桂木桂馬「涼宮ハルヒ?」 (64)


神のみぞ知るセカイと涼宮ハルヒの憂鬱のクロスです。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1562858908


桂馬「誰だ?そいつ」

エルシィ「誰って、次のターゲットですよ!神にーさま!」

桂馬「…なぁエルシィ。駆け魂狩りを始めてもう数ヶ月は経ったはずなのに、ボク達はいつまでこんなことを続けなきゃいけないんだ?」

エルシィ「そ、それは全ての駆け魂を捕まえるまでですよ!」

桂馬「なんだか果てしなく長い戦いになりそうだなぁ…」ハァ


桂馬「それで、その涼宮ハルヒってのはいったいどんな奴なんだ?」

エルシィ「えっと、涼宮ハルヒさん。光陽園学園って学校に通っているみたいですね」

桂馬「…なんだその貧相な情報は?もっと攻略に役立ちそうな情報は他にないのか?」

エルシィ「うーん……あっ!そういえば、高校に入学した時にした自己紹介の台詞はありますよ!」

桂馬「は?自己紹介の台詞?」

エルシィ「はい。えっと…」


ハルヒ『ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所に来なさい。以上』


エルシィ「って感じみたいです」


桂馬「なるほど、わかった。ボクは降りる」

エルシィ「待ってください神にーさま!どうしてそんなこと言うんですかー!?」ガーン!!

桂馬「やかましい!こんな自己紹介をする奴なんてかなり危ない奴に決まってる!だからボクはパスだ!」

エルシィ「そんなっ!?神様と私は駆け魂を集めないと死んじゃうんですよ!?」

桂馬「…ぐっ…それは…!!」

エルシィ「とにかく!今回もやるしかないんですよ!神にーさま!」

桂馬「……ぐぐぐぅ…」

エルシィ「さあ!そうと決まれば、さっそく涼宮ハルヒさんに会いに行きましょう!」ガシッ

桂馬「うわっ!?急にボクを連れて飛ぶのはやめろぉおおおお!!!」ヒュー


~光陽園学院前路上~


桂馬「…で?どいつが涼宮ハルヒなんだ?」

エルシィ「えーっと、えーっと……あ!いました!あの黄色い髪飾りをつけた長い髪の人です!!」

桂馬「……ふむ」

桂馬(見ると、えらい美人がそこにいた)

桂馬(しかし、整った顔とは裏腹に、彼女の顔に浮かぶ表情には退屈の色しか見えない)

桂馬(あの自己紹介にこの表情…)

桂馬「…なるほど。大体わかった」

エルシィ「え!?もう何かわかったんですか!?」

桂馬「ちょっと行ってくる」スタスタ

エルシィ「ちょっと、神にーさまー!!」


桂馬「お前が涼宮ハルヒか?」

ハルヒ「…何?あんた誰よ」

桂馬「ボクの名前は桂木桂馬だ」

ハルヒ「桂木…?知らない名前ね。あたしに何の用?」

桂馬(目の前に広がる現実に対して失望…いや、絶望している奴に対して打つ、最初の一手)

桂馬(あんな自己紹介をするぐらいだ。生半可な言葉では、こいつには届かないだろう。ーーであれば、)

桂馬「ただの人間には興味ありません、だったか?」

ハルヒ「…それが何?もしかして、あんたはただの人間じゃないってわけ?」

桂馬「そうだ。ボクは他の奴らとは違う」

ハルヒ「あっそ。それじゃあんたは何者だっていうの?宇宙人?未来人?異世界人?それとも超能力者?」

桂馬「どれも違う。ボクは宇宙人でも未来人でも、異世界でもないし、ましてや超能力者でもない。ボクはーー」




桂馬「ボクは落とし神だ」




ハルヒ「は?落とし神?」

桂馬「涼宮。お前はこのつまらない現実に嫌気がさしているんだろう?」

ハルヒ「!」

桂馬「だからボクがお前に見せてやる」

桂馬「この平凡で退屈な現実なんかよりも何倍もいい世界…」

桂馬「ボクが神と呼ばれている、最高の世界を」


~桂木桂馬宅~


ハルヒ「ねえ」

桂馬「なんだ?」カチカチ

ハルヒ「この状況は……何?」

桂馬「何ってそんなの見ればわかるだろ?」カチカチ

桂馬「ボク達は今、許嫁と妹の3人で同棲生活を始めたところだ」カチカチ

ハルヒ「そうじゃなくて、どうしてあたしがこんなオタクっぽいゲームをあんたと一緒にプレイしてるのかって聞いてるのよ!!」

桂馬「なんだ。そんなこともわかってなかったのか」ハァ

ハルヒ「わかるわけないでしょ!!いいからさっさと説明しなさいよ!!」


桂馬「涼宮。お前は現実に不満があるんだろ?」

ハルヒ「は?何よ急に」

桂馬「お前は平凡な現実がつまらなくて仕方がない。そうだな?」

ハルヒ「……」

ハルヒ「…そうよ。あんたの言う通り、あたしは毎日が退屈で仕方ない」

ハルヒ「そこら辺の茂みから宇宙人でも出てきてくれれば、少しは面白いことになりそうなんだけどね」フッ

桂馬「だけど、現実はそんなに甘くない。何故ならこの世界はそんな風にはできてないからだ」

ハルヒ「そんな風にはできてない…」

桂馬「そう。だからボクはお前につまらない現実とは違う、この素晴らしい世界を教えてやる」


ハルヒ「…その素晴らしい世界ってのがこれ?こんなゲームの何が楽しいの?」

桂馬「こんなゲームとは失礼なっ!!これでもボクが選びに選んだ名作を紹介しているんだぞ!!」

ハルヒ「名作だかなんだか知らないけど、こんなの“たかがゲーム”じゃない。これの何が良いわけ?」

桂馬「涼宮。ギャルゲーを“たかがゲーム”だなんて考えてはいけない」


桂馬「例えば今、主人公は妹の部屋に入ろうとしている訳だけど…ここで2つの選択肢が出てくる」


【ドアをノックする】

【ドアをノックしない】


ハルヒ「…これが?」

桂馬「涼宮。お前ならどっちの選択肢を選ぶ?」

ハルヒ「そんなの状況から見て、ドアをノックするに決まってるじゃない」

桂馬「…やっぱりお前は何もわかってない」フッ

ハルヒ「はぁ!?何がわかってないって言うのよ!」


桂馬「なら、涼宮の言う通りドアをノックしてみようか」ポチッ


妹『キャー!!兄さんのエッチー!!!』


ハルヒ「…何これ。どうしてノックをしたらドアが勝手に開いたの?」

桂馬「これは部屋のドアが完全に閉まりきってなかったんだ。だから、軽くノックしただけでドアが開いてしまった」

桂馬「そして涼宮がこの選択肢を選んだ結果、妹が着替えをしている最中に主人公がその部屋に押し入ってしまったという状況が生まれたのさ」

ハルヒ「はぁ!?こんなのただの引っ掛けじゃない!?」

桂馬「こんなの引っ掛けでもなんでもない。ギャルゲーでは普通の選択肢のひとつだよ」フッ

ハルヒ「ぐぬぬぬぬ…」

桂馬「でも、どうだ?これで涼宮も少しはやる気になってきたんじゃないか?」

ハルヒ「………じゃないの」

桂馬「ん?」

ハルヒ「バッカじゃないの!?あたしにはこんな下らないことに付き合ってる暇はないの!」

ハルヒ「あんた、少しは話がわかるかもって思ったけど、ただの勘違いだったみたいね。さよなら」スタスタ

桂馬「……」

桂馬「…なるほど。思った通り自己中心的な奴だな」


エルシィ「あのー、神さま…」

桂馬「エルシィ?なんだ居たのか」

エルシィ「神さま。涼宮さんとふたりでギャルゲーをするなんて正気ですか?」

桂馬「もちろん正気だ。むしろ、真面目に考えたからこそやってるんだ」

エルシィ「どういうことですか?」ハテ

桂馬「涼宮はつまらない日常に飽き飽きしている。つまりは刺激を求めているわけだ」

エルシィ「ふんふん」


桂馬「そして、涼宮のようなキャラの攻略方法は大きく分けて2つある」

桂馬「1つは、相手にやりたいことを見つけさせて、それを一緒にやっていく方法」

桂馬「実は相手に任せるこの方法が一番簡単なんだけど、“涼宮のやりたいこと”を考えると、この方法は今回のパターンでは見送らなければならなくなる」

エルシィ「涼宮さんのやりたいことっていうと、“宇宙人とか未来人を見つけること”ですか?」

桂馬「そうだ。主導権を涼宮に持たせて彼女に巻き込まれる形を取ると、必然的に“それ”が絡んでくる」

桂馬「短期戦に持ち込みたいボク達としてはこの方法は取れないんだよ」


エルシィ「それじゃ、神さまの言っていたもう1つの方法っていうのは…」

桂馬「簡単だ。退屈を持て余している涼宮のために、やりたいことをこちらで作ってしまえばいい」

桂馬「そして、涼宮に巻き込まれないようにするためには、逆にボクが涼宮を巻き込むようにする」

エルシィ「…それでゲームですか?」

桂馬「ああ。何かに夢中になっているうちは、退屈なんて忘れられるだろ?」

桂馬「だから、まずボクは涼宮をギャルゲーに夢中にさせるんだ」

エルシィ「えぇー……そんなことできるんですか?」

桂馬「エルシィ。ボクを誰だと思ってるんだ?」

桂馬「ボクは神…落とし神だぞ?」フッ

エルシィ「でもでも…」

桂馬「ま、ボクの手にかかればあんな奴…3日もあれば充分さ!」


ー翌日ー

~光陽園学院前路上~


ハルヒ「気がついた!」


桂馬(今日も涼宮とゲームをするため、彼女を待っていたボクに投げられた言葉がこれだった)

桂馬「…どういうことだ?」

桂馬(昨日の言動からして、涼宮のボクに対する好感度はとても低いものだと考えていた)

桂馬(しかし、目の前にいる涼宮の表情は、昨日までの彼女からは考えられないほどに輝いていた)


ハルヒ「昨日あんた言ったわよね?現実はゲームとは違うって」

桂馬「…ああ。それがどうかしたか?」

ハルヒ「あの後、あたしなりに考えてみたのよ!どうすれば現実の世界が面白くなるのかって!」

ハルヒ「昨日の夜は今までの人生の中で一番頭を使ったわ!えらく頭が痛くなったもの!」

桂馬「…それで?」

ハルヒ「それでついに閃いたのよ!考えてみればすごく簡単なことだったわ!」

桂馬(そして涼宮は、ボクの目を見つめながら、自信満々の顔でこう言った)




ハルヒ「ないんだったら、自分で作ればいいのよ!」




桂馬「は?自分で作る…?」

ハルヒ「そうよ!まったく、どうしてこんな簡単なことに今まで気がつかなかったのかしら」

ハルヒ「今まで何もしてこなかった過去の自分をひっぱたいてやりたいわよ!」

桂馬「……これはまずいぞ」

桂馬(恐れていたことが起きてしまった)

桂馬(涼宮は自分でやりたいことを見つけてしまった)

桂馬(そしてこのままでは、彼女に主導権を握られてしまう)

桂馬(涼宮に主導権を握られたら最後、ボクの時間が著しく削られてしまう)

桂馬(なんとかして、昨日までのルートに修正しなければ…!!)


桂馬「…涼宮。なければ作ると言ったが、お前が作ろうとしてるのはそう簡単に作れるものじゃないだろ」

ハルヒ「バカね。それくらいあたしにだってわかってるわよ」

桂馬「それならーー」

ハルヒ「だからまずは、身近に面白そうな不思議がないかを調べるのよ!」

桂馬「は?身近の不思議を調べる?」

ハルヒ「そうよ!こんなつまらない現実にだって、不思議の1つや2つあるべきなのよ!」

ハルヒ「そうと決まればチンタラなんてしてられないわ!1分1秒が惜しいもの!」ガシッ

桂馬「ちょっと待て!!ボクはそんなのに付き合うつもりは…」

ハルヒ「あんなゲームしてる時間があるなら、あたしに付き合いなさい!」

ハルヒ「いいわね!」ダダダッ

桂馬「ロードだ!!ロードをさせてくれぇええ!!」


ー夜ー

~桂木桂馬宅~


桂馬「まさか、こんなことになるなんて…」ボロッ

エルシィ「結局今日は涼宮さんと何をされてたんですか?」

桂馬「…暗くなるまで宇宙人や未来人を探しながら、この辺を歩いてた」

エルシィ「は、はぁ。そうですか…」

桂馬「現実の路上にそんな奴等がいるかぁあああ!!」

エルシィ「わっ!?にーさま落ち着いて!!」

桂馬「くそっ!この状況は本当にまずい!このままじゃボクは死ぬまで涼宮と不思議探索をする羽目になる!」

桂馬「どうにかして、ボクが巻き込むルートに引き込まないと…!!」


ー翌日ー

~光陽園学院前路上~


ハルヒ「よし。それじゃあ今日は…」

桂馬「待て涼宮。毎日宇宙人達を探しても無理があるとは思わないか?」

ハルヒ「は?どうしてよ」

桂馬「向こうだってバカじゃない。闇雲に探したところで、奴等が見つかるとは到底思えないからだ」

ハルヒ「じゃあどうするって言うのよ」

桂馬「ゲームの世界になら不思議はそこら中に転がっている。であれば、それを参考にして不思議を探すのも悪くないはずだ」

ハルヒ「…ゲームで不思議が見つかる場所を現実でも探してみるってこと?」

桂馬「そうだ。だから現実での不思議探索と、ゲームの攻略。これを同時に行うのはどうだ?」


ハルヒ「それって結局あんたがゲームをやりたいだけじゃないの?」

桂馬「……そんなことはない」プイッ

ハルヒ「思いっきり目を反らしたわね」ジー

桂馬「……」

ハルヒ「ま、あんたの言い分はわかったわ。確かに当てもなく不思議を探し回るのは効率が悪そうだしね」

ハルヒ「あんたの提案に乗ってあげる」

桂馬「…それはどうも」

桂馬(こうして、涼宮ハルヒとの怒濤の毎日が始まった)


~とある建物の屋上~


ハルヒ「気持ちを集中させなさい。そうすれば、あんたにだって超能力者を見つけることができるかもしれないわ」

桂馬「……そんなわけないだろ」ボソッ

ハルヒ「何か言った?」

桂馬「よーし!出てこい超能力者ー!!」


~桂木桂馬宅~


桂馬「……」カチカチ

ハルヒ「本当にあんたってゲームが好きなのね」

桂馬「……」カチカチ

ハルヒ「こんなゲームのどこがいいわけ?やっぱり、こんなことする暇があるなら不思議探索してるほうが何百倍も建設的じゃない」

桂馬「……」カチカチ

ハルヒ「あたしがいる時くらいヘッドフォン外せー!!」ポイッ

桂馬「あー!!よっきゅーーん!!??」ガーン!!


~とある川辺~


桂馬「どうしてこんなところに?」

ハルヒ「バカね。河童がいるかもしれないじゃない」

桂馬「はぁ!?河童って妖怪だろ!?妖怪も探すのか!?」

ハルヒ「うるさいわね。いいから両手にキュウリ持ってなさい!」

桂馬「こんなんで河童が出てくるわけないだろ!?」ガーン!!


桂馬(こんな感じで、ボクと涼宮が不思議探索をしたり、ゲームをしたりする生活が続いた)


~桂木桂馬宅~


桂馬「…とまあ、この選択肢でルートが分岐するんだ」


【許嫁を追いかける】

【妹を追いかける】


ハルヒ「ふーん。許嫁か妹のどっちかしか選べないってわけ?」

桂馬「そうだ。どちらかしか選べないからこそ、多くのプレイヤーはこの選択肢で長い時間悩むことになるのさ」

ハルヒ「あっそ。あたしだったら、ふたりとも幸せにしてあげるけどね」ポチッ

桂馬「残念だけど、それができないのがこのゲームなんだーー」



許嫁・妹『ありがとう!大好き!』



桂馬「は?」

ハルヒ「あら?何よ。ふたりとも幸せにできてるじゃない」

桂馬「…そんなバカな…」

ハルヒ「ま、あたしにかかればこんなものよ」フフッ

桂馬「……」


ー夜ー

~桂木桂馬宅~


桂馬「エルシィ。涼宮の駆け魂なんだが、もしかして成長してないか?」

エルシィ「え?…あっ!確かに成長してます!」

桂馬「やっぱりそうか」

エルシィ「神さま!どうしてわかったんですか!?」

桂馬「…今日涼宮とやったゲームだよ」

エルシィ「ゲームですか?」キョトン

桂馬「ああ。本来あのゲームにはハーレムエンドなんて存在しない」

桂馬「許嫁か妹のどちらかを選ぶエンディングしか用意されていないんだ」

エルシィ「は、はぁ…」


桂馬「だが、ついさっき涼宮はあるはずのないハーレムエンディングを迎えた」

桂馬「つまり、ここでなんらかの力が働いたとしか思えないんだ」

エルシィ「でも、涼宮さんの駆け魂が成長しているなら、早くしないと涼宮さんが…!!」

桂馬「……」

桂馬(確かに駆け魂が育ってきている以上、このままだと涼宮が危ない)

桂馬(しかし、今の段階で涼宮の駆け魂を出すことができるか?)

桂馬「駄目だ。まだイベントが足りない」

エルシィ「そんなぁ…」

桂馬「とにかく、ボクも考えてみるからお前は涼宮の駆け魂が成長しきらないように見張っていてくれ」

エルシィ「…わかりました」


ー翌日ー

~とある路上~


ハルヒ「今日の不思議探索はこんなもんかしら」

桂馬「……」

桂馬(駆け魂が成長している以上、涼宮をこのまま放置しておくわけにはいかない)

桂馬(多少強引であっても、今は攻略を進めないといけない状況だ)

桂馬(だからボクがここでするべき行動は…)

桂馬「涼宮。前からずっと聞こうと思ってたんだけどさ」

ハルヒ「何よ?」

桂馬「お前はどうしてそんなに“特別”にこだわるんだ?」


ハルヒ「は?そんなの聞いてどうするわけ?」

桂馬「別に。ただの興味本位だよ」

ハルヒ「……」

桂馬(涼宮の行動のきっかけ…謂わば攻略に最も必要な涼宮の悩みを知りたい)

桂馬(頼む。乗ってきてくれ…!)


ハルヒ「…あんたさ、自分がこの地球でどれほどちっぽけな存在なのか、自覚したことある?」

桂馬「…いや、ないけど」

ハルヒ「そう。あたしはあるわ。忘れもしない」

ハルヒ「小学校6年生の時、家族みんなで野球を観に行ったのよ」

ハルヒ「あたしは別に野球なんか興味なかったけど、それよりも球場について驚いた」

ハルヒ「見渡す限り人だらけなのよ」

ハルヒ「どこもかしこも人で溢れてて…そこであたしは愕然としたわ」

ハルヒ「あたしは、この中のたった一人でしかないんだって…そこで気づいたの」


ハルヒ「あたしはあの時まで、自分がどこか特別な人間のように思ってた」

ハルヒ「家族といるのも楽しかったし、自分の通う学校やクラスが世界のどこよりも面白い人間が集まってる場所なんだって思ってたのよ」

ハルヒ「でも、そうじゃないんだって…あの時気がついた」

ハルヒ「あたしが特別だと思っていても、そんなのどこにでもありふれていて、日本全国の人間から見たら普通の出来事でしかない」

ハルヒ「そう気づいた時、あたしは急に、あたしの周りの世界が色褪せたように感じた」

ハルヒ「夜に歯を磨いて寝るのも、朝起きてご飯を食べるのも、どこにでもある普通の日常なんだと思うと、途端に何もかもがつまらなくなったのよ」


桂馬「…なるほど」

桂馬(涼宮が非日常を追い求める理由)

桂馬(それは自分が特別な人間じゃなく、普通の人間であることに対する憂鬱からくるものだった)

桂馬「どうやらボクは少し勘違いをしてたみたいだ」

ハルヒ「勘違い?」

桂馬「お前はつまらない世界が嫌なんじゃなく、つまらない自分が嫌だったんだな」

ハルヒ「…確かに昔はそうだったかもしれないけど、今はつまらない現実の方が嫌いよ」

桂馬「そうなのか?」

ハルヒ「そうよ。面白いことは待っててもやってこないって思ったから色々試してみたけど、結局なんもなし」

ハルヒ「少しは何かが変わると思ってたのにね」


桂馬「…」

桂馬(この後、すぐに解散となりボクは家に帰った)

桂馬(涼宮の悩みを聞き出した以上、ボクがこなすべきイベントは一通りクリアしたと言えるだろう)

桂馬「…エンディングは近いな」

桂馬(そう呟き、床についたボクを待っていたのは、涼宮ハルヒとの最後のイベントだった)


ー深夜ー


エルシィ「ーーさま!起きてください!神にーさま!!」ユサユサ

桂馬「……エルシィ?こんな夜中にいったいなんだよ…」

エルシィ「とにかく大変なんです!!早く起きて外を見てくださいっ!!」

桂馬「外だって?ーーなっ!?」

桂馬(ボクは体を起こして部屋の窓から外を見る)

桂馬(すると、そこには灰色の世界が広がっていた)



桂馬「なんだこれは……!?」

エルシィ「さっきトイレで起きた時に外を見たらこうなってたんです!」

エルシィ「どうしましょう!神にーさま!!」

桂馬「待て、落ち着け。ここはゲームの世界じゃない。だから理由もなく空が灰色になることなんて…」


ーーあんたさ、自分がこの地球でどれほどちっぽけな存在なのか、自覚したことある?


桂馬「ーーエルシィ!!涼宮は今どこにいる!?」

エルシィ「ふぇ!?どうして涼宮さんなんですか?」

桂馬「いいから探してくれ!」

エルシィ「えっと、駆け魂センサーによれば涼宮さんは今、光陽園学院にいるみたいです」

桂馬「涼宮は家じゃなく学校にいるんだな?よし、それなら間違いない」

桂馬「この現象の原因は涼宮だ」


エルシィ「涼宮さんが原因?じゃあもしかして、駆け魂が成長して…?」

桂馬「ああ。今起きていることは普通じゃない。そうなると、十中八九駆け魂が絡んでいるはずだ」

桂馬「そして今、ボクに心当たりがある人物は一人しかいない」

エルシィ「それじゃあやっぱり…」

桂馬「そう。きっと、涼宮の駆け魂がまた成長したんだ」

エルシィ「また成長したって、現実に影響を与えてるってことは、いつ悪魔が復活してもおかしくないんですよ!?」

エルシィ「どうするんですか!?神にーさま!?」

桂馬「…うるさいな。どうするって、そんなの決まってるだろ」

エルシィ「え?」

桂馬「今からボク達は、涼宮とのエンディングを見に行くんだ」


~光陽園学院屋上~


桂馬「涼宮。ここにいたのか」

ハルヒ「誰?」

桂馬「ボクだ。桂木桂馬だ」

ハルヒ「…あんたか」

桂馬(こちらを見つめる涼宮の目は、出会った時と同じように退屈の色に染まりきっていた)

ハルヒ「あんた、どうしてここに?」

桂馬「涼宮を探してたんだよ。お前こそ、どうしてこんな所にいるんだ?」

ハルヒ「別に。目が覚めたと思ったら、いつの間にかここにいて…気がついたら、世界が灰色だったのよ」


桂馬「あんまり驚いてないみたいだな」

ハルヒ「これでも驚いてるわよ?身に覚えもないのに学校にいて、空を見上げたらこんなんで…充分驚いてるわ」

ハルヒ「なんなんだろ、本当に。この灰色の世界は」

桂馬「…お前はこの世界を怖いとか、気持ち悪いとは思わないのか?」

ハルヒ「んー、それがね?不思議なんだけど、なんとかなるような気がするのよ」

ハルヒ「それにどうしてだろ。今ちょっと楽しいな」

桂馬「……」

桂馬(ダメだ。このまま涼宮を放って置けば、駆け魂は成長しきって一気にゲームオーバーになる)

桂馬(時は一刻を争う。だからもう、やるしかない)

桂馬(涼宮ハルヒを、ここで落とす!)


桂馬「涼宮。新しくお前と一緒にやりたいゲームがあるんだ。今から家に来てやらないか?」

ハルヒ「は?急に何言ってんの?」

桂馬「こんな不気味な空をいつまでも見ていたくなんてないだろ。だから、帰って一緒にゲームをしよう」

ハルヒ「…あんたやっぱり本当の馬鹿ね。こんな非常時だってのにゲームのことばっかり」

ハルヒ「それに、この世界だっていつまでも灰色なんかじゃない。もう少ししたら太陽だって昇ってくるわよ」

桂馬「…どうしてお前にそんなことがわかるんだ?」

ハルヒ「さあ?…でもね、あたしにはわかるの」

ハルヒ「あとちょっとでこの世界はよくなる」

ハルヒ「きっともの凄く面白くなるわ」


桂馬「そうか。それなら仕方ない。ボクは一人で家に帰るよ」

ハルヒ「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!あんたもここにいなさいよ!」

桂馬「どうして?」

ハルヒ「っ!!」ギリッ

ハルヒ「あんただって、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの!?」

ハルヒ「特別なことが何も起こらない、普通の世界なんて嫌で…!!」

ハルヒ「もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの!?」

桂馬「ーーうん。思わないね。全然」

ハルヒ「なっ!?」


桂馬「涼宮。ボクは世界が普通だろうが、普通じゃなかろうが、そんなことはどうでもいい」

桂馬「ボクは特別な現実なんかよりも、普通なゲームがしたい」

桂馬「いつだって、どこでだって、ボクは一人でゲームをしてきた」

桂馬「だから、ボクはこれから先もずっとそうなんだって、そう思ってた」

ハルヒ「…あ、あんた…」

桂馬「でも、不思議なんだ」

桂馬「ボクは今、お前と一緒にゲームがしたい」

ハルヒ「…え?」


桂馬「お前は昨日、ボクに普通である自分が嫌だと言った!」

桂馬「確かにお前は、属性だけ見ればどこにでもいる女の1人でしかないかもしれない!」

桂馬「でも!いつの間にかお前は、ボクにとって初めて一緒にゲームをしたいと思う女になった!」

ハルヒ「は、はぁ!?あんた何言って…」

桂馬「つまりはっ!!涼宮っ!!お前は……!!」
  
桂馬「ボクにとって、特別になったんだ!!」スッ

ハルヒ「ーーっ!!」

桂馬(そして、ボクは涼宮の唇を強引に奪った)

桂馬(目を閉じているから、涼宮がどんな顔をしているかはわからない)

桂馬(願わくば、このままエンディングに入ってくれ…!!)



ハルヒ「ーーいきなり何すんのよ!!」バチーン!!

桂馬「ぶっ!?」バタッ

桂馬(涼宮に思いきり頬を叩かれたボクは屋上に転がっていた)

ハルヒ「あ、あんた馬鹿!本当に馬鹿!普通あんな訳わかんないこと言ってからキスする!?」

桂馬「な、なんで!?涼宮お前、なんともないのか!?」

ハルヒ「はぁ!?桂木なんかに、いきなりキスされて、なんともないわけないでしょ!!」

桂馬「そ、そんな……!!」

桂馬(一見して涼宮から駆け魂が出た様子が見られない。ということは、ボクは失敗したのか…!?)


桂馬「…終わった。ゲームオーバーだ…」ズーン

ハルヒ「ちょっと!なんであんたがそんなに落ち込んでるのよ!」

桂馬「…あぁ、もっとたくさんやりたいゲームがあったのに…」ズーン

ハルヒ「何こいつすごく面倒くさい…!!」

エルシィ「ーー神さまー!!涼宮さんの駆け魂はどうなりましたかー?」ピュー

ハルヒ「!?」

エルシィ「って、どうしたんですか神さま!?」ガーン!!

桂馬「エルシィ…ボク達はもう駄目だ。ボクは失敗したんだ…」

エルシィ「そんな!しっかりして下さい、神にーさまー!!」

桂馬「ふっ…見てみろよエルシィ。きっともうすぐ涼宮から悪魔が復活するぞーー」

ハルヒ「…空から女の子が飛んできた?」

桂馬「…え?」

エルシィ「ふぇ?」

ハルヒ「ちょっと桂木。今その子、空を飛んで来たわよね…?」


桂馬「ーーこれだっ!!」

エルシィ「え?神さま?」

桂馬「そうだ涼宮!確かにこいつは空を飛んでここまでやってきた!」

ハルヒ「で、でもそんなのあるわけない。きっとあたしの見間違えよね…?」

桂馬「違う!この世界はお前が思ってる以上に、不思議で溢れている!」

桂馬「ボクはそのことをお前に教えるためにここまで来たんだ!」

エルシィ「…さすが神さま。ここぞとばかりに言葉を並べてる…!!」


ハルヒ「ふーん。それならさっきのキスは一体なんだったわけ?」

桂馬「さっきのキスは…その…そう、契約だ!!」

ハルヒ「契約?」

桂馬「ああ。お前はこれからボクと一緒にこっち側に来るんだ!」

ハルヒ「こっち側?こっち側っていったい…?」

桂馬「後でお前が知りたいことは全部話してやる!今はもう本当に時間がないんだ!だから…!!」


桂馬「いいからボクについてこい!!涼宮ハルヒ!!」



ハルヒ「…あんたの言ってることが、あたしには全く理解できないんだけど…」

桂馬(くそっ!!やっぱりダメか…!!)

ハルヒ「でも、いいわ。今はあんたの言葉にのってあげる」

桂馬「!」

エルシィ「…えっ?いいんですか?」

ハルヒ「正直この世界は退屈で、周りを見渡しても面白いことなんて一つもない。あたしはそう思ってた」

ハルヒ「でも、こいつは…桂木はあたしのことを特別だって言ったわ」

ハルヒ「ちょっと前の自分なら、そんな安っぽい言葉で絆されたりはしなかったろうけど…」

ハルヒ「今は、こいつについて行ってもいい気分よ」

エルシィ「そ、そうですか…」


ハルヒ「まあ、こいつはまだあたしに隠してることが山ほどあるみたいだし?まずはそれを洗いざらい話してもらうわ。それにね…」


ハルヒ「こっちの選択の方が、ぜっっったい!!面白いに決まってるわ!!!!」


桂馬「!!!」

桂馬(涼宮がそう言った瞬間、涼宮の体から駆け魂が溢れ出た)

桂馬(追い出された駆け魂をエルシィが飛んで追いかけていく)

桂馬(ーーこうして、ボクは涼宮の駆け魂を追い出すことができたのだ)


~とある路上~


桂馬「……」カチカチ

桂馬(あの出来事から数日後。ボクは道を歩いていた)

桂馬(結局、涼宮から出た駆け魂はエルシィが駆け魂隊と協力して勾留したらしい)

桂馬(駆け魂が大分成長していたため、勾留するのに随分と苦労したみたいだが、そこはまあボクの知るところではない)

桂馬「……」カチカチ

桂馬(駆け魂がいなくなった者には、攻略中の記憶は残らない)

桂馬(だから涼宮もボクのことを覚えてない)

桂馬「…ま、あんな恥ずかしいことまで言ったんだし、そっちの方がボクにとっても好都合だからいいとするか…」



???「ちょっとそこのあんた。止まりなさい」



桂馬「……なっ…」

桂馬(背後から聞こえた声に振り返ると、そこには涼宮ハルヒが立っていた)

ハルヒ「あんたこの世界に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者っていると思う?」

桂馬「…いきなり何ですか?」

ハルヒ「いいから答えなさい」

桂馬「……」

桂馬(涼宮は駆け魂がいなくなったことで、ボクのことを覚えていないはずだ)

桂馬(ーーだから大丈夫。さっさと質問に答えてここから立ち去ろう)

桂馬「さあ。そんなのいないんじゃないですか」

ハルヒ「そう。それじゃ、もう1つだけ聞いてもいいかしら」

桂馬「なんですか?」



ハルヒ「この世界に神はいると思う?」

ハルヒ「ーーねえ。桂木」フッ



これで一応終わりです。?

読んでくれた方、コメントをくれた方はありがとうございました。?

仕事がもう、これでもかってぐらい忙しくて、更新が遅れてしまいました。

神のみのssを書いたのは初めてだったので、最後まで書けてよかったです。

ちなみに他にこんなの書いてるんで、よかったら見てください。

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