侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2 (791)
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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
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■Chapter049 『雪山にて』 【SIDE Shizuku】
──事が起こったのは、かすみさんがヒナギクジム戦を終えた次の日のことだ。
かすみ「よーーっし!! それじゃ、グレイブマウンテン目指して、レッツゴ~!!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「その前に……ちょっと、じっとしてて」
かすみ「へ? なになに?」
しずく「これから行く場所は山だから……山は絶対に甘く見ちゃいけない場所」
かすみ「う、うん……」
しずく「だから──お守り」
私は、そう言ってかすみさんの髪の左側に──髪飾りを付けてあげる。
かすみ「これって……」
2つの三日月と星があしらわれた髪飾り。
しずく「これ、御守り。星や三日月は厄除けや幸運を呼び込む象徴として、グレイブマウンテンに登山する人が好んで身に着けるんだって♪」
かすみ「もしかして、買ってくれたの……?」
しずく「うん♪ 昨日、町を巡ってるときに見つけて……かすみさんに似合うかなって」
かすみ「……えへへ、嬉しい♪ ありがと、しず子♪ これがあれば、絶対遭難しないね!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね♪」
──登山にかこつけてプレゼントしたけど……歩夢さんが侑先輩から贈ってもらった髪飾りを見て、私も何かかすみさんに贈りたいと思ったというのが本音だ。
かすみさんには、感謝してもしきれないことがたくさんある。
だから、万が一何かがあったとしても、この月と星が、かすみさんを守ってくれればという願いを込めて……。
しずく「それじゃ、行こっか♪」
かすみ「うん! 今度こそレッツゴ~!!」
「ガゥ♪」
💧 💧 💧
グレイブマウンテン登山を始めて、数時間。
かすみ「ふぅ……もう結構登ってきた?」
「ガゥ!!」
しずく「そうだね……一旦休憩しようか」
かすみ「うん」
雪の上に座ると濡れてしまうので、シートだけ敷いてから、二人で腰を下ろす。
かすみ「それにしても、思ったよりは登りやすいね。かすみん、もっとキツイの想像してたから、ちょっと拍子抜け~……」
しずく「ヒナギクが面してる南側は、登山道があるからね。でも、北側から登るのはかなり過酷らしいよ」
尤も……私たちの目的は登頂ではないので、北側に近付くことはないんだけど……。
しずく「そろそろ、クマシュンの生息域に入ったと思うし……山登り自体はここまでかな」
かすみ「あとは見つけるだけだね!」
しずく「って言っても……ポケモン自体が少ないから、簡単には見つからないだろうけどね……」
ここまで登ってくる最中も、遭遇した野生ポケモンはバニプッチを1匹見かけた程度。
過酷な環境なこともあって、大きな山の面積に対して、ポケモンの数は圧倒的に少ない。
加えて……保護色になっているポケモンが多いため、目を凝らしていないと見落としてしまう。
生息域に入ったからと言って、そう簡単に遭遇出来るわけじゃ──
かすみ「あれ? あそこにいるのって、もしかしてクマシュンじゃない!?」
しずく「え……!?」
かすみ「ほら、あそこ」
かすみさんが指差す方向に目を凝らすと──確かに遠くの斜面に小さなシロクマのようなポケモンが歩いていた。
しずく「ホントだ……!? まさか、こんなにすぐに見つかるなんて……!」
かすみ「ふっふ~ん、褒めてくれていいんですよ~」
しずく「うん! すごいよ、かすみさん!」
かすみ「それで、クマシュン……捕まえるの?」
確かに、当初の目的ではクマシュンを会ってみたいと言って、グレイブマウンテンまでやってきたわけだけど……。
しずく「……うん! せっかくなら捕獲したい……!」
ここまで来て、せっかく野生のクマシュンに遭遇することが出来たわけだ。可能であれば、捕獲したい。
しずく「クマシュンは、臆病なポケモンだから……こっそり近付かないと……」
かすみ「それじゃかすみん、ここで待ってるね! 二人で動くと、見つかっちゃうかもしれないし……」
しずく「わかった、それじゃ行ってくるね」
かすみ「ここで見てるから頑張ってね、しず子!」
しずく「うん!」
かすみさんに見送られながら、雪を踏みしめて、クマシュンの方へと歩を進める。
一面が真っ白なせいで、距離感を測るのが難しいが……クマシュンのいる場所まで、恐らく十数メートルと言ったところ。
出来る限り音を立てないように努めながら、雪を踏みしめていく。
「クマァ…」
クマシュンは私にはまったく気付いていない様子で、座り込んだまま、雪を丸めて遊んでいる。
距離は十分に詰めた……!
しずく「出てきて、サーナイト……!」
「──サナ」
「クマ!?」
クマシュンがこちらに気付くが、この距離ならすぐ逃げられる心配はない。
しずく「“サイコショック”!」
「サナーーー」
サーナイトが前方に手をかざすと、クマシュンの周囲にサイコパワーで作り出しキューブが出現し── 一気に襲い掛かる。
「ク、クマァ…!!!」
クマシュンが念動力の衝撃で、コロコロと雪の上を転がる。
「ク、クマァ…」
クマシュンは戦闘慣れしていないのか、そのまま雪の上にへばってしまう。
しずく「これなら、すぐに捕獲できそう……!」
私はボールを構えて、クマシュンの方に走り出し──た瞬間、
「クマァァァァァァ」
クマシュンが大きな“なきごえ”をあげた。……というか、
しずく「!? な、泣かせちゃった……!?」
「クマァァァ…クマァァァァ…」
クマシュンはポロポロと大粒の涙を零しながら、泣き出してしまった。
しずく「あ、え、えっと、ご、ごめんなさい、そんな、泣かせるつもりなんかじゃなくって……」
まさか、野生のポケモンに泣かれると思っていなかったので、動揺してしまう。
動揺で次の行動に迷っていた、そのとき──
「──ベアァァァァ!!!!!」
しずく「!?」
山側の方から、野太い鳴き声が降ってきて、視線をそっちに向けると、
「──ベァァァァァ!!!!!」
大きなシロクマのようなポケモンが、猛スピードで斜面を駆け下ってきているではないか。
しずく「つ、ツンベアー……!? もしかして、あのクマシュンの親!?」
まさか、あの泣き声──親のツンベアーを呼ぶためのもの!?
しずく「さ、サーナイト!! “サイコキネシス”!!」
「サナ」
迫り来るツンベアーを無理やり、“サイコキネシス”で食い止める。
「ベ、アァァァァァ!!!!!」
強力な念動力で動きを止められたツンベアーは雄叫びをあげながら──口から強烈な冷気を吐き出してくる。
「サ、サナ…」
しずく「これは、“こおりのいぶき”……!」
冷たい吐息で、サーナイトの体が急激に霜に包まれ、パキパキと凍り始める。
それによって、集中が切れてしまったのか、
「ベアァァァァァ!!!!」
“サイコキネシス”の制止を振り切って、ツンベアーがこちらに向かって、再び猛スピードで突っ込んでくる。
しずく「サーナイト、戻って!!」
「サナ──」
ここは選手交代……!
しずく「バリヤード!!」
「──バリバリ♪」
バリヤードは足から発した冷気で、氷を作り出し、それを蹴り上げて壁にする。
しずく「“てっぺき”!!」
「バリバリ♪」
「ベアァァァァァ!!!!!」
──ガァンッ!! と音を立てて、ツンベアーが氷の壁に衝突する。
間一髪だ……!
かすみ「しず子ー!!」
名前を呼ぶ声に気付いて振り向くと、かすみさんがこっちに向かって駆けよってきている。
しずく「かすみさん! 私は大丈夫だよ!」
かすみ「ほ、ホントにー!?」
しずく「むしろ、ツンベアーも一緒に捕まえられそうで、嬉しいくらいだよ……!」
もともとクマシュンが欲しかったのは、ハチクさんと同じツンベアーに憧れていたからだ。
なら、これはむしろ好都合……! クマシュンと一緒に捕獲してしまいたいくらいだ。
かすみ「でも、クマシュン逃げちゃいそうだよー!?」
しずく「え!?」
言われてクマシュンの方に目を向けると、
「ク、クマァ…」
親のツンベアーが戦っている間にクマシュンがとてとてと逃げ出していた。
「ベアァァァァァ!!!!!」
その間にも、ツンベアーは氷の壁を“ばかぢから”で殴りつけ、それによって、壁にヒビが入る。
しずく「“マジカルシャイン”!!」
「バリバリ~!!!」
氷の壁越しに、強烈な閃光を放ち、
「ベアァァッ!!!!?」
ツンベアーを一瞬怯ませる。その隙に、私はクマシュンの方へと駆け出す。
ここまで来て、逃げられましたなんて終わり方は、私もさすがに嫌です……!
「ク、クマーー…」
駆け寄ってくる私に驚いたのか、クマシュンは頑張って逃げようと足を速めるが、
「クマッ!!!?」
それが原因で、逆に足をもつれさせて、雪の上にぽてっと転ぶ。
クマシュンはもう、目と鼻の先……!! 今なら……狙える……!!
しずく「行け……!! モンスターボール!!」
私はクマシュンにモンスターボールを投擲した。
モンスターボールは真っすぐクマシュンに当た──ると思いきや、おかしな方向にすっぽ抜けていった。
しずく「あ、あれ……? も、もう一回です……!!」
私は振りかぶって、もう一度ボールを投げます……!
今度こそ、ボールはクマシュンに吸い込まれるように一直線に飛んで──行くことはなく、明後日の方向にすっ飛んでいきました。
かすみ「しず子、ノーコンすぎでしょ!?」
しずく「もう~!? なんで!?」
自分が球技が苦手なのは知っていたけど、まさかこんな至近距離の相手にボールが当てられないなんて思わなかった。
自分のノーコンっぷりに失望しながらも、
しずく「直接ボールを押し当てるしかない……!!」
相手は転んだクマシュンだ……!! ボールを直接押し当てさえすれば、捕獲出来る……!
私が駆け出すと同時に、
「ベァァァァァ!!!!!」
かすみ「しず子ーー!! 後ろーーー!!」
ツンベアーの雄叫びとかすみさんの声。
“マジカルシャイン”での目くらましに、もう目が慣れて追ってきたのだろう。
しずく「間に合って……!!」
クマシュンに手を伸ばそうとした、そのときだった──
突然、ゴゴゴ……と地鳴りのような音が山側から聞こえてきた。
咄嗟に音のする方に目を向けて──私は目を見開いた。
しずく「嘘……」
前兆なんて全くなかった。なのに私たちに向かって──雪崩が押し寄せてきているではないか。
今すぐ身を翻して、逃げようとしたが、
「ク、クマァ…!!!!」
クマシュンは完全に押し寄せる雪崩にビビッてしまい、動けなくなっていた。
しずく「い、いけない……!?」
私は持っていたボールを放り捨てて──クマシュンに覆いかぶさって、庇うように胸に抱きしめる。
かすみ「しず子ッ!!?」
響く、かすみさんの声。
直後──私は轟音を立てながら押し寄せる雪崩に、クマシュンもろとも飲み込まれた。
一瞬で視界が真っ白に染まり、身体が大量の雪に押し流されていく。
「──ベアァァァァァ!!!!!!」
雪崩の轟音の中、一瞬ツンベアーの声を聞いた気がしたけど──私の意識は間もなく、真っ白な闇に呑み込まれていった──
💧 💧 💧
🎹 🎹 🎹
侑「──かすみちゃーん!!」
かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱーい……っ……」
ウォーグルの“そらをとぶ”を使って、超特急でグレイブマウンテンまでやってきた私たちは、かすみちゃんを見つけて、降り立っていく。
かすみ「……どうじよう゛、ゆ゛う゛せ゛んぱいぃぃ……っ……しず子がぁぁ……っ……」
「ガゥゥ…」「バリバリ…」
泣きじゃくるかすみちゃん。そして、そんなかすみちゃんを心配そうに見つめるゾロアと、困り果てた様子のバリヤード。
歩夢「かすみちゃん、落ち着いて……! 大丈夫だから……!」
かすみ「ひっく……えぐ……っ……あゆ゛む゛せ゛んぱいぃ……っ……」
歩夢がかすみちゃんを抱きしめて、背中を優しく撫でて落ち着かせる。
侑「私、探してくる……!! 歩夢はかすみちゃんをお願い!」
「ブィ!!」
歩夢「うん……! 気を付けてね……!」
侑「行くよ、ウォーグル!!」
「ウォーーー!!!!」
ウォーグルと一緒に、再び飛翔する。
──大体の事情は、通話で歩夢がどうにかこうにか、パニックを起こしているかすみちゃんから聞き出してくれた。
しずくちゃんと一緒にグレイブマウンテンまでクマシュンを捕まえに来た事。
その最中に予兆もなく発生した雪崩に襲われ、クマシュンを庇ってしずくちゃんが巻き込まれてしまったこと。
かすみちゃんもどうにか、流されたしずくちゃんを助けようとしたけど……崖下まで流されてしまって、とてもじゃないけど、救出に行けなかったこと……。
侑「リナちゃん! しずくちゃんの図鑑の位置わかる!?」
リナ『すぐサーチする!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナちゃんが、バッグから飛び出してくる。
私は右手でウォーグルの脚を掴んだまま、左手でリナちゃんを掴んで、マップ表示を確認する。
侑「そんなに遠くない……!」
「イブィ!!」
リナ『地図だと平面的な位置しかわからない……! Y軸は私が口頭でガイドする! とりあえず、下に降りて!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「うん! ウォーグル! 行くよ!」
「ウォーーッ!!!!」
私はウォーグルに掴まったまま、図鑑の反応を頼りに、谷へと下っていく──
💧 💧 💧
「──フェロ」
──ものすごく美しいポケモンが居た。
その色香は、見ているだけで私を狂わせる、最上の美……。
私はそこに向かって手を伸ばす。
噫、もっと、もっと近くで見たい……触れたい……。
──この美しさに、一生溺れていたい……。
私は手を伸ばす。
あと少しで、それに触れられそうになった──そのとき、
──『しず子っ!!!』
声が響いて、私は手を止めた。
──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』
かすみさんが、私に向かって、叫んでいた。
──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』
かすみさんの声が、私の中で木霊している。
私は──
しずく『……そうだ……こんなものに……こんなまやかしに……負けちゃ、ダメだ……!!』
私は、目の前の幻想を──振り払った。
──
────
──────
──なんだか、おかしな夢を見た。
しずく「──……ん……」
目が覚めると──そこは薄暗い場所だった。
しずく「ここ……どこ……?」
身を起こそうとして、
しずく「痛……っ……」
身体のあちこちが痛くて声をあげる。
そうだ、私──雪崩に巻き込まれたんだ……。
しずく「そうだ、クマシュンは……!?」
「クマ…」
クマシュンが私の胸の中で声をあげる。
しずく「よかった、無事だったんだね……」
「クマ…」
クマシュンが無事で一安心。だけど……周囲を確認する限り、ここは谷底だろうか……?
頭上を見上げると、遥か遠くに空が見えた。かなり落ちてきたに違いない……。
確かに身体は痛むけど……骨が折れたり、打撲しているような激痛ではない。どうして、自分が助かったのが不思議でならなかったけど──その答えは、私のすぐ下にあった。
「ベァァァ……」
しずく「え!?」
私の真下から聞こえてきた鳴き声に驚きながら、目を向けると──
「ベァ……」
真っ白な巨体──ツンベアーの姿だった。
どうやら私は、今の今まで、ツンベアーの上で気を失っていたようだった。
お陰で骨折も打撲もせずにすんだが……。
しずく「ツンベアー……貴方が助けてくれたんですか……?」
「ベァァ…」
ツンベアーはかなり衰弱していた。
私はすぐにツンベアーから降りて、バッグから小型のライトを出して、ツンベアーの体を確認する。
脚に触れると、
「ベ、ベァァ…」
ツンベアーが苦悶の声をあげる。
恐らく、脚の骨が折れている……。しかもこの高さ……折れているのは脚だけじゃないかもしれない。だから、ここから動けないんだ……。
しずく「どうして、私を庇ったりなんか……」
「ベァァ…」
私の問いにツンベアーは、
「クマ…」
首をクマシュンに向けて、答える。
しずく「私が……クマシュンを庇ったから……?」
「ベァァ…」
しずく「……ごめんなさい。そもそも、私がクマシュンを驚かせたりしなければ良かった話なのに……」
「ベァァ…」
ツンベアーはゆっくり首を振る。
しずく「……ありがとう。……貴方は絶対に私が助けます。だから、今だけでいいので……ボールに入ってくれますか……?」
「ベァ…」
弱々しく頷くツンベアー。私は頷き返して、ボールを押し当てた。
──パシュンと音を立てて、ツンベアーがボールに入る。
「クマァ…」
しずく「大丈夫。貴方もちゃんと、私がお家に返してあげますよ」
「クマァ…」
それくらいの責任は果たさなくてはいけないだろう。
とはいえ、どうしたものか……。
私は飛行の手段を持っていない。
アオガラスでは私をぶら下げたまま、“そらをとぶ”のは無理だろうし……。
しずく「……そもそも、さっきの雪崩……」
そうだ、そもそもさっきの雪崩はなんだったのだろうか……?
前兆が全くなかったというか……目の前で急に雪が襲い掛かってくるような……妙な違和感があった。
まるで、雪崩が意思を持って、私たちを狙ってきていたような……。
しずく「……さすがに考えすぎでしょうか……?」
「クマ…?」
しずく「……とりあえず、少し移動しましょうか……。もしかしたら、どこかから、上に登れるかもしれませんし……」
「クマ」
歩き出そうとして──
しずく「あ、あれ……?」
脚に力が入らず膝を突いてしまう。
しずく「な、なに……?」
身体が……重い……。
気付けば吐く息は真っ白で──私の肩に、膝に、腕に、霜が降りている。
しずく「や、やっぱり……なに、か……へ、ん……」
「ク、クマ…」
──急激に気温が下がって、空気を吸い込むたびに肺が痛くて、苦しくなってくる。
熱を奪われ、身体がどんどん動かなくなっていく。
しずく「……ぐ……」
急激な寒さに、思考もどんどん重くなっていく。
しずく「だ、めだ……!!」
「クマ…」
考えを止めちゃダメだ──これは明らかに異常だ。
寒くて、身体の動きがどんどん鈍くなっていく中──私はゆっくり首を動かしながら、周囲の様子を伺う。
すると──私の周囲に……何か、キラキラしたようなものが舞っていることに気付いた。
それは、谷底に僅かに差し込む光を反射して、ささやかにその存在を主張している。
まさか──
しずく「細氷……?」
細氷──即ち、ダイヤモンドダストと呼ばれる現象だ。
大気中の水蒸気が氷結する現象。だけど、細氷の発生条件は氷点下10℃以下でないと発生しないと言われている。
急に、ここの気温が下がった。ここは確かに寒い場所だけど、そこまで急に起こるとは考えづらい。なら──
しずく「外的要因で空気が冷却されている……!」
私は、寒くて震える腕に力を込めて──ボールベルトのボールの開閉ボタンを押し込んだ。
「──カァァーーー!!!!!」
しずく「アオガラス……っ、“きりばらい”……っ」
「カァァァァァ!!!!!」
アオガラスが、周囲の冷たい空気を吹き飛ばす。
すると──すぐに体感でわかるくらいに、気温が上がるのが肌で感じられた。
しずく「やっぱり……! 私たちの周辺の空気だけ、気温が下げられてた……!」
「クマ…」
何かわからないけど──目に見えない敵がいる……!
しずく「逃げなきゃ……!!」
私が走り出そうとした瞬間、
しずく「きゃっ!?」
私は前につんのめって転んでしまう。
しずく「こ、今度は何が……!?」
自分の足に目を向け、驚愕する。
私の足に氷で出来たような鎖が巻き付き──氷漬けにしているではないか。
姿の見えない敵。氷の鎖。超低温を操る能力。こんな能力を兼ね備えたポケモンは1匹しか思い当たらない……!
しずく「フリージオ……!!」
「────」
名を呼ぶと、大きな氷の結晶のお化けのようなポケモンがパキパキと音を立て、結晶化しながら姿を現した。
フリージオが姿を現すと──より一層冷気が強くなり、私の足から足首へ、足首からふくらはぎへと氷が侵食してくる。
フリージオは氷の鎖で獲物を捕まえて連れ去る習性がある。その獲物というのは──もちろん、私だ。
しずく「まさか、さっきの雪崩は貴方が“ゆきなだれ”で起こしたもの……!?」
「────」
上にいる時点で私は狙われていたということだ。そして、まんまと谷底に落とされ──このままでは氷漬けにされる。
しずく「う、ぁ……」
どんどん身体が凍り付いていく。
──絶体絶命なそのとき、
「──“めらめらバーン”っ!!!」
「イ、ブィッ!!!!!!」
「────」
空から、炎を身に纏った、イーブイがフリージオ目掛けて、飛び込んできた。
炎の直撃を受けると、フリージオは蒸発するように掻き消える。
この技が使えるのは……!
しずく「ゆ、う、先輩……っ……!」
侑「しずくちゃん、大丈夫!? イーブイ!」
「ブイ!!」
イーブイが私の足元に近付き、炎でゆっくりと氷を溶かしてくれる。
しずく「あ、ありがとう、ございます……」
侑「うぅん、しずくちゃんが無事でよかった……。それよりも、今のポケモンは……」
リナ『今のポケモンはフリージオだよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナ『フリージオ けっしょうポケモン 高さ:1.1m 重さ:148.0kg
体温が 上がると 水蒸気に なって 姿を 消す。 体温が
下がると 元の 氷に 戻る。 氷の 結晶で できた 鎖を
使い 獲物を 絡め取り マイナス100度に 凍らせる。』
しずく「“とける”で姿を消しています……侑先輩、気を付けてください……」
侑「気を付けるって言っても、相手が見えないんじゃ……!」
しずく「確かに……まずはどうにかして、姿を捉えないと……!」
このままじゃ、全員じりじりと体温を奪われていって最後には氷漬けにされて連れ去られてしまう。
そのとき、
「ブイ…!!!」
イーブイがぶるぶると震えだす。
侑「イーブイ、どうしたの……?」
次の瞬間──イーブイの前方に、黒い結晶体が成長を始めた。
しずく「な、なんですか……!?」
侑「ま、まさか……!?」
リナ『新しい“相棒わざ”!! “こちこちフロスト”だよ!! イーブイがこの雪山の環境に適応したみたい!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||
「イ、ブイッ!!!!」
その結晶体は成長しきると、バキンっと砕け散って、周囲に黒い霧状のものをまき散らす。
それと同時に、
「────」
フリージオが突如、姿を現した。
しずく「フリージオが現れた……!?」
リナ『“こちこちフロスト”は“くろいきり”と同質の氷の結晶で相手を攻撃する技だよ!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||
侑「そうか……! それで、“とける”が解除されたんだ……!」
確かに“くろいきり”は相手の変化技を打ち消す技だ。侑先輩のイーブイが覚えた新しい技のお陰で窮地を脱したらしい。
「────」
自分が姿を消せないことを悟ったフリージオは、すぐさまここから離脱しようと、ふわりと浮き上がって上昇していく。
しずく「逃がしません……!! アオガラス、“ドリルくちばし”!!」
「カァーーーー!!!!!」
“ドリルくちばし”でフリージオを攻撃すると──フリージオはそれに合わせて、猛スピードで回転し始める。
リナ『“こうそくスピン”で威力を殺してる!?』 || ? ᆷ ! ||
「────」
攻撃を最小限に抑えきったフリージオはアオガラスを弾き飛ばし──今度こそ、上昇していく。
しずく「お、追いかけなきゃ……!!」
見失うと間違いなく厄介なことになる。
あのポケモンは今倒しきるべきだ。
侑「しずくちゃん!! ウォーグルの背中に乗って!!」
しずく「は、はい! クマシュン、アオガラス、行くよ!」
「クマ…」「カァーーー!!!!」
クマシュンを抱きかかえて、ウォーグルの背に飛び乗る。
侑「ウォーグル、飛んで!!」
「ウォーーー!!!!!」
ウォーグルの飛翔に合わせて、侑先輩がウォーグルの脚にしがみつく。
力強い羽ばたきで一気に上昇する──が、思ったようにフリージオと距離が詰められない。
それどころか──
侑「ひ、引き離されてる……!」
リナ『さ、さすがに重量オーバー!? 二人乗せたまま戦うのは無茶だよ!?』 || ? ᆷ ! ||
しずく「わ、私やっぱり降ります……!!」
侑「一人になって谷底で襲われたら、さっきみたいに逃げ場がなくなっちゃうって!!」
しずく「でも……!!」
見失ったら“とける”でまた姿を消されて、それこそ繰り返しになる。
そんな私たちの問答を打ち切ったのは──
「カァーーー!!!!!」
アオガラスだった。アオガラスは足を開いて、私の両肩を掴む。
しずく「アオガラス……!? 貴方まさか……!?」
そして、バタバタと激しく羽ばたき始めた。
すると──
侑「う、浮いた……!? アオガラスが持ち上げて飛んでる……!!」
しずく「アオガラス、貴方……」
「カァァーーーー!!!!!!!」
──ポケモンは時に、ライバルと言える相手を見つけると、その潜在能力が開花することがあるらしい。
奇しくも、アオガラスの進化系のアーマーガアと、ガラルの地で空の派遣を争ったと言われるポケモンは──ウォーグルだ。
自分も鳥ポケモンなのに、ご主人様がウォーグルの背に乗って飛ぶ姿が──アオガラスの闘争本能に火を点けた。
「カァァァァァーーーー!!!!!!!!!」
そして、その闘争本能は──アオガラスに新しい姿と力を与えた。
しずく「進化の……光……!!」
──噫、やっと……やっと、貴方と飛翔べるんだ……!!
しずく「……行こう──アーマーガア!!」
「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
アーマーガアは今度こそ私の肩をガッチリと掴むと── 一気に高度を上げて飛翔する。
アオガラスのときからは想像も出来ないような、力強い飛翔能力。
これが──
しずく「ガラルの空の覇者……!!」
「ガァァァァァ!!!!!!!!」
一気に上昇し、
「────」
谷の外に逃げたフリージオを完全に射程に捉え──
しずく「今度こそ、仕留めます……!! “はがねのつばさ”!!」
「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
鋼鉄の翼で──フリージオを切り裂いた。
「────」
直撃を受けたフリージオの身体は、ビキリッと音を立てながら、亀裂が入り、
「────」
戦闘不能になって、真っ逆さまに谷底に落下していったのだった。
しずく「……やったね、アーマーガア」
「ガァァァァァ!!!!!!!!」
勝利の雄叫びをあげるアーマーガア。そこに侑先輩たちも追い付いてくる。
侑「すごいすごい!! この状況で進化して、一撃で倒しちゃうなんて……!! 私、すっごくときめいちゃった!!」
しずく「ふふ♪ アーマーガアの翼はどんなポケモンにも負けない、最強の翼ですから♪」
「ガァァァァァァ!!!!!!!」
私が褒めてあげると、アーマーガアはもう一度、大きな勝鬨をグレイブマウンテンに響かせるのだった。
💧 💧 💧
かすみ「しず子ぉ゛~……っ……よか゛った゛よぉ゛~……っ……!!」
しずく「ごめんね、かすみさん……心配掛けちゃったね……」
かすみ「馬鹿しず子……っ……!! アクセサリーくれたしず子が遭難してどうすんの……っ……馬鹿ぁ……っ……!!」
しずく「うん、ごめん……」
泣きじゃくるかすみさんを抱きしめる。本当に……心配掛けちゃったな。
歩夢「一件落着……みたいだね」
侑「うん」
リナ『一時はどうなることかと思った……。リナちゃんボード「ドキドキハラハラ」』 ||;◐ ◡ ◐ ||
しずく「侑先輩たちも……ありがとうございました。まさか、駆け付けてくれるなんて……」
侑「お礼ならかすみちゃんに言ってあげて! かすみちゃんが報せてくれたことだから!」
しずく「そっか……ありがとう、かすみさん」
かすみ「うぅ……っ……ぐす……っ……もう、無茶しちゃダメだよ……しず子……っ……」
しずく「うん、ありがとう……」
私は、もう一度かすみさんをぎゅっと抱きしめて、お礼の言葉を口にするのだった。
💧 💧 💧
さて……全員揃って、ヒナギクシティに戻ってきた私は、すぐさまツンベアーをポケモンセンターに預けた。
大怪我を負っていたツンベアーは、緊急手術になりました……。
ただ、そこはさすがポケモンセンター。一晩掛けて行われた手術は無事に成功し、ツンベアーはどうにか一命を取り留めることが出来ました。
しずく「それじゃ、クマシュン。お母さんと仲良くね」
「クマ…」
ポケモンセンターのポケモン用の入院部屋に、クマシュンを放してあげる。
クマシュンはとてとてとお母さんのもとに駆け寄り、
「クマァ…」
「ベァ…」
クマシュンはお母さんに頬を摺り寄せ、ツンベアーは愛しい我が子をペロリと舐めて愛情を示す。
かすみ「しず子、いいの? クマシュン……欲しかったんでしょ?」
しずく「それはそうなんだけど……やっぱり、親子は一緒の方がいいのかなって」
ツンベアーは当分ここで病院暮らしだ。その間、一緒にクマシュンもポケモンセンターでお世話してくれるということだったし……。
しずく「私の気持ちよりも……クマシュンの気持ちを優先してあげなきゃ」
「クマ♪」
「ベァ…」
クマシュンはお母さんの前で嬉しそうに頷くと──とてとてと私の足元へと戻ってくる。
しずく「どうしたの? お別れの挨拶してくれるの?」
「クマ」
そして、何故か私の脚に抱き着いてきた。
しずく「あ、あれ……?」
かすみ「しず子」
歩夢「ふふ♪ しずくちゃん。クマシュンの気持ち、優先してあげないとダメだよ?」
しずく「え、ええ!? で、でも、お母さんも心配ですよね!?」
私がツンベアーにそう訊ねると、
「ベアァ…」
ツンベアーは優しい顔をしながら首を振った。
しずく「え、ええ……!?」
侑「……たぶんなんだけど」
しずく「?」
侑「今の自分じゃ、クマシュンを満足に育てられないから……しずくちゃんに代わりに育てて欲しいんじゃないかな」
しずく「……!」
私は侑先輩の言葉でハッとする。
しずく「ツンベアー……そういうことなの?」
「…ベァ」
ツンベアーはもう一度優しい顔をして、頷いてくれた。
しずく「…………。……わかりました」
私はクマシュンを抱き上げる。
「クマ♪」
しずく「この子は私が立派に育ててみせます……! 立派に育てて、また貴方のもとに戻ってきますから!」
「ベァ…」
しずく「クマシュン、これからよろしくね」
「クマ♪」
こうして、私の6匹目の手持ち──クマシュンが仲間になったのだった。
🎹 🎹 🎹
リナ『みんな、今後はどうする予定なの?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「もともとの話だと……ローズに戻るってことになってたけど……」
侑「ローズはもともと合流場所って話だったからなぁ……」
「ブィ?」
かすみ「みんな、ヒナギクに集まってきちゃいましたしねぇ……」
「ガゥ?」
しずく「う……私の不手際で……面目ないです……」
どっちにしろ、ジム戦をこなすにはローズに戻る必要があるけど……数日待てばヒナギクのジムリーダーも戻ってくるらしいし……。
そうなると、無理に急いで戻る理由も薄くなってくる。
しずく「あ、あの……それよりも……」
侑「ん?」
しずく「私たち、やっと飛行手段を手に入れたんですから──行ってみたくありませんか?」
そう言いながら、私たちの視線は自然と──南にあるオトノキ地方のカーテンへと注がれる。
かすみ「確かに……あの絶景、旅の間に見なくちゃ損ですよね!」
「ガゥガゥ♪」
歩夢「旅に出たばっかりのときは……あそこを登るなんて想像も出来なかったけど……行ってみたい! わ、私は……乗せてもらうだけになっちゃうけど……」
侑「ふふ、いいよ! みんなで登ろうよ!」
「イブィ♪」
しずく「ええ! 皆さん全員で、大空の旅を楽しみましょう♪」
リナ『次の行き先、決まったね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん! 行こう──カーテンクリフへ!!」
「イッブィ♪」
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ヒナギクシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. ●____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.40 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.39 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.40 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.40 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.40 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
クマシュン♂ Lv.23 特性:びびり 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:15匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.53 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.48 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.46 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.47 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.47 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.46 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:9匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.58 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.58 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.53 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.46 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.52 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:196匹 捕まえた数:7匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.48 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.47 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.43 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.39 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.38 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:197匹 捕まえた数:17匹
しずくと かすみと 侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🍊
──私たちは今、例の如く、ウルトラビースト出現の反応に従い、“そらをとぶ”で現場に急行している。
千歌「……この場所って、カーテンクリフの西端だよね?」
さっき送ってもらったマップデータを見ながら、後ろに乗っている遥ちゃんに訊ねる。
遥「はい……まさか、こんな場所にまで出現するなんて……」
千歌「今回こそは、空振りじゃないといいけど……」
ここ最近、誤報なのか私たちが到着する前に逃げられているのかわからないけど、現場に着いたら、もうすでにウルトラビーストがいない……なんてことが続いている。
もちろん、万が一があるし、無視するわけにはいかないけど……。
彼方「そういえばー……カーテンクリフの西端って、遺跡になってるんだっけ~……?」
千歌「確か……なんかすごい大きな階段みたいなのがあった気がします……。私も1回くらいしか行ったことないけど……」
穂乃果「なんか大昔の人たちが作った祭壇があるんじゃないっけ? お日様とお月様にお願い事する場所だって、前に海未ちゃんが言ってた気がする」
遥「大切な文化財があるんですね……。人的被害はないかもしれませんけど……遺跡を壊される前に、追い払わないと……」
千歌「うん、急ごう!」
「ピィィィーーー!!!!!」
私のムクホークと、穂乃果さんのリザードンは風を切りながら、現場へ急ぐ──
🍊 🍊 🍊
──カーテンクリフ西端の遺跡。
彼方「うわ……すっごい長い階段……絶対に自分の足じゃ、登りたくないよ~……」
遥「すごい……想像していたものよりもずっと大きな遺跡です……」
彼方「こんな標高の高いところに、こんなものどうやって作ったんだろう~……。昔の人たちってすごかったんだね~……」
遺跡上空を飛行しながら、彼方さんと遥ちゃんが驚きの声をあげる。
穂乃果「彼方さん、ウルトラビーストの反応は?」
彼方「うーん……頂上からずっと動いてないみたい……」
遥「そうなると……ツンデツンデかな……」
千歌「ツンデツンデなら、そこまで焦らなくてもいいのかな……?」
ツンデツンデはウルトラビーストの中でも、かなり温厚なポケモンだ。
こちらからちょっかいを掛けなければ、暴れ出すことはほぼない。
穂乃果「それを確認するためにも、急がないとね!」
千歌「ですね」
遺跡をムクホークとリザードンで一気に昇ると──開けた場所に出る。
この遺跡の祭壇だ。
千歌「ツンデツンデは……」
祭壇を空から見回してみるが──
千歌「いなさそう……」
穂乃果「ツンデツンデほど大きなウルトラビーストだったら、見逃すわけないし……彼方さん、まだ反応ってある?」
彼方「んー……まだ頂上にあるよ~……」
彼方さんが端末とにらめっこしながら、困ったような声で言う。
千歌「んー……おっかしいなぁ……」
私はもう一度目を凝らして、祭壇の上を見渡してみる。
千歌「……あれ?」
私は──祭壇上に影を見つけた。
でも、ウルトラビーストじゃない……あれは──
千歌「人……?」
そのシルエットはどう見ても人間のものだった。本来探していた対象よりも小さかったからか、すぐに気付けなかった。
このだだっ広い祭壇に……女性が一人。ちょうどこちらには背を向けているので、顔は見えないけど……青みがかったウルフカットの女性。
でも、どうしてこんな場所に……? いや、それよりも……。
千歌「とりあえず、ここは危ないってこと伝えに行かないと……!」
穂乃果「……そうだね」
彼方「んー……? あの人、どこかで見たような……?」
遥「お姉ちゃん……?」
私たちは、その女性たちのもとへと、降りていく。
千歌「すみませーん! あの、ここに今ちょっと危ないポケモンがいるんで、避難して欲しいんですけどー!!」
ムクホークをボールに戻しながら、女性たちに駆け寄る。
でも──彼女たちは全く反応がなく、振り返りもしない。
千歌「? もしもーし!!」
さらに近寄りながら、大きな声で呼びかけると──女性はやっとこちらに顔を向けてくれる。
女性「……ふふ、やっと来てくれた」
千歌「え……?」
彼方「あー!! もしかして、モデルの果林ちゃんじゃない!?」
彼方さんが、驚いたような声をあげる。
言われてみて、私も気付く。確か、モデルをやっている人だ。
果林「……モデルの人……ね」
果林さんは、彼方さんを見て──寂しそうに言葉を漏らす。
果林「……貴方にとって、私はもう……ただのモデルの人なのね……」
彼方「え……?」
千歌「あ、あの! それよりも、ここは危ないので、避難を──」
果林「ふふ、それって────ここにウルトラビーストがいるからかしら?」
千歌「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、
穂乃果「──ピカチュウ!!」
「──ピッカッ!!!!」
いつの間にかボールから出されていた穂乃果さんのピカチュウが、果林さんの首元に尻尾を向けていた。
一瞬で電撃による攻撃が届く間合いだ。
果林「……あら怖い」
穂乃果「あなた……何者なのかな?」
千歌「二人とも……下がって。ネッコアラ」
「──コァ」
彼方「う、うん……」
遥「は、はい……」
私もネッコアラをボールから出しながら、彼方さんと遥ちゃんを庇うようにして、後ろに下がらせる。
果林「そんな怯えた顔しないでよ──彼方。遥ちゃんも」
遥「……!?」
彼方「え……な、なんで私たちの名前……」
果林「やっぱり……本当に忘れちゃったのね……」
彼方「え……」
果林さんはそう言いながら一瞬──酷く悲しそうな顔をした。
果林「……でも、大丈夫──きっと嫌でも思い出すから……」
果林さんが──腰に手を伸ばした。
穂乃果「“10まん──」
「──ダメダメ、穂乃果はこっち♪」
「リシャンッ」
穂乃果「え!?」
目の前に、急に金髪の女の子が出現し──穂乃果さんの腕を取ると、瞬く間に姿が掻き消える。
──穂乃果さんもろとも。
千歌「穂乃果さ……!?」
果林「よそ見してる場合かしら?」
千歌「っ!? “まもる”!!」
「──フェロッ!!!!!」
「コァァッ!!!!」
咄嗟の指示で、ネッコアラが敵からの攻撃を丸太で受け止める。
い、いや、それよりも、果林さんが出してきたあのポケモン……!
千歌「ふ、フェローチェ……!?」
それはフェローチェだった。
しかも本来、全身雪のように真っ白い普通のフェローチェと違って、下半身はまるでドレスでも履いているかのように黒い──色違いのフェローチェだ。
千歌「ウルトラ、ビースト……!?」
果林「……」
なんでこの人はウルトラビーストを使っているの? なんで穂乃果さんは消えた? あの金髪の女の子は?
大量の疑問が、頭の中を埋め尽くし混乱する中、
遥「──……い、いやぁぁぁぁぁ……!!!」
千歌「!?」
急に背後で遥ちゃんの絶叫が響き、振り返ると、
遥「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」
彼方「──ぁ……ぐ……あ、たま……い、いたい……」
遥ちゃんはその場に蹲り、ガタガタ震えて、泣きながら謝罪の言葉を唱え始め、彼方さんに至っては頭を抱えたまま、倒れているではないか。
果林「……そうよね、フェローチェを見たら……嫌でも思い出すわよね、私のこと。いいえ──私たちのこと……」
何が起こっているのか理解できなかった。理解できなかったけど── 一つだけわかることがある。
この人は──……敵だ!
千歌「“ウッドハンマー”!!」
「コァァッ!!!!!」
フェローチェに向かって、ネッコアラが大きな丸太を振りかぶった──瞬間、フェローチェの目の前の空間が歪んで、影が飛び出した。
「──カミツルギ、“つじぎり”」
不意の一撃。
「コ…ァ…」
千歌「な……」
丸太ごと斬り裂かれ、ネッコアラが崩れ落ちる。
でも、それ以上に衝撃だったのは──その攻撃の主だった。
千歌「嘘……」
黒髪のストレートロングを右側で一房、バレッタで纏めた少女。
見間違えるはずがない。──いや、見間違えであって欲しかった。
千歌「せつ菜……ちゃん……?」
せつ菜「…………」
せつ菜ちゃんが──見たこともないような、冷たい目をしたせつ菜ちゃんが、そこに立っていた。
☀ ☀ ☀
愛「──愛さん、とうちゃ~く♪」
「リシャン♪」
穂乃果「……っ!」
「ピ、ピカ…!?」
周囲を見回すと──港だった。
ここはまさか──
穂乃果「フソウ港……!?」
愛「フソウ“ポート”に“テレポート”、なんつって! そんじゃね~♪」
「リシャン♪」
そしてすぐに、金髪の女の子は再び“テレポート”を使って、姿を消してしまった。
穂乃果「待っ……!!」
「ピ、ピカ…」
穂乃果「……やられた……っ!」
一瞬で地方の真逆の場所まで飛ばされた……!
全員を遠ざけるのではなく、私“だけ”を戦線から離脱させて、分断させる。この手際の良さ……これは、事前に計画されていた作戦。敵の狙いは──恐らく、
穂乃果「千歌ちゃんが危ない……っ!」
🍊 🍊 🍊
千歌「せつ菜……ちゃん……どう、して……」
せつ菜「…………」
「────」
せつ菜ちゃんがどうしてここにいるの……? いや、それより、せつ菜ちゃんが使っているポケモン──
シャープなフォルムの熨斗のような姿をしたあのポケモンは──カミツルギ……ウルトラビーストだ。
せつ菜「千歌さん」
千歌「……!」
せつ菜「早く、次のポケモン、出してください」
千歌「……た、戦えないよ!!」
せつ菜「……じゃあ、いいです。出さざるを得なくするだけなので──カミツルギ、“リーフブレード”」
「────」
千歌「……!」
私は咄嗟に飛び退く。直後──直撃してないはずなのに、斬撃によって空気が斬り裂かれ衝撃波が発生し、それによって吹っ飛ばされる。
千歌「ぐっ……!?」
どうにか受け身を取って衝撃を殺して、すぐに身体を起こす。
千歌「……っ……! せつ菜ちゃん、やめて……!!」
せつ菜「次は当てますよ……ポケモンを出しなさい」
千歌「っ……」
どうする……!? 私だけなら、最悪逃げるのも手だけど──
遥「……はぁ……っ……!! ……はぁ……っ……!!」
彼方「はる、か……ちゃん……っ……。おねえちゃん、が……いる、から……っ……! づ、ぅ……っ……!!」
あんな状態の彼方さんたちを放っておくわけにはいかない。
彼方さんは苦悶に顔を歪めながらも、遥ちゃんを抱きしめて、必死に後方へと下がっていく。
意識が朦朧としていながらも、遥ちゃんが巻き込まれないように、戦線から下がっているのだ。
でも遥ちゃんは未だに酷いパニック状態で、すでに過呼吸を起こしている。かなり危険な状態。
もう、もたもたしてられない……!
千歌「ルガルガンッ!!」
「ワォンッ!!!!」
せつ菜「やっと……戦う気になりましたか……。“はっぱカッター”!」
「────」
千歌「“ステルスロック”!!」
「ワォンッ!!!!」
周囲に鋭い岩を発射して、“はっぱカッター”を撃ち落とす。
せつ菜「ふふ、本来攻撃技ではないはずの“ステルスロック”で“はっぱカッター”と撃ち合うとは、さすがですね。なら、こういうのは──」
千歌「せつ菜ちゃん、もうやめて!! お願いだから!!」
せつ菜「……何故?」
千歌「そのポケモンは──ウルトラビーストは危ないの!! だから──」
せつ菜「……自分は『特別』を使うのに」
千歌「……ぇ」
せつ菜「……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!? カミツルギッ!!!」
千歌「っ……!! “ストーンエッジ”!!」
「ワォンッ!!!!」
迫るカミツルギに“ストーンエッジ”をぶつけて牽制するが、
せつ菜「“シザークロス”ッ!!!」
カミツルギは飛び出してくる鋭い岩石を、豆腐のように切り捨てる。
せつ菜「ああ、そうだ、やっぱり私を馬鹿にしてたんだ。自分が『特別』だから、『特別』じゃない私のことを……!!」
千歌「ち、違う……! そんなこと思ってないよ……っ……! ──……あなた!! せつ菜ちゃんに何したの!?」
私はせつ菜ちゃんの背後にいる、果林さんに声を飛ばす。
果林「あら……何をしたなんて、人聞きの悪い」
果林さんは興奮して「フーフー」と息を荒げるせつ菜ちゃんを後ろから抱きすくめて、
果林「私は、この子に力をあげただけ……選んだのはこの子。……そして、選ばせたのは──貴方じゃない」
千歌「……え」
果林「可哀想なせつ菜……貴方にとって、すごくすごく大切なバトルだったのに……。チャンピオンはそんなバトルをただの一撃で終わらせた。圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……」
千歌「そ、それは……」
果林「だから、あげたの──『特別』を。──ウルトラビーストを」
千歌「そん、な……」
じゃあ、せつ菜ちゃんがこうなっちゃったのは……私の、せい……?
果林「せつ菜……貴方の力を見せて? 『特別』になった貴方は──チャンピオンにも負けないわ」
せつ菜「はい……。約束は守ります。私は、チャンピオンを討ちます……!」
千歌「わ、私……」
私は、もしかして……とんでもないことをしてしまったんじゃないか?
私がせつ菜ちゃんを傷つけてしまった。
私はチャンピオンで、みんなにバトルの楽しさを知って欲しくて、表舞台に出ていたのに──バトルで彼女を傷つけたんだ。
一番バトルの楽しさを伝えなくちゃいけない──この地方のチャンピオンなのに。
せつ菜「“れんぞくぎり”!!!」
「────」
連続の斬撃は、衝撃波となり、石で出来た祭壇の床を豆腐のように斬り裂きながら迫る。
棒立ちの私に向かって。
「ワォンッ!!!!」
ルガルガンは、そんな私の服にたてがみの岩を引っかけ、無理やり背中に乗せ、後方に向かって飛び出した。
直後──私の居た場所は、まるでみじん切りにでもしたかのように、石畳の表面が細切れになる。
千歌「ルガルガン……!」
「ワォンッ!!!!」
ダメだ……!! 落ち込んでる場合じゃない……!!
彼方さんたちもあんな様子なのに、私が立ち尽くしてる場合じゃ──
せつ菜「“しんくうは”!!」
「────」
「ギャンッ!!!?」
千歌「っ!!?」
逃げるルガルガンを真空の刃が斬り裂き──私は放り出されて、祭壇の岩畳の上を転がる。
千歌「ぅ……ぐぅ…………っ……」
落下の衝撃で、一瞬息が出来ずに呻き声をあげる。
痛みを堪えながら、顔を上げると──
「ワ、ワォン…」
ルガルガンが倒れていた。
千歌「……っ」
床に伏せる私に向かって、
せつ菜「……早く立ってください」
せつ菜ちゃんが冷たく見下ろしながら、言葉をぶつけてくる。
千歌「せつ菜……ちゃん……」
せつ菜「ほら、出してくださいよ──バクフーンを」
千歌「……っ」
私はバクフーンのボールに手を掛ける。
だけど──手が震えていた。
──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──
千歌「……っ」
あのとき、本当はどうするべきだったのか、わからなかった。
どうすれば、せつ菜ちゃんを傷つけない──ポケモンバトルの楽しさを伝えられる、チャンピオンであれたのか。
今更考えても、後悔しても、どうにもならない。
でも、
千歌「……行けっ!! バクフーンッ!!」
「──バクフーーー!!!!」
せつ菜ちゃんをこのままにしちゃいけない。
私がせつ菜ちゃんを止めないと……!!
せつ菜「あはは……! やっと出しましたね、貴方の『特別』……!」
また傷つけちゃうかもしれないけど、それでも──このままじゃ絶対によくないから……!
千歌「バクフーーーーンッ!!!!」
私の腕のZリングが光る。
“ホノオZ”のエネルギーをバクフーンに送ろうとした、瞬間──
私は、
果林「…………へぇ」
果林さんを見てしまった。
──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──
千歌「……っ!!」
また、彼女の言葉がフラッシュバックした瞬間──私の腕の“ホノオZ”は輝きを失っていく。
──出来なかった。今、この技を撃つことは……出来ない。
せつ菜「カミツルギ!! “ソーラーブレード”!!」
千歌「──“かえんほうしゃ”っ!!」
「バクフーーーーーンッ!!!!!!」
振り下ろされる、陽光の剣に向かって──バクフーンが口から業炎を噴き出す。
陽光のエネルギーを押し返すように、燃え盛る爆炎。
だけど、振り下ろされる剣は、炎を斬り裂きながら、迫る。
──『……自分は『特別』を使うのに……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!?』
私──『特別』に選ばれたから、チャンピオンになれたのかな。
わかんない。……自分が『特別』だなんて、考えたこともなかった。
初めてのバトルで、梨子ちゃんに負けたあの日、『強くなろう』って、そう決めて、ただ必死に我武者羅に歩んできただけのつもりだった。
一歩一歩みんなで歩いて、新しい力を手に入れたらみんなで喜んで、終わったらまた新しい何かを掴むためにまた進んで……。
でも……違ったのかな……。私はただ、『特別』に選んでもらったから、ここにいるのかな。
わかんないよ、そんなこと……。
わかんない──……でも、それでも……。そうだとしても──
せつ菜「…………」
──あんなに悲しそうな顔でバトルをするせつ菜ちゃんを、放っておいていいはず──ない!!!
千歌「バクフーーーーンッ!!!!! いけぇぇぇぇ!!!!!!!」
「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!」
私の心に呼応するように、バクフーンの背中の炎が燃え盛り──火炎の勢いが一気に増す。
せつ菜「……!」
勢いを増した炎は──陽光の剣さえも凌駕し、
千歌「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「バクフーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
全てを爆炎で飲み込んだ。
──お互いのエネルギーがぶつかり合い、その余波でフィールド全体に熱波が吹き荒れる。
千歌「……っ!!」
バクフーンにしがみついて、耐え……爆炎が晴れると──
「────」
その先に、黒焦げになったカミツルギがいた。
黒焦げになったカミツルギは間もなく──石畳の上に崩れ落ちた。
せつ菜「…………」
千歌「…………はぁ……はぁ……」
せつ菜「…………」
せつ菜ちゃんをウルトラビーストから、解放した。
これで──
せつ菜「出てきなさい──デンジュモク」
「────ジジジジ」
千歌「2匹……目……?」
せつ菜「今の私は……貴方よりもたくさんの──『特別』を持ってるんです……」
私はへたり込んでしまった。
今の私の想いじゃ──せつ菜ちゃんの心に、届かない……。
せつ菜「──“でんじほう”」
「──ジジ、ジジジジ」
巨大な電撃の砲弾に、バクフーンもろとも飲み込まれて──私の視界は、フラッシュアウトした。
🎙 🎙 🎙
千歌「…………」
気を失った千歌さんを見下ろす。
果林「せつ菜、今の気分はどう?」
せつ菜「……あっけない。こんなものなんですね……」
果林「……そう」
せつ菜「…………」
……やっと、千歌さんに勝利したが──すがすがしい気分とは言い難かった。
せつ菜「……どうすればいいですか」
果林「ん?」
せつ菜「彼女の身柄が欲しかったんでしょう?」
果林「あら……まだ手伝ってくれるのね」
せつ菜「力をくれたんです。義理は……通します」
果林「……そう、ありがとう」
せつ菜「それに──もう、帰る場所なんて……ありませんから……」
果林「……そう」
私は千歌さんを背負い──目の前に現れたホールに向かって歩き出す。
──そのときだ。
フィールドに倒れていた、ルガルガンとバクフーンが──
「ワ、ォォンッ!!!!」「バク、フーーー!!!!!」
せつ菜「……っ!?」
私は驚き、背負っていた千歌さんが滑り落ちる。
最後の力を振り絞って、こちらに向かって飛び掛かってきた──と、思ったら。
──パシュンと音を立てて、千歌さんの腰についたボールの中に戻っていった。
せつ菜「……」
果林「主人と引き離されないように、最後の力でボールに戻ったみたいね……よく訓練されてる」
せつ菜「…………」
最後の力を振り絞ってまで、千歌さんの傍にいようとする彼らを見て……いろんな感情が湧き出てきそうになったが──無理やり心の底へと押し戻す。
私は今度こそホールに入るために、千歌さんを背負おうとしたそのとき──
「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」
聞き覚えのある声がして、私は動きを止める──
振り返ると──見慣れたツインテールを揺らしながら、信じられないようなものを見る目で──
せつ菜「……侑さん」
侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」
侑さんが揺れる瞳で……私のことを見つめていた。
………………
…………
……
🎙
■Chapter050 『終わりの頂』 【SIDE Yu】
──ヒナギクシティを発ち、私たちは今カーテンクリフの上空を飛んでいるところだった。
かすみ『すごいすごーい! あーんな高かった壁より高く飛んでますよー!!』
『ガゥガゥ♪』
しずく『ただ、風が強いですね……』
侑「そうだね……。歩夢、飛ばされないようにね!」
歩夢『うん。侑ちゃんも気を付けてね』
飛行中は、歩夢とかすみちゃんがそれぞれウォーグルとアーマーガアの背中に乗って、私としずくちゃんはそれぞれのポケモンに脚で掴んでもらって空を飛んでいる。
だから、会話はポケギア越しだ。
私のバッグの中にいるリナちゃんが中継局の代わりをしてくれていて、トランシーバーのように使って会話しながら移動している。
歩夢『それにしても、本当にすごいね……まさか自分たちが、家から見てたカーテンクリフの上を飛んでるなんて……今でも実感が湧かないよ……』
侑「カーテンの頂上って、雲の上だもんね……私たち、雲の上まで来られるようになったんだね」
「イブィ♪」「ウォーーーー!!」
自分たちの成長を実感する。成長して……今までの私たちじゃ見ることが出来なかった景色を見られるようになって……。
なんだか、嬉しいな……。
かすみ『でも、この後どうします? カーテンを越えて、ダリア側に降りますか?』
しずく『あ、それなら……西側に行くのはどうかな?』
かすみ『西側に何かあるの?』
歩夢『あ……確か、遺跡があるんだっけ……?』
しずく『はい! かなりの規模の遺跡があるそうです! せっかく、カーテンクリフを登れるようになったんですから、一度見てみたくって……!』
侑「それ私も見てみたい!」
かすみ『じゃあ、決まりですね! 西の遺跡に向かいましょう~!』
リナ『カーテンクリフは東西に一直線に伸びてるから、尾根伝いに進んでいけば辿り着けるはずだよ!』
と、ポケギアの通信にリナちゃんの声が入る。
侑「了解! ウォーグル、真っすぐ行って!」
「ウォーー!」
しずく『アーマーガア、侑先輩たちと同じ方向へお願い』
「ガァーー!」
私たちはカーテンクリフを西側に進んでいく──
🎹 🎹 🎹
尾根は長く続いていたけど──その尾根の途中に、石で出来た階段が見えてくる。
かすみ『な、なんですか、これぇ……!?』
『ガゥゥ…!!』
かすみちゃんたちが驚くのも無理はない。
ただでさえ、標高が高いのに──その階段はさらにずっと先……遥か遠くまで伸びていたからだ。
侑「本当にすごい……! しずくちゃん、一旦降りてみよう!」
しずく『了解です、侑先輩』
ウォーグルとアーマーガアに指示を出して、私たちは階段へと下降していく。
侑「……よ、っと!」
着地出来る場所が近づいてきたところで、ウォーグルに爪を放してもらって着地する。
その後、ウォーグルもゆっくり着陸し……歩夢が降りられるように、その場に屈む。
歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
「ウォー♪」
歩夢がウォーグルの頭を撫でながら、階段に降り立つ。
かすみ「実際に階段に立った状態で見ると……さらにヤバイですぅ……!」
「ガゥ…!!」
しずく「これは……圧倒されちゃうね」
同じように降り立った二人の言葉を聞きながら、私たちも階段を見上げる。
本当に……天まで続いているんじゃないかと錯覚するような階段が、そこにはあった。
幅は3メートルくらいあって、人が数人並んで歩いても、結構余裕があるくらいの広さ。
そして高く高く続いていく階段の脇には、ちょっとした塀こそあるものの──塀の向こうにあるのは雲だけ……即ち、この階段の外側は完全に空の上ということだ。
かすみ「皆さん! せっかくここまで来たら登らない手はありませんよ! ゾロア! 頂上まで競争しよ!」
「ガゥガゥ♪」
歩夢「あ、かすみちゃん……! 走ったら危ないよ……!」
しずく「かすみさん、落ちないでよー!? はぁ……もう……。……私たちは雲海を見ながらゆっくり行きましょう」
侑「あはは、そうだね……」
リナ『──侑さーん、行く前に出して~』
侑「あ、ごめん……! リナちゃん、今出してあげるね!」
背中側からリナちゃんの声が聞こえてきて、慌ててバッグを開けると、リナちゃんがふよふよと外に出てくる。
リナ『ふぅ……やっと外に出られた……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ごめんね、窮屈な思いさせて……」
リナ『大丈夫。飛ばされちゃうより全然いいから』 || ╹ ◡ ╹ ||
……とはいえ、これからは飛行での移動も増えるだろうし、何か考えた方がいいかもなぁ……。
ぼんやり考えていると、
かすみ「もう~!! 皆さんも早く来てくださーい!!」
上からかすみちゃんが急かしてくる。
歩夢「侑ちゃん、行こう♪」
侑「あ、うん」
「イブィ」
私たちは階段を登り始める。
🎹 🎹 🎹
かすみ「──……ぜぇ……はぁ……も、もう……無理……脚、上がらない……」
「ガゥ?」
しずく「はぁ……なんかこうなる気はしてたんだよね……。はい、お水」
しばらく登っていくと、かすみちゃんがへばっていたので、階段に腰かけて一旦休憩になった。
ゾロアはまだ物足りないみたいだけど……。
歩夢「見て、侑ちゃん……! 見渡す限り雲しか見えないよ!」
「イブィ~~…!!!」
侑「うん……! 本当に雲海のド真ん中にいるみたいだ……!」
まさに見渡す限り雲の海しか見えない。
しずく「もう完全に雲の上ということですね……」
リナ『カーテンクリフの頂上が、だいたいグレイブマウンテンの頂上と同じくらいの標高って言われてる。だから、クリフの頂上から伸びてるこの先の祭壇は、オトノキ地方で一番高い場所って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「へー……でも、こんな高い場所に、こんな長い階段どうやって作ったんですかね……?」
かすみちゃんが尤もな疑問を口にする。
しずく「それは今でも謎って言われてるみたいだよ。この石段はカーテンクリフの鉱物と違うから、下から切り出した石材って言われてるけど……」
かすみ「え……? 下からここまで運んできたの?」
リナ『だから謎って言われてる。どうやってこれだけの石材を運んだのかって』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「だから、宇宙人が作った~とか、神様が作った~とか言われてるんだよね」
しずく「ですね」
侑「まあ、確かに……これだけのものを、この高さに作ったなんて言われても、信じられないもん……」
「ブィィ…」
今登っている真っ最中だと言うのに、人が作ったものとは到底思えない……。あ……いや、ポケモンが作った可能性もあるのかな?
しずく「さて……そろそろ、休憩終わりにしようか」
かすみ「えー!? まだかすみんくたくただよぉ……」
しずく「でも、登っている最中に夜になっちゃったら、階段で野宿だよ?」
かすみ「そ、それは嫌かも……。わかったよぉ……登ればいいんでしょぉ……」
「ガゥガゥ…♪」
しずく「ほら、頑張って」
しずくちゃんがかすみちゃんの背中を押しながら、登っていく。
そのとき、ふと──私の上に一瞬、影が差した。
侑「ん……?」
「ブイ?」
歩夢「侑ちゃん? どうかしたの?」
侑「あ、いや……今何かが上を通り過ぎたような……?」
歩夢「え?」
侑「大型の鳥ポケモンかな……? まあ、いいや。行こう」
歩夢「あ、うん」
🎹 🎹 🎹
──階段を登り続けること30分ほど。
かすみ「あー!! 見て、しず子!! 頂上!! 頂上だよ!!」
しずく「本当だ……!」
かすみちゃんが言うとおり、視界の先に階段の切れ目が見える。
歩夢「あの先が、頂上の祭壇になってるんだね……」
侑「歩夢、大丈夫?」
歩夢「ちょっと疲れたけど……あとちょっとだから平気♪」
侑「そっか、もう少し頑張ろう」
歩夢「うん♪」
最後の一息だと思って、歩き出したそのとき、
かすみ「……あれ?」
かすみちゃんが何かに気付く。
しずく「どうかしたの?」
かすみ「……あそこにいるの……人じゃない……?」
侑「え?」
言われて、私も視線を階段の上の方に上げると──確かに人影が2つ見えた。見えた、けど……。
しずく「あの人たち、倒れていませんか……!?」
遠くてわかりづらいけど、その人たちはまるで階段に倒れているように見えた。
歩夢「た、大変……!」
かすみ「登ってる最中に体調を崩しちゃったのかもしれないですよ……!」
侑「行こう!! 助けなきゃ!!」
私たちは、倒れている人たちのところへと大急ぎで駆け出し、近付いていく。
近付いて、
侑「……え?」
歩夢「あ、あの人たちって……!?」
歩夢とほぼ同時に、その人に気付いた。
しずく「ま、待ってください……あの人たちって……!!」
かすみ「──彼方先輩とはる子じゃない……!?」
しずくちゃんとかすみちゃんも、私たちと同じように驚きの声をあげる。
私たちは、階段を一段飛ばしで、彼方さんたちのもとへと駆け寄る最中──頂上からドォンッ!!! と大きな爆発音がして、階段が揺れる。
かすみ「わ、わぁぁぁ!!?」
侑「な、なに!?」
いや、爆発もだけど──まずは彼方さんたちを助けるのが先……!
遥「──いや、いやぁ……っ……!!」
彼方「──遥ちゃん……だい、じょうぶだから……っ……!」
侑「彼方さんっ!!」
彼方「ゆう……ちゃん……? みんな……? どうして、ここに……」
彼方さんは私を見て、心底驚いたように目を見開く。
ただ、彼方さんは見るからに顔色が悪く、顔面蒼白で、じっとりと掻いた脂汗が額に浮かんでいるのが、すぐにわかるほどだった。
でも──それ以上に、
遥「──……ごめんなさい……っ……ごめんなさい……っ……」
遥ちゃんの様子がおかしかった。ガタガタと震え、ぽろぽろと涙を流しながら、しきりに謝罪の言葉を呟いている。
彼方さんは、そんな遥ちゃんを抱きしめたまま、姉妹揃って階段に倒れている状態だった。
しずく「お二人とも、大丈夫ですか!?」
歩夢「どこか痛むんですか……!? 応急セットを今出すので……!」
「シャボ」
歩夢が動くよりも早く、起き出したサスケがもうすでに、歩夢のバッグから応急セットを取り出して、歩夢の手元に運んでいた。
さすがの緊急事態にサスケも寝ている場合じゃないことに気付いたのだろう。
でも、彼方さんは、小さく首を振る。
彼方「わたし、よりも……千歌、ちゃんが……」
しずく「え……?」
侑「千歌さんが……!?」
その直後──バヂバヂバヂ!!! と強烈な稲妻が放射されて、雷轟と共に、空が白く光る。
かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!?」
リナ『強烈なでんきタイプのエネルギーを感知!! 上で戦闘が起こってる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
何が起きているのかわからない。だけど──上で千歌さんが何者かと戦っていることだけはすぐに理解出来た。
侑「歩夢はここで二人を診てあげて!! 行くよ、イーブイ!!」
「ブイッ!!!」
リナ『私も行く!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
歩夢「え!? 侑ちゃん!? リナちゃん!?」
私はイーブイと一緒に、彼方さんの横をすり抜けて駆け出す。
かすみ「かすみんも行きます!!」
しずく「わ、私も……!」
かすみ「ダメ!! しず子はそこで待ってて!!」
しずく「で、でも……!!」
かすみ「危ないから来ちゃダメ!! 絶対だからね!! 行くよ、ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
しずく「かすみさん!!」
かすみちゃんと二人で階段を駆け上がって頂上の祭壇へと出ると──
侑「え……」
そこには千歌さんがいた。ただ──気を失い、ぐったりとした状態で……だ。
そして、そんな気を失った千歌さんを──せつ菜ちゃんが、引き摺り起こして、背負おうとしているところだった。
侑「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」
私は思わず、声を張り上げた。
せつ菜ちゃんは私の声に気付いて、ゆっくりとこちらを振り返る。
せつ菜「……侑さん」
侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」
彼方さんは、千歌さんが危ないと言っていた。そんな千歌さんは、
リナ『お、大怪我してる……! 早く治療しないと……!?』 || ? ᆷ ! ||
かすみ「……ひ、酷い……」
かすみちゃんが口元を覆いながら、そう言葉にしてしまうくらい、ボロボロだった。身体のあちこちに切り傷があり、血が滲み、服はところどころが焼け焦げている。
そして、そんな彼女を乱暴に引き摺り起こそうとしているのは……。
信じたくない。信じたくないけど、こんなのどう見ても──
侑「せつ菜ちゃんが……やったの……?」
せつ菜ちゃんがやったとしか思えなかった。
せつ菜「…………」
侑「せつ菜ちゃん、答えて!!」
私が前に一歩踏み出した瞬間、
かすみ「侑先輩!! 危ないっ!!」
侑「っ!?」
かすみちゃんに押し倒される形で、前に倒れこむ──と同時に、私の頭の上を火の玉が通過していった。
ハッとして顔を上げると──せつ菜ちゃんの奥に、もう一人いることにやっと気付く。
モデルのような長身に、ウルフカットの青髪……確かあの人は……。
侑「果林、さん……?」
リナ『二人とも、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、うん……」
かすみ「ちょっとぉ!! 危ないじゃないですか!? どういうつもりですか!!」
果林さんの横には、キュウコンの姿。おそらく今の火の玉はあのキュウコンの攻撃だ。
果林「せつ菜、行きなさい」
せつ菜「……はい」
かすみ「無視しないでくださいよっ!!」
せつ菜ちゃんは果林さんの言葉に頷くと、今度こそ千歌さんを背負い上げ、歩き出す。
その先には──得体の知れない、空間にあいた穴のようなものがあった。
侑「待って、せつ菜ちゃん!! どこに行くの!? 千歌さんをどうする気!?」
せつ菜「…………」
実際に見ていたわけじゃない。だけど、あんな風にボロボロになっている千歌さんを見たら──全うなバトルをした結果じゃないことなんて、見ればすぐにわかった。
せつ菜ちゃんは千歌さんを誰よりも尊敬していたことを私は知っている。なのに、せつ菜ちゃんが千歌さんをあんな風に傷つけたなんて、信じられなくて、
侑「ねぇ、なんでこんなことするの……!?」
せつ菜「…………」
侑「せつ菜ちゃん……!! 答えてよ……!!」
せつ菜「…………」
侑「……っ……──いつものせつ菜ちゃんだったら、こんなこと絶対しないじゃん……っ!!」
私は叫んでいた。
これは何かの間違いなんだって。いつもみたいに無邪気な笑顔で周りも元気にしてくれて……それでいて誰よりも頼りになる、私の憧れのせつ菜ちゃんに戻って欲しくて。
──叫んだ。
だけど、せつ菜ちゃんは──私を氷のような瞳で一瞥したあと、
せつ菜「貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……」
そう吐き捨て──空間の穴の中へと消えていった。
侑「せつ菜……ちゃん……」
「ブィ…」
果林「ふふ、残念。貴方の声、届かなかったわね」
侑「……っ!」
私は果林さんを睨みつける。
果林「あら、怖い……招かれざる客なのに。……いいえ、この場合──開いた口へ牡丹餅……かしら?」
果林さんがそう言うのとほぼ同時に、
歩夢「侑ちゃん……!!」
侑「歩夢!?」
歩夢が階段を駆け上がってくる。
侑「下で待っててって……!!」
歩夢「火の玉が飛んでくるのが見えて、心配で…………え?」
歩夢もそこでやっと、果林さんがいることに気付く。
歩夢「なんで、こんなところに果林さんが……?」
歩夢はぽかんとする。──が、
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガゥゥゥ!!!!」
ゾロアがキュウコンに向かって攻撃を放つ。
果林「あら……“あくのはどう”で打ち消しなさい」
「コーーーンッ!!!」
キュウコンはそれを難なく相殺してみせる。
歩夢「か、かすみちゃん……!?」
かすみ「歩夢先輩!! あの人は敵です!!」
果林「あら、酷いじゃない……前に助けてあげたのに」
かすみ「先に攻撃してきたのは、そっちじゃないですか!!」
果林「全く……こっちはやることが出来ちゃったんだから、邪魔しないで──」
そう言って、果林さんがすっと手を真上に伸ばすと、
かすみ「……んぎっ!?」
「──ガゥ!!?」
歩夢「……えっ!?」
「シャボ…!!」
侑「……か、身体が……!?」
「イブィッ!?」
リナ『みんな!?』 || ? ᆷ ! ||
私たち3人とそれぞれの手持ちたちは、一斉に身体が動かせなくなる。
侑「“かな、しばり”……!?」
「ブ、ブィ…!!!」
果林「ふふ、正解」
一気に3人同時に“かなしばり”状態にされ、動けなくなる。
リナ『侑さんたちを放して……!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
果林「貴方……さっきから、うるさいわね。少し黙ってて」
「コーンッ!!!」
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
キュウコンが吐き出した“ひのこ”がリナちゃんに直撃し、吹っ飛ばされる。
侑「リナちゃん!?」
リナ『ボディ損傷──ボディ損傷──ストレージ保護のため、緊急休止モードに移行します』 || ERROR ||
リナちゃんは、地面を転がったのち、エラーメッセージを吐いて、動かなくなってしまった。
果林「とりあえず……これで、うるさいのはいなくなったわね」
歩夢「ひ、酷い……」
侑「……っ」
果林「それで……確か、あの子でいいのよね──」
果林さんがそう言いながら振り返ると──
果林さんの背後に、
「──うん、そっちのお団子の子ね」
「リシャン♪」
ワープでもしてきたかのように、女の子が突然現れた。
歩夢「え……」
侑「うそ……」
かすみ「今度は、誰ですか……!?」
明るい金髪をポニーテールに結った──見覚えのある女の子。
侑「愛……ちゃん……?」
愛「やっほーゆうゆ、歩夢ー♪ 久しぶりー♪」
愛ちゃんは楽しそうに笑いながら、手を振ってくる。
果林「……愛」
愛「おっと、馴れ合い禁止ってやつ? 怖い怖い」
果林さんは、愛ちゃんを一瞥して、小さく溜め息を吐いたあと、こちらにゆっくり歩いてくる。
かすみ「こ、こっちきたぁ……!」
「ガ、ガゥゥ…!!!」
侑「ぐ、ぅ……! うご、け……!」
「ブ、イィ…!!!」
身体を必死に動かそうとするけど、全く自由が効かない。
果林さんは、そんな私たちの目の前までやってきて──素通りした。
侑「……!?」
かすみ「え?」
私たちを無視して、果林さんは──
果林「貴方が……歩夢ね」
そう言いながら、歩夢の頬に手を添える。
歩夢「え、えぇ!?」
突然のことに歩夢が酷く動揺した声をあげる。しかも、あろうことか──
果林「すんすん……」
果林さんは、歩夢の首筋に顔を近付けて、匂いを嗅ぎ始めた。
歩夢「な、ななな、なにしてるんですかっ!?///」
「シャーーーーッ!!!!」
果林「……よくわからないわね」
愛「あはは♪ 人間の鼻じゃ、わかんないよ」
果林「そういうものなの?」
愛「そういうもんだよ」
──二人は何の話をしてるの……?
果林さんはサスケに威嚇されているのに、無視し、
果林「まあ、いいわ。ねぇ、歩夢」
再び歩夢の頬に手を添え、顔を覗き込みながら、
果林「──私たちの仲間になってくれない?」
そんなことを言い出した。
歩夢「え……?」
侑「は……?」
かすみ「はい?」
果林さんの言葉に3人揃って固まる。……いや、もう既に固まって動けないんだけど……。
歩夢「な、なに……言ってるんですか……?」
果林「私たち、貴方の力に興味があるのよ」
歩夢「私の力……? 何の話ですか……?」
果林「貴方には──ポケモンを手懐ける特別な力があるの。それを私たちのために使ってくれないかしら?」
歩夢「え……!?」
侑「な……」
歩夢「わ、私にそんな力ありません……! だから、放してください……!」
果林さんの言葉を否定し、もがく歩夢。
だけど、
愛「いーや、あるよ」
今度は逆に、愛ちゃんが歩夢の言葉を否定する。
歩夢「あ、愛ちゃん……?」
愛「アタシたちね、さっきカリンが言った──ポケモンを手懐ける才能を持った子をずっと探してたんだよ」
歩夢「な、なに……言って……」
愛「まあ、もともとはカリンが他の人を捕まえるつもりだったんだけど……倒すならともかく、捕まえるにはあまりに強すぎてね。んで、その間アタシは地道に探してたわけ」
地道に……?
侑「……まさ、か……」
愛「そう、そのまさか。愛さん、ドッグランで張って、立ち寄るトレーナーを観察してたんだよ。んで、見つけた」
歩夢「う、そ……」
侑「それ、じゃ……あのとき、育て屋にいたのは……」
愛「ああ、いやいや、タマゴからエレズンが孵って、ラクライたちに狙われてたのはホントだよ? ちょっと、帰るのめんどいなーって」
歩夢「めんどいって……」
愛「ただね、あそこで地道に張ってた甲斐あったよね……本当にお目当ての力を持った子が現れたんだもん」
歩夢「じゃあ……私たちを……騙したの……? あのとき、言ってくれたことも……嘘、だったの……?」
愛「嘘なんかじゃないよ。だって歩夢──ちゃんと強くなってるじゃん。愛さんの見立てどおりに、ちゃんと強くなってくれた。きっとあのときよりも、ポケモンを手懐ける力も強くなってるよ♪」
歩夢「そん……な……」
歩夢が言葉を失う。
そんな歩夢に、
果林「それで、どうするの? 仲間になってくれるのかしら?」
果林さんがそう詰め寄る。
歩夢「ぜ、絶対に……なりません……」
果林「へぇ……」
果林さんは歩夢の頬から手を離しながら、冷たい目を向け──
果林「“ほのおのうず”」
「コーーンッ!!」
歩夢「……っ!? 熱……っ!!」
「シャーーーボッ!!!」
歩夢に向かって、“ほのおのうず”を放つ。
侑「歩夢っ!?」
かすみ「歩夢先輩!!」
果林「ほら、早くうんって言った方がいいわよ? 熱いの嫌でしょ?」
歩夢「っ゛……い、いや、です……」
果林「……」
侑「……歩夢を、放せぇぇ……!!」
「ブ、ィィ!!!!」
動けない中……イーブイの尻尾から、タネが1個ポロリと床に落ち──直後、メキメキと音を立てながら、一気に樹に成長していく。
果林「!? 何……!?」
侑「“すくすくボンバー”ッ!!」
「ブゥィィ!!!!」
成長しきった樹から巨大なタネを、キュウコンに向かって降らせる。
果林「ちっ……“ひのこ”!!」
「コーーーンッ!!!!」
キュウコンの尻尾にポポポッと九つ火が灯り、それがタネに向かって的確に発射される。
タネは着弾することなく、空中で焼き尽くされるが、
かすみ「と、わたた……!? あれ、動ける!?」
「ガゥッ!!!」
侑「解除された……!!」
「イブイッ!!!」
“かなしばり”が解除される。
愛「ありゃりゃ、技を使う拍子にキュウコンの集中が切れちゃったか」
侑「歩夢を、放せぇぇ……!! “びりびりエレキ”!!」
「ブ、イィッ!!!!!」
イーブイから放たれる電撃。
果林「“じんつうりき”」
「コーンッ!!!」
それを念動力によって、地面に叩き落とす。
かすみ「ゾロア!! “スピードスター”!!」
果林「“かえんほうしゃ”」
「コーーーンッ!!!!」
かすみちゃんの援護射撃も、なんなく焼き尽くし相殺する。
かすみ「侑先輩!! 二人で協力して、あの人倒しますよ!!」
侑「わかってる!!」
歩夢を目の前で傷つけられて、私は完全にトサカに来ていた。
絶対に許さない……!!
果林「はぁ……これだけ力を見せてあげても、二人なら勝てる、なんて思っちゃうのね。“れんごく”!」
「コーーンッ!!!!」
──キュウコンから放たれた、紫色の炎が、
「ガゥァッ!!!?」
ゾロアに直撃し、一撃で戦闘不能に追い込まれる。
かすみ「つ、つよっ!?」
侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
「ブイィィッ!!!!」
その隙に、イーブイが泡を飛ばして攻撃する。……が、
果林「“ねっぷう”!」
「コーーーンッ!!!!」
強烈な“ねっぷう”が吹き荒び、
「ブィィッ!!!!?」
“いきいきバブル”を蒸発させながら、イーブイごと焼き尽くす。
しかも、その技の範囲が尋常ではなく、
かすみ「あち、あちちちっ!?」
侑「ぐ、ぅぅぅぅっ!!?」
私たちトレーナーの方まで熱波が襲ってくる。
咄嗟に顔を庇うが──熱だけでなく、強烈な風によって、
かすみ「ぴ、ぴゃぁぁぁぁ!?」
侑「ぐぅ……!!」
立っていることもままならず、かすみちゃんもろとも吹き飛ばされて、地面を転がる。
転がりながらも、
侑「っ……! い、イーブイは……!」
どうにか顔を上げると、
「ブ、ブィィィ!!!?」
「コーン!!!!」
イーブイはすでにキュウコンに前足で押さえつけられていて、
果林「“かえんほうしゃ”!!」
「コーーンッ!!!!」
「イブィィィィッ!!!!!!」
侑「イーブイ!?」
至近距離から強烈な火炎によって焼き尽くされた。
「イ…ブ、ィ…」
侑「イーブイ……っ……!」
果林「これでわかったでしょう? 力の差は歴然──」
侑「ライボルト!! ウォーグル!!」
「ライボッ!!!」「ウォーーーッ!!!」
かすみ「ジュカイン!! テブリム!!」
「カインッ!!!」「テブテブッ!!!」
果林「……愛、手伝ってくれない?」
愛「アタシはパ~ス♪ エンジニアだし~♪」
果林「都合のいいときだけ、エンジニア気取りするんだから……。はぁ……わかったわよ」
果林さんは溜め息を吐いて、
果林「本当の絶望を──見せてあげるわ」
そう言って、パチンと指を鳴らした、瞬間──
「ウォーーッ!!!?」
ウォーグルが何かの攻撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
侑「え……?」
何が起きたのか、理解する間もなく。
「カインッ!!!?」
今度はかすみちゃんのジュカインが上から攻撃を叩きつけられて、足元の石畳にめり込む。
かすみ「ジュカイン!?」
侑「敵の動きが、見えない……!? ……っ、“ほうでん”!!」
「ライボッ!!!」
私は咄嗟に範囲攻撃で対応する。
いくら速くても、周囲に展開される、電撃なら……!
果林「範囲攻撃なら……当たる、とでも?」
侑「……!?」
直後、
「ライ、ボッ!!!!」
ライボルトの懐に潜り込み、顎下から蹴り上げるポケモンの姿が見えた。
真っ白な上半身と、真っ黒下半身をした──細身のポケモン。見たことのないポケモンだった。
侑「ライボルト……!?」
ライボルトは真上に向かって数メートルは吹っ飛ばされ──しばらく空中を舞ったあと、強く地面に叩きつけられた。
侑「っ……ドロンチ!!」
「ロンチッ!!!!」
私が次のポケモンを繰り出した直後、
かすみ「……フェロー……チェ……?」
かすみちゃんが声を震わせながら、そう言葉にした。
侑「フェローチェ……? かすみちゃん、何か知ってるの……!?」
かすみ「なんで……なんで、そんなの……──ウルトラビーストを使ってるんですか!?」
ウルトラ……ビースト……?
果林「なんでって──ウルトラビーストをこの世界に呼んだのは、私たちだもの」
かすみ「!! じゃあ、お前のせいで、しず子が……!!」
果林「はぁ……もう、そういう熱血展開飽きちゃったわ、フェローチェ」
「フェロ」
果林さんが溜め息を吐きながら、言った瞬間、
「テブッ!!?」
目にも止まらぬスピードで、テブリムが蹴とばされる。蹴とばされたテブリムは剛速球のように──ヒュンと風を切りながら、
かすみ「ぐぇっ……!?」
かすみちゃんのお腹に直撃し、ポケモンだけでなくトレーナーごと吹っ飛ばした。
侑「かすみちゃんっ!?」
テブリムと一緒に数メートル吹っ飛んで、石畳の上を転がり──かすみちゃんは……くたりとして動かなくなった。
歩夢「いやぁぁぁぁぁッ!!!!?」
それを見て、歩夢が絶叫する。
そして、次の瞬間には、
果林「“じごくづき”」
「フェロ」
「ロンチ!!?」
ドロンチが攻撃を受けて、私の真横スレスレを猛スピードで吹き飛んでいった。
侑「…………う……そ……」
私は、ペタンと尻餅をついた。
ダメだ……勝てない……。
相手が……強すぎる……。
果林「……おイタが過ぎたわね」
「フェロ」
フェローチェが私の目の前で足を振り上げた。
歩夢「逃げてええええぇぇぇぇっ!!!!」
響く歩夢の絶叫。
尻餅をついた私に振り下ろされる、フェローチェの脚、スローモーションになる景色。
そのとき──私の目の前に影が割って入った。
彼方「“コスモパワー”!!」
「────」
──ガキィンッ!! と音を立てて、フェローチェの攻撃が弾かれる。
果林「……! 彼方……」
侑「か、彼方、さん……」
彼方「侑ちゃん……へい、き……っ゛……?」
私そう訊ねながらも、彼方さん相変わらず酷い顔色のままで、足元が覚束ない。
果林「ふふ……随分、体調が悪そうじゃない」
彼方「……果林、ちゃん……狙いは……私とこの子、でしょ……! 関係ない子たちに……手を、出さないで……!」
「────」
この子──彼方さんのすぐ傍にいるポケモン……金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモン……。
あれ、どこかで……。
侑「……そうだ、ロッジの天井にあったオブジェ……」
そのポケモンはコメコの森のロッジに泊まったとき、天井に釣り下がっていたオブジェと同じ姿をしていた。
果林「……どこに隠したのかと思ったら──コスモウムに進化していたのね。……それじゃ、もうエネルギーにならないじゃない」
愛「どーりでいくら“STAR”を探しても、センサーすら反応しないわけだ……」
彼方「いい、から……! ……歩夢ちゃんを……放して……!」
果林「断るわ。この子は私たちのこれからの計画に必要なの」
彼方「い、一体……なにする、つもりなの……!?」
果林「もう利用価値のない人間に、教えることはないわ──“むしのさざめき”!!」
「フェローーーー!!!!」
──目の前フェローチェから、とてつもない高周波が、発せられ、
「────」
振動の衝撃で、彼方さんのコスモウムと呼ばれていたポケモンを吹き飛ばす。
しかも、フェローチェの“むしのさざめき”はそれだけに留まらず、
侑「ぃ゛、ぁ゛……ッ!!!」
余波だけで近くにいた、私たちトレーナーも巻き込み始める。
直撃しているわけじゃないはずなのに、頭が割れそうになるような、とつてもない高周波。
だけど、私なんかとは比べ物にならないくらいに、
彼方「──あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁッ!!!?」
彼方さんが苦しみ始めた。
侑「かな゛、た゛、さん……ッ……!?」
彼方「う゛、ぁ゛、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁッ!!!!」
彼方さんは、瞳孔が開ききり、頭を押さえて、のたうち回っている。
果林「ふふ……ただの攻撃だったら耐えられたかもしれないけど──貴方たち姉妹の記憶には、この音に対する恐怖が刻みつけられているものね……」
彼方「あ゛、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!!」
侑「ぐ、ぅぅぅぅ……ッ……!!!!」
私も、もう限界だった。意識が飛びそうになった、そのとき──目の前に紺色の袋のようなものが飛び込んできた。
かすみ「──“じばく”……ッ!!」
「ブクロォォォ!!!!」
「フェロッ!!?」
果林「!?」
それはヤブクロンだった。かすみちゃんのヤブクロンが飛び込んできて──フェローチェの目の前で、“じばく”した。
侑「っ゛!?」
至近距離で起こった爆発によって、身体が宙を浮いた瞬間、
「──ニャァッ!!!」
ピンチを察したのかニャスパーが勝手にボールから飛び出し、“テレキネシス”で私と彼方さんの身体を浮かせて落下の衝撃を防いでくれる。
侑「はぁ……っ……はぁ……っ……あ、ありがとう……ニャスパー……」
「ニャァ」
彼方「ぅ……ぐ、ぅ……」
かすみ「侑、先輩……っ……! かな、た先輩……っ……!」
かすみちゃんが、よろけながら、私たちのもとへと歩いてくる。
かすみ「だいじょうぶ……ですか……」
侑「……か、かすみちゃん……身体は……」
かすみ「かす、みん……これくらい……へい、き……です……」
かすみちゃんはそう言うけど、見るからに満身創痍。もう限界だ。
彼方「かす、み……ちゃん……たた、か……っちゃ……ダメ……ゆうちゃん、と……逃げ、て……──」
侑「彼方さん……っ!!」
彼方さんは最後にそう言い残すと──意識を失ってしまった。
かすみ「歩夢、先輩……取り、戻したら……そっこーで、逃げ、ますよ……」
侑「……かすみ、ちゃん……」
あくまで強がるかすみちゃんを見て、果林さんは感心した風に口を開く。
果林「……さすがに驚いたわ。咄嗟に身を引かなかったら、やられてたかもね」
「フェロ…」
かすみ「どんな、もんですか……! ヤブクロン、が……一発、かまして、やりましたよ……!」
果林「はぁ……弱いネズミでも、追い詰められると噛み付いてくるものね。……いいわ、ちゃんと──殺してあげる」
果林さんの目に──明確な殺意が宿った。
歩夢「侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!」
果林「フェローチェ」
「フェロ」
またしても、フェローチェの姿が掻き消える、そして次の瞬間には──かすみちゃんの目の前で脚を振り上げたフェローチェの姿。
でももうかすみちゃんには、どう考えても避ける体力すら残ってない。
侑「──かすみちゃん……っ!!」
かすみ「ゆ、ぅ……せんぱ……」
私はかすみちゃんを庇うように、飛び付く。
でも──振り下ろされる脚を避け切るのは不可能……もう、間に合わない。
ぎゅっと目を瞑って──死を覚悟した、そのとき、
歩夢「──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!」
歩夢の叫びが一帯に響き渡った。
──フェローチェの脚は、私の脳天を掠るか掠らないかの場所で、ピタリと止まっていた。
果林「……」
歩夢「もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……付いていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……」
侑「あゆ、む……?」
果林「貴方たち、歩夢のお陰で命拾いしたわね」
そう言うと、歩夢の周囲にあった“ほのおのうず”が掻き消える。
果林「さぁ、行きましょう。歩夢」
歩夢「……はい……っ……」
「シャーーーーッ!!!!!」
歩夢「サスケ……大人しくしてて……」
「シャ、シャボ…」
愛「ん、話付いたみたいだね」
直後、愛ちゃんの背後に──さっきせつ菜ちゃんが消えていった空間の穴のようなものが出現する。
歩夢は果林さんと一緒にそこに向かって歩いていく。
ダメだ──
侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」
私は、力を振り絞って、立ち上がった、けど、
歩夢「侑ちゃん……来ないで……」
侑「……!!」
歩夢の言葉に私の身体が固まる。
歩夢「ごめんね……」
侑「あゆ……む……」
私は、へなへなとその場にへたり込む。
果林「さぁ、歩夢この穴に──」
「──待ってください!!」
突然、通る声が響く。それは、
しずく「…………」
しずくちゃんだった。下で待っていたはずのしずくちゃんが、ここまで登って来ていた。
かすみ「しず……子……?」
しずくちゃんは、ツカツカと果林さんたちの方へ歩いていき、
しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」
信じられないことを口にした。
かすみ「しず……子……!?」
侑「え……」
しずくちゃんの様子がおかしい。
まるで熱にでも浮かされているような、トロンとした瞳で──フェローチェを見つめている。
しずく「フェローチェ……! 私はそのポケモンにまた会いたいとずっと思っていたんです……♡」
果林「ふふ……やっぱり来たわね、しずくちゃん」
しずく「はい……♡」
かすみ「しず子、ダメ……! そっちに行っちゃ……!」
果林「いいわ。私の言うことを聞けるって約束してくれたら……たくさんフェローチェを──魅せてあげる」
しずく「本当ですか……♡」
しずくちゃんの表情がぱぁぁっと明るくなる。
かすみ「……っ……!! サニーゴ……! “パワージェム”……!」
「……サ」
かすみちゃんが、サニーゴをボールから出し──直後、ヒュンヒュンと光がフェローチェの方に向かって飛んでいく。
が、フェローチェはそれを軽々と脚で切り払うようにしてかき消す。
果林「まだ、立つ力が残ってるのね……」
かすみ「しず子は……行かせない……ぜ、ったいに……」
果林「……しずくちゃん、連れて行くには条件があるわ」
しずく「なんでしょうか……♡」
果林「あのうるさいのを──黙らせなさい。貴方の手で」
しずく「……はい、わかりました♡」
かすみ「え……」
しずく「インテレオン」
「──インテ」
ボールから出てきたインテレオンが──かすみちゃんに向かって指を向ける。
かすみ「うそ……だよね……? しず子……?」
しずく「……」
かすみ「負けないでって……言ったじゃん……! あんなのより、かすみんを見てって……言ったじゃん……!」
しずく「私の邪魔、しないで……──“ねらいうち”」
「インテ」
インテレオンの指から、音よりも速い水の弾丸が飛び出し──かすみちゃんの頭の左側に直撃する。
かすみ「っ゛……ぁ……」
侑「かすみちゃん!?」
着弾の衝撃で、かすみちゃんが石畳の上を転がる。
一拍置いて──カツーンと髪飾りが床に落下し、音を立てた。
かすみ「しず……子……」
しずく「次は髪飾りじゃなくて……眉間に当てるよ」
かすみ「しず……子……っ……」
しずく「……これで、よろしいですか♡」
果林「ええ、上出来だわ。……いらっしゃい、しずくちゃん」
しずく「はい♡」
しずくちゃんが、軽い足取りで果林さんのもとへと駆けていく。
愛「……あーあ、酷いことするね、カリン」
愛ちゃんが穴に吸い込まれるようにして消え、
果林「さぁ、しずくちゃん、この先に行くのよ」
しずく「はい♡ 仰せのままに……♡」
しずくちゃんが消え、
果林「次は貴方の番よ」
歩夢「……はい」
歩夢が、穴へと、歩き出す。
侑「歩夢……い、行かないで……」
歩夢「…………」
私の声を聞いて、歩夢の足が止まる。
果林「歩夢」
歩夢「…………っ」
侑「やだ……行かないでよ……歩夢……!!」
歩夢「侑ちゃん……」
歩夢が半身だけ振り向き、私を見て、言った。
歩夢「私はいつでも……侑ちゃんのこと、大切に想ってる……っ……。……どんなに離れていても……想いは同じだよ……っ……」
いつか、言ってくれた、伝えてくれた、言葉を。
侑「待って……待ってよ……歩夢……!!」
歩夢「……ちょっと……行ってくるね……っ……」
ポロポロと涙を零しながら、にこっと笑って──
果林「行くわよ」
歩夢「……はい」
侑「歩夢……っ!!!」
歩夢は、果林さんに背中を押され──空間の穴に消えていった。
侑「歩夢うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!!」
私の叫びは……この地方の一番高い場所で──空に溶けて、消えていった……。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【黄昏の階】
口================== 口
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||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
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||. 回 . |_回o | | : ||
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||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
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口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.59 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.59 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.55 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.47 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.54 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 未所持
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.54 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.51 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.49 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.49 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.49 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.48 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter051 『──かすみの願い』 【SIDE Yu】
──あの戦いのあと、私たちがどうなったのかはよく覚えていない。
気付いたら病院で治療を受けていて、気付いたら病院のベッドで寝ていた。
幸い、私の傷はそこまで酷くなかったが、ポケモンたちは酷く傷ついていたため、治療室で過ごしているそうだ。
かすみちゃんは……どうしているだろう。壊れてしまったリナちゃんは……彼方さんや遥ちゃんは無事だろうか……。
みんなの顔を見に行った方がいいのはわかっているけど──今は何もする気が起きなかった。
ただ、日がな一日、ベッドの上でただ窓の外をボーっと眺めながら過ごして……。
日に三度、規則正しく出てくる食事は……取ったところでほとんど吐いてしまうため、1口2口食べて後は全部残す。
でも……不思議と空腹は感じなかった。まるで、空腹というものを心が忘れてしまったかのようだった。
入院してすぐにお父さんとお母さんが持ってきてくれた果物も……食欲がなくて、全く手を付けていない。
看護師さんにはすごく心配されるけど、言っていることがあまり頭に入ってこず、全てが右から左へ通り抜けていく。
夜は消灯時間を過ぎても全然眠くならなかった。
ただ、ベッドで身を起こしたまま──真っ暗な病室でただ窓の外の月を眺めていた。
たまに意識が遠のいて──気絶したように眠り、起きたらただボーっとベッドの上で過ごす。それの繰り返し。
そんな風に過ごして──もう5日が経とうとしていた。
……そういえば、3日目くらいに、ポケモンリーグの理事長──すなわち、元四天王の海未さんが私の病室を訪れた。
事情を訊きたいとのことで。
私は訊かれた質問に対してただ淡々と答えた。
カーテンクリフに行ったこと。
せつ菜ちゃんが、ボロボロになった千歌さんを連れ去ったこと。
果林さんと愛ちゃんが悪い人だったこと。
しずくちゃんが付いて行ってしまったこと。
──歩夢が、行ってしまったこと……。
普段の私だったら、あの海未さんが目の前にいるとなれば、大はしゃぎだったと思う。
だけど……何も感じなかった。なんの感情も、湧いてこなかった。
──自分の中で大切な何かが壊れてしまったんだと、どこか俯瞰気味に自分を見つめている私がいた。
🎹 🎹 🎹
──コンコン。病室がノックされる。
侑「…………」
善子『──侑……私、善子だけど……入るわよ』
今日も変わらずぼんやりと窓の外を眺めていると、病室にヨハネ博士が顔を出す。
善子「侑……大丈夫──……なわけないわよね……。ごめんなさい……」
侑「…………」
善子「ご飯食べてる……? 親御さんが心配してたわよ……」
侑「…………」
善子「……侑……」
侑「…………出てこないんです」
善子「え……?」
侑「すごく……悲しいはずなのに……。……涙が、出てこないんです」
善子「…………」
侑「私……おかしくなっちゃったのかな……」
善子「……侑……っ……」
ヨハネ博士が、私の手をぎゅっと握る。
善子「……ごめんなさい……」
侑「……謝らないでください……博士……。……ヨハネ博士は、何も悪くないんですから」
善子「…………っ……」
きっと、ヨハネ博士も辛いよね。自分が旅に送り出した子たちが……こんなことになって。
ヨハネ博士は言葉を探していたけど──結局見つからなかったのか唇を結ぶ。
善子「……そうだ」
ヨハネ博士は自分のカバンからボールを6つ出して、ベッドの上に並べる。
善子「…………侑、貴方の手持ちとタマゴよ。みんな元気になったって」
侑「……そっか……よかった」
善子「……あと……かすみが貴方に会いたがってたわ」
侑「……かすみちゃん……元気になったんですね」
善子「えぇ……まだ頭に包帯巻いてるけどね。……無理にとは言わないけど、今病院の中庭にいると思うから……侑が嫌じゃなかったら、会いに行ってあげて」
侑「……はい」
善子「……それじゃあ、お大事にね」
ヨハネ博士はそう残して、病室から静かに立ち去った。
侑「…………」
私は少し悩んだけど……別に他にやることがあるわけでもないし、と思い……ベッドから出て上着を羽織る。
ボールベルトを巻こうと手に持とうとすると──手が震えて、うまく持てなかった。
侑「…………あはは……ダメだ……」
私はベルトを着けるのを諦め、手持ちのボールをバッグに詰め──片側だけ肩に掛けるようにして、自分の病室を後にした。
🎹 🎹 🎹
──中庭に行くと、かすみちゃんはすぐに見つかった。
かすみ「さぁ、みんな! あと10周いくよー!」
「ガゥ!!」「クマァ」「カイン」「ヤブク~」「テブ!!」
「…サ…コ」
かすみ「サニーゴは……まあ、いいや……。速く動けないし……」
侑「……何、してるの?」
かすみ「え?」
声に振り返ったかすみちゃんは──私の顔を見て目を丸くした。
そして、すぐにぱぁぁっと花が咲いたように笑顔になる。
かすみ「侑先輩!! もう、いいんですか!?」
侑「あ、うん……かすみちゃんこそ、平気……?」
かすみ「はい! もう完全回復です! だから今、特訓中なんです!」
そう言いながらも──二の腕や手、太ももや足首と、あちこちに包帯が巻かれているし、何より……頭部に巻かれている包帯が痛々しい。
そんな私の視線に気付いたのか、
かすみ「あ、これですか……? ホントはちょっと擦りむいただけなんですけど……大袈裟ですよね! まー痕とか残っちゃったらイヤなんで、治療はちゃんと受けますけど……。あ、でもでも、かすみんあの戦いの中でも、顔だけは絶対死守したんですよ~! 偉いと思いませんか、侑先輩♪」
侑「……」
私はかすみちゃんの腕をぐっと掴む。
かすみ「いたっ……!!」
侑「やっぱり……治ってない……。大人しくしてないと……」
かすみ「も、もう侑先輩ったら、急に掴んだら痛いじゃないですかぁ~! いくら侑先輩でも、そういうことされたら、かすみんぷんぷんしちゃいますよ~!」
侑「かすみちゃんっ!!」
かすみ「……!!」
私が大きな声を出すと、かすみちゃんはビクリとする。
侑「病室に戻りなよ……看護師さん、心配してるでしょ……?」
かすみ「……侑先輩のお願いでも、それは聞けません」
かすみちゃんは私からぷいっと顔を背ける。
かすみ「かすみん……もっともっと、強くならないといけないんです……! だから、寝てる場合じゃないんです!」
侑「……強く、なる……」
かすみ「はい! 強くなって、しず子たちを助けに行くんです! だから、侑先輩も、一緒に特訓しましょう!」
侑「……私は……いい……」
かすみ「……やっぱり、まだ調子悪いんですかね……? 大丈夫です! かすみん、侑先輩が元気になるまでちゃんと待ってます! あ、でもでも……あんまりのんびりしてると、かすみんどんどん強くなって置いてっちゃいますよ~?♪」
侑「……もう……やめようよ……かすみちゃん」
かすみ「……え?」
侑「こんなことしても……意味ないよ……」
かすみ「……ち、ちょっと、侑先輩~、どうしたんですかぁ~?」
侑「……私たちが頑張ったところで……勝負にならないよ……」
かすみ「侑……先輩……?」
侑「……きっと今、もっと強い人たちがどうするか考えてくれてる……」
海未さんが私のもとを訪れたのはそういうことだろう。
何せ、ポケモンリーグのシンボルたるチャンピオンが連れ去られたんだ。
リーグ側が何もしないなんて、それこそありえない。
侑「ジムリーダーとか、四天王とか……そういう人たちに任せた方がいいよ……。……私たちじゃ、足手まといになるだけだよ……」
かすみ「……侑先輩、それ……本気で言ってるんですか……?」
侑「……だって、果林さんの強さ……身を持って思い知ったじゃん……」
──本当に圧倒的な力の差だった。今五体満足で生きていることが、奇跡なんじゃないかというくらいに……。
侑「……私たちがちょっとやそっと頑張ったって……勝てないよ」
かすみ「…………」
侑「だから……もう、やめよう……。きっと、歩夢たちのことも強い人たちがどうにかしてくれる……。だって、この地方には強いトレーナーがたくさんいるから……だからさ──」
そのとき──
かすみ「……サニーゴ」
「──サ」
かすみちゃんが名前を呼ぶと同時に、サニーゴが私の顔に向かって──水を噴き出してきた。
侑「わ……!?」
私は驚いて、尻餅をつく。その拍子に、バッグが中庭の地面に放り出される。
侑「……かすみ、ちゃん……?」
かすみ「…………ジュカイン……! “このは”!!」
「カインッ!!」
侑「う、うわぁ!?」
今度は“このは”が襲い掛かってきて、腕で顔を覆う。
幸い、“このは”は強い技じゃないから、“このは”がべしべし当たって、ちょっと痛いくらいだけど──
侑「なにするの……!?」
思わず声を荒げる。
かすみ「……侑先輩が、そんなこと言う腰抜けさんだったなんて……知りませんでした……!!」
侑「……腰抜けって……」
かすみ「その根性──かすみんが叩き直してやります……!! ゾロア!! “あくのはどう”!!」
「ガーーーーゥゥ!!!!!」
侑「うわぁっ!!?」
私は咄嗟に身を屈めて避ける。
侑「や、やめてよっ!! かすみちゃん!!」
かすみ「やめて欲しかったら、力尽くで止めればいいじゃないですか!! ジグザグマ!! “ミサイルばり”!!」
「ザグマァッ!!!」
侑「……っ」
私に向かって──“ミサイルばり”が当たりそうになった瞬間、
「──イブィッ!!!!」
イーブイがバッグの中に入れたボールから勝手に飛び出し──バキンッ! と音を立てながら、黒い氷塊を作り出して、“ミサイルばり”を弾き飛ばした。
侑「イーブイ……!?」
それを皮切りに──
「ライボッ!!!」「ウォーーー!!!!」「ロンチィ…!!!」「ニャー」
私の手持ちが次々と、勝手に飛び出してくる。
侑「み、みんな……!? ダメ、ボールに戻って!!」
かすみ「侑先輩と違って、ポケモンたちはやる気みたいですね……!! テブリム!! “サイコショック”!! ヤブクロン!! “ヘドロばくだん”!!」
「テブリッ!!!」「ヤーブゥ!!!!」
かすみちゃんは、飛び出してきた私の手持ちを見て、ますます激しく攻撃をしかけてくる。
侑「あーもうっ!!! ニャスパー、“サイコキネシス”!! ドロンチ、“りゅうのはどう”!!」
「ニャー」「ロン、チィィィ!!!!」
ニャスパーが“サイコショック”を“サイコキネシス”で静止させ、ドロンチが“りゅうのはどう”で“ヘドロばくだん”を撃ち落とす。
かすみ「やっとやる気出しましたね……っ!! じゃあ、これならどうですか!!」
そう言いながら、かすみちゃんはテブリムを持ち上げ──ニャスパーに向かってぶん投げてくる。
「テブッ!!!」
「ニャッ!?」
テブリムが拳を構えて迫ってくるが、
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「テブッ!!!?」
ウォーグルが上から爪で叩き落とす。
が、
「ウォッ!!?」
テブリムを抑えつけたはずのウォーグルの動きが急に止まり、
侑「な……!?」
「テブッ!!!」
「ウォーー!!!?」
足元のテブリムが、拳を振りかぶって、ウォーグルを殴り飛ばした。
「サ……」
侑「サニーゴの“かなしばり”……!」
どうやら、サニーゴによるサポートで動きを止められたところをやられたらしい。
かすみ「さぁ、ガンガン行きますよ!! ジュカインッ!!」
「カインッ!!!!」
かすみ「“リーフブレード”!!」
ジュカインが、地面を蹴って飛び出してくる。
標的は──
「ブイッ…!!」
イーブイだ……!
肉薄してきた、刃が振り下ろされようとした瞬間、
「ロンチッ!!!」
かすみ「うわ!? なんか出てきた!?」
ドロンチが地面から現れ、イーブイが掬い上げるようにして頭に乗せて、ジュカインの攻撃を肩代わりする。
それと、同時にイーブイの体が燃え上がり──
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブーーーイィッ!!!!」
「カインッ!!!?」
ドロンチの頭を踏み切って、ジュカインに至近距離から炎の突進を食らわせる。
効果は抜群だ……! 燃えながら、吹っ飛ぶジュカイン。
かすみ「ジュカインッ!?」
そして畳みかけるように、
侑「ライボルト、“かみなり”!!」
「ライボォッ!!!!!」
“かみなり”をサニーゴの頭上に落とす──が、
かすみ「“ミラーコート”!!」
“かみなり”は反射され──
「ライボッ!!!?」
侑「ライボルト!?」
ライボルトに返ってくる。
かすみ「へっへーん!! 強力な技でも跳ね返しちゃえばいいんですよー! さぁ、サニーゴ続けて行きますよ!!」
「……サ」
調子付くサニーゴ──その背後に、ユラリと、
「ロンチィ…」
かすみ「へっ……!?」
影が現れた。
侑「“ゴーストダイブ”!!」
「ロンチッ!!!」
「サ……コ……」
ドロンチに尻尾を叩きつけられ、サニーゴが吹っ飛ばされて地面を転がる。
かすみ「サニーゴ……!? ぐぬぬ……ジグザグマ──」
飛び出そうとするジグザグマを──
侑「“フリーフォール”!!」
「ウォーーー!!!!」
「クマァッ!!!?」
ウォーグルが強襲して、上空に連れ去る。
かすみ「ちょ……!? 連れてかないでくださいよっ!?」
ジグザグマを戦線離脱させ、
「テブッ!!?」
「ニャー」
かすみ「テブリム……!?」
気付けば、ニャスパーがテブリムを上からサイコパワーで押さえつけている。
かすみ「ぞ、ゾロア……!!」
かすみちゃんはゾロアへ指示を出そうとするけど──
かすみ「って、へ!?」
「ガ、ガゥゥ…」
ゾロアの周囲は泡に囲まれていた。
「ブィ」
もちろん泡の出どころは“いきいきバブル”。イーブイがこっそり、フィールド内に展開させていたものだ。
侑「ジュカイン、サニーゴ戦闘不能……! ジグザグマは運び出して、テブリムはサイコパワーで押さえつけてる……! ゾロアの動きも封じた……! もう、十分でしょ!?」
かすみ「まだヤブクロンがいます!! “ダストシュート”!!」
「ヤーーーブゥッ!!!!」
侑「……っ……ニャスパー!!」
「ニャァーー!!!」
「テブッ!!!?」
ニャスパーは、サイコパワーで押さえつけていたテブリムを──“ダストシュート”に向かって吹っ飛ばす。
かすみ「え、ちょ!?」
「テブッ!!!?」
テブリムが“ダストシュート”をぶつけられて、落っこち、
かすみ「て、テブリム!?」
そして、動揺した隙を突いて──
侑「“かみなり”!!」
「ライボォッ!!!!」
「ヤブクゥゥゥーーー!!!?」
今度こそ、“かみなり”を直撃させる。
かすみ「や、ヤブクロン……!!」
侑「もう、これで終わりでいいでしょ……!!」
かすみ「……っ……まだです!! ジュカイン、“ソーラーブレード”!!」
「──カインッ」
侑「なっ……!?」
──戦闘不能になったはずのジュカインが、いつの間にか起き上がり、
「ウォーーーッ!!!?」
上空のウォーグルの翼を、陽光の剣が貫く。そして、その拍子に自由になったジグザグマが、
かすみ「“ミサイルばり”!!」
「クーーマァッ!!!」
「ウ、ウォーーッ…!!!!」
空中で体を回転させて、全身の針を飛ばしながら、ウォーグルを牽制する。
侑「な、なんでジュカインが……!?」
戦闘不能にし損ねてた……!? そんなはず……!?
──動揺して判断が遅れた瞬間、
「ロンチィ…!!?」
ドロンチが飛んできた“シャドーボール”に吹っ飛ばされる。
侑「ドロンチ!?」
──ハッとして、攻撃の出所に目を向けると、
「サコ…」
気付けば、サニーゴまで復活している。
侑「な、なんで……!!」
確かに戦闘不能にしたはずなのに……!!
何かからくりがあると思って、フィールドに視線を彷徨わせると──
「ヤ、ヤブ…ク…」
ヤブクロンが最後の力でフィールドを這いながら──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込む。
侑「……!?」
直後、
「ヤブクゥッ…!!!」
元気になって復活する。
かすみちゃんのバッグに入ってるものって──
侑「“げんきのかけら”……!? そんなのズルじゃん!?」
かすみ「これは、かすみんのジグザグマが拾ってきたアイテムだもんっ!! ズルじゃないもんっ!!」
侑「ただの屁理屈じゃん!!」
かすみ「屁理屈でもなんでもいいですっ!! ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
「カインッ!!!」
ジュカインが剣を構えて飛び出して来る──が、
「ウォーーーッ!!!!」
上空から強襲するウォーグルが、その刃を受け止める。
2匹が鍔迫り合いを始めると──その最中にイーブイの目の前の地面から、
「──ガゥッ!!!!」
ゾロアが“あなをほる”で飛び出してきて、イーブイに飛び付いてくる。
「ブ、ブイィッ!!!!」
「ガゥ、ガゥゥ!!!!」
2匹は取っ組み合いを始め──フィールド上では、さっき倒れたテブリムのもとへ、
「クマァ」
「テブ…」
ジグザグマが“げんきのかけら”を運んで復活させる。
かすみ「“げんきのかけら”、まだまだありますよっ!!」
侑「……っ……!! もう!! いい加減にしてよっ!! いつまでやるつもりなのっ!!?」
かすみ「侑先輩の根性が直るまでですっ!!!」
侑「余計なお世話だよっ!!! 私はもう戦いたくないんだよっ!!!」
かすみ「それが甘ったれてるって言ってるんですっ!!!!」
侑「私が戦いたくないって言ってるのに、なんの権利があって、戦うことを強制するのっ!!!?」
気付けば子供の喧嘩のような口論になっていた。
でも、もううんざりなんだ、
侑「ここまで旅して、頑張ってきて、少しは強くなったって思ってたけど──本当に強い人の、足元にも及んでなかった……っ!!! そのせいで、ポケモンたちをたくさん傷つけてっ!!!!」
私のポケモンたちは可哀想になるくらいボロボロにされて、
侑「リナちゃんが壊されて……っ……!! せつ菜ちゃんもおかしくなっちゃって……っ……!!! 千歌さんも攫われて……っ……!!! しずくちゃんもいなくなっちゃった……っ……!!!」
そして、私の脳裏に浮かんだのは、歩夢の言葉。
──『もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……ついていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……』──
そして、ポロポロと涙を零しながら、私たちのために、いなくなった……歩夢の姿。
侑「私が弱いせいで──歩夢にあんなこと言わせたんだ……っ……!!!! 私のせいで……っ……!!!! 歩夢もいなくなっちゃったんだ……っ……!!!!」
──もう、私には、
侑「私には……っ……!!!! もう、なんにも残ってないんだよっ!!!!!!!」
かすみ「──まだっ!!!!!! かすみんがいますっ!!!!!!!!!!!!!」
侑「……っ!?」
かすみ「まだ、かすみんが残ってますっ!!!!! だから……っ!!!! だからぁ……っ……! そんな、悲しいこと……っ……言わないでよぉ……っ……」
侑「かすみ……ちゃん……」
気付けば、かすみちゃんは大粒の涙をぽろぽろ零しながら──泣いていた。
私は……急に脚の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込む。
──考えてみれば、当たり前だった。かすみちゃんだって、不安なんだ。
でも、その不安に必死に立ち向かおうと、前を向こうとしていたんだ。
それなのに、私は……一人で勝手に落ち込んで、かすみちゃんに八つ当たりして……。
俯く私に向かって、かすみちゃんはしゃくりをあげながら──
かすみ「ぅぐ……ひっく……っ……それに……っ……侑先輩の冒険の旅は……っ……ぐす……っ……歩夢先輩がいなくなっちゃったら……全部、無くなっちゃうものだったんですか……っ……?」
侑「え……?」
そう、訊ねてきた。
……私がこの旅で、見つけたモノは──何もかもなくなってしまったのか、と。
「ウォー…」「ライボ」「ロンチ」「ニャー」
私の旅は──歩夢がいなくなったら、全部無くなっちゃう?
侑「……違う」
「…イブィ」
──ああ、どうして……どうして、こんな当たり前のことに……気が付かなかったんだ……。
侑「……まだ……、みんながいる……っ……」
やっと気付いて──
侑「……ポケモンたちが……っ……ずっと、支えて来てくれた……っ……みんなが、いる……っ……」
「ウォーグ」「ライボッ」「ロンチ♪」「ニャァ」
「…イブィ♪」
こんな当たり前のことも忘れていた、馬鹿な私なのに……それでも傍で支えてくれるポケモンのことを考えたら──涙が溢れてきた。
侑「ウォーグル……っ、ライボルト……っ、ドロンチ……っ、ニャスパー……っ、──……イーブイ……っ……」
「ウォグ♪」「…ライボ」「ロンロン♪」「ウニャァ」「…ブイ♪」
そして──私は……この子たちにも聞かなくちゃいけなかった。
侑「みんな……っ……歩夢を、助けたい……っ……?」
「イッブィ!!!!」「ウォーグ!!!」「ライボッ!!!!」「ロンチッ!!!」「ニャー、ニャー」
私の問いに、ポケモンたちは力強く頷いた──歩夢を、助けたい、と。
侑「そうだよね……っ……、そうだった……っ……、みんな、歩夢のこと……大好きだもんね……っ……」
「ブイブイ♪」「ウォーグ」「…ライ」「ロン♪」「ニャァ」
かすみ「侑先輩……っ」
侑「かすみ、ちゃん……」
かすみ「出来るか、出来ないかは二の次です……っ……、侑先輩は──歩夢先輩たちを助けたいですか……?」
改めての問い──そんなの、
侑「助けたいに決まってる……っ!!」
今すぐにでも、歩夢の傍に行きたい。歩夢の手を取って、抱きしめて、助けに来たよ、もう大丈夫だよって言ってあげたい。そう言って、安心させてあげたい。
それに──歩夢と約束したじゃないか。
──『私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる』──
きっと、歩夢は私の言葉を信じて待っているはずだ。だから……!
侑「……私が──歩夢を……みんなを、助けに行かなきゃダメなんだ……っ……!!」
かすみ「……っ……はいっ!! 一緒にしず子たちを救いに行きましょう……っ!!」
侑「……うんっ……!!」
私は力強く頷いて──かすみちゃんを抱きしめた。
侑「かすみちゃん……っ……ごめんね……っ……。私が馬鹿だった……甘ったれだった……っ……」
かすみ「ぅ……ぐす……っ……えへへ……っ……かすみん、侑先輩だったら……わかってくれるって、信じてましたから……っ……♪」
侑「ありがとう……っ……お陰で、目が覚めたよ……っ……。私には……頼もしい仲間がいるんだって……思い出せた」
「イブィ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ロンチ」「ニャァ」
イーブイ、ウォーグル、ライボルト、ドロンチ、ニャスパー。順番に顔を見て、頷き合う。
そこで、
「…ロン」
ドロンチが、地面に落ちたままだった、バッグをひっくり返し──出てきたボールの開閉スイッチを押す。
侑「……ふふ、そうだね。その子も、一緒に旅してきたもんね」
「ロンチ♪」
ドロンチが──頭にタマゴを乗せて、嬉しそうに鳴いた……まさに、そのときだった。
──ピシッ。
侑「え……」
タマゴにヒビが入った。
──ピシ、ピシピシ……ッ!
タマゴのヒビは音を立てながらどんどん広がっていき──
──パキャッ……! と音を立てて──
「──フィォ~」
侑「うま……れた……」
ポケモンが──タマゴから、孵った。
透き通る水のような体をした、小さなポケモンだった。
「フィォ?」
侑「……見たことない、ポケモンだ……」
かすみ「かすみんも……見たことないです……」
私は突然タマゴから孵ったポケモンを見て、唖然としてしまう。
生まれる前兆なんて、全然なかったのに……どうして急に……?
かすみ「そ、そうだ……図鑑で、名前を……」
今手元に図鑑がない私の代わりにかすみちゃんが、ポケットから図鑑を出そうとした、そのとき、
「──そのポケモンの名前は、フィオネだよ」
背後から聞き覚えのある女性の声。
かすみちゃんと二人で振り返るとそこには──紺碧のポニーテールを揺らして、
果南「──や、二人とも、久しぶり!」
侑「果南さん……!?」
かすみ「果南先輩……!?」
果南さんが立っていた。
果南「実はさっきの二人のバトル……見てたんだよね」
侑「え……」
かすみ「み、見てたんですか……!?」
ってことは……さっきの子供の喧嘩みたいなのも……。
侑「わ、忘れてください……///」
急に恥ずかしくなってくる。
果南「ふふ♪ いいじゃん、若者っぽくて」
果南さんは嬉しそうに笑いながら、
かすみ「わっ!?」
かすみちゃんの頭を撫でる。
かすみ「え、な、なんでかすみん、頭撫でられてるんですか……?」
果南「かすみちゃんのガッツが私の心に響いたからかな♪」
かすみ「は、はぁ……まあ、それはなによりですけど……」
果南さんはよっぽどかすみちゃんが気に入ったのか、しばらく撫でくりまわす。
かすみ「うぅ~……もうやめてください~……髪崩れちゃいます~……」
果南「おっと、ごめんごめん」
果南さんは、苦笑しながらかすみちゃんを解放する。
果南「さて、それじゃ……侑ちゃん、かすみちゃん。行こうか」
侑「え?」
かすみ「行くって……どこにですか?」
二人で首を傾げていると、
果南「──歩夢ちゃんとしずくちゃんを助ける準備をしに……かな♪」
果南さんはニッコリ笑って、そう答えたのだった。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.62 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 6個 図鑑 未所持
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🎀
──私が果林さんに付いていった直後のこと……。
果林「──さぁ、こっちよ歩夢」
歩夢「……」
空間にあいた穴を潜ると──通路のような場所に出る。
果林「あと、そのアーボ。ボールに戻してくれるかしら? 敵意むき出しで怖いわ」
「シャーー…!!!」
歩夢「……ごめんね、サスケ。ボールに入ってて」
「シャーボ──」
私はサスケをボールに戻す。……果林さんだったら私に抵抗されたところで、どうにでも出来る気がするけど……。
果林「良い子ね。それじゃ、行きましょう」
歩夢「……はい」
果林さんの後ろに付いて歩き、突き当りに着くと──目の前の壁がプシューと音を立てながら、自動でスライドする。
どうやら、ドアだったようだ。……まるで、SFの世界で見るような自動ドア。
果林「入って」
歩夢「……」
促されるまま、部屋に入ると──
歩夢「何……ここ……?」
大きな椅子が3つ、その前にはそれぞれキーボード……のような入力装置が並んでいる。
そして、何より……前面に大きな窓があって──その先には、宇宙空間のようなものが広がっていた。
まるで……宇宙船の船内のような場所だ。
そして、そこには、
愛「姫乃っち、留守番ありがとね! 代わるよ」
姫乃「留守を守るのは不本意でしたが……愛さんのリーシャンの方が“テレポート”の精度が高いので……」
愛ちゃんと……初めて見る黒髪の女の子。
しずく「あの、果林さん……♡ 早く、フェローチェを……♡」
果林「ふふ、後でね」
しずく「はい……♡」
相変わらず、様子のおかしいしずくちゃん。
そして、
千歌「…………」
せつ菜「…………」
気を失ったまま、床に寝かされている千歌さんと……その横で不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる、せつ菜ちゃんの姿。
今入ってきた私と果林さんを含めて、7人いる。
あとは……。
「ベベノー♪」
愛「おっとと……あはは♪ ただいま、ベベノム♪」
「ベベノー♪」
黄色と白色をした小さなポケモン──ベベノムと呼ばれたポケモンが愛ちゃんに飛び付く。
愛ちゃんはその子を大切そうに抱きしめているし、ベベノムも愛ちゃんに頬ずりをしている。
それだけで、両者の関係がわかるくらいによく懐いているのがわかった。
ただ、
歩夢「見たことない……ポケモン……」
まるで、見たことがないポケモンだった。
そんな私の視線に気付いたのか、
愛「歩夢はウルトラビースト見るのは初めてっぽいもんね」
と、そう声を掛けてくる。
歩夢「ウルトラ……ビースト……?」
そういえば、さっきも戦いの合間にそんな話をしていた気がする。
果林「ウルトラビーストは……ここ、ウルトラスペースからやってきた、あの世界にはいないポケモンのことよ」
歩夢「あの、世界……?」
果林「まあ、話は追い追いしてあげるわ」
歩夢「……」
わからないことだらけで困惑していた、そのとき──
「ピューーーイッ!!!!!」
──私の胸に何かが飛び込んできた。
歩夢「きゃぁっ!? え、な、なに!?」
「ピュィ…」
それは、小さな小さな……紫色をした雲のようなポケモンだった。
愛「ありゃ、また逃げ出したんだ」
姫乃「みたいですね……」
歩夢「逃げ出した……?」
「ピュィ…」
その小さなポケモンは何故か、私に身を摺り寄せている。
果林「でも、早速歩夢の能力が見られたみたいね」
──能力。……さっき、果林さんや愛ちゃんが言っていたこと……だと思う。
歩夢「あ、あの……私に、ポケモンを手懐ける力なんてありません……」
愛「ま、自覚はないだろうね。でもね、歩夢にはポケモンを落ち着かせる特殊な雰囲気があるんだよ」
歩夢「雰……囲気……?」
愛「詳しい理由はわからないんだけど、極稀にそういう子供が生まれてくることがあるらしいんだよね。……ポケモンだけが持ってる特殊な電磁波を感知出来る第六感があるとか、特殊なフェロモンを持ってるとか、いろいろ説はあるんだけど……とにかく、ポケモンから好かれる特殊体質が歩夢にはあるってこと」
歩夢「……」
なんだか、突飛なことを言われて面食らってしまうけど……旅の中でも、似たようなことを人から指摘されたことが何度かあった。
エマさんや、ダイヤさんだ。私にはポケモンを想い、ポケモンに想われる力があるって……。
果林「ただ……匂いに関してはよくわからなかったわ」
姫乃「っ!? 果林さん、あの子の匂いを嗅いだんですかっ!?」
愛「人間にはわからないって、前にも言ったのにね」
姫乃「わ、私だって、そんなことしてもらったことないのに……!!」
姫乃と呼ばれていた子から、すごく睨みつけられてる……。
私のことを睨まれても困る……。
「ピュイ…」
それに……この子、どうすれば……。
果林「とりあえず、“STAR”──コスモッグは歩夢に預けておきましょうか」
歩夢「え?」
愛「いいん?」
果林「もうエネルギーは十分集めたからね。無理にエネルギーを吸ったら、彼方のコスモッグみたいに休眠して、コスモウムになっちゃいかねないし。歩夢の傍にいるとリラックス出来るなら、ガスの充填も早くなるだろうしね」
愛「ま、それもそっか」
歩夢「え、えっと……」
「ピュィ…」
何故か、私はこの子を預けられてしまった……。
愛「それはそーと、この後どうするん?」
果林「ウルトラディープシーに向かって頂戴」
愛「ん、りょーかい!」
愛ちゃんが頷きながら、キーボードをカタカタと操作すると──ゴウンゴウンと音を立てながら、動き出す。
宇宙船のようなもの……というか、宇宙船……なのかもしれない。
歩夢「じゃあ、ここは……宇宙……?」
愛「ちょっと違うかな。ここは──ウルトラスペースだよ」
私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。
歩夢「ウルトラスペース……?」
愛「そ。……まーひらたく言えば異世界ってところかな」
歩夢「い、異世界……?」
あまりに突飛な話が次々飛び出すせいで、そろそろ頭がパンクしそうだった。
そんな中、口を開いたのは、
せつ菜「あの……ちょっといいですか」
せつ菜ちゃんだ。
せつ菜「この人……いつまでこうしておくんですか」
千歌「…………」
そう言いながら、目で示すのは──足元にいる千歌さんだ。
せつ菜「せめて、ベッドに寝かせるくらいは……」
果林「あら、あれだけ酷いことしたのに……随分優しいのね?」
せつ菜「…………」
果林「まあ、抵抗されても困るから、手持ちのボールを回収して開閉スイッチを壊して……本人をベッドに縛り付けておくくらいはした方がいいかしらね……」
そう言いながら、果林さんが千歌さんに近付き──千歌さんの腰に手を伸ばす。
果林「貴方に恨みはないんだけれどね……貴方の強さは、私たちの計画を実行するに当たって邪魔なの。ごめんなさいね」
そして、彼女のボールベルトから、ボールを外そうとして──
果林「……あら?」
ボールを掴んで、引っ張るが──ボールはベルトから外れるどころか、びくともしない。
果林「外れない……?」
姫乃「どうかされましたか……?」
果林「ベルトからボールが──」
千歌「──……このベルトについてるボールは、私にしか外せないよ」
果林・せつ菜「「……!?」」
急に発せられた、千歌さんの声に、果林さんとせつ菜ちゃんが驚いて飛び退く。
歩夢「ち、千歌さん……!?」
千歌「……いたた……死ぬかと思った……」
果林「貴方……いつから、意識が……」
千歌「今さっき……。……ここ……ウルトラスペースかな……? 来たのは初めてだけど、こんな感じなんだ……」
愛「……へー……。そこまで知ってるんだ」
千歌「私たちもずっと調べてたからね……」
千歌さんは喋りながら、ゆっくりと身を起こしながら、腰に手を伸ばす。
果林「……それ以上、動かないで」
「──コーンッ!!!」
気付けば、果林さんのキュウコンがボールから飛び出し、尻尾の先に炎を灯しながら、千歌さんに突き付けていた。
千歌「……」
果林「……この人数相手に戦うなんて言わないでしょ?」
千歌「……確かに、今この人数相手はちょっと無理かも……あはは」
そう言いながら、千歌さんはチラりとせつ菜ちゃんに視線を送る。
せつ菜「……!!」
せつ菜ちゃんは千歌さんからの視線を受けると、さらに距離を取って、ボールに手を掛ける。
千歌「…………」
千歌さんはその姿を見て、少し悲しそうな顔をしたあと、
千歌「フローゼル!!」
「──ゼルルッ!!!」
果林・せつ菜・姫乃「「「!!?」」」
千歌「“ハイドロポンプ”!!」
「ゼルルルルルッ!!!!!!」
フローゼルをボールから出すのと同時に──攻撃を繰り出した。
でも、果林さんやせつ菜ちゃんに向かってじゃない──背後にある壁に向かってだ。
果林「な……!?」
野太い水流がいくつも壁を貫き──その穴の向こうに……ウルトラスペースが見えた。
千歌さんはその穴に向かって──
千歌「……行くよ、フローゼル!!」
「ゼルルッ!!!」
自ら、飛び込んでいった。
果林「ま、待ちなさい!? キュウコン!! “マジカルフレイム”!!」
「コーーンッ!!!!」
千歌「“みずのはどう”!!」
「ゼーールゥッ!!!!」
飛んでくる“マジカルフレイム”を“みずのはどう”によって、一瞬で消火しながら、
千歌「待てと言われて待つ奴なんていないって!」
果林さんの制止を意にも介せず、千歌さんは──ウルトラスペースに吸い込まれていった。
果林「……っ」
愛「あー、やられたねー。とりあえず、穴塞がないとだね。ルリリ、“あわ”」
「──ルーリ!!」
愛ちゃんがボールから出したルリリが、“あわ”で空けられた穴を塞ぐ。
愛「とりあえず応急処置っと……」
姫乃「あの人……生身でウルトラスペースに飛び込むなんて……」
せつ菜「…………千歌、さん……」
愛「生存して、どっかの世界に落ちる人もいるからねー。運が良ければ生きてる可能性はあるかな。とりあえず、今から壁直してくるから、操縦席に誰か居てもらっていい? あ、操縦自体は自動だから、触んなくていいけど」
果林「え、ええ……わかったわ」
愛ちゃんがパタパタと部屋から出ていき、果林さんは動揺した様子を見せながら、さっきまで愛ちゃんが座っていた場所に腰を下ろす。
しずく「果林さん、私はどうすればいいですか?♡」
果林「そうね……姫乃」
姫乃「はい」
果林「歩夢としずくちゃんを部屋に案内してあげて……」
姫乃「わかりました。皆さん、付いてきてください」
しずく「……」
果林「しずくちゃん、その子……姫乃に案内してもらって」
しずく「はい♡ わかりました♡」
歩夢「……」
たぶん……今逆らっても、仕方ない……かな。私も大人しく、姫乃さんの後に続く。
果林「せつ菜も……休みなさい。貴方はあのチャンピオンを倒したんだから、疲れてるでしょう?」
せつ菜「…………わかりました」
結局、姫乃さんに連れられて、私としずくちゃんとせつ菜ちゃんは部屋を後にした。
🎀 🎀 🎀
せつ菜「──私は……少し休ませてもらいます……失礼します」
姫乃「はい、ごゆっくりお休みください」
せつ菜ちゃんは気分が悪いのか……頭に手を当てながら、部屋へと戻っていく。
姫乃「そして、こちらが歩夢さん。こちらがしずくさんのお部屋です」
歩夢「は、はい……」
しずく「はい、ありがとうございます」
姫乃「ただ、歩夢さんとしずくさんのお部屋には外からロックを掛けさせていただきます。くれぐれもおかしなことはしないように」
歩夢「……」
しずく「これも、果林さんからの指示なんですよね? でしたら、私は従うだけです♡」
しずくちゃんはそれだけ言うと、何も疑わずに部屋へと入って行ってしまった。
姫乃「尤も……千歌さんのようなトレーナーでも無い限り、壊して脱出するなんて出来ないでしょうけど……。さぁ、歩夢さんも」
「ピュィ…」
歩夢「……この子は一緒でいいんですか……?」
姫乃「ええ、そのポケモンは“はねる”か“テレポート”しか出来ませんから。それに愛さん曰く、“テレポート”はこの宇宙船内では無効化されるそうですし、どこかに行ってもすぐに追いかけて捕まえられますから」
歩夢「そ、そうですか……」
姫乃「それでは、ごゆっくり」
歩夢「……はい」
私も大人しく部屋へと入る。
中はベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だった。
……奥にあるのはたぶん、お手洗いかな。本当に最低限という感じ……。
とりあえず、出来ることもないので、私はベッドに腰掛ける。
「ピュィ…」
歩夢「これから、どうしよう……」
今後どうなってしまうのか……不安に駆られながらも、今の私には天井を仰ぐくらいのことしか出来なかったのだった……。
………………
…………
……
🎀
■Chapter052 『作戦会議』 【SIDE Yu】
侑「あの……果南さん……」
果南「ん?」
私は前をぐんぐん進んでいく果南さんに訊ねる。
侑「一体……どこに向かってるんですか……?」
「ブイ」
かすみ「それはかすみんも気になります!」
イーブイを抱きかかえながら歩いているここは──ローズシティの中央区。
中央区だから、出来ればボールに入れたかったけど……絶対に入る気がなさそうだったので、上着の前を締め、絶対に飛び出さないように、その中に入れて抱きしめているような状態だ。
……もふもふだから、ちょっと気持ちいい。
果南「あそこ」
そう言いながら、果南さんが指差すのは──ローズシティの中央に聳える大きなタワー。
あれって確か……。
侑「セントラルタワー……?」
果南「そうだよ。あそこの会議棟に向かってる」
かすみ「? そこで何かあるんですか?」
果南「うん。これから、あそこでね──」
果南さんが説明を始めたちょうどそのとき、
「かなーんっ!! やっと、見つけた!!」
前方から、見慣れた金髪の女性がこちらに向かって駆けてくる。
あの人って……。
侑・かすみ「「鞠莉博士!?」」
鞠莉「え? 侑に……かすみ……?」
私たちを見て、きょとんとする鞠莉博士。
そして、そんな鞠莉博士が持っていたカバンから──
リナ『侑さーん!!』 || 𝅝• _ • ||
侑「リナちゃん!?」
リナちゃんが飛び出してきた。
リナ『侑さん!! 侑さん……!! 無事でよかった……』 || > _ <𝅝||
侑「リナちゃんも、無事だったんだね……! よかった……」
私はリナちゃんを抱きしめる。
リナ『博士が直してくれたんだよ!』 || > ◡ < ||
鞠莉「あなたたちを病院に搬送した際に、一緒にローズに届いていたらしいんだけど……話を聞いた善子がすぐにわたしの研究所に送るように手配してくれたの。それに、緊急停止モードが功をなしたみたいで、ストレージには一切問題がなかったわ」
リナ『だから、元通り!』 || > ◡ < ||
侑「そっか……よかった……」
それを聞いて、私はホッとする。
リナちゃんに関しては事件後、どこに行ったのかもよくわかっていなかったから……こうして元気な姿を見ることが出来て、心底安心している自分がいた。
リナ『あと、歩夢さんたちのことも聞いた……力になれなくてごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||
侑「うぅん……こうしてリナちゃんが戻ってきてくれただけで、嬉しいよ……」
リナ『侑さん……うん』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「リナ子だけでも無事でよかった……」
リナ『かすみちゃんも無事でよかった』 || 𝅝• _ • ||
お互いの無事を喜んでいると、
果南「それはそうと鞠莉……私のこと探してたの?」
果南さんは鞠莉博士に向かってそう訊ねる。
感動の再会で忘れかけていたけど……言われてみれば鞠莉博士、結構焦っていたような……。
鞠莉「あ、そうだった……! この忙しいときに、どこほっつき歩いてたの!?」
果南「ちょっと病院まで……。街を歩いてたら、バトルの音が聞こえてきたからさ」
鞠莉「病院でバトル……? ……会議に遅れたりしたら、また海未さんに怒られるわよ?」
侑「会議……? そういえば、さっき会議棟に向かってるって……」
「ブイ?」
果南「うん。今からあそこで、今回起きたチャンピオン連れ去り事件について、対策会議をすることになってる」
侑「え……?」
鞠莉「ち、ちょっと果南!? 会議内容については内密にって……!」
果南「大丈夫。この子たちはその会議に参加してもらうから」
侑・かすみ「「え?」」
「ブイ??」
あまりに唐突な話だったため、かすみちゃんと二人でポカンとしてしまう。
鞠莉「...What?」
いや、私たちだけじゃなくて、鞠莉さんもポカンとしていた。
果南「ほら、時間ないんでしょ? さっさと行かないと」
鞠莉「ち、ちょっと待って……! 海未さんに許可は貰ったの!?」
果南「これからもらう」
鞠莉「あ、あのねぇ……! 部外者連れ込みなんて、許してもらえるわけ……!」
果南「この子たちは部外者じゃない。鞠莉も概要は確認したでしょ?」
鞠莉「……そ、それは……」
果南「それに、参考人は一人でも多い方がいい」
鞠莉「…………はぁ……わかった。……どうせ、わたしが何言っても聞かないんでしょ……? 海未さんに怒られても知らないからね……」
果南「大丈夫。私、海未より強いから」
鞠莉「そういうことじゃ……まあ、いいわ……」
果南「それじゃ、行こう」
鞠莉「はいはい……」
果南さんがセントラルタワーに向かって歩き出すと、鞠莉さんも呆れ気味にその隣に並ぶ。
果南「ほら、侑ちゃんとかすみちゃんも早くー!」
かすみ「……侑先輩、かすみん……一体なにがなにやら……」
侑「私もわかんないけど……とりあえず、付いていこう」
「ブイ」
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
完全に話に付いていけていないけど……果南さんは、歩夢たちを助けるための準備をしに行くと言っていた。
現状、私たちはどうやって歩夢たちを助けに行くか、思いついているわけでもないし……もし、その対策会議とやらに参加させてもらえるなら、またとないチャンスだ。
私たちは、果南さんと鞠莉さんの後を追って、セントラルタワーへと向かいます。
🏹 🏹 🏹
──セントラルタワー。会議棟。
私、ポケモンリーグ理事こと──海未は、四天王のことり、希、ダイヤを引き連れ、ここローズシティのセントラルタワーを訪れていた。
ツバサにはこういう会議の場に欠席しがちな英玲奈を、何がなんでも連れてくるようにと頼んでクロユリに送り出した──少し間の悪いトラブルもあったようですが……。
なにはともあれ、ツバサは英玲奈と一緒にここに来ているはずだ。
ダイヤ「…………」
ことり「ダイヤちゃん、大丈夫……? 体調悪いなら無理しない方が……」
ダイヤ「いえ……お気になさらず……」
希「きつかったら、遠慮せずにちゃんと言うんよ……?」
ダイヤ「はい……お気遣い感謝しますわ……」
ダイヤは千歌が攫われた報せを受けてから、ずっと顔色が悪い。
無理もないでしょう。元とは言え……教え子が連れ去られたのですから。
そして、それは私にとっても同様の話……。
正直、今でも千歌が戦いに敗れて攫われたというのは信じ難かった。
ですが、私はこの地方のポケモンリーグの長として……落ち込んでいるわけにはいかない。
──会議室へ向かう道すがら、
穂乃果「彼方さん……体調が悪かったら、無理しないでね?」
彼方「うぅん……大丈夫だよ~……。……それに、今彼方ちゃんがお休みしてる場合じゃないから……」
穂乃果がオレンジブラウンの髪色をした女性──名前は確か彼方だったと思います──と話しているところに出くわす。
ことり「穂乃果ちゃん……!」
穂乃果「! ことりちゃん! ……それに、海未ちゃん」
海未「……穂乃果」
私は穂乃果にツカツカと歩み寄る。
海未「……穂乃果、貴方ずっと千歌と一緒に行動していたそうですね……。貴方が付いていながら、どうしてこんなことになるのですか……?」
穂乃果「……ごめん」
ことり「う、海未ちゃん……!」
彼方「ほ、穂乃果ちゃんを責めないであげて……!」
私の言葉を受けて、ことりと彼方が穂乃果を庇うように言う。
穂乃果「うぅん……海未ちゃんの言うとおりだよ。私は千歌ちゃんとお互いをフォローし合うためにいたはずなのに……まんまと相手の策に引っ掛かって……」
彼方「穂乃果ちゃん……」
ことり「穂乃果ちゃん、そんなに自分を責めないで……? 海未ちゃんも千歌ちゃんが攫われたって聞いて……気が立ってるだけなの……」
海未「ことり……! 余計なことを言わないでください……! 私は理事長として──」
希「ストーーップ! それは、今ここでする話じゃないんやない?」
再び言い合いになりそうなところに、希が仲裁に入る。
希「それに、ダイヤちゃんもいるんよ?」
ダイヤ「わ、わたくしは……大丈夫ですけれど……」
確かに希の言うとおりだ。……今ここで口論をしている場合ではなかった。
海未「……すみません、言い過ぎました……」
穂乃果「うぅん、大丈夫だよ」
希「とりあえず……会議室へ向かおう? そろそろ、他のみんなも集まってる時間だし」
希に促されて私たちは、会議室の方へと向かう。
🏹 🏹 🏹
──会議室内では、すでに招集した人間がほとんど揃っていた。
ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリのジムリーダーたち。
ちょうどローズを訪れていた理亞には、そのままローズに残ってもらっていた。
そして、ツバサを派遣した甲斐もあって、英玲奈もちゃんと出席している。
加えて──
善子「ずら丸……あんた、どういう肩書でここにいるの……?」
花丸「人間、人には言えないこともあるんだよ、善子ちゃん」
善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」
事態が事態なだけに、ダリアジムからは、にこだけでなく、花丸にも出席してもらっている。
なので、ジムリーダーは9人。四天王4人に、地方の博士である善子と鞠莉。加えて歴代チャンピオンの穂乃果と果南。参考人として彼方に同席してもらうことになっている。
即ち、ポケモンリーグ理事長である私を含めて──19人という大所帯だ。
海未「……果南と鞠莉はまだ来ていないみたいですが……」
どうやら、彼女たちの到着が最後になりそうだ。
席に着いて、彼女たちの到着を待とうとした矢先、
花陽「海未ちゃん……!!」
花陽が駆け寄ってくる。
海未「花陽? どうかしましたか?」
花陽「わ、わたし……っ……果林さんがずっとコメコに住んでること、知ってたのに……なんにも気付かなくて……っ……」
海未「……花陽。その話は、会議が始まってから──」
花陽「でも……っ……! 私がもっと早く気付いていれば、千歌ちゃんだって……っ……!」
ことり「落ち着いて、花陽ちゃん……。……花陽ちゃんのせいじゃないよ」
花陽「でも……!」
花陽は人一倍責任感が強い。故に自分の町に今回の事件の主犯格が潜んでいて、それに気付けなかった自分に負い目を感じているのだろう。
そんな彼女をことりが宥める中、
英玲奈「──花陽、ジムリーダーがそのように取り乱すのはみっともないぞ」
英玲奈が花陽に向かって厳しい言葉を飛ばす。
もちろん、そんなことをしたら黙っていない人物がいる。
凛「ちょっと!! かよちん落ち込んでるんだよ!? そんな言い方しないでよ!!」
凛だ。
英玲奈「私たちは町のリーダーだ。そんな泣き言を言うためにここに来たのか?」
ツバサ「英玲奈、やめなさい」
英玲奈「私は有意義な話し合いをすると聞いてここに来たのだが……。その気がないのなら、クロユリに戻ってもいいか? 私はこんなところにいる場合じゃないんだ」
凛「何、その言い方!!」
希「凛ちゃん、やめとき」
ツバサ「英玲奈も、言葉を選びなさい」
英玲奈「……」
海未「英玲奈……クロユリが大変な時なのは理解しています。ですが、私の顔に免じて……一旦矛を収めてもらえませんか」
私は頭を下げる。
クロユリが大変な時──クロユリシティは……数日前、謎の大型ポケモンの襲撃を受けた。
英玲奈が撃退をしたそうだが……未だにそのポケモンの正体はわかっていない。
空間の穴から突然現れて、倒したら再び穴の中へと逃げ帰っていったとのことだ。
英玲奈はそんな中で、緊迫したクロユリの地を空けて、わざわざローズまで来ているのだ。苛立ちや焦りがあっても仕方ない。
英玲奈「頭を下げないでくれ……。……すまない、私も口が過ぎた……謝罪する」
花陽「い、いえ……わたしも……ごめんなさい……」
凛「り、凛は謝らないよ!」
希「こら、凛ちゃん。そういうこと言わない」
凛「にゃ……ご、ごめんなさい……」
英玲奈も花陽も凛も、動揺が見て取れる。
いや、彼女たちだけじゃない。
ルビィ「お姉ちゃん……大丈夫……?」
ダイヤ「ルビィ……えぇ、わたくしは大丈夫ですわ……」
相変わらず真っ青な顔色のダイヤ。それを心配するルビィ。
にこ「真姫……あんた大丈夫? 目の下酷い隈よ……?」
真姫「ごめん……ちょっと……あんまり、眠れてなくて……」
真姫もあまり体調が芳しくないらしい。
理亞「…………」
理亞はそんな中なせいか、とにかく居心地が悪そうな顔をして座っている。
地方を取りまとめる存在であるはずのジムリーダーたちが、揃いも揃って酷く動揺しているのが目に見えて明らかだった。
それもそのはずだ。……チャンピオン──即ち、この地方最強のトレーナーが敵の手に落ちるとはそういうことなのだ。
……会議室内の空気が酷く重い。
こんな雰囲気で会議を始めていいのだろうか……そう思っていた、そのとき、
「──あの、皆さんっ!!」
一人のジムリーダーが、立ち上がりながら、大きな声をあげた。
全員の視線がその声の方に向く。
声の主は──
曜「一度、落ち着いてください!」
──曜だった。
曜「千歌ちゃんが攫われて……みんなショックを受けてるのはわかります。でも、今やるべきことはショックを受けて足を止めることじゃないはずです!」
ことり「曜ちゃん……」
曜「それに……千歌ちゃんはきっと大丈夫です!! あの千歌ちゃんがこのくらいのことで、どうにかなったりするわけありません!」
ダイヤ「曜さん……」
曜「むしろ、今頃敵の隙を突いて、脱出してるくらいだと思います! 皆さんも千歌ちゃんなら、それくらいやりそうって思いませんか?」
善子「ふふ……全くね」
曜「だから、今は落ち着いて、今後どうするかを考えた方がいいと思います!」
曜の言葉で一瞬、室内が静寂に包まれたが、
ツバサ「……曜さんの言うとおりよ。私たちが動揺している場合じゃないわ」
ことり「うん! 私たちジムリーダーや四天王が落ち込んでたら、街の人たちも不安になっちゃう! 私たちはちゃんと前を向いてないと!」
ダイヤ「……教え子に諭されていてはいけませんね。自分を律して、今出来ることを為さなくては……」
希「こんなときこそ、平常心やんね。みんな一旦深呼吸しよか」
四天王たちがそれに同調すると、場の空気が一段階軽くなったような気がした。
それは、曜も肌で感じ取れるものだったのか、
曜「……はぁ……よかった」
彼女は安堵の息を漏らす。
そんな彼女の背中を隣に座っていた善子が──バシンッ! と勢いよく叩く。
曜「いったぁ!? ち、ちょっと、何すんの善子ちゃん……!?」
善子「あんたの成長を目の当たりにして、嬉しかっただけよ。あと、ヨハネよ」
曜「そういうことは口で言いなよ……」
善子「千歌が海に放り出されたとき、わんわん泣いてたあの曜がねー……」
曜「ちょ!?/// 今、それ言う!?///」
二人のやり取りに、くすくすと笑い声さえ聞こえてくる。
お陰で暗い空気が随分払拭された。
そして、ちょうどそのとき、
果南「──なんか、思ったより盛り上がってるじゃん」
鞠莉「I'm sorry. ごめんなさい、遅くなったわ……」
果南と鞠莉が遅れてやってきた。これで面子は全員揃った。
海未「果南たちも来ましたね、それでは会議を始め──……ん?」
そのとき、ふと──果南と鞠莉の後ろに少女が二人いることに気付く。
侑「え……な、なんか、すごい人たちばっかいるよ……!?」
「ブィィ…」
かすみ「か、かすみんたち……もしかして、場違いってやつですか……?」
──確かあの子たちは……。数日前に事情聴取をした、事件に巻き込まれた少女たち。……確か、侑とかすみと言っただろうか。
彼方「侑ちゃん……!? かすみちゃん……!?」
侑「! 彼方さん……!」
かすみ「彼方先輩!? 身体の方はもう大丈夫なんですか!?」
彼方「うん……とりあえずは……。二人も大丈夫そうだね……」
侑「はい!」
かすみ「えっへん! かすみんこれで結構丈夫ですから!」
彼女たちは、一緒に巻き込まれた彼方とお互いの安否確認を始めているが……。
海未「果南……どういうことですか」
私は果南を睨みつける。
果南「この子たちも、会議に参加してもらおうと思って」
海未「自分が何を言っているのか理解してますか?」
果南「参考人は多い方がいいでしょ?」
海未「……貴方、何か企んでいますね?」
果南「いいから始めようよ。時間もったいないでしょ?」
海未「こちらは貴方たちが来るのを待っていたんですが……」
果南「侑ちゃん、かすみちゃん、ここに座って!」
そう言いながら果南は、壁側に立てかけてあった椅子を持ってきて、勝手に席を作り出す。
侑「え、えっと……いいのかな……?」
「イブィ…?」
かすみ「果南先輩がいいって言ってるんだから、お言葉に甘えちゃいましょう!」
侑「え、えぇ……?」
リナ『かすみちゃん、さすがの図太さ……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
何やら、ロトム図鑑らしきものもいますし……。侑に至ってはポケモンを同席させている。
果南「さ、始めて始めて!」
海未「……言いたいことは山ほどありますが、貴方の強引さに付き合うとロクなことになりませんからね……。お小言は後にしてあげましょう」
果南「海未が相変わらず、話のわかる人で嬉しいよ」
海未「あとで……問題にしますからね」
果南「へいへい」
果南の突拍子もない行動に一つずつ言及していたら、それだけで日が暮れてしまう。
この頑固者は、一度決めたら私に何を言われようが絶対に意見を曲げないんです。
バタバタしましたが──対策会議はこの21人と1台の図鑑によって始まることとなった。
🎹 🎹 🎹
──なんだか、とんでもないところに来てしまった……。
とりあえず、それが私の感想だった。
地方中のジムリーダーに四天王たちが一堂に会している光景は、ポケモンリーグのエキジビションくらいでしか見たことがない。
海未「なるべく多くの情報をまとめるために……長い会議になるとは思いますが、お付き合いいただけると助かります」
海未さんはそう前置いて、会議を切り出し始めた。
海未「──まず軽く事件の概要に触れましょう。もうすでに、全員ご存知かと思いますが──チャンピオンである千歌が拐かされました。他にも一般人が2名。ウエハラ・歩夢さん。オウサカ・しずくさんも連れ去られたと報告を受けています。そして、この事件の犯人ですが……アサカ・果林、ミヤシタ・愛、ユウキ・せつ菜の3名が関与していると見られています」
真姫「…………」
海未さんの説明と共に、会議室内のスクリーンに果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんの写真が映し出される。
ただ、愛ちゃんの写真だけは何故かスーツを着ていて……遠くから撮った、監視カメラからの写真のようなものだった。
海未「後ほど詳しく彼女たちについて話したいのですが、その前に前提の話として……穂乃果と彼方──貴方たちは長い間、千歌と行動を共にしていたそうですね」
穂乃果「うん、ここ1年半くらいは千歌ちゃんや彼方ちゃんたちと一緒に行動してたかな」
海未「その話を詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」
彼方「あ、あのー……」
海未「なんでしょうか?」
彼方「詳しくって言うのは……どこまで……」
海未「可能な限り多くの情報を喋っていただけるとありがたいのですが……」
彼方「で、ですよねー……」
海未「何か言えないことでも……?」
彼方「えーっと……」
海未さんの視線に、困惑した表情をする彼方さん。
彼方さんが助けを求めるように穂乃果さんに視線を送ると、
穂乃果「隠さなくていいよ彼方さん。こういう事態になっちゃった以上……無理に隠す方が却って混乱を招くからって、相談役から言われてるんだ。向こうとは相談役が話を付けるから、気にしなくていいって」
彼方「そ、そっか……そういうことなら……」
ことり「相談役って……リーグの相談役……?」
穂乃果「うん、ことりちゃんのお母さんだよ」
海未「……言われてみれば、千歌も相談役と何かと話をしていることが多かった気がしますね。……穂乃果、貴方たちは一体何をしていたんですか?」
穂乃果「うーんとね、私たちはポケモンリーグ経由で──国際警察からの仕事を請け負ってたんだ」
海未「……は?」
海未さんが素の反応を示した。
海未「ち、ちょっと待ってください……国際警察……? いつからですか……?」
穂乃果「私がチャンピオンになって1年くらい経ったときからだから……えっと……」
海未「ま、待ってください! それって10年以上前ではありませんか!?」
穂乃果「うんとね、この地方でチャンピオンになったときに、ことりちゃんのお母さんからお願いできないかって話があって……。歴代チャンピオンは、みんなお願いされてたみたいだよ」
それを聞いて、海未さんが果南さんの方に視線を向ける。
海未「果南、本当ですか?」
果南「あー……? そういえば、なんかそんな感じのこと言われたかも……国際組織から私宛てにお願いがあるんだけど、聞いたら受けてもらわないといけないから、聞くか聞かないか選んで欲しい、みたいな……私は断ったんだけど……」
海未「……なるほど。……侑? どうかしましたか?」
海未さんが急に私に声を掛けてくる。
何故なら──私が相当驚いた顔していたからだろう。
侑「──か、果南さんって……チャンピオンだったんですか……?」
果南「うん、そうだよ。千歌の前のチャンピオン」
かすみ「えぇ!? うそ!?」
海未「果南はかなりクローズドでチャンピオンをしていましたからね……知らないのも無理はありません」
確かに千歌さんの前にもチャンピオンはいたはずだけど……本当に全く知らなかった……。
海未「それでは、千歌もそれを受けることを選んだということでいいんですか?」
穂乃果「うん。だから、それ以来千歌ちゃんとはツーマンセルで彼方さんと、妹さんの遥ちゃんの護衛任務をしてたんだ」
ツバサ「護衛……? 守ってたってこと? 何から?」
彼方「えっと……そのためには、わたしが何者なのかから、話さないといけないんだけど……。……実はわたしと妹の遥ちゃんは……もともとこの世界の人間じゃないんだ」
会議室内が静まり返る。
侑「この世界の……人間じゃない……?」
にこ「まるで、この世界以外の世界があるみたいな言い方ね……」
にこさんが疑いの眼差しを向けながら言う。
でもそれに対して、
鞠莉「……もしかして、ウルトラホール……?」
鞠莉博士には心当たりがあったらしい。
穂乃果「え!? 鞠莉さん、もしかして知ってるの!?」
鞠莉「知ってるというか……そういう文献を読んだことがあるというか……。善子、あなたにも見せたことあるわよね?」
善子「善子言うな。……えっと、確か私たちの住んでいる時空よりも、さらに高次元に存在する空間みたいなものだった気がするわ。……アローラの方で研究してる財団があったような」
彼方「うん。ウルトラホールの先には、ウルトラスペースっていう空間が存在してて……いろんな世界と世界を繋いでるんだ。わたしたち姉妹は、そのウルトラスペースを通って、こっちの世界に落ちてきたの……」
穂乃果「稀にそういうことがあるらしくって、ウルトラスペースを通ってこっちの世界に落ちてきちゃった人のことを国際警察では“Fall”って呼んでるんだ。……そして、国際警察は“Fall”の人たちを保護してる」
海未「……突拍子もなさすぎて、理解が追い付かないのですが……」
海未さんはそう言いながら、眉を顰めている。
希「保護してるんはええんやけど……なんで、護衛する必要があるん?」
彼方「それを説明するには……先にウルトラビーストについて説明しないといけないかな……」
ことり「ウルトラビースト……?」
かすみ「かすみん、ウルトラビーストなら知ってますよ! 異世界から来た、超強いポケモンのことで──もがもがっ!!」
侑「す、すみません、続けてください」
自信満々にかすみちゃんが解説しようと口を挟むけど、たぶん話がややこしくなりそうだから、口を押さえる。
彼方「ウルトラビーストって言うのは、ウルトラスペースに住んでるって言われる特殊なポケモンのことだよ。ウルトラスペースは特殊なエネルギーに満ちてるらしくって……それを浴び続けた結果、ウルトラビーストたちは普通のポケモンとは一線を画した強さを持ってるんだ……」
穂乃果「それと……“Fall”もウルトラスペースを通ってきてるから……身体にそのエネルギー浴びちゃってて、それに惹かれてウルトラビーストが寄ってきちゃうんだって」
ダイヤ「では……穂乃果さんと千歌さんは、“Fall”故に寄ってきてしまうウルトラビーストから、彼方さんや妹さんを護衛していたということですね」
穂乃果「うん、そういうこと」
穂乃果さんはダイヤさんの言葉に頷く。
凛「ねぇねぇ、聞きたいんだけど……」
彼方「んー、何かな?」
凛「ウルトラスペースってところを通ってきたってことは……彼方さんにはもともと住んでた世界があったってことでしょ? そこには帰ったりしないの?」
彼方「あー、んー……えーっと……」
穂乃果「えっとね、“Fall”の人はほとんどが記憶を失ってるんだ。……彼方さんや遥ちゃんも例外じゃなくって……だから、元居た世界の記憶が──」
彼方「あのー……それについてなんだけど……」
穂乃果「ん?」
彼方「実は彼方ちゃん……記憶、戻ったみたいなんだよね……」
彼方さんの言葉に穂乃果さんは一瞬フリーズする。
穂乃果「……ええぇぇぇ!!? わ、私聞いてないよ!?」
彼方「退院出来たのが昨日だし……話すタイミングがなくって……」
穂乃果「でも、なんで急に……!?」
彼方「……きっかけは──果林ちゃんの持ってた色違いのフェローチェ。……わたしと遥ちゃんは……ウルトラスペースを航行中に、果林ちゃんのウルトラビースト──フェローチェに襲われて、この世界に墜落したんだ……」
穂乃果「え……?」
海未「ちょっと待ってください……果林はそのウルトラビーストとやらを持っていたということですか……?」
彼方「えっと……果林ちゃんと愛ちゃんは、わたしと同じ世界の出身……というか、もともと同じ組織の仲間だったんだ」
──場が再び静まり返る。
ルビィ「えっと……果林さんと愛さんが彼方さんと同じ世界の人で、仲間なんだけど……果林さんが彼方さんを襲って……? あれ、なんかこんがらがってきた……」
理亞「……仲間割れってこと?」
花丸「うーん……この場合、組織にとって大切な機密や物を盗んで、彼方さんが逃げちゃったって言う方がしっくりくるかな?」
ルビィ「は、花丸ちゃん! そういうこと言ったら失礼だよ!」
花丸「あ、ごめんなさい……物語だとそういうパターンの方がわかりやすいかなって思って……」
彼方「うぅん、花丸ちゃんの言ってることであってるよ」
ルビィ「えぇ!?」
海未「つまり……現在は彼女たちの味方ではないと考えていいんですね」
彼方「うん。……わたしと遥ちゃんは、組織のやり方に賛同できなくて……コスモッグっていうポケモンを連れて、自分たちの世界を脱出したの……。ただ、ウルトラスペースはウルトラスペースシップって専用の船で航行するんだけど……すぐに気付かれて、果林ちゃんのフェローチェに撃墜されちゃったんだ……」
海未「その組織というのは……具体的に何をしようとしていたんですか?」
彼方「……私たちの住む世界を蘇らせるための活動……かな」
曜「蘇らせる……?」
彼方「あのね、想像が難しいかもしれないんだけど……わたしたちの世界は全部合わせても……この地方くらいの土地しか残ってなかったんだ……」
かすみ「オトノキ地方くらいの土地しかない……世界……? どゆこと……?」
彼方「正確には、それくらいしか住める場所が残ってなかったんだ……大半の陸が崩落して海に沈んで……多くの海や大気が有毒な物質で汚染されて、人もポケモンも生きていけない……だから、わたしたちの世界の人とポケモンたちはその少ない土地の中で暮らしていた……。その中でもわたしたちは……プリズムステイツって場所で暮らしてたんだ」
善子「じゃあ、貴方はそこから妹と一緒に亡命でもしようとしてたってこと?」
彼方「亡命……うん、そうかも」
彼方さんは、ヨハネ博士の言葉に頷く。
かすみ「あ、あの侑先輩……」
侑「……なにかな」
かすみ「かすみん、彼方先輩が何言ってるのか全然理解出来ないんですけど……」
侑「大丈夫、私も全然頭が追い付いてないから……」
あまりに突拍子もない話が多すぎて、脳がうまく情報を処理しきれていない。
とりあえず、一個ずつまとめていこう……。
……彼方さんや果林さん、愛ちゃんはもともと異世界に住んでいて、その世界を救うための組織にいた。
だけど、考え方の違いから、彼方さんは遥ちゃんと一緒に、組織の大事なものを盗んで他の世界に逃げだしたけど……その最中──果林さんに襲われて、この世界に落ち……記憶を失って、この世界で生活していた……って感じかな。
海未「その亡命の理由とやらは……聞いてもいいですか?」
彼方「……プリズムステイツに存在する政府組織は……世界再興のために──他の世界を滅ぼすことを計画したんだ」
海未「……なんですって?」
世界を滅ぼす──物騒な言葉に海未さんが顔を顰める。
鞠莉「Hmm... あなたたちの住んでいる世界が破滅の危機に瀕していて、それを救おうとしていることはわかったわ。だけど、それと他の世界を滅ぼそうとすることに何の因果関係があるの?」
彼方「あの……ここまで言っておいて、あれなんだけど……実は彼方ちゃんは基本的には実行部隊みたいな立ち位置だったから、具体的にどうしてそうすると世界が救われるのかはよくわかってなかったんだ……。ただ、エネルギーの流れを変えるとか……そんな感じのことは言ってたけど……」
にこ「わかんないのに、そんな組織に身を置いてたの……!?」
真姫「……逆でしょ」
にこ「……逆?」
真姫「理屈もわからないのに、他の世界を滅ぼすことが自分たちの世界を救う方法だ、なんて言われたから……逃げることにしたんでしょ」
にこ「あ、なるほど……」
海未「どういう組織だったのか……もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?」
彼方「えっと……もともとはプリズムステイツの研究機関が基になってて……そこにいた二人の天才科学者が、ウルトラスペースを発見したことから始まった組織なんだー……。ただ、実際にウルトラスペースは危険を伴う場所だったし、ウルトラビーストと戦闘になることもある……だから、実行部隊っていう戦う専門の部隊が出来たんだ。その組織をプリズムステイツの偉い人たちが管理してたって感じかな……」
穂乃果「彼方さんは、その実行部隊にいたんだね」
彼方「うん……それで、その組織の中で戦闘の実力がトップの二人には……それぞれ“SUN”と“MOON”って称号階級と一緒にポケモンが渡されてたの……」
そう言いながら、彼方さんは腰からボールを外して──ポケモンを出す。
「────」
彼方「それが……この子」
侑「遺跡で戦ってるときに私を助けてくれたポケモン……」
あの、金色のフレームの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモンだ。
ツバサ「……その称号と一緒に渡されるポケモンを持っているってことは、貴方はその称号を持った幹部だったってこと?」
彼方「えっと……確かに彼方ちゃんは実行部隊で2番目に強いトレーナーだったから、副リーダーみたいな扱いで……一瞬だけ称号階級を持ってたタイミングはあったんだけど……もともとは違う人が持ってたんだ……」
英玲奈「……もともとは違う? 君は実行部隊で2番目に強いトレーナーだったのだろう? それだったら、最初からその階級称号を持っていたんじゃないのか?」
彼方「階級称号は実行部隊のトップ2に贈られるものじゃなくて……組織全体で見て戦闘の実力がトップの二人に贈られるものなの」
ルビィ「えっと……どういうこと……? 実行部隊のトップ2はバトルのトップ2じゃないの……?」
花丸「……そっか、研究者の中に実行部隊よりもバトルが強い人がいたんだ」
彼方「うん、そういうこと」
曜「あーなるほど……」
彼方「……果林ちゃんは“MOON”の称号を持ってた実行部隊のトップの人で、“SUN”は……科学者でありながら、戦闘で果林ちゃんに匹敵する実力を持ってた愛ちゃんだったんだ。それでこの子は、もともと愛ちゃんが持ってたコスモッグなんだけど……理由があって愛ちゃんの手を離れたときに、わたしが組織から持ち出したポケモンなんだ。……この子を持ち出せば、一時的にでも計画を止めることが出来るから」
花陽「一時的に計画を止める……?」
彼方「このポケモン──コスモウムは……もともとはコスモッグっていうポケモンが休眠状態になった姿なの。コスモッグは大量のエネルギーを体に蓄えていて……そのエネルギーはウルトラスペースを自由に航行出来るほどだった。……だけど逆に言うなら、コスモッグがいなくなってウルトラスペースを自由に行き来出来なくなったら、計画は頓挫する。だから、彼方ちゃんは遥ちゃんと一緒に、コスモッグを連れ出して、組織から逃げて来たの」
穂乃果「あれ……? でも、コスモッグは“SUN”と“MOON”に渡されてたんだよね……? なら、2匹いたんじゃ……」
彼方「うん。彼方ちゃんたちも最初は2匹とも連れ出せればとは思ったんだけど……1匹は果林ちゃんが普段から持ち歩いてたから、連れ出すのはとてもじゃないけど、無理だった」
にこ「そういうのって片方残ってたら意味ないんじゃないの……?」
彼方「コスモッグは一度にエネルギーを吸いつくしちゃうと、休眠して二度とエネルギーを出せなくなっちゃうから……2匹のコスモッグから交互にエネルギーを貰ってたの。だから、1匹減るだけで計画の効率はすごく下がるんだ」
海未「果林のコスモッグは無理だったのに、愛のコスモッグは連れ出せたということですか? 愛も貴方より強かったのでは……?」
彼方「彼方ちゃんたちが脱出するとき……愛ちゃんは“SUN”の称号階級を剥奪されてて、繰り上がりで私が貰うことになってたんだ……だから、わたしがコスモッグを連れ出せたんだよ」
海未「階級の……剥奪……? 何故……?」
彼方「あるとき、愛ちゃんが……組織の施設を破壊して回ったから……」
かすみ「……?? なんか、全然意味わかんないんですけど……」
確かに随分唐突な話な気がする。
花丸「もしかして……愛さんも、彼方さんみたいに組織のやり方に反対してたってこと?」
彼方「愛ちゃんがどうしてそんなことしたのか、詳しい理由はわからないんだけど……組織のやり方に反対してたって噂はずっとあったんだ。それに……」
鞠莉「それに?」
彼方「愛ちゃんが、施設を破壊する直前……大きな事故があったんだ」
ことり「事故……?」
彼方「さっきも言ったけど……この組織は二人の天才科学者を端にして作られたんだけど……一人はもちろん愛ちゃんのこと、そして──もう一人は愛ちゃんの一番大切な人だった」
海未「……まさか、その事故というのは」
彼方「……うん。そのもう一人の研究者が……ウルトラスペース調査中に……亡くなったんだ。その子の名前は──」
彼方さんは急に、私の方──いや、私の傍に居るリナちゃんに視線を向ける。
彼方「──テンノウジ・璃奈」
リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「え……!?」
私は驚いて思わず声をあげる。
彼方「……記憶が戻ってから、ずっと気になってたんだ……。リナちゃんは……わたしの知ってる璃奈ちゃんなの……? 名前もだけど……喋り方とか……そっくりなんだ……」
リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「リナちゃん……そうなの……?」
リナ『……ごめんなさい、わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「わからない……?」
自分のことなのに、肯定でも否定でもなく、わからないって……?
そんな疑問に答えたのは、
鞠莉「リナにも……記憶がないのよ」
リナちゃんの生みの親である、鞠莉さんだった。
侑「リナちゃんにも記憶がない……?」
鞠莉「ただ、これは彼方たち“Fall”の記憶喪失とは違う。根本的に記憶がないの」
海未「……待ってください、そもそもそのリナというポケモン図鑑は何者なんですか? 私はてっきりロトム図鑑のようなものかと思っていたのですが……」
鞠莉「リナは……やぶれた世界で見つかった──情報生命体を使って作ったポケモン図鑑よ」
──会議室内が、またしても沈黙した。
凛「うぅ……凛、そろそろ頭が痛くなってきたにゃ……」
にこ「さ、さすがのにこにーも脳みそが破裂寸前にこ……」
かすみ「……じょーほーせーめーたい……? つまり、どーゆーこと……?」
花丸「まるでSF小説を無理やり頭に詰め込まれてる気分ずらね!」
ルビィ「花丸ちゃん……なんか、楽しそうだね……」
何人かはそろそろ理解が追い付かず悲鳴をあげ始める。
正直、私もそろそろ脳が理解を拒み始めているけど……でも、リナちゃんのことと言われたら聞かないわけにはいかない。
鞠莉「以前、果南がやぶれた世界に行ったときがあったでしょ?」
海未「グレイブ団事変のときですね……」
理亞「……」
果南「なんかそのときに私の図鑑に入り込んだらしいんだよね。そんでそれを鞠莉が発見して、リナちゃんを作ったんだよ」
ダイヤ「すみません果南さん。今貴方の大雑把な解釈を聞かされると、却ってわけがわからなくなるので、少し静かにしていただけると……」
海未「右に同じです」
果南「え、酷くない……?」
果南さんがあからさまに不満そうな顔をする。
鞠莉「まず最初に気付いたきっかけは──この子」
そう言って鞠莉さんがボールからポケモンを出す。
「──ポリ」
ダイヤ「ポリゴンZですか……?」
鞠莉「真姫さん。この会議棟に給湯室ってあるかしら?」
真姫「あるけど……。この部屋を右に出て突き当りにある部屋よ」
鞠莉「Thank you. ポリゴン、いつものお願い」
「──ポリ」
鞠莉さんに言われて、ポリゴンZがドアを“サイコキネシス”で開けて、外に出て行く。
ダイヤ「あの……一体何を……」
鞠莉「まあ、ちょっと待ってて」
海未「……中央区の施設でポケモンを自由に動き回らせて大丈夫ですか?」
真姫「まあ……今はこの会議棟自体貸し切りにしてるから、大丈夫よ」
鞠莉さんに言われたとおり──待つこと数分。
「──ポリ」
──ポリゴンZが部屋に戻ってきて、一人一人の前に、カップを置いていく。
海未「……なんですか、これは」
鞠莉「ロズレイティーよ」
そう言いながら、鞠莉さんはロズレイティーを飲み始める。
鞠莉「ん~おいしい♪ 今日も最高の入れ具合よ♪」
「ポリ」
海未「……鞠莉、貴方ふざけているのですか?」
ダイヤ「まさか……紅茶が飲みたかっただけとか……?」
真姫「……おいしい」
海未「真姫、貴方まで……」
真姫「……ありえない」
海未「……はい?」
真姫「ポリゴンZにこんな繊細に、紅茶を入れられるはずない。ポリゴンZは進化して力を手に入れた代わりに、致命的なバグ挙動を起こすようになったポケモンよ。こんな複雑で繊細なことを、自己判断だけでするのは不可能なはず……」
海未「確かに……言われてみれば……」
真姫「これじゃまるで──ポリゴン2よ」
鞠莉「そう、この子はポリゴンZの見た目をしているけど……ポリゴンZの姿のまま、バグが取り除かれて正常化された──いわばポリゴン3と言っても過言ではないポケモンよ」
「ポリ」
侑「ポリゴン……3……?」
私も思わず首を傾げる。そんなポケモン見たことも聞いたこともない……。
果南「つまり、図鑑に入り込んだリナちゃんがポリゴンZの中身をポリゴン2にしたってことだよ!」
鞠莉「まあ……果南ってこんな感じに説明とか大雑把じゃない? だから、ポケモン図鑑みたいな精密機械をよく壊すのよ……」
果南「……なんか、私の扱い全体的に酷くない?」
鞠莉「ポリゴンが自身をデジタルデータ化することによって、電脳空間に入ることが出来るのは、知ってるわよね?」
海未「ええ、まあ……リーグ本部でもデジタルセキュリティにポリゴンを使っていますので……」
鞠莉「だからわたしは定期的に、調子の悪くなった果南の図鑑にポリゴンZを入れて、エラー部分を排除させてたの」
ルビィ「あ、あの……ルビィ詳しくないからよくわかんないけど……ポリゴンZさんには繊細なエラー修正は出来ないんじゃ……」
善子「……そんなことしてるから、調子悪くなるんじゃないのかしらね」
……鞠莉さんも大概大雑把なんじゃないだろうか。
鞠莉「いつものように、修復作業をやってたんだけど……図鑑から出てきたポリゴンZからは、ポリゴンZというポケモンが持っている異常行動がほぼ解消されていて……何故かポリゴン2のような挙動になっていた。わたしはそれに気付いて、図鑑のプログラムを自分で直接解析してみたんだけど……」
ルビィ「あ、あの……自分で出来るなら、最初からそうした方が……」
善子「ルビ助……これ以上、突っ込まないであげて。そういう人なの……」
鞠莉「そこには、コンピューターウイルスのような謎のプログラムが存在していた。その最上部に9文字の信号あったんだけど……『・・・---・・・』と記されていたわ」
海未「……とんとんとんつーつーつーとんとんとん……? あの……もう少しわかりやすく言っていただけると……」
曜「……もしかして……SOS?」
海未「SOS……どういうことですか……?」
曜「『・・・---・・・』ってモールス信号でSOSって意味なんです」
海未「……モールス信号……! なるほど……」
鞠莉「そう、これを見た瞬間、わたしに対して助けを求めてるんだって理解した。だから、わたしはこのプログラムを少しずつ展開して、解析していった結果──かなり高度な人工知能のプログラムに近いものになっていることがわかった。それも今の人間には到底作れないレベルのもの。ただ、そんなものは移植するのも簡単に出来るわけじゃない、だから……」
リナ『鞠莉博士はそのプログラム──つまり私に開発環境へのアクセスを許可してくれた。そこから、私は言語情報を介して、人とコンタクトを取れる形に自身のプログラムを書き換えた』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「それが自己進化型AIリナの正体よ」
侑「そう、だったんだ……」
ただの図鑑じゃないことはわかっていたけど……リナちゃんが生まれた理由は私の想像の何倍も上を行っていた。
いや……ここにいる誰もが、想像しえなかったことじゃないだろうか。
ダイヤ「そんなことが……ありえるのですか……?」
鞠莉「まあ、実際にリナは、こうしてここにいるわけだしね」
花丸「事実は小説よりも奇なりとはこのことずら……」
リナ『ただ……私は自分の名前がRinaだってことと、誰かと繋がりたい、お話ししたいって気持ちがあることしか覚えてなかった』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「だから、図鑑に組み込んで……いろんなデータを参照できるようにしてあげたの」
リナ『お陰ですごい物知りになった』 || > ◡ < ||
鞠莉「肝心の記憶が蘇ることはなかったけどね……」
海未「……リナがそういう存在であることは理解しました。……では、やぶれた世界から来たという根拠は?」
鞠莉「……まあ、正直これに関しては消去法ね。リナを発見したときのメンテナンスの直前に果南はやぶれた世界に行っていた。あそこなら何かおかしなことがあっても不思議じゃないし……そこに当たりを付けたの。それに……」
海未「それに……?」
鞠莉「果南は……やれぶた世界で不思議なものを見てる」
海未「不思議なもの……ですか……?」
果南「やぶれた世界で、私はギラティナを止めるために……かなり下層まで潜ったんだけど……。そこで見つけたんだよね」
理亞「見つけたって……何を……?」
果南「……とんでもない大きさのピンクダイヤモンドを」
ルビィ「え……ま、まさかそれって……!」
理亞「ディアンシーの……ダイヤモンド……!?」
ルビィさんと理亞さんは心底驚いたような反応を示す。
ダイヤ「……そういえば鞠莉さん、それくらいの時期に、宝石に意思は宿るか……なんてことを、わたくしに訊ねてきたことありましたわね」
鞠莉「そのときダイヤは、宝石には持ち主の意思や魂が宿ると昔から考えられているって答えたのよね。それを聞いて……そのピンクダイヤモンドに、リナの素になった存在の“魂”みたいなものが宿っていたんじゃないかと仮説を立てた」
果南「もしリナちゃんの“魂”の本体が、今もあのピンクダイヤモンドに閉じ込められてるなら、もう一度あそこに行く必要がある。でも……やぶれた世界へのゲートはグレイブ団事変のあと、なくなっちゃったんだよね……」
鞠莉「だから、確認は出来ていない。お陰で仮説の域を出ていないのだけど──彼方の話を聞いて、この仮説はわたしの中で確信に変わりつつある」
鞠莉さんは、彼方さんの方に向き直る。
鞠莉「彼方、あなた……リナがそのテンノウジ・璃奈さんとそっくりだって言ったわよね?」
彼方「うん。喋り方も、考えた方も……雰囲気とかもそっくりだなって……。あと、リナちゃんボードって口癖……璃奈ちゃんも同じことをよく言ってたんだ」
リナ『そうなの……?』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「……うん。璃奈ちゃん、感情表現が苦手で無表情なのが悩みだったみたいなんだけど……愛ちゃんが、それを補うためのボードを作ってあげて……それに『璃奈ちゃんボード』って、名前が付いてたんだ……」
鞠莉「……こんな偶然、ありえるかしら? これってつまり──璃奈さんの“魂”がなんらかの理由でやぶれた世界に流れ着いて……わたしたちと、どうにかコンタクトを取ろうとした結果──リナというプログラムを作って、果南の図鑑に忍ばせた」
海未「……随分突飛な話ではありますが……一応、筋は通っていますね……」
海未さんは腕を組んで唸りだす。
確かに一個一個は突飛なことのはずなのに……何故かそれが繋がって行っている気がする……。
海未「リナのことは、ひとまずわかりました。ただ、少し話が戻るのですが……解せないことがあります」
穂乃果「解せないこと……?」
海未「愛は璃奈を失ったことで組織へ不満を持ち、それがきっかけで破壊活動を行い……結果、幹部称号を剥奪されたんですよね?」
彼方「う、うん……そうだけど……」
海未「なら何故、愛は未だにその組織に協力しているのですか?」
ことり「あ、確かに……」
海未さんの言うとおり、施設を破壊するくらい組織に反対していたなら、今協力しているのは少し違和感がある。
でも、その疑問に答えたのは、
リナ『それに関しては……愛さんは従わされてる可能性がある』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんだった。
海未「従わされている……? どういうことですか?」
リナ『愛さんは前に会ったとき、首にチョーカーをしてた』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「あ……確かに……」
なんか、癖みたいに首のチョーカーを指でいじっていた気がする。
言われて、海未さんが改めて表示されている画像を確認すると、
海未「……確かに着けていますね」
粗い画像ながらも、確かに首にチョーカーを着けているのがわかる。
リナ『あのチョーカーは発信機になってる。たぶん居場所を知らせるためのもの』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……え?」
リナ『しかも……チョーカーの裏側はスタンガンみたいに、信号を送ると電撃が走るようになってた。近くで確認したから間違いない』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そ、それじゃ……」
彼方「愛ちゃんは組織のために、首輪を着けられてるってこと……?」
リナ『その可能性は高い』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「……なるほど」
海未さんはリナちゃんの言葉に頷く。
……だけど、
穂乃果「……私はそうは思わないかな」
穂乃果さんが異を唱えた。
海未「何故ですか?」
穂乃果「……従わされているって言うには、少しふざけてるというか……追い詰められてるような雰囲気を感じなかったんだよね」
侑「確かに……愛ちゃんはなんというか……終始ふざけているような感じだった気がします」
穂乃果「うん。協力的ではないけど……消極的でもなかったというか……」
かすみ「確かに、ずっと周りを小馬鹿にしたような喋り方する人でしたね! かすみん、ちょっとイライラでした!」
海未「ふむ……」
海未さんは口元に手を当てる。
海未「……どちらにしろ、彼女に関しては情報が少なすぎて、ここで結論を出すのは難しそうですね……。リナの言うとおり、発信機とスタン機能の付いている首輪の存在は気になりますが……」
海未さんは愛ちゃんに関しては、ひとまずそうまとめて、
海未「わかる方の情報を整理しましょう」
次の話へと移る。
海未「情報がほとんどない愛に対して──果林は情報が多いです。彼女は言わずと知れた有名なモデルで、メディアにも多く露出していました。この場にいる人も、彼女を知っている方は多いんじゃないでしょうか」
ことり「うん……コーディネーターとしても有名だから、ことりは何度かお話ししたこともあるよ」
曜「私も、何回かコンテスト会場で会ったことがあるかな。……いっつもファンに囲まれてて、本当にカリスマファッションモデルって感じだった……」
海未「彼女のモデルとしての実力は本物なのでしょう……ですが、冷静に見てみると、おかしな点がいくつかあります」
ことり「おかしな点……?」
海未「彼女は──4年程前から、唐突に芸能界に現れているんです」
曜「そうなんですか……?」
海未「はい。経歴を洗い出してみたら……本当にある日突然、大企業のファッションモデルとして抜擢されているんです」
ことり「言われてみれば……確かにそうだったかも」
海未「いくら実力があっても……唐突に大企業からのバックを得るのはさすがにおかしいと思いませんか?」
曜「確かに……協賛契約を結ぶのって大変なんだよね……」
海未「それが気になったので……先日彼女に急に大きな仕事を依頼したいくつかの企業の取締役に、精神鑑定を受けてもらったんですが……。……漏れなく、催眠暗示のようなものを受けているということがわかりました」
彼方「……! まさか、フェローチェの毒……」
海未「……やはり、何か心当たりがあるんですね?」
彼方「果林ちゃんの持ってるフェローチェってウルトラビーストは……人を魅了して操る力があるんだ……」
海未「やはりですか……直近で彼女に仕事を依頼したローズのビジネスショウの責任者にも、同様の精神鑑定を受けてもらったら、同じ結果が出ましたし……」
真姫「……え?」
海未さんの言葉を聞いて、真姫さんが驚いたように目を見開いた。
海未「そういえば真姫は……つい数日前に、彼女と仕事の打ち合わせをしたそうですね」
真姫「え、ええ……」
海未「しかも、その日、その会議を行ったビルにて……ポケモンによるテロが起こった。……これは偶然ではなく、恐らくあのテロも一連の計画の中で仕組まれたものだったと考えた方が自然です」
真姫「……! まさ、か……」
海未「ただ、解せないのは……何故彼女がそんなことをしたのか、ですね……。目的が千歌であるなら……わざわざこんな目立つことをする意味がない……となると、他に何か目的が──」
真姫「……っ!!」
真姫さんは──ダン!! と机を叩きながら立ち上がった。
にこ「ま、真姫……?」
花陽「ま、真姫ちゃん、どうしたの……?」
真姫「……っ……あのテロは最初から……せつ菜を唆すために起こしたものだったのね……っ!!」
真姫さんはクールで冷静沈着なジムリーダーだと言うのが有名な人なのに──今は私が見ても一目でわかるくらいに怒りを剥き出しにしていた。
海未「真姫……それはどういうことですか?」
真姫「……あの子の父親は……反ポケモン派で有名な人なの……! あの子の父親もあの打ち合わせに居て、あの子が父親の前でポケモンを使うように仕向けられたのよ……!! 目の前で、人がポケモンに襲われていたら、あの子はなりふり構わず、絶対助けるに決まってる……!! だから……!!」
にこ「ま、真姫!! あんた、ちょっと落ち着きなさい!!」
真姫「…………」
海未「真姫、にこの言うとおりです。あの現場でポケモンを無力化したのは一般のトレーナーで、名前は──」
真姫「……菜々でしょ」
善子「……え?」
ヨハネ博士が真姫さんの言葉に反応した。
私もその名前には聞き覚えがあった。菜々って……まさか……。
真姫「ナカガワ・菜々……」
海未「え、ええ……確かに、ナカガワ・菜々さんですが……」
真姫「私の秘書で……──普段は、ユウキ・せつ菜と名乗っているポケモントレーナーよ……」
真姫さんが言うのと同時に──ガタンッ! と大きな音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がった人がいた。
善子「……どういう……ことよ……」
ヨハネ博士だった。
真姫「善子……」
善子「菜々は…………せつ菜だって言うの……?」
真姫「…………」
善子「まさか……あんた、全部知ってて……」
真姫「…………」
善子「……菜々が……千歌を……攫ったってこと……?」
真姫「…………」
善子「…………ちょっと……どうして、そんなことになるの……? 菜々は誰よりも優しい子なのよ……? その菜々が……なんで、そんなことするようになっちゃうの……?」
真姫「…………ごめんなさい……」
善子「……っ……!! ごめんなさいじゃないでしょ!? あんた、一体菜々に何を教えて──」
鞠莉「Be quiet.」
善子「……!」
鞠莉「善子……座りなさい。ここはケンカをする場じゃないでしょう」
善子「でも……!」
鞠莉「Sit down. 座りなさい」
善子「……っ」
ヨハネ博士は、下唇を噛みながら立ち尽くす。
曜「善子ちゃん、座ろう……?」
善子「……」
隣に座っていた曜さんが、倒れた椅子を直しながら、ヨハネ博士をゆっくりと座らせる。
海未「……何か、いろいろと私の知らない事情があるようですね……。……とりあえず真姫、説明をしてもらえますか? あのテロがせつ菜を唆すためのものだったと言っていましたが……」
真姫「……果林たちは、なんらかの方法でせつ菜の正体が菜々であることを掴んで……あの子と父親が同じ場に居合わせるような場を仕組んだ……。菜々がポケモンを使って戦う姿を目の当たりにしたら……あの子の父親は菜々からポケモンを取り上げようとする……。……そうしたら、菜々は……どうにか説得をしようとするはずよ」
海未「……説得というと……」
真姫「……あの子、父親と話をしたあと……チャンピオンになるって飛び出して行ったから……。……父親とそういう約束をしたんだと思う……」
ダイヤ「……確かに……ローズでテロがあった日の夜、ウテナにせつ菜さんが来られました。……千歌さんを探していましたわ」
真姫「その次の日に……千歌から、せつ菜とのバトルを急用で中断することになったと聞かされたわ……。恐らく果林は……その直後に、あの子に接触して……唆した」
穂乃果「……! そっか、あのときの不自然なウルトラビーストの誤報は……!」
彼方「せつ菜ちゃんと千歌ちゃんが戦う機会を設けてから……千歌ちゃんが、無理やり戦闘を中断しなくちゃいけない状況を作るため……。フソウとダリアに愛ちゃんがそれぞれウルトラビーストを放ってたか……それか、まだ他に協力者がいるのかはわからないけど……」
真姫「それも全部……せつ菜を唆して、千歌とぶつけるため……」
海未「……確かに、彼女は今最も千歌に迫る実力を持っているトレーナーと言っても過言ではない……。もし、千歌を無力化させるなら、彼女をぶつけるのが最も効率がいい……」
彼方「それに……せつ菜ちゃんはウルトラビーストを使ってた……。果林ちゃんが、千歌ちゃんを倒させるために、渡したんだと思う……」
海未「少しずつ……全体像が見え始めましたね……。……彼方の言うとおりならば、彼女らの目的はこの世界を滅ぼすこと……なのかもしれませんが、具体的に何をするつもりなのかがわからないと対策の打ちようがない……」
海未さんはまた腕を組んで唸り始める。
確かに具体的に何をしようとしているのかが、よくわからないのは確かだ……。
そこで、私はふと──果林さんたちが戦っている最中に言っていたことを思い出す。
侑「……あの」
海未「侑? どうかしましたか?」
侑「……果林さん、歩夢が自分たちのこれからの計画に必要だって……そう言ってました。もしかしたら……歩夢を利用して、何かをしようとしてるんじゃないかなって……」
海未「歩夢……? 連れ去られた、ウエハラ・歩夢さんのことですか?」
侑「はい」
海未「……必要とはどういうことですか……? 歩夢さんとしずくさんは、人質として連れ去られたのでは……」
かすみ「そういえば……歩夢先輩にポケモンを手懐ける力があるーとかなんとか言ってましたね……」
海未「ポケモンを手懐ける力……?」
侑「その……なんというか、歩夢はポケモンからすごく好かれる体質で……そういうのを言ってるんだと思います……。それがどう必要なのかは……よくわからないんですけど……」
海未「…………」
海未さんは口に手を当てて考え始める。
海未「一つ確認したいことが出来ました。穂乃果」
穂乃果「ん、何?」
海未「ウルトラビーストとやらの姿を確認出来るものは持っていたりしますか?」
穂乃果「あ、うん! 私のポケモン図鑑なら、ウルトラビーストのデータも入ってるから見られるよ!」
海未「わかりました。パソコンに繋げてプロジェクターで映すので、少し貸してもらってもいいですか?」
穂乃果「うん」
海未「鞠莉、少し手伝ってもらえますか? 図鑑の操作なら、貴方が一番だと思うので……」
鞠莉「OK.」
海未さんは穂乃果さんから、ポケモン図鑑を受け取り、鞠莉さんと一緒にセッティングをしていく。
程なくしてセッティングが終わり──プロジェクターに図鑑の画面が映し出される。
海未「穂乃果、彼方、侑、かすみ。貴方たちに……果林の使っているウルトラビーストの──フェローチェのことについて、お聞きしたいのですが」
侑「フェローチェのこと……?」
穂乃果「えっとね、フェローチェはこのポケモンだよ」
そう言いながら、穂乃果さんがフェローチェの画面を表示する。
──スラリとした体躯の真っ白なポケモンが表示される。
海未「このポケモンで間違いありませんか?」
かすみ「はい! こいつがフェローチェです! こいつが……しず子を……」
侑「……?」
ただ、私は首を傾げる。
侑「色が……違う……?」
彼方「あ、そっか……侑ちゃんは色違いのフェローチェしか見たことないもんね……」
海未「……それは、どんな色ですか?」
侑「えっと……上半身はこのままなんですけど……下半身が黒くて……」
リナ『博士、私をパソコンに繋いでもらえないかな?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「いいけど、何するの?」
リナ『画像に直接色を塗って、色違いを再現する』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「なるほど……。OK. わかったわ」
鞠莉さんは手際よくリナちゃんをパソコンに繋ぎ──
リナ『画像を直接いじって、色違いを再現するね。侑さん指示して』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった。えっと、この部分が黒で……」
私はプロジェクターに映った画像を指差しながら、リナちゃんに少しずつ色を付けてもらう。
侑「そうそう……こんな感じだった」
だんだん、完成形が近づいてきたそのとき、
ことり「……あれ……?」
ことりさんが、声をあげた。
曜「ことりさん?」
ことり「……これ、どこかで見覚えが……あ」
ことりさんは立ち上がり、
ことり「あ、あの……リナちゃん! この画面、速く動かしたりって出来る?」
そうリナちゃんに注文を出す。
リナ『画面ごと動かせばいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||
ことり「うん! ものすっごく速く行ったり来たりさせてみて!」
リナ『わかった! 動かすね!』 || > ◡ < ||
リナちゃんはことりさんの注文どおり、ものすごいスピードで画面を動かし始める。
花陽「……えっと、ことりちゃんは何を……」
かすみ「う、うぇぇ……これ、ちょっと酔うかもぉ……」
確かに、画面の上を何かが高速で横切っているのが何度も何度も繰り返されている映像は、少し酔いそうになる。
何が映っているかわからないし……見えるのはせいぜい白と黒の残像くらいで……。
ことり「……このポケモンだ」
侑「え?」
ことり「前、ことりを襲ってきたの……このポケモンだよ! この残像、見覚えがあるもん!」
にこ「残像に見覚えがあるって……すごいこと言うわね、ことり……」
海未「やはりそうでしたか……」
ことり「え?」
海未「ことり、以前に言っていたではありませんか、あのとき自分を襲ったポケモンは──人間くらいの大きさで、色は白かったような、黒かったような……と」
ことり「あ……!」
海未「それにポケモンを手懐ける能力……という言い方はあまり好きませんが、ことりはポケモンから好かれやすいというのは私も認めるところです。歩夢さんもそのような人なんだとしたら……」
希「……そっか、もともとはことりちゃんを狙ってたけど……強すぎて捕まえることが出来なかった。でも、同じような体質の歩夢ちゃんなら連れていけるって判断したんやね」
海未「そういうことです。即ち──彼女たちはポケモンを手懐けて何かをしようとしている……」
ツバサ「ポケモンを手懐けて出来ることと言ったら……」
英玲奈「大量のポケモンを捕獲し……それを使った無差別攻撃とかだろうか」
海未「他世界を滅ぼすというのが、どのレベルのものを指しているのかはわかりませんが……純粋に攻撃などをして、機能を低下させることを指しているのだとしたら、ありえない話ではないですね……」
ダイヤ「なら……各町の警備レベルを上げておいた方がいいかもしれませんわ。向こうが襲ってきてからでは、対応も遅れてしまうでしょうし……」
海未「そうですね……出来る限り各町にジムリーダークラスの実力者を常駐させる必要があるかもしれません」
リナ『そろそろ、画面の方はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「あ、はい。ありがとうございます。侑も、お陰で新しいヒントが得られました。感謝します」
侑「い、いえ! 恐縮です!」
リナちゃんがパソコンから離れて、私のもとへと戻ってくる。
すると画面は再び、果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんを映した画面に戻る。
理亞「…………」
ルビィ「理亞ちゃん……? どうしたの、画面をじーっと見て……」
理亞「……やっぱ、この人……見たことある」
ルビィ「え?」
にこ「あのねぇ……果林はかなり有名なモデルなのよ? 確かにあんたはテレビとか興味なさそうだけど、見たことくらいは……」
理亞「いや、そっちじゃない。もう一人の方」
にこ「え?」
海未「理亞……愛に見覚えがあるのですか?」
理亞「うん。……前、グレイブマウンテンの北側の基地で飛空艇を開発してるとき……この人が居たと思う」
海未「……なんですって? それは本当ですか?」
理亞「というか、こっちの青髪の方の人も、実際に見た覚えがある……」
海未「グレイブ団とも繋がりが……? 他には何か覚えていませんか?」
理亞「……やり取りは全部ねえさまがしてたから……それ以上のことは……」
海未「そうですか……」
理亞「せめて……ねえさまが喋れる状態なら……」
海未「……そう、ですね」
海未さんはまた口元に手を当てて思案を始める、が、
かすみ「あのー……ちょっといいですかー?」
かすみちゃんが手を上げて、それを中断させる。
海未「なんですか?」
かすみ「ずっと聞いてて思ったんですけど……皆さん難しく考えすぎじゃないですか……?」
侑「かすみちゃん……? どういうこと……?」
かすみ「この会議って千歌先輩を助けるための会議なんですよね? 向こうの目的とか、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」
海未「……ふむ?」
かすみ「果林先輩たちは、千歌先輩がいると困るから、千歌先輩を捕まえに来たんですよね? なら千歌先輩さえ取り戻しちゃえば、また相手は困った状態に戻ると思うんですよぉ……だったら、かすみんたちは千歌先輩たちを取り戻すことを一番優先して考えるべきだと思うんです」
海未「……なるほど」
鞠莉「果林たちの計画に千歌の排除が含まれているなら……千歌を奪還しちゃえば、向こうはまたそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなる……そういうことが言いたいのかしら?」
かすみ「そうですそうです!」
確かに随分周到な準備をして千歌さんを攫っているあたり、千歌さんの強さというのがよほど障害になると考えていた可能性は高い。
実際、千歌さんが味方にいるのといないのとでは、心強さが全然違うし……。
侑「でも、そのためには千歌さんたちの居場所がわからないといけないし……そもそも、私たちはウルトラスペースに行く方法もないわけだし……」
むしろ、そこが問題なんだ。だけど、かすみちゃんはきょとんとして、
かすみ「え、でも……さっきの話聞いてると、そのウルトラスペースってやつを渡る方法も、全部リナ子の元になった人? が考えたんですよね? じゃあ、リナ子が完全復活しちゃえば、渡る方法も教えてもらえるんじゃないですか?」
そう答える。
ダイヤ「仮にそうだとしても……問題はそんな簡単に行くかという話で……」
かすみ「だって、リナ子の居場所は見当がついてる~みたいに言ってたじゃないですか。やぶれた世界……でしたっけ?」
ダイヤ「ですが、宝石に意思が宿るという話も言い伝えレベルのものですわ……。言ったのはわたくしですが、鞠莉さんがそういう意味で聞いているとは思わなかったので……。正直、まだ仮説の域で……」
かすみ「仮説でもなんでも、可能性があるならまずそれをやるべきですよ! 鞠莉博士の言うとおり、本当にそこにリナ子がいたら、全部解決するんですから!」
かすみちゃんが自信満々に言うと、
果南「あはは、全く持ってそのとおりだ♪」
果南さんが、かすみちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
かすみ「わわっ、や、やめてください~! 髪崩れちゃいます~!」
果南「鞠莉、確かにいろんな情報が出てきて混乱するけどさ、私たちは最初からやろうとしていたことをやるべきだと思うよ」
鞠莉「果南……」
海未「最初からやろうとしていたこと?」
鞠莉「わたしたちは……ずっとリナの記憶を元に戻す方法をずっと考えていたの。……そもそも今のリナは少し不自然な状態なのよ」
侑「不自然……?」
リナ『私の記憶領域は飛び飛びになってる。領域が存在してるのはわかるのに、間が抜けててアクセス出来ないところがたくさんある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「えっと……? ……地続きなら読めるんだけど、歯抜けになってるせいで、読み込めない部分があるってこと?」
リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「リナは明らかに自分の意志でわたしたちにコンタクトを取って来たわ。なのに、あえて歯抜けになってる自分を作り出すのっておかしくないかしら? 普通に考えたら、より多くの情報が伝えられるように、出来るだけ多くの記憶にアクセス出来るように自分を作るはずよ。でもそうしなかった。そう出来なかっただけという可能性もあるけど……わたしには、自分にまだ足りない記憶や情報があることを伝えるためにやっているように思えるわ」
海未「つまり……最初から、残りの自分の因子を探させるために、不完全な自分を果南の図鑑に忍ばせた……ということですか」
果南「だから、私たちは目的を2つに絞ってずっと行動してた。1つはもう一度やぶれた世界に行く方法。もう1つはピンクダイヤにたどり着いた時に、そこからリナちゃんの“魂”を回収する方法」
侑「“魂”の回収方法……」
確かに、仮にピンクダイヤモンドとやらに、リナちゃんの“魂”があるんだとしても、それを回収する方法がなければ結局意味のない話だ。
だけど……そんな方法あるのかな。
果南「それでね……実は後者の方はもう当てが付いてるんだ」
侑「え……?」
果南「その鍵は……侑ちゃんがすでに持ってる」
侑「え……!?」
私は驚いて声をあげる。鍵って……!? 私、そんな重要なモノに覚えがないんだけど……。
果南「私はずっと、マナフィってポケモンを探してたんだ」
侑「マナフィ……?」
果南「マナフィにはね、心を移し替える“ハートスワップ”って技が使えるんだ」
かすみ「心を移し替えるってことはもしかして……」
果南「そう、この技があれば、ピンクダイヤモンドに宿った“魂”だけをリナちゃんに移動できるんじゃないかってこと」
マナフィにそういう能力があるのはわかったけど……。
侑「えっと……それで、私はそのマナフィへの鍵を持ってる……ってことですか……?」
果南「そういうこと」
侑「えぇ……?」
全く心当たりがないんだけど……。
果南「さっき、侑ちゃんが持ってたタマゴが孵ったでしょ?」
侑「え? は、はい……フィオネですよね?」
果南「実はマナフィはね、フィオネたちの王子って言われてるポケモンなんだ」
侑「……え?」
果南「そして、フィオネにはどれだけ遠くに流されても、自分が生まれた海に戻ることが出来る帰巣本能がある」
侑「じゃあ……」
果南「フィオネに案内してもらえば、マナフィのもとにたどり着けるってこと!」
侑「……」
私はポカンとしてしまう。……まさか、さっきタマゴから生まれたポケモンがそんなに重要なポケモンだったなんて……。
果南「あとはやぶれた世界に行く方法を見つけて……リナちゃんの記憶を戻せば、歩夢ちゃんたちを助けに行く道が見えるかもしれない!」
侑「……!」
果南「ただ、フィオネの“おや”は侑ちゃんだから、無理強いは出来ないんだけどさ……手伝ってくれるかな?」
そんなの、聞かれるまでもない。
侑「はい……! 私、絶対に歩夢を助けに行きたいんです……! 協力させてください!」
果南「ふふ、よかった」
かすみ「じゃあ、かすみんはやぶれた世界に行く方法を探しちゃいます! どうすればいいんですか?」
鞠莉「やぶれた世界に行くためには、空間の裂け目を見つける必要があるわ」
かすみ「空間の裂け目……? それってどんなのですか?」
鞠莉「まあ、一言で言うなら空間にあいた穴ね」
かすみ「空間にあいた……穴……?」
かすみちゃんが自分の頭に人差し指を当てながら考え始めたとき、
海未「ちょっと待ってください」
海未さんが待ったを掛ける。
果南「ん、なに?」
海未「さっきから話を聞いていて思ったのですが……まさか果南……侑とかすみを奪還作戦に連れて行くつもりではないですよね?」
果南「ダメなの?」
海未「ダメに決まっているではないですか!? 危険すぎます!! 何を考えているんですか!?」
侑「え……」
最初は強い人に任せようなんて言っていた手前……自分勝手かもしれないけど、私は海未さんの言葉にショックを受ける。
侑「わ、私……歩夢を助けに行っちゃいけないんですか……?」
海未「貴方たちの身の安全を考えたら、当然の判断です」
侑「そんな……」
せっかく、歩夢を助けに行く決心が付いたのに……。
そのとき、
かすみ「あーーーーっ!!!!」
海未「!?」
侑「!?」
かすみちゃんが急に大声をあげた。
海未「な、なんですか、急に……?」
かすみ「かすみん……空間の裂け目、見たことあります……!」
鞠莉「……え!?」
海未「なんですって!?」
果南「かすみちゃん、それ本当?」
かすみ「は、はい! 間違いありません! 空間に浮いてる穴みたいなやつですよね! えっと、場所は……」
場所を言いかけて──かすみちゃんは急に黙り込む。
海未「……? どうしたんですか、早く場所を……」
かすみ「……かすみん、しず子を助けに行く作戦には連れてってもらえないんですよね?」
海未「何度も言わせないでください。そのつもりです」
かすみ「……なら、交換条件です!! かすみんが空間の裂け目の場所を皆さんにお教えする代わりに、かすみんと侑先輩を作戦に連れて行ってください!!」
侑「か、かすみちゃん……!?」
海未「……なんですって?」
かすみ「この条件が呑めないなら、かすみん空間の裂け目の場所は教えてあげませーん!」
ぷんと顔を背けながら言う、かすみちゃんに対して、
海未「……いいから、教えなさい」
海未さんがドスの効いた声で返す。
……普通に迫力があって怖い。
かすみ「ぴゃぁーーー……!? そ、そ、そんな風にすごまれても、交換条件が呑めないなら、教えられませんもんっ!!」
かすみちゃんは涙目になって、果南さんの背後に隠れながら言う。
果南「あはは! 一本取られたね、海未」
海未「笑いごとではありません! 一歩間違えれば、命に関わる……そういう相手なんですよ? 貴方たち、それをわかっていますか?」
かすみ「そ、それくらい、知ってますもん……べー!」
侑「……自分なりに覚悟はしているつもりです。私も……私のポケモンたちも」
「ブイ」
少なくとも……私たちは、前回の戦闘で殺されかけている。
歩夢のお陰で命は助かったけど……相手が情け容赦を掛けてくれるような相手ではないというのは、理解しているつもりだ。
……もちろん、今の私たちが実力不足で、だから作戦への参加を拒否されていることも。
ただ、そんな私たちに助け船を出してくれたのは、
希「……ま、ええんやない? 本人たちも覚悟してるんなら」
海未「希……!?」
希さんだった。てっきり四天王だから、海未さん側なのかと思っていたんだけど……。
希「3年くらい前にも似たようなことがあったような気がするんよ~……。そのとき、誰かさんは人の反対も聞かずに、自分の弟子を作戦に参加させようとしてへんかったっけ?」
海未「……そ、それは……」
希「まさか……自分の弟子はいいのに、そうじゃない子はダメなんて、言わんよね~?」
海未「そ、その言い方は卑怯ですよ、希!」
希「ちなみにことりちゃんと真姫ちゃんは、ウチに賛成してくれると思うんやけど、どうかな~?」
真姫「……こっちに話振らないでよ……」
ことり「……え、えっと……こ、ことりからは何も言えませーん……!」
曜「あはは……」
希さんの視線から逃げるように目を逸らす、ことりさんと真姫さん。そんな二人を見て、苦笑する曜さん。
なんかわからないけど……賛成してくれる人もいるようだ。これなら……説得出来るかも……!
侑「あの、海未さん……!」
海未「……なんですか」
侑「歩夢は、私にとって……すごくすごく大切な幼馴染なんです。……確かに今の私は弱くて、足手まといかもしれません……でも、それでも、歩夢が怖い思いをしているときに、指を咥えて見てるだけなんて出来ません……!」
海未「…………」
かすみ「それはかすみんも同じです!! しず子は、かすみんが頬っぺた引っ叩いてでも、連れ戻すんですっ!!」
侑「私……歩夢と約束したんです。歩夢に怖い思いさせないために……強くなるって。強くなって、歩夢を守るって……」
……あのとき、歩夢が自分を犠牲にしてでも、果林さんを止めてくれなかったら……私は今ここにいないと思う。
侑「私は歩夢に守ってもらった……。……だから、今度は私が歩夢を助ける番なんです……!!」
「イブィ!!」
海未「……はぁ……ポケモントレーナーというのは、どうしてこう……強情な人が多いのでしょうか……」
海未さんは額に手を当てながら、溜め息を吐く。
海未「……侑、かすみ、貴方たちの気持ちは理解しました」
かすみ「ホントですか!?」
侑「それじゃあ……!」
海未「ですが……ポケモンリーグの理事長として、実力のないトレーナーを危険な地に送り出すことは出来ません」
かすみ「り、理解してないじゃないですかっ!?」
海未「……ですので、条件を出します」
侑「条件……?」
海未「貴方たち、ジムバッジは今いくつ持っていますか?」
侑「えっと……6つです」
かすみ「かすみんも6つです」
海未「残りのジムは?」
侑「ダリアとヒナギクです」
かすみ「かすみんはダリアとクロユリです!」
海未「なるほど」
海未さんは頷くと、
海未「……果南、鞠莉」
果南さんと鞠莉さんの方に目を向ける。
果南「ん?」
鞠莉「なにかしら」
海未「マナフィ捜索ややぶれた世界へ向かうための準備は、どれくらいで出来そうですか?」
鞠莉「えっと……ディアルガとパルキアの調整がいるから……。さすがに1日2日だと難しいかな……」
果南「あと、マナフィ探索用の機器の用意もしてもらわないと」
鞠莉「……それもわたしがするのよね……。……ってことで、そうね……5日は欲しいわ」
海未「わかりました」
果南さんと鞠莉さんの話を聞いた上で、海未さんは私たちに向き直る。
海未「侑、かすみ。貴方たちがこれから戦う相手は──チャンピオンを攫うような輩です。……貴方たちにチャンピオンほどの力を持てとは言いませんが、それ相応の力がないと、ただ無駄にやられるだけ……だからと言って貴方たちが強くなるまでゆっくり待っていられるほど時間もありません」
侑・かすみ「「……」」
海未「ですので、貴方たちには──残り5日であと2つのジムバッジを集めてもらいます」
そう、条件を出してきた。
かすみ「……ふっふっふ、なーんだ、そんなことですか……! かすみん、ここまでジム戦は全部ストレートで勝ってきてるんです!! それくらい、朝飯前ですよ!」
海未「ただし……今後、行ってもらうのは、普通のジム戦ではありません」
かすみ「はぇ……?」
侑「普通のジム戦じゃない……?」
海未「真姫、理亞、英玲奈。この二人とジム戦を行う際は──本気の手持ちを使ったフリールールでお願いします」
侑「え……!?」
──ジムリーダーは本来、トレーナーの段階的な育成を目的とした施設だ。
だから、ジムバッジの数を基準に、挑戦者のレベルに合わせたポケモンを使うんだけど……本気の手持ちというのは、まさに文字通り、ジムリーダーたちが本気で戦うときに使うポケモンたち。
かすみ「あ、あのぉ……フリールールってなんですか……?」
果南「フリールールって言うのは、文字通りなんでもありってことだね。実戦形式って言った方がわかりやすいかな……? バトルフィールドも自由、交換も自由、ポケモンを同時に出すのもOKなルールってこと」
海未「場所と詳細な勝敗条件はジムリーダー側が決めてください」
かすみ「え、えぇ!? それ、かすみんたち不利すぎませんか!?」
海未「実戦の相手は、当然自分たちに有利な環境で戦おうとします。これで勝てないだなんて言っている人を作戦に参加させることは出来ません」
かすみ「ぐ……!? そ、それは……確かにですけどぉ……」
つまり……これが私たちが今後の戦いに参加するための、最低条件ということだ。
侑「やろう、かすみちゃん。もとより、歩夢たちを助けるためには……私たちは強くなるしかないんだ」
かすみ「侑先輩……。……わかりました! 本気だろうがなんだろうが、やってやりますよ!」
理亞「……私はいいけど……相手になるの……?」
英玲奈「久しぶりにジム戦で本気を出していいのか……楽しみだな」
理亞さんが私に、英玲奈さんがかすみちゃんに目を向けながら言う。
そして、
真姫「そういうことなら……出来るだけ早く済ませちゃった方がいいわよね」
真姫さんがそう言いながら、こちらに視線を向けてくる。
真姫「今すぐに……って言いたいところだけど、準備もあると思うから。ローズジム戦は明日行いましょう」
かすみ「侑先輩……どっちが先にやります……?」
侑「えっと……」
真姫「順番なんて決めなくていい。二人同時に相手してあげるわ」
かすみ「え、でも……」
真姫「本気の手持ちを使えばルールはこっちで決めていいんでしょ、海未?」
海未「それで実力を測れると思うのでしたら、構いません」
真姫「なら、てっとり早く──二人まとめて捌いてあげるから」
侑「よ、よろしくお願いします……!」
かすみ「ふふん♪ そんなルール許可しちゃったこと、後悔しないでくださいね~?」
かすみちゃんは得意げに鼻を鳴らす。
私は自分から2対1を提案してくるあたり、相当自信があるんじゃないかなって思えて、ちょっと不安なんだけど……。
海未「それでは……理亞と英玲奈も近日中にジム戦をする準備をお願いします」
理亞「わかった」
英玲奈「承知した」
まあ……条件付きとは言え、どうにかこうにか、作戦への同行の道は繋がって一安心かな……。
穂乃果「とりあえず……次の方針は決まったってことでいいのかな?」
海未「そうですね……ひとまずは果南主導でマナフィの捜索と……やぶれた世界の方に関しては鞠莉にお任せします」
果南「了解」
鞠莉「わかったわ」
海未「あと、かすみ」
かすみ「!? な、なんですか……? いくら怖い顔したってかすみん、無条件で空間の裂け目の場所を教えたりしませんよ!?」
海未「それはいいです。……ただ、もし5日以内にバッジ8つが達成できなかった場合には、大人しく教えてもらいます。そうでなければ、こちらも条件を提示する意味がありませんから」
かすみ「わ、わかりました……。さすがにかすみんもそこまで卑怯なことするつもりありませんし……」
海未「よろしい」
空間の裂け目についての交渉も、両者納得したみたいだ。
ダイヤ「あとは……人の配置でしょうか」
海未「そうですね……。今後、地方内に攻撃をされる可能性がありますので、全ての町にジムリーダー、もしくは四天王を配置するようにします」
ツバサ「フソウはどうするの?」
希「アローラにいるえりちに、一旦戻ってきてくれるように連絡してみるよ。えりちならフソウの土地勘もあるだろうし」
海未「では、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリはそれぞれのジムリーダーに警固をお願いします。フソウは希の言うとおり、絵里に頼むとして……ウラノホシ、サニー、アキハラは四天王側でどうにかカバーしましょう。ウテナには私が常駐します」
ツバサ「そうなると一人余るから……私が地方全体を遊撃するわ」
海未「いつもすみませんツバサ……よろしくお願いします」
ツバサ「大丈夫よ。ドラゴンたちは速いし、飛び続ける体力もある。私が適任だもの」
海未「ありがとうございます。……穂乃果はこの後はどう動くつもりですか? 出来れば穂乃果にも地方警固をお願いしたいのですが……」
穂乃果「ごめん……私はやることがあるから……。でも、ピンチなところがあったら、出来る限り全速力で駆け付けるよ!」
海未「わかりました、ではそのようにお願いします。……あとは、引き続きになりますが……出来る範囲で敵についての情報を探りましょう。全てをリナに賭けるわけにもいきませんからね」
確かに方針はリナちゃんの記憶を取り戻す方向に進んでいるけど……もしかしたら、空振りになる可能性もあるんだ。
敵の情報は少しでも多い方がいいし……探れるなら探っておくに越したことはないよね。
彼方「あ、それなら……果林ちゃんと仲の良かった子を知ってるよ。その子なら、何か知ってるかも……」
かすみ「もしかして、エマ先輩ですか?」
彼方「うん。かすみちゃんも知り合いだったんだね」
海未「では、そちらの方にも話を伺ってみましょう。彼方、仲介をお願いしてもよろしいですか?」
彼方「うん、任せて~!」
海未「さて……とりあえず、話は纏まりましたね……。随分長い会議になってしまいましたが……他に意見がなければ、本日はここでお開きとさせていただきます」
海未さんの言葉と共に──長い会議はやっとお開きとなったのだった。
⚓ ⚓ ⚓
──会議が終わると同時に、
善子「…………」
曜「あ、ちょっと、善子ちゃん……!」
善子ちゃんは無言で会議室を出て行ってしまった。
ルビィ「善子ちゃん……結局あの後、一言も喋らなかったね……」
花丸「うん……」
曜「私、ちょっと追いかける……!!」
私も善子ちゃんを追いかけて、会議室を飛び出す。
会議室を出ると──善子ちゃんはとぼとぼと歩いていたので、すぐに追いつくことが出来た。
曜「……善子ちゃん」
善子「…………」
曜「……大丈夫?」
善子「…………」
声を掛けると善子ちゃんは足を止め……しばらく何も言わず立ち尽くしていたけど──
善子「…………菜々が……トレーナーになってたって聞いて……嬉しいって思ってる私と……菜々が……人を傷つけたって聞いて……悲しいって思ってる私がいるの……」
ぽつりぽつりと喋り始める。
曜「善子ちゃん……」
善子「……なんで、あの子が苦しんでるときに……私はいつも……傍に居てあげられないのかな……」
曜「…………善子ちゃんにとって……菜々ちゃんは特別だもんね」
善子「…………」
曜「……後悔してるんだね。あのとき、強引にでも手を取ってあげられなかったこと……」
善子「…………」
曜「なら、出来ることは一つだよ」
善子「…………え……?」
善子ちゃんは振り返りながら、声をあげる。
曜「もう、後悔しないように……次はちゃんと菜々ちゃんの手を取ってあげないと。善子ちゃんが」
善子「…………曜」
曜「だから、今は下向いてる場合じゃないよ! 私たちに出来ることをしよう!」
善子「…………」
善子ちゃんは少しの間、無言で私の顔を見つめていたけど、
善子「……はぁ……これだから、陽キャは……落ち込ませてもくれないんだから……」
溜め息交じりに肩を竦めながら、そう言う。
曜「だって、落ち込んでる善子ちゃんなんて、見たくないもん」
善子「わかった。……出来ることをしましょう。……菜々に胸を張れる大人であるために」
曜「うん♪ それでこそ、善子ちゃんだよ♪」
善子「……ありがと、曜。……あと、善子言うな」
🍅 🍅 🍅
真姫「……」
出て行ってしまった善子を見て、罪悪感があった。
菜々が図鑑と最初のポケモンを貰う約束をしていたのが善子だったというのは、もちろん知っていた。
だけど……せつ菜はトレーナーになってからも、善子に自分の正体を明かさなかった。
理由はなんとなく見当がついている。……きっと、ばつが悪かったのだろう。
その意思を汲んで私も何も言わなかったけど……。
今こんな事態になってしまってから、一言私の口から伝えておくくらいはしておいてよかったんじゃないかと……そんな風にも思っていた。
海未「真姫」
真姫「海未……」
海未「……情報提供感謝します。……実はせつ菜の素性は、調べてもなかなか出てこなくて……困っていたんです」
真姫「……私はせつ菜の保護者のようなものだからね、当然よ……。……だから、今回のことは……私にも責任がある」
海未「真姫……」
真姫「私が育てたトレーナーが起こした問題だから……この騒動が解決したら……私は責任を取るつもり」
海未「…………」
真姫「だけど……今は先にやることがある。……だから、全部終わってから」
海未「……わかりました」
真姫「ひとまず……菜々のご両親に、起こっていることを説明しに行くわ」
海未「私もご一緒します。ポケモンリーグの理事長として……説明することもありますから」
真姫「うん……お願いね」
☀ ☀ ☀
穂乃果「鞠莉ちゃん、ちょっといいかな?」
鞠莉「穂乃果さん……?」
穂乃果「これ……渡しておこうと思って」
私はそう言って、鞠莉さんにフラッシュメモリーを手渡す。
鞠莉「これは……?」
穂乃果「ウルトラビーストのデータだよ。これで、みんなのポケモン図鑑でもウルトラビーストを認識出来るようにしてあげて」
鞠莉「なるほど……助かるわ」
データは戦闘の上では重要な武器になる。鞠莉さんに渡せば、みんなの図鑑をアップグレードしてくれるはずだ。
穂乃果「それじゃ、よろしくね」
鞠莉「ええ、任せて」
鞠莉さんにデータを託し──私はセントラルタワーを出て、中央区の外へ向かう。
中央区だとリザードンを出しづらいからね……。
私は歩きながらポケギアを取り出し、電話を掛ける。
相談役『──もしもし、穂乃果さん?』
穂乃果「これから、音ノ木に向かいます」
相談役『……わかったわ。彼方さんは?』
穂乃果「一旦、果南ちゃんに近くにいてもらうようにお願いしました。……果南ちゃんなら、ウルトラビーストが現れたとしても、まず負けないと思うし」
相談役『わかりました。……もし、音ノ木に異変があったら、すぐに連絡してください』
穂乃果「了解です」
私は通話を終了し──外周区に到着すると共に、リザードンに乗ってローズシティを飛び立ったのだった。
🎹 🎹 🎹
侑「……はぁ……つ、疲れた……」
かすみ「かすみんも……お話ししてただけなのに……くたくたですぅ……」
かすみちゃんと二人で机に突っ伏してしまう。
彼方「あはは……ちょっと、難しいお話しだったもんね」
侑「……でも、ここで彼方さんと会えてよかったです……」
彼方「ふふ、彼方ちゃんも二人と会えてちょっとホッとしたよ~。わたしもまだ、本調子ってわけじゃないけどね~……。……あと、かすみちゃん」
かすみ「? なんですか?」
彼方「しずくちゃんのこと……ごめんなさい……」
彼方さんはそう言いながら、かすみちゃんに向かって頭を下げる。
かすみ「え、ええ!? き、急にどうしたんですか!? 頭上げてください!?」
彼方「……果林ちゃんがフェローチェを使うことはわかってたんだから……あの時点でしずくちゃんだけでも、避難させるべきだったんだ……そうすれば、しずくちゃんが付いていっちゃうことはなかったのに……」
かすみ「彼方先輩……。……でも、階段にははる子が倒れてたんですよね? だったら、何言ってもしず子は一人で避難なんてしなかったと思います。だから、これは事故です。彼方先輩が気にすることじゃないですよ」
彼方「かすみちゃん……」
かすみ「それに、しず子はかすみんが引っ叩いてでも連れ戻すって決めてますから! 心配しないでください!」
彼方「……ふふ、ありがとう、かすみちゃん」
リナ『そういえば……遥ちゃんは……』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「遥ちゃんは、国際警察の医療施設に運ばれて……まだ眠ってるよ。いつから、お姉ちゃんよりお寝坊さんになっちゃったんだろうね……」
そう言いながら、彼方さんは力なく笑う。
彼方「でも、大丈夫だよ。命に別状はないって、お医者さんが言ってたから。……ただ、ちょっとショックを受けすぎちゃって、眠ってるだけ……」
侑「そう……ですか……」
彼方「それよりも侑ちゃんとかすみちゃんは、明日にはジム戦があるんでしょ? 疲れてるんだったら、今日は早く休んだ方がいいよ」
かすみ「それもそうですねぇ……侑先輩、行きましょうか」
侑「……そうだね」
椅子から立ち上がると──
侑「あ、あれ……?」
私の視界がふわぁっと暗くなる。
果南「──おっと……大丈夫?」
侑「え……?」
近くにいた果南さんに抱き留められ、そこでやっと、自分が倒れそうになっていたことに気付く。
かすみ「ゆ、侑先輩……!? もしかして、まだどこか痛むんですか!? ご、ごめんなさい、それなのにかすみん、侑先輩に無茶させて……」
リナ『侑さん、大丈夫……?』 || 𝅝• _ • ||
「ブイ…」
かすみちゃんやリナちゃん……そしてイーブイが心配して、私の周りに寄ってくる。
侑「あ、あれ……おかしいな……」
別に痛いところとかはないはずなのに、身体に力が入らなかった。
なんでだろうと思っていたそのとき──
──ぐぅぅぅぅぅ……。……と、大きな音を立てながら、お腹が主張を始めた。
侑「…………」
「ブイ……」
かすみ「…………」
リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||
そういえば私……ここ数日、まともにご飯食べてなかったんだった……。
侑「お腹……空いた……」
果南「ふふ、お腹が減るのは元気な証拠だよ♪ ひとまず、みんなでご飯にしようか」
彼方「それじゃ、彼方ちゃんが何か作るよ~」
かすみ「やったー! ご馳走です~♪」
リナ『それじゃ外周区の食材売り場と、レンタルキッチンを探すね』 ||,,> ◡ <,,||
果南「侑ちゃん、おんぶしてあげるから、乗って」
侑「す、すみません……」
あまりの空腹で足元が覚束ないので、果南さんにおんぶしてもらう。
かすみ「彼方先輩の料理は絶品ですから、楽しみにしておいてくださいよ~!」
彼方「おう、任せとけ~!」
リナ『なんで、かすみちゃんが自慢気なんだろう』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
みんなの楽しそうな会話を聞いていて、ふと思う──歩夢もここに居たら……もっと楽しかったのにって……。
侑「歩夢……今、どうしてるかな……」
「ブイ……」
ちゃんと……ご飯食べてるかな……。
侑「……歩夢……」
果南「歩夢ちゃんを助けるためにも、今はしっかり食べて体力つけないとだね」
侑「……はい」
歩夢……絶対助けに行くから、待っててね……。
私は胸中で一人、そう誓うのだった。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
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||. | |. | | | ||
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||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.63 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:200匹 捕まえた数:8匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission👠
愛「航路安定、あと数日もしたらウルトラディープシーに到着すると思うよ」
果林「ありがとう、愛。姫乃、歩夢やしずくちゃんはどんな様子かしら?」
姫乃「特におかしな様子は見られませんね。歩夢さんは最初は脱出しようと、ポケモンを使っていろいろ試していましたが……壊すのは無理だと悟ったようで、今は大人しくしています。しずくさんは……まるで糸の切れた人形のようですね……。ずっと、ベッドに横たわったまま、ほとんど動きません……」
姫乃は監視カメラの映像を見ながら、二人の様子を教えてくれる。
姫乃「あれも禁断症状の一種でしょうか……」
果林「そうね……あとで少しフェローチェを魅せに行くわ」
しずくちゃんはフェローチェを使えば、私に従順に動いてくれる。
歩夢やせつ菜のような使い道はないけど……駒としての利用価値は十分にある。
愛「……ねぇ、果林。ウルトラディープシーに向かってるってことは、ウツロイドを使うの?」
果林「ええ。このままだと、歩夢は言うことを聞いてくれないでしょうからね」
愛「……たぶん、ウツロイドを使っても、歩夢は私たちに従うようにはならないよ? ウツロイドの神経毒は理性を麻痺させるだけだから、やりたくないことはさせられない……というか、むしろやりたくないことは絶対にやらなくなっちゃうし」
果林「別に私は歩夢をコントロールをしたいわけじゃないのよ」
愛「どゆこと?」
果林「ウツロイドの毒は、回り切れば人格そのものを破壊する。目的は歩夢のフェロモンなんだから、生きたまま物言わぬお人形さんにさえなってくれればいいのよ」
愛「……相変わらず、おっかないねぇ……悪人の鑑だ……。歩夢のエースバーンを怒らせて、燃やされないようにね」
果林「……? どういう意味……?」
愛「果林は“オッカない”からね。なんつって」
「ベベ、ベベノ♪」
果林「……」
“オッカのみ”はほのおタイプの攻撃を弱める“きのみ”だ。
わざわざそれを言うための振りをしなくてもいいのに……。
姫乃「……くだらないこと言ってないで、操縦に集中してください」
愛「“おぉっと”、残念!! “オート”操縦だ!」
「ベベ、ベベベノ♪」
愛「いやー、ベベノムはこんなに大爆笑してくれてるのにな~」
姫乃「はぁ……どうして、上はこの人をいつまでも重用するんでしょうか……」
果林「……利用価値があるからよ。こんなでも、愛の頭脳は本物よ」
愛の科学力は研究班の中では頭一つ抜けている。いや……頭一つどころか、二つ三つは飛びぬけている。
結局、彼女がいなければ、ウルトラスペースを行き来する方法もここまで発展しえなかったのだ。
──尤も……あの事故さえなければ、今頃技術はもっと発達していたのだろうけど……。
そう言われるくらいには、あの子──璃奈ちゃんは、愛すらも凌ぐ本当に優秀な科学者だった。
愛「そういやさ」
果林「何?」
愛「せっつーあのまんまでいいの? しずくみたいに、マインドコントロールとかしてないんでしょ?」
確かに、せつ菜にはウルトラビーストを与えただけで、実は彼女自身には特別な細工をしていない。
愛「せっつー頭良いしさ……あのテロを起こしたのも果林のバンギラスだったって、すぐに気付くよ?」
果林「たぶん、せつ菜は私に利用されてることには、薄々気付いてるわよ」
愛「……マジ? 反逆されたりしない?」
果林「大丈夫よ。あの子は……自分の言葉を曲げられない──いえ、自分の言葉に縛られると言った方がいいかもしれないわね。そんな不器用な子なのよ」
せつ菜は、良く言えば素直だけど……悪く言えば愚直だ。
天真爛漫で無邪気さがあり、自分のやりたいことへはひたむきだが──裏を返せば、自信家でプライドが高く、思い込みも激しい。
チャンピオンになると宣言してしまえば、それ以外の方法を選べなくなってしまうし──自分で力を求めて、その力で誰かを傷つけてしまったら……もうそこから逃げられなくなる。
きっと今彼女の中では、自分は蛮行を行い……もう、戻れないところに来てしまったと、そう感じているのだろう。
その証拠に彼女は──『もう、帰る場所なんて……ありませんから……』──と口にしていた。
果林「彼女は自分で、自身が悪に染まる道を選んでしまった。その自覚があの子の中にあり続ける以上、簡単に裏切ったりはしない……出来ないわ」
愛「なんか、せっつーについて随分知った風じゃん?」
果林「どこかの誰かさんと似てるのよ。……自信家でプライドが高いところとか……特にね」
せつ菜を見ていると……時折、鏡を見ているような気分になることがある。
だからこそ……あの子が追い詰められたとき、どんな行動をするかが手に取るようにわかったし……彼女を唆すための作戦が、あまりにうまく行きすぎて……自分が少し怖くなったくらいだ。
果林「だから、せつ菜は裏切らないわ」
愛「ふーん……。ま、果林がそう言うならいいけどさ」
せつ菜は絶対に裏切れない。自分が一度ついてしまった陣営も──自分自身の言葉にも。
そして……『もう戻れない』と言うせつ菜と同じで、私も──
果林「──……そう……もう……今更、戻れないのよ……」
愛たちに聞こえないくらいの小さな声で、そう呟くのだった。
………………
…………
……
👠
■Chapter053 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Yu】
──ホテルを出ると、外はこれでもかというくらいの快晴だった。
リナ『いいお天気!』 || > ◡ < ||
かすみ「ジム戦日和ですね!」
侑「…………」
「ブィィ…?」
果南「侑ちゃん、緊張してる?」
口数の少ない私を見て、果南さんが声を掛けてくる。
侑「は、はい……」
果南「確かに真姫さんは強いからね。……でも、自分と自分のポケモンを信じて戦えばきっと大丈夫だよ」
彼方「そうそう! コメコで会ったときからは考えられないくらい、侑ちゃんも侑ちゃんのポケモンたちも逞しくなってるよ! 自信持って!」
侑「果南さん……彼方さん……」
かすみ「彼方先輩! かすみんは!? かすみんはどうですか!?」
彼方「ふふ♪ もちろん、かすみちゃんたちも逞しくなってるよ~♪」
かすみ「えへへ~……そんなことありますよ~♪」
そうだ……私たちは旅の中で強くなってきたんだ……。
そして、もっともっと強くなるためにも……今日、絶対に真姫さんに勝たないといけない。
不安になっている場合じゃないんだ……!
侑「ありがとうございます! ……勝ってきます!」
果南「うんうん、その意気だ♪」
彼方「勝利祝いのおいしいご飯を作って待ってるから、頑張ってね♪」
かすみ「おいしいご飯……!」
彼方「もちろん、勝利祝いだから、負けちゃったときは果南ちゃんと二人で食べちゃうからね~?」
かすみ「ぜ、絶対に勝たないと……!」
侑「あはは……」
食べ物に釣られるかすみちゃんには、ちょっと笑っちゃうけど……でも、
侑「かすみちゃん」
かすみ「なんですか、侑先輩!」
侑「絶対に勝つよ……! 私たち二人で!」
かすみ「はい! もちろんです!」
想いは一緒だ。
私たちはジム戦のために──真姫さんから指定のあった場所へと向かいます。
🎹 🎹 🎹
真姫さんから指定のあった場所──そこはローズシティの西端部、外周区のさらに外……。
かすみ「ここも一応、ローズシティ……なんですよね? ……随分、雰囲気が違くないですか……?」
侑「うん……」
かすみちゃんの言うとおり、ここは……廃屋がいくつもあるような場所だ。ローズシティの雰囲気とは正反対というか……。
侑「リナちゃん、ここ……ローズシティだよね……?」
リナ『うん。滅多に人は近付かないけどね』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「なんで、こんな場所があるんですか? ローズシティって、超都会! 最先端! ってイメージなのに……」
かすみちゃんがそんな疑問を口にすると──
「──ここは廃工場地帯よ」
空から声が降ってきた。
かすみちゃんと二人でその声の方に目を向けると──
真姫「……二人とも、ちゃんと時間通りに来たわね」
真姫さんがメタングに腰掛けながら、私たちの上を浮遊していた。
侑「真姫さん!」
真姫さんは、メタングから飛び降り、私たちの前に降り立つ。
かすみ「廃工場って……今は使ってないってことですか?」
真姫「ええ。工場は中央区が出来たときに、全部そっちに移転して……ここには廃棄された工場だけ残ったってこと」
かすみ「解体とかしなかったんですか?」
真姫「この場所って、カーテンクリフが近いでしょ? そこから、たまに野生ポケモンが来るの。ローズの人って、ポケモンが苦手な人が多いから、ほとんどが中央区に移り住んで、ここは場所自体が放棄されたってわけ」
リナ『ローズでは野生のポケモンが近くに出るってだけで、人が寄り付かなくなるからね』 || ╹ᇫ╹ ||
真姫「だから、ローズシティの敷地内だけど、ここに来る人はほとんどいないし、いるとしても野生のポケモンくらいってわけ。二人とも、付いてきなさい」
侑「は、はい」
「ブイ」
真姫さんの後を追ってたどり着いた場所は──
かすみ「うわ……でっか……」
一際大きな廃工場だった。驚いて建物を見上げる私たちを後目に、真姫さんは工場の中へと入っていく。
倣うように屋内へ足を踏み入れると──中も広々とした工場だった。
あちこちにベルトコンベアがあり、見上げると2階くらいの高さに、工場内の点検や作業用のキャットウォークが設置されている。
真姫「ここはモンスターボール工場だった場所よ」
かすみ「モンスターボールって……あのモンスターボールですか?」
真姫「ええ。ローズシティは昔から、この地方のほぼ全てのモンスターボールを生産しているの。今は中央区の方に工場が移ったから……こんな大規模な工場だけがここに残されてるってわけ」
そう言いながら、真姫さんは私たちを置いて──キャットウォークの方へと階段を上って行く。
真姫「……そして、この廃工場が、今日のバトルフィールドよ」
侑「……! ここが……」
かすみ「場所はジムリーダーが決めるって言ってましたもんね……」
真姫「ルールは事前に言ってあるようにフリールール。交換も同時にポケモンを出すことにも、一切制限がないわ。使用ポケモンの数にも制限は設けない」
かすみ「え? それじゃ、こっちは侑先輩とかすみんの手持ち合わせると……」
真姫「ええ。それぞれのトレーナーが6匹ずつ。つまり、そっちは二人合わせて12匹のポケモンをフルで使って大丈夫よ」
かすみ「……ちょっとちょっと侑先輩! これ、もしかして楽勝で勝てちゃうんじゃないすか!?」
侑「……」
確かに一見私たちに有利な条件にも見えるけど……真姫さんの毅然とした態度。
やはり本気の手持ちを使うのもあってか、よほど自信があるのかもしれない。
侑「私たちは、真姫さんの手持ち6匹を全部倒せばいいってことですか?」
真姫「それでもいいけど……勝敗の条件は──これよ」
そう言いながら、真姫さんは上着をめくって内側を見せる。
そこには──ジムバッジが2つ輝いていた。
侑「“クラウンバッジ”……」
ローズジムを攻略した証として貰える、“クラウンバッジ”だ。
真姫「貴方たちの勝利条件は──私を戦闘不能に追い込むか、この“クラウンバッジ”を奪うことよ。逆に……貴方たちの敗北条件は、貴方たちが戦闘不能もしくは行動不能になること」
今回のフリールールは実戦形式と言っていた。実戦を模した戦いということはつまり──仮にポケモンが残っていても、私たちトレーナーが戦闘を継続できなくなった時点で勝敗が付くということだ。
真姫「もちろん、大怪我をさせるつもりはない。ただ、これは実戦形式……ちょっとした怪我くらいは覚悟して貰うわよ」
かすみ「の、望むところです!」
真姫「ま……仮に怪我したとしても、私が診てあげるから安心なさい。私はジムリーダーであると同時に、医者でもあるから」
侑「け、怪我せずに勝てるように頑張ります!」
真姫「ええ、頑張って頂戴」
真姫さんは2階から私たちを見下ろしながら、腰のボールを外す。
真姫「本来なら……私は貴方たちの、友達を助けたいという意志を応援していたと思うわ。だけど……今回は菜々も関わってる。……だから、貴方たちが生半可なトレーナーであるなら、ここで足切りさせて貰うわ」
──真姫さんにも、全力を出す理由があるということだ。
侑「かすみちゃん……! やるよ!」
「ブイブイッ!!!」
かすみ「もちろんです!! 二人であっと言わしてやりましょう!!」
リナ『二人とも、頑張って! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||
私たちもボールを構えた。
真姫「ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。本気の私に勝てるか、やってみなさい……!!」
工場内でボールが放たれた──バトル、開始……!!
🎹 🎹 🎹
かすみ「行くよ、サニーゴ!!」
「──……サ」
侑「出てきて、ウォーグル!」
「──ウォーーーッ!!!!」
サニーゴとウォーグルがフィールドに飛び出す。
真姫「メタグロス!! ニャイキング!!」
「──メッタァーー!!!!」「──ニ゙ャア゙ァァァーーーッ!!!!」
一方、真姫さんが出してきたのは、メタグロスとニャイキングだ。
リナ『メタグロス てつあしポケモン 高さ:1.6m 重さ:550.0kg
2匹の メタングが 合体した 姿。 4つの 脳みそは
スーパーコンピュータよりも 速く 難しい 計算の
答えを 出す。 4本足を 折りたたみ 空中に 浮かぶ。』
リナ『ニャイキング バイキングポケモン 高さ:0.8m 重さ:28.0kg
頭の 体毛が 硬質化して 鉄の ヘルメットのように なった。
ガラル地方の ニャースが 戦いに 明け暮れて 進化した
結果 伸ばすと 短剣に 変わる 物騒な ツメを 手に入れた。』
真姫「メタグロス!!」
「メッタァッ!!!!」
メタグロスは足を折りたたみ、2階から私たちのいる場所向かって飛び出してくる。
かすみ「しょっぱなから、突っ込んできますか!! サニーゴ、“てっぺき”!!」
「……サ」
侑「かすみちゃん!? 真っ向から攻撃を受けちゃダメ!?」
かすみ「へっ!?」
サニーゴは体を硬質化させ、防御の姿勢を取るけど──
真姫「“コメットパンチ”!!」
「メタァァーーー!!!!!!!!!!」
“コメットパンチ”が直撃すると──ヒュンッと風を切りながら、かすみちゃんの横スレスレを吹っ飛んでいく。
かすみ「ひ……!?」
しかも、それだけに留まらず──サニーゴは壁に向かって跳ね返り床に──床に当たるとまた跳ね上がり──まるでピンボールの球のように、フィールド内を跳ね回り始める。
かすみ「ぎ、ぎゃわああああ!?」
──ガンッガンッ!! と激しく音を立てながら、壁や床をバウンドするサニーゴ。
サニーゴはしばらくフィールド内を跳ね回ったあと──ボゴッ! と音を立てて、近くにあった空のドラム缶を凹ませながらめり込んだ。
かすみ「さ、サニーゴ……っ!!」
かすみちゃんはやっと止まったサニーゴのめり込んでいるドラム缶へと駆け出すが、
真姫「ニャイキング!! “メタルクロー”!!」
「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!!!!」
かすみ「うぇ!?」
かすみちゃんに向かって、ニャイキングが爪を構えて、死角から飛び掛かって来ていた。
真姫「周りを見てなさすぎよ」
かすみ「や、やば……っ!!」
爪がかすみちゃんを捉えようとした、その瞬間、
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーーーー!!!!!!」
かすみ「わぁ!!?」
「サ……」
ウォーグルが、かすみちゃんとサニーゴをそれぞれの足爪で掴んで、一気に飛翔する。
──直後、ザンッ!! と音を立てながら、ドラム缶が切り裂かれ真っ二つになる。
かすみ「──ゆ、ゆうせんぱーい……ありがとうございますぅ~……!」
侑「か、間一髪……!」
でも、ホッと息を吐く間もなく、
真姫「仲間を助けてる場合かしら? “サイコキネシス”!!」
「メタァァァーー!!!!!」
侑「!?」
「ブ、ブィ!!?」
メタグロスの“サイコキネシス”で、肩に乗っていたイーブイごと、私の身体が浮き上がり──そのまま、背後の壁まで吹っ飛ばされる。
──ドンッと背中から壁に叩きつけられて、
侑「……かはっ……!」
一瞬息が詰まる。
かすみ「侑先輩!?」
侑「……ぐ……うっ……!」
すぐに目を開けて、前方を見ると──
「メタァァァ!!!!」
メタグロスがこちらに向かって“こうそくいどう”で接近してくる。
でも、私たちは“サイコキネシス”で壁に押し付けられているせいで、このままじゃ回避が出来ない。
侑「イーブイ……! “いきいきバブル”……!!」
「ブ、ィィィ…!!!」
壁に押し付けられながらも、イーブイの体毛から──ぷくぷくと大量の泡が発生して、飛んでいく。
だが、
真姫「そんな攻撃で止まると思ってるのかしら?」
「メッタァァァァ!!!!!」
真姫さんの言うとおり、メタグロスは“いきいきバブル”の中をお構いなしに突っ込んでくる。
侑「ぐ……っ……」
絶体絶命の瞬間に、
「──ニャーー」
ボールから勝手に飛び出すニャスパーの姿。
私は咄嗟に指示を出す。
侑「ニャスパー……!! パワー全開で“サイコキネシス”!!」
「ニャーーーー!!!!」
ニャスパーが閉じている耳を完全に立てながら──“サイコキネシス”をメタグロスに向かって放つと、
「メ、タァァァ…!!!!」
メタグロスが空中で静止する。
そのタイミングで──壁に押し付けられていた私とイーブイの身体は解放される。
侑「はぁ……はぁ……っ……」
「ウゥゥニャァァァァ」
どうにか、メタグロスは止めた──でも、
「メッタァァァ…!!!!」
メタグロスはじりじりとこっちに向かって、迫ってきている。
ニャスパーのリミッターを完全解除しているのに……押し返しきれていない。
息を切らして、休んでる場合じゃない……! 次の作戦を……!
そう思って、立ち上がった瞬間──メタグロスの頭上に白い何かが縦回転しながら、降ってきた。
かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”っ!!」
「テーーーーブゥッ!!!!!!!!!!」
──かすみちゃんのテブリムだ……!!
テブリムは縦回転しながら、自分の頭の房を乱暴に振り回し、上空から“アームハンマー”顔負けの拳を叩きつけ──そのまま反動で跳ねながら離脱する。
「メッタァッ…!!!?」
上空からの奇襲に、一瞬メタグロスの体が沈み込むが──すぐに持ち直し、浮き上がる。
まだ、威力が足りてない……!
かすみ「侑先輩!!」
かすみちゃんが、ウォーグルの足からサニーゴを抱えて飛び降りながら、声をあげる。
侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
かすみ「“シャドーボール!!”」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「サ、コ」
落下しながら、放たれるサニーゴの“シャドーボール”と、ウォーグルの爪による急襲でメタグロスを上から押さえつける。
それと同時に、ウォーグルを巻き込まないために、
侑「ニャスパー!! サイコパワー解除!!」
「ニャ」
ニャスパーがぱたっと耳を閉じる。
それによって、さっきまでサイコパワーで浮かされていたメタグロスは急に浮力を失うのと同時に、ウォーグルの“ばかぢから”とサニーゴの“シャドーボール”を受け──轟音を立てながら、地面に叩きつけられる。
550kgの巨体に耐えられなかったのか、そのまま床が砕け──メタグロスは床下に沈み込んだ。
かすみ「よっしゃぁ!! やってやりましたよ!!」
「サ…」「テブッ!!」
かすみちゃんは頭にテブリムを、小脇にサニーゴを抱えながら、小さくガッツポーズをするけど、
「メッタァァァ!!!!!!」
メタグロスは床にめり込みながらも、激しく4つの足を乱暴に振り回しながら、暴れている。
かすみ「うそっ!? まだ、倒れないの!? ……ゆ、侑先輩!!」
かすみちゃんはメタグロスを後目に、私の方へ駆けてくる。一旦合流するつもりだろうけど──私の視点からは、かすみちゃんの背後に迫っている影が見えていた。
侑「かすみちゃん、伏せて!!」
かすみ「えっ!? はいぃっ!!」
私に言われたとおり、かすみちゃんが咄嗟に身を屈めると──
「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!」
かすみちゃんの頭の上を“メタルクロー”が薙ぐ。
かすみ「ひぃぃぃっ!!? テブリム、“サイケこうせん”!?」
「テーーブーーーッ!!!!」
テブリムがかすみちゃんの頭の上に乗ったまま、ニャイキングを“サイケこうせん”で攻撃するものの、
「ニ゙ャ…ア゙ア゙ァァァァァ!!!!!」
ニャイキングは一瞬怯んだだけで、すぐにかすみちゃんに向かって、爪を構えて飛び掛かってくる。
かすみ「わぁぁぁぁ!!?」
侑「っ……!! ウォーグル!!」
そのニャイキングを真横から、
「ウォーーーーーッ!!!!!!!」
「ニ゙ャア゙!!?」
ウォーグルが足爪で、蹴り飛ばしながら、壁に叩きつけた。
かすみ「た、助かったぁ……!!」
侑「……!」
今度は私が、かすみちゃんの方へと走り出す。
このまま、こんな開けた場所に居ちゃダメだ……!!
私は転んでいるかすみちゃんの手首を掴んで、
侑「かすみちゃん!!」
かすみ「わわっ!?」
半ば無理やりに引き起こす。急に引っ張ったら痛いかもしれないけど……!
「ニ゙ャア゙ァァァァ!!!!!」「メッタァァァァァ!!!!!!」
──それどころじゃない!
ニャイキングとメタグロスが雄叫びをあげながらこっちを睨んでいる。
「ウォーーー!!!!」
ウォーグルはすぐに私の意図に気付いてくれたのか、ニャイキングを壁に押し付けるのをやめ、私のもとへと飛んでくる。
私はそのウォーグルの脚に掴まり──かすみちゃんの手首を掴んだまま、低空飛行で、ニャイキングとメタグロスの近くから離脱する。
かすみ「わ、わわぁっ!!?」
侑「く……」
どこに逃げる……!? 工場内に視線を泳がせ、隠れられそうな場所を探す。が、
真姫「“はかいこうせん”!!」
「メッタァァァ!!!!!」
侑「!?」
背後から、飛んできた“はかいこうせん”が、
「ウォーーーッ!!!!?」
ウォーグルの翼を掠め、バランスを崩して、空中で回転を始める。
かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」
侑「っ……!!」
回転する中──私の視界に飛び込んできたのは、ボール運搬用のベルトコンベア。
侑「かすみちゃん、ごめんっ!!」
かすみ「へっ!!?」
腕の反動を使い──ベルトコンベアの方に向かって、かすみちゃんを放り投げる。
かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」
かすみちゃんが悲鳴をあげながら、ベルトコンベアの上を転がり──隣の部屋に続く穴へと滑り込んでいく。
私もベルトコンベアの上に着地しながら、その穴へと走る。
侑「リナちゃん!! ベルトコンベア操作出来たりする!?」
リナ『動力があれば!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
胸に張り付いていたリナちゃんが近くのコントローラパネルに向かって飛んでいく。
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブイッ!!!」
イーブイがベルトコンベアの下に垂れていた、コンセントに向かって放電するのと同時に──ゴォンゴォンと音を立てながら、猛スピードでベルトコンベアが稼働する。
侑「ウォーグル!! 翼畳んで、先に行って!」
「ウ、ウォーー!!!」
真姫「逃がさないわ……!! ニャイキング!!」
「ニ゙ャア゙ア゙ア゙アァァァァァァ!!!!!」
真姫さんに指示で、飛び掛かってくるニャイキング。
侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」
「ウニャー」
空中に“サイコショック”のエネルギーキューブを作り出し、ニャイキングを牽制しながら、私はニャスパーを小脇に抱えて、穴に向かって滑り込む。
侑「リナちゃん!!」
リナ『うん!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナちゃんに声を掛けると、リナちゃんもすぐに私のもとへ飛んできて──全員穴に逃げ込んだことを確認すると同時に、
侑「イーブイ!! “すくすくボンバー”!」
「ブイッ!!!」
イーブイが穴の両脇に“すくすくボンバー”を植え付けた。
「ニ゙゙ャア゙ァァァァ!!!!!」
ニャイキングは爪を構えて突っ込んでくるが、
真姫「……! ニャイキング! 深追いしないで!」
「ニ゙ャア゙ァ…」
真姫さんはニャイキングを制止する。
それと同時に、樹は一気に成長し──ベルトコンベアを破壊しながらも、私たちが逃げ込んだ穴の口を塞いでくれた。
侑「はぁ……はぁ……」
相手の攻撃が強大とはいえ……あの野太い樹を切るのは一瞬では出来ないはずだ……。
しかも、“すくすくボンバー”は“やどりぎのタネ”……おいそれと手を出せば、体力を吸収されることになる。
恐らく真姫さんは“すくすくボンバー”の効果を知っていて、ニャイキングを止めたんだと思うけど……これで、時間は稼げるはずだ……。
中腰になりながら、穴を奥へ進んでいくと、視界が開け、
かすみ「──侑先輩ぃ……酷いですぅ……」
「テブ」
隣の部屋で、かすみちゃんがひっくり返った状態で不満を漏らしていた。
ちなみにテブリムは、ひっくり返ったかすみちゃんのお腹の上でふんぞり返っている。
侑「ごめんね、かすみちゃん……でも、ああするしかなくてさ……」
かすみ「うぅ……もちろん、かすみん許しますけどぉ……」
「テブリ」
「ウォー…」「……サ」「ブイ」
「ニャー」
侑「とりあえず、全員無事だね……」
リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||
ウォーグルもサニーゴも無事。
小脇に抱えたニャスパーも元気そうだし……殿のイーブイも問題なさそうだ。
でも……ここに留まっているのは危険かな……。
侑「ウォーグル……もうひと頑張りお願いできる?」
「ウォーー」
飛んでくるウォーグルの脚を掴み、
侑「かすみちゃんも」
かすみ「は、はい」
かすみちゃんもウォーグルの脚に掴まって、工場内を飛行しながら、ゆっくりと移動を開始する。
かすみ「……あの……真姫先輩のポケモンたち、強すぎませんか……? あの攻撃力とか、もはや意味わかんないですよ……?」
侑「レベルが違うっていうのはあるけど……一番大きいのはニャイキングがいるからだろうね」
かすみ「はぇ……? どういうことですか……?」
リナ『ニャイキングの特性は“はがねのせいしん”。自分と味方のはがねタイプの攻撃力を上げる特性だよ』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「えぇ!? そんなの聞いてないですぅ……」
侑「とはいえ、逃げてばっかりじゃ、どうやっても勝てない……」
かすみ「いっそ、奇襲して真姫先輩からバッジを奪っちゃいますか?」
リナ『それもありだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに、レベル差を埋めるには、真っ向から戦わないというのも一つの手ではある。
ただ……。
侑「それをするにも、問題はあるよね……」
かすみ「問題……ですか?」
侑「たぶん……真姫さんの方がこの工場には詳しいから、常に奇襲を受けにくい場所を選ぶと思うんだ」
今考えてみれば、真姫さんが試合開始直前に2階に上がったのも、有利な位置を取るためだろう。
改めて……相手が有利な戦場で戦うことの難しさを実感する。
かすみ「となると……真姫先輩、もう最初の場所から移動しちゃってますかね……」
侑「たぶんね……。この広いバトルフィールドの中で、あの場に留まり続ける理由もないだろうし……」
ウォーグルで飛行しながら、改めてこの廃工場を見渡してみる。
屋内は天井が高く、ウォーグルが自由に飛びまわってもほとんど問題ないくらいには高さが確保されている。
あちこちにベルトコンベアが走っており、ボロボロのものも多いけど……さっきみたいに通電すれば無理やり動かすことが出来るものもある。
真姫さんが上がっていた場所のように、点検用のキャットウォークもあちこちに張り巡らせており、この戦場はほぼ全域に渡って二層構造になっていると言ってもいい。
部屋はいくつかに分かれているけど……各部屋を繋ぐドアの前には瓦礫が崩れて通れなくなっていたりする場所もあり、どちらかといえばさっき私たちが逃げてきたような、ベルトコンベアの運搬路の方が無事な場所が多い。
リナ『セオリーで言うなら、高所を取った方がいいけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「じゃあ、2階で戦います……?」
確かに高所からの方が一方的な攻撃をしやすいけど……それは相手が下にいる場合の話だ。
侑「むしろ……2階だと遮蔽物が少ない分、逃げるのが難しいかもしれない……」
かすみ「むむ……確かにそれはそうですね……。……とにもかくにも……一度腰を落ち着けて作戦を考えたいですぅ……」
侑「あ……。あそことか、いいんじゃないかな」
私は大きな工場の端の方にコンテナを見つけて、そこに降り立ってみることにした。
床に無造作に置かれたコンテナは、扉が外れていて、簡単に中に入ることが出来そうだった。
かすみ「……うわー……おっきなコンテナですねぇ……」
リナ『これでモンスターボールを大量に運搬してたんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「だね……一旦ここで作戦を考えよう」
真姫さんがどれくらいこの工場を把握しているかはわからないけど……見晴らしのいい場所よりは、死角の少ない場所の方がいい。
もちろん、追い詰められたら逆に逃げ場がない場所だから、ずっと留まるつもりはないけど……。
かすみ「あのー……やっぱりかすみん、この試合はバッジを奪って勝つ方がいいと思うんですよ~……」
リナ『確かに……真っ向から戦うには、パワーに差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんの言うとおり、どう考えても相手が格上だ。真っ向から戦うのは無謀というのは間違いない。
だけど……。
侑「たぶん……やめた方がいいと思う」
かすみ「どうしてですか? バッジさえ手に入れちゃえば、こっちの勝ちじゃないですか! 真姫先輩がどうしてあんなにあまあまな人なのか知りませんけど……あえて、簡単に勝てる条件を付けてくれたんだから、それは利用するべきですよ!」
侑「うぅん、そうじゃなくてね。……なんで、そんな条件を出したのかってことを考えないといけないんじゃないかなって」
かすみ「……? どういうことですか?」
これは、私たちの実力を試すための戦いだ。
それなのに、何故わざわざそれを緩くする条件を付けるのだろうか?
私はそれが疑問だったけど……。
侑「私はジムバッジを奪わせるように誘導してるように感じる」
かすみ「誘導……?」
侑「実力差を見せつけられたときに、もし真っ向から戦わずに勝てる方法があったら……誰もがそっちに行っちゃうと思うんだ」
かすみ「……それはそうですね。かすみんもそう思っちゃいましたし」
侑「でもそれって逆に、真姫さんの視点からしたら、相手の目的を簡単に絞れるってことにもならない?」
かすみ「言われてみれば……」
侑「実力差がある中で、真っ向から倒すのが難しいのは確かにそうだけど……実力差がある相手が防御に集中したら、倒すよりも奪う方が難しいんじゃないかな……」
真姫さんはこの地方のジムリーダーの中でも、特に攻守速のバランスがよく、補助技の使い方もうまい。
戦い方は打算的で合理的で論理的だ。試合運びが上手で、セオリーを軸に将棋を指すような先読みで相手を制すタイプ。
なら、いかにも追い詰められた私たちがしそうな行動は特に読まれやすい。避けるべきだ。
むしろ……バッジを奪うことを勝利条件にしてきたこと自体が向こうの狙いに思えてくる……。
侑「奪えるなら奪ってもいいと思う。だけど、積極的に奪うことを考えて戦うのは……たぶん、通用しない」
かすみ「……じゃあ、どうします……? 奪わないにしても、真っ向から出て行って戦うわけにもいかないですし……」
侑「……うーん……」
それは確かにそうだ。
完全にパワーで負けている以上、大なり小なり奇襲を織り交ぜる必要はある。
かすみ「せめて、真姫先輩の居場所がわかればいいんですけど……」
侑「居場所……」
そこでふと、あることを思いつく。
侑「ねぇ、リナちゃん」
リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「真姫さんの居場所を探せるレーダーとかってあったりしない? 相手の所がわかれば、少しは有利に立ち回れると思うんだ」
リナ『……さすがにレーダーはない。けど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「けど?」
リナ『音さえあれば、エコーロケーションで、おおよその場所を探ることは出来るかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
かすみ「えこー……? なにそれ……?」
侑「音の響きで相手の位置を計算する方法……だよね?」
リナ『うん。反響定位ってやつ』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「リナ子ってそんなことも出来んの!? さすが高性能AI……」
侑「リナちゃん、お願いしてもいい? 出てきて、フィオネ」
「フィオ~」
フィオネはまだ生まれたばかりでレベルも低いから……今回バトルで使うことはないと思ってたけど、
侑「フィオネ、“ちょうおんぱ”!」
「フィオ~~」
音を出すことなら、この子にも出来る。
リナ『エコーロケーション開始!』 || > ◡ < ||
🍅 🍅 🍅
真姫「……さて、どこに隠れたのかしらね」
キャットウォークの上を歩きながら、隠れられそうな場所をチェックする。
もちろん、その際は奇襲出来る死角を作らないように、ポケモンと一緒に視界をカバーし合う。
──予定では……もう少し早くバッジを奪いに現れると思ったんだけど……。
真姫「……気付いたのかしらね」
もちろん、こんなものは相手を引き摺り出すための餌だ。
格上の攻撃を掻い潜りながら、トレーナーの懐に潜り込んで、バッジを奪うなんて現実的じゃない。
そのとき、ふと──耳に違和感を覚える。何か……高周波のような……。
真姫「……なるほど。そういうこと」
なかなか、面白い作戦で来るみたいね。
真姫「いいわ、相手してあげる──」
🎹 🎹 🎹
リナ『──測定中、ちょっと待ってね』 || > ◡ < ||
リナちゃんがエコーロケーションを行っているのを見守る中、私たちは次の動きの準備をする。
侑「場所がわかり次第動くよ、かすみちゃん」
かすみ「はい!」
いつでも飛び出せる準備をして、待っていたそのとき──キィィィィィィィ!!!!! と、金属をひっかくような不快音が、遠くから響いてくる。
侑「っ!!?」
かすみ「な、なんですか、この“いやなおと”……っ……!」
リナ『これは、まさに“いやなおと”と“きんぞくおん”……! こ、これじゃ、エコーロケーションが出来ない……!』 || × ᇫ × ||
まさか──
侑「こっちの作戦がバレた……!?」
私は一旦フィオネをボールに戻す。
侑「相手が動いてきた……! 一旦、隠れる場所を変えよう……!」
かすみ「は、はい」
が──直後、ゴゴゴゴッと地鳴りのような音が聞こえてくる。
かすみ「え!? な、何の音ですか!?」
侑「……!! 早く出よう!!」
何かヤバイと思い、かすみちゃんの手を取って走り出した直後──コンテナの出口から見える景色が回転を始めた。
侑「っ!?」
かすみ「わひゃぁっ!?」
いや、違う──回ってるのは……コンテナの方だ……!?
かすみ「じ、ジュカイン!! “グラスフィールド”っ!!」
「──カインッ!!!!」
かすみちゃんは咄嗟にジュカインを出しながら“グラスフィールド”を指示し、一瞬でコンテナ内部に草が敷き詰められる。
──程なくして、回転は収まった。
かすみ「ゆ、侑先輩……! 無事ですか!?」
「テ、テブゥ…」「……サ」
侑「な、なんとか……」
「ブ、ブィィ…」「ウォーグ…」「ニャー」
リナ『リナちゃんボード「おめめ、ぐるぐる……」』 || @ ᇫ @ ||
コンテナが大回転していたせいで、あちこちに身体を打ち付けたけど、“グラスフィールド”のお陰でダメージには至らなかった。
急いで、コンテナから逃げ出そうとするが──ザンッ!! と音を立てながら、コンテナの壁が切り裂かれ、外の光が差し込んでくる。
その隙間から覗く赤い鎧──
「──キザン」
侑「キリキザン……!!」
恐らく、さっきの“きんぞくおん”はこのキリキザンの、“いやなおと”はニャイキングのものだ。
そして、キリキザンの後ろには、メタグロスの姿も見える。
──恐らくコンテナを吹っ飛ばしたのはメタグロスだろう。
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーッ!!!」
こんな袋小路で戦うのは絶対に避けないといけない……!!
ウォーグルに指示を出し、かすみちゃんの腕を掴みながら、コンテナの外まで飛翔する──が、
「──デマルッ!!!」
侑「……!?」
コンテナから飛び出したウォーグルの上に──小さな何かが降ってきた。
真姫「──トゲデマル! “ほっぺすりすり”!」
「ゲデマー♪」
落ちてきたトゲデマルがウォーグルに頬ずりをすると──バチバチと、静電気のような音が鳴り、
「ウ、ウォォーー…ッ」
侑「うわぁ!?」
かすみ「え、ちょっ……!?」
飛翔しかけのウォーグルは一気に失速し──墜落した。
侑「つぅ……っ……!」
「ウ、ウォー…」
かすみ「こ、今度はなんですかぁ……!!」
急いで身を起こすと──ウォーグルが“まひ”して動けなくなっていた。
侑「一旦戻って、“ウォーグル”……!!」
「ウォー…──」
真姫「“びりびりちく──」
侑「ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
すぐさまライボルトをボールから出すと──
「ゲデマーー!!!?」
針をバチバチと鳴らしながら、トゲデマルがライボルトに引き寄せられてきた。
侑「“ほのおのキバ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトがキバに炎を滾らせながら、噛み付くが、
真姫「“ニードルガード”!!」
「ゲデマー!!!」
「ライボッ!!!?」
噛み付かれた瞬間、全身のトゲを伸ばしての反撃。
驚いたライボルトはトゲデマルを口から放してしまう。
「ラ、ライボ…」
侑「大丈夫だよ、ライボルト……!」
仕留めきることは出来なかったけど──ライボルトは、今フィールドに居ることに意味がある。
真姫「キリキザン、“メタルクロー”!!」
かすみ「ジュカイン、“リーフブレード”!!」
「キザンッ!!!!」
「カインッ!!!!」
斬りかかってくるキリキザンをジュカインが迎撃する。
2匹の刃がギィンッ!!と音を立てながら鍔迫り合う。
真姫「“ひらいしん”ね……。ライボルトが居る限り、トゲデマルのでんき技は使えない。……尤も、それはそっちも同じだけど」
リナ『侑さん、トゲデマルの特性も“ひらいしん”だよ……!』 ||;◐ ◡ ◐ ||
お互いのでんき技は“ひらいしん”のポケモンが居る限り引き寄せられてしまう。
いや、それはいいんだ……。
かすみ「ぎ、逆に見つかっちゃいましたよ、侑先輩……!」
見つかったというより──真姫さんはすでに私たちがいることがわかっていた。
メタグロスがコンテナを攻撃したことも、トゲデマルが降ってきたことも、真姫さんがすでに私たちがここにいると確信していたことを物語っている。
私たちのエコーロケーションを打ち消しながら、どうやって自分たちだけ──そこまで考えてハッとする。
侑「エコー……ロケーションだ……」
かすみ「え? そ、それはさっき失敗して……」
侑「違う……さっきの“いやなおと”と“きんぞくおん”で……真姫さんもエコーロケーションをしてたんだ……」
かすみ「えぇ……!?」
かすみちゃんの驚きの声と同時に──
「キザンッ!!!!」
「カインッ…ッ!!!」
ジュカインがキリキザンとの鍔迫り合いに力負けして、後退る。
かすみ「ジュカイン!? 大丈夫!?」
「カインッ…!!」
致命傷にこそなっていないみたいだけど……。
「メタァ…!!!!」「キザン…!!!」「ニ゙ャァ゙ァ゙ァ」
メタグロス、キリキザン、ニャイキングに囲まれた……!
しかも、その3匹の背後には、
「ゲデマッ」
トゲデマルが構えている……。ライボルトがやられると、めでたく電撃による遠距離攻撃まで解禁されることになる。
ライボルトは死守しないと……。
真姫「エコーロケーション……なかなか面白いことするじゃない」
そんな中、真姫さんが話しかけてくる。
真姫「でもね、エコーロケーションが出来るのは自分たちだけだって思うのは……少し考えが甘かったわね」
かすみ「え……で、でも真姫先輩にはリナ子みたいなAIとかいないでしょ……!?」
侑「メタグロスだ……」
かすみ「え?」
侑「メタグロスは4つの脳でスーパーコンピューター並の計算が出来る……エコーロケーションで場所を探るなんて、わけない……」
真姫「正解。しかも、メタグロスは“クリアボディ”で“いやなおと”や“きんぞくおん”による能力低下もない。貴方たち以上に適性があるのはこっちだったみたいね」
完全に相手が上手だ……。
囲まれているし、気付けば後ろは壁だ……。
真姫「さぁ、どうする?」
ジリジリと間合いを詰めてくる真姫さん。
……こうなってしまったら、もうやるしかない……!
侑「ドロンチ!!」
「──ロンチ!!」
ドロンチはボールから飛び出すと同時に前方に飛び出し、
侑「“ワイドブレイカー”!!」
「ロンチッ!!!!」
大きく尻尾を振るって、
「キザンッ!!!」「ニ゙ャア゙ァッ!!?」「メタ…」
3匹のポケモンを薙ぎ払う。
“ワイドブレイカー”は強靭な尻尾で相手を振り払い、攻撃の手を止めさせる技だ。
しかも不意の攻撃だったため、キリキザンとニャイキングは、怯ませられたが、
「メタァッ…!!!!」
この効果も“クリアボディ”のメタグロスには効かない。
──メタグロスが腕を振り上げた、その瞬間、
「……メタッ!!!?」
──メタグロスの足の一本が、床に沈み込んだ。
侑「え!?」
真姫「な……!?」
さすがに、これは真姫さんも予想外だったらしく、当惑の声をあげる。
かくいう私も驚いてしまったけど……。
今落ちたメタグロスの足元から──
「クマァ♪」
ジグザグマが顔を出し、やっと意味がわかった。
かすみ「よくやりましたよ!! ジグザグマ!!」
「クマァ~♪」
かすみちゃんはいつの間にかジグザグマに“あなをほる”を指示して床下に忍ばせ──メタグロスの足元を掘らせていたんだ……!
かすみ「そのでかい図体じゃ、足元をちょっと掘りぬけば、自分の重さで落っこちるに決まってます!!」
相手の包囲網に──穴が出来た……!
逃げるなら今しかない……!!
侑「ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトが、私の合図で走り出す。私はその背に飛び乗る。
──直後、爆発的なスピードでライボルトが猛ダッシュし、身動きの取れないメタグロスの真横をすり抜ける。
かすみ「ジュカイン!! 逃げますよ!!」
「カインッ!!」
かすみちゃんも、ジュカインに抱きかかえられる形で──包囲網の穴を飛び出して行く。
が、
真姫「“じしん”!!」
「メッタァァ!!!!!!」
──床にはまった腕でメタグロスが、“じしん”を起こしてきた。
その大揺れによって、猛スピードで走っていたライボルトは、
「ライボッ!!!?」
侑「うわぁっ!!?」
バランスを崩してしまい、その拍子に私も放り出され、床を転がる。
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
かすみ「侑先輩!?」
リナちゃんとかすみちゃんが、私に近寄ってくる。
侑「だ、大丈夫……ちょっと擦りむいたくらいだから……!」
リナ『ほ……っ』 || >ᆷ< ||
かすみ「ちょっとぉ!! 味方巻き込んでまで、逃がさないために“じしん”とかしますか!?」
──かすみちゃんの言うとおり、“じしん”は味方も巻き込む技だ。
その証拠に、
「ニ゙ャア゙ァ…!!」
「キザンッ…!!!」
ニャイキングとキリキザンは、バランスを崩して手をついていた。
もちろん、すぐに立ち上がったけど──きっとあの至近距離だ。“じしん”によるダメージは少なからずあったはずだ。
ちなみにトゲデマルは“ニードルガード”で丸まって防いでいる。
真姫「逃がすくらいなら、ここで味方を巻き込んででも止めた方が早いと思っただけよ」
かすみ「ぐぬぬ……」
かすみちゃんは不満そうな目で睨みつけているけど……真姫さんの判断は間違っていない。
「…ライボ」
お陰でじめんタイプが弱点のライボルトは満身創痍。
侑「ライボルト、ボールに戻って……!」
「ライボ──」
戦闘不能はギリギリ免れたけど……この状態で私を乗せて走り回るのは恐らく無理……。
つまり、逃げるための足を失ってしまった状態だ。
真姫「これで……チェックかしらね」
かすみ「ジュカイン……!!」
「カインッ!!!」
ジュカインが刃を構えながら、身を屈める。そのとき、ふと──上の方の窓から、僅かに光が差していることに気付く。
真姫「最後の一撃かしら?」
かすみ「……」
かすみちゃんは恐らく──“ソーラーブレード”の太陽エネルギーを集めている。
真姫さんは……まだ、気付いてない……。
なら、気付かれないように、私が時間を稼ぐ……!!
侑「ドロンチ!! “りゅうのはどう”!!」
「ローーンチッ!!!!!!」
ドロンチが“りゅうのはどう”をキリキザンに放つ。
キリキザンは──
「キザンッ!!!!」
真っ向から刃で“りゅうのはどう”を斬り伏せる。
キリキザンが受け止めている中、
「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァァ!!!!」
ニャイキングがこちらに向かって飛び出してくる。
侑「ニャスパー!! パワー最大!! “サイコキネシス”!!」
「ウーーーニャァァァァ」
耳を真っすぐ立てて──ニャスパーがサイコパワーを前方に向かって放つと、
「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァ…!!!!」
ニャイキングがそのエネルギーに押されて吹っ飛びそうになる──が、ニャイキングは自分の爪を床に突き刺して耐える。
耐えられてしまっているだけど──これくらい時間を稼げば十分だ……!
かすみ「……ジュカインっ!!」
「──カインッ!!!!」
ジュカインの腕が光り輝く。
──“ソーラーブレード”のチャージが完了した。
反撃の狼煙を上げるために、ジュカインが腕を振り上げようとした瞬間、
真姫「──“ソーラーブレード”のチャージをしてること……私が気付いてないと思ったの?」
物陰から、ジュカインに向かって一直線に──青白いビームが飛んできた。
かすみ「!?」
そのビームが直撃した、ジュカインは──“ソーラーブレード”を構えたまま……凍り付いていた。
かすみ「う、うそ……」
侑「“れいとう……ビーム”……?」
真姫「……ええ、そのとおりよ」
真姫さんの言葉と共に──工場内の機械の物陰から、
「エンペ…」
エンペルトが顔を出した。
真姫「……チェックメイトよ」
かすみ「…………」
かすみちゃんがぺたんと……その場にへたり込む。
かすみちゃんの絶対的エースの必殺技を──封殺された。
真姫「それが最後の望みだったんでしょ? それが不発に終わった今……貴方たちはもう終わりよ。降参しなさい」
相手は……私たちの心を折りに来ていた。
考えてみればこのバトル──私たちの敗北条件は私たちトレーナーが戦闘続行が出来なくなることだ。
でもそれは裏を返せば、1匹でもポケモンを残して諦めずに逃げ回れば、いつまで経っても戦闘は終わらないという意味でもある。
だから、真姫さんは……最初から心を折ることで、諦めさせることで勝利しようとしていた。
いや、バトルの中だけの話じゃない──そうしないと、私たちは歩夢たちを助けることを諦めたりしないってわかってるから。
侑「…………」
ダメ……なのかな……。……私たちじゃ……やっぱり、届かない……。
そう思い、諦めかけた、そのとき──
かすみ「──ヤブクロン」
「ブクロン」
かすみちゃんがヤブクロンをボールから出した。
かすみ「“どくガス”!!」
「ブクローー!!!!」
ヤブクロンは一気に“どくガス”を吐き出し── 一気に周囲に充満していく。
真姫「“どくガス”……? はがねタイプには効かないわよ」
かすみ「ありったけの“どくガス”吐き出して……!! げほっ……!! 今体内にある毒全部使っていいから……!! げほっ、ごほっ……!!」
かすみちゃんはヤブクロンに指示を出しながら、口元にハンカチを当て、咳き込んでいる。
侑「かすみちゃん……!? 何を……ごほっ、げほっ!!」
かすみ「侑先輩……げほっ、げほっ……!! あんま、喋っちゃ、げほっ! ダメです……! “どくガス”、吸い込んじゃいます……げほっ……!!」
真姫「まさか……捨て身の“どくガス”でトレーナーを気絶させるつもり……!?」
真姫さんもハンカチを取り出して、口元を覆う。
かすみ「さぁ……根比べですよ……!! げほっ、げほっ……!!」
真姫「……ここまで、馬鹿な子だと思わなかった……!! キリキザン!! ニャイキング!!」
「キザンッ!!!」「ニ゙ャァ゙ァ!!!」
キリキザンとニャイキングがヤブクロンを止めようと飛び出してくる。
かすみ「サニーゴ!! キリキザンに“かなしばり”!! げほっ……! テブ、リムッ!! ニャイキングに“サイコショック”……!! ごほっごほっ!!」
「サ……」「テブ…ッ!!!」
「キザンッ!!!?」「ニ゙ャァ゙ァ…!!?」
キリキザンをその場で縛り付け、ニャイキングを牽制する。
かすみ「どう、したんです、か……げほっげほっ……指示が雑に、なってます、よ……!! げほっごほっ!!」
真姫「っ……こんな馬鹿なこと、げほっ……! 今すぐ、やめなさい……っ!! こんなことしても、貴方たちは、勝てない……げほっ……!」
かすみ「いーや……!! これは、げほっげほっ……! 勝ちへの、一歩です……っ……げほっ……!」
気付けば周囲には完全に“どくガス”が充満しきり、あまりの濃度のせいか、霧がかって見えるほどだ。
かすみ「げほっ、げほげほっごほっ……!!」
侑「かすみちゃん……っ……!! もう、やめよう……!! このままじゃ、かすみちゃんが……っ……げほっげほっ……」
私がかすみちゃんの肩を掴みながら制止すると──
かすみ「──侑先輩、かすみんが合図したら、ニャスパー抱えて、後ろに猛ダッシュしてください」
かすみちゃんは私にだけ聞こえる声量で、そう伝えてきた。
侑「……!」
かすみちゃんの横顔から見た瞳は──まだ死んでいなかった。
かすみちゃんには──何か策があるんだ。
リナ『ゆ、侑さん……侑さんのポケモンも、かすみちゃんのポケモンも、みんな“どく”状態になっちゃった……侑さんたちも、このままじゃ……』 || 𝅝• _ • ||
侑「大丈夫……」
リナ『侑さん……?』 || 𝅝• _ • ||
侑「私は……かすみちゃんを……信じる……っ……ニャスパー、おいで……!」
「ニャァ…」
私は言われたとおり、ニャスパーをすぐに抱えられる位置まで呼び戻す。
かすみ「さっすが……かすみんの大好きな侑先輩、です……っ……!」
かすみちゃんはそう言うと同時に──口元からハンカチを外して、
かすみ「テブリムッ!! サニーゴに向かって、“ぶんまわす”!!」
そう指示を出した。
真姫「はぁ!?」
「テーーブッ!!!!」
「……サ」
テブリムが頭の房をぶん回して──サニーゴを敵の方に向かって、殴り飛ばした。
そして、それと同時に──
「ヤブッ!!!!」
ヤブクロンも敵陣に向かって走り出す。
かすみ「侑先輩!! 今です!!」
侑「う、うん!! イーブイ!! 私から離れないでね!!」
「ブイィ…」
侑「行くよ、ニャスパー!!」
「ニャァ…」
私はニャスパーを抱きかかえて、後ろに向かって走り出す。
真姫「な、なに!?」
かすみ「“どくガス”で根比べ? そんなことしませんよ……!! 今からするのは──ドッキリ爆発大脱出です……!」
真姫「……!? ま、まさか……!?」
かすみ「テブリム!!! 着火ぁっ!!!」
「テーーーブッ!!!!!」
テブリムが“マジカルフレイム”を飛ばすのと同時に──敵陣のど真ん中に飛び込んだ、サニーゴとヤブクロンがカッと光る。
かすみ「“じばく”!!」
真姫「……!!」
テブリムの出した炎が大量の“どくガス”に引火し、さらに2匹の“じばく”を合わせ──とんでもない威力の大爆発へと昇華する。
至近距離で起こった爆発の衝撃波が、爆音と一緒に屋内を劈きながら周囲の工場機械を吹っ飛ばし、爆炎をまき散らして、膨れ上がっていく。
侑「わぁっ!!?」
「イブイッ…!!!」
リナ『わあぁぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||
私もその爆風で身体が浮き上がり、吹っ飛んでいく。
そんな中で、
かすみ「ゆうせんぱあぁぁぁぁぁいっ!!!!」
かすみちゃんも爆風によって、吹き飛んでくる。
かすみ「フィオネとぉーー!!!! ニャスパーーーー!!!!」
侑「!!」
私は空中でフィオネのボールの開閉ボタンを押し込む。
「フィオーー!!」
侑「フィオネ!! “みずでっぽう”!!」
「フィオーー」
フィオネが口から水を噴き出し、
侑「ニャスパー!! “テレキネシス”!!」
「ニャァーー!!!」
ニャスパーが私たちと──フィオネの出した水を浮き上がらせる。
かすみ「テブリムっ!! “サイコキネシス”!!」
「テブッ!!!」
そして、かすみちゃんと一緒に飛んできたテブリムが──浮かせた水の塊を球状に整形していく。
侑「かすみちゃん……!!」
かすみ「侑先輩……!!」
私は空中でかすみちゃんに手を伸ばして──掴んだ。
そのまま、どうにか手繰り寄せて── 一緒に水球の中に、ザブンと飛び込んだ。
──程なくして、私たちは爆風に煽られながら──水球と共に落下していった。
🍅 🍅 🍅
真姫「──……はぁ……はぁ……!」
「エンペ…!!」
真姫「ありがとう……エンペルト……」
「エンペ…」
あのとんでもない爆炎の中、エンペルトの“みずのはどう”と、メタグロスが最後の力を振り絞って、盾になってくれた。
真姫「“どくガス”をめいっぱい充満させて……ほのお技で着火……。その炎を2匹の“じばく”でさらに大規模な爆発に……意味わかんない……あの、かすみって子……おかしいんじゃないの……」
お陰で建物は半壊し、壁や天井は吹き飛んで、太陽の光が降り注いでいる。
至近距離で爆炎を食らった、ニャイキング、キリキザン、トゲデマルも戦闘不能だ。
皮肉なことに……氷漬けにしたジュカインは凍ったまま、そこらへんに転がっていた。あの爆炎の中、溶けもしないなんて、私の最初のパートナーの技がいかに強力なのかを実感するばかりだ。
そしてそんなエンペルトが自己判断で、瞬時に消火を行ってくれたからよかったけど……強力なみずポケモンがいなかったら、危うく大惨事になるところだった。
真姫「……ジム戦なのに、死人が出てもおかしくないわよ……?」
──いや……。
あの子たちは……友達を助けるために、命を懸けている……そういう意志の表れなのかもしれない。
真姫「……いいわ……やってやろうじゃない……」
私は6匹目のボールを放る。
「──ハッサムッ!!!」
真姫「ハッサム……メガシンカよ!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが眩い光に包まれ──丸みを帯びていた体のパーツが直線的になり、両腕のハサミは複数のトゲを持つ巨大なものになる。
真姫「ハッサム、エンペルト……あの子たちに、見せてやるわよ……ジムリーダーの本気を……!!」
「ハッサムッ!!!」「エンペ!!!」
🎹 🎹 🎹
侑「はぁ……はぁ……」
かすみ「はぁ……はぁ……し……死ぬかと……思いました……げほっげほっ……」
侑「ホント……無茶、するよ……ごほっ……」
リナ『二人とも……毒が……』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「大丈夫です……そんなに吸い込んでない、つもりです……ごほっごほっ……」
確かに咳き込みはするけど、とりあえず今のところ、意識には問題がない。
かすみ「まだ……戦えます……!」
侑「うん……! けほっけほっ……」
リナ『でも、二人の手持ち……状態異常だらけ……』 || 𝅝• _ • ||
リナちゃんの言うとおり、手持ちはボロボロの状態だ。
イーブイ、ドロンチ、フィオネ、ニャスパー、テブリムが“どく”状態。
ウォーグルは“まひ”していて……。
ヤブクロン、サニーゴは戦闘不能。ライボルトは戦闘不能寸前……。
あと……ジグザグマは……。
キョロキョロと辺りを見回していると──もこっと床が盛り上がり、
「クマァ♪」
ジグザグマが顔を出す。
かすみ「ジグザグマ……! 咄嗟に潜って逃げたんですね……偉いですよ~……!」
「クマァ…♪」
地面の中にいたからか、“どくガス”も吸っていない様子だった。
侑「となると……無傷なのは、かすみちゃんのジグザグマとゾロア……」
かすみ「ですね……ジュカインは、どうなったかわかりませんけど……凍ったままか……。……むしろ氷が溶けてたら、戦闘不能かもしれませんね……」
侑「そうだね……」
かすみちゃんの機転というか……無茶無謀のお陰で、どうにかあの場を切り抜けることは出来たけど……まだ、真姫さんは切り札を出していない。
それに脱出出来たというだけで、こっちは手持ちがほぼ満身創痍……。
かすみ「テブリム、“いのちのしずく”」
「テブー」
テブリムが周りのポケモンたちに不思議な水を振り撒く。
かすみ「これで気持ち回復したと思います!」
侑「うん……ありがとう」
本当に気持ちだけど……。“どく”状態は継続しているし、テブリム含めて倒れるのも時間の問題だ。
そんな中、
かすみ「“マジカルシャイン”」
「テブ」
ぽわ~と控えめな“マジカルシャイン”がテブリムの頭の上で光る。
侑「かすみちゃん……? どうしたの急に……」
かすみ「なんかフェアリーの光って可愛いじゃないですか~。侑先輩も~かすみんの可愛さでポケモンたちと一緒に癒されてください~♪」
侑「あはは♪ ありがとう、かすみちゃん♪」
確かに、フェアリータイプの光は優しい感じがして気分が落ち着く。
なんというか……こういうときに癒しを意識するのはかすみちゃんらしい配慮かもしれない。
お陰で、少し肩の力が抜けた気がした。
「ブイ」
イーブイもじーっと光を見つめている。
侑「イーブイもこの光、好き?」
「ブイ」
かすみ「ふっふ~ん♪ 可愛い大先生のかすみんならではの癒しですね!」
リナ『その調子で本当に回復出来たらいいのに』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「あはは……」
さて……休憩もそこそこにしないと……ゆっくりしている場合じゃないんだ。
真姫さんもじきに私たちを追ってくるだろう。
侑「かすみちゃん、行こう……!」
かすみ「はい……! ここまでやったんです! 絶対勝ちますよ!」
侑「うん!」
私たちが立ち上がり、真姫さんがいるであろう方向へと歩き出すと、ポケモンたちもぞろぞろと付いてくる。
「ロンチ」「ニャー」「フィオ」「テブリ!!」「クマァ♪」
侑「……あれ? イーブイは?」
キョロキョロと見回すと──
「ブイ」
イーブイは未だに、テブリムの出した“マジカルシャイン”を見つめていた。
もう徐々に光が弱まり……線香花火の最後みたいになってるけど。
侑「イーブイ、行くよ?」
「ブイ」
でも、イーブイは振り向かない。
侑「イーブイ……?」
あろうことはイーブイは──
「ブイ」
パクリと、“マジカルシャイン”の残り火を──食べた。
侑「え!?」
それと同時に──
「ブーーーィィ♪」
イーブイの目の前にパステルカラーの旋風が発生した。
かすみ「……!? え、なんですかなんですか……!?」
侑「わ、わかんない……」
その旋風は──周囲に光る花びらを舞い踊らせ、一気に廃工場の中がファンシーな雰囲気に包まれる。
それと同時に──
侑「……あ、あれ……?」
かすみ「……息苦しさが……なくなった……?」
毒が回って息苦しかったはずなのに──急に呼吸が楽になった。
それだけでなく、
「ロンチ~」「ニャ~」「フィオ~♪」「テブリ?」
ポケモンたちの鳴き声も元気なものに戻っていた。
かすみ「い、一体さっきのは……?」
侑「……まさか」
私がリナちゃんの方を見ると、
リナ『……“相棒わざ”……まさか、“マジカルシャイン”を食べたことが原因で覚えるなんて……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんも驚いていた。
侑「……状態異常を回復する、“相棒わざ”……?」
リナ『うん! “相棒わざ”、“きらきらストーム”だよ! フェアリータイプのエネルギーにイーブイが適応したみたい!』 || > ◡ < ||
かすみ「新技ってことですか!?」
侑「うん……! かすみちゃんのお陰だよ!」
かすみ「え、えへへ~……♪ かすみんとテブリムの可愛いパワー、イーブイにも伝わっちゃったんですかね~♪」
「ブイ♪」
かすみちゃんは嬉しそうにイーブイを抱きしめるとイーブイも嬉しそうに返事をする。
もしかしたら──本当にかすみちゃんたちの可愛いが届いて、イーブイが新しい技に目覚めたのかもしれない。
そんな風に思えてしまうくらい、私たちにとって、このタイミングで本当に欲しかった技を覚えてくれた。
かすみ「侑先輩……! かすみん、ちょっと良い作戦思いついちゃいましたよ!」
侑「私も……! この戦い……勝てるかもしれない……!」
かすみ「えへへ……見えてきましたね、勝利への道が!」
侑「うん!」
私たちは決戦に向けて、最後の作戦会議を始めた。
🍅 🍅 🍅
「──ハッサムッ!!!!」
──ガシャンッ!! と音を立てながら、ハッサムが工場の機械を破壊して道を作る。
真姫「……ここにもいない」
工場の地図は頭の中に入っている。ハッサムで隠れられそうな場所を適宜破壊しながら進んでいるから、そろそろ隠れる場所もなくなってきたはず……。
真姫「次会ったときが最後よ……」
また一つ──ガシャンッ! と機械を大きなハサミで殴り飛ばしながら、視界を確保すると──前方に人影が見えた。
真姫「……見つけた」
特徴的なアシンメントリーのショートボブ──かすみだ。
かすみ「……!」
かすみは私に気付くと、たたたっと走り出す。
真姫「ポケモンも出さずに余裕ね? 偵察ってわけ? エンペルト、“ハイドロポンプ”!!」
「エンペーーーッ!!!!」
エンペルトが激流を発射し、かすみを狙うが、
かすみ「……!!」
かすみはピョンと跳ねて、攻撃を回避しながら、ベルトコンベアの上に乗り、隣の部屋に繋がる穴へと走り出す。
真姫「ちょこまかと……!」
でも、あの先は──ドアが崩れていて、出入り口があのベルトコンベアの運搬口しかない。
かすみ「…………!!」
必死に逃げるかすみが、穴に滑り込んでいくのを見て、かすみが脱落したことを悟る。
真姫「まさに、袋のネズミね……」
かすみが逃げ込んだ穴の前に立ち、
真姫「観念しなさい。もう逃げ場はないわよ」
声を掛ける。
真姫「降参するなら、これ以上攻撃しないけど……まあ、降参なんてしないわよね。ハッサム! “つるぎのまい”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが攻撃力を上げる舞を踊る。
ただでさえ、メガシンカしてパワーが上がっている中でさらに強化された攻撃で一気に両断する──
真姫「“シザー──」
指示と共に、ハッサムがハサミを振りかぶった瞬間──
かすみ「──“しっとのほのお”!!」
真姫「……!?」
かすみの指示の声と共に──穴から炎が溢れ出してくる。
「エンペーーーッ!!!!」
エンペルトが咄嗟に“ハイドロポンプ”で消火したため、ダメージは全くないが──問題はそこじゃない。
問題は、かすみの声が聞こえてきた方向だ。かすみの声は──上から聞こえてきた。
直後、
「──ウォーーーーーーッ!!!!!!!」
「エンペッ!!!?」
真姫「なっ……!?」
エンペルトの真上にウォーグルが強襲してきた。
侑「──ウォーグル!! “フリーフォール”!!」
「ウォーーーーーッ!!!!!」
そして、上から侑の声。
それと同時に、
「エンペッ!!!!?」
エンペルトが上空に連れ去られる。
それと同時に、声がしてきた方に顔を向けると──キャットウォークを走りながら、侑がウォーグルに指示を出しているのが目に入る。
なんで、ウォーグルが……!? “まひ”していたんじゃ……!?
真姫「……く、ハッサム!!」
いや、ウォーグルが回復している理由を考えている場合じゃない……!
ハッサムは遠距離技は得意じゃないけど……このまま、エンペルトを連れ去られるわけにはいかない……!!
ハッサムに技の姿勢を取らせようとした瞬間、
かすみ?「…ニシシ」
かすみが、さっき逃げ込んだベルトコンベアの穴から顔を出し、
かすみ「──“ナイトバースト”!!」
かすみ?「ガーーゥゥッ!!!!!」
真姫「!?」
黒いオーラを放ってきた──
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが咄嗟に私を庇うように前に出て、オーラを切り裂くが──
真姫「まさか、下にいるのは、かすみじゃない……!?」
かすみ「今更気付いても遅いですよ!! ジュカイン!!」
「──カインッ!!!」
真姫「ジュカイン!?」
さっき凍って転がっているのを確認したはずのジュカインが──腕に光を蓄えながら、頭上のキャットウォークを踏み切ったところだった。
侑「かすみちゃん、お願い!!」
かすみ「任せてください!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「エンペッ!!!?」
ウォーグルが上空で、持ち上げたエンペルトを放す──そして、それに合わせて横向きに薙がれる、特大の光の剣。
かすみ「“ソーラーブレード”!!」
「ジュカイィンッ!!!!!」
「エン、ペェッ…!!!!!!」
特大の陽光剣はエンペルトを斬り裂きながら、工場の壁に叩きつけた。
真姫「エンペルト……!!」
完全にクリーンヒット。強烈な攻撃を防御出来ない体勢で貰ったエンペルトは、
「エン、ペ…」
気絶して、床に墜落した。
真姫「……」
そして、気付けば、私とハッサムは──
「テブリッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」「カインッ!!!!」
「ウニャァ~」「ロンチィ…」「イブイッ」
侑とかすみのポケモンに囲まれていた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「さぁ、もう逃げられませんよ……!」
侑「形勢、逆転です……!」
「ウォーーーッ!!!!」
かすみちゃんと一緒に、ウォーグルの足に掴まって、真姫さんとメガハッサムがいる1階へと降り立つ。
真姫「……ふふ、一体どんなトリックを使ったのかしら……」
真姫さんは呆れているのか、感心しているのか……含むように笑う。
──私たちが取った作戦はこうだ。
まず、“イリュージョン”でかすみちゃんの姿になったゾロアが、真姫さんの注意を引く。
その隙に、“きらきらストーム”で“まひ”を回復したウォーグルで天井スレスレを飛び、ジュカインの場所へ。
氷漬けだったジュカインの“こおり”状態も回復して──大技“ソーラーブレード”でエンペルトを仕留める。
真姫さんからしたら、動けなくしたはずのポケモンたちからの不意打ち。
真姫さんも完璧に意識の外からの攻撃に対応しきれず、エンペルトを撃破することが出来た。
そして、エンペルトを倒しきれば──あとは真姫さんの切り札、メガハッサムだけだ……!
かすみ「いくら真姫先輩が強いって言っても……7対1で勝てますか!?」
真姫「確かに貴方たちの戦い方には驚かされるわ……でも」
真姫さんは肩を竦めながら言う。……が、真姫さんの目は追い詰められている側どころか、
真姫「たかが7匹で──私の切り札を倒せると思ってるの?」
まだ狩る側の目をしていた。
真姫「──“バレットパンチ”!!」
「サムッ!!!!」
「ガゥッ!!!?」
侑「!?」
かすみ「はやっ!!?」
一瞬で、弾丸のようなパンチが、ゾロアを殴り飛ばす──
侑「ドロンチ!! “かえんほうしゃ”!!」
「ローーーンチィィィ!!!!!」
相手が動き出す前に、ドロンチが“かえんほうしゃ”を噴き出す。
メガハッサムははがね・むしタイプ……! 当たれば間違いなく大きなダメージなる……!
が、
真姫「“きりばらい”!!」
「ハッサムッ!!!!」
メガハッサムが翼を高速で羽ばたかせると──それによって巻き起こった風で、“かえんほうしゃ”を霧のように吹き飛ばす。
リナ『“きりばらい”で炎をかき消した!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、嘘でしょ!?」
かすみ「なら……!! これなら、どうですか!!」
「──テブリッ!!!!」
跳躍したテブリムが頭の房を、組むようにして合わせ、
かすみ「“ぶんまわす”!!」
「テブリィッ!!!!」
身体を縦回転させながら──ゴォンッ!! と音を立てながら、ハッサムの脳天に叩きつけた。
「…ハッサムッ」
が、ハッサムまるで意にも介しておらず。
ハサミでテブリムを掴んで──乱暴に床に叩きつけた。
「テブ…リィッ…!!」
かすみ「テブリム……!!」
侑「く……! ニャスパー!! パワー全開!!」
「ウニャァッ」
ニャスパーが耳を開けて、サイコパワーを叩きつけようとした瞬間、
真姫「“しんくうは”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムの腕が見えなくなるようなスピードで振られ──
「ニャッ!!?」
次の瞬間には、ニャスパーが吹っ飛ばされていた。
侑「ニャスパー!?」
真姫「……パワーも耐久もスピードも……足りてないわ」
侑「く……っ……ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
「ウォーーーッ!!!!」
かすみ「ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
「カインッ!!!!」
ウォーグルが上空から頭部を、ジュカインが地上を滑るようにして刃を構えながら腰部を狙うが、
「──ハッサムッ!!!!」
ハッサムの大きな両腕のハサミでウォーグルとジュカインをそれぞれ掴み、
真姫「“カウンター”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「ウォーーッ!!!?」
「カインッ!!!?」
2匹の勢いを使って、そのまま床に叩きつけた。
そして、地に伏せった2匹に向かって、
真姫「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!!」
弾丸のような拳を連打してくる。
侑「う、ウォーグル!!」
かすみ「ジュカインっ!?」
「ウ、ウォーー…」
「カインッ…」
倒れるウォーグルとジュカイン。直後、メガハッサムの背後で──ユラリと影が現れた。
「──ロンチィ!!!!」
真姫「……“つじぎり”!」
「サムッ!!!!」
「ロ、ン…ッ!!?」
侑「……!」
真姫「……どさくさに紛れて“ゴーストダイブ”していたの……気付いてたわよ」
侑「……っ……」
“ゴーストダイブ”による奇襲もあっさり看破され、ドロンチが崩れ落ちる。
気付けば、7匹いたはずの私たちの手持ちは──あっという間にイーブイだけになってしまった。
侑「つ、強い……」
かすみ「というか、強すぎますよ……!?」
真姫「いいえ……むしろ、本気の私を……よく最後の1匹まで追い詰めたと思うわ。本当にすごい」
真姫さんは私とかすみちゃんの顔を順に見ながら言う。
真姫「ただ、貴方たちの敗因は……エンペルトを倒した時点で、もう一度逃げなかったことよ」
侑「…………」
かすみ「ぐ、ぬぬぬ……さすがに7匹いればいけると思ったのに……」
真姫「追い詰めた側って言うのは……肝心なところで詰めを誤るものよ」
かすみ「じゃあ、その言葉……そっくりそのまま、お返ししますよ!!」
かすみちゃんの声と共に──
「クマァッ!!!!」
メガハッサムの足元から、“あなをほる”でジグザグマが飛び出す。
「フィオ~!!」
そして、その尻尾にはフィオネがしがみついていた。
ジグザグマが掘り進んだ穴を一緒に進み──地面をこれでもかと湿らせて、泥にした……!
かすみ「“マッドショット”っ!!」
「クーーマァァッ!!!!」
地面の中から、メガハッサムに泥を浴びせかける。
“マッドショット”はメガハッサムに纏わりつき──動きを鈍らせる。
そこに向かって、
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥーーーイィッ!!!!!」
全身に炎を纏ったイーブイの攻撃が──直撃した。
かすみ「へっへーん! どうですか!」
侑「……これなら……!」
真姫「……確かに……真っ向からハッサムを倒すなら、強力なほのおタイプの技を直撃させる。正しい判断よ。セオリー通りで私好みな詰め方。……だけどね──」
「──ハッサムッ!!!」
ハッサムはハサミを盾のようにして、燃え盛るイーブイの体を受け止めていた。
侑「……う、うそ……」
かすみ「倒れて……ない……?」
真姫「……残念だけど、レベルが違いすぎるわ」
そしてハッサムはそのまま、大きなハサミを乱暴に振り回し始め──
真姫「“ぶんまわす”は……こうやって使うのよ」
「──ハッサムッ!!!!!」
「ブイィッ…!!!」「ク、クマァッ!!!?」「フ、フィォォ…!!!」
私たちのポケモンを圧倒する。
かすみ「……じ、ジグザグマ……」
真姫「……勝負、あったわね」
侑「……まだです」
「ブ、ブィィ…」
満身創痍のイーブイが立ち上がる。
真姫「……大したガッツね」
「ハッサムッ!!!!」
メガハッサムがトドメのために腕を引いた瞬間──
「──ライボォッ!!!!!」
メガハッサムの背後から、ライボルトが猛スピードで“ワイルドボルト”を炸裂させた。
「ッサムッ…!!!」
真姫「……!」
そして、攻撃がインパクトした瞬間に──
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブーーーーィィィッ!!!!!」
イーブイが“びりびりエレキ”を放つ。
もちろん、放たれた電撃は──ライボルトの“ひらいしん”に吸い寄せられる。
背後から突進しているライボルトとイーブイの間には──メガハッサムがいる!!
位置関係的に、絶対に避けられない──必中の雷撃!!
「ハ、ッサムッ!!!!!」
──バチバチと音を立てながら、稲妻が迸り、メガハッサムはさすがに耐えきれず──
「──ハ、ッサムッ!!!!!」
侑「!?」
ハッサムは翼を高速で振動させ、
「ライボッ!!!?」
ライボルトを弾き飛ばした。
侑「ライボルト!?」
「ラ、ライボッ…!!!」
ライボルトはすぐに受け身を取って立ち上がる。
あくまで咄嗟に追い払うためのものだったのか、ダメージこそほとんどなかったが──
かすみ「まだ、耐えるんですか!?」
侑「……っ……! ライボルト、こっちに!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトは、脚の筋肉を電気で刺激し、稲妻のような速度で真姫さんたちの周りを迂回しながら、私のもとへと戻ってくる。
真姫「奇襲に奇襲を重ねて……最後の最後に、さらに奇襲を残していたってわけね……まさか、手負いのライボルトを最後の手段に残しておくのは予想出来なかったわ」
侑「…………」
真姫「でも、もうさすがにネタ切れでしょう?」
「ハッサムッ…!!!」
ハッサムがハサミを構える。
真姫「ハッサム、“バレット──」
かすみ「ストーーーーップッ!!!」
かすみちゃんが大きな声を出して、真姫さんを制止した。
真姫「……」
かすみ「……試合は……ここまでです」
真姫「……降参ってことね。わかった」
真姫さんが、やっとか……と言った表情をする。
でも、かすみちゃんはニヤッと笑って。
かすみ「……まさか……──かすみんたちの、勝ちですよ」
そう言い放った。
真姫「……はぁ?」
真姫さんが怪訝な顔をする。
かすみ「ね、侑先輩!」
侑「うん」
私はかすみちゃんの言葉に頷きながら──傍らのライボルトの口元に手を寄せると、ライボルトの口から──小さな2つのソレが、チャリ……と音を立てながら、私の手の平の上に乗せられた。
何を隠そうそれは──“クラウンバッジ”だった。
真姫「……!?」
真姫さんは驚いた顔をしながら、焦って自分の上着をめくると──上着の裏側には、赤い破片が突き刺さっていた。
真姫「な……!?」
侑「このルール、私たちの勝利条件は、真姫さんを戦闘不能にするか──“クラウンバッジ”を奪うことでしたよね」
真姫「…………嘘……?」
真姫さんは心底何が起こったのか理解できていない顔をしていた。
かすみ「その赤い破片はですね、この工場のあちこちに落ちてた、壊れたモンスターボールの破片です! ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきたんですよ!」
侑「そして、その欠片をライボルトに持たせて……物陰に潜ませていました。……真姫さんに接近出来る機会をずっと待ちながら」
真姫「……まさか…………“すりかえ”……?」
侑「はい」
そう、ライボルトが最後に背後から攻撃したのは──メガハッサムを倒すためじゃない。
真姫さんのすぐ真横を通るためだ。
至近距離まで近付けば──“すりかえ”で奪うことが出来ると思ったから。
侑「ライボルトが、真姫さんを横切る瞬間に──“すりかえ”ました」
真姫「……………………」
真姫さんはしばらく絶句していたけど……。
真姫「…………私の負けよ。完敗」
そう言いながら、ハッサムをボールに戻した。
その動作が、言葉が、完全に試合が終わったことを意味していた。
侑「……か……勝った……」
私は力が抜けて、尻餅をつく。
隣を見ると、
かすみ「ど……どうにか、勝てたぁ……」
かすみちゃんも力が抜けてしまったのか、私と同じようにへたり込んでいた。
リナ『侑さん!! かすみちゃん!! すごい!! ホントに勝っちゃうなんて!!』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「あはは……ホントにね……」
かすみ「むー……絶対勝つって最初に約束してたじゃないですかー……。かすみんはずーーーーっと勝てるって思ってましたもんね!」
かすみちゃんがぷくーっと頬を膨らませる。
そんな私たちのもとへ、
真姫「……貴方たちの覚悟、見せてもらったわ」
真姫さんが近付いてくる。
真姫「どんな状況に陥っても勝利を諦めない執念。追い詰められても、勝ちを手繰り寄せる策を選び取る冷静さ。見事だったわ。貴方たちは、その“クラウンバッジ”を持つのにふさわしいトレーナーよ」
侑「真姫さん……」
かすみ「えへへ……そんなことありますよ~」
真姫「私も……慢心せずに強くならなくちゃね」
真姫さんは少し自嘲気味に言う。
真姫「ここまで来たら……最後のバッジもちゃんと手に入れてよね。私だけ本気の手持ちで負けたなんて知れたら、赤っ恥もいいところなんだから」
かすみ「ふふ、任せてくださいよ!」
侑「はい、必ず……!」
こうして私たちは、死闘の末──ローズジムの真姫さんを倒し、“クラウンバッジ”を手に入れたのでした。
残すは──最後のバッジのみ……。
🎹 🎹 🎹
彼方「──二人とも、ローズジムクリアおめでとう~♪」
リナ『わ~どんどんぱふぱふ~』 ||,,> 𝅎 <,,||
ホテルに戻ると──ジム戦前に彼方さんが言っていたとおり、ご馳走が並んでいた。
かすみ「これ全部食べていいんですかぁ~!?」
彼方「もっちろん♪ 頑張った二人へのご褒美だよ~♪ 好きなだけ食べて♪」
かすみ「わーい! いっただきま~す♪」
侑「いただきます!」
彼方「ポケモンちゃんたちにもそれぞれに合わせて、彼方ちゃん特製ブレンドのポケモンフーズを作ったから、味わって食べるんだぞ~?」
「ブイブイ♪」「ガゥ♪」「フィオ~」「ウニャァ」「クマクマァッ♪」「ブクロンッ♪」
元気な子たちが夢中でご飯を食べ始める中、
「テブリ」「…カイン」「…ライ」「ロンチ」「ウォーグ」「……サ」
大人しい組は静かに食べ始める。……こういうところにも個性が出るね……。
かすみ「いや~今日のかすみんの活躍っぷり、彼方先輩と果南先輩にも見せてあげたかったですよ~」
果南「ふふ、私も見たかったよ」
彼方「彼方ちゃんも~」
かすみ「ですよねですよね! いや~かすみんの考えたドッキリ爆発大脱出があったから、今日は勝てたんですから~」
かすみちゃんは元気いっぱいに今日の試合を振り返っているけど……。
果南「侑ちゃんは……勝ったって言うのに、あんまり元気ないね?」
かすみ「えぇー? 侑先輩、せっかく勝ったのに嬉しくないんですか~?」
侑「ん……。……もちろん、嬉しいけど……でも、今回はかすみちゃんと二人だったからさ……」
……今回はあくまで二人の力を合わせてどうにか勝つことが出来ただけだ。
侑「もし一人ずつ戦ってたら……絶対に勝てなかった……」
かすみ「それは……まぁ……。……でも、勝ちは勝ちですよ!」
もちろん、勝ちは勝ち。向こうの指定したルールでちゃんと勝利を収めたんだ。
それに関してはそれでいい。……だけど、次のジム戦は正真正銘一人で戦うことになる。
侑「……このまま戦っても……私もかすみちゃんも、最後のジムは突破出来ない……」
かすみ「そ、そんなこと言わないでくださいよ~!!」
これは臆病風に吹かれたとか、そういう話じゃない。
私たちの今の実力と、本気のジムリーダーの実力では、それほどまでに根本的なレベルの差があるということだ。
リナ『正直、私も厳しいと思う……レベル差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
果南「……確かにこのままじゃ二人とも、理亞ちゃんにも英玲奈さんにも勝てないだろうね」
かすみ「ちょ……リナ子と果南先輩まで……」
侑「だから、対策を考えないと……」
果南「……ま、侑ちゃんがそう言うと思って、私考えてきたんだよね」
侑「え?」
かすみ「何をですか?」
訊ねると、果南さんは、
果南「私が二人が強くなるための修行法……考えてきたからさ!」
にっこり笑いながら、そう言葉にするのだった。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.65 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.65 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.63 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.57 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.59 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.44 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:8匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.66 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.58 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.57 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.57 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.56 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.60 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🎀
──私がウルトラスペースに来て……何日が経ったかな。
四方を壁に囲まれているせいで、時間の感覚が全然ないから、自分がここを訪れてどれだけ経ったかが全くわからない。
ただ、定期的に姫乃さんが私と私のポケモンのためのご飯を運んできてくれる。
仮にそれが日に3回ずつちゃんとあるなら……たぶん1週間くらいかな。
やることと言えば、ポケモンとお話ししたり、一緒に遊んだり……ブラッシングしてあげるくらい。
ポケモンがいてくれるお陰で、寂しくて寂しくてどうしようもないというほどではないけど……。
歩夢「……侑ちゃんに……会いたいな……」
どうしても、侑ちゃんのことを考えてしまう。
歩夢「……ダメ……しっかりしなきゃ……」
きっと、侑ちゃんたちが助けに来てくれる……今は耐えなくちゃ。
そう思いながら、深呼吸をして心を落ち着けていると──
姫乃「──歩夢さん、失礼します」
姫乃さんが部屋に入ってきた。
歩夢「姫乃さん……? あの、もうご飯の時間ですか……?」
食事は体感では……1時間前くらいに食べたと思うんだけど……。
私が気付かない間にそんなに時間が経っちゃってたのかな……?
自分の体内時計の性能の悪さに、少々不安を覚えてしまう。
だけど、
姫乃「いえ、食事ではなく……」
姫乃さんは少し困った顔をしながら言う。
姫乃「貴方も……意外と肝が据わってますね……」
歩夢「え、あ、その……ご、ごめんなさい……」
……もしかして、食いしん坊だと思われちゃったかな……恥ずかしい……。
姫乃「それより──部屋から出てください。果林さんがお呼びです」
歩夢「え……?」
🎀 🎀 🎀
姫乃「果林さん、歩夢さんをお連れしました」
果林「ありがとう姫乃」
私が呼び出されたのは、最初に連れてこられた、この船のコクピット……ええっと、こういう場所ってブリッジって言うんだっけ……?
そこにはすでに、しずくちゃんとせつ菜ちゃんの姿もある。
歩夢「あの……一体何が始まるんですか……?」
愛「そろそろ、目的地に着くんだよ~」
私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。
歩夢「目的地……?」
程なくして──前面に張られた大きなガラスの外に広がっていた、宇宙空間のような場所に──大きな空間の穴のようなものが見えてくる。
愛「入るよー」
果林「お願い」
船はなんの躊躇もなく──その穴に突入していく。
入ると、同時に──ゴゴゴゴッと大きな音と共に、船が大きく揺れる。
歩夢「きゃっ……!?」
激しい揺れに転びそうになったが、
せつ菜「おっと……大丈夫ですか……?」
せつ菜ちゃんが、抱き留めてくれる。
歩夢「あ、ありがとう……せつ菜ちゃん……」
せつ菜「いえ……」
ただ、私はお礼を言ってからすぐに、せつ菜ちゃんから逃げるように離れる。
今のせつ菜ちゃんは……なんだか、ちょっと怖い……。
前みたいな、朗らかな笑顔は全くなく……ずっと、冷たい声音で喋っているし……。
──揺れる船内の中で、しばらくじっと待っていると──洞窟の中のような景色が見えてきた。
愛「着陸するよー」
果林「ええ」
どうやら……目的地というのはここらしい。
程なくして──ゆっくりと船が洞窟内の地面に着陸する。
愛「到着っと……」
果林「愛、ご苦労様」
愛「あいよ~。……んで、果林。どうすんの?」
果林「どうって、何が?」
愛「誰か降りるのかって話。アタシは降りるのヤだよ?」
果林「ヤダって……まあ、貴方には船に居てもらうから降ろすつもりはないわ」
姫乃「でしたら、私が……」
果林「いいえ、ここは──しずくちゃん」
果林さんがしずくちゃんの方を見て、声を掛ける。
しずく「はい、なんでしょうか♡」
果林「今から、ここに歩夢を降ろすわ」
歩夢「え……?」
しずく「前に説明していただいたとおり、私は歩夢さんを見張っていればいいということですよね♡」
果林「ええ、おりこうさんね」
しずく「はい♡」
歩夢「……」
しずくちゃんは……完全におかしくなってしまっていた。
果林さんの言うことはなんでも聞く……ずっとフェローチェのことばかり口にしている……。
きっと、あのポケモンが持ってる不思議な雰囲気が……しずくちゃんをおかしくしてしまっているんだと思う。
愛「果林」
果林「何?」
愛「こんな場所にしずく放り出していいん? かなり危ない場所だよ?」
果林「……そうかもしれないわね」
せつ菜「そうかもしれない……?」
せつ菜ちゃんが果林さんの反応に眉を顰める。
せつ菜「……人質なら、もう少しまともに扱っては?」
果林「そんな怖い顔しないで、せつ菜。別に死ぬわけじゃないわ」
しずく「せつ菜さん、私は大丈夫です! 果林さんにフェローチェを魅せてもらうためなら、命を捨てる覚悟くらいあります♡」
歩夢「……」
果林「本人もこう言ってるし」
せつ菜「……。……さすがに人質に何かあっては寝覚めが悪いです……私が一緒に降ります。先にハッチに向かっています……」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、ブリッジを出て行く。
たぶん……外に出るハッチがどこかにあるんだと思う。
姫乃「果林さん……いいんですか?」
果林「まあ、本人がそうしたいって言うなら、そうさせてあげましょう」
愛「自分でそう仕向けた癖によく言うねー」
果林「人聞きの悪いこと言わないで。……それじゃ、しずくちゃん」
しずく「はい♡ 行きましょう、歩夢さん♡」
そう言いながら、しずくちゃんが私の腕を掴んで歩き出す。
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「こちらです♡」
しずくちゃんに腕を引かれて、ハッチへ向かう。
歩夢「……ねぇ、しずくちゃん……?」
しずく「なんですか?」
歩夢「……どうして、果林さんの言うことを聞くの……?」
しずく「どうして、果林さんの言うことを聞かないんですか? フェローチェを魅せてもらえなくなってしまうじゃないですか♡」
歩夢「……そっか」
しずくちゃんの洗脳を解くには……果林さんのフェローチェをどうにかするしかない……。
歩夢「しずくちゃん、大丈夫だよ……きっと、助けるからね……」
しずく「はい、そうですか♡」
歩夢「……」
しずくちゃんと少し歩くと──ハッチらしき場所でせつ菜ちゃんが待っていた。
せつ菜「……行きましょうか」
しずく「はい♡」
歩夢「……」
せつ菜ちゃんを伴いながら、ハッチの外へと出る。
──そこは不気味な青白い光を放っている水晶が生えた洞窟のような場所……。
しずく「それでは奥へ♡ ここの地図は果林さんに見せてもらったので、頭に入っています♡」
せつ菜「……」
しずくちゃんに腕を引かれ──奥へと進んでいく。
せつ菜ちゃんはそんな私たちの後ろを無言で付いてくる。
歩夢「……ねぇ、しずくちゃん。私に……何をさせようとしてるの……?」
しずく「これから、歩夢さんは果林さんのために、お人形さんになるんですよ♡」
歩夢「お人形……さん……?」
せつ菜「……」
しばらく、歩いて行くと──崖のある場所に出る。
しずく「あれです♡」
そして、しずくちゃんが崖下を指差す。
歩夢「……」
恐る恐る崖下を覗いてみると──
「──ジェルルップ…」「──ヴェノメノン…」「──ジェルル…」
歩夢「な、なに……あれ……?」
不思議な生き物が、崖の下で大量に浮遊している。
しずく「あれはウルトラビースト・ウツロイドです♡」
歩夢「ウツ、ロイド……?」
しずく「ウツロイドは強力な神経毒を持っていて、とても危険なウルトラビーストです。歩夢さんには今から、そんなウツロイドの群れの中に──落ちてもらいます♡」
歩夢「……!?」
私は、しずくちゃんの言葉を聞いて、腕を振り払う。
しずく「おっとっと……」
歩夢「…………っ」
どうしよう……逃げなきゃ……!
私はしずくちゃんから逃げるように背を向けて走り出すけど、
しずく「いいんですか? 歩夢さんが逃げたら、私が果林さんにどんな目に遭わされるか、想像できますか?」
歩夢「……!」
その言葉で、私は足を止める。
せつ菜「貴方……」
しずく「果林さんは私を利用するためにフェローチェを魅せてくれています♡ もし、正しく命令を遂行出来なければ……私はきっといらない子。一体何をされるんでしょうね?」
歩夢「…………っ」
せつ菜「…………」
しずく「さぁ、歩夢さん♡ こちらへ戻ってきてください♡」
歩夢「…………」
しずく「歩夢さん、私たち友達でしょう? 私のこと、見捨てないでください♡」
歩夢「っ……」
私は──振り返って、しずくちゃんのもとへと戻る。
歩夢「……」
しずく「ありがとうございます♡」
歩夢「しずくちゃん」
しずく「なんですか?♡」
歩夢「私のこと……どう思ってる?」
しずく「どう……とは……?」
歩夢「しずくちゃんにとって、私は……どういう存在……?」
しずく「ふふ、そんなの決まってますよ。優しくて頼りになる先輩で、仲間で──大切なお友達です」
歩夢「…………わかった。私、しずくちゃんを信じるよ」
せつ菜「…………」
せつ菜ちゃんが無言で見守る中、私は覚悟を決める。
しずく「ありがとうございます、歩夢さん♡ では、私の言うとおりにしてください♡」
歩夢「うん」
しずく「まず、モンスターボールを全てベルトから外してください♡」
歩夢「……わかった」
私はボールベルトから、モンスターボールを全て外して、足元に置く。
それと同時に──ボールたちがカタカタと震えだす。
歩夢「みんな……大人しくしてて」
私がそう言うと、揺れるボールたちは大人しくなる。
しずく「それでは、そのまま──崖を背にして一歩ずつ後ろに下がりましょう♡」
歩夢「……うん」
私はしずくちゃんを見ながら、一歩ずつ後ろへと下がる。
一歩ずつ一歩ずつ、足元の地面を確認しながら下がっていくと──足元に地面が確認できない場所にたどり着く。
つまり──私の後ろは、もう崖だ。
崖下から風を感じて、背筋がぞくりとしする。気付けば脚が勝手に震えだしていた。
しずく「……そうだ、歩夢さん」
歩夢「……な、なに……?」
震える声で返事をすると、
しずく「その髪飾りも──預かりますよ。外してください」
しずくちゃんは──侑ちゃんに貰った髪飾りを外すように要求してきた。
侑ちゃんの気持ちの籠もった──ローダンセの花飾りを……。
歩夢「これは……」
しずく「私を……信じてくれるんじゃないんですか?」
歩夢「………………。…………わかった」
私はゆっくりと──髪飾りを外す。
そして、それをしずくちゃんに手渡す。
しずく「ありがとうございます♡」
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「はい?」
歩夢「……絶対に、侑ちゃんやかすみちゃんが助けに来てくれるはずだから……絶対に……絶対に一緒に帰ろうね」
しずく「…………」
歩夢「それまで……預けるね……。きっと、私の分まで……侑ちゃんの想いが、しずくちゃんを守ってくれるはずだから……だから──」
──ドンッ。
しずくちゃんが──私の肩を押した。
身体が後ろに傾き──支えるものが何もない私の身体は──背中から、崖下に向かって落下を始める。
最後に見たしずくちゃんの顔は──少しだけ悲しそうに見えた。
歩夢「……っ……」
浮遊感に包まれたのも束の間──私の身体は何かに優しく受け止められる。
もちろんその何かは──
「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」
ウツロイド。ウツロイドの触手が腕を脚を──私の全身をどんどん絡め取っていく。
歩夢「しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」
口元が触手に覆われる。
そのまま、視界も覆われ……私は……目の前が、真っ暗になった──
💧 💧 💧
しずく「…………」
せつ菜「……こんなことをして、心は痛まないんですか……? ご友人なんでしょう?」
しずく「……お説教ですか?」
せつ菜「……貴方……まだ理性が残っているじゃないですか……なのに、どうしてあんな酷いことが出来るんですか……」
しずく「貴方に言われたくありませんね」
せつ菜「な……」
しずく「せつ菜さん、貴方の話、果林さんから聴かせてもらいましたよ♡ ……貴方だって、ウルトラビーストに心を売ったようなものじゃないですか」
せつ菜「それ……は……」
しずく「私はウルトラビーストの美しさに、せつ菜さんはウルトラビーストの強さに魅入られ……魂を売ってしまっただけ──所詮、私たちは同じ穴の貉ですよ」
せつ菜「…………。…………そうかも……しれませんね……。……自分だけ、綺麗でいようとするのは……卑怯でした。……すみません」
しずく「いえ、お気になさらないでください♡ さて……」
私は振り返る──先ほど歩夢さんが、外して地面に置いたボールたちが、ガタガタガタと激しく揺れ、
「──バーース…!!!」「──シャーーーーッ…!!!!!」「──マホイッ…!!!」「──グラァ…ッ!!!!!」「──エッテ…!!!」
歩夢さんのポケモンたちがボールから飛び出してくる。
しずく「ふふ……敵意剥き出しですね。ご主人様に酷いことをした私が許せないんですよね」
ボールから、ポケモンを繰り出す。
「──インテ…」「──バリバリ!!」「──ロゼ…」
しずく「お相手しますよ。トレーナー無しで私に勝てるのかは知りませんけど♡」
「バーースッ!!!!」「シャーーーボッ!!!!!」「マホイップッ!!!!」「グラァァーーー!!!!」「エッテェェッ!!!!」
………………
…………
……
💧
■Chapter054 『試練の山』 【SIDE Yu】
かすみ「……侑先輩」
侑「ん……何……?」
かすみ「かすみんたち……なんで、山登りしてるんですかね……」
侑「あはは……なんでだろうねぇ……」
振り返ると──遠くにローズシティが見える。
ここは……カーテンクリフだ。
かすみ「……うぅ……早く帰りたい……」
侑「……気持ちはわかるけど……時間もないし、早く進もう」
かすみ「あ、待ってくださいよぅ……侑先輩ぃ……」
私たちが何故、再びカーテンクリフを登っているかというと……話は昨日の夕食の時に遡る──
──────
────
──
侑「──修行法……ですか……?」
果南「そう、修行法」
食卓を囲みながら、果南さんはそう話し始めた。
果南「実は私、二人がジム戦をしてる間に、他の町のジムリーダーに連絡して、侑ちゃんとかすみちゃんのジム戦のバトルビデオを送ってもらって、見てたんだよ」
彼方「ちなみに、彼方ちゃんも一緒に見てたよ~」
かすみ「へ……? ビデオなんてあったんですか……?」
リナ『ジム戦は公式戦だから、基本的に録画してる場所が多いよ。今日みたいな野外バトルとかだとさすがにしないみたいだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
果南「野外試合だった、かすみちゃんのウチウラジム戦とセキレイジム戦、侑ちゃんのホシゾラジム戦はデータがなかったから、曜とルビィちゃん、凛ちゃんに電話で直接どんな試合か聞いたよ。……あと、侑ちゃんのダリアジム戦はビデオもなかったし、試合内容も教えられないって、にこちゃんから言われたんだけど……何か特別なルールだったの?」
侑「あー……えーっと……まあ、いろいろです」
花丸さんはクローズドなジムリーダーだから、そりゃ映像には残らないし、試合内容も喋れないよね……。
果南「まあ、いいや……その上で、彼方ちゃんと話しながら、二人のバトルの問題点を洗い出してきたんだ」
かすみ「お二人とも、そんなことしてたんですね……。……まあ、かすみんの欠点なんてそんなにないと思いますけどね~?」
彼方さん特製のから揚げを頬張りながら、かすみちゃんは自慢げに胸を逸らす。
果南「……じゃあ、まずかすみちゃんから、話そうか。……かすみちゃんは捨て身の攻撃が多すぎる」
かすみ「……ぅ」
果南「特に“じばく”みたいな相討ち上等な立ち回り方が目立ってる」
かすみ「……だ、だってぇ……あれは、大逆転できるパワーを秘めてる技だからぁ……」
果南「確かに打開の策としては間違ってないと思うよ。実際に、それで勝ってきてるわけだし。……でも、心のどこかでどんなに追い詰められても、最悪“じばく”で相討ちを取ればいいとか思ってない?」
かすみ「……ぅ……そ、それは~……」
かすみちゃんが盛大に目を泳がせる。
欠点、そんなにないんじゃなかったの……かすみちゃん……。
果南「試合ではお互い最初から使うポケモンが決まってるから、使いどころを間違わなければ状況をひっくり返す技なのは確かだよ。でも、実戦はそうじゃない。相手の数だって決まってないし、もしかしたら連戦しなくちゃいけないかもしれない。場合によっては撤退を余儀なくされることもある。そういうときに手持ちが減るっていうのは致命傷になりかねない」
かすみ「…………」
果南「逆転する力、ポテンシャルとバトルに対するひらめきはかすみちゃんの長所だけど……逆を言うなら、戦闘が無計画すぎるところがある」
かすみ「…………ぐすっ……じ、自分でもわかってるもん……それくらい……」
彼方「ほら、泣かない泣かない」
かすみ「泣いてませんっ!」
果南さんの評価は思ったよりも厳しめだった。
でも……的は射ている気がする。
とはいえ、面と向かって厳しい評価を下されるのは、なかなかに堪えるものだと思う。
果南「……次は侑ちゃんだけど」
侑「は、はい……!」
私の番が来て、思わず背筋が伸びる。
かすみちゃんへの評価を聞いた直後というのもあるけど……元チャンピオンから自分のバトルを評価してもらえるというのは、またとない機会だから、変に緊張してしまう。
果南「まず、持久戦への崩しが苦手すぎる」
侑「……ぅ……じ、自覚してます……」
彼方「でも、こればっかりは相性もあるからね~……」
果南「まあね。ただ、守られたときに攻撃がうまく通らないことで焦る癖は直した方がいいよ。防御に対しては相手にしないのも一つの戦術なんだから」
侑「は、はい……」
果南「あともう一つ……こっちの方が問題かな」
まだあるんだ……。
果南「侑ちゃんは、諦めが早すぎる」
侑「そ、そうですか……?」
果南「自分の負け筋が見えすぎてるというか……相手の勝ち筋が見えすぎてるというか……相手のやりたいことが見えすぎてるせいで、劣勢になると相手の勢いに呑まれちゃうところがあるんじゃないかな」
侑「…………そう言われると……ちょっと、思い当たる節があります……」
実際、直近の試合でも、ホシゾラジム戦では歩夢が声を掛けてくれなかったら雰囲気に呑まれていたところはあったし、クロユリジムでもワシボンが止めてくれなかったら、私は降参していた。
そして、今日のローズジム戦でも……最後まで諦めなかったのはかすみちゃんだ。私は……一人だったら、途中で諦めていたと思う。
果南「戦局を見る力があるとは思う。もちろん、それは実戦ですごく大事だし、引きどころを間違えないという意味では長所にもなるけど……絶対に負けられない戦いの場では──考え方の癖って言うのかな……それは絶対に侑ちゃんの足を引っ張ることになるよ」
侑「……はい」
つまるところ……私には引き癖というか……劣勢になると、考えるのを諦めてしまう癖みたいなものがあるようだ。
特に私たちがこれから挑む戦いは、絶対に負けが許されない戦い……そこで、もう勝てないかもなんて思ってたら、本当に負けてしまう。
リナ『でも、考え方をすぐに矯正するのは難しい』 || ╹ᇫ╹ ||
果南「そうだね。……でも、いざ実戦のときに、直りませんでした。じゃあ、困るでしょ?」
侑「……はい」
確かに出来ることなら直したい……。
勝負を諦める癖なんて、明確にデメリットだ。
果南「ただね、侑ちゃんにしても、かすみちゃんにしても……二人の欠点の根幹にあるのは同じ理由だと思うんだよ」
侑「同じ理由……ですか……?」
果南「それは──自信だよ」
かすみ「自信……?」
私とかすみちゃんは顔を見合わせてしまう。
果林「かすみちゃんの一発逆転を狙う癖も、侑ちゃんの諦め癖も……どっちも、自分たちのパワーやスピード、テクニックが相手に劣ってるって、頭のどこかで思っちゃってるからだと思うんだ」
侑「……それは、そうかもしれません」
かすみ「ぅぅ……かすみんもちょっと思い当たる節があります……」
果南「それを払拭するには、純粋に鍛錬を積んで、パワー、スピード、テクニック……その他もろもろ、自分たちが強くなったって実感を持たないと難しい」
彼方「まあ、簡単に言っちゃうと二人とも、根本的にステータスが足りてないよって話なんだけどね~」
かすみ「身も蓋もなくないですか!?」
つまり──
侑「そのための──私たちのステータスを根本から上げるための修行法を考えて来てくれたって、ことですよね……?」
果南「ま、そんなところ」
かすみ「そうならそうと早く言ってくださいよ! かすみん、落ち込み損じゃないですか!」
果南「ただ……タイムリミットは後4日──ジム戦をする日を考えたら3日しかない。だから、かなりきついやつを選んできたから」
侑「き、きついやつですか……」
果南「うん、それはね──」
──
────
翌日、私たちはローズの西端で、カーテンクリフを見上げていた。
かすみ「こ、これ……登るんですか……?」
果南「そ。昨日も言ったけど、緊急時以外はウォーグルやドロンチを使って飛行するのは禁止。あ、でも戦闘には使ってもいいからね」
侑「わ、わかりました」
「ブィ…」
果南「あと……かすみちゃん、ポケモン図鑑出してもらっていい?」
かすみ「は、はい? いいですけど……」
果南「リナちゃんもこっちおいで」
リナ『わかった』 || ╹ᇫ╹ ||
ふよふよとリナちゃんが果南さんのもとへと漂っていく。
果南「今回は二人ともポケモン図鑑なしで挑むこと」
かすみ「ええ!? な、なんでですか!?」
果南「何にも頼らない精神が己を鍛えるんだよ。……って言いたいところだけど、鞠莉から持ってくるように言われててね。ウルトラビーストを認識出来るように、バージョンアップしてくれるらしいからさ」
かすみ「あ、図鑑をパワーアップしてくれるんですね~♪ なら、仕方ありませんね~♪ ……って、なりませんよ!」
侑「……あくまで、自分と自分たちのポケモンの力で乗り越えてこいってことですね」
果南「そゆこと。ただ、ここのポケモンは強いからね。戦ってる最中、うっかり足滑らして落ちないようにね」
かすみ「え、縁起でもないこと言わないでくださいよぉ~……」
果南「それじゃ、最後にもう一度確認するね」
果南さんはそう言って、昨日教えてくれたルールを再度おさらいしてくれる。
果南「二人は3日以内に、私が西の遺跡に置いてきたアイテムを拾って戻ってくること。わかりやすくしておいたから、たどり着ければすぐにわかると思うよ」
かすみ「誰かに取られたりしませんか……?」
果南「大丈夫、君たち以外が持ってても、意味のないものだから」
侑「私たち以外が持ってても、意味のないもの……?」
果南「何かは見てのお楽しみ。あと侑ちゃんにはこれ」
そう言って、果南さんは小箱を差し出してくる。
侑「これは……?」
果南「今回のアイテムのために用意した鍵だよ。到着したら箱から出してね」
侑「わかりました」
私は貰った箱をバッグにしまう。
果南「それじゃ、二人とも頑張っておいで」
リナ『侑さんが帰ってくるの……待ってるね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 待っててね、リナちゃん! 行こう、かすみちゃん!」
かすみ「うぅー……わかりました……帰ってきたら、ご馳走用意しておいて欲しいですって、彼方先輩に伝えてください……」
果南「はは♪ りょーかい♪ 伝えておくよ♪」
──
────
──────
──そして、今に至る。
かすみ「それにしても……山というか崖ですね……」
侑「ローズ側からだと、多少緩やかなんだけどね……」
カーテンクリフも東端は多少なだらかに始まっている。
……本当に多少で、すぐに崖みたいな急勾配になったけど……。
「ブイ」
イーブイは軽い身のこなしで、ぴょんぴょん登っていくけど──私たちはそうも行かない。
侑「よい……しょ……。……かすみちゃん!」
私が岩を一段よじ登り、かすみちゃんに手を伸ばす。
かすみ「あ、ありがとうございます、侑先輩」
要所要所でお互いを引っ張りあげながら、どうにかこうにか登っていく。
かすみ「……はぁ……こんな崖みたいな山、果南先輩はホントに自力で登ったんですかね……?」
侑「彼方さん曰く、あっという間に登って降りてきたって言ってたよね……」
一体いつアイテムを遺跡に置いてきたのかと思ったけど……どうやら、私たちがジム戦をしている間にやっていたらしい。
ローズ側の麓で待っていた彼方さんによると──本当にものの数時間で戻ってきたとか……。
実際、その後私たちのバトルの分析とかもしてたわけだし……たぶん、嘘ではないと思う。
かすみ「あの人、人間なんですか……?」
侑「……それくらい、果南さんには実力があるってことなんだよ。きっと」
また一段登り──ふと後ろを見ると、ローズのセントラルタワーが少し下に見える。
侑「結構、登った気がするね……」
かすみ「でも……ここから先、さらに崖みたいになってますよぉ……」
かすみちゃんの言うとおり、崖はどんどん険しくなっていく。
侑「ここは……私たちだけじゃ、登れそうにないね」
「ブイ…」
かすみ「ですね……」
目の前の崖を一段上に登るには、少し高い……。イーブイもこれは登れないと思ったのか、私の肩の上に戻ってくる。
一応登山用の道具は果南さんが用意してくれたものを持っているけど……この崖を自力で登ろうとすると、時間がかかってしまう。
ここまで、ポケモンたちの体力温存のために、二人で登ってきたけど……これ以上は、ポケモンたちの力を借りる必要がありそうだ。
かすみ「ジグザグマ、出てきて」
「──クマァ♪」
かすみちゃんはジグザグマをボールから出す。バッグからロープを取り出して、ジグザグマのお腹辺りに括りつけ、技の指示をする。
かすみ「“ロッククライム”!」
「クマ!!」
ジグザグマは指示を受けると、全身の硬い体毛を岩壁に突き刺しながら、上に登っていく。
崖を一段上に上がりきったところで、ジグザグマは体毛を岩壁に突き刺し、
かすみ「そこで待っててね~」
「クマァ~」
一旦待機させる。
かすみ「それじゃ、先に行きますね」
侑「うん」
かすみちゃんは、ロープを自分に巻き付け、ジグザグマが窪ませた穴に手足を掛けて登っていく。
私も同じように、
侑「ウォーグル」
「──ウォーー!!!」
侑「“ブレイククロー”」
「ウォー!!」
岩壁に、手足を入れる隙間をウォーグルに作ってもらう。
……これは、飛行じゃないからセーフだよね?
侑「よし……イーブイ、落ちないようにね」
「ブイ」
かすみちゃんと同じように、崖の窪みに手足を掛けながら登っていく。
かすみ「侑先輩! 掴まってください!」
侑「うん……!」
最後は先に登ったかすみちゃんに引っ張り上げてもらって──また一段上へ。
侑「ありがとう、かすみちゃん」
かすみ「どういたしましてです♪」
お礼もそこそこに、また崖を見上げる。
かすみ「一体……いつまで続くんでしょうかねぇ……」
「クマァ…」
侑「尾根まで登り切れば……勾配は減るはずだから、そこまで頑張ろう……」
「ブイ」「ウォーグ」
私たちの登山修行は続く──
🐏 🐏 🐏
──さて……彼方ちゃんは今、コメコシティに戻ってきております。
今いる場所は──エマちゃんの寮のお部屋。
もちろんエマちゃんのお部屋だから、エマちゃんはいるんだけど……もう1人。リーグの偉い人、海未ちゃんと3人で座っている。
海未ちゃんがいるのは、彼方ちゃんのボディガードを兼ねているけど……もちろん、本題はそっちじゃありません。
海未「アサカ・果林さんは、当地方のチャンピオンである千歌を拐かし、さらに一般人を人質として連れ去ってしまいました……」
エマ「え……」
エマちゃんに果林ちゃんのことは聞くため、彼方ちゃんが仲介したのです。
彼方「一般人って言うのは……歩夢ちゃんとしずくちゃんのことだよ」
エマ「……そんな……果林ちゃんが……」
海未「……ご友人だったと伺っています。辛いかもしれませんが……果林さんがどういう方だったのか、聞かせてもらえませんか……?」
エマちゃんはしばらく無言だったけど……。
エマ「…………果林ちゃんが普通の人じゃないのは……なんとなく、わかってました」
ぽつりぽつりと喋り始めた。
エマ「……彼方ちゃんも」
彼方「ん……」
エマ「……果林ちゃんも、彼方ちゃんも……遥ちゃんもだけど……会ったときから、全然変わらないから……」
海未「全然変わらない……とは……?」
エマ「見た目が……全然変わらないんです」
海未「見た目が、変わらない……?」
彼方「えっと……わたしがこっちに落ちてきたのは18歳のときで……遥ちゃんは16歳だったんだけど……。……実は彼方ちゃんたち、歳を取ってないんだって」
海未「……それは本当ですか?」
彼方「原因はわからないんだけど……ウルトラスペースから過剰にエネルギーを浴びたのが原因で、身体の時間が一時的に止まってるんじゃないかって説明されたよ」
生き物は生まれてから死ぬまでに、たくさんたくさんエネルギーを使って、最後は死んでいくけど……。
そのエネルギーの消費が、ウルトラスペースから異常なエネルギーを浴びたせいで、極端に遅くなっているから、彼方ちゃんたちは歳を取らないように見えるらしい。
……国際警察の科学捜査部の人は、細胞分裂……? とか、テロメアの減り具合……? とか言ってたけど……彼方ちゃんには難しいことはわからないから、これ以上の説明は出来ないけど……。
海未「……歳を取らないというのは……不老ということですか……?」
彼方「うぅん。揺り戻しがあるから、何年かしたら止まってた年月分、一気に歳を取り始めるみたい。今までも“Fall”の中にはそういう人がいたらしいから」
海未「なるほど……。エマさんは、それに気付いていたんですね……?」
エマ「はい……ただ……本人が隠してるのには気付いてたし……無理に聞くのはよくないって思ったから、わたしが知ってることは、あまり……」
海未「……そうですか……」
まあ、果林ちゃんも……いくら仲が良いからって、うっかりエマちゃんに喋っちゃうような人とは思えないからなぁ……。
エマ「……果林ちゃん……ずっと、何かに追い詰められているというか……いつも焦ってるなって……ずっと思ってました……」
彼方「…………」
璃奈ちゃんが亡くなって、愛ちゃんが問題を起こし、わたしが組織から逃げ出してしまった……。
4人居た組織の幹部は……実質、果林ちゃんしか残らなかった。
果林ちゃんは自分たちの世界を救いたいという想いが、人一倍ある人だったから……その責任感から、必要以上に背負いこんでしまった節はあるのかもしれない。
エマ「……冷たく突き放したようなことを言うことはあるけど……本当は優しい人なんです……。……可愛い物やポケモンが大好きで、実はお寝坊さんで、すぐ迷子になっちゃって……でも、わたしが困ってたら助けてくれて……」
彼方「エマちゃん……」
辛そうに喋るエマちゃんを見ていると、エマちゃんは本当に果林ちゃんを大切に想っていたことが、それだけで伝わってきた。
エマ「……あの……もし果林ちゃんを見つけたら……どうするんですか……?」
海未「……彼女の正確な目的がわからないので、完璧に答えるのは難しいですが……恐らく、彼女の身柄確保を目指して動くことになると思います。ですが、相手の力は強大です……極力避けたいですが、場合によっては──」
海未ちゃんはそこで言葉を止める。……恐らく、そういうことだと思う。
捕まえる余裕があるとは、考えづらいもんね……。
エマ「……。……話し合いで……解決出来ませんか……?」
海未「もちろん、それが理想ですが……。……向こうは人に危害を加えることに躊躇がない。そういう相手を説得出来るかと言われると……」
エマ「……そう……ですよね……」
エマちゃんはぎゅっと手を握る。
エマ「……行くときは……一言言ってくれるって……約束したのに……」
彼方「エマちゃん……」
海未「……」
全員が無言になった部屋の中、突然──prrrrとコール音が響く。
海未「……私のポケギアです。少し失礼します」
海未ちゃんがそう言って部屋を出ていき、私はエマちゃんと二人きりになる。
エマ「…………彼方ちゃん」
彼方「なにかな」
エマ「……果林ちゃんは……悪い人なのかな……?」
彼方「……どの立場から見るかによるとしか、言えないかな……」
エマ「果林ちゃんは、何をしようとしてるの……?」
彼方「……具体的にどうするかはわからないけど……この世界を滅ぼすつもり……だと思う。少なくともわたしはそう聞いてた」
エマ「…………そんなことしないよ、果林ちゃんは……」
彼方「……エマちゃん」
エマ「…………」
再び静寂に包まれる。
しばらく、二人で無言のまま過ごしていると、海未ちゃんが部屋に戻ってきた。
海未「彼方、もうじきこちらに果南が来るそうです。私は……次の場所へ移動しないといけないので……」
彼方「わかった。果南ちゃんと合流したら、一緒に行動するね」
海未「……果南が来るまでいた方がいいですか?」
彼方「平気だよ~。守ってもらってるけど、彼方ちゃんも強いから~。もうすでに果南ちゃんがこっちに向かってくれてるなら大丈夫だよ~」
海未「わかりました。そういうことでしたら、私は行きますね。……エマさん、貴重なお話、ありがとうございました」
エマ「いえ……」
海未「……出来る限り、彼女と争わない道を考えるつもりです。……期待はしないで欲しいですが」
エマ「……はい」
そう残して、海未ちゃんはエマちゃんのお部屋を後にする。
エマ「…………」
エマちゃんは、酷く落ち込んでいる。
そりゃ、そうだよね……。果林ちゃんはエマちゃんにとって親しい友人だったみたいだし……。
彼方「エマちゃん、おいしいクッキーでも焼こうか……? おいしいもの食べたら元気も出ると思うから……」
エマ「ありがとう、彼方ちゃん。……でも、今はちょっと考えたいことがあるから……一人にしてもらってもいいかな……」
彼方「エマちゃん……。……わかった。ごめんね、辛い話をさせちゃって……」
エマ「うぅん、大丈夫だよ。クッキーは今度食べたいな。彼方ちゃんの焼いてくれるクッキーすっごくおいしいから」
彼方「うん、わかった。次来るときは焼きたてのを持ってくるね」
エマ「うん」
そう約束して、わたしもエマちゃんの部屋からお暇するのだった。
🏹 🏹 🏹
コメコを発ち、ローズに向かってカモネギで飛行している最中──音ノ木の付近で、見慣れたポケモンが飛んでいることに気付く。
海未「……リザードン? ということは……」
私はそのリザードンに向かって近づいていく。
穂乃果「──はい。……今のところは特に変わったことは何も……」
海未「穂乃果?」
穂乃果「あれ? 海未ちゃん? ……あ、はい。じゃあ、また連絡します」
どうやら、ポケギアで誰かと連絡をしていたようだ。
穂乃果は私に気付くと、通話を切り、私の方へと向き直る。
海未「ポケギアの相手は……相談役ですか?」
穂乃果「うん」
海未「……貴方たちは一体何をしているんですか……?」
穂乃果「えっと、音ノ木に変わったことがないかなって」
海未「音ノ木に……?」
この緊急事態に穂乃果や相談役は何故、音ノ木に拘るのだろうか……?
海未「……そういえば、グレイブ団事変のときも、貴方は音ノ木にいましたね」
穂乃果「あーうん……まあ」
海未「……言えない事情があるみたいですね……まあ、いいです」
相談役の指示ということは、大雑把に言えばリーグの指示と言っても過言ではない。
現理事長は私ですが……穂乃果は相談役が理事長をしていた頃から、彼女の指示で動いていたようですし、考えがあってのことだ。
国際警察のような機密を扱う機関とのやり取りだからこそ、先方との擦り合わせの問題で共有できない部分もあるのだろう。
ここで私が無理に穂乃果の動きに干渉すると、不具合が生じかねない。
それに、そもそも穂乃果はリーグ所属の人間ではないですしね……。私が彼女に指示を出す権限はありません。
海未「今アキハラタウンにことりがいると思います。いつも会いたがっていましたので、余裕があったら顔を見せてあげてください。喜ぶと思うので。……それでは」
穂乃果「あ、あれ? もう行っちゃうの?」
海未「ええ。ローズで約束があるので」
穂乃果「そっか……気を付けてね」
海未「はい、穂乃果も。カモネギ」
「クワ」
カモネギに指示を出し、私は再びローズへと進路を向ける。
🎹 🎹 🎹
「──ゴドラァ!!!!!」
侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!!」
「ウニャァ~」
振り下ろされるボスゴドラの拳をニャスパーが全開のサイコパワーで受け止める。
が、
「ゴドラァ!!!!」
「ニャ、ニャァァ…!!」
侑「ぱ、パワー、つよ……!」
こっちはフルパワーなのに、拳を止めきれない。
かすみ「ゾロア!!」
「ガゥ!!!」
そんな中、ゾロアがボスゴドラの顔面に飛び付き、
「ゴドラァ…!!?」
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガーーーゥゥ!!!!」
至近距離で“ナイトバースト”を炸裂させる。
「ゴドラァ……ッ!!!!」
かすみ「侑先輩、大丈夫ですか!?」
「ガゥ!!」
侑「うん、ありがとう、かすみちゃん……!」
「ニャァ…」
「ゴド、ラァ…!!!」
かすみ「ふふん♪ 闇がまとわりついてよく見えないですよね!」
「ガゥ!!」
“ナイトバースト”には相手の命中率を下げる効果がある。
あれだけ至近距離で食らったら、その追加効果の影響をもろに受けてしまったに違いない。
侑「よし……! 今だよ! ウォーグル!」
「ウォーーーーッ!!!!」
ウォーグルが爪を構えながら上空から強襲し──
侑「“ばかぢから”!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
上から爪で力任せに押さえつける。
「ゴドラァ…!!!!」
だけど、ボスゴドラは視界が奪われているはずなのに、ウォーグルをパワーだけで押し返してくる。
「ウ、ウォーー…!!!!」
侑「ウォーグル!! 負けないで!!」
かすみ「ヤブクロン!! “アシッドボム”!」
「ブクロンッ!!!」
どくタイプの攻撃は、はがねタイプには効果がないけど──ヤブクロンが攻撃を放ったのはボスゴドラの足元だ。
足元に落ちた“アシッドボム”は着弾と共に、地面を溶かし、
「ゴ、ドラッ!!!?」
ボスゴドラの足元を滑らせた。
侑「今だ!!」
「ウォーーーーーッ!!!!!」
「ゴ、ドラァ…!!!!」
ウォーグルが爪で蹴り飛ばしてボスゴドラを押し倒す。そこに向かって、
侑「ドロンチ!!」
かすみ「サニーゴ!!」
侑・かすみ「「“シャドーボール”!!」」
「ロンチィーーー!!!!」「サ……」
2匹から放たれた“シャドーボール”がボスゴドラに直撃し、
「ゴドォッ…!!!!」
その衝撃で吹っ飛んだボスゴドラは──崖から落下していった。
かすみ「はぁ……ど、どうにか倒せたぁ……」
侑「あはは、そうだね……」
やっと撃退出来て、一息──吐いたのも束の間、
「タンザン…!!」
侑「!? かすみちゃん、危ない!?」
かすみ「へ!?」
突然、黒い液体のようなものが飛んできて、私はかすみちゃんを押し倒すように伏せる。
侑「あ、あのポケモンは確か……セキタンザン……!」
かすみ「ま、まだ出てくるんですかぁ!?」
「タンザンッ!!!!」
セキタンザンは再び黒い液体のようなものを飛ばしてくる。
かすみ「サニーゴ! “ミラーコート”!!」
「……サ」
侑「かすみちゃん!! それに当たっちゃダメ!!」
かすみ「へ!?」
その黒い液体は、サニーゴにぶつかると──べしゃっと音を立てながら、サニーゴにへばりつく。
かすみ「ちょ、サニーゴ!? なんですか、あのねばねばして気持ち悪いの!?」
侑「あれは“タールショット”だよ……! ねばねばしてて、よく燃える液体……!」
かすみ「よく燃える!?」
説明している間にも、
「タンザン…!!」
セキタンザンの背中の炎が赤熱し、口から炎が溢れ出し、大の字になりながらこっちに飛んでくる。
かすみ「ぴゃーーー!? “だいもんじ”--!!?」
侑「イーブイ! “いきいきバブル”!! フィオネ! “バブルこうせん”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」「フィオーー」
2匹のみず技で消火を試みる。
が、勢いが強すぎて、止められる気がしない。
かすみ「か、加勢します!! サニーゴ! “ハイドロポンプ”!!」
「……サ」
タールまみれになりながら、サニーゴが強烈な水流を発射し──それによって、やっと“だいもんじ”は勢いを失い始めるが、
「タンザンッ!!!!」
セキタンザンが、そこに向かって走りこんでくる。
侑「!? ま、まずい!?」
セキタンザンが自ら、泡と水の中に突っ込み──ジュウウウウ!! と音を立て、蒸気を上げる。
かすみ「へ!? なんか、湯気出てますよ!?」
「タンザン…!!!」
直後、猛烈なスピードでセキタンザンがこっちに向かって突進してくる。
かすみ「は、はやっ!?」
侑「……っ!!」
このスピードじゃ、回避しきれない……!!
なら……!
侑「ドロンチ!!」
「──ロンチィ…」
ドロンチがユラリとセキタンザンの進路に現れ、
「タンザンッ!!!?」
侑「足元、薙ぎ払え!!」
「ロンチィ!!!」
「タンザンッ!!!?」
猛スピードで走るセキタンザンの足元を“ドラゴンテール”で薙ぎ払った。
走っている真っ最中に足払いを食らったセキタンザンは前方に向かってすっ転ぶ。
そして、転んだセキタンザンに向かって真上から──
かすみ「テブリム!!」
「テーーーブゥ!!!!」
テブリムが頭の房を叩きつける。
が、セキタンザンはまだ倒れず、
「タンザンッ…!!!!」
かすみ「タフですねぇ……!」
テブリムに手を伸ばしてくるが──直後、セキタンザンの身体が、ボゴッと音を立てながら地面に沈み込む。
「タンザン…!!?」
かすみ「得意の落とし穴トラップですよ!!」
「クマァッ♪」
ジグザグマがセキタンザンの足元を掘りぬきながら、飛び出してくる。
あの巨体だ。自分の立っている地面の下が空洞になったら、その重さに耐えきれずに、穴に沈み込むは当然のこと。
そして、動けなくなったセキタンザンに向かって──
侑「ドロンチ!! “ドラゴンダイブ”!!」
「ロンチィ!!!!」
「タンザンッ!!!?」
セキタンザンに強烈なプレスをかました。
さすがにこの連続攻撃には耐えきれなかったようで、
「タン、ザン…」
セキタンザンは、ガクリと気絶し、戦闘不能になった。
かすみ「……はぁ……」
侑「あ、危なかったね……」
かすみ「なんですか、あのスピード……見た目に合ってませんよ……」
侑「セキタンザンの特性は“じょうききかん”って言って、みずタイプかほのおタイプの技を受けると、素早さが上昇するんだよ……」
かすみ「な、なるほど……」
“じょうききかん”が発動した時はどうなるかと思ったけど……素早さを逆手に取って、どうにか倒すことが出来た。
かすみ「……そうだ、サニーゴ……すぐにタール、落としてあげるからね……」
「サ……」
かすみちゃんは、タールでべとべとになったサニーゴの体をバッグから出したタオルで拭い始める。
かすみ「……タオルが一瞬で真っ黒に……」
侑「水で洗い落とした方がいいかな……フィオネ、“みずでっぽう”」
「フィオー」
ぷしゃーと水を噴きかけ、サニーゴのタールを少しずつ落としていく。
かすみ「ありがとうございます……。……それにしても……ここの野生ポケモン……強いですねぇ……」
侑「ホントに……」
やっと尾根まで登り切って、急勾配に苦しめられることがなくなったと思った矢先──野生ポケモンたちが次々と襲い掛かってきて、それの撃退にてんやわんやだ。
かすみ「ここまでで何匹と戦いましたっけ……今戦ったセキタンザン、ボスゴドラ……ニドキング、ドンファン、ハガネール……」
侑「ゴローニャ、ダイノーズ、チャーレムにバクオング……」
かすみ「はぁ……ポケモンたちは“げんきのかけら”で回復できますけどぉ……かすみん、もうさすがに疲れましたぁ……早く帰りたいぃ……」
侑「まあまあ……その成果は出てるからさ」
かすみ「成果……?」
そう言いながら、私はドロンチを見る。
すると、ドロンチは体をぶるぶると震わせていて、次の瞬間──カッと光り輝く。
かすみ「わ!? こ、これって……!」
侑「うん!」
「──パルト…!!!」
侑「戦って得た経験値で、ドロンチがドラパルトに進化したよ!」
「パルト♪」
侑「確実に私たちの力にはなってる。だから、この調子で頑張って進もう」
かすみ「……わかりました。弱音吐いてる場合じゃないですもんね……!」
一緒に戦っていたポケモンが目の前で進化するというのは、少なからず、かすみちゃんにやる気と勇気を与えてくれたようだ。
侑「もう尾根も半分くらいまでは歩いてきたと思うからさ。あと半分、頑張って進もう」
「ブイ」
かすみ「はーい! 頑張ります!」
「ガゥ」
私たちは真っ赤な夕焼け空の中、再び歩き出す。
日が落ち切る前に、少しでも進んでおかないとね──
🏹 🏹 🏹
──さて、私が忙しなくコメコからローズへと来たのには、もちろん理由があります。
それは……説明をしなくてはいけない方たちのもとへと訪れたから……。
マンションの一室で、テーブルを4人の大人が囲っていた。
もちろん、1人は私。……そして、もう1人は──真姫です。
並んで座る私たちの向かいには──
菜々父「…………」
菜々母「…………あ、あの……それで、お話とは……」
神妙な面持ちのナカガワ夫妻の姿。特にご主人の方は、何か心当たりがあるのか、重い表情をしているように見てとれた。
──ここは菜々のご実家。菜々のご両親に事情の説明をしに来たということです。
海未「本日は、菜々さんについて……ご説明しなくてはいけないことがあって、参りました」
菜々母「菜々の……?」
海未「結論から言うと、菜々さんは……とある事件に巻き込まれていて……今現在、犯罪組織の人間と一緒にいるそうです……」
菜々母「え……」
真姫「それについて、私から説明させてもらってもいいかしら……」
真姫がそう切り出す。
真姫「まず……菜々が、ポケモントレーナーであることは……ご存じですよね。私がポケモンを持たせたことも……」
菜々父「……はい。存じております」
菜々母「主人から、話は伺っています……菜々はチャンピオンになると言って……飛び出して行ってしまったと……」
真姫「菜々は……焦ってチャンピオンに挑み……敗北したそうです」
真姫は伏し目がちに言いながら、言葉を続ける。
真姫「そして……敗北で弱っているところを……その組織の人間に唆されて……付いていってしまった……」
菜々母「そ、その犯罪組織というのは……」
海未「詳しくは調査中ですが……この地方の平和を脅かす存在なのは間違いありません。……少なくとも、善人ではないです……」
菜々母「そん、な……」
菜々の母親の顔色が一気に青ざめる。
真姫「菜々は……すぐにでも強くなるための力を欲するあまり……より強いポケモンを受け取るのを条件に……その組織の人間に……付いていってしまいました」
真姫の言葉を聞いて、
菜々父「…………私が……あんな言い方をしてしまったからか……」
菜々の父親は顔を両手で覆いながら、肩を落とす。
真姫「今回、このような問題を起こしてしまったのは……私の責任です。ご両親が反対しているのを知っていながら、菜々にポケモンを持たせたのは私ですし……その上で、彼女をしっかりと見てあげられなかった。……本当に申し訳ありません」
真姫は立ち上がり、深々と頭を下げる。
菜々父「…………」
菜々母「……な、菜々は……娘は……どうなるんでしょうか……?」
海未「もちろん……リーグが責任を持って連れ戻します」
菜々母「そう……ですか……」
私の言葉を聞いて、菜々の母親は可哀想なくらい気落ちしているのが一目でわかった。
……一人娘が、悪人たちに付いて行ってしまったなんて聞かされたら当然だろう。
だが、母親以上に──
菜々父「………………」
父親の狼狽振りの方が酷かった。
この事態が起こる直前に、菜々と話をしたというのは真姫から聞いている。
その内容も凡その予想が付いていて……そのときに菜々とした会話が、今回の引き金になったという想いがあるのかもしれない。
あまりの気落ち振りに──
菜々母「あなた……大丈夫……?」
菜々父「……あ……あぁ……」
ご夫人も心配そうにしている。
菜々母「……顔色が悪いわ……。……あとは、私が話を伺うから……あなたは奥で休んでいて」
菜々父「…………しかし…………」
菜々母「いいから」
海未「ご無理は、なさらないでください……今、体調が優れないのであれば、後日でも大丈夫ですので」
菜々父「…………すみません……。……少し、席を外させてもらいます……」
そう言って、菜々の父親は重い足取りで奥の部屋へと下がっていった。
菜々母「…………主人は……菜々からポケモンを取り上げようとした結果、あの子が飛び出して行ってしまったことを……酷く後悔していました……。……それが、まさかこんな事態にまでなってしまうなんて……」
海未「心中……お察しします」
菜々母「ただ……勘違いはしないで欲しいんです。……主人が菜々からポケモンを遠ざけようとしていたのは、菜々を想ってのことなんです……。あの人は……幼少期にポケモンに襲われて親を失っていて……菜々には同じ想いをして欲しくないと……そう口にしていました……」
真姫「……菜々も同じようなことを言っていたわ」
菜々母「私は……このローズで生まれて、ポケモンとほとんど関わらずに育って、あの人と結婚しました。……私はポケモンと関わらない人生を不幸に思ったことはありませんし……少し、怖い存在だと今でも思っています。だから私も……ポケモンと関わらずに、菜々が幸せになれるのなら、その方がいいと思っていました……。ですが……私たちの、その考えが……ずっと、菜々を苦しめていた……」
真姫「…………」
菜々母「いえ……本当は……菜々がポケモンに興味を持っていることには……ずっと前から気付いていました……。だけど、あの人の主張も理解出来て……菜々がしたいことが出来なくて苦しんでいるとわかっていながら……あの人の意見も正しいからと、そんな風に自分に言い訳して……あの子の気持ちから、目を逸らしていたんです……っ……」
菜々の母親は、目元を押さえながら、そう話す。
菜々母「こんなことになるなら……もっと、話を聞いてあげればよかった……っ……菜々を……見てあげればよかった……っ……。……っ……」
彼女の目から、ぽろぽろと涙が零れる。
私は席を立ち、彼女に近付き、ハンカチを差し出す。
海未「……使ってください」
菜々母「……すみません……っ……」
さめざめと涙を流すナカガワ夫人を見て、
真姫「ごめんなさい……私も……隠れてポケモンを持たせたりせず、もっとご家族と向き合えるようなやり方を……ちゃんと考えてあげるべきでした……。……ごめんなさい」
再び頭を下げる真姫。
菜々母「あ、頭を上げてください……真姫さんは……菜々の夢を……叶えるために、あの子の傍に居てくれたんですよね……」
真姫「……その……つもりだったんだけどね」
真姫も、酷く後悔した顔をしていた。
その胸中は……わざわざ説明する必要もないでしょう。
菜々母「あの……真姫さん……」
真姫「……なんでしょうか……」
菜々母「あの子は……菜々は、ポケモントレーナー……だったんですよね」
真姫「……はい」
菜々母「今からでも、あの子が……その……ポケモントレーナーとして戦う姿を……確認出来るものは……残っていますか……?」
真姫「え……?」
真姫は菜々の母親の言葉に驚いたように目を見開く。
菜々母「私は……私たちは……菜々のことを全然見ていなかった……。……私たちには戦う力がありません。……だから、こんなことになってしまった今、菜々にしてあげられることは何もない、ただ待つことしか出来ない。……だけど……せめて……あの子が心の底から大事に思っていたものを、大好きだと思っていたものを……ちゃんと見ないといけないんじゃないかって……そう思ったんです。今更、遅いのかもしれませんが……」
菜々の母親の言葉に、真姫は、
真姫「……是非、そうしてあげてください……きっと、菜々は両親がそう思ってくれただけで、喜ぶはずだから……」
そう返す。
真姫「海未、ポケモンリーグのバトルビデオ……本部なら残ってるわよね?」
海未「もちろんです。後日、リーグからこちらに送らせていただきます」
菜々母「ありがとうございます……。……あの人にも、一緒に見てもらうようにお願いしてみます……あの子の……大好きなものを……。あの子にとっての……大切なものを……」
菜々の母親の言葉を聞いて、真姫は力強く頷いた。
真姫「あの子は……菜々は、絶対に私たちが連れて帰ります……! だから、待っていてください……!」
菜々母「はい。菜々のこと……どうか、よろしくお願いします……っ……」
菜々の母親は、最後にもう一度、深々と頭を下げて、私たちにそう懇願するのだった。
🏹 🏹 🏹
ナカガワ宅を後にし、ローズの街を歩く最中、
真姫「……私も……ダメね」
真姫がそう零す。
海未「どうしたんですか、突然」
真姫「……私も人のこと言えないなって……。……菜々のご両親は、絶対に話を聞いてくれるはずないって……勝手に決めつけて、せつ菜のことをずっと隠していた……。……今になって考えてみたら、もっとやりようはあったんじゃないかって……」
海未「気持ちはわかりますが、今言っても仕方ありません……。それに、今私たちにはやるべきことが山積みです。……悔やむのは全てが終わってからにしませんか」
真姫「……そうね。……ごめんなさい」
そうだ。私たちにはやるべきことがたくさんある。
海未「……そういえば、侑とかすみは今どうしているんですか? ローズジム戦には勝利したと報告は受けましたが……」
真姫「今は果南が出した課題をこなすために、カーテンクリフを登っているみたいよ」
海未「それはまた……果南らしい、課題の出し方ですね……」
彼女の教え方は非常に大雑把だ。
一つ一つ問題点を解決するというよりは……とにかく、やらせて伸ばすというか……。
しかも、そのやらせる内容はかなり無茶なことが多い。
確かに、それをこなせれば相応の自信と実力を付けられるものになっているのには間違いないのだが……。
海未「大丈夫でしょうか……」
自分が条件を出しておいてなんですが……私は少しだけ、彼女たちが心配になっていた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「──もう……! あのヨノワールしつこすぎでしたよ!」
「ガゥゥ…」
侑「あはは……そうだね……」
「ブイ」
日もとっぷり暮れて……朝からずっと動き続けていた私たちは、さすがにくたくた……今日はここら辺で休もうという話になったんだけど……。
そんな中でも、お構いなしに襲ってくる野生ポケモンをどうにか撃退したところだ。
侑「とにかく、テント張っちゃおうか」
かすみ「はいぃ……もう、さすがに休まないと死んじゃいますぅ~……」
二人掛かりで、テントを張ろうとして──
侑「……ん?」
ペグを打とうとしたら──地面にすでにペグを打ったような穴があることに気付く。
かすみ「どうかしたんですか、侑先輩?」
侑「あ、いや……すでにペグを打ったみたいな穴があってさ……」
かすみ「もともとあったってことですか?」
侑「うん……」
周りをよく見てみると──焚火跡のようなものもある。
……せっかくだし、使わせてもらおうと思うけど……。
かすみ「ここで野宿でもしてる人がいたんですかね……?」
ここで野宿する人なんているのかな……? なんて思ったけど、
侑・かすみ「「……あ」」
かすみちゃんと同時に思い出す。
侑「……せつ菜ちゃんだ」
かすみ「……せつ菜先輩です」
侑「考えてみれば……ここでの修行って、せつ菜ちゃんもしてたことなんだ……」
かすみ「確かに、強い野生ポケモンもたくさんいますし……ここに籠もるのってもしかして、すっごく効率がいいんですかね?」
侑「かもしれないね」
やっぱり、果南さんはチャンピオンなだけあって、用意してくれたの課題は適切なのかもしれない。道具だけ渡して行ってこいって言うのは、大分スパルタだとは思うけど……。
そんなことを考えていると──くぅぅぅ~~……と可愛らしい音が聞こえてくる。
かすみ「ぅぅ……お、お腹なっちゃいましたぁ……///」
侑「……ふふ、早くテント張って、ご飯食べよっか」
私たちは一刻も早く空腹を満たすためにも、野営の準備に取り掛かるのだった。
🎹 🎹 🎹
侑「……ねぇ、かすみちゃん」
かすみ「なんですか?」
お湯を入れるだけで作れるポタージュを飲みながら、かすみちゃんが小首を傾げる。
侑「強い人って……どんなこと考えてるか、わかる……?」
かすみ「んー? ……うーん……もっと強くなるぞーとか? ……正直、よくわかんないですね」
侑「あはは、そうだよね。私も……よくわかんない……。……わかって、あげられなかった……」
かすみ「……もしかして、せつ菜先輩に言われたこと……気にしてるんですか……?」
侑「うん……ちょっとね……」
遺跡でせつ菜ちゃん言われたこと──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──
侑「せつ菜ちゃん……すごく苦しそうだった……。……だから、ずっと考えてたんだ……だけど、わからなかった……」
かすみ「……せつ菜先輩って……菜々先輩なんですよね」
侑「……みたいだね。……会議でその話を聞いたときは、びっくりした……」
かすみ「かすみんもです……。でも、菜々先輩がせつ菜先輩だったってことは……かすみんたちには想像出来ないくらい、大変なことがあったんじゃないかなって思うんです……」
侑「……そうだね」
親に旅立ちを許してもらえなかった菜々さんが……せつ菜ちゃんとして、この地方のチャンピオンに迫る実力を得るまでに、一体どれだけの苦労と、苦悩があったのか……私には想像も出来ない。
かすみ「かすみんたちは……選ばれて、図鑑も、最初のポケモンも貰って旅に出れましたけど……せつ菜先輩が実は菜々先輩だったって知った途端……せつ菜先輩にとって、かすみんたちってすっごく恵まれた人たちに見えてたんじゃないかなって思うようになりました……」
侑「……うん」
私たちはなんとなく、最初のパートナーに目を向ける。
「ブイ…?」
「カイン」
私のイーブイに関しては、博士に貰ったポケモンではないけど……。
かすみ「たぶん……そういう羨ましいー! って気持ちとか、なんであの人は貰ってるのにー! って気持ちが一度出てきちゃうと、悔しくて悔しくて、仕方なくなっちゃうんじゃないかなって……少なくともかすみんが同じ立場だったら、すっごく悔しいです」
今考えてみればだけど……その悔しさみたいなものは、せつ菜ちゃんの手持ちにも反映されていた。
侑「……せつ菜ちゃんが手持ちを5匹しか持ってなかったのは……そういうことだよね……」
せつ菜ちゃんにとって……最後の1匹──いや、最初の1匹は……ヨハネ博士から貰うはずのポケモンだったんだ。
かすみ「だから……せつ菜先輩がかすみんや侑先輩に八つ当たりしちゃう気持ち……かすみんはわかる気がします。……もちろん、果林先輩が余計なことを言ったんだとは思いますけどね!」
侑「うん……」
かすみ「結局、かすみんたちはせつ菜先輩が欲しかったものをすでに持ってるわけですから……せつ菜先輩がどう辛かったか~とか、悔しかったか~とか、そういう気持ちって、想像する以上のことは出来ないと思うんですよ」
侑「……まあ……そうだよね」
かすみ「だから、どっちかと言うとせつ菜先輩自信の問題だと思います。侑先輩、すっごく優しいから気になっちゃうんでしょうけど……侑先輩が悩んじゃうくらいなら、気にしなくてもいいんじゃないかなって」
侑「……ありがとう、かすみちゃん。……話したら、ちょっとすっきりした」
かすみ「なら、よかったです♪」
かすみちゃんは、ニコニコ笑いながら言う。
かすみ「じゃあ、今度はかすみんから侑先輩に聞いてもいいですか?」
侑「ん、なにかな」
かすみ「侑先輩は……どんなトレーナーになりたいですか?」
侑「どんなトレーナー……うーん……」
改めて聞かれると悩んでしまう。
かすみ「きっとせつ菜先輩には明確に、そういうものがあったのかな~って……だから、そういうのを考えていったら、意外とわかったりして」
侑「……確かに……うーん……でも、なんだろう……。……かすみちゃんは?」
かすみ「かすみんはポケモンマスターになりたいって思って、ずっと旅してますよ!」
侑「ポケモンマスターかぁ……」
かすみちゃんらしいけど、ちょっと抽象的だなぁ……。
侑「具体的には……?」
かすみ「具体的……? うーんと……可愛くて強いトレーナーです! あと、誰にも負けないトレーナーになりたいです!」
侑「可愛くて強くて、誰にも負けないトレーナー……なんか、それもかすみちゃんらしいね」
かすみ「はい! 自分でもかすみんらしいと思います! それで、侑先輩はどうですか?」
侑「私は……」
考えてみる。私はどんなトレーナーになりたいのかな……。
未来の自分を想像してみる。
強くはなりたい……強いトレーナーになって……。
……チャンピオンになる……? うーん……なんか違う……。もちろんなれたら嬉しいけど……私がポケモンたちと一緒に目指したいのってそういうことじゃない気がする……。
じゃあ、ジムリーダーとか、四天王になる……? それもなんだかしっくりこない。
……なら、どうして強くなるんだろう。
強くなって……何をするんだろう。
そのとき、ふと……頭に浮かんできたのは……。
侑「……歩夢……」
──歩夢の顔だった。
侑「……そっか。わかった……私……大切な人を守れるトレーナーになりたいんだ」
私の旅は、いつだって歩夢と一緒にあった。歩夢がいなくなってしまって、より一層強く思った。私は……歩夢を守れるトレーナーでありたい。
かすみ「……素敵です、侑先輩らしいですね♪」
侑「歩夢だけじゃない……かすみちゃんも、しずくちゃんも、リナちゃんも……せつ菜ちゃんも。私が大切って思った人たち、みんなを守れる強いトレーナーになりたい」
かすみ「じゃあ、お互い強くならないといけませんね! まあ、かすみんは守ってもらわなくても大丈夫なくらい強くなっちゃうんですけど♪」
侑「ふふ、頼もしいね♪ じゃあ、私はかすみちゃんに守ってもらっちゃおうかなぁ……」
かすみ「任せてください! 最強の可愛い強いトレーナーはそれくらい出来て当然ですから!」
侑「ふふ、期待してるよ♪」
そして、そんな風になるためにも──私たちはこの修行を乗り越えないといけない。
私たちの……未来を守るためにも。
かすみ「……ふぁぁ……」
侑「かすみちゃん、眠い?」
かすみ「はい……ご飯食べたら……急に眠くなってきました……」
侑「明日も朝早いだろうから……今日はもう寝ちゃおっか」
かすみ「はい……」
私はテントの中に、果南さんからもらった鈴を取り付ける。
野生ポケモンがテントに触れたら、鈴が鳴って報せてくれるようにするものらしい。
大きなテントではないので、ポケモンたちをボールに戻して……。
と、思ったら、
「カイン」「…ライボ」
ジュカインとライボルトは私たちがボールを向けると首を振る。
かすみ「ジュカイン……もしかして、見張りしてくれるの?」
「カイン」
侑「ありがとう、ライボルト。でも明日もあるから、せめてジュカインと交替で休んでね」
「…ライボ」
2匹にお願いして、私たちはテントの中に入る。
「──ガゥ♪」
かすみ「……って、ボールから出てきちゃダメじゃないですか……。仕方ないなぁ……一緒に寝よっか、ゾロア」
「ガゥ♪」
侑「ふふ、それじゃ寝ようか。イーブイ、おいで」
「ブイ♪」
こうして、私たちの修行1日目は終わりを迎えるのだった。
🍭 🍭 🍭
──時刻は夜です。ルビィは今、夜のローズシティにいます。
なんでこんなところにいるかというと……。
理亞「ルビィ、こっち」
ルビィ「うん」
理亞ちゃんにローズの病院に来て欲しいと言われたからです。
お互いジムリーダーなので、海未さんに許可を取って……少しの間、四天王さんたちの守る範囲を広げてもらっています。
ルビィ「それにしても……理亞ちゃん、急にどうしたの……?」
理亞「……ルビィには、知っておいて欲しいと思って」
ルビィ「……?」
そう言って前を歩く理亞ちゃんは──案の定、聖良さんの部屋に向かっていた。
理亞「──ねえさま。ルビィを連れてきたよ」
ルビィ「お、お邪魔しま──……え……?」
私はベッドに横たわる聖良さんを見て、びっくりする。
聖良さんの目が開いている。
理亞「ねえさま、意識が戻ったんだ。……だけど、心がないんだって」
ルビィ「……心が……ない……?」
確かに、聖良さんは目こそ開けているものの……なんというか、人間味のようなものが感じられない。無表情って言うのかな……?
理亞「やぶれた世界に行ったって言うのもあって……心だけが……どこかに行っちゃったって……」
ルビィ「…………」
確かにありえない話じゃないと思った。
聖良さんはディアンシーの怒りを受けた。……それが理由で、心を──魂を奪われてしまったのだとしたら……。
理亞「ただ……会議で話を聞いていて……思ったの。もしかしたら、ねえさまの魂は──ピンクダイヤモンドに閉じ込められてるんじゃないかって」
宝石には人の魂が宿ることがある。お姉ちゃんが言っていたことです。
お姉ちゃんは迷信レベルの話だから、本気にされてもと困っていたけど……ルビィは正直、迷信だとは思っていなかった。
何故なら……私の心は、コランに宿っていた気がするから。
守りたいって気持ちが一番強くなったときに、コランと共鳴して──私の心に住んでいたグラードンが出てきてくれた。
だから、ここまで聞いて、理亞ちゃんの言いたいことはなんとなく理解出来た。
ルビィ「……ディアンシー様に、会いたいんだね」
理亞「……! ……うん」
理亞ちゃんは頷くと、私の前で跪いた。
理亞「……クロサワの巫女様。……私を……ディアンシー様と会わせてください」
ルビィ「……理亞ちゃん、顔を上げて」
理亞「…………」
理亞ちゃんがゆっくりと顔を上げる。
ルビィ「前にした約束……覚えてる?」
約束──それは、やぶれた世界で戦ったときのこと。
理亞「ディアンシー様に、クロサワの巫女様に……認めてもらえるよう努力するって話だよね……」
ルビィ「うん。ルビィ、ずっと理亞ちゃんのこと見てたよ」
理亞ちゃんにとって、この3年間は大変なことの連続だったと思う。
その頑張りは、ちゃんと成果に出ていて──今では町の人にも慕われるジムリーダーになった。
ルビィ「クロサワの巫女として……今の理亞ちゃんなら、ディアンシー様と引き合わせても、大丈夫だと思えるよ」
理亞「ルビィ……! それじゃあ……!」
ルビィ「うん! 一緒に、やぶれた世界に行こう! それで、ディアンシー様に聖良さんの魂を返してもらえるようにお願いしよう♪」
理亞「……うん!」
バイタルサインの響く、聖良さんの病室で……。
3年前の約束を守るために、ルビィは──クロサワの巫女として、成長した理亞ちゃんと共に、ディアンシー様のもとへ行くことを決意したのでした。
🎹 🎹 🎹
──翌日。
侑「はぁ……はぁ……」
かすみ「やっと……ですね……」
朝から野生のポケモンたちと戦いながら歩き続けて──やっと到着した。
侑「遺跡の……階段……!」
かすみ「はい! あとは階段を登るのみです!!」
でも、もう日が沈み始めている……つまり2日目の夜になろうとしているということだ。
私たちはここまでに2日掛かっているわけだけど……まだ帰りがある。
このままだと帰りは倍の速度で進まなくちゃいけないことになる。
侑「時間がない……急ごう」
「イブイ!!」
かすみ「はい!」
「ガゥ!!」
私はかすみちゃんと一緒に、遺跡の長い長い階段を登り始めた。
🎹 🎹 🎹
──大急ぎで階段を登ると……。
かすみ「……いや、雑過ぎませんか……?」
「ガゥゥ…」
侑「あ、あはは……」
「ブィィ…」
登りきったところに……いかにもな宝箱が置いてあった。
大きさは長辺が30㎝くらいの小脇に抱えて持ち運ぶのがちょうどいいかなというサイズのものだった。
侑「まあ……わかりやすくしてあるって言ってたし……」
かすみ「だとしてもですよ……」
なんとなくわかっていたけど……果南さんは相当大雑把な人らしい……。
かすみ「まあ……さっさと開けて中身回収しちゃいましょう……」
かすみちゃんが開けようとするも、
かすみ「あ、あれ……? 開かない……」
箱はウンともスンとも言わなかった。
かすみ「んぎぎ……!! な、なんですか、これぇ!? 鍵でもかかってるんですか!?」
侑「あ……そうだ……鍵貰ったじゃん」
かすみ「……そういえば、貰ってましたね」
果南さんにもらった小箱だ。
到着したら箱から出すように言われていたものだ。
バッグから小箱を取り出し──中身を確認しようとした、そのとき、
かすみ「……!? 侑先輩!! 危ない!!」
侑「えっ!?」
「イブィ!!?」
急にかすみちゃんが飛び付いてきて、私は尻餅をつく。
直後、今さっきまで私の頭があった場所を──輝くレーザーが迸る。
侑「……!! 野生のポケモン……!! ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
私はライボルトをボールから出しながら、すぐさま身を起こし、
かすみ「わっ!?」
かすみちゃんの手を引いて走り出す。
そして、走り出した瞬間に今私たちが転んでいた場所に、先ほどと同じレーザーが飛んできて床を焼く。
走りながら、レーザーを撃ってきたポケモンの方に顔を向けると──
「ジュラル」
侑「……! ジュラルドン!!」
ごうきんポケモンのジュラルドンが、こちらに向かって光を集束させているのが確認出来た。
さっきのレーザーと同じ技──
侑「“ラスターカノン”だ……!! ライボルト!! “チャージビーム”!!」
「ライィィーーボォッ!!!!!」
「ジュラルドンッ!!!!」
ライボルトの“チャージビーム”とジュラルドンの“ラスターカノン”が真正面から衝突し、逃げ場を失ったエネルギーが爆発して、砂塵を巻き上げる。
かすみ「ゆ、侑先輩ぃ!! 宝箱から離れて行ってますよぉ~!」
「ガゥガゥゥ…!!!!」
侑「わかってるけど……! ゆっくり開けてたら狙い撃ちにされちゃうよ!」
「ブ、ブイ」
とにかく狙い撃ちにされないように、私たちは走り回る。
かすみ「ゆ、侑先輩! あそこに!」
かすみちゃんが指差す先は──遺跡に立っている柱だ。
侑「うん……!!」
とりあえず、影に隠れようと、後ろに回ると──
「オノ…」
侑・かすみ「「!?」」
先客が居た。
「オノッ!!!!」
かすみ「……ジュカインっ!!」
「──カインッ!!!」
大きな顎で襲い掛かってくるポケモンを、飛び出したジュカインが両腕の刃で対抗する。
この鋭いアゴを持ったポケモンは──
侑「オノノクス……!」
かすみ「あーもう!! ダンジョンのボスってわけですか!? 侑先輩……!! こっちはかすみんたちがどうにかします!! 侑先輩はジュラルドンを!!」
侑「わかった……!!」
私はジュラルドンに向かって走り出す。
「ジュラル!!!」
ジュラルドンが再び“ラスターカノン”を放ってくるが、
侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ライィィボォォォォ!!!!!」
迸る電撃が、それを相殺する。
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」
イーブイが電撃を発し……ジュラルドンを捉えるが──
「ジュラル…」
ジュラルドンはノーリアクション。
侑「き、効いてない……!」
相手は、はがね・ドラゴンタイプ。
でんきタイプの技じゃ、効果が薄い。
なら……!
侑「“めらめらバーン”!!」
「イッブィッ!!!!」
イーブイが全身に炎を纏って、ジュラルドンに向かって駆けだす。
一気に肉薄し、
侑「いっけぇ!!」
「ブーーィッ!!!!」
イーブイの炎の突進が炸裂したが──ガァンッ! という硬い音と共に、
「ブイッ!!!?」
イーブイが弾き返される。
侑「“てっぺき”!?」
さらに──ジュラルドンから、耳障りな音が周囲に向かって発せられる。
侑「……っ゛!? ……き、“きんぞくおん”……っ……!」
そのうえ、ジュラルドンは見た目からは想像出来ないような素早いフットワークで、今しがた弾き飛ばしたイーブイに近付き──大きな尻尾を振るって叩きつける。
「ブィィィッ…!!!」
侑「イーブイ……!! 今度は“ワイドブレイカー”……!」
“びりびりエレキ”で“まひ”しているはずなのに、この速さ……相手のレベルの高さが一目でわかる。
このジュラルドン……強い……!
……でも……前なら焦っていたけど──
侑「修行の最後の敵に相応しいじゃん!」
今は不思議と、戦意が高揚していた。
侑「イーブイ!! “こちこちフロスト”!!」
「イーーブィッ!!!!」
黒い冷気が纏わりつくようにして──ジュラルドンの足元を凍り付かせていく。
「ジュラル」
ジュラルドンは体を振るって氷を破壊するけど──その隙を突いて、
侑「ライボルト! “かえんほうしゃ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトと一緒に走りながら、“かえんほうしゃ”で攻撃する。
「ジュラル」
が、ジュラルドンは火炎の中でも怯まず、
「ジュラーールッ!!!!!」
“りゅうのはどう”をこっちに向けて発射してくる。
侑「……っ!」
私は咄嗟にライボルトの背を掴み──それと同時に、
「ライボッ!!!」
ライボルトが脚の筋肉を電気で刺激し、猛加速して、“りゅうのはどう”をすんでのところで躱す。
攻撃はどうにか捌けてる……だけど、相手を倒す決定打が足りない……。
侑「……どうにか、打開策を考えないと……!」
👑 👑 👑
かすみ「──“りゅうのはどう”!!」
「ジューーカインッ!!!!」
相手の鋭い顎を刃で受けながら、口から“りゅうのはどう”を相手の顔面に向かってぶっ放してやります!
「オノノクッ…!!!」
さすがに至近距離からのドラゴンタイプの攻撃は、相手を怯ませましたが、
「オノッ!!!」
怯んだのは一瞬だけで──後ろに半歩引く反動をそのまま、身体を捻る動作に変換して、太い尻尾を真横からジュカインに叩きつけてくる。
「カインッ!!!?」
ジュカインは、尻尾の一撃を食らい遺跡の石畳の上を吹っ飛んでいく。
かすみ「い、今の“アイアンテール”!? ジュカイン、大丈夫!?」
「カ、カインッ!!!」
駆け寄りながら、声を掛けると、ジュカインはすぐに受け身を取って立ち上がる。
だけど、受け身を取って立ち上がった直後のジュカインに向かって──大量のウロコが飛んできた。“スケイルショット”です……!
かすみ「“タネばくだん”!!」
「カインッ!!!」
ジュカインは体を大きく捻って、背中の丸いタネを飛ばすと──それがドォンッドォンッ!! と音を立てながら爆発して、“スケイルショット”を相殺する。
やっとの思いで、かすみんがジュカインのもとにたどり着くと同時に、
「オノォッ!!!!」
“タネばくだん”によって発生した爆煙の中から、オノノクスが鋭い顎を構えて、飛び出してきた。
「カインッ!!!」
ジュカインはそれを再び両腕の刃で受け止める。
──けど、今度は相手が速かった。
受け止めたと同時に、オノノクスの口から“りゅうのはどう”が発射され、
「カインッ…!!?」
ジュカインの頭部に直撃する。
かすみ「ジュカイン!? っ……! ゾロア、“ナイトバースト”!!」
「ガーーーゥゥ!!!」
「オノッ…!!」
咄嗟に至近距離で“ナイトバースト”を顔面にぶちかます。
相手は倒れる気配こそ全然ないものの、顔面を暗闇に包まれて、一瞬かすみんたちのことを見失う。
かすみ「ジュカイン、平気!?」
「カインッ…」
声を掛けると、ジュカインはすぐに立ち上がる。
どうやら、致命傷にはなっていないようで安心する。
かすみ「……ぐぬぬ、お昼だったら、“ソーラーブレード”が使えるのに……!」
辺りはすっかり日が落ちきって、もう夜の時間帯になってしまった。
こうなると、ソーラー系の技はほとんど使えないと考えた方がいい。
あの技がないと、決定打に欠ける……。
かすみ「どうにかして……一発、大きいのを決めないと……!」
「カインッ…!!」
🎹 🎹 🎹
侑「ライボルト!! “エレキフィールド”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトの背に乗り、走り回りながら、“エレキフィールド”を展開する。
相手に捉えられないように、周囲を旋回しながら、
侑「“かみなり”!!」
「ライボッ!!!!」
空に展開した、雷雲から“かみなり”を落とす。
「ジュ、ラルッ…」
侑「よし……! 効いてる……!」
相性は悪いけど、“エレキフィールド”による強化からの大技。
多少はダメージが通り始めた。
畳みかけるように“かみなり”を指示しようとした瞬間──
「ジュラァァァーーールッ!!!!!」
侑「!?」
「ライボッ!!?」
ジュラルドンが、雄叫びをあげながら、こちらに向かって猛スピードで転がってきた。
しかも、ジュラルドンが転がった道は──電気を帯びたフィールドが解除されていた。
あれは……“ハードローラー”……!?
突然のことに、咄嗟に対応出来ず、
「ライボォッ…!!!」
侑「うわぁっ!!?」
ライボルトもろとも吹っ飛ばされる。
その拍子に──戦闘が始まると同時にポケットにねじ込んだ、鍵の入った小箱が宙を舞う。
侑「しまっ……!?」
そのまま、私の身体は硬い石畳に叩きつけられ── 一瞬、息が止まる。
侑「……が……ぐ……っ……ぅぅ……!」
でも、気合いですぐに顔を上げる。──今、下を向くな……! トレーナーは常に状況判断を優先するんだ……!
視界の先に、宙を舞う小箱──それに向かって、いち早く気付いて飛び出したのは、
「ブィィ!!!!」
侑「イーブイ……!!」
イーブイがそれを空中で咥えてキャッチする。……がそれと同時に──キィィィンッと音を発しながら、“ラスターカノン”がイーブイを貫いた。
「ブ、ィィィィィッ…!!!!」
侑「イーブイ……!!」
“ラスターカノン”が直撃し、吹き飛ばされるイーブイ。
私は身を起こし、無我夢中でイーブイの方へと走り出し、
侑「イーブイ!!」
ヘッドスライディングの要領で飛び付き、イーブイをキャッチする。
侑「イーブイ、大丈夫!?」
「ブィィィ…」
イーブイは力なく鳴くと──顔を少し上げ、口に咥えた小箱を私に見せる。
小箱は“ラスターカノン”に焼かれ、ぼろぼろになってしまったけど……原型はしっかりと保っている。
侑「イーブイ……偉いよ、ありがとう……」
「ブィ…」
私がぎゅっと抱きしめると、その拍子に焼かれて脆くなった小箱から──小さなバングルが零れ落ちた。
小さな……丸い宝石のような珠が嵌まった……バングル。
侑「……これは」
それは──前に見たことがあった。
これは……。
侑「せつ菜ちゃんが……着けてたものと同じだ……」
──そのとき突然、後襟辺りを何かに引っ張られる。
侑「わぁ!?」
「ライボッ!!!!」
それはライボルトだった。ライボルトが無理やり私を背に乗せ、猛スピードで駆け抜ける。
直後、私の居た場所に“ラスターカノン”が迸った。
侑「あ、ありがとうライボルト……!」
「ライボッ!!!」
あそこでぼんやりしていたら、今頃丸焦げだった。
それにしても……この小箱に入っていたバングル。
──果南さんはこれを鍵だと言っていた。
そして、宝箱の中に入っているアイテムは──私たち以外が持っていても意味のないもの、とも。
つまり、あの宝箱には……この鍵──キーと私たちしか持っていない何かに対応するアイテムが入っている。
そんなモノ──入っているのはアレ以外ありえない……!!
侑「ライボルト!! 宝箱だ!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトは私の指示を受けると、脚の筋肉を刺激し、稲妻のような軌道を描きながら猛加速する。
稲妻の速度でたどり着いた、宝箱の前で──バングルを腕に嵌めると、それに反応したかのように、宝箱がその口を開いた。
私は中にあった、2つの珠を掴み── 一つは、
侑「ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトに咥えさせ──もう一つは、
侑「かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」
かすみちゃんに向かって、投げ渡した。
👑 👑 👑
──膠着した状態の中、
侑「──かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」
かすみ「へっ!?」
侑先輩の声がして、振り向くと──何か丸い物がかすみんに向かって飛んできていた。
かすみ「わぁぁぁ!?」
突然のことに驚きながらも、どうにかキャッチする。
かすみ「へ、これ、何……!?」
それは──不思議な色で輝く珠だった。
……あれ、この珠……似たのをどこかで見たこと……あるような……。
かすみ「……! そうだ!」
オハラ研究所で──しず子が貰っていた珠だ……!
つまり、これは──
かすみ「どうりで、かすみんたち以外が持ってても意味ないなんて言うわけですね!! ジュカイン!!」
かすみんはジュカインに向かって、その珠をパスする。
「カインッ!!!!」
ジュカインがそれをキャッチしたのを確認すると同時に──腕に付けた“メガブレスレット”を前方に構えた。
かすみ「行きますよ、ジュカイン──メガシンカ!!」
「カインッ!!!!!」
かすみんの掛け声と共に──“メガブレスレット”についた“キーストーン”が光り輝き、それに呼応してジュカインも光に包まれる。
光の中から現れたジュカインは──全身のシルエットがより鋭利に、胸には大きなX字状に広がる草のアーマーを身に着け、もともと大きかった尻尾はさらに大きく成長する。背中に付いていた黄色い実も、数が増え、尻尾の根本部分まで連なっている。
「ジュ、カィィィンンッ!!!!!!」
これが、ジュカインの新しい姿……!
「オノノォッ!!!!!」
そんなメガジュカインに向かって、オノノクスが顎を構えて突っ込んできた。
──そのまま、鋭利な顎で噛みついてきたけど、
「カィィンッ!!!!」
ジュカインはまたしても、オノノクスの攻撃を腕の刃で受け止め──そのまま、腕力でオノノクスを持ち上げる。
「オ、ノノクッ!!!?」
急なことに驚いたオノノクスは顎を広げてジュカインから離れようとしたけど──ジュカインは逆に腕を広げ、オノノクスの顎を両刃で突っ張るようにして、さらに高く持ち上げる。
かすみ「“りゅうのはどう”!!」
「ジューーーカイィィンッ!!!!!!」
持ち上げたオノノクスの胸部に向かって──口から発射した、ドラゴンの波動を至近距離からブチ当てる。
「オ、ノノォッ…!!!!」
苦悶の鳴き声をあげながら、波動の勢いで上方に向かって吹っ飛ばされるオノノクス。
ジュカインはくるりと背中を向け──大きな大きな尻尾の先端を宙を舞うオノノクスに向ける。
かすみ「“リーフストーム”!!」
「カィィィンッ!!!!!」
かすみんの指示と共に、尻尾に一番近い場所にある実が破裂──その反動で尻尾が回転し、草の旋風を巻き起こしながら、ミサイルのように飛んで行って、
「ノォクスッ…!!!!!?」
オノノクスに直撃した──だけでは留まらず、オノノクス巻き込んだまま……遺跡の外まで吹き飛んでいった。
かすみ「す、すご……」
「カァインッ!!!」
気付けば、今しがた飛ばしたばかりのジュカインの尻尾は、また生え変わっていた。
どうやら、再生力もすごいらしいです……。
かすみ「これがメガシンカの力……」
「カァインッ!!!」
かすみ「えへへ、すごいじゃないですか、ジュカイン!」
「カァインッ!!!!」
ただでさえ強かったジュカインが、さらに強くなっちゃいましたよ……!
かすみ「そうだ、侑先輩たちは……!」
パワーアップを喜ぶのも束の間、かすみんは侑先輩たちの戦局へと目を向けます──
🎹 🎹 🎹
侑「ライボルト、行くよ……!! メガシンカ!!」
「ライボォッ!!!!!」
ライボルトが眩い光に包まれる。
その光の中から、現れた姿は──全身の体毛が大きく成長し、まるで稲妻を身に纏っているかのようなフォルムに。
それと同時に全身から、バチバチとスパークを爆ぜながら、
「ライボォォォォォッ!!!!!」
“いかく”するように、雄叫びをあげる。
それと同時に、私は全身の毛が逆立つのがわかった。
空間一帯にとてつもない量の静電気が発生して、私の全身の毛を逆立ててるんだ……!
直後──
「ライボォォォォッ!!!!!」
まさに文字通り、目にも止まらぬスピードでメガライボルトが走り出す。
メガライボルトが走り抜けた通り道はあまりの速さに、摩擦で床が赤熱し、稲妻のようなシルエットを浮かばせる。
と、同時にメガライボルトの通った空気が──雷轟のようにゴロゴロと大きな音を立てる。
まるで、ライボルト自身が雷そのものになったようだった。
「ジュラル…!!!?」
ジュラルドンが、メガライボルトのあまりのスピードに、何が起こったか理解出来ずにいる間に、
「ライボッ…!!!」
ライボルトはジュラルドンに肉薄していた。
「ジュラルッ…!!!?」
そして、自身に向かって── 一斉に周囲のでんきエネルギーを集束させる。
侑「──“かみなり”!!!」
「ライボォォォォォッ!!!!!!!」
──もはやそれは、見慣れた枝分かれする稲妻のような形ではなく……光と熱と音を伴った、大きな電撃の柱のようだった。
至近に落ちた雷柱が周囲の空気を震わせ、雷轟が劈く。
侑「……っ!?」
私は咄嗟に耳を塞いだけど、それでも鼓膜どころか──雷轟が全身を震わせるような衝撃を伴っていた。
衝撃がやっと止んだかと思って、耳を塞いでいた手を離すと──周囲の山から、やまびこのように響く雷轟が私の耳に何度も届いてくる。
そして──そんなとんでもない威力の“かみなり”の直撃を受けたジュラルドンは……、
「…………」
真っ黒焦げになって、完全に沈黙していた。
侑「す、すごい……。……すごいよ、ライボルト!!」
「ライボッ!!!!」
私はライボルトに向かって、駆け出し、
かすみ「──すごいすごいじゃないですよっ!!?」
侑「わぁっ!!?」
と思った瞬間──かすみちゃんが、ものすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。
かすみ「ライボルトの“かみなり”の一部がジュカインの尻尾に吸い寄せられてきたんですよ!! 目の前がものっすごい光に包まれて、とんでもない音が目の前でして、かすみんしばらく耳キーンってなっちゃったんですからね!? というか普通に死んだかと思いましたよ!!!」
め、めちゃくちゃ怒ってる……。
侑「え、えーっと……メガジュカインの特性が“ひらいしん”だからじゃないかな……あ、あはは……」
かすみ「知ってるなら!!!! 技を選んでくださいよ!!!!?」
侑「ご、ごめんって!! 私もメガライボルトのパワーがこんなにすごいなんて知らなくて……」
かすみ「うぅ……かすみんも、メガジュカインのパワーには驚いたからわかりますけどぉ……」
「ライボ…」
気付けばライボルトが、私のもとに歩み寄ってきていた。
戦闘が終わったからか、姿はすっかりもとのライボルトに戻っていて、口に“メガストーン”を咥えていた。
かすみちゃんがあまりに怒っているからか、少々困惑気味だけど……。
かすみ「はぁ……。……まあ……この際、勝てたから、もういいですぅ……」
侑「あはは……つ、次から気を付けるね」
「ライボ…」
かすみ「是非そうしてください……」
あまりにパワーが強すぎるから、ちゃんとメガシンカを上手に扱えるようにならないとね……。
なにはともあれ──
侑「これで目標達成だね!」
かすみ「……はい! あとは下山するだけです!」
侑「よし、それじゃ、帰ろっか!」
かすみ「はい! 全速力で戻りましょう!」
私たちは無事、果南さんの用意してくれたアイテム──“メガストーン”を手に入れて……。下山を開始するのだった。
🐏 🐏 🐏
リナ『侑さんたち……まだ降りてこない……』 || 𝅝• _ • ||
彼方「……そうだねー……」
果南「ん……」
──今日で、侑ちゃんたちがカーテンクリフを登りに行って……3日目だ。
そして、もう日も落ちてしまった。
つまり……タイムリミットの3日目の夜ということだ。
夜になってしまうと、山の中で動くのは難しくなる……。
リナ『やっぱり……カーテンクリフ往復を3日でこなすのはまだ早かったんじゃ……』 || 𝅝• _ • ||
果南「……いや、そうでもないみたいだよ」
彼方「……え?」
果南ちゃんがそう言って指差す先には──灯りを持った、二つの人影が見えた。
🎹 🎹 🎹
侑「おーい!! リナちゃーん!! 彼方さーん!! 果南さーん!!」
「イブィ♪」
かすみ「かすみんの凱旋ですよ~!! おいしいご飯作ってくれましたか~!?」
かすみちゃんが大きな声で訊ねると、
リナ『──侑さーん!! かすみちゃーん!! おかえりなさーい!!』 ||,,> ◡ <,,||
彼方「──とびっきりのご馳走作って待ってたよー!! 早く降りておいでー!!」
と、大きな声で返事をしてくれた。
かすみ「……へへ、かすみんたち、間に合いましたね♪」
侑「1日で戻るのは……かなりきつかったけど、どうにかなったね……」
かすみ「それじゃ、彼方先輩のご馳走フルコースが冷めないうちに、早く行きましょう♪」
侑「うん!」
──私たちはみんなのもとへ帰るために、ローズシティへと降りていくのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.70 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.69 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.69 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.61 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.64 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.55 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:9匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.71 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.63 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.63 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.61 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.60 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.65 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:204匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🎙
──ウルトラディープシーを訪れて……丸一日が経った。
崖下に降りると……。
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
ウツロイドが頭に寄生した状態で──歩夢さんが地面にぐったりとして、横たわっていた。
せつ菜「…………」
あまりにむごすぎる光景に、目を逸らしたくなるが……。
しずく「……歩夢さん……」
しずくさんは、ウツロイドが彼女の頭の上に取りついているにも関わらず……歩夢さんを抱き起こす。
しずく「……歩夢さん……可哀想に……」
そのまま、頬を寄せ、彼女を抱きしめる。……まるで、病床に伏せる親しい友人を憂うような……。
──今の彼女の情緒は、全く理解が出来ない。
自分で突き落としておいて、いざ倒れている歩夢さんを見て、憂うような行動を取るなんて……。
彼女は、言うまでもなく……もうすでに……狂ってしまっている……。正直……今のしずくさんを見ていると、恐怖さえ覚える。
だけど……それを言葉にする気にはなれなかった。なぜなら、今の私も自覚がないだけで……端から見れば、彼女と同じようなものなのかもしれないからだ……。
しずくさんが言ったとおり……私もウルトラビーストに魅入られていて……もうとっくの昔に狂気の中に居るのかもしれない……。
しずく「……今、安全な場所に連れて行ってあげますね……」
そう言いながら、しずくさんが歩夢さんのことを背負おうとしたとき、
「バーーースッ!!!!」
──エースバーンが岩の陰から飛び出し、飛び掛かってきた。
が、
しずく「インテレオン、“ねらいうち”」
「──インテ」
「バーーースッ…!!!?」
しずくさんは、冷静にエースバーンを迎撃する。
が、エースバーンと入れ替わるように、さらにポケモンが飛び出してくる。
「フラーーージェスッ!!!」
──フラージェスが“はなふぶき”を身に纏いながら、突撃してくる。
しずくさんは、次のボールに手を掛け、
しずく「バリヤード、“バリアー”」
「バリ」
バリヤードが足元で作り出した氷の“バリアー”を目の前に蹴り上げ──
「ジェス…!!!」
フラージェスの攻撃を弾き返す。そこに、さらに追撃、
しずく「“フリーズドライ”」
「バリッ!!!!」
「ジェス…!!!」
広がる冷気で、フラージェスの体がパキパキと音を立てながら、凍り始める。
そんなフラージェスとの間に割って入るように──
「トドォォォォ!!!!!!」
トドゼルガが飛び出し、長い牙を“バリアー”に突き立て──力任せに破壊する。
しずく「ふふ……次から次に、ですね」
対抗するように、しずくさんはまた新しいポケモンをボールから繰り出す。
「──ロズレ…!!!」
しずく「ロズレイド、“リーフストーム”!」
「ロズ…!!!」
「トドォ…!!!!」
トドゼルガはタフなポケモンだが、至近距離からの苦手なくさタイプの大技に為す術なく、吹き飛ばされる。
しずく「ふふ♪ やっぱり、トレーナーがいないとタイプ相性も適当ですし、攻め方も単調ですね♡」
しずくさんが嘲るように笑うと、
「シャーーーボッ!!!」
アーボが穴の中から顔を出し、鳴き声をあげる。
「バ、バース…」「ジェス…」「トド…」
すると、エースバーン、フラージェス、トドゼルガは撤退していった。恐らく……あのアーボ──サスケさんがリーダーのような役割を担っているんだろう。
しずく「また、何度でもどうぞ♡」
せつ菜「…………」
しずく「ふふ……進化までして助けに来るなんて、歩夢さんは本当にポケモンから愛されているみたいですね♡」
歩夢さんの手持ちたちは、1日の間に何度もしずくさんに攻撃を仕掛けにくるが、その度に撃退されている。
今回マホイップがいなかったのは、前回撃退されたときに、ダメージを追いすぎて回復中だったからだろうか。
歩夢さんのポケモンが極端に弱いということはないと思うが……。やはり、トレーナーがいないというのは大きなディスアドバンテージなのだろう……。
しずく「それにしても、この洞窟は不思議なエネルギーに満ちているんですね……歩夢さんのフラージェスもですが、お陰で本来は“ひかりのいし”で進化するはずのロゼリアもロズレイドになってくれました♡」
「ロズレ…」
せつ菜「あちこちに生えているあの輝く水晶が、光のエネルギーを蓄えているのかもしれませんね……。それに反応したんだと思います」
しずく「みたいですね。よいしょ……」
しずくさんは今度こそ歩夢さんを背負い、歩き出す。
せつ菜「……どうするつもりですか?」
しずく「一旦、ウツロイドの少ない崖上まで移動させようと思いまして」
せつ菜「それは見ればわかります。移動させて、何を?」
しずく「歩夢さんが死なないように、お世話役を仰せつかっています♡」
せつ菜「……なるほど」
つまり……動けない状態の歩夢さんの力だけを利用するために、お世話をするということらしい。
ぐったりして気を失っているとはいえ……放っておいたら死んでしまうのは、想像に難くない。
せつ菜「……上にあがるまで、ウツロイドに襲われないように援護します」
しずく「ありがとうございます♡」
ですが……さすがに、死なれるのは寝覚めが悪いどころの話ではない。
私は一応、彼女たちの身の安全を守るためにここにいるわけですし……。
ただ、しずくさんは歩夢さんよりも、身長が小さい分、背負って歩こうとすると足取りがかなり覚束ず、見ていて少し不安だ……。
……まあ、私はそんなしずくさんよりも、さらに身体が小さいので、代役をできるかと言われると微妙ですが……。
よたよたと歩くしずくさんの後ろを、警戒しながら歩いていたそのとき──
「──ピュイ…」
歩夢さんのバッグから、鳴き声が聞こえてきたと同時に──コスモッグが飛び出してきた。
しずく「きゃ……!? コスモッグ……? もしかして、ずっと歩夢さんのバッグの中に隠れていたんでしょうか……」
「──ピュイ、ピュイ」
コスモッグはしずくさんの周囲をくるくる回りながら、時折体をぶつけている。
……恐らく、攻撃しているつもりなんでしょうが……しずくさんはまるで意に介していない。
コスモッグには戦闘能力がないと聞いているので、仕方がないですけど……。
しばらく、攻撃らしきものを続けたコスモッグは──
「ピュイ…」
どうにもならないと悟ったのか、歩夢さんのバッグの中に戻っていった。
しずく「……さて、急ぎましょうか♡ ウツロイドが集まってくる前に」
せつ菜「……はい」
歩夢「………………」
………………
…………
……
🎙
■Chapter055 『激闘! クロユリジム!』 【SIDE Kasumi】
──ローズシティ。
カーテンクリフ登りの修行から帰ってきた翌日の朝です。
果南「カーテンクリフを踏破出来たんだから、二人とも確実に強くなってるはずだよ。メガシンカもきっと使いこなせるから、胸を張って行っておいで!」
侑・かすみ「「はい!」」
果南先輩から激励を受け、かすみんたちはジム戦に向かうために、ローズシティを発つところです。
彼方「それにしても……よく“メガストーン”を昨日の今日で2つも用意できたねー? 大変だったんじゃない~?」
果南「ローズで会ったときにダイヤにお願いしてたんだ。そんなすぐに用意出来ないってかなり小言言われたけど……まあ、なんだかんだで用意してくれるのがダイヤらしいよね」
彼方「あははー……ダイヤちゃんも大変だー……」
かすみ「ダイヤ先輩が、昨日かすみんたちがゲットした“メガストーン”を持ってたんですか? ……なんで?」
侑「ダイヤさんは、くさタイプのエキスパートだからね。あと、ダイヤさんのお母さんは、でんきタイプを使うジムリーダーだったんだよ」
リナ『エキスパートタイプを持つジムリーダーは、各タイプのポケモンの“メガストーン”を研究のために所持してることが多い。だから、“ジュカインナイト”と“ライボルトナイト”を用意出来たんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「はー……なるほどです」
ダイヤ先輩には、今度会ったときにお礼言わないとですね。
果南「それと、“メガバングル”と“キーストーン”は、私から侑ちゃんへのプレゼントだよ。かすみちゃんには鞠莉があげてたからね」
侑「ありがとうございます……!」
果南「……英玲奈さんも理亞ちゃんも強いだろうけど、強くなった自分と自分のポケモンたちを信じればきっと大丈夫だよ」
彼方「良い報告を待ってるからね~」
果南先輩と彼方先輩に見送られて──
侑・かすみ「「行ってきます!」」
かすみんたちは、最後のジム戦へと向かいます……!
👑 👑 👑
──クロユリシティ。
かすみ「──侑先輩! ここまで、送ってくれてありがとうございます! ウォーグルも!」
侑「どういたしまして♪」
「ウォーー!!」
かすみんはウォーグルの背中から飛び降りながら、お礼を言う。
侑「それじゃ、私もヒナギクに向かうよ。かすみちゃん! 頑張ってね!」
「ウォーーッ!!!」「ブイ」
かすみ「はい! 侑先輩も、次会うときはお互いバッジ8つですよ!」
侑「うん! もちろん!」
リナ『私も応援してる! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「リナ子もありがと♪ それじゃ、またあとで!」
侑「うん! お願い、ウォーグル!」
「ウォーー!!!!」
ウォーグルの脚に掴まって、ヒナギクへ飛び立つ侑先輩を見送り、
かすみ「……さぁ、行きますか!」
かすみんは最後のジム──クロユリジムに向かいます。
👑 👑 👑
かすみ「たのもぉーーー!!」
──クロユリジムのドアを勢いよく押し開け、ジムの中に入ると、
英玲奈「……来たか」
ジムの奥で目を瞑って立っていた英玲奈先輩がゆっくりと目を開ける。
かすみんが来るまで、精神統一をしていたのかもしれません。
英玲奈「ローズで見たときは、まともに勝負になるのか不安だったが……少しは強くなったようだな。立ち居振る舞いを見るだけでわかる」
かすみ「……はい! 強くなったかすみんは絶対に負けませんよ!」
英玲奈「ふふ……勇ましくて何よりだ。せっかく久しぶりに本気を出せるのに、張り合いのない相手だったらガッカリだからな」
そう言いながら、英玲奈先輩がボールを構える。
英玲奈「今回のバトルフィールドはこのクロユリジムとクロユリジムの後ろに広がる竹林全域」
かすみ「はい! わかりました!」
英玲奈「今回は理事長からフリールールをオーダーされている。故に、トレーナーの君もポケモンの攻撃に巻き込まれる可能性があるのは、予め覚悟してもらおう」
かすみ「ぅ……で、ですよね~……。……でも、それくらい覚悟の上です……! わかりました!」
英玲奈「……他には特に難しいことは何もない。シンプルに戦って最後まで立っていた方が勝者だ。──さあ、始めようか」
かすみ「はい!」
英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。お互い心行くまで戦おうじゃないか!!」
かすみんと英玲奈先輩のボールが同時に放たれ──バトルスタートです!!
👑 👑 👑
かすみ「──行くよ、ジュカイン!」
「──カインッ!!!!」
こちらの1番手はジュカインです!
今回は本気の本気の本気! 出し惜しみなんて一切なしです!
──侑先輩から事前に、英玲奈先輩の切り札はメガスピアーだと、聞いています。
エースのジュカインで切り札を出してくるまで、相手の戦力を一気に削り切りますよ……!
英玲奈「行くぞ、スピアー!!」
「──ブーーーンッ!!!!」
かすみ「うぇっ!?」
英玲奈「メガシンカ!!」
「ブーーーンッ!!!!!」
かすみ「え、ちょっ……!?」
ボールから出て来た瞬間、スピアーが光に包まれ──より攻撃的なフォルムのメガスピアーへと姿を変える。
──直後、
英玲奈「“ダブルニードル”!!」
「──ブーーーンッ!!!!!」
メガスピアーが猛スピードで突っ込んでくる。
かすみ「……っ……! “リーフブレード”!!」
「カァインッ!!!!」
刃を上手に針の切っ先に合わせて、攻撃を受けようとしたけど──
「カァインッ…!!!!」
受けきるどころか、そのパワーで、ジュカインが後ろに向かって、吹っ飛ばされ──壁に叩きつけられる。
かすみ「ジュカイン!!」
かすみんは振り返って、ジュカインのもとへと駆け出す。
だけど、英玲奈先輩は当然そこに向かって追撃を繰り出してくる。
英玲奈「“どくづき”!!」
「ブーーーンッ!!!!!」
駆けるかすみんの真横を猛スピードでメガスピアーが横切って、5本の“どくばり”を構える。
かすみ「──ジュカイン、メガシンカ!!」
「カィンッ!!!!!」
かすみんが“メガブレスレット”を構えると、ジュカインが光に包まれ、姿を変える。
かすみ「“りゅうのはどう”!!」
「カァインッ!!!!!」
メガシンカしたジュカインが、猛スピードで突っ込んでくるメガスピアーに向かって“りゅうのはどう”を放ちます。
だけど、メガスピアーはすぐに察知し、高速で直角に曲がるようにして、“りゅうのはどう”を回避する。
英玲奈「怯むな!! “みだれづき”!!」
「ブーーンッ!!!!」
回避からすぐにまた切り返して攻撃に移行。再びメガスピアーがジュカインに向かって飛翔し、連続の針でぶっさしまくってくる。
かすみ「“みきり”!!」
「カィンッ!!!!」
ジュカインは、頭部に向かってくる針は首を捻ってギリギリで避け、胴を狙う針は刃でいなし、下半身を狙う針は切っ先に当たらないように横から弾くように蹴り飛ばす。
逸らされ回避された針はもちろん、ジュカインの背後の壁に叩きつけられるように突き刺さり──そのまま壁を吹っ飛ばす。
「カインッ…!!!!」
かすみ「ちょ!? ジム、壊してる!?」
英玲奈「避けるか……! ならば、“ドリルライナー”!!」
「ブーーーーンッ!!!!!!」
お尻の針が──キュィィィィーン!! と音を立てながら回転を始め、ジュカインに向かって突き刺してくる。
それはジュカインの胸部に直撃し──
「カインッ…!!!」
そのまま、ジュカインをジムの外まで吹っ飛ばす。
かすみ「ジュカイン……!?」
英玲奈「スピアー!! 追いかけろ!!」
「ブーーンッ!!!!」
メガスピアーは外に吹き飛んでいったジュカインに追撃をするために、穴から飛び出して行く。
かすみ「や、やば……!!」
かすみんも大急ぎで、その穴から外に出ます。
すると、ジムの外にあった竹林の前で、
「ブーーーンッ!!!!!」
「カァインッ!!!!」
すでにジュカインは立ち上がり、腕の刃でメガスピアーの両腕の針と鍔迫り合いをしているところでした。
“ドリルライナー”が直撃したけど、致命傷にはなってないみたい……!
かすみ「胸のアーマーが功をなしましたね……!」
こんなに早くメガシンカを使う予定はありませんでしたが、メガシンカによって新たに胸部に草のアーマーを身に着けたお陰でどうにか助かりました……!
ただ、このままメガスピアーと肉弾戦を続けるのはまずいです……!
鍔迫り合いをしながら、メガスピアーは、
「ブーーーンッ!!!!」
後ろ脚にある2本の針を構える。
かすみ「サニーゴ!! “かなしばり”!!」
「──……サ」
「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」
すかさずサニーゴを繰り出し、メガスピアーの後ろ脚に向かって“かなりばり”を使う。
だけど、メガスピアーは、
「ブ、ゥゥゥゥーーーンン!!!!!」
“かなしばり”を受けたにも関わらず、後ろ脚の針は少しずつだけど、前に進んでいる。
かすみ「げっ……!? パワーだけで強引に“かなしばり”を引き剥がそうとしてる……!?」
規格外のパワー……やばすぎですよ……!?
でも、こっちもメガシンカポケモン……! 一瞬隙さえ作っちゃえば……!
かすみ「“ダブルチョップ”!!」
「カァインッ!!!!」
ジュカインは、両腕を振り上げるようにしてメガスピアーの針を弾きながら──そのまま両腕を振り下ろし、チョップに派生する。
「ブゥゥゥーーンッ!!!!?」
そのまま、脳天にチョップを叩きつけると、メガスピアーが一瞬怯む。
その隙を見逃さず、メガスピアーに背を向け──背中のタネを切り離す。
かすみ「“タネばくだん”!!」
「カインッ!!!!」
切り離したタネが爆発し──
「ブーーンッ…!!!!」
爆風でメガスピアーを吹っ飛ばす。
英玲奈「スピアー!! まだだ!! 止まるな!!」
背後から英玲奈先輩の声。
「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」
メガスピアーはその声に呼応するように、すぐに態勢を立て直す中、かすみんはサニーゴを小脇に抱えて、メガスピアーの脇を走り抜け──ジュカインの大きな尻尾に飛び乗る。
──あんな肉弾戦メインのポケモン相手に、真っ向勝負し続けるのは分が悪すぎです……!!
目の前にある大きな竹林は今回のバトルフィールドに指定されてる場所……!
かすみ「ジュカイン!! 竹林の中に!!」
「カインッ!!!」
ジュカインはかすみんを尻尾に乗せたまま──竹林の中へと走り出した。
英玲奈「……っち、逃がしたか……。追うぞ、スピアー!」
「ブゥーーーーンッ!!!!!」
👑 👑 👑
かすみ「──とりあえず、一旦撒けたみたいですね……」
「カインッ!!」「……サ」
サニーゴを小脇に抱え、ジュカインの尻尾に乗ったまま移動中です。
──英玲奈先輩はむしポケモンのエキスパートですから、自分にとって一番力を発揮できる場所として竹林を指定したんでしょうけど……。
ジュカインはもともと樹の上で生活するポケモンです。こちらにとっても竹林のような草木が生い茂る場所は本領を発揮できる場所。
今も竹から竹にひょいひょいと飛び移りながら、ものすごいスピードで移動しています。
しかも、かすみんがおっこちないように、尻尾を常に水平に保ってくれているため、すごく快適です。
かすみ「それにしても……いきなり切り札のメガスピアーから出してくるとは思いませんでしたね……」
メガシンカが出来るのは1回の戦闘で1匹だけ……。
2匹以上同時にメガシンカするのは、自分の身体への負担が大きすぎるから絶対にダメだと、果南先輩に口酸っぱく説明されました──まぁ、かすみんはジュカインしかメガシンカ出来ないんですけど……。
なので、さすがにメガスピアーが切り札じゃないなんてことはないと思います。
かすみ「向こうも最初から出し惜しみなしってことですね……」
とにかく、あのメガスピアーを倒す方法を考えないといけません。
侑先輩に聞いた情報ですが……メガスピアーはメガシンカで爆発的なパワーとスピードを手に入れていますが、防御面に関しては普通のスピアーと変わらず、あまり打たれ強くないと言っていました。
つまり……どうにか攻撃を決め切ることさえ出来れば、最悪メガジュカインでなくても、対抗が出来る可能性があります。
──問題は、当てられるか……なんですけど……。
対策を頭の中でこねこねしていたそのとき、
英玲奈「──隠れていないで出てこい……! 本気のバトルをしてくれるんだろう……!?」
──と、英玲奈先輩が張り上げた声が聞こえてくる。
英玲奈先輩はよほど本気のバトルを楽しみにしていたらしい……というか、しょっぱなからジムをぶっ壊してたし……。
かすみ「もしかして……英玲奈先輩って……」
英玲奈「──……出てくる気はないんだな!! なら……こちらにも考えがあるぞ……!!」
かすみ「……へっへーん、そんな挑発で出て行くほど、かすみんおバカじゃないですもんね~」
虚空に向かってあっかんべ~した瞬間、
英玲奈「──“がんせきアックス”!!」
「──グラッシャァァァァァ!!!!!!」
大きな鳴き声と共に──目の前の竹たちが急に傾き始めた。
かすみ「いっ!?」
「カインッ!!!?」
いや、そうじゃない……!? ここら一帯の竹を──根本から伐採した……!?
英玲奈先輩は、こーんな立派な竹林を、なんの躊躇いもなくぶった切って、かすみんたちを竹の上から落とす作戦を取ってきた。
「カインッ…!!!」
でも、ジュカインは空中でうまくバランスを取り、姿勢を維持しながら、地面に着地する。
──もちろん、かすみんに落下の反動がいかないように、着地のタイミングで尻尾を上手にしならせて、反動を殺してくれる。
かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン……」
「カインッ!!!」
そして、降り立った私たちの前に、
英玲奈「……やっと降りて来たな」
英玲奈先輩が姿を現す。
そして、その傍らには、
「グラッシャァ」
見たことがないポケモンが居た。
かすみ「な、なんですか、そのポケモン……!?」
英玲奈「見たことがなくても無理はない。……このポケモンはこの地方では私しか持っていないからな」
なんですか、それ……!?
かすみんは警戒しながらも、上着のポケットから図鑑を出して、目の前のポケモンを調べてみる。
『バサギリ まさかりポケモン 高さ:1.8m 重さ:89.0kg
硬い岩で 自分自身の 身を守っている。 両腕に ついた
大きな まさかりで 大木を 切り倒す。 翅が 退化して
飛行能力を 失った代わりに 脚力と 腕力が 増している。』
かすみ「バサ……ギリ……?」
図鑑で調べても、見たことも聞いたこともないポケモンです。
英玲奈「こいつはストライクの進化した姿だ」
「グラッシャ…」
かすみ「え……? ストライクの進化系……? それってハッサムじゃ……」
英玲奈「本来はな……。かつてシンオウ地方では極僅かだが、ストライクはこのバサギリに進化していたそうだ。私はむしタイプのエキスパートとして、このポケモンを長いこと調べていて──やっとのことで、ストライクがバサギリになるための“どうぐ”を見つけ、手に入れたのだ」
「グラッシャァァ…」
バサギリが、体を捻って──大きなまさかりを後ろに振りかぶる。
英玲奈「それによって得たパワー……味わうといい!!」
「グラッシャァァ!!!!!」
かすみ「……! ジュカイン!! ジャンプして!!」
「カインッ!!!」
かすみんの指示で、ジュカインがジャンプをした直後──バサギリが横薙ぎに放った斬撃により、さっき以上の範囲の竹が根元からぶった切られ、周囲を竹が舞い踊る。
かすみ「こんなに立派な竹林、よく躊躇なくぶった切れますね!?」
英玲奈「バトルのためだ、そういうこともあるだろう!!」
かすみ「やっぱ英玲奈先輩──戦闘狂ってやつですか……!?」
英玲奈「戦闘狂……確かにあんじゅには、何度もそう言われたことがあるな!!」
何度もあるの!? 筋金入りってやつじゃないですか!?
なんの躊躇もなく、戦いのために手段を選ばないというのは考えようによっては脅威です……!
しかも、この範囲、この破壊力……あのポケモンは、ああいう人が持っちゃいけないんじゃないですか!?
かすみん、思わずいろいろ言いたくなっちゃいますけど──今はバトルに集中しなくていけません。
かすみ「ジュカインっ!!」
「カィンッ!!!!」
ジャンプで攻撃を避けたジュカインは、落ちてくる竹を蹴りながらさらに上昇し──腕を振り上げる。
竹が盛大に伐採されたせいで、隠れ場所はなくなっちゃいましたけど──お陰で空からは太陽の光がさんさんと降り注いでいます……!
かすみ「“ソーラー──ブレード”ッ!!!」
「カィィンッ!!!!!」
ジュカインが空中から、バサギリに向かって“ソーラーブレード”を振り下ろす。
未だ斬り裂かれた竹たちが舞い踊っていますが、それを意にも介せず斬り裂きながら、バサギリに迫る。
英玲奈「受け止めろ!!」
「グラッシャァァァァッ!!!!」
バサギリは腕のまさかりを振り上げ、“ソーラーブレード”を受け止めますが──見たことないポケモンだかなんだか知りませんが、こっちはメガシンカのパワーがあるんです……!!
まさかりとブレードがぶつかった瞬間、
「グラッシャァァァッ!!!!?」
バサギリの体が光の剣の衝撃で沈み込み、それと同時に周りの広がった衝撃波が、周囲に落ち転がっていた竹たちを紙切れのように吹き飛ばして行く。
かすみ「メガシンカしてれば、こっちの方がパワーは上です!!」
「──ブーーーンッ!!!!!」
かすみ「っ!?」
嫌な音が聞こえて振り向くと──メガスピアーが背後から迫ってきていた。
「……サ」
小脇に抱えたサニーゴが自分の判断で“パワージェム”を発射するけど、
「ブン──」
メガスピアーは素早い動きで、視界から消え──その直後、
「カインッ…!!!?」
かすみ「っ……!?」
ジュカインに向かって、上から“どくづき”を叩きこまれ、落下する。
「カインッ…!!!!」
地面に落下した衝撃で、
かすみ「わぁぁぁ!!?」
かすみんはジュカインの尻尾の上から跳ねるように放り出されて、地面を転がります。
かすみん、地面を転がりながらも、
「──グラッシャァァァ!!!!!」
かすみ「“リーフブレード”ォ!!!」
聞こえてきた鳴き声に反応して、指示を叫ぶ、
「カァインッ!!!!」
──ギィンッ!! と刃同士がぶつかり合う音が響くと同時に、
英玲奈「──カイロス!! “ハサミギロチン”!!」
「カイーーーッ!!!!」
かすみ「!?」
バッと顔を上げると、かすみんに向かって、カイロスがハサミを構えて突っ込んでくるじゃないですか……!?
このままじゃ、やられる……!?
かすみんは咄嗟に小脇に抱えていたサニーゴを両手で掴んで前に出す──ガァンッ!! と音立てながら、サニーゴが“ハサミギロチン”に挟まれます。
相手の攻撃は、一撃必殺ですが、
「……サ」
ゴーストタイプのサニーゴになら、効きません……!
かすみんは咄嗟にサニーゴからパッと手を放し、腰のボールを2個、弾くように落とす。
「──ヤブクッ!!!!」「──テブッ!!!」
ボールから、ヤブクロンとテブリムが飛び出し、
かすみ「“ヘドロばくだん”!! “サイコショック”!!」
「ヤーーブクッ!!!」「テブリィッ!!!」
「カイロッ!!!?」
カイロスの足元で攻撃を炸裂させ吹っ飛ばす。それと同時に、挟まれていた──ノーダメージですけど──サニーゴも解放され……それと、同時に上から翅音。
「ブゥゥゥーーンッ!!!!」
そりゃメガスピアーが追撃に来ますよね!?
かすみんは目の前のサニーゴを再び掴んで、真上を向かせる。
かすみ「“あやしいひかり”!!」
「…………サ……コ」
「ブゥゥゥンッ!!!?」
上を向いたサニーゴがカッと発光し、メガスピアーに閃光を浴びせかけた。
至近距離で真正面から“あやしいひかり”を受けたメガスピアーはおかしな軌道を描きながら、再び上昇していく。
英玲奈「く……“こんらん”させられたか……! スピアー、一旦戻れ!!」
「ブゥゥゥーーン──」
英玲奈先輩はボールを投げて、スピアーを控えに戻す。
それと同時に──ギィンッ!! と硬い音を立てながら、
「カインッ…!!!」
ジュカインが飛び退いてくる。
かすみ「ジュカイン、大丈夫!?」
「カインッ…!!!」
英玲奈「バサギリのパワーと互角か、さすがメガシンカポケモンだな……!」
「グラッシャァァ…!!!」
かすみ「むしろ、なんでメガシンカポケモンと互角のパワーなんですか……!?」
今度はバサギリが縦向きにまさかりを構え、さっき吹っ飛ばされたカイロスも身を起こして、前傾姿勢になる。
攻撃が来る──そう思った瞬間、
「カインッ!!!?」
かすみ「!?」
ジュカインが何かに後頭部を殴られ、前に向かって体勢を崩した。
その隙を見逃してくれるはずもなく、
「グラッシャァァァァ!!!!」
バサギリがまさかりを振り下ろしてくる。
かすみ「……っ……! “アイアンテール”で受け止めて!!」
「カインッ……!!!!」
ジュカインはバランスを崩しながらも、手を突き──前に倒れる反動をそのまま利用して、尻尾を振り上げる。
ちょうど逆立ちになったような状態で尻尾を硬化させ、振り下ろされるバサギリのまさかりを尻尾で受け止めた。
そして、間髪入れずに、
かすみ「しっぽミサイル、発射ぁ!!」
「カァインッ!!!」
ジュカインは尻尾側の種を破裂させ──尻尾をミサイルのように発射した。
「グラッシャァ!!!?」
──ギィンッ! と硬い音を立てながら、しっぽミサイルに弾かれたバサギリの腕が持ち上がる。
腕が持ち上がり、無防備になったバサギリに向かって、
「テブリッ!!!!」
テブリムが頭の房を構えて飛び出した。
が、
「テブリッ!!!?」
かすみ「な……っ!?」
またしても、見えない何かの攻撃で、今度はテブリムが吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされたところに、
「──カイーーーッ!!!!」
カイロスが突っ込んで来て──テブリムをハサミで捕まえる。
英玲奈「“しめつける”!!」
「カイイーーーッ!!!!!」
「テ、テブリィィィィ!!!!!」
テブリムは締め付けられる瞬間、頭の房を両側に突っ張って、どうにか耐えてますが……! 早く、助けなきゃ……!
かすみんがゾロアのボールを手に取った瞬間──ボールを例の見えない何かに弾き飛ばれた。
かすみ「しまっ……!?」
直後見えない何かは、ゾロアの入ったモンスターボールの開閉スイッチをピンポイントで攻撃して、破壊する。
かすみ「!?」
開閉スイッチが壊されたら、ボールからゾロアが出せない……!?
しまったと思ったけど、
「ヤーブクゥ!!!」
ヤブクロンが、ゾロアのボールに向かって“アシッドボム”を吐き出すと──ボールが溶けて、
「──ガゥッ!!!」
中からゾロアが飛び出してくる。
かすみ「ナイスです……! ヤブクロン!」
「ヤブクゥ!!!」
それはそれとして、動きが見えないポケモンをどうにかしないと……!
「テ、ブゥゥゥゥゥ…!!!!!」
「カィィィロォォォ…!!!!」
「グラッシャァ!!!!!」
「カィィィンッ!!!!!」
テブリムはまだ必死に耐えている。
ジュカインもまたバサギリと鍔迫り合いを始めている。
もうちょっと、頑張って……!!
──この動きが見えないポケモン、どうにかするには……!
かすみ「みんな、一瞬息止めてーーーー!!! “どくガス”!!!」
「ヤブクゥゥーーー!!!!!」
ヤブクロンが上空に向かって、“どくガス”を吐き出す。
英玲奈「……! “どく”状態にして削り倒すつもりか……!! だが、倒れるまでテブリムやジュカインが持つと思うか……!」
もちろん、そんな悠長な作戦じゃありません……!
かすみ「“ベノムトラップ”!!」
「ヤーブーーーーッ!!!!!」
ヤブクロンが霧状の毒を上空に向かって噴き出す──この技は曜先輩との戦いでも使った技……!
“どく”状態のポケモンがこの霧に突っ込むと──
「──…ジジジ」
動きが鈍る……!
英玲奈「!? なんだと……!?」
かすみ「テッカニン……!!」
あのポケモンが“かそく”しまくって見えなくなってたんですね……!!
でも姿が見えれば、こっちのもんです……!!
「ガゥッ!!!!」
ゾロアがかすみんの足から身体を伝って駆け登り──頭の上から踏み切って、
「ガゥッ!!!!」
「──ジジジ!!!?」
動きの鈍ったテッカニンに爪を引っかけて、引き摺り落とす。
爪を引っかけ、一緒に落下しながら、
かすみ「“しっとのほのお”!!」
「ガーーーゥゥ!!!!」
「ジジジジジジ!!!!?」
ゾロアが体から炎を放って、攻撃する。
至近距離から炎で焼かれ──テッカニンは戦闘不能になって地面の上でひっくり返った。
かすみ「よし……!! これで、1匹……!!」
やっと1匹目を倒したと思った矢先、
「──カィィィンッ…!!!!」
ジュカインが吹っ飛ばされてきた、
かすみ「ジュカイン!?」
バサギリと互角の迫り合いをしてたんじゃ……!?
ハッとしてバサギリの方を見ると──
「ブゥゥゥーーン」
かすみ「!」
──気付けば、メガスピアーが再びフィールドに姿を現し、バサギリの援護に入っていたらしい。
英玲奈「スピアー!! 次はテブリムだ!!」
「ブーーーンッ!!!!」
メガスピアーは今度は、カイロスのハサミに挟まれたままのテブリムに向かって、飛び出して行く。
「テブリィィィィ…!!!!」
「カイィィィ!!!!!」
もちろん、今の状態じゃテブリムはカイロスから逃げ出すことは出来ない。
メガスピアーが針を構え、
英玲奈「“とどめばり”!!」
「ブゥゥゥゥーーンッ!!!!」
メガスピアーのお尻の針がテブリムに直撃しようとした、瞬間、
「カィィッ!!!?」
カイロスの足元が沈み込み、標的がずれたメガスピアーの針は──ガンッと音を立てながら、カイロスのツノに直撃する。
英玲奈「な……!?」
メガスピアーのあまりあるパワーは、事故でぶつかっただけでも、カイロスのツノにヒビを入れ──その拍子に、
「テブリッ!!!」
テブリムが脱出する。
カイロスの頭の上を飛び降りたと同時に、
かすみ「“マジカルシャイン”!!」
「テブリッ!!!!」
テブリムが激しく閃光して、
「カイィッ!!!!」「ブゥンッ!!?」
カイロスとメガスピアーを牽制する。
もちろん、今しがたカイロスの足を取ったのは──
「クマァッ!!!」
地面に忍ばせたジグザグマです!!
英玲奈「……! ジグザグマ……!」
かすみ「どんなもんですか! かすみんのジグザグマお得意の“あなをほる”で同士討ちさせてやりましたよ!」
「クマッ!!!」「テブリッ!!!」
ジグザグマとテブリムが、かすみんのもとに戻ってきて、
「カインッ…!!!」「ガゥゥッ!!!」「クマァッ」「……サ」「ブクロンッ!!!」「テブリッ!!!」
かすみんパーティ勢揃いです……!
一方で英玲奈先輩の手持ちはテッカニンが戦闘不能、カイロスがツノが砕けている状態……! これは有利な状況です……!
英玲奈「なるほど……ここまで来るだけあって、強いな……!」
かすみ「当然です! それに、強いだけじゃありません……勝ちに来たんですから!!」
英玲奈「いい威勢だ……だが、これならどうだ──」
英玲奈先輩の台詞と同時に──空の太陽が急にとんでもない熱を主張し始めた。
かすみ「あっつ!? な、なに……!!?」
太陽に目を向けると──真っ赤な太陽がどんどんこっちに落ちてくるじゃないですか……!?
かすみ「……いや、違う……あれ、太陽じゃない……!?」
「──ビィィィ……」
真っ赤な炎を身に纏った──大きな翅をはためかせながら、降りてくる。……まさか、ポケモン……!?
英玲奈「ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
「──ビィィィィィ!!!!!!」
ウルガモスが6枚の翅から、鱗粉をばら撒くと──それは周囲一帯に灼熱の炎が降り注いでくる。
しかもここは竹林……切り倒された大量の竹がある場所でそんなことしたら……!?
一瞬で炎は周囲の竹に引火し──辺りは一瞬で火の海になり、四方八方を炎で包囲されてしまった。
かすみ「!? う、うそ……!?」
これじゃ、炎から逃げられない……!?
英玲奈「さぁ、どうする、チャレンジャー……」
かすみ「こ、こんな炎の中じゃ、英玲奈先輩のむしポケモンも燃えちゃうじゃないですか!?」
英玲奈「ああ、そうだ。だが、だからこそ、私も、私のポケモンたちは昂ぶるんだ……!」
「グラッシャァ」「カイーーーッ!!!!!」「ブーーーンッ…!!!!」
英玲奈「逃げられないからこそ、燃え上がるんじゃないか!! ポケモンバトルは!!」
かすみ「こ、この戦闘狂~……!!」
英玲奈「戦闘狂で結構だ……!! 私はこのバトルが最後まで楽しめればなんでもいい!! 行け、ペンドラー!!」
「ペンドラァァァ!!!!!」
かすみ「っ……!?」
英玲奈先輩の最後のポケモン──ペンドラーはボールから出ると同時に、猛スピードでこっちに向かって突っ込んでくる。
英玲奈「“メガホーン”!!」
「ペンドラァァァ!!!!!」
ペンドラーが頭のツノを前に突き出して突っ込んでくる。
こんな逃げ場のない炎の海の中……避けられない……!?
「カインッ!!!!」
そのとき、ジュカインが前に飛び出して──ガァンッ!!! と音を立てながら、“リーフブレード”でペンドラーのツノを受け止める。
かすみ「ジュカイン!?」
「カインッ!!!!」
そのまま、腕を振るって、ペンドラーを弾き返すが、
「ペンドッ!!!!」
ペンドラーはまた、すぐに戻ってきて、再びツノを突き出し突っ込んでくる。
「カインッ!!!」
──ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!!
弾いても弾いても、ペンドラーはまたすぐに戻ってきて──しかも、どんどん“かそく”しながら、“とっしん”を繰り返す。
英玲奈「そいつはしつこいぞ……! “かそく”しながら、相手が倒れるまで何度でも攻撃する……!」
かすみ「くっ……! 加勢しなきゃ……!」
「ガゥッ!!!」「テブッ!!!」「ヤブクッ!!!」「クマッ」「……サ」
5匹がジュカインに加勢しようと飛び出す、が、
英玲奈「バサギリ!! “がんせきアックス”!! カイロス!! “じしん”!!」
「グラッシャァァァァ!!!!」「カィィィッ!!!!!」
バサギリが思いっきり、地面にまさかりを叩きつけた衝撃と、カイロスの起こした“じしん”で、
「ガゥッ!!?」「テブリッ!!!?」「ブクロンッ…!!!」「ク、クマァ…!!!」
浮いているサニーゴを除き、かすみん含めた全員が足を取られる。
直後──
「カァインッ!!!!」
ジュカインの足元から草が広がっていく。
──ジュカインが使った“グラスフィールド”だ。“グラスフィールド”には“じしん”の効果を半減する効果がある。
「ペンドラァァァァ!!!!!」
「カインッ!!!!」
──ガァンッ!!!
ジュカインはペンドラーを捌きながら──みんなのサポートまでしている。
かすみ「ジュカイン……っ!! 無茶しないでっ!!」
「カィィンッ!!!!」
──ガァンッ!!
かすみ「みんな、ジュカインのサポートを……!!」
みんなに指示を出すけど、
英玲奈「スピアー!! “ミサイルばり”!!」
「ブゥゥーーーンッ!!!!」
かすみ「……!?」
猛スピードで“ミサイルばり”が飛んでくる。
かすみ「“サイコキネシス”!! “スピードスター”!! “シャドーボール”!!」
「テブリッ!!!」「ガゥゥゥッ!!!!」「……サ、コ」
相殺しようと攻撃を放つけど、“ミサイルばり”は“シャドーボール”を貫き、“スピードスター”を弾き飛ばす。
2匹の技で減速させたところを、テブリムの“サイコキネシス”がどうにか軌道をずらし──ドォンッ!! と音を立てながら、ギリギリ当たらないところに着弾する。
かすみ「……っ……!!」
「テ、テブリィ…!!!」「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「…………」
その間にも、
「ペンドラァァァ!!!!」
「カィンッ!!!」
──ガァンッ!! ガァンッ!! と音を立てながら、ジュカインが盾になっている。
でも、ペンドラーはどんどん加速しているし、
「ビィィィィ!!!!!」
ウルガモスの発する炎はどんどん勢いを増していく。
ジグザグマで落とし穴を作って止めるのも考えたけど……“じしん”をされたら、逆に大きなダメージを受けちゃうし、“ベノムトラップ”もどくタイプのペンドラーにはそもそも通用しない。
かすみ「こ……このままじゃ……! そうだ……! サニーゴ!! “くろいきり”!!」
「……サ」
“くろいきり”なら、ペンドラーの“かそく”をリセット出来るはず……! と思ったけど──周囲が火の海の中で出した“くろいきり”はこの場に留まることが出来ず、一瞬で空高くまで吹き飛んで行ってしまった。
かすみ「そ、そんな……ど、どうしよう……」
「ガ、ガゥゥ…」「テ、テブ…」「ク、クマァ…」「ブ、ブクロン…」「…………」
もう、打つ手がない……!
そして、ついに──
「ペンドラァァァァッ!!!!」
「カインッ…!!!?」
相手が“かそく”しきって、捌ききれずに──ペンドラーの“メガホーン”が、ジュカインのお腹に直撃した。
かすみ「ジュカインッ!!」
でも、
「カァァァィィィィンッ!!!!」
ジュカインは足を踏ん張り、かすみんたちの目の前まで押されながらも、ペンドラーを止め──そのまま、手で上からペンドラーの頭を押さえつける。
「ペンドラァァァァァ!!!!!」
「カァィィィィンッ!!!」
かすみ「じ、ジュカイン……!」
英玲奈「……大した根性だ。自分がエースである自覚があるんだろうな……だが、同情してやるつもりはないぞ。ウルガモス、“ねっぷう”!!」
「ビィィィィィィ!!!!!!」
かすみ「あっつっ!!」
「ガゥゥゥゥ!!!?」「テ、テブリィッ…!!!」「ブクロンッ…!!!」「クマァッ…!!?」「…………ニ」
全員を熱波が襲い掛かる。もう、限界……このままじゃ……!
「カァィィィィンッ!!!!」
そのとき、ジュカインが大きな鳴き声をあげながら──私たち全員を掬い上げるように尻尾を振るう。
「ガゥ!!!?」「テブリッ!!?」「ブ、ブクロ…」「クマァッ…!!!」「……サ、ニー…ゴ」
かすみ「ジュカイン……!?」
「カインッ…」
全員が尻尾に乗ったのを確認すると──ジュカインは、
「カィンッ!!!!」
尻尾に一番近いタネを破裂させ……私と5匹の手持ちを乗せた尻尾を──後方に向かって発射した。
かすみ「ジュカイン!? 待っ!?」
「ガゥ!!!」「テブッ!!!」「ブクロンッ!!!!」「クマ、クマァッ!!!」「サ、ニーーーゴ…!!!」
私と5匹の手持ちを乗せたしっぽミサイルは、猛スピードで炎の海を突っ切り──炎のデスマッチの場外まで、私たちを離脱させた。
「…カインッ…」
英玲奈「……仲間たちを逃がしたのか? この場で私たちに対抗しうる力を持つのは、お前だけだぞ?」
「……カィィンッ!!!!」
英玲奈「……仲間たちを信じているとでも言うのか? ……心意気は嫌いではないがな」
「……カィ…ン…」
英玲奈「……やっと倒れたか……。……いや、メガシンカしているとはいえ、自分以外の手持ちとトレーナーを庇い続けたんだ……体力はとっくに限界だったろう。安心しろ、すぐに彼女たちを見つけて試合は終わらせてやる──私たちの勝利で」
👑 👑 👑
──いつだか……しず子と、こんな話をした。
──────
────
──
かすみ「え……? 歩夢先輩のサスケは、進化しない……? キャンセルしてたんじゃないの……?」
しずく「うん、てっきり私もそうなんだと思ってたんだけど……サスケさんは一度も進化しそうになったこともないんだって。歩夢さんは……いつまでも自分の肩に乗っていたいから、進化しないんだと思うって言ってたけど……」
かすみ「そうなんだ……。……じゃあ、かすみんの手持ちも、そうなのかな……」
しずく「え?」
しず子は私の言葉にきょとんとする。きょとんとした後、少し考える素振りをして──
しずく「……そういえば、最近かすみさんがキャンセルボタン押してるとこ……見てないかも」
かすみ「うん。実はちょっと前から、みんなのレベルが上がっても、進化しようとしなくなったんだ」
しずく「それって……」
かすみ「たぶん……かすみんが、いつまでもみんなに可愛いままでいて欲しいって気持ちが伝わったからなんじゃないかな~って」
しずく「ふふ♪ ……かすみさんのポケモンたちは、かすみさんが自分たちにどうあって欲しいのかを、ちゃんとわかってくれてるんだね♪」
かすみ「ホント、いい子たちです……えへへ♪ かすみんこんないい子たちと一緒に旅が出来て、幸せです♪」
しずく「ふふ、そうだね♪」
──
────
──────
かすみ「……はぁ……はぁ……」
燃え盛る竹林を、ジュカインのお陰でどうにか脱出出来たけど……。
「テブ、テブゥッ!!!!」「ガゥガゥゥ!!!!」
「ヤ、ヤブクーー…!!!」「ク、マァァァ…!!!」
今にも飛び出しそうなテブリムとゾロアを、ヤブクロンとジグザグマが必死に止めている。
「……ニ」
サニーゴはそれを呆然と眺めている。
……かすみんたちは、みんな……ジュカインに助けてもらうことしか出来なかった。
理由はなんとなく……わかっていた。
私たちはずっと……唯一進化して戦い続けるエース──ジュカインに頼り過ぎていたんだ。
──……だからかな。……今、話をしなくちゃいけないと思った。
かすみ「……ねぇ、みんな。……聞いて欲しいことがあるんだ」
「ガ、ガゥ…?」「テブ…」「ブクロン…」「クマ…?」「……ニゴ」
私が……みんなをどう思っているかのお話を……。
かすみ「……かすみんね……ずっとずっと、可愛いポケモンたちと旅がしたかったんだ。それが……夢だったの」
旅に出る前からずっと思っていた。可愛いポケモンたちに囲まれて、可愛いポケモンたちと一緒に、可愛い可愛い旅がしたかった。
──でも、なかなか思ったとおりにはいかなくって……。
最初に欲しかったのは可愛いヒバニーだったのに、結局貰ったのはキモリだったし……。
かすみ「ジグザグマはもともとイタズラされて腹が立ったから、懲らしめるために捕まえただけだし……」
「クマ…」
かすみ「サニーゴはホントはガラルのサニーゴじゃなくて、ピンク色の可愛いのがよかった」
「……ニゴ」
かすみ「ヤブクロンだって、かすみんのイメージじゃなかったんだよ? でも、ほっとけなくて……」
「ブクロン…」
かすみ「テブリムも、なりゆきで一緒に行くことになってさ……。かすみんのこと子分扱いする生意気な子でさ……」
「テブ…」
かすみ「みんな……全然かすみんの想像する可愛い可愛い仲間たちじゃなくって……。……でも……でもね……」
私は──みんなを抱き寄せる。
かすみ「──今は……みんなが可愛くて可愛くて仕方ないの……っ……」
「クマ…」「…サニゴ」「ブクロ…」「テブリ…」「ガゥ…」
かすみ「ジグザグマが私のためにたくさんいろんなものを集めてきてくれて……褒められたときにする顔、私、可愛くて大好き……」
「クマァ…ッ…」
かすみ「サニーゴ……普段はボーっとしてるように見えて……実は表情豊かで、熱い気持ち持ってて……嬉しいときは嬉しい顔、ちゃんと見せてくれる……そういうギャップにとびっきりの可愛さ感じてるよ……」
「サコ……ッ…」
かすみ「ヤブクロン……寝るときに、私がぐっすり眠れるように、枕元で良い匂い出してくれてるの、実は知ってたよ? それにヤブクロンの笑顔、愛嬌があってすっごく可愛いんだよ……」
「ブクロン……ッ…」
かすみ「テブリムは生意気だけど、私を守るためにいっつも強がってるでしょ……? ホントは群れのみんなのこと思い出して寂しくなっちゃってるの知ってるんだよ……そういう可愛いところあるの私にはバレバレなんだからね……?」
「テ、テブ……ッ…」
かすみ「ゾロア……私の初めてのお友達。初めてゾロアをママからもらったとき、可愛い可愛いってずっと可愛がってたけど……テレビでゾロアークの姿を、見た目を知ったとき、私、大泣きしちゃったんだよね。覚えてるかな……?」
「ガゥゥ…」
かすみ「ちっちゃい頃の私は……いつか、ゾロアもこうなっちゃうんだって、可愛くなくなっちゃうんだって……そう思ったの……。……でも、でもね……今ならわかるんだ」
私はみんなを──ジグザグマを、サニーゴを、ヤブクロンを、テブリムを……ゾロアを、順に見つめて。
かすみ「……可愛さって、溢れ出るものなんだって。見つけられるものなんだって」
私が──誰よりも可愛くて強いトレーナーになるのに必要なことは──
かすみ「私は……みんながどんな姿でも、みんなの可愛さ、見つけられるよ……♪ 見つけてみせるよ……♪」
「クマ…」「…サコ」「ブクロン…ッ」「テブ…ッ」「……ガゥッ!!!」
かすみ「だから、もう……止めなくていい……! 私のために、私の夢のために、止まらなくていい……! 私と一緒に、前に進もう……!」
「クマ──」「サコ──」「ブクロン──」「テブリ──」「ガゥゥゥ──」
私は──この子たちと一緒に……変わるんだ……!!
かすみ「行こう……!! みんな……!!」
👑 👑 👑
英玲奈「……出てこい」
英玲奈先輩が炎の竹林の中から、歩いてくる。
「グラッシャァァ!!!!」「カイィィロス!!!!」
バサギリが、カイロスが力任せに燃える竹を蹴散らしながら──
「ペンドラァァァーーー!!!!」
そして──ペンドラーの背中の上には、戦闘不能になって気絶したジュカインの姿。
英玲奈「せめてもの情けだ。連れてきてやったぞ」
そう言って、ペンドラーはジュカインを地面に下ろす。
かすみ「……ありがとうございます」
私はお礼交じりに竹林の陰から姿を現す。
かすみ「戻って、ジュカイン」
ジュカインをボールに戻して、ぎゅっと胸に抱きしめた。
英玲奈「……さぁ、どうする? まだ続けるか? ……出来れば降参なんて興の醒めることはして欲しくないが……」
かすみ「しませんよ。……ここで、諦めたりしたら……ジュカインの努力が全部無駄になっちゃいます」
英玲奈「良い心掛けだ……。そんな君を……これから、完膚なきまで叩きのめしてしまうことに……心が痛むよ」
かすみ「出来るもんなら……やってみろです……!!」
英玲奈「行け……!! ペンドラー!!」
「ペンドラァァァァ!!!!!」
ペンドラーが猛スピードで走り出してくる、が──私の足元を横切るように、何かが猛スピードで飛び出した。
英玲奈「!? なんだ!?」
その影は──竹林の中を直角に曲がりながら、猛スピードでペンドラーに接近し、
かすみ「“しんそく”!!」
「──クマァァァーーー!!!!」
「ペンドラァァァ……!!!!」
真横から、強烈なタックルをお見舞いする。
ペンドラーはまさか、真横から攻撃されると思っていなかったのか、バランスを崩して横転する。
そこに向かって、
かすみ「“すてみタックル”!!」
「──クマァァァーーー!!!!」
全身全霊の突撃をお見舞いした。
「ペ、ペンドラァァァ…!!!!!」
ペンドラーが突撃された衝撃で、地面を滑る。
英玲奈「……! その姿……!」
「クマァーーー…!!!」
ボサボサだった毛並みが真っすぐ流線形になり、細長くスマートな体躯を見せつけながら──マッスグマが鳴く。
英玲奈「この土壇場で進化した……ということか。そういうのが流行っているのか? だが、そんな一発技があっても戦況はひっくり返らないぞ……!! スピアー!!」
「ブーーーーンッ!!!!」
メガスピアーが猛スピードで飛び出した瞬間、藪の中から──白い何かが伸び出てきた。
英玲奈「!?」
急に飛び出したソレは──さらに真っ白い枝のようなものを伸ばし、メガスピアーに絡みついていく。
かすみ「“ちからをすいとる”!!」
「ニゴーーーンッ!!!!」
英玲奈「サニゴーン!? 2匹同時進化だと!?」
「グラッシャァァァァッ!!!!」「カイーーーッ!!!!!」
異変に気付いたバサギリとカイロスが飛び出してくると同時に──竹林の中から腕が伸びてきて、
「グラッシャァッ!!!?」「カイィッ!!!?」
バサギリとカイロスを上から押さえつけ、直後──
かすみ「“タネばくだん”!!」
「──ダストォォォ!!!!!!」
その手の先から出したタネが──ボォンッ!!! と音立てながら爆発する。
「カ、ィィィ…」
もともとダメージを負っていたカイロスは、そこで後ろに向かって倒れ、
「グラ、ッシャァァァ…!!!!」
バサギリにもダメージを与えながら──そのまま、両手でバサギリを掴んで持ち上げ、ぶん投げる。
「グラッシャァァア!!!!?」
英玲奈「なんだ!? 何が起きている!?」
「ブ、ブーーーンッ…!!!?」
鳴き声にハッとするように、英玲奈先輩がメガスピアーに顔を向けると、
「ニゴーーーンッ」
メガスピアーはサニゴーンに絡め取られて動けなくなっていた。
英玲奈「スピアー!? なにしている!? 早く逃げないと、どんどん力を吸われるぞ!!」
かすみ「無駄ですよ……! パワーを吸い取られた上に、“かなしばり”で動きを止めましたから……! サニゴーンの呪いのパワーはもうサニーゴの比じゃありません……!」
英玲奈「く……っ……ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
「ビィィィィィ!!!!!」
ウルガモスが踊るように炎の鱗粉を周囲にばら撒き、風に乗せてこちらに向かって飛ばしてくるが──その炎は急に意思でも持ったかのように、風に煽られ明後日の方向に飛んでいく。
英玲奈「な……!?」
驚いて目を見開く英玲奈先輩。
──まさか、さっきまで戦っていたポケモンの“サイコキネシス”であの大量の炎を一瞬で吹き飛ばされたなんて、信じられないでしょうね。
かすみ「隙だらけです……!! “サイコショック”!!」
「リムオーーーーンッ!!!!」
鳴き声と共に──とてつもない量の実体化したサイコパワーのキューブがウルガモスの真上に出現し、マシンガンのようにウルガモスの体に降り注ぐ。
「ビ、ビィィィィィ!!!!!」
耐えることもままならず、ウルガモスは地面に落下し──落下したウルガモスに向かって、先ほどの長い腕がその先端をウルガモスに突き付ける。
かすみ「“ヘドロウェーブ”!!!」
「──ダストダァァァァス!!!!!」
「ビィィィィィィ!!!!!!」
手の平から、“ヘドロウェーブ”が噴射され、ウルガモスを襲った。
ウルガモスは“サイコショック”と“ヘドロウェーブ”による立て続けの攻撃を受け──ヘドロまみれになって気絶する。
それと同時に──私の背後に現れる2匹の影。
「リムオン…」「ダストダァーース!!!」
英玲奈「ブリムオンに……ダストダス……!? 1匹ならまだしも、バトルの最中に4匹同時進化だと……!? そんなの聞いたことがないぞ……!?」
かすみ「いえ──……5匹同時進化です……!!」
「ゾロアーーーークッ!!!!!」
英玲奈「……!?」
かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
「ゾロ、アーーーークッ!!!!」
ゾロアークが前に飛び出し──広がる暗黒の衝撃波がペンドラーを吹き飛ばす。
英玲奈「ペンドラー!?」
そして、それと同時に──
「ブーーーンッ……」
「ニ、ゴォーーーン……」
サニゴーンとメガスピアーが同時に落下してくる。
英玲奈「な……!? メガシンカポケモンが同士討ちにされただと……!?」
かすみ「サニゴーンの特性は“ほろびのボディ”です! 接触した相手と一緒に滅ばせてもらいました……!」
残るは──
「グラ、ッシャァァァァ……!!!!」
バサギリのみ……!
「グラッシャァァァァァッ!!!!!」
バサギリは、近くにいたゾロアークに向かって飛び出してくる、が、
「ゾロアーーーーーク…」
ゾロアークが、バサギリの額に、コツンと拳を当てた瞬間──
「グラッシャァッ!!!!!?」
バサギリの体がとてつもない勢いで、吹き飛んでいった。
英玲奈「な……なん……だと……」
かすみ「……“イカサマ”成功ですね」
「ゾロアーーーークッ!!!!」
“イカサマ”は相手の攻撃力の分だけ、技の威力が上がる技。
バサギリのような、とんでもないパワーを持ったポケモンには効果てき面だったみたいですね。
何本か竹をへし折りながら吹っ飛んだ先で──バサギリは白目を向いて、気絶していた。
気付けば──英玲奈先輩のポケモンは全滅していました。
英玲奈「……あ、あの状況から……負けた……だと……?」
英玲奈先輩はよほど驚いたのか、その場で呆然と立ち尽くしていた。
私はそんな英玲奈先輩のもとに近付いて、
かすみ「英玲奈先輩。……ありがとうございました」
頭を下げた。
かすみ「英玲奈先輩のお陰で……私、ポケモンたちとちゃんと向き合うことが出来ました。この子たちの魅力に、ちゃんと気付いてあげられました」
英玲奈「…………」
かすみ「私は──かすみんは、この子たちともっともっと強くなります。この子たちと一緒に最強の可愛い強いトレーナーを目指します! えへ♪」
ほっぺに指を当てながら可愛く言うと、
英玲奈「……君の言っていることは、全く理解出来ないのだが……」
英玲奈先輩は髪をくしゃっと押さえて、
英玲奈「……君たちの強さが……私たちの強さを上回ったことは……わかるよ……」
悔しそうにそう言うのでした。
英玲奈「……君みたいなトレーナーは……見たことがない……」
かすみ「えへへ♪ かすみんはオンリーワンでナンバーワンですからね~♪ 当然ですよ~♪」
英玲奈「……まさか、本気を出して負けるなんて……夢にも思わなかったよ……。……今でも信じられない。……だが、事実は認めねば、私も先に進めない……」
英玲奈先輩はそう言いながら、懐に手を入れ、
英玲奈「……“スティングバッジ”だ。持って行ってくれ」
かすみ「……はい!」
私に“スティングバッジ”を手渡してくれました。
最後のバッジを手にして──やっと、実感が湧いてきて、
かすみ「これで……これで、全ジム制覇ですーーー!!!」
思わず、大きな声で喜びを叫んでしまう。
そこに、
「ゾロアーク」「クマーーー」「リムオン」
ゾロアークとマッスグマとブリムオンが近寄ってくる。
遅れて、
「ダストダァァス」「……ニゴーン…」
戦闘不能になったサニゴーンを抱え上げながら、ダストダスもやってきた。
かすみ「えへへ……ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオン──みんなありがと♪ 大好きだよ♪」
「ゾロアーク♪」「クマーー♪」「ニゴーン…♪」「ダストダス♪」「リムオン♪」
そして、
かすみ「……ありがとう、ジュカイン……今日も最高にかっこよかったよ……大好きだよ……」
ジュカインの入ったボールを胸にぎゅっと抱きしめて、かすみんは心の底からのお礼を伝えたのでした。
かすみ「……さぁ、侑先輩……! かすみんはやり遂げましたよ……! 侑先輩ももちろん、勝ちますよね……!」
私は最後のバッジ──“スティングバッジ”を手に入れ、同じように侑先輩が勝つことを祈って、そう一人言葉にするのでした。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クロユリシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. ● | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹
かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🍊
「──マッシブーーーンッ!!!!」
千歌「ムクホーク!! “ブレイブバード”!!」
「ピィィィィィ!!!!!!」
「ッシブッ!!!?」
ムクホークが、マッシブーンを低空飛行の突撃で吹っ飛ばしながら、空へと上昇する。
「ッシブ…!!!!」
もちろん、これくらいじゃ諦めてくれないことくらい理解してる。
千歌「“ふきとばし”!!」
「ピィィィィ!!!!!」
「──ッシブーーンッ!!!!?」
上空から強風を叩きつけて、マッシブーンを吹っ飛ばす──それと同時に、
千歌「ムクホーク!! おいで!!」
「ピィィィィ!!!!!」
ムクホークを呼び寄せ──脚に掴まって、私は戦線を離脱した。
🍊 🍊 🍊
千歌「……さすがに撒いたかな」
私は岩壁に小さな洞穴を見つけて、そこで一息吐く。
千歌「……とりあえず、ご飯にしよっか」
「ピィィ」
千歌「みんなも出ておいで」
「ゼル」「ワフ」「…バク」「…ワォン」
もともと出していたムクホークに加え、フローゼル、しいたけ。……そして、せつ菜ちゃんとの戦いで大ダメージを負った、バクフーンとルガルガン。
小さい洞穴だから、5匹もポケモンを出すとちょっと手狭だ。
そんな中で、私はバッグから“きのみ”を取り出す。
千歌「“シュカのみ”と“キーのみ”と“タンガのみ”しかないけど……みんなで仲良く分けて食べるんだよ」
「ワフ」
しいたけは一鳴きすると、“キーのみ”と“タンガのみ”を咥えて、バクフーンとルガルガンの前に持って行く。
「ワフ」
「…バクフ」「…ワォン」
弱っているバクフーンとルガルガンには、“きのみ”を1つずつ渡して、
「ワフ」
「ゼル」
フローゼルが、“シュカのみ”を“かまいたち”で4つに切り分け、それをしいたけとフローゼルとムクホークが分けて食べる。
……小さな“きのみ”だから、割ったら一欠片くらいになっちゃうけど……。
「ワフ」
その中の一欠片を、しいたけが咥えて、私の前に持ってくる。
千歌「私はいいよ。そんなにお腹空いてないから」
──ぐぅ~~……。
千歌「……」
「ワフ」
千歌「……食べるね、ありがと」
どんなに強がっても、お腹の虫は誤魔化せないらしい……。
千歌「……食糧……どうにかしないと……水も……」
──私がここの世界に降りてきて、何日経ったっけか……。たぶん1週間以上は経っているはず。
ウルトラスペースに飛び出し、見つけたホールにフローゼルの噴射を使って飛び込んだはいいけど……そこは酷く荒廃した世界だった。
到着と同時にムクホークで何十キロかは飛んでみたけど……岩と崖と干上がった大地くらいしか見つけられなかった。
携帯食料はもうとっくに食べきってしまったし、水はフローゼルに貰っている分があるから今は大丈夫だけど……いくらみずポケモンでも補給なしでは限度がある。
むしろ今は水の節約のためにフローゼルはほとんど戦闘から外している。
なので今は攻撃をムクホーク、防御をしいたけが担う実質2匹態勢……。戦力面でもカツカツだ。
幸い、たまーに野生のポケモンがいるため、そういうポケモンを倒したときに落とす“きのみ”が今の食糧になっている。
ありがたいことに、潤沢とは言えないものの、“きのみ”からは最低限だけど水分も補給できるしね。
……本音を言うなら、もっと積極的に探索をしたいんだけど……この世界には困ったことにウルトラビーストもいる。
千歌「せめて、手持ちがみんな揃ってれば……」
ルカリオはコメコのロッジに置いてきちゃったし……。バクフーンとルガルガンは私に何かがあったときはボールに戻る訓練をしていたため、こうして手持ちにいるけど……ネッコアラにはそこまで訓練が出来ていなかった。
遺跡に置いてきてしまったネッコアラ……さすがに誰かが回収してくれているとは思うけど……。
そんなわけで、今私の手持ちは5匹しかいない。
……尤も、相談役から特別に支給してもらった、この特注ボールベルトがなかったら、今頃手持ちが1匹も居ない状態で途方に暮れていたんだろうけど……。
──ぐぅ~……。
考え事をしていたら、またお腹が鳴る。
千歌「……とりあえず、今日はもう寝よっか……」
「ワフ」
そう言うと、しいたけが私のもとに寄ってくる。もふもふの毛皮のお陰で、冷える荒野の夜でも、凍えずに済むのはありがたい。
明日も……水と食糧を探して、荒野を彷徨うことになる、体力は温存しておかないと……。
千歌「せめて町とかがあればなぁ……」
そんな淡い期待を抱きつつも……正直、この世界には文明があるかも怪しい……。
幸いなことに、“きのみ”を優先して食べさせていたバクフーンとルガルガンは徐々に回復してきているし……2匹が復活すれば、戦闘は多少楽になると思う。
千歌「でも……出来れば、ウルトラビーストとの遭遇は避けたいなぁ……」
この数日で出会った野生のウルトラビーストは、先ほど戦ったマッシブーンと、数日前に遭遇したズガドーン。ちらっと見かけたツンデツンデくらいだ。
多くはないけど……私たちの世界からしたら十分多い。今後も遭遇する可能性は十分ある。
──本来ウルトラビーストは1つの世界で何種類も見ることはあまりないらしい。
私たちの世界では“ウルトラビースト”と一括りにされてしまうためにわかりづらいけど……マッシブーンなら“ウルトラジャングル”。フェローチェなら“ウルトラデザート”と、ある程度生息している世界は決まっているようだ。
だからきっと……あのウルトラビーストたちもウルトラホールを通って、他の世界からここに迷い込んできたんだと思う。
逆に言うなら、今居るこの場所は、いろんな世界と繋がりやすい場所とも考えられる……はず。それなら、私が元居た世界に繋がる可能性だってなくはない。
それに、ウルトラスペースシップに連れ込まれてから、割と短時間で脱出したつもりだから……たぶん私たちの世界ともそんなに遠くない。……はず。
……今出来ることは、とにかく耐え凌ぎながら、どうにかして元の世界に帰ることだ……。
千歌「……とにかく寝よう」
私は目を瞑る。暗くなって安全に動けない時間は、体力温存のために少しでも眠らないと……。
今は、生き抜くために……。
………………
…………
……
🍊
■Chapter056 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Yu】
──かすみちゃんをクロユリシティに送り届け……私は、ヒナギクシティに向かって飛行している真っ最中。
リナ『侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ん?」
「ブィ」
腕に装着したリナちゃんが、話しかけてくる。
リナ『また、ドラメシヤが近くに来てるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
言われて、周囲に視線を彷徨わせると、
「メシヤ~」
確かに、ドラメシヤが近くを飛んでいた。
私は空のモンスターボールを取り出し──ドラメシヤに向かって投げる。
「メシヤ──」
ドラメシヤはほぼ無抵抗でボールに吸い込まれて、難なく捕獲される。
私は、ウォーグルに指示を出して、ボールをキャッチし──再びヒナギクに向かう飛行経路に戻る。
リナ『これで、5匹目だね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん……やっぱりドラパルトに引き寄せられてきてるのかな」
「イブィ…?」
リナ『そうだと思う。でも、ドラパルトが力を発揮するなら、ドラメシヤの力は必要』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
──実は、ドロンチがドラパルトに進化してからというもの、定期的にドラメシヤが私の近くに寄ってくるようになっていた。
侑「ドラメシヤはドラパルトに発射してもらうのが好きみたいだもんね」
リナ『心待ちにしてるらしいね。不思議な生態』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはそう言いながら、ドラパルトの図鑑データを表示する。
リナ『ドラパルト ステルスポケモン 高さ:3.0m 重さ:50.0kg
ツノの 穴に ドラメシヤを 入れて 暮らす。 戦いになると
マッハの スピードで ドラメシヤを 飛ばす。 ツノに 入った
ドラメシヤは 飛ばされるのを 心待ちに しているらしい。』
──ドラパルトというポケモンは頭のツノに穴が空いている。
図鑑の説明どおり、その穴にドラメシヤたちを住まわせていて、戦いになるとその穴からマッハのスピードでドラメシヤを飛ばす“ドラゴンアロー”という技が使える。
……理由はよくわからないけど、ドラメシヤたちは飛ばされるのが大好きらしく、こうして寄って来ているということらしい。
リナ『ドラパルト自体、数が少ないから、たくさん引き寄せられてきちゃうのかもね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「まあ、バトルで使うことになるだろうから、助かるけどね」
なので、こうして寄ってきたドラメシヤは積極的に捕まえているというわけだ。
……全く抵抗しないし、ドラメシヤ側も捕まえて欲しいんだと思う。
今もすでにボールの中にいるドラパルトの両ツノの穴には、ドラメシヤが住んでいる状態だ。
……ドラメシヤが2匹住んでいたら、ドラパルトのボールの中には3匹のポケモンが同時に入っている気がするけど……。
ツノの穴の中に入ってさえいれば1匹として扱われて、そのまま3匹を1つのボールに入れられるらしい……。
侑「なんか……不思議なポケモンだよね」
リナ『まだまだ生態に謎が多いポケモンはたくさんいる。ドラパルトも戦いが終わったあとに、博士に見せてあげたら喜ぶかもしれないね』 || > ◡ < ||
侑「ふふ、そうかもね」
確かに、文化研究をしているヨハネ博士からしてみたら、自分から人間のもとに集まってくるドラメシヤたちの生態は興味深いだろうし、道具研究をしている鞠莉博士も、1つのボールで3匹入ってしまう不思議なポケモンに興味を示しそうだ。
全部のことが終わったら、見せに行こうかな。
侑「それにしても……こうして、リナちゃんの装着具を作ってもらえて助かったよ。これなら、移動中にもお話し出来るし、図鑑データも見られるから」
リナ『うん! もっと前から作ってもらっておけばよかったね!』 || > ◡ < ||
──私とかすみちゃんが修行から帰ってきたら、リナちゃんの背面に、私の腕にくっつける機能が実装されていた。
リナちゃんの意思で、腕輪のような装着具を展開して、私の腕に固定出来る。
鞠莉博士が図鑑をウルトラビースト対応にアップデートする際に、追加で改造を施してくれたらしい。
しかも、わざわざ私の腕に合わせて作ってくれたみたいで、フィット感が完璧──ちょっと振ったくらいじゃ、まったく動かないほどだ。
リナ『これなら、空の移動でも、激しいバトルでも、安心して侑さんと一緒にいられるね!』 || > ◡ < ||
侑「うん、そうだね♪」
今回のバトル──ヒナギクジム戦も前回に続いてフリーバトルだ。
激しい戦闘が予想されるから、こうしたリナちゃんのアップデートは本当にありがたい。
リナ『今回は、私も今まで以上に侑さんをサポート出来るように頑張るね!』 || > ◡ < ||
侑「うん! お願いね、リナちゃん!」
そして、そんな話をしていると、
侑「見えてきたね……!」
リナ『ヒナギクシティ♪』 ||,,> ◡ <,,||
「イブィ♪」
私は、最後のジムがある町──ヒナギクシティへ到着しようとしていた。
🎹 🎹 🎹
ヒナギクシティのポケモンジムの前に降りると──
理亞「……やっと来た」
理亞さんはすでにジムの前で待っていた。
侑「す、すみません……遅くなって」
理亞「別に、遅いとは言ってない」
そうぶっきらぼうに言うと、理亞さんはジムに背を向けたまま歩き出す。
理亞「ジム戦は別の場所でやるから」
侑「は、はい」
理亞さんはヒナギクの町をすたすたと北上していく。
侑「この先って……」
リナ『グレイブマウンテンだね』 || ╹ᇫ╹ ||
以前、雪崩に巻き込まれたしずくちゃんを助けに行った場所だ。
私たちの会話が聞こえていたのか、
理亞「ジム戦はグレイブマウンテンでやるから」
理亞さんはそう簡潔に回答する。
侑「ぐ、グレイブマウンテンで、ですか……?」
理亞「そう。ジム戦はこっちが場所を指定していいって言われてるし、私はあそこで戦うのが一番力を出せるから」
あんな険しい山が一番だなんて……とも、思うけど……。
侑「……理亞さんって、確か普段は考古学者としての仕事をされてるんですよね……?」
理亞「……よく知ってるのね。誰かに聞いたの?」
侑「は、はい。果南さんに……」
理亞「……なるほどね」
私はローズで果南さんから聞いた話を思い出す……。
──────
────
──
果南「──理亞ちゃんがどんな人か知りたい?」
侑「は、はい……私、ジムリーダーのことは大体知ってるんですけど……理亞さんのことだけはよく知らなくって……」
果南「あーまあ、理亞ちゃんって最近までジムリーダーやってることも非公表だったからね。公式戦もジム戦以外ですることもないし……」
……そう、私は他のジムリーダーに関しては──クローズドジムリーダーの花丸さんを除けば──大体のことを知っているつもりだけど、理亞さんについてはほとんど何も知らない……。
何故なら、彼女は他のジムリーダーと違って、公式大会にも出場しないし、公の場に滅多に姿を現さないからだ。
でも、戦いを前に一切の前情報がないのも不安だし……。果南さんなら何か知っているかもしれないと思って、訊ねてみたというわけだ。
果南「んー……そうだなぁ……理亞ちゃんは……考古学者さんだよ」
侑「考古学者……?」
果南「そ。グレイブマウンテンとか、その周辺について調べてるみたいだよ。詳しいことは私もよく知らないけど……。……って、そもそも聞きたいのはこういうことじゃないか」
侑「は、はい……まあ……」
理亞さんが考古学者というのも気になるんだけど……今知りたいのはそういうことよりも……。
果南「こおりタイプのエキスパートだけど……本気の手持ちはこおりタイプだけじゃないよ」
侑「! そうです! そういうの聞きたいです!」
エキスパートタイプを持つジムリーダーだけど……実は人によっては本気の手持ちはエキスパートタイプ以外を使っている人も少なくない。
今のジムリーダーで言うなら、ルビィさん、凛さん、花陽さん、曜さんは公式大会ではエキスパートタイプ以外のポケモンを使っている。
逆に真姫さん、英玲奈さん、にこさんなんかは公式戦でもエキスパートタイプを使うことを好む人たちだ。
本来、タイプが事前にわかるジム戦はある程度の対策を立てられるけど……今回は本気の手持ちを使ったバトルである以上、どんなポケモンを使ってくるかわからないどころか、どんなタイプを使うかすらわからない状態。
だからこそ、事前に使用ポケモンがわかるだけでも、話は全然変わってくる。
果南「んー……って言っても、私も理亞ちゃんのポケモンには全部は知らないんだよね。確かマニューラとチリーン……あとはクロバット、リングマは持ってたかな」
侑「そこまでわかれば十分です……!」
果南「そう? ならよかった。……まあ、後のことは本人に会って確かめるしかないね──」
──
────
──────
そんなやり取りがあったため……理亞さんが考古学者ということを知っていたというわけだ。
理亞「まあ……考古学って言うけど……基本はグレイブマウンテン以北を調べてるだけ」
リナ『確かにグレイブマウンテンはポケモンの化石が出てくるから、歴史的価値の高い場所だって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
理亞「私は古生物学者ではないから……あんまり化石を調べたりはしないけどね」
侑「じゃあ、グレイブマウンテンで一体何を……?」
私がそう訊ねると、
理亞「……グレイブマウンテン以北には、かつて国があったって言われてるの」
理亞さんはそう話し始める。
理亞「ただ、その国は……あるときを境にパタリと歴史から姿を消して……今は、滅んだ国と関係があるのかもわからない、小さな集落が点在するだけになった」
侑「そ、そうなんですか……?」
そんな話全く知らなかった……。歴史の授業でもそんなことは習わなかったと思う……。
理亞「知らなくても無理はない。……つい最近までは、そこに滅んだ国があったことさえ知られてなかったらしいから」
侑「あったことを知られてなかった……?」
リナ『遥か昔、オトノキ地方はある王家の一族が治めていて、その王家は北方の国と戦った……って歴史があるんだけど、長年その敵国が正確にどこにあったのかはわからなかったんだって』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「あ……オトノキ地方に王家があったって言うのは聞いたことあるかも……」
歩夢がその時代の話を題材にした、小説を読んでいた気がする。
……内容は戦争史というより、貴族の色恋のお話だったけど……。
理亞「……この地方ではヒナギク開拓後、グレイブマウンテンまで調査の手を伸ばした際に──山の北側から麓に掛けて、雪の下から大規模な集落の痕跡やお墓が見つかった。そのときにその敵国が山を越えたすぐ先にあったことがわかったらしい」
侑「それじゃ……理亞さんはそれを詳しく調べるために、考古学者に……?」
理亞「調べるというか……故郷のことだから。知っておきたいって思っただけ」
侑「……え? 故郷……?」
故郷という言葉に私は目を丸くする。
理亞「私はグレイブマウンテン北部の小さな集落の出身なの」
侑「じゃあ……」
理亞「滅んだ国の生き残り……かもしれないとは思ってる。集落にいた私自身も、自分のルーツをあまり知らないまま生きてきたから……それが知りたくて調べてる」
リナ『じゃあ、理亞さんは……正確にはオトノキ地方出身の人じゃないんだね』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「そうなる。……だから、私も最初はジムリーダーになるつもりはなかった。……ただ、ちゃんと調べるには立場があった方が何かと都合がいいからって……ルビィと希さんに薦められて……」
侑「…………」
私は理亞さんの話を聞いて──理亞さんがあまり公の場に姿を現さない理由が少しだけわかった気がした。
謎多きヒナギクジムのジムリーダーの理亞さんだけど……3年ほど前に希さんの四天王昇格で新ジムリーダーが着任したヒナギクジムは、つい最近になるまでジムリーダーが誰かを公表していなかった。
一応ジムリーダーがいることはわかっていたけど……新ジムリーダーはジムチャレンジャーとのバトルのみを行い、他の権限は四天王になった希さんが持ち続けるというかなり異例なジムリーダーだった。
今でこそ、正ジムリーダーとして全ての権限を持っているけど……もしかしたら、理亞さんの心の中には、後ろめたさのようなものがあったのかもしれない。
自分はオトノキ地方の人間ではないのに、オトノキ地方のジムリーダーになっていいのかという……そういう迷いが……。
理亞「……でも、今はちょっと違う」
ただ、私のそんな考えに答えるかのように、
理亞「今は……一人のジムリーダーとして、オトノキ地方のために何が出来るか……考えてるつもり」
そう答えながら、足を止める。
気付けば私たちは──グレイブマウンテンの麓にたどり着いていた。
理亞「……正直……普通のトレーナー相手に……本気を出していいのか、悩んでたけど……。……少し事情が変わった」
侑「……?」
理亞「……あなたが、ねえさまを助けるための作戦に……支障がない実力を持っているのか……確かめる」
理亞さんはそう言ってボールを構える。
理亞「フィールドは、グレイブマウンテン全域……! ただし、グレイブガーデン側に逃げるのは絶対禁止……」
侑「は、はい……!」
理亞「それ以外のルールはない……準備はいい?」
侑「……はい!」
「ブイ!!!」
理亞「……ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。全力で行くから……!」
放たれるボールと共に、私の最後のジム戦が──始まった……!!
🎹 🎹 🎹
理亞「マニューラ……!」
「──マニュッ!!!」
理亞さんの1番手はマニューラ。
対する私の1番手は、
侑「行くよ、イーブイ!」
「ブイ!!」
イーブイだ。
リナ『マニューラ かぎづめポケモン 高さ:1.1m 重さ:34.0kg
寒い 地域で 暮らす ポケモン。 4、5匹の グループは
見事な 連係で 獲物を 追いつめる。 樹木や 氷の
表面に 鋭い ツメで 模様を 刻み 仲間に 合図を 送る。』
フィールドにお互いのポケモンが相対した瞬間、
「マニュッ──」
マニューラの姿が掻き消え──次の瞬間には、
理亞「“つじぎり”!!」
「マニュ!!!!」
イーブイの真横から、マニューラが爪を構えて斬りかかってきていた。
が、
理亞「……! マニューラ!!」
「マニュッ…!!」
マニューラの爪はイーブイには当てず、ギリギリの場所で空を裂き──そのまま、マニューラは軽い身のこなしでイーブイから距離を取る。
……何故、マニューラがイーブイに攻撃しなかったのか、それは──イーブイが燃えていたからだ。
侑「おしい……!」
「ブイ…!!!」
“めらめらバーン”の炎を体に纏いながら、マニューラの攻撃を誘って“やけど”にする作戦だったけど、相手は最後ジムリーダー。さすがに一筋縄ではいかないみたいだ。
理亞「なら、直接触らなければいいだけ……! “つららおとし”!!」
「マニュッ!!!」
マニューラが冷気で作り出した、つららをイーブイの頭上に落としてくる。
私はすかさず、次のポケモンを出す。
侑「ニャスパー! “テレキネシス”!」
「──ウニャーー」
ニャスパーがボールから飛び出すと同時に──落ちてくるつららを空中で静止させる。
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブイ!!!」
相手の攻撃を止めたら、すかさず攻撃……!
“びりびりエレキ”が迸る──が、
理亞「オニゴーリ!!」
「──ゴォーーリッ!!!!」
理亞さんはマニューラに向かって駆けながら、オニゴーリを繰り出し、
「ゴォーーリッ!!!!」
オニゴーリが、氷の盾を作り出し、電撃を弾く──と同時に、
理亞「“ふぶき”!!」
「ゴォーーーーリッ!!!!!」
侑「うわっ……!?」
「イブィッ!!!?」「ウ、ウニャァー」
猛烈な“ふぶき”を放ってくる。
強烈な冷風なのはもちろん、ものすごい勢いの風に、体重の軽いイーブイとニャスパーは吹き飛ばされ──
リナ『侑さん! 今ニャスパーが飛ばされたら……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「……っ!」
ニャスパーの集中が切れて、私に向かって“ふぶき”に煽られたつららが突っ込んで来る。
侑「“フィオネ”!! “みずでっぽう”!!」
「──フィオーー!!!」
すかさず繰り出したフィオネが、飛び出すと同時に薙ぐように“みずでっぽう”を噴き出し、噴き出した水は“ふぶき”の中で即座に凍り付いて──即席で作った氷の盾につららが突き刺さる。
お互い盾を使って、防ぎ合う遠距離戦……!
ただ、ここは雪山……相手の方が場の支配力に優れる以上、出来れば距離を詰めたい。
そうでなくても、まずは“ふぶき”の圏内から外れないと……!
侑「行くよ、フィオネ……!」
「フィオーー」
フィオネを抱きかかえて、私は氷の盾から飛び出す。
それと同時に、フィオネが前方に水を撒き散らし、氷で風よけを延長しながら──近くの岩陰に滑り込む。
吹き飛ばされたイーブイとニャスパーを救出しなくちゃいけないけど……まずは、“ふぶき”を止めないと……!
策を巡らせていると──急に、辺りが静かになった。
侑「……?」
先ほどまで聞こえていた、“ふぶき”の音が急に消えたのだ。
侑「……」
私は恐る恐る、岩の陰から理亞さんの居た方を伺うと──すでにそこに理亞さんの姿はなかった。
警戒しながら、岩の陰を出て周囲を確認してみるけど……理亞さんの姿はどこにも見当たらない。
侑「……逃げた……?」
あの状況で……? わざわざ……?
リナ『侑さん!! 上!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「えっ!?」
リナちゃんの声で顔を上に向けると同時に──紫色の影が大きな口を開けて降ってきた。
ヤバイ……!? 避けきれない……!?
「フィオッ!!!」
フィオネが咄嗟に飛び出して──“ねんりき”によって、相手の動きを止める。
「──クロ、バ……」
侑「クロバット……!?」
目の前で大口を開けて静止しているのは、クロバットだった。
フィオネの判断のお陰でどうにか奇襲を防いだけど、フィオネの“ねんりき”じゃパワーが足りず──
「──クロバッ!!!」
「フィオ!!?」
力任せに閉じられたキバに噛みつかれる。
侑「フィオネ!?」
私が、腰のボールに手を掛けた瞬間──
腰の辺りでバキリと、嫌な音がした。
侑「!?」
ギョッとして、腰を見ると──
「マニュ…!!!」
マニューラが私の腰に爪を立てているところだった。
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「……っ!」
私は咄嗟にマニューラから距離を取る。それと同時に──
「ブーーイッ!!!」
「マニュッ!!!?」
戻ってきたイーブイが“とっしん”でマニューラを突き飛ばし、
「ニャーー!!!」
「クロバッ!!!?」
ニャスパーがサイコパワー全開で、クロバットを上空に向かって吹っ飛ばす。
その拍子に、
「フ、フィオ~」
噛み付かれていたフィオネがクロバットのキバから解放されて、落ちてくる。
侑「フィオネ……!」
フィオネをキャッチしながら、私は走り出す。
そこに、
「ブイ!!」
並走するイーブイと、
「ウニャァ~」
ふわふわ浮きながら、私の横に並んで飛ぶニャスパーの姿。
侑「イーブイ! ニャスパー! よかった、無事だったんだね!」
「ブイ!!」「ニャー」
走りながら、私の背後からは──
「マニュッ!!!」「クロバッ!!!!」
マニューラとクロバットが猛スピードで追いかけてくる。
侑「ダメだ……! 走ってたら、追い付かれる……!」
私は咄嗟にウォーグルのボールを手に取り──またギョッとした。
リナ『侑さん、どうしたの!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「ウォーグルのボール開かない!?」
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
ウォーグルの入ったボールは──開閉スイッチが破壊されて開けなくなっていた。
さっきした、嫌な音の正体はこれだったんだ……!? す、すぐにボールを完全に壊してウォーグルを……!?
私は混乱しながらも、必死に頭を回転させて打開策を考えるけど──その一瞬のタイムロスすら、相手は許してくれなかった。
「マニュッ!!!」「クロバッ!!!」
マニューラが爪を、クロバットがキバを構えて、飛び掛かってくる。
侑「……っ!!」
もうダメだと思った瞬間──
「──ドラパッ!!!!」
侑「うわぁっ!?」
「ブイ!?」「ウニャ!?」
腰のボールから、ドラパルトが自分の意思で飛び出し、私たちを頭に乗せて──猛スピードで発進した。
「マ、マニュ…!!」
「クロバッ!!!」
理亞「クロバット、深追いしなくていい」
「ク、クロバ…」
理亞「逃げられたけど……こっちが有利だから」
🎹 🎹 🎹
侑「ドラパルト……ありがとう……助かったよ……」
「ドラパー♪」
ドラパルトに乗って飛行しながら、お礼を言う。
ドラパルトのお陰でどうにか窮地を脱することが出来た。……出来たんだけど……。
侑「……かなり、まずいかも」
リナ『ウォーグルのボール……早く完全に割って中から出しちゃった方がいい。ボールだけ壊せば、ウォーグルは傷つかないはずだから……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「いや、そっちはいいんだけど……」
リナ『……?』 || ? ᇫ ? ||
侑「……そもそも手持ちのボールが、いくつかなくなってる……」
リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「あのマニューラの特性……“わるいてぐせ”だったりしない……?」
リナ『……する』 || > _ <𝅝||
侑「だよね……」
完全にやられた……。まさか、手持ちを直接奪いに来るなんて……。
リナ『ごめんなさい、侑さん……私がもっと早く伝えてれば……』 || > _ <𝅝||
侑「うぅん……私も警戒不足だった……」
完全に予想外の戦術だけど……考えてみれば実戦で相手のトレーナーを無力化するなら、物理的にポケモンを使えなくするのはかなり有効……。
今回のバトルは実戦を模して行われるフリールール……こういう策も考慮しておくべきだった。
リナ『盗られたボールは……?』 || 𝅝• _ • ||
侑「うーんと……とりあえず、5個なくなってる……」
リナ『5個も!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「あ、でも、ほとんどはドラメシヤが入ったボールだよ」
本来想定していた意図とは全く違うけど……ある意味、ここに来る途中でドラメシヤを捕まえておいてよかった……。
──改めて、マニューラに盗まれたボールを確認する。
侑「ドラメシヤのボールが3つ……。あと、フィオネのボールもないね」
リナ『空のボールってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん……。フィオネはすでに外に出てるけど……ボールに戻せなくなった」
「フィオ…」
ボールを取り戻さない限り、フィオネを戻すことが出来ない……。
そして、問題は最後の1つ。
侑「……ライボルトのボールがない」
リナ『……ヤバイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「……ヤバイね」
よりにもよって、唯一メガシンカ出来るライボルトを持っていかれたのは痛手だ……。
侑「ドラメシヤに関しては、“ドラゴンアロー”の使用タイミングを気を付ければいいけど……」
リナ『撃ち出されたドラメシヤは、そのうち戻ってくるしね……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ただ……ライボルトだけはどうにかして取り戻さないと……」
さすがに本気の手持ちのジムリーダー相手に、メガシンカ無しで挑むのは無謀すぎる……。
理亞さんもメガシンカは使ってくるだろうから、尚更……。
策を考えていると──ウォーグルのボールがカタカタと震える。
侑「あ、ごめんごめん……ウォーグルをボールから出してあげないとだね。ニャスパー」
「ウニャ」
ニャスパーがサイコパワーでボールを捩って、割り砕く。
「──ウォー」
ウォーグルがボールから飛び出して、ドラパルトの横を並んで飛行しだす。
リナ『ニャスパー、ちょっと器用になった?』 || ╹ᇫ╹ ||
「ニャー」
侑「カーテンクリフでの修行で、サイコパワーの使い方が上達したんだ。……まだ、完璧じゃないけどね」
「ニャー」
今までは一方向へ強い力を発するか、浮かせるくらいしか出来なかったから、捩るとか、止めるとかが出来るようになったのは大きな進歩だと思う。
戦略の幅も広がるしね。
侑「とりあえず……今後どうするかを考えないとね……。どうにかしてボールを取り戻さないと……」
リナ『考えられるパターンは3つだね。理亞さんが持ってるパターンか、マニューラが持ってるパターンか……あとは、どこか別の場所にボールを隠してるパターン』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「開閉スイッチは確実に壊してるだろうから……ライボルトが自分から出てくることはまず期待できない……。見付けたら、ボール自体を壊して出してあげないといけないね」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「あと……隠してるパターンはほぼないと思う」
リナ『理由は?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「こっちにはリナちゃんがいるから」
リナ『なるほど。納得した』 || ╹ ◡ ╹ ||
隠したところで、リナちゃんはポケモン図鑑だから、サーチをすればすぐに見つけられてしまう。
だから、この線はほぼないと考えていいかな……。
侑「……そうだ、確認しておきたいんだけど……」
リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「モンスターボールってモンスターボールの中に入れられたりするの?」
リナ『完全に未使用のモンスターボールなら、ポケモンに持たせれば入れられなくはないけど……。すでにポケモンと紐づいてるボールとか、ポケモンが入ってるボールは入れられないよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そっか、よかった……」
もし、それが出来たら理亞さんの持っているボールの中に入れられた時点で詰みみたいなものだしね……。
侑「近付けば……誰がボールを持ってるかはわかるよね?」
リナ『もちろん! ポケモン図鑑だから、見える場所にいれば、それはすぐにわかるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった。それじゃ、また理亞さんたちに近付いたら聞くと思うからよろしくね」
リナ『了解!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||
侑「ただ……問題はどうやって近付くか……」
理亞さんの手持ちは果南さんの情報が確かなら、マニューラ、チリーン、クロバット、リングマ……そして、すでに出してきたオニゴーリ。
5匹は割れている。かすみちゃんから貰った情報だと、他にモスノウやバイバニラを使ってきたらしいけど……こおりタイプがやや多いというだけでタイプに統一性はないし、この2匹を持っているかは微妙だ。
侑「リナちゃん……さすがに理亞さんの手持ちポケモンが何かまでは……わからないよね……?」
リナ『うん……侑さんの手持ちはボールの固有周波数でわかるけど……初めて会う人のポケモンはわからない。せいぜい、近くにいるときにポケモンが入ってるボールを何個持ってるかがわかるくらいかな』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
侑「となると、最後の1匹はわからないまま戦うしかないかな……」
最後の1匹が何かわからないという不安要素はあるけど……。
侑「……みんな、ライボルト奪還作戦なんだけど──」
「ブイ」「パルト」「ウォー!!」「ニャァ」「フィー」
私はみんなに作戦の共有を始めた。
🎹 🎹 🎹
理亞「…………」
侑「……いた!」
私は、上空から理亞さんを見つけ──
侑「ウォーグル!! 行くよ!!」
「ウォーーーーーーッ!!!!」
理亞さんに向かって一気に急襲する。
理亞「……!」
理亞さんはウォーグルの鳴き声に気付き顔を上げ──バッと手を上げた瞬間、
「クロバッ!!!!」
クロバットが猛スピードで岩陰から飛び出してきた──
侑「クロバット、出てくるよ……ねっ……!!」
「フィオーー!!!」
私はフィオネを──クロバットに向かって放り投げる。
理亞「……!?」
「クロバッ!!?」
驚く理亞さんたちを後目に、フィオネがクロバットに取り付きながら──手に持っていた、ボールを前に突き出す。
「ニャーーッ」
ボールから飛び出したニャスパーに向かって、
侑「翼を止めて!!」
「ニャーーッ」
「クロバッ…!!?」
サイコパワーで翼の動きを止めるように指示を出す。
理亞「クロバット……!? く……チリーン!!」
「──チリーンッ!!!」
理亞さんがクロバット救出のために、チリーンを繰り出す。
侑「ニャスパー!!」
「ニャーーーッ」
私の声と共に──ニャスパーがクロバットを踏み切って、チリーンに向かって飛び出した。
理亞「チリーン!! “サイコショック”!!」
侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」
「チリーーーンッ!!!」
「ウニャァーー」
2匹のサイコパワーが空中で出現し、ぶつかり合う。
理亞「クロバット!! ニャスパーの注意は逸らした!! 今のうち……に……!?」
理亞さんが驚いた顔をする。何故なら──クロバットの翼が凍り付いていたからだ。
侑「この気温なら、“みずでっぽう”でも十分凍りますよ!!」
「フィオーー♪」
理亞「……! 狙いは最初からクロバットを凍らせること……!?」
そう。ニャスパーだとクロバットの動きを封じるには常に付きっ切りにならなくちゃいけないけど──フィオネで凍らせれば、ニャスパーはフリーになる。
理亞さんの手持ちで、すでに割れているポケモンのうち、空を飛べるのはクロバットとチリーン。なら、クロバットの動きを一時的に封じればチリーンが出てくると読んでいた。
理亞さんのポケモンのレベルが高くても、フルパワーのニャスパーなら、対抗出来るはずと踏んでチリーンにぶつけ──
理亞「クロバット……!! 一旦ボールに──」
理亞さんはボールを構えて、クロバットの落下地点に向かって走り出す。
侑「させません!! フィオネ! “ブレイブチャージ”!!」
「フィ、オーーーーッ!!!!」
フィオネが自分自身を奮い立たせてパワーを高め──
侑「“ハイドロポンプ”!!」
「フィーーーオーーー!!!!!!」
「クロバッ……!!!?」
理亞さんのボールが届く距離に入る前に──真下に向かって、“ブレイブチャージ”で強化した“ハイドロポンプ”を叩きこんだ。
万年雪が降り続けるグレイブマウンテンの寒さの中──“ハイドロポンプ”は凍り付きながら、一本の氷の柱を突き立てるように、クロバットを地面に突き落とした。
理亞「クロバット……!!」
「バ…バットォ…」
理亞「く……戻れ……!」
理亞さんがクロバットをボールに戻す。
リナ『やったよ侑さん! クロバット戦闘不能!』 || > ◡ < ||
侑「このまま、畳みかけるよ!! ニャスパー!!」
「ウニャァ~」
「チ、チリーーンッ…!!」
ニャスパーが耳を全開にして、上から下に向かってサイコパワーを放出すると、チリーンがじりじりと押され始める。
理亞「パワーがあるだけじゃ、私のチリーンには勝てない……!! チリーン!! “ハイパーボイス”!!」
「チーーリィィィーーーーンッ!!!!!!!」
「ウニャァ~~」
圧していたニャスパーだけど、チリーンの“ハイパーボイス”によって、逆に真上に吹っ飛ばされる。
私はその横を、ウォーグルで急降下しながら、理亞さんに向かって突撃する。
理亞「な……!? チリーンを無視……!?」
侑「リナちゃん!! マニューラは今どこ!?」
リナ『そこの岩陰の裏!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
私は降下しながら、リナちゃんにマニューラの位置を確認。
理亞「まさか、ニャスパーは囮……!? オニゴーリ!!」
「──ニゴーーーリッ!!!!」
理亞さんはすかさずオニゴーリを繰り出す。
でも、これも私の読みどおり……!!
侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
「ウォーーーッ!!!!!!」
猛禽の爪を立てながら、飛び出してきたオニゴーリを地面に押さえつける。
その隙に──私はウォーグルの背を飛び降りて、リナちゃんが教えてくれた岩陰に向かって走り出す。
侑「ウォーグル! オニゴーリは任せるよ!」
「ウォーーーッ!!!」
オニゴーリをウォーグルに任せるが──相手は冷気を操るポケモンオニゴーリだ。ウォーグルの脚は一瞬で凍り始める。
理亞「“フリーズドライ”!!」
「ニゴォォーーーリッ!!!!」
追撃の“フリーズドライ”でパキパキとウォーグルの体が凍り始めるが──
「イッブイッ!!!!」
ウォーグルの背中の上からオニゴーリに向かって、イーブイが飛び出した。
理亞「イーブイ……!?」
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブイィィィィィ!!!!!」
「ニゴォォォーーリッ!!!!?」
至近距離から突然現れたイーブイに全く反応出来なかったオニゴーリに、“めらめらバーン”が直撃する。
そして、私は──件の岩の裏に到着し、
「マニュッ…!!!!」
逃げ出すマニューラを発見する。
侑「いた……!!」
理亞「マニューラ!! 戦わないで逃げればいい!!」
マニューラは山肌に爪を引っかけながら、ひょいひょいと登って逃げてしまうが──もう場所は把握出来た。
姿さえ確認できれば──
「──ラパルト…」
「マニュッ!!?」
侑「“ゴーストダイブ”!!」
「パルトッ!!!!」
「マニュッ…!!!!?」
理亞「マニューラ!?」
崖を登るマニューラを、突然背後から現れたドラパルトが太い尻尾で叩き落とす。
その拍子に──マニューラが隠し持っていたボールがバラバラと宙を舞う。
理亞「マニューラ!! 盗られるな!!」
「マ、ニュッ!!!!」
マニューラは吹っ飛ばされながらも、さすがの身のこなしで岩肌に爪を引っかけながら──ボールに向かって、飛び出す……が、
侑「こっちの準備はもう……終わってる!! “ドラゴンアロー”!!」
「パルトッ!!!!!」
「メシヤーーーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーーーッ!!!!」
2匹のドラメシヤが音の速さで射出され──宙を舞うボールを2つ、割り砕いた。
「──メシヤ~~」
1つはドラメシヤ、外れだ。だけど、もう1つは──
「──ライボッ!!!!!」
リナ『5分の2、一発で引き当てた!!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「ライボルト!! マニューラに向かって、“10まんボルト”!!」
「ライィィボォォォォォ!!!!!!」
「マニュゥゥゥ!!!!?」
空中でマニューラを電撃で撃ち落とす。ライボルトはそのまま落ちていたボールを拾い、岩肌を駆け下りて、私のもとへと戻ってくる。
侑「おかえり、ライボルト……!」
「ライボッ!!!」
リナ『ライボルト、奪還成功!』 ||,,> ◡ <,,||
作戦成功……!! ライボルトは取り戻した……!
と、思った瞬間、
「ブイィィィィ!!!?」
イーブイが“めらめらバーン”で体に炎を滾らせたまま、こっちに吹っ飛ばされてくる。
侑「イーブイ!?」
「ブ、ブィ!!!」
雪を溶かしながら、転がったものの、イーブイはすぐに炎を消しながら、受け身を取って立ち上がる。
理亞「……ライボルトを取り返されたのは予想外だったけど……」
「ニゴォォォォォォリッ!!!!!!」
侑「……!」
気付けばオニゴーリの大きな顎が外れて──そこから、大量の冷気を吐き出していた。
侑「メガオニゴーリ……!」
理亞さんは、いつの間にかオニゴーリをメガシンカさせていたらしく──
「…………」
リナ『ウォーグルが氷漬けになってる……』 || × ᇫ × ||
ウォーグルは氷漬けになって、沈黙していた。
理亞「ついでにこいつらも返す」
「チリーンッ」
「ウニャ…」
チリーンが“サイコキネシス”で投げてきたニャスパーが雪の上を転がる。
侑「ニャスパー……!」
そして、ニャスパーと同じように──
「フィオ~…」
フィオネもこっちに転がってくる。
侑「フィオネ……!?」
フィオネが飛んできた方に目を向けると──
「カブトプス…」
化石ポケモンのカブトプスが鋭い視線をこちらに向けていた。
侑「カブトプス……!」
理亞さんの最後のポケモンは……カブトプスだったらしい。
理亞「……そっちの戦力は3匹削った、こっちはまだ2匹戦闘不能になっただけ。ライボルトは取り戻せたかもしれないけど、トータルではこっちに分がある」
「ニゴォーーリッ…!!!!」「チリンッ」「カブトプス…!!!!」
侑「……」
私は、ライボルトの持ってきてくれた、マニューラから取り戻したボールを受け取りながら、戦闘不能になったニャスパーとフィオネをボールに戻す。
ウォーグルは……ここからだと、ちょっと距離があるし……さっき、ボールを割っちゃったから、戻せない……。
侑「……でも、私にも、まだこれがあります──ライボルト、メガシンカ!!」
「──ライボォッ!!!!!」
ライボルトが光に包まれ──周囲にバチバチとスパークを爆ぜさせながら、メガライボルトに姿を変える。
侑「ライボルト!! まずはカブトプスを狙うよ!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトが稲妻のような速度で飛び出した。
一瞬でカブトプスを射程に捉える速度だったが──
「ライボッ…!!!!」
ライボルトの進行方向に突如、巨大な氷の壁が出現し、ライボルトは突撃する寸前で、その壁を直角に曲がりながら回避する。
もちろん、こんなことが出来るのは──
「ニゴォォォォォリ……!!!!」
メガオニゴーリしかいない。
理亞「簡単に通すと思う?」
侑「……く……ライボルト!」
「──ライボッ!!!!」
私がハンドシグナルで戻ってくるように促すと、一瞬でライボルトが私の傍に帰ってくる。
侑「まずメガオニゴーリをどうにかしなきゃ……!」
リナ『でも、壁があったら向こうもメガオニゴーリ以外攻撃出来ない』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「確かに。……だけど、メガオニゴーリがいれば十分……! “ふぶき”!!」
「ニゴォォーーーーリッ!!!!!」
メガオニゴーリの口が開かれ──強烈な“ふぶき”が放たれる。
周囲一帯の冷気を操って支配しているメガオニゴーリにとって、氷の壁が自身の攻撃を妨げることはなく、むしろその壁からも冷気が風となって襲い掛かってくる。
侑「く……!? ライボルト!! “かえんほうしゃ”!! イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ライボォォォォ!!!!」「ブィィィィ!!!!!」
ライボルトが炎を噴き出し、イーブイが自身の発する炎の熱波で、“ふぶき”を相殺しようとするが──
理亞「メガシンカのパワーがすごいのは認める。でも、メガライボルトもイーブイもほのおタイプは自分のタイプじゃない。本来のタイプで攻めてるオニゴーリに勝てると思う?」
侑「ぐ……っ……」
確かに理亞さんの言うとおり、2匹のほのお技だけでは“ふぶき”をかき消しきれず、自身が燃えているイーブイ以外にはどんどん雪が積もっていく。
でも、いい……時間が稼げれば……!!
“ふぶき”の中、果敢に炎によって対抗する中──氷の壁の向こうにユラリと、影が、
理亞「オニゴーリ、凍らせろ」
「ニゴォォ!!!!」
「──ラパ、ルト…!!!!」
侑「……!! ドラパルト!?」
理亞「“ゴーストダイブ”でチリーンを狙ってたんでしょ。……何度も同じ手は通じない」
侑「……っ……」
頼みの綱だった、“ふいうち”が不発に終わる。
まずい……このままじゃ、“ふぶき”でみんなやられる……!
どうにか策を巡らせるけど──だんだん手足もかじかんで来て、寒さで頭が回らなくなってくる。
どんどん“ふぶき”も強くなり──気付けば視界がホワイトアウトし始め、音も“ふぶき”の音しか聞こえなくなってきた。
侑「どうにか……どうにか……しなきゃ……!」
吹き飛ばされないように、必死に“ふぶき”に抵抗していると、
リナ『侑さん! 作戦、ある!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
耳元で、リナちゃんの声がした。
さっきまで、腕にくっついていたはずのリナちゃんがいつのまにか、自立飛行形態に戻って、私の耳元で喋っていた。
侑「リナちゃん……!? 吹き飛ばされちゃうから、腕に……!」
リナ『それよりも、作戦!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「さ、作戦……!?」
リナ『むしろ、これはチャンス!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「何が!?」
リナ『雪は……ライボルトにとって有利に働く!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「え……?」
リナ『あのね──』 || ╹ᇫ╹ ||
私はリナちゃんの策を聞いて──目を丸くする。
侑「そ、そうなの……?」
リナ『うん! 間違いない!』 || > ◡ < ||
リナちゃんが言ってることが、ホントかはわからないけど……!!
侑「リナちゃんを信じるよ!! ライボルトッ!! “じゅうでん”ッ!!!」
“ふぶき”に声をかき消されて、ライボルトに届かないなんてことがないように、大声で叫ぶ。
すると──
「──ライボォォ…!!!!!!」
目の前で、雄叫びと共に、バチバチという音と、光が見える。
私の指示は、まだちゃんと聞こえてる……!
侑「ライボルト……!!! やるよ!!!!」
「ライボォォォォォ!!!!!!!」
⛄ ⛄ ⛄
理亞「……そろそろ、限界のはず」
「ニゴォォォーーーリッ!!!!!」
この雪山で、メガオニゴーリにパワーで競り勝つのは……ほぼ不可能だ。
この圧倒的なパワーによる“ふぶき”で勝敗が決することを確信した、そのとき──
“ふぶき”で真っ白になった景色の向こうから──光る何かが、飛んできた。
「ゴォォォォォォ…!!!!!!!!!!!!!!?!!?」
理亞「……え?」
次の瞬間には──極太のビームが氷の壁もろとも、オニゴーリを吹っ飛ばしていた。
直後──
「ライボォッ!!!!!」
理亞「!?」
メガライボルトが稲妻のような速さで、砕け散った氷の壁の内側に侵入し、
侑「──イーブイ!! “びりびりエレキ”!! ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ブーーーィィィィィ!!!!!」「ライボォォォォ!!!!!!」
「チリィィィィンッ!!!!?」「カブトプッ!!!!?」
チリーンとカブトプスに電撃を食らわせていた。
理亞「……!?」
私は咄嗟に、その場を離れるために、山の斜面を滑り降りて距離を取る。
理亞「な、なに……!?」
気付けば──
「ゴォ……リ……」
「チリィィン…」「カブトプ…」
私の手持ちは3匹とも戦闘不能になっていた。
🎹 🎹 🎹
侑「す、すご……ホントに出来た……」
技の指示を出しておいてなんだけど……私は今しがたメガオニゴーリを氷の壁もろとも吹き飛ばした、“チャージビーム”のあまりの威力に驚いて、尻餅をついていた。
あんな極太のビームになるなんて……。うまいこと、氷漬けのウォーグルに当たらなくてよかった……。
理亞「あ、あんた……今何したの……!?」
理亞さんが斜面の下から、大きな声で訊ねてくる。
侑「え、えっと……“チャージビーム”を……」
理亞「はぁ!? “チャージビーム”であんな威力出るわけ……!!」
リナ『メガライボルトは周囲の電気を集束して撃ち出した。だから、あれだけの威力になったんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「だから、どこにそれだけの電気が……!!」
リナ『雪だよ』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「……雪……? …………まさか……雪の帯電現象のこと……!?」
どうやら、理亞さんはリナちゃんの言葉でピンと来たらしい。
私は正直今でも、まだピンと来ていないんだけど……リナちゃんがさっき私に耳打ちしたのは──『あのね、雪は大量の静電気を溜め込む性質がある。それを集束すれば、ライボルトは大出力の攻撃が出来るはずだよ』──そんな内容だった。
リナ『雪は正電荷を大量に帯電する性質があって、その帯電量は発電が可能なほどって言われてる。ライボルトは周囲の空気中の電気を“じゅうでん”して自分のパワーに出来る。これだけ雪に囲まれてたら、これくらいの出力になって当然』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「……っ」
リナちゃんの説明を聞いて、理亞さんが悔しそうに顔を歪めた。
本当に予想外の攻撃だったんだろう。……私も予想外だったし。
とにもかくにも、
侑「リナちゃん、ありがとう……! これで……理亞さんを追い詰めた……!」
私の手持ちは残りイーブイとライボルトの2匹。対する理亞さんはリングマ1匹だ。
理亞「…………」
理亞さんはボールを構える。
理亞「正直……この子はあまり人前に出すつもりはなかったんだけど」
侑「……?」
理亞「行くよ──ガチグマ!!」
「──グマァァァ」
侑「え!?」
リナ『ガチグマ!?』 || ? ᆷ ! ||
リングマじゃ──ない……!?
その姿は確かにクマのようなポケモンだけど……大きな体躯に泥のようなものを身に纏っている。
私はポケモンの種類には詳しい方だと思っていたけど……このポケモンは今まで一度も見たことがないポケモンだった。
「グマァァァァ」
低い鳴き声をあげながら、ガチグマと呼ばれたポケモンがのっしのっしとこちらに向かって登ってくる。
侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ラァィィィィ!!!!!」
ライボルトが発する“10まんボルト”は緩慢に動くガチグマには、いとも簡単に直撃するが、
「…グマァァァ」
電撃は、確かにガチグマに当たったはずなのに、全くダメージを受けたような素振りを見せなかった。
侑「き、効いてない……!?」
リナ『ゆ、侑さん! ガチグマはじめんタイプがあるから、でんき技は効果がないよ……!』 || >ᆷ< ||
侑「じ、じめんタイプ……!?」
リナ『ガチグマ でいたんポケモン 高さ:2.4m 重さ:290.0kg
リングマが 泥炭が 豊富な 環境で 進化した姿。 まとった
泥炭は 非常に 頑丈。 鼻が とてもよく 匂いを たよりに
埋まっているものを 探して 掘り当てることが できる。』
侑「リングマにさらに進化があったの……!?」
しかも、このタイミングでじめんタイプのポケモンが相手なんて、タイミングが悪すぎる……!?
理亞「ガチグマ! “10まんばりき”!!」
「グマァァァァ」
ガチグマは低い声で唸りながら、こちらに向かって山の斜面を登り始める。
侑「か、“かえんほうしゃ”!!」
「ライ、ボォォォォ!!!!!」
迫ってくるガチグマに対して、“かえんほうしゃ”で攻撃するけど、
「グマァァァ」
ガチグマは炎の中を意にも介せず進んでくる。そして、十分に近づいたタイミングで、
「グマァァァァ…!!」
雪面を蹴って──走り出した。
侑「……!?」
思ったより、速い……!?
侑「ライボルト……!!」
「ライボッ!!!」「ブイ!?」
私はイーブイを抱きかかえ、ライボルトの背に乗る。
それと同時に、ライボルトが走り出し──
「グマァァァ!!!!」
ワンテンポ遅れて、ガチグマが突っ込んでくる。
ライボルトのスピードのお陰で、回避には成功したけど──ガチグマが私たちが今さっきまで居た場所に思いっきり前足を叩きつけると、
侑「うわぁ!?」
轟音を立てながら、衝撃で雪が吹き飛び、さらに硬い山肌にヒビが入り──山が揺れた気がした。
リナ『い、威力がヤバイ……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
理亞「避けないでよ。ガチグマは動きが遅いの」
侑「……っ……」
確かに動きは緩慢で、走り出しこそ遅いけど、体が大きいからか見た目以上にスピードがある。
しかも、あの威力……当たったら、確実に無事じゃ済まない……!
侑「い、一旦距離を取ろう……! ライボルト、上の方に走って!!」
「ライボッ!!」
ライボルトが私を背中に乗せたまま、山を駆け上がり始める。
そして背後に向かって、
侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
「ブイ!!!」
イーブイが尻尾を一振りすると、タネが飛んで──山の斜面に大きな樹が成長を始める。
これで少しくらいは時間稼ぎに……!
だけど、
理亞「ガチグマ! “きりさく”!」
「グマァァァ」
ガチグマが爪を立てながら、樹を殴りつけると、いとも簡単に樹がへし折られる。
リナ『全然止まらない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「く……」
でも、“すくすくボンバー”は樹による防御技じゃない──タネによる攻撃技だ……!
ガチグマの頭上に、大きなタネが落下し──直撃するが、
「グマ…」
ガチグマは意にも介さず、再び歩き始める。
その際タネから伸びた“やどりぎのタネ”がガチグマの体に絡みついていくが、それもまるで無視だ。
侑「き、効いてない……!?」
いや、効いてないわけじゃない……。相手の体力が多すぎて、気にしてないんだ……!
ガチグマが山を登る度に、私たちはさらに高く登って距離を取る。
理亞「逃げ続けてても、勝てないけど?」
理亞さんもガチグマの後ろを歩きながら、そう言葉を掛けてくる。
確かに、ずっと逃げ続けてても埒が明かない。ダメージは小さくても、攻撃を仕掛けないと……!
侑「イーブイ! “こちこちフロスト”!」
「イーブイッ!!!」
黒い冷気が、ガチグマの体に纏わりつくように現れ──黒い氷の結晶がガチグマの体を凍らせるが、
「グマァ…」
めんどくさそうにガチグマが体を揺するだけで、氷は薄いガラスのように砕け散ってしまう。
侑「い、“いきいきバブル”!」
「ブーーイッ!!!!」
今度はイーブイの全身からぷくぷくと溢れ出す泡をガチグマに向かって飛ばす。
泡が直撃すると、
「…グマ」
ガチグマは少しだけ鬱陶しそうにリアクションを取りこそしたものの、
「グマァ…」
また、すぐに山を登り始める。
侑「た、タフすぎる……!」
全くダメージが通っていないなんてことはないはずなのに、全然手応えが感じられない。
ガチグマから目を離さないように、ライボルトに乗って距離を取りながら、考えていたとき──ズボッという音と共に、視界がガクンと揺れた。
侑「!? な、なに……!?」
ハッとして、ライボルトを見ると──
「ラ、ライボ…!!」
ライボルトの体が、雪にはまっていた。
リナ『侑さん!? ライボルトが新雪に沈んでる!?』 || ? ᆷ ! ||
──どうやら、逃げ回っている最中に、新雪が大量に積もっている場所に足を踏み入れてしまったらしい。
私とイーブイが乗っている分の重さも相まって、ライボルトは新雪に沈んで、身動きが取れなくなる。
もちろん、こっちの身動きが取れないからって、ガチグマが待ってくれるはずもなく、
「グマァァ」
むしろこっちの動きが鈍ったことに気付き、スピードを上げて近付いてくる。
侑「……く……!」
私はライボルトから飛び降りる。
もちろん、降りた先も新雪だから、私の身体が一瞬で膝くらいまで雪に埋まってしまうが、
侑「ライボルト、“かえんほうしゃ”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
「ライボォッ」「ブイィィ!!!!」
炎熱で周囲の新雪を無理やり溶かして、スペースを確保する。
雪が溶け、バシャバシャと水音を立てながら、山肌を再び登りだす。
理亞「いい加減、面倒……ガチグマ、“じならし”!」
「グマァァ!!!」
侑「うわぁっ!?」
「ライボッ…!!!」「ブイ…!?」
ガチグマが地面を激しく揺らし、その揺れに足を取られ──直後、ツルっと足が滑った。
侑「っ!?」
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
理亞「……ここは氷点下。雪を一気に溶かしたら──すぐに凍結する」
どうにか足を踏ん張るけど、凍結した斜面で立つことは困難で、私はそのまますっ転ぶ。
そしてここは斜面。一度足を滑らせたら──私の身体は、一気に滑落していく。
「ライボッ…!!!」「ブイ!!!」
侑「ライボルト!! イーブイ!! 来ちゃダメ!!」
滑落する私を助けようと飛び出す2匹を制止するけど、ライボルトもイーブイも止まってくれない。
そして、そこに向かって──
「グマァァァァァ!!!!!」
ガチグマが雄叫びをあげながら、走り込んでくる。
「ライボッ!!!」
ライボルトが滑る私の襟後に噛み付き、
「ブイッ!!!」
イーブイが“こちこちフロスト”で私の滑り落ちる先に氷の壁を作ることで、滑落は止まったけど──
「グマァァァァッ!!!!!」
そのときには、ガチグマはもう目と鼻の先だった。
侑「ライボルト、逃げ──」
理亞「“ぶちかまし”!!」
「グマァァァァァ!!!!!」
リングマの“ぶちかまし”が“こちこちフロスト”の黒い氷ごと──私たち全員を、大きな体躯で突き飛ばした。
侑「……っ゛……ぁ゛……!!」
強い衝撃に脳を揺さぶられるような感覚──そして、数瞬後には、落下の衝撃で呼吸が一瞬止まる。
侑「ぐ……げほ、げほっ……!」
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「はぁ……はぁ……リナちゃん……平気……?」
腕に着いたリナちゃんに声を掛ける。
リナ『わ、私は大丈夫……侑さんは……』 || 𝅝• _ • ||
私は──視界が真っ白だった。
意識が飛びかけてるのかと思ったけど──よく見たらそれは雪だった。
侑「今度は……新雪に……たすけ、られたね……」
新雪がクッションになったお陰で、山肌に直接落下するのを避けられたらしい。
近くからは、
「ライ、ボ…!!!」「ブイィィ…!!!」
ライボルトとイーブイの鳴き声も聞こえる。
どうやら、2匹とも無事のようだ。……だけど、
「グマァァァァ!!!!!」
リナ『侑さん!? ガチグマ、近付いてくる!! 逃げなきゃ!!』 || ? ᆷ ! ||
侑「逃げたいんだけど……身体が……動かない……」
リナ『えぇ!?』 || ? ᆷ ! ||
落下の衝撃が軽減されたと言っても……“ぶちかまし”で数十メートルは吹き飛ばされた。
骨が折れてるのか、どこかを強く打ったのかとかはよくわからないし、戦闘で高揚しているからか不思議と痛みはあまり感じなかったけど……とにかく、身体が言うことを聞かず、起き上がることが出来なかった。
「グマァァァァ!!!!!」
ガチグマの足音がどんどん近付いてきて、地面が揺れる。
リナ『侑さんっ!! お願い、立って!! 立って逃げなきゃ!!』 || > _ <𝅝||
侑「……っ」
リナ『諦めないで!!』 || > _ <𝅝||
侑「ぐ……ぅ……っ……」
そうだ、ここで諦めたら──なんのために修行したのか、わからないじゃないか。
身体に必死に力を籠める。だけど──ちょっと身体を持ち上げるのが限界で、すぐに崩れ落ちて、ぼふっと身体が雪に沈み込む。
侑「……く、そぉぉぉ……」
リナ『侑さんっ!!』 || > _ <𝅝||
あと、ちょっと……あとちょっとなのに……。
リナ『雪……!! 動くのに雪が邪魔なら、私がどける!!』 || > _ <𝅝||
リナちゃんがそう言いながら、私の腕を離れて、雪に突撃する。
侑「リナ……ちゃん……」
もちろん、リナちゃんに雪を掘る機能なんてない。新雪に板型の窪みが出来るだけ。
この状態で、辺り一面を新雪に囲まれた状態じゃ……。
侑「…………雪……?」
リナ『侑さん!! 這ってでも、逃げて! そしたら、きっとチャンスがあるはずだから!!』 || > _ <𝅝||
侑「……リナちゃん、私の腕に戻って……!」
リナ『侑さん!! 諦めないで!!』 || > _ <𝅝||
侑「違う! 作戦があるんだ!」
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「私から、絶対離れないで!!」
リナ『わ、わかった!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナちゃんが私の腕に装着されたのを確認する。
「──グマァァァァァァ!!!!!」
鳴き声が近い。もうガチグマはすぐそこに迫ってる。
なら、イチかバチか……!!
──さっき、ガチグマにいろんな攻撃を仕掛けたけど……その中で、少しでもリアクションがあったのは、“いきいきバブル”だけ。
侑「ライボルトッ!!! “じゅうでん”!!!」
「ライボォッ!!!!!」
ライボルトが周囲の雪から静電気を集束し始める。
理亞「──何をしようとしてるのか知らないけど、ガチグマに電撃は効かない!!」
理亞さんの声が聞こえる。本当に、もうすぐ傍に迫っている。
侑「イーブイ!! ガチグマに向かって、“きらきらストーム”!!」
「イーーーブィッ!!!!!」
パステル色の旋風がガチグマを攻撃する。
「…グマ」
理亞「悪あがき……! そんな技じゃ、ガチグマには通用しない!!」
イーブイの技じゃ威力が足りないのも、ライボルトの電撃が通用しないのもわかってる。
だから──
侑「ライボルトッ!!!!! 山頂方向に向かって、“かみなり”ッ!!!!!」
「ライボォォォォォッ!!!!!!!!!」
直後──山頂方向から、凄まじい雷轟が周囲の空気を震わせる。
理亞「……!?」
「グマァッ!!!?」
溜まりに溜まりきった、電気たちを──“かみなり”によって、ここよりもっと上の方に落とした。
“かみなり”による、衝撃波が山を揺らし……さらに、熱によって──雪が溶ける。
直後──ゴゴゴゴゴゴゴッという地鳴りのような音が山頂側から響いてくる。
理亞「この音……まさか……!? ……雪崩!?」
理亞さんは、この山に慣れているからか、音ですぐに気付いたようだ。
そう、私は──“かみなり”で雪崩を誘発した。数秒後にはここに雪崩が到達する。
でも、これだけじゃ足りない……ガチグマに有効なのは──水だ。
イーブイの技で、威力が足りないなら──大量の水を作ってぶつけるしかない……!!
侑「ライボルトォッ!!! イーブイッ!!! 私のことは構わなくていいっ!! 全力全開でっ、“オーバーヒート”ォッ!! “めらめらバーン”ッ!!」
「ライボォォォォォ!!!!!!」「ブーーーーィィィィィ!!!!!!」
ライボルトとイーブイが──全力で熱波を発すると、気温が氷点下から一気に上昇し、周囲の雪が一気に溶け始める。
侑「……っ゛!!」
身体が燃えるんじゃないかという熱波の中で……もし、雪崩の雪を── 一気に溶かしたらどうなるか?
雪は溶ければ──水になる……!!
理亞「……なっ!?」
雪崩が溶け、大量の鉄砲水になって、私たちのもとへと猛スピードで押し寄せてくる。
理亞「……!? ガチグマ、逃げ──」
「グマ…!!?」
一気に押し寄せてきた鉄砲水に、私もライボルトもイーブイも、理亞さんもガチグマも、全員が押し流される。
侑「……っ!!」
鉄砲水に流される中、
「──ライボッ」
ライボルトが私の服の袖を掴んで引っ張り上げる。
侑「ぷはっ……!!」
「ライボッ!!!」「ブイ!!!」
流れる水の中で、辛うじて顔を出すと──イーブイもライボルトの背中にしがみついていて、無事なことが確認出来る。
リナ『侑さん!! 攻撃、来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「……!!」
声にハッとして、顔を上げると──
「グマァァァァ!!!!!」
押し流されながらも、理亞さんを背中に乗せたガチグマが、山肌に爪を立てて水流に耐えながら、強引にこっちに突っ込んでくる。
理亞「相討ち狙い上等じゃない……! でも、これで終わり!!」
「グマァァァァァ!!!!!」
大きな体による“ぶちかまし”が迫る。
でも、次の瞬間──私たちの身体がフワリと浮いた。
理亞「なっ……!?」
理亞さんの驚く顔。それも、当然。だって、私たちを空に引っ張り上げたのは──
「ウォーーーーーーッ!!!!!!」
さっき、下で氷漬けになってたはずの、ウォーグルだったからだ。
ウォーグルは、ライボルトを大きな爪でしっかり掴んで、空高く飛び上がる。
そして直後、
「グマァッ!!!!?」
理亞「ぐ……っ……!?」
踏ん張ることが限界に達したガチグマは──理亞さんを乗せたまま鉄砲水に押し流されていったのだった。
侑「はぁ……はぁ……ウォーグル……気付いてくれて、ありがとう……」
「ウォーッ!!!!」
私は、ほぼ動けないから、ウォーグルが掴んでいるライボルトに服を咥えられたまま、飛行する。
宙ぶらりんでいつ服が千切れるのかわからなくて、めちゃくちゃ怖い……。
侑「一旦、降りて……」
「ウォーー!!!!」
──ウォーグルに指示を出し、鉄砲水と雪崩の影響がない場所まで移動して、雪面へと着地する。
侑「どうにか……うまく、いった……」
リナ『侑さん……すごい無茶する……』 || > _ <𝅝||
侑「でも、どうにか、なったよ……あはは……」
「ライボッ」「ブイ」
侑「ウォーグルをボールに戻せなかった状況が……却ってよかったよ」
「ウォーー!!!」
リナ『じゃあ……さっきの“きらきらストーム”は……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん……。あれはガチグマへの牽制じゃなくて──下で氷漬けになってるウォーグルの“こおり”を溶かすため……」
「ウォーーーッ!!!」
リナ『ホント無茶する……無事でよかった』 || > _ <𝅝||
侑「あはは……ごめんね、心配掛けて……」
リナちゃんにそう伝えながら──私はライボルトにもたれかかるようにして立ち上がる。
リナ『た、立って平気……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「正直……今にも倒れそう……だけど、理亞さん……探しに行かなきゃ……」
試合とはいえ……かなり無茶苦茶なことしちゃったし……。
リナ『あ、そ、そうだった!?』 || ? ᆷ ! ||
リナちゃんがサーチを始める中、
侑「ウォーグル……」
「ウォーーーッ!!!!」
ライボルトにどうにかウォーグルの背中の上に押し上げてもらって──私たちは理亞さんを探しに、飛び立った。
🎹 🎹 🎹
──理亞さんは思いのほか、すぐに見つかって、
リナ『侑さん、あそこ!』 || ╹ᇫ╹ ||
崖から飛び出していた、太い木の枝にしがみついていた。
理亞「……助けてもらっていい?」
侑「は、はい!! ウォーグル!」
「ウォーー!!!」
ウォーグルが足で理亞さんの肩をしっかり掴んで、飛び上がる。
そのまま、地形がなだらかな場所まで移動し──理亞さんを降ろす。
理亞「……助かった。ありがと」
侑「い、いえ……あの……ごめんなさい……」
理亞「……別にいい。お互い全部を賭けたバトルだったんだから、これくらいのことは水に流す」
侑「……ぷっ、くくくっ……」
理亞「……何笑ってんの」
リナ『鉄砲水だけに、水に流す』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
侑「り、リナちゃん、せ、説明しないでっ、あ、あはは、あはははははっ!!」
「ブイ…」
──ゴチンッ。
侑「いったぁ!?」
理亞「何この子……ケンカ売ってんの?」
リナ『侑さん、笑いのツボが浅すぎるから』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
な、なにもげんこつしなくても……不可抗力なのに……。
リナ『そういえば理亞さん、ガチグマは……?』 || ╹ᇫ╹ ||
理亞「戦闘不能だったから、ボールに戻した」
侑「じ、じゃあ……!」
理亞「……私の負け。これ、“スノウバッジ”」
理亞さんはそう言って、雪の結晶の形をしたバッジを手渡してきた。
侑「あ、ありがとうございます……」
あまりに淡泊に渡されたため、逆にリアクションが取れなかった。
理亞「強かった。その実力なら、きっと作戦に参加しても、海未さんに文句言われないと思うから」
それだけ言うと、理亞さんは私に背を向けて、山を下り始める。
侑「あ、理亞さん……! ヒナギクまで送ります……!」
理亞さんにそう声を掛けると同時に──視界が揺れた。
理亞「いい。この山を降りるのには慣れてる」
リナ『いや、待って』 ||;◐ ◡ ◐ ||
理亞「あのね……一応負け側は負け側でいろいろ考えたいことが」
リナ『そうじゃなくて……侑さん、ぶっ倒れてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
理亞「……はぁ!? ち、ちょっと……!?」
リナちゃんの言葉でやっと気付く。
あ、私……倒れてる……。
視界がぐるぐるしてるし……。
侑「……ぅぅ……」
理亞「ああもう……!? ウォーグル、この子上に乗せるから、病院まで運んで!! なんでバトル後のチャレンジャーの世話までしなくちゃなんないの!?」
侑「す、すいません……」
理亞「もう喋んなくていい!! ほら、飛ぶから、じっとしてなさい!!」
「ウォーーー!!!」
私はそのまま──ローズの病院まで搬送されましたとさ……。
🎹 🎹 🎹
──ローズシティ、病室。
かすみ「侑せんぱーいっ!!」
侑「か、かすみちゃん!?」
かすみちゃんは、私の病室に飛び込んでくるなり、抱き着いてくる。
侑「い、いたた……」
かすみ「あ、ご、ごめんなさい……! 怪我の具合は……」
リナ『骨とかは無事だって、ちょっとアザになってるところはあるけど……打ち身とかにもなってないし、すぐに痛みも引くって。倒れた理由の大部分はジム戦での消耗が原因みたい』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「ほ……なら、よかったです……。侑先輩が怪我したって聞いて、すっとんできたんですよ……?」
侑「そういうかすみちゃんも……ボロボロだよ」
かすみちゃんも、あちこちに切り傷や擦り傷があるし……なんか、服があちこち焦げて、煤がついてる……。
侑「お互い……激しいバトルだったみたいだね」
かすみ「……ですねぇ」
そう言いながらお互い──バッジケースを取り出す。
侑「……でも、ちゃんと手に入れたよ──“スノウバッジ”」
かすみ「はい! かすみんも、“スティングバッジ”! 手に入れました!」
つまりこれで──
「──作戦参加の条件はクリアした……ということですね」
侑・かすみ「「!」」
病室のドアの方から声がして、そちらに目を向けると──
海未「まさか、本当に本気のジムリーダーたちを倒してくるとは……」
侑「海未さん!!」
かすみ「海未先輩!!」
海未さんが立っていた。
果南「やっほー私もいるよー」
彼方「彼方ちゃんも来てるよ~」
侑「果南さん……彼方さんも……!」
海未「今しがた……ヒナギク、クロユリの両ジムから、チャレンジャーが勝利したと報告を受けました」
海未さんは少し困ったような表情をしていた。……さっきも言っていたけど、まさか本当にやり遂げるとは思っていなかったのかもしれない。
かすみ「う、海未先輩……! 今更、やっぱ無しとか無しですよ!?」
海未「さすがにここまで来て、そんなことは言いません……。……ジムバッジ8つを集めただけでなく……本気のジムリーダーを倒したのですから、認めますよ」
侑「じゃあ……」
海未「はい。侑、かすみ。貴方たちのチャンピオン及び、人質救出作戦への参加を許可します」
海未さんの言葉を聞いて、
かすみ「いやったぁぁぁぁーーー!! 侑せんぱーい!!」
かすみちゃんが抱き着いてくる。
侑「いたた……痛いよ、かすみちゃん……」
かすみ「あ、ご、ごめんなさい……。でもでもでも、かすみんたちやり遂げたんですから!! 本気のジムリーダー、倒しちゃったんですから!!」
侑「……うん!」
「イブィ」
まだ、これから始まるっていうのはわかっているけど……これで一安心……ひと段落した気分だ。
海未「今日はジム戦の疲れもあるでしょう。明日、2回目の作戦会議をセキレイで行います」
かすみ「セキレイ? ローズでやらないんですか?」
海未「集まれる人員を考えるとセキレイでやるのが都合がいいんです」
侑「集まれる人員……? じゃあ、全員は来られないってことですか?」
海未「はい……もうすでに地方のあちこちでウルトラビーストの出現報告が上がっていて、ジムリーダーたちが町を離れにくくなっているので、前みたいに全員集めるのは難しいんです」
侑「……! そ、それホントですか……!?」
果南「すでに、コメコとダリア、サニー、ウラノホシに出たみたいだよ。ジムリーダーと四天王がすぐに撃退したらしいけど」
海未「それに数日前、クロユリで英玲奈が撃退したポケモンも、ウルトラビーストだったと言うことが判明しています」
かすみ「こ、攻撃が始まったってことですか……!?」
彼方「うぅん。多いときはこれくらいのペースで出現することはあったから……攻撃ってわけじゃないと思う。今は穂乃果ちゃんも別のことしてて、積極的に撃退に向かってないみたいだし……。ただ、果林ちゃんたちがウルトラスペースに突入したのが原因で、ウルトラビーストたちが刺激されてこっちに来てる可能性はあるかも……」
海未「どちらにしろ、あまり時間の猶予がありませんから。二人はしっかり休んで明日は万全の体調で臨むように」
侑「は、はい!」
かすみ「頑張ります!」
海未「……頑張らないで欲しいと言っているんですが……。まあ、いいでしょう。それでは、私はここで失礼します。またセキレイで」
そう言って海未さんは、私の病室から去っていった。
海未さんが退出したのを確認すると、果南さんが口を開く。
果南「なにはともあれ、二人ともジム制覇おめでとう」
かすみ「はい! ありがとうございます!」
侑「果南さんのお陰で勝てました……! 本当にありがとうございます……!」
果南「ふふ、私は何もしてないよ。二人が強くなっただけ」
彼方「うん! 二人とも見違えるくらい強くなったよ~!」
侑「彼方さんも……ありがとうございます」
遥ちゃんのこと、心配だったはずなのに……それでも、彼方さんは私たちのサポートをしてくれていたわけで……。
そんな私の胸中に気付いたのか、
彼方「ふふ、そんな顔しないで、侑ちゃん。遥ちゃんは今安全な場所でお休み中なだけだから」
そう言って、ニコリと笑ってくれた。
果南「──改めて、二人ともここまでお疲れ様。でも、本当に大変なのは、ここからだからね。私が言わなくてもわかってるだろうけど」
侑「……はい!」
かすみ「ですね……! こっからが本番なんですから!」
私たちはこの地方の全てジムを制覇し──ついに、歩夢たちを助けに行く許可を貰うことが出来た。
あと、もうちょっとだから……歩夢、すぐに迎えに行くから……待っててね……。
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
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主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:9匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Intermission🎙
──私たちがウルトラディープシーに来て、数日……。
せつ菜「……私たちはいつまでここにいるんでしょうか……」
しずく「果林さんたちが迎えに来てくれるまでですね♡ きっともうすぐですよ♡」
しずくさんはそう言いながら、どこから取り出したのか、ネチャネチャと音を立てながら、すりこぎで何かを作っている。
せつ菜「……何を作っているんですか?」
しずく「歩夢さんのご飯です♡」
せつ菜「ご飯……? それがですか……?」
しずく「はい♡」
──当の歩夢さんは今も……頭にウツロイドを乗せたまま、洞窟の壁にもたれかかったように座っている。……というか、さっきしずくさんがそこに座らせていた。
しずく「はーい、歩夢さん♡ ご飯の時間ですよ~♡」
しずくさんはそう言いながら、歩夢さんの口元にスプーンを持っていく。
歩夢さんの唇に、スプーンがちょん……っと触れると、歩夢さんは小さく口を開ける。
しずくさんはその小さく開いた口の中に、スプーンを滑り込ませる。
せつ菜「……! 歩夢さん……意識が……?」
しずく「ほぼ無意識で食べているだけだと思いますよ」
せつ菜「反射……ということですか……?」
しずく「毒に侵されたとしても、お腹は減るでしょうしね♡ 人間食欲には勝てません♡」
考えてみれば、ここに来て数日経ったわけだし……今まで歩夢さんが水も食料も取っていなかったとは考えづらい。
それに、しずくさんが妙に手慣れている。
せつ菜「もしかして……私の知らない間に何度か食事を……?」
しずく「はい♡ せつ菜さんがウツロイドを撃退している間に、何度か♡」
せつ菜「なるほど……」
しずく「今の歩夢さんは、固形物を食べさせたら喉を詰まらせてしまいますから。こうして、離乳食みたいにして食べさせてあげてるんですよ♡」
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
しずく「はーい♡ 歩夢さん、次ですよ~あ~ん♡」
まるで雛の餌付けのようだが……歩夢さんは今、こうして誰かが世話をしてあげないと……生きていることさえ出来ないのだ。
それも……私たちが……こんなことをしているから……。
そう考えたら……急に気分が悪くなってきて、私は口元を押さえて蹲る。
しずく「……せつ菜さん、大丈夫ですか?♡」
せつ菜「…………。……私は……貴方が羨ましい……」
しずく「どうしたんですか、急に?♡」
せつ菜「……私は……貴方のように、割り切れない……」
果林さんの差し伸べた手が──私を悪しき道に引きずり込む手だったことに気付くのには……さして時間は掛からなかった。
でも、あのときの私は、自暴自棄になっていたところもあって……その手を振り払おうと思わなかった。思えなかった。
力を受け取ってしまった。使ってしまった。……その力でもう……人を傷つけてしまった。
自分で決めて……自分で力を振るって……自分の意思で人を傷つけたんだ……。
そんな人間が、今更反省した振りをして、手の平を返すことなんて……出来ない。出来るはずがない。
──だから、私は……悪に染まろうと思った。身も心も……悪に染まれば、楽になれるんじゃないかって。
だけど、私は今……一人の人間を──歩夢さんという一人の人間を……壊すことに加担している。
それが、恐ろしくてたまらなかった。
せつ菜「…………貴方ほど……悪に染まれない……悪に……狂えない……」
自分の肩を抱いて、震える私に向かって、しずくさんは、
しずく「…………せつ菜さんはきっと……真面目で、優し過ぎるんですよ」
そんな風に言う。
せつ菜「……」
しずく「……せつ菜さんは、悪い人になりたいんですか?」
せつ菜「…………今更……正義者面なんて……出来ませんし……したくないですよ……」
しずく「……正義にも、悪にもなり切れないのが……辛いんですね」
せつ菜「…………」
しずくさんのその言葉が、妙にしっくりきた。……私は、何にもなり切れないのが……辛いんだ。
私の沈黙を肯定と取ったのか、しずくさんは言葉を続ける。
しずく「なら、私のお願いを聞いてくれませんか?」
せつ菜「……? お願い……?」
しずく「今後……もし、私に何かあったら。一度だけでいいので、私を無条件で助けてください。……あ、果林さんからのお仕置きは別ですよ♡」
せつ菜「……? どういうことですか……?」
しずく「……せつ菜さんから見て、私は悪に染まって、悪に狂っているんですよね? なら、そんな悪人の私を無条件で助けたりしたら──せつ菜さんも立派な悪人ですよ♡」
せつ菜「しずくさん……」
しずく「どうですか?♡」
彼女は相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を向けながら言う。
でも……なんとなく、それは迷っている私に対しての、しずくさんなりの優しさに感じた。
せつ菜「……わかりました。……私は貴方を助けましょう」
しずく「ふふ♡ 契約成立ですね♡ 約束ですよ♡」
奇妙な協力関係だけど……今は少しだけ、彼女に背中を預けてもいいかもしれない。そんな風に思ったのだった。
しずく「はーい、歩夢さん♡ 次はお水ですよ~♡ ストローでゆっくり飲んでくださいね~♡」
歩夢「…………」
「──ジェルルップ…」
………………
…………
……
🎙
■Chapter057 『希望に向けて』 【SIDE Yu】
ジム戦があった日の翌日。私たちは海未さんに言われたとおり、セキレイシティを訪れていた。
海未「──さて、全員揃いましたね」
海未さんが全員を見回しながら、そんな風に言うここは──ツシマ研究所だ。
海未「再度の確認になりますが、今回集まっていただいたのは、二つの作戦──『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』のための配置決め及び作戦遂行のための話し合いです」
海未さんはそう前置き、
海未「今回集まっていただいたメンバーですが、まずそれぞれの作戦のリーダーの果南と鞠莉。ジムリーダーからは、事前に申し出のあったルビィと理亞、果南からの推薦で曜の3人に来てもらっています。加えて鞠莉からの推薦で善子。こちらからの要請で彼方に。……そして一般人から2名。侑とかすみです」
侑「よ、よろしくお願いします!」
かすみ「お願いしますっ!」
ちゃんと実力で勝ち取ってここまで来たとはいえ……さすがにこのメンバーに並べられると緊張してしまう。
曜「あのー……推薦について、質問があるんですけど」
海未「なんですか、曜?」
曜「善子ちゃんもだけど、どうして私たちは推薦されたのかなって……」
果南「マナフィの調査は海洋を潜る必要があるから、もう一人くらいみずタイプのエキスパートが欲しいって思ったんだ」
曜「なるほど! そういうことなら、喜んで協力するよ!」
善子「私は?」
鞠莉「暇でしょ?」
善子「暇じゃないわよ!?」
鞠莉「冗談よ。あなたは参加したいんじゃないかと思って」
善子「……ん、まあ……。……ありがと」
ヨハネ博士にとって、今回の問題は菜々さんが深く関わっている。だから、ヨハネ博士は作戦に参加していたがっていただろうし、そんなヨハネ博士の気持ちを慮って、鞠莉博士が推薦をした……ということらしかった。
海未「さて、次に配置決め……と行きたいのですが、その前に。かすみ」
かすみ「は、はい!」
海未「空間の裂け目があった場所……教えてもらってもいいですか?」
かすみ「え、えっとぉ……教えたら、やっぱ付いて来ちゃダメとか……言わないですよね……?」
海未「言いません。貴方は紛れもなく、この地方でも有数の実力者ですから」
かすみ「……! え、えへへ……」
海未さんの言葉に、かすみちゃんが嬉しそうにはにかむ。
改めて……私たちは、それくらいのことをやり遂げたんだと実感する。もちろん、これからが本番だと言うのは理解しているけど。
かすみ「空間の裂け目があったのは──15番水道の東の方です!」
曜「15番水道ってことは……船の墓場? ……あ、もしかしてマンタインサーフのテストのとき……?」
かすみ「はい! かすみんたち、実はあのとき幽霊船の中で、ゴースたちが逃げ込む空間の裂け目を見たんです!」
果南「ゆ、幽霊船……!?」
海未「では、そこに行けば空間の裂け目があると……」
かすみ「はい! ただ……かすみんたちが降りたあと、船はどこかに行っちゃったから、探さないといけないですけど……」
海未「ふむ……。……幽霊船ですか……」
かすみ「ほ、ホントにあったんですよ!? 嘘じゃないですよ!?」
海未「今更かすみを疑うわけではありませんが……眉唾な話だなとは思ってしまいますね……」
曜「でも確かに15番水道の沖で幽霊船を見たって話は有名だからね。かすみちゃんが見たって言うのは間違いないと思うよ」
かすみ「あ~ん♡ 信じてくれる曜先輩好き好き~♡」
かすみちゃんが曜さんに抱き着くと、曜さんはニコニコ笑いながら、かすみちゃんの頭を撫でる。
善子「“忘れられた船”か……」
海未「善子……? 何か知っているのですか?」
善子「善子じゃなくて、ヨハネよ。……100年くらい前に、船の墓場の調査に出た大型のスループ船が行方不明になって……それ以降、ゴーストタイプのポケモンの巣窟になって今も海を彷徨ってるって都市伝説があるのよ」
海未「その都市伝説が、本当だった……ということですか」
善子「確か、目撃例を纏めた資料があったはず……取ってくるわ」
ヨハネ博士は、奥の部屋に資料を取りに部屋から出ていく。
彼方「よくそんな資料持ってるね~……?」
鞠莉「善子は、ポケモン文化の研究者だからネ。ポケモンの関わる事故や事件にも詳しいのよ」
彼方「お~なるほど~」
善子「そういうこと。あとヨハネなんだけど」
そう言いながら戻ってきたヨハネ博士が、資料をめくって中身を確認する。
善子「基本的には15番水道の東側の沖。見つかるときは決まって濃霧の中みたいね」
かすみ「あ、確かに、かすみんたちが見つけたときもそうでした!」
海未「となると……15番水道の上空から濃霧が出ている場所を探した方がいいんでしょうか……」
曜「うーん……でも、あそこらへんってもともと海霧が多いからなぁ……」
善子「自然現象で発生する霧と違って、ポケモンが発生させているものの可能性が高いから……映像とかがあれば解析出来ると思うんだけど……かすみ、写真とか撮って──……ないわよね」
かすみ「さ、さすがにそんな余裕はなかったですぅ……」
善子「うーん……直近のことなら、図鑑のメモリーに残ってたかもしれないんだけど……」
侑「図鑑にそんな機能があるの……?」
リナちゃんに訊ねると、
リナ『うん。ポケモンデータ解析のために、図鑑を開いたときに、周囲の画像を一時的に保存する機能がある。容量が勿体ないから基本はすぐ上書きしちゃうけど』 || ╹ᇫ╹ ||
そう答えが返ってくる。
善子「2~3日分くらいまでだったら、サルベージも出来なくはないんだけど……さすがに前過ぎるから……」
海未「こればかりはどうしようもないですね……」
鞠莉「……ねぇ、かすみ。その幽霊船って、しずくも一緒にいたのよね?」
かすみ「え? は、はい。そのときはしず子に助けてもらったから……」
鞠莉「……それなら、いけるかもしれないわ。ロトム」
「呼ばれて飛び出てロトー」
そう言いながらロトム図鑑が鞠莉さんのバッグから飛び出してくる。
かすみ「あ! ロトム!」
「かすみちゃん、久しぶりロトー」
鞠莉「15番水道で見たってことは、恐らくロトムは直近でしずくの図鑑に入ってる。そのときに画像データを見てないかしら?」
「もちろん、見てるロト。入ったときにストレージの確認をしたロト。すぐにでも再現できるロト」
鞠莉「Nice♪ さすがわたしのロトムだわ♪」
「照れるロト」
鞠莉さんは本当に嬉しそうにロトムを褒める。
ルビィ「ねぇ、善子ちゃん……鞠莉さんとロトムってあんな感じだったっけ……?」
善子「私も同じこと思ってたわ……」
果南「まあ、いろいろあったんだよ。いろいろ」
鞠莉「とりあえず、すぐにでも解析は始められると思う」
海未「それでは鞠莉には、この会議が終わり次第その解析をお願いします」
鞠莉「OK」
海未「では、改めて……配置決めをします。といっても、ほぼ決まっているようなものですが……」
海未さんはそう前置いて、配置決めの話を始める。
海未「まず『マナフィ捜索』班ですが、リーダーの果南、フィオネの所有者の侑、そして先ほども言っていたとおり果南からの推薦で曜に同行をお願いします」
果南「あいよー」
曜「ヨーソロー♪ 任せて!」
侑「お、お願いします!」
「イブィ」
海未「そして『やぶれた世界調査』班は、ルビィ、理亞、そしてかすみ。……リーダーに鞠莉……と言いたいところなのですが……」
鞠莉「マリーが付いていけるのは、やぶれた世界を見つけるところまでなのよね~」
かすみ「え、そうなんですか……!?」
鞠莉「わたしは、やぶれた世界の穴を維持する役割があるの」
かすみ「穴の維持……?」
海未「やぶれた世界は非常に不安定で、いつ穴自体が塞がってしまうかもわからないんです。なので、外からポケモンの力によってこじ開け続けておく必要があるんです」
鞠莉「だから、マリーは外からディアルガとパルキアで穴を開け続けるってわけ♪」
理亞「……一人で大丈夫……? ディアルガとパルキアのコントロールは負荷が大きいって……」
鞠莉「ええ、わたしも伊達にディアルガとパルキアの研究をしてきたわけじゃない。調整も済ませて来たし、丸1日くらいなら、一人でどうにかしてみせるわ」
かすみ「あのあの~……それじゃぁ、リーダーは理亞先輩かルビ子ってことですかぁ……?」
海未「それについてですが……」
彼方「リーダーは彼方ちゃんがやるよ~」
彼方さんが手を上げる。
かすみ「え!? 彼方先輩がですか!?」
海未「彼女の実力は私が直接確認しましたが……恐らくジムリーダーかそれ以上の実力を持ったトレーナーだと判断しました。彼女が最年長ですし、今回はまとめ役をお願いしたいと思います。理亞、ルビィ、いいですか?」
理亞「私は構わない。実際、その人が強いのは見ればわかるし……」
ルビィ「ルビィも大丈夫です! それに……今回ルビィには他の役割があって、リーダーみたいなのは難しいから……」
かすみ「ウルトラビーストに関してはどうするんですか? 彼方先輩には寄ってきちゃうんですよね?」
海未「やぶれた世界に突入するまでは鞠莉がいますし……突入後なら関係がないので。……それに、本来市街地が近くなければ、彼女一人でも十分対処出来るだけの実力があります」
彼方「それに、今ならルビィちゃんも理亞ちゃんもかすみちゃんも、彼方ちゃんが守ってあげなくても十分に戦える人だからね~♪」
海未「というわけで、『やぶれた世界調査』班は、鞠莉、彼方、ルビィ、理亞、かすみ。この5人にお願いします」
果南「『マナフィ捜索』班は私、曜、侑ちゃんと……」
善子「人数的に私はマナフィの方ね」
曜「善子ちゃんなら、海中戦も出来るしね!」
善子「まあ、エキスパートの貴方たちほどじゃないけどね……」
侑「果南さんに曜さんにヨハネ博士……す、すごい人たちばっかりだけど……わ、私も頑張ります!」
「ブイ!!」
果南「大船に乗った気持ちでいていいよ♪」
曜「海でのことなら任せて♪」
善子「何かあっても、ヨハネが守ってあげるから。安心なさい」
侑「は、はい!」
こ、この3人……頼もしすぎる……!
海未「概ね話したいことは話せましたね。それでは、今現在を持って、『マナフィ捜索』及び『やぶれた世界調査』作戦を開始します! 皆さん、ご武運を」
こうして、二つの調査がスタートした──
🎹 🎹 🎹
私たちが研究所を出て出発しようとすると、
海未「理亞、ちょっと待ってください」
理亞「? 何?」
海未さんが理亞さんを呼び止める。
海未「このポケモンを連れて行ってください」
そう言って、理亞さんにモンスターボールを1個手渡す。
理亞「この子は……」
海未「聖良のマーイーカです」
理亞「……! ねえさまの……?」
海未「特別に許可を取りました。彼女のマーイーカはやぶれた世界でも自由に動けるように訓練を受けていると聞きました。理亞の言うことなら聞くと思うので……」
理亞「……うん。ありがとう、海未さん」
理亞さんは海未さんにお礼を言って、モンスターボールを受け取る。
果南「さて……それじゃ、私たちはまずウラノホシタウンに向かおうか。スワンナ、出番だよ」
「──スワン」
善子「出てきなさい、ドンカラス」
「──カァーーー」
曜「ヨルノズク、出てきて」
「──ホホーー」
侑「行くよ、ウォーグル!」
「──ウォーーーッ!!」
それぞれが、飛行用のポケモンを出す。
鞠莉「ビークイン、お願いね」
「──ブブブブ」
理亞「クロバット」
「──クロバッ」
ルビィ「オドリドリ! 出てきて」
「──ピピヨピヨ」
『やぶれた世界調査』班も飛行用ポケモンを出すけど、
彼方「あ……そういえば彼方ちゃん、飛べるポケモンいないんだった」
かすみ「か、かすみんも持ってません……!」
鞠莉「ビークインで一緒に運べなくはないけど……かすみと彼方、二人とも乗せるとなると、ちょっと窮屈ね」
曜「あ、そういうことなら……かすみちゃん、ちょっとこっちおいで」
かすみ「? なんですかぁ?」
かすみちゃんがとてとてと曜さんのもとに歩み寄ると、
曜「これ、あげるね」
曜さんから、小さな小瓶と、笛のようなもの……そして折りたたんだハーネスらしきものが手渡される。
かすみ「これは……?」
曜「それは鳥笛って言って、吹くとキャモメたちが集まってくるはずだよ。集まってきたキャモメたちに餌をあげてハーネスで持ち上げてもらえば、どこでも飛行出来るはずだから」
かすみ「も、貰っちゃっていいんですか!?」
曜「うん♪ 私には今はヨルノズクがいるから、飛行には困ってなかったしね」
かすみ「ありがとうございます……! 大事に使います……!」
かすみちゃんは曜さんにペコリと頭を下げてお礼をする。
果南「それじゃ、みんな。準備はいい?」
曜「いつでも!」
善子「ええ、問題ないわ」
侑「はい!」
「ブイ」
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
鞠莉「こっちも行きましょうか!」
彼方「お願いしま~す」
ルビィ「理亞ちゃん、行こう♪」
理亞「うん」
かすみ「キャモメさんたち集まってきてくださ~い!」
かすみちゃんが笛を吹くと──ミャァーーミャァーーと気の抜ける音と共に、キャモメたちがかすみちゃんのもとに集まってきた。
かすみ「わ、ほんとにきた……!」
かすみちゃんは集まってきたキャモメたちに餌をあげながら、私の方に振り返る。
かすみ「侑先輩! 頑張ってくださいね!」
侑「うん! かすみちゃんも!」
お互いを励まし合って──私たちは、
果南「さあ、行くよ!」
鞠莉「Here we go♪」
──それぞれの目的地に向かって、飛び立ちます……!
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
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主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:223匹 捕まえた数:9匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:216匹 捕まえた数:14匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
■Chapter058 『海の王子の御座す場所』 【SIDE Yu】
──セキレイシティを発ち、空を移動して小一時間ほど。
私たちはウラノホシタウンに到着していた。
果南「さてと……ここからは海の旅だけど、みんな準備は良い?」
善子「ちょっと待って」
肩をぐるぐる回しながら出発する気まんまんの果南さんを、ヨハネ博士が制止する。
果南「ん? なに?」
善子「装備……まだ、持ってないでしょ」
果南「え?」
果南さんは数秒フリーズしたのち──
果南「……やばい! 鞠莉に装備、貰い忘れてた……!」
そう言って頭を抱える。
善子「だろうと思って、私が受け取っておいたわよ……」
果南「おぉー! さすが善子ちゃん! 頼りになる!」
善子「だから、ヨハネだっつってんでしょ!!」
果南「ははー、ヨハネ様、感謝しております……!」
善子「わかればいいのよ」
侑「それでいいんだ……」
「ブイ…」
曜「あはは……」
ヨハネ博士が、ドンカラスの背に乗せていた大きな荷物から、さっき装備と言っていたものを取り出して配り歩く。
渡されたものを見ると……ウェットスーツやら、小さくてよくわからない機材がいくつか……。
侑「これは……?」
曜「それは“ダイビング”用のレギュレーターだね。これがないとポケモンが潜ったときに、私たちが息できなくなっちゃうから」
果南「しかも海水から酸素を作り出す、鞠莉の特製品だよ。人工エラ呼吸器だね」
善子「名前がダサい……」
果南「わかりやすくていいじゃん」
リナ『私もわかりやすくていいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
曜「はいはい、名前はいいから、続きを説明するね。このレギュレーターには骨伝導イヤホンマイクも搭載されてて、これがあれば水中でも話が出来るんだよ」
侑「す、水中でですか!? すごい……!」
善子「水中では、コミュニケーションが取りづらいからね。こういうアイテムは必要なのよ。ただ、水中では電波減衰があって、距離が離れると使えなくなるから注意しなさい」
リナ『ちなみに今回は私が中継局になるから、多少は通信範囲が広くなってるよ』 || > ◡ < ||
侑「な、なんか……思った以上に大掛かりなんですね……」
果南「海の中は陸とは違って、人が普通に生きていける環境じゃないからね。このダイビングスーツも、保温や対水圧を考えて作った特注品なんだよ。もちろん、これも鞠莉のお手製!」
善子「“どうぐ”の博士やるのもいいけど……案外発明家とかの方がうまくいくんじゃないかしら……?」
確かに、鞠莉博士がこれを全部用意してくれたというのは驚きだ……。
果南「まあ、装備するのは沖に出てからだけどね。曜、沖までの移動はお願いしていい?」
曜「ヨーソロー! 任せて!」
曜さんはそう言いながら、海に向かって、砂浜を駆け出し──
曜「ホエルオー! 出番だよ!」
ダッシュの勢いを乗せてボールを海へと遠投する。
「──ボォォォォォ!!!!!!」
海に姿を現したのは、巨大なクジラポケモンのホエルオーだ。
侑「わぁぁぁぁ!! あの、もしかしてそのホエルオーって曜さんの本気の手持ちですか!?」
曜「うん、そうだよ!」
ジム戦のときのホエルオーよりも、さらに一回り大きい曜さんのホエルオー。
公式戦では、あまりに大きすぎることや、水中戦が出来ない場所では戦いづらいことから、曜さんが手持ちに入れていることは少ないポケモンだ。
インタビュー記事等で持っていることは知っていた程度だったけど……。
侑「話には聞いてたけど……すっごい迫力……!! ときめいてきちゃった!!」
「ブイ♪」
リナ『侑さんのそれ、久しぶりに見た』 || > ◡ < ||
曜「今から沖まではホエルオーで移動するから、みんな乗って乗って~」
侑「しかも、そのホエルオーに乗れるなんて……感激……!」
善子「はいはい……感激したのはわかったから、さっさと乗るわよ」
ヨハネ博士に引き摺られながら、私たちはホエルオーの上へと移動する。
曜「よーし、全員乗ったね!」
侑「は、はい! ここまで運んでくれてありがと、ウォーグル。ボールに戻って休んでね」
「ウォーーー──」
ホエルオーに乗るために、使った飛行ポケモンたちをボールに戻して──
曜「それじゃ、出航だよ! 全速前進、ヨーソロー!」
私たちは大海原へと出発した。
🎹 🎹 🎹
善子「──んで、今回はどういうスケジュールになってるの?」
果南「とりあえず、沖まで出て、いい感じの場所に着いたら、侑ちゃんにフィオネを出してもらって、マナフィの場所に案内してもらう感じだよ」
侑「わ、わかりました……!」
「ブイ」
善子「いや……それだと、なんもわかんないんだけど……」
ヨハネ博士が溜め息を吐く。
果南「潮流から、大雑把なマナフィの場所はわかってるから、そこまで移動するって感じかな。場所と方角は私が指示するから」
曜「了解であります!」
善子「最初からそう言ってよ……。……その良い感じの場所までってどれくらいかかるの?」
果南「スムーズに行って、15時間くらいかな?」
侑「じ、15時間!?」
善子「まあ、そうなるわよね……。これだから、海上移動は好きじゃないのよ……」
曜「海路は陸路に比べると、時間が掛かるからね~」
善子「となると……到着は朝方かしらね……。いっそ飛んでいかない……?」
曜「ダメダメ。ポケモンがバテたら海に落ちちゃうし、沖では何か起こっても逃げ場がないんだから……ポケモンの体力は温存しておくべきだよ」
善子「言ってみただけよ……。……とりあえず、睡眠は交替で取るとして……。……戦力の確認を先にしておいた方がいいかしらね」
侑「戦力の確認……ですか……?」
善子「海上や海中で戦えるポケモンは限られるからね……。今持ってる手持ちを全員が把握しておくのは重要なのよ」
侑「なるほど……」
確かに、沖に出たら何かあっても外から助けに来てくれる人なんていないし……ここにいる4人のトレーナーとポケモンたちでどうにかしなくちゃいけないんだ……。
準備が大掛かりだと思ったけど、確かにそれくらい慎重になって当然なのかもしれない。
善子「まず私は、海中戦はゲッコウガとブルンゲルくらいね。海上戦なら、ドンカラスもムウマージもユキメノコもシャンデラも飛べるから」
曜「アブソルは置いてきたんだ?」
善子「まあね。あの子は泳げないし、飛べないし……シャンデラと迷ったんだけど、海上でも火が使えると何かと便利だからね。そういうあんたは誰置いてきたの? カイリキー?」
曜「うん。私が持ってるのは、今乗ってるホエルオーと、カメックス、ラプラス、タマンタ、ダダリン、ヨルノズクだよ。果南ちゃんは?」
果南「私はラグラージ、ニョロボン、ギャラドス、キングドラ、ランターン、スワンナかな」
善子「さすがに、そこ二人は水中戦力が厚いわね。侑は……」
侑「え、えっと……私が持ってるみずポケモンだとフィオネくらいしか……あ、でもドラパルトなら、水中でも泳げると思います!」
リナ『他はイーブイ、ウォーグル、ライボルト、ニャスパーだもんね』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「わかった。……あ、そうそう、イーブイにも専用のダイビング機材をマリーが用意してくれたから一緒に潜れると思うわ。イーブイ自身の技にも耐えられる特別製らしいわよ。あとで渡すわね」
侑「あ、ありがとうございます……! よかったね、イーブイ」
「ブイ♪」
イーブイをボールに戻すかどうか迷っていたから、一緒に潜れるなら助かるかも……。
大人しくボールに入ってくれる気がしないし……。
果南「食糧に関しては曜ちゃんに管理をお願いしてるよ。まあ、1週間とか航海するわけじゃないから、大丈夫だと思うけどね」
曜「水も十分持ってきたけど……最悪、善子ちゃんのシャンデラの火があれば海水から作れるし、そこまで心配する必要はないかな」
善子「善子じゃなくてヨハネよ! ま、概ねの確認事項はこんなもんかしらね……。何かあったら各自遠慮なく言うように」
侑「わ、わかりました!」
善子「そんじゃ……私は寝るから……」
果南「まだ、日も結構高いよ?」
善子「私は夜行性なの……私の手持ちは夜に強いポケモンも多いし、日中は任せた」
そう言いながら、ヨハネ博士はせっせと寝袋を取り出して、
善子「そんじゃおやすみ……」
ホエルオーの上で睡眠に入ってしまった。
侑「……ヨハネ博士って、意外とマイペースなんですね……?」
正直、そういうイメージはなかったんだけど……。
曜「旅してるときは、割とこんな感じだったよ。……って言っても、旅してたのも結構前だから、私も見てて懐かしいな~って思ってるけど」
果南「マイペースというよりは合理的なんだと思うよ。実際、夜には誰かが起きてなきゃいけないわけだし、こういうときに臨機応変に休息を取れるのはスキルだからさ」
曜「善子ちゃんの場合は、本当にただ夜型なだけな気もするけどね」
善子「だから、善子言うな!!」
曜「うわ!? 寝るなら突っ込みしてないで寝てなよ……」
曜さんが肩を竦めながら言う。
侑「……となると、もう一人今のうちに寝ておいた方がいいんですか?」
曜「あーうん、確かにその方がいいかな。善……ヨハネちゃん一人でもどうにかなるだろうけど、二人いるに越したことはないだろうし」
果南「私はパス……夜は起きてる自信ない……」
曜「あはは……果南ちゃんは超が付くほどの朝型だもんね」
果南「じゃあ、曜が寝る?」
曜「その方がいいならそうするよ。でも、ホエルオーも久しぶりの航海だから、勘を取り戻すまでは起きてないとだけど」
侑「それなら、私が先に休んで、夜はヨハネ博士と一緒に起きてますよ」
曜「大丈夫? 海上で寝るの、慣れてないだろうから、無理はしなくてもいいよ?」
侑「いえ! いつでも休息が取れるようにするのもトレーナーとしてのスキルなんですよね? だったら、私も出来るようにならないと……!」
いつか出来ればいいじゃなくて、今出来るようになるべきだ。
身に付けておけば、今後そのスキルがいつ役立つかわからないし。
果南「ふふ♪ 向上心があるのは侑ちゃんのいいところだね♪ わかった。それじゃ、先に休んでくれるかな」
侑「はい! イーブイ、寝るよ!」
「ブイ!!」
リナ『寝るのに、気合いたっぷり……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
果南「リナちゃんはどうする?」
リナ『私のバッテリーは充電なしで1週間は持つから、スリープはしなくても大丈夫。仮に休むとしても、ソーラー発電だから、日中は活動してるつもり』 || ╹ᇫ╹ ||
果南「そっか。じゃあ、何かあったときは報せてね」
リナ『任せて!』 || > ◡ < ||
リナちゃんと果南さんのやりとりを聞きながら、私もヨハネ博士の横に寝袋を用意して潜り込む。
侑「それじゃ、イーブイ。夜まで、寝るからね」
「ブイ」
侑「……おやすみなさい」
「ブイ…」
私は波に揺られながら──もふもふのイーブイを抱きしめて、目を瞑るのだった。
🎹 🎹 🎹
──すっかり日も暮れて……夜の時間が訪れた頃……。
善子「んー……あーよく寝た……。……ん?」
侑「……ぅ……ぎもぢわるい……」
「ブイ…」
私は横になったまま、世界がぐるぐる回る感覚に苦しんでいた。
善子「あー……完全に波に酔ったわね。……眠れた?」
侑「正直、あんまり……ぅぅ……」
善子「まあ、でしょうね……」
寝袋の中で丸くなって唸っていると、
曜「──善子ちゃん、おはよ……って、侑ちゃん大丈夫!? もしかして、酔った!?」
リナ『顔色が真っ青……』 || > _ < ||
果南「あー、まあ最初はそうなるよねー……」
リナちゃん、曜さん、果南さんが、心配そうに声を掛けてくれる。
善子「私が面倒見るから、曜と果南はさっさと休みなさい」
曜「で、でも……」
善子「夜になったら交替するって話だったでしょ。それにどっかの誰か曰く、海上では規律が大事らしいわよ? 聞いてもいないのに、何度もその話をされたから間違いないわ」
曜「う……わ、わかったよ……。侑ちゃんのこと、お願いね」
侑「ずびばぜん……ぅ……」
果南「無理しちゃダメだよ。それじゃ善子ちゃん、あとよろしくね」
曜さん、果南さんが休息に準備に入る。
善子「侑、起きられそう?」
侑「ど、どうにか……」
私はヨハネ博士に支えてもらいながら、どうにか寝袋から這い出て、ホエルオーの頭の方へと移動して腰を下ろす。
善子「しんどいと思うけど、こればっかりは慣れるしかないから……」
侑「は゛い゛……ぅぅ……」
ヨハネ博士が背中をさすってくれる。
善子「吐きそう……?」
侑「……とり、あえず……だいじょうぶ……です……」
善子「吐きそうになったら言いなさい。吐いちゃった方が楽になるから」
侑「は゛い゛……っ……」
「ブイィ…」
侑「だいじょうぶ……ごめんね、心配……かけて……ぅ……」
心配そうに鳴くイーブイを撫でながら答える。
善子「今、酔い止め作ってあげるから、少し待ってなさい」
そう言いながら、ヨハネ博士はバッグから、何かの植物とすりこぎを取り出して、植物の葉っぱをすりこぎで潰し始める。
侑「ここで……作るん、ですか……?」
善子「ええ、良く効くわよ」
侑「そんなものも……つくれるん、ですね……」
善子「ポケモンと漢方の歴史って意外と古いからね。いろいろ調べてるうちに作れるようになったのよ。人とポケモンどっちにも効くのがあるからね。……っと、よし」
ヨハネ博士はすり潰した葉っぱを水筒の水に溶かして、私に差し出してくる。
善子「一口で飲み切りなさい。じゃないと、死ぬほどまずいせいで、飲み干せないと思うから」
侑「は、はい……」
受け取って、一思いに一気に飲み下す。
侑「ぅ、ぐぅぅぅ……!?」
味は……ヨハネ博士が言ったとおり最悪だった。
苦みやら、えぐみやらが、これでもかと言わんばかりに襲ってくる。
善子「よしよし、よく飲んだ。偉いわよ、侑」
侑「……こ゛れ゛……人が飲ん゛で、いいも゛の゛な゛んです゛か……っ……?」
とてもじゃないけど、人間が口にしていい味だとは思えない。
善子「良薬口に苦しよ。口に残る味もそのうち消えるから我慢しなさい」
侑「は゛い゛……か゛ん゛は゛り゛ま゛す……っ……」
史上最悪の後味に耐えながら、呼吸を整えていると──だんだん口に残っていた味が落ち着いてくる。
それと同時に──
侑「…………あれ……」
さっきまでの気持ち悪さが、随分と軽くなっていることに気付く。
善子「……かなり楽になったでしょ?」
侑「は、はい……」
善子「コノハナの抜けた葉を乾燥させたものと、タマゲタケの“キノコのほうし”を培養した菌体、ポポッコの花びらから作った漢方薬よ。……よくこんなの見つけるわよね。人とポケモンの歴史は偉大だわ……」
侑「ポケモンから貰った植物だったんですね」
リナ『すごい……そんな情報、私のデータベースにもないのに……』 || ╹ᇫ╹ ||
ふわふわと私の近くに来ながら、リナちゃんがそんなことを言う。
善子「この辺の知識はデータベースになってないものも多いからね。研究は自分の手と足と頭と……五感全部を使ってするものなのよ」
リナ『勉強になる』 || > ◡ < ||
侑「ヨハネ博士……やっぱり、すごいです……」
善子「ふふ、好きなだけ褒めるといいわ」
ヨハネ博士は優しく笑いながら、私の頭を撫でてくれる。
侑「ありがとうございます……。……ごめんなさい……迷惑掛けて……」
ヨハネ「いいのよ。貴方も私の研究所から旅立った、可愛いトレーナーの一人なんだから」
侑「……ありがとうございます」
私は本来、ヨハネ博士のもとから旅立ったトレーナーじゃないけど……こうして言葉にして、我が子のように優しくしてくれるヨハネ博士と話していると、なんだか胸が温かくなる。
ヨハネ博士は……自分が送り出したトレーナーの私たちを……本当に大切にしてくれているんだ。
だからこそ……私は申し訳なかった。博士には……もっともっと、大切な大切な……最初のトレーナーがいるから。
侑「ヨハネ博士……」
善子「ん?」
侑「……せつ菜ちゃん──菜々ちゃんのこと……なにもできなくて……ごめんなさい……」
善子「……」
侑「……私の言葉……全然、届かなくて……。……私……」
善子「貴方のせいじゃないわ」
そう言って、ヨハネ博士は私の肩を片腕で抱くようにして、引き寄せる。
善子「……ごめんね。私がローズでの会議のとき、あんな態度取ったから……気にしちゃうわよね」
侑「……そ、そういうわけじゃ……」
善子「……。……私ね、憧れの人が二人いるの」
侑「……?」
ヨハネ博士は突然そう話を切り出す。
善子「一人は……千歌。……千歌は私にとって、ライバルで仲間で友達で……。ポケモンのことが大好きで、自分のポケモンのことを誰よりも信じていて、だから誰よりも強いトレーナー」
侑「……」
善子「もう一人は……マリー。私の師匠のようなもので……人遣いは荒いけど……誰よりも人とポケモンの未来を考えていて、そのために研究を続けている姿が……すごくかっこよくて、憧れたの……」
ヨハネ博士は、空に浮かぶ月を見上げながら言う。
善子「だから、私も博士になって……人とポケモンのために何かがしたいって思ったの。……私も人とポケモンの架け橋になりたくて」
侑「それが、ヨハネ博士が……博士になった理由なんですね……」
善子「そういうこと。人とポケモンはね、長い歴史の中で手を取り合って、一緒に戦って成長することで繁栄してきた。それは今も続いてる。千歌が、マリーが、それを私の目の前でたくさん見せてくれた。……だから、私も人とポケモンを巡り合わせられる人になりたいなって思ったの。そうしたら、もっと素敵な未来が待ってるんじゃないかって」
侑「……」
善子「でも、現実はなかなかうまくいかなくて……。……菜々には悲しい思いをさせちゃった。きっと……私のやったことも、菜々を歪ませた一つの原因なの」
侑「そ、それは違います……!」
善子「うぅん、違わないわ。あのとき、私と知り合わなければ……菜々はあんな風にならなかったと思うわ」
侑「ヨハネ博士……」
善子「……ただね、菜々と知り合わなければよかったなんて思ったことは一度だってない。……むしろ、私が後悔しているのは──あのとき、あの子の手をちゃんと握ってあげられなかったこと。手を……離してしまったこと」
その言葉と一緒に──ぐっと……私を抱き寄せる、ヨハネ博士の腕に力が籠もったのがわかった。
善子「……だから、私はもう間違えない……。あの子が道を踏み外してしまったんだとしても、私は今度こそ、あの子の手を掴む。掴んで……今度は離さない」
ヨハネ博士はそう言葉にして、私の方を見る。
善子「まだ、出来ることがある。言葉も、気持ちも、行動も、まだあの子に伝えたいことが……たくさんあるの。だから、私は下を向いてる場合じゃない。届かなかったのなら──次は届けなくちゃ」
侑「……はい」
善子「菜々に……せつ菜に──届けましょう、私たちの想いを」
侑「……はい!」
私は月明りの照らす海の上で──ヨハネ博士の言葉に、力強く頷いたのだった。
🎹 🎹 🎹
──瞼の裏に光を感じて、
侑「──……んぅ……」
目を覚ます。
侑「……ん……あれ……私……」
善子「おはよう、侑」
侑「ヨハネ博士……」
気付けば、ヨハネ博士が私を見下ろしていた。
……私はヨハネ博士の膝の上で寝ていた。
善子「ふふ、ぐっすりだったわね」
侑「!? す、すすす、すみません!?///」
私が慌てて起き上がると、
「…ブィ…zzz」
私の胸に抱かれながら寝ていたイーブイがころころと転がり落ちる。
侑「ご、ごめんなさい!! 夜は起きてる順番だったのに……! ほら、イーブイも起きて……!」
「…ブイ…?」
善子「いいわよ。酔ってたせいで、あんまり眠れてなかったんでしょ? 睡眠が取れたなら、むしろいいことよ」
ヨハネ博士は立ち上がって、私の頭を撫でてから、
善子「侑、起きたわよー」
曜「あ、ホントだ! 侑ちゃん、おはヨーソロー!」
果南「お! おはよう、侑ちゃん!」
もうすでに起きていた曜さんと果南さんに声を掛ける。
侑「お、おはようございます……///」
3人とも、私が起きるのを待っていてくれたのかな……。
自分から夜に起きていると言い出したのに、曜さんや果南さんよりも起きるのが遅いなんて……それがなんだか、無性に恥ずかしかった。
リナ『侑さん、おはよう!』 || > ◡ < ||
侑「お、おはよう……///」
リナ『? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うぅん、なんでもない……あはは……///」
リナちゃんにもわかるくらい動揺していたけど、笑って誤魔化した。
そんな中、
果南「そんじゃ、侑ちゃんも起きたし、準備しようか~」
果南さんは肩をぐるぐる回しながら言う。
侑「準備って……?」
果南「もちろん、潜る準備だよ♪」
気付けば──ホエルオーは360度を水平線に囲まれた海のど真ん中で、停まっていた。
曜「侑ちゃんも出発前に渡されたダイビング装備出してね~!」
侑「あ、は、はい!」
そう言いながら、曜さんはもうダイビングスーツを着始めている。
私も焦って、ダイビング装備を広げて、スーツを着始める。
侑「あ、あれ……うまく脚が入らない……?」
果南「そのままだと大変だから、軽く中を引っ張り出してから着ると楽だよ。ほら、こんな感じに……」
果南さんが実践して見せてくれる。
倣うようにやってみると──
侑「あ、ホントだ……」
果南さんの言うとおり、簡単に着ることが出来た。
果南「ゆっくりでいいよ。むしろ、これは私たちの命を守る装備だから、わからないところは全部聞いてね」
侑「は、はい!」
果南さんに教えてもらいながら、着実に準備を進めていく。
善子「……ちょっと曜、これ見てみなさいよ」
曜「え、なになに?」
善子「このボールベルト、水圧下に耐えるだけじゃなくて、腕に付いてるボタンを押すとボールが射出出来るわ!」
曜「わ、ホントだ!? これ、どうなってんの!?」
リナ『ウォータージェットで飛ばすみたいだね。取り込んだ水を使うから、水中でなら無限に使えるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
曜「へー! すご!」
善子「自由が効かないときでも、咄嗟にポケモンを出せるようにこうなってるみたいね」
ヨハネ博士と曜さんは装備を確認しながら、なんだか楽しそうだ。
果南「……これでよしっと! 苦しいところとかない?」
侑「はい! 大丈夫です!」
こちらも果南さんのお陰で、スーツの装着が終わったところだ。
果南「あとは緊急時用の携行ボンベと、携行ライトは……よし。……フィンを付けて、ボールベルトにボールを付け替えて……ダイビングマスクを首に掛けて……レギュレーターは潜る直前だね」
侑「ほぼ全部やってもらっちゃった……ありがとうございます」
果南「いいのいいの! 曜ちゃん、善子ちゃんはどう?」
善子「ヨハネ!」
曜「たぶん、だいたい出来たと思う。チェックお願い」
果南「あいよー」
私だけかと思ったけど……果南さんは曜さんとヨハネ博士の装備も入念にチェックし始める。
リナ『果南さんはダイビングのプロだからね。安全確認は全部プロにやってもらった方が安心』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんはそう言いながら、私の腕で装着モードになる。
リナ『私は海中では基本、侑さんにくっついて行動するね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、わかった」
リナ『それじゃ、イーブイの装備もしちゃおう!』 || > ◡ < ||
侑「そうだね。イーブイ、おいで」
「ブイ」
私が装備を整える間、待っていたイーブイを呼び寄せる。
イーブイのダイビング装備の最終チェックも果南さんにお願いするけど、出来る範囲で進めておくに越したことはないだろう。
侑「足上げてー」
「ブイ」
イーブイの装備は私たちに比べると少なく、ダイビングスーツとレギュレーターくらいだ。
とはいえ、イーブイが自分自身で装備出来るようなものではないので、丁寧に着せていく。
侑「よし……出来たよ」
「ブイ♪」
果南「お、どれどれ~?」
曜さんとヨハネ博士のチェックが終わって戻ってきた果南さんが、イーブイの確認を始める。
果南「……うん、問題なさそうだね! あとイーブイのレギュレーターは先につけてあげてね」
侑「はい。イーブイ、これ噛んで」
「ブイ」
イーブイがレギュレーターに噛みついたのを見計らって、後ろにバンドを引っ張って固定する。
果南「よしよし。海中に潜る間はずっとこれだけど、我慢するんだよー?」
「ブイ」
侑「よかった、あんま苦しそうじゃないね」
リナ『イーブイ用に作ってくれたものだからね! ぴったり!』 || > ◡ < ||
ポケモン用のレギュレーターは、口から放してしまわないように、固定式になってるらしい。
普段と違うから嫌がるかなとも思ったけど……イーブイは意外とすんなり受け入れてくれた。
果南「そんじゃ、全員準備出来たね! 行くよー!」
侑「は、はい!」
曜「ヨーソロー!」
善子「よきにはからえ」
イーブイを抱きかかえ、ホエルオーの尻尾の方── 一番海面に近い場所に4人で移動する。
曜「ホエルオーはここに置いていくから、もしはぐれちゃったりした場合はホエルオーを探してね。荷物もホエルオーの上にあるから」
善子「荷物番はムウマージにしてもらうから。ムウマージ、お願いね」
「ムマァ~ジ♪」
果南「そんじゃ、みんなポケモン出すよ! ランターン!」
「──ランタ!!」
曜「ラプラス、出番だよ!」
「──キュウ♪」
善子「ブルンゲル、出てきなさい」
「──ブルン」
侑「フィオネ! お願い!」
「──フィオ~♪」
それぞれみずポケモンを海の上に出して、
果南「海に入るよー。レギュレーター着けてー」
レギュレーターを装着し、海に飛び込む。
私たちが海に飛び込むと、それぞれの手持ちたちが近くに寄ってくる。
果南『あーあー。聴こえてる?』
侑『はい!』
曜『問題ないよー!』
善子『おー……思った以上にクリアに聴こえるのね』
リナ『感度良好! 誰かの通信が切れたり、バイタルに何か異常があったら、すぐに報告するね!』 || > ◡ < ||
果南『お願いね、リナちゃん。それじゃみんな、ポケモンに掴まって潜ろう』
侑『はい! フィオネ、“ダイビング”!』
「フィオ~」
私たちは海へと潜っていきます──
🎹 🎹 🎹
──海に潜ると、すぐに世界が青一色の世界に包まれる。
侑『わぁ……!』
『ブィ~!!』
果南『ふふ、この光景……初めて見たときは驚くよね』
透き通るような青の世界を漂っていると、まるで自分が海に溶けているのではないかという錯覚さえ覚える。
その非日常感に胸がドキドキする。それと同時に──歩夢にもこの景色を見せてあげたい。そんな気持ちが私の胸を過ぎる。
うぅん……あげたいじゃない。一緒に見に来よう……絶対に。
そのためにも、今は目的を果たさなきゃ……!
リナ『バイタル正常。レギュレーター正常稼働。オールグリーン』 || > ◡ < ||
果南『侑ちゃん』
侑『はい! フィ