【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」 (776) 【現行スレ】


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提督「墓場島鎮守府?」
提督「墓場島鎮守府?」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
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時系列的にはここがこのスレ。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 - SSまとめ速報
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上記スレッドの番外編です。

・舞台になっている鎮守府、通称『墓場島鎮守府』の過去の話になります。
 提督の着任から、各艦娘がこの島へ着任するに至った経緯を書いていきます。

・艦娘の殆どが不幸な目に遭っておりますので、そういう話が嫌な方は閉じてください。

・影牢のキャラは出てきません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1583941702


舞台の「墓場島」について
 作中の表記は「××国××島」、通称「墓場島」。太平洋上にあるとある無人島、パラオ泊地が一番近いと思われる。
 島の北側には海底火山があり、潮流が強く流れが特殊なため、普通の船舶は近寄れない。
 そのためか深海棲艦も寄り付かず、轟沈した艦娘の亡骸がよく島の北東に流れ着いている。
 島の北部は火山活動によってできた岩場。西側は手つかずの林に包まれ、小さいながら切り立った崖がある。
 島の南から北東にかけては、なだらかな丘陵と砂浜が続いており、島の東側に鎮守府が建てられている。

 墓場島と呼ばれるようになった所以は、提督が流れ着いた艦娘を埋葬し、墓標代わりに艤装を並べたことから。
 最近では、問題を起こした艦娘を送り込む墓場、という意味に勘違いした海軍から、艦娘を送り付けられている。



艦娘以外の主要な登場人物

・提督
 階級は准尉。一般人には見ることすら出来ない妖精と話が出来たせいで
 親からも変人扱いされたため、人間嫌いをこじらせる。結構な不幸体質持ち。
 中佐の補佐官として海軍に入ったが、無人島の鎮守府に幽閉同然の扱いで着任した。

・中佐(前スレ初登場時は少佐)
 戦争は金儲けの道具と考え、中将の威光を傘に暗躍。後に大佐にまで昇進する。
 妖精と会話できる提督の存在に危機感を覚え、離島の鎮守府に封じ込めた。

・中将
 中佐の父親。有能だったらしいが息子が絡むと駄目になるらしい。
 足を悪くしており、本営の自室でデスクワークが日常。

・そのほか、たくさんの『提督』


登場艦娘一覧

如月:試作の新兵器の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着
不知火:もと少佐の部下。解体前提で如月捜索に駆り出されるが、提督の計らいで中将麾下に
朧、吹雪:捨て艦で轟沈後、島に流れ着く(二人とも別の鎮守府出身)
由良、電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く(同じ鎮守府出身)
神通:慕っていた司令官を謀殺され、その復讐の途中で左遷させられる
大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなり異動してきた
敷波:由良と電の捜索を命じられそのままMIA
明石:提督に帳簿の不正を強いられ、そのまま首犯扱いで雷撃処分
朝潮、霞:提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分
暁:信頼していた提督の変貌に錯乱して敵陣特攻し記憶喪失に
初春:捨て艦で轟沈後、暁に助けられ島に漂着
潮、長門:変態の上官に迫られ耐え切れなくなり家出、長門はその護衛
比叡:料理上手なのに認めてもらえずご飯を投げ捨てられて鬱に
古鷹:お人よし過ぎて自分の練度が上がらず観艦式において行かれる
朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけてきた
利根:司令官の猟奇趣味に巻き込まれ死にかける
ル級:オリョールで毎日毎日潜水艦に小突かれる日々に嫌気がさし脱走
伊8:オリョールに行ったら逃げたル級の代わりの軽巡に轟沈させられる
大和:妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造したら作られた
初雪:艦娘管理ツール使いの提督に昼夜問わずこき使われ失神後漂着
金剛:愛情から目を背ける提督を説得し続け、煙たがられて左遷
五月雨:玉砕覚悟の敵討ちを望むも、仲間を沈めた濡れ衣を着せられて追い出される
榛名、那珂:養成所の訓練と称して轟沈するまで戦わされ島に流れ着く
扶桑、山城:理由もなく疫病神扱いされ、戦況不利な海域に誘導され轟沈する
龍驤:暴食を強要され体形を馬鹿にされ、ブチ切れて鎮守府を火の海に
陸奥:龍驤と同じく暴食を強要され、かつ度重なるセクハラで男性不信に
雲龍:特別海域で艦隊に邂逅できず、餓死寸前だったところを龍驤に保護される
島風:スピードを追い求める姿勢を疎まれて、訓練中に除名される
白露:島風と一緒に特訓するため艤装を改造、同じく訓練中に除名される
黒潮:姉妹艦を人身御供にした司令官にぶち切れて、犯人もろとも海に投げ捨て離反
山雲:ドロップ直後に、黒潮を探す雪風が起こした深海勢に激突される
最上、三隈:最上にベタベタし続けたことに三隈が切れて提督の股間を破壊
摩耶、霧島:理不尽な防戦指示を無視して戦況を好転させたため、提督に激怒される
川内、若葉:夜戦禁止の腰抜け提督の下で輸送部隊の撃破のため夜戦したら馘になった

注:ル級は島の北の離れ小島近辺に住んでいます。この鎮守府所属ではありません。


以上テンプレ。

では本編の続きです。


 * その日の夜 *

川内「夜戦だああああああああああ!!」


 * 提督の部屋 *

提督「……うるせえ……」ムクッ

提督「ありゃあ川内か? くっそうるせえな……」

提督「……あーくそ、起きて説教しなきゃなんねーか……面倒臭え」

 コンコン

提督「!」

 チャッ

如月「司令官……?」コソッ

提督「なんだ、お前も川内のアレで目を覚ましたのか?」

如月「え、ええ……司令官も?」

提督「ああ。寝付く前にあんだけ大声上げられちゃあな」ノビーッ

如月(……せっかく私が司令官のベッドに入る日だったのに)ムー


 * *

川内「夜だよ、夜! みんな起きてーーー!!」

 *

山城「……なんなのよ……」ムクリ

扶桑「うう……ん」フトンカブリ

山城「あの夜戦馬鹿……」ブツクサ

 *

長門「なんだ、敵襲か……?」

潮「ん、ふえぇ……?」

陸奥「もう……なんなの……」

 *

最上「……うう、なに? なに?」

三隈「もがみん……」ギュー

最上「三隈、寝惚けてないで……なんで抱き着いて離れないのさ」

 *


川内「みんなああ! 夜戦の時間だよーーー!!」

 *

初雪「すぴー……」

吹雪「初雪ちゃん、よく寝てるなあ……あ、耳栓してる」

 *

古鷹「むにゃ……?」

電「……な、なんなのですか?」

暁「うにゅぅ……まだ夜じゃない……」

 *

敷波「もー……なんでこーなるかなー」フトンカブリ

朧「ほんとに……」ネガエリ

 *

龍驤「ほんっまやかましいやっちゃなあ……!」

雲龍「……」スヤスヤ

龍驤「雲龍はこんなんでも寝てられるんか……」

龍驤「ま、ええわ……二度寝しよ」ポユン

 *


川内「夜戦! 夜戦! 待ちに待った夜戦の時間だよーー!!」

 *

金剛「Wooo... いい夢を見ていたのに、邪魔されたデース」

榛名「……」スヤァ

霧島「榛名お姉様は意外と眠りが深いんですね……」

比叡「明日の朝ごはんの仕込みがあるんだけどなあ……」ウーン

 *

大和「……精神集中、精神集中……心頭滅却すれば……」ブツブツ

 *

由良「……ああ、もう……」ゴロゴロ

大淀「……眠れないですね……」ウーン

 *


川内「や・せ・ん! 夜戦夜戦! 夜戦だよーーー!!」

 *

霞「……予想はできてたけど、予想以上だわ」

朝雲「う~、うるさいよぉ……」

山雲「ん~……」ゴロン

朝潮「……」ウツラウツラ ヌギヌギ

霞「朝潮姉!?」

山雲「寝ながら着替えてるわ~……」

朝雲「だ、大丈夫なの……?」

 *

明石「も~、なんなんですかいったい……」

伊8「……」ムクリ

明石(……目が据わってる……!)ビクッ


 * 通用口 *

神通「案の定ですね……」ハァ

初春「まあ、こんなことじゃろうと思っておったがのう……」

若葉「無理もないな」

那珂「夜更かしはお肌に良くないんだけどなあ……」メヲコスリ

利根「なんじゃ、おぬしら起きてきおったか」

神通「利根さんは見回りでしたか」

利根「うむ。摩耶も一緒じゃ」

摩耶「まあ、あたしは来たばっかりだし。こうやって少しでも慣れていかねーとな」

若葉「その手の仕事なら、若葉に任せてくれればいいんだが」

神通「若葉さんには明日から遠征のお仕事がありますよ」

若葉「そうか!」キュピーン

初春「おぬしはわーかーほりっくか……」


提督「……」スタスタスタ

利根「む?」

神通「提督……?」

那珂「えっ、提督さん来てるの!? 那珂ちゃんすっぴんなんだけど!?」ワタワタ

初春「あの男はそんなことをまったく気に留めないだろうがのう……」ポツリ

若葉「それよりもだ、あの男、明らかに怒っているよな?」

摩耶「あん? いっつもあんな顔してなかったか?」

初春「普段からあの仏頂面じゃ、いまいちわかりにくかろうが、安眠妨害されれば当然じゃろうな」

摩耶「止めないのか?」

神通「一度痛い目を見てもいいと思います」

若葉「サラッと言うところが容赦ないな」

提督「……おい、神通、那珂」

神通「はい」

那珂「!? は、はいっ!」


提督「ちょっと川内を黙らせてくる。いいな?」

神通「はい。不肖の姉が申し訳ありません」ペコリ

提督「神通が謝るは必要ねえよ。ちょっと行ってくる」スッ

神通「はい」コク

那珂「あ、あんまりひどいことしないでね?」アセアセ

提督「……川内次第だな」

那珂「だ、大丈夫かなあ……」ハラハラ

 ゾロゾロ

霞「なに? あいつ、川内さんのところに行ったの?」

如月「司令官、大丈夫かしら」

由良「素直に静かになってくれるといいんだけど……」

伊8「……」ムスー

利根「なんじゃ、おぬしたちも起きてきたのか」

由良「さすがにあれだけ騒がれれば、みんな目を覚ましちゃいますよ」


霞「朝潮姉なんか、半分寝たまま着替えちゃってるんだもの。ただの夜戦演習だからって眠らせてきたわ」

若葉「それより、異常に殺気立ってる潜水艦がいるんだが」

伊8「……はっちゃん、ちょっとあの軽巡、沈めてきますね?」

初春「ま、待たんか! 夜の潜水艦が本気を出したら、水上艦はひとたまりもないぞ!?」

伊8「はっちゃんの健やかな睡眠のためです」ドロリ

初春(うっ……なんと濁った眼をしておるんじゃ)

明石「まあ、三大欲求の一つですし? 安眠妨害されたら恨みを買うのも仕方ないでしょ~……ふわあ」

初春「明石……こうなる前になんとかならんかったのか?」

明石「それができたらここには来てないってば。でもまあ、提督が来てるんだし、なんとかなるでしょー」

摩耶「なんだ、随分信頼されてやがんな」

由良「……信頼、って言うのかな?」クビカシゲ

摩耶「なんだそりゃ」

霞「とりあえずなんとかしてくれそう、ってのはあるわね……」

初春「有無を言わさず、という感じも多分にあるがの」

明石「っていうか、いつも力押しって感じもするけど?」


由良「いつも思うけど、もう少し手段を選んで欲しいわ。ハチちゃんなんか殺されかけたんだし」

利根「う、うむ……そうじゃったな」

摩耶「何やってんだよ……」

伊8「あのときは、はっちゃん、おかしくなってましたから。自分で死にたがってたんです」

明石「私はあのときのこと、未だに納得してないけど。艦娘を深海棲艦に撃たせる人間なんて……」

霞「……北上さん、今頃なにをしてるのかしら」

明石「……そう、よね。元気……だと、いいんだけど」ウツムキ

摩耶「この鎮守府に北上がいたのか?」

霞「そうじゃないわ。私と朝潮姉、明石さんは、以前A提督鎮守府に所属していたの」

霞「明石さんは、そこでA提督の横領を手伝わされていたのよ。手伝わなければ、みんなの艤装に細工をして怪我をさせるぞ、って脅されて」

霞「私と朝潮姉は、そのA提督の不正の証拠を掴んだところを捕まえられて……3人揃って雷撃処分されたのよ」

若葉「口封じか……」


明石「そのとき、私たちを雷撃したのが北上さんです。北上さんは、私と一緒に開発した新型魚雷の失敗作を使ってくれました」

明石「だから私たちは、致命的な損傷を受けずに、生き延びられたんです。でも……北上さんとはそれっきりで」

利根「北上に、明石たちが生きていることを伝えられていないわけじゃな」

如月「……黒潮ちゃんも、同じよね。ずっと雪風ちゃんのことを心配してるし」

那珂「そっか……そうだよね。心配、だよね……」

 < ヤセンダアアアアア!!

神通「……」

那珂「……」

初春「神妙な雰囲気が台無しじゃな……」

若葉「その……すまない」

那珂「わ、若葉ちゃんが謝ることじゃないよー」

伊8「やっぱり、一発ぶちかましてきますね」

霞「お、落ち着きなさいよ!」

如月「し、司令官に任せましょ?」

伊8「……任せるのはいいけど、提督に危険が及んだりしない?」

如月「……私も行くわ」

霞「ちょっ!?」


 * 丘の上 *

川内「夜戦だ夜戦だああ!」ピョンピョン

川内「やっぱり夜はいいよねーー!!」

川内「夜は……」ピク

川内「……」

 キョロキョロ

川内「……ここは……」

川内「……」ミミヲスマシ

川内「あまり、騒ぐな、ってこと?」

川内「ふぅん……そっか」

川内「……」

川内「なるほどね」

川内「……」

提督「何を独りでぶつぶつ言ってやがる」

川内「あ、提督! ごめんね、夜戦できるのが嬉しくてうるさくしちゃったよ」ニカッ

提督「……ああ?」


川内「静かにするからさ。夜戦、させてくれるでしょ?」

提督「そりゃあそうだが……うるさくしなきゃ文句はねえよ」

川内「ほんと!? ふふっ、ありがと!」ニコ

提督「……どういうこった。お前、俺の頭の中でも見えたのか」クビカシゲ

川内「ん? 何が?」

提督「俺は、お前が夜中にやかましいから文句を言いに来たんだがな」

川内「ああ、やっぱり?」

提督「自覚あったのかよ」

川内「ううん? そういうの、全然気にしてなかったんだけど」

川内「でも、ついさっきね、うるさくしないほうがいいよ、って声が聞こえてきてさ」

提督「声?」

川内「まあ、考えてみればそうだよね。うるさくしてたら音で探られて狙われちゃうし!」


提督「いや、普通に夜は静かにしろよ。鎮守府を深海の連中に攻め込まれたらどうすんだ」

川内「ああ……そうだね。そんなのは二度と御免だね」

提督「……二度と?」

川内「あたしさ。以前、鎮守府を深海棲艦に襲撃されたんだ」

提督「!」

川内「長期戦に持ち込まれて、あたしたちの提督もおかしくなっちゃって。最後は見捨てるしかなかったし……仲間も、守れなかった」ウツムキ

川内「しかも、そのときは夜戦だったんだよ。あたしの大好きな、夜の戦い! なのに、あたしは全然……戦闘の途中で大破して、気を失って」

提督「……」

川内「若葉もそうだけど、あたしも強くなりたかったんだ。もう二度と、夜で……夜戦で負けない、って。もう、あんなみじめな思いをするのは嫌!」

川内「……でも、止提督のところじゃあ、夜戦させてもらえなくってさ」

川内「勿論、昼は昼で強くなったよ! っていうか、昼間しか戦わせてもらえなかったんだけどね」

川内「夜戦に持ち込むな、昼間の間に全滅させろ。夜は嫌だ、夜は嫌だ、って……止提督はそればっかり」

川内「あたしは、その嫌な夜を……あの夜を、克服したいんだって何度もお願いしてたのに……」


提督「……お前も若葉と同じで、復讐みたいなもんか」

川内「それに近いかもね。でも、あたしの場合は、特定の相手じゃなくて、夜戦。夜は、絶対に負けたくない。夜に、打ち克ちたいんだ」

提督「……夜戦がしたいなら好きにしな。うるさくしなきゃ、文句はねえ」

川内「ふふっ、それ、さっきも聞いたよ? でも、ありがと! あたしの話を聞いてくれて!」

提督「……ああ」

川内「それじゃ、さっそくだけど今夜はずっと個人演習させてね! 夜明けには戻るから!」

提督「わかったわかった。無理すんなよ」

川内「うん!」ニコッ


(歩き去る提督を見送った川内が空を見上げる)


川内「……もう、あたしは負けないよ」

川内「I提督……響……暁……!!」キッ


 * X提督鎮守府 埠頭 *

(夜空を見上げているヴェールヌイ)

ビスマルク「こんなところにいたのね」

ヴェールヌイ「……ちょっと、昔のことを考えていてね」

ビスマルク「……」

ヴェールヌイ「改装を受けて暫く経つけど……かつての仲間が私に気付いてくれるか、やっぱり不安なんだ」

ビスマルク「行方不明になった、姉妹艦のこと?」

ヴェールヌイ「それもあるけど……川内さんも、かな」

ビスマルク「センダイ?」

ヴェールヌイ「うん。あの夜、暁が敵陣に突っ込んだって聞いて、私も暁を追いかけたんだ」

ヴェールヌイ「けど、前後不覚になっていた私を庇って、川内さんが大破して。私も被弾して、結局、暁は探せず仕舞い……」

ヴェールヌイ「入渠した川内さんが目を覚ます前に異動が決まって……お礼を言うこともできずに、私はこの鎮守府に来てしまったんだ」


ビスマルク「今、川内がどこにいるかはわからないの?」

ヴェールヌイ「止提督鎮守府にいたらしいんだ。でも、命令違反で飛ばされたって。異動先は、記されてなかった」

ヴェールヌイ「いくら強くなっても、改装を受けても、お世話になった人たちに報いることができないんじゃあね……」ウツムキ

ビスマルク「……響、大丈夫よ。そういう話、大将に訊けばあっと言う間じゃない!」

ヴェールヌイ「……」

ビスマルク「私的な詮索は咎められるかもしれないけれど、私たちのアドミラルの叔父さんなんでしょう? 難しい話じゃないわ!」

ビスマルク「不安げな顔をしないで。このビスマルクに任せておきなさい!」

ヴェールヌイ「……スパスィーバ」

ビスマルク「そうね……あなた、以前言ってたわよね、私があなたのお姉さんに似てるって。お姉さんだと思って頼っていいのよ?」

ヴェールヌイ「スパスィーバ……本当に嬉しいよ」ニコ

ヴェールヌイ「でも……『頼っていいのよ』って台詞をよく言うのは、姉ではなくて妹のほう、かな」クスッ

ビスマルク「そ、そうなの!?」


 * 提督の寝室 *

提督「……」

如月「ねえ、なんでみんないるわけ?」ムスー

伊8「川内さんのせいで寝付けないから、今夜のはっちゃんは予定を変更して提督と寝ます」ギュウ

霞「わ、私はいかがわしいことをしないか見張りに来たのよ!」

如月「一緒のベッドに入って見張るの?」

霞「そ、そうよ!」カオマッカ

伊8「なんでもいいから静かにして」

提督「……いやまあいいけどよ」ハァ…

提督(……それにしても。川内が言う、声が聞こえた、ってどういうことだ……?)


由良(……なんで由良も一緒に寝てるのかな……)カオマッカ


というわけで今回はここまで。

このスレも、よろしくお願い致します。

久々の日常編。続きです。


 * 執務室 *

(初雪を膝枕して耳かきしている提督)

提督「……」クリクリ

初雪「……はふぅ」ウットリ

提督「なあ初雪?」

初雪「……はい」

提督「さすがに2週間おきに耳かきしてると、全然たまってなくて綺麗なまんまなんだが」

初雪「……」

提督「……んな顔されても困る。綺麗ならそれでいいじゃねーか」

提督「短くても月一くらいにしとけ。あんまり耳かきしまくっても耳に良くないってはっちゃんも言ってたからな」

初雪(……余計なこと言わなくていいのに)ザワッ

提督「つうか、俺じゃなくて古鷹に頼んでも……」

初雪「提督がいいんです」ボソ

提督「……」


初雪「楽しみにしてたのに……」ドヨーン

提督「……んじゃあどうすりゃいいんだよ」

初雪「……」

提督「……」

初雪「気分だけでも」

提督「ん?」

初雪「膝枕して、お昼寝。週一回、10分間」

提督「……」

初雪「……駄目?」チラッ

提督「……まあ、いいか」

初雪「!」グッ!

初雪「そうと決まれば」モゾモゾ(←位置調整)

初雪「それと、手はここ」ソッ(←提督の手を初雪の頭の上に)

提督「……」

初雪「完璧……!」ムフー

提督「……」

初雪「おやすみなさい……」スヤァ…

提督(……猫かこいつは)


 * 翌日 *

伊8「ってことを聞いたんですけど」

提督「まー、そうなったな」

伊8「はっちゃんも提督と一緒にお昼寝を要求します」キョシュ

提督「……お前はしょっちゅう俺のベッドにもぐりこんできてるよな?」

伊8「それとこれとは話が別です」

伊8「せっかく作ったお風呂も入りに来てくれないし」ムスー

提督「……入るなら一人でゆっくり入りたいんだよ」

伊8「はっちゃん、お風呂の管理者です」

提督「だからってなんでお前も一緒に入りたがるんだよ」

伊8「人肌が恋しいんだから、いいじゃないですか」プク

提督「だから膝枕しろってか」ハァ

伊8「膝枕じゃなくてもいいですよ?」ズイ

伊8「とにかくソファに座ってください」グイ

提督「……」ボス


伊8「10分間でしたよね?」

提督「……ああ」

伊8「それじゃ、失礼して」ノソッ

 (座った提督の正面から抱き着く伊8)

提督「!?」

伊8「それじゃ、おやすみなさ」

提督「ちょっと待て。これは膝枕って言わねえぞ、抱き枕だ」

伊8「そうですけど?」

提督「……」アタマカカエ

伊8「反論もないようですので、おやすみなさ」

 扉<ガチャ

三隈「提督! 三隈、新型にな……」

伊8「あ」ダキツキ

提督「……」ダキツカレ

三隈「」


最上「三隈、どうしたの?」ヒョコ

三隈「くまりんこーーーーーーーー!」イヤーーーー!

伊8「!?」

提督「!?」

最上「み、三隈!? お、落ち着いて!」

三隈「くまっ、くまあああ!」

伊8「うるさくてお昼寝できないんですけど」ギロリ

提督「そうじゃねえだろ」

 *

三隈「お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ……申し訳ありません」

提督「いや、いいけどよ。見苦しいのは俺も似たようなもんだしな」

三隈「え、ええ……その、提督はどうして伊8さんと抱き合ってらしたんですか?」

提督「はっちゃんが俺に抱き枕になれとよ」

三隈「あんな対面座位みたいな恰好……知らない人が見たら悲鳴を上げてしまいますわ」ポ

提督(悲鳴で済めばいいがな……)


最上「はっちゃんは抱っこしてもらうのが好きなの?」

伊8「はい」

最上「それじゃあ、僕が代わりに抱っ」

三隈「くまりんこーーーーーー!!!」

最上「……」ビックリ

伊8「……」ドンビキ

三隈「最上さんは! どうして! そんなに無防備なんですか!!」

最上「み、三隈こそ神経質になりすぎだよ。抱っこって言っても、同じ艦娘だよ?」

三隈「で、でも……」

提督「……ここまで言い淀んでる、ってことは、三隈が神経質にならざるを得なかったんだな? お前らのいた部提督の鎮守府ってのは」

三隈「え、ええ……私がみんなを見張ってないと気軽にぺたぺた触ってしまう、しょうがない人たちだったんです」

三隈「あまりに風紀が乱れていましたので、私が口うるさく注意していましたから、私の前では皆さん大人しくなったんです」

三隈「でも、私のいないところでは相変わらずで……」

最上「それで、三隈が普段からくまりんこーって言うのが日常になっちゃったんだよね」

伊8「? どうしてそうなるの?」


最上「三隈の声が聞こえるとみんな警戒するんだ。部提督も三隈の声が聞こえたら、僕から離れるようになったし」

提督「サイレンみたいなもんか」

三隈「ええ、効果はあったんです。でも、そのせいで、いかがわしい場面に遭遇した時もその口癖が出てしまうようになりまして……」

最上「それだけじゃないよ。出撃中に被弾したときも言うようになっちゃったんだ」

伊8「意識しなくても言っちゃうようになったんですね」

提督「ところで、そのくまりんこ、ってなんだ?」

三隈「そ、それは……」カァ

最上「うーん、決め台詞みたいなものかな?」

提督「……?」クビカシゲ

伊8「女の子にはいろいろ秘密があるんですから、言及しちゃだめですよ」

提督「まあいいけどよ。三隈が言いたくねえならそれでいい」

三隈「お、お気遣い感謝します」モジモジ

伊8「ところで……」

 バタバタバタ

提督「!」


 扉<ガチャバーン!

金剛「Heeey, テイトクゥーーー!!」

三隈「!?」

最上「!」

伊8「……」

提督「ん、金剛か」

金剛「Yes ! 今回の海域、私が活躍しまシタ! MVPデース!!」

金剛「なので、ご褒美を貰いに来まシターー!」ダキツキー!

提督「ぬお!?」ダキツカレー

三隈「くまりんこーーーー!」キャーーー!

大和「金剛さん、何を抜け駆けしてるんですか!」バッ

比叡「司令ってばずるい!!」バッ

榛名「榛名もMVPを取ったら抱き着かせていただきたいです!」ポッ

摩耶「おい待てよ! 霧島さんの指揮があったからあんなにすんなり海域抜けられたんだぞ!?」

霧島(戦艦5重巡1なら、すんなり抜けられて当然の海域だったんだけど……)タラリ


三隈「は、破廉恥ですわ!?」

金剛「No ! 私とテートクは、ハレンチな関係じゃありまセーン!」

大和「その通りです! 提督はそのようなお方ではありません!」

金剛「Heeey, 大和ォ? その言い方はまるで私がハレンチな艦娘であるように聞こえマスヨー?」

大和「すぐに提督に抱き着いて離れないあなたが仰っても、説得力がありませんよ?」

比叡「金剛お姉様! 司令に抱き着くのなんて、慌てなくったって、いつだってできるじゃないですか!」

金剛「えっ」

大和「えっ」

榛名「えっ」

比叡「えっ」

伊8「……」

金剛「比叡? 何を言ってるデース?」プルプル

比叡「だって司令、好きにしろって仰ってましたよ?」

金剛「!?」グリッ

大和「!?」グリッ

榛名「!?」パァッ


伊8「それ、本当ですか?」

提督「どうせ大和たちには言っても聞かねーだろうしな。逆に比叡だけ駄目だって言う理由もねえ」

伊8「比叡さんはどうして提督に抱き着こうと思ったの?」

比叡「え? 金剛お姉様が頻りに司令に抱き着きたがるから、どういう感じなのかな? と思って……」

最上「ふーん。どんな感じだったの?」

比叡「ええっとねー、金剛お姉様はこう、ふわーっと包み込んでくれる感じなんだけど」

比叡「司令はがっちりしてて! そんなに筋肉質ってわけでもないのに、安心して寄りかかっていられる感がすごかったって言うか!」パァッ

大和(わかります……)

榛名(とってもよくわかります……!)

金剛(比叡……Tension が上がってマスヨー……)

最上「こっちのみんなは、どうして固まってるんだい?」

摩耶「い、いや、あたしに言われてもなあ……」チラッ

霧島「え、ええ……私たちも新参者ですし、困りますね」

三隈「最上さんもそうですけど、比叡さんも相当鈍感というか……」

伊8「全然邪念がないみたいですね」


比叡「それで、また抱き着いてもいいですか、って聞いたら、好きにしろ、って流れに」

金剛「テートクゥゥ!?」グリッ!

大和「どういうことですか!?」グリッ!

提督「いや、お前らが言うなよ」

伊8「ですよね」

三隈「どういうことですの?」

伊8「金剛さんも大和さんも、週一でハグタイム設けてもらってるんだって」

三隈「……くまりんこ……」ガックリ

榛名「つまりそういうことですね! 榛名も大丈夫なんですね!」キラキラッ!

摩耶「ハグタイムって、何かのテーマパークじゃねえんだぞ……」

霧島「ね、ねえ、摩耶……はぐたいむ、って何なの……?」

摩耶「え? あー、なんつうか、人形に抱き着ける時間っつうか……」

伊8「遊園地とかのイベントで、マスコットの着ぐるみとかにハグしてもらえる時間、と言うとわかります?」

摩耶「そ、そうそう! そういうイベント時間!」


伊8「Hug time 、和製英語ですね」

最上「へー、そういうのがあるんだ」

霧島「ふぅん……?」

三隈「霧島さん、いまひとつ理解できていませんわね」

霧島「え、ええ。ちょっと想像できなくて」

提督「……俺はマスコットか」

比叡「マスコット……ではないですよね。司令は成人男性ですし……」

三隈「男性でも、アイドルなら……それでも握手するくらいで、抱き着いたら一大事ですわね」

 扉<ガチャバーン!

那珂「那珂ちゃんのこと、呼んでくれた!?」シャラーン!

提督「呼んでねえし話がややこしくなるから出てくんな」

那珂「ちょっ!? それ、ひどくないですか!? 折角図面を持ってきたのに!」ガーン!

提督「図面? できたのか?」

那珂「はいっ! 明石ちゃんと妖精さんたちが、こんな感じでどうかって!」

提督「そういうことなら、とっとと現場に行くか。おい、お前らちょっと顔貸せ」

全員「「??」」


 * 食堂 *

提督「食堂に入ってこっちが厨房、反対側がただの壁だ」

提督「で、その壁の向こう側は使っていない会議室。つうか、半端にでかいせいで物置になってたわけだが」

提督「この壁をぶち抜いて、ぶち抜いた先のスペースにステージを作ろうって考えたんだ」

大和「なるほど、それで戦艦の力が必要と言うわけですね」

提督「ちょっと段差付けて、舞台の裾に更衣室と音響や照明の設備も置けば、まあそれっぽくはなるだろ」

提督「あまりでかいスペースはとれねえが、今の建物で一番でかい部屋はここしかねえからな」

那珂「でもでも、まさか屋内にステージを作ってもらえるなんて思わなかったなあ……ありがとう、提督さん!!」ナゲキッス

霧島「あ、あの、いいんですか? 勝手に設備を作り変えて……」

提督「俺の鎮守府だからな。いいんだよ」ニタリ

霧島「……」

島妖精E「どうせ本営の人たちは、この島の鎮守府の内装なんか興味ないよ」

島妖精F「安心していいからね!」

摩耶「……そ、そういうもんか?」


提督「ところで妖精、明石はどこ行った?」

島妖精F「工廠に工具を取りに行ったよー」

提督「ああ……もしかして、アレ取りに行ったのか」

島妖精E「うん、明石の出番ですね! って言ってスキップしてたよ」

提督「今回はちょっとしたDIYどころじゃねーんだがな……うん? 工具取りに行ったってことは、すぐにおっ始める気か?」

島妖精F「……かもしれない」

提督「壁ぶち抜くにしても、その前に埃が厨房に行かねえようにシートで覆ったりしねえとまずいだろ」

島妖精E「そうだね、その話は明石とはしてないや」

提督「建物自体ぶっ壊れねえかも心配だ、柱の補強とかも大丈夫なんだろうな?」

島妖精E「そっちは大丈夫。それより、いつやるかちゃんと決めないと駄目だね」

提督「力仕事だからな。戦艦が工事の手伝いできるよう手配しとくから、日程は教えてくれ」

島妖精E「あ、それからこの辺の電飾用のライトとかも準備したいな」

提督「なら、あのカタログ持ってきて、適当なやつ買うか?」

島妖精F「それじゃあ、通販の設備が届く日程も考慮しないといけないね」

最上「……あれ?」

三隈「……」

摩耶「……」

霧島「司令、もしかして……妖精さんと話ができるんですか?」

提督「……今頃かよ」


 * 休憩室 *

龍驤「ほーん。こんなんもあるんやな……」ペラリ

雲龍「……これが、テレビ?」

龍驤「これはDVDプレーヤーやね。こういう円盤の中にデータが入ってるんよ」

雲龍「データ……」

龍驤「あー、テープ言うたらわかる?」

雲龍「……穿孔テープのこと?」

龍驤「えらい前時代的なもんが出てきたったなあ……せめてカセットテープくらい出てこん?」

雲龍「! ……龍驤」ユビサシ

龍驤「うん?」チラッ

島妖精D「通販のカタログは龍驤が持ってたのか」

島妖精C「私たちも見せてもらっていいかな?」

龍驤「おお、ええよ? 何のページを見るん?」

島妖精C「隣の部屋を改造して、那珂ちゃんのステージを作るんだ」

島妖精D「電飾や音響設備のページを見たいんだけど」


龍驤「あ、丁度このページや。ほら、カラオケの設備とかあるで!」

島妖精C「んー……あ、この辺がちょうどいいかも」

島妖精D「うん。これなら機能も十分ぽいね」

龍驤「……これ? なあ、ちょっち高こないか?」

島妖精C「大丈夫だよ、多分」

龍驤「多分て……」

島妖精D「龍驤も、何か好きなの頼んでいいよ?」

龍驤「えっ、ほんま?」

島妖精C「うん、提督はその辺緩くしてるから。ポケットマネーで出してくれるって」

龍驤「……せやったら遠慮するわ。あの提督、お金持ってへんやろ」

龍驤「この音響設備もえらい値段やし、頼んでも無理なんちゃう?」

島妖精C「ううん、むしろ使えって言ってるみたいだよ?」

島妖精D「提督はこの島に着任してから全然帰国してなくてお金も使ってないし、離島勤務で特別手当も出てるらしいね」

龍驤「ちゅうことは、多少のおねだりはアリ、ちゅうことかな……?」

島妖精D「多分ね」

島妖精C「それより、この設備を買ってもらえないか、提督に相談しに行きたいんだけど。カタログ、借りてってもいい?」

雲龍「ねえ、カタログ、私たちが持っていきましょ」スクッ

龍驤「せやね。一緒にいこか」

以上、今回はここまで。

少しだけ続きです。


 * 食堂 *

龍驤「提督! カタログ持ってきたで!」

提督「ん? 気が利くな、持って来てくれたのか」

島妖精C「丁度二人がカタログを見てたからね」

提督「なるほどな、お前らが声をかけたのか」

龍驤「音響設備が欲しいんやって?」

提督「ああ。ついでにライトや暗幕もねえとな、って話をしてたんだ」

龍驤「本格的やなあ。お金は大丈夫なん?」

提督「まあ、謙虚な奴が多くてな。お前も何か欲しいもんがあるなら、遠慮なく言えよ?」

龍驤「ほんま? せやったら……」

提督「口頭で言われても覚えてられねえからな。紙に書いて出してくれ、できる限り要望には応えるからよ」

龍驤「ほーん。じゃあ、あとでまたカタログ借りるで!」

提督「おう、悪いな。さて、手頃なのがありゃあいいんだが……」


金剛「私も一緒に探しマース!」ズイッ

大和「私も拝見しますね!」ズイッ

提督「……お前らもうちょっと離れろよ……まあいい、マイクから探すか」

霧島「マイクでしたら私にお任せください!!」グワッ!

全員「「!?」」


雲龍「……」

龍驤「? 雲龍? どないしたん?」

雲龍「……なんでもないわ。ぼーっとしてた」

龍驤「大丈夫なんか?」

雲龍「ええ」コク

雲龍「……」


 * 夕刻 執務室 *

提督「まあ、ステージ用の設備はこんなもんか……」

 コンコン

提督「うん?」

雲龍「提督。ちょっといいかしら」

提督「ああ、入れ」

雲龍「失礼します」チャッ

提督「……珍しいな。お前、この時間はいつも食堂にいたろ?」

雲龍「気になることがあるんです。川内って子のことなんだけど」

提督「なに?」


 * 翌朝 食堂 *

神通「実は、川内姉さんに気をつけろと言われたのは、利根さんからなんです」

提督「利根から?」

神通「はい。川内姉さんはいつも明け方に戻ってきているので、迎えに行ったことがあるんです」

神通「そのときに、丁度利根さんが埠頭にいて……そのときにそう言われまして」

神通「それがどういう意味かと尋ねたところ、雲龍さんに相談しろと……」

提督「……そうか。にしても、なんで利根が明け方に埠頭なんかにいたんだ?」

神通「それは答えてもらえませんでした……」

提督「……何を考えてんのか、よくわかんねえな。おい、雲龍」クルッ

雲龍「……」モギュモギュ

龍驤「あー、あかんよ、食事中の雲龍は食事に集中したいから、話し掛けてもそうそう答えへんで」

提督「」

神通「」


提督「……とにかくだ。神通、川内は相変わらず夜中に出撃してるんだよな?」

神通「はい。今朝も夜明け前に帰ってきて、お風呂に入ってからそのまま布団に倒れ込んで眠ってしまいました」

提督「ここんとこはずっとそんな調子か」

神通「毎日ハードワークしているようで、日に日に眠っている時間が長くなってはいますね」

神通「でも、起きたら起きたで楽しそうに夜戦の話をするので、ストレスがあるわけではないみたいで……」

提督「楽しそうに、ねえ。無理してる感じはねえのか」

神通「肉体的には疲れてはいると思います。それでも、今まで夜戦できなかった反動ではないかと」

提督「気になる点はいくつかあるが……のんびり構えてはいられねえんだよ」

神通「?」


 * 夕方 鎮守府埠頭 *

川内「うーん……!」ノビーッ

川内「いい夕焼け! さあ、早く夜戦しに行かないと!!」

提督「またこんな時間に単艦で出撃か」

川内「あっ、提督! ごめんね、どうしても夜戦がしたくって!」

提督「お前の生活のリズムが俺たちと逆転してるからな。誰かしら随伴できりゃあいいんだが」

川内「あはは、大丈夫だよ、寂しくないから!」

提督「なんだそりゃ。連れでもいるのか?」

川内「んー、まあ、そんなとこかな?」ニカッ

提督「それから、これ持ってけ。握り飯だ」

川内「!」

提督「休みなく戦う訓練もいいが、飲まず食わずじゃ体がもたねえ。戦い続けたいなら腹に何か入れろ」

川内「……えへへ、そうだね。ありがと!」

提督「……」


川内「じゃ、行ってきます!」

 ザァッ

提督「……」

神通「……姉さん、大丈夫なんでしょうか」スッ

雲龍「どうでした?」スッ

提督「飯を素直に受け取ったあたり、川内自身はまともなんだろうけどな」

龍驤「なんやなんや、また面倒事かいな」

提督「そういうこった。さて、俺は寝る」

龍驤「は? まだヒトハチヨンヨンやろ?」

提督「3時くらいに起きて見張りをしなきゃなんねえんでな」

雲龍「私もよ」

龍驤「な、なんなん? いつの間にそんな話になっとん!?」

提督「やんなきゃいけねえことがあるんだよ。なんならお前も一緒に起きるか?」

龍驤「うぐぅ……な、なんで雲龍がそんな時間に起きなあかんねん」

雲龍「彼女が起きている間に対応しないといけないの」

龍驤「???」


 * 深夜 某海域 *

 ドーン…

川内「ふう、ふう……今の相手、なかなか手強かったなあ」

川内「……さすがに、ちょっと、疲れちゃった……」

川内「そうだ、提督からおにぎり貰ったんだっけ」ゴソゴソ

川内「えへへ、いただきまー……」

川内「……」

川内「……え?」

川内「……」

川内「……でも、食べないと……」

川内「……」

川内「……」

川内「……」

 ポロッ

川内「あっ!」


 チャポン…

川内「おにぎりが……!」

 ――そんなことより、夜戦しようよ

川内「……」

 ――食べてる時間だって、もったいないよ

川内「……」

 ――今まで、ずっと時間を無駄にしてきたんだよ

川内「……」

 ――さあ、早く、夜戦しよう!

川内「……そう……」

川内「そうだね……」

川内「……夜戦、しないとね……!」

 ――そうだよ、もっと、もっと夜戦しようよ……!

川内「……うん!」

 ――ふふっ、ふふふふ……!


 * 翌日未明 入渠ドックそばの大浴場 *

 シャワーーーー…

川内「……今日も疲れたぁ……へとへとだあ」フラフラ

川内「こんなに夜戦できて、幸せぇ……」ウツラウツラ

 ワシャワシャ…

川内「……! 背中、流してくれるの……?」

川内「あはは、ありがとう……気持ちよくて、このまま寝ちゃいそう……」フラッ…

 パタッ…

川内「……」

 ――いいよ。ゆっくり、休んでて



 ――あとは、私に任せて、ずーっと休んでて





 ――  い  い  か  ら  ね





.


「急急如律令」

 ゴォォッ!!

 ――!?

 衝撃波<ガォォォンッ!!

 ――ぐううっ!?

雲龍「……そこまでよ」

 ――どうして……どうして!?

 ジワッ

幽霊『どうして邪魔するの……!?』

雲龍「邪魔をしない訳にはいかないわ。その子を衰弱死させるつもり?」

幽霊『ちょっと体を借りるだけだよ! 私だって同じ川内なんだから!』

雲龍「同じ……?」

川内の幽霊『そうだよ! ちょっと体を借りようとしただけだよ!』

川内の幽霊『私だって夜戦したい! でも、体はボロボロで、この島に流れ着いたときは、そんなことできなかったんだもの!』

川内の幽霊『だから、こっちの川内に眠ってもらって、私が代わりに夜戦しようとしてたんじゃない!』


提督「朧の時みたいに体を乗っ取って、か?」スッ…

川内の幽霊『!』

提督「川内の装備の妖精から話を聞いたが、お前、川内に預けた握り飯を捨てさせたらしいな?」

川内の幽霊『そうだよ……疲れてなきゃ駄目なんだ。彼女が起きてたら、私が体を操れないじゃないか……!』

提督「そのためには、そこにいる川内の命はどうなってもいい、ってか」

川内の幽霊『彼女は夜戦したがってた! だから私が誘って思いっきり夜戦させてあげたんだ!』

川内の幽霊『こんどは私の番! 私が夜戦する番だよ!!』

提督「……」

雲龍「提督。長くこの世に留まった幽霊は、人に害をなすと言うわ」

提督「ああ。聞く耳持たねえんじゃ、相手するだけ無駄なようだな」

川内の幽霊『……なによ! 結局、私に夜戦させてくれないんじゃない!』ザワッ

川内の幽霊『この子ばっカりずるい! ずるいずるイ!!』


川内の幽霊『私だっテ夜戦しタいノ! 夜戦! 夜戦!! ヤセンンン!!』

 グォォォッ…

提督「……なんだ!? でかくなりやがった……!」

川内の幽霊『ヤァァセェェェンンン!!』グワッ

雲龍「大丈夫よ」

 シャラン

雲龍「自此莫過、祓給清給。願主雲龍、道切修奉」

 ゴゴゴゴ…

川内の幽霊『……!?』

雲龍「あなたの居場所はここではないわ。天か、海か、好きな方へ向かいなさい」シャラン

 ゴォォッ!!

川内の幽霊『イ、イヤッ……イヤダァアアア!』


 バシュン!!


雲龍「……」

提督「……」

雲龍「ふぅ。終わったわ」

提督「そうか。ありがとな」

雲龍「一応言っておくけど、退治した訳ではありません。ここから追い返しただけ」

提督「……道切(みちきり)修し奉る、とか言ってやがったな。悪い者が入ってこないようにするためのまじないか」

雲龍「はい。あとで略式でもいいからお祓いをした方がいいと思います」

提督「まったく、手間ァかけさせやがって……やっぱり水葬してやった方がこいつらのためだったのかね」ハァ

雲龍「それは少し違うと思います。彼女は……もっと艦娘として戦いたかっただけなんだと……」

提督「……んじゃあ、未練、ってやつか」

雲龍「私も、艦娘として誰の役にも立たないまま死にかけた身です」

雲龍「理由はどうあれ、艦娘の役目を背負って戦えることが、きっと、羨ましかったんだと……」

提督「やれやれ……それじゃあ、どうしたもんかね」

雲龍「……ごめんなさい」

提督「謝んなよ、独り言だ。誰も知らねえんなら調べるしかねえ」

提督「とにかく、お前のおかげで川内も助かったんだ。改めて礼を言わせて貰うぜ」

雲龍「……はい」ニコ

提督「よし、俺は退散だ。神通を呼んで川内を診て貰わねーとな」


 * 埠頭 *

提督「……利根は、いねえな」キョロキョロ

雲龍「提督」スッ

提督「うん? なんだ?」

雲龍「利根に、直接話をするのは、やめた方がいいわ」

提督「どういう意味だ」

雲龍「川内は、悪い霊に取り憑かれていたのだけれど、利根は、そうではないんです。共存できているようなんです」

提督「共存? ……取り憑かれ、て……利根にもか!?」

雲龍「はい。それも、何体か」

提督「!?」

雲龍「提督は、心当たりはありますか。利根に、複数の霊が取り憑いていることについて」

提督「……利根に、霊が、取り憑いてる……?」

提督「まさか……前に利根がいた鎮守府で、殺された利根たちの霊が取り憑いてるってのは、関係あんのか!?」

雲龍「……なるほど。そういうことですか」ウーン

提督「おいおいおい……大丈夫なのかよ利根は」


雲龍「少なくとも、私が話した利根の幽霊の一人は、今の利根に害を与えるつもりはないみたいです」

雲龍「ただ、主人格の利根が眠っているときに、目覚めて体を借りていると」

雲龍「あまり動きすぎると体の疲れが取れないから、短時間かつ交代で体を借りているらしいです」

提督「……肉体のルームシェアかよ。本当に大丈夫なんだろうな、利根は……」

提督「まあいい、ともかくこの件もあまり他言しねえ方が良さそうだ。こんなオカルト話、下手に流して利根が避けられても困る」

雲龍「……」ニコ

提督「……なんだその笑顔」

雲龍「いえ。優しいんですね」

提督「やめてくれ、くすぐってえ。それより悪かったな、こんな早くに大事な仕事させちまって」

雲龍「あ……提督」

提督「今度はなんだ?」

雲龍「お腹がすきました」

提督「……」


 * 食堂 *

雲龍「……」モグモグ…

川内「がつがつがつがつ!」

雲龍「……」モグ…

川内「ばくばくばくばく!」

雲龍「……もう少し、落ち着いて味わって食べたらいいと思う。もったいない」

川内「へっ? あー、ごめんごめん。おいしくて箸が進んじゃってさあ」エヘヘー

提督「つうか川内お前、しばらくまともに食ってなかったろ」

川内「うーん、そうだっけ? 確かにお腹ペコペコだし、食べてなかったかも」

提督「覚えてねえのかよ」

川内「うん。……ここ最近の記憶、ちょっと曖昧、かなあ」

提督「……」

神通「姉さん、まさかお風呂もまともに入れてないんじゃ……」

川内「あー、それは大丈夫だって。まあ、幽霊に背中流して貰ってたりしてた気がしたけどさあ」

神通「!?」


提督「あぁ!? 自覚あったのかよ!!」

川内「この島に来て最初の夜だったかな。うるさくすると提督に怒られるよ、って幽霊に言われたんだ」

川内「それから一緒に夜戦して、夜通し付き合って貰ってさ!」ニコニコ

川内「二人で戦ってるみたいで楽しかったなあ」フフッ

提督「……」アタマカカエ

神通「姉さん……少しは危機感というものがないんですか」

川内「でもさあ、夜戦できないまま沈んだっていうし。可哀想じゃない」

川内「だったらせめて、私に同行させて一緒に夜戦すれば、気が晴れてくれるかなって」

川内「私もさ、夜戦できない苦しさはわかってるつもりだからね……」

神通「一歩間違えたら死んでいたかもしれないんですよ!?」

神通「気絶していたのがお風呂の湯船の中だったらどうする気だったんですか!」

川内「えへへ……ごめんごめん。気をつけるからさ?」

提督「やれやれ……雲龍もなんか言ってやれよ」

雲龍「……提督」マジッ


雲龍「あなたの作った朝餉、とってもおいしいわ」

神通「!?」

川内「あ、私もそう思う!」

提督「いや、そういう話じゃなくてな」

雲龍「私にはこの朝餉のほうが大事。提督、どうしてあなたが料理を作らないの?」

提督「いや俺は他人に料理作るような奴じゃねーし」

提督「そもそも比叡たちが毎日作ってる量より全然少ねえから、味付けもしやすいってだけだろ」

雲龍「私は提督に毎日御飯を作って欲しい」キラキラキラッ

提督「」

川内「えっ!? なにそれ、プロポーズ!?」

神通「姉さん!? 雲龍さんも変なこと言わないでください!」

雲龍「変じゃないわ。本気よ」


龍驤「ふわぁ……結局起きれへんかったわ。雲龍ー、大丈夫やったん?」スタスタ

雲龍「龍驤。提督に、私たちに毎日朝餉を作ってくれるよう、お願いして」

龍驤「」

龍驤「」

龍驤「雲龍、キミ何言っとるん!?」

雲龍「私は本気よ」

龍驤「提督キミィ、うちの雲龍なに誑かしとんねん!」ギロリ

提督「……」

神通「提督、面倒臭がってないで、説明してください」

提督(もう喋んのも面倒くせえ)

川内「本っ当、面白い鎮守府だねー」アハハ

神通「川内姉さんが言わないでください!」プンスカ!

というわけで今回はここまで。

更新スピードにムラがあるのはご容赦願いたく。

続きです。


 * その日の夜 鎮守府内、廊下 *

川内「んーっ、よく寝たぁ……!」ノビーッ

川内「よーっし、今日も頑張って夜戦しよっと!」

川内「……あれ? 今日は声が聞こえないな」

川内「昨日無理しすぎてたからなあ……向こうも遠慮してるのかな。それともみんなにばれちゃったからかなあ」

暁「あ、川内さん! またこれから出かけるの?」

川内「! あ、あぁ、暁……か」

暁「? どうしたの?」

川内「え? な、なんでもないよ。またこれから夜戦の練習にね」

暁「暁も自主的に練習したほうがいいかしら」ウーン

川内「あ、うん……そう、かもね」

暁「でも、明日の朝は朝ごはんの準備があるから駄目ね。明日、長門さんと相談して暁も一緒に練習できる日を作ってもらうわ!」


川内「……」

暁「川内さん? どうしたの?」

川内「あのさ、暁……I提督、って、知ってる?」

暁「I提督……?」

川内「……」

暁「うーん……」クビカシゲ

川内「……」

暁「ごめんなさい、I提督って人のこと、暁は知らないわ」

川内「知らない……?」

暁「うん、初めて聞いた名前だから……川内さんの知ってる人?」

川内「……いや、いいよ、忘れて。変なこと言ってごめんね」

暁「?」

川内(そうだよね、知ってるわけないか……ここへ来たときに暁から『初めまして』って言われたときにわかってたはずなのに)

川内(でも、暁を見ていると、どうしてもあの暁を思い出すのはなんでなんだろう……)

川内「とにかく、私はそろそろ行ってくるね。暁は明日の朝早いんでしょ? 早く寝なよ?」


暁「わかったわ! 川内さんも気を付けて、いってらっしゃい!」

川内「……っ! う、うん、行ってくるよ!」タッ

川内(……あの『いってらっしゃい』の言い方、I提督に似すぎてるよ……)

川内(でも、あの暁は……別人、なんだよね)

暁「? あんなに慌てて、何かあったのかしら」

暁「それにしても……I提督って誰なんだろう」

暁「I……提督……」

 ズキッ

暁「ぐっ……!?」ヨロッ

暁「な、なに……!? あ、頭がぁ……!」ズキズキズキ

暁「く……う……っ!!」ズキーッ

暁「……っは、はぁ、はぁ……!」ガクッ

暁「な、なんだったの、今の……」フラフラ

暁「あれ? 私、何の話をしてたんだっけ……さっき川内さんと……うーん?」

暁「いけない! 明日早起きしないといけないんだったわ!」タッ


 * X提督鎮守府 執務室 *

X提督「I提督鎮守府の近海から、暁の艤装の一部が見つかったんだ」

ヴェールヌイ「そ、それは確実なのか……!?」

X提督「その艤装から装備妖精たちを救助できた。その妖精たちが、かつてI提督の元で働いていたと、話しているそうだよ」

ヴェールヌイ「……!」

X提督「……妖精の話によると、暁はI提督の尋常ならざる姿を見て狂乱し、そのまま鎮守府を飛び出して戦闘に突入したらしい」

X提督「暁の取り乱しようは尋常じゃなく、妖精さんが声を張り上げても、とても聞き入れられる状態でもなく……」

X提督「パニックに陥ったまま、暁は敵陣を突っ切っていったそうだ」

X提督「響が言っていた当時の状況と合致してるね」

ヴェールヌイ「……」コク

X提督「その後、衰弱した暁が波にのまれ、装備妖精たちは破損した艤装と一緒に海に放り出され……」

X提督「そのまま暁とはぐれて海を彷徨うことになってしまったそうだ」

ヴェールヌイ「……」ウツムキ

X提督「……響」

ヴェールヌイ「司令官……大丈夫」

X提督「……」


ヴェールヌイ「暁が……深海棲艦に殺されていないことがわかっただけでも……」ボウシオサエ

X提督「……僕たちのもとへ届いた情報は以上だ」

X提督「暁が沈んだと思われる場所の捜索を、かつてI提督のもとにいた艦娘たちが行っているそうだけど、その捜索もじきに打ち切られるだろう」

ヴェールヌイ「……」グッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「……I提督が」ボソッ

X提督「……」

ヴェールヌイ「I提督が、連れて行ったのかな……翔鶴さんと、一緒に」

ヴェールヌイ「あの人、意外と……寂しがりやだったから、ね」

X提督「……」

ヴェールヌイ「……」 クル スタスタ…

ヴェールヌイ「……仕方ない人だなあ……」

 チャッ パタン(執務室を出ていくヴェールヌイ)

X提督「……響……」


 * それからしばらく後のある日 墓場島鎮守府 廊下 *

朧「あ、提督。少しいいですか?」

提督「ん? なんだ?」

朧「提督は、この島に来た艦娘に、生きるか死ぬかを聞いてますよね」

提督「ああ」

朧「あれって、何かの本の影響ですか?」

提督「本?」

朧「お腹の胎児に、生まれてきたいかそうじゃないかを聞く下りがあって……」

提督「……ああ、もしかしてあれか。まあ、影響受けてなくもねえけど、きっかけはそれじゃねえな、それを読むより前の話だ」

朧「違うんですか……」ウーン

提督「どっから話しゃあいいかな……学生の頃、いじめられてたやつを助けたことがあったんだよ」

朧「え? 提督が、ですか……?」

提督「結果的に、だがな。そもそも助けようと思って助けたわけじゃねえ」

朧「? ……よくわからないです」


提督「あの時俺は、いかにもないじめられっ子が、5対1で囲まれてたのを、ただ見てただけなんだ」

提督「そしたら、5人組が俺に何見てんだよ、って突っかかってきて……」

提督「ただ、俺も悪い意味で有名人だったんで、そいつらは結局、俺の悪口言うだけ言って逃げてったんだ」

朧「逃げた? 提督、やっぱり喧嘩が強かったんですか?」

提督「それなりにな」

朧「5対1で逃げられるなんて、それなりってレベルじゃないと思うんですけど……」

提督「5人組もそこまで強そうじゃなかったからな。ちょっとイキってただけの連中だ、腕っぷしで負ける要素はなかったな」

提督「まあとにかくだ、結果的にはそれでいじめっ子を追い払ったんだが、それがまずかったんだろうな……そいつ、結局自殺したんだよ」

朧「ええっ!? どうしてですか!?」

提督「俺と仲が良いなんて噂が立って、そいつが孤立しちまったんだ。そのくらい嫌われてたんだよ、俺は」

提督「正直、俺としてもその噂は面白くねえ。そういう噂が流れて暫くしてから、そいつに言われたんだ」

提督「なんであの時、俺を助けた。俺は助けてなんて言ってない、ってな」

朧「!!」


提督「俺だって最初から助けるつもりであの場所にいたわけでもねえし、助けたつもりもねえ。そいつのことは、本当にどうでも良かった」

提督「だから俺も、助けたつもりはない、あいつらが勝手に怯えて逃げてっただけだ、ってそいつに言って、それで終わりにしたんだ」

提督「それで、そいつと俺に繋がりがないってことが知れ渡って、結局またいじめられて。それでそいつはビルの上からサヨウナラ、と」

朧「……」

提督「教師どもはその責を俺に押し付けようとしたんだが、この時ばかりは親が出てきて弁護士呼んじまった。だから俺は全然喋ってねえ」

朧「……いじめてた人たちはどうなったんですか」

提督「知らねえな。興味もねえ」

朧「朧は、そういう人たち、許せないです……! 提督、どうにかできなかったんですか?」

提督「そういうふうに義憤にかられることも昔はあったけどな。もう諦めちまった」

朧「諦めた、って!?」

提督「だってなあ、いじめられるよりも、妖精とお話しできちゃう気狂いの仲間に見られる方が嫌だ、って言われてるんだぜ」

朧「……っ!」

提督「俺が誰かの味方になること自体、望まれても許されてもねえんだ。俺が善意で動いても拒絶されて終わりさ」

提督「だから諦めた。本当に俺に向かって、助けて欲しいと言われない限り、手も口も出すのを諦めた。それだけの話だ」

朧「提督……」


提督「……如月のときも、体中傷だらけでひどい有様だった。いっそ死んでしまったほうが楽なんじゃねえか、って思いもしたんだ」

提督「助けてやろうと俺から言わなかったのも、助けを望んでないならただのお節介、有難迷惑にしかならねえからだ」

提督「あいつみたいに、助けて欲しいなんて言ってない、なんて言われたくなかったからな……いっそ介錯してやろうかとも考えたくらいだ」

朧「……」

提督「だが、如月は、助けて欲しいと言った」

提督「どうせ死ぬなら、この世界の嫌なものを一つでも消して、少しでも自己満足を満たしてから死にたかったからな。刺し違えるのも悪くねえ」

提督「……でも、よく考えたら、俺もとんでもねえ卑怯者だな」

朧「ど、どうしてですか!?」

提督「だってなあ、生きたいか死にたいか聞いて、わざわざ言質取ってんだぞ? 自分が責任を取りたくねえ教師どもと同じじゃねえか」

朧「っ……そんなことないです! 朧は、いつもそうやって、自分のことを悪く言う提督はキライです!」ガシッ

提督「!」

朧「提督は、いつも朧たちの味方になってくれるじゃないですか! それこそ提督が悪者になることもいとわずに!」

朧「提督は、何も悪いことをしていないのに、そこにいるだけで悪者にされてきただけです!」

朧「提督は、悪い人なんかじゃありません!」


提督「……」

朧「……」

提督「そういうことにしとくか……また頭突き貰いたくねえしな」

朧「もう……! 提督はどうしてそう一言多いんですか!」

提督「しょうがねえだろ、俺が生きてていいのか、未だに疑ってるくらいだからな」

提督「でもまあ、朧にそこまで言ってもらえるんなら、悪くはねえか」ナデ

朧「提督……」

提督「! 朧、この本……」

朧「あ……」

提督「ああ、こいつか。これ書いたの、芥川龍之介だったか」ペラペラ

朧「読んだことあるんですか!?」

提督「だいぶうろ覚えだけどな」

朧「そうですか……!」パァ

提督「?」

朧「あの、提督は、ほかにどんな本を読んでたんですか?」

提督「いや、もうタイトルとか作者とか、殆ど覚えてねえんだけどなあ……」

朧「どんな話でした? 教えてください!」

提督「んーとな……」


 * その日のお八つ時 食堂 *

霞「って言う話を立ち聞きしたんだけど」

摩耶「あいつ、尋常じゃねえ嫌われ方してたんだな」

霧島「……司令も、肯定してもらえない苦しみを理解しておいでだったんですね」

陸奥「っていうか、よくそれで生活できていたわよね……」

利根「それは妖精さんたちのおかげであろうな」

潮「……」

潮(朧ちゃん、提督のこと好きだよね……?)

潮(それに加えて、その提督が読書仲間で嬉しいんだろうなあ……)

潮「うふふふ……」ニコニコー

摩耶「お、おい、潮?」

霞「あんた、なににやにやしてんの?」

潮「ふえっ!? あ、いえ、提督も、穏やかになったんですね、って! 思っただけです!」アセアセ

霞「穏やか……まあ、そうね。一昔前なら朧も追い払われてたんじゃない? 素直になったと思うわよ」


摩耶「アタシは霞の素直っぷりにも驚いてんだけどなあ……」

霞「私も諦めてるだけよ。あいつに何を言ったって、どうせ蛙の面に水なんだもの」

利根「面倒臭いと常々言っておきながら、やるべき仕事はきっちりやっておるからの。叱責するにも責がないのではな」

摩耶「それで大和さんにもモテて、ってか。けっ、完璧すぎて面白くねーな」

利根「いやいや、あの性格だぞ? 自力で立ち上がれない者にすら容赦ない物言いじゃ、周囲の顰蹙を買うこともままある」

陸奥「それに、提督は結婚願望ないわよ? それこそ大和みたいに提督が好きな艦娘たちにとっては、報われようがなくて不憫なんだけど」

霧島「……金剛お姉様も厄介な人に目を付けたんですね……」

陸奥「そうね……懲りないながら楽しそうだけど」

潮「……あ、それから、提督は泳げないですよね」

摩耶「ぶっ! マジかよ、だっせえな」

霞「あまりそういうこと言わないでくれる」ギロリ

摩耶「!?」ビクッ

潮「あ、あはは……えっと、あと、絵をかくのも苦手みたいです」

摩耶「ふーん。なーんか、つついてもしょうがねえ欠点だなあ……」


霧島「摩耶。あなた、司令のことを調べてどうする気なの?」

摩耶「だってあいつ、生意気じゃないっすか。ああいう天狗になってる奴は、一回何かで勝負して、鼻をへし折ってやんねーと!」

潮「天狗……?」

陸奥「天狗になってるところ、あったかしら」

利根「むしろ自分を卑下してばかりじゃろう……?」

潮「態度は悪いですけど、自分は間違ってない、って自負してるから、あんな感じなんですよね」

摩耶「それこそ自惚れじゃねーか?」」

霞「っていうか、多分勝負とか挑んでも意味ないわよ。あいつ、絶対『面倒臭いから全部負けでいい』って言うから」

利根「あり得るな」

陸奥「間違いなく言いそうね」

潮「か、簡単に想像できちゃいますね……」

摩耶「はぁ!? 腰抜けかよ!」

霞「あいつに何を言ってもいいけど、やる気にさせる言葉なんてないわよ。できてたら私が言ってるわ」

陸奥「なんていうか、霞が言うと説得力があるわね」


摩耶「……くそっ、なんとかあいつをぎゃふんと言わせる方法はねえのかよ!」

霞「案外、言うんじゃない?」

陸奥「頼めば言ってくれそうよね、ぎゃふんの一言くらいは」

摩耶「意味ねえええ!」

霧島「摩耶、どうしてあなたはそこまで司令に突っかかるの?」

摩耶「あいつの態度が気に入らねーんすよ!」

潮「そ、それは、多分、直らないと思います……」

霞「そうね、私もそれは諦めたほうがいいと思うわ」

利根「むしろ、これまで鎮守府で起こったトラブルを収めてきたのは、あの性格あってのことではないか?」

陸奥「だとしたら直しようがないわね……」

摩耶「……」

霧島「摩耶、やめておきましょう?」

摩耶「納得いかねえっすよ……」ガックリ


 * 数日後 食堂 *

霧島「あー、あー、ワン、ツー。テス、テス」

提督「ん、マイクのテストか」

霧島「はい! 司令もお使いになるでしょうから、テストにお付き合いください。マイクに向かって一言どうぞ」

提督「そうだな……なんて言えばいい?」

霧島「……!」ピーン

霧島「ぎゃふん、でお願いします」

提督「ぎゃふん」

霧島「……」

提督「これでいいのか?」

霧島「ほ、本当に言うんですね……」

提督「お前がお願いしますって言ったんじゃねーか」

金剛「テートクゥゥ! 次は『金剛愛してる』って shout してくだサーイ!」

提督「面倒臭え」

金剛「Whaaaaaaaaaaaat's !?」

今回はここまで。

動画サイトから来た人が多くてびっくりです。影響力でかいのですね……。
ただ、あちらは続きが投下されてないせいで、
検索履歴に「墓場島鎮守府5」が出てきてるのが、なんと言いましょうか。

日常編はもう少し続きます。

最後の書き込みのときだけ上げるので
普段はできるだけsage進行でお願いしますね。

続きです。


 * 二週間後 執務室 *

(廊下からかけてくる足音)

 タタタタ…

 タンッ!

 クルクルクル…

那珂「提督さぁぁぁん!」スターン!

那珂「素敵なステージをありがとーーー!」シャラーーン!

提督「……あぁ?」ギロリ

那珂「ヒィィ!?」ビクッ

不知火「申し訳ありません、丁度望ましくないニュースを司令にお伝えしたばかりだったので」

那珂「そ、そうなんだ……そういうことならしょうがないけど……」

提督「そういや今日がお披露目だったな。まあ、普通なら盛大に祝ってやるところなんだろうが……!」

提督「ったくよぉ……本っ当に、人間ってやつは訳がわかんねえ!!」

那珂「……な、何があったの?」

不知火「黒潮がいた鎮守府の保提督が、自首したんです。よりによって、警察に」

那珂「え?」


不知火「当然、鎮守府にも関係者にも警察の捜査の手が回ります。保提督は、そうなるようにこっそりと警察に連絡を入れたそうです」

不知火「海軍も突然のスキャンダルの火消しに躍起になっていますが、一番ダメージが大きいのは現政権でしょう」

那珂「な、なんで?」

提督「保提督は部下の艦娘に売春させようとしたんだよ」

那珂「んいっ!?」

提督「その売った相手が与党議員の息子だって話だ。そいつらから艦娘を助けたのが保提督の部下だった黒潮だ」

提督「先月の黒い雲の話も知ってるな? あれを引き起こしたのが、その売られかけた艦娘の一人、雪風だ」

提督「羅針盤を無視して黒潮を探し回ってる間に、空母棲姫に因縁付けられてああなった」

提督「黒潮は、保提督鎮守府の陽炎型の一番上、まとめ役だったからな。妹が心配なのはどの艦娘も一緒だろう」

那珂「……う、うん、それはそうだよね。那珂ちゃんも、神通ちゃんにいっぱい心配してもらったし……」

提督「不知火も中将んとことの行き来がある。寂しい思いはさせたかねえんだが、こればっかりはな」

提督「ともかくだ、保提督が自首したっつうのも突然の話でなあ……残った連中のことは考えてねえのかよ」

不知火「いえ、保提督は既に余所の鎮守府へ、艦娘の異動を打診していたそうです」

不知火「この鎮守府への異動は認められませんでしたが」

提督「……問題起こすか、轟沈するか。素行か縁起の悪い艦娘以外、こっちには着任させたくねえってか」ケッ


提督「くだんの雪風ならと思ったが、そっちも異動済みだって話だしな。まったくもってままならねえぜ、くそっ」

提督「黒潮も最近は飲まず食わずでやつれてきてるしな。我慢を強いるのも限界だって時に、事態が悪化したんじゃどうなるかわかんねーぞ」

不知火「……」

那珂「……保提督はどうするつもりなのかな」

不知火「可能な限り重い罪状で、刑に服すことを望んでいるようです」

那珂「反省してる、ってこと……?」

不知火「それもありますが、共犯だった相手……自分を脅し続けた三人に重い罰を与えるのも狙いのようです」

提督「いじめられっ子の最後の抵抗、ってとこか? 遅きに失した感はあるがな……今更なんで考えが変わったのか、さっぱりだぜ」

那珂「……」

提督「だがまあ悪い話ばかりじゃねえな。艦娘に手を出して重い罪が課せられるようになるなら、以後に対する多少の抑止力にはなってくれるか」

那珂「……そんなの、悲しすぎるよ。私たちは、人を信じて戦ってるのに……!」

提督「人間なんてそんなもんだ。自分の立場が悪くなりゃあ、ころっと手のひら返して裏切るなんてよくある話だろ」

那珂「で、でも! そんなこと言ったら……提督さんも、なの……?」

提督「当然、俺も含めてだ。むしろ俺みたいなやつが一番信用できねえだろ」

不知火「……」ジロリ

那珂(不知火ちゃんの提督さんを見る目つきが怖い!)ビクッ


如月「ふぅ~ん……?」

那珂「!?」フリムキ

如月「司令官ったら……懲りずにまだそんなことを言うの?」ユラァ

那珂「!?」ビクビクッ

妖精「提督は、ちょっと目を離すとすぐにこうだもんね」ヒョコッ

提督「妖精……お前、如月に知らせたのかよ」

如月「あら、そこで妖精さんを咎めるのは違うんじゃないかしら?」ツカツカ

 ガシッ (提督の顔を両手で挟むように掴む如月)

如月「司令官? あなたこそ、できもしないことを嘯くの、やめてくださいます?」

提督「むぐ……」

如月「嫌われたほうが、いなくなった時に誰も悲しませずに済む、とか、考えてるんでしょう?」

提督「……」

如月「そういうの、如月は許さないんだから」ズイ

如月「たとえあなたが地獄に逃げても、如月はどこまでもお傍にいますから……ね?」ニコォ

提督「……」タラリ

那珂(如月ちゃん、提督さんに鼻がくっつくくらい顔を近づけてる……)ドキドキ


如月「そういうわけだから」パッ

 (如月が人差し指を立てて提督の口に押し当てる)

如月「あまり死ぬ死ぬ詐欺みたいなこと、言わないでくださいね?」

提督「……」

不知火「不知火も同意見です、司令。ご自身の命を軽視する発言は控えるべきかと」

提督「……仕方ねえな……くそ」アタマガリガリ

那珂(提督さんから深海棲艦みたいな雰囲気を感じたのは、こういう破滅的な性格のせいなのかなあ)ウーン

 コンコン

山城「ドアも開けっ放しで何してるのよ」

那珂「あっ、山城ちゃん!」

提督「いろいろ報告受けてただけだよ」

山城「ふーん。駆逐艦に迫られるのが報告なの?」

提督「別に迫られてもいねえよ」

山城「ああ、そう。とにかく、報告中ってことなら、私も便乗させてもらうわ」ショルイサシダシ

提督「? こいつは……」

不知火「演習の申込書、ですか」


山城「補給物資の荷物の中に入ってたわ。それじゃ、私は荷下ろしに戻るから」

提督「……おい」

山城「なによ」

提督「食堂のステージが完成したぞ」

山城「……本当!?」パァァ

提督「良かったな那珂。めちゃくちゃ喜んでる奴がいるぞ」ニヤリ

那珂「……はいっ!!」

山城「っ……!! と、とにかく、私は戻りますから!」イソイソ

不知火「山城さん、満面の笑みでしたね」

如月「那珂ちゃんが発声練習してると、聞きに行きたくてそわそわしてたものね」

那珂「そっか……じゃあ、頑張ってみんなを元気にしてあげないとねっ!」

如月「うふふ、楽しみにしてますね」

不知火「さすがに気分が高揚します」

那珂「なんで加賀さん!?」


提督「まあいいや、はしゃぎすぎて怪我だけすんなよ」

那珂「はいっ! 気を付けまーす!」

提督「で、3日後の13時半からだっけか?」ガサガサ ペラリ

那珂「はいっ! 明後日はリハーサルでーす!」

提督「……」マユヒソメ

如月「えっ、その顔……どうしたの!?」

提督「タイミング悪いな……どうしてそうくるかね」ハァ

提督「那珂。悪いがお前の初ライブ、一日見合わせろ」

那珂「ええええええええええええええ!?」

提督「どうしてライブ予定の日に演習なんかぶっ込んでくんだよ、くそが……」

不知火「……」アタマオサエ

如月(山城さんが持ってきたから、っていうのは山城さんが可哀想よね……)


 * 埠頭 *

山城「へっっぢん!」

 ガッ

山城「……っっ!!」プルプル

電「山城さん!? どうしたのです!?」

神通「くしゃみした反動で脛を箱に打ち付けたみたいです……」

電「弁慶の泣き所ですか……」


 * 3日後 墓場島鎮守府 埠頭 *

電「し、司令官さん? この人たちが演習の相手なのですか?」

提督「だとよ……」ピキピキ

仁提督「よぉ、久しいな准尉! あの日のリベンジをさせてもらうぜ!」ガハハハ

提督「帰れ」

電「!?」

仁提督「おい!?」

提督「ったくよぉ……仰々しい書類が来たから、ちったあ神妙に受けるかと思ったら、どこぞの戦艦馬鹿じゃねーか……」

仁提督「言うに事欠いて馬鹿とはなんだ貴様! 目上の相手に対する言葉か!」

提督「褒めてんだよ、一応」

仁提督「そんな褒め言葉があるか! とってつけたような言い訳をするな!」

提督「とりあえず適当に相手するから終わったらとっとと帰れ。あと大和はやんねーぞ」

仁提督「ふん、お前のところの大和なんぞこっちから願い下げだ」

仁提督「本営で噂になってたぞ、この島の大和はお前の狂信者だってな」

電「あー……」

提督「狂信者、ねえ……」


仁提督「世話になっている少将も身をもって経験済みだし、何よりあの中佐が大怪我をしたと聞いているからな。反論しようと思ってても無駄だぞ」

提督「いや、別に反論なんかねえよ」

仁提督「ないのかよ!?」

提督「よろしくねえ評判が立ったなら、この島に近づこうとするやつも減るだろうしな。願ってもねえ」

仁提督「どこまでも厭世的な奴だな……」

提督「とにかく、さっさと演習して……」

仁提督「まあ待て、慌てるな。その前にだ、あの丘の上の艤装がこの島に流れ着いた艦娘の墓標だな?」

提督「ん? あ、ああ」

仁提督「実をいうと演習はついででな。この島に連れてきたい奴らがいて、貴様に演習を申し込んだんだ」

提督「なんだそりゃ」

仁提督「金剛! 連れてこい!」

仁金剛「イエース!」

 ゾロゾロ

電「!!」


仁提督「まあ、今回の演習にも参加してもらうんだが……」

提督「こいつら……駆逐艦か!?」

仁提督「ああ。陽炎型の萩風、嵐、それから雪風だ」

提督「ゆき……っ!?」

仁提督「あの日、貴様から話を聞いた後、本営に駆逐艦を寄越せと掛け合ってな。それなら、と言って連れてきたのがこの件の雪風だ」

雪風「……」ウツムキ

提督「あ、あの雪風か!? 空母棲姫に追われてた!」

仁提督「ああそうだ。腹の立つことに、その空母棲姫の邀撃が済んで、用がなくなったからと俺に引き合わせてきたんだよ」

仁提督「俺が必要にしていたからいいものの、あいつらは本当になんとも思ってなくて俺ですら絶句したほどだ」

提督「……」

仁提督「それから、保提督だったか? この雪風が元いた鎮守府の提督にも、挨拶と説教をしに行ってきた」

仁提督「そこで雪風を引き取ったことを伝えたら、この二人も引き取ってほしいと頼まれてな」

仁提督「何か思うことがあったのかと思ったら、あの自首騒ぎだ。もしかしたら、俺が雪風を引き取ったのが引き金だったのかもしれん」

提督「……」


仁提督「でだ、黒潮が流れ着いたというこの島に来ていたのも何かの縁だ、演習という形で連れて行けば文句もないだろうと思ってな!」

雪風「し、しれぇ……」

仁提督「なんだ?」

雪風「こ、この人が……黒潮お姉ちゃんを……」

仁提督「ああ、そうだ。この島に流れ着いた黒潮を埋葬したんだ」

仁提督「そういうわけで、この島に来たのは墓参りが目的だ。准尉! 案内しろ!」

提督「……」アッケ

電「し、司令官さん!」

提督「ん、おお……仁提督はちょっと待ってろ。電、ちょっと来い」

電「は、はい!」

提督「いいか? ごにょごにょ……」

電「! わ、わかったのです! 電、すぐに行ってくるのです!」タッ!

提督「頼んだぜ。……さて、待たせたな」


 * 丘の上 *

萩風「轟沈した艦娘が、こんなにたくさん……」

仁提督「……改めて見ると、なんとも言えん光景だな」

嵐「こん中に、黒潮姉が……」

雪風「お姉ちゃん……!」グスッ

提督「……」

神通「提督……こちらの皆さんはどうなさったんですか?」

提督「仁提督が、保提督んとこの陽炎型を引き取ったんで、この島に連れてきたんだとよ」

神通「え? それでは、どうしてこちらに?」

提督「案内しろっつうから案内してやっただけだが?」ニヤリ

神通「……」アタマオサエ

提督「しょうがねえだろ、あんなツラしたまま引き会わせるわけにはいかねえ」

神通「提督、それだけじゃないでしょう?」

提督「まあな。百聞は一見にしかずってやつだ」


萩風「……あ、あのぉ、何の話なんでしょう?」

提督「ん? 気にすんな。それより、そろそろ来るかと思ってんだが」

 ドドドドドド…

提督「うん?」

嵐「なんだこの音?」

仁提督「なんだあの土煙は……」

白露「いっちばーん!」ドドドドドド

島風「はっやーい!!」ドドドドドド

白露と島風に手を引っ張られる黒潮「ちょっ、待ちい!! 腕が抜ける! 腕がーー!」グリングリン

電「み、みんな待って欲しいのですーー!」

提督「なにやってんだ、あいつらは……」アタマオサエ

白露&島風「とうちゃーく!!」キキーーッ

黒潮「ぜぇ、ぜぇ……うぷっ、気持ち悪……」オメメグルグル

提督「お前らなあ……連れてくるにももう少し加減ってもんがあるだろうが」

島風「えー!? 黒潮が全速力で、って言ったんだよー?」


白露「いっちばん速く、って言われたんだもの、手を抜くわけにはいかないでしょ?」

提督「だからって黒潮がこれじゃ意味ねえだろが」

黒潮「ほげぇ……」グロッキー

萩風「あ、あの、提督准尉……?」

提督「おう、紹介が遅れたな。こいつらは島風と白露、もと仁提督鎮守府にいた駆逐艦だ」ニヤリ

仁提督「……っ!」

提督「で、知ってると思うがこいつが黒潮だ。もと、保提督鎮守府の、な」ニヤニヤ

仁提督「なにぃ!?」

萩風「……!」

嵐「ってことは……!」

仁提督「准尉! 貴様、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ!!」

提督「冗談? 俺は黒潮が沈んだとも埋葬したとも、一言も言ってねえぞ?」

提督「あんたが勝手にそう思い込んで、勝手に勘違いしただけじゃねーか」ニヤリ

仁提督「貴様……どこまで俺たちをコケにすれば……!!」

提督「あん時ゃ俺はあんたを信用してなかったんだ。下手なこと言って黒潮連れ去られて解体になったら元も子もねえからな」


雪風「ほ、本当に……黒潮、お姉ちゃん、なんですか?」

黒潮「……お」

提督「お?」


黒潮「おえええええ……」


雪風「」

萩風「」

嵐「」

仁提督「」

神通「」アタマカカエ

電「」アタマカカエ

提督「おい……白露、島風……!」ユラリ

白露「ご、ごめんなさーい!」ダッ

島風「あっ、白露待って!」ダッ

提督「くそが……あいつら後でお仕置きだ」


電「黒潮ちゃん、しっかりするのです」セナカサスリ

神通「お水です。これで口を漱いでください」スイトウトリダシ

黒潮「お、おおきに……」

神通「まともに食事を摂っていなかったせいで、胃液も出なかったようですね」

電「弱ってるのに無理矢理引っ張られたら、こうなるのも無理はないのです……」

提督「まったく、顔だけでも洗ってこさせろって指示したのに、あいつらのせいで台無しじゃねーか」

嵐「つ、つうか准尉さんよぉ、わざわざ俺たちをここに連れて来なくても良かったんじゃ……!?」

提督「こういう場所だって言う説明を省くのと、まあ、時間潰しだな。女の身支度は時間がかかるだろ」

仁提督「回りくどい真似を……!」

雪風「……お姉、ちゃん、なんですよね……!?」

黒潮「!」

雪風「お姉ちゃああああん!!」ダッ

黒潮「雪風……!!」

萩風「姉さん!」ダッ

嵐「姉貴!」ダッ

黒潮「……ほんまに、来たんや……来てくれたんやな……!」ダキヨセ


仁提督「……」

電「良かったのです……!」ホロリ

神通「ええ……!」

提督「……やれやれ。おい、仁提督」

仁提督「なんだ」

 スッ

提督「保提督鎮守府の艦娘と、我が艦隊の黒潮を引き合わせてくれたこと、感謝申し上げる」ケイレイ

仁提督「……ふん。貴様も、礼くらいは言えるんだな……!」ケイレイ

電「あ、あの! 電からも、お礼を言わせて欲しいのです!」ペコッ

神通「仁提督、ありがとうございました」フカブカ

仁提督「……まあ、いい。連れてきて間違いではなかったってことだな」

提督「神通、黒潮を入れて、今回の相手といい勝負できそうなメンバーを選出してくれ」

神通「はい」

提督「それから電、茶と茶菓子と……そうだな、那珂にも一曲披露してもらうか?」

電「はいなのです!」


 * その後、演習中 埠頭 *

 ドーン

仁提督「……はしゃぎすぎだ。演習とはいえニコニコしすぎだ」

提督「……で? これが終わったらあいつらは解体すんのか?」

仁提督「チッ……そんな気はない。陽炎型にはこれからもしっかり働いてもらう」

提督「どうだか」

仁提督「貴様もいちいち癇に障る男だな……」

提督「へっ、人間なんてそう簡単に根っこは変わらねえよ」

仁提督「それこそどうだかな。良くも悪くも変化のない人間なぞおらん。言うことがころころ変わる奴だって少なくなかろう」

提督「……」

仁提督「なんだその目は」

提督「その理屈だと、あんたも変わったってのか? 随分都合がいいもんだ」

仁提督「……ああ、都合よく思い出しちまったんだよ。初めて雪風に会ったときに、ユキマル……俺が飼ってた犬のことをな」

仁提督「もともと捨て犬だったんだ。人が怖くてしょうがないって目をしててなあ」

仁提督「雪風も同じ目をしてたもんで、不覚にも情がわいた……ってとこだ。会う前にここで話をしていたから猶更だ」

提督「……」


仁提督「だからといって、雪風たち陽炎型だけを贔屓するわけにもいかん。鎮守府に戻ったら、遠征専門だった睦月型も演習に出撃させる」

仁提督「足止めを食らっているのも駆逐艦でないと突破できない北方海域だからな。戦術の見直しに丁度いい」

仁提督「そういう評価を怠って駆逐艦の間で対立が起こっても面白くない。どうもあのくらいの年齢の女児の相手は、苦手だ」

提督「ああ……」

仁提督「それに……そもそも水雷戦隊なんて俺の柄じゃないんだが。あまり気乗りせん」

提督「ふん、駆逐艦舐めてると痛い目見るぞ」

仁提督「そうか?」

 ドーン

仁提督「! あいつ……金剛の砲撃を避けたのか?」

提督「ああいう速さってのは、戦艦にはない駆逐艦の強みだよな。回避力ってのは馬鹿にできねえぞ」

提督「被弾が少なきゃ中破も減る、進軍もできるし修理にかかる素材も節約できる」

提督「戦艦並べて長距離高火力で相手に何もさせずに殲滅ってのは確かに安全だが、潤沢な資材が必須条件だ」

提督「懐事情の厳しい俺たちには、これも必要な戦法だと思うが?」


仁提督「……そうだな、考えてやってもいい。だが、俺が一番信頼しているのは戦艦たちだ」

仁提督「俺はあいつらを主力から外すつもりはないぞ」

提督「……ふん、そうかい。そう決めたんなら、それでいいんじゃねえの」

仁提督「ったく……貴様の大和がああでなければ、うちの主力として戦線を切り開いてもらいたかったんだがな」

提督「ま、運良く建造できても、今のあんたの立場じゃあ、活躍させる前にお上に寄越せって言われるかもな」

仁提督「……ぐぬ……」

提督「そろそろ決着がつきそうだな」

仁提督「……」

提督「……」

 ドカーン

提督「あ」

仁提督「あ」


 * 二時間後 食堂 *

山城「ちょっと提督!? どうして那珂ちゃんのステージが1曲だけなんですか!」

山城「最後に私が被弾して中破したからですか!? ペナルティですか!? ああ、不幸だわ……!!」

提督「あぁ? んなもん関係ねーよ、最初から1曲の予定だったろ。一日前倒しで哨戒任務に出張ってる連中のことを考えろ」

那珂「そーだよー、それに今日の主役は黒潮ちゃんでしょ? ね?」

山城「那珂ちゃん……あなた天使なの?」

那珂「もー、提督さんがそう言ってたでしょー!」

山城「私は聞いてないわ。そもそもこの男がそんなふうに他人を思い遣った台詞を吐くわけないじゃない」

扶桑「山城? 提督は最初から1曲だと仰っていましたよ?」

山城「扶桑お姉様……!」


扶桑「あまり提督を困らせてはいけませんよ。めっ!」

山城「」ズギューン

那珂「そうだよー! 山城ちゃん、めっ! だからね!」

山城「」ズギューン

山城「」

山城「」

山城「尊い……!」ドシャァ

扶桑「山城っ!? なんで倒れるの!?」

那珂「山城ちゃん!? 女の子がしちゃいけない顔してるよ!? 山城ちゃーん!!」

霧島「司令、なんで山城さんが倒れているんですか?」

提督「知らん。それよりどうだった、今回のステージは」

霧島「少人数でも観客がいる状態ですと、音の響き具合も違いますね。それから厨房にも結構響いてましたので、調理にも影響が出そうです」

霧島「厨房に音がいかないように、スピーカーの設置場所を調整したほうが良いかと。この食堂を囲むように設置しても良いかもしれません」

提督「スピーカーを分散させるのか」

霧島「はい。明日の朝に少し調整してみますね」


提督「おう、任せるぜ。それから……」チラッ

霧島「!」


黒潮「雪風、ほんま無事で良かったなあ」ニコニコ

雪風「で、でも……」

黒潮「雪風のせいやないて。なあ」

嵐「けど、姉貴にばっかりつらい思いさせちまって……」

黒潮「そうやって心配してくれてるやんか。みんな同じや」ニコー

萩風「黒潮姉さん……」ウルッ


提督「……まあ、あっちは心配なさそうだな」

霧島「姉妹水入らず、ですね」

提督「で、こっちは……」チラッ


仁提督「なぜだ……なぜお前らはそんなにまともなんだ!?」

長門「そう言われてもな……」

仁金剛「比叡の料理がこんなにおいしいなんて、夢みたいデス……」


比叡「あのう、そちらの私にはちゃんと味見させてますか?」

仁金剛「あ、味見……ッ!?」ズガーン

比叡「そんな衝撃を受けるほどのことなんですか!?」ガビーン

仁提督「比叡もそうだが長門だってそうだ。うちの長門は駆逐艦を見ればだらしない顔をして追いかけ回すし……なんとかならんか!?」

長門「そうだな……一度、駆逐艦を追いかけ回している姿を撮影して、本人に見せてやるのはどうだろうか」

仁提督「むう、それだけで大丈夫だろうか……駆逐艦欠乏症なんて訳の分からんことを言い出しているくらいなんだが」

長門「私個人の体験談だが、ここへ来る前の鎮守府で、強烈な反面教師を目にしているのでな。ビッグセブンとしての自覚を刺激するのも手だ」

長門「それから、欠乏症云々はそちらの長門の詭弁だろうが、それを言わせないためにも、駆逐艦も編成に入れた艦隊運営を考えたほうがいい」

長門「潜水艦がいる海域や、砲撃より雷撃が有効な相手もいる以上、駆逐艦や軽巡の育成をしないのはどうかと思う」

長門「仁提督も見ていただろう、演習の最後に、雪風の雷撃で山城が中破したのを」

仁提督「……あれは単なるラッキーヒットだろう?」

長門「その運を味方にできるのが雪風だ。空母棲姫の騒動は、羅針盤の指示を無視して進軍したイレギュラーな結果だと考えている」

長門「そちらの金剛の砲撃を回避した不知火も陽炎型の駆逐艦だ。金剛も、不知火を駆逐艦と侮ったわけではあるまい?」

仁金剛「イエス、やるからにはテートクに勝利をプレゼントするのが私たちの務めデース」

仁提督「むう……」


提督「……そういや、雪風から本当に羅針盤を無視した結果なのか、確かめてなかったな。きりのいいところで訊いてみるか」

霧島「? 何のお話ですか?」

提督「ああ、そりゃあな……」

 タタタタッ

大和「提督! ただいま演習から帰還しました!」ガバーッ

提督「うおっ!?」ダキツカレ

大和「この大和がMVPです! それもこれも提督のおかげです!」ダキシメホオズリ

提督「だっ、だからっていきなり抱き着いてくる奴がいるか!」

金剛「大和ォォ!? 何してるデェェス!!」ウガーッ

如月「金剛さんが変な前例作ったからでしょ!?」

那珂「ちょっ、大和さん、こんなみんながいるところでそんなことまでしちゃダメだよぉぉ!?」

 ギャーギャー

仁提督「なんというか……あんな大和は初めて見たぞ。准尉のあの性格でなぜあそこまで慕われてるのか、いまいち解せんが」

仁金剛「ノープロブレム! テートクには私がいマース!」

仁提督「そういう意味じゃなくてだな……」


長門「どうかしたのか?」

仁提督「あれだけ大和に好かれているのに、准尉は嬉しそうにしてないなと思ってな」

仁提督「見返りを求めないにしても、艦娘を大事にしている以上、艦娘に好かれるのを嫌がらなくても良いだろうと思うんだが」

長門「あの男の望みは、人間がいなくても艦娘が生活できる環境だ。あの男は、自分も含めて人間が不要な世界を作りたがっている」

長門「だから我々に好かれては困る、というのがあの男のスタンスだ」

仁金剛「オゥ……」

仁提督「理由はどうあれ、お前たちに依存したくないしさせたくもない、というわけか……」ウデグミ

仁金剛「……うちのテートク、この頃少し変デース。以前この島に来た時から、考え込む時間が増えてマス」

仁提督「准尉の姿勢に思うところがあってな」

仁金剛「と、言いマスと?」

仁提督「……提督業に就く者は艦娘と一定の距離を保つべき、と言われている。なぜだと思う?」

仁提督「准尉にも言ったが、艦娘を兵器、もしくは備品と見なしているからだ」

長門「……」

仁提督「金属や燃料を素材にドックで建造され、解体すれば資材が残る。艦娘とは何者か? 艦娘でさえも正確に答えられる者はいない」

仁提督「俺もお前たちを人であるなどとは言えん。准尉のように、人と同じように艦娘と接していたのでは、いつか狂ってしまいかねないからな」

比叡「狂うって、そんな……!」


仁提督「考えてもみろ、仮に今日艦隊の誰かが沈んで、翌日同じ艦娘が建造されたらどう思う?」

仁提督「死んだはずの人間が、同じ姿かたちで別人として蘇るんだ。まともに考えて頭が受け付けられるとは思えん」

仁提督「実際に、艦娘に入れ込むあまり骨抜きにされた者もいれば、沈んだ艦娘の後を追う者もいた」

仁提督「特定の艦娘を殺して飾ったという狂気じみた事件も、その艦娘に入れ込んだがためだ」

長門「……」

仁提督「艦娘は人と思わず道具と思え、という話も、そういう意味では正しいことになる」

仁提督「俺も現在進行形で艦娘との接し方についていろいろ考えさせられたが、今の俺には准尉と同じように接することはできん」

仁金剛「……それはちょっと残念デス」

仁提督「しかし、この島はそうじゃない。轟沈してこの島に流れ着いた艦娘たちも、深海棲艦になることもなく准尉と暮らしている」

仁提督「もしも、准尉がこの鎮守府の運営に成功し、誰しもが納得する成果をあげられたのなら……」

比叡「あげられたのなら……?」

仁提督「……いや、その先は言えんな。無責任なことは言えん」

比叡「そんなあ! 思わせぶりなことを言っておいて、その先を言わないほうが無責任ですよぉ!」

仁提督「あるかどうかもわからない希望をちらつかせる方が無責任だろう」

仁提督「むしろ、提督の望む道が艦娘だけの世界だとしたら、逆に本営には危険視されるかもしれん」

長門「謀反の可能性を恐れている、と?」


仁提督「そうだ。そう考えれば准尉のこれからを心配したほうがいい」

提督「心配しなくても別にいいけどな、俺は」ズイッ

仁提督「うお!?」ビクッ

提督「むしろ外から関わってもらわねー方がいろいろと楽だぜ?」

仁金剛「そういうものデスカ……」タラリ

仁提督「残念だがそうはいかんだろう。良くも悪くも、ここはそれなりに有名だからな」

提督「みたいだな……変な噂もたつし、どうにかなんねーのかよ、くそっ」

仁提督「諦めろ。それから、黒潮の解体命令自体はまだ取り消されていないぞ」

提督「……保提督がどうなったかの続報も出てねえし、そっちも継続中ってか」

仁提督「本当なら俺たちも、雪風たちに一回だけ墓参りのつもりで来たんだが……黒潮が生きてるんなら話は別だ」

仁提督「しばらく、貴様たちとは演習なりなんなり理由を付けて顔を突き合わせなければならんようだな」ガクッ

仁金剛「ちょっ、テートク!? そこは演技でも嬉しそうにするデース!」

仁提督「金剛お前なあ、この島に来るたびこいつと毎回顔を合わせるんだぞ!? 俺の胃のほうがストレスで保たんわ!!」

長門「ああ……」ナットク


仁金剛「テートク、ご本人の前でそういうことを言うのは失礼だと思いマス……」

仁提督「ふん、こいつにそんな気遣いはいらん!」

提督「まあ俺も気にしてねえ。それはそれとしてだ、仁提督」

仁提督「なんだ」

提督「俺としても、あんたたちがこの島に来るのはお勧めしねえ。演習にしても、月に1回あるかないかくらいでいい」

仁提督「……貴様からそういう提案がくるとはな」

提督「ぶっちゃければもう来るな、と言いたいところなんだが、黒潮や雪風のことを考えるとそうもいかねえ」

提督「ただ、来てもらうにしても頻度が高いと怪しまれる。つかず離れず……若干離れ気味が望ましいな」

提督「うちと交流があるってだけで、本営はいい顔しねえしよ。中佐なんかにも目を付けられたかねえだろ」

仁提督「まあな」

仁金剛「ンー、中佐もさることながら、秘書艦の赤城も曲者と言われてマスヨー」

比叡「そうなんですか?」

仁金剛「あの会見を録画で見せてもらいましたが、眉一つ動かさずにあの啖呵デシタ。中佐と比較されて話題になったみたいデス」

仁提督「確かに、本営でも『冷徹』だの『鉄面皮』だの『鉄仮面』だの……どこぞの女性宰相のように『鉄の女』なんて宣う奴もいたな」

仁提督「そのせいで、一部からは『鉄の赤城』なんて呼ばれ方をしているらしい」

提督「……チッ」

長門「確かに表面上はそうかもしれないが……」

比叡「そういう言われ方はおもしろくないですねえ」

仁提督「……なるほど。中佐に忠誠を誓ってあの性格になったのかと思ったが……」

仁提督「お前たちがそういう評価をされるということは、少なくともお前たちには良くしてくれているということか」

仁金剛「ヘイ比叡? 失礼デスけど、准尉はどうしてこの島に着任したんデスカ?」

比叡「それはですねえ……」


 * 夕刻 執務室 *

提督「ふー……珍しく時間かかっちまったな」

大淀「お疲れ様です。今日は大変でしたね」

提督「あいつら、ぎりぎりまで居座ってたからな。もてなすこっちの身にもなりやがれってんだ」

提督「……だがまあ、黒潮も落ち着いたようで何よりだ。まさか仁提督に借りを作ることになるなんて思ってもいなかったがな」

大淀「提督。雪風さんは、やはり羅針盤を無視した航路を取っていたんでしょうか」

提督「そうみたいだな。つうか、そもそも見てなかったらしいが」

提督「黒潮を探すときに『絶対に大丈夫』とか言ってたのが、空母棲姫の逆鱗に触れたらしいな。私たちが不運だから沈んだのか、って解釈されて」

提督「ここまで行くと単なる逆恨みだ。だが、それだけに深海棲艦が憎悪や無念によって生まれた存在、っつうのも、あながち嘘じゃないみたいだな」

提督「とにかく、こんなこともう起きて欲しくはないもんだ。……さてと、大淀、残ってる書類あるか?」

大淀「あとはこちらだけです。サインだけいただければ良い状態にしています」

提督「おう、ありがとな」

 ゴトン

大淀「あ」

 ゴトン

提督「……また駄目だったのかよ」


島風「もう無理~~!」

白露「こんなに長い時間じっとしてられないよー!」

提督「何が難しいんだよ、こんなの。直立して頭に本を載せて5分間落とさないようにするだけだぞ」

提督「俺も大淀も、哨戒任務から戻ったばかりの暁や五月雨も楽勝だったんだぞ?」

大淀「落としたら再チャレンジということでしたが、あれから1時間は経っていますね」

提督「どんだけ落ち着きがねえんだよ、お前らは」ハァ…

大淀「そこへいくと暁さんはすごかったですね。頭に本を載せて歩いても全然落としませんでしたから」

提督「あいつ、社交界マナーの本なんか買ってたからな。ある意味誰よりも大人びてるぞ」

 コソッ

大淀「あっ」

島風「一時間たったからいいでしょ!?」ダッ

白露「もうご飯の時間だよ!!」ダッ

 ドドドドドド…

提督「……」

大淀「て、提督、よろしいんですか?」

提督「もういいや、面倒臭え」ハァ

というわけで今回はここまで。

それでは続きです。


 * 数日後のある日の朝 提督の寝室 *

目覚まし時計<マルゴーフタフター

提督「……んむ……」パチ

提督にくっついて寝てる全裸の伊8「……」スヤスヤ

提督「!?」ビク

伊8「……ん……」モゾ

提督「……」

伊8「ふ、ふあぁ……提督? Guten Morgen」ゴシゴシ

提督「……おい」

伊8「?」

提督「お前、なんで裸なんだ」

伊8「……ああ」スッポンポン

提督「ああ、じゃねえよ。今頃気付いたような言い方すんな」Tシャツヌイデ

提督「とりあえずこれ着とけ、俺に目の毒だ」ポイ

伊8「オゥ、Danke」キャッチ


提督「で、服はどうした」

伊8「はっちゃん、普段寝るときはいつもこうですよ?」モソモソ

提督「……」

伊8「ここに来るときは遠慮してましたけど、やっぱり脱いだ方がきつくないし」

伊8「水着って、ちょっと窮屈なんです」

提督「あーあー、わかったわかった。ったくよぉ……」

伊8(……性行為のトラウマはまだ治ってないみたい)ウーン

伊8(でも、以前よりは、拒否反応が和らいでるかな……)

伊8(とにかく、この調子でゆっくり押しかけ続ければ、提督のアレも良くなってくれるはず……)

伊8(焦らずじっくりカウンセリングすれば……いつか手を出してくれるはず!)キラリッ

提督「!?」ゾクゾクッ


 * 執務室 *

提督「……はぁ……」

陸奥「珍しいわね、提督がため息なんて」

大淀「どうかしましたか?」

提督「一応な、俺が寝るときは、部屋に鍵かけて寝てんだよ」

大淀「はい」

陸奥「それがどうかしたの?」

提督「なのに、なんで毎回、誰かが隣で寝てるんだ? いい加減どうにかなんねーのかな、って思ってよ」

陸奥「え、えええ!?」

大淀「っ……そ、そうなんですか!?」アセアセ

提督「そうなんだよ」

大淀(リアクション、ちょっとわざとらしかったかしら……)

陸奥「鍵はかけてるのよね? 壊されてるってこと?」

提督「いや、壊されちゃいねーけどよ……何故か開いてんだ。やっぱり、俺の部屋のベッドだけがいいのがまずいのかね」

大淀「そ、それは違いますよ!?」

提督「違うのか?」


大淀「勿論です! 提督と一緒にいたいからに決まってます!」

陸奥「!」

提督「……」

大淀「……」

提督「……」プイ

大淀(あれ? 提督、赤くなってる?)

提督「あまり俺に懐かれても困るんだがな。鍵、意味ねーのかな」アタマガリガリ

陸奥「隣に寝てる以外に被害がないのなら、やめてしまっても同じよね?」

提督「かもなあ……」

大淀(提督も恥ずかしがることがあるんですね……)ウーン

提督「仕方ねえ……それと大淀も、あまり小っ恥ずかしい台詞、言うんじゃねえよ」

大淀「へ……?」オモイダシテ

大淀(うわーーーー!? 何言ってるの私ーーー!?)カオマッカ

提督「?」

陸奥「……提督って、本当に恋愛事に疎いのね……」

提督「しみじみ言うなよ……」


 * 翌日の朝 如月の部屋 *

如月「司令官の部屋の鍵が開いてた?」

朝潮「はい。昨晩、朝潮が司令官のお部屋にお邪魔した時、ノックをしてから鍵を開ける音がしませんでした」

朝潮「約束では、夜に司令官のお部屋に入るときは、ノックをして妖精さんに鍵を開けてもらうことにしていたはずですが」

朝潮「ノックしてから鍵を開ける音がしなかったので、どういうことかとドアを開けてみたら、開いてしまったんです」

如月「……どういうことかしら……ねえ朝潮ちゃん? このお話、他の人にはしてないの?」

朝潮「まだしていません。司令官のお部屋のお泊りルール発案メンバーのうち、任務がないのは私たちだけですから」

如月「そ、そう……そういうところ、朝潮ちゃんって本当に真面目ね……」

朝潮「はい! 司令官からもお褒めの言葉をいただいていますから!」ドヤッ

如月「……と、とにかく、私の方から司令官に何があったか聞いてみるわ」

朝潮「朝潮も一緒に行きましょうか?」

如月「え、えーっと、変に勘繰られたりするといけないから、私一人で行ってみるわね」

朝潮「そうですか……わかりました」

如月(朝潮ちゃん、妖精さんのことも正直に喋っちゃいそうで怖いのよね……)


 * 昼下がり 執務室 *

 扉< コンコン

如月「司令官、お仕事中お邪魔しますね?」ガチャ

提督「ん? 如月か、どうした?」

如月「ちょっとお断りを入れておこうかと思って」ウフフッ

大淀「お断り……?」

那珂「何の話?」(←今日の秘書艦)

如月「今夜、司令官のお部屋にお邪魔しますね?」ニッコリ

大淀「き、如月さんっ!?」ガタッ

那珂「えっ? えっ? 何!?」

提督「もしかして……寝に来るってのか?」

如月「ええ、そうよ?」

那珂「んななな、何言ってるのぉぉ!?」ガタガタッ

提督「……まー、いいけどよ」

如月「!」

大淀「!?」

那珂「提督さんっ!? いいけどっていいの!? よくなくないの!?」ギョッ


提督「いや、本当に今更だぞ。これまでほぼ毎晩、目が覚めると誰かしらが隣で寝てんだぞ? 鍵をかけても一度も役に立ったことがねえ」

提督「だからもういいや、どうせ無駄な抵抗ってやつだ。俺の部屋に入るのは構わねーから、寝る邪魔だけはしないでくれ」

如月「……!」

那珂「!?!?!?」アングリ

大淀「よ、よろしいのですか……!?」

提督「俺の安眠妨害さえなけりゃあな。川内の件で寝るのを邪魔されるつらさはわかってんだろ?」

如月「うふふふっ、それは勿論よ。迷惑にならないようにするわ」ニコニコ

如月「それじゃ、また夜にねっ」ウキウキ

 扉< チャッ パタン

提督「……やれやれ」フー

那珂「ちょっと提督さん!? 今の話、那珂ちゃん初めて聞いたんですけどっ!?」

提督「俺も面と向かって部屋に行くなんて宣言されたのは初めてだよ」

大淀「……」

那珂「い、いくら提督さんが手を出すことがないからって、お、おおお男の人のお部屋っていうか、お布団に一緒だなんてっ!」カオマッカ


提督「俺もそう思って部屋の鍵をかけてんだけどなあ……」

大淀「……部屋に入るのが構わない……」ブツブツ

那珂「よ、よ、良くないよね! お、大淀ちゃん、そういうのって駄目じゃないの!?」

大淀「へっ!? えっ、あ、そうですね!? それはしょうがないですね!?」

那珂「大淀ちゃん話聞いてた!?」ガビーン

提督「まあ、程度として如月はまだいいんだ。朝潮とか、電あたりも一人寝が寂しいからっつう感じだし……」

提督「どっちかっつうと大和とか金剛とか押しも力も強すぎる連中の方がちょっとな。はっちゃんも何考えてるかわかんねえ」ハァ

那珂「……え、えーっと、この島のみんなのモラルっていうか、道徳観ってどうなの?」

大淀「その辺りは、この島に来た皆さんの事情を考えると、無理もないかと思いますよ。提督に文字通り命を助けられた艦娘も多いですし」

那珂「あ……! そ、そっか……如月ちゃん、すごい傷だったもんね」

那珂「で、でもでもぉ! やっぱり良くないよ! 節度っていうか、うまく言えないけど、なんだかすごく、不健全だよ……!」

大淀「……そうですね、不健全だと思います。憲兵さんがいないことも、この事態に拍車をかけていると思います」

大淀「だからと言って、提督とのスキンシップを制限するのも、私は上策とは思いません」

那珂「な、なんで!?」


大淀「提督は、この鎮守府の艦娘に対しては、一線を越えない限りは、できる限り好き勝手出来るよう配慮されています」

大淀「提督ご自身が望む望まないに関わらず、提督と一緒にいたいと艦娘が望むならば無碍にはできない、と、提督はお考えなのでは?」

提督「まあ、な……つっても、ここんとこ俺が甘いせいで、どんどん俺の防壁削られてんだけどな」アタマガリガリ

大淀「それを踏まえて、私個人の推測でしかありませんが……」

大淀「提督が私たちに好きにさせているからこそ、轟沈を経験した艦娘が深海棲艦になっていないのではないかと考えているのですが」

提督「……」

那珂「……!」

大淀「提督は、お考えにはなったことはございませんか」

提督「正直、深く考えてなかったな。山雲んときくらいか、やべえなって思ったのは」

提督「ル級みたいなやつもいるから、深海棲艦になってもなんとかなるか、って高を括ってたのもある」

大淀「提督も許容できるのでしたら、私は現状維持が望ましいかと」

提督「あんまり許容したくねーけどな。それに、普通は那珂みたいな反応の方がまともだと思うんだがなあ」

那珂「……提督さんは、結婚願望ないんだよね?」

提督「ああ。それに、那珂も俺の体のことは知ってんだろ?」

那珂「うん……みんなにもその話はしたんだよね」

大淀「それでも、提督が好きな人たちには関係ないでしょうから。変に止めようとしても、どうなることか……」

那珂「あうう、確かに如月ちゃんも、提督さんのことになるとすっごい迫力になるし……」

大淀「如月さんもそうですが、金剛さんや大和さんが素直に応じると思います?」

那珂「……難しそうだねー……」ウーン


 * 一方、ドアの外 *

如月「うふふっ」ルンルン

朝潮「……!」タタッ

如月「! 朝潮ちゃん!」

朝潮「如月さん! どうでしたか!?」

如月「司令官、鍵をかけるのやめたみたいよ?」

朝潮「本当ですか!?」パァッ

朝潮「やっと司令官が私たちに心を開いてくださったんですね!」

朝潮「……あ、でも」

如月「? なあに?」

朝潮「これまで私たちは、司令官のお部屋の鍵を妖精さんに開けていただいていました」

朝潮「でも、用がなくなったからお礼を渡すのも終わりというのも不義理なのでは……」

如月「朝潮ちゃん、私たちは妖精さんと契約していたのよ? お部屋の鍵を開けてもらう代わりに、資材を渡していたの」

如月「それを、契約が切れたのに資材を渡し続けていたんじゃ、これまで渡していた資材はなんだったのか、わからなくなっちゃうわ」


朝潮「そ、そうですね……! 理由がないのに渡していては、賄賂も同然です」ソワソワ

如月「……朝潮ちゃん?」

朝潮「す、すみません、司令官が私たちを受け入れてくれたことが嬉しくて、妖精さんたちにどのように喜びを伝えたら良いか……!」

如月「……そういうことなら」ダキヨセ

朝潮「!!」ダキヨセラレ

如月「こうやって、幸せを分かち合うといいと思うわ」

朝潮「……!」

朝潮「な、なるほど……! 如月さん、ありがとうございます!」ギュ

龍驤「演習から戻ったで~……って、何しとん?」

朝潮「あっ! 龍驤さんおかえりなさい!!」ダッシュアンドダキツキー

龍驤「な、なんやなんや!? えらい熱烈な歓迎やな!」ギュー

霞「ちょっ、何やってんのよ!?」

朝潮「霞もです!」ダキツキー

霞「へっ!? ちょ、えええ!?」ドギマギ


朝潮「吹雪さんっ!」ダキツキー

吹雪「えっ!? わわ、私にも来るの!?」ギュー

朝潮「川内さんっ!」ダキツキー

川内「よーしよし、何があったか知らないけど元気だねー!」

朝潮「陸奥さんっ!」ダキツキー

陸奥「あら、あらあらあら」ウフフ

朝潮「雲龍さんっ!」ダッ

雲龍「うん、おいで」

朝潮「もぶっ!?」ボユン(←抱き着こうとした雲龍の胸に顔面直撃)

雲龍「あ」

朝潮「はぶあ!?」ゴロズデーン(←そのまま跳ね返って転倒)

吹雪「朝潮ちゃん!?」

陸奥「ちょっと、大丈夫!?」

最上「? なんだか騒がしいね」

三隈「何があったんでしょう?」


川内「えっとねー、朝潮が雲龍のおっぱいにはねられたの」

三隈「くまりんこーー!?」

吹雪「ち、違いますよ! 雲龍さんのおっぱいバリアーに朝潮ちゃんが突っ込んで弾き飛ばされたんです!」

三隈「くまああああーーーー!?」

最上「三隈落ち着いて!?」

雲龍「その、ごめんなさい……」シュン

龍驤「雲龍は悪うないから。事故や、事故」ナデナデ

朝潮「」タオレタママボーゼン

如月「あ、朝潮ちゃん!? 大丈夫!?」ダキオコシ

霞「しっかりして!?」

朝潮「き、如月さん……霞……!」

朝潮「い……異次元です……! 朝潮は次元の違う壁に阻まれてしまいました……!!」

霞「……うん、異次元なのはよくわかってるつもりだけど」

如月「……朝潮ちゃんが言うと深刻さが増すわね」

朝潮「そう、あれはまさしく脅威……脅威そのものです……!!」ワナワナ

如月「うん、確かにあれは胸囲だけど……」

霞「ギャグのつもりで言ってるわけがないわね」

今回はここまーで。

長らくお待たせしてすみません。
少しだけ続きです。


 * 夜 提督の寝室 *

 コンコン

提督「……如月か?」

如月「はい、失礼しますね?」チャッ

提督「今日はもうシャワー浴びて寝るだけなんだが……用はなんだ?」

如月「一緒にお休みしようと思って」

提督「はー……で、その紙袋はなんだ」

如月「うふふ……これよ。司令官のためのパジャマ!」ガサッ

提督「……」

如月「どんな柄が好きなのかわからなかったけど、機能優先の司令官なら、こういうシンプルなデザインの方が好みだと思って」ニコー

提督「……」

如月「どうしたの?」

提督「いや……ちょっと拍子抜けしただけだ。パジャマは予想外だった」

如月「もう、司令官ったら、私のことをどういうふうに思ってるの?」プー

提督「どうって、普通じゃねえだろ。男の寝室に入るのも寝床に忍び込むのも」


如月「如月は、司令官と普通の関係じゃ満足できないんです。わかるでしょう?」ニコー

提督「この前、頭掴まれたときもそんなこと言ってやがったな。ったく……我ながらいろいろ緩んじまってて良くねえな」

如月「個人的には、もっと緩んでもらった方が嬉しいんですけれど?」

提督「そもそも俺に依存しないように好き勝手させてんのに、なんで俺に絡んでくるんだよ……」

如月「何度も言ってるけれど、助けてもらったらお礼をしたい、助けてくれた相手に幸せになってほしいと思うのは普通でしょう?」

如月「司令官はご自身の幸せを拒否しようとしてるけれど、それが嫌だと思うのは私だけじゃないのよ?」

提督「……」

如月「また吹雪ちゃんに泣いてもらわないとわからないのかしら」ハァ

提督「わかった、わかったから。誰が泣いても困るからやめてくれ」

如月「本当にわかってます?」プー

提督「とりあえずシャワー浴びさせてくれ。俺の寝る邪魔はしない約束だろ」

如月「ええ、でも、その前に……」ズイ

提督「……」

如月「私が先に浴びてきてもいいわよね?」

提督「……ああ、そういう話なら、構わない」

如月「どういう話なら駄目だったのかしら?」ニコー

提督「……いい加減、意地悪は勘弁してくれよ」ハァ…


 * *

提督「……」

提督「なんか、駄目だな。ますます逃げ道封鎖されてんじゃねーか、俺」

提督「俺ってこんなに要領悪かったか?」

提督「……」

提督「本当に、どうしたらいいんだろうな」

提督「どいつもこいつも、艦娘を自分の都合のいいように扱ってきて……」

提督「それが許せなくて、俺はあいつらに好きなことをさせようと思って……」

提督「あいつらをこんな島に封じ込めたんだ、不自由を強いてるはずなんだ……」

提督「……くそ、わけわかんなくなってきた」

提督「こういう時は決まって妖精も姿をくらますしな……」キョロ

提督「……」

 シャワー室の扉<チャッ

如月(バスタオル姿)「司令官?」

提督「!」


如月「どうかしたの?」

提督「別にどうもしてねえよ。それより服を着ろ」

如月「ええ、そのつもりだけど、その前に……司令官、見て……!」シュル…

提督「お、おい!?」

如月「もう、慌てないで。私の体の傷、前よりずっと良くなったでしょう?」

提督「……まあ、そうだな。以前よりは、少しマシになった……」ハァ

如月「司令官?」

提督「……早く服を着ろ。風邪引くぞ」セナカムケテ

如月「はーい」イソイソ

如月「……」チラッ

提督「はぁ……」

如月(司令官、少し顔が赤くなってたわよね)

如月(少しは意識してくれているのかしら……)


 * *

(ドライヤーで髪を乾かす如月)

提督「風呂、上がったぞ」ガチャ

如月「あっ、パジャマ、着てくれたのね」パァ

提督「馴染みがねえから変な感じだけどな」

如月「うふふ、似合ってるわ」ニコニコ

提督「そうか? ……なんか、如月が着てるのとデザイン似てるな」

如月「パジャマの種類があまり選べなかったから」

提督「そうか……」

如月「……嫌だった?」

提督「そんなことはねえよ。こういうことに気を使われることに慣れてねえだけだ」

如月「そう? うふふ」

如月(……司令官とお揃い……司令官とお揃いッ!!)ガッツポーズ

提督「?」


如月「そうだわ、ねえ司令官、ここに座って? 髪を乾かしてあげるから」ドライヤートリダシ

提督「大丈夫だ、俺の髪は短えからすぐ乾く」

如月「もう、駄目よ? 髪が濡れたまま寝ると、頭も枕もむれて臭いが残ったりするんだから」

提督「……そうなのか?」

如月「そうよ? 司令官もにおうのは嫌でしょ? だからこちらへどうぞ?」

提督「ん……」チャクセキ

如月「うふふっ」

 ドライヤー<ブォーーー

提督「……」

如月「司令官、熱くない?」シュッシュッ

提督「ああ……」

如月「? どうしたの?」

提督「そんなふうに、髪の毛……つうか、頭を触られた記憶がねーな、と思ってな……」

如月「そ、そうなの?」


提督「古鷹が来たばっかりのとき、仕事終わらせたら抱き着かれて撫でられたときくらいか……」

如月「ふ、ふ~ん……古鷹さん、そんなことしてたの……」

提督「……ああ……」

如月(司令官って髪を短くしてるから、すぐ乾いちゃうわね。もう少し触っていたかったのに、残念)シュッシュッ

如月「……」

提督「くぁ……」

如月「司令官?」

提督「……」ウトウト

如月「……」

提督「……」カクン

如月「! し、司令官、大丈夫?」

提督「ん……あ、ああ」

如月「ドライヤーをかけてる最中に寝ちゃうんだもの、疲れてたのかしら」

提督「……」ポヤー


如月「司令官、疲れてるなら早くお休みしましょ?」ポンポン

提督「ん……」モゾモゾ

如月(なんだか妙に素直ね……寝惚けてるからかしら)

如月「司令官、大丈夫? 明かり、消したほうがいい?」

提督「んー……頼む……」ムニャムニャ ゴロン

如月「ね、ねえ、本当に大丈夫?」ナデ

提督「……んん……」

如月(なんだか、今まで見たことがないくらい無防備ね……)ナデナデ

提督「……頭、撫でられんのも、いいもんだな……」ボソッ

如月「……」

提督「……」スー

如月「……司令官?」ユサ

提督「……」

如月「本当に疲れてたのかしら」

如月「明かりを消して……」

 パチン


如月(……)ジッ

如月(司令官、なんだかいつもより寝顔が安らかね……)モソモソ

如月(パジャマが良かったのかしら)ナデ

 グイ

如月「きゃっ!?」ダキヨセラレ

如月「し……司令官……!?」ドキドキ

提督「……」スヤー

如月「も、もう……寝惚けてるのかしら。おいたは駄目よ?」ナデナデ

提督「……ん……」

如月「……!」

如月(もしかして司令官、頭を撫でられるのが好きなのかしら……!?)

提督「……」スヤー

如月(きっとそうだわ……司令官が誰かに褒められたって話、聞いたこともなかったんだもの)

如月(もしかしたら、頭を撫でてもらったこともなかったんじゃ……)

如月「……」

如月「ねえ、司令官」ヒソッ


如月「如月は、司令官が頑張ってること……私たちのことを大事にしてくださってること、ちゃあんとわかってますから……ね?」ナデナデ

提督「ん……」


提督(……頭を優しく撫でられるなんて、今までなかったな……)

提督(……こんなに気持ちいいとは、思わなかった)

提督(……誰かに甘えるなんて俺のガラじゃねえが……)

提督(ぼんやりして……まあ、いいか……今くらい、は……)


提督「……」スヤ…

如月(なんだか、少し笑ってる気がするわ……)

如月「……司令官、おやすみなさい」

 チュ

如月「……」

如月(……なんとなくでキスしちゃったけど……なんでかしら、とっても恥ずかしい……)ポ

如月(これまで何回もこっそりしてきたはずなのに……やだ、ドキドキしちゃう)モジモジ

如月(司令官……!!)ギュゥ

提督「……」スー…


 * 翌朝 *

 目覚まし時計<チリリリリリン

提督「……むあ?」

 目覚まし時計<マルゴーサンマルデアリマス!

提督(……珍しく、目覚まし鳴るまで寝てたのか)

 目覚まし時計<チョウヒサシブリニナッタヨ!

提督(なんだかいつもよりよく眠れた気がするな……!?)

如月「……」スヤー

提督「……」

提督(俺、如月と抱き合って寝てたのか? 手を出してねえよな?)

如月「……うん……?」モゾ

提督「!」

如月「あ……お、おはようございます……」ポ

提督「……」


如月「し、司令官どうしたの……!?」

提督「如月……俺はお前になにをした?」ヒヤアセ

如月「え? な、なにも……っていうか、抱き寄せられたくらいだけど……」モジモジ

提督「……」

如月「そうね……それだけだわ。もっとダイタンなこと、してくださっても良かったんですけど?」チラッ

提督「本当だな?」

如月「え、ええ、そうよ?」

提督「……っはぁぁぁぁ……! 抱き着いただけか……嫌な汗かいたぜ」

如月「ちょっと司令官? 手を出さなかったことを安堵しちゃうなんて、如月が嫌われてるみたいでちょっと傷ついちゃうわ?」

提督「俺は前からお前に限らずそういう関係になるのは控えるって言ってんだろ。それにお前のことも嫌いじゃあねえから安心しろ」

提督「その話は別にしても、好きかどうかも自分でわかってねえのに、無意識に一線越えるわけにはいかねーだろが」

如月「そんなの抑えなくてもいいのに……ほんと、素直じゃないんだから」

提督「そんなもん素直とか言えるもんかよ。寝惚けて襲ったとか外道でしかねえよ」


如月「司令官からなら、如月は喜んでお受けしますわ?」

提督「阿呆。やらねえって言ってんだろ」

如月「そういうとこ、司令官は本当に頑固よね。臆病なのかしら、いくじなし」

提督「煽んじゃねえよ、わかってるくせに……お前も懲りねえな」

如月「ところで司令官? パジャマの着心地はどうだった?」

提督「ん? ああ……そんなに悪くねえかな。寝苦しくもなかったし、眠れたことは眠れたしな」

如月「そう? それなら良かったわ」パァ

如月「あ、着替えたらパジャマは私が選択するから、ベッドの上に置いておいてくださいね?」

提督「洗濯くらい自分でするぞ?」

如月「私が持ってきたんだもの、このくらいお世話させて?」ニコー

提督「……そういうもんか?」


提督(そういや、あの時はっちゃんに着せた俺のTシャツ、どこにやったっけ?)


 * 同時刻 伊8の寝室 *

提督のTシャツを抱いて裸で眠る伊8「すぴー……」


 * その後 執務室 *

霞「……」

提督「ん? どうした」

霞「……あんた、いつもより顔色いいみたいけど、なにかあったの?」

提督「」

霞「……な、な、なによ、その反応は……!!」

提督「み、認めたくねえ……っ!」ガクーッ

霞「ど、どど、どういう意味よそれぇぇ!?」


妖精(多分、如月に抱き着いて寝たのが癒しの効果があったからだと思うんだけど……)

妖精(提督的には、思い当たる節はあるけど受け入れたくない、って感じかなあ)

今回はここまで。

またまたちょっとだけ続きです。


 * 会議室 *

妖精「提督は誰かに甘えるなんて考えたこともなかったからねー」

霞「そういうことね……子供のころから頼る人がなくて自立を求められたら、そりゃ反動が来たっておかしくないわよ」

霞「でもねえ、相手が駆逐艦って恥ずかしくないの?」ドンビキ

提督「恥ずかしいに決まってんだろうが! ちくしょう妖精め、べらべら喋りやがって……」

霞「妖精さんのせいにしないの! だいたい、言わなきゃあんたの感情も伝わらないでしょ!」

霞「それこそあんたがいつもやってることじゃない! 甘えたいなら甘えたいって言いなさいよ!」

提督「うるせえな! この齢で俺がお前らに言えるかってんだ!」

提督「だいたい、俺はお前らに艦隊運営を全部任せてんだぞ。これ以上甘えてどうすんだ」

 扉<コンコン ガチャッ

初春「まあ、そういう意味ではわらわたちも好き勝手やらせてもらっておるのぉ」

霞「!」


吹雪「失礼します、司令官!」

朝潮「失礼いたします!」

暁「ごきげんようです!」

白露「なになに、何の話?」

霞「何の話……って、何が?」

妖精「みんなはわたしが呼んだんだ。ヒアリングしたいことがあるからね」

提督「? こいつらにか?」

妖精「そう、みんな駆逐艦のそれぞれの型のネームシップでしょ?」

白露「そう! 白露が一番です!」ガタッ!

吹雪「ちょっ、わ、私だって一番なんだから!」ガタッ!

提督「わかったからとりあえず座れ……」


初春「で、妖精どの? 話とはなんじゃ?」

妖精「みんなそれぞれ一番艦だから、妹はいても姉はいないでしょう?」

妖精「誰かに甘えたくなった時、みんなはどうしてるのかなって聞きたくて」

吹雪「!?」

朝潮「甘え……っ!?」

初春「むう……!」

白露「うーん……」

暁「……それだったら、暁はみんなに甘えさせてもらってるわ」

妖精「みんなに?」

暁「ええ。お料理とかだと比叡さんや長門さんにたくさん教えてもらってるし、戦闘だって私一人で戦ってるわけじゃないし」

暁「だから、暁はみんなに支えてもらって、甘えさせてもらってるって、感じるわ」ニコ

暁「あ、勿論、暁もみんなに頼ってもらえるようにしっかりレディーらしくしてるつもりよ!?」

吹雪「……」

朝潮「……」

初春「……」


白露「あはは、いきなり模範解答が来ちゃった感じ?」

提督「だな……」

暁「?」キョトン

妖精「ほかのみんなはどうなの?」

白露「私は、どっちかって言うと甘えたいって意識がなかったかなあ。早く妹たちを迎えて、一緒に海に出るのが楽しみだったから!」

白露「今は島風っていう超速い妹がいるし、五月雨も練度が高いから、どっちにも負けたくないんだよね!」

霞「五月雨はしょうがないんじゃないの? もともといた鎮守府の主力の一人だったんだから」

白露「それでもだよ! ううん、だからこそ、私は白露型の一番艦、一番お姉ちゃんなんだから、一番頼りにならないとね!」

提督「妹がモチベーターになってる感じか。競争相手であり、先陣切って戦う理由でもあると」

妖精「それじゃあ、誰かに甘えるとか言う発想は出てこないよね」

白露「あ、さすがに航空戦とか、私たちの手が届かないところは得意な人に甘えちゃうよ?」

提督「そりゃ畑違いだからな、役割分担の範疇だ」

吹雪「……」

初春「……」


朝潮「……あ、あの、司令官。その、申し上げにくいのですが……」

提督「ん?」

朝潮「具体的に、甘えるというのはどういった行為をさすのでしょうか!?」

吹雪「!?」

初春「!?」

提督「真面目か」

霞「真面目よ」

白露「よく肩がこらないよね~」

暁「朝潮は真面目なのが自然体なのよ、きっと」

霞「でも朝潮姉? 具体的もなにも、この前みんなに甘えてたじゃない」

朝潮「この前?」

霞「私や吹雪に抱き着いてきたでしょ? あれはそうじゃないの?」


朝潮「あ、あれは、司令官が私たちに心を開いてくださったことが嬉しくて、その喜びを皆さんと分かち合いたくて……!」

提督「どういう意味だそりゃ」

朝潮「司令官が部屋の鍵をかけなくなったというお話からです!」

提督「」

初春「な、なるほどのう……心を開くとはそういう解釈であったか」

吹雪「それじゃ、朝潮ちゃんは根本的に甘えるって行為を知らないってこと?」

暁「聞く限りそうなんじゃないかしら……いつでも背筋伸ばしてるし」

白露「……うーん、例えばだけど、猫とかが構ってほしくてすり寄ってくるじゃない? あの感じ、わかる?」

朝潮「ね、猫ですか……?」

霞「残念だけど、私も朝潮姉も猫の実物は見たことないの」

白露「あちゃー、駄目かあ」


吹雪「別に猫じゃなくっても……ほら、初春ちゃんは長門さんに甘えてるでしょ?」

初春「んにゃっ!?」カオマッカ

吹雪「初春ちゃん、長門さんに抱っこされたときにこーんな緩んだ顔してすりすりしてたでしょ?」

初春「んなっ、な、ん、にゃにを言っておるかぁぁぁあ!」

白露「噛んだ」

初春「噛んでおらぬ!」

朝潮「なるほど……あれが甘える行為ですね! それなら理解できます!」

初春「納得するでなぁぁい! 吹雪っ!! きさ、きしゃま一体何を口走っておるかぁあ!!」

暁「噛んでるわ」

初春「噛んでおらにゅっ!!」

霞「噛み噛みじゃないの」


吹雪「でも本当でしょ? わかりやすい例として言っただけだってば」

初春「どうせ例えるなら潮あたりにせぬか!」

吹雪「潮ちゃんはしょうがないでしょ? そうなる原因があったわけだし。でも初春ちゃんは全然関係なかったじゃない」

初春「それを言うなら吹雪こそ提督に甘えたがっておるではないか!! 近頃はとみに提督の部屋に入り浸るようになりおって!!」

吹雪「ふあ!? そ、そ、それを今ここで言う!?」ガタッ

初春「今言わずしていつ言わんや! 提督よ! 吹雪が貴様に甘えているのは事実じゃろう!」ガタッ

提督「……」ハァ…

霞「あんたは毎度毎度、答えるのを面倒臭がらないの!」

提督「別に答えなくてもいいだろ、こんなの……」

朝潮「……あの、司令官」

提督「うん?」


朝潮「朝潮も、司令官のお部屋にお邪魔して、一緒のお布団に入らせていただいているときがあります」

朝潮「司令官のお邪魔にならないようにと留意してはいるのですが……この行為も、甘えていると呼べるのでしょうか……?」

提督「……いや。お前は単純に隣で寝てるだけだしな。それで嬉しそうにしてるのはなんでかわからねえが……」

霞「単純にここで働けているのが嬉しいから、ってだけだと思うけど?」

朝潮「霞……?」

霞「目立った戦果をあげていないにしても、この鎮守府近海の深海棲艦の活動を抑えて、航路として活用してもらえるようになったのは事実」

霞「ル級さんとの約束事が大きいとは思うけど、それでも、これは私たちとあんたが一緒に成したことだわ」

霞「ただでさえ前の鎮守府で濡れ衣を着せられて沈みかけた私たちに、役目を与えてくれたのよ? 嬉しくないわけがないじゃない」

朝潮「か、霞……」アセアセ

霞「なによ。朝潮姉がわかんないって言うから、予想でだけど私が言ったんじゃない。間違ってる?」

朝潮「そ、そうではなく……も、申し訳ありません司令官、本来ならばこの朝潮が言うべきところを妹に代弁させてしまい……!」

提督「いいさ、気にすんな。朝潮はそういう心情を伝えるのは苦手そうだしな」


霞「ともかく。司令官と寝食を共にすればそれだけ身近に感じられるし、連帯感や団結の精神が生まれて昂揚する感じ、わかるでしょ」

霞「なんていうのかしら、仲間意識、って呼ぶにはちょっと語弊があるけど、朝潮姉が求めているのはそういうことなんじゃないの?」

朝潮「か、霞、もうそのくらいに……!!」セキメン

白露「朝潮も照れることあるんだねー」

暁「それはあるでしょ。」

提督「俺がそこまでのもんかよ。あんまり過大評価してもらいたくねえんだけどな……」

霞「生活態度や自己評価や成績がクズでも、艦娘最優先の生活を提供しようとする人間に、艦娘が悪い感情を抱くとは思えないけど?」

提督「……人間ねえ。どうせなら人間も何かの機会に辞めたかったぜ」

霞「諦めなさい。そんなのできもしないことだし、あんたが人間だからこそ、尉官見習いとはいえ、海軍に所属して提督業できてるんだから」フン!

暁「そうね。司令官がいなかったら、この島に来たみんなはどうなってたかわからないわ」

朝潮「その通りです、司令官……司令官は私たちにとっても、朝潮にとっても大事な方です」

朝潮「何卒ご自愛いただきますよう、お願い申し上げます」ペコリ

提督「……」アタマガリガリ

妖精「うん、そういうわけだから、提督も無理しないで誰かに甘えていいんだよ?」

提督「いや、そういう理屈じゃねえだろ……」アタマカカエ


霞「そうね……さすがにその話の持っていき方はちょっと無理があると思うけど」

妖精「そうかなー?」

霞「それに、どうせ言うなら戦艦や空母の人たちに言ってあげてよ。私もこいつが駆逐艦に甘える姿は見たくないわ」

妖精「それもそうだね」

吹雪「でも如月ちゃんは大歓迎しそうだよね」ヒソヒソ

初春「相違ない」ヒソヒソ

暁「ねえ、司令官より背が高い人じゃないと、甘えるのって不自然じゃないかしら……?」

白露「一番背が高いのは大和さんだよね。次が雲龍さん?」

暁「そうね、あの二人は180センチあるって言ってたわ」

朝潮「長門さんや霧島さんは司令官と同じくらいですね。ル級さんもそうだったかと……」

妖精「よし、それじゃ戦艦のみんなを呼ぼうか」

提督「やめろっつってんだろうが」アタマカカエ

山城「どうしてこういう話を私は立ち聞きするのかしら……不幸だわ」ヌッ

陸奥「まあまあ、聞いてしまったものはしょうがないわ」

提督「!?」


 * 昼 食堂 *

金剛「テーーーートクーーーーーゥ!!!」ドドドドド キキーッ

摩耶「うわっ!? びっくりした!」

由良「こ、金剛さんどうしたんですか?」

金剛「テートクはどこデース! Lunch は済ませてしまったんデスカ!?」

摩耶「あいつなら小さい包みを持ってどっか行ったぞ?」

潮「あ、あの、提督、さっき、厨房でおにぎり作ってました」

金剛「Rice ball ... ? Holy shit !! そんな lonely lunch は許しまセーーン!」

金剛「私が、アーンして食べさせてあげマーーース!!」ドドドドドド…

暁「金剛さん! 食堂で走っちゃ駄目ーー!!」


島風「……はっやーい」アッケ

龍驤「島風が言うんかい……」

雲龍「ご飯はゆっくり食べるべきだわ」モキュモキュ

陸奥「ねえ山城、あの話、もう喋ったの?」

山城「扶桑お姉様に魔の手が伸びないように金剛型に愚痴っただけよ」

陸奥「……」

扶桑「提督は、私たちに手を出すような方だとは思えないのだけれど……」

山城「甘いです扶桑お姉様ッ!」ギンッ!

扶桑「もう……山城ったら、こんなに警戒心が強い子だったかしら」ナデナデ

山城「はへぇ……」デレデレ

陸奥「山城はなんて顔してるのよ……」タラリ

龍驤「甘えまくりやな……うちはこうならんよう、肝に銘じておかななぁ」

雲龍「私は一向に構わないけど」

今回はここまで。


ちなみに身長順ソートがこちら。あくまでこの鎮守府限定の設定です。
左側の数字は、180以上、と読んでください。参考までに提督の身長は177cmです。

180 大和雲龍
175 霧島ル級提督長門
170 山城陸奥扶桑
165 金剛榛名比叡最上
160 三隈摩耶古鷹利根由良明石
155 大淀川内那珂神通黒潮朧不知火山雲五月雨
150 白露島風初春朝雲朝潮吹雪敷波伊8龍驤如月初雪潮若葉
145 霞暁電

少しだけ続きです。


 * 一方その頃 *

 * 島の北部 岩場 *

提督「……」オニギリモグモグ

伊8「……」サンドイッチモグモグ

(二人並んで岩に腰かけて、海を眺めながら昼食をとっている)

提督「……」

伊8「……提督、食堂から逃げてきたの?」

提督「まあ、そんなところだ」

伊8「やっぱり。なんとなく、だいたいの事情は知ってますけど」

提督「耳が早えな」

伊8「山城さんが喋りまくってましたから」

提督「……あんにゃろめ……」

伊8「食堂、騒ぎになってません?」

提督「構うもんかよ。どうせ金剛や大和あたりが騒いでゆっくりできねえさ」

伊8「提督、誰かに甘えるの嫌そうですもんね」モグモグ


提督「まーな。つっても、艦隊運営とかは口出しできるレベルにねえから、完全にお前らにおんぶにだっこだけどな」

提督「甘えてねえ、っつったら嘘になるさ」

伊8「……」

提督「……」モグモグ

提督「さっきお前に声かけられた時も、ちょっと焦ったがな。こんな隠れ家教えてもらえたのは幸運だ」

伊8「たまたまです。たまたま見かけて、声をかけただけですから」

提督「……」パク

伊8「……」モグモグ

提督「なあ」

伊8「はい?」

提督「俺はお前を殺そうとしたよな?」

伊8「はい」

提督「なんでお前は俺に優しくできる?」

伊8「提督が優しい人だってわかったからです」ニッ

提督「……」


伊8「提督、今ははっちゃんのことを助けてくれるでしょ?」

提督「……ああ」

伊8「だから、はっちゃんも提督に優しくしますし、協力もします」

伊8「私が頼れる『人間』は、あなただけだから」

提督「……そうか」

伊8「それから、はっちゃんは、どちらかと言えば提督に甘えたいと思ってます」

伊8「これまで誰かに可愛がってもらったことがなかったので」

提督「……」

伊8「初雪ちゃんあたりも、そうでしょ?」

提督「まあ、確かにな……」

伊8「それに私たち、艦娘です。いつ死ぬかもわかんないですし……」

提督「……させねえよ」

伊8「!」


提督「お前らに『生きたい』と言わせたのは俺だ」

提督「お前らがそれを覆さない限り、少なくともその俺の目の黒いうちは、何があっても死なすつもりはねえぞ」

伊8「……じゃあ、提督も、長生きしないといけませんね」ニコ

提督「……」

伊8「そんな顔しないでください。提督がいなくなったら困るの、はっちゃんだけじゃないんですよ?」

提督「……善処する。約束はできねえが」

伊8「ずるい」ムスッ

提督「できねえ約束はしたくねえんだ」

伊8「いい加減、頑固すぎです」


伊8(これだけ言っても駄目なんて……提督が根本的に変なこと考えないように、どうにかしないと)ハイライトオフ

伊8(色仕掛けも通じないわけじゃないみたいだけど、一線を絶対超えたがらないから、時間がかかりそう)

伊8(……やっぱり、既成事実作っちゃうしかないかなー……)ザワッ

提督(……なんだこの悪寒……)ゾワ


 * 昼過ぎ 執務室 *

提督「……」

金剛「Hey, テートクゥ! Please Com'in !!」リョウテヒロゲテ

提督「何の真似だ」

霞「午前中の話を聞きつけて来てくれたのよ。ありがたく甘えさせてもらったら?」ジトッ

提督「……お前らは俺を困らせたいのか?」

金剛「No ! テートクはいつも独りで抱え込みすぎデース!」

提督「吐き出したいときは遠慮なく吐き出してんだろが」

霞「そうやって吐き出してるのは悪態と逃げ口上じゃない」

霞「本音を吐露しないのとデリカシーがないのは話が違うわよ。論点すり替えないでよね」

大淀(霞ちゃんもそういうきらいがあると思うんだけど……)

提督「だったら俺の本音は『俺抜きで幸せになってくれ』だよ。何遍も言わせんな」

霞「そういうのが受け入れられないって言ってんでしょうが、このクズ!」

金剛「ンー、テートクも頑固が過ぎマース」


提督「生き方なんて、ほいほい変えられるようなもんでもねえだろ。諦めろ」イスニスワリ

金剛「Hmm... Okay」

 ツカツカツカ

 ガシッ!

提督「!?」アタマツカマレ

金剛「そういうことなら、私にも考えがありマース」

提督「お、おい、なにを……もがっ!?」

(金剛が提督の頭を自分の胸に強引に引き寄せ抱きしめる)

金剛「こうなれば実力行使、問答無用デス……! テートクは、力づくで可愛がってあげマース……!!」ナデ…

提督「んなっ!? い、いいっつってんだろ!」

金剛「もがいたって無駄デース、私、喰らいついたら離しまセンヨー?」ギュー ナデナデ

提督「……っ!!」ギチッ

金剛「覚悟を決めて大人しくするデース……!」ニッコリ

大淀「こ、金剛さんも結構強引ですね……」


金剛「Huh~♪」ナデナデ

提督「……」ピクッ

金剛「ンー、イイ子デスネー……」ナデナデ

提督「……」

大淀「……」

霞「ね、ねえ、あいつの様子おかしくない?」

大淀「そ、そういえば……抵抗してませんね」

金剛「Yes, このままゆっくりお休みするデース……」

提督「……う、うおああああ!?」トビノキ

金剛「!?」

霞「!?」

大淀「!?」

提督「はーっ、はーっ……あ、危ねえ……!! こ、金剛っ、お前、何なんだ!? 何しやがった!?」

金剛「Oh shit, 逃げられてしまいマシタ」


大淀「あ、あの、提督? 大丈夫ですか?」

提督「大丈夫じゃねえよ! もうちょっとでダメにされるとこだった!!」

霞「……は?」

提督「は? じゃねえよ! マジで落ちる寸前だったぞ!?」

霞「落ちるってなによそれ。古鷹さんのときだって同じことされてたじゃない、あんたが腑抜けたんじゃないの?」

提督「ちっ……金剛。霞に俺と同じことしてやってくれ」

金剛「? いいデスケド……」

霞「なに? あたしがそんなことでどうにかなると思ってるわけ?」イラッ

提督「いいからやってもらえ。どうもならないなら、それでいい。お前のお叱りも甘んじて受ける」

霞「わけわかんないわ……」

金剛「それでは霞? Please come here」

霞「……わかったわよ」スタスタ

金剛「Okay... !」フワッ

霞「……!」ダキシメラレ


金剛「……♪」アタマナデナデ

霞「……」

提督「……」

大淀「……」

金剛「ンー、霞もとっても素直でイイ子デス……!」ギュ ナデナデ

霞「……」

金剛「……♪」ナデクリナデクリ

霞「……」ギュ

大淀「霞ちゃんが自分から抱き着き返した……!?」

提督「落ちたな……」

大淀「え?」

提督「金剛、そのくらいでいいぞ? 大淀は後を頼む」

大淀「えええ?」

金剛「? もういいんデスカ?」スッ

霞「……ふえ?」カオミアゲ

大淀(あっ)キュン


霞「もうおわり……?」ウルウル

大淀(あっっ)キュンキュン

金剛「ほらー、テートクー? 霞が物足りなさそうな顔をしてマスヨー?」ナデナデ

霞「……!?」ハッ

大淀「か、霞ちゃん……?」

霞「……っっ!!!」カオマッカ

金剛「Oh, 霞、どこに行くデース?」

霞「こ……っ」プルプル

大淀「こ?」

霞「この、このクズーーーーー!!!」ダッシュ&ジャンプキック

提督「うおっ、あぶね」バッ

霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ハイキックコンボ

提督「なんでだよ! 俺は最初からやべえって言ってたじゃねーか! っつうかなんで俺に当たんだよ!?」ガード

金剛「霞? ケンカは良くないデスヨー?」

霞「ひっ……!」ジリッ


提督「霞、とりあえずわかったろ。金剛のあれは洒落にならねえ」

提督「五月雨が、金剛にだっこされて十数秒で寝ちまったのも頷ける」

霞「そ、そんなことがあったの!? そんなにやばいならそれを早く言いなさいよ!!」

提督「言っても信じてたか? 俺だって体験しなきゃ信じられなかったんだ、こっちの方が理解は早い」

金剛「二人とも、もう私に甘えてくれないんデスカ?」

提督「あ、ああ、もう大丈夫だ。これ以上甘えたら仕事ができなくなる、なあ霞?」ジリッ

霞「え、ええ、そうね、その通りよ。もう十分だから……!」ジリッ

大淀「あの、金剛さん? 午後は工廠で艤装の点検があったはずです。もうそろそろ向かった方がよろしいかと……」

金剛「!? もうそんな時間デスカ? すぐ準備しマース!」タタッ

提督「……助かった……」

霞「……あ、ありがと、大淀さん……」

大淀「そんなに危険だったんですか?」

提督「やばかったな。心地いい布団っつーか、底なし沼みたいにどこまでも引きずり込まれていくような感じだった」

霞「……同意せざるを得ないわ。一瞬でも抜け出したくないって思わせられたもの」

大淀「……」

提督「仕事すっか……」フラフラ

霞「そうね……」フラフラ

大淀(二人とも、大丈夫かしら……)タラリ

今回はここまでー。

続きです。


 * 午後 北東の砂浜 *

榛名「……」

 ザザーン…

榛名「……」

榛名「……!」

提督「榛名か。何してんだ?」

榛名「はい、海を見ていました。海と、この砂浜の様子を見に」

提督「……」

榛名「先程まで電ちゃんが、背中にかごを背負ってゴミ拾いをしていました」

榛名「かごの中身は殆ど入っていなかったみたいですけれど」

提督「俺もしょっちゅう見回ってるからな。掃除もしてるから、我ながら綺麗な砂浜だと思うぜ」

榛名「……はい。願わくば、ずっと、綺麗なままであって欲しいですね」

提督「ああ……けど、電は俺が砂浜の掃除してること、わかってるよな? なんでわざわざ……」

榛名「……あの、提督?」

提督「ん?」


榛名「多分……なのですけれど」

榛名「電ちゃんは……ここに、誰かが流れ着くのを待っているんだと思います」

提督「……B提督の部下たちか?」

榛名「はい。きっとそうです」

榛名「榛名も……同じですから」

提督「養成所のか。待っててもいいが、必ずしもこの島に流れ着いてくるわけじゃねえぞ?」

榛名「……」ウツムキ

提督「……」

榛名「提督、申し訳ありません。榛名は……榛名は、ずるい子です」

提督「?」

榛名「ここに来た本当の理由は、提督と一緒に砂浜を歩きたかったからなんです」

榛名「ですがここへ来て、それとなく、思い出していたんです。あの日のことを……」

榛名「ここに来るまで、榛名は、自分のことしか考えていませんでした。あの日も、自分の身を守ることだけで精一杯でした」

榛名「私と那珂さんだけ生き延びて……そして、私だけ、提督に甘えようとしていることが……」

榛名「とても、罪深いことだと、思ってしまうんです……」

提督「……」


榛名「……提督、榛名は……榛名には、あなたの隣を歩く資格があるのでしょうか……」

提督「……」

榛名「……」

提督「面倒臭えな」ハァ

榛名「は……はい!?」

提督「前に言わなかったか? んなもん考えたって意味ねえよ。答えて欲しい相手が不在なんだからな」

提督「だから今後は沈んだ奴らの話はすんな」

榛名「……っ!」

提督「あいつらが沈んだのを悔しがるのは構わねえが、結果的にはお前も轟沈してんじゃねえか。お前にも那珂にもどうしようもなかったんだろ?」

提督「結局は無理難題を押し付けた養成所の人間どもが悪い」

榛名「で、ですが」

提督「お前らが出撃前に殺された那珂の同型だって、お前に力があったら救えたか?」

榛名「そ、それは話が別なのでは……!?」

提督「同じだろ。連中が用意した戦場だぞ? いくら足掻いたって最初から詰んでんだ。だから忘れちまえ」

榛名「忘れ……って、本気なんですか!?」


提督「んじゃあ、言い方変えるか。いい加減、そいつらを解放してやれ。浮かばれねえからよ」

榛名「……解、放……?」

提督「これから先、お前に何らかの不幸があったとして、それが榛名があいつらを救わなかった報いだ、ってなるか? 関係ねえだろ?」

提督「それに、あいつらのために何かしてやるのはお前の勝手だが、じゃああいつらは今、お前のために何かできるのか?」

提督「なにもできねえだろうが。お前が勝手に気を揉んで、勝手に気を病んで……自分で自分を追い詰めてるだけにすぎねえんだよ」

榛名「……」

提督「沈んじまった奴らは、もう、しょうがねえ。俺が埋葬した連中にも、俺からはゆっくり眠ってくれとしか言えねえ」

榛名「!」ハッ

提督「そりゃあ、あいつらも無念だったかもしれねえさ。けど、そうだったかも結局はわからねえ。その時の当事者にしかわかんねえんだ」

提督「この浜に流れ着いて野晒しになったあいつらが可哀想で、俺は丘の上に埋めたんだが、それももしかしたら余計なお世話だったかもしれねえし」

提督「俺がそうしたいと思ったのも、結局は自己満足のためだ。それがいいと、俺が思ったから、そうしたんだ」

提督「そんな俺が、勝手にあいつらの気持ちを『騙る』わけにはいかねえよ」

榛名「提督……」


提督「で、榛名。お前の望みはどうなんだ? 正直に言いな」

榛名「正直に……」

榛名「……」

榛名(榛名の望みは、提督と……)

榛名「……」カァァ

提督「?」

榛名「あ、あの、榛名は……し……その……」

榛名「……(提督と)……し、幸せに、なりたい、です……!」カオマッカ

提督(なんで顔を赤くしてるんだ?)クビカシゲ

榛名「……ですが、その……」

榛名「あの出来事を、忘れることだけは、できません……」

提督「……」


榛名「短い間でしたが、一緒に戦った仲間です……全滅こそしましたが、お互いを鼓舞しながら戦ったのは事実です」

榛名「勿論、榛名は幸せになりたいですが、みんなを忘れてまで幸せになりたいとは思っていません……」

提督「……なるほど」

榛名「提督、申し訳ありません……」ペコリ

提督「謝んな。お前が忘れちゃだめだって言うんなら、それでいいじゃねえか」

提督「ただ、そうやってずっと罪の意識を抱え込んでたんじゃあ、多分お前は早かれ遅かれ潰れちまう」

提督「それで死んで昔の仲間の恨みだなんて話になったら、それこそマジに怨霊扱いされて、浮かばれるものも浮かばれねえ」

提督「電や摩耶、霧島あたりもそうだが、お前らみんな優しすぎて罪悪感が強すぎるんだ。許されたくて罰して欲しいって考えてるだろう?」

提督「だから俺は忘れろって言ったんだ。完全にじゃなくてもいい、少しは自分を許してやれ」

榛名「……」ウルッ

提督「で、前を向いて、たまに振り返ってその時だけ思い出しゃあいいさ。ずっと後ろ向いて歩いてたら危ねえからな」

榛名「提督……!」ウルウル


提督「……どうだ? 少しはお前の望んだ答えにはなったか?」

榛名「はいっ! ありがとうございますっ!!」ダキツキッ

提督「うおっ!?」

榛名「榛名、これほどまでにご心配いただいて、感激ですっ!」ギュウ

提督「……ま、昔のことに縛られ続けてもしょうがねえしな」

榛名「いえ! 榛名は、提督に縛られるのならいくらでも……!」スリスリ

提督「なに?」

榛名「……あ」

提督「……」

榛名「……な……」カオマッカ

榛名「なんでもないですぅぅぅうううう!!!」ダット!

提督「……大丈夫かあいつ」ポカーン

 <ハルナハダイジョウブデスゥゥゥゥ!

提督「本当かよ」


 * 酒保内の個室 *

龍驤「……」ゴソゴソ

雲龍「……」ニコニコ

古鷹「……」ニコニコ

明石「……付け心地はどうですか?」

龍驤「よ、ようわからんけど……これでどう、かな……?」クルリ

明石「うん、いいんじゃないですか? このサイズのブラジャーなら!」

雲龍「可愛いわ」パチパチ

古鷹「良かったですね!」

龍驤「おおきに……ほんま、おおきにな!!」ウルウル

龍驤「それもこれも古鷹のおかげや……! めっちゃ痛かったけど、それだけに感無量や!」

龍驤「ほんまにおっぱいが作れるとは思ってもなかったで!!」

古鷹「でも、この形で固定するためには、マッサージはもう少し続けないといけないんです」

龍驤「うちとしては引き続きお願いしたいけど……古鷹、今後も面倒見てもらってええかな?」

古鷹「はい、任せてください!」


雲龍「ねえ明石」テマネキ

明石「はい?」

雲龍「こっちの可愛い柄のと、こっちの綺麗なの、今龍驤がつけてるサイズであるかしら」カタログトリダシ

明石「あー、ありますね。取り寄せてみましょうか」

雲龍「ええ、お願い」

龍驤「なんや、うちのことはええから、雲龍も自分のを買おたらええやん」

雲龍「……ないの。こういう可愛いのが……」シュン

龍驤「そ、そうなん……?」

明石「あー、確かにサイズが大きすぎると、そもそもの種類がないんですよ」

明石「龍驤さんが今つけてるジュニアブラだと、やっぱり可愛いデザインが多いんですけどね」

龍驤「そういうもんなんか……」

明石「そういうのでなければ、私たちみたいに戦場に出るような人向けの下着は実用一辺倒の味気ないのしかありませんし」

龍驤「あー、あのプロテクターみたいなあれかぁ」

明石「雲龍さんにもおすすめしたんですが……」

雲龍「龍驤に触ってもらえなくなるから嫌」

龍驤「ちょっ」セキメン

明石「仲がおよろしいことで」ニヤァ

古鷹「仲良きことは美しきかな、ですね!」ニコニコー

龍驤「……大天使と小悪魔がおるなあ」


 * 夕方 入渠ドックそばの大浴場 *

明石「提督! できましたよ!」

提督「すげえな……うちの明石は大工でもやっていけそうだな」

増築して作られた個別の風呂<デェェェン!

明石「お風呂と更衣室のセットを3組! 防音処理もしてるので、これで個別にゆっくり入れます!」

明石「お湯は大浴場のお湯をそのまま引いてますから、個別の温度調整はできませんけど、このお風呂用にだけお湯を沸かすこともできますよ!」

提督「十分だ。これまで個別の風呂は、俺の部屋のシャワールームしかなかったからな。利根や如月もこれなら安心だろ」

提督「ありがとうな明石。妖精たちもいい仕事してくれたぜ」

島妖精たち「「いえーい!」」サムズアップ!

明石「戦艦のみなさんにも、出撃の合間に手伝っていただいてるんで、お礼を言ってあげてくださいね!」

提督「ああ、わかった」ウナヅキ

提督「……こういうときに、間宮や伊良湖がいれば良かったんだがな」

明石「? 何の話です?」


提督「以前N大尉の鎮守府に行ったときに初めて間宮や伊良湖に会ってきたんだが、アイスとかが人気なんだってな」

提督「それで、大昔に妖精に助けてもらったときにアイスとかを御馳走してたのを思い出したんだ」

明石「ああ、そういえば聞きましたね、そのお話」

提督「今回もそれに近いものを用意したかったんだが……」チラッ

明石「?」

提督「いや、これだけの仕事をしてもらってアイス程度じゃあ、子供へのお駄賃みたいでいまいちなあ……」

提督「なんかこう、ねぎらいというか、ご褒美というか、働きに見合ういいものがないかと思ってなあ」

明石「あー……でも、この前はあのマルチ工具買ってもらいましたし、そのほかの工具も間に合ってますし……」

明石「あ、そうだ」

提督「?」


 * 個人浴場の更衣室 *

明石「まさか私が一番最初に使うことになるとは思ってませんでしたね~」ヌギヌギ

提督「お前が着替えてる最中は俺は退室しててもいいだろ……」ウシロムキ

明石「そう言って逃げる気ですね?」モゾモゾ

提督「逃げねえよ」

明石「はい、着替え終わりましたよ、こっち向いてください」Tシャツキガエ

提督「……」クルリ

明石「マッサージ、しっかりお願いしますね!」

 * *

明石「うーん、もうちょっと強くしてもいいですよ?」

提督「……」モミモミ

明石「あっ……うん、丁度いいです……んん~……っ」

提督「お前の両肩、鉄板でも入ってんのか?」

明石「まあ、艦娘ですから! 艦種柄、重たい資材とかしょっちゅう運んでますしねー」


提督「クレーンも積んでるし、か」モミモミ

明石「ええ、そうで……くぅんっ」

提督「変な声出すなよ」

明石「いいでしょうが、誰もいないんですし……んっ、んくぅ……!」

提督「……」

明石「ほらぁ、手が止まってますよ~?」

提督「わかったよ……」グリッ

明石「くはぁんっ! あぁ……そこ、いいっ……んんっ……!」ウットリ

提督「……」グリグリ

明石「んあっ、い、いい……ごりごりして、あっ、あ、あああ~~……!」

提督「……」ギュッギュッ

明石「す、すご……っ、てい、とく……上手……んひっ……!」

明石「あっ、そ、そこっ……もっと、そこ、強く……あぁんっ、や、声出ちゃうぅ……っ!」

提督「……」

明石「あぁん、や、やめちゃだめです……っ、もっと、もっとしてぇぇええ!」

提督「……」


 * *

明石「……っはぁ……すっごい気持ちよかったぁ……!」スッキリ

明石「提督、ありがとうございました!」

提督「おう……」グッタリ

明石「なんですか、その燃え尽きた灰みたいな顔色して」

提督「……今度から耳栓持ってくる」

明石「何言ってんですか。そんなことしたらマッサージする箇所がわかんないじゃないですか」

提督「俺を殺す気か」

明石「あら、普段から死にたがりの人が命乞いですか」

提督「こんな死に方じゃ死んでも死にきれねえよ」

明石「我慢してくださいよ。そもそもお礼がしたいっていうからマッサージをお願いしたのに、どうして提督が死にかけてるんですか」

提督「だったら少し黙っててくれよ。変な声聞かされて頭がおかしくなりそうだ。力が加減できなくなっても知らねえぞ」

明石「そう言う割には、とってもいい力加減でしたよ? 提督ってば握力とんでもないですよね?」

提督「おにぎり握るときに全力出すか?」

明石「あー、それもそうですねぇ。それにしても、提督のその握力、どうしてそんなに強いんでしょうねぇ?」


明石「いくら鍛えたからって、人間がそんな握力を持つなんて、普通じゃありませんよ」

提督「……」

明石「まあ、それ以外にも、提督って何かと普通じゃありませんよねって、最近つくづく思うんですよねぇ……!」

提督「……何が言いたい?」

明石「……」

提督「……」

明石「提督。あなた、本当に人間なんですか?」

提督「……」

明石「……」

提督「お前にどんな意図があるかは知らねえが……一応は、な。一応は人間だ」ハァ

提督「この前の医療船で調べてもらったときの診断書、お前にも見てもらったと思うが、おかしなところはあったか?」

明石「……何もありませんでしたね」

提督「多分どこかに俺が人間として異常なところがあるんだろうが……」

提督「検査の精度にもよるが、人間ドックに入って特におかしなところが見つからなかったとなると、俺もどこを疑えばいいのかわからねえ」

明石「……そうですか」

提督「不服そうだな」


明石「もうひとつ、気になることがあるんです」

明石「以前、私があなたの頬を引っ叩いたことがありましたが……私、本気だったんです」

提督「……なに?」

明石「提督には、私がここに流れ着いたときの経緯をお話ししましたよね」

提督「ああ……確か、口封じされたんだよな? お前が手を貸さざるを得なかった悪事の」

明石「はい。その口封じを、前の司令官は、北上さんに……私の友達にさせたんです」

明石「それと同じようなことをしたあなたが、どうしても許せなくて……!!」

提督「……」

明石「だから、あのとき、私は手加減なんかしてなかったんです。本気で殴ったんです」

明石「艤装を装備した艦娘の力がどんなものか、提督もご存知ですよね?」

明石「それなのに、どうしてあの程度で済んだんですか……?」

提督「……」

明石「それからもうひとつ。N提督の鎮守府へ治療にいきましたけど、1日で帰ってきましたよね? 骨にもひびが入っていたのに」

明石「艦娘洗脳ツールの騒ぎで有耶無耶になっていましたが、提督の回復力も人間じゃ考えられません」

提督「……」


明石「しかも、あちらでは高速修復材を食べたそうですが……あれは人間が食べていいものかどうかすら、わかっていないんです」

明石「あなたの顔の怪我がすぐに治ったのは、その修復材のおかげではないんですか……?」

提督「……」

明石「どうなんですか、提督……!」

提督「……」

明石「……」

提督「わかんねえ」ウーン

明石「なっ!?」

提督「あの怪我も、言ってしまえばたかがビンタだと思ってたからな。顔が青くなっても、ぶっちゃけ何日かすりゃあ治ると思ってた」

提督「修復材の話も、言われてみればそうかもしれねえ。確かにあの怪我がすぐ治ったのはそうなのかもしれねえが……」

提督「それじゃあ俺が何者なのか、って言われても、どうにも答えようがねえ。むしろ俺が訊きたいくらいだ」

明石「……」

提督「俺としちゃあ、人間じゃなくなるってのはある意味お望み通りだ。ショックでもなんでもねえ」

提督「ただ、誰に言われたか忘れたが、仮に俺が人間じゃなくなったら、この鎮守府の管理を任せてもらえなくなったりしないか?」

明石「あ……た、確かに……!」アオザメ


提督「仮に、俺の正体が艦娘と関係してるとかならまだいいんだ」

提督「っつうかこの前、那珂にも同じ質問をされたんだよな。で、そのとき俺が深海棲艦じゃねえか、って言われたって……話したよな?」

明石「う、え……そ、それ、冗談じゃなかったんですか!?」

提督「冗談なもんかよ。那珂に砲口向けられたんだからな?」

明石「ええぇえ!?」アワワワ…

提督「それでだ。お前は俺から深海っぽい雰囲気を感じたことはあったか?」

明石「い、いえ、そこまでは……」

提督「山雲みたいにそういう確証があるんなら話も早いんだが……」

明石「いやいやいや、そもそもあったら提督が鎮守府を任せてもらえたかどうかすら怪しくないですか!?」

提督「それもそうか」

提督「まあ、あとは俺が艦娘や深海に関りがあるんなら、泳げないのもどうなんだ、ってのはあるな」

明石「むしろ深海に関りがあるからこそ沈んでしまうとも考えられますよね……ル級さんと交流できてるのも……うわあああ」アタマカカエ

提督「俺に関していろいろと考察してもらってはいるが、これ、っていう確証がない」

提督「どうする? 俺をどうにかして、人間じゃないって証明したほうがいいか?」

明石「……」

提督「……」

明石「いえ……やめておきます」


明石「私は、単純にあなたが何者なのかが知りたいだけで、あなたを追い詰めたり糾弾したりしたいわけではありません」

明石「私はこの鎮守府の平穏を脅かすつもりはありません。これ以上踏み込んで、取り返しのつかないことになるのは御免です」

提督「そうか」

明石「あの、提督? 提督は、小さいころから妖精さんと話ができていたんですよね」

提督「ああ」

明石「提督の弟さんには見えなかったんでしょうか」

提督「……そういやそうだな。見えてる感じはしなかった」

明石「だとしたら、隔世遺伝とか、一代限りの突然変異……と、考えざるを得ないですね」

明石「通説だと、なんらかのきっかけがあるはずなんですが」

提督「例えば?」

明石「私が聞いたことがある話だと、その方の祖父が海軍の関係者だった、とかですかねえ……艦に乗船した生存者や、開発者とか」

明石「艦娘と長く接触していた人の子供が、妖精さんを目で追ってたとか言う話もありましたが、これは最近の話ですし」

提督「俺のジジババの話は聞いたこともねえな……」

明石「仮に提督のお祖父さんが関係者だったとしたら、ご両親や弟さんにもなんらかの影響が出るはずなんです」

提督「そんな気配どころか、全否定だったから絶対ねえな。俺だけ何かあったってことか?」


明石「提督が物心つく前に、その身になにかあったのかもしれませんね。艦娘なり、妖精さんなりと接触があったとか」

提督「けど、俺が生まれたのは妖精も来ないような山奥だぞ。関わりようがねえんだよな……」

明石「うーん……」

提督「妖精。今の話、聞いてたか?」

妖精「うん」ヒョコッ

明石「いたんですか!?」

提督「こいつ、気配消すのはうまいからな。で、俺に見つかる前に俺の村に来たことあったか?」

妖精「ううん、ないね。あの村に行ったの、わたしが最初じゃないかな?」

明石「妖精さんはどうして提督のいた村に行ったんですか?」

妖精「特に深い意味はないよ? わたしは散歩というか、散策のつもりで行ったんだ」

妖精「まさかこんなことになるなんて、思いもしなかったけどね」

明石「そうですか……」

提督「俺の正体が何者でも構わないが、お前らに危害を加えそうなら躊躇なく始末してくれていいからな?」

明石「冗談でもやめてくださいよそういうの……大和さんだけじゃなく、如月ちゃんとか金剛さんあたりも黙ってませんよ?」

明石「とにかく、この話は他言無用にお願いします、不確定情報も多いですし、憶測の域を出ないので。妖精さんも、いいですか?」

妖精「うん」

明石「誰が何を言い出すかわかりませんからね……よろしくお願いします」

というわけで今回はここまで。

こっちはまだまだ描くネタがあるので、当分は追いつかないかと……。

では少しだけ続きです。


 * 夜 提督の私室 *

提督「今日は一段と振り回された気がすんな……寝るか」

 扉<コンコン

大和「提督……大和です。入っても、よろしいでしょうか」

提督「本当に今日は多いな……」ハァ

提督「……入っていいぞ」

 扉<チャッ

大和「し、失礼、致します」オズオズ

提督「? いつになく縮こまってんな。どうかしたか?」

大和「は、はい……お、折り入ってご相談がありまして」

提督「相談?」

大和「あ、さ、先に着替えさせていただきますね! 脱衣所、お借りします!」

 トタタッ パタン

提督「……?」


 * *

大和(パジャマ姿でベッドの上に正座)「こ、このような姿で失礼します……」セキメン

提督「これまで何度もこの姿で抱き着かれて目を覚ましてんだがな……今更恥ずかしがることもねえだろ」

提督「まあいいや、それで相談ってのは?」

大和「……そのぉ……」

大和「最初に確認したいことがございまして……」

大和「提督は……甘やかして欲しいと、思ってらっしゃったり……する、のでしょうか?」

提督「それはねえな」

大和「で、ですよね!? ですよね……!」

提督「相談ってのはそのことか?」アタマカカエ

大和「い、いえ、本題はこれからでして……」モジモジ

提督「?」

大和「……私は……戦艦、大和です」

大和「日本海軍の技術を結集して建造され、国全体の期待を背負い、この国そのものの名を冠した、大型戦艦です」

大和「それゆえに、その……」

大和「誰かに、頼るといいますか……その……」

提督「……」


大和「甘える、といったことを……したことがなくて……」モジモジ

提督「あー……」

大和「へ、変ですよね、大和がこんなことを言い出すなんて」

提督「……」ウーン

大和「あの、提督……?」

提督「大和が建造されてから、1年と経ってねえよな」

大和「は、はい」

提督「建造された直後から、足で立って、話もできる」

提督「考えてみりゃあ変な話だよなあ……」

大和「……」

提督「生まれるときには大きな体が用意されてて、記憶とかも準備されてる」

提督「そうだよな……お前らがどこから来たのか、よくよく考えてみれば理屈がわからねえ」

大和「は、はい……」

提督「だとしたら、甘えるなんて経験もしたことがねえ、か……」

大和「……そ、そうですね……」セキメン


提督「……」

 グイ

大和「きゃ!?」アタマヲヒキヨセラレ

提督「……こうだったか?」ナデ

大和「て、提督……!?」カオマッカ

提督「力加減がわからねえ。痛かったら言えよ?」

大和「い、いえ……!」

提督「そういや、たまに駆逐艦たちの頭を無意識に撫でたりもしてたな……なんとなく撫でたくなって撫でてたが」ナデナデ

提督「なんで撫でたくなったんだろうな……誉めてやりたいって感じでもねえし……」

提督「誉めるにしても、お前みたいに背が高いと、こうやって頭をなでられたりする機会もねえか」

提督「というより、普通に失礼だよな……子供扱いしてるようなもんだしなあ。でも、この世に現れてまだ間もないわけだし……」ナデナデ

大和「……」ギュゥ

提督「大和?」

大和「……ふぁい?」ポヤーン

提督「……」


大和「……ふえっ!? も、申し訳ありません! き、気持ち良くて、つい!!」バッ

提督「気持ち良かったのか……?」

大和「はい……これまでにない経験でしたので」カオマッカ

提督「そうか。お前が良いならそれに越したことはねえ」

大和「……」モジモジ

提督「……」

大和「あのう……提督?」

提督「ん?」

大和「これから、なんですけれど……二人きりの時は、こんなふうに甘えても……」

大和「その、よろしい、でしょうか……?」ポ

提督「……ああ。それがお前の希望ならな。断る理由もねえ」

大和「ありがとうございます!」パァ

提督「相談ってのはこのことか?」

大和「はい!」ニコニコー


提督「まあ無理もねえか。戦艦の艦娘は駆逐艦に比べて見た目も年上で、おまけにお前は背丈もあるしな」

提督「最初から大人で建造されたんじゃ、こんなこと言い出すのも勇気がいるか」

大和「提督、さっそくですけれど……!」

提督「うお!?」ダキツカレ

大和「少し、甘えさせてくださいね……!」スリスリ

提督「……なんか、これまでとあんまり変わってねえな……」

大和「えへへ……」スリスリ

提督(……子供みたいな顔してやがんな)

提督「ま、たまには緊張からといてやるのも、悪くねえか」ナデナデ

大和「はい……!」ゴロゴロスリスリ

提督「そろそろ寝るぞ。明かり消していいな?」

大和「はい!」


大和(私の、こんな子供みたいなお願いを聞いてくださる提督……)

大和(大和は、何があっても提督のために尽力致します……!)

大和(だから今だけは……)

提督「」スヤ…

大和「うふふ……」スリスリ


 * 翌朝 * 

大和「」スヤァ…

提督「……で、結局、抱き枕にされるわけか」ガッチリ


 * それから数日後 *

 * 深夜2時 工廠 *

島妖精C「……と、まあ、今度はそういうことがあってね……」

島妖精E「また? このごろみんな提督に甘えすぎじゃない?」

島妖精F「提督も態度はアレだけど、艦娘のみんなには誠実だしねえ」

島妖精B「つくづくあの態度だけはねえ……」

島妖精D「それでも、提督のガードが緩くなってきてるのは確かかなあ……」

島妖精A「……」

島妖精E「Aちゃんどうしたの?」

島妖精A「風紀が……乱れている……!」

島妖精たち「「……」」

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精D「提督も諦めて鍵をかけなくなっちゃったからねえ」

島妖精A「……資材もきりの良い数まで貯まった」

島妖精A「あの大和に対抗できる強さの艦娘が欲しい」


島妖精F「……そんな子いるかなぁ」

島妖精C「そうなると、同じ大和型の武蔵くらいしかいないんじゃない?」

島妖精たち「「……うーん……」」

島妖精H「なに面白そうな話してるのさー」ヒョコ

島妖精たち「「うわああ!?」」

島妖精E「い、いたのか……」

島妖精H「うわー、ひっどい、なにそれー」

島妖精B「ていうかHちゃん、この前はたまたま建造ドックにいなかっただけじゃない」

島妖精E「いつも工廠の作業場にいるしね」

島妖精H「だからって声をかけないのはあんまりじゃない?」

島妖精A(作者が忘れてて、途中から出しても収まり悪いからって出さなかっただけなんだが)

島妖精G(Aちゃんメタい話はやめて)

島妖精A(こいつ……直接脳内に!?)

島妖精D「とりあえず落ち着け。また新しい艦娘を建造したいって話なんだから」


 * *

島妖精H「……ふーん、なるほどー」

島妖精D「というわけでだ。みんな提督が好きなのはわかるが、節度を持って接してほしくてねぇ」

島妖精G「暴走するみんなを止められそうな艦娘を建造したいんだよ」

島妖精H「それなら……ビスマルクはどうかな?」

島妖精G「ビ、ビスマルク!?」

島妖精E「……いいかもしれない。ドイツ艦だけあって規律には厳しいし」

島妖精F「どうせなら空母のグラーフ・ツェッペリンのほうが良くないかな。うち、空母不足だし」

島妖精B「でも、建造例ってあるの?」

島妖精F「……う、うーん、グラーフは聞いたことないなあ」

島妖精C「パラオでビスマルクを建造できた鎮守府があるらしいよ。あと、海域では探せないって情報もある」

島妖精F「あるのか……」

島妖精A「……やってみるか。ビスマルク狙い」

島妖精たち「「……!」」コクン

島妖精H(何か重要なことを忘れてる気がするけど……まあいっか)


 * 翌朝 執務室 * 

 扉<コンコン

陸奥「お邪魔するわね」チャッ

提督「おう」

陸奥「……!」

提督「? ……ああ、大淀と朝雲なら、今ちょっと外に出てる。じきに戻るはずだ」

陸奥「そ、そう……」

提督「その様子だと、一対一じゃあまだ俺が怖いか」

陸奥「……そうも言っていられないわ。このままじゃ、いつかみんなに気付かれてしまうもの」

陸奥「戦艦陸奥として、男性が苦手だなんて知れたら笑いものだわ……」

提督「そうか? ここの連中の何人かには知られてるだろ」

陸奥「それは、私の事情も知ってもらっているから……」

提督「……なんにせよ、俺はどっちでもいいがな。無理は推奨しねえ」

陸奥「……ありがとう」

提督「俺は何もしてねえよ」


陸奥「そんなことはないわ。私がここで気持ち悪くしたとき、私を背負ってドックまで運んでくれたのはあなたでしょう?」

提督「普通だろ? 助け合いなんて、普段からお前らがやってることだ」

陸奥「……だとしたら、助けられたらお礼を言うのも、普通でしょ?」

提督「……なるほど」フフッ

提督「まあ、ここんとこ不安そうな顔も見せてなかったし、俺さえ干渉しなけりゃ……」

陸奥「それじゃ駄目だと思うのよ」

提督「!」

陸奥「いつまでも……私のことを心配させるのは、どうかと思うの……」コツ…コツ…

提督「……」

 (提督にゆっくり近づいていく陸奥)

陸奥「……」

提督「……まだ、つらそうだな」

陸奥「……っ」

提督「背中向けりゃあ、もう少し近づけるか?」クルリ

陸奥「!」


提督「……」

陸奥「……」コツ…コツ…

提督「……」

陸奥「……」

陸奥(私……この背中に、背負われてたのよね……)

陸奥「……」ス…

 (陸奥が提督の背中にそっと手のひらで触れる)

提督「……!」

陸奥「……」

提督「……」

 (陸奥がゆっくり提督から離れて)

提督「……大丈夫だったか?」

陸奥「……そうね……思ってたよりも、平然としていられたわ」

提督「そうか、ならいい」

陸奥「……なんていうか……ごめんなさいね、こんな艦娘で」

提督「悪いのはお前を怖がらせた人間どもだ。謝る必要はねえよ」

陸奥「……ありがとう、本当に」ニコ…

提督「……」アタマガリガリ

提督「ところで、一人でここに来るなんて珍しいな。何かあったのか?」

陸奥「え、ええ……明石に急いで伝えて欲しいって言われたんだけど。建造ドックが稼働してる、って」

提督「建造ドック? つうことは、また妖精たちか……?」

今回はここまで。

タイミング良く陸奥の話が出てきましたが偶然です。

お待たせしました、続きです。


 * 翌日 午前 *

 * 提督の私室へ向かう廊下 *

初雪「……」テクテク

初雪(今日は、膝枕してもらえる日じゃない)

初雪(だから、代わりに司令官のお部屋のベッドで、お昼寝)

初雪(……名案!)フンス!

 テクテク

初雪(……)

初雪(到着)

初雪(? ……部屋の中に、誰か、いる?)

初雪(誰だろ……)

 コソ…ッ

ベッドの上にうつぶせになり顔を突っ伏している由良「すぅぅぅぅ……」

初雪「!?」


由良「……んすー……」

初雪「……」

由良「……すふぅぅぅぅぅぅ……」

初雪(由良さん……なにやってるの)アッケ

由良「」ムクリ

由良「」キョロキョロ

由良「」ゴソゴソ

初雪(……洗濯籠の中、漁ってる……)

由良「」Tシャツヲトリダシ

由良「すんすん……」

由良「んすうぅぅぅぅ……」

初雪(もしかして……におい、嗅いでる?)ヒキッ


初雪「……」

初雪(……お昼寝どころじゃなくなった……)

初雪(戻ろう)スッ クルリ

扶桑「あら?」

初雪「!?」ビクッッ

扶桑「どう……」

初雪「しーーーーっ!!」(小声)

扶桑「え、ええ……?」

初雪「はやく、こっち……!」フソウノテヲヒイテ

扶桑「????」テヲヒカレ


 * 渡り廊下 *

初雪「……ここなら、誰もいない」キョロキョロ

扶桑「提督の部屋で何があったの?」

初雪「耳、貸して。ごにょごにょ……」

扶桑「……まあ。由良さんが」

初雪「一応、秘密にしておいて」ポ

扶桑「……初雪さんは、どうして提督のお部屋に?」

初雪「ん、お昼寝、したくて。あのベッド、すっごく気持ちいいから」

初雪「なんか、提督のお部屋、鍵をかけなくなった、って聞いたし」

扶桑「そう……それでなのね」

初雪「そういう扶桑さんは、どうしてお部屋に……?」

扶桑「私? いつも提督にお世話になっているから、少し身の回りのお世話をさせてもらおうかと思って……」

扶桑「例えば洗濯物がたまってないか、とか、お部屋が散らかっていないか、とか、ね」フフッ


扶桑「もし初雪さんが寝てたら、ベッドのシーツのお洗濯は、また明日だったわね」

初雪「……今は今で、恥ずかしくて部屋に入れないけど」

扶桑「ふふっ、刺激が強かったかしら」

初雪「うーん……どうだろ。っていうか、私、においって意識したことなかったし……」

初雪「はっ!? も、もしかして、私、汗臭い……!?」クンクン

扶桑「すんすん……大丈夫だと思うけど?」

初雪「うう……ちゃ、ちゃんとお風呂入る……」カオマッカ

 < ユラサンナニヲシテルンデスカーー!

初雪「!?」

扶桑「! ……大淀の声だわ」

初雪「あー……」

扶桑「せっかく初雪さんが秘密にしてくれていたのにね?」

初雪「うん……」コク

初雪「まあ、周りに誰もいないみたいだし、部屋の周りに誰もいなければ、多分、大丈夫だと思うけど……」ミワタシ


 * 提督の私室へ向かう廊下 *

??「提督の部屋はこちらでいいのだな?」コツコツコツ

島妖精C「そうだけど……なんで本人に会うより先に部屋を見に行こうとするのかな」

??「その人間の本質を見るには、本人のプライベートルームを見るのが一番早い」

??「お前たちは、この鎮守府の乱れた規律を正すために、私を建造したんだろう?」

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精H「だからってねえ……」

??「見てわかるなら、そちらの方が話が早い」

??「話すだけならいくらでも隠し通せるし、私はそのような小細工は苦手だ」

??「さっさと証拠を掴んで突き付けるのが簡単だろう」

島妖精A(……これが脳筋というやつか)

島妖精G(それ、本人に直接言っちゃダメだよ?)

島妖精A(お前は電探妖精じゃないだろう! 直接脳内に話しかけてくるな!)


島妖精C「でも、提督の部屋って、ベッドと着替え以外なにもなかったんじゃない?」

島妖精D「最近は艦娘があれこれ持ち寄ってるらしいけど?」

??「やれやれ……どうやら本当に規律が乱れているようだな」

 キャーキャー

??「おや? 誰かいるようだな」

島妖精B「何人かいるみたいだね?」

??「まあいい……失礼する!!」ガチャ!

ベッドの上に突っ伏している由良「え……!?」

ベッドの上に突っ伏している大淀「ええっ!?」

島妖精C「いや、その『えー』はこっちの台詞なんだけどなあ」

??「お前たち……一体何をしているんだ!?」

由良「ま、待って!? どうして……この島にあなたがいるの!?」

大淀「そうですよ! どういうことなんですか!?」


大淀「武蔵さん!!」


??→武蔵「知れたこと。この鎮守府を預かる提督准尉の人となりを、私なりに確かめに来たんだ」

由良「それでお部屋に来るってどういうことなの……」

武蔵「一番わかりやすいではないか。本人のプライベートがどのようなものか、部屋を見れば一目瞭然だろう」

大淀「ほ、本人にはお会いしたんですか!?」

武蔵「いや、まだだ」

大淀「だとしたら、勝手にお部屋に入ってはいけないでしょう!?」

武蔵「ほう。お前たちは許可を取ったのか」

大淀「」ギクッ

由良(大淀……)アチャー

大淀「と、とりましたとも。提督のベッドのシーツが汚れていないか、見に来たんです」

武蔵「ほう……それは本当か」ギラリ

島妖精E(苦しい言い訳だなあ)

武蔵「ということは、提督は自分の部屋の片づけを、数少ない艦娘にやらせているということか」

由良「」

大淀「」

島妖精B(あっ、逆効果だコレ)


武蔵「これはなかなか、叩き直し甲斐のある男と見て良さそうだ……くくくっ」

由良「ちょっ、ちょっとどうするのよ大淀!」オロオロ

大淀「し、仕方ないでしょう! どこかで提督には埋め合わせを……!」オロオロ

島妖精H(……まったく、しょうがないなあ)ヒョイッ タタタタ…

島妖精A「!」

武蔵「よし、大淀そこをどけ。徹底的に家探ししてやろう」

大淀「おやめください! 何の権限があってそんなことを!!」

武蔵「隠し立てするか……怪しいな」シャガミ

武蔵「ふむ……ベッドの下には何もないか。マットレスの下は」ガバッ

由良「む、武蔵さん!?」

武蔵「なにもなし……ここは洋服ダンスか」ガチャ

大淀「武蔵さんっ!?」

武蔵「なんだ? 異様に服が少ないな……」ゴソゴソポイッ

由良「ちょっ、勝手に漁っちゃ駄目だったら!」


武蔵「何を言う、後ろめたいものがなければ何を見られようと問題ないだろう?」ゴソゴソ

由良「だからって出してそのままじゃ……」

武蔵「やけに私物が少ないな。断捨離でもしてるのか?」ゴソゴソポイポイ

 ガシッ

武蔵「うん?」カタヲツカマレ

大淀「いい加減にしとけよ……?」ビキビキビキッ

武蔵「!?」ビクッ

由良「!?」ビクッ

島妖精たち(うわあ)

大淀「だいたいなあ、当人にも顔を見せずに部屋に押し入って、タンスの中を物色するたあどういう了見だ……?」ミシミシッ

武蔵「」

由良「」

大淀「おまけに漁るだけ漁って散らかしっ放し……お片付けもできねえのかよ? あぁ?」ゴゴゴゴ…

由良「」シロメ

武蔵「あ、いや、その……」タジッ


大淀「元に戻せ」

武蔵「は、はい……?」

大淀「元に戻せっつってんだろうが」

武蔵「いや、私は……」

大淀「戻せねえんなら部屋に入ってくんじゃねえぞくそがあああ!!!」ドカーン

武蔵「ひいい!?」ダッ!

 ドタドタドタ…

大淀「……」

大淀「はぁ……もう、こんなに散らかして。仕方ありませんね……」イフクヲオリタタミ

由良「」

大淀「あ」

由良「はっ!? なんだかものすごく衝撃的なものを見た気がしたんだけど!?」

大淀「き、気のせいでしょう……」メソラシ


 * 一方その頃 執務室 *

提督「戻ったか……ん? 大淀はどうした?」

朝雲「補給してくるから、先に行っててって言われたんだけど」

提督「補給?」


 * 鎮守府内 廊下 *

島妖精E「あれは武蔵が悪いよ……」

武蔵「な、なんだったんだあの大淀は……」

島妖精B「そっちに関しては私たちもびっくりだよ」

島妖精F「提督そっくりだったもんねー」

武蔵「あれが……提督の雰囲気、か」

島妖精C「うん、まあ、だいたいあんな感じかなー」

武蔵「あの大淀があの態度……! もしや、日頃から提督にきつく当たられているのではないか?」

島妖精D「いや、そういうわけじゃ」

武蔵「そうか、部屋を荒らせば自分が叱られるから……くっ、この武蔵としたことが迂闊だった!」

武蔵「提督め、艦娘に対するこの仕打ち……正さねばならんな!」

島妖精A「なあ、この武蔵、違う意味で迂闊じゃないか?」ヒソッ

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」ウーン

島妖精E「提督ってさあ、人の話を聞かない人、嫌いだよね」ボソッ

島妖精たち「「……」」タラリ

島妖精F「ねえ武蔵、そうじゃなくって」

武蔵「すまない、ちょっと話しかけないでくれ。どうやったら提督を説得できるか……うーむ」ブツブツ

島妖精B「ちょっ、武蔵ー!?」


 * その30分後 *

 * 墓場島 埠頭 *

島妖精H「……というわけでさー」

大和「武蔵が来たんですか!?」

朝雲「また妖精さんが建造したの!?」

島妖精H「そうだよー、って、大和の建造には私は関わってないんだけどさ」

朝雲「っていうか、なんでピンポイントに大和型が建造出来ちゃってるのよ……」

島妖精H「本当はビスマルクを建造したかったんだけどね」

島妖精H「でも、海外艦は海外に縁のある艦娘の力を借りないと、建造できないの忘れてたんだ」

朝雲「でもそれで武蔵さんが建造できちゃうとか、普通にすごい確率なんだけど!?」

提督「また戦艦が増えるのか……」

大和「も、申し訳ありません……」

提督「いや、お前が謝る必要はねえだろ。資材は問題だけどな」

朝雲「確かに切実よね。今の体制でも、戦艦の人たちは満足に出撃できてないし」


提督「駆逐艦の練度向上が急務になっちまってるな」

提督「若葉や朧みたいなやる気ある奴に頼りっぱなしってのもよろしくねえ」

提督「そのためにも今日は今日で、神通に率いてもらって能力を見るために出撃してるわけだが……」

 ザザァ…

提督「おう、戻ってきたか」

神通「はい、水雷戦隊、ただいま帰還致しました」ケイレイ

吹雪「司令官! 今日は誰も中破しませんでしたよ!!」ブンブン

提督「そいつは重畳だ。黒潮と山雲の調子はどうだった」

黒潮「ま、まあまあやないかな?」ゼェゼェ

神通「砲撃時の構えも安定していますし、心配だったメンタル面の不安も解消したようですから」ニコ

不知火「残る課題は体力面だけですね」

黒潮「さすがに、出撃、久々やったから……」ゼェゼェ

提督「黒潮がこうなら、山雲は……」チラッ

如月「出撃自体がまだ数回目だもの、今日は少しハードだったと思うわ」ヤマグモニカタヲカシ

山雲「はー、はー……ちょおっと、疲れちゃった、かも……」ゼェゼェ


朝雲「山雲、大丈夫? 如月、山雲のフォローありがとね」ヨイショ

大和「提督、今回の出撃メンバーに朝雲さんを加えなかったのはどうしてですか?」

提督「朝雲が山雲のケアをしながら戦ったんじゃあ、山雲の実力が見えないからな」

神通「全体的に粗さが目立ちますが練度を考えれば当然でしょう、これからだと思いますよ」

朝雲「え? 山雲、無傷なの!? すごいじゃない!」ナデナデ

山雲「えへへぇ~」ニヘラ

吹雪「不知火ちゃんがデコイになって動き回ってたからね!」

黒潮「せやなあ……不知火の動きがすごかったもんなあ」

神通「中将のところで鍛えられてるだけあります」ニコ

不知火「お、恐れ入ります」

黒潮「ああいうの見せられると、うちも頑張らなな、って思うわ」

提督「大破艦が出るかと思って大和を呼んだんだが、いらない心配だったな」

大和「何よりですね!」ニコッ

提督「よし、それじゃあ……」

武蔵「ここにいたか!」ザッ

全員「「!!」」


大和「武蔵……!」

吹雪「えっ、えええええ!?」

提督「お前が武蔵か……」

武蔵「いかにも! 大和型戦艦2番艦、武蔵! 推参だ!」ビシィッ!

黒潮「うっひゃああ! 大和型二隻が揃い踏みなんて、すごいやん!!」

不知火「ええ、ですが……」

如月「司令官……?」

提督「……」

山雲「なんだか~、あんまり嬉しそうじゃないみたい~?」

神通「朝雲さん、なにかあったんですか?」

朝雲「それがですね……」ゴニョゴニョ

神通「……なるほど……」

山雲「それじゃあ、あまり歓迎できないかしら~」

武蔵「さて提督よ。この鎮守府の妖精たちによって建造されたこの武蔵、ある使命を帯びてここへ来た」


武蔵「それがなにかわかるか? わかるだろう提督! 貴様の行い、正してくれる!」

提督「知るか」

武蔵「」

島妖精H「ちょっ」

大和「て、提督!?」

朝雲「……」アタマカカエ

神通「まあ、予想通りといえばその通りですが……」ハァ

吹雪「な、何の話なんですか!?」

武蔵「提督、貴様、この期に及んでしらばっくれるとはどういうことだ!?」

提督「マジで知らねえよ。お前が何の用で来たかなんて知るわけねえだろが」

武蔵「……こ、この不躾な物言い……大淀のあの言動は貴様の影響か!」プルプル

提督「大淀?」

武蔵「ああ! 貴様そっくりだったぞ!」


提督「俺そっくり? ……本当かよ。誰か見たことあるか?」

如月「うーん、私はないわ」

大和「私もありません」

不知火「初耳です」

黒潮「うちもそんなん聞いたことないなあ」

朝雲「私たちもないわよね?」

山雲「聞いたことないわ~?」

武蔵「馬鹿な!? 貴様と同じ調子で叱られたんだぞ!?」

提督「なんだそりゃ。確かに俺が自暴自棄になったときに大淀に叱られたことはあるが、言動が俺みたいになったって話はなあ」

大和「提督、大淀さんにも叱られてたんですか……」

吹雪「何回言ってもきかないんですね、司令官は!」プンスカ

提督「最近は言ってねえよ」

如月「考えても駄目ですからね?」ウフフー


提督「へいへい。とりあえずお前らは明石んとこ行って修理受けてこい」

武蔵「待て! 私の話は終わっていないぞ!」

提督「なんだよ……じゃあとっとと要件を言え」

武蔵「うむ……こほん。提督、貴様、艦娘に手あたり次第、手を出しているそうだな!」

全員「「……」」

武蔵「……何だその沈黙は」

提督「いや……俺、手ぇ出してるか?」クビカシゲ

武蔵「!?」

如月「いいえ、出してもらってないわ?」

大和「ですよね」

武蔵「!?」

山雲「司令さんから手を出すって、ないんじゃな~い~?」

黒潮「むしろ司令はんがいろんな人から手ぇ出されてる感じやんな?」

朝雲「司令が怒ってアイアンクローするって意味でなら手が出てはいるけど……」

吹雪「あはは……でも、最近は司令官が誰かにアイアンクローしてるとこ、見てないよね」

不知火「司令がそこまで怒ることも、最近はなくなりましたから」


武蔵「……おい、話が違うぞ妖精たち」

島妖精E「いや、武蔵ってば話を聞いてくれなかったじゃない」

島妖精A「私たちとしては、最近、艦娘たちが提督にくっつきすぎなのをどうにかしてほしいと考えていたんだ」

島妖精G「うん、提督が問題あるわけじゃないんだよね」

武蔵「それを早く言ってくれ……!」ガックリ

 *

提督「それじゃあ何か。武蔵は、この鎮守府の風紀を正そうとしてたわけか」

武蔵「そういうことだ。気の緩み、規律の乱れは軍属である我々の規範とは真逆に位置するもの」

武蔵「平たく言えば、えっちなのはいけないというだけの話だ」

提督「それを言ったらお前の格好が一番の問題だろ」

武蔵「」

神通「提督、声に出てますよ?」

提督「わかってる」

不知火「……」アタマカカエ


武蔵「わ、私の姿はどうでもいい! 貴様こそ生活態度はどうなんだ!」

提督「生活態度? どうと言われてもな……俺、変なことしてるか?」

神通「さあ……特には。強いて言うなら、たまに不精しておひげが伸びているときがあるくらいですが」

如月「普段生活してる分には、司令官って几帳面よね?」

不知火「人の嫌なところばかり見ていますので、それが反面教師になったものかと推測しますが……」

神通「……なるほど……」

朝雲「なんかすごく納得できるわ……」

吹雪「さすが! 最古参だもんね、如月ちゃんと同じで!」

武蔵「えっ、最古参って……吹雪じゃないのか?」

黒潮「それがちゃうねんて、なあ?」

武蔵「……訳が分からなくなってきたぞ。提督に問題がないのなら、艦娘が提督にちょっかいを出しすぎだというのか?」

提督「まあ、確かに最近ガードを緩めすぎてる気がするな。新造艦娘にそこまで心配されるとなると、事態は深刻と見るべきか……」

不知火「え?」


提督「やっぱ寝るときに部屋に鍵かけるか」

如月「は?」ピシッ

大和「え?」ガーン

吹雪「そんなぁ! 駄目ですううう!!」ナミダメ

武蔵「!?」

 ゴボボボッ

伊8「はっちゃん、なんだか嫌な話が聞こえてきたんですけど……?」ザブッ

黒潮「!?」

山雲「ど、どうやったら、海中から聞こえるの~……?」

 ザッ

金剛「Hey, 私も聞いてしまいマシタヨー……?」ユラリ

榛名「提督……本当にお部屋の鍵をかけてしまうんですか……?」ドロリ

武蔵「!?」ビクッ


朝雲「……司令、あなたいったい何人と寝てるんですか」

提督「何人? 何人は覚えてねえな……ここに来てないやつだと、電と朝潮と初雪と……」

武蔵「駆逐艦ばかりじゃないか! この犯罪者め!!」

提督「全員、俺が寝付いてからベッドの中に入り込んできてるんだがな。電なんか一人寝が寂しいって理由だし、無碍にはできねーだろ」

提督「丁度いいから訊くけどよ、お前らなんで鍵かけた俺の部屋に入れるんだ?」

如月「秘密よ?」

大和「内緒です」

金剛「Yes, it's Top secret デース!」

吹雪「言えません!」

伊8「いざとなったら扉を壊しますからいいですけど」

榛名「榛名もそれで大丈夫です!」

提督「……」アタマカカエ

島妖精C(そりゃー私たちが資材を貰った引き換えにやってたなんて言えないよねえ)

島妖精B(そのおかげで大和と武蔵が建造で来たわけなんだけどねえ)


朝雲「えーと……司令? 鍵、かけてたんですよね?」

提督「ああ」

朝雲「……」

提督「……」

朝雲「ということは、司令も本当に知らないんだ……」ガックリ

提督「だからさっきからそう言ってんじゃねーか」

武蔵「おい、信じるのか!?」

朝雲「ええ、信じるわ。司令はこの手の嘘をつかない人だし」

朝雲「なにより艦娘のことを優先する人だから、嫌がる艦娘を部屋に連れ込むなんて真似、絶対にしないもの。疑うだけ時間の無駄だわ」ハァ

山雲「朝雲姉がそこまで言うなら、間違いないわね~」

武蔵「だとしたら、さっき提督の部屋にいた由良と大淀は何をしていたんだ?」

如月「は?」ハイライトオフ

大和「え?」ハイライトオフ

伊8「Was ?」ハイライトオフ

金剛「What ?」ハイライトオフ

榛名「はい?」ハイライトオフ

武蔵「!?」ゾクゾクゾクッ

朝雲「みんなして何やってんのよもう……」


吹雪「武蔵さん、何をしてたって何をしてたんですか!?」

武蔵「な、なにって、部屋を掃除していたと聞いたぞ……ベッドの上に乗っていたし、ベッドメークでもしていたのかと……」

神通(大淀さんは前からそうだと思っていましたが、由良さんもですか)

伊8(ということは、あの二人もナニかしてたんでしょうねえ)

提督「本当かそれ。ベッドくらいなら自分で直してんだが」

武蔵「そ、そうなのか……?」

大淀「ええ、その通りです」ザッ

由良「武蔵さん、ここにいたんですね」

提督「! 大淀と由良も来たのか」

大淀「はい、誤解のないように言っておきますが、私は時間が空いたので提督のお部屋の洗濯物がないかどうかを見に来ただけです」

大淀「そうしたら、由良さんがお部屋のベッドの上に寝ておりまして」

由良「ちょっ、大淀!?」

大淀「提督のお部屋のベッドがすごくいいものなので、どんなものか確かめに行ったんでは?」

由良「ま、まあ……そう、だけど」

由良(そういうことにしておいた方がいいか……)ポ


大淀「それで私も気になって、ベッドを拝借したところに武蔵さんがいらっしゃったんです」

黒潮「司令のベッドってそんなにええの?」

如月「ええ、私と大和さんで一番いいのを選んであげたの」

黒潮「ほえー……」

提督「……まあ、あれはあれでありがたかったけどな……」アタマガリガリ

武蔵「と、とにかくだ! 艦隊の規律を考えても、艦娘が提督と同衾するのはいかがなも」

大和「あぁ?」ギロリ

如月「なんですって?」ドロリ

伊8「ふーん……」ジロリ

榛名「本気で仰っていますか?」ヌラリ

武蔵「ひぃぃぃ!?」ビクゥッ

不知火「食い気味に反応しましたね……」

吹雪(抗議しようと思ったけど、その必要もなかった……)タラリ

金剛「皆さん、落ち着くデス。そこに関しては私も思うところがありマス」

榛名「金剛お姉様……?」


金剛「ひとつ教えてくだサイ。提督のベッドに、一番最初に潜り込んだのは誰デース……?」

提督「そりゃ如月だ。忘れもしねえ、俺の上に掛け布団みたいに覆い被さってたからな」

如月「やぁん」ポ

提督「次の日には電が入り込んでたな」

武蔵「おい!?」

提督「あの頃は人数も少なかったし、電は轟沈して流れ着いて間もなかったからな」

武蔵「ご、轟沈だと!?」

提督「さっきも言ったが、人の気配がない鎮守府で一人で寝るのが不安だったって話だ。如月もそうだったろ」

如月「そうね……あのときは、ただただ怖かったから。人肌が恋しかったっていうのはあるわ」

提督「電は今でもたまに入り込んでくるが、それでも暁や長門みたいな俺以外の頼る相手ができたから回数は減ったぞ?」

金剛「Hmm... やむにやまれぬ事情があったと……それでは仕方ありまセンネ」

金剛「正直に言えば、私は、提督のベッドに入る理由が単純な好意であればみんな控えるべきだと思っていマシタ」

金剛「提督と愛を誓いあっていないのに、ベッドに入り込むのは順番が違うと思ってマシタから」

武蔵「むう……」

金剛「But、不安を取り除くためというのであれば、それも言いづらいデスネ……一度轟沈している艦娘なら猶更な気がしマス」

黒潮「そう言われると難しいとこやなあ……」


金剛「こうなると、提督のベッドに入り込む理由が好意や愛情によるものなのか、不安の解消なのかが判別できまセンネ」

山雲「それはそうねえ~」

黒潮「むしろどっちもあるんやないかな?」

金剛「武蔵もそう思いマスネ?」

武蔵「う、うむ……」

金剛「Okey ! それじゃ私も提督のベッドに遠慮なく入りマース!」Yes!

武蔵「なんでそうなる!?」

金剛「如月は提督が好きデース」

金剛「その如月は提督のベッドに入ってマス」

金剛「だから提督が好きな私も提督のベッドに入っていいデーース!」

武蔵「無茶苦茶だ!!」

金剛「Nooo ! これ以上ない見事な三段論法デース!!」

山雲「ちょおっと、強引じゃなーい~?」

不知火「いくら何でも端折りすぎではないかと」

金剛「私だって提督は大好きデス! これ以上如月や大和に後れを取るわけにはいきまセーーン!」


金剛「燻ぶらせていた Burning Love !! テートクのためにッ! 完全燃焼デーーース!!」ドカーン!

黒潮「おおう、こりゃ司令はんもスミに置けへんなあ」

不知火「その前に完全燃焼ではスミになりそうですが」

黒潮「誰が上手いこと言え言うたん!?」ビシーッ

不知火「え!? し、不知火に何か落ち度でも……!?」オロオロ

黒潮「自覚しとらんかったんかい!」ビシーッ

吹雪「黒潮ちゃんが変なツッコミ入れるから戸惑ってるんでしょ!?」ビシーッ

金剛「ブッキーがいいツッコミ入れてマス……!」

黒潮「またまたあ金剛はん、真面目な吹雪がそんなこと言うわけ……ほんまや! 真面目か!」

吹雪「言い出しっぺは黒潮ちゃんでしょ!?」ビシーッ

山雲「朝雲姉~、面白いわね~」パチパチ

朝雲「お笑いやってる場合じゃないでしょ……」

伊8「脱線しましたけど、引き続き提督と一緒に寝るのは問題なしということで。いいですよね?」

榛名「賛成です!」キョシュ!

如月「異論なしよ!」キョシュ!

武蔵「いいのか……いいのかそれで」アタマカカエ


大和「武蔵……」カタヲポン

武蔵「大和……こんなことが、許されていいのか!?」

大和「余計なことはしないで?」ニコァ

武蔵「」

朝雲「武蔵さん、やめといた方がいいわ。大和さんてば、司令のことがすっごく好きだから」

山雲「あらぁ~? 朝雲姉~、武蔵さん、聞いてないみたいよ~?」テノヒラフリフリ

武蔵「」

由良「失神してるみたいなんだけど……」ホッペツンツン

黒潮「んなアホな……」

大淀「滅茶苦茶迫力のある笑顔見せてましたからね。いくら武蔵さんでも建造されたばかりでは、さすがに……」

不知火「大和さん……」アタマカカエ

神通「さすがに少し大人げないかと……」アタマオサエ

提督「……大和。いい加減、変なプレッシャーかけんじゃねえって言ったよなあ?」ツカツカ

大和「あっ、提督、ちょっと待っ、あの、アイアンクローは、待っ、あ、ひぎぃぃぃぃいい!?」メキメキメキ

金剛「Oh, 久々に見ましたネ、提督のBrain Claw」

如月「司令官のことをまだまだ分かってない証拠よね」フフッ

伊8「まるで正妻のようなこの余裕」

吹雪「とりあえず、武蔵さんどうしましょう?」

榛名「明石のところに連れて行きますか?」

武蔵「」チーン

今回はここまで。


由良さんのお目覚め(意味深)は>>22を参照です。

少しだけ続きです。


 * 工廠 *

明石「いやあ、話は聞かせてもらいましたけど……」

利根「まさか武蔵が来ようとはの……」

武蔵「あ、ああ……その、よろしく頼む」

利根「う、うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」

提督「……」

明石「提督、まーた何かしたんですか? あの武蔵さんが借りてきた猫みたいなんですけど」ジロリ

提督「何もしてねえっつうの」

明石「本当ですか? 提督って、こういう騒動の中心にいるってことに無自覚ですからねえ……」

武蔵「お、おい、明石! あまり提督にそういう態度を取っては、後々大変にならないのか!?」

提督「そうはならねえよ。大和にも言って聞かせるから、堂々としてていい」

明石「あ、もしかして大和さん絡みですか。じゃあ仕方ないですかね~」アタマオサエ

武蔵「明石もそれで納得するのか……」

明石「私も大和さんには、出会ってすぐに主砲向けられちゃいましたからね」

武蔵「……」

提督「つっても大和だけじゃねえがな。とりあえず今後のためにも、武蔵には早速出撃してもらうつもりだ」

明石「大和型が二隻ですか……そうなると資材が不安ですねえ」


朝雲「司令なら確かこっちに……あ、いたいた!」

山雲「お邪魔しまぁ~す」

初雪「おお……本当に、武蔵さんだ……」

提督「なんだ、俺に用か? それとも武蔵の野次馬か?」

朝雲「野次馬じゃないわよ。山雲たちからお願いがあるの」

山雲「そうよ~、武蔵さんに~、お願いがあって来たの~」

武蔵「……この武蔵にか?」

初雪「うん……良かったら、一緒に畑を見て欲しくて」

武蔵「ああ、それは構わないが……山雲と初雪が畑を見てるのか?」

山雲「そうよ~」

武蔵「むう……非力な駆逐艦に力仕事を任せているというのは感心しないな」

明石「まあまあ、それぞれ役割分担してますから。厨房は比叡さんや大和さんにお願いしてますし」

提督「離島だから雑務は多いぞ。音響設備は霧島、裁縫や工作は長門や金剛、明石がやってるし」

提督「ほかにも掃除洗濯は陸奥や榛名や扶桑、資材搬入は山城によく手伝ってもらってるな」

提督「なんせ人間が俺一人だ、大体のことは自分たちでやらなきゃならねえ」

武蔵「……なるほど。いいだろう、この武蔵がこの地に喚ばれたのも何かの縁だ。よろしく頼むぞ」ニッ

提督「ああ。とりあえず希望があるなら言ってくれ、できるだけ沿うようにするからよ」


 * ところ変わって、M提督鎮守府あらため城塞鎮守府 * 

 通信機< RRRR... RRRR...

三日月「はい、こちら城塞鎮守府にございます」

三日月「O中尉! お久しぶりです! 三日月です!」

三日月「はい、知中尉ですね! しばらくお待ちください!」ピッ

三日月「司令官! O中尉からです!」

知中尉「お、ありがとう。もしもし?」

通信(O中尉)『よ、久しぶり。昇進おめでとう』

知中尉「んー、ありがとな。お前もおめでとう、お前も昇進だろ?」

通信『ああ。とりあえず三日月は元気そうで安心したよ』

知中尉「他の子も元気だぞ。最初は泣いたり喚かれたりで散々だったけどな……」

知中尉「でもまあ、うちの古参とも仲良くなれたし、今はまあ心配しなくても大丈夫だな……」

通信『? どうしたんだ、その奥歯に何か挟まったみたいな言い方……あ、もしかして、利根か?』

知中尉「……まあ、な」ハァ


 * 数時間前 *

利根改二「ちくま~」ゴロゴロ

筑摩「はい、利根姉さん」ニコニコ

利根改二「ちくまはどこにも行かんよなあ~」ギュウ

筑摩「はい、ここにいますよ、利根姉さん」キラキラ

利根改二「うむ、ちくまはわがはいとずーっといっしょじゃからなあ……」スリスリ

筑摩「勿論です、利根姉さん」キラキラキラキラ

 * 回想ここまで *

知中尉「今じゃあ筑摩依存症とでも言うのかな? 俺も事態を軽く見てたってことだ……」

通信『うーん……筑摩、連れていかなきゃ良かったか? うちにいた筑摩も、利根と接触できなくてうずうずしてたから、良かれと思ったんだが』

知中尉「いや、良かったには良かったんだ。利根はこの鎮守府の功労者だ、筑摩が来る前まで、いつぶっ倒れるかわからないくらい憔悴してたんだし」

知中尉「そんな利根を何とかしたくて、俺がお前に筑摩を連れてきて欲しいって無理言ってお願いした結果でこうなったわけだからなあ」

知中尉「それに、あの地下室で大怪我してた利根の移動先まで面倒見てくれたんだ、俺たち全員、お前には感謝してるんだぜ?」

通信『……なんだか、弱みに付け込んだみたいで悪いな』

知中尉「三日月たちのことか? それはそれで話が別だ、気にするな」


知中尉「つうかその話、一番悪いのは指揮を執ってたC提督とかいう奴だろ。ったく、本営にはひどい奴がいたもんだな」

通信『……まあ、な……』

知中尉「なんだその微妙な反応」

通信『あー、いや、そいつなんだけどな……自分の元上官に取り入ってるみたいなんだよ』

知中尉「は? マジか。なんでそんな奴らに好かれてんだよお前の元上官」

通信『そりゃ地位とお金が好きな類友だからだよ。自分が追い出されたのも金にならないからだって、この前話しただろう?』

知中尉「勘弁してくれよ、なんでそんな腹黒い奴らがテレビ出てニヤニヤしてんだよ。大丈夫なのかこの国」

通信『そんなの今に始まったことじゃないだろう。自浄作用が怪しいところまできてると思うぞ?』

知中尉「確かにそうだけどぶっちゃけすぎだろ……あ、そうだ思い出した。お前のところには電話あったか?」

通信『電話? いきなり何の話だ?』

知中尉「ああ悪い、テレビで思い出したんだよ。この前、テレビ局からこの鎮守府を取材したいって話が来たんだ」

通信『なんだって!? まさか引き受けたのか?』

知中尉「馬鹿、断ったに決まってるだろ。本営を通せ、で押し切ったさ」


知中尉「本営は本営で、今更に広報部門の組織再編の話が上がってて、艦娘の話ができる広報担当も決まってない状態だろう?」

知中尉「待ちぼうけ食らって焦れたテレビ局が、無断で撮影したり取材しに来たりするケースも想定しておかないとまずいかもな」

通信『それもあり得るか。けど、さすがにリンガ泊地まで行くやつがいるかな?』

知中尉「十分あり得ると思うぜ。この鎮守府が、余所の鎮守府に演習場として使われていることをテレビ局も知ってるみたいだし」

知中尉「いろんな鎮守府の艦隊が集まるだろうから、取材にかこつけてでかい鎮守府に突撃取材したいんじゃねーか、って」

知中尉「うちの青葉も自分で考えて自画自賛してたから、テレビ局がそれをやらないとは思えないんだよなあ」

通信『警戒したほうがいいのか……』

知中尉「で、ここの責任者が俺だってことも周知の事実らしくてな。『知少尉ですか』って名指しで訊かれたんだよな」

知中尉「あいつら、そんなに偉くない俺みたいな僻地の鎮守府なら、上を通さなくてもワンチャンあると思ったんじゃねーかな……」

知中尉「M准将がいなくなって繰り上げで少尉になった俺が、この短期間で中尉に格上げだ。戦果を挙げてるお前とは話が違う」

知中尉「もしかしたら、本営からこっちに動かせるお偉いさんがいなくて、その場しのぎに俺を昇進させたのかもな」

知中尉「そうでなきゃあ、M准将のことを探られてもいいように、俺に全部責任をおっかぶせてしまう魂胆か」

通信『そんなことは……』

知中尉「ま、どっちにしたってテレビの話は全部拒否するさ。俺もM准将の話をほじくり返されたくないからな」

通信『……』


知中尉「……M准将の話は、決して大昔の話じゃない」

知中尉「あの話がテレビ局なんかに知れ渡って面白可笑しくドラマに仕立てられたりでもしたら、戦時中とはいえこんな鎮守府、簡単に吹き飛んじまう」

知中尉「それに……なんでかんで、俺はM准将を尊敬してたんだ。俺が今この鎮守府をなんとか維持できてんのも、M准将を見てきたからだと思ってる」

知中尉「身内贔屓ではあるけどさ、形はどうあれあの人は自決したんだ。これ以上、あの人を辱めなくてもいいだろ?」

通信『そうだな……』

知中尉「ま、もしかしたらその話も、連中はもう知ってんのかもしんねーけどな……」

知中尉「ともかく。うちは通常営業しつつ、テレビ取材は全部お断り。撮影も厳禁、見たいなら余所に行け、で押し通す。これで行く」

通信『そこまでガード固めてるんなら、大丈夫そうだな』

知中尉「ん? もしかして心配して電話してきたのか」

通信『いや、むしろそのテレビ局絡みの件を話すつもりだったんだ』

通信『艦娘の情報を公表したせいで、本営の判断も仰がずにテレビ局の取材を受けて、変なことになってる鎮守府が出てきててね……』

知中尉「嘘だろ……?」

通信『しょうがないとは言いたくないが、民間からスカウトした『提督』たちはどうもその辺の意識が低くてなあ……』

通信『お前のところはいろんな『提督』が出入りするだろう? 今更だけど、心配になって電話したんだよ』

知中尉「……ちょっと特警と相談してくる。テレビ局が無断で入ってきてる可能性も考えとかねえと」

今回はここまで。

メディアがまともなら騒がれることもありませんが、
なにかとフェイクニュースも紛れ込んでおりますし……
メッキが剥がれてきている気がしますね。

では続きです。


 * 数週間後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

黒潮「司令はん、また新聞読み返してるん?」

提督「こっちは一昨日のだ。今読んでんのは昨日の分」バサ

黒潮「新聞が、週に二回しか来ないんも不便やなあ」

大淀「仕方ありません、離島に毎日物資を届けていたら、それだけで輸送費が馬鹿になりませんから」

提督「そういうこった。そもそもパラオやらトラックやらの泊地への輸送がメインで、うちに来るのはそのついでだしな」

大淀「ですが、それもこの鎮守府の近海が安全になったことで得られた結果ですよ」

提督「前から言ってんだが、そりゃル級のおかげの方がでけえんじゃねえの?」

大淀「ま、まあ……ル級さんも、はぐれたり損害を受けて海域に入ってきた駆逐艦や潜水艦を、保護して余所の海域に送り届けてるみたいですし」

大淀「深海棲艦にとっても、非交戦地帯になりつつあります。私たちとしても望ましいと思いますよ」

黒潮「イ級とか、あの見た目でも話が通じるんやな……」

提督「ま、安全になったからって輸送艦が毎日来るようになったら、ル級も気軽にこっちに来れねえからそこは善し悪しだな」バサッ


大淀「提督、ニュースが見たいのでしたら、衛星通信のネットワーク機器を置いてもらうよう申請しましょうか」

提督「できりゃいいがな。ともかく中佐が邪魔だ……あの野郎、なんでかんでうちに通信機器を置かせるのだけは邪魔してくるからな」

提督「同じ理由で小型の船舶の申請も握り潰されてる。俺をとことんこの島に封殺しておきたいんだろうけどよ」ケッ

大淀「ゴムボートすらありませんからね。提督、泳げませんよね?」

提督「ああ。何やっても沈むから諦めた」

黒潮「沈むて……」

大淀「……救命胴衣も申請しておきます」

提督「まあ、そうそう必要にはならねえだろうがな。当分は島を離れるつもりもねえし」

提督「離れるとしたら……いや、それもねえか。死んだら骨を埋めるのもこの島だな」

大淀「提督?」ジトメ

提督「別にいいだろ、何十年後の話をしても。老後の話も駄目なのかよ」

黒潮「それはそれで気が早すぎると思うで~?」ニガワライ

大淀「むしろ、何かといえば自殺したがる提督の口から老後なんて言葉が出るとは思いませんでしたよ?」ジトメ

提督「おう、自分でも寝言言ってんなーって感じだ。寝ながら仕事してんじゃねえの? 俺」

大淀「またいい加減なことを……」アタマカカエ


提督「なんにしてもだ、この島に引きこもってる分には気楽でいい。余所みたいに外野が口を出したり勝手に入ってきたりしねーし」

提督「妖精と話してても変な目で見られねえから、そういう意味でもこの島から出たくねーな」

黒潮「司令はん、とことん人間嫌いやな……」

提督「おうよ、好かれたくもねえし、注目されたくもねえ」

提督「そういや中佐の鎮守府で、テレビの取材班が来た直後に盗聴器が見つかって騒ぎになったって、赤城が報告がてらぼやいてたぞ」

黒潮「うえええ……」

提督「いらねえ首を突っ込みすぎなんだよ、奴らはよ。スクープと視聴率しか頭にねえからな」

大淀「艦娘の報道が過熱したせいで、メディアクルーの乗った船が沈められた事件も起きましたし……」

提督「ざまあ」

大淀「提督……?」ジロリ

提督「報道してたのは連中だ、海が危険なのはわかってたはずだぞ。痛い目見てちったあ学習しやがれってんだよ」

提督「そもそも他人の不幸で飯食ってる連中だ、飯の種ができて良かったなって言ってやりてえくらいだ」

提督「どうせその件も、反省しないで被害者ぶって海軍に責任転嫁するんだろうからな。救えねえ」ケッ


黒潮「なんか……責任感じるわ」シュン

提督「黒潮、お前が落ち込む必要はねーぞ。早かれ遅かれ、艦娘の存在はメディアにも知れ渡っただろうさ」

大淀「あの中佐が一枚噛んでいたとなれば、報道規制の解除も時間の問題だったんでしょうね」

黒潮「……うん」

提督「とはいえ、空母棲姫の一件のときはあんなに行動が早いと思わなかった。正直、侮ってたぜ……くそ」

提督「いくら赤城がいるっつっても、頼りっきりは良くねえな。少し考えねえと……」

 扉<コンコン

敷波「司令官、いるー?」

提督「おう、入っていいぞ」

敷波「はーい、司令官、ちょっと来てもらってもいい?」チャッ

提督「何かあったのか?」

敷波「うん。また砂浜に艦娘が漂着したんだけど……」


 * 入渠ドック *

電「あ、司令官さん! 黒潮ちゃん!」

提督「よう、敷波から聞いたぜ、お前が見つけたんだってな」

黒潮「五十鈴さんと筑摩さんやて?」

電「なのです」

提督「敷波もあまり慌ててなかったみたいだが、怪我の程度はそこまで深刻じゃないんだな?」

電「はい、小破した五十鈴さんとはドックへ来る途中に少しお話ししました。司令官さんともすぐお話しできると思うのです」

提督「筑摩の具合はどうだ?」

電「筑摩さんは中破でした。ただ、かなり疲れてるみたいで、いまはぐっすり寝てるそうです」

提督「そうか」

黒潮「五十鈴さんたちがここに漂着してきたんはなんでか聞いてる?」

電「詳しくは聞いていないのですが、鎮守府が差し押さえられたらしいのです」

提督「は?」

黒潮「差し押さえ? ……赤札でもべたべた貼られとったんかな」

電「そういうことみたいなのです」

黒潮「えええ……」


 * それから1時間後 *

五十鈴「五十鈴です」ペコリ

五十鈴「まずはお礼を言わせて。私たちを助けてくれて本当にありがとう」

提督「おう。とりあえずどこの所属で、なんで漂流してきたか、話してくれるか」

五十鈴「ええ。まず、私と筑摩さんは利提督の鎮守府に所属していたわ」

提督「所属していた、ってことは、過去形か?」

五十鈴「そこはちょっと希望的観測も入っているんだけど……」

黒潮「確定しとらんの?」

五十鈴「そうよ? だって私たち、鎮守府から逃げてきたんだもの」

黒潮「逃げた!?」

電「……のですか!?」

五十鈴「それでなんだけど、ここの提督さん……提督准尉さんだったかしら。私たちのことはもう本営には伝えてる?」

提督「いいや、まだだが?」

五十鈴「そう、それなら良かった」ニコ

五十鈴「これは私の個人的なお願いなんだけど、私をこの鎮守府の艦隊に加えてもらえないかしら?」


提督「それがお前の望みか」

五十鈴「ええ、そうよ」

黒潮「ふーん……」

電「ということは、あの質問はしなくていいですね?」

提督「まあ、そうだな」

五十鈴「? どんな質問をしようとしてたの?」

提督「お前は生きたいのか死にたいのかどっちだ、ってな」

五十鈴「何その質問……」ヒキッ

提督「自殺志願者は相手にしないことにしてんだよ」

提督「どうしてあの時に殺してくれなかった、なんて逆恨みされても困るからな。死にたい奴は相手にしたくない」

五十鈴「だったら私は死ぬ気はないわよ?」

電「それなら歓迎するのです! ですよね司令官さん!」パァ

提督「ああ」


黒潮「……なあ司令はん。二人がなんで鎮守府から逃げてきたか、訊いてもええ?」

提督「そうだな。話せるか?」

五十鈴「ええ、勿論よ」コク

五十鈴「とりあえず何から話せばいいかしら。私たちの鎮守府はかなりの大所帯だったの」

五十鈴「200人近い艦娘が朝も夜もなく出たり入ったり、せわしないながら戦果をあげてる鎮守府だったわ」

五十鈴「内容としては、大きな戦果をあげるんじゃなくて、地味で小さな戦果をこつこつ積み上げていくタイプね」

電「それはそれで重要な役割に思えるのです」

五十鈴「そうね。でも、あの日……本営が艦娘の存在をテレビで発表してから、いろいろとおかしくなっちゃったのよ」

黒潮「テレビやて……?」

五十鈴「そう。話を戻すけど、利提督鎮守府の主なお仕事は、近海のパトロールや遠征航路の調査と護衛……」

五十鈴「漁船とそれに随伴する護衛船への帯同とか、地味なお仕事が多かったの」

五十鈴「海軍が活動するうえで重要な活動のはずなんだけど、それだけに軽視されて注目されてなかったのよね」

電「聞く限り裏方さんのお仕事ですからね……」


五十鈴「でも、その甲斐あって民間には良い感じに見られてたみたいでね」

五十鈴「艦娘の存在を隠さずに済むようになってからは、地元の人たちに感謝されてたらしいのよ。挨拶とかもしてもらったし!」ニコニコ

五十鈴「ただ、その後が問題で……」ウーン

電「……そこからがテレビの話ですか?」

五十鈴「そう。テレビ局から取材が来たもんだから、利提督が舞い上がっちゃって。俺の時代が来たとか言って、まあ大騒ぎ」

五十鈴「主力の艦隊引き連れてテレビの取材に応じたり、出演料? とかを貰ってどっかで飲んできたり……」

五十鈴「利提督の私生活も派手になっちゃって、出撃も厭世も疎かになってきて」ハァ

五十鈴「結果的に利提督鎮守府の資金繰りが厳しくなって、利提督もどこで作ったのかわかんない借金が増えてて」

五十鈴「主力の艦娘がどんどん引き抜かれて、鎮守府の施設や備品もどんどん差し押さえられて、利提督も雲隠れしちゃって」

五十鈴「このままこの鎮守府にいたら艦娘も売り飛ばされるなんて話が出て、利提督鎮守府はもう滅茶苦茶」

五十鈴「それで私も、お世話になった筑摩さんと一緒に逃げてきたってわけ」

電「それで差し押さえなのですか……」

黒潮「……なんでや……」

五十鈴「なんでって……」

黒潮「なんでこんな大事になっとん……」ウナダレ


黒潮「やっぱりうちがあんなことせんかったら良かったんかあああ!?」

五十鈴「ちょっ、どうしたの!?」

電「く、黒潮ちゃん落ち着くのです!?」

提督「おい黒潮。艦娘がテレビに出ることになったことを自分のせいだと思ってんなら、そりゃ違うぞ」

黒潮「違うもんかい! うちのせいで大事に……」

 ガシッ

黒潮「い」アタマツカマレ

提督「……いいか黒潮? もう一回言っとくぞ?」

提督「お・ま・え・の・せ・い・じゃ・ね・え」ジロリ

黒潮「ヒィ」ミシッ

提督「返事は」

黒潮「ワ、ワカリマシタ」

提督「またくだらねえこと言い出したら、てめえの頭を握り潰すぞ」パッ

黒潮「ハヒ……」ガクブル

電「司令官さん……」アタマオサエ


提督「ったく、説得すんのも面倒臭えな」

五十鈴「それ、説得って言うの?」ヒキッ

提督「気にすんな。込み入った事情のある艦娘ばっかりなんでな、ちいと自虐が過ぎる奴も多いんだ」

提督「今の黒潮みたいに自分が原因じゃねえのにぐだぐだ言う奴は、無理矢理にでも前を向かせねえと駄目だな」ハァ

五十鈴「ネガティブな発言はしないほうがいいってこと?」

提督「いいや? 弱音吐きたいなら吐いてもいいさ、ただ、それに対する俺からのフォローに期待はすんな」

五十鈴「まあ、いいけど。せっかく生き残ったんだし、どうせなら前向きに……あ」

提督「? どうした」

五十鈴「確認したいんだけど……この鎮守府に、私以外の五十鈴はいるの?」

提督「いいや? お前と同じ顔は見たこと……なくは、ねえか。生きてるお前は初めてだな」

五十鈴「ちょっ……それ、どういう意味!?」

提督「あの浜に流れ着いてくる艦娘は珍しくねえが、お前らみたいに生きて流れ着いてくる奴らは珍しいんだよ」

五十鈴「うえぇ……!?」


黒潮「五十鈴はん、墓場島て聞いたことある?」

五十鈴「墓場島? き、聞いたことはないわ。物騒な名前ね……もしかしてここがそうなの?」

提督「ああ、この島がそう呼ばれてんだよ。この辺の潮流が特殊なせいで、轟沈した艦娘がよく打ち上げられてくるんだ」

電「司令官さんは、轟沈した艦娘をこの島の丘に埋葬しているのです。それでこの島は墓場島と呼ばれるようになりました」

提督「お前に似た奴も、埋葬したような記憶がある。同型かどうかはしっかり覚えてねえが……多分埋めてるな」

五十鈴「……」

黒潮「いや、埋めてるて、その言い方……五十鈴はんめっちゃ引いてるで」

提督「しょうがねえだろ。他に言い方あるか?」

電「司令官さんの発言にオブラートなんて気の利いたものはないのです」ハァァ

五十鈴「……ほんと、予想してたよりもひどい回答が返ってきて、正直ドン引きしてるんだけど……」

五十鈴「とにかく、私はここで普通に生活してもいいわけね?」

電「それは勿論なのです。ですよね、司令官さん」

提督「ああ」


黒潮「……」

電「? 黒潮ちゃんはどうしたのです?」

黒潮「うん? ああ……ちょっと失礼なこと、言ってしまうけど……」

黒潮「五十鈴はん、自分のいた鎮守府がえらいことになってんのに、あんまり悲しんでる感じやないよね?」

五十鈴「そうね。悲しいかって訊かれたら、私はそれほどでもないかしら」

五十鈴「仮に鎮守府が存続していたとしても、私はいずれ解体されてたわけだし」

提督「おい……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どういう意味もなにも、私、もう少し練度が上がったら、解体される予定だったのよ」

黒潮「!?」

提督「なんだそりゃ!?」ガタッ

五十鈴「そんなに珍しい話かしら。特定の艦娘は、改装すると珍しい装備が出来上がるの」

五十鈴「私の場合は電探なんだけど、それを作る方法がないから、数を手に入れるには五十鈴をたくさん改装するしかないのよ」

五十鈴「で、改装が終わって装備が手に入ったら、解体して資材にするか、近代化改装で他の艦娘の強化に使われるか」

提督「……」


電「司令官さん、五十鈴さんも言ってますけど、これはそんなに珍しい話じゃないのです」

電「大淀さんが悩んでいた解体任務も、これを見越しての話という説もありますし……」

五十鈴「私も他の五十鈴が解体されたりしてるのを見てきたから、ああ次は私の番かあ、って感じで割り切ってたつもりだったんだけどね」

五十鈴「でも、この鎮守府に私以外の五十鈴がいないなら、私が頑張らせてもらってもいいんじゃない?」ニコ

電「それは……そうなのです」

提督「……」

黒潮「解体される自分を見てきてたから、ここまで達観できてたってことやろな……」

提督「ま、いいけどよ……」ムスッ

黒潮「司令はん、そうは言うけどそのしかめっ顔……」

提督「気に入らねえってだけだ、くそが」ハァ

五十鈴「そこまで悲観することかしら。准尉さんも艦隊に同じ艦娘が二人以上になったこと、あるでしょ?」

提督「いや、うちの鎮守府の中ではねえな」

五十鈴「あら、そうなの?」


提督「とはいえ、確かに同じ艦娘が複数いるのは確かなんだよな。余所の鎮守府の長門や金剛や明石も見たし、利根や吹雪も見た」

提督「艦娘が最初から記憶を持っていて、かつ複数存在するのは、神霊の分祀によってできる説に似通ってる」

提督「同じ神様でも祀られ方によって性格が変わってくるのと似たようなもんで、艦娘に個性が出るのもその一環だとな」

提督「だからたくさん同じ艦娘が存在するし、仁提督が言っていた『艦娘を備品と思え』ってのも、そういう意味では一理ある」

提督「個人的には、受け入れたくはねえがな……」

電「司令官さん……」

黒潮「五十鈴はん、筑摩さんも同じ何人目かの筑摩さんなん?」

五十鈴「それは違うわ。利根型は筑摩さんは一人しかいなくって、利根さんは一人もいなかったの」

五十鈴「五十鈴は何人いたかしら。私の前に10人はいたと思うけど」

提督「偏ってんなあ……」

黒潮「この鎮守府も負けず劣らず偏っとると思うけどなあ?」

電「なのです」

提督「最後にもうひとつ訊いていいか? お前が鎮守府を抜け出してからその道中、羅針盤は見たか?」

五十鈴「羅針盤? 逃げてすぐは余裕がなくって見てなかったけど……その後で見ても全然あてにならなかったわ」

五十鈴「針がぐるぐる回ってて、どこへ行ったらいいかわからなくって」


五十鈴「二回だけかしら? 針がピタッと一方向を指すときがあったけど、その時以外は全然駄目」

提督「……ということは、もう元の鎮守府とは縁が切れてんだな」

五十鈴「え。なにそれ。そんな仕組みなの!?」

提督「所属する鎮守府から離反した奴はそうなるんだとよ」

黒潮「多分、その針が一方を向いたときも、危険が近づいたから近づくなって警告したんやろなあ」

五十鈴「初めて聞いたわよそんなの……」

提督「そりゃ、鎮守府から追放されなきゃ知る由もねえさ。うちの鎮守府には経験者が数人いるからわかる話だ」

五十鈴「数人……って、そんなに追放されてるの!? そんなこと何度も起こったら駄目でしょ……?」

提督「うちはうちでそういうのしか集まってこねえんだよ。こっちもこっちで偏ってんだ」

五十鈴「鎮守府と聞いて安心してたけど、想像以上にとんでもないところなのね、ここ」ガックリ

提督「まーな。まあ、ここに来たんなら、これ以上は悪くならねえようにするから、そこまで悲観すんな」

電「俗にいうブラックな鎮守府じゃないので、そこは安心してほしいのです」

提督「とりあえず誰かに鎮守府を案内させるか。電、誰か適任はいるか?」

電「同じ長良型の由良さんがいいと思うのです」

提督「由良? ……あいつと同型なのか? 制服が似てねえな」


電「長良型は一番艦から三番艦と、四番艦から六番艦までで建造時期に間があるのです」

電「五十鈴さんは長良型の二番艦、由良さんは四番艦なので、建造時期の差が制服の違いになってるのです」

提督「ふぅん……」

黒潮「ほな、由良はんと利根はん呼んでくるとええんかな?」

五十鈴「えっ、利根さんいるの? 良かった、筑摩さん喜ぶわ!」パァッ

提督「随分嬉しそうだな」

五十鈴「ええ! 筑摩さんには利根さんの身代わりにされてたし、私もやっと解放されるのね!」ルンルン

提督「……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どうって、そのままの意味よ? 私は利根さんの代わりにされてたの」

黒潮「まあ、確かに髪型はおんなじ感じやしねぇ」

五十鈴「一緒にご飯食べたりお風呂入ったり、寝るのも一緒で大変だったの。利根さんがいるなら安心ね!」

提督「……」

黒潮「……なんか、話しぶりから普通やない感じがするんやけど」

電「大丈夫なのですか……?」



提督「ところで、なんで五十鈴にははん付けで、筑摩はさんづけなんだ?」

黒潮「んー、筑摩さんとはまだ面と向かって話してないし、親しくもなってないしなあ」

電「じゃあ、電も電はんって呼んでもらえるですか!?」キラキラッ

黒潮「うんにゃ、同じ駆逐艦にはつけへんよ? 目上の人限定や」

電「」ガーン

今回はここまで。
利根とは違う意味で死の宣告を受けていた五十鈴の登場です。

既に二次創作ではだいぶ使い古された話ですが、
五十鈴の話の元ネタは皆さん御存知の電探増殖です。私もやりました。
那珂ちゃんの解体と同じくらいメジャーなネタではないでしょうか。

雑談するときはメール欄に sage と入力していただけるとありがたいです。

では続きです。


 * 午後 入渠ドック *

利根「明石! 筑摩が入渠しているそうじゃな!?」

明石「はい、来てますよ! 筑摩さんのいた鎮守府の話とかは聞いてます?」

利根「うむ、同行してきたという五十鈴から聞いておる。筑摩も、大変なところから逃げてきたのじゃな……」

明石「体の傷は治りましたから、ドックのプールからは出ましたけど、だいぶ疲れてるみたいでして、今はベッドに寝てもらっています」

明石「目を覚ますのは夕方くらいになるかもしれませんね」

利根「うむ、それも聞いてはおる」

利根「とはいえ、吾輩の可愛い妹じゃ。居ても立ってもいられなくなってな、寝顔だけでもと見に来たんじゃ」

明石「それもそうですよねえ」ニコー

利根「案ずるな、寝た子を起こすような真似はせん。少しだけ入らせてもらうぞ?」

明石「ええ、どうぞどうぞ!」


 * 入渠ドック内 医務室 *

利根(……こちらか)

筑摩「」スヤァ

利根(うむ。筑摩だ……間違いない)カオヲノゾキコミ

利根(……筑摩との再会を願ってはいたが、この島へ逃げ込まざるを得ない事態に追い込まれたのはいただけん)

利根(もっと違う形で……海上で見つけられれば、多少は良かったのかもな……)

筑摩「……ね……さん……」ムニャ

利根(目覚めたら、うんとねぎらってやらねばな)

利根「……ちくま。今はゆっくり休むのじゃ……」ヒソッ

筑摩「ん……」スヤ…

利根(笑っておる……可愛い寝顔じゃな)ニコ

利根(筑摩の顔も見られたし、長居は無用。戻るとするか)クルリ

 グッ

利根「うん?」

 (利根の服の裾を掴む筑摩)

筑摩「姉さん……」


利根「お、おお、起こしてしまったか。すまんな、ちく」

 グルンッ

 ドサッ

利根「……ま?」

利根(なんじゃ!? 何が起こった!)

利根(筑摩の手に引っ張られたと思ったら、抱きかかえられてそのままベッドに転がされて……)

筑摩「うふふ……利根姉さん……!」

利根(筑摩に、覆い被さられておる……!)

利根「の、のう、筑摩? これはいったい」

筑摩「逢いたかった……」

利根「……」

筑摩「逢いたかったです、利根姉さん……!」ニコ…

利根「う、うむ、そうじゃな! しかし筑摩、どうしてお前は吾輩の両腕を押さえつけて」

筑摩「利根姉さん……!」ス…ッ


利根「お、おい!? ちく」

 ヴチューーー

利根「……ちくま?」

筑摩「んもう、ひどいです姉さん、寸前に横を向くなんて」

利根「頬に吸い付きながら喋るでない」

筑摩「そうですか。では改めて」スッ ンチューー

利根「ふおお!?」バッ

筑摩「利根姉さん、じっとしててください。キスできないじゃないですか」チュッチュッチュッチュッ

利根「するでない! というか顔中にキスするなと言うておるのだぞ!?」キスマークマミレ

筑摩「え……?」

利根「なんじゃその信じられないとでも言いたげな顔は」

筑摩「普通ですよね?」チュッ

利根「普通でないわ!」バッ

筑摩「もう、利根姉さんったら、そんなに照れなくてもいいんですよ?」ググググッ

利根「照れておるとかそういう問題ではないっ!」ギリギリギリ

筑摩「そう、問題はなにもないんです。利根姉さん、さあ……!」ンチューー

利根「さあではないわーーーーー!」

明石「んもー、何をうるさくして……うわあ、お取込み中でしたか。ごゆっくりどうぞー」パタム

利根「待つんじゃ明石いいいいいいいい!!」ギリギリギリ


 * それからしばらくして *

筑摩「初めまして、利根型重巡洋艦二番艦、筑摩です」ニコニコ

提督「……」

明石「……」チラッ

提督の背に隠れる利根「……」コソッ

五十鈴「……提督?」

提督「ん、ああ。こうやって見てる限りはまともだな?」

五十鈴「まあ、こうやって見る限りはね……」

利根「……」チラッ

筑摩「!」キラキラキラッ

利根「」ビクッ

五十鈴「……」

提督「前言撤回。ものの見事に利根を見るときだけ目が光り輝いてんな……」

明石「こんなマンガみたいな展開、本当にあるんですねー……」


利根「提督よ……吾輩は、姉の唇を奪いに来る妹が世の中に実在するなんて聞いておらんぞ?」

提督「俺だって想定してねえよ。この鎮守府で姉妹でくっついて歩いてる連中だって、姉妹同士でキスするような間柄じゃねえ」

五十鈴「くっついて歩いてる……って、例えば誰が?」

提督「ぱっと思い付くのは金剛と比叡、暁と電、あと朝雲と山雲くらいか?」

提督「まあ、くっついてとは言ったが、普段から手をつないでるわけでもねえし、ずっとべたべたしてるわけでもねえ」

提督「扶桑の後をくっついて歩く山城も、物理的に触ってるわけじゃねえし……」

提督「ん? 待てよ? くっつかれてるのって、俺だけか?」タラリ

明石「今頃気付いたんですか。まあ提督はまだいいですよ、提督は男で艦娘は女だし、生物学的には普通ですよ。普通」

提督「我ながら示しがつかねえな……」アタマカカエ

明石(雲龍さんと龍驤さんはいつもべったりですけどね)

利根「ま、まあ、提督は仕方なかろう。艦娘同士ではさすがに……」

明石「……なくはないんですよねえ、今回みたいなケースも」

提督「あんのかよ」

明石「当然個人差はありますよ。こちらの筑摩さんも、利根さんに執着する理由があると思うんですけど」

五十鈴「それはあるわよ、当然だけど」

提督「あんのかよ……」


明石「例えばどんなですか?」

五十鈴「例えばも何も、利提督鎮守府には利根さんが来なくって、筑摩さんがずっと寂しがってたの」

五十鈴「それで、五十鈴が利根さんと髪型が似てるから、居ない間の身代わりみたいにされてたわけなんだけど……」

五十鈴「その五十鈴が育てられるたびに電探剥ぎ取られて、近代化改修に回されたり、そうでなければ解体でしょ?」

五十鈴「育てた端から解体されて、新しい同じ顔の艦娘を育成して……」

提督「賽の河原かよ……」

明石「どこから出てきたんですか、それ」

提督「ああ? 小さい子供が死ぬと賽の河原で石を積まされるんだよ、親不孝だからってな。一つ積んでは親のため、って、知らねーか?」

提督「で、積んでも積んでも獄卒が途中で倒すから、また最初からやり直し。そういう地獄があるってのを思い出しただけだ」

明石「地獄って……」

提督「地獄だろ。五十鈴は五十鈴で自分が解体されることを諦観して当然のように振る舞ってるし」

提督「筑摩は筑摩でさっきから一言も発さず、にこにこしながら利根をガン視してるだけなんだぞ」

筑摩「……」ニコニコ

利根「ヒィ」


提督「まともな鎮守府だったのか? 利提督とやらの治める鎮守府は」

明石「どうでしょうね~。私もまともじゃない鎮守府にいましたから、まともの基準がわかりませんね。利根さんもそうでしょう?」

利根「う、うむ、吾輩が艦娘として活動できているのはこの鎮守府に来てからじゃからな」

提督「おい」ヒソッ

明石「どうしました?」

提督「昔話はその辺にしとけ。今の話で筑摩の目の色が変わったぞ」ヒソヒソ

筑摩「……」ギラリ

明石「……」

利根「……」

提督「あの様子じゃ利根の昔の鎮守府に殴り込みしに行っちまうかもしれねえな」

明石「も、もう少し落ち着いてから話したほうが良さそうですね」アセッ

提督「……仕方ねえ、長門と武蔵を呼ぶか」

明石「せ、戦艦のお二人ですか!?」

提督「出撃させてねえからいいだろ。長門は利根の事情を知ってるし、武蔵にはこの鎮守府のことを知ってもらういい機会だ」

提督「何かあったときに止められるかって意味でも、戦艦二人はオーバーじゃねえと思うが?」

提督「そもそも利根が俺の後ろに隠れるような状態だからな。でかいやつに守ってもらった方がいいだろ」

利根「う、うむ……」ビクビク

提督「俺はどうしようかねえ……筑摩を説得する方法でも考えるか?」

提督「何やっても藪蛇にしかならねえような気もするが……」

明石(そこまでわかってて、どうして愛情がわからないとか言い張るんですかねえこのひとは)ハァ…


 * *

霧島「姉妹でキスは一般的か……ですか?」

金剛「Hmm... Europe では、姉妹なら頬にするのが一般的デスネー」

金剛「夫婦や恋人でしたら mouth to mouth も普通デスけれど、姉妹の間でそこまでしたいと言われたら、私も少し心配になりマス」

提督「なるほど。霧島も意識に大差はないか?」

霧島「そうですね。お姉様たちをお慕いしてはいますが、だからと言ってキスをする文化は私たちにはありませんし」

霧島「それこそ金剛お姉様が常日頃から仰っている、時間と場所を弁えた行いだと思えません」

提督「……弁えなくてもいい時だったらどうだ?」

霧島「!? い、いえ、そうであってもそれはさすがに……!」マッカ

提督「だよなあ」

霧島「……し、司令、からかわないでいただけますか……!」

提督「からかっちゃいねえよ、むしろそういう場面だったらどうだったかって意味でも訊いておきたかったんだ」

霧島「そこまでの話なんですか!? それは深刻ですね……」


金剛「Hmm, おそらく筑摩が利根に向けた思いは、なかなかheavyなようデスネ」

 <コンゴウオネエサマー!

金剛「!」

比叡「お料理教室、終わりましたー!」コンゴウニダキツキー

金剛「Oh, 比叡は甘えん坊さんデスネー」ナデナデ

榛名「提督もいらしてたのですね!」

提督「ちょっと調べたいことがあってな」

金剛「さあ、比叡も榛名も tea time にしまショウ!」

比叡「はいっ!」スリスリ

提督「比叡は犬みてえだな……」

霧島「比叡お姉様は金剛お姉様を大変慕っておいでですが、やはり……」

提督「筑摩の態度は度が過ぎてる、ってことだよな?」

霧島「その認識で間違いないかと」

榛名「?」


 * *

那珂「姉妹艦で……そ、そんなことしないよ!? 絶対しませーん!」ブンブン

提督「だよなあ」

神通「あの、どうして私たちにそんな質問を……?」

提督「筑摩が利根にキスを迫ったんだよ。それが普通かどうかってのを聞き込みしたくてな」

提督「お前らには最初っからそういう答えを期待してて訊いたんだ。川内はよくわかんねえが、那珂も神通も常識的だし、貞淑でもあるしな」

那珂「貞淑……うわー、なんか品のある響き……!」ポ

提督「ま、那珂の場合はアイドルっつう肩書がある分、なおのことその手の話は御法度ってのもあるだろうが……」

那珂「提督さん、那珂ちゃんにそういう要素を求めてるんだ……!」モジモジ

提督「うん? 俺はそうだろうなと思っただけで、別にお前に貞淑さを求めてるわけじゃねえぞ?」

那珂「え? そうなの?」

提督「俺は那珂が何をセールスポイントにしてもかまわねえと思ってる。歌でも色気でも愛想でもな」

提督「どうせなら、那珂が好きなことややりたいことをやれりゃいいな、って思ってるだけだ」

那珂「提督さん……!」パァッ


提督「あー……ただ、俺個人の好みで言やあ、無知そのものを売りにするのはちょっとな……」

提督「わかってて馬鹿な真似ができるのは構わねえが、馬鹿を曝け出して受けを狙うのは恥でしかねえ」

提督「あ、それから飯の食い方が汚いのも勘弁だ。見苦しくない程度の教養とマナーくらいは身に着けててくれると、俺としては嬉しいかねえ」

那珂「はいっ!」ビシッ

提督「変なこと訊いて悪かった。邪魔したな」

神通「いえ……」

那珂「お疲れ様でーす!」フリフリ

神通「……」

那珂「えへへ……そっかぁ、提督さん、ちゃんと那珂ちゃんを見ててくれてるんだ……」テレテレ

神通「……」

那珂「……神通ちゃん?」

神通「……貞淑……」マッカ

那珂(あー、これ、神通ちゃんも脈ありってことなのかなあ)


 * *

山城「姉妹で……んななな、んなぁああああ!?」

山城「そんなことしたら死ぬに決まってるでしょう!?」

提督「死ぬ……?」

山城「そうよ! 私が! 嬉しさで!! 心臓が破裂するわ!!」

提督「……」

山城「何よ、大袈裟だって言いたいの!? 私は大真面目よ!?」

山城「そうでなかったとしても、鼻血程度で済めばいいわ! あの麗しい扶桑お姉様の唇の柔らかさと色気漂うつや……!」

山城「私の唇と触れ合おうものなら、きっと幸せのあまり昇天して帰ってこられなくなるわ……!!」アワワワ…

提督「……」

山城「はっ! ちょっと提督、あなた扶桑お姉様に同じことを訊くつもりじゃないでしょうね!?」

山城「あああ、怖い! 怖いわ! 扶桑お姉様が私にキスするところを想像させるなんて……」

山城「頬を赤らめて恥じらう扶桑お姉様なんて、想像しただけで……なんて、なんて絵になるの……芸術よ!?」カァァ

提督「……」


山城「……いえ、でも、もし! もしもよ!? 姉妹同士でキスだなんてと嫌悪感をあらわにでもされたら……いやあああああ!」ウズクマリ

山城「この私が扶桑お姉様にキスだなんてよこしまな妄想をしてしまったら……幻滅して、嫌われてしまわれても無理はないわ……!」

山城「あああ扶桑お姉様ごめんなさい……! この山城が不埒な妹であるばかりに……はっ! 妹でなければいいの!?」

提督「……」

山城「いいえ何を血迷ったことを言うの山城! 私は紛れもない扶桑型超弩級戦艦よ!?」スクッ

山城「この私が扶桑お姉様との縁を断つだなんて天地がひっくり返っても起こしてはならないことだわ!」

山城「そう、この山城……戦艦扶桑の妹の使命として、扶桑お姉様の唇を何人からもお守りしなければ……!」

提督「……」

山城「提督! 今の話、扶桑お姉様には絶対にしては駄目よ!? いいわねッ!?」ビシッ!

提督「まあ、いいけどよ……お前すげえな」タラリ

山城「は?」


 * *

三隈「普通ではありませんね。変だと思います」

提督「言い切ったな」

三隈「はい」

最上「僕もそう思うよ。そこまで行くと普通の姉妹の関係じゃないと思うなあ」

提督「……普通じゃない、ねえ」

三隈「例えばですけれど……」

 (最上と手をつないで見せる三隈)

三隈「提督、いかがです? 今の私たちはおかしく見えますか?」

提督「……見た目の年相応かと言われると微妙だな。まあ、仲が良い程度には見えるか」

最上(手が恋人握りになってるんだけど……)

三隈「それでいいと思いますわ。今の私たちを見て不愉快に思われる人もいるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるでしょう?」

三隈「当人がまともだと主張するより、皆さんから見てどうかのほうが重要だと思います」

提督「……だとすると、筑摩の利根に対する態度も許容する奴はいるってことか? 難しいな」

三隈「はい。ですが重ねて申し上げますけれど、私の主観としては姉妹でキスするのは変だと思いますよ?」


三隈「例えばですけれど、こうやって腕を絡めたり……」ギュ

最上「!」

三隈「肩を寄せ合ってぴったりくっついたりしてるだけで、提督もくっつきすぎだって思うでしょう?」ピト

提督「……最上はどう思うよ」

最上「えっ? い、いや、ちょっと照れるかな……三隈にこうやってくっつかれたこと、今までなかったし」

提督「なるほど……」

三隈「……これ、いいですわね」

最上「三隈?」

三隈「……私、気付いてしまったんです」

三隈「部提督が最上さんにセクハラするのを忌々しく思っていたのは、嫉妬していたからだって」

最上「へ?」

三隈「最上さんが他の人に好き勝手されるのを嫌だと思う感情が、嫉妬ではなかったらなんだと思います?」ズイ

最上「そ、それは……」

三隈「……」ジーッ

最上「……」

 チュッ

最上「ひょわあっ!?」ホッペオサエ


三隈「……やっぱり変ですわ」フゥ

提督「三隈?」

三隈「私、やっぱり最上さんのことが普通じゃないくらい好きみたいです」

最上「え、えええ!?」

三隈「だって最上さんは私にキスされてこんなに驚いてらっしゃいますもの。私の好きの表現は、最上さんにはきっと普通ではないんでしょう」

三隈「そして、普通ではないことが変だというのなら、私は変だと言えますわよね?」

提督「そうかもしれねえが……お前は自分を自己否定すんのか?」

三隈「いいえ、自己否定しているつもりはありません。私は私が変であることを受け入れているだけですわ」

三隈「提督も、妖精さんとお話しできるのが自分だけだと気付いたときに、自分が他人とは違うと認識なさいませんでした?」

提督「……確かに、変だとは思ったな」

最上「なんていうか、提督が妖精さんと話せるのを『変だ』って思うのは嫌だなあ。いや、単に言い方の問題だけどさ?」プー

三隈「最上さんはお優しいんですね」ウフフ

提督「……」

三隈「なんにしても、行動であれ思想であれ、他人を不愉快にさせない思い遣りを持てば、何事も問題ないと思いますわ」

三隈「私の最上さんに対する気持ちも、最上さんが受け入れられないのなら自重すべきでしょう?」


三隈「そうでないと、私の行為も、部提督やあの鎮守府にいた人たちと同じになってしまいます」

提督「拒まれたらどうすんだ」

三隈「その時は胸に秘めたままに致します。忍ぶ恋こそ至極なり、という言葉もありますし」

最上「僕がいる席でここまで言っちゃったら、忍ぶも何もないんじゃないの? ……まあ、いいけどさ?」

三隈「いいんですか!?」キラッ

最上「あー、うん……いいけど、いきなりチューはやめてよ?」

三隈「はい!」ニコニコ

提督「最上……いいのかよ」

最上「三隈のことは嫌いじゃないよ。ここまで好意を寄せられてるのは予想してなかったけど」

最上「でも、まあ……うん。やっぱり……僕は三隈のことを嫌いになりたくないしね」

三隈「それではお互い嫌いにならないように、少しずつ距離を縮めていきましょう?」ウデツカミ

最上「も、もうずいぶん近いと思うんだけどなあ……」テレッ


三隈「嫌なら振り払ってくださってもいいんですよ?」

提督「三隈……お前、最上が振り払えないってわかってて言ってるだろ?」

三隈「そんなことはありませんわ?」

最上「……うー……」

提督「お人好しってのは、こうやって篭絡されていくんだな。勉強になるぜ」ハァァ

三隈(そう仰る提督も大概だと思いますけれど)

三隈「あの、提督? だいぶ本筋から逸れましたけれど、筑摩さんは危険な状態にあると思いますよ?」

提督「……!」

三隈「筑摩さんは五十鈴さんを身代わりになさっていたんでしょう? そして、五十鈴さんは改装できる練度になるたび解体されたと」

三隈「筑摩さんは愛情を注ぐ相手を何度も殺されてきたわけです。私が筑摩さんの立場だったら、狂ってしまうかもしれません」

提督「一応だが、だからこそ戦艦二人を間に付けたんだが……」

三隈「心配ですわね……」

最上(僕はいつまで三隈に抱き着かれていればいいんだろう)セキメン

というわけで今回はここまで。

それでは続きです。


 * 夜 *

利根「……」

武蔵「利根、大丈夫か?」

利根「う、うむ……」チラッ

筑摩「どうしました? 利根姉さん」ニコッ

利根「い、いや、なんでもない」

武蔵「……」

利根「のう、武蔵よ……筑摩はいつ吾輩から視線を外しておるんじゃ?」

武蔵「……うむぅ……」タラリ

利根「こうも見つめ続けられると、そのうち吾輩の体に穴が開いてしまわないか心配になってくるぞ……」

長門「筑摩」

筑摩「はい?」

長門「……せめて話しかけられた時くらい、こちらを見ないか?」

筑摩「ええ、それはやぶさかではないのですが……」

筑摩「ついに出逢えた利根姉さんが愛おしすぎて、どうしても目を奪われてしまうんです」ポ

長門(これは聞く耳を持たないパターンか……)

筑摩「あ、武蔵さん、利根姉さんが見えないのでちょっと左に」

長門「筑摩……」ゲンナリ


 * 翌日の午後 執務室 *

提督「……」ゲンナリ

五月雨「提督、しっかりしてください!」

提督「いやもうやってられっかよ、もうマジで面倒くせー匙ぶん投げんぞくそがー」

五月雨「もう匙どころじゃなく投げ遣りじゃないですか!」

大淀「そんなにひどいんですか? 筑摩さん」

五月雨「は、はい、何かお願いしようとしても『忙しいから後でお願いします』って言われてもうそれっきりで」

五月雨「何が忙しいのかと思えば、利根さんをじーっと見てるんです」

提督「あいつ、昨晩も利根と一緒の部屋に寝るとか言って聞かなかったうえに、利根の布団に潜り込んできたらしいからな」

提督「利根が俺の部屋に飛び込んできて助けを求められたんで部屋を分けたら、今度は夜通し壁に耳を付けて利根が寝てるか聞き耳立ててたそうだ」

五月雨「……」

大淀「……誰から聞いたんですか」

提督「利根の装備妖精。あれじゃ利根も休んだうちにはいらないって嘆いてたぜ」


 扉< コンコン

黒潮「黒潮やー」

提督「おう、入れ」

黒潮「司令はーん、あれはあかんよー?」ガチャ

大淀「黒潮さん、今日は一日お休みのはずでは?」

黒潮「うん、だから筑摩はんたちが気になって見に行ったんやけど、あれはないわー」

黒潮「長門はんも言うてたけど、利根はんから絶対に20メートル以上距離取ろうとしてないんよ」

提督「一日経ってもそんな調子かよ……」

黒潮「なんか利根はんがトイレ行く時も、壁に耳付けて聞き耳立ててたって言うし?」

五月雨「」ドンビキ

大淀「」ドンビキ

提督「大淀はともかく、五月雨がこんな顔してるのは初めてだな」

五月雨「そ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!?」

提督「わかってるよ、んなことは……ん?」

 ドドドドドド バンッ!

白露「提督、大変だよ!!」

提督「……今度はなんだよ」

白露「筑摩さんが利根さんを連れ去ったって!!」

提督「あぁ!? 武蔵と長門はどうした!?」ガタッ

白露「長門さんがトイレに入ってる間に、武蔵さんが抜かれちゃったんだって!」


提督「っだああ、くそ! 武蔵に経験積ませるつもりが甘かったってか!?」

黒潮「ちゅうか、筑摩はん大和型を躱すとか何者なん……」タラリ

提督「大淀! 龍驤と雲龍に緊急連絡! 偵察機飛ばして筑摩を捜させろ!! 終わったら館内放送で全体連絡頼む!」

大淀「は、はいっ!」

提督「五月雨は五十鈴と一緒に筑摩を探せ! 五十鈴は由良と埠頭にいるはずだ!」

五月雨「わ、わかりました!!」

提督「白露! 武蔵たちが出し抜かれたのはどこのトイレだ! どっちに逃げた!」

白露「えっと、食堂の隣だよ! みんなの個室の方に逃げたって!」

提督「だとすると利根の部屋か!? 白露、利根の部屋はわかるな、急行しろ! 俺も行く!」

白露「了解! あたしに任せて!」ガシッ

提督「ん?」シラツユニツカマレ

白露「提督、しっかりつかまっててね!」ググッ

提督「お、おい、連れてけって意味じゃ」

白露「白露、出撃します!!」ダッ!

提督「ちょ待うおおおおおお!?」グイーー

 ドドドドドド…

五月雨「だ、大丈夫なんでしょうか……」

黒潮「あかんやろあれは……」アオザメ


 * 利根の部屋の前 *

 ドドドドドド…

白露「いっちばーーん!」キキーッ

提督「うおおおお!?」ガクーッ

白露「はー、はー……提督、着いたよ!」

提督「……じ、ジェットコースターかよ……乗ったことねえけど……」ゼーゼー

提督「け、けど、思ってたよりくっそ早く着いちまったぜ……」ヨロッ

提督「よし、入るぞ……」ドアノブテヲカケ

白露「うん!」

 扉<バンッ!

提督「利根!!」

 シーン…

提督「……」

白露「……誰もいないね?」

提督「ここじゃねえのか?」


白露「提督、隣が筑摩さんの部屋だっけ?」ガチャ

白露「こっちにもいないね……気配なーし」

提督「……どういうこった」

 ブルーン!

提督「!」

白露「あ、あれ見て、流星改! 多分龍驤さんのだよ!」

流星に乗った島妖精A「提督! あの二人は入渠ドックの方に向かったぞ!」

提督「ドックだと!?」

白露「なんでそっちに行っちゃったの!? 逆方向じゃない!?」

提督「筑摩は昨日来たばかりだ。道を間違えたってのも十分あり得る」

白露「そ、そっか……」

提督「それに筑摩は一緒に寝たがってたからな。ベッドがあるって意味ならそっちに行くのもわかるが……」

白露「でも、個室はないよね?」

提督「個室?」

白露「うん。二人きりになりたかったんじゃないの?」

提督「……なるほど、だとすると他人に邪魔されずに済む場所か」

白露「うーん……どこだろう?」

提督「個室……個室……そうか! あったぞ白露……!」

白露「え!?」


 * 個人用浴場の一室 *

 扉<バタン! ガチャッ

利根「んー! んむー!? ぷはっ、ち、筑摩! おぬし……!」

筑摩「……んふふふふ。利根姉さん……」ニィッ

利根「……」ゾクッ

筑摩「昨日はどうして、一緒にお風呂に入ってくれなかったんですか?」

筑摩「せっかく利根姉さんの背中を流してあげようと思っていたのに……頑なに拒否するんですもの。がっかりしてしまいました」

利根「……ならん」

筑摩「どうしてです?」

利根(吾輩は筑摩の姉じゃ……だからこそ、この体の傷は、見せられたものではない)

利根(姉が、妹に情けない姿を見せるわけにはいかん……!)

利根「吾輩の裸は、誰にも見せられん。見せたくないんじゃ……!」

筑摩「妹だとしてもですか」

利根「ああ」

筑摩「……」


利根「……」

筑摩「……」ハァ…

利根「……のう、ちく」

筑摩「姉さん」ガシッ

利根「ま……?」

筑摩「いけませんよ姉さん、姉妹の間で隠し事なんて」

利根「お、おい、ちく」

筑摩「私の利根姉さんは私に何でも打ち明けてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私を頼りにして甘えてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私にやさしく微笑んでくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私のことを可愛がってくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私をいつも気にかけてくれるんです」

筑摩「そうですよね、利根姉さん?」ニコッ

利根「……っ」ゾクッ

筑摩「そう、ですよね?」

利根「……」ジリッ


筑摩「大好きな大好きな利根姉さん」

筑摩「いつも前向きで朗らかで」

筑摩「ちょっぴりせっかちで子供っぽくて」

筑摩「私とずっと一緒にいてくれる」

筑摩「利根姉さんは、そういう艦娘ですよね?」

利根「……ちく、ま……」

筑摩「ですよね、利根姉さん?」

利根「ち……」

筑摩「私の利根姉さんは、きっと『さすが筑摩じゃ、よくわかっておるな!』と、褒めてくれるんです」

筑摩「そうですよね?」ズイ

利根「……」ビクッ

利根(筑摩の目が……どこかで……)

 ドクン

利根「……あ」

 ――利根

利根「……ア……!」ガクガク

利根(貴様は……M提督……!?)ヘナヘナ ペタン


利根「……い、や……」ズザッ

筑摩「利根姉さん……!?」

利根「……く……るな……」ガタガタ

利根「……こ、な……いで……く、れぇ……!」ブルブルガタガタ

筑摩「え……!? ねえ、さん……!?」

 ――なんだ、つれないな。どうして逃げるんだ?

利根「っひ、ひぃいいいい!!」ズザザッ

 ――いいぞ、もっと怯えた顔を見せてくれ

利根「い……や……!」ボロボロボロ

利根「……もう……い……イ……」パクパク

利根(息が……声が、出ない……!)

利根「……ア……ガ……!」ピクピク

 ――どうしたんだ? 元気がないな

利根(来るな……来る、な……!!)

筑摩「姉さん、どうしたんですか!? 姉さん!?」ユサユサ

 ――利根は可愛いな、ふふふ……

利根(来ないでくれぇ……!!)

利根「……ッ…………ッ!」フルフル

筑摩「利根姉さんっ! しっかり……!」

利根「…………グ……ゲ……!」ガクンガクン

筑摩「なんで……どうして!? 姉さん! 姉さんっ!!」

 扉<ガチャガチャッ

提督の声「くそ、鍵かかってやがる! おい筑摩開けろ! いるんだろ!!」ドンドン

筑摩「!」


 * 入渠ドック内 医務室 *

利根「」スー…

明石「利根さんには鎮静剤を打ちました。今は薬も効いて落ち着いたようです」

提督「そうか」

 扉<コンコン

武蔵「提督……!」ガチャ

提督「!」

武蔵「提督、申し訳ない……! この武蔵、不覚を……」ドゲザ

提督「やめろ武蔵、土下座なんかしてんじゃねえぞ。ほれ、立て」グイ

武蔵「し、しかし、私のせいで利根が……」

提督「筑摩の利根に対する執念が強すぎたんだ。俺の筑摩に対する見込みが甘かったんだよ、お前のせいじゃねえ」

提督「それとも、お前の練度が高けりゃ確実に防げてたってか? そうやって自惚れてたらもっと結果は酷くなってただろうな」

武蔵「くっ……」

 ゾロゾロ…

龍驤「……利根、少しは落ち着いたんかな?」

提督「ああ、なんとかな。急だったのにありがとな」


雲龍「もっと早く捜せれば良かったんだけど……」

長門「提督、すまない……」

提督「しょうがねえよ、気にすんな。白露、筑摩はどうしてる」

白露「工廠へ連れてってからもずーっと動けないでいるよ。五十鈴さんが来てからも俯いたまんまだし……」

白露「ねえ、利根さんが前の鎮守府で殺されそうになったって本当なの?」

提督「まあな。ただ、寝てるとはいえ、利根の前で話すわけにもいかねえ。みんな工廠へ移動してくれ」

長門「……わかった」

 ゾロゾロ…

提督「明石、利根を任せていいか?」

明石「はい、お任せくだ……」

利根「……かし……」ボソッ

明石「! 利根さん!?」

利根「……」ボソボソ…

明石「……提督。利根さんが提督と二人だけでお話ししたいそうです」

提督「俺とか? ……わかった」


提督「明石、工廠にいる奴らに利根の鎮守府の事件のこと、軽く話せるか?」ヒソッ

明石「……わかりました。本営が出した資料で説明します」スクッ

提督「頼む」

 スタスタ パタム

提督「……」

利根「」スー…

 (利根のベッドのわきの椅子に提督が座る)

提督「……」

利根「」スー…

提督「……利根? 寝てんのか?」

利根「……すまぬが……眠ったままで失礼するぞ、准尉」

提督「あ、ああ、そりゃ構わねえが……?」

提督(利根が俺を呼ぶときは『提督』って呼んでたよな?)

利根「吾輩は……いや、違うな。吾輩『たち』は利根である」

提督「たち……?」


利根「うむ。吾輩たちは利根ではあるが、貴様の知る利根ではない。吾輩たちは、M提督に殺された利根たちの魂だ」

提督「!!」

利根「吾輩たちはもとは5人であったが、今では自他の区別がつかん。もはや一人のようなものではあるが……吾輩たちと呼ぶ方がしっくりくる」

提督「雲龍が言ってた、利根に複数の霊が取り憑いているっていう話は、お前たちのことか……」

利根「ほう、吾輩たちの気配に感付いていたか。なれば今後は雲龍に助けを呼ぶべきか」

利根「過去にも何度か貴様に声を送ったが、まともに聞こえたのは一度か二度かであったからの」

提督「川内の様子がおかしいって警告してた時か?」

利根「いいや? さすがに覚えてはおらんか。朧が弱って取り憑かれたときに声をかけたのだが」

提督「あのとき、俺の部屋に出たやつか……!」

利根「……うむ、どうやらかろうじて声は届いておったようじゃの」

利根「神通に川内の異常を伝えたときは、こうやって眠っている利根の体を借りて神通に伝えたのだ」

利根「宿主であるこの利根から離れてしまうと、吾輩たちの力も弱まってしまうのでな。あの晩は運が良かった」

提督「……」アタマオサエ

利根「む、准尉よ、大丈夫か?」

提督「ちょっといろいろ頭が追い付かねえだけだ。まさか幽霊と話すことになるとは思いもしなかったぜ」

利根「なに、少し変わった妖精だと思えばよかろう。深く考えても埒は開かんぞ」

提督「……」


利根「さて、准尉よ。話というのは他でもない筑摩のことだ」

利根「利根がこのような事態になったのは、今回の件に限っては残念ながら筑摩がきっかけである」

利根「筑摩の利根を見る目が、M准将の目と同じであった。それゆえに利根はあやつを思い出し、錯乱したのだ」

提督「……フラッシュバックってやつか? 不知火が言ってたな」

利根「かくいう吾輩たちもM准将には酷い目に遭わされたが、この利根程ではない」

利根「この利根は、理不尽な責め苦の末に一度感情を手放しておる。壊れたところに体を焼かれ、挙句その身を食われそうになったのだ」

提督「食……!? それで、あの火傷の痕かよ……!」

利根「そんな相手が、吾輩たちに大真面目に愛を囁いておったのだから、まともでおられぬのは当然よな……」

利根「そして筑摩も同様に不憫である。この利根に対する愛を注ごうにも、その相手が愛に怯えてしまうのではな」

利根「ゆえに准尉、貴様に頼みたい。この利根と、筑摩を、どうか助けてやってくれ」

提督「……」

利根「……」

提督「助けてやれ、ってか」

利根「ああ」

提督「……」


利根「准尉……!」

提督「くあぁ、ああわかったよ面倒臭えな、くそっ。やるよ、やってやるよ、くっそ苦手分野な話だけどな……!」

利根「……!」

提督「で、一応訊くが、お前らはなにもしないんだな?」

利根「死んでいる吾輩たちの存在は混乱の種にしかならんよ。特に筑摩には気付かれるわけには行かぬな」

利根「吾輩たちも直接筑摩を助けたい気持ちはあるが、死者は生者の愛に応えてはならんのだ。生きている者を『こちら』に招いてしまう」

提督「幽霊がこの世に長いこと留まってると、人に害をなすとか雲龍が言ってたが……」

利根「おそらくは、死者が生者を羨むがゆえ、であるな。生きている者に対する嫉妬によって恨みが増すのだろうよ」

利根「そこへいくと吾輩たちは逆じゃな。日々利根とともに艦娘としての役割を疑似体験させてもらっておる」

利根「5人分あった怨念が日々の生活体験によって満足しておるのでな、六割か七割くらいは成仏したようなものじゃ」

提督「残りの三割はなんだ? まだ恨みがあるのか?」

利根「未練……じゃな。こうやっておぬしたちと吾輩たちがコミュニケーションを取れないのは、それなりにストレスになっておる」

利根「M准将とは真っ当な話もできなかったのだ。貴様とこうして会話できること自体、望外の喜びでもある」

提督「……」

利根「まあ、それはさておいてだ……あの筑摩を普通に説得するのは難しそうじゃの」


利根「吾輩たちの見立てでは、憧れが強すぎたが故に、筑摩は自分の中に理想の利根を作ってしまっておる。此度の暴走もおそらくそのためか」

利根「利根は利根で自らの弱みを筑摩に見せたり、心配させるのが恥ずかしいと思っておる。この体の傷も隠し通したいと思っているようじゃ」

提督「体の傷は筑摩だけに限ったわけじゃねえと思ってるがな。あれを他人に見せるのは相当に勇気がいるんじゃねえか?」

提督「利根もだいぶ落ち着いたと思うが、あの出来事を利根の口から誰かに話せちゃいないだろ」

利根「うむ……いずれにしても、説明や説得もなしに筑摩がこの利根へのスキンシップを止めるとは思えんな」

利根「同衾どころか風呂にも迫ってくる程だ、あの筑摩は少々クサレの気が見える。吾輩たちとしても心配である」

提督「腐れ……?」

利根「クレイジーサイコレズの略じゃぞ。男性の同性愛を好むことを『腐る』と言うこともあるようじゃが」

提督「……どっから仕入れてきてんだその知識」ヒキッ

利根「余所の艦娘が差し入れとして持ってきた、段ボール箱いっぱいの春画本からじゃな」

提督「卯月かよ……!」アタマカカエ

利根「貴様は好かぬかもしれんが、年頃の娘が集まれば姦しくもなる。見逃してやるが良い、貴様が同衾を許すのと同じ、いわばガス抜きじゃ」

提督「別に取り上げたりしねえよ……俺が巻き込まれなきゃあいいんだがな」


利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」

提督「……落としどころねえ……」

利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」

提督「運……?」

 (利根の顔が提督の方を向き)

利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」

提督「……!」

 (ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)

利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」

提督「……っ!」

利根「ではな……さらばだ、准尉……」

 (目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)

提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ

利根「」スー…

提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…

提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」

今回はここまで。

続きです。


 * 工廠 *

 鉄扉<ゴンゴン

提督「……話は終わったか?」ギィィ

明石「あ、提督!」

長門「まあ、あらかたの話は終わったぞ……」

提督「……? やけに空気が重てえな」キョロ

白露「ちょっと提督! 聞いてるだけで鳥肌立ってきたんだけど!」ブルブル

武蔵「ああ、まったくもって信じられん……!」ガタガタ

黒潮「ほんま、洒落ならんて。五月雨なんか気分悪くしてずっとこんなんや」アオザメ

五月雨「……」ウズクマリ

提督「黒潮たちも来てたのか……って、何したらこんなことになってんだ?」

明石「不知火ちゃんから預かってた資料が思いのほかグロくて……」

提督「おいおい、こりゃ見せちゃ駄目なやつだろ。なんでこんなガチな資料貰ってきてんだよ、不知火のやつは」

明石「ですよねえ……軽い気持ちで見たらいきなりこれだから、びっくりしましたよ」

提督「これじゃ別のトラウマ産み付けかねねえぞ。精々におわす程度の話で済ませたかったんだ」


龍驤「キミもしかして、こうなることを予想しとったんやな?」

提督「ああ、知って気分のいい話じゃねえからな、さらっと流したかったんだが」

龍驤「うん……ま、そうなんやろなあ」チラッ

雲龍「」カチーン

龍驤「雲龍なんか、あんまりな話やったから固まって動かなくなってしもたんよ。ほら、起きやー?」ホッペムニー

雲龍「……あ」ムニー

提督「お、帰って来た。雲龍、大丈夫か」

雲龍「ごめんなさい、頭が理解するのを拒否していたわ……何の話だったかしら」

提督「まあ、これもある意味正しい反応だよな……」チラッ

筑摩「……」ウナダレ

提督「筑摩は動けねえか。さて……長門、五月雨と白露は休ませて欲しいんだが、任せていいか?」

長門「あ、ああ」

五月雨「い、いえ、私は、だいじょう……うぶっ」ヨロッ

提督「そんな真っ青な顔して大丈夫なわけねえだろ。いいから休んどけ」


白露「あ、あたしは大丈夫だよ!?」

提督「かもしれねえが大事は取っとけ。さっきまで俺を背負って猛ダッシュしてたんだ、大人しくしてろっての」

白露「うー……」

提督「黒潮もありがとな、非番だってのに駆けずり回ってくれて」

黒潮「うちはええよ~」ヒラヒラ

提督「さてと……」

筑摩「……」

提督「おい、筑摩」

筑摩「」ビクッ

提督「とりあえず利根の事情は理解できたか?」

筑摩「ど……して……」

筑摩「私は……たた利根姉さんと一緒にいたかっただけなのに」

筑摩「どうして利根姉さんがあんな目に遭っていたんですか!」

筑摩「利根姉さんは、なにも悪いことをしてないじゃないですか!?」

筑摩「これじゃ……これじゃ利根姉さんが可哀想です……!」

提督「……可哀想、ねえ」


筑摩「提督!? なんでそんなあきれたような言い方をするんですか!?」

提督「利根が錯乱したのはお前のせいじゃねえのかよ」

筑摩「どうしてですか!? 私は何も知らなかったんですよ!?」

提督「知っていようがいまいが関係ねえよ。それを言ったらここにいる連中も知らなかったんだぜ?」

提督「だいたい夕べも、過度なスキンシップはやめろって利根から言われたよな? お前がそれを聞き入れてりゃあ良かったんだよ」

筑摩「そ、それは照れているだけだと……!」

提督「手前の都合のいいように解釈してんじゃねえよ。それが間違ってたから結果こうなったんじゃねえか」

提督「利根の錯乱を防ぐ術はあった。利根がお前を拒絶したのは、その予兆があったからだ」

提督「利根がああなったのは、お前がその警告を聞き入れず、お前が自分の欲を満たすことを優先した結果だろうが」

筑摩「……っ!」

提督「ただ、利根が何も悪いことをしていない、というのには同意する」

提督「こればっかりは、生まれてきた場所が悪かったとしか言い様がねえ」

筑摩「利根姉さんは、そんなこと、言わなかったのに……」

提督「言えるかよこんなこと。自分の口から話せるようになってたら、思い出してぶっ倒れたりしてねえよ」

筑摩「なんて……私は、なんてことを……!」ウナダレ

提督「……」


筑摩「……死んでしまいたい……」ポツリ

提督「そうかよ、好きにしろ」

武蔵「!?」

提督「どこへでも行って野垂れ死ね」

黒潮「!?」

龍驤「うおおおおい!?」

五十鈴「ちょっと!? 提督何を言ってるの!?」

提督「あぁ? 死にたいなら死ねって言ってるだけだぞ」

明石「また始まった……」アタマカカエ

武蔵「て、提督! 貴様、筑摩にフォローのひとつも入れてやれないのか!?」

提督「なんでだよ面倒臭え」

黒潮「」

五十鈴「」

雲龍「面倒……?」ドンビキ

龍驤「お、おお……アカン、もう本当にアカンわこの人……」クラクラ

武蔵「……い、い、言うに事欠いて面倒とは……っ!!」

明石「あー、武蔵さん、この程度でこの人に怒ってたら身が持ちませんよ」

武蔵「し、しかしだな……!」


明石「提督。ここに来る前に利根さんと話をしてきましたよね?」

明石「利根さんは筑摩さんについて、なんと言ってたんですか?」

提督「ああ? 利根たちからなら、筑摩を助けて欲しいと言われたさ。だが、筑摩がこんなこと言い出すようなら……」

筑摩「利根姉さんが言うなら生きます!!」シャキーン

提督「……」

明石「……」

筑摩「私は死にません! 利根姉さんが悲しむようなことはしません!」

提督「……」

明石「……」

五十鈴「……なんか、ごめんなさい」

武蔵「ま、まあ、いきなり死ぬとか言い出してびっくりしたが、良かったんじゃないか? なあ?」

提督「そいつはどうだろうな? 今んとこ、自分に都合のいい言葉しか拾ってねえぞ、筑摩の耳は」

明石「でも、提督は利根さんから助けて欲しいと言われたんでしょう?」

提督「……言葉ではそう言えても、実際はどうだかな」

武蔵「どういう意味だ?」

提督「見てりゃわかるさ。武蔵、悪いが明日以降も利根たちの様子を見ててくれ」

武蔵「あ、ああ……」


 * 翌日の昼 執務室 *

提督「ま、当然だろーな」

武蔵「貴様はわかってて好きにさせたのか?」

提督「説明するよか早え。利根の精神状態が今どうなってるか、これ以上なくわかったろ」

武蔵「確かにそうだが……」チラッ

筑摩「……」ションボリ

提督「昨日あんだけ派手に利根を怯えさせたんだ、利根には避けられて当たり前だろ?」

提督「あいつのトラウマは俺たちが理解できるほど浅くねえぞ。昨日の今日で構ってもらえたら奇跡だと思ってるぜ俺は」

武蔵「……何かいい方法はないのか?」

提督「ないな。俺は、時間をかけて忘れさせてやるのが一番いい方法だと思ってる」

提督「利根に無理させてますますぶっ壊れたらどうするよ? 原因作ったのは筑摩なんだから、筑摩が退くのが筋だろ」

武蔵「む、むう……!」

提督「とりあえずもう昼だ。おとなしく食堂行って飯にしとけ」

筑摩「……利根姉さんが……」ボソッ

提督「!」


筑摩「……利根姉さんが、昼餉を取り終わってから……食堂に行きます……」

武蔵「筑摩……!」

提督「そうか。立ちっぱなしも疲れるだろ、ソファに座って待ってな」

筑摩「……はい……ありがとうございます……」ユラ…ストン

武蔵「おい! 筑摩がまるで幽霊みたいで見ていられないぞ……!」

提督「そうか? 利根のことを考えられるようになった分、昨日よりだいぶマシになったと思うがな」

武蔵「そ、そうかもしれないが……!」

提督「ところで利根はどうしてる」

武蔵「今は古鷹と朝雲と一緒に食堂に行っているはずだ。食べ終わったら気晴らしに散歩に連れて行くと古鷹が言っていた」

提督「……朝雲がいるんなら、心配しなくても良さそうだな」

武蔵「そこは古鷹じゃないのか?」

提督「古鷹もお節介焼きが過ぎるところがあって危なっかしいからな。おそらくこの島で一番常識人なのは、俺の感覚では朝雲だぞ」

武蔵「そうなのか!?」

提督「この島に着任した艦娘のほとんどが轟沈させられたり、前の鎮守府の事情で追い出されたり逃げざるを得なかったり……」

提督「ま、いろいろあるんだよ。朝雲はその中でも比較的、傷が浅いほうだと思ってる」


提督「明るいし気遣いができるし面倒見もいいし……如月みたいにべたべたくっついてきたり、朝潮みたいに俺を盲目的に全肯定しないのもいい」

提督「おかげでここじゃあ苦労人ポジションになっちまってるけどな」

 電話<RRRR...

提督「うん? 内線か。執務室だ」ガチャ

通信『もしもし、大淀です。提督、そちらに筑摩さんと武蔵さんがいらっしゃいますね?』

提督「おう」

通信『そちらにこれから昼餉をお弁当にしてお持ち致します』

提督「なに?」

通信『朝雲さんから事情は聴きました。利根さんと筑摩さんが鉢合わせしないようにするのなら、この方法が無難だと思いますが』

提督「気が利きすぎだろ……ありがたいけどよ」

通信『お弁当は提督の分も含めて3人分でよろしいですね?』

提督「ああ、悪いが頼む」

通信『はい。お任せください』

 チン

提督「というわけで、朝雲の提案で大淀が弁当を持ってきてくれるそうだ」

武蔵「……」


 *

提督「……やっぱり、しばらくは筑摩が我慢するしかねえな」

武蔵「やはりそうなるか……応急処置にしても、なかなかいい方法がないものだな」

 扉<コンコン

大淀「失礼します、お弁当お持ちしました」ガチャ

提督「おう、気を使ってもらって悪いな」

大淀「いえ」ニコ

提督「おい筑摩、お前も飯は食っとけよ。何かあったときに動けねえのは困る」

筑摩「……はい……」

武蔵「なんというか、痛々しくて見ていられないな……」

提督「なんならお前が利根の代わりになってみるか?」

武蔵「は……!?」

大淀「……似合いませんね……」ウーン

武蔵「何を想像してるんだ大淀!?」

筑摩「……」ジッ

武蔵「いや、そんなふうに見つめられても多分代わりは務まらんぞ!?」

 シレイ! シレイー!

提督「!」

武蔵「この声は……!」

朝雲「司令っ! 大変よ大変!!」バンッ

提督「朝雲……!? なんだ、利根か!?」

筑摩「!」ガタッ

朝雲「利根さんじゃないわ、古鷹さんが……!」

提督「古鷹!? なんでそっちが大変なんだよ!?」ガタッ

短いですが、今回はここまで。

保守ありがとうございます。
体調崩していました、すみません。

おかげでうーちゃんと衣笠さんを取り逃がし……。
衣笠さん……ああ、駆逐艦衣笠さん……じゅうごまん……。


続きです。


 * 北東の砂浜 *

朝雲「こっちです!」タタタッ

提督「まだ息があるんだな!?」タッタッタッ

朝雲「はい!」

武蔵「おい、良かったのか!? 筑摩まで連れてきて!」タタタタッ

筑摩「……」タタタタッ

提督「四の五の言わずに今は手伝え!」

武蔵「……勝手なことを……!」

朝雲「いた……! 古鷹さん!」

古鷹「しっかり! しっかりしてえええ!」ウワーン

利根「おお! 来たか、ていと……!」ビクッ

筑摩「……っ」

提督「おい古鷹!」

古鷹「! 提督……! 加古が……加古が大変なんです!!」グスグス

加古(大破)「……」グッタリ


提督「倒れていたのはこいつだけか?」

利根「い、いや……向こうにも、もう一人おる」

提督「武蔵、頼む。まずは入渠させるぞ、連れてくることができそうなら、そうしてくれ」

武蔵「む……わかった。利根、案内してくれ!」

利根「あ、ああ」

古鷹「加古、目を覚ましてええええ!」ウワーン

朝雲「古鷹さん落ち着いて!」

古鷹「で、でも!」

提督「古鷹、少し下がってろ。おい、加古っつったな?」

加古「……い」

提督「ん?」

加古「……ねむい……」ムニャァ

提督「……」


加古「……おねがい……おねがいだから……ねかせてぇ……」

提督「……」

古鷹「ちょっ、眠っちゃ駄目ぇぇぇ!!」ウワーン

提督「……」アタマオサエ

朝雲「し、司令、どうしよう……?」

提督「こいつが寝るっつってんだから寝かせてやるしかねえだろ。ここで寝かせるわけにはいかねえけどな」

武蔵「提督、連れてきたぞ」

 (武蔵にお姫様抱っこで抱えられている鳥海)

提督「ん……衣装が摩耶と同じか?」

武蔵「おそらく彼女は高雄型重巡の鳥海だ。気を失っているだけのようだが、無理に起こす必要はないな?」

提督「ああ、起こさなくていい。そのまま運べそうなら、そのままドックまで運んでやってくれ」

武蔵「わかった。こちらは任せておけ」スッ


提督「それからこっちは……」

古鷹「加古ーー! しっかりしてぇぇぇ!!」ユサユサ

加古「うあぁあぁあ~!?」ユサユサ

提督「……」

朝雲「あ」

 バッヂィィィン!

古鷹「いったぁぁぁぁああい!?」ブットビ

朝雲(重巡でもぶっとぶんだ、あのでこぴん……)タラリ

提督「少し落ち着けこの馬鹿たれ! ったく……筑摩!」

筑摩「!」ビクッ

提督「加古を背負ってドックまで行けるか? 古鷹があれじゃ心配すぎる」

筑摩「……」チラッ

利根「!」ビクッ

筑摩「……」シュン

提督「筑摩、どうだ。頼めるか?」

筑摩「……わかりました……」コク


提督「よし。ほれ加古、眠れる場所に移動するぞ」

加古「むにゃあ……」ムクッ

朝雲「あ、筑摩さん手伝います!」

古鷹「いたた……提督、なにをするんですか!」プンプン

提督「そりゃこっちの台詞だ、眠てえっつってんだからドックで好きなだけ寝かせてやれってんだよ」

提督「わかったら筑摩と朝雲手伝え。とっとと加古を入渠させろ」

古鷹「は、はい!」タッ

提督「さてと……利根、あとは他に誰もいねえんだな?」

利根「……う、うむ……」

提督「……」

利根「……」

提督「……おい」ズイ

利根「な、なんじゃ?」

 ガシッ

利根「な、なにをする提督!? 手を離さんか!」アタマツカマレ


提督「利根。お前は、俺が怖くないのか?」

利根「き、貴様は理由もなく他人を襲ったりせんだろう!」ジタバタ

提督「……」

利根「どうせこれも、筑摩のことを考えてのことじゃろう! 吾輩とてそこまで愚鈍ではないわ!」ンギギ…

提督「ふん……察しがいいのも困りもんだな」パッ

利根「や、やっと離したか、この馬鹿力め……ううむ、嫌な汗をかいたぞ」

提督「やっぱり怖かったんじゃねえのか」

利根「吾輩はまだ貴様の本気のアイアンクローをくらったことがないからな。未知の体験に少々緊張しただけである」

提督「それを怖いっつうんじゃねえのか。素直じゃねえな」

利根「貴様にだけは素直じゃないなどと言われたくないぞ! まったく……」

提督「ふん、元気そうだな。余計な心配だったか?」

利根「……そういうわけでもない。不本意極まりないが、筑摩の姿を見ると足がすくんでしまうのは認めざるを得ん」

利根「明石にも詫びを入れねばならん。せっかく作ってくれた個室の風呂も、怖くて入れなくなってしまったからな……」

提督「……」

利根「このままでは駄目なのは理解しておる。筑摩とも仲直りして、古鷹のように心配しあえる仲に戻らねばならん」

提督「……俺はドックに行くつもりだが、利根はどうする」

利根「うむ……吾輩も参ろうか。いつまでも目を背けてはおれん」

利根「いずれは筑摩と……この海を征きたいからな」

提督「……」


 * 一方の入渠ドック *

古鷹「加古は大丈夫かなあ……」ウロウロ

朝雲「もう、大丈夫だって明石さんも言ってたでしょ? 古鷹さん心配しすぎ!」

筑摩「……」

朝雲「筑摩さんがいて本当に良かったわ……ありがとうございます!」

筑摩「……いいえ……できることを、したまでだから……」ニコ…

朝雲「あの、筑摩さん、大丈夫なんですか? すごく元気がないですけれど」

筑摩「……利根姉さんには、本当に申し訳ないことをしたから……」

筑摩(……)

 提督「今の筑摩は利根に警戒されてる。弁明どころか声をかけられただけで利根は逃げてくだろう」

 提督「だったら筑摩が利根に危害を与えることはないことを証明し続けるしかねえ。あえて利根に姿を見せてな」

 提督「だから、利根がいても絶対に筑摩からは近づくな。利根の方から近づいてくるまで、絶対にコンタクトを取ろうとするな」

 提督「挨拶せざるを得ない状況でも、会釈までで我慢しろ。それができなきゃ、あの利根とは二度と話ができねえと思え」

 提督「自分に危害を加えてきた奴が、どうやったら許せるか考えてみろ。多分、ひたすら頭を下げるしかねえんじゃねえか?」

 提督「そして絶対に害意がないことを態度で示して、それで許せるかもしれない、って心変わりを待つしかないと思うぜ」

筑摩(……)


朝雲「……利根さん、ここに来た頃は本当に元気なかったから……筑摩さんもそんな感じだと、心配です」

筑摩「……大丈夫。きっと……大丈夫になってみせるわ。姉さんも、そうだったんでしょう?」

朝雲「はい……!」

筑摩「そうね……利根姉さんを見習わないと」

古鷹「う~……」ウロウロソワソワ

朝雲「ああもう、古鷹さんは落ち着いてー!」

 扉<チャッ

武蔵「古鷹はまだ落ち着かないのか? それで加古が元気になるわけではないぞ」ヌッ

朝雲「武蔵さん……!」

武蔵「気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ。加古に無理をさせて怪我を悪化させるのは古鷹の望むところではないだろう?」

古鷹「は、はい……」シュン

提督「だがまあ、今回の古鷹の心配は仕方ないと言えば仕方がないな」スッ

利根「うむ……」

古鷹「提督……利根さんも!」

摩耶「よっ。あたしも来たぜ」

朝雲「摩耶さん!」


提督「摩耶にはあの艦娘が鳥海かどうかを確認してもらったんだ」

摩耶「まったく、びっくりしたぜ。明石からは鳥海も加古も助かるって言ってたから良かったけどさ」

武蔵「摩耶は落ち着ているな」

摩耶「そりゃあ、あたしが騒いだって鳥海が元気になるわけじゃねーからなあ。元気になってから、ゆっくり話を聞くさ」ニッ

古鷹「あ、あうう……す、すみません、私もそうします……」ショボン

摩耶「ああ、そうしたほうがいいぜ。でなきゃ、誰をぶちのめさなきゃいけねえか、聞き出せねーもんな!」バキバキ

朝雲「それはそうかもしれないけど!?」

利根「う、うむ……仇討ちが目的というのもな……」

提督「そうか? 俺はいいと思うが」

武蔵「ああ、同感だ」ウンウン

摩耶「だよな!」パァッ

朝雲「あーそうだったわ……武蔵さんも武闘派だし、司令もやり返さないと気が済まない人だったわ……」アタマカカエ

提督「そうじゃなくても無理もねえよ。加古と鳥海は轟沈してるらしいんだからな」

朝雲「え?」

筑摩「沈んだん……ですか!?」


提督「明石の見立てではな。二人に当時の状況を聞かないと確定はできねーが、全身ずぶ濡れだったことを考えると、沈んでた可能性も否定できねえ」

提督「特に加古は足元の艤装の損傷がひどい。航行不能な状態になっていたからこそ、古鷹も狼狽えてたんじゃねえのか?」

古鷹「はい……!」

提督「まあ、あとは重巡がふたりも轟沈してるっつうのが気に入らねえ。何したらそんな被害になるんだ?」

武蔵「うむ……余程の無理をしない限り、2隻沈むというのは考えられないな」

提督「なんにしてもだ、目が覚めたらあいつらに生きる意志があるかどうか確認しねえとな」

武蔵「なんだそれは? せっかく助かったのに死にたいなんて言う艦娘がいるのか?」

提督「いたら困るから訊くんだよ。死にたい奴を助けて後から文句言われたくねえ」

筑摩「……あの……」

提督「ん?」

筑摩「あくまで老婆心ですが……加古さんをこちらへ運ぶ際に、死ぬほど寝たいと言っていましたので……誤解のないようにお願いします」

提督「なんだそりゃ? そんなに寝たかったのか、あいつ」

筑摩「いえ、その……もともとだと思います。前の鎮守府にいた加古さんも、暇さえあればお昼寝していましたから」

提督「……マジか」

古鷹「聞く限りはそうみたいなんです……」ハァ…

朝雲「L提督の鎮守府にいたときは加古さんいなかったから、写真でしか見たことなかったんだけどね」


筑摩「私が知る限りでは、任務中もあくびしながら航行していたのは珍しくありませんでした」

筑摩「そういう意味で不真面目に見られていましたが、戦闘では真面目でしたよ。効率よく確実に戦うことを信条にしてましたから」

提督「ふーん……」

摩耶「もしかして、寝る時間を増やしたくて真面目に戦ってたとかか?」

全員「「!?」」

朝雲「そういう考えもあり得るわね……」

古鷹「そ、そんなわけないですよね!? ね!?」オロオロ

筑摩「……」メソラシ

古鷹「筑摩さん何か言ってぇぇぇ!?」ガビーン

提督「昼寝のために全力を出すってか……いいなそれも」

武蔵「いいのか!?」

提督「悪くはねえだろ。自分が後で楽になるために、今を一生懸命になるのはいいことじゃねえか?」

武蔵「……いや、まあ、確かにそうだが」


提督「とりあえず寝るのが大好きだったんだな、お前がいた鎮守府の加古ってのは。じゃあ、鳥海はどんな奴だった?」

筑摩「そう、ですね……真面目を絵に書いたような艦娘でした」

筑摩「性格的には霧島さんに近い感じですが、普段は物静かで、こちらの摩耶さんとは対照的ですね」

提督「ふぅん……物静かで霧島に似てる、ねえ。言葉遣いはどうなんだ?」

筑摩「……丁寧で穏やか、大人しいといった印象です。荒っぽい感じはありません」

摩耶「あたしと違ってお淑やからしいからな、鳥海は!」フフン!

提督「……何でお前が威張ってんだ」

摩耶「ああ!? 自慢しちゃあいけねえのかよ、くそが!」

提督「お淑やかなのを自慢するんなら、そのお前の最後の一言はなんとかなんねえのかよ」

摩耶「んぐ……あ、揚げ足取りやがって。お前だって似たようなもんだろ!? ちょっとウザいぞ!」

提督「へーへー。まあいいや、ここへ流れてきた二人の性格がその通りかどうかも、まだわかんねえからな」

提督「早いとこ目を覚ましてもらって直接話を聞けりゃ、古鷹の心配も多少はなくなるだろ」

古鷹「は、はい、とにかく話ができるくらいに回復してくれれば、私も安心です」


提督「じゃ、この場は明石に任せて、二人の回復待ちだな。武蔵、筑摩、戻るぞ」スクッ

朝雲「武蔵さんたちも戻るの?」

提督「昼餉がまだだからな。これだけ働かせて飯抜きはねえだろ」

筑摩「あ……!」

武蔵「……そういえばそうだったな。言われてみると確かに腹が……」

摩耶「あたしも戻るか。鳥海が目を覚ましたら、あたしにも声をかけてくれよ?」

提督「おう」

 スタスタスタ…

筑摩「……」スクッ

利根「……」ジリッ

筑摩「……」スタスタ…

提督(利根はまだ筑摩に怯えてやがんな。こりゃ時間がかかるか……仕方ねえ)


 * 執務室 *

大淀「提督、お茶をどうぞ」コト

提督「ん……ありがとな」モギュモギュ

武蔵「それにしても、この短期間に4隻も艦娘が流れ着いてくるとは……」

提督「生きて4人は珍しいが、同時に何人も流れてくること自体はそんなに珍しくもねえ」

提督「新しい海域への攻撃が始まったとか、特別海域の攻撃命令が来たときとか、見たことない深海棲艦が現れたときとか……」

大淀「確かに、戦線に動きがあったときが多いですね」

提督「ま、そう考えると、場所や理由がバラバラでも、根っこを辿って行ったら原因は同じだった、ってのはあるかもしれねえな」

武蔵「ふむ……」ズズ…

提督「ただまあ、今回の筑摩たちの事情と、加古たちの状況は全然違うからな。別件と思っていいだろう」

提督「なあ大淀、不知火に頼んだ轟沈のリストはまだ来てないか?」

大淀「まだですね。おそらく明日以降になるのではないかと」

武蔵「轟沈艦のリスト? そんなもの何に使うんだ」

提督「公式に、筑摩たちが轟沈した扱いになってるかどうかを確認したい」

筑摩「!」


提督「本営も一応は、各鎮守府で邂逅した艦娘の情報を収集してる。例えば艦娘が不法に取引されないようにな……それも怪しいもんだが」

提督「連中の本音はどうあれ本営は、各鎮守府の建造でも解体でも記録を取って、艦娘の在籍状況を逐一管理してるんだ」

提督「うちに流れてきた艦娘が元の鎮守府に戻していいかどうかも、それを見りゃあ判断できる」

武蔵「それは貴様が言っていた、轟沈した艦娘は元の鎮守府に戻れないという制約からか?」

提督「だな。リストに載りゃあ死んだも同然、戻ったところで解体だろう。それが嫌ならここに着任するか? って話になる」

提督「あとは身元確認の意味合いが強いな。その鎮守府の提督を要注意人物として把握しておきたい」

提督「そういや、筑摩は知ってたか? 昔、轟沈した艦娘が戻ってきて、ある日突然深海棲艦になって鎮守府が壊滅した話」

筑摩「……知ってはいますが、作り話だと思っていました……」

提督「知らないわけじゃない、か。ま、確かに、話が本当かどうかは確認してねえし、しようがねえな」

大淀「提督、この鎮守府はそれを確かめるために、轟沈した艦娘を運用する運びになったのではありませんでしたか?」

提督「それこそ建前ではな? そんなこと起こらねえと思ってるから油断しまくってるけどよ」

武蔵「では本音はなんだ」

提督「最初にこの島に轟沈してきた如月を、この鎮守府でそのまま運用するためだ。その後も轟沈艦が何人も流れ着いてきたし、結果的には正解だった」

提督「あとは、人間が俺たちに関わってこない環境を作りたかった。その条件は奇しくも中佐が御膳立てしてくれたわけだが」

筑摩「……どういうことですか?」


提督「中佐は俺が邪魔なんだよ。俺が妖精と話ができるってのが、中佐にとっては相当に都合が悪いらしい」

提督「それで中佐は、こんな人の寄り付かないこの島に俺を幽閉して、誰も立ち入らないように手厚く手厚く保護してくれてるわけだ」

提督「ついでに艦娘が轟沈すると深海棲艦になるって噂も、真偽はどうあれ人を遠ざけるのにちょうどいいから遠慮なく利用してる」

提督「この島で轟沈した艦娘に自由を与えて、俺がその責任を取ると言えば、連中もノーとは言わないだろうさ」

筑摩「准尉は、それでよろしいんですか……?」

提督「ん? よろしいんじゃねえの? 俺は何も困らないぞ?」

筑摩「ええ……?」

提督「俺はそもそも人間と関わり合いになりたくないし、何より人間の勝手で轟沈した艦娘をそのままにしておく方が余程気分が悪い」

提督「そういう意味では、俺と中佐の利害が一致してるっつうのが気に入らねえが、そこは呑み込むとして」

武蔵「むう……」

提督「俺は基本、艦娘の味方だ。あいつらを見捨てた人間と同じになりたくないだけの……手前がかわいい身勝手な人間だよ」ハァ…

大淀「……それでどうして提督が落ち込むんですか」

提督「結局は自分のためなんだよなあ。よくよく考えりゃ、俺がいい気持ちになりたくて誰かを利用してんだよ」

提督「俺が救われたくて、俺に似た境遇のあいつらを助けようとしてるだけじゃねえか……」


大淀「動機はどうあれ、ここへ来た艦娘が前の環境より良い境遇にあることは事実じゃないですか」

筑摩「そういう意味では、艦娘が自分の欲求を満たすため、未練を晴らすために提督を利用しているとも言えるのではありませんか?」

提督「それはいいんだよ。艦娘が俺を利用するのはいいんだ」

筑摩「失礼ですが、矛盾しています。それでは提督は、人間にも利用され、艦娘にも利用されることになるのではありませんか」

提督「……ああ、そういう意味か」ジロリ

筑摩「!」

提督「俺たちを利用した人間どもを、このままにしておくつもりはねえさ。いずれは、奴らも……!」ギリッ

筑摩「……!」ゾクッ

武蔵「提督……貴様!?」ガタッ

 スパーン!

武蔵「」

筑摩「」

提督「……いてぇ……」

大淀「……」ゴゴゴゴ…


武蔵「お、おい、大淀。お前、提督の頭をバインダーで思いっきり……」

大淀「ええ、叩きましたよ」ニコッ

武蔵「」

大淀「提督? これまでに何度も申し上げておりますけれど」ズイ

大淀「そのような不謹慎な発言は、くれぐれも、控えてくださいね?」ニコァ

武蔵(大淀が怖い)シロメ

筑摩「あの……い、いろいろといいんですか?」

大淀「本営の肩を持つ気はありませんが、提督の物騒な発言によって余計な波風が立つのを見過ごすわけにはいきません」

提督「……ったく、しゃーねーな……」ハァ…

 扉<コンコンコン

霧島「霧島です。よろしいでしょうか」

提督「ん、いいぞ」

霧島「失礼致します」チャッ

提督(……なんか、霧島も殺気立ってるか?)

霧島「……摩耶の姉妹艦が流れ着いてきたそうですね?」

提督「おう。なんで流れ着いてきたかはわからねえから、鳥海の回復を待って事情聴取するつもりだ」


霧島「……できれば、私も同席したいのですが」

提督「いいぞ。ただし、暴れるのは全部話を聞いてからだ」

霧島「!」

武蔵「……まあ、眉根にそんなしわを作っていては、提督にからかわれても仕方ないぞ」

霧島「顔に出ていましたか……失礼致しました」

提督「別にからかっちゃいねえよ、暴れたいんなら俺に断ってからにしろ。有耶無耶にしてやるからよ、俺ができる範囲で」

霧島「は、はあ……」

武蔵「提督、貴様が適当なことを言うから霧島がどう反応したらいいか困ってるぞ?」

提督「困るって言われてもな。俺の言葉は言葉の通りだぞ? うちの艦娘が間違ってないなら俺も暴れろって言うからな?」

武蔵「いかんだろうそれは……貴様は止める立場の方だぞ?」

提督「止めたくねえなあ……なんにしてもだ、まずは鳥海がちゃんと話を聞いてくれることが一番なんだが……」

武蔵「その辺は問題ないだろう。鳥海は真面目だと聞いたぞ?」

提督「そうか? 真面目な方が厄介な気がするぜ。真面目ちゃんは言い換えれば頑固で、融通が利かねえことが多いんだ」ハァ

提督「前の鎮守府の理不尽な命令を律儀に守り続けてたり、目的のために視野狭窄に陥ったり……言われたことを延々と気にしたり、なあ?」

霧島「!」ビクッ


提督「自分でも言ってることが極端だとは思うが、その極端な奴が流れ着いてくるのがこの島だからな……」

大淀「そうですね……でも、最初から最悪を想定して話を進めなくても良いのではないですか?」

提督「そうは言うが、その最悪を飛び越えてくるケースが何度もあったろ……」

 扉<コンコン

伊8「提督、戻りました?」ガチャ

提督「おう」

伊8「海底に散らばってた、二人のものらしい艤装の破片、集めて明石さんに預けてきました」

提督「そうか、ご苦労さん……って、そういえばはっちゃんもそうだったっけな」

伊8「なにがです?」

提督「前の鎮守府で無理矢理東オリョール海を往復させられて轟沈したってのに、それでも前の鎮守府に戻るとか言ってたの」

武蔵「んなっ!?」

霧島「そ、そうなんですか?」

伊8「あー、そうでしたね。はっちゃんがおかしくなってたときの話です」


提督「真面目な奴ほど命令には逆らえなかったり……まあ、はっちゃんの場合は恐怖を植え付けられてたって感じだったが……」キョロキョロ

霧島「どうなさいました?」

提督「いや、メガネが多いな……と」

霧島「!」

大淀「!」

武蔵「!」

伊8「あー」

筑摩「そ、そうですね……」

提督「まあ、言わずもがな真面目なメンツが多いな……」

大淀「そ、それは、まあ、ふざけるわけにはいきませんので」

提督「……鳥海もこんな感じなのかねえ。一人くらいちゃらんぽらんなメガネがいてもいいだろうに……」

武蔵「さすがにおらんだろう、そんな奴は」

提督「……あ、いるわ。余所の鎮守府に」

伊8「え?」

提督「しかも俺に似てる」

霧島「ええええ……?」


 * V提督鎮守府 *

望月「ぅえっきしょ」

弥生「なに? いまの無気力なくしゃみ」

卯月「望月、風邪ひきぴょん?」

望月「うんにゃ、鼻がムズった」ゴロン

卯月「だったら早くパジャマから着替えるぴょん。もう11時だっぴょん!」

望月「えー、めんどくせ~」ゴロゴロ

今回はここまで。

いろは順で行くと、次は「ぬ(奴)」なのですが、
「奴」の字はそれなりに使用しているので、次の「留(る)」「遠(を)」を使います。

では、続きです。
鳥海と加古のお目覚め。


 * その日の夕方 入渠ドック前 *

提督「よう、二人とも目を覚ましたんだな?」

明石「はい! 怪我の方もばっちり治しました!」

明石「摩耶さんや古鷹さんも呼んでいるので、少しお待ちください!」

提督「この島のことについては何か話したか?」

明石「説明したのはこの島に流れ着いてきたときの状況だけですね」

提督「そうか。んじゃ、俺の方からここがどういう場所か、簡単に話しとく」

提督「摩耶たちが揃ったら、これからどうするのかの話を始めるぞ」

明石「了解です!」

 * *

加古「轟沈した艦娘が流れ着く島ぁ?」

鳥海「私たちが轟沈したと仰るのですか……?」

提督「明石が言うには、艤装の被害を見るに航行可能な状態にはなかったと言われたが、お前ら自分が沈んだかどうかの自覚がないのか?」

鳥海「も、申し訳ありません、私は無我夢中で……」

加古「あたしは准尉の言う通り、沈んだと思ってるよ」

提督「覚えてるのか?」


加古「この姿になって、初めて水の中から空を見た記憶があるんだけど……やっぱ、やだねえ。ははっ、思い出しただけで寒くなってきた」

提督「まあ、無理に思い出さなくていいぞ。で、鳥海は自分が轟沈していないと思ってるのか?」

鳥海「はい。私は、轟沈すると深海棲艦になるという噂を耳にしたことがあります」

鳥海「ですので、もし私が轟沈していたとしたら、艦娘としてこの場にはいないのではないかと思っています」

提督「俺はそっちの話の方が初耳だな。鳥海の話が本当なら、この島に漂着してきた艦娘の遺体が深海棲艦になってないと辻褄が合わねえ」

鳥海「! それは……」

加古「っていうかさあ、轟沈したかどうかの判断基準ってなに?」

提督「自力で水上に立てなくなった、あるいは浮き上がることができなくなったら、そうなんじゃねえか?」

提督「他人が判断する場合は、本営の判断でそういう扱いになる場合がある。あとは、その鎮守府の提督がその艦娘について虚偽の報告をした場合だな」

加古「ふーん……じゃあ、沈んでなくても沈んだことにできるんだ?」

提督「まあ、それもできるな」

加古「そっか……それなら……」

鳥海「それなら、沈んだかどうか誰も判断できない艦娘は、元の鎮守府に戻れる可能性もあるわけですね?」

加古「!」

提督「……多分、な」


鳥海「良かった……! それなら、加古さん! 私たちは早く鎮守府に戻りましょう!」

加古「!」

提督「お前は元の鎮守府に戻るつもりでいるのか」

鳥海「はい、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし。早く鎮守府に戻って、みんなを安心させてあげないと!」

加古「……」

鳥海「加古さん?」

加古「あのさ……本当に戻るの?」

鳥海「え、ええ……そのつもり、ですけど」

加古「悪いんだけどさぁ、あたしパス。あの鎮守府には戻らないよ」

鳥海「な、なにを言ってるの!?」

加古「鳥海こそ本気で戻るって言ってんの? あたしゃ今のあの人にはついていきたいと思わないよ?」

加古「鳥海は義理を重んじてるんだろうけどさあ、無茶な注文言われて轟沈して、それで戻って義理を果たそうってお人好しが過ぎない?」

鳥海「でも、司令官さんは司令官さんなりに頑張って……」

加古「あれで頑張ってるって言うの? あたしが言うんだよ? 相当なもんじゃないのかねえ?」


加古「あの一日提督の言うことに何も口を出さないくらいともなると重症だよ。お人好し通り越して他人任せになってんじゃないか」

鳥海「司令官さんには司令官さんのお考えがあります! それに、進軍の判断をしたのは私たちよ!?」

鳥海「加古さんだって、進むべきか退くべきかを訊かれたときに、進んでいいと言ったじゃない!」

加古「……」

提督「お前らの細けえ事情は知らねえが」

加古「!」

鳥海「!」

提督「加古が戻る意思を見せてない以上、今の状況なら戻るのは鳥海だけだな」

鳥海「そんな……!」

提督「鳥海は加古ともども元の鎮守府に戻る気でいた。加古、お前はどうだ? 鳥海は戻ったほうがいいと思うか?」

加古「……」

鳥海「……」

提督「……」

加古「……あたしは、引き留めないよ。けど、戻ったほうがいいなんて、あたしの口からは言いたくないねえ」

提督「……」


明石「提督ー!」

提督「!」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

霧島「失礼いたします」

摩耶「よっ、悪りーな、遅くなっちまって」

鳥海「摩耶!? ど、どうしてあなたがこんな鎮守府に!? あなたも轟沈したの!?」

摩耶「してねえって。人の心配する前に鳥海は自分の心配しろよなー?」

鳥海「そ、それはそうかもしれないけど……でも、摩耶は轟沈したわけじゃないのね。良かった……」

明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」

明石「代わりに朝雲ちゃんが来るらしいですよ? 古鷹さん、加古さんが心配すぎて落ち着いていられないから、落ち着かせてから来るって」

提督「……そうか」アタマオサエ

加古「なに? ここの古鷹ってばお節介焼きなの?」

提督「まあな……今はそうでもないと思うが」

加古「ふーん……?」

 タタタタッ

朝雲「ごめんなさい、遅くなりました!」


提督「古鷹はまだそわそわしてんのか?」

朝雲「あー……古鷹さんは、武蔵さんに無理矢理大人しくさせられた、っていうか……気絶させられたっていうか」トオイメ

加古「はあ!?」

提督「そうか。しょうがねえな」

朝雲「そういうわけだから、古鷹さんは武蔵さんと筑摩さんに任せてきちゃった」

加古「あー、ちょっと、余所様の艦隊に言うことじゃないかもなんだけど、大丈夫なの?」

提督「うちの連中もそこまで遠慮なしじゃねえから、大丈夫だろ。とりあえず朝雲も来たことだし、話を始めるぞ」

提督「まず、この二人にはこの島がどんなところか説明した」

提督「この島の砂浜に流れ着いたときには二人とも意識がなかったんだから、俺は二人とも轟沈したと考えるんだが、鳥海はその自覚がないらしい」

霧島「では、鳥海は轟沈したわけではないと?」

提督「主張はそういうことらしい。俺には自分の不始末を認めたくないだけに見えるがな」

鳥海「……」ムッ

提督「でだ、そもそもこんなことになった原因について、お前らに話してもらいたいんだが、できるか?」

加古「……」チラッ

鳥海「は、はい……わかりました」


提督「それじゃ、自己紹介と所属か。どこから来たんだ?」

鳥海「では、改めて。私は重巡洋艦、鳥海です。そして、こちらが同じく重巡洋艦、加古」

加古「……」ペコリ

鳥海「私たちは呉にある遠大佐鎮守府に所属する艦娘です」

朝雲「遠大佐……?」

霧島「呉で大佐ということは、大きめの鎮守府のようですね」

加古「いんや、呉にある鎮守府のなかでは小さいほうだよ。言っちゃあれだけど、いくつかある港の隅っこに追いやられてるし」

摩耶「そうなのか?」

鳥海「え、ええ……末席から数えたほうが早いのは本当よ。大将や中将の鎮守府もあるし、そちらと比べたら鎮守府の規模は小さいわ」

霧島「なるほど。かつて海軍工廠があった港だけあって、海軍の中でも重鎮が集まるのは当然と……」

提督「で、実力はどうあれ、その呉に居を構える遠大佐が、なんでまた重巡二人を沈めるようなヘボい指揮を執ったんだ」

鳥海「そ、それは……」

加古「その時指揮を執ってたのは遠大佐じゃなくて、留提督だよ。一日提督のね」

霧島「いちにち……?」

加古「そ。なんかねえ、留って人が今売り出し中の大人気男性アイドルなんだって。あたしは聞いたことないんだけどさ?」


加古「で、どっかのテレビが呉にある鎮守府を取材したいとか、一日提督をやらせて艦娘の指揮を執らせたいとか、そういう申し入れをしたんだって」

加古「それで引き受けたのが、うちの遠大佐なんだ」

明石「……一日提督、って、芸能人が一日警察署長とか、あの一日って意味ですか!?」

摩耶「それじゃ、何も知らねえド素人が、艦隊の指揮を執ってお前らを轟沈させたってのか!?」

霧島「……そんな馬鹿な」クラッ

鳥海「で、でも、進軍を決めたのは私たちで、別にその方のせいでは……!」

提督「加古。鳥海の話は本当か?」

加古「うん。無理を承知で進んだのはあたしたちの判断だよ。けど、最初から無理があったと言えば無理があったんだ」

加古「派手な砲撃戦が見たいっていうから戦艦や重巡をメインにしたのに、どうして潜水艦がいる海域を選んだんだ、とかさ」

霧島「潜水艦……もしかして、南方海域……?」

加古「そ。駆逐艦も一人連れてったんだけど、対潜装備も載せなかったもんだからひどい目に遭ってさぁ」

加古「あたし以上にうっかりが多すぎるんだよ、最近の遠大佐は……」ハァ

明石「ですが、どうしてそんな状況で進軍しようとしたんですか」

摩耶「そうだよ。引き返すことだってできたろ?」

鳥海「それは……」ウツムキ

加古「……」


鳥海「私たちの、慢心だと……」

明石「……」

霧島「……」

提督「加古はどうなんだ」

加古「……それ、あたしはちょっと違うと思うなあ」

鳥海「え?」

加古「多分あのとき、あたしたちは期待されてたんだよ。大破した艦娘もいながら、この窮地を無事乗り越えて、帰ってくる……」

加古「そういうストーリーを、あたしたちは暗に求められちゃったんだよ。で、おそらく鳥海は、その期待に応えようとしたんじゃない?」

鳥海「……そうかもしれないわ。でも……」

加古「それになにより、深海棲艦の侵攻は止めなくちゃいけない……!」

鳥海「そう……だから、私たちは進むことを決意したんです」

提督「……」

明石「でも、それで沈んでしまったら元も子もないでしょう!? なんでそんな無茶を、美談みたいに話せるんですか!」

加古「そうだねえ……沈んだら終わりだよねえ。今思えば、ほんと、あたしも馬鹿なことしたもんだよ」


提督「じゃあなにか? お前らはその一日限定の留提督とやらの綺麗事にまんまと乗せられたってことか?」

鳥海「っ!!」

摩耶「お、おい!」

霧島「司令、その言い方はさすがにどうかと……!」

加古「いや、その通りだよ」

全員「!」

加古「留提督は、そうやってあたしたちを鼓舞して、勝ってこいって無茶ぶりしたわけだもの」

加古「それであたしは、もう駄目だ、って思って、諦めたんだ」

明石「そ、それってどういう……」

加古「あたしはあのとき、最初から勝つつもりで進軍したわけじゃない。あたしは、最初から沈むつもりで先に進んだんだ」

鳥海「え!?」

摩耶「はぁ!?」

霧島「!?」

朝雲「……」

提督「どういう意味だそりゃ。そんなにその留提督が気に入らなかったのか?」

加古「いいや? どっちかっていうと遠大佐に愛想が尽きたっていうか、今回の件が決定打になったって感じかねー……」


提督「ほう。決定打ってのはどんなどこだ?」

加古「昔みたいに捨て艦するならいざ知らず、今は大破したら引き返すってのが鉄則でね。遠大佐はそれを守る人だと、あたしは思ってたんだ」

加古「それが今回、留提督がいいところを見せたいがための進軍の指示を、止めようともしなかったんだ。それで幻滅したってのが一番だね」

加古「あとは、留提督の進軍を促す言い方が気に入らなかった」

加古「途中撤退は海軍として恥ずかしくないかとか、目的を果たせないのは格好がつかないとか、まー聞いてていやらしい台詞が聞こえてきたんだ」

加古「さもあたしたちが進みたくて進んだと言わせたくて、そういう言い方をしたんだろうね」フン

提督「そいつらが責任を負いたくないからか」

加古「わかんないけど、そんなとこだろうねえ。それであたしもちょっとむかっと来ちゃって」

加古「本当ならさ? そんなことを留提督が言おうものなら、遠大佐が諫めてくれてもいいじゃないか」

加古「でも、遠大佐は何も言わなかった」ウナダレ

加古「だからあたしは、いいよ、進もう、って言ったんだ」

鳥海「……!」

提督「諦めの意味での、もういいよ、か」

加古「うん……なんていうかさあ、なんて言ったらいいかわかんないけど、糸がぷっつり切れちゃったんだよね」

加古「ああ、もうどうでもいいやって。もう暴れるだけ暴れて、終わっちゃおうってねぇ……」

提督「……」


加古「留提督への当てつけも少しはあったかな……」

加古「自分が指揮執ったときに艦娘沈めるのって、ああいう人たちにとってどのくらい痛手なのかもわかんないけど」

加古「でもさ、今思い起こしてみても、一番腹が立ったのはやっぱり遠大佐かなあ」

加古「ちょっと来ただけのやつに好きに言われて黙ってるって、あんたそこまで腑抜けたのかって」

鳥海「……」

加古「ま、あたしにゃいろいろ思うことあったんだけど、鳥海を巻き込む気はなかったんだ」

加古「落伍すんのはあたしだけで良かったんだよ。なんでぼろぼろの鳥海が、あたしをかばったりなんかしたのさ?」

鳥海「……昔を、思い出したの」

加古「昔……? ああ、艦だったころの……」

鳥海「二度も、私の目の前で沈むのを、見過ごせるわけないじゃない……」

加古「そっか……そだね。ごめん」

提督「……こいつらもあれか。艦だったころの因縁を覚えてるわけか」ヒソッ

明石「そういうことですね」ヒソッ


提督「とりあえず、お前らんとこの遠大佐が何を考えてるのかって話になるんだが……」

加古「あーごめん、遠大佐についてはもう勘弁。あたしはもう関わりたくないっていうか、見せる顔がないっていうかさあ」

鳥海「加古さん!? それとこれとは話が別でしょう!? お別れするならするでご挨拶しないと!」

加古「えーー?」

摩耶「……鳥海ってこんなに面倒臭かったっけか?」

霧島「真面目な艦娘ね……」

朝雲「え、えーっと、話の途中でごめんなさい。ちょっといい?」

提督「? どうした?」

朝雲「鳥海さんと加古さんに聞きたいんだけど、遠大佐ってさ、もしかして……」


朝雲「秘書艦に、雷を連れてない?」


加古「!」

鳥海「そ、そうだけど……あなた、遠大佐を知ってるの?」

朝雲「あー、はい。まあ……そっか、そうなんだ……」

提督「朝雲?」

朝雲「あ、司令。もしかしたら気付いてるかもだけど……」


朝雲「遠大佐の秘書艦の子、古鷹さんが超過保護になった原因かも……」

提督「」

明石「」

鳥海「!?」

加古「え、なにそれ」

朝雲「えーと、私、この鎮守府に来る前にL大尉……その時は少佐だったんだけど……」

 * かくかくしかじか *

朝雲「……というわけで、古鷹さんも、過保護通り越して介護してるような感じだったのよね」

加古「うわあ……」ドンビキ

提督「俺の風呂やトイレまで世話しようとした時はどうしようかと思ったぜ」

鳥海「そんなことまで……」

朝雲「うちの古鷹さんが遠大佐の雷に触発されて、重度の世話焼き重巡になっちゃったんだけど、じゃあ当人はどうなのかな? って思って」

加古「雷がそこまでやってる可能性……ないとは言えないねえ」

朝雲「少なくとも、私たちが演習で出会ったころの遠大佐はまだまともだったと思いたいけど、あれから1年以上経ってるわけだし?」

明石「雷ちゃんにしても遠大佐にしても、いろいろこじらせて悪化してても不思議ではない、と」

霧島「悪化……」


摩耶「なあ提督、あたしたちは全くの外野だけどさ、話だけ聞く限りだと、やっべえんじゃねえの? そいつ」

加古「いやー、あたしは身内だけど、ぶっちゃけやばいと思ってるよ。実際、今回出撃する前から常々、誰か早く何とかしてーって思ってたし」

提督「明石は俺と同じ顔してるからまあ察するとして」

明石「えー!?」

提督「異論はねえだろ。霧島は今の話、どう思う」

霧島「……い、いえ、私が人様の判断をしていいのかどうか悩みますが」

提督「言い淀んでるってことはろくな感想じゃねえってことだな」

霧島「!?」

提督「で、鳥海は」

鳥海「……」アタマカカエ

提督「もはやフォローの言葉もねえ、と」

鳥海「准尉さん!?」ガタッ

提督「この中で、おそらく一番遠大佐を信頼しているであろうお前が、そういう顔してる時点でもうダメだろ」

提督「思い当たる節があるから考え込んでたんだろ? お前が無意識に目を背けてたのか、意識して目を瞑っていたのかは知らねえが」

鳥海「あうぅ……」


提督「もしかしたら、遠大佐がそういう状態だからこそ、戻って支えてやらないとって考えてたか?」

鳥海「そ、それは……」

提督「……」

鳥海「……そう、かも、しれません」

提督「そうか。そうしたいなら引き留めはしねえが……遠大佐にしても秘書艦にしても、更生させんのはくっそきっついだろうなあ」ウンザリ

朝雲「そうね……香取さんからも話を聞いたけど、すっごい大変だったみたいだし」ウンザリ

提督「まあいいや、どうせ遠大佐がどんな奴だろうと、俺には関係ねえしどうこうするつもりもねえ」

鳥海「じ、准尉さんっ!?」ガタガタッ

提督「そこ驚くところかよ? 俺がどうにかできると思ってんのか?」

明石「まあ、普通に考えたら何もできないですよね。秘書艦変えてくれ、って言って変えてもらえるかどうかはそこの提督次第ですし」

霧島「そもそも、お相手が大佐ですから司令の階級ではちょっと……進言したくてもできる立場にないと思いますが」

摩耶「おまけにうちの提督、態度も口も悪りーもんなー」

摩耶「お前の秘書艦なんとかしろとか、上から言われてもフツーにむかつかれるだろーに、こいつが言ったらどうなるかわかったもんじゃねーぞ?」

鳥海「ま、摩耶!? あなた、司令官さんに向かってなんてこと言うの!?」

提督「うん? 摩耶の言う通りだと思うが?」

鳥海「えええ……?」


朝雲「ねえ司令、この二人はこれからどうするの?」

提督「とりあえず、本営からの情報が来るまではこの鎮守府で預からねえとな」

提督「リストに載っかってくりゃあ、ここで働くかどうかの二択だが、そうでなかったときは鳥海は戻ってもいいだろう」

提督「そのときに、加古も一緒に戻るかどうかは、加古の判断に任せるってだけの話だな」チラッ

加古「……」

提督「……?」

加古「……ぐぅ……」コクリコクリ

朝雲「寝てるーー!?」ガビーン

提督「」

霧島「」

摩耶「いや寝られんのかよ、この流れで!」

鳥海「寝ちゃうのよ、加古さんは……」ガックリ

明石「聞きしに勝るほどの図太さですねえ……」


 * 一方そのころ 本営 *

不知火「……」スタスタスタ

金剛?「……ヘイ、不知火」コソッ

不知火「? 金剛さん……?」

仁金剛「イエス、私は仁提督の秘書艦の金剛デス。あなた、墓場島の不知火デスヨネ?」

不知火「仁提督の……! よく、あの島の不知火だとお気づきになりましたね」

仁金剛「中将のオフィスから出てきたところを、こっそり追いかけてきマシタ」

不知火「そうでしたか、気付かずに申し訳ありません」

仁金剛「こちらこそ尾行みたいなコトをしてソーリーネ。部屋を出てすぐ声をかけるのも、ちょっと憚られるからネ……」

不知火「承知しております。不知火と親しくしてあらぬ噂を立てられるのは、金剛さんにしても仁提督にしても困るでしょうから」

仁金剛「……それはそうなんだケド、あの島を流刑地だとか、これから死ぬ人間が行く島だとか……」

仁提督「関わったら自分の艦娘が轟沈したり、深海棲艦化するだとか……私が聞いた噂だけでもヒドイと思うヨ?」

不知火「立ってしまった噂を必死に弁解しても面白がられるだけですから。それより、不知火に何か御用でしょうか」

仁金剛「イエス、私の仁提督から伝言デス。なんでも、墓場島のことを詳しく調べている人がいるらしいヨ?」ヒソヒソ

不知火「! ……どういうことですか」


仁金剛「轟沈した艦娘を助ける方法を、熱心に聞いて回ってるみたいネ。それで墓場島の噂を聞きつけたみたいなんだケド」

仁金剛「妙に張り切ってて、あの勢いだと最悪、墓場島に乗り込んで行くかもしれないワ……!」

不知火「しかし、轟沈した艦娘を自分の鎮守府に連れ帰ることは……」

仁金剛「イエース、私もそれは知ってるし、わかってるつもりヨ? でも、あの人たちはそんなことはお構いなしみたいで……」

仁金剛「むしろ、悪評の多い墓場島から、轟沈した艦娘を助け出したら逆に評価されるんじゃないかー、とか?」

仁金剛「トンチンカンなコトを言ってたらしいカラ、墓場島の関係者に知らせないと、って、仁提督が言ってたんデス」

仁金剛「それで以前、中将と関係があると聞いて、丁度良く不知火の都合が聞けて、私に伝言を頼んだわけデース」

不知火「! それは……ありがとうございます」

仁金剛「あなたはこれから墓場島に戻るのでショウ? 提督准尉に、伝えてあげてくだサイ」ニコッ

不知火「はい……お心遣い、本当に痛み入ります」ペコリ

仁金剛「ユーアーウェルカム! ついでに料理上手な比叡と、妹思いの黒潮にも、よろしく伝えてネ!」

仁金剛「それでは私は仁提督のもとへ戻りマース! シーユー!」タタッ

不知火「……」ケイレイ

今回はここまで。

少しだけ続きです。


 * 数日後 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「……つうことはなにか? 遠大佐がこの島に乗り込んで鳥海たちを連れて帰ろうとしてんのか」

不知火「はい。まだ可能性の段階ですが」

提督「やれやれ……どいつもこいつも勝手な真似しやがって」

電「雷ちゃんが一枚かんでると思うと申し訳ないのです……」(←今日の秘書艦)

提督「何度も言うが、お前が委縮する必要はねえぞ?」

電「……なのですか?」

不知火「はい、あなたに落ち度はありません」

電「……」ションボリ

提督「と言っても気に病むのがお前らなんだよなあ……いくら姉妹艦だっつっても、一度も話してなきゃ他人だろうがよ」

不知火「ところで」チラッ

武蔵「む、どうした」

筑摩「?」

不知火「いえ。筑摩さんが、伺っていたよりも顔色が良いといいますか」


筑摩「一応、ね。浮かれてはいけないと思ってるんだけど……」

武蔵「利根と2秒ほど目を合わせても避けられなかったそうだ」

不知火「2秒、ですか……」

提督「あれで利根も努力というか、筑摩を怖いと思わないように必死になってくれてるからな」

提督「筑摩も筑摩で利根との接触を避けるために執務室に引き籠ってるわけだが、居場所がわかってる分、利根も安心してるみたいだし」

提督「お互い我慢もこの調子で続けてもらって、そう遠くなく良い結果になってくれりゃあ御の字だ」

提督「武蔵には、出撃せずに筑摩に付き合ってもらうっていう、別の意味で我慢を強いてるところもあるがな」

武蔵「いいさ、出撃するにも資材を節約せざるを得ない現状だ。今は執務で鎮守府に貢献させてもらおう」

提督「畑仕事も頼りにされてるみたいだしな」

武蔵「ああ、いい汗をかかせてもらっている」フフッ

 <シレーカーン!

提督「!」

扉の外の声「司令官、ごめんなさい! 両手がふさがってるから、扉を開けて欲しいの!」

電「この声は暁ちゃんなのです!」スクッ


不知火「不知火が開けます」ガチャ

暁「ありがとう司令か……じゃなくて、不知火? 戻ってきてたの?」カチャカチャ

武蔵「おや、お茶の時間か?」

暁「ええ、今日は電が秘書艦だから、なにか差し入れようと思って、作ってきたの!」

暁「こっちのラスクは金剛さん、ミルクティーは比叡さんに教えてもらったのよ!」エッヘン!

筑摩「あら、美味しそう。こんなに器用な暁ちゃんは初めてだわ。電ちゃんのお姉さんはすごいわね」ニコッ

電「!」

暁「そ、そんなに褒められると、ちょっと照れちゃうわ。えへへ……ありがとう筑摩さん」

武蔵「せっかく持ってきてくれたんだ、取り分けるくらいは手伝おうじゃないか」

電「い、電も手伝うのです!」

武蔵「……なあ筑摩。姉のことで電が落ち込んでいるのに気づいてたな? 貴様もなかなか妹思いじゃないか」ヒソヒソ

筑摩「ふふ……なんのことでしょう? 私は末っ子ですよ?」ヒソヒソ

不知火「……」チラッ

提督「……」

不知火(司令が心なしか笑っているようにも見えますが……言わないほうがいいでしょうね)


 * *

武蔵「それにしてもだ」フゥ…

武蔵「こんな島だからいろいろと不自由ばかりだと思っていたが、これほど自由というか、良い意味で緊張感がないとは思わなかったな」

筑摩「そうですね……」

提督「? どういう意味だ」

武蔵「轟沈した艦娘をそのまま運用すると、やがて深海棲艦になる……という話があったな?」

提督「おう」

武蔵「その割には鎮守府内に制約らしい制約がないなと、筑摩と話をしていたんだ」

筑摩「流れ着いた轟沈艦を運用し、深海棲艦になるかを調べるという建前があるのでしたら……」

筑摩「例えば監視カメラですとか位置情報システムですとか」

提督「ああ、そういう意味か……」

筑摩「立地はともかく、設備や機能が圧倒的に足りなさすぎではないかと。この体制で本営は納得しているのでしょうか?」

提督「本営の連中がとやかく言ってこないのは、自分の発言がきっかけで余計なことに巻き込まれたくないってのあるんじゃねえかな?」


提督「ただでさえ、俺が外と連絡とること自体を、中佐が良く思ってねえ」

提督「おそらくこの島に人を近づけさせないために、中佐が一枚も二枚も噛んでるんだろうな」

提督「俺もいたずらに中佐を刺激する動きを取って、こっちの身動きを制限するような真似はしたくねえ。準備ができるまでは大人しくしてるさ」

武蔵「なんだその準備というのは。物騒なことを考えていないだろうな!?」

提督「物騒じゃねえよ。いずれはこの島をどうにかして、艦娘たちだけの島にしたいと思ってるだけだ」

武蔵「!」

提督「治外法権と言えばいいか、領土と言えばいいか……不可侵領域みたいなものを、作ってやりたいと思ってる」

筑摩「……まるで国家ですね」

提督「!」

暁「……司令官?」

提督「そうだな……その形が、今のところは理想だな」

武蔵「おい、本気か!?」

提督「ああ、悪くねえな。悪くねえ……!」ニヤァァ

電「司令官さんの笑顔が相変わらず悪人みたいなのです……」タラリ


暁「暁たちのためなのはわかるけど、司令官はもっと普通に笑ったりできないの?」タラリ

提督「うん? 俺みたいなのがお前らみたいににこにこしてたら気持ち悪くねえか?」

暁「そんなことないわ、大人だって笑ってた方がいいわよ。金剛さんや比叡さんだって、にこにこしてるでしょ?」

提督「まあそうだけどよ、俺にはあいつらほど可愛げはねえぞ? それに、不知火だって滅多に笑わねえよな?」

電「そういえばそうなのです」

不知火「いえ、不知火は笑いたいときには笑いますので、どうぞお気遣いなく」

暁「……そういえば……」

提督「どうした?」

暁「扶桑さんって、ここへ来たばかりのときは全然笑わなかったんだけど、今はずっと笑顔よね? 笑ってないときがないくらい……」

提督「あー……あいつは前の鎮守府の扱いが非道かったからな。その反動じゃねえかな?」

暁「司令官は理由を知ってるの?」

提督「ああ。知りたいんなら扶桑を呼ぶぞ?」

暁「そ、そこまでしなくていいわ!?」


武蔵「提督よ、ここでお前が話せばそれまでじゃないか?」

提督「この手の話は本人不在のところで話したくねえんだよ。当人のあずかり知らねえところで、俺がべらべら喋ってたら気分悪いだろ」

武蔵「しかし、利根のときは」

提督「利根は話が別だ! 思い出させたらぶっ倒れるような話、本人にさせられるかよ!?」

武蔵「ぐ……」

提督「正直、利根の過去はできれば誰にも知られずに、触れられなければいいと思ってたんだ」

提督「だが、事情を知らないがために利根があんな目に遭うなら、知ってる奴が……っつうか、この場合俺だよな。俺がどうにかするしかねえ」

提督「利根自身の名誉もある。ことがことだけに、あんまりおおごとにしたくなかったんだがな」

筑摩「……」ウツムキ

電「司令官さん以外には、このことを知ってる人は誰だったのですか?」

提督「来た当初からその辺の事情を知ってたのは、確か朝潮だけだったはずだ。その後、長門にも軽く話して……」

提督「明石と如月にも話したんだが、それはそれからもう少したってから……利根がだいぶ良くなってからだな」


暁「……ねえ、司令官? もしかしてその話、利根さんが入渠しないのと関係ある?」

提督「……」

暁「……ふーん、そう。そういうことなの」ウナヅキ

電「あ、暁ちゃん? どうかしたのですか?」

武蔵「おい、どういう意味だ」

暁「司令官がそういう顔をして押し黙ったってことは、当たってるけど答えたくない、ってことでしょ?」

提督「そういうこった。ったく、お前らほんとに察しが良くて助かるぜ」ハァ…

武蔵「おい、まさか……」

提督「言うなよ武蔵。利根がああなったのは、『ああなりそうになった』ってことだぞ?」

武蔵「で、では、利根は……!!」ワナワナ

提督「それ以上話したいんなら明石んところに行け。どんな顔されるかは知らねえがな」

武蔵「……!!」

筑摩「なんて……なんてこと……!!」ボロボロボロボロ

電「筑摩さん……!」


提督「……」

暁「……食器、下げるわね」

不知火「手伝います」

 カチャカチャ…

提督「……暁は、筑摩に声をかけないのか?」

暁「それはもう電がしているもの。駆逐艦に寄ってたかって励まされても、ちょっとね……?」

提督「なるほど。お前も声をかけるタイプだと思ってたが、それもそうか」

暁「司令官は声をかけないタイプよね?」

提督「ああ。俺が言っても逆効果だからな」

不知火「……当事者にしかわからない感情に口を出したくない、でしたか」

暁「ああ、そういうこと。司令官らしいわね」

提督「……」

今回はここまで。

だいたい投下できないときは、話の結末に悩んでいるか、
書いて読み直して気に入らなくて書き直しているか、どちらかです。
ご容赦願いたく。

お待たせしました、続きです。


 * 鎮守府内 会議室 *

(会議室内に、提督、不知火、朧、若葉、朝潮、吹雪、電、神通、那珂が集まっている)

提督「時間だが……古鷹がいねえな?」

那珂「朝雲ちゃんに呼ばれてるから、少し遅れてくるって言ってましたー!」

提督「そうか……まあ古鷹は接触させる気ねえから、後でもいいか」

朧「? 何の話ですか?」

提督「不知火からの情報だ。この島の鎮守府に、テレビの撮影班が入るかもしれねえ、って情報があってな」

吹雪「テレビですか!?」

提督「はしゃいでんじゃねえよ。俺はこの島のことをテレビに映す気はねえぞ」

吹雪「え?」

提督「お前たちに集まってもらったのは、この島の映像や音声が外に出るのを阻止してもらうためだ」

朝潮「阻止、ですか?」

若葉「……那珂さんにそれをさせるのか」チラッ

那珂「!」

提督「ああ、だから最初に那珂には謝らないといけねえ」


提督「テレビのことを知ってそうだからこそ協力を仰ぎたいわけだが、この話は那珂の望みとは真逆のはずだからな」

若葉「提督が、テレビに映ることを拒否する理由はなんだ?」

提督「とにかく目立ちたくねえってだけだ。俺はこの島の存在自体を世間から隠し通したい」

提督「ま、俺の考え関係なく、ただでさえ余所から蛇蝎のごとく嫌われてる鎮守府がテレビに出てちやほやされたら、面白くねえと思う連中が大多数のはずだ」

提督「万が一があったら、くっそつまんねえ理由で因縁つけられて陰湿な嫌がらせを受けるのは目に見えてる」

神通「でしたら、そのテレビ局が入ってこないようにするのが一番なんでしょうが……」

提督「それが難しい。この前、島に流れ着いてきた加古と鳥海。あいつらの轟沈の原因になった無理な指示を飛ばしたのが、芸能人だって話でな」

提督「その汚名を返上したいんだか何だかで、調べてるうちにこの島のことを嗅ぎつけたらしい。だよな不知火?」

不知火「はい。仁提督の秘書艦の金剛さんから、そのように伺っています」

提督「仁提督がそうだったように、そこがどういう場所か知らない奴は、こっちの都合なんか知ったこっちゃねえし、何をしてくるかもわからねえ」

神通「留提督……でしたか。彼が、自分が正しいと思っているのなら、私たちが受け入れられない要求をしてくる可能性もあるわけですね?」

提督「ああ。だからこうやって、心構えだけでもしておきたくて、集まってもらったわけだ」

電「その人は、轟沈した艦娘がここ以外では運用できないことを知らないのですか……?」

提督「知ってるはずっつうか、調べてりゃ嫌でも知ると思うが……」


不知火「むしろ、轟沈した艦娘をこの島から助け出すことが良いことであると思い込んでいる可能性があります」

不知火「金剛さんも、あのままでは島に乗り込みかねないと仰っていました」

電「……それってもしかして、司令官さんが悪者みたいな扱いになってませんか?」

朧「あー、ありそう……」

提督「そういうのは慣れてるから気にすんな」

吹雪「慣れちゃだめですよ!?」

提督「仮に俺が正しかろうと、奴らがこの島に来る時は、鳥海や加古を連れ戻しに来る時だ」

提督「否応なしにやりあう羽目になるんだろうな……面倒臭え」ハァ

提督「それでだ、少し脱線したが、那珂にはそういう意味で我慢を強いることになる……すまない」ペコリ

那珂「……!」

提督「俺は、この島にやってくるテレビ局の連中を、どんな手を使ってでも追い返すつもりでいる」

提督「その時にお前がいて、追い出すのに加担したように見られたんじゃ、お前が将来テレビに出て有名になろうって時にマイナスになるだろう」

提督「だから、この島に那珂がいること自体、悟られたくない。この島では隠れていて欲しいんだ」

電「司令官さん……」


提督「もっと言えば、那珂がこの島にいること自体、那珂にとってはマイナスだと思ってる」

那珂「え……? ど、どういう意味……!?」

提督「だってなあ、この島に関わっただけで本営にいい顔をされてねえんだぞ?」

提督「それだけじゃねえ。那珂は、この島の鎮守府に在籍してただけじゃなく、轟沈してこの島に流れ着いてる」

提督「メディアに出たいって望みがあるなら、このふたつは絶対に秘密にして隠し通すべきだと、俺は思ってるんだ」

提督「できることなら余所の鎮守府に移籍して、そこの鎮守府出身ってことで出自を偽るのも必要悪じゃねえかと思ってる」

全員「「……!」」

神通「この鎮守府とはかかわりがないように見せたい、と……?」

提督「そういうことだ。俺は俺が日陰者であることを望んでいるが、お前たちはその限りじゃないだろう」

提督「朧や吹雪みたいに轟沈したことがわかってるとさすがに厳しいが、那珂は所属すらわかってねえし、誤魔化そうと思えば……」

那珂「でも……でも、それじゃ!」

提督「!」

那珂「この鎮守府でお世話になったみんなを……応援してくれたみんなを、見捨てるようなこと、できないよ……!!」

提督「……」


那珂「ファンやスタッフを大事にするのが、那珂ちゃんが目指すアイドルだもん……!」

那珂「ステージも作ってもらって、そのステージに立つ前から、拍手も、応援や励ましもたくさんもらって……!」

那珂「こんなにお世話になったのに、この島の思い出を捨てちゃうようなことしたら、自分が許せないよ……!」

提督「そうか。そりゃあ……困ったな」

神通(困ってるようには見えませんね……)

不知火(微妙に嬉しそうですね……)

提督「俺はテレビ局の連中を陥れようとしてる。奴等が来た時に那珂がいるとは思われないようにしねえとな」

朝潮「ということは、那珂さんの存在を知られないようにすることも任務の一つですね!」

提督「ああ、そうだ」

吹雪「それじゃ、あとはどうやって追い返すか、ですね……」

神通「提督、今回の任務はどこまでを想定していますか?」

提督「俺はもう上陸されること前提で考えてた。この手の連中はこっちの静止なんざお構いなしだろうしな」

電「そういえば、仁提督のときも勝手に上陸されてたのです」

朝潮「霞からはむこうの長門さんに追いかけられたと聞いてますが……それも連絡なしだったと?」

朧「うん。事前連絡なしで来たらしいよ?」

朝潮「えぇ……」


提督「ともかく、あいつらが勝手に鎮守府内を歩き回る事態は避けたい。まずは戦艦を並べて上陸を拒否するつもりだ」

提督「で、万が一島に入られた場合なんだが、若葉、朝潮、朧には、奴らが変な動きをしないか取り囲んで見張ってて欲しい」

朝潮「!」

若葉「変な動き?」

提督「ああ。一番はなにより盗撮されたくねえ」

提督「最近の撮影機器は小さいからな、手元でなにかを動かしたり、もぞもぞしてるようなことがあれば、すぐに俺に教えてくれ」

提督「肩から下げたカバンの向きをわざとらしく動かしたり、ずっと腰に手を当ててたりするやつも要注意だ。カメラを仕込んでる可能性がある」

神通「提督、彼女たちが選ばれた理由を伺っても?」

提督「完全に俺の独断と偏見だが、テレビカメラを向けられても愛想を振りまかないことができるか、だな」

提督「潮みたいに恥ずかしがったり、暁みたいに愛想がよくても付け込まれるからな。無視と無関心があいつらの一番困る反応だ」

朧「笑わないようにしないといけないんですね?」

提督「どんなふうに映されるかわかんねえからな。ちょっと笑っただけで気があるみたいな壮絶勘違い編集されても困る」

提督「戦艦に頼もうかとも思ったが、霧島はここへきて日が浅いし遠慮がち、長門以外はちょっと愛想が良すぎる」

吹雪「山城さんもですか?」

提督「あいつが一番愛想いいだろ。自分からネタ振っていじられに来てんだぞ、あいつ」

朧「多分、そんな意図ないと思いますけど……」


提督「ともかく。若葉、朝潮、朧はその撮影グループを取り囲んで監視。で、その後ろをさらに神通が隠れて見張るのがいいだろうな」

提督「俺からの指示がない限りは、そのグループから何を訊かれても無視。任務に集中してくれ」

若葉「ふむ……わかった、任せてくれ」

提督「それから電と吹雪、あとで古鷹にも頼むが、お前たちは、あいつらの行動した場所に変なものが残ってないかを調べて欲しい」

電「へんなもの……ですか?」

提督「中佐のいる鎮守府にもマスコミが入ったんだが、ご丁寧に盗聴器を仕掛けていきやがったそうだ」

吹雪「盗聴器!?」

提督「普段から掃除してる古鷹なら、見たことのない置物が増えたり、コンセントに知らない機械が刺さってたりすれば気付くだろ?」

提督「電と吹雪も、この島の艦娘の中では古参の方だ。壁に変な穴が開いてないかとか、少しでも違和感があったらすぐ教えてくれ」

電「か、考え過ぎではないですか……?」

提督「んなもん石橋叩き割るくらいでいいんだよ」

吹雪「割ったら駄目じゃないですか!?」ガーン

提督「ぶっちゃけ奴らの渡る橋は、連中もろとももれなく叩き落としておきたいくらいだ」

吹雪「しれーかーん!?」ガビーン


提督「で、那珂にも協力を仰ぎたいんだが……」

那珂「は、はいっ!」

提督「那珂は俺たちを含めて、俯瞰できる場所から奴らを監視してくれ」

提督「もしかしたら、あいつらが勝手に他の場所に行って、そこから撮影を始めるかもしれねえ」

若葉「別動隊が出ると?」

提督「ああ、だかそれは俺が認めねえ。歩くときは一か所に固まって、神通たちの目が届く範囲にいてもらう」

那珂「うーん、それ、できるかなあ……?」

提督「? やっぱり問題あるのか?」

那珂「野外ロケするときって、ロケしている場所がどんなところかを見せる必要があるんです。周囲の景色が見えるとよくわかるでしょ?」

那珂「まとまって撮影しているグループから離れて、引いた風景を撮影する班も、いるはずなんですよー」

若葉「なるほど……」

那珂「そういうわけだし、見張るんなら見張りグループを複数作らないといけなくないかなー?」

提督「ちっ、くっそ面倒臭えな。撮影できる連中が複数いることを想定しなきゃなんねえのかよ……」

吹雪「それがだめなら、強制的に行動を制限するしかないですよね」

朧「でも提督は、向こうがアタシたちの指示に従わないことを危惧してるわけでしょ?」

朝潮「私たちが見張るとしても、相手が大人数では難しいかと……」


提督「そうだな……やっぱ戦艦たちも呼ぶか? それか、指示した場所からはみ出そうようなら、戦艦に強制的に海に投げ落としてもらうか」

若葉「!?」ギョッ

朝潮「!?」ギョッ

那珂「!?」ギョッ

朧「提督……本気ですか?」

提督「おうよ。むしろそっちのほうがいいかもしれねえな、撮影機器もついでにおじゃんにできるかもしれねえ」ニィ

那珂「提督さんってば、テレビを目の敵にしすぎだと思うんだけど……」オロオロ

提督「俺は単純に、この島のことを放っておいて欲しいだけだよ。テレビに映るなんてもってのほかだ」

提督「ん、そうだ、今からでも遅くねえ。中佐にも介入してもらって、奴らの妨害を依頼するか」ニタァ

若葉「」

朝潮「」

提督「俺がテレビで余計なことを言えば、一番困るのは中佐だ。奴ならことを大きくできそうだしなあ……!」ケッケッケッ

電「司令官さんがいつになく悪い顔をしているのです……」タラリ

若葉「だ、大丈夫なのかこの男は……?」

吹雪「もともとちょっと悪人っぽい顔してるけど、ここまで悪い顔は初めて見るかなあ……」

神通「中佐に迷惑をかけることができるからですね……気持ちはわかりますけど」

不知火「ああ、なるほど……納得です」


朝潮「」カチーン

朧「って、朝潮が固まったまま動かないんだけど……」

神通「あの、提督? あまり悪い顔をしますと、朝潮さんが認識を拒絶してフリーズしてしまいますので……」

提督「あぁ? こいつまだ俺を善人だと思ってんのか? おい朝潮しっかりしろ! 現実見ろ!」

朝潮「」チキチキチキ チーン

朝潮「はっ!? し、失礼しました司令官!」

朝潮「この朝潮! 司令官のためにならどんな悪事にも手を染める覚悟です!」ビシッ!

提督「だーからそうじゃねえって言ってんだろどうしてそう極端なんだおめーはよおおお!」アタマガシッ

朝潮「し、しれいいい痛い痛い痛いいぎゃあああああ!!?」メキメキメキメキ

吹雪「朝潮ちゃんから、今まで聞いたことないような悲鳴が!?」

那珂「提督さん手加減してあげてー!?」

提督「してるわ手加減くらい! 加減が出来てねえのは朝潮のほうだろどう見ても!」

朝潮「ひいい……この世のものとは思えないくらい痛いです司令官……!」ナミダメ

提督「お前がいろいろ取っ違えてるから、こうなるんじゃねえか。俺は朝潮に悪い事をしろなんて言ってねえぞ」

朝潮「で、ですが、司令官はいつも私たちのために、矢面に立って身を粉にしてくださっています!」

朝潮「その司令官のお役に立てることはこの朝潮にとって喜びです! ですから……」

提督「ったく、お前も面倒臭え奴だな」アタマガリガリ


提督「俺はお前らに気分が悪くなるようなことをさせたかねえんだよ。そういうのは全部俺に押し付けとけ」

朝潮「……」シュン…

吹雪「ほんっと、司令官は突き放すふりをして過保護なんだから!」

朧「清濁併せ呑む、って言葉がありますけど、濁ってる方は提督が率先して呑み尽くしに行ってますよね」

提督「ふん……」

朝潮「……司令官。朝潮は、司令官のお力になることを許していただけないのでしょうか……」ポロポロ…

提督「……」ピク

若葉「提督。いいのか、このまま泣かせてて」

提督「……」ムッ…

朝潮「あ、朝潮は、司令官に助けていただいた御恩があります。だからこそ、司令官の苦境ならば、私も……ぐすっ、ぐすっ」

吹雪「泣ーかした、泣ーかした」ボソッ

朧「かーすみーに言ってやろ」ボソッ

提督「ぅっだああああ! 茶化してんじゃねえよ! くそ! ああくそ!」ウガー!

提督「おい朝潮っ!」

朝潮「は、はい!」ビクッ

提督「いいか!? まず、信頼してなきゃここには呼んでねえ!」

朝潮「!!」


提督「真面目といえば真っ先にお前が来るくらいにはお前のことを評価してるし」

提督「これからやってもらう任務も人間のためじゃなく、この島のための任務だ。ぶっちゃけ人と関わりたくない俺の我儘だ」

朝潮「……!」

提督「俺一人じゃあ手に負えない。だからお前にも力になってもらおうって話だ。嫌か?」

朝潮「い、いえ! そんなことはありません!!」

提督「協力してくれるなら、頼みたい。大丈夫か?」

朝潮「お任せください! 朝潮は、これからも司令官に尽くす所存です!」ビシッ!

若葉「……なんだか愛の告白みたいな所信表明だな?」

朝潮「!?」カオマッカ

提督「若葉。お前も変なこと言うな」セキメン

若葉「フッ……これは失礼した」

電「痴話げんかはそのくらいにして、とっとと話を進めるのです」チッ

朝潮「!?」ビクッ

那珂「!?」ビクッ

若葉(なんだこのプレッシャーは!?)ビクッ

吹雪(電ちゃんが舌打ち!?)ギョッ

朧(電も感化されてるっていうか、すれてきてるのかなあ)


提督「だから茶化すなっつってんだろが……つうか、任務自体はさっき説明したのがすべてなんだがな」

那珂「この島の情報を持ち帰らせるな、ってことですね?」

提督「ああ。俺は、この島の存在は極力世間に公表したくない。海軍にとっても扱いに困るだろうからな」

若葉「海軍もなのか?」

提督「俺の個人的な事情だけでなく、本営も少なからずこの島には関わりたくないみたいなんだ」

若葉「それはやはり、轟沈した艦娘が生活しているからか?」

提督「一番はそこだと思うが……本営でこの島の話題を出すと嫌な顔をされるらしいぞ? L大尉がそう言っていたんだ」

不知火「それに関してですが……」スッ

電「不知火ちゃん?」

不知火「……あまり望ましくない言い方ですが、この島自体が、その……縁起が悪い、と言われているようなのです」

不知火「聞くところによれば、流刑地呼ばわりもあるらしく……島と関係すること自体、忌避されているとも言えましょう」

提督「流刑地ね。へっ、いいじゃねえか、そういう噂があるんなら、ますます人も寄ってこねえ。いい気分はしねえけどな」

若葉「なるほど。それなら確かに、若葉もそうだ」

若葉「止提督は特に世間体を気にしていたから、命令違反した若葉たちを解体以外の方法で抹消したかったと考えれば、合点がいく」


朧「それって、朧たちもそういう扱いなのかな……」ムスッ

提督「お前たちは事情が違うだろ……っつうか、悪いのは前の鎮守府の提督じゃねえか」

提督「けど、まあ、そうだな。そういうの関係なく、一緒くたにされてる感じはするな」チッ

提督「気分は悪いが、それで今まで奴らからの干渉がないことを良しとしてきたのも、まあ、俺だからな……」

吹雪「で、でも、そうしないと私たちだって、処分されてたかもしれないんですから!」

朝潮「そうです! 司令官の判断あればこそ、私たちが活動できているんです!」

提督「……」

不知火「司令。僭越ながら、今はこれからやってくるであろう敵に備えるのが最優先ではないでしょうか」

提督「……ああ。それもそうだな。そっちを悩むのは後にするか……」フー

提督「とりあえず今日のところは解散だ。電と吹雪はあとでまた来てくれ、古鷹と調整して話させてもらうからよ」

吹雪「はいっ!」

電「了解なのです」

 ゾロゾロ…

提督「ああ、そうだ、電」

電「はい?」クルリ


提督「ちょっといいか?」テマネキ

電「な、なんでしょう?」

提督「……全員行ったな。いや、お前が舌打ちなんて珍しすぎてな」

電「!」

提督「何かあったのか?」ジッ

電「な、なんでもないのです!」ダッ

提督「……そういう奴ほど、なにか抱えてんだよな。やれやれ……」



電「……」

電(電は、司令官さんのお役に立ててるのでしょうか)

電(司令官さんは、信頼してなきゃここに呼んでないと言いましたけど……)

電(電も、朝潮ちゃんのように、ちゃんと気持ちを伝えられれば……)

電「……」

電(B提督鎮守府で、電を初期艦に選んで貰ったとき、一番お役に立てるように、誓ったのに……)

電(……それすら、叶わず……)

電「……」

今回はここまで。

そろそろ投稿の予感

>>452
なんでわかるんですか……(白目


続きです。


 * 北東の砂浜 *

霞「なによ、また一人でぐじぐじ悩み事?」

提督「まあな」

霞「まあな、って……あんたねえ」ハァ

霞「……朧と吹雪から聞いたわよ。朝潮姉のことと、那珂さんのこと」

提督「そうか。朝潮はまあともかく……那珂のことは、どうにもうまくいかなくてな」

提督「あちらを立てればこちらが立たねえ。まったく、世の中はうまくできてやがんな、ってなぁ」

霞「当たり前じゃない、あんたは欲張り過ぎなのよ。あれもやってこれもやって、それをあんた一人で考えて」

霞「三人寄れば文殊の知恵、って、朧も言ってたわよ。もう少し誰かを頼ったらどうなのよ!」

提督「俺は楽をしたいだけのに、お前らに頼るのはどうなんだ?」

提督「今回の話だって俺の我儘だからな。これでも目いっぱい頼りにしてるつもりだぜ」

霞「……ふーん、私は頼りにならないってわけ?」

提督「頼れるか、って意味では頼りになる方だと思ってるさ」

提督「ただ、今回の相手は無視しなきゃいけねえんだよ。一言物申さずにはいられないお前にゃ向かねえなって判断しただけだ」


霞「はぁ……わかったわよ。あんたがそこまで言うなら、従うわ」

提督「そうしてもらえると助かる。ついでに、今回手伝いを頼んだ連中には徹底して無視しろって伝えてるんだが、お前もできるか?」

霞「いいわよ。どうせ言っても聞く耳持たない相手なら、最初から相手にしないほうがいいわね」

霞「でも、手助けがいるんなら、黙ってないで私たちに言いなさい。いいわね?」

提督「ああ。また蹴落とされたくねえしな」

霞「っ! か、カナヅチ相手に、そんなことするわけないでしょ!? バッカじゃないの!?」

提督「……悪かったよ、そんなに怒んな」

霞「だいたい! 泳げない自覚があるんなら、海辺にぼーっと突っ立ってんじゃないわよ! 波に掻っ攫われたいの!?」

提督「……波に、か……」

霞「? ちょっと!?」

提督「……ん、ああ、悪い。ぼーっとしてた」

霞「な……何やってんのよもう! 大丈夫なの!?」

提督「ああ……海に落ちたときのことを思い出してな」


提督「なぜかと言われたら説明できねえが、海そのものは嫌いじゃなかったんだ。不思議と、落ち着くっつうか……」

提督「海の中に、沈んでいく時も……そう……」

提督「……」

霞「ちょっ……しっかりしなさいよこのクズ!!」ハライゴシ

提督「うお!?」グイッ

 ドシャッ

霞「……ったく! 頭使いすぎて、自分が疲れてんのに気付いてないんじゃないの!?」

霞「私たちに無理するなって言ってるんだから、艦隊の指揮を執ってるあんたこそ実践して見せなさいよね!」

提督「……わかったよ。確かに呆けてる場合じゃねえしな」ムクッ

霞「ったく、もう……話を変えるけど。あんた、好きな食べ物ってある?」

提督「あん?」

霞「疲れてるみたいだから気を使ってあげてるのよ。少しは察しなさいよね、バカ」

提督「……」

霞「で? 何が好きなのよ」

提督「……悪いが、ぱっと思い付かねえな。これと言って、好きなもの……」


霞「そう。なら質問を変えるわ、食べたいものってある?」

提督「……んー、そうだな」

霞「……」

提督「豚レバーの竜田揚げ」

霞「レバー?」

提督「最近食ってねえな、と思ってな。久々にそういうのも食いてえな、と思っただけだ」

霞「ふぅん……苦手な人も多いって聞くけど、あんたは違うのね」

提督「好き嫌いは別にして、スーパーでバイトしてた時に売れ残ってたのを安く買ってたんだ。まあまあうまかった記憶があるがなあ?」

提督「そういやモロヘイヤとかも一時期流行ったんだが、あれも調理方法がわからなくて売れ残って買わされたりしたな」

霞「ああ、あれね……どうやって食べてたの?」

提督「ネギと紫蘇と茹でたモロヘイヤ千切りにしてめんつゆに入れて、そうめん食ってた」

霞「よく考えるわね、そんなの」

提督「なんかの雑誌で見たんだ。大体の料理の知識は本からだな」


霞「ふーん……じゃ、じゃあ、逆に苦手なものってなによ?」

提督「あー、馬鹿みたいに唐辛子入れたカレーとか、胡椒の味しかしねえラーメンとか、下が見えないくらいマヨネーズかけたどんぶり飯とか……」

提督「一つの器に、どばーっとひとつの調味料だけを入れたよーなのは理解できねえ。薄味のが好みだし、激辛とか激甘とかは食う気しねえな」

霞(……つくづくここに流れ着いた比叡さんがあの比叡さんで良かったわ)

提督「あとはナントカの踊り食いとか、芋虫を食えとか、そういうゲテモノもパスだな。せめて食える見た目にはしてほしいぜ」

霞「なるほどね……よくわかったわ」

提督「それはそれとして、肉だって貴重なのに、レバーなんて保存のきかねえもん、わざわざこんな離島に送ってくれるかね」

霞「そんなの、聞いてみなきゃわからないでしょ! 聞く前から諦めるなんて、情けないと思わないの!?」

提督「贅沢が絡む話だからな。俺も向こうには頼りたくないし、期待はしないほうが気楽だぜ」

提督「それがなくても、釣り人は増えたし、伊8が海底の海産物とってきてくれるようになったから、献立もだんだん豪華になってるじゃねえか」

提督「お前たちの料理の腕も上がってるし、これ以上の贅沢を言っちゃあ罰が当たるだろ」

霞「……ふ、ふん! あんたはもう少し欲を出したらいいのよ! ったくもう!」プイッ

提督「欲張りだの欲を出せだの、さっきと言ってることがあべこべだな」ボソッ

霞「何か言った!?」ギロリ

提督「何も?」


 * それから数日後 執務室 *

鳥海「准尉さん、申請用の書類の確認、終わりました」

提督「ご苦労さん、っと……悪いな、手伝ってもらって」

鳥海「いえ、お世話になっていますので」ニコ

潮「わぁ……字が綺麗……!」

提督「これで摩耶と同じ高雄型だからなあ……口の悪いあいつとは大違いだ」チラッ

加古「ふわ~ぁ……」ゴロゴロ

提督「で、ずっとソファでごろごろしてるあいつが古鷹と同型っつうのも、なんつうか、なあ……」

潮「古鷹さん、いつもお掃除してる印象ありますから、対照的ですよね……」

提督「働く奴とだらける奴、元気な奴とお淑やかな奴ってことで、世の中どっかでバランス取れてんのかねえ……」

 扉<コンコンコン

武蔵「戻ったぞ」チャッ

筑摩「提督、こちらは明石さんから今月の収支報告です」

提督「おう、ご苦労さん。潮、数字チェック手伝ってくれ」

潮「は、はい!」


武蔵「……おい、加古」

加古「ふぁい……?」ムニャ

武蔵「貴様、本当に古鷹の妹か?」

加古「うん、そーだよー? 古鷹型の2番艦、加古ってんだー」ムニャー

武蔵「先日の砲撃演習では高得点を叩きだしたと聞いているが……これでまともに戦えているのか?」

鳥海「驚かれるのも無理はないと思いますが、これでも加古さんは遠大佐の鎮守府では五指に入る実力者ですよ?」

筑摩「そ、そうなんですか?」

鳥海「はい、海の上ではギアが入るといいますか、潜水艦相手でさえなければ、だいたい任せられます」

鳥海「その分……陸の上では、こうなんです」

武蔵「なるほど。それでは、加古を誘ってまた演習しに行くか?」

加古「うん、また明日ねえ~」ゴロゴロ

武蔵「……」

鳥海「その、腰が重いのもたまにキズでして……」


 扉<コンコン

摩耶「よっ! 邪魔するぜ!」ガチャー

鳥海「ま、摩耶!? 准尉さんにそんな挨拶、失礼じゃないの!?」

摩耶「あん? いつもこんな感じだぞ? ノックだってしたし、あいつもこれでいいって言ってるし」

鳥海「……」アタマカカエ

摩耶「そんなことより、加古借りてっていいか?」

加古「んあ~?」ムクッ

摩耶「いやあ、この前一緒に出撃した時、お前すごかったよなあ! また一緒に出よーぜー!」

加古「んー、そのうちねえ~」

摩耶「そのうちぃ? 今見せてくれよ、今ー!」ペシペシ

摩耶「おーい、提督からも言ってやってくれよー、加古に出撃してくれってさぁ」

鳥海「摩耶っっ!?」

武蔵「提督なら書類の数字を確認中だ。少し待ってやれ」

摩耶「そっか、んじゃ仕方ねえな」


鳥海「武蔵さんも摩耶の態度は諫めないんですか」タラリ

武蔵「提督が良いと言っている以上、私が余計な気を回す必要もあるまいよ」

鳥海「……摩耶、あなた、よくこれまで解体されないで来たわね……」

摩耶「まー、あたしもここへ来て日が浅いんだけどな。前の鎮守府だと、いっつも霧島さんに助けられてたっけなあ」

鳥海「え」ヒキッ

摩耶「しょーがねーだろー!? C提督は、霧島さんの手柄をことごとく否定するんだぜ!?」

摩耶「てめーの気に入った艦娘ばっかり贔屓してデレデレしやがって! あんなくそ野郎に頭下げてられっかよ、くそが!」

鳥海「摩耶ああああ!?」プルプル

筑摩「あの……摩耶さんは、どうしてこの鎮守府に来たんですか?」

摩耶「あれ、話してなかったっけか。あたしは命令違反扱いでここに送られたんだよ」

武蔵「それは私も初耳だぞ……?」

鳥海「なんでも、姫級の深海棲艦と交戦中、攻撃するなって指示に背いたからだ、って、摩耶に聞きましたけど……」

筑摩「それは、作戦とかそういう意図ではなく……?」

摩耶「それを作戦って言うなら、手柄を他の艦隊に取ってもらうための作戦だろーな」

摩耶「今思えばあの指示って、あたしや霧島さんをわざと沈めるつもりだったんじゃねーかなー」


鳥海「私には、摩耶のその態度に問題があるとしか思えないんだけど……」

摩耶「だーかーらー、そいつは元の鎮守府にいるC提督が悪いんだよ。霧島さんのこと、ろくに見ないで文句ばかり言いやがって、くそが!」

鳥海「摩耶……せめてその言葉遣いくらいは、なんとかならないの?」ガックリ

摩耶「それは提督にも言ってやれよ。なんであたしにばっかり言うんだよ、不公平だろー?」

鳥海「……」アタマカカエ

武蔵「なあ提督? 貴様はその言葉遣いを直す気はないのか?」

提督「この齢で今更この性格を矯正すんのは無理だろ……っと、これでよし。潮、大淀の承認貰う準備をしといてくれ」

潮「は、はいっ!」

提督「で、何の話だっけか?」

摩耶「ん? ああ、加古を貸してくれって話だけど」

鳥海「それより前に、准尉さんへの言葉遣いの話でしょ……」

提督「言葉遣い? そんなの別に構やしねえよ」

摩耶「……」カチン

潮「て、提督! 言い方……!!」ハラハラ


摩耶「おい提督、お前、あたしのことどうでもいいと思ってんのか?」

提督「んん? なんだそりゃ?」

潮「あわわ……!」

筑摩「あの……提督は、艦娘にはできる限り好きにさせているわけですよね? 摩耶さんの言動にも言及はしないということですか?」

提督「ああ。誰かが被害を被ってるわけじゃなきゃあ、摩耶がどう振る舞おうと俺は構わねえよ」

摩耶「な、なんだよ、そういうことかよ……」

提督「まあ、それを鳥海が不快に思うんなら、他にもそう思う奴を集めて、当事者間で話し合ってくれってだけだ」

武蔵「ふむ……」

提督「鳥海みたいに礼儀正しくしろって言い分もわからなくもねえが、摩耶が無理だっつうんなら無理強いはしねえさ」

提督「俺も礼儀正しくしろって言われたら、面倒臭えから嫌だって言うだろうしなあ」

摩耶「めんどくせーのかよ!?」

提督「面倒臭えだろ。一応、中将とかと話すときとかなら、敬語使うくらいの最低限の礼儀はわきまえてるつもりだけどな」

筑摩「一応ですか……」

提督「そうでないなら、いくら取り繕ってもどうせそのうち襤褸が出るんだ。だったら最初から曝け出してた方が楽だろ?」


提督「それに、ぶっちゃけここが自分の家みてえなもんだしな。いい子ちゃんのふりして生活なんてやってらんねえ」

提督「とはいえ、いくら自宅と同じでも、だらしない恰好でうろつかないとか、そういう程度の気遣いはしてるつもりだがな?」

鳥海「家、ですか……? もしかして、准尉さんはずっとこちらに住んでおられるんですか? 日本へ帰ったりは……」

提督「帰る?」

潮「!!」ビクッ

提督「帰るもなにも、日本に俺の居場所なんかねえよ。ここが俺の終の棲家だ」

鳥海「え……?」

潮「ちょ、鳥海さん、それ以上は訊かないほうが……」

鳥海「居場所がない、って……ご家族はいらっしゃらないんですか? 心配されるのではないかと……」

潮「ちょ……!!」ビクビク

摩耶「やめとけ鳥海。それ以上訊くな」スッ

鳥海「え?」

摩耶「わけありなんだよ。こいつは、妖精と話ができるのを馬鹿にされて、家族にも避けられてたらしいからな」

鳥海「……!」

筑摩「……」


武蔵「……なるほど。貴様の性格は、そういう環境によって作られたということか」

提督「そういうこった。思い出しても不愉快なだけなんでな、生きてはいるだろうが、俺の家族はいないと思ってくれ」

鳥海「それは……大変失礼致しました」ペコリ

妖精「提督? 家族はいないわけじゃないでしょ?」ヒョコッ

提督「……」

妖精「こらー! 無視しないのー!」

武蔵「妖精よ、家族がいないわけではない、というのはどういうことだ?」

妖精「うん、前に医療船が来て、その船に乗ってた女性提督に、家族と不仲は良くないって説教されてね」

提督「おい、妖精!」

妖精「そこで、今の自分の家族は、この鎮守府に一緒にいる艦娘たちだ、って言ったんだよ」

提督「……っ」セキメン

武蔵「ほう……この男にしては、なかなか熱い台詞じゃあないか」ニヤリ

提督「にやにやしてんじゃねえぞ、くそが……」

武蔵「いやいや、私は感心しているんだぞ? ふふ、そうか、家族か……」チラッ

潮「!」


武蔵「なあ提督。例えばだが、お前にとって潮は、家族だとしてどんな間柄になるんだ?」

提督「あぁ? 潮か?」チラッ

潮「……!」

提督「うーん……年の離れた妹ってところか? 娘と呼ぶにはでかすぎるし……どっちにしろ庇護対象って感じだな」

武蔵「ほほう。それはどういうところからだ?」

提督「遠慮がちで臆病、心配性で人に気を使いすぎてるきらいがある。昔はずっと不安そうな顔してたしな」

提督「最近は眉を顰めることもなくなったし、俺を叱るくらいには馴染めたから、いい傾向だと思うぜ?」

提督「とはいえビビリなのは変わってねえからな。昔のトラウマもあることだし、俺も極力、潮には触らないようにしてる」

潮「……!」ハッ

武蔵「触らないようにしている? なんだそれは」

提督「潮は前の鎮守府でひどいセクハラを受けたんだよ。だよな、潮?」

潮「……」コク

提督「だからそれを思い出させないように、男の俺は潮に触らないようにしてるってことさ」

潮「……」シュン


提督「ま、この鎮守府には、思い出したくない過去を持つ奴がたくさんいるんだ。俺も含めて、な」

提督「だからちょっとだけ気を遣ってもらえると、助かる」

筑摩「……」ウツムキ

鳥海「そういうことですか……」

武蔵「なるほどな。貴様が家族と呼ぶ理由、確かに合点がいくものだ」

提督「所詮は古傷の舐め合いだけどな」

提督「ここに来る奴はひどい目に遭わされてきた奴ばかりだし、少しでも良くしてやりたいと思って艦隊の指揮を執ってるだけさ」

妖精「提督が素直じゃないせいで、誤解されまくりだけどね?」

提督「今日はなにかと一言多いなお前……」

摩耶「ふーん、潮が妹か……」

提督「まあ、家族の枠に当てはめての話だからそう言ったが、真面目に妹扱いする気はねえからな?」

提督「そもそも、潮には姉妹艦の朧や、前の鎮守府からの付き合いの長門がいるし……」

提督「最近じゃあ陸奥とも仲良くなったみたいだしな。俺が出る幕でもねえだろ」フフッ

武蔵「!」

摩耶「!」

鳥海「!」

潮「!」


提督「この調子で、穏やかに過ごせる奴が増えりゃ安泰……って、なんだお前らその顔は」

武蔵「い、いや……」

摩耶(不意にいい笑顔見せやがって……)

潮(あんな風に笑ってるところ、初めて見ちゃった……)

鳥海「とてもいい笑顔でしたよ? 娘を思うお父さんみたいな……」

提督「お父さんだぁ?」ジロリ

鳥海「」

潮(もう戻っちゃった……)タラリ

妖精「提督、提督。睨んじゃ駄目だよ?」

提督「ああ、悪い。どうも父親ってものにいいイメージがなくてな……」

鳥海「ほ、本当にご家族……というか、ご両親が嫌いなんですね」

提督「俺の血縁に、ご丁寧に『ご』なんか付けなくていいぞ? 『ゴミ』ならつけてもいいが」

摩耶「おい、鳥海に汚ねえ言葉喋らせんじゃねーぞ、くそが!」

提督「……悪かったよ」フン

摩耶「あん? やけに素直だな……」


提督「別に素直ってんじゃねえよ。普通なら、そうやってお互いを思い遣るのが兄弟……っつうか、お前らは姉妹か。姉妹の理想のあり方だろ?」

摩耶「あ、ああ、そりゃー当然だと思ってるけど……」

提督「だったらそれでいいだろうが……ったく」

妖精「……もしかしたら、提督は嫉妬してるのかもね」

鳥海「嫉妬?」

妖精「提督にも弟さんがいたんだけど、提督の両親……特に父親に、提督の言うことは信じるな、耳を貸すな、って言われ続けてたから」

妖精「結局、弟さんも同じように提督を蔑むようになっちゃってね。お互いを助け合うなんてことがなかったから……」

妖精「憧れていたからこその、さっきの笑顔だったんじゃないかなあ」

全員「「……」」

提督「……ふん」

 扉<コンコンコン

大淀「失礼致します」チャッ

大淀「提督、くだんの艦隊がこの島に来る予定日がわかりました」

提督「……!」

今回はここまで。

ハードル上げるの勘弁してください……

続きです。


 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

(提督が双眼鏡を構えている)

提督「……おいおい、マジで来やがったぞ。どの面下げてこの島に乗り込もうってんだ、あの連中」

大淀「提督、早く準備を。あのサイズの巡視船なら、15分ほどで到着します」

提督「チッ、つくづく面倒臭えな」

大淀「私だって相手にしたくありません。できることなら今すぐ帰ってほしいと思ってますよ」

大淀「ですが、誰かが動かなければ追い返すこともできません。提督、お願いします」

提督「……何か言われたのか?」

大淀「いいえ? 自分たちで沈めておいて『助けてあげる』とでも言うような相手の態度が気に入らないだけです」

提督「……十分じゃねえか。さぁて、とっとと準備するか」

 * * *

 * *

 *


 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

(接岸した海軍の巡視船から降り立つ数名の男女)

遠大佐「よいしょ……っと。雷、大丈夫?」

雷「ええ、大丈夫よ! ありがとう司令官!」ニコッ

雷「留提督も大丈夫?」クルッ

留提督「とうっ!」ピョンッ スタッ

留提督「墓場島上陸!」ビシッ

雷「きゃー、格好いい!」パチパチ

留提督「ふふっ、ありがとう! ……ふーん、ここが墓場島かあ。当然だけど、鎮守府の建物もちっちゃいな」キョロキョロ

留提督「もしあの二人が轟沈していたら、この島に流れ着いている可能性が高いんだね?」

雷「そうみたい。私たちが本営で聞いてきたから間違いないわ!」

留提督「で、もしかしたら、あの二人が助かってるかもしれなくて、ここで働いてるかもしれない、と……」

雷「でも、本当に轟沈していたら、連れて帰ることはできないわ。聞いたでしょう? 轟沈した艦娘は……」

留提督「うん、それはわかってるよ」ウンウン


留提督「でも、この鎮守府はそれを承知で受け入れていて、その轟沈艦が原因の問題もこれまで起きていない」

雷「そ、そうね……」

留提督「でも、それよりも! この島に住んでいる艦娘たちのことを第一に考えれば!」

留提督「ただでさえ戦闘で傷付いて死の淵を彷徨い、せっかく生き延びたっていうのに……」

留提督「こんな小さい島に隔離されっぱなしで戻ってくることができない……それはあんまりじゃないか!?」

留提督「早く元の鎮守府に戻してあげるか、それに近い環境に戻してあげないと可哀想だよね!」

雷「え、ええ、それはその通りだわ……!」

留提督「だよね? だから、僕たちでこの仕事ができないか、相談してみようと思うんだ」

雷「ええええ!?」

遠大佐「……」

留提督「遠大佐にはこの話は既にしているんだ。ここの提督准尉にこの話をして、この鎮守府の艦娘を何人か引き取って……」

留提督「呉の鎮守府でリハビリをしてもらおう、という話に決まったんだ!」

雷「だ、大丈夫なの司令官!?」

遠大佐「……」ニコニコ


船内から聞こえる声1「そ、そんな話聞いてないですよ!?」

声2「お、おちついて……!」

声3「そ、そもそも、返して貰うこと自体、無理ですってば……!」

留提督「あの声は……」クルッ

声2→山風「司令官が、知らないはず、ない……!」

声3→ガンビアベイ「無理です! 無理無理……!」

声1→鹿島「遠提督さんに確認してください! 轟沈した艦娘の扱いについて、御存知のはずです!」

留提督「ああ! 鹿島じゃないか!!」パァッ

鹿島「ひっ」ビクッ

留提督「そんなに僕が心配なのかい? 大丈夫だよ、何も怖がらなくていいんだよ」カケツケダキヨセ

鹿島「ひぃっ?」ダキヨセラレ

留提督「それとも、僕に会いたくてじっとしていられなかったのかなあ?」カオヲチカヅケ

鹿島「ひいいいっ!?」オシリサワラレ ゾワゾワッ

山風&ベイ(うわああ……)ドンビキ

鹿島「し、知りませんっ!!」バッ タタタッ…

留提督「……行っちゃった。つれないなあ」


テレビクルー1「留さーん、俺たちも上陸していいんですかー?」

クルー2「カメラ準備できてますよー!」

留提督「あーそうだね、みんな入って!」

 ゾロゾロ

クルー3「ここが墓場島かあ」

クルー4「本当に何もねえな~」

留提督「ほら、千歳も足柄も! この島の准尉と知り合いなんでしょ? 早く来なよ!」

千歳「……」

足柄「……」

千歳「まさか、私たちがこの島に足を踏み入れるなんてね……」

足柄「ねえ、留提督が鳥海と加古を連れ戻すって話、聞いてる?」

千歳「初耳よ……流れ着いてきたか確認するだけ、一言お詫びの言葉を、って、それこそ何度も確認したじゃない」

足柄「そうよね? 私が聞き逃したのかと思ったわ……」

千歳「……はぁ」


足柄「千歳、大丈夫?」

千歳「大丈夫じゃないわよ……留提督は本職でもなんでもないのにルール無視しようとするし、遠大佐も全然頼れなさそうだし」

千歳「ただでさえ、ここに立ち入った提督たちが不幸な目に遭ってるって聞いてるのに、それを話してもまるで緊張感がまるでないし」

足柄「そ、そうね……この島に入ってもいない波大尉も、まさかあんな風になっちゃうとは思いもしなかったわ」

千歳「准尉と相容れないところに触れてしまったのがまずかったんだけど、なんだかそれを思い出すのよね」

千歳「留提督の楽観的な言動といい、行き当たりばったりな行動といい、ここまでやってしまえばこっちのもの的な発想といい……」

足柄「ああ……」

千歳「気が重いわ……」ズーン

足柄「……あの人たちが准尉に接触する前に、准尉に事情を説明しないと駄目そうね」

千歳「それはそうだろうけど……今から行くの?」

足柄「ええ、行ってくるわ。何もしないよりはマシよ!」ダッ

留提督「あ、おーい! 足柄、どこへ行くんだ!?」

千歳「提督准尉に事前に話をしに行ったのよ。みんなここで待ってて!」

クルー1「追いかけましょう!」

クルー2「カメラ回せ! 早く!」

千歳「ちょ、ちょっと待って!? まだ撮影許可取ってないでしょ!?」


 * 鎮守府内 玄関ロビー *

提督「ったく、どいつもこいつも、何の連絡もなしに勝手に上陸しやがって……」

若葉「なめられているんだろうな。提督、これを機に少しは地位向上を考えてもいいだろう?」

提督「んな面倒臭えことしてられるかよ。人間の役になんか立ちたくねえっつうの」

若葉「嫌だ嫌だで世の中渡っていけるほど世間は甘く……ん?」

 タッタッタッ…

足柄「玄関はこっちかしら……あっ」

提督「!」

若葉「あなたは……足柄さんか」

足柄「良かった、丁度ここにいたのね。提督准尉、お久し振りです」ペコリ

提督「……久しぶり? ……もしかしてお前、医療船にいたあの女提督の……」

足柄「はい、もと波大尉鎮守府所属の、足柄です。数日前から遠大佐鎮守府に身を置かせていただいています」

提督「もと? 数日前から……?」

若葉「知り合いなのか?」

提督「一度会ったことがある、って程度だが」


足柄「私のことは後にしていただいて。突然で申し訳ありませんが……」

提督「鳥海と加古か?」

足柄「え!? は、はい、遠大佐鎮守府所属の鳥海と加古がこの島に流れ着いていないかと……」

提督「来てるぞ」

足柄「来てるの!?」

提督「ああ。だが確認してどうする気だ?」

足柄「……実は、ある有名人……留って言う人なんですけど、その人が先日、一日提督として遠大佐の鎮守府で指揮を執っていまして」

足柄「そのときに、無理を押して進軍させたために、鳥海と加古が行方不明になってしまったんです」

足柄「それで、もし二人が見つかったら、私たちの鎮守府に戻ってもらうことができないか、ご相談をと……」

提督「ふーん……別にいいぞ」

足柄「いいの!?」

提督「加古と鳥海の二人が納得してそう望むんだったら、な。それから、俺は責任取らねえぞ」

足柄「……」アッケ

提督「なんだその顔は」


足柄「だ、だって、准尉は御存知でしょう? 轟沈した艦娘は深海棲艦になるかもしれないって話!」

提督「ああ。だから、遠大佐だったか? そいつがその責任を取るんだろ? 鳥海や加古もそれでいいっつうんなら俺は口出しはしねえよ」

提督「捜索に来た以上はそれなりに反省してるのかもしれねえが……だったら最初から無理させんな、とも言いたいがな」

提督「それで、ちゃんと上には断ったんだろうな? 俺とかじゃなく、本営の将官クラスの連中に、轟沈経験のある艦娘を運用したいって話をよ」

足柄「い、いえ……」

提督「うちが轟沈した艦娘をそのまま運用するのに、いろいろな条件を提示して中将に申請して、特例中の特例で許可が出たんだ」

提督「同じことを遠提督はやったのか? やらないと、連れて帰った後、練度も記憶も全部まっさらにさせられるはずだぞ?」

若葉「!?」

足柄「え、えええ……本当ですか、それ!?」

提督「まっさらにさせられるって話は眉唾だがな。ただ、轟沈した艦娘をそのまま運用するのは、この鎮守府以外に許されてないはずだ」

提督「それがなぜかは、お前ら把握してるか?」

足柄「……いいえ、少なくとも私は初耳です」

提督「その様子だと、遠提督はなぁんも考えずにここへ来たみたいだな?」

足柄「かもしれませんね……」ハァ…


提督「海軍の人間ならそのくらい知ってて、ちゃんとわかってここに来ると思ってたが……」

足柄「千歳の言う通り、嫌な予感がするわね……」アタマオサエ

足柄「ごめんなさい提督准尉、この話、一度持ち帰らせていただきます。今の話が本当なら、二人を迎え入れるための準備が不足してるわ……!」

提督「ああ、ちょっと待て、連中は埠頭にいるんだろ。出向いてやるから一緒に来い」

足柄「え?」

提督「俺が直接行ったほうが話は早えだろ」

若葉「確かにその方が話は早いだろうが……」

足柄「……」

若葉「足柄さん?」

足柄「……あ、ううん、なんでもないわ」

若葉「若葉もここへきてまだ日が浅いが、なんとなく言いたいことはわかる」

若葉「提督は、言葉に遠慮のない人だ。仮にも大佐にどんな言葉を浴びせるか、不安で仕方ない……」

足柄「……」

若葉「若葉たちは余計なことを言わないよう指示されている。なるようにしかならない、諦めてくれ」

足柄「そう……そうよね。無理言ってんのは留提督だものね」ガックリ

提督「ああ、そうだ足柄、あいつらカメラ持ってきてるだろ。最初に撮影やめさせるように言ってきてくれねえか?」

提督「俺はテレビに映る気はこれっぽっちもねえ。カメラを構えてる間はお前らの上陸は許可しない、迷惑だってことを最初に伝えてくれ」

足柄「え、ええ、わかりました」


 * 埠頭 *

足柄「……ということなんです」

留提督「えっ、それじゃ、せっかく来たのになにもしないで帰ることになるの?」

足柄「えっ」

クルー1「せっかくだから取材に行くのはいけないんですか?」

クルー2「この島の提督になんとか許可を貰って撮影させてもらいましょうよ」

留提督「せっかく撮影期間を延長してテレビのクルーも乗って来たのに、撮れ高なしはまずいよね」

足柄「で、でも、撮影は駄目だって言ってるのよ!? このままじゃあなたたちは提督と話ができないわよ!」

クルー2「仕方ない……このカメラ、ケースにしまってきてくれ」

クルー3「は、はい!」

留提督「これでいいんでしょ? 提督准尉さん、呼んできてよ」

足柄「え、ええ……」クルッ タタッ

クルー1「……よし、行ったな? 持ってきたか?」

クルー4「はい、小型カメラ持ってきました!」ヒソヒソ

クルー1「お前のウエストポーチに仕込んで撮影できるな?」ヒソヒソ

クルー4「はい、いけます!」


 (足柄が提督と若葉、朝潮を連れて埠頭に戻ってくる)

足柄「呼んできたわ。こちらが提督准尉よ」

提督「……」

足柄「こちらは遠大佐とその秘書艦の雷ちゃん、そして留提督よ」

遠大佐「……」ニコニコ

雷「雷よ! かみなりじゃないわ、そこんとこもよろしく頼むわね!」

留提督「准尉さん! 今日はお忙しいなかありがとうございます! よろしくお願いします!」テヲサシダシ

提督「……」

足柄「……准尉?」

提督「俺からの要件はふたつだ」

提督「ひとつ、この島に関する記録は全部消せ」

留提督「!?」

提督「ふたつ、とっとと帰れ」

雷「!?」


提督「以上だ」

留提督「」

雷「」

クルーたち「「」」

遠大佐「……」

足柄「あの……准尉?」ヒキッ

提督「俺の用は済んだぞ」フンッ

雷「と、取り付く島もないわね……」ヒキッ

若葉(まあ、そうなるだろうな)

朝潮(司令官、殺気立っておられますね……)

クルー1「あ、あの、准尉さん? 我々はこの島で撮影がしたいん」

提督「この島に関する撮影、録音などのすべての記録行為は禁止する」ジロリ

クルー1「ちょ」

提督「もし今どこかでカメラを回してるんならすぐ止めろ。止めねえんなら実力行使する」

クルー2「お、横暴だ! どんな権限があって禁止するんだ!」

提督「お前らこそどんな権限持ってきたんだ? 日本語通じるから日本の常識がまかり通るなんて思ってんじゃねえぞ」


留提督「で、ですから、こうやって海軍の皆さんに協力していただいて……」

提督「そうかよ。うちは協力しないから、もう帰れよ」

留提督「……っ」

クルー1「し、しかし、我々は遠大佐に協力していただくという話を……」

提督「だからそんな話はうちにはきてねえよ」

クルー1「ちょっ!?」

雷「し、司令官?」

遠大佐「……准尉。そこをどうにかできないか」

提督「できない」

遠大佐「……」ムッ

留提督「これは……准尉による上官に対する反抗、ということになるのかな……?」チラッ

雷「えっ? えーっと……」

提督「そうしたいんなら好きにしろ。その前に、本営から許可貰って取材に来たのか? だったらこっちに連絡が来るはずだ」

提督「それがねえんだから、お前らをこの島に通す義理も道理もねえ」


クルー1「いやいやいや! 私たちはこの鎮守府で艦娘が救われていることを世界に知らせたくて……」

提督「必要ない」

クルー1「なっ!? 必要なくはないでしょう!?」

クルー1「あなただって世界のために戦っているのに、その活動が誰にも知られないなんてあんまりじゃないですか!」

クルー1「こちらの留さんは今ドラマなどで売り出し中のアイドルなんです! 海軍の活動のイメージアップに……」

提督「要らねえっつってんだよ、わかんねえのか、くそが!」

クルー1「っ!!」

提督「お前らがどこの誰かなんて、俺たちにも、深海の連中にも関係ねえんだよ」

提督「テレビの人間なら手を振って貰えると思ってんのか? 海軍に無償で助けて貰えると思ってんのか!?」

提督「はっきり言う。お前らは邪魔だ、とっとと出て行けよ」

クルー1(ちっ、手強いな……!)イラッ

留提督「ここまで話が通じないなんて……! ねえ、遠大佐、雷ちゃん、なんとかできないかな?」

雷「う、うーん……」

遠大佐「雷、私からも頼む。何かいい方法はないか?」

雷「司令官……わ、わかったわ。それなら、せめて……!」


雷「准尉! 何の連絡もなしにここへ押しかけたことは、謝るわ……ごめんなさい!」ペコッ

雷「でも、ひとつだけ……ひとつだけ、お願いがあるの!」

提督「……」ピク…

雷「鳥海さんと加古さんに会わせて欲しいの……ここに流れ着いて来たんでしょう?」

提督「……会ってどうする」

雷「せめて、話をさせてもらいたいの。ここに流れ着くまで……そして、流れ着いてから、何があったのか」

雷「いま、ふたりがどんな気持ちなのか。お願い……話を、させてください」ペコリ

提督「……」

遠大佐「雷……」

遠大佐「准尉。私からもお願いする」ペコリ

提督「……!」

留提督「お、おい、みんなも! お願いします!」ペコッ

クルーたち「「お、お願いします!」」

提督「……」


足柄「……」

提督「……」チラッ

足柄(准尉は何を見て……あれは……)チラッ

朧「提督!」

 (提督たちに背後から駆け寄ってくる朧)

提督「ん? どうした、なにかあったのか?」

朧「耳を貸して下さい。あの人の……カメラが……ごにょごにょ……」

提督「……ふぅん、なるほどな」

留提督「……?」

提督「おいお前……雷、だったな?」

雷「!」

提督「お前に免じて、話はしてやるよ。ただし……条件がある」

雷「条件?」

提督「ひとつは、今そっちの船に乗せている艦娘も全員連れてこい」ユビサシ

足柄(千歳たちも……?)

留提督「……鹿島もか……!」


雷「え、ええ、わかったわ。もうひとつは?」

提督「もうひとつは……」スタスタスタ

クルー4「え」

提督「……記録はするな、と言ったよなあ?」グイッ

クルー4「あっ!」ポーチウバワレ

提督「このバッグの中にカメラ仕込んでやがったか。溶鉱炉に捨てとくぞ」

クルー1「ちょっと、待ってください! それを壊されたら困ります!」ダッ

提督「勝手に困れよ。俺はさっき忠告したぞ」

 小型カメラ<ミシッ

提督「こんなもの……!」

 小型カメラ<ミシミシミシ…!

クルー1「やめ……!」

 小型カメラ<グシャッ!!

提督「……」パラパラ…

クルー4「に、握り潰した……!?」

留提督「う、嘘だろ……!」


朝潮「し、司令官!? 手は大丈夫ですか!? 破片でお怪我をしては……!」

提督「ん? ああ、大丈夫だ」

若葉「ふむ……提督、詰めが甘いぞ」スッ

提督「ん?」

若葉「今のカメラは記憶媒体も小型化している」ハヘンヒロイアゲ

クルー2「あっ」

若葉「このカードを処分しないと、データが読み取れてしまうぞ」メモリカードテワタシ

提督「こんな小指の爪みたいなもんでか? ……やれやれ、こりゃあ厄介だ」パキッ

クルー1「ああ……!!」

クルー2「なんてことを!」

提督「なにが『なんてことを』だ。実力行使する、って俺は言ったぞ?」

提督「他にもカメラやら何やら持ってるなら、全部船に置いてこい。さもなきゃ、次はてめえらの頭をこうしてやるぜ……!」

クルーたち「「……」」ゾゾッ

遠大佐「……ここは准尉に従おう。鳥海や加古と話す機会を逃してはならない……そうだろう? 留君」

留提督「え、ええ、そうですね……」

雷「司令官、私、みんなを呼んでくるわね!」

遠大佐「ああ、頼んだよ」

雷「ええ、任せて!」

留提督「……」

今回はここまで。

梅雨加古が可愛かったので、
改二とバレンタイン古鷹と一緒にアケにください。
那智改二もはよ。

乙です。
小型カメラを手で握りつぶすってなかなかだよね。普通に握っても隙間に入って割れないだろうから手のひらと指で挟んで指力だけでプレスしたって感じか。
普通にバケモンだ…

雷のこの感じ、どっかでみた気がする。
そういや、古鷹の世話焼きは演習相手の秘書官からのアドバイスって言ってたけど、まさか…な。ハハッ…

以前は週一を目指していましたが、なかなか筆が整わず。
月刊よりは短い周期を目指しますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

>>503
小型カメラといっても、イメージ的にはコンパクトサイズのデジカメです。
提督はバケモノですよ。

>>510
>>409をどうぞ。

では続きです。


 * 数時間前、執務室 *

加古「……会いたくないなあ」グデー

鳥海「せっかく会いに来たのに追い返すわけにはいかないわ。戻りたくない理由を伝えて、途中退席するのはどう?」

武蔵「ああ、どうせ最後なんだ、顔を見せるだけでいいんじゃないか?」

長門「……私は、無理に会わなくても良いと思っているが」

武蔵「長門!?」

長門「会って話をすることが苦痛だというのなら、それを伝えて帰ってもらうのも、相手に対する答えにはなろう」

扶桑「それで相手が素直に帰ってくれれば良いのだけれど……」

鳥海「はい、だからこそ加古さん本人が面と向かって説明しないと駄目だと思っているんですが」

陸奥「本当に会わせていいのかしら。留提督が無理矢理連れ帰る可能性もあるわよ?」

鳥海「いくらなんでもそこまで強引なことは……」

摩耶「そうは言っても、留提督にしてみりゃ鳥海たちの轟沈は不始末だからなあ。ちからずくでってこともありえねえか?」

山城「それ、やったとしても本当に呉のお偉いさんが帰港を許すのかしら。呉の中でも下の方なんでしょ? 遠大佐って」

霧島「むしろ許可も取らずにこの島へ向かうこと自体、考えにくいのですが……」


山城「あら、上に報告しなくたって、この島に来ることはできるわよ。ふらっとやってきて駆逐艦たちを連れ去ろうとした輩もいたくらいだし」

筑摩「そ、そんなことがあったんですか!?」

山城「ましてや私たち艦娘が世界に現れて、海軍なんてものに縁のなかった民間人まで提督になってるご時世だもの」

山城「遠大佐も留提督も、海軍にとっての『普通』をどこまで理解してるかわかったもんじゃないわ」

鳥海「そ、そこまで悲観しなくても……それに遠大佐は民間出身ではありませんし」

長門「そうなのか!?」

武蔵「ならばなおのこと、上への報告は怠るはずがないな……」

扶桑「ですが、それはそれで、鳥海たちの進軍に苦言を呈さなければいけない立場でありながら、見過ごしたことは看過できないのでは」

筑摩「そうですよね。一言言えば轟沈を防げたはずなのに、どうにも解せないと言いますか……」

山城「直接的ではないにせよ、戻ってくるなとほのめかされたんでしょ? 悪いのはそいつらじゃない……頭に来るわ」

鳥海「あ、あの……皆さんは、轟沈を経験されたのですか?」

長門「……この場には、そうではない者の方が多いな」

鳥海「そうですか……これまで、この島に流れ着いた誰かが深海棲艦になったことはないんですか?」

長門「いや、それはないな」


鳥海「だとしたら、轟沈した艦娘が深海棲艦化すること自体、作り話という可能性も……」

山城「……まあ、なくはないわね」

筑摩「本営が何らかの理由で嘘をついていると……?」

霧島「確かに、何がきっかけで艦娘が深海棲艦になるのか、誰も証明できていないわね……」

陸奥「鎮守府が壊滅した記録が残っているんでしょう? 証言できる生存者がいれば、そこらへんもはっきりできると思うけど」

扶桑「生存者、いるのかしら……」

全員「「……」」

鳥海「准尉さんは、このことをどうお考えなんでしょう……」

長門「おそらく……あの男にとっては、その話が事実かどうかはさほど重要ではないはずだ」

鳥海「は……?」

武蔵「なんだと!?」

山城「どういう意味よそれ……?」

長門「あの男は、この島から人間を遠ざけるためにこの話を利用している、と私は推測している」

鳥海「!」


山城「私たちに対する同情のつもりかしら」

長門「そこは同情というより、提督自身が人間を毛嫌いしているからだろう」

長門「この島に来る艦娘の大半は、人間に嫌な思いをさせられているが、提督もそれは同じでな」

摩耶「あー……鳥海もこの前聞いた、あの話っすか? 両親にも嫌われてたって話」

陸奥「自分を迫害していた人たちと同じになりたくない、ってことなんでしょうね」

長門「人間を毛嫌いしているからこそ、提督は私たちの味方になってくれていて……」

長門「だからこそ、この島に流れ着いた轟沈艦娘が深海化しない、とも考えられないか?」

全員「「!!」」

筑摩「長門さんは、艦娘が深海化する原因がストレスだと考えているんですか?」

長門「確信はしていないが、かもしれない、とは思っているな」

長門(……ただ、この鎮守府に遊びに来ているル級が、ストレスを感じているとは思えないし)

長門(仮にストレスを感じていないとしたら、もしかしたらル級が艦娘になったりするのか……?)

長門「なんにせよ、この話は分からない部分が多すぎる。安易にこうだと決めつけるのは、良くないな」

霧島「ええ、推測だけでは机上の空論になりかねません」

武蔵「ところで……さっきから長門がよく質問に答えてるが、長門はこの鎮守府は長いのか?」

長門「ああ、私がこの島に最初に来た戦艦だからな。私が来るまでは駆逐艦と軽巡洋艦だけだったぞ」

摩耶「えええ!?」


筑摩「長門さんが最初なんですか!?」

山城「重巡もいなかったの!?」

武蔵「……珍しいのか?」

霧島「え、ええ、普通なら私たち金剛型や扶桑型、伊勢型が最初にくることが多いのですが……」

扶桑「……」

筑摩「そうでなくても、重巡より戦艦が先に着任すること自体、普通ないですよね」

 扉<コンコンコン

黒潮「司令はーん……って、なんやこれ!?」

武蔵「おお、遠征帰りか。提督は外周り中だ、書類なら私が預かろう」

黒潮「お、おおきに……っていうか、なんで執務室に戦艦や重巡が勢揃いしてんの……?」

長門「雑談しているうちに、加古や鳥海のいた鎮守府の遠大佐がどんな人物かの話になったんだ」

摩耶「加古がそいつに会いたがらねーんだけど……」

黒潮「はぁ……ええけど、加古はん寝とるよ?」ユビサシ

加古「すぴー……」

全員「「」」


 * 現在 *

 * 墓場島鎮守府会議室 *

留提督「本当に申し訳ない!」ドゲザッ

鳥海「留提督!?」

加古「……」

留提督「僕のせいで君たちをこんな目に遭わせてしまったこと……本当にすまなかった!」

雷「留提督……!」

鹿島(この人が、土下座するなんて……!?)

留提督「君たちが助かったこと……提督准尉のもとで治療してもらえたこと、本当に、本当に運が良かった……!」

加古「……」

留提督「君たちの帰りを待っている艦娘がいるんだ! 頼む、戻ってきてくれ!」

鳥海「留提督……」

加古「……あのさ。今回の話、何が問題だったか、わか」

留提督「それは全部、僕のせいだ! 君たちを止められなかった、僕の判断が悪かったんだ……!」

加古「そうじゃなくてさ……」


留提督「そうじゃなくないよ、君が悪いんじゃない! 僕の……僕の判断ミスなんだ!」

加古「だからさあ」

留提督「本当にすまなかった!」ガバッ

加古「ちょっとぉ……」

留提督「許してくれ!!」

加古「……」

提督「おい。お前、加古の話を」

留提督「准尉、今、僕は加古と話をしているんだ。茶々を入れないでくれないか」

提督「そうじゃねえよ。加古はそういうことを言」

留提督「部外者が口を挟まないでくれないか!」

提督「ああ?」

加古「ちょっと留提督?」

留提督「ああ、すまない加古! さあ、一緒に帰ろう、積もる話は呉の鎮守府に戻ってからゆっくり話そう!」

加古「……」


提督「……こりゃ駄目だな」

クルー1「ちょっと准尉さん、せっかく話がまとまりかけてるってときに、横から口を出さないでくださいよ」

提督「お前らには、まとまったように見えたのか? 今の話」

加古「……こりゃー駄目だねー。話をするだけ無駄だわー」ハァ

留提督「ど、どうしてだ!? まだ何か心配事でもあるのかい!?」

加古「どうせ聞く耳持たないっしょ?」

留提督「そんなことはない!! 体に不安があるのなら呉に戻ってからいくらでも検査する!」

留提督「なんにしても、こんな離島で、何も悪くないのに隔離された生活をしていたらおかしくなるぞ!」

留提督「僕は君たちが心配なんだ!!」

加古「……」チラッ

鳥海(……加古さんが見てるのは……遠大佐?)

遠大佐「……」

鳥海(遠大佐、ずっと俯いてるけど……)

鳥海「あの、遠大佐?」

遠大佐「うん……なんだ」


鳥海「遠大佐は、今回の進軍を諫めなかったこと……どのようにお考えですか」

遠大佐「……私の、判断ミスだと思っている」

雷「司令官……!」

加古「……」

鳥海「遠大佐……」

留提督「そんなことはありません! 僕のせいです!」

加古「……」

提督「おい、そこの秘書艦はどう思う」

雷「わ、私!? え、ええと……」

遠大佐「雷に聞くまでもない……そう、だな。私のせいだ」

雷「司令官……そ、そんなことないわ!? 元気を出して!」

加古「……」

鹿島「……」

提督「……」


山風「……」ソワソワ

ガンビアベイ「……」ソワソワ

山風「……私たち、なんで呼ばれたのかな」ヒソヒソ

ガンビアベイ「わ、わからないです……ヒッ」ビクッ

提督「……」ギロッ

山風「どうかした……ヒッ」ビクッ

ガンビアベイ「な、なんであの人、私たちを睨んでるんでしょう……!」ビクビク

山風「早く帰りたい……」グスグス


提督「……」

提督「なあ、妖精?」ヒソッ

妖精「なにかな?」ヒョコッ

提督「あいつの連れてる艦娘、艤装を外してるのか?」

妖精「そうみたいだね。さっき見たときはちゃんとつけてたみたいだけど……わざわざ外してきたのかな?」

提督「なにか裏がありそうだな。ちょっと探りを入れてもらっていいか?」

妖精「うん、いいけど……あんまり睨みつけちゃ駄目だよ。二人とも怯えてるみたいだし」

提督「なに? 俺にか……?」


妖精「うん。それに……」ユビサシ

提督「……」チラッ

クルー1「!」メソラシ

妖精「提督も見張られてるみたいだね」

提督「……何でこっちを見てるんだ、あいつは」

留提督「とにかく、二人とも無事で何よりだ! さあ、二人とも支度をして、呉へ帰ろう!」

鳥海「は、はぁ……」チラッ

加古「……あたしは行かないよ。一人で帰って」ガタッ

留提督「なっ!? 強がりはよせ! 君はそれでいいと思ってるのか!?」

留提督「君を慕っていた呉の鎮守府の仲間が、君の帰還を待っているんだぞ!?」

留提督「それだけじゃない、あの戦いで沈んだという汚名を雪ぎたいと思わないのか!?」

加古「……」

留提督「君は、もっともっと活躍できるはずなんだ!」

留提督「こんな島で……船の墓場みたいな場所で、終わるような艦娘じゃない! そうだろう!?」

加古「……はぁ」


留提督「加古……! 頼む!!」

加古「帰ってよ。あたしはそっちには行かない」

留提督「頼む!! お願いだ!!」

鳥海「……」オロオロ

提督「……わかんねえな。なんであいつはそこまで加古に執着するんだ?」

クルー2「ちょっと准尉さん、少しは私たちに協力してくださいよ」

提督「あぁ? なんでだよ」

クルー2「ちょっ……」

提督「お前らこそ身の程を知れよ、どの面下げてあいつらの前に現れたんだ」

クルー3「この島は轟沈した艦娘を保護しているんでしょう? 元いた鎮守府の司令官が来たら、その人に引き渡すべきです」

提督「艦娘の当人が拒否してるんだから、その理屈は成り立たねえな」

クルー4「鳥海も加古もああやって普通にしているのに、こっちに引き渡せないとか、おかしいんですよ」

クルー4「艦娘が沈んだら深海棲艦になるんでしょう? なってないんだから、元いた鎮守府に戻すのが筋でしょう」

提督「何が筋だよ、何を根拠に言ってやがる。覆水盆に返らず、って言葉を知らねえのか」


クルー3「だいたい、沈んだ艦娘が深海棲艦になったのは本当なんですか!? エビデンスとかないんですか!」

提督「ねえよ、んなもん」

クルー3「な……!」

提督「それ以前に、お前エビデンスとか言ってるけど、意味分かって言ってるか?」

クルー3「そ、それは……!」

クルー1「……根拠とか、裏付け、証拠……という意味ですよね」

提督「なんだ、知ってる奴いたのかよ……まあ、そうだな」チラッ

クルー3「……」ムッ

提督「沈んだ艦娘が深海棲艦になる……過去にあったらしいが、そいつはあくまで『らしい』の話だ」

クルー3「だったらあの艦娘たちを戻してもいいんじゃないんですか!」

提督「ある鎮守府では、轟沈した艦娘を受け入れたことがある」

提督「受け入れてしばらくして、深海棲艦による攻撃で鎮守府が壊滅した。どんな理由が考えられる? お前、答えてみろよ」ユビサシ

クルー4「……」


提督「……海軍の調査では、轟沈した艦娘が深海棲艦になった説、轟沈した艦娘が深海棲艦を呼び寄せた説のふたつが有力視された」

提督「轟沈した艦娘が深海棲艦になるかどうか、真相ははわからないが、壊滅した理由のひとつとして考えられる以上……」

提督「安易に轟沈した艦娘を受け入れて同じことになるのは避けたい、というのが海軍全体の意識だ」

提督「不確定要素がある以上、危機管理として間違ったことはしていない。違うか?」

クルーたち「「……」」

提督「で、お前らこそ、安全だと言える『根拠』はどこから拾ってきたんだよ」

提督「こちとら命を張ってんだ。ちょっとでも危ねえと思ったらすぐ退くのが正解なんだよ」

提督「それを無理して突き進んで、お前らのお仲間が海の藻屑に消えた事件もあったよなぁ?」

提督「手前に都合が悪い話は、覚えていられねえってか?」

提督「それとも、そいつは奴らだけの問題であって、俺たちには関係ねえ、ってか?」

提督「今ならカメラも回ってねえぞ。ほれ、何か答えてみやがれ、くそどもが」

クルーたち「「……」」


留提督「加古! 僕がこれほど君の帰還を望んでいるというのに、なぜだ!? なんで拒否するんだ!?」

加古「そもそもの原因追及を拒否してんのはあんたじゃん……」

留提督「もしや、この島に、なにか秘密があるとでも言うのか……? 遠大佐!」

遠大佐「なんだね?」

留提督「この島を調査しましょう! 加古が戻ろうとしない理由がそこにあるかもしれません!」

提督&加古「「は?」」

雷「そうね……こんなに一生懸命な留提督の説得が通じないとしたら、もっと別なところに原因があるのかも!」

提督&加古「「ねえよ……」」

鳥海(なんで台詞が両方から聞こえるの……)

雷「鳥海さん! この島のこと、教えて貰っていい!?」

鳥海「えっ? い、いえ、おそらくそういうことでは……」

留提督「遠大佐! この場はお任せいたします! 僕たちはこの島の調査に入ります!」

クルーたち「「!」」ガタッ!


提督「な……おい!? 勝手な真似を」

留提督「みんな行くぞ! 日没までに鎮守府を調査するんだ!」

クルーたち「「わかりました!」」

提督「待て! 勝手に」

留提督「行くぞーー!!」ダダダダ…

提督「おいこら! 待ちやがれ!!」

提督「……」

提督「……最悪だ」アタマカカエ

朧「て、提督! 何があったんですか!? 今、みんなばらばらに……!」

提督「あいつら、勝手にこの鎮守府の探索をおっぱじめやがった」

朧「えええ!?」

提督「朝潮たちはどうした?」

朧「ほかのみんなは、それぞれ誰かを追いかけて行きました! 朧は、神通さんから提督に指示を仰げと……」

提督「そうか……よし、こうなりゃ誰でもいい、侵入者全員とっ捕まえてここに集めてくれ」


提督「ひとまず最初に那珂、次に大淀へ知らせろ。俺は俺で執務室に行って、全館放送で連絡する」

朧「わ、わかりました!」ダッ

提督「くそ……妖精たちの手も借りねえと。あいつら、もしかして最初からこれを狙ってやがったのか!?」

黒潮「なあなあ、司令はん、ちょっとええかな」

提督「! どうした?」

黒潮「いや……ちょっとこの部屋入るとこ見てたんやけど、あっちの鎮守府から来てた鹿島さんとか、艤装外しとったやん?」

提督「……ああ……」

黒潮「なんか、気分悪ろうてなあ」

提督「……」シカメッツラ

黒潮「司令はん?」

提督「……なあ黒潮? 鹿島たちが『そう』なる可能性、あると思うか?」

黒潮「……」シカメッツラ

提督「あり得るんだな?」

黒潮「ないとは言えへんね……」


 ドドドド…

島風「提督ーー! って、うわぁ」

提督「なんだそのうわぁは」

島風「提督と黒潮ちゃんが同じ顔してるんだもん……またなにかあったの?」

黒潮「まだ起きてへんよ」

島風「まだ、って……」

提督「それより島風はどうしたんだ」

島風「そうそう、聞いてくださいよー! さっき、外から来た男の人たちに潮ちゃんが話しかけられてて!」

島風「なんか嫌がってたみたいだから、私が声をかけたんだけど、そしたら私も腕を掴まれたんです!」

黒潮「は?」

島風「なんかいきなりこっちの鎮守府に来いとか言われて、意味わかんなくって!」

島風「白露も一緒なのかって聞いたら、白露なんかどうでもいいとか言うし! 頭にきて断ったんですけどしつこくって!!」プンスカ

提督「……」

島風「話が通じないから、潮ちゃんと一緒に走って逃げてきたんです!」

黒潮「……」


島風「提督! あの人たちいったいなんなんですか!?」

提督「……ただの部外者……いや、侵入者だよ」

提督「ったく、あいつらいくらなんでも好き勝手しすぎだろ、顔に何枚バルジ貼り付けてやがんだよ、くそが!」

提督「島風、今の話は他に誰に話した?」

島風「まだ誰にも話してないよ?」

提督「潮はどうした」

島風「食堂にいた長門さんに預けてきました!」

提督「んじゃあ、そっちに行って詳しく聞くか……島風、俺は執務室に寄ってから食堂に行く。白露もそこへ呼んできてくれるか?」

島風「はいっ!」ダッシュ!

提督「黒潮も食堂へ行って、長門に事情を話しててくれ。思ってたより上の対策立てなきゃ駄目だなこりゃあ……」

黒潮「不知火から話を聞いてたけど、また厄介な……」

提督「まったくだ……あの戦艦バカより数百倍もたちが悪りぃぞ、くそが」


 * 一方その頃 *

 * 仁提督の鎮守府 *

仁提督「ぶぅえっくしょい!!」

雪風「! しれぇ! お風邪ですか!?」

仁提督「ずずっ……そうじゃない、ただのくしゃみだ」

雪風「心配です! お熱測って差し上げます!」ヨジノボリ

嵐「ちょっ!?」ギョッ

仁提督「おい!? 登ってくるな!」

文月「あ~、雪風ちゃんいいなあ~」

皐月「よーし、僕も登るね!」ヨジヨジ

嵐「登るのかよ!? 止めろよ!」

文月「文月も登るぅ~」ヨジヨジ

時津風「おもしろそう! 時津風も混ぜてー!」ヨジヨジ

長月「登るなって言ってるだろう!?」ガビーン

仁提督「お、お前たちいい加減にしろおお! 金剛! 長門を呼べ!!」

皐月「えっ!?」


嵐「お、おい、みんな降りろ! 長門さんが来たら大変だ!」

時津風「みんな逃げるよ!」ピョン スタッ

文月「ああ~、待ってぇ~」

雪風「しれぇ! お熱はありませんでした!」

長月「雪風、急げ!」

雪風「はいっ! 失礼します、しれぇ!」

 キャーキャー バタバタバタ…

仁提督「……やれやれ」

金剛「テートク、お疲れ様デース。おはな、出てマスヨー」ティッシュサシダシ

仁提督「おう……お前ものんきに見てないで助けてくれ」ズビー

金剛「オウ、ソーリー。微笑ましかったので、ついつい眺めたくなってしまいマシタ。最近入った時津風も、馴染んでいるようで何よりデス」

仁提督「俺は舐められてるようにしか思えないんだがな。雪風の心のケアを心掛けてたら、他の駆逐艦連中まで寄ってきてこの様だ」

金剛「でも、おかげで雪風もよく笑うようになりマシタ。テートクのしたことは間違ってまセンヨー」

仁提督「そうだといいがな……」


金剛「大丈夫デース! 胸を張ってくだサーイ!」

仁提督「……」

金剛「……テートク?」

仁提督「あいつは、雪風みたいなやつを、何人も相手にしてきたんだろうな」

金剛「オウ、あの島の准尉のことデスネ?」

仁提督「ああ、あいつのことは気に入らんが、それでもやってることは評価せねばならん。雪風を相手にして、その苦労が良くわかった」

仁提督「雪風たちがあれだけ元気になったのも、あいつが黒潮を保護していたところが大きいしな……」

金剛「だからテートクはあの鎮守府に助け舟を出したわけデスネ?」

仁提督「俺は黒潮の件の借りを返しただけだ」フンッ

仁提督「そうでなくても、准尉以上に留提督という男が別ベクトルでいけ好かん」

仁提督「へらへらしていて落ち着きがない上に、人の話を聞かないと来た。なんだか昔の俺を見てるみたいでイライラさせられる」

金剛(今も話を聞かずに突っ走るときが結構ありますケドネ?)

仁提督「のこのこついてきた遠大佐も何を考えているのやら。あの小さい駆逐艦娘を随分信頼しているようだが、大丈夫なんだろうな?」

金剛「こちらでおいでになったときも、一言も喋りませんでしたからネー……」


 * 回想 *

仁提督「墓場島!? あの島に行くって言うのか!? やめておけ! 行ったところで得られるものは何もない!」

仁提督「確かに轟沈した艦娘が流れ着く島だ。艦娘を水葬できなくて埋葬しているから、そういう名前がついたと聞いている」

仁提督「連れて帰る!? 馬鹿を言うな! 一度轟沈した艦娘を連れて帰ったらどうなるか、話を聞いてないのか!」

仁提督「命が惜しく……いや、それよりも近隣の鎮守府が許可したのか!? 地域住民には説明したのか!」

仁提督「悪いことは言わんぞ、貴様らが轟沈させた艦娘は諦めろ! 何が起こっても責任はとらんからな!!」

仁提督「俺たちが守るべきものはなにか! 理解してから行動しろ!!」

 * * *


仁提督「まったく……轟沈したと知っていながら連れ戻そうなどと、これだから素人考えは……」

金剛「ブッチャケ、あのときはテートクも他人のことを言えた立場ではありませんでしたケドネー」ボソ

仁提督「聞こえてるぞ金剛……まあいい、俺もあの時は墓場島の艦娘を使い捨てにするつもりだったのは認める」

仁提督「そういう打算的な考えがあったのは間違いない。さすがに轟沈経験艦だとは思いもしなかったが……」

金剛「……」

仁提督「……なんだ?」


金剛「テートク、素直になった気がしマス。以前はこんなふうに、自分の失敗を素直に認められる人じゃなかったデス」

仁提督「そ、そうか……!? まあ、あの提督准尉のせいだろうな……」

仁提督「お前の相手に潜水艦を連れてきた件といい、島風と白露をあいつが引き取ってた件といい、黒潮が実は生きていた件といい……」プルプル

仁提督「ああああ、思い出すだけで赤っ恥だ! ……とにかく! あの島の出来事に比べれば、もうこれ以上恥をかいたりはせんだろうよ」ハァ

金剛(……わざわざ言って、フラグを立たせてるような気がしマス)タラリ

金剛「そういえば、テートクは白露と島風を連れ帰ろうとしませんでしたネ? 轟沈したわけでもないのに……」

仁提督「馬鹿を言うな、あいつらに限っては、俺が切ったんだぞ? 俺が関係を破綻させたんだ」

仁提督「無理矢理引っ張ってきたところでどうせ持て余すに決まっているし、恨まれることはあっても信頼されることはなかろう」

金剛「そうデスカ……?」

仁提督「お前は俺の変化をすぐそばで見てるかもしれんが、そうでない相手にはいきなり態度が変わったようにしか見えんだろうさ」

仁提督「白露と島風は、准尉に任せる。俺の手からはもう離れたんだ、これ以上手を出すのは下世話というか、無恥もいいとこだ」

金剛「それでは、白露と島風にはこれ以上干渉しないと?」

仁提督「ああ、ついでに准尉にも干渉しないようになると最高だがな。黒潮と雪風がいる以上はそうはいかんだろうが……」

仁提督「それから、俺が留提督の相手をすることももうないだろう。言いたいことは言った。あとは准尉にがっつりへこまされればいい」フン

金剛「オゥ……痛い目見ろと仰いマスカ」

仁提督「いや、そう思うだろう? 留提督の様子じゃあ、轟沈経験艦を連れ帰ってきたらどうなるか、全然わかっとらんようだった」

仁提督「遠大佐も遠大佐で、一言くらい助言があっても良かろうものを……よくわからんな」

というわけで、今回はここまで。

続きです。


 * 鎮守府内 執務室へ向かう廊下 *

足柄「あのう、提督准尉?」

提督「ん? おお、いたのか」

足柄「ちょっ、いたわよ!? 単に話すことなくて大人しくしてただけじゃない! それよりも!」

千歳「准尉、私たちになにか協力できることはありませんか?」

提督「協力?」

千歳「ええ。申し遅れました、私、軽空母の千歳です。足柄と一緒に、波大尉のもとで働いておりました」

千歳「今は、遠大佐と留提督からこの島の案内役を依頼されまして、遠大佐のところで一時的に働いているんです」

提督「一時的? レンタルみたいなもんか?」

千歳「いえ、ちょっといろいろありまして……わたしたち、今は無所属の状態なんです。新しい所属先を探してる途中でして……」

提督「で、『一時的』にあいつらの部下になったってことか?」

千歳「はい。すっごく後悔してますけど」ハァ

提督「引き受けなきゃ良かったじゃねえか」

千歳「いえ、折角来たのに断ってしまうと、この後に仕事の話が来るかどうかわかりませんので」

足柄「だいたい、最初は『この島に加古と鳥海が来ていないか確認するだけ』って聞いてたのよ?」


千歳「それがこの島に上陸した時に、いきなり『轟沈した艦娘も何人か引き取って、呉の鎮守府でリハビリさせる』って言い出すんですもの」

提督「……」

千歳「挙句の果てには、勝手に鎮守府の中を家探しし始めるし……まるで騙し討ちに加担させられたみたいで、私たちも立つ瀬がなくて」

足柄「波大尉だったら、逐一私たちに報告確認しながら進めてるはずよね。勝手が違いすぎるっていうか、あの人、勝手が過ぎるわ!」

千歳「波大尉はもともと会社員だったからじゃない? 海軍のいろはがわからないからって、いつも私たちに相談してくれてたし」

足柄「そう! それが留提督にはないのよね……その場で思い付いたことを衝動的にやってるみたいで、動きが読めないわ」

提督「……やれやれ」

千歳「とにかく、留提督がやっていることは准尉にとっても迷惑にしかならないと思うんです」

千歳「留提督に雇われてこの島に案内した以上は、少しでもその尻拭いをしてお詫びしないと……」

足柄「そうね……留提督がどうなろうと自業自得でしかないと思うけど、准尉にこれ以上迷惑かけるわけにはいかないしね」

提督「まあ、いいけどよ。あまりお前らに頼むようなことはねえぞ?」

千歳「それでもかまいません。今後、私たちは准尉の指示に従います」

足柄「でも、どうして留提督は、轟沈した艦娘を引き取るなんて言い出したのかしら……」

千歳「多分だけれど……テレビ用の話題を作って、人気を集めたいから、じゃない?」

千歳「加古や鳥海を連れ帰って凱旋すれば、轟沈した艦娘を救った提督として、特別視されるんじゃないか、とか……」


千歳「仮に、他の艦娘も一緒にリハビリさせて、戦線に復帰させられるようになったら、艦娘の運用に改革が起こるわ」

足柄「……それって准尉の功績を横取りしようとしてるってこと!?」

千歳「准尉が協力的なら、准尉の協力を得て艦娘の帰還が実現した、とか、いくらでも都合よく言い換えられるんじゃない?」

千歳「今回は准尉が最初からこうだったから、方針を変えたとか……」

提督「ふぅん……思惑としちゃあ、いい線行ってんじゃねえかな。テレビ局引き連れてんだ、留提督が珍しいことをやれば視聴率も稼げるだろ」

足柄「やればいいってものじゃないわよ……その後のフォローとか、どうするつもりなのかしら」

提督「連れ帰るのがゴールなんだろ。とにかく連れ帰ってしまえば、あとは海軍が総力を挙げて尻拭いせざるを得ねえ」

提督「革命がしたいだけのテロリスト……かつ、自惚れの激しいナルシスト、ってとこか? 面倒臭え人種だな」

千歳「……」

提督「気になる話は他にもあるが、まずはあいつらをとっ捕まえるのが先だ。これ以上、うちの艦娘に嫌な思いはさせられねえからな」

足柄「私たちは何をしたらいいの? なんでも手伝うわよ?」

提督「なら、ちょっと話を聞かせてもらうか。その前に執務室だ」


 * 鎮守府内 提督の私室 *

如月「司令官のお部屋で待機、っていうのも悪くないわね」

大和「提督、大丈夫でしょうか……」

金剛「心配ネー……」

榛名「榛名は、ずっとここで待機していても大丈夫です!」ベッドニゴロゴロ

金剛「榛名……服がしわだらけになりますヨー……」

榛名「提督はいつもこちらでお休みになっているのですね……ああ、提督に包まれている感じがします!」

金剛(ここで寝てるのはテートクだけではありませんけどネ……)ハイライトオフ

如月「司令官のことは心配だけど、私たちが騒いだらかえって司令官が心配しちゃうわ。果報は寝て待て、って言うじゃない」

金剛「Oh... 駆逐艦が一番大人びてマス……」

大和「でも、その通りですね……提督には迷惑をかけられません」

 ドタドタドタ…

如月「足音……誰かしら?」

榛名「提督ではありませんね?」


大和「ですね……」

金剛(みんな当然のように足音でテートクかわかるんデスネ……)タラリ

 扉<バンッ!

クルー1「……!!」

如月「だ、誰!?」

クルー1「こ、ここはなんだ……!?」

金剛「あなた、提督のお部屋に何の用デス!」

クルー1「提督の部屋!? ……金剛に、如月に……大和!? そうか……やっぱりそうだったか!!」

大和「?」

クルー1「よっしゃスクープだぁぁぁ!!」ダッ

如月「ど、どういうこと……?」

クルー1(どこの提督も似たようなもんだ! 案の定、贔屓の艦娘を部屋に連れ込んでハーレム作ってやがった!)

クルー1(ご丁寧にでかいベッドまで用意して、2~3人連れ込んでヤリまくってたわけか……いいネタ掴んだぞ!)

朧「ていっ!!」ガッ!

クルー1「うわあっ!?」グリンッ ズデーン!

如月「朧ちゃん!?」


朧「よりによって、提督のお部屋に来るなんて……何を考えてるの!?」

クルー1「ちくしょう、准尉の手先め……!」

朧「手先?」ムッ

クルー1「ここの提督は、お気に入りの艦娘を集めて好き放題してるんだろう!?」

朧「……なにそれ?」

クルー1「とぼけやがって……」ヨジッ

 サワッ

朧「っきゃあ!?」ビクッ

クルー1「おっ、手が緩んだ、今の隙に!」スルッ ダッ

如月「朧ちゃんどうしたの!?」

朧「お、お尻触られた……!」アオザメ

大和「なんですって?」

朧「て、提督にも触られたことないのに……!」ジワッ

如月「ちょっとあなた、待ちなさい?」ギロッ

クルー1「!?」ビクッ


金剛「朧に謝りなサイ!」

クルー1「はあ?」

大和「狼藉を働いておいて、何の謝罪もせず逃げおおせる気ですか!」

クルー1「お、お前らが最初に俺に暴力をふるったんだろうが!」

如月「暴力だとか言う前に、あなた、誰?」

如月「この鎮守府に、誰に断って入ってきたの? それも、司令官のプライベートな場所に……!」ジロリ

クルー1「……!」ジリッ

榛名「金剛お姉様? この人は誰でしょう? 侵入者ですか?」ヒョコッ

金剛「そうみたいデス、とりあえず捕まえ……」

榛名「敵なら、撃ちましょうか?」ガシャンッ

クルー1「ひ、ひいい!?」ダッ

大和「逃がさないわ!」ダッ

金剛「榛名は少し落ち着くデース!」ダッ

館内放送『ジジー……カシャッ』

如月「……あら?」


 * 同時刻 *

 * 鎮守府内 別の廊下 *

クルー2「はぁ、はぁ、なんだあの足の速いっていうか、不気味な艦娘は……」

 タタタタッ ヒュッ

クルー2「うわあ!?」

神通「どこへ行くおつもりですか?」

クルー2「ひいい!」クルッ ダッ

神通「……」

 シュバッ

神通「どこへ行くおつもりですか、と、訊いているのですが」

クルー2「ひぃえぁ!?」

神通「……」

クルー2「あ、あの、と、と、トイレに……」

神通「そうでしたか……でしたら、こちらに」クルッ


クルー2(今のうちに!)ダッ

神通「……」

 シュバッ

神通「トイレはそちらではありませんよ?」

クルー2「ひゃひぃいい!?」

神通「ご案内いたします」ニコ

クルー2(だ、駄目だ……逃げられる気がしない)

クルー2(神通と言えば、おどおどしてて臆病な艦娘のはずだが……)

神通「提督からは、皆さんが勝手な行動をとられないように仰せつかっております」

神通「事を荒立てて難癖をつけ、あわよくばこの島の鎮守府の弱みを掴もうとお考えでしょうが……やめておいた方が身のためかと」

クルー2「!?」

神通「御用が済みましたら、速やかにお帰りください」ニコ

クルー2「……は、はひ……」


 * 同時刻 *

 * 鎮守府内 工廠 *

利根「うむ、これで少しは使いやすくなるのではないかな」

由良「わぁ……利根さん、ありがとうございます」

明石「利根さんもカタパルトの整備が板についてきましたねえ」

利根「それは先生の教え方が良いからであろう」

明石「もー、先生って何言ってるんですかあー!」テレテレ

利根「先生は先生である。仮にも専門家の手ほどきを受けておるのだ、吾輩もこのくらいはできねばな」

明石「なんだかこそばゆいですねえ」ニマニマ

由良「でも、本当に助かります。この島に流れ着いてきたときは妖精さんしかいなかったし」

明石「あー、あの時はびっくりしたなあ……間宮さんもいないもんね、ここ」

五月雨「みなさーん、麦茶持ってきましたー」カチャカチャ

由良「五月雨ちゃん!? 無理しなくていいから!?」ガシッ

五月雨「あ、ありがとうございます! ちゃんと落とさずに持ってきましたよ!」

利根「た、確かにそのようだが……五月雨が何か運んでいると、どうにも危なっかしくてひやひやするな」

由良「麦茶のボトルもガラス容器じゃなくて、プラスチック容器とかを買ったほうがいいんじゃない?」


龍驤「ついでにうちらの式神用の和紙も、追加注文してもらってええかな?」ヒョコッ

雲龍「お邪魔するわね」

明石「お二人もカタパルトの整備ですか?」

龍驤「うんや、うちらはお散歩中や」

雲龍「今日は出撃もないし、出歩かないよう言われてるから、暇なの」

利根「ああ、あの例の……ん?」

クルー3「……ここまでくれば……うん? ここは……」

五月雨「あれ、もしかして……どうしたんですか?」

クルー3「うわっ!? ……か、艦娘か……物々しいけど、ここはいったい?」

明石「工廠ですよ。関係者以外立ち入り禁止ですけど、何の用ですか?」

クルー3「え、ああ、用っていうか……取材をさせてくれないか。ここの提督のことについてなんだが」

利根「提督の?」

クルー3「そう。人となりというか、どんな人物なのか」

由良「……」

雲龍「……」


クルー3「な、なんでだんまりなんだ?」

龍驤「なんでって、あんたに喋ってええかどうか、わからんしなあ?」

クルー3「いやいやそう言わずに。自分たちの提督がテレビに出て有名になったら嬉しいだろう?」

雲龍「それはないわね」

龍驤「うん。ないない」

クルー3「えぇ!?」

由良「提督さん、有名になりたいなんて、これっぽっちも考えてないわよね」

明石「絶対、面倒臭いって言いそう」

クルー3「なにを言っているんだ、有名になれば支援が増えて仕事もやりやすくなるだろう?」

明石「そのためにあなたがたを接待しろと? お断りですよ、そんなの」フンッ

クルー3「え!?」

五月雨「!?」ギョッ

利根(明石……!?)

明石「悪いことは言いませんから、早くこの島から出て行って、この島のことを全部忘れてしまった方がいいですよ」

クルー3「な、なんでだ!?」


明石「この島のことを記録したっていいことなんかありませんもの。むしろあなた方の安全すら脅かすかもしれません」

明石「だってここは、轟沈した艦娘が棲んでる島ですよ? 人間が立ち入っていいかどうかすら疑わしい場所ですよ?」

明石「なんで、この島に提督以外の人間がいないのか、少し考えたほうがいいのでは?」

クルー3「……き、脅迫するつもりか」

明石「脅迫でもなんでもありませんよ、警告というか、むしろただのお節介です」

明石「考えたことありますか? 艦娘が轟沈する理由」

クルー3「理由? ……その提督の判断ミスとか、敵が強かったとか……」

明石「本当にそれだけでしょうかね?」ニィ

利根「お、おい、明石?」

明石「わざと沈められた艦娘も、いるかもしれませんよ? どんな理由かはご想像にお任せしますが……」

雲龍「わざと?」

明石「ええ。例えば、その鎮守府の知ってはいけない秘密を知ってしまって始末されかけた、とか」

明石「もし、その艦娘に接触したことを知られたら黙っていられない人がいるかもしれませんよねえ?」

明石「そうしたら、次に狙われるのは誰になります……?」

クルー3「……」


明石「あるいは、新しい艦娘に懸想して、古い子が必要なくなったから、わざと……とか?」

明石「こんなに尽くしたのに! こんなに、好きだったのに! どうしてあの人は、私を捨てたの!?」

明石「そうして、愛を失い、理性を失い、狂ってしまった艦娘が、深海棲艦に……!」

クルー3「……」ゴクリ

明石「なってしまっても、おかしくないと思うんですよねぇ」

龍驤「明石……一応聞くけど、作り話なん?」

明石「はい!」

龍驤「ぞっとせえへんな……」

利根(後者の話はこの前読んだマンガの展開に似ておるな……寝取られものだったか?)

明石「途中まで信じそうになるくらいには、程よくリアルだったでしょう?」

雲龍「……」

明石「この鎮守府にいる艦娘だって、どんな思いを奥底に秘めているか、誰にもわからないんです」

明石「この島に流れ着いた理由が、それぞれにあるんですから。どこで地雷を踏むか、わかったもんじゃないんです」

クルー3「!」


明石「なにか起こる前に帰ったほうがいい、と言ったのはそういうことです。私は忠告しましたからね?」

五月雨「明石さん……」

利根「……」

由良「……」

龍驤「……せやなあ。うちも昔のこと思い出したら、また鎮守府火の海にしても、おかしくないもんなあ」

クルー3「!?」

龍驤「そしたら今度こそ、居場所なくなってまうで……」ウーン

雲龍「大丈夫。大丈夫よ」

龍驤「……雲龍……」

館内放送『ジジー……カシャッ』

明石「!」


 * 更に同時刻 *

 * 鎮守府内 食堂 *

クルー4「こ、ここはどこだ……!?」タタッ

潮「ひっ!!」

長門「……こんなところまで追いかけてきたか」

陸奥「潮ちゃん、下がってて」

潮「は、はいっ!」

クルー4「せ、戦艦長門……!!」

長門「貴様は留提督の連れてきた人間だな? 潮をどうするつもりだ」

クルー4「……そ、それは、留提督の艦娘として、戦力にならないかスカウトしていたんだ」

陸奥「そうなの?」

潮「……っ!」フルフル

長門「怯えているようだが?」

クルー4「た、確かに、声をかけたスタッフは少々強引だったが……こんな辺鄙な島にいるよりは、ちゃんとした鎮守府で働けた方がいいはずだろ!?」

陸奥「ちゃんとした鎮守府、ね……」イラッ

クルー4「……? 待て、なんでそんな不満そうなんだ? こんな何もない島がそんなにいいのか?」


クルー4「資材だって食糧だって満足に受けられない辺境の島に監禁され続けているのに……この島の提督に洗脳されてるのか?」

潮「は……!?」

陸奥「洗脳……?」

長門「……なんだそれは」

クルー4「なんだ、って言われても……この島で、これまで深海棲艦になった艦娘はいないんだろう?」

長門「……確かに、この島にはいないな」

クルー4「この島の提督は、轟沈した艦娘が深海棲艦になるというデマを利用して、自分の気に入った艦娘を囲っているんじゃないのか」

潮「それ、デマ……なんですか?」

陸奥「さあ……? 囲ってるって話のほうはデマに違いないけど」

クルー4「はぁ!? 囲ってるって話がデマなら、提督は頑なにこの島の取材を拒否するのはなんでだ!?」

クルー4「なにも後ろめたいことがないなら、取材拒否するのはおかしいだろ!」

長門「やれやれ。根本的に間違っているな……」

潮「そ、それって、提督が取材を拒否したら、悪い人と認定する、ってことですよね……?」

陸奥「なにそれ。あなたたち、提督を糾弾するつもりでこの島に来たってこと?」

クルー4「後ろめたいことがあるんだろう? だったら糾弾されて当然じゃないのか」


クルー4「いくら轟沈したところを保護したとはいえ、元の鎮守府に帰さないで私物化するなんて、まるで火事場泥棒だ」

クルー4「怪我が治ったら元の鎮守府に戻してやるのが、その艦娘のためじゃないのか?」

陸奥「あら、その認識自体がもう間違ってるわ。加古だって戻りたくないって言ってるじゃないの、留提督の指揮が原因で」

クルー4「いや……でも、軍艦というか、軍人なんだろう? そんなふうに反抗していいのか?」

長門「いくら軍人でも、ストレスがたまれば体も壊すし、心も離れていくものだ。理不尽な命令を受ければ反発もする」

クルー4「え!? そ、そうなのか……!?」

長門「それに、私たち3人は轟沈したわけでもないしな。お前のその話は私たちには当てはまらないぞ」

クルー4「じゃ、じゃあなんでこの島に!?」

長門「……前の鎮守府にいた人間の振る舞いに失望し、いろいろあってこの鎮守府に辿り着いた」

長門「理由は詳しく言いたくない。だが、私たちがここにいる理由の一つに、人間に対する不信感があることは間違いない」

クルー4「人間に不信感!? じ、自分たちの意思で、この島に、いるっていうのか」

長門「その通りだ」

クルー4「そんな、話が違うぞ……艦娘が、人間に歯向うなんて……!」ヨロ…


陸奥「ちょっと、何をぶつぶつ言ってるの? 私たちのことは放っておいて。早く帰って欲しいんだけど」

クルー4「……っ!」ダッ

長門「なんだ今の男は……」

潮「最後、なんだか顔色が悪くありませんでしたか……?」

長門「ああ……」

陸奥「……う……」

 グラッ

長門「陸奥!?」ガシッ

陸奥「はー、はー……」ガタガタ

潮「む、陸奥さん大丈夫ですか!?」

陸奥「だ、大丈夫……ちょっとだけ、緊張しちゃった……」

潮(陸奥さんのトラウマ、私よりひどそう……!)

長門「……まったく、あいつらは何をしに来たんだ……!?」

館内放送『ジジー……カシャッ』


長門「うん? なんだ?」

館内放送『あー、あー。提督だ。鎮守府所属の艦娘全員に緊急連絡』

館内放送『この鎮守府に、外部から遠大佐及び留提督とそのお仲間が来ていることは承知していると思うが』

館内放送『このうち留提督とその一味、男5人が、鎮守府内を勝手に探索と称して家探しを開始した』

館内放送『全艦娘はこの侵入者5名を直ちに捕縛、拘束し、会議室へ連行せよ。なお、生死は問わない』

館内放送『繰り返す。生死は問わない』

館内放送『首だけでも構わねえ、5人全員とっ捕まえて、会議室に持ってこい』

館内放送『手間ァかけさせて悪いが、よろしく頼む。以上だ』

長門「……」

潮「さ、さっきの人を捕まえないと、いけないんじゃ……!?」

長門「いや、やめておこう。陸奥の状態が酷いからな」

 ドドドドドド…

長門「あれは……」

島風「長門さーーーん!」


 * 一方そのころ *

 * 鎮守府内 提督の私室へ続く廊下 *

大和「生死は問わない、ですか」

金剛「テートクは、相当に Angry デスネー……」

榛名「首だけでもいいんですよね!?」

クルー1「じょ、冗談じゃねえええ!」ダッ

大和「!」

クルー1「さっきの部屋に戻りゃあいいんだ! 遠大佐になんとかしてもらうしかねえ!!」

金剛「なんて逃げ足の速さデス!?」

大和「火事場の馬鹿力、ですか……!」

クルー1「うおおおおお!!」ダダダダ…

金剛「Shit ! 逃げられてしまいマシタ!」

大和「……」

如月「朧ちゃん!? しっかりして!」

朧「……」ズーン

榛名「金剛お姉様……この子は、提督に見ていただいたほうが良いのではないでしょうか?」

金剛「Nmm... 今のテートクにその時間があれば良いのデスガ」

大和「……許せない」ギリッ


 * もう一方では *

 * 鎮守府内 工廠前 *

利根「……生死は問わない、か」

クルー3「……」ブルッ

由良「どうなっててもいいから、連れてこいってことなんでしょうね」

明石「五月雨ちゃん、悪いんだけど、この人を会議室まで案内してあげて」

五月雨「は、はい!」

明石「あなたも無駄に死にたくないでしょ?」

クルー3「……」コク

 スタスタ…

明石「ふぅ……あの人は大人しくしててくれそうかな」

龍驤「明石、出まかせとはいえ良くあそこまですらすら言えたなあ?」

明石「出まかせってわけでもありませんよ。私がそうですから」

龍驤「は?」


明石「あ、言ってませんでしたっけ? 裏帳簿作らされて、その罪を私に押し付けられて雷撃されたって話」

龍驤「はああ!? 聞いてへんで、そんなの!」

利根「それはあれか、北上に失敗作の魚雷で雷撃されたおかげで生き延びたという、あの話か」

明石「はい、それですね」

龍驤「はぁ……提督も大概やけど、キミも他人のこと言えた立場やないな」

雲龍「……明石も、提督に恩があるのね」

明石「まあ、そうですけど……私は別に提督が特段好きってわけじゃないですよ? あの人、自暴自棄だし、朴念仁だし、ニブチンだし」

龍驤「容赦ないなぁ……」

明石「でも、あの人の行動は全て、艦娘を守るための行動ですから」

明石「人間に失望してああなった人ですから。せめて私たちが味方してあげないと、かわいそうでしょ?」

今回はここまで。

現在、文章を十分書けるのが3週間ペースなので、
そろそろとヤマをはってる人はだいたい当たるんではないかと。
私の投稿の周期を把握している方もいらっしゃるようですし。

では続きです。


 * 少し時間をさかのぼり *

 * 島の南東 丘の上 *

留提督「まさか外に出たとは誰も思ってないだろうなあ……」

留提督「それにしても、なんだ? ここ」

 (丘の斜面に立ち並ぶ墓標代わりの艦娘の艤装群)

留提督「艦娘の背負ってる、船の装飾? なんでこんなもの置いてんだろ。まあいいや、電話しよっと」


 * 一方 墓場島鎮守府 埠頭に停泊している遠大佐の巡視船内 *

島妖精「……きみたちも詳しく聞いてないのか」

鹿島の装備妖精「はい。いきなり連れてこられて、私たちも戸惑ってるんです」

山風の装備妖精「この島に来るなんて聞いてないし、艤装を外して連れていくなんて……」

ガンビアベイの装備妖精「Muri...」

妖精「なんで装備を外すことになったんだろう……」

鹿島妖精「艦娘が非武装なら、敵意がないことをわかってくれるはず、って、土下座して頼まれたんです」

山風妖精「危ないって言ったのに……」

ベイ妖精「Murii...」


島妖精「どうする、一旦提督に報告するか?」

妖精「そうだね……」

 ♪ジャーンジャジャンジャーン

妖精「?」

クルー5「はい、もしもし?」

妖精「……電話の音かぁ」

島妖精「今の電話は音楽が鳴るんだな」

鹿島妖精「電話っていうか、今のスマホはなんでもできますよ?」

島妖精「すまほ?」

山風妖精「うん、スマートホン。電話だけじゃなくて、写真や動画も撮れるし……」

島妖精「写真!? おい、まずいぞ……」

妖精「しっ……!」

クルー5「あー、駄目でしたかー。じゃあ、准尉を追い込む作戦で行くんですね」

島妖精「んなっ!?」


クルー5「わかりました、じゃあ俺たちも島に乗り込んでネタ探してきます!」

クルー5「見た感じ、こっちは誰もいませんね。はい、見つからないように行きますんで! 衛星写真の地図もありますし大丈夫っすよ!」

クルー5「連絡とれるの俺だけですけど……衛星電話なんて料金高くて普通使えませんし、普段から海外への渡航経験あるのも俺だけですから」

クルー5「はい、任しといてください! 留さんも気を付けて!」

妖精「……!」

島妖精「地図だと……?」

クルー5「おい、俺たちも出るぞ!」

クルー6「え、マジで行くんすか?」

クルー7「行くに決まってんだろ? じゃなきゃこの企画、落ちるぞ?」

クルー6「や、ガチのマジで大丈夫なんですか? いくら下っ端でも海軍のいち司令官っすよ?」

クルー5「大丈夫だって、准尉なんて大佐から見たらずっと下なんだから、遠大佐がなんとかしてくれるって!」

クルー6「だといいんすけどねえ……大丈夫なんすかね、あの准尉って人」

クルー7「ぐずってないで行くぞ、いまフリーの俺たちが撮れ高あるネタ探さねえと放送できねーぞ」

クルー6「しゃーねーっすね、行きますかあ」

クルー5「みんなカメラは持ったな!? 行くぞォ!」

クルー6「うーっす」

クルー7「へーい」

クルー5「もうちょっと気合入れろよ!」

 ゾロゾロ…


島妖精「やっぱり2グループ目がいたか……」

妖精「ねえ、テレビ局の関係者は何人来たの?」

鹿島妖精「今の人たちで全員です」

妖精「ということは、全部で8人だね……」

島妖精「わたしたちはあの3人を追いかける。お前は提督に報告を頼む」

妖精「うん……!」

 タッ

妖精「……」

山風妖精「みんな、大丈夫なのかな……」

ベイ妖精「Mow, Muriie...」

妖精「……ねえ、この船の乗組員さんは?」

鹿島妖精「いますけど……」

妖精「誰か私たちの姿が見える人、いないかな?」

山風妖精「見える人はいないみたいです」

妖精「そっか……とりあえず、提督に相談かな」

ベイ妖精「Baaaay... Come baaaack... Come Back hurry...」プルプル

妖精「それより大丈夫かなこの子」

鹿島妖精「ま、まあ、この子はわたしたちが見ますから……」


 * 島の南東 丘の上 *

留提督「ふう……これで良し、っと」

敷波「……ちょっと。なにしてんの? 提督の服を着てるっぽいけど、誰?」

留提督「うお!? な、なんだ、おいもちゃんかあ」

敷波「はぁ?」カチン

留提督「ちょっと休ませてよ。今朝からいろいろあって疲れてるんだ」

敷波「ちょっと!? 艤装に座んないでよ!!」

留提督「ギソウ?」

敷波「そこに座るなって言ってんの!!」

留提督「えー? じゃあどれだと座っていいの?」

敷波「いいから立ち上がって!」

山城「……だわ」

敷波「……あ」クルリ

山城「ああ、不幸だわ……何あの軽そうな男。なんで時雨の艤装に汚い尻を乗せてるの?」ゴゴゴゴ

敷波「あーあ……」


留提督「ん? あれ、誰だっけ……ああ、あれか! 不幸姉妹!」

山城「はぁ?」ピキッ

留提督「髪が短いのはどっちだっけ……妹の方かな? 確かに不幸そうな顔してるなあ」

山城「……敷波。なに、あいつ」

敷波「知らないよー。あたしだっていきなり芋呼ばわりされるし。めちゃくちゃムカついてるんだけど」

山城「そう……お掃除始めたいけど、いいわよね?」

敷波「ここでやらないならいいんじゃない? あたし、布巾持ってくる」

山城「ええ、お願い。それじゃあ、まずはネズミを捕まえるところから……」ヌラリ

留提督「はっ!」バッ

山城「って、逃げてんじゃないわよ!!」

留提督「やばいやばい! 何に怒ってんのかわかんないけど、あの不幸姉妹は使えなさそうだなあ……!」

山城「なにあいつ、逃げ足速すぎよ……!」


 * 鎮守府そばのビニールハウス *

初雪「……水やり終わり」

初雪「……休憩しよ」

(ビニールハウスの片隅にビーチチェアとパラソルのセットが置いてある)

初雪「よいしょ……」ゴロン

初雪「……」

初雪「……」ウトウト

留提督「うおおお、なんだこれ!?」

初雪「!?」ビクッ

留提督「すげー、畑あんじゃん! ダッ○ュ村みたい! 何作ってんの!?」

初雪「!? !?」オロオロ

留提督「あー、なんだピーマンか、ハズレだなー。こっちはなんだろ……うわ、泥だらけだ! きったねー!」ガサガサ

初雪(いきなり入ってきて……なに? この人……)アゼン

留提督「あれ? 君も艦娘? ここでサボってんの?」

初雪「……は?」


留提督「あ、君、ゲームとかいっぱい持ってる子だよね! 匿うついでにちょっと部屋に連れてってよ!」ズイッ

初雪「!?」

留提督「なんか知らないけど、みんな怒ってんだよね。せっかく俺たちがみんなを助けようって言うのにさあ!」

初雪「!?!?」パニック

留提督「ここの提督に監禁されてるんでしょ? 証拠掴んで公表して、自由にしてあげるからさ!」

留提督「こんな島から脱出すれば、ゲームだっていろいろ買い放題だよ! 早く行こうよ!」ウデツカミ

初雪「ひっ!?」ビクッ

留提督「大丈夫! 僕は君の味方だから!」グイグイ

初雪「い、いや……はなし、て……!」

扶桑「……あら? はつゆ……」

留提督「うわ、やばっ!! 不幸が追いかけてきた!」

 ダダッ

扶桑「きゃ!? ……今の、誰かしら。初雪さん、今走っていったのは……」

初雪「……」ガタガタ

扶桑「初雪さん……?」


初雪「……ふそう、さん……! こ、こわか、った……!」ウルウル

扶桑「え? ……大丈夫よ、心配いらないわ。さっきの人は、走ってどこかに行ってしまったから」ダキヨセ

初雪「ほんと……?」ヒシッ

扶桑「ええ。それにしても、あの人はここでいったい何をしようとしてたのかしら……」

初雪「……ゆうかい、されそうに、なった……!」ガタガタ

扶桑「え……!?」

武蔵「おい、何があった!?」

山雲「畑が荒らされて……こっちに足跡があるわ~」

武蔵「提督のような服装だったが……もしや留提督か、遠大佐がここにきたのか!?」

若葉「すまない、こっちに留提督が来なかったか!?」

山城「扶桑お姉様は無事なの!?」

山雲「ねえねえ、いったい、なにがあったの~?」

若葉「実は……」

館内放送『ジジー……カシャッ』

扶桑「あら……?」


 * 鎮守府の西側の林 *

留提督「おっかしいな、なんであんなに反抗的なんだ? 艦娘ってのは、提督に対して従順じゃなかったのか?」

留提督「やっぱり他の鎮守府だからかなあ……となると、やっぱりこの鎮守府を制圧しないと駄目か」

留提督「スタッフのみんなが鎮守府の弱みを見つけてくれると話が早いんだけど……」キョロキョロ

 スマホ<♪ッチャッチャッチャーンピロピロピローン

留提督「おっと! もしもし?」

スマホ『もしもし、留さん無事ですか!?』

留提督「うん、だいじょぶだいじょぶ! 生きてるよー!」

スマホ『いや、笑ってる場合じゃないっすよ! 聞きましたか今の放送!』

留提督「放送? なにかあったの?」

スマホ『留さんたちを捕まえろって、准尉から艦娘に指示が出たんです!』

スマホ『それも、生死は問わないって物騒な文言つけて!』

留提督「うわ~……それじゃあ、この島にやばいものがあるって決定ってことじゃん! なにか見つけた?」

スマホ『まだですけど、留さんは狙われてるんですから、マジで気を付けてくださいよ!?』

スマホ『俺たちはマークされてないから自由に動けますんで、もう少し探してみますけど!』


留提督「おっけー、それじゃあ引き続き……なんだこれ」

スマホ『どうかしたんすか?』

留提督「いや、これ……骨だ」

スマホ『ほ、ほね?』

留提督「やっべえ、人骨だ! これ多分、人の骨だよ!」

スマホ『えええ!? ほ、本当すか!?』

留提督「マジだよこれ! すっげえ、やっぱやばいんだよこの島!」

スマホ『重要な証拠じゃないっすか! ちゃんとカメラで撮ってくださいよ!』

留提督「わかってるって! うおお、やっべーー!」ゴソゴソ

スマホ『動画で撮影するときは声を入れないでください!』

留提督「わかってるって言ってんじゃん! おお~……マジやべえ~……!」パシャパシャッ

スマホ『とにかく、そういうのがあるってわかった以上は、こっちにも何かあるはずです!』

スマホ『俺たちも探しますんで、留さんは無理しないで安全確保でお願いしますよ!』

留提督「おっけーおっけー! そっちも気を付けてね!」

 ピッ

留提督「ビデオモードでも撮影……っと……」ジー

留提督「早く持ち帰って編集してもらわないと……!」

留提督「やっべえ、俺、悪い提督から艦娘を助け出すヒーローになるんじゃね?」ワクワク

少し短いですが、今回はここまで。

続きです。


 * 鎮守府内 食堂 *

足柄「生死は問わない、って、過激すぎるわよ!?」

提督「別にいいだろ。そもそもこの島の半分は未開拓なんだ、俺だってこの島にどんな毒を持ってる生き物がいるか把握してねえんだぞ」

提督「そうでなくても転んで死ぬことだってあり得る。そういう意味でも回収を最優先しろって話じゃねえか」

提督「それにああ言えば、この島が危険だって認識もするだろ。それがわかんねーなら野垂れ死ねと言ってやりたいがな?」

千歳「一番危険なのはその過激すぎる准尉の思想だと思いますけど……」

島風「あー、提督!! おっそーい!!」

提督「おう、悪いな。で、潮は大丈夫か?」

潮「は、はい!」

黒潮「潮はええけど、なんか陸奥はんが具合悪そうなんよ……」

陸奥「大丈夫、ちょっと気分を悪くしただけよ」

白露「私たちが明石さんところに連れてってあげたほういいかな?」

提督「お前らじゃなくて、頃合い見て長門と一緒に行ってくれ」

島風「えっ!? 私たちじゃないの!?」

提督「お前らは黒潮に何やったのか覚えてねえのか」ジトッ

黒潮「……」ジトッ

白露「……あ、あははは~」


提督「まあいい。で、潮を囲んだ連中がどこに行ったかなんだが……」

潮「そ、それが……」

 * *

長門「……というわけで、どうやらここに来たテレビ局の一人は、艦娘が提督には絶対に逆らわないと信じて来たみたいなんだ」

提督「なんだそりゃ?」

島風「よくわかんないですねー?」

黒潮「随分都合のいい設定やなあ……」

長門「私たちが轟沈せずに余所の鎮守府から離反して来たと言ったら、かなりショックを受けていたようでな」

提督「そういう理屈か……あんまり言いたかねえが、艦娘は未だ海軍の備品扱いだ」

提督「人間に対して逆らうことはない、って認識があって、それを見た連中がそれを普通と認識すりゃあ、そうもなるかもな」

潮「で、でも、どうしてそれがそんなにショックなんでしょう……」

提督「人間が手も足も出ねえ深海棲艦を倒せる艦娘が人間に襲い掛かったら、絶対かないっこねえよな?」

提督「人間を攻撃しないはずの猛獣が、実は歯向かう危険があるとしたら、恐ろしさから殺せと言ってくる奴がいてもおかしくねえ」

潮「そんな……」

提督「逃げた奴がそういう胸糞悪い考えでいたとしたら、陸奥が気分悪くするのも無理はねえんじゃねえか?」

黒潮「あー、そういう……」


千歳「あの、准尉? この島には、轟沈した艦娘が流れ着いてくるんではなかったの?」

提督「いいや? その認識で合ってるが、そうでないやつもいる、って話だ。ここにいる艦娘は、全員轟沈しちゃいねえよ」

提督「事情はそれぞれだが……前の鎮守府の司令官がとった行動のせいでこの島に来ることになった、いわば避難してきた艦娘だ」

足柄「霞ちゃんもそうなの!?」

提督「んー……そっちはあとで当人から聞いてくれ。つうか、今日は厨房にいるよな? 騒ぎの時に出てこなかったのか」

長門「貴様が言っただろう、関係ない艦娘は極力この件に顔を出すなと。霞はそれを守っているだけだ」

提督「あー、そういやそうだった……」

 <シレイカーン!

提督「ん?」

朝潮「はぁ、はぁ……こちらにいらっしゃいましたか!」

提督「なんだそんなに慌てて」

朝潮「よ、妖精さんからご報告がございます!!」ビシッ

妖精「朝潮ちゃんに運んでもらったから早く来れたよ」ヒョコッ

提督「報告……って、何かあったんだな?」

 * *


提督「……やっぱり別動隊がいやがんのか」

妖精「とりあえず島のみんなに協力してもらってるけど、手分けして島の中を撮影しようとしてるみたいだよ」

提督「奴らが乗って来た船の中に、居残りしてる奴はいるか?」

妖精「いないね。テレビのクルーは留提督含めて全部で8人だって」

提督「ほーう……そんじゃあ、またお上に告げ口作戦で行くか。手紙書くから船にまでもってってくれるか?」

妖精「うん、まかせて」

長門「なんだその告げ口作戦というのは」

提督「詳しくは後でな。ちょっと急ぎてえし」

足柄「……准尉、あなた、妖精さんと話ができるの!?」

提督「ん? なんだ、知らなかったのか……つうことは、留提督や遠大佐もこのことは知らねえんだな?」

千歳「え、ええ、多分、そういうことになるのかしら。そもそも妖精さんの話題すら上がらなかったし……」

提督「そういうことなら、足柄と千歳は俺が妖精と話せるってこと、あいつらには内緒にしておいてくれ」

千歳「承知しました」

朝潮「そ、それから、司令官……大変申し訳ありません!!」バッ

提督「ん? どうした?」

朝潮「留提督を、見失いました……!」

提督「見失った?」


朝潮「留提督が窓から外へ逃げたところまで、若葉さんと把握しておりましたが……」

朝潮「手分けして捜索に向かったものの、朝潮はその後の足取りを掴むことができず……!」

朝潮「何の手掛かりもないままに、妖精さんを連れて戻ってきてしまいました……!」ウルウル

提督「そうか。別にいいぞ?」

朝潮「大変申し訳ありま……えっ」

提督「そんな深刻になるな。見失ったもんはしょうがねえ」

朝潮「で、ですが」

提督「若葉がまだ戻ってこねえってことは、向こうで何かを掴んでる可能性もある」

提督「最終的にあいつがこの鎮守府のことを放送しなけりゃいいだけの話だ」

朝潮「え、あの……私の処分は」

提督「ねえよ。確かに任務に失敗したかもしれねえが、まだ俺たちの負けが決まったわけじゃねえ」

朝潮「司令官……!」

提督「まだまだ打つ手は残ってるさ。とりあえず朝潮と白露、島風は一緒に来い」

島風「おうっ!?」ビクッ

提督「何びっくりしてんだよ」

白露「だって提督、私たちを頼る気配、全然なかったじゃないですか!」

提督「事態が変わったからな。とりあえずついてこい」

足柄「私はここに残っててもいい? 霞ちゃんと少し話したいんだけど。あ、勿論、邪魔はしないわよ!?」

提督「ん? ああ……長門、一応付き合ってやってくれ」

長門「承知した」


 * それからしばらくして *

 * 夕方 鎮守府内会議室 *

留提督「いやあ、まいったまいった」ドロダラケ

クルー1「どうしたんですかその恰好!」

留提督「いやー、調子に乗って林の中をうろうろしてたらこんなふうになっちゃってね~」

提督「毒蛇がいるかもしれねえってのに、のんきなもんだぜ」

クルー2「いるんですか!? 毒蛇が!」

提督「調べてねえから知らねえよ」

クルー4「調べてないんですか!」

提督「だから何があるかわからないから立ち入るな、ってなるんだろうが」

クルー1「なんて無責任な……」

提督「勝手に島にやってきて勝手に手付かずの林に立ち入って勝手に怪我したら俺の責任かよ? ふざけんな」

提督「そもそも俺はお前らに帰れと言ったぞ。俺の言うことを聞かない連中が俺に責任を押し付けんじゃねえよ、くそが」

クルー3「……それはそうと准尉さん、売店とかに留さんの着替えは売ってないんですか?」

提督「いらねえとよ。明石に酒保開けてもらって、そこで売ってる服で我慢しろっつったんだがな」


留提督「趣味じゃないんだよね、安物な上に普通より高いし。他にないの?」

提督「他なんかねえよ、この島の在庫はあの酒保の分だけだ。その酒保を開いただけでもありがたいと思えってんだよ、贅沢ばっか言いやがって」

留提督「だとしてももうっちょっと趣味のいい服、用意しててほしいんだけど。ああ、あとシャワー貸してくれない?」

提督「もう帰れよ……なんで風呂まで恵んでやんなきゃなんねえんだ、この馬鹿野郎が」ゲンナリ

留提督「……」

クルー2「ちょっ……いくらなんでも言い過ぎじゃないですか!?」

提督「馬鹿は馬鹿だろうが。てめえらのやってることは、勝手に他人ん家に入って冷蔵庫開けて文句言うガキより躾がなってねえって言ってんだよ」

提督「着替えたい服がないならそのままにしてるか洗濯しろ。たらいと洗濯板なら貸してやる」

提督「艦娘が帰ってきたときに艤装の海水を流す水場があるから、日が落ちる前にそこで全部洗ってこい」

クルー3「そこまで目の敵にしなくても……」

提督「ああ? さっきから俺は何度も、お前らを歓迎してねえ、っつってんだろが」

提督「轟沈した艦娘の扱いはさっき説明したよなあ? 鳥海や加古を助けるっつう名目自体、上が通すとは思えねえんだよ」

提督「この島に来る前に、ちゃんと上に報告して了解貰って来たのか? それを証明するものを、お前らは何かしら俺に示したか?」

提督「その撮影許可証だって、呉の鎮守府で撮影するときのやつじゃねえのか? 俺には何の連絡も来てねえんだぞ?」

提督「ほんの少し前まで、艦娘の存在は海軍の機密情報扱いだった。艦娘の詳細を知りたいのはなにもテレビ局だけじゃねえ」

提督「お前らが、テレビ局を装ったスパイだって思われても仕方ねえんだよ」


クルー4「で、でも、この人のお父様は有名な」

提督「だから知らねえって言ってんだろ、んなことは!」

提督「いくらテレビの世界で有名だろうが、そんなもん、俺たちにも深海の連中にも知ったこっちゃねえっつったろ!」

提督「そのくだらねえ印籠を振りかざして海軍の船に乗って! 海軍巻き添えにして海底に沈みやがったのがお前らの仲間じゃねえのかよ!」

全員「「……」」

提督「はー……ったく、なんでこんな連中に一日潰されなきゃなんねえんだ。マジ面倒臭えぞ、くそが」

 ブォォォーーーーン!

提督「……!」

クルー1「な、なんだ、今の音!」

雷「私たちの船の音じゃない!?」

クルー3「ちょっと!? あの船、動いてないですか!?」

留提督「遠大佐!? なんで勝手に船が出航したんですか!?」

遠大佐「わ、私は何も聞いてないぞ!?」

提督「……なんだそりゃ。つまり、お前ら置いて日本に戻ったってことか?」

留提督「そんな話、聞いてないんだけど!?」

提督「あぁ? 俺に言うなよ、お前らの船だろ?」


クルー3「どういうことですか!?」

クルー4「撮影機材は船に積みっぱなし?」

クルー1「バッテリーもか!?」

クルー2「船に残ってるスタッフはどうしたんだ!?」

クルー4「冗談じゃないぞ……これからどうするんだ!? 日本に連絡しないと!」

留提督「准尉! この島に船はないの!? 追いかけてよ!」

提督「ねえよ、んなもん」

留提督「は!?」

提督「この島には、船やボートの類は一切ねえっつってんだよ」

クルー4「そんな馬鹿な!?」

クルー2「どうやって日本に帰るんですか!?」

提督「そんなの知るかよ……」

クルー3「准尉さんだって日本に帰るときどうしたんですか!?」

提督「あぁ!? 俺は日本になんか行かねえよ」

クルー3「そういう意味じゃなくてですね! 里帰りとかどうするんですか!」

提督「……駄目だこいつら」ハァ

鳥海「……」


クルー4「それより日本に連絡!」

留提督「遠大佐は!?」

雷「今、遠大佐の鎮守府に電話中よ!」


 * *


遠大佐「そうか。わかった、急いでくれ

 ピッ

雷「司令官、鎮守府のみんなはなんて言ってたの?」

遠大佐「……船が引き返したという連絡自体、私の電話で初めて聞いたそうだ」

雷「えええ!?」

遠大佐「今、どういうことか調べてもらっている。1時間以内にもう一度連絡を貰うことにした」

クルー1「とにかく、連絡はついたんですね」

クルー2「良かったあ……」

留提督「安心したらお腹がすいちゃったなあ。船が戻ってくるまで時間があるんでしょ? 時間も時間だし、ごはん食べようよ」

提督「ああ? 飯だ?」

雷「テレビのスタッフさんがお弁当用意してきたの! 千歳さんが持ってるはずよ!」

提督「……千歳が? そういう話ならちょっと待ってろ、千歳呼んでくる」


 * 執務室 *

千歳「ええ、持ってきてますよ……」ガックリ

提督「なんだ、いきなりテンション下がったな」

千歳「だって……」トボトボ

 千歳の持ってきた大きな木箱<ガシャッ

提督「でけえ荷物だと思ったが、こいつはなんだ?」

千歳「私の飛行甲板です」

提督「これがか。確かに滑走路は書いてあるが……」

千歳「本当はね、この中に私の艦載機が載せてあるの……」

 千歳の飛行甲板箱<ガパッ

千歳「でも、今回は私の艦載機は載せてなくって……今は冷蔵庫の代わりにされてるんです」

提督「は?」

千歳「ほら、これ、保冷剤。中に断熱シートも敷いてて。これがお弁当でしょ? こっちが缶ビールで……」ハイライトオフ

提督「……お前の艦載機は」

千歳「……」ズーン

提督「持ってこられなかったと……」

千歳「せっかく航空母艦になったのに、私は何を運んでるのかしら……」ドヨーン


 * 工廠 *

雲龍「雲龍型輸送艦ですって?」キュピーン

龍驤「いきなりどしたん?」


 * 会議室 *

クルー3「人骨!?」

留提督「うん。この島やばいよ? あいつが何を企んでるか、わかったもんじゃない」

鹿島「……」

山風「じんこつ……!?」ガタガタ

ガンビアベイ「Oh my god ...」ガタガタ

留提督「あいつが俺たちに冷たい態度を取り続けてるのは、そういう後ろめたい部分があるからだと思うんだ」

加古「……」

鳥海「そんな……」オロオロ

雷「大丈夫よ! なにかあっても、私がみんなを守るわ!」

遠大佐「ああ、頼りにしているよ、雷」

雷「ええ、任せて!」ニコニコ

クルー1「ただ……留さん、俺たち帰りの船がないんですよ?」

留提督「大丈夫だよ、僕のお父さんに連絡を入れておいたし!」

クルー1「そ、そうですか……! それなら安心ですね!」


鳥海「お父様……? 留提督のお父様は、海軍の関係者なんですか?」

クルー2「いや、超有名な俳優さんだよ。海軍にご友人がたくさんいらっしゃるんだ」

留提督「呉の大将さんとも知り合いなんだ!」ムフー

鳥海「そんなつながりがあったんですね」

留提督「そういうことさ! いざとなったら、お父さんが何とかしてくれるよ!」

加古「……」

 扉<ゴン

提督「おい、弁当持ってきたぞ」ガチャ

鳥海「えっ、いまのノックだったんですか!?」

千歳「失礼しますね」ガラガラー

提督「ったく、艦載機の格納庫を冷蔵庫代わりにするとか、何考えてやがんだ」ガシポイガシポイ

 (提督が格納庫の中の弁当箱を無造作に掴んで机に投げるように置く)

提督「酒まで持ってきやがって。どこで晩酌する気だったんだ? くそが」ガシャンガシャンガシャン

クルー1「ちょっ! 缶ビールもっと大事に扱ってくださいよ! 缶がへこむし! 開けたときに炭酸であふれるでしょ!」

提督「今すぐ飲むわけじゃねえだろ、気にすんなそんなもん」


提督「これで全部か? 保冷材とか余計なもんも全部出しちまえ、どうせもう使わねえだろ」ポイポイポイ

千歳「じ、准尉! あとは私がやりますから!」アセアセ

提督「ん? ああ、悪いな、お節介だったか」

 扉<コンコンコン

霧島「失礼致します」チャッ

クルー7「い、いててて! ら、乱暴にすんなよ!」

クルー1「!?」

霧島「司令、島内で工作活動を行っていた不審者、3名を捕縛しました」

クルー7「こ、工作活動って……俺たちは怪しいもんじゃないです!」

霧島「説得力がありませんね。見知らぬ人間がうちの島でこそこそしていたら、怪しいという感想以外出てきません」

摩耶「ったくよー、撃たれなかっただけ運が良かったと思えよな!」グイッ

クルー5「だから痛いっての! 引っ張るなよ!」

最上「抵抗するから僕たちだって力づくになるんじゃないか」

三隈「こちらの方みたいに無抵抗なら、乱暴にはいたしませんわ」

クルー6「……」ホールドアップ


クルー5「お前、なんで言われるがままなんだよ!」

クルー6「俺、死にたくねーっすから」

留提督「みんな!?」

クルー5「留さん!? 良かった、無事だったんですね!」

クルー1「おいおい、全員船を降りてたのか!?」

クルー7「は、はい、降りてしばらくしてたら、いきなり船が出航してまして……」

提督「つまり、お前らも勝手に島の中を歩き回ってやがった、と」

全員「「……」」

千歳「……あら?」

提督「どうした」

千歳「これだと、お弁当の数が足りなくないですか? 可愛い柄のランチボックスがひとつと、紙箱入りの豪華なお弁当が9つ……」

提督「あん? なんだ、人間の分しか用意してねえんじゃねえのか」

千歳「そうだとしても、このランチボックスを入れると、全部で十個ですよ?」

雷「そのお弁当は私と司令官のよ!」キョシュ!


提督「それでもふたつ……いや、よっつ足りねえな。遠大佐と秘書艦除けば、人間8人と艦娘5人だろ?」

クルー4「そ、それは……」

クルー6「あー、すんません。艦娘の分は弁当準備できてないっす」

千歳「えっ、じゃあ一個多いのは」

クルー6「留さんの分っす。そういう指示だったんで」

提督「……」

クルー2「留さんが急にこの艦娘たちも連れて行こうって言うから……!」ゴニョゴニョ

提督「千歳と足柄の分も用意してねえとこ見ると、最初から艦娘の飯を準備すること自体、頭になかったみたいだな?」ジロリ

クルー6「重油でいいって聞いたっすから」シレッ

千歳「……」

雷「ご、ごめんなさい! 私たちが準備できなくて……!」

遠大佐「この3人を連れて行くことになったのは急に決まったことなんだ」

遠大佐「千歳と足柄の両名についても、合流したのは今朝出立前だ。我々の準備不足だ、すまない」ペコリ

提督「……仕方ねえな。この3人と千歳たちの分はこっちで準備する。大したものは用意できねえが、我慢してくれ」ハァ…


留提督「良かったあ、鹿島ちゃん一緒にご飯食べようね!」

鹿島「……」ゾワッ

提督「は? お前らはお前らでここで食えよ。こいつらは食堂に連れて行く」

留提督「はあ!?」ガタッ

提督「はあ!? じゃねえよ、こっちにわざわざ飯を持って来させようってか!? そこまで御膳立てしてられっか!」

提督「この部屋の机だって座れて10人程度だってのに、どうやったら全員で飯が食えると思ってんだよ!」

留提督「だったら僕たちも食堂に」

提督「さっきまで勝手に出歩いてた奴がふざけたこと言ってんじゃねえ! 便所以外でてめーらをこの部屋から出す気はねえぞ!」

留提督「なんでだよ!」

提督「なんで……って、お前は人の話聞いてねえのかよ」ゲンナリ

最上「すごいねー、こういうのを厚顔無恥って言うんだっけ?」

霧島「……」ヒキッ

三隈「最上さん!?」ヒィィィ!?

摩耶「いや、思ってても口に出すなよ……あたしもそう思うけど」ボソッ

留提督「横暴だろ! こっちの遠大佐はお前の上官だぞ!」

提督「それがどうした、こっちはこの鎮守府の責任者だ。郷に入らば郷に従えよ。客なら客らしくその家長に従いな」


提督「こちとらあくまで『厚意』で『部外者』を鎮守府においてやってんだ。俺のやることが不満なら、早く島から出ていけってんだよ」

留提督「船もないのに! 泳いでいけって言うのか!」

提督「船がなくなったのはお前らの都合だろ。不満なら出ていけ。出ていきたくないなら俺の言うことに従えって言ってんだ。至極単純だろうが」

留提督「遠大佐! いいんですか、こんな下っ端にここまで言われて!」

遠大佐「……あまり言いたくはないが、君のこの島での権限を剥奪してもいいんだぞ」

摩耶「ああ!?」ギロリ

霧島「司令? このような行為こそ横暴と言うべきでは?」

提督「落ち着け。まあ、権限くらいやってもいいぞ。その時はこの島の艦娘全員集めて通達する。その代わり……」

遠大佐「その代わり……?」

提督「うちの艦娘が、お前らの決定にどんな反応を示したとしても、俺は責任取らないからな?」

遠大佐「どういう意味だ?」

提督「事情は様々だが、轟沈させられた過去を持つ艦娘の面倒を、お前がちゃあんとみていられるか、って話だよ」

提督「何度も言ってるが、轟沈した艦娘は深海棲艦になるってのが通説だ。本営だって根拠なく言ってるわけじゃねえ」

提督「この島に人間は俺一人。憲兵にも特警にも常駐を拒否されたくらいだ。俺が危惧してること、理解できるよなあ?」

遠大佐「……っ」

雷「……そ、そのときは私が司令官たちを守るわ!」

提督「ああ、そうかい。ま、やれるもんならやってみな」フン


提督「それからもうひとつ、この島には、轟沈して流れ着いた艦娘だけじゃなく、余所の鎮守府から異動させられてきた艦娘もいる」

クルー3「!」ビクッ

留提督「はあ!? 今更都合のいい嘘をつくな!」

クルー4「い、いえ、それは本当なんです! 俺が会った戦艦長門がそう言ってました!」

留提督「え!? ながもんいるのここ!?」

提督「で、そのなかには、その時の提督に歯向かって提督に危害を加えた艦娘や、鎮守府そのものを焼失させた艦娘もいる」

遠大佐「……!」

摩耶(あたしのことだろうなあ……)ウーン

三隈(三隈のことですよね……)

提督「俺がいなくてもそいつらを抑え込める自信があるなら、俺を解任してみればいいさ。俺は止める気ねえからな?」

留提督「あんた……俺たちを脅すつもりか!」

提督「俺は事実を述べてるだけだ。つうか、この島に来るんだったら、ここがどんな場所か、もうちょいしっかり調べておけよ」

提督「とにかく、お前らはもうこの部屋から出るな。これ以上、この島の艦娘たちの居場所を引っ掻き回すんじゃねえ」


留提督「だからって鹿島たちだけを連れて行くのはないだろう!? どうなんですか遠大佐!!」

遠大佐「ふむ……千歳と足柄はともかく、鹿島と山風、ガンビアベイは私の部下だ。それを君が勝手に連れ回すのはどうかと思うが?」

提督「ん……確かに。それはそうだな」

留提督「おおっ!」

提督「そういう話なら、遠大佐とその秘書艦が食堂に同行するのは認める。が、留提督とその一味の退室は不可だ」

留提督「あああああもおおおおおお! なんでそうなるんだよおおおお!」バンッ!

提督「そうなるだろうが。自分がやったことを省みろよ、もう説明すんの面倒臭すぎんぞ……」ハァ

提督「ともあれ、加古と鳥海も一日座りっぱなしで疲れたろ。食堂へ向かうぞ」

鳥海「は、はい!」スクッ

加古「……」ガタッ

提督「遠大佐たちも準備しな。お前たちもだ」

鹿島「は、はい……! みなさん、行きましょう」スクッ

ガンビアベイ「Y, Yes...」ビクビク

山風「うう……」ビクビク

留提督「……くそぉ……!!」ギリギリッ

今回はここまで。

それでは続きです。


 * 食堂 *

 ガヤガヤ…

陸奥「へーぇ、潮ちゃんが代筆したの?」

潮「は、はい! あの船の乗組員さんに渡すお手紙だそうです……!」

長門「潮がいきなり呼び出されたから、何があったかと思ったんだが……」

潮「私の字の方がしっかりしてるから、と……」

陸奥「それで実際に効果があったのよね。すごいじゃない」

潮「あ、ありがとうございます……!」

長門「……それにしても、遠大佐は事の重大性を理解しているのか?」

陸奥「できてないんじゃないかしら。仁提督のときは、彼自身がこの島のことを理解してなくて、話し合いで済んだからそれまでだったけど」

陸奥「今、来てる人たちは最初から轟沈経験艦を引き取る目的で来てるわけでしょ?」

陸奥「本営の意図を無視してタブー視されていることをやろうとしてるからこそ、上に報告せずにここへ来たんじゃないの?」

初春「そうであろうなあ」ズイッ

陸奥「!」

不知火「失礼します」


長門「おお、初春と不知火か。お前たちも夕餉か」

不知火「はい。遠大佐の顔も見ておけと司令からの指示がありまして」

初春「近くに座らせてもらって、様子を探ろうと思っての。少し遅めに参じたわけじゃ」

陸奥「ふぅん。どんな人なのかしら」

初春「秘書艦が雷と聞いておるが、どのような人物かは掴めておらんでの」

不知火「まだ遠大佐はこちらに来ていませんね」

長門「ああ……おや? あれは……」

潮「もしかして……あの人たち、ですか?」


霧島「こちらが食堂です」

雷「ありがとう霧島さん!」

遠大佐「なかなか賑やかだな。一度轟沈した艦娘が多いとは思えないほどだ」

敷波「!」

朝雲「!」

敷波「……」ヒソヒソ…

朝雲「……」コクコク

敷波「……」タタタッ

朝雲「……」タタタッ


遠大佐「……歓迎はされていないようだが、当然か。仕方ない」

雷「司令官、大丈夫よ。私がいるじゃない!」ニコッ

遠大佐「ああ、ありがとう」


不知火「目標確認。近くに行きましょう」

初春「うむ、それでは参ろうかの」

陸奥「気を付けてね」ヒラヒラ


加古「はぁ……やっと外に出られた。留提督ってば話を聞かないくせに、しつっこいんだよぉ」

雷「加古さん、そんなに戻りたくないの……?」

加古「だって、戻ったらこれから先、ずーっとあいつがついて回るんでしょ? 悪いけど、あたしはこっちの鎮守府のほうがいいよ」

雷「……」

加古「ていうかさ、留提督がいないから訊きたいんだけど、遠大佐もなんであんな奴の言うことに何も口出ししないのさ」

鳥海「それは私も同感です。留提督の説得は説得と呼べるものではなく、ただのご自身の希望の押し付けでしかありません」

鳥海「あらかじめ着地地点が決まっていて、是も非もなく強引にそこへ持ち込もうとしている……そんな印象を受けました」

遠大佐「……」


鹿島「あの……私たちは、何のためにこの島に連れてこられたのでしょうか?」

鹿島「言われるがままにこの島に来て、言われるがままに艤装を外し……今の私たちはなんの戦力にもなりません」

鹿島「遠大佐、あなたは……あなたたちはいったい、何をしようとしているのですか……!?」

山風「……」

ガンビアベイ「……」

雷「司令官……!」

遠大佐「……すまない。今はまだ、話すことはできない」

雷「……」

ガンビアベイ「E, Excuse me, わ、私たちが、この島の鎮守府に入ったのは、ここの提督准尉? の、お考え、ですよね?」

遠大佐「……ああ、それはそうだ」

ガンビアベイ「それは、どうしてなんでしょうか……? 私、疑問です」

山風「う、うん、それは、不思議……あの人、ずっと、私たちを、睨みつけてた……」

鹿島「どういうことなんでしょう……」

雷「うーん……」


霞(エプロン着用)「随分辛気臭い顔してるわね」

ガンビアベイ「!?」ビクッ

山風「!?」ビクッ(←鹿島の陰に隠れる)

千歳「あら、霞ちゃん! 久し振りね!」

霞「お久し振りです、千歳さん。摩耶さんから聞いたけど、夕餉を準備してなかったんですって?」

千歳「そうなの。私と足柄、それからこちらの3人……」

鹿島「練習巡洋艦、鹿島です。こちらは駆逐艦山風と、航空母艦ガンビアベイです」

霞「ふぅん……」

山風「……」オドオド

ガンビアベイ「H... Hello...」ビクビク

霞「そんなに怯えなくていいわよ。もうすぐご飯ができるから、もう少し待ってなさい」クルリ スタスタ…

雷「あ、ありがとう……!」

摩耶「お、みんな来たんだな。とりあえず適当な場所に座ってくれよ」

雷「ええ、それじゃあ、お言葉に甘えましょ! 司令官! みんなも座って!」イスヒキ

遠大佐「ああ、ありがとう」ニコ


霧島「あなたたちも、気分はすぐれないかもしれないけれど、良かったら食べていって」ニコニコ

鹿島「あ、ありがとうございます……」

山風「……」ジー

ガンビアベイ「……? 山風、どうしたの?」

山風「う、ううん、なんでもない……」

雷「私たちのお弁当はあるけど、みんなのご飯が来てから頂きましょ! みんなで食べたほうがおいしいもの!」

遠大佐「そうだな、雷」ニコニコ

三隈「私たちも一緒にいただくんですの?」

最上「特に何も言われてないから、自由でいいんじゃない?」

不知火「失礼します、こちらにご一緒よろしいでしょうか」

最上「うん、いいよ!」

三隈「提督の代わりに遠大佐の見張り……ですか?」ヒソヒソ

初春「うむ、まあそんなところじゃ」ヒソヒソ

加古「あたしもこっちに座っていい?」

最上「うん!」


鳥海「私もこちらに失礼しますね……」

三隈「あら、鳥海さんもですか?」

鳥海「ちょっと離れて冷静になろうかと思いまして……」

足柄(エプロン着用)「待たせたわね! 今日の夕餉を持って来たわ!」バーン!

霞「ちょっ、足柄さん!? わざわざ配りに行かなくても、取りに来させればいいじゃない!」

足柄「あ、そっか、ごめんね?」テヘペロー

千歳「足柄、あなた厨房のお手伝いしてたの?」

足柄「話の流れでね。私たちの夕餉が用意されてなかったのはこっちの不手際だし、ただで御馳走になろうだなんて不作法だと思わない?」

千歳「そうだったの……ごめんね霞ちゃん、いきなり押しかけて、迷惑だったでしょう?」

霞「大丈夫、全然迷惑じゃなかったわ。むしろ足柄さんの手際が良いからすごく助かっちゃって」

千歳「だったら良かったけど……そういえば、足柄は波大尉のところでも厨房でいろいろ作ってたものね」

足柄「以前はゲン担ぎと私の好みでトンカツばかり揚げてたけどね~」

千歳「全然野菜が出ないから、波大尉から『艦娘と一緒にするな』って、叱られちゃったのよね」

霞「え……」


千歳「ほら、足柄って一点豪華主義的なところがあるじゃない? 火力第一みたいなところとか」

霞「あー……そんなところまで『飢えた狼』してなくてもいいのに」

足柄「そ、そんな呆れたような顔しないでよ!?」

霞「足柄さんらしいと言えばらしいのよね、そういうとこ」

霞「でも、この島じゃあ肉も卵も貴重品だから、トンカツはあまり作る機会ないのよね……」

千歳「それで今日のメニューが魚の竜田揚げなのね」

最上「それと高菜のチャーハンと中華スープかー! おいしそうだね!」

三隈「ここが離島であることを忘れてしまいますわね……」

雷「みんなのご飯もきたみたいだし、私たちも食べましょ、司令官!」ベントウヒラキ

 弁当『いかにもな愛妻弁当です!』

千歳(……ご飯にピンクのハートマークが……)

足柄(あれ、キャロットグラッセかしら……ハート型になってる……)

霞(手が込んでるわね……卵焼きにハムとチーズが巻かれてるし、ちゃんと彩りも考えられてるわ)

雷「ちょっ、どうしたの!? みんなこっち見て固まってる!?」

千歳「あ、ああ、すごいわね、って……」

比叡「あれ? みんなどうしたの?」

霞「べ、別に何でもないわ、大丈夫よ」


千歳「ちょっと、なんで比叡さんが厨房から出てきたの」ヒソヒソ

足柄「これ作ったの比叡さんよ?」ヒソヒソ

千歳「ちょっ……!?」

足柄「そんな顔しないの! 私も驚いたけど、絶対おいしいから大丈夫よ!」

千歳「そ、そう? 足柄がそう言うなら、信じるけど……」

加古「いやもうあたし、お腹すいたし眠いし、早く食べて寝たいんだけど……」

摩耶「まあ、そうだな、食べるかあ」テアワセ

不知火「ええ、いただきます」テアワセ

雷「それじゃ、私たちもいただきます!」チャッ

遠大佐「ああ、いただきます」

霞「……ちょっと待って、なんで遠大佐がお箸を持ってないの……」ハッ

雷「司令官、はい、あーん!」ニコー

遠大佐「あーん」

霞「!?」ピキッ

千歳「!?」カシャーン(箸を落とした音)

足柄「!?」バキィ(箸を圧し折った音)


雷「おいしい?」ニコー

遠大佐「うん、おいちー」ニヘラー

霞「」シロメ

千歳「」シロメ

足柄「」シロメ

霧島「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン

摩耶「き、霧島さん大丈夫っすか!?」セナカサスリ

不知火「」ブボァ

初春「」ブボァ

三隈「」ベチャア

最上「三隈!? ちょっと待って、ふきんを持ってくぅわああ!?」ガシャーン

鳥海「最上さん!?」

比叡「」アッケ

鹿島「チャーハンおいしいですね!」タニンノフリ

ガンビアベイ「お魚もおいしいです!」タニンノフリ

山風「もぐもぐ……」カンゼンムシ

加古「……うん、やっぱここのご飯おいしいわ……」モキュモキュ


陸奥「なにあの地獄絵図……」

潮「長門さん、なんだか見覚えのある光景が……」

長門「えらく久々な気がするな……3度目か?」

陸奥「そうなの!?」


 * 一方 会議室 *

留提督「まったく! ふざけやがって、あのバカ准尉!」モッチャモッチャ

クルー1「ほんっとに失礼な奴ですよね!」

留提督「お父さんへも電話したし、明日の朝には准尉もこの鎮守府から追放だ!」

留提督「僕が大佐になったら呉で過労死するまでこき使ってやる!」

クルー1「そうしてください。こんな態度の悪い提督、初めてです!」

クルー4「そうなったら、この島に代わりの人を立ててもらわないといけないですけど……いくら海軍でもこんな島に来る人いますかね?」

留提督「うーん、どうだろ?」

クルー6「……というか、この島、本当に大丈夫なんですかね」

留提督「ん? どういう意味?」

クルー6「准尉がさっき言ってましたけど、この島の艦娘が提督に歯向かった、って話ですよ」

留提督「どうせ嘘でしょ。准尉の言うことは聞いてたじゃんか」

クルー4「でも、さっきも言いましたが俺も長門からはそう聞きましたよ? 我々が声をかけてた島風とか潮って艦娘もそうだって言ってました」

留提督「えー、ほんと?」

クルー3「私もさっき、工廠にいた艦娘から話を聞いてきたんですが……」

クルー3「そいつが言うには、艦娘が鎮守府を火の海にしたことがあるみたいな口振りでして……」

クルー3「さっき准尉も同じこと言ってましたから、嘘じゃないのか、って……」

クルー全員「「……」」


留提督「それこそ嘘なんじゃないの? なんでそんな危ないやつが、この鎮守府であの生意気な提督におとなしく従ってるのさ?」

留提督「第一、少佐でも大尉でもなく、准尉だよ准尉! 下っ端だよ! 裏で話を合わせてるんじゃないの?」

クルー6「だとしたら、あの人、本当に准尉なんですかね?」

留提督「……どういう意味?」

クルー6「裏で話を合わせられるくらいなら、本当はもっと偉いか……権限っていうか、権力があってもいいじゃないですか」

クルー6「准尉のくせに遠大佐にも噛み付いてたの、気になりません? 実は身分を隠してるとか……」

クルー4「なんのために……?」

クルー2「あの見た目で実は将官だなんてことはなさそうですが……齢いくつなんでしょうね、あの人」

クルー1「20近いガキに見えるけどなあ……威厳とか全然なさそうだろ」

留提督「憲兵や特警がいないから調子に乗ってんじゃないの? 人間が一人もいないとしたら、威張り放題じゃん」

クルー6「……そうだとしたら、この鎮守府で一番偉いのに、なんで階級が准尉なんすかね?」

クルー全員「「……」」

クルー2「それは……」

クルー1「……お前、どう思う?」

クルー7「い、いや、なんでですかね……」

クルー5「単純に左遷されたとかじゃないのか?」


クルー6「だとするとまずいっすね」

クルー5「なんでだよ」

クルー6「左遷させられるような人材が一人で管理させられてるわけっすよね? マジでヤバイんじゃないすか、この島」

クルー全員「「……」」

クルー6「人骨転がってたのもそういう理由じゃ……」

クルー2「縁起でもないこと言うな!!」

クルー1「空気読めねえ奴だな!」

クルー6「あー……すんません。もう黙ってます」

クルー6(……でもヤバイことは確実だよな……)ウーン

クルー4「いや、でも、あり得るか……?」

クルー1「なんだよさっきから!」

クルー4「いや……ふと思ったんだけど、もしかして、准尉が本営に敵対してて謀反を企てているとか、だったら……」

クルー全員「「!?」」

クルー4「おかしいと思ったんですよ。艦娘が提督に逆らうなんて話、これまで聞いたことなかったし!」

クルー2「轟沈したり、反逆したことのある艦娘を集めてるとなると……うわっ、洒落にならないぞ!?」


留提督「うーん、そこまでヤバイかなあ?」

留提督「本当に危険だったら、お人好しの鳥海から、ここの准尉は危ないよ、って話が聞けてたと思うんだけど?」

クルー7「……弱みを握られてるとか?」

留提督「そうかなあ? あいつ、他人庇って轟沈するくらいだよ? 嘘なんかつけなさそうだし、じゃなきゃ挙動不審になってると思うんだ」

留提督「それにこの島、骨を見つけた以外は本当に何もなかったんだよね。みんな、外で他に何か見つけたりした?」

クルー7「すみません、俺は見つけられませんでした」

クルー5「俺は見つけましたよ! 北の岩山に洞穴があったんです!」

クルー1「お!」

クルー5「丁度人が入れそうなくらいの穴が開いてて、奥の方が広々としてて!」

クルー5「隠れ家に使えそうな、いい感じに不気味な穴でしたよ!」

クルー4「へーえ……」

留提督「人が入った形跡とかは?」

クルー5「そこまでの道に踏み固めた跡があったんで、そこは間違いないです!」

留提督「それは怪しいなあ……!」

クルー5「明日はそこを探索してみますか!」

留提督「そうだね! 明日の朝にもこの島を提督准尉から取り上げて、改めてカメラを回して探索開始だ!」


クルー2「面白いネタが撮れるかもしれませんね!」

クルー1「それじゃあさっそく、下見に行ってきます!」スクッ

 ガチャ!

大和「……」ニコニコ

武蔵「どこへ出かけるつもりだ?」ニヤニヤ

クルー1「」

武蔵「なんだその顔は。貴様らの監視のためにわざわざこの大和型が出向いてやったのだ、不服か?」

大和「提督から、もしあなた方がこの部屋から出ようものなら、即座に砲撃して良いと仰せつかっています」

武蔵「私も、好きに叩きのめせと提督にお墨付きをいただいた」

全員「「……」」

大和「そういえば、あなたでしたね? 朧さんに粗相した人間は」ギロリ

クルー1「ひっ」

武蔵「畑を荒らした上に仲間に狼藉を働いたとあっては、捨て置けというほうが無理というもの」ギロリ

武蔵「これ以上この鎮守府で好き勝手させるわけにはいかん」

武蔵「一歩でもこの部屋から外に出てみろ。その時は……ふんっ!!」ブンッ!

 (武蔵が右ストレートを放ち、クルー1の顔の前で寸止めすると、その衝撃で、ぶわっ、と風が舞う)

クルー1「ひえ……!」ヘナヘナ


武蔵「次は止めんぞ。この部屋諸共、貴様の首から上が吹き飛ぶと思え」

武蔵「さあ、ドアを閉めてやろう。挟まれて脚が体とおさらばしないように気を付けろ?」ニィッ

クルー1「ひ、ひいいい!!」ズザザザッ

 扉<パタム

留提督「……」

クルー3「留さん本当に大丈夫なんですか!?」

クルー7「大和と武蔵ですよ!?」

クルー2「なんでこの鎮守府に大和型が揃ってるんだ!?」

クルー4「すげー……初めて見た」

クルー6「どっちもでかかったっすね……」

クルー5「けど、これじゃ下見は無理ですね……」

留提督「いいよいいよ、今は大人しくしておこう。そっか、大和と武蔵もいるんだ~。うちの艦隊、豪華になるね!」

クルー1「え? ええ、まあ……そういう話でしたね」

留提督「この島の指揮権、どうせ准尉から取り上げるんだ。あの二人も呉に連れて帰って、みんなをびっくりさせようよ」ニヤニヤ


 * 一方 部屋から少し離れて *

武蔵「これで良かったのか?」

大和「ええ、良かったと思うわ。もし私がやっていたら、寸止めせずに平手打ちしてたかもしれないし……」

武蔵「だとしたら間違いなく奴の頭がすっ飛んでいただろうな……」

大和「感情が抑えきれなかったのよね……提督のお部屋に無断で入った時点で、到底許してはおけない存在と認識してたから」ドロリ

武蔵「ま、まあ、そう、か」ヒヤアセ

大和「あ、でも武蔵は別よ? この島の艦娘だし、この島の規律のことを思ってやったわけだし」ニコニコ

武蔵「目の濁りというか……その笑顔が怖いんだが」ヒキッ

大和「そ、そう? 私も未熟ね……」ウーン

提督「よう。悪いな、門番みたいな真似させて」

大和「提督……!」

武蔵「気にするな。私も初雪を拐かそうとした奴らの顔を見ておきたかったところだ」

武蔵「しかし、いろいろと良かったのか? あいつらはこの鎮守府から艦娘の引き抜きを狙っているんだろう?」

提督「そうらしいな。ま、俺としては連中の本性を早めに見ておきたくてなあ」

武蔵「本性?」


提督「昔、N中佐がここに来て大和を見たとき、元の目的忘れて大和に懸想したんだよ」

提督「同じように連中がお前たちを見てどんな反応を示すのか、早く知っておきたくてなあ。大した反応を見せないならそれでいいし」

提督「調子に乗るようなら更に煽って持ち上げて、一番高いところから一気にぶち落とす」ニヤァ

武蔵「……なあ、この男は大丈夫なのか?」

大和「え、ええ、大丈夫よ?」

提督「連中に冷静な判断をさせないためとはいえ、二人を餌にしてるみたいでお前たちも気分が悪いと思うが、そこはまあ、勘弁してくれ」

武蔵「まあ、そういう策だというのなら従うが……今の口振りからすると、私たちが配属されている鎮守府は珍しいのか?」

提督「大和も武蔵も珍しいらしいぞ。箔がつくって意味でも、大和型の着任を望んでる鎮守府は多いって聞いてる」

大和「私が本営に行ったときも、私の周りに人だかりができていましたからね……」

提督「とりあえず中の様子は妖精たちに探らせてるんだが……さらっと聞いた感じだと、留提督の父親が呉の鎮守府の大将と知り合いらしいな」

武蔵「そういうコネがあるのか。大丈夫なのか?」

提督「こっちが優位なのは変わらねえよ。まず、轟沈した艦娘を連れ帰るってのがどれほどおおごとかを奴らは理解してねえし」

提督「仮にあいつの父親が呉のトップと懇ろだとしても、周囲からは猛反発を食らうことは間違いない」

提督「無理を通したリターンに比べてリスクが高すぎるし、そんなことすりゃ本営にも、最悪憲兵たちにも目を付けられるだろう」

提督「そもそも憲兵すらこの島に駐在するのを拒否されたほどだ。目を付けられるどころの話じゃねえだろうなあ」

提督「呉のトップがそこまで突っ走る無能なら、本営からもでかい釘がぶっ刺さるだろうさ。留提督の思い通りに動くなんて有り得ねえ」

武蔵「ふむ……だといいのだが」


提督「それにこっちには『あれ』がいるからな。どんな手を使ってでも、この島から連中を追い出してくれるさ」ニヤリ

大和「あれ……とは?」

提督「『あれ』は『あれ』だ。定時連絡で赤城に確認したが、あんな目に遭っても『あれ』は未だに大和にご執心だと」チッ

大和「まさか……」ゾワワッ

提督「その大和を新参の留提督が横から掠め取ろうとしてたとあっちゃあ、『あれ』も面白くもねえだろう」

提督「いい気味だぜ、殺したいほど憎い俺たちを守るために『あれ』が必死になるんだからなあ……!」

大和「」アオザメ

提督「腐ってても『あれ』が今の俺の直属の上司なんだ、せいぜいこの島を荒らされないよう、奔走して貰おうじゃねえか。ククク……!」ニヤァァ

武蔵(……この男、本当に大丈夫なんだろうな?)タラリ

大和「て、提督……」ガタガタ

提督「……あー、嫌なもん思い出させちまったか、大丈夫だ、心配すんな」

大和「提督……!」ヒシッ

提督「お前を中佐なんかにゃあ渡さねえよ。勿論、留提督にもな」ナデナデ

大和「うう……」グスン

武蔵「……」

武蔵(まあ、大和がこれほど信頼しているのなら、信じてもいいのかもしれんな)フフッ…


 * それからしばらくのち 執務室 *

提督「こちら××島鎮」

通信『どういうことだ准尉。なぜ部外者の侵入を許した!』

提督「守府……なんだ中佐か。これまでの状況は赤城に伝えたとおりだぞ」

提督「何の連絡もなしに呉の遠大佐と留提督が乗り込んできて、自分のところで沈めた艦娘2隻と話がしたいって言うんだ」

提督「大佐が相手じゃ、話を聞かないわけにもいかねえだろ」

通信『留とか言う奴は何者だ』

提督「芸能人らしい。スタッフと一緒にテレビカメラ数台引き連れてきやがった」

通信『っ! 何も撮影させてないだろうな……!!』

提督「撮影許可は出してねえよ、カメラもデジカメだが一台見せしめに潰してやった。それでも隠し撮りしてる可能性は否めねえな」

通信『なぜすぐ報告しなかった!』

提督「こっちで準備した会議室から奴等が脱走して家探しを始めたんだよ! 捕まえんのに苦労したぜ……ったく」

通信『ちぃ……! どいつもこいつも勝手な真似しやがって……!』

提督「今は全員とっ捕まえて会議室に閉じ込めて、艦娘に見張らせてる。あいつらが乗ってきた船も一旦呉に戻ったはずだ」


通信『待て、なんで船が呉に戻ったんだ。寝泊りさせる気か!』

提督「まあ、そうなっちまうが、それにはいくつか理由がある」

提督「留提督は、轟沈した艦娘をそのまま連れ帰って運用するつもりでいる。遠大佐はその危険性を見過ごそうとしている」

提督「だが、俺は、轟沈した艦娘をここ以外で運用する話は聞いてない」

通信『……』

提督「だから俺は、その船の乗組員に、遠大佐が本当に呉の上官に許可を得てこの島に来たのか、確認するよう手紙を送って依頼した」

提督「それでもし、呉の上官がそのことを把握してなかったら、遠大佐たちの独断だろうから一度日本に引き返すよう提案した」

提督「あいつらが轟沈したことのある艦娘を引き連れて呉へ戻るのを防ぐためにな」

提督「それから、この島で撮影したであろう写真や動画を持ち出すのを防ぐ目的もある。これは俺たちの都合の話だ」

提督「結果的に船がこの島から出港したってことは、上には連絡がいってない、って話で確定なんだろう」

通信『ふん、そういうことか……なら、まだ手は打てるな。貴様にしては上出来だ』

通信『それで、奴等の目的はなんだ?』

提督「まずはテレビに映すためのネタが欲しいんだろう。留提督が轟沈した艦娘を初めて助け出したって話題になれば、評価されると思ってるらしい」

提督「そしてそれを土産に、留提督が呉で何らかの地位を得られるような働きかけをしているようだ。大佐になる、とかほざいてたぜ」

通信『馬鹿な……!? どこでそんな話になっている!?』

提督「それはわからねえよ。もうひとつわからねえのが、遠大佐の目的だ。なんでそこまでして留提督を支援してるのか、まったく見当が付かねえ」


提督「轟沈した艦娘が深海化する話も、留提督の一味は信じちゃいないようだったが……」

提督「呉に轟沈艦を連れ帰ればどうなるか、少なくとも遠大佐は理解してないとは思えねえ。あいつは俺みたいに民間の出じゃねえらしいからな」

通信『……』

提督「それからもうひとつ。留提督は俺を島から追い出して、呉で働かすつもりらしい」

通信『はぁ!? どういうことだ!』

提督「自分が歓迎されなかった逆恨みだろ。そのついでに大和やら長門やら引き抜くつもりみたいだしな」

通信『んな……なんだとおおお!?』キーン

提督「く……マイクに向かって叫ぶんじゃねえよ、くそが……!」

通信『大和を引き抜くだと!? ふざけるな! 赤城! すぐに呉鎮守府に連絡を取れ!』

通信『准尉! 貴様はそいつらを見張っていろ! 歯向かうようなら牢屋にでもぶち込んでおけ! いいな!』

通信『ブチッ』

提督「……思ってた以上に効果覿面だな。あの様子じゃあ、まだ大和を諦めてねえってか……やれやれ、面倒臭え」

不知火「司令、これで良かったんですか?」

提督「ん? ああ、とりあえずはな。呉のお偉いさんの相手をする分には、あいつの方が多少手馴れてるだろう」


提督「それから、大和の話でぶっ飛んじまったが、あいつにとってもこの島を家探しされるのは不愉快みたいだ、ってのがわかったし……」

提督「少しは真面目にあいつらを島から追い出すために奔走するはずだ」

不知火「そうでしょうか……」

提督「そのはずさ。拠点としての価値に乏しいこんな島を、中佐が後生大事に確保しとくのには、なにか理由があるはずだ」

提督「ともあれ、あいつの弱みは、いくらでも握っとくに越したこたあねえからなぁ」ケッケッケッ

不知火「司令……顔が悪党になってますよ」ヒキッ

提督「おう……そんなに悪かったか」

不知火「はい。それから、人骨を見つけたと言っていますが……」

提督「それは別に驚かねえな。ここも戦場になってるんなら、ひとりやふたり人間が死んでてもおかしくねえだろ」

提督「だいたい、俺がここに来るより前の犠牲者だ。この話を追及されるべきは当時の管理者である中佐であって、俺は丸投げするしかねえ」ニヤニヤ

提督「精々、俺たちのために駆けずり回って苦労するがいいさ……!」

妖精「……顔が完全に悪役だ」

不知火「……悪役ですね」


提督「さてと、いい気分に浸るのは後にして……不知火、氷とクーラーボックスは千歳に渡したか?」

不知火「は、はい。釣りに使っているので、若干魚臭いですが……それと、酒保で売られているお酒も少々足しておきました」

提督「そうか」ニヤッ

 扉<コンコンコン

千歳「千歳です」

提督「おう、入ってくれ」

千歳「失礼します。准尉、クーラーボックスとお酒を届けて参りました。ついでに私が持ってきた缶ビールも一緒に冷やしておきましたけど……」

提督「そこまでやってくれりゃあ、向こうも気分いいだろ。お疲れさん」

提督「魚臭えのもビニール袋で包んどきゃいくらかましだろ。日本人は酒が冷えてねえとうるせえからな」

不知火「どういうことですか……?」

提督「敵に塩ならぬ、酒を送ってやっただけだ。まあ、それ自体が罠なんだが」

千歳「え?」

提督「酒に酔わせて寝たところを退治したのが八岐大蛇……丁度あいつらも8人だったよなあ」ニヤリ

千歳「あ、あの……というか、たったあれだけのお酒で酔っ払って寝るとは思えないんだけど……」

提督「気分が良くなって気が大きくなってくれりゃいいのさ。酔っ払いってのは後先考えねえからなあ」ニヤニヤ

千歳「悪い顔してるわね……」タラリ

不知火「ええ……いつものことです」ハァ

提督「日没と一緒にランプと酒のつまみと綺麗なお布団まで用意してやりゃあ、さぞかし羽目を外してくれるだろうぜぇ……!」クックックッ…

というわけで、今回はここまで。

続きです。


 * 夕食後 会議室 *

留提督「8時消灯!? いくらなんでも早すぎだよ!」

提督「阿呆か。この鎮守府で夜中に騒ぐ必要がどこにある」

遠大佐「鎮守府そのものの防衛は大丈夫なのか……!?」

提督「うちの場合はこれまでこうやってやり過ごしてきたからな。そもそもこの辺の不安定な潮の流れのせいで寄ってこないってのも一因だ」

提督「それに、発電機の燃料代が馬鹿にならねえ。だから基本的に夜間は通信機と保冷庫を動かす電力だけ確保して節約運転してんだよ」

提督「ま、今夜はお前らがいるから、大和たちを夜間哨戒させてしのぐつもりだ」

留提督「え、大和を外に出すの?」

提督「万一に備えてうちの艦娘に見張らせんだ。やらなくていいってか?」

留提督「あ、いや……うん、しょうがないか……」

提督「寝室も一応用意した。寝るだけの部屋なんで、晩酌はここで済ませてからそっちに移動してくれ」

提督「部屋割りは遠大佐と秘書艦の雷で一部屋、留提督とテレビスタッフ7人は4人ずつで二部屋。誰がどっちで寝るかは適当に決めてくれ」

提督「あとは遠大佐の艦娘3人で一部屋、足柄と千歳が2人で一部屋。寝室の場所も広さもばらばらだが、まあ我慢しろ」

留提督「我慢しろ、ってその言い方……」イラッ


提督「それから、艦娘たちはすぐに寝るそうだ」

留提督「えええ!? 一緒に呑まないの!?」

提督「艤装もねえし、役には立てないから、大人しくしてるとよ。だから酒の席も遠慮するって話だ。だよな、遠大佐?」

遠大佐「ああ。我々も今日は早めに就寝する」ウナヅキ