【サマポケ】羽依里「うみちゃんを攻略するぞ!」 (54)


~駄菓子屋~


羽依里「うみちゃんを攻略するぞ!」

良一「何言ってんだこいつ」

蒼「大丈夫?暑さで頭沸いちゃった?かき氷かけてあげようか?」

羽依里「待った。頭に浴びせるかき氷を用意する前に、俺の話を聞いてくれないか?」

蒼「な、何よ。そんな真剣な顔して…いったいどんな理由があるってわけ?」

羽依里「…俺はこの島に来てから毎日が本当に楽しい」

羽依里「朝から晩までお前らと馬鹿みたいに遊ぶことができて、そりゃあもうめちゃくちゃ楽しいんだ」

蒼「そ、そう。それはなんというか…」

良一「嬉しいことを言ってくれるな」




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羽依里「だけど昨日、家に帰ってうみちゃんと会った時に、ふと思ったんだ」

羽依里「うみちゃんはいつもどこで何をしているんだろうって」

蒼「あー、確かに。あんたとあの子が外で一緒にいるところはあんまり見ないわね」

羽依里「親戚で、同じ屋根の下で暮らしているはずなのに彼女のことを何も知らないってのは、俺にとって凄く寂しいことなんじゃないかって…昨日そう思ったんだ」

良一「…なるほどな。そう言われれば確かに少し寂しいのかもしれないな」

羽依里「だから俺は決めたんだ。うみちゃんを攻略してやろうって」

良一「…うん?途中までは理解できてたつもりなんだが、最後でいきなりわからなくなったぞ?」

蒼「奇遇ね。私も全く同じ意見よ」ハァ



羽依里「とにかく!今から俺はうみちゃんを攻略する!」

羽依里「でも、知っての通り俺は男子校の人間だ。女の子と仲良くなる術がわからない」

羽依里「だから、頼りになる仲間の蒼達に協力してもらいたいんだ!!」

蒼「…すごいわ。説明が意味不明すぎて、その熱苦しい気持ちしか伝わってこないなんて」

良一「だが、その熱い思いは伝わったぜ。何より羽依里の頼みだ。俺達でよければ力になるぞ!」

蒼「ま、仕方ないわね…」

羽依里「二人とも…ありがとう!!」


羽依里「それじゃさっそくだけど、どうすればうみちゃんと仲良くなれると思う?」

蒼「うーん…確かそのうみちゃんって子は小学生なのよね?」

羽依里「ああ。ピチピチの女子小学生だ」

良一「なんか一気に犯罪臭が増したな」

蒼「小学生っていうと、女の子ってよりはまだ子供って考えた方がいいかもしれないわね…」

羽依里「というと?」

蒼「要は子供が喜びそうなことをしてあげればいいのよ。例えばほら、お菓子をプレゼントするとか」

羽依里「!」


良一「おいおい、お菓子で女子小学生を釣るのか?普通に犯罪になってないか、それ」

羽依里「大丈夫。心配しなくても俺はうみちゃんを攻略するだけだから、犯罪にはならないはずだ」

良一「いや、小学生を攻略するってのがそもそもアウトだと思うんだが…」

蒼「あ、ほら。ちょうど向こうからうみちゃんが歩いて来てるから、お菓子をあげてみたら?」

羽依里「わかった。行ってくる!」ダダダッ


~駄菓子屋前路上~


羽依里「うみちゃん!」

うみ「あれ?鷹原さん。どうしたんですか?」

羽依里「うみちゃん。お菓子をあげよう」スッ

うみ「え?あ、ありがとうございます」

羽依里「……」

うみ「?」

羽依里「……えっと、今日の晩御飯のメニューはもう決まってたりするのかな?」

うみ「へ?えっと、今日はあんかけチャーハンの予定です」

羽依里「そ、そうか。いいね、あんかけ。あんかけチャーハン最高!」

うみ「…そんなに喜んでくれるとは思ってませんでしたが、まあ良かったです」

羽依里「うん」

うみ「……」

羽依里「……」

うみ「…あの、すみません。ちょっとこれから行く所があるので、これで失礼します」タタタッ

羽依里「あ、うん。気をつけて」

羽依里「……」


~駄菓子屋~


羽依里「ダメだった」

蒼「本当にダメダメだったわね!」

蒼「あんた会話下手過ぎでしょ!?さっきまで私たちに熱く語ってたあんたはどこに行っちゃったのよ!?」

羽依里「…仕方ないだろ。男子校生なんだから。女の子相手だと緊張しちゃうんだよ」

蒼「わたしとは普通に喋れてるでしょうが!」

羽依里「蒼はなんというか、特別なんだよ」

蒼「…え?」キュン

良一「おい。お前がときめいてどうするんだよ」

蒼「はぁ!?と、ときめいてなんてないわよ!!」

良一「だけど、一番難易度の低そうなお菓子作戦が失敗するとはな」

羽依里「くっ!!俺に人並みのコミュニケーション能力さえあれば…っ!!」


天善「諦めるのか?」

羽依里「!」

良一「天善。いたのか?」

天善「ああ。わりと最初からいたんだが、なかなか話に入れなくてな」

良一「あー、なんか前にもそんなことあったな」

羽依里「だけど天善。俺にはもう、うみちゃんと仲良くなる方法が浮かばない。無理なんだよ!くそっ!」

天善「鷹原。今回のゲームの失点は、次のゲームで取り返せばいい…そうは思わないか?」

羽依里「…え?」

天善「人は弱さを知ってるからこそ強くなれるものだと、俺はそう思っている」

天善「だから鷹原!まだお前にもチャンスはある!だから立て!立ってその足で前に進むんだ!」

羽依里「天善…ッ!!」ブワッ

良一「…なんだこれ?」

蒼「とんだ茶番ね」ハッ


良一「しかし天善。何かいい案でもあるのか?」

天善「ふっ。男子校に通っている鷹原は知らないだろうから、いいことを教えてやろう」

羽依里「いいこと?」

天善「女子は総じて、可愛いものが好きなんだっ!!」

羽依里「か、可愛いもの?」

天善「ああ。鷹原の親戚も女子である以上、この事実からは逃れられないはずだ!」

羽依里「…すげえ。これが共学の力ってやつか…っ!!」

蒼「そうなのかしら?」ハテ

良一「いや、単に羽依里が女子について疎いだけなんじゃないか?」


羽依里(…だけど、可愛いもの?)

羽依里(そんなもの、この島のいったいどこに…)


???『むぎゅ!』


羽依里「ーーそうかっ!!」バッ

良一「うわっ!?羽依里の奴、いきなりバイクに跨がったぞ!」

天善「鷹原。何か閃いたようだな」フッ

羽依里「ああ。ありがとう天善。俺はもう行くよ」フッ

天善「そうか。ならもう迷うな。とっとと行けぇえええ!!!」

羽依里「ああ!サンキュー天善!!」ブーン


~灯台~


羽依里「おーい!つむぎー!いるかー?」

羽依里「…あれ、今日はいないのかな」

羽依里「…ん?何かドアの前に置いてある。…これはクマのぬいぐるみか?」

羽依里「……ふむ…」

羽依里「年代物っぽいけど、中々いいクマだな」

羽依里「撫で心地もいいし」ナデナデ

羽依里「抱き心地もいい」ムギュ

羽依里「それに、なにより可愛い」

羽依里「……」

羽依里「…すまん、紬!後で絶対に返しにくるから、今はこのぬいぐるみを借りてくぞ!!」ブーン



~路上~


羽依里「いた!うみちゃん!」

うみ「あれ?鷹原さん。また会いましたね。どうしたんですか?」

羽依里「これを見てくれ!」

うみ「へー!クマのぬいぐるみですか!可愛いですね!」

羽依里(よし。なかなか好印象だぞ!)

うみ「このぬいぐるみはどうしたんですか?」

羽依里「うん?ああ、これは友人から一時的に借りてるものなんだ」

うみ「借りてる?鷹原さんはどうしてぬいぐるみなんかを借りてるんですか?」

羽依里「え?えっと、それは…」

羽依里(しまった。全くそれらしい理由を考えてなかったぞ)

羽依里(…まずい。このままでは俺が友人に頼み込んでまでぬいぐるみを借りた男としてうみちゃんに認識されてしまう)

羽依里(何か…何かないのか?うみちゃんを納得させることのできるしっかりとした理由が…)


天善『女子は総じて、可愛いものが好きなんだ!!』


羽依里(ーーっ!!そうかっ!!)

羽依里「か、可愛いからだよ!」

うみ「え?ああ、そのぬいぐるみがですか?」

羽依里「いや…俺がだよ」


うみ「…え?……どういうことですか?」

羽依里「女の子は可愛いものが好きなんだよね?」

うみ「ま、まあ一般的にはそうだと思いますが…」

羽依里「実は女の子に好かれるために、このぬいぐるみを持ち歩いて、少しでも可愛いくなりたかったんだ」

うみ「えー…」

羽依里「うみちゃんも可愛いものは好きだよね?だったら、今の俺も充分可愛いくて、好みのものだと思うんだけど…」

うみ「いえ、むしろなんかきもいです」

羽依里「!?」

うみ「それじゃ、まだ行くところがあるので失礼します」トトトッ

羽依里「……」



~駄菓子屋~


羽依里「またダメだった」

良一「いや、それはどう考えてもお前か悪いだろ」

蒼「なんで、あんたってそう頭の悪い言葉を選ぶのかしら…」ハァ

羽依里「…あまりいじめないでくれ。しょうがないだろ。男子校生なんだから」  
  
蒼「さっきも言ったけど、それは私と話せてる時点で関係ないじゃない」


羽依里「だから、蒼は俺にとって特別なんだって」

蒼「……きゅん」

良一「今回は口で言ったな」

天善「ああ。ときめきを口に出して表現していたな」

蒼「だから、違うからっ!!」

良一「ん?というか、そのクマのぬいぐるみはどうしたんだ?」

羽依里「戻ってくる時に灯台に寄って、置いてあった場所に返してきた。紬が探してたら困っちゃうだろ?」

良一「…そういう気遣いはできるんだよな。こいつ」

羽依里「だけど、くそっ。もう打つ手がないか…?」



鴎「お困りのようだね、羽依里!」

羽依里「鴎?来てくれたのか!」

鴎「ひげ猫団の団員のピンチだからね。私に任せてよ?」

羽依里「何かいい手があるのか?」

鴎「ふっふっふっ。それはね…」


鴎・羽依里「「教えてあげないよ!」」

鴎・羽依里「「じゃん!」」ピョコッ


鴎「さっすが羽依里!いえーい!!」

羽依里「そう来ると思ったぜ!いやっほーう!!」パチンッ

天善「…なんだ?これは」

蒼「ただの茶番よ」


鴎「女の子は時に、ちょっとしたスリルを求める生き物なんだよ!」

羽依里「スリル?」

鴎「うん。平和で穏やかな生活が一番だけど、たまにはドキドキすることも必要なんだ」

羽依里「そうなのか?」チラッ

蒼「うぇ!?ま、まあそうかもしれないわね…」

天善「スリルか。最近は全く味わっていない感情だな」

良一「それなら今着ている服を脱いでみるといい。とんでもないスリルがお前を待ってるぜ」ポンッ

天善「…スリルを感じる前に、身の危険を感じるから却下だ」


羽依里「だけど、スリルなんてどうするつもりなんだ?うみちゃんも一緒に巻き込んで冒険でもするのか?」

鴎「そうしたいのは山々だけど、今回は違うよ」

羽依里「じゃあ何を…?」

鴎「ヒントをあげましょう。私と羽依里が初めて会った時のことを思い出してみて?」

羽依里「鴎と?ーーそうかっ!!」

蒼「え?何、あんた達の出会いってスリルがあるものだったわけ?」

羽依里「ああ。最後にはお互い全身びしょ濡れになるくらいスリル満載だったぜ!」

蒼「全身びしょ濡れ!?ちょっとそれって…」

羽依里「鴎!さっそくうみちゃんの所に行こう!」ダダダッ

鴎「よし来た!行こう!羽依里!」タタタッ

蒼「あ!ちょっと待ちなさいよー!!」

良一「…なあ、びしょ濡れってなんだと思う?」

天善「よくわからんが、きっと海にでも落ちたんだろう」

良一「ああ。それなら納得だ」


~路上~


羽依里「うみちゃん!」

うみ「うわっ。また鷹原さんですか」

羽依里「え?もしかして今、うわって言った?」

うみ「言ってませんよ。それで、今度は女の人を連れて何の用ですか?」

鴎「はじめましてだねうみちゃん!私は久島鴎です!」

うみ「はじめまして。加藤うみです。よろしくお願いします」

鴎「うんうん!よろしくね!うみちゃん!」


羽依里「俺達が今回うみちゃんの所に来たのは、うみちゃんにプレゼントがあるからなんだ」

うみ「プレゼントですか?」

羽依里「そうだよ。…鴎!」

鴎「うん!では、どうぞ!」スッ

うみ「えっ!この大きなスーツケースがプレゼントなんですか!?」

羽依里「いや、そうじゃなくて、うみちゃんにはこのスーツケースの上に乗ってほしいんだ」

うみ「…はい?どういう意味ですか?」

鴎「ひと夏のスリルをあなたに!さあどうぞ。御乗車ください!」

うみ「え、普通に嫌ですが」

羽依里「な、どうして!?」

うみ「スーツケースの上に乗るなんて危ないです。怪我したくありませんから乗りませんよ」

羽依里「…意外と乗り心地もいいんだぞ?」

うみ「だから乗りませんってば。用はそれだけですか?それじゃ失礼します」トトトッ

鴎「あっ…」

羽依里「……」


~駄菓子屋~


鴎「うわーん!駄目だったよー!!」

羽依里「くそっ!!いったい何が悪かったんだ!?」

蒼「あんたの頭じゃない?」

天善「まあ、いきなりスーツケースの上に乗れと言われても、普通は乗らんだろうな」

鴎「いい乗り心地なんだよ!?」

良一「うん。それでも乗らないだろうな」

鴎「うわーん!」

羽依里「今度こそもう手詰まりか…?」


静久「なんだかすごく盛り上がってるわね」

紬「…どもです」 

天善「はっ!?水織先輩っ!?」

蒼「紬もいらっしゃい。二人ともお買いもの?」

静久「それが、紬が駄菓子屋さんに行きたいって言うから連れてきたんだけど…」チラッ

紬「……」ジー

羽依里「…紬?どうして俺を凝視するんだ?」

紬「…むぎぎぎぎ」ジー

羽依里「え、何?本当にどうしたんだ?」

静久「うーん、さっきまではこうじゃなかったんだけど…」



静久「パイリ君。ちょっといいかしら?」チョイチョイ

羽依里「ナチュラルにパイリって呼ぶんですね。…なんですか?」

静久「パイリ君。紬に何かした?」コソッ

羽依里「…あー、実はさっき灯台のドアの前に置いてあったぬいぐるみを紬に内緒で持ち出しちゃったんですよ」

静久「ぬいぐるみを?どうして?」

羽依里「…これにはとても深い理由があるんですが、きっとそのぬいぐるみを勝手に持ち出したことが紬にはバレてるんでしょうね」

静久「ふーん……ちなみにパイリ君が持ち出したのはどんなぬいぐるみだったの?」

羽依里「え?結構年代物っぽいクマのぬいぐるみです」

静久「…そのぬいぐるみに何か変なことしたりした?」

羽依里「いや、多少撫でたりぎゅっとした程度です」

静久「…そう。それならきっと、紬もそこまで怒ってないと思うわ。きちんと謝れば許してくれるわよ」ニコッ

羽依里「…わかりました。謝ってみます」


羽依里「紬。さっきはぬいぐるみを勝手に持ち出して悪かった」

紬「誘拐犯のタカハラさんなんて知りませーん」

羽依里「あの時はどうしても、あのぬいぐるみが必要だったんだ。本当にごめん」

紬「聞きませーん」

羽依里「…えっと、そうだな。かき氷でも奢るから許してくれないか」

紬「…む、無駄でーす。許しませーん」

良一「あれ?今ちょっと揺らいでなかったか?」

蒼「揺らいでたわね」

羽依里「そうだ。紬は確かわたあめが好きだったよな?それならどうだ?」

紬「…もう一声でーす」

羽依里「わかった。じゃあかき氷とわたあめを両方ご馳走する!これでどうだ!?」

紬「許しまーす」

羽依里「よっし!!」グッ

鴎「なにこれ?」

蒼「いつもの茶番よ」


紬「おいしーです」モグモグ

静久「よかったわね」

良一「それで、次はどうするんだ?」

紬「タカハラさんはあのうみさんという女の子と仲良くなりたいんですよね?」

羽依里「あれ?どうして知ってるんだ?」

紬「…エスパーだからでーす」

羽依里「エスパー!?まじで!?」

紬「うそでーす」

羽依里「うそかーい!」

蒼「…馬鹿みたいな話してないで、早く次の作戦考えなさいよ」ムスッ


紬「そーですね。では、お歌を歌うのはどーですか?」

羽依里「…歌?」

紬「はい。うみさんに歌をプレゼントするんです!」

良一「それは…どうなんだ?」

天善「上手くいく気がまるでしないが…」

静久「でも、歌うのが上手な人は素敵だと思うわよ?」

天善「それはほんとうですかっ!!水織先輩!!」  

良一「だから落ち着けって」ハァ

鴎「羽依里って歌うの得意なの?」

羽依里「いや、特に自信はないけど…まあちょっとやってみるか」



~路上~


羽依里「うみちゃん。また来たよ」

うみ「げっ、鷹原さん」

羽依里「え?もしかして今、げって言った?」

うみ「言ってません。で、今度はなんですか」

羽依里「くっ…どんどん俺の扱いが雑になってる…!!」

紬「タカハラさん!気持ちで負けてはいけません!ふぁいとです!」

羽依里「紬…わかった。やってみる」グッ

羽依里「それでは心を込めて歌います。聞いてください……歩き続ける事でしか届かないものがあるよー!」

うみ「うわっ!なんか急に歌いだした!?怖い!」

紬「タカハラさん、さすがです!タカハラさんは今、さいこーに輝いてますよ…!!」


羽依里「…今も何度でもボクは夏の面影を振り返ーるーよー!!」

紬「タカハラさん!すばらしいです!わたし、かんどーしました!」

羽依里「ありがとう。…たまにはこうして、路上で思いっきり歌うのも悪くないな」フッ

紬「今度は是非いっしょに灯台で歌いましょう!」

羽依里「ああ。…ところで、うみちゃんは?」

紬「はい。うみさんなら途中でどこかに行っちゃいました!」

羽依里「え」

紬「すごくむずかしい顔をしてましたから、何か思うところがあったんじゃないでしょうか」

羽依里「…そっか。途中で帰っちゃったのか…」

羽依里「……」


~駄菓子屋~


紬「失敗でーす」

良一「だろうな」

蒼「むしろ、上手くいくと思った理由を知りたいわね」

羽依里「でも俺は全力で歌ったぞ!?なのにどうして途中で帰られてしまうんだ!?」

紬「そうです!あの時のタカハラさんはとってもカッコよかったです!」

静久「へえ、それなら私も聞きたかったな。パイリ君の歌」

天善「…たぁかぁはぁらぁはぁいぃりぃい!!」ゴゴゴ

美希「…なんだ?なにやら盛り上がっているようだが」

羽依里「のみき!聞いてくれ!うみちゃんが全然振り向いてくれないんだ!」

美希「…よくわからんが、とりあえず私は鷹原を撃ち抜けばいいのか?」ジャキッ

羽依里「ちょっと待て!事情を話すから、まずはそのハイドログラディエーター改をしまってくれ!」


羽依里「…という訳で今俺は、うみちゃんを絶賛攻略中なんだ」

美希「…なるほど。やはり私が鷹原を撃てばいいという訳だな?」ジャキッ

羽依里「どうして!?ホワーイ!?」

蒼「自分がおかしな事をしている自覚はないのね…」ハァ

天善「鷹原は時々ズレていることがあるからな」

良一「いや、お前も相当だと思うぞ?」


のみき「鷹原はその子の好きなもの等は知らないのか?」

羽依里「好きなもの?」

のみき「ああ。人と仲良くする方法は様々だが、ここはやはり正攻法で攻めた方がいいと思ってな」

羽依里「うみちゃんの好きなものか…」


うみ『今日のご飯はチャーハン&チャーハン!』


羽依里「ーーチャーハンだ」

のみき「何?」ピクッ

羽依里「うみちゃんは、気づけば1日3食チャーハンで済まそうとするチャーハン大好きっ子なんだ」

のみき「…なるほど。そんなにチャーハンが好きなのか」フム

のみき「ならば、彼女に協力をあおぐといい」

羽依里「彼女?」

のみき「ああ。この島には、自他共に認めるチャーハンマイスターがいるからな」

羽依里「なっ!?まさか、あのチャーハンマイスターがこの島にいるのか!?」

鴎「…チャーハンマイスターって?」

蒼「さあ?」

静久「チャーハンマイスターが作るチャーハンはね、世界を揺るがすことができるらしいわ」

紬「なるほど。ちゃーはんまいすたーとは、とんでもない存在のようですね…」

羽依里「それで、そのチャーハンマイスターって一体誰なんだ!?」

のみき「それはーー」


~しろは宅~


羽依里「…という訳で、協力してくれ!チャーハンマイスター!!」

しろは「…チャーハンマイスターって何?」

羽依里「そんなことはどうでもいい!!頼む!俺のためにチャーハンを作ってはくれないか!?」

しろは「えっ…普通に嫌だけど」

羽依里「普通に嫌がられた!」ガーン!!

羽依里「しかも、断り方がうみちゃんと同じなのがまた傷つく!」

しろは「だって、いきなりチャーハンを作る意味がわかんないし…普通に嫌だし」

羽依里「くそっ!要は嫌なだけじゃないかっ!!」

しろは「それになんで私なの?」

羽依里「のみきから聞いたんだ。チャーハンと言えばしろは。しろはと言えばチャーハンだって」

しろは「えっ…私ってそんなチャーハンなイメージだったの?」


羽依里「あとはその…しろはのチャーハンを食べさせたい子がいるんだ」

しろは「…私のチャーハンを?」

羽依里「ああ。その子はチャーハンが大好きなんだ。だから俺は、その子に美味しいチャーハンを食べさせたい」

しろは「……」

羽依里「お願いだしろは。一度だけでいい。チャーハンを作ってくれないか?」

しろは「……」

しろは「…わかった。その子のためにならチャーハンを作ってもいい」

羽依里「本当か!?ありがとう。しろは!」

しろは「ただし、私がチャーハンを作るからには妥協はしない」

しろは「だから、今から作るチャーハンの材料は羽依里に集めてもらうよ。それでもいい?」

羽依里「わかった。材料集めくらいなら俺に任せてくれ」

しろは「うん。お願いするね」


~路上~


しろは「それじゃまずは河の主からかな…」

羽依里「…ごめん。今おかしな単語を聞いた気がするんだけど…」

しろは「?」

羽依里「いや、そんな本当に不思議そうな顔をしないでくれ」

羽依里「河の主ってなんだ?」

しろは「……ふぉふぉふぉふぉふぉ」

羽依里「え。急にどうした…?」

しろは「…なんでもないっ」プイッ


???「さっきから、河の主の話をしているようだが」

羽依里「え?…あなたは?」

青龍「青龍…そんな称号で呼ばれている、ただの老いぼれだ」

羽依里「…それ本当にただの老いぼれなんですか?」

青龍「そんなことより、河の主を探しているのか?」

羽依里「へ?あなたは河の主を知っているんですか?」

青龍「ああ。俺も奴を追い続けてかれこれ40年だ」

羽依里「40年!?まじですか!?」

青龍「ああ。だからお前らもせいぜい頑張るんだな」スタスタ


羽依里「…しろは!お前、本当にチャーハンを作ってくれる気があるのか!?」

しろは「え?うん。あるよ?」

羽依里「だけど、青龍が40年追い続けてるものを材料にするんだよな!?俺達にそんな芸当ができるのか!?」

しろは「うん。できるよ。ちょっと前にも同じ材料でチャーハン作ったし」

羽依里「え?河の主を使って?」

しろは「うん」

羽依里「青龍……あなたは本当にただの老いぼれだったんですね」


羽依里「…まさか河の主がただのザリガニとはな」

しろは「しかも大量…すごいね羽依里」

羽依里「ああ。俺もこんなにたくさんザリガニをゲットできるとは思ってなかったよ」

しろは「さすがザリガニの好きな匂いを発してるだけあるね」

羽依里「それちょっと気にしてるからやめてくれ…それで、次の材料は?」

しろは「幻の山菜だよ」

羽依里「…おっと、こいつはまたとんでもない材料がきてしまったな」


???「お前達、幻の山菜を探しているのか?」

羽依里「…あなたは?」

朱雀「朱雀。島ではそう言われている」

羽依里「…これ絶対玄武と白虎もいるよな」

朱雀「それで、幻の山菜が欲しいのか?」

羽依里「あ、はい。どこに行けばその幻の山菜は手に入るんでしょうか?」

朱雀「向こうに野菜の無人販売所があるだろう?無料だからそこから取っていくといい」

羽依里「え?それが幻の山菜なんですか?」

朱雀「ああ。いつもすぐに無くなるから幻の山菜と呼ばれているんだ」

羽依里「…そうですか」


羽依里「…次の材料は?」

しろは「山の頂きに湧き出る、渡り鳥が愛した天然水」

羽依里「よし。つまり河の水かなんかだな?」

しろは「すごい。よくわかったね」

羽依里「ここまでの傾向から考えればだいたい想像できるさ」フッ

羽依里「さて、水はすぐに汲めるからいいとして他に何か必要な材料はあるのか?」

しろは「イノキング」

羽依里「よし、それなら猪だな……って、え!?」

羽依里「猪!?」ガーン!!

しろは「正確に言うと、渡り鳥が愛した猛々しき獣の死肉だよ」

羽依里「どうする…聞けば聞くほど恐ろしくなってくる一品だぞ…」

しろは「大丈夫。羽依里ならできるよ」グッ

羽依里「…しろは。なんの勝算もなしに俺を死地へと追いやるのはやめてくれ…」


~しろは宅~


羽依里「…死ぬかと思った」ボロッ

しろは「…まさか本当に猪と戦うなんて思ってなかったよ」

羽依里「だってこうしないと猪の肉なんて手に入らないだろ?」

しろは「……うん。そうだね」

羽依里「おい。その微妙な間は一体なんだ」

しろは「な、なんでもないよ」フイッ

羽依里「…まあ何はともあれ、これで材料は全部揃ったってことでいいんだよな……?」

しろは「ううん。まだあるよ。後はね…」

羽依里「……まじか。まだ…あるのかよ…」バタッ

しろは「え!羽依里!?」


うみ「ーーさん!鷹原さん!」

羽依里「うーん…」

うみ「起きて下さい!鷹原さん!」

羽依里「…うみちゃん?あれ、ここは…?」

うみ「しろはさんのお家ですよ」

羽依里「しろはの…?」

うみ「はい。しろはさんから鷹原さんが急に倒れたって聞いたので私が迎えに来たんです」

羽依里「…そっか。俺、倒れたのか」

うみ「無理ないですよ。鷹原さん今日は朝からずっとはしゃぎっぱなしでしたし、そりゃ倒れますよ」

羽依里「俺は別にはしゃいでなんて…」

うみ「何度も私の所に来ては、おかしなことをしていたじゃないですか」

うみ「鷹原さんはあれでもはしゃいでないって言うんですか?」

羽依里「…今日はたくさんはしゃいだなー!」

うみ「分かればいいんです」


うみ「ところで気になっていたんですが、鷹原さんはどうしてしろはさんのお家にいたんですか?」

羽依里「…それは」

しろは「それは羽依里が、あなたにチャーハンを食べさせようとしてたからだよ」

うみ「…え?」

羽依里「…しろは」

しろは「羽依里はね、さっきまで美味しいチャーハンを食べさせたい子がいるって言ってこの島を走り回っていたの」

しろは「それで無理して、最後には倒れちゃったんだ」

うみ「…そうなんですか?」チラッ

羽依里「ま、まあ…そうなるのかな」

うみ「……」


うみ「鷹原さんはどうして私にチャーハンを…しかも、何故それをしろはさんにお願いしたんですか?」

羽依里「それは…」

羽依里(最初はただの興味本位だった)


羽依里『うみちゃんを攻略するぞ!』


羽依里(でも、今日1日島を走り回って、皆とうみちゃんと仲良くなる方法について考えてるうちに気づいたことがあった)

羽依里(多分、今俺の胸の中にある気持ちがその答えなのだろう)

羽依里(そう。俺はきっとーー)





羽依里「俺は、うみちゃんと一緒に遊びたかったんだ」





うみ「…遊びたかった?…私と?」

羽依里「うん。俺は一緒に暮らしているはずのうみちゃんと一度も遊んでないのが嫌だった」

羽依里「うみちゃんと、何も思い出を残さないでこの夏を終わらせたくなかったんだ」

うみ「……」

羽依里「少しでもうみちゃんに喜んで欲しくて色々やってみたんだけど、結局うみちゃんを不快にさせてばっかだったよな」

羽依里「だからごめん。うみちゃんの気持ちを全く考えてなかった。本当に悪かった」


うみ「……」

羽依里「…うみちゃん?」

うみ「……」グスッ

しろは「うみちゃん…?どうしたの…?」

うみ「…う、う…うぁぁ…」ポロポロ

羽依里「うみちゃん!?」ガーン!!

しろは「…羽依里。うみちゃんに今日いったい何をしたの…?」ギロッ

羽依里「ちょっと待って!確かに色んなことをした覚えはあるけど、泣いちゃうほどだったのか!?」

うみ「…ぅぇぇぇぇ」ポロポロ

しろは「…ちょっとおじいちゃん呼んでくる」

羽依里「本当に待って!俺がうみちゃん以上に涙する状況になっちゃうからまじで本当に待って!」


うみ「…まさか鷹原さんから、そんな言葉を聞く日が来るとは思ってませんでした」

羽依里「…はい。なんというか、本当にすみませんでした」

しろは「…もっとしっかり気持ちを込めて謝るべきじゃないかな」ムスッ

羽依里「…やけにうみちゃんの肩を持つな。なんでだ?」

しろは「この場合、うみちゃんの味方をするのは当たり前だよ。何か問題ある?」

羽依里「…ありません」

しろは「そうだよね。分かればいいよ」

羽依里「はい。…すみませんでした」

うみ「…ふふっ」

しろは「どうしたの?うみちゃん」

うみ「いえ、二人の仲が良さそうなので嬉しいんです」

しろは「え、別に仲良くなんてないし…」

羽依里「そうだぞ。仲が良いなら、いつまでも硬い床に正座を強いるはずなんてないしな」

しろは「…誰のせいでそうなってると思ってるの?」

羽依里「すみませんでしたぁあああ!!」


羽依里「…さて、それじゃ最後にチャーハンを作れば今日のミッションは全て終了だ」プルプル

しろは「足を震わせて何をカッコつけてるの?カッコよくないよ?」

羽依里「くそっ…せめて床が畳であれば…!!」

しろは「あと…そうだ。羽依里は倒れちゃったから忘れてるかもしれないけど、私のチャーハンを作るにはまだ材料が足りないんだ」

羽依里「え!まじで!?」

しろは「うん。だから取りに行かないといけないんだけど、今日はもう無理かな」

羽依里「え、それってここから遠い場所にあるのか?」

しろは「そこまで遠くないよ。ただもう夕方だし、うみちゃんもいるから」

羽依里「…まあそうか。そうだな。それなら明日にでもーー」

うみ「…今日食べたいです」

羽依里「え?」

うみ「鷹原さんとしろはさんと一緒に、今日チャーハンが食べたいです」

しろは「うみちゃん…」


しろは「わかった。なら、そうしよっか」

羽依里「しろは…いいのか?」

しろは「うん。乗りかかった船だし…それに、私もうみちゃんとご飯食べたいし」

羽依里「…なあ、しろはとうみちゃんって今日初めて会ったんだよな?」

しろは「うん。そうだよ」

羽依里「…ま、いいか。なら最後の材料を取りに行こうか」

しろは「わかった。うみちゃん。一緒に行こう?」

うみ「…うんっ!!」


羽依里(そして俺達は3人で、最後の材料を集めに向かった)

羽依里(しろはに連れてこられた場所はとても大きなひまわり畑だった)

羽依里(なんでもしろは特製チャーハンの最後の材料は、ひまわりの種だったらしい)

羽依里(辺り一面にひまわりが咲いている中で、しろはとうみちゃんは二人でとても楽しそうにしていた)

羽依里(そんな二人を見ていた俺は、理由は分からないけど、少しだけ…ほんの少しだけ泣きそうになっていた)

羽依里(前にどこかでこんな光景を見たことがある?)

羽依里(それとも、いつか未来でこんな光景を見るのだろうか?)

羽依里「……」

羽依里(よくわからない思いを胸に抱きながら、俺は二人がひまわり畑で過ごしている様子を見続けていた)


うみ「しろはさん、食べていい?」

しろは「うん、召し上がれ」

うみ「いただきます!」パクッ

うみ「むぐむぐ…むぐ…」

しろは「…どうかな?」

うみ「んんーーー!!!」

うみ「100てーーん!!」デーン!!

羽依里「お、すごいな。満点だ」

しろは「と、当然だし」

羽依里「当然って言ってるわりには嬉しそうだよな?」

しろは「…私のことはいいから、羽依里も早く食べなよっ」

羽依里「はいはい…」パクッ

羽依里「ーーっ!!」

羽依里「100てーーん!!」バーン!!

しろは「…羽依里が言うとなんか気持ち悪い」ヒキッ

羽依里「おい」


~しろは宅玄関~


うみ「今まで食べた中で一番美味しいチャーハンでした!本当にありがとうございました!しろはさん!」

羽依里「今日は本当にありがとう。助かったぜ」

しろは「こんなことなんでもないよ。それに、うみちゃんが喜んでくれてよかった」

うみ「はい!最高のチャーハンでした」

羽依里「…まったく、うみちゃんは本当にチャーハン大好きっ子だな」フッ

うみ「む…失礼ですよ鷹原さん!私にだってチャーハンと同じくらい好きなものだってあるんですよ?」

羽依里「え?そうなのか?」

うみ「はい。私がチャーハンと同じくらい好きなもの…」

うみ「それは、おかーさんです!」


羽依里「…おかあさん?」

うみ「はい!綺麗で優しくて、とっても美味しいチャーハンを作ってくれる自慢のおかーさんです!」

しろは「む…」

羽依里「なんだ?同じチャーハンマイスターとして負けられないか?」

しろは「…さっき今まで食べた中で一番美味しいって言ってくれたし」

羽依里「そっか。そいつは良かったな」フッ

うみ「…でも今日1日過ごしてみて、好きなものが1つ増えたかもしれません」チラッ

羽依里「え?それってもしかして…」

うみ「はい!おとーさんです!」

羽依里「何故ここでおとーさん!?」ガーン!!

羽依里「ここは普通、俺を好きになる流れじゃないのか!?」

しろは「は?何言ってるの?そんなことあるわけないよね?」ギロッ

羽依里「…くっそぉおおおおお!!」ダダダッ

うみ「あ、待ってくださいよ!鷹原さーん!」タタタッ


羽依里(こうして、俺のうみちゃん攻略は失敗した)

羽依里(以前と比べてうみちゃんとの距離は近づいたと思うけど、これではまだうみちゃんを攻略したとは言えない)

羽依里(だから、俺のうみちゃん攻略は終わらない)

羽依里(この夏をかけて、俺はうみちゃんを攻略してみせる。だからーー)


羽依里「俺にチャーハンの作り方を教えてくれないか?」

しろは「えっ…普通に嫌だけど」


これで終わりです。読んでくれた方はありがとうございました。

鷹原さんって呼んでくれてた始めの頃のうみちゃんと、一緒に遊びたかっただけなんだ。

あとは、もっとサマポケSS増えてくれないかな。




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