魔女「寂しい人ね。頭も心も」屍男「……余計なお世話だ」 (133)

前スレ

吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」
幼女幽霊「呪いが勝つのか、幽霊が勝つのか実験だよ実験!!」DQN幽霊「!?」 - SSまとめ速報
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屍男「おい、そこのロクでなし」吸血娘「なんだ髪なし」
屍男「おい、そこのロクでなし」吸血娘「なんだ髪なし」 - SSまとめ速報
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ピピッ……ピピッ……




吸血娘「Zzz……Zzz……」


吸血娘「……んっ」パチッ



吸血娘「ふわぁ……あぁ……」


吸血娘「あーもう10時か……久々にぐっすり寝たな。目覚ましの音に全然気づかなかった」

吸血娘「……腹減ったな。飯食うか」スクッ

吸血娘「おーい、ハゲ。晩飯兼朝飯はどこに……ってあれ?」




シーーーーン



吸血娘「……電気が付いてない。まだ帰ってきてないのかあいつ」パチッ

吸血娘「いつもならとっくに帰ってきてる時間のはずだ。残業でもしてんのか?バイトに残業なんてあるのか知らんけど」

吸血娘「しゃーない。適当に冷蔵庫でも漁るか、コンビニでも……ん?」ピクッ

吸血娘「なんだこれ?手紙?」ペラッ



『しばらく家を留守にする。飯は適当に自分で買え。出来るだけ早く戻る』



吸血娘「……は?」

吸血娘「なにこれ、家出?いやそんな歳でもないか。じゃあ……どこに行ったんだ?」


吸血娘「…………」

プルルルルル……プルルルル……



ガチャ



後輩女『もしもし?どうしたんですか?こんな時間に』


吸血娘『ハゲがどこにいるか知らない?家に帰ってないみたいなんだけど』


後輩女『え?センパイですか?もしかして、聞いてなかったんですか?』


吸血娘『聞いてない?何を?』


後輩女『一週間くらい旅行に行くって昨日言ってましたよ。あれ?もしかして姪さんも一緒じゃないんですか?私てっきり二人で行ってるのかと』

吸血娘『はああああああああああああああああ!?!!??!?』

吸血娘『りょ、旅行だと~~~!?!?!!??!!?!?』

吸血娘『んな話聞いてねえぞ!!!!どこに行くって言ってたんだ!!!!』


後輩女『え、えぇと……そういえば……」

後輩女『た、確か……アメリカに行くとか言ってたような……」


吸血娘「はぁっ!?アメリカァ!?」






…………………………………………………
………………………………




スタスタ スタスタ


屍男「……」キョロキョロ





「ゾンビくーん!こっちこっち!」





屍男「……」クルッ


魔女「久しぶり、ゾンビくん。元気してた?」


屍男「……あぁ、まあな」

魔女「長旅お疲れ様。悪いわね、こっちまで来てもらっちゃって」

屍男「問題ない。それより、本題に入りたい」

屍男「何しろ、いきなりアメリカに来いとだけしか言われていないからな。何があったんだ」

魔女「えぇ、そうね。じゃあさっそく、その件について話しましょうか」

魔女「そこのカフェに入りましょ。ゾンビくんもお腹空いてるでしょ?」

カランカラン♪



魔女「私はコーヒーで、ゾンビくんは?」

屍男「……コーヒーと、このサンドイッチを三つ、ホットドックも三つくれ」

魔女「あ、相変わらず大食漢ね……機内食は出なかったの?」

屍男「……足りなかっただけだ」



モグモグ モグモグ



屍男「で、何の用件があって俺を呼び出した」

屍男「お前のことだ。どうせろくな話ではないのだろう。”仕事”の依頼か?」

魔女「話が早くて助かるわ。でも、今回はちょっとアナタが思ってる内容とは違うのよね」ペラッ


魔女「“フレア・ウィッチの森”って知ってる?」


屍男「…………」

屍男「……名前だけはな。確か、20年ほど前に4人の男女が行方不明になった森だろう」

屍男「警察が数百人態勢で捜査したが、何も見つからず、それどころか森の中にいたはずの痕跡すらもなかったと聞く。そして何も分からないまま捜索は打ち切られた」


魔女「さっすが、もしかして、“Shadow”の時にもちょっと調べてたりしてたのかしら」


屍男「……あぁ、あの事件は大々的に報道されていたからな。嫌でも目に付いた」

屍男「一応、関連記事を読み漁ってみた記憶があるが、大した情報は何もなかった。分かったのはその事件の前にも何人か行方不明になっていたのと、森に伝わるある伝承……」


魔女「“炎の魔女伝説”でしょ?」


屍男「……あぁ、それだ」

屍男「あの森には伝承が残されていた。かつて魔女狩りが流行っていた時代に、その処刑場所にあの森が使われていたと」

屍男「処刑方法は磔にして火あぶりにされたという、そこで何百人もの魔女疑惑があった女が被害に遭った」

屍男「……だが、その中には本物の魔女が紛れ込んでいた」


魔女「そう。で、その処刑された魔女がその森に呪いをかけたのよ」

魔女「この森に立ち入る者は一人たりとも我が力で呪い殺してやる……ってね。これがあの森に伝わる“炎の魔女伝説”」

魔女「さて、この事件を聞いて、ゾンビくんはどう推理したのかしら?」


屍男「……森の呪いが本物なのか、それとも、ただ遭難しただけなのか、確率的には半々と言ったところだろうな」

屍男「普通ならば山奥の樹海じゃあるまいし、道沿いを歩いていけば子供でも脱出可能だろうが、可能性は0ではない」

屍男「伝説は彼らも知っていたはずだ。道に迷い、集団パニックを起こし、川に流された……ということもあり得る。実際、遭難する前日には大雨が降っていた」

屍男「警察の見解もこれと似たような結論に至ったはずだ。次に、呪いの線だが……」

屍男「もし呪いがかけられていたと仮定すれば、森の主は恐らくその魔女の霊だろうな。数百年経っても力が残っているならば、最低でも足付き、最悪その森に“突然変異”したとまでは考えられる」

屍男「だが、森に立ち入った者を全て殺すほどの力ならば、捜索した警察も全員道ずれになっていないとおかしい」

屍男「つまり、一度に手にかけれる人数は精々一桁が限界、それ以上は精気を吸い過ぎて逆に消滅する可能性があるため手を出せなかった」

屍男「その程度の力ならば、俺がわざわざ出向かなくとも、現地の狩人で対処出来るはずだ……そう俺は判断した」


魔女「……ふーん」

屍男「……で、その森がどうしたんだ。察するに、お前はその森に用があるのか」


魔女「えぇ、そうよ。ゾンビくん、アナタには私と一緒にその森に行ってほしいの。本当に“炎の魔女”が実在するかどうか、確かめてみたいから」


屍男「……なぜだ?なぜ今更その森に用がある」


魔女「……そうね」

魔女「ビジネス半分、私情半分ってところかしら」

ブゥゥゥン


魔女「森がある町までは車で4時間もあれば着くわ。私が運転してあげるから、それまではゆっくり休んでて」

魔女「あ、そうだ。そこの後ろの席の下にあるバック、確認してみて」


屍男「……これか?」ガサッ


魔女「えぇ、もし森で戦闘になった際でも問題ないように、一通りの狩人の道具は用意したわ。足りないものがあるなら言って。途中で寄って調達するから」


屍男「……」ガサゴソ

屍男「……いや、問題ない。十分過ぎる装備だ。並みの幽霊や怪物相手なら、仕留められる」


魔女「そう、良かった。じゃあこのまま真っすぐ行くわね」


屍男「……」

屍男(備えとしては文句の付け所がない、完璧な装備だ。だが……少し用心過ぎるような気がする。存在するのかも疑わしい相手にここまでするか?)

屍男(……考え過ぎか。俺も人のことをあまり言えないしな)

魔女「到着、今晩はここのモーテルで休みましょ」

屍男「……まさか、お前と相部屋じゃあるまいな」

魔女「あら?今更そんなこと気にしてるの。半年間一緒の屋根の下で暮らした仲じゃない」クスッ

屍男「……はぁ」


ガチャ


魔女「値段の割にはいい部屋じゃない。さて、作戦会議の続きでもしましょうか」ストン

魔女「ゾンビくん、あの森で今まで何人の人間が消えたか知ってる?」


屍男「……先程の話に出てた4人と、その5年前に2人、7年前に3人、そして20年前に1人、それ以降の情報は俺も把握してないな」


魔女「そう、ゾンビくんの知ってるのはそこまでか。実はね、つい3年前にも行方不明者が出てるのよ。18歳の高校生の4人組があの森で消息を絶っているわ」

魔女「ただ、この情報は世間には公表されていない、裏の情報だけど」


屍男「なぜ公開されていないんだ?」


魔女「理由は簡単、本当にその森に入ったか分からないから」


屍男「……は?」

魔女「実際に目撃されたのはこの町なのは確かなのよ。監視カメラにもちゃんと映ってる」

魔女「でも、最後にどこにいたかが分からないのよね。大荷物を持って町を出たところまでは分かっているけど、それ以降の消息が掴めず行方不明」


屍男「……ではなぜ森に入ったことになっているんだ?」


魔女「目撃者がいたのよ。森の近くに住んでいる100歳近いおばあさんが四人組が確かに森に入るのを見たと言っているわ」

魔女「でも、ちょっとボケが入っちゃってるみたいなのよねぇ……言ってることが支離滅裂で、毎回証言が変わるもんだから、警察も信憑性がないと思ったみたい」

魔女「どうしても、20年前の事件と重なるから、迂闊に発表出来なかったんでしょうね。せっかく風化してきたのに、また蒸し返すようなことが起きれば穏やかな日常を送れなくなる」

魔女「そういう事情も……入ってたんじゃないかしら」


屍男「…………」

魔女「分かっているだけであの森で14人は行方不明になっているわ。これはもう……ただの遭難とは言えないんじゃないかしら」

屍男「……確かに、異常な事態だな。だが、気になる点が一つある」

屍男「初めて行方不明者が確認されたのは40年前だ。お前が調べた限りでも、それは確かだったんだろ?」

魔女「えぇ、そうよ。それ以前の記録は探してみたけど何も出なかったわ」

屍男「伝承が確かなら、数百年前から炎の魔女の呪いは実在するはずだ。だが、犠牲者が出始めたのは40年前……おかしいと思わないか」

魔女「……確かに、それもそうね。“炎の魔女伝説”が言い伝えられていて、普段から人が立ち入ってないとしても、数年に一度は誰か入っていてもおかしくない」

魔女「でも、実際に被害が出始めたのは40年前、つまり……」


屍男「あの森が異常性を発揮したのは40年前だ。その時、決定的な何かがあったと推測出来る」

屍男「もっとも、これは確定した情報でもない。いくつもの偶然が重なった結果かもしれないし、それこそ40年前に出た行方不明者はただの遭難で、怪異とは何も関係のない可能性もある」


魔女「……どうやら、森に行く前にその件についてもっと詳しく調べる必要がありそうね」

今日はここまで
はいってことでようやく続きを書けるようになりました…色々遅れちゃってごめんなさい
一応前スレの方に今回の話と関係あるような感じの短編を書いたのでそっちも読んでもらえると嬉しいです

□□□□  翌日  □□□□



魔女「この先に図書館があるわ。そこなら当時の資料を探せるはずよ」


屍男「……ずいぶんこの町に詳しいんだな。初めて来たんじゃないのか?」


魔女「あら?言ってなかったかしら。ここは私の故郷よ。この町で生まれ育ったんだから、それなりには精通してるわよ」


屍男「……初耳だぞ」

魔女「と言っても、12歳までの話だけどね。そこからはもっと都会に移住したわ」

屍男「家族はいないのか?」

魔女「ええ、私、捨て子だったみたいだから。世話してもらった孤児院も10年前に潰れたわ」


屍男「……そうか」

…………………………………
……………………



ペラッペラッ



屍男「……あったぞ。これだ」


魔女「ほんと?どれどれ」


屍男「1979年に、森に入った夫婦のうち、その妻が失踪している。夫が目を離した一瞬のうちに消えていた……か」

屍男「警察は周辺を捜索したが、発見することが出来ず……唯一の証拠品として、現場に靴が残されているな。ここで初めて“炎の魔女伝説”の話が出ている。やはりこの事件が発端か」


屍男(……妻の方は身重の身で、妊娠六か月だった、か」


魔女「気になるのは……夫婦のうち、妻だけが失踪している点ね。夫は無事に生還しているみたいだし、ここだけは他の事件と明らかに違う点だわ」


屍男「いや、それにもう一つ相違点がある」

屍男「靴だ。他の事件では失踪者の遺留品は何も見つかってないが、これだけ妻の靴が一足確認されている」


魔女「あ、確かに」


屍男「だが、これだけでは判断条件としては足りないな。もっと情報がいる」


魔女「じゃあ、森について詳しく知ってそうな人に直接聞きに行く?」


屍男「……?誰だ?それは」


魔女「3年前に森で消えた若者たちを見た唯一の目撃者のおばあさんよ」

…………………………………
……………………


屍男「本当にその婆さんは話ができるのか?だいぶボケているようだが」

魔女「それは実際に話してみないと。でも実は私、そのおばあさんのことちょっとだけ知ってるのよね。私がまだこの町にいた時も……変わり者で有名だった人だから」

屍男「変わり者とは?」

魔女「あの人、森の目の前に住んでるのよ。地元の人間でも薄気味悪くて近付かないのに」

魔女「だから、“炎の魔女”はそのおばあさんだって噂もあったわ。まあ……それは絶対ないと思うけど。それにしてもまだ生きてるのはびっくりしたわ」

魔女「だって私が小さい頃にも歳をとったおばあさんだったのに、まだ生きているのよ?どんだけ長生きしてるのって話よ」


屍男「……」


魔女「あ、今、私の年齢を逆算しようとしたでしょ。ダメよ、レディの歳を探っちゃ」


屍男(……レディって歳か)

魔女「この家よ。そして、そこを真っすぐ行ったところが森の入り口よ、今は金網で封鎖されていて、一般人は入れないようになっているわ」


屍男「……あそこか」

屍男(何も感じない。一見、どこにでもあるような森だ。中に入ることがトリガーになるのか)

屍男(やはり“突然変異”によって森自体が異界と化している可能性があるな。それなら被害者の遺体が見つからないことにも説明が付く)

屍男(……そうなると、直接退治するというのは難しくなってくる。聖火でここら一帯を焼き尽くすくらいしか方法がない)



ピンポーン



魔女「すみませーん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけどー」

ガチャ


老婆「……」

老婆「……何の用だい」


魔女「あ、どうも。実は私達、あそこの森について取材を――」

屍男「……」


老女「……下手な嘘はやめな。アタシを何歳だと思ってるんだい。普通じゃない人間なんて見りゃ分かるよ。伊達に歳は食ってない」

老女「あんたら、あの森について知りたいんだろ」


魔女「……えぇ、話が早くて助かるわ。その通り、私達はあの森について調べています」

魔女「アナタの知っていることを出来れば全部教えてもらいたいのだけど」


老女「……入りな」スッ

スタスタ スタスタ


老女「そこに適当に座りな。茶でも出してやる」


魔女「あ、どうも」

屍男「……驚いたな。100歳を超えてるとは思えないほどしっかりしている。どこがボケているんだ」

魔女「……どうやら、彼女の証言は警察に揉み消されたってことで確かなようね」


老女「ほら、飲みな」ゴトッ


魔女「どうもありがとうございます」スッ

屍男「……頂く」スッ

老女「で、何が知りたいんだい」


魔女「そうですね、じゃあまず、三年前の件について」

魔女「三年前、この森に入った4人の男女を見たっていうのは本当ですか?」


老女「……」ゴクゴク

老女「……フーッ」

老女「三年前だけじゃないよ」


魔女「えっ?」


老女「この森に入ったやつら全員の顔は覚えている。そのためにここに家を建てたんだからね」


魔女「……それはどういう意味?」

老女「……あたしの孫が昔、あの森で消えているんだよ。40年前にね」


魔女「40年前って……最初の行方不明者……」


老女「よく調べているじゃあないか。そうだよ」


老女「あんたらが考えている通り、森がおかしくなったのは40年前だ。確かに、おかしな伝説はあったが、そんなのものはとっくに廃れていて、当時は誰でも入ることが出来てたんだよ」

老女「あたしだって子供の頃から何回も行ったことがある。あの日までは……あの森は普通だった」


屍男「……」

老女「あたしも調べられることは何でも調べた。でも、同じようにあんたらが知っていること以上のことは何も分からなかった。だからここに家を建てたんだよ」

老女「アイツのことを知るためにね……」チラッ


魔女「……それで、何か分かったことはあったんですか?」


老女「“炎の魔女”は実在する。これだけは確かだよ」ギロッ

老女「あたしゃこの目で何度か見たことがある。炎に包まれた人みたいなやつが、こっちを見ているのを」


屍男「……それは本当か?」


老女「あぁ、アイツは森から出られないようだ。だからたまにこっちを怨めしそうに見ている」

老女「証拠写真も撮ろうとしたが……駄目だった。アイツの姿はビデオにもカメラにも映らなかったから、証明出来るものは何もないけどね」

老女「でも、あたしの記憶を頼りに描いた絵がある。それがこれさ」バサッ



『』



魔女「これが……炎の魔女、その名の通りの姿をしているわね」

屍男「……僅かにだが、女体のような風貌に見えるな。本当にこの絵の通りだったのか?」


老女「あぁ、間違いないね。アイツのことはこの目にしっかり焼き付いている。確かにあいつは女、魔女だ」


魔女「伝説は本当だった……てことか。でも、そうなるとなぜ急にその炎の魔女が現れるようになったかが謎ね」

屍男「……」

老女「あんたら、森で消えた人数はどこまで知っているんだい」


魔女「こちらで把握しているのは14人ですね」


老女「……14人かい。そこまで少なけりゃどれだけマシだったか」

老女「少なくとも、その5倍はいなくなってるよ。警察共が揉み消しているせいで、テレビでは報道されてないけどね」


魔女「ご……5倍!?」

屍男「それは本当なのか?」


老女「言っただろ。ここに来るやつらの顔は覚えているって。今でも数か月に一度は肝試し感覚で来る馬鹿共がいるんだよ」

老女「警告してやっても……言うことを聞きやしないせいで、止められなかったことなんて何度もある。まったく……非力なババアになっちまったのが恨めしいよ」

老女「警察共や市の偉いさんは恐れているんだよ。この事実が他に漏れることをね。だからここで消えたやつらは別件として処理されるんだ」

老女「そりゃそうだ。それだけの人数が消えている森なんてのが実在したら、もはやそれは都市伝説の域は超えている……上から見りゃ、自分の立場が危うくなる危険な存在だ」

老女「あいつらは……見て見ぬフリをしているんだ。我が身可愛さでね」


魔女「……」

屍男「……」


老女「だから、あんたらみたいな外の人間に頼るしか……もう道はないんだよ。あんたら、普通の稼業をやってるわけじゃないだろ?」


魔女「……はい」

屍男「……」

老女「今までも、あんたらみたいな二人組は何回か来た。普通の人間と違う雰囲気を出しているのがね」

老女「だがそれでも……帰ってくる者はいなかった。みんな、消えちまったんだよ」


老女「それでも行くのかい」



魔女「……えぇ」

屍男「……そうするつもりだ」



老女「……止めはしないよ。言っても効かないってのは分かってるからね」

老女「無事を祈っている。見送りはさせてもらうよ」

………………………………………
…………………………



スタスタ スタスタ



魔女「話を聞きに行って正解ね。収穫はたくさんあったわ」


屍男「……あぁ、そうだな」


魔女「それにしても、まさか行方不明者がそんなにいるとは思わなかったわ。これが表に出たら大変な騒ぎになるわよ」

魔女「それに、私達と同じように何人かの狩人も来てたみたいだし」


屍男「……一人も戻らなかったのを見ると、生半可な相手ではなさそうだな」カキカキ

屍男「この道具を取り寄せてもらえるか。今の装備では心もとない」ペラッ


魔女「了解、明日には届くようにするわ」

魔女「色々調べてたらもう真っ暗ね。適当な店でディナーでも食べましょうか」

魔女「そうだ。そこの角を曲がったところに美味しいピザの店があったはずよ。今日はそこにしましょうか」



スタスタ  スタスタ



屍男「……見当たらないが」

魔女「あれー……おかしいわね。確かに食べた記憶があるんだけど」


魔女「…………」


魔女「そっか、もう潰れちゃったんだ……美味しかったのに」

魔女「いいわ、別の店にしましょうか」スッ


屍男「……」

今日はここまで
実は今回の話ほとんど吸血娘の出番はないです

…………………………………………
………………………………



魔女「Zzz……Zzz……」スゥ



屍男「……」カキカキ

屍男「……状況を整理するとこんなものか」




『フレア・ウィッチの森』


・数百年前に魔女狩りとして、何百人も若い女が火あぶりで処刑された。だが、その中には本物の魔女が混じっており、森に強力な呪いをかけたという伝承が残されている。
しかし、その伝承は40年前にはもう廃れていて、当時は一般人も多く訪れていたが、何も起きることはなかった。
・初めて失踪者が確認されたのは40年前、夫婦のうち妻だけが行方不明となり、現場には靴が片足だけ残されていた。それ以降立て続けに失踪者が増えるが、現場に被害者の着用しているものが残されていたのはこの一件のみ。
・失踪者は40年間で70名以上、警察が隠蔽し続けていたが、20年前に4人が失踪したことが漏れ、世間にその存在を知られる。この事件で警察は数百名を投入し、捜索するが手掛かりは何も見つからず。
この際、警察関係者に失踪者は一人も確認されなかった。
・実際に炎の魔女は実在する。その姿は炎に包まれた女の姿をしており、森から出ることは出来ない。




屍男「……気になるのはやはり、始めの事件と……20年前の捜索だな。他の事件と比べれば、この二つは何かイレギュラーがあったとしか思えない」

屍男「……警察の方は人数が原因か?数百人規模の人間相手では“足付き”や“突然変異”でも手は出さないのはおかしくない。生気を吸い過ぎて、逆に消滅する可能性があるからな」

屍男「となると、怪物や人外の者が住み着いている線は消えるな。こいつらはわざわざそんなことを気にする必要はない」シュッ



屍男「……いや、もう一つあるな。犯人が人間だった場合だ」



屍男「もし、複数の人間による凶行なら説明が付く。異形の者ではなく、ただの猟奇殺人事件の可能性も――」

屍男「さすがに無理があるか。いくら何でもこれだけの期間と規模で殺人を行うのは不可能だ……“Shadow”でもあるまいし」シュッ

屍男(……なんだ?何か引っ掛かる。心の奥底に魚の小骨が刺さっているような、嫌な違和感がある)

屍男(見落としは何もないはずだ。少なくとも現段階の情報では……つまり、俺が気になっているのは未確認の情報……?)

屍男(……俺の記憶はまだ完全に戻っているわけではない。死の直前に関する記憶の他にも、まだいくつか戻っていない記憶がある。全体に例えるなら8割と言ったところか。残りの2割はまだ不明だ)

屍男(この一連の失踪事件、まさか……俺の記憶に関わっているものなのか?)





魔女「ゾーンビーくん」ギュッ





屍男「……離せ。暑苦しい」

魔女「こんな夜中に何やってるの?自分でも慰めてたり」クスッ

屍男「見て分かるだろ。状況整理と対抗策の模索だ」

魔女「……へぇ、これが“Shadow”のやり方ってわけか。で、どう?準備完了した?」


屍男「まあな。後は道具の到着を待つだけだ」スッ

屍男「俺は寝る。お前も体を休めておけ」ゴロン



スッ……



屍男「……何のつもりだ」

魔女「狭い密室に二人の男女……と言ったら、やることは一つじゃない?」


屍男「……前に言っただろ。死体と寝る趣味があるなら墓場に行けと、俺にそのような欲はない」


魔女「何も肌を重ねるのは気持ちよくなるだけじゃないわ。孤独を紛らわすためにもするものよ?」

魔女「ゾンビくんは……寂しくないの?私は孤独が怖いわ。私だけじゃなく、人間は孤独を一番恐れるのよ」

魔女「死を恐れるのも、最後に辿り着く場所では一人っきりってのを本能的に悟っているから。群れることでその恐怖を少しでも誤魔化したいのよ」


屍男「…………俺は、そうは思わん」

屍男「人生の終着点は思い人が待っている場所だ。家族や友が必ず再会できる……その後のことは分からんがな」


魔女「……」

魔女「ゾンビくんにしては……ずいぶんメルヘンチックな考え方ね。まるで実際に見てきたみたい」


屍男「信じるかどうかはお前次第だ。それに、俺にとって孤独は恐れるものではない。孤独こそが強さになる」

屍男「その強さの証明が“Shadow”だ。俺も、彼も……孤独でいたからこそ、勝ち続けてきた」


魔女「……じゃあ、今のゾンビくんはどうなの?」

魔女「ドラキュラちゃんと共に過ごした時間は……ゾンビくんを弱くしたのかしら」


屍男「……さあな」

屍男「もういい加減に寝る。お前も自分のベットに戻れ」


魔女「寂しい人ね。頭も心も」


屍男「……余計なお世話だ」

ちょっと短いですが今日はここまで

□□□□ 翌日 □□□□



カチャッ

シュッ

カチッ



屍男「……よし、準備完了だ」


魔女「こっちはいつでもOKよ。じゃあ行きましょうか」

魔女「出来れば日が落ちる前に行きたかったから、間に合ってよかったわ」


屍男「……」


魔女「ん?どうしたの?」


屍男「……トイレに行くのを忘れていた。少し待っていろ」


魔女「あらら……」

スタスタ スタスタ



魔女「ずいぶん長い間トイレに籠ってたけど、もしかして緊張でお腹でも痛くなったのかしら」クスッ

屍男「違う」

魔女「隠さなくてもいいじゃない~私とアナタの仲なんだから~」

屍男「しつこいぞ」



スタスタ スタスタ



老女「……来たかい」



魔女「あ、どうも」

屍男「……」

老女「そこの金網は100メートルほど左の方に進めば破られている箇所がある。みんなそこから入って行くよ」

老女「……止めはしない、生きて帰ってくることを祈っている」



魔女「ありがとうございます。それじゃいってきます」スッ

屍男「……」



老女「……っ!」

老女「ま、待っておくれ!!!!」

老女「もし……孫の手掛かりが何か見つかったら……も、持ってきてくれないか!」



魔女「……」

屍男「……あぁ、必ず報告する」



老女「あ、ありがとうよ…………」

魔女「彼女、まだ諦めていないのかもね。心のどこかで……生きていると信じているのかしら」

屍男「……死体が出ていないからな。恐らく、失踪した者の親族は皆、同じ心境だろう」

魔女「……救ってあげたいわね。その人達のことも」


ガサッ


魔女「あった。ここだわ。確かに、大人が一人通り切れるぐらいの穴が開いてる」

魔女「ずいぶん杜撰な管理ね。こんなの誰でも通れちゃうじゃない」

屍男「……そういえば、まだ聞いていなかったな」

魔女「ん?何が?」

屍男「もし“炎の魔女”と遭遇したらどうするつもりなんだ。お前は何のために、この森に足を踏み入れる?」

魔女「んーそうね。とりあえずゾンビくんに倒してもらおうと思っているわ。理由については……全部終わってから話してあげる」スッ

魔女「ほら、ゾンビくんも早く入って。もしかして今更怖気づいたの?」


屍男「……」


魔女「あ、でもこの穴からゾンビくんも潜れるかしら。私でも結構ギリギリだったから、、大柄なゾンビくんの体格だと――」


ドンッ!!!!!!!!!

ガシッ!!!!!!

ズドンッ!!!!!


屍男「……問題ない」


魔女「わーお……そのまま金網を乗り越えれるなら、関係のない話だったわね」

魔女「さて、これでお互い上陸成功ね」チラッ

魔女「精々死なないように、力を合わせて頑張りましょうか」ニコッ


屍男「……あぁ」

スタスタ スタスタ



魔女「今のところ目立った変化はないわね。ただ木と石と葉っぱしかない、何の変哲もない森だわ」

魔女「ところで、少し気になっていたんだけど……」

魔女「ゾンビくん、どうしてそんなに食糧を買い込んでるの?軽く一週間分はあるでしょ、それ」


屍男「……念のためだ。エネルギーを摂取出来なくなるという状況が一番不味いからな」


魔女「それにしても多すぎる気はするけど……まあいいわ。持つは全部ゾンビくんだし」


屍男(この怪物の肉体で一番重要なのはいかに効率的にエネルギーを摂取出来るかどうかだ。再生能力は便利だが、それで動けなくなってしまってはどうしようもない)

屍男(常に栄養食は持ち歩いた方がいい。いつ戦闘が起きてもいいようにな)

…………………………………
……………………



魔女「ちょっと疲れてきたわね。ここら辺で休憩しましょうか」ストン

魔女「森に入ってから三時間ちょっとってところかしら、まだ何も起きないわね」ゴクゴク

屍男「……あと数時間で日が沈むな」

魔女「予定通り、このまま何も出ないようなら野営して待ち構えましょうか」

屍男「……そうだな」



ガチャッ

ギュッ



魔女「よし、これでテントは設置完了ね」

魔女「ゾンビくん、そっちはどう?」

屍男「問題ない。魔祓いの仕掛けは機能している」

屍男「これで、人為らざる者が近付けば鈴がなる。下級霊程度ならそもそも触れることさえ出来ないがな」

魔女「さて、辺りも暗くなってきたけど“炎の魔女”は現れるのかしら」

屍男「……さあな。だが、こちらが踏み入ったことは向こうも承知のはずだ。仕掛けてくるなら……夜だろうな」











『23:00』



魔女「……来ないわね」

屍男「……あぁ」

魔女「ふわぁ……私、そろそろ眠くなってきたら一休みさせてもらうわね。交代で見張りをしましょ」


屍男「分かった」




屍男(……動きはなし、か。本当に人が消える森なのか、疑わしいくらい静かな森だな)

屍男(……待てよ、静か……)

屍男(……鳥の一匹くらい鳴いていてもおかしくないはずだ。この森に入ってから草木が揺れる音以外、動物の鳴き声などは何も聞こえていない)

屍男(……逆に不気味だな)

『7:00』



魔女「……」

屍男「……」


魔女「……夜、明けちゃったわね」

屍男「……そうだな」


魔女「はぁ、一晩過ごしたけど結局何も出なかったわね。朝食にしましょうか」スッ

魔女「ちょっと拍子抜けしちゃったわね。このまま森を出たら私達普通に生還しちゃうんじゃないの」

屍男「……そこがトリガーになるのかもしれないな」

魔女「ん?どういうこと?」

屍男「脱出しようとすることで何かの力が働く可能性がある。それをしない限りはここはただの森なのかもな」


魔女「……なるほど。条件付きってことね。確かに、なくはない話だわ」

魔女「今日はそれを試してみましょうか。森の入り口まで一度引き返しましょ」


屍男「そうするか」

屍男(……そうだ。一応、確認しておくか)スッ


魔女「あら?ゾンビくんどこに行くの?トイレ?」


屍男「違う、外に仕掛けた結界がどうなってるか確認してくる」


魔女「あ、じゃあ私も一緒に着いて行くわ。ちょっと気になるし」





『』ズズズ




魔女「えっ……な、なにこれ」


屍男「……」


屍男(糸が黒く染まっている。どうなっている、触れれば鈴が鳴るはずだ)

屍男(……侵入された形跡はないな。引き返したのか、それとも……)


魔女「……訂正するわ。この森はやっぱり異常ね。絶対何かいるわ」


屍男「……あぁ、間違いない」

今日はここまで

スタスタ スタスタ



屍男「……」


魔女「……」


屍男「……おい、もう何時間になる」


魔女「……」チラッ

魔女「8時間ね」


屍男「……少し、休憩するか」



ストンッ



魔女「おかしいわね……そろそろ森の出口が見えてもおかしくないはず。それなのに一向に辿り着かないわ」ゴクゴク

魔女「ねぇ、ゾンビくん。これって――」

屍男「……あぁ、ほぼ間違いないな」

屍男「この森は異界と化している。脱出不可能の異空間になった可能性が高い」

魔女「……」チラッ

魔女「朝は通じてた携帯が圏外になってるわね。一体いつから……」


屍男「可能性の一つとしては想定していたがな。失踪者の遺留品が見つからなかったのは恐らくこのせいだろう」

屍男「元の世界とは隔離された空間だ。森が丸ごと別の場所に転移してしまえば、証拠なんて一つも残らないだろうな」


魔女「で、これからどうするの?このままだと私達餓死しちゃうんじゃないの」


屍男「あぁ、その通りだ。俺達には二つの選択肢が残されている」

屍男「まず一つはここから脱出する方法だ」


魔女「出来るの?そんなこと」

屍男「簡単に、とは言えないが不可能ではない。異空間と言っても、完全に外界と隔ているわけじゃないからな。大抵は規則性が存在する」


魔女「規則性?」


屍男「空間全てを掌握するというのはどのような力を持っていても有り得ない。どこかに必ず、元の世界に繋がる穴、綻びが存在する」

屍男「その穴を無理矢理こじ開ければ、ここから脱出可能なはずだ。幸い、道具は十分揃っているしな」チラッ


魔女「……もう一つは?」


屍男「“炎の魔女”は実体が存在する。なら、そいつを殺せばその力は失われ、空間も戻るはずだ」

屍男「どちらの方法にするかは依頼主のお前が選べ。それに従ってやる」


魔女「…………」

魔女「いいわ。じゃあ炎の魔女を倒す方にしましょ。ゾンビくんの力を信じるわ」


屍男「……ずいぶん、炎の魔女に執着するんだな」

屍男「いつものお前なら、リスクがある方を選択しないと思ったが」


魔女「だって、どちらにしても炎の魔女と鉢合わせるリスクはあるわけでしょ。みすみす逃げるのを見逃してくれると思わないし」

魔女「なら、最初から倒した方が手っ取り早いじゃない」


屍男「……分かった。では炎の魔女を殺す方でいいんだな。行くぞ」クルッ


魔女「どこに行くの?」


屍男「水源を目指す。さっき通ったところに小川があったはずだ。まずはそこに戻る」

スタスタ スタスタ


屍男「あったな。ここだ」


魔女「ふぅ……ちょっと迷ったけど、見つかってよかったわね」

魔女「で、これからどうするの」


屍男「飲料水が少し足りなくなってたからな。ここで補給する」スッ

屍男「そして、この川の上流を目指す」


魔女「上流?」


屍男「あぁ、炎の魔女はあの老婆の話では名の通り、炎を纏っている」

屍男「ならば、水場で戦う方が有利だ。そこで待ち伏せる」


魔女「……それって、炎の魔女が現れる前提で話してるけど、もし姿を見せなかったらどうするの」


屍男「その時はその時で引っ張り出す方法はある。行くぞ」

ザザーーーーーーーー……




屍男「よし、テントも設置完了だ。今日はここで休むとするか」


魔女「もう日が暮れちゃってるわね。久しぶりにこんなに歩いたわ……ちょっと疲れちゃった」ストン

魔女「それにしても、この川の水はどこから流れてきているのかしら。異空間のはずなのに」


屍男「水源ごとコピーしているか、丸ごと持ってきているかだろう。それより、お前は睡眠を取っておいた方がいい。朝からずっと歩いているからな。疲労が溜まっているはずだ」


魔女「いいの?ゾンビくんは休まなくて」

屍男「俺は怪物だぞ。人間より頑丈に出来ている。96時間までは不眠でも活動出来る」

魔女「わーお……じゃあお言葉に甘えてちょっと横になるわ。また交代で見張りましょ」ゴロン

屍男「……」カキカキ



屍男(森が異空間になっているところまでは……想定通りだ。後は炎の魔女がどれほどの力を持っているかだな)

屍男(何せ、この数十キロはある森を再現しているんだからな。力のある足付きの幽霊でも、建物一つ出来ればいい方だ)


屍男(だが、死者であるならいくら力を持っていても、弱点は同じだ。何も変わらない、いつも通り対処可能な相手だ)

屍男(それが例え突然変異だとしても……変わらない。人型の実体が存在するなら、始末する方法はいくらでもある)


屍男(……なのに、なぜだ。この妙な胸騒ぎは……)

……………………………………
……………………………




魔女「……んっ」パチッ

魔女「ふわぁ……あーよく寝たわ」スッ


屍男「……起きたか」


魔女「あぁ、ゾンビくん、今何時?結構寝ちゃってたと思うんだけど」


屍男「……8時だ」


魔女「ってことは2時間ぐらい寝てた?おかしいわね、結構熟睡してたと思ったけど」チラッ


屍男「……いや、違う。お前は半日以上寝ていた。今は朝の8時だ」


魔女「えっ?」

魔女「う、嘘ぉ……!?だってまだ外は暗いじゃない!」チラッ

屍男「携帯で時間を確認してみろ。間違いないはずだ」

屍男「今、この時空間は炎の魔女が操っているということだろう。アイツが……時を止め、太陽を昇らせないようにしたんだろうな」


魔女「……た、確かに。携帯の時計だと間違ってないわね」


屍男「気を付けた方がいい。明らかに前日とは違う変化だ」

屍男「炎の魔女が姿を現す前兆に近い現象かもしれない」


魔女「……!」ゴクリ

……………………………………………
……………………………


魔女「……ゾンビくん、今何時?」


屍男「……」チラッ

屍男「ちょうど昼だな」


魔女「はぁ……ずっと真っ暗だと、時間感覚が狂うわね。外にも危なくて出られないし」


屍男「今は待ち伏せるのが最善手だ。いずれ姿を現す」


魔女「だといいんだけどね。でも、ゾンビくんがいっぱい食糧持ってきてくれて助かったわ。最悪しばらくはこれで持つし」モグモグ


屍男(……そんなムシャクシャ食わずに、少しは節約してほしいんだがな)

ガサッ







屍男「!!」


魔女「!!」


魔女「なに今の物音……外から聞こえたわよね?」


屍男「……あぁ、間違いない」

屍男「様子を見てくる。お前はここで待っていろ」スッ






ガサガサッ





屍男(草木が揺れる音、間違いない。何者かがいる)

屍男(さぁ、姿を見せろ)ピカッ





スッ





ガサガサッ



ガサガサッ







ズズッ



影『』ズズズ……

屍男(……なんだこいつは。人型の影?炎の魔女ではない?)






影『』ズズッ!!!






屍男「!?」



屍男(飛びかかってきたか。どうする、物理攻撃は通用しないだろうな)

屍男(なら……聖水でダメージが与えられるか試してみるか)ブンッ



ビチャッ




影『』ビクッ

影『』シュンッ






屍男(……消滅したか)







ガサガサッ ガサガサッ







影『』

影『』

影『』







屍男「……っ」

屍男(こいつら……どこに潜んでいた。軽く数十体はいるぞ)

屍男(ここであまり消耗したくないんだが……仕方ない。片づけるか)

影『』

影『』

影『』







屍男(……襲ってこない?どうなっている、左右に分かれ列を作っているように見えるが)





ボゥッ





屍男(……なんだ。森の奥に……光が見える。あれは……)








スタスタ スタスタ







屍男(……!!あれは光じゃない、炎だ)






スタスタ スタスタ







炎の魔女「…………」







屍男(こいつが“炎の魔女”か)

今日はここまで

屍男(容姿に関してはあの肖像画通りだな。炎を纏った女の姿をしている)

屍男(妙だな。なんだ、この感覚は……今まで霊とは何体も対峙したことは会ったが、そいつらとはまた違うようなモノを感じる。違和感、とでも言うんだろうか)

屍男(しかし、一番気になるのは……)







炎の魔女「…………」






屍男(……“Shadow”の頃の俺ならば、相手を見るだけでどれほどの時間で仕留められるかが視えた。あの夜も、あいつと戦った時も……それは変わらなかった)

屍男(だが、今は違う。秒数が見えない、こんなことは初めてだ)

屍男(勘が鈍ったのが、それとも……考えても仕方ないな)

屍男(今はやるべきことをやる。それだけだ)

炎の魔女「…………」スッ






屍男(――来るか)






ジュッ……







屍男「!?」サッ







ボォォォォォ!!!!!!!!!




屍男(な、なんだ。今のは……急に、俺がいた場所に炎が噴き出したぞ。後ろに下がらなければ、丸焼けになっていた)

屍男(……どうやら、その名に偽りはないらしいな。どんな原理かは知らんが、自由に炎を操れるのか。そして――)チラッ





影『』

影『』

影『』





屍男(あの影も、奴の能力の一部だと考えられる。今は手出ししてこないが、警戒は怠らない方がいいな)

屍男(大方の分析は終わった。今度はこちらから仕掛けるぞ)スッ

キュポン


屍男「ッ!!!!」ブンッ





パリンッ




悪霊『アアアアッ…………』スゥ





屍男(使い捨ての悪霊【インスタント・ゴースト】だ。瓶に悪霊を閉じ込めていて、これを割ることでその悪霊を解き放つ)

屍男(こいつらの特徴は普通の霊とは違い、自我がないことだ。恨み妬み殺意……様々な負の感情しか持たない下級霊で、目の前にいる相手なら生者死者問わずに襲い掛かる)

悪霊『アアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』バッ






炎の魔女「…………」






屍男(さぁ、どうする。同じ死者の攻撃なら突然変異相手にも有効だ)






炎の魔女「…………」スッ






ボゥ


悪霊『アアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』ゴォォ






屍男(あの炎、霊体にも効果があるのか。だが、火力が足りないな。その程度では全て焼き払うことは不可能だ)

シュルルルッ


悪霊『アアアアアアアアアアアッ!!!!!』

炎の魔女『…………』ググッ







屍男(捕らえたぞ)チャキッ






パララララララッ!!!!!!!!



屍男(9mm短機関銃、無論全ての弾は死者を祓えるようにコーティングしてある。狩人の火力としては最高峰だ)



パララララララッ!!!!!!!!






炎の魔女「…………」ズドン

パララララララッ!!!!!!!!



屍男(効いているな。ダメージの通りは悪くないと見た。後はどれだけで倒せるか)






炎の魔女「…………」スッ




ジュッ……






屍男「ッ!?」サッ






ゴォォォォ!!!!!!





屍男(この炎を操る能力、一瞬だが発生する前に空気が乾燥するような音が鳴る。その動作を読めればそこまで対処は難しくない)

屍男(それに、射程も掴めた。動きながら距離さえ取っていれば脅威ではない)

パララララララッ!!!!!!!!



炎の魔女「…………」ブンッ

悪霊『アアアアアッ……』シュンッ






屍男(もう悪霊共が焼き払われたか。追加をくれてやる)キュポン




パリンッ


悪霊『アアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』





炎の魔女「…………」ブンッ





ゴオオオオオオオオ!!!!!!




屍男(ここだ)ダッ




チャキッ

グサッ


炎の魔女「…………」フラッ



ゴオオオオオオオオ!!!!!!!!!



屍男「ッ!!!」サッ

屍男(ナイフでの一撃には成功したな。だが――)チラッ

屍男(……耐熱処理を施しているのにも関わらず、刃先が溶けている。もう使い物にならないな)ポイッ

屍男(どうやら体内はかなりの高温のようだ。捕まればそこで終わりだな)






炎の魔女「…………」

炎の魔女「…………」メラッ






屍男(……っ。何か仕掛けてくるか)グッ

炎の魔女「…………」スッ



メラメラ……


メラメラ……



ジュッ






屍男(!!!!!!)

屍男(まさか!こいつ――)ダッ











ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!


ズドオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!






魔女「」ビクッ





魔女「なに……今の音……」





魔女「……ゾンビくん」スッ




ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!




屍男(くっ……辺り一面を炎で吹き飛ばすとは……)フラッ

屍男(何とか直撃は回避出来たが、地形が変わるほどの威力だったぞ。あれでは自分も食らっていてもおかしくない)チラッ






炎の魔女「…………」






屍男(ふっ……そう都合よく死んではくれないか)

屍男(またあの爆発を起こされたら厄介だ。早急に始末しなくては)

ドクンッ


屍男(……あの力を使うか)グッ


シュルルルルルッ……


屍男(これは俺の怪物としての固有の能力、筋肉を燃焼させ、その分を速さに特化するように骨格を作り替える……)

屍男(意識を保ったまま実戦で使うのは初めてだが……そんなことを言ってる場合ではない)

屍男(50%、ここまで減らせば……奴の攻撃は全て対処可能だ。持続時間は10分と言ったところだろうな。それ以上使えば動けなくなり、飢え死ぬ)

屍男(それだけあれば充分だ)



ザッ



屍男「……行くぞ」シュンッ

炎の魔女「…………」スッ




ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!




屍男(炎は全て発生前に回避出来る。今更その程度の攻撃には当たらん)

屍男(しかし……身体が軽いな。まるでペラペラの紙にでもなったようだ。気分がいい)




シュンッ

シュンッ

シュンッ





炎の魔女「…………」キョロキョロ





屍男(俺の動きに全く対処出来ないようだな。いい的だ)

パララララララッ!!!!!!!!





炎の魔女「…………」グラッ





屍男(さて、このまま蜂の巣になれば楽だが、そう簡単に行くとも思えん)

屍男(恐らく次の手は……)






炎の魔女「…………」スッ





ゴオオオオオオオオオオオオオ……




屍男(やはり、自身の周辺に炎を張ったか。それで銃弾を防ごうというわけだな)

屍男(確かに、奴の体内温度は鉄も溶けるほどだ。防御に徹すれば、銃弾を空中で溶かすのもわけないはず)

屍男(……予想通り。こちらもその程度で倒せるとは思っていない。奥の手を使わせてもらう)スッ


ピンッ


屍男(貴様の炎の力、逆に利用させてもらうぞ)ブンッ

ゴオオオオオオオオオオオオオ



炎の魔女「…………」



パリンッ

ボォォォォォ!!!!!!!!!




炎の魔女「…………」ブワッ






屍男(奴の炎に聖水とガソリンをぶつける。聖水の力で炎を清め、ガソリンでその炎の威力を高める)

屍男(聖水の効果で奴の炎はそのコントロールを失い、ただの炎に戻る。そこにガソリンを加えれば、炎の威力は増し、奴自身を燃やし尽くす業火になる)

屍男(そうなれば炎から逃れるために、隙が出来るはずだ。そこを……突く)

ボォォォォォ!!!!!!!!!





炎の魔女「…………」サッ






屍男「ッッッ!!!!!!」ダッ


ブンッ


炎の魔女「…………」クルッ



ボコォ!!!!!!



屍男(……ッ!やはり、本体はかなりの高温だな。拳が灼ける)

屍男(だが、俺の打撃は通用する。遠くからチマチマ撃つより、直接頭を潰す方が速い)

炎の魔女「…………」スッ


屍男「ッッッッ!!!!」ブンッ



ドゴォ!!!!!!!



炎の魔女「…………」フラッ



屍男(近接格闘は専門外らしいな。俺の動きについて行けていない。押し切れる)




ズドドドドドドドド!!!!!!!!




炎の魔女「…………」ボコボコ

屍男「ッッッッッ!!!!!!」ブンッ


屍男(……身体能力は低いわりに、かなりタフだ。あれだけの銃弾を浴びていて、この殴打にも耐えるか)

屍男(少しリスキーだが、このままではこちらの肉体が持たない。勝負を決めるか)グッ



ドゴォ!!!!!!



炎の魔女「…………」フラッ





屍男(今だ!)グイッ





ガシッ


グググッ



炎の魔女「…………」ジタバタ

屍男「!!!!!!」グッ

ジュウウゥ……


屍男(ッ!!関節技に持ち込めたが、これは想像以上の熱だな……こちらの筋肉が落ちているのもあるが、まともに触れていれば肉が溶ける)

屍男(だが、恐らくこれが最善手だ。物理攻撃が通用するということはこいつに霊体化する力はない。性質的には俺と同じ、怪物に近い……ならば、急所も同じだ)

屍男(持ってあと5秒だな。5秒以内に、こいつの首を引き千切る)



グググッ……



炎の魔女「…………」バタバタ


屍男「ッッ!!」グイッ

屍男(あと3秒……!!!!)


炎の魔女「…………」バタバタ



ジュウウウウ……



屍男(2秒……!!!!)





ミシッ

ミシミシッ




炎の魔女「…………」バタバタ





屍男(これで……終わりだ)グイッ





ブチッ

ボトッ



屍男「……っ」パッ





炎の魔女「」バタッ






屍男「……ふぅ」



屍男(終わったな。実体の首と胴体を切断すれば、生命活動は止まるはずだ)

屍男(体中が大火傷だ。何とか動けるが……再生が追い付いていない。早くエネルギーを摂取しなければ)ジュウ












フラッ













炎の魔女「」バッ








屍男「!?」クルッ

ガシッ


ジュウウウウウウウ!!!!!!




屍男(なっ……!?)




炎の魔女「」ググッ




屍男(こ、こいつ……!なぜ動ける!?)

屍男(完全に首は切断している……この状態で動けるわけが……!)




炎の魔女「」ギュッ




ジュウウウウウウウ!!!!!!!!

屍男「ガァッ!?グウッ!!!!」バタバタ



屍男(脳が焼ける……!拘束を解かなくては!このままだと……)

屍男(くッ……!!この体勢は不味いッ……頭を掴まれてッ……力がッ!!!!)




炎の魔女「」ギュー




屍男「ガアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」ジュー



ボウッ




ゴオオオオオオオオオオオオオ







ガサッ






魔女「……!」チラッ





屍男「!!!!!」



屍男(そ……うだ。あいつの存在を……忘れていた……戻ってきたのか!)

屍男(ま……だ……勝機は…………!)

魔女「…………」

魔女「」ダッ





屍男「!?」




屍男(なっ……逃げたッ!?)



屍男(あ、あいつ……何を考えて……!?)






炎の魔女「」ギュッ






ボオオオオオオオオオオ!!!!!!!

屍男「グァッッ!?」ピクッ



屍男(熱――意識が――このままでは――マズ――)
















ボンッ!!!!!!!!!!!!












………………………………………………
…………………………






ダダダダダダッ



魔女「はぁっ……はぁっ……」



魔女「ふぅっー……ふぅっー」フーフー



魔女「こ、ここまで来れば……追ってこないかしら」クルッ




魔女「…………」




魔女「…………」










魔女「ごめんね、ゾンビくん」

今日はここまで
これで大体前半部分は終わりだと思います
長さ自体はいつもよりちょっと短いです

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