【SS】スマージャ森の魔女 (35)
スマージャ森
ここには摩訶不思議な動物達が沢山暮らしています。
特に森の奥にひっそりと建っている「Witch Shop」はネーミングセンスこそは三流ですが、店長の可愛さや取り揃えている品は一流です。
おや、今宵も誰かが来た様ですよ……。
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バタン
エルフ「ハァッハァッ……くそッ」
魔女「いらっしゃいませ、お客様」
エルフ「……あ? あぁ、ここ店だったのか」
エルフ「まあいい、僕を少しの間匿ってくれ。少しでいい」
魔女「匿う?」
エルフ「そうさ! ルー・ガルーの兄弟に追われててさ」
魔女「ルー・ガルーと言えば、この森を仕切っている狼男のことですよね」
エルフ「当たり前だろ? 投げた小石がどう言う訳か頭にHITしちまって」
エルフ「早く匿っておくれよ、奴らが来ちまうよ!」
魔女「メイドさんはどう思います? 匿ってあげますかねー」
メイド「……」フルフル
エルフ「な、なに首横に振っちゃってんの!?」
魔女「いやー、人にものを頼む態度がなってないと言うかー」
エルフ「こっちは死ぬか生きるかの瀬戸際だぞ!」
エルフ「お、隠れるにうってつけの壺があるじゃないか」
魔女「それは商品で」
エルフ「ルー・ガルー達が来ても僕の事は言わないでくれよ!」サッ
魔女「……やれやれ。厄介な客が来たもんですねー」
メイド「……」コクコク
魔女「コーヒー淹れましょうか。メイドさんはホットとアイスどっちにします?」
メイド『HOTで』カキカキ
魔女「はいはいホットですね」
突如、店の扉が乱暴に開かれた。
兄者「ウォーウウォーウ!」
弟者「ウェーイウェーイww」
エルフ(や、奴らだ。奴らが来たんだ……!)ブルッ
魔女「おや、お客様ですか。いらっしゃいませー」ペコリ
兄者「陰気な店だ。怪しい魔女に嫌と言う程肌が青白いメイドか」
弟者「兄者、さっさと用事済ましちゃおうぜ」
兄者「おい店長! ここに弱っちぃエルフの少年が来なかったか」
魔女「うーん……」
エルフ(マジで頼むよ……見つかったらボコボコどころじゃないんだ)
魔女「つい先程まで来てましたよ」
エルフ(ばっ馬鹿っ!)
弟者「聞いたか兄者! まだ店内におるかもしれんぜ」
弟者「例えばこの……」
弟者「銅製の壺の中とか!」ガンッ
エルフ(ひっ……)
兄者「おま、天才か!」
弟者「いやいや、単なる当て推量だよ当て推量」
兄者「てなわけで店長! 壺を貰っていくぜ」
魔女「駄目です。ちゃんとお代を支払って下さい。ねー?」
メイド「……」ウンウン
兄者「何だ何だァ? 俺達から金を巻き上げようってんのかゴルァ」
弟者「頸動脈噛み切るぞゴルァ」
魔女「……こちとら商売なんでね。どうしても払わないなら」
魔女「永遠にその壺を持ち帰ることはできない」パチン
兄者「しょっぺえ魔術のお出ましか?」
弟者「あ、兄者……つ、壺が!」
兄者「お前何でそんなに怯えてるんだ。別に普通の……あっ!!」
兄者「壺が銀製になってやがる!」
魔女「ルー・ガルーは銀が弱点と聞いたんです」
魔女「その気になれば店全体を銀製にできますけど、いかがかしら?」
メイド『いかがかな?』カキカキ
兄者「ひぃ! わ、私達が悪うござんした、だから銀だけは止めて!」
弟者「些細な事でキレたりしませんから、勘弁して~!」
バタン
魔女「あらら、逃げちゃいましたか。案外チキンでしたね」
魔女「ほら、坊やも壺から出て良いですよ」
エルフ「戦いもせずにルー・ガルーを追い払ったのか……」
メイド『彼らはお金を払わなかった。この店で窃盗は禁忌』スラスラ
エルフ「反対に言えば、奴らが酷い荒くれ者で無ければ……」ゾッ
魔女「で」
魔女「守ってあげたのだから何か買って行きなさい」ニヤ
エルフ「買うっても今、金が無くて……」
ノーム「おおっとこりゃたまげた! お若いの、無銭飲食する気かい?」
魔女「まぁノームさん、いつの間にいらっしゃったのですね」
ノーム「こんばんは、素敵な魔女さんそれと死臭漂うメイドさん」ペコ
エルフ「死臭漂う?」
ノーム「お若いのには関係ないわい! 先立つもん用意して、おととい来やがれ」
エルフ「そんな言い方無いだろ」
魔女「さて、今宵は何をお求めに?」
ノーム「ちとワシらの集落で厄介事があってね」
ノーム「実際に来てみれば分かる事じゃが」
魔女「承りました。すぐにノームの里に向かいましょー」スッ
エルフ「おい、待ってくれ。あんたが抜けたら誰が店長やるんだ」
魔女「? 誰もやりませんよ。少しお暇を頂くだけです」
魔女は外に出ると扉に掛かっている『OPEN』の看板を『CLOSED』に裏返した。
魔女「ではノームの里に出発進行ー。あ、メイドさん荷物持って下さいね」
メイド「……」ドサッ
エルフ「は!? メイドさん何で僕に荷物持たせるんだよ?」
ノーム「金が無ければ下働きもしなくてはならぬ」
エルフ「……全く、難儀な店だよ!」
第一話・完
こんな感じで亀進行で投下していきますm(_ _)m
第二話
「Witch Shop」は本当に奇妙な店だ。
何せ店長の気分次第で開店したり休んだりするのだから。
僕は一介の客なのだが、金が無いせいで下働きをさせられている。
本来荷物持ちも、従業員のメイドさんがすべきなのにね。
エルフ「なぁ、そろそろ誰か代わってくれよ。乳酸溜まり切って、くたくたなんだ」
ノーム「ワシは背が低いからパス」
魔女「私は店長なので」
メイド「……」
エルフ(血も涙もないな)
エルフ「メイドさんは力も強そうだし……肉体労働は適材適所だよな」
メイド「……」
エルフ「無視するなよ、そんな暗い性格じゃお嫁に行けないぞ」
メイド「……」ムカッ
ギュムッ
エルフ「痛だだッ! ちょ、金玉潰れるから! ごめんなさい!」
ノーム「情けないのぅ。エルフとは皆軟弱者なのか?」
魔女「メイドさん、川で手洗った方が良いですよ」
魔女「エルフ汁がついてるかもですから」
エルフ「何だよエルフ汁って……」
青汁みたいなニュアンスで言わないで欲しいな。
そんなこんなで太陽が地平線に現れる頃にはノームの里に到着した。
魔女「くぅ……くぅ……」
エルフ「着いたぞ! 起きなさい!」
メイド「……」チョンチョン
エルフ「あ? んだよ……」
魔女は魔力を温存するため、 昼間は寝ていないと過労死してしまうらしい。
その間は代わりにメイドさんが店長を務めるのだとか。
僕としては逆の方がピッタリだと思うけど。
いやね、メイドさんって闇の住人的なイメー……痛い痛い!!
エルフ「ふぅ、痛かったー。これじゃ金玉いくらあっても足りないな」
エルフ「あ、やべ……フラついてきた。昨日ろくに寝てなかったからか」
ノーム「コラッ! 若者は寝るな! トンカチで足の爪叩き割るぞ」
エルフ「……いやごめん。これマジで無理」フラフラ
エルフ「メイドさん……ベッド代わりに使わせてもらいます」ギュ
ノーム「…… 仕方のない奴じゃ」
ノームは元来地下に居住区を構える妖精だ。
妖精・魔物名鑑にもそう記されているからね。
しかし、実際は違ったらしい。
メイドさんの筆談によれば、木でできた立派なお屋敷が何軒もあったんだと。
何が地中の妖精だ、名鑑の信憑性がますます薄れたよ。
ノーム1「あ、王様だ!」
ノーム2「王様が帰ってきたわ!」
ノーム「皆の者、静まれ! 『Witch Shop』の人を連れて来たぞ」
ザワザワ
ノーム1「この姉ちゃんが?」
ノーム2「綺麗だけど何だか機会人形みたいで怖いわ」
ノーム「失礼な事を言うな!」
ノーム「では、ワシの屋敷へどうぞ。店長とエルフは寝かせよう」
メイド「……」コク
???「……どうも腑に落ちねぇ」
???「絶対に正体を暴いてやる」
ーノームの屋敷ー
ノーム「では早速本題へ入ろうか」
ノーム「ワシらは地中で工芸品を作り、北の街に出荷している」
メイド『ふむふむ』
ノーム「街とスマージャの森を繋ぐ交易路が一つしかない事は知っとるな?」
メイド『はいはい』
ノーム「その交易路が一人のドワーフに占領されてしまったのじゃ」
ノームの変異個体・ドワーフ。
高い身長に加え、卓越した身体能力を誇る危険な妖精だ。
ノーム「通路の脇に潜み、通る商隊を見かけては襲いかかっている」
ノーム「……ワシの息子もドワーフに襲われ死んだ」
ノーム「……これは一種の弔い合戦の様なものよ」
ノーム「……ドワーフを、討ち取って来てくれ。ワシが望むのはそれだけじゃ。受けてくれるか」
メイド『店長に聞かないと判りませんが、多分受けると思いますよ』カキカキ
ドワーフ「そうか……それを聞いて安心した……。息子も空できっと喜んでいるじゃろう」
???「騙されるな!」
メイド「……?」
ノーム「ベン!」
ベン「爺ちゃん、こいつらこそドワーフの手先だ!」
ノーム「ベン、いくらワシの孫だからって、言って良い事と悪い事があるぞ」
ベン「もう俺も12歳、立派な大人だ! ドワーフくらい俺に任せてくれ!」
ノーム「ベン! ドワーフに何人ものノームが殺されているのだぞ。……お前の父親もな」
ベン「爺ちゃんまで俺を止めるのか? フン! 見損なったぜ!」ダッ
メイド「……」
ノーム「す、済まん。血気盛んな年頃でな……誰に似たのやら」
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