ポケモンのレベルを合わせてくれているとはいえ、相手は百戦錬磨の最強のジムリーダー。

定石での戦いを仕掛けてくる相手への対策だって、知り尽くしているだろうし、私が見聞きした程度で知っている作戦なんかじゃ通用しなくて当然だ。

私が今やるべきことは、教科書通りの試合運びなんかじゃない……!


侑「……英玲奈さんの想像を超えた戦いをしなくちゃ……!」

英玲奈「……ふ。……さぁ、次のポケモンを出したまえ」

侑「はい! 行くよ、ライボルト!!」
 「──ライボッ!!!!」


ボールから飛び出すと同時に、ライボルトが走り出す。


侑「“ニトロチャージ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトは加速しながら赤熱し、ヘラクロスの周囲をイカズチのように走り回る。

そして、周囲を走り回りながら、


侑「“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!!!」


全方位から、電撃を浴びせる。


 「ヘラクロッ…!!!」

英玲奈「ヘラクロス、怯むな!! “じならし”!!」
 「ヘラッ!!!!」


ヘラクロスが勢いよく四股を踏むと──グラグラと地面が揺れ、


 「ラ、ライボッ!!?」


ライボルトが揺れでバランスを崩し、足をもつれさせる。


英玲奈「そこだ!! “メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」

侑「……っ!! “でんじふゆう”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトは咄嗟に浮遊し、ヘラクロスの突撃を間一髪で躱す。


英玲奈「なるほど、それなら足をもつれさせても関係ないな! だが、無防備に浮いたら隙だらけだぞ!!」
 「ヘラクロッ!!!」


ヘラクロスが再び翅を開いて、ライボルトに飛び掛かってくる。


英玲奈「“インファイト”!!」
 「ヘラクロッ!!!」

侑「組みつかせちゃダメだ!! “オーバーヒート”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「ヘラクロッ…!!!」


近距離で決しようとしてきた、ヘラクロスを全方位に発される熱波で押し返す。

だけど、隙だらけなのはそのとおりだ。


侑「“でんじふゆう”解除!!」
 「ライボッ!!!」


自分に纏わせていた電磁力を解除して、地に戻る。


英玲奈「“10まんばりき”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」


またしても突っ込んでくるヘラクロス。

“ほうでん”程度じゃ怯まない気迫で突っ込んでくる。

なら……!!


侑「“ライジングボルト”!!」
 「ライボッ!!!!!」

 「ヘ、ヘラクロッ!!!!?」


ヘラクロスの足元から──電撃が立ち上って、ヘラクロスを感電させる。

強烈な電撃がヘラクロスの足を完全に止める。


英玲奈「!? 威力が大きすぎる!? ……! まさか、さっきの“ほうでん”は攻撃のためだけじゃない……!!」


そのとおり……! フィールド全体に“ほうでん”しまくっていたのは、攻撃のためだけじゃない!

バトルフィールド内を“エレキフィールド”状態にするためだ……!


リナ『“ライジングボルト”は“エレキフィールド”下だと、威力が倍以上になるよ!』 || > ◡ < ||


感電し、完全に足が止まったヘラクロスに向かって──


侑「“かえんほうしゃ”!!」
 「ライボォーーー!!!!!」


火炎を噴き付けた。


 「ヘ、ヘラクロォ…!!!!」


足が止まったヘラクロスには、さっきのように炎を突っ切る突進力もない!!

これで、決着かと思った、そのとき、


英玲奈「ヘラクロス!! “こんじょう”を見せろ!!」
 「──ヘラクロォッ!!!!!」

侑「!?」
 「ライボッ!!!?」


ヘラクロスが雄叫びをあげながら──ライボルトに突っ込んできた。

ヘラクロスは前傾姿勢になり、ライボルトの腹下に大きなツノを滑り込ませる。


侑「しまっ!?」

英玲奈「“メガホーン”!!」
 「ヘラクロッ!!!!」


──ブンと風を切る音と共に、


 「ライボッ!!!!?」


ライボルトは勢いよく、打ち上げられた。


侑「ライボルト……!!」

英玲奈「少々肝を冷やしたが……“かえんほうしゃ”は悪手だったな。“やけど”したお陰で“こんじょう”が発動出来たよ」

侑「…………」


“こんじょう”は状態異常になると、攻撃力が爆発的に上昇する特性だ。


英玲奈「さぁ、ヘラクロス。落ちてきたところを狙い撃ち、に……?」


英玲奈さんは上を見上げて、目を見開いた。

何故なら──上空に大きな雷雲が出来ていたからだ。

ライボルトは、空気中の電気をたてがみに集めて、雷雲を作り出すポケモンだ。


英玲奈「しまった!? ヘラクロス、防御を──」

侑「もう遅いです!! “かみなり”ッ!!」

 「ライボォォォッ!!!!!!!!」


天空からの“かみなり”はヘラクロスの1本ヅノ目掛けて、轟音を立てながら、迸る。

空気の爆縮で、ジム内を雷轟が響き渡り──

それが晴れた頃には、


 「ヘ、ラク、ロ…」


“かみなり”に撃たれて丸焦げになったヘラクロスが、地に伏せっていた。


 「ライボッ!!!」


そして、再び“でんじふゆう”で着地の衝撃を緩和しながら、ライボルトが地面に降り立った。


侑「やったー!! ナイスだよ、ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」

英玲奈「……やられたな……さっきの“かえんほうしゃ”はわざと“こんじょう”を発動させるためのものだったか」

侑「えへへ……はい!」


ヘラクロスの特性は“こんじょう”、“むしのしらせ”、“じしんかじょう”の3種類。

その中でも、“むしのしらせ”は少なくて、“こんじょう”か“じしんかじょう”が圧倒的に多い。

ただ、相手を倒したときに自分のパワーを上げる特性の“じしんかじょう”なら、ドロンチを倒した時点でパワーアップしていないとおかしい。

となると、十中八九“こんじょう”だと当たりを付けていた。


英玲奈「“こんじょう”を発動させたのは……“メガホーン”で少しでも、高く打ち上げて欲しかったからか」

侑「はい! 天井に近ければ、一気に電荷を放出して、バレずに雷雲を即座に作り出せますから!」

英玲奈「土壇場で技の選択を間違えたようだな……。私もまだまだだ」


英玲奈さんはそう言いながら、ヘラクロスをボールに戻す。

確かに、“メガホーン”以外の技で来られていたら、この作戦は成功していなかったけど……“メガホーン”はヘラクロスの代名詞とも言える技。

ヘラクロスというポケモンが咄嗟に使うとしたら、きっと“メガホーン”だって自信があった。


英玲奈「なら、こいつはどうだ……! 行け、アイアント!!」
 「──アントーーー!!!!」


英玲奈さんが2匹目のポケモン──アイアントを繰り出す。

アイアントは飛び出すと同時に、ものすごいスピードで、ライボルトへと迫ってくる。


侑「は、速い……!? “10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」


高速で迫ってくるアイアントに向かって──バチバチと音を立てながら、電撃が迸る。


侑「よし……! 当たった……!!」


相手が速かったから少し焦ったけど、いくら速いといっても電撃以上のスピードではない。

でも……電撃が直撃したはずの場所に──アイアントの姿はなかった。


侑「!?」


消えた──わけない……!!


侑「ライボルト!! “でんじふゆう”!!」
 「ライボッ!!!!」

英玲奈「よく気付いた!! でも、遅い!!」


英玲奈さんの言葉と同時に──


 「アーーーントッ!!!!!」


ライボルトの足元の地面から、アイアントが勢いよく飛び出してきて、空中に逃れようとしていたライボルトの前脚に噛みついた。


侑「ぐ……! ライボルト! “ほうで──」

英玲奈「“シザークロス”!!」
 「アントッ!!!!」

 「ライボォッ…!!!!」


こちらが攻撃で引きはがす前に、アイアントが鋭い顎で、ライボルトを切り裂いた。


 「ラ、ライ…」
侑「戻って、ライボルト……!」


ライボルト、戦闘不能だ……。


英玲奈「“あなをほる”にすぐに気付いたのには驚いたよ。普通は焦ってしまって、なかなか判断出来ないんだがな」


……それでも、回避するんだったら、私はもっと早く判断しなくちゃいけなかった。

いや……反省は後だ……! 切り替えなくちゃ……!


侑「イーブイ! 出番だよ!」
 「イブィ!!!」


私の傍らで待っていたイーブイが、フィールドに足を踏み入れる。


英玲奈「さぁ、もう一度だ、アイアント!!」
 「アントーーー!!!!!」


アイアントが今度はイーブイ目掛けて、猛スピードで飛び出してくる。

でもスピードには、スピードで張り合っちゃダメだ……!


侑「イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「イブィ!!!」


イーブイの全身からぷくぷくと泡が立ち、それがフィールド上に漂い始める。


英玲奈「……! アイアント、止まれ!」
 「アントーー!!!!」


英玲奈さんは、漂う泡を見て、アイアントを停止させた。


英玲奈「見慣れない技だな……だが、当たっていいものではなさそうだ。とはいえ、そんな動きの遅い泡では攻撃技とは言い難いな。狙いが他にあるな?」

侑「…………」


まずい、一瞬で看破された……。

もしイーブイの技でアイアントを倒すとしたら、“めらめらバーン”を直撃させるしかない。

でも、“めらめらバーン”は直接攻撃だし、素早いアイアントに狙って当てるのは至難の業だ。

そのため、“いきいきバブル”の泡を設置して、うまく誘導しようと思ったけど……さすがにこっちの思惑通りには動いてくれなさそうだ。


英玲奈「……ふむ、来ないか。なら、“あなをほる”だ。アイアント」
 「アントーーー!!!!」


アイアントが地面に潜っていく。


英玲奈「これなら、地上にいくら技が設置されていても、足元から攻撃出来るから問題ないな」

侑「…………」


ど、どうにかしなくちゃ……!

努めて平静を装ってはいるものの、こっちは作戦らしい作戦を思いついていない。

何か策を──いや、とりあえず……!


侑「“みきり”!!」
 「ブイ!!!!」

 「──アントーーー!!!!」


足元から飛び出すアイアントの攻撃を見切って躱す。

攻撃を躱されると、アイアントはまたすぐに地面に潜ってしまう。


英玲奈「なるほど。それなら、そちらも攻撃は食らわないと言うことだな。だが、ジリ貧じゃないか? “みきり”は何度も使える技じゃないぞ」


そう、そのとおりだ。

連続で使えば成功率も下がるし……何より、この技はPPも多くない。

あくまで一時凌ぎにしかならない。


侑「“みきり”!」
 「イブィッ!!!!」

 「──アントッ!!!!」

侑「み、“みきり”!!」
 「イ、イブィッ!!!!!」

 「──アントーーーッ!!!!!」

英玲奈「さぁ、そろそろ苦しいんじゃないか?」


本当に策を考えないと、もう数回ほどで避け切れずに攻撃が直撃する……どうしよう……!

フィールド内は気付けば穴ぼこだらけだし……。


侑「ん……?」


……この穴、使えないかな……?


侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
 「! イブィ!!!」


イーブイがブンと尻尾を振るうと、樹がニョキニョキと生えてくる。


侑「樹の上に避難!!」
 「イブィッ!!!」

 「アントーーーッ!!!!」


地面から飛び出してくるアイアントをギリギリで回避して、樹上に逃げる。


英玲奈「む……また、面妖な技を……」

侑「イーブイ! 穴を狙うよ!」
 「イブィッ!!!!」


そして、樹から大きなタネを──アイアントが掘った穴目掛けて落とす……!

“すくすくボンバー”のタネが次々と、“あなをほる”の入り口を塞ぐように落下する。


英玲奈「……なるほど、自分たちは樹上に退避し、さらにアイアントの動きを制限するために穴の口を塞ぐというわけか」

侑「…………」


もちろん、それだけじゃない。この技は“やどりぎのタネ”だ。

そんなの初見でわかる人なんて……。


英玲奈「ただ、私にはこの面妖な技が、それだけの技のようには思えない」

侑「……!?」

英玲奈「“タネばくだん”のようなものか……いや、それならとっくに爆発させているだろう。……なら、“やどりぎのタネ”のようなものか……?」


う、嘘でしょ……!? どんだけ、勘がいいの!?


英玲奈「……どうやら“やどりぎのタネ”だと言うのは、図星のようだな」

侑「!?」

英玲奈「さっきから、ポーカーフェイスをしているつもりかもしれないが……君は考えていることが顔に出るタイプのようだね」

侑「ぅ……」

リナ『確かに侑さんは表情豊か』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「──侑ちゃんのそういうところ、私は大好きだから、大丈夫だよー!!」

侑「そう言ってくれるのは嬉しいけど、この場合フォローになってないってー!!」


歩夢もリナちゃんも、たぶん本気で言ってくれているんだろうけどさ……!


英玲奈「凡そ、穴の中で“やどりぎのタネ”のツタを伸ばして、捕まえようという魂胆だろう」


私は目を逸らす。


英玲奈「だが、無駄だよ。アイアントは岩石をも噛み砕く顎で、複雑に入り組んだトンネルを作ると言われている。いくら掘った穴にツタを張り巡らされても──常に新しい穴を掘り続けていれば問題ない」

侑「…………」

英玲奈「それに……君たちは、どうして樹上なら安全だと思い込んでいるんだ?」

侑「え?」
 「ブイ?」


次の瞬間──急に樹がグラリと傾き始めた。


侑「な……!?」


ハッとして、樹の根本を見ると──アイアントが樹の根本を齧って伐採している真っ最中だった。


 「イ、イブィィィ!!!!」


傾く樹からイーブイが振り落とされ、

──ズシンッと、音を立てながら樹が横倒しになる。


侑「っ……! イーブイ、平気!?」


朦々と土埃の立つフィールドに向かって声を掛けると、


 「イ、イブィ~」


鳴き声が返ってくる。どうやら、無事なようだ。


英玲奈「さぁ、今度こそ逃げ場はないぞ」

侑「……それはお互い様です」

英玲奈「……何?」

侑「確かに、“すくすくボンバー”のタネは“やどりぎのタネ”です。でも──私たちは“やどりぎのタネ”で捕まえようとしてたんじゃない」


──土煙の晴れた先で、イーブイが“すくすくボンバー”のタネの前に立ち、


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブイッ!!!」


そのタネに──自らの炎を着火した。


英玲奈「な……!」

侑「確かにツタの成長速度じゃ、地中のアイアントには追い付けません……でも、そのツタに引火した炎と熱から、逃げられますか!」


ツタに引火した炎は一気に穴の中で燃え広がり、仮にツタの長さが足りず炎が届かなかったとしても──穴が繋がっていれば、その熱は穴全体を蒸し焼きにする……!


 「アーーーントーーーー!!!!?」


急な熱波に驚いて、穴から飛び出してきたアイアントに、


侑「そこだ……!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「イアーーーントッ!!!!?」


今度は“めらめらバーン”を直接炸裂させた。

全身を炎に包まれながら吹っ飛んだアイアントは、


 「ア、アイアン……」


大の苦手なほのおタイプの技によって、戦闘不能になったのだった。


英玲奈「く……戻れ、アイアント」


英玲奈さんがアイアントをボールに戻す。


英玲奈「……まさか、ほのおタイプの技まで持っているなんて予想外だ」


確かに、“相棒わざ”は初見だと対応が難しい。それは百戦錬磨の英玲奈さんでも例外ではなかったようだ。

……改めて、イーブイが“相棒わざ”を使えてよかった……。


英玲奈「だが、ネタが割れれば、どうにでもなる……! 行け、メガヤンマ!」
 「ヤーーンマッ」


英玲奈さんの3匹目はメガヤンマだ。


リナ『メガヤンマ オニトンボポケモン 高さ:1.9m 重さ:51.5kg
   加速すると 衝撃波が 出るほどの 力強い はねを持っている。
   アゴの 力は けたはずれ 高速で 飛んで すれ違いざまに
   相手を かみちぎるのが 得意。 尻尾の はねで バランスを とる。』


相手はむし・ひこうタイプのメガヤンマ。それなら……!


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーイッ!!!」


イーブイが電撃で攻撃する。相性良好、効果抜群の技だ……!

が、


 「ヤンマ──」


メガヤンマは一瞬で掻き消える。


侑「よ、避けられた!?」

英玲奈「“みきり”だ。やはり、まだ隠していたようだね」


しまった……読まれた……!?


英玲奈「さっきも言ったが、ネタが割れてしまえば、なんてことはない」


メガヤンマは──ブーン、ブーンと音を立てながら、どんどん“かそく”していく。


侑「まずい……!! これ以上“かそく”されたら、手が付けられなくなっちゃう……!? イーブイ、“いきいきバブル”!!」
 「ブーイッ!!!!」


空中に向かって、ぷくぷくと泡を散布する。

さっきみたいにこれで、動きを制限出来れば……!!

が、


英玲奈「“ソニックブーム”!!」


英玲奈さんの指示と共に、音速の衝撃波がフィールド上に浮いた泡を片っ端から割っていく。


英玲奈「タネが割れればなんてことはないと言っただろう!」

侑「び、“びりびりエレキ”!!」
 「イッブィッ!!!!!」

英玲奈「もう、メガヤンマは“かそく”しきった……! 当たらんよ!」

侑「ど、どうしよう……!? もう、速すぎて姿が見えない……!?」

英玲奈「さぁ、さっきの仕返しだ!! “きりさく”!!」


──超加速したメガヤンマがイーブイを切り付ける。


 「イッブィッ…!!!!」


イーブイを吹っ飛ばす。


侑「イーブイ!!?」

 「イ、ィブ…!!!」


イーブイはフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がるけど……あのスピードから繰り出される攻撃だ。ダメージが尋常じゃない……!

もう何発も耐えられない……!

とにかく、あのスピードをどうにかしなきゃ……!!

メガヤンマ、メガヤンマの弱点、何か、何か……!!

でも、“かそく”しきったメガヤンマを止める方法なんて……!


侑「……そういえば……前、かすみちゃんが……」


もしかしたら、あれなら……? で、でも、メガヤンマ相手でも出来るの……!?


侑「いや……もう、やるしかない……!!」


──ヒュンヒュンと風を切る、メガヤンマ。


英玲奈「“むしくい”!!」


大顎を開けて突っ込んでくるメガヤンマに向かって──


侑「イーブイ!!! “しっぽをふる”!!! くるくる回してっ!!」
 「イ、イブイ!!!!」


イーブイが背を向け、宙に向かって円を描くように、尻尾をくるくると回し始めた。

風を切る、メガヤンマは──


 「──ヤン」


イーブイに噛みつく直前で、ビタッと空中で静止した。


英玲奈「なんだと!?」

侑「ホントに止まった!?」

リナ『なんで侑さんが驚いてるの!?』 || ? ᆷ ! ||

英玲奈「メガヤンマ!! 惑わされるな!!」
 「ヤンマッ」

侑「今だ、イーブイ!! 飛び乗って!!」
 「イッブィッ!!!」


イーブイは、一瞬動きを止めたメガヤンマの背中に、飛び乗ってしがみつく。

──直後、メガヤンマは再び“かそく”を開始し、飛行を再開する。

イーブイを乗せたまま、超スピードで風を切り始める。


英玲奈「く……! 振り落とせ!!」

侑「イーブイ!! 放しちゃダメだよ!! そのまま、“めらめらバーン”!!」

 「ブーーーーイーーーッ!!!!!!」


イーブイの雄叫びと共に、空中に猛スピードで飛ぶ炎の塊が現れる。


 「ヤーーーンマーーー!!!!!!」


背中の上から直接炎で焼かれたメガヤンマは火だるまになり、


 「ヤンマァァァァァァ……!!!!!!」

 「ブィィィィィ!!!!?」


イーブイを背中に乗せたまま、フィールドに墜落した。


 「ヤ、ヤン…マ…」


メガヤンマはもちろん戦闘不能。

イーブイは……。


 「ブ、ブィ…」


よろよろと立ち上がるものの……もう、戦う力が残っているとは言い難かった。


侑「もう、大丈夫だよ、イーブイ……!」


私はイーブイに駆け寄って、抱き上げる。


侑「英玲奈さん、イーブイ……戦闘不能です」

英玲奈「……ああ、メガヤンマもだ。お互い戦闘不能。仕切りなおそうか」

侑「はい。ありがとう、お疲れ様、イーブイ」
 「ブィ…」


今回イーブイはアイアントとメガヤンマを倒して、大活躍だった。試合が終わったらたくさん労ってあげないとね……。

私はイーブイを抱きかかえて、セコンドスペースへ走る。


侑「歩夢、イーブイのことお願い」

歩夢「うん、わかった」


歩夢にイーブイを預けて、バトルスペースに戻る。


侑「お待たせしました」


ボールを構えようとして、


英玲奈「ちょっと待ってくれ」


英玲奈さんからストップが入る。


侑「え? な、なんですか……?」

英玲奈「さっきメガヤンマを止めたのは……一体なんなんだ。あんな戦術見たことも聞いたこともないぞ……」


英玲奈さんはかなり困惑していた。確かにあんなこと試合中にする人、私も見たことない……。


侑「えっと……スクールにいたころ、かすみちゃ──……イタズラ好きな友達が、よくヤンヤンマの目を回す遊びをしてて……」

英玲奈「……確かにヤンヤンマのような“ふくがん”を持ったポケモンは、目の前で指を回されると、それが何かを認識するために本能的に動きを止める習性があるが……実戦で使うのは初めて見たぞ……」


そういう理由だったんだ……。さすがむしポケモンのエキスパートの英玲奈さんだ。

まあ、本音を言うなら、半ばヤケクソ気味だったけど……。メガヤンマでやったことなんかなかったし……。


英玲奈「……ふむ。メガヤンマの視界について、もう少し研究をした方がよさそうだな……こんな弱点があるとは思わなかった」

侑「わ、私も驚いてます……」

英玲奈「とりあえず、メガヤンマのことはわかった。中断してしまって済まない。試合の続きに戻ろうか」

侑「あ、はい!」


気を取り直して、お互い最後のポケモンのボールを構える。

泣いても笑ってもこれが最後だ──両者のボールがフィールドに放たれた。





    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!」
 「ワッシャァ!!!」

英玲奈「行くぞ、スピアー!」
 「ブーーーンッ!!!!」


英玲奈さんの最後のポケモンはスピアーだ。

対して私は、ここまで温存していたひこうタイプのワシボン。

相性的にはこっちが有利だけど──


英玲奈「スピアー、メガシンカだ!」
 「ブーーーンッ!!!!」


英玲奈さんの“メガブレスレット”が光り輝き、


 「ブゥーーーーンッ!!!!!!!」


スピアーのフォルムがより鋭角に、足も毒針に変わり、より攻撃的な姿へと変貌する。


リナ『メガスピアー どくばちポケモン 高さ:1.4m 重さ:40.5kg
   両足も 毒バリに 変化。 足の 毒バリが 分泌する
   毒は 即効性で 敵の 動きを 止めるために 使い
   より強力に なった 尻の 毒バリで 止めを 刺す。』

英玲奈「スピアー!!」
 「ブンッ!!!!」


英玲奈さんの声と共に──スピアーが目にも止まらぬスピードで突っ込んでくる。

そのスピードを乗せたまま、


 「ブーンッ!!!!」


腕の針を突き出してくる。


侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワシャッ!!!!」


その針を上から押さえつけるようにして、爪を振るって、攻撃を逸らす。


英玲奈「ほう、防ぐか……!」


だけど、間髪入れず、


英玲奈「“ダブルニードル”!!」
 「ブーンッ!!!!」


両足の針が襲い掛かってくる。


侑「ワシボン!! 離脱!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンは、押さえつけた針を踏み台の要領で反動にし、上昇──両足の針を間一髪で、回避する。


英玲奈「ふむ……メガスピアーの針の恐ろしさはわかっているようだな」


いくらこっちがタイプ相性で優っていても、相手はメガシンカしたポケモン。

パワーも毒の強さも普通のポケモンの比じゃないし、掠っただけで致命傷になりかねない。

だけど、もちろん逃げ回っているだけじゃ勝てるものも勝てない。

攻撃を捌きながら、確実に反撃をしないと……!


侑「急降下して、“ダブルウイング”!!」
 「ワシャァァァァ!!!!」


空に離脱したワシボンはすぐに切り返すようにして、両翼を構えながら、スピアーに向かって急降下する。

が、


 「ブーーーンッ」


スピアーは素早い軌道で、急降下してくるワシボンを回避する。


英玲奈「“はりきり”すぎだな! 軌道がわかりやすすぎて、当たらんぞ!」

侑「く……」


メガスピアーはパワーこそあれ、防御は薄いポケモンだから、当たりさえすれば勝機はあるのに……!


英玲奈「“ミサイルばり”!!」
 「ブーーーーンッ!!!!!」


下方に飛んで行ったワシボンに向かって、撃ち下ろすように、スピアーの持つそれぞれの針から“ミサイルばり”が発射される。


侑「“エアスラッシュ”で迎撃!!」
 「ワッシャァ!!!!」


ワシボンは身を捻り、上を向いて、空気の刃を“ミサイルばり”に向かって撃ち放つ。

が、“エアスラッシュ”が当たっても、“ミサイルばり”は軽く揺れる程度だ。

──相手の攻撃の威力がありすぎる……!!


侑「……! ワシボン、“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


遠距離攻撃での相殺は無理だと踏んで、直接攻撃で受け流す作戦に切り替える。


 「ワッシャァァッ!!!!」


1発目を爪でホールドするように受け止め──掴んだ“ミサイルばり”の反動を利用しながら、弧を描くようにして投げ返し、“ミサイルばり”同士を相殺させる。


英玲奈「いい対応力だ!! だが、全然手数が足りていないぞ!!」


英玲奈さんの言うとおり、私たちが捌ききれたのは最初の2発だけで、


 「ワシャッ!!!?」


3発目がワシボンの翼を掠り、それだけでワシボンはバランスを崩して、吹っ飛ばされる。


侑「ワシボン!?」


回転しながら、地面に落下したワシボンだが、


 「ワシャァ…ッ」


咄嗟に爪で踏ん張りながら、羽ばたくことで、落下の衝撃をギリギリまで殺す。

だけど、相手の攻撃はそれでもまだ続いている。さらに追撃を掛けるように迫る、残り2発の“ミサイルばり”。


侑「“がんせきふうじ”っ!!」
 「ワシャァッ!!!」


思いっきり爪を突き立て、フィールドを砕き割り、それを飛んでくる針に向かってぶん投げる。

が──針は岩石をいとも簡単に穿ち、


 「ワッシャァッ…!!!!!」


そのままワシボンに直撃した。その衝撃で、ワシボンがフィールドを転がる。


侑「ワシボンッ!!」
 「ワ、ワシャァ…ッ…!!!」


ワシボンは気合いですぐさま立ち上がるけど──もう満身創痍なのは、見るからに明らかだった。

そこに向かって──


 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーがお尻の針を突き立てながら、猛スピードで突っ込んでくる。


侑「!? ワシボン!! 避けて!?」


私の叫びも虚しく──避ける間もなく、隕石のように落下してきた、メガスピアーは一直線にワシボンを串刺しにした。


侑「そ、そんな……」


圧倒的だった。圧倒的なメガシンカの前に、手も足も出なかった……。

──私が諦めかけたそのとき、


 「ワッシャァァァ…!!!」


ワシボンの雄叫びが響く。


侑「!」


私はワシボンの声にハッとなって顔をあげると──


英玲奈「ほう……なかなかのガッツだな」


ワシボンは、体をひっくり返し、両足の爪を使って、どうにかメガスピアーの突撃を受け止めていた。

それも間一髪。ワシボンの目と鼻の先には針の切っ先がある。


英玲奈「だが、これで終わりだ!! “ダブルニードル”!!」
 「ブーーーンッ!!!!」


メガスピアーが両腕の針をワシボンに向かって、突き立て──た、瞬間。


 「ワシャァッ!!!」


ワシボンは“ダブルニードル”を足蹴にして、離脱する。


侑「ワシボン……!」

英玲奈「まだ、そんな力が残っていたか……! “みだれづき”!!」


至近で繰り出される連続攻撃だけど、


 「ワシャッ!!!! ワシャァァッ!!!!」


ワシボンは爪を、翼を、嘴を振るって、針を弾く。

もちろん、そんな超近距離で猛スピードの連打を完全に捌ききることなんて不可能だ。

逸らしきれなかった針が、翼を掠めて羽根が散り、力負けした爪がひび割れ、掠った頭に傷が付く。

でも、それでも、何度も、何度も、何度も何度も何度も、どれだけ針が襲い掛かってきてもワシボンは諦めない。

ずたずたに引き裂かれても、ワシボンは戦うのをやめない。


 「ワッシャァァァァァ!!!!!」


もう策なんて何一つ残ってない。もはや、ただ我武者羅に抵抗しているだけだ。


英玲奈「その気合い、嫌いじゃない──だが、戦う意思を見せるなら、こちらも攻撃を止めることは出来ないぞ!!」
 「ブーンブーーーンッ!!!!!!」

 「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!」


──見ていられなかった。私はあまりに圧倒的な力で傷つけられていくワシボンを見ていられず、


侑「もういいっ!! ワシボンっ!! これ以上、戦わなくていい!!」


そう叫んだ。


侑「英玲奈さん!! もうやめてください!! 私、降参し──」

 「ワッシャァァァァァァァアァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

侑「!?」


私の言葉を遮るように、ワシボンがジム内に劈くような、大きな声で鳴いた。

もう、ボロボロでそんな大きな声が出せるはずないのに。

なんで、そこまでするの……?

どうして、そこまでボロボロになってまで、戦ってくれるの……?

考えたけど……そんなの、簡単な話だった。

──ワシボンだって……負けたくないからに決まってんじゃん……!


 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


スピアーの攻撃を捌きながら、ワシボンはもう一度大声をあげた。

今度は、私にぶつけるように。気持ちを示すように。

──指示を寄越せ!! まだ戦える!!

ワシボンはそう言っていた。

言葉は通じないはずなのに──確かにそう言っていた。


英玲奈「いい加減、倒れた方が身のためだぞ──」

侑「“はがねのつばさ”!!!」
 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!」


ワシボンは針の間を掻い潜り──メガスピアーの針に、鋼鉄の翼を叩きつけて対抗する。


英玲奈「……!」

侑「ワシボンッ!! 最後まで戦い切るよ!!」
 「ワッシャァァァァ!!!!!!!!」

侑「“インファイト”!!!!」
 「ワシャワシャワシャワシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」


防御を完全に捨て、全身を使って、メガスピアーの連撃に対抗するように、全力攻撃を叩きこむ。


英玲奈「その根性、大したものだな!!  なら、これはどうだ!! スピアー!!」
 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーは一瞬距離を取り、


英玲奈「“いとをはく”!!」
 「ブーンッ!!!!!!」

 「ワシャッ!!!!?」


口から、ワシボンを絡め取るように糸を発射する。


英玲奈「スピードが下がってなお、受け切れるものならやってみろ……!!」
 「ブーーーンッ!!!!!!」


“いとをはく”で糸が絡みつき、体がうまく動かせないワシボンに向かって──今度こそ、トドメと言わんばかりに突っ込んでくるメガスピアー。


 「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


──うん。わかってるよ。

どうなっても、諦めない。

だって──


侑「負けたくないのは──私も同じだからっ!!!」
 「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


私とワシボンの“まけんき”が同調した、その瞬間──

ワシボンの体が、眩い光に包まれた。


 「ブーーーーンッ!!!!!!!」


突っ込んでくるメガスピアーに向かって──大きな爪を振り下ろし、


 「──ウォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら──ウォーグルが、メガスピアーの頭を猛禽の爪で地面に押さえ付ける。


 「ブ、ブーーーーンッ!!!!」
英玲奈「なっ!? この土壇場で進化だと……!?」

侑「行け、ウォーグル!!」
 「ウォォォォーーーーーー!!!!!!!!!」


ウォーグルは大声をあげながら、メガスピアーの頭をがっちり掴んで──飛翔する。


英玲奈「く……!? まだ飛行する体力が残っているのか!? “どくづき”!!」
 「ブ、ブーーーーンッ!!!!!!」


スピアーは捕まったまま、針を伸ばして、突き刺してくる──が、


 「ウォォォォォォォーーーーー!!!!!!!!!」


ウォーグルは怯まない。

ジムの天井付近まで上昇し……そこから、一気に──地面に向かって切り返す。


侑「いっけぇぇぇぇ!!! “ブレイブバード”!!!!」
 「ウォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」


メガスピアーを掴んだまま、猛スピードで急降下し──地表スレスレで低空飛行に移行、


 「ブ、ブブ、ブブブブブブ!!!!?」


メガスピアーを地面に擦り付けながら、飛行し──


 「ウォォォ!!!!」


そのまま、メガスピアーもろとも壁に突っ込んだ。

2匹の衝突で、大きな音と共に、ジムが揺れる。


英玲奈「……!! スピアー!!」


立ち込める土煙と共に──フィールドが静寂に包まれた。

静寂の中、ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れると──


 「ウォォォォォ!!!!!」

 「…ブ…ブーン……」


メガスピアーは、ウォーグルに頭を掴まれ踏まれたまま、戦闘不能になっていた。


英玲奈「…………よもやよもやだ……」

侑「……か、勝った……?」

英玲奈「……スピアー戦闘不能。私たちの負けだ」


そう言いながら、英玲奈さんはメガスピアーをボールに戻す。

私は、一瞬信じられなくて固まってしまったけど──すぐに実感が湧いてきて、


侑「やった、やったぁぁぁ!! ウォーグル!!」


フィールドのウォーグルに向かって駆け出す。

と、同時に──


 「ウォー……」


ウォーグルの身がゆらりと揺れ──崩れ落ちた。


侑「ウォーグル……!?」


ウォーグルは──完全に気絶していた。


英玲奈「恐らく、気力だけで、立っていたのだろうな……」

侑「ウォーグル……ありがとう……お疲れ様」


私は、気を失ったウォーグルを優しく抱きしめる。


リナ『何度も致命傷を受けてた……なんで、こんなに戦えたのか……私も見ていてよくわからなかった……』 || 𝅝• _ • ||

英玲奈「稀に……ギリギリの戦いの中で、強い意志を持ったポケモンが、常識では考えられないような力を発揮することがある……」

侑「……それを、ウォーグルが……」

英玲奈「そして、それを引き出すのは……トレーナーとの強い絆だと言われている。……負けてしまったが、すがすがしい気分だ。良いモノを見せてもらったよ」


そう言って、英玲奈さんは懐から──ソレを取り出した。


英玲奈「その強さ、認めざるを得ないだろう。“スティングバッジ”だ。受け取ってくれ」

侑「……はい!!」


私は死闘の末──6つ目のバッジ、“スティングバッジ”を手に入れたのでした。





    🎹    🎹    🎹





──さて、ジム戦のあと、さすがにくたくただったし、ウォーグルたちをしっかり休ませてあげるために、宿で一晩過ごした私たちは、


侑「よし! みんなも回復してもらったし、ローズに戻ろっか!」
 「イブィ♪」

歩夢「うん♪」


クロユリシティを発って、ローズシティに向かおうとしていた。


リナ『ちゃんとストレート突破だったし、ジム攻略競争は私たちの勝ちかもね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「あはは、だといいなぁ」


かすみちゃんの方もうまく行っているといいけど……。

そんなことを考えていると──prrrrrrとポケギアが鳴る。


歩夢「誰から?」

侑「えっと……あ、かすみちゃんからだ」


噂をすればなんとやらってやつかもしれない。

向こうもジムが終わって、報告のために連絡をしてきたのかもしれない。


侑「もしもし? かすみちゃん?」

かすみ『侑先輩っ!!』

侑「わぁ!?」


ギアからかすみちゃんの大声が聞こえてきてびっくりする。


侑「ど、どうかしたの……?」

かすみ『侑先輩、た、助けてください!! しず子が、しず子が……!!』

侑「え……? な、なにかあったの!?」

かすみ『おっきな音がして、しず子がクマシュンを助けるために飛び出しちゃって……!! でもかすみん、飛べるポケモンがいなくて……!!』

侑「かすみちゃん、一旦落ち着いて!」

かすみ『で、でもでも、すぐに助けないとしず子が……!』


……ダメだ、完全にパニックを起こしてる。


侑「場所はどこ!?」

かすみ『ぐ、グレイブマウンテンですぅ……っ!』

侑「わかった……! 歩夢! 電話代わって!」

歩夢「え!? う、うん、いいけど」


歩夢にポケギアを投げ渡し、


侑「ウォーグル!」
 「ウォーーー!!!!」


ウォーグルをボールから出す。


侑「歩夢!! ウォーグルの背中に乗って!」

歩夢「う、うん! わかった! ──かすみちゃん、とりあえず一旦深呼吸しよっか!」


歩夢もすぐに、かすみちゃんがパニックを起こしていることに気付いたのか、電話口でかすみちゃんを落ち着かせるように言葉を選びながら、ウォーグルの背に乗る。


侑「リナちゃん、バッグに入って!」

リナ『わかった!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ウォーグル、飛ぶよ!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」


飛び立つウォーグルの脚を掴んで、そのまま飛翔する。


侑「歩夢!! 振り落とされないようにね!!」

歩夢「う、うん!」

侑「リナちゃん、グレイブマウンテンまでガイドして!!」

リナ『了解!』

侑「行こう!」
 「イブィ!!!」


何があったのかわからないけど……しずくちゃんのピンチなのは間違いない……!

待ってて、すぐに駆け付けるから……!!




>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロユリシティ】
 口================== 口

  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    ●     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口



 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.55 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.56 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.52 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.44 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.51 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:7匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.47 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.46 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.41 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.36 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:17匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.





 ■Intermission⛄



──ローズシティ・ニシキノ総合病院。


真姫「──いらっしゃい、理亞」

理亞「真姫さん……。ねえさまの顔を見るだけだから、面会に付き合ってくれなくても大丈夫なのに……。今忙しいって聞いたし」

真姫「まあね。事後処理でバタバタよ。……でも、今聖良は私がいないと面会出来ないの」

理亞「……え、どういうこと」


そんな話は聞いていない。


理亞「まさか、ねえさまの容態が悪化して……!?」

真姫「悪化は……してないわ」

理亞「なら、どうして……」

真姫「たぶん、見てもらった方が早い」

理亞「……?」

真姫「……いい加減、黙っているのも限界が近いしね」

理亞「……わかった」


何かがあったことは理解出来た。私は黙って、真姫さんの後を付いていくことにした。





    ⛄    ⛄    ⛄





──ねえさまの病室。


聖良「………………」

理亞「これ、どういうこと……」

真姫「……見たとおりよ」

理亞「見たとおりって……」


ねえさまは……目を開けたまま、ベッドに横たわっていた。

目は開いているのに……微動だにしない。


真姫「今の聖良は……心がないの」

理亞「心が……ない……?」

真姫「目も見えてる、耳も聞こえる、触れられたらそれに気付く。……でも、意思がない。心がないから、それ以上の反応は示さない。情感を持った行動もしないし、喋ることもない……」

理亞「……そっか」

真姫「……思ったより、落ち着いているみたいね」

理亞「……なんとなく、こういうことが起こってもおかしくないんじゃないかって……ずっと思ってたから」

真姫「……そう」


ねえさまは……神様を怒らせたのだから。

悪しき心で……ディアンシーに触れたから……。


理亞「神様の中には……罰を与えるときに人から心を奪う神様もいるって……希さんが前に言ってた」

真姫「……」


そう言いながら私は、病室の棚に置かれている──ピンクダイヤモンドの欠片に目を向ける。


真姫「……ねぇ、理亞」

理亞「なに?」

真姫「もし、ディアンシーが聖良の心を奪ってしまったんだとしたら……どうするの?」

理亞「……わからない」


私は静かに首を振った。


理亞「ねえさまには帰ってきて欲しい……。……だけど、ねえさまがしたことは許されないことだったのは、わかってるつもり。その上で、ねえさまの心を返してなんて……ディアンシーに向かって言っていいのか、わからない……」

真姫「理亞……」

理亞「まぁ……どちらにしろ、今はディアンシーに会う方法がないし……」


ルビィも、ディアンシーに会ったのは、3年前のあのときが最後だって言っていた……。

クロサワの祠の“やぶれた世界”へのゲートも気付いたら消滅してしまっていたと聞く。

そうなると、ディアンシーとコンタクトを取るのはほぼ不可能と言っても過言ではない。


理亞「……真姫さん」

真姫「なにかしら」

理亞「しばらく……ねえさまと二人にしてもらっていい? おかしなことしないって約束するから」

真姫「そんな約束しなくていいわ。好きなだけ一緒にいて大丈夫だから」

理亞「……ありがと」


真姫さんは私の肩を優しく叩くと、そのまま病室を後にした。


理亞「ねえさま……」

聖良「………………」

理亞「ねえさま……っ……」


病室の中では、無機質なバイタルサインの音と──私がねえさまを呼ぶ声だけが、静かに響いていた。


………………
…………
……


次スレ

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671125346/)

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