屍男「おい、そこのロクでなし」吸血娘「なんだ髪なし」 (424)

前スレ

吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」
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…………………………………………………
………………………………




『イテえええええええええええええええええええ!!!!!!!!』




『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!殺すうううううううううう!!!!!!ぶっ殺すううううううううう!!!!!』




『死ねエエエエエエエエエエエええええ!!!!!!!!』







屍男「……」パチッ

屍男「……またこの夢か」スクッ

屍男(……もうこの国に来て半年は経つか。ちょうど記憶を失ってから一年が経とうとしている)

屍男(最近、よく夢見るようになった。何者かが叫び、雄叫び、絶叫する夢。このどれらも俺に込めた恨み節のように聞こえる)

屍男(……恐らく、失った記憶の一部だと推測する。断片的だが、あの狩人に襲われた夜に見たものと類似している)

屍男(記憶が戻ろうとしている兆候なのかは分からんが……いい加減、目覚めの悪い朝にうんざりしてきた)スッ



スタスタ スタスタ



吸血娘「」ポチポチ



屍男「……また朝までゲームをしていたのか」

屍男「……はぁ、ヘッドホンで聞こえていないか」ヒョイッ


吸血娘「!?」ビクッ

吸血娘「あっ!ハゲおいてめぇ!!!!返せよ!!何無断で取ってんだ!!!」

屍男「いつまでそんな自堕落な生活を続けているんだ。以前も酷かったが、この国に来てから悪化しているぞ」

屍男「そんな腐った生活をしていたら魂まで腐るぞ。少しは外に出てこい」


吸血娘「あぁん!?ヴァンパイアは日を浴びると灰になって消えちまうんだよ!常識だろうが!!」


屍男「お前の場合はただ夜型のだけだろうが。夜でもいいから外の空気を吸って来い」

吸血娘「むー、だってこの国息苦しいんだもん。どこもかしくもギュウギュウ詰めで狭苦しいし、空気も不味い」

吸血娘「それに、街に出たらどいつもこいつも私のこと見てくるし、目立つったらありゃしない」

吸血娘「飯が不味かったらほんと地獄だったよ。飯だけはマシだから許してやるけど」


屍男「……お前のその金髪は目立つからな。色を染めてみたらどうだ」


吸血娘「はぁっ!?染めるわけねえだろうが!!!!お前ハゲのくせに髪染めるとハゲるってことも知らねえのかよ!?」

吸血娘「私は絶対に染めんからな!!!!!!」



屍男(……以前、ハゲは遺伝すると言ったことをまだ気にしているのか。それだけ衝撃的だったらしいな)

吸血娘「あーもう、ハゲが来たせいで冷めた。もう寝る」スクッ

吸血娘「お前もさっさとバイトに行けよ。私の為に働いて来い」スタスタ

屍男「……別に、俺はお前の為に働いてるわけではないが」












屍男「……これは、ここか」スッ

屍男(この本屋での仕事も慣れてきた。接客は慣れんが、似たようなことならあの女のところでもやっていたからな。楽でいい)

屍男(それに給料もそこそこいい。まあ金自体にはあの“仕事”の取分が残っているおかげで苦労はしてないが)

後輩女「あ、センパイ。こっちの品出ししてもらえますか?」

屍男「……あぁ、分かった」グッ

後輩女「うわっ、やっぱり凄いですね。それ結構重いのに、片手で持てちゃうんだ」

屍男「……変か?」

後輩女「変ってわけじゃないですけど……他の人も凄いって言ってましたよ。私一人だと運ぶことも無理なのに」

屍男「……そうか」スッ



屍男「…………」セッセ



後輩女「前から思ってたんですけど、センパイって日本語上手ですよね。最初見た時にびっくりしちゃいました。どこで勉強したんですか?」

屍男「……あぁ、幼い頃に親の仕事でこの国に移住してな」

後輩女「へー」




屍男(……全部が全部、嘘というわけではないだろう。なぜかは分からんが俺は最初からこの国の言葉を理解し、話すことが出来た)



屍男(つまり、俺は過去にこの国に関連した何かをしていたに違いない……調べてみたところ、最低でもあと三ヶ国語は理解出来ているようだが)



屍男(一体、過去の俺は何をしていたんだ?)



………………………………………………………
………………………………………



後輩女「じゃあお疲れ様ですー」



屍男「……あぁ、お疲れ」

屍男「……さて」スッ



屍男(ここで働き始めた理由はただ単に楽というだけではない。本命は……)


屍男「……」ペラッペラッ


屍男(……ここでなら、記憶に関連する専門書を読み漁ることが出来る。働いて調べ物も出来るなら一石二鳥だ)


屍男「……フラッシュバック症候群か」


屍男(過去に関連する事象が起きた時、突然、鮮明にその映像が頭の中で流れる現象。これは夢にも現れる)

屍男(……最近の夢の原因はこれか。そして、あの夜に一瞬見えたアレも)

屍男(しかし、どうすれば記憶がすべて元に戻る?この症状は心的外傷で引き起こされるパターンが多い。俺の心の傷……死の瞬間に掴みかけた記憶……)

屍男(……分からんな。やはり、もう一度死にかけるしかないのか)


屍男「……もうこんな時間か。俺も帰るか」スッ







ガチャ



屍男「……帰ったぞ」

吸血娘「遅いんじゃボケェ!!!!」ブンッ




ブンブンブン

ガシッ




屍男「……だから、包丁を投げるのはやめろと言っているだろう。ここはアパートなんだ。あまり大きな声を出すな。隣に聞こえるぞ」


吸血娘「チッ、受け止めやがったか」

吸血娘「で、私の飯は?」


屍男「あぁ、買って来てやったぞ」


パカッ


吸血娘「んー♪ほんと、この国は飯だけは美味いな!飯だけは!」モグモグ

屍男「……お前は本当にコンビニ弁当が好きだな。相変わらず身体に悪いモノばかり食っているぞ」

吸血娘「何か問題でも?」モグモグ


屍男「……栄養があるものを食わないと、いつまでも成長しないぞ」


吸血娘「ヴァンパイアが摂る栄養なんて血液だけでいいんだよ。そっちを飲めない方が深刻だっての」

吸血娘「マジでこの国に来て直接啜ってないからな……輸血パックからしか飲んでないし。そろそろ禁断症状が起きそうなんだけど」


屍男「……そんなものがあるのか?」


吸血娘「いや知らん。そもそもこんなに飲んでないの初めてだし」

吸血娘「お前は平気なの?死体食べなくて」

屍男「……俺の場合は生命活動維持の為に喰ってるわけじゃないからな。ただの作業の工程の一つでしかない」

屍男「食わないで済むなら何も問題はない。普段の食事でも栄養は摂れるからな」


吸血娘「ちぇっ、一人だけズルい」モグモグ

吸血娘「そういやハゲ、お前記憶戻ったの?」モグモグ


屍男「……急になんだ。戻っているわけないだろう」


吸血娘「いや、何かそんな設定だったなって唐突に思い出して」

吸血娘「ちゃんと記憶が戻ったら、隠さず私に報告しろよ」

屍男「……なぜ隠す必要がある」

吸血娘「いや、何かお前黙ってそうな雰囲気あるし。あと、生前のことも全部教えろよ」

屍男「……なぜお前に、そのことまで教える必要がある?」

吸血娘「うるせぇ、ここまで焦らされて何も教えないってのはなしだろ」

吸血娘「それに私はお前の命の恩人だぞ。あの港での出来事を忘れたのか」



屍男「……」

屍男「……覚えてないな」プイッ



吸血娘「おいっ!」

……………………………………………
……………………………



吸血娘「なー、バイトどんな感じよ」


屍男「……別に、普通だが」


吸血娘「普通なわけないじゃんー?死体が人間に紛れて一緒にいるんだから、気付かれたりしないの?」


屍男「……今のところは問題ないな。なるべく自然にやってるつもりだ」


吸血娘「てかそもそもなんでお前働いてんの?記憶に関して知りたいなら、図書館にでも毎日通えばいいじゃん。わざわざ働く必要なくねぇ?」

吸血娘「金なら暗殺で稼いだのがいっぱいあるし、私の父親が遺した遺産もあるじゃん。ぶっちゃけ二人ぐらいなら遊んで暮らしても使いきれないくらいだぞ」

屍男「……考えてみろ。親子には見えない歳の離れた外国人の二人組。これだけでも明らかに怪しいが、そいつらが働きに行くわけでも、学校に通っている様子もない。傍から見たら不審者以外の何者でもない」

屍男「この近くで事件でも起きてみろ。すぐさま容疑者候補だ。経歴は誤魔化せても俺達の身分証などはあの女から手に入れた偽造だからな。経歴を調べられたらそこでアウト」

屍男「そうなったら立派な不法入国者の完成だ。一瞬で檻の中に入れられるだろうな」


吸血娘「並みの人間ならともかく、私達なら簡単に脱獄出来るだろ?」


屍男「……そういう問題じゃない。あまり騒ぎは起こさない方がいいということだ。俺達は追われた身なんだからな。正体がバレるなんてのは以ての外、論外だ」

屍男「だから少しでも怪しまれないように振る舞うしかない。慎ましく、な」


吸血娘「うわっ、めんどくさ。別にいいじゃん。考え過ぎだろ。そこまでのことは起きないって」


屍男「……そうか?」チラッ

『××市で起きている連続殺人について――凶器は日本刀のようなもので被害者は全員男性であり――警察は犯人を同一犯と見て――』




屍男「……近所でこんな事件が起きているんだぞ」

吸血娘「あーあったな。こんなの」

屍男「事件が起きたのはここからそう遠くない、一駅挟んだ場所だ。俺達が怪しまれてもおかしくない」


吸血娘「しっかし、今のご時世に辻斬りとはねぇ……まだこの国にサムライっていたんだ」

吸血娘「でもこれ、私個人的には犯人は人間じゃない気がするんだよね」


屍男「……そうなのか?」

吸血娘「うん、だってここまでやってまだ犯人が見つからないってのは人間だともうあり得ないんじゃね。まあ中には本当に影も形もないやつもいるけど」

吸血娘「何となく、手口から見て分かるんだよね。あ、同業者っぽいなって」


屍男「……となると、犯人は俺達のような怪物か人外の者か」


吸血娘「んー、人外ではないと思う。だって凶器は日本刀なんでしょ?私みたいな力を持ってるやつならわざわざ武器なんて使わないよ。証拠も残るし」

吸血娘「最近死んで蘇った怪物辺りが妥当な線なんじゃね。知らんけど」


屍男「……」


吸血娘「そういやお前、前に悪人をぶっ殺したいだのなんだの言ってたっけ」

吸血娘「どうすんの?探そうと思えば探せると思うぞ。まだそこまで遠くないところで潜伏してるだろうし」

屍男「……いや、わざわざ犯人探しをする気はない。今のところはな」

吸血娘「お前の性格ならそう言うと思ったわ。わざわざこっちから首を突っ込む義理もないしな」

屍男「……そうだな」

吸血娘「でもあれだな。もし本当に怪物の仕業だったら、また狩人共が来るかもな。この近くに」

吸血娘「こんな大々的に殺しておいて、あいつらが黙ってるとは思えないし」

屍男「……また狙われる可能性があるということか」

吸血娘「まあここは極東の島国だしね。そんな強いやつらは来ないっしょ」


屍男「……」

……………………………………………………………
………………………………………



グチャッ……グチャッ……

グチャッ……グチャッ……



「あぁ……やっぱりいいわァ。若い男の肉って」

「メスと比べてハリがあって、筋がいい……ほんとに美味しいわ」

「やっぱり男が一番ね。さて、食事が済んだところだし……下半身はまだ余ってるわね」チラッ


「……フフッ、こっちでも楽しませてもらいましょうか」ニヤッ

今日はここまで
ってことで一年以上経ってしまいましたが続きです
気付いたらめっちゃ時間が過ぎてました…ごめんなさい
話を忘れている人が大半だと思うのでまた自分用に作っておいたキャラ設定的なの置いときます

『屍男』


ある日、目が覚めると記憶を失くしていた怪物の男。生前の記憶は全て失っており、その素性は不明。ただ時折、記憶が刺激されると頭痛が起こる。
常人離れした怪力を持っているが、良くも悪くも典型的な怪物なので対処法に精通している者ならばそこまで驚異ではない。最大の武器はその再生力、銃弾程度では物ともせず、まともにダメージを与えるには対怪物用の狩人が使用する武器が必要となる。顔に傷がある狩人との戦闘では胴体が六割、頭部を三割も失ったにも関わらず戦闘を続行した。
その際に、身長が1メートル近くも伸び、身体の肉を限界まで削ぎ落とした姿を見せるが、本人はこの出来事をほとんど覚えていない。
どこか心に闇を背負っており、悪人であれば殺しても問題ないと考えている。しかし、逆に善人であれば自分と敵対する人物であっても殺さない。
好物ではないが、よく牛乳を飲んでいる。ちなみに作る料理は味が濃いということで不評。

ハゲ。

『吸血娘』


金髪で可憐な少女のような姿をしているが、実年齢は20のヴァンパイア。夜の闇に潜み、人を襲う伝説の吸血鬼であり、血が何よりの好物。トマトは本人如く老人の血のような酸味があるので嫌い。
性格は非常にワガママなお嬢様基質。
日が当たるのを嫌っているが、別に太陽が弱点というわけではなく、ただの夜型。紫外線に当たると肌が荒れるのでそれも気にしている。
自身を霧化させることができ、どのような隙間からでも侵入し、内部から箇所を破裂させることが出来る。この形態では物理攻撃は無効であり、並大抵の相手では攻略不可能。
吸血鬼は弱点の逸話が多いことで有名だが、あれらは全てデマらしい。しかし、遺伝的に明確な弱点が一つだけある。
その他にもカメラなどの被写体の対象にならない特性や、軽度の幻覚、記憶操作などの力を持つ。眷属として一族に代々伝わる蚊を飼っている。この蚊には自身の血を餌にして与えている。吸血鬼の血は他の生物にとっては非常に有害な毒であり、ごく僅かに摂取するだけでも意識を失う。
暗殺に関しては右に出る者がいないと呼ばれるほどの強者だが、本体は非常に軟弱であり、身体能力自体はかなり低い。
母は病弱だったらしく、彼女を産み、すぐに亡くなる。父とはあまり仲が良くなかったが"Shadow"に殺されて以来はその復讐を誓う。
暗殺業で生計を立てており、仕事以外では基本的に人を殺さない。ただし血に対する欲求にはどうしても抗えないので、時々病院から輸血パックを拝借している。
血以外の好物はフライドチキン、ハンバーガーなどのジャンクフード。

『魔女』


町外れにある古本屋を経営している妙に露出度が高い服装を着た女。
その出自、年齢共に全てが不明であり、人を誑かすような言動から魔女と言われている。
悪人を暗殺する商売もしているが、あくまでも金を稼ぐための手段の一つであり、他にもあくどい取引をいくつもしている。その目的も何かは不明。
種族は人間ではあるが、裏の世界にいくつものパイプを持っている。吸血娘は狩人のような自らを狩る存在でもなく、ただ己が利用する為だけに"こっち側"と繋がっていると推測しており、警戒されている。
戦闘能力に関しても不明、屍男のような怪物でもなければ、吸血娘のような人外でもないただの人間なのだが、二人からは敵に回したくないと本能的に避けられている。
本人自体はそこまで非情な性格ではなく、屍男に宿を貸したり、救出に手を貸すなど色々手助けはしている。しかし屍男はどこか打算的な考えがあるのではないかと疑っている。

『狩人』


幽霊、怪物、人外など、人に危害を加える異形の者を狩る人間の総称。太古より異形に対抗する為に独自の道具、技術を発達させ、時代の裏で戦いを続けてきた。
基本的には二人一組で行動しており、単独で行動する者は珍しい。
彼らが使う道具は祓いの力を持っている。対幽霊、怪物などには極一部の例外を除いて圧倒的に有利であり、このせいで死者は日陰に身を潜むことになっている。
その他にも対人外用に爆弾、銃火器、毒など致死性が極めて高い兵器も容赦なく使用する。

『Shadow』


全てが謎に包まれている禁忌の狩人。
半世紀ほど前から活動しており、ある日、突然消えた怪物などがいる場合はこのShadowに消されたと考えるのが最有力になるほどの実績を持つ。
その姿を目撃した者はおらず、どのような手段で異形の者を狩っているのかも不明、死体はほぼ全て跡形もなく消えている為、本当に存在しているかどうかも疑わているほど。
ただし極稀なケースとして、数体ではあるがShadowに狩られたと思われる死体が現場に残されていたことがあった。
これらの者は全て背後からの一撃で葬られており、これが忍び寄る死の影『Shadow』の名付け元になった。

…………………………………………………………
…………………………………………



屍男「」パチッ

屍男「……朝か」スクッ




屍男「……ッ……ッ」フンフンッ

屍男「……ッ……ッ」フンフンッ




吸血娘「うわぁ、ハゲが朝っぱらから筋トレやってる……」




屍男「……なんだ、まだ起きていたのか」




吸血娘「なんで筋トレやってんの……ちょっと気持ち悪いんだけど」

屍男「……別に、ただの暇潰しだ」



吸血娘「あ、もしかしてあの時、狩人にボコボコにされた時とかマフィアに拉致された時のことまだ気にしてたりするの?」

吸血娘「それでちょっとは強くなろうとしちゃってたりする?」



屍男「……」



吸血娘「……図星かよ」

吸血娘「い、いや……何かごめんな。恥ずかしいところ見ちゃったな」

吸血娘「じゃ、じゃあ私はこれで寝るから。お前も頑張れよ。うん」サッ



屍男「…………」

………………………………………………
………………………………



屍男「……」サッサッ

後輩女「センパイ、この後みんなで一緒にご飯行こうって話になったんですけど、御一緒にどうですか?」

屍男「……いや、俺はいい」

後輩女「えーでも――」

屍男「……俺はもう帰る。じゃあな」サッ



後輩女「あー……行っちゃった」

「だから言ったじゃない。あの人は来ないって」

後輩女「もしかしたら来るかもって思ったんですよねぇ。話すと結構気さくな人ですし」

「えー私は何か怖いって印象だったけど。あんまり人と関わりたくないってオーラばりばり出してるし」

後輩女「んー……そうですね。確かに、私もそう感じますけど……」


後輩女「……悪い人じゃないと思いますよ。多分」

ガチャ



屍男「……帰ったぞ」

屍男「……ん?」


屍男(……知らない靴が一足ある。来客か?)

屍男(いや、俺にもあいつにも、訪ねてくる人間などいないはずだ……待てよ。一人だけ……いないこともないか)





魔女「やっほー。ゾンビくん、久しぶりね」





吸血娘「グルルルルルル……」





屍男(……やはりこいつか)

屍男「……何の用だ?わざわざ遠方からこんな島国にまで出向いて来るとは」


魔女「ちょっと個人的な用事で機会があってね。ついでにゾンビくん達の様子も見に来てあげたってわけ」

魔女「どう?ここでの生活も慣れた?」


屍男「……まあ、異国だからな。文化の違いなどで色々苦労することはあるが、慣れてきたところだ」

屍男「……待っていろ。茶でも出してやる」スッ


魔女「おかまいなくー」




吸血娘「おいハゲ!こんなビッチに茶なんて出さなくていいぞ!!塩水でもやっとけ!!!!」

スッ


魔女「ゾンビくんってお茶を淹れるのだけは上手よね。料理は微妙なのに」ゴクッ


屍男「……いきなり失礼な事を言い出すな」

吸血娘「こいつは味覚がちょっとおかしいんだよ。普通の味付けだと薄く感じるみたいで、調味料をドバドバ入れてるからな」

吸血娘「だからいっつも味がくどくなってる。まあもう私は舌が慣れたけど」


魔女「へー……それも生前からなのかしら」

魔女「今はどこかで働いているの?帰ってくる時間が遅かったけど」


屍男「……あぁ、駅前の本屋でバイトをしている」

魔女「本屋……あ、もしかして、私のことが忘れられなかったり?」クスッ

屍男「……馬鹿を言え。ただの偶然だ。接客は俺には向かん、あまり人と関わらない職を選んだ結果だ」


魔女「またまたぁ~」

魔女「あ、ならドラキュラちゃんも働いてるの?それとも学校にでも通ってる?」


吸血娘「は?なんで私まで外に出なくちゃいけないんだよ。面倒臭い」

吸血娘「金はまだ腐るほどあるんだし、わざわざんなことしないっての。学校なんて論外。私から見たら豚小屋で肉共が戯れてるようにしか見えんわ」


魔女「つまりニート生活を満喫してるってことか。相変わらずねぇ、ドラキュラちゃんも」

屍男「……まったくだな」




吸血娘「はぁっ!?私はニートじゃねえし!!働く必要がないないだけだし!!!!」

魔女「フフッ、良かったわ。思ったより楽しそうで」

屍男「……お前はどうなんだ」

魔女「え?私?」

屍男「……あぁ、あの古本屋と暗殺業はもう畳んだのだろう。今は何をしている?」

魔女「んー……何をしているか、か。そう言われるとどう返答していいか迷うのだけれど……」

魔女「一言で言うなら、情報収集?」


屍男「……情報収集?」

吸血娘「おいやめとけハゲ。こいつのことだから絶対よからぬことだぞ。深入りするな」


魔女「そうね。あまり表立ったことではないのは確かよ」クスッ


屍男「……相変わらずだな。お前も」






魔女「あっ、そうだ。ねぇ、ゾンビくん。『ヘヴンズ・ドア』って覚えてる?」

屍男「……あぁ、あのカルト団体か?」

吸血娘「私達が半年前にぶっ殺したやつの宗教団体名だっけ?それがどうした?」


魔女「その件で少し面白い話があったのよ。私も最近知ったんだけどね」

魔女「どうやら……その派生組織が、数か月前にこの国で集団自殺をやり遂げたそうなのよ。何か知らない?」


屍男「……あれか。今でも時々ワイドショーで取り上げているな」

屍男「……そうか。やはり繋がっていたのか。何か関わりがあるとは薄々気付いていたが……」

吸血娘「あーあれはこっちでも相当騒ぎになったな。私も前に似たようなことあったなとか思ったけど」

屍男「名は確か……『天国の扉』だったか。なるほど、同じ意味の言葉だな」

魔女「それそれ」


屍男「……残念ながら、報道されている以上のことは知らんな」

吸血娘「右に同じ、そもそもこっちじゃ裏の仕事やってないから、そういう情報も入ってこないしな」


魔女「そう……やっぱり二人に聞いてもダメか。ってなると……自分の足で探すしかないってことね」


屍男「……そいつらのことで何かあったのか?」


魔女「んー……あんまり詳しいことは企業秘密で言えないけど、まあ二人になら少しはいいか」

魔女「実はね……あのカルトが神を召喚することに成功したって噂があるのよ。いや……噂というより、ほぼ決定的な事実か」


屍男「……?どういうことだ?」

吸血娘「は?神?頭大丈夫?」

魔女「私も最初は信じられなかったわ。でも……多分、本当だと思う。現地で事の顛末を見届けた霊能力者が記したレポートのコピーが出回っているんだけど、作り話にしては出来過ぎているってほど正確に書かれていたわ」

魔女「で、そのレポートによると、彼らの真の目的は『かみかま』と呼ばれる神をこの世界に解き放つこと。集団自殺はその為の手段、儀式ってところかしら」

魔女「本人達と直接会った二人なら、何か引っ掛かることもあったんじゃない?」


屍男「……神、か。確かにあの教祖は死ぬ前に似たようなことを喚いていたな」

吸血娘「いや……それにしたってありえんだろ。神って、ファンタジーの世界じゃあるまいし」


魔女「一般人からしたら動く死体もヴァンパイアも十分ファンタジーよ?まあ確かに現実離れした話だけど」

魔女「今こっちでは結構その件で盛り上がってるのよね。私がこの国に来たのも、半分はそれだし」

吸血娘「ってことは……もしかして、私達があの教祖を殺ったのって結構重要なことだったのかもな。あいつらも同じように集団自殺を企んでたみたいだし」


魔女「そうね、結果的に言えば事前に集団自殺を防いだことによって、儀式を中断させたってことになるわ。私もこんな結末になるとは思いもよらなかった」

魔女「これからどうなるのかしらねぇ……もし、あのカルトが世界規模で儀式実行して、神とやらを呼び出したら……現代社会は崩壊するんじゃない?」

魔女「もし、そうなったらゾンビくんならどうする?」


屍男「…………」

屍男「……知らん。いきなりそんなスケールの話をされて返答出来るわけがないだろう」

屍男「そもそも、そんな信憑性がない話を信じる方がどうかしているんじゃないか」


魔女「フフッ、それもそうね……確かに、どうかしている話だわ」

魔女「あ、もうこんな時間。じゃあ私はこれで失礼するわ。お茶、ごちそうさま」

魔女「また何か用があったら連絡して。それじゃあまたね」フリフリ



バタンッ


吸血娘「やっとあー帰ったか。ったく……いきなり来やがって。心臓に悪いわ」ゴロン

吸血娘「何か疲れたわ。ハゲ、アイス持って来て」


屍男「……お前は一歩も動いてないだろう。全く……」スタスタ

屍男「ほら、受け取れ」ブンッ


吸血娘「ん、ナイスボール」ガシッ

吸血娘「それにしても……まさか、あの夜にやった仕事がこんな一大事になってるとはな。まあ私達はほぼ無関係だけど」

吸血娘「どう思うよハゲ。同じ『カミ』を召喚させたがってる者同士」


屍男「……どういう意味だ。それは」

吸血娘「だーかーらー神と髪を合わせたギャグだっての。いちいち説明させるなよ。シラけるだろ」


屍男「……全然面白くも何ともないが……俺達にはもう関係のない話だろう」


吸血娘「え?そう?無駄に正義感が強いお前なら、世界規模の話だし許せない案件だと思ったけど」


屍男「尋常ではない話だとは思うが、それだけだ。この世界で起きていることなら、この世界で生きている人間が何とかするだろう。わざわざそこに介入するつもりはない」

屍男「……俺はもう、死者だからな」


吸血娘「……ま、それもそっか。ちょっと面白そうだと思ったけど、面倒事はもう御免だな」

今日はここまで

時系列的には

霊能少女「本当の戦いはこれからってやつかな」
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より数ヶ月経った後ですね

………………………………………………………
……………………………………………



グチャッ グチャ 




「はぁっ……はぁっ……」パンパン

「はぁ……はぁ……ウッッ!!!!」パンパン




「ふーっ、スッキリしたわ。もういらないわ“コレ”」ポイッ

「さてと……欲を満たした後はちょっと一眠りしようかしら。夜更かしは美容の天敵ですものね」

「……ん?そういえばアタシ……もう死んでたわね。お肌の方はどうなってるのかしら」スッ

「ッッ!?な、何よコレ!?ガサガサじゃない!!!!今すぐ手入れしないと!!!!」ダッ

……………………………………………………
……………………………………



屍男「……」セッセッ



後輩女「……」ジー



屍男「……何か用か」



後輩女「げっ、バレてました?完全に盗み見してたつもりだったんですけど」



屍男「……尻が見えていたぞ」クルッ



後輩女「ちょっ……!?そ、それってセクハラですよ!!!センパイ!!!!」サッ




屍男「……」セッセッ

後輩女「……」ジー

屍男「……まだ何か用か」

後輩女「いえ、別に大したことじゃないんですけど……センパイってもしかして……」

後輩女「香水使ってます?何かいい匂いがするなって」


屍男「……」

屍男「……あぁ、まあな」


後輩女「へー、ちょっと珍しいですね。あんまりいないですよ?香水してる男の人」

後輩女「あ、それとも外国だと普通だったりするんですか?」


屍男「……さあな。そうでもないんじゃないか。ただ、俺の場合は体臭が濃いから使っているだけだ」


後輩女「え、そんなに強いんですか?」


屍男「……あぁ」


後輩女「そうだったんですか。まあ外国の人って腋が臭い人が多いって言いますもんね。そんな気にすることないと思いますよ」


屍男(……誰もワキガとは一言も言ってないんだが)

…………………………………………………………
……………………………………………



屍男(……さて、仕事も終わったし帰るか)スッ

後輩女「あ、センパイも今帰りですか?」

屍男「……あぁ、そうだが」

後輩女「じゃあ一緒に帰りましょっか。センパイの家ってこの近くなんですか?」

屍男「……」


後輩女「うわぁ、そんな露骨に嫌な顔されるとさすがの私でも傷付くんですけど」


屍男「……別に、嫌というわけではない。好きにしたらいい」クルッ

後輩女「あっ、待ってくださいよー!」

後輩女「で、センパイってどこに住んでるんですか?」

屍男「……ここをずっと行った道の先にある坂の上のアパートだ」

後輩女「あー……あのオバケが出そうなボロっちいところですか?どうしてあんなところに?」

屍男「見た目は悪いが、内装は近年リフォームしたばかりでしっかりしている。あれでも全部屋防音で、プライバシーを侵害される恐れはない」

屍男「駅から徒歩15分で、アクセスも悪くない。そして家賃も相場以下の優良物件だ」


屍男(……まあ、あの女から紹介された物件だがな)


後輩女「へー……見た目に寄らず結構いいところですね。私が住んでるマンションよりいい条件っぽいんじゃないですか」

後輩女「そこで一人暮らししているんですか?それともルームメイトとか……同居してる人が居たり?」


屍男「……」

屍男「……いや、一人暮らしだ」

後輩女「あはっ、ですよねー」

後輩女「あ、じゃあ私はここで。お疲れですー」


屍男「……あぁ、またな」

屍男「……」


屍男(柄にもなく、他愛のない日常会話をしたな……)

屍男(……なぜだ。あいつと会話していると……どこか、懐かしい感覚が覚える)






後輩女「……」

後輩女「一人暮らしってことは……彼女は居ないのかな」

ガチャッ



屍男「……帰ったぞ」


吸血娘「ん」ポチポチ


屍男「……なんだ、またゲームか」


吸血娘「悪いかバカ」ポチポチ


屍男「……毎日毎日、よく飽きないものだ」


吸血娘「毎日違うゲームやってんだから飽きるわけないじゃん馬鹿」ポチポチ

吸血娘「あ、そうだ。ハゲ、お前宛てに荷物が届いてたぞ。そこに置いてある」


屍男「……荷物?誰からだ?」


吸血娘「さあ?宛名は一応書いてたけど、多分あれ偽名だし。まあお前に荷物なんて送ってくるやつと言ったら……あの女しかいないでしょ」


屍男「……それもそうだな。昨日の今日で一体何のつもりだ」スッ

パカッ


屍男「……これは」

吸血娘「ん?何が入ってたんだ?」

屍男「……拳銃だ。小型のな」

吸血娘「は?拳銃?」

屍男「……手紙も入っている」ペラッ



『ゾンビくんへ。昨日渡しそびれたんだけど、何だかそっちで物騒な事件が起こっているらしいわね。ってことで、以前のように悪運が強いゾンビくんなら襲われてもおかしくないので、護身用としてソレをあげるわ。大事に使ってね♪』

『PS.それは狩人達が使っている特製の銃弾が入ってるから、取り扱いには気を付けてね。あ、料金は出世払いってことで』



屍男「……だそうだ」

吸血娘「……なんでこいつ宅急便を使って銃なんて送れたんだ。普通捕まるだろ」

吸血娘「それに、なんで狩人が使ってる特製の銃弾をこいつは持っているんだ……?向こうとも繋がりがあるって自首してるようなもんだろこれ」

屍男「……その辺の真偽は置いとくとして、不気味なほどに気が利いたことをしてくるな。自衛としてはこれ以上にない贈り物だが……一体何を企んでいる」

吸血娘「後で法外な値段でふっかけてくるんじゃないの。送り返せば?」

屍男「……物が物だ。さすがにこのまま返すというわけにはいかない」

屍男「……一応、預かっておくか」スッ

吸血娘「んなもん持ち歩いて大丈夫かよ。お前ハゲだし、職質されそうな見た目してるし、バレたら一発で銃刀法違反で逮捕だぞ」


屍男「……失礼なことを言うな。今まで職質は5回程度しか受けたことがない」


吸血娘「結構多いんじゃねえの?それ」

今日はここまで

…………………………………………………
…………………………………



吸血娘「Zzz……Zzz……」

吸血娘「Zzz……Zzz……」


吸血娘「んっ」パチッ

吸血娘「ふわぁ……あーよく寝た。今何時だ……」チラッ



『14:00』



吸血娘「うげ、まだ昼の二時かよ。中途半端な時間に目が覚めたな」

吸血娘「しゃーない。二度寝するか。おやすみーっと」ゴロン


吸血娘「……Zzz」






『…………』



『パパ、ねぇ、パパ』

『今日もお外に行っちゃうの?ねぇ……パパ』



『…………』



『やだよ……一人は寂しいよ……パパ……』





吸血娘「……!」ハッ

吸血娘「」チラッ


『14:30』


吸血娘「……まだこんな時間か」

吸血娘「……嫌な夢を見させやがって。おかげで目が覚めたわ」スクッ

吸血娘「……」モグモグ


『いやーまた××市で殺人ですか。怖いですねぇー』

『しかも、今回は被害者の遺体が上半身と下半身に分けて切断されていたということで、もうこれは連続猟奇殺人事件なんですよね。早く犯人が捕まってほしいものです』


吸血娘「まだ捕まってないのかよこいつ。この国の警察も相当無能だな」

吸血娘「まあここまで好き勝手やって手掛かりの一つもないってなると、やっぱ人間じゃないのは確定か。狩人も何やってるんだか」モグモグ

吸血娘「ん、アイス食べよっと」スッ


ガチャ


吸血娘「あれ、アイスないじゃん。もう切れたのか」

吸血娘「ったく、あのハゲめ。買い溜めしとけって言ったのに」

吸血娘「血とジュースはあるけど……どうしよ、今は無性にアイスが食いたい。この飢えは液体では満たされない」

吸血娘「……買いに行くか」


ガチャ


吸血娘「うおっ、まぶしっ」バッ

吸血娘「ぐぅぅ……やっぱ太陽って苦手だな。別に光を浴びたら灰になるってわけもないけど……本能的に避けたくなる。人間が闇を恐れるのと同じ原理か」


吸血娘「……日傘持ってこ」スッ

スタスタ スタスタ


吸血娘(そういえば……外に出るのって久しぶりだな。えーっと最後に出たのは一か月前くらいだっけ?その前は……お、思い出せない)

吸血娘(あれ、もしかして真昼間に外出するのって何気にこの国だと初めてじゃないか。覚えている限りだといつも夜だったし)

吸血娘(……自分で言うのも何だけど、確かに堕落してんな……で、でも私は人間じゃないし、ヴァンパイアって大体みんなこんな生活だし)

吸血娘(……え?みんなこんな生活リズムだよな?私が特別変なだけじゃないよね?)



ウィーン



吸血娘(ふう、やっと日差しから逃れることが出来た。さ、早く買い物済ませて帰ろっと)

吸血娘(おっ、新作の味が出てるのか。これも一緒に買おっと)

吸血娘(あとはカップ麺とお菓子も買っとくか。あのハゲはわざわざパッケージの写真調べて見せないと分からないからな。何回間違えられたか)

吸血娘(よし、これでいいか。会計会計)

店員「……」ピッピッ

店員「……」チラッ


吸血娘(いくら私が超絶美少女だからって、こんなチラチラ見られたらさすがに気になるっての。だからあんまり外出たくなかったのに)

吸血娘(ハゲもこんな感じで見られてるだろうに、よく毎日バイトに行ってるな。あのハゲは私の髪より目立つだろ)

吸血娘「あ、そこのから揚げも三つくれ」



ウィーン



吸血娘「ふう、後は帰るだけか」モグモグ

吸血娘「しかし、この国は飯だけは本当に美味いな。特に携帯食はやばい。無限に食べていられる」モグモグ

吸血娘「向こうでは大体冷凍食をそのまま解凍しただけのワンパターンな味か、どこのメーカーも同じような味の菓子しかなかったからな。あーうめぇ」モグモグ


吸血娘「うん、腹が膨れたらいい感じに眠くなってきたな。家に着いたらまた一眠りしよっと」

……………………………………………………………
………………………………………



屍男「……」サッサッ


後輩女「あ、センパイ。今日も一緒に帰りませんか?」


屍男「……いや、今日は少し用事がある。じゃあな」スッ


後輩女「あー……そうですか。お疲れ様です」




後輩女「ちぇっ、つれないなぁ。今日も一人寂しく帰るとしますかーっと……ん?」チラッ


携帯『』


後輩女「あ、これ……もしかしてセンパイの携帯?他に誰もいないし」キョロキョロ

後輩女「……忘れ物かな。まだ外に出れば間に合うかも」ダッ

後輩女「あちゃー……見当たらないや。どうしようこれ。明日渡そうかな」

後輩女「でも携帯って一日でもないと困るよなぁ……うーん……」

後輩女「あ、そうだ。確かセンパイの家って、あの坂の上のオバケアパートだったよね」

後輩女「……よし、行こう!」



スタスタ スタスタ



後輩女「えーっと、確かこの辺だよね」キョロキョロ

後輩女「あ、あった。あそこだ」




『』ズーン




後輩女「う、うわぁ……やっぱ不気味だなぁここ。よくこんなところに住めるよ……悪いのは見た目だけって言ってたけど」

後輩女「センパイの部屋はどこだろ。外国人っぽい表札を探せば見つかるかな?」キョロキョロ

後輩「おっ、ここかも。あっ……でも、どうしようか。今日は用事があるって言ってたから、まだ帰ってきてないよね」

後輩女「一人暮らしって言ってたから、誰もいないだろうし……まあいいか。一応確認としてピンポン鳴らしとこ」ポチッ



ピンポーン



吸血娘「うぃ」ガチャ


後輩女「えっ?」


吸血娘「あ?」

後輩女(え……だ、誰?こ、この子……すごく綺麗な髪だなぁ)

後輩女(っじゃなくて!へ、部屋間違えたのかな?うん、そうだ。きっとそうに違いない)


吸血娘(誰だコイツ。てっきりネットで注文しといたゲームが届いたのかと思ったけど……まさか、狩人?)

吸血娘(……んなわけないか。どう見ても気配が一般人のそれだし、目も隠してないしな)


後輩女「ご、ごめんなさい。部屋間違えました!」ペコリ


吸血娘「……あっそ」クルッ


後輩女「あ、すみません!ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

後輩女「このアパートに住んでいる、身長が高くて髪がない、外国人の人ってどの部屋にいるか分かりますか?」


吸血娘「身長が高くて髪がない外国人……?」

吸血娘「え、もしかしてあのハゲのこと?」


後輩女「えっ、知ってるの?」


吸血娘「いや、あいつならここだけど」




後輩女「……えっ?」




吸血娘「……あ?」

今日はここまで

吸血娘「ほら、お茶」スッ


後輩女「あ、はい、どうも……」

後輩女(い、一体何がどうなってるんだか。センパイ、一人暮らしだって言っていたのに……どうして嘘を?)

後輩女(……娘、には見えないかな。全然似てないし、年齢もちょっと合わない気がする)

後輩女(同様に妹でもないだろうし……ま、まさか彼女?い、いや!それだけはない!絶対にない!)


吸血娘「んで、あのハゲのバイトの同僚だっけ?何しに来たの?」


後輩女「これなんですけど」スッ

後輩女「どうやらセンパイが職場に携帯を忘れたみたいで、それを届けに」


吸血娘「……あいつまた携帯忘れたのか。ご丁寧に銃は毎日肌身離さず持ち歩いてるっつうのに」ボソッ


後輩女「……ん?」

吸血娘「ところで、あのハゲはちゃんとそっちで毎日仕事出来てるの?臭いとかで苦情とか来てない?」


後輩女「あ、あぁ、仕事ですか?はい、私が知る限りではよく働いていると思いますよ」


吸血娘「へーちゃんと馴染めてるんだあいつ」


後輩女「……」

後輩女「あのーちょっと失礼かもしれないんですけど、あなたはセンパイと……どんな関係なんですか?一人暮らしをしていると聞いていたんですけど……」


吸血娘「え?私とあいつの関係?」

吸血娘「んー……一言で言うなら……」

吸血娘「相棒?」


後輩女「あ、相棒?」キョトン

後輩女(ど、どうしよう。何か余計に分からなくなってきた。相棒って……?)

後輩女(ゲームか何かの話だったりするのかな。辺り一面にそれらしきものが散らばってるし)

後輩女(……ん?)



吸血娘「」チュー



後輩女(え、なに飲んでるんだろ。あれ。透明なパックに入ってる赤いジュース?)

後輩女(くんくん……ウッ、こ、この鉄のように生臭い香りって……まさか)


吸血娘「なに?こっちジロジロ見てるけど」


後輩女「ひゃっ!?あ、ごめんなさい、気付いてました?」

後輩女「いや、何飲んでるのかなーって思って」

吸血娘「何って、血だけど」


後輩女「へー血ですかー」

後輩女「……」



後輩女「ウェアッ!?血ぃ!?」ビクッ



吸血娘「そう、血」



後輩女「えっ!?な、なんで血飲んでるんですか!?



吸血娘「なんでって。だって私ヴァンパイアだし」




後輩女「!?!?!!!???!!??!?」



後輩女(ヴァ、ヴァンパイア!?それってもしかして吸血鬼ってこと!?)

後輩女(い、いやないないない!!!いくら何でもそれはない!か、からかわれてるに決まってる!絶対!)

後輩女(海外だと健康法で動物の血を飲むって話を聞いたことがあるし、そ、そんな感じだ!絶対に、うん!)



吸血娘「ところで、お前ってハゲのなんなの?恋人?彼女?」



後輩女「ブフォッ!?」ブー

後輩女「げほっ……げほっ……か、彼女って……な、なんでそうなるんですか?」


吸血娘「いや、普通携帯忘れてるからってわざわざ家に来て届けたりするか?って思って。違うの?」

後輩女「ち……違いますよ。ただのバイトの先輩後輩です」

後輩女「――今のところは」



吸血娘「ふーん……」





ガチャ





屍男「……帰ったぞ」


屍男(……?また知らない靴がある。これは……違うな。あの女のものではない)

屍男(しかし、どこか見覚えがあるような……)

吸血娘「うぃ、お前のバイトの後輩が来てんぞ」

後輩女「あ、お、お疲れ様です。センパイ」



屍男「……っ!?」

屍男「……なぜ、ここにいる?」


後輩女「えーっと、それはそのー」

吸血娘「お前が携帯忘れてたからご丁寧に届けに来てくれたんだぞ、ハゲ」


屍男「……」チラッ

屍男「……そうか、手間をかけたな。礼を言う」


後輩女「あ、いえ!そんな大したことでもないので!」

後輩女「じゃあ私はこれで失礼しますね」スッ

屍男「……待て、外はもう暗い。最近は物騒な話も多いからな。家の近くまで送って行く」

後輩女「えっ……あ、ありがとうございます」カァ



吸血娘「…………ふーん」





ガチャ





屍男「……すまなかったな。わざわざ家まで足を運ばせて」

後輩女「全然大丈夫ですよ。そんな距離があるわけでもないですし」

屍男「……気になるか。あいつのことが」

後輩女「え?あぁ……あの金髪の綺麗な女の子のことですか。そうですね、まあちょっとは……驚きましたし」

後輩女「一人暮らしって聞いていたのに、突然美少女が出迎えてきたら、ねぇ……」

屍男「……あいつは」

屍男「…………俺の姪だ」


後輩女「あ、良かった。娘とか言い出したら、ちょっとどうしようかと思ってました」


屍男「……」

屍男「……姉の子でな。日本に留学することになり、俺の家で面倒を見ていたんだが……少し前に心の病を患い、ひきこもり気味になっているんだ」

屍男「だから……本人のこともあり、あまり言いたくなくてな。つい嘘を言ってしまった」


後輩女「……」

後輩女「そう、だったんですか。大変ですね」

屍男「あいつ、何か変なこと言ってなかったか?」

後輩女「えっ……変なことですか?どうして?」

屍男「……いや、何も言っていないなら別にいいんだが」



『だって私ヴァンパイアだし』



後輩女「……いえ、特には」

屍男「……そうか」

後輩女「あ、ここまででいいですよ。もう私のマンションすぐそこなんで」

後輩女「じゃあ、今日はこれで。送ってもらってありがとうございました。また明日……って明日はシフト入れてないんだった。明後日に!」

屍男「……あぁ、またな」クルッ






後輩女「……」

後輩女「……ヴァンパイア、か」

ガチャ



屍男「……」

吸血娘「お、帰ってきたか」

屍男「……彼女に余計なことを言っていないだろうな」

吸血娘「あん?余計な事ってなんだよ」

屍男「……俺達の正体に関わることだ。前にも言っただろ」


吸血娘(…………あ、やべ)

吸血娘(ま、まあいざとなったら私の力で記憶消せばいっか)


吸血娘「……べ、別に。何も言ってない」プイッ

屍男「……そうか」

吸血娘「と、ところで!お前なんで今日は帰り遅かったんだよ。いつもはもっと早いだろ」

屍男「……一日前に自分が言っていたことも覚えてないのか」ガサゴソ

屍男「……これをお前が買って来いというから遅くなったんだろうが」


フライドチキン『』


吸血娘「あっ!そうだった!今日はフライドチキンの日だったな!忘れてた!」

吸血娘「ほら!早くそれ寄越せやハゲ!早く!!」ピョンピョン

屍男「……」

屍男「……」ガサゴソ


吸血娘「?」


屍男「…………アー」パラパラパラ

屍男「…………」モグモグ


吸血娘「!?!?!?!?!???!??」

吸血娘「は、はああああああああッッッ!?テ、テメェおいコラハゲェ!!!!何勝手に私のフライドチキン食べてやがんだあああああああああ!!!!!」


屍男「……別に、たまには俺も食いたくなっただけだが」モグモグ

屍男「……これは俺が買ってきたんだからな。どうしようが俺の勝手だ」モグモグ



吸血娘「ざけんなあああああああああああああああああああ!!!!!!!私のチキン返せえええええええええええ!!!!!」



屍男(……ちょっとはストレス解消になったな)

今日はここまで

□□□□ 翌日 □□□□



吸血娘「」パチッ

吸血娘「……またこんな陽が昇ってる時間帯に起きてしまった。昨日変な時間に起きたせいで若干時間がズレてるな。直しとかないと」


吸血娘「……」


吸血娘「あんのクソハゲめぇ!!!!!!」ブンッ

吸血娘「クソが!まだ怒りが収まらん!一晩経っても全然ムカつく!!!!」

吸血娘「私のフライドチキン食いやがってえええええええええ!!!!!あんにゃろおおおおおおおおおお!!!!!!」ブンブンッ

吸血娘「ぜぇっ……ぜぇっ……ちょ、ちょっと休憩。暴れ過ぎた」ゴロン


吸血娘「……」


吸血娘「腹減った」スクッ

吸血娘「あぁもう仕方ない。こうなったら自分でチキン買いに行くか……本当にめんどくさいけど、この欲求には逆らえない」スクッ

吸血娘「二日連続で外出なんて初めてだな。あのクソハゲめ……帰ってきたらまた噛み付いて血吸ってやる」



バタン



吸血娘「えーっと……マップだと、店はこっちか」

吸血娘「そういえば、自分でチキンを買いに行くのはこれが初めてか。いつもはハゲに買わせてたしな……無事にたどり着けるだろうか」

吸血娘「まあ地図通りに行けばいいだけだし、よっぽどのことじゃないと迷わんだろ。へーきへーき」

…………………………………………………………
……………………………………



吸血娘「……」キョロキョロ

吸血娘「……」ジー


吸血娘「……」

吸血娘「……迷った」


吸血娘「……なんで迷うんだ。店はこの画面上にあるはずなのに、どこにも見えない」キョロキョロ

吸血娘「そもそも、なんでこんな駅前に店がびっしり並んでるんだよ。分かりにくいわ。何がどこにあるのか」

吸血娘「チクショウ!だからこの国は嫌いなんだよファック!!!!」




「ねぇ君、可愛いね。今ひとり?」




吸血娘「あん?」クルッ

チャラ男「うおっ外人じゃん。日本語分かる?」


吸血娘(……なんだこいつ。私をナンパしてんのか。身の程知らずが)

吸血娘(無視だ無視。こんな奴に構ってる暇はない)スタスタ


チャラ男「ちょっとぉ、無視しないでよぉ。キャンユースピークジャパニーズ?」


吸血娘「……失せろ。私は今、機嫌が悪いんだ」


チャラ男「なんだー喋れるじゃん。どう?お茶でも一緒に」


吸血娘(……チッ、久しぶりだな。この眼を見るのも)

吸血娘(こいつ、小物っぽい見た目のくせに相当悪さしてんな。あの駆除してきたゴミ共と同じ眼をしてやがる)

吸血娘(……久しぶりに殺るか?いい街の掃除になるしな。不味そうな血だが、新鮮なうちに飲むなんてこの国に来て初めてだし)

吸血娘(あぁ……そうしよう。段々と血が飲みたくなってきた……私の腹が、喉が、本能が血を求めて鳴いてきた)

吸血娘(血を……赤く、滾る血を……)ゴクッ



「こっち!!!!」ガシッ

吸血娘「!?」グイッ



チャラ男「ちょっ!?」




ダダダダダダダダダッ

ダダダダダダダダダッ



「ふう……ここまで来ればいいかな……」

「大丈夫?変な事されなかった?」


吸血娘「お前は……」


「あ、ごめん。覚えてる?昨日お邪魔した者だけど」

後輩女「センパイの姪さん……でいいんだよね?」


吸血娘(姪?あぁ、そういうことになってんのか。なら適当に話合わせとくか)

吸血娘「……そうだけど」


後輩女「良かった~……いや、今日はバイトが休みだから、ショッピングしてたんだけどね、そしたらチャラい男に絡まれてる金髪の女の子がいて、もしかしたらって思ったら……まさかこんな形で再会するとは」

後輩女「ここってちょっとそういう輩が多いんだよね……あんまり一人で出歩かない方がいいよ。可愛いから、すぐ変なのが寄ってくるでしょ」


吸血娘(……つまり、私があの男相手に困ってると思って、助け舟に入ったと)

吸血娘(余計なお世話だっちゅーの。おかげでせっかくの獲物を取り逃がしちまったじゃねーか)

吸血娘(……いや、こいつでもいいか?私の勘だと、ギリギリ10代、そして恐らく……処女)

吸血娘(まさに最高の条件だ。あの男の血と比べたら、月とスッポン。高級中華料理とカップラーメンくらいの差がある)

後輩女「ん?どうしたの?」



吸血娘「……」ゴクリ

吸血娘(……やっぱやめとこ。あのハゲの知り合いだし)



吸血娘「別に。わざわざ助けてもらわなくても、あんなの私一人でどうにかできた」

後輩女「それって……もしかして、ヴァンパイアだから?」クスッ

吸血娘「あん!?なんだその言い方!」

後輩女「ご、ごめんごめん!悪気はないから!」

後輩女「それで、今日はどうしたの?センパイから、普段はあんまり外に出ないって聞いてたけど、何か買いに来たの?」

吸血娘「ん?あぁ、お前なら分かるかも」

吸血娘「これ、ここのフライドチキンの店がどこにあるか知ってる?」


後輩女「あーこの店なら――」

………………………………………
……………………………



吸血娘「ふふん、5000円分のチキンを買ってやった」ニヤニヤ

後輩女「す、すごいね……それ、センパイと一緒に食べるの?」

吸血娘「あ?あのハゲなんかにやんねーわ。昨日、無断で私のチキン全部食いやがったし。これは全て私の物だ」

後輩女「へ、へー」



吸血娘「……」

吸血娘「おい、お前。もうランチは食ったか?」



後輩女「え?まだだけど」

ガチャ


吸血娘「ほら、あがれ」


後輩女「お、お邪魔します」

後輩女「……いいの?それ、一人で食べるって言ってたのに、私もご一緒しちゃって」


吸血娘「私は貸しは作らない主義なんだ。お前には店の場所を教えてもらったからな、その礼だ」

吸血娘「ほら、コーラ。チキンには一番これが合う」スッ


後輩女「あ、どうも……」


吸血娘「じゃあ食うか。あむっ……」パクッ

吸血娘「ん~~~~ッッッッ!!!!!やっぱこれだな!!!!油とチキンと胡椒が最高に合う!ちょっとサイズが小さいのが気になるが、味はいいから許してやる!」

吸血娘「ほら、お前も食え。美味いぞ」

後輩女「い、いただきます」パクッ

後輩女「あっ……お、美味しい。フライドチキンなんてもう何年も食べてなかったけど、こんなに美味しかったんだ」


後輩女(ちょっとカロリーが気になるけど)


吸血娘「だろ?この世界で一番美味いのはハンバーガーとフライドチキンだ。ドナルドとカーネルサンダースにはノーベル賞をやってもいいと私は思う」モグモグ

吸血娘「ところでお前、歳はいくつだ?」


後輩女「え?歳?今年で19になるけど」


吸血娘「やっぱり、私の予想は当たってたな。流石だ」

吸血娘「ちなみに私は20だからな。お前さっきからタメ口だけど、敬語使えよ」


後輩女「ぶふぉっ!?」ゲホッ

後輩女「20歳って……えぇ!?ウソでしょ!?」

吸血娘「厳密に言えば今年で21だけどな」モグモグ


後輩女(わ、私より年上だなんて……てっきり中学生くらいかと)

後輩女(い、いや……ありえるの?この見た目で20って。まさか本当にヴァンパイアってやつなんじゃ――)


後輩女「……」


吸血娘「んー♪んめんめ」モグモグ


後輩女「そ、それにしても、センパイと一緒でずいぶん日本語が上手ですね。流石留学生です」



吸血娘「……留学生?」キョトン



後輩女「えっ?」

吸血娘「あーはいはい。まあね、うん」


後輩女(な、なんだ……今の間)


吸血娘「まあ私にかかれば人間の言語を習得するなんて、一週間もあれば楽勝だし。他にも8カ国語くらいは喋れるぞ」


後輩女「えっ!?う、嘘ですよね?」


吸血娘「マジだし。まあ滅多に使わんから持て余してるけどな。精々通販で探し物をするくらいにしか役に立たん」


後輩女「へ、へー」

後輩女(これはさすがに嘘だよね。いくら留学生で才女って言っても……20やそこらでそれだけの言葉を覚えるなんて無理だと思うし。でも日本語はものすごい流暢なのも事実)


後輩女(何者なんだろう……この人)

吸血娘「そうだ、お前にひとつ聞きたいことがあるんだった」


後輩女「なんですか?」




吸血娘「お前、本当のところあのハゲのことどう思ってるんだ。好きなのか」




後輩女「」ギクッ

後輩女「い、いや……そんなことないですよ。昨日も言った通り、私はただの後輩で……」


吸血娘「んなわけないじゃん。普通は気にもならんやつの家にわざわざ忘れ物なんて届けないぞ。私は恋愛映画とか小説とかアニメとか漫画とかで見たから詳しいんだ」


後輩女(……全部創作じゃん)

吸血娘「それに、お前ちょっとあのハゲと話す時に声色変わってるぞ。耳がいい私だから気付けるレベルのほんとちょっとの差だけど、明らかに声が高くなってる」



後輩女「え、うそ」サッ

後輩女(あ、しまった……)



吸血娘「その反応……図星か」



後輩女(ん、んんんん~~……!!ど、どうしよう。この状況)

後輩女(どうにかして言い逃れしないと……まずい)



吸血娘「あ、言っとくけど適当な嘘言っても体温の変化で分かるからな。さっさとゲロちまった方がいいぞ。それともハゲ本人に伝えてやろうか」



後輩女「……ぐっ」

後輩女「う、うぅ……わ、分かりましたよ。す、す……好きです。これでいいんですか」

吸血娘「……」

吸血娘「……言わせといてなんだけどさ、お前男の趣味悪いな。なんであのハゲなの?」

吸血娘「あいつの会話パターン知ってるか?「……あぁ」「……そうなのか」「……そうか」が8割だぞ。まだSiriの方が多いレベルだ」


後輩女「ちょっと!普通に引くのやめてくださいよ」

後輩女「わ、私だって……ちょっと前の自分なら考えられなかったんですけど、それでも好きになっちゃったんだから、し、仕方ないじゃないですかぁ……」カァ


吸血娘「き、きっかけは?」


後輩女「……三か月前に、街で助けてもらったんです。今日と同じような状況で」

後輩女「変な人に絡まれてるところを……偶然通りかかったセンパイが。今時珍しいじゃないですか。ほとんどの人はみんな見て見ぬ振りをするのに」


吸血娘(……確かに、あいつなら目の前でそんなことがあったら、助けるだろな)

後輩女「最初は親切な人もいるんだなって思っただけでした。でも、これまた偶然に新しくバイトに入った本屋で、センパイと再会して……」

後輩女「そこから意識しちゃって……いつの間にか好きに――好意を抱くようになっていました」カァ


吸血娘「……うわぁ」ゾッ


後輩女「だ、だから!引かないでくださいよ!こっちだって恥ずかしいんですから」


吸血娘「いやぁ……いくら何でもあのハゲはないだろ。だってハゲだぞ……頭に何も生えてないとか、もう地球の生物じゃないだろ。宇宙人にしか見えないわ」

吸血娘「お前もよく考えてみろよ。あのハゲ頭と付き合うなんて出来るのか?ずっと視界にパチンコ頭が目に入るんだぞ。叩き潰したくなるぞ」


後輩女「つ、付き合うだなんて…そんな……」モジモジ


吸血娘「……重症だな、こりゃ」

吸血娘「とにかく、あのハゲだけはやめておけよ。絶対な、てか私が許さんし」

後輩女「……?」

後輩女「え、えぇ……許すとか、許さないとかあるんですか?」


吸血娘「当たり前だろ。だって私は――えっと、何だっけ、別れた前妻の娘だっけ?」


後輩女「……姪じゃないんですか」


吸血娘「そう、それそれ。つまり実質あいつの保護者みたいなもんだろ?だから私の許可がないとあいつに関わるのはダメ」

吸血娘(まあそもそも……例え告白されたとしても、あいつが快諾するとは思えないけど)


後輩女「……それって、逆なんじゃないですか?」

後輩女「普通はセンパイの方が保護者だと思うんですけど……」

吸血娘「まあ普通はな。でも私達の場合は状況が違うし。だって私はあいつの命を何度も救ってるんだぞ。なら上下関係は私の方が上に決まってるじゃん。私の方があいつより強いし」


後輩女「……??」

後輩女(い、言ってる意味が全然分からない……)


後輩女「え、つまり……自分もセンパイのことが好きだから、私と一緒にいることは許さないってことなんですか?」


吸血娘「……はい?」

吸血娘「え、私の話聞いてた?んん?なんでそうなるのか全く分からないんだけど」


後輩女「いやだって、姪の許可がないとセンパイとその……付き合えないって、ちょっと変ですよ」

後輩女「それに、話を聞いてるとどこか……あなたにはセンパイを独占したいとか、そんな思想が見えるような気がして」


吸血娘「な、なわけないだろが!!!!私があのハゲのことを好きだなんて、そんなはずがない!!!!!」

吸血娘「ハゲで陰気で、作る料理は不味くて、体臭も臭いし血も不味い、おまけにハゲだし!なんでそんなやつを好きにならなくちゃいけないんだよ!!!!!」

後輩女「……でも、そんな人と一緒に暮らしてるんですよね。本当に嫌なら、同居なんてしないと思いますよ」



吸血娘「……っっ!!」



後輩女「……私も、自分でもどうしてセンパイのことを好きになったのかよく分からないんです。初めてバイト先で声をかけた時も、私のことは覚えていませんでしたし」

後輩女「不愛想で、何考えてるかよく分からない人ですけど……不思議な魔力みたいなのがあるような気がするんですよね。ミステリックな雰囲気というか……そういうところに惹かれたのかもしれません」



吸血娘(わ、私は……あのハゲに恋愛感情?)

吸血娘(そ、それだけは絶対にない!むしろそれとは真逆の――)



吸血娘(……ッ!!そ、そうか。私は…………あのハゲを…………)

後輩女「ど、どうしたんですか?」



吸血娘「……何でもない」

吸血娘「……私がお前に警告してやってるのは、別にそういう邪な心で言っているわけじゃない。まあちょっとはあるかもしれないけど」



吸血娘「いいか。お前にだけ教えてやる。あのハゲは……人間じゃないんだよ」



後輩女「……はい?」



吸血娘「あいつはもう死んでるんだよ。生ける屍の怪物……それがあのハゲだ」



後輩女「……えっ?」

今日はここまで

後輩女「ど、どういう意味ですか。それって」


吸血娘「まず私が本物のヴァンパイアって証拠を見せてやる。ほら、ちょっと腕出してみろ」

吸血娘「安心しろ。別に痛いことはしないから」


後輩女「……?こ、こうですか」


吸血娘「よし、じゃあちょっと噛むぞ」カプッ

吸血娘(なるべく吸わないように……甘噛みで)



ギュインッ……ギュインッ……

後輩女「!?」


後輩女(な、なにこれ……!?え、血を吸われてる!?)

後輩女(う、うそ……これ、献血をされてる時と全く同じ感覚。それに一瞬、口から牙のようなものを見えたし……!)



吸血娘「……ふぅ」パッ

吸血娘「ど、どうだ。これで私が本物のヴァンパイアだって分かっただろ」ドキドキ



後輩女「は、はい……」

後輩女(ほ、本物だ……本物の……吸血鬼、ヴァンパイアだ……)



吸血娘「フゥ……フゥ……」ドキドキ

吸血娘(や、やべえええええええええええ!!!!!!こいつの血超うめええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!)

吸血娘(ま、まじで一瞬我を忘れて全部飲み尽くすところだった!!!!超あぶねぇ!!!!)

吸血娘(だって美味すぎるもんこれ!これまで飲んできた血の中でもダントツでナンバーワンだわ!十代の健康的な処女の血ってこんなに美味いの!?感動したわ!)

吸血娘(こ、この味は覚えたらやべえぞ……この血の為なら殺人だって犯せる……そりゃご先祖様達も人を襲うわ……やべえな)



後輩女「あの、大丈夫ですか?様子がちょっと変ですけど」



吸血娘「な、何でもない……お、落ち着け……」フゥ

吸血娘「……よし」グッ

吸血娘「私の正体は人を血を啜る伝説の生物、ヴァンパイアだ。元々は外国に暮らしてたんだけど、ワケあってこの島国に追いやられて来た」

吸血娘「そして、あのハゲは動く死体だ。これもまた話すと長くなるけど、あいつは過去の記憶を失くしている」


後輩女「でも昔、親と一緒にこっちに引っ越してきたって言ってましたよ?」


吸血娘「んなの作り話に決まってんだろ。よくある話だ。それにあいつ、めちゃくちゃ力持ちじゃないか?」


後輩女「……え、えぇ。確かに」


吸血娘「それも怪物の特徴、あいつは並外れた怪力を持っている。人前ではなるべく抑えてるだろうがな」

吸血娘「香水使ってるのも知ってるか?あれも死臭を隠す為だ」


後輩女(……ワキガじゃなかったんだ)

吸血娘「どうだ、これが真実だ。私とハゲは人間じゃない。だからあんまり関わるべきじゃないんだ」



後輩女「……」



吸血娘「本当はあのハゲから口止めされてるんだけどな。まあお前になら誰かに言いふらしたりしないだろうし特別に教えてやったけど」



後輩女(……センパイが、人間じゃない?)

後輩女(そんな、まさか……)

~~~~ 翌日 ~~~~



屍男「……」セッセ

屍男(……よし、今日はこれで仕上げるか)スッ



ガチャ



屍男(……そういえば、今日はあいつから話しかけられなかったな。最近は毎日ちょっかいをかけて来たが)

屍男(バイトには来てたようだが、何かあったのか?……俺には関係のない話か)




「あの!センパイ!!」




屍男「……?」クルッ

屍男「……なんだ。まだいたのか」

屍男「……何か用か?」


後輩女「……っ」

後輩女「セ、センパイが……人間じゃないって、本当ですか……?」



屍男「……」

屍男「……誰から、それを聞いた?」



後輩女「き、昨日……姪さんから聞きました。偶然街で会って、色々あって家に招待されて……」

後輩女「そ、それで……また色々あって、姪さんが本物のヴァンパイアだってことを告白されて……センパイの正体も」

後輩女「ほ、本当なんですか?」



屍男「……」フーッ

屍男(…………まずいな。これは)

ちょっと短いですが今日はここまで

屍男(……あいつ、昨日そんなことがあったなんて一言も聞いてないぞ)

屍男(どうする、この状況。一番恐れていたことが現実に起きてしまった)




屍男(――殺すか)




屍男(……何を馬鹿なことを考えているんだ俺は。とにかく、どうにかして誤魔化すしかない)

屍男(あのおしゃべりがどこまで話したか、だ。それ次第でまだカバー出来る……はずだ)



屍男「……どうして、あいつがヴァンパイアだと分かった?」

後輩女「え?どうしてって……実際に腕を噛まれて血を吸われました。ほら」スッ

屍男「……それだけか?他には何もしてないんだな?」

後輩女「……?はい、そうですけど」



屍男(……霧化とあの眷属は見てないのか。腕から血を吸われただけ……)

屍男(……よし、行ける)



屍男「……すまない。あいつが迷惑をかけた」

屍男「ヴァンパイアだのなんだのは……全てホラ話だ。トワイライトという小説を知っているか?」


後輩女「トワイライト?あぁ……映画になってたあれですか?名前だけは知ってますけど」

屍男「……そうだ。あいつはあの映画を観て以来、自分がヴァンパイアだと思い込んでいるんだ。トワイライトのストーリーは女子高生とヴァンパイアの恋物語でな」

屍男「向こうでは社会問題になったことがあるほど、疾患者が多い病だ」

屍男「“トワイライト・シンドローム”という病名に聞き覚えはないか?」



後輩女「な、何だか聞き覚えがあるような、ないような……」



屍男「こちらの国でも、似たような病名があったはずだ。名は確か……ちゅ、ちゅ……」



後輩女「中二病、ですかね?」



屍男「あぁ……それだ。間違いない」

屍男「要するにあいつは今、中二病で自分をヴァンパイアだと思い込んでいる精神異常者なんだ。ヴァンパイアなどこの世界にいるわけないだろう」

後輩女「で、でも!私は本当に血を吸われたんですよ?それはどういう……」



屍男「……それに関しては、あいつの……性癖に関わる話になる」

屍男「血液嗜好者、ヘマトフィリアという言葉を聞いたことはあるか?」



後輩女「な、ないです……」



屍男「そうか、知らないのも無理はないな。これはパラフィリア障害という精神疾患の病名の一つだ。簡単に言うと……特殊な性癖を持つ人物に対して使われる」

屍男「有名なのはペドフィリア、ネクロフィリアと言ったものだろうな。ヘマトフィリアもその一つで、血に対して性的興奮を覚える症状を指す」

屍男「他にも、ヴァンパイアフィリアという言葉が存在する。別名、吸血病だ。これはそのままの意味で、人の血を吸う性的嗜好を持つ人物を意味する」

屍男「あいつは……この両方の病も持っているんだ。原因は分からんが、幼い頃から血に執着する性格でな……中二病にかかったのも、この体質のせいだ。」

屍男「実際に調べてみるといい。症例は少ないが、確かに存在するものだ。現代社会では中々理解されないのが問題になっている」

後輩女「……!?そ、そうだったんですか……?そんな病気があったなんて」


屍男「……それに加えてあいつはレズビアンでもある」


後輩女「え、えぇっ!?レズビアンッ!?」


屍男「お前の血を飲んだ時に、様子が少しおかしくなかったか?」


後輩女「そう言われると……顔が赤かったような」

後輩女「ま、まさかそれって……」


屍男「……あぁ、あいつは女の血を飲むと、その、なんだ……欲情する」


後輩女「そ、そうだったんですか」



屍男(……よし、これでだいぶ説得力が増したはずだ)

屍男(ヘマトフィリアと吸血病だけではあまりに特異過ぎて、現実感がないだろうからな。身近にある言葉を並べることで、よりリアリティが増す)

屍男「……ということで、あいつはひきこもりで、中二病で、ヘマトフィリアで、吸血病のレズなんだ。すまないな……隠す気はなかったんだが、これはあまりにも……そう簡単に話してはいい内容ではないような気がしてな」


後輩女「え、あ、はい……わ、私も何かごめんなさい。その……真に受けちゃって」

後輩女「そうですよね。よく考えたら先輩がゾンビなんて……そんなことあるはずないですもんね」


屍男「……あぁ、全くだ。分かってもらえたなら、それでいい」

屍男「では俺はそろそろ失礼する。あいつが腹を空かして待っているだろうからな」


後輩女「は、はい!すみません!呼び止めちゃって!お疲れ様でした!」ペコリ




スタスタ スタスタ




屍男(……ふう。何とかなったな。医学書を読み漁っていた成果が、こんなところで出るとは)

屍男(自分で言うのも何だが、よくあそこまでの嘘を即興で考え付いたものだ。多少無理があると思ったんだがな)

屍男(だが……彼女があいつの言うことを本気で信じたのは、血を吸われただけではないはずだ。元から俺に……無意識に、疑念を抱いていた。どこかおかしいと思われていたのだろうな)

屍男(……今回は上手く行ったが、次はそうはいかない。あいつには念を押す必要があるな。もう二度とこんなことを起こすわけにはいかん)







後輩女「……」ポチポチ

後輩女「……ほ、本当にあるんだ。吸血病って……聞いたこともなかった」

後輩女「そうだったんだ。先輩はひきこもりで、中二病で、ヘマトフィリアで、吸血病でレズビアンの姪さんの面倒を見ているのか」

後輩女「…………」



後輩女「た、大変だなぁ……」

ガチャ



屍男「……」



吸血娘「おうおう、チキン泥棒が帰ってきたぞ」

吸血娘「言っとくけど、私はまだ根に持ってるからな。一週間は言い続けるからな、チキン泥棒が」



屍男「……おい、俺が怪物だということを……言ったのか?あいつに」



吸血娘「あ?うん、言ったけど?」



屍男「……なぜだ。あれだけ釘を刺したはずだ。なぜ喋った」

屍男「まさか、チキンを食われたとかいうくだらない仕返しでやったわけではないだろうな」


吸血娘「いやさすがの私でも、んな理由で言わんし。もっと別な理由だし」

屍男「……ではその理由とは何か言ってみろ」


吸血娘「んー……それは無理かな。一応、名誉ってもんがあるし、私の口からは言えない」



屍男「は?」



吸血娘「だから、これはあいつの個人的な事情に寄るから言えない。私もこれぐらいのデリカシーってもんはあるし」


屍男「……どういう意味だ。それは」


吸血娘「まあハゲには絶対分からんだろうな。そういうのに鈍感そうだし。おっと、危うく言いそうになった」ニヤッ


屍男「……」

屍男「どういう事情があったのかは知らんが、こちらは誤魔化すのに大変だったんだぞ。もう二度とあいつには連絡するな。接触するな。言葉を交わすな」

屍男「これが守れないなら、俺はもう二度とお前の使いっぱしりはしない」

屍男「チキンも、アイスも、ハンバーガーもコンビニ弁当も一切買わん」



吸血娘「……は?」



屍男「言っておくが、俺は本気だからな」



吸血娘「いや、それだけは絶対無理なんだけど」

吸血娘「だって、私もうあいつの携帯の番号知ってるし。向こうからメッセージ来てるんだけど」スッ



『センパイから事情を聞きました。私も出来る限りのことは協力します』



吸血娘「……つーかなにこれ。事情って、お前何話したの?」



屍男「……」

屍男(こ、こいつ……いつの間に)

………………………………………………
……………………………



吸血娘「……は?」

吸血娘「え、なにそれ。つまり私はひきこもりで、血に欲情する性癖で、おまけにレズってことになってるの?え?」



屍男「……そういうことになるな」



吸血娘「……」



吸血娘「とんだド変態じゃねえか!!!!!!!!なに人のことをボロクソに設定してやがんだ!!!!!!」

吸血娘「つーかこんなめちゃくちゃな話を信じる方も信じる方だわ!!!!あいつ馬鹿じゃねえの!?」



屍男「仕方ないだろ。話の流れでそうなった。元はと言えばお前が悪い」

屍男「俺が死者という話より、お前が変態ということの方が信憑性があったということだろう」



吸血娘「吸血病までは理解できる!でもレズってなんだよ!?これ明らかにいらないだろ!!!!!」



屍男「……話の流れだ」

吸血娘「私は絶対に嫌だからな!!!!こうなったら直接呼び出して霧化するところを見せてやる!!!!これなら絶対本物のヴァンパイアだって信じるだろ……!」ピッ


屍男「……なら、さっきも言った通り俺はもう二度とお前の好物は買わないぞ」

屍男「自分で足を運ぶがいい。もっとも、そんな体力がお前にあればの話だが」


吸血娘「なっ……!?それは反則だろ!!ズルいぞ!!!!」


屍男「反則でもズルでもない。どうする?選ぶのはお前だ。勝手にすればいい」

屍男「おっと、そういえば今日はこれを買ってきたんだった」ガサゴソ



ハンバーガー『』



吸血娘「!?」

吸血娘「こ、このハゲ野郎……!それを人質に取ろうってのか……!」

屍男「別に、ただお前が自分の正体を隠そうとしないと言うなら、このハンバーガーとポテトは俺の胃に放り込まれるだろうな」スッ

屍男「選べ、毎日外へ出て、何百メートルも歩いてまでジャンクフードを買いに行くか。それとも恥を我慢するか」

屍男「無論今後一切ハンバーガーやフライドチキンを食べない、という選択肢もあるがな」



吸血娘「……!」ギリッ



屍男「……」ガサゴソ

屍男「……アー」スッ



吸血娘「!!!!!!」

吸血娘「……チッ、ったよ。隠せばいいんだろ、隠せば」



屍男「それでいい。ほら、受け取れ」ポイッ

屍男「いいか、これは取引だからな。破るなよ」

吸血娘「うっせ。わざわざ約束事を破るほど、こっちも世間に染まってないっての」モグモグ

吸血娘(……我ながら、食い物に釣られて変態の汚名を被るというのは何だかとてもマヌケな気がする)

吸血娘(でも、仕方ないじゃん。わざわざ買いに行くなんてめんどいし、背に腹は代えられん。クソッ)



屍男(……相変わらず、こいつの扱いは単純で楽だな)



吸血娘「でもさ、お前これからもずっと、あいつに正体を隠すつもりなの?」モグモグ

吸血娘「私の見立てだと、絶対に他人に喋ったりしないタイプだと思うぞ、アレ。向こうは多少なりとも、お前を慕って――尊敬しているわけだし、そんなやつをずっと騙して罪悪感とかないの?」モグモグ



屍男「…………」

屍男「……これはお互いの為だ。表の人間が、そんな情報なぞ知らない方がいいに決まっている」

屍男「もし話す時が来るとしたら……それは、俺があいつの前から姿を消す日だろうな」



吸血娘「……あっそ」モグモグ

今日はここまで

▢▢▢▢ 数日後 ▢▢▢▢



屍男(あれから、数日が過ぎたが、特に俺達の正体については言及されなくなった)

屍男(あいつも上手く演じているのだろう。まあ元はと言えば勝手にペラペラ話す方が悪い、同情の余地は全くないな)

屍男(……しかし少し気になることがある。あいつの“好物”の話だ。やつの好みの血は10代の女の血……長いこと輸血パックの血しか飲んでいない上に、今まで飲んできた大半は不健康な犯罪者の血)

屍男(禁酒中の中年に、キンキンに冷えたビールを差し出すようなものだ。僅かしか飲んでいないそうだが、中毒に近い症状が起こらないといいが……)



「ねぇ、おにーさん。探してる本があるんだけど」

「歴史系の本って、どこにあるか分かるかなァ?」



屍男「……あぁ、それなら――」クルッ

屍男「……」ピクッ



「ん?どうしたのかな?」



屍男「……いや、何でもない。歴史と地理はそこを左に曲がったコーナーだ」



「……おにーさん、不思議な“眼”をしているねェ」

「虚ろな色、中身が何にもない。でも意思は感じられる。本当に面白い……今すぐ食べちゃいたいくらい」



屍男「……どういう意味だ」



「フフッ、何だか、おにーさんとはまたどこかで会えそうだねェ。じゃあまた、教えてくれてありがと」フッ

スタスタ スタスタ



屍男「…………」

屍男(なんだ、あの少女は……姿を見た一瞬、嫌な気配を感じた。狩人に対面した時と似ていたが、それとはまた違う)

屍男(何か……もっと、こう、本能的に訴えかけてくるような)


ズキッ


屍男(……ッ。気になるな。少し追ってみるか)スッ





シーーーーン





屍男「…………」キョロキョロ

屍男「……いない?」

屍男(どういうことだ。確かに、ここの角を曲がったところまでは見た。だが……姿が見えない)



屍男(もう店を出たのか?いや、あり得ない。出入り口は一つだ。位置的に、店から出たのなら俺の視界に入るはずだ。それなのに……)



屍男「…………」



屍男(――――何者だ。あの少女は)

………………………………………………………
…………………………………………



屍男「……」スタスタ

後輩女「あ、センパイ。お疲れ様です」

屍男「……あぁ、お疲れ」

後輩女「……?どうかしました?何か変な顔してますけど」


屍男「……そんな顔してるか?」


後輩女「何だか、いつもより顔の影が濃いっていうか、考え事してますみたいな顔してましたよ。私じゃないと気付かないと思いますけど」

屍男「……今日、店で外国人の少女を見なかったか?白いワンピースのような服を着ていて、金髪の髪をしている」

後輩女「外国人の……女の子ですか?いえ、見てないですね。私今日ずっとレジやってましたし、何か買ったのならすぐ気づくと思いますけど」


屍男「……」


後輩女「その女の子がどうかしたんですか?」

屍男「……いや、見ていないのならいい。気にしないでくれ」

後輩女「?」

後輩女「あ、そうだ。こちらもちょっと先輩に相談があるんですけど……姪さんのことで」


屍男「……」ピクッ

屍男「……帰りながら、話を聞こう」





スタスタ スタスタ 





後輩女「実は今日……姪さんからメールが届きまして」

後輩女「何だか、私の血が気に入ったみたいで、また飲ませてほしいって言ってるんですけど……どうすればいいんですかね?」



屍男(……はぁ、やはりな)

後輩女「いや私個人としては、全然かまわないんですけど、一応センパイに話は通した方がいいのかなとか思って」

後輩女「100㎖10万円で買い取るって向こうは言ってるんですけど……どうすればいいんですかね、これ?」


屍男(……馬鹿が、そんな成金みたいな金の使い方をするな。どう見ても不自然だろうが)

屍男「……分かった。俺から話をしておく」


後輩女「……そうだ、私って姪さんとは携帯の番号交換しましたけど、センパイとはしてませんよね」

後輩女「はい、今交換しましょうか。これなら家にいても、すぐに連絡出来ますし」スッ


屍男「……」

屍男「……そうだな。そちらの方が効率はいいか」スッ

スタスタ スタスタ スタスタ



後輩女「……はいっ。これでOKですね!」


屍男「……」


後輩女「……?どうかしたんですか?センパイ、後ろに何かあります?」クルッ


屍男「……いや、何でもない」

屍男「すまないが、今日はここで別れる。これから少し用事があってな」


後輩女「あ、そうなんですか。じゃあまた明日!」ペコリ

後輩女「お疲れ様でしたー」フリフリ



屍男「……」

スタスタ スタスタ





後輩女「……」ギュッ





後輩女「……つ、ついに……センパイの番号をゲットしてしまった。自分でもびっくり、するくらい簡単に手に入ったな。姪さんには感謝しないと」


後輩女「これは……一歩前進ってことでいいんだよね?うん……よし!」ニヘヘ

スタスタ スタスタ スタスタ





屍男「……」





屍男「……」




屍男「……ここら辺でいいか」

屍男「おい、いい加減に姿を現せ。さっきから尾行しているのは気付いているぞ」





屍男「何者だ?お前は」

シーーーーン





屍男(……気配が消えた?どこに――)





フッ




屍男「!!!!!!!!!」サッ




ザシュッ!!!!!!!!!




屍男(刀ッ!?グッ、ギリギリ避けるのが間に合ったが、いつの間に背後にっ)

「あらん?中々やるじゃない。アタシの一太刀を避けるなんて」

「これまでで、アナタが初めてよ。大抵は反応出来ずに死んで行ったわ」




屍男「その刀……そうか。お前が……ここ最近、辻斬りをやっているとかいう頭のおかしい犯罪者か」

屍男(……あぁ、またこのパターンか。確かに、あの女の言う通り……俺は悪運が強いようだ)グッ




「ご名答、アナタ中々勘がいいのね。いいわ、ゾクゾクしちゃう」

「よく見たら、ハゲだけど顔も中々イケメンじゃない。決めたわ」



フッ……



怪物男「今日のオカズはアナタにしましょうかッ!」ニヤッ





屍男「……ッ!」

今日はここまで
ってことでこれにて前半は終了です
後半から一気に話が進んで急展開になると思います
でもごめんなさい…これからちょっと一週間ぐらい更新出来なくなるので、それまで待ってもらえると嬉しいです

ダンッ!!!!!!




怪物男「ハァッッッ!!!!!!」ブンッ




屍男「っ……!」サッ

屍男(クッ……厄介だな、この刀は。リーチに差があり過ぎる。それに……嫌な気配を感じる。こいつ本体よりも、刀の方が危険かもしれん。そもそも、どこであんな代物を手に入れた)

屍男(……だが、こちらも手がないわけではない。あの女の懸念通りだったな。銃を持ち歩いて正解だった)チャキッ

屍男(弾数は6発、どれだけの効果があるのかは未知数だが、全弾を頭にぶち込めば致命傷は避けられないはずだ)

屍男(確実に当てるには……かなりの至近距離まで近付く必要があるな。防御も回避も不可能な状態に持ち込まなくては)


屍男(……それに、いざとなれば逃走という手段もある。前回の対狩人戦と比べれば勝機はある)

怪物男「あら?この攻撃も避けちゃうわけ?」

怪物男「おかしいわね……人間の反応速度は優に超えているはずなんだけど。もしかして、アナタも剣道とかやってた?」



屍男(……こいつ、俺が同じ怪物だと気付いていないのか?これは好都合だな)

屍男(ただの人間と思われているならば……不意を突くチャンスがある)グッ



怪物男「まあいいわ。面白いじゃない。アタシも久しぶりに滾ってきちゃったわ」

怪物男「じゃあ……これならどうかしら?躱せる?」スッ



屍男(構えが変わった?一体、何を――)





シュンッ!!!!!!!!!!!

屍男「!?」

屍男(なっ……速いっ!?これは間に合わな――)




ザンッ!!!!!!!!!




怪物男「……あらら、ごめんなさいね。ちょっと本気になり過ぎたわ」




ピシャッ




屍男「グゥッ……」ガクッ

屍男(な、何とか……身体を逸らし、致命傷は避けたが……肩をやられたか)

屍男(この傷、痛み、やはり……ただの刀ではない。通常の刃物と比べて再生のスピードが遅い)

屍男(もっとも、今急速な再生をするとこちらの正体に気付かれてしまう。これは逆に都合がいいと考えるべきか)

屍男「……その刀、どこで手に入れた?」

屍男「この国で帯刀が許されていたのは、大昔の話だと聞いていたんだがな……」



怪物男「ん?コレ?あぁ……そうね。確かに、外人さんには珍しいわよね」

怪物男「これが話すと長くなるのよねェ……妖刀って言葉はご存知かしら?」




屍男「……」




怪物男「この刀は“曰く憑き”ってやつで、何でも戦国時代に1000人斬りを達成した武将が持っていたそうなのよ」

怪物男「その武将に斬り殺された侍の怨念ってやつがこの刀に宿っているらしいわ。まあこの話はある寺の住職に聞いた話だから、真相は分かんないだけどね」

怪物男「で、なんでこの刀をアタシが持っているのかっていうと……アタシ、その住職と付き合ってたのよ」

怪物男「いい男だったわァ……でも、突然その彼が別れ話を振ってきてね」

怪物男「妻にアタシ達の関係がバレそうになったから、今すぐ別れてって……勝手な人よね。自分からアタシに声をかけてきておいて」



屍男「……」

怪物男「ここから先はまあよくある話よ。痴話喧嘩がこじれて、その住職をアタシが殺しちゃったの」

怪物男「今でも後悔してるわ……咄嗟に頭に血が昇っちゃって、包丁でめった刺し」

怪物男「さすがのアタシもヤバいと思ったわ。今更隠すなんてことは出来なかったし、刑務所に送られるのは確実……そんなの耐えられないわ」

怪物男「だってそうでしょ?アソコって化粧もオシャレも許されないのよ?正に生き地獄……だから、死ぬことにしたの。だって醜く老いるよりも綺麗なうちに死にたいでしょ?」

怪物男「どうせ死ぬなら男らしく、切腹でもしてやろうかと思ったわけ。この刀はその住職の寺に奉納されてたモノで、話は聞いていたし」ギラッ

怪物男「そしたらビックリ、目が覚めたら切腹したお腹の傷が治ってるわ、刀の声が聞こえるわ……あ、アタシが死人だってこと、言ってなかったっけ?」

怪物男「世の中には不思議なことがあるものね。日頃の行いが良かったせいかしら?」クスッ



屍男「……」

屍男(……聞いてもいないことをベラベラと、誰に向かって喋っているんだこいつは)

屍男(だが、おかげで時間は稼げた。肩の傷は……問題ないな。動ける)グッ

屍男(……今がチャンスだ。やつの気がおしゃべりに夢中になっている隙に、仕留める)



怪物男「一番ビックリしたのが、何と言ってもこの肉体よね。一応、前も運動神経には自信はあったけど、それとは比べ物にならないほど上がっているのよ。石なんて発砲スチロールみたいに砕けるし、跳躍力も屋根を飛び越えるほどあるわ」

怪物男「それに……“ソッチ”のスタミナも驚くほど上がっているのよ。フフッ……五回も出しても全然萎えないのよぉ」テレッ

怪物男「まるで中学生に若返ったみたい……アナタ相手に何発出来るか、楽しみだわ……ん?」チラッ

怪物男「……あら?いない?」キョロキョロ




フッ……




屍男「ッッッッ!!!!!!」シュンッ



怪物男「!?」クルッ

屍男(刀は鞘に収めている。どれだけ斬撃が速くとも、手に取るには0.5秒はかかる)

屍男(その間は無防備だ。武器さえなければ、身体能力は俺の方が上だと、先程の攻防で見抜いたぞ)チャキッ

屍男(弾丸の速度から計算して……この距離なら、やつが手を伸ばす前に着弾する)カチッ


屍男(……終わりだ)




バンバンバンバンバンバンッッッッ!!!!!!!!!!!!

シュンシュンシュンシュンシュン!!!!!!!!!!




屍男「……ッ!?」




怪物男「……ちょっとぉ、ビックリするじゃない。そんな急に来られたら」チャキッ

怪物男「その動き、それにもう動かせないはずの肩の傷が治っている……そういうことね。アタシと同じで……アナタも死者なの?」

屍男(ど、どういうことだ……弾丸が……全て斬られた、だと?)

屍男(……不可能なはずだ。あの一瞬に刀を抜くなど……怪物の反射神経でもあり得ない)



怪物男「その銃も……今のはちょっと危なかったわ。もし、この“刀”がなかったら……また、死んでいたわね。ただの銃じゃないでしょ?それ」




屍男「……ッ」




怪物男「どうして防御が間に合ったのか、そんな顔をしているわね」

怪物男「さっき言ったでしょ?この刀はただの刀じゃない、妖刀だって」

怪物男「この子には意思があるのよ。今、動いたのはこの子の方……アタシは何もしてないわ。自動防御ってやつよ。アタシが何もしなくても、勝手に動いて防御してくれる」

怪物男「つまり、二対一の勝負ってことになるわね。ちょっと卑怯かもしれないけど、文句は言わないでよ?“男の子”なんだから」ニヤァ





屍男(……自我を持つ刀、か。あぁ……これは……)

屍男(……想像よりも、厄介だな)

屍男(……どうする。奥の手である銃は全ての弾を使ってしまった)

屍男(こうなると、この肉体であいつに対抗するしかない。しかし……問題はあの刀だ)

屍男(下手に近付くと、細切れにされるのは確実。四肢を切断されるのもマズい。接合するだけでも完全に再生するには恐らく数分近くかかる)

屍男(しかし、こちらの攻撃手段は近接格闘しかない。あいつを葬るには俺と同じく、再生出来ないほど粉々にするか、脳髄を潰す以外に手段はない)

屍男(……これらの状況から考え得る、生き延びる手段は……)




怪物男「あら?もう撃ってこないの?」

怪物男「それとも、弾切れなのかしら?」




屍男(……戦略的撤退、か)ジリッ

怪物男「あ、もしかして逃げようとか考えたりするの?」

怪物男「そんなのさせるわけないじゃない。アナタみたいな極上の獲物を逃がすなんて、そんなのアタシも、この子も絶対にないわよ」

怪物男「まあ万が一、逃がしちゃったりしたら……アナタを見つけ出して殺す前に、あの一緒にいたメスを殺すわ」

怪物男「アタシ、鼻がいいのよね。匂いを追跡して殺すのくらいわけないのよ?」フフン




屍男「……」

屍男(逃走も許されないか。仕方ない)



屍男「……」グッ



屍男(やるだけのことはやってやる)

怪物男「あら!やる気になったのね!いいわぁ!面白くなってきたじゃない!」スッ

怪物男「さぁ……化け物同士、愛し合って……殺し合いマショウッッッ!!!!!!!」ダッ




ザンッ!!!!!!!!!




怪物男「アハハハハハハァ!!!!!ソレッ!!!!!ソレッ!!!!!!」シュンシュン



屍男「クッ……」バッ

屍男(攻撃する隙が無い……!細かい斬撃の嵐、避けるのが精一杯だ。いや、それでも完全に避けきれているわけではない。僅かにだが、着実に小さい傷は増えている。このままではっ……)

屍男(立て直さなくては……!)




ガッッッッ!!!!!!!!!

パララララララッ!!!!!!!!!




怪物男「っ!?」

屍男(地面を蹴り、コンクリートの破片をぶつける。これで視界は遮られた。この隙に――)



ザシュザシュザシュ!!!!!!!!!



怪物男「アッハァ!!!!!!!」ブンッ



屍男(っ……!?破片を全て斬り伏せただとっ!?)



怪物男「お返しぃッッッ!!!!!!」ブンッ



ダダダダダダダダダッ!!!!!!



屍男「グッ……!!」バッ

屍男(俺と同じように、コンクリートを斬撃でっ……あいつのように、全て防ぐのは不可能だ。前が見え――)



ビシュッッッ!!!!!!



屍男「ッッッ!!!!」ズキッ



ダラッ

怪物男「フフフ……どう?器用でしょ?」ギラッ

怪物男「“皮一枚”……ってやつよ」クスッ




屍男「……」ダラッ


屍男(……右腕を切断されたか。あいつの言う通り、皮一枚繋がっているが……使い物にならないな)グチャッ

屍男(……よし、接合は問題ない。切断面が綺麗で逆に助かった。感覚が戻るまでは多少時間が掛かるが……)


屍男(戦闘続行可能だ)グッ




怪物男「あら、凄いわねぇ……もうくっ付くの?その腕」

怪物男「どうやら、再生能力はかなりのモノを持ってるようね。いいわ、面白いじゃない」

怪物男「どこまで斬り刻んだら再生しなくなるのか……試してみましょうか」ニマァ




屍男(来るッ!)

チャキッ

シュンッ



怪物男「ハァッ!!!!!!」



ビシュッ



屍男(くっ……!こいつ、わざと……!)


怪物男「これならどうッ!?」シュンシュン


屍男(急所をわざと外しているッ……まるでその気になれば、腕、脚をいつでも落とせると挑発しているかのように……!)

屍男(……ッ!今だ!)



ガシッ



怪物男「……っ」グッ



屍男(刃を掴んだッ!よし、これならやつに蹴りを――)


クルンッ

ザシュッ


屍男「ッ!?」バッ

怪物男「フフフ、発想はいいわ。確かに、刃の部分を抑えられたら、こちらは一瞬動きが止まる……」

怪物男「でも、残念。白刃取りってのは両手で芯を固定しないとダメなのよ。片腕なら重心がズレて、簡単に返すことが出来るわ」

怪物男「指、三本貰っちゃったわねぇ」ギラッ



屍男「クッ……」ガクッ

屍男(これは……不味い。両腕共に負傷してしまった。右腕はまだ動かない……)



怪物男「さて、これで腕は潰したわ。次は……」チラッ

怪物男「……脚を貰いましょうかッッッ!!!!!!」ダッ




屍男(……ッ!?脚を狙いに来たか)

屍男(それだけは避けなくては……!身動きが取れなくなってはなす術がなくなるぞ……どうする)

屍男(……俺一人の力では、“やつら”には敵わない。だが、あいつの力なら――可能なはずだ。ヴァンパイアの力なら……)

屍男(助けを呼ぶか?今なら携帯もある。一時的に戦線を離脱すれば……10分もあれば来られる距離だ)

屍男(……だが、やつの前から姿を消すということは――)



『まあ万が一、逃がしちゃったりしたら……アナタを見つけ出して殺す前に、あの一緒にいたメスを殺すわ』



屍男(……)




怪物男「ヒャアッッッ!!!!!!」シュッ




屍男「……ッ!!!」ダッ




怪物男「!?」

怪物男「ちょっ……ここに来て逃げるわけ!?」ダッ




屍男「ッ……!」ダダダッ

怪物男(速っ……ちょ、ちょっと待って。このままだとっ……!!)



屍男「……!!」グルッ




怪物男(まずッ……角を曲がられた。このままだと見失っちゃうじゃない!!!!!)

怪物男「!!!!!」クルッ




怪物男「……」キョロキョロ

怪物男「……」キョロキョロ



怪物男「……いない」



怪物男「……」


怪物男「……」



怪物男「…………チ」

怪物男「チキショオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!あの野郎!!!!!アタシをこけにしやがってエエエエエエエエエエエエええ!!!!!!」ドンドン

怪物男「あんな極上の獲物は滅多にいないってのに……クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」ドンドン






怪物男「ハァッ……ハァッ……」

怪物男「……いいわ。そっちがその気だってなら、地の果てまで追いかけてあげる」クンクン

怪物男「でも手始めに、まずはあのメスから片付けてあげましょうか……悪いのはアナタなんだからね。アタシは警告してあげたんだから」スッ


怪物男「……ん?」クンクン


怪物男(この匂いは……段々近付いてくる……)クルッ







ブオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!







トラック『』

屍男「……ッ!!!!」






怪物男「!?」

怪物男「あ、あっはぁ!!!!いいじゃない!!!!そうこないと!!!!!」チャキッ

屍男(どうだッ……!!いくらお前でも、こいつを斬ることは不可能だッ!!)

屍男(このまま轢き殺してミンチにしてやるッ……!!)





ブオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!





怪物男「ッッッ!!!!!!」チャキッ




シュンッ

ザンッ!!!!!!!!!!!!





屍男「……っ!?」





怪物男「……フッ」スッ






トラック『』カパッ



ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!








パラパラッ……パラパラッ……




怪物男「フフフ……フフ……フフフフフ…………」

怪物男「アーハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!スゴいわ!!!!トラックを一刀両断しちゃうなんて!!!!!この力は最高だわ!!!!!」

怪物男「もうアタシに敵う者なんて存在しない!!!!警察でも軍隊でも!!!!みんなこの剣で捻じ伏せてあげる!!!!!」ギラッ



ボウッ



屍男「ッッッ!!!!!」バッ

怪物男「!?」クルッ


ガシッ

ギチギチ……ギチギチ……


怪物男「……ングッ!?ごのっ……!!」ググッ

屍男「……!!!!」グッ

屍男(このままっ……首の骨を、いや、頭蓋を砕くッ!!!!!)


怪物男「はなッ……うぐッぐ……!!!!」グッ


屍男(腕力は俺の方が上だ。これだけ接近していれば、刀を振り回すことは出来ない)

屍男(死ねッ……!!!!)


怪物男「グゥッ……!!!!ガァッ!!!!!」パッ



刀『』クルッ


ザシュ!!!!!!!!!



屍男「!?」グラッ

屍男(なっ……か、刀が、独りでにっ!?)

怪物男「ハァッッッ!!!!!」シュンッ



ブシュ



屍男「ガハッ……!!」グラッ



バタッ




怪物男「はぁっ……はぁっ……ふぅ」コキコキ


怪物男「ちょっと、焦ったわ。まさか、あの爆炎の中から襲ってくるなんて……想定外だった」

怪物男「でも、それはそっちも同じだったみたいね。最後に教えてあげるわ。この刀は数十センチくらいなら自力で動けるのよ。実戦ではほぼ使えない技かと思ったけど、こんな時に役立つなんてね」




屍男「ガァッ……グッ……」ヨロッ




怪物男「左脇腹に10センチの深さの突き、それに肩から胸にかけての刀傷、それに加えてトラックの炎上に巻き込まれたせいで全身大火傷、普通の人間なら致命傷ね。もっとも、アナタなら時間があれば回復するんでしょうけど」

怪物男「それでも、しばらくはそうやって死んだセミみたいに横たわるしかないってところね。これで決着よ」

ドクドクッ……ドクドクッ……


屍男(血が……止まらん。体も……動く気配がない)

屍男(これは……もう打つ手がない、か。意識が……遠くなってきた)



怪物男「安心しなさい。苦しい思いはさせないわ。今からその首を落としてあげる」

怪物男「あぁ……アナタは本当にいい男だったわ。殺しちゃうのが惜しいくらい。惚れちゃったかも」ポッ

怪物男「……フフフ、殺した後はたっぷりと犯してあげるわ。首も、下も……全部可愛がってあげる」



屍男「……」ピクピクッ



怪物男「じゃあね。色男さん」スッ

屍男(……刃が、迫ってきた。今回ばかりは……駄目か)


屍男(あぁ……前にも、似たようなことがあったな……あの日、狩人と戦った夜だ……)


屍男(あの時は……どうだったか。確か、手榴弾で全身をズタボロにされ……次に意識を取り戻した時は……拳銃を握っていた。目の前には……無防備な狩人が)


屍男(一体、誰が――あの狩人をあそこまで追い詰めた?)




ドクンッ





屍男(……いや、そんなのは決まっている。俺が、俺がやったんだ。あの狩人を殺そうとしたのは)


屍男(……あの日、死の瞬間に掴みかけた記憶、その持ち主の……“俺”が)




ドクンッ




屍男(……このままでは、俺は死ぬ。いいのか、それで)


屍男(何も……成し遂げていないじゃないか。“俺”は……何も……)




ドクンッ

屍男(そうだ、俺は無力だ。だから……救えなかった)



ドクンッ

ザッ……ザザッ……



屍男(あの日、あの時、俺は……救えなかった。彼女を、彼女たちを……俺は……)




ザザザザザザザッ……

ザザザザザザザッ……



屍男(……?待て、誰だ。その彼女とは……これは……誰の記憶……)




カチッ……

クルクルクル……







■■■『まったく、君はいつもそんな感じだよね』

■■■『私が――いないとほんとダメなんだから』

■■■『ね?――――』





屍男(――あぁ、そうか)

屍男(思い出した。全部。そうだ……これは……)




『いてえええええええええええええええええええ!!!!!!!!』

『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!殺すうううううううううう!!!!!!ぶっ殺すううううううううう!!!!!』

『死ねエエエエエエエエエエエええええ!!!!!!!!』




屍男(――この声の持ち主も)

屍男(そうだ…………俺は…………)









ドクンッ!!!!!!!!!







シュウウウウウウウウ……



怪物男「……ん?」ピクッ




屍男「」プシュー




怪物男「……?身体から……蒸気みたいなのが出てるけど、何それ?」

怪物男「隠し芸か何か?それとも、まだ最後の切り札があったりするのかしら」



屍男「」プシュー

屍男「」シュゥゥ



怪物男「!?」ゾクッ

怪物男(ッ……!?傷が……再生している?それも、信じられないスピードで……)


怪物男(これはっ……まずいッ!!!!)シュッ

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!



怪物男「きゃっ!!!!!」バッ

怪物男(ウソッ!?何コレッ!?蒸気で前が見えない!!!!)


怪物男「クッ……このッッ!!!!」チャキッ




ザンッ!!!!!!!!!!!!


シュウウウウウウウウ……




怪物男「……いない?どこに消えたの?」キョロキョロ

クンクン

怪物男「……!!」クルッ

ザッ……ザッ……

シュウウウウウウウウウ……

スゥ






屍男「」









怪物男「…………」チャキッ

怪物男(……変わった?)

今日はここまで
再開までまたずいぶんと時間がかかりましたね…ごめんなさい
次の更新で分かると思います

怪物男「一体、何をしたの?その肉体……さっきと比べたら、ずいぶんダイエットしたように見えるけど。身長も伸びてるし」

怪物男「しかも、あの大怪我が全て完治している……どんな手品を使ったのかしら」




屍男「」




怪物男「……返答なし、ね。そもそも意識があるのかも怪しいけど」

怪物男「アナタ、鏡を見てみたら?その僅かな肉と骨だけしか残ってない姿。正真正銘の化け物よ」


怪物男(筋肉を燃焼させて、そのエネルギーを治癒力に回した、ってところかしら。あんな肉体だとまともに動くことすらも出来ない欠陥形態、本当に追い詰められた最後の手段ってところね)


怪物男「ふん……いいわ。アタシ好みの顔じゃなくなったけど、その最後まで醜くも足掻く、勝利に飢えた姿は嫌いじゃないわ」

怪物男「でも、しつこい男は嫌われるわよ?大人しく……死になさいッッッ!!!!!!!」チャキッ

シュンッ



屍男「」サッ



怪物男「!?」

怪物男(なっ……!?この一太刀を避けた!?)



屍男「」グッ


シュンッ

ドゴォ!!!!!!!!


怪物男「ゲボアァッッッ!?」ボゴォ



ドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!



怪物男「ギャッア!!!!グガアラッッ!!!!」ボコボコ

怪物男(こ、この殴打はッ……!?速いッ!!)

怪物男(このままだとッ……このぉ!!!!!)ブンッ

ザンッ!!!!!!!!!!!!



屍男「」サッ

屍男「」シュンシュンシュン



怪物男「ハァッ……ハァッ……グッ……」ズキッ

怪物男(な、に……今のは……これまでとは桁違いの速さ、アタシの最速の剣に並んでもおかしくないくらい……)

怪物男(なんで……こんな考えられない程の成長を、変化……!!)

怪物男(まさか、あの肉と骨だけの姿、あれは治癒能力を上げるだけじゃない。アタシに対抗するための手段……)

怪物男(……信じられないわね。とても人間業とは思えないわ。まあもう人間じゃないんだけど……肉を削ぎ落としてスピードを上げるなんて)



屍男「」グッ

怪物男「……ッ」チャキッ


怪物男(来る。いいわ、いいわ……興奮してきたわ。滾る、漲る、沸騰する。この全身がまるで勃つような感覚……あぁ、最高)

怪物男(セックスでは決して味わえない快感。やっぱりアナタは最高よ!!!!!今すぐアタシのモノにしてあげる!!!!!!)




屍男「」シュンッ



怪物男「バァッ!!!!!!!」シュンッ




ザンッ!!!!!!!!!!!!




屍男「」スパッ




怪物男(……ぃよしッ!攻撃もこの子に任せれば、真っ向から対面しても、アタシの方が疾イッ!!!!)

怪物男(このまま斬り刻んであげるッ!!!!!!)

屍男「」ガシッ

屍男「」ブンッ




パララララララッ!!!!!!!!!



怪物男(また地面のコンクリートを砕いて投げつけてきた?フン、それはもう通用しないって分からないのかしら)チャキッ




屍男「」シュンッ

パララララララッ!!!!!!!!!




怪物男「……ッ」

怪物男(……なるほど。石礫と同時に攻めることで、左右から不可避の攻撃ってことか)

怪物男(考えたじゃない。でも……まだこっちには見せてない奥の手があるのよ)ニヤッ



怪物男「一閃“千手”」チャキッ

ヒュンヒュンッ

ズババババババ!!!!!!!



屍男「」ザンッ



怪物男「こっちにも広範囲用の必殺技はあるのヨォ!!!!さァ!!!!これで終いにしましょうか!!!!!」チャキッ

怪物男(アタシの……アタシ達の剣術の中でも、最速、最強の剣、見せてあげるわ。今まで数多の強者を葬ってきた必殺術……!!)



怪物男(瞬閃“明王”)






屍男「」グルッ

屍男「」グチャッ





プシャーーーーーー!!!!!!!!




怪物男「!?」バッ

怪物男(口から血飛沫!?前が見えッ……この量、自分で舌を噛み切った!?)



シュンッ

グチャッ



怪物男「ガハッ!?」ビチャッ

屍男「」


ピチャッ……ピチャッ……


怪物男(い、いつの間に背後にィッ……腹を貫かれて……)

怪物男(ま、まだヨオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!)


チャキッ

ヒュンッ


怪物男(超接近戦用必殺術!!!!一閃“金剛”!!!!!!この距離なら回避は不可能!!!!そしてアタシの剣の方が速い――勝ッ)




シュンッ

グチャッ



クルクルッ




怪物男(――――え?)

怪物男(ど、どうして……宙を舞ってるの?)






怪物男『』プシュー






怪物男(あ、あれって……)






怪物男「アタシの……カラ…………ダ…………?」






ゴトッ

スタスタ スタスタ




屍男「」




怪物男「……ま、まさか……こんなことになるなんて…………」

怪物男「そ、その腕…………そ、そういうこと、ね。僅かに残っていた肉すら全て削ぎ落として、骨だけに、して……アタシの剣の速さを超えたの……ね……」




屍男「」




怪物男「か、完敗だわ…………アタシの……敗け、よ…………」

怪物男「ねぇ…………さ、最後に……お願いがあるの。聞いてくれる…………?」




屍男「」









怪物男「アタシを、犯して?」









グチャッ!!!!!







屍男「」ベチャ




屍男「」スタスタ






カタカタ……カタカタ……







刀『』カタカタ





屍男「」




刀『』カタカタカタカタ

刀『』カタ




グシャンッッッッ!!!!!!!!!!



パラッ……

屍男「」チラッ






怪物男『』






屍男「」キョロキョロ



屍男「」



屍男「」カパッ








グチャッ……グチャッ……グチュグチュ……クチャッ








ゴクンッ







………………………………………………
…………………………………





吸血娘「そういや、今日はやけにハゲの帰りが遅いな。もう帰ってきてもいい時間なのに」チラッ

吸血娘「残業でもやってのかな。あいつのバイトにそんなのあるか知らんけど」




ガチャッ




吸血娘「あっ、帰ってきたか」クルッ

吸血娘「おい、遅いぞ!どこで道草食って――」




屍男「……」ボロボロ




吸血娘「!?」ビクッ

吸血娘「なっ……どうしたっ!?めっちゃボロボロじゃん!!親父狩りにでもあったか!?」

吸血娘「それとも毛刈り隊か!?あ、でもハゲが毛刈り隊に襲われるってのはおかしいか。とにかく!何があったんだよ!?」



屍男「…………」

屍男「……思い出したんだ。全て」




吸血娘「……は?思い出した?何を?」




屍男「…………」

屍男「……いいか、よく聞け」











屍男「お前の父を殺したのは俺だ」

屍男「俺が“Shadow”だ」









今日はここまで
「カゲ」は「ハゲ」です

吸血娘「…………」

吸血娘「……は?」


吸血娘「な、何言ってんだお前……頭大丈夫か?どこか打ったんじゃないの」

吸血娘「自分がShadowだなんて……そんな……じょ、冗談でも許さんぞ」



屍男「…………」



吸血娘「な、なぁ……本当に大丈夫か?お前、今日はもう寝た方がいいぞ。な?」

吸血娘「ほら、肩貸してやるから、一人で歩けるか?」スッ

屍男「お前の一族の弱点は銀だ。純銀製の弾丸を心臓に撃ち込めば、アレルギー反応を起こし死に至る」



吸血娘「……っ!?」

吸血娘「な、なんで…………そのことを…………」

吸血娘「わ、私は……一度も話したことないのに……」



屍男「なぜ知っているかだと?実際に試したからだ」

屍男「お前の父に、銀の弾丸を撃ち込み、その身を灰にしたのだからな」

屍男「これで分かったはずだ。この情報は殺した本人にしか知り得ない。俺がShadowという確固たる証拠だ」

吸血娘「そ、そんな……う、嘘だ……そんなこと……」

吸血娘「な、何かの……何かの間違いだ……」



屍男「お前も気付いているはずだ」

屍男「自分の父が失踪した日と、俺が現れた時期が重なっていることに」



吸血娘「う…………あ…………」

吸血娘「お、お前が…………パパを…………殺した…………」

吸血娘「こ、殺した…………殺した…………」

吸血娘「…………」




吸血娘「ッッッッッッ!!!!!!!」バッ



ドサッ



吸血娘「こ、殺す……!!!!殺してやる……!!!!!」フーッフーッ

屍男「好きにしろ。お前にはその権利がある」

吸血娘「殺す……!!殺す……!!」ギッ


グググッ……


屍男「……」


吸血娘「フッー……!!フーッ……!!」グッ

吸血娘「う、ぐぅぅ…………」ポロッ


屍男「……どうした。さっさとやれ」

吸血娘「な、なんでだよ……な、なんで……よりによって……私のパパだったんだ……!」ポロポロ

吸血娘「他に……他にも!!!!悪党はいただろ!!!!なんで私のパパを殺したんだ!!!!!」



屍男「……」

屍男「順番なんてものは関係ない。ただ、お前の父は人間の社会に影響を及ぼしかねない存在だった」

屍男「だから殺した。それが俺の役目だったからだ」



吸血娘「っ!!!!」

吸血娘「…………消えろ」バッ

吸血娘「今すぐ!!!!私の!!!!目の前から消えろ!!!!!」



屍男「……殺さないのか」



吸血娘「いいから出てけええええええええええ!!!!!!!」



屍男「……」スクッ



ガチャ

バタンッ



吸血娘「う、うぅっ…………くうぅっ……」ポロポロ

吸血娘「な、なんで……なんでこんなことに……」ポロポロ

吸血娘「どうして……どうしてっ……あいつが……!」


吸血娘「う、うわああああああああああああ!!!!!!!ああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

………………………………………………
………………………………



屍男「……」

屍男「……」



チュンチュン……チュンチュン……



屍男「……」チラッ

屍男「……もう朝か」


屍男「……」


屍男(あれだけ、あれだけ心に刻み込んだはずなのに。俺は……全てを忘れていた)

屍男(恐らく、記憶を失った原因は……あの時だ。あの戦いで、最後にあいつの父、噛み殺し公が放った光)

屍男(ヴァンパイアが使う記憶消去の力だ。しかし……)

屍男(俺は間違いなく、噛み殺し公には勝ったはずだ。帰路の途中までは覚えている。問題は……ここからの先の記憶が戻ってない)


屍男(……俺は、一体誰に殺されたんだ?)

…………………………………………………
………………………………



後輩女「お疲れさまでーす」


後輩女(……センパイ、今日は来なかったな。しかも、連絡も何もなかったみたいで、バイトをばっくれるなんて)

後輩女(私からメール送っても返事来ないし……しかも、姪さんの携帯にも繋がらない。これってもう……絶対に何かあったよね)

後輩女(……家、寄ってみよっかな)



スタスタ スタスタ



後輩女「……」ポチッ




ピンポーン

シーーーーン




後輩女「……」

後輩女「……いない。人の気配も感じないし、留守なのかな」

後輩女(……何があったんだろ。センパイ……)



スタスタ スタスタ



後輩女「……」


後輩女(なんだろ。何か分からないけど……胸騒ぎがする)

後輩女(もし、ここでセンパイと出会えなかったら、一生会えないような……そんな感じが)

後輩女(何か……どこか、行きそうな場所の手掛かりとかないかな。どこか……)

後輩女(……ダメだ。見当もつかないや。そういえば私って……センパイのことを何も知らないんだな。好物も趣味も、何も知らない)

後輩女(……こんなのでちょっと仲良くなった気になってたなんて、笑っちゃうよね)

スタスタ スタスタ



後輩女(そういえば、この坂を下りる道の途中に……公園があったっけ)

後輩女(……まあ、いないと思うけど。一応覗いてみよっかな)スッ






屍男「……」






後輩女「……」



後輩女(い、いたーーー!!!!)

後輩女「セ、センパイ!!!!」



屍男「……」チラッ

屍男「あぁ……お前か。どうした」



後輩女「ど、どうしたじゃないですよ!センパイの方こそどうしたんですか?バイトはバックレるわ、連絡は繋がらないわ……心配したんですから!」



屍男「……そうか。すまなかったな」



後輩女「何かあったんですか?こんな夜中の公園で佇んで……まさか、今日ずっと家に帰ってないんですか?」



屍男「……」



後輩女「マ、マジですか……姪さんと喧嘩でもしたんですか?」



屍男「……そんなところだ」

後輩女「やけに格好がボロボロですけど……それも喧嘩ですか?」



屍男「……あぁ」



後輩女「……」

後輩女「もしかして、今日は泊まるところなかったりします?」



屍男「……そうだな」



後輩女「……私の家に来ますか?」



屍男「……遠慮しておく」



後輩女「いや、さすがにこのままだと見逃せませんよ。最近冷えてきましたし、風邪ひきますよ?それに……」

後輩女「……センパイ、失礼ですけど、だいぶ臭います。お風呂入った方がいいです」



屍男「……」クンクン

屍男「……」

ガチャ


後輩女「はい。狭いですけど、どうぞ」

後輩女「シャワーはそっちの左の部屋にあるので、さっさと入っちゃってください。着替えはこっちで用意しておくんで」



屍男「……すまないな」スッ




シャワアアアアアアアアアアアアアア……




後輩女「……何があったんだろ。家にも帰れないほどの喧嘩って……しかも、その家にも姪さんはいなかったし」

後輩女「……まあいっか。あんまり人の家の事情に首を突っ込むのはよくないよね」

後輩女「センパイ。服洗濯しておくんで、着替えの服、ここに置いときますねー」

後輩女「お兄……兄が泊まりに来た時に忘れていった物なので、サイズがちょっと合わないかもしれないですけど」




『……あぁ、助かる』




後輩女(……この服、何かところどころ破れてるな)

後輩女(いや、破れてるってより……切られてる?)

シャワアアアアアアアアアアアアアア……



屍男「……」

屍男「……」スッ

屍男「……まさか、あれほど忌み嫌っていた異形に自分が成り果てるとはな。皮肉なものだ」

屍男「俺は……これからどうする?」




ガチャ

スタスタ スタスタ



屍男「……すまないな。世話になった」


後輩女「いいですよー別に。今、晩ご飯作ってるところなので、良かったら食べて行ってください」

後輩女「センパイって、どのくらい食べられますか?男の人ですし、多めに作ってるんですけど」


屍男「……まあ、結構食べる方なんじゃないか」

モグモグ モグモグ




後輩女「」ポカーン




屍男「」モグモグムシャムシャバクバク


屍男「」ゴクゴク


屍男「……何か付いているか?」



後輩女「あっ、ごめんなさい。予想の3倍くらい食べるんで、ちょっと見惚れてました……」



屍男「……すまない。少し自重する」



後輩女「い、いえ!全然大丈夫ですよ!あ、おかわり持ってきますね!」ダッ



屍男「……」グッ


屍男(……だいぶ、肉付きが戻ってきたな。あの“飢餓”の形態は消費が激しい。使った後、即座にエネルギーを摂取しなければ、また数日寝込むことになるということか)

屍男(……“一人”では足りない程のエネルギーか)

後輩女「そういえばセンパイ聞きました?この近くで、トラックの炎上事件があったらしいですよ」


屍男「……」ピクッ

屍男「……いや、知らないな」


後輩女「幸い、怪我人はいなかったみたいですけど。その周辺でも何者かが争ったみたいな形跡があったみたいで、噂になってるんですよ」

後輩女「怖いですよねぇ……ちょっと前にも通り魔とかありましたし」


屍男「……」






後輩女「じゃあ、私はこっちのソファで寝るんで、センパイは私のベッド使ってください」

屍男「……いや、それはさすがに悪い。俺がソファでいい」

後輩女「ダメですよ。お客様なんですし、センパイずっとあそこの公園にいたんでしょ?ちゃんとした場所で寝ないと」

屍男「……俺は狭いところの方が落ち着いて寝られるんだ。こっちの方が都合がいい」

後輩女「え?そうなんですか?」

屍男「あぁ、だからソファにしてくれ」

後輩女「そこまで言うなら……分かりました。じゃあおやすみなさい。ゆっくりしてくださいね」カチッ




スタスタ スタスタ




屍男「……」ゴロン






後輩女「よいしょっと」ゴロン

後輩女「……」

後輩女(な、流れではあるけど……ま、まさか……センパイを家に泊めることになるとは)


後輩女「~~~~~!!!!!」バタバタ


後輩女(ど、どうしよう!どうしよう!な、何か……!この一晩で過ちが起きてしまったら……!迫られてしまったら……!!)



後輩女「……」



後輩女(なーんて、センパイがそんなことするわけないか。その辺の男ならともかく、絶対そんなことしないし)

後輩女(はぁ、アホな妄想してないで寝よ……おやすみなさい)



後輩女「…………Zzz」

………………………………………………………
………………………………………



屍男「……」



屍男(……やはり、眠れないな)スクッ

屍男(どうしても、思い出してしまう。今までの反動で……走馬燈のように、これまでの人生が)

屍男(……だが、違和感がある。死の瞬間の他にも、まだいくつか戻っていない記憶がある)

屍男(それも、何かに関連付けられた記憶が……これは一体なんだ?)




ピピッ




屍男「メール?一体誰から――」

屍男「……っ」







『7日後、下記の画像の場所に一人で来い。お前に一対一の決闘を申し込む。手加減なんかしやがったら死んでも許さない』






屍男「……そうか、決心したか。それでいいい」

屍男「……ならば、俺も応えてやる。全力でな」スッ



………………………………………………………………
……………………………………………


後輩女「う、うへへへ……こ、こんなところで……だめですよ……しぇんぱい……」ゴロンッ

後輩女「…………ん」パチッ


後輩女「ふわぁ……あーよく寝た」


後輩女「そうだ、今日はセンパイが泊まってるんだった。急いで朝ご飯の支度しないと」スッ




スタスタ スタスタ




後輩女「……あれ?」




シーーーーン





後輩女「センパイが……いない?」

後輩女「トイレ……ではないよね。明かり付いてなかったし」キョロキョロ

後輩女「……ん?これって、手紙?」スッ




『すまない。突然だが用事が出来た。このような形で悪いが、別れを告げさせてもらう』

『悪いが、服はそのまま貰って行く。これは少ないが、代金だと思って受け取ってくれ』

『店の方にバイトは辞めると伝えてくれ。恐らく、もう二度と戻ることはないと思う』

『最後に、色々迷惑をかけてすまなかったな。礼を言う』




後輩女「!?」

後輩女「え……バイト辞めるって、それに二度と会えない……?」

後輩女「……っ!!!!」ダッ




ガチャ

タッタッタ タッタッタ




後輩女「……!」キョロキョロ


後輩女「い、いない……そんな……」


後輩女「セ、センパイ…………」

今日はここまで

………………………………………………
…………………………………



プルルルルルル……

ピッ



魔女「はいもしもし?珍しいわね。ゾンビくんがこっちに電話かけてくるなんて」

魔女「何かあったの?」



『……一から話すのも面倒だ。単刀直入に言うぞ』

『今から送るリストにある品物を揃えてほしい。お前なら簡単に入手出来るはずだ』



ピピッ



魔女「え?リストって……これかしら?」カチッ

魔女「……っ」



『察したか?』

魔女「……えぇ。そうね、まあ……何となくは状況を理解したわ」

魔女「ってことは……戻ったのね。記憶が」



『理解が早いな。お前なら……何となくは気付いていたんじゃないか』



魔女「まさか、そこまで私もエスパーじゃないわよ」

魔女「でも……可能性の一つとしては……考えていたわ。だって、まるで入れ替わるように現れたもの。あの子の父親の生まれ変わりみたいに」

魔女「まあ現実はそこまで綺麗なものではなかったみたいだけどね。その逆、血が血を呼ぶ因果の連鎖……嫌になっちゃうわ、もう」



『…………』

魔女「これ、誰が言い出したの?」



『……提案したのはあいつだ』



魔女「……そう、ドラキュラちゃんも……つらいでしょうに、強いわね。あの子は……」

魔女「ゾンビくん、一つ聞かせて?アナタは……ドラキュラちゃんを殺す気なの?」



『……それを決めるのは俺ではない。あいつ自身の力だ』

『手を抜くなと言われているからな。なら俺も……死力を尽くす。全力で戦う』



魔女「……」

魔女「分かったわ。道具は揃えてあげる。期限はいつまで?」

『あと5日だ』



魔女「5日か……いいわ。私が直接届けに行ってあげる。でもゾンビくん、一つ条件があるわ」



『……条件?』



魔女「いくら私でも無償でこれらの道具を揃えてあげるのほどお人好しじゃないわよ。これはビジネス、相応の対価を支払ってもらわないと」

魔女「そうね、金額にすると大体……」



『生憎、今は持ち合わせがない。だが、金より価値のあるものをやる』



魔女「……何かしら?それって」



『情報だ。俺がこれまで狩ってきた標的に関する情報を誰でもいい、三人までの詳細を教えてやる』

『その種族、特徴、弱点、親戚に至るまで全てを』



魔女「……!」

『お前ならこの情報がどれだけの価値があるか分かるはずだが、どうだ』



魔女「……いいわ。取引成立よ」



『では知りたいやつの名前のリストを送ってこい。届き次第こちらから送る』



魔女「いいの?商品との交換じゃなくて、私がその情報を持ち逃げするかもしれないのに」



『俺とお前の仲だ。そこは信頼している。それに』

『……俺を敵に回すほど。お前も愚かではないだろう』



魔女「……」

魔女「……さすが、伝説の狩人って言われることだけあるわね」

魔女「了解、じゃあ私は急いでかき集めてくるからこれで。詳細はまた後で連絡するわね」



『……あぁ、待っている』



プツッ

ツーツーツー



魔女「……ふう」

魔女「……はぁ、まさか……こんなことになるなんて」

魔女「運命ってほんと、痛い程残酷。まあそれは私が一番よく知ってるか……あの占いも外れてほしかったんだけど」

魔女「さて、これから忙しくなるわね。ゾンビくんから送られてきたこのリスト……」チラッ

魔女「……私でも、半分くらいしか用途が分からない。でも、これが……完全なヴァンパイア殺しの布陣、恐らく噛み殺し公を狩った時と同じ装備」

魔女「……ドラキュラちゃんが勝てる確率は相当低いわね。いえ、このままだとまず間違いなく負ける」

魔女「……それでも、復讐の道を選ぶのね。あの子は」



プルルルルルル……



魔女「あら?また電話?」

魔女「ん?この番号って……」

…………………………………………………………………..
…………………………………………..



吸血娘「……」

吸血娘(……時間か)




スタスタ スタスタ




屍男「……」スッ




吸血娘「来たか」スッ

吸血娘(……全身黒ずくめ、顔もガスマスクみたいなのを被って判別できないけど、間違いなくあのハゲだ)

吸血娘(それがお前の正装ってやつかよ。全く……文字通りの影みたいなインキャ野郎だ)




屍男「……」




吸血娘(本来のあいつ自身はそんなに強いってわけじゃない。再生力と怪力が厄介ってだけで、能力としては私の方が上だ)

吸血娘(でも、狩人にとっての一番の武器は知識と経験……つまり、今まであいつは牙どころか、四肢をもがれた状態と言ってもいい。最強の狩人である『Shadow』の弱点は人間だったこと)

吸血娘(人間なら……少なくとも、その首をかっ切れば死ぬんだからな。でも、今のあいつは……死すらも超越した怪物、正真正銘の不老不死の化け物だ)

吸血娘(……ふっ、あぁ、でもあいつもハゲだけは克服できなかったか。不老不死じゃなくて不毛不死だったな)


吸血娘(……私も、克服する。あいつも、父も……自分すらも乗り越えないと、絶対に勝てない)


吸血娘(大丈夫、勝機はある。針に糸を通すような僅かなものだけど、決して圧倒的に不利ってわけじゃない)

吸血娘(……あいつとこうやって対峙するのはいつ以来だったかな。確か……そうだ、あの夜、狩人を逃がした日以来か)

吸血娘(あの時は時間切れってことで、勝負はつかなかったけど……今日はそうじゃない)


吸血娘(……決着をつけてやる。この運命に)

吸血娘「……」




屍男「……」







魔女「……」ヒョコッ

魔女「あの二人を巡り合わせたのは私だもんね。盗み見するようで悪いけど、見届けなくちゃ」


魔女(この時間帯、そして町はずれにある廃墟、ここなら誰にも邪魔されることなく、思う存分にやれるわね)

魔女(本来なら、ドラキュラちゃんが圧倒的に不利。そりゃそうか。体格、筋肉、経験、知識、技術、全てにおいてドラキュラちゃんは劣っている。唯一負けてないものは……覚悟ってやつくらいか)

魔女(……この戦いで間違いなく、勝者と敗者が決定する。生き残るのはどちらなのか)

魔女(……その果てに何があるんでしょうね)

吸血娘「……」グッ




屍男「……」スッ






魔女(……始まるわね)

魔女(合図なんていらない。お互いの呼吸が重なった時が、始まりのサイン)






ヒュゥゥゥゥゥゥ……





ウゥゥゥウゥゥゥゥ……





ゥゥゥ……

吸血娘「……」






屍男「……」








吸血娘「ッッッッッ!!!!!!!!!!」ダッ








屍男「ッッッッッ!!!!!!!!!!」ダッ

今日はここまで
これが最終決戦です

更新が空いてしまってごめんなさい
現在PCの調子がおかしくなってしまって復旧中です…少し時間がかかりそうです
あともうちょっとで完結なのですが終わった後に大事なお知らせをさせてもらいます

スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!



吸血娘「……!!!!!」スッ



吸血娘(あいつには私の弱点が既にバレている。『銀』これが私の一族の弱点、銀で攻撃された傷は治らない)

吸血娘(他の武器でのダメージは肉体を一度霧化して、再構築し直せば元に戻る。ヴァンパイアってのは生身をバラバラにしても、欠片さえ残っていれば数十秒は意識がある)

吸血娘(その間に霧化すれば、与えられたダメージは全て回復する。これが不死身と言われている所以だ)

吸血娘(でも、これはあくまで通常の攻撃での話。銀で傷付けられると、この方法でも癒えることはない。人間のように時間をかけて自然回復はするけど)

吸血娘(つまり、もし生身の状態で銀で出来た武器に致命傷を与えられたら……待ち受けるのは死だ。これがヴァンパイアを殺す唯一の方法)

吸血娘(……でも、対策は出来る。簡単な話だ。霧の姿なら物理的にダメージを与えることは出来ない)

吸血娘(だからこうやって……ギリギリ刃を通さない、固体と気体の中間になるように調整すれば、銀によって死ぬことはない)

吸血娘(まあ、こんなのは向こうもとっくにご存知のはずだ。そもそもこのスタイルはヴァンパイアの基本戦術なんだからな。現にパパはあいつに殺されている)

吸血娘(つまり、この形態でもあいつは何らかの手段を用いて、攻撃を通せるということだ)

吸血娘(……常に銃口を向けられていることを意識しろ、か。まさにその通りだな)



吸血娘「ハァッ!!!!!」ブンッ



吸血娘(あのガスマスクみたいなのは間違いなく私への対策の一つだ。あのままだと霧を体内に送り込んで、破裂させる手は使えない)

吸血娘(まずはあれをぶっ壊す……!!!!)






魔女「……いきなり近距離戦ね」

魔女「確かに、あのゾンビくんの格好はドラキュラちゃんの霧と眷属を対策したもの。まずはあれをどうにかしないと決め手に欠ける」


魔女「でも、ちょっとまずいわね」


魔女「あの距離は……ゾンビくんの最も得意とする射程だもの」




屍男「……」スッ



吸血娘(っ!!あいつの攻撃が来る!!!!)



屍男「……」チャキッ



吸血娘(……なんだ?あれは……拳銃、じゃない。玩具の……水鉄砲?)



ビシュッ



吸血娘「――!?」ゾクッ

吸血娘(あ、あれはっ……ま、まずい!!!!!!)サッ



ビシャ!!!!!

吸血娘(な、なんだあの水鉄砲……何も変哲もない、ただの水鉄砲のはずなのに……は、反射的に身体が動いた)

吸血娘(ほ、本能的に悟った。あれは……当たるとまずい。今の霧の姿でも……通用する)

吸血娘(……ッ!ならこれでどうだ!!!!)



スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!





屍男「……」キョロキョロ





魔女「……完全に霧の姿になったわね。ここからだとゾンビくんの姿が視認できないほどの濃霧が発生してる」

魔女「……さて、ゾンビくんはどうするのかしら」

スゥゥゥゥゥゥ……





屍男「……」ピクッ




シュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!




屍男「……」ググッ




吸血娘(霧と一体になった私ならば、どんな攻撃も通用しない)

吸血娘(それに全ての角度、360°からの攻撃が可能、こうやって、周辺の濃度をコントロールすれば……全身を締め上げることも出来る)

吸血娘(どうだ……!!この状況をどうにかできるならやってみろ……!!!!)




屍男「……フッ」ググッ

屍男「……ずっと、待っていた。お前が完全に霧の姿になるのを」

屍男「中途半端な状態では、完全にこれを吸収出来ないだろうからな。気付かなかったのか?追い詰められているのは……お前の方だ」




パリンッ

シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……




吸血娘(……なんだ?何かが割れた音?それに、追い詰められているのは私の方だと?)

吸血娘(一体、どういう――)





ドクン!!!!!!!!!

吸血娘(!?)ビクッ

吸血娘(なっ……な、なんだ!?これ!?)

吸血娘(く、苦しいっ……霧の姿なのに、まるで全身が縛り付けられているような感覚だッ!!)



シュゥゥゥゥゥゥゥ…………



吸血娘(っ……!?)

吸血娘(ど、どうなってる!?私の肉体が……元に戻りつつある)

吸血娘(なっ……こ、このままだと……!解除され……!!)



シュンッ



吸血娘「はぁっ……はぁっ……」スゥ

吸血娘「なっ……なんだと」キョロキョロ

吸血娘「も、戻った……?」

屍男「……」



吸血娘「お、お前……!一体何をした!?」



屍男「……簡単な話だ。お前の霧化の能力は自身を細胞レベルまで分解し、それを拡散することで起きる現象だ」

屍男「一見、無敵のように見えるがそうではない。攻撃面では優れているが、防御に至っては無防備もいいところだ。所詮は当たらないようにしているにしか過ぎない」



吸血娘「……ッ!」グッ

吸血娘「!?」ハッ


吸血娘(ど、どうなってる……霧になれない!?)

屍男「今、俺が散布したものは対ヴァンパイア用のガス兵器だ」



吸血娘「ガス……兵器だと?」



屍男「霧の姿ではこれを防ぐ術はない。同じ領域の攻撃なのだからな、回避も防御も不可能だ」

屍男「これに霧状になったヴァンパイアの細胞が接触すると、拒否反応が出る)

屍男「もっとも、このガス自体は致死性の猛毒でも、強力な神経ガスでもない。そんなもので殺せたら苦労はしないからな。起爆装置のようなものだ」



吸血娘「き、起爆装置だと……」



屍男「このガスの効果は二つある。一つはヴァンパイアの細胞に有毒と錯覚させる、ということにある」

屍男「錯覚した細胞は自己を防衛しようと毒を分解しようとする。しかし、霧のままでは不可能だ。一度元の姿に戻らなければ免疫は働かない」

屍男「これにより、霧が自動的に解除される。そしてここでもう一つの効果が発生する」

屍男「細胞の一つ一つに接触したガスは細胞内で一種の凝固剤のように固まる。再び霧に戻れないようにな」



吸血娘「……!?」



屍男「これでお前はもう霧化の能力を使えない。少なくともこの戦闘の間は」



吸血娘(クッ……な、なんてものを用意してやがったんだ。きっとパパも……このガスにやられたんだ)


吸血娘(……ッ!)スゥゥ


吸血娘(全身は霧化出来ないけど、一部なら……可能だ。ガスの効きが悪かったのかどうか知らんけど、不幸中の幸いだな)

吸血娘(でも……どうする。私の最大の武器が封じられた。まさか……こんな兵器を使ってくるなんて、思いもしなかった)ギリッ

吸血娘(腐っても、伝説の狩人の名は伊達じゃないってことか)

屍男「……貴様はまだ、自分の立場が理解出来ていないようだな」



吸血娘「……は?なんだと?」



屍男「その目はまだ勝機があると信じている目だ。自分の立場も客観的に評価出来ていない愚か者が」

屍男「同格以上の相手と戦った経験はあるか?自分を最強であると信じ込み、ピラミッドの頂点だと勘違いし続けた結果が今のお前だ。世界の真理を知らん、甘っちょろいガキだ」

屍男「教えてやる。今使ったこのガス兵器は俺が開発したわけではない。数世紀も前に産み出されたものだ」

屍男「俺はただ、その残された文献を探し出し、再現しただけだ。ヴァンパイアは不老不死の生物でも何でもない、対抗策は遥か昔からいくつも存在する」



吸血娘「……!?」

屍男「なぜヴァンパイアの数はこの21世紀にここまで減ったと思う?なぜ世界でこれだけの人類が繁栄していると思う?なぜお前達人為らざる者はその身を影に潜めている?」

屍男「世界の支配者はヴァンパイアでも、他の何者ない。ヒトだ、人類こそが、この星の頂点に立つ存在だ」

屍男「お前達は淘汰された存在なんだよ。ヒトに敗れ去り、歴史から葬り去られた哀れな種、それがヴァンパイアの正体だ」



吸血娘「……っ」



屍男「人外も怪物も幽霊も、全てはヒトの力に比べたら矮小なものだ。そして、その人の身すらも捨て、怪物に成り果てた俺にすらも……貴様は及ばない」

屍男「いつまで自分が上だと思い込んでいる?少しはそのくだらん自尊心を捨てろ。まともな勝負にしたいのならな」



吸血娘「……ぐっ」ギュッ

今日はここまで
やっと復帰出来ました

吸血娘「え、偉そうなこと言いやがって……てめえだって上から目線だろうが!!!!何様のつもりだ!!!!」



屍男「いいや、違うな。俺はお前と同じ目線で話している。その上で確信している」

屍男「お前は“下”だ。俺には勝てない。これは誰の目から見ても明らかな事実だ」



吸血娘「……っ!」



屍男「さて、次はどうする?俺はお前の出す手を全て読んでいる」

屍男「一つずつ……確実に潰し、詰みにしてやる」スッ



ポイッ

シュウウウウウウウウ……

吸血娘「ッッ!!!!」バッ


吸血娘(これは……煙幕か!?)

吸血娘(視覚を封じに来たか……!不味いな、全身を霧化出来ないとなると、接近戦では圧倒的に私が不利だ。あいつの攻撃を全部躱さないと)

吸血娘(……四の五の言っていられないな。こっちも……使える手は全て使う!)




フッ




屍男「ッッッ!!!!!!」ブンッ


吸血娘「!?」サッ

ギラッ



吸血娘(ぎ、銀のナイフ……!)

吸血娘(……ッ!ナイフの射程なら、私の霧化の方が速いっ……!)



スゥ



屍男「……」



吸血娘(よし……!右腹を刺しに来たが、上手くすり抜けた!)

吸血娘(このままあいつの喉笛に喰らい付くッッッ!!!!ヴァンパイアは秒速で3リットルの血を吸収することが出来る。常人なら数秒で全身から血を抜いて、干物にすることが可能ッッッ!!!!)

吸血娘(一秒でもいい……あいつから血を吸えれば、勝機が見えてくる!いくらあいつでも一気にこれだけの血を失えば弱体化するはず――)



ガシッ



吸血娘「――!?」ググッ

屍男「全て読んでいると言っただろう。霧化を封じられたお前が接近戦で取る行動は一つ、俺から血を抜くことだ」

屍男「来ると分かっている攻撃なら、警戒も何も必要ない。ただこうやって待っているだけで寄ってくるのだからな」グッ


ギュウウウウウウウ……


吸血娘(や、やばっ……の、喉を、首ごと引き千切られる!!!!今すぐ霧化しないと!!!!)スゥ


屍男「そして、追い詰められたお前が取る行動は一つだ」グッ



ドゴォ!!!!!!!!



吸血娘「ガハッッッ!?」ボゴォ

吸血娘(く、首の霧化と同時に……腹を殴って……)

吸血娘「ぐあっ……」ヨロッ



屍男「……終わりだ」ギラッ



シュッ



吸血娘「ッッ!?」



シュンッ

グサッ



屍男「……!」

屍男(……消えた?)

クルッ



吸血娘「ガァッッッ!!!!!!!」ガブッ

屍男「ッ!?」ビクッ


ギュインッ……ギュインッ……


屍男(な……いつ背後に回られた?くっ、不味いな)

屍男「ッッッ!!!!」ブンッ



吸血娘「っ!!!!」サッ



ザッ



吸血娘「ハァッ……ハァッ……けっ、相変わらずクソまじぃ血してんなぁ!!!!ハゲェ!!!!!」ペッ

屍男「……」ギュッ


シュゥゥゥ


屍男(……傷口は問題なく再生する。だが、あの一瞬でかなりの血を持っていかれたな)

屍男(確かに捉えたはずだ。だがナイフは当たらなかった)

屍男(この能力は……幻覚か。煙幕でこちらの視界も悪かったのを利用されたな)





吸血娘(くっ、完全に死角から襲ったのにコンマ数秒で反撃してきやがった……どんな反射神経してんだよこいつ……)

吸血娘(でも……やった。確実に、一矢報いてやったぞ!!!!)

吸血娘(ハゲから吸った血は大体2リットル前後ってところか。あいつの体重から計算すると……三分の一に届くか届かないかってライン。並みの人間なら十分致死量に近い数値だけど)

吸血娘(……あのハゲがこんな簡単にくたばるわけないか。でも、間違いなく動きに影響は出るはずだ)

吸血娘(それに、次へ繋ぐことも出来た。あいつに噛み付いた時に与えた傷……あそこからなら眷属の攻撃も通せる!)







魔女「……見えないわね」ジー

魔女「ゾンビくんがスモークを使ったところまでは確認したけど、そこからは煙が濃くて何が起こっているのかさっぱり」

魔女「……もしかして、もう決着がついちゃったりしてないでしょうね」


魔女「……」


魔女「もうちょっと、近付いてみましょうか」ヒョコッ

プーーーーーーン



吸血娘(……連れて来た眷属は50匹。これが私の操れる上限いっぱい)

吸血娘(見た目は普通の蚊と変わらないけど、薬剤耐性を持っている。生半可な蚊取り線香や虫よけスプレーなんかでは対策不可能)

吸血娘(それに、私の眷属は従来の蚊よりサイズが一回り小さい。この煙の中では視界に捉えて潰すのなんて至難の業。自分の仕掛けた罠が仇になったな)

吸血娘(勿論、モスちゃん達には私の血が入っている。ヴァンパイアの血は他の種族にとっては猛毒、これは怪物も例外じゃない……行ける)



吸血娘(よし!!一斉攻撃だ!!!!かかれ!!!!)




プーーーーーーン

屍男「……」


屍男(次の手は十中八九、眷属の蚊を使った攻撃だろうな)

屍男(……仕方ない。予定にはなかったが、これを使うしかないか)

屍男(羽音が聞こえた時が合図だ)




シーーーーン




屍男「……」

屍男(そろそろか……)スッ




プーーーーーーン




屍男「ッ!!!!」カチッ


バッ





ボォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

ズドォォォォォォォン!!!!!!!!!!!




吸血娘「!?」

吸血娘「な、なんだ……今の音は……!!」キョロキョロ


吸血娘「ッ!?あつっ!?」ジュッ


吸血娘(はぁ!?これって地面が……燃えてる?いや、違う……辺り一面全部だ……ここら一帯が全部火に包まれてる!?)キョロキョロ

吸血娘(ま、まずい!!!!今すぐ離れないと!!!!!)ダッ




ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!





魔女「う、うそぉ……」

魔女「な、何これ……何が起こってるの?」

魔女「さっきまでゾンビくんとドラキュラちゃんが戦っていた場所が……山火事みたいに燃えてる……」

吸血娘「はぁっ……!!」バッ

吸血娘「な、なんてことだ……こ、ここまでやるなんて……」ゲホゲホッ


吸血娘(この炎……どう見ても咄嗟に起こせるものじゃない。大掛かりな下準備でもしてないと不可能だ……!!)

吸血娘(あ、あいつ……事前にこの場所に細工してやがった!!!!地面に爆薬やら火薬やらガソリンやらを仕掛けてやがったんだ!!!!)




スタスタ スタスタ




吸血娘「……!!」クルッ




屍男「……」




吸血娘「こ、この…クソハゲ野郎……焼け野原にするのは自分の毛根だけにしとけ……!」




屍男「……」

今日はここまで
次で決着がつきます

吸血娘「テメェ!!!!何か仕掛けてやがったな!!!!!」



屍男「……あぁ、それがどうした?」

屍男「この場所を指定したのは他でもない、お前自身だ。そんな敵地に何も準備をせず、のこのこやってくる馬鹿がどこにいる?」

屍男「あらかじめこの場所には大規模な発火装置を仕掛けておいた。眷属への対抗策としてな」

屍男「蚊遣火、というこの国で使われていた風習も使わせてもらった。この炎で焼き払えなくとも、これだけの煙だ。いくらお前の眷属でも、まともに俺を探知して襲うのは不可能だ」

屍男「……まさか、卑怯などという言葉を使うんじゃないだろうな」



吸血娘「……ッ!」

屍男「これが狩人の戦い方だ。勝つために、生きるためならどんな手を使う、お前も知っているだろう」

屍男「そして、これでお前の用いる手は全て潰した。最終ラウンドだ」グッ



吸血娘「……」


吸血娘(……あれだけ用意した眷属が一瞬で灰になって消えた。こんな手を使ってくるなんて想像も出来なかった。発想のスケールで私は負けたんだ)

吸血娘(そうか、こいつの強さは……こういうところなんだ)

吸血娘(文字通りに、生き延びる為ならありとあらゆる手を使う。常識なんて言葉は存在しない。普通は考え付いても実行しないようなことを平然とやり遂げる)

吸血娘(覚悟と使命感の塊みたいなやつだ……私じゃとても敵わない)




吸血娘(……でもそれはあくまで最強の狩人『Shadow』が相手の話だ)

吸血娘(今のお前、ハゲの怪物相手なら……私も負けてないっ!!!!)

魔女「すごい炎……これは事前に何か仕掛けていたわね。頼まれた大量の火薬はこれに使うためだったのか」

魔女「……ドラキュラちゃんの眷属の対抗策ね。これだけの広範囲の炎は蚊だと回避は不可能。おまけにこの臭いは松の葉なんかも一緒に燃やして燻してる」クンクン

魔女「例え炎から逃げ延びても、この煙に囲まれてアウトってことか」

魔女「……ほんと、やることがぶっ飛んでるわ。こんなの普通は思いついても実行しないわよ。環境破壊もいいところね」

魔女「これでドラキュラちゃんに残された勝機は一つ……あの手しかない」



……………………………………………………………
………………………………………

プルルルルルル


魔女「……ん?この番号って――ドラキュラちゃん?」

ピッ

魔女「もしもし?どうしたの?」



『……ハゲのことは聞いてるか』


魔女「……」

魔女「えぇ、さっき本人から連絡があったわ。記憶が戻ったって」

魔女「……ドラキュラちゃんと戦うってことも」


『……そうか。なら話は早い』


魔女「ねぇ、本気?相手はあの“Shadow”よ?残酷なことを言うようだけど、ドラキュラちゃんが勝てる確率は限りなく0に近いわ」

魔女「ただでさえ手が付けられないのに、その執念で怪物として蘇り、再生能力と怪力を手に入れたのよ。この世界でアレに対抗出来る個人なんて……それこそ“Merry”くらいしかいないわ」

『……そうだ、あいつは私より遥かに強い。弱点なんて存在しないと思う』

『でも、それはあいつが人間だった時の話だろ。今は違う、あいつは人間(ヒト)じゃない。怪物(モンスター)だ』


魔女「……!それって、まさか」




『狩人が使う、対怪物用の銃を用意してくれ。それも一番強力なやつを』

『こいつでならハゲも倒せるはずだ。今のあいつは“Shadow”じゃない。ただの怪物なんだから』




魔女「……」

魔女「……えぇ、そうね。確かに――アナタが勝つにはその手しかないわ」

魔女「人間には存在しない弱点、怪物だからこそ、出来てしまった唯一の穴」

魔女「でも、実戦で通用するかどうかってなると話は別よ?」

魔女「銃の姿、構え、発砲音、撃つだけでもこんなに障害がある。これら全てをゾンビくんに認知されないってのが最低条件よ」

魔女「ゾンビくんのことだもん、絶対にその銃の存在を知られた時点で、即排除の対象になる。そうなったらもう遅いわ」



『……分かってる』

『私も、何も策を考えずにただ挑もうってわけじゃない。まだ誰にも知られてない、とっておきの作戦がある。これならお前が出した条件を全部クリアすると思う』



魔女「……その作戦って?」



『は?なんでお前に教えなきゃいけないんだよ。アホか』

魔女「……フフッ、そうね。その通りだわ」

魔女「いいわ、用意してあげる。対怪物用の一番強力な銃ね、承ったわ」

魔女「他の武器はいいの?怪物相手なら聖水とか塩とかもよく効くけど」



『いやいい。どうせそんな付け焼刃で用意した道具はあいつに存在を悟られた時点で通用しないことぐらい分かってる。一発勝負なんだから』

『あ、そうだ。言い忘れてたけど、出来るだけ早く届けてほしい。二日以内がベスト』



魔女「……二日?またずいぶん急いでいるのね。時間はまだあると聞いていたけど」



『こっちも準備が色々あるんだよ。金は商品が届き次第言い値で払ってやる』

『じゃあな。頼んだぞ』プツッ

……………………………………………………………
…………………………………………



魔女「……」


魔女「まだあの銃を使った形跡はない。ドラキュラちゃんはゾンビくんが知り得ているカードのみで戦っている。ジョーカーの存在は知られていない」

魔女「チャンスは一度だけ、ゾンビくんが勝利を確信した瞬間……ドラキュラちゃんの用意した作戦が通用するかどうかにかかっている」

魔女「……でも、そんなの本当にあるのかしら。不意打ちをするにしたって最低でも発砲音は聞かれる」

魔女「ゾンビくんならある程度の距離があれば銃弾を避けるのぐらいはわけないはず。回避が出来ないほどの近距離で使おうにも、そんな近くだと確実に銃を構える隙を突かれる……」


魔女「……!!!!」ハッ


魔女「……いや、あるわ。一つだけ……ヴァンパイアにしか出来ない、銃弾を当てる方法が」

魔女「で、でも……こんなの机上の空論。理論上は可能ってだけで、実際にやってみせたなんて話は見たことも聞いたこともない」

魔女「恐らくそれはゾンビくんも同じ。だから、まったくの無警戒、ノーマークのはず」


魔女「……この勝負、もしかしたら――」

ドガアッッッ!!!!!!!



吸血娘「くうっ!?」サッ



屍男「……!」ブンッ



吸血娘(もう私に残された手はこの銃しかない。あいつにはまだ知られていないはず……問題はどうやって隙を作るか、だ)

吸血娘(確実に当てるにはどうしてもあいつの気を何かに引かせないといけない。そうでもしないと、どんな方法を使って抵抗してくるか見当もつかないんだから)

吸血娘(……ダメだ!今の私の頭じゃ……予測出来ない!)



屍男「……ッッ!!!!」チャキッ



吸血娘「!!!!」

吸血娘(む、向こうも拳銃!使われているのは確実に銀の弾丸!!!!)

吸血娘(マズいっ……!即死しないように頭だけは守らないと!!)スゥ

バンバンッ!!!!!!!

ドンッ!!!!!!




吸血娘「ガッ……!?」グラッ

吸血娘(ね、狙われたのは脚……動きを制限してッ……)フラッ



屍男「ッッッ!!!!!!!」ダッ



吸血娘(!?に、逃げられなッ……防御しないと!!!!)グッ



シュンッ

ブシュッ!!!!!!!!

ボドッ



吸血娘「ッッ!!!!」ビクッ

吸血娘(う、腕が……!!)

屍男「……」スッ



吸血娘(クッ……!今度は防御出来ない!!確実に首を狙ってくる!!!!)

吸血娘(霧化で回避しても、さっきの攻防で同時に二か所の霧化が出来ないことはバレている……!!一時しのぎにしかならない……!!)


吸血娘(何か手は……!!手……ハッ!?)



屍男「……」ブンッ



吸血娘「はあああああああああああっっっ!!!!!!!」グッ




腕『』シュウ




スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!

屍男「……!?」



吸血娘(お前がさっき切断した私の腕!!!!こいつを霧化して攻撃する!!!!)

吸血娘(噛み付いた跡の切り目から……衣類に侵入させる!!!!)





屍男「クッ……」バサッ




吸血娘(そして、この一瞬に出来た隙……)

吸血娘(これが……私の……答えだ)





吸血娘「受け取れええええええええええええ!!!!!!!!」チャキッ






バンッ!!!!!!!!!!!!

屍男「……!?」


屍男(銃声、やはり対怪物用の武器か)

屍男(この距離、完全に避けるのは不可能だが、急所を逸らすこと可能――)



シュウウウウ……



屍男(なんだ?銃弾が……見えない?空砲――)

屍男(――!?いや違うッ、これは――)





シュウウウウウウウウ……!!!!!!





ズドンッッッ!!!!!!!!





屍男「ッ……!?」グラッ

屍男(あぁ……そうか……それでいい……)





屍男(お前はそれで――これで俺も――死)







バタッ






屍男「」

魔女「……!!」

魔女「や、やっぱり……銃弾を霧化させて、当たる直前にそれを解除した……」


魔女(……ヴァンパイアは自分の肉体の細胞を最小まで分解して、粒子化することで霧の姿に変わることが出来る)

魔女(でも、それだけじゃない。なら霧化した後は普通、衣服などは全てその場に残るはず。つまり正確に言うとヴァンパイアの霧化は……自分の肉体と同時に、その回りにある物も分解し、粒子化出来る……ということになる)

魔女(つまり、理論上は触れさえしていれば何でも霧化出来る。例えそれが他者であろうと武器であろうと)

魔女(でも、ヴァンパイアがそんな攻撃方法を使うなんて話は聞いたことがない。それは多分、その物質を理解していないと分解出来ないから……と考えられる)

魔女(普段身に纏っている衣服何かはその構造を年月を経て自然と理解しているから、霧化をすることが可能)

魔女(ドラキュラちゃんは恐らくこの性質に幼い頃から気が付いていた。だからこそ、この技を編み出すことが出来た)

魔女(ドラキュラちゃんにとって銃は幼い頃から身近な存在だった。自分の敵が使う武器でもあり、時には自身も使っていた道具……その構造を知らず知らずのうちに、理解するようになっていた。だからこの短期間で銃弾を霧化をすることに成功した)

魔女(普通はヴァンパイアはその力が故に武器を使うなんてことはない。殺し屋をやっていたドラキュラちゃんだからこそ、この答えに辿り着いた――)


魔女「……決着ね。勝者は……ドラキュラちゃん」

魔女「…………」


魔女「ゾンビくん、アナタ本当は……」

吸血娘「はぁっ……はぁっ……」





屍男「」





吸血娘「どうだ……これで……私の勝ちだ……」







屍男「」

屍男「」





吸血娘「ハ、ハハ……アハハハハハハハ……」ポロッ

吸血娘「あ、あれ……な、なんで……涙が……お、おかしいな」グスッ





屍男「」





吸血娘「……うぅっ」ポロポロ

吸血娘「あ、ああぁぁぁぁ……うあああぁぁっ……」ポロポロ

今日はここまで

割りと戦法とか弱点がはっきりしてるヴァンパイアはわかるけど
人間の体でメリーと互角にやれるのは無理やろと思う

>>319
これだけ名前を知られているメリーさんがまだ生きているのがまあ答えになっちゃいますね

…………………………………………………………………
…………………………………………





屍男「……」





屍男「……」





屍男「……ここは」キョロキョロ






屍男「……あの世か?」

屍男「まさか、本当に実在するとはな。幽霊が存在するならおかしくはないか」





屍男「殺風景な場所だ。何もない……誰かいないのか」キョロキョロ





屍男「フッ、俺らしくもないな。今更人を探すなど……今までずっと、一人でやってきたじゃないか」





屍男「…………」





屍男「一人、か」

スッ



屍男「……っ!?」ビクッ

屍男(なんだ、今、あの物陰に人影が)

屍男(――あの姿、まさか)ダッ





屍男「……!」





■■■「」





屍男「……あり得ない。こんなことが」





■■■「」





屍男「……どうやら、ここは本当に死者の世界らしいな。まさか……お前とまた相見えるとは」

屍男「……久しぶりだな」





■■■「」

…………………………………………………
……………………………………




■■■「」




屍男(何も喋らないな。まるで人形のようだ)

屍男「……一応、報告しておく。仇は取った」

屍男「お前を殺した“紅眼”は俺がこの手で葬った」




■■■「」




屍男「……これで少しは、無念が晴れるといいんだがな」

屍男「…………」

屍男「あれから、本当に色々なことがあったんだ。俺は数え切れないほどの罪を犯した」

屍男「後悔はしていない。だが……望むなら、また、あの日々に戻りたい」

屍男「……都合のいい話だな。結局俺は……逃げたかったんだ。自分の罪から……最初は俺も、あいつと同じ立場だったのだから」

屍男「まあもう……関係ない話だがな。俺はやっと死ねたのだから」




■■■「」スッ




屍男「!?」ビクッ

屍男(動いた?)

■■■「」ジー




屍男「な、なんだ?」




■■■「――――」




屍男「!!!!」




■■■「」スゥゥゥ




屍男「ま、待て!!!!それはどういうことだ!!!!」

屍男「俺はっ……もうっ……!!」




■■■「」ニコッ




スゥ

屍男「っ!!!!」

屍男「ど、どこに消えた!!!!おいっ!!!!」




パラパラッ……パラパラッ……




屍男(な、なんだ?これは……空間が、崩壊していく)

屍男(俺は……死んだはずだ。もう……未練はないはずなのに)

屍男(なぜ、あいつはあんなことを……)





スゥ

屍男「!!!!!」バッ

屍男「……ここは」




魔女「ようやく起きたわね、お寝坊さん。一週間ずっと寝ていたのよ?」




屍男「!?」

屍男「な、なぜ……お前がここに」



吸血娘「……」スッ




屍男「!!!!」

屍男「……あぁ、そうか。俺は……死んでいないのか」グッ

屍男「なぜ、俺を生かしているんだ。さっさと殺せ。あの言葉は嘘だったのか」

吸血娘「……お前に一つ、聞き忘れたことがあった」



屍男「は?何のことだ?」



吸血娘「過去についてだ。お前の過去、思い出したら教えてくれる約束だろ」



屍男「……」

屍男「馬鹿か。お前は……今更何を言っているんだ。早く殺せ」



吸血娘「負けたくせにうだうだ文句言ってんじゃねえよ。早く話せ」



屍男「そんなことはもうどうでもいい話だろ。なぜ父の仇である俺をまだ生かしているんだ」

屍男「お前の父に対する気持ちは偽りだったのか、今更情を持つな。ヒトでもない化け物が」

屍男「お前が俺を殺さないなら、勝負はまだ続いていると判断する。今、ここで決着をつけてもいいんだぞ」スッ

魔女「ちょっ!?ゾンビくん!?」



屍男「……」



吸血娘「……」

吸血娘「下手な脅しはやめろよ。そんなの眼を見たら一発で分かる」

吸血娘「いいから、早く教えろ。お前の処遇はそれからだ」



屍男「……」スッ

屍男「……どこからだ。どこから話せばいい」



吸血娘「お前の人生の全てだよ。何があったのか全部だ」



屍男「……」

今日はここまで
あと二回の更新で終わります

屍男「……俺が生まれ育った場所は平凡な町だった。都会ではなかったが、そこまで田舎でもない。名前を出しても分からないような、そんなところだ」

屍男「家族構成は母が一人、父は俺が物心がつく頃にはもういなかった」

屍男「子供の頃に一度だけ、なぜ父がいないのか母に聞いたことがあった。母は離婚した、とだけ言い理由は話さなかった」

屍男「自然と俺も、そういうものなのだと理解し、それ以上は追及しなかった」

屍男「母は……とても立派な人だった。女手一つで俺を育てあげたのだからな」

屍男「不自由と感じたことは一度もなかった。だが、その陰では身を削るように仕事をしていたのだと思う。言葉には出さなかったが、俺はそんな母が自慢だった」

屍男「近所でもそんな母の評判は良かった。町を歩けば必ず母の知り合いに声をかけられたし、菓子を貰ったりもした。本当に……誰にでも優しく接することが出来る人だったんだと思う。俺と違ってな」

屍男「……その中でも、隣に住む家族とは特に仲が良かった」

屍男「同じ歳の子を持つ親ということで、よく互いの家で食事会をしたりした。クリスマスは毎年その家族と祝ったりしていた」

屍男「……子供の頃の俺は、あまり友と呼べる存在は少ない方だった。こればっかりは生まれながらの才能というやつだろう。母にはその才能があったが、俺にはなかった」

屍男「だが、そんな俺に唯一接してくれたのが……その隣の家族の娘だった」

屍男「幼馴染、というやつになるんだろうな。彼女は暗い俺とは違い、母のような性格で、周りには常に友が溢れていた」

屍男「それを嫌味に振りかざす様子もない、まさに優等生だ。きっと、あのまま成長していれば……何かの分野で大成していたのは間違いないだろう」



吸血娘「……」

魔女「……」

屍男「母と共に、俺は彼女を尊敬していた。何か困ったことがあれば力になりたいと思っていたし、いつか彼女の役に立ちたいと、そう思うようになっていた」

屍男「今にして思えば、俺は……彼女に恋心を持っていたのだろうな。いや……間違いないか」


屍男「俺は……好きだった。態度には出さなかったが心のどこかで、彼女を……」


屍男「だが、その想いが叶うことはなかった」


屍男「俺の16の誕生日に……彼女は殺された。その両親と、俺の母と共にな」



吸血娘「……」

屍男「その日は四人揃って、家で俺の誕生日パーティーの準備をしていたそうだ」

屍男「前の年に、いい加減こんなガキみたいに祝ってもらう必要はないと言ったにも関わらずな。本当に……お節介な人達だ」

屍男「俺は用事があり、家に帰るのは遅くなる予定だった。その隙を見て、サプライズパーティーを企画したんだと思う」


屍男「俺が家に帰るとそこには……数台のパトカーが止まっていた。家にテープが貼られ、玄関には警官が見張っていた」


屍男「一瞬、嫌な予感を感じた。何かがあったのは明白だった」

屍男「最悪の事態を想像した。だが信じたくなかった」

屍男「俺は警官に話しかけた。この家に住む者だが、何かあったのかと」

屍男「警官は神妙な顔をした後「ちょっと待っててくれ」と言い、家の中に入って行った。そして一分もしないうちに出てきた」

屍男「とりあえず、署に来てくれないか。詳しい話はそこで話そうと、そう言われた」

屍男「俺はそれに従うことにした。本当は何があったのか確認したかった。警官を押し退いてでも、家に帰りたかった」

屍男「だが……身体は動かなかった。怖かったんだ。そこに何があるのか、直接見るのが……俺はその場から逃げることにした」


屍男「そして、警察署で真実を告げられた。俺の母と、隣の一家は殺されたのだと」

屍男「最初、警察は俺を疑っていたんだと思う。だが、アリバイがすぐに証明され俺は容疑者から外れた」

屍男「……俺は絶望した。今までにあった平和が、突如崩れ去った。何が起きたのか理解出来なかった」

屍男「母とは朝に顔を会わせた。いってらっしゃいと、いつもの日常のように家を出た。それが最後になるなんて、思いもしなかった」

屍男「……母の遺体を確認するまでは、とてもじゃないが信じられなかった。しかしそこには逃れない現実があった」


屍男「この世のありとあらゆる屈辱を受け、亡骸になった“母だったモノ”がそこにはあった」


屍男「今でもあの姿は鮮明に覚えている。今忘れていた己を恥じるくらいだ」


屍男「彼女もそうだった。生前の姿からは考えられない程、遺体は損傷が激しかった」

屍男「皮は剥がれ、肉は削られ、苦痛に満ちた表情で死んでいた。実際はそんな顔ではなかったと思うが、俺にはそう見えた」

屍男「……俺は許せなかったんだ。彼女達が何をしたのか、なぜこんな理不尽な目に遭わなくてはいけなかったのか。犯人よりも、そんな不平等が許せなかった」

屍男「現場には壁に、血で描かれた巨大な眼が描かれていた。後から分かったことだが、こいつは“紅眼”と呼ばれている人為らざる者の仕業だった。無論、警察は捜査をしたが、相手は人外だ。手掛かりは何も見つからなかった」



吸血娘「“紅眼”……おい、お前は聞いたことあるか?」

魔女「……まあ、名前くらいはね」

魔女「二十年くらい前に有名だった人外よ。私も世代じゃないから詳しいことは知らないけど、その悪名が伝わっているくらいは凶暴なやつね」

吸血娘「……」

屍男「俺は復讐を決意した。必ず、母やあの一家を殺した犯人を地獄に送ってやるとな」

屍男「そこからの流れは簡単だった。裏の世界に入り、“紅眼”の情報をひたすらかき集めた。その傍らで、狩人としての経験を積み、殺しのテクニックを磨いた」

屍男「だが、そう簡単には見つからなかった。“紅眼”は当時の狩人の世界でも、相当な懸賞金が懸けられていた大物だった。奴は姿を隠すのが上手かったんだ。いくら手掛かりを探しても、尻尾一つ見せなかった」

屍男「……だが、ここで俺はある人物と出会った。これが俺の運命を決定的に変えた」


吸血娘「だ、誰だよそれ」


屍男「名は知らん。あえて、その存在を言葉で語るとすれば……“先代の影”と呼べる人物だ」

吸血娘「先代って、お前が最初じゃないのか?」

魔女「……つまりゾンビくんは二代目ってことか」



屍男「あぁ、俺は彼のやり方を模倣しているに過ぎない。それはお前も気付いていたんじゃないか?」


魔女「……」

魔女「まあ、ね。Shadowが現れ始めたのは記録上だと半世紀ほど前。ゾンビくんが初代だとしたら、よっぽどの若作りをしてないと計算が合わないってことになるもの」


吸血娘(き、気付かんかった……)

屍男「その通りだ。彼の存在は俺も耳にしていた。とてつもなく強い狩人がいるとな」

屍男「実際に会うまでは都市伝説の類いの一つだと思っていた。誰もその存在を目撃したことがないというのはあまりに不自然だ。誰かが抑止力として流した噂だとな」


屍男「……彼と出会ったのは本当に偶然だった」


屍男「奇跡的な確率だったと思う。偶然、俺が……見てしまったんだ。彼が、実際に怪物を狩る姿を」

屍男「そいつは前々から目を付けていた怪物だった。人気のいない場所に入り込んだところを狙って、見張っていた時だった。そこに……“影”が現れた」

屍男「一瞬、幻でも見ているんじゃないかと自分の目を疑った。すれ違ったその一瞬に、背後から確実に急所を突き、その死体を灰に変え、存在を抹消した。まるで最初からいなかったように」

屍男「全ての工程が数秒に収められていた。まさしくあれは神業だ。今の俺でも再現出来るかどうかのほどのな」

屍男「直感的に理解した。この男が“Shadow”なのだと。そして反射的に体が動いた。俺は……立ち去るその影を呼び止めた」

屍男「今にして思えば、愚かな行為だ。彼が目撃者を全て消すというスタイルだったなら、俺はその瞬間に死んでいただろうに」

屍男「俺は彼に、弟子にしてほしいと頭を下げ、頼み込んだ。正直、承諾するとは思っていなかった。相手にされないだろうと、ならばどうやって説得しようかと、頭の中では次の行動を考えていた」

屍男「……しかし、返ってきた答えは意外なものだった」


屍男「ただ一言「着いて来い」とその男は言った」

屍男「初めは耳を疑った。まさか、こんな簡単に上手く行くなんて、思ってもみなかったのだからな。罠かと疑いもしたが……俺に選択肢はなかった。立ち去る影の背中を追うことにした」

屍男「それからはその男と共に暮らし、狩人としての知識と技術を学んだ」

屍男「まあもっとも……教えらしい教えは一切なかったがな。俺と彼の間にまともなコミュニケーションはなかった。言葉を交わしたのもこの出来事を含め数えるほどしかない」

屍男「見て覚えろ、そう言われた。だから俺もそれに従い、観察してその技を盗むことにした」

屍男「……それから数年が経った頃だ。その生活に慣れていたある日」

屍男「彼が起床する時間になっても、姿を現さなかった。気にすることのない些細な出来事だが、今までそんな日は一度もなかった」

屍男「……嫌な予感がした。あの日を思い出すような、そんな寒気が。俺は彼の部屋に向かった」

屍男「そこにあったのは……ベッドで、眠るように死んでいる影の姿だった」

屍男「最初は何者かの攻撃を疑った。だが、それらしき形跡はなかった」

屍男「念のために、死体を検視した結果……老衰だった。彼は寿命で死んだんだ」


吸血娘「……は?」

魔女「寿命って、そんなお歳だったの?」


屍男「いや、違う。正確な情報は何も残っていないので不明だが、俺の見立てでは影は40代の後半から50代前半だ。老衰で死ぬにはあまりに早過ぎる」

屍男「……俺は疑問を抱きながら、彼の死体を火葬し、その灰を海に撒いた。直接何か指示をされたわけではないが、この埋葬の仕方を望んでいると感じてな」

屍男「そして、俺は“Shadow”の名を継ぐことにした。その頃になると“紅眼”の手掛かりも形になる程度は集まっていた。奴の正体を暴き、殺すのは時間の問題だった」

屍男「……だが“Shadow”として殺しを続けているうちに、なぜ彼があんな早死にしたのか、その真実に触れることになる」

屍男「ある日のことだ。いつもと同じ朝、目が覚め、シャワーを浴びていると……手に違和感があった」

屍男「何かと思い、見てみると……」





屍男「髪がごっそり抜けていた」





屍男「それから一週間もしないうちに、全ての髪が抜け落ちた。明らかに異常な事態だ。病院で検査をしたが、肉体には何も異常は見つからなかった」

屍男「医師からは極度のストレスが原因ではないかと言われた。そこで俺はやっと気付いたんだ。彼の死も……この精神的な疲労が溜まった結果、起きたものなのだと」

屍男「いくら感情を殺しても、狩りというものは繊細な注意がいる。一歩間違えば死は避けられないのだからな。常に命懸けの綱渡りだ」

屍男「相手のスペックは常に上だ。精神を擦り減らし、たった一つの勝利へのルートを導き出し、そして戦闘では一秒を百秒に感じるほど思考を巡らせる」

屍男「自覚はなくとも、人間という生物の領域を超えた所業なのだろう。“Shadow”の戦闘スタイルは超短期決戦だ。一瞬の刹那に勝負を決める」

屍男「その一瞬に、命の砂時計は普段とは信じられない速度で堕ちて行く。それを何回も続けていたら寿命は確実に縮む」



吸血娘(最初からハゲじゃなかったのかこいつ)

魔女(最初からハゲじゃなかったのね)

屍男「それからしばらくすると、髪は生えてこなくなった。味覚などの器官にも影響が出た」

屍男「自分の肉体が崩れて行くのを感じたが、今更そんなことは止まる理由にはならなかった。もはや自分の命など……どうでもいい段階まで来ていた」

屍男「……そして、その時はやってきた。俺は……“紅眼”を殺すことに成功した」


屍男「……それだけだった」



吸血娘「おい、何だよ。どういう意味だそれ」

屍男「……俺にとってはもはや“紅眼”は他の標的と変わらなかった」

屍男「その頃にはもう相手の目を見るだけで、どのぐらいの秒数で仕留められるかが分かるようになっていた」

屍男「何年もかけて情報を集め、奴の潜伏先を暴いた時は興奮した。これでやっと復讐を果たせるのだと

屍男「そして、初めて“紅眼”を視界に捉えた時に視えた所要時間は八秒、高くも低くもない。平均的なものだった」

屍男「……俺は、もっと苦しめたかった。無残に殺された母や彼女達の無念を晴らすように、出来るだけ長く、あいつに死の恐怖を味合わせたかった」

屍男「……しかし、反射的に身体が動いていた。一秒でも、この世に存在することが許せなかったんだ」

屍男「こうして俺の復讐は八秒で終わった。他の狩りと何ら変わりのない、日常のような復讐だった」

屍男「待っていたのは達成感と……虚無感だった」

屍男「今までの俺は復讐の為に生きていた。それがゴールであると信じていたし、その先には何もないと思っていた」

屍男「これから何をすればいいのか、分からなかった。だが、今更表の世界に引き返すことは出来ないというのは理解していた」

屍男「そして、俺が導き出した答えは……“Shadow”を続けることだった」

屍男「自分の復讐が終わった後は他者の復讐を代行をするしかない。それしか道は残されていなかった。理不尽な死を一つでも防ぎたかった」

屍男「……恐らく、先代の影も同じ考えに至ったんだろうな。俺を弟子にしたのは何かの気まぐれか、自分と似たような意志を感じたのか、そんなところだと思う」

屍男「それから先は語る価値もない、ただの殺しの繰り返しだ。お前の父も、そのうちの一人だ」

吸血娘「……」


屍男「……もういいだろう。話すことは全て話した。これで終わりだ」


魔女「ちょっと待って、それから先の話はどうなったの?」

魔女「ゾンビくん、アナタは一体に誰に殺されたの?」


屍男「……さあな。それは覚えていない」

屍男「俺が覚えている最後の記憶はこいつの父を殺し、帰路の途中までだ」

屍男「そこから先の記憶はないのは恐らく……ヴァンパイアの記憶操作の術の影響だろうな。反撃を許してしまい、一瞬だけだが食らってしまった。死後もその術だけが残り、記憶を失っていたのだろう」

屍男「これは想像だが、誰かに襲われ殺されたという線は考えにくい。まだ交通事故に遭う確率の方が高い」

屍男「……まあ、もうどうでもいいことだ。この件については直接関係ないのだからな」

魔女「そう…...」


屍男「どうだ?これで満足したか?これがお前の知りたかった男の過去だ」

屍男「どこにでもあるような話だ。復讐に駆られた男が、その正義を暴走させ、自滅しただけの話」

屍男「……分かってはいたんだがな。例え悪人でも、そいつには親しい友や家族がいてもおかしくない」

屍男「その者から見れば、俺は悪だ。かつて自分が見た感情を、その者達もまた持つのだろうと」

屍男「……結局、この世界に正義も悪もない。ただ、そこにあるのは純粋な感情だけだ。血の因果は終わらない。永遠に、同じところを廻っている。それが世界の理だ」

屍男「さあ、殺せ。もう俺も疲れた。いつまでも死に損なうのは……これで終わりだ」



吸血娘「……」

吸血娘「……私は」

今日はここまで
次でラストです







吸血娘「お前を殺さない。これが、私の答えだ」






屍男「…………」

屍男「……は?」





屍男「どういうことだ。今更、何を世迷言を……頭がおかしくなったのか?」

屍男「俺はお前の父を殺したんだぞ。父に対するお前の想いはその程度のものだったのか」


吸血娘「……」


吸血娘「正直なところ、私はパパとはあまり仲が良くなかった。でも、悪いことばっかじゃなかった。いい思い出もあるっちゃあるし、今思い返してみると、それは愛情の裏返しだったんじゃないかなって思う」

吸血娘「あの人も自分の感情はあまり言葉に出さない方だったし、多分、自分の子供との関係性ってのが分からなかったんじゃないかなって……そう感じるようになったんだ」

吸血娘「現に私も、自分の子供とどう触れ合えばいいのか、想像しても分からないし……不器用な人だったんだ。私と一緒で」

吸血娘「だから、そんなパパを殺したお前は許せないし、私の仇だ」



屍男「……ならば、なぜ」



吸血娘「お前、私との勝負で手加減してただろ。あんだけ言ったのに」

屍男「……」



吸血娘「こっちはとっくに気付いてんだよ。戦ってる最中は必死で分からなかったけど、明らかに不自然な点があった」

吸血娘「まず、私の霧化を封じたあのガス兵器。お前が言ってたことを真に受けると、あれを食らったのにまだ一部でも霧化が出来たのは明らかにおかしい」

吸血娘「調整しただろ。全身の霧化は出来なくても、戦闘が可能なレベルで霧化が可能なように」

吸血娘「腹パンされた時もそうだ。本気を出せば、風穴を開けるくらいは簡単に出来たはず」

吸血娘「こうやって、自分がまるで全力を出しているように演出していた」



屍男「……」

吸血娘「次に、戦闘中に無駄に私を煽るような言動をしていたこと」

吸血娘「おかしいだろ。なんで殺し合いの最中に語りかけてきたんだ?口を動かす前に手を動かせよ」

吸血娘「私を怒らせて、冷静な判断力を奪うって戦術も考えられるけど、それにしては丁寧過ぎる。自分の手をペラペラと喋って、まるで思考する猶予を与えているような……そんな印象だった」



屍男「…...」



吸血娘「そして、決定的なのが……時間だ」

吸血娘「お前がさっき言っていた通り、Shadowのやり方は超短期決戦型だ。普通は戦いが始まって数秒でもう決着がついてもおかしくない。私はその覚悟をしていた」

吸血娘「なのに……お前はそうしてこなかった。必ず、私の攻撃の後にその対抗策を出してきた。これじゃまるでターン制バトルだ」

吸血娘「私が、狩人の武器を使ってくるってことも読めていたんじゃないか」



屍男「……」

吸血娘「最強の狩人のShadowの強さは肉体的なものじゃない。その判断力、精神力から来るものだ」

吸血娘「経験から、まずは自分の弱点を補うことを考えてもおかしくない。いや、それが普通だ。だって、今まで幾百、幾千と殺してきた怪物になったんだからな」

吸血娘「その特性を知り尽くしているはずだ。ならまずはその長所を生かし、短所を消滅させる戦いをするはず」

吸血娘「なのにお前は……その弱点に気付かないフリをしていたんじゃないか。怪物の力である怪力も使ってこなかった」

吸血娘「これが手加減じゃなくてなんだって言うんだよ。舐めてんのかお前」



屍男「……」



吸血娘「なんでこんなことをしたのか、当ててやろうか」

吸血娘「お前は……私に殺されたがっていた。死にたかったんだよ、お前は……自分の自殺に、私を利用しようとしたんだ」

吸血娘「一週間ずっと意識を失っていたのがその証拠だ。お前の魂が死を望んでたんだよ」

屍男「……」



魔女(……やっぱりね)



吸血娘「何とか言えよ。図星で声も出ないのか」


屍男「……」

屍男「……それが、何だと言うんだ」

屍男「……何も問題はないだろう。俺が死ねば……全て……」


ガシッ


吸血娘「ふざけんよテメェ!!死にたがってるやつを殺して復讐になると思ってんのか!!!!」ググッ

屍男「……あぁ、なるさ」グッ



ギュッ

魔女「ゾンビくん!!」



吸血娘「っ……!!」ズキッ

屍男「確かに、俺はお前に殺されるように仕向けた。だが、それでお前が復讐を止める道理はない」ググッ

吸血娘「こ、このっ……!はなっ……!!」グッ

屍男「俺も、当ててやろうか。お前の本心を」

屍男「お前は臆しているんだ、俺を殺すことに。情でも移ったか?」


吸血娘「……!!」


屍男「自分にも言い訳をしている。どうにかして、俺を殺さない理由を探しているんだよ。結局お前には俺を殺す覚悟など、最初からなかった」

屍男「たかが一年の付き合いで、俺の全てを理解しようとするな。お前も逃げようとしていたんだよ。自分の運命にな」パッ


吸血娘「……っ」


屍男「どうした。さっきまでの威勢はどうした。何か言ったらどうだ」

吸血娘「……」

吸血娘「……もういい。こうなったら私も自分の本心を全て話す」



屍男「本心だと?」



吸血娘「確かに、お前の言う通りだ。私はお前に情を抱いている」

吸血娘「死んだパパに、お前を重ねているんだよ。いつの間にか……お前のことを、親みたいに思っていた。もし、パパと仲良くなっていたら、こんな関係だったのかなって」

吸血娘「友達なんて一人もいなかった。初めてパーティーをしたり、映画を他人と観たり、ゲームをしたり……そんな関係も、お前が初めてだったんだよ」



屍男「……」

吸血娘「でも、私はお前を許さない。パパを殺したことには変わらない、お前は私の仇だ。絶対に復讐はする。そう思っていた」

吸血娘「……お前は死を望んでいる。そして私の目標は殺すこと」

吸血娘「相手が望んでいることを実行するのは、本当に復讐なのか?それは違うだろ……これが私の出した結論だ。お前を殺すことは復讐になりはしない」



屍男「……では、どうするつもりだ。俺を一生拷問にでもかけて生き地獄を味合わせて苦しめるか?」



吸血娘「……」

吸血娘「……そうだな。それもいいかもしれない」

吸血娘「ハゲ、お前はずっと……私の側にいろ。そして、私を一人にするな。これがお前に出来る唯一の贖罪だ」



屍男「……!」

屍男「それが、俺に対する復讐だと?」



吸血娘「そうだ」

吸血娘「……多分、私とお前は似てるんだ。運命に従った結果が今のお前だ」

吸血娘「もし、このまま私も同じようにお前を殺せば……同じ道を辿るような気がする。お前を殺すことで、私は父と友を両方なくすことになるんだ。お前が母と幼馴染をなくしたように」

吸血娘「お前みたいに一生孤独のまま生きるなんてまっぴら御免だ……ハゲたくもねえし」

吸血娘「なら私は運命に逆らう。一人より、二人の方がいいだろ。少しでも申し訳ないと思うなら、私と一緒にいて罪を償え」

屍男「……」

屍男「……理解出来ない。今までの生活を続けることが復讐だとでも言うのか」

屍男「そんなこと……俺は認めん……」



吸血娘「認める認めないの問題じゃねえだろ。本質的に、お前は誰かに裁いてもらいたかったんだよ」

吸血娘「だから、私がお前を裁いてやるって言ってんだ。これが私の……復讐だ」



屍男「…………」

屍男「…………」


屍男(……あの時、あいつが最後に言った言葉)







『――生きて』





屍男(……俺が死ねば、全てが許されると思っていた)

屍男(だが、そうではない。生きることが、俺が犯した罪を清算することだと言うなら……俺は……)



屍男「…………」



屍男(やはり、お前には敵わないな。もう少しだけ待ってくれ)

屍男(あと少し……俺は生きることにする。“Shadow”としての罪を裁かれる為にこの命が蘇ったというのなら、お前が生きろと言うのにも理由はあるのだろう)

屍男(そして、全てが終わった時に、また会おう)

屍男「……一つだけ、訂正しておきたいところがある」

屍男「お前は俺が手加減したと言っていたが、そうというわけではない」

屍男「俺はあくまでお前の父を殺した当時の、人間としての能力で戦ったつもりだ。だから、物質を霧化することで放った最後の銃弾……あれは間違いなく、俺の想定を超えたものだった」

屍男「あの一瞬、お前は確かに父を超えた。誇りに思え。ヴァンパイアという種の中での最強は間違いなくお前だ」



吸血娘「……!」ドキッ

吸血娘「う、うるせぇ!!全力でやってなかったことは事実だろうが!!ぶっ飛ばすぞ!!!!」



屍男「……いいんだな。これで」



吸血娘「あ?何がだよ」

屍男「いつか、自分の決断を後悔するかもしれないぞ」


吸血娘「アホか。私はんなことで後悔なんて絶対しねえよ」

吸血娘「お前もそうだろ?それが正しいと信じて、その行いを悔いたことなんてあったか?」


屍男「……」

屍男「……そう、だな。間違いない」



吸血娘「んじゃ、はい」スッ


屍男「……なんだ。この拳は」


吸血娘「何って、何回もやっただろ。拳を合わせるやつだよ」


屍男「……」

屍男「……これでいいか」スッ



コンッ

吸血娘「約束は守れよ。また死ぬまで私の側から離れるな。勝手に死んだら地獄の果てまで追い回してやる」

屍男「……あぁ、分かっている」






魔女「はい!これで二人とも仲直りね!いやぁ~感動したわぁ~」シクシク






吸血娘「」ビクッ

吸血娘「な……お、お前まだいたのかよ。すっかり忘れてたわ」


魔女「だって仕方ないじゃない。あんなシリアスな雰囲気で部外者の私が口出しなんてしたら空気読めてないし、存在感を消すくらいしか出来なかったわ」

魔女「何はともあれ、最悪の結果にならなくて良かったわ。二人は私の大切な友人だし」




吸血娘「友……?」

屍男「……人?」

魔女「あ、そうだ。ゾンビくん」ゴソゴソ

魔女「これ、ゾンビくんが気を失ってた時に、家まで運ぶのを手伝ったんだけど、その時にかかった料金の請求書ね♪」スッ



屍男「……なんだ、この法外な額は」

吸血娘「え、いくら?……ハァッ!?」



魔女「仕方ないじゃない。あんなところまで車を用意して運んでくるのに手間と時間がかかったんだし、それにゾンビくんが廃墟周辺を火の海にしちゃったからその分の値段もね。自然は大切にしないと」



屍男「……知っているだろ。今の俺に持ち合わせはないぞ」


魔女「えぇ、だから前回と同じ“アレ”でいいわ。今回は二人分にまけてあげる」


屍男「……狡い女だ。最初からそれが目当てだったな」

屍男「いいだろう。借りは借りだ。従ってやる」

吸血娘「???」

吸血娘「なぁ、何の話だ?」



魔女「ドラキュラちゃんはまだ知らなくていい話よ。大人同士の関係ってやつなんだから……」フフッ



吸血娘「ハァッ!?」

吸血娘「おいハゲェ!!!!どういうことだそれ!!!!やっぱお前こいつとデキてんのか!!!!!」



屍男「……勘弁してくれ。話をややこしくするな」

魔女「フフッ、私だって、ゾンビくんには思うところは色々あったのよ?ちょっとはその仕返しをしないと」



吸血娘「おいコラハゲエエエエエエエ!!!!!!」

………………………………………………………
……………………………………



チュンチュン……チュンチュン……



屍男「」パチッ

屍男「……朝か」スッ




スタスタ スタスタ




屍男「……」




吸血娘「よっしゃ!これで3キル!!」ピコピコ




屍男「……」

屍男「おい、そこのロクでなし。今何時だと思っているんだ」



吸血娘「なんだ髪なし。今いいところなんだから黙ってろ」

屍男「……はぁ。朝食の準備をするが、お前も食うか」


吸血娘「いらない。さっきカップ麺食ったし」ピコピコ

吸血娘「おっ!!あいつあんなところに伏せてやがるな!!よっしゃここはグレネードじゃ!!!!」


屍男「そうか」スタスタ



屍男(あれから……少しは大人になったと思ったが、そう簡単に行けば苦労はしないか)

屍男(……いや、それより以前に比べて更にワガママな性格になった気がする。昨日も就寝前に注意したら「パパを殺したくせに」と言われた)


屍男(……それを言われては本当に何も反論できない。はぁ……これからどうすればいいんんだ)


屍男(……これも、俺に対する罰だと受け入れるしかないか)

屍男「バイトに行ってくるぞ」


吸血娘「んー」ピコピコ




バタン




吸血娘「……」ピコピコ



吸血娘「……」ピコピコ



吸血娘「パパに、謝っとかないとなぁ……」

…………………………………………………………
………………………………………



後輩女「センパイ!お疲れ様です!」

屍男「……あぁ、お疲れ」

後輩女「いやーセンパイが帰ってきてよかったですよほんと!あのまま行方不明で消えちゃうかと思ってましたもん!!」

屍男「……その節は心配をかけたな」


後輩女「それにしても、まさか姪さんが両親に呼ばれて強制帰国させられかけたなんて……すごいことになってたんですね」

後輩女「センパイも、それを止めるために外国に行ってたんでしょ?大変でしたねぇ」


屍男「……そうだな」


屍男(我ながら無理がある言い訳だと思ったが、そうでもなかったな)

屍男(まあ今でもあいつのことをひきこもりで、血に欲情する性癖で、おまけにレズと信じているなら、そこまで気にすることでもなかったが……こちらが色々心配になるな)



屍男(――こいつには、いつか本当の話を打ち明けるか)

後輩女「でも、良かったですね!またこうやって会うことができて!!」


屍男「……あぁ」

屍男「世話をかけたな。辞めると伝えたのに、店の方には黙っていたんだろ」


後輩女「別に大丈夫ですよ。休んでいる期間はインフルエンザってことにしておきましたから」

後輩女「変な話ですけど心のどこかで、また戻ってくるような予感がしてたんですよねぇ」


屍男「……」ジー


後輩女「どうしたんですか?」


屍男(……そうか。こいつと会話していると、どこか懐かしい気分になると思っていたが……似ているのか、あいつに)


屍男「いや、何でもない」

後輩女「そうだ、センパイ。実はちょっと前にこんなの貰ったんですよね」ガサゴソ

後輩女「これ、映画のチケットなんですけど。キャンペーンに応募したら三枚組のやつが当たっちゃって」

後輩女「今度、姪さんも連れて一緒に見に行きませんか?」


屍男「……」


後輩女(し、しまった。いきなり映画は攻め過ぎたか……もうちょっと段階を踏むべきだったかな)


屍男「……そうだな。たまにはいいか」


後輩女「えっ!?いいんですか!?」

屍男「あぁ、あいつには俺から伝えておく。日程はどうする?」

後輩女「じゃ、じゃあ……!」



後輩女(よし!脈ありだ!私はまだまだ諦めないぞー!)

………………………………………………
………………………………



ガチャ



屍男「帰ったぞ」



吸血娘「んー」



屍男「起きているのか、飯はどうする、今日は何も買って来てないぞ」



吸血娘「じゃあ何か作って。今は動く気しない」ゴロゴロ



屍男「……分かった」



モグモグ モグモグ



吸血娘「……この味付けが変なのも、生前の味覚がおかしかったせいか」

吸血娘「お前はこれ美味しいと思ってんの?」


屍男「……あぁ、そのつもりで作っているが」

吸血娘「死んでも直ってないのか……まあ頭もハゲたまんまだしそこら辺は変わってないのな」モグモグ


屍男「……」

屍男「最後に、もう一度だけ確認させてくれ。いいんだな、お前はこれで」


吸血娘「あ?今更なんだよ」


屍男「……気が付いたんだ。俺の時間はあの日以来、止まったままだった」

屍男「だが、命を落とし、怪物になることで、ようやくその時間がまた進み始めたと感じる」

屍男「お前には……この針を、止める権利がある。気が変わったらいつでも言え」


吸血娘「はぁ……私、お前のそういうところ大っ嫌い。空気も心も読めてないのが」

吸血娘「いいよ、いつかお前は私が殺してやる。でもそれはお前が寿命で死ぬ時だ。怪物にも寿命があるのかは知らんけど」


屍男「……そうか」

吸血娘「納得出来ないのは分かるよ。私も、この決断が正しいとは思えないし、間違ってるとも思う」

吸血娘「でも、何が正しいかなんて、誰にも分からないんだよ。この世界ってのはそういうもんって、お前も言ってたじゃん」

吸血娘「じゃあ……自分を信じるしかないでしょ。間違っていようとも、自分の心に従って生きる。それしかないんだから」



屍男「……」


吸血娘「はい、じゃあこれ」スッ


屍男「ちょっと待って。またやるのか?昨日やったばかりだぞ」


吸血娘「話を戻したのはお前だろ。これは決意の表明でもあるんだからな。さっさとしろ」


屍男「……はぁ」

屍男(何が正しいのか、それは誰にも分からない、か)

屍男(その通りだ。だから今は生きるしかない。このかりそめの平和を、俺は……)

屍男(また血で染まる、その時まで)




コンッ




吸血娘「これからも、よろしくな!ハゲ!」

屍男「……あぁ、こちらこそな。相棒」







END









……………………………………………………
……………………………………







プルルルルル……プルルルルル……

ガチャ


屍男「珍しいな。お前から電話をかけてくるなんて。何かあったか」


『……ゾンビくん。あの約束は覚えている?』


屍男「約束?」


『ほら、あの時、空港でしたじゃない。手が借りたくなったらいつでも呼んでくれって』


屍男「……何かあったのか」


『えぇ、実はちょっと色々あってね。困ったことになっているのよ』


屍男「……分かった。場所を言え。すぐに向かってやる」







END……?

ってことで終わりです
綺麗に終わったように見えるんですがまーまだ謎が色々残ってるんですよね…予定だと残りは屍男と霊能少女の完結編で2スレほどある感じです
屍男の方はこれまで2つの物語と絡まなかったこともあって番外編みたいになっているんですが、実は本筋は霊能少女と同じで次でその意味が分かると思います
色々主人公の三人は共通点があるんですが最後には同じ結果に辿り着きます。それがどんな結末なのか予想しながら見てもらえるといいかなと思います

そして途中で言った重大なお知らせってなんなのかって話なんですけど…ごめんなさい、悪いニュースです
実は自分今年で受験生でSSが書けない状況に陥りました…
このスレも完結に三ヶ月近くかかってることもあり、間が開いてしまうのは完全に自分の落ち度です。ごめんなさい
ただここまで来てエタるということは絶対にないので、来年には必ず完結します
忘れた頃にやってくると思うので…待ってもらえると嬉しいです
もし作品に関する質問とか疑問とかあったら出来るだけ答えます

生存報告的な何か
色々待たせてしまってごめんなさい…一応まだ生きてます
受験の方ですが一段落付いたので、もしかしたら来月には続きを書けるかもしれないです
まだ確定していないので断言は出来ないんですけど…また近いうちに短編と一緒にこのスレで報告させてもらいます

吸血娘「オラァ!ハゲ!心霊スポットに行くぞ!!!!」


屍男「……」

屍男「……いきなりなんだ。今、何時だと思っている。夜中の二時だぞ」


吸血娘「アホか!真昼間から肝試しに行く馬鹿がどこにいるんだよ!」


屍男「……明日もバイトがあるんだ。俺は寝るぞ」ゴロン


吸血娘「ふーん、あっそ。私の人生をめちゃくちゃにしておいて、自分はゆっくりおねんねですか」


屍男「…………」


吸血娘「じゃあいいですよ。私は一人で行きますから。あーあ……パパが生きてたら一緒に連れて行ってくれたのになぁ……」

吸血娘「うぅっ……パパ……」ウルウル


屍男(……こ、こいつというやつは……)

……………………………………………
……………………………


屍男「……」

吸血娘「ふむふむ、地図だとこの山道をずっと登ったところにあるのか」

屍男「おい、いきなりなぜ心霊スポットなんだ。理由くらい聞かせろ」

吸血娘「え?別に?理由なんてないけど?」

吸血娘「ただ単にホラー映画見てたら、そういや私って幽霊見たことなかったなって思って、見たくなっただけ」

吸血娘「で、ネットで調べてみたらこの近くに心霊スポットがあるって見つけて、こりゃ行くしかないっしょってことになったわけよ」

屍男「……そんな下らん理由で俺を連れ回すのか」

吸血娘「お前が私のパパを殺した理由に比べたら可愛いもんだろ」

屍男「…………」


吸血娘「突っ立ってないでさっさと行くぞハゲ。頭の表面だけじゃなくて、中身までスカスカになったのか」


屍男(……あぁ、クソ)

吸血娘「で、ハゲ。幽霊と怪物って何が違うの?」


屍男「……なんだ。そんなことも知らないのか」


吸血娘「そりゃね、職業柄的に怪物とは何回か会ったことがあるけど、幽霊はないからな。だってあいつら金稼ぐ必要ないし」

吸血娘「幽霊と怪物って具体的に何が違うの?」


屍男「……一番の大きな違いは、肉体を持たない霊体ということにあるだろうな」

屍男「その特性故に、感じ取れる素質がないと探知することが出来ない。俗にいう霊感というやつだ」

屍男「他にも、基本的には物理攻撃が通じないために対策は必須だ。サシでやり合う相手ではないな」


吸血娘「ふーん……怪物と比べたら強いの?」

屍男「個体にもよる。が、攻撃を通す手段さえあればそこまでの相手ではない。肉体を持ってない分、防御は脆いからな」

屍男「だがこれはあくまで通常の霊の話だ。”足付き”相手になると話は変わる」


吸血娘「足付き……?」


屍男「あぁ、普通霊の下半身には脚が付いていないんだが、極稀にそれが付いている個体が存在する」

屍男「こいつらは手強い。その力は通常の霊とは大きく異なる。次元を歪める力や、人を発狂させる精神汚染、強力な念力など、その力は多岐にわたる」

屍男「真っ向から挑めば、まず返り討ちだ。狩人でも相当の手練ではないと勝負にならない」


吸血娘「……ふーん、中々強そうじゃん。そいつとならいい勝負になるかも」

屍男「……狩人の世界で幽霊とは主にこの二つを指す。だが、正確にはもう一つの分類が存在する」


吸血娘「え?まだあんの?」


屍男「あぁ、それが”突然変異”だ」

屍男「はっきり言って霊の中ではこいつらが一番警戒すべき相手だ。”足付き”より更に数が少ないが、その分タチが悪い」

屍男「”突然変異”が誕生する経路はその個体によって違うが、共通しているのは霊体が肉体の代わりの媒体を得て、その姿を変化させるということにある」


吸血娘「……ん?つまりどういうこと?幽霊なのに霊体じゃないの?」


屍男「あぁ、分かりやすい例を挙げるなら……以前、俺が遭遇した”突然変異”はカメラの姿をしていた」


吸血娘「カメラァ????」

屍男「そいつの特性は単純なものだ。そのカメラで撮影した人物を呪い殺す。恐らく、持ち主の霊がカメラと融合したものなのだろうな。俺が確認した限りではこれまで犠牲者が三桁近くにまで上っていた」


吸血娘「でもそんなカメラただぶっ壊せばいいだけじゃないの?」


屍男「そこが”突然変異”の厄介なところだ。奴らの共通点として何らかの不死性を得ている」

屍男「物理的な破壊手段は考えうる限りの全てを試した。しかし破壊には至らなかった」

屍男「ならば祓いの力ではどうだと、これも全ての方法を試した。”足付き”の霊でも一発で消滅するような道具をいくつも使ってな」

屍男「だが、これも無駄だった。そいつを壊すことは如何なる手段を用いても出来なかったんだ」


吸血娘「……で、どうしたんだそのカメラ。封印でもしたの?」


屍男「いや、それも考えたが……このカメラはもう一つの特性を持っていた。一定期間撮影が行われないと、瞬間移動をする性質があったんだ。持ち主の元を離れ、人通りの多いところに突然現れる」

屍男「これはどのような封印刻式を施しても、通用しなかった。自分から手を汚すことはないが、俺達以上の不死身の存在と言ってもいいだろうな」


吸血娘「……や、やばくね?それ……」

吸血娘「そ、そのカメラって今どこにあるの?まさか、今でも放置したままなんじゃ……」

屍男「安心しろ。結果的には破壊に成功した」


吸血娘「え?マジで?どうやったの?」


屍男「そのカメラは人間を撮影するとその人間を呪い殺す。では人間以外を写すとどうなるか……という話になる」

屍男「試しに、俺が標的にしていた怪物をそのカメラで撮影してみた。生者ではない存在を写せばどうなるか……とな」


吸血娘「どうなったんだ?」


屍男「写した怪物は数秒後に、カメラの呪いで死んだ。これでカメラの能力が人間以外にも通用することが証明された」

屍男「そこからしばらくはそのカメラを狩りの道具として使っていたんだが、ある日突然シャッターが切れなくなった」

屍男「カメラはなぜか分らんが故障していた。その日以来、そいつはただのガラクタになってしまった」


吸血娘「……どゆこと?」

屍男「考えられる可能性は一つあった。これが”突然変異”の弱点なのかもしれない」

屍男「奴らは生きている対象、生者相手には無敵に近い存在だが、同族の死者、霊や怪物には弱い……と推測出来る」

屍男「同じ波をぶつければ、その波の勢いは落ち、両者は打ち消される……」


吸血娘「……つまり”突然変異”の弱点は同じ死者なのか」


屍男「あぁ、さっきも説明したが、突然変異は他の媒体を肉体の代用として、その身を融合させることで産まれる」

屍男「つまり、霊体に不純物が混じってしまう。これが霊の弱点を消している」

屍男「だが、その代償としてとても不安定な存在になってしまっているのだろう。僅かにでもそのバランスを崩せば……消滅させることが出来るのかもしれない」

吸血娘「ふーん、なるほどねぇ。自分の弱点を消すことは出来たけど、完璧な存在にはなれないってことか」

吸血娘「他は?他の”突然変異”の例とかないの?」


屍男「……俺の経験でも、完全に消滅させることが出来たのはこの件だけだ」

屍男「”突然変異”へと辿り着く個体はかなり少ない。それに加えて、大抵は物理的な物に宿るのではなく、”現象”としてその姿を変化させる」


吸血娘「現象?」


屍男「分かりやすく言うなら天変地異の災害だ。ハリケーン、地震、火山の噴火など…人の手ではどうにもならない存在だ。これらは地縛霊のようにその土地に住み着いていて、俺でも手を出せない」

屍男「他にも、歴史を辿ればかつて中世で流行した黒死病、これはただのウイルスではなく、霊がウイルスに”突然変異”した、という説もある」


吸血娘「え?マジで!?」

屍男「あくまで一説だがな。だが、可能性としては充分にあり得る」


吸血娘「マジかぁ……そいつはヘビーな話だな……」

吸血娘「しかし最強の狩人の”Shadow”でも勝てない相手がいるんだな。この世界も広いってことか」


屍男「……そうだな。俺もまだ……狩り残したやつらが何人かいる」


吸血娘「どうするよ、その心霊スポットに突然変異の幽霊がいたら!」


屍男「あり得ない話をするな。例えいたとしても足がない下級霊だろう。そんな偶然があってたまるか」

…………………………………………
……………………………




幼女幽霊「ぶえっくしょい!!!!!!ちくしょうえい!!!!!」クシュン

幼女幽霊「な、なんだ……急にくしゃみが……誰か私の噂してんのかな」ズズー




DQN幽霊「いや先輩、なんで幽霊なのにくしゃみしてんスか。おかしいっスよ」


幼女幽霊「足付きはくしゃみもするんだよ。下級霊のお前には分かんないだろうけど」


DQN幽霊「まーたそうやってマウント取るんだから……ガキっスね」



ボコッ!!!!!!!!



DQN幽霊「」



幼女幽霊「次舐めたら殺す」

幼女幽霊「しかし、今週は一人も客来ねえなぁ……退屈だわ」


DQN幽霊「い、いてて……そりゃそうっスよ。もう肝試しシーズンなんてとっくに過ぎてるんだから」


幼女幽霊「はぁ……誰か来ねえかなぁ……何か来る予感すんだけどなぁ……」



ピーーー



幼女幽霊「来たあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!すげぇ!!!!!私の勘やっぱ当たるじゃん!!!!!」



DQN幽霊(な、なんて都合がいいんだ……)


幼女幽霊「どれどれ……どんな面をしてやがる……」

幼女幽霊「ん?こいつは……」







屍男『……』






DQN幽霊「ハゲのおっさん一人だけっスね」

幼女幽霊「…………」ピクッ

DQN幽霊「ん?どうしたんスか先輩」

幼女幽霊「……何でもない」



幼女幽霊(な、なにこれ……今、変な感じがした)

幼女幽霊(あのハゲ……何者だ)

DQN幽霊「で、今日はどうするんスか?」

幼女幽霊「……いや、今日はいいわ。気分じゃない」

DQN幽霊「えっ!?」

幼女幽霊「私の勘がしない方がいいって言ってるし、今日はそのまま放置で」

DQN幽霊(め、珍しいな……先輩が客を放置するなんて)








屍男「…………」ジー


吸血娘「どしたハゲ。じっと入り口付近でも見つめて」

屍男「……お前は確か、カメラなどの被写体にならないにならないんだったな」

吸血娘「は?急に何?」

屍男「……何でもない。行くぞ」

屍男(確認出来るだけで15台、死角がないように上手く隠して配置されている)

屍男(だが、プロの仕業ではないな。よく出来ているが、まだアマチュアの域だ)

屍男(大方、こちらの様子を地下のモニターで監視していると言ったところか、この廃墟の空気から察するに、霊がいるのは本当らしいな)

屍男(……悪趣味な奴だ)


吸血娘「出てこねえなぁ……幽霊……」


屍男「……あぁ、そうだな」


吸血娘「寒いし帰るか。つまんね、もう飽きた」


屍男「……相変わらず飽きっぽいやつだ」

スタスタ スタスタ


吸血娘「あーあ、結局幽霊が出るって噂は嘘だったみたいだな。無駄足だったわ」

吸血娘「結構ネットだと報告多かったんだけどなぁ。やっぱネットの情報は信用ならないな」


屍男「……その噂、あそこで行方不明者でもいるのか?」


吸血娘「ん?あぁ、そういうのじゃなくて、ただ幽霊を見たって書き込みが多かっただけ」


屍男「……そうか」






屍男(……大人しくしているなら、こちらから手は出さない)


屍男(精々、慎ましく生きることだな。お互いに)

幼女幽霊(な、なんだったんだろあいつ。あいつと同じ霊能力者……ってことはないな。こっちには二度と干渉しないって言ってたし、約束を破るやつとも思えない)




幼女幽霊(……いや、どちらかと言うと……あの感覚は人間じゃなくて、私達と同じ……)




幼女幽霊(あーもう!!!!!!!胃が痛くなってきたわ!!!!!!なんなんだよあのハゲはあああああああああああ!!!!!!!!!!)








おわり

はい
ということで色々遅れちゃったんですけど無事終わりました
今月中には新しいスレを立てられると思うのでよろしくお願いします

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