【艦これ】アトランタ「今日は何羽落とせるかな」 (45)

Atlanta「今日は何羽落とせるかな」

辺りを田畑に囲まれた田舎道を歩く。

周囲の山々を超えこの何も無い村に吹くまだ少し冷たい風が妙に鬱陶しい。

手、またカサカサになるなぁ。

Atlanta「!?」ザッ

上空の気配に癖で思わず戦闘態勢をとる。

しかしあたしの警戒とはうらはらに実際は100メートル程前方の木から鳥が飛び出して行っただけだった。

Atlanta「はぁ…ビビらせんなっての。ん?」

何かが地面から鳥に向かって飛んでいった。

対空射撃を彷彿とさせるがそれにしてはお粗末だ。

なんだろ。

子供「ちぇーやっぱ当たんねえ」

少年「もっと強いパチンコ作んなきゃダメだな」

子供「でもさ、これ狙ったとこ打つの難しいよ」

少年「そこは練習だよ練習」

Atlanta「何してんの、ガキンチョ」

子供「うわっ!」

少年「な、なんだマタギのねーちゃんか」

Atlanta「マタギじゃないって。で、何してたの」

子供「鳥だよ鳥!鳥を狩るんだ!」

Atlanta「へぇ」

少年「このパチンコで落とすんだ!」

Atlanta「そ。じゃ頑張って」スッ

子供「だぁ!!待ってよねーちゃん!教えて!教えてよお!!」

Atlanta「なぁッ、引っ付くなよ!教えるって何を!」

少年「鳥を打ち落とすコツだよ。さっきから練習してんだけど中々当たんなくてさ」

Atlanta「ハァァァァ…わかったわかった。貸してみな」

子供「よっしゃあ!」
少年「ひゃっほー!」

Atlanta「騒ぐなら打つ」

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Atlanta「いい。パチンコに限らず鳥を打ち落とすコツ。それはね」

子供少年「「それは…」」

Atlanta「木に止まって油断してるのを遠くから撃つ。以上解散」

子供「えぇーやだやだ飛んでるの落としたい!」

少年「そうじゃないと自慢できないじゃん!」

Atlanta「なら練習あるのみよ。ほら始め」

子供「なら見たい!ねーちゃんがマタギしてるとこ見たい!」

Atlanta「マタギしてるとこって何よそれ」

少年「頼むよねーちゃん!」

Atlanta「あーもぉ…」

Atlanta「なら、あれ」

子供「あれ?」

Atlanta「ほら、あの道の脇にある木。ちっちゃい鳥が止まってるでしょ」

少年「え~あんなちゃっちいの狙うのかよ」

Atlanta「アンタらガキンチョにはちょうどいいっての。ほら行くよ」

子供「え?こっそり近づかないの?」

Atlanta「アンタらがそれは嫌だって言ったんでしょうが」

少年「でもでも、こうやって普通に歩いてったら逃げられるよ!」

Atlanta「自然にしとけば大丈夫。リラックスリラックス」

Atlanta「鳥に限らず生き物は敏感なの」

子供「敏感?」

Atlanta「カンがいいの」

子供「あー」

Atlanta「こうしてふらっと歩いてる分には問題ない。でも構えたらすぐバレる」

少年「じゃあ、じゃあさ。どうすんの?もうすぐ木通り越しちゃうよ!」

Atlanta「鳥も艦載機もさ、飛びたい所に飛べるわけじゃない。飛べる所にしか飛べないの」

子供「へ?」

Atlanta「だからこうし、てッ!」バッ

鳥の止まっている木を通り越した所で振り向きざまにパチンコの狙いを定める。

当然勘のいい野鳥は慌てて翼を広げて飛び立つ。

それをあえて待った。浮力はどこからが湧いてくるものじゃない。あの状態から急に飛ぶには前に滑空するような形で羽ばたくしかない。

狙いは絞れる。

Atlanta「Fire!!」ヒュン

パチンコから放たれた石が飛んでいく。



鳥の飛んでいったのと同じ、空の彼方へ。

Atlanta「…ま、こんな感じ」

子供「当たってねえじゃんか!!」
少年「なんで誇らしげな顔してんだ!!」

Atlanta「うっさい。というか鳥仕留めるのにパチンコとか無理あるっての。ほら」ポイッ

子供「わわっ」

Atlanta「しっかり練習しな。ちゃんと止まってるやつを狙ってさ」

少年「え~」

Atlanta「自慢話より、貴重な食料を優先しなよ」

子供少年「「はーい」」

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Atlanta「ったくガキンチョは…ん」

ブリキの家が見えてきた。実際はトタン製だけど、なんとなくあたしはブリキの家と呼んでる。

Atlanta「Good morning.おいちゃんいる?」

老人「おうこっちだこっち」

Atlanta「ん、裏か」

家の裏に回る。そこには白髪混じりの老人がいる。名前は知らないけど皆はおいちゃんと呼んでいて、だからあたしもそうしてる。

Atlanta「どお?艤装は」

老人「バッチリよ。見ろホレ。ピッカピカだろ」

Atlanta「~ま、いいんじゃない。Thanks.」

老人「今回はこいつも使ってみたんだよ。前より仕上がりはいいはずだぜ」

Atlanta「え?そのオイルって他のとこで使ってたんじゃ?」

老人「まーちゃん家のヒーターもとうとうぶっ壊れてなあ。もうこういうの使う先は、おめえさんの艤装と原付だけになっちまった」

Atlanta「…そっか」

老人「原付は車庫ん中だ。持ってきな」

Atlanta「…」

老人「気にするこたぁねえよ。どうせ灯油なんてもうろくに手に入らないんだ。中途半端にヒーターなんぞあるより村の皆で火起こし生活の方がわかりやすいわ」

Atlanta「そ」

老人「そら行ってこい」

Atlanta「ん、Thanks.」

老人「あーそうだ。今回はいつ戻るよ?」

Atlanta「明日、と言いたいけど買い物とかしてきたいし、明後日かな」

老人「気ぃつけてな」

Atlanta「ん」

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スクーターで山道をゆく。

最近の狩場はまだ近いからいい方だ。これがまた遠くなったらと思うと気が重い。

Atlanta「ってうわっ!!??」キキーッ

急ブレーキにスクーターが悲鳴をあげる。

Atlanta「…いや悲鳴をあげたいのはこっちだっての…うわぁ…」

崩れていた。コンクリートの道路が一部。幅5m程だが綺麗に横にスライドして消えていた。土砂崩れかな?

Atlanta「いや、単に老朽化かな」

こんな車一台ギリギリ通れる程度の道路なんて作られてからろくに手入れなんてされてないだろうし、最近雨も降ってない。

Atlanta「参ったなあ。はぁ…」

トンネルはとっくに崩れ落ちてて、近くにあった高速は既にバラバラ。ここが唯一スクーターを走らせられる道だったのに…

Atlanta「フンッ!!力仕事は、パスしたいんだけど、ねっ!」

スクーターを持ち上げて周りの無事な地面を通る。この程度の距離なら艦娘もどきのあたしの力でもなんとか運べるけど…

あーもう胸が!胸が邪魔!

Atlanta「ーーハァッ!!」ドン

意外と重いなスクーター。

もしこの崩壊が広がったり、他の所でも起き始めたら、スクーターでの移動は厳しいかもしれない。

こうして、世界はどんどん人がいなかった頃に戻っていくのかな。

再びスクーターを走らせる。

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老人「あーあ。こいつはもう使えねえなあ」

Atlanta「ただいま、おいちゃん」

老人「おぉ!もう帰ってきたか。明後日ってのはあっという間だな」

Atlanta「艤装、お願い出来る?」

老人「おうよ。構わねえ…おい」

Atlanta「お代の物資は車庫に置いてきた。あたしは、少しお休みもらうから」ガチャ

老人「左側の艤装、殆ど残骸だぞこりゃ。何があった」

Atlanta「…戦争。いつものね」

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少年「あー!マタギのねーちゃん!」

子供「ねーちゃん!」

Atlanta「はぁ…また捕まったか」

少年「見て見て!俺ついに一羽しとめたよ!」

Atlanta「羽なんかでアクセサリー作んな気持ち悪い」

子供「俺もおしかったんだよ!こうやってギューンて来てさ」

Atlanta「はいはいよかったよかった」

少年「なあ今日も頼むよ先生。お手本お手本」

子供「これ貸すから」ポイッ

Atlanta「だからもうあたしは」

投げられたパチンコを反射的に左手で

カチャ

Atlanta「あれ」

少年「ん?」

取れなかった。パチンコはそのまま重力に沿って地面に落ちた。

子供「ちょっとーちゃんとキャッチしてよ僕の相棒パチ」

Atlanta「あー、Sorry.」

子供「そり?」

Atlanta「ごめん、今日は帰るからあたし」

子供「えーちょっとちょっとー」

少年「…なんだろねーちゃん?」

子供「さあ?」

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Atlanta「…ちっ」

まだ慣れてないか。

左手を動かして軽くストレッチをする。

でも基本動作は問題ない。後はあの人にバレなければいい。

Atlanta「ただいま」

村外れの掘っ建て小屋。そこがあたしの帰る場所。

「おかえり」

Atlanta「…ただいま。はいコレ、食料」

「おや、今回は少ないね。もう向こうじゃ入荷もままならなくなってるのかい」

Atlanta「いや…今回はあんまり稼げなくて」

「そうかい。ほら、まだ外は寒いだろう。早く入りなさい」

Atlanta「こんな家じゃ外も中も変わんないよ」

「家は暖かいものさ。とは言え流石にこのままとはいかないね。火を起こそう」

Atlanta「あ、待って!起きないで、寝てていいから」

「それくらいは大丈夫だよ。ほら、今日は特に元気がいい」

Atlanta「なら、いいけど」

「君こそいつまでそこに立ってるんだい。ほら」スッ

Atlanta「へ?あ、ちょっと何を、ウヘェ」

「よしっと。君は相変わらず頭に手を置かれるのが苦手だね。ほら、髪留め取れたよ。」

Atlanta「…直上には嫌な印象しかないの。それにこの髪だと作業しにくいんだけど」

「だろうね」

Atlanta「マジ返して」

「ゆっくり休んでろって事だよ」

Atlanta「むぅ…」

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「火は暖かい」

Atlanta「そういえば、村最後のストーブがダメになったんだって」

「へえ。まあ電気もガスもないんだし、そんな物に発電機を使わなくて済むのならそちらの方が良いのかもね」

Atlanta「あたしは欲しいけどね、ストーブ」

「寒いかい?」

Atlanta「あたしは寒くない。でも寒いもの」

「そうかい」

Atlanta「ん、もう夕日が」

「夕飯にしようか」

Atlanta「OK.じゃ、髪留め返して」

「そうはいかないな」

Atlanta「作るの?」

「たまにはね」

「ふむ、少ないけど質はいいね」

Atlanta「何作るの」

「フライドベーコン」

Atlanta「え、そんないきなり贅沢に使わなくても」

「基本なんだろ?卵は流石に一つにするけれどね」

Atlanta「ちょっと」

「明日も、明日も行くんだろ?しっかり食べていきなさい」

Atlanta「…なくても平気だっての」

「艦娘ならね。でも君はそうじゃない」

Atlanta「そうよ」

「半分だけだろ?」

Atlanta「半分もね」

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「ご馳走様。どうだった?」

Atlanta「まあ、いいんじゃない」

「それはよかった」

Atlanta「…」

「日が暮れるね」

Atlanta「ん」

「布団しくよ」

Atlanta「あたしがやる」

「ならお皿を片付けるとしよう」

Atlanta「あたしがやる」

「それくらいはやるよ。そうだ、昨日今日と何かあったかい?」

Atlanta「…別になにも」

「何でも構わないよ。日がな一日同じ部屋にいては外の様子がわからなくてね」

Atlanta「そう…そうね。村の子供達に会った。あいつらあたしに狩りを教えてくれって」

「ほお、それで」

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Atlanta「んしょっと」

「今更だけれどどうしてそう胸周りに着込むんだい?」

Atlanta「戦闘中にこんなの遊ばせてたら邪魔で仕方ないから」

「ふむ、それもそうか」

Atlanta「重いし、揺れるし、擦れるし痛いし邪魔だしウザイし、マジ無駄」

「お、おう」

Atlanta「…でもこれもアナタで出来てるんだよね」

「半分ね。なんだか複雑な気分だなあ」

Atlanta「あれ、着替えは?」

「あぁ、干したままだ」

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「暗いね」

Atlanta「うん」

「火をつけっぱなしに出来たらいいのにね」

Atlanta「それこそストーブや電気になるじゃん」

「文明の力は偉大だね」

Atlanta「…寒い」

「寒くないんじゃなかったのかい?」

Atlanta「あたしは寒くない。でも寒いでしょ?もっと寄って」

「ならお言葉に甘えよう」

「人の温もりというのはなかなかどうして落ち着くものだね」

Atlanta「あたし、半分しか人じゃないよ」

「半分も人じゃないか」

Atlanta「それにその半分はアナタで出来てる」

「不思議なものだよね」

Atlanta「この胸も半分はそう」

「それまだ引っ張るんだ」

Atlanta「どう?暖かい?」

「暖かいは暖かいけどね。お腹あたりの方が暖かくていい」

Atlanta「ならもっと寄って。どうせ布団は一つしかないんだし」

「夜は怖いかい?」

Atlanta「アナタがいるから平気」

「手を繋いでもいいかな」

Atlanta「まあ、別に」

「…手、綺麗だね」

Atlanta「何、急に」

「一昨日までとは別人のようだ」

Atlanta「!」

「綺麗な手だ」

Atlanta「…綺麗なだけ。そんだけ」

「おやすみ。Atlanta」

Atlanta「Goodnight.…ッ…おやすみ…」

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少年「あーねーちゃん今日も狩り行くの?」

Atlanta「まあね」

少年「いーなー。俺も村の外行ってみたいや」

Atlanta「パチンコじゃ無理ね。ガキンチョに山越えは早い」

少年「ちぇ」

Atlanta「もう一人のガキンチョは?」

少年「畑仕事だって」

Atlanta「生きてる畑あったんだ」

少年「ないから草むしりだと」

Atlanta「手伝えよガキンチョ」

少年「俺様は狩りが仕事だからな」

Atlanta「そ」

少年「じゃな」

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老人「なんだもう行くのか?」

Atlanta「稼ぎ時だし。艤装は?」

老人「いつも通り、ほれ。ダメになってたとこもピッカピカよ」

Atlanta「ん、Thanks.お代は戻ったらね」

老人「いらねぇよ」

Atlanta「…」

老人「こんな仕事にお代なんかねえだろ。もういらねえよ」

Atlanta「でも…綺麗になってるし」

老人「自分たちの事だけ考えてりゃいいのよ。小屋の借りは十分返してもらったさ」

Atlanta「…」

老人「その艤装、直すとなりゃ高くつくぞ」

Atlanta「分かってる。分かってるから」

老人「元気な面だけ見せに来い。それ以外はいらねえよ」

Atlanta「…Thanks.」

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Atlanta「この程度の幅なら板か何かを持ってきて橋にした方がいいか、なっ!」グワッ

スクーターを持ち上げて崩れた道路を渡る。

帰りもこれやるのかぁ…

Atlanta「ッショ!」ドンッ

重い。左腕はともかく右腕はほぼ人だから持ち上げるのは辛い。

Atlanta「腕、バレてたなあ」

でも何も言わなかった。言われなかった。

いつも優しくて、それが少し怖い。

その優しさに甘えたくなる。

全部諦めて休んでしまいたくなる。

Atlanta「さ、もう一仕事行きますか」

太陽が真上から暖かい日差しを振らせてくる。

再び山道でスクーターを走らせる。

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太陽が大分傾きかけて陽の光が入らなくなってきた。

山道をスクーターで走る。

Atlanta「クソッ…なんで、なんでこんな!」

市内での戦闘は昨日までずっと均衡していた。

攻めきる戦力がないから要所をあたしのような傭兵で守り敵の戦力を削ぐ。それだけの仕事のはずだった。

まさか姫級の人型深海棲艦(オニ)が来るなんて聞いてない。あんなの人がどうにかできる存在じゃない。

戦線は完全に崩壊した。

いや、起きた事はもうどうしようも無い。

今は、今はとにかく村へ!

家へ!

Atlanta「ちっ!」キィー

例の崩れた所で足止めを食らう。

なんだってこんな時まで!あたしは早く村に、

Atlanta「え?」

無意識に村の方角を見た。

木々の先にある村を。

当然見えるわけもない。

だけど、村は見えないけれど、

黒い煙と赤い空が見えた。

Atlanta「」

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Atlanta「ハァ!ハァ!」

山をかけ下りる。

煙に向かって一直線に。

脚なら自信はある。こっちは両方人じゃない。

Atlanta「もう少し、もう少ッ!?」ガッ

なにかに躓いた?いや違う!

視界が反転し、直後背中に衝撃が走る。

Atlanta「ハァアッ!?」

肺から息が絞り出される。

背中の艤装がよりダメージを深刻化させたようだ。地上での立体的な動きを考慮されていない艦娘の艤装はこういう時に辛い。

朦朧とする意識でようやく自分が小さな崖から落ちたことに気づいた。

痛い。衝撃で傷口が悪化したようだ。背中の艤装もダメになっている。

それに臭い。

臭い?

Atlanta「!」ガバッ

体を起こす。

そこには伸びきった雑草が犇めく畑だったものが広がっていた。

Atlanta「着いた!!」ダッ

村だ!ならあともう少しだ。

雑草畑の至る所で火の手が上がっていた。

邪魔なだけだしいくら燃やされようがむしろ有難いくらいだけど、一体何故わざわざ火を?

とにかく煙で視界が酷い。臭いも凄い。

"もどき"とはいえこれでも艦娘。呼吸の方はまだ大丈夫だけど視界はどうにもしようがない。

Atlanta「おっと」

瓦礫に足を取られかける。

瓦礫?いや違う。瓦礫じゃない。

今のトタンの板には、見覚えがある。

それでもあたしは今止まるわけにはいかない。

燃え盛るブリキの家を後にしてあたしは走る。

Atlanta「クッソォ!火を!火を消して!!」

真っ赤に染まる空間を無我夢中で走る。想像以上に火の手が早い。

Atlanta「ッ!?」

直後、殆ど直感的に走っていた体を反転させ上空を向く。

直後煙に紛れて四つの影がこちらに急降下して来た。

獲物だ。

でも鳥や何かとは大きく違う点がひとつある。それは奴らにとってもあたしが獲物である事。

Atlanta「Fire!!」バッ

対空射撃を行う。

Atlanta「ッ!!」

四機の内三機を撃墜したが残る一機に撃たれた。左腕に激痛が走る。

Atlanta「こんのっ!!」バッ

どうにか最後を撃ち落とす。しかし

Atlanta「これが限界か…」

もうあたしの艤装は半分程しか機能していない。

左側はこの前の戦闘で壊れたきり。"いくら磨いてもらった所で艤装は直らない"。

防空能力というのは艤装の稼働率が五割だから五割になる訳では無い。

そもそも全体が稼働して初めて想定された防空能力が機能するというもの。

例えば机の足が一本折れたとして、それが全体の一割程度の損傷だとしてもそれはもう机として殆ど機能しないだろう。

それと同じ話しだ。あたしの今の防空能力は本来の二割がいいとこだ。

Atlanta「マジ…最悪…せっかく治したばかりなのに」

左腕の感覚がとうとうおかしくなってきた。

また治さなきゃ。お金はかかるし、時間もかかる。

何より、ドックに行かなきゃ治せない。

血が流れる。あたしの血が。

あの人の血が。

服が赤く染る。

Atlanta「…妙ね」

隣町の騒ぎに呼応した形でここにも深海棲艦(ヤツ)らが出たのだろう。それは分かる。

深海棲艦らが人を狙い、食うのもわかる。

なのに村の中に深海棲艦らがいない。飛び回る偵察用の艦載機ばかりで。

Atlanta「皆逃げた、のかな」

深海棲艦らは人を喰らう。

つまり人がいる程、人を殺す程に進行が遅くなる。

村の形跡からして数は少ないら。いち早く避難できているとしたら、森に逃げられたならみんな無事かも知れない。

そうだ、きっとそうだ。

あの人もきっと。

Atlanta「!!」

空から音がする。独特の音が。

Atlanta「チッ、来んな…来んなよ!」

このまま相手をしていたらキリがない。

草に紛れて行こう。

帰らなきゃ。

家に。

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Atlanta「戻って、これた…」

空はいつの間にか炎の赤ではなく夕日のオレンジに変わっていた。

村外れなのが幸いだった。ボロい掘っ建て小屋には傷一つなかった。

さてどうするか。

食料と衣服を持てるだけ持って、いや、その前に傷を少しでも治療しないと。

それに皆がどこへ行ったかも分からないんだ。

どうしよう。どうすれば。

Atlanta「…ただいま」ガラッ

問題が山積みだ。あまりにも、多い。

「おかえり」






Atlanta「は?」

「早かったね」




Atlanta「は?」

Atlanta「え、ちょっと、何、何してるの」

「いつも通り、何もしてないよ」

Atlanta「そうじゃ、そうじゃない!なんで!なんでまだここにいるの!分かんない!マジ意味わかんない!」ガシッ

「おいおい揺らさない揺らさない。安静にしてろと君が言ったんだろ」

Atlanta「なんで逃げなかった!」

「君の帰りを待つ人が必要だろ?」

Atlanta「ッ!!」

「…おかえり」

Atlanta「…ぃま」

「ボロボロだ」

Atlanta「うん」

「髪留め、一つ無くなってる」

Atlanta「マジ?最悪」

「艤装もダメそうだね。せっかく綺麗になってたのに」

Atlanta「あのじーさん何故か磨くのだけは上手かったのにね」

「少し痛むよ」

Atlanta「うん…イッ!?」

「よし。止血は、まあ今はこれくらいしか出来ないかな」

Atlanta「うん。Thanks.」

Atlanta「それで、これからどうする気」

「あぁ、それなんだけどね。もう逃げるのも疲れたんだ」

Atlanta「…」

「せっかくこうして落ち着ける場所が出来たのにまたどこかへ行くのも嫌だろ?」

Atlanta「それは、まあそうね」

「君一人をどこかへ送り出すのも悪いしね」

Atlanta「それは別に嫌いじゃないけど」

「でもここにいる方が好きだろ?」

Atlanta「うん。それに、戦うならあなたの側で戦いたい」

「なら、なあAtlanta。ここを守ってくれないか」

Atlanta「ん、分かった。提督さん」

「その呼び方、久々に聞いたね」

Atlanta「提督さんが嫌そうだったから」

「そうだね。うん、その通りだ。でももう逃げるのはやめだ。たまには君の言う提督ってのをやってみるのもいいかもしれない」

Atlanta「…じゃあ、ちょっと行ってくる」

「悪いね。じきに夜だというのに」

Atlanta「いいよ。今日はそんなに、悪い予感はしないから」

「あぁそうだ。これを」

Atlanta「ん?これって」

「君の大好きなガキンチョ達からね、御守りだそうだよ」

Atlanta「そっか。そっか…無事だったんだ」

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夜。

夜は嫌だ。

体が縮こまる。

不安で叫びそうになる。

足が竦む。

お尻の辺りがキュってなる。

でも今日は違う。

炎で辺りが明るいからじゃない。

まるで話に聞く灯台の光で照らされてるかのような、帰るべき場所がハッキリと分かるような、そんな感覚。

パチンコをギュッと握り締める。左手の感覚が戻った気がする。


炎の明るさは艦載機にとっても有難いものらしい。執拗に飛び回ってたウチの一機があたしを見つけたようだ。


さて


Atlanta「今日は何羽落とせるかな」

Atlantaが可愛くてつい

防空能力云々は特に知識もないので適当ぶっこいてます。
それにしてもあの胸の驚異的な装甲は本当に色々と大変そうで…

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