【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」 (474)


前スレはこちら

提督「墓場島鎮守府?」
提督「墓場島鎮守府?」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529758293/)

時系列的にはここがこのスレ。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/)
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515056068/)

上記スレッドの番外編です。

・舞台になっている鎮守府、通称『墓場島鎮守府』の過去の話になります。
 提督の着任から、各艦娘がこの島へ着任するに至った経緯を書いていきます。

・艦娘の殆どが不幸な目に遭っておりますので、そういう話が嫌な方は閉じてください。

・影牢のキャラは出てきません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1583941702


舞台の「墓場島」について
 作中の表記は「××国××島」、通称「墓場島」。太平洋上にあるとある無人島、パラオ泊地が一番近いと思われる。
 島の北側には海底火山があり、潮流が強く流れが特殊なため、普通の船舶は近寄れない。
 そのためか深海棲艦も寄り付かず、轟沈した艦娘の亡骸がよく島の北東に流れ着いている。
 島の北部は火山活動によってできた岩場。西側は手つかずの林に包まれ、小さいながら切り立った崖がある。
 島の南から北東にかけては、なだらかな丘陵と砂浜が続いており、島の東側に鎮守府が建てられている。

 墓場島と呼ばれるようになった所以は、提督が流れ着いた艦娘を埋葬し、墓標代わりに艤装を並べたことから。
 最近では、問題を起こした艦娘を送り込む墓場、という意味に勘違いした海軍から、艦娘を送り付けられている。



艦娘以外の主要な登場人物

・提督
 階級は准尉。一般人には見ることすら出来ない妖精と話が出来たせいで
 親からも変人扱いされたため、人間嫌いをこじらせる。結構な不幸体質持ち。
 中佐の補佐官として海軍に入ったが、無人島の鎮守府に幽閉同然の扱いで着任した。

・中佐(前スレ初登場時は少佐)
 戦争は金儲けの道具と考え、中将の威光を傘に暗躍。後に大佐にまで昇進する。
 妖精と会話できる提督の存在に危機感を覚え、離島の鎮守府に封じ込めた。

・中将
 中佐の父親。有能だったらしいが息子が絡むと駄目になるらしい。
 足を悪くしており、本営の自室でデスクワークが日常。

・そのほか、たくさんの『提督』


登場艦娘一覧

如月:試作の新兵器の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着
不知火:もと少佐の部下。解体前提で如月捜索に駆り出されるが、提督の計らいで中将麾下に
朧、吹雪:捨て艦で轟沈後、島に流れ着く(二人とも別の鎮守府出身)
由良、電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く(同じ鎮守府出身)
神通:慕っていた司令官を謀殺され、その復讐の途中で左遷させられる
大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなり異動してきた
敷波:由良と電の捜索を命じられそのままMIA
明石:提督に帳簿の不正を強いられ、そのまま首犯扱いで雷撃処分
朝潮、霞:提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分
暁:信頼していた提督の変貌に錯乱して敵陣特攻し記憶喪失に
初春:捨て艦で轟沈後、暁に助けられ島に漂着
潮、長門:変態の上官に迫られ耐え切れなくなり家出、長門はその護衛
比叡:料理上手なのに認めてもらえずご飯を投げ捨てられて鬱に
古鷹:お人よし過ぎて自分の練度が上がらず観艦式において行かれる
朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけてきた
利根:司令官の猟奇趣味に巻き込まれ死にかける
ル級:オリョールで毎日毎日潜水艦に小突かれる日々に嫌気がさし脱走
伊8:オリョールに行ったら逃げたル級の代わりの軽巡に轟沈させられる
大和:妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造したら作られた
初雪:艦娘管理ツール使いの提督に昼夜問わずこき使われ失神後漂着
金剛:愛情から目を背ける提督を説得し続け、煙たがられて左遷
五月雨:玉砕覚悟の敵討ちを望むも、仲間を沈めた濡れ衣を着せられて追い出される
榛名、那珂:養成所の訓練と称して轟沈するまで戦わされ島に流れ着く
扶桑、山城:理由もなく疫病神扱いされ、戦況不利な海域に誘導され轟沈する
龍驤:暴食を強要され体形を馬鹿にされ、ブチ切れて鎮守府を火の海に
陸奥:龍驤と同じく暴食を強要され、かつ度重なるセクハラで男性不信に
雲龍:特別海域で艦隊に邂逅できず、餓死寸前だったところを龍驤に保護される
島風:スピードを追い求める姿勢を疎まれて、訓練中に除名される
白露:島風と一緒に特訓するため艤装を改造、同じく訓練中に除名される
黒潮:姉妹艦を人身御供にした司令官にぶち切れて、犯人もろとも海に投げ捨て離反
山雲:ドロップ直後に、黒潮を探す雪風が起こした深海勢に激突される
最上、三隈:最上にベタベタし続けたことに三隈が切れて提督の股間を破壊
摩耶、霧島:理不尽な防戦指示を無視して戦況を好転させたため、提督に激怒される
川内、若葉:夜戦禁止の腰抜け提督の下で輸送部隊の撃破のため夜戦したら馘になった

注:ル級は島の北の離れ小島近辺に住んでいます。この鎮守府所属ではありません。


以上テンプレ。

では本編の続きです。


 * その日の夜 *

川内「夜戦だああああああああああ!!」


 * 提督の部屋 *

提督「……うるせえ……」ムクッ

提督「ありゃあ川内か? くっそうるせえな……」

提督「……あーくそ、起きて説教しなきゃなんねーか……面倒臭え」

 コンコン

提督「!」

 チャッ

如月「司令官……?」コソッ

提督「なんだ、お前も川内のアレで目を覚ましたのか?」

如月「え、ええ……司令官も?」

提督「ああ。寝付く前にあんだけ大声上げられちゃあな」ノビーッ

如月(……せっかく私が司令官のベッドに入る日だったのに)ムー


 * *

川内「夜だよ、夜! みんな起きてーーー!!」

 *

山城「……なんなのよ……」ムクリ

扶桑「うう……ん」フトンカブリ

山城「あの夜戦馬鹿……」ブツクサ

 *

長門「なんだ、敵襲か……?」

潮「ん、ふえぇ……?」

陸奥「もう……なんなの……」

 *

最上「……うう、なに? なに?」

三隈「もがみん……」ギュー

最上「三隈、寝惚けてないで……なんで抱き着いて離れないのさ」

 *


川内「みんなああ! 夜戦の時間だよーーー!!」

 *

初雪「すぴー……」

吹雪「初雪ちゃん、よく寝てるなあ……あ、耳栓してる」

 *

古鷹「むにゃ……?」

電「……な、なんなのですか?」

暁「うにゅぅ……まだ夜じゃない……」

 *

敷波「もー……なんでこーなるかなー」フトンカブリ

朧「ほんとに……」ネガエリ

 *

龍驤「ほんっまやかましいやっちゃなあ……!」

雲龍「……」スヤスヤ

龍驤「雲龍はこんなんでも寝てられるんか……」

龍驤「ま、ええわ……二度寝しよ」ポユン

 *


川内「夜戦! 夜戦! 待ちに待った夜戦の時間だよーー!!」

 *

金剛「Wooo... いい夢を見ていたのに、邪魔されたデース」

榛名「……」スヤァ

霧島「榛名お姉様は意外と眠りが深いんですね……」

比叡「明日の朝ごはんの仕込みがあるんだけどなあ……」ウーン

 *

大和「……精神集中、精神集中……心頭滅却すれば……」ブツブツ

 *

由良「……ああ、もう……」ゴロゴロ

大淀「……眠れないですね……」ウーン

 *


川内「や・せ・ん! 夜戦夜戦! 夜戦だよーーー!!」

 *

霞「……予想はできてたけど、予想以上だわ」

朝雲「う~、うるさいよぉ……」

山雲「ん~……」ゴロン

朝潮「……」ウツラウツラ ヌギヌギ

霞「朝潮姉!?」

山雲「寝ながら着替えてるわ~……」

朝雲「だ、大丈夫なの……?」

 *

明石「も~、なんなんですかいったい……」

伊8「……」ムクリ

明石(……目が据わってる……!)ビクッ


 * 通用口 *

神通「案の定ですね……」ハァ

初春「まあ、こんなことじゃろうと思っておったがのう……」

若葉「無理もないな」

那珂「夜更かしはお肌に良くないんだけどなあ……」メヲコスリ

利根「なんじゃ、おぬしら起きてきおったか」

神通「利根さんは見回りでしたか」

利根「うむ。摩耶も一緒じゃ」

摩耶「まあ、あたしは来たばっかりだし。こうやって少しでも慣れていかねーとな」

若葉「その手の仕事なら、若葉に任せてくれればいいんだが」

神通「若葉さんには明日から遠征のお仕事がありますよ」

若葉「そうか!」キュピーン

初春「おぬしはわーかーほりっくか……」


提督「……」スタスタスタ

利根「む?」

神通「提督……?」

那珂「えっ、提督さん来てるの!? 那珂ちゃんすっぴんなんだけど!?」ワタワタ

初春「あの男はそんなことをまったく気に留めないだろうがのう……」ポツリ

若葉「それよりもだ、あの男、明らかに怒っているよな?」

摩耶「あん? いっつもあんな顔してなかったか?」

初春「普段からあの仏頂面じゃ、いまいちわかりにくかろうが、安眠妨害されれば当然じゃろうな」

摩耶「止めないのか?」

神通「一度痛い目を見てもいいと思います」

若葉「サラッと言うところが容赦ないな」

提督「……おい、神通、那珂」

神通「はい」

那珂「!? は、はいっ!」


提督「ちょっと川内を黙らせてくる。いいな?」

神通「はい。不肖の姉が申し訳ありません」ペコリ

提督「神通が謝るは必要ねえよ。ちょっと行ってくる」スッ

神通「はい」コク

那珂「あ、あんまりひどいことしないでね?」アセアセ

提督「……川内次第だな」

那珂「だ、大丈夫かなあ……」ハラハラ

 ゾロゾロ

霞「なに? あいつ、川内さんのところに行ったの?」

如月「司令官、大丈夫かしら」

由良「素直に静かになってくれるといいんだけど……」

伊8「……」ムスー

利根「なんじゃ、おぬしたちも起きてきたのか」

由良「さすがにあれだけ騒がれれば、みんな目を覚ましちゃいますよ」


霞「朝潮姉なんか、半分寝たまま着替えちゃってるんだもの。ただの夜戦演習だからって眠らせてきたわ」

若葉「それより、異常に殺気立ってる潜水艦がいるんだが」

伊8「……はっちゃん、ちょっとあの軽巡、沈めてきますね?」

初春「ま、待たんか! 夜の潜水艦が本気を出したら、水上艦はひとたまりもないぞ!?」

伊8「はっちゃんの健やかな睡眠のためです」ドロリ

初春(うっ……なんと濁った眼をしておるんじゃ)

明石「まあ、三大欲求の一つですし? 安眠妨害されたら恨みを買うのも仕方ないでしょ~……ふわあ」

初春「明石……こうなる前になんとかならんかったのか?」

明石「それができたらここには来てないってば。でもまあ、提督が来てるんだし、なんとかなるでしょー」

摩耶「なんだ、随分信頼されてやがんな」

由良「……信頼、って言うのかな?」クビカシゲ

摩耶「なんだそりゃ」

霞「とりあえずなんとかしてくれそう、ってのはあるわね……」

初春「有無を言わさず、という感じも多分にあるがの」

明石「っていうか、いつも力押しって感じもするけど?」


由良「いつも思うけど、もう少し手段を選んで欲しいわ。ハチちゃんなんか殺されかけたんだし」

利根「う、うむ……そうじゃったな」

摩耶「何やってんだよ……」

伊8「あのときは、はっちゃん、おかしくなってましたから。自分で死にたがってたんです」

明石「私はあのときのこと、未だに納得してないけど。艦娘を深海棲艦に撃たせる人間なんて……」

霞「……北上さん、今頃なにをしてるのかしら」

明石「……そう、よね。元気……だと、いいんだけど」ウツムキ

摩耶「この鎮守府に北上がいたのか?」

霞「そうじゃないわ。私と朝潮姉、明石さんは、以前A提督鎮守府に所属していたの」

霞「明石さんは、そこでA提督の横領を手伝わされていたのよ。手伝わなければ、みんなの艤装に細工をして怪我をさせるぞ、って脅されて」

霞「私と朝潮姉は、そのA提督の不正の証拠を掴んだところを捕まえられて……3人揃って雷撃処分されたのよ」

若葉「口封じか……」


明石「そのとき、私たちを雷撃したのが北上さんです。北上さんは、私と一緒に開発した新型魚雷の失敗作を使ってくれました」

明石「だから私たちは、致命的な損傷を受けずに、生き延びられたんです。でも……北上さんとはそれっきりで」

利根「北上に、明石たちが生きていることを伝えられていないわけじゃな」

如月「……黒潮ちゃんも、同じよね。ずっと雪風ちゃんのことを心配してるし」

那珂「そっか……そうだよね。心配、だよね……」

 < ヤセンダアアアアア!!

神通「……」

那珂「……」

初春「神妙な雰囲気が台無しじゃな……」

若葉「その……すまない」

那珂「わ、若葉ちゃんが謝ることじゃないよー」

伊8「やっぱり、一発ぶちかましてきますね」

霞「お、落ち着きなさいよ!」

如月「し、司令官に任せましょ?」

伊8「……任せるのはいいけど、提督に危険が及んだりしない?」

如月「……私も行くわ」

霞「ちょっ!?」


 * 丘の上 *

川内「夜戦だ夜戦だああ!」ピョンピョン

川内「やっぱり夜はいいよねーー!!」

川内「夜は……」ピク

川内「……」

 キョロキョロ

川内「……ここは……」

川内「……」ミミヲスマシ

川内「あまり、騒ぐな、ってこと?」

川内「ふぅん……そっか」

川内「……」

川内「なるほどね」

川内「……」

提督「何を独りでぶつぶつ言ってやがる」

川内「あ、提督! ごめんね、夜戦できるのが嬉しくてうるさくしちゃったよ」ニカッ

提督「……ああ?」


川内「静かにするからさ。夜戦、させてくれるでしょ?」

提督「そりゃあそうだが……うるさくしなきゃ文句はねえよ」

川内「ほんと!? ふふっ、ありがと!」ニコ

提督「……どういうこった。お前、俺の頭の中でも見えたのか」クビカシゲ

川内「ん? 何が?」

提督「俺は、お前が夜中にやかましいから文句を言いに来たんだがな」

川内「ああ、やっぱり?」

提督「自覚あったのかよ」

川内「ううん? そういうの、全然気にしてなかったんだけど」

川内「でも、ついさっきね、うるさくしないほうがいいよ、って声が聞こえてきてさ」

提督「声?」

川内「まあ、考えてみればそうだよね。うるさくしてたら音で探られて狙われちゃうし!」


提督「いや、普通に夜は静かにしろよ。鎮守府を深海の連中に攻め込まれたらどうすんだ」

川内「ああ……そうだね。そんなのは二度と御免だね」

提督「……二度と?」

川内「あたしさ。以前、鎮守府を深海棲艦に襲撃されたんだ」

提督「!」

川内「長期戦に持ち込まれて、あたしたちの提督もおかしくなっちゃって。最後は見捨てるしかなかったし……仲間も、守れなかった」ウツムキ

川内「しかも、そのときは夜戦だったんだよ。あたしの大好きな、夜の戦い! なのに、あたしは全然……戦闘の途中で大破して、気を失って」

提督「……」

川内「若葉もそうだけど、あたしも強くなりたかったんだ。もう二度と、夜で……夜戦で負けない、って。もう、あんなみじめな思いをするのは嫌!」

川内「……でも、止提督のところじゃあ、夜戦させてもらえなくってさ」

川内「勿論、昼は昼で強くなったよ! っていうか、昼間しか戦わせてもらえなかったんだけどね」

川内「夜戦に持ち込むな、昼間の間に全滅させろ。夜は嫌だ、夜は嫌だ、って……止提督はそればっかり」

川内「あたしは、その嫌な夜を……あの夜を、克服したいんだって何度もお願いしてたのに……」


提督「……お前も若葉と同じで、復讐みたいなもんか」

川内「それに近いかもね。でも、あたしの場合は、特定の相手じゃなくて、夜戦。夜は、絶対に負けたくない。夜に、打ち克ちたいんだ」

提督「……夜戦がしたいなら好きにしな。うるさくしなきゃ、文句はねえ」

川内「ふふっ、それ、さっきも聞いたよ? でも、ありがと! あたしの話を聞いてくれて!」

提督「……ああ」

川内「それじゃ、さっそくだけど今夜はずっと個人演習させてね! 夜明けには戻るから!」

提督「わかったわかった。無理すんなよ」

川内「うん!」ニコッ


(歩き去る提督を見送った川内が空を見上げる)


川内「……もう、あたしは負けないよ」

川内「I提督……響……暁……!!」キッ


 * X提督鎮守府 埠頭 *

(夜空を見上げているヴェールヌイ)

ビスマルク「こんなところにいたのね」

ヴェールヌイ「……ちょっと、昔のことを考えていてね」

ビスマルク「……」

ヴェールヌイ「改装を受けて暫く経つけど……かつての仲間が私に気付いてくれるか、やっぱり不安なんだ」

ビスマルク「行方不明になった、姉妹艦のこと?」

ヴェールヌイ「それもあるけど……川内さんも、かな」

ビスマルク「センダイ?」

ヴェールヌイ「うん。あの夜、暁が敵陣に突っ込んだって聞いて、私も暁を追いかけたんだ」

ヴェールヌイ「けど、前後不覚になっていた私を庇って、川内さんが大破して。私も被弾して、結局、暁は探せず仕舞い……」

ヴェールヌイ「入渠した川内さんが目を覚ます前に異動が決まって……お礼を言うこともできずに、私はこの鎮守府に来てしまったんだ」


ビスマルク「今、川内がどこにいるかはわからないの?」

ヴェールヌイ「止提督鎮守府にいたらしいんだ。でも、命令違反で飛ばされたって。異動先は、記されてなかった」

ヴェールヌイ「いくら強くなっても、改装を受けても、お世話になった人たちに報いることができないんじゃあね……」ウツムキ

ビスマルク「……響、大丈夫よ。そういう話、大将に訊けばあっと言う間じゃない!」

ヴェールヌイ「……」

ビスマルク「私的な詮索は咎められるかもしれないけれど、私たちのアドミラルの叔父さんなんでしょう? 難しい話じゃないわ!」

ビスマルク「不安げな顔をしないで。このビスマルクに任せておきなさい!」

ヴェールヌイ「……スパスィーバ」

ビスマルク「そうね……あなた、以前言ってたわよね、私があなたのお姉さんに似てるって。お姉さんだと思って頼っていいのよ?」

ヴェールヌイ「スパスィーバ……本当に嬉しいよ」ニコ

ヴェールヌイ「でも……『頼っていいのよ』って台詞をよく言うのは、姉ではなくて妹のほう、かな」クスッ

ビスマルク「そ、そうなの!?」


 * 提督の寝室 *

提督「……」

如月「ねえ、なんでみんないるわけ?」ムスー

伊8「川内さんのせいで寝付けないから、今夜のはっちゃんは予定を変更して提督と寝ます」ギュウ

霞「わ、私はいかがわしいことをしないか見張りに来たのよ!」

如月「一緒のベッドに入って見張るの?」

霞「そ、そうよ!」カオマッカ

伊8「なんでもいいから静かにして」

提督「……いやまあいいけどよ」ハァ…

提督(……それにしても。川内が言う、声が聞こえた、ってどういうことだ……?)


由良(……なんで由良も一緒に寝てるのかな……)カオマッカ


というわけで今回はここまで。

このスレも、よろしくお願い致します。

久々の日常編。続きです。


 * 執務室 *

(初雪を膝枕して耳かきしている提督)

提督「……」クリクリ

初雪「……はふぅ」ウットリ

提督「なあ初雪?」

初雪「……はい」

提督「さすがに2週間おきに耳かきしてると、全然たまってなくて綺麗なまんまなんだが」

初雪「……」

提督「……んな顔されても困る。綺麗ならそれでいいじゃねーか」

提督「短くても月一くらいにしとけ。あんまり耳かきしまくっても耳に良くないってはっちゃんも言ってたからな」

初雪(……余計なこと言わなくていいのに)ザワッ

提督「つうか、俺じゃなくて古鷹に頼んでも……」

初雪「提督がいいんです」ボソ

提督「……」


初雪「楽しみにしてたのに……」ドヨーン

提督「……んじゃあどうすりゃいいんだよ」

初雪「……」

提督「……」

初雪「気分だけでも」

提督「ん?」

初雪「膝枕して、お昼寝。週一回、10分間」

提督「……」

初雪「……駄目?」チラッ

提督「……まあ、いいか」

初雪「!」グッ!

初雪「そうと決まれば」モゾモゾ(←位置調整)

初雪「それと、手はここ」ソッ(←提督の手を初雪の頭の上に)

提督「……」

初雪「完璧……!」ムフー

提督「……」

初雪「おやすみなさい……」スヤァ…

提督(……猫かこいつは)


 * 翌日 *

伊8「ってことを聞いたんですけど」

提督「まー、そうなったな」

伊8「はっちゃんも提督と一緒にお昼寝を要求します」キョシュ

提督「……お前はしょっちゅう俺のベッドにもぐりこんできてるよな?」

伊8「それとこれとは話が別です」

伊8「せっかく作ったお風呂も入りに来てくれないし」ムスー

提督「……入るなら一人でゆっくり入りたいんだよ」

伊8「はっちゃん、お風呂の管理者です」

提督「だからってなんでお前も一緒に入りたがるんだよ」

伊8「人肌が恋しいんだから、いいじゃないですか」プク

提督「だから膝枕しろってか」ハァ

伊8「膝枕じゃなくてもいいですよ?」ズイ

伊8「とにかくソファに座ってください」グイ

提督「……」ボス


伊8「10分間でしたよね?」

提督「……ああ」

伊8「それじゃ、失礼して」ノソッ

 (座った提督の正面から抱き着く伊8)

提督「!?」

伊8「それじゃ、おやすみなさ」

提督「ちょっと待て。これは膝枕って言わねえぞ、抱き枕だ」

伊8「そうですけど?」

提督「……」アタマカカエ

伊8「反論もないようですので、おやすみなさ」

 扉<ガチャ

三隈「提督! 三隈、新型にな……」

伊8「あ」ダキツキ

提督「……」ダキツカレ

三隈「」


最上「三隈、どうしたの?」ヒョコ

三隈「くまりんこーーーーーーーー!」イヤーーーー!

伊8「!?」

提督「!?」

最上「み、三隈!? お、落ち着いて!」

三隈「くまっ、くまあああ!」

伊8「うるさくてお昼寝できないんですけど」ギロリ

提督「そうじゃねえだろ」

 *

三隈「お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ……申し訳ありません」

提督「いや、いいけどよ。見苦しいのは俺も似たようなもんだしな」

三隈「え、ええ……その、提督はどうして伊8さんと抱き合ってらしたんですか?」

提督「はっちゃんが俺に抱き枕になれとよ」

三隈「あんな対面座位みたいな恰好……知らない人が見たら悲鳴を上げてしまいますわ」ポ

提督(悲鳴で済めばいいがな……)


最上「はっちゃんは抱っこしてもらうのが好きなの?」

伊8「はい」

最上「それじゃあ、僕が代わりに抱っ」

三隈「くまりんこーーーーーー!!!」

最上「……」ビックリ

伊8「……」ドンビキ

三隈「最上さんは! どうして! そんなに無防備なんですか!!」

最上「み、三隈こそ神経質になりすぎだよ。抱っこって言っても、同じ艦娘だよ?」

三隈「で、でも……」

提督「……ここまで言い淀んでる、ってことは、三隈が神経質にならざるを得なかったんだな? お前らのいた部提督の鎮守府ってのは」

三隈「え、ええ……私がみんなを見張ってないと気軽にぺたぺた触ってしまう、しょうがない人たちだったんです」

三隈「あまりに風紀が乱れていましたので、私が口うるさく注意していましたから、私の前では皆さん大人しくなったんです」

三隈「でも、私のいないところでは相変わらずで……」

最上「それで、三隈が普段からくまりんこーって言うのが日常になっちゃったんだよね」

伊8「? どうしてそうなるの?」


最上「三隈の声が聞こえるとみんな警戒するんだ。部提督も三隈の声が聞こえたら、僕から離れるようになったし」

提督「サイレンみたいなもんか」

三隈「ええ、効果はあったんです。でも、そのせいで、いかがわしい場面に遭遇した時もその口癖が出てしまうようになりまして……」

最上「それだけじゃないよ。出撃中に被弾したときも言うようになっちゃったんだ」

伊8「意識しなくても言っちゃうようになったんですね」

提督「ところで、そのくまりんこ、ってなんだ?」

三隈「そ、それは……」カァ

最上「うーん、決め台詞みたいなものかな?」

提督「……?」クビカシゲ

伊8「女の子にはいろいろ秘密があるんですから、言及しちゃだめですよ」

提督「まあいいけどよ。三隈が言いたくねえならそれでいい」

三隈「お、お気遣い感謝します」モジモジ

伊8「ところで……」

 バタバタバタ

提督「!」


 扉<ガチャバーン!

金剛「Heeey, テイトクゥーーー!!」

三隈「!?」

最上「!」

伊8「……」

提督「ん、金剛か」

金剛「Yes ! 今回の海域、私が活躍しまシタ! MVPデース!!」

金剛「なので、ご褒美を貰いに来まシターー!」ダキツキー!

提督「ぬお!?」ダキツカレー

三隈「くまりんこーーーー!」キャーーー!

大和「金剛さん、何を抜け駆けしてるんですか!」バッ

比叡「司令ってばずるい!!」バッ

榛名「榛名もMVPを取ったら抱き着かせていただきたいです!」ポッ

摩耶「おい待てよ! 霧島さんの指揮があったからあんなにすんなり海域抜けられたんだぞ!?」

霧島(戦艦5重巡1なら、すんなり抜けられて当然の海域だったんだけど……)タラリ


三隈「は、破廉恥ですわ!?」

金剛「No ! 私とテートクは、ハレンチな関係じゃありまセーン!」

大和「その通りです! 提督はそのようなお方ではありません!」

金剛「Heeey, 大和ォ? その言い方はまるで私がハレンチな艦娘であるように聞こえマスヨー?」

大和「すぐに提督に抱き着いて離れないあなたが仰っても、説得力がありませんよ?」

比叡「金剛お姉様! 司令に抱き着くのなんて、慌てなくったって、いつだってできるじゃないですか!」

金剛「えっ」

大和「えっ」

榛名「えっ」

比叡「えっ」

伊8「……」

金剛「比叡? 何を言ってるデース?」プルプル

比叡「だって司令、好きにしろって仰ってましたよ?」

金剛「!?」グリッ

大和「!?」グリッ

榛名「!?」パァッ


伊8「それ、本当ですか?」

提督「どうせ大和たちには言っても聞かねーだろうしな。逆に比叡だけ駄目だって言う理由もねえ」

伊8「比叡さんはどうして提督に抱き着こうと思ったの?」

比叡「え? 金剛お姉様が頻りに司令に抱き着きたがるから、どういう感じなのかな? と思って……」

最上「ふーん。どんな感じだったの?」

比叡「ええっとねー、金剛お姉様はこう、ふわーっと包み込んでくれる感じなんだけど」

比叡「司令はがっちりしてて! そんなに筋肉質ってわけでもないのに、安心して寄りかかっていられる感がすごかったって言うか!」パァッ

大和(わかります……)

榛名(とってもよくわかります……!)

金剛(比叡……Tension が上がってマスヨー……)

最上「こっちのみんなは、どうして固まってるんだい?」

摩耶「い、いや、あたしに言われてもなあ……」チラッ

霧島「え、ええ……私たちも新参者ですし、困りますね」

三隈「最上さんもそうですけど、比叡さんも相当鈍感というか……」

伊8「全然邪念がないみたいですね」


比叡「それで、また抱き着いてもいいですか、って聞いたら、好きにしろ、って流れに」

金剛「テートクゥゥ!?」グリッ!

大和「どういうことですか!?」グリッ!

提督「いや、お前らが言うなよ」

伊8「ですよね」

三隈「どういうことですの?」

伊8「金剛さんも大和さんも、週一でハグタイム設けてもらってるんだって」

三隈「……くまりんこ……」ガックリ

榛名「つまりそういうことですね! 榛名も大丈夫なんですね!」キラキラッ!

摩耶「ハグタイムって、何かのテーマパークじゃねえんだぞ……」

霧島「ね、ねえ、摩耶……はぐたいむ、って何なの……?」

摩耶「え? あー、なんつうか、人形に抱き着ける時間っつうか……」

伊8「遊園地とかのイベントで、マスコットの着ぐるみとかにハグしてもらえる時間、と言うとわかります?」

摩耶「そ、そうそう! そういうイベント時間!」


伊8「Hug time 、和製英語ですね」

最上「へー、そういうのがあるんだ」

霧島「ふぅん……?」

三隈「霧島さん、いまひとつ理解できていませんわね」

霧島「え、ええ。ちょっと想像できなくて」

提督「……俺はマスコットか」

比叡「マスコット……ではないですよね。司令は成人男性ですし……」

三隈「男性でも、アイドルなら……それでも握手するくらいで、抱き着いたら一大事ですわね」

 扉<ガチャバーン!

那珂「那珂ちゃんのこと、呼んでくれた!?」シャラーン!

提督「呼んでねえし話がややこしくなるから出てくんな」

那珂「ちょっ!? それ、ひどくないですか!? 折角図面を持ってきたのに!」ガーン!

提督「図面? できたのか?」

那珂「はいっ! 明石ちゃんと妖精さんたちが、こんな感じでどうかって!」

提督「そういうことなら、とっとと現場に行くか。おい、お前らちょっと顔貸せ」

全員「「??」」


 * 食堂 *

提督「食堂に入ってこっちが厨房、反対側がただの壁だ」

提督「で、その壁の向こう側は使っていない会議室。つうか、半端にでかいせいで物置になってたわけだが」

提督「この壁をぶち抜いて、ぶち抜いた先のスペースにステージを作ろうって考えたんだ」

大和「なるほど、それで戦艦の力が必要と言うわけですね」

提督「ちょっと段差付けて、舞台の裾に更衣室と音響や照明の設備も置けば、まあそれっぽくはなるだろ」

提督「あまりでかいスペースはとれねえが、今の建物で一番でかい部屋はここしかねえからな」

那珂「でもでも、まさか屋内にステージを作ってもらえるなんて思わなかったなあ……ありがとう、提督さん!!」ナゲキッス

霧島「あ、あの、いいんですか? 勝手に設備を作り変えて……」

提督「俺の鎮守府だからな。いいんだよ」ニタリ

霧島「……」

島妖精E「どうせ本営の人たちは、この島の鎮守府の内装なんか興味ないよ」

島妖精F「安心していいからね!」

摩耶「……そ、そういうもんか?」


提督「ところで妖精、明石はどこ行った?」

島妖精F「工廠に工具を取りに行ったよー」

提督「ああ……もしかして、アレ取りに行ったのか」

島妖精E「うん、明石の出番ですね! って言ってスキップしてたよ」

提督「今回はちょっとしたDIYどころじゃねーんだがな……うん? 工具取りに行ったってことは、すぐにおっ始める気か?」

島妖精F「……かもしれない」

提督「壁ぶち抜くにしても、その前に埃が厨房に行かねえようにシートで覆ったりしねえとまずいだろ」

島妖精E「そうだね、その話は明石とはしてないや」

提督「建物自体ぶっ壊れねえかも心配だ、柱の補強とかも大丈夫なんだろうな?」

島妖精E「そっちは大丈夫。それより、いつやるかちゃんと決めないと駄目だね」

提督「力仕事だからな。戦艦が工事の手伝いできるよう手配しとくから、日程は教えてくれ」

島妖精E「あ、それからこの辺の電飾用のライトとかも準備したいな」

提督「なら、あのカタログ持ってきて、適当なやつ買うか?」

島妖精F「それじゃあ、通販の設備が届く日程も考慮しないといけないね」

最上「……あれ?」

三隈「……」

摩耶「……」

霧島「司令、もしかして……妖精さんと話ができるんですか?」

提督「……今頃かよ」


 * 休憩室 *

龍驤「ほーん。こんなんもあるんやな……」ペラリ

雲龍「……これが、テレビ?」

龍驤「これはDVDプレーヤーやね。こういう円盤の中にデータが入ってるんよ」

雲龍「データ……」

龍驤「あー、テープ言うたらわかる?」

雲龍「……穿孔テープのこと?」

龍驤「えらい前時代的なもんが出てきたったなあ……せめてカセットテープくらい出てこん?」

雲龍「! ……龍驤」ユビサシ

龍驤「うん?」チラッ

島妖精D「通販のカタログは龍驤が持ってたのか」

島妖精C「私たちも見せてもらっていいかな?」

龍驤「おお、ええよ? 何のページを見るん?」

島妖精C「隣の部屋を改造して、那珂ちゃんのステージを作るんだ」

島妖精D「電飾や音響設備のページを見たいんだけど」


龍驤「あ、丁度このページや。ほら、カラオケの設備とかあるで!」

島妖精C「んー……あ、この辺がちょうどいいかも」

島妖精D「うん。これなら機能も十分ぽいね」

龍驤「……これ? なあ、ちょっち高こないか?」

島妖精C「大丈夫だよ、多分」

龍驤「多分て……」

島妖精D「龍驤も、何か好きなの頼んでいいよ?」

龍驤「えっ、ほんま?」

島妖精C「うん、提督はその辺緩くしてるから。ポケットマネーで出してくれるって」

龍驤「……せやったら遠慮するわ。あの提督、お金持ってへんやろ」

龍驤「この音響設備もえらい値段やし、頼んでも無理なんちゃう?」

島妖精C「ううん、むしろ使えって言ってるみたいだよ?」

島妖精D「提督はこの島に着任してから全然帰国してなくてお金も使ってないし、離島勤務で特別手当も出てるらしいね」

龍驤「ちゅうことは、多少のおねだりはアリ、ちゅうことかな……?」

島妖精D「多分ね」

島妖精C「それより、この設備を買ってもらえないか、提督に相談しに行きたいんだけど。カタログ、借りてってもいい?」

雲龍「ねえ、カタログ、私たちが持っていきましょ」スクッ

龍驤「せやね。一緒にいこか」

以上、今回はここまで。

少しだけ続きです。


 * 食堂 *

龍驤「提督! カタログ持ってきたで!」

提督「ん? 気が利くな、持って来てくれたのか」

島妖精C「丁度二人がカタログを見てたからね」

提督「なるほどな、お前らが声をかけたのか」

龍驤「音響設備が欲しいんやって?」

提督「ああ。ついでにライトや暗幕もねえとな、って話をしてたんだ」

龍驤「本格的やなあ。お金は大丈夫なん?」

提督「まあ、謙虚な奴が多くてな。お前も何か欲しいもんがあるなら、遠慮なく言えよ?」

龍驤「ほんま? せやったら……」

提督「口頭で言われても覚えてられねえからな。紙に書いて出してくれ、できる限り要望には応えるからよ」

龍驤「ほーん。じゃあ、あとでまたカタログ借りるで!」

提督「おう、悪いな。さて、手頃なのがありゃあいいんだが……」


金剛「私も一緒に探しマース!」ズイッ

大和「私も拝見しますね!」ズイッ

提督「……お前らもうちょっと離れろよ……まあいい、マイクから探すか」

霧島「マイクでしたら私にお任せください!!」グワッ!

全員「「!?」」


雲龍「……」

龍驤「? 雲龍? どないしたん?」

雲龍「……なんでもないわ。ぼーっとしてた」

龍驤「大丈夫なんか?」

雲龍「ええ」コク

雲龍「……」


 * 夕刻 執務室 *

提督「まあ、ステージ用の設備はこんなもんか……」

 コンコン

提督「うん?」

雲龍「提督。ちょっといいかしら」

提督「ああ、入れ」

雲龍「失礼します」チャッ

提督「……珍しいな。お前、この時間はいつも食堂にいたろ?」

雲龍「気になることがあるんです。川内って子のことなんだけど」

提督「なに?」


 * 翌朝 食堂 *

神通「実は、川内姉さんに気をつけろと言われたのは、利根さんからなんです」

提督「利根から?」

神通「はい。川内姉さんはいつも明け方に戻ってきているので、迎えに行ったことがあるんです」

神通「そのときに、丁度利根さんが埠頭にいて……そのときにそう言われまして」

神通「それがどういう意味かと尋ねたところ、雲龍さんに相談しろと……」

提督「……そうか。にしても、なんで利根が明け方に埠頭なんかにいたんだ?」

神通「それは答えてもらえませんでした……」

提督「……何を考えてんのか、よくわかんねえな。おい、雲龍」クルッ

雲龍「……」モギュモギュ

龍驤「あー、あかんよ、食事中の雲龍は食事に集中したいから、話し掛けてもそうそう答えへんで」

提督「」

神通「」


提督「……とにかくだ。神通、川内は相変わらず夜中に出撃してるんだよな?」

神通「はい。今朝も夜明け前に帰ってきて、お風呂に入ってからそのまま布団に倒れ込んで眠ってしまいました」

提督「ここんとこはずっとそんな調子か」

神通「毎日ハードワークしているようで、日に日に眠っている時間が長くなってはいますね」

神通「でも、起きたら起きたで楽しそうに夜戦の話をするので、ストレスがあるわけではないみたいで……」

提督「楽しそうに、ねえ。無理してる感じはねえのか」

神通「肉体的には疲れてはいると思います。それでも、今まで夜戦できなかった反動ではないかと」

提督「気になる点はいくつかあるが……のんびり構えてはいられねえんだよ」

神通「?」


 * 夕方 鎮守府埠頭 *

川内「うーん……!」ノビーッ

川内「いい夕焼け! さあ、早く夜戦しに行かないと!!」

提督「またこんな時間に単艦で出撃か」

川内「あっ、提督! ごめんね、どうしても夜戦がしたくって!」

提督「お前の生活のリズムが俺たちと逆転してるからな。誰かしら随伴できりゃあいいんだが」

川内「あはは、大丈夫だよ、寂しくないから!」

提督「なんだそりゃ。連れでもいるのか?」

川内「んー、まあ、そんなとこかな?」ニカッ

提督「それから、これ持ってけ。握り飯だ」

川内「!」

提督「休みなく戦う訓練もいいが、飲まず食わずじゃ体がもたねえ。戦い続けたいなら腹に何か入れろ」

川内「……えへへ、そうだね。ありがと!」

提督「……」


川内「じゃ、行ってきます!」

 ザァッ

提督「……」

神通「……姉さん、大丈夫なんでしょうか」スッ

雲龍「どうでした?」スッ

提督「飯を素直に受け取ったあたり、川内自身はまともなんだろうけどな」

龍驤「なんやなんや、また面倒事かいな」

提督「そういうこった。さて、俺は寝る」

龍驤「は? まだヒトハチヨンヨンやろ?」

提督「3時くらいに起きて見張りをしなきゃなんねえんでな」

雲龍「私もよ」

龍驤「な、なんなん? いつの間にそんな話になっとん!?」

提督「やんなきゃいけねえことがあるんだよ。なんならお前も一緒に起きるか?」

龍驤「うぐぅ……な、なんで雲龍がそんな時間に起きなあかんねん」

雲龍「彼女が起きている間に対応しないといけないの」

龍驤「???」


 * 深夜 某海域 *

 ドーン…

川内「ふう、ふう……今の相手、なかなか手強かったなあ」

川内「……さすがに、ちょっと、疲れちゃった……」

川内「そうだ、提督からおにぎり貰ったんだっけ」ゴソゴソ

川内「えへへ、いただきまー……」

川内「……」

川内「……え?」

川内「……」

川内「……でも、食べないと……」

川内「……」

川内「……」

川内「……」

 ポロッ

川内「あっ!」


 チャポン…

川内「おにぎりが……!」

 ――そんなことより、夜戦しようよ

川内「……」

 ――食べてる時間だって、もったいないよ

川内「……」

 ――今まで、ずっと時間を無駄にしてきたんだよ

川内「……」

 ――さあ、早く、夜戦しよう!

川内「……そう……」

川内「そうだね……」

川内「……夜戦、しないとね……!」

 ――そうだよ、もっと、もっと夜戦しようよ……!

川内「……うん!」

 ――ふふっ、ふふふふ……!


 * 翌日未明 入渠ドックそばの大浴場 *

 シャワーーーー…

川内「……今日も疲れたぁ……へとへとだあ」フラフラ

川内「こんなに夜戦できて、幸せぇ……」ウツラウツラ

 ワシャワシャ…

川内「……! 背中、流してくれるの……?」

川内「あはは、ありがとう……気持ちよくて、このまま寝ちゃいそう……」フラッ…

 パタッ…

川内「……」

 ――いいよ。ゆっくり、休んでて



 ――あとは、私に任せて、ずーっと休んでて





 ――  い  い  か  ら  ね





.


「急急如律令」

 ゴォォッ!!

 ――!?

 衝撃波<ガォォォンッ!!

 ――ぐううっ!?

雲龍「……そこまでよ」

 ――どうして……どうして!?

 ジワッ

幽霊『どうして邪魔するの……!?』

雲龍「邪魔をしない訳にはいかないわ。その子を衰弱死させるつもり?」

幽霊『ちょっと体を借りるだけだよ! 私だって同じ川内なんだから!』

雲龍「同じ……?」

川内の幽霊『そうだよ! ちょっと体を借りようとしただけだよ!』

川内の幽霊『私だって夜戦したい! でも、体はボロボロで、この島に流れ着いたときは、そんなことできなかったんだもの!』

川内の幽霊『だから、こっちの川内に眠ってもらって、私が代わりに夜戦しようとしてたんじゃない!』


提督「朧の時みたいに体を乗っ取って、か?」スッ…

川内の幽霊『!』

提督「川内の装備の妖精から話を聞いたが、お前、川内に預けた握り飯を捨てさせたらしいな?」

川内の幽霊『そうだよ……疲れてなきゃ駄目なんだ。彼女が起きてたら、私が体を操れないじゃないか……!』

提督「そのためには、そこにいる川内の命はどうなってもいい、ってか」

川内の幽霊『彼女は夜戦したがってた! だから私が誘って思いっきり夜戦させてあげたんだ!』

川内の幽霊『こんどは私の番! 私が夜戦する番だよ!!』

提督「……」

雲龍「提督。長くこの世に留まった幽霊は、人に害をなすと言うわ」

提督「ああ。聞く耳持たねえんじゃ、相手するだけ無駄なようだな」

川内の幽霊『……なによ! 結局、私に夜戦させてくれないんじゃない!』ザワッ

川内の幽霊『この子ばっカりずるい! ずるいずるイ!!』


川内の幽霊『私だっテ夜戦しタいノ! 夜戦! 夜戦!! ヤセンンン!!』

 グォォォッ…

提督「……なんだ!? でかくなりやがった……!」

川内の幽霊『ヤァァセェェェンンン!!』グワッ

雲龍「大丈夫よ」

 シャラン

雲龍「自此莫過、祓給清給。願主雲龍、道切修奉」

 ゴゴゴゴ…

川内の幽霊『……!?』

雲龍「あなたの居場所はここではないわ。天か、海か、好きな方へ向かいなさい」シャラン

 ゴォォッ!!

川内の幽霊『イ、イヤッ……イヤダァアアア!』


 バシュン!!


雲龍「……」

提督「……」

雲龍「ふぅ。終わったわ」

提督「そうか。ありがとな」

雲龍「一応言っておくけど、退治した訳ではありません。ここから追い返しただけ」

提督「……道切(みちきり)修し奉る、とか言ってやがったな。悪い者が入ってこないようにするためのまじないか」

雲龍「はい。あとで略式でもいいからお祓いをした方がいいと思います」

提督「まったく、手間ァかけさせやがって……やっぱり水葬してやった方がこいつらのためだったのかね」ハァ

雲龍「それは少し違うと思います。彼女は……もっと艦娘として戦いたかっただけなんだと……」

提督「……んじゃあ、未練、ってやつか」

雲龍「私も、艦娘として誰の役にも立たないまま死にかけた身です」

雲龍「理由はどうあれ、艦娘の役目を背負って戦えることが、きっと、羨ましかったんだと……」

提督「やれやれ……それじゃあ、どうしたもんかね」

雲龍「……ごめんなさい」

提督「謝んなよ、独り言だ。誰も知らねえんなら調べるしかねえ」

提督「とにかく、お前のおかげで川内も助かったんだ。改めて礼を言わせて貰うぜ」

雲龍「……はい」ニコ

提督「よし、俺は退散だ。神通を呼んで川内を診て貰わねーとな」


 * 埠頭 *

提督「……利根は、いねえな」キョロキョロ

雲龍「提督」スッ

提督「うん? なんだ?」

雲龍「利根に、直接話をするのは、やめた方がいいわ」

提督「どういう意味だ」

雲龍「川内は、悪い霊に取り憑かれていたのだけれど、利根は、そうではないんです。共存できているようなんです」

提督「共存? ……取り憑かれ、て……利根にもか!?」

雲龍「はい。それも、何体か」

提督「!?」

雲龍「提督は、心当たりはありますか。利根に、複数の霊が取り憑いていることについて」

提督「……利根に、霊が、取り憑いてる……?」

提督「まさか……前に利根がいた鎮守府で、殺された利根たちの霊が取り憑いてるってのは、関係あんのか!?」

雲龍「……なるほど。そういうことですか」ウーン

提督「おいおいおい……大丈夫なのかよ利根は」


雲龍「少なくとも、私が話した利根の幽霊の一人は、今の利根に害を与えるつもりはないみたいです」

雲龍「ただ、主人格の利根が眠っているときに、目覚めて体を借りていると」

雲龍「あまり動きすぎると体の疲れが取れないから、短時間かつ交代で体を借りているらしいです」

提督「……肉体のルームシェアかよ。本当に大丈夫なんだろうな、利根は……」

提督「まあいい、ともかくこの件もあまり他言しねえ方が良さそうだ。こんなオカルト話、下手に流して利根が避けられても困る」

雲龍「……」ニコ

提督「……なんだその笑顔」

雲龍「いえ。優しいんですね」

提督「やめてくれ、くすぐってえ。それより悪かったな、こんな早くに大事な仕事させちまって」

雲龍「あ……提督」

提督「今度はなんだ?」

雲龍「お腹がすきました」

提督「……」


 * 食堂 *

雲龍「……」モグモグ…

川内「がつがつがつがつ!」

雲龍「……」モグ…

川内「ばくばくばくばく!」

雲龍「……もう少し、落ち着いて味わって食べたらいいと思う。もったいない」

川内「へっ? あー、ごめんごめん。おいしくて箸が進んじゃってさあ」エヘヘー

提督「つうか川内お前、しばらくまともに食ってなかったろ」

川内「うーん、そうだっけ? 確かにお腹ペコペコだし、食べてなかったかも」

提督「覚えてねえのかよ」

川内「うん。……ここ最近の記憶、ちょっと曖昧、かなあ」

提督「……」

神通「姉さん、まさかお風呂もまともに入れてないんじゃ……」

川内「あー、それは大丈夫だって。まあ、幽霊に背中流して貰ってたりしてた気がしたけどさあ」

神通「!?」


提督「あぁ!? 自覚あったのかよ!!」

川内「この島に来て最初の夜だったかな。うるさくすると提督に怒られるよ、って幽霊に言われたんだ」

川内「それから一緒に夜戦して、夜通し付き合って貰ってさ!」ニコニコ

川内「二人で戦ってるみたいで楽しかったなあ」フフッ

提督「……」アタマカカエ

神通「姉さん……少しは危機感というものがないんですか」

川内「でもさあ、夜戦できないまま沈んだっていうし。可哀想じゃない」

川内「だったらせめて、私に同行させて一緒に夜戦すれば、気が晴れてくれるかなって」

川内「私もさ、夜戦できない苦しさはわかってるつもりだからね……」

神通「一歩間違えたら死んでいたかもしれないんですよ!?」

神通「気絶していたのがお風呂の湯船の中だったらどうする気だったんですか!」

川内「えへへ……ごめんごめん。気をつけるからさ?」

提督「やれやれ……雲龍もなんか言ってやれよ」

雲龍「……提督」マジッ


雲龍「あなたの作った朝餉、とってもおいしいわ」

神通「!?」

川内「あ、私もそう思う!」

提督「いや、そういう話じゃなくてな」

雲龍「私にはこの朝餉のほうが大事。提督、どうしてあなたが料理を作らないの?」

提督「いや俺は他人に料理作るような奴じゃねーし」

提督「そもそも比叡たちが毎日作ってる量より全然少ねえから、味付けもしやすいってだけだろ」

雲龍「私は提督に毎日御飯を作って欲しい」キラキラキラッ

提督「」

川内「えっ!? なにそれ、プロポーズ!?」

神通「姉さん!? 雲龍さんも変なこと言わないでください!」

雲龍「変じゃないわ。本気よ」


龍驤「ふわぁ……結局起きれへんかったわ。雲龍ー、大丈夫やったん?」スタスタ

雲龍「龍驤。提督に、私たちに毎日朝餉を作ってくれるよう、お願いして」

龍驤「」

龍驤「」

龍驤「雲龍、キミ何言っとるん!?」

雲龍「私は本気よ」

龍驤「提督キミィ、うちの雲龍なに誑かしとんねん!」ギロリ

提督「……」

神通「提督、面倒臭がってないで、説明してください」

提督(もう喋んのも面倒くせえ)

川内「本っ当、面白い鎮守府だねー」アハハ

神通「川内姉さんが言わないでください!」プンスカ!

というわけで今回はここまで。

更新スピードにムラがあるのはご容赦願いたく。

続きです。


 * その日の夜 鎮守府内、廊下 *

川内「んーっ、よく寝たぁ……!」ノビーッ

川内「よーっし、今日も頑張って夜戦しよっと!」

川内「……あれ? 今日は声が聞こえないな」

川内「昨日無理しすぎてたからなあ……向こうも遠慮してるのかな。それともみんなにばれちゃったからかなあ」

暁「あ、川内さん! またこれから出かけるの?」

川内「! あ、あぁ、暁……か」

暁「? どうしたの?」

川内「え? な、なんでもないよ。またこれから夜戦の練習にね」

暁「暁も自主的に練習したほうがいいかしら」ウーン

川内「あ、うん……そう、かもね」

暁「でも、明日の朝は朝ごはんの準備があるから駄目ね。明日、長門さんと相談して暁も一緒に練習できる日を作ってもらうわ!」


川内「……」

暁「川内さん? どうしたの?」

川内「あのさ、暁……I提督、って、知ってる?」

暁「I提督……?」

川内「……」

暁「うーん……」クビカシゲ

川内「……」

暁「ごめんなさい、I提督って人のこと、暁は知らないわ」

川内「知らない……?」

暁「うん、初めて聞いた名前だから……川内さんの知ってる人?」

川内「……いや、いいよ、忘れて。変なこと言ってごめんね」

暁「?」

川内(そうだよね、知ってるわけないか……ここへ来たときに暁から『初めまして』って言われたときにわかってたはずなのに)

川内(でも、暁を見ていると、どうしてもあの暁を思い出すのはなんでなんだろう……)

川内「とにかく、私はそろそろ行ってくるね。暁は明日の朝早いんでしょ? 早く寝なよ?」


暁「わかったわ! 川内さんも気を付けて、いってらっしゃい!」

川内「……っ! う、うん、行ってくるよ!」タッ

川内(……あの『いってらっしゃい』の言い方、I提督に似すぎてるよ……)

川内(でも、あの暁は……別人、なんだよね)

暁「? あんなに慌てて、何かあったのかしら」

暁「それにしても……I提督って誰なんだろう」

暁「I……提督……」

 ズキッ

暁「ぐっ……!?」ヨロッ

暁「な、なに……!? あ、頭がぁ……!」ズキズキズキ

暁「く……う……っ!!」ズキーッ

暁「……っは、はぁ、はぁ……!」ガクッ

暁「な、なんだったの、今の……」フラフラ

暁「あれ? 私、何の話をしてたんだっけ……さっき川内さんと……うーん?」

暁「いけない! 明日早起きしないといけないんだったわ!」タッ


 * X提督鎮守府 執務室 *

X提督「I提督鎮守府の近海から、暁の艤装の一部が見つかったんだ」

ヴェールヌイ「そ、それは確実なのか……!?」

X提督「その艤装から装備妖精たちを救助できた。その妖精たちが、かつてI提督の元で働いていたと、話しているそうだよ」

ヴェールヌイ「……!」

X提督「……妖精の話によると、暁はI提督の尋常ならざる姿を見て狂乱し、そのまま鎮守府を飛び出して戦闘に突入したらしい」

X提督「暁の取り乱しようは尋常じゃなく、妖精さんが声を張り上げても、とても聞き入れられる状態でもなく……」

X提督「パニックに陥ったまま、暁は敵陣を突っ切っていったそうだ」

X提督「響が言っていた当時の状況と合致してるね」

ヴェールヌイ「……」コク

X提督「その後、衰弱した暁が波にのまれ、装備妖精たちは破損した艤装と一緒に海に放り出され……」

X提督「そのまま暁とはぐれて海を彷徨うことになってしまったそうだ」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

X提督「……響」

ヴェールヌイ「司令官……大丈夫」

X提督「……」


ヴェールヌイ「暁が……深海棲艦に殺されていないことがわかっただけでも……」ボウシオサエ

X提督「……僕たちのもとへ届いた情報は以上だ」

X提督「暁が沈んだと思われる場所の捜索を、かつてI提督のもとにいた艦娘たちが行っているそうだけど、その捜索もじきに打ち切られるだろう」

ヴェールヌイ「……」グッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「……I提督が」ボソッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「I提督が、連れて行ったのかな……翔鶴さんと、一緒に」

ヴェールヌイ「あの人、意外と……寂しがりやだったから、ね」

X提督「……」

ヴェールヌイ「……」 クル スタスタ…

ヴェールヌイ「……仕方ない人だなあ……」

 チャッ パタン(執務室を出ていくヴェールヌイ)

X提督「……響……」


 * それからしばらく後のある日 墓場島鎮守府 廊下 *

朧「あ、提督。少しいいですか?」

提督「ん? なんだ?」

朧「提督は、この島に来た艦娘に、生きるか死ぬかを聞いてますよね」

提督「ああ」

朧「あれって、何かの本の影響ですか?」

提督「本?」

朧「お腹の胎児に、生まれてきたいかそうじゃないかを聞く下りがあって……」

提督「……ああ、もしかしてあれか。まあ、影響受けてなくもねえけど、きっかけはそれじゃねえな、それを読むより前の話だ」

朧「違うんですか……」ウーン

提督「どっから話しゃあいいかな……学生の頃、いじめられてたやつを助けたことがあったんだよ」

朧「え? 提督が、ですか……?」

提督「結果的に、だがな。そもそも助けようと思って助けたわけじゃねえ」

朧「? ……よくわからないです」


提督「あの時俺は、いかにもないじめられっ子が、5対1で囲まれてたのを、ただ見てただけなんだ」

提督「そしたら、5人組が俺に何見てんだよ、って突っかかってきて……」

提督「ただ、俺も悪い意味で有名人だったんで、そいつらは結局、俺の悪口言うだけ言って逃げてったんだ」

朧「逃げた? 提督、やっぱり喧嘩が強かったんですか?」

提督「それなりにな」

朧「5対1で逃げられるなんて、それなりってレベルじゃないと思うんですけど……」

提督「5人組もそこまで強そうじゃなかったからな。ちょっとイキってただけの連中だ、腕っぷしで負ける要素はなかったな」

提督「まあとにかくだ、結果的にはそれでいじめっ子を追い払ったんだが、それがまずかったんだろうな……そいつ、結局自殺したんだよ」

朧「ええっ!? どうしてですか!?」

提督「俺と仲が良いなんて噂が立って、そいつが孤立しちまったんだ。そのくらい嫌われてたんだよ、俺は」

提督「正直、俺としてもその噂は面白くねえ。そういう噂が流れて暫くしてから、そいつに言われたんだ」

提督「なんであの時、俺を助けた。俺は助けてなんて言ってない、ってな」

朧「!!」


提督「俺だって最初から助けるつもりであの場所にいたわけでもねえし、助けたつもりもねえ。そいつのことは、本当にどうでも良かった」

提督「だから俺も、助けたつもりはない、あいつらが勝手に怯えて逃げてっただけだ、ってそいつに言って、それで終わりにしたんだ」

提督「それで、そいつと俺に繋がりがないってことが知れ渡って、結局またいじめられて。それでそいつはビルの上からサヨウナラ、と」

朧「……」

提督「教師どもはその責を俺に押し付けようとしたんだが、この時ばかりは親が出てきて弁護士呼んじまった。だから俺は全然喋ってねえ」

朧「……いじめてた人たちはどうなったんですか」

提督「知らねえな。興味もねえ」

朧「朧は、そういう人たち、許せないです……! 提督、どうにかできなかったんですか?」

提督「そういうふうに義憤にかられることも昔はあったけどな。もう諦めちまった」

朧「諦めた、って!?」

提督「だってなあ、いじめられるよりも、妖精とお話しできちゃう気狂いの仲間に見られる方が嫌だ、って言われてるんだぜ」

朧「……っ!」

提督「俺が誰かの味方になること自体、望まれても許されてもねえんだ。俺が善意で動いても拒絶されて終わりさ」

提督「だから諦めた。本当に俺に向かって、助けて欲しいと言われない限り、手も口も出すのを諦めた。それだけの話だ」

朧「提督……」


提督「……如月のときも、体中傷だらけでひどい有様だった。いっそ死んでしまったほうが楽なんじゃねえか、って思いもしたんだ」

提督「助けてやろうと俺から言わなかったのも、助けを望んでないならただのお節介、有難迷惑にしかならねえからだ」

提督「あいつみたいに、助けて欲しいなんて言ってない、なんて言われたくなかったからな……いっそ介錯してやろうかとも考えたくらいだ」

朧「……」

提督「だが、如月は、助けて欲しいと言った」

提督「どうせ死ぬなら、この世界の嫌なものを一つでも消して、少しでも自己満足を満たしてから死にたかったからな。刺し違えるのも悪くねえ」

提督「……でも、よく考えたら、俺もとんでもねえ卑怯者だな」

朧「ど、どうしてですか!?」

提督「だってなあ、生きたいか死にたいか聞いて、わざわざ言質取ってんだぞ? 自分が責任を取りたくねえ教師どもと同じじゃねえか」

朧「っ……そんなことないです! 朧は、いつもそうやって、自分のことを悪く言う提督はキライです!」ガシッ

提督「!」

朧「提督は、いつも朧たちの味方になってくれるじゃないですか! それこそ提督が悪者になることもいとわずに!」

朧「提督は、何も悪いことをしていないのに、そこにいるだけで悪者にされてきただけです!」

朧「提督は、悪い人なんかじゃありません!」


提督「……」

朧「……」

提督「そういうことにしとくか……また頭突き貰いたくねえしな」

朧「もう……! 提督はどうしてそう一言多いんですか!」

提督「しょうがねえだろ、俺が生きてていいのか、未だに疑ってるくらいだからな」

提督「でもまあ、朧にそこまで言ってもらえるんなら、悪くはねえか」ナデ

朧「提督……」

提督「! 朧、この本……」

朧「あ……」

提督「ああ、こいつか。これ書いたの、芥川龍之介だったか」ペラペラ

朧「読んだことあるんですか!?」

提督「だいぶうろ覚えだけどな」

朧「そうですか……!」パァ

提督「?」

朧「あの、提督は、ほかにどんな本を読んでたんですか?」

提督「いや、もうタイトルとか作者とか、殆ど覚えてねえんだけどなあ……」

朧「どんな話でした? 教えてください!」

提督「んーとな……」


 * その日のお八つ時 食堂 *

霞「って言う話を立ち聞きしたんだけど」

摩耶「あいつ、尋常じゃねえ嫌われ方してたんだな」

霧島「……司令も、肯定してもらえない苦しみを理解しておいでだったんですね」

陸奥「っていうか、よくそれで生活できていたわよね……」

利根「それは妖精さんたちのおかげであろうな」

潮「……」

潮(朧ちゃん、提督のこと好きだよね……?)

潮(それに加えて、その提督が読書仲間で嬉しいんだろうなあ……)

潮「うふふふ……」ニコニコー

摩耶「お、おい、潮?」

霞「あんた、なににやにやしてんの?」

潮「ふえっ!? あ、いえ、提督も、穏やかになったんですね、って! 思っただけです!」アセアセ

霞「穏やか……まあ、そうね。一昔前なら朧も追い払われてたんじゃない? 素直になったと思うわよ」


摩耶「アタシは霞の素直っぷりにも驚いてんだけどなあ……」

霞「私も諦めてるだけよ。あいつに何を言ったって、どうせ蛙の面に水なんだもの」

利根「面倒臭いと常々言っておきながら、やるべき仕事はきっちりやっておるからの。叱責するにも責がないのではな」

摩耶「それで大和さんにもモテて、ってか。けっ、完璧すぎて面白くねーな」

利根「いやいや、あの性格だぞ? 自力で立ち上がれない者にすら容赦ない物言いじゃ、周囲の顰蹙を買うこともままある」

陸奥「それに、提督は結婚願望ないわよ? それこそ大和みたいに提督が好きな艦娘たちにとっては、報われようがなくて不憫なんだけど」

霧島「……金剛お姉様も厄介な人に目を付けたんですね……」

陸奥「そうね……懲りないながら楽しそうだけど」

潮「……あ、それから、提督は泳げないですよね」

摩耶「ぶっ! マジかよ、だっせえな」

霞「あまりそういうこと言わないでくれる」ギロリ

摩耶「!?」ビクッ

潮「あ、あはは……えっと、あと、絵をかくのも苦手みたいです」

摩耶「ふーん。なーんか、つついてもしょうがねえ欠点だなあ……」


霧島「摩耶。あなた、司令のことを調べてどうする気なの?」

摩耶「だってあいつ、生意気じゃないっすか。ああいう天狗になってる奴は、一回何かで勝負して、鼻をへし折ってやんねーと!」

潮「天狗……?」

陸奥「天狗になってるところ、あったかしら」

利根「むしろ自分を卑下してばかりじゃろう……?」

潮「態度は悪いですけど、自分は間違ってない、って自負してるから、あんな感じなんですよね」

摩耶「それこそ自惚れじゃねーか?」」

霞「っていうか、多分勝負とか挑んでも意味ないわよ。あいつ、絶対『面倒臭いから全部負けでいい』って言うから」

利根「あり得るな」

陸奥「間違いなく言いそうね」

潮「か、簡単に想像できちゃいますね……」

摩耶「はぁ!? 腰抜けかよ!」

霞「あいつに何を言ってもいいけど、やる気にさせる言葉なんてないわよ。できてたら私が言ってるわ」

陸奥「なんていうか、霞が言うと説得力があるわね」


摩耶「……くそっ、なんとかあいつをぎゃふんと言わせる方法はねえのかよ!」

霞「案外、言うんじゃない?」

陸奥「頼めば言ってくれそうよね、ぎゃふんの一言くらいは」

摩耶「意味ねえええ!」

霧島「摩耶、どうしてあなたはそこまで司令に突っかかるの?」

摩耶「あいつの態度が気に入らねーんすよ!」

潮「そ、それは、多分、直らないと思います……」

霞「そうね、私もそれは諦めたほうがいいと思うわ」

利根「むしろ、これまで鎮守府で起こったトラブルを収めてきたのは、あの性格あってのことではないか?」

陸奥「だとしたら直しようがないわね……」

摩耶「……」

霧島「摩耶、やめておきましょう?」

摩耶「納得いかねえっすよ……」ガックリ


 * 数日後 食堂 *

霧島「あー、あー、ワン、ツー。テス、テス」

提督「ん、マイクのテストか」

霧島「はい! 司令もお使いになるでしょうから、テストにお付き合いください。マイクに向かって一言どうぞ」

提督「そうだな……なんて言えばいい?」

霧島「……!」ピーン

霧島「ぎゃふん、でお願いします」

提督「ぎゃふん」

霧島「……」

提督「これでいいのか?」

霧島「ほ、本当に言うんですね……」

提督「お前がお願いしますって言ったんじゃねーか」

金剛「テートクゥゥ! 次は『金剛愛してる』って shout してくだサーイ!」

提督「面倒臭え」

金剛「Whaaaaaaaaaaaat's !?」

今回はここまで。

動画サイトから来た人が多くてびっくりです。影響力でかいのですね……。
ただ、あちらは続きが投下されてないせいで、
検索履歴に「墓場島鎮守府5」が出てきてるのが、なんと言いましょうか。

日常編はもう少し続きます。

最後の書き込みのときだけ上げるので
普段はできるだけsage進行でお願いしますね。

続きです。


 * 二週間後 執務室 *

(廊下からかけてくる足音)

 タタタタ…

 タンッ!

 クルクルクル…

那珂「提督さぁぁぁん!」スターン!

那珂「素敵なステージをありがとーーー!」シャラーーン!

提督「……あぁ?」ギロリ

那珂「ヒィィ!?」ビクッ

不知火「申し訳ありません、丁度望ましくないニュースを司令にお伝えしたばかりだったので」

那珂「そ、そうなんだ……そういうことならしょうがないけど……」

提督「そういや今日がお披露目だったな。まあ、普通なら盛大に祝ってやるところなんだろうが……!」

提督「ったくよぉ……本っ当に、人間ってやつは訳がわかんねえ!!」

那珂「……な、何があったの?」

不知火「黒潮がいた鎮守府の保提督が、自首したんです。よりによって、警察に」

那珂「え?」


不知火「当然、鎮守府にも関係者にも警察の捜査の手が回ります。保提督は、そうなるようにこっそりと警察に連絡を入れたそうです」

不知火「海軍も突然のスキャンダルの火消しに躍起になっていますが、一番ダメージが大きいのは現政権でしょう」

那珂「な、なんで?」

提督「保提督は部下の艦娘に売春させようとしたんだよ」

那珂「んいっ!?」

提督「その売った相手が与党議員の息子だって話だ。そいつらから艦娘を助けたのが保提督の部下だった黒潮だ」

提督「先月の黒い雲の話も知ってるな? あれを引き起こしたのが、その売られかけた艦娘の一人、雪風だ」

提督「羅針盤を無視して黒潮を探し回ってる間に、空母棲姫に因縁付けられてああなった」

提督「黒潮は、保提督鎮守府の陽炎型の一番上、まとめ役だったからな。妹が心配なのはどの艦娘も一緒だろう」

那珂「……う、うん、それはそうだよね。那珂ちゃんも、神通ちゃんにいっぱい心配してもらったし……」

提督「不知火も中将んとことの行き来がある。寂しい思いはさせたかねえんだが、こればっかりはな」

提督「ともかくだ、保提督が自首したっつうのも突然の話でなあ……残った連中のことは考えてねえのかよ」

不知火「いえ、保提督は既に余所の鎮守府へ、艦娘の異動を打診していたそうです」

不知火「この鎮守府への異動は認められませんでしたが」

提督「……問題起こすか、轟沈するか。素行か縁起の悪い艦娘以外、こっちには着任させたくねえってか」ケッ


提督「くだんの雪風ならと思ったが、そっちも異動済みだって話だしな。まったくもってままならねえぜ、くそっ」

提督「黒潮も最近は飲まず食わずでやつれてきてるしな。我慢を強いるのも限界だって時に、事態が悪化したんじゃどうなるかわかんねーぞ」

不知火「……」

那珂「……保提督はどうするつもりなのかな」

不知火「可能な限り重い罪状で、刑に服すことを望んでいるようです」

那珂「反省してる、ってこと……?」

不知火「それもありますが、共犯だった相手……自分を脅し続けた三人に重い罰を与えるのも狙いのようです」

提督「いじめられっ子の最後の抵抗、ってとこか? 遅きに失した感はあるがな……今更なんで考えが変わったのか、さっぱりだぜ」

那珂「……」

提督「だがまあ悪い話ばかりじゃねえな。艦娘に手を出して重い罪が課せられるようになるなら、以後に対する多少の抑止力にはなってくれるか」

那珂「……そんなの、悲しすぎるよ。私たちは、人を信じて戦ってるのに……!」

提督「人間なんてそんなもんだ。自分の立場が悪くなりゃあ、ころっと手のひら返して裏切るなんてよくある話だろ」

那珂「で、でも! そんなこと言ったら……提督さんも、なの……?」

提督「当然、俺も含めてだ。むしろ俺みたいなやつが一番信用できねえだろ」

不知火「……」ジロリ

那珂(不知火ちゃんの提督さんを見る目つきが怖い!)ビクッ


如月「ふぅ~ん……?」

那珂「!?」フリムキ

如月「司令官ったら……懲りずにまだそんなことを言うの?」ユラァ

那珂「!?」ビクビクッ

妖精「提督は、ちょっと目を離すとすぐにこうだもんね」ヒョコッ

提督「妖精……お前、如月に知らせたのかよ」

如月「あら、そこで妖精さんを咎めるのは違うんじゃないかしら?」ツカツカ

 ガシッ (提督の顔を両手で挟むように掴む如月)

如月「司令官? あなたこそ、できもしないことを嘯くの、やめてくださいます?」

提督「むぐ……」

如月「嫌われたほうが、いなくなった時に誰も悲しませずに済む、とか、考えてるんでしょう?」

提督「……」

如月「そういうの、如月は許さないんだから」ズイ

如月「たとえあなたが地獄に逃げても、如月はどこまでもお傍にいますから……ね?」ニコォ

提督「……」タラリ

那珂(如月ちゃん、提督さんに鼻がくっつくくらい顔を近づけてる……)ドキドキ


如月「そういうわけだから」パッ

 (如月が人差し指を立てて提督の口に押し当てる)

如月「あまり死ぬ死ぬ詐欺みたいなこと、言わないでくださいね?」

提督「……」

不知火「不知火も同意見です、司令。ご自身の命を軽視する発言は控えるべきかと」

提督「……仕方ねえな……くそ」アタマガリガリ

那珂(提督さんから深海棲艦みたいな雰囲気を感じたのは、こういう破滅的な性格のせいなのかなあ)ウーン

 コンコン

山城「ドアも開けっ放しで何してるのよ」

那珂「あっ、山城ちゃん!」

提督「いろいろ報告受けてただけだよ」

山城「ふーん。駆逐艦に迫られるのが報告なの?」

提督「別に迫られてもいねえよ」

山城「ああ、そう。とにかく、報告中ってことなら、私も便乗させてもらうわ」ショルイサシダシ

提督「? こいつは……」

不知火「演習の申込書、ですか」


山城「補給物資の荷物の中に入ってたわ。それじゃ、私は荷下ろしに戻るから」

提督「……おい」

山城「なによ」

提督「食堂のステージが完成したぞ」

山城「……本当!?」パァァ

提督「良かったな那珂。めちゃくちゃ喜んでる奴がいるぞ」ニヤリ

那珂「……はいっ!!」

山城「っ……!! と、とにかく、私は戻りますから!」イソイソ

不知火「山城さん、満面の笑みでしたね」

如月「那珂ちゃんが発声練習してると、聞きに行きたくてそわそわしてたものね」

那珂「そっか……じゃあ、頑張ってみんなを元気にしてあげないとねっ!」

如月「うふふ、楽しみにしてますね」

不知火「さすがに気分が高揚します」

那珂「なんで加賀さん!?」


提督「まあいいや、はしゃぎすぎて怪我だけすんなよ」

那珂「はいっ! 気を付けまーす!」

提督「で、3日後の13時半からだっけか?」ガサガサ ペラリ

那珂「はいっ! 明後日はリハーサルでーす!」

提督「……」マユヒソメ

如月「えっ、その顔……どうしたの!?」

提督「タイミング悪いな……どうしてそうくるかね」ハァ

提督「那珂。悪いがお前の初ライブ、一日見合わせろ」

那珂「ええええええええええええええ!?」

提督「どうしてライブ予定の日に演習なんかぶっ込んでくんだよ、くそが……」

不知火「……」アタマオサエ

如月(山城さんが持ってきたから、っていうのは山城さんが可哀想よね……)


 * 埠頭 *

山城「へっっぢん!」

 ガッ

山城「……っっ!!」プルプル

電「山城さん!? どうしたのです!?」

神通「くしゃみした反動で脛を箱に打ち付けたみたいです……」

電「弁慶の泣き所ですか……」


 * 3日後 墓場島鎮守府 埠頭 *

電「し、司令官さん? この人たちが演習の相手なのですか?」

提督「だとよ……」ピキピキ

仁提督「よぉ、久しいな准尉! あの日のリベンジをさせてもらうぜ!」ガハハハ

提督「帰れ」

電「!?」

仁提督「おい!?」

提督「ったくよぉ……仰々しい書類が来たから、ちったあ神妙に受けるかと思ったら、どこぞの戦艦馬鹿じゃねーか……」

仁提督「言うに事欠いて馬鹿とはなんだ貴様! 目上の相手に対する言葉か!」

提督「褒めてんだよ、一応」

仁提督「そんな褒め言葉があるか! とってつけたような言い訳をするな!」

提督「とりあえず適当に相手するから終わったらとっとと帰れ。あと大和はやんねーぞ」

仁提督「ふん、お前のところの大和なんぞこっちから願い下げだ」

仁提督「本営で噂になってたぞ、この島の大和はお前の狂信者だってな」

電「あー……」

提督「狂信者、ねえ……」


仁提督「世話になっている少将も身をもって経験済みだし、何よりあの中佐が大怪我をしたと聞いているからな。反論しようと思ってても無駄だぞ」

提督「いや、別に反論なんかねえよ」

仁提督「ないのかよ!?」

提督「よろしくねえ評判が立ったなら、この島に近づこうとするやつも減るだろうしな。願ってもねえ」

仁提督「どこまでも厭世的な奴だな……」

提督「とにかく、さっさと演習して……」

仁提督「まあ待て、慌てるな。その前にだ、あの丘の上の艤装がこの島に流れ着いた艦娘の墓標だな?」

提督「ん? あ、ああ」

仁提督「実をいうと演習はついででな。この島に連れてきたい奴らがいて、貴様に演習を申し込んだんだ」

提督「なんだそりゃ」

仁提督「金剛! 連れてこい!」

仁金剛「イエース!」

 ゾロゾロ

電「!!」


仁提督「まあ、今回の演習にも参加してもらうんだが……」

提督「こいつら……駆逐艦か!?」

仁提督「ああ。陽炎型の萩風、嵐、それから雪風だ」

提督「ゆき……っ!?」

仁提督「あの日、貴様から話を聞いた後、本営に駆逐艦を寄越せと掛け合ってな。それなら、と言って連れてきたのがこの件の雪風だ」

雪風「……」ウツムキ

提督「あ、あの雪風か!? 空母棲姫に追われてた!」

仁提督「ああそうだ。腹の立つことに、その空母棲姫の邀撃が済んで、用がなくなったからと俺に引き合わせてきたんだよ」

仁提督「俺が必要にしていたからいいものの、あいつらは本当になんとも思ってなくて俺ですら絶句したほどだ」

提督「……」

仁提督「それから、保提督だったか? この雪風が元いた鎮守府の提督にも、挨拶と説教をしに行ってきた」

仁提督「そこで雪風を引き取ったことを伝えたら、この二人も引き取ってほしいと頼まれてな」

仁提督「何か思うことがあったのかと思ったら、あの自首騒ぎだ。もしかしたら、俺が雪風を引き取ったのが引き金だったのかもしれん」

提督「……」


仁提督「でだ、黒潮が流れ着いたというこの島に来ていたのも何かの縁だ、演習という形で連れて行けば文句もないだろうと思ってな!」

雪風「し、しれぇ……」

仁提督「なんだ?」

雪風「こ、この人が……黒潮お姉ちゃんを……」

仁提督「ああ、そうだ。この島に流れ着いた黒潮を埋葬したんだ」

仁提督「そういうわけで、この島に来たのは墓参りが目的だ。准尉! 案内しろ!」

提督「……」アッケ

電「し、司令官さん!」

提督「ん、おお……仁提督はちょっと待ってろ。電、ちょっと来い」

電「は、はい!」

提督「いいか? ごにょごにょ……」

電「! わ、わかったのです! 電、すぐに行ってくるのです!」タッ!

提督「頼んだぜ。……さて、待たせたな」


 * 丘の上 *

萩風「轟沈した艦娘が、こんなにたくさん……」

仁提督「……改めて見ると、なんとも言えん光景だな」

嵐「こん中に、黒潮姉が……」

雪風「お姉ちゃん……!」グスッ

提督「……」

神通「提督……こちらの皆さんはどうなさったんですか?」

提督「仁提督が、保提督んとこの陽炎型を引き取ったんで、この島に連れてきたんだとよ」

神通「え? それでは、どうしてこちらに?」

提督「案内しろっつうから案内してやっただけだが?」ニヤリ

神通「……」アタマオサエ

提督「しょうがねえだろ、あんなツラしたまま引き会わせるわけにはいかねえ」

神通「提督、それだけじゃないでしょう?」

提督「まあな。百聞は一見にしかずってやつだ」


萩風「……あ、あのぉ、何の話なんでしょう?」

提督「ん? 気にすんな。それより、そろそろ来るかと思ってんだが」

 ドドドドドド…

提督「うん?」

嵐「なんだこの音?」

仁提督「なんだあの土煙は……」

白露「いっちばーん!」ドドドドドド

島風「はっやーい!!」ドドドドドド

白露と島風に手を引っ張られる黒潮「ちょっ、待ちい!! 腕が抜ける! 腕がーー!」グリングリン

電「み、みんな待って欲しいのですーー!」

提督「なにやってんだ、あいつらは……」アタマオサエ

白露&島風「とうちゃーく!!」キキーーッ

黒潮「ぜぇ、ぜぇ……うぷっ、気持ち悪……」オメメグルグル

提督「お前らなあ……連れてくるにももう少し加減ってもんがあるだろうが」

島風「えー!? 黒潮が全速力で、って言ったんだよー?」


白露「いっちばん速く、って言われたんだもの、手を抜くわけにはいかないでしょ?」

提督「だからって黒潮がこれじゃ意味ねえだろが」

黒潮「ほげぇ……」グロッキー

萩風「あ、あの、提督准尉……?」

提督「おう、紹介が遅れたな。こいつらは島風と白露、もと仁提督鎮守府にいた駆逐艦だ」ニヤリ

仁提督「……っ!」

提督「で、知ってると思うがこいつが黒潮だ。もと、保提督鎮守府の、な」ニヤニヤ

仁提督「なにぃ!?」

萩風「……!」

嵐「ってことは……!」

仁提督「准尉! 貴様、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ!!」

提督「冗談? 俺は黒潮が沈んだとも埋葬したとも、一言も言ってねえぞ?」

提督「あんたが勝手にそう思い込んで、勝手に勘違いしただけじゃねーか」ニヤリ

仁提督「貴様……どこまで俺たちをコケにすれば……!!」

提督「あん時ゃ俺はあんたを信用してなかったんだ。下手なこと言って黒潮連れ去られて解体になったら元も子もねえからな」


雪風「ほ、本当に……黒潮、お姉ちゃん、なんですか?」

黒潮「……お」

提督「お?」


黒潮「おえええええ……」


雪風「」

萩風「」

嵐「」

仁提督「」

神通「」アタマカカエ

電「」アタマカカエ

提督「おい……白露、島風……!」ユラリ

白露「ご、ごめんなさーい!」ダッ

島風「あっ、白露待って!」ダッ

提督「くそが……あいつら後でお仕置きだ」


電「黒潮ちゃん、しっかりするのです」セナカサスリ

神通「お水です。これで口を漱いでください」スイトウトリダシ

黒潮「お、おおきに……」

神通「まともに食事を摂っていなかったせいで、胃液も出なかったようですね」

電「弱ってるのに無理矢理引っ張られたら、こうなるのも無理はないのです……」

提督「まったく、顔だけでも洗ってこさせろって指示したのに、あいつらのせいで台無しじゃねーか」

嵐「つ、つうか准尉さんよぉ、わざわざ俺たちをここに連れて来なくても良かったんじゃ……!?」

提督「こういう場所だって言う説明を省くのと、まあ、時間潰しだな。女の身支度は時間がかかるだろ」

仁提督「回りくどい真似を……!」

雪風「……お姉、ちゃん、なんですよね……!?」

黒潮「!」

雪風「お姉ちゃああああん!!」ダッ

黒潮「雪風……!!」

萩風「姉さん!」ダッ

嵐「姉貴!」ダッ

黒潮「……ほんまに、来たんや……来てくれたんやな……!」ダキヨセ


仁提督「……」

電「良かったのです……!」ホロリ

神通「ええ……!」

提督「……やれやれ。おい、仁提督」

仁提督「なんだ」

 スッ

提督「保提督鎮守府の艦娘と、我が艦隊の黒潮を引き合わせてくれたこと、感謝申し上げる」ケイレイ

仁提督「……ふん。貴様も、礼くらいは言えるんだな……!」ケイレイ

電「あ、あの! 電からも、お礼を言わせて欲しいのです!」ペコッ

神通「仁提督、ありがとうございました」フカブカ

仁提督「……まあ、いい。連れてきて間違いではなかったってことだな」

提督「神通、黒潮を入れて、今回の相手といい勝負できそうなメンバーを選出してくれ」

神通「はい」

提督「それから電、茶と茶菓子と……そうだな、那珂にも一曲披露してもらうか?」

電「はいなのです!」


 * その後、演習中 埠頭 *

 ドーン

仁提督「……はしゃぎすぎだ。演習とはいえニコニコしすぎだ」

提督「……で? これが終わったらあいつらは解体すんのか?」

仁提督「チッ……そんな気はない。陽炎型にはこれからもしっかり働いてもらう」

提督「どうだか」

仁提督「貴様もいちいち癇に障る男だな……」

提督「へっ、人間なんてそう簡単に根っこは変わらねえよ」

仁提督「それこそどうだかな。良くも悪くも変化のない人間なぞおらん。言うことがころころ変わる奴だって少なくなかろう」

提督「……」

仁提督「なんだその目は」

提督「その理屈だと、あんたも変わったってのか? 随分都合がいいもんだ」

仁提督「……ああ、都合よく思い出しちまったんだよ。初めて雪風に会ったときに、ユキマル……俺が飼ってた犬のことをな」

仁提督「もともと捨て犬だったんだ。人が怖くてしょうがないって目をしててなあ」

仁提督「雪風も同じ目をしてたもんで、不覚にも情がわいた……ってとこだ。会う前にここで話をしていたから猶更だ」

提督「……」


仁提督「だからといって、雪風たち陽炎型だけを贔屓するわけにもいかん。鎮守府に戻ったら、遠征専門だった睦月型も演習に出撃させる」

仁提督「足止めを食らっているのも駆逐艦でないと突破できない北方海域だからな。戦術の見直しに丁度いい」

仁提督「そういう評価を怠って駆逐艦の間で対立が起こっても面白くない。どうもあのくらいの年齢の女児の相手は、苦手だ」

提督「ああ……」

仁提督「それに……そもそも水雷戦隊なんて俺の柄じゃないんだが。あまり気乗りせん」

提督「ふん、駆逐艦舐めてると痛い目見るぞ」

仁提督「そうか?」

 ドーン

仁提督「! あいつ……金剛の砲撃を避けたのか?」

提督「ああいう速さってのは、戦艦にはない駆逐艦の強みだよな。回避力ってのは馬鹿にできねえぞ」

提督「被弾が少なきゃ中破も減る、進軍もできるし修理にかかる素材も節約できる」

提督「戦艦並べて長距離高火力で相手に何もさせずに殲滅ってのは確かに安全だが、潤沢な資材が必須条件だ」

提督「懐事情の厳しい俺たちには、これも必要な戦法だと思うが?」


仁提督「……そうだな、考えてやってもいい。だが、俺が一番信頼しているのは戦艦たちだ」

仁提督「俺はあいつらを主力から外すつもりはないぞ」

提督「……ふん、そうかい。そう決めたんなら、それでいいんじゃねえの」

仁提督「ったく……貴様の大和がああでなければ、うちの主力として戦線を切り開いてもらいたかったんだがな」

提督「ま、運良く建造できても、今のあんたの立場じゃあ、活躍させる前にお上に寄越せって言われるかもな」

仁提督「……ぐぬ……」

提督「そろそろ決着がつきそうだな」

仁提督「……」

提督「……」

 ドカーン

提督「あ」

仁提督「あ」


 * 二時間後 食堂 *

山城「ちょっと提督!? どうして那珂ちゃんのステージが1曲だけなんですか!」

山城「最後に私が被弾して中破したからですか!? ペナルティですか!? ああ、不幸だわ……!!」

提督「あぁ? んなもん関係ねーよ、最初から1曲の予定だったろ。一日前倒しで哨戒任務に出張ってる連中のことを考えろ」

那珂「そーだよー、それに今日の主役は黒潮ちゃんでしょ? ね?」

山城「那珂ちゃん……あなた天使なの?」

那珂「もー、提督さんがそう言ってたでしょー!」

山城「私は聞いてないわ。そもそもこの男がそんなふうに他人を思い遣った台詞を吐くわけないじゃない」

扶桑「山城? 提督は最初から1曲だと仰っていましたよ?」

山城「扶桑お姉様……!」


扶桑「あまり提督を困らせてはいけませんよ。めっ!」

山城「」ズギューン

那珂「そうだよー! 山城ちゃん、めっ! だからね!」

山城「」ズギューン

山城「」

山城「」

山城「尊い……!」ドシャァ

扶桑「山城っ!? なんで倒れるの!?」

那珂「山城ちゃん!? 女の子がしちゃいけない顔してるよ!? 山城ちゃーん!!」

霧島「司令、なんで山城さんが倒れているんですか?」

提督「知らん。それよりどうだった、今回のステージは」

霧島「少人数でも観客がいる状態ですと、音の響き具合も違いますね。それから厨房にも結構響いてましたので、調理にも影響が出そうです」

霧島「厨房に音がいかないように、スピーカーの設置場所を調整したほうが良いかと。この食堂を囲むように設置しても良いかもしれません」

提督「スピーカーを分散させるのか」

霧島「はい。明日の朝に少し調整してみますね」


提督「おう、任せるぜ。それから……」チラッ

霧島「!」


黒潮「雪風、ほんま無事で良かったなあ」ニコニコ

雪風「で、でも……」

黒潮「雪風のせいやないて。なあ」

嵐「けど、姉貴にばっかりつらい思いさせちまって……」

黒潮「そうやって心配してくれてるやんか。みんな同じや」ニコー

萩風「黒潮姉さん……」ウルッ


提督「……まあ、あっちは心配なさそうだな」

霧島「姉妹水入らず、ですね」

提督「で、こっちは……」チラッ


仁提督「なぜだ……なぜお前らはそんなにまともなんだ!?」

長門「そう言われてもな……」

仁金剛「比叡の料理がこんなにおいしいなんて、夢みたいデス……」


比叡「あのう、そちらの私にはちゃんと味見させてますか?」

仁金剛「あ、味見……ッ!?」ズガーン

比叡「そんな衝撃を受けるほどのことなんですか!?」ガビーン

仁提督「比叡もそうだが長門だってそうだ。うちの長門は駆逐艦を見ればだらしない顔をして追いかけ回すし……なんとかならんか!?」

長門「そうだな……一度、駆逐艦を追いかけ回している姿を撮影して、本人に見せてやるのはどうだろうか」

仁提督「むう、それだけで大丈夫だろうか……駆逐艦欠乏症なんて訳の分からんことを言い出しているくらいなんだが」

長門「私個人の体験談だが、ここへ来る前の鎮守府で、強烈な反面教師を目にしているのでな。ビッグセブンとしての自覚を刺激するのも手だ」

長門「それから、欠乏症云々はそちらの長門の詭弁だろうが、それを言わせないためにも、駆逐艦も編成に入れた艦隊運営を考えたほうがいい」

長門「潜水艦がいる海域や、砲撃より雷撃が有効な相手もいる以上、駆逐艦や軽巡の育成をしないのはどうかと思う」

長門「仁提督も見ていただろう、演習の最後に、雪風の雷撃で山城が中破したのを」

仁提督「……あれは単なるラッキーヒットだろう?」

長門「その運を味方にできるのが雪風だ。空母棲姫の騒動は、羅針盤の指示を無視して進軍したイレギュラーな結果だと考えている」

長門「そちらの金剛の砲撃を回避した不知火も陽炎型の駆逐艦だ。金剛も、不知火を駆逐艦と侮ったわけではあるまい?」

仁金剛「イエス、やるからにはテートクに勝利をプレゼントするのが私たちの務めデース」

仁提督「むう……」


提督「……そういや、雪風から本当に羅針盤を無視した結果なのか、確かめてなかったな。きりのいいところで訊いてみるか」

霧島「? 何のお話ですか?」

提督「ああ、そりゃあな……」

 タタタタッ

大和「提督! ただいま演習から帰還しました!」ガバーッ

提督「うおっ!?」ダキツカレ

大和「この大和がMVPです! それもこれも提督のおかげです!」ダキシメホオズリ

提督「だっ、だからっていきなり抱き着いてくる奴がいるか!」

金剛「大和ォォ!? 何してるデェェス!!」ウガーッ

如月「金剛さんが変な前例作ったからでしょ!?」

那珂「ちょっ、大和さん、こんなみんながいるところでそんなことまでしちゃダメだよぉぉ!?」

 ギャーギャー

仁提督「なんというか……あんな大和は初めて見たぞ。准尉のあの性格でなぜあそこまで慕われてるのか、いまいち解せんが」

仁金剛「ノープロブレム! テートクには私がいマース!」

仁提督「そういう意味じゃなくてだな……」


長門「どうかしたのか?」

仁提督「あれだけ大和に好かれているのに、准尉は嬉しそうにしてないなと思ってな」

仁提督「見返りを求めないにしても、艦娘を大事にしている以上、艦娘に好かれるのを嫌がらなくても良いだろうと思うんだが」

長門「あの男の望みは、人間がいなくても艦娘が生活できる環境だ。あの男は、自分も含めて人間が不要な世界を作りたがっている」

長門「だから我々に好かれては困る、というのがあの男のスタンスだ」

仁金剛「オゥ……」

仁提督「理由はどうあれ、お前たちに依存したくないしさせたくもない、というわけか……」ウデグミ

仁金剛「……うちのテートク、この頃少し変デース。以前この島に来た時から、考え込む時間が増えてマス」

仁提督「准尉の姿勢に思うところがあってな」

仁金剛「と、言いマスと?」

仁提督「……提督業に就く者は艦娘と一定の距離を保つべき、と言われている。なぜだと思う?」

仁提督「准尉にも言ったが、艦娘を兵器、もしくは備品と見なしているからだ」

長門「……」

仁提督「金属や燃料を素材にドックで建造され、解体すれば資材が残る。艦娘とは何者か? 艦娘でさえも正確に答えられる者はいない」

仁提督「俺もお前たちを人であるなどとは言えん。准尉のように、人と同じように艦娘と接していたのでは、いつか狂ってしまいかねないからな」

比叡「狂うって、そんな……!」


仁提督「考えてもみろ、仮に今日艦隊の誰かが沈んで、翌日同じ艦娘が建造されたらどう思う?」

仁提督「死んだはずの人間が、同じ姿かたちで別人として蘇るんだ。まともに考えて頭が受け付けられるとは思えん」

仁提督「実際に、艦娘に入れ込むあまり骨抜きにされた者もいれば、沈んだ艦娘の後を追う者もいた」

仁提督「特定の艦娘を殺して飾ったという狂気じみた事件も、その艦娘に入れ込んだがためだ」

長門「……」

仁提督「艦娘は人と思わず道具と思え、という話も、そういう意味では正しいことになる」

仁提督「俺も現在進行形で艦娘との接し方についていろいろ考えさせられたが、今の俺には准尉と同じように接することはできん」

仁金剛「……それはちょっと残念デス」

仁提督「しかし、この島はそうじゃない。轟沈してこの島に流れ着いた艦娘たちも、深海棲艦になることもなく准尉と暮らしている」

仁提督「もしも、准尉がこの鎮守府の運営に成功し、誰しもが納得する成果をあげられたのなら……」

比叡「あげられたのなら……?」

仁提督「……いや、その先は言えんな。無責任なことは言えん」

比叡「そんなあ! 思わせぶりなことを言っておいて、その先を言わないほうが無責任ですよぉ!」

仁提督「あるかどうかもわからない希望をちらつかせる方が無責任だろう」

仁提督「むしろ、提督の望む道が艦娘だけの世界だとしたら、逆に本営には危険視されるかもしれん」

長門「謀反の可能性を恐れている、と?」


仁提督「そうだ。そう考えれば准尉のこれからを心配したほうがいい」

提督「心配しなくても別にいいけどな、俺は」ズイッ

仁提督「うお!?」ビクッ

提督「むしろ外から関わってもらわねー方がいろいろと楽だぜ?」

仁金剛「そういうものデスカ……」タラリ

仁提督「残念だがそうはいかんだろう。良くも悪くも、ここはそれなりに有名だからな」

提督「みたいだな……変な噂もたつし、どうにかなんねーのかよ、くそっ」

仁提督「諦めろ。それから、黒潮の解体命令自体はまだ取り消されていないぞ」

提督「……保提督がどうなったかの続報も出てねえし、そっちも継続中ってか」

仁提督「本当なら俺たちも、雪風たちに一回だけ墓参りのつもりで来たんだが……黒潮が生きてるんなら話は別だ」

仁提督「しばらく、貴様たちとは演習なりなんなり理由を付けて顔を突き合わせなければならんようだな」ガクッ

仁金剛「ちょっ、テートク!? そこは演技でも嬉しそうにするデース!」

仁提督「金剛お前なあ、この島に来るたびこいつと毎回顔を合わせるんだぞ!? 俺の胃のほうがストレスで保たんわ!!」

長門「ああ……」ナットク


仁金剛「テートク、ご本人の前でそういうことを言うのは失礼だと思いマス……」

仁提督「ふん、こいつにそんな気遣いはいらん!」

提督「まあ俺も気にしてねえ。それはそれとしてだ、仁提督」

仁提督「なんだ」

提督「俺としても、あんたたちがこの島に来るのはお勧めしねえ。演習にしても、月に1回あるかないかくらいでいい」

仁提督「……貴様からそういう提案がくるとはな」

提督「ぶっちゃければもう来るな、と言いたいところなんだが、黒潮や雪風のことを考えるとそうもいかねえ」

提督「ただ、来てもらうにしても頻度が高いと怪しまれる。つかず離れず……若干離れ気味が望ましいな」

提督「うちと交流があるってだけで、本営はいい顔しねえしよ。中佐なんかにも目を付けられたかねえだろ」

仁提督「まあな」

仁金剛「ンー、中佐もさることながら、秘書艦の赤城も曲者と言われてマスヨー」

比叡「そうなんですか?」

仁金剛「あの会見を録画で見せてもらいましたが、眉一つ動かさずにあの啖呵デシタ。中佐と比較されて話題になったみたいデス」

仁提督「確かに、本営でも『冷徹』だの『鉄面皮』だの『鉄仮面』だの……どこぞの女性宰相のように『鉄の女』なんて宣う奴もいたな」

仁提督「そのせいで、一部からは『鉄の赤城』なんて呼ばれ方をしているらしい」

提督「……チッ」

長門「確かに表面上はそうかもしれないが……」

比叡「そういう言われ方はおもしろくないですねえ」

仁提督「……なるほど。中佐に忠誠を誓ってあの性格になったのかと思ったが……」

仁提督「お前たちがそういう評価をされるということは、少なくともお前たちには良くしてくれているということか」

仁金剛「ヘイ比叡? 失礼デスけど、准尉はどうしてこの島に着任したんデスカ?」

比叡「それはですねえ……」


 * 夕刻 執務室 *

提督「ふー……珍しく時間かかっちまったな」

大淀「お疲れ様です。今日は大変でしたね」

提督「あいつら、ぎりぎりまで居座ってたからな。もてなすこっちの身にもなりやがれってんだ」

提督「……だがまあ、黒潮も落ち着いたようで何よりだ。まさか仁提督に借りを作ることになるなんて思ってもいなかったがな」

大淀「提督。雪風さんは、やはり羅針盤を無視した航路を取っていたんでしょうか」

提督「そうみたいだな。つうか、そもそも見てなかったらしいが」

提督「黒潮を探すときに『絶対に大丈夫』とか言ってたのが、空母棲姫の逆鱗に触れたらしいな。私たちが不運だから沈んだのか、って解釈されて」

提督「ここまで行くと単なる逆恨みだ。だが、それだけに深海棲艦が憎悪や無念によって生まれた存在、っつうのも、あながち嘘じゃないみたいだな」

提督「とにかく、こんなこともう起きて欲しくはないもんだ。……さてと、大淀、残ってる書類あるか?」

大淀「あとはこちらだけです。サインだけいただければ良い状態にしています」

提督「おう、ありがとな」

 ゴトン

大淀「あ」

 ゴトン

提督「……また駄目だったのかよ」


島風「もう無理~~!」

白露「こんなに長い時間じっとしてられないよー!」

提督「何が難しいんだよ、こんなの。直立して頭に本を載せて5分間落とさないようにするだけだぞ」

提督「俺も大淀も、哨戒任務から戻ったばかりの暁や五月雨も楽勝だったんだぞ?」

大淀「落としたら再チャレンジということでしたが、あれから1時間は経っていますね」

提督「どんだけ落ち着きがねえんだよ、お前らは」ハァ…

大淀「そこへいくと暁さんはすごかったですね。頭に本を載せて歩いても全然落としませんでしたから」

提督「あいつ、社交界マナーの本なんか買ってたからな。ある意味誰よりも大人びてるぞ」

 コソッ

大淀「あっ」

島風「一時間たったからいいでしょ!?」ダッ

白露「もうご飯の時間だよ!!」ダッ

 ドドドドドド…

提督「……」

大淀「て、提督、よろしいんですか?」

提督「もういいや、面倒臭え」ハァ

というわけで今回はここまで。

それでは続きです。


 * 数日後のある日の朝 提督の寝室 *

目覚まし時計<マルゴーフタフター

提督「……んむ……」パチ

提督にくっついて寝てる全裸の伊8「……」スヤスヤ

提督「!?」ビク

伊8「……ん……」モゾ

提督「……」

伊8「ふ、ふあぁ……提督? Guten Morgen」ゴシゴシ

提督「……おい」

伊8「?」

提督「お前、なんで裸なんだ」

伊8「……ああ」スッポンポン

提督「ああ、じゃねえよ。今頃気付いたような言い方すんな」Tシャツヌイデ

提督「とりあえずこれ着とけ、俺に目の毒だ」ポイ

伊8「オゥ、Danke」キャッチ


提督「で、服はどうした」

伊8「はっちゃん、普段寝るときはいつもこうですよ?」モソモソ

提督「……」

伊8「ここに来るときは遠慮してましたけど、やっぱり脱いだ方がきつくないし」

伊8「水着って、ちょっと窮屈なんです」

提督「あーあー、わかったわかった。ったくよぉ……」

伊8(……性行為のトラウマはまだ治ってないみたい)ウーン

伊8(でも、以前よりは、拒否反応が和らいでるかな……)

伊8(とにかく、この調子でゆっくり押しかけ続ければ、提督のアレも良くなってくれるはず……)

伊8(焦らずじっくりカウンセリングすれば……いつか手を出してくれるはず!)キラリッ

提督「!?」ゾクゾクッ


 * 執務室 *

提督「……はぁ……」

陸奥「珍しいわね、提督がため息なんて」

大淀「どうかしましたか?」

提督「一応な、俺が寝るときは、部屋に鍵かけて寝てんだよ」

大淀「はい」

陸奥「それがどうかしたの?」

提督「なのに、なんで毎回、誰かが隣で寝てるんだ? いい加減どうにかなんねーのかな、って思ってよ」

陸奥「え、えええ!?」

大淀「っ……そ、そうなんですか!?」アセアセ

提督「そうなんだよ」

大淀(リアクション、ちょっとわざとらしかったかしら……)

陸奥「鍵はかけてるのよね? 壊されてるってこと?」

提督「いや、壊されちゃいねーけどよ……何故か開いてんだ。やっぱり、俺の部屋のベッドだけがいいのがまずいのかね」

大淀「そ、それは違いますよ!?」

提督「違うのか?」


大淀「勿論です! 提督と一緒にいたいからに決まってます!」

陸奥「!」

提督「……」

大淀「……」

提督「……」プイ

大淀(あれ? 提督、赤くなってる?)

提督「あまり俺に懐かれても困るんだがな。鍵、意味ねーのかな」アタマガリガリ

陸奥「隣に寝てる以外に被害がないのなら、やめてしまっても同じよね?」

提督「かもなあ……」

大淀(提督も恥ずかしがることがあるんですね……)ウーン

提督「仕方ねえ……それと大淀も、あまり小っ恥ずかしい台詞、言うんじゃねえよ」

大淀「へ……?」オモイダシテ

大淀(うわーーーー!? 何言ってるの私ーーー!?)カオマッカ

提督「?」

陸奥「……提督って、本当に恋愛事に疎いのね……」

提督「しみじみ言うなよ……」


 * 翌日の朝 如月の部屋 *

如月「司令官の部屋の鍵が開いてた?」

朝潮「はい。昨晩、朝潮が司令官のお部屋にお邪魔した時、ノックをしてから鍵を開ける音がしませんでした」

朝潮「約束では、夜に司令官のお部屋に入るときは、ノックをして妖精さんに鍵を開けてもらうことにしていたはずですが」

朝潮「ノックしてから鍵を開ける音がしなかったので、どういうことかとドアを開けてみたら、開いてしまったんです」

如月「……どういうことかしら……ねえ朝潮ちゃん? このお話、他の人にはしてないの?」

朝潮「まだしていません。司令官のお部屋のお泊りルール発案メンバーのうち、任務がないのは私たちだけですから」

如月「そ、そう……そういうところ、朝潮ちゃんって本当に真面目ね……」

朝潮「はい! 司令官からもお褒めの言葉をいただいていますから!」ドヤッ

如月「……と、とにかく、私の方から司令官に何があったか聞いてみるわ」

朝潮「朝潮も一緒に行きましょうか?」

如月「え、えーっと、変に勘繰られたりするといけないから、私一人で行ってみるわね」

朝潮「そうですか……わかりました」

如月(朝潮ちゃん、妖精さんのことも正直に喋っちゃいそうで怖いのよね……)


 * 昼下がり 執務室 *

 扉< コンコン

如月「司令官、お仕事中お邪魔しますね?」ガチャ

提督「ん? 如月か、どうした?」

如月「ちょっとお断りを入れておこうかと思って」ウフフッ

大淀「お断り……?」

那珂「何の話?」(←今日の秘書艦)

如月「今夜、司令官のお部屋にお邪魔しますね?」ニッコリ

大淀「き、如月さんっ!?」ガタッ

那珂「えっ? えっ? 何!?」

提督「もしかして……寝に来るってのか?」

如月「ええ、そうよ?」

那珂「んななな、何言ってるのぉぉ!?」ガタガタッ

提督「……まー、いいけどよ」

如月「!」

大淀「!?」

那珂「提督さんっ!? いいけどっていいの!? よくなくないの!?」ギョッ


提督「いや、本当に今更だぞ。これまでほぼ毎晩、目が覚めると誰かしらが隣で寝てんだぞ? 鍵をかけても一度も役に立ったことがねえ」

提督「だからもういいや、どうせ無駄な抵抗ってやつだ。俺の部屋に入るのは構わねーから、寝る邪魔だけはしないでくれ」

如月「……!」

那珂「!?!?!?」アングリ

大淀「よ、よろしいのですか……!?」

提督「俺の安眠妨害さえなけりゃあな。川内の件で寝るのを邪魔されるつらさはわかってんだろ?」

如月「うふふふっ、それは勿論よ。迷惑にならないようにするわ」ニコニコ

如月「それじゃ、また夜にねっ」ウキウキ

 扉< チャッ パタン

提督「……やれやれ」フー

那珂「ちょっと提督さん!? 今の話、那珂ちゃん初めて聞いたんですけどっ!?」

提督「俺も面と向かって部屋に行くなんて宣言されたのは初めてだよ」

大淀「……」

那珂「い、いくら提督さんが手を出すことがないからって、お、おおお男の人のお部屋っていうか、お布団に一緒だなんてっ!」カオマッカ


提督「俺もそう思って部屋の鍵をかけてんだけどなあ……」

大淀「……部屋に入るのが構わない……」ブツブツ

那珂「よ、よ、良くないよね! お、大淀ちゃん、そういうのって駄目じゃないの!?」

大淀「へっ!? えっ、あ、そうですね!? それはしょうがないですね!?」

那珂「大淀ちゃん話聞いてた!?」ガビーン

提督「まあ、程度として如月はまだいいんだ。朝潮とか、電あたりも一人寝が寂しいからっつう感じだし……」

提督「どっちかっつうと大和とか金剛とか押しも力も強すぎる連中の方がちょっとな。はっちゃんも何考えてるかわかんねえ」ハァ

那珂「……え、えーっと、この島のみんなのモラルっていうか、道徳観ってどうなの?」

大淀「その辺りは、この島に来た皆さんの事情を考えると、無理もないかと思いますよ。提督に文字通り命を助けられた艦娘も多いですし」

那珂「あ……! そ、そっか……如月ちゃん、すごい傷だったもんね」

那珂「で、でもでもぉ! やっぱり良くないよ! 節度っていうか、うまく言えないけど、なんだかすごく、不健全だよ……!」

大淀「……そうですね、不健全だと思います。憲兵さんがいないことも、この事態に拍車をかけていると思います」

大淀「だからと言って、提督とのスキンシップを制限するのも、私は上策とは思いません」

那珂「な、なんで!?」


大淀「提督は、この鎮守府の艦娘に対しては、一線を越えない限りは、できる限り好き勝手出来るよう配慮されています」

大淀「提督ご自身が望む望まないに関わらず、提督と一緒にいたいと艦娘が望むならば無碍にはできない、と、提督はお考えなのでは?」

提督「まあ、な……つっても、ここんとこ俺が甘いせいで、どんどん俺の防壁削られてんだけどな」アタマガリガリ

大淀「それを踏まえて、私個人の推測でしかありませんが……」

大淀「提督が私たちに好きにさせているからこそ、轟沈を経験した艦娘が深海棲艦になっていないのではないかと考えているのですが」

提督「……」

那珂「……!」

大淀「提督は、お考えにはなったことはございませんか」

提督「正直、深く考えてなかったな。山雲んときくらいか、やべえなって思ったのは」

提督「ル級みたいなやつもいるから、深海棲艦になってもなんとかなるか、って高を括ってたのもある」

大淀「提督も許容できるのでしたら、私は現状維持が望ましいかと」

提督「あんまり許容したくねーけどな。それに、普通は那珂みたいな反応の方がまともだと思うんだがなあ」

那珂「……提督さんは、結婚願望ないんだよね?」

提督「ああ。それに、那珂も俺の体のことは知ってんだろ?」

那珂「うん……みんなにもその話はしたんだよね」

大淀「それでも、提督が好きな人たちには関係ないでしょうから。変に止めようとしても、どうなることか……」

那珂「あうう、確かに如月ちゃんも、提督さんのことになるとすっごい迫力になるし……」

大淀「如月さんもそうですが、金剛さんや大和さんが素直に応じると思います?」

那珂「……難しそうだねー……」ウーン


 * 一方、ドアの外 *

如月「うふふっ」ルンルン

朝潮「……!」タタッ

如月「! 朝潮ちゃん!」

朝潮「如月さん! どうでしたか!?」

如月「司令官、鍵をかけるのやめたみたいよ?」

朝潮「本当ですか!?」パァッ

朝潮「やっと司令官が私たちに心を開いてくださったんですね!」

朝潮「……あ、でも」

如月「? なあに?」

朝潮「これまで私たちは、司令官のお部屋の鍵を妖精さんに開けていただいていました」

朝潮「でも、用がなくなったからお礼を渡すのも終わりというのも不義理なのでは……」

如月「朝潮ちゃん、私たちは妖精さんと契約していたのよ? お部屋の鍵を開けてもらう代わりに、資材を渡していたの」

如月「それを、契約が切れたのに資材を渡し続けていたんじゃ、これまで渡していた資材はなんだったのか、わからなくなっちゃうわ」


朝潮「そ、そうですね……! 理由がないのに渡していては、賄賂も同然です」ソワソワ

如月「……朝潮ちゃん?」

朝潮「す、すみません、司令官が私たちを受け入れてくれたことが嬉しくて、妖精さんたちにどのように喜びを伝えたら良いか……!」

如月「……そういうことなら」ダキヨセ

朝潮「!!」ダキヨセラレ

如月「こうやって、幸せを分かち合うといいと思うわ」

朝潮「……!」

朝潮「な、なるほど……! 如月さん、ありがとうございます!」ギュ

龍驤「演習から戻ったで~……って、何しとん?」

朝潮「あっ! 龍驤さんおかえりなさい!!」ダッシュアンドダキツキー

龍驤「な、なんやなんや!? えらい熱烈な歓迎やな!」ギュー

霞「ちょっ、何やってんのよ!?」

朝潮「霞もです!」ダキツキー

霞「へっ!? ちょ、えええ!?」ドギマギ


朝潮「吹雪さんっ!」ダキツキー

吹雪「えっ!? わわ、私にも来るの!?」ギュー

朝潮「川内さんっ!」ダキツキー

川内「よーしよし、何があったか知らないけど元気だねー!」

朝潮「陸奥さんっ!」ダキツキー

陸奥「あら、あらあらあら」ウフフ

朝潮「雲龍さんっ!」ダッ

雲龍「うん、おいで」

朝潮「もぶっ!?」ボユン(←抱き着こうとした雲龍の胸に顔面直撃)

雲龍「あ」

朝潮「はぶあ!?」ゴロズデーン(←そのまま跳ね返って転倒)

吹雪「朝潮ちゃん!?」

陸奥「ちょっと、大丈夫!?」

最上「? なんだか騒がしいね」

三隈「何があったんでしょう?」


川内「えっとねー、朝潮が雲龍のおっぱいにはねられたの」

三隈「くまりんこーー!?」

吹雪「ち、違いますよ! 雲龍さんのおっぱいバリアーに朝潮ちゃんが突っ込んで弾き飛ばされたんです!」

三隈「くまああああーーーー!?」

最上「三隈落ち着いて!?」

雲龍「その、ごめんなさい……」シュン

龍驤「雲龍は悪うないから。事故や、事故」ナデナデ

朝潮「」タオレタママボーゼン

如月「あ、朝潮ちゃん!? 大丈夫!?」ダキオコシ

霞「しっかりして!?」

朝潮「き、如月さん……霞……!」

朝潮「い……異次元です……! 朝潮は次元の違う壁に阻まれてしまいました……!!」

霞「……うん、異次元なのはよくわかってるつもりだけど」

如月「……朝潮ちゃんが言うと深刻さが増すわね」

朝潮「そう、あれはまさしく脅威……脅威そのものです……!!」ワナワナ

如月「うん、確かにあれは胸囲だけど……」

霞「ギャグのつもりで言ってるわけがないわね」

今回はここまーで。

長らくお待たせしてすみません。
少しだけ続きです。


 * 夜 提督の寝室 *

 コンコン

提督「……如月か?」

如月「はい、失礼しますね?」チャッ

提督「今日はもうシャワー浴びて寝るだけなんだが……用はなんだ?」

如月「一緒にお休みしようと思って」

提督「はー……で、その紙袋はなんだ」

如月「うふふ……これよ。司令官のためのパジャマ!」ガサッ

提督「……」

如月「どんな柄が好きなのかわからなかったけど、機能優先の司令官なら、こういうシンプルなデザインの方が好みだと思って」ニコー

提督「……」

如月「どうしたの?」

提督「いや……ちょっと拍子抜けしただけだ。パジャマは予想外だった」

如月「もう、司令官ったら、私のことをどういうふうに思ってるの?」プー

提督「どうって、普通じゃねえだろ。男の寝室に入るのも寝床に忍び込むのも」


如月「如月は、司令官と普通の関係じゃ満足できないんです。わかるでしょう?」ニコー

提督「この前、頭掴まれたときもそんなこと言ってやがったな。ったく……我ながらいろいろ緩んじまってて良くねえな」

如月「個人的には、もっと緩んでもらった方が嬉しいんですけれど?」

提督「そもそも俺に依存しないように好き勝手させてんのに、なんで俺に絡んでくるんだよ……」

如月「何度も言ってるけれど、助けてもらったらお礼をしたい、助けてくれた相手に幸せになってほしいと思うのは普通でしょう?」

如月「司令官はご自身の幸せを拒否しようとしてるけれど、それが嫌だと思うのは私だけじゃないのよ?」

提督「……」

如月「また吹雪ちゃんに泣いてもらわないとわからないのかしら」ハァ

提督「わかった、わかったから。誰が泣いても困るからやめてくれ」

如月「本当にわかってます?」プー

提督「とりあえずシャワー浴びさせてくれ。俺の寝る邪魔はしない約束だろ」

如月「ええ、でも、その前に……」ズイ

提督「……」

如月「私が先に浴びてきてもいいわよね?」

提督「……ああ、そういう話なら、構わない」

如月「どういう話なら駄目だったのかしら?」ニコー

提督「……いい加減、意地悪は勘弁してくれよ」ハァ…


 * *

提督「……」

提督「なんか、駄目だな。ますます逃げ道封鎖されてんじゃねーか、俺」

提督「俺ってこんなに要領悪かったか?」

提督「……」

提督「本当に、どうしたらいいんだろうな」

提督「どいつもこいつも、艦娘を自分の都合のいいように扱ってきて……」

提督「それが許せなくて、俺はあいつらに好きなことをさせようと思って……」

提督「あいつらをこんな島に封じ込めたんだ、不自由を強いてるはずなんだ……」

提督「……くそ、わけわかんなくなってきた」

提督「こういう時は決まって妖精も姿をくらますしな……」キョロ

提督「……」

 シャワー室の扉<チャッ

如月(バスタオル姿)「司令官?」

提督「!」


如月「どうかしたの?」

提督「別にどうもしてねえよ。それより服を着ろ」

如月「ええ、そのつもりだけど、その前に……司令官、見て……!」シュル…

提督「お、おい!?」

如月「もう、慌てないで。私の体の傷、前よりずっと良くなったでしょう?」

提督「……まあ、そうだな。以前よりは、少しマシになった……」ハァ

如月「司令官?」

提督「……早く服を着ろ。風邪引くぞ」セナカムケテ

如月「はーい」イソイソ

如月「……」チラッ

提督「はぁ……」

如月(司令官、少し顔が赤くなってたわよね)

如月(少しは意識してくれているのかしら……)


 * *

(ドライヤーで髪を乾かす如月)

提督「風呂、上がったぞ」ガチャ

如月「あっ、パジャマ、着てくれたのね」パァ

提督「馴染みがねえから変な感じだけどな」

如月「うふふ、似合ってるわ」ニコニコ

提督「そうか? ……なんか、如月が着てるのとデザイン似てるな」

如月「パジャマの種類があまり選べなかったから」

提督「そうか……」

如月「……嫌だった?」

提督「そんなことはねえよ。こういうことに気を使われることに慣れてねえだけだ」

如月「そう? うふふ」

如月(……司令官とお揃い……司令官とお揃いッ!!)ガッツポーズ

提督「?」


如月「そうだわ、ねえ司令官、ここに座って? 髪を乾かしてあげるから」ドライヤートリダシ

提督「大丈夫だ、俺の髪は短えからすぐ乾く」

如月「もう、駄目よ? 髪が濡れたまま寝ると、頭も枕もむれて臭いが残ったりするんだから」

提督「……そうなのか?」

如月「そうよ? 司令官もにおうのは嫌でしょ? だからこちらへどうぞ?」

提督「ん……」チャクセキ

如月「うふふっ」

 ドライヤー<ブォーーー

提督「……」

如月「司令官、熱くない?」シュッシュッ

提督「ああ……」

如月「? どうしたの?」

提督「そんなふうに、髪の毛……つうか、頭を触られた記憶がねーな、と思ってな……」

如月「そ、そうなの?」


提督「古鷹が来たばっかりのとき、仕事終わらせたら抱き着かれて撫でられたときくらいか……」

如月「ふ、ふ~ん……古鷹さん、そんなことしてたの……」

提督「……ああ……」

如月(司令官って髪を短くしてるから、すぐ乾いちゃうわね。もう少し触っていたかったのに、残念)シュッシュッ

如月「……」

提督「くぁ……」

如月「司令官?」

提督「……」ウトウト

如月「……」

提督「……」カクン

如月「! し、司令官、大丈夫?」

提督「ん……あ、ああ」

如月「ドライヤーをかけてる最中に寝ちゃうんだもの、疲れてたのかしら」

提督「……」ポヤー


如月「司令官、疲れてるなら早くお休みしましょ?」ポンポン

提督「ん……」モゾモゾ

如月(なんだか妙に素直ね……寝惚けてるからかしら)

如月「司令官、大丈夫? 明かり、消したほうがいい?」

提督「んー……頼む……」ムニャムニャ ゴロン

如月「ね、ねえ、本当に大丈夫?」ナデ

提督「……んん……」

如月(なんだか、今まで見たことがないくらい無防備ね……)ナデナデ

提督「……頭、撫でられんのも、いいもんだな……」ボソッ

如月「……」

提督「……」スー

如月「……司令官?」ユサ

提督「……」

如月「本当に疲れてたのかしら」

如月「明かりを消して……」

 パチン


如月(……)ジッ

如月(司令官、なんだかいつもより寝顔が安らかね……)モソモソ

如月(パジャマが良かったのかしら)ナデ

 グイ

如月「きゃっ!?」ダキヨセラレ

如月「し……司令官……!?」ドキドキ

提督「……」スヤー

如月「も、もう……寝惚けてるのかしら。おいたは駄目よ?」ナデナデ

提督「……ん……」

如月「……!」

如月(もしかして司令官、頭を撫でられるのが好きなのかしら……!?)

提督「……」スヤー

如月(きっとそうだわ……司令官が誰かに褒められたって話、聞いたこともなかったんだもの)

如月(もしかしたら、頭を撫でてもらったこともなかったんじゃ……)

如月「……」

如月「ねえ、司令官」ヒソッ


如月「如月は、司令官が頑張ってること……私たちのことを大事にしてくださってること、ちゃあんとわかってますから……ね?」ナデナデ

提督「ん……」


提督(……頭を優しく撫でられるなんて、今までなかったな……)

提督(……こんなに気持ちいいとは、思わなかった)

提督(……誰かに甘えるなんて俺のガラじゃねえが……)

提督(ぼんやりして……まあ、いいか……今くらい、は……)


提督「……」スヤ…

如月(なんだか、少し笑ってる気がするわ……)

如月「……司令官、おやすみなさい」

 チュ

如月「……」

如月(……なんとなくでキスしちゃったけど……なんでかしら、とっても恥ずかしい……)ポ

如月(これまで何回もこっそりしてきたはずなのに……やだ、ドキドキしちゃう)モジモジ

如月(司令官……!!)ギュゥ

提督「……」スー…


 * 翌朝 *

 目覚まし時計<チリリリリリン

提督「……むあ?」

 目覚まし時計<マルゴーサンマルデアリマス!

提督(……珍しく、目覚まし鳴るまで寝てたのか)

 目覚まし時計<チョウヒサシブリニナッタヨ!

提督(なんだかいつもよりよく眠れた気がするな……!?)

如月「……」スヤー

提督「……」

提督(俺、如月と抱き合って寝てたのか? 手を出してねえよな?)

如月「……うん……?」モゾ

提督「!」

如月「あ……お、おはようございます……」ポ

提督「……」


如月「し、司令官どうしたの……!?」

提督「如月……俺はお前になにをした?」ヒヤアセ

如月「え? な、なにも……っていうか、抱き寄せられたくらいだけど……」モジモジ

提督「……」

如月「そうね……それだけだわ。もっとダイタンなこと、してくださっても良かったんですけど?」チラッ

提督「本当だな?」

如月「え、ええ、そうよ?」

提督「……っはぁぁぁぁ……! 抱き着いただけか……嫌な汗かいたぜ」

如月「ちょっと司令官? 手を出さなかったことを安堵しちゃうなんて、如月が嫌われてるみたいでちょっと傷ついちゃうわ?」

提督「俺は前からお前に限らずそういう関係になるのは控えるって言ってんだろ。それにお前のことも嫌いじゃあねえから安心しろ」

提督「その話は別にしても、好きかどうかも自分でわかってねえのに、無意識に一線越えるわけにはいかねーだろが」

如月「そんなの抑えなくてもいいのに……ほんと、素直じゃないんだから」

提督「そんなもん素直とか言えるもんかよ。寝惚けて襲ったとか外道でしかねえよ」


如月「司令官からなら、如月は喜んでお受けしますわ?」

提督「阿呆。やらねえって言ってんだろ」

如月「そういうとこ、司令官は本当に頑固よね。臆病なのかしら、いくじなし」

提督「煽んじゃねえよ、わかってるくせに……お前も懲りねえな」

如月「ところで司令官? パジャマの着心地はどうだった?」

提督「ん? ああ……そんなに悪くねえかな。寝苦しくもなかったし、眠れたことは眠れたしな」

如月「そう? それなら良かったわ」パァ

如月「あ、着替えたらパジャマは私が選択するから、ベッドの上に置いておいてくださいね?」

提督「洗濯くらい自分でするぞ?」

如月「私が持ってきたんだもの、このくらいお世話させて?」ニコー

提督「……そういうもんか?」


提督(そういや、あの時はっちゃんに着せた俺のTシャツ、どこにやったっけ?)


 * 同時刻 伊8の寝室 *

提督のTシャツを抱いて裸で眠る伊8「すぴー……」


 * その後 執務室 *

霞「……」

提督「ん? どうした」

霞「……あんた、いつもより顔色いいみたいけど、なにかあったの?」

提督「」

霞「……な、な、なによ、その反応は……!!」

提督「み、認めたくねえ……っ!」ガクーッ

霞「ど、どど、どういう意味よそれぇぇ!?」


妖精(多分、如月に抱き着いて寝たのが癒しの効果があったからだと思うんだけど……)

妖精(提督的には、思い当たる節はあるけど受け入れたくない、って感じかなあ)

今回はここまで。

またまたちょっとだけ続きです。


 * 会議室 *

妖精「提督は誰かに甘えるなんて考えたこともなかったからねー」

霞「そういうことね……子供のころから頼る人がなくて自立を求められたら、そりゃ反動が来たっておかしくないわよ」

霞「でもねえ、相手が駆逐艦って恥ずかしくないの?」ドンビキ

提督「恥ずかしいに決まってんだろうが! ちくしょう妖精め、べらべら喋りやがって……」

霞「妖精さんのせいにしないの! だいたい、言わなきゃあんたの感情も伝わらないでしょ!」

霞「それこそあんたがいつもやってることじゃない! 甘えたいなら甘えたいって言いなさいよ!」

提督「うるせえな! この齢で俺がお前らに言えるかってんだ!」

提督「だいたい、俺はお前らに艦隊運営を全部任せてんだぞ。これ以上甘えてどうすんだ」

 扉<コンコン ガチャッ

初春「まあ、そういう意味ではわらわたちも好き勝手やらせてもらっておるのぉ」

霞「!」


吹雪「失礼します、司令官!」

朝潮「失礼いたします!」

暁「ごきげんようです!」

白露「なになに、何の話?」

霞「何の話……って、何が?」

妖精「みんなはわたしが呼んだんだ。ヒアリングしたいことがあるからね」

提督「? こいつらにか?」

妖精「そう、みんな駆逐艦のそれぞれの型のネームシップでしょ?」

白露「そう! 白露が一番です!」ガタッ!

吹雪「ちょっ、わ、私だって一番なんだから!」ガタッ!

提督「わかったからとりあえず座れ……」


初春「で、妖精どの? 話とはなんじゃ?」

妖精「みんなそれぞれ一番艦だから、妹はいても姉はいないでしょう?」

妖精「誰かに甘えたくなった時、みんなはどうしてるのかなって聞きたくて」

吹雪「!?」

朝潮「甘え……っ!?」

初春「むう……!」

白露「うーん……」

暁「……それだったら、暁はみんなに甘えさせてもらってるわ」

妖精「みんなに?」

暁「ええ。お料理とかだと比叡さんや長門さんにたくさん教えてもらってるし、戦闘だって私一人で戦ってるわけじゃないし」

暁「だから、暁はみんなに支えてもらって、甘えさせてもらってるって、感じるわ」ニコ

暁「あ、勿論、暁もみんなに頼ってもらえるようにしっかりレディーらしくしてるつもりよ!?」

吹雪「……」

朝潮「……」

初春「……」


白露「あはは、いきなり模範解答が来ちゃった感じ?」

提督「だな……」

暁「?」キョトン

妖精「ほかのみんなはどうなの?」

白露「私は、どっちかって言うと甘えたいって意識がなかったかなあ。早く妹たちを迎えて、一緒に海に出るのが楽しみだったから!」

白露「今は島風っていう超速い妹がいるし、五月雨も練度が高いから、どっちにも負けたくないんだよね!」

霞「五月雨はしょうがないんじゃないの? もともといた鎮守府の主力の一人だったんだから」

白露「それでもだよ! ううん、だからこそ、私は白露型の一番艦、一番お姉ちゃんなんだから、一番頼りにならないとね!」

提督「妹がモチベーターになってる感じか。競争相手であり、先陣切って戦う理由でもあると」

妖精「それじゃあ、誰かに甘えるとか言う発想は出てこないよね」

白露「あ、さすがに航空戦とか、私たちの手が届かないところは得意な人に甘えちゃうよ?」

提督「そりゃ畑違いだからな、役割分担の範疇だ」

吹雪「……」

初春「……」


朝潮「……あ、あの、司令官。その、申し上げにくいのですが……」

提督「ん?」

朝潮「具体的に、甘えるというのはどういった行為をさすのでしょうか!?」

吹雪「!?」

初春「!?」

提督「真面目か」

霞「真面目よ」

白露「よく肩がこらないよね~」

暁「朝潮は真面目なのが自然体なのよ、きっと」

霞「でも朝潮姉? 具体的もなにも、この前みんなに甘えてたじゃない」

朝潮「この前?」

霞「私や吹雪に抱き着いてきたでしょ? あれはそうじゃないの?」


朝潮「あ、あれは、司令官が私たちに心を開いてくださったことが嬉しくて、その喜びを皆さんと分かち合いたくて……!」

提督「どういう意味だそりゃ」

朝潮「司令官が部屋の鍵をかけなくなったというお話からです!」

提督「」

初春「な、なるほどのう……心を開くとはそういう解釈であったか」

吹雪「それじゃ、朝潮ちゃんは根本的に甘えるって行為を知らないってこと?」

暁「聞く限りそうなんじゃないかしら……いつでも背筋伸ばしてるし」

白露「……うーん、例えばだけど、猫とかが構ってほしくてすり寄ってくるじゃない? あの感じ、わかる?」

朝潮「ね、猫ですか……?」

霞「残念だけど、私も朝潮姉も猫の実物は見たことないの」

白露「あちゃー、駄目かあ」


吹雪「別に猫じゃなくっても……ほら、初春ちゃんは長門さんに甘えてるでしょ?」

初春「んにゃっ!?」カオマッカ

吹雪「初春ちゃん、長門さんに抱っこされたときにこーんな緩んだ顔してすりすりしてたでしょ?」

初春「んなっ、な、ん、にゃにを言っておるかぁぁぁあ!」

白露「噛んだ」

初春「噛んでおらぬ!」

朝潮「なるほど……あれが甘える行為ですね! それなら理解できます!」

初春「納得するでなぁぁい! 吹雪っ!! きさ、きしゃま一体何を口走っておるかぁあ!!」

暁「噛んでるわ」

初春「噛んでおらにゅっ!!」

霞「噛み噛みじゃないの」


吹雪「でも本当でしょ? わかりやすい例として言っただけだってば」

初春「どうせ例えるなら潮あたりにせぬか!」

吹雪「潮ちゃんはしょうがないでしょ? そうなる原因があったわけだし。でも初春ちゃんは全然関係なかったじゃない」

初春「それを言うなら吹雪こそ提督に甘えたがっておるではないか!! 近頃はとみに提督の部屋に入り浸るようになりおって!!」

吹雪「ふあ!? そ、そ、それを今ここで言う!?」ガタッ

初春「今言わずしていつ言わんや! 提督よ! 吹雪が貴様に甘えているのは事実じゃろう!」ガタッ

提督「……」ハァ…

霞「あんたは毎度毎度、答えるのを面倒臭がらないの!」

提督「別に答えなくてもいいだろ、こんなの……」

朝潮「……あの、司令官」

提督「うん?」


朝潮「朝潮も、司令官のお部屋にお邪魔して、一緒のお布団に入らせていただいているときがあります」

朝潮「司令官のお邪魔にならないようにと留意してはいるのですが……この行為も、甘えていると呼べるのでしょうか……?」

提督「……いや。お前は単純に隣で寝てるだけだしな。それで嬉しそうにしてるのはなんでかわからねえが……」

霞「単純にここで働けているのが嬉しいから、ってだけだと思うけど?」

朝潮「霞……?」

霞「目立った戦果をあげていないにしても、この鎮守府近海の深海棲艦の活動を抑えて、航路として活用してもらえるようになったのは事実」

霞「ル級さんとの約束事が大きいとは思うけど、それでも、これは私たちとあんたが一緒に成したことだわ」

霞「ただでさえ前の鎮守府で濡れ衣を着せられて沈みかけた私たちに、役目を与えてくれたのよ? 嬉しくないわけがないじゃない」

朝潮「か、霞……」アセアセ

霞「なによ。朝潮姉がわかんないって言うから、予想でだけど私が言ったんじゃない。間違ってる?」

朝潮「そ、そうではなく……も、申し訳ありません司令官、本来ならばこの朝潮が言うべきところを妹に代弁させてしまい……!」

提督「いいさ、気にすんな。朝潮はそういう心情を伝えるのは苦手そうだしな」


霞「ともかく。司令官と寝食を共にすればそれだけ身近に感じられるし、連帯感や団結の精神が生まれて昂揚する感じ、わかるでしょ」

霞「なんていうのかしら、仲間意識、って呼ぶにはちょっと語弊があるけど、朝潮姉が求めているのはそういうことなんじゃないの?」

朝潮「か、霞、もうそのくらいに……!!」セキメン

白露「朝潮も照れることあるんだねー」

暁「それはあるでしょ。」

提督「俺がそこまでのもんかよ。あんまり過大評価してもらいたくねえんだけどな……」

霞「生活態度や自己評価や成績がクズでも、艦娘最優先の生活を提供しようとする人間に、艦娘が悪い感情を抱くとは思えないけど?」

提督「……人間ねえ。どうせなら人間も何かの機会に辞めたかったぜ」

霞「諦めなさい。そんなのできもしないことだし、あんたが人間だからこそ、尉官見習いとはいえ、海軍に所属して提督業できてるんだから」フン!

暁「そうね。司令官がいなかったら、この島に来たみんなはどうなってたかわからないわ」

朝潮「その通りです、司令官……司令官は私たちにとっても、朝潮にとっても大事な方です」

朝潮「何卒ご自愛いただきますよう、お願い申し上げます」ペコリ

提督「……」アタマガリガリ

妖精「うん、そういうわけだから、提督も無理しないで誰かに甘えていいんだよ?」

提督「いや、そういう理屈じゃねえだろ……」アタマカカエ


霞「そうね……さすがにその話の持っていき方はちょっと無理があると思うけど」

妖精「そうかなー?」

霞「それに、どうせ言うなら戦艦や空母の人たちに言ってあげてよ。私もこいつが駆逐艦に甘える姿は見たくないわ」

妖精「それもそうだね」

吹雪「でも如月ちゃんは大歓迎しそうだよね」ヒソヒソ

初春「相違ない」ヒソヒソ

暁「ねえ、司令官より背が高い人じゃないと、甘えるのって不自然じゃないかしら……?」

白露「一番背が高いのは大和さんだよね。次が雲龍さん?」

暁「そうね、あの二人は180センチあるって言ってたわ」

朝潮「長門さんや霧島さんは司令官と同じくらいですね。ル級さんもそうだったかと……」

妖精「よし、それじゃ戦艦のみんなを呼ぼうか」

提督「やめろっつってんだろうが」アタマカカエ

山城「どうしてこういう話を私は立ち聞きするのかしら……不幸だわ」ヌッ

陸奥「まあまあ、聞いてしまったものはしょうがないわ」

提督「!?」


 * 昼 食堂 *

金剛「テーーーートクーーーーーゥ!!!」ドドドドド キキーッ

摩耶「うわっ!? びっくりした!」

由良「こ、金剛さんどうしたんですか?」

金剛「テートクはどこデース! Lunch は済ませてしまったんデスカ!?」

摩耶「あいつなら小さい包みを持ってどっか行ったぞ?」

潮「あ、あの、提督、さっき、厨房でおにぎり作ってました」

金剛「Rice ball ... ? Holy shit !! そんな lonely lunch は許しまセーーン!」

金剛「私が、アーンして食べさせてあげマーーース!!」ドドドドドド…

暁「金剛さん! 食堂で走っちゃ駄目ーー!!」


島風「……はっやーい」アッケ

龍驤「島風が言うんかい……」

雲龍「ご飯はゆっくり食べるべきだわ」モキュモキュ

陸奥「ねえ山城、あの話、もう喋ったの?」

山城「扶桑お姉様に魔の手が伸びないように金剛型に愚痴っただけよ」

陸奥「……」

扶桑「提督は、私たちに手を出すような方だとは思えないのだけれど……」

山城「甘いです扶桑お姉様ッ!」ギンッ!

扶桑「もう……山城ったら、こんなに警戒心が強い子だったかしら」ナデナデ

山城「はへぇ……」デレデレ

陸奥「山城はなんて顔してるのよ……」タラリ

龍驤「甘えまくりやな……うちはこうならんよう、肝に銘じておかななぁ」

雲龍「私は一向に構わないけど」

今回はここまで。


ちなみに身長順ソートがこちら。あくまでこの鎮守府限定の設定です。
左側の数字は、180以上、と読んでください。参考までに提督の身長は177cmです。

180 大和雲龍
175 霧島ル級提督長門
170 山城陸奥扶桑
165 金剛榛名比叡最上
160 三隈摩耶古鷹利根由良明石
155 大淀川内那珂神通黒潮朧不知火山雲五月雨
150 白露島風初春朝雲朝潮吹雪敷波伊8龍驤如月初雪潮若葉
145 霞暁電

少しだけ続きです。


 * 一方その頃 *

 * 島の北部 岩場 *

提督「……」オニギリモグモグ

伊8「……」サンドイッチモグモグ

(二人並んで岩に腰かけて、海を眺めながら昼食をとっている)

提督「……」

伊8「……提督、食堂から逃げてきたの?」

提督「まあ、そんなところだ」

伊8「やっぱり。なんとなく、だいたいの事情は知ってますけど」

提督「耳が早えな」

伊8「山城さんが喋りまくってましたから」

提督「……あんにゃろめ……」

伊8「食堂、騒ぎになってません?」

提督「構うもんかよ。どうせ金剛や大和あたりが騒いでゆっくりできねえさ」

伊8「提督、誰かに甘えるの嫌そうですもんね」モグモグ


提督「まーな。つっても、艦隊運営とかは口出しできるレベルにねえから、完全にお前らにおんぶにだっこだけどな」

提督「甘えてねえ、っつったら嘘になるさ」

伊8「……」

提督「……」モグモグ

提督「さっきお前に声かけられた時も、ちょっと焦ったがな。こんな隠れ家教えてもらえたのは幸運だ」

伊8「たまたまです。たまたま見かけて、声をかけただけですから」

提督「……」パク

伊8「……」モグモグ

提督「なあ」

伊8「はい?」

提督「俺はお前を殺そうとしたよな?」

伊8「はい」

提督「なんでお前は俺に優しくできる?」

伊8「提督が優しい人だってわかったからです」ニッ

提督「……」


伊8「提督、今ははっちゃんのことを助けてくれるでしょ?」

提督「……ああ」

伊8「だから、はっちゃんも提督に優しくしますし、協力もします」

伊8「私が頼れる『人間』は、あなただけだから」

提督「……そうか」

伊8「それから、はっちゃんは、どちらかと言えば提督に甘えたいと思ってます」

伊8「これまで誰かに可愛がってもらったことがなかったので」

提督「……」

伊8「初雪ちゃんあたりも、そうでしょ?」

提督「まあ、確かにな……」

伊8「それに私たち、艦娘です。いつ死ぬかもわかんないですし……」

提督「……させねえよ」

伊8「!」


提督「お前らに『生きたい』と言わせたのは俺だ」

提督「お前らがそれを覆さない限り、少なくともその俺の目の黒いうちは、何があっても死なすつもりはねえぞ」

伊8「……じゃあ、提督も、長生きしないといけませんね」ニコ

提督「……」

伊8「そんな顔しないでください。提督がいなくなったら困るの、はっちゃんだけじゃないんですよ?」

提督「……善処する。約束はできねえが」

伊8「ずるい」ムスッ

提督「できねえ約束はしたくねえんだ」

伊8「いい加減、頑固すぎです」


伊8(これだけ言っても駄目なんて……提督が根本的に変なこと考えないように、どうにかしないと)ハイライトオフ

伊8(色仕掛けも通じないわけじゃないみたいだけど、一線を絶対超えたがらないから、時間がかかりそう)

伊8(……やっぱり、既成事実作っちゃうしかないかなー……)ザワッ

提督(……なんだこの悪寒……)ゾワ


 * 昼過ぎ 執務室 *

提督「……」

金剛「Hey, テートクゥ! Please Com'in !!」リョウテヒロゲテ

提督「何の真似だ」

霞「午前中の話を聞きつけて来てくれたのよ。ありがたく甘えさせてもらったら?」ジトッ

提督「……お前らは俺を困らせたいのか?」

金剛「No ! テートクはいつも独りで抱え込みすぎデース!」

提督「吐き出したいときは遠慮なく吐き出してんだろが」

霞「そうやって吐き出してるのは悪態と逃げ口上じゃない」

霞「本音を吐露しないのとデリカシーがないのは話が違うわよ。論点すり替えないでよね」

大淀(霞ちゃんもそういうきらいがあると思うんだけど……)

提督「だったら俺の本音は『俺抜きで幸せになってくれ』だよ。何遍も言わせんな」

霞「そういうのが受け入れられないって言ってんでしょうが、このクズ!」

金剛「ンー、テートクも頑固が過ぎマース」


提督「生き方なんて、ほいほい変えられるようなもんでもねえだろ。諦めろ」イスニスワリ

金剛「Hmm... Okay」

 ツカツカツカ

 ガシッ!

提督「!?」アタマツカマレ

金剛「そういうことなら、私にも考えがありマース」

提督「お、おい、なにを……もがっ!?」

(金剛が提督の頭を自分の胸に強引に引き寄せ抱きしめる)

金剛「こうなれば実力行使、問答無用デス……! テートクは、力づくで可愛がってあげマース……!!」ナデ…

提督「んなっ!? い、いいっつってんだろ!」

金剛「もがいたって無駄デース、私、喰らいついたら離しまセンヨー?」ギュー ナデナデ

提督「……っ!!」ギチッ

金剛「覚悟を決めて大人しくするデース……!」ニッコリ

大淀「こ、金剛さんも結構強引ですね……」


金剛「Huh~♪」ナデナデ

提督「……」ピクッ

金剛「ンー、イイ子デスネー……」ナデナデ

提督「……」

大淀「……」

霞「ね、ねえ、あいつの様子おかしくない?」

大淀「そ、そういえば……抵抗してませんね」

金剛「Yes, このままゆっくりお休みするデース……」

提督「……う、うおああああ!?」トビノキ

金剛「!?」

霞「!?」

大淀「!?」

提督「はーっ、はーっ……あ、危ねえ……!! こ、金剛っ、お前、何なんだ!? 何しやがった!?」

金剛「Oh shit, 逃げられてしまいマシタ」


大淀「あ、あの、提督? 大丈夫ですか?」

提督「大丈夫じゃねえよ! もうちょっとでダメにされるとこだった!!」

霞「……は?」

提督「は? じゃねえよ! マジで落ちる寸前だったぞ!?」

霞「落ちるってなによそれ。古鷹さんのときだって同じことされてたじゃない、あんたが腑抜けたんじゃないの?」

提督「ちっ……金剛。霞に俺と同じことしてやってくれ」

金剛「? いいデスケド……」

霞「なに? あたしがそんなことでどうにかなると思ってるわけ?」イラッ

提督「いいからやってもらえ。どうもならないなら、それでいい。お前のお叱りも甘んじて受ける」

霞「わけわかんないわ……」

金剛「それでは霞? Please come here」

霞「……わかったわよ」スタスタ

金剛「Okay... !」フワッ

霞「……!」ダキシメラレ


金剛「……♪」アタマナデナデ

霞「……」

提督「……」

大淀「……」

金剛「ンー、霞もとっても素直でイイ子デス……!」ギュ ナデナデ

霞「……」

金剛「……♪」ナデクリナデクリ

霞「……」ギュ

大淀「霞ちゃんが自分から抱き着き返した……!?」

提督「落ちたな……」

大淀「え?」

提督「金剛、そのくらいでいいぞ? 大淀は後を頼む」

大淀「えええ?」

金剛「? もういいんデスカ?」スッ

霞「……ふえ?」カオミアゲ

大淀(あっ)キュン


霞「もうおわり……?」ウルウル

大淀(あっっ)キュンキュン

金剛「ほらー、テートクー? 霞が物足りなさそうな顔をしてマスヨー?」ナデナデ

霞「……!?」ハッ

大淀「か、霞ちゃん……?」

霞「……っっ!!!」カオマッカ

金剛「Oh, 霞、どこに行くデース?」

霞「こ……っ」プルプル

大淀「こ?」

霞「この、このクズーーーーー!!!」ダッシュ&ジャンプキック

提督「うおっ、あぶね」バッ

霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ハイキックコンボ

提督「なんでだよ! 俺は最初からやべえって言ってたじゃねーか! っつうかなんで俺に当たんだよ!?」ガード

金剛「霞? ケンカは良くないデスヨー?」

霞「ひっ……!」ジリッ


提督「霞、とりあえずわかったろ。金剛のあれは洒落にならねえ」

提督「五月雨が、金剛にだっこされて十数秒で寝ちまったのも頷ける」

霞「そ、そんなことがあったの!? そんなにやばいならそれを早く言いなさいよ!!」

提督「言っても信じてたか? 俺だって体験しなきゃ信じられなかったんだ、こっちの方が理解は早い」

金剛「二人とも、もう私に甘えてくれないんデスカ?」

提督「あ、ああ、もう大丈夫だ。これ以上甘えたら仕事ができなくなる、なあ霞?」ジリッ

霞「え、ええ、そうね、その通りよ。もう十分だから……!」ジリッ

大淀「あの、金剛さん? 午後は工廠で艤装の点検があったはずです。もうそろそろ向かった方がよろしいかと……」

金剛「!? もうそんな時間デスカ? すぐ準備しマース!」タタッ

提督「……助かった……」

霞「……あ、ありがと、大淀さん……」

大淀「そんなに危険だったんですか?」

提督「やばかったな。心地いい布団っつーか、底なし沼みたいにどこまでも引きずり込まれていくような感じだった」

霞「……同意せざるを得ないわ。一瞬でも抜け出したくないって思わせられたもの」

大淀「……」

提督「仕事すっか……」フラフラ

霞「そうね……」フラフラ

大淀(二人とも、大丈夫かしら……)タラリ

今回はここまでー。

続きです。


 * 午後 北東の砂浜 *

榛名「……」

 ザザーン…

榛名「……」

榛名「……!」

提督「榛名か。何してんだ?」

榛名「はい、海を見ていました。海と、この砂浜の様子を見に」

提督「……」

榛名「先程まで電ちゃんが、背中にかごを背負ってゴミ拾いをしていました」

榛名「かごの中身は殆ど入っていなかったみたいですけれど」

提督「俺もしょっちゅう見回ってるからな。掃除もしてるから、我ながら綺麗な砂浜だと思うぜ」

榛名「……はい。願わくば、ずっと、綺麗なままであって欲しいですね」

提督「ああ……けど、電は俺が砂浜の掃除してること、わかってるよな? なんでわざわざ……」

榛名「……あの、提督?」

提督「ん?」


榛名「多分……なのですけれど」

榛名「電ちゃんは……ここに、誰かが流れ着くのを待っているんだと思います」

提督「……B提督の部下たちか?」

榛名「はい。きっとそうです」

榛名「榛名も……同じですから」

提督「養成所のか。待っててもいいが、必ずしもこの島に流れ着いてくるわけじゃねえぞ?」

榛名「……」ウツムキ

提督「……」

榛名「提督、申し訳ありません。榛名は……榛名は、ずるい子です」

提督「?」

榛名「ここに来た本当の理由は、提督と一緒に砂浜を歩きたかったからなんです」

榛名「ですがここへ来て、それとなく、思い出していたんです。あの日のことを……」

榛名「ここに来るまで、榛名は、自分のことしか考えていませんでした。あの日も、自分の身を守ることだけで精一杯でした」

榛名「私と那珂さんだけ生き延びて……そして、私だけ、提督に甘えようとしていることが……」

榛名「とても、罪深いことだと、思ってしまうんです……」

提督「……」


榛名「……提督、榛名は……榛名には、あなたの隣を歩く資格があるのでしょうか……」

提督「……」

榛名「……」

提督「面倒臭えな」ハァ

榛名「は……はい!?」

提督「前に言わなかったか? んなもん考えたって意味ねえよ。答えて欲しい相手が不在なんだからな」

提督「だから今後は沈んだ奴らの話はすんな」

榛名「……っ!」

提督「あいつらが沈んだのを悔しがるのは構わねえが、結果的にはお前も轟沈してんじゃねえか。お前にも那珂にもどうしようもなかったんだろ?」

提督「結局は無理難題を押し付けた養成所の人間どもが悪い」

榛名「で、ですが」

提督「お前らが出撃前に殺された那珂の同型だって、お前に力があったら救えたか?」

榛名「そ、それは話が別なのでは……!?」

提督「同じだろ。連中が用意した戦場だぞ? いくら足掻いたって最初から詰んでんだ。だから忘れちまえ」

榛名「忘れ……って、本気なんですか!?」


提督「んじゃあ、言い方変えるか。いい加減、そいつらを解放してやれ。浮かばれねえからよ」

榛名「……解、放……?」

提督「これから先、お前に何らかの不幸があったとして、それが榛名があいつらを救わなかった報いだ、ってなるか? 関係ねえだろ?」

提督「それに、あいつらのために何かしてやるのはお前の勝手だが、じゃああいつらは今、お前のために何かできるのか?」

提督「なにもできねえだろうが。お前が勝手に気を揉んで、勝手に気を病んで……自分で自分を追い詰めてるだけにすぎねえんだよ」

榛名「……」

提督「沈んじまった奴らは、もう、しょうがねえ。俺が埋葬した連中にも、俺からはゆっくり眠ってくれとしか言えねえ」

榛名「!」ハッ

提督「そりゃあ、あいつらも無念だったかもしれねえさ。けど、そうだったかも結局はわからねえ。その時の当事者にしかわかんねえんだ」

提督「この浜に流れ着いて野晒しになったあいつらが可哀想で、俺は丘の上に埋めたんだが、それももしかしたら余計なお世話だったかもしれねえし」

提督「俺がそうしたいと思ったのも、結局は自己満足のためだ。それがいいと、俺が思ったから、そうしたんだ」

提督「そんな俺が、勝手にあいつらの気持ちを『騙る』わけにはいかねえよ」

榛名「提督……」


提督「で、榛名。お前の望みはどうなんだ? 正直に言いな」

榛名「正直に……」

榛名「……」

榛名(榛名の望みは、提督と……)

榛名「……」カァァ

提督「?」

榛名「あ、あの、榛名は……し……その……」

榛名「……(提督と)……し、幸せに、なりたい、です……!」カオマッカ

提督(なんで顔を赤くしてるんだ?)クビカシゲ

榛名「……ですが、その……」

榛名「あの出来事を、忘れることだけは、できません……」

提督「……」


榛名「短い間でしたが、一緒に戦った仲間です……全滅こそしましたが、お互いを鼓舞しながら戦ったのは事実です」

榛名「勿論、榛名は幸せになりたいですが、みんなを忘れてまで幸せになりたいとは思っていません……」

提督「……なるほど」

榛名「提督、申し訳ありません……」ペコリ

提督「謝んな。お前が忘れちゃだめだって言うんなら、それでいいじゃねえか」

提督「ただ、そうやってずっと罪の意識を抱え込んでたんじゃあ、多分お前は早かれ遅かれ潰れちまう」

提督「それで死んで昔の仲間の恨みだなんて話になったら、それこそマジに怨霊扱いされて、浮かばれるものも浮かばれねえ」

提督「電や摩耶、霧島あたりもそうだが、お前らみんな優しすぎて罪悪感が強すぎるんだ。許されたくて罰して欲しいって考えてるだろう?」

提督「だから俺は忘れろって言ったんだ。完全にじゃなくてもいい、少しは自分を許してやれ」

榛名「……」ウルッ

提督「で、前を向いて、たまに振り返ってその時だけ思い出しゃあいいさ。ずっと後ろ向いて歩いてたら危ねえからな」

榛名「提督……!」ウルウル


提督「……どうだ? 少しはお前の望んだ答えにはなったか?」

榛名「はいっ! ありがとうございますっ!!」ダキツキッ

提督「うおっ!?」

榛名「榛名、これほどまでにご心配いただいて、感激ですっ!」ギュウ

提督「……ま、昔のことに縛られ続けてもしょうがねえしな」

榛名「いえ! 榛名は、提督に縛られるのならいくらでも……!」スリスリ

提督「なに?」

榛名「……あ」

提督「……」

榛名「……な……」カオマッカ

榛名「なんでもないですぅぅぅうううう!!!」ダット!

提督「……大丈夫かあいつ」ポカーン

 <ハルナハダイジョウブデスゥゥゥゥ!

提督「本当かよ」


 * 酒保内の個室 *

龍驤「……」ゴソゴソ

雲龍「……」ニコニコ

古鷹「……」ニコニコ

明石「……付け心地はどうですか?」

龍驤「よ、ようわからんけど……これでどう、かな……?」クルリ

明石「うん、いいんじゃないですか? このサイズのブラジャーなら!」

雲龍「可愛いわ」パチパチ

古鷹「良かったですね!」

龍驤「おおきに……ほんま、おおきにな!!」ウルウル

龍驤「それもこれも古鷹のおかげや……! めっちゃ痛かったけど、それだけに感無量や!」

龍驤「ほんまにおっぱいが作れるとは思ってもなかったで!!」

古鷹「でも、この形で固定するためには、マッサージはもう少し続けないといけないんです」

龍驤「うちとしては引き続きお願いしたいけど……古鷹、今後も面倒見てもらってええかな?」

古鷹「はい、任せてください!」


雲龍「ねえ明石」テマネキ

明石「はい?」

雲龍「こっちの可愛い柄のと、こっちの綺麗なの、今龍驤がつけてるサイズであるかしら」カタログトリダシ

明石「あー、ありますね。取り寄せてみましょうか」

雲龍「ええ、お願い」

龍驤「なんや、うちのことはええから、雲龍も自分のを買おたらええやん」

雲龍「……ないの。こういう可愛いのが……」シュン

龍驤「そ、そうなん……?」

明石「あー、確かにサイズが大きすぎると、そもそもの種類がないんですよ」

明石「龍驤さんが今つけてるジュニアブラだと、やっぱり可愛いデザインが多いんですけどね」

龍驤「そういうもんなんか……」

明石「そういうのでなければ、私たちみたいに戦場に出るような人向けの下着は実用一辺倒の味気ないのしかありませんし」

龍驤「あー、あのプロテクターみたいなあれかぁ」

明石「雲龍さんにもおすすめしたんですが……」

雲龍「龍驤に触ってもらえなくなるから嫌」

龍驤「ちょっ」セキメン

明石「仲がおよろしいことで」ニヤァ

古鷹「仲良きことは美しきかな、ですね!」ニコニコー

龍驤「……大天使と小悪魔がおるなあ」


 * 夕方 入渠ドックそばの大浴場 *

明石「提督! できましたよ!」

提督「すげえな……うちの明石は大工でもやっていけそうだな」

増築して作られた個別の風呂<デェェェン!

明石「お風呂と更衣室のセットを3組! 防音処理もしてるので、これで個別にゆっくり入れます!」

明石「お湯は大浴場のお湯をそのまま引いてますから、個別の温度調整はできませんけど、このお風呂用にだけお湯を沸かすこともできますよ!」

提督「十分だ。これまで個別の風呂は、俺の部屋のシャワールームしかなかったからな。利根や如月もこれなら安心だろ」

提督「ありがとうな明石。妖精たちもいい仕事してくれたぜ」

島妖精たち「「いえーい!」」サムズアップ!

明石「戦艦のみなさんにも、出撃の合間に手伝っていただいてるんで、お礼を言ってあげてくださいね!」

提督「ああ、わかった」ウナヅキ

提督「……こういうときに、間宮や伊良湖がいれば良かったんだがな」

明石「? 何の話です?」


提督「以前N大尉の鎮守府に行ったときに初めて間宮や伊良湖に会ってきたんだが、アイスとかが人気なんだってな」

提督「それで、大昔に妖精に助けてもらったときにアイスとかを御馳走してたのを思い出したんだ」

明石「ああ、そういえば聞きましたね、そのお話」

提督「今回もそれに近いものを用意したかったんだが……」チラッ

明石「?」

提督「いや、これだけの仕事をしてもらってアイス程度じゃあ、子供へのお駄賃みたいでいまいちなあ……」

提督「なんかこう、ねぎらいというか、ご褒美というか、働きに見合ういいものがないかと思ってなあ」

明石「あー……でも、この前はあのマルチ工具買ってもらいましたし、そのほかの工具も間に合ってますし……」

明石「あ、そうだ」

提督「?」


 * 個人浴場の更衣室 *

明石「まさか私が一番最初に使うことになるとは思ってませんでしたね~」ヌギヌギ

提督「お前が着替えてる最中は俺は退室しててもいいだろ……」ウシロムキ

明石「そう言って逃げる気ですね?」モゾモゾ

提督「逃げねえよ」

明石「はい、着替え終わりましたよ、こっち向いてください」Tシャツキガエ

提督「……」クルリ

明石「マッサージ、しっかりお願いしますね!」

 * *

明石「うーん、もうちょっと強くしてもいいですよ?」

提督「……」モミモミ

明石「あっ……うん、丁度いいです……んん~……っ」

提督「お前の両肩、鉄板でも入ってんのか?」

明石「まあ、艦娘ですから! 艦種柄、重たい資材とかしょっちゅう運んでますしねー」


提督「クレーンも積んでるし、か」モミモミ

明石「ええ、そうで……くぅんっ」

提督「変な声出すなよ」

明石「いいでしょうが、誰もいないんですし……んっ、んくぅ……!」

提督「……」

明石「ほらぁ、手が止まってますよ~?」

提督「わかったよ……」グリッ

明石「くはぁんっ! あぁ……そこ、いいっ……んんっ……!」ウットリ

提督「……」グリグリ

明石「んあっ、い、いい……ごりごりして、あっ、あ、あああ~~……!」

提督「……」ギュッギュッ

明石「す、すご……っ、てい、とく……上手……んひっ……!」

明石「あっ、そ、そこっ……もっと、そこ、強く……あぁんっ、や、声出ちゃうぅ……っ!」

提督「……」

明石「あぁん、や、やめちゃだめです……っ、もっと、もっとしてぇぇええ!」

提督「……」


 * *

明石「……っはぁ……すっごい気持ちよかったぁ……!」スッキリ

明石「提督、ありがとうございました!」

提督「おう……」グッタリ

明石「なんですか、その燃え尽きた灰みたいな顔色して」

提督「……今度から耳栓持ってくる」

明石「何言ってんですか。そんなことしたらマッサージする箇所がわかんないじゃないですか」

提督「俺を殺す気か」

明石「あら、普段から死にたがりの人が命乞いですか」

提督「こんな死に方じゃ死んでも死にきれねえよ」

明石「我慢してくださいよ。そもそもお礼がしたいっていうからマッサージをお願いしたのに、どうして提督が死にかけてるんですか」

提督「だったら少し黙っててくれよ。変な声聞かされて頭がおかしくなりそうだ。力が加減できなくなっても知らねえぞ」

明石「そう言う割には、とってもいい力加減でしたよ? 提督ってば握力とんでもないですよね?」

提督「おにぎり握るときに全力出すか?」

明石「あー、それもそうですねぇ。それにしても、提督のその握力、どうしてそんなに強いんでしょうねぇ?」


明石「いくら鍛えたからって、人間がそんな握力を持つなんて、普通じゃありませんよ」

提督「……」

明石「まあ、それ以外にも、提督って何かと普通じゃありませんよねって、最近つくづく思うんですよねぇ……!」

提督「……何が言いたい?」

明石「……」

提督「……」

明石「提督。あなた、本当に人間なんですか?」

提督「……」

明石「……」

提督「お前にどんな意図があるかは知らねえが……一応は、な。一応は人間だ」ハァ

提督「この前の医療船で調べてもらったときの診断書、お前にも見てもらったと思うが、おかしなところはあったか?」

明石「……何もありませんでしたね」

提督「多分どこかに俺が人間として異常なところがあるんだろうが……」

提督「検査の精度にもよるが、人間ドックに入って特におかしなところが見つからなかったとなると、俺もどこを疑えばいいのかわからねえ」

明石「……そうですか」

提督「不服そうだな」


明石「もうひとつ、気になることがあるんです」

明石「以前、私があなたの頬を引っ叩いたことがありましたが……私、本気だったんです」

提督「……なに?」

明石「提督には、私がここに流れ着いたときの経緯をお話ししましたよね」

提督「ああ……確か、口封じされたんだよな? お前が手を貸さざるを得なかった悪事の」

明石「はい。その口封じを、前の司令官は、北上さんに……私の友達にさせたんです」

明石「それと同じようなことをしたあなたが、どうしても許せなくて……!!」

提督「……」

明石「だから、あのとき、私は手加減なんかしてなかったんです。本気で殴ったんです」

明石「艤装を装備した艦娘の力がどんなものか、提督もご存知ですよね?」

明石「それなのに、どうしてあの程度で済んだんですか……?」

提督「……」

明石「それからもうひとつ。N提督の鎮守府へ治療にいきましたけど、1日で帰ってきましたよね? 骨にもひびが入っていたのに」

明石「艦娘洗脳ツールの騒ぎで有耶無耶になっていましたが、提督の回復力も人間じゃ考えられません」

提督「……」


明石「しかも、あちらでは高速修復材を食べたそうですが……あれは人間が食べていいものかどうかすら、わかっていないんです」

明石「あなたの顔の怪我がすぐに治ったのは、その修復材のおかげではないんですか……?」

提督「……」

明石「どうなんですか、提督……!」

提督「……」

明石「……」

提督「わかんねえ」ウーン

明石「なっ!?」

提督「あの怪我も、言ってしまえばたかがビンタだと思ってたからな。顔が青くなっても、ぶっちゃけ何日かすりゃあ治ると思ってた」

提督「修復材の話も、言われてみればそうかもしれねえ。確かにあの怪我がすぐ治ったのはそうなのかもしれねえが……」

提督「それじゃあ俺が何者なのか、って言われても、どうにも答えようがねえ。むしろ俺が訊きたいくらいだ」

明石「……」

提督「俺としちゃあ、人間じゃなくなるってのはある意味お望み通りだ。ショックでもなんでもねえ」

提督「ただ、誰に言われたか忘れたが、仮に俺が人間じゃなくなったら、この鎮守府の管理を任せてもらえなくなったりしないか?」

明石「あ……た、確かに……!」アオザメ


提督「仮に、俺の正体が艦娘と関係してるとかならまだいいんだ」

提督「っつうかこの前、那珂にも同じ質問をされたんだよな。で、そのとき俺が深海棲艦じゃねえか、って言われたって……話したよな?」

明石「う、え……そ、それ、冗談じゃなかったんですか!?」

提督「冗談なもんかよ。那珂に砲口向けられたんだからな?」

明石「ええぇえ!?」アワワワ…

提督「それでだ。お前は俺から深海っぽい雰囲気を感じたことはあったか?」

明石「い、いえ、そこまでは……」

提督「山雲みたいにそういう確証があるんなら話も早いんだが……」

明石「いやいやいや、そもそもあったら提督が鎮守府を任せてもらえたかどうかすら怪しくないですか!?」

提督「それもそうか」

提督「まあ、あとは俺が艦娘や深海に関りがあるんなら、泳げないのもどうなんだ、ってのはあるな」

明石「むしろ深海に関りがあるからこそ沈んでしまうとも考えられますよね……ル級さんと交流できてるのも……うわあああ」アタマカカエ

提督「俺に関していろいろと考察してもらってはいるが、これ、っていう確証がない」

提督「どうする? 俺をどうにかして、人間じゃないって証明したほうがいいか?」

明石「……」

提督「……」

明石「いえ……やめておきます」


明石「私は、単純にあなたが何者なのかが知りたいだけで、あなたを追い詰めたり糾弾したりしたいわけではありません」

明石「私はこの鎮守府の平穏を脅かすつもりはありません。これ以上踏み込んで、取り返しのつかないことになるのは御免です」

提督「そうか」

明石「あの、提督? 提督は、小さいころから妖精さんと話ができていたんですよね」

提督「ああ」

明石「提督の弟さんには見えなかったんでしょうか」

提督「……そういやそうだな。見えてる感じはしなかった」

明石「だとしたら、隔世遺伝とか、一代限りの突然変異……と、考えざるを得ないですね」

明石「通説だと、なんらかのきっかけがあるはずなんですが」

提督「例えば?」

明石「私が聞いたことがある話だと、その方の祖父が海軍の関係者だった、とかですかねえ……艦に乗船した生存者や、開発者とか」

明石「艦娘と長く接触していた人の子供が、妖精さんを目で追ってたとか言う話もありましたが、これは最近の話ですし」

提督「俺のジジババの話は聞いたこともねえな……」

明石「仮に提督のお祖父さんが関係者だったとしたら、ご両親や弟さんにもなんらかの影響が出るはずなんです」

提督「そんな気配どころか、全否定だったから絶対ねえな。俺だけ何かあったってことか?」


明石「提督が物心つく前に、その身になにかあったのかもしれませんね。艦娘なり、妖精さんなりと接触があったとか」

提督「けど、俺が生まれたのは妖精も来ないような山奥だぞ。関わりようがねえんだよな……」

明石「うーん……」

提督「妖精。今の話、聞いてたか?」

妖精「うん」ヒョコッ

明石「いたんですか!?」

提督「こいつ、気配消すのはうまいからな。で、俺に見つかる前に俺の村に来たことあったか?」

妖精「ううん、ないね。あの村に行ったの、わたしが最初じゃないかな?」

明石「妖精さんはどうして提督のいた村に行ったんですか?」

妖精「特に深い意味はないよ? わたしは散歩というか、散策のつもりで行ったんだ」

妖精「まさかこんなことになるなんて、思いもしなかったけどね」

明石「そうですか……」

提督「俺の正体が何者でも構わないが、お前らに危害を加えそうなら躊躇なく始末してくれていいからな?」

明石「冗談でもやめてくださいよそういうの……大和さんだけじゃなく、如月ちゃんとか金剛さんあたりも黙ってませんよ?」

明石「とにかく、この話は他言無用にお願いします、不確定情報も多いですし、憶測の域を出ないので。妖精さんも、いいですか?」

妖精「うん」

明石「誰が何を言い出すかわかりませんからね……よろしくお願いします」

というわけで今回はここまで。

こっちはまだまだ描くネタがあるので、当分は追いつかないかと……。

では少しだけ続きです。


 * 夜 提督の私室 *

提督「今日は一段と振り回された気がすんな……寝るか」

 扉<コンコン

大和「提督……大和です。入っても、よろしいでしょうか」

提督「本当に今日は多いな……」ハァ

提督「……入っていいぞ」

 扉<チャッ

大和「し、失礼、致します」オズオズ

提督「? いつになく縮こまってんな。どうかしたか?」

大和「は、はい……お、折り入ってご相談がありまして」

提督「相談?」

大和「あ、さ、先に着替えさせていただきますね! 脱衣所、お借りします!」

 トタタッ パタン

提督「……?」


 * *

大和(パジャマ姿でベッドの上に正座)「こ、このような姿で失礼します……」セキメン

提督「これまで何度もこの姿で抱き着かれて目を覚ましてんだがな……今更恥ずかしがることもねえだろ」

提督「まあいいや、それで相談ってのは?」

大和「……そのぉ……」

大和「最初に確認したいことがございまして……」

大和「提督は……甘やかして欲しいと、思ってらっしゃったり……する、のでしょうか?」

提督「それはねえな」

大和「で、ですよね!? ですよね……!」

提督「相談ってのはそのことか?」アタマカカエ

大和「い、いえ、本題はこれからでして……」モジモジ

提督「?」

大和「……私は……戦艦、大和です」

大和「日本海軍の技術を結集して建造され、国全体の期待を背負い、この国そのものの名を冠した、大型戦艦です」

大和「それゆえに、その……」

大和「誰かに、頼るといいますか……その……」

提督「……」


大和「甘える、といったことを……したことがなくて……」モジモジ

提督「あー……」

大和「へ、変ですよね、大和がこんなことを言い出すなんて」

提督「……」ウーン

大和「あの、提督……?」

提督「大和が建造されてから、1年と経ってねえよな」

大和「は、はい」

提督「建造された直後から、足で立って、話もできる」

提督「考えてみりゃあ変な話だよなあ……」

大和「……」

提督「生まれるときには大きな体が用意されてて、記憶とかも準備されてる」

提督「そうだよな……お前らがどこから来たのか、よくよく考えてみれば理屈がわからねえ」

大和「は、はい……」

提督「だとしたら、甘えるなんて経験もしたことがねえ、か……」

大和「……そ、そうですね……」セキメン


提督「……」

 グイ

大和「きゃ!?」アタマヲヒキヨセラレ

提督「……こうだったか?」ナデ

大和「て、提督……!?」カオマッカ

提督「力加減がわからねえ。痛かったら言えよ?」

大和「い、いえ……!」

提督「そういや、たまに駆逐艦たちの頭を無意識に撫でたりもしてたな……なんとなく撫でたくなって撫でてたが」ナデナデ

提督「なんで撫でたくなったんだろうな……誉めてやりたいって感じでもねえし……」

提督「誉めるにしても、お前みたいに背が高いと、こうやって頭をなでられたりする機会もねえか」

提督「というより、普通に失礼だよな……子供扱いしてるようなもんだしなあ。でも、この世に現れてまだ間もないわけだし……」ナデナデ

大和「……」ギュゥ

提督「大和?」

大和「……ふぁい?」ポヤーン

提督「……」


大和「……ふえっ!? も、申し訳ありません! き、気持ち良くて、つい!!」バッ

提督「気持ち良かったのか……?」

大和「はい……これまでにない経験でしたので」カオマッカ

提督「そうか。お前が良いならそれに越したことはねえ」

大和「……」モジモジ

提督「……」

大和「あのう……提督?」

提督「ん?」

大和「これから、なんですけれど……二人きりの時は、こんなふうに甘えても……」

大和「その、よろしい、でしょうか……?」ポ

提督「……ああ。それがお前の希望ならな。断る理由もねえ」

大和「ありがとうございます!」パァ

提督「相談ってのはこのことか?」

大和「はい!」ニコニコー


提督「まあ無理もねえか。戦艦の艦娘は駆逐艦に比べて見た目も年上で、おまけにお前は背丈もあるしな」

提督「最初から大人で建造されたんじゃ、こんなこと言い出すのも勇気がいるか」

大和「提督、さっそくですけれど……!」

提督「うお!?」ダキツカレ

大和「少し、甘えさせてくださいね……!」スリスリ

提督「……なんか、これまでとあんまり変わってねえな……」

大和「えへへ……」スリスリ

提督(……子供みたいな顔してやがんな)

提督「ま、たまには緊張からといてやるのも、悪くねえか」ナデナデ

大和「はい……!」ゴロゴロスリスリ

提督「そろそろ寝るぞ。明かり消していいな?」

大和「はい!」


大和(私の、こんな子供みたいなお願いを聞いてくださる提督……)

大和(大和は、何があっても提督のために尽力致します……!)

大和(だから今だけは……)

提督「」スヤ…

大和「うふふ……」スリスリ


 * 翌朝 * 

大和「」スヤァ…

提督「……で、結局、抱き枕にされるわけか」ガッチリ


 * それから数日後 *

 * 深夜2時 工廠 *

島妖精C「……と、まあ、今度はそういうことがあってね……」

島妖精E「また? このごろみんな提督に甘えすぎじゃない?」

島妖精F「提督も態度はアレだけど、艦娘のみんなには誠実だしねえ」

島妖精B「つくづくあの態度だけはねえ……」

島妖精D「それでも、提督のガードが緩くなってきてるのは確かかなあ……」

島妖精A「……」

島妖精E「Aちゃんどうしたの?」

島妖精A「風紀が……乱れている……!」

島妖精たち「「……」」

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精D「提督も諦めて鍵をかけなくなっちゃったからねえ」

島妖精A「……資材もきりの良い数まで貯まった」

島妖精A「あの大和に対抗できる強さの艦娘が欲しい」


島妖精F「……そんな子いるかなぁ」

島妖精C「そうなると、同じ大和型の武蔵くらいしかいないんじゃない?」

島妖精たち「「……うーん……」」

島妖精H「なに面白そうな話してるのさー」ヒョコ

島妖精たち「「うわああ!?」」

島妖精E「い、いたのか……」

島妖精H「うわー、ひっどい、なにそれー」

島妖精B「ていうかHちゃん、この前はたまたま建造ドックにいなかっただけじゃない」

島妖精E「いつも工廠の作業場にいるしね」

島妖精H「だからって声をかけないのはあんまりじゃない?」

島妖精A(作者が忘れてて、途中から出しても収まり悪いからって出さなかっただけなんだが)

島妖精G(Aちゃんメタい話はやめて)

島妖精A(こいつ……直接脳内に!?)

島妖精D「とりあえず落ち着け。また新しい艦娘を建造したいって話なんだから」


 * *

島妖精H「……ふーん、なるほどー」

島妖精D「というわけでだ。みんな提督が好きなのはわかるが、節度を持って接してほしくてねぇ」

島妖精G「暴走するみんなを止められそうな艦娘を建造したいんだよ」

島妖精H「それなら……ビスマルクはどうかな?」

島妖精G「ビ、ビスマルク!?」

島妖精E「……いいかもしれない。ドイツ艦だけあって規律には厳しいし」

島妖精F「どうせなら空母のグラーフ・ツェッペリンのほうが良くないかな。うち、空母不足だし」

島妖精B「でも、建造例ってあるの?」

島妖精F「……う、うーん、グラーフは聞いたことないなあ」

島妖精C「パラオでビスマルクを建造できた鎮守府があるらしいよ。あと、海域では探せないって情報もある」

島妖精F「あるのか……」

島妖精A「……やってみるか。ビスマルク狙い」

島妖精たち「「……!」」コクン

島妖精H(何か重要なことを忘れてる気がするけど……まあいっか)


 * 翌朝 執務室 * 

 扉<コンコン

陸奥「お邪魔するわね」チャッ

提督「おう」

陸奥「……!」

提督「? ……ああ、大淀と朝雲なら、今ちょっと外に出てる。じきに戻るはずだ」

陸奥「そ、そう……」

提督「その様子だと、一対一じゃあまだ俺が怖いか」

陸奥「……そうも言っていられないわ。このままじゃ、いつかみんなに気付かれてしまうもの」

陸奥「戦艦陸奥として、男性が苦手だなんて知れたら笑いものだわ……」

提督「そうか? ここの連中の何人かには知られてるだろ」

陸奥「それは、私の事情も知ってもらっているから……」

提督「……なんにせよ、俺はどっちでもいいがな。無理は推奨しねえ」

陸奥「……ありがとう」

提督「俺は何もしてねえよ」


陸奥「そんなことはないわ。私がここで気持ち悪くしたとき、私を背負ってドックまで運んでくれたのはあなたでしょう?」

提督「普通だろ? 助け合いなんて、普段からお前らがやってることだ」

陸奥「……だとしたら、助けられたらお礼を言うのも、普通でしょ?」

提督「……なるほど」フフッ

提督「まあ、ここんとこ不安そうな顔も見せてなかったし、俺さえ干渉しなけりゃ……」

陸奥「それじゃ駄目だと思うのよ」

提督「!」

陸奥「いつまでも……私のことを心配させるのは、どうかと思うの……」コツ…コツ…

提督「……」

 (提督にゆっくり近づいていく陸奥)

陸奥「……」

提督「……まだ、つらそうだな」

陸奥「……っ」

提督「背中向けりゃあ、もう少し近づけるか?」クルリ

陸奥「!」


提督「……」

陸奥「……」コツ…コツ…

提督「……」

陸奥「……」

陸奥(私……この背中に、背負われてたのよね……)

陸奥「……」ス…

 (陸奥が提督の背中にそっと手のひらで触れる)

提督「……!」

陸奥「……」

提督「……」

 (陸奥がゆっくり提督から離れて)

提督「……大丈夫だったか?」

陸奥「……そうね……思ってたよりも、平然としていられたわ」

提督「そうか、ならいい」

陸奥「……なんていうか……ごめんなさいね、こんな艦娘で」

提督「悪いのはお前を怖がらせた人間どもだ。謝る必要はねえよ」

陸奥「……ありがとう、本当に」ニコ…

提督「……」アタマガリガリ

提督「ところで、一人でここに来るなんて珍しいな。何かあったのか?」

陸奥「え、ええ……明石に急いで伝えて欲しいって言われたんだけど。建造ドックが稼働してる、って」

提督「建造ドック? つうことは、また妖精たちか……?」

今回はここまで。

タイミング良く陸奥の話が出てきましたが偶然です。

お待たせしました、続きです。


 * 翌日 午前 *

 * 提督の私室へ向かう廊下 *

初雪「……」テクテク

初雪(今日は、膝枕してもらえる日じゃない)

初雪(だから、代わりに司令官のお部屋のベッドで、お昼寝)

初雪(……名案!)フンス!

 テクテク

初雪(……)

初雪(到着)

初雪(? ……部屋の中に、誰か、いる?)

初雪(誰だろ……)

 コソ…ッ

ベッドの上にうつぶせになり顔を突っ伏している由良「すぅぅぅぅ……」

初雪「!?」


由良「……んすー……」

初雪「……」

由良「……すふぅぅぅぅぅぅ……」

初雪(由良さん……なにやってるの)アッケ

由良「」ムクリ

由良「」キョロキョロ

由良「」ゴソゴソ

初雪(……洗濯籠の中、漁ってる……)

由良「」Tシャツヲトリダシ

由良「すんすん……」

由良「んすうぅぅぅぅ……」

初雪(もしかして……におい、嗅いでる?)ヒキッ


初雪「……」

初雪(……お昼寝どころじゃなくなった……)

初雪(戻ろう)スッ クルリ

扶桑「あら?」

初雪「!?」ビクッッ

扶桑「どう……」

初雪「しーーーーっ!!」(小声)

扶桑「え、ええ……?」

初雪「はやく、こっち……!」フソウノテヲヒイテ

扶桑「????」テヲヒカレ


 * 渡り廊下 *

初雪「……ここなら、誰もいない」キョロキョロ

扶桑「提督の部屋で何があったの?」

初雪「耳、貸して。ごにょごにょ……」

扶桑「……まあ。由良さんが」

初雪「一応、秘密にしておいて」ポ

扶桑「……初雪さんは、どうして提督のお部屋に?」

初雪「ん、お昼寝、したくて。あのベッド、すっごく気持ちいいから」

初雪「なんか、提督のお部屋、鍵をかけなくなった、って聞いたし」

扶桑「そう……それでなのね」

初雪「そういう扶桑さんは、どうしてお部屋に……?」

扶桑「私? いつも提督にお世話になっているから、少し身の回りのお世話をさせてもらおうかと思って……」

扶桑「例えば洗濯物がたまってないか、とか、お部屋が散らかっていないか、とか、ね」フフッ


扶桑「もし初雪さんが寝てたら、ベッドのシーツのお洗濯は、また明日だったわね」

初雪「……今は今で、恥ずかしくて部屋に入れないけど」

扶桑「ふふっ、刺激が強かったかしら」

初雪「うーん……どうだろ。っていうか、私、においって意識したことなかったし……」

初雪「はっ!? も、もしかして、私、汗臭い……!?」クンクン

扶桑「すんすん……大丈夫だと思うけど?」

初雪「うう……ちゃ、ちゃんとお風呂入る……」カオマッカ

 < ユラサンナニヲシテルンデスカーー!

初雪「!?」

扶桑「! ……大淀の声だわ」

初雪「あー……」

扶桑「せっかく初雪さんが秘密にしてくれていたのにね?」

初雪「うん……」コク

初雪「まあ、周りに誰もいないみたいだし、部屋の周りに誰もいなければ、多分、大丈夫だと思うけど……」ミワタシ


 * 提督の私室へ向かう廊下 *

??「提督の部屋はこちらでいいのだな?」コツコツコツ

島妖精C「そうだけど……なんで本人に会うより先に部屋を見に行こうとするのかな」

??「その人間の本質を見るには、本人のプライベートルームを見るのが一番早い」

??「お前たちは、この鎮守府の乱れた規律を正すために、私を建造したんだろう?」

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精H「だからってねえ……」

??「見てわかるなら、そちらの方が話が早い」

??「話すだけならいくらでも隠し通せるし、私はそのような小細工は苦手だ」

??「さっさと証拠を掴んで突き付けるのが簡単だろう」

島妖精A(……これが脳筋というやつか)

島妖精G(それ、本人に直接言っちゃダメだよ?)

島妖精A(お前は電探妖精じゃないだろう! 直接脳内に話しかけてくるな!)


島妖精C「でも、提督の部屋って、ベッドと着替え以外なにもなかったんじゃない?」

島妖精D「最近は艦娘があれこれ持ち寄ってるらしいけど?」

??「やれやれ……どうやら本当に規律が乱れているようだな」

 キャーキャー

??「おや? 誰かいるようだな」

島妖精B「何人かいるみたいだね?」

??「まあいい……失礼する!!」ガチャ!

ベッドの上に突っ伏している由良「え……!?」

ベッドの上に突っ伏している大淀「ええっ!?」

島妖精C「いや、その『えー』はこっちの台詞なんだけどなあ」

??「お前たち……一体何をしているんだ!?」

由良「ま、待って!? どうして……この島にあなたがいるの!?」

大淀「そうですよ! どういうことなんですか!?」


大淀「武蔵さん!!」


??→武蔵「知れたこと。この鎮守府を預かる提督准尉の人となりを、私なりに確かめに来たんだ」

由良「それでお部屋に来るってどういうことなの……」

武蔵「一番わかりやすいではないか。本人のプライベートがどのようなものか、部屋を見れば一目瞭然だろう」

大淀「ほ、本人にはお会いしたんですか!?」

武蔵「いや、まだだ」

大淀「だとしたら、勝手にお部屋に入ってはいけないでしょう!?」

武蔵「ほう。お前たちは許可を取ったのか」

大淀「」ギクッ

由良(大淀……)アチャー

大淀「と、とりましたとも。提督のベッドのシーツが汚れていないか、見に来たんです」

武蔵「ほう……それは本当か」ギラリ

島妖精E(苦しい言い訳だなあ)

武蔵「ということは、提督は自分の部屋の片づけを、数少ない艦娘にやらせているということか」

由良「」

大淀「」

島妖精B(あっ、逆効果だコレ)


武蔵「これはなかなか、叩き直し甲斐のある男と見て良さそうだ……くくくっ」

由良「ちょっ、ちょっとどうするのよ大淀!」オロオロ

大淀「し、仕方ないでしょう! どこかで提督には埋め合わせを……!」オロオロ

島妖精H(……まったく、しょうがないなあ)ヒョイッ タタタタ…

島妖精A「!」

武蔵「よし、大淀そこをどけ。徹底的に家探ししてやろう」

大淀「おやめください! 何の権限があってそんなことを!!」

武蔵「隠し立てするか……怪しいな」シャガミ

武蔵「ふむ……ベッドの下には何もないか。マットレスの下は」ガバッ

由良「む、武蔵さん!?」

武蔵「なにもなし……ここは洋服ダンスか」ガチャ

大淀「武蔵さんっ!?」

武蔵「なんだ? 異様に服が少ないな……」ゴソゴソポイッ

由良「ちょっ、勝手に漁っちゃ駄目だったら!」


武蔵「何を言う、後ろめたいものがなければ何を見られようと問題ないだろう?」ゴソゴソ

由良「だからって出してそのままじゃ……」

武蔵「やけに私物が少ないな。断捨離でもしてるのか?」ゴソゴソポイポイ

 ガシッ

武蔵「うん?」カタヲツカマレ

大淀「いい加減にしとけよ……?」ビキビキビキッ

武蔵「!?」ビクッ

由良「!?」ビクッ

島妖精たち(うわあ)

大淀「だいたいなあ、当人にも顔を見せずに部屋に押し入って、タンスの中を物色するたあどういう了見だ……?」ミシミシッ

武蔵「」

由良「」

大淀「おまけに漁るだけ漁って散らかしっ放し……お片付けもできねえのかよ? あぁ?」ゴゴゴゴ…

由良「」シロメ

武蔵「あ、いや、その……」タジッ


大淀「元に戻せ」

武蔵「は、はい……?」

大淀「元に戻せっつってんだろうが」

武蔵「いや、私は……」

大淀「戻せねえんなら部屋に入ってくんじゃねえぞくそがあああ!!!」ドカーン

武蔵「ひいい!?」ダッ!

 ドタドタドタ…

大淀「……」

大淀「はぁ……もう、こんなに散らかして。仕方ありませんね……」イフクヲオリタタミ

由良「」

大淀「あ」

由良「はっ!? なんだかものすごく衝撃的なものを見た気がしたんだけど!?」

大淀「き、気のせいでしょう……」メソラシ


 * 一方その頃 執務室 *

提督「戻ったか……ん? 大淀はどうした?」

朝雲「補給してくるから、先に行っててって言われたんだけど」

提督「補給?」


 * 鎮守府内 廊下 *

島妖精E「あれは武蔵が悪いよ……」

武蔵「な、なんだったんだあの大淀は……」

島妖精B「そっちに関しては私たちもびっくりだよ」

島妖精F「提督そっくりだったもんねー」

武蔵「あれが……提督の雰囲気、か」

島妖精C「うん、まあ、だいたいあんな感じかなー」

武蔵「あの大淀があの態度……! もしや、日頃から提督にきつく当たられているのではないか?」

島妖精D「いや、そういうわけじゃ」

武蔵「そうか、部屋を荒らせば自分が叱られるから……くっ、この武蔵としたことが迂闊だった!」

武蔵「提督め、艦娘に対するこの仕打ち……正さねばならんな!」

島妖精A「なあ、この武蔵、違う意味で迂闊じゃないか?」ヒソッ

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」ウーン

島妖精E「提督ってさあ、人の話を聞かない人、嫌いだよね」ボソッ

島妖精たち「「……」」タラリ

島妖精F「ねえ武蔵、そうじゃなくって」

武蔵「すまない、ちょっと話しかけないでくれ。どうやったら提督を説得できるか……うーむ」ブツブツ

島妖精B「ちょっ、武蔵ー!?」


 * その30分後 *

 * 墓場島 埠頭 *

島妖精H「……というわけでさー」

大和「武蔵が来たんですか!?」

朝雲「また妖精さんが建造したの!?」

島妖精H「そうだよー、って、大和の建造には私は関わってないんだけどさ」

朝雲「っていうか、なんでピンポイントに大和型が建造出来ちゃってるのよ……」

島妖精H「本当はビスマルクを建造したかったんだけどね」

島妖精H「でも、海外艦は海外に縁のある艦娘の力を借りないと、建造できないの忘れてたんだ」

朝雲「でもそれで武蔵さんが建造できちゃうとか、普通にすごい確率なんだけど!?」

提督「また戦艦が増えるのか……」

大和「も、申し訳ありません……」

提督「いや、お前が謝る必要はねえだろ。資材は問題だけどな」

朝雲「確かに切実よね。今の体制でも、戦艦の人たちは満足に出撃できてないし」


提督「駆逐艦の練度向上が急務になっちまってるな」

提督「若葉や朧みたいなやる気ある奴に頼りっぱなしってのもよろしくねえ」

提督「そのためにも今日は今日で、神通に率いてもらって能力を見るために出撃してるわけだが……」

 ザザァ…

提督「おう、戻ってきたか」

神通「はい、水雷戦隊、ただいま帰還致しました」ケイレイ

吹雪「司令官! 今日は誰も中破しませんでしたよ!!」ブンブン

提督「そいつは重畳だ。黒潮と山雲の調子はどうだった」

黒潮「ま、まあまあやないかな?」ゼェゼェ

神通「砲撃時の構えも安定していますし、心配だったメンタル面の不安も解消したようですから」ニコ

不知火「残る課題は体力面だけですね」

黒潮「さすがに、出撃、久々やったから……」ゼェゼェ

提督「黒潮がこうなら、山雲は……」チラッ

如月「出撃自体がまだ数回目だもの、今日は少しハードだったと思うわ」ヤマグモニカタヲカシ

山雲「はー、はー……ちょおっと、疲れちゃった、かも……」ゼェゼェ


朝雲「山雲、大丈夫? 如月、山雲のフォローありがとね」ヨイショ

大和「提督、今回の出撃メンバーに朝雲さんを加えなかったのはどうしてですか?」

提督「朝雲が山雲のケアをしながら戦ったんじゃあ、山雲の実力が見えないからな」

神通「全体的に粗さが目立ちますが練度を考えれば当然でしょう、これからだと思いますよ」

朝雲「え? 山雲、無傷なの!? すごいじゃない!」ナデナデ

山雲「えへへぇ~」ニヘラ

吹雪「不知火ちゃんがデコイになって動き回ってたからね!」

黒潮「せやなあ……不知火の動きがすごかったもんなあ」

神通「中将のところで鍛えられてるだけあります」ニコ

不知火「お、恐れ入ります」

黒潮「ああいうの見せられると、うちも頑張らなな、って思うわ」

提督「大破艦が出るかと思って大和を呼んだんだが、いらない心配だったな」

大和「何よりですね!」ニコッ

提督「よし、それじゃあ……」

武蔵「ここにいたか!」ザッ

全員「「!!」」


大和「武蔵……!」

吹雪「えっ、えええええ!?」

提督「お前が武蔵か……」

武蔵「いかにも! 大和型戦艦2番艦、武蔵! 推参だ!」ビシィッ!

黒潮「うっひゃああ! 大和型二隻が揃い踏みなんて、すごいやん!!」

不知火「ええ、ですが……」

如月「司令官……?」

提督「……」

山雲「なんだか~、あんまり嬉しそうじゃないみたい~?」

神通「朝雲さん、なにかあったんですか?」

朝雲「それがですね……」ゴニョゴニョ

神通「……なるほど……」

山雲「それじゃあ、あまり歓迎できないかしら~」

武蔵「さて提督よ。この鎮守府の妖精たちによって建造されたこの武蔵、ある使命を帯びてここへ来た」


武蔵「それがなにかわかるか? わかるだろう提督! 貴様の行い、正してくれる!」

提督「知るか」

武蔵「」

島妖精H「ちょっ」

大和「て、提督!?」

朝雲「……」アタマカカエ

神通「まあ、予想通りといえばその通りですが……」ハァ

吹雪「な、何の話なんですか!?」

武蔵「提督、貴様、この期に及んでしらばっくれるとはどういうことだ!?」

提督「マジで知らねえよ。お前が何の用で来たかなんて知るわけねえだろが」

武蔵「……こ、この不躾な物言い……大淀のあの言動は貴様の影響か!」プルプル

提督「大淀?」

武蔵「ああ! 貴様そっくりだったぞ!」


提督「俺そっくり? ……本当かよ。誰か見たことあるか?」

如月「うーん、私はないわ」

大和「私もありません」

不知火「初耳です」

黒潮「うちもそんなん聞いたことないなあ」

朝雲「私たちもないわよね?」

山雲「聞いたことないわ~?」

武蔵「馬鹿な!? 貴様と同じ調子で叱られたんだぞ!?」

提督「なんだそりゃ。確かに俺が自暴自棄になったときに大淀に叱られたことはあるが、言動が俺みたいになったって話はなあ」

大和「提督、大淀さんにも叱られてたんですか……」

吹雪「何回言ってもきかないんですね、司令官は!」プンスカ

提督「最近は言ってねえよ」

如月「考えても駄目ですからね?」ウフフー


提督「へいへい。とりあえずお前らは明石んとこ行って修理受けてこい」

武蔵「待て! 私の話は終わっていないぞ!」

提督「なんだよ……じゃあとっとと要件を言え」

武蔵「うむ……こほん。提督、貴様、艦娘に手あたり次第、手を出しているそうだな!」

全員「「……」」

武蔵「……何だその沈黙は」

提督「いや……俺、手ぇ出してるか?」クビカシゲ

武蔵「!?」

如月「いいえ、出してもらってないわ?」

大和「ですよね」

武蔵「!?」

山雲「司令さんから手を出すって、ないんじゃな~い~?」

黒潮「むしろ司令はんがいろんな人から手ぇ出されてる感じやんな?」

朝雲「司令が怒ってアイアンクローするって意味でなら手が出てはいるけど……」

吹雪「あはは……でも、最近は司令官が誰かにアイアンクローしてるとこ、見てないよね」

不知火「司令がそこまで怒ることも、最近はなくなりましたから」


武蔵「……おい、話が違うぞ妖精たち」

島妖精E「いや、武蔵ってば話を聞いてくれなかったじゃない」

島妖精A「私たちとしては、最近、艦娘たちが提督にくっつきすぎなのをどうにかしてほしいと考えていたんだ」

島妖精G「うん、提督が問題あるわけじゃないんだよね」

武蔵「それを早く言ってくれ……!」ガックリ

 *

提督「それじゃあ何か。武蔵は、この鎮守府の風紀を正そうとしてたわけか」

武蔵「そういうことだ。気の緩み、規律の乱れは軍属である我々の規範とは真逆に位置するもの」

武蔵「平たく言えば、えっちなのはいけないというだけの話だ」

提督「それを言ったらお前の格好が一番の問題だろ」

武蔵「」

神通「提督、声に出てますよ?」

提督「わかってる」

不知火「……」アタマカカエ


武蔵「わ、私の姿はどうでもいい! 貴様こそ生活態度はどうなんだ!」

提督「生活態度? どうと言われてもな……俺、変なことしてるか?」

神通「さあ……特には。強いて言うなら、たまに不精しておひげが伸びているときがあるくらいですが」

如月「普段生活してる分には、司令官って几帳面よね?」

不知火「人の嫌なところばかり見ていますので、それが反面教師になったものかと推測しますが……」

神通「……なるほど……」

朝雲「なんかすごく納得できるわ……」

吹雪「さすが! 最古参だもんね、如月ちゃんと同じで!」

武蔵「えっ、最古参って……吹雪じゃないのか?」

黒潮「それがちゃうねんて、なあ?」

武蔵「……訳が分からなくなってきたぞ。提督に問題がないのなら、艦娘が提督にちょっかいを出しすぎだというのか?」

提督「まあ、確かに最近ガードを緩めすぎてる気がするな。新造艦娘にそこまで心配されるとなると、事態は深刻と見るべきか……」

不知火「え?」


提督「やっぱ寝るときに部屋に鍵かけるか」

如月「は?」ピシッ

大和「え?」ガーン

吹雪「そんなぁ! 駄目ですううう!!」ナミダメ

武蔵「!?」

 ゴボボボッ

伊8「はっちゃん、なんだか嫌な話が聞こえてきたんですけど……?」ザブッ

黒潮「!?」

山雲「ど、どうやったら、海中から聞こえるの~……?」

 ザッ

金剛「Hey, 私も聞いてしまいマシタヨー……?」ユラリ

榛名「提督……本当にお部屋の鍵をかけてしまうんですか……?」ドロリ

武蔵「!?」ビクッ


朝雲「……司令、あなたいったい何人と寝てるんですか」

提督「何人? 何人は覚えてねえな……ここに来てないやつだと、電と朝潮と初雪と……」

武蔵「駆逐艦ばかりじゃないか! この犯罪者め!!」

提督「全員、俺が寝付いてからベッドの中に入り込んできてるんだがな。電なんか一人寝が寂しいって理由だし、無碍にはできねーだろ」

提督「丁度いいから訊くけどよ、お前らなんで鍵かけた俺の部屋に入れるんだ?」

如月「秘密よ?」

大和「内緒です」

金剛「Yes, it's Top secret デース!」

吹雪「言えません!」

伊8「いざとなったら扉を壊しますからいいですけど」

榛名「榛名もそれで大丈夫です!」

提督「……」アタマカカエ

島妖精C(そりゃー私たちが資材を貰った引き換えにやってたなんて言えないよねえ)

島妖精B(そのおかげで大和と武蔵が建造で来たわけなんだけどねえ)


朝雲「えーと……司令? 鍵、かけてたんですよね?」

提督「ああ」

朝雲「……」

提督「……」

朝雲「ということは、司令も本当に知らないんだ……」ガックリ

提督「だからさっきからそう言ってんじゃねーか」

武蔵「おい、信じるのか!?」

朝雲「ええ、信じるわ。司令はこの手の嘘をつかない人だし」

朝雲「なにより艦娘のことを優先する人だから、嫌がる艦娘を部屋に連れ込むなんて真似、絶対にしないもの。疑うだけ時間の無駄だわ」ハァ

山雲「朝雲姉がそこまで言うなら、間違いないわね~」

武蔵「だとしたら、さっき提督の部屋にいた由良と大淀は何をしていたんだ?」

如月「は?」ハイライトオフ

大和「え?」ハイライトオフ

伊8「Was ?」ハイライトオフ

金剛「What ?」ハイライトオフ

榛名「はい?」ハイライトオフ

武蔵「!?」ゾクゾクゾクッ

朝雲「みんなして何やってんのよもう……」


吹雪「武蔵さん、何をしてたって何をしてたんですか!?」

武蔵「な、なにって、部屋を掃除していたと聞いたぞ……ベッドの上に乗っていたし、ベッドメークでもしていたのかと……」

神通(大淀さんは前からそうだと思っていましたが、由良さんもですか)

伊8(ということは、あの二人もナニかしてたんでしょうねえ)

提督「本当かそれ。ベッドくらいなら自分で直してんだが」

武蔵「そ、そうなのか……?」

大淀「ええ、その通りです」ザッ

由良「武蔵さん、ここにいたんですね」

提督「! 大淀と由良も来たのか」

大淀「はい、誤解のないように言っておきますが、私は時間が空いたので提督のお部屋の洗濯物がないかどうかを見に来ただけです」

大淀「そうしたら、由良さんがお部屋のベッドの上に寝ておりまして」

由良「ちょっ、大淀!?」

大淀「提督のお部屋のベッドがすごくいいものなので、どんなものか確かめに行ったんでは?」

由良「ま、まあ……そう、だけど」

由良(そういうことにしておいた方がいいか……)ポ


大淀「それで私も気になって、ベッドを拝借したところに武蔵さんがいらっしゃったんです」

黒潮「司令のベッドってそんなにええの?」

如月「ええ、私と大和さんで一番いいのを選んであげたの」

黒潮「ほえー……」

提督「……まあ、あれはあれでありがたかったけどな……」アタマガリガリ

武蔵「と、とにかくだ! 艦隊の規律を考えても、艦娘が提督と同衾するのはいかがなも」

大和「あぁ?」ギロリ

如月「なんですって?」ドロリ

伊8「ふーん……」ジロリ

榛名「本気で仰っていますか?」ヌラリ

武蔵「ひぃぃぃ!?」ビクゥッ

不知火「食い気味に反応しましたね……」

吹雪(抗議しようと思ったけど、その必要もなかった……)タラリ

金剛「皆さん、落ち着くデス。そこに関しては私も思うところがありマス」

榛名「金剛お姉様……?」


金剛「ひとつ教えてくだサイ。提督のベッドに、一番最初に潜り込んだのは誰デース……?」

提督「そりゃ如月だ。忘れもしねえ、俺の上に掛け布団みたいに覆い被さってたからな」

如月「やぁん」ポ

提督「次の日には電が入り込んでたな」

武蔵「おい!?」

提督「あの頃は人数も少なかったし、電は轟沈して流れ着いて間もなかったからな」

武蔵「ご、轟沈だと!?」

提督「さっきも言ったが、人の気配がない鎮守府で一人で寝るのが不安だったって話だ。如月もそうだったろ」

如月「そうね……あのときは、ただただ怖かったから。人肌が恋しかったっていうのはあるわ」

提督「電は今でもたまに入り込んでくるが、それでも暁や長門みたいな俺以外の頼る相手ができたから回数は減ったぞ?」

金剛「Hmm... やむにやまれぬ事情があったと……それでは仕方ありまセンネ」

金剛「正直に言えば、私は、提督のベッドに入る理由が単純な好意であればみんな控えるべきだと思っていマシタ」

金剛「提督と愛を誓いあっていないのに、ベッドに入り込むのは順番が違うと思ってマシタから」

武蔵「むう……」

金剛「But、不安を取り除くためというのであれば、それも言いづらいデスネ……一度轟沈している艦娘なら猶更な気がしマス」

黒潮「そう言われると難しいとこやなあ……」


金剛「こうなると、提督のベッドに入り込む理由が好意や愛情によるものなのか、不安の解消なのかが判別できまセンネ」

山雲「それはそうねえ~」

黒潮「むしろどっちもあるんやないかな?」

金剛「武蔵もそう思いマスネ?」

武蔵「う、うむ……」

金剛「Okey ! それじゃ私も提督のベッドに遠慮なく入りマース!」Yes!

武蔵「なんでそうなる!?」

金剛「如月は提督が好きデース」

金剛「その如月は提督のベッドに入ってマス」

金剛「だから提督が好きな私も提督のベッドに入っていいデーース!」

武蔵「無茶苦茶だ!!」

金剛「Nooo ! これ以上ない見事な三段論法デース!!」

山雲「ちょおっと、強引じゃなーい~?」

不知火「いくら何でも端折りすぎではないかと」

金剛「私だって提督は大好きデス! これ以上如月や大和に後れを取るわけにはいきまセーーン!」


金剛「燻ぶらせていた Burning Love !! テートクのためにッ! 完全燃焼デーーース!!」ドカーン!

黒潮「おおう、こりゃ司令はんもスミに置けへんなあ」

不知火「その前に完全燃焼ではスミになりそうですが」

黒潮「誰が上手いこと言え言うたん!?」ビシーッ

不知火「え!? し、不知火に何か落ち度でも……!?」オロオロ

黒潮「自覚しとらんかったんかい!」ビシーッ

吹雪「黒潮ちゃんが変なツッコミ入れるから戸惑ってるんでしょ!?」ビシーッ

金剛「ブッキーがいいツッコミ入れてマス……!」

黒潮「またまたあ金剛はん、真面目な吹雪がそんなこと言うわけ……ほんまや! 真面目か!」

吹雪「言い出しっぺは黒潮ちゃんでしょ!?」ビシーッ

山雲「朝雲姉~、面白いわね~」パチパチ

朝雲「お笑いやってる場合じゃないでしょ……」

伊8「脱線しましたけど、引き続き提督と一緒に寝るのは問題なしということで。いいですよね?」

榛名「賛成です!」キョシュ!

如月「異論なしよ!」キョシュ!

武蔵「いいのか……いいのかそれで」アタマカカエ


大和「武蔵……」カタヲポン

武蔵「大和……こんなことが、許されていいのか!?」

大和「余計なことはしないで?」ニコァ

武蔵「」

朝雲「武蔵さん、やめといた方がいいわ。大和さんてば、司令のことがすっごく好きだから」

山雲「あらぁ~? 朝雲姉~、武蔵さん、聞いてないみたいよ~?」テノヒラフリフリ

武蔵「」

由良「失神してるみたいなんだけど……」ホッペツンツン

黒潮「んなアホな……」

大淀「滅茶苦茶迫力のある笑顔見せてましたからね。いくら武蔵さんでも建造されたばかりでは、さすがに……」

不知火「大和さん……」アタマカカエ

神通「さすがに少し大人げないかと……」アタマオサエ

提督「……大和。いい加減、変なプレッシャーかけんじゃねえって言ったよなあ?」ツカツカ

大和「あっ、提督、ちょっと待っ、あの、アイアンクローは、待っ、あ、ひぎぃぃぃぃいい!?」メキメキメキ

金剛「Oh, 久々に見ましたネ、提督のBrain Claw」

如月「司令官のことをまだまだ分かってない証拠よね」フフッ

伊8「まるで正妻のようなこの余裕」

吹雪「とりあえず、武蔵さんどうしましょう?」

榛名「明石のところに連れて行きますか?」

武蔵「」チーン

今回はここまで。


由良さんのお目覚め(意味深)は>>22を参照です。

少しだけ続きです。


 * 工廠 *

明石「いやあ、話は聞かせてもらいましたけど……」

利根「まさか武蔵が来ようとはの……」

武蔵「あ、ああ……その、よろしく頼む」

利根「う、うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」

提督「……」

明石「提督、まーた何かしたんですか? あの武蔵さんが借りてきた猫みたいなんですけど」ジロリ

提督「何もしてねえっつうの」

明石「本当ですか? 提督って、こういう騒動の中心にいるってことに無自覚ですからねえ……」

武蔵「お、おい、明石! あまり提督にそういう態度を取っては、後々大変にならないのか!?」

提督「そうはならねえよ。大和にも言って聞かせるから、堂々としてていい」

明石「あ、もしかして大和さん絡みですか。じゃあ仕方ないですかね~」アタマオサエ

武蔵「明石もそれで納得するのか……」

明石「私も大和さんには、出会ってすぐに主砲向けられちゃいましたからね」

武蔵「……」

提督「つっても大和だけじゃねえがな。とりあえず今後のためにも、武蔵には早速出撃してもらうつもりだ」

明石「大和型が二隻ですか……そうなると資材が不安ですねえ」


朝雲「司令なら確かこっちに……あ、いたいた!」

山雲「お邪魔しまぁ~す」

初雪「おお……本当に、武蔵さんだ……」

提督「なんだ、俺に用か? それとも武蔵の野次馬か?」

朝雲「野次馬じゃないわよ。山雲たちからお願いがあるの」

山雲「そうよ~、武蔵さんに~、お願いがあって来たの~」

武蔵「……この武蔵にか?」

初雪「うん……良かったら、一緒に畑を見て欲しくて」

武蔵「ああ、それは構わないが……山雲と初雪が畑を見てるのか?」

山雲「そうよ~」

武蔵「むう……非力な駆逐艦に力仕事を任せているというのは感心しないな」

明石「まあまあ、それぞれ役割分担してますから。厨房は比叡さんや大和さんにお願いしてますし」

提督「離島だから雑務は多いぞ。音響設備は霧島、裁縫や工作は長門や金剛、明石がやってるし」

提督「ほかにも掃除洗濯は陸奥や榛名や扶桑、資材搬入は山城によく手伝ってもらってるな」

提督「なんせ人間が俺一人だ、大体のことは自分たちでやらなきゃならねえ」

武蔵「……なるほど。いいだろう、この武蔵がこの地に喚ばれたのも何かの縁だ。よろしく頼むぞ」ニッ

提督「ああ。とりあえず希望があるなら言ってくれ、できるだけ沿うようにするからよ」


 * ところ変わって、M提督鎮守府あらため城塞鎮守府 * 

 通信機< RRRR... RRRR...

三日月「はい、こちら城塞鎮守府にございます」

三日月「O中尉! お久しぶりです! 三日月です!」

三日月「はい、知中尉ですね! しばらくお待ちください!」ピッ

三日月「司令官! O中尉からです!」

知中尉「お、ありがとう。もしもし?」

通信(O中尉)『よ、久しぶり。昇進おめでとう』

知中尉「んー、ありがとな。お前もおめでとう、お前も昇進だろ?」

通信『ああ。とりあえず三日月は元気そうで安心したよ』

知中尉「他の子も元気だぞ。最初は泣いたり喚かれたりで散々だったけどな……」

知中尉「でもまあ、うちの古参とも仲良くなれたし、今はまあ心配しなくても大丈夫だな……」

通信『? どうしたんだ、その奥歯に何か挟まったみたいな言い方……あ、もしかして、利根か?』

知中尉「……まあ、な」ハァ


 * 数時間前 *

利根改二「ちくま~」ゴロゴロ

筑摩「はい、利根姉さん」ニコニコ

利根改二「ちくまはどこにも行かんよなあ~」ギュウ

筑摩「はい、ここにいますよ、利根姉さん」キラキラ

利根改二「うむ、ちくまはわがはいとずーっといっしょじゃからなあ……」スリスリ

筑摩「勿論です、利根姉さん」キラキラキラキラ

 * 回想ここまで *

知中尉「今じゃあ筑摩依存症とでも言うのかな? 俺も事態を軽く見てたってことだ……」

通信『うーん……筑摩、連れていかなきゃ良かったか? うちにいた筑摩も、利根と接触できなくてうずうずしてたから、良かれと思ったんだが』

知中尉「いや、良かったには良かったんだ。利根はこの鎮守府の功労者だ、筑摩が来る前まで、いつぶっ倒れるかわからないくらい憔悴してたんだし」

知中尉「そんな利根を何とかしたくて、俺がお前に筑摩を連れてきて欲しいって無理言ってお願いした結果でこうなったわけだからなあ」

知中尉「それに、あの地下室で大怪我してた利根の移動先まで面倒見てくれたんだ、俺たち全員、お前には感謝してるんだぜ?」

通信『……なんだか、弱みに付け込んだみたいで悪いな』

知中尉「三日月たちのことか? それはそれで話が別だ、気にするな」


知中尉「つうかその話、一番悪いのは指揮を執ってたC提督とかいう奴だろ。ったく、本営にはひどい奴がいたもんだな」

通信『……まあ、な……』

知中尉「なんだその微妙な反応」

通信『あー、いや、そいつなんだけどな……自分の元上官に取り入ってるみたいなんだよ』

知中尉「は? マジか。なんでそんな奴らに好かれてんだよお前の元上官」

通信『そりゃ地位とお金が好きな類友だからだよ。自分が追い出されたのも金にならないからだって、この前話しただろう?』

知中尉「勘弁してくれよ、なんでそんな腹黒い奴らがテレビ出てニヤニヤしてんだよ。大丈夫なのかこの国」

通信『そんなの今に始まったことじゃないだろう。自浄作用が怪しいところまできてると思うぞ?』

知中尉「確かにそうだけどぶっちゃけすぎだろ……あ、そうだ思い出した。お前のところには電話あったか?」

通信『電話? いきなり何の話だ?』

知中尉「ああ悪い、テレビで思い出したんだよ。この前、テレビ局からこの鎮守府を取材したいって話が来たんだ」

通信『なんだって!? まさか引き受けたのか?』

知中尉「馬鹿、断ったに決まってるだろ。本営を通せ、で押し切ったさ」


知中尉「本営は本営で、今更に広報部門の組織再編の話が上がってて、艦娘の話ができる広報担当も決まってない状態だろう?」

知中尉「待ちぼうけ食らって焦れたテレビ局が、無断で撮影したり取材しに来たりするケースも想定しておかないとまずいかもな」

通信『それもあり得るか。けど、さすがにリンガ泊地まで行くやつがいるかな?』

知中尉「十分あり得ると思うぜ。この鎮守府が、余所の鎮守府に演習場として使われていることをテレビ局も知ってるみたいだし」

知中尉「いろんな鎮守府の艦隊が集まるだろうから、取材にかこつけてでかい鎮守府に突撃取材したいんじゃねーか、って」

知中尉「うちの青葉も自分で考えて自画自賛してたから、テレビ局がそれをやらないとは思えないんだよなあ」

通信『警戒したほうがいいのか……』

知中尉「で、ここの責任者が俺だってことも周知の事実らしくてな。『知少尉ですか』って名指しで訊かれたんだよな」

知中尉「あいつら、そんなに偉くない俺みたいな僻地の鎮守府なら、上を通さなくてもワンチャンあると思ったんじゃねーかな……」

知中尉「M准将がいなくなって繰り上げで少尉になった俺が、この短期間で中尉に格上げだ。戦果を挙げてるお前とは話が違う」

知中尉「もしかしたら、本営からこっちに動かせるお偉いさんがいなくて、その場しのぎに俺を昇進させたのかもな」

知中尉「そうでなきゃあ、M准将のことを探られてもいいように、俺に全部責任をおっかぶせてしまう魂胆か」

通信『そんなことは……』

知中尉「ま、どっちにしたってテレビの話は全部拒否するさ。俺もM准将の話をほじくり返されたくないからな」

通信『……』


知中尉「……M准将の話は、決して大昔の話じゃない」

知中尉「あの話がテレビ局なんかに知れ渡って面白可笑しくドラマに仕立てられたりでもしたら、戦時中とはいえこんな鎮守府、簡単に吹き飛んじまう」

知中尉「それに……なんでかんで、俺はM准将を尊敬してたんだ。俺が今この鎮守府をなんとか維持できてんのも、M准将を見てきたからだと思ってる」

知中尉「身内贔屓ではあるけどさ、形はどうあれあの人は自決したんだ。これ以上、あの人を辱めなくてもいいだろ?」

通信『そうだな……』

知中尉「ま、もしかしたらその話も、連中はもう知ってんのかもしんねーけどな……」

知中尉「ともかく。うちは通常営業しつつ、テレビ取材は全部お断り。撮影も厳禁、見たいなら余所に行け、で押し通す。これで行く」

通信『そこまでガード固めてるんなら、大丈夫そうだな』

知中尉「ん? もしかして心配して電話してきたのか」

通信『いや、むしろそのテレビ局絡みの件を話すつもりだったんだ』

通信『艦娘の情報を公表したせいで、本営の判断も仰がずにテレビ局の取材を受けて、変なことになってる鎮守府が出てきててね……』

知中尉「嘘だろ……?」

通信『しょうがないとは言いたくないが、民間からスカウトした『提督』たちはどうもその辺の意識が低くてなあ……』

通信『お前のところはいろんな『提督』が出入りするだろう? 今更だけど、心配になって電話したんだよ』

知中尉「……ちょっと特警と相談してくる。テレビ局が無断で入ってきてる可能性も考えとかねえと」

今回はここまで。

メディアがまともなら騒がれることもありませんが、
なにかとフェイクニュースも紛れ込んでおりますし……
メッキが剥がれてきている気がしますね。

では続きです。


 * 数週間後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

黒潮「司令はん、また新聞読み返してるん?」

提督「こっちは一昨日のだ。今読んでんのは昨日の分」バサ

黒潮「新聞が、週に二回しか来ないんも不便やなあ」

大淀「仕方ありません、離島に毎日物資を届けていたら、それだけで輸送費が馬鹿になりませんから」

提督「そういうこった。そもそもパラオやらトラックやらの泊地への輸送がメインで、うちに来るのはそのついでだしな」

大淀「ですが、それもこの鎮守府の近海が安全になったことで得られた結果ですよ」

提督「前から言ってんだが、そりゃル級のおかげの方がでけえんじゃねえの?」

大淀「ま、まあ……ル級さんも、はぐれたり損害を受けて海域に入ってきた駆逐艦や潜水艦を、保護して余所の海域に送り届けてるみたいですし」

大淀「深海棲艦にとっても、非交戦地帯になりつつあります。私たちとしても望ましいと思いますよ」

黒潮「イ級とか、あの見た目でも話が通じるんやな……」

提督「ま、安全になったからって輸送艦が毎日来るようになったら、ル級も気軽にこっちに来れねえからそこは善し悪しだな」バサッ


大淀「提督、ニュースが見たいのでしたら、衛星通信のネットワーク機器を置いてもらうよう申請しましょうか」

提督「できりゃいいがな。ともかく中佐が邪魔だ……あの野郎、なんでかんでうちに通信機器を置かせるのだけは邪魔してくるからな」

提督「同じ理由で小型の船舶の申請も握り潰されてる。俺をとことんこの島に封殺しておきたいんだろうけどよ」ケッ

大淀「ゴムボートすらありませんからね。提督、泳げませんよね?」

提督「ああ。何やっても沈むから諦めた」

黒潮「沈むて……」

大淀「……救命胴衣も申請しておきます」

提督「まあ、そうそう必要にはならねえだろうがな。当分は島を離れるつもりもねえし」

提督「離れるとしたら……いや、それもねえか。死んだら骨を埋めるのもこの島だな」

大淀「提督?」ジトメ

提督「別にいいだろ、何十年後の話をしても。老後の話も駄目なのかよ」

黒潮「それはそれで気が早すぎると思うで~?」ニガワライ

大淀「むしろ、何かといえば自殺したがる提督の口から老後なんて言葉が出るとは思いませんでしたよ?」ジトメ

提督「おう、自分でも寝言言ってんなーって感じだ。寝ながら仕事してんじゃねえの? 俺」

大淀「またいい加減なことを……」アタマカカエ


提督「なんにしてもだ、この島に引きこもってる分には気楽でいい。余所みたいに外野が口を出したり勝手に入ってきたりしねーし」

提督「妖精と話してても変な目で見られねえから、そういう意味でもこの島から出たくねーな」

黒潮「司令はん、とことん人間嫌いやな……」

提督「おうよ、好かれたくもねえし、注目されたくもねえ」

提督「そういや中佐の鎮守府で、テレビの取材班が来た直後に盗聴器が見つかって騒ぎになったって、赤城が報告がてらぼやいてたぞ」

黒潮「うえええ……」

提督「いらねえ首を突っ込みすぎなんだよ、奴らはよ。スクープと視聴率しか頭にねえからな」

大淀「艦娘の報道が過熱したせいで、メディアクルーの乗った船が沈められた事件も起きましたし……」

提督「ざまあ」

大淀「提督……?」ジロリ

提督「報道してたのは連中だ、海が危険なのはわかってたはずだぞ。痛い目見てちったあ学習しやがれってんだよ」

提督「そもそも他人の不幸で飯食ってる連中だ、飯の種ができて良かったなって言ってやりてえくらいだ」

提督「どうせその件も、反省しないで被害者ぶって海軍に責任転嫁するんだろうからな。救えねえ」ケッ


黒潮「なんか……責任感じるわ」シュン

提督「黒潮、お前が落ち込む必要はねーぞ。早かれ遅かれ、艦娘の存在はメディアにも知れ渡っただろうさ」

大淀「あの中佐が一枚噛んでいたとなれば、報道規制の解除も時間の問題だったんでしょうね」

黒潮「……うん」

提督「とはいえ、空母棲姫の一件のときはあんなに行動が早いと思わなかった。正直、侮ってたぜ……くそ」

提督「いくら赤城がいるっつっても、頼りっきりは良くねえな。少し考えねえと……」

 扉<コンコン

敷波「司令官、いるー?」

提督「おう、入っていいぞ」

敷波「はーい、司令官、ちょっと来てもらってもいい?」チャッ

提督「何かあったのか?」

敷波「うん。また砂浜に艦娘が漂着したんだけど……」


 * 入渠ドック *

電「あ、司令官さん! 黒潮ちゃん!」

提督「よう、敷波から聞いたぜ、お前が見つけたんだってな」

黒潮「五十鈴さんと筑摩さんやて?」

電「なのです」

提督「敷波もあまり慌ててなかったみたいだが、怪我の程度はそこまで深刻じゃないんだな?」

電「はい、小破した五十鈴さんとはドックへ来る途中に少しお話ししました。司令官さんともすぐお話しできると思うのです」

提督「筑摩の具合はどうだ?」

電「筑摩さんは中破でした。ただ、かなり疲れてるみたいで、いまはぐっすり寝てるそうです」

提督「そうか」

黒潮「五十鈴さんたちがここに漂着してきたんはなんでか聞いてる?」

電「詳しくは聞いていないのですが、鎮守府が差し押さえられたらしいのです」

提督「は?」

黒潮「差し押さえ? ……赤札でもべたべた貼られとったんかな」

電「そういうことみたいなのです」

黒潮「えええ……」


 * それから1時間後 *

五十鈴「五十鈴です」ペコリ

五十鈴「まずはお礼を言わせて。私たちを助けてくれて本当にありがとう」

提督「おう。とりあえずどこの所属で、なんで漂流してきたか、話してくれるか」

五十鈴「ええ。まず、私と筑摩さんは利提督の鎮守府に所属していたわ」

提督「所属していた、ってことは、過去形か?」

五十鈴「そこはちょっと希望的観測も入っているんだけど……」

黒潮「確定しとらんの?」

五十鈴「そうよ? だって私たち、鎮守府から逃げてきたんだもの」

黒潮「逃げた!?」

電「……のですか!?」

五十鈴「それでなんだけど、ここの提督さん……提督准尉さんだったかしら。私たちのことはもう本営には伝えてる?」

提督「いいや、まだだが?」

五十鈴「そう、それなら良かった」ニコ

五十鈴「これは私の個人的なお願いなんだけど、私をこの鎮守府の艦隊に加えてもらえないかしら?」


提督「それがお前の望みか」

五十鈴「ええ、そうよ」

黒潮「ふーん……」

電「ということは、あの質問はしなくていいですね?」

提督「まあ、そうだな」

五十鈴「? どんな質問をしようとしてたの?」

提督「お前は生きたいのか死にたいのかどっちだ、ってな」

五十鈴「何その質問……」ヒキッ

提督「自殺志願者は相手にしないことにしてんだよ」

提督「どうしてあの時に殺してくれなかった、なんて逆恨みされても困るからな。死にたい奴は相手にしたくない」

五十鈴「だったら私は死ぬ気はないわよ?」

電「それなら歓迎するのです! ですよね司令官さん!」パァ

提督「ああ」


黒潮「……なあ司令はん。二人がなんで鎮守府から逃げてきたか、訊いてもええ?」

提督「そうだな。話せるか?」

五十鈴「ええ、勿論よ」コク

五十鈴「とりあえず何から話せばいいかしら。私たちの鎮守府はかなりの大所帯だったの」

五十鈴「200人近い艦娘が朝も夜もなく出たり入ったり、せわしないながら戦果をあげてる鎮守府だったわ」

五十鈴「内容としては、大きな戦果をあげるんじゃなくて、地味で小さな戦果をこつこつ積み上げていくタイプね」

電「それはそれで重要な役割に思えるのです」

五十鈴「そうね。でも、あの日……本営が艦娘の存在をテレビで発表してから、いろいろとおかしくなっちゃったのよ」

黒潮「テレビやて……?」

五十鈴「そう。話を戻すけど、利提督鎮守府の主なお仕事は、近海のパトロールや遠征航路の調査と護衛……」

五十鈴「漁船とそれに随伴する護衛船への帯同とか、地味なお仕事が多かったの」

五十鈴「海軍が活動するうえで重要な活動のはずなんだけど、それだけに軽視されて注目されてなかったのよね」

電「聞く限り裏方さんのお仕事ですからね……」


五十鈴「でも、その甲斐あって民間には良い感じに見られてたみたいでね」

五十鈴「艦娘の存在を隠さずに済むようになってからは、地元の人たちに感謝されてたらしいのよ。挨拶とかもしてもらったし!」ニコニコ

五十鈴「ただ、その後が問題で……」ウーン

電「……そこからがテレビの話ですか?」

五十鈴「そう。テレビ局から取材が来たもんだから、利提督が舞い上がっちゃって。俺の時代が来たとか言って、まあ大騒ぎ」

五十鈴「主力の艦隊引き連れてテレビの取材に応じたり、出演料? とかを貰ってどっかで飲んできたり……」

五十鈴「利提督の私生活も派手になっちゃって、出撃も厭世も疎かになってきて」ハァ

五十鈴「結果的に利提督鎮守府の資金繰りが厳しくなって、利提督もどこで作ったのかわかんない借金が増えてて」

五十鈴「主力の艦娘がどんどん引き抜かれて、鎮守府の施設や備品もどんどん差し押さえられて、利提督も雲隠れしちゃって」

五十鈴「このままこの鎮守府にいたら艦娘も売り飛ばされるなんて話が出て、利提督鎮守府はもう滅茶苦茶」

五十鈴「それで私も、お世話になった筑摩さんと一緒に逃げてきたってわけ」

電「それで差し押さえなのですか……」

黒潮「……なんでや……」

五十鈴「なんでって……」

黒潮「なんでこんな大事になっとん……」ウナダレ


黒潮「やっぱりうちがあんなことせんかったら良かったんかあああ!?」

五十鈴「ちょっ、どうしたの!?」

電「く、黒潮ちゃん落ち着くのです!?」

提督「おい黒潮。艦娘がテレビに出ることになったことを自分のせいだと思ってんなら、そりゃ違うぞ」

黒潮「違うもんかい! うちのせいで大事に……」

 ガシッ

黒潮「い」アタマツカマレ

提督「……いいか黒潮? もう一回言っとくぞ?」

提督「お・ま・え・の・せ・い・じゃ・ね・え」ジロリ

黒潮「ヒィ」ミシッ

提督「返事は」

黒潮「ワ、ワカリマシタ」

提督「またくだらねえこと言い出したら、てめえの頭を握り潰すぞ」パッ

黒潮「ハヒ……」ガクブル

電「司令官さん……」アタマオサエ


提督「ったく、説得すんのも面倒臭えな」

五十鈴「それ、説得って言うの?」ヒキッ

提督「気にすんな。込み入った事情のある艦娘ばっかりなんでな、ちいと自虐が過ぎる奴も多いんだ」

提督「今の黒潮みたいに自分が原因じゃねえのにぐだぐだ言う奴は、無理矢理にでも前を向かせねえと駄目だな」ハァ

五十鈴「ネガティブな発言はしないほうがいいってこと?」

提督「いいや? 弱音吐きたいなら吐いてもいいさ、ただ、それに対する俺からのフォローに期待はすんな」

五十鈴「まあ、いいけど。せっかく生き残ったんだし、どうせなら前向きに……あ」

提督「? どうした」

五十鈴「確認したいんだけど……この鎮守府に、私以外の五十鈴はいるの?」

提督「いいや? お前と同じ顔は見たこと……なくは、ねえか。生きてるお前は初めてだな」

五十鈴「ちょっ……それ、どういう意味!?」

提督「あの浜に流れ着いてくる艦娘は珍しくねえが、お前らみたいに生きて流れ着いてくる奴らは珍しいんだよ」

五十鈴「うえぇ……!?」


黒潮「五十鈴はん、墓場島て聞いたことある?」

五十鈴「墓場島? き、聞いたことはないわ。物騒な名前ね……もしかしてここがそうなの?」

提督「ああ、この島がそう呼ばれてんだよ。この辺の潮流が特殊なせいで、轟沈した艦娘がよく打ち上げられてくるんだ」

電「司令官さんは、轟沈した艦娘をこの島の丘に埋葬しているのです。それでこの島は墓場島と呼ばれるようになりました」

提督「お前に似た奴も、埋葬したような記憶がある。同型かどうかはしっかり覚えてねえが……多分埋めてるな」

五十鈴「……」

黒潮「いや、埋めてるて、その言い方……五十鈴はんめっちゃ引いてるで」

提督「しょうがねえだろ。他に言い方あるか?」

電「司令官さんの発言にオブラートなんて気の利いたものはないのです」ハァァ

五十鈴「……ほんと、予想してたよりもひどい回答が返ってきて、正直ドン引きしてるんだけど……」

五十鈴「とにかく、私はここで普通に生活してもいいわけね?」

電「それは勿論なのです。ですよね、司令官さん」

提督「ああ」


黒潮「……」

電「? 黒潮ちゃんはどうしたのです?」

黒潮「うん? ああ……ちょっと失礼なこと、言ってしまうけど……」

黒潮「五十鈴はん、自分のいた鎮守府がえらいことになってんのに、あんまり悲しんでる感じやないよね?」

五十鈴「そうね。悲しいかって訊かれたら、私はそれほどでもないかしら」

五十鈴「仮に鎮守府が存続していたとしても、私はいずれ解体されてたわけだし」

提督「おい……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どういう意味もなにも、私、もう少し練度が上がったら、解体される予定だったのよ」

黒潮「!?」

提督「なんだそりゃ!?」ガタッ

五十鈴「そんなに珍しい話かしら。特定の艦娘は、改装すると珍しい装備が出来上がるの」

五十鈴「私の場合は電探なんだけど、それを作る方法がないから、数を手に入れるには五十鈴をたくさん改装するしかないのよ」

五十鈴「で、改装が終わって装備が手に入ったら、解体して資材にするか、近代化改装で他の艦娘の強化に使われるか」

提督「……」


電「司令官さん、五十鈴さんも言ってますけど、これはそんなに珍しい話じゃないのです」

電「大淀さんが悩んでいた解体任務も、これを見越しての話という説もありますし……」

五十鈴「私も他の五十鈴が解体されたりしてるのを見てきたから、ああ次は私の番かあ、って感じで割り切ってたつもりだったんだけどね」

五十鈴「でも、この鎮守府に私以外の五十鈴がいないなら、私が頑張らせてもらってもいいんじゃない?」ニコ

電「それは……そうなのです」

提督「……」

黒潮「解体される自分を見てきてたから、ここまで達観できてたってことやろな……」

提督「ま、いいけどよ……」ムスッ

黒潮「司令はん、そうは言うけどそのしかめっ顔……」

提督「気に入らねえってだけだ、くそが」ハァ

五十鈴「そこまで悲観することかしら。准尉さんも艦隊に同じ艦娘が二人以上になったこと、あるでしょ?」

提督「いや、うちの鎮守府の中ではねえな」

五十鈴「あら、そうなの?」


提督「とはいえ、確かに同じ艦娘が複数いるのは確かなんだよな。余所の鎮守府の長門や金剛や明石も見たし、利根や吹雪も見た」

提督「艦娘が最初から記憶を持っていて、かつ複数存在するのは、神霊の分祀によってできる説に似通ってる」

提督「同じ神様でも祀られ方によって性格が変わってくるのと似たようなもんで、艦娘に個性が出るのもその一環だとな」

提督「だからたくさん同じ艦娘が存在するし、仁提督が言っていた『艦娘を備品と思え』ってのも、そういう意味では一理ある」

提督「個人的には、受け入れたくはねえがな……」

電「司令官さん……」

黒潮「五十鈴はん、筑摩さんも同じ何人目かの筑摩さんなん?」

五十鈴「それは違うわ。利根型は筑摩さんは一人しかいなくって、利根さんは一人もいなかったの」

五十鈴「五十鈴は何人いたかしら。私の前に10人はいたと思うけど」

提督「偏ってんなあ……」

黒潮「この鎮守府も負けず劣らず偏っとると思うけどなあ?」

電「なのです」

提督「最後にもうひとつ訊いていいか? お前が鎮守府を抜け出してからその道中、羅針盤は見たか?」

五十鈴「羅針盤? 逃げてすぐは余裕がなくって見てなかったけど……その後で見ても全然あてにならなかったわ」

五十鈴「針がぐるぐる回ってて、どこへ行ったらいいかわからなくって」


五十鈴「二回だけかしら? 針がピタッと一方向を指すときがあったけど、その時以外は全然駄目」

提督「……ということは、もう元の鎮守府とは縁が切れてんだな」

五十鈴「え。なにそれ。そんな仕組みなの!?」

提督「所属する鎮守府から離反した奴はそうなるんだとよ」

黒潮「多分、その針が一方を向いたときも、危険が近づいたから近づくなって警告したんやろなあ」

五十鈴「初めて聞いたわよそんなの……」

提督「そりゃ、鎮守府から追放されなきゃ知る由もねえさ。うちの鎮守府には経験者が数人いるからわかる話だ」

五十鈴「数人……って、そんなに追放されてるの!? そんなこと何度も起こったら駄目でしょ……?」

提督「うちはうちでそういうのしか集まってこねえんだよ。こっちもこっちで偏ってんだ」

五十鈴「鎮守府と聞いて安心してたけど、想像以上にとんでもないところなのね、ここ」ガックリ

提督「まーな。まあ、ここに来たんなら、これ以上は悪くならねえようにするから、そこまで悲観すんな」

電「俗にいうブラックな鎮守府じゃないので、そこは安心してほしいのです」

提督「とりあえず誰かに鎮守府を案内させるか。電、誰か適任はいるか?」

電「同じ長良型の由良さんがいいと思うのです」

提督「由良? ……あいつと同型なのか? 制服が似てねえな」


電「長良型は一番艦から三番艦と、四番艦から六番艦までで建造時期に間があるのです」

電「五十鈴さんは長良型の二番艦、由良さんは四番艦なので、建造時期の差が制服の違いになってるのです」

提督「ふぅん……」

黒潮「ほな、由良はんと利根はん呼んでくるとええんかな?」

五十鈴「えっ、利根さんいるの? 良かった、筑摩さん喜ぶわ!」パァッ

提督「随分嬉しそうだな」

五十鈴「ええ! 筑摩さんには利根さんの身代わりにされてたし、私もやっと解放されるのね!」ルンルン

提督「……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どうって、そのままの意味よ? 私は利根さんの代わりにされてたの」

黒潮「まあ、確かに髪型はおんなじ感じやしねぇ」

五十鈴「一緒にご飯食べたりお風呂入ったり、寝るのも一緒で大変だったの。利根さんがいるなら安心ね!」

提督「……」

黒潮「……なんか、話しぶりから普通やない感じがするんやけど」

電「大丈夫なのですか……?」



提督「ところで、なんで五十鈴にははん付けで、筑摩はさんづけなんだ?」

黒潮「んー、筑摩さんとはまだ面と向かって話してないし、親しくもなってないしなあ」

電「じゃあ、電も電はんって呼んでもらえるですか!?」キラキラッ

黒潮「うんにゃ、同じ駆逐艦にはつけへんよ? 目上の人限定や」

電「」ガーン

今回はここまで。
利根とは違う意味で死の宣告を受けていた五十鈴の登場です。

既に二次創作ではだいぶ使い古された話ですが、
五十鈴の話の元ネタは皆さん御存知の電探増殖です。私もやりました。
那珂ちゃんの解体と同じくらいメジャーなネタではないでしょうか。

雑談するときはメール欄に sage と入力していただけるとありがたいです。

では続きです。


 * 午後 入渠ドック *

利根「明石! 筑摩が入渠しているそうじゃな!?」

明石「はい、来てますよ! 筑摩さんのいた鎮守府の話とかは聞いてます?」

利根「うむ、同行してきたという五十鈴から聞いておる。筑摩も、大変なところから逃げてきたのじゃな……」

明石「体の傷は治りましたから、ドックのプールからは出ましたけど、だいぶ疲れてるみたいでして、今はベッドに寝てもらっています」

明石「目を覚ますのは夕方くらいになるかもしれませんね」

利根「うむ、それも聞いてはおる」

利根「とはいえ、吾輩の可愛い妹じゃ。居ても立ってもいられなくなってな、寝顔だけでもと見に来たんじゃ」

明石「それもそうですよねえ」ニコー

利根「案ずるな、寝た子を起こすような真似はせん。少しだけ入らせてもらうぞ?」

明石「ええ、どうぞどうぞ!」


 * 入渠ドック内 医務室 *

利根(……こちらか)

筑摩「」スヤァ

利根(うむ。筑摩だ……間違いない)カオヲノゾキコミ

利根(……筑摩との再会を願ってはいたが、この島へ逃げ込まざるを得ない事態に追い込まれたのはいただけん)

利根(もっと違う形で……海上で見つけられれば、多少は良かったのかもな……)

筑摩「……ね……さん……」ムニャ

利根(目覚めたら、うんとねぎらってやらねばな)

利根「……ちくま。今はゆっくり休むのじゃ……」ヒソッ

筑摩「ん……」スヤ…

利根(笑っておる……可愛い寝顔じゃな)ニコ

利根(筑摩の顔も見られたし、長居は無用。戻るとするか)クルリ

 グッ

利根「うん?」

 (利根の服の裾を掴む筑摩)

筑摩「姉さん……」


利根「お、おお、起こしてしまったか。すまんな、ちく」

 グルンッ

 ドサッ

利根「……ま?」

利根(なんじゃ!? 何が起こった!)

利根(筑摩の手に引っ張られたと思ったら、抱きかかえられてそのままベッドに転がされて……)

筑摩「うふふ……利根姉さん……!」

利根(筑摩に、覆い被さられておる……!)

利根「の、のう、筑摩? これはいったい」

筑摩「逢いたかった……」

利根「……」

筑摩「逢いたかったです、利根姉さん……!」ニコ…

利根「う、うむ、そうじゃな! しかし筑摩、どうしてお前は吾輩の両腕を押さえつけて」

筑摩「利根姉さん……!」ス…ッ


利根「お、おい!? ちく」

 ヴチューーー

利根「……ちくま?」

筑摩「んもう、ひどいです姉さん、寸前に横を向くなんて」

利根「頬に吸い付きながら喋るでない」

筑摩「そうですか。では改めて」スッ ンチューー

利根「ふおお!?」バッ

筑摩「利根姉さん、じっとしててください。キスできないじゃないですか」チュッチュッチュッチュッ

利根「するでない! というか顔中にキスするなと言うておるのだぞ!?」キスマークマミレ

筑摩「え……?」

利根「なんじゃその信じられないとでも言いたげな顔は」

筑摩「普通ですよね?」チュッ

利根「普通でないわ!」バッ

筑摩「もう、利根姉さんったら、そんなに照れなくてもいいんですよ?」ググググッ

利根「照れておるとかそういう問題ではないっ!」ギリギリギリ

筑摩「そう、問題はなにもないんです。利根姉さん、さあ……!」ンチューー

利根「さあではないわーーーーー!」

明石「んもー、何をうるさくして……うわあ、お取込み中でしたか。ごゆっくりどうぞー」パタム

利根「待つんじゃ明石いいいいいいいい!!」ギリギリギリ


 * それからしばらくして *

筑摩「初めまして、利根型重巡洋艦二番艦、筑摩です」ニコニコ

提督「……」

明石「……」チラッ

提督の背に隠れる利根「……」コソッ

五十鈴「……提督?」

提督「ん、ああ。こうやって見てる限りはまともだな?」

五十鈴「まあ、こうやって見る限りはね……」

利根「……」チラッ

筑摩「!」キラキラキラッ

利根「」ビクッ

五十鈴「……」

提督「前言撤回。ものの見事に利根を見るときだけ目が光り輝いてんな……」

明石「こんなマンガみたいな展開、本当にあるんですねー……」


利根「提督よ……吾輩は、姉の唇を奪いに来る妹が世の中に実在するなんて聞いておらんぞ?」

提督「俺だって想定してねえよ。この鎮守府で姉妹でくっついて歩いてる連中だって、姉妹同士でキスするような間柄じゃねえ」

五十鈴「くっついて歩いてる……って、例えば誰が?」

提督「ぱっと思い付くのは金剛と比叡、暁と電、あと朝雲と山雲くらいか?」

提督「まあ、くっついてとは言ったが、普段から手をつないでるわけでもねえし、ずっとべたべたしてるわけでもねえ」

提督「扶桑の後をくっついて歩く山城も、物理的に触ってるわけじゃねえし……」

提督「ん? 待てよ? くっつかれてるのって、俺だけか?」タラリ

明石「今頃気付いたんですか。まあ提督はまだいいですよ、提督は男で艦娘は女だし、生物学的には普通ですよ。普通」

提督「我ながら示しがつかねえな……」アタマカカエ

明石(雲龍さんと龍驤さんはいつもべったりですけどね)

利根「ま、まあ、提督は仕方なかろう。艦娘同士ではさすがに……」

明石「……なくはないんですよねえ、今回みたいなケースも」

提督「あんのかよ」

明石「当然個人差はありますよ。こちらの筑摩さんも、利根さんに執着する理由があると思うんですけど」

五十鈴「それはあるわよ、当然だけど」

提督「あんのかよ……」


明石「例えばどんなですか?」

五十鈴「例えばも何も、利提督鎮守府には利根さんが来なくって、筑摩さんがずっと寂しがってたの」

五十鈴「それで、五十鈴が利根さんと髪型が似てるから、居ない間の身代わりみたいにされてたわけなんだけど……」

五十鈴「その五十鈴が育てられるたびに電探剥ぎ取られて、近代化改修に回されたり、そうでなければ解体でしょ?」

五十鈴「育てた端から解体されて、新しい同じ顔の艦娘を育成して……」

提督「賽の河原かよ……」

明石「どこから出てきたんですか、それ」

提督「ああ? 小さい子供が死ぬと賽の河原で石を積まされるんだよ、親不孝だからってな。一つ積んでは親のため、って、知らねーか?」

提督「で、積んでも積んでも獄卒が途中で倒すから、また最初からやり直し。そういう地獄があるってのを思い出しただけだ」

明石「地獄って……」

提督「地獄だろ。五十鈴は五十鈴で自分が解体されることを諦観して当然のように振る舞ってるし」

提督「筑摩は筑摩でさっきから一言も発さず、にこにこしながら利根をガン視してるだけなんだぞ」

筑摩「……」ニコニコ

利根「ヒィ」


提督「まともな鎮守府だったのか? 利提督とやらの治める鎮守府は」

明石「どうでしょうね~。私もまともじゃない鎮守府にいましたから、まともの基準がわかりませんね。利根さんもそうでしょう?」

利根「う、うむ、吾輩が艦娘として活動できているのはこの鎮守府に来てからじゃからな」

提督「おい」ヒソッ

明石「どうしました?」

提督「昔話はその辺にしとけ。今の話で筑摩の目の色が変わったぞ」ヒソヒソ

筑摩「……」ギラリ

明石「……」

利根「……」

提督「あの様子じゃ利根の昔の鎮守府に殴り込みしに行っちまうかもしれねえな」

明石「も、もう少し落ち着いてから話したほうが良さそうですね」アセッ

提督「……仕方ねえ、長門と武蔵を呼ぶか」

明石「せ、戦艦のお二人ですか!?」

提督「出撃させてねえからいいだろ。長門は利根の事情を知ってるし、武蔵にはこの鎮守府のことを知ってもらういい機会だ」

提督「何かあったときに止められるかって意味でも、戦艦二人はオーバーじゃねえと思うが?」

提督「そもそも利根が俺の後ろに隠れるような状態だからな。でかいやつに守ってもらった方がいいだろ」

利根「う、うむ……」ビクビク

提督「俺はどうしようかねえ……筑摩を説得する方法でも考えるか?」

提督「何やっても藪蛇にしかならねえような気もするが……」

明石(そこまでわかってて、どうして愛情がわからないとか言い張るんですかねえこのひとは)ハァ…


 * *

霧島「姉妹でキスは一般的か……ですか?」

金剛「Hmm... Europe では、姉妹なら頬にするのが一般的デスネー」

金剛「夫婦や恋人でしたら mouth to mouth も普通デスけれど、姉妹の間でそこまでしたいと言われたら、私も少し心配になりマス」

提督「なるほど。霧島も意識に大差はないか?」

霧島「そうですね。お姉様たちをお慕いしてはいますが、だからと言ってキスをする文化は私たちにはありませんし」

霧島「それこそ金剛お姉様が常日頃から仰っている、時間と場所を弁えた行いだと思えません」

提督「……弁えなくてもいい時だったらどうだ?」

霧島「!? い、いえ、そうであってもそれはさすがに……!」マッカ

提督「だよなあ」

霧島「……し、司令、からかわないでいただけますか……!」

提督「からかっちゃいねえよ、むしろそういう場面だったらどうだったかって意味でも訊いておきたかったんだ」

霧島「そこまでの話なんですか!? それは深刻ですね……」


金剛「Hmm, おそらく筑摩が利根に向けた思いは、なかなかheavyなようデスネ」

 <コンゴウオネエサマー!

金剛「!」

比叡「お料理教室、終わりましたー!」コンゴウニダキツキー

金剛「Oh, 比叡は甘えん坊さんデスネー」ナデナデ

榛名「提督もいらしてたのですね!」

提督「ちょっと調べたいことがあってな」

金剛「さあ、比叡も榛名も tea time にしまショウ!」

比叡「はいっ!」スリスリ

提督「比叡は犬みてえだな……」

霧島「比叡お姉様は金剛お姉様を大変慕っておいでですが、やはり……」

提督「筑摩の態度は度が過ぎてる、ってことだよな?」

霧島「その認識で間違いないかと」

榛名「?」


 * *

那珂「姉妹艦で……そ、そんなことしないよ!? 絶対しませーん!」ブンブン

提督「だよなあ」

神通「あの、どうして私たちにそんな質問を……?」

提督「筑摩が利根にキスを迫ったんだよ。それが普通かどうかってのを聞き込みしたくてな」

提督「お前らには最初っからそういう答えを期待してて訊いたんだ。川内はよくわかんねえが、那珂も神通も常識的だし、貞淑でもあるしな」

那珂「貞淑……うわー、なんか品のある響き……!」ポ

提督「ま、那珂の場合はアイドルっつう肩書がある分、なおのことその手の話は御法度ってのもあるだろうが……」

那珂「提督さん、那珂ちゃんにそういう要素を求めてるんだ……!」モジモジ

提督「うん? 俺はそうだろうなと思っただけで、別にお前に貞淑さを求めてるわけじゃねえぞ?」

那珂「え? そうなの?」

提督「俺は那珂が何をセールスポイントにしてもかまわねえと思ってる。歌でも色気でも愛想でもな」

提督「どうせなら、那珂が好きなことややりたいことをやれりゃいいな、って思ってるだけだ」

那珂「提督さん……!」パァッ


提督「あー……ただ、俺個人の好みで言やあ、無知そのものを売りにするのはちょっとな……」

提督「わかってて馬鹿な真似ができるのは構わねえが、馬鹿を曝け出して受けを狙うのは恥でしかねえ」

提督「あ、それから飯の食い方が汚いのも勘弁だ。見苦しくない程度の教養とマナーくらいは身に着けててくれると、俺としては嬉しいかねえ」

那珂「はいっ!」ビシッ

提督「変なこと訊いて悪かった。邪魔したな」

神通「いえ……」

那珂「お疲れ様でーす!」フリフリ

神通「……」

那珂「えへへ……そっかぁ、提督さん、ちゃんと那珂ちゃんを見ててくれてるんだ……」テレテレ

神通「……」

那珂「……神通ちゃん?」

神通「……貞淑……」マッカ

那珂(あー、これ、神通ちゃんも脈ありってことなのかなあ)


 * *

山城「姉妹で……んななな、んなぁああああ!?」

山城「そんなことしたら死ぬに決まってるでしょう!?」

提督「死ぬ……?」

山城「そうよ! 私が! 嬉しさで!! 心臓が破裂するわ!!」

提督「……」

山城「何よ、大袈裟だって言いたいの!? 私は大真面目よ!?」

山城「そうでなかったとしても、鼻血程度で済めばいいわ! あの麗しい扶桑お姉様の唇の柔らかさと色気漂うつや……!」

山城「私の唇と触れ合おうものなら、きっと幸せのあまり昇天して帰ってこられなくなるわ……!!」アワワワ…

提督「……」

山城「はっ! ちょっと提督、あなた扶桑お姉様に同じことを訊くつもりじゃないでしょうね!?」

山城「あああ、怖い! 怖いわ! 扶桑お姉様が私にキスするところを想像させるなんて……」

山城「頬を赤らめて恥じらう扶桑お姉様なんて、想像しただけで……なんて、なんて絵になるの……芸術よ!?」カァァ

提督「……」


山城「……いえ、でも、もし! もしもよ!? 姉妹同士でキスだなんてと嫌悪感をあらわにでもされたら……いやあああああ!」ウズクマリ

山城「この私が扶桑お姉様にキスだなんてよこしまな妄想をしてしまったら……幻滅して、嫌われてしまわれても無理はないわ……!」

山城「あああ扶桑お姉様ごめんなさい……! この山城が不埒な妹であるばかりに……はっ! 妹でなければいいの!?」

提督「……」

山城「いいえ何を血迷ったことを言うの山城! 私は紛れもない扶桑型超弩級戦艦よ!?」スクッ

山城「この私が扶桑お姉様との縁を断つだなんて天地がひっくり返っても起こしてはならないことだわ!」

山城「そう、この山城……戦艦扶桑の妹の使命として、扶桑お姉様の唇を何人からもお守りしなければ……!」

提督「……」

山城「提督! 今の話、扶桑お姉様には絶対にしては駄目よ!? いいわねッ!?」ビシッ!

提督「まあ、いいけどよ……お前すげえな」タラリ

山城「は?」


 * *

三隈「普通ではありませんね。変だと思います」

提督「言い切ったな」

三隈「はい」

最上「僕もそう思うよ。そこまで行くと普通の姉妹の関係じゃないと思うなあ」

提督「……普通じゃない、ねえ」

三隈「例えばですけれど……」

 (最上と手をつないで見せる三隈)

三隈「提督、いかがです? 今の私たちはおかしく見えますか?」

提督「……見た目の年相応かと言われると微妙だな。まあ、仲が良い程度には見えるか」

最上(手が恋人握りになってるんだけど……)

三隈「それでいいと思いますわ。今の私たちを見て不愉快に思われる人もいるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるでしょう?」

三隈「当人がまともだと主張するより、皆さんから見てどうかのほうが重要だと思います」

提督「……だとすると、筑摩の利根に対する態度も許容する奴はいるってことか? 難しいな」

三隈「はい。ですが重ねて申し上げますけれど、私の主観としては姉妹でキスするのは変だと思いますよ?」


三隈「例えばですけれど、こうやって腕を絡めたり……」ギュ

最上「!」

三隈「肩を寄せ合ってぴったりくっついたりしてるだけで、提督もくっつきすぎだって思うでしょう?」ピト

提督「……最上はどう思うよ」

最上「えっ? い、いや、ちょっと照れるかな……三隈にこうやってくっつかれたこと、今までなかったし」

提督「なるほど……」

三隈「……これ、いいですわね」

最上「三隈?」

三隈「……私、気付いてしまったんです」

三隈「部提督が最上さんにセクハラするのを忌々しく思っていたのは、嫉妬していたからだって」

最上「へ?」

三隈「最上さんが他の人に好き勝手されるのを嫌だと思う感情が、嫉妬ではなかったらなんだと思います?」ズイ

最上「そ、それは……」

三隈「……」ジーッ

最上「……」

 チュッ

最上「ひょわあっ!?」ホッペオサエ


三隈「……やっぱり変ですわ」フゥ

提督「三隈?」

三隈「私、やっぱり最上さんのことが普通じゃないくらい好きみたいです」

最上「え、えええ!?」

三隈「だって最上さんは私にキスされてこんなに驚いてらっしゃいますもの。私の好きの表現は、最上さんにはきっと普通ではないんでしょう」

三隈「そして、普通ではないことが変だというのなら、私は変だと言えますわよね?」

提督「そうかもしれねえが……お前は自分を自己否定すんのか?」

三隈「いいえ、自己否定しているつもりはありません。私は私が変であることを受け入れているだけですわ」

三隈「提督も、妖精さんとお話しできるのが自分だけだと気付いたときに、自分が他人とは違うと認識なさいませんでした?」

提督「……確かに、変だとは思ったな」

最上「なんていうか、提督が妖精さんと話せるのを『変だ』って思うのは嫌だなあ。いや、単に言い方の問題だけどさ?」プー

三隈「最上さんはお優しいんですね」ウフフ

提督「……」

三隈「なんにしても、行動であれ思想であれ、他人を不愉快にさせない思い遣りを持てば、何事も問題ないと思いますわ」

三隈「私の最上さんに対する気持ちも、最上さんが受け入れられないのなら自重すべきでしょう?」


三隈「そうでないと、私の行為も、部提督やあの鎮守府にいた人たちと同じになってしまいます」

提督「拒まれたらどうすんだ」

三隈「その時は胸に秘めたままに致します。忍ぶ恋こそ至極なり、という言葉もありますし」

最上「僕がいる席でここまで言っちゃったら、忍ぶも何もないんじゃないの? ……まあ、いいけどさ?」

三隈「いいんですか!?」キラッ

最上「あー、うん……いいけど、いきなりチューはやめてよ?」

三隈「はい!」ニコニコ

提督「最上……いいのかよ」

最上「三隈のことは嫌いじゃないよ。ここまで好意を寄せられてるのは予想してなかったけど」

最上「でも、まあ……うん。やっぱり……僕は三隈のことを嫌いになりたくないしね」

三隈「それではお互い嫌いにならないように、少しずつ距離を縮めていきましょう?」ウデツカミ

最上「も、もうずいぶん近いと思うんだけどなあ……」テレッ


三隈「嫌なら振り払ってくださってもいいんですよ?」

提督「三隈……お前、最上が振り払えないってわかってて言ってるだろ?」

三隈「そんなことはありませんわ?」

最上「……うー……」

提督「お人好しってのは、こうやって篭絡されていくんだな。勉強になるぜ」ハァァ

三隈(そう仰る提督も大概だと思いますけれど)

三隈「あの、提督? だいぶ本筋から逸れましたけれど、筑摩さんは危険な状態にあると思いますよ?」

提督「……!」

三隈「筑摩さんは五十鈴さんを身代わりになさっていたんでしょう? そして、五十鈴さんは改装できる練度になるたび解体されたと」

三隈「筑摩さんは愛情を注ぐ相手を何度も殺されてきたわけです。私が筑摩さんの立場だったら、狂ってしまうかもしれません」

提督「一応だが、だからこそ戦艦二人を間に付けたんだが……」

三隈「心配ですわね……」

最上(僕はいつまで三隈に抱き着かれていればいいんだろう)セキメン

というわけで今回はここまで。

それでは続きです。


 * 夜 *

利根「……」

武蔵「利根、大丈夫か?」

利根「う、うむ……」チラッ

筑摩「どうしました? 利根姉さん」ニコッ

利根「い、いや、なんでもない」

武蔵「……」

利根「のう、武蔵よ……筑摩はいつ吾輩から視線を外しておるんじゃ?」

武蔵「……うむぅ……」タラリ

利根「こうも見つめ続けられると、そのうち吾輩の体に穴が開いてしまわないか心配になってくるぞ……」

長門「筑摩」

筑摩「はい?」

長門「……せめて話しかけられた時くらい、こちらを見ないか?」

筑摩「ええ、それはやぶさかではないのですが……」

筑摩「ついに出逢えた利根姉さんが愛おしすぎて、どうしても目を奪われてしまうんです」ポ

長門(これは聞く耳を持たないパターンか……)

筑摩「あ、武蔵さん、利根姉さんが見えないのでちょっと左に」

長門「筑摩……」ゲンナリ


 * 翌日の午後 執務室 *

提督「……」ゲンナリ

五月雨「提督、しっかりしてください!」

提督「いやもうやってられっかよ、もうマジで面倒くせー匙ぶん投げんぞくそがー」

五月雨「もう匙どころじゃなく投げ遣りじゃないですか!」

大淀「そんなにひどいんですか? 筑摩さん」

五月雨「は、はい、何かお願いしようとしても『忙しいから後でお願いします』って言われてもうそれっきりで」

五月雨「何が忙しいのかと思えば、利根さんをじーっと見てるんです」

提督「あいつ、昨晩も利根と一緒の部屋に寝るとか言って聞かなかったうえに、利根の布団に潜り込んできたらしいからな」

提督「利根が俺の部屋に飛び込んできて助けを求められたんで部屋を分けたら、今度は夜通し壁に耳を付けて利根が寝てるか聞き耳立ててたそうだ」

五月雨「……」

大淀「……誰から聞いたんですか」

提督「利根の装備妖精。あれじゃ利根も休んだうちにはいらないって嘆いてたぜ」


 扉< コンコン

黒潮「黒潮やー」

提督「おう、入れ」

黒潮「司令はーん、あれはあかんよー?」ガチャ

大淀「黒潮さん、今日は一日お休みのはずでは?」

黒潮「うん、だから筑摩はんたちが気になって見に行ったんやけど、あれはないわー」

黒潮「長門はんも言うてたけど、利根はんから絶対に20メートル以上距離取ろうとしてないんよ」

提督「一日経ってもそんな調子かよ……」

黒潮「なんか利根はんがトイレ行く時も、壁に耳付けて聞き耳立ててたって言うし?」

五月雨「」ドンビキ

大淀「」ドンビキ

提督「大淀はともかく、五月雨がこんな顔してるのは初めてだな」

五月雨「そ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!?」

提督「わかってるよ、んなことは……ん?」

 ドドドドドド バンッ!

白露「提督、大変だよ!!」

提督「……今度はなんだよ」

白露「筑摩さんが利根さんを連れ去ったって!!」

提督「あぁ!? 武蔵と長門はどうした!?」ガタッ

白露「長門さんがトイレに入ってる間に、武蔵さんが抜かれちゃったんだって!」


提督「っだああ、くそ! 武蔵に経験積ませるつもりが甘かったってか!?」

黒潮「ちゅうか、筑摩はん大和型を躱すとか何者なん……」タラリ

提督「大淀! 龍驤と雲龍に緊急連絡! 偵察機飛ばして筑摩を捜させろ!! 終わったら館内放送で全体連絡頼む!」

大淀「は、はいっ!」

提督「五月雨は五十鈴と一緒に筑摩を探せ! 五十鈴は由良と埠頭にいるはずだ!」

五月雨「わ、わかりました!!」

提督「白露! 武蔵たちが出し抜かれたのはどこのトイレだ! どっちに逃げた!」

白露「えっと、食堂の隣だよ! みんなの個室の方に逃げたって!」

提督「だとすると利根の部屋か!? 白露、利根の部屋はわかるな、急行しろ! 俺も行く!」

白露「了解! あたしに任せて!」ガシッ

提督「ん?」シラツユニツカマレ

白露「提督、しっかりつかまっててね!」ググッ

提督「お、おい、連れてけって意味じゃ」

白露「白露、出撃します!!」ダッ!

提督「ちょ待うおおおおおお!?」グイーー

 ドドドドドド…

五月雨「だ、大丈夫なんでしょうか……」

黒潮「あかんやろあれは……」アオザメ


 * 利根の部屋の前 *

 ドドドドドド…

白露「いっちばーーん!」キキーッ

提督「うおおおお!?」ガクーッ

白露「はー、はー……提督、着いたよ!」

提督「……じ、ジェットコースターかよ……乗ったことねえけど……」ゼーゼー

提督「け、けど、思ってたよりくっそ早く着いちまったぜ……」ヨロッ

提督「よし、入るぞ……」ドアノブテヲカケ

白露「うん!」

 扉<バンッ!

提督「利根!!」

 シーン…

提督「……」

白露「……誰もいないね?」

提督「ここじゃねえのか?」


白露「提督、隣が筑摩さんの部屋だっけ?」ガチャ

白露「こっちにもいないね……気配なーし」

提督「……どういうこった」

 ブルーン!

提督「!」

白露「あ、あれ見て、流星改! 多分龍驤さんのだよ!」

流星に乗った島妖精A「提督! あの二人は入渠ドックの方に向かったぞ!」

提督「ドックだと!?」

白露「なんでそっちに行っちゃったの!? 逆方向じゃない!?」

提督「筑摩は昨日来たばかりだ。道を間違えたってのも十分あり得る」

白露「そ、そっか……」

提督「それに筑摩は一緒に寝たがってたからな。ベッドがあるって意味ならそっちに行くのもわかるが……」

白露「でも、個室はないよね?」

提督「個室?」

白露「うん。二人きりになりたかったんじゃないの?」

提督「……なるほど、だとすると他人に邪魔されずに済む場所か」

白露「うーん……どこだろう?」

提督「個室……個室……そうか! あったぞ白露……!」

白露「え!?」


 * 個人用浴場の一室 *

 扉<バタン! ガチャッ

利根「んー! んむー!? ぷはっ、ち、筑摩! おぬし……!」

筑摩「……んふふふふ。利根姉さん……」ニィッ

利根「……」ゾクッ

筑摩「昨日はどうして、一緒にお風呂に入ってくれなかったんですか?」

筑摩「せっかく利根姉さんの背中を流してあげようと思っていたのに……頑なに拒否するんですもの。がっかりしてしまいました」

利根「……ならん」

筑摩「どうしてです?」

利根(吾輩は筑摩の姉じゃ……だからこそ、この体の傷は、見せられたものではない)

利根(姉が、妹に情けない姿を見せるわけにはいかん……!)

利根「吾輩の裸は、誰にも見せられん。見せたくないんじゃ……!」

筑摩「妹だとしてもですか」

利根「ああ」

筑摩「……」


利根「……」

筑摩「……」ハァ…

利根「……のう、ちく」

筑摩「姉さん」ガシッ

利根「ま……?」

筑摩「いけませんよ姉さん、姉妹の間で隠し事なんて」

利根「お、おい、ちく」

筑摩「私の利根姉さんは私に何でも打ち明けてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私を頼りにして甘えてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私にやさしく微笑んでくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私のことを可愛がってくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私をいつも気にかけてくれるんです」

筑摩「そうですよね、利根姉さん?」ニコッ

利根「……っ」ゾクッ

筑摩「そう、ですよね?」

利根「……」ジリッ


筑摩「大好きな大好きな利根姉さん」

筑摩「いつも前向きで朗らかで」

筑摩「ちょっぴりせっかちで子供っぽくて」

筑摩「私とずっと一緒にいてくれる」

筑摩「利根姉さんは、そういう艦娘ですよね?」

利根「……ちく、ま……」

筑摩「ですよね、利根姉さん?」

利根「ち……」

筑摩「私の利根姉さんは、きっと『さすが筑摩じゃ、よくわかっておるな!』と、褒めてくれるんです」

筑摩「そうですよね?」ズイ

利根「……」ビクッ

利根(筑摩の目が……どこかで……)

 ドクン

利根「……あ」

 ――利根

利根「……ア……!」ガクガク

利根(貴様は……M提督……!?)ヘナヘナ ペタン


利根「……い、や……」ズザッ

筑摩「利根姉さん……!?」

利根「……く……るな……」ガタガタ

利根「……こ、な……いで……く、れぇ……!」ブルブルガタガタ

筑摩「え……!? ねえ、さん……!?」

 ――なんだ、つれないな。どうして逃げるんだ?

利根「っひ、ひぃいいいい!!」ズザザッ

 ――いいぞ、もっと怯えた顔を見せてくれ

利根「い……や……!」ボロボロボロ

利根「……もう……い……イ……」パクパク

利根(息が……声が、出ない……!)

利根「……ア……ガ……!」ピクピク

 ――どうしたんだ? 元気がないな

利根(来るな……来る、な……!!)

筑摩「姉さん、どうしたんですか!? 姉さん!?」ユサユサ

 ――利根は可愛いな、ふふふ……

利根(来ないでくれぇ……!!)

利根「……ッ…………ッ!」フルフル

筑摩「利根姉さんっ! しっかり……!」

利根「…………グ……ゲ……!」ガクンガクン

筑摩「なんで……どうして!? 姉さん! 姉さんっ!!」

 扉<ガチャガチャッ

提督の声「くそ、鍵かかってやがる! おい筑摩開けろ! いるんだろ!!」ドンドン

筑摩「!」


 * 入渠ドック内 医務室 *

利根「」スー…

明石「利根さんには鎮静剤を打ちました。今は薬も効いて落ち着いたようです」

提督「そうか」

 扉<コンコン

武蔵「提督……!」ガチャ

提督「!」

武蔵「提督、申し訳ない……! この武蔵、不覚を……」ドゲザ

提督「やめろ武蔵、土下座なんかしてんじゃねえぞ。ほれ、立て」グイ

武蔵「し、しかし、私のせいで利根が……」

提督「筑摩の利根に対する執念が強すぎたんだ。俺の筑摩に対する見込みが甘かったんだよ、お前のせいじゃねえ」

提督「それとも、お前の練度が高けりゃ確実に防げてたってか? そうやって自惚れてたらもっと結果は酷くなってただろうな」

武蔵「くっ……」

 ゾロゾロ…

龍驤「……利根、少しは落ち着いたんかな?」

提督「ああ、なんとかな。急だったのにありがとな」


雲龍「もっと早く捜せれば良かったんだけど……」

長門「提督、すまない……」

提督「しょうがねえよ、気にすんな。白露、筑摩はどうしてる」

白露「工廠へ連れてってからもずーっと動けないでいるよ。五十鈴さんが来てからも俯いたまんまだし……」

白露「ねえ、利根さんが前の鎮守府で殺されそうになったって本当なの?」

提督「まあな。ただ、寝てるとはいえ、利根の前で話すわけにもいかねえ。みんな工廠へ移動してくれ」

長門「……わかった」

 ゾロゾロ…

提督「明石、利根を任せていいか?」

明石「はい、お任せくだ……」

利根「……かし……」ボソッ

明石「! 利根さん!?」

利根「……」ボソボソ…

明石「……提督。利根さんが提督と二人だけでお話ししたいそうです」

提督「俺とか? ……わかった」


提督「明石、工廠にいる奴らに利根の鎮守府の事件のこと、軽く話せるか?」ヒソッ

明石「……わかりました。本営が出した資料で説明します」スクッ

提督「頼む」

 スタスタ パタム

提督「……」

利根「」スー…

 (利根のベッドのわきの椅子に提督が座る)

提督「……」

利根「」スー…

提督「……利根? 寝てんのか?」

利根「……すまぬが……眠ったままで失礼するぞ、准尉」

提督「あ、ああ、そりゃ構わねえが……?」

提督(利根が俺を呼ぶときは『提督』って呼んでたよな?)

利根「吾輩は……いや、違うな。吾輩『たち』は利根である」

提督「たち……?」


利根「うむ。吾輩たちは利根ではあるが、貴様の知る利根ではない。吾輩たちは、M提督に殺された利根たちの魂だ」

提督「!!」

利根「吾輩たちはもとは5人であったが、今では自他の区別がつかん。もはや一人のようなものではあるが……吾輩たちと呼ぶ方がしっくりくる」

提督「雲龍が言ってた、利根に複数の霊が取り憑いているっていう話は、お前たちのことか……」

利根「ほう、吾輩たちの気配に感付いていたか。なれば今後は雲龍に助けを呼ぶべきか」

利根「過去にも何度か貴様に声を送ったが、まともに聞こえたのは一度か二度かであったからの」

提督「川内の様子がおかしいって警告してた時か?」

利根「いいや? さすがに覚えてはおらんか。朧が弱って取り憑かれたときに声をかけたのだが」

提督「あのとき、俺の部屋に出たやつか……!」

利根「……うむ、どうやらかろうじて声は届いておったようじゃの」

利根「神通に川内の異常を伝えたときは、こうやって眠っている利根の体を借りて神通に伝えたのだ」

利根「宿主であるこの利根から離れてしまうと、吾輩たちの力も弱まってしまうのでな。あの晩は運が良かった」

提督「……」アタマオサエ

利根「む、准尉よ、大丈夫か?」

提督「ちょっといろいろ頭が追い付かねえだけだ。まさか幽霊と話すことになるとは思いもしなかったぜ」

利根「なに、少し変わった妖精だと思えばよかろう。深く考えても埒は開かんぞ」

提督「……」


利根「さて、准尉よ。話というのは他でもない筑摩のことだ」

利根「利根がこのような事態になったのは、今回の件に限っては残念ながら筑摩がきっかけである」

利根「筑摩の利根を見る目が、M准将の目と同じであった。それゆえに利根はあやつを思い出し、錯乱したのだ」

提督「……フラッシュバックってやつか? 不知火が言ってたな」

利根「かくいう吾輩たちもM准将には酷い目に遭わされたが、この利根程ではない」

利根「この利根は、理不尽な責め苦の末に一度感情を手放しておる。壊れたところに体を焼かれ、挙句その身を食われそうになったのだ」

提督「食……!? それで、あの火傷の痕かよ……!」

利根「そんな相手が、吾輩たちに大真面目に愛を囁いておったのだから、まともでおられぬのは当然よな……」

利根「そして筑摩も同様に不憫である。この利根に対する愛を注ごうにも、その相手が愛に怯えてしまうのではな」

利根「ゆえに准尉、貴様に頼みたい。この利根と、筑摩を、どうか助けてやってくれ」

提督「……」

利根「……」

提督「助けてやれ、ってか」

利根「ああ」

提督「……」


利根「准尉……!」

提督「くあぁ、ああわかったよ面倒臭えな、くそっ。やるよ、やってやるよ、くっそ苦手分野な話だけどな……!」

利根「……!」

提督「で、一応訊くが、お前らはなにもしないんだな?」

利根「死んでいる吾輩たちの存在は混乱の種にしかならんよ。特に筑摩には気付かれるわけには行かぬな」

利根「吾輩たちも直接筑摩を助けたい気持ちはあるが、死者は生者の愛に応えてはならんのだ。生きている者を『こちら』に招いてしまう」

提督「幽霊がこの世に長いこと留まってると、人に害をなすとか雲龍が言ってたが……」

利根「おそらくは、死者が生者を羨むがゆえ、であるな。生きている者に対する嫉妬によって恨みが増すのだろうよ」

利根「そこへいくと吾輩たちは逆じゃな。日々利根とともに艦娘としての役割を疑似体験させてもらっておる」

利根「5人分あった怨念が日々の生活体験によって満足しておるのでな、六割か七割くらいは成仏したようなものじゃ」

提督「残りの三割はなんだ? まだ恨みがあるのか?」

利根「未練……じゃな。こうやっておぬしたちと吾輩たちがコミュニケーションを取れないのは、それなりにストレスになっておる」

利根「M准将とは真っ当な話もできなかったのだ。貴様とこうして会話できること自体、望外の喜びでもある」

提督「……」

利根「まあ、それはさておいてだ……あの筑摩を普通に説得するのは難しそうじゃの」


利根「吾輩たちの見立てでは、憧れが強すぎたが故に、筑摩は自分の中に理想の利根を作ってしまっておる。此度の暴走もおそらくそのためか」

利根「利根は利根で自らの弱みを筑摩に見せたり、心配させるのが恥ずかしいと思っておる。この体の傷も隠し通したいと思っているようじゃ」

提督「体の傷は筑摩だけに限ったわけじゃねえと思ってるがな。あれを他人に見せるのは相当に勇気がいるんじゃねえか?」

提督「利根もだいぶ落ち着いたと思うが、あの出来事を利根の口から誰かに話せちゃいないだろ」

利根「うむ……いずれにしても、説明や説得もなしに筑摩がこの利根へのスキンシップを止めるとは思えんな」

利根「同衾どころか風呂にも迫ってくる程だ、あの筑摩は少々クサレの気が見える。吾輩たちとしても心配である」

提督「腐れ……?」

利根「クレイジーサイコレズの略じゃぞ。男性の同性愛を好むことを『腐る』と言うこともあるようじゃが」

提督「……どっから仕入れてきてんだその知識」ヒキッ

利根「余所の艦娘が差し入れとして持ってきた、段ボール箱いっぱいの春画本からじゃな」

提督「卯月かよ……!」アタマカカエ

利根「貴様は好かぬかもしれんが、年頃の娘が集まれば姦しくもなる。見逃してやるが良い、貴様が同衾を許すのと同じ、いわばガス抜きじゃ」

提督「別に取り上げたりしねえよ……俺が巻き込まれなきゃあいいんだがな」


利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」

提督「……落としどころねえ……」

利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」

提督「運……?」

 (利根の顔が提督の方を向き)

利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」

提督「……!」

 (ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)

利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」

提督「……っ!」

利根「ではな……さらばだ、准尉……」

 (目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)

提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ

利根「」スー…

提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…

提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」

今回はここまで。

続きです。


 * 工廠 *

 鉄扉<ゴンゴン

提督「……話は終わったか?」ギィィ

明石「あ、提督!」

長門「まあ、あらかたの話は終わったぞ……」

提督「……? やけに空気が重てえな」キョロ

白露「ちょっと提督! 聞いてるだけで鳥肌立ってきたんだけど!」ブルブル

武蔵「ああ、まったくもって信じられん……!」ガタガタ

黒潮「ほんま、洒落ならんて。五月雨なんか気分悪くしてずっとこんなんや」アオザメ

五月雨「……」ウズクマリ

提督「黒潮たちも来てたのか……って、何したらこんなことになってんだ?」

明石「不知火ちゃんから預かってた資料が思いのほかグロくて……」

提督「おいおい、こりゃ見せちゃ駄目なやつだろ。なんでこんなガチな資料貰ってきてんだよ、不知火のやつは」

明石「ですよねえ……軽い気持ちで見たらいきなりこれだから、びっくりしましたよ」

提督「これじゃ別のトラウマ産み付けかねねえぞ。精々におわす程度の話で済ませたかったんだ」


龍驤「キミもしかして、こうなることを予想しとったんやな?」

提督「ああ、知って気分のいい話じゃねえからな、さらっと流したかったんだが」

龍驤「うん……ま、そうなんやろなあ」チラッ

雲龍「」カチーン

龍驤「雲龍なんか、あんまりな話やったから固まって動かなくなってしもたんよ。ほら、起きやー?」ホッペムニー

雲龍「……あ」ムニー

提督「お、帰って来た。雲龍、大丈夫か」

雲龍「ごめんなさい、頭が理解するのを拒否していたわ……何の話だったかしら」

提督「まあ、これもある意味正しい反応だよな……」チラッ

筑摩「……」ウナダレ

提督「筑摩は動けねえか。さて……長門、五月雨と白露は休ませて欲しいんだが、任せていいか?」

長門「あ、ああ」

五月雨「い、いえ、私は、だいじょう……うぶっ」ヨロッ

提督「そんな真っ青な顔して大丈夫なわけねえだろ。いいから休んどけ」


白露「あ、あたしは大丈夫だよ!?」

提督「かもしれねえが大事は取っとけ。さっきまで俺を背負って猛ダッシュしてたんだ、大人しくしてろっての」

白露「うー……」

提督「黒潮もありがとな、非番だってのに駆けずり回ってくれて」

黒潮「うちはええよ~」ヒラヒラ

提督「さてと……」

筑摩「……」

提督「おい、筑摩」

筑摩「」ビクッ

提督「とりあえず利根の事情は理解できたか?」

筑摩「ど……して……」

筑摩「私は……たた利根姉さんと一緒にいたかっただけなのに」

筑摩「どうして利根姉さんがあんな目に遭っていたんですか!」

筑摩「利根姉さんは、なにも悪いことをしてないじゃないですか!?」

筑摩「これじゃ……これじゃ利根姉さんが可哀想です……!」

提督「……可哀想、ねえ」


筑摩「提督!? なんでそんなあきれたような言い方をするんですか!?」

提督「利根が錯乱したのはお前のせいじゃねえのかよ」

筑摩「どうしてですか!? 私は何も知らなかったんですよ!?」

提督「知っていようがいまいが関係ねえよ。それを言ったらここにいる連中も知らなかったんだぜ?」

提督「だいたい夕べも、過度なスキンシップはやめろって利根から言われたよな? お前がそれを聞き入れてりゃあ良かったんだよ」

筑摩「そ、それは照れているだけだと……!」

提督「手前の都合のいいように解釈してんじゃねえよ。それが間違ってたから結果こうなったんじゃねえか」

提督「利根の錯乱を防ぐ術はあった。利根がお前を拒絶したのは、その予兆があったからだ」

提督「利根がああなったのは、お前がその警告を聞き入れず、お前が自分の欲を満たすことを優先した結果だろうが」

筑摩「……っ!」

提督「ただ、利根が何も悪いことをしていない、というのには同意する」

提督「こればっかりは、生まれてきた場所が悪かったとしか言い様がねえ」

筑摩「利根姉さんは、そんなこと、言わなかったのに……」

提督「言えるかよこんなこと。自分の口から話せるようになってたら、思い出してぶっ倒れたりしてねえよ」

筑摩「なんて……私は、なんてことを……!」ウナダレ

提督「……」


筑摩「……死んでしまいたい……」ポツリ

提督「そうかよ、好きにしろ」

武蔵「!?」

提督「どこへでも行って野垂れ死ね」

黒潮「!?」

龍驤「うおおおおい!?」

五十鈴「ちょっと!? 提督何を言ってるの!?」

提督「あぁ? 死にたいなら死ねって言ってるだけだぞ」

明石「また始まった……」アタマカカエ

武蔵「て、提督! 貴様、筑摩にフォローのひとつも入れてやれないのか!?」

提督「なんでだよ面倒臭え」

黒潮「」

五十鈴「」

雲龍「面倒……?」ドンビキ

龍驤「お、おお……アカン、もう本当にアカンわこの人……」クラクラ

武蔵「……い、い、言うに事欠いて面倒とは……っ!!」

明石「あー、武蔵さん、この程度でこの人に怒ってたら身が持ちませんよ」

武蔵「し、しかしだな……!」


明石「提督。ここに来る前に利根さんと話をしてきましたよね?」

明石「利根さんは筑摩さんについて、なんと言ってたんですか?」

提督「ああ? 利根たちからなら、筑摩を助けて欲しいと言われたさ。だが、筑摩がこんなこと言い出すようなら……」

筑摩「利根姉さんが言うなら生きます!!」シャキーン

提督「……」

明石「……」

筑摩「私は死にません! 利根姉さんが悲しむようなことはしません!」

提督「……」

明石「……」

五十鈴「……なんか、ごめんなさい」

武蔵「ま、まあ、いきなり死ぬとか言い出してびっくりしたが、良かったんじゃないか? なあ?」

提督「そいつはどうだろうな? 今んとこ、自分に都合のいい言葉しか拾ってねえぞ、筑摩の耳は」

明石「でも、提督は利根さんから助けて欲しいと言われたんでしょう?」

提督「……言葉ではそう言えても、実際はどうだかな」

武蔵「どういう意味だ?」

提督「見てりゃわかるさ。武蔵、悪いが明日以降も利根たちの様子を見ててくれ」

武蔵「あ、ああ……」


 * 翌日の昼 執務室 *

提督「ま、当然だろーな」

武蔵「貴様はわかってて好きにさせたのか?」

提督「説明するよか早え。利根の精神状態が今どうなってるか、これ以上なくわかったろ」

武蔵「確かにそうだが……」チラッ

筑摩「……」ションボリ

提督「昨日あんだけ派手に利根を怯えさせたんだ、利根には避けられて当たり前だろ?」

提督「あいつのトラウマは俺たちが理解できるほど浅くねえぞ。昨日の今日で構ってもらえたら奇跡だと思ってるぜ俺は」

武蔵「……何かいい方法はないのか?」

提督「ないな。俺は、時間をかけて忘れさせてやるのが一番いい方法だと思ってる」

提督「利根に無理させてますますぶっ壊れたらどうするよ? 原因作ったのは筑摩なんだから、筑摩が退くのが筋だろ」

武蔵「む、むう……!」

提督「とりあえずもう昼だ。おとなしく食堂行って飯にしとけ」

筑摩「……利根姉さんが……」ボソッ

提督「!」


筑摩「……利根姉さんが、昼餉を取り終わってから……食堂に行きます……」

武蔵「筑摩……!」

提督「そうか。立ちっぱなしも疲れるだろ、ソファに座って待ってな」

筑摩「……はい……ありがとうございます……」ユラ…ストン

武蔵「おい! 筑摩がまるで幽霊みたいで見ていられないぞ……!」

提督「そうか? 利根のことを考えられるようになった分、昨日よりだいぶマシになったと思うがな」

武蔵「そ、そうかもしれないが……!」

提督「ところで利根はどうしてる」

武蔵「今は古鷹と朝雲と一緒に食堂に行っているはずだ。食べ終わったら気晴らしに散歩に連れて行くと古鷹が言っていた」

提督「……朝雲がいるんなら、心配しなくても良さそうだな」

武蔵「そこは古鷹じゃないのか?」

提督「古鷹もお節介焼きが過ぎるところがあって危なっかしいからな。おそらくこの島で一番常識人なのは、俺の感覚では朝雲だぞ」

武蔵「そうなのか!?」

提督「この島に着任した艦娘のほとんどが轟沈させられたり、前の鎮守府の事情で追い出されたり逃げざるを得なかったり……」

提督「ま、いろいろあるんだよ。朝雲はその中でも比較的、傷が浅いほうだと思ってる」


提督「明るいし気遣いができるし面倒見もいいし……如月みたいにべたべたくっついてきたり、朝潮みたいに俺を盲目的に全肯定しないのもいい」

提督「おかげでここじゃあ苦労人ポジションになっちまってるけどな」

 電話<RRRR...

提督「うん? 内線か。執務室だ」ガチャ

通信『もしもし、大淀です。提督、そちらに筑摩さんと武蔵さんがいらっしゃいますね?』

提督「おう」

通信『そちらにこれから昼餉をお弁当にしてお持ち致します』

提督「なに?」

通信『朝雲さんから事情は聴きました。利根さんと筑摩さんが鉢合わせしないようにするのなら、この方法が無難だと思いますが』

提督「気が利きすぎだろ……ありがたいけどよ」

通信『お弁当は提督の分も含めて3人分でよろしいですね?』

提督「ああ、悪いが頼む」

通信『はい。お任せください』

 チン

提督「というわけで、朝雲の提案で大淀が弁当を持ってきてくれるそうだ」

武蔵「……」


 *

提督「……やっぱり、しばらくは筑摩が我慢するしかねえな」

武蔵「やはりそうなるか……応急処置にしても、なかなかいい方法がないものだな」

 扉<コンコン

大淀「失礼します、お弁当お持ちしました」ガチャ

提督「おう、気を使ってもらって悪いな」

大淀「いえ」ニコ

提督「おい筑摩、お前も飯は食っとけよ。何かあったときに動けねえのは困る」

筑摩「……はい……」

武蔵「なんというか、痛々しくて見ていられないな……」

提督「なんならお前が利根の代わりになってみるか?」

武蔵「は……!?」

大淀「……似合いませんね……」ウーン

武蔵「何を想像してるんだ大淀!?」

筑摩「……」ジッ

武蔵「いや、そんなふうに見つめられても多分代わりは務まらんぞ!?」

 シレイ! シレイー!

提督「!」

武蔵「この声は……!」

朝雲「司令っ! 大変よ大変!!」バンッ

提督「朝雲……!? なんだ、利根か!?」

筑摩「!」ガタッ

朝雲「利根さんじゃないわ、古鷹さんが……!」

提督「古鷹!? なんでそっちが大変なんだよ!?」ガタッ

短いですが、今回はここまで。

保守ありがとうございます。
体調崩していました、すみません。

おかげでうーちゃんと衣笠さんを取り逃がし……。
衣笠さん……ああ、駆逐艦衣笠さん……じゅうごまん……。


続きです。


 * 北東の砂浜 *

朝雲「こっちです!」タタタッ

提督「まだ息があるんだな!?」タッタッタッ

朝雲「はい!」

武蔵「おい、良かったのか!? 筑摩まで連れてきて!」タタタタッ

筑摩「……」タタタタッ

提督「四の五の言わずに今は手伝え!」

武蔵「……勝手なことを……!」

朝雲「いた……! 古鷹さん!」

古鷹「しっかり! しっかりしてえええ!」ウワーン

利根「おお! 来たか、ていと……!」ビクッ

筑摩「……っ」

提督「おい古鷹!」

古鷹「! 提督……! 加古が……加古が大変なんです!!」グスグス

加古(大破)「……」グッタリ


提督「倒れていたのはこいつだけか?」

利根「い、いや……向こうにも、もう一人おる」

提督「武蔵、頼む。まずは入渠させるぞ、連れてくることができそうなら、そうしてくれ」

武蔵「む……わかった。利根、案内してくれ!」

利根「あ、ああ」

古鷹「加古、目を覚ましてええええ!」ウワーン

朝雲「古鷹さん落ち着いて!」

古鷹「で、でも!」

提督「古鷹、少し下がってろ。おい、加古っつったな?」

加古「……い」

提督「ん?」

加古「……ねむい……」ムニャァ

提督「……」


加古「……おねがい……おねがいだから……ねかせてぇ……」

提督「……」

古鷹「ちょっ、眠っちゃ駄目ぇぇぇ!!」ウワーン

提督「……」アタマオサエ

朝雲「し、司令、どうしよう……?」

提督「こいつが寝るっつってんだから寝かせてやるしかねえだろ。ここで寝かせるわけにはいかねえけどな」

武蔵「提督、連れてきたぞ」

 (武蔵にお姫様抱っこで抱えられている鳥海)

提督「ん……衣装が摩耶と同じか?」

武蔵「おそらく彼女は高雄型重巡の鳥海だ。気を失っているだけのようだが、無理に起こす必要はないな?」

提督「ああ、起こさなくていい。そのまま運べそうなら、そのままドックまで運んでやってくれ」

武蔵「わかった。こちらは任せておけ」スッ


提督「それからこっちは……」

古鷹「加古ーー! しっかりしてぇぇぇ!!」ユサユサ

加古「うあぁあぁあ~!?」ユサユサ

提督「……」

朝雲「あ」

 バッヂィィィン!

古鷹「いったぁぁぁぁああい!?」ブットビ

朝雲(重巡でもぶっとぶんだ、あのでこぴん……)タラリ

提督「少し落ち着けこの馬鹿たれ! ったく……筑摩!」

筑摩「!」ビクッ

提督「加古を背負ってドックまで行けるか? 古鷹があれじゃ心配すぎる」

筑摩「……」チラッ

利根「!」ビクッ

筑摩「……」シュン

提督「筑摩、どうだ。頼めるか?」

筑摩「……わかりました……」コク


提督「よし。ほれ加古、眠れる場所に移動するぞ」

加古「むにゃあ……」ムクッ

朝雲「あ、筑摩さん手伝います!」

古鷹「いたた……提督、なにをするんですか!」プンプン

提督「そりゃこっちの台詞だ、眠てえっつってんだからドックで好きなだけ寝かせてやれってんだよ」

提督「わかったら筑摩と朝雲手伝え。とっとと加古を入渠させろ」

古鷹「は、はい!」タッ

提督「さてと……利根、あとは他に誰もいねえんだな?」

利根「……う、うむ……」

提督「……」

利根「……」

提督「……おい」ズイ

利根「な、なんじゃ?」

 ガシッ

利根「な、なにをする提督!? 手を離さんか!」アタマツカマレ


提督「利根。お前は、俺が怖くないのか?」

利根「き、貴様は理由もなく他人を襲ったりせんだろう!」ジタバタ

提督「……」

利根「どうせこれも、筑摩のことを考えてのことじゃろう! 吾輩とてそこまで愚鈍ではないわ!」ンギギ…

提督「ふん……察しがいいのも困りもんだな」パッ

利根「や、やっと離したか、この馬鹿力め……ううむ、嫌な汗をかいたぞ」

提督「やっぱり怖かったんじゃねえのか」

利根「吾輩はまだ貴様の本気のアイアンクローをくらったことがないからな。未知の体験に少々緊張しただけである」

提督「それを怖いっつうんじゃねえのか。素直じゃねえな」

利根「貴様にだけは素直じゃないなどと言われたくないぞ! まったく……」

提督「ふん、元気そうだな。余計な心配だったか?」

利根「……そういうわけでもない。不本意極まりないが、筑摩の姿を見ると足がすくんでしまうのは認めざるを得ん」

利根「明石にも詫びを入れねばならん。せっかく作ってくれた個室の風呂も、怖くて入れなくなってしまったからな……」

提督「……」

利根「このままでは駄目なのは理解しておる。筑摩とも仲直りして、古鷹のように心配しあえる仲に戻らねばならん」

提督「……俺はドックに行くつもりだが、利根はどうする」

利根「うむ……吾輩も参ろうか。いつまでも目を背けてはおれん」

利根「いずれは筑摩と……この海を征きたいからな」

提督「……」


 * 一方の入渠ドック *

古鷹「加古は大丈夫かなあ……」ウロウロ

朝雲「もう、大丈夫だって明石さんも言ってたでしょ? 古鷹さん心配しすぎ!」

筑摩「……」

朝雲「筑摩さんがいて本当に良かったわ……ありがとうございます!」

筑摩「……いいえ……できることを、したまでだから……」ニコ…

朝雲「あの、筑摩さん、大丈夫なんですか? すごく元気がないですけれど」

筑摩「……利根姉さんには、本当に申し訳ないことをしたから……」

筑摩(……)

 提督「今の筑摩は利根に警戒されてる。弁明どころか声をかけられただけで利根は逃げてくだろう」

 提督「だったら筑摩が利根に危害を与えることはないことを証明し続けるしかねえ。あえて利根に姿を見せてな」

 提督「だから、利根がいても絶対に筑摩からは近づくな。利根の方から近づいてくるまで、絶対にコンタクトを取ろうとするな」

 提督「挨拶せざるを得ない状況でも、会釈までで我慢しろ。それができなきゃ、あの利根とは二度と話ができねえと思え」

 提督「自分に危害を加えてきた奴が、どうやったら許せるか考えてみろ。多分、ひたすら頭を下げるしかねえんじゃねえか?」

 提督「そして絶対に害意がないことを態度で示して、それで許せるかもしれない、って心変わりを待つしかないと思うぜ」

筑摩(……)


朝雲「……利根さん、ここに来た頃は本当に元気なかったから……筑摩さんもそんな感じだと、心配です」

筑摩「……大丈夫。きっと……大丈夫になってみせるわ。姉さんも、そうだったんでしょう?」

朝雲「はい……!」

筑摩「そうね……利根姉さんを見習わないと」

古鷹「う~……」ウロウロソワソワ

朝雲「ああもう、古鷹さんは落ち着いてー!」

 扉<チャッ

武蔵「古鷹はまだ落ち着かないのか? それで加古が元気になるわけではないぞ」ヌッ

朝雲「武蔵さん……!」

武蔵「気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ。加古に無理をさせて怪我を悪化させるのは古鷹の望むところではないだろう?」

古鷹「は、はい……」シュン

提督「だがまあ、今回の古鷹の心配は仕方ないと言えば仕方がないな」スッ

利根「うむ……」

古鷹「提督……利根さんも!」

摩耶「よっ。あたしも来たぜ」

朝雲「摩耶さん!」


提督「摩耶にはあの艦娘が鳥海かどうかを確認してもらったんだ」

摩耶「まったく、びっくりしたぜ。明石からは鳥海も加古も助かるって言ってたから良かったけどさ」

武蔵「摩耶は落ち着ているな」

摩耶「そりゃあ、あたしが騒いだって鳥海が元気になるわけじゃねーからなあ。元気になってから、ゆっくり話を聞くさ」ニッ

古鷹「あ、あうう……す、すみません、私もそうします……」ショボン

摩耶「ああ、そうしたほうがいいぜ。でなきゃ、誰をぶちのめさなきゃいけねえか、聞き出せねーもんな!」バキバキ

朝雲「それはそうかもしれないけど!?」

利根「う、うむ……仇討ちが目的というのもな……」

提督「そうか? 俺はいいと思うが」

武蔵「ああ、同感だ」ウンウン

摩耶「だよな!」パァッ

朝雲「あーそうだったわ……武蔵さんも武闘派だし、司令もやり返さないと気が済まない人だったわ……」アタマカカエ

提督「そうじゃなくても無理もねえよ。加古と鳥海は轟沈してるらしいんだからな」

朝雲「え?」

筑摩「沈んだん……ですか!?」


提督「明石の見立てではな。二人に当時の状況を聞かないと確定はできねーが、全身ずぶ濡れだったことを考えると、沈んでた可能性も否定できねえ」

提督「特に加古は足元の艤装の損傷がひどい。航行不能な状態になっていたからこそ、古鷹も狼狽えてたんじゃねえのか?」

古鷹「はい……!」

提督「まあ、あとは重巡がふたりも轟沈してるっつうのが気に入らねえ。何したらそんな被害になるんだ?」

武蔵「うむ……余程の無理をしない限り、2隻沈むというのは考えられないな」

提督「なんにしてもだ、目が覚めたらあいつらに生きる意志があるかどうか確認しねえとな」

武蔵「なんだそれは? せっかく助かったのに死にたいなんて言う艦娘がいるのか?」

提督「いたら困るから訊くんだよ。死にたい奴を助けて後から文句言われたくねえ」

筑摩「……あの……」

提督「ん?」

筑摩「あくまで老婆心ですが……加古さんをこちらへ運ぶ際に、死ぬほど寝たいと言っていましたので……誤解のないようにお願いします」

提督「なんだそりゃ? そんなに寝たかったのか、あいつ」

筑摩「いえ、その……もともとだと思います。前の鎮守府にいた加古さんも、暇さえあればお昼寝していましたから」

提督「……マジか」

古鷹「聞く限りはそうみたいなんです……」ハァ…

朝雲「L提督の鎮守府にいたときは加古さんいなかったから、写真でしか見たことなかったんだけどね」


筑摩「私が知る限りでは、任務中もあくびしながら航行していたのは珍しくありませんでした」

筑摩「そういう意味で不真面目に見られていましたが、戦闘では真面目でしたよ。効率よく確実に戦うことを信条にしてましたから」

提督「ふーん……」

摩耶「もしかして、寝る時間を増やしたくて真面目に戦ってたとかか?」

全員「「!?」」

朝雲「そういう考えもあり得るわね……」

古鷹「そ、そんなわけないですよね!? ね!?」オロオロ

筑摩「……」メソラシ

古鷹「筑摩さん何か言ってぇぇぇ!?」ガビーン

提督「昼寝のために全力を出すってか……いいなそれも」

武蔵「いいのか!?」

提督「悪くはねえだろ。自分が後で楽になるために、今を一生懸命になるのはいいことじゃねえか?」

武蔵「……いや、まあ、確かにそうだが」


提督「とりあえず寝るのが大好きだったんだな、お前がいた鎮守府の加古ってのは。じゃあ、鳥海はどんな奴だった?」

筑摩「そう、ですね……真面目を絵に書いたような艦娘でした」

筑摩「性格的には霧島さんに近い感じですが、普段は物静かで、こちらの摩耶さんとは対照的ですね」

提督「ふぅん……物静かで霧島に似てる、ねえ。言葉遣いはどうなんだ?」

筑摩「……丁寧で穏やか、大人しいといった印象です。荒っぽい感じはありません」

摩耶「あたしと違ってお淑やからしいからな、鳥海は!」フフン!

提督「……何でお前が威張ってんだ」

摩耶「ああ!? 自慢しちゃあいけねえのかよ、くそが!」

提督「お淑やかなのを自慢するんなら、そのお前の最後の一言はなんとかなんねえのかよ」

摩耶「んぐ……あ、揚げ足取りやがって。お前だって似たようなもんだろ!? ちょっとウザいぞ!」

提督「へーへー。まあいいや、ここへ流れてきた二人の性格がその通りかどうかも、まだわかんねえからな」

提督「早いとこ目を覚ましてもらって直接話を聞けりゃ、古鷹の心配も多少はなくなるだろ」

古鷹「は、はい、とにかく話ができるくらいに回復してくれれば、私も安心です」


提督「じゃ、この場は明石に任せて、二人の回復待ちだな。武蔵、筑摩、戻るぞ」スクッ

朝雲「武蔵さんたちも戻るの?」

提督「昼餉がまだだからな。これだけ働かせて飯抜きはねえだろ」

筑摩「あ……!」

武蔵「……そういえばそうだったな。言われてみると確かに腹が……」

摩耶「あたしも戻るか。鳥海が目を覚ましたら、あたしにも声をかけてくれよ?」

提督「おう」

 スタスタスタ…

筑摩「……」スクッ

利根「……」ジリッ

筑摩「……」スタスタ…

提督(利根はまだ筑摩に怯えてやがんな。こりゃ時間がかかるか……仕方ねえ)


 * 執務室 *

大淀「提督、お茶をどうぞ」コト

提督「ん……ありがとな」モギュモギュ

武蔵「それにしても、この短期間に4隻も艦娘が流れ着いてくるとは……」

提督「生きて4人は珍しいが、同時に何人も流れてくること自体はそんなに珍しくもねえ」

提督「新しい海域への攻撃が始まったとか、特別海域の攻撃命令が来たときとか、見たことない深海棲艦が現れたときとか……」

大淀「確かに、戦線に動きがあったときが多いですね」

提督「ま、そう考えると、場所や理由がバラバラでも、根っこを辿って行ったら原因は同じだった、ってのはあるかもしれねえな」

武蔵「ふむ……」ズズ…

提督「ただまあ、今回の筑摩たちの事情と、加古たちの状況は全然違うからな。別件と思っていいだろう」

提督「なあ大淀、不知火に頼んだ轟沈のリストはまだ来てないか?」

大淀「まだですね。おそらく明日以降になるのではないかと」

武蔵「轟沈艦のリスト? そんなもの何に使うんだ」

提督「公式に、筑摩たちが轟沈した扱いになってるかどうかを確認したい」

筑摩「!」


提督「本営も一応は、各鎮守府で邂逅した艦娘の情報を収集してる。例えば艦娘が不法に取引されないようにな……それも怪しいもんだが」

提督「連中の本音はどうあれ本営は、各鎮守府の建造でも解体でも記録を取って、艦娘の在籍状況を逐一管理してるんだ」

提督「うちに流れてきた艦娘が元の鎮守府に戻していいかどうかも、それを見りゃあ判断できる」

武蔵「それは貴様が言っていた、轟沈した艦娘は元の鎮守府に戻れないという制約からか?」

提督「だな。リストに載りゃあ死んだも同然、戻ったところで解体だろう。それが嫌ならここに着任するか? って話になる」

提督「あとは身元確認の意味合いが強いな。その鎮守府の提督を要注意人物として把握しておきたい」

提督「そういや、筑摩は知ってたか? 昔、轟沈した艦娘が戻ってきて、ある日突然深海棲艦になって鎮守府が壊滅した話」

筑摩「……知ってはいますが、作り話だと思っていました……」

提督「知らないわけじゃない、か。ま、確かに、話が本当かどうかは確認してねえし、しようがねえな」

大淀「提督、この鎮守府はそれを確かめるために、轟沈した艦娘を運用する運びになったのではありませんでしたか?」

提督「それこそ建前ではな? そんなこと起こらねえと思ってるから油断しまくってるけどよ」

武蔵「では本音はなんだ」

提督「最初にこの島に轟沈してきた如月を、この鎮守府でそのまま運用するためだ。その後も轟沈艦が何人も流れ着いてきたし、結果的には正解だった」

提督「あとは、人間が俺たちに関わってこない環境を作りたかった。その条件は奇しくも中佐が御膳立てしてくれたわけだが」

筑摩「……どういうことですか?」


提督「中佐は俺が邪魔なんだよ。俺が妖精と話ができるってのが、中佐にとっては相当に都合が悪いらしい」

提督「それで中佐は、こんな人の寄り付かないこの島に俺を幽閉して、誰も立ち入らないように手厚く手厚く保護してくれてるわけだ」

提督「ついでに艦娘が轟沈すると深海棲艦になるって噂も、真偽はどうあれ人を遠ざけるのにちょうどいいから遠慮なく利用してる」

提督「この島で轟沈した艦娘に自由を与えて、俺がその責任を取ると言えば、連中もノーとは言わないだろうさ」

筑摩「准尉は、それでよろしいんですか……?」

提督「ん? よろしいんじゃねえの? 俺は何も困らないぞ?」

筑摩「ええ……?」

提督「俺はそもそも人間と関わり合いになりたくないし、何より人間の勝手で轟沈した艦娘をそのままにしておく方が余程気分が悪い」

提督「そういう意味では、俺と中佐の利害が一致してるっつうのが気に入らねえが、そこは呑み込むとして」

武蔵「むう……」

提督「俺は基本、艦娘の味方だ。あいつらを見捨てた人間と同じになりたくないだけの……手前がかわいい身勝手な人間だよ」ハァ…

大淀「……それでどうして提督が落ち込むんですか」

提督「結局は自分のためなんだよなあ。よくよく考えりゃ、俺がいい気持ちになりたくて誰かを利用してんだよ」

提督「俺が救われたくて、俺に似た境遇のあいつらを助けようとしてるだけじゃねえか……」


大淀「動機はどうあれ、ここへ来た艦娘が前の環境より良い境遇にあることは事実じゃないですか」

筑摩「そういう意味では、艦娘が自分の欲求を満たすため、未練を晴らすために提督を利用しているとも言えるのではありませんか?」

提督「それはいいんだよ。艦娘が俺を利用するのはいいんだ」

筑摩「失礼ですが、矛盾しています。それでは提督は、人間にも利用され、艦娘にも利用されることになるのではありませんか」

提督「……ああ、そういう意味か」ジロリ

筑摩「!」

提督「俺たちを利用した人間どもを、このままにしておくつもりはねえさ。いずれは、奴らも……!」ギリッ

筑摩「……!」ゾクッ

武蔵「提督……貴様!?」ガタッ

 スパーン!

武蔵「」

筑摩「」

提督「……いてぇ……」

大淀「……」ゴゴゴゴ…


武蔵「お、おい、大淀。お前、提督の頭をバインダーで思いっきり……」

大淀「ええ、叩きましたよ」ニコッ

武蔵「」

大淀「提督? これまでに何度も申し上げておりますけれど」ズイ

大淀「そのような不謹慎な発言は、くれぐれも、控えてくださいね?」ニコァ

武蔵(大淀が怖い)シロメ

筑摩「あの……い、いろいろといいんですか?」

大淀「本営の肩を持つ気はありませんが、提督の物騒な発言によって余計な波風が立つのを見過ごすわけにはいきません」

提督「……ったく、しゃーねーな……」ハァ…

 扉<コンコンコン

霧島「霧島です。よろしいでしょうか」

提督「ん、いいぞ」

霧島「失礼致します」チャッ

提督(……なんか、霧島も殺気立ってるか?)

霧島「……摩耶の姉妹艦が流れ着いてきたそうですね?」

提督「おう。なんで流れ着いてきたかはわからねえから、鳥海の回復を待って事情聴取するつもりだ」


霧島「……できれば、私も同席したいのですが」

提督「いいぞ。ただし、暴れるのは全部話を聞いてからだ」

霧島「!」

武蔵「……まあ、眉根にそんなしわを作っていては、提督にからかわれても仕方ないぞ」

霧島「顔に出ていましたか……失礼致しました」

提督「別にからかっちゃいねえよ、暴れたいんなら俺に断ってからにしろ。有耶無耶にしてやるからよ、俺ができる範囲で」

霧島「は、はあ……」

武蔵「提督、貴様が適当なことを言うから霧島がどう反応したらいいか困ってるぞ?」

提督「困るって言われてもな。俺の言葉は言葉の通りだぞ? うちの艦娘が間違ってないなら俺も暴れろって言うからな?」

武蔵「いかんだろうそれは……貴様は止める立場の方だぞ?」

提督「止めたくねえなあ……なんにしてもだ、まずは鳥海がちゃんと話を聞いてくれることが一番なんだが……」

武蔵「その辺は問題ないだろう。鳥海は真面目だと聞いたぞ?」

提督「そうか? 真面目な方が厄介な気がするぜ。真面目ちゃんは言い換えれば頑固で、融通が利かねえことが多いんだ」ハァ

提督「前の鎮守府の理不尽な命令を律儀に守り続けてたり、目的のために視野狭窄に陥ったり……言われたことを延々と気にしたり、なあ?」

霧島「!」ビクッ


提督「自分でも言ってることが極端だとは思うが、その極端な奴が流れ着いてくるのがこの島だからな……」

大淀「そうですね……でも、最初から最悪を想定して話を進めなくても良いのではないですか?」

提督「そうは言うが、その最悪を飛び越えてくるケースが何度もあったろ……」

 扉<コンコン

伊8「提督、戻りました?」ガチャ

提督「おう」

伊8「海底に散らばってた、二人のものらしい艤装の破片、集めて明石さんに預けてきました」

提督「そうか、ご苦労さん……って、そういえばはっちゃんもそうだったっけな」

伊8「なにがです?」

提督「前の鎮守府で無理矢理東オリョール海を往復させられて轟沈したってのに、それでも前の鎮守府に戻るとか言ってたの」

武蔵「んなっ!?」

霧島「そ、そうなんですか?」

伊8「あー、そうでしたね。はっちゃんがおかしくなってたときの話です」


提督「真面目な奴ほど命令には逆らえなかったり……まあ、はっちゃんの場合は恐怖を植え付けられてたって感じだったが……」キョロキョロ

霧島「どうなさいました?」

提督「いや、メガネが多いな……と」

霧島「!」

大淀「!」

武蔵「!」

伊8「あー」

筑摩「そ、そうですね……」

提督「まあ、言わずもがな真面目なメンツが多いな……」

大淀「そ、それは、まあ、ふざけるわけにはいきませんので」

提督「……鳥海もこんな感じなのかねえ。一人くらいちゃらんぽらんなメガネがいてもいいだろうに……」

武蔵「さすがにおらんだろう、そんな奴は」

提督「……あ、いるわ。余所の鎮守府に」

伊8「え?」

提督「しかも俺に似てる」

霧島「ええええ……?」


 * V提督鎮守府 *

望月「ぅえっきしょ」

弥生「なに? いまの無気力なくしゃみ」

卯月「望月、風邪ひきぴょん?」

望月「うんにゃ、鼻がムズった」ゴロン

卯月「だったら早くパジャマから着替えるぴょん。もう11時だっぴょん!」

望月「えー、めんどくせ~」ゴロゴロ

今回はここまで。

いろは順で行くと、次は「ぬ(奴)」なのですが、
「奴」の字はそれなりに使用しているので、次の「留(る)」「遠(を)」を使います。

では、続きです。
鳥海と加古のお目覚め。


 * その日の夕方 入渠ドック前 *

提督「よう、二人とも目を覚ましたんだな?」

明石「はい! 怪我の方もばっちり治しました!」

明石「摩耶さんや古鷹さんも呼んでいるので、少しお待ちください!」

提督「この島のことについては何か話したか?」

明石「説明したのはこの島に流れ着いてきたときの状況だけですね」

提督「そうか。んじゃ、俺の方からここがどういう場所か、簡単に話しとく」

提督「摩耶たちが揃ったら、これからどうするのかの話を始めるぞ」

明石「了解です!」

 * *

加古「轟沈した艦娘が流れ着く島ぁ?」

鳥海「私たちが轟沈したと仰るのですか……?」

提督「明石が言うには、艤装の被害を見るに航行可能な状態にはなかったと言われたが、お前ら自分が沈んだかどうかの自覚がないのか?」

鳥海「も、申し訳ありません、私は無我夢中で……」

加古「あたしは准尉の言う通り、沈んだと思ってるよ」

提督「覚えてるのか?」


加古「この姿になって、初めて水の中から空を見た記憶があるんだけど……やっぱ、やだねえ。ははっ、思い出しただけで寒くなってきた」

提督「まあ、無理に思い出さなくていいぞ。で、鳥海は自分が轟沈していないと思ってるのか?」

鳥海「はい。私は、轟沈すると深海棲艦になるという噂を耳にしたことがあります」

鳥海「ですので、もし私が轟沈していたとしたら、艦娘としてこの場にはいないのではないかと思っています」

提督「俺はそっちの話の方が初耳だな。鳥海の話が本当なら、この島に漂着してきた艦娘の遺体が深海棲艦になってないと辻褄が合わねえ」

鳥海「! それは……」

加古「っていうかさあ、轟沈したかどうかの判断基準ってなに?」

提督「自力で水上に立てなくなった、あるいは浮き上がることができなくなったら、そうなんじゃねえか?」

提督「他人が判断する場合は、本営の判断でそういう扱いになる場合がある。あとは、その鎮守府の提督がその艦娘について虚偽の報告をした場合だな」

加古「ふーん……じゃあ、沈んでなくても沈んだことにできるんだ?」

提督「まあ、それもできるな」

加古「そっか……それなら……」

鳥海「それなら、沈んだかどうか誰も判断できない艦娘は、元の鎮守府に戻れる可能性もあるわけですね?」

加古「!」

提督「……多分、な」


鳥海「良かった……! それなら、加古さん! 私たちは早く鎮守府に戻りましょう!」

加古「!」

提督「お前は元の鎮守府に戻るつもりでいるのか」

鳥海「はい、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし。早く鎮守府に戻って、みんなを安心させてあげないと!」

加古「……」

鳥海「加古さん?」

加古「あのさ……本当に戻るの?」

鳥海「え、ええ……そのつもり、ですけど」

加古「悪いんだけどさぁ、あたしパス。あの鎮守府には戻らないよ」

鳥海「な、なにを言ってるの!?」

加古「鳥海こそ本気で戻るって言ってんの? あたしゃ今のあの人にはついていきたいと思わないよ?」

加古「鳥海は義理を重んじてるんだろうけどさあ、無茶な注文言われて轟沈して、それで戻って義理を果たそうってお人好しが過ぎない?」

鳥海「でも、司令官さんは司令官さんなりに頑張って……」

加古「あれで頑張ってるって言うの? あたしが言うんだよ? 相当なもんじゃないのかねえ?」


加古「あの一日提督の言うことに何も口を出さないくらいともなると重症だよ。お人好し通り越して他人任せになってんじゃないか」

鳥海「司令官さんには司令官さんのお考えがあります! それに、進軍の判断をしたのは私たちよ!?」

鳥海「加古さんだって、進むべきか退くべきかを訊かれたときに、進んでいいと言ったじゃない!」

加古「……」

提督「お前らの細けえ事情は知らねえが」

加古「!」

鳥海「!」

提督「加古が戻る意思を見せてない以上、今の状況なら戻るのは鳥海だけだな」

鳥海「そんな……!」

提督「鳥海は加古ともども元の鎮守府に戻る気でいた。加古、お前はどうだ? 鳥海は戻ったほうがいいと思うか?」

加古「……」

鳥海「……」

提督「……」

加古「……あたしは、引き留めないよ。けど、戻ったほうがいいなんて、あたしの口からは言いたくないねえ」

提督「……」


明石「提督ー!」

提督「!」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

霧島「失礼いたします」

摩耶「よっ、悪りーな、遅くなっちまって」

鳥海「摩耶!? ど、どうしてあなたがこんな鎮守府に!? あなたも轟沈したの!?」

摩耶「してねえって。人の心配する前に鳥海は自分の心配しろよなー?」

鳥海「そ、それはそうかもしれないけど……でも、摩耶は轟沈したわけじゃないのね。良かった……」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

明石「代わりに朝雲ちゃんが来るらしいですよ? 古鷹さん、加古さんが心配すぎて落ち着いていられないから、落ち着かせてから来るって」

提督「……そうか」アタマオサエ

加古「なに? ここの古鷹ってばお節介焼きなの?」

提督「まあな……今はそうでもないと思うが」

加古「ふーん……?」

 タタタタッ

朝雲「ごめんなさい、遅くなりました!」


提督「古鷹はまだそわそわしてんのか?」

朝雲「あー……古鷹さんは、武蔵さんに無理矢理大人しくさせられた、っていうか……気絶させられたっていうか」トオイメ

加古「はあ!?」

提督「そうか。しょうがねえな」

朝雲「そういうわけだから、古鷹さんは武蔵さんと筑摩さんに任せてきちゃった」

加古「あー、ちょっと、余所様の艦隊に言うことじゃないかもなんだけど、大丈夫なの?」

提督「うちの連中もそこまで遠慮なしじゃねえから、大丈夫だろ。とりあえず朝雲も来たことだし、話を始めるぞ」

提督「まず、この二人にはこの島がどんなところか説明した」

提督「この島の砂浜に流れ着いたときには二人とも意識がなかったんだから、俺は二人とも轟沈したと考えるんだが、鳥海はその自覚がないらしい」

霧島「では、鳥海は轟沈したわけではないと?」

提督「主張はそういうことらしい。俺には自分の不始末を認めたくないだけに見えるがな」

鳥海「……」ムッ

提督「でだ、そもそもこんなことになった原因について、お前らに話してもらいたいんだが、できるか?」

加古「……」チラッ

鳥海「は、はい……わかりました」


提督「それじゃ、自己紹介と所属か。どこから来たんだ?」

鳥海「では、改めて。私は重巡洋艦、鳥海です。そして、こちらが同じく重巡洋艦、加古」

加古「……」ペコリ

鳥海「私たちは呉にある遠大佐鎮守府に所属する艦娘です」

朝雲「遠大佐……?」

霧島「呉で大佐ということは、大きめの鎮守府のようですね」

加古「いんや、呉にある鎮守府のなかでは小さいほうだよ。言っちゃあれだけど、いくつかある港の隅っこに追いやられてるし」

摩耶「そうなのか?」

鳥海「え、ええ……末席から数えたほうが早いのは本当よ。大将や中将の鎮守府もあるし、そちらと比べたら鎮守府の規模は小さいわ」

霧島「なるほど。かつて海軍工廠があった港だけあって、海軍の中でも重鎮が集まるのは当然と……」

提督「で、実力はどうあれ、その呉に居を構える遠大佐が、なんでまた重巡二人を沈めるようなヘボい指揮を執ったんだ」

鳥海「そ、それは……」

加古「その時指揮を執ってたのは遠大佐じゃなくて、留提督だよ。一日提督のね」

霧島「いちにち……?」

加古「そ。なんかねえ、留って人が今売り出し中の大人気男性アイドルなんだって。あたしは聞いたことないんだけどさ?」


加古「で、どっかのテレビが呉にある鎮守府を取材したいとか、一日提督をやらせて艦娘の指揮を執らせたいとか、そういう申し入れをしたんだって」

加古「それで引き受けたのが、うちの遠大佐なんだ」

明石「……一日提督、って、芸能人が一日警察署長とか、あの一日って意味ですか!?」

摩耶「それじゃ、何も知らねえド素人が、艦隊の指揮を執ってお前らを轟沈させたってのか!?」

霧島「……そんな馬鹿な」クラッ

鳥海「で、でも、進軍を決めたのは私たちで、別にその方のせいでは……!」

提督「加古。鳥海の話は本当か?」

加古「うん。無理を承知で進んだのはあたしたちの判断だよ。けど、最初から無理があったと言えば無理があったんだ」

加古「派手な砲撃戦が見たいっていうから戦艦や重巡をメインにしたのに、どうして潜水艦がいる海域を選んだんだ、とかさ」

霧島「潜水艦……もしかして、南方海域……?」

加古「そ。駆逐艦も一人連れてったんだけど、対潜装備も載せなかったもんだからひどい目に遭ってさぁ」

加古「あたし以上にうっかりが多すぎるんだよ、最近の遠大佐は……」ハァ

明石「ですが、どうしてそんな状況で進軍しようとしたんですか」

摩耶「そうだよ。引き返すことだってできたろ?」

鳥海「それは……」ウツムキ

加古「……」


鳥海「私たちの、慢心だと……」

明石「……」

霧島「……」

提督「加古はどうなんだ」

加古「……それ、あたしはちょっと違うと思うなあ」

鳥海「え?」

加古「多分あのとき、あたしたちは期待されてたんだよ。大破した艦娘もいながら、この窮地を無事乗り越えて、帰ってくる……」

加古「そういうストーリーを、あたしたちは暗に求められちゃったんだよ。で、おそらく鳥海は、その期待に応えようとしたんじゃない?」

鳥海「……そうかもしれないわ。でも……」

加古「それになにより、深海棲艦の侵攻は止めなくちゃいけない……!」

鳥海「そう……だから、私たちは進むことを決意したんです」

提督「……」

明石「でも、それで沈んでしまったら元も子もないでしょう!? なんでそんな無茶を、美談みたいに話せるんですか!」

加古「そうだねえ……沈んだら終わりだよねえ。今思えば、ほんと、あたしも馬鹿なことしたもんだよ」


提督「じゃあなにか? お前らはその一日限定の留提督とやらの綺麗事にまんまと乗せられたってことか?」

鳥海「っ!!」

摩耶「お、おい!」

霧島「司令、その言い方はさすがにどうかと……!」

加古「いや、その通りだよ」

全員「!」

加古「留提督は、そうやってあたしたちを鼓舞して、勝ってこいって無茶ぶりしたわけだもの」

加古「それであたしは、もう駄目だ、って思って、諦めたんだ」

明石「そ、それってどういう……」

加古「あたしはあのとき、最初から勝つつもりで進軍したわけじゃない。あたしは、最初から沈むつもりで先に進んだんだ」

鳥海「え!?」

摩耶「はぁ!?」

霧島「!?」

朝雲「……」

提督「どういう意味だそりゃ。そんなにその留提督が気に入らなかったのか?」

加古「いいや? どっちかっていうと遠大佐に愛想が尽きたっていうか、今回の件が決定打になったって感じかねー……」


提督「ほう。決定打ってのはどんなどこだ?」

加古「昔みたいに捨て艦するならいざ知らず、今は大破したら引き返すってのが鉄則でね。遠大佐はそれを守る人だと、あたしは思ってたんだ」

加古「それが今回、留提督がいいところを見せたいがための進軍の指示を、止めようともしなかったんだ。それで幻滅したってのが一番だね」

加古「あとは、留提督の進軍を促す言い方が気に入らなかった」

加古「途中撤退は海軍として恥ずかしくないかとか、目的を果たせないのは格好がつかないとか、まー聞いてていやらしい台詞が聞こえてきたんだ」

加古「さもあたしたちが進みたくて進んだと言わせたくて、そういう言い方をしたんだろうね」フン

提督「そいつらが責任を負いたくないからか」

加古「わかんないけど、そんなとこだろうねえ。それであたしもちょっとむかっと来ちゃって」

加古「本当ならさ? そんなことを留提督が言おうものなら、遠大佐が諫めてくれてもいいじゃないか」

加古「でも、遠大佐は何も言わなかった」ウナダレ

加古「だからあたしは、いいよ、進もう、って言ったんだ」

鳥海「……!」

提督「諦めの意味での、もういいよ、か」

加古「うん……なんていうかさあ、なんて言ったらいいかわかんないけど、糸がぷっつり切れちゃったんだよね」

加古「ああ、もうどうでもいいやって。もう暴れるだけ暴れて、終わっちゃおうってねぇ……」

提督「……」


加古「留提督への当てつけも少しはあったかな……」

加古「自分が指揮執ったときに艦娘沈めるのって、ああいう人たちにとってどのくらい痛手なのかもわかんないけど」

加古「でもさ、今思い起こしてみても、一番腹が立ったのはやっぱり遠大佐かなあ」

加古「ちょっと来ただけのやつに好きに言われて黙ってるって、あんたそこまで腑抜けたのかって」

鳥海「……」

加古「ま、あたしにゃいろいろ思うことあったんだけど、鳥海を巻き込む気はなかったんだ」

加古「落伍すんのはあたしだけで良かったんだよ。なんでぼろぼろの鳥海が、あたしをかばったりなんかしたのさ?」

鳥海「……昔を、思い出したの」

加古「昔……? ああ、艦だったころの……」

鳥海「二度も、私の目の前で沈むのを、見過ごせるわけないじゃない……」

加古「そっか……そだね。ごめん」

提督「……こいつらもあれか。艦だったころの因縁を覚えてるわけか」ヒソッ

明石「そういうことですね」ヒソッ


提督「とりあえず、お前らんとこの遠大佐が何を考えてるのかって話になるんだが……」

加古「あーごめん、遠大佐についてはもう勘弁。あたしはもう関わりたくないっていうか、見せる顔がないっていうかさあ」

鳥海「加古さん!? それとこれとは話が別でしょう!? お別れするならするでご挨拶しないと!」

加古「えーー?」

摩耶「……鳥海ってこんなに面倒臭かったっけか?」

霧島「真面目な艦娘ね……」

朝雲「え、えーっと、話の途中でごめんなさい。ちょっといい?」

提督「? どうした?」

朝雲「鳥海さんと加古さんに聞きたいんだけど、遠大佐ってさ、もしかして……」


朝雲「秘書艦に、雷を連れてない?」


加古「!」

鳥海「そ、そうだけど……あなた、遠大佐を知ってるの?」

朝雲「あー、はい。まあ……そっか、そうなんだ……」

提督「朝雲?」

朝雲「あ、司令。もしかしたら気付いてるかもだけど……」


朝雲「遠大佐の秘書艦の子、古鷹さんが超過保護になった原因かも……」

提督「」

明石「」

鳥海「!?」

加古「え、なにそれ」

朝雲「えーと、私、この鎮守府に来る前にL大尉……その時は少佐だったんだけど……」

 * かくかくしかじか *

朝雲「……というわけで、古鷹さんも、過保護通り越して介護してるような感じだったのよね」

加古「うわあ……」ドンビキ

提督「俺の風呂やトイレまで世話しようとした時はどうしようかと思ったぜ」

鳥海「そんなことまで……」

朝雲「うちの古鷹さんが遠大佐の雷に触発されて、重度の世話焼き重巡になっちゃったんだけど、じゃあ当人はどうなのかな? って思って」

加古「雷がそこまでやってる可能性……ないとは言えないねえ」

朝雲「少なくとも、私たちが演習で出会ったころの遠大佐はまだまともだったと思いたいけど、あれから1年以上経ってるわけだし?」

明石「雷ちゃんにしても遠大佐にしても、いろいろこじらせて悪化してても不思議ではない、と」

霧島「悪化……」


摩耶「なあ提督、あたしたちは全くの外野だけどさ、話だけ聞く限りだと、やっべえんじゃねえの? そいつ」

加古「いやー、あたしは身内だけど、ぶっちゃけやばいと思ってるよ。実際、今回出撃する前から常々、誰か早く何とかしてーって思ってたし」

提督「明石は俺と同じ顔してるからまあ察するとして」

明石「えー!?」

提督「異論はねえだろ。霧島は今の話、どう思う」

霧島「……い、いえ、私が人様の判断をしていいのかどうか悩みますが」

提督「言い淀んでるってことはろくな感想じゃねえってことだな」

霧島「!?」

提督「で、鳥海は」

鳥海「……」アタマカカエ

提督「もはやフォローの言葉もねえ、と」

鳥海「准尉さん!?」ガタッ

提督「この中で、おそらく一番遠大佐を信頼しているであろうお前が、そういう顔してる時点でもうダメだろ」

提督「思い当たる節があるから考え込んでたんだろ? お前が無意識に目を背けてたのか、意識して目を瞑っていたのかは知らねえが」

鳥海「あうぅ……」


提督「もしかしたら、遠大佐がそういう状態だからこそ、戻って支えてやらないとって考えてたか?」

鳥海「そ、それは……」

提督「……」

鳥海「……そう、かも、しれません」

提督「そうか。そうしたいなら引き留めはしねえが……遠大佐にしても秘書艦にしても、更生させんのはくっそきっついだろうなあ」ウンザリ

朝雲「そうね……香取さんからも話を聞いたけど、すっごい大変だったみたいだし」ウンザリ

提督「まあいいや、どうせ遠大佐がどんな奴だろうと、俺には関係ねえしどうこうするつもりもねえ」

鳥海「じ、准尉さんっ!?」ガタガタッ

提督「そこ驚くところかよ? 俺がどうにかできると思ってんのか?」

明石「まあ、普通に考えたら何もできないですよね。秘書艦変えてくれ、って言って変えてもらえるかどうかはそこの提督次第ですし」

霧島「そもそも、お相手が大佐ですから司令の階級ではちょっと……進言したくてもできる立場にないと思いますが」

摩耶「おまけにうちの提督、態度も口も悪りーもんなー」

摩耶「お前の秘書艦なんとかしろとか、上から言われてもフツーにむかつかれるだろーに、こいつが言ったらどうなるかわかったもんじゃねーぞ?」

鳥海「ま、摩耶!? あなた、司令官さんに向かってなんてこと言うの!?」

提督「うん? 摩耶の言う通りだと思うが?」

鳥海「えええ……?」


朝雲「ねえ司令、この二人はこれからどうするの?」

提督「とりあえず、本営からの情報が来るまではこの鎮守府で預からねえとな」

提督「リストに載っかってくりゃあ、ここで働くかどうかの二択だが、そうでなかったときは鳥海は戻ってもいいだろう」

提督「そのときに、加古も一緒に戻るかどうかは、加古の判断に任せるってだけの話だな」チラッ

加古「……」

提督「……?」

加古「……ぐぅ……」コクリコクリ

朝雲「寝てるーー!?」ガビーン

提督「」

霧島「」

摩耶「いや寝られんのかよ、この流れで!」

鳥海「寝ちゃうのよ、加古さんは……」ガックリ

明石「聞きしに勝るほどの図太さですねえ……」


 * 一方そのころ 本営 *

不知火「……」スタスタスタ

金剛?「……ヘイ、不知火」コソッ

不知火「? 金剛さん……?」

仁金剛「イエス、私は仁提督の秘書艦の金剛デス。あなた、墓場島の不知火デスヨネ?」

不知火「仁提督の……! よく、あの島の不知火だとお気づきになりましたね」

仁金剛「中将のオフィスから出てきたところを、こっそり追いかけてきマシタ」

不知火「そうでしたか、気付かずに申し訳ありません」

仁金剛「こちらこそ尾行みたいなコトをしてソーリーネ。部屋を出てすぐ声をかけるのも、ちょっと憚られるからネ……」

不知火「承知しております。不知火と親しくしてあらぬ噂を立てられるのは、金剛さんにしても仁提督にしても困るでしょうから」

仁金剛「……それはそうなんだケド、あの島を流刑地だとか、これから死ぬ人間が行く島だとか……」

仁提督「関わったら自分の艦娘が轟沈したり、深海棲艦化するだとか……私が聞いた噂だけでもヒドイと思うヨ?」

不知火「立ってしまった噂を必死に弁解しても面白がられるだけですから。それより、不知火に何か御用でしょうか」

仁金剛「イエス、私の仁提督から伝言デス。なんでも、墓場島のことを詳しく調べている人がいるらしいヨ?」ヒソヒソ

不知火「! ……どういうことですか」


仁金剛「轟沈した艦娘を助ける方法を、熱心に聞いて回ってるみたいネ。それで墓場島の噂を聞きつけたみたいなんだケド」

仁金剛「妙に張り切ってて、あの勢いだと最悪、墓場島に乗り込んで行くかもしれないワ……!」

不知火「しかし、轟沈した艦娘を自分の鎮守府に連れ帰ることは……」

仁金剛「イエース、私もそれは知ってるし、わかってるつもりヨ? でも、あの人たちはそんなことはお構いなしみたいで……」

仁金剛「むしろ、悪評の多い墓場島から、轟沈した艦娘を助け出したら逆に評価されるんじゃないかー、とか?」

仁金剛「トンチンカンなコトを言ってたらしいカラ、墓場島の関係者に知らせないと、って、仁提督が言ってたんデス」

仁金剛「それで以前、中将と関係があると聞いて、丁度良く不知火の都合が聞けて、私に伝言を頼んだわけデース」

不知火「! それは……ありがとうございます」

仁金剛「あなたはこれから墓場島に戻るのでショウ? 提督准尉に、伝えてあげてくだサイ」ニコッ

不知火「はい……お心遣い、本当に痛み入ります」ペコリ

仁金剛「ユーアーウェルカム! ついでに料理上手な比叡と、妹思いの黒潮にも、よろしく伝えてネ!」

仁金剛「それでは私は仁提督のもとへ戻りマース! シーユー!」タタッ

不知火「……」ケイレイ

今回はここまで。

少しだけ続きです。


 * 数日後 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……つうことはなにか? 遠大佐がこの島に乗り込んで鳥海たちを連れて帰ろうとしてんのか」

不知火「はい。まだ可能性の段階ですが」

提督「やれやれ……どいつもこいつも勝手な真似しやがって」

電「雷ちゃんが一枚かんでると思うと申し訳ないのです……」(←今日の秘書艦)

提督「何度も言うが、お前が委縮する必要はねえぞ?」

電「……なのですか?」

不知火「はい、あなたに落ち度はありません」

電「……」ションボリ

提督「と言っても気に病むのがお前らなんだよなあ……いくら姉妹艦だっつっても、一度も話してなきゃ他人だろうがよ」

不知火「ところで」チラッ

武蔵「む、どうした」

筑摩「?」

不知火「いえ。筑摩さんが、伺っていたよりも顔色が良いといいますか」


筑摩「一応、ね。浮かれてはいけないと思ってるんだけど……」

武蔵「利根と2秒ほど目を合わせても避けられなかったそうだ」

不知火「2秒、ですか……」

提督「あれで利根も努力というか、筑摩を怖いと思わないように必死になってくれてるからな」

提督「筑摩も筑摩で利根との接触を避けるために執務室に引き籠ってるわけだが、居場所がわかってる分、利根も安心してるみたいだし」

提督「お互い我慢もこの調子で続けてもらって、そう遠くなく良い結果になってくれりゃあ御の字だ」

提督「武蔵には、出撃せずに筑摩に付き合ってもらうっていう、別の意味で我慢を強いてるところもあるがな」

武蔵「いいさ、出撃するにも資材を節約せざるを得ない現状だ。今は執務で鎮守府に貢献させてもらおう」

提督「畑仕事も頼りにされてるみたいだしな」

武蔵「ああ、いい汗をかかせてもらっている」フフッ

 <シレーカーン!

提督「!」

扉の外の声「司令官、ごめんなさい! 両手がふさがってるから、扉を開けて欲しいの!」

電「この声は暁ちゃんなのです!」スクッ


不知火「不知火が開けます」ガチャ

暁「ありがとう司令か……じゃなくて、不知火? 戻ってきてたの?」カチャカチャ

武蔵「おや、お茶の時間か?」

暁「ええ、今日は電が秘書艦だから、なにか差し入れようと思って、作ってきたの!」

暁「こっちのラスクは金剛さん、ミルクティーは比叡さんに教えてもらったのよ!」エッヘン!

筑摩「あら、美味しそう。こんなに器用な暁ちゃんは初めてだわ。電ちゃんのお姉さんはすごいわね」ニコッ

電「!」

暁「そ、そんなに褒められると、ちょっと照れちゃうわ。えへへ……ありがとう筑摩さん」

武蔵「せっかく持ってきてくれたんだ、取り分けるくらいは手伝おうじゃないか」

電「い、電も手伝うのです!」

武蔵「……なあ筑摩。姉のことで電が落ち込んでいるのに気づいてたな? 貴様もなかなか妹思いじゃないか」ヒソヒソ

筑摩「ふふ……なんのことでしょう? 私は末っ子ですよ?」ヒソヒソ

不知火「……」チラッ

提督「……」

不知火(司令が心なしか笑っているようにも見えますが……言わないほうがいいでしょうね)


 * *

武蔵「それにしてもだ」フゥ…

武蔵「こんな島だからいろいろと不自由ばかりだと思っていたが、これほど自由というか、良い意味で緊張感がないとは思わなかったな」

筑摩「そうですね……」

提督「? どういう意味だ」

武蔵「轟沈した艦娘をそのまま運用すると、やがて深海棲艦になる……という話があったな?」

提督「おう」

武蔵「その割には鎮守府内に制約らしい制約がないなと、筑摩と話をしていたんだ」

筑摩「流れ着いた轟沈艦を運用し、深海棲艦になるかを調べるという建前があるのでしたら……」

筑摩「例えば監視カメラですとか位置情報システムですとか」

提督「ああ、そういう意味か……」

筑摩「立地はともかく、設備や機能が圧倒的に足りなさすぎではないかと。この体制で本営は納得しているのでしょうか?」

提督「本営の連中がとやかく言ってこないのは、自分の発言がきっかけで余計なことに巻き込まれたくないってのあるんじゃねえかな?」


提督「ただでさえ、俺が外と連絡とること自体を、中佐が良く思ってねえ」

提督「おそらくこの島に人を近づけさせないために、中佐が一枚も二枚も噛んでるんだろうな」

提督「俺もいたずらに中佐を刺激する動きを取って、こっちの身動きを制限するような真似はしたくねえ。準備ができるまでは大人しくしてるさ」

武蔵「なんだその準備というのは。物騒なことを考えていないだろうな!?」

提督「物騒じゃねえよ。いずれはこの島をどうにかして、艦娘たちだけの島にしたいと思ってるだけだ」

武蔵「!」

提督「治外法権と言えばいいか、領土と言えばいいか……不可侵領域みたいなものを、作ってやりたいと思ってる」

筑摩「……まるで国家ですね」

提督「!」

暁「……司令官?」

提督「そうだな……その形が、今のところは理想だな」

武蔵「おい、本気か!?」

提督「ああ、悪くねえな。悪くねえ……!」ニヤァァ

電「司令官さんの笑顔が相変わらず悪人みたいなのです……」タラリ


暁「暁たちのためなのはわかるけど、司令官はもっと普通に笑ったりできないの?」タラリ

提督「うん? 俺みたいなのがお前らみたいににこにこしてたら気持ち悪くねえか?」

暁「そんなことないわ、大人だって笑ってた方がいいわよ。金剛さんや比叡さんだって、にこにこしてるでしょ?」

提督「まあそうだけどよ、俺にはあいつらほど可愛げはねえぞ? それに、不知火だって滅多に笑わねえよな?」

電「そういえばそうなのです」

不知火「いえ、不知火は笑いたいときには笑いますので、どうぞお気遣いなく」

暁「……そういえば……」

提督「どうした?」

暁「扶桑さんって、ここへ来たばかりのときは全然笑わなかったんだけど、今はずっと笑顔よね? 笑ってないときがないくらい……」

提督「あー……あいつは前の鎮守府の扱いが非道かったからな。その反動じゃねえかな?」

暁「司令官は理由を知ってるの?」

提督「ああ。知りたいんなら扶桑を呼ぶぞ?」

暁「そ、そこまでしなくていいわ!?」


武蔵「提督よ、ここでお前が話せばそれまでじゃないか?」

提督「この手の話は本人不在のところで話したくねえんだよ。当人のあずかり知らねえところで、俺がべらべら喋ってたら気分悪いだろ」

武蔵「しかし、利根のときは」

提督「利根は話が別だ! 思い出させたらぶっ倒れるような話、本人にさせられるかよ!?」

武蔵「ぐ……」

提督「正直、利根の過去はできれば誰にも知られずに、触れられなければいいと思ってたんだ」

提督「だが、事情を知らないがために利根があんな目に遭うなら、知ってる奴が……っつうか、この場合俺だよな。俺がどうにかするしかねえ」

提督「利根自身の名誉もある。ことがことだけに、あんまりおおごとにしたくなかったんだがな」

筑摩「……」ウツムキ

電「司令官さん以外には、このことを知ってる人は誰だったのですか?」

提督「来た当初からその辺の事情を知ってたのは、確か朝潮だけだったはずだ。その後、長門にも軽く話して……」

提督「明石と如月にも話したんだが、それはそれからもう少したってから……利根がだいぶ良くなってからだな」


暁「……ねえ、司令官? もしかしてその話、利根さんが入渠しないのと関係ある?」

提督「……」

暁「……ふーん、そう。そういうことなの」ウナヅキ

電「あ、暁ちゃん? どうかしたのですか?」

武蔵「おい、どういう意味だ」

暁「司令官がそういう顔をして押し黙ったってことは、当たってるけど答えたくない、ってことでしょ?」

提督「そういうこった。ったく、お前らほんとに察しが良くて助かるぜ」ハァ…

武蔵「おい、まさか……」

提督「言うなよ武蔵。利根がああなったのは、『ああなりそうになった』ってことだぞ?」

武蔵「で、では、利根は……!!」ワナワナ

提督「それ以上話したいんなら明石んところに行け。どんな顔されるかは知らねえがな」

武蔵「……!!」

筑摩「なんて……なんてこと……!!」ボロボロボロボロ

電「筑摩さん……!」


提督「……」

暁「……食器、下げるわね」

不知火「手伝います」

 カチャカチャ…

提督「……暁は、筑摩に声をかけないのか?」

暁「それはもう電がしているもの。駆逐艦に寄ってたかって励まされても、ちょっとね……?」

提督「なるほど。お前も声をかけるタイプだと思ってたが、それもそうか」

暁「司令官は声をかけないタイプよね?」

提督「ああ。俺が言っても逆効果だからな」

不知火「……当事者にしかわからない感情に口を出したくない、でしたか」

暁「ああ、そういうこと。司令官らしいわね」

提督「……」

今回はここまで。

だいたい投下できないときは、話の結末に悩んでいるか、
書いて読み直して気に入らなくて書き直しているか、どちらかです。
ご容赦願いたく。

お待たせしました、続きです。


 * 鎮守府内 会議室 *

(会議室内に、提督、不知火、朧、若葉、朝潮、吹雪、電、神通、那珂が集まっている)

提督「時間だが……古鷹がいねえな?」

那珂「朝雲ちゃんに呼ばれてるから、少し遅れてくるって言ってましたー!」

提督「そうか……まあ古鷹は接触させる気ねえから、後でもいいか」

朧「? 何の話ですか?」

提督「不知火からの情報だ。この島の鎮守府に、テレビの撮影班が入るかもしれねえ、って情報があってな」

吹雪「テレビですか!?」

提督「はしゃいでんじゃねえよ。俺はこの島のことをテレビに映す気はねえぞ」

吹雪「え?」

提督「お前たちに集まってもらったのは、この島の映像や音声が外に出るのを阻止してもらうためだ」

朝潮「阻止、ですか?」

若葉「……那珂さんにそれをさせるのか」チラッ

那珂「!」

提督「ああ、だから最初に那珂には謝らないといけねえ」


提督「テレビのことを知ってそうだからこそ協力を仰ぎたいわけだが、この話は那珂の望みとは真逆のはずだからな」

若葉「提督が、テレビに映ることを拒否する理由はなんだ?」

提督「とにかく目立ちたくねえってだけだ。俺はこの島の存在自体を世間から隠し通したい」

提督「ま、俺の考え関係なく、ただでさえ余所から蛇蝎のごとく嫌われてる鎮守府がテレビに出てちやほやされたら、面白くねえと思う連中が大多数のはずだ」

提督「万が一があったら、くっそつまんねえ理由で因縁つけられて陰湿な嫌がらせを受けるのは目に見えてる」

神通「でしたら、そのテレビ局が入ってこないようにするのが一番なんでしょうが……」

提督「それが難しい。この前、島に流れ着いてきた加古と鳥海。あいつらの轟沈の原因になった無理な指示を飛ばしたのが、芸能人だって話でな」

提督「その汚名を返上したいんだか何だかで、調べてるうちにこの島のことを嗅ぎつけたらしい。だよな不知火?」

不知火「はい。仁提督の秘書艦の金剛さんから、そのように伺っています」

提督「仁提督がそうだったように、そこがどういう場所か知らない奴は、こっちの都合なんか知ったこっちゃねえし、何をしてくるかもわからねえ」

神通「留提督……でしたか。彼が、自分が正しいと思っているのなら、私たちが受け入れられない要求をしてくる可能性もあるわけですね?」

提督「ああ。だからこうやって、心構えだけでもしておきたくて、集まってもらったわけだ」

電「その人は、轟沈した艦娘がここ以外では運用できないことを知らないのですか……?」

提督「知ってるはずっつうか、調べてりゃ嫌でも知ると思うが……」


不知火「むしろ、轟沈した艦娘をこの島から助け出すことが良いことであると思い込んでいる可能性があります」

不知火「金剛さんも、あのままでは島に乗り込みかねないと仰っていました」

電「……それってもしかして、司令官さんが悪者みたいな扱いになってませんか?」

朧「あー、ありそう……」

提督「そういうのは慣れてるから気にすんな」

吹雪「慣れちゃだめですよ!?」

提督「仮に俺が正しかろうと、奴らがこの島に来る時は、鳥海や加古を連れ戻しに来る時だ」

提督「否応なしにやりあう羽目になるんだろうな……面倒臭え」ハァ

提督「それでだ、少し脱線したが、那珂にはそういう意味で我慢を強いることになる……すまない」ペコリ

那珂「……!」

提督「俺は、この島にやってくるテレビ局の連中を、どんな手を使ってでも追い返すつもりでいる」

提督「その時にお前がいて、追い出すのに加担したように見られたんじゃ、お前が将来テレビに出て有名になろうって時にマイナスになるだろう」

提督「だから、この島に那珂がいること自体、悟られたくない。この島では隠れていて欲しいんだ」

電「司令官さん……」


提督「もっと言えば、那珂がこの島にいること自体、那珂にとってはマイナスだと思ってる」

那珂「え……? ど、どういう意味……!?」

提督「だってなあ、この島に関わっただけで本営にいい顔をされてねえんだぞ?」

提督「それだけじゃねえ。那珂は、この島の鎮守府に在籍してただけじゃなく、轟沈してこの島に流れ着いてる」

提督「メディアに出たいって望みがあるなら、このふたつは絶対に秘密にして隠し通すべきだと、俺は思ってるんだ」

提督「できることなら余所の鎮守府に移籍して、そこの鎮守府出身ってことで出自を偽るのも必要悪じゃねえかと思ってる」

全員「「……!」」

神通「この鎮守府とはかかわりがないように見せたい、と……?」

提督「そういうことだ。俺は俺が日陰者であることを望んでいるが、お前たちはその限りじゃないだろう」

提督「朧や吹雪みたいに轟沈したことがわかってるとさすがに厳しいが、那珂は所属すらわかってねえし、誤魔化そうと思えば……」

那珂「でも……でも、それじゃ!」

提督「!」

那珂「この鎮守府でお世話になったみんなを……応援してくれたみんなを、見捨てるようなこと、できないよ……!!」

提督「……」


那珂「ファンやスタッフを大事にするのが、那珂ちゃんが目指すアイドルだもん……!」

那珂「ステージも作ってもらって、そのステージに立つ前から、拍手も、応援や励ましもたくさんもらって……!」

那珂「こんなにお世話になったのに、この島の思い出を捨てちゃうようなことしたら、自分が許せないよ……!」

提督「そうか。そりゃあ……困ったな」

神通(困ってるようには見えませんね……)

不知火(微妙に嬉しそうですね……)

提督「俺はテレビ局の連中を陥れようとしてる。奴等が来た時に那珂がいるとは思われないようにしねえとな」

朝潮「ということは、那珂さんの存在を知られないようにすることも任務の一つですね!」

提督「ああ、そうだ」

吹雪「それじゃ、あとはどうやって追い返すか、ですね……」

神通「提督、今回の任務はどこまでを想定していますか?」

提督「俺はもう上陸されること前提で考えてた。この手の連中はこっちの静止なんざお構いなしだろうしな」

電「そういえば、仁提督のときも勝手に上陸されてたのです」

朝潮「霞からはむこうの長門さんに追いかけられたと聞いてますが……それも連絡なしだったと?」

朧「うん。事前連絡なしで来たらしいよ?」

朝潮「えぇ……」


提督「ともかく、あいつらが勝手に鎮守府内を歩き回る事態は避けたい。まずは戦艦を並べて上陸を拒否するつもりだ」

提督「で、万が一島に入られた場合なんだが、若葉、朝潮、朧には、奴らが変な動きをしないか取り囲んで見張ってて欲しい」

朝潮「!」

若葉「変な動き?」

提督「ああ。一番はなにより盗撮されたくねえ」

提督「最近の撮影機器は小さいからな、手元でなにかを動かしたり、もぞもぞしてるようなことがあれば、すぐに俺に教えてくれ」

提督「肩から下げたカバンの向きをわざとらしく動かしたり、ずっと腰に手を当ててたりするやつも要注意だ。カメラを仕込んでる可能性がある」

神通「提督、彼女たちが選ばれた理由を伺っても?」

提督「完全に俺の独断と偏見だが、テレビカメラを向けられても愛想を振りまかないことができるか、だな」

提督「潮みたいに恥ずかしがったり、暁みたいに愛想がよくても付け込まれるからな。無視と無関心があいつらの一番困る反応だ」

朧「笑わないようにしないといけないんですね?」

提督「どんなふうに映されるかわかんねえからな。ちょっと笑っただけで気があるみたいな壮絶勘違い編集されても困る」

提督「戦艦に頼もうかとも思ったが、霧島はここへきて日が浅いし遠慮がち、長門以外はちょっと愛想が良すぎる」

吹雪「山城さんもですか?」

提督「あいつが一番愛想いいだろ。自分からネタ振っていじられに来てんだぞ、あいつ」

朧「多分、そんな意図ないと思いますけど……」


提督「ともかく。若葉、朝潮、朧はその撮影グループを取り囲んで監視。で、その後ろをさらに神通が隠れて見張るのがいいだろうな」

提督「俺からの指示がない限りは、そのグループから何を訊かれても無視。任務に集中してくれ」

若葉「ふむ……わかった、任せてくれ」

提督「それから電と吹雪、あとで古鷹にも頼むが、お前たちは、あいつらの行動した場所に変なものが残ってないかを調べて欲しい」

電「へんなもの……ですか?」

提督「中佐のいる鎮守府にもマスコミが入ったんだが、ご丁寧に盗聴器を仕掛けていきやがったそうだ」

吹雪「盗聴器!?」

提督「普段から掃除してる古鷹なら、見たことのない置物が増えたり、コンセントに知らない機械が刺さってたりすれば気付くだろ?」

提督「電と吹雪も、この島の艦娘の中では古参の方だ。壁に変な穴が開いてないかとか、少しでも違和感があったらすぐ教えてくれ」

電「か、考え過ぎではないですか……?」

提督「んなもん石橋叩き割るくらいでいいんだよ」

吹雪「割ったら駄目じゃないですか!?」ガーン

提督「ぶっちゃけ奴らの渡る橋は、連中もろとももれなく叩き落としておきたいくらいだ」

吹雪「しれーかーん!?」ガビーン


提督「で、那珂にも協力を仰ぎたいんだが……」

那珂「は、はいっ!」

提督「那珂は俺たちを含めて、俯瞰できる場所から奴らを監視してくれ」

提督「もしかしたら、あいつらが勝手に他の場所に行って、そこから撮影を始めるかもしれねえ」

若葉「別動隊が出ると?」

提督「ああ、だかそれは俺が認めねえ。歩くときは一か所に固まって、神通たちの目が届く範囲にいてもらう」

那珂「うーん、それ、できるかなあ……?」

提督「? やっぱり問題あるのか?」

那珂「野外ロケするときって、ロケしている場所がどんなところかを見せる必要があるんです。周囲の景色が見えるとよくわかるでしょ?」

那珂「まとまって撮影しているグループから離れて、引いた風景を撮影する班も、いるはずなんですよー」

若葉「なるほど……」

那珂「そういうわけだし、見張るんなら見張りグループを複数作らないといけなくないかなー?」

提督「ちっ、くっそ面倒臭えな。撮影できる連中が複数いることを想定しなきゃなんねえのかよ……」

吹雪「それがだめなら、強制的に行動を制限するしかないですよね」

朧「でも提督は、向こうがアタシたちの指示に従わないことを危惧してるわけでしょ?」

朝潮「私たちが見張るとしても、相手が大人数では難しいかと……」


提督「そうだな……やっぱ戦艦たちも呼ぶか? それか、指示した場所からはみ出そうようなら、戦艦に強制的に海に投げ落としてもらうか」

若葉「!?」ギョッ

朝潮「!?」ギョッ

那珂「!?」ギョッ

朧「提督……本気ですか?」

提督「おうよ。むしろそっちのほうがいいかもしれねえな、撮影機器もついでにおじゃんにできるかもしれねえ」ニィ

那珂「提督さんってば、テレビを目の敵にしすぎだと思うんだけど……」オロオロ

提督「俺は単純に、この島のことを放っておいて欲しいだけだよ。テレビに映るなんてもってのほかだ」

提督「ん、そうだ、今からでも遅くねえ。中佐にも介入してもらって、奴らの妨害を依頼するか」ニタァ

若葉「」

朝潮「」

提督「俺がテレビで余計なことを言えば、一番困るのは中佐だ。奴ならことを大きくできそうだしなあ……!」ケッケッケッ

電「司令官さんがいつになく悪い顔をしているのです……」タラリ

若葉「だ、大丈夫なのかこの男は……?」

吹雪「もともとちょっと悪人っぽい顔してるけど、ここまで悪い顔は初めて見るかなあ……」

神通「中佐に迷惑をかけることができるからですね……気持ちはわかりますけど」

不知火「ああ、なるほど……納得です」


朝潮「」カチーン

朧「って、朝潮が固まったまま動かないんだけど……」

神通「あの、提督? あまり悪い顔をしますと、朝潮さんが認識を拒絶してフリーズしてしまいますので……」

提督「あぁ? こいつまだ俺を善人だと思ってんのか? おい朝潮しっかりしろ! 現実見ろ!」

朝潮「」チキチキチキ チーン

朝潮「はっ!? し、失礼しました司令官!」

朝潮「この朝潮! 司令官のためにならどんな悪事にも手を染める覚悟です!」ビシッ!

提督「だーからそうじゃねえって言ってんだろどうしてそう極端なんだおめーはよおおお!」アタマガシッ

朝潮「し、しれいいい痛い痛い痛いいぎゃあああああ!!?」メキメキメキメキ

吹雪「朝潮ちゃんから、今まで聞いたことないような悲鳴が!?」

那珂「提督さん手加減してあげてー!?」

提督「してるわ手加減くらい! 加減が出来てねえのは朝潮のほうだろどう見ても!」

朝潮「ひいい……この世のものとは思えないくらい痛いです司令官……!」ナミダメ

提督「お前がいろいろ取っ違えてるから、こうなるんじゃねえか。俺は朝潮に悪い事をしろなんて言ってねえぞ」

朝潮「で、ですが、司令官はいつも私たちのために、矢面に立って身を粉にしてくださっています!」

朝潮「その司令官のお役に立てることはこの朝潮にとって喜びです! ですから……」

提督「ったく、お前も面倒臭え奴だな」アタマガリガリ


提督「俺はお前らに気分が悪くなるようなことをさせたかねえんだよ。そういうのは全部俺に押し付けとけ」

朝潮「……」シュン…

吹雪「ほんっと、司令官は突き放すふりをして過保護なんだから!」

朧「清濁併せ呑む、って言葉がありますけど、濁ってる方は提督が率先して呑み尽くしに行ってますよね」

提督「ふん……」

朝潮「……司令官。朝潮は、司令官のお力になることを許していただけないのでしょうか……」ポロポロ…

提督「……」ピク

若葉「提督。いいのか、このまま泣かせてて」

提督「……」ムッ…

朝潮「あ、朝潮は、司令官に助けていただいた御恩があります。だからこそ、司令官の苦境ならば、私も……ぐすっ、ぐすっ」

吹雪「泣ーかした、泣ーかした」ボソッ

朧「かーすみーに言ってやろ」ボソッ

提督「ぅっだああああ! 茶化してんじゃねえよ! くそ! ああくそ!」ウガー!

提督「おい朝潮っ!」

朝潮「は、はい!」ビクッ

提督「いいか!? まず、信頼してなきゃここには呼んでねえ!」

朝潮「!!」


提督「真面目といえば真っ先にお前が来るくらいにはお前のことを評価してるし」

提督「これからやってもらう任務も人間のためじゃなく、この島のための任務だ。ぶっちゃけ人と関わりたくない俺の我儘だ」

朝潮「……!」

提督「俺一人じゃあ手に負えない。だからお前にも力になってもらおうって話だ。嫌か?」

朝潮「い、いえ! そんなことはありません!!」

提督「協力してくれるなら、頼みたい。大丈夫か?」

朝潮「お任せください! 朝潮は、これからも司令官に尽くす所存です!」ビシッ!

若葉「……なんだか愛の告白みたいな所信表明だな?」

朝潮「!?」カオマッカ

提督「若葉。お前も変なこと言うな」セキメン

若葉「フッ……これは失礼した」

電「痴話げんかはそのくらいにして、とっとと話を進めるのです」チッ

朝潮「!?」ビクッ

那珂「!?」ビクッ

若葉(なんだこのプレッシャーは!?)ビクッ

吹雪(電ちゃんが舌打ち!?)ギョッ

朧(電も感化されてるっていうか、すれてきてるのかなあ)


提督「だから茶化すなっつってんだろが……つうか、任務自体はさっき説明したのがすべてなんだがな」

那珂「この島の情報を持ち帰らせるな、ってことですね?」

提督「ああ。俺は、この島の存在は極力世間に公表したくない。海軍にとっても扱いに困るだろうからな」

若葉「海軍もなのか?」

提督「俺の個人的な事情だけでなく、本営も少なからずこの島には関わりたくないみたいなんだ」

若葉「それはやはり、轟沈した艦娘が生活しているからか?」

提督「一番はそこだと思うが……本営でこの島の話題を出すと嫌な顔をされるらしいぞ? L大尉がそう言っていたんだ」

不知火「それに関してですが……」スッ

電「不知火ちゃん?」

不知火「……あまり望ましくない言い方ですが、この島自体が、その……縁起が悪い、と言われているようなのです」

不知火「聞くところによれば、流刑地呼ばわりもあるらしく……島と関係すること自体、忌避されているとも言えましょう」

提督「流刑地ね。へっ、いいじゃねえか、そういう噂があるんなら、ますます人も寄ってこねえ。いい気分はしねえけどな」

若葉「なるほど。それなら確かに、若葉もそうだ」

若葉「止提督は特に世間体を気にしていたから、命令違反した若葉たちを解体以外の方法で抹消したかったと考えれば、合点がいく」


朧「それって、朧たちもそういう扱いなのかな……」ムスッ

提督「お前たちは事情が違うだろ……っつうか、悪いのは前の鎮守府の提督じゃねえか」

提督「けど、まあ、そうだな。そういうの関係なく、一緒くたにされてる感じはするな」チッ

提督「気分は悪いが、それで今まで奴らからの干渉がないことを良しとしてきたのも、まあ、俺だからな……」

吹雪「で、でも、そうしないと私たちだって、処分されてたかもしれないんですから!」

朝潮「そうです! 司令官の判断あればこそ、私たちが活動できているんです!」

提督「……」

不知火「司令。僭越ながら、今はこれからやってくるであろう敵に備えるのが最優先ではないでしょうか」

提督「……ああ。それもそうだな。そっちを悩むのは後にするか……」フー

提督「とりあえず今日のところは解散だ。電と吹雪はあとでまた来てくれ、古鷹と調整して話させてもらうからよ」

吹雪「はいっ!」

電「了解なのです」

 ゾロゾロ…

提督「ああ、そうだ、電」

電「はい?」クルリ


提督「ちょっといいか?」テマネキ

電「な、なんでしょう?」

提督「……全員行ったな。いや、お前が舌打ちなんて珍しすぎてな」

電「!」

提督「何かあったのか?」ジッ

電「な、なんでもないのです!」ダッ

提督「……そういう奴ほど、なにか抱えてんだよな。やれやれ……」



電「……」

電(電は、司令官さんのお役に立ててるのでしょうか)

電(司令官さんは、信頼してなきゃここに呼んでないと言いましたけど……)

電(電も、朝潮ちゃんのように、ちゃんと気持ちを伝えられれば……)

電「……」

電(B提督鎮守府で、電を初期艦に選んで貰ったとき、一番お役に立てるように、誓ったのに……)

電(……それすら、叶わず……)

電「……」

今回はここまで。

そろそろ投稿の予感

>>452
なんでわかるんですか……(白目


続きです。


 * 北東の砂浜 *

霞「なによ、また一人でぐじぐじ悩み事?」

提督「まあな」

霞「まあな、って……あんたねえ」ハァ

霞「……朧と吹雪から聞いたわよ。朝潮姉のことと、那珂さんのこと」

提督「そうか。朝潮はまあともかく……那珂のことは、どうにもうまくいかなくてな」

提督「あちらを立てればこちらが立たねえ。まったく、世の中はうまくできてやがんな、ってなぁ」

霞「当たり前じゃない、あんたは欲張り過ぎなのよ。あれもやってこれもやって、それをあんた一人で考えて」

霞「三人寄れば文殊の知恵、って、朧も言ってたわよ。もう少し誰かを頼ったらどうなのよ!」

提督「俺は楽をしたいだけのに、お前らに頼るのはどうなんだ?」

提督「今回の話だって俺の我儘だからな。これでも目いっぱい頼りにしてるつもりだぜ」

霞「……ふーん、私は頼りにならないってわけ?」

提督「頼れるか、って意味では頼りになる方だと思ってるさ」

提督「ただ、今回の相手は無視しなきゃいけねえんだよ。一言物申さずにはいられないお前にゃ向かねえなって判断しただけだ」


霞「はぁ……わかったわよ。あんたがそこまで言うなら、従うわ」

提督「そうしてもらえると助かる。ついでに、今回手伝いを頼んだ連中には徹底して無視しろって伝えてるんだが、お前もできるか?」

霞「いいわよ。どうせ言っても聞く耳持たない相手なら、最初から相手にしないほうがいいわね」

霞「でも、手助けがいるんなら、黙ってないで私たちに言いなさい。いいわね?」

提督「ああ。また蹴落とされたくねえしな」

霞「っ! か、カナヅチ相手に、そんなことするわけないでしょ!? バッカじゃないの!?」

提督「……悪かったよ、そんなに怒んな」

霞「だいたい! 泳げない自覚があるんなら、海辺にぼーっと突っ立ってんじゃないわよ! 波に掻っ攫われたいの!?」

提督「……波に、か……」

霞「? ちょっと!?」

提督「……ん、ああ、悪い。ぼーっとしてた」

霞「な……何やってんのよもう! 大丈夫なの!?」

提督「ああ……海に落ちたときのことを思い出してな」


提督「なぜかと言われたら説明できねえが、海そのものは嫌いじゃなかったんだ。不思議と、落ち着くっつうか……」

提督「海の中に、沈んでいく時も……そう……」

提督「……」

霞「ちょっ……しっかりしなさいよこのクズ!!」ハライゴシ

提督「うお!?」グイッ

 ドシャッ

霞「……ったく! 頭使いすぎて、自分が疲れてんのに気付いてないんじゃないの!?」

霞「私たちに無理するなって言ってるんだから、艦隊の指揮を執ってるあんたこそ実践して見せなさいよね!」

提督「……わかったよ。確かに呆けてる場合じゃねえしな」ムクッ

霞「ったく、もう……話を変えるけど。あんた、好きな食べ物ってある?」

提督「あん?」

霞「疲れてるみたいだから気を使ってあげてるのよ。少しは察しなさいよね、バカ」

提督「……」

霞「で? 何が好きなのよ」

提督「……悪いが、ぱっと思い付かねえな。これと言って、好きなもの……」


霞「そう。なら質問を変えるわ、食べたいものってある?」

提督「……んー、そうだな」

霞「……」

提督「豚レバーの竜田揚げ」

霞「レバー?」

提督「最近食ってねえな、と思ってな。久々にそういうのも食いてえな、と思っただけだ」

霞「ふぅん……苦手な人も多いって聞くけど、あんたは違うのね」

提督「好き嫌いは別にして、スーパーでバイトしてた時に売れ残ってたのを安く買ってたんだ。まあまあうまかった記憶があるがなあ?」

提督「そういやモロヘイヤとかも一時期流行ったんだが、あれも調理方法がわからなくて売れ残って買わされたりしたな」

霞「ああ、あれね……どうやって食べてたの?」

提督「ネギと紫蘇と茹でたモロヘイヤ千切りにしてめんつゆに入れて、そうめん食ってた」

霞「よく考えるわね、そんなの」

提督「なんかの雑誌で見たんだ。大体の料理の知識は本からだな」


霞「ふーん……じゃ、じゃあ、逆に苦手なものってなによ?」

提督「あー、馬鹿みたいに唐辛子入れたカレーとか、胡椒の味しかしねえラーメンとか、下が見えないくらいマヨネーズかけたどんぶり飯とか……」

提督「一つの器に、どばーっとひとつの調味料だけを入れたよーなのは理解できねえ。薄味のが好みだし、激辛とか激甘とかは食う気しねえな」

霞(……つくづくここに流れ着いた比叡さんがあの比叡さんで良かったわ)

提督「あとはナントカの踊り食いとか、芋虫を食えとか、そういうゲテモノもパスだな。せめて食える見た目にはしてほしいぜ」

霞「なるほどね……よくわかったわ」

提督「それはそれとして、肉だって貴重なのに、レバーなんて保存のきかねえもん、わざわざこんな離島に送ってくれるかね」

霞「そんなの、聞いてみなきゃわからないでしょ! 聞く前から諦めるなんて、情けないと思わないの!?」

提督「贅沢が絡む話だからな。俺も向こうには頼りたくないし、期待はしないほうが気楽だぜ」

提督「それがなくても、釣り人は増えたし、伊8が海底の海産物とってきてくれるようになったから、献立もだんだん豪華になってるじゃねえか」

提督「お前たちの料理の腕も上がってるし、これ以上の贅沢を言っちゃあ罰が当たるだろ」

霞「……ふ、ふん! あんたはもう少し欲を出したらいいのよ! ったくもう!」プイッ

提督「欲張りだの欲を出せだの、さっきと言ってることがあべこべだな」ボソッ

霞「何か言った!?」ギロリ

提督「何も?」


 * それから数日後 執務室 *

鳥海「准尉さん、申請用の書類の確認、終わりました」

提督「ご苦労さん、っと……悪いな、手伝ってもらって」

鳥海「いえ、お世話になっていますので」ニコ

潮「わぁ……字が綺麗……!」

提督「これで摩耶と同じ高雄型だからなあ……口の悪いあいつとは大違いだ」チラッ

加古「ふわ~ぁ……」ゴロゴロ

提督「で、ずっとソファでごろごろしてるあいつが古鷹と同型っつうのも、なんつうか、なあ……」

潮「古鷹さん、いつもお掃除してる印象ありますから、対照的ですよね……」

提督「働く奴とだらける奴、元気な奴とお淑やかな奴ってことで、世の中どっかでバランス取れてんのかねえ……」

 扉<コンコンコン

武蔵「戻ったぞ」チャッ

筑摩「提督、こちらは明石さんから今月の収支報告です」

提督「おう、ご苦労さん。潮、数字チェック手伝ってくれ」

潮「は、はい!」


武蔵「……おい、加古」

加古「ふぁい……?」ムニャ

武蔵「貴様、本当に古鷹の妹か?」

加古「うん、そーだよー? 古鷹型の2番艦、加古ってんだー」ムニャー

武蔵「先日の砲撃演習では高得点を叩きだしたと聞いているが……これでまともに戦えているのか?」

鳥海「驚かれるのも無理はないと思いますが、これでも加古さんは遠大佐の鎮守府では五指に入る実力者ですよ?」

筑摩「そ、そうなんですか?」

鳥海「はい、海の上ではギアが入るといいますか、潜水艦相手でさえなければ、だいたい任せられます」

鳥海「その分……陸の上では、こうなんです」

武蔵「なるほど。それでは、加古を誘ってまた演習しに行くか?」

加古「うん、また明日ねえ~」ゴロゴロ

武蔵「……」

鳥海「その、腰が重いのもたまにキズでして……」


 扉<コンコン

摩耶「よっ! 邪魔するぜ!」ガチャー

鳥海「ま、摩耶!? 准尉さんにそんな挨拶、失礼じゃないの!?」

摩耶「あん? いつもこんな感じだぞ? ノックだってしたし、あいつもこれでいいって言ってるし」

鳥海「……」アタマカカエ

摩耶「そんなことより、加古借りてっていいか?」

加古「んあ~?」ムクッ

摩耶「いやあ、この前一緒に出撃した時、お前すごかったよなあ! また一緒に出よーぜー!」

加古「んー、そのうちねえ~」

摩耶「そのうちぃ? 今見せてくれよ、今ー!」ペシペシ

摩耶「おーい、提督からも言ってやってくれよー、加古に出撃してくれってさぁ」

鳥海「摩耶っっ!?」

武蔵「提督なら書類の数字を確認中だ。少し待ってやれ」

摩耶「そっか、んじゃ仕方ねえな」


鳥海「武蔵さんも摩耶の態度は諫めないんですか」タラリ

武蔵「提督が良いと言っている以上、私が余計な気を回す必要もあるまいよ」

鳥海「……摩耶、あなた、よくこれまで解体されないで来たわね……」

摩耶「まー、あたしもここへ来て日が浅いんだけどな。前の鎮守府だと、いっつも霧島さんに助けられてたっけなあ」

鳥海「え」ヒキッ

摩耶「しょーがねーだろー!? C提督は、霧島さんの手柄をことごとく否定するんだぜ!?」

摩耶「てめーの気に入った艦娘ばっかり贔屓してデレデレしやがって! あんなくそ野郎に頭下げてられっかよ、くそが!」

鳥海「摩耶ああああ!?」プルプル

筑摩「あの……摩耶さんは、どうしてこの鎮守府に来たんですか?」

摩耶「あれ、話してなかったっけか。あたしは命令違反扱いでここに送られたんだよ」

武蔵「それは私も初耳だぞ……?」

鳥海「なんでも、姫級の深海棲艦と交戦中、攻撃するなって指示に背いたからだ、って、摩耶に聞きましたけど……」

筑摩「それは、作戦とかそういう意図ではなく……?」

摩耶「それを作戦って言うなら、手柄を他の艦隊に取ってもらうための作戦だろーな」

摩耶「今思えばあの指示って、あたしや霧島さんをわざと沈めるつもりだったんじゃねーかなー」


鳥海「私には、摩耶のその態度に問題があるとしか思えないんだけど……」

摩耶「だーかーらー、そいつは元の鎮守府にいるC提督が悪いんだよ。霧島さんのこと、ろくに見ないで文句ばかり言いやがって、くそが!」

鳥海「摩耶……せめてその言葉遣いくらいは、なんとかならないの?」ガックリ

摩耶「それは提督にも言ってやれよ。なんであたしにばっかり言うんだよ、不公平だろー?」

鳥海「……」アタマカカエ

武蔵「なあ提督? 貴様はその言葉遣いを直す気はないのか?」

提督「この齢で今更この性格を矯正すんのは無理だろ……っと、これでよし。潮、大淀の承認貰う準備をしといてくれ」

潮「は、はいっ!」

提督「で、何の話だっけか?」

摩耶「ん? ああ、加古を貸してくれって話だけど」

鳥海「それより前に、准尉さんへの言葉遣いの話でしょ……」

提督「言葉遣い? そんなの別に構やしねえよ」

摩耶「……」カチン

潮「て、提督! 言い方……!!」ハラハラ


摩耶「おい提督、お前、あたしのことどうでもいいと思ってんのか?」

提督「んん? なんだそりゃ?」

潮「あわわ……!」

筑摩「あの……提督は、艦娘にはできる限り好きにさせているわけですよね? 摩耶さんの言動にも言及はしないということですか?」

提督「ああ。誰かが被害を被ってるわけじゃなきゃあ、摩耶がどう振る舞おうと俺は構わねえよ」

摩耶「な、なんだよ、そういうことかよ……」

提督「まあ、それを鳥海が不快に思うんなら、他にもそう思う奴を集めて、当事者間で話し合ってくれってだけだ」

武蔵「ふむ……」

提督「鳥海みたいに礼儀正しくしろって言い分もわからなくもねえが、摩耶が無理だっつうんなら無理強いはしねえさ」

提督「俺も礼儀正しくしろって言われたら、面倒臭えから嫌だって言うだろうしなあ」

摩耶「めんどくせーのかよ!?」

提督「面倒臭えだろ。一応、中将とかと話すときとかなら、敬語使うくらいの最低限の礼儀はわきまえてるつもりだけどな」

筑摩「一応ですか……」

提督「そうでないなら、いくら取り繕ってもどうせそのうち襤褸が出るんだ。だったら最初から曝け出してた方が楽だろ?」


提督「それに、ぶっちゃけここが自分の家みてえなもんだしな。いい子ちゃんのふりして生活なんてやってらんねえ」

提督「とはいえ、いくら自宅と同じでも、だらしない恰好でうろつかないとか、そういう程度の気遣いはしてるつもりだがな?」

鳥海「家、ですか……? もしかして、准尉さんはずっとこちらに住んでおられるんですか? 日本へ帰ったりは……」

提督「帰る?」

潮「!!」ビクッ

提督「帰るもなにも、日本に俺の居場所なんかねえよ。ここが俺の終の棲家だ」

鳥海「え……?」

潮「ちょ、鳥海さん、それ以上は訊かないほうが……」

鳥海「居場所がない、って……ご家族はいらっしゃらないんですか? 心配されるのではないかと……」

潮「ちょ……!!」ビクビク

摩耶「やめとけ鳥海。それ以上訊くな」スッ

鳥海「え?」

摩耶「わけありなんだよ。こいつは、妖精と話ができるのを馬鹿にされて、家族にも避けられてたらしいからな」

鳥海「……!」

筑摩「……」


武蔵「……なるほど。貴様の性格は、そういう環境によって作られたということか」

提督「そういうこった。思い出しても不愉快なだけなんでな、生きてはいるだろうが、俺の家族はいないと思ってくれ」

鳥海「それは……大変失礼致しました」ペコリ

妖精「提督? 家族はいないわけじゃないでしょ?」ヒョコッ

提督「……」

妖精「こらー! 無視しないのー!」

武蔵「妖精よ、家族がいないわけではない、というのはどういうことだ?」

妖精「うん、前に医療船が来て、その船に乗ってた女性提督に、家族と不仲は良くないって説教されてね」

提督「おい、妖精!」

妖精「そこで、今の自分の家族は、この鎮守府に一緒にいる艦娘たちだ、って言ったんだよ」

提督「……っ」セキメン

武蔵「ほう……この男にしては、なかなか熱い台詞じゃあないか」ニヤリ

提督「にやにやしてんじゃねえぞ、くそが……」

武蔵「いやいや、私は感心しているんだぞ? ふふ、そうか、家族か……」チラッ

潮「!」


武蔵「なあ提督。例えばだが、お前にとって潮は、家族だとしてどんな間柄になるんだ?」

提督「あぁ? 潮か?」チラッ

潮「……!」

提督「うーん……年の離れた妹ってところか? 娘と呼ぶにはでかすぎるし……どっちにしろ庇護対象って感じだな」

武蔵「ほほう。それはどういうところからだ?」

提督「遠慮がちで臆病、心配性で人に気を使いすぎてるきらいがある。昔はずっと不安そうな顔してたしな」

提督「最近は眉を顰めることもなくなったし、俺を叱るくらいには馴染めたから、いい傾向だと思うぜ?」

提督「とはいえビビリなのは変わってねえからな。昔のトラウマもあることだし、俺も極力、潮には触らないようにしてる」

潮「……!」ハッ

武蔵「触らないようにしている? なんだそれは」

提督「潮は前の鎮守府でひどいセクハラを受けたんだよ。だよな、潮?」

潮「……」コク

提督「だからそれを思い出させないように、男の俺は潮に触らないようにしてるってことさ」

潮「……」シュン


提督「ま、この鎮守府には、思い出したくない過去を持つ奴がたくさんいるんだ。俺も含めて、な」

提督「だからちょっとだけ気を遣ってもらえると、助かる」

筑摩「……」ウツムキ

鳥海「そういうことですか……」

武蔵「なるほどな。貴様が家族と呼ぶ理由、確かに合点がいくものだ」

提督「所詮は古傷の舐め合いだけどな」

提督「ここに来る奴はひどい目に遭わされてきた奴ばかりだし、少しでも良くしてやりたいと思って艦隊の指揮を執ってるだけさ」

妖精「提督が素直じゃないせいで、誤解されまくりだけどね?」

提督「今日はなにかと一言多いなお前……」

摩耶「ふーん、潮が妹か……」

提督「まあ、家族の枠に当てはめての話だからそう言ったが、真面目に妹扱いする気はねえからな?」

提督「そもそも、潮には姉妹艦の朧や、前の鎮守府からの付き合いの長門がいるし……」

提督「最近じゃあ陸奥とも仲良くなったみたいだしな。俺が出る幕でもねえだろ」フフッ

武蔵「!」

摩耶「!」

鳥海「!」

潮「!」


提督「この調子で、穏やかに過ごせる奴が増えりゃ安泰……って、なんだお前らその顔は」

武蔵「い、いや……」

摩耶(不意にいい笑顔見せやがって……)

潮(あんな風に笑ってるところ、初めて見ちゃった……)

鳥海「とてもいい笑顔でしたよ? 娘を思うお父さんみたいな……」

提督「お父さんだぁ?」ジロリ

鳥海「」

潮(もう戻っちゃった……)タラリ

妖精「提督、提督。睨んじゃ駄目だよ?」

提督「ああ、悪い。どうも父親ってものにいいイメージがなくてな……」

鳥海「ほ、本当にご家族……というか、ご両親が嫌いなんですね」

提督「俺の血縁に、ご丁寧に『ご』なんか付けなくていいぞ? 『ゴミ』ならつけてもいいが」

摩耶「おい、鳥海に汚ねえ言葉喋らせんじゃねーぞ、くそが!」

提督「……悪かったよ」フン

摩耶「あん? やけに素直だな……」


提督「別に素直ってんじゃねえよ。普通なら、そうやってお互いを思い遣るのが兄弟……っつうか、お前らは姉妹か。姉妹の理想のあり方だろ?」

摩耶「あ、ああ、そりゃー当然だと思ってるけど……」

提督「だったらそれでいいだろうが……ったく」

妖精「……もしかしたら、提督は嫉妬してるのかもね」

鳥海「嫉妬?」

妖精「提督にも弟さんがいたんだけど、提督の両親……特に父親に、提督の言うことは信じるな、耳を貸すな、って言われ続けてたから」

妖精「結局、弟さんも同じように提督を蔑むようになっちゃってね。お互いを助け合うなんてことがなかったから……」

妖精「憧れていたからこその、さっきの笑顔だったんじゃないかなあ」

全員「「……」」

提督「……ふん」

 扉<コンコンコン

大淀「失礼致します」チャッ

大淀「提督、くだんの艦隊がこの島に来る予定日がわかりました」

提督「……!」

今回はここまで。

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