ダンガンロンパ ホープロワイヤル (283)


天願「超高校級の才能を持った生徒」

天願「希望とも称される彼らは素晴らしいが……」

天願「儂は時々疑問に思う」



天願「その中で誰が一番すごいのだろうか、と」



天願「もちろん様々な才能があるため、一様に比べられるものではない」

天願「じゃがなるべく同じようになる条件を設定して、そして本気で争った場合誰が一番になるのか?」

天願「……いやはや、しかし希望と呼ばれる彼らが争う姿など見たくはない」

天願「そんなことになったら儂は悲しくて、悲しくて、悲しくて……」





天願「ついやってしまったんじゃ」








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・この作品はダンガンロンパの二次創作です。

・1・2・V3の48キャラが出ます。

・バトルロワイヤル×能力モノ。

・バーチャル空間なので本当に死んだりはしません。

・コロシアイなんて無かった世界。

・展開上出オチなキャラも出てきます。好きなキャラだった場合申し訳ありません。

・不定期更新です。



では始めます。




希望ヶ峰学園、特別ホール。



現在そこには77期生、78期生、そしてゲストの予備学科性一人と才囚学園の生徒たち。



合わせて48人の生徒が集まっていた。



その理由は特別カリキュラムのためとだけ説明されている。




苗木「特別カリキュラム……って、何するんだろうね」

舞園「霧切さん、何か知らないですか」

霧切「いいえ。気になって調査してみたのだけど、思いの外ガードが固くて詳細が掴めなかったわ」

葉隠「霧切っちが調査して掴めなかったとなるとよっぽどだべ」

不二咲「アルターエゴでも何も分からなかったんだあ」



石丸「おそらくレクリエーションの類だろう! ここに集まった48人仲良くなるためのものだ!」

大和田「おおっ、それはいいじゃねえか兄弟よ!」

十神「ふんっ。そのような腑抜けた行事なら興醒めだな」

腐川「そ、そうよ! 興醒めよ!」

桑田「すっかり腰巾着だな」



セレス「さて……それはどうでしょうか」

山田「あのーセレス殿……それはギャンブラーの勘ですか?」



朝日奈「何が始まるか分からないけど、頑張ろうね、さくらちゃん!」

大神「そうだな、朝日奈よ」

江ノ島「あぁーだるい……何でこんな青春に巻き込まれてるんだか」

戦場「ちょっと盾子ちゃん、周りに合わせないと」


狛枝「あははっ、日向君。予備学科の君がどうしてここにいるのかな?」

日向「俺だって場違いなのは感じてるけど呼ばれたんだって。本当に俺がこんなところにいてもいいのか……?」

七海「大丈夫、日向君なら大歓迎だよ」

小泉「そうよ、自信持ちなさい」



左右田「つうか最近カムクラプロジェクトとかいうのにも参加してるんだろ、大丈夫なのか?」

澪田「何か胡散臭い響きっすね」

九頭竜「いや元々は非人道的な研究していたが、そういうやつらは大分前に粛正されたって話だぜ」

辺古山「今は純粋な才能開発プロジェクトとなっているはずだ」

罪木「お、お二人ともよく知っていますね……」



西園寺「そういえば十神おにぃ、本物が来てるけど大丈夫なの?」

十神(太)「何を言う、俺こそが十神白夜だ」



終里「しっかし今から何が始まるんだろうな、食い物が出てこねーかな!」

花村「お腹減ってるのかい? なら僕のフランクフルトを……」

弐大「やめい、花村よ」



田中「くくっ……我が右腕がうずく……」

ソニア「期待してるんですね!」

[


最原「ここが希望ヶ峰学園か……」

赤松「これだけ広いホールでコンサート開けたら楽しいんだろうなー」



王馬「よしっ、ゴン太。探検に行くよ!」

獄原「え、どこに?」

星「止めておけ。予定時刻はもうすぐだぞ」



白銀「あれは……江ノ島様に戦場様……!?」

夢野「ん、お主二人のファンだったのか?」

天海「そういえば二人は姉妹って話だったっすね」

アンジー「似てないねー」



真宮寺「あの二人は不合格だけど……他に姉さんの友達にふさわしい人がいっぱいいるネ!」

キーボ「……真宮寺クンよく姉さんの友達って言いますけど、あれ言葉通りの意味なんでしょうか」

百田「ああ、何か妙な迫力を感じるよな」

春川「放っておいた方がいいんじゃない?」



入間「ったく、面倒臭えな。時間になったら起こしてくれ、東条」

東条「ええ、分かったわ」

茶柱「もう東条さん、そんな甘やかしちゃいけませんよ」


そうやって雑談しながらしばらく待っていると48人の前に姿を現すものがあった。



モノクマ「とうっ!」

モノミ「やあっ、でちゅ!」



苗木「あれは……江ノ島さんが開発したモノクマと、七海さんが開発したモノミだっけ?」

江ノ島「あーそういえば何やら使用要請が出ていましたね、だるいのでOKしましたが」

七海「モノミを借りたいって連絡があったかも……無かったかも……」

日向「どっちなんだよ」



モノミ「ちゅーもくするでちゅ!!」

モノクマ「今からみんなが集められた理由である特別カリキュラム――」

モノクマ「超高校級とも呼ばれる才能から希望とも称される君たちによる頂点を決める戦い」

モノクマ「題して『ホープロワイヤル』について実行責任者のボクから説明するよ!」


狛枝「希望と希望の戦い……あははっ、何だかとても楽しそうだね!」

日向「おまえはそういうやつだよな」



十神「茶番だな。一番優れているのは俺に決まっている」

苗木「すごい自信だね……」



王馬「ふーん、面白そうな響きじゃん」

最原「あんまり野蛮なのは得意じゃないんだけど……」



モノミ「みんなやる気十分でちゅね!」

モノクマ「ルールを今から説明するから、みんな聞き漏らさないように!」


モノクマ「一つ目はこれ!!」

『参加者は48人です』

モノクマ「うぷぷっ、まあこれは見れば分かるよね。今ここにいる生徒48人が参加者だよ」

モノクマ「ということで次!」



『フィールドは一つの島で行われる。島は様々なエリアに分かれている』

モノクマ「この島ってのがバーチャル空間に構築されたもので、そこで戦うから現実の身体は怪我とかしないってこと。これで一安心だね」



『参加者は島のランダムな地点からゲームを開始する』

モノクマ「いい場所に転送されるように祈ってね」



『敗北条件は殺されるか電子生徒手帳を壊されること』

モノクマ「これもバーチャル空間だから実際に死ぬわけじゃないよ。つまり正確には殺されるほどのダメージを与えられたらってことかな」

モノクマ「敗北した時点で強制的にログアウトさせられるからゾンビ行為は出来ないよ」



『ゲームマスターはモノクマとモノミが務める』

モノクマ「バーチャル空間で争うからね! ロボットのボクたちが適任ってことで任されたよ!」


モノクマ「さて、次が重要事項なんだけど……関連するから一気に二つ表示するよ!」



『参加者はゲーム開始前に希望を一つ設定する』

『最後まで残った希望が優勝。その希望は実際に希望ヶ峰学園が総力を挙げて叶える』



「「「っ……!!」」」

表示されたルールに全員が息を呑む。



霧切「……質問してもいいかしら?」

モノクマ「何かな、霧切さん?」

霧切「この設定する希望っていうのは何でもいいのかしら?」

モノクマ「もちろん! 何でもいいよ!」



山田「希望を何でも叶える……まるでド○ゴンボールですな」

セレス「それだけ希望ヶ峰学園もこのカリキュラムに本気ということですか」

澪田「実際希望ヶ峰学園の規模からすれば、どんな希望も叶えられそうっすね!」

花村「んふっふー、やる気が出てきたよ!」


十神「しかしえげつないルールだな」

苗木「え、どういうこと、十神君」



十神「考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ」



「「「っ……」」」

苗木(十神君の言葉に全体の雰囲気が少し強ばった)

苗木(今から始まる戦いで隣にいる生徒も敵となるかもしれないと認識したからだろう)



狛枝「……へえ」

王馬「あははっ、面白いじゃん」


葉隠「でもそれって不公平だべっ!!」

モノクマ「ん、何が不公平なの葉隠クン?」

葉隠「だって戦いとなればオーガの右腕に出るものはいないべ! 俺なんか三秒で倒されるに決まっている!」

桑田「ずいぶん後ろ向きな自信だな」

不二咲「でも僕も戦いってなると自信がないなあ……」

モノクマ「うぷぷっ、そういう意見が出るのも予想済みだよ」

モノクマ「というわけで続きのルールを発表していくね!」



『参加者の身体能力は平均化される』

『参加者はそれぞれの才能に応じた能力を一つ持つ』



赤松「平均化……っていうとみんな同じ力になるってこと?」

最原「才能に応じた能力……っていうのも気になるな」


モノクマ「これに関しては実際に例を出して説明した方がいいかもね」

モノクマ「手の内を明かさせてごめんだけど、話題に出た大神さんと」

大神「我は構わぬぞ」

モノクマ「あと一人はクジで……」



モノミ「はい、苗木クンでちゅ!」

モノミがいつの間にか用意されたクジから苗木の名前を引き当てる。



苗木「え、僕!?」

舞園「さすが幸運の才能ですね」

モノクマ「うぷぷっ、まあ外れクジを引き当てたる力が幸運なのかは微妙だけど……とにかく二人の能力で説明するよ」


モノクマ「まずは苗木クンの能力から発表するよ」



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』



山田「なるほど……本当に能力モノっぽい能力ですな」

苗木「能力って言われても……僕そんなこと出来ないよ」

モノクマ「もう、戦いの舞台を忘れたの? 現実じゃなくてバーチャル空間なんだから何でも設定することが可能なんだよ、それこそ常識じゃ説明が付かない力を身につけさせることもね」

苗木「あ、そういうことか」



百田「でも50%を100%って、コイントスが確実に当たるくらいじゃねえのか?」

白銀「それは違うよ! 確率を操る能力……これは可能性の塊だよ! 分かるよ! これで色々工夫しながら強敵を倒すんだよね!!」

赤松「ちょっと白銀さん、落ち着いて」


モノクマ「次は大神さんの能力だね」



『能力:超高校級の格闘家』

『格闘家としての力、技術を発揮できる』



左右田「えっと……これが能力なのか?」

終里「さっきと違って普通のことしか書いてねえぞ」

七海「……そっか、ここで身体能力が平均化されるってルールが働くんだね」

日向「ん、どういうことだ七海?」

狛枝「はぁ分からないかな、日向君? 身体能力が平均化により弱体した大神さんだけど、能力を使うことでいつも通りの力に戻る」

狛枝「でも50%を100%にするなんて不思議な能力を持っている苗木君に対して、大神さんは実質能力無しってことなんだよ」



モノクマ「うぷぷっ、そういうこと。元々武闘派が有利な戦いだからね。能力の有無でバランスをとるってことだよ」

モノクマ「大神さん以外も武闘派のみんなは同じようなことになっているからね」


モノクマ「二人は説明のために能力を開示したけど、あとのみんなはゲーム開始時点で能力が分かるからね」

モノクマ「自分の能力を上手く使って、相手の能力を予想して優勝目指してね」



葉隠「そういうことか!」

葉隠「なら俺の能力が『敵が死ぬ』なら簡単に勝てるな!」

葉隠「あははっ、オーガも敵じゃないべ!!」



桑田「いや、おまえがそんなチートな能力なわけねえだろ」

山田「モノクマは才能に応じた能力と言ってたですぞ」

セレス「きっと葉隠君の能力は『占いが3割で当たる』でしょうね」



葉隠「いやいやいや、それはおかしいぞ!」

葉隠「俺の占いが3割当たるのは元々だべ!!」

葉隠「そんな3割当たるのが凄い能力みたいな扱いじゃないよな、モノクマ!」



モノクマ「……じゃあ次のルールの説明に行くよ」

葉隠「んなっ!?」




『参加者にはそれぞれ電子生徒手帳が配布される。手帳は他の参加者に連絡を取ったり、現在の時間・島の地図と現在地・残りの人数・ルール・自分の能力と希望を表示することが出来る』



モノクマ「便利アイテム、電子生徒手帳だね。うまく活用しよう!」

モノクマ「そして最初の方のルールで説明したように、この電子生徒手帳を壊されても負けだよ。ちゃんと守らないとだね」





『ゲーム開始前に設定した希望は、電子生徒手帳からゲーム中一度だけ変更することが可能です』



モノクマ「例えば『ハンバーガーたらふく食べたい』って開始前に希望を設定したけど、ゲームをやってる間にやっぱりチーズバーガーにしたいなあって思ったら『チーズバーガーたらふく食べたい』に変更することが可能ってわけだよ」

モノクマ「でも一回しか変更できないから気を付けてね」

西園寺「そこはもう最初からスペシャルバーガーにでもしとけばいいじゃん。何でも希望叶えてもらえるんだから」

小泉「みんな最初から心の底からの希望を設定するはずだし……変更なんてすることあるのかな?」





モノクマ「後はまあ補足みたいなものだね」

『誰かが死亡する度に、死体発見アナウンスが島全体に流れます』

『モノクマ・モノミが参加者個人に肩入れすることはありません』

『ルールは追加される可能性があります』

モノクマ「ルールは以上! ということで一回全部まとめて表示するね」


<ホープロワイヤル、ルール>

『参加者は48人です』

『フィールドは一つの島で行われる。島は様々なエリアに分かれている』

『参加者は島のランダムな地点からゲームを開始する』

『敗北条件は殺されるか電子生徒手帳を壊されること』

『ゲームマスターはモノクマとモノミが務める』

『参加者はゲーム開始前に希望を一つ設定する』

『最後まで残った希望が優勝。その希望は実際に希望ヶ峰学園が総力を挙げて叶える』

『参加者の身体能力は平均化される』

『参加者はそれぞれの才能に応じた能力を一つ持つ』

『参加者にはそれぞれ電子生徒手帳が配布される。手帳は他の参加者に連絡を取ったり、現在の時間・島の地図と現在地・残りの人数・ルール・自分の能力と希望を表示することが出来る』

『ゲーム開始前に設定した希望は、電子生徒手帳からゲーム中一度だけ変更することが可能です』

『誰かが死亡する度に、死体発見アナウンスが島全体に流れます』

『モノクマ・モノミが参加者個人に肩入れすることはありません』

『ルールは追加される可能性があります』




苗木「たくさんあるね……覚えきれるかな」



日向「やってれば自然と覚えるだろ」



最原「このルール……何か隠された意図があるような……」



モノクマ「うぷぷっ、じゃあ早速だけど進めていくよ」

モノクマ「みんな隣のホールに移動してもらえるかな」


モノクマに言われるまま移動する48人。

移動した先のホールには、48個の大きなカプセルが置いてあった。



モノクマ「みんなの目の前にあるのがバーチャル空間へのダイブ装置だよ」

モノクマ「ダイブ機能だけじゃなくて、ダイブしている間の生命維持装置も備えているからね」

モノクマ「48人で戦うから長い時間かかるだろうけど、その間における現実の身体の諸々をサポートしてくれるよ」

モノクマ「そういうわけでそれぞれカプセルに入ってください!」



苗木「何かすごいお金がかかってそうだな……」

苗木(モノクマに勧められるままカプセルに入って寝そべったところでカプセルが閉まった)



モノクマ「さてこのままホープロワイヤル開始……の前に大事なことがあるよね」

モノクマ「そう、優勝したときに叶えてもらうそれぞれの希望の設定だよ!」

モノクマ「みんなの前に入力装置が出てきたと思うから入力してね。全員が入力した時点でゲームをスタートするよ」


苗木「希望の入力……あ、そうかゲームの開始前にするんだったね」

苗木(ルールとしては覚えていたけど、理解が追いついていなかった)



苗木「優勝したら希望ヶ峰学園に叶えてもらう希望……か」

苗木「あー何でもいいってなると、何を希望すればいいのか難しいな」

苗木(誰かに相談したかったけど、カプセルは閉まっていて他の生徒とはコミュニケーションは取れない)

苗木(ルール解説の後すぐここまで来たし、みんなも相談する時間はなかっただろう)



苗木「こういうとき一般的な望みは富とか権力とか名声だけど……」

苗木「んーどれもしっくりこないし……」

苗木「あ、何でもいいなら――」



『希望:世界平和』



苗木「これでよし、っと」


苗木(それからしばらくするとモノクマたちの声が聞こえてきた)



モノクマ「うぷぷっ、どうやらみんな希望の入力を終えたみたいだね!」

モノミ「みんな個性的な希望でちゅね!」

モノクマ「じゃあ準備も全て終えたし……始めようか!」



モノクマ「超高校級とも呼ばれる才能から希望とも称される君たちによる頂点を決める戦い」



モノクマ「ホープロワイヤル――スタート!!」



苗木(モノクマの開始宣言と同時にカプセルの内部が発光する)

苗木(目が眩むと同時に意識も段々と遠くなり……)

苗木(そして――)






苗木「ここは……」

苗木(気が付くと僕は周囲を家に囲まれた道路に立っていた)





<住宅地>

苗木「……あ、ここはもうバーチャル空間なのか」

苗木(認識が遅れたのは圧倒的リアル感のせいだった)

苗木(家に触ることも出来るし、風も感じるし、土の匂いをかぐことも出来る)



苗木「本当にゲームが開始したんだな……」

苗木(認識を切り替える。ポケットを漁ると説明通り電子生徒手帳が入っていた)

苗木(唯一の装備だ、ひとまず確認してみよう)


苗木(表示出来るのは現在の時間……朝の10時か)

苗木(島の地図と現在地は……この住宅地だけでもかなり広いのにそれでも島の一部みたいだ)

苗木(これだけ広い島だと48人いても他の生徒と会うのは一苦労するだろう)

苗木(残りの人数も始まったばかりだから48人から減ってないみたいだ)

苗木(ルールはさっき説明されたとおりで)

苗木(そして自分の能力と希望は……)



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』

『希望:世界平和』



苗木(能力は説明のときに開示されたとおり、そして希望もさっき設定したとおりだ)


苗木(一通り電子生徒手帳を確認した僕は次の行動を考える)

苗木「とりあえずこの道路にいるのは危険だよね」

苗木(周りから丸見えのため、誰かがこの住宅地に来た場合すぐに見つかってしまう)

苗木(身を隠すために僕は一つの住宅の中に入った)



苗木(住宅には生活感が一切感じられなかった)

苗木(それなのに家具などは一式そろっていて、不思議な感じがする)

苗木(僕は外から簡単に見つからないように二階の一室に入り中から鍵を閉める)

苗木(落ち着ける場所を手に入れた僕はこのゲームにおいてどう行動するべきかを考える)


苗木「サバイバルゲーム……って主に取れる方針は二つだよね」

苗木(他の参加者を倒しまくるか、潜伏して人数が減るのを待つか)

苗木(腕に自信があるなら前者を取った方がいい気もするけど……)

苗木(他の超高校級と正面から当たって勝てる自信はない)

苗木(ならば潜伏するしかない)



苗木(幸いにもここは住宅地というだけあってたくさんの家がある)

苗木(その中から僕が潜んでいる家を見つけ当てるのは不可能……)

苗木(いや、虱潰しに探せばいつかは見つかるわけだけど、それでも時間はかかる)

苗木(まだゲームも開始したばかりだし、すぐに見つかるようなことはないはず)

苗木(だから落ち着いて潜伏して――)




だっ、だっ、だっ、だっ!



苗木「っ……!!」

苗木(部屋の外から音が聞こえる)

苗木(これは……この家の階段を登る音!?)

苗木(っ、どうして……!?)



苗木(混乱するも状況は待ってくれない。足音が僕の潜む部屋の前までやってきたのが感じられる)

苗木「…………」

苗木(外にいる人に気づかれないように可能な限りの気配を消す)

苗木(緊張で心臓の音がやけにうるさく感じられる)

苗木(大丈夫……大丈夫だ)

苗木(もし入って来ようとしても部屋には鍵をかけてある。中には入ってこれない)

苗木(お願いだからそのまま去って……)



パンッ! パンッ!



苗木「えっ……!?」

苗木(祈る僕の前で、銃声が轟いた)

苗木(銃弾がドアを破壊したようで、こうなると鍵も意味を為さず)

苗木(その人が部屋の中に入ってくる)




霧切「……見つけたわ、苗木君」



苗木「霧切さん!」

苗木(入ってきたのは頼もしいクラスメイト)

苗木(霧切さんの姿に一瞬喜ぶが……)



十神『考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ』



苗木「あ……」

苗木(ルール説明のときの十神君の言葉を思い出す)

苗木(そうだ、いつもは仲間の霧切さん――でも今は敵で)

苗木(その彼女は片手に扉を破壊するために使ったと思われる銃を持っている)



霧切「全く手間をかけさせないで欲しいわね」



苗木(逃げ場のない部屋)

苗木(追いつめられた僕は正に絶体絶命で――)




――同じ頃、各所でも衝突が起こっていた。



<森林地帯>

大神「最初の相手はお主か」

辺古山「くっ……!」



<峡谷地帯>

日向「七海……」

七海「日向君」



<海岸地帯>

赤松「ここまで知り合いと会うとは思わなかったな……」

春川「そうだね」

百田「本当に戦わないといけないのか?」

最原「…………」








こうしてホープロワイヤルの火蓋は切って落とされたのだった。



今日はここまで。

以前夢野ニューゲームというssを書いてた者です。
その反省会で触れていたホープロワイヤルという話を今回投稿することにしました。
お付き合いしてもらえるとなによりです。

この話三ヶ月ほど前からpixivの方で掲載していて、話も軌道に乗ってきたのでこちらの方にも掲載することにしました。
あちらではすでに七話まで投稿しているので続きをすぐに読みたいという方はこちらからどうぞです。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10257530

続きの話も明日以降このスレに投下していきます。





また宣伝になりますが現在なろう系の異世界召喚のオリジナルssも連載しています。
気になった方はこちらもよろしくお願いします。

男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」
男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541083316/)

乙、ありがとうございます。

投下していきます。


<住宅地>

苗木(ホープロワイヤル)

苗木(超高校級48人によるサバイバルゲームで、僕は開幕潜伏することを選んだ)

苗木(幸いにもスタート地点は住宅地で、数ある住宅の一つに隠れればすぐには見つからない)

苗木(――そのはずだった)



霧切「………………」



苗木(二階の扉に鍵をかけて立てこもっていたところ、銃で扉を破壊して霧切さんが侵入してきたのだ)

苗木(いつもは頼もしいクラスメイトの霧切さんも現在は敵)





苗木(僕はこの絶体絶命の窮地から逃れるため――僕の足は自然と部屋の窓に向かっていた)




霧切「ちょっと待ちなさい、苗木君!」



苗木(霧切さんが制止の声を上げるが、それに従うわけには行かない)

苗木(僕は窓枠から身を乗り出して――)



苗木「……あっ、ここ二階だった!?」



苗木(気づくも勢いは止まらず、身体が空中に投げ出される)



苗木「うわぁぁぁぁっ……!!」

苗木(自由落下中、必死に思考する)

苗木(このまま落ちても死ぬ高さじゃないけど……落ちた後足が止まれば霧切さんはすぐに追いつくだろう)

苗木(着地が大事……でも、普通の高校生な僕はそこまで運動神経は良くない)

苗木(ちゃんと着地が出来るかは五分五分……)

苗木「っ……なら!」

苗木(僕は無我夢中で宣言した)



苗木「発動、超高校級の幸運!!」

苗木「無事に着地できる確率を上げて!!」



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』




スタッ!



苗木「はぁ、はぁ……」

苗木(慣れない大アクションに未だ心臓がバクバクしている)

苗木(超高校級の幸運……無事発動したようだ)

苗木(何か不思議な力が働いて、運良く着地できたのだと理解する)



霧切「全く……」



苗木(降りてきた窓を見上げると霧切さんがこちらの様子を見ていた)

苗木(と、思うとその姿が奥に引っ込む)

苗木(僕のように飛び降りるといった無茶なマネはせず、部屋を出て階段から降りてくるということだろう)


苗木(その窓から視線を下ろすと……気になるものを見つけた)

苗木「あれ? あの部屋の窓開いてたっけ……?」

苗木(ちょうど僕の潜伏していた部屋の真下、一階の部屋の窓が開いている)

苗木(潜伏する前に一度住宅は見回ったが、そのようなことは無かったはず)

苗木(考えられるのは……霧切さんが開けたという事だろうか)

苗木(でも、どうして……)



苗木「いや、そんなこと考えている場合じゃない!!」

苗木(霧切さんは銃を持っている、丸腰の僕がそのまま戦って勝てる相手じゃない)

苗木(降りてくるこの隙に逃げないと……!!)


苗木(住宅の敷地を出て……どちらに向かうか考える)

苗木(左に行けば住宅地の中に入っていく。入り組んだ道で霧切さんを撒くべきか)

苗木(右に行けばすぐに住宅地の外、森林地帯に出る。森の中に隠れて霧切さんをやりすごすか)

苗木(どちらにも利のある二択。僕は絶対な能力に決断を任せることにした)



苗木「発動、超高校級の幸運!!」

苗木「霧切さんから逃れるには右か左か教えて!!」



苗木(霧切さんだって右か左どちらを探すか迷うはずだ)

苗木(霧切さんが僕と同じ方向に来たらアウト。見つかる確率は50%で見つからない確率も50%)

苗木(なら、超高校級の幸運が使えるはず)

苗木(見つからない確率を50%から100%にあげればいい)

苗木(これでとりあえず窮地を脱せる)


苗木(――そのはずだった)



苗木「……あれ?」



苗木(いつまで経っても右に逃げるべきか、左に逃げるべきかが示されない)

苗木(どうやら能力の発動が失敗したようだ)



苗木「ど、どうして……?」



苗木(失敗した理由は分からないが、そのとき住宅の中からドタドタと音が聞こえてきた)

苗木(霧切さんが一階に降りてきたのだろう。すぐ外に出てくるはずだ)

苗木(このまま止まっていたら駄目だと、能力ではなく直感で右を選び、森林地帯を目指した)


<森林地帯>

苗木(足下に木の根が伸び、走りにくい獣道を駆ける)

苗木(後方から同じような足音も聞こえた)

苗木(姿は見えないが、霧切さんも僕を追って森林地帯に入ったのだろう)

苗木(僕は獣道を外れて、さらに濃い森の中を進む)

苗木(その途中に見つけた巨大な木。人が入れそうなほどの大きさがうろがあり、僕はその中に隠れた)



苗木「ふぅ……」

苗木(一息吐いたが安心は出来ない)

苗木(不可解なことが起きている。僕は整理して考えることにした)


苗木(まずはどうして霧切さんに潜伏した場所がバレたのか)

苗木(ゲームが開始したばかりでしらみ潰しに探す時間は無い)

苗木(それなのにこうも早く僕の潜伏していた住宅を見つけた方法は何か?)



苗木(住宅に隠れる際に分かりやすい痕跡を残した覚えはない)

苗木(……でも、何も痕跡を残していないかというと否定は出来ない)

苗木(わずかな痕跡から超高校級の探偵である霧切さんが僕を見つけだした?)

苗木(いや、そうだとしても早すぎる)

苗木(この早さはまるで僕の隠れている場所が分かっていて、一直線に向かったくらいでなければ――)




苗木「……そうか、分かったぞ!!」



苗木(簡単な話だった)

苗木(僕は失念していたのだ)



苗木(僕だけじゃなく、参加者全員が超高校級の才能に応じた能力を持っているということに)



苗木(彼女の才能は探偵――探し見つける職業)

苗木(ならばそれに応じた能力として――指定した人や物の場所が分かる、という能力を推測することが出来る)



苗木(霧切さんは銃を持っていた)

苗木(生徒の初期装備は電子生徒手帳のみ。だからおそらく銃はゲームの武器アイテムとして配置されていたものだろう)

苗木(どこかに隠されていたのかもしれないが、超高校級の探偵の能力で位置を調べて拾ったというわけだ)

苗木(その後、僕の位置を能力で調べて襲ってきた)



苗木(先ほど僕の超高校級の幸運が失敗したのも納得が行く)

苗木(右と左、どちらに逃げても霧切さんの能力によって絶対見つかるからだ)

苗木(逃れられる確率が0%なら、それを100%にあげることは僕の能力に出来ない)


苗木(だったらどうするべきか?)

苗木(この場所、木のうろもいずれ見つかる。まともに戦えば相手は銃を持っているため勝てるわけがない)

苗木(武器を調達しようにも森の中だ、ろくな物が無い)



苗木(ならば戦い方を考えるべきか……?)

苗木(霧切さんに対抗する……そのための戦法は――――)






霧切(私は苗木君の行方を追っていた)





霧切「どこに行ったのかしら……」

霧切(地道に探すが、こうも森が深くては上手く行かない)

霧切(能力を使えば一発で分かるけど……なるべくそうしたくない理由があった)



『能力:超高校級の探偵』

『指定した人や物の場所が分かる。一日五回まで使用可能』



霧切(その理由とは使用制限)

霧切(ルール説明のときに見た苗木君の幸運の使用制限が一日五回までとあったように、私の位置を調べる力も一日五回まで)

霧切(既に私は銃と苗木君の潜伏場所を調べたので二回使っている)

霧切(まだ昼前なのに三回目を使ってしまうと、今後不測の事態に対処しにくい)

霧切(だから自力で探し当てたかったのだけど……)



霧切「仕方ないわね、苗木君のくせに生意気なのよ」



霧切「発動、超高校級の探偵!」

霧切「苗木君の位置を教えなさい!」




霧切(そして私は能力の示した巨大な木の前までやってきた)

霧切「こんなところに隠れていたなんてね」

霧切(観察しながら木の周囲を歩く)

霧切(隠れられそうな場所が一つ……どうやらうろがあってその中なら人も入れそうだ)



霧切「かくれんぼは終わりよ」

霧切「さっさと出てきなさい、苗木君」



霧切(私は投降するように促すが……苗木君は出てこない)

霧切「全く、そこにいるのは分かっているのよ」

霧切(私は言いながら木のうろを覗きこんで――)




霧切「え……?」



霧切(そこに誰もいないことを確認する)

霧切(どうして……能力はこの場所を示している)

霧切(隠れられる場所はここだけしかない)

霧切(なら、苗木君はどこに――)





苗木「やああぁぁっ!!」





霧切(戸惑っていると苗木君の意気込んだ声が聞こえてきた)

霧切(その方角は――上空……っ!?)




苗木(霧切さんの能力が物の位置が分かるだと推測して……気になったのは潜伏した部屋の真下、一階の窓が開いていたことだった)



苗木(一階の窓が開いていた理由は霧切さんが僕がいないかと調査したからだろう)

苗木(能力で僕の位置を把握しているはずの霧切さんにすれば無駄な行動に思える)

苗木(でも、それが必要な行動だったとしたら?)

苗木(つまり霧切さんは僕が一階に隠れているのか、二階に隠れているのか分からなかったとしたら――)



苗木(霧切さんの能力は物の座標が分かっても、その高低までは判別できないということになる)



苗木(ならば対策が一つ出来る)

苗木(霧切さんがこの場所を能力で探し当てれば、分かりやすい隠れ場所、木のうろに注目するだろう)

苗木(だが、高低の差が分からないという可能性に気づいて、僕は潜伏場所を変えていた)

苗木(そこは木に登った枝の上。幹にこぶがたくさんあり簡単に登ることが出来た)



苗木(あとはタイミングを窺うだけ)

苗木(能力で探し出し僕がうろにいると思い、しかし見つからなかった霧切さんは一瞬虚を突かれる)




苗木「やああぁぁっ!!」

苗木(そのタイミングで僕は霧切さん目掛けて飛び降りた)

苗木(ここが僕の唯一の勝機……!!)




苗木の攻撃は完全な奇襲となり、霧切は対応できなかった。



着地の衝撃は積もった落ち葉に吸収される。



二人は揉みくちゃになりながら森を転がり――。



しばらくして、一人が姿勢を立て直した。



もう一人は組み敷かれたままだ。



圧倒的優位に立ったその者が口を開く。






霧切「苗木君にしては悪くなかったわ」

霧切「私の能力が高低差を判別できないところまで見抜かれるなんてね」

霧切「でも、残念ね」

霧切「奇襲という完全な優位はあっても、私は護身術を修めている」

霧切「苗木君ごとき取り押さえるのは簡単よ」



苗木「くっ……」



後ろ手に関節を極められた苗木。

こうなっては挽回の方法がない。



勝敗はここに決着した。

勝者は――超高校級の探偵、霧切だ。


苗木(殺される……!!)

苗木(あ、いやバーチャル空間だから実際に死ぬわけではないけど……)

苗木(未だ島に死体発見アナウンスは流れていない)

苗木(つまり脱落した者はまだいないということで……一番最初の脱落者は僕になるだろう)



苗木(……でもまあ、仕方ないか)

苗木(ちょっと運がいいだけの僕が、超高校級の才能を持つみんな相手に勝てるわけなかったんだ)

苗木(ここで霧切さんに勝てたとしても……到底優勝までは行けなかっただろうし)

苗木(いつか脱落するのがちょっと早くなっただけだ)



霧切「さて、これでようやく――」



苗木(霧切さんが口を開く)

苗木(今、最後通牒が下されようとして――)




霧切「落ち着いて話をすることが出来るわね」



苗木「え……?」



苗木(霧切さんの言葉に耳を疑った)



苗木「話って……何の話?」

苗木「僕は……殺されるんじゃないの?」

苗木「そのために霧切さんは僕を襲ってきたんじゃないの?」



霧切「私が襲った? いつどこにそのような事実が存在したかしら?」

苗木(どうやら霧切さんは怒っているようだ)



苗木「で、でも僕が潜伏していた扉を銃で破壊したのは……」

霧切「あれは手間を省いただけよ。怯えている苗木君じゃ、どうせ鍵を開けなさいと言っても開けなかったでしょう?」

苗木「そ、それはそうかもしれないけど……でもだったらどうして霧切さんは僕のところに来たの!?」

霧切「話をするためよ」

苗木「じゃあ僕をここまで追い回した理由は!?」

霧切「話をしようと思ったのに逃げ出したら、追って話を聞かせるしか無いでしょう」

苗木「話、話って……この自分以外全員敵の戦場で何を話すつもりだったの!?」



霧切「……はぁ、そこからなのね」



苗木「え……?」

苗木(霧切さんは怒りから一転、呆れた表情を浮かべる)




霧切「あなたが自分以外敵と思った理由はルール説明のときの十神君の発言からなのだろうけど」





十神『考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ』





霧切「――あの発言は嘘よ」



苗木「嘘……っ!?」



霧切「このホープロワイヤルは希望と希望のぶつかりあい」



霧切「でも希望って……一人だけで持つものばかりではない」



霧切「複数人で共有出来る希望だってあるでしょう?」




苗木「十神君の嘘……希望の共有……」

苗木(つまり……どういうこと……?)



霧切「ルールをよく理解すれば分かるはずだけれどね」

霧切「まあいいわ、解説するから場所を移しましょう」

霧切「いつまでもこんな森の中に居たら落ち着かないわ」

苗木「は、はぁ……」



苗木(そうして僕はよく分からないまま霧切さんに連れ立って来た道を辿り、住宅街に戻っていくのだった)

<住宅地>

苗木(僕は霧切さんと元々潜伏していた住宅まで戻ってきていた)

苗木(霧切さんは台所を漁ってお茶とお菓子を取り出す)

苗木「勝手に取って大丈夫なの?」

霧切「泥棒みたいって言いたいのかしら? ここはゲームのフィールドとして設定された無人の住居なのに、遠慮して何になるのよ」

苗木「あ、そうか」

霧切「このゲーム律儀に空腹やのどの渇きを再現しているみたいだから、補給できるうちに補給しておかないと大変よ」

霧切「誰かさんを追い回したせいで余計な体力を使ったのを回復しないと」

苗木「ごめんなさい……えっと、僕もいただくね」


霧切「さて、どこから話を始めればいいかしら?」

苗木「それなら十神君のルール説明の時の発言が嘘ってどういうことなの?」



十神『考えてもみろ。最後まで残った一人が優勝……つまり自分以外全てが敵というわけだ』



苗木「このホープロワイヤルって優勝した人が希望を叶えることが出来るんだよね」

苗木「だったらやっぱり十神君の『自分以外が敵』って発言が正しいと思うんだけど」



霧切「違うわ。このルールをよく見なさい」



『最後まで残った希望が優勝。その希望は実際に希望ヶ峰学園が総力を挙げて叶える』



苗木「よく見てって言われても……?」

霧切「注目すべきところは最後まで残った『希望』が優勝ってところよ」

苗木「……あ、ルールでは残った希望なのに、十神君は残った一人って言っている」

苗木「これが嘘っていうこと?」

霧切「そういうこと」


苗木「でもそれで何が変わるの?」

霧切「十神君の嘘だと最後の一人まで戦いは終わらないけど、本当のルールでは残り二人以上でも終わる可能性があるっていうことよ」

霧切「例えば最終局面で残った三人が同じ『希望A』を掲げていたとしたら、その場には希望が一つしか残っていないってことで優勝が決まる」



霧切「優勝条件からして同じ希望を持つ者と争う必要はない。それどころか協力することが出来る」

霧切「つまりこのホープロワイヤルは個人戦じゃなくて――同じ希望を持ったチームによる戦いってことなのよ」



苗木「なるほど……」

霧切「十神君が嘘を吐いた理由はこのチーム戦ってことを気づかせないためでしょうね」

霧切「個人戦だと思わせれば、差し伸べられた手を弾く生徒が出てくるでしょうから。さっきまでの苗木君みたいにね」

苗木「ごめんなさい」



霧切「少しでも他の生徒がチームを組むことを妨害するための嘘……とはいえ私のように気づく生徒は出てくるはずだから効果は一時的のはず」

霧切「それでも手を打ってきたということはやれることは何でもやるということ」

霧切「彼、本気で優勝を狙っているのかもね」

苗木「十神君の本気か……」


霧切「さて話を戻すけどこのホープロワイヤル、チーム戦といっても手を組むのは容易ではないわ」

苗木「希望Aを掲げている人と希望Bを掲げている人は組むことが出来ないもんね」

霧切「このルールを使って――」



『ゲーム開始前に設定した希望は、電子生徒手帳からゲーム中一度だけ変更することが可能です』



霧切「希望Aが折れて希望Bに変更すれば組めるけど、優勝しても希望Aは叶わない。それを良しとするかどうかね」

苗木「そうか。このルールはゲーム中にチームを作るためにあったのか」

霧切「モノクマがハンバーガーを例に出してふざけていたけど、このルールはかなり重要よ」

霧切「一度しか変更できないというのも裏切ることが出来ないようにってことね」

苗木「どういうこと?」

霧切「二回変更できるとしたら、希望Aを希望Bに変更した後、優勝直前で希望Aに戻すなんて出来るじゃない」

霧切「そうなるとチームが機能しなくなる」

霧切「希望が電子生徒手帳にはっきり記されているから詐称することが出来ないことも含めて、同じ希望でチームを組んだ場合裏切られる可能性はかなり低くなるわね」

霧切「もちろん何事にも例外はあるけれど」



苗木「例外……?」


霧切「それはさておき……苗木君、あなたの希望は『世界平和』じゃないかしら?」

苗木「え、よく分かったね」

霧切「富や名声、権力に興味ない苗木君が何でも叶えていいなんて言われて思い浮かべる希望がそれだろうと推理したまでよ。分かりやすい人ね」

苗木「うぐっ……」

霧切「まあでも狙ってやったわけじゃないようだけれど、中々いい希望よ」

苗木「……? いい希望ってどういうこと?」



霧切「逆に質問。この希望によるチームシステムにおいてどのような希望が有利か分かるかしら?」

苗木「えっとそれは……みんなが賛同してくれるような希望かな」

苗木「他の生徒に同じ希望に変えてもらえればチームを組んで有利に戦えるし」

霧切「そういうこと。極論だけど今回の参加者48人中48人賛同するような『大きな希望』があれば戦いは始まらない」

霧切「でもそうはならない。人によって希望は千差万別だから」

苗木「富、名声、権力だけでも人によって一番は変わるもんね」



霧切「苗木君の『世界平和』は少々綺麗事だけれど、よほどのひねくれ者でもない限り賛同してもらえる大きな希望。つまりこれから出会う相手に対して、希望を変えてもらうように説得しやすい希望だわ」

霧切「もちろん相手だって自分の希望があるはずだから簡単には行かないけれど」


霧切「逆に自分にしか理解できない希望っていうのもあるわね」

霧切「例えば聞いた話だけれど、才囚学園には『姉の友達を作る』ことに執着している生徒がいるそうよ」

苗木「あ、僕も聞いたことがあるかも。超高校級の民俗学者の真宮寺君だっけ」

霧切「その彼のことだから、このホープロワイヤルでも『姉の友達を作る』って希望を掲げているでしょうけど……この希望に賛同する生徒が他にいると思う?」

苗木「いないだろうね……じゃあその真宮寺君は一人で戦うことを強いられるわけか」



霧切「そういうこと。でも、だからって彼が『大きな希望』によりチームを組んだ生徒たちに必ず負けるかといわれるとそうでもない」

霧切「超高校級の能力という現実離れしている能力も存在するこの戦場で、一人対チームで前者が勝つことは十分にあり得る」

霧切「それを押し通すだけの『強い希望』があればね」



苗木「大きな希望、強い希望……様々な希望が存在して、それぞれが叶えるために戦う」

苗木「ホープロワイヤル……希望争奪戦ってことか」


霧切「これで前置きは終わったわね」

苗木「前置き……? 本題だったんじゃないの?」

霧切「そんなわけないでしょう。私があなたにルール解説するためだけに話しかけたと思っているわけ?」

苗木「あ、そっか。今まではルールをよく理解していなかった僕のための説明で……霧切さんの本当の用事は……」



霧切「苗木君、あなたに私と組んで戦って欲しいということよ」



苗木「僕と霧切さんがチームに!?」

霧切「ええ。正直このホープロワイヤル気乗りしないのよ。希望を叶えるって言っても、希望ヶ峰学園に叶えてもらわないといけない大それた希望なんてないし」

霧切「開幕自殺しても良かったのだけど、あくまでこれは学園のカリキュラムでしょう? 早々に負けた生徒は悪い評価を付けられそうじゃない。それは嫌よ」

霧切「希望を捨てたメリットとして私は誰とでも組むことが出来る。これを生かさないわけには行かない」

霧切「それで組んでもらう生徒を考えて……苗木君、あなたを選んだってわけ」


苗木「それって……僕が頼りがいあるってこと?」

霧切「自惚れもいいかげんになさい。組むに当たって他者に従うのは面倒、その点苗木君なら私に従ってやりやすいじゃない」

苗木「ず、随分な評価だね……」



霧切「それに優勝までは目指していないといっても、私の意図に反する希望を持つ者に協力するのも嫌だわ」

霧切「でも『世界平和』ならまだ叶ってもいいと思える。探偵として色んな事件に遭遇してきた私にとってね」



苗木「霧切さん……」

苗木「って、あ、希望は『世界平和』で行くんだ。僕が霧切さんの希望に合わせて変更する形でもいいと思ってたけど」

霧切「言ったでしょ、私に大それた希望は無いって」



霧切「それに本当に出来るかしら?」

苗木「え?」

霧切「適当に選んだそうだけど……あなたは本当に『世界平和』って希望を捨てることが出来るの?」

苗木「ええと……」



霧切「……まあ意味ない仮定ね。だって私が入力した希望も『世界平和』だから」



苗木(霧切さんは言うと電子生徒手帳を起動して僕に見せる。そこには……)

『希望:世界平和』

苗木(そのように記されていた)



苗木「霧切さんの希望も『世界平和』だったんだ」

霧切「先ほどあなたが『世界平和』という希望を選ぶと推理したのは言ったわよね。手間を省くためにも事前に合わせておいただけよ」

苗木「じゃあ……」

霧切「これでどちらが希望を変更するまでもなく組むことが出来るわね」




霧切「ということで――よろしく」

霧切「希望『世界平和』を実現するためにも協力して戦いましょう」



苗木(霧切さんが差し出した手を、僕は――)



苗木「こちらこそよろしく、霧切さん!!」



苗木(がっしりと握り返して……こうして僕の希望は二人の希望となった)






――同じ頃。



<最原視点>

<海岸地帯>



最原「――ということで、同じ希望を持てば争う必要はないってことなんだよ」

赤松「なるほど」

百田「よく気づいたな、終一!」

春川「何かあるとは思ってたけど、そういうことか」



最原(僕は偶然出会った赤松さん、百田君、春川さんにホープロワイヤルのルールに隠された意図について説明していた)

最原(どうしても戦わないといけないのか、と思っていたところに朗報だった。気づくことが出来て良かったな)


最原「それで聞いておきたいんだけど、みんなの希望って何?」

最原「僕の希望は『探偵事務所を開く』なんだけど」

赤松「あ、私はもっと多くの人に私のピアノを聞いてもらうために、『ワールドツアーを開催』って希望にしたよ!!」

百田「俺の希望はもちろん『宇宙に行く』だ!!」

最原「百田君らしいね」



最原「………………」

最原(当然ながらバラバラの希望……もしチームを組むなら、誰かの希望に合わせるか、四人で新たな希望を考えて設定しないといけないけど……)



最原「ねえ、赤松さん。どうにか希望を変えてもらうことは出来ないかな?」

赤松「それは『探偵事務所を開く』に合わせて欲しいってこと?」

最原「いや、百田君の『宇宙に行く』って希望に合わせて欲しいんだ」


百田「……いいのか、終一?」

最原「うん。百田君には宇宙の良さをいつも教えられて、僕も一回行ってみたいと思っていたし」

最原「それがこの四人一緒に行けるならさらにすごいことだと思わない?」



赤松「……そうだね、私も最原君と一緒に宇宙に行けたら楽しいかも」

赤松「それに宇宙で初めて演奏したピアニストなんて称号もらえたらすごいだろうし!」



百田「宇宙にピアノを持っていけるかは分からねえが……まあ希望ヶ峰学園が何でもするっていうんだ、それくらいのワガママも許してもらえるだろうな」

百田「じゃあおまえたちの言葉に甘えてもいいか?」



最原「もちろんだよ!」

赤松「うん! ほら、春川さんも………………って、あれ? そういえばずっと黙ってたけど、春川さんはどうなの?」

春川「私は……その……」

最原「あ、もしかして何か他に譲れない希望でもあったかな」

百田「春川とも宇宙に行きたかったが……無理強いは出来ねえか」



春川「ち、違うの!」

春川「私の希望は……その……最初から『宇宙に行く』だから……」




百田「お、そうなのか。じゃあ問題ないな」

春川「うん。『宇宙に行く』ために頑張ろうね」

百田「そうかそうか……ハルマキも宇宙の良さに気づいていたのか」

春川「……まあ、そんな感じ」





最原「何とかまとまったけど…………でもどうして春川さんは最初黙ってたんだろう?」

赤松「もう、最原君は分かってないなあ」

最原「え?」

赤松「だって最初から百田君と春川さんは『宇宙に行く』で一緒だったんだよ! 相思相愛だったんだよ!! そんなの言い出しにくいじゃない!!」

最原「あ」

赤松「もう、最原君はもうちょっと女心を理解しないと、だよ」



最原(その後四人で電子生徒手帳を出して、僕と赤松さんは希望を変更する)

『希望:宇宙に行く』

最原(四つの手帳に表示されたその希望)

最原(僕らで絶対に叶えて見せる……!!)




<日向視点>

<峡谷地帯>



七海「――そういうことで、同じ希望を持った人同士は組むことが可能……だと思うよ」

日向「そういうことか」



日向(俺は偶然出会った七海にホープロワイヤルのルールに隠された意図を教えてもらっていた)

日向(にしても本物の十神が吐いた嘘か……)

日向(そういや狛枝と才囚学園の王馬だったか、あのとき何か意味深な反応を返してたけど……二人とも気づいていたんだろうな)


七海「ところで日向君の希望は何なの?」

日向「ん、ああ、俺の希望は『77期生に編入する』だ。七海たちと同じクラスに入りたいってことだな」

七海「日向君が同じクラスに……?」

日向「ああ。何でも叶う希望の使い方としては贅沢かもしれないけどな」



七海「ううん、そんなことないよ」

日向「え……?」

七海「日向君が一緒のクラスになったら、私も嬉しいから」

日向「七海……」

七海「だから私もその希望に賛同するよ。これで私たち同じチームで戦えるね」

七海「よろしく」



日向(さっきまで自分以外が敵だと思っていたから、七海とも距離を取っていた)

日向(そこから七海が近寄ってきて、手を差しだそうとするが――)



日向「ちょっと待ってくれ」



日向(俺は制止の声をかける)



七海「……? どうしたの、日向君?」

日向「その手を握り返す前に質問に答えてもらって良いか?」

七海「質問? ん、いいけど」

日向「ああ。なら遠慮なく行かせてもらうが――」






日向「おまえは一体誰だ?」



日向「七海のフリをして俺に近づいて――何が目的だ?」



七海「…………」





<峡谷地帯>



日向『おまえは一体誰だ?』

日向『七海のフリをして俺に近づいて――何が目的だ?』



七海『…………』



日向の指摘により二人とも動きが止まる。

それから数秒経って。

先に口を開いたのは七海だった。



七海「私のフリ……ってどういうこと、日向君?」

日向「ようやく動揺が収まったか、よく取り繕ったじゃねえか」

七海「意味分かんない……私は私だよ」


七海が日向に近づこうとして。


日向「それ以上近づくな」

七海「……どうして?」

日向「おまえが偽物ではないかと疑っているからだ」

日向「俺に近づこうとしているのは、攻撃するためなんじゃないのか?」

七海「そんなことしないよ。信じてよ、日向君」



日向「あくまで本物だと言い張るのか。ならいいぞ」

日向「本物ならなおさら俺の言うことを聞いて近づかないでくれるよな?」

日向「俺の疑念を晴らすために協力してくれるよな?」

七海「……それで日向君の気が済むなら付き合うよ」


七海「私のフリ……か」

七海「日向君も何を言い出すのかって思ってたけど」

七海「言われてみればこのゲームには超高校級の才能に応じた能力ってのがあるもんね」

七海「それを使って私に化けた可能性……か」



日向「ああ。才能からしてそういうことが出来そうな生徒が二人いる」

日向「超高校級の詐欺師と超高校級のコスプレイヤーだ」



七海「詐欺師……十神君か。確かに彼の超高校級の能力は誰かに化けるものになるかもね」

七海「才囚学園の白銀さん……コスプレイヤーの彼女も一緒か」


七海「でもこうして私の姿、声まで完璧に再現するのは……」

七海「いや説明であった確率を操る苗木君の能力を基準に考えるとそれくらいは出来て当然かも」

七海「なら私の姿や声からは偽物か判別できないね」



七海「だったら私しか知らない質問をするとか? おそらく二人の才能からして記憶までは再現できないと思うし」

七海「……あーでも白銀さんはともかく、十神君の方は一緒のクラスだから私のこともよく知っているかも」

七海「やっぱり記憶から証明するのも難しいか」



日向「………………」

日向(冷静に分析する七海)

日向(その姿を見ていると……自分の疑念が間違いだったのではないかと思ってしまう)

日向(いや……でも……俺は……)




七海「どうすればいいかな、日向君」



日向「……そうだな」

日向(首をかしげるその姿、俺を頼るその声)

日向(全てが七海だとしか思えない)



日向「………………」

日向(俺はどうするべきか考えて――)






日向「……すまなかった」



日向(俺は頭を下げた)



七海「え、日向君どうしたの?」

日向「七海を試すようなマネして悪かった」

七海「試す……あ、そっか」

七海「鎌かけだったんだね」



日向「ああ。偽物だったら疑えばどこかでボロを出すと思ったんだ」

日向「でも、今のおまえは……どうみても七海本人だな」

日向「疑ってしまって……見抜けなくてすまん」




七海「そんなことないって」

日向「許してくれるのか……?」



七海「日向君の想定ももっともだもん」

七海「超高校級の能力が存在するってことは、それくらい警戒していかないといけないってことだね」



日向「ああ……って、偉そうに俺が言うのも違うが」

七海「ふふっ……じゃあこれで信じてもらえたかな」

日向「もちろんだ」

日向(そして俺から一歩七海に歩み寄る)



日向「開始からグダグダで……七海は気乗りしないかもしれないが、ホープロワイヤル一緒に頑張ろうな」

七海「……そうだね。程々に頑張るよ」



日向(俺と七海の手が今度こそ交わされようとして)





日向「――ようやくボロを出したな」



七海「……え?」



日向(俺は警戒して距離を取る)



七海「日向君……どういうこと? まだ私が偽物じゃないかって疑っているの?」

七海「気持ちは分かるけど、執着しすぎると――」



日向「疑いじゃない。確定だ」

日向「おまえは七海の偽物だ」

七海「…………」


日向「ずいぶんと七海のフリが上手かったが……そもそもどうして俺がおまえを偽物だと疑ったのか分かってないようだな」

七海「疑った理由……?」

日向「ああ、おまえは七海を完璧にトレースしていた。この場が特殊じゃなければ、俺だって騙されていただろう」

七海「特殊な場……」

七海「……あ」



日向「今さら気づいたか。七海はいつだって気だるげだ」

日向「しかし彼女の才能を発揮するもの、ゲームだけは例外でやる気を見せる」

日向「そしてこの場はすでにホープロワイヤルというゲーム会場だ」

日向「なのにいつもの気だるげな七海を演じたのはマズかったな。ましてや『程々に頑張る』なんて言葉が出るわけがない」



七海「そっか……さっきのも私を本物だと信じたフリだったんだね。失言を引き出すために」

七海「やっと騙されてくれたと思って……緩んじゃったか」



日向「勝利を確信した人間ほど隙だらけだ」

日向「そろそろ本当の姿を見せてもらうぞ――」




日向「超高校級の詐欺師……!!」



七海→十神(太)「くくっ、よく見破ったな」

十神(太)「誉めてやるぞ」




日向(七海の姿から十神の姿に戻った詐欺師)



日向「やはりおまえの能力は指定した人間に化けるか」

十神(太)「そういうことだな」



『能力:超高校級の詐欺師』

『指定した人物の姿、声になる。一日三回まで使用可能』



十神(太)「これで騙して近づき倒そうと思っていたのに……まさか気づかれるとはな」

十神(太)「形勢を互角に戻されたか」



日向(一対一で向き合う俺たち)

日向(おそらく運動能力に大きな差はないため言ったのだろうが)



日向「そんなわけないだろ」


十神(太)「何……?」

日向「形勢は互角じゃない。俺の有利だ」

日向「簡単な話だ。おまえは超高校級の能力を見破られて無力化されている」

日向「でも、俺の超高校級の能力は見破られていない」

日向「それだけで十分なアドバンテージだろ?」



十神(太)「くっ……」

日向「まさか自分だけ武器を持っているつもりだったのか? その油断が命取りだな」



日向(そうして俺が能力を発動しようとしたそのとき)




七海「日向君!!」



日向「七海……!?」

日向(後方からの声にふりかえると七海が駆け寄ってきていた)

日向(正面には変わらず十神がいるし……本物か)

日向(偶然俺を見つけたということだろう)



十神(太)「運良く本人が来たか……これでは騙すのも失敗していただろうな」

日向「残念だったな」

七海「えっと……どういう状況?」

日向「あとで説明する。まずは十神を倒す」

七海「……う、うん」



日向(そのまま寄ってきた七海だが、説明する前にやることがある)

日向(俺を騙そうとしたこの詐欺師は敵だ)

日向(先に倒そうとして――)




七海(?)「別に説明しなくてもいい、状況は分かっているしな」



日向「……っ!?」 グサッ!!



日向(どういうわけか……七海が至近距離からナイフで俺を刺していた)



日向「くっ……!!」

日向(状況は分からないが凶器を振るっておいて味方はあり得ない)

日向(俺は七海を突き飛ばす)



七海(?)「狙い通りだ」

十神(太)「上手く行ったな」

日向(七海はそのまま十神の横に並ぶ……どういうことだ?)



日向「二人とも組んでいたのか……?」

七海(?)「ああ。そういうことだ」

日向「どうして……何の希望で結託して……」

七海(?)「そうだな……もうこの姿でいる必要はないか。全く騙すためとはいえ、俺が女のフリをするとはな」



日向(七海が言うとその姿が変わって――)




七海→十神「こういうわけだ」

十神「残念だったな」



日向「十神……っ!!」

日向(本物の十神の姿に変わる……これはどういうことだ?)



十神「端的に説明してやろう。俺の能力『超高校級の御曹司』でこいつの詐欺師の能力をコピーしておいたということだ」



『能力:超高校級の御曹司』

『触れた人間の能力をコピーすることが出来る。なお、すでに他の能力をコピーしている場合上書きする』

『現在コピー中の能力:超高校級の詐欺師』



日向「詐欺師の能力を……それで七海のフリをして……」

十神「おまえを襲ったというわけだ。偽物の後に出てきたから本物だと思って騙されたな」



日向(くっ……油断した)

日向(このタイミングで七海がこの場に姿を現すなんて偶然がそうそう起きるわけ無いのに)

日向(勝利を確信した人間ほど隙だらけ……まんま返されたな)


腐川「びゃ、白夜様。上手く行きましたね」



日向(物陰からさらに一人生徒が出てくる)

日向(超高校級の小説家……腐川冬子。十神の熱烈的なファンだったか)

日向(そして三人が横に並ぶ)



日向「まだゲームが始まったばかりだってのに……俺を二段構えで騙す作戦といい、三人でチームを組んでいることといい、ずいぶん手際が良いな」



十神「ゲーム開始直後に電子生徒手帳から俺の言うことを聞くこいつらに連絡した」

十神「そうして集まって、俺の希望に変えさせてチームを組んだというわけだ」

腐川「ほ、本当は私が白夜様と結ばれるって希望だったけど……びゃ、白夜様の言うことには逆らえないもの」

十神(太)「俺を影武者として正式に認めてくれるとあれば希望を変えることくらい吝かではない」

十神「俺らの希望はこうだ」



『希望ヶ峰学園が十神グループの傘下に入る』



十神「とはいえこの希望もついでだ」

十神「あらゆる才能の頂点に立つこと……この戦いに勝つこと事態に意味がある」

十神「だから勝つために何でもしてやる」


十神「というわけだ、おしゃべりはここまでにしておこうか」

十神「おまえたち、こいつの電子生徒手帳を奪え」

十神(太)「ふん、いいだろう」

腐川「わ、分かりました、白夜様」



日向「ちっ……!」

日向(電子生徒手帳を壊されても負けだ……奪われるわけには行かない)



十神「抵抗するか、無駄だな」

十神「こちらは三人、そっちは一人。その上不意打ちでおまえはナイフが刺さっている」

十神「どうあがいても絶望だ」


日向「それは……どうかな?」

日向(挑発的な笑みで返すが……十神はそれを予想していたようだ)



十神「使うか……おまえの身にも宿っているだろう能力を」

十神「どうやらこの状況からも逆転できる能力みたいだな」



日向「……いや、そんなことないさ」

日向「予備学科の俺だぞ。才能もない俺に見合った駄目駄目な能力だ」

日向(せめてもの油断を誘うために嘘を吐くが)



腐川「……白夜様、今の言葉嘘です! あいつの能力は……!」

日向(腐川の反応は……もしかしてやつの能力によるものか?)



『能力:超高校級の文学少女』

『嘘が分かる。常時発動する』



十神「それくらいおまえに言われんでも分かっている」

十神「見せてみろ、日向。おまえの能力を」




日向「後悔するなよ」



日向「発動――超高校級の希望!」



日向(俺は能力の発動を宣言すると、その姿が変わり――)





カムクライズル「ツマラナイ……」



『能力:超高校級の希望』

『カムクライズルになる。その他詳細不明』





十神「っ……!」

十神(日向がカムクライズルの姿へと変わった)


十神(どのような能力なのか見ている目の前で……)



カムクライズル「……」

十神(太)「なっ……!?」

十神(ナイフによって付いた傷を一瞬で回復させて)



カムクライズル「……」

腐川「と、飛んだ……!?」

十神(跳躍して一息で岩山を登り、俺たちの前から姿を消した)



十神(後に残されたのは俺たち三人だけだ)


十神(太)「逃げたのか?」

腐川「み、みたいだけど……でも、あいつの能力はどういうわけ?」



十神「……上々だな」



十神(日向にはまんまと逃げられた形だが……そもそも今回の俺たちの狙いは日向を殺すことではない)

十神(ゲームが開幕したばかりの今、一人減らそうがそこまで意味はないからだ)



十神(本当の目的は……日向の能力を見極めること)

十神(襲撃はあいつをピンチに追い込むことで能力を発動させるため)

十神(そして強い能力なら俺の能力でコピーして、ゲームを有利に進めるつもりだった)



十神「………………」

十神(カムクライズルになったあいつは傷の治癒、超人的な運動能力を見せて……なのに俺たちの前から一目散に逃げた)

十神(やつの能力は……おそらく……)


十神「なるほど」

十神(太)「どうする、追うか?」

十神「いやいい、捨て置け」



腐川「い、いいんですか。あの能力のコピーを狙わなくて」

十神「ああ、あいつの能力は欠陥がある。最強にはほど遠い」

腐川「欠陥……?」





十神「脇道にそれるのは終わりだ。計画通りプランAを実行する。行くぞ」





十神(太)「いいだろう」

腐川「わ、分かりました、白夜様!!」



そうして三人もその場から姿を消した。


<住宅地>



苗木(ルール解説も終わり、霧切さんとチームを組むことになった僕は次の行動を開始しようとしていた)



霧切「超高校級の能力なんて現実離れした能力がある以上、受け身になるのは悪手」

霧切「こちらから動いていきたいわね」

苗木「潜伏していてもバレるもんね」

苗木「少なくとも超高校級の探偵はもう一人いるわけだし」

霧切「最原君ね。全く同じ能力なのかは分からないけれど……」



苗木「でも、これからどう動くの?」

霧切「それは――」



苗木(霧切さんが口を開こうとしたそのときだった)




モノクマ『死体が発見されました!!』



苗木「っ……!!」

苗木(モノクマによって島全域にアナウンスが流れる)



苗木「今のは……えっと、ルールだと誰かが死亡した時点で流れるんだったよね」

苗木「ゲームも始まったばかりだってのに誰が……」

霧切「しっ……まだみたいよ」

苗木「え……?」





モノクマ『死体が発見されました!!』





苗木「っ、二回目!?」

苗木(今のほとんど間隔が無かったけど……ほぼ同時に二人も殺されたの!?)



苗木「一体、何が起きているんだろう……」

霧切「…………」




――時を少しさかのぼる。



<森林地帯>



大神「最初の相手はお主か」



辺古山「くっ……!」



ゲーム開始直後のタイミングで、77期生と78期生の武道家を極めし二人が激突しようとしていた。



<森林地帯>



超高校級の格闘家、大神さくら。

超高校級の剣道家、辺古山ペコ。



一流の武道家である二人。

一期しか違わない点から何かと比較されがちである二人。





お互いの能力も。

『能力:超高校級の格闘家』

『格闘家としての力、技術を発揮できる』



『能力:超高校級の剣道家』

『剣道家としての力、技術を発揮できる』

武闘派の生徒にかけられた枷として、現実と特に変わらない状態だった。




ホープロワイヤルの主旨、どの希望が一番優れているのかを体現したような戦いは。





大神「逃がしはせんぞ!」

辺古山「くっ……!」





逃げる辺古山を大神が追う展開となっていた。


剣道三倍段という言葉がある。

剣道家相手に素手で戦う者は三倍の段位があって互角であるというものだ。

それだけにリーチの差は大きい。



つまり本来は剣道家である辺古山が有利のはず。

なのにどうして現在辺古山が逃げる状況になっているのか。



それは剣道家としての本領を発揮できていないからだった。



開始直後、この島に飛ばされたばかりで準備する時間も無かったタイミングで大神と出会ったため。

現在の辺古山は竹刀もその代わりになりそうなものも持っていないのである。

手元にあるのはプレイヤーの初期装備、電子生徒手帳だけだ。


大神「最初からお主と会うとは……幸運であり不運だった」

大神「無手同士故こうして圧倒できる訳だが、武道家としてやはり竹刀を持った本気のお主を相手してみたい気持ちもある」

辺古山「だったら見逃せばいいではないか!」

大神「それもそれでまた違うな。……ふんっ!!」



森の中を駆けながら大神は拳を繰り出す。

辺古山は間一髪で避けると、その後ろにあった木に当たる。



ズンッ!! と。



人体と木が衝突したとは思えないほどの重低音が森に響く。


辺古山(何て一撃だ……!)

辺古山(一発でも食らえばアウトだろう)

辺古山(反撃に出たいが……竹刀が無いのは痛い)



辺古山(無手での取り組みも少しは自信がある。全くの素人が相手であれば制圧することも可能だろう)

辺古山(しかし、相手が悪い)

辺古山(超高校級の格闘家、本職相手には通じるとは思えなかった)



辺古山(だから逃げるしかない)

辺古山(……だが、何の策もないわけではないぞ)


大神(辺古山の狙いは分かっている)

大神(この森の中でも手に入る棒状の物)

大神(木の枝を手に入れて反撃するという魂胆であろう)

大神(逃走しながら木の根に引っかかる可能性があるというのに幾度と無く木に近付いているのがその証拠だ)



大神(竹刀に比べれば強度は落ちるが、それでも無いよりはマシ)

大神(いや、超高校級の剣道家相手にその認識では足らぬか)

大神(十分長さの木の棒を手に入れれば、おそらく我を上回るだろう)



大神(だから手に入れさせない)

大神(木に近付く度に攻撃を入れて折る時間を与えていない)

大神(その度に空振った攻撃が木を揺らし大きな音を建てているが……この程度の衝撃は意に介さぬ)

大神(都合良く大きな枝が落ちていることでもなければ……いずれ追いつめきれるだろう)


一瞬の油断も許さない追いかけっこは唐突に終わりを告げた。



辺古山「っ……行き止まりだと!?」

大神「ここまでだ」



逃げ続けた先に追い込まれた岩で出来た袋小路。

偶然ではない。

追いかける側の余裕を使って大神が辺古山の逃げる方向を誘導していたのだ。



気づいたときにはもう遅かった。

大神は一瞬で距離を詰める。

逃げ場のない辺古山は絶体絶命で――。




――その瞬間、奇跡が起きた。



空から十分な長さを持った木の枝が辺古山めがけて降ってきたのだ。



辺古山はそれを手に収めると一閃。



辺古山「はぁっ……!!」



大神「ぬっ……!?」



大神は手痛い反撃を食らってしまう。




大神(何が起きた……!?)

ありえない現象の起きた辺古山を見ると。



辺古山「ありがとうございます」



礼を言っている。

それは誰を対象にしたものか。

奇跡を起こした神様? 否。

そんな都合良いものは存在しない。



大神「……そうか」

大神(辺古山が逃走しながら木に近寄ったのは……木の枝を手に入れるためだけではなかった)

大神(我が枝を折る隙を与えぬ事は承知だったのだろう)

大神(だから目的は攻撃を空振りさせて……大きな音を立てさせるため)



大神(つまり――自分はここにいると知らせるため)




九頭竜「すまん、ペコ! 遅くなっちまった! それしか見つからなかったが大丈夫か!」



辺古山に枝を投げ渡したのは九頭竜だった。



辺古山「ええ、大丈夫です。坊ちゃま」





辺古山は開始してすぐに電子生徒手帳を使って九頭竜に連絡を取っていた。

しかし、直後大神と遭遇したため十分な話は出来なかった。

それでもポケットの中で通話状態は続いていた。



そこから聞こえる音声を頼りに九頭竜は状況を把握。

辺古山を助けるために動き出して……森から響く音を頼りにして向かい。

転送位置が近かったということも幸いして。

間一髪で間に合ったという事だった。


辺古山「形勢逆転だ」

大神「……そのようだな」



先ほどの反撃の際に辺古山は双方の位置を入れ替えていた。

つまり現在、袋小路に追い込まれたのは大神の方だ。

逃げることも出来ずに正面からは本領を発揮した剣道家が迫る。



辺古山「行くぞ……!」



辺古山の連打が炸裂する。

その攻撃は鋭く、大神の防御や回避を許さなかった。



大神「くっ……!」



それを理解した大神は体を丸め耐えることに専念していた。

無抵抗の大神を攻撃する辺古山。

まるでリンチのような状況であったが……しかし大神は倒れない。


辺古山(まるで岩を叩いているようだ……)

大神の鍛え上げられた体は固く、堅く、硬い。

常人なら意識を手放しているだろう攻撃に耐えている。

一方的に攻撃を加える絵面を気にして容赦することなど出来るはずもなかった。

隙を見せれば最後、咎められるだろう事は分かっていた。





辺古山「私は負けられない……負けられないのだ!!」





辺古山の希望は。

『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』

大切な存在のために定めた希望。



九頭竜「油断するなよ、ペコ!!」

そしてそれは見守っている九頭竜も同じだった。

『希望:九頭竜組を今以上に発展させる』


示し合わせたわけじゃなかった。

そのような時間はなかった。



二人とも十神の嘘を見破ったわけではない。

今持って自分以外全てが敵だと思っている。

希望が同じであれば争う必要がないと気づいていない。



それでも希望は一緒だった。

敵であろうと助けた。



当然のことだ。

それが二人の絆なのだから。



辺古山「おおおおおおおおっ……!!」



木の棒を大上段に掲げる。

大神の防御を打ち破るため、全力の一撃を放たんがために。



九頭竜「いけええええええっ……!!」



九頭竜の声援も乗せたその一撃は――。




大神「――その大振り、待っていたぞ」



大神待望の隙であった。

振り下ろされる木の棒に、拳を振り上げてぶつける。



辺古山「……っ!?」



インパクトの瞬間をずらされた攻撃は本来の威力を発揮できないどころか。



バキッ!!



その武器自体が折られる結果を招く。




辺古山の手に残されたのは素手とリーチの変わらないほどの長さに折れてしまった木の棒。



大神「本来の得物、竹刀であればこうはならなかったであろう」

大神「やはり……全力の貴様と戦いたかったぞ」



形勢は再び逆転し。



大神「ふんっ……!」

辺古山「ぐっ……!」



至近距離から放たれた拳を辺古山は避けきれなかった。

意識が一瞬飛んだその隙に大神は辺古山の生徒手帳を奪い取り。

そして。




大神「これで終わりだ」



パキッ!

空中に投げた電子生徒手帳に手刀をおろすと真っ二つとなった。




『敗北条件は殺されるか電子生徒手帳を壊されること』

ホープロワイヤルのルールにより。



モノクマ『死体が発見されました!!』



モノクマが辺古山のリタイアを告げる。




辺古山「ぼっちゃま……すいません……」



敗北した辺古山は体にヒビが入り。

パリンッ! と。

崩壊する音と共に砕け散った粒子が天上へと昇っていく。

それがログアウトの演出なのだろうとは分かったが。



九頭竜「ペコォォォッ!!」

大事な存在を失った九頭竜の慟哭が響きわたる。




大神「何、心配するな。貴様もすぐに同じ場所に送る」



ここはホープロワイヤル。

希望を叶えてもらうための戦場だ。

しかし、大神は希望を叶えてもらうことに興味はなかった。

希望とは己で叶えることが信条だからだ。



それを示すように設定された希望は。



『希望:無し』



と表示されている。


ならば何故こうして戦っているのか?

大神にとって大事なことはここが戦場であるということ。

だからルール上の希望は設定されていないが、この戦いを勝ち残ったときに希望の実現にまた一歩近づくだろう。

『最強になること』という希望が。



故に、どんな相手であろうと大神は油断しない。



九頭竜「ペコォォォォッ! オレが必ず敵を取ってやるからな……っ!!」



大神「意気や良し」






数秒後。



モノクマ『死体が発見されました!!』





大神「…………」

勝者の大神はその場を去った。


<住宅地>

霧切「2回も鳴った死体発見アナウンス……状況は動き始めているようね」

霧切「私たちも動きましょう」



苗木「そうだね」

苗木「えっと、じゃあまずはどうするの?」

苗木「他の参加者を捜すか……それとも武装を整えるか、とか?」

苗木(霧切さんは能力で捜し当てた銃を持っているが、僕は丸腰だ)

苗木(確率を操る幸運の能力を戦闘に生かすなら、何か武器が必要だろう)



苗木(対する霧切さんの返答は――)




霧切「……どうやら一手遅かったみたいね」



苗木「え……?」



苗木(霧切さんは緊張状態に入っている)

苗木(何を察知したのか……それはすぐに僕にも分かった)



ブルン、ブルンッ!! と。

住宅地に鳴り響くバイクの轟音。



苗木(誰かが……近づいてきている?)




<住宅地・外>



大和田「よし、行くぜ!」



『能力:超高校級の暴走族』

『バイクを召喚することが出来る』



石丸「そうだな、兄弟よ!!」



<住宅地>

苗木(聞こえてきたバイクの音は近い)

苗木(おそらくこの住宅地に侵入してきている)



霧切「これは誰かの能力……いえ」

霧切「バイクというと思い当たる能力主は一人しかいない。大和田君でしょうね」



苗木「え? 普通に落ちていたバイクに乗っているって可能性はないの?」

霧切「無いわ。だって私の超高校級の探偵で乗り物がどこにあるか真っ先に調べたもの」

霧切「でも該当無しで能力の残り回数は減らなかった。つまりこのサバイバルフィールドにはそういう類の物は設置されていない」

霧切「武器なんかと違って移動手段にも武器にも防御にも使えるから、拾った人が有利になり過ぎるって事で配置されてなかったのでしょうね」



苗木「なのにバイクの音が聞こえるから、誰かの能力……暴走族の大和田君って考えたわけか」

苗木「なるほど」


苗木「じゃあどうするの」

苗木「近くまで来ている大和田君を倒すか、それともこのまま潜伏するか」



霧切「出来ることなら潜伏したいわね」

霧切「こっちにある武器は私の持ってる銃だけ」

霧切「素人が動く対象に当てるのは難しい。機動力のあるバイクとは相性最悪だわ」



苗木「そっか」

霧切「だからここはやり過ごして準備を整えたかったのだけど……」

苗木「……?」




霧切「ねえ、さっきからバイクの音近づいてきていない?」

苗木「え?」



苗木(僕が間抜けな声で聞き返したそのとき)



ガッシャーーーーンッッッ!!!!



苗木「うわっ!?」

霧切「さて……これはどういうことかしら?」



苗木(派手な音を立てて、潜伏していた住居の窓ガラスが破られて)



大和田「ここにいたか!」

石丸「苗木君に霧切君だな!」



苗木(バイクに二人乗りした級友が現れた)




苗木「大和田君に……石丸君!?」

苗木(能力から大和田君は予想できていたけど……石丸君も一緒?)

苗木(いや、そうだ。僕と霧切さんみたいに一緒の希望を掲げてチームとして動いているって事だろう)

苗木(バイクの方は大和田君の能力だろう。そして石丸君の能力は……)



石丸「苗木君の方は開始前の説明で聞いたとおり50%を100%にする能力のようだ!」

石丸「そして霧切君は指定した物の場所が分かる能力だ!」

石丸「二人とも希望『世界平和』で一致しているから組んでいるのだろう! 気をつけたまえ、兄弟!!」

大和田「おうっ!」



苗木「……っ!?」

苗木(石丸君に僕らの能力、希望を当てられる。事前に説明された僕の能力はともかく、それ以外は分かるはずがない)

苗木(つまり――)




霧切「『見た相手の能力と希望が分かる』……それがあなたの能力なのね、石丸君」



石丸「ふむ、そういうことだ!」



『能力:超高校級の風紀委員』

『見た相手の能力と希望が分かる。常時発動』



苗木(相手の能力が分かることはこの戦いでアドバンテージだ)

苗木(初見殺しをされることが無いし、相手の狙いを察知することが出来る)

苗木(しかし、その分かることが能力であるため、戦闘に置いては実質無能力とも言える)



苗木(でも、石丸君は大和田君と組んでいる)

苗木(バイクの機動力にそのまま体当たりすれば攻撃力も十分にある)

苗木(能力を丸裸にして、バイクで優位に戦う)



苗木(これは厄介なコンビかもしれない……)


霧切「これは厄介ね……」

苗木「うん、この二人は強敵だよ」

霧切「そうではなくて……」

苗木「……?」

霧切「…………いえ。まあ、そうでもあるわね」

苗木(霧切さんはよく分からない言葉を呟くと)



霧切「それであなたたち二人の目的は何かしら?」

霧切「私たちの希望は分かっているとおり『世界平和』よ」

霧切「仲間になりたいならそのように希望を変更しなさい」



大和田「はっ、それはこっちのセリフだ」

大和田「俺たちの希望は『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』だ」

大和田「この希望に変えるなら、おまえたちも仲間にしてやっていいぜ?」


苗木(二人が互いの希望に勧誘する)

苗木(しかし、どちらも本気の言葉では無かったようだ)



霧切「交渉決裂のようね」

大和田「みたいだな」



苗木(誰も生徒手帳を取り出して希望を変更しようとしなかった)

苗木(『世界平和』何となくで決めた僕の希望だけど、霧切さんも賛同してくれた僕たちの希望だ)

苗木(他の希望のために戦うつもりは無い)


大和田「残念だ、テメエらがここで脱落するとはな」

石丸「まあ仕方ないことだろう」



苗木「ど、どうするの、霧切さん!」

霧切「とりあえず逃げるわよ、正面からじゃ勝ち目が無いわ!」



苗木(大和田君がバイクのアクセルを踏むのと、僕らがリビングから脱出するのは同時だった)



苗木(ドガンッ!! という衝突音を背後に、僕たちは駆ける)



苗木「どうするの、二階ならバイクは上ってこれないんじゃない!?」

霧切「いえ、その場合は家に火を付けられるわ! そして出てきたところをバイクでアタックされて終わる!」

苗木「っ……!」

苗木(霧切さんの戦況の想定が早い)


霧切「このまま森林地帯に逃げるわ! 森の中なら満足にバイクは運転できないはず!」

苗木「分かった!」

苗木(玄関から僕たちが出るのと、大和田君たちが破った窓ガラスから再びバイクが出てくるのが同時だった)



石丸「おそらく霧切君たちは森林地帯に逃げ込むだろう! 住宅地の舗装された道路では勝ち目が無いからな!」

大和田「へんっ、だったら先回りしてやるぜ!」



苗木「くっ……!」

苗木(こっちの狙いが読まれている。なのにどうしようもない)

苗木(真っ直ぐ向かえば森林地帯に行けるという道に、二人は立ちふさがった)



石丸「住宅地の中から逃がさないようにすれば僕たちの優位は変わらないだろう」

大和田「らしいぜ? 二人とも投降したらどうだ?」


苗木「どうするの?」

霧切「強行突破するわ」

苗木(霧切さんは言いながら僕に銃を渡す)



霧切「これでバイクのタイヤを打ち抜きなさい」

霧切「当たる確率を能力で補正すればどうにかなるでしょう」



苗木「っ……でも、失敗したら」

霧切「ここで逃げてもジリ貧になるだけよ」

霧切「射撃も能力込みなら私よりあなたの方がマシだわ」



霧切「だから、頼んだわよ」

苗木「……分かった!!」




大和田「はっ、そういうことか。だが、当たるかよ!」



苗木「……っ!」

苗木(銃を構えた僕を見て、大和田君はバイクを左右に揺らすスラローム走行をしながらこっちとの距離を詰めてくる)

苗木(照準が定まらない……外したらそのままバイクをぶつけられて、僕たちは敗北するだろう)

苗木(それでも当ててみせる……絶対に当てる……!!)



大和田「おおおおおおおっ!!」



苗木「あああああああっ!!」



苗木(二人の気勢が衝突するその中間地点で)



苗木(パリンッ!! という音と共に――光の爆発が起きた)



大和田「くっ……何が!?」

苗木「どういうこと……っ!?」



苗木(光の爆発、それは僕と大和田君どちらの意図したものでもなかった)



石丸「一体何が……!」

霧切「これは……」



苗木(そして石丸君と霧切さんも驚いていて、二人の仕業でもない)



苗木(つまり――この場に第三者が乱入したのだ)






不二咲「大丈夫? 苗木君、霧切さん!」



苗木「不二咲さん!」




苗木(おそらく不二咲さんが能力を使ってどうにかしたのだろう)

苗木(光に驚いた大和田君はブレーキをかけて止まっている)



霧切「今の内に逃げましょう」

苗木「うん。不二咲さんはどうするの?」

不二咲「あ、僕も一緒に行かせてもらえると嬉しいな」

苗木「もちろんだよ!」

霧切「そうね……助けてくれたという事は敵対する意思はないと見るわ」

霧切「とりあえず大和田君たちが復活する前に森林地帯に逃げ込むわよ」



苗木(僕たちは突然現れて助けてくれた不二咲さんと共に三人で森林地帯に入っていく)


<森林地帯>

霧切「ここまで来れば大丈夫でしょうね」

苗木「木の根が張り巡っていて、バイクが運転できるとは思えないし」

苗木(当面の安全が確保されたという事で……僕は不二咲さんの方を向く)



苗木「さっきは助かったよ、不二咲さん」

不二咲「うん……苗木君たちを助けられて良かったあ」

霧切「しかし、タイミングが良かったわね」



不二咲「あ、そのね。バイクの音が聞こえて何かあるのかな、と思って僕も住宅地にいたんだ」

不二咲「それで見てたら苗木君たちが追い回されてるから能力を発動して助けて……」

苗木「そういえば、不二咲さんの能力って何なの?」


不二咲「あ、これだよ」

苗木(不二咲さんは電子生徒手帳を見せる)



『能力:超高校級のプログラマー』

『電子機器を自由に操れる。一日五回まで使用可能』



苗木「なるほど……でもさっきのはどうやったの?」

不二咲「住宅地の夜間用の街灯を限界まで光らせて破裂させたの。ちょうど二人の中間地点にあったんだけど」

苗木「それで光の爆発って思ったのか」



霧切「電子機器を自由に操れる……あの住宅地のように電子機器があふれている場合では使いやすい能力だけれど」

霧切「この森林地帯のように自然に囲まれた場所は不利な能力ね」


霧切「さて、ここまでなあなあで済ませてきたけど、この場は戦場よ」

霧切「不二咲さんあなたには二つの選択肢があるわ」

霧切「ここで私たちと別れるか、私たちの仲間になるかよ」



霧切「あなたにも希望があるのでしょう。自分の希望を優先して私たちと一緒に戦えない場合は、助けてくれたお礼にこの場は見逃すわ」

霧切「逆に仲間になるなら、私たちの希望『世界平和』に変更してもらうことになる」

霧切「言っておくけど私たちがあなたの希望に変えるつもりは残念ながら無いわ」



苗木(この場はホープロワイヤル。希望と希望同士の戦いだ)

苗木(霧切さんの言葉は冷たいように見えて、問答無用で排除しないあたり優しい方なのだろう)

苗木(不二咲さんはどうするつもりなのか……いや、そもそも……)



苗木「ねえ、不二咲さん。どうして僕たちを助けたの?」


不二咲「僕は……戦いとか争いとか苦手だから」

不二咲「苗木君たちがピンチになってるのを見て思わず助けたんだけど……」

霧切「優しさは美徳だけど、この戦場では命取りだわ」

不二咲「そう……だね」

霧切「それくらいならリタイアすることを――」



苗木「そんな厳しいことばかり言わないであげてよ、霧切さん」

苗木(僕は二人の会話に割り込む)



苗木「ね、不二咲さん。僕たちの希望『世界平和』のために一緒に戦ってくれない?」

不二咲「苗木君……」




苗木「戦いが苦手な不二咲さんに酷なことを言っているとは思う」

苗木「でも……僕の勝手な思いこみかもしれないけど、不二咲さんだって『世界平和』になったら嬉しいって思うんじゃない」

不二咲「……うん、いいと思うよ」

苗木「だったら協力してくれると助かるな。戦うのが苦手なら……さっきみたいに僕たちを守る方に能力を使ってさ」



不二咲「守る……そっか。そうだね」

不二咲「ありがとう、苗木君。……うん、僕決めたよ」

苗木(不二咲さんは電子生徒手帳を操作する)



不二咲「よろしくね」

苗木(そこに表示されたのは『希望:世界平和』の文字)



苗木「うん、こちらこそ!」

苗木(こうして僕たちの希望は、三人の希望になった)


霧切「はぁ……あなた、本当にお人好しね」

苗木「ご、ごめん……でも霧切さんだって、不二咲さんが仲間になるのは賛成でしょ?」

霧切「…………」

苗木「あ、あれ……?」

苗木(霧切さんは黙っている)



不二咲「えっとマズかったかな……?」

霧切「まあ、いずれ……いえ、今の内に……」

苗木「どうしたの、霧切さん?」





霧切「発動、超高校級の探偵!」

霧切「現在、私に敵意を向けているものを示しなさい!」





苗木「能力を……!?」

苗木(霧切さんがいきなり能力を発動する)




苗木「どういうこと、霧切さん!?」



霧切「さて……私の能力、結果を電子生徒手帳にも表示できるの」

霧切「二人も見てもらっていいかしら」



苗木(霧切さんは質問に答えず、僕と不二咲さんに自分の電子生徒手帳を見せる)

苗木(島の全体図には五つの光点が表示されている)



苗木「えっと、この点が今の能力で探した物がある場所ってことでいいんだよね?」

霧切「その通りよ」

不二咲「探したのは敵意を向けているもの……だったよね。だったらこの住宅地にある二つの点は大和田君と石丸君でいいのかな?」

苗木「だろうね。それでちょっと離れた森の中に二つ……これは……?」

霧切「そして最後の一つは……このちょうど私たちがいる地点ね」



不二咲「……え!?」

苗木「誰かがこの近くに……!?」



苗木(慌てて僕は周囲を見回すが……不二咲さんと霧切さん以外に人影は見当たらない)


苗木「……? 誰もいないよ?」

不二咲「…………」



霧切「忘れたの、苗木君? 私の超高校級の探偵は探した物の場所は分かっても、高度までは分からない」

霧切「そしてこの場所は森の中」

霧切「高い位置にも木々の枝などで、足場があるでしょう?」



苗木「つまり……?」

不二咲「上?」

苗木(僕と不二咲さんが空を見上げる)



霧切「さっきから視線を感じていたのだけど……」

霧切「本当次から次へと休ませてくれないわね」

霧切「来るわ、注意しなさい」



苗木(霧切さんが警戒するように告げる)

苗木(それと同時に――)






苗木(ハムスターが僕たちめがけて飛び降りてきた)





苗木(住宅地で大和田君と石丸君の襲撃を受けた僕ら)

苗木(間一髪のところを不二咲さんに助けてもらい、逃げた先森林地帯で『世界平和』の希望に変えてもらって三人目の仲間となった)

苗木(しかし、行き着く暇もなく次の襲撃者が迫る)



苗木「ハムスター……っ!?」

苗木(その正体は小動物、ハムスターであった)

苗木(僕たちめがけて枝から飛び降りてきたみたいだけど……体が軽いから受ける重力も小さくて落ちてくるスピードが遅い)

苗木(ひょいと避けるとそのまま地面に衝突する)



苗木「………………」

苗木「えっと……」


霧切「こんな場所にハムスターがいて、私たちを襲おうとしたのが偶然だとは思えない」

不二咲「たぶん誰かの……いや」

苗木「超高校級の飼育委員、田中眼蛇夢君の能力だよね?」



苗木(僕らの先輩で、いつも4匹のハムスターと行動を共にしているのは知っている)

苗木(おそらく能力として4匹のハムスターを自由に扱えるということだろう)

苗木(それで僕たちを襲って……)



苗木「っ……ということは!」

霧切「ええ。襲撃者はこれだけじゃない可能性が高いわ! 注意しなさい!」



苗木(霧切さんの再度の警告と同時に)

苗木(視界の隅、落ち葉の下に隠れていた二匹目のハムスターが飛び出してきた)


苗木「くっ! って…………」

苗木(今度は避けきれず、僕はその体当たりを食らうことになる)

苗木(食らうことになったが……ビクともしなかった)



苗木(そうだ、ハムスターなんだ)

苗木(別に体重も軽く、殺傷能力が高いわけでもない)

苗木(すばしっこいくらいで別に攻撃を食らったところで意味は――)



霧切「何ぼーっとしているの! 狙いは電子生徒手帳よ! 死守しなさい!」



苗木「あっ……!」


苗木(霧切さんの言葉にはっとなる)

苗木(この戦いにおける死亡は二種類あるのだ)

苗木(一つは普通に殺されること)

苗木(二つ目は電子生徒手帳を壊されることだ)

苗木(ハムスターの力では前者は不可能でも、後者の電子生徒手帳を盗むことくらいは可能だ)

苗木(そしてその想像通りに、さっき僕に体当たりをしてきたハムスターは僕の懐に入ってきている)



苗木「くっ……このっ……!」

苗木(僕は慌ててハムスターを捕まえようとするが、すばしっこくて上手く行かない)

苗木(僕の体を探るように移動するハムスター。電子生徒手帳の場所を探しているのだろう)

苗木(捕まえようとしてもすんでのところで逃げられる)

苗木(後少し運が良ければ……だったら……!!)




苗木「発動、超高校級の幸運!!」



苗木(僕は能力を発動する)

苗木(その結果ハムスターは運良く僕の手に収まることとなり……)



苗木「離れて!!」

苗木(そのまま、ブンッ! と放り投げた)

苗木(投げられたハムスターは空中で宙返りして、すたっと着地する)

苗木(そしてそのまま逃げていった)



苗木「ふぅ……」

苗木(これでどうにか窮地を脱することは出来た)

苗木(他の二人は……)




不二咲「ああっ、電子生徒手帳が!」



苗木(見ると不二咲さんの電子生徒手帳を持った二匹のハムスターが森の奥へと去っていくところだった)



苗木「大丈夫、不二咲さん!?」

不二咲「うん、ボク自身は何ともないけど……二匹がかりで電子生徒手帳が……」

霧切「助けには入れれば良かったのだけど、私の方にも最初落ちてきたハムスターが復活して襲ってきていてね」

霧切「私自身はどうにかしたけど」



苗木(つまり四匹のハムスターが霧切さんに一匹、僕に一匹、不二咲さんに二匹襲ってきていたということか)

苗木(霧切さんは自力で、僕は能力で対処したけど、不二咲さんは二匹相手に成す術が無かったと)


苗木「ど、どうしよう……電子生徒手帳を盗まれたってことは絶望的だよね……」

苗木(電子生徒手帳はこの戦いにおいて命と同義だ。それを盗まれたということは……)



不二咲「ご、ごめん」

苗木「不二咲さんが謝ることじゃないよ」

苗木(せっかく仲間になったのに……不二咲さんはこのままだと……)



霧切「そうね。絶望的……だけど、まだ終わってはいないわ」



苗木「え……?」


霧切「考えてもみなさい。どうしてハムスターたちは電子生徒手帳を盗んでいったの?」

苗木「えっと……一人でも他の参加者を落とすためじゃないの?」

苗木「サバイバルゲームなんだから、自分の希望を叶えるためにどんどん他の参加者を落としていくべきだし」

霧切「ええ、そうね。だったら盗むなんて面倒なことせずに……その場で壊せばいいじゃない」

苗木「……あ、そっか!」



苗木(そうだ、電子生徒手帳を盗まれる……そんな絶望的な状況なのに……)

苗木(まだ不二咲さんは生きている)

苗木(普通なら他人の電子生徒手帳を手に入れた瞬間壊すのがベストなはずだ)


不二咲「じゃあどうして僕の電子生徒手帳はまだ壊されてないの?」

霧切「考えられる可能性は二つ」



霧切「一つは電子生徒手帳を手に入れることが目的だったからよ」

霧切「例えば電子生徒手帳を勝手に操作して、希望を自分のものに変更すれば、不二咲さんは田中君のために戦わざるを得なくなるでしょう?」

霧切「まあこれは不二咲さんは一回しかない希望変更権を『世界平和』に変えるために使っているから、無理だけれどね」



霧切「それでも残った私と苗木君に何らかの交渉をしたり、人質にして誘い出すためなど色々考えられる」

苗木「なるほど……ただ不二咲さんを殺す以上の結果を狙ってってことか」


霧切「二つ目は……そもそも電子生徒手帳を壊せないから」

苗木「壊せない……って、どういうこと?」

霧切「考えてみなさい、盗んでいったのはハムスター……小動物に電子機器を破壊するだけの力があると思う?」

苗木「あ……そっか」



霧切「高いところから落として壊すとか、何らかの道具を使って壊すとすることも考えられるけど」

霧切「ハムスターの力では手間がかかる。その間に私たちに追いつかれて、盗み返されては本末転倒だわ」

苗木「だからその場で壊すことは諦めて……ハムスターは運搬することに徹する……」

不二咲「そして持って行く先は……」



霧切「どちらの可能性でも、電子生徒手帳の行方は一つ」

霧切「飼い主の田中君のところよ」


苗木たちから少し離れた森の中。

田中「フハハッ! よくやった、破壊神暗黒四天王よ!」

そこにはハムスターを操り苗木たちを襲撃した超高校級の飼育委員、田中と。



ソニア「やりましたね、田中さん!」

超高校級の王女、ソニアがいた。



二人は希望を『ノヴォセリック王国の今以上の発展』と同じくしてチームを組んでいる。

ソニア寄りの希望であるが、これはソニアが田中を自分の希望に変更するように口説き落とした結果であった。


田中の能力はこうだ。



『能力:超高校級の飼育委員』

『四匹のハムスターを操ることが出来る。ハムスターとは視覚を共有することが可能』



この能力により離れた場所でも状況を把握出来る。

ハムスターというのは小動物ゆえに見つかりにくい。隠密に索敵するには絶好の能力だ。

そうして苗木たち三人を発見、襲撃して電子生徒手帳を奪ったということだった。



田中「むっ、ジャンPとチャンPの疲労が溜まったか。サンDとマガGに持ち手を変更だ」

現在、盗んだ電子生徒手帳を自分のところに持ってくるように命令している。

が、ハムスターでは電子生徒手帳の重量でさえ重い。

そのため二匹がかりで持ち、疲れたら残りの二人に交代という方式で運ばせているところだった。



ソニア「安全なところから一方的に、これが王族の狩りですね!」

田中「闇に生きるものは奇襲に長ける……当然の結果だ」



こうして作戦は成功。しばらくしてハムスターたちが電子生徒手帳を持ってきて――。




霧切「やっぱりここだったわね!」

苗木「不二咲さんの電子生徒手帳は返してもらうよ!」

不二咲「頑張って運んだみたいだけどごめんね……!」



ソニア「っ……!?」

田中「貴様ら……!」



それと同時に苗木たちも襲撃、ハムスターが運搬していた電子生徒手帳が奪われた。




田中「何故この時空を……!」

田中「我は僕(しもべ)と同じ闇を見ている! 追跡は不可能のはずだ!」



苗木「えっと……どうしてこの場所が分かった、ハムスターと視覚をしているから尾行には気づけたはず……ってことかな?」



霧切「ハムスターと視覚共有……想定通りね」

霧切「近くに気配がないのに、ハムスターの動きの指示が完璧だと思ったもの」



霧切「そしてどうしてこの場所が分かったのかということだけど……」

霧切「簡単な話よ、それが私の能力だから」



苗木(この襲撃直前に発動した霧切さんの能力)

苗木(霧切さんに敵意を向けているものを探した際に、少し離れた森にあった二つの点)

苗木(ここがそのポイントだ。敵意を向けているという条件に、田中君とソニアさんも含まれていたということだろう)




霧切「ハムスターを使って安全なところから一方的に……という算段だったのだろうけど」

霧切「残念だったわね」



苗木「これで形勢逆転、3対2だよ」



不二咲「電子生徒手帳も取り戻したし」



苗木(僕たち三人は二人を逃がさないように取り囲んでいる。これなら――)




ソニア「どうしますか、田中さん」

田中「……この場は敗北のようだな」

田中「だが、貴様らの顔しかと覚えたぞ! 必ずやこの借りを返さん!」



苗木「この場は……?」

霧切「逃げるつもりってこと?」

不二咲「でも、こうして三人で取り囲んでいるし……」



ソニア「それは早とちりちゃんですよ!!」

ソニア「まだ私の能力があります!」



苗木「っ……それは……!!」



ソニア「というわけで発動、超高校級の王女!」



苗木(ソニアさんが能力の発動を宣言すると――)




苗木(シュン! と音がした後、二人の姿がその場から消えた)



苗木「これは……テレポート?」



『能力:超高校級の王女』

『テレポートが出来る。一日三回まで使用可能』




苗木「王女らしくない能力だね……」

霧切「まあそもそも王女らしい能力って何なのかという話にもなるけれど」

苗木「あ、そっか」



霧切「結果的に取り逃したけれど、不二咲さんの電子生徒手帳も取り戻したから良しとしましょう」

霧切「この騒ぎを聞きつけた誰かがいないとも限らないし、移動するわよ」



苗木「うん、分かったよ」

不二咲「そうだね」


<夜>

<廃墟地帯>

苗木(あの後、他の生徒と出会うことは無かった)

苗木(そうして時間は過ぎ、ホープロワイヤル初日の夜となる)



霧切「住宅街は人のいる気配がないだけで、住居はしっかり残っていたけれど」

不二咲「この廃墟地帯は壊れた家ばかりで、どこも吹きさらしになっているね」

苗木「でもちょうど残っていた非常食で腹ごしらえ出来たし良かったよ」



霧切「森の中で寝るより廃墟の方がまだマシだから、今日の寝床はここね」

霧切「というわけで本日最後の能力で周辺の警戒と、情勢の把握をしておこうかしら」



苗木「最後……? あ、そうか。霧切さんもう五回目だっけ?」

苗木(超高校級の探偵の枷。一日五回までしか能力を使えない)

苗木(霧切さんは既に武器の位置、僕の潜んでいた住居、逃げ出した僕が森林地帯のどこにいるのか、そして敵意を持ったものの場所で四回使用している)




霧切「発動、超高校級の探偵」

霧切「生存している生徒全員の位置を示しなさい」



霧切「今回も生徒手帳に表示したわ。見たいなら見なさい」

苗木(霧切さんの言葉に僕と不二咲さんも覗き込む)

苗木(島全体の地図に、光点がバラバラとたくさん表示される)



苗木「とりあえず……この廃墟地帯には僕たち三人しかいないか」

不二咲「近くに生徒の姿はないね」

霧切「ええ。つまり寝込みを襲われる心配は少なさそうよ」

霧切「まあ遠隔攻撃出来る能力や瞬間移動の能力があるのを見た後だから、気休めではあるけれど」


苗木「これが周辺の警戒で……情勢の把握ってどういうこと?」

霧切「希望を共にしてチームを組んでいれば一緒に行動していて、光点も同じ場所にある可能性が高い」

霧切「ここから他の参加者がどれだけチームを組んでいるのか分かるのよ」



苗木「なるほど……」

不二咲「言われてみると、単独の光点もあるけど、2つ3つ4つで固まっている光点がちらほら存在するね」

霧切「既に十神君の嘘、このゲームが個人戦であるということは破られたとみて良さそうね」



苗木(このサバイバルゲームでチームを組むことはメリットが多い)

苗木(単純に一人より二人の方が強いというのもあるし、能力で協力が出来る)

苗木(石丸君が能力を見抜き大和田君のバイクで攻撃、田中君のハムスターで安全圏から攻撃して危なくなったらソニアさんの能力で離脱、とその実例を目の当たりにしたばかりだ)



苗木(でも、だからといってとにかく大人数でチームを組めばいいかというとそれは難しい)

苗木(このホープロワイヤルは希望を一緒にしないとチームを組むメリットが無いからだ)

苗木(大人数が一緒の希望を持つというのは難しいようで、チームを組んでいても2~4人というのが多い)



苗木(だからこそ――その光景は異常だった)


苗木「ねえ、霧切さん……ここなんだけど」

霧切「ええ、分かってるわ。これはおかしいわね」

不二咲「どういうことなんだろう……?」



苗木(島の全体図のある箇所を指したところ、二人ともそれには気付いていたようだ)

苗木(その場所の異常……それは――)



苗木「光点がこの一ヶ所で……10個も集まっている」



不二咲「これって……10人のチームを組んでいるってことだよね?」

霧切「確定ではないわ。場所が分かるだけで状況は分からないから、現在この一ヶ所で10人が争っているだけって可能性もある」

苗木「なるほど」



霧切「とはいえこんな夜中にそんな大人数が争っている可能性も低いし……もしチームを組んでいるとすれば」

霧切「最初の参加者は48人で、現在死体発見アナウンスが開始後すぐに二回、そして夕方頃また二回鳴ってたわね」

苗木「あ、そういえば鳴ってたね」

霧切「だから現在の生存者が44人として……そのチームだけで約4分の1を占める戦力ね」


苗木「10人も同じ希望の持ち主がいるのか」

不二咲「どんな希望なんだろう?」

霧切「そして誰がリーダーなのかということね」

霧切「私の能力、探したものの場所が分かっても、それぞれ何なのか詳細は分からないわ」

霧切「だからこの10人が誰なのかは不明ね」



苗木「でも例えばさらに『十神君の居場所を示せ』ってして、この10人の場所に光点が表示されれば、十神君がいるかは分かるよね?」

霧切「そうね。でも今日は能力を制限回数の五回とも使用済みだし、日付を回って制限回数がリセットされてもそれはしないわ」

霧切「あまり能力を使いすぎて、ピンチに陥ったときに使用回数が無くなっているなんてマネ困るもの」

苗木「あ、そっか」



霧切「まあ10人の方は気に留めるだけで良いでしょう。現在はそれ以上対策できないわ」

苗木「うん、分かったよ」




霧切「じゃあもう良さそうね」

苗木「あ、うん。いいけど……」



苗木(霧切さんが電子生徒手帳をしまおうとする)

苗木(表示された地図と光点をぼんやりと眺めていた僕は……)



苗木「あれ?」

苗木(その中に何か違和感を覚えて……)



霧切「どうしたの?」

苗木「あ、いや、何もないよ」



苗木(でもそのとき電源が消されたため、その違和感の正体は分からなくなった)


不二咲「もうそろそろ寝ようかな? 歩き詰めで疲れたし」

苗木「そうだね、僕も……」

霧切「ちょっと待って。苗木君、あなたの能力について確認したいことがあるから、もう少し付き合いなさい」

苗木「えっと……明日じゃ駄目なの?」

霧切「能力使用回数が余っている今日の内がベストなのよ」

霧切「確か私から逃げるために飛び降りたときと、ハムスターを捕獲するときの二回しかまだ使ってないでしょう?」

苗木「あ、そっか。残しても意味ないし、三回まだ使えるもんね」

霧切「そういうことよ」



不二咲「じゃあごめんだけど、僕は隣の廃墟で寝るね。おやすみー」

苗木(不二咲さんは僕を残してこの場を去る)


苗木「それで能力の確認って言ったけど……」

苗木(僕は電子生徒手帳から改めて能力の詳細を見せる)



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』



苗木「霧切さんもルール確認で見たとおり、僕の能力はこうだよ」



霧切「そうね。でも厳密にどうなってるか確認することは悪いことじゃないでしょう」

霧切「ということでさっき見つけた廃墟に落ちてたこれを使って実験するわよ」



苗木(霧切さんが投げ渡したものをキャッチする)

苗木(見てみると片面に○、もう片面に×が書かれたコインだった)


霧切「最初に初歩の確認からよ」

霧切「どちらか指定した面を出したい、と能力を発動してコイントスして頂戴」

苗木「えっと……じゃあ○の面が出ますように。超高校級の幸運、発動」



苗木(能力を発動してから僕は親指でコインを弾く)

苗木(空中で何回転もして落ちてきたコインを受け止めると、表側になっていたのは……)



苗木「○だね。能力も発動したはずだよ、何か不思議な感覚があったし」

霧切「○か×が出るのはそれぞれ50%ずつ。ならば能力で100%に出来るということね」


霧切「次はこれよ」

苗木(霧切さんは僕にサイコロを渡す。この廃墟の住人って、テーブルゲーム好きだったのかな?)



霧切「今度は指定の目を出すように能力を発動してから振って頂戴」

苗木「えっと……じゃあ6が出ますように。超高校級の幸運、発動」



苗木(能力を発動してから僕はサイコロを振る)

苗木(何回が転がった後止まったサイコロの上面にある目は……3だった)



苗木「まあこれは失敗するよね。能力の感覚も無かったし」

霧切「ええ。出る目の種類は1~6で、6が出るのは約17%」

霧切「50%無い確率は100%に出来ないということね」


霧切「だから『1、2、3のどれかが出ますように』なら発動できるだろうし」

霧切「逆に『絶対に6が出ませんように』っていう風に能力を発動することも出来るわね」

苗木「なるほど……」



苗木「そういえばサイコロで6が出る確率は『6が出るか出ないか』の二択だから100%に出来ないかなー……ってちょっとだけ思ってたんだけど」

霧切「屁理屈な考え方ね。分からないことはないけど」

霧切「でもそれが可能ならこのゲームは破綻しているでしょう?」

苗木「え?」



霧切「だって苗木君はこの戦い『優勝するかしないか』の二択じゃない」

霧切「それを能力で100%に出来れば優勝してしまって終わるでしょ?」

苗木「あ、そっか……」


霧切「じゃあ次は……そうね」

霧切「そのコインを使おうかしら」

苗木(霧切さんは僕の手からコインを取る)

苗木(そのままコイントスして手の甲に落とし、もう一方の手で隠す)



霧切「さあ、今私が投げたコインがどちらの面が出たのか……能力を使って当てて頂戴」

苗木「……? 超高校級の幸運、発動。コインは……×の方だよ」

苗木(僕は能力の不思議な感覚に従って宣言)



霧切「ええ、その通りみたいね」

苗木(隠していた手をどけると、そこにあったのは×の面を上にしたコイン)



苗木「そりゃそうだよ。だって○と×で50%ずつでしょ?」

苗木「さっき僕が投げたときと同じだもん」

苗木「何を確かめたかったの、霧切さん?」



霧切「これは次の実験を分かりやすくする為よ」


霧切「ということで次は私が今からコイントスするから、どちらの面を出させたいのか先に宣言して頂戴」

苗木「……? よく分からないけど……超高校級の幸運、発動」

苗木「霧切さんは○を出すよ」



苗木(今までと順番が違うけど、結局は50%の確率だ。結果は同じだろう)

苗木(霧切さんはコイントスしてキャッチする。出た面は――)



苗木「え、なんで×なの!?」



霧切「……やっぱりね」


苗木「どういうこと? 霧切さんが何かしたの?」

霧切「何もしてないわ。というより不思議なことは全くないもの」

霧切「あなたの能力の詳細をもう一回見てみなさい」

苗木「詳細を……?」

苗木(僕は霧切さんに言われるまま電子生徒手帳を開く)



『能力:超高校級の幸運』

『50%以上の確率を100%に出来る。ただし自分の行動のみ。一日五回まで使用可能』



苗木「特に不思議なことは……あ、『ただし自分の行動のみ』って」

霧切「そういうことよ」


霧切「私のコイントス一回目で能力を使ってやったことは『私がしたコイントスの面を、苗木君が当てる確率』の操作」

霧切「でも二回目は『苗木君が言ったとおりの面を、私が出す確率』の操作だった」

霧切「コイントスで○を出すのは苗木君じゃなくて私の行動」

霧切「だから幸運の条件『自分の行動』に当てはまらなかった。だから能力が失敗したのよ」



苗木「そういえば能力を使ったときの不思議な感覚が無かったかも」

霧切「つまり相手の行動の確率を操ることは出来ない」

霧切「これは覚えておいた方が良いわね」



苗木「うん、分かったよ」


苗木「ってことで……結局最後幸運の能力発動してないから、あと一回分発動できるけど」

苗木「何か試したいことあるかな、霧切さん?」

霧切「そうね、能力の仕様は大体分かったから実験はいいけれど」



霧切「……ああ、ちょうどいいわ。確認したいことがあるの」

霧切「コイントスしてくれるかしら?」

苗木(霧切さんがもう一度コインを僕に渡す)



苗木「コイントス? もちろんいいけど……どういう風に能力使えばいいかな?」

霧切「今から私の言う条件でお願い出来るかしら」






霧切「不二咲さんが私たちの仲間なら○、敵なら×」

霧切「事実に基づく面を苗木君が出す確率を100%にしなさい」





苗木「分かった、超高校級の幸運、発動………………」

苗木「って、え?」



苗木(予想外の条件に驚いたのは、能力発動もコイントスも終わった後だった)

苗木(空中を回転するコインを僕はキャッチして…………)




苗木「霧切さん、どういうこと?」

苗木(僕はコインの面を手で隠したまま、霧切さんに聞く)



苗木「不二咲さんが敵か仲間かって……」

苗木「だって不二咲さんは希望『世界平和』を一緒に持つ仲間なんだよ?」

苗木「なのに……」



霧切「本当に仲間なら○が出ている。それで済む話でしょう?」

霧切「いいからコインを見せなさい」



苗木「そ、その通りだけど……」

苗木(能力が発動した不思議な感覚はあった)

苗木(複雑な条件だったけど、結局は敵か仲間の二択で50%以上と判断されたのだろう)

苗木(つまりこのコイントスの結果は事実を示しているはず)



苗木(僕はおそるおそる手をどける)




苗木「そ、そんな……」



霧切「やっぱりね」



苗木(そこには×の面が――不二咲さんが敵であると示していた)



今日はここまで。
これで最新話まで追いつきました。

次の話については2~3日以内に投下すると思います。

http://stardustorbt.web.fc2.com

偽りの守護星、連載中。
少し物語が動いてきたので変更しました。
唐崎麻人(男子二番)と郡山一海(男子四番)。
少しずつ増やしていきたいです。
2種類ランダム表示中。

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当サイトは、ユウキナオが管理する、バトルロワイアルの2次創作サイトです。
メインは管理人の書いたオリバトです。
グロテスク・暴力的な文章が苦手な方はプラウザバックぷりーず。
大丈夫という方は下のサイト名からお入りください(^^)





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僕と君が出会った日。

僕はあれを、

運命だと疑わない。






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拍手ありがとうございます!

ケーキ屋長男:男子1番 東十季


「拍手さんきゅ! 髪型が違うのはここだけの特別だってさ!」

拍手ありがとうございます!

学年主席の自由人:男子3番粕谷ミチル

「ぱちぱちー^^嬉しいもんですなぁ!オレ、これからも頑張っちゃうよ!」

拍手ありがとうございます!

恋は盲目!:男子7番 鳴海遊

「拍手さーんきゅっ!まじで嬉しー!!!」


拍手ありがとうございます!


クラス1の不良娘:女子11番 元木早紀

「拍手ありがと。すっごい嬉しい!…もうね、キスしたいくらい。」

拍手ありがとうございます!

ツンデレ乙女:女子8番 辻沢江里依

「べ、別にありがとうとか思ってないんだから!…嬉しいけど。」

男子18番 吉見結渡


ルーズリーフに書いたのでまだ少し線が残ってしまってます;;
男子18番の結渡くん。さりげにメガネを書くのは初めてでした。
シャーペン書きをスキャナで取り込んでちょこっとだけ加工(と言っても明るさとコントラストを変えただけですが;)。
今度はもっと全身書いてあげたいな~。

やってしまいました。紫堂カムジさんとのメガネコラボっ!!もう嬉しくてテンションMAXです。はい。
紫堂さんのオリバトの八嶋愁くんと、うちのオリバトの吉見結渡。各オリバトを代表するメガネっ子ですvv
…それにしてもカムジさんのイラスト!!!美しすぎて目がつぶれそうです。
こうしてみるとさらにあたしの絵のヘタさが…わーっ!カムジさんのイラストで目の保養をどうかっ!!!(笑)
カムジさんのイラストは、ずっとずっと憧れだったのでこうしてうちの伊達メガネさんを描いていただけて本当に嬉しいですww
しかも愁くんとコラボだなんて…!!あわわ、幸せすぎてもう死んでもいいです。冥土の土産にカムジさんの絵を持って逝きます!!

ちなみにあたしの絵(右)は、結渡がかわいい子を指差して愁くんに突っ込まれているという裏設定があったりします(笑)
カムジさんにも「やっぱり女の子がらみなんですね!」と言われましたがそうなのです(^^;

カムジさん、お付き合い本当にありがとうございましたvvやっぱりメガネは最高ですね!!

愁くんもでてるカムジさんの素敵サイトさんはコチラ。

男子1番  飯田一穂(いいだ・かずほ)
部活 サッカー部
支給武器 スミスアンドウエソンM59オート
加害者 木田美由(女子4番)
被害者 なし
死因 喉元を日本刀で刺され、腹部に被弾
登場話 18
外見特徴 ●髪質が柔らかい黒髪
●童顔で背が低い
●くりくりした瞳
備考 明るくお人好しな性格で人を信じやすい。
その性格から友達も多い。
サッカー部では補欠だががんばっている。
津多田信夫(男子11番)と小野真(男子4番)と仲がいい。
+++ ごめんなさい‥。1話しか登場していないうえ美由ちゃんのやられ役になって貰いました。
本当に運が悪い子です(>_<)本当は真とかともからませたかったんですが、連載当初のあたしはなにを思ってたんだか‥;;

女子1番 相田翔子(あいだ・しょうこ)
部活 手芸部
支給武器 グロック19
加害者 江藤千乃(女子3番)
被害者 なし
死因 腹部と肩に被弾・失血死
登場話 3・19・42・43・44・45
外見特徴 ●黒髪で肩までのストレートヘア
●くりくりした瞳・少々垂れ目
備考 誰にでも平等に接することができる素直な子。
少し天然ボケな所もあるが、女の子らしくふんわりした感じ。
黒髪の肩までのストレートヘアに大きめのたれ目。
紺野さつき(女子7番)・江藤千乃(女子3番)・栗原美恵(女子5番)と仲がいい。
不良グループの葉月千と付き合っている。
+++ かわいい女の子を目指して書きました。
翔子ちゃんは、千を想って生きて、千を想って死んだんです。
最後は千くんにどうしても会わせてあげたかったんで、ああいう風になりました。
よくよく考えると元Win○の相田翔子サンと同姓同名なことに気づきました;
雰囲気的にも似ているかもしれません(^^;)

男子2番  宇井哲太(うい・てつた)
部活 バレー部
支給武器 防弾チョッキ
加害者 中野光(男子12番)
被害者 なし
死因 こめかみに被弾
登場話 6・31
外見特徴 ●なにもいじっていないサラサラの髪
●眠そうに見えるが大きめの瞳
備考 思いついたら後先考えず行動してしまうのが長所でもあり短所。
ひそかにナルシストで女好きという噂が流れている。
かっとなったら周りが見えなくなるのがたまに傷。
+++ 設定を生かしきれなかった気がする子です。
上の性格上プログラムに選ばれてしまったことによりかっとなってしまい、柏木さんに歯向かったことによってあんなことに‥
なんだか謝りどころ満載な子です;;
ごめんね、哲太くん‥今度ちゃんとSSかくからね(汗

女子2番 青田郁(あおた・いく)
部活 バレー部
支給武器 手榴弾5個
加害者 神奈川勇介(男子6番)
被害者 なし
死因 後頭部をナタで強打された。撲殺。
登場話 35・36・37
外見特徴 ●ショートカットで後ろ髪が長い
●軟骨にピアスをあけている
備考 男勝りな性格で、負けず嫌いで熱くなりやすい。
バレー部キャプテンで、部活に燃えている。
ショートカットの髪に、軟骨にピアスを開けている。
鞠村織姫(女子16番)・瀬川茜(女子12番)・栗原萌(女子6番)と仲がいい。
深町純次(男子14番)とは1年で同じクラスになってからの親友。
+++ 郁ちゃんは、大好きな子です。
実は自分の経験をいっぱい入れた子なので想いいれが強い強い;;
うちのキャラで1番自分に近い気がする子です(^^)
純次くんとはきっと、天国でまた仲良く性別を超えたお付き合いをやってるかと。

投下ー。


苗木(不二咲さんが○なら仲間であり、×なら敵であるという条件のもと行われたコイントス)

苗木(2分の1を確実に引ける僕の能力によって示された結果は)

苗木(×……不二咲さんが敵であると示していた)



苗木「そ、そんな……」

霧切「やっぱりね」



苗木「やっぱり……って、どこかのタイミングで不二咲さんを疑っていたってこと?」

霧切「ええ。最初から怪しいと思っていたのよ」

苗木「最初っていうと……?」



霧切「大和田君と石丸君が襲撃してきた時点よ」

苗木「そんなときから!? というか不二咲さんと二人が関係あるの!?」



霧切「私の推理では不二咲さんと大和田君、石丸君の三人はチームよ」



苗木「三人がチーム……!?」

苗木「えっ? でも不二咲さんは、二人の襲撃から僕たちを守ってくれたのに……」



霧切「そうね……順序立てて説明していきましょうか」


霧切「一連の流れまず最初は住宅街にバイクが侵入してきたことね」

苗木「潜伏しようとした僕たちがいる住居の窓を破って大和田君と石丸君は襲撃してきたよね」

霧切「ええ。そこから違和感を持ってたのよ」

苗木「違和感?」



霧切「何故大和田君と石丸君は私たちが潜んでいた住居をあんなに早く突き止めることが出来たのかしら?」



苗木「あっ……」

苗木(そうだ、僕だってゲーム開始時に住宅街なら家がたくさんあるから、すぐに潜む家がバレることはないと考えていた)

苗木(その後霧切さんに見つかっちゃったけど、それは超高校級の探偵の能力のおかげだ)

苗木(だから……)


霧切「二人の内大和田君の能力がバイクの召喚なのは分かっていた」

霧切「だからもしかしたら石丸君の能力が私たちの場所を突き止めるようなものなのかもしれないと思ったけど」

霧切「『見た相手の能力、希望が分かる』であることがすぐに分かった」

霧切「この時点で二人の他に私たちの場所を突き止めた能力の持ち主がいるんじゃないかと推測したのよ」



苗木「でも不二咲さんに僕たちの居場所を突き止めることが出来たの?」

霧切「ええ。超高校級のプログラマー、電子機器を操るその能力で住宅街の監視カメラの映像を入手すれば可能よ」

苗木「そっか……それなら僕たちが入った住居の場所を特定出来る……」


霧切「その次が苗木君に銃を渡して、バイクの車輪を打ち抜くように言ったところね」

苗木「不二咲さんが助けてくれて……バイクの音を聞いて駆けつけたって言ってたね」



霧切「まず第一に正直そんな都合良く聞きつけて駆けつけられたのかが疑問よ」

霧切「このゲームフィールドはかなり広いのに、そんな偶然あるかしら?」



苗木「偶然じゃないとしたら……」

苗木「三人がチームなら他二人が僕たちを襲撃することを当然不二咲さんも知っている……ってことか」

苗木「でもだったらチームなのにどうして仲間の邪魔をするように僕たちを守ったのかって疑問が沸くんだけど……」



霧切「それは自作自演の救出劇で、私たちに恩を売るためにやったんじゃないかって推測しているわ」



苗木「自作自演?」


霧切「そもそもだけど……不二咲さんが助けてくれなくても、私たちは大和田君たちから逃げ切れたはずだわ」

霧切「能力のアシストがあれば、苗木君はバイクの車輪を打ち抜くことが出来たはずだから」

霧切「そうなればすぐ近くの森林地帯に逃げ込めばバイクが攻撃手段の二人が私たちを倒すのは不可能」

霧切「そんな地の利が悪いのに二人が正面から襲撃してきたのは……襲撃が失敗することは折り込み済みだったから」



霧切「あの襲撃はその途中で不二咲さんが私たちを守り味方だと印象づけることが目的だったのよ」



苗木「確かに守ってくれたから、すっかり味方だと思っていたけど……」


霧切「その次は希望の変更ね。私の提案で不二咲さんは自分の希望を『世界平和』に変えたけど」

霧切「もし私から提案しなくても、自分から言い出してたでしょうね」



苗木「あ、それだよ!」

苗木「だってこのホープロワイヤルって希望が一回しか変更できないんでしょ!」

苗木「不二咲さんは僕たちの希望『世界平和』に変更したのに、『くれいじーだいあもんど』の希望を掲げる大和田君たちとチームなわけないじゃん!」



霧切「ええ。普通ならそうね」

霧切「だからこれは例外のパターンよ」



苗木「例外……?」




霧切「もし最後まであの三人が残ったとしたら、不二咲さんは自殺する」

霧切「そうすれば『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』の希望は叶うでしょ?」

苗木「……っ!?」



霧切「この戦いの最後までには必ず死ぬ」

霧切「そういう前提で不二咲さんは希望の変更をしたのよ」



霧切「不二咲さんの優しさではこの戦場を生き残れないと私はリタイアを進めたけど……今思えば失礼だったわね」

霧切「こんなに覚悟を決めているというのに」




霧切「さて、これは希望チームシステムを逆手に取った策よ」

霧切「敵チームを信用させられるから、スパイするにはとても効果的だけれどデメリットもあるわ」

苗木「デメリット……?」



霧切「それ以外にも希望変更権を使用するからこの策は一回しか使えない」

霧切「その一回を私たち相手に、『世界平和』に使ったってことは」

霧切「よっぽど私たちを警戒しているってことでしょうね」



苗木「…………」

苗木(霧切さんのここまでの推理は全部つじつまが合っている)

苗木(でも……)



苗木「その証拠は無いよね?」

苗木「大和田君たちが僕らを見つけられたのも、不二咲さんが僕たちを助けられたのも運が良かっただけで……」

苗木「不二咲さんの希望変更は本当に僕たちの希望に心を打たれたから……って可能性もあるはずだよね?」



霧切「……まあ、そうね」

霧切「苗木君の言うとおり証拠は無い。証拠のない推理は絵空事よ」

霧切「だから私は能力を使った」


苗木「霧切さんの能力……? えっと、どのタイミングのこと?」

霧切「不二咲さんが希望変更したすぐ後の『私に敵意を向けているものを示しなさい』のことよ」

霧切「この能力で五つ対象が見つかったのは、電子生徒手帳から見せたから分かってるわよね?」



苗木「うん。住宅地にあった二つが大和田君と石丸君で、少し離れた森の中にあったのは田中君とソニアさんだった」

苗木「最後の一つは枝の上にいたハムスターで………………あれ?」

苗木「でも能力がハムスターに反応したのなら……他の三匹にも反応しないとおかしいよね……?」



苗木(今さら気付く。田中君のハムスターは四匹いる。なのに示された光点は一つだけ)

苗木(これは……)



苗木「あの反応は……ハムスターじゃなかったってこと?」


霧切「ええ、そうでしょうね」

霧切「そもそも敵意をもつものという条件にハムスターは当てはまらない。田中君に操られて私たちを襲っただけだから」



霧切「だったらあの光点は何を示していたのか」

霧切「私の能力は座標が分かっても高度は分からない。あのとき地上には私たちしか居なかったから枝の上って言ってみせたけど……そのまた逆で本当は地上に対象はいたのよ」



苗木「あの位置にいたのは……僕たち三人」

霧切「そして条件は『私』に敵意を向けるものだから、残る候補は二人」

霧切「そうね、苗木君も当てはまるのだけれど、私に敵意を向けているのかしら?」

苗木「そ、そんなことはないよ!」



霧切「ええ。だから残るのは一人。不二咲さんだけ」

霧切「仲間であるはずの私に敵意を向けている理由……それは」



苗木「不二咲さんは僕たちを倒すために仲間になった……スパイだから」


霧切「ということで以上を証拠とし、不二咲さんを私たちの敵と認定するわ」



霧切「おそらくこの後の不二咲さんたちの動きは……そうね」

霧切「もう十分に私たちの信頼を得られたと考えて、不二咲さんは大和田君たちとあらかじめ決めておいたポイント――」

霧切「バイクの能力とプログラマーの能力を十分に発揮できる……この付近だとビルが建ち並び道路が舗装されている商業地区かしら」

霧切「そこに私たちを呼び出す」

霧切「森林地帯が近くに無いから前回みたいに逃げ込むことも出来ないし、仲間だと思われている不二咲さんが確実に先制出来るからかなり高い確率で私たちを倒せると……そういう想定でしょう」



苗木(霧切さんは不二咲さんを敵と想定して、その先を考えている)

苗木(でも僕は……)


霧切「だから私たちとしてはスパイに気付いた利点で、このタイミングで不二咲さんを倒すことも出来るのだけど……」

霧切「ちょっと苗木君、聞いてるのかしら?」



苗木「……うん、ちゃんと聞いてるよ」

苗木「でも……僕は不二咲さんを信じてみたい」

苗木「僕たちの希望、世界平和に賛同してくれた不二咲さんを……信じてみたいんだ」



霧切「……そう」

霧切「あなたはそういう人だったわね」



苗木「ごめんね。霧切さんこうやって推理してくれたっていうのに」

霧切「構わないわ。ならばこのまま不二咲さんを仲間として扱う」



霧切「でも一つ約束して。敵である可能性も考慮して、もし正体を表したら動揺せずに対処すると」

霧切「不二咲さんを信じたい気持ちも分かるけど……私の推理も信じてほしいわ」

苗木「分かった」


<翌朝>

苗木(その後僕たちは夜も遅かったため眠り……夜の間に誰かに襲われるということもなかった)

苗木(無事朝を迎えて朝食として廃墟に残っていた非常食を食べる)



霧切「朝になって能力使用回数も戻った」

霧切「存分に動いていけるわね」

苗木「じゃあまずはどこに向かおうか?」



不二咲「それならちょっと行ってみたいところがあるんだけど……」

霧切「どこかしら?」



不二咲「僕の超高校級のプログラマーって、電子機器がないと効果を発揮しなくて」

不二咲「昨日の森林地帯でハムスターに襲われたときみたいに周りに電子機器がない場所だと無力だから」

不二咲「何か身に付けて使用できるものがないか探しに行きたくて」



苗木「あ、いい考えかもね!」




不二咲「うん、だから……この近くの商業地区に行ってみない?」



霧切「いいでしょう」

苗木「…………」



苗木(霧切さんはさすがのポーカーフェイスで頷く)

苗木(でも僕は何も言えなかった)



苗木(そこは霧切さんの推理だと……僕たちを襲撃する絶好のポイントで……)

苗木(……いや、不二咲さんを信じると決めたんだ)

苗木(これくらいで疑ったら不二咲さんにも霧切さんにも失礼だ)


<商業地区>

苗木(しばらく歩いて目的地にたどり着く)

苗木(舗装された道路、高いビルに囲まれた都市然とした雰囲気の商業地区だ)

苗木(今まで自然溢れる島だと思ってたけど、こんな場所もあるんだな)



霧切「さて電子機器というと家電量販店を探すのがまず最初かしらね」

不二咲「見つかるといいんだけど」



苗木(僕ら三人は通りに並ぶ店を見ながら歩く)

苗木(店員はいないのに店の作りはしっかりしているのが少々不気味だった)

苗木(住宅街の時も同じようなことは思ったけど)



苗木(僕たち生徒が様々な状況で戦うことが出来るようにと希望ヶ峰学園がゲーム会場にいろんなエリアを設定したのだろう)

苗木(単一のエリアだと様々な希望が争うという状況にそぐわないし……)



苗木「あれあっちから誰かが近づいて来て……」

苗木(そんなことを考えながら歩いていると――向かいに二つの人影が見えた)




不二咲「超高校級のプログラマー、発動!!」



苗木「っ……!?」

苗木(そして不二咲さんは唐突に能力を発動)



苗木(ちょうど通りすぎた建築途中のビル)

苗木(その資材運搬用の超高層クレーンを能力で操作して鉄骨の山を僕たちの背後に落とす)

苗木(ガラガラッ! と轟音が辺りに響いた)



苗木「不二咲さん、何を!?」

霧切「苗木君、約束よ!!」

苗木「っ……!!」

苗木(不二咲さんに近寄ろうとした僕を霧切さんが止める)




不二咲「その様子だと……バレてたみたいだね」

霧切「ええ、そうよ」



苗木(背後でようやく轟音が収まる中、不二咲さんは少し悔しそうにしている)



不二咲「霧切さんの推理力を侮っていたみたい……」

不二咲「でも、ここまで付いてきてくれたのは……苗木君が僕を信じようとしてくれたからかな?」



苗木(そのまま不二咲さんは歩いていく)

苗木(そのとき近づいてきていた二つの人影の姿が分かってきた)






大和田「よくやったな、不二咲」

石丸「うむ、いい働きだったぞ!」

不二咲「ありがとね、大和田君、石丸君」



苗木(大和田君と石丸君は近づいてくる不二咲さんを称える)

苗木(つまり……全部霧切さんの推理通りだったのだろう)



苗木「ごめん……霧切さん」

霧切「謝らなくて良いわ」

霧切「この状況逆にチャンスとも言えるもの、三人を一網打尽にする」


大和田「強気だな」

石丸「まあ君たちに逃げ場は無いからな! 僕たちを打ち破るしか手段が無いとも言えるだろう!」



苗木(石丸君の言うとおりだ)

苗木(左右はビルに挟まれ、今歩いてきた背後は鉄骨の山が出来て通れず、正面には大和田君たちが立ち塞がる)

苗木(かなりのピンチだ)



苗木「…………」

苗木(霧切さんと約束した、不二咲さんが敵でも動揺しないと)

苗木(ここは不二咲さんが敵だと認めて、どのように戦うか考えるべきなのだろう)

苗木(それでも……戦う前に聞いておかないといけないことがあった)


苗木「ねえ、不二咲さん」

不二咲「どうしたの苗木君?」

苗木(不二咲さんは大和田君たちに近寄る歩みを止めて振り返る)



苗木「君が希望変更するときに言ってくれた言葉……僕たちの世界平和の希望に賛同するという言葉は嘘だったの?」

不二咲「……そうだね」

不二咲「丸っきり嘘ってわけではないよ」

不二咲「でも僕の胸の内にはそれ以上に強い希望……大事な友達である大和田君の『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』って希望を叶えたい気持ちがあるから」



不二咲「だから、ごめん。ハムスターに襲われたときに助けてもらった恩を仇で返すことになるけど」

不二咲「苗木君たちにはここで退場してもらうよ」



苗木「……分かった。その言葉だけで十分だよ」


苗木(不二咲さんは歩みを再開して大和田君と石丸君のところまでたどり着く)

苗木(そして今度こそ振り返って……僕たちと対峙する)



霧切「ここにはプログラマーの能力の対象がたくさんある」

霧切「さっきのクレーンもだし、街灯を私たちを助けてくれたときのように爆発させるかもしれない」

霧切「消火栓やビルの内部のものを操って何かをするかもしれないし、全方位に注意しなさい」



霧切「そしてバイクはやはりあなたが頼りよ」

苗木「分かった」

苗木(霧切さんから銃を受け取る)




霧切「絶対に勝つわ!」

苗木「やってみせる!!」



石丸「覚悟したまえ!!」

不二咲「『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』を叶えるために!!」



苗木(そして圧倒的ピンチな状況による3対2の戦いが――――――)



大和田「『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』か」






大和田「そんな希望はもうどこにも存在しないぞ」





不二咲「え……? くっ……!?」 グサッ!



苗木(――始まらなかった)



苗木「……………………は?」

霧切「なっ……!?」



苗木(何故なら……大和田君が隠し持っていたナイフで不二咲さんの無防備な背中を刺したからだ)




苗木「…………」

苗木「ど、どういうこと……?」



苗木(どうして大和田君が不二咲さんを攻撃するのか?)

苗木(やっぱり不二咲さんは大和田君たちと敵対していた?)

苗木(いやでもそうしたら不二咲さんが仲間だと思って近づいた意味が分からない)

苗木(だったら大和田君が裏切った?)

苗木(でもそんなことするメリットもないし……)



苗木「一体、何が起きて…………」



霧切「っ……そうだわ」

霧切「もっと早めに気付くべきだった」




霧切「大和田君、どうしてあなたはバイクに乗っていないのかしら?」



大和田「…………」



苗木「バイクに……」

苗木(そうだ、二つの人影は歩いて近づいてきていた)

苗木(バイクに乗る隙を見せないためにも、バイクに乗って近づいた方がいいはず)

苗木(音を聞かれて逃げられる心配も無いわけだし)



苗木(だったらどうしてバイクを出していなかったのか)

苗木(そして戦いが始まるというこの段階になってもバイクを出さないのか?)




霧切「発動、超高校級の探偵!」

霧切「大和田紋土の位置を示しなさい!!」

霧切「………………」



霧切「石丸清多夏の位置を示しなさい!!」

霧切「………………」



霧切「……駄目なようね」



苗木「駄目っていうと……」



霧切「能力使用回数が減っていない」

霧切「つまり……このサバイバルゲームのフィールドに現在二人は存在しないのよ」


苗木「存在しないって……でも、今目の前に二人はいるんだよ!?」



霧切「ええ。だからあの二人は偽物よ」



苗木「偽物……!?」



大和田(?)「ったくよう。霧切、おまえは気付くのがはえーんだよ」

石丸(?)「その通りだ! もう少し戸惑う姿を見たかったぞ!!」



霧切「二人のマネして不愉快だわ。さっさと姿を現して頂戴」



大和田(?)「ノリが悪ぃな……おいっ」

石丸(?)「分かっています」



苗木(大和田君の呼びかけに、石丸君が対応)

苗木(すると二人の姿が光に包まれて――)




江ノ島「というわけで劇場『裏切りの味』主演はアタシ、江ノ島盾子と!」



白銀「メイクリスト兼助演の白銀つむぎでしたー!!」



苗木(大和田君の立っていたところに江ノ島さんが)

苗木(石丸君の立っていたところに白銀さんが姿を現した)





『能力:超高校級のコスプレイヤー』

『自分か他者を指定した他人の姿、声に変えることが出来る。ただし変身には時間がかかる。一日三回使用可能』

続く。

同じです。こっちには書きましたが、あっちにはこっちで転載していること書いてなかったですね


苗木たちの前に表れた江ノ島たち。

現在何が起きているのか?

時をさかのぼる。





<一日前>

苗木たちが住宅街で大和田たちの襲撃を受ける直前のこと。



不二咲「監視カメラの映像から苗木君と霧切さんがこの住宅街にいるみたいだよ」

石丸「『超高校級の風紀委員』の能力は直接見ないと能力と希望が分からない」

大和田「だとしても一緒にいて戦っていない時点で、チームを組んでると見て良さそうだな」


大和田「よしっ、場所が分かったし襲撃するか」

石丸「待ちたまえ、兄弟。相手は苗木君と霧切君だぞ。慎重に行った方がいいのではないか?」

大和田「怖じ気付いてんのか? 3対2だし負ける要素ねえだろ」



不二咲「うーん……でも場所が悪いかな。住宅街じゃ僕の能力もそんなに活かせないし」

石丸「それに苗木君たちが潜伏している住居は森林地帯に近い。逃げ込まれたら兄弟のバイクの利点が失われるぞ」

大和田「だったら逃がさねーようにすればいいだけじゃねえか」



石丸「敵だって能力を持っている。それを使って逃げ込む隙を作られるかもしれない」

大和田「だあっ、もう。まどろっこしいな」


大和田「いっつもそうだ、おまえは慎重すぎるんだよ」

石丸「それを言うなら、兄弟は大ざっぱすぎるではないか!」



不二咲(二人が言い争う……がいつものことなので放っておく)

不二咲(二人とも本気ではない。お互いの長所として理解しているはずだから)



不二咲(問題なのは苗木君と霧切さんへの対応だ)

不二咲(僕たちの希望を叶えるためにも、いつ立ちはだかってもおかしくない壁)

不二咲(だとしたらこっちが先に居場所を捕捉したこの状況を生かしたい)

不二咲(でも積極的に行っても逃げられるかもしれないし、慎重になりすぎても苗木君たちが移動するかもしれない)

不二咲(だったら――)




不二咲「二人を僕たちの得意な場所に誘き出そう」



大和田「ん?」

石丸「……それは出来るなら、そうしたいところだが」



不二咲「一つ作戦を思いついたんだ。聞いてくれる?」




<大和田と石丸の襲撃後>

大和田「……行ったな」

石丸「ああ」

石丸(苗木君と霧切君、不二咲君の三人が去った方角の森を見やる)



大和田「大丈夫だと思うか?」

石丸「五分五分だな。同じ希望に変えるまですれば仲間だと思ってくれるだろうが……霧切君の推理力が違和感を捉えてバレるかもしれない」

大和田「…………」

石丸「だとしても僕たちに出来るのは信じることだけだ」

大和田「ああ、そうだな」



石丸「忘れないように作戦を記したメモもある」

石丸「襲撃のポイント、商業地区に先乗りしておこう。兄弟、バイクに乗せてもらえるか?」



大和田「ぶっ飛ばしてもいいか?」

石丸「いや、そこまで急ぐわけじゃないからゆっくりでいいぞ」


大和田(バイクで商業地区への道を進む)

大和田(風を感じながら進んでいると……進路脇に一人の生徒の姿が見えた)



大和田「ん、あれは江ノ島か?」

大和田(まだ距離があるが互いの姿は分かる)



江ノ島「やばっ……」



大和田(江ノ島もこっちに気付いたようで逃げていった)

大和田(江ノ島……っつうとただのギャルだ)

大和田(双子らしく超高校級の軍人、戦刃むくろとつるんでる姿を見ることもあるがそれくらいだろう)

大和田(別にこのホープロワイヤルで特に障害になるような相手だとは思えない)



大和田(対して苗木……幸運なんてふざけた才能で希望ヶ峰学園に入ってきたっていうのに、いつの間にか俺たちの中心になっている)

大和田(霧切も超高校級の探偵というだけあってヤバいやつだ。簡単に他のやつにやられるとは思えない)

大和田(俺たちが希望を叶えるためにどこかで絶対に乗り越えないといけない壁となると思っていた)



大和田(だから今は二人に集中だ。江ノ島なんて放っておいて――)




石丸「兄弟! 今の江ノ島君を追ってくれないか!!」



大和田「……何故だ?」

石丸「僕の能力に基づく判断だ!」

石丸「彼女の能力……それに希望は放っておけない!!」



大和田(『見た相手の能力と希望が分かる』能力……距離はあったが、江ノ島の希望と能力も分かったんだろう)

大和田(ただのギャルにそんな警戒するほどか……とは思うが)

大和田(その顔は緊張感に溢れている)

大和田(苗木と霧切を優先するべきと分かっていて、なお放っておけないということか)



大和田「いいぜ、ぶっ飛ばすから掴まってろよ!」

石丸「もちろんだ!」


<商業地区>

石丸(江ノ島君を見つけた地点は商業地区の近くだった)

石丸(彼女は商業地区に逃げ込み、僕たちもそれを追う)

石丸(最初に距離があったこと、曲がり角などを生かして僕らを撒こうとするが)

石丸(こちらのバイクの移動スピードには成す術がないようだった)

石丸(商業地区の大通り、疲れてへたり込んだ江ノ島君の前に僕らは立つ)



江ノ島「ちょっ、と。酷く、ない? ただの、ギャル、相手に本気で、追いかけるとか」 ゼーハー



石丸(江ノ島君は肩で息をしている)



石丸「ただのギャルか……ならば君の希望はどういうことなのかね?」



江ノ島「は、何でアタシの希望を……?」

江ノ島「……あ、そっかー。それがあんたの能力なのね」



大和田「どういうことだ? 江ノ島の希望はそんなにヤバいのか?」

石丸「ああ。僕の能力は示している、口にするのもおぞましい希望を」



大和田「……なら良かったな。ここで江ノ島を倒せば終わりだろ? 能力は大丈夫だよな?」

石丸「ああ。江ノ島君の能力は奇怪なものだが、この状況をどうにかするものではない」

大和田「そっか。じゃあ、あばよ」



石丸(兄弟がバイクのアクセルをかける。このまま江ノ島君を轢いて、ゲームから退場させるのだろう)

石丸(江ノ島君はへたりこんだ姿勢のまま動けず――)




江ノ島「ばんっ!」



石丸(せめてもの抵抗か、指を立てて模した銃を僕らに向けて、口で発射音を言った)



大和田「悪あがきにもなってねえな」

石丸「ああ」



石丸(今の行動が能力のトリガーになっているとかならともかく、そうでないことが僕には分かる)

石丸(どうしようもなくなって最後にふざけたのだと判断して)






モノクマ『死体が発見されました!!』



石丸「くっ……!?」

石丸「うわぁぁぁっ!?」



石丸(そのアナウンスの後に、僕は道路に投げ出された)



石丸「一体何が……?」

石丸(アナウンスが鳴った後……気づいたら僕は地を這っていた)

石丸(状況を確認して……気づく)



石丸(バイクも兄弟の姿も見当たらないことに)



石丸「…………」

石丸(バイクは……兄弟が能力で呼び出したものだ)

石丸(兄弟の意志により任意で消すことも可能だが……今そんなことをする必要はない)



石丸(だったらどうしようもなくなって消えたのか?)

石丸(直前のモノクマのアナウンス、消えたバイクと兄弟の姿)

石丸(つまり――)




江ノ島「全く、馬鹿ですね」

江ノ島「誘き出されたのはあなたたちの方ですよ」



石丸(江ノ島君は無いメガネをクイッと上げて、女教師風につぶやく)

石丸(それで僕は何が起きたのか気づき……どうしようもないことにも気づいた)



石丸「くっ……すまない、兄弟、不二咲君……!」



江ノ島「ばんっ!」



石丸(先ほどと同じように指を立てて模した銃を僕に向けて、口で発射音を言う)






モノクマ『死体が発見されました!!』



直後、アナウンスが商業地区の大通りを駆け抜けていった。




<現在>

苗木「大和田君と石丸君が……江ノ島さんと白銀さんに変わった……」

苗木「いや、最初から化けていたのが……元に戻った?」



苗木(そうか。江ノ島さんが化けていた大和田君だったから、能力も違っていてバイクを呼び出せなかったのだろう)



苗木(でもだったら……大和田君と石丸君は現在何をしているのか……)

苗木(どうして二人は探偵の能力でも居場所が分からないのか……このゲームのフィールドにいないというのは……)



霧切「状況的に考えて大和田君と石丸君の二人はあなたたちが倒したということよね?」

江ノ島「あぁ、そういうことだよ!」



苗木「っ……!」


苗木「二人は相手の能力と希望が分かって、バイクで攻撃できる隙の無いコンビだった」

苗木「江ノ島さんの能力は分からないけど……そう簡単にやられるはずが無いって!」



霧切「ええ、私も同意見よ」

霧切「でもこうして商業地区で襲撃するという作戦が完全に乗っ取られている以上、江ノ島さんたちが二人を倒したと考えるしか無いでしょう」

霧切「昨日の夕方、二回の死体発見アナウンスが鳴ったあのときにね」



江ノ島「ええ、その通りです」

江ノ島「ご丁寧にも作戦を記したメモがあったので、それを読んで乗っ取らせてもらいました」


霧切「大和田君と石丸君を倒し、不二咲さんにも不意打ち」

霧切「となると、次は私たちってことなのかしら?」



江ノ島「ったりめーだよ! わざわざ逃げられないようにお膳立てもしてくれたしな!」



苗木(そうだ、対峙する人間が別人になったが、状況は変わっていない)

苗木(左右をビルに囲まれ、後方を鉄骨の山に阻まれ、正面から江ノ島さんたちが迫っていることに変わりはない)



苗木「でも……さっきより状況は良くなったよね?」

苗木「白銀さんの能力は他人に化ける能力なのは分かっているから、江ノ島さんの能力だけを警戒すればいいもんね」



白銀「そう見せて私の能力が違ったり、二つ目の能力を持っていたりするかもしれないよ!」

霧切「あり得ないわね」

白銀「うぅ……ばっさり……まあ、そうですけど」


苗木(江ノ島さんは超高校級のギャル)

苗木(ソニアさんの王女と同様にどういう能力なのか想像が付きにくい)

苗木(だが大和田君と石丸君の二人を倒したと言った)

苗木(警戒が必要だろう)



江ノ島「さてと、じゃあ二人まとめて倒させてもらおっかなー!」

江ノ島「発動、超高校級のギャル!」



苗木(江ノ島さんは能力の発動を宣言)

苗木(僕は何が起きても大丈夫なように江ノ島さんに注目して――)




霧切「――その程度のペテンに引っかかると思ったかしら?」



苗木「え?」



霧切「発動、超高校級の探偵!」

霧切「戦刃むくろの位置は――あのタワーよ!!」



苗木(霧切さんは少し離れた場所にある、この商業地区でも一番高いタワーを指さす)



苗木「え、でも戦刃さんの位置って……?」



霧切「江ノ島さんは大和田君と石丸君を倒したけれど、普通に考えて二人の力の方が上よ」

霧切「能力による奇襲も、見た相手の能力が分かる石丸君には通じない」

霧切「だったら――見えない位置から第三者による奇襲が一番可能性が高い!」


苗木「第三者……そうか、いつもの様子からして二人がチームを組んでいる可能性は高いから……!」

霧切「ええ! 状況は一緒よ! 江ノ島さん能力を使う素振りはブラフ」

霧切「自分に気を引かせて――本命は超高校級の軍人、戦刃さんによる狙撃!」

苗木「っ……!」



江ノ島「ちっ……! やれっ!」



苗木(江ノ島さんは電子生徒手帳に向かって叫ぶ)

苗木(おそらくずっと戦刃さんと通話状態だったのは想像が付いた)



苗木(つまりあの位置から銃弾が――)




苗木「発動、超高校級の幸運!!」



苗木(僕は霧切さんの手を引き、身体を投げ出しながら能力を二回発動)



苗木(僕が銃弾に当たらない確率)

苗木(そして僕が銃弾に当たらないように霧切さんを誘導できる確率を上げる)



苗木(相手は超高校級の軍人……兵器の取り扱いは抜群だ)

苗木(普通ならかなり高い確率で撃たれるはずで、幸運の才能も効かなかっただろう)



苗木(でも狙撃が来ると分かっていたこと)

苗木(狙撃手がどこにいるか分かっていたこと)

苗木(タワーから少し離れていて距離があったことなどが幸いして……能力による不思議な感覚があり、銃弾は僕たちがさっきまでいた場所に二発着弾する)


苗木「ふぅ……何とか」

霧切「ええ、助かったわ」



江ノ島「くっ……だがまだ終わりじゃねえぞ!」



苗木(一瞬安堵したが、江ノ島さんの言うとおりだ)

苗木(僕らはまだタワーからの射線を切ることが出来ていない)

苗木(今すぐ物陰にでも入ってやりすごすべきなのだが、今の銃弾を避けるので精一杯で身体を投げ出したため、すぐにでも立ち上がって逃げないといけない)

苗木(でも、それと戦刃さんが再度照準を合わせるのどっちが早いだろうか?)



霧切「あちらの方が早そうね」

苗木「それでも僕は諦めない……!」

霧切「ええ、そうよ……!」

苗木(僕と霧切さんは立ち上がり移動しようとして)



江ノ島「おせーよ、ばーか」



苗木(江ノ島さんの最後通牒が下り――)




不二咲「発……動! 超高校級のプログラマー……!!」



苗木「不二咲さん……!!」

江ノ島「なにっ……!?」



苗木(倒れていた不二咲さんが能力を発動)

苗木(僕らの頭上にあった街灯が限界まで稼働して、光の爆発を起こした)



苗木(直後に銃弾が少し逸れた場所に着弾する。目くらましは成功したようだ)



苗木(僕らはその隙に倒れたままの不二咲さんを抱えながら、戦刃さんのいるタワーからは死角となるわずかな安全地帯、街灯の変圧器の陰に逃げ込んだ)


苗木「ありがとう、助かったよ不二咲さん!」

不二咲「良かっ……た。これで……借りは返せたかな?」

霧切「傷が深いわね……ナイフは抜かない方が良いわ」



苗木(不二咲さんは大和田君に化けた江ノ島さんにより不意打ちを食らっている)

苗木(そんな状態なのに僕らを助けてくれた……感謝しかない)



江ノ島「だぁっもう、ちょこまかと! つうか、何回も外してんじゃねえ、残姉!!」

戦刃『ごめん、盾子ちゃん』

白銀「それでどうすればいいですか?」

戦刃『三人を私の射線上に出して。次こそ仕留める』

白銀「確率に位置探索に電子機器の操作……最後だけ気をつければ、私たちでもそれくらいは出来そうですね」

江ノ島「面倒くせえな……わーったよ」


苗木(相手の短い作戦会議が終わったようだ)

苗木(戦刃さんは変わらず狙撃体勢。他の二人が僕らに迫る)

苗木(普通に戦えば護身術の心得がある霧切さんが負けるとは思えないけど、相手はこのわずかながらの安全地帯から僕らを引きずり出せばいいだけだ)

苗木(分が悪いだろう)



苗木「どうすればいいかな?」

霧切「そうね……この場で三人を倒すのは難しそうね」

霧切「高所を狙撃手に抑えられているのが痛いわ」

霧切「罠を張っていた相手が上手だったとして逃げるしかないけど……それも難しい」

霧切「あのタワーの高さと位置、そして戦刃さんの技術からして、この商業地区ほとんどをカバー出来る」

苗木「っ……だったらどうすれば……」




不二咲「僕が時間を稼ぐから、二人はその間に逃げて」



霧切「それは……」

苗木「だ、駄目だよ! 不二咲さんも一緒に……!」

不二咲「誰かが時間を稼がないと逃げられないと思うよ。それにこの傷じゃ足手まといだしね」

苗木「でも……不二咲さんにも希望があるんでしょ!? それなのに……」



不二咲「ううん。もう僕の本当の希望はどこにもないんだ」



苗木「えっ……?」



霧切「スパイ行動のデメリットよ」

霧切「不二咲さんは一度しかない希望変更権を私たちを欺くために使った」

霧切「元の希望に戻ることは出来ない」

霧切「それでも最後に同じ希望を持つ仲間が残るように立ち回ればいい話だったけれど………」



苗木「そっか……石丸君も大和田君も退場した」

苗木「この戦刃に『暮威慈畏大亜紋土を世界で一番の族にする』を持つ人はもういない」




不二咲「うん。でもね、さっきも言ったけど僕は『世界平和』って希望も結構気に入ってるんだよ」

不二咲「だから……苗木君たちをここで逃して生き延びさせることは、その身に宿る希望を叶える手助けになれるなら本望なんだ」

不二咲「先に裏切っておいて何だって言われるかもしれないけどね」




苗木「不二咲さん……分かった。僕は君の思いも背負うよ」



霧切「ここは引くけど……大和田君や石丸君の分も含めて、いつか必ず江ノ島さんたちに敵討ちするわ」



不二咲「……ありがとう」






不二咲「じゃあ……行くよ」

不二咲「発動、超高校級のプログラマー!!」



苗木(不二咲さんは能力を発動)

苗木(先ほど鉄骨を落とした超高層クレーンを操作して僕と霧切さんを釣り上げた)



不二咲「道路を封鎖した際に落とした鉄骨の山の裏に運ぶよ」

不二咲「そうすれば戦刃さんの射線も通らないはずだから、そのまま逃げて!」



霧切「そうね、逃げる方法はそれが最善……でも」



江ノ島「はんっ、そんな空中に出て的だろ! 残姉っ!」

戦刃『分かってる』



苗木(空中で動けない僕らに戦刃さんが照準を合わせる)

苗木(タワーと僕らの間に障害物は何も存在しない。今度こそ絶体絶命だと覚悟して――)




苗木(突如吹き出た水が銃弾を打ち、軌道を逸らした)



霧切「消火栓を操作したのね」

苗木「ありがとう、不二咲さん!!」

不二咲「頑張ってね、二人とも!」



苗木(そうして僕らは鉄骨の山の向こうにさしかかり、不二咲さんや江ノ島さんたちの姿は見えなくなった)



江ノ島「あーあーあーあー」

江ノ島「二度あることは三度あるかよ。つっかえねーな」

戦刃『……ごめん』

白銀「ま、まあ一人残っていますし」

江ノ島「でも虫の息だろ?」



不二咲「今日の能力の発動はこれで四回……残りはあと一回だけ」

不二咲「これを使って……少しでもあがいてみせる!!」



江ノ島「ふうん……三対一。圧倒的絶望な状況だってのに、生意気にも希望を宿して」

江ノ島「うぷぷっ、それでこそ絶望させがいがあるね!」




苗木「不二咲さん……」

霧切「……急ぐわよ。狙撃が不可能とみた戦刃さんが回り込んで接近する可能性も否めないから」

苗木「分かった」



苗木(僕らは振り返らず走る)

苗木(逃がしてくれた不二咲さんの意志を無駄にしないためにも)





モノクマ『死体が発見されました!!』





苗木(途中流れたアナウンスにも足を止めず……走り続けた)


不二咲を始末した江ノ島たち。

戦刃がタワーから降りて二人と合流する。



戦刃「でも良かったの、盾子ちゃん?」

江ノ島「ん、何が?」

戦刃「人類史上最大最悪の絶望的事件の実行前に本性現して」

江ノ島「長年準備してきたんだぞ!! 駄目に決まってんだろうが!!」

戦刃「え……? じゃあ……」



江ノ島「うぷぷっ、でもそうやって長い間頑張った計画をぶち壊す絶望感」

江ノ島「それに……この希望が叶った時のワクワク感には変えられないよ!」



戦刃「……盾子ちゃんが納得してるなら良いけど」

白銀「私も付いていくだけです!」


白銀つむぎ。

『能力:超高校級のコスプレイヤー』

『自分か他者を指定した他人の姿、声に変えることが出来る。ただし変身には時間がかかる。一日三回使用可能』



戦刃むくろ。

『能力:超高校級の軍人』

『軍人としての力、技術を発揮できる』



江ノ島盾子。

『能力:???』

『詳細不明』



この三人の希望は一致している。






『世界を絶望させる』――という希望で。








江ノ島「あー楽しみだなあ」

江ノ島「希望の象徴、希望ヶ峰学園が自らの手によって世界を絶望させるって」

江ノ島「うぷぷっ……なんて絶望的なんだろうね!」


続く。

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