【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 (968)


前スレ

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/)


・DMM【艦隊これくしょん】と
 同じくDMM【影牢トラップガールズ】(2016/07/29サービス終了)のクロスオーバーです

・キャラ崩壊注意

・提督も艦娘も殆どが不幸属性持ちです

・前スレを読まないと話がわからないと思います



前スレのあらすじ

太平洋上の孤島に建てられたとある鎮守府に、島流し同然の扱いで着任した提督。
彼が助けた艦娘と暮らしていたある日、突如として罠の化身「メディウム」たちが現れ、鎮守府を乗っ取ってしまう。

やがて和解したメディウムたちは提督を魔神様と呼び、
彼に付き従い深海棲艦や、提督を消そうとする海軍を撃退していく。
しかし、海軍の策略にかかり、提督は部下の駆逐艦を失い、魔神として覚醒。
自分もろとも島を火の海に沈めてしまう。

提督をなんとか保護したメディウムたちは、深海棲艦の力を借りて
海軍の研究施設を乗っ取り、提督の復活を目論んでいた……。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515056068


 * 太平洋上 研究施設の沿岸 戦闘海域 *

古鷹「……深海棲艦が、一斉に退き始めましたね……」

朝雲「何かの罠かしら」

筑摩「まさか利根姉さんの身に何か……!?」

山雲「……ねえ、あれ、なぁに~?」

 ザザザァァ

アーニャ(ロ級騎乗)「久々の海だぁ~!」

シルヴィア(ハ級騎乗)「こら、遊びじゃないんだから。ちゃんと釣竿掲げて!」

ミーシャ(ロ級騎乗)「これが降参って意味でいいんですか……?」

(W大佐部下:以下「W」)熊野「あれは……白旗ですの?」

W多摩「姉ちゃん、あの人、見覚えあるにゃあ」

W球磨「あー、確かにどこかで釣り上げた覚えのあるヒレクマ」

W鈴谷「ヒレで見分けてんの!?」


最上「あ、あの人……シルヴィアだね。シャークブレードの」

三隈「旗を持っているのはアーニャさんとミーシャさんではありませんか?」

初雪「……釣竿に白旗をひっかけてきてるみたい」

黒潮「やっぱりメディウムが絡んでたんでたんやなあ」

W伊勢「めでぃうむ……って、あの島で会った罠娘たちのこと?」

W日向「まさか、白旗も罠じゃないだろうな」

伊勢「いや、彼女たちは信用できると思うよ」

日向「ああ。摩耶たちと一緒に投降してきたのがあの3人だ。信じていいだろう」

青葉「そもそも、罠にかける気なら最初から姿を現さずに来るでしょうからねえ」

五十鈴「でも、白旗だなんて、本当に何があったのかしら」


 * 戦闘海域の後方 中佐の巡視船内 *

通信(那智)『メディウムが白旗を掲げてきたか……』

中佐「罠かどうかは正直わからない。だが、墓場島の艦娘たちは来てほしいというのが、あちらからの伝言だ」

通信(那智)『……では、私たちも研究施設に向かっていいんだな?』

中佐「ああ。速やかに突入済みの艦隊と合流して、提督少尉の確保に向かってくれ」

通信(足柄)『ええっ!? 提督、生きてるの!?』

中佐「信じられないが、蘇生すると聞いている。でも、あまり良い知らせには思えない。くれぐれも用心して突入してほしい」

通信(千歳)『わかりました……って、白露! 島風! 競争じゃないのよ!!』

通信(足柄)『ね、ねえあれ、由良とはっちゃんじゃない!?』

通信(那智)『中佐、我々にも迎えが来たようだ。これから上陸に向かう』

中佐「うん、よろしく頼むよ」

中佐「……」

H中将「……大丈夫なのか」

中佐「……」

H中将「……中佐?」

中佐「……はい……?」

H中将「……目が半分死にかけてるぞ……しっかりしないか」タラリ

中佐「ははは……何と言いますか、僕がやっていることが本当に正しいのか、少々自信を失いつつありまして」

中佐「人間は無力ですね……こんなときですら、ただ彼女たちを当てにするだけで、何もできないなんて」ウツムキ

H中将「そんなことはない。中佐はよくやっている」

中佐「……ありがとう、ございます」


 * 研究施設内 会議室 *

初春「」グッタリ

キャロライン「」ウットリ

利根「のう若葉よ。そろそろ縄を解いてやっても良いのではないか?」

若葉「そうか?」

利根「うむ、本人の望まぬ苦行は苦痛でしかないからな」

若葉「むう……利根さんがそう言うなら」

オリヴィア「やれやれ、また派手にやってくれたねえ」ノッシノッシ

武蔵「お前はオリヴィア!」

霞「最初から姿を見せてくるなんて、どういうつもりよ!」

オリヴィア「そうつんけんするんじゃないよ。不本意だけどね、アタイたちはギブアップしに来たんだよ」

武蔵「ギブアップだと?」

川内「うん、もう戦う必要ないんだって」

神通「私たちも怪我した人たちを連れて行くのを手伝ってほしいとお願いされたんです……」

若葉「川内さんと神通さんも無事だったのか」

霞「ふたりとも人質って感じじゃないし、信用していいのかしら?」

オリヴィア「そのために連れてきたんだ。アタイたちだけじゃ信用できないかもしれないからね」

カサンドラ「そ、そういうわけで、私たちも最初から姿を見せて……見せ……恥ずかしいぃぃ!!」ピャッ

利根「そこでオリヴィアの陰に隠れたら説得力がないぞ……」

オリヴィア「カサンドラ……あんた何しに出てきたんだい」


利根「まあ良い、してギブアップというのはどういうことじゃ?」

メリンダ「これ以上抵抗は致しません。皆様をご主人様のところへ案内してくださいと、ルミナからの言伝がありました」

武蔵「この状況では分が悪いと判断したわけか」

初春「す、すまぬ、わらわがいてこの体たらく、痛恨の極みじゃ……」

オリヴィア「仕方ないよ初春、ほかのメディウムたちも散々な目に遭ってる。ここは負けを認めようじゃないのさ」

メリンダ「そういうことですので、まずはロープを解いていただけないでしょうか」

霞「じゃあ、朝潮に、これ以上私たちを襲わないように説得してくれる?」

朝潮「むぐう……」グッタリ

ハナコ「ふええ……」グッタリ

カサンドラ「も、もう抵抗のしようがないと思うんですけど……」

オリヴィア「ちょっと我を失ってるねえ。アタイが担いで連れて行くよ、道すがら宥めながら行こうじゃないか」ヒョイッ

若葉「そういうことなら仕方ない。解くとしようか」

カサンドラ「は、はい、お願いします……!」

メリンダ「あの……もし若葉様がご不満でしたら、私を縛っていただいても……」ポ

カサンドラ(へ、変態だー!?)ハナヂ

若葉「申し出は嬉しいが、それはまた今度にしよう」キリッ

武蔵(若葉は手遅れか……)

ジェニー「どうでもいいから早く解いてくれないかしら」グッタリ

ツバキ「うちら完全に忘れられとるわけじゃありゃあせんか?」グッタリ

霞「忘れてないから待ってなさい、今ロープを解くわ」シュルシュル


オリヴィア「ところでル級。アンタ、どうして武蔵たちにフォージド兵の素材を渡したんだい?」

ル級「……」

霞「それは私も聞きたいわね。なんか考えがあったんでしょ?」

ル級「提督ガ、変ワッテシマウノガ嫌ダッタカラヨ」

オリヴィア「変わる?」

ル級「モトモトノ素養ガアッテニセヨ、彼ガ人間デナクナッテシマウコトガ嫌ダッタノ」

ル級「私ニハドウシテモ、アノ容レ物ノ中ニ入レラレタ彼ガ、別ノモノニ作リ替エラレテイル気ガシテ……ネ」

ル級「蘇ルコト自体ハ良イコトダロウシ、私モ良イトハ思ッタ……ケレド、彼ガ彼デナケレバ、何ノ意味モナイワ」

ル級「メディウム生成ノ素材ヲ集メテ長門ニ渡シタノハ、オ前タチノ都合ノ良イヨウニ作ラレタ提督ヲ壊シタカッタカラ」

ル級「結果的ニ艦娘タチハ、提督ニ会ウタメノ手段トシテ使ッタノダケレド」

武蔵「ル級の思惑とは違っていたわけか」

ル級「デモ、ソレデ良カッタノカモシレナイワネ」

武蔵「軽巡棲姫はどうなんだ?」

ル級「アノ子ハアノ子デ考エガアルヨウダケド……私ハ聞イテイナイワ」

神通(それにしても……この部屋、すごく目のやり場に困ります……)カオマッカ

川内「うわ、結び目固すぎ! これ切っちゃってもいいよね?」ナイフトリダシ

リンメイ「い、痛くなければなんでもいいね!」

サム「早めにお願いしますよ」ハァ


 * 施設内 地下通路途中の小部屋 *

長門「……」カオマッカ

摩耶「……」カオマッカ

加古「いやあ、すごい光景だったねえ」

鳥海「……」ハナヂポタポタ

敷波「まあ、あたしは目隠しされてて見てないんだけどね」

加古「で、当の本人は熟睡中、と」

潮「スヤァ……」

加古「いいなあ、あたしも一眠りしたいなあ」

クリスティーナ「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」

摩耶「っ! いつの間に!」

クリスティーナ「警戒しなくていいわよ、マヤ。この場は私たちも矛を収めるわ」

摩耶「え? ど、どういうことだ?」

フウリ「あの、わたしたち、もうケンカしなくていいんです……!」

敷波「しなくていい?」

榛名「はい、メディウムのみなさんは投降するそうです」

比叡「司令がいるお部屋に、みんな連れて行きましょう、って話になりました!」

敷波「比叡さんに榛名さん!? 二人とも無事だったの!?」


榛名「無事といいますか、普通に過ごしてましたね……」

セレスティア「むしろ私たちは比叡さんからお料理を教わっていましたので」

クリスティーナ「不愉快にはさせてなかったと思うわ」

摩耶「霧島さんも一緒なのか?」

フウリ「は、はい! 今は魔神様のいるお部屋にいます……!」

クリスティーナ「私たちだけじゃ信用してもらえないだろうし、この二人にも同席してもらおうと思ってね」

摩耶「そっか、みんなが無事ならそっちは安心だな」

榛名「それと、長門さんの治療もしないといけません。高速修復材をお持ちしましたので、使ってください」

長門「すまない、助かる」ヨロッ

敷波「ああ、動いちゃ駄目だってば!」

長門「無理はしないさ。とりあえず、私よりも彼女たちを心配してやってくれ」チラッ

朧「……」ボーゼン

オボロ「朧殿、しっかりなされよ!」オロオロ

電「こんなの……こんなのひどいのです」メソメソ

パメラ「もうお嫁にいけない……」ズーン

イサラ「もう引きこもりたい……」ズーン

マルヤッタ「み、みんなしっかりするじょ……!」

マリッサ「たまにはこんな風に激しく責められるのもいいかもぉ」ウットリ

タチアナ「この人だけはぶれませんね……」


チェルシー「だからもう陸の上は嫌なんだよぉ……」グスグス

セレスティア「チェルシー、あなたの苦手なクラーケンは海の魔物ではありませんか」

チェルシー「このあたしの心の傷を癒してくれるのは海しかないんだああ!」ウワーーン

摩耶「どんだけ海が好きなんだよ……わからなくねーけど」

加古「まあ、あんだけのことをされちゃってたら、こうなるのも仕方ないかねえ」

セレスティア「鳥海さん、何があったのか教えていただけませんか」

鳥海「……く、クラーケンの、触手が……パメラさんやチェルシーさんの……はうっ」ハナヂブパァ

セレスティア「鳥海さんっ!?」

敷波「思い出しただけで鼻血を出すとか、いったい何が起こってたのさ……」

加古「うん、つまり鳥海が説明できないくらい触手でエロエロな宴が繰り広げられてたんだよね」

長門「ま、摩耶は平気なのか?」

摩耶「あー、た、多少は耐性あるっすから」

摩耶(駆逐艦連中が隠し持ってたエロ本にああいうのあったんだよな……予習してなかったら危なかったぜ)ポ

セレスティア「加古さんは平然としておられますが……」

加古「だって駆逐艦たちが持ってたエロ本に、ああいうのあったんだよね」

長門「」

摩耶「……」アチャー

鳥海「ど、ど、どういうことですかっ!!」

加古「そんなん訊かれても知らないよー」

長門「……ほ、本当か、敷波」

敷波「え、えーっと……あたしは知らないかなっ」プイッ


加古「まあとにかくさ、メディウムたちがこれ以上戦う意思がないんなら、怪我してる子たちを運ぶの手伝うよ?」

長門「そ、そうだな……私のニードルフロアの怪我もあるだろうし」

クリスティーナ「そのために戦艦の二人に来てもらったの。あなたたちもダメージ受けてるんだから、こっちは任せて」

セレスティア「電さん、肩を貸しますよ」

電「セレスティアさん……神様は残酷なのです……!」グスグス

セレスティア「ど、どうしたんですか」

電「潮ちゃんのおっぱいには勝てなかったのです!」

セレスティア「……は?」

朧「朧は……井の中の蛙でした」

クリスティーナ「ふ、ふたりとも、どうしたの?」

フウリ「い、いったい何があったんですか?」

加古「あー、潮の艤装に乗ってたクラーケンが調子に乗っててさあ……よいしょっと」

フウリ「潮ちゃんを後ろから抱きかかえて……?」

クリスティーナ「何をするの?」

加古「早い話が、触手がこういうことをしたんだよねえ」ウシオノムネモチアゲ

潮「」タユンタユンタユンタユン

クリスティーナ「」

セレスティア「」

榛名「」

比叡「うわあ……」カァァ


朧「……あれを見たとき、どうやっても潮には勝てないって……」

オボロ「くっ……し、忍びに巨乳は不要……っ!」プルプル

電「電だって育ったはずなのに……!」グスグス

パメラ「う、ウエストでは負けてないわ……」

摩耶(かける言葉が見つからない……)

加古「っていうかさあ?」フウリノウシロニマワリコミ

フウリ「きゃあ!?」

加古「フウリちゃんだって結構凶悪だよねえ?」フウリノムネモチアゲ

フウリ「いにゃあああああああ!?」ポユンポユンポユンポユン

クリスティーナ「」

セレスティア「」

榛名「」

比叡「ひええ……」

長門「なにをしてるんだ加古ぉぉぉ!!」

加古「ん? いやあ、いいじゃんか、減るもんじゃないしぃ」

マルヤッタ「やってることは完全にセクハラおやじだじょ……」


潮「ん……むにゃ……ふえっ? な、なにかあったんですか?」

フウリ「う、う、潮ちゃああああん!!」ダキツキッ

潮「ふ、フウリちゃん!? い、いったい何があったの!?」オロオロ

クリスティーナ「高く飛ぶには、軽いほうがいいのよ……」ズーン

セレスティア「火のそばにいれば汗をかいてしまうんですから……」ズーン

榛名「提督は、榛名が慎ましやかでもきっと大丈夫です……」ズーン

比叡「ちょっ!? 被害拡大してる!?」

イサラ「フォローに来たメディウムの心まで折っちまうなんて、ひどすぎッス……」

マリッサ「それよりもぉ、早く魔神様のところへ引き上げたほうがいいと思うんだけどぉ?」

タチアナ「一番正論を言いそうにない人がそれを言いますか」

比叡「いえいえマリッサさんの言う通り、とにかく急ぎましょう? ニコちゃんから、司令がもうすぐ復活するって聞いてますから!」

全員「「!!」」


 * 施設内 地下の広間へ続く通路 *

ルミナ「まったく……若葉君には困ったものだ」

金剛「メディウムにまで悪い癖を炸裂させるなんて、若葉も罪深いデスネ……Charrolline は大丈夫デスカ?」

ルミナ「…………Possibly、かな」

金剛「Oh...」

ルミナ「それよりもだ。味方だと思っていた深海棲艦のル級君に、まんまとしてやられたよ」

ルミナ「彼女はなにかと私たちのやることに消極的だったし……彼女はいったい何に憂いていたのかね?」

軽巡棲姫「……」

ルミナ「軽巡棲姫君も何を考えているのか……そろそろ話してくれないかな」

軽巡棲姫「……」プイ

ルミナ「やれやれ、嫌われてしまったかな?」ポリポリ

龍驤「雲龍、泊地棲姫背負ってもらってるけど、重たない?」

雲龍「重いけど大丈夫」ヨイショ

陸奥「泊地棲姫は魔力槽に入れてあげるの?」

ナンシー「うーん、応急処置的に魔力槽の液体をバケツに汲み上げて、かけてあげたほうがいいんじゃなーい?」

如月「そうね。修復材も混ぜてあげればいいと思うわ」

龍驤「今に始まった話じゃないとはいえ、その辺の仕組みがよくわからへんなあ……」

ナンシー「まー、私たちも全部わかってるわけじゃないしね~」


ルミナ「私は全力で解析中だよ。むしろ私には、君たちがなぜそれを疑問に思わないのかのほうが疑問なんだけどねえ……」

ディニエイル「皆が皆、あなたのように疑い深いわけではないのですよ」

不知火「好奇心は猫を殺す、などと言う言葉もありますし、深入りは控えるべき事案もあります」

リンダ「……ほんまに似た者同士やな、デニやんとヌイヌイは」

不知火「ぬい!?」ギョッ

ノイルース「なんですかその愛称は」

リンダ「ええやん、ヌイヌイ。可愛いやんか~、デニやんもそう思わん?」

ディニエイル「……」ウーム

ディニエイル「……ヌイヌイ……」ボソ

不知火「なんですか!? その嬉しそうな顔はいったいなんですかディニエイルさん!?」カァァ

五月雨「……ぷっ……」

吹雪「……ふ、ふふ……」

不知火「なんですか二人とも!? その笑いは! 何がおかしいんですか!?」ワタワタ

大和「……なんだか、いいですね……こういう雰囲気」

如月「そうよね。私たち、本当はこういう雰囲気を求めていたのよね……」

大和「ええ……あのときまで、時間が戻ってくれれば良いのに……」

ルミナ「ああ、戻したいねえ……さて、魔神君はこの事態をどうしてくれるかな?」

軽巡棲姫「……」


 * 施設内 地下の広間 *

 分厚い扉<プシュウウウ

ルミナ「やあやあ、みんな連れてきたよ!」

ルイゼット「来ましたか……」

カオリ「結局、こうなっちゃったのね」

金剛「Oh, 怪しげな機械がいっぱいデス!」キョロキョロ

五月雨「あ、あそこに霧島さんと扶桑さんがいます!」

扶桑「ああ……あなたたちも来たのね」

霧島「金剛お姉様……!」

金剛「霧島! Are you fine !?」

霧島「……ファ、ファインと言いますか……大事はありません」

金剛「Okay, 無事なら何よりデス。比叡と榛名はどうしまシタ?」

霧島「お姉様たちは、別の場所で交戦していた武蔵さんや長門さんたちを迎えに行きました」

扶桑「川内と神通も一緒に行ったわ」

不知火「……!」

陸奥「不知火? どうしたの……あれは!」

不知火「山城さん……!」


山城(半深海化)「……不知火……? 戻って、きタの?」フラッ

不知火「……はい」

山城「そう……じゃあ、どウして、那珂ちゃんは、戻ってきテくれないのかシら……」

不知火「……」

(山城が振り返った先には、緑色の液体で満たされた円筒型の水槽)

(その中で目を閉じて漂っている那珂の姿は、八割ほど深海化が進んでいる)

山城「どうしテ、那珂ちゃンは、私たちと一緒ニ来るこトを拒むの……?」

山城「扶桑お姉様は戻ってキてくれたノに、どウして……」

陸奥「どういうことなの……!?」

扶桑「那珂ちゃんは、提督やメディウムたちと一緒に戦うように、山城に説得されていたらしいの」

軽巡棲姫「……泊地棲姫ト一緒ニ、ネ?」

扶桑「そうよ。その『説得』に那珂ちゃんは必死に抵抗した結果が……こうなってしまったの……」

霧島「彼女は酷く衰弱しています。しばらくは、魔力槽からは出さないほうが良いというのがニコさんの判断です」

金剛「……その、那珂ちゃんの隣の暁も、そうデスカ?」

 (那珂の隣の魔力槽に、暁が眠るかのように浮かんでいる)

霧島「はい……比叡お姉様の呼びかけにも、全然反応しません……」

金剛「……」


大和「……ニコさんはどちらに?」

ルミナ「ええと、ああ、いたいた。ニコ君!」

ニコ「……」ジロリ

ルミナ「そんな風に睨まないでくれたまえよ。私たちの被害を抑えるためにやったことなんだから」

ニコ「ぼくは、魔神様を倒しに来た奴らと仲良くするルミナの気がしれないよ」

金剛「No ! 私たちは、提督の艦娘デース! 慕いこそすれ、傷つけるような真似はしたくありまセンヨー?」

ニコ「力づくでここを追い出すつもりのくせに、よく言うよ」

金剛「ここにいるのは危険デスから、避難しましょうって話デス。メディウムのことを考えれば、提督ならわかってくださると思いマス!」

ニコ「……魔神様の人の好さを利用しようとしているんだね……!」

金剛「Ah, Nico ? アナタ、ちょっと heat up しすぎデス。Please calm down !」

ニコ「……」ハァ

ニコ「まあ、いいよ。魔神様は、もうすぐ復活する」

 (ニコが金剛たちに背を向けると、その正面にある巨大な円筒状の魔力槽の中の液体がコポリと泡立つ)

不知火「司令……!」

金剛「テートク……!!」

大和「提、督……っ!!」ポロポロ

(巨大な円筒状の魔力槽の真ん中に、身体が完全に元に戻った提督が目を閉じたまま浮かんでいる)


大和「提督……また、生きて、そのお顔を……見ることができるなんて……っ!!」ポロポロポロ

金剛「Nico , 提督の復活は、もう間近なのデスネ?」

ニコ「……」コク

金剛「わかりまシタ、私はもう止めまセン」

不知火「金剛さん……」

金剛「私もテートクと、お話がしたいデス。これからのことは、みんなで話し合って決めまショウ?」

金剛「皆さんもよろしいデスカ?」

大和「大和は……提督に、従います」

雲龍「私もそれでいいわ」

龍驤「早っ!? もちっと考えんかい!」

陸奥「まあ、選択肢はあってないようなものじゃないの?」

龍驤「せやなあ……なあニコちゃん? 復活した提督は、まともに話ができるんやろな?」

ニコ「当然だよ。魔神様の頭の中を弄るようなことは絶対にしない」

龍驤「そっか。なら、ええわ」ニコ

五月雨「私からも、お願いします!」ペコッ

陸奥「私もよ。邪魔するような野暮はしたくないわ」

吹雪「みんな……!」


ナンシー「良かった……これでまたマスターとお喋りできるね!」

如月「ええ……!」ウルッ

不知火「ニコさん。よろしく、お願い致します」ビシッ

ニコ「……わかった」ニコッ

ニコ「もうすぐ。もう少し魔力を魔神様に注げば、魔神様が目覚められる。さぁ、仕上げに入るよ」スッ

全員「「……」」ゴクリ


 バッ!!


ニコ「!?」ガッ!

陸奥「え!?」

後ろから腕で首を絞められるニコ「ぐ……ぇ!?」ギチッ

ルミナ「ニコ君!」

不知火「何故……あなたがそんなことを!?」

 ドタドタドタ

摩耶「おいおい、なんだよこりゃあ……」

榛名「い、いったい何があったんですか!?」

 バタバタバタ

利根「ル級よ、これはどういうことじゃ!?」

ル級「コレハ……!」

神通「……ニコさん!」


大和「ニコさんを離しなさい! 軽巡棲姫!!」

軽巡棲姫「……来ルナ。コイツガドウナッテモ知ラナイワヨォ……!?」

ニコ「あ……が……!」ギュウゥ

ナンシー「ニコちゃん!!」

金剛「どういうことデス!? あなたは提督と会いたくないのデスカ!?」

軽巡棲姫「黙レ。オ前タチコソ、提督ノコトヲ何モワカッテイナイ……!」

武蔵「これはどういうことだ……!」

ヴェロニカ「あの子、向こうの世界でもずっと坊やのそばにいたはずよ」

カトリーナ「なんで魔神様の復活を邪魔するんだ!?」

軽巡棲姫「私ハ……提督ヲズット見テキタノ……ダカラワカル」

軽巡棲姫「提督ハ……自身ノ復活ナンカ望ンデイナイ、ト……!」

大和「何を根拠にそんなことを!」

軽巡棲姫「根拠? ソレナラ、アノ燃エ盛ル島デ私ダケヲ助ケタノハ、ドウシテ!?」

軽巡棲姫「アノ方法デ、自分ノ体モ島ノ外ヘ出ソウトシナカッタノハ、ドウシテ!?」

軽巡棲姫「アノ人ハ……提督ハ、終ワリニシタカッタノヨ。永遠ニ、眠ルツモリデイタノヨォ……!」

軽巡棲姫「彼ノ復活ハ、アクマデ、オ前タチノ望ミデシカナイノ……提督ノ望ミハ、安ラカナ永遠ノ眠リ……!!」

軽巡棲姫「ソレヲ、オ前タチハ、ワザワザ寝タ子ヲ起コスヨウナ真似ヲシテ……!!」ギリッ

ニコ「っ……っ……!」ミシッ


フウリ「あわわわ、ニ、ニコちゃんが……!」

不知火「ルミナさん、罠の力でなんとかなりませんか」ヒソッ

ルミナ「厳しいな。ニコ君をどうにかして引き剥がさないと、どのやっても巻き込んでしまうだろう……」

ルミナ「かといって罠の威力を手加減したんでは、軽巡棲姫君に通用しないだろうし」

ルミナ「しかも彼女たちの背には魔神君が入った魔力槽がある。砲撃して魔力槽に流れ弾が当たっては彼女の思う壺だ……!」

不知火「……しかし、このままでは……」

霧島「確かに埒が明きませんね……」ジリッ

摩耶「霧島さん、迂闊に突っ込むなよ。軽巡棲姫もフォージド兵を積んでるかもしれねーんだ、何を仕掛けてくるかわかんねえぞ」

軽巡棲姫「ふぉーじど兵? フフフ……ソンナモノ積ンデイナイワ。私ガ持ッテイルノハ、コレヨォ……?」バッ

 捕獲牢<ガシャン!

加古「なんだあのでかい鳥カゴ!?」

タチアナ「あれは人間を捕獲するときに使う道具です。何故彼女があれを……?」

軽巡棲姫「……」スッ

ニコ「……っ!?」

軽巡棲姫「フッ!」ボディブロー

 ドボッ

ニコ「えぅっ……!」ガクッ


軽巡棲姫「アナタハ、コレニ入ッテナサイ……!」ポイッ

ニコ(気絶)「……」ガシャン

ルミナ「ま、まずいぞ! 早くニコ君を助けるんだ!!」

 魔力槽<ゴポッ

鳥海「!? 司令官さんの魔力槽の様子が変です!」

 魔力槽<ゴポゴポゴボボッ

五月雨「み、見てください! あの水槽の中の水が、沸騰してるみたいに泡立ってます!」

ルミナ「魔力の暴走だ……あの魔力槽の魔力をコントロールしているのはニコ君なんだ!」

ルミナ「そして捕獲牢は、捕まえた相手を無力化するために、体力や魔力を吸収する力がある……!」

陸奥「コントロール不能ってことじゃない……提督もニコちゃんも危ないってこと!?」

金剛「Goddamned !! すぐにあの Cage を壊さないと!!」ジャゴッ

如月「駄目よ! ここからじゃニコちゃんや提督の魔力槽にあたっちゃうわ!」

金剛「でも!!」

軽巡棲姫「ソウヨ! モウ、遅イノヨォォオ!!」ジャキッ

ジェニー「ちょっと!? あの子、魔力槽を撃つ気!?」

五月雨「やめてえええ!」


 ドガガガァァン

 魔力槽<ドガァァン

パメラ「う、うそでしょ!?」

長門「なんだ……なにをしているんだ軽巡棲姫は!」

朧「提督……っ!!」

川内「あ、あいつ、何やってんの!?」

 魔力槽<ドガァァァン

ハナコ「魔神様が……!」

ル級「……アノ子、ナンテコトヲ……!」

若葉「見てる場合じゃない! 軽巡棲姫を止めるぞ!!」ダッ

神通「い、いけません! あの設備から離れてください!」

 魔力槽<バチッ バチバチッ

龍驤「機械から火花が……退避! 総員退避や!!」

大和「そんな……提督!!」

金剛「もう間に合いまセン!! 大和、伏せて!!」グイッ

如月「提督!!」

不知火「如月も!! 早く!」ガシッ


陸奥「あなたたちも伏せて!」ガバッ

ナンシー「きゃっ!?」

ルミナ「しかしこのままではニコ君が!」

ディニエイル「駄目です! 行けばあなたも巻き込まれますよ!」

ノイルース「ケイティー、あなたも伏せなさい!」

ケイティー「いや! 嫌ああああ! 旦那様あああああああ!!」

イブキ「リンダ! もっと気合入れて押さえつけろっての!」

リンダ「やっとるわ! こいつが馬鹿力やっちゅーねん!」

吹雪「……うああああっ!」ダッ

金剛「ブッキー!? Where aru you going !? Come back !!」

吹雪「ニコちゃんっ!」ガシッ

ニコ(気絶中)「」

吹雪「ニコちゃん! 目を覚まして!! ニコちゃん!」ガシャガシャッ

ニコ(気絶中)「」

軽巡棲姫「来ルナッテ言ッタデショウ……道連レハ、私ダケデ良ヨカッタノヨ?」ニコ…

 ゴゴゴゴゴゴ…

吹雪「あ……!」

 ドゴォォォォォンン…!


今回はここまでです。

PCがぶっ壊れたときはエタりそうになりましたが、なんとか復活しました。
今年もよろしくお願いいたします。

それでは続きです。


 * 少し時間を遡り、施設内 連絡通路 *

 タッタッタッタッ…

那智「ということは、提督は魔神として覚醒するかもしれないわけだな?」

シルヴィア「うーん、そうかもしれないけど、そうならないようにコントロールしてるって聞いてるわよ」

アーニャ「その辺はニコちゃんが厳しくチェックはずだよー!」

足柄「んー、確かにあの子は提督にご執心だったみたいだし。信じていいのかしら」

最上「僕は信じてあげたいな」

筑摩「そうですね、ニコちゃんは提督とキスして満更でもなかったみたいですし」

三隈「そ、そんなことがあったんですか!?」

千歳「何それ詳しく」キュピーン

ミーシャ「あ、あれは、半分事故みたいなものですよ。ジェニーさんが後ろから押したせいで……」

五十鈴「っていうか、今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

初雪「早く行って早く帰りたい……ぶっちゃけ、悪い予感しかしないし」

 ズズズズ…

朝雲「ちょっ……なによ今の地響き!」

山雲「下から響いてきたわ~。何かの爆発かしら~?」

由良「まさカ!? もう戦う理由なんテないハずよ?」


古鷹「加古は大丈夫かな……」

筑摩「私も利根姉さんが心配です! ああ、利根姉さん! 利根姉さあああん!!」

ミーシャ「メ、メディウムのみんなも心配です……!」

那智「この先、何が起こるかわからん。引き返すなら今のうちだが、大丈夫か?」

五十鈴「ここまで来てその質問は愚問だわ!」

黒潮「どうせ引き返すんなら、司令はんのところへ引き返さなな!」

伊8「大淀サんと明石さんモ、いイの?」

大淀「無理言ってついてきたんです、最後まで見届けさせてください!」

明石「戦闘は無理ですけど、修理ならできますよ!」

千歳「先に行ったみんなも心配だわ、急ぎましょ!」

那智「ああ、急ご……」

 ズズゥン

「「!!」」



 * 施設内 地下の広間 *

「「……」」

雲龍「……」ムク

龍驤「くぅ~……えっらい爆風やったなあ……」

陸奥「……機械が完全に壊れてるわね」

龍驤「雲龍、無事やったか?」

雲龍「ええ。でも、背負ってた泊地棲姫がちょっと」

泊地棲姫「」カミノケボサボサー

龍驤「……あの爆発で目ぇ覚ましとらんのかいな」

泊地棲姫「覚マシタワヨ……」

龍驤「おぉ、ならええわ」

泊地棲姫「チョット……ナンナノ、コノ仕打チ」イタタ…

陸奥「ほったらかしにされなかっただけ良かったと思いなさいよ。今はそれどころじゃないんだから」

泊地棲姫「ナニガアッタノヨ……」

煙<モワモワ…

ディニエイル「これは……」


不知火「この状態では、もう動かしようがなさそうですね」

破裂して火花をあげる魔力槽<バチッバチバチッ…

リンダ「それより、魔神はんはどこへ行ったんや……!」

イブキ「見ろ! 吹雪が倒れてんぞ!」ダッ


倒れている軽巡棲姫(損壊)「」

倒れている吹雪(瀕死)「」

捕獲牢<キュラン キュラン キュラン


ナンシー「ニコちゃんの捕獲牢が上に登っていくわ!」

ルミナ「とにかくニコ君を助けよう、それに吹雪君の治療もしないと……軽巡棲姫君も捕らえておくべきだな」

ケイティー「そんなことより旦那様は……旦那様はどこへ!? どこに隠したのルミナ!?」

金剛「お、落ち着くデース! 私たちと一緒に探しまショウ!」オロオロ

如月「……でも、あの爆発があったんじゃ……」グスッ

大和「……てい、とく……こんなのは、あんまりです……あんまりです……!!」ポロポロ

ノイルース「……」

雲龍「? あなた、どうかしたの?」


ノイルース「変だと思いませんか。魔力槽の中に満たされていた魔力の水は、どこへ行ったのでしょう」

陸奥「そういえば……あれだけ大きな水槽なのに、水飛沫も何もなかったわね」

五月雨「全部蒸発しちゃったんですか?」

陸奥「そんなことになったら、飽和した水蒸気がこの建物を吹き飛ばしてると思うわ」

 スピーカー<ビービー! ビービー!

全員「!?」

放送『非常事態発生、非常事態発生』

放送『設備の故障により、館内に異常を観測』

放送『各員、速やかに異常の対応を行うとともに、館内より退避してください』

放送『繰り返します、非常事態発生、非常事態発生……』

龍驤「なんやこの放送は」

ルミナ「設備故障時のアナウンスか。そんな機能まで備えていたなんて、すごいねここは」

泊地棲姫「……オイ」

ルミナ「ん? なにかな?」

泊地棲姫「吹雪ト軽巡棲姫ヲ、スグニコチラヘ連レテ来イ」

ルミナ「? それはなぜ……」


 ゾワッ

全員「「!?」」

泊地棲姫「急ゲ! ナニカ、ヤバイモノガ、ココニイル!!」

イブキ「や、やっべえ! リンダ、そっち頼む!」フブキセオイ

リンダ「ケイティーも早う逃げるで!」ケイジュンセイキセオイ

雲龍「……上だわ」

 ギュウウウウウウ…

ナンシー「空中に渦ができてる……!?」

五月雨「……な、なんなんですか、あの渦が放ってる、おぞましい雰囲気……!」ガタガタ

ノイルース「ニコさんが制御しきれなかった魔力が、人間の悪意に穢されているんです」

雲龍「……ごめんなさい、表現がわかりづらいわ」

ノイルース「……私たちの魔力は、人間の失意や悲憤を変換して作っています」

ノイルース「そのときの人間の感情が残ったままの魔力を使うことは大変危険です」

ルミナ「精油していない燃料は危険だっていうのと一緒だよ」

雲龍「それならわかるわ」

ノイルース「……こほん。とにかく、その不純物だらけの魔力が固まって、悪意をまき散らしながら渦巻いている……と、思われるのです」


摩耶「ちくしょう、さっきから何が起こってんのかわかんねえぞ!」

神通「提督は……提督はどうなったんですか……!?」

山城「扶桑お姉様、大変です! 那珂ちゃんの魔力槽に入っていた液体がなくなってしまいました!」

扶桑「……なくなった……!?」

那智「……おい、この部屋の有様はどういうことだ!」

シルヴィア「魔神さんはどうなったの!?」


 * 地下の広間の真上にある部屋 *

ミリーエル「魔神様のお部屋はこの次の地下5階です、急ぎましょう!」

コーネリア「ちくしょう! なんてざまだ!」タタタッ

グローディス「あたしたちが見張り番のときにこんなことになるなんて!」タタタッ

コーネリア「グローディス! お前のせいだぞ! お前があの時突っかかってきたせいで、あたしが外に追いやられたんだからな!」

グローディス「あぁ!? 突っかかってきたのはコーネリアだろうが!」

コーネリア「はぁ!?」ギロッ

グローディス「ああん!?」ジロッ

イーファ「け、ケンカしちゃやだよう……!」ビクビクッ

クロエ「その通りですおふたりとも! ケンカしている場合ではありませんよ!」

 ゴゴゥン…!

コーネリア「っ! なんだ、この真下から響いてきた、嫌な雰囲気の魔力は……!」


 * 施設内 地下の広間 *

 渦<ギュギィイイイイイ!

武蔵「うぐうう……なんだこの音は!」ミミフサギ

利根「いや、音も酷いがそれよりも……このえもいわれぬ寒気はなんなんじゃ!」

若葉「……あれは」

カサンドラ「ど、どうしたんです!?」

若葉「あの渦の中に、司令官の姿が見える……!」

オリヴィア「なんだって!?」

朝潮「……司令官……司令官っ!!」ダッ

霞「っ! 朝潮! 待ちなさいっ!」


ケイティー「旦那様……あの渦の中に旦那様がいたわ」

大和「ええっ!?」

金剛「それは本当デスカ!?」

ケイティー「ああっ、旦那様……今行きます! 今、あなたの胸に!!」ダッ

泊地棲姫「ナ!? ヤメロ! アノ渦ニ近ヅクナ!!」

 渦<ギョオオオオオ!

 ジュバァァァン!

朝潮「きゃ!?」

ケイティー「あっ!?」


千歳「……渦が猛回転して消えたわ」

五十鈴「確かにあの渦の中に提督の姿が見えた気がしたけど、あれはいったい……」


 グワッ


 ズズゥゥンン!


朝雲「きゃああ!?」ヨロッ

アーニャ「も、もう! 今度はなに!?」

フウリ「あ、あれ! 見てください! あれ!」

潮「……!? な、なにあれ……!!」



(壊れた魔力槽の前に、骨張った巨大な悪魔が片膝をついて屈んでいる)



霞「なんなのよ……あの、化け物は!!」

メリンダ「あれは……あれこそは……」


ノイルース「ええ。あれこそが、本来の魔神様の姿です」

金剛「あの Demon が!?」

大和「あれが……魔神!?」

ノイルース「はい。ツノや牙、そしてその巨躯。言い伝えにある通りです。ただ……」

不知火「ただ?」

ノイルース「本当はもっと筋肉質といいますか、あのような骨と皮だけの姿ではありません」

金剛「確かにあれでは Zonbie のようデス……」

雲龍「さっきの話の、不純物のせいかしら」

ノイルース「おそらくそうでしょう」

如月「それじゃ、あれが司令官なの……?」

ルミナ「そうなんだねノイルース君?」

ノイルース「……」

泊地棲姫「私ニハ、ソウハ思エナイガ?」

如月「え!?」

泊地棲姫「アノ骨悪魔カラ感ジ取レルノハ、人間ノ悪意ダケダ。アレガ提督ト同ジトハ思エナイ」


ディニエイル「本当ですか……!?」

ノイルース「……魔力の穢れが消えていません。それどころか、あの姿になってますます穢れが増幅しています」

ノイルース「人間だった頃の魔神様と、同じお考えを持つ存在かと問われれば、疑わしいと答えざるを得ません」

大和「提督……!」


朝潮「……し、司令、官……?」

ケイティー「旦那様……」

魔神「……GRR……」

魔神「GWOOOAAAA!!」グオッ

ルミナ「魔神が……」

不知火「立ち上がった!?」

 バキ! バキバキバキ!!

イブキ「お、おい! 天井をぶち破ってるぞ!!」

如月「待避! 待避して!!」

陸奥「みんな逃げるわよ!!」

 バキバキバキバキーーッ!!

「「「うわああああああ!?」」」

今回はここまで。


今回出した魔神のイメージは、一般的な悪魔像から
筋肉を取っ払ってガリガリになったイメージでお願いします。

お待たせしました、続きです。


 * 地下の広間の真上にある部屋 *

 ズズゥン

コーネリア「地震か!? でかいぞ!」

 メキメキメキ…

クロエ「! 違います、見てください! 床が!!」

ミリーエル「下から何かが上ってきています!」

 バキバキバキバキーッ

グローディス「で、でかい顔がせりあがってきた!?」

ミリーエル「あれは……魔神様のお顔!?」

コーネリア「なんだと!?」

クロエ「この部屋の天井まで突き破る勢いです! 床が崩れますよ! 早く避難を!」

グローディス「ボケっとしてないで急ぐぞミリーエル!」

ミリーエル「は……はい!」

イーファ「お、おいてかないでぇ!!」


 * 地下の広間 *

 ガシャーン ガラガラガラ…

「「……」」

龍驤「げっほ、げほげほ……ああもう、滅茶苦茶や」パタパタ

イブキ「……おいおい、この部屋の天井どころか、その上のフロアまでぶち破ってるぜ……」

五月雨「見た目は骨と皮だけなのに、パワーはあるんですね……」

キュプレ「ニコちゃんは大丈夫なの?」

ルミナ「……一応、大丈夫みたいだね。捕獲牢は相変わらず宙ぶらりんだ」

金剛「入りっぱなしは体に良くないのでショウ?」

大和「早く助けてあげないと……!」

陸奥「それはいいけど、あの骨の魔神は味方なの? 敵なの?」

ナンシー「見て、魔神の足元! ケイティーと朝潮ちゃんがいるわ!」



朝潮「ケイティーさん、大丈夫ですか!」

ケイティー「え、ええ……私たち、無事だったのね」

朝潮「おそらく、司令官の足元にいたおかげで瓦礫の直撃を免れたんだと思います!」


ケイティー「つまり旦那様が守ってくださったのね! 旦那様ーー!」キラキラキラッ

朝潮「……ほ、本当なんでしょうか」

魔神「GR……」ギョロリ

朝潮「っ!」ビクッ

ケイティー「うふふふ……旦那様! さあ、わたしはこちらです……!」

魔神「GOAAA……!」ズシン ズシン

朝潮「ケ、ケイティーさん……!?」

ケイティー「あら、なにを恐れているの? 姿かたちが変わろうと、彼は私の旦那様……」

ケイティー「そのお姿に怖気付いて二の足を踏むようなことはしないのよ……!」

魔神「GWUUOOOO……!」

ケイティー「さあ旦那様……この私とともに……!!」リョウテヒロゲ

魔神「GRR……」カオチカヅケ

朝潮「し、司令官……本当に……司令官なんですか?」

 魔神の口<グパア

ケイティー「えっ」


 ガブゥ

朝潮「け、ケイティーさんっ!?」

 ガブッ ガシャッ…

カトリーナ「ケ、ケイティーが……」

リンダ「食われた!?」


「そんなことしちゃ、だめぇ~~っ!」

 スパイクボール<ヒュウウウウ…

魔神「GVAAA!?」ゴシャァ!

ケイティー(重傷)「」ドサッ


大和「な、なにかが魔神の頭に落ちてきましたよ!?」

イブキ「あ、ありゃあイーファか!?」

キュプレ「でも、今のでケイティーを吐き出したわ!」

グローディス(上のフロアから)「おーい、イーファ!」

ミリーエル(上のフロアから)「大丈夫ですか!?」

イーファ「う、うん! ぼくは大丈夫だよ! でも……」


朝潮「ケイティーさん! しっかりしてください! ケイティーさん!」ユサユサ

ケイティー「……だ、んな、さま……な、ぜ……?」

ケイティー「このよう、な、仕打ち、を……」ガクッ

朝潮「ケイティーさん! ケイ……」

イーファ「朝潮ちゃん、危ないっ!」ダンッ

朝潮「っ!?」ドサッ

 魔神の手<ズシィィィン!

「「!?」」

 シュウウ…

朝潮「な……イ、イーファさん……ケイティーさん!?」

イブキ「お、おい、うそだろ……イーファたちが、押し潰されちまった……!?」

ナンシー「……なんで……!? ルミナ、なんでマスターが、ケイティーたちを……!」

ルミナ「……わからない。訳がわからないよ」


朝潮「……司令官……どうして、どうしてこんなことを!」

魔神「GU……RRR……」


朝潮「司令官!!」

魔神「GAAAAAAAAAA!!」グワッ

 ドゴォォン!

魔神「!?」グラッ

朝潮「ほ、砲撃!? 誰ですか!?」

山城「ふ、扶桑お姉様!? なにをしてるんですか?!」

扶桑「……」

金剛「扶桑!? アナタが撃ったんデスカ!?」

朝潮「な、なぜです扶桑さん!?」

扶桑「……朝潮。あれは、提督ではないわ」

朝潮「え……!?」

山城「な、なにを言ってるんですか扶桑お姉様……」

扶桑「見てくれはメディウムたちの言う魔神と同じなのかもしれないけれど……」

扶桑「私たちの知っている提督は、自分の部下に手をあげるような方ではないわ。そうでしょう?」

山城「……扶桑お姉様……」


扶桑「メディウムのみんなもそう思うでしょう?」

扶桑「あなたたちの仕えるべき人が、あなたたちを殺そうとするなんて、どう考えてもおかしいわ……!」

ナンシー「……うん。そうだよ、あたしたちが期待していたマスターじゃないよ!」

如月「ナンシーさん……」

ナンシー「ニコちゃんだって、あんなマスターを望んでなかったはずよ!?」

扶桑「これでも、撃つのは躊躇ったのよ。でも、その躊躇いのせいで、イーファちゃんたちを助けられなかった……!」

エレノア「大丈夫よ、あの子たちは無事だから」スッ

扶桑「!」

エレノア「こういう時のために『帰還の指輪』と『魔法石』があるの。私たちだって丸腰じゃないのよ」

ルイゼット「先程、指輪の力によってこちらの部屋に帰還した二人が、魔法石で回復したのを確認しました」

朝潮「ほ、本当ですか!?」

ルイゼット「はい。ですので、どうぞご心配なく……!」ニコ

エレノア「一回きりの使い捨てだから、もう無理はさせられないけどね」

扶桑「そう……でも、良かったわ」

エレノア「ところでルイゼット、扶桑の意見ってどう思う? 私もあの魔神様からは嫌な臭いしかしないんだけど?」

ルイゼット「そうですね……きつい人間のにおいがします」

山城「人間……ですって……!?」


ルミナ「ということは、ノイルース君? やはりあの魔神は……」

ノイルース「不純物が生み出した混ぜ物のまがい物、ということでしょうか」

魔神「GRRRRR……!」ムクリ

大和「魔神が目を覚ましたわ……!」

武蔵「よし、総員、砲戦用意! 武蔵に続け!!」ガシャッ

全員「「!」」

武蔵「目標、正面の巨大魔神! 我々にも、メディウムにも、これ以上の被害は出させん!」

摩耶「おうっ!」ガシャッ

霧島「はいっ!」ガシャ

比叡「了解です!」ガシャッ

加古「よっし!」ガシャッ

利根「やるしかあるまい!」ガシャッ

ル級「……」ジャキッ

泊地棲姫「……私モ、付キ合ウワ」ジャキッ

大和「は、泊地棲姫……あなたもですか!?」


泊地棲姫「アア。アレハ提督デハナイ。タダノ、ニンゲンダ」

金剛「What !?」

大和「そ、それはどういう……」


魔神「GWAAAAA!!」


長門「全てのメディウムたちは耳を塞げ! 対ショック防御!!」

ルミナ「みんな伏せるんだ!!」ミミフサギ

ナンシー「!」ガバッ

リンダ「ま、またかいな!」ガバッ

武蔵「よし……構え!!」ジャコッ

魔神「GWOOOOOOOOAAAAAA!!」グワッ

武蔵「撃てええ!!」


 ズドドドドドドーン!


 煙<モワァァァ…


龍驤「うえっほ! げっほげっほ! 今日何回目や、これ!」

五月雨「ど、どうなったんでしょう……」ミアゲ

顔が吹き飛んだ魔神「」

五月雨「うひゃあああああ!?」ビクーッ

陸奥「や、やったのかしら」

魔神「」グラッ

魔神「」ズズゥン…!

イブキ「倒した……のか?」

陸奥「一応はそうみたいだけど……?」

大和「! み、見てください! 魔神の……断面のところ!」

ナンシー「なにこれ……ゼリーみたいに、中がうっすら透けて見えるわ!」

ノイルース「なるほど、そういうことですか……ルミナ、わかりましたよ。この魔神の正体が」

ノイルース「この魔神の体を構成しているのは、あの魔力槽を満たしていた、緑色の液体です」

ルミナ「……!」


リンダ「ど、どういうことなん?」

ルミナ「私たちの魔力は、人間の負の感情を変換して作っていることはさっきも言ったね?」

ルミナ「その変換と管理を担うニコ君が捕獲牢に閉じ込められてしまったために、魔力槽の液体の管理者がいなくなってしまった」

ルミナ「するとどうなるか。液体に残った人間どもの思念の残滓が、魔力を使って自分たちの恨みを晴らそうとしたんだろう」

ルミナ「魔神君を媒体にして人型を作り出し、出来損ないの魔神を作り上げた……こういう推察をしたんだが、どうだろうか?」

ノイルース「ええ、良いところではないでしょうか」

五月雨「だからあの水槽が割れた時に、私たちが濡れなかったんですね……!」

キュプレ「骨みたいな姿で現れたのはどうして?」

ノイルース「液体の総量が足りなかったのかもしれません。それか、魔力が不足したかでしょう」

如月「じゃ、じゃあ、この断面からうっすら見えるあの影は……」

ノイルース「おそらく、この魔神を作るための核にされた、魔神様です」

金剛「すぐ助けマショウ!!」

ルミナ「待ちたまえ、なんの防護もしていないのに、不純物の混ざった魔力の塊に手を突っ込む気かい?」

泊地棲姫「ソウヨ。スグニ離レナサイ」ジャキッ

大和「え?」


雲龍「危険よ。殺気は、まだ死んでないわ」

 ズズッ

五月雨「!!」

加古「おいおい、砲撃で飛び散った破片が、スライムみたいにずるずる寄ってきてるぞ!」

摩耶「うへ、気持ち悪ぃ……!」トリハダ

 ズズズッ

霧島「まさか、ここから復活すると言うの!?」

武蔵「……冗談だろう?」

 ズズズズッ

ル級「顔ガ、復元シテイク……!」

利根「こ、これではどうやって倒すのじゃ!?」

扶桑「なんてこと……!」


魔神「……」ムクリ


魔神「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!」

今回はここまで。

合体しないで駆逐艦を追いかけ回しそうなスライムの完成ですね


お待たせしました、続きです。


 * 広間の上の階 *

グローディス「……なんてこった」

コーネリア「魔神様があのスライムの中に取り込まれてるってことか」

ミリーエル「どうにかして再生できない方法を考えないといけませんね」

クロエ「ですが、どうやって?」

 * 広間 *

朝雲「こ、こんなのどうすればいいのよ!」

霞「戦艦や重巡が一斉砲撃したのに、吹き飛んだのが頭だけじゃあ、焼け石に水じゃない!」

山雲「……んー、どうにかして、ただの水に戻せればいいんだろうけど~」

青葉「ですが、どうやって……」ウーン


那智「……ルミナ。ニコはどこにいるんだ?」

ルミナ「ん? あ、ああ、那智君か。ニコ君はあそこだよ」ユビサシ

 空中に浮いたままの捕獲牢「」フワフワー

足柄「あ、あの鳥籠の中?」


那智「あの水を管理していたのは彼女だろう? なら、管理者を助けて、なんとかしてもらうしかないな」

千歳「それこそどうやって!?」

那智「あの籠を落とす」ジャコッ

ニーナ「ちょ、ちょっと、砲撃で落とそうとするのは無理があります!」

那智「……底をぶち抜くのはやはり駄目か」

ルミナ「意外と脳筋なんだね……」

那智「ならばやはり、あの天井の近くまで飛んで、虚空につながっている鎖を切るしかないか」

ルミナ「うん、それなら可能じゃないかな」

足柄「でも、飛ぶってどうやって!?」

那智「クリスティーナだったか? スプリングフロアで飛ばせないか?」

クリスティーナ「私はライジングフロアよ。でも、残念だけどあんなに高いところへは飛ばせないわ……」

那智「そうか……それならヒューマンキャノンはどうだ?」

ヴィクトリカ「んん? あたしの出番か? 仰角の計算はできねえけど、それさえOKなら行けると思うぜ?」

那智「ああ、角度調整は任せてくれ。あとはあの鎖を切る役だが……」

ヴィクトリカ「シエラあたりがいいんじゃねえか? デスサイスなら切れるだろ」

シエラ「ヒィッ!?」ビクッ


ヴィクトリカ「ほらシエラ、隠れてないで出てこいよ」グイグイ

シエラ「ま、待ってほしいのデス! 高いところは苦手なんデスゥゥ!!」ズルズル

那智「なに、飛ぶのは一瞬だ。それに時間がない」チラッ


魔神「GOOAAAAAA!!」ドカーーン

「「きゃあああ!」」

魔神「WOOOOAAAA!!」ガシャーン

「「うわあああ!」」


那智「頼む。私と一緒に飛んでくれ」

シエラ「……わ、わ、わかったデス……手短にお願いするデスゥゥ……」プルプルプル

足柄「そうと決まれば援護するわよ!」

ルミナ「みんなも艦娘の援護を!」

那智「それと、力自慢を集めてくれ! あの籠を叩き落としたときに、受け取り手が必要だ!」

オリヴィア「そういうことならまかせときな!」

カトリーナ「あたしたちが行くぜ!」

長門「……よし、私も行こう」


敷波「だ、大丈夫なの!?」

長門「ああ、修復材をもらったからな。あの籠を受けるくらいはできる」

長門「敷波は、私たちがあの籠を受け取れるように、白露と島風と協力してあの魔神を撹乱して欲しい」

敷波「……うん、わかった」

長門「白露と島風も、頼めるか?」

白露「うん、まかせて!」

島風「気を引けばいいんだよね!?」

ニーナ「大丈夫なんですか?」

長門「この二人の素早さなら、あの巨体に捕捉される危険は少ないだろう」

ルミナ「うん、まずはニコ君を助けよう。それから魔神君の動きを封じて、ニコ君の力で解呪する……」

ルミナ「解呪自体ができるかどうかはわからないが、今はそれに賭けるしかないね」

ノイルース「ええ、逃げるにしても、ニコさんを置いていくわけにはいきません」

長門「そうだな。いずれ体勢を立て直すにしても、ここにいる誰ひとり欠くわけにはいかない」

那智「よし、腹は決まったな。ヴィクトリカ、シエラ、頼むぞ……チャンスは一回きりだ!」

ヴィクトリカ「おう!」

シエラ「は、はいデスゥゥ……」ガクガクガク

潮(大丈夫なのかなあ……)


シルヴィア「うーん……」

ミーシャ「し、シルヴィアさん? どうしたんですか?」

シルヴィア「え? ああ、一発勝負は危険よね、って思って」

アーニャ「それはそうだけど、ほかに方法ってあるかなあ?」

シルヴィア「……何度も切りかかれるチャンスが作られればいいのよね」ジッ

アーニャ「?」

ミーシャ「?」


武蔵「くっ、この武蔵がここまで手こずるとはな!」ドガーン

金剛「こちらの砲撃に対する reaction が良くなってきていマス!」

霧島「学習しているということですか……面倒ですね!」

白露「力技が通用しなくなったんなら!」バッ

島風「スピードでかき回しちゃうよ!」バッ

陸奥「あなたたち……!」


魔神「GR……!」

白露「一番に突っ込むよ!」ドドドドドド

島風「おっそーい!」ドドドドドド

魔神「WOOO……!?」キョロキョロ

白露「真後ろ取ったよ! いっけえええええ!!」ギョライナゲツケ

島風「T字有利だね! いっちゃってええ!」バクライシュート

 ドガガガン

魔神「!! GAAAAAA!!」ブンッ

白露「当たらないよーっ!」ダッ

島風「速きこと、島風のごとし、なんだから!」ダッ

イブキ「すっげえ……ちょこまか駆け回って常に一方が背後を取り続けてるぜ」

那智「よし、今のうちだ! ヴィクトリカ、頼む!」

ヴィクトリカ「よおっし、任せときな!」

 ヒューマンキャノン<ズオッ

那智「!」スポッ

シエラ(in那智の艤装)「ひっ!?」

那智「……いざ入ってみるとちょっと怖いな」


ヴィクトリカ「角度はこんなもんか?」

那智「そうだな、もう2度ほど下げてくれ。よし、これでいい」

シエラ「だ、だ、大丈夫なのデスか?」

那智「ああ、大丈夫だ」

長門「我々も準備できたぞ!」

カトリーナ「いけるぜ!」

ヴィクトリカ「うっし、じゃあ行くぜ! 発射あああ!」

 ヒューマンキャノン<ズドーーン!

那智「うおおおおおお!?」ギューン

シエラ「ひいいいいいいい!!」

カトリーナ「いいぞ、一直線に向かってる!」

那智「……シ、シエラ! いけるか!?」

シエラ「は、は、はいデスゥゥゥ!!」ジャコッ

那智「……よし、今だ!!」

 デスサイス<ヴンッ!

 捕獲牢の鎖<ジャギィィィィン!

那智「このまま……叩き切るっ!」

今回はここまで。

やっと書けた……続きです。


 デスサイス<ギリギリギリッ…!

那智「く……こ、このままでは、断ち切るのは無理か!?」

シエラ「だ、駄目デス、空中に飛んでいるせいで踏ん張りがきかなくて……」

 ヒュウウ…

シエラ「落ちるデスゥゥゥ!?」

千歳「那智!!」

シルヴィア「大丈夫よ、保険をかけたわ」

アーニャ「那智お姉ちゃん!」バッ

 クレーン<ガッシャッ!

那智「うお!? な、ナイスキャッチだアーニャ!」

シエラ「し、死ぬかと思ったデスゥゥゥ……!」ナミダボロボロ

朝雲「でも、あのままじゃ埒が明かないんじゃない?」

足柄「そうね。鋏みたいに、反対側からも切り付けられればいいんだけど……」

シルヴィア「あら、そういうことなら試してみる?」

足柄「?」


那智「よし、シエラ、もう一回切りかかるぞ」

シエラ「そ、それはいいデスけど、アーニャは大丈夫なのデスカ?」

アーニャ「うーん、ずっと釣り上げっぱなしは疲れるんだよね。あと、衝撃でバラしちゃうかもしれないから、もって3回くらい、かな?」

那智「そうか、なら……」

 <チョットマッテーー!

那智「うん?」チラッ

 ハンギングチェーン<ジャララララッ!

逆さ吊りにされて引き上げられる足柄「あああああああああああああ!?」ゴヒャアアアア

ニーナin足柄の艤装「あああああああああああああ!?」ゴヒャアアアア

那智&シエラ「「!?」」

 ハンギングチェーン<ガッシャンッ!

足柄「おっふ……き、気持ち悪ぅい……」クラクラ

ニーナ「ミ、ミーシャ、もっとゆっくり上昇させて……」ウプッ

ミーシャ「す、すみません! 急がなきゃと思って……!」


那智「あ、足柄? どうしてお前まで……」

ニーナ「その捕獲牢の鎖ですが、切り付けた時にたわんでしまうから断ちづらいんだと思うんです」

足柄「だから、両側から挟み込むように切り付ければいいんじゃないか、って」

ミーシャ「シルヴィアさんが言ってました」

ニーナ「それで足柄さんにお願いして、わたしを乗せてハンギングチェーンで引っ張り上げていただいたんです」

那智「なるほど……つまりデスサイスとペンデュラムで挟み撃ちにするというわけか」

足柄「言い出しっぺのシルヴィアが来られればよかったのに」

ニーナ「艤装がある艦娘のみなさんだからこそ、私たちもこんなことができるんですよ」

那智「話は分かった。シエラ、もう一回行けるか?」デスサイスカマエ

シエラ「わ、わかったデス……!」

足柄「それじゃ、ニーナも行くわよ! 準備いい?」ペンデュラムカマエ

ニーナ「お任せください!」

那智「狙うは一点!」

 デスサイス<ヴンッ!

 ペンデュラム<ヴンッ!

ニーナ&シエラ「「切り裂け!!」デスゥゥゥ!!」


 捕獲牢の鎖<ジャギィィィィン!

那智「手ごたえは十分だ……!」ギリギリギリッ

 捕獲牢の鎖<ギリッ ミジミジミジッ…

足柄「鎖にひびが入ったわ!」

 捕獲牢の鎖<バキィィィン!

那智「や、やった!」

足柄「みんな、行ったわよ!!」

 捕獲牢<ヒュゥゥゥ…

武蔵「よし、あとは任せろ!」

大和「来ましたよ!」

陸奥「長門、もう少し下がって!」

長門「こ、ここか!?」

カトリーナ「来るぞぉぉ!」

オリヴィア「死んでも落とすな!」

 捕獲牢<ゥゥゥウウウウ…!

6人「「今だ!」」バッ


 捕獲牢<ズガシィィィン!!

武蔵「ぐぅ……っ!」

長門「お、思ったより重たいな……!」

カトリーナ「ち、ちくしょう、ちょっとびっくりしちまったぜ」

陸奥「早く降ろしましょ! 中にいるニコちゃんが心配だわ!」

オリヴィア「手足の指に気をつけなよ!」

大和「はいっ!」

 ズズン

陸奥「……ふぅ」

長門「よし、あとはこじ開けるだけだ!」ガシッ

長門「……ふん……っ!!」

陸奥「長門?」

武蔵「なんだ情けない。代われ! むん……っ!?」

大和「……武蔵?」


オリヴィア「なんだい情けない。アタイのば」

ルイゼット「皆様、お下がりください」ズイ

大和「あ」

 ブンッ

 バギィン

長門武蔵「「」」

ルイゼット「これで良いでしょう」フゥ

オリヴィア「アタイの出番が……」

陸奥「ギロチンアクスで一撃……」

大和「ニ、ニコさんに当たったらどうするんですか!?」

ルイゼット「僭越ながら、余程のことがない限り、手元が狂うような失態は犯しません。ご安心くださいませ」ニコッ

武蔵(この武蔵が恐ろしいと思うとは……)

アーニャ「ところでさ、あたしたちそろそろ限界なんだよね」プルプル

ミーシャ「あの、二人とも降ろしていいですか?」ガクガク

カトリーナ「えっ」


アーニャ「釣り上げるのは得意なんだけど……」

ミーシャ「降ろすのは苦手なんです……」

 クレーン<パッ

 ハンギングチェーン<パッ

那智「」

シエラ「」

足柄「」

ニーナ「」

 ヒュウウウウ…

足柄「いやあああああああああ!?」

シエラ「」←すでに気絶中

那智「きゅ、急に離すな……うわあああ!」

ニーナ「だ、誰かあぁぁぁ!!」

 マジックバブル<プクー

那智「!?」ポヨーン

 スノーボール<ズシーン

足柄「!?」ズボフ!


メアリーアン「なんとか間に合っただか?」

レイラ「そうみたいですね。那智さん、シエラ、大丈夫ですか?」

那智「あ、ああ、私はいいが……おい、シエラ」ユサユサ

シエラ「ウ、ウウゥ……はっ!? こ、ここは地獄なんデスか!?」ビクッ

那智「なんで地獄なんだ……」

ルイゼット「こちらはコキュトス(極寒地獄)のようですが?」チラッ

足柄(スノーボールに埋まり中)「ずっと逆さ吊りだったから、頭を冷やすにはちょうどいいわ……」

ニーナ「御風邪をひく前に出たほうがいいと思います……」タラリ

大和「それよりも、せっかく助かったニコさんがひどく衰弱しています!」

カトリーナ「魔力槽がぶっ壊れちまったからな、どうする?」

朝雲「バケツ使えないかしら」

レイラ「……それだわ」

朝雲「え!? 冗談のつもりで言ったんだけど!?」

レイラ「あなた方の修復剤じゃなくて、私たちの、よ」

ルイゼット「なるほど、魔法石ですね!」


陸奥「魔法石って?」

オリヴィア「これだ」ゴソゴソ

武蔵「おい今どこから取り出した」

オリヴィア「細かいことはいいじゃないか。この石はその名の通り魔法の力を蓄えた石なんだ」

レイラ「そう、私たちが体力を回復するためにみんなが持っているこの石を集めて、ニコちゃんに使うのよ」

電「その話、本当なのですか?」タタタッ

カトリーナ「ああ、アタイたちメディウムは、魔法石がありゃあ体力も魔力も回復できるからな。今なら電も使えると思うぜ」

長門「いや待て、そうするとお前たちが怪我をしたら治せなくなるのか!?」

レイラ「ニコちゃんを失えば魔神様の制御もままならないわ。そうなれば私たちも共倒れよ」

カトリーナ「心配すんなって! 転送の指輪も全員持ってるし、やばくなったら逃げて隠れてりゃいいんだ!」

レイラ「それより早く魔法石を! ニコちゃんが捕獲牢に閉じ込められていた時間が長すぎて、魔力が枯渇しているわ!」

カトリーナ「お、おう、そんじゃあアタイのも使ってくれ!」ゴソゴソ

武蔵「だから今どこから取り出したんだ」タラリ

ルイゼット「では私はみなさんから集めてまいりましょう」


電「私のも使ってほしいのです!」ゴソゴソ

ルミナ「待ちたまえ。電君の魔法石は取っておいて欲しいんだ」

電「え……!?」

カトリーナ「ルミナ!? なんでだ!?」

ルミナ「電君は元艦娘のメディウムだ。私たちと、艦娘たちと、そして魔神君を繋ぐ架け橋のような存在だ」

ルミナ「こう言っては非科学的だが、その稀有な存在が持った魔法石が、何かを起こしてくれないか、という希望的観測もある」

那智「おい、それよりも急いでくれ!」

ニーナ「魔神様が……!」


魔神「GOOOAAAAAAAA!!」メキメキメキ

 バサァッ

島風「羽が生えた!?」

白露「飛んで逃げるなんてずるい!!」

イブキ「言ってる場合かよ!?」

魔神「GWOOOOOO!!」

 イビルスタンプ<ズドガァァン

白露「踏みつけぇぇぇ!?」フットビ

島風「意外とシンプルーー!!」フットビ

リンダ「ええからはよ逃げーや!」ダッ

金剛「ブッキーは確保オーケーデース! 全員、一時退避ネー!」ダッ


摩耶「……ちくしょう、これ以上好きにさせてやるかよ!」ガシャッ

鳥海「摩耶!?」

摩耶「あんなの、ブチ落としちまえばいいんだろ!?」

魔神「WRRR……!!」ギロリ

摩耶「!」ビクッ

魔神「GAAAAAA!!」カッ

 魔神ヘルレーザー<ズバーーーー

摩耶「うわああああ!?」

 バジュンッ

鳥海「摩耶!!」

摩耶「っく……あ、あれ? なんともねえ」

??「……」

鳥海「あ、あれは……!?」

??→フォージド兵「……」シュゥゥゥ…

摩耶「あ、あたしが載せてた、ブラッディシザーのフォージド兵じゃねえか!?」

フォージド兵「……」

摩耶「わ、悪い、助かったぜ……」

 パキン


鳥海「金色の鎧が……」

 パキパキッ バラバラバラッ

フォージド兵→Fオボロ「……」

摩耶「お、オボロと同じだって……!?」

オボロ「かの者はフォージド兵。それがしの偽物にござる」

摩耶「偽物……!」

Fオボロ「……」ボソボソ

オボロ「……うむ。あいわかった」

摩耶「お、おい、何か言ったのか!?」

オボロ「それがしはここまで。御屋形様を頼む、と」

摩耶「!」

Fオボロ「……」ニコ

 パシュウウウ…!

鳥海「……消え、た……?」

摩耶「あたしのせいで……っ!」ギリッ

オボロ「摩耶殿」

摩耶「ああ、わかってるよ……頭を冷やさなきゃな。くそっ!」

今回はここまで。

保守

こちらはなかなか筆が進まなくて申し訳ない

大変お待たせしました。
少しだけですが、続きです。


ニコ「……ここ、は……」

ナンシー「ニコちゃん!」

長門「目を覚ましたか!」

大和「良かった……!」

ニコ「……なにが、あったの……ぼくは……痛っ」ズキッ

ノイルース「ニコさん、あなたが捕獲牢に閉じ込められてから、魔神様が不完全な形で復活しました」

ニコ「!」

ノイルース「人間どもの思念が魔力槽の液体に残留したためです。奴らは魔神様を取り込み、魔神像を模倣した姿で暴れています」

ナンシー「大変だったんだから! ケイティーやイーファも死んじゃうところだったし!」

ニコ「魔神様が……ぼくたちを、攻撃してるって……?」

ノイルース「はい。提督としての部下だった艦娘もメディウムも見境なく」チラッ



千歳「みんな、艦載機の援護をお願い!」

伊勢「え、援護って言われても……!」

魔神(飛行中)「GOAAA!!」バサバサッ

 ブワァァァ!

五十鈴「きゃっ!? な、なによこの突風!!」


伊勢「翼で風を起こすことまで覚えたの?!」

日向「くそ、これでは瑞雲も飛ばせないぞ」

朝雲「山雲、後ろに回り込むわよ!」

 魔神ヘルレーザー<コォォ…

筑摩「! 待って! 二人とも下がって!!」

山雲「朝雲姉!!」バッ

朝雲「きゃあ!?」ガシッ ゴロゴロゴロ

 魔神ヘルレーザー<ズバーーーー

朝雲「ひ、ひえええ!?」

五十鈴「砲撃で援護するから、早く避難して!」ドンッ

伊勢「二人とも、はやくこっちに!!」ドンッ

日向「……だんだん戦い方が賢くなってきているぞ」

山雲「ど、どうしようかしら~……」



ニコ「……」

武蔵「くそ、このままでは状況は悪くなるばかりだな……!」


陸奥「明石、負傷した子の修理をお願い。私たちもまた出るわ!」

鳥海「ちょっと待ってください。体勢を立て直すためにも、一旦引き返すことはできませんか?」

摩耶「鳥海!? お前、半分深海化してんだぞ!? そんな体で戻ったら何をされるかわかんないだろ!」

ルミナ「ああ、やめておいたほうがいいね。この施設で見つけた切り刻まれた深海棲艦の標本を見ているだろう?」

摩耶「……まさか、鳥海だけここに残るつもりじゃないだろうな!?」

鳥海「……」

ニコ「とにかく、その案はやめておいたほうがいいね。それに、時間が経ちすぎると魔神様も危ない……!」

陸奥「え!?」

摩耶「どういうことだ!?」

ニコ「魔神様を包んでいるあの水は、人間どもの悪意を濃縮したようなもの」

ニコ「そんなものに長時間触れていたら、魔神様にとって相当な苦痛になってるはず……!」

如月「そんな……!」

武蔵「一度引き上げるのも手だと思ったが、そんな猶予はないと言うことか」

摩耶「この場で決着をつけるのは賛成だぜ。でも、どうやって提督を助け出す?」

ニコ「そうだね……」

エレノア「それなんだけど、ちょっといい? 霧島が何か気付いたみたいなのよ」

ルミナ「? なにかあったのかい?」


霧島「魔神との戦いを観察していたのですが、司令と思しき影が、魔神の中を移動しているようなんです」

ルイゼット「わたくしも見ていました。あれに取り込まれた魔神様が怪我をなさらないか心配で、ずっと目で追っていたんですが……」

ルイゼット「前から攻撃が来れば背中側に、脚部に攻撃を受ければ頭のほうにと、頻りに移動しておりました」

霧島「司令は私たちにとっても守るべき対象ですが、あの魔神像にとっても守るべき存在。司令こそが急所、と見るべきかと」

ニコ「……多分、あの人間の思念は、憑代がないと一つにまとまれない、ってことかな?」

長門「ならば、あのスライムと提督を分離させることができれば、提督を助け出せるということか」

金剛「Okay, わかりやすい目標ができたネー!」

ナンシー「で、でも、どうやってマスターをあの中から助けるの?」

霧島「そうですね……ヨーコさんは今どちらに?」

ナンシー「ヨーコなら今こっちに向かってる最中よ? 上のフロアが好きみたいだから」

霧島「でしたら、まず……」ゴニョゴニョ

ルミナ「なるほど、では……」ヒソヒソ

朧「手伝えることはありますか!」

由良「私たちにも手伝わせて!」

ル級「ホラ、泊地棲姫、私タチモ出ルワヨ」

泊地棲姫「シ、仕方ナイナ……」

長門「艦娘、深海、メディウムの共同戦線か……」

ヴァージニア「胸が熱いな」フンゾリ

長門「おいっ!?」

陸奥「はいはい、遊んでないで早く作戦立てるわよ!」


 * *

霧島「よし。では、この作戦でまいりましょう」

摩耶「最初の一撃が肝心だ! あたしたちが追い込んで、絶対に成功させるぜ!」

ルミナ「それにしても、どうしてヨーコに白羽の矢を立てたんだい?」

霧島「攻撃のスピードがあって、かつ浮いてる相手に当てることができるからですね」メガネクイッ

ニコ「よく見てるね……」

霧島「ええ。こちらにいる間、良くしていただきましたから」ニコッ

摩耶「……そっか。じゃあそのお礼に、あたしたちも気張らなきゃあな!」

ニコ「……ぼくたちも行くよ」フラッ

那智「お、おい、無理はするな!」

ニコ「そうはいかないよ。あの忌々しい人間どもを滅ぼせるのはぼくだけなんだから……!」

ニコ「それに、ぼくは魔神様のお姉ちゃんなんだ……ぼくが、行かなきゃ……!」

ナンシー「ニコちゃん……!」

足柄「無理そうだったらすぐ退くわよ?」

陸奥「それより、ヨーコって子は見つかったの?」

 < くらえええええ!!

全員「「「……あ」」」


武蔵「いたぞ!」

那智「なんでいきなり魔神の真ん前でポーズ決めてるんだあいつは!」

足柄「メディウムなんだから不意打ちしてなんぼでしょーが!!」

ニーナ「足柄さん、私たちよりよく理解しておいでで……」タラリ

由良「勝つためには手段を選ばないから……」

伊8「戦術です。戦術」

ルミナ「物は言い様だね。全面的に賛同するけど」



ヨーコ「司令……司令がまさか私たちを襲うだなんて……!」

ヨーコ「……いいや、違う。そんなことはない! 司令は操られてるだけだ……そうだね!?」キッ!

魔神「WOOOOO……!!」バサバサッ

ヨーコ「目を覚まさせてあげるよ司令……!」ググッ

ヨーコ「この! あたしたちの! 正義のちか」

 魔神ヘルレーザー< カッ

川内「危ない!!」バッ

ヨーコ「ら……うわあ!?」ガシッ ゴロゴロッ

 魔神ヘルレーザー< ズバーーー

ヨーコ「な、なにすんのさニンジャ! 前口上の途中だよ!」

川内「そんなことしてる場合じゃないでしょ!? そもそも気付かれてなかったんだから、後ろからさくっとやれば良かったのに!」


魔神「GAAAA!!」バサバサッ

 イビルハイヒール< ズオッ!

川内「げっ!?」

ヨーコ「やばっ……!」

 イビルハイヒール< ズシィンン!

神通「姉さん!!」

ナンシー「ヨーコ!?」

ニコ「……っ!」


川内とヨーコを抱きかかえた人影「……大丈夫!!」


不知火「あの声は……」

山城「……那珂、ちゃん……!?」

扶桑「あれが、那珂ちゃん、なの……!?」


人影→那珂(深海棲艦化)「ソノ通リ! 艦隊ノアイドルゥ! 那珂チャンダヨーー!!」


敷波「な、那珂ちゃんが、完全に深海棲艦になっちゃってるーー!?」

榛名「」フラッ

比叡「は、榛名!? しっかりして!」

今回はここまで。

乙ですの

那珂(深海ver.)……って、軽巡棲鬼だコレ!!

>>97
阿賀野の要素が抜けた感じでイメージをお願いします。

続きです。


ヨーコ「ふいい……助かったぁ」

那珂「川内チャン、大丈夫?」ストン

川内「……な、那珂、あなたこそ大丈夫なの!?」

那珂「ウーン、芸風ハ変エタクナカッタンダケド……仕方ナイカナー」

ヨーコ「確かに肌も衣装も真っ白になっちゃったけど、これはこれで可愛いよ?」

那珂「ホント!? アリガトーー!!」ダキツキー

川内「ちょっと! じゃれあってる場合じゃないってば!」

魔神「GRRRRUUOOO……!!」バサッ

川内「ほら!」

山城「てぇぇ!!」ドガン!

魔神「!!?」ドゴォン

那珂「山城チャン!」

山城「那珂ちゃんをやらせるもんですか……!」ギリッ

神通「私も行きます!」ドンッ

扶桑「散開して夾撃よ、援護をお願い!」ダッ

不知火「援護します」チャッ

 ドドドーン

川内「みんな……!」


朧「川内さん! ヨーコさん!」タッ

川内「朧!」

那珂「朧チャンハ那珂チャンノ心配シテクレナイノ?」

朧「い、いえ、そういうわけじゃないですけど! 那珂ちゃんさんも大丈夫ですね?」

那珂「那珂チャン、デ、イイッテバー! マジメナンダカラ~」ケラケラ

ゼシール「笑ってる場合じゃないぞ。ヨーコ、手を貸してくれ、仕事の時間だ」

ヨーコ「おおっと、任務だね!」

朧「提督を、あの魔神の偽物から救い出します! 方法は……」

川内「ふむふむ……」

ゼシール「……という感じで行くぞ」

那珂「オッケー!」

ヨーコ「よおし! 今度こそこのメディウム戦隊メディ・ピンクの出番だね!」

川内「……」


朧「川内さん、どうしました?」

川内「それじゃあ、私はヤセン・レッド、かな」

ヨーコ「そ、それじゃ那珂ちゃんは……アイドル・ホワイト!?」

那珂「!?」

川内「アサシン・ブラック!」ゼシールユビサシ

ヨーコ「ミスティ・イエローだね! やったあ、五人揃ったあ!」オボロユビサシ

ゼシール「おいちょっと待て」

朧「そんな場合じゃないと思います」

那珂「那珂チャン、ホワイトダト、センタージャナイヨー」

川内「白とピンクはヒロイン枠だから我慢して」

那珂「ハ~イ。ソレジャ、メディウム艦隊ナカチャンファイブ、出ッ撃---!」

ヨーコ「ちょっ!?」

ゼシール「名前くらいいいだろう、譲ってやれ」

朧「いいから配置についてください」

ヨーコ「な、なんでなんだよぉぉ!!」

川内「ご愁傷様」ニシシ


長門「よし、準備できたぞ! 総員、配置に着け!」

全員「「おーー!」」

朧「朧、行きます!!」バッ

 ブワァァ…

敷波「……なんか、もやっていうか、霧が出てきた?」

吹雪「あれは、メディウムになった朧ちゃんの能力だよ」

金剛「ブッキー!? 起きて大丈夫なんデスカ!?」

吹雪「あ、はい。さっき、魔法石で回復してもらいましたから」

金剛「Oh, そういうことなら安心デス」

霞「ともかく、名前通りの能力がついたってわけね」

吹雪「霞ちゃんでも同じ能力がついてたかもね」フフッ

 ブワァァ…

長門「霧が部屋にいきわたったようだな。よし、いいぞ!」

加古「オッケー!」ガシャン

 フッ

朝雲「きゃっ!? いきなり真っ暗に!?」

山雲「あ、朝雲姉、いきなり抱き着かないで~!?」

陸奥(山雲、なんだか嬉しそうね……)

龍驤「うひゃあ!? う、雲龍どこ触っとん!?」

雲龍「ごめんなさい、怖いからつい」

陸奥(こっちはわざとね)


 探照灯<カッ!

伊勢「あ、あの光は……神通!?」

千歳「いつの間に上のフロアに!?」

日向「なにをしているんだ……」

那珂「ミンナ、今日ハアリガトーー! 那珂チャン、オン・ステージ! イックヨーーー!」

五十鈴「……なにこれ」

筑摩「もやのスモークをたいて探照灯のスポットライト……」

伊勢「まるで本当にアイドルのライブだね」

日向「茶番か」

武蔵「ああ、魔神の目を引くためのな」

日向「なに?」

魔神「GRRRR……!」バサバサッ

那珂「ハーイ、ミンナ注目ー! ワーン、ツー!」

魔神「WOOOAAAAAA!」グワッ!

那珂「スリーーー!」


 ライジングフロア<ズバーン!

朝雲「なに!? どうしたの!?」

山雲「あれは……那珂ちゃんが飛んでる~!?」

クリスティーナ「さあ、那珂ちゃんの見せ場よ……!」

那珂「伸身宙返リカラノ……全砲門開放! 行ックヨォォ!!」ガジャッ!

 ドガドガドガドガン!

魔神「WOOOO……!」グラッ

扶桑「すごい……魔神がひるんでるわ……!」

那珂「今ダヨ、ヨーコチャン!」

ヨーコ「よおし! 今こそ! 必殺!!」

那珂&ヨーコ「「メガヨーヨー!!」」

 メガヨーヨー< ギュワァァァ!!

魔神「!!?」ドガァァ

ヨーコ「決まったよ! 見事なアッパーカット!」


ルミナ「クリスティーナ? わざわざ那珂君をライジングフロアで飛ばす理由はあったのかい?」

クリスティーナ「それはもちろん、目立つからよ? 当てやすいってのもあるけど」

ルミナ「やれやれ……彼女が深海棲艦になってなければ、彼女の体が危なかったかもね」


川内「魔神がひるんでる! いくよ、ソニア!」

ソニア「まっかせて!」

 スプリングフロア<ズバーン!

朧「クレアさん、お願いします!」

クレア「オーケー!」

 スマッシュフロア<ズバーン!

日向「こ、今度は川内と……誰だ!?」

吹雪「朧ちゃんですよ」

千歳「ええ!? って、あなたは誰!?」

吹雪「あ、吹雪です!」

伊勢「ほ、本当に育っちゃってたんだ……」

日向「おい、飛びすぎだぞ! あの二人、魔神を飛び越えそうだ!」

吹雪「大丈夫です、見ていてください!」


川内「朧、行くよ!」

朧「はいっ!!」


 サーキュラーソー×2<ギュワァァァァア!

朧「これで翼を……」

川内「切り落としてあげる!」

 ズバババババーーッ

魔神「GRRRRGAAAAA!?」

千歳「なにあれ、ゼシールって分身できたの!?」

大和「違いますよ、私が載せていたサーキュラーソーのフォージド兵を、朧さんに預けたんです」

千歳「だから同時に同じ罠を……!」

五十鈴「見て! あいつ、翼を切られてバランス崩してる!」

魔神「GWOOORRRR!」ズシィン…!

武蔵「地に足を付けたな……泊地棲姫!」

泊地棲姫「アア……二度ト空ヘハ逃ゲサセヌ!」

ヒサメ「わらわたちの出番じゃな……!」

Fヒサメ「……」ニヤリ

龍驤「頼むでぇ! うちの分まで気張ったってや!」

泊地棲姫「言ワレナクテモ……!」

 ピキパキ…!


イブキ「すっげえ、氷が瓦礫を覆っちまってる……部屋の半分、まるっと氷漬けだ!」

ル級「泊地棲姫ノチカラナラ、当然ネ」

ルミナ「ヒサメ君と龍讓君が連れてきたフォージド兵のヒサメ……ブースターが倍いるから、展開範囲が段違いだ!」

 巨大スリップフロア<パキーーーーン!

魔神「!!」ヨロロッ

川内「うわっ!?」ツルッ ステーン

朧「は、範囲が広すぎです!」ツルッ ステーン

リンダ「なんや、偽物の魔神の奴、持ち堪えよったで!?」

イブキ「畜生、往生際が悪ぃな!」

龍驤「せやけど、今ならちょっかい出し放題やな?」バッ

雲龍「ええ」ジャラッ

最上「僕たちは川内たちを助けるよ!」

三隈「はいっ!」

 艦載機たち<ブルーーン!

魔神「!」


 艦載機の機銃<ババババッ!

魔神「GAAAAA!!」バチュンバチュン

最上「よし、魔神がひるんでる隙に!」

三隈「川内さん! 朧さん! 私たちが飛ばした瑞雲にくっつけた、吊革につかまってください!」

 瑞雲<バゥーン!

川内「これね!」ガシッ

朧「そういうことですか!」ガシッ

川内「あはは、これ、水上スキーみたい!」ツルツルツルー

朧「こ、これ、結構バランスとるの難しいんですけど!?」ヨロヨロツルツルー

ゼシール「おい、那珂は避難していないのか?」

ル級「那珂チャンモ滑ッテナイデ、戻ッテキナサイ」

那珂「エー? モウ少シ滑ッテイタカッタケド……ショウガナイナー」トリプルルッツー

クリスティーナ「なんでスケート靴を用意してるのよあの子……」

不知火「というか、何気なく難易度の高い技を滑っていませんか」タラリ

扶桑「深海棲艦になったせいか、全然物怖じしなくなったわねえ」

山城「のんきにしてないで那珂ちゃん早く戻ってきてぇぇ!」


龍驤「よーし、みんな氷からおらんようなったな?」ニヤ

雲龍「ええ」ニコ

龍驤「よーっし! それじゃあミルファ! 行ってみよう!」

ミルファ「オーケー! 行きまーす!」

 メガロック<ヒュウウウ…

魔神「!?」ズガシーーーッ!

龍驤「なんや!? あいつメガロック受け止めよった!」

リンダ(うちと同じリアクションしとる……)

ミルファ「滑る足場で良くそんなことを!」

霧島「ですが、これで両手が塞がりました」ニヤリ

カオリ「一斉射撃よ!」

ミリーエル「参ります!」

 アローシューター<バシュッ

 ボールスパイカー<バシュバシュバシュッ

魔神「GAAAAA!!」ヨロッ

霧島「もう一息です……!」

ヴァージニア「よくやった。奴が地べたを這うさまは、この私が見せてやろう」

 クイーンハイヒール<グワッ!

ヴァージニア「跪け!」

魔神「GWOOOOOOOO!!」グシャアッ グリグリグリッ

今回はここまで。

反撃開始!

続きです。


ヴァージニア「フ、姿が違えど所詮は人間。この私の足蹴にされるのが、お似合いというものだ……!」

電「後始末は電たちに任せて欲しいのです!」

ヴァージニア「良かろう。務めを果たせ」

電「なのです!!」

ルミナ(……電ちゃんはヴァージニアのあしらい方が上手いよねえ)

如月「行くわよ、初春ちゃん、吹雪ちゃん!」

初春「うむ!」

吹雪「任せてください!」

 ビュォォオオオオオ…

山雲「こ、今度はなあに~!?」

電「如月ちゃんと初春ちゃんが気温を下げているのです」

長門「そして吹雪が、文字通り吹雪を起こしていると言うわけか……!」

ルミナ「魔神も寒さで動きが弱まってる。畳み掛けるよ!」

魔神「GRRRR……!!」ムク…


陸奥「せっかく転ばせたのに、起き上がったりしないでよ……コールドアロー、もう一回行くわ!」ジャコン

Fディニエイル「……!」

ディニエイル「加勢しますよ、ミス陸奥。ミス霧島、よろしくお願いします」

霧島(コールドアロー搭載)「ええ、このまま畳み掛けるわよ!」ジャコン

陸奥「……ええ、お願いね! 一斉射!!」

 ズドォン!

 無数の砲弾→コールドアロー<ビュオオオオオ!

魔神「GOAAA!?」パキパキパキィィ!

長門「いいぞ、奴の手足が凍りついた!」

カトリーナ「それじゃあ、その左腕! ぶち壊させてもらうぜ!」

 スイングハンマー<ブォォォン!

魔神「!?」ガシャァァァン

シルヴィア「右腕は私がいただくわ!」

リンメイ「左脚、私がもらたよ!」

リサーナ「それじゃ、私は右脚をご指名かなっ!」

 シャークブレード<キシャァァァン!
 メガバズソー<ガランガランガラン!
 キラーバズソー<シュバーーーーッ!

魔神「!?」ガシャガシャガシャァン


アマラ「切り取ったパーツがくっついて復活できないように、お部屋をお掃除致しましょう!」

パメラ「部屋の隅に集めちゃうわね!」

 バキュームフロア<ビュォォォオオオオ!
 スローターファン<ギュアァァァァアア!

朝雲「凍らせた魔神の手足や、切り落とした翼を吸い寄せて集めてるのね……!」

山雲「魔神が4分の1くらいの大きさになったわ~!」

ルミナ「ここまで小さく切り分けられれば、あとは魔神君を救い出すだけだ!」

霧島「さあ、とどめよ!」

陸奥「待って、様子がおかしいわ……!?」

魔神「GGGGG……」グニュグニュグニュ…

武蔵「なんだ!? 魔神の形が変わっていくぞ!」

オリヴィア「もとがスライムだから、どうにでも化けられるってのかい!」

魔神→スライム「GGWWWWOOOO……!」

イブキ「なんだありゃ? 出来損ないの泥人形みたいになっちまった」

ルミナ「……手足を作ろうとしているということは、まだ抵抗すると見えるね」


電「そうはさせないのです!」

 パチッ

陸奥「きゃっ!?」

五月雨「な、なんですか!? 静電気!?」

電「なのです……!」バッ

 バチバチバチッ!!

敷波「うえっ!? 電が放電した!?」

鳥海「し、司令官さんは大丈夫なんですか!?」

ルミナ「か、加減はしているんだろうね!?」

電「加減はしてるのです。しすぎてあまり効果がないみたいなのです……」

グローディス「だったらあたしたちに任せときな! 神通!」

神通「はいっ!」

摩耶「え、神通ってさっき探照灯持って上のフロアにいたよな?」ミアゲ

 タンッ

伊勢「と、跳んだ!?」

足柄「いくら上の階って言ったって、ここ天井高いから10メートルはあるわよ!?」


神通(落下中)「……この一撃で」ヒュウウ

グローディス「ああ、決めてやれ!」

神通「やあぁぁああ!!」ブンッ

 サンダージャベリン<ゴォォ!

スライム「VVLLLLLOOO!!」バリバリバリ

神通「追い打ちです……!」グッ

ルミナ「! みんな、神通君から離れるんだ! 彼女はもう一人メディウムを乗せている!」

武蔵「なに!?」

シェリル「デュエットなんてガラじゃないけどね……響かせてやるぜ!」

 ヘルジャッジメント<ズガシャァァァン!

三隈「神通さんの右手から雷光が!」

最上「投げたジャベリンを避雷針に見立てたんだね……!」

川内「なにあれ自雷也の術!? 印まで組んじゃって超格好いい!」キラキラキラッ

那智「言ってる場合か! 神通を助けないと地面に激突するぞ!」


 ズダンッ!

神通「……ふぅ」チャクチセイコウ

那珂「神通チャン、大丈夫?」

神通「ええ、那珂ちゃんありがとう」ニコ

那智「いや、あの高さから落ちて無傷ってのはどうなんだ」

神通「無傷ではありません、さすがに足が痺れましたが……」

五月雨「そ、それだけなんですか?」

神通「はい」

武蔵「……マジか」

利根「さすがは川内型じゃの」

足柄「その一言で片づけるのもどうなのよ……」

ウーナ「それより! 出番! 出番っ!!」

武蔵「うお!? なんだ!?」

ノイルース「最終段階です。私とフォージド兵の私、そしてウーナの力で、あのスライムを焼きます」

不知火「こちらは準備完了です」

Fノイルース「……」コクリ


ルミナ「あのスライムから魔神君を引き剥がすのが先決だ。そのためにあのスライムに火球をぶち当てて、体積を減らす」

ルミナ「魔神君を覆うスライムが薄くなったら、如月君と大和君をカタパルトで飛ばして、魔神君の身柄を確保する」

ユリア「カタパルトの準備はできてるわ!」

如月「私たちも、いつでもいけるわよ?」

大和「提督は私たちが取り返します!」

金剛「そして私が載せているWペッタンアローで、保護する作戦デース!」

キュプレ「私たちの愛の力の見せ所ね!」

Fキュプレ「……!」ウインクー

スライム「ZZ.RR.Z...」

ミリーエル「電撃が効いてグズグズになってるわ」

ノイルース「今が好機……私たちが、燃やします」メラッ

Fノイルース「……」メラッ

 Wファイアーボール<ゴォッ!

スライム「MYUGYYYYYYY!」メラメラッ


ウーナ「不知火! スライム、燃えて縮んでる! 今だ!」

不知火「了解です……!」ジャキッ ドォン

 砲弾→ヘルファイアー<ボワァァァ!!

全員「「うわあああ!?」」

潮「す、す、すごい火柱なんですけど!?」

フウリ「ウ、ウーナちゃん大丈夫なの!?」

ウーナ「ダイジョブ! あれ見ろ!」

スライム「MIIIYYYYAAAAAAA!!」プルプル

古鷹「スライムが殆ど吹き飛んでます!」

加古「提督の姿がばっちり見えるよ!」

如月「今だわ! 大和さん!」

大和「ええ、ユリアさんお願いします!」

ユリア「さあ、かっとばすわよ! いっちにーの、」

ユリア「さぁぁん!」

 カタパルト<ズバァァン!

如月「!」バヒューン

大和「!」バヒューン


那智「いいぞ、まっすぐ提督に向かっている!」

敷波「……あ、だめっ!」

スライム「MIIIIGGYYYYYYYYYYY!!」

 ズオァ!

吹雪「!? スライムの壁が!?」

如月「きゃあっ!?」ズボォ

大和「いやああ!」ドブッ

長門「おい、まずいぞ! 二人がスライムの壁に取り込まれた!」

オリヴィア「……こっちが罠にかけられたってことかい!?」

ルミナ「やってくれるね……くそっ!」

摩耶「ど、どうすんだよ!」

泊地棲姫「ソレダケジャナイ。切リ離シタ奴ノ手足ヲ見テミロ!」

スライム群「UZZZZOOOOOOO...!」ズルズルズルッ

グローディス「げっ! 氷が解けて手足の分が集まってきてやがる!」

コーネリア「やらせるか!!」


 ギルティランス<ガシャッ!

スライム群「DRDRDRDR...」ドロッ

コーネリア「くっそ、液状なせいで全然ダメージが通らねえ……!」

カトリーナ「ならあたしのハンマーならどうだ!」

 スイングハンマー<ブオンッ!

スライム群「BRRRRRR...」ベチャベチャッ

コーネリア「飛び散るだけで時間稼ぎにしかならねえぞ……」

カトリーナ「ど、どうすりゃいいんだよ……!」

加古「んじゃ、これならどうだ!」

Fフローラ「……」ジャコッ

 チュウシャキ<ポイーン

スライム「!」ブスッ

スライム「BRRROOOONN!」ブルブル ポイッ

 チュウシャキ<カランカランッ

加古「く、薬でもだめかあ」

古鷹「全身に行き渡らせないと、効果は薄いみたい……」


長門「くっ……それならこれでどうだ!」ドォン!

 ドカァン

陸奥「飛び散るだけでダメージにならないわ……!」

敷波「も、もう一回凍らせられないの!?」

ディニエイル「そ、それが……」

 コールドアロー<バシュッ

スライム「」ピキパキッ

スライム「」ヴヴヴヴヴッ

ディニエイル「耐性がついたのか知恵がついたのか、凍らせても細かく振動して、凍結しないようになってしまったんです」

敷波「……ど、どうすりゃいいの?」

スライム→魔神「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!」ズシーン

利根「大和と如月を取り込んだまま、元に戻ったと言うのか……!」

ルミナ「最悪だ……!」

武蔵「大和はどうなるんだ!!」

ナンシー「如月ちゃん……!!」

摩耶「あの二人が中にいたんじゃ、攻撃できねえぞ!?」

ニーナ「どうにかして、あのお二人を助けないと……!」


魔神「GAAAAAAAAA!」

今回はここまで!

続きです。


魔神「GAAAAAAAAA!」ブンッ

 瓦礫<ゴシャアァァ

「「きゃああああ!」」

タチアナ「こちらから攻撃すれば、あの二人がどうなるかわかりません……!」

マルヤッタ「で、でも、このまま攻撃しないわけにはいかないじょ!?」

霧島「……いったい、どうしたら」

鳥海「司令官さん……!」


 ゴポゴポ…

大和(なんて苦しい……! 早く、抜け出さないと……!)

大和(いえ、それよりも、提督を……!)グッ

大和(くっ、スライムとはいえ、なんて頑丈な……)

――ちくしょう……許せねえ……!

大和(!?)

――なんで、私たちが死ななきゃならないの?

――どうして海軍は、俺たちを守ってくれないんだ!

大和(この声は……まさか、メディウムに殺された人たち!?)


――お前は、艦娘か……!?

――どうして艦娘がこいつを助けようとするんだ!

――こいつは俺たちを殺した原因だぞ!

――艦娘だったら、私たちを助けるのが役目のはずよ!

――艦娘のくせに、人間を裏切るのか!?

大和(なっ……そんなつもりはありません!)

――じゃあどうして人間じゃないこいつを助けようとする!

大和(それは……!)

――裏切り者!

――お前が大和だと!? 人間の味方じゃない奴が、大和なんて名乗るな!

――お前なんか大和じゃない! 偽物!

大和(……っっ!!)

――偽物! 偽物め!!

――俺たちを見殺しにしやがって!

――ここにいる奴らは、全員敵なんだろう!?

――私たちの恨みを思い知れ!!



 ガシャァン!

ヨーコ「うわああ!?」

ヴェロニカ「ちょっと、見境なしに暴れ始めたわよ!?」

五月雨「い、一旦避難しましょう! 早くこっちに!」

 ブゥン!

霞「やばっ……!」

朝潮「霞!!」

Fジェニー「!」バッ

霞「えっ……!?」ダンッ

 ゴシャァ!

ジェニー「ふ、フォージド兵の私が……」

霞「私を庇って……!?」

ジェニー「偽物だけど……よくも私を……っ!」

フォージド兵たち「「!」」ババッ

長門「!? ど、どうしたんだ!? フォージド兵たちが、魔神の前に並んで身構えてるぞ!?」

リンダ「な、なあ、これ……」

ナンシー「私たちの偽物が、私たちを庇ってる……!?」


初春「こ、これ! しっかりせぬか!?」

武蔵「今度はなんだ!?」

ヒサメ「わ、わらわの偽物が……」

Fヒサメ「……」コックリ コックリ

筑摩「か、体が透けて見えませんか!?」

ルミナ「フォージド兵はね、不完全な模倣体なんだ」

ルミナ「彼女たちは私たちと同じように作られるが、殆どは作られて間もなく消えてしまう運命だ」

泊地棲姫「力ヲ使イスギタト……私ノセイ、カ?」

Fヒサメ「……」フルフル

泊地棲姫「違ウ……ノカ!?」

ヒサメ「泊地棲姫よ、このわらわはこう言うておる」

ヒサメ「力になれず、すまなかった、と……」

Fヒサメ「……」ニコリ

 スゥ…

初春「……消えてしもうた」

泊地棲姫「……」

長門「彼女たちは自分の最期の時を理解しているというのか……?」

ニーナ「ならば、彼女たちのためにも、なおのことあの偽物の魔神を止めないと!」


霧島「……!」

鳥海「霧島さん、どうしました?」

霧島「あれを見て。大和さんが……」

武蔵「ど、どうしたんだ!? 大和のあの顔……!」


大和(やめて! やめて!!)

――俺たちがどんな惨たらしい殺され方をしたか、知ってるのか!?

――私たちがどんな屈辱的な死に方をしたのかわからないから、あいつらとつるんでるんでしょう!?

――人間を守れない役立たずのくせに!

大和(勝手なことを!)

――お前は俺たちを守るのが役目じゃないのか!?

――俺たちを守れない奴が、どうして生きていられるんだ!?

――役立たず! 役立たず!

――死ね! お前だけじゃない! みんな、死んでしまえ!

――そうよ! 私たちだけが死ぬなんて、不公平よ!

――死んじゃえ!!

大和(……っ!)ギリッ


武蔵「……」ゾク

利根「……武蔵よ」

武蔵「……どうしたらいいんだ」ポロ…

武蔵「大和が、苦しんでいる……誰か、大和を助けてくれ」ポロポロ…

利根「……」



 ゴポゴポ…

如月(……こんな罵詈雑言を、司令官は一人で受け続けていたなんて……!)

――可哀想とでも言うつもりか!

――一人だけ安全なところに逃げやがって!

如月(……)

――お前はこいつの部下か!

――艦娘のくせに、俺たちを殺したやつらに協力したやつだ!

如月(……)

――こいつらも敵だ!

――殺せ!

――殺せ!

――全員、ぶち殺せ!!


 ドズゥウウン!

ミーシャ「きゃああ!?」

白露「だめだめ! こっちはだめ! 早く逃げるよ!」ウデグイッ

島風「あなたも早く!」

アーニャ「う、うん!」


 ガシャアン

千歳「手当たり次第ね……!」

ヴィクトリカ「見てる場合じゃねーって! ずらかるぞ!」

霧島「比叡お姉様、どこへ行くんです!?」

比叡「暁ちゃんが、隣の部屋に! まだ空っぽになった魔力槽のなかにいるんです!」

由良「私も行きます!」

イサラ「あ、その、イーファの様子、見てくるッス!」

カサンドラ「わ、わたしも!」

タチアナ「休んでるキャロラインたちにも連絡を!」

ヨーコ「外で見張ってるシャルロッテたちはどうするんだ!?」

ルミナ「ここより上のフロアで待機させてくれ! 最悪、総力戦になる……シルヴィア、呼んできて!」

シルヴィア「わ、わかったわ!」

武蔵「……大和ぉ……!」グスッ

魔神「GWOOOOOOO!!」ゴォッ!

オリヴィア「武蔵!?」

コーネリア「ぼけっとしてんじゃねええ!!」


 ドガァン!

全員「「!?」」

龍驤「な、なんや今の爆発!」

リンダ「見てみい! 魔神の腹が裂けとるで!!」

川内「あれじゃない! あの砲塔!」

武蔵「……大和!」


魔神の腹から見え隠れする大和(大破)「……」プスプス…


潮「ま、魔神のおなかの中で砲撃したんですか!?」

榛名「そんなことをしたら暴発することくらい理解っているはずです!」

武蔵「……大和の顔が、鬼のようだった」

敷波「!」

武蔵「あいつは……あの魔神は、大和の逆鱗に触れたんだ」


若葉「……」

若葉「ふむ、試してみる価値はあるな」

利根「む?」


若葉「フォージド兵のオリヴィア、すまないが一緒に来てくれるか?」

Fオリヴィア「?」

若葉「フォージド兵のクレアも手を貸してくれ」

Fクレア「?」

若葉「若葉を、あの魔神の右足めがけて吹き飛ばして欲しい」

Fクレア「……」コク

利根「お、おい若葉、おぬしいったい何をす」

 スマッシュフロア<ズバーーン!

若葉「おおお!?」ビューン!

利根「る気じゃあああ!?」

若葉「これでいボブッ!」ズボッ!


初春「若葉の上半身が魔神の右足に突っ込んでおる……」

ルミナ「若葉君はいったいなにをしているんだ!?」


若葉(……よし、ここだ。フォージドオリヴィア、頼む)

Fオリヴィア(!)

――裏切り者の艦娘め! 何をする!!

若葉(……メディウムに殺された人間の声か。しれたことだ、お前たちを供養しに来た)

Fオリヴィア(!)ニヤリ

 クエイクボム<ズズゥン!


 ゴチャァ!

利根「ぬおお!?」

ルミナ「魔神の右足が……!?」

川内「破裂した!?」

オリヴィア「あれは……あの脚の内側からクエイクボムを炸裂させたんだね!」

リンダ「んなムチャクチャな……!」


魔神「GGAAAAAAAAAAA!」ヨロッ

若葉「ぷはっ!」ピョンッ スタッ

Fオリヴィア「……!」サムズアップ

若葉「ああ。いい仕事をした、協力感謝する」

Fオリヴィア「……」スゥゥ…

若葉「……」ケイレイ


如月(大和さん……! なんだかわからないけど、魔神の動きが遅くなったわ!)

如月(いまのうちに司令官を!)ザバザバッ


霧島「……如月さんが提督に向かって泳いでいます!」

朝潮「本当ですか!?」

ナンシー「如月ちゃん……お願い、無事でいて!」

グローディス「魔神様……!」


――やらせるか!

――俺たちだって、復讐するんだ!

――邪魔をしないで!

如月(!)ジュゥ…

如月(服が……溶けてく!?)

如月(ふ、服だけじゃないわ!? 体が……焼かれてる!)ジュゥ…!


古鷹「如月さんの様子が変です!」

ノイルース「もしや、あの周辺のスライム、メルトスライムでは!?」

グローディス「げっ! あの遺物か!?」


朧「遺物……って、なんですか、そのあからさまにやばそうなのは」

ディニエイル「掻い摘んで言えば、対象の衣服などを溶かしてしまうスライムです」

ミリーエル「メディウムとして目覚めていないので、ただのスライムなのですが……」

カトリーナ「なんたって昔のやつだぞ!? 制御できるかだって怪しいんだ!」

ニーナ「魔神の力を無理矢理引き出しているようですね……!」

ナンシー「如月ちゃん……!!」


如月(くう……! か、髪が傷んじゃう!)ジュゥ…

――溶けろ!

――そのまま俺たちの一部になれ!

如月(そ、そんなのお断りよ! あなたたちと同じになんかなりたくないわ!)

――誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ!

――そうよ! 責任を取りなさいよ!

如月(責任!? 笑わせないで! 無理矢理取らせたところで、どうせ元に戻せだの、無理難題を押し付けるんでしょう!?)

如月(それなら、司令官がこんなことになった責任は誰がとってくれるのよ!)

――それは俺たちのせいじゃない!

――そんなのは海軍の勝手だ!

――お前らのせいだ!!


如月(他人のせいにするしかないの!? ふざけないで!)

如月(人の不幸を望む存在でしかないのなら、あなたたちのほうがよっぽど悪魔じゃない!)

――違う! 俺は人間だ!

――そうよ! 私は人よ!! 艦娘もやめたあなたに言われたくない!

如月(なにが人よ! あんたたちの姿を見なさいよ! 魔神にすらなり損ねた、醜い異形じゃない!)

如月(それで人を名乗ろうだなんて、笑わせないで! この、ひとでなし!)

――……っ!!


魔神「UUUUWWWWGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


――俺は人間だ! 正しい人間だ!!

――俺は間違ってない! 正しいんだ!

――ひとでなしなんかじゃない!

如月(流れが止まった……今だわ!?)

如月「司令官!!」ザババッ

提督「……」


霧島「如月さんが……今、提督を捕まえました!」

金剛「で、でも、彼女たちはまだ魔神の inside デス!」

キュプレ「私たちじゃ引っ張り出せないわ!」

ニコ「別にいいよ」

比叡「ニコちゃん!? どういう意味!?」

ニコ「魔神様が、如月の呼びかけに応えてくれれば、それでいいんだ」


如月「司令官! 司令官っ!」ギュッ

提督「……」

如月「司令官っ!!」ギュウゥッ

提督「……この手のぬくもり……誰だ」

如月「司令官……! 私よ!」

提督「如月、か?」

如月「そうよ!」ブワッ

如月「ずっと……ずっと、会いたかった! お話がしたかったの!!」

如月「見て! みんないるわ! メディウムのみんなも! 艦隊のみんなも! 大和さんも!!」

提督「大和……ぼろぼろじゃねえか。大丈夫か……」スッ

大和「! あ、あああ……提督……提督!!」ボロボロボロ…


魔神「GOOOOWAAAAAAAAAAAAAAA!!!」ゴボゴボゴボッ


ウーナ「な、なんだなんだ!? また、魔神、暴れ始めた!」

武蔵「3人はどうなるんだ!?」

ニコ「もう、大丈夫だよ」ニコッ

 魔神の足元に展開される魔方陣<パァ…

ニコ「人間どもが夢を見る時間は、もう終わり」バッ

 魔方陣<カッ!

魔方陣からの光に包まれる魔神「!!!」

 ゴォォォォ!!

 魔方陣<ピカーーーッ!

「「きゃあああ!?」」

「ま、眩し……!」


 ドドドドドド…

長門「くぅ……なんだ、この音」

 ザバーーーーーー!!

龍驤「な、な、なんやああああ!?」ザバー

リンダ「ビッグウェーブやあああ!?」ザバー

 ダパーーーーーン!

今回はここまで。

お待たせしました、こちらもだいぶまとまったので続きです。


 * *

ニーナ「……」ビッショリ

ナンシー「やーん、もう髪がびしょびしょー」

長門「とんでもない鉄砲水だったな……」

シエラ「ひ、ひどい目にあったデスゥ……」ゼーゼー

黒潮「ほんまやぁ……うう、服が引っ付いて気持ち悪ぅ」

ル級「アレハ、アノ魔神ヲ構成シテイタ水カ?」

雲龍「……そうみたい。でも、あの邪悪な気配も感じなくなったわ」

不知火「ニコさんだけ長門さんの背中に避難していて無事ですか」

長門「いつの間に……」

ニコ「この本を濡らすわけにはいかないからね。一度乗せてもらったし、要領は掴んでたから」

ノイルース「私の火も危うく消えそうだったのですが」

ウーナ「ウーナも、ずぶ濡れだぁ……」

ディニエイル「私の氷も解ける寸前です……」

吹雪「メアリーアンさんの服が水を吸って動けなくなってます!」

メアリーアン「た、たすけてけろ~~!」ズッシリ

ミリーエル「雪玉も水を吸うと重くなりますからね……」


グローディス「なあ、あたしの隣にいた神通が電撃で痺れて気を失ってんだけど」

敷波「何やってんの!? 神通さんしっかり!」ユッサユッサ

神通「……う、うーん」クラクラ

イブキ「シェリルやカサンドラは大丈夫だったのか?」

シェリル「私はグローディスみたいにしょっちゅう放電してないし」

オリヴィア「カサンドラならイサラと一緒に向こうの部屋に引き籠……避難してたよ」

初雪「なにそれ……羨ましい」

金剛「それよりテートクはどうなったんですか!?」

ナンシー「そうよ、如月ちゃんは!?」

武蔵「大和もだ!」


「全員生きてるよ。一応な」


金剛「その声は」

吹雪「司令官……!」

艦娘たち「「提督!!」」「「司令官!」」キャー!

メディウムたち「「魔神様ー!!」」キャー!


提督「おう、お前らも大丈夫か」

(両脇に大和と如月を抱えて現れる提督、ただし全裸)

全員「「「……」」」

提督「……」

全員「「「キャアアアァァァーーーーー!」」」

提督(うるせえ)


雲龍「大変。陸奥さんが顔から火を噴いて倒れたわ」

龍驤「おい陸奥!? しっかりせえ!」ペチペチ

潮「ふ、フウリちゃんも倒れちゃってます!!」カオマッカ

ジェニー「潮はなんとか大丈夫なんだ……ほらー、シエラも目をさましなよー」ペチペチ

扶桑「山城? 大丈夫? 提督よ?」

エレノア「この子、立ったまま気絶してない?」

那珂「那珂チャン、提督ニ汚サレチャッタ……」タハー

川内「その割には嬉しそうな顔してない? ねえ神通?」

神通「」プルプル

川内(耳まで真っ赤にして涙目になって固まってる……)

那珂(神通チャン、乙女ダァ……)


クロエ「ほかにも何人か恥ずかしさで倒れてる方がいますねえ。みなさん大丈夫ですか?」

榛名「はい、榛名は大丈夫です!」ハナヂドバーー

オボロ「それがしも……問題なく……」ハナヂダラダラ

朧「二人とも駄目じゃないですか」カオマッカ

吹雪「でもまあしょうがないよ!」ハナヂポタポタ

鳥海「……そう、ですね」ハナヂポタポタ

大淀(むっつり系の人が鼻血出してますね)ハナヂポタポタ

明石「大淀、はい、ティッシュ。鼻血出てるよ」

大淀「え!? わたしがむっつりだとでも言いたいんですか!?」

明石(自覚なかったんだ……)

泊地棲姫「意外ダナ……ココマデ慕ワレテイルノナラ、裸クライ見慣レテイルモノダト思ッタガ」

朝潮「司令官! 朝潮は興味があるので、もう少しよく見せてほしいです!」キョシュ

若葉「若葉にも見せてくれ」

霞「……」ズツウ

初春「……」ズツウ

摩耶(駆逐艦の連中はいいなあ、自分に正直で……)モジモジ

黒潮「ええなあ、うちもこの流れにどさくさに紛れて乗っかりたいわ……」ウズウズ

不知火「黒潮。口に出ていますよ」

黒潮「!?」カオマッカ


ルイゼット「魔神様の裸体に欲情するなんて、みなさん精神修行が足りませんね」

電「みんながルイゼットさんのように悟りを開いてるわけじゃないのです!」カオマッカ

初雪「なんでもいいから、司令官は早く前を隠して欲しい」ポ

伊8「提督、はっちゃんの水着、着る?」ヌギッ

マルヤッタ「やめとくじょ!」ガシッ

オリヴィア「しょうがないねえ、それじゃあアタイがひと肌脱ごうじゃないか」ヌギッ

武蔵「おいやめろ」ガシッ

オリヴィア「冗談だよ」

伊8「二人とも裸リボンみたいな恰好してるのに常識的なのね」ボソッ

武蔵&マルヤッタ「「!?」」

提督「……相変わらず騒がしいな」

如月「う、うーん……」

大和「……ううっ」

提督「ん、如月も大和も気が付いたか?」

如月「し、しれいか」ピタッ

大和「ていと」ピタッ

提督「?」

如月「……」カァァァ…

大和「……」ボシューーー

如月「き、如月はいつでも大丈夫ですわ!?」

大和「や、大和も大丈夫です!?」

提督「何言ってんだお前ら」


金剛「時間と場所は弁えるべきデース!!」カオマッカ

提督「お前も何言ってんだ」

Fノイルース「……」スタスタ バサッ

提督「ん? ノイルース……少し雰囲気違うな。このマントを俺にくれるのか?」

Fノイルース「……」ニコ

提督「体を隠せってか。ありがとな、あとで洗って返す」

Fノイルース「……」フルフル

Fノイルース「……」スゥ…

提督「!」

ノイルース「やれやれ。これは偽物においしいところを持っていかれましたか」

提督「おい、今のは……」

ルミナ「フォージド兵。偽メディウムと言えばいいかな?」

グローディス「私たちの世界で、魔神様に対抗するために作り出された人造メディウムさ」

提督「……どうして消えてしまったんだ?」

ミリーエル「私たちメディウムを作り出すためには、専用の炉と、素材を使います」

リンダ「その炉を使わんと、メディウムが不完全な形で生まれるって話らしいんよ」

提督「だから Forged(偽造)兵ってか」

ルミナ「そのおかげで短命でね。時間が経って魔力が尽きると雲散してしまうんだよ」


ヨーコ「それはそうとさ、今まで出会ったフォージド兵って、みんな私たちに敵対してたよね?」

アーニャ「うん! 昔、ミーシャの偽物と戦った時も、全然話を聞いてくれなかった!」

カトリーナ「そうそう。やけにあたしたちに協力的っつうのが……なんでだ?」

タチアナ「今もこうして魔神様の前に傅いているというのが信じられません」

ル級「長門。アナタ、ナニカ知ッテルンジャナイノ?」

長門「……確信はないが」

シェリル「心当たりがあるのか」

長門「このフォージド兵たちは、妖精たちに頼んで建造ドックで作ってもらったんだ」

長門「かつて大和たちを建造した時に、妖精たちの意識……提督への好意が大和に反映されていただろう?」

長門「その時と同じように、ドックで作られた彼女たちには、提督を救いたいという意思が込められていたのかもしれないな」

ニーナ「人間が魔神様を討伐するために作った偽物とは、存在意義そのものが違うということですか」

提督「好きに生きればいいのによ。俺のために尽くすなんてな……ったく」

長門「提督……」

提督「安心しろ、ここまでしてもらって、俺なんか死ねばいいなんて言い出したりはしねえよ」

金剛「Oh, 良い意味で生まれ変わったみたいデスネー」

如月「良かった……!」ウルッ

大和「ええ、本当に……!」


武蔵「とりあえずそのマントは腰に巻いておいてくれ。目の毒だ」ポ

提督「おう」マキマキ

明石「……お風呂上りみたい」ボソッ

大淀「!」ハナヂドパァ

明石「えっ!? なんでそこで鼻血!?」ビクッ

如月(ああ……)カオマッカ

大和(シチュエーションだけ考えればそうですよね……)マッカッカ

ルミナ「えーと、それでニコ君? あの偽魔神がただの水になったようだけど、いったい何をしたんだい?」

ニコ「あの水に宿っていた人間どもの魂を、魔力に変換したんだ」

ソニア「えええ!? ちょっとぉ、最初からそれやってよぉ!」

ニコ「簡単に言わないでよ。ぼくだけでやろうとしたら、床にちゃんと魔方陣を書いたり、いろいろ準備しなきゃいけないんだ」

ニコ「魔神様の力を借りないと、あんな芸当簡単にはできないんだから」

ナンシー「ってことは、さっきまではマスターの力を借りられなかったの?」

ニコ「あの人間どもの魂のせいで、魔神様が意識と魔力を外へ出さないようにさせられてたんだよ」

提督「つうと、あれか。俺が精神的に引き籠ったせいで、お前らに迷惑かけてたのか」

ニーナ「いえ、それだけではありません。魔力を変換できるニコさんが、捕獲牢に閉じ込められたのも事態が悪化した一因ですね」


ルミナ「そういう魔神君は、体は大丈夫なのかい?」

提督「だるさが残るが、それほどじゃねえな。あとは少し頭が痛いくらいか」

如月「確かに、あれはひどかったわ。あの中に取り込まれたとき、人の怨嗟の声があちこちから聞こえてくるんだもの」

提督「人の意識に入り込んできて、やれ償えだの、やれ生き返らせろだの、ぎゃあぎゃあがなりたてやがって」

提督「ああ言えばこう言うで主張が一貫してねえ。数百人と口喧嘩してるみたいで、かなり分が悪かったぜ」

ニコ「とにかく、助け出せたのは如月と大和のおかげだよ」

ニコ「二人が取り込まれて魔神様に触れたことで、魔神様の意識と力が初めて外を向いたんだ」

ニコ「そのタイミングで魔神様の肉体を媒介にして、魔力変換を試みたんだ」

イブキ「まー、それもこれも、あいつが引き起こしたんだけど……」チラッ

軽巡棲姫「Zzz……」

吹雪「のんきに寝てるんだ……油性マジックで顔に落書きでもしてあげよっか」

龍驤「いや、そんな程度で許す気なんかい」タラリ

五月雨「吹雪ちゃん、変わってないみたいで安心しますね!」ニコー

リンダ「せやなあ、吹雪はちょっとお子ちゃまやしなあ!」ニマー

吹雪「お子様じゃないですーー!」プンスカ!

とりあえずここまで。

ぼちぼちエンディングに向けて投下していきます。

お待たせしました、続きです。


 ドタドタドタ

シルヴィア「ちょっと、今の魔力の放出は何!?」

ロゼッタ「あー! 魔神様が起きてる!!」

エミル「ほら、さっきのはやっぱり魔神様復活の波動だったんだよ!」

ミュゼ「外でお掃除してる場合じゃなかったんですね……」

ブリジット「内装が滅茶苦茶でありますよ!?」

シャルロッテ「それに、なんか水浸しになってなーい?」

マーガレット「おかげで滑って転んで大変だったんですよー!」プンスカ

カオリ「あなたはいつも何もないところでコケてるじゃない……」

カトリーナ「お、見張組が戻ってきたか」

ロゼッタ「っていうかヨーコ! 勝手に持ち場を離れないでよー!」

ヨーコ「そうはいかないよ、こっちで悪の波動を感じたんだ!」

カオリ「単に退屈だからこっちに来たんじゃないの?」

ヨーコ「違うってば!」

ニコ「……ヨーコの独断というか、暇を持て余したからぼくたちが助かったっていうのは複雑だね」


ティリエ「中間のフロアを守ってた私たちにも、労いを寄越せー!」

ジュリア「……わたくしたち、退屈でしたわ」ハァ

フローラ「ゲンスイさんという方のところに、誰も来なかったのは意外でした~」

千歳「フローラが元帥のところにいたの?」

フローラ「ええ、一応看護師のようなものですから~」

ティリエ「新しいお薬の実験台が来なくて一番退屈してたぞ!」

フローラ「そんなことはありませんよ!?」

黒潮「ジュリアがツッコミ入れへんあたり、ホンマぽいなあ」

フローラ「そんな!?」

 扉<ガチャバーン!!

キャロライン「ダーーーリーーーーーーーン!!」ダッシュ!

ケイティー「旦那様ああああああ!!」ダッシュ!

シルヴィア「なに!? 今度はなによ!」

コーネリア「こっちは休憩組かい」


メリンダ「すみません、こっそりと様子をうかがっていました」

ツバキ「うちのカビンも入らへんやろしなあ、て、控えておりんした」

マリッサ「私は違う意味で拘束されてたわぁ~」

パメラ「あなたはわざわざ若葉ちゃんを呼んで、縛ってもらってたんじゃないの」

初春「……」アタマカカエ

リンメイ「またくもて意味不明ね。なんで縛られたいか?」

スズカ「そんなん、理解できんほうがええに決まっとるけぇの」

キャロライン「ダーーーリーーーン! 生き返ったノ!? もとに戻ったノーー!?」ダキツキー!

ケイティー「旦那様あああ!! 私は信じておりましたああああ!!」ダキツキー!

提督「うお!?」ヨロッ

大和「ふ、二人とも、提督は目覚めたばかりですし、あまり体に負担を……」

キャロライン「ウワーーン! 良かったヨーーー!」スリスリ

如月「感激しすぎて聞こえてないみたいね」

ケイティー「うふふふふ……旦那様、ここに式場を建てましょう? なんならこの場で私と甘い夜を」サワサワ

 ゴッ

ケイティー「」ガクッ

金剛「調子に乗ってる子には当て身デース」

ニコ「……助かるよ、金剛」ハァ


ニーナ「ほら、キャロラインもそろそろ離れて」

キャロライン「ウン、でも、本当に良かったヨー……!」グスングスン

イサラ「騒ぎは終わったッスか……」

イーファ「ご主人様、大丈夫?」

朝潮「イーファさん! 無事だったんですね!」パァ

イーファ「うん!」

カトリーナ「ケイティーも同じように潰されてたんだけど……」

チェルシー「そこは日頃の行いってやつでしょ」

長門「なにはともあれだ。全員、無事だな?」

ニコ「……そうだね。みんなのおかげで、魔神様復活の本懐を遂げることができた」

ニコ「ありがとう……!」

全員「……」ウンウン

長門「提督。あなたも一言何か言ってくれ」

提督「何かって……別にいいだろ。面倒くせえな」アタマガリガリ

「「「……」」」

不知火「あなたという人は……」


如月「くすっ……」

吹雪「あはは……『面倒くさい』だって!」

朧「全然変わってないですね」

初春「まったく、相変わらずすぎてあきれるのう」

電「なのです!」

不知火(照れると頭を乱暴にかく癖もそのままですか……)フフッ

 ハハハハ…

提督「まあ、和やかなのは結構だが、お前らこれからどうするんだ?」

千歳「それは私たちこそ訊きたいわ。提督こそこれからの身のふりを考えないと」

提督「それだったら、俺は海軍に戻る気はさらさらねえぞ」

日向「海軍を離れる気か」

提督「どうせもう除籍されてんだろ。今の俺はメディウムたちを取りまとめる、魔神さ」

提督「だから、俺はこいつらと一緒に向こうの世界に帰ることにした」

伊勢「向こうの世界?」

キャロライン「ということは……!」パァッ

ニコ「ぼくたちと一緒に、神殿に帰るんだね?」

エミル「やったぁ!」

シエラ「これでやっと落ち着けるデス……」


チェルシー「あー、でも、また海のない生活に戻っちゃうのかー」

シルヴィア「そうねえ……」

提督「まあ、そういうわけでだ、俺はこっちの世界からはおさらばさせてもらう」

榛名「そんな……!」

霧島「いえ、それは無理もないことです、榛名お姉様。今、司令が海軍にお戻りになられたとしても、おそらく歓迎されないでしょう」

長門「そうだな。海軍陸軍がこの施設奪還に投入した人員、この施設の近隣の住人、その被害だけでも数千人に及んでいる」

長門「提督が戻ったとしても、この騒動の原因を追究されて、責任を押し付けられる可能性のほうが高い」

提督「第一、戻りたいと思える場所がねえ。どこへどう転んでも面倒にしかなんねーよ」

提督「だから、俺を悪役にしておけ。人外の魔神が、深海棲艦を呼び寄せて暴れた、ってな」

提督「魔神はお前らが倒したことにして、悪者の俺たちはこのままドロン、のほうがいい」

武蔵「……むう……不本意だが、そうするしかないのか」

提督「あとは泊地棲姫たちがどうしたいか、だが……」

泊地棲姫「……ニコ。オ前タチノ故郷カラ、海ハ遠イノネ?」

ニコ「うん。そうだね」

泊地棲姫「ソレナラ、私ハ元ノ場所ニ帰ルワ。私タチト海ハ切ッテモ切レナイ関係ダ」

鳥海「あの……私も泊地棲姫さんと一緒に行っても良いでしょうか?」

摩耶「鳥海!?」

加古「なんでだよ!?」


鳥海「なんでって、見ての通りよ。私の体は、もう7割くらい深海棲艦化してきてる」

鳥海「私が那珂ちゃんみたいになるのも、時間の問題だと思うわ。自分の体のことだから、わかるの」

摩耶「鳥海……」

鳥海「司令官さんが無事だったこともわかったし……いい機会だから、少しみんなから離れて、これからを考える時間が欲しいの」

鳥海「私が今の『鳥海』でいられる時間がどれくらいあるか、わからないから」

摩耶「そっか……あ、軽巡棲姫とル級はどうすんだ?」

泊地棲姫「彼女ハ私ガ預カロウ。提督、貴様ノ忘レ形見ダ。私ノ手ノ下ニ置クコトヲ許シテホシイ」

提督「何言ってんだ。俺たちが勝手に押し付けた軽巡棲姫を見ててくれたんだ、許す許さねえなんて話になるわけねえ」

提督「艦娘の敵だってのに、面倒かけさせた。ありがとうな」

泊地棲姫「……フフ。ナラバ、コレクライハ許シテモラエルノダロウナ?」ズイ

提督「!」チュ

全員「「!!」」

泊地棲姫「フフ……私ハコレデ引キ下ガロウカ」

オリヴィア「大人の女の余裕ってやつかねえ」

カオリ「ケイティーが気絶してて良かったわ……」

キュプレ「ああいう人こそ、くっつけてあげたくなっちゃうわ!」


加古「えーっと、ごめん、ちょっといいかなあ……泊地棲姫! あたしも途中までついて行っていいかな!?」

古鷹「え、ええ!? 加古、どうしたの!?」

加古「あたしもさ、ちょっとだけ海軍から離れたくなっちゃってさぁ……」

加古「どうにも居づらいんだよねぇ、あたしも鳥海も轟沈経験艦だから。だから、泊地棲姫を送るついでに暇をもらおうかなって」

泊地棲姫「……オ前ハ、一緒ニ来ナイノカ?」

加古「居候がいきなり増えちゃあ迷惑だよ。あたしはまだ艦娘だし、気兼ねしたくないよね、お互いに」

鳥海「で、でも!」

加古「いいからいいから! これからのことは、どっかの島にでも停泊して寝ながら考えるって!」

古鷹「加古……」

那智「ところで泊地棲姫。貴様はここから地上に出るのか?」

泊地棲姫「イヤ、コノ施設ノ隠シ水路ヲ使ッテ外海ニ出ル」

那智「そうか……提督」

提督「なんだ?」

那智「私は外で待機している本営の艦隊に、戦闘が終了したことを報告しに行く」

那智「そこで、泊地棲姫とその艦隊にこれ以上の継戦の意思がないことを伝え、彼女たちが外洋に抜けるまで突入を待つように進言する」


泊地棲姫「私ニ恩ヲ売ル気カ」

那智「恩ならすでに我々が受け取っている。提督を助けるために、共闘したのは紛れもない事実だ」

那智「今度は我々がそれに応える番だろう?」

泊地棲姫「……フン」

千歳「というか、地上に戻れるのかしら?」

足柄「この上のフロアの床も突き抜けてるんだけど……」

エミル「それなら大丈夫だよ? 階段はちゃんと残ってるから!」

ミュゼ「でないと、私たちもここに戻れませんでしたからねー」

日向「那智、私たちも外へ出るために、泊地棲姫の言う隠し水路を通ってはいけないのか?」

那智「我々が帯同しては、泊地棲姫たちの居場所を明確に教えてしまう。狙われないように、我々と別ルートを通ったほうがいいでしょう」

伊勢「そっか……じゃあ、鳥海と加古とはここでお別れね」

那智「……提督。貴様とも、だな」

提督「ああ。俺たちは地上に出る気はねえ。そのまま向こうの世界に行く」

千歳「……提督。今まで本当にお世話になりました」ペコリ

足柄「いきなり押し付けられて、迷惑だったと思うけど……」

提督「そんなことねえよ。むしろそんなやつしかいねえからな、うちは」

足柄「……ふふ、そうね」


那智「心残りは貴様と一献、呑めなかったことくらいか」

提督「馬ぁ鹿、俺は下戸だ。そもそもお前、禁酒してたんじゃねえのかよ」

那智「ああ。あの島が燃えたあの日から、また禁酒を始めたが……そうだな、今夜ばかりは呑ませてもらう」

那智「貴様の顔を見ることができた祝いと、これからの貴様の無事を祈って、な」

提督「……そうかい」

那智「ではな、提督! 貴様の武運を祈る」ケイレイ

千歳「私たちも行きますね。もし、また会えたときは、一杯おつきあいしていただきますよ?」

足柄「そのときまで、どっかの誰かに負けたりしちゃダメよ?」

提督「ああ」フフッ

泊地棲姫「……私タチモ行クゾ。サラバダ、提督」スッ

鳥海「摩耶、司令官さん……みなさん、お元気で」ペコリ

加古「提督なら大丈夫っしょ。古鷹も! じゃーねー!」

伊勢「……日向。私たちも那智たちと一緒に行こっか」

日向「そうだな……提督」

提督「ん?」


日向「深海棲艦はどこから来たのか? 艦娘とは何者なのか」

日向「メディウムとは? そして、君自身の存在する理由はなんなのか……君となら有意義な話ができただろうな」

日向「じっくりと、話してみたかった。それだけが心残りだ」クルリ

伊勢「……また逢えたら、話してあげてよ。それじゃ!」タッ

金剛「みなサン、行動力が早すぎデス。せっかくなら記念撮影の一枚くらい、あって良いと思いマース」

朝雲「記念撮影……あ、あれ!? ねえ、青葉さん見てない!?」

山雲「……あら~~?」

五十鈴「そういえば、いつの間にか姿を見てないわ! どこへ行ったの!?」

 瓦礫<ガラン ガシャンガシャン

イサラ「ヒィッ!?」

 扉<ガコン! ガコガコッ!

三隈「瓦礫の裏に扉が……」

マルヤッタ「反対側から誰かが叩いてるじょ」

最上「歪んで開かないのかな?」


 扉<ガシャバン!

青葉「ども! ご心配おかけしました、青葉ですぅ!」ニカッ

ベリアナ「もう、ひどい目にあったわ~」

霧島「何をしてたんですか、この非常時に!」

ニーナ「ベリアナもどこに消えていたんですか!?」

青葉「実はちょっとこういったものを撮影してまして」

霧島「!」

朝雲「なに? 何を撮ったの?」

霧島「見てはいけません」

青葉「ええ、見ないほうが賢明ですよ~」

伊8「……もしかして」

青葉「はい! 伊8さんもよーく御存知の、この施設の裏側を撮影してきました!」

青葉「メディウムのみなさんがこの施設を支配してることはわかってましたから、こっちから攻撃さえしなければ協力を得られると思いまして!」

ベリアナ「あたしもそっちのほうが面白そうだったし」

ミルファ「もしかして、ベリアナはずっと青葉さんと一緒だったの?」

青葉「はい! 施設の道案内をお願いしてました! いいものをたくさん撮ってきてますよ~!」


霧島「もしかして、それを使ってお上を脅迫する気ですか?」

青葉「いえいえ、脅迫だなんてとんでもない! 青葉たちの身の安全の保証書として利用させてもらうだけです!」ニマー

提督「本営がお前らに責任転嫁しようとしたときにさす釘、ってところだな」

青葉「はい! いやあ、すごいですよ!? 一世一代の大スクープですよね、これは!」ニマー

霧島「……」アタマオサエ

提督「おう、じゃあその画像、お前ごと消されないように、くれぐれも気を付けて帰れよ」

青葉「いやあ、司令官が言うとシャレになりませんねえ……」

提督「あいつら、くそつまんねーことで命狙ってくるからな。お前も経験者だろ?」

青葉「ええ、重々承知の上ですね。そういうことですので、こういう重要な情報は、ぱぱっと遠地に通信しちゃいましょう!」

通信機『ピピー……』

青葉「そうそう、この通信機ですけどね?」

通信機『ザー……あー、あー、テストテストー。どう? 聞こえるー?』

ヴィクトリカ「その声は……」

提督「隼鷹か?」

通信機『おぉ~、ご名答! さっすがだねえ提督! まさかほんとに生きてたなんて! 今夜は祝杯だよぉ!』

青葉「隼鷹さんは今ショートランド泊地にいるんです!」


通信機『残念ながら、今のあたしはここから動けなくてさあ。それで青葉に頼まれて、データの仲介役を受けたんだよ~』

青葉「場所が場所ですので、本営が動く前にいろいろできますからね」

通信機『それより青葉、カメラを提督に向けてくれよ~。みんな無事~!?』

通信機『おぉ~、もしかして吹雪!? あんた育ってんじゃん! 電も朧も……うわー、みんないるねえ!』

エレノア「あら、映像見られるの?」

通信機『おぉ! 元気だったかいエレノア! ヴィクトリカやユリアもいるんだろ!?』

ヴィクトリカ「おう! なんだ隼鷹、あんたこっちに来なかったのか!」

ユリア「一緒に飲みたかったけど、また今度の機会になるわね」

提督「ま、今度があるかどうかわかんねえけどな」

通信機『ありゃま。なんだい、もうお別れかい?』

青葉「残念ですけど、司令官がこちらの世界で提督業を続けていくのは難しいかと」

通信機『そっかあ。ま、ちゃんと顔を見てお別れできるだけ、踏ん切りがつくかねえ』

通信機『おっと、あんまり長話してるとまずいんだっけ?』

青葉「あー、まあ、そうですね。とりあえず画像データの転送も終わりましたし、この辺で青葉もおいとましようかと!」

通信機『青葉、あんたはちゃんとあとでショートランドに来るんだよ? 酒の肴に土産話を期待してるんだからね!』

青葉「了解、了解ですよー! では、青葉もこれで失礼します! 司令官!」

提督「ん」

青葉「今までお疲れ様でした!」ビシッ

通信機『じゃあね、元気でやりなよ!』

提督「……ああ、ありがとな」

青葉「では!」タタッ

今回はここまで。

まずは一年以上の放置、お詫び申し上げます。
いつの間にやらWikiも消えてしまい、
キャラクターを覚えている方も少ないかもしれませんが、
一応は完結目指して書き進めます。

というわけで、続きです。


朝雲「……そっか、そういう考え方もあるわね」

山雲「朝雲姉~?」

朝雲「ううん、青葉さんが言ってた通り、司令官が退任したって考えれば、別れ方もすっきりするわよね」

五十鈴「……そうね。そういうのもありね」

利根「まあ、今の提督の立場からすると、戦いの中に身を置くさだめに変わりはないのかもしれんが」

明石「そうなっちゃいますねえ」

若葉「私たちと変わらないと言うことか」

白露「そういうことなら、花束でも用意してくればよかったね?」

島風「白露が女の子らしいこと言ってる!?」

白露「それどういう意味!?」

陸奥「ほら、こんなところでまで騒がないの」

龍驤「そん通りや。提督の新しい旅立ちやで、もう少しおめでたいムードちゅうもんがあるやんか!」グスッ

敷波「ちょっ、龍驤さん泣いてるの!? やめてよ!」グス

龍驤「言うて敷波も泣いとるし!」グスグス

敷波「しょ、しょうがないじゃない! 今までたくさんお世話になったし!」


摩耶「ほんとだよ、世話になりっぱなしだったぜ」グスン

提督「そんなことはねえよ。俺はおまえらが頑張ってたのを見てただけだからな」

五月雨「……それが嬉しかったんですよ。ずっと、見守ってくださったんですから」

提督「……そうか」

扶桑「……あの、提督?」

提督「ん、なんだ扶桑」

扶桑「こんな中で大変不躾なお願いですが、この扶桑……提督について行ってもよろしいでしょうか?」

山城「扶桑お姉様!?」

扶桑「我儘であることは重々承知しております。ですが私は、最期の時まで、あなたのお役にたちたいと思っています」

ル級「覚悟ハ出来テルノ? 向コウノ世界ハ、オ前タチニハツライ世界ヨ?」

扶桑「ええ。製油、製鉄技術も乏しく、火薬の生成もままならない世界だと、由良から聞いてるわ」

扶桑「それでも、もう私はこちらの世界で生きていけると思えないの。つらいことが、たくさんありすぎて」

山城「扶桑お姉様……」


扶桑「きっと、あなたもそうなんでしょう? ……大和?」

大和「……はい」

武蔵「大和、本気か……!?」

大和「ごめんなさい、武蔵。私は……もう、人間のために戦っていく自信がないわ」

大和「メディウムに殺されたとはいえ、あの人たちの怨嗟の大合唱は、私には耐えられなかった……」ポロッ

武蔵「……」

提督「……なあニコ、向こうの拠点は山の中なのか?」

ニコ「うん。そうだね」

提督「そこから一番近い海はどのへんだ?」

ニコ「! そうだね……」

摩耶「お、おい、提督、まさか……」

提督「拠点を海の近くに移せられれば、少しはマシになるだろ。海好きなメディウムも多いしな」

チェルシー「今の話、本当!?」

シルヴィア「さっすが魔神君! 話が分かるわ!」


摩耶「本気で、魔神になるつもりかよ……」

提督「ああ。いくら俺が指示したわけじゃないとはいえ、俺のためにこいつらがやってくれたことだ」

提督「ここで俺がメディウムを見捨てるような真似はしたくねえし、お前らと直接やりあいたくもない」

提督「俺が向こうへ行ってこいつらの面倒を見るのが、一番すっきりした落としどころだと思うぜ?」

摩耶「そりゃあそうかもしんないけどよ……」

提督「一応聞いとくが、由良やはっちゃんはどうする?」

伊8「一応聞くまでもないと思うけど?」

由良「ね?」

敷波「……」

電「敷波ちゃん……」

吹雪「そっか、そういえば敷波ちゃんは電ちゃんや由良さんと同じ鎮守府出身だったんだよね」

シルヴィア「うーん、言わせてもらうけど、あなた、迷ってるくらいなら来ないほうがいいわよ?」

敷波「え……あ、うん」

オリヴィア「ああ、こりゃあ納得いってない感じだねえ」


提督「敷波。俺はもう人間の敵だ。だが、お前はそうじゃないだろう?」

敷波「……」ウツムキ

提督「敷波。お前、人間を撃てるか?」

敷波「そ、それは……」

提督「そこで躊躇するんならやめとけ。お前はこっちに来ないほうがいい」

榛名「……」

黒潮「あー、司令はん? うちもちょっとひとこと言わせてもらいたいんやけど」ズイ

提督「なんだ?」

黒潮「うちは、司令はんが向こうの世界に行くのは、まあ、しゃあないなー、って思うんよ。経緯が経緯やし?」

黒潮「頭ではしゃあない思っとんやけど、それがめっちゃ気に入らんねん。わかる?」

提督「……」

黒潮「司令はんは、何もしてないやん。貧乏くじ引かされとるだけやんか」

黒潮「あの島が燃えたのも、もとはと言えば海軍の内輪揉めに巻き込まれただけやんか。ええように利用されとっただけやんか!」

黒潮「なんちゅうか、うちらの不幸を全部押っ付けて追い出してるみたいで、めったくそ気分悪いわ……!」


潮「わ、私だって、納得できません……今まで、たくさんお世話になったんです。そのお礼もできないまま、お別れなんて……!」グスッ

潮「ここで別れたら、もう会えないんでしょう? 朧ちゃん、元に戻すこと、できないの……?」

朧「それは……もう、無理じゃないかな」

電「……ごめんなさい」

敷波「それで謝んないでよ……! どうしようもないんでしょ? 謝られたって、別れるしかないんでしょ……?」グス

朝潮「……霞。敷波さんのこと、お願いできますか」

霞「朝潮!?」

朝潮「司令官。朝潮は、司令官についていきます」

敷波「!」

明石「本気なの!?」

朝潮「はい、朝潮は本気です。司令官のために、本営と事を構えることも覚悟の上……むしろ、信用できないとまで思っています」

朝潮「その証拠に、私の体も、鳥海さんのように深海の側に傾きつつありますから……」

敷波「なんなのさ……みんな、そうやって理由つけてどっか行っちゃってさ」

敷波「あたしは……みんなで一緒にいたいだけだったのに、どうしてこうなっちゃうんだよ……!」

霞「……」


敷波「いいよもう……こうやって泣いてたって、迷惑かけるだけって、わかってるし」

敷波「ほかにあたしが納得できるような良い方法も、あたしには思いつかないしさ」

敷波「由良さんもはっちゃんも、この施設で解体されるはずだったんでしょ? こっちの世界に留まったって、いいことないのはわかってる」

敷波「しょうがないんだよね……」グス

提督「……那珂。お前はどうする」

榛名「!」

川内「!」

神通「!」

那珂「ンー、那珂チャンハモウ、コンナダシー。コッチノ世界ニ残ッテ、万ガ一、ミンナト戦ウコトニナルノモ嫌カナァ」

榛名「……」

那珂「ソウイウワケダカラ、那珂チャンハ向コウヘ行ッテキマス! 提督、コレカラモヨロシクネ!」

川内「那珂……」

那珂「川内チャンゴメンネ! デモ、コレカラ戦ウ相手ニ、那珂チャンガイナイッテコトガ確実ナラ、夜戦デモ躊躇シナクテスムデショ?」

川内「そりゃそうだけどさ……」


神通「そう、ですね……那珂ちゃんは、向こうで、元気にやっていくって思えば……」グスン

那珂「モー、神通チャン笑ッテヨー。コレジャ、アイドル失格ジャナイ!」グスッ

山城「ええ、那珂ちゃんなら大丈夫よ。私も一緒に行くから」

那珂「!?」

扶桑「山城……!?」

山城「泊地棲姫と一緒に那珂ちゃんをこちら側に引き込んだのは私よ……!」

山城「少しの時間だけでもいい。私の艤装を解体して鋼材なり燃料なりにして、那珂ちゃんと扶桑お姉様に役立てて欲しいんです!」

龍驤「ちょっ、大丈夫なんか!?」

由良「解体するしないにかかわらず、そのほうがいいかもしれないわ。山城さんも、深海の側に傾きかけているし……」

伊8「むしろ扶桑さんのほうが心配かもしれないです」

龍驤「そっか、そうなるんか……」

長門「留まるにしても、深海棲艦になりつつある艦娘は、海軍に居続けても由良のように狙われる可能性もある」

武蔵「ああ。同じ艦娘にも、深海棲艦に恨みを持ってるやつは少なくないだろう」

武蔵「海軍に残るとなれば、最悪、背中を撃たれることも覚悟しなければならん」

長門「そう考えれば、鳥海のように深海に行くのも間違ってはいないな」

陸奥「……そうかもしれないわね」


霧島「……金剛お姉様はどうなさるおつもりですか」

比叡「!」

榛名「!」

金剛「Hm... 私は、海軍に残ろうと思いマス。テートクと一緒には行けまセン」

榛名「ええ!? ど、どうしてですか!?」

金剛「私がテートクと一緒に行ったところで、お役にたてるとは思えまセン。むしろ足を引っ張ると思いマス」

金剛「私は、テートクが『みんな』と仲良くしてほしいと思っていまシタ。この世界の人間たちも例外ではありまセン」

金剛「そして、世の中にテートクのやっていることが間違っていないことを広めたかったんデス」

金剛「轟沈した艦娘に手を差し伸べ、暴力や悪意で傷付いた艦娘を守ってくれたテートクが、認められて欲しかった……」

比叡「金剛お姉様……」

金剛「テートクは今、世界と決別しようとしていマス。私がそれを拒むことは、テートクを否定することにほかなりまセン」

金剛「テートクが生きているかもしれないことを知って、テートクのもとに集まったあなたたちを否定する気もありまセン」

金剛「私は、この世界に残って、テートクの功績を後世に残したいと思いマス」

榛名「金剛お姉様……!」ウルッ


金剛「比叡、榛名、霧島。あなたたちがテートクと一緒に行くと言うのなら、私は引き留めまセンヨ」

霧島「いえ、金剛お姉様のご心配に及ばず。私は海軍に戻ろうと思います」

摩耶「え!?」

霧島「……摩耶? 今の『え』はどういう意味かしら?」

摩耶「だ、だって、霧島さん言ってたじゃないっすか、司令についていくって……」

霧島「残念だけど、私の持ち得る知識と力と経験は、あちらの世界で司令が戦うに当たっての助力にはならないと思うの」

霧島「それよりも今、金剛お姉様が進む道のほうが困難に思えます。私の力は金剛お姉様のために振るうべきかと……!」

金剛「霧島……!」

比叡「……司令、ごめんなさい!」バッ

提督「!」

比叡「私も、金剛お姉様と一緒に戦います!」

榛名「……!」

比叡「ただ……暁ちゃんだけは、お願いしてもいいですか? あれからずっと目を覚まさなくて……」グスッ

提督「わかった、預かろう。フローラ、向こうで治療を続けられるか?」

フローラ「ええ、お任せください」

電「電も看病をお手伝いするのです!」フンス!


摩耶「霧島さんが海軍に残るんなら、あたしもそうするかな。鳥海も心配だし……今の海軍を放っておけねえもんな」

榛名「……」

武蔵「ほかに提督と一緒に向こうの世界に行くつもりの者はいるか?」

金剛「榛名、あなたはどうしマスカ?」

榛名「……榛名は……」

 PPPP... PPPP...

武蔵「! 私の通信機か」ニュッ

吹雪(胸の谷間から!?)

ニコ「」ハイライトオフ

ニーナ(ニコさんの目から光が消えてる……!)

武蔵「もしもし? おお、那智か、どうした」

武蔵「……うん……うん……わかった。急がせる、那智はもう少し時間稼ぎを頼む」

大和「なにかあったの……?」

武蔵「ああ、この研究所を憲兵隊が取り囲んでいるそうだ」

提督「憲兵隊?」


武蔵「なんでも、艦娘は見逃してもらえるが、それ以外の者は捕縛するつもりでいるらしい」

提督「……艦娘以外、ね」

ニコ「どっちみちぼくたちが外に出るつもりはないけどね」

武蔵「那智は瓦礫などの後始末のために我々が残っていると伝えたんだが、それを陸軍がやると言っていて……」

武蔵「この研究所に踏み込まれたくないであろう海軍幹部が、連中を抑え込んでいる状態だ」

龍驤「ああ……まあ、見られたくないもんばっかりやろうしなあ……」

武蔵「陸軍もこれまでの鬱憤を晴らしたがっているようで、にわかに殺気立っている」

長門「無理もない。今回の深海棲艦とメディウムの狼藉は陸の上での話だからな」

武蔵「我々艦娘も、もたもたしていると憲兵たちにしょっ引かれかねないと言っていた」

霧島「司令との別れをせっつくなんて、無粋な人たちですね」ムスッ

提督「仕方ねえよ、俺たちは数千人の人間を殺してるんだからな。連中にしてみりゃ十分すぎるお情けだろうさ」

提督「でもまあ……」チラッ

艦娘たち「!」

提督「あの時よりはましだな」フフッ

不知火「司令……」


朝雲「まるで、さよならを言いに来たみたいになっちゃったわね」

金剛「十分じゃありませんか、そうでショウ? テートク?」

提督「これだけ迷惑かけておいて、労力に見合ってない気もするがな」

ナンシー「なんだか、初めて鎮守府に来たときを思い出すわね~」

ルミナ「ああ、あのときも艦娘のみんなを罠にかけようとしたんだったね」

ニコ「……やっぱり、ぼくたちと艦娘は相容れないものなのかな」

若葉「それは違うな」

オボロ「!」

若葉「最初こそ敵対したが、提督がいてくれたおかげで艦娘とメディウムが手を取り合ったことは事実だ」

若葉「そして今も、みんなが提督の身を案じている。それは提督自身が我々を気遣ってくれたおかげだ」

初春「若葉……」


若葉「それから、メディウムとの生活も、悪くはなかった……楽しかった」

若葉「若葉は、こちらの世界に戻る。提督は、向こうの世界で戦うのだろう?」

提督「ああ、そうだな」

若葉「若葉は提督と同道できない。だが、幸運を祈っている」クルリ

初春「若葉!」

若葉「若葉たちがもたついて外に出てこないと、あいつらがなにをするかわからないからな」スタスタ

若葉「初春姉、みんな、提督を頼む」スッ

川内「若葉……」

オリヴィア「うーん、いい男……じゃないな、いい女だねぇ」

長門「……ああ。確かに、いつまでも名残を惜しむ暇はない、か」

武蔵「そうだな、急ぐか」


 * 地上 *

憲兵「だからいい加減突入させろと言っているんだ!」

海軍「まだ安全の確認が取れていないと言っているだろう!」


那智「……まだか、あいつらは」

別の大将「那智よ、本当に生存者は他にいなかったのか」

那智「これは大将殿。そうです、生存者は元帥だけでした」

大将「そうか。しかしその元帥閣下でさえ、心神喪失状態にある。犯人たちは薬物を扱えるのか?」

那智「いえ。おそらくは、直に精神を操ったものかと」

那智「深海棲艦もまた、負の感情から生み出されたと言われておりますが……」

大将「それと理屈は同じだと」

那智「定かではありませんが」

大将「……本来ならば、あの深海棲艦どもを見逃すつもりはなかった」

大将「だが、貴様らが協定を結んだと言うのなら目を瞑る他あるまい」

那智「……はっ」ケイレイ


 ゾロゾロ…

海軍「おい、施設から誰か出てきたぞ!」

海軍「大丈夫か!?」


那智「やっと戻ってきたか……」

大将「……施設から出てきた艦娘は全員保護せよ! 急げ!」

憲兵「待て! 何があったか話して貰わねば……」

大将「艦娘は海軍の所属である! 我らが先に治療すると決めたのならば、それに従え!」

憲兵「お、横暴な!」



那智「……」

那智(憲兵に捕まれば、地下で起こったことを話させるだろう)

那智(余計なことを言わせないために、私たちを『保護』する、か……)

那智「折角、酒を断ったのにな……また、悪い酒になるか」ハァ


 * 地下 *

不知火「……」

提督「最後は不知火か」

不知火「……如月」

如月「? なあに?」

不知火「如月は、これで良かったのですか」

如月「今更よ。私は、艦娘ではなくなってしまったもの」

不知火「……そう、ですね。私たちの道理を押し付けるのは筋違い……」

不知火「司令も、私たちとは道を違えるのですね……」ウツムキ

如月「……」

不知火「司令。如月たちを、よろしくお願いいたします」

提督「……ああ」

不知火「そして、これまでのご指導ご鞭撻……ありがとうございました……!」ケイレイ

提督「……ああ。俺のほうこそ、今まで助けてくれて、ありがとうな」ケイレイ

不知火「……では、これで、失礼致します」ペコッ クルリ

 タッ

提督「……」


ニコ「……行っちゃったね」

提督「仕方ねえさ。これから俺は人間の敵になるんだからな」

提督「お前たちも、覚悟はできてるか? 引き返すなら今のうちだぞ」

那珂「那珂チャンハ大丈夫ダヨー!」

山城「扶桑お姉様……!」

扶桑「心配いらないわ……一度は、人に失望した身だもの」

朝潮「朝潮は、司令官にどこまでもついていきます!」

大和「大和も、地の果て、水平線の果てまで、ご一緒致します……!」

由良「行きましょう……向こうの世界に」

伊8「……」コクン

提督「よし、これでこの世界とはおさらばだ。ニコ」

ニコ「うん」コク

 バッ

 床に浮かび上がる魔法陣 < カッ…!

ニコ「みんな、集まって。僕たちの世界に帰るよ」


シエラ「や、やっと帰られるデスか……」ホッ

イサラ「早く引き籠りたい……」

シルヴィア「でも、これで暫くは海とお別れねえ」

チェルシー「うああああ、言わないでよ~! ああ、憂鬱~~!」

アーニャ「もっとたくさん釣りたかったなあ……」

ミーシャ「で、でも、それは艦娘さんたちも、一緒ですから……」

ミュゼ「それまでは私たちがお世話しましょう!」

アマラ「お掃除のし甲斐がありますね!」

ルミナ「んー、そうだねえ、ついでに研究にも付き合ってもらえると助かるよ」

ニーナ「そう言ってずっと付き合わされるのは駄目ですからね!」

ナンシー「ルミナってば、研究のことになるとそればっかりだもんねー」

提督「……」

ニコ「魔神様?」

提督「向こうの世界の拠点は山の中だ。まずはとにかく海に進出したい」


提督「もし海を目指すとしたら、いくつ町を潰せばいい?」

ニコ「魔神様……!」

コーネリア「魔神様が本気になられたぞ……!」

ルイゼット「ついに、愚かな人間たちに鉄槌を下す日が来たのですね……!」

提督「俺たちは向こうの世界じゃ人間の敵だ。鉄槌云々は置いといても、人間どもにおとなしく滅ぼされる気はねえ」

提督「俺たちは俺たちの平和を手に入れる……!」

カトリーナ「よおっし! やってやるぜえええ!」

初春「うむ、そうと決まれば、わらわも本気を出さねばのう」

ヴァージニア「我等が歩むは覇道、それは最初から決まっていたことだ」

提督「ああ。面倒臭いのが嫌で、人から離れて過ごそうとしていたが……逃げたり隠れたりするのはもうやめだ」

提督「この世界で果たせなかった理想の世界を……俺たちの、国を作る」

吹雪「司令官……!」

提督「だから、頼むぜ。お前らが頼りだからな」

如月「勿論よ。どこまでもついて行くわ」

メリンダ「私たちも、御主人様の仰せのままに……!」


オボロ「我ら、御屋形様の手となり足となり、敵を討つ所存……!」

電「私たちが、やっつけちゃうのです!」

オリヴィア「問題は、向こうの世界に戻ってからだね」

ミリーエル「そうね。大分人間を狩ってしまったし……」

クロエ「どのくらい人間が勢力を戻しているでしょうねえ」

グローディス「それに、あれだけ大勢狩ったんだ、私たちのことも警戒しているだろうな」

クリスティーナ「一筋縄ではいかなそうね」

ニコ「大丈夫だよ。今のぼくたちには、魔神様が付いているんだ」

全員「!」

ニコ「眠ってた魔神様の力を、呼び戻せたんだ……ぼくたちの力も、強くなってるはずだよ」

ニコ「さあ、帰ろう……ぼくたちの家へ。アルス=タリア封印神殿へ……!!」

提督「……」

朧「提督? どうしたんですか?」

提督「いいや。封印なんてされたりしねえよ、と思ってな」

提督「二度も三度も失ったこの命だ、そう簡単に失ってたまるかよ……!」


 * 施設内 階段 *

明石「さあ、早く外に出ましょ!」タタタッ

不知火「はい……!」タタタッ

大淀「……」タタ…ッ

霞「……? 大淀さん、どうしたの?」タタタッ

大淀「あ、い、いいえ、なんでも……」タ…ッ

初雪「……?」

不知火「大淀さん?」

大淀「……」ピタ…

明石「大淀……!?」

大淀「っ!」クルッ ダッ

霞「ちょっ……!」

不知火「大淀さん!!」


大淀「ごめんなさい……私、やっぱり提督のもとに行きます!」ダッ

明石「ちょっと、今更!?」

初雪「先、行ってて」タッ

霞「は、初雪!?」

初雪「私も、大淀さんと一緒に行くから……!」

初雪「駄目だったら、引き返して連れてくるから、待ってて……!」

霞「ちょっと……!」

不知火「……先に行きましょう」

明石「不知火ちゃん……!」

不知火「怪我をして遅れたことにしましょう。不知火も、二人の気持ちはわからなくはありません」

霞「……」

明石「……」


 * 地下 最下層 *

大淀「はぁ、はぁ……」タタタタッ

初雪「大淀、さん……!」

大淀「……私、戻っても、行くところなんかないの」

大淀「大淀として、海軍の任務を、引き受ける自信がないの……!」

大淀「でも、提督は、こんな私に、仕事を与えてくれた……私に、居場所をくれたの……!」

大淀「だから初雪ちゃん、行かせて! 私は……」

初雪「私、止めに来たわけじゃない」

大淀「!」

初雪「私も、一緒にあっちの世界に行って、大丈夫か不安だった」

初雪「でも、ここから海軍に戻った方が、私は不安……!」

大淀「……!」

初雪「行けるんだったら、私も、ついてく……!」

大淀「……急ぎましょう!」ダダッ

初雪「……」コク


 *

大淀「あった、あの扉……!」

初雪「……提督……!」

大淀「提督……提督っ!」ウルッ

 扉<バァン!

大淀「提督っ!!」

初雪「……!」

 シ…ン

大淀「てい、とく……?」

初雪「……」キョロキョロ

初雪「なに、これ……部屋の真ん中に、大きな穴が……」

大淀「ていとく……」ヘタッ

初雪「……っ」タッ

初雪「どこかに、隠れてたり……してる、かも……」ウロウロ

初雪「どこかに……」タタッ

大淀「……」

大淀「あ、あああ……」ジワッ

大淀「うわぁぁぁああああ……! 提督ぅぅぅ!」

初雪「……本当に、行っちゃったんだ」

初雪「……ぐすっ」



今回はここまで。

残るはエピローグのみ。

少しだけ続きです。


 *三か月後 *

 * 太平洋上 某所 無人島 *

 ザザーン…

浜辺の樹木にかけたハンモックで眠る加古「Zzz...」

加古「……ふぁぁ……むにゃむにゃ」

加古「うん……!」ピク

 ザザァ…

摩耶「……よう」

加古「ふあ……あー、摩耶か……おはよ」

摩耶「ったく、相変わらず寝てばっかだな」

加古「まあ、起きたところでご飯を確保する以外、何もすることないしねー」ボリボリ

摩耶「そうか? 全く体を動かしてねえってわけじゃないならいいけどさ」

 ザザァ…

??「摩耶……!?」

摩耶「! その声……鳥海か!?」


??→鳥海(深海化)「摩耶……! 久シブリネ、元気ソウデ良カッタ……!」ニコッ

摩耶「鳥海も……その顔色だと元気かどうかちょっとわかんねーな」

加古「髪の毛まで白くなっちゃったもんねえ」

鳥海「フフッ、私ハ大丈夫ダカラ、安心シテ」

摩耶「大丈夫なのはいいけどさ、なんで鳥海が加古のところに来てるんだ?」

鳥海「差シ入レヲ持ッテキタノ。ホラ、加古ハドコノ鎮守府ニモ属シテナイデショウ?」

摩耶「加古、お前、深海からも差し入れ貰ってたのか!?」

鳥海「エッ?」

加古「いやあ、助かるよ~。両方から差し入れ貰って、備蓄できるくらいには、あたしも生活できてるしさあ」

摩耶「ちゃっかりしてやがんなあ……まあ、鳥海に会えたからいいけどさ。ほら、こっちはあたしたちからの差し入れだ」

加古「へへ、いつも悪いね~」

摩耶「なんだよ、今更いいって」

鳥海「ソウヨ、私タチノ善意デヤッテルンダカラ」

加古「……だからこそ言わなきゃいけないんだけどさ」


加古「二人とも、もうここに来ないでほしいんだ」

摩耶「なんだって?」

鳥海「ソレハ、ドウシテ……?」

加古「最近、双方からの偵察機が飛んできてる感じなんだよね。視線も感じるようになってきたし。それが誰かはわかんないけどさ」

加古「二人とも親切であたしに差し入れ持ってきてるのは、よーくわかってる」

加古「でも、余所からしてみたら、敵に内通してる相手に資材を横流ししてるようなもんじゃん」

摩耶「……」

加古「特に鳥海は、今の姿こそ深海棲艦みたいだけど、艦娘を裏切ったようなもんだろ?」

加古「こんなことしてたら、深海棲艦たちにだって疑われるんじゃないかな、って」

鳥海「……」

加古「まー、甘えてたあたしが一番悪いんだけどさ。でも、両方とつながりを切るのもためらったのは事実だし」

加古「お返しというわけじゃないけど、丁度、摩耶と鳥海が一緒にいるときに、話したくってさ。時間を合わせられる機会を作りたかったんだー」

加古「あたしくらいならともかく、摩耶と鳥海が逢うチャンスがなくなったら嫌だなって思ってたんだよね」

摩耶「加古……」


加古「ってわけでさ! あたしもこの島から引っ越すんだ。だから、二人と会う機会ももうないと思う」

鳥海「大丈夫ナノ?」

加古「どうかなぁ……ぶっちゃけ不安しかないけど、やるしかないっしょ。こんな生活も始めてから三か月経つし、なんとかなるよ」ニシシ

摩耶「……そうか」

鳥海「ミンナトオ別レシテ、三カ月経ツノネ……」

摩耶「そんなになるんだな……」

鳥海「デモ、コノ姿ニナッテカラ、マタ摩耶トコンナ風ニガデキルナンテ、思ワナカッタワ」クス

摩耶「そだな。こうやって、戦わずに済んでること自体、すげえことだよな」

鳥海「ネエ、摩耶。ミンナハ元気ナノ?」

摩耶「……正直、あんまり良くねえかな」

鳥海「エ……?」

摩耶「何から話したらいいもんかな……いや、いいニュースが全然ねえんだよ」

加古「……」


摩耶「まず、霧島さんたち……金剛姉妹は、あれから一カ月謹慎処分になったんだ。金剛さん以外はみんなあの研究施設に行ったからな」

摩耶「相当罵声も浴びせられたんだけど、金剛さんが全部頭を下げてくれて、事なきを得たって……」

摩耶「言われる筋合いのないことまで金剛さんが丁寧に対応してくれて、それ以上のお咎めは無し……ってさ」

鳥海「……」

摩耶「けどよ、その後の扱われ方もひどいもんだぜ!?」

摩耶「無茶な転戦をやらされて、何度も沈みそうになったっていうし……」

摩耶「一番酷なのは比叡さんかな……うちの比叡さんって料理上手だったろ?」

摩耶「けど、提督と別れて以来、料理させてもらえてないんだ、って」

摩耶「一度だけ、比叡さんが料理をふるまったことがあったらしいんだ」

摩耶「当然、評判は良かったんだけど、その次の日に余所の比叡さんがとんでもねえもん作ったせいで……」

摩耶「やっぱり厨房に立たせちゃ駄目だ、ってなっちまって……元気、なかったんだよなあ」

加古「なんでそうなっちゃうかなあ……」


摩耶「それから大淀だけど、提督の生まれ故郷に行ってみたい、っつってそのままいなくなっちまった」

摩耶「初雪も一緒に行ったらしいんだけど、二人とも行方不明なんだよ」

摩耶「同じ時期に山火事があって、どっかの村がまるっと燃えちまったって話もあって」

摩耶「もしかしたら、そいつに巻き込まれたのかもしんねーんだ」

鳥海「ソンナ……」

摩耶「ほかにも、那智みたいに引退したやつや、青葉とか連絡取れないやつが多くなっちまったしさ……連絡とれんのは島の調査隊くらいだよ」

加古「……摩耶は、今は本営にいるんだっけ?」

摩耶「ん、ああ。ただ、本営は本営で拠点をどこに移すか、いまだに揉めてんだよ」

加古「あー、横須賀っていうか、関東がもうアレだからねえ」

摩耶「舞鶴だと日本海側で不便だし、呉や大湊じゃあ本州の端っこ過ぎるし……」

鳥海「神戸トカ、紀伊半島アタリニ新シク作ルシカナイト思ウワ」

摩耶「結局は横須賀が一番いいと思うんだけど、異常気象の影響が残ってて、関東一帯はまだインフラが回復してないのも痛えんだ」

摩耶「そのインフラ整備は陸軍が引き受けてるけど、あの騒動のせいで陸軍と海軍の仲は最悪の状態なんだよな」

加古「海軍が活動するためのインフラは後回しにされそうだねえ」

摩耶「ああ。あたしはしばらくお家騒動に巻き込まれて日本国内から動けないだろうなぁ……」


摩耶「ここに来たのも遠征部隊の護衛を任されたからさ。ほんっと、運が良かったぜ」

鳥海「ソレジャ、アマリユックリシテイラレナイノ?」

摩耶「そういうこと。だからなおさら、今日は会えて良かったよ」

鳥海「……摩耶。私モ、ヒトツダケ伝エテオクワ」

鳥海「ショートランド泊地ニハ、近ヅカナイデ」

摩耶「……どういうことだ?」

鳥海「私ハ、泊地棲姫ト一緒ニ、北ヘ向カウツモリナノ」

鳥海「ソノ私タチトハ別ノ深海ノ艦隊ガ、ショートランド泊地ヘ向カッテイルワ……」

摩耶「ここ最近、深海の動きが不自然だって誰かが言ってたけど、そういうことか……」

加古「んじゃ、あたしもそっち方面には向かわないほうがいいってことだね」

鳥海「エエ。ソレカラ……」

鳥海「軽巡棲姫ダケハ、ドコニ向カッテイルカ、ワカラナイノ」

摩耶「!」


鳥海「モシ見掛ケタラ……デキレバ、気付カレル前ニ、逃ゲテ」

摩耶「わかった」コク

加古「了解、了解っと。いやー、怖いねえ」

摩耶「ああ……あたしもそろそろ行かなきゃな」

摩耶「最後にさ、二人に逢えて良かったよ」

鳥海「摩耶……元気デネ」ニコ

摩耶「ああ、鳥海も。加古もな!」ニッ

加古「んー」フリフリ

 ザァッ

摩耶「じゃあなーー!」

鳥海「……」ブンブン

加古「……」

鳥海「ソレジャ、私モ行クネ」

加古「ん」コク


鳥海「今マデ、アリガトウ……!」ニコ

加古「……こっちこそ」ニコ

 ザザァ…

加古「……」

加古「行っちゃったねえ……」ノビーッ

加古「さぁて、あたしも荷造りして……昼に行くか、夜に行くか……」

加古「昼のうちに行くかあ……夜は夜で寝たいしなあ」

加古「……」ミアゲ

加古「……また偵察機が飛んでこないといいけど……」

今回はここまで。

続きです。


 * 墓場島沖 *

長門「……」

利根「この辺りも久しぶりじゃな……!」

五十鈴「……」

利根「景色はだいぶ変わってしまったがの……」

利根「かつて緑が生い茂っていたあの島が、溶岩に覆われて今や岩の塊じゃ」

潮「……」

利根「ふむ……風の雰囲気も心なしか味気ないというか」

筑摩「利根姉さん……」

利根「む、なんじゃ筑摩」

筑摩「その……」

利根「まあ、言いたいことはわかる。しかし、いくら嘆いても元通りにはならん」

利根「吾輩も、この島には楽しい思い出をたくさん貰ったからな。この有様を見て、どうしようもない無力さを味わっておる」

筑摩「……」


利根「どうして、こうなったんじゃろうなあ」

五十鈴「……本営も無神経が過ぎるわ。いくら私たちがここに住んでいたからって、喜べなんて言う?」

利根「まあ、かといって、他人にこの島を探索させるのも……」

長門「ああ。気に入らないな」

潮「3か月……なんだかすごく長い間待たされた気がしますね……」

筑摩「……いつか」

利根「?」

筑摩「いつか、この島に戻ってくる日は、くるのでしょうか」

長門「……難しいだろうな。ただでさえ深海棲艦との戦いで、金も資材も逼迫している」

五十鈴「この調査だって、近々打ち切りになるでしょうね……予算の都合で」

利根「あと、何度……来ることができるんじゃろうな」

潮「……? 誰か、近づいてきてます!」

長門「あれは……!」


 ザザァ…

ル級「アラ、生キテイタノ? 久シ振リネ……」

長門「ル級……!? 無事だったか!」

ル級「エエ。アナタ達モ、変ワッテハイナイヨウネ?」

長門「そうでもないが……普通に戻ったと言うべきか」

利根「吾輩は戸惑っておるがな。かつての提督からは、吾輩たちに作戦の立案から何からすべて任されておったからのう……」

筑摩「本当ならそれもおかしな話なんですよ。提督が作戦を考えて、提督が進軍するかどうかを決めるのが普通なんですから」

潮「言い方は悪いですけど、丸投げ、ですもんね……」

長門「提督には相応しい言い方でもあるがな」フフッ

五十鈴「この島自体が本営から丸投げされてたようなものでしょ? イレギュラーもいいところだわ」

長門「ああ。そのおかげで我々が救われたというのも、なんと言うか、だな」

ル級「……ナツカシイナ」

ル級「覚エテイルカ? ココデ会ッタトキノコトヲ」

長門「ああ。まさか浜に深海棲艦が流れ着いているとは思わなかった」


利根「……あのときか。吾輩が立ち直れていなかった時の話じゃな」

潮「ル級さんに、勝負を挑まれた、って話ですよね……?」

ル級「……長門」

長門「ん?」

ル級「モウ一度、勝負ヲシタイノダケレド、引キ受ケテクレル?」

長門「何……?」

ル級「スッキリシナイ日ガ続イテルノ。気分転換シタイノダケレド」

長門「……私もだ。陰鬱な気分を、一度忘れてしまいたかったところだ」

ル級「……」ニコ

長門「潮、合図を頼む」

潮「えっ? は、はい!」

 ザァァ…

五十鈴「あの二人、何する気なの?」

潮「あ、合図って、何をすれば……」オロオロ


利根「……あの二人は決闘する気じゃ」

五十鈴「決闘!?」

利根「うむ……あのとき一緒にいたのは朝潮じゃったな。沖に出たあの二人の間に砲撃し、水柱を立てたんじゃ」


ル級「……」ガシャン

長門「……」ガシャッ


利根「あの時と同じじゃな。長門とル級が艤装を展開して睨み合ったままじゃ」

潮「あ、あの二人の間に撃つといいんですか?」

利根「うむ。頼むぞ」

潮「は、はい!」ジャキッ

 ドーン

 ヒューーー

ル級「……」

長門「……」


 ボチャーン

ル級「!」ギンッ!

長門「!」カッ!

ル級「ハァッ!」ドガガガガン!

長門「うおお!」ズドドドドン!

 ドドドドーン!!


潮「……!!」

五十鈴「ちょ、ちょっと! なんで二人とも、回避しないのよ!?」

筑摩「ね、姉さん、止めないんですか?」

利根「筑摩、それは無粋というものだ」

利根「第一、あの間に割って入って止められると思うか」

筑摩「それは……」


ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!

長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!


潮「も、もうやめたほうが……!」

利根「うむ、これ以上は……」


ル級(大破)「ウオォォオオ!」

長門(大破)「!!」

 ドガァァァン!


利根「な……!?」

ル級「グ……」メラメラメラ…

五十鈴「ちょっと!? 今、自分から当たりに行かなかった!?」

長門「ル級、貴様……!」

ル級「コレデ、イイ……」

長門「!!」


ル級「コレ以上、海ヲ彷徨ッテイテモ、ナニモ感ジナイ……」

ル級「歓ビモ、悲シミモ、怒リスラモナイ……虚無ノ世界」

ル級「私ニハ、戦イスラ、意味ヲ為サナイ……」

長門「……」

ル級「コレデ、イいンダ……」

ル級「スベて……終エるコトガデきる……」

ル級「ナがト……アりガとう……」

 ドゴォォォン!

 ゴボッ ゴボゴボゴボ…

長門「ル級……っ!!」

利根「あやつ、最初からそのつもりで……」

筑摩「……深海棲艦の他の仲間のところに行くことはできなかったんでしょうか」

潮「ル級さん……」グスッ

五十鈴「……とりあえず、長門さんの応急処置をしましょ?」

利根「う、うむ、そうだな……」


 * *

潮「……これで、少しはもつと思います」

長門「……ああ、すまない」

五十鈴「近隣の鎮守府に応援を呼んだわ。と言っても、そのパラオも最近攻撃を受けてるらしいから、あまり余裕がないけれど」

利根「パラオもか?」

筑摩「関東が機能不全になって以来、泊地も攻撃を受けるようになったんですよね」

五十鈴「ええ、でも、トラックやショートランドみたいに南西海域の泊地だけだったの」

五十鈴「それが半月ほど前から、パラオやリンガ、ブルネイでも被害が出てきてて……」

潮「押し込められて戦線が下がっているんですね……」

五十鈴「言いたくないけど、メディウムたちの反乱がなければ私たちだってもっと戦えてたはずなのよ」

五十鈴「そもそも、本営が私たちを使って実験しようとしてたの悪いんだわ」

五十鈴「そうでなかったら、本営がメディウムたちに付け込まれることもなかったんだから!」

長門「……そうかも、しれないな」

潮「……」

筑摩「……」


利根「うむ。メディウムに認められた提督が、この島で提督を続けていただけでも、違っていたであろうな」

利根「さすれば、ル級も悲嘆にくれることはなかった……」

五十鈴「……」

利根「提督が存命のころは、おそらく戦争が終わっても、この島で暮らし続けるのではないか、と思っておった」

利根「人間の手を借りることなく、艦娘が暮らせる世界。おそらくその中には、ル級たち深海棲艦も含まれていたはずじゃ」

潮「それじゃ、ル級さんは……」

利根「うむ……ル級は、そんな未来を見出したからこそ、今の未来を悲観してしまったのかもしれぬ」

利根「もっとも、なぜ深海棲艦が人間たちを襲うのか、未だに謎のままではあるが……」

利根「戦い以外に己の存在価値を見出せぬから、そうであったと吾輩は考えておる」

長門「……」

利根「かくいう吾輩たち、艦娘の中にも、戦って散ることを望んでいる者は少なくはなかろう」

利根「かつて船であった吾輩たちも、戦没したものが大半。ゆえに悲願を達成した後の未来を想像できぬ者が多い」

利根「もしかしたら、提督はそんな者たちを導こうとしておったのかもしれんな」

筑摩「利根姉さん……」


利根「されど、やんぬるかな。今となっては全て終わってしまったこと。吾輩たちは吾輩たちができることをせねばならん」

利根「まずは長門を無事に連れ帰り、本営で修理せねばな……」

五十鈴「……あら?」

潮「? ど、どうしたんですか?」

五十鈴「七時の方向……北に船がいるわ。あの形、海軍の巡視船かしら」

潮「もう助けに来てくれたんですか?」

五十鈴「おかしいわ。私たちは日本から南下してここへ来たのよ?」

五十鈴「パラオに向けて応援を要請したのに、どうして私たちの後ろから……北から船が来るの?」

筑摩「そういえば……」

五十鈴「それに、パラオからの援軍だとしても、いくらなんでも早すぎるわ。もっと時間が……」

 ヒュ

 ボシュッ

筑摩「ごふっ……」

五十鈴「!?」


 …ガァァァ…ン…

長門「今のは銃声か!?」

筑摩「」グラッ

利根「筑摩!?」

 バシャァァァン!

利根「筑摩!! しっかりするんじゃ!」ダキカカエ

筑摩「利根……姉、さん……」

五十鈴「な……」ワナワナ

長門「筑摩はあの船から狙撃されたのか!? みんな伏せるんだ! 私の艤装に隠れろ!!」

潮「そ、狙撃って、そんな……! どうして筑摩さんが撃たれるんですか!?」

利根「長門! 幸いにも筑摩はまだ沈んではおらぬ! 島の反対側に逃げ……」

 ドパァァン!

利根「」

筑摩「え」


 …ガァァァ…ン…

長門「利根えええええ!!」

 バッシャアァァァン!

潮「ひ……!!」

筑摩「姉、さん……?」

 ゴポッ

筑摩「待って……」

 ゴボッ ゴボボボ…

筑摩「待って、逝かないで……!」

筑摩「姉さ、ねえ……さ……!!」

 トプン…

筑摩「……あ……ああ……」

長門「なんだ……なんだというんだ!?」

五十鈴「静かにして……!」

長門「何を! ……五十鈴?」


五十鈴「いいから聞いて! これ……さっきから傍受してる無線。聞こえる?」ジジッ

無線『二射目も命中。首尾はどうだ』

無線『馬鹿。いくらなんでもヘッドショットするやつがいるか』

五十鈴「……」

無線『過去の報告だと、頭に命中して深海化した駆逐艦もいただろうが』

無線『スナイパーライフルじゃ殺傷力が高すぎて、弾丸が貫通しちまうんだよ。弾丸が対象の体内に残らなきゃだめだ』

無線『なんだと? せっかくこの距離から当てたのに』

五十鈴「……」

潮「な……何なんですか……この会話」

無線『頭を吹き飛ばした方は即死したみたいだな。威力があることはいいことだが、実験としては失敗だ』

無線『そういうことなら最初から二射目を撃たせるな。で、残りは』

無線『残ってるのは軽巡1と駆逐1だな。戦艦もいるが瀕死の状態だ、間違って殺してしまっては意味がない』

無線『ほかに用意した銃は?』

無線『オートマチックのハンドガンと、サブマシンガン、ショットガン、それからアサルトライフルだな』

無線『リボルバーじゃねえのかよ。だったらサブマシンガンにするか。取りに行くから、射程まで近づいてくれ』

無線『了解』


五十鈴「……なによ、これ……こんなのに、筑摩さんと、利根さんは……!」ワナワナ

長門「……潮、五十鈴。二人は逃げてくれ」

潮「長門さん!?」

長門「私が時間を稼ぐ。本営のお遊びにこれ以上付き合ってはおれん」ヨロッ

五十鈴「無理よ! そんな体でまともに戦えるわけないじゃない! それに私たちがみんなを見捨てたりできると思う!?」

長門「どうせ死ぬのなら、戦って死ぬだけだ。実験台になど、されてたまるか……!」

筑摩「……そう、ね」ムクリ

筑摩「どうせ死ぬのなら……げほっ……どうせ沈むのなら、利根姉さんの敵を討ってからよ……!」ヨロッ

五十鈴「だから無理だって言ってるでしょ! まともに立っていられないじゃない!」ガシッ

筑摩「たとえそうでも……」ググッ

筑摩「五十鈴、あなたとはずっと一緒に戦ってきた仲間ですもの……その仲間を、守りたいと思うのはいけないこと……!?」

五十鈴「……っ!」

長門「五十鈴。潮を頼む!」

潮「長門さん!!」

 巡視船<ザザァァァ…!

長門「来るぞ!」

一旦、ここまで。

続きです。


 巡視船<ドガァァァン!

長門「な、なんだ!?」

潮「あれは……!?」

 魚雷<シュパァァァ…

 巡視船<ドガァァァン!

潮「ぎょ、魚雷です! どうして……!?」

長門「何が起こってるんだ……?」

 電探<ピコーンピコーン…

五十鈴「こ、これ見て! すごい数の深海棲艦がこの一帯に……!」

駆逐イ級「」ザバッ!

駆逐イ級たち「」ザバザバッ!

潜水カ級たち「」ユラ…ッ!

無線『この海域にこんなに深海棲艦が潜んでるなんて聞いてないぞ!』

無線『早く離脱しろ!』


駆逐イ級「グパッ」ジャコッ!

 砲弾<ドゥン!

 無数の砲弾<ドンドンドンドン!

 無数の魚雷<シュパパパァァァ…!

 巡視船<ドガドガドガァァァン!

無線『うわああああ!! ザザッ……ジー……ブツッ』

長門「駆逐艦と潜水艦ばかりだな……」

駆逐イ級「」ザバッ

駆逐ロ級「」ザバッ

重巡ネ級「」ザバァ

五十鈴「見て……あれは……!」

潮「あ、あのネ級、頭に、穴が開いています……!」

長門「もしかして……」

筑摩「利根……姉さん……!?」グスッ


重巡ネ級「……」チラッ

筑摩「!」

重巡ネ級「……」ザシャァッ ドガーン

五十鈴「一瞬こっちを見て、頷いたように見えたわ……」

長門「だとしたらやはりあれは利根なのか……?」

筑摩「姉……さん……!」ボロボロボロ

いきなり長門たちの前に引き返してきた駆逐イ級「」ザザァ

五十鈴「?」

駆逐イ級「」ジャコッ!

長門「しまっ……!!」

 煙幕弾<ボフン!!

長門「!?」

五十鈴「な、なに!?」

??「さ、みなさんはこっちですよぉ!」

潮「あ、あなたは……!!」


 * 墓場島 南岸 *

 遠くで炎上している巡視船< ゴォォォ…

??「よく燃えますね~」

長門「まさか、お前に助けられるとはな……青葉」

??→青葉「うーん、まさかだなんて、どういう意味でしょう? 青葉、そんなに頼りないですか?」

長門「そういう意味じゃない。青葉、お前わかってて言ってるだろう?」

青葉「えへへへ……」ポリポリ

五十鈴「……筑摩さん」

(波打ち際に筑摩が寝かされている)

五十鈴「……どうして? どうしてよ……!?」グスッ

青葉「おそらく、最初からこれが狙いだったんじゃないですか?」

青葉「今の本営に対して比較的従順ではあるものの、不安要素を抱えた艦娘たちです。体よく始末する方法として……」

長門「青葉」

青葉「……」


五十鈴「……いいわよ。厄介がられたのは確かだもの……」

長門「……利根と筑摩のことは許せないが、表立って敵対するのも考え物だ。これからどうしたものかな」

潮「……こうなるしか、なかったんでしょうか……」

青葉「今となっては、青葉はこうするしかなかったと思いますよ?」

青葉「巡視船内の通信は青葉も傍受しましたが、深海棲艦製の弾丸を使って、皆さんの殺害を図ったのは事実です」

青葉「あわよくば深海棲艦化の実験台にしようともしてましたよね。未だに続けてるんですねえ、あの実験」

青葉「青葉が情報を散々リークしたのにまだ続いてるってことは、実験の継続が認められたってことなんでしょうか?」

五十鈴「……深海棲艦の調査、って意味では、認められてるみたいよ」

青葉「ん~、そうなんですか。もうちょっと根っこから揺さぶらないと駄目だったんですねえ。ちょっと先走りしちゃったかなあ?」

五十鈴「先走りって……まだなにか企んでるつもり!?」

青葉「ええ、本営に近い協力者にお願いして、今回の襲撃事件についても問い質そうとしてまして」

長門「……連中に具合の悪い情報を突き付けても力づくで揉み消すだろう。あまり意味はないと思うぞ?」

青葉「その時はその時、ですよ。残念な結果になったときはそれ相応の結末になるだけです」

青葉「そうはなってほしくありませんけどね。真面目に頑張ってる提督の方々が不憫でありませんよ」ハァ…

潮「……本当に……」ウツムキ


ネ級「……」ザザァ…

長門「!」

青葉「戻ってきましたか。向こうの始末は終わりましたか?」

ネ級「……」コク

ネ級「……」ジッ…

(横たわる筑摩を見つめるネ級)

青葉「ああ、なるほど。筑摩さんを弔いたいんですね」

ネ級「……」コク

ネ級「……」ジッ…

潮「……わ、私たちを見てるんですけど……?」

青葉「ああ、それは筑摩さんを連れて行っていいか、皆さんにも訊いてるんですよ」

長門「そうか……私たちにはどうにもできないからな。よろしくお願いしたい」

潮「……そう、ですね……お願いします」コクン

五十鈴「……丁重に、弔ってあげて……」ウツムキ

ネ級「……」コク…

(筑摩を抱きかかえ、ネ級が海に消えていく)


五十鈴「……はぁ……これからどうすればいいの、私たち」

五十鈴「味方のはずの海軍に襲われて、敵のはずの深海棲艦に助けられて……!」

青葉「一応怪しまれないように、イ級さんに煙幕弾を持たせて、戦ったふりだけするようにお願いしたんですがねえ?」

青葉「もし戻ろうとするなら、海軍と深海棲艦の攻撃から命からがら逃げてきた、ってストーリーで行けると思いますけど?」

五十鈴「……無理じゃないかもだけど……」

潮「あ、あの、青葉さん……」

青葉「はい?」

潮「その……青葉さんの髪の毛が、ずっと濡れてるのって……やっぱり……」

五十鈴「!」

長門「……」

青葉「……あー……はい。お察しの通り、ですよ」ニコ…

潮「……あの、ごめんなさい……!」ウルッ

青葉「あーいやいや、どうぞお気になさらず! 青葉、もともと危ない話に首を突っ込んでましたから!」

青葉「こうなることはある意味予想通りなんです。だから気にしないで!」

長門「……そのお前が姿を現したのは、どうしてだ?」

青葉「それはですね、皆さんがこちらに来る情報を掴みましたので、一度話をしたかったんです」

青葉「ここまできたんだし、正直に言っちゃいましょう!」

青葉「皆さん! 『こちら側』に来ませんか!?」

長門「……!」

五十鈴「……っ!」

潮「……」

今回はここまで。

続きです。


 * ほぼ時を同じくして *

 * 舞鶴鎮守府 大会議室 *

「……ということで、まずは本営を神戸に移す案で進めます」

「関東地方のインフラの復旧については、陸軍が担当することになった」

「我々が関東で活動しようとしても、陸の連中はいい顔をしないだろう。関東地方の防衛は手薄になる」

「大湊の諸君に頑張ってもらうしかないが、物流がな……」

「まったく、なぜ横浜が……!」

「それもこれも『魔神』などという化け物のせいだ! なんで海軍の施設を乗っ取ったりしたんだ!」

「魔神などとそれらしい名前がついているが、結局は深海棲艦と同じだろう! やつらが我々を敵視しているから……」

 ザワザワ…

仁提督「……責任転嫁もいいところだな」ボソッ

L提督「聞こえますよ、仁提督」ヒソッ

仁提督「だが、この事態は海軍の自業自得だとは思わんかね、L君」

仁提督「海軍は、極秘裏に艦娘を使った実験をしていたんだぞ? そんなことをやっていれば、付け込まれて然るべきだろうに」ヒソヒソ

L提督「仁提督……っ!」


仁提督「ふん……海軍として、国民に対し後ろめたいことをやった。そして、その報いを受けた。それだけのことだ」

仁提督「そしてそういう時に決まって犠牲になるのは、何も知らなかった民間人だ」ハァ

L提督「……」ハァ

 扉<コンコン

「ん?」

 扉<チャッ

榛名「失礼いたします」スッ

「誰だ?」

「艦娘の榛名だな……どこの鎮守府のだ?」

「会議中だ、艦娘が入ってきて良い会議ではない!」

「速やかに退室せよ!」

榛名「申し訳ございません。元帥閣下をはじめとした皆様に、大至急お伝えしたいことがございます」

榛名「先立って決定した通り、深海棲艦の侵攻を止めるべく編成された選抜隊がショートランド泊地へ出発致しました」

榛名「その選抜隊より連絡があり、本営が事前に察知していた情報より、明らかに敵戦力は泊地戦力を上回っていることを確認したとのことです」

榛名「そのため、泊地から救援要請が来ています。大至急、援軍をお願いに参りました」

「何?」


「馬鹿な。深海も、ショートランドにそんな戦力を向けてどうもならんだろう」

「後で調査したうえで検討する。榛名、退室せ……」

榛名「それから……」

「!」

榛名「過去に火山活動によって壊滅した××国××島……過去に墓場島と呼ばれていた島の調査隊が襲撃されました」

榛名「調査隊は艦娘で編成されていましたが被害甚大、ほぼ壊滅状態……」

榛名「襲撃犯の使用した武器に、深海棲艦の遺骸から製造された武器が使用されていたそうです」

 ザワ…ッ

榛名「深海棲艦から武器を作る技術は、海軍の中でも最重要機密として厳秘管理されているはず」

榛名「その武器を襲撃犯が持っていたというのは、どういうことでしょう?」

「「……」」


仁提督「……あの榛名……もしかして、墓場島のやつじゃないのか?」ヒソッ

L提督「まさか? その榛名はパラオ沖で没したと聞いていますよ?」

仁提督「なに?」



榛名「……海軍はなぜ、この戦況で足の引っ張り合いをしているのですか?」

 ドヨッ

「き、貴様、言うに事欠いて何を根拠にそのようなことを……!」

榛名「榛名は気付いてしまいました」

榛名「ショートランド泊地に送られた選抜隊の人選に、偏りがあると」

榛名「深海棲艦と友好関係を結ぶ方法を模索していた人たち、深海棲艦から武器を作るのに反対していた人たち」

榛名「それから、今の本営の主要な派閥と意見の合わない人たちや、陸軍とパイプのある人たち……」

榛名「そして、墓場島にいた艦娘たち」


L提督「!」ガタッ

仁提督「お、おい!? 落ち着け!」グイ


「そんなものは偶然だ。我々は、今動くことのできる戦力を送り込んだまでのこと」

「本土もまた、関東地方の防衛がままならない状況にある。すべての戦力をショートランドに割くわけにはいかん」

榛名「緊急事態ではない、ということですね?」


「そうだ。わかったら速やかに退……」

榛名「果たしてそうでしょうか?」ガサッ

「なんだその紙袋は」

榛名「ショートランド泊地近海の深海棲艦の動向について、本営が入手した情報のすべてです」

榛名「日時と一緒に写真に収めてあります。ご覧になりますか?」バサ

「……これは、本物なのか?」

「もしこれが本物だとしたら、ショートランド泊地に艦隊を集めないと泊地が落とされるぞ……!」

「いったいどこからこの情報を?」

榛名「このメモリーです」スッ

榛名「この中に、本営の特定のメッセージを受け取るための認識コードが入っていました」

榛名「今お配りした情報は、この接続コードを使用できるユーザー限定に配信されていた、厳秘情報です」

「……な、なぜ貴様がそんなものを!」

榛名「これは、深海棲艦と魔神に襲撃された、あの研究施設で見つけたんです」

 ザワ…!


榛名「つまり、あの研究施設で働いていた人が、この情報を見ることができていた……」

榛名「そして、ショートランド泊地に向かわせられた人たちが、どういう人たちか……」

榛名「榛名が何が言いたいか、お分かりになりますね?」

「……」

仁提督「……本営の意思にそぐわない者を、激戦となるショートランドへ送り込み、戦死に見せかけ始末しようとしている、とでも言いたいのか」

L提督「仁提督!?」ギョッ

榛名「はい、その通りです」ニィッ…

仁提督「っ……!」ゾク

榛名「ショートランドへ送られた戦力も、この敵戦力の前では焼け石に水です。ただただ犠牲が増えるだけ」

榛名「それなのに、それ以上動こうともしないと仰るのであれば……泊地の者たちを見殺しにするおつもりだと、そういうことですね?」

「貴様! いち艦娘でありながら口が過ぎるぞ!」

榛名「榛名は、泊地の危機をご報告に」

「艦娘が我々の決定に口を出すなと言っている!」


榛名「そうですか……ですが、榛名は……」

 メキ

榛名「榛名はもう……」

 メキメキメキ

榛名「大丈夫ではありません」

 バギン! バギン!

榛名「榛名はもう、『口』を出さずには、いられないんです……!」

(榛名の艤装が裂けて、裂け目に歯が生える)

 ザワッ…!

「う……!!」

「き、貴様、深海棲艦か!?」

榛名「何をとぼけておられるんですか? これは、あなたがたが望んだ姿ですよ?」

「俺たちが望んだだと……?」

榛名「かつて、艦娘養成所、という、艦娘育成を目的とした海軍の外部組織がありました」

榛名「外部組織と銘打たれてはいますが、それは建前……実態は、海軍の実験用艦娘の管理施設です」


榛名「研究所では、艦娘と深海棲艦の実態を調査すべく、深海棲艦を鹵獲しての調査が始まり……」

榛名「その中で、深海棲艦の艤装から武器を作る技術の研究を進めるとともに、同様に艦娘の艤装から武器を作る研究もなされていました」

榛名「しかし、艦娘からはなかなかうまくいかず……ならば艦娘を深海棲艦にできないか、というふうに研究がシフトしていったのです」

「何を根拠にそんな作り話を……」

榛名「榛名は、そこで研究対象として実験台にされていた艦娘の一人です」

 ドヨッ…!

榛名「研究所は実験のために、艦娘を、精神的にも肉体的にも追い詰めて轟沈させ……」

榛名「絶望を与えて深海棲艦化させようとし、それを観察しようとしたのです」

榛名「結果は失敗でした。榛名たちは轟沈こそしましたが、深海棲艦化することなく、あの島の砂浜に流れ着きました」

榛名「そこで榛名は、提督少尉……当時は准尉でしたけれど、彼を慕う艦娘によって運良く助けられ……」

榛名「これまで艦娘として、戦い続けることができたんです」


仁提督「やはり……あの榛名……!」

L提督「墓場島の……!?」


榛名「榛名は幸せでした……提督小尉の下で、艦娘としての本分を全うすることができたのですから」

榛名「ですが、榛名が敬愛した提督も、海軍の内輪もめによって命を落としました……決して、火山活動が原因ではありません」

L提督「……っ!」

仁提督「……」

 シ…ン

榛名「提督少尉を死に追いやり、その悲劇の原因となった研究は未だに継続され、今なお仲間を己の都合のために死地に追い込む……」

榛名「榛名は、今の海軍に失望を禁じ得ません……!」

「だから、深海棲艦になったと……?」

榛名「……深い失望によって、こんな姿になるなんて、榛名は想像したこともありませんでした」

榛名「ですから、その問いには、はいと答えることはできません」

榛名「でも、榛名が深海棲艦になってしまったのは……事実ですね……ふフっ、ふふふフフ……!」ザワ…

 チャキッ

拳銃を構える将官1「元帥閣下、ここはお任せを」

元帥「……任せたぞ」

将官1「はっ!」


榛名「……お待ちを、元帥閣下。ショートランド泊地への援軍の件は、どうな」

 ドンッ

榛名「ぐ……」ヨロッ

L提督「!!」

仁提督「……!」

将官1「黙れ。艦娘の……否、深海棲艦の分際で意見するか」

榛名「……げふ……っ、は……榛名、は……」

将官1「まだ倒れんか……女の皮をかぶった化け物め」

 ドンドンドンッ

榛名「っ!! あ、ああああ……!」ガクッ

榛名「げほっ……げほげほっ……」ビチャビチャッ

「……」

榛名「榛名は……」

榛名「榛名は、金剛お姉様を誇りに思っていました……」フラ…

榛名「どんなときも前を向き、私たちと、人間を助けることを……愛をもって接することを、没する時まで忘れなかった、金剛お姉様……」


榛名「でも、あなたたちは……本当に、人間を助けようと思って、この海軍を率いているのですか」

 シーン…

将官2「その通りだ。我々は人間のために戦っている」ガシャン

「な、なんだあのでかい鞄」

将官2「海を亡霊どもから取り戻す。その成就のためには、艦娘も、海軍の人間も、駒として扱うだけの話だ」ガパッ ガシャッ

榛名「!!」

仁提督「機関銃……だと!?」

 機関銃<ガガガガガガ…!

榛名「あ……」

榛名「あが、あああ……!!」

将官1「艦娘も深海棲艦も、本当ならこの海には不要なものだ……!」

将官2「勝手に海からやってきて、我が物顔で跋扈する貴様らに、これ以上の勝手は許さん……!!」

榛名「ぐ、ぐぅ……」ヨロッ


将官1「まだ生きているのか……おい」

将官3「ああ、こいつでとどめだ」ジャコッ

 散弾銃<ドガンッ!

 ドチャッ

「「……」」

 シーン…

L提督「う、うう……おえっ」ヨロッ

仁提督「お、おい、大丈夫か!?」

仁提督「すまん、あけてくれ! こいつは民間出身なんだ、トイレに連れて行く」ガタッ

L提督「うぐ……す、すみません」

 チャッ バタン

L提督「……うう」ヨロヨロ

仁提督「……」

 ヒョイ

L提督「うえっ」カツガレ

仁提督「悪いが少し我慢しろ」カツギアゲ

L提督「す、すみま……うぷっ」

仁提督「礼には及ばん。俺も気分が悪い……一刻も早くあの場から離れたかったところだ」


 * トイレ *

 ジャー…

L提督「……」グッタリ

仁提督「今日はもう仕事は無理だろう……俺も戻りたくもない、帰るぞ」

L提督「はい……ご迷惑おかけしました」

仁提督「謝らんでいい。陸自出身の俺だって耐えられた絵面じゃなかった。民間出身のお前じゃショックを受けて当然だろう」

L提督「……それも、ありますが」

L提督「僕の鎮守府にいた古鷹や朝雲も、僕の不手際で墓場島に行っていた時期があったんです」

L提督「あの二人の身に何かあったらと思うと……」

仁提督「……」

L提督「こんなことになるなんて……!」

仁提督「考えるのは後にしよう。早く帰って体と頭を休めておけ」

L提督「古鷹……」グス


仁提督「ショートランド泊地にも、この事実を伝えなければならんだろうな」スマホトリダシ

仁提督「……仁提督だ。金剛、帰り支度だ。ああ、予定より早いがこれから戻る、L提督も一緒だ」

仁提督「車を出しておいてくれ……少々気に入らんことがあってな。L提督もそれで気分を悪くした」

仁提督「俺も今回ばかりは海軍に愛想が尽きそうだ。遠地勤務も考えなければ……」

 ズズゥン…!

仁提督「!? なんだ、この揺れは……!」

L提督「仁提督……早く、この建物を出ましょう……!」アセビッショリ

仁提督「な……L提督、その汗はどうした!?」

L提督「わかりません……けど、悪寒が……!」ガタガタ

仁提督「……金剛! すぐ車を出せるよう準備しておけ! 切るぞ!」ピッ

仁提督「L提督、お前は妖精が見えるんだったな!? だとしたら嫌な予感しかせん! 走るぞ!」ダッ

L提督「は、はい……!」ヨロッ


 * 大会議室 *

将官1「……う、撃て! 早く撃てっ!」

 機関銃<ガガガガガガガ…!

榛名?「……」バチュンバチュンバチュン

将官2「ひ、被弾しながら迫ってくる!?」

将官1「効いてないのか!?」

将官3「どけ!」ジャキ

 散弾銃<バガンッ!

榛名?「……っ!」バジュッ

 ドシャッ

将官3「とどめだ!」

 散弾銃<バガンッ! ドガンッ! ズドンッ!

 シュゥウウゥ…


将官1「やったか!?」

将官3「……!」

榛名?「……」ムクリ ジワジワジワ…

将官1「だ、駄目だ……」

将官2「な、なぜ再生するんだ!? これまでの実験でも効くと言ってたんじゃないのか!」

榛名?「ナゼ?」

榛名?「理由ハ簡単ヨ……コノ子モ、海ノ底ヲ見テキタカラヨ……!」

将官1「ど、どういう意味だ……!?」

榛名?「理解スル必要ハ、ナイワ……ドウセ、ココモ海ニ沈ムノダカラ」グラ

 ドシャッ

倒れた榛名の血だまりの中から現れる戦艦棲姫「アナタタチノ、血ノ海ニ、ネェ……!!」ズルゥ

「「「!!!」」」


「せ、戦艦せ……」

戦艦棲姫『グオォォオオ!!』 ドガン!

「に、逃げろ!」

「退避!! 退避だ!!」

 ドガンドガン!

「うわああああ!」

 ドゴオオォォォォ…!

戦艦棲姫「フフフ……!」

 ドガンドガン!

 ドガンドガンドガン!

戦艦棲姫「アァ、血ノ海モ良イケレド……火ノ海モ良イワネエ?」

 ドガンドガンドガンドガン!

戦艦棲姫「ホォラ、嫌ナラ、抵抗シテ御覧ナサイ……!」

 ドガドガドガドガーーーーーン!


 ゴオオォォォォ…!

戦艦棲姫「……アァ……ミンナ、ミィンナ、壊レテシマッタワネ……フフフ……!」

(ぼろぼろになった榛名を抱きかかえる戦艦棲姫)

戦艦棲姫「沈メルダケデハ飽キ足ラズ、殺メ、弄ビ、同胞ヲ傷付ケル道具ニスルナンテ……」

戦艦棲姫「『ヒト』デナケレバ何ヲシテモ構ワナイノカシラネェ」

戦艦棲姫「……」

戦艦棲姫「理解デキテイタナラ、アナタガコンナ目ニ遭ウハズガナイモノネ……」

戦艦棲姫『オォォオオオオォォォオオオ!!』

(戦艦棲姫の艤装が吠えると、数多の弾丸が黒い霧になって艤装の口に吸いこまれる)

戦艦棲姫「サア……『ミンナ』デ海ニ還ルワヨ……フフフフッ」ニコ…

 * * *

 * *

 *

今回はここまで。


まずはひとつ懺悔。

もうひとり、影牢サイドから出さないといけないキャラが出てしまったので、こちらをご参照ください。
ttps://www.gamecity.ne.jp/kagero3-2/character_06.html
「影牢 ~もう1人のプリンセス~」に出てくるエフェメラです。

この話では、純粋に「罠だらけ」に出たキャラと
「トラップガールズ」のキャラだけで完結させるつもりでしたが、
前日譚にあたる「墓場島鎮守府?」に出てきていたL提督や仁提督、エフェメラを出さないと
話の辻褄が合わなくなってしまい、力不足を露呈してしまったのが悔いが残るところです。

それでは、短いですが続きです。




 * とある回顧録 *

『……私が海難事故に遭ったのは、高校二年の秋でした』

『船が転覆し、私を含めて数百もの人が海に投げ出されて、その大多数が命を落としました』

『私はその海難事故で運よく生き残った一人でしたが、その時に海中で恐ろしいものを見たのです』

『それが何者なのかはわかりません。明確に覚えてもいません。ただ、漠然と、恐ろしかったことだけを、覚えています』

『それからというもの、暗くて深い、海の底にいる夢を見るようになりました』

『私は怖くて、海から離れたくて、山村から来た男性と結婚し、海から逃げるようにその山村へと移り住みました』

『やがてその男性との子を授かり、田舎の暮らしにも徐々に慣れていきましたが』

『それでも、私は海の底を見ているような夢を見続けていました』

『しかし、その夢をぱったりと見なくなったのは、あの子を産んでからです』

『いつしか私の体に纏わりついていた、水の中のような浮遊感が消え……』

『あの子を産んだことで、漸く地に足がついたような感覚を覚えたのです』


『そのせいか、私は、どうしても、あの子を可愛いと思うことができませんでした』

『泣き声はサイレンのようで、抱いてもそれが水袋のように思えて、どうしても、愛情を注ぐことができなかったのです』

『夫は、もう一人、子供を作りたいと言いましたが、私は不安でした。この子と同じ思いを、その子にも抱くのではないかと』

『しかし、二人目はそんな思いを微塵も抱くことなく、ころころと可愛い笑顔を見せてくれたのです』

『私が息子と呼べるのは、この子だけでした。もう一人の、あの子は、私にとっては、得体の知れない何かなのです』

『私は話しかけることができませんでした。恐ろしくて、遠巻きに見ていることしかできなかったのです』

『最近になって、艦娘という女性の集団が、海に出没する化け物たちを倒しているというニュースを見ました』

『シンカイセーカンという化け物たちもテレビに映し出され……それで、私は思い出したのです』

『私の夢にずっと出てきていたのは、あの海難事故で見た恐ろしいものは、あれではなかったのかと』

『そして、私のお腹から出てきた『あれ』も、そうだったのではないのかと』

『こんなことを、誰にも言えませんが、そうだったのではないかと、感じているのです……』




 * 舞鶴鎮守府襲撃事件より二年後 *

 * 日本某所 選挙事務所 *

テレビ『歴史的瞬間です! ついにシンミン党による政権交代が実現しました!』

議員「バンザーイ!」

議員「幹事長おめでとうございます!」

幹事長「皆、よくやってくれた! ありがとう!」

幹事長「ところで、『彼』はどこへ行ったんだ?」

議員「い、いえ、それがつい先ほどから退席しておりまして」

幹事長「この政権交代の立役者だというのに、どこへ行ったというんだ?」


 * 事務所の一室 *

(誰もいない事務所の一室で、提督の父親がたたずんでいる)

提督父「……」

 ス…

提督父「……!」フリムキ

謎の女性「……盗聴器は、私がすべて処理致しました。ご安心を」

提督父「……ご苦労」

謎の女性「……」ペコリ

提督父「ようやくだ」

提督父「やっとここまで来た……!」


 * 回想 数十年前 *

プリント『○○村 ダム工事に関する連絡会』

若かりし頃の提督父「くそっ、頭の固い役人どもめ……俺たちの村を見捨てる気か!」グシャッ

提督父「村の連中も、最初は俺たちにやめさせろと言ってたくせに、ほいほい手のひらを返しやがって」

提督父「俺だけが馬鹿させられたようなもんじゃねえか!」

提督父「せっかく大学まで出たのに仕事がなくて帰ってきたからって、面白半分で好き勝手に噂しやがるし」

提督父「こんなことならこんな村に戻ってこなきゃよかったぜ……!」

提督父「ガキももうすぐ生まれるし、金もねえから逃げるわけにもいかねえ……!」

提督父「くそっ! なんで、どいつもこいつも俺を認めようとしねえんだ……!!」

 カタッ

提督父「誰だ!」

謎の女性「……はじめまして」

提督父「だ、誰だお前は!? 変な恰好しやがって……どこから入ってきた!」

謎の女性「私は、エフェメラと申します」

提督父「エフ……? 外人か? 俺に何の用だ」


エフェメラ「……我らが神の命に従い、あなたの元へ馳せ参じました」

提督父「カミ? ……宗教の勧誘か? そういうのは要らねえよ。余所へ行け、余所に」シッシッ

エフェメラ「……このままでは、あなた様は出世とは無縁の人生を送ることになります」

提督父「ああ? 何が言いたいんだ」

エフェメラ「私は、あなた様に信心や金銭を求めるつもりはありません」

エフェメラ「ただひとつ。我らが神に、あるものを捧げていただければ、あなたの人生の成功をお約束いたします」

エフェメラ「あなた様が望む、地位も、富も、名誉も、一族の繁栄も……」

提督父「はぁ……?」

エフェメラ「……」

提督父(……おかしい……言ってることはどう考えてもおかしいのに、こいつの瞳から視線を外せねえ)

提督父(ただの人間じゃねえことはわかる……いや、人間なのか? こいつ、何者だ……?)

エフェメラ「……」

提督父「おい……何が望みだ?」

エフェメラ「私が求めるのは……」

エフェメラ「これから生まれてくる、あなた様の子の、人生そのものを戴きたく」

提督父「!? な、なんだそりゃあ!」


エフェメラ「もし、あなた様が御子の不幸を望まないのであれば、そのようにもできますが……」

エフェメラ「そのようにしたのなら、あなた様はこれからもこの小さな村で小さく暮らし、やがて生涯を終えることになりましょう」

提督父「何を根拠に……!」

エフェメラ「ですが」

提督父「っ!?」ビク

エフェメラ「我らが神が、あなた様に降り懸かるすべての理不尽と不条理を、すべてあなた様の子に移し替えるのです」

提督父「なんだそりゃ……ガキを、身代わりにしろ、ってことか?」

エフェメラ「はい」

提督父「……待てよ、矛盾してるぞ。お前はさっき、一族の繁栄も夢じゃねえっつったよな?」

提督父「俺の子供が不幸になったら一族の繁栄なんて有り得ねえんじゃ……」

エフェメラ「不幸になるのは、これから生まれてくる子供だけです」

提督父「これから? 二人目以降は問題ねえ、って意味か?」

エフェメラ「はい」

提督父「……」


エフェメラ「これから生まれてくるその子は、やがて世迷言を言い出すでしょう」

エフェメラ「誰も理解できぬ妄言に始まり、反抗、反発、離反……その子は、間違いなく誰からも認められない不幸な人生を歩むでしょう」

エフェメラ「災いの海より生まれし忌み子……あなた様は、それと道連れなさるおつもりですか?」

提督父「……災いの、海……?」

エフェメラ「はい……心当たりもありましょう」

提督父「……」

提督父「……俺の妻は、学生の時に海難事故に遭っている。海のそばには住みたくない、プールも嫌だというほどだ」

提督父「それが関係しているのか?」

エフェメラ「……あなた様の奥様にどのような過去があったかは、私の語るところではありません」

エフェメラ「ですが、奥様の身籠りしその命には、間違いなく、海との深き縁がありましょう」

提督父「……」


エフェメラ「……」

提督父「本当に……」

エフェメラ「……」

提督父「お前は、本当に、俺に損をさせないんだな?」

エフェメラ「はい、その通りです、『ご主人様』」

 * * *

 * *

 *



 * 現在 事務所の一室 *

提督父「……あれから三十年か」

エフェメラ「……」

提督父「あのときから全く姿形が変わらん貴様は、やはりこの世のものではないのだな」

エフェメラ「……」


提督父「海は化物が蔓延(はびこ)る魔境となった。だが、それを退治しようとする化物も、時を同じくして現れた」

提督父「エフェメラ……貴様はどちら側だ?」ジロリ

エフェメラ「……」

提督父「ふん、まあいい。貴様が何を企もうと、貴様は俺たちの一族の繁栄を約束した」

提督父「貴様にくれてやった『アレ』を海軍が買い取り、その数年前には海軍の内紛と火山の噴火で死んだと聞いているが……」

提督父「それが俺との約束を反故にする理由にはならない。そうだな?」

エフェメラ「はい。その通りにございます」

提督父「ならば良い。まだ政権を取っただけで、その地位を盤石にするためには時間がいる」

提督父「くれぐれも、俺たちに何もないようにな」

エフェメラ「畏まりました」

提督父「……」

 バタバタバタ

 コンコンコン ガチャッ

議員「先生! こちらにいらしてたんですか!」


議員「おひとりで何をなさっていたんですか?」

提督父(エフェメラの奴は消えたか……)

提督父「悪いな、さすがに疲れて、気分転換したかったところだ」

議員「テレビの取材が来ていますよ!」

提督父「ああ。今行く」

 スタスタ…







再び現れるエフェメラ「……」

エフェメラ「我らが魔神様の真の復活には、大量の魂が必要……」

エフェメラ「人間も、艦娘も、深海棲艦も……増やして、刈り取り……等しく魔神様の糧とするだけ」

エフェメラ「すべては、魔神様のために」


今回はここまで。

このシナリオは、次回が最後になります。

それでは、最後です。


 * 本営 *

不知火「……以上、ご報告いたします」

新元帥「ご苦労だった。相変わらず苦しい戦況か……」

不知火「はい。しかし、それよりも……」チラッ


テレビ『……以上、シンミン党本部より、喜びの声をお伝えしました。続きまして、惨敗した現政権の……』


新元帥「……俺たちの存続も危うい、か」

不知火「……」

新元帥「負け戦続きで海外の泊地も攻め込まれ、資材調達もままならない」

新元帥「かといって泊地を手放せば、いよいよ奴らの攻撃が本土にまで迫ってくる……」

新元帥「舞鶴の一件が引き金だったかな……」フゥ…


テレビ『……防衛大臣はこれまで、今の艦娘を主力とした海軍の必要性を訴えてきましたが……』

テレビ『今回の選挙結果は、それが改めて否定されたということになります……』


新元帥「……」

不知火「……」


新元帥「不知火。我々の任務は変わらない」

不知火「はっ」

新元帥「引き続き、深海棲艦の邀撃と、泊地の防衛に当たってくれ」

不知火「承知しました」ビシッ

 クルッ スタスタ…

 扉<パタン

新元帥「……」

テレビ『未だ謎の多い深海棲艦なる勢力が制海権を広げる中……』

テレビ『艦娘と呼ばれる女性たちがその戦線に立つことに多くの国民が疑問を抱いていました……』

テレビ『今回の選挙によって、民意は大きく艦娘不要論に傾いたことがうかがえます……』

新元帥「……」

テレビ『……新政府与党は、今回の選挙で国内海外に駐留する海軍と、その支配下の艦娘をすべて撤退させ……』

テレビ『海軍を解体、それに代わる組織を編成し、艦娘を国防に従事させる公約を掲げてきました……』

新元帥「……」ピッ

テレビ「」プツン

新元帥「……」


 * 本営 埠頭 *

不知火「……」スタスタ…

不知火「!」

若葉(中破)「……不知火……!」

不知火「若葉……! 無事でしたか……!」

若葉「……ああ。やっとだ……やっと、五月雨のかたきが取れた」ニコ…

若葉「だが……」

不知火「……」

若葉「また、近くの鎮守府が襲撃された。軽巡棲姫の仕業だ」

不知火「……あの人も、まだ司令の影を追いかけ続けているのですね」

若葉「ああ。提督を求めて単身で鎮守府へ攻め込んでは、その鎮守府の司令官を殺害する……『提督』ではないという理由でな」


若葉「若葉たちのかつての提督は、もうこの世界にはいないというのに」ゴソ

不知火「……」

若葉「……」カチン シュボッ

不知火「……煙草ですか。怪我に障りますよ」

若葉「一服だけさせてくれ」ライターサシダシ

不知火「?」

若葉「若葉は、みんなの無念を晴らしたい。かたきを取りたくて戦っている」

若葉「このライターも、誰かの形見だ……これで、やっと報告できると思ったんだ」

不知火「……献杯ならぬ、献煙、ですか」

若葉「……」スパ…

若葉「しかしだ……こうやって誰かの無念を晴らしても、それ以上にまた別の新しいかたきが増えていく」

若葉「すべてのかたきを取る日は、くるんだろうか……」フー…

不知火「……」


若葉「……すまない、湿っぽくしてしまったな」フラ…

不知火「!」

若葉「大丈夫だ、一人で歩ける。不知火も任務があるんだろう? 手遅れになる前に、行ってきてくれ」

 グニャ

不知火「……?」

 グニャグニャア…

不知火「?? 空間が、歪んで……!?」

若葉「不知火……!?」

 (不知火の周囲の景色がねじ曲がり、球状の薄い膜が出来上がると)

若葉「不知火っ!!」

 パチンッ!!

 (風船が割れたときのような甲高い炸裂音が響いて)

 (次の瞬間、不知火の姿が消えている)

若葉「……し、不知火っ!!」

若葉「な、なんてことだ……!」


 * ??? *

不知火「……こ、ここは?」キョロキョロ

(中世の王宮の大広間のような場所)

不知火「……」

不知火「……」

不知火「……」ピク

不知火(背後に恐ろしい気配が……!)ゾワッ

 クルッ

提督「よお、不知火」

不知火「……!!」バッ

提督「!」

不知火「……あ、あなたは……司令、ですか……!?」

提督「……ふん、お前にここまで警戒されるとはな。俺もだいぶ変わっちまった、ってことか」

不知火「……」


提督「いいさ、俺はこの変化に後悔はしていない。なるべくしてなった、こうなることを俺は選択したんだ」

提督「今の俺なら、お前を殺すのも躊躇しないだろうな。だからこそのお前の態度なんだろうが……」

不知火「……っ」ジリッ

提督「そう身構えんな……っつっても、無理矢理こんなとこに呼び出してちゃあ当然か」

提督「少なくとも俺はお前を手にかける気はない。話をしに来たんだ」

不知火「話……ですか」

提督「ああ、不知火。お前も、こちら側に来い」

不知火「!」

提督「俺がお前を呼び寄せたのは、それを伝えたかったからだ」

提督「人間どもはお前らの奮戦に感謝もせず、それどころか、お前らを支援する人間どもすら厄介者扱いしているじゃねえか」

提督「お前がこれ以上人間に与したところでいいことがあるのか?」

提督「艦だったころとは人間の質が違う。かつてのように、お前たちの帰りを待つ者も、お前たちの無事を願う者もあまりに少なくなった」


提督「不知火。お前は何のために戦う? 報われもしないのに血と汗を流して、それでいいのか?」

不知火「……不知火は……!」

提督「……」

不知火「……」

提督「そうか。なら好きにしろ。邪魔はしねえよ」

不知火「司令……!?」

提督「そんな顔して即答できないくらい悩んでたんじゃ、こっちに来たくないか、来ることができない余程の理由があるんだろ」

提督「不安要素抱えたままこっちに来たんじゃあ、いざって時の判断力が鈍る。そういうのはよろしくねえ」

不知火「……申し訳、ありません」

提督「いいさ。不利も無理も承知で足掻きたいって姿勢、少し呆れてもいるが、お前らしいとも思う」

提督「だから俺たちはお前には手を出さねえよ。こいつはお前たちの戦争だからな」

不知火「司令……」

提督「……ただし。それはお前が戦えている間の話だ」

不知火「!」


提督「俺たちは、この世界に戻り、人間どもを駆逐する気でいる」

不知火「な……!!」

提督「俺はもともとこちらの世界の人間だった。だからこそ、けじめをつけてやろうって考えてる」

提督「お前が海に沈んだとき。お前が戦うすべを失ったとき。お前が人間に絶望したとき……!」

提督「そのときは、俺たちはお前のすべてを攫いに行く」

不知火「……っ」

提督「……そうだな、最後に懐かしい顔に会わせてやるか」

 コツ…コツ…

不知火「……! あ、あなた方は……!」

大和「お久し振りです……!」ニコッ

扶桑「不知火は、立派になったわね……!」ニコッ

不知火「大和さんと、扶桑さん……!? ご、ご無沙汰、しております……!」

不知火「それにしても、そのお召し物は……? 艤装は失われてしまったのですか?」

提督「……」


山城「姉様!」

 タタタッ

山城(深海化)「姉様……アラ、モシカシテ、不知火……?」

不知火「山城さん……!?」

山城「何シテルノヨ、私ト姉様ノ顔ヲ、何度モ見比ベテ」

提督「山城の姿に驚いてんだよ。別れたときはまだ深海化してなかったろ」

山城「ソウイエバ、ソウダッタカシラ」

提督「でだ……なあ不知火? なんでこの二人は、深海化してないと思う? なんで艤装がないと思う?」

不知火「……」

不知火「……あ」ビクッ

不知火「……ま、まさか……!!」


不知火「お二人は……メディウムに……!?」


提督「その通り。大和も扶桑も、艦娘じゃなくなったんだ」


提督「覚えてるか? 吹雪は、文字通り吹雪を呼ぶようになったよな」

提督「大和と扶桑の名前の付け方の法則は何だったかな」

不知火「……国名……」

提督「そう、国だ」ニヤリ

提督「お前が舞台から退場したら、この二人に出番をくれてやろうと思う」

不知火「……っ!!」

提督「わかるよな? 人間どもの最期を締めくくるのに、最高だと思わねえか」

不知火「……あ、あなたは……っ!!」

提督「言ったろ? お前が戦えていればいいんだ」

提督「お前が戦えている間は、俺たちは手を出さない。それだけの話だ」

不知火「……」

提督「できれば、こいつらに出番がないのが一番望ましいんだがな?」

ニコ「そんなこと、これっぽっちも思っていないくせに」スッ

不知火「ニコさん……!」


ニコ「久しぶりだね、不知火。ディニエイルが君のことを気にかけていたよ」ニコッ

不知火「そ、そうですか……」

如月「もう、心配していたのは彼女だけじゃないわ?」スッ

不知火「如月……!」

如月「不知火ちゃん、久しぶりね。もういい加減、むこうには見切りを付けたら?」

不知火「……っ」

如月「若葉ちゃんもそうだけど、いつもぼろぼろになるまで頑張ってるでしょう? 心配してるのよ?」

不知火「……」

ニコ「不知火?」

不知火「申し訳ありません、司令。不知火はまだ、そちらには行けないようです」

提督「……ほう?」ニヤリ

不知火「不知火は、まだ、諦めきれません。まだ戦えます。戦い抜いて、この戦争を終わらせます……!」

提督「……そうか」

(提督が手をかざすと、何もない空間に扉が現れる)


提督「その扉をくぐれば、元の場所に戻れる」

提督「俺たちは、お前に手を貸すことはない。ただ、お前の検討を祈るとしよう」

不知火「……」

提督「だから精々頑張りな、悔いが残らないように……お前の戦争を終わらせるといい」

提督「後のことは何も心配するな。最悪の状況になったら、全部俺たちに任せておけ」ニヤリ

不知火「……っ」ギリッ

不知火「行って、参ります……!」

 ダッ

 扉<バシュンッ!

(不知火を異世界に転送した扉が、音とともにはじけて消える)

如月「あーあ、不知火に睨まれちゃったわ。やん、怖い怖い」

扶桑「提督? 少し、不知火に強く当たりすぎではありませんか?」

提督「いいじゃねえか、反骨心があって……どんな魂に育つか、俺は楽しみだぜ?」


ニコ「もう、そうやってぼくたちに手が付けられなくなったらどうする気?」

提督「その時はその時さ」ジワ…

 (提督の姿にもやがかかり、口元に牙をのぞかせる)

提督「俺ガ喰エバイイ。ソレデ終イダ」

大和「まあ。提督が直々に? なんて羨ましい」ウフフ

提督「なんだ。そんなに俺のメシになりたいのか?」シュッ

大和「はい、提督とひとつになれるんですよね?」

提督「フン、お前にはまだ働いてもらわなきゃいけねえからな。もう少し我慢しな」

山城「ナニヲ唐突ニ、イチャツイテルンデスカ」イラッ

扶桑「ふふっ、山城? 嫉妬してるの?」

山城「シテマセン」

 ペタッペタッ

伊8(深海化)「提督」スッ

提督「よう、戻ってきたか。どうだった?」


伊8「青葉サント話シテキタケド、ミンナ準備デキテルミタイ」

由良(深海化)「何人カハ、コッチニ合流シタイッテ言ッテタワ」

提督「そうか。連中に会うのも久々だな」

由良「提督サンニ会エルノヲ、ミンナ楽シミニシテルミタイネ……フフッ」

朝潮(深海化)「司令官! 北方海域ノ深海棲艦勢力トノ交渉、無事成立致シマシタ!」ビシッ

朝潮「防衛ノタメ、攻撃時ノ援護コソデキマセンガ、撤退時ノ救援ハ約束シテイタダケルコトニナリマシタ!」

提督「よし。後ろから撃たれないための最低限の約束はできたな」

ニコ「魔神様。メディウムのみんなも、準備はできているよ」

提督「そうか。久々だな、こんなでかい戦いは」

ニコ「……楽しそうだね、魔神様」

提督「ああ、楽しいな。人間どもが、自分で自分の首を絞めるさまは、何度見ていても飽きねえぜ」

提督「あの国の政府がひっくり返った。これまで深海の連中をかろうじて抑えてきた艦娘を、あいつらは全員武装解除させるつもりだ」

扶桑「まあ。提督、それってもしかして」


提督「そうだ。不知火にも、戦うなと指示が来るはずだ。その瞬間、不知火はどう思うだろうな……」

提督「そしてその後、不知火がどんな行動に出るか……見ものだと思わねえか?」ニヤリ

如月「だから、不知火が戦えなくなったら、って言ってたのね」ニィッ

大和「提督はお戯れが好きですね」フフッ

扶桑「不知火は、大人しく武器を捨てて、人間が狩られることを選ぶかしらね……?」ニヤァ

山城「拒否スレバ人間ノ反感ヲ買ッテ、マスマス艦娘ノ立場ガ悪クナルンデショウネ。アァ、不幸ダワ」ニタリ

ニコ「あとは海軍そのものが独立勢力になれるかどうか、だけど……国家を敵に回すも同然だろうから、苦しいだろうね?」

提督「だろうな」

ニコ「どの道、不知火は『詰み』だったってことだね」

提督「いいや、詰んでるのは新政府の甘言になびいた連中さ。不知火はそのトリガーに過ぎねえよ」

提督「俺の贔屓目もあるが、不知火は今も必死に戦っている艦娘の一人だ」

提督「その働きも認められずに処分されようものなら……全部、ぶっ潰したくもなるよなあ?」

全員「「……」」ウナヅキ


提督「もうじき、海から艦娘が消える」

提督「人間に尽くしてきたあいつらが、人間によって滅ぼされるんだ」

提督「それでも艦娘は、健気に人間のために戦い尽くして、潰えていくんだろう」

提督「だからこそ、艦娘が戦える間は、人間に手出しはしないし」

提督「だからこそ、艦娘が消えた後は、人間どもに容赦はしない」


提督「全員に、晩餐会の準備をしろと伝えろ」

提督「不知火が絶望の淵に沈んだ時が、開始の合図だ」


提督→魔神「さあ、人間狩りを始めるぞ」





提督「鎮守府が罠だらけ?」   END

だらだら書き連ねましたが、これ以上は書き綴る話がない、ということで、これで完結です。
エンディングは悩みましたが影牢ベースに、提督が魔神になって世界を追い込むストーリーに仕立てました。

今回書き上げたシーンの他にも、例えば、
提督の足跡を求めて、提督の故郷を訪れた大淀と初雪がひどい目にあって村を滅ぼしたりとか、
摩耶が金剛型がどうなったか調べていくうちにいろいろやばい事態が展開していったりとか、
軽巡棲姫が狂気ををまき散らして人間にも伝播していったりとか、明石と北上がグレて単独勢力作ったりとか、
一部の艦娘が戦うことをやめて民間人になったが、政権交代によって、元も含めて艦娘が全員拘束対象になる事態が発生し、
棋士に転職したL提督と同じく民間に入って一緒に暮らしていた香取が捕まるニュースがテレビで流れたりとか、
さらにそれを見ていた那智が、働いていたラーメン屋の店長から「逃げてくれ」とお金を渡されて逃亡劇が始まる、とか
深海化して鬼化した那珂と姫化した神通が、理性にしがみついて深海化を拒む川内をねちねちと言葉責めしたりとか、
書けそうなネタは沢山あったのですが、延々とバッドエンドばかり描き続けたくないので、
特に重たいところというか重要なところだけピックアップした次第です。

それから、対立の構図として、
・提督+艦娘→メディウム
・提督+艦娘+メディウム→海軍&深海棲艦
・深海棲艦+メディウム→海軍+艦娘
・艦娘+フォージド→深海棲艦+メディウム
・艦娘+深海棲艦+メディウム→魔神(提督)
といった感じに一通り描こうと思うと、こういう話の展開にしなければならず。
全方向的なハッピーエンドを望んでいた人には申し訳ありませんが、
こんな影牢らしい結末になってしまいました。

提督の最後の台詞も、その世界を象徴した台詞にしたので、これはこれで話としては綺麗に収まったと思っています。


ここまで読み続けていただいた方に感謝を。
そして、





続きです。



.



……。

……。

……誰かな? 僕を呼ぶのは……。

『我が声に応じてくださりありがとうございます』

僕を呼んだのは君かい?

『はい。私は、エフェメラと申します』

世界の最後まで、見せてもらったよ。

君が、この結末を描いたのかい?

「いいえ」

『……!』

誰……!?

「望んだのは愚かな男」

「自らの権力欲のために、我が子を因果の生贄に差し出した男」

エフェメラが、もうひとり……!?

『……』


「そしてそれを望まずして為したのは、人の憎悪と傲慢と不条理を一身に受けた、生贄の子」

「希望の藁を握りしめたまま絶望の深淵に沈み……」

「人ならざる者たちの力を借りて生還した……」

「昏き海と魔を統べる神に祝福されし忌まわしき子」

……。

「男が混沌を生む」

「その目論見は正しかった」

「更に好都合だったのは、番いの女が海の魔物に襲われたこと」

「その身に宿した深淵の災禍の力を、我らが神が欲したのです」

……神が欲した?

「はい」

「極上の贄として、喰らうために」

……。


「ですが、その魂は、私の目論見を超えてしまった」

「供物になるはずだった子羊が」

「その男をも飲み込む狼になったのは、私にも予見することができなかった」

「魔神様は、贄の子の肉体と同化して、現世に降臨なさいました」

「そして世界は、少しずつ絶望に蝕まれ、光を失いながら緩やかに終焉を迎えるだけになった……」

「魔神様が世界そのものとなる」

「私も、それを待つのみとなりました……!」

……それが、君たちの望みだと言うんだね?

『いいえ』

……君は違うのかい?

『私は……私たちは、魔神様に造られし自動人形(オートマタ)……』

『そこにいるエフィメラは、魔神様が統べる世界を望むもの』

『私は、魔神様が望む未来を望むもの』


『魔神様に造られし私たちの役目は、魔神様に祝福されし者たちを、導くこと……』

「そう。だからこそあの子羊を、魔神様のもとに導いたのです……」

『……』キッ

結果はどうあれ、そっちのエフェメラの期待以上の結果になった、ってことか……。

『はい……』

『……ですが、この結末を辿る前に、戻ることも可能です』

え……!?

「無駄なことですよ」

「いかなる世であっても、魔神様のもとには、人間の悪意が集います」

「彼女の手を取ったとしても、混沌の未来は変わりません。もはや手遅れ……」

『……やってみなければわかりません』

「……」

『……人間に脅威が近付いたとき、妖精と心を通わせられる人間が世の中には現れます』

『妖精に祝福されし者、英霊に護られし者……あるいは……』

……その候補が、提督だったってこと?


『はい。あのエフェメラは、彼が深海の力を受け継いで生まれることを見越して、魔神様の依り代に彼を選んだのです』

『私を、ここに封じてまで』キッ

……。

「……」

……君は、魔神様が望む未来、と言ったね

『はい』

『現代に魔神様として顕現されるほどになった魂が望んだ未来』

『この結末とは、異なる結末を導くのが私の使命……』

……結末はひとつじゃない、ってことかな?

可能性があるのなら、君の言う未来に賭けてみたいな。

『……ありがとうございます』

『その名に“時”を冠するあなた様なら』

『この未来を、変えられるかもしれません』

『参りましょう、時雨様。違う未来を求めて』




.









   クエスト解放

  エフェメラと邂逅する Cleared!








.

昔、落としどころは2種類考えてます、と書きました。
今回完結したのが影牢ルート、と考えていただければ。

そのもう一方をこれから書きます。
ただ、時雨をここまで重要なポジションにする気はなかったんですが、わからないものですね。

改めて、今回はここまで。

それでは、リスタートです。


時雨「それでエフェメラ、これから僕たちはどうすればいいのかな?」

エフェメラ『……これより過去に遡り、運命の分岐点を探します』

エフェメラ『時雨様には、そこで手を貸していただきたく……』

時雨「大丈夫かな。僕が沈んだのはずっと昔だよ」

時雨「それに……エフェメラ、君はだいぶ消耗してるみたいだけど?」

エフェメラ『……仰る通り、幽閉から空間から脱出を図ったため、私にはあまり力が残っていません』

エフェメラ『ですが……たったひと押しです』

エフェメラ『それだけで……未来は、変わります』

時雨「……わかった。信じるよ」

エフェメラ『時雨様。目を閉じてください』

時雨「……」

エフェメラ『参ります……!』


 グ ニャ ァ


 * 墓場島? *

 メラメラメラメラ…

時雨の幽霊『……』

時雨の幽霊『……』

時雨の幽霊『えっ?』

エフェメラの声『……時雨様』

時雨の幽霊『エフェメラ!? 僕の体が透けてるんだけど!? エフェメラはどうしたの!?』

エフェメラの声『申し訳ありません、時雨様……私は声を飛ばすだけで精一杯です』

時雨の幽霊『!』

時雨の幽霊『……それは仕方ないにしても』

 メラメラメラメラ…

時雨の幽霊『これは……墓場島が溶岩に包まれて、全部燃えてしまうところじゃないか』

時雨の幽霊『こんな状況なのに、みんなを助けることができるのかい!?』

エフェメラの声『はい』

時雨の幽霊『……僕は、あの悲しい結末をもう一度見るつもりはないよ?』

エフェメラの声『先ほど申し上げました通り、ただひと押し……それだけでいいのです』

エフェメラの声『彼女の持つ魔法石を、あの方に使えば……』

時雨の幽霊『……あの方?』

エフェメラの声『はい、そうです。力を失い、消えてしまったあの方に』

エフェメラの声『ですから、ブラックホールのメディウムに、石を使わせなければ良いのです』

時雨の幽霊『……まさか』

.



 * 分岐ポイント 790 より再開します。 *

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/790)



.


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

通信(提督)『さてと、名残惜しいが、そろそろお別れだ』

足柄「な、何言ってんのよ! あなた、そんな簡単に死ぬ男じゃないでしょ!?」

エレノア「そうよ、どうせ脱出の方法とか残してるんでしょ!?」

黒潮「あるんやったら、はよ脱出せな!」

チェルシー「そうよキャプテン! どんな手を使ってもいいから、早く!!」

通信『……』

千歳「なんで黙ってるんですか!」

オリヴィア「アミーゴ! 諦めるのは早いよ!」

通信『……もういいんだ。お前らがそう言ってくれるだけで、俺には充分だ』

五十鈴「何を弱気なこと言ってんのよ!」

古鷹「提督らしくありません!!」

通信『そうは言うが、しょうがねえだろ。俺はこの島の鎮守府以外のどこに行けると思ってる?』

通信『余所へ行きゃあ、どうせ余計な真似をしないか監視されて、またそのうちありもしねえ疑いをかけられて騒ぎになるのが目に見えてる』

五月雨「そう言って、提督も、私を置いていくんですか」

通信『……五月雨か』

五月雨「前の鎮守府の仲間たちも、前の提督も、私を残して死んでしまったこと……提督は御存知ですよね!」ポロッ

五月雨「提督も、私を……私を置いてどこかに行くんですか!」ポロポロポロ

通信『……悪いな。俺は、俺に好意を寄せてくれた奴を、死なせたいと思わない』

五月雨「……提督……勝手です! そんなの、あなたの勝手すぎます!!」

五月雨「だったら、私も一緒に死にに行きます! 私もあなたと……」

通信『そういうのは許さねえ、っつったろ。しょうがねえ奴だな』

通信『俺は人間だ。人間は愚かだ。だから、俺は死んでもいい存在なんだ。前からそう言ってるだろうが』


 * 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *

通信『提督!』

提督「なあ五月雨よ。こっちにもお前みたいな奴がいるんだ。困ったことになあ」

軽巡棲姫「ソウヨ……モウ、私タチノ帰リ道ハ、ナイノ……私ハ、提督ト運命ヲトモニスルノヨ……!」ギュウ

提督「……どうせ言っても聞かない奴だ。だったら仕方ないと思ってな……」ナデ

軽巡棲姫「アア……提督……!」

 トンッ

軽巡棲姫「!?」

 イビルシュート< ゴォッ!

軽巡棲姫「ッ!?」ドガッ!!

提督「無理矢理にでも、帰ってもらうことにした」

軽巡棲姫「テイ……ーーーーッ!?」ピューーーーン


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

那珂「無理矢理って、提督!? それってどういう意味……」

 ヒュウウウ…ドボーーーーン!

黒潮「!? な、なんや、なんか飛んできたで!?」

軽巡棲姫「プハッ!?」ザバァ

筑摩「け、軽巡棲姫……!?」

軽巡棲姫「……テイ、トク……?」

軽巡棲姫「ドウシテ? ドウシテ、私ヲ……」

軽巡棲姫「ドウシテナノォォォオオオオ!!!!」

ル級「チョッ……落チ着イテ!」

通信『軽巡棲姫はそっちに着いたか?』

加古「ついたかじゃないよ! 軽巡棲姫ってばめっちゃ怒り狂ってるじゃんか!!」

武蔵「ここまで女心を理解していないとは……見損なったぞ!!」

軽巡棲姫「提督! テェトクウウウウウ!!! ドウシテナノォォォ!!」

通信『……軽巡棲姫、お前は駄目なんだ。どうもお前は娘みたいに思えてな……幼い姿を見た所為だろうな。お前を道連れにしてはいけない』

通信『それにお前には、お前を受け入れられる奴らがいる。泊地棲姫たちがいる』

通信『お前を任せて安心できる奴がいる。お前は、俺の分まで生きるべきなんだ』


軽巡棲姫「何ヲ……提督コソ、コンナニ大勢ニ求メラレテイルノニ、何故、死ニ急グノヨ……!!」グスッ

軽巡棲姫「アナタコソ、生キルベキ者ナノニ、何故、自ラ命ヲ捨テヨウトスルノヨォォ!!」

通信『俺が面倒ごとを呼んでるからだ。他の人間どもが、俺や俺の周りを利用して争いを仕掛け、結果、俺の身内が傷付くことになる』

通信『それでも俺が生きるべき者だと言えるのか』

軽巡棲姫「言ウ! 私ハ、生キルベキダト、言ウ!!」

大和「……提督。今、軽巡棲姫を、どんな方法を使ったか知りませんが、こちらまで吹き飛ばしましたよね?」

大和「同じことをすれば、提督も助かるのではないのですか!?」

通信『……そりゃあ無理だな。もう魔力も、歩く体力も気力も残ってねえ』

霞「はあ? なによその言い訳! 甘ったれてんじゃないわよ! 這ってでも出てきなさいよこのクズ!!」

大淀「提督。私たちは、あなたの次の指示を待っているんです……はやく、私たちの前で指揮を執ってください!」

通信『はは……無茶を言ってくれるな……』

長門「どうすれば……どうすればあいつを助けられるんだ!?」

潮「め、メディウムのみんなは……」

カトリーナ「こ、ここに居る連中じゃあ……きついよな」

ニコ「仮に魔神様の所へ飛んだとしても、戻って来られないよ……」

ル級「陸ノ上デハ勝手モ違ウシ……」ムムム…


比叡「ど、どうしましょう……どうしましょう金剛お姉様!!」

金剛「……ぐぅぅ……」ギリッ

通信『だから諦めろっつってんだよ。丘に埋めてた墓標代わりの艤装が、もう半分以上溶岩に飲み込まれた。ここもそのうち焼失する』

扶桑「そんな……それじゃ、時雨の艤装も……!」クラッ

山城「ふ、扶桑お姉様!? しっかりしてください!!」

通信『そろそろ熱さで俺の頭もぼんやりしてきた。酸素も足りねえな……そろそろ、休ませてもらうか』

由良「提督さん!?」

中佐「……ふざけるなよ提督少尉! いや、提督!!」

古鷹「ちゅ、中佐さん!?」

中佐「貴様の部下は皆、貴様の無事を望んでいるんだぞ! 深海の友人にも! メディウムたちにも!」

中佐「これほど慕われていることをわかっているにも関わらず、その望みを自ら切るなんて不義理もいいところだ!!」

中佐「貴様が人間かどうかは関係ない! 人でなしだろうと外道だろうとこの際知ったことか!!」

中佐「戻って来い! 提督!! 僕は、君の友人として、戻って来いと言っているんだ!!」

神通「……中佐……」


通信『……あんたみたいな奴ばかりなら、俺もまともな学生生活を過ごせてたのかもな』

通信『悪いが、本当にもう手はないんだ。俺は死ぬ。ただ、その前に言わせてくれ』

通信『俺に付き合ってくれて、ありがとう。楽しかった』

朝潮「……司令官! どうして……どうして!!」ボロボロボロ

金剛「そんな台詞、聞きたくありまセン!」

通信『聞き分けがねえなあ……ははは』

不知火「……司令」

通信『……なんだ?』

不知火「……不知火は、いつか必ず、司令をお迎えに上がります」

通信『……はは……お前らはどいつもこいつも……』

通信『ゴトンッ』

中佐「提督少尉!? なんだ今の音は!!」

金剛「テートクッ!?」

大和「提督!!」

ニコ「魔神様!」


 * 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *

地面に落ちた通信機『提督!』

通信機『魔神様ー!』

通信機『司令官!』

提督「……」フラ

提督「なんで、こんなことになっちまったのかねえ」

提督「妖精が見えるってだけで仲間はずれにしやがって……」

提督「俺はただ、普通の人間の生活を送りたかっただけなんだ」

提督「この島で、やっとそれができそうだったのにな……やっぱり人間なんて碌なもんじゃねえや、くそっ」

提督「……お前らも、そう思うだろ?」

朧「」

電「」

初春「」

吹雪「」

如月「」

提督「……ああ、良く寝てるな……はは、この分なら怖い思いをさせずに済むな」


提督「悪かったな、守ってやれなくて……」ゼンインヒキヨセ

「……しれいかん……」

提督「!?」

如月「司令官……?」

提督「き、如月!? お前、生きてたのか!?」

如月「ええ……でも、体が思うように動かないの。ここはどこ? とっても、熱くて……」

提督「島の丘の上さ。海底火山が噴火した。もうすぐここは溶岩で覆われる」

如月「……司令官も、死ぬ気なの……?」

提督「ああ。メディウムたちに指示して、たくさん人間を殺したからな。俺ももう人間社会じゃあ生きられねえ」

提督「お前らも守ってやれなかった。何もかも嫌になっちまった。悪いな、甲斐性なしで」

如月「いいえ……ねえ、司令官。この島も、消えるのね」

提督「ああ。全部、消える」

如月「……私たちも……」

提督「……そうだな」


 メラメラメラメラ…

如月「……ねえ、司令官? ……最後のお願い、聞いて貰えないかしら……」

提督「……? ……ああ。わかった……」スッ

 ゴォォォォ…

如月「……ふふ。司令官のくちびる、暑さで乾いてるわ……」

提督「悪い、な……」

如月「……でも、嬉しい。あなたから求めてくれたのは、初めてだから……」

提督「……」

如月「……司令官?」

提督「……」

如月「……脱水症状で気を失ったのね……」

如月「ふふ、こんな時に仕方のない人……」

如月「私も疲れちゃった……司令官。如月は、最後まで、ご一緒しますね……」

如月「……おやすみ、なさい……」


 メラメラメラメラ…




 ギュワ…


.


 ブラックホール<ギュワアァァァァ…

 ピョコッ

ベリアナ「ふう、やっとここまで来れたぁ……って、あっつうい!」

ベリアナ「もう、こんなに熱気がこもってたんじゃ、汗で全身べっちょべちょになっちゃうわ」プンプン

ベリアナ「こんなとこ、早くサヨナラしないと……ええっと、マスターはどこ?」キョロキョロ

提督「」グッタリ

ベリアナ「いた! ねえねえマスター! こんなところで寝てないで、早く逃げましょ!?」ユサユサ

提督「」

ベリアナ「大変……マスターの魂の力が弱まってるわ」

ベリアナ「急いでここから避難しないと、マスターが死んじゃうかも」ゴソゴソ

 ベリアナの胸の谷間から出てきた革の袋<ジャラッ

ベリアナ「マスターの救出が必要になったときのためにニコちゃんに預けられた、魔法石の袋!」ジャーン

ベリアナ「ここに来るまでに魔力を使いすぎちゃったしぃ……」

ベリアナ「この袋に入れた魔法石で魔力を回復してから、マスターたちをブラックホールで運べばいいのよね」ジャラ…

.




  『今です』




.


 トン

ベリアナ「きゃああ!?」ゾワッ

ベリアナ「な、なに!? 今、誰が私を……って、あっ!」

 革の袋<ツルッ

ベリアナ「や、やだ、大切な魔法石が……!」

 革の袋<ガシャガシャガシャン

ベリアナ「!?」

ベリアナ「今の音、なに! ……魔法石が砕けちゃってる!?」

ベリアナ「落とした程度で壊れるような石じゃないのに、砂みたいに……」

 革の袋<カラッポ

ベリアナ「」

ベリアナ「」マッサオ

ベリアナ「嘘でしょ……」

 海底火山<ドゴォォォン!!

ベリアナ「ひぃっ!?」


ベリアナ「や、やだ! マスター、目を覚ましてよ! このままだとみんな死んじゃうよ!?」ユサユサ

 溶岩<ドドドドドド…

ベリアナ「マスター! マスターーー!」

ベリアナ「い、いやあああああああああ!!!」

 溶岩<ドドドドドド…!!



 ゴォ…ッ!



ベリアナ「……」

ベリアナ「……あ、あれ?」

(ベリアナや提督たちの周りに作られた円柱状の光の壁が、溶岩の流れを防いでいる)

ベリアナ「た、助かったの……!?」

??「その石、すごい力を持ってるんだね」

ベリアナ「え?」

??「ありがとう、その石の力、わたしが使わせてもらったよ」

ベリアナ「え? え? あ、あなたはだれ!?」

??→応急修理女神「わたしは妖精。あなたのおかげで、戻ってこられたよ」ニコ


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

H大将「なんだあれは……」

 光の柱<キィィィン…

H金剛「あれは……ダメコンが発動した時の光に似てますネー?」

霧島「だ、だめこん?」

ニコ「なにそれ?」

H金剛「応急修復女神の妖精さんのことデース。皆さん、お世話になったことありませンカ?」

武蔵「我々はないよな?」

金剛「ありまセンネー」

祥鳳「発動の様子は私たちも初めて見ます」

ビスマルク「私たちの鎮守府にもいるけど、そもそも載せたことはないわ。いつも暇そうにしてるわね」

H大将「なんだお前たち、女神を載せたことがないのか?」

X中佐「ええ、僕は大破したら引き返してましたから」

W大佐「同じく。無理は禁物と考えています」

H大将「なんだ勿体ない。せっかくいるのに、強行偵察とかで活用しないのか」

大和「そ、それより、その女神の発動が、島の中で起きているということですか?」

ニコ「それって魔神様を助けられるってこと!?」

ル級「デモ、ドウヤッテ、アノ火ノ海カラ連レ出スノヨ……!」


 * 墓場島の南東部 溶岩に覆われた丘の上 *

ベリアナ「いくら光の壁を作っても、ここから出られなきゃ私たちも……」

応急修理女神(以下「女神」)「そうだね。でも、大丈夫」

女神「みんなが力を貸してくれるから」

ベリアナ「みんな……?」

女神「君たちメディウムは、魂の力を感じられるんだよね?」

ベリアナ「え……!」ゾワッ

女神「さあ『みんな』、力を貸して……!」

 ボッ

ベリアナ「……! マグマの下から、光が……!」

 ボッ

 ボッ

 ボボボボッ


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

カトリーナ「な、なあ、光の数が増えてないか?」

ル級「ソウ言エバ……」

ローマ「なんだか幾何学的な並びになってるわね……?」

神通「あの並び……もしかして」

敷波「ねえ神通さん、あの光ってるとこ、墓標代わりの艤装が置いてあったとこだよね?」

山城「! そういえば……!」

五月雨「さっき、あっちの金剛さんが、女神妖精さんの力だって言ってましたよね!?」

足柄「ま、まさか、轟沈した艦娘が蘇ろうとしてるってこと!?」

W大佐「さすがにそれは……」

川内「ううん、あり得るよ。私も幽霊見てるし!」

H大将「幽霊!?」

雲龍「幽霊かどうかさておいても、あの光からは命の力を感じるわ」

ニコ「そうだね……あれは、魂の輝き……!」

 ズズン…

「!!」


 ゴゴゴゴ…

中将「なんという光景だ……」

W大佐「島の大地が盛り上がって、マグマを堰き止めているのか……!?」

H大将「海と陸が逆ではあるが、まるでモーゼの十戒のワンシーンだ……」

X中佐「丘の上までの道を開いたってこと……!?」

 ザァッ!

不知火「!」

X中佐「し、不知火!?」

 ザザザァッ!!

H大将「お、おいっ! お前たちまで!?」

朝潮「朝潮は司令官を助けに行きます!!」

霞「説教なら後で聞くわ!」

潮「わ、私も行きます!」

長門「潮、頼む!!」

潮「は、はいっ!!」バッ


敷波「あたしも行くよっ!!」

白露「島風、トップスピードで行くよ!」

島風「うんっ!」

古鷹「私も行きます!」

朝雲「司令ったら、世話が焼けるんだからっ!」

初雪「そう言う割には、嬉しそう……」

山雲「ねー?」

神通「行きましょう……!」

那珂「那珂ちゃんも行っきまーす!」

川内「軽巡棲姫、あんたも来る?」

軽巡棲姫「!!」

那智「駆逐艦だけでは提督を運べるか心配だ、私たちも急ぐぞ!」

最上「うん、行こう!」

五十鈴「ここで行かなきゃ後悔するわ! 急ぎましょ!」

龍驤「大淀! 指揮、頼むでぇ!」

大淀「は、はい!」

雲龍「通信、私たちがサポートするわ」


 ザザザァッ…

ルミナ「ヲ級君、ヲ級君?」ツンツン

ヲ級「ヲ……ナンダ?」

ルミナ「悪いが艦載機を飛ばしてくれないか? 軽巡棲姫へ上空から島の様子を伝えて欲しいんだ」

ルミナ「いくら溶岩を堰き止めているとはいえ、あの光の壁と即席で作った土手がいつまで持ちこたえられるかわからないからね」

ヲ級「……」コク

千歳「その役目、私たちもサポートするわ! 隼鷹は島の南側をお願い!」ジャコッ

隼鷹「任せといて! いっけぇぇ!」バシューッ

若葉「よし、若葉も行……グゥッ」ズシッ

摩耶「馬ー鹿、お前、重たいメディウム載っけたまま出るわけにはいかねーだろ?」

摩耶「今度はあたしたちがいい恰好する番だぜ! なあ、霧島さん!」

霧島「……摩耶……!」

金剛「Yes !! 霧島、下を向いている場合ではありまセーン!!」

大和「ええ、これは提督を助けられる唯一無二の好機!!」


ニコ「金剛! 大和! 魔神様を……お願い!!」

大和「はいっ! 身命に変えても!」

武蔵「私も行くぞ! この一大事に指をくわえて見ていられるか!」

金剛「さーあ、比叡! 榛名! 霧島! Are you ready !?」

霧島「……お任せください!」

比叡「気合、入れて!」

榛名「全力で参ります!」

金剛「Follow me !! 金剛型高速戦艦の諦めの悪さ、テートクに見せつけてやるデーース!!」

 ウォォォオオオオ!!

 ザシャァァァ…!

若葉「……若葉も行きたかった」ガックリ

カサンドラ「だ、だからってこんな場所で降ろされても困ります……!」

マルヤッタ「申し訳ないじょ……」

伊勢「まあまあ、若葉がメディウムのみんなを一手に引き受けてくれたから、みんな行けたんだもの。ね?」

日向「ああ。若葉も功労者であることに違いはない」

若葉「……わかった。我慢しよう」


X中佐「……」

長門「む……すまない、X中佐。あなたがたの指示を待たずに勝手なことをした」

X中佐「僕は別に行くなと指示してはいないよ?」

H大将「命令違反ではないということか」

X中佐「はい。それで良いでしょう?」

中将「……うむ。彼女たちの行動が実を結ぶことを……提督少尉の無事を、祈るばかりだ」

祥鳳「提督、私たちはどうしましょう」

X中佐「僕たちは待機だ。みんながやりたいことの邪魔をしないほうがいいだろう」

X中佐「そもそも、僕たちはここにいる深海棲艦のみんなと交渉の最中だったと思うけど?」

祥鳳「え、ええ……確かにそうでした」

ル級「私タチモ、変ナ気ヲ起コスツモリハナイワヨ?」

長門「ああ、わかっているさ」

W日向「……お前たちは行かなかったのか」

山城「足の遅い私たちがついていったって足手まといなだけよ。伊勢型ならわかるでしょ?」


山城「ついでに言えば、私なんかいないほうが提督が生きて帰ってくる可能性が高まるわ」フン

陸奥「そんな悲観的にならなくてもいいじゃない。ねえ、扶桑?」

扶桑「山城なりの優しさよ。根拠はないけど、その場にいないほうがいいって、思っているだけでしょう?」フフッ

扶桑「でも、私たちのジンクスなんて関係ないわ。目の前で起きているのが奇跡でもなんでもいいの。私は提督の無事を祈るだけ……」イノリ

扶桑「これ以上、私たちから大事な人を奪わないで欲しいの……!」

日向「……伊勢」

伊勢「? どうしたの」

日向「確かに、我々伊勢型も低速艦だ。しかし、誘導や中継地点の監視くらいはできないかと思ってな」

伊勢「ああ、そうね。ごめん長門、ここは任せちゃってもいい?」

長門「じっとしていられないか。ああ、いいぞ、任せておけ」

W日向「それなら少し待ってくれないか」

日向「! 君は……W大佐のところの日向か」

W日向「ああ。君にいいものをやろう……水上機の最高傑作、瑞雲だ」フッ

日向「……!」

W伊勢「ちょっ、日向!?」


日向「なるほど……だが、すまない。私はまだ改装を受けていないんだ」

W日向「!?」

W伊勢「えぇ!? まだ戦艦なの!?」

日向「ああ。その瑞雲がどんなものかは存じないが……今の私には過ぎたるものだ。受け取ることはできない」

W日向「」

日向「では、失礼する……伊勢」

伊勢「あ、うん。じゃあ、行ってきます」フリフリ

W伊勢「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ

W日向「」

W伊勢「おーい、日向ー!?」

コーネリア「あたしたちはこんな奴らに負けたのかよ……」ボロッ

タ級「……不覚ダワ」ボロッ

W大佐「しかし、瑞雲の素晴らしさがわからない日向がいるなんて、信じられんな……」

中将「W大佐は航空戦艦がお気に入りかね」


日向「なるほど……だが、すまない。私はまだ改装を受けていないんだ」

W日向「!?」

W伊勢「えぇ!? まだ戦艦なの!?」

日向「ああ。その瑞雲がどんなものかは存じないが……今の私には過ぎたるものだ。受け取ることはできない」

W日向「」

日向「では、失礼する……伊勢」

伊勢「あ、うん。じゃあ、行ってきます」フリフリ

W伊勢「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ

W日向「」

W伊勢「おーい、日向ー!?」

コーネリア「あたしたちはこんな奴らに負けたのかよ……」ボロッ

タ級「……不覚ダワ」ボロッ

W大佐「しかし、瑞雲の素晴らしさがわからない日向がいるなんて、信じられんな……」

中将「W大佐は航空戦艦がお気に入りかね」


H大将「そういえば近々伊勢型の改二構想が計画されていたな……」

W伊勢「えっ!?」

W大佐「やったぜ」ガッツポ

山城「ああ、これでまた伊勢型に差を付けられるのね。不幸だわ」ズーン

陸奥「まあまあ」ポンポン

扶桑「そんなことより、提督が心配なんだけれど……」

長門「悲観的ではないのは悪いことではないが……」

ル級「脱線シスギヨネ?」

X中佐「うん……Wがああなのはごめんね」

ニコ「みんな魔神様が心配じゃないのかな」ハァ

若葉「山城さんが提督に対して憎まれ口を言うのはいつものことだ」

若葉「それにこちらの海軍のお偉方は、そもそも提督が海軍に反目していないかを追及しに来ているんだ」

若葉「言ってしまえば部外者だからな。提督がそこまで重要ではない人たちもいるだろう、それなら猶更にやむ無しだ」

ニコ「……」

ビスマルク「でも、墓場島の艦娘はみんな島に向かったじゃない。慕われてる証拠よ」

長門「ああ。残った私たちも、みんなが無事帰ってくるのを待つだけだ」

ニコ「うん……!」

タチアナ「ところで若葉さん、あなたに載せていたオリヴィアなんですが……」

若葉「うん……そういえば。どこへ行ったんだ?」キョロキョロ

今回はここまで。
二重書き込みになった>>359は無視でお願いします。

応急修理女神も魔法石も課金アイテムなので
その力を変換したと解釈しちゃってください。

続きです。


 * 島の内部 丘の上 *

ベリアナ「すっご~い……!」

ベリアナ「海までの道が開けちゃった……!!」

女神「これでみんなを沖まで運べるね」

ベリアナ「良く見たら、艦娘のみんなの傷も消えてるし!」

ベリアナ「ほぉら、起きて起きて! みんな早く逃げようよ!」ユサユサ

女神「あ、ごめん。みんなの目を覚ますまでの力は確保できなかったんだ」

ベリアナ「えぇ~っ!? ちょっとぉ、あたしみたいなか弱いオンナノコに、オトナのオトコのひとなんて運べないよ~!?」

女神「ブラックホールは作れないの?」

ベリアナ「もう魔力ないもん……魔法石、全部割れちゃったし……」

女神「……うーん、ごめんね?」

ベリアナ「っていうか、このままじゃあたしも蒸し焼きになっちゃうよう……やだぁぁ、こんなところで死にたくなぁい!」

ベリアナ「死ぬときはベッドの上でマスターに跨って、って決めてるのぉ~!」

女神「それ、如月が聞いたらただじゃすまないよ?」


 * 島の海岸 *

不知火「ここから陸地……!」ダッ

霞「……なんて熱さなの」

朝潮「こんな熱気の中にいては、司令官が危険です!」

潮「い、急ぎましょう……!」

 ドドドドドド…

敷波「!?」

白露「いっちばーーーん!」ドドドドドド

島風「はっやぁーーーい!」ドドドドドド

不知火「……」

霞「この時ばかりは頼もしいわね……」



 * 丘の上 *

 ドドドドドド…

ベリアナ「なにこの音……!?」

白露「いっちばーーーん!」キキーッ

島風「とうちゃーーーく!」キキーッ


女神「きみたちは……!」

ベリアナ「やったあ、助けに来てくれたのね!?」パァッ

島風「島風のほうが速かった!」

白露「あたしのほうが一番でした!」

ベリアナ「ちょっとぉ!? 話を聞いてよぉ!!」ガーン

女神「ふたりとも、時間がないんだ。急げばみんなを助けられる、みんなを連れて島を離れて」

島風「ええ!? みんなって、6人もいるの!?」

女神「この悪魔ちゃんも含めて7人だね」

白露「私たちだけでみんなを運ぶのは無理だね……」ウーン

島風「とにかく助けを呼ぼう!」ダッ

 バユーン

島風「!」

白露「あれは……龍驤さんの彩雲だ! おーい!」ズババババ

女神「えっ、なにその不思議な踊り」

島風「手旗信号だよ?」

ベリアナ「そんなので通じるの!?」


 * 海岸付近の海上 *

龍驤「うん? 彩雲が映像送ってきてるなあ……」

雲龍「え?」

大淀「なんですか、この不思議な踊り……もしかして」

龍驤「……キュウエンモトム、テイトク、クチクカンゴ、メディウムイチ、やて」

大淀「早っ!?」

雲龍「提督、生きてるの?」

龍驤「メディウムイガイイシキナシ、て言うてるから、ちょっち危ないかもなあ……雲龍、通信準備」

雲龍「はい」

龍驤「あーあー、巡洋艦のみんな、目的地に提督がおるで!」

龍驤「駆逐艦の子たちとメディウムもひとりおるから、連携して連れてってや!」

通信『了解!』

大淀「あのハンドサイン、ちゃんと解読できたんですか」タラリ

龍驤「ちょろいで」ビシッ

雲龍「素敵」


 * 丘の上 *

白露「よし、龍驤さんには連絡届いたみたい!」

島風「みんな来たよ! こっちこっち!!」

 タッタッタッ

不知火「はぁ、はぁ……」

朝潮「司令官……!」

霞「……まだ、生きてるのよね?」

不知火「司令、失礼します」スッ

 (手袋を外して提督の額に手を当てる不知火)

不知火「こんなに熱いのに、汗をかいていない……脱水症状を起こしているのかもしれません」

不知火「朝潮、霞、お二人に司令をお願いしたいのですが」

朝潮「ええ、任せて! 霞!」

霞「とにかくここから離れるわよ!」ヨイショ

 タッタッタッ

敷波「司令官!!」

潮「提督……生きてるんですか!?」


不知火「二人はこちらを手伝ってください。不知火は如月を連れて行きます」

女神「みんなを早くドックに入れてあげて。わたしの力も、いつまで持ちこたえられるかわからないからね」

潮「妖精さん……!」

敷波「……それじゃあ、電はあたしが連れてくよ!」グッ

潮「お、朧ちゃんは、私が連れて行きます!」

白露「よし、それじゃ、初春は私が運ぶね!」

島風「私が吹雪ちゃんかあ」ヨイショ

不知火「皆さん、重巡や戦艦の皆さんと合流出来たら、そちらに引き渡してください」

不知火「ここに来るまで、熱気や坂道で私たちも消耗しました、くれぐれも焦らず慎重にお願いします……!」

潮「わ、わかりました!」

敷波「了解っ!」

白露「島風、競争はなしだからね?」

島風「わかってるってば!」

不知火「……妖精さんは、どうするおつもりで」

女神「わたしはここでお別れかな。力を使ってる間は動けないからね」


女神「でも、死ぬわけじゃないから大丈夫。力を使った後はしばらくこの世界から消えちゃうだけだから」

ベリアナ「ああ、もしかして、異世界に逃げちゃう感じ?」

女神「んー……多分、そんな感じかな。私たちの力が回復すれば、また戻ってこられるから、心配しないで」

ベリアナ「それで私が持ってきた魔法石が消えちゃったのね……」

女神「それより、きみも早く逃げないと。死ぬときは提督の上でなんでしょう?」

不知火「!?」

ベリアナ「んもう、わかってるったら! 行きましょ、えーと……シラナイ?」

不知火「不知火です」

ベリアナ「うん、シラヌイちゃん、イこっ!」タッ

不知火「……は、はあ」ポ

不知火「それでは……妖精さん。行ってまいります」ケイレイ

女神「うん。みんなと、提督をよろしくね」

不知火「……」コク

 クルッ スタスタ…

女神「……さあ、みんなが脱出するまで、もうひと頑張りだ」


 * *

朝潮「……はぁ、はぁ……」

霞「朝潮姉、大丈夫?」

朝潮「こ、このくらいでへこたれたりは……」

ベリアナ「本当に大丈夫? 汗びっしょりで、息も荒いし、まるでセ」

不知火「おやめください」ガシッ

ベリアナ「んもう、冗談だってばぁ」

敷波「そういう疲れる冗談言ってる場合じゃないよ……」ゼーゼー

潮「……」ハーハー

島風「もー、あっつーい!」

白露「叫んじゃ体力消費するってば……」

オリヴィア「やれやれ、そろそろアタイの出番かい?」ポンッ

潮「!?」

ベリアナ「オリヴィア!? どこに潜んでたの!?」


オリヴィア「アタイかい? ウシオの艦内にこっそり紛れて入ってたんだよ」

潮「ぜ、全然気づきませんでした……」

オリヴィア「どんくさい子だねえ」

潮「どんくさい……」ズーン

オリヴィア「それはさておいて、ほら、そこの二人。アミーゴを背負うのはアタイがやるよ」ノッシノッシ

朝潮「……」ゼーゼー

霞「あ、あんた……」ハーハー

オリヴィア「成人男性担いで歩くにゃあ、あんたたちじゃガタイが足りないよ」ヒョイ

霞「あ……」

オリヴィア「陸の上ではこのアタイに任せて、海についたら交代だ。いいね?」テイトクカツギアゲ

朝潮「……わ、わかりました、お願いいたします……!」ペコリ

 タタタッ

黒潮「不知火! ……良かった、みんなおるんやな!?」

朝雲「山雲、みんなを運ぶの手伝うわよ!」

山雲「は~い」

初雪「……熱い、死にそう……早く海に行こう」ダラー

朝雲「いま、軽巡や重巡のみんながこっちに向かってるわ」

黒潮「うちらが運ぶより、重巡や戦艦のみんなに運んでもらったほうがええやろしな!」

不知火「……少し、急ぎましょう」コク

今回はここまで。


こちらのお話は、外伝的な「墓場島鎮守府?」のお話で発生した
フラグを回収するルートになっていますので、もうしばらくお時間戴きたく。

申し訳ありませんが、こちらの更新はまた来年に。

保守のついでに、ル級のアイデア元のネタはこちらです。
 https://www.pixiv.net/artworks/49459721
 https://www.pixiv.net/artworks/49607618

長らく長らくお待たせしました。
ようやく整いましたので、続きです。


 * 島の南東岸 *

神通「この上ですね……!」

川内「うひゃあ、熱気がすごい!」

五十鈴「駆逐艦のみんなはもうあそこにまで行ってるのね……!」

由良「急ぎましょ!」ダッ

軽巡棲姫「……グ……!」ガクッ

那珂「! け、軽巡ちゃん大丈夫!?」ガシッ

川内「もしかして、さっきふっ飛ばされたときのダメージが残ってるんじゃない?」

那珂「みんなは先に行ってて! 私が軽巡ちゃんを看るから!」

川内「わかった!」ダッ

神通「お願いします!」ダッ

 ザザザァッ

那智「む……何があった!?」

那珂「軽巡ちゃんのダメージがひどいみたいなの! 私が看てるから、先に行ってて!」


那智「あ、ああ、わかった。具合がひどいときは引き返せよ!」ダッ

古鷹「私たちは行きましょう!」ダッ

利根「よおし筑摩、吾輩たちも突入するぞ!」ダッ

筑摩「はい、姉さ……ん!?」

利根「ん? どうしたん……うおっ!?」ガクッ

??「ど、どうしたんじゃ!?」

利根「い、いや、急に力が……って……」フリムキ

筑摩「……」

利根「……」

??→利根の幽霊「む?」

筑摩「……」

利根「……」


利根の幽霊「利根? 筑摩も……なんじゃ? もしかして、吾輩が見えるのか!?」

利根「吾輩がいるううううう!?」ヒョェェェ!?

筑摩「利根姉さんが幽体離脱してるうううう!?」キャアアアア!?

那珂「うーん」フラッ パタリ

軽巡棲姫「チョッ!? シッカリシナサイ!?」

利根の幽霊「い、いや、吾輩たちは別に幽体離脱しておるわけでは……」

筑摩「はやく! 早く利根姉さんの体に戻ってください!」オロオロ

利根「う、うむ! 早く戻ってこい!」ダッ

 スカッ

筑摩「体をすり抜けた!?」

利根「モノホンの幽霊じゃああ!?」

利根の幽霊「いや確かに幽霊だけれども!?」

利根「き、き、貴様、何者じゃ!?」

利根の幽霊「な、何者と言われても……吾輩たちも利根である!」

軽巡棲姫「……アナタ、幽霊ノ『レギオン』ネ?」

利根の幽霊「うむ……集合体である」

筑摩「集合体?」


利根の幽霊「利根よ、貴様は覚えているか? あの地下室に並べられた利根の標本を」

利根「……!」

利根の幽霊「吾輩たちは、あの地下室で殺された利根の集合体である!」

利根「な、なんじゃとおお!?」

筑摩「……あ、あの写真の……!?」

利根の幽霊「まさか貴様たちと話ができるとは夢にも思わなんだが……」

軽巡棲姫「コノ光ノセイヨ……」

利根「む?」

軽巡棲姫「コノ忌々シイ光ガ、私ノカラダヲ拒ミ、オマエヲ呼ビ起コシタ……海底トハ、真逆ノコノ光ノセイデ」

利根の幽霊「……そ、そうか、この光は女神妖精の光であったな……!」

筑摩「轟沈から救うための力が、幽霊になった利根姉さんたちに力を与えたってことですか……!」

利根「なるほど、軽巡棲姫が光に包まれたこの島に近づけないのは、その身に深海の力を宿すからということか……?」

軽巡棲姫「多分、ネ……島全体ヲ覆ウホドノ光ダ、オマエノ復活モ、光ノチカラガ強スギルセイデ起コッタハズヨ」

筑摩「そ、それはわかりましたが、利根姉さんの体に幽霊の利根姉さんたちが戻らないと、生身の姉さんの力が戻らないのでは?」

利根の幽霊「戻ろうとして戻れなかったのが、ついぞさっきじゃぞ?」

利根「今はそれはどちらでも構わぬ。まずは動けるものが動いて提督を助けるのが先である!」


利根「筑摩、おぬし一人でも行ってくれるか? 皆の力になって欲しい……!」

筑摩「! ……わかりました。ここも危ないですから、利根姉さんは避難しててください!」タッ

利根「筑摩! 必ず戻ってくるのじゃぞ!!」

筑摩「はいっ!」バッ

利根「……吾輩の体が重いのは、やはり、おぬしが離れてしまったせいなのか……?」

利根の幽霊「ふむ……ずっと、一緒におったからな。吾輩たちは、いつの間にか、おぬしの一部になってしまっていたのかもしれぬ」

利根「そうか……おぬしは、吾輩とずっと一緒におったのだな」フフッ

利根「頼みがある。できるのであれば、吾輩の代わりに筑摩を守ってほしい……筑摩に危険を知らせてやってくれまいか」

利根の幽霊「……ああ、任せよ!」ニッ

利根の幽霊「可愛い妹のため! そして、外の世界を……海を教えてくれたおぬしのため!」

利根の幽霊「その願いに報いようではないか!!」ゴォッ!

利根「……頼むぞ……!」

軽巡棲姫「幽霊ニ支援ヲ頼ムナンテ、非現実的ネ……」

利根「……ふふ、深海棲艦のおぬしでも、そんなことを言うのだな」ヨロッ

利根「さあ、吾輩たちは避難するとしよう。気絶した那珂も連れて行かねばな」


 * 丘から海への道 *

不知火「はぁ、はぁ……っ」

朝潮「なんて、熱さ……」

潮「……」

朝雲「み、みんな大丈夫……?」

黒潮「……朝雲こそ、足元、やばいんちゃう……?」

山雲「……」

初雪「……早く、海に出たい……」

白露「あたしが、一番に出る……!!」

島風「負けない……!」

霞「ったく、もう……!」

オリヴィア「こりゃあまずいね……みんなへばっちまってる」ホッソリ

ベリアナ「オリヴィアも細くなってるんだけど……」

オリヴィア「ああ、せっかく肉を付けたのに、この暑さで強制的にダイエットさせられちまったよ」

オリヴィア「ベリアナ、悪いんだけどあたしのレスリングウェア、余ってる分を後ろで縛っとくれ。ゆるゆるだ」


ベリアナ「毎回不思議なんだけど、なんでオリヴィアは胸だけ脂肪が落ちないの?」ムスビムスビ

オリヴィア「知らないよそんなの。それよりべリアナも運ぶの手伝いな」

ベリアナ「無理よぅ、私が非力なの知ってるでしょ? だれか担いだら飛べないし!」

 ドーン!

不知火「……!」クルッ

オリヴィア「なんだい!?」クルッ

 溶岩<ドパァァン!

オリヴィア「げっ! 溶岩が壁を乗り越えてきたのかい!?」

ベリアナ「やっばいじゃない! みんな逃げて!?」

オリヴィア「逃げるったって、逃げられるわけないよ!!」

霞「……そんな……!」

 溶岩<ゴォォオ!!

ベリアナ「嫌ァァ!! こっちに流れてきたああ!!」

黒潮「こんな、ところで……」

 ゴォッ!

島風「な、なに!? 今の速い気配!!」


利根の幽霊「やらせはせんぞ!! どりゃあああ!!」

 ドガァァンン!!

ベリアナ「きゃああ!? なに今の!!」

オリヴィア「……地面が盛り上がって壁ができてるよ。おかげで助かったけど、こりゃいったいどういうことだい」

朝潮「今の声は……利根さん……?」

 タッタッタッ…

不知火「あれは……」

由良「や、やっと追いつけた……」ハァハァ

敷波「由良さん……!」

大淀「皆さん無事ですか!?」

川内「滅茶苦茶暑いね……ほら、肩を貸すよ!」

五十鈴「みんなよく頑張ったわ!」

朝雲「良かった……山雲! しっかりして! みんなが来てくれたわ!」

山雲「あ……良かったぁ……」

神通「すぐに重巡の皆さんも来ます、それまで少しでも歩きましょう!」

那智「おおーーーい!!」


古鷹「みんな大丈夫!?」

ベリアナ「古鷹!? ふるたかぁぁぁぁ!!!」ピューン!

古鷹「ふえっ!? ベ、ベリアナさん、どうしてここに!?」

ベリアナ「ニコちゃんの指示で、ブラックホールを通してみんな逃げさせられないかって頼まれたのぉ!!」ヒシッ

古鷹「そ、そうだったんですか……無事で良かったです!」ニコッ

ベリアナ「んもう、古鷹が助けに来てくれるなんて、これってきっと運命なのね……?」テヲニギリ

古鷹「へっ」

ベリアナ「私、もう汗でベトベトなの……戻って二人でお風呂で洗いっこしましょ……?」ピトッ

古鷹「あ、あのっ」アセアセ

ベリアナ「やぁん、照れちゃってぇ、古鷹ったらカワイィ」

 ゴチーン

ベリアナ「……いったあああい! 何するのよお、オリヴィア!!」

オリヴィア「ふざけてないで避難しな。悪いね、アタイもそろそろ体力の限界だ、誰かに乗せてってもらえると助かるよ」

古鷹「そ、それじゃあ、私の艤装に乗ってください。ベリアナさんも一緒に」

ベリアナ「ああん、古鷹ダイスキぃぃ!!」ダキツキー


加古「とりあえず、みんないるかい?」

朝潮「あ、あの、利根さんの姿が見えないのですが……」

霞「さっき、声が聞こえたような気がしたんだけど……」

利根の幽霊「うむ! 吾輩のことは構わず、早く逃げるのじゃ!!」

朝潮「!?」

黒潮「透けてるーー!?」ガビーン!

初雪「……は、はらったま、きよったま……!」ガタガタ

筑摩「と、利根姉さん! そんなに急いで、何があったんですか!」ハァハァ

大淀「そうですよ! 利根さんにいったいなにがあったんですか!!」

利根の幽霊「幽体離脱したようなものじゃ! 簡単に言えば!」

五十鈴「簡単すぎよ!!」

利根の幽霊「それより丘の上の光の柱を見よ!」

利根の幽霊「この島に埋葬された艦娘の魂がこの奇跡を起こしたわけじゃが、それを呼び起こした女神妖精の光の力が衰えつつある!」

利根の幽霊「吾輩が新たに壁を作ったが、吾輩たちの力も長くはもたん! 我らが活動できる間に、島を離れ海に出るのじゃ!! 急げ!!」

足柄「そ、そういうことね……!」

不知火「……早く脱出しましょう、司令のためにも」ググッ

三隈「軽巡のみなさんは意識のある駆逐艦のみなさんに肩を貸してあげてください」

最上「提督と、気を失った駆逐艦のみんなは、僕たちが運ぶよ!」

大淀「急ぎましょう!!」


 * 島の南東岸近く *

金剛「テートクゥゥゥ!!!」ダダッ

比叡「金剛お姉様! みんなすぐそこまで来てます!」

那智「おお、金剛型の到着か! 助かる!」

霧島「お姉様、私たちは疲弊している駆逐艦娘を優先して運びましょう!」ヒョイヒョイッ

霞「き、霧島さん……!」カツギ

朝潮「あ、ありがとうございます……!」アゲラレ

比叡「よーし、みんな連れていくよーー!」ヒョイヒョイ

敷波「ふいー、助かったぁ……」コワキニ

潮「お、お世話に、なります……」カカエラレ

榛名「さあ、行きましょう!」ヒョイヒョイッ

朝雲「あ、ありがとうございます……!」セナカニ

山雲「たすかったわ~……」セオワレ


金剛「急いで引き上げるデース!」ヒョイヒョイッ

白露「金剛さんありがと……!」リョウテニ

島風「もう、あっつーい……!」ダキカカエ

武蔵「我々も来たぞ!」

大和「さあ、急いで引き上げましょう!」

三隈「最上さん、提督は大和さんにお任せしましょう!」

最上「そ、そうだね、その方が早いかも!」

大和「わかりました、お任せください!」ダキカカエ

足柄「武蔵は陽炎型の二人をお願い!」

武蔵「よし、しっかりつかまれ!」ヒョイヒョイ

黒潮「お、おおきにな……!」ギソウニ

不知火「助かります……」ノセラレ

 ドドーン

筑摩「火山の噴火が……!」


 * 沖合 *

ヲ級「……マズイナ」

ルミナ「なにがあったんだヲ級君!?」

ヲ級「丘ノ上ノ光ガ弱マッテイル。溶岩ヲ押シトメテイタ壁ガ、乗リ越エラレソウダ」

ル級「……!」

泊地棲姫「ナニゴトダ」ザザァ…ッ

中将「!!」

X中佐「は、泊地棲姫……!」

ビスマルク「大丈夫よ。私たちがいるわ」スッ

泊地棲姫「……」ジロリ

長門「それより、ルミナの反応を見るに、なにかあったのか?」

ヲ級「取リ残サレタ人間ヲ助ケニ陸ニ上ガッタハイイガ、溶岩ノ流レガ速イ」

長門「……!!」

泊地棲姫「ナルホド……艦ガ、陸ノ上デハ遅クナルノモ当然ダ」


泊地棲姫「手ヲ貸ソウ……!」

 ザザザザァァァ

プリンツ「な、なななっ、なんですか!? この音!!」

扶桑「これは……」

カ級たち「「……」」ズラッ

ヨ級たち「「……」」ズララッ

泊地棲姫「潜水艦隊、単横陣ノママ、海面下ヲ島ニ向カッテ直進。陸地ノ手前デ潜航シ、引キ返セ」

深海潜水艦たち「」ザザァッ!

ローマ「なにをするつもり……?」

泊地棲姫「水ノ上ナラ速度ガ出セルダロウ。ダカラ、波ヲ起コシテ陸地ニ水ヲ送リコム」

ビスマルク「……津波の原理ね。引き潮に乗れば、島からの離脱も早まる……か」

泊地棲姫「アトハ……」

長門「あとは?」

泊地棲姫「コノ島ノ艦娘ト、メディウムノチカラヲ借リル。ヲ級」

ヲ級「……了解」

 深海艦載機< ヒュオァァッ シュパアァァァ…!


 * 島内部、南東岸近く *

 溶岩< ドドドド…!

金剛「Hurry! Hurry!! Hurryyyyy!!」

那智「もうすぐ海だ! 気を抜くな!!」

加古「ひぃ、へぇ、はぁ……海が、遠い……」

那智「諦めるな! 生きたまま溶鉱炉もどきに入りたくないだろう!」

加古「わ、わかってるよぉ……!」

摩耶「喋ってないで、走れ!!」

 溶岩< ドドドド…!

足柄「迫ってきてるううううう!」ヒィィ!

武蔵「後ろを見るな! 前を見ろ!!」

 ザパァァァン!!

霧島「! 波が強い……!?」

榛名「あの波に乗れれば、間に合うのでは!?」

 溶岩< ドドドド…!

足柄「音が近づいてきてるわあああ! 嫌ああああ!!」

五十鈴「足柄さんそういうこと言わないで!!」


由良「ま、間に合うのかしら……!?」

古鷹「! あれは……前を見てください!」

海上に浮かぶ浮遊砲台×5「」フヨッ

摩耶「ありゃあ、泊地棲姫の浮遊砲台と……五月雨!?」

神通「利根さんと軽巡棲姫も……!」

三隈「五月雨さん、いないと思ったら、あんなところに!?」


軽巡棲姫「……コレガ、ヲ級カラノ距離情報ダ」

利根「ふむ……であれば、このタイミングじゃな」

五月雨「わ、私にできるんでしょうか……!?」

利根「大丈夫、吾輩たちがサポートしておるんじゃ」

軽巡棲姫「今、浮遊砲台ノ制御ガデキルノハ、オマエダケ……シッカリナサイ」

ミリーエル「こちらも準備できました!」

グローディス「外すなよぉ、責任重大だぜ」ニヒヒ

ディニエイル「そうやってプレッシャーをかけて遊ぶのはやめてもらえますか」

浮遊砲台「ギュエ……」

ディニエイル「大丈夫です。狙って打つだけ。我々の仕事はそれだけです」

利根「さあ、参ろうか! 五月雨、頼むぞ!」


五月雨「……はいっ! 行きます、観測着弾射撃!」

 ヲ級の深海艦載機< ギュォォォオ…!

軽巡棲姫「今ヨ!」

五月雨「撃てええええ!!」

泊地棲姫の浮遊砲台たち「」ドガドガドガァン!


加古「な、なんだなんだあ!? 撃ってきた!?」

那智「着弾地点が近いぞ!?」

 砲弾< ドガドガドガァン!

 バキッ

 (着弾した地点から乾いた音が響いて)

 氷の壁< バキバキバキバキーッ

メアリーアン「おらだずの魔力の結晶だあ!」

ヒサメ「そうやすやすと溶けたりはせぬぞ!!」


加古「うおっさぶっ!?」ヒンヤリ

白露「うわあ、氷の壁が溶岩を遮ってる……!」

金剛「今のうちデース!!」

武蔵「次の波が来るぞ! 飛び込めええええ!!」

 ザパァァァン!!


 * 沖合 *

千歳「龍驤さんから、全員の無事が確認できました!! 全員海上に出たようです!」

ヲ級「……潜水艦隊モ、海域カラ離脱完了シタ」

長門「提督と駆逐艦たちはどうなったんだ……!?」

ヲ級「イマ、コチラニ向カッテキテイルナ」

隼鷹「逃げ遅れの艦もいないみたいだね! あとは海軍の人が海に放り出されてる!」

X中佐「祥鳳! 僕たちは一旦、本船に戻る! 深海のみんなとは今後も連絡を取りたい、連絡先の交換を頼む!」

祥鳳「わ、わかりました!」

X中佐「僕たちは提督少尉の受け入れ準備だ! それから叔父さんと、WとH大将の怪我も診てもらいます!」

X中佐「それから生き残った海兵の救助を! 中将閣下、救助隊の指揮をお願いできませんか!?」

中将「……うむ、承知した」

 大型ゴムボート< バウゥゥ…!

ル級「……提督ハ、助ケラレルノカ……?」

ビスマルク「それは保証できないけれど、医療船のスタッフは全力を尽くしてくれるわよ」

泊地棲姫「助ケテモラワナイト、ココマデ手ヲ貸シタ意味ガナイワ」

ニーナ「その通りです。魔神様の無事のお帰りこそ、私たちの望み!」

ケイティー「旦那様のいない世界なんて、存在しなくていいのよ……!?」ユラリ

ローマ「過激派がいるわね……」タラリ

ニコ「でも、ぼくたちメディウムの望みは概ねその通りだよ。僕たちはそれこそ、数百年待っていたんだ」


伊勢「やったよ! みんなが戻って来たよ!」ザァァッ

祥鳳「ローマさんとリベッチオさんは、墓場島の艦隊の皆さんの、医療船への誘導をお願いします!」

リベッチオ「わかったー!」

ローマ「了解」

 ドドーン…

ヴェールヌイ「! 島が……!」

長門「……」

扶桑「全部、燃えてしまったわね……鎮守府の建物も、丘の上の艤装も……なにもかも」

陸奥「……」ウツムキ

扶桑「私たちは、これからどこへ行けばよいのかしら……」

山城「……お姉様……」

祥鳳「……」

泊地棲姫「……」

ル級「……」


 * * *

 * *

 *

今回はここまで。

これから提督の出生の秘密や、
まき散らしたフラグの回収をしていきます。

続きです。


 * ??? *

(提督らしき人影が花畑の中に大の字で倒れている)

提督「……」

提督「……」

提督「ん……」

提督「んん……?」パチ

提督「……」ムクッ

提督「……なんだここ?」キョロキョロ

提督「俺は確か……如月や吹雪たちを抱きかかえて、島にいたよな」

提督「島が燃えてて、熱くて頭が朦朧としてて、その後……」

提督「……ちっ、俺らしくもねえ」

提督「つうか、あいつらどこいったんだ。そもそもここどこだ? 夢でも見てんのか……?」

提督「服も燃えたり汚れたりしてねえし……ん? 俺、こんなに色白だったか?」ソデマクリ

提督「……まあいいや、どうせ夢なら寝直すか。誰もいねえんじゃしょうがねえ」ゴロン


提督「……」スー

時雨「……」ザッ

提督「……」スー

時雨「ねえ、提督」

提督「……」

時雨「寝てる場合じゃないよ。ほら、起きて」ユサ

提督「……んん?」パチ

時雨「おはよう、提督。僕のこと、覚えてるかな?」

提督「……」プイ

時雨「? 提督、いきなりそっぽを向くなんてひどいんじゃないかな?」

提督「そうじゃねえ、近付きすぎだってんだよ。お前、俺にスカートの中を見せたいのか」ムクッ

時雨「!」バッ

時雨「……見た?」セキメン

提督「ああ、見ちまったよ。黒か」

 ベシッ

提督「いてっ」


時雨「信じられないよ、僕の名前より先に履いてるパンツの色を口にするなんて」

提督「見えたもんはしょうがねえだろうが。それよりお前……俺と面識ねえよな? 見覚えはあるんだが……」

時雨「そういえばそうだね。でも、僕はずっとみんなを見てたから、良く知ってるよ」

提督「見てた?」

時雨「うん。僕は、白露型駆逐艦、時雨。よろしくね」

提督「時雨? ……扶桑たちを追いかけてきた奴の同型か?」

時雨「同型じゃなくてその本人だよ。あの時轟沈してあの島に埋葬されたのが、この僕さ」

提督「なに? ……足はついてやがるな」

時雨「下着の次は脚を見るなんて、提督はいやらしいね。けだものだ」

提督「興味ねえよ」

時雨「そう言って油断させて僕を食べる気なんだね?」

提督「……」

時雨「その、相手にするのが面倒臭そうな顔をするの、やめてくれないかな」

提督「その手のネタは俺の趣味じゃねえ。つうか、お前ってそういうキャラだったのか?」

時雨「冗談も言えない状態だったんだもの。少しくらい付き合ってくれてもいいじゃないか」


提督「だったらもう少し上品な冗談にしてくれ。それより、お前がいるってことは、ここはあの世か?」

時雨「うーん……あの世とこの世の境目、かな? 賽の河原みたいなものだね」

提督「つまり、俺も死んだのか」

時雨「死にかけている、と言うのが正しいかな。提督の肉体は無事みたいだからね」

提督「そうなのか……? でも俺がここにいるってことは、ほぼ死んでるのと同じじゃねえのか? お前もここにいるわけだし……」

時雨「うーん、それにはもうちょっと複雑な事情があるんだけど……」

提督「そうだ、如月たちもここに来てるのか?」キョロ

時雨「みんなは来てないと思うなあ」

提督「あいつらは無事だって言えるのか?」

時雨「うん、おそらくね。とにかく、提督がなぜここに来たか、その理由は提督の顔を見ればわかるよ」

提督「どういう意味だ?」

時雨「丁度良くそこに池があるから、そこで自分の顔を見てみなよ」

提督「……?」

 (提督が池を覗き込むと水面には、陶器のような真っ白な顔にひびが入ってオレンジ色に発光している顔が映る)

提督「なんだこりゃ……!?」


時雨「肉体から引き剥がされて魂だけになった姿だから、よくわかるでしょ?」

提督「魂……!?」

時雨「そう。提督、あなたは、深海棲艦の魂と人間の魂が混ざりあった魂を持つ人間だよ」

提督「混ざっ……深海棲艦と!? 俺が!? なんでだ!?」

時雨「提督のお母さんが、学生の時に海難事故に遭ったことは知っているかい?」

提督「……いいや、知らねえ。初めて聞いた。母親が海の近くに行きたがらないのはそのせいか?」

時雨「だと思うよ。提督のお母さんは君が生まれる前、その事故で、深海棲艦に接触していたんだ」

提督「……」

時雨「数年前、海に突然現れた深海棲艦。そのもととなっている魂そのものは、海に姿を現す以前から存在していたんだ」

時雨「その眠っていた魂が、生きている人間……つまり、海難事故によって海に放り出された人間を感知し、接触した」

時雨「そこにいた人たちは体を奪われたり、彼らの持つ怨嗟によって精神を蝕まれ狂わされたり……たくさんの人が『人』ではなくなった」

時雨「提督のお母さんも、深海棲艦の魂に襲われた一人なんだよ」

提督「……」

時雨「本当なら、提督のお母さんも狂人になるはずだったんだけど、そうならなかった理由がふたつ」

時雨「ひとつは、乗り移った深海棲艦の魂が弱っていたせい。もうひとつはに救助されてから海から離れたこと」

時雨「そのおかげで、提督のお母さんは狂うことなく生き延びたと思うんだ」


時雨「そして提督のお父さんと結婚し、新たな命を宿したときに、その命が持ってきた『人間』の魂と結合した」

時雨「そうして生まれたのが、提督……君なんだ」

提督「……」

時雨「……」

提督「あいつが……母親が、俺に異常なくらい怯えていたのは、そういうことか?」

時雨「多分ね。そして、その君の出生に目を付けたのが魔神の手先だね」

提督「ニコのことか?」

時雨「ううん、魔神のために作られた自動人形(オートマタ)……エフェメラって名前なんだけど」

時雨「彼女が君のお父さんに接触して、不幸を君に押し付けるように仕組んだ、って聞いてるよ」

提督「じゃあ何か。俺は生まれる前から魔神に目を付けられてたってことか」

時雨「そういうことだね」

提督「冗談きついぜ……最初っから俺の人生ハードモードだったんじゃねえか」

時雨「でも、結果的に魔神に食べられたりしなかったんだ。妖精に感謝しないとね」

提督「食べる!? なんだそりゃ!?」

時雨「魔神の目的は、邪悪な魂を食らうこと。本当なら提督は、魔神に捧げられる生贄となるはずだったんだよ?」

時雨「ハードモードどころか、最初からバッドエンド直行が既定路線だったんだ」

提督「……」


時雨「君があらゆる人間から忌み嫌われ、謂れのない恨みや悪意を一身に浴びれば……」

時雨「いずれはすべての人間を憎み、世界そのものを憎むような、凶悪極まりない人間になるはず」

時雨「ましてや魂の半分は深海棲艦。そうなっていたら人間ですらなくなってたかもしれない」

提督「……俺は魔神の餌になるためにこんな目に遭ったってことか」

時雨「深海棲艦が混ざった君の魂が、御馳走に見えたんだろうね」

時雨「その目論見を狂わせたのが、妖精との出会いさ。あんなに早く、提督が妖精と出会うなんて、彼らも予想外だったみたいなんだ」

提督「それだけでそんなに変わるのか?」

時雨「ねえ、提督は、妖精から何を教えてもらった?」

提督「……」

時雨「本当なら、周囲の人間から教えてもらうはずのいろんなことを、妖精たちから教えてもらったんじゃないかな」

提督「……ああ、そうだ。俺に『常識』を教えてくれたのはあいつらだ」

提督「人の世に絶望しても、あいつらは俺を励ましてくれた。よく声をかけてくれたし、俺を見捨てたりもしなかった」

時雨「提督は人間に失望していたんだよね? でも、妖精には良い感情を持っていた」

提督「……」コク

時雨「妖精たちの干渉を想定してなかったエフェメラは、君を邪悪に染めるため、それ以降も君のお父さんに何度も接触してる」


時雨「あることないことを焚きつけて君の立場を悪くしつつ、彼の政治活動を裏から支援して」

時雨「君のお父さんの信頼を得ながら、結果的に君が人間を憎むように仕向けていたんだよ」

提督「……だからあいつは、ぽんぽんと調子よく出世していたのか」

時雨「弟さんがいたのもそれに拍車をかけた感じだね。父親と弟の評価が高ければ高いほど……」

提督「俺に対する風当たりは強くなる、ってか。まさしくその通りだな、その時点でそのエフェメラとかいう奴の術中にはまってたわけか」

時雨「その結果があの島への左遷だね。でも、それで結果的に人間社会から離れることができたのは、ある意味一番の幸運だったと思うよ?」

提督「……もしかして、お前もあいつらに巻き込まれたのか?」

時雨「さあ、どうだろう? わからないけど、僕がいた鎮守府はエフェメラの存在に関係なく、もともとそうだったんだと思うよ?」

時雨「その人の場所から君のいる鎮守府に流れ着いて……そこでみんなを見守っている中で、君を守りたいという人と出会った」

提督「俺を……?」

時雨「エフェメラは、実は一体だけじゃなく、数体いるらしいんだ。それこそ僕たち艦娘みたいに。そのエフェメラもそれぞれに思いがあって……」

時雨「魔神のために君を魔神の贄にしたがっている個体もいれば、魔神となりうる君の力になりたいって個体もいる」

時雨「僕は、その君の力になりたいっていうエフェメラに、協力してほしいと言われているんだよ」

時雨「今の話も、そのエフェメラから聞いて知ったんだ」

時雨「まさか、ここでこうやって君と話ができるなんて、思ってもいなかったけど、ね?」

提督「……」


時雨「それから、君がここに来たのは、君と一緒にいた女神妖精のおかげだよ」

提督「妖精の……!? あいつは、消えたんじゃないのか」

時雨「そう。君と一緒にいた女神妖精は、深海棲艦で作った弾丸によって、この世界から消滅した」

時雨「でも、それは死ではなく、現世に存在し続ける力を失っただけ。ようは、世界から一時的に追い出されちゃったんだ」

時雨「君が気を失った後、ブラックホールのメディウムが君を助けに来てくれて……」

時雨「その時に彼女が持っていた、魔力の元である魔法石の力で、妖精が戻って来ることができたんだ」

時雨「本当は、そういう用途で魔法石を持ってきたわけじゃないみたいだけどね」

提督「……」

時雨「その後、提督や如月たちを島から脱出させるため、女神妖精の力が島を包み込んで君たちの肉体を守り……」

時雨「それと一緒に、これまでに島に埋葬された艦娘の魂が力を得て、君たちを炎や溶岩から逃がす手伝いをしてくれた」

時雨「だから、さっきの如月たちがこっちに来ているか、と言う質問には、こっちには来てないと思う、って答えられると思うんだ」

時雨「女神妖精の力が発揮されたということは、如月たちの傷は治って、魂は自分の体に戻っているはずだから」

提督「そうなのか!? ……生きて、いるんだな……!?」

時雨「おそらくね?」

提督「でも、そういう見込みなんだな? それなら……良かった」


時雨「ただ、君たちを救助するために島に近づこうとした軽巡棲姫は、女神妖精の光に近づいたときに苦しんでいたんだ」

時雨「女神妖精のあの光は、深海を棲み処とする深海棲艦にとって毒なんだと思う。要は、轟沈から艦娘を救うための力だからね」

提督「……じゃあ、俺は……」

時雨「君は、半分深海棲艦だからね。肉体から追い出されたっていうか、強制的に成仏させられたんじゃないかな?」

提督「成仏……」チーン

時雨「だからこんなところにいるんだと思うよ」

提督「……いや、まあ、そうかもしれねえが」

提督「それよりも、よく俺とあいつが何十年も一緒にいられたな!? 俺とあいつって相反する属性持ちじゃねえか」

時雨「だからこそ出会ったのかもしれないね。君みたいな沈みかけの魂を救えるのが、女神妖精なんだから」

提督「……もしかしなくても、俺が妖精たちと話ができたのも、俺が半分深海棲艦だからってことだよな?」

時雨「うん、きっとそうだね」

提督「……ああ、くそ。俺の今の見た目からして信じられねえが、いろいろ納得できる辺りどうしようもねえな……!」

時雨「ねえ、提督? 君がなぜそんな姿なのか、ここにいるのか……僕の言いたいことを理解はしてもらえたと思うんだけど」

提督「……」

時雨「今度は、僕の質問に答えて欲しいんだ」

提督「……なんだ?」

.



時雨「提督。君は、死にたいのかな? それとも、生きたいのかな?」

提督「……」



.


時雨「……」

提督「はぁぁ……」

時雨「ため息ついてないで答えて欲しいんだけどな」

提督「急かすなよ。まさかここで、俺がその質問をされる側に回るなんてなあ……」

時雨「……」

提督「……正直、俺の出番はここまでだと思ってたんだ」

提督「如月たちを巻き込んじまった。だから俺も、嫌な奴らを焼き払って、一緒に燃えてしまおうと思ってた」

提督「でも、あいつらは……如月たちは、無事なんだよな?」

時雨「多分ね?」

提督「ル級たちはどうしてんだ? 海軍の連中に捕まってないだろうな?」

時雨「さあ?」

提督「ニコたちも……あっちで待ってんだろうなあ。わざわざ別の世界から訪ねてくるくらいだし」

時雨「……」

提督「……戻るか」アタマガリガリ

時雨「!」


提督「どの面下げて、って気もするが……このままじゃあ、如月たちにも、ル級たちにも、ニコたちにも迷惑かけちまう。未練が残っちまう」

提督「つけられる始末はきっちりつけとかねえとな。死ぬのはそれからだ」

時雨「……素直じゃないね?」

提督「そうか?」

時雨「まあ、いいか。早く帰って、みんなを安心させてあげよう」

提督「そうだな。そうと決まれば……」

提督「……」

提督「どこ行ったらいいんだ?」

時雨「……」

提督「どこ行くと戻れるんだ? 時雨、知ってるか?」

時雨「……」メソラシ

提督「視線が泳いでるぞ。俺を焚きつけておいて、それはねえだろ」

時雨「僕が知るわけないじゃないか……僕は、エフェメラが行けって言った通りに行かざると得なかっただけなんだから」ムー

提督「時雨も丸投げされたのかよ……んじゃ仕方ねえ、とりあえず手掛かり探すか?」

時雨「そうだね、そうして欲しいな」


提督「とはいえ……どこに行くかだな」ウーム

時雨「……」

提督「なあ時雨? ありきたりな発想だけどよ、仮にここが天国だとしたら、下は下界っつーか、人間界、って認識してもいいよな?」

時雨「うーん、そうかも……ね?」

提督「……」

時雨「なにか気になることでもあったの?」

提督「さっき、鏡代わりに見たその池の水。綺麗すぎて、水面というより薄い膜みたいなんだよな」

時雨「……確かにそうだね?」

提督「もしかして、あの池の底がもといた世界につながってたりはしないか……って思ったんだ」

時雨「そう……だね。可能性はあるかも」

提督「ちょっとあの池の中を覗いてみるから、俺が落ちないように足を抑えててくれ」ネソベリ

時雨「うん、わかった」ツカミ

提督「よ……っと」チャプン

 ゴォォォォ…

提督「おお……」チャパッ

時雨「どうだった?」


提督「この下は地獄だった。地獄の天井につながってるぞ、ここ」

時雨「」

提督「あちこち燃えてるわ血生臭えわ、燃えた人間やら人骨やらが転がってるわ悲鳴上げてるわでマジ地獄だった」

時雨「えええ……」

提督「洞窟っつうか、ただっ広い洞穴に篝火がたくさん置いてあって、筋骨隆々の獄卒もいて、これが地獄絵図かーって感じですごかったぞ!」ワクワク

時雨「……なんでそんなにテンション高いの?」

提督「もうちょっと見てていいか」チャプン

時雨「提督!?」


提督「おお、マジすげえ……獄卒もちゃんと牛頭馬頭(ごず・めず)じゃねえか、すげえな」キラキラ

提督「うん? なんだありゃ。女の鬼か? 体にツギハギ模様があるな……」


女の鬼?1「貴様なぞこうじゃ!」

女の鬼?2「我等の痛み、思い知れ!」

燃えている亡者「ぎゃあああ!」


提督「あの鬼……もしかして」

 グイグイ

提督「ん? どうした時雨」ザパッ


時雨「提督、こんなところで油を売ってないで、早く現世に戻る手がかりを探しに行こうよ」

提督「まあ待てよ。ちょっと見覚えのある顔が地獄にいるんだ。利根っぽかったんだが」

時雨「ええ?」

提督「お前もちょっと見てみろよ、少しでいいから」

時雨「う、うん……あ、ちゃんと足を掴んでてね?」

提督「おう」

時雨「……それじゃ、いくよ」チャプ…

時雨「……」

時雨「……」

時雨「……ふう」ザパッ

提督「どうだった?」

時雨「本当に地獄だったね……びっくりだよ」

時雨「それから、あの亡者を滅多刺しにしてた女の人たち、確かに利根さんに見えるね?」

提督「だったよなあ? ちょっとあいつらと話してみてもいいか?」

時雨「え?」


提督「どうやったら元の世界に戻れるか、聞けるかもしれねえし」

時雨「……」ウーン

時雨「……」ウーーン

時雨「……わかった。いいけど危なかったらすぐに引き上げてね」

提督「おうよ」

 チャプッ…

提督「こんな薄い膜一枚で地獄と隔たってるってのも、すげえな……」

提督「おーい! 利根ーーー!!」

 ザワッ!!

獄卒たち「な、なんだなんだあ!?」

女の鬼?1→利根1「だ、誰じゃ! 吾輩を呼ぶのは!」キョロキョロ

提督「おう、やっぱり利根だったか。上だ、上!」

利根2「上?」ミアゲ

利根3「うお!? なんじゃ貴様! 深海棲艦か!?」

利根4「いや待て、あやつは……おぬし、もしや墓場島の准尉か!?」


提督「おう、よくわかったな! お前らここで何してんだ!?」

利根1「知れたこと! 吾輩たちを切り刻んだこの男に仕返しをしておるのだ!」

提督「は!? まさかそいつ……」

利根2「これはかつてのM提督の慣れの果てよ!」

利根3「おぬしも聞いたであろう! 吾輩たちが受けた仕打ちを!」

提督「だからその体の傷かよ。それはそうと、なんで服が腰巻だけなんだよ!?」

利根4「これが地獄のスタイルじゃからな! 郷に入らば郷に従えというだろう!」

提督「なんでそういうところは馬鹿正直なんだよ……胸隠せ、胸」セキメン

牛頭「おーーい、そこの天井の、多分人間の兄ちゃん!!」

提督「!」

馬頭「あんた、こいつらの知り合いか!?」

提督「一応なー!」

馬頭「だったら、こいつらをここから出ていくように説得してくんねーか!?」

提督「ああ? どういうことだ!?」


牛頭「この嬢ちゃんたちは、本当ならここで働く必要はねえんだよ!」

牛頭「この野郎がいるってんで、わざわざこっちに訪ねてきて、俺たちの仕事をやらせて欲しいって言ってきてんだ!」

馬頭「おかげで俺たちゃあ暇で暇で! 筋肉がなまって仕方ねーんだよ!」ムキッ

提督「あー……」

牛頭「頼むぜ兄ちゃん! こっちに来た時ゃあ少し手加減してやっからよ! ちょっと助けてくれよー!」

提督「……」ウーン

利根1「あの男は地獄に来るかのう……?」

牛頭「そうなのか?」

利根2「艦娘に対してだけは激甘じゃからのう。助けて、と言えば誰でも助けてくれるんじゃないか?」

馬頭「本当かよ。そういえば、お前もさっき助けてっつったよな」

牛頭「ああ……」

提督「しゃあねえな……うまくいかなくても文句言うなよ!」

利根3「助ける気になったみたいじゃのう……」

馬頭「あー、ありゃ地獄に来ねえや。来ても俺たちと同じになりそうだぜ」

利根4「そうなのか! ならばなおのこと、ここを離れるわけにはいかんな!」ワクワク

提督「いや、俺はそういうの御免だぞ!? 面倒臭えのは嫌だからな!」

利根1「なぬぅ!?」


牛頭「……怠惰の罪で向こうに堕とされそうだな」

馬頭「ああ、あっちのハーデスの叔父貴あたりの区画のほうか」

提督「それに俺はまだそっちに行く気はねえぞー!」

馬頭「だよなあ。あそこから顔出してるってことは、まだあいつ三途の川を渡ってねーし……」

提督「それより利根! お前らのやってることは逆効果だぞ、そこの獄卒たちの言う通り、とっとと帰ってこい!」

利根2「な、なにを言うか! それでは吾輩たちの無念を晴らせぬではないか!」

提督「何言ってんだ、むしろ、お前らがかまってやってるから、そいつが喜んでんだろうが」

利根3「なんじゃと?」

提督「そいつがお前らを殺して飾ってたのは、ずっと自分の手元に置いておきたかったからじゃねえのかー?」

提督「確かそいつの望みは、笑ったり怒ったりするお前らのいろんな姿が見たかったって話だったよな?」

提督「お前らがそんな恰好でそいつを取り囲んで、怒ったり罵ったりしてるのも、同じ状況じゃねえのかよ!」

利根4「……!」

提督「大勢の利根に注目されてることを嬉しがってんだよ、そいつは!」

提督「今お前らがやってることは、ある意味そいつの望みをかなえてやってるのと同じなんだよ!」

利根1「そ、そうなのか……!?」


牛頭「そうだよ! あの兄ちゃんの言う通りだ!」

牛頭「俺も長いこと亡者を痛めつけてるが、そいつの悲鳴は苦痛って感じじゃねえんだ! 全然こいつへの戒めになってねえ!」

利根2「だ、だとしたら、吾輩たちはどうすればいいんじゃ……!?」

提督「そうだな……そいつのことは忘れて、全然違うところで幸せになりゃあいいんじゃねえの?」

提督「そいつが寝取られ趣味でなけりゃあ、お前らに見向きもされなくなった方がつらいと思うぞ?」

馬頭「あ、俺それわかる。カミさんに無視されんの、すげえ勘えるわ」

馬頭「うちのカミさんに愛想尽かされたら、寂しくて死ぬかもしれねえ」

利根3「なんと……おぬし、妻帯者であったか」

馬頭「そこ驚くとこかよ!?」

提督「そういうわけだから、どんな形になってても利根が好きな奴なら、お前らに二度と会えないようにした方が拷問になると思うぞ!?」

利根たち「「……」」カオヲミアワセ

提督「そんな奴のために、お前らが時間を使ってやる必要はねえ! 忘れちまえ、そんな奴!」

利根4「そのほうが、良さそうじゃのう……!」

牛頭「!!」


亡者「えっ、ちょっと待っ」

利根1「……こやつがあからさまに焦ってる辺り、まさしくそういった思惑があったのじゃろうなあ」ジロリ

利根2「うむ、そのようだ……二人とも、吾輩たちの我儘のために、おぬしたちの仕事を奪ってしまって、申し訳なかった」ペコリ

馬頭「お、おう。まあ、嬢ちゃんたちが恨みを晴らしたい気持ちもわかるからな」

牛頭「あんなに鬼気迫る感じで責めてたんじゃあ、余程の恨みがあったんだろうしなあ……ま、とにかくわかってもらえたんならありがてえ」

牛頭「ここから向こうの針山の左側の道を一里ほど行くと、図体のでかい髭面の親父がいるからよ。帰り道はそいつに訊いてくれ」

利根3「承知した。何から何まですまんな」ペコリ

利根4「では参ろうか。提督よ! おぬしにも礼を言うぞ!!」ブンブン

亡者「待ってくれ! 利根! 利根えええ!!」

牛頭「おー、やっと悲鳴が悲鳴らしくなったぜ。兄ちゃん、あんがとな!」

提督「おう! ところで知ってたら教えてくれ!」

牛頭「なんだあ!?」

提督「元の世界に戻りたいんだが、どこ行きゃいいんだ!?」

馬頭「なんだお前、現世に行きたいのか!?」


牛頭「だったら適当に歩いて行け! お前が行きたい方向に、花が避けて道ができるはずだ!」

提督「マジか……わかった!! ありがとうな!!」

馬頭「こっちこそありがとなー!」

 トプン

馬頭「ふー……やっと俺たちも仕事ができるぜ」

牛頭「お前、カミさんに無視されたとかあったのかよ」

馬頭「最近まともに仕事できなかったからなあ。筋肉が落ちたもんで、あんたみたいな駄馬は知らないって言われてよ~」ハハハ

馬頭「ま、これで俺の運動不足も解消できるし……」

牛頭「そうだな。張り切っていくかあ!!」

亡者「あ、ああ……」ガックリ

牛頭「がっかりしてないで、お前は自分の罪を悔いてろっての……よっ!」ドスゥ

亡者「ぎゃあああああ!」

馬頭「おお、いい悲鳴だねえ。やっぱ地獄はこうじゃねえとなあ!」ゴギャッ

牛頭「今度からはああいう特別ゲストは招かないほうがいいな。他の亡者も裸の女にいろめきだってたし、なあ!」グシャッ

馬頭「そうだな、変に希望を持たせるような対応は良くねえな」ドシュッ

牛頭「地獄だもんな、ここ!」

牛頭馬頭「ぎゃははははは!!」


 * 花畑 *

時雨「随分長い間、話し込んでたと思ったら、そんなことがあったんだ……」

提督「まあな。あとはあそこの利根たちが、まともな鎮守府に行ければいいんだが」

提督「そこの獄卒が言うには、目的地まで花が道を開けてくれて、俺達が行きたい場所に案内してくれるらしい」

時雨「そうなの?」

提督「ああ、試してみようか」スクッ

提督「現世に戻る道はどっちだ……?」スッ

 花<ザワッ

 花<ザザザザァ…ッ

提督「おお……すげえ」

時雨「道が開けた……本当に花が避けてくれてる」

提督「よし、そうと決まりゃあ、行くとするか。時雨もいいか?」

時雨「うん!」

というわけで、今回はここまで。

書き始めた頃はこんな設定がなく、書いてる間に二転三転してましたが、
この形がしっくりきたので提督の正体はこんな感じです。

今回もフラグ回収編です。

続きです。


 * *

提督「行けども行けども同じ景色だな」

時雨「道ができてるとはいえ、進んでいるのかもわからないくらいまっすぐだね」

提督「ったく、どこまで行けば……ん?」

時雨「……女の子の声、かな?」

提督「……」

時雨「なんだか泣き叫んでる感じがするね」

提督「聞き覚えのあるような声じゃねえが……ちょっと行ってみるか」

時雨「あっ、提督待って!」タッ

 * *

「やーだーーー! いっしょにいるのーー!!」ビエェェェン

スキンヘッドの壮年男性「これはどうしたものか……」

小太りの中年男性「このまま見過ごすわけにはいかんでしょう」

壮年「……しかし、これはどう手を付けたらいいか、わからんぞ」

中年「あの抱きかかえた艦娘をどうにかせねばなりませんな……」


時雨「なんだろう、誰かいるね?」

提督「行って見てみるか?」

時雨「うん、そう……待って。提督はここにいて」

提督「なんでだよ」

時雨「提督、自分の見た目が深海棲艦なの、忘れてる?」

時雨「その姿で人前に出てきたら、女の子が逃げると思うんだけど」

提督「……わかったけどよ……任せていいのか?」

時雨「うん。僕に任せてよ」

 スタスタ

時雨「ん?」

時雨「んんん??」タラリ

大きな女の子「うわぁぁぁぁんん!!」

 (身の丈4メートルあろうかという5歳児くらいの巨大な少女が人形?を抱えて座っている)

時雨(……遠近感が無茶苦茶だよ……こんなに大きいだなんて思わなかったじゃないか)タラリ


壮年「ん? お前は……」

中年「あれは……見覚えがありますな。ああ、君! もしかして、君は艦娘じゃないか?」

時雨「え? あ、はい、そうだけど……この熊より大きいサイズの女の子は……?」

中年「申し訳ないが我々も良く知らないんだ。泣き声につられてきてみれば、我々の話を聞かずに泣きっぱなしでね……」

壮年「否、話はしたのだ。だが、この娘は聞く耳を持たん」

中年「言い方が悪いのですよ! このくらいの子にはもう少し優しく声をかけてあげないと!」

時雨「……僕が、話してみようか?」

中年「お願いできるかい?」

壮年「……気を付けてくれ」

時雨「……」コクン

 ジリ…ッ

時雨「やあ、こんにちは」

女の子「ぐす……なあに? あなたも、このこをとりあげにきたの?」

時雨「この子? 君の持ってる、そのにんぎょ……う!? ま、待って! その人形、良く見せて……」

女の子「……あなたも」

時雨「……っ」ゾク


女の子「あなたも、しょうかくをとりあげようとするの!?」

時雨「そ、それは」

女の子「こないでえええ!!」ブンッ

時雨「うわっ!?」バッ

女の子「しょうかくは、わたしのものなの! こないでよおおお!!」ブゥンッ

時雨「……やばっ……!!」

提督「時雨危ねえ!!」バッ

 ドガッ

提督「ぐお!?」ブットバサレ

時雨「い、いたた……提督!?」

提督「うぐ……」ゴロゴロ…ドサッ

時雨「提督、大丈夫かい!? 僕を庇って……!」

提督「くそ……痛くはねえが、頭がグラグラしやがる……時雨は大丈夫か」

時雨「う、うん、大丈夫……!」

提督「なあ、あいつが抱えてる人形、艦娘じゃねえのか? 『しょうかく』とか呼んでなかったか?」

時雨「……そうだね。あれは、翔鶴型航空母艦の一番艦、翔鶴さんだ……!」


中年「な、なんだ!? 深海棲艦が艦娘を庇っただと!?」

壮年「軍服を着ているぞ……何者だ」


女の子「だれにも……だれにも、しょうかくは、わたさない……!!」

翔鶴「……ぐぅ……!」ギリギリッ


提督「……ったく、どういうことだよ」ジロッ

女の子「……なあに? まだ、わたしたちをいじめるの?」グスッ

時雨「提督、睨んじゃ駄目だよ!」

提督「ちっ、やべえな、警戒されてら……こっちからは手ぇ出してねえだろうがよ、くそが」

時雨「……その提督の言葉遣いが一番良くないと思うんだけど?」

??「あら? もしかして……司令官?」

提督「あん?」フリムキ

??→暁「ひいっ!? し……深海棲艦っ!?」

提督「暁!? なんでお前がこんなところに!?」

暁「……え!? あ、あなた、私を知ってるの!? もしかして本当に、墓場島の、提督少尉なの!?」

提督「……参ったな、マジでうちの暁かよ……」


暁「参ったのは私の方よ!? 司令官が深海棲艦になっちゃうなんて……!!」プルプル

提督「それは俺も知らなかったんだから我慢しろ。そんなことよりここから離れろ、危ないぞ」

暁「え?」


女の子「……」テイトクニラミ


提督「くそ、あの図体で暴れられちゃたまったもんじゃねえ。隙見て逃げなきゃ……」

暁「あれは……あの子は」

提督「!? おい、暁!? 近付くな!」

時雨「暁!!」

暁「私、あの女の子、知ってるわ……」

提督「はあ!?」

時雨「どういうこと!?」

暁「……私、どうして忘れてたのかしら」


女の子「……」

暁「……ねえ、あなた、I提督でしょう?」

提督「!!」


中年「て、提督!?」

壮年「I提督……だと!?」


女の子「……」

暁「私、思い出したの。あなたのこと」

暁「だって、私にいろんなことを教えてくれた、最初の司令官だもの。忘れちゃったりしたらいけないわよね」

暁「だから……忘れてて、ごめんなさい」ペコリ

女の子「……え……?」

暁「ねえ、I提督……ううん、司令官!」

女の子「……!」ビクン

暁「司令官は、私のこと……暁のこと、覚えてる?」

女の子「……あ、か……」


暁「私、司令官を一目見て、素敵な女性だと思ったの。司令官は、暁が見習わなくちゃいけない、理想なレディーだって」

暁「思った通り、司令官とのお話は、本当に楽しかったわ。いろんなことを教えてもらったし」

暁「レディーになるための普段の振る舞いとか、心がけとか……私の悩み事とかも! たくさんたくさん、聞いてもらったわ!」

女の子「……」

暁「それなのに、忘れちゃってて……本当にごめんなさい」

暁「なんで忘れてたかっていうと……怖かったんだと思う。司令官と一緒にいるのが楽しかったから、余計に思い出したくなかったんだと思うの」

提督「……」

暁「司令官は覚えてるかわかんないけど、あの時、私は……司令官が怖くて逃げだしたの」

暁「たくさんの深海棲艦に囲まれて、鎮守府もたくさん攻撃されて」

暁「それで、司令官がずっと悩んでたの、私、覚えてるわ。資材がなくなって、補給もままならなくなって」

女の子「……う、あ……」

暁「それでも翔鶴さんが無理を押して出撃して、翔鶴さんが大破してぼろぼろになって……司令官が、ちょっと、おかしくなっちゃって」

暁「そのあと……私、見ちゃったの。司令官が、翔鶴さんを……翔鶴さんのからだを、切り裂くところを」

提督「……!」

暁「ねえ、どうしてなの!? そんなに翔鶴さんを大事にしてたのに! 今だって、大事に翔鶴さんを抱きしめてるのに……!」

女の子「……ア、カ、ツキ……! う、ううう……!」


暁「どうして、あんなことをしたの!? 司令官……暁に教えて」

暁「司令官は、暁のお話をちゃんときいてくれたわ! 暁も、司令官が困っていたら、お話を聞いてあげたいの!」

女の子「……」

暁「お願い、I提督……司令官!!」

女の子「……ママの……」

暁「……」

女の子「……ママの、おかおが、なくなっちゃったの……」

暁「……!?」

女の子「けーさつのひとがね、ママのおかおを……だれかが、もっていっちゃった、っていうの……」プルプル

暁「……!!」

壮年「……っ!」

女の子「ママにあえなくて、さびしくて、かなしくて……」

女の子「すきなひとのおかおが、なくなっちゃうのは、いやなの……!」

女の子「しょうかくは、すき……すきなひと。わたしの、たいせつなひと……」

女の子「だから、どこにも、いかないように……だれにも、とられないように……!!」ギュ…

提督「……だから、翔鶴の首を……!」


暁「……駄目よ……そんなことしちゃ、駄目よ」ウルッ

女の子「……」

暁「司令官は、人の心を思いやれるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない」

暁「司令官は、人の痛みがわかるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない……!」ヒシッ

女の子「……あ……」

暁「そんなふうに、きつく抱きしめたら、翔鶴さんが痛いって、いつもの司令官ならわかるはずよ……!」グスッ

暁「お願い! 翔鶴さんを……翔鶴さんを助けてあげて!」

女の子「あああ……!!」

暁「司令官……! 思い出して! 司令官っ!!」ギュウ

女の子「あ、あああ、ああああああ!!」

 ゴォッ!

中年「突風が……!」

提督「……な、なんだ……?」

時雨「見て、女の子が……!」


女の子「し、しょうかくぅ……!」チンマリ

翔鶴「う……」フラッ

暁「翔鶴さん大丈夫!?」ガシ

翔鶴「え、ええ……ありがとう、暁ちゃん」

提督「元のサイズに戻った……のか?」

時雨「みたいだね……」

女の子「ごめん、なさい……ごめんなさい、しょうかく……」グスグス

翔鶴「……I提督」

女の子「いやだったの……しょうかくが、どこかにいっちゃうのが、いやだったの……」グスッ

女の子「うみのそこにしずんだら、あえなくなっちゃう……それが、いやだったの……!」

女の子「はなればなれに、なりたくなくて……ごめんなさい……ごめんなさい!!」ボロボロボロ

翔鶴「I提督……私こそ、申し訳ありませんでした」

翔鶴「あなたの言う通りにしていれば、私も大破しなかったかもしれなかったのですから……」ダキヨセ


翔鶴「I提督……これからはずっとお傍にいますから、安心してください」ナデナデ

女の子「しょうかく……しょうかくうう!!」ウワーン

提督「いいのかよ、安易にそんなこと言って」

翔鶴「……私は、I提督から愛情にも似た信頼を寄せられていたことを、日々感じていました」

翔鶴「この人を全力で守りたい。そう思ったからこそ、あの日私は、I提督の制止を振り切り、深海棲艦と戦ったんです」

翔鶴「結果的に大破して、このようなことになってしまいましたが……これはI提督の命に背いた私への罰ですから」

提督「……ったく、このお人好しめ」ハァ

暁「翔鶴さん……」ウルッ


壮年「I提督は30歳近いはずだったが……」

時雨「あなたは、I提督を御存知なんですか?」

壮年「私は直接の面識はないが、私の姉が彼女を知っている。一時期、姉が彼女の面倒を見ていたからな」

中年「そ、そうなのですか!?」

壮年「姉とその息子が警察官なのだが……姉経由で、甥がストーカー殺人の捜査に参加することになったことを聞いたのだ」

壮年「犯人が被害者の首から上を持ち去るという猟奇的な犯行でな。その被害者の第一発見者が、被害者の娘だったそうだ」


暁「……それが、I提督なの……?」

壮年「そうだ。事件の捜査中、彼女を預かってくれる親戚筋が見つかるまでの間、私の姉が彼女の面倒を見たのだ」

壮年「その子が海軍で艦隊の指揮を執ると聞いたとき、不思議な縁を覚えたものだった。それが……あのようなことになろうとは」

中年「子供の姿になっていたのは何故なのでしょう……」

提督「ショックで幼児退行でも起こしてた、とかじゃねえか? それか、その齢まで巻き戻ってやり直したかった、とかな」

中年「……なるほど……」

提督「そういや、父親はどうしたんだ? 母親が死んだときに引き取らなかったのか」

壮年「父親も事件の数年前に事故死している。その事故も犯人が仕組んだものではないかと言われていたが、証拠はない」

壮年「事件当時はストーカーという言葉もなく、好きな人間を殺そうとする心理がわからず犯人と見られていなかったのも災いした」

提督「……そういう話かよ」

壮年「犯人は、被害者の首と一緒に焼身自殺を図ったが、その前に捕まった。終身刑が言い渡され、今も存命のはずだ」

提督「あぁ? 刑務所で遊ばせてんのか? とっとと殺しゃあいいものを」

壮年「私はそれで良かったと思うぞ。奴は、死んで被害者と同じところに行こうとしていたのだ」

壮年「わざわざ殺してやって、それで犯人が望み通りになって喜ぶほうが私は面白くない」フンッ

提督「ああ、なるほど……そりゃ確かに」


壮年「それに……誰かが裁いて殺して終わりというのも、それはそれで味気ないものだ」

中年「それは……お察しいたします」

提督「……?」

壮年「まあ良い。この場を収めてくれたことには礼を言おう。だが、それよりも」ジロリ

壮年「貴様だ。墓場島の、提督少尉と言ったな?」

提督「……ん? あ、ああ」

壮年「貴様、未だに少尉なのか。あれからどのくらい経ったと思っている? なんの手柄も立てておらんのか」

提督「は?」

中年「そちらですか!? せめて外見を指摘なさるべきでは!?」

壮年「馬鹿者、どうせこの姿もこの男の心根の表れだろう! 些末なことだ!」

中年「些末じゃありませんよ! 深海棲艦ですよ!? いたずらに刺激しないでくださいよ!」

時雨「ねえ提督? このふたり、もしかして、提督のことを知ってるんじゃない……?」

提督「そうっぽいな……俺に関わりある時点でろくでもねえ話なんだろうけどな」

中年「ろくでもないとは何事だ!!」クワッ

提督「うおっ」


中年「私がどんな思いでお前に五月雨を託したか! 貴様に何がわかる! やはり所詮は深海棲艦か!」ウオオオ!

時雨「今、いたずらに刺激するなって言ってたよね」

壮年「言っていたな」ウム

中年「中将殿!?」

提督「……五月雨? 中将? お前らもしかして……五月雨送って来たP少将と、金剛送ってきたQ中将か?」

壮年→Q中将「! ああ、その通りだ」

中年→P少将「我々のことを知っていたか……面識はないよな?」

提督「あぁ!? 忘れてられっかよ! あんな面倒臭え形で五月雨押し付けやがって! ちゃんと憲兵隊長から引き継ぎしたんだぞ!」クワッ!

提督「死にたがってたあいつを落ち着かせて納得させるのに、どんだけ回りくどいことしたと思ってんだ、くそが!」

P少将「お、おお!? それはすまん……」

提督「中将も中将だ! あの金剛を一方的にこっちに送り付けやがって……あいつに落ち度はなかっただろうがよ!」

Q中将「……そうかもしれん。だが、あの金剛は、私とはあわん」

提督「ああ?」

Q中将「あの金剛は、私には毒だ。すぐ抱き着くわ、Loveだなんだと喚くわ、時間と場所というものを理解しておらん」

Q中将「既婚者にああいった態度はよせと、私は何度も説教している」

提督「あいつ、弁まえてたとか言ってやがったのに、全然そんなことなかったんじゃねえか!」アタマカカエ


Q中将「妻が食堂で働いていることも知っていた。それをそれとなく会わせられるように画策したり……」

Q中将「息子の死以来、私と妻がぎこちないからその仲を取り持とうとしていたんだろう。そんな余計なことなど、しなくて良かったのだ」

提督「……やれやれ、半分はあってんのか」

Q中将「それで、金剛とはどうなんだ」

提督「どうって、何が?」

Q中将「金剛と契りを結んだのかと訊いている」

提督「してねえよ。ただでさえ資材不足の島なのに、戦艦をほいほいとリミッターまで訓練できるわけねえだろ」

Q中将「カッコカリの話ではない! あの器量良しの金剛を受け入れられんというのか!?」

提督「何言ってんのかわかんねえ」

Q中将「まったく、ここまで甲斐性なしの根性なしだったとは……!」

提督「だから意味がわかんねえっつうの。根性は関係ねえだろ」

暁「……ねえ、Q中将さんは、金剛さんを提督のお嫁さんにしてあげようとしてたってことなの?」

Q中将「そうだ」

提督「」ピシッ

時雨(提督の顔にひびが……)


Q中将「貴様の噂は何度か耳にしていたからな。轟沈を経験した艦娘と暮らすとあっては、命がいくつあっても足りんだろう」

Q中将「おまけに建造した大和が問題児だと聞いている。貴様の身を守り、世話を焼くものが一人くらいいたほうが良いと思って金剛を送ったのだ」

Q中将「正直なところ、あの金剛は、息子が存命であれば引き逢わせてやりたいと思ったほどだ。そこまで言わんとわからんのか貴様は」ジロリ

提督「おいおい……余計なお世話すぎるぞ、このジジイ」ウヘァ

時雨「この人もなんだかんだ言ってお節介焼きだね」ヒソヒソ

提督「ま、いいけどよ。あの時は金剛がいてくれたおかげで五月雨が大人しくなってくれたんだから、感謝してねえわけじゃねえ」

P少将「五月雨が!?」

提督「ああ。あいつが俺んとこに来た時は、憲兵に噛み付いたせいで猿轡までさせられて来たからな。くっそ凶暴だったんだぞ」

提督「おまけに、島の艦娘借りてレ級退治に行かせろって、あんたと同じこと言ってたんだ。落ち着かせるのに苦労したんだからな?」

暁「そういえば五月雨、金剛さんにあやされてたわね……」

P少将「なんと……こんなところでまで中将閣下にお世話になっていたとは」

提督「あいつに頭撫でられると、なぜか歯向かう気がなくなるからな……今思っても、あの時いてくれて良かったと思うぞ」

P少将「五月雨……」

提督「五月雨には、あんたの手紙を渡しといた。あんたは自分を憎むよう仕向けてたようだが、そうはなってないから、安心しろ」

提督「それから、憲兵の隊長にも感謝しとけよ。五月雨の身柄を引き継ぐ俺のために、手の込んだ資料作って持ってきたんだからな」

P少将「そうか……すまない。本当にありがとう、恩に着る」フカブカ


Q中将「解せんな。そこまで気遣いできる男が、あの金剛を受け入れんとは」

提督「面倒臭えから嫌なんだよ、そういうの」

Q中将「」

P准将「」

時雨「……」

暁「司令官!! そういうところよ!? そんなことまで面倒臭がらないの!!」プンスカ

提督「面倒臭がって何が悪いんだ。俺は、俺抜きであいつらに幸せになって欲しいんだよ。艦娘が、人間なしでも暮らせるようになって欲しいんだ」

提督「人間嫌いが人間社会にいたって、そのうちろくでもない事態になることくらいわかるだろ?」

提督「俺が現世に戻ろうとしてるのも、その道筋をしっかりつけるためだ。俺のけじめをつけるためだ……!」

提督「魂も半分深海棲艦なんだぞ? 艦娘に迷惑かけたくねえってだけなんだよ!」

Q中将「だったらまっとうに生きればいいだろうに。艦娘に好かれていると理解しているのなら寄り添えというのだ」

提督「俺に結婚願望はねえよ。両親が最悪のくそなんで、遺伝子を残したくねえ。俺の家系なんぞ死に絶えちまえと思ってる」

提督「ついでに言えば性行為も無理だ。そういう漫画見ただけでゲロ吐くような男が、女と幸せな家庭なんてできるわけねえ」

Q中将「……」

P少将「……」


時雨「でも、EDは治ったよね?」

提督「……」

時雨「それが治ったのは艦娘と一緒にいたからじゃないの?」

提督「……」

時雨「それから、肉体も人間じゃなくなったから、遺伝子も全部変わったんじゃない?」

提督「……かもしんねえけどよ」

Q中将「それはどういうことだ!?」

P少将「体も深海棲艦になったのか!?」

提督「深海化はしてないが……ただの人間じゃなくなってはいるな。メディウムとか説明してもわかんねえだろ」

P少将「……めでぃ……?」カオヲ

Q中将「……確かによくわからんな」ミアワセ

翔鶴「あの、少しよろしいでしょうか」

女の子「えっと……」(←翔鶴に抱きかかえられ中)

P少将「お、おお、どうしたね」

Q中将「だいぶ落ち着いたようだな」


暁「翔鶴さん、大丈夫?」

翔鶴「ええ。暁さんに、I提督が聞きたいことがあるんだそうです」ニコ

暁「司令官が?」

女の子「……あかつきちゃん……このひと、こわく……ない?」

暁「!」

女の子「あかつきちゃんは、このひとに、こわいおもいを、していない?」

暁「……全然! 怖くなんかないわ!」ニコッ

暁「私たちが悪いことをすれば怖いけど、そうじゃなければお話も聞いてくれるし、暁たちのいいところも褒めてくれるわ!」

暁「私が鎮守府に来た時はずーっと怖い顔をしてたけど、このごろはそうでもなくなったし……」

暁「自分のことをすごく悪く言うところだけは嫌いだけど、そこ以外は、とってもいい司令官よ!」ニパッ

Q中将「……」

P少将「……」

提督「……」アタマガリガリ

女の子「あかつきちゃん……」

翔鶴「良かったですね、I提督」


女の子「そうね……それなら、おわかれしてもだいじょうぶね」ニコ

暁「……え?」

 ザワザワザワッ!

(足元の花が一斉に動いて道を作る)

(Q中将とP少将、I提督を抱えた翔鶴の道が一方へ伸びて)

(提督と時雨、暁の道は別の方向へ伸びていく)

暁「あ……!」

女の子「あかつきちゃん」ストッ

女の子「あかつきちゃんは、まだいきてるの」テクテク

女の子「だから、わたしとはここでおわかれ」

暁「しれい、かん……」ポロポロッ

女の子「おもいだしてくれて、ありがとう」ダキツキ

女の子「わたしは、あなたのしあわせをねがっているわ。さようなら、マイ・フェア・レディ……!」ギュ…

暁「司令官……ありが、とう……!!」ボロボロボロ


Q中将「……我々も、征かねばならんか」

P少将「そのようですね……」

提督「……」

Q中将「貴様に丸投げするようで悪いが、金剛のことは頼むぞ。それから、少し貴様自身のことも考え直せ」

P少将「五月雨のことも、よろしく頼む……私の無念は背負わなくていい。無事でいて欲しいと、伝えてくれ……!」

提督「俺のことはともかく……あいつらは悪いようにはしない。あいつらにとって、一番良いようにするつもりだ」ケイレイ

Q中将「……」ケイレイ

P少将「……」ケイレイ

提督「ふー……さて、俺たちも行くか」クルッ

時雨「うん」

翔鶴「少尉さん」

提督「ん?」

翔鶴「暁ちゃんのこと、よろしくお願いします。川内さんや響さんたち、かつての鎮守府の皆さんにも……もし出会うことがあれば、どうぞよしなに」

提督「……ああ、わかった」

女の子「あかつきちゃん、ばいばい……!」フリフリ

暁「……っ! ば、ばいばい……!!」ブンブン


 * *

暁「……ぐすっ、うっ……」ボロボロ

提督「暁、大丈夫か? 泣いててまともに歩けないなら背負ってくぞ?」

暁「っ、い、いいわ……だいじょ……ふぐっ、うううっ」グズグズ

提督「思いっきり泣いてすっきりしたほうが良くねえか?」

暁「……だい、じょぶだ、って……泣いてなんか、いられ、ないわ! ぐずっ、I提督が、心配しちゃうでしょ!?」

提督「……そうか。それもそうだな」

時雨「ねえ、提督こそ、少し急ぎすぎなんじゃないかな?」

提督「かもしれねえけどよ……あんなの見せられちゃあ急ぎたくもなる」

暁「? どういうこと?」

提督「今の俺たちは幽霊と同じで、体から魂が離れてる。魂が抜けた体ってのは死んでんのと同じだろ?」

提督「俺たちがここに長居すればするほど、あいつらを心配させてるってことになるなら、急いだほうがいいよな」

暁「それは、そうね……」

時雨「……」

提督「それはいいとして、暁はなんでここに来たんだ? お前も死にかけたのか?」

暁「なんで……うーん……確か、島の鎮守府が、燃えているのを見たとき……だったと思う」


暁「I提督の鎮守府も、深海棲艦の攻撃で燃やされたの。それを思い出したときに、頭が割れそうなくらい痛くなって」

暁「それで、気付いたら、ここにいたのよね……なんでか、わからないけど」

提督「……もしかしたら、だが」

暁「うん……」

提督「お前がI提督の鎮守府で起きたことを忘れたいと思うほどのときと、同じくらいひどいことが起きて……お前自身が耐えられなくなったのかもな」

提督「それか、I提督が、あるいは翔鶴が、無意識にお前を呼んだのかもしれねえ。一緒に来ないか、って」

提督「お前も、I提督の鎮守府のことを思い出したからこそ、その呼びかけに応えて、ここにきた……って話は、どうだ」

暁「……」コクン

提督「ま、どっちが正解かはどうでもいいか……良かったな暁、あの二人に会えて」

暁「……っ!」

提督「あの二人も、お前の様子を見て笑ってたもんな」フフッ

暁「んぐ……うっ」ブワッ

時雨「……提督。女の子を泣かすのは感心しないよ?」

提督「別に泣かせたくて言ったわけじゃねえよ。思い出させたのは悪かったけどよ……」

提督「でもまあ、そうか。好きな相手を、見送ったんだもんな。そう、なるか……」


時雨「提督? そこで僕の顔を見て、何を思ったの?」ムー

提督「……」

時雨「提督!?」

提督「なんでもねえよ。お前が聞いた質問に、死にたいと答えなくて良かったって、ちょっと思っただけだ」

提督「俺が死んで、あいつらがどんな顔するか考えると、ちょっとバツが悪ぃな、ってよ……」

提督「お前のときの扶桑や山城も、そうだったしな……」

時雨「……!」ジワッ

提督「いや、悪ぃ。泣かせるつもりは……」

 ――……れ……さま

時雨「!」

 ――しぐ……さ……

時雨「エフェメラ!?」

提督「どうした、しぐ……」

 ――しぐれさま……!

提督「うお、なんか聞こえてきた……なんだこの声」

暁「司令官も? 時雨のこと、呼んでるわよね?」

時雨「え!? ふたりにも聞こえるの!?」

提督「お、おお……もしかしてこいつがエフェメラって奴か?」

 ――聞こえるのですね……? そのまま……お進みください……

時雨「行こう、声の方へ!」

提督「そうだな、暁も行けるか?」

暁「大丈夫よ!」

というわけで今回はここまで。

お待たせしました、続きです。


 * *

(花畑の真ん中に、大きな黒い穴が開いている)

提督「おお……なんかすげえことになってんな、こりゃ」

暁「ここだけ地面がとけてるみたい……」

時雨「穴の中はまるで雲の中みたいだね。真っ黒で、稲光も見えるよ」

提督「なのに音が全然してこないのが不気味だな」

 ――時雨様……

時雨「エフェメラ!」

 ――ここまで、魔神様を導いていただき、ありがとうございました……

提督「この声の主がエフェメラか……」

暁「ねえ、エフェメラさんってどこにいるの?」

 ――私の躯は、遥か彼方……皆様とお目見えすることは、かないません……

 ――されど……私の声が、魔神様に届いていること……喜ばしく、思います……

提督「……礼しか言えねえってか」チッ

時雨「そうだとしても、提督、ちゃんと労ってあげなよ」

暁「そうよ、ここまでしてくれてるんだから、お礼を言わなきゃ!」


提督「……おい、エフェメラ」

暁「言い方!!」プンスカ!

提督「しょうがねえだろ、俺はいつもこんなんだ……おい、エフェメラ」

 ――魔神様……

提督「お前の望みは何だ?」

暁「……なんでそんなことを聞くの?」

提督「礼を言うだけじゃ物足りねえと思ったからだ。せめてなにか、ひとつくらい借りを返してやんねえとな……」

時雨「提督らしいね」フフッ

 ――私の……

提督「ああ、そうだ。お前の望みを言え」

 ――私の望みは……

 ――魔神様の……望みがかなうこと……!

提督「……」

 ――あなたの望みこそが……私の望み……

 ――あなたの願いこそが……私の願い……!!

提督「……」


暁「司令官みたい」ボソッ

時雨「そうだね。似た者同士だ」

提督「なんなんだよまったく……」

 ――私の力が……魔神様の幸せのために使えるのならば……これ以上の、喜びはありません……!

提督「なんでこういう奴ばっかりなんだよ……やめてくれよ、本当によ」アタマガリガリ

暁「司令官が両手を使って頭をかくところ、初めて見たわ」

時雨「そうとう照れてるんだね」

提督「観察してんじゃねえよ! ったく……」

提督「とにかく、この穴に落ちれば現世に戻れる、っつうか、俺たちが元の肉体に戻って生き返られるわけか?」

 ――その通りにございます……

時雨「そっか。じゃあ、僕はここでお別れだね」

提督「!」

暁「えっ、どうして!?」

時雨「僕は、もう死んでるからね。僕の体も、墓場島に埋めてもらったけど、今は溶岩の中じゃないかな」

暁「あ……!」


 ザワワワワワッ!

提督「な、なんだ!?」

暁「ね、ねえ、お花が一斉に逃げちゃったわ!?」

時雨「なにがあったんだろう……」


??「見つ、けた……」ズルッ


提督「誰だ……!?」フリムキ

時雨「!」

暁「ひっ……!? な、なにこれ!? ヘドロのかたまりみたいなのが……喋ってる!?」

??「見つけたぞ……! 今、墓場島と言ったな……!」

??「やっぱり……あの島の提督は、悪い奴だったんだ……」ビチャッ

提督「ああ? なんだこいつ?」

??「忘れたとは言わせないぞ……おまえのせいで、俺たちは死んだんだ……!」ベチャア…

提督「なんだそりゃ」

??「とぼけるな!! よくも、俺たちを殺しやがってぇ……!!」

提督「だから誰だよお前は……」


時雨「……ねえ、この人、もしかして、島で死んだテレビ局のスタッフじゃないかな?」

提督「テレビの……ああ、土左衛門になった奴のどっちかか?」

??→クルー3「ふざけた奴め! 俺たちを殺しておいて、覚えてすらいないって言うのか!!」

提督「死んだのはお前のせいだろ。なんで俺に責任を押し付けてんだよ」

クルー3「まだとぼけるのか! 深海棲艦の仲間を使って、俺たちを殺した裏切り者めぇ!」

提督「ル級のことか? それだったら俺はあいつにお前を殺せなんて頼んでねえし」

提督「お前がル級の気に障るようなこと言ったんじゃねえのか? それ以前に俺は島から出てけって最初から言ってたろ」

提督「その忠告を無視し続けたお前の自己責任だろうが。なんでもかんでも他人のせいにすんじゃねえよ、くそが」

クルー3「黙れ黙れぇえ! 極悪人の分際でぇええ! お前こそが、死ぬべきなんだあああ!」

クルー3「轟沈した艦娘が深海棲艦になるなんて噂を利用して、艦娘を私物化してたくせに……!」

クルー3「艦娘は、正しい人間に使われるべきなんだ! お前みたいな深海棲艦が、艦娘を利用するなああ!!」グゴォ!

提督「……ああやだやだ、なんかくっそ面倒臭え奴に絡まれたぞ、こりゃ」ハァ

暁「ね、ねえ……早く誤解を解いた方がいいんじゃない? 司令官が悪者ってわけじゃ……」アセアセ

クルー3「深海棲艦が正しいわけがあるかあああ!」グワッ!

暁「……」ドンビキ


時雨「とりつく島もなさそうだね……」

提督「いるんだよなあ、自分の主張が正しいと盲信して、他人ぶん殴りながら被害者ぶる奴」

時雨「……ずいぶん具体的だね?」

クルー3「お前みたいな奴を、みすみす生き返らせてたまるかああ!!」

クルー3「俺が退治してやるううう! 地獄に落ちろおおおお!!」グワッ!

暁「な、なによそれええ!?」

提督「暁、時雨、下がってろ」

クルー3「お前が、艦娘に命令するなあああ!!」ビャッ!

提督「うお!?」バッ

時雨「うわっ!?」バッ

提督「なんだあ? ヘドロ飛ばしてきやがった……!」

時雨「ちょっと提督! こっちに飛ばさせないでよ!」

提督「お前こそ俺の後ろに陣取るなよ!」タタッ

クルー3「逃げるなああ!」ブンッ!

提督「場所変えようってんだろうが! つうか、それ以前に触りたくねえな、くそが……!」


 ――魔神様……私の力を……!

 (地面に空いた穴の中から、赤青黄色の三色の光が飛んできて、提督の体に入り込む)

提督「……これは……!?」

 ――魔神様……私の力を……どうか、お使いください……!

提督「……!」

暁「司令官! 危ないっ!!」

クルー3「死ねえええ!」グワッ!

 キュワワワワワ…

クルー3「え?」フワッ

暁「な、なにあれ?」

 UFO<キュワワワワワ…

 (突如現れた小さなUFOがクルー3の体を持ち上げる)

クルー3「は、放せぇえええ!?」ジタバタ

時雨「ユ……UFO?」ポカン

暁「UFOが、泥のお化けを捕まえちゃった……」

クルー3「な、なんだこりゃああ!?」


提督「なるほど……使えるな」

 ――ああ……魔神様……!

提督「……助かった。早速使わせてもらったぜ、お前の力」

暁「あ、あのUFO、司令官が呼んだの……!?」

提督「おう。これも魔神の力らしい。もともとメディウムたちも、魔神の力のひとつなんだが……」

提督「それが分離して自由意思を持つようになった。ま、お前たち艦娘と似たようなもんだと思ってくれていい」

時雨「じゃああのUFOも……」

提督「そのうちメディウムとなって俺たちの前に現れるかもな」

提督「まあ、それはさておいて、だ」ジロリ

クルー3「ち、ちくしょう、放せぇええ!! この、化け物があああ!!」ジタバタ

提督「……化け物ねえ。お前だって、十分化け物だと思うがな?」

クルー3「そんなわけがあるか!!」

提督「いやいや化け物だろ、つまんねえ謙遜すんな。そんな姿で私は人間ですとか言えたもんかよ」

クルー3「いいや、俺は人間だ……!」

提督「俺たちはここで、さっき別の人間たちと出会ってきたんだが、そいつらは少なくともお前みたいな姿はしていなかったぞ?」


提督「ここにいる艦娘の二人だってそうだ。生前の姿のまま、ここに存在している」

提督「俺は人間の器に深海棲艦の魂が入ったからこんな姿なんだが、偉そうに言ってるお前の今の姿はどうなんだ?」

クルー3「……俺は……『俺たち』は……!」ガクガク

時雨「……なんか様子が変だよ?」

提督「それなんだが、あのクルーの魂に変な混ざり物が見えるんだよ」

暁「混ざり物?」

提督「ああ、どうもエフェメラから魔神の力を受け取った拍子に魂というか正体が見えるようになったみたいなんだが……」

提督「どうも似たような思想の魂を引き寄せて合体してるみたいなんだ」

時雨「……じゃあ、あのクルーの魂には、全然関係ない魂も混ざってるってことかい?」

提督「おそらくな。他人の主張に乗っかって、自分の不満もどさくさ紛れに晴らそうって連中とか」

提督「その騒ぎそのものを面白がって、面白可笑しく便乗拡散する連中、現実世界でもいるだろう?」

時雨「それもまた具体的だね?」

クルー3「……俺たちは……オ、オレタチハァァァアガアアァ!!」

暁「司令官!? 余計に話が通じそうになくなってるんだけど!?」

提督「ちっ、不純物のほうが強かったか。じゃあ仕方ねえ」


 (何もない空間から現れる発射装置)

暁「! な、なにその機械!?」

時雨「空中に何かの発射台が……!」

提督「カオリ・ボールスパイカーってメディウムがいたろ? あれのサッカーボール版だ」

 キックオフ<ズバァン!

クルー3「グエェエ!?」ドゴォ!

 ゴロゴロ…ベチャッ

提督「そんでお次は……」

 オクトパスアーム<ヴジュルルラァ!!

クルー3「ヒ、ヒギャアアア!?」ジュルジュルジュル!!

暁「ひいいい!?」ビクッ

時雨「うわ……!」

提督「クラーケンじゃねえから安心しろ。あのタコ足であいつを一箇所にかき集めて……」

時雨「な、なんでかき集めるの?」

提督「これ以上あいつらの魂が拡散しないようにだよ。で、とどめはこいつだ」バッ

 キューブフリーザー<グォングォングォン…


暁「な、何か四角い機械の箱が降りてきたわ!? あれも司令官の罠なの!?」

提督「ああ、まあ見てろ」

 キューブフリーザー<ゴォォォォ!

時雨「……静かになったね?」

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

暁「……上に上がって行っちゃった」

クルー3「」カチンコチン

時雨「綺麗に氷漬けになったね……」

提督「……今更だが、魂だけの世界でも罠の力は通用するんだな」

暁「司令官、この人どうするの?」

クルー3「……」カチンコチン

提督「こんなの誰かに処分してもらうしかねえな。どこへ持ってったらいいか、誰かわからねえかな?」

時雨「この氷を運んで、また人を探すの?」

提督「いや、この氷塊は凍らせ方が特殊だから、ちょっと強い力で押してやると、そっちへつるつる滑っていくようにできてる」

提督「だから、ゴール地点まで一直線に滑られてやることができれば、俺たちが運んでいく必要はない」


時雨「……ということは、また花に聞いてみるといいのかな?」

 ザザザ…!

提督「お、察してくれたみたいだな」

暁「……ねえ、おかしいわ? お花が近づいてこないわよ?」

提督「んん? そうだな……あ」

暁「どうしたの司令官」

提督「暁……お前、動くなよ……!」ジロリ

暁「え……?」

 (提督の頭上の何もない空間からマシンガンが現れて、暁に銃口を向ける)

暁「し、司令官!?」

時雨「提督!?」

提督「……踊れ」

 マシンガンダンサー<ダララララララ!!

暁「きゃああああ!?」ピョンピョン(←暁の足元を機銃掃射)

時雨「て、提督!? 暁を撃つとか、何を考えてるの!?」


提督「……」

暁「し、し、司令かああああん!?」ピョンピョン チュインチュイン

提督「……よし、こんなもんか」

 マシンガンダンサー<ピタッ

暁「し、司令官!? 一体何を考えてるの!?」プンスカ!

時雨「暁に当たったらどうする気だったの!?」

提督「安心しろ。ありゃあ床にしか当たらないように狙ってんだ。で……」

暁「……??」

 (提督がおもむろに暁に近づいて、暁の両足の間の地面を掴むと)

??「ぐえっ!!」

暁「ひっ!?」ビクッ

時雨「え!? なんなの、今の悲鳴!」

提督「暁の足元に、こいつが潜んでいたんだよ。おら、出てこい!」ズルルッ!

時雨「なにそれ!? 影絵人間!?」

??→クルー5「……ふ、ふへへ、見つかっちまった……」ドロォ

暁「」アッケ


提督「お前、さっきのテレビクルーの仲間だろ。一緒に死んだ奴だな?」

クルー5「へ、へへへ……」メソラシ

提督「花が俺たちの近くに寄ってこなかったのは、こいつが潜んでたせいだな」

時雨「でも、どうして暁の足元に?」

提督「……暁のスカートの中を覗き見したかったとかか?」

暁「!!」バッ!

クルー5「ぐえへへ……スカートを抑えて恥ずかしがる幼女……うひひひっ」

暁「~~~!!」ゾワワッ

時雨「うわあ……」

提督「そういうことかよ……こういう不埒な奴は……」

 フッキンマシーン<ガジャッ!!

提督「こういう機械に乗っけて」ポイッ

クルー5「うおっ!?」ガシャッ

提督「運動で煩悩を追い出してやるといいな」

 フッキンマシーン<ガッションガッションガッション!!!

クルー5「うおおおおおお!?」ガシャガシャ


時雨「ねえ、提督? さっきのマシンガンの罠は、暁を狙ったんじゃなくて、足元に潜んでたあの人を狙ったってことなのかな?」

提督「そういうことだ。ただ、あの罠自体は、誰かを対象にしないと狙いが定まらなくてな……悪いが、暁を的にしちまった」ナデナデ

暁「も、もう!! 怖かったんだからね! って、頭を撫でないでよ!!」プンスカ!

クルー5「お、俺はいつまで、腹筋してなきゃ、いけねえんだあああ!?」ガシャガシャ

提督「そりゃあ死ぬまで……って言いたいが、もう死んでるしなあ。この辺で止めてやるか」グッ

 イビルアッパー<ズガシャアァン!!

クルー5「!?」

 (フッキンマシーンごとぶっ飛ばされたクルー5が)

クルー5「ぶげっ!?」ベチャッ

 (クルー3の氷漬けの氷塊の上に落下する)

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

クルー5「げ、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ……うぎゃああああ!?」

時雨「……」

暁「……」

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

クルー3&5「」カチンコチン

提督「よし。これでまとめて始末できるな」


クルー5『ちくしょう! どうしてまたお前なんかと一緒に……!』

クルー3『それはこっちのセリフだ! なんでお前が……!』

暁「な、なんか声が聞こえない?」

提督「氷漬けにしたとはいえ、魂だからな。思念って意味での声が漏れてきてるんじゃねえか?」

クルー3『俺たちは、人間のために正しいことをしようとしたんだぞ!』

クルー5『まだ言ってんのかよ! 人間のためとか言うけど俺は頼んでねーぞ!』

クルー3『いい加減にしろ! 俺たちの言ってることが正しいんだ!』

クルー5『うるせーうるせー! なんでお前らに従わなきゃならねーんだ!!』

時雨「まだ言い争ってるみたいだよ」

提督「……ま、どうでもいいか。こいつら、どこに向かわせてやるといいかな?」

 ザザザ…!

暁「今度はお花が集まってきてくれてるわ!」

提督「お、そっちか。案内ありがとな。んじゃ、滑らすぞ……せぇ、のっ!!」グッ

 氷塊<ツルツルツルーー!

クルー3『お前のせいで艦娘が……!』

クルー5『お前が悪いんだろうが……!』

 氷塊<ツルツルーー…


時雨「最後の最後まで仲間割れしてるなんて……彼らには失望したよ」

暁「なんだか、可哀想な人たちだったわね」

提督「まったく……俺は、恵まれてんなあ」

時雨「急にどうしたの?」

提督「ああ、あのテレビクルーの周りに取り憑いた雑霊が、あいつを煽るような性質の奴ばっかりでなあ……」

提督「そこへ行くと、俺の周りにいる艦娘たちは、俺が行き過ぎるとみんな真面目に止めてくれたからな」

提督「だから、俺は恵まれてたんだな、って思っただけさ」

時雨「提督……」

提督「だからこそ」クルリ

提督「生き返られるなら、ちゃんと戻って、義理を通さねえとな。暁もそうだろ?」

暁「……そ、そうね!」

 (大きな穴のそばへ3人が歩いて近づく)

提督「……改めて見ると、すげえ光景だな」

時雨「積乱雲の中を飛ぶ航空機が見る光景だね」

暁「見たことあるの?」

時雨「前の鎮守府で、山城が飛ばした偵察機の写真をみせてもらったことがあるんだ」


時雨「扶桑とはほとんど話す機会がなかったけど、山城には結構かまってもらったからね……」

提督「D提督のせいだな……」

暁「時雨……」

時雨「さ、ふたりとも。みんな、君たちを待ってるんだ。早く戻ってあげなよ」

提督「……そうだな。けど、このまま飛び込んで大丈夫なのか? 雷とか鳴ってんだが……」

時雨「大丈夫だと思うよ。僕たちも魂だけの存在なんだから、雷に打たれて死ぬとかありえないよ、多分」

提督「それもそうか。よし、じゃあ暁、お前、先に行け」

暁「はあ!?」

提督「お前の腰が引けてて心配なんだよ。お前がちゃんとここから飛んだとこを確認したいだけだ」

提督「それに、よくレディーファーストって言うしなあ?」

暁「うぐ……わ、わかったわよ!」

提督(まあ、悪いほうの意味のレディーファーストだよな、これは)

時雨(毒見役って意味のほうだね……)

暁「い、いくわよ!? 暁も、飛べるんだから!」

提督「おう」

時雨「うん」


暁「……」ウデデハバタキ

暁「……」カラダヲヒネリ

暁「い、いくわよ!!」ソノバジャンプ

提督「おう」

時雨「うん」

暁「……」クッシン

暁「……」ウデヲグルグル

暁「……っ! ……っ!」ゼンクツ

暁「……」シンコキュー

時雨「早く飛びなよ」ケリンチョ

暁「ぴっ!?」ヨロッ

暁「ぴゃあああぁぁぁぁぁ……」ヒュゴーーーーー…

提督「真っ逆さまだな……」

時雨「結局、手助けしてあげないと駄目なんじゃないか」ヤレヤレ

提督「少しは怖がってもいいだろ……くくっ」

時雨「……ふふっ、笑っちゃ悪いよ」


提督「よし。暁も行ったし、そんじゃあ俺も覚悟決めて、行くか」

時雨「フリはいいからね?」

提督「ああ。世話になったな」

時雨「ふふっ。これで少しは、扶桑たちを立ち直らせてくれた君に恩を返せたかな」

提督「十分すぎる。扶桑たちにもよろしく伝えておくよ……あっちで、ここでの出来事を忘れてなけりゃいいんだが」

時雨「ありがとう……」ニコ

 スッ

提督「じゃあな、時雨」タッ

 バッ!

提督「……!」ゴォッ

 ヒュゴーーーーー…

時雨「……」

時雨「……」

時雨「……行っちゃった」

時雨「扶桑や山城と、もう少し一緒にいたかったけど……しょうがないか」


時雨「さてと。僕は……どうしようかな。中将さんたちを追いかけてみようかな……」

 グイ

時雨「えっ?」

 グイグイ

時雨「な、なに!? 穴の方に引っ張られてく……!」

 ――時雨様……

時雨「! エフェメラ……!」

 ――あなた様にも、御礼申し上げます

時雨「いや、いいよ。僕の心残りもこれで……」

 ――私から……時雨様へ、最後の贈り物を……

時雨「え?」フワッ

時雨「ええっ!? なんで宙に浮いてるの!?」ジタバタ

 ――さようなら、時雨様。あなた様にも、魔神様の御加護があらんことを……

時雨「ま、待って!? 僕のからだは……」

 ポイッ

時雨「ぽいって夕立じゃないんだからうわあああぁぁぁぁ……!?」

 ヒュゴーーーーー…

 穴< シュウゥゥゥ…

 穴< フッ…

 平地< シーン…

 * * *

 * *

 *

というところで今回はここまで。

今回登場したイビルアッパー以外の罠は、
エフェメラから力を借りた、と言う意味で、影牢~もう1人のプリンセス~に登場した
DLCの罠で統一しました。

それでは続きです。


 * 墓場島周辺海域 *

 * 医療船内 *

(人工呼吸器や点滴などの管がたくさん取り付けられて眠っている提督)

提督「」シュコー…

看護師「……容体に変化なし。心拍数や血圧も正常値……」カキカキ

如月「……」(提督の眠るベッドの傍らで椅子に座って提督を見つめている)

 タッタッタッタッ…

ニコ「魔神様!!」バッ

如月「!?」

ニコ「あれ?」

如月「ニ、ニコちゃんどうしたの……?」

ニコ「……魔神様はまだ目を覚ましてないの?」

如月「え、ええ……まだ、見ての通りよ?」

ニコ「うーん、おかしいな……なんとなく、魔神様の気配を感じたんだけど」

如月「そうなの? 看護師さん、特に変わったところはなかったんですよね?」

看護師「はい。特にこれといった変化は何もありませんね」

ニコ「……そう」


大和「失礼します、ニコさんはこちらにいらっしゃいました?」ヌッ

不知火「慌てて走っていたようですが、なにかあったんでしょうか」

ナンシー「もー、ニコちゃんだめだよー、ニコちゃんが慌ててるとみーんな落ち着きがなくなっちゃうんだから~」

不知火「艦娘もメディウムも、深海棲艦勢も一様に同じ思いです。どうか、落ち着いた行動をお願いいたします」

ニーナ「ただでさえ私たちは人間たちに警戒されていますから……ニコさんに万が一があっても困ります」

ニコ「ニーナもナンシーも、随分人間どもに丸め込まれちゃったね?」ジトッ

ニーナ「ニコさんがそのように殺気立つからですよ……」

ナンシー「あたしだって、マスターを魔力槽に入れてあげるのが一番いいとは思うけどさ? 神殿は遠いじゃん?」

大和「ニコさんが御自身で仰っていたではありませんか。魂が離れた場所から肉体を遠ざけると、その魂が戻ってこなくなると」

ニーナ「この近辺で、人間に近しい身体が生命を維持できる場所、というのがこの船の中の設備しかありません」

ニコ「わかってるよ。わかってはいるけど……」

如月「……!」

 ピピー ピピピピー

看護師「脳波計が……!」

ニコ「魔神様!?」


如月「今、司令官の指が……」

提督「」ピク

ナンシー「動いてる!!」

看護師「ちょ、ちょっと失礼します! 如月さん、提督さんに声をかけてもらえますか!?」

如月「は、はい! 司令官! 司令官、聞こえる!?」

看護師「血圧と心拍数が上昇……瞼の下で眼球も動いてる……!」

看護師「このまま声をかけ続けてください! 皆さんも、うるさくならない程度に!」

不知火「司令……!!」

ニコ「魔神様! ぼくだよ!」

ナンシー「マスター! 早く起きてよ!!」

大和「提督!!」

ニーナ「魔神様!!」

如月「司令官!!」

提督「……」シュコー…

提督「……う……!」


如月「司令官!!」

ニコ「魔神様!!」

大和「提督!!」

ナンシー「マスター!!」

不知火「司令!!」

ニーナ「魔神様!!」

提督「……う……る、せぇ……耳元、で、叫ぶな……!」

如月「司令官……!」ウルッ

ニコ「聞こえてるのなら……早く、返事をしなよ……!」ウルウル

提督「なん、だ、この……眩しいし、なんだこの、邪魔くせえマスク……背中も、痛ってえ……」

不知火「当然、ですよ……何日眠っていたと思うんですか……!」グスッ

ナンシー「早く魔力槽に入れてあげようよ! ね!!」ピョンピョン

大和「うええええん、提督良かったああああ!」ナミダジョバー

ニーナ「あ、あの、みなさん落ち着いて」オロオロ


 * しばらくして *

看護師「……修復材入りの湿布を貼ってすぐ治るだなんて」

明石「まあ、あの人は特殊なんですよ。人間じゃないというか」

伊8「血液検査だって、普通の人間の血液型に合致しなかったんでしょう?」

看護師「え、ええ、まあ。でも、艦娘とも違うみたいですし……」

明石「そうですか~……だとすると、深海棲艦かな?」

看護師「あ、あの、少尉さんは、人間だったんですよね……?」

伊8「はい、そうでしたよ。スタートは人間だったと思います。けど、何度か死んだり体を作り替えられたりしてるみたいですし……」

看護師「えええ……?」

 *

提督「5日?」

如月「そうよ? 司令官は5日間、ずっと眠り続けていたの」

提督「そんなに経ってやがったか……」

ニコ「おかげでいろいろ話は整理できたけどね」


不知火「何があったか、順を追って説明します」

提督「ああ、頼む」

不知火「まず……司令からの通信が途絶えた後、ブラックホールのメディウムであるベリアナさんが、司令のところにいたそうです」

不知火「ベリアナさんはニコさんからの指示で、司令が逃げ遅れた時を想定し、ブラックホールで異次元へ逃がして保護するつもりでした」

不知火「ですがその際に、ベリアナさんがブラックホールを作るのに必要な魔力を補充するための魔法石が、島の丘の上で割れてしまい……」

不知火「その石の力と引き換えに、女神妖精さんが復活しました」

提督「……」

不知火「女神妖精さんは、その力で司令と如月たちを復活させ、かつ、島に埋葬した、轟沈した艦娘の魂を呼び起こし……」

不知火「その艦娘たちの魂が火山活動で発生した溶岩の流れを堰き止めたことで、私たちが島に乗り込んで司令たちを運び出せたんです」

不知火「メディウムたちのサポートもあって、全員無事に溶岩の中から脱出できた……というのが、あの日、島で起こったことです」

提督「……妖精はどうなった?」

不知火「……わかりません。ただ、妖精さんは、死なないで消えるだけ、と言っていました」

提督「……」

不知火「その後、保護された司令と如月、電、朧、吹雪、初春の5名がこの医療船で治療を行い、駆逐艦の5名は無事回復」

不知火「そして本日、司令が目を覚まされたと」


提督「艦娘は全員無事なのか? 沈んだりした奴はいないな?」

不知火「轟沈した艦はありませんが、燃える島を見て気を失った暁が、いまだに目を覚ましていません」

提督「暁が!? ……変だな、あいつ、俺より先にこっちに戻ってたはずだぞ?」

不知火「……は?」

如月「ど、どうして司令官が、戻ったってわかるの?」

提督「あー……ちょっと話が長くなるから、あとでな。ほかに……メディウムたちはどうした?」

不知火「はあ……メディウムは全員無事です。交戦したメディウムもいるため、無傷ではありませんでしたが」

提督「軽巡棲姫や、ル級たち深海棲艦はどうなった?」

不知火「深海棲艦全体の被害状況は把握しておりません。しかし、軽巡棲姫やル級さんといった、司令と交友のある深海棲艦は無事です」

提督「被害ゼロってわけじゃねえんだろうな。全員この船にいるのか?」

不知火「いえ、この島の所属以外の艦娘の何名かは、今回の件の報告のため本営に呼び出されています。それから……」

ニコ「メディウムの中でも血の気の多い子たちには、一度この船から降りてもらってるよ」

ニコ「具体的に言うと、ケイティーやコーネリア、ルイゼットみたいな過激派や、いるだけで危ないウーナやイーファ、ティリエにマリッサ……」

提督「確かに、ケイティーやマリッサは特にやべえな」


ニコ「それから、ユリア、ヴィクトリカ、エレノアみたいに酒を飲んで騒ぐ子たちとか、引き籠りたいっていうイサラやカサンドラ」

ニコ「じっとしていられないアマラやクリスティーナ、カトリーナ、シャルロッテ、オディール、ヨーコ、シェリル、リンメイ……」ユビオリカゾエ

ニコ「とにかく大人しくできない子たちには、一旦深海棲艦の拠点に行ってもらってるよ」ハァ…

提督「……思ったよりも騒々しい奴が多いよな、メディウム連中は」

不知火「ただでさえメディウムの殆どが物騒な武器を持っていますからね……」

如月「素手なのはヒサメさんと、イブキちゃんとオリヴィアさんくらい?」

ナンシー「ベリアナとヴェロニカもだね!」

提督「残ってる方数えたほうが早そうだな」

ニコ「今度からきみがぼくたちのご主人様なんだからね? ちゃんと面倒臭いって言わずに面倒見てよ?」

提督「そこで先手打つなよ……誰の入れ知恵だ?」

ニコ「そこそこ付き合ってきてるんだ、そのくらい察せないと思った?」

提督「やれやれ……そうかよ」カタスクメ


不知火「それから、深海棲艦もこの船には乗っていません」

不知火「その代わり、司令が目覚めるまでの間、この船を取り囲んで移動できないようにしています」

提督「じゃあ、俺が姿を現せば、あいつらも解散するってことか?」

不知火「はい。その際に、司令を含めての話し合いを行いたいと、海軍から申し出があります」

提督「……なんか、面倒臭そうな話だな?」

不知火「面倒かもしれませんが、良い話だと思います。司令にとって、待ち望んでいたお話かと」

提督「……?」

不知火「それからもうひとつ。司令が住んでいた××島ですが、島の北部にあった火山の活動により、すべての施設が焼失しました」

提督「……」

不知火「島の再建については、勝手に泊地棲姫が陣頭指揮を執っています」

提督「は……?」


 * 同じころ *

 * 別の病室 *

暁「」シュコー…

(人工呼吸器をつけてベッドで眠る暁をじっと見つめるヴェールヌイ)

ヴェールヌイ「……」

 コンコンコン

川内「入るよ」チャッ

電「失礼します、なのです」

ヴェールヌイ「!」

川内「……暁は、まだ目を覚ましてないのか」

ヴェールヌイ「……」コク

電「私たちの司令官さんは、少し前に目を覚ましたそうなのです」

川内「提督が目を覚ましたからね。暁も起きないかと思ってきてみたんだけど」

川内「そう、都合よくはいかないかあ……」


ヴェールヌイ「……電」

電「? なんですか?」

ヴェールヌイ「この暁は、中破してあの島に流れ着いてきたそうだね」

電「はい」

ヴェールヌイ「……その時のこと、詳しく教えてくれないか」

電「詳しく……ごめんなさい、電が遠征していた時のことなので、状況そのものはあまり詳しくないのです」

電「流れ着いてしばらくの間、3日くらい寝込んでたとは聞いていますが……」

電「暁ちゃんを治療した明石さんは、ドロップ後に何かあったんじゃないか、って言ってました。話を聞きたいなら、呼びますか?」

ヴェールヌイ「そうだね……お願いしようかな」

川内「! 暁が……泣いてる……!」

暁「」ツゥ…

ヴェールヌイ「!」ガタッ

電「あ、暁ちゃん! 大丈夫ですか!?」テヲニギリ

暁「あ……しれ……か……!」

川内「うわごとで何か言ってる……!」


ヴェールヌイ「暁!」

暁「しれ……あ……ああっ……」ウーン

電「し、しっかりするのです!!」

暁「司令官……っ!!」ビクビクッ

暁「はうっ……!」ビクンッ

 パチリ

電「……」

川内「……」

ヴェールヌイ「……」

電「……あ、暁ちゃん?」

暁「あ、あれ? ここは……電? 川内さんに……響? このマスク、なに?」キョロキョロ

ヴェールヌイ「暁……私は、ヴェールヌイだよ」ウルッ

川内「良かったぁ……本当、良かったよ、目を覚ましてくれて……!」ヘナヘナ

電「暁ちゃん、大丈夫なのですか? 海の上で意識を失ってから、5日も眠っていたのです!」

暁「い、5日も!?」


川内「そうだよ~、心配したんだから! さっきなんかうなされてたし、いったいどんな夢見てたの?」

暁「夢……」

暁「……司令官と一緒にいた夢を見たわ……なんか、とても嬉しかったんだけど、悲しい夢……」

電「暁ちゃん?」

暁「そうよ……私、どうして忘れていたのかしら」

ヴェールヌイ「暁……?」

暁「あの日、鎮守府が燃えて……私が逃げたせいで燃えちゃって……」

川内「暁……?」

暁「私、夢の中で……天国で、I提督に会ったの」

ヴェールヌイ「!!」

川内「!!」

暁「I提督は、好きな人がどこかに行かないように……翔鶴さんが沈んで離れ離れにならないように、あんなことをしたんだって……!」

川内「……I提督に、会ってきたって……?」

暁「そうよ。翔鶴さんも、司令官に川内さんや響にもよろしく、って言ってて……私、どうしてこんな大事なことを忘れてたのかしら」

 ガバッ!

暁「きゃ……川内さん!?」


川内「もう、なんだよぉ……やっぱり、私の知ってる暁だったんじゃないか……!!」ギュゥ

暁「せ、川内さん、苦しいってば……!」

川内「苦しかったのはあたしだよ!! I提督のことを知らないか、って聞いたときに、知らないって答えたじゃないか!」グリグリグリ

ヴェールヌイ「……そうか。記憶を失っていたのか。探しても見つからないはずだよ」

暁「えっ?」

ヴェールヌイ「川内さん。私も、混ぜてくれないかな」ポロポロ

ヴェールヌイ「探していたんだ。暁のことも。川内さんのことも」

川内「は、ははは、みんないたんじゃないか……! 響も、いたんじゃないか……!!」ガシッ

ヴェールヌイ「川内さんこそ、新しい鎮守府で命令違反なんかするから……!」ギュウ

川内「しょうがないよ! 強くなりたくても、そうさせてもらえなかったんだから!」

暁「ちょ、ちょっと待って!? えっ!? 川内さんって、あの川内さん!? ヴェールヌイも、あの響なの!?」

川内&ヴェールヌイ「「気付くのが遅い!!」よ……!!」オシタオシ

暁「きゃああ!?」オシタオサレ

電「ふ、ふたりとも! 暁ちゃんは病み上がりなのです!!」


 * 墓場島沖 海上 *

ヲ級(哨戒中)「……」

イ級「」ザバザバ

ロ級「」ザババー

イ級「?」

ヲ級「? ドウシタ」

イ級「……!」

ヲ級「海中ニ、波? ……ナニカガ、集マッテイル……?」

 ドボーーーンン!!

ヲ級「!?」ビクーッ

イ級「!?」ビクーッ

ロ級「!?」ビクーッ

 ゴボゴボゴボ…

時雨「ぷはあっ!!?」ザバァッ

ヲ級「……」

イ級「……」

ロ級「……」


時雨「はー……ひどいことするなあ、エフェメラは。問答無用で穴に放り込むなんて、何を考えてるんだ……」ザブッ

時雨「あれ? ここは……海!? どこだろう……?」キョロキョロ

ヲ級「……」

イ級「ナンダコイツ」

ロ級「チョットアヤシイ」

イ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ

ロ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ

時雨「うわあ!? ぼ、僕はあやしくなんかないよ!?」

ヲ級「アヤシイ奴ガ、自分デ自分ヲ、アヤシイト言ウワケガナイダロウ」

時雨「それはそうだね」

イ級「ダカラウツ」

ロ級「ウツ」

時雨「ちょっ、待ってよ!?」

 ザザザッ

山城「ちょっと、誰かと思えば……」

那珂「時雨ちゃんじゃなーい! きみ、どこの鎮守府の子?」


時雨「あっ、山城! 那珂ちゃんも!」

アカネ(in那珂の艤装)「ねえねえ那珂ちゃん、この子だーれ?」ヒョコ

那珂「時雨ちゃんだよ! 白露型の2番艦で、白露ちゃんの妹だね!」

時雨「山城助けてよ! 僕があやしいからって撃たれそうになってるんだから!」ヒシッ

山城「……あなた、びしょぬれじゃない。何があったの?」

時雨「えっ? ああ、これは上から落ちてきて……」

山城「上?」ミアゲ

那珂「上って言っても、雲しかないよ? 何か飛んでたら、ヲ級ちゃんが気付くと思うんだけど」

イ級「デモコイツ、オチテキタミタイ」

ロ級「オチテキタミタイ」

山城「は? みたい?」

ヲ級「突然、何カガ水面ニ衝突シタヨウナ衝撃ハアッタ。ダガ、落チテキタ、トコロヲ見テイナイ」

山城「なにそれ……」

ヲ級「少クトモ、私ハ、コノ艦娘ガ落下シテイルトコロヲ見テイナイシ、落下スルトキノ風ノ音モ感知シテイナイ」

那珂「えー? ヲ級ちゃんでも落ちてくるのに気付かないって、どういうこと?」


時雨「……あれ? 何気なく山城に抱き着いたけど、僕に触れられるの?」

山城「は?」

時雨「……山城にも、触れる……」ペタペタ

山城「ちょっ……なに、何なのよ。どこまさぐってるの」セキメン

時雨「そうだ、僕の足は!?」バッ

アカネ「な、なんで自分でスカートまくってるの!?」

時雨「足もついてる……胴体も繋がってる」

山城「……時雨?」

時雨「ねえ、ここどこかな? もしかして……墓場島?」

那珂「う、うん、そうだよー?」

時雨「……そうか……それじゃあ、僕は、戻ってきたんだ……!」

ヲ級「戻ッテキタ?」

時雨「そう。僕は、かつて、この島の海岸に流れ着いて、埋葬してもらったんだよ」

山城「……」

時雨「ここへ辿り着く途中に砲撃を受けて、体が半分になって、そのまま……」


ヲ級「轟沈シタノカ」

山城「……」

時雨「うん。それでも運よく、この島に漂着して、無事だったみんなに看取ってもらえて」

山城「……」ブワッ

時雨「僕のかつての体は、この島の丘に……もう全部溶岩で燃えちゃったと思うけど」

時雨「どこらへんかな……とにかく、この島に埋めてもらったんだ」

ヲ級「……」

時雨「そのあと、那珂ちゃんには歌ってもらったんだよね」ニコ

那珂「……!!」

ヲ級「ソコマデ覚エテイルノカ。マルデ蘇ッタヨウナ言イ方ダナ?」

時雨「そういうことになる……」

 ガッシィ!!

時雨「ね゛っ!?」ダキツカレ

山城「……あんたねえ」ダキツキ


時雨「や、やましろ……?」

山城「どこまで、お騒がせなのよ……あんたはっ……!」

時雨「や、山城、痛いよ……苦しいってば」

山城「痛いならいいじゃない!! 苦しいのも! 生きてる証拠よ!!」ボロボロボロ

時雨「山城……!」

ヲ級「……ソレデ、ヲ前タチハ、何ノ用ダ?」ヒソヒソ

那珂「あ、ごっめーん! 提督が目を覚ましたよ、って」

ヲ級「ソレハ早ク言エ!!」カンサイキハッシン!

那珂「泊地ちゃんも軽巡ちゃんもイライラしてたもんね~」


 * *


時雨「……というわけで、僕は提督と暁と一緒に、天国の手前で現世に戻る道を探していたんだよ」

山城「改めて聞くと、とんでもない話ね……辻褄が合うとはいえ、普通だったら信じないわよ? そんなファンタジーな話」

時雨「信じてくれないの?」

山城「信じるわよ。D提督鎮守府の話といい、その後の埋葬の話といい、整合が取れてるんだもの」アタマオサエ


泊地棲姫「ヤハリ、アイツハ深海ニ縁ノアル者ダッタカ」

軽巡棲姫「私ハ最初カラ、私タチト一緒ダト思ッテイタワ」

ル級「私タチガ触レテモ、体ガ無事ダッタリ、狂ッタリシナカッタノハ、ソウイウ理由ネ?」

時雨「だと思うよ」

アカネ「まさかエフェメラが絡んでたなんて!!」プンスカ

那珂「アカネちゃんはエフェメラちゃんって子のこと、知ってるの?」

アカネ「知ってるよ! ニコちゃんが言ってたけど……」

アカネ「魔神様を復活させることができる人間に入れ知恵して、魔神様を自分のものにしようとしてる嫌な奴だって!」

時雨「……確かに、見方によってはそう解釈できるね」

那珂「でもでも、そのエフェメラちゃんが、時雨ちゃんを復活させたわけでしょ?」

アカネ「うー……」

時雨「そういうことになるかな……だけど、いくらなんでも、僕の艤装というか、体までは復活させられないと思うんだけどなあ」


ヲ級「ソウイエバ、ヲ前ガ落チテクル前ニ海中デ、何カガ集マルヨウナ気配ヲ感ジタ。ヲ前ノカラダヲ作ッテイタノカモシレナイ」

ル級「天国カラ魂ガ落チテキタ、ッテイウ意味デノ、ドロップ艦、ッテコト?」

那珂「魂が着水した瞬間に体を作った、って感じなのかな?」

泊地棲姫「オソラク、ソウイウコトダロウ。今マデ、聞イタコトハナイガ」

山城「今更だけれど、私たちって本当に何者なのかしら」

那珂「そういう話なら、日向ちゃんあたりに訊くとイイかもね!」

山城「嫌よ。日向は話が長すぎるんだもの」ムスッ

時雨「……」

山城「何よ、時雨。にやにやして」

時雨「ううん、そうやって表情をころころ変える山城がかわいいなあって」

山城「!?」カオマッカ

那珂(わかる!!)ウンウン

アカネ(那珂ちゃんすっごい頷いてる……)

というわけで今回はここまで。

これまで書いた文章を、渋あたりに全部見直し添削した上で載せ直そうかと考え中です。
まずはその前に書き切らねば。

それでは続きです。


 * 医療船 甲板上 *

「提督ー!!」キャー!

「司令官!」キャー!

「魔神様ー!」キャー!

「マスター!!」キャー!

提督「……なるほど。こんだけギャラリーがいたんじゃ、艦内の一部屋には収まりきらねえか」

ニコ「ここからさらに深海棲艦たちも来るんでしょ?」

提督「だと猶更艦内には入れられねえか。それで、あの四角いテーブルに全員座らせるのか? どう見ても席が足りねえぞ」

不知火「いえ、全員ではありません。あれは今回特別に用意した席です」

提督「?」

大将「よう、待たせたな!」

提督「!」

H大将「全員揃っているのか?」

大将「深海の奴らはまだ来ていないようだな」


X中佐「あ、少尉! 目を覚ましたんだね、良かった!」ニコ

提督「……」

H大将「なんだその顔は。貴様の無事を喜んでいるというのに」

提督「あんな目に遭わされてすぐへらへらできる人間がいるかよ。もとはと言えばお前らがこの状況を作ったんじゃねえか」

H大将「確かにあんなことはあったが、ここにいる俺たちくらいは信用してほしいものだな?」

大将「むしろ俺たちも被害者だったんだぞ!」

提督「そんな理屈が通用するかよ、くそが。しかも5日ぶりに目ぇ覚ましてすぐ会議だ? お前ら俺をなんだと思ってんだ」

赤城「相変わらずのようですね、少尉。安心しましたよ」

提督「赤城……! お前まで来たのか? 大袈裟だな」

赤城「私が来るのが大袈裟でしょうか? そこまで他人事ではないと思っていますが?」

提督「十分に大袈裟だよ。面倒臭え話になりそうだ」ハァ

赤城「面倒という意味ではそうかもしれませんね。あなたのこれからを左右する重要な話を始めるのですから」

 深海艦載機< ゴォォォ…

提督「!」


不知火「あれは、あちらの偵察機のようですね」

赤城「深海勢の到着ね……!」

不知火「案内に向かいます」

赤城「はい。お願いしますね」

 *

不知火「お連れしました」

ル級「……! 提督! 目ヲ覚マシタノカ!」パァ

提督「おう、なんか、いろいろ迷惑かけたみたいで悪かったな」

大将「俺たちと応対が違うな……」

提督「当たり前だ。ル級とお前らを一緒にするな」

大将「普通逆だろうが!」ビキビキ

泊地棲姫「マッタク……アマリ待タセテクレルナ」

軽巡棲姫「早ク彼ヲ、コチラニ渡シナサイ……!」ギロリ

提督「おいおい、もう臨戦態勢なのかよ。少し落ち着け」

軽巡棲姫「!! ア、アナタガ、ソウ言ウナラ……」モジモジ

泊地棲姫「……」イラッ


提督「俺も面倒ごとは嫌いなんだ。とにかく、話があるならとっとと済まそうじゃねえか」

大将「……貴様、最初の時より随分と態度がでかくなったな」

提督「今更取り繕う必要もねえからな。少し前からお節介焼きにきてたX中佐はともかく、お前らだって信用できるかどうかわかったもんじゃねえ」

大将「貴様、せっかく俺が取り立ててやろうと言うのを……!」

H大将「よせ。奴の言い分も当然と言えば当然だ」

大将「それは俺の責任じゃないだろう。お前たち……いや、J少将が勝手にやったことだ!」

H大将「そうかもしれんが、この場では迂闊なことを言うなよ。下手をすれば、ここにいる艦娘たちでさえも黙ってないだろうからな」

X中佐「そうですよ。ここは彼に協力を取り次いでもらわなければいけない場面なんですから。友好的に行きましょう」

H大将「だいだいお前はいつもワンマンでゴリ押しが過ぎる。なんでもかんでもお前の力で思う通りになると思うな」

大将「ぐぅ……」

提督「そういや、中将は来てねえのか?」

X中佐「うん、中将閣下には本営に戻っていただいたよ。その際に、今回の件は僕たちに一任する、とお言葉をいただいてる」

提督「この手の話なら顔を出すかと思ったんだが……まあ、齢も齢だしな。おとなしくしてもらったほうがいいか」

X中佐「足のこともあるからね」


H大将「とにかく、全員揃ったようだな。少尉は我々の正面、そこにかけたまえ」

H大将「深海棲艦は右手に。それからメディウム? 君たちは左手だ」

ニコ「魔神様の隣じゃないんだ……」ムスッ

H大将「それを言い出すと深海棲艦たちも隣の席を欲しがるだろう。不服だろうが揉めないよう平和的に頼む」

ニコ「……」

提督「まあ、一理あるか。ニコ、悪いがそこに座ってくれ」

ニコ「……魔神様がそう言うなら」ムスッ

ニーナ「あら? 不知火さんは向こうに座るんですか?」

提督「あいつは一応、中将の部下だからな」

ニーナ「そうだったんですか……」

タチアナ「ニコさん、私たちをお呼びでしょうか」

ノイルース「話し合いにはニーナとナンシーが出ると思っていましたが、何か問題でも?」

ニコ「ああ、残虐系メディウムだけだと意見が少し偏りそうだからね。それにタチアナは、泊地棲姫と一緒にいたんだよね?」

タチアナ「はい、島の再開発についての今後の見解をまとめています」

提督「島の再開発……? 泊地棲姫が関わったってやつか?」

タチアナ「はい。本案件に関しては私にお任せを」


如月「それじゃ、司令官、私たちはこっちで……」

提督「ん? おい待て、お前らは同席しないのか?」

大和「申し訳ありません……」

提督「……俺が話せってことか。くそ面倒臭え……」

ナンシー「マスター頑張ってね~!」フリフリ


X中佐「メディウムはそこにいる4名でいいのかな?」

タチアナ「ええ、始めてください」

X中佐「深海棲艦からは3名で」

ル級「泊地棲姫、軽巡棲姫、ソレカラ私。アト2人ハ後カラ出サセテモラウ」

X中佐「後から? ……とりあえず、承知したよ」

H大将「こちらは海軍大将のTとH、それから中佐のX。艦娘からは提督と親しい中将麾下の赤城と不知火に出てもらう」

大将「うむ、では始めようか!!」

大将「議題は、提督少尉の処遇についてだ!!」

全員「「……!」」ザワ…


ニコ「気に入らないなあ。ぼくたちの魔神様を人間の所有物扱いするなんて……!」イラッ

ニーナ「所詮は人間ですから。人間の物差しでしか推し量れない哀れな生き物……!」ユラッ

軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ……!」ヌラッ

泊地棲姫「アア、ドウセ奴ラニ飼イ殺シサレルニ決マッテイル……!」ギラッ

不知火「開会早々から殺気立っているのですが」

H大将「お前、もう喋らんほうがいいな?」

大将「なぜだ!? こんな人材を捨て置けというのか!?」

X中佐「退席させましょうか」

大将「おい!?」

赤城「話を戻しましょう。最初に、海軍が所有していた××国××島の鎮守府が焼失した件について!」

赤城「本件については自然災害とし、提督少尉の過失はないものと認めました」

赤城「この災害で被災した海軍の人員および設備の被害については、本会では割愛させていただきます」

赤城「問題は、提督少尉の今後について」

赤城「海軍は、今回被災した少尉には、引き続き海軍に所属する『提督』として、艦隊の指揮を執って欲しいと考えています」


赤城「そのことについて、少尉から何か申し立てはありますか?」

提督「……もし、嫌だと言ったら?」

赤城「そうなれば、あなたは海軍を解任され、日本へ送り返されることでしょうね。あなたはそれで良いと?」

提督「良いとは言えねえな。ぶっちゃけ、妖精と艦娘がいなかったら、ここまでまともに生きてすらいなかっただろうし」

提督「人間嫌いの俺が、今更、艦娘との繋がりを断って人間社会へ復帰しろと言われても、無理に決まってんだ」

提督「それに、こうなったから言わせてもらうが、着任当初も初期艦すらつけてもらえずに人間の都合でこの島に追いやられて」

提督「さんざんこき使って疑うだけ疑って、今度は帰れだと? これだけ危険な目に遭わせておいて、ふざけてんのか」

X中佐「……」

提督「ま、お前らにしてみりゃ、大佐が悪い、としか言えないのかもしれねえけどな」

提督「それに、俺の意思を差し置いても、今は状況が変わった。仮に俺が日本行きを望んだとしても、こいつらが黙っちゃいないだろうな」

泊地棲姫「ソウダナ。ソレナラ提督ハ我々ガコノ場デ貰イ受ケルゾ、チカラヅクデナ……!」

ニコ「ぼくたちは日本とか言う場所に行ってもいいよ。魔神様のために働ければ、ぼくたちはどこへでも一緒に行くよ」

X中佐「……きみたちなら、僕たちと友好関係を結べると?」

ニコ「人間と? 思い上がらないでほしいね」フン

ニーナ「本当なら、この場にいる人間すべて、刈り取って魔神様にその魂を捧げているところです。身の程を知りなさい」

X中佐「……」


提督「メディウムと人間が仲良くするなんてのは無理だな。メディウムがどういう存在か、少しは話を聞いたろ?」

H大将「罠の化身、と言う話だったな?」

提督「ああ。生きた人間を陥れて殺すための罠の化身だ」

提督「処刑や拷問に使われた道具が元になっているメディウムもいる。どういう気性の連中か、言わずとも察しが付くだろう?」

提督「そういう面もあってか、メディウムたちはこことは別の世界で、長い間、人間たちから迫害されてきた」

提督「こいつらがこっちの世界に来たのも、俺と中将の謀殺を目論んだ連中に対する、俺の怒りと憎悪を察知したからだ」

H大将「……」

提督「仮に俺を日本へ帰そうものなら、メディウムも一緒に日本へ行くことになるだろう」

提督「その結果がどうなるか……人命を守るのがお仕事の人間なら、放っておくわけにはいかないよなあ?」

大将「ま、待て! その前に、貴様は人間でありながら、なぜその罠の化身たちの主になったんだ!」

提督「言ったろ。俺が人間を死ぬほど嫌いになったからだよ。なあ、ニコ?」

ニコ「そうだね。同じ人間として生まれ落ちたにも関わらず、生まれたときから卑下され、ありとあらゆる主張を否定されてきた」

ニコ「魔神様が生まれ出でるのに必要な要素のひとつ……人間に対する諦観と悲憤、累積された憎悪。それが僕たちをこの世界に呼び寄せた」

ニコ「他にも、あの島にたくさんの死が集まっていたことや、魔神様自身の出生も関わってはくるけれど、一番肝心なのはそこだね」

H大将「……よくそれで海軍に入ろうと思ったな」

提督「妖精が見えるってだけでスカウトされた結果さ」


提督「バイトも人間関係が原因で長続きしねえし、とりあえずの飯の種になりゃあいいなと思ってただけだ」

H大将「人が嫌いなくせに、人の言うことを聞いていたのか?」

提督「連れ添った妖精が悲しむから無駄死にしたくなかったってだけだ。はっきり言って人間はどうでもいい」

提督「これでも妖精たちと本から最低限の倫理観ってもんを教わってるつもりだぜ? 生きてる人間どもは誰一人教えてくれなかったがな」

ニコ「これまで魔神様が、人ならざる者に頼って生きざるを得なかっただけでも、その辛労辛苦は察して余りある」

ニコ「それに加えて人間どもが、いかに魔神様に対して無礼な態度をとってきたか……!」

ニコ「ぼくたちの怒りは、そいつらを10回ずつ殺しても物足りないくらいなんだよ。人間の言うことに従うなんて屈辱の極みだ」ジロリ

ニコ「魔神様が控えろというから、仕方なく従っているだけだということを、肝に銘じておいてほしいね」フンッ

H大将「……」

ニコ「それに、今の魔神様は人間の姿をしているけど、既に人間ではなくなっているって、お前たちも知ってると思うんだけど?」

大将「なにぃ!? それはどういうことだ!!」ガタッ

大将「俺は聞いていな……ん? 待てよ? もしかして、X中佐の言っていた、人間が人間ではなくなる、という話か……?」

X中佐「僕も少佐が言っていたことをそのまま伝えただけですので、詳しくは聞いていませんが……」

X中佐「少尉の入院中に彼の血液型などを調べたところ、血液そのものが人間のそれとは成分がまったく別物でした」

大将「では、今の少尉は、いったいなんなのだ?」


X中佐「……少尉。説明、できるかい?」

提督「そうだな……」ウーン

提督「確か、X中佐には、俺が一度死んだ、ってことも伝えたよな?」

大将たち「「!?」」

赤城「そ、それはどういう意味ですか!?」

提督「俺はあの日、大佐に撃たれて殺された。そしてその時、俺の胸を貫いた銃弾だったのが、そこにいる軽巡棲姫だ」

軽巡棲姫「……」

H大将「なんだと!?」

提督「大佐の一味が、過去に深海棲艦の艤装を使って武器を作ろうとしていたことは覚えているな?」

提督「その武器の威力を試す実験台にされていたところを逃亡して来たのが、うちの鎮守府の如月だ」

X中佐「!!」

提督「大佐一味はどうにかして深海棲艦を鹵獲し、そいつらを加工して武器にして……やがて銃弾を作るまでに至った」

提督「おそらく軽巡棲姫もどこかで鹵獲されて『生きたまま』武器に加工されたんだろう。そりゃ人間を嫌って当然さ」

大将「生きたまま!? どういうことだ!」

泊地棲姫「ワタシタチ深海棲艦ハ、死ネバ何モカモ水ノ泡ト化ス。艤装ダケガ残ルトイウコトハナイ」


泊地棲姫「ナカニハ、艦娘ニ撃破サレルコトデ、艦娘ニ変化スルモノモイルガ……」

泊地棲姫「イズレニシロ、艤装ガ残ッテイル、トイウコトハ、生キテイル……ソコニ魂ガ残ッテイル、トイウコトダ」

大将「なんという……あいつらは、本当にろくでもないことを!!」ダンッ!

H大将「まったく……狂っているな。そこまで道を外れるか、頭が痛いな」

大将「……しかし、そうだとしてもだ。なぜ少尉は銃で撃たれたのに生き返ったんだ?」

提督「俺の魂が、半分は深海棲艦だから、らしい」

ニコ「えっ」

メディウムたち「「えっ」」ドヨッ

艦娘たち「「えっ」」ドヨドヨッ

大将たち「「はあ?」」

軽巡棲姫「……ハァ、ジャナイガ」

泊地棲姫「ヤレヤレ……」

提督「ま、信じられないだろうな。見た目はほぼ人間っぽいっつうか、体そのものは人間だったんだからな」

ニコ「魔神様、それはぼくも初耳だよ」


ル級「証人ヲ呼ブワネ」

X中佐「証人?」

 スタスタ…

ヲ級「連レテキタ」

時雨「あ、提督。久しぶり」

提督「……時雨!? 久しぶりって……お前、来たのか!? っつうか戻って来られたのか!?」ガタッ

時雨「うん、見ての通り、ドロップしたてだけどね」ニコ

提督「……夢じゃなかったのかよ」アッケ

大将「時雨じゃないか。こいつが何かしたのか」

時雨「特になにかをしたわけじゃないけど。まあ、一部始終を見てきた、って言うべきかな」

大将「見てきた?」

時雨「うん。例えば、あの日、スタンガンを使われて拘束された後、朧に見つけてもらって2階の執務室から飛び降りたこととか」

大将「!」

時雨「朧がヲ級になったり、初春がル級になったりとか」

H大将「!!」

時雨「この人が魔神になった提督に腰を抜かして一緒に逃げそうになったこととか」

大将「お、おい!?」


H大将「時雨はあの場にはいなかったな。なぜそこまで知っている?」

時雨「僕は、もとD提督鎮守府の時雨。かつてあの島に……墓場島に漂着して、埋葬された艦娘の一人さ」

 ザワッ…


扶桑「……」

五月雨「……」

朝雲「嘘でしょ……」

山城「はぁ、やっと戻ってこれたわ」

那珂「あ、時雨ちゃんもあっちにいるんだね!」

扶桑「……山城。あそこにいる、時雨が……D提督のことを……」

山城「はい。あそこにいるのは、かつて私たちと一緒の鎮守府にいて……私たちがあの島の砂浜で看取った、あの時雨です」

扶桑「……戻って……きたと、いうの……?」ポロポロポロ

山城「はい……!」コクン


大将「つ、つまり、お前はあの島にいた幽霊だったと?」

時雨「うん。そのあと、僕は天国に行く途中まで行って、そこで提督と出会ったんだ」


H大将「……少尉は天国に行けたのか」

X中佐「そ、それはさすがに失礼では……!?」

H大将「いや、人を殺す罠の軍団の総大将だぞ?」

ニコ「そもそも魔神様が天国とか地獄とか、そういう場所に行くこと自体おかしいと思うんだけどな?」ウーン

時雨「もともと提督は人間として生まれたんだし、そこらへんはきっといろいろあるんだよ。まあ、その話は置いておくとして……」

時雨「とにかく、空の上で僕が出逢った提督は、全身真っ白で、顔にひびが入って、そのひびが橙色に発光する、深海棲艦の姿だったんだ」

ル級「姫級ヤ、鬼級ニ、ソウイウ子イタワヨネ?」

泊地棲姫「ソウダナ。例エバ、重巡棲姫トカカ」

全員「「……」」

提督「だから妖精とも話せるし、ル級たち深海棲艦に触れられても平気だったってわけらしい」

H大将「……信じがたいが、理屈としては成り立つな……」

時雨「提督のお母さんに話を聞くといいよ。その人、若いころに海難事故に遭ってて、その時に深海棲艦のようなものに襲われているはずなんだ」

赤城「……それでは、大佐に撃たれた提督が生き返ったのは、弾丸にされた軽巡棲姫のおかげだったと?」

提督「多分、な。大佐に撃たれた俺も、大佐の道具にされた軽巡棲姫も、言いようのない思いを抱いていたのは事実だったと思う」


提督「正直、あの場で何があったのかは、覚えちゃいないしわからないんだが……結果的には、そういうことだと思ってる」

軽巡棲姫「私ハ、アナタノオカゲダト思ッテイルケド?」

提督「そうなのか? お前も自覚ないんじゃ、ますますわかんねえな」

提督「でだ、撃たれて生き返ってから、軽巡棲姫の弾丸が生きているとわかったから、泊地棲姫に育ててくれと頼んだ結果、こうなったわけだ」

全員「「……」」

提督「あ、そうだ、泊地棲姫」

泊地棲姫「! ナンダ?」パァッ

提督「お前に大佐預けてたろ。軽巡棲姫の餌にしろって言ってた、あれ。今はどうなってんだ?」

大将「んなっ!?」

泊地棲姫「アア、アレカ? 駆逐艦用ノ巣トシテ使ッテイタガ、ソロソロ捨テナケレバナ……」

H大将「!?」

提督「なんだ、まだ生きてたのか? 随分しぶといな」

泊地棲姫「見ルカ?」

提督「いや、いい。見たら怒りが再燃して手を出しそうだ、適当に始末しておいてくれ」

泊地棲姫「デハ、ソウシヨウ」

X中佐「……この場に中将閣下がいなくて本当に良かったよ」ハァ…


赤城「話を戻しますが、提督が日本へ帰る、という選択肢はなくなったと考えてよろしいですね?」

X中佐「そ、そうだね……限りなく難しいと言えるだろうね」

H大将「ああ。この状況では、日本へ帰したほうがデメリットが大きいと思えるな」

大将「むぐ……!」

赤城「では……」

提督「俺がどこへ行くか、って話なんだろうが、その前に赤城。あの島は今後どういう扱いになるんだ?」

赤城「そうですね……しばらくは立ち入り禁止になるでしょう。人が出入りできる状態にはありません」

赤城「海軍はこの島の鎮守府を借りていたわけですから、その後××国へ返すことになりますね」

提督「……結局、俺が海軍に残ることを選択した場合でも、あの島に残る選択肢はないってことだな?」

ル級「提督ハ、アノ島ヲ気ニ入ッテイタノヨネ?」

提督「まあな。面倒くせえ人間もそうそう来ないし、気楽なもんだった」

泊地棲姫「ダカラ、私タチガアノ島ヲ奪ッテヤロウ。提督ヨ、一緒ニ住メ」ニヤリ

大将「お、おい! そんな勝手な真似は許さ」

X中佐「いいんじゃないでしょうか」

大将「んなっ!?」

H大将「X中佐!?」


X中佐「僕は賛成ですよ。せっかくですし、少尉の配下の艦娘も一緒に住むのはいかがでしょう」

提督「は……?」

大将「甥っ子君、正気か!?」

X中佐「正気ですよ。考えてもみてください、今や少尉は深海棲艦と友好関係を結んだ超重要人物です。ここから引き離すのは逆効果では?」

H大将「それは確かにそうだが……」

X中佐「少尉の部下の艦娘にしても、深海棲艦になる恐れがあったとはいえ、少尉とこれまで無事に過ごしてきました」

X中佐「島の殆どが燃えてしまったあの島を再び人が住めるようにするには、相当な時間と労力が必要でしょうが……」

X中佐「彼が望むのであれば、あの島に住み続けても良いのではないかと思っています」

大将「そ、それができれば苦労はしないだろうが……」

X中佐「それに、彼はかつてこう言っていたんですよ。艦娘たちが人間に干渉されることなく暮らせる場所が欲しいと」

X中佐「自分たちの、艦娘たちの『国』が欲しいと」

大将たち「「!!」」

ル級「……」フフッ

ニコ「……国、か……」

提督「……お前……!」


X中佐「これまで我々は、侵略者としてしか、深海棲艦を見てこなかった」

X中佐「その深海棲艦たちと、今、僕たちはここで対話ができている。僕は、できることならこの対話をもっと続けたい」

X中佐「そこに、人間と深海棲艦との共存の道があることを信じたい……!」

大将「そういうことなら……そうだな」

H大将「……」

X中佐「そのためにはまず、ここにいる深海棲艦たちに僕たちと戦わない意思があるかどうか」

X中佐「これからも戦わずにいられるか、その確約を取るのと一緒に……」

X中佐「メディウムにも心変わりしてもらう必要がありますが、それは気長に心変わりを待つか」

X中佐「あるいは、こちらも彼女たちが魔神と崇める提督と、僕たちの安全を保証するための約束事を取り付けられるか、でしょうね」チラッ

ニコ「……魔神様が手を出すなと言うのなら、従わざるを得ないかな?」

ノイルース「私たちの在り方としては、あまり望ましくはありませんが」フゥ…

大将「しかしそれでは、引き換えに何を請求されるかわからんぞ……」

X中佐「今更何を仰るんですか。もともと僕たちが目指していた深海棲艦との停戦を想定したときも同じことを論じてきたでしょう」

X中佐「どんな要求が出るか予測がつかないと、これまで何度も話し合って、何度も同じ結論を出してきたじゃありませんか」

X中佐「今ここでそんな及び腰な態度を見せてどうするんです!?」

大将「それはそうだが……」


X中佐「相手の要求は聞くだけは聞く。そのうえで可能なものは飲み、我々が飲めないものは詰めて妥協案を探す。そうだったでしょう!?」

大将「それこそ何を請求されるか……」

赤城「大将閣下?」ジロリ

大将「ぐ……」タジッ

X中佐「僕は、この島を提督とその配下の艦娘、この場にいる深海棲艦、そしてメディウムたちに明け渡したほうがいいと思っています」

X中佐「今後も彼らと対話するための場所として……それが世界の平和に繋がるのであれば、それだけの価値はあるかと」

提督「……」

H大将「大将はともかく、少尉も不服そうだな?」

提督「別に。人間の世界は面倒だからな。やることが多そうだな、って思ってるだけだ」

X中佐「仮に嫌だと思っても、この島以外に提督がどこかへ行く当てもないんじゃないのかな?」

提督「……そりゃあ、まあ、な」

X中佐「僕たちが望むのは対話だ。この島の海域でを非交戦海域とし、深海棲艦の領土として、中立地帯として使わせて欲しい」

X中佐「メディウムや深海棲艦が望むものをまとめ、少尉を通して交流から始めたい」

X中佐「そこから、交易であったり、和解できる道を探したいんだ。お互いの安全と、共存のために」

全員「「……」」


X中佐「どうでしょう。メディウムたちにしても、深海棲艦にしても、そこまで悪い条件ではないはずです」

ニコ「……」

ル級「……」

H大将「……」

大将「むうう……」

ニコ「みんなどう思う?」

ニーナ「私たちの領地で、生殺与奪を私たちで決められるのであれば……」

ノイルース「悪くはありませんね……魔神様の判断にお任せして良いのではないでしょうか」

タチアナ「ええ、私もそれで良いと思います」

泊地棲姫「フフフ……人間ガ、私タチノ領地ヲ認メルカ……!」

ヲ級「画期的ダナ」

ル級「私ハ賛成ネ。提督ガ、イイッテ言ウナラ、ソレデイイワ」

軽巡棲姫「提督ト一緒ニイラレルナラ……」ポ

X中佐「どうだろう、少尉。この島の代表として、僕たちと……各国の首脳と、条約を整理してみないか?」

提督「……」

赤城「少尉……!」

提督「……」


提督「……」ハァ

提督「面倒臭えが、やるしかねえか……」

 ザワッ…!

提督「不知火。悪いが頼りにさせてくれ。国際法ってやつか? そういうのとか、細かい取り決めが全然わかんねえんだ」

不知火「……わかりました。赤城さんにも相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

赤城「ええ、喜んで承ります」

提督「それから、そういう法律ってのは人間の公序良俗とか、人間の作った常識で固められてるはずだ」

提督「メディウムや深海棲艦が受け入れられないものは突っぱねるつもりでいる」

大将「ぐぬ……!」

泊地棲姫「私タチガ、ワザワザ人間ニ、断リヲ入レル必要ガナイカラナ。今モ、勝手ニ海域ヲ支配シテイルダロウ」

X中佐「確かに、今はルール無用だね。だとしたら、この島の領海だけでも、交戦しないように条約を結べないだろうか?」

赤城「できればこの場で仔細を決めたいところですが……」

H大将「少し待て。黙って聞いていたが、これは領土問題だ。世界各国が黙って見過ごすとは思えない」

泊地棲姫「ホウ……? ソレナラモウ遅イゾ。スデニ私タチガアノ島ヲ好キニシテイルカラナ」

タチアナ「ええ、すでに再開発を進めております。人間が入り込む余地などありません」

H大将「おい!?」


提督「……だったらもう、泊地棲姫の言うように強奪したことにしたほうが早いな」

大将「はああ!?」

提督「海底火山の噴火で島の鎮守府が焼失したのは事実」

提督「噴火の兆しを深海勢力が察知していて、それを機に泊地棲姫が海域に攻め込んできた、という話にすればいい」

提督「人間の介入など許されない状況だったことにすりゃいいんだ。火山活動は完全に天災、人間が抗えるはずもない」

提督「島に調査に来た連中はただの不運。あとはこの船が見逃された理由と、こうやって交渉できている理由を適当にでっち上げりゃいい」

不知火「でっち上げる……ですか」タラリ

提督「生憎、俺は巻き込まれて寝てたようなもんだからな。どうやってこの状況作ったのか、俺にはうまく話を作れねえ」

提督「深海側が交渉役に俺を選んだ理由もなんだっていい。気分で選んだと言っても通用するだろ」

提督「全部ありのままに伝えても別に構わねえぜ? どうせそうなって困るのは、身内を謀殺しようとした海軍だろうしな」クックックッ

H大将「……他人事のように言ってくれるな……」ハァ

赤城「少尉。顔が悪者になっていますよ」

提督「あん? 俺はこれが地だぞ?」

赤城「まったく……こうも開き直られると可愛くありませんね」

提督「馬ぁ鹿、俺のどこを見て可愛いとか言ってんだ」

赤城「あなたが自覚していないだけで、可愛いところはたくさん見てきましたよ?」フフッ

ル級「ソノ話、アトデ詳シク」

提督「おい」


大将「まったく、貴様は何を考えているんだ……お前の望みはなんなんだ!?」

提督「ふん。そんなものは決まってる」

提督「俺の望みは、俺に付き従ってくれている奴らの平穏だ」

提督「人間を排除した、妖精、艦娘、深海棲艦、メディウムの安息の地を作ること」

提督「人間に虐げられ、轟沈させられた艦娘が、人の手に頼らずとも生きていける場所。それが俺の理想であり、望みだ」

X中佐「少尉……」

大将「俺たちを邪険にしていたのは、そういう理由か……?」

H大将「やれやれ、ようやく腹の底を見せたか……面倒な男だ」

不知火「……司令。その理想の中には、司令も入っていますか?」

提督「ん?」

不知火「かつて司令は、その理想には人間であるご自身も不要だと仰っていました」

不知火「しかし、今の司令は人間ではありません。そのお考えを改める気にはなりませんでしょうか」

X中佐「そんなこと考えていたのか!?」

提督「ああ……まあ、言ってたな。島の住人を艦娘だけにしたくて、最初は俺も島からいなくなる予定でいたんだ」

 ザワ…!


提督「けどまあ……こう言っといてひっくり返すのはみっともねえけど、その話は、なしにするしかねえな」アタマガリガリ

提督「目立つのは嫌いなんだが、海軍とかとこれから話をするうえでは矢面に立たねえといけないだろうし……」

提督「こうやってメディウムやら深海棲艦やらとも縁ができた以上、下手に喧嘩させたくもねえし……」

提督「まあ、いち住人として、いてもいいんなら……」

ル級「何言ッテルノ。アナタハ、イナイト、困ルノヨ」ニッ

提督「……」

ニコ「そ、そうだよ、ぼくたちは魔神様と一緒にいるためにここにいるんだから!」ガタッ

軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ!」ガタッ

如月in傍聴席「抜け駆けは許さないわよ!!」

大和in傍聴席「提督を独り占めにはさせません!!」

「提督ー!!」キャー!

「司令官!」キャー!

「魔神様ー!」キャー!

「マスター!!」キャー!

提督「……」セキメン


ル級「ホーラ、イナイト困ルデショウ?」ニヤニヤ

提督「……くそ。なんか、恥っずいな、これ……」ウツムイテカオカクシ

不知火「司令があからさまに恥ずかしがっているところは初めて見ました」キラキラッ

赤城「レアショットですね」キラキラッ

ル級「コレガ、可愛イ、ダナ?」キラキラッ

ニコ「うん……まあ、いいんじゃないかな」チラッチラッ

タチアナ(そこで真っ向から見ようとしないあたりがニコさんらしいと言いますか……)

H大将「最早我々が口を挟めるような空気ではないな。認めてやるしかないんじゃないか? なあ」

X中佐「ですね。特にメディウムは海軍で扱うには荷が重すぎると思いますが、いかがでしょう」

大将「……むううう……」ガックリ

 キャーキャー!

提督「……っだあああ! お前ら少し静かにしろ! 恥ずかしい!」ミミマデマッカ

 ピタッ

提督「ったく……とにかくあの島は俺たちが好き勝手していいよな? っていうか、してるらしいけどよ……」

H大将「そうだな。人間の手には負えない。その方向で本営にも話を伝えよう」

提督「ああ、そうしてもらえるとありがたい」


提督「そういうわけなんで、深海棲艦もメディウムも、この船の人間には手を出さないでくれよ。今後、俺が指示した連中も同様に頼む」

ニコ「……魔神様ともあろうお方が、下手に出すぎじゃないかな?」

提督「そうか? この世界で、あの島に住んで攻撃されないっつう確約を得られただけでも、十分すぎる話だと思うぞ?」

提督「俺たちの望みは俺たちの平穏だ。これ以上駄々こねても、敵視されるだけでいいことなんかありゃしねえ」

提督「そもそも罠がこれ以上目立ってどうすんだ? 潜んでなんぼだろう? 俺たちが目立つのは俺たちのシマだけでいいんだ」

提督「無断で踏み込んできた奴を、丁寧に入念に執拗に派手に、飛ばして刻んで潰してやるのがお前らの本分なんじゃねえのか?」

ノイルース「それは確かに……」

ニーナ「その通りですね……」

タチアナ「ええ、同意いたします」

ニコ「……なんだか、言いくるめられてる気がする」

赤城「こういう時の物言いだけはお上手ですよね、少尉は」フフッ

不知火「はい」コク

大将(もしかして、俺たちも言いくるめられてるのか?)タラリ

H大将「やれやれ……深海側のスパイかと疑っていたが、それ以上の相手だったな。X中佐、責任重大だぞ」

X中佐「そうですね……最善を尽くします」

というわけで、今回はここまで。

続きです。


 * それからしばらく後 医療船内 ロビー *

提督「やれやれ、話が長すぎだ……」ノビー

如月「司令官、お疲れ様でした」

提督「おう、マジで疲れたぜ……ル級たちにしてもニコたちにしても、よくもまあ我慢して長いこと座っててくれたもんだ」

提督「ニコたちも、俺に面倒をかけられないとか言ってル級たちと一緒に島に引き上げていったし……聞き分けが良すぎて申し訳ねえな」

如月「人間に手を出さないには、こうするのが一番、って言ってたものね」

大和「後でちゃんとお礼をしに行かないといけませんね」

吹雪「司令官!」ズイ

朧「提督!」ズズイ

朝潮「司令官!! ご快癒、おめでとうございます!!」ズビシッ!

提督「おう……って、お前らもよく生きて……」

金剛「テートクゥゥ!! 生きてて良かったデース!!」ウシロカラダキツキー!

提督「うおっ!?」ガッシィ!

榛名「金剛お姉様!? ずるいです!」


金剛「Woo... ちゃんと生きて動いてくれてマス……この感触も久し振りデース」マサグリマサグリ

提督「お前はどこを触ってん……だっ!」アタマガシッ

金剛「はっ! ちょ、テート……Noooooo !!」メキメキメキ

電「金剛さんも相変わらずなのです!」

暁「本当ね……まあ、仕方ないのかもしれないけれど」クスッ

提督「お、電と暁か。電も生きてるなら何よりだ。暁、お前も倒れてたんだって?」

暁「え、ええ、それで、その……司令官、覚えてる?」

提督「ん? 天国っつうかあの世の話か?」

暁「……やっぱり、夢じゃなかったのね。こうしてお話してると、司令官も普通の人間に見えるのに……」

提督「ちゃんと覚えてるのか。ということは、I提督のことも覚えてるな?」

暁「うん……司令官は、I提督のことは知ってたの?」

提督「一応な。ただ、それを教えてお前がどうなるかわからなかったから、俺からは話を振らないようにしてたんだ」

暁「そうだったのね……」

川内「せめてあたしにだけでも、I提督を知ってるって言ってくれれば良かったのに!」

提督「そうは言うが、わからなかったからな。俺の方こそ早く言って欲しかったぜ」


川内「あれ、気付いてなかったの?」

提督「以前お前が、夜中に鎮守府を攻撃されて敗走したとか言ってたけど、それだけじゃなあ?」

提督「お前が関係者かどうか確信が持てなかったってのに、余計なこと言って引っ掻き回されたら目も当てられねえし」

提督「向こうの夢でも翔鶴に、川内と響によろしく、って言われてきたが、そいつがお前のことだとどうやってわかるよ?」

川内「まあ、それもそうだけど……向こう、かあ」

提督「そうだ、五月雨はいるか? 金剛と五月雨にも伝えておかなきゃならないことがある」

金剛「What's ?」

 *

金剛「Q中将が……そうデスカ……!」

提督「自分の息子が存命なら引き合わせてた、とか言ってたからな。お前のことを評価もしていたし、心配もしてるようだったぞ」

五月雨「P少将にも……お会いしてたんですね……」グスッ

暁「よろしく頼むって言ってたわ。私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって、言ってたのよね」

提督「ああ。お前のことになった途端、むきになるくらいには気にかけてたな」

五月雨「……P少将……」ポロポロ


提督「ところで、時雨はどこ行った? あいつもこの話を聞いたうちの一人なんだが」

朝雲「あー、時雨なら、ほら、あっちあっち」

扶桑「時雨……!」ダキツキー

時雨「むぎゅう……」ダキツカレ

日向「扶桑が、さっきからずっと時雨を抱いて放そうとしないんだが」

白露「私たちだって時雨を歓迎したいんだよ!?」

提督「……」アタマオサエ

山城「あの、扶桑お姉様? そろそろ時雨を解放してあげ」

扶桑「嫌」

山城「」ピシッ

山城「」

山城「」

山城「」ヒザカラクズレオチ

朝雲「山城さん!?」


日向「まったく、何をしているんだ。扶桑、そのままだと時雨が窒息するぞ。また時雨を天国に送り返すつもりか?」

扶桑「えっ? し、時雨!? だ、大丈夫!?」ユサユサ

時雨「……ぷはっ!? こ、ここはどこ!? 僕は誰!?」

扶桑「良かった、無事だったのね時雨!」ダキシメッ

時雨「ぐえっ」

朝雲「扶桑さん!?」

日向「無事でもないし、また絞まってるぞ……これはどうしたものやら」ハァ

提督「ったく……しょうがねえな」

朝雲「あ」

提督「扶桑? お前ももうちょっと聞き分けがいいと思ったんだけどなあ?」アタマツカミ

扶桑「え? 提督、何を……あ、あああ!? い、痛い痛いああひぃいぃぃいい!?」メキメキメキ

金剛「扶桑の口からこれまで聞いたこともないような悲鳴が出てきたデース……」

日向「腕が緩んだな。やれやれ……時雨、無事か?」ヒョイ

時雨「はぁ……またお花畑が見えるかと思ったよ。ありがとう」


朝雲「ちょっと、こっちで山城さんが扶桑さんに食い気味に拒絶されたせいで崩れ落ちてるんだけど」

山城「……フコウダワ……」イジイジ

時雨「山城、元気出して」ナデナデ

扶桑「い、いたたた……噂には聞いていたけれど、提督からいただいた初めてがこんなに痛いだなんて……」ポ

伊8(言い回しが卑猥)

時雨「扶桑、まだ余裕あるみたいだね? もう一回提督に掴んでもらう?」ハイライトオフ

扶桑「ひっ!? え、遠慮しておくわ……!?」アセアセ

時雨「そう? ならいいけど、本当にいいの?」ハイライトオン

扶桑「もう十分よ……あの痛さは直接頭に響いてくるみたいで、体が裏返るかと思ったくらいだもの……」ハァ…

朝潮「わかります。司令官のアイアンクローは、この世のものとは思えないほどの痛さでした……!」ウンウン

電「司令官さんの握力はどう考えてもおかしいのです」ウンウン

霞「……ちょっと待って、朝潮姉もやられたことあるの!?」

朝潮「え、ええ、まあ……」ポ

暁「電もそうなの?」

電「な、なのです……」モジモジ


金剛「これで扶桑も仲間デース」ニヤニヤ

大和「アイアンクロー仲間ね!」クスッ

暁「そういうことに仲間意識を持つのはどうかと思うけど?」ジトッ

霞「あいつから手が出るレベルで注意を受けてるってことでしょ?」ジトッ

日向「ああ。恥じ入りこそすれ、嬉しそうにしているのは問題じゃないのか」ジトッ

大和如月金剛朝潮電「「ごめんなさい」」

伊8(はっちゃんもアイアンクローされたことあるけど、他人の振りしていようっと)

吹雪「ふふっ、みんな、だらしないなあ。私はアイアンクローされたことないもんね!」ドヤッ

朝雲「アイアンクローは貰ってなくても、吹雪は暴走してデコピンで吹っ飛ばされたことがあるじゃない。威張れる立場にないんじゃないの?」

吹雪「それは言わないでぇぇぇ!!」イヤァァァ!

日向「……まあ、騒々しいのはいつものこととしてだ。先ほどまでの話からすると、提督は死者に会ってきた、ということなのか?」

提督「ああ。あの場でも話に出ていたが、暁や時雨もそういうことだよな?」

時雨「そうだね。僕の場合、まさかこの世に戻ってくることができるなんて思ってもいなかったけど」

日向「……時雨はこちらに戻ってくるつもりはなかったのか」

時雨「うん、戻れる体がなかったからね。島に漂着したときも胴から下がなかったし、溶岩で全部燃えちゃったしね」


日向「ふむ……では、なぜ時雨は戻ってくることができたんだ?」

時雨「多分だけど……エフェメラの力、かな」

日向「エフェメラ?」

時雨「魔神に仕える従僕の名前だよ。同じ個体が複数いて、それぞれが魔神のために動いてるみたいなんだ」

時雨「その中の一人が少尉の身を案じていたんだけど、直接手を出せないからって、僕が声をかけられたんだよ」

提督「もしかしたら、手を貸してくれたお礼に時雨をこの世に戻してやったのかもな」

日向「なるほど……その話、詳しく聞かせてもらいたいが、いいだろうか」

提督「俺も聞きたいな。俺にも関わる話なんだろう?」

時雨「そうだね。僕もたくさん話したいことがあるからね」ニコ

白露「その前に私たちにも歓迎させてね! 時雨!」

時雨「僕は走らないよ?」

白露「なんでよ!?」

山城「普通走らないわよ……」


 * 翌日 朝 *

 * 医療船内 小会議室へ通じる廊下 *

五月雨「会わせたい人……ですか?」

X中佐「ああ。島があんなことになって、君たちを心配してくれている人が来てくれてね」

X中佐「彼らはその中でも、熱心に君たちのことを案じている人たちだ」

神通「誰でしょう……?」

祥鳳「こちらです。どうぞ」チャッ

X中佐「ありがとう。さあ、二人も入って」

五月雨「は、はい! 失礼します!」

神通「失礼します……」

隊長「ん……来たか」

五月雨「……あ、あなたは……憲兵隊長さん!!」

隊長「いかにも。覚えていてくれたか、駆逐艦五月雨。貴様は息災なようでなによりだ」

神通「……!!」


五月雨「た、隊長さんが私に話を……?」

隊長「否。私はこの二人の付き添いだ」

若い女性提督「!」ケイレイ

松葉杖をついた若い提督「……」ペコリ

五月雨「この人たちが……?」

神通「……ああ……!!」

五月雨「? 神通さん?」

神通「生きて……生きて、らしたのですね……」ポロポロ…

五月雨「えっ」

神通「F提督……!」

若い提督→F提督「ああ。隠してて、すまなかった」

 ヒュオッ(瞬間的に神通が消えて)

女性提督「ふあっ!?」

 シュバッ!(F提督の目の前に神通が現れる)

隊長「……」

五月雨「……」


F提督「……」パチクリ

X中佐「えっ、なにあれ。神通って瞬間移動できるの?」ヒソヒソ

祥鳳「は、速すぎて見えなかったんですが……」ヒソヒソ

F提督「驚いたな。いつの間に忍者みたいになったんだい? せっかく、駆け寄ってきたところを受け止めようってつもりでいたのに」フフッ

神通「ご無理を、仰らないでください。後ろに車椅子が見えますよ?」

F提督「そのくらい、見栄を張らせてくれてもいいじゃないか。本当に久し振りの再会なんだ」

F提督「……神通、連絡もせず、黙っていてすまなかった。会いたかったよ」ナデ

神通「……わた、わたしも、です……! また、こうして、お会いできるなんて……!!」ブワッ

神通「あなたの、葬儀があったことだって……終わってしまってから、知ったんですよ……!!」ギュ…

神通「無念、でした……あなたのそばに、いなかったことが……船が襲われたときに、私がそばにいればと、何度も、何度も……!!」

F提督「神通……」ダキヨセ

五月雨「す、すみません、この方は、神通さんとどのような関係なんですか?」

X中佐「ん? 君は知らなかったのか。彼はF提督、神通のかつての司令官だよ」

X中佐「彼は、深海棲艦との対話の方法を探していた提督の一人で、同じ目標を持つ提督のグループを僕の叔父である大将が支援していたんだ」

X中佐「けれど、数年前に彼らの乗った船が襲撃されて、彼とほか数名の乗員を除いてみんな亡くなってしまった……」


F提督「私たちの船が襲撃されたとき、大将殿の遠征部隊が近くにいてね。私は運よく助けていただいたが……多くの仲間を失ってしまった」

F提督「私も死にかけ、今もリハビリを続けているが、神通がいるという島が襲撃されたと知って、いてもたってもいられなくなって」

五月雨「それでこちらにいらっしゃったんですか……」

F提督「こちらに来るのはもう少し後にするつもりだったんだが、神通に逢いたくてね……大将殿に特別に許可を戴いたんだ」フフッ

神通「F提督……!!」

F提督「あの襲撃事件のとき、神通がいなくて本当に良かったと思ったよ」

F提督「あの場にいて応戦しようものなら、間違いなく殺されていただろうからね。そう思えるくらい、あの船への攻撃は苛烈だった」

X中佐「襲撃された巡視船は、そこまでやるのかと思うくらい破壊されていた」

X中佐「その危険性から、大将はF提督たち生存者の存在を隠して、襲撃者の手掛かりを探っていたんだ」

F提督「そして、今回の騒ぎと、最近の調査で、中将閣下を襲撃しようとした、息子である大佐とその一味……」

F提督「そして彼らと通じ、利用していたJ少将が怪しいというところまで、ようやく分かったんです」

F提督「その際にはこちらの陸軍の皆さんにも協力をいただきまして」チラッ

隊長「……」


F提督「その甲斐もあって、あとは彼らがどんなことをしたのか、追い詰めて暴こうとしていたのですが……」

X中佐「重要参考人は燃えてしまったと」

F提督「そうですね……残念ですが」

F提督「しかし、だからこそ、私がこうして神通と再会できたというのもあります。そこは痛し痒し、ですかね」フフッ

五月雨「……」

X中佐「さて! 今度は五月雨に紹介しよう! 礼提督!」

五月雨「えっ」

女性提督→礼提督「はいっ! 改めまして、お久し振りです! 五月雨さん!!」ビシッ!!

五月雨「お久し……え、えええええ!?」

五月雨「まっ、ちょっと待ってください!? 礼提督……って、もしかして!? あの『礼ちゃん』ですか!?」

礼提督「はいっ!! 私は……」

隊長「いかにも。私の娘だ」

礼提督「って、お父さん!?」

五月雨「う、うわああああ……! 数年ぶりですよね!? 背も大きく……で、でも確か、弁護士を目指してたって……」

礼提督「はい、その時はそうでした……」


礼提督「ですが、五月雨さんたちが襲撃され、P少将が亡くなったと聞いて……どうしても、そのかたきを、と……!」

五月雨「……!!」

礼提督「五月雨さん……お願いがあります! 私の、秘書艦に……初期艦になってください!!」

五月雨「えええ!?」

礼提督「私にとってP少将は、第二のお父さんでした……そのお父さんの無念を、どうしても晴らしたいんです!!」

礼提督「P少将の初期艦だった五月雨さんと、一緒にかたき討ちを果たしたいんです!!」

五月雨「……」

 ――私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって

五月雨「……」

礼提督「お願いします!!」

五月雨「……礼ちゃん……いえ、礼提督」

礼提督「はいっ!!」

五月雨「そのような理由であれば、私は、秘書艦をお受けすることは、できません」

隊長「!」

礼提督「え、えええ!? ど、どうしてですか!?」


五月雨「P少将が……提督が目指していたのは、この海の……この世界の平和です」

五月雨「私たちが戦う相手は、深海棲艦ではなく、この海の安全を脅かすものです……!」

礼提督「……あ……!」

五月雨「確かに、私は、私の仲間を沈めたあのレ級が許せません。提督が死を覚悟してまで討とうとしたあいつを、私は許せません」

五月雨「けれど、そのレ級のせいで、もっと多くの人たちが、私たちと同じ悲しみを味わうことのほうが、許せない……!!」

五月雨「そして、そのレ級を打倒する力を……撃滅できる力を持たなかった私自身も……!!」

隊長「……」

五月雨「でも、それだけじゃないんです。レ級以外にも、罪のない人々を襲う深海棲艦がたくさんいます」

五月雨「そして、残念ながら、罪のない人々を襲うのが、深海棲艦以外にもいるということを、私は知ってしまいました」

隊長「……」ウツムキ

五月雨「礼提督……私たちの敵はそのすべてです」

五月雨「礼提督は、そのたくさんの敵すべてと、戦う覚悟はおありですか……?」キッ…!

五月雨「あなたは、自分の選んだ正義を、貫き通すことができますか……?」

礼提督「う……」タジッ

隊長「……」


礼提督「……申し訳、ありません……私は、そこまで考えを至らせていませんでした」

礼提督「私はただ……あの鎮守府で笑っていたみんなが、いなくなっちゃったのが、本当に悲しくて、悔しくて……」グスッ

五月雨「……」

隊長「五月雨。不肖の娘が申し訳ない」ペコリ

隊長「その父親として、改めてお願いがしたい。娘の……礼提督の秘書艦として、提督の心得というものを教示していただけないだろうか」

五月雨「隊長さん……!」

隊長「愚かなことにこの私も、陸と海の違いはあれど、P少将の友人として、志を共にした同士として、無念を晴らしたい気持ちがあった」

隊長「五月雨にも、そういう気持ちがあるものと思い込んでいたのだ」

隊長「軍人の矜持を忘れ、知らぬうちに復讐に心を捕らわれていたこと……ただただ恥じ入るばかりだ」

隊長「五月雨。P少将を知る艦娘として、娘を導いてほしい。お願いできないだろうか」ペコリ

礼提督「お父さん……」

五月雨「……」

礼提督「五月雨さん……お願いします!」バッ!

五月雨「……」


五月雨「わかりました。海のことを……この世界のことを、考えてくださるのでしたら、引き受けます!」

礼提督「五月雨さん……!!」

隊長「……ありがとう。礼を言う」

五月雨「あ、でも、私も、そんなに偉そうなことを言えた立場じゃないんですよ」エヘヘ

五月雨「隊長さんはご存じだと思いますが、P提督は、私が無茶をして死んでしまわないように、あの島へ送ったんです」

五月雨「実際、私もあのときは、ただレ級を倒すことしか考えていませんでしたから……礼提督と同じように」

隊長「……」

五月雨「でも、あの島で、提督と出会って……あの島の艦娘のみんなと出会って、私の見ている世界がどれだけ狭いかを知ったんです」

五月雨「いろんな人がいて、いろんな考え方があって……その中で、私にできることは何か」

五月雨「正しいことはひとつじゃなくて。どんなものにも、良いところと悪いところがあって。すごく、複雑だってことを知ったんです」

五月雨「それから……人間なのに、人間や艦娘にひどいことをする人がいるってことも……間違ったことをする人がいるってことも、知りました」

五月雨「礼提督には、そういう人になってほしくありませんし……それに、一番は、みんな無事で……生きててほしいって、思うんです」

礼提督「……」コクン


五月雨「あまりうまく説明できませんし、伝わったかどうかわかりませんけど……だから、これから、たくさんお話ししましょう!」

五月雨「良いと思ったことも、悪いと思ったことも。たくさん話し合って、進んでいきましょう!」ニコッ

礼提督「はい……はいっ!!」コクコク

礼提督「良かった……五月雨さんみたいな艦娘が秘書艦になってくれて、本当に良かったですううう!」グスグス

五月雨「な、泣きすぎですよ!?」

礼提督「だ、だってぇ、一度は断られましたしい!!」ウエーン


X中佐「……なんというか、身の引き締まる思いだね」

祥鳳「はい……!」

F提督「良い艦娘だ……ところで神通?」

神通「はい?」ニコニコ

F提督「どうして私は君にお姫様抱っこされているのかな?」

神通「脚がおつらそうでしたから……」ニコニコ


F提督「車椅子に乗せてくれていいんだが……」

神通「私は大丈夫ですよ」ニッコニコー

X中佐(嬉しそうだなあ……)

祥鳳(くっついていたいんでしょうね……)

隊長「コホン。余程再会が嬉しかったと見えるが、慎んだほうがいい。私も、この場で憲兵の仕事をしたいと思ってはいないのでな」

神通「わかりました……」ションボリ

F提督「神通はいつからこんなにお茶目になったのかな……」クルマイスノセラレ

神通「お茶目……?」

神通「」ポクポクポク

神通「」チーン

神通「あ、あああ……私ったらなんてはしたないことを……」カオマッカ

F提督「自覚してなかったのか……」タラリ

五月雨「如月ちゃんや大和さんたちの影響かなあ……」タラリ

X中佐「この場にビスマルクがいなくて良かったかもしれないなあ」

祥鳳「ああ……やりかねませんね、ビスマルクさんなら」

今回はここまで。

いろは順で言うと、現時点で加(か)まで出ているので次は与(よ)なのですが、
「墓場島鎮守府?」側で使うかもと思って、少し飛ばして礼(れ)で命名しています。
仇敵がレ級なので、丁度いい対比なのかもしれません。

そしてF提督、影牢エンドの場合はそのまま死んだことにしてますが、
こちらのルートでは生きてたことにしました。

フラグ回収ルートなので、その辺は大目に見てください。

1レスだけご容赦ください。
これは個人的な独り言なんだけれど。

もともとはこっち(罠だらけ)が主流だったのに、
そも前日譚の「墓場島鎮守府?」の方が知られてるみたいなのは
どうしたもんかねえ? というのがありまして……。

だって、艦娘メインの話の続きが、
サ終したブラゲのキャラが出てくる話なのよ?

絶対読むときに混乱するというか、もういいやってなっちゃうと思うんだよねえ……。

で、こっちを読まないと絶対ハッピーエンドに辿り着けない。これ既定路線です。
あっち(墓場島鎮守府?)だけで終わるよう話を展開すると、どうしてもいい結末に導けません。
私の構成力と想像力では無理です。スーパー御都合主義を爆発させないと無理です。

とりあえず描くだけ描きます。描き切ります。
ご覧になっている皆様、もうしばらくお付き合いの程をよろしくお願い申し上げます。

>571-572
まあ仕方ないでしょうかね……
そもそもあっちが動画サイトに転載されたのもでかいんでしょうね。
クロスオーバーでも受け入れてこちらを読んでくださってる方が
いらっしゃるのはありがたいことです。


それでは続きです。


 * 医療船内 大会議室 *

朝潮「……司令官、全員揃いました!」ビシッ

提督「おう、ありがとな」

吹雪「すっごい久し振りな気がしますね、みんな揃うの!」

北上「てか、よくこの人数が一つの部屋に収まったねえ?」

名取「なんでもありなんですね、この船……」

提督「まあ、人数ぎりぎりだな。メディウムがいたらあふれてたはずだ」

時雨「僕も参加して良かったのかな?」

扶桑「いいに決まってるわ。ね、山城?」

山城「ええ、もちろんです扶桑お姉様」

島妖精A「わたしたちにも声がかかるとは思わなかったが……」ヒョコッ

島妖精C「忘れずにちゃんと声をかけてくれて嬉しいけどね!」

長門「今回は一体どんな話だ?」

提督「ちょっと悩んでることがあってなあ。お前ら全員にかかわることだし、ちゃんと俺の口から話しておこうと思うんだ」


提督「まず……一度座ってもらったところで悪いが、全員席を立ってくれ。ちょっと班分けをさせてもらう」

全員「「???」」

提督「これから名前を呼ばれた奴は、こっち側に座ってくれ。如月」

如月「は、はい!」

提督「吹雪、朧」

長門「……着任順か?」

神通「だとしたら不知火さんが呼ばれていませんね」

提督「電、由良、明石、朝潮、霞、初春、比叡、伊8……」

不知火「……これは、まさか」

提督「榛名、那珂、扶桑、山城、加古、鳥海。1つめの班は以上だ」

提督「それから2つ目の班は利根、暁、雲龍、初雪、山雲、大和、武蔵……ああ、それと時雨もここに入ってくれ」

時雨「僕も?」

提督「ああ。で、残りが3つ目の班だ、妖精たちも含めてな」

雲龍「龍驤とは別の班なの……?」シュン

武蔵「ずいぶん人数差があるな?」


不知火「司令。これはもしかして……」

提督「まあ待て不知火、俺が言う」

不知火「……」

提督「おそらく不知火のほかにも察してる奴はいると思うが、この班分けは、轟沈したことがあるかどうか、で、分けている」

 「!!」ザワッ

利根「吾輩たちはどういう扱いなのだ」

提督「お前らはグレーゾーンってとこだな」

提督「海軍の連中は、轟沈した艦娘が深海棲艦になることを恐れている」

提督「初雪や暁、雲龍は、轟沈こそしてないものの、海上で意識を失っているし、利根も一度は人の手によって死にかけた」

提督「山雲は、完全なとばっちりとはいえ、深海棲艦と物理的な接触事故を起こしている」

提督「沈む前の記憶を持ってきている時雨も、正直どっちに分類したらいいかわからねえ」

提督「そして大和と武蔵は、あの鎮守府で建造された艦娘だ。大和の風評もひどいもんだし、余所でどういう扱いされるかわかったもんじゃねえ」

日向「余所?」

最上「提督、もしかして……!」


提督「で、なんでこんな班分けをしたかというとだな。できればお前らには、俺の手下(てか)から離れてほしいと思ってるんだ」

 ザワッ!

潮「そ、そんな……!?」

提督「その優先順位として、轟沈してない艦娘を優先して送り出したいと考えている」

金剛「Noooooooooooooooooooooooo!」

長門「どういうことだ提督!!」

提督「先の会議で知っての通り、俺はあの島で『提督』を続けることになった」

提督「ただ、その立ち位置はこれまでと全然違う。海軍から離れて、人間の敵となりうる深海棲艦とメディウムも束ねることになる」

提督「単純にそれだけなら、俺は世界の敵とみなされて、そのまま撃滅させられるところだろう」

提督「しかし、海軍から、深海棲艦との対話の場を設ける、という条件付きで、存続を認められることになった……」

提督「言い方はどうあれ、俺の立場はそういうところだ」

全員「「……」」

提督「島に常駐するのは、そういった環境でも問題ないと胸張って言える奴らだけにしたいんだ」

提督「メディウムたちとはこれまで一緒に暮らしてきたし、そこまで険悪にはならなかったが、深海棲艦とは戦争してきた間柄だ」

提督「艦娘との因縁だって浅いわけじゃねえだろう。それに、海軍から離れるってのも艦娘にとっては一大事じゃねえかな」


提督「だからこそ、轟沈を経験している艦娘であっても、早めにその不安材料を解消する方法を見つけて、外に出てほしいと思ってる」

如月「私は平気よ?」

提督「……まあ、なにがなんでも全員追い出したいわけじゃねえ。一緒にいるのが望みなら、そうできるようにしたい」

提督「人間がいなくても艦娘が住める場所を作るのが最終的な目標でもあるし、俺自身の望みではあるが……」

提督「ここにいる全員を深海棲艦と向き合わせて全部面倒見ろってのは、さすがになあ……手や口どころか体が足りねえよ」

提督「徐々に慣らしていきたいってのもあるし、最初は苦労するだろうから、少人数から始めて様子を見たい、ってのが俺の本音だ」

初春「なるほどのう……」

提督「妖精たちも深海棲艦たちと同居なんてしたことないだろう?」

島妖精B「まあ、確かにね~」

提督「でだ。今回、3つ目の班に分けた艦娘は、問題こそ起こしてはいるものの轟沈したわけじゃねえ」

提督「深海棲艦になる可能性はないだろうし、深海棲艦とは少し『遠い』艦娘だと思ってるんで、優先して移動の候補に挙げたというわけだ」

霧島「……理にはかなっていますね」

提督「神通と五月雨は、前にいた鎮守府から誘われてるんだろ? 俺にもその話が来たし、さっき直接会ってきた」

提督「それ以外にも、これまで俺が提督業やってて、ある程度は信じてもよさそうな連中との付き合いもできた」


提督「いい機会だから、これを機に何人かは転籍したらどうかと思ってる」

 ザワザワ…

提督「例えば、若葉」

若葉「ん?」

提督「お前、五月雨と一緒に礼提督んところに行かねえか?」

五月雨「!!」

若葉「……新米提督だろう? なぜだ」ジロリ

提督「おそらくお前の因縁の相手は、五月雨の因縁の相手でもある」

若葉「!!」

五月雨「レ級と、戦ってたんですか……!?」

提督「若葉が言ってた敵艦の特徴が似てんだよ。これから鎮守府そのものを再建しなきゃならねえ俺たちと一緒にいるより……」

提督「レ級の撃破を目指す五月雨たちと一緒のほうが、打倒するための士気も、遭遇する確率も高いはずだ」

提督「それから、若葉は入念に準備するほうだからな。戦力不足の状態でレ級と戦おうとするなら、それを諫めもするだろう」

若葉「ふむ……」


提督「それと長門」

長門「私か!?」

提督「お前もお目付け役として、五月雨たちと一緒に行ってみねえか?」

提督「五月雨をスカウトしてきた新しい提督ってのが、言ってしまえば小娘なんだ」

提督「いくら父親が憲兵の隊長だとしても、海軍でやっていけるかと訊かれたら、厳しそうだな、ってのが俺の正直な第一印象だ」

五月雨「……」

提督「お前に、五月雨と若い提督の保護者というか、指南役になってもらうのはどうか、ってな」

長門「むう……」

提督「一応言っておくが、潮もついて行っていいぞ」

潮「えっ!?」

提督「最上と三隈も一緒にどうだ?」

最上「えっ」

提督「礼提督の父親が憲兵の隊長なんだ。女性提督でもあるし、少なくとも最上が受けたようなセクハラ騒ぎは起きないと思いたいな」

三隈「は、はあ……」


提督「龍驤と陸奥と、それから雲龍も一緒に行くか?」

陸奥「!!」

龍驤「う、うちも!?」

提督「長門が行くなら陸奥が一緒でもいいだろうし、その陸奥とよくいる龍驤たちもどうせなら、ってな」

雲龍「私も一緒に行っていいの!?」パァッ

提督「班分けとしてはグレーにしたが、ここまで見てきて特に不安になる要素もねえし、悪くはねえと思ってる」

長門「……」カンガエチュウ

提督「まあ、これは俺からの命令じゃなくて『提案』だ。行きたくない奴は行かなくていいし、今すぐ結論出せって話でもねえ」

若葉「そうか。では、若葉は五月雨と一緒に行かせてもらいたい」

提督「ふふ、決断が速えな……んじゃあ若葉は連絡させてもらう」

五月雨「若葉ちゃん……!」

提督「一応断っておくが、変なこと言って新米提督を困らせるんじゃねえぞ?」

若葉「若葉は変なことなど言わないぞ」

五月雨「うーん……でも、時々変なこと言いますよね? 特訓は死ぬまでやりたいとか。死んだら駄目ですよ?」メッ!

若葉「……そうか」ポリポリ

初春(あの若葉が毒気を抜かれておる……案外良いコンビかもしれんの)


提督「まあ、転籍するかどうかはゆっくり考えてくれ。他にも何人かに個別に連絡が来てるんだ」

長門「というと誰だ?」

提督「まず、黒潮」

黒潮「へ!? うち!?」

提督「戦艦馬鹿の仁提督から、お前の安否を確認させろと話が来てる。お前、これを機に雪風たちと合流したらどうだ?」

黒潮「……!!」

提督「ついでに日向と伊勢。お前らも黒潮についてけ」

伊勢「ええ!?」

日向「どういう意図があっての発言だ」

提督「あいつ、海軍に入る前に余所の日向に助けられてんだ。戦艦贔屓なのもそれがきっかけなんだが、確か伊勢型はいなかったはずだ」

提督「ちいとばかし単細胞で猪突猛進のきらいがあるが……ま、一度話をしてみるのもいいんじゃねえかと思ってよ」

日向「ふむ……」

黒潮「なあ、うち、指名手配されてたんちゃうん?」

提督「それなら解除してもらったぜ。それっぽい艦娘がうちの鎮守府に流れ着いて、そのまま埋葬したっつってな」

提督「書類も艤装も全部燃えちまったし、確かめようがねえからなあ?」ニヤリ

黒潮「……あ、あくどいやっちゃなあ……!」


提督「それから古鷹と朝雲」

朝雲「あー……」

古鷹「もしかしてL提督ですか?」

提督「ああ。なんでもあいつ、びっくりしすぎて過呼吸起こしてぶっ倒れたとか言ってやがったな」

朝雲「えええええ!?」ガタッ

古鷹「だ、大丈夫だったんですか!?」ガタタッ

提督「一応、香取からは、大したことはねえって話はあったぞ」

提督「あと、足柄、千歳、加古、鳥海も無事かどうか確認してほしいって話も来てた」

加古「ってことは……鹿島たちかねえ?」

鳥海「そうだと思います」

足柄「あたしたちの場合は海風ね」

千歳「なんだか懐かしいわね~」

提督「加古と鳥海は難しいが、古鷹と朝雲、足柄と千歳はL提督んところに行ってもいいと思ってんだ。あいつも割とまともになったし」

提督「できれば加古と鳥海も……ついでに山雲も連れてって良い保証を、どうにかして付けてやりてえな」

朝雲「!!」

山雲「……!!」


提督「それから隼鷹」

隼鷹「!」

提督「ショートランド泊地にいるR提督と連絡が取れた。お前らに難癖をつけたJ少将は、今回のクーデターの首謀者だ」

提督「果たしてJ少将の判断が正しいものだったのか。細かい事情聴取のため、一度日本へ帰還させられるらしい。お前も同席しろとのことだ」

隼鷹「……ほ、ほんと?」

提督「ああ、ついでに飛鷹も一緒だとよ。できればそのまま、3人とも日本に帰れるよう手配するそうだ」

隼鷹「……い、いやったあああああ!!」ヒャッハー!

提督「それから……神通」

神通「はい」

提督「謀殺されたと思われてたF提督が生きてたんだってな?」ニッ

神通「はい……!」

提督「お前に関しちゃあ何も心配してねえから、F提督のところに行くことに異論はねえが……お前からはなにかあるか?」

神通「……提督」ピシッ

提督「ん」


神通「F提督のかたきを取らせていただいたこと……そして、F提督の元へ戻れるという、これ以上ない結果に導いてくださったこと……」

神通「この神通、感謝の気持ちでいっぱいです……!」ポロポロ…

提督「……ここまでやってこれたのは、お前が力を貸してくれたからだ。こっちこそ、感謝してるぜ。神通」

神通「提督……! 本当に、ありがとうございました……!!」ペコリ

提督「……」フフッ

隼鷹「ほんとマジ感謝だよぉ! あたしからもちゃんとお礼を言わせておくれよぉ!!」ウルウル

提督「おう、けどまだ油断すんじゃねえぞ? 一応は事情聴取だからな」

提督「あとは、川内と暁。お前らはX中佐のところに行ってみねえか?」

暁「えっ!?」

川内「提督!?」

提督「なんだその鳩が豆鉄砲食らったようなツラは。せっかく昔の仲間に逢えたんだ、一緒にいたほうがいいだろ」

川内「そ、そりゃあそうかもだけど……」

暁「司令官はそれでいいの?」

提督「俺はお前らがいいようにすればいいと思ってるが? むしろ響やX中佐のほうがそうしたいって思ってんじゃねえのか?」

暁「……」ウーン


提督「でだ。後出しで悪いが、俺がこうやってお前たちに移動を勧める理由というか目的が、実はほかにもうひとつある」

川内「え、それってなに?」

提督「この島の領海に入る際、かつてあの島に滞在していた艦娘が同伴していることを、島近辺に入る条件のひとつにしたいと思ってる」

全員「「!」」

霞「それってつまり、私たちを通行許可証の代わりにするつもり?」

提督「ああ。お前らの紹介、随伴がなければ、俺たちに攻撃されても文句を言うな、ってことにしたいんだ」

朧「いつかのテレビ局の人たちみたいな騒ぎを起こされたくないですもんね」

提督「勝手に島の中を物色されるなんざ、不愉快極まりねえ。深海棲艦の連中にしたって、同じかそれ以上に嫌悪するだろうさ」

千歳「っていうか、普通に不法侵入っていうか、領海侵犯よね?」

提督「国際法に従うならな。中には猫をかぶって、お前らに?をついたうえで俺たちを騙し討ちしようとしたり……」

提督「あるいは、そいつらの都合のために俺たちを騙して利用しようとする奴も現れるかもしれない」

提督「そういう奴らを問答無用で排除するために、そういう取り決めにしたいんだ。治外法権なんか認めさせる気はねえからな」

川内「私たちにX中佐のところへの移動を勧めたのは、そっちの理由のほうが強いってこと?」

提督「X中佐のような連中に対してはそうだな。お前たちの感覚で、これなら俺と話ができそうだ、って判断してもらいたいってのもある」

提督「とはいえ、X中佐はそんな心配も必要なさそうではあるが」


提督「で、今の時点で深海棲艦と積極的にコンタクトを取りたいのは、おそらくX中佐とF提督……H大将もまあ入るか?」

提督「楽観的な見方だが、その3人が粗相することはおそらくないだろう。メディウムの出番はしばらくないと見ていいだろうな」

隼鷹「X中佐の叔父のほうの大将は?」

提督「あいつは駄目だろ、会わせても顰蹙買って終わりだ。態度でけえし、どんな場面でも自分の意見を押し通そうとしてるし」

隼鷹「あー、やっぱり?」

那智「隼鷹、お前もH大将に制止されていたのを見ただろう。わかってて言ってないか?」

隼鷹「ひひっ、まあねえ」

武蔵「……そう考えると、H大将のところにも誰かに行ってもらったほうがいいわけか」

提督「ま、そうだな。縁ができたのは朧だが、轟沈経験艦だし……」

北上「それなら、あたしが行こうかねえ?」

明石「北上さん!?」

北上「霰と満潮も。大将の下で働けるってのはなかなか魅力的だと思うけど、どーぉ?」

霰「ありかも……」コク

満潮「まあ、私はいいけど……」


明石「い、いいんですか?」

北上「いいもなにも、あたし自身は環境激変したあの島に居続けるのは難しいよねー、って、フツーに思うわけさ」

北上「多分、名取とかもそうなんじゃないの?」チラッ

名取「そ、そうですね……」

北上「あたし的にはさ、せっかくまた話せるようになった明石たちと繋がりが切れるのもなんだし……」

北上「だったら、これからもこの島に関わりのある人んところに行ってみるのもいいかもね、って」

明石「うーん……」

北上「それにあの人、秘書艦が大井っちらしいんだ。どんな人か、ちょっと気になるよねー」

提督「おおいっち?」

明石「球磨型軽巡洋艦、4番艦の大井さんです。北上さんは3番艦で、この二人は改装によって重雷装巡洋艦になるんです」

明石「ちなみに5番艦の木曾さんも、改装の2段階目で重雷装巡洋艦になります」

提督「ふーん……まあ、信用するかどうかは北上が決めてくれ、俺はそれに従うさ。朧も最初の口利きを頼む」

朧「はいっ」

提督「とりあえず。まずは俺からそういう提案をして、向こうが素直に飲んでくれるか、ってとこだな」


提督「俺の言いたいことはだいたいこんなところだ。何か質問は?」

如月「ねえ、司令官は、いつからあの島に住むつもりなの?」

提督「正直、とっとと荷物まとめて島に移動したいんだがな……昨日乗り込んできた新顔の船医がもう少し検査させてくれってうるせえんだよ」

提督「島は泊地棲姫が整地したらしいが、どんな設備があるのか確認しておきたいし……ニコたちも自分の持ち物持参してくるらしいしよ」

提督「俺たちの……つうか、艦娘の分の生活スペースも早いうちに確保しておきたいんだよな」

如月「ニコちゃんからも、体調が万全でないなら早く島に来て、魔力槽に入ってほしいって言われてたわよね?」

提督「ああ。あの医者いろいろ面倒臭えし、検査すっぽかすか……どうせあのヤブの好奇心からくる検査だろうしな」

加古「そのうち解剖させろとか言い出したりしないだろうね?」

提督「……なくはなさそうだな」

龍驤「そら洒落にならんで……」ゾワワ

利根「うむ……」ゾワワ

提督「あ、そうだ。そういや、俺の預金通帳ってまだ使えんのか? 足りないものがあったら買い物したいんだが」

不知火「それでしたら、不知火が預かっております。まだ使用可能だと思いますが」

提督「俺の戸籍の扱いとかどうなるかがわかんねえからな。早めに何かしねえと、死人扱いされて使えなくなるかもしれねえな」


提督「それから一番気になるのはドックと工廠だ。まさか残る艦娘にも魔力槽に入れとかいうのはちょっとなあ」

明石「あー……それはそうですねえ。工具類も、最低限のものは持ち出してきたけど……またいろいろ揃え直しかあ」ガックリ

提督「焼失したものが結構どころじゃなく痛いんだよな。発電機とか風呂とか、食堂に作ったステージとか……」

那珂「ああー……」

霧島「音響設備もそうですね……」ガックリ

比叡「あの厨房も燃えちゃったんですよね……」ガックリ

初雪「畑や花壇もそう……」ドンヨリ

山雲「ああー……」ガックリ

神通「ですね……」ウナダレ

武蔵「……手塩にかけてきただけに、なくなったと思うとつらいものが多いな」

大和「諦めて買いなおせるものは買いなおしましょう。ないものはないもので、改めて新設するしかありませんね」

吹雪「どうせならもっと大きく作り直さないと! 私たちだけじゃなく、深海棲艦やメディウムも住むわけですし!」

提督「……そうだな。将来を見据えて、がっつり作り直さないとな……!」

大和「そうです。そういう意味では、提督……いよいよ提督の夢をかなえるときが来たのですね」


提督「ああ、そういうことだ。そうだな……ちったあ気合入れるか……!」

不知火「司令……!」

吹雪「司令官! やる気になってくださったんですね!!」

暁「これまで物騒な方向にしかやる気を出さなかった司令官が、ものすごく健全な方向でやる気になってるわ!」

比叡「これなら安心ね!」

電「安心なのです!!」

明石「成長したなあ……」ウンウン

霞「やっと真面目になったわね。ほんっと、長かったわ」ハァ…

提督「……」

武蔵「貴様の日頃の行いの問題だろうが。そう面白くなさそうな顔をするな」

提督「いやまあ、いいけどよ……」

朝潮「司令官! 朝潮は、これからも司令官のために尽力させていただく覚悟です!」ビシッ

吹雪「あっ!? 朝潮ちゃんずるい! 私だって頑張っちゃうんだから!」

朧「朧も、あたらしい居場所と提督を守り抜きます!」


如月「うふふ、みんな張り切ってるわねぇ」ニコニコ

金剛「ぐぬぬ~、なんだか向こうのグループがうらやましいデース……!」

摩耶「いやいや金剛さん、あっちのグループは仮りにも轟沈したんすから。うらやましいとか言っちゃ良くねえっすよ」

霧島「そうですよ金剛お姉様。私たちは、私たちにしかできないことをやるべきでしょう」

金剛「ぐぬぬぅ~」

提督「とりあえず、今の時点で俺と一緒にあの島に住むつもりのやつ、手を挙げてく」

金剛「ハーイ! ハイハイハイハイハーーーイ!」ブンブン

不知火「金剛さん、ステイ」ギロリ

金剛「」スッ…

榛名「……」

提督「……金剛は一度冷静になってから判断したほうがいいな」

金剛「テートクゥ~……」ウルウル


提督「いや、まじめに考えろよ。今のお前は勢いだけじゃねえか……とりあえずほかに希望者は?」

如月「はーい」キョシュ

吹雪「はいっ!」バッ

朧「はいっ!」バッ

伊8「はい」スッ

朝潮「はいっ!」ビシーッ

大和「大和も残ります!」ビシッ!

榛名「榛名も大丈夫です!」キョシュ!

提督「……」

長門「この辺も説得しても無駄そうだと思うがな」

提督「……一応、面談させてもらうからな?」

比叡「私も、一応居残りかな~……特に行く当てもないし」

明石「うーん……」

霞「明石さんは手を挙げないの?」

明石「さっき提督が言ったとおり、設備が心配なの。私が行っても、工廠がないんじゃ役に立てないだろうし……霞ちゃんは?」

霞「あたしはまだ考え中。ついて行っても役に立てるかは別よ」


提督「他にもそういう不安があるなら教えてくれ。今すぐ決めろって話じゃねえし、保留でいいぞ。他には?」

扶桑「はい」キョシュ

山城「扶桑お姉様ぁぁ!?」

扶桑「あら、なあに山城?」

山城「ふ、ふそ、扶桑お姉様はここに残るんですか!? 深海棲艦と一緒の生活ですよ!?」

扶桑「ええ、心得ているわよ。私は常々提督にお世話になってるもの。これからも変わらず提督のお力になれればと思っているわ」ニコー

山城「うぐぐ……」

那珂「うーん、那珂ちゃんも残ろうかなあ」

山城「んなっ!?」

提督「……お前がそう言うとは思わなかったな。いいのか?」

那珂「とりあえずー、昔、提督さんが言ってた、那珂ちゃんの出自を隠して~って話は、もう通用しませんよね」

那珂「そうなると、轟沈した艦娘が外へ出ても問題ないことが証明されないと、那珂ちゃんとしても安心できませんしー」

那珂「せっかくだから、深海の子たちにも、那珂ちゃんのライブ見てもらってもいいかなーって!」

提督「じゃあステージ設営は必須、と。できれば屋内で欲しいとこだが、そこは家主と相談だな」

那珂「はーい!」

山城「……」


時雨「それじゃあ、僕も一緒に残ろうかな」

山城「しぐっ!?」

時雨「考えてみたら、提督以外に既知の人がいないしね。それに、提督にお願いしたいこともたくさんあるし」

提督「俺にか?」

時雨「うん。提督に相談に乗ってもらいたいんだ」

提督「相談ね……わかった。それは今すぐでなくてもいいのか?」

時雨「うん、落ち着いてからでいいよ。ありがとう」

山城「……」

扶桑「それで、山城はどうするの?」

那珂「山城ちゃん?」

時雨「山城?」

山城「……う、うぐぐ……わ、わかりました! 私も一緒に行きます!」グスッ

那珂「な、なんで泣いてるの!?」

山城「だ、だって、みんなで私を仲間外れにぃ……」グスグス


扶桑「そんなことないわ。それとも、そんなに提督と一緒が嫌なの……?」

山城「そ、そんなことはありませんけどぉ……!」ボロボロボロ

時雨「山城は素直に行きますって言えないだけなんだよ」

扶桑「ふふっ、そういえばそんなところもあるわね」ナデナデ

那珂「ほらー、山城ちゃん、泣かない泣かない」ナデナデ

時雨「山城は面倒臭いなあ」ナデナデ

山城「な、なんでみんなで私の頭をなでるんですか!?」

扶桑「あら、嫌だった?」

山城「いえ……もっと撫でててください」カオマッカ

提督「本当に面倒臭え奴だな」

山城「提督にだけは言われたくないわっ!!」ガーッ


提督「……やれやれ。他には?」

初雪「……ん」キョシュ

提督「初雪!? お前も残んのか!?」

初雪「うん……練度、低くないし。ちょっとだけ、本気出す、から、見てて」フンス!

提督「……まあ、やる気出してくれてるんなら……そうか、お前もか……」ウーン

初雪「……不安?」

提督「正直言えばな」

初春「ふぅむ……わらわはどうしようかのう。外の世界を見て回りたいところじゃが……」

提督「それなら初春も保留ってことにしとくか。お前の場合、轟沈したことを隠して不知火と一緒に外回りした実績もあるしな」

初春「うむ。先送りで頼む」

提督「あとは……」

敷波(あたしはどうしようかな……残っていいと思うけど)チラッ

由良(提督さんのところに残りたいとは思うけど……)ウーン

電(今のままだと敷波ちゃんだけ離れ離れになっちゃうのです……)ウーン

敷波(何悩んでんだろ、あの二人)

大淀「……」

敷波(大淀さんもすごい顔して悩んでるみたい……別に悩む必要なさそうなんだけどなあ)チラッ


提督「あとは考えがまとまってねえようだし、こんなとこか? 逆に、若葉のほかに余所の鎮守府に行きたい奴はいるか?」

白露「はーい!」

島風「白露!?」

提督「白露か。どこか行く当てあるのか?」

白露「ないよ! ないけど、北上さんたちが言ってたことを私たちに当てはめて考えてみたの」

白露「それで、冷静に私たちがこの島で何ができるかを考えると、あんまりないような気がするんだよねー」

白露「それだったらさ、この辺の波の具合とか知ってるわけだし、外に出て案内役をしたほうがいいかなあと思って!」

提督「なるほど……」

白露「それに、提督は私たちのことを心配してくれてるわけでしょ? 深海棲艦と一緒にいて衝突しないか、って」

白露「私も不安がないわけじゃないし、提督が心配してくれてるなら、その通りにして一度距離をとってもいいかな、って思ったんだよね」

提督「……」

白露「どしたの?」

提督「いや……お前、そんなに聞き分け良かったか?」

白露「なにそれ!? 私はいつもお利口さんだよ!?」


提督「話を全部聞き終わる前にすっ飛んでいく奴が何を言ってんだ」

白露「そんなことないし!? 島風もいいよね?」

島風「う、うん……」

白露「? 島風、どうしたの?」

提督「白露が心配なんだろ。その改造しまくった艤装がお前の負担になってないか、とか、離れ離れにされないか、とかな」

島風「そ、そう……うん」モジモジ

白露「島風……」

提督「その辺は俺から釘を刺さなきゃな。二人一組で連れてこいって条件付き付けるって手もある。悲観はさせねえよ」

島風「そ、それもあるけど! そうじゃなくて!」

提督「んん?」

島風「提督には、いろいろ相談に乗ってもらったし……お仕置きは嫌だったけど、すっごくお世話になったから……」

島風「提督と離れ離れになるのも、寂しいな、って」ウルッ

白露「う、うん……それはね、あるよね」ウツムキ

提督「……」アタマガリガリ


不知火「……専属の連絡員、あるいは輸送艦隊という形で関わっても良いかもしれませんね」

島風「えっ!? なにそれ!」

白露「そういうのもあるの!?」

不知火「この島の艦隊の独立にあたり、様々な形で人員を増やす必要が出てくるでしょう」

不知火「どのような役割が不足しているか、不知火が本営へ確認しましょう」

提督「悪いが頼む。俺が顔を出さなきゃいけないような要件があれば回してくれ」

不知火「承知しました」

青葉「……でしたら、青葉もそのあたりのお堅い役割をいただいたほうが良さそうですねえ?」

提督「まーたお前は危ない橋を渡りたがんのか?」

青葉「どうせ余所へ行っても厄介者扱いされるでしょうからね~」

提督「ま、その辺はお前を受け入れてくれる奴がいるかどうか、だな。他に、希望がある奴はいるか?」

筑摩「あの……」ス…

利根「筑摩?」


筑摩「利根姉さんが良ければ、なのですが……私と利根姉さんも、F提督の鎮守府へお世話になるのはいかがでしょうか」

利根「なに!?」

神通「筑摩さん……!?」

筑摩「利根姉さんは、よく神通さんから相談を受けていたそうなので。一緒に赴いて、これからも何か力になれれば……と思いまして」

利根「むう……!」

筑摩「もちろん、神通さんやF提督の賛成を得られれば、ですが」

神通「い、いえ! そのお申し出は、私には、とても嬉しいです……!」パァッ

利根「……」ムゥ…

筑摩「利根姉さん?」

利根「ん!? あ、ああ、大丈夫じゃ。ちと思うところがあってなあ……」

神通「利根さん……?」

利根「吾輩がF提督のもとへ参ずるのはやぶさかではない。それが通れば、良い話……ありがたい話だと思っておる」ウデクミ

利根「ただ気がかりは、吾輩も一度、メディウムたちの魔力槽へ入ったことがあるからのう……」


利根「提督の体の件があったように、吾輩も何かしら影響を受けてはいまいか、という不安はある」

神通「!」

筑摩「!」

明石「ああ……確かに、ないとは言えないかもしれませんねえ」ウーン

利根「魔力槽には如月も入ったそうじゃが、この鎮守府に残るという以上、そこまでの心配は無用であろう」

利根「じゃが、吾輩がここから離れて問題を起こしたとなれば、神通たちの活動にとって負担となり妨げになる」

利根「杞憂であればよいと思うが、そこが不安ではあるな」

神通「そう……ですか、それは確かに……」

筑摩「利根姉さん……」

利根「重ねて言うが、筑摩の提案が受け入れられれば、それはありがたい話だと思っておる。前向きに考えたいとは思っておるのじゃ」

神通「……」

筑摩「利根姉さん……」

提督「その辺はニコと相談ってとこか。この手の話題は、ルミナあたりが目を輝かせそうだが」

古鷹「文字通り輝かせてますからね」フフフッ

龍驤「古鷹も輝いとるやんけ」ツッコミ

 アハハハ…


利根「……」

利根(むう……吾輩の立場なら島に残るのが妥当だと踏んでいたが、まさかそうくるとは……)

利根(確かに筑摩の言う通り、神通についていけば、外の世界に触れられるし、気掛かりであった神通の話し相手にもなれる)

利根(さすがは筑摩、妙案である。しかしじゃ……)ムムム…

利根(提督とのスキンシップやちょっとした身の回りのハプニングが楽しかったというのもまた事実……!)

利根(島に残ってもう少し提督とじゃれあいたいが、そんな理由で島に残ると言い出せば、姉としての威厳にかかわる!)グギギ…!

利根(筑摩は筑摩で可愛い妹ではある……じゃが、あの春画本のような予期せぬドキドキ感にも憧れる……!)

利根(ああ、何たる俗物的な……このような吾輩の破廉恥な本音を知ったとしたら、筑摩も神通も吾輩に幻滅するであろう……!!)

利根「うぐうう、吾輩は、どうすればいいんじゃあ……!!」アタマカカエ

神通(利根さん……ごめんなさい、私のために……!)ウルッ

筑摩(利根姉さん……!)ホロリ

島妖精A(……利根から邪な気配が感じられるのは何故だろう)タラリ

島妖精G(しかも珍しく神通がツッコんでないね)

島妖精A(だから直接脳内にツッコミを入れるなと! お前本当に魚雷妖精か!?)


提督「まあとにかくだ。留まるにしても出ていくにしても、お前たちには全員無事でいてほしい」

提督「とにかく困ったときは俺に言え。なんとかしてどうにかすっからよ」

霧島「……根拠がアレですが、頼もしいですね……」

長門「ああ。ただ、ひたすら物騒な感じも否めないが」

五十鈴「ほんと、いざ頼ったらすごいことになりそうで怖いわね……」

朝雲「そ、そうですね……メディウムどころか深海棲艦も味方につけちゃいましたから」

那智「その気になれば鎮守府一つ、潰しかねないか……そうせざるを得ないような場面が来なければ良いが」

提督「話は以上だ。他に何かあるようなら、個別に聞きに来てくれ。解散!」

 ザワザワ…

提督「さてと……」

如月「司令官!」

提督「ん? どうした」

如月「早速だけど、島に行きましょう?」

吹雪「行きましょう行きましょう!」

提督「そうだな……」


明石「あ、提督。私も見に行っていいですか? 工廠のスペースがあるかどうか確認したいんで。工廠の妖精さんたちも連れていきますね」

提督「ああ、残るつもりなら場所を確保しないとな」

朧「……提督? 明石さんを引き留めないんですか?」

提督「そりゃあ、明石みたいに残ってもらえると助かる艦娘はいるが、そいつらだけ声をかけるわけにはいかねえだろ」

提督「残る残らねえは当人の意志を優先したいんだよ。これを機に新しい居場所を見つけてもいいだろうし」

提督「むしろ俺は、お前たちが残ってくれることに頭を下げて礼を言わなきゃならねえ。島が燃えたのは俺の不始末なんだからな」

如月「またそうやって自分ひとりで背負い込むんだから」ムスー

朧「どうやったらそこまで卑屈になれるんですか」ジトッ

吹雪「そうですよ! これから深海棲艦とも一緒に過ごすんですから、しっかりしてください!」

提督「いや、これ普通に俺の不始末だろ? つうか一度死んでるお前らがそういうこと言うのは、なんか違う気がするんだが」

電「司令官さんだって死にそうな目に何回も遭ってるのです!」

初春「馬鹿は死んでも治らんときたか。筋金入りじゃのう」

長門「やれやれ。久しぶりだな、このやりとりも」

提督「いや……今回ばかりは、俺が責められるのが正しいような気がするのは俺だけか?」

と言うわけで今回はここまで。
次回やっと島に(一旦ですが)戻ります。

刹那五月雨撃ち

続きです。


 * 墓場島沖 洋上 *

 ザザーン…

(提督を艤装の上に乗せた大和と艦娘の一団が、島に向かって航行している)

霞「勝手に抜け出してきたけど、大丈夫なのかしら……」

明石「心配なら、霞ちゃんだけ戻る?」

霞「わ、私は朝潮姉や明石さんのほうが心配よ!?」

提督「まあ、不知火に言伝を頼んだし、あいつらが俺たちを攻撃するような真似もしないだろう」

如月「司令官のお世話をしてた看護師さんも、本営から来た船医さんが暴走気味だから気をつけて、なんて言ってきたものね……」

提督「あの野郎、まじめに俺を解剖するつもりだったのかね」

大和「あぶないところだったかもしれませんね?」

明石「あの看護師さんの立場が悪くなってないといいですけどね……」

提督「……」

明石「あ、メディウム使って船医さんに何かしようとか考えないでくださいよ!?」

提督「なんだ、駄目か」


明石「駄目ですよ! あの人、看護師なんですから! 怪我人出したら、悲しむのも忙しくなるのもあの人ですよ!?」

提督「しょうがねえな……」

朧「というか、提督に手を出した時点でニコちゃんたちが黙ってないと思うんだけど」

榛名「それを考慮しても、今後も検査はお断りしたほうがよろしいでしょうね」

那珂「そのほうがいいね~」

提督「……ああ」チラッ

如月「どうしたの司令官?」

提督「……ちょっと人数多すぎねえか?」

如月「それはまあ……そうねぇ……」

長門「……いま提督がこちらを見たな」

伊8「やっぱり、人数多すぎだって思ってるんじゃないですかね?」(←長門の艤装に乗っかり)

金剛「Hey, 長門! 島に行くということは、あなたは島に残るつもりデスカ!?」

長門「いいや、そこはまだ決めていない。金剛は残るつもりなのか?」

金剛「私は残るつもりでいマース!」

長門「……そうか。それはそれで構わないが」チラッ


由良「……」チラッ

電「……」チラッ

敷波「……? なんか、みんなあたしを見てる?」

長門「ああ。敷波、お前も島に残るのか?」

敷波「うん。残るつもりだよ?」

由良「……!」ビックリ

電「……!」ビックリ

敷波「あ、何その顔。もしかしてあたしだけ余所に行くと思ってたの?」

電「そ、それは……」

由良「だ、だって、轟沈してないし……」

敷波「ふーん」

伊8「初雪ちゃんも残るって言うし、その辺は自由でいいんじゃない?」

初雪「うん……」コク

敷波「そうだよー、ほら、大淀さんも追いかけてきてるしさ?」ユビサシ

大淀「!?」ギクッ!

伊8「なんで離れてついてきてるんですかねえ……」

敷波(大淀さんもなんていうか、意外と臆病なんだよね。わかるけどさ)

吹雪「司令官! 建物が見えてきましたよ!!」

提督「!」

朧「……近くで見ると、本当に岩だらけですね」

提督「そうだな……」


 * 島の東岸 *

提督「すげえな……この辺りはほぼ元通りじゃねえか?」

大和「この辺りも溶岩で覆われていたはずなのですが……全部綺麗に取り払われてますね」

如月「むしろ前よりも綺麗になってる気がするわ」

榛名「提督! あそこにニコさんが!」

朧「ル級さんたちもいますね」

 *

ニコ「やっと来てくれた……遅いんだから、もう」

泊地棲姫「ル級ノ言ッタ通リ、余計ナ奴ラモ、大勢連レテ来タナ」

ル級「……ソレ、提督ガ聞イタラ、怒ルワヨ?」

軽巡棲姫「アア……提督……!」ソワソワ

 ザザザァ…

大和「提督、到着いたしました!」ヒョイッ

提督「うおっ……と、ありがとな、大和」ストン

軽巡棲姫「提督!!」タタタッ


軽巡棲姫「アア……提督、会イタカッタ……!」ヒシッ

提督「おお、いきなりだな……わざわざ出迎えてくれるなんて、悪いな」ナデナデ

泊地棲姫「フ……光栄ニ思エ」

軽巡棲姫「……♪」スリスリ

ニコ「……」ジト…

泊地棲姫「イツマデ、クッツイテル」グイ

軽巡棲姫「……何ヲスル」ピキッ

泊地棲姫「コノ男ハ、私ト話ヲシニ来タノダ」

ニコ「違うよ。魔神様は、ぼくに逢いに来てくれたんだよ」ニコニコ

軽巡棲姫「……」ピキキッ

泊地棲姫「……」イラッ

ニコ「……」フンッ

 火花< バチバチバチ…

提督「……」

ル級「アノ3人ハ放ッテオクトシテ。提督ハ、体ハ大丈夫ナノ?」


提督「ん-……いまいち本調子とは言えねえが、そんなことよりお前たちや、この島がどうなったかのほうが気になってな」

ル級「ソウカ」ニコ

如月「ねえ、ル級さん? ちょっと気になったんだけど……」

如月「この港といい、ここから見える白い建物といい、その見た目とかが以前とそっくりなのよね」

提督「如月もそう思うか?」

ル級「ソレハソウダ。前ノ鎮守府ノ建物ヲ真似テ作ッタンダカラ」

提督「マジか。けど、なんでわざわざそんなことを?」

ル級「最初ハ、泊地棲姫ガ自分ノ思ウママニ作ロウトシテイタノ」

ル級「デモ、アノ船ノ話シ合イデ、提督ガ今後執務シヤスイヨウニ……ト考エルト、前ノ建物ノ間取リガ丁度良イコトニ気付イテネ」

ル級「私ヤ、メディウムタチノ記憶ヲ頼リニ、作リ直スコトニナッタノヨ」

大和「それで、違和感をあまり覚えなかったんですね……!」

提督「とはいえ、この港は以前とは比べ物にならないくらい綺麗だな。それに、少し広くなってないか?」

ル級「ソコハ私タチモ使イヤスイヨウニ直シテイル」

提督「前の鎮守府と同じでリサイズもして、か……そうだとしたらありがたいな。もしかして、ドックとか食堂とかも同じなのか?」

ル級「ドックモ拡張シテイル。食堂モソウダガ、マダ作リカケダ」

明石「ドックができてるんですか!?」


ル級「明石モ来テイタノカ。見テモラエルト助カル。厨房ヤ共同ノ風呂モ設計中ダカラ、見テホシイ」

比叡「厨房もできるんですか!?」ワクワク!

那珂「ステージはあるの!?」キラーン!

初雪「……あと、畑も作ってほしい……!」ソワソワ

伊8「お風呂も気になります……!」

ル級「ソレカラ、今後コノ島ヲ訪レル人間タチヲ招キ入レル、館モ作ル予定ダ」

提督「ああ……なるほど。島の役割としちゃあ、そりゃ必要だな」

ル級「案内シヨウ。コンナニ大人数デ来ルトハ思ッテナカッタガ……」

 <ダーーーーリーーーーーーン!

提督「うん?」

キャロライン「ダーーーリーーーーン!!」トテテテッ

ミュゼ「ま、待ってえぇぇ!」ゼェゼェ

タチアナ「な、なんで、下駄と着物であんなに速く……」ハァハァ

ソニア(あの2人の足が遅いだけなんだけどなあ)タッタッタッ


提督「おう、キャロラインか。ちょっとしか離れてねえはずだけど、なんだか久し振りだな」ナデナデ

キャロライン「エヘヘー、ダーリンの新しいおうち、作るの手伝ってるノ!」ニパー

ソニア「あっ、ずるーい! あたしも手伝ってるしー!」

提督「ソニアもか。ありがとな」ナデナデ

ソニア「えへへ……」ニコニコ

ミュゼ「ぜぇ、はぁ……あ゛ー、疲れたぁぁ……ご主人様、来るなら来ると連絡してくださいよ~。まだお掃除終わってないんですから!」

キャロライン「あれ、お掃除だったノ? お掃除してるのか散らかしてるのか、わからなかったヨ?」

ミュゼ「!?」

ソニア「だよねー、それでよくテツクマデをどこかに置き忘れてきちゃうし」

ミュゼ「そ、そそっそ、そんなことありませんー! 今回はちゃんと持ってきてますー!」

提督(今回は、か……)

タチアナ「そ、それで、魔神様は本日はどうして急にこちらに?」

提督「単純にお前らの顔を見に来たのと、こっちの整地を始めてるって言うから、その様子を見に来たんだ」

タチアナ「そうでしたか……! ご足労いただきありがとうございます」


提督「この辺りも溶岩に包まれていたはずだが、よくここまで作り直せたな?」

タチアナ「それはそちらの泊地棲姫の力ですね。名の通り泊地を作る能力を備えておりまして……」

タチアナ「彼女の力と深海の謎のテクノロジーによって、溶岩から軽量かつ頑丈な石壁を生成しております」

タチアナ「それらを特殊な工法で組み上げることで大幅な工数減を実現し、ただいま驚異的な速度で復旧しております」メガネクイッ

提督「よくわかんねえが、すげえことやってんだな」

タチアナ「ただ、木材だけは調達できませんので、それらを使用しない箇所を中心に工事を進めております」

提督「木材以外にも不足してるものはあるだろ? 発電機だったり、食堂の設備や食器類だったり……」

提督「そういった外から買う必要のある不足品を調べに来たってのも、今回の目的だ」

タチアナ「……ま、魔神様直々に選定なさるのですか!?」

提督「ああ。つうか、なんでそんなにショック受けてんだ?」

ソニア「それはタチアナが設計に携わってるからだよー」

提督「そういうことか。そこまで緊張すんな、小姑みたいなつまんねーケチをつけるつもりはねえからよ」

提督「とにかく工廠あたりから見に行くか。案内頼めるか?」

タチアナ「はい、お任せを。ル級さんも同行していただけますか」

ル級「エエ、ソノツモリヨ」


キャロライン「ダーリン、一緒に回るネ!」ミギテツナイデ

ソニア「私も一緒に行くね!」ヒダリテツナイデ

如月「あらら……先を越されちゃったわ」

大和「越されちゃいましたね」フフッ

金剛「Holy shit !!」グォォ!

長門「ちびっこ相手にむきになるな、大人げない」

キャロライン「コンゴーも一緒にお手々繋ぐ?」ミギテサシダシ

金剛「Um...Charrolline、まずはその右手の剣山を外してくだサイ……」

キャロライン「オーゥ、ソーリーネ」ゴソゴソ

明石「新しい工廠かあ~、楽しみ~!」ワクワク

朝潮「明石さんが元気になってる……」

霞「まあ、良かったんじゃない?」

長門「おい、お前たちも仲違いしている場合じゃないぞ?」

軽巡棲姫「!?」

泊地棲姫「イツノ間ニ!?」

ニコ「ま、待ってよー!?」


 * 島から帰船して *

 * 墓場島沖 医療船内 *

H大将「あの男は医者の言うことも聞かずに何を勝手な真似をしているんだ……!」

朧「その軍医さんですが、本当に提督の体を心配しているんでしょうか?」

H大将「なに?」

朧「提督が、治療に関係のない検査が多すぎるって、訝しんでましたよ」

朧「提督を看ていた看護師さんも、心配して如月に声をかけてきたくらいですし」

H大将「……」

朧「それに、島に移住しようとしている深海棲艦だって、いつまでも提督が船から降りてこなかったら心配します」

朧「痺れを切らして船が攻撃されたりでもしたら……」

H大将「わかったわかった。朧君の言うことも一理ある。しかしだ、せめて行くなら行くと事前に連絡しろ」

H大将「この船の乗組員に混乱を招いたり、本営の反対派を刺激したりするような真似はよせと言っているんだ」

朧「……わかりました、すみません」

H大将「とにかく、本営から来たあの軍医が、提督に悪い意味で興味を持ち始めたということだな?」

朧「そうですね。そのうち提督を解剖させろと言ってくるんじゃないか、とも言ってました」

朧「なので、この船での治療も終わりにしたいと言っています」

H大将「まったく……本営も余計なことをしてくれたものだ」

朧「それから、これからの島の出入りについて、提案があるんですが……」


 * 同医療船内 *

 カリカリ…

提督「よし。こんなところか。やっぱ見に行って正解だった」フー

大淀「提督、朧さんはどちらへ?」

提督「H大将んところへ報告させに行った。ついでに、島への出入りの条件についても決めるように伝えてもらってる」

提督「でだ、大淀は輸入とか貿易の話は詳しいのか?」

大淀「え? ええ、一応は」

提督「発電機やユンボみたいな大型機材とかを島に持ち込むのに、非該当証明書とか面倒な手続きが多くてよ……」

提督「欲しいものリストは作ったが、それを軍事目的には使いませんとか、逐一書面に起こさねえと駄目なんだと」

大淀「これまでは最初から軍事的な作業で使うということで、特例扱いで簡略化していましたから、それは仕方ありませんね」

大淀「もう一つ心配なのは財源ですが……」

提督「それはもう、最初はタチアナの言ってたアレを使うしかねえだろうよ」

大淀「……やはりそうなりますか……」ウーン

短いですが、今回はここまで。

続きです。


 * 医療船内 小会議室 *

提督「……というわけで、この鎮守府に滞在したことのある艦娘を、島に入るときに同行させてもらいたい」

X中佐「なるほど。信用できる人間の安全を確保する方法としては、至極わかりやすいね」

大淀「X中佐には軽巡洋艦川内と駆逐艦暁。H大将にはこちらにいる……」

北上「重雷装巡洋艦、北上様だよー」

大淀「……それから、駆逐艦霰と満潮を移籍させていただきたいと考えています」

X中佐「暁たちは、響が探していたI提督時代の仲間だね。そういうことなら歓迎させてもらうよ」

H大将「……」

北上「ありゃ。なんかあたし、歓迎されてない?」

H大将「そういう意味じゃない。単純に、島に上陸するための条件としては、かなり厳しいなと思っただけだ」

朧「そんなに厳しいですか?」

H大将「俺はそう思う。やはり、そこまでしないと人間は信用されないのか?」

提督「できねえだろうな。例えば軽巡棲姫を説得できると思うか?」

H大将「弾丸にされた深海棲艦か? それは貴様にしか無理だろう」


H大将「それよりその条件では、将来的に貴様の艦娘が大忙しになるんじゃないか? 少尉の部下の艦娘はそこまで数が多くないだろう?」

提督「? そんなに何度も頻繁に来るつもりでいるのか?」

H大将「そうじゃない。これから各国の代表がこぞってこの島に来ることになれば、その分だけ艦娘が必要に……」

提督「待て待て、気が早えよ。今はまだ『日本の海軍』と『深海棲艦の一部の勢力』の話し合いの場ができただけだ」

提督「是が非でも成功させる気でいるんだろうが、俺はそこまで簡単に話が進むとは思ってねえぞ」

X中佐「少尉は深海棲艦たちと仲が良いんじゃないのかい?」

提督「俺たちが以前から交流していたのはル級一人だけだ。それもあくまで個人的にだぞ」

提督「いきなり見知らぬ深海棲艦呼びつけて、お前ら仲良くしろなんて言って聞かせられるような力はねえんだぞ?」

X中佐「泊地棲姫とはどうなんだ?」

提督「あいつとも割と最近の関係だ。大佐が泊地棲姫に喧嘩を売って、泊地棲姫を使って俺と中将を謀殺しようとしたとき初めて接触したんだ」

H大将「そうなのか……? 俺たちは、それ以前から泊地棲姫とお前に関係があって、大佐を挟み撃ちにしたとも考えていたんだが」

提督「あー、そこから説明がいるのか。まず、泊地棲姫が島に攻めてきたのは、大佐のせいだ」

提督「大佐の部下が艦娘に、泊地棲姫の塒を荒らすだけ荒らして、墓場島へ引き上げて誘導しろ、と指示したんだとよ」

提督「俺の艦隊を泊地棲姫にぶつけて、島の中が手薄になったところで、戦渦に巻き込まれた形で俺と中将を暗殺する算段だったらしい」

X中佐「……泊地棲姫を挑発して、その敵意を墓場島に向けさせたわけか」


提督「信じられないなら、中将のところの赤城や加賀たち航空部隊や、うちの名取、弥生、初霜あたりに話を聞いてくれ」

提督「名取たちは、大佐の部下だったB提督の元部下で、泊地棲姫の塒に特攻させられた当事者だからな」

北上「そこはあたしも証言できるよ。A提督の計画書見つけたり、名取たちが墓場島へ逃げてるところを助けたりしてるからね」

提督「俺たちが泊地棲姫の軍勢を追っ払えたのも、半分以上はメディウムに頼ったおかげなところもある」

朧「まともにぶつかってたら、物量に押されて息切れしてたと思います」

H大将「……追い払ってから、またお前が会ったのか?」

提督「ああ。とりあえず、順を追って説明すると……」

提督「初めて俺があいつに会ったのは……確か、俺が大佐に軽巡棲姫の弾丸で撃たれて死んで、深海棲艦化して……」

X中佐「え?」

提督「海の上走って、元凶の大佐の身柄を泊地棲姫に引き渡した時だな?」

朧「ですね」

H大将「……」

提督「で、そのあと、泊地棲姫が島に出向いてきて、俺に深海に来ないかって誘われて……」

提督「お詫びみたいな感じで、泊地棲姫が鹵獲してた初霜を引き渡してもらって、それからしばらくは島の洞窟に住んでたんだよな?」


朧「そうでしたね」

X中佐「……」

H大将「……」

北上「いやー、すごいことやってるよね。正直、いま聞いても何言ってるかよくわかんないし、事実なら事実でドン引きするよね~」

H大将「ああ……その話、本当なんだな?」

大淀「事実です。提督が大佐に撃たれて脈が取れなくなったときや、後に深海棲艦化して海へ出たときは、私がその場にいて確認しました」

朧「朧も海上で深海棲艦化してる提督を見ましたし、それからしばらくして泊地棲姫が初霜を連れてきていたところも見ています」

提督「ああ、泊地棲姫がこっちに来た時は、朧もいたんだっけか」

朧「はい。確か、初霜が裸にリボンぐるぐる巻きにされてましたよね?」

X中佐「ぶっ!!」

提督「……それ、言わなかったほうが良かったんじゃねえか? 初霜の名誉のためにも」

北上「いったいどんな格好させられてたのさ……」

朧「えっと、後ろ手に縛られて、脚はこう、がばーっと……」

X中佐「言わなくていいよ!?」


H大将「それより、お前が深海棲艦化したというが、どうやって人間に戻ったんだ」

提督「深海棲艦化できたのは、俺の体に弾丸が埋まっていた間だけだ」

提督「生き返って身体が元通りになりかけた時、傷も塞がって、胸の奥に埋まっていた弾丸が体の外側に出てきて……」

提督「それを取ったら、深海棲艦の力が抜けていった、って感じだな」

H大将「弾丸になっていた軽巡棲姫が力を貸していた、と解釈できるわけか。聞けば聞くほどすさまじい話だな……」

H大将「もうひとつ訊こう。少尉、泊地棲姫がお前を深海に誘ってきた理由はなんだ?」

提督「理由? 理由……そういやその辺は全然聞いてなかったな」

提督「深海棲艦化して海の上を走って泊地棲姫と遭遇してたから、単純に俺を仲間だと認識したからだと思うが……?」

大淀「チッ……この朴念仁が」ボソッ

朧「!?」

提督「!?」

H大将「……」

北上(心の声がだだ洩れだねえ……)

H大将「まあ……なるほど、よくわかった。泊地棲姫の態度からして、薄々……いや、多分そうではないかと思っていたが」

朧「多分、そうですね……」


H大将「……質問を続けよう。大佐の部下はどうしたんだ」

提督「俺がメディウムに指示して全員を始末させた」

X中佐「……!!」

H大将「貴様がやったと?」

提督「ああ。あの日、俺とメディウムが丘の上でやって見せたように、全員、嬲り殺した。艦娘たちには手を出させていない」

X中佐「……」

H大将「……」

北上「それ。あたしは、すこーし、すっきりしたけどね」

X中佐「な……!?」

北上「あたしの前の司令官だったA提督はさ、金のために自分の艦娘に裏帳簿作らせて、用が済んだら雷撃処分するような男でさ」

H大将「……」

北上「で、その不正を手伝わされてたのが明石。あたしたちに欠陥品を装備させる、とか言って引きずり込んだらしいんだ」

北上「あたしは、その明石と一緒に魚雷の開発をしてたくらいには仲が良かったんだけど……」

北上「よりによってあいつはあたしに明石を雷撃させたのよ。丁度、重雷装巡洋艦に改装した直後だったせいでねえ」

北上「明石の置手紙であいつの不正をあたしが知ったのは雷撃処分の前日。どっちみち、あたしは明石を助けられなかった」


北上「どうしようもないから、明石と一緒に作った失敗作の魚雷で、明石を沈んだように見せかけるしかなくて」

北上「間違って直撃しないように調整しながら、ばんばん撃ちまくって明石が処分されたように思わせて。でも結局、明石とはそれっきり」

提督「……」

北上「そのあとはA提督があたしを怖がっちゃってね。あたしが友達相手でも容赦しなかったって思ったんだろうねえ」フフッ

北上「それ以来、A提督の直接の指揮から外れてさ。霰と満潮と一緒に、愚連隊じゃないけど、支援艦隊みたいなことをしてたわけよ」

北上「そのおかげで……いつだったか、中将の暗殺なんて物騒な計画書を見つけて」

北上「決行日に墓場島へ行ったら、めちゃくちゃ深海棲艦がいて。あたしが雷撃したあの明石たちがいて……」

北上「ちょうど、A提督がメディウムたちに始末されるとこだったんだよね」

X中佐「……」

北上「まあ、そういうわけなんで、これでも提督には感謝してるんだ。明石と再会できたし、あたしがA提督を撃たなくて済んだし」

H大将「……少なからず問題のある提督たちだったと?」

朧「そう、ですね。潮も、あの中の一人が大嫌いだった、って言ってました」

提督「潮はくっそ凶悪なセクハラされてたからな。内容は吐き気と頭痛がするから言わねえぞ」

H大将「そうか。なら後で聞かせてもらうぞ」ハァ…

朧「結局聞くんですか……」

H大将「内容が惨たらしいものなら、そうであるほど聞かざるを得ん。不始末は起因元から断たねばならんし、再発防止策の検討も必要だ」


H大将「で? 大佐の部下をそうしたのなら、大佐もそうするつもりだったのか?」

提督「大佐は、泊地棲姫に始末させるつもりだった。落とし前をつけさせる意味でな。そこで俺がヘマしてあいつに撃たれちまった」

大淀「……あの時は、本当に生きた心地がしませんでしたよ」

提督「実際死んだしな。深海棲艦になって生き返ったのはもっとびっくりしたが」

提督「で、まあ、いろいろあったが、とりあえず全部大佐と泊地棲姫がやったことにして、ごまかしながら後始末をした」

H大将「それを俺たちが怪しんだ、というわけだな。それを察知した貴様が泊地棲姫を呼んだと」

提督「いいや、そこは違う。泊地棲姫との共闘を画策したのはメディウムたちの独断だ」

H大将「貴様が泊地棲姫を呼んだわけではない、と?」

提督「俺がいろいろ知っていたら最初からメディウムを島の中に待機させたし、朧だってみすみす殺させたりしてねえよ」フンッ

朧「提督……」

H大将「……なるほど。信じよう」

X中佐「しかし、どうしてメディウムたちは泊地棲姫たちと手を組んだんだ? 少尉にはそういう意図はなかったんだろう?」

朧「うーん、もしかしたら、島に来た人間全員を殺すのに最適な方法を選んだ、とかじゃないですか?」

提督「そうかもな。それに、準備で島に来るのが遅れてしまったとも言ってたし……」

提督「ニコにもニコなりの考えがあったんだろうが、海軍側もそれぞれ思惑が違っていたせいで、いろいろ予定が狂っちまったのかもしれない」


提督「そもそも、あんな騒ぎにするほうが俺としては想定外だったんだ。島だって燃やすつもりはなかったし……」

提督「あんたたちを適当にやり過ごして、何もせずそのまま帰ってもらうつもりでいたんだぞ。信じなくてもいいけどよ」

大淀「もしかして、提督がそういうふうに平和的に構えていたのを、ニコさんたちが危ないと思ったんじゃありませんか?」

提督「俺のどこが平和的なんだよ……」

大淀「結果的にはそう見える、という話です。大将たちをやり過ごそうとしたのは、提督が平和的だからじゃなくて、厭世的だからでしょう?」

提督「まあ、そうだけどよ……」

H大将「俺たちが警戒されていたわけか?」

提督「まあ、警戒せざるを得ない状況ではあった」

提督「誰の差し金か確かめられなかったが、大将たちが来る少し前に、艦娘を引き連れた船が島の周りを探ってたりしてたからな」

H大将「ふむ……」

提督「ところで、ちょっとひとつ確認させて欲しいんだが、いいか?」

H大将「なんだ?」

提督「死んだ奴らの狙いは、大将二人の暗殺と、その罪を俺におっ被せるつもりだった、ってことでいいんだよな?」

H大将「ああ。証拠はないが、俺もそうだと認識している」


提督「大将とX中佐は俺たちを引き入れるつもりだったようだが、H大将は俺たちをどうするつもりだったんだ?」

H大将「俺は、深海棲艦と関わりを持っているであろう貴様を拘束するつもりでいた」

H大将「俺もJ少将も、深海棲艦との和睦は無理だと考えていたし、深海棲艦を殲滅するならばスパイの存在は絶対に許せないと考えていた」

H大将「深海棲艦を海から排除するという一点においては、J少将と志を同じくしていたというのは間違いない」

提督「それなのに、あんたも消されそうになったのは、なぜだ?」

H大将「おそらく、深海棲艦から武器を作る話に反対していたからだろう」

H大将「製造するにしても、そのために深海棲艦を鹵獲するにしても危険が付きまとうだろうし」

H大将「研究するまでは良いだろうが、深海棲艦の遺骸を武器として流用したと知れては、深海棲艦も黙ってはいないだろう」

H大将「深海棲艦が人間に対する怒りや恨みから生まれていたとしたら、却ってそれを煽ることになる」

H大将「そもそも、敵とはいえ、ご遺体から武器を作ろうというのは、人の道としてもどうかと思っている」

提督「J少将には、それを話したのか?」

H大将「ああ、話している。あいつにも思うところはあるだろうが、倫理観を外れるような真似はやめて欲しかったからな」

H大将「しかし、島の南側で見つけたJ少将の部下の狙撃手も、朧君を撃ったあの士官も……」

H大将「深海棲艦から作った弾丸を持っていたのだから、俺の理屈は通じなかった……むしろ目障りだったと、いうことなんだろうな」

提督「……」


X中佐「……はぁぁ……」

北上「んおぉ、でっかいため息ついて……大丈夫~?」

X中佐「あんまり大丈夫じゃないよ……同じ海軍だというのに、なんでこんなに、みんな仲良くできないんだ……」

X中佐「対立があるのはわかる。仕方ないと思ってる。けど、ここまで……誰かを亡き者にしようって考えて実行するのは理解できないよ」

提督「ったく、このお人好しめ……つくづく軍人に向いてねえな」

X中佐「ちょっ……!?」

H大将「まあ、こういう人物だからこそ、俺たちに見えないところを見つけてくれる人物だと思って、重用されているわけだが」

提督「そうかもしれねえが……それで無防備に何度もあの島に入ろうとしてたのは、危なっかしいにもほどがあるだろ」

X中佐「危なっかしい?」

提督「ああ、考えてもみろ、あの島は悪さするのにもってこいの場所じゃねえか。舞台として整いすぎてんだ」

提督「潮の流れのせいで行き来しづらい、拠点としても大して重要じゃない、過去に流刑地扱いされてるようないわくつきの島」

提督「不慮の事故が起こって死んだって、まああの島だからしょうがないで片付けられる。こんなに人殺しに適した場所、ほかにあるかよ」

提督「そういう場所にほいほいお忍びで来やがって、危ねえって言う外ねえってんだよ。島への道中に誰かに暗殺されたらどうすんだ?」

X中佐「……」


提督「それに、妖精たちが言うには、島に俺が着くより前は、大佐が気に入らない奴を島へ放置して餓死させてたらしいぞ?」

X中佐「そんなことまで!?」

H大将「そういう話も知っているなら早くしろ……!」

提督「それ聞いたのはおとといだぞ、おととい。妖精たちが俺に気を使って言えなかったっつうし、しょうがねえじゃねえか」

北上「えー……じゃあなに? 提督も文字通り島流しにされてたってわけ?」

提督「ああ、初期艦すらつけてもらえず、建造ドックも壊れたままで働けとか、寝ぼけたこと言われたからな」ケッ

提督「しかも通信機は大佐の鎮守府に直通回線一本だけだ。この間は赤城と事務的な話しかしてねえ」

H大将「よく生き延びてこられたな……」

提督「俺の場合は、中将に気にかけてもらってたおかげで物資が多少は届いていたのと……」

提督「妖精と話せたおかげで、いろいろ協力してもらえたから生活できてたってところが違うかな」

提督「とにかく、今回の騒ぎも、そのひとつ前の中将と俺の暗殺計画も、あの島で起こったことだからしょうがない、で済まそうとしたんだろ」

提督「丁度ここに、濡れ衣を着せるのに都合のいい下っ端もいる。一緒に始末すりゃあ証拠も消せるしよ」ヘッ

X中佐「笑っていられる話じゃないよ……」

提督「笑ったっていいだろ。結果的に馬鹿どもが返り討ちになったんだ、笑い飛ばさねえと俺がやってらんねえよ、くそが」

H大将「……あの娘が言っていた通り、人間の自業自得と言わざるを得ないな」ハァ…


北上「その場所が海軍と深海棲艦の話し合いの場になるっていうのも、なんとも皮肉が効いてるねえ」

大淀「本当にそうですね……」

X中佐「……」ガックリ

H大将「……X中佐」

X中佐「すみません……さすがにちょっと、滅入ってしまって」

X中佐「状況は、良くなっているんです。深海棲艦と話し合える場所ができたのは、本当に喜ばしいことです」

X中佐「しかし、ここまで……結果的に、海軍の不始末を少尉一人に押しつけ、全部処理してもらってます」

X中佐「かつ、これからも深海棲艦との対話で間に立ってくれると言ってくれています」

X中佐「何から何まで全部、少尉に頼りすぎですよ……!! 僕たちは海軍ですよ? なんて情けない……」

H大将「X中佐……」

X中佐「……それでも。それでも、やっていくしかないですけどね」

X中佐「深海棲艦と……戦いを回避する方法を……なんとか、模索していかないと……」

提督「そうだな。いつまでも俺が手を貸せるとは限らねえ。むしろ、俺がいなくても何とかしてもらえるようにしてもらわねえとな」

X中佐「……」コク


提督「……ま、あんたは俺にいらねえお節介焼いてきてたからなあ。心配ではあるが、信用してないわけじゃない」

提督「変な真似さえしなきゃあ、話し合うくらいはできそうだと思ってる」

X中佐「……!」

提督「まずは実績を作ることだろうな。例えば、島の海域に入ったら、絶対に戦闘しない、とか」

提督「深海棲艦を相手にひとつ約束事を作って、それが守れるかどうか……深海棲艦が約束を守る奴かどうかって見極めもいるだろうが」

H大将「……」

提督「ま、こういうのは、時間をかけて見守るしかねえさ。俺が、轟沈した艦娘を保護したように」

提督「俺が……こいつらに、信じてもらえるようになったように」

朧「提督……!」

大淀「提督……!!」

X中佐「……うん……そうだね……!」

H大将「……」

北上「……いやー、本っ当になんでだろうね? こんなこと言う人が魔神だよ? 罠の頭領だよ? いろいろ間違ってない?」

提督「いや、俺はあくまで妖精と艦娘とメディウムと深海棲艦を保護するってだけで、人間はどうでもいいからな?」


提督「俺自身も晴れて人間じゃなくなったし。ぶっちゃけ人間が死滅しようが最早全っ然構わねえんだからよ」

大淀「提督!!」ギョッ

X中佐「……」

H大将「……」

提督「ま、俺の本音はこうだからな。人間が深海棲艦とこれからどう接していくにしても、俺からは基本、口は出さねえぞ?」

H大将「ああ。責任重大だな、中佐」

X中佐「ええ、そこは何とかしてみせます……!」

H大将「それで、島での我々の安全は保障してもらえるのか?」

提督「そこは……まあ、そこはそうだな。俺が信頼している艦娘と一緒なら危害を加えないよう、周知徹底させる」

提督「とはいえ、泊地棲姫の艦隊が全員俺に従うかわからねえから、それはこれからしっかり統制しなきゃな……」ウーン

朧(大丈夫なんじゃないかなあ……あの洞窟にいた時も、提督の言うこと聞いてた気がするし)

提督「あの島の海域が非交戦地域であることを、他の深海棲艦にも通達したいし……」

大淀「海軍にしても私たちにしても、話し合いを持つためにはもう少し準備期間が必要ですね」

H大将「そうだな。海軍の中でも、今後深海棲艦と交渉にあたる人材を用意せねばならん」


大淀「私たちも同様に、島の中の整備を整える必要があります。そこで……海軍と取引をお願いしたいのですが」

H大将「取引?」

大淀「はい、例えば、かつて島で使用していた発電機や、小型のショベルカーなどの設備、電気工事用の電線や水道管の敷設……」

大淀「それから艦娘用の入渠ドックや建築用木材、私たちが使用していた生活必需品の購入をお願いしたいのです」

H大将「……ふむ」

提督「工事が必要なら、その期間は泊地棲姫たちには島から離れてもらう。メディウムたちも退避させよう」

提督「代金は、こいつで支払いたい」ゴソッ ゴトゴトッ

X中佐「なんだい? その石は……」

H大将「……!! 少し、見せてもらっていいか」

提督「ああ」

H大将「……」

X中佐「H大将?」

H大将「……少尉。お前は、どこでこれを?」

提督「噴火した海底火山の溶岩の中から採掘した」

H大将「なるほど……」


X中佐「H大将、この石は一体……?」

H大将「……これはもしや、ダイヤの原石か?」

X中佐「え!? こ、これがですか!?」

H大将「ああ。もし本物なら、こんな手のひらに収まらないサイズの石は見たことがないぞ……!?」

提督「炭素を高温で圧縮して作られるのがダイアモンドだって聞いたことがある。マグマの中で作られるとも言われてるらしいな」

提督「それでだ。その原石がどの程度の価値があるか、そいつを持ち帰って鑑定してほしいんだ」

提督「その上で業者を4、5件回ってもらって、それぞれに見積もりを取ってもらいたい」

提督「俺たちは、信頼できそうな値を付けたところにそいつを売って、その金で備品の調達をしたい」

提督「その業者が他にも欲しいというなら、採掘できた分のなかからいくつか渡そうと思ってる」

H大将「……これは何かの罠ではないだろうな?」

提督「その石自体は罠でもなんでもねえよ、ごくごく真っ当な取引だ。ただまあ、違う意味では罠だと言える」

H大将「何を企んでいる」

提督「……メディウムはな、悪人の魂を欲しているんだよ」ニタリ

X中佐「……」

提督「そのダイヤは撒き餌みたいなもんさ。このサイズなら確実に値はつくし、どこで採れたか確実に訊かれるはずだ」

提督「訊かれたらこの島で採掘されたものだと、正直に答えてくれていい。島に深海棲艦が棲みついていることも忘れずにな」


提督「島がいかに危険かを聞いて、まともな奴なら諦めるだろう。だが、危険を承知で採掘しに来るっていうのなら……」

提督「メディウムたちが諸手を挙げて歓待してやろう、ってだけさ」ニヤァ…

H大将「……」

X中佐「……」

大淀(またそこでそういう悪い笑顔を……)

北上(こういうところはマジでメディウムの親玉だよねえ……)

H大将「……怪我をさせずに捕縛というわけにはいかんのか」

提督「命の保証は無理だ。言ったろ? 魂を欲しているって。ストレートに言えば、メディウムにとって人間は餌に等しいんだ」

X中佐「餌……」

提督「料理をするとき、食材を切ったり、煮たり、焼いたり、塩コショウを振ったりして、おいしくするだろう?」

提督「それと同じように、欲にまみれた人間を、華麗に吹き飛ばし、屈辱的な目に遭わせ、残虐に殺すことによって……」

提督「悲憤と無念にまみれた、魔力が満ち満ちた魂に磨き上がる。ちょっとひと手間、というやつだ」

提督「メディウムはそういう昏(くら)い感情を含んだ魂が大好きで、特に極悪人の魂は念入りに磨き上げる傾向にある」

提督「どうせ食うなら、おいしく召し上がりたいだろう? メディウムたちにもそういう『ささやか』な欲望があるんだよ」

H大将「……」


提督「俺が、人間がこの島に入って欲しくないと考える理由の一つがそれだ。来てもいいが、友好関係を築きたいなら、長居はして欲しくない」

提督「さすがに海軍だって、発布した忠告を無視して面倒を起こす奴らにまで、世話を焼くなんて下世話な真似はしねえよな?」

H大将「……それは、そうだな」

X中佐「ですね……我々では注意喚起が関の山でしょう」アタマカカエ

提督「それでいい。金に目がくらんだ命知らずが、どこかへ消えるだけの話だ、海軍が気に病んだり責任を感じたりすることじゃない」

提督「そういうわけなんで、メディウムも深海棲艦に負けず劣らず危険な存在だ」

提督「あんたたちの身の安全のためにも、俺が信頼する艦娘と同行してもらって、メディウムの捕食対象ではないことを示してほしい」

X中佐「……わかった。さしあたり、艦娘の帯同の件と、この原石の査定の件だね。すぐに取り掛かろう」

提督「そうしてもらえると助かる。俺も島で、海軍を受け入れる準備に取り掛かる」

提督「何せ話し合う場所すら、いま作っている途中だからな。準備ができ次第、連絡を取らせてもらう」

大淀「あの、提督? 通信販売のカタログの取り寄せもこの場で一緒にお願いできないでしょうか」

H大将「カタログ?」

大淀「はい。以前、私たちは生活用品や私物を買うのに、市販の通信販売のカタログを使っていました」

大淀「例えば長門さんのミシンですとか、比叡さんの包丁ですとか。執務室のソファやドライヤーなどもそれを見て購入しています」

H大将「長門がミシン……だと?」クビカシゲ


X中佐「通販で? お金はどうしていたの?」

大淀「そ、それは、提督のお給料から出していただいて……」

X中佐「えええ……」

提督「俺が金を使う機会がなかったんでな。朧は小説本買ったんだっけか」

朧「はい! ハードカバーの新書を買いました!」

提督「娯楽もなかったんで、余所の鎮守府から遊び道具を寄付してもらったこともある。例えばトランプとか、将棋盤もそうだったよな?」

大淀「あ……! そういえば、そうですね……」ガックリ

朧「大淀さん、将棋のセットを島から運び出してなかったんですか」

大淀「それもありますが、それよりも有名棋士の指南本が……」

朧「ああ……」

H大将「……わかった。そういうことなら、取り寄せさせよう。予算についても問題のない範囲で検討させる」

大淀「ありがとうございます!」ペコリ

朧「あ、提督のお給料が入ってる口座とかもそのままにしてもらえますか?」

H大将「不知火が言っていた件か? 経理ができる奴を呼んだほうが良さそうだな」

X中佐「そうですね。契約が継続できないなら、ご家族への相続とか考える必要もありますし」

提督「……」ビキッ

朧「あ」ビクッ


提督「悪い……もうひとつ、大事なことを言い忘れていた」

H大将「なんだ?」

提督「俺に、親と、弟がいることは知っているか?」

X中佐「? 君の家族がどうかしたのか……?」

提督「……あいつらには、絶対に連絡を取るな」

X中佐「! ……理由を聞いても?」

提督「あいつらは俺の敵だからだ。あいつらは俺にとって家族でも何でもない……!」

X中佐「……」ゾク

H大将「……過去に、大佐がお前の父親へ献金していた記録があったな。それが関係しているのか?」

提督「いや、それはそうじゃねえ……」

朧「提督は、妖精さんが見えるっていうだけで、両親からもひどい扱いを受けてきたんです!」

提督「……おい」

大淀「朧さんの言う通りです。提督の人間不信は、提督のごりょ……両親の影響が最も大きいと思われます」

大淀「その献金は、大佐が提督の身柄を買い取るために、提督がどうなっても口出しされないようにするために支払ったものです」

北上「うわあ……マジで?」ドンビキ


大淀「はい。提督はその両親から疎まれていました。提督もその人たちを家族と呼ぶことはできない、と、過去にも仰っていましたし……」

大淀「そもそも提督は父親から勘当されています。縁を切ったはずなのに、お金のやり取りがあること自体、おかしいと言わざるを得ません」

提督「……」

X中佐「……そうなのか?」

提督「喜んだのは違いないだろうな。勘当したはずのゴミを引き取ってもらえた上に金まで貰えたんだ」ケッ

X中佐「……」

提督「そういうわけなんで、間違っても、連中を俺に会わせようとか考えるなよ」

提督「この場で話し合ったことも何もかも、この船もろとも怒りに任せてひっくり返しちまうかもしれねえからな……」

H大将「なるほど。献金がお前に関係ないのならそれでいい。遠慮なく告発していいな?」

提督「ああ、遠慮はいらない、思う存分やってくれ。俺はあいつとは縁が切れてるし、二度と会いたいと思っていない」

提督「あの男は自分の名誉が一番大事な人間だ。そのために俺の名前を利用するかもしれねえが、それも全否定してくれていい」

H大将「わかった。先方がお前のやることに口を出してこないよう、念入りに叩き潰しておくとしよう」

提督「……」ペコリ


 * *

北上「……提督も苦労してんだねえ」

提督「まあ、な。家族に相続、って言葉が出てこなかったら伝え忘れるとこだった。危なかったな」

北上「なんかさあ、H大将もこれで提督に貸しを作れたとか思ってんじゃない?」

提督「それはそれで別に構わねえさ。あいつを社会的に潰そうってんなら俺は協力するし」

提督「そもそも海軍の不始末を処理するために必要なことをやってるだけだろ? この話には貸しも借りもねえと思ってるがな」

朧「とりあえず、いい方向に進むといいですね。今回は嘘も言ってませんし、すっきりできたと思います!」

提督「……一点だけ、嘘ついてんだけどな」

大淀「え? どこですか?」

提督「メディウムが悪人の魂を欲しているって言ったろ?」

北上「うん。間違ってんの?」

提督「ああ、悪人も善人も関係ねえんだ。本当は」

大淀「……」

朧「……」

北上「……あー、うん。まあ、そうね……」

大淀「あの、提督? それでは、メディウムが人間をいたぶって殺すというところは……」

提督「あれは本当だ。あれはニコから聞いたのをそのまま話した感じだな。魂に対する味付けって聞いてる」

提督「とにかく、俺たちと友好的な相手には手を出さないように教育するさ」

提督「四方八方に喧嘩売って敵を増やして、とんでもない奴を相手にしなくちゃいけなくなった、ってのが一番面倒臭えしな」

大淀「ええ、ぜひそのようにお願いします」

今回はここまで。

>647
概ね解決はしそうですが、まだまだフラグが残ってますので……今回も回収です。

続きです。


 * 翌日 昼前 *

 * 墓場島沖 医療船内 小会議室 *

卯月「少尉! 無事だったぴょん!?」

弥生「元気そうで良かった……」

望月「いやあ、やばいことになったんだねえ、あの島。また住めるの? せっかくだし、あたしたちのいる大湊に来ない?」

提督「……」

W大佐「どうかしたか、少尉」

提督「……いや、珍しい顔が出てきたなと」

鳳翔「そんなに珍しいでしょうか?」

提督「ああ、久し振りというか、お前たちとはもう会うこともないと思っていたくらいだが」

卯月「少尉ったらつれないぴょーん! うーちゃんが少尉を放っておくと思ったら大間違いだっぴょん!」

提督「いたずらする気ならやめとけよ? 洒落にならない連中が来たからな」

卯月「ぷっぷくぷぅ~! そーんな脅しに屈するうーちゃんじゃないっぴょーん!」

卯月「艦娘ならぬ罠娘だって聞いてるぴょん? うーちゃんとは仲良くできそうだっぴょん!」ニヒヒヒッ


提督「やめとけ。お前は洒落が通じない相手に粗相して、追いかけられてズタボロになる未来しか見えねえ」

弥生「わかる」ウンウン

望月「卯月って、触っちゃいけない相手ほど触りたがるもんね」ウンウン

卯月「みんな辛辣ぴょん!?」

鳳翔「大丈夫な人もいるでしょうけれど……」

提督「そうだなあ、フウリやマーガレット、ハナコ、シャルロッテ……あとジュリアか。あのあたりなら、罠的にまだ洒落が通じそうだがなあ」

鳳翔「まあ。その方々は、どんな罠なんですか?」

提督「ん-、タライ、フライングケーキ、ウォッシュトイレ、バナナノカワ、ハリセンってとこか」

卯月「めっっっっちゃ興味あるぴょん!!」キラキラッ!

提督「よし、卯月にはルイゼットとエレノアを紹介してやるか。ギロチンとメイデンハッグのメディウムだ」

卯月「死ぬぴょん!? 少尉はうーちゃんを殺す気ぴょん!?」

提督「冗談だよ。それより……」

鳳翔「はい、ご紹介させていただきますね。こちらはW大佐」

W大佐「……よろしく。こいつは秘書艦の伊勢」

W伊勢「よろしくね!」


W大佐「それから、軽巡洋艦の球磨と、戦艦の榛名だ」

W球磨「よろしくだクマ」

W榛名「よろしくお願いします」

提督「……ああ」

鳳翔「こちらのW大佐はX中佐のご友人で……」

W大佐「先日の作戦に参加していた一人だ。H大将閣下に懇意にさせてもらっている」

提督「……艦隊を出していたのか」

W大佐「ああ、作戦時にはこの球磨と榛名を出撃させていた」

W球磨「球磨は、まさかあんなコトになるなんて、思ってなかったクマ。とりあえず、あの罠の女の子たちは、ここにはいないんだクマ?」

提督「……まあ、一応は、な」

W球磨「ふーん……潜んでてもいいけど、襲ってこなければいいクマ」

W球磨「かかってくるなら球磨は容赦しないクマ。でも、仲良くできるんなら、そうしたいクマ」

W伊勢「まあ、今日は懇親を深めるって話で聞いてたから、さすがにここでまで警戒はしなくてもいいと思うけどね」

W球磨「そうあってほしいクマー」ウナヅキ

提督「……H大将の部下なら、深海棲艦は殲滅するべきって思想の連中が多いと思っていたが……そうじゃねえのか?」

W大佐「確かに、そういう思想を持つ者は多いな。今回の件で、H大将がお前たちや深海棲艦との話し合いを始めたことに動揺している者もいる」

W大佐「しかし私自身は、深海棲艦とどのように向き合うかについては、特にこうだと決めつけてはいない。普段からX中佐とも話をしているしな」

W大佐「むしろ、深海棲艦とはいったい何者なのか。何が目的なのか。それを知ることのほうが、戦争の終結には重要だと思っている」

提督「……」


W大佐「今日はあくまで顔合わせの場だと聞いている。かかわった以上、君がどんな人物なのか、色眼鏡なしに見てみようと考えている」

提督「……この先、どのくらい顔を合わせるかはわからねえがな」

W大佐「ふむ。まあ、そうなるかな」

提督「……なんつうか、日向みたいな男だな?」

W伊勢「そう! そうなのよ! 最近ほんっとに日向に似てきたの! あなたもやっぱりそう思う!?」ズイッ!

提督「お、おう……」

W球磨「伊勢、食いつきすぎクマ……落ち着くクマ」

W大佐「それからもう一人。そっちにいるのが……」

卯月「司令官も早くこっちに来るぴょん!」

W榛名「……」

W大佐「V提督だ。今はここにいる卯月たちの艦隊を指揮しているそうだ」

V提督「……」ペコリ

鳳翔「N提督が鎮守府をおやめになってからいらした、後任の提督です」

提督「ふーん……」チラッ

W大佐「俺と同じく、V提督もX中佐と同期なんだ」

提督「同期? そう言う割には、部屋の隅っこで随分と控えめにしてんじゃねえか?」

提督「おそらく、穏やかじゃねえ空気を放ってる奴が、そこにいるからだろうけどな。どうなんだ? 榛名……!」

W榛名「……」

V提督「……」


W大佐「まあ、無理もない事情があるんだ。君に話すほどのことでもないんだが……」

鳳翔「ええと、みなさん? 今日は特別な席を用意しておりまして」

望月「鳳翔さーん、大丈夫? なんか違う意味で特別な席になってるっぽいんだけど」

提督「だな。なんでこんな険悪な雰囲気なんだか……卯月がいなけりゃ息苦しくてかなわねえ」

卯月「……うーちゃん、褒められてるぴょん?」

提督「おう。素直にMVP喜んどけ」

 トントン

大和「失礼いたします、準備が整いました!」

鳳翔「あら、丁度よかった。ではみなさん、こちらへどうぞ」

W大佐「……鳳翔、あなたは何を企んでいる?」

鳳翔「企むだなんてそんな。一緒に昼餉をと思いまして」

W大佐「……?」

鳳翔「さあ、V提督もこちらへ」

V提督「あ、ああ……」

W榛名「……」ジロリ


 * 廊下 *

大和「こちらです」

W大佐「……ん? この匂いは、カレーか?」

V提督「……!」

W榛名「これは……!」

卯月「鳳翔さんのカレーの匂いだっぴょん!!」パァッ!

望月「やっりい! おなか減ってたんだー」

鳳翔「ふふっ、私の作ったものよりおいしいと思いますよ」

V提督「鳳翔……まさか、お前……?」

鳳翔「逃げてはいけませんよ……提督」ニコッ

V提督「……!」

大和「お待たせしました、お連れしましたよ!」

雲龍「噂をすれば、ね」

陸奥「!」

比叡「あ……!」

龍驤「お、来よったんか!」


提督「比叡はともかく、雲龍に陸奥に龍驤? なんでお前たちがここに?」

龍驤「おってもええやんか、うちと陸奥は懐かしい顔と話しとったんよ?」

提督「懐かしい?」

球磨「なんで間宮さんが二人いるクマ?」

鳳翔「はい、ご紹介します。こちらは私たちの鎮守府の間宮さん」

間宮「少尉、おひさしぶりです」ニコッ

鳳翔「そしてこちらは、かつて幌筵の以提督鎮守府にいた、間宮さんです」

提督「!!」

以間宮「はじめまして……!」ペコリ

提督「以提督……あの骨と皮だけになってた、あの写真の間宮か!?」

鳳翔「はい、御覧の通り、一生懸命リハビリしまして、ここまで回復いたしました」

球磨「リハビリ、クマ?」

提督「こっちの間宮は働かされすぎてガリガリに痩せてたんだよ。うちの龍驤と陸奥も同じ鎮守府にいたんだ」

陸奥「昔話に花が咲いちゃってね。みんなの邪魔はしないから安心して」


鳳翔「そしてもう一人、ここにいる皆さんにご紹介したいのが、こちらの墓場島鎮守府の比叡さんです」

V提督「……まさか」

W大佐「おい、もしかして……」

W榛名「あなたは……!!」

鳳翔「はい。もと、V提督鎮守府所属の、比叡さんです」

比叡「……」ニコニコ

V提督「っっ!!」

W榛名「……い……生きてらしたんですね……!!」

比叡「え?」

W榛名「私です、比叡お姉様!! 私は……私はかつて、V提督のもとで働いていた、あの榛名です!!」

比叡「ひええええ!? そうなの!?」

W大佐「鳳翔。これがあなたの狙いだったのか?」

鳳翔「はい」

提督「なるほど、榛名が睨みを利かせてたのはそういう理由か」


卯月「……みんななんで驚いてるのか、よくわからないぴょん」

W大佐「それは……」

V提督「待ってくれ。俺が話そう」

弥生「司令官……?」

V提督「これは俺の失態だ。俺が……比叡を傷付けたのが、すべての発端であり、原因だ」

提督「原因、ねえ……? とりあえず話してもらおうじゃねえか」

V提督「俺とW大佐、それからX中佐が同期だったことは、Wからもあった通り……」

V提督「海軍に入った当初は、そこにUとYを含めた5人で、いつも決まった時期に飲み会を開いていたんだ」

V提督「初めてうちの艦隊に戦艦が来たとか、いまだに空母が来ないとか……自分の艦隊自慢をしていたんだが」

V提督「だんだんと戦艦の……金剛型の話題になって、比叡の作る料理の話になった」

V提督「UにしてもYにしても、各々の鎮守府の比叡が作る飯はどうしようもなくマズかったらしい」

V提督「だが、うちの比叡は違った。全然、そんなことはなく……初めて出されたカレーも、あっという間に平らげたくらいだった」

比叡「……!」

V提督「それを、俺は……」

W榛名「……」


W大佐「……その酒の席では、Vが、自分のところの比叡のカレーはおいしいと言っていたんだ」

比叡「!!」

W大佐「ただ、それをUとYがことあるごとに馬鹿にして囃し立てていたんだ。お前の味覚はおかしい、と」

W大佐「あいつらはあいつらで自分たちの経験からそう言っていたんだろう。それ自体は間違ってはいなかったと思う」

W大佐「だが、あれは言いすぎだった。俺が傍から聞いていても、その貶め方は不愉快だった」

W大佐「かといって俺やXが制止しても、比叡が着任してないからとわからないんだと聞き入れられることもなく」

W大佐「だったら、Vの鎮守府に来て、比叡の出したカレーを食べてみろ、という話になって……」

V提督「……そこで俺が、やっちゃいけないことを、やったんだ」

比叡「……」

W榛名「それで……あんなことを……っ!!」ギリッ

W大佐「……」

提督「そうか。そこで、用意した比叡のカレーを、皿ごと投げ捨ててみせた、ってことか」

望月「なんだそれ!?」

W榛名「そうです……ご友人を招いた席で……なぜあのようなことを、V提督がしたのか……!!」


W大佐「おそらくだが。あれは、UやYに対する当てつけだろう? UやYが『こんなもの』と言っていたのをあいつらに認めさせ……」

W大佐「そして自分は、あいつらが称賛したものを捨てて見せて、自分のほうが上だと見せつけたかった。そんなところじゃないか」

弥生「……本当、ですか」

V提督「……そうだ……おおむね、そんなところだ……」

W大佐「それで後悔して自分の腹を撃ったと。まったく、馬鹿な男だ」

卯月「撃ったぴょん!?」

W大佐「ああ、拳銃でな」

鳳翔「……」

W榛名「そんな……そんなつまらない理由で……!!」ギリギリッ

W榛名「その、つまらないプライドのせいで! 比叡お姉様がどれだけ苦しんだか……!!」ジロッ

提督「ああ、まったくだ。島に比叡が流れ着いて目を覚ましてから一週間……いやそれ以上か。飯を食おうとしなかったからな」

提督「下手すりゃあ、そのまま死んでたぜ」ジロッ

鳳翔「……」

提督「何を考えてこんな席を作ったのかは知らねえが……おい、比叡。この場は、お前の好きにしていいぞ」

比叡「! いいんですか?」


提督「ああ。この場はお前が一番優先されていいだろう。そっちの榛名も、それでいいか?」

W榛名「……わかりました。比叡お姉様にことを委ねるということであれば、異論ございません」

W大佐「……」

比叡「それでは……」コホン

比叡「みなさん椅子におかけください」

全員「「……」」

提督「は?」

W榛名「比叡お姉様?」

比叡「いや、は? とかじゃなくて。これからご飯を食べるんだから、みんな座って、って言ってるんだけど」

V提督「……ひ、ひえ」

比叡「ストップ!!」

 (手のひらをV提督へ向けて制止する比叡)

比叡「ごめんなさいとか、すみませんでしたとか、そういうセリフは聞きたくありません!」

V提督「……」

比叡「だから、おとなしく座っててください」

W榛名「……」


鳳翔「さ、比叡さんもそう仰ってますし、みなさんもお座りください」

球磨「確かに、そう言われて突っ立ってる理由はないクマ」

望月「ま、まあ、そういうことなら……」チャクセキ

卯月「座るしかないぴょん!」チャクセキ

W伊勢「そうだね、みんな座ろ?」

大和「さ、提督もどうぞ」イスヒキ

提督「お、おう……」

望月「あれ? 鳳翔さん、なんか椅子多くない?」

鳳翔「実はもう一組、この席に招いている方がいるんですが、まだ来ていないようで……」

<ハ、ハナセ!!

<オトナシクシテクダサイ!!

提督「あれは……!!」


N大尉「俺が行く必要はないだろう!? 妙高、放してくれ!」エリクビツカマレ

妙高「いい加減、覚悟を決めてください! 磯波さん、提督の足を持ってください!」グイグイグイ

磯波「は、はい……!」ガシッ

N大尉「い、磯波!? は、放せ! はな……!!」

提督「お前、N中佐か!?」

N大尉「て、提督准尉……!!」

妙高「ふう……鳳翔さん、N大尉をお連れしました」

鳳翔「ありがとうございます。いけませんよN大尉、秘書艦を困らせては」ウフフッ

N大尉「い、いや、しかし……」

鳳翔「それから、今の提督は少尉です。少尉も、今のN提督は大尉ですので、お間違えないよう」

提督「ああ、そういやそうだったか」

N大尉「はぁ……いやはや失礼した。まったく、またみっともないところを見せる羽目になったな」

龍驤「おぉお! N大尉やんか!! ひっさしぶりやあ!!」

N大尉「!? 龍驤と……陸奥? も、もしかして、以提督のところにいた二人か!?」

陸奥「はい、あのときはありがとうございました」ペコリ


龍驤「見てみい! あの鎮守府にいた間宮も、回復したんよ!」

以間宮「N大尉、大変お世話になりました」ペコリ

N大尉「おお! 顔色が全然違うなあ、元気になったみたいで良かった! 俺はあの時は何の役にも立てなくて……本当にすまなかった」

龍驤「そんなことないって! あの啖呵を切ったあの時は格好良かったで!!」

N大尉「いやあ、それほどでも……ところで、後ろの胸の大きなお嬢さんはどちら様で?」デレッ

龍驤「」ズコッ

雲龍「?」

妙高「N大尉? 鼻の下が伸びていますよ?」コメカミヲコブシデハサンデ

N大尉「あだだだだだ!?」グリグリグリ

球磨「この人は何をしに来たんだクマ」

鳳翔「この方はN大尉。こちらにいる龍驤さんたちを以提督鎮守府から助け出したきっかけを作った方です」

望月「え、N提督、そんなことしてたの!?」

提督「知らなかったのか?」

卯月「全然知らなかったぴょん」


妙高「こちらの間宮さんが私たちの鎮守府に来た時のことは承知していますね?」

望月「うん、前の鎮守府で働かされすぎてガリッガリだったんだよね?」

妙高「その間宮さんを助ける手助けをしたのも、N大尉ですよ」

卯月「全然知らなかったぴょん……!!」

望月「N提督かっこいいじゃん!?」

弥生「見直しました……!」

球磨「そのN大尉を、なんでこっちの駆逐艦たちが知ってるんだクマ?」

W大佐「V提督が来る前は、N大尉が鎮守府を仕切っていたからだ。かつて洗脳ツールを使った提督がいただろう、N大尉がその一人だ」

球磨「マジかクマ……」

提督「ついでに言うと、うちの大和をそのツール使って横取りしようとしやがった」

球磨「うわ、それマジで駄目なやつクマ……」

妙高「そういう過去もありますが、こちらの間宮さんの快気祝いということもあって、N大尉をこの席にお招きしたという次第です」

提督「なるほどねえ……」

N大尉「正直、どの面下げて准尉……じゃなかった、少尉のいる場にいたらいいのか、わからないんだが……」

提督「今まさに似たような状況の奴がいるから、お前までぐちぐち言わなくていいぞ」

N大尉「その理屈は意味が分からんぞ!?」


鳳翔「W大佐とV提督には一度お会いしていると聞いてますので、紹介は不要ですね?」

N大尉「あ、ああ、そうだな。まあ一度しか挨拶したことがないんだが……」

比叡「お待たせしました!!」ガチャ

望月「うおおおおーー!?」ガタッ

卯月「カレー来たぴょおおん!!」ガタッ

比叡「鳳翔さんたちは配膳のお手伝いお願いします!」

鳳翔「ええ、お任せください」

間宮「さ、行きましょう!」

以間宮「はいっ!」

W榛名「あ、私も……」

比叡「大丈夫! 榛名は座ってていいから!」ニコッ

W榛名「あ……」

鳳翔「N大尉たちもどうぞおかけください」

N大尉「あ、ああ」

 カチャカチャ…


W球磨「おお……実際に目の前に並ぶと、においだけで涎が出てくるクマ」

W伊勢「すごいね、なんかいろいろ光ってるっていうか、輝いてる気がする」

W大佐「あの時以来……あの時以上だな」

N大尉「これは、提督少尉のところの比叡が作ったのか?」

鳳翔「はい、そうですよ」

N大尉「そうか。これはすごいな、香りだけでこんなにそそられるカレーは初めてだ」

W球磨「大尉は、これが比叡の作ったご飯だと聞いても驚かないクマ?」

N大尉「ああ、俺はあの島で執務をしたことがあって、そのときに比叡の作ったご飯を三食いただいたことがある」

W球磨「最初から腕前を知ってたクマ?」

N大尉「いやあ、さすがに最初は俺も驚いたよ。比叡が作ったと聞いて思わず聞き返したのは確かだ」

N大尉「しかしそこの大淀から、比叡は仮にも御召艦なのだからこのくらいはできて当然だ、と窘められてな……」

N大尉「確かに失礼だとも思ったし、御召艦だったというのも事実なんだから、なるほどとも思ったんだ」

V提督「……」

N大尉「だから、驚きはするが、大袈裟に驚くのも失礼かと思っている。が、これはちょっと大袈裟に驚いても良さそうだよな?」

W球磨「良さそうクマ」ウンウン


比叡「熱いので気を付けてくださいね!」コトッ

V提督「! ……俺も……いいのか?」

比叡「はい、どうぞ!!」

W榛名「……」

鳳翔「行き渡りましたね。それではお召し上がりください」

提督「んじゃまあ、いただくか」

卯月望月「「いただきまーす!!」」クワッ!

弥生「ふたりともうるさい……」

卯月「ぱくぱくぱくぱく」

望月「もぐもぐもぐもぐ」

間宮「一心不乱に食べ始めましたね……」

弥生「……静かになった」

卯月「止まんないぴょん……」モギュモギュ

望月「うっめ……マジうっめ……」モギュモギュ


N大尉「本当にうまいな……磯波はどうした? 遠慮しないで食べていいんだぞ?」モグモグ

磯波「は、はい……では……」オソルオソル パクリ

磯波「……」モグモグ

磯波「んんん~~~~~!!!」キラキラキラッ

V提督「おお、光ってる光ってる。妙高も遠慮するなよ?」

妙高「はい、そのようにいたします」ニコ

W大佐「俺たちも食べるとしようか」

W球磨「おかわりいただけるクマ?」キラキラ

W伊勢「早っ!?」

W球磨「カレーは飲み物クマ」キリッ

W大佐「訳わからんこと言ってないで、ちゃんとよく噛んで食べろ」

V提督「……」

W榛名「……」ジトッ

比叡「あれ? お召し上がりにならないんですか?」

V提督「あ、いや……」


比叡「どうぞ、お召し上がりください!」

V提督「俺……いや、私は……」

比叡「どうぞ!!」ズイ

V提督「……」

W榛名「……」

V提督「……」カチャ…

V提督「……」パク

V提督「……」モグモグ…

比叡「お味のほうは、いかがですか?」

V提督「ん、あ、ああ……そうだな……」

比叡「……」ジッ

V提督「うまい、な……」

比叡「良く聞こえなかったんで、もう一回お願いします!!」

V提督「!?」

W榛名「!?」

提督「……」


V提督「い、いや、その……おいしい、ぞ……?」

比叡「えっ? やっぱりよく聞こえないですね!?」

V提督「」

比叡「すみませんが、もうちょっと大きな声でお願いします!!」

比叡「おいしかったですか? おいしくなかったですか?」

W榛名「……」

V提督「お……おいしくないわけがないだろう!?」

全員「「……」」

V提督「こんなうまいカレーを食べたのは、初めてお前のカレーを食べた時以来だ!!」

V提督「衝撃的過ぎて、言葉が出なかった」

V提督「こんなにおいしいものを、なんであいつらはまずいなんて言ってたのか、さっぱり理解できなかった!!」

V提督「いくらおいしいと訴えても、笑いながら否定されるのが悔しくて……俺も、比叡も馬鹿にされているみたいで耐えられなかった!」

V提督「俺は、あいつらに……恥を、かかせたかった……」

W榛名「……」ギリッ

提督「……」


V提督「比叡……すまない……俺は」

比叡「はいストップ!!」

V提督「……」

比叡「だーかーらー! 私は、あなたから謝罪の言葉を聞きたいんじゃないんです!」

比叡「おいしかったか、おいしくなかったかを聞きたいんです!!」

比叡「どっちなんですか? 『司令』!!」

V提督「……!!」

V提督「おいしいとも」

V提督「涙が出るほど、おいしい……!」

比叡「……はー……」

W榛名「比叡お姉様……」

比叡「……」ニコ

比叡「……なら、頑張った甲斐がありました!!」フンス!

比叡「じゃ、別の料理も持ってきますね!」クルッ


W榛名「比叡お姉様!? ……あ、あなたは、それだけで……それだけでよろしいんですか!?」ガタッ

比叡「え? それだけって……うん、いいよ?」

W榛名「……」

比叡「だって、あの鎮守府にいた時に、一番聞きたかった言葉が聞けたんだもの」ニコ…

W榛名「!!」ブワッ

V提督「……」

比叡「あれ、司令も食が進んでいませんね?」

提督「いいんだよ、俺はゆっくり味わって食いたいんだ。それより、ほかに料理があるって?」ガタッ

比叡「し、司令は座ってていいんですよ!?」

提督「いいから厨房へ行くぞ」チラッ

大和「……!」

鳳翔「では私たちも……」

大和「鳳翔さん……少しだけお待ちください」ヒソッ

鳳翔「! そういうことですか、致し方ありませんね」ニコッ


 * 厨房 *

 パタン

比叡「……」

提督「……」

比叡「……はぁ……」

提督「それで、お前の気は済んだのか?」

比叡「……はい」コクン

提督「そうか」

比叡「……こういうの、なんて言うんですかね」グスッ

比叡「この世の、未練が、なくなった、って、言うか……」ポロポロ

提督「おいおい、それじゃまるで幽霊じゃねえか。お前、これから成仏して消えるのか」

比叡「あ、あはは……なんか、もう、本当に、消えてもいいくらい、ふわふわしてて……もう、長かったなあ、って……」ボロボロボロ…


提督「……お前が望んでいた答えが聞けたんだ。嬉しくて浮足立ってるだけだろ」

比叡「司令、私……わた、し……っ!」ヒシッ

提督「ほら、ハンカチやるから、好きなだけ泣いとけ」ナデナデ

比叡「ひぐっ……ふえぇ……うええええ……!」グスグス

 *

比叡「はぁ……あー、すっきりした」

提督「もういいのか?」

比叡「はい! 嬉しくて天にも昇る気持ちって、こういうことを言うんでしょうね」

比叡「本当に飛んでっちゃいそうな感じだったけど……司令に捕まえててもらって、本当によかったです!」ニコー

提督「……そうか」アタマガリガリ

比叡「さあ、みんな待たせちゃってるし、早くこっちのお料理も持っていきましょう!」


 * 食堂 *

W榛名「えぐっ、ぐすっ」ボロボロボロ

W伊勢「あーもう、泣きすぎだってば。よしよし」セナカサスリ

N大尉「おいしいと言ってもらいたかった、か……」

N大尉「……まあ確かに、これを比叡が作ったと余所の鎮守府で言ったとしたら、信じない人のほうが多そうだ」モグモグ

妙高「提督!?」

N大尉「仕方ないだろう? 俺が知ってるだけでも、比叡がカレーを作ってとんでもないことになった鎮守府が結構あるんだ」

N大尉「もちろん、ここ以外にも料理上手な比叡がいるだろうが、少数派である以上、いま広まっている噂をひっくり返すのは難しいと思うぞ?」

W大佐「確かに……同意する者は残念ながら少数だろうな」

N大尉「その噂を断つとしたら、実績を作るしかない」

N大尉「さっきも言ったが、比叡は本来は料理下手ではないはずだ。ここの比叡と、余所の比叡との違いは何か……」

N大尉「それを調べてほかの鎮守府でも対策を打って改善することができれば、こういう不名誉な話も徐々に消していけるだろう?」

妙高「提督……」


N大尉「さしあたって、そこの榛名が比叡と古い知り合いなら、理由というかコツみたいなものを教えてもらうのがいいかと思うんだが……」

W榛名「うっ、ぐずっ、比叡お姉様ぁああ」ボロボロボロ

N大尉「その話は後にしたほうが良いみたいだな?」

鳳翔「今でなくても、あとからゆっくり比叡さんご本人から聞いてもいいと思いますよ。私も教えていただきましたし」

N大尉「ああ、そうしよう。比叡以外にも問題のある艦娘がいるらしいから、同様の対応ができないか進言してみようかな」

比叡「お待たせしましたー!」ガラガラガラッ

望月「!!」ガタッ!

卯月「!!」ガタッ!

W伊勢「あのふたりの目が血走ってるんだけど……」

W球磨「何が来たクマ?」フリムキ

比叡「からあげです!」ドンッ!


卯月望月「「いただきまあああああす!!」」グワッ!!

弥生「速っ!?」

 ムシャーー

 パァァ…

W伊勢「? なんか光ってる?」

卯月(全裸)「うますぎぴょん……!!」フワァ

望月(全裸)「マジうっま……!!」フワァ

W伊勢「!?」

W大佐「!?」

N大尉「!?」

大和「!?」

以間宮「!?」

妙高「……」

鳳翔「……」

比叡「ひえぇ……なんで私のからあげ食べて飛んでるの……?」

弥生「ふたりとも……お行儀悪い」モギュモギュ

間宮「お行儀とか言ってるレベルじゃないのでは!?」

提督「そうだぞ、ちゃんと野菜も食え」サラダドサッ

間宮「少尉も何がそうだぞなんですか!?」


N大尉「……いったい何が起きたんだ? からあげ食っただけだよな?」

磯波「これ、ですよね……お、おいしそう……! わ、私もいただいてみます……はむ」シャクッ

妙高「あ」

 ペカー

磯波(全裸)「……素敵……!」フワァ

N提督「」

妙高「」

磯波(全裸)「これ……イけます……!!」グッ

妙高「どこにイく気ですか!?」ガビーン

N大尉「……でっ……っっか……!!」ハナヂポタポタ

妙高「どこを見てるんですか!!!」バチーン!

N大尉「はぶァ!?」

弥生(どこかで見覚えのある光景が……)

W大佐「一体何が起こっているん……んんん?」

熊?「ヴォー……」カラアゲモッシャモッシャ

W伊勢「」

W大佐「」

W球磨「はっ!? いま、一瞬野生に戻ったような錯覚に陥ったクマ!!」モシャッ

W伊勢「ウソでしょ?」シロメ

W大佐「ウソだろ?」シロメ


比叡「と、とにかく、みんなに喜んでいただいてるみたいで嬉しいです!」

W榛名「比叡お姉様ああああ!」ヒシッ ウワーン

比叡「榛名……! 心配かけてごめんね?」ナデナデ

W榛名「そ、そん、そんなこと……うわああああん!!」ナミダジョバー

龍驤「一応、まあるく収まったんかな?」

提督「くっそカオスだけどな」

雲龍「狂喜乱舞を通り越して阿鼻叫喚ね」カラアゲモグモグ

島妖精B「それよりこっちにも早くご飯取り分けてよー!」ピョンピョン

島妖精C「私たちも手伝ったんだからねー!」

陸奥「わかったわ、ちょっと待ってね」ヨソイヨソイ

島妖精D「からあげにはビールだが、カレーには赤ワインを合わせたい……! 悩む……!」ウーン

龍驤「キミは真っ昼間から飲むんやないよ」ツッコミ

雲龍「私はからあげにはレモンサワーがいいと思う」

陸奥「ハイボールもおしゃれだと思うけど?」

島妖精D「!! それもアリだな……!!」ジュルリ

龍驤「完全に飲兵衛の会話やないかい!」ツッコミ

今回はここまで。

続きです。


 * 食事会終了 *

提督「鳳翔、ありがとな。比叡の奴もすっきりできたみたいだ」

鳳翔「いえ、私どものV提督のためでもありますので。それに以前、少尉には鎮守府そのものを助けていただきましたから」

提督「その礼はすでに受け取ってると思ったんだがな……」

提督「ああ、そうだ、そのことで卯月達には謝らなきゃいけねえ」

卯月「何の話ぴょん?」

提督「俺が島を焼いたせいで、お前たちから譲ってもらった将棋盤とか雑誌とかいろいろを、一緒に燃やしちまったんだ」

提督「せっかくの贈り物を、申し訳ない」ペコリ

卯月「……」

望月「……」

弥生「いえ、それは、しょうがない、です」

鳳翔「そうですよ、少尉たちが無事だっただけでも奇跡的だったんでしょう?」

提督「それはそれだ。あれはわざわざ買い物までしてきて、贈ってくれたものだろう?」


弥生「お買い物は、気分転換も兼ねてました。私たちは私たちで、お買い物が楽しかったから、別にいい、です」

鳳翔「ええ、どうかお気になさらずに」

提督「大事に使いたかったんだがな。すまない」

卯月「……」

望月「……」

弥生「ふたりとも、どうしたの」

卯月「少尉に謝られたぴょん」マガオ

望月「今夜、雹でも降るんじゃね?」マガオ

弥生「冗談はほどほどにして」

提督「お前ら俺をなんだと思ってんだ」

卯月「スーパーひねくれアイアンクロー魔神ぴょん」ユビサシ

望月「そうじゃなかったら、男になったあたしだね」ユビサシ

提督「……んん? 間違ってねえな?」クビカシゲ

弥生「そこで納得しちゃだめです」ツッコミ


以間宮「そんな! 駄目なんですか!?」

提督「ん?」

妙高「今の大尉の立場では難しいですね……」

N大尉「そうだな……申し出は嬉しいんだが」

鳳翔「少尉のことではなさそうですね……どうかなさったんですか?」

妙高「こちらの元以提督鎮守府の間宮さんが、N大尉のところで働きたいと仰っていたんですが……」

N大尉「俺はまだ、鎮守府を任される立場にないんだよ」

鳳翔「まあ……」

N大尉「俺はこのところずっと、あちこちの鎮守府の問題を見て回る特警もどきの任務をやってるんだ」

妙高「私と磯波さんがお目付け役です」

鳳翔「いいように使われてらっしゃるんですね……」

N大尉「ああ。俺もいい加減に大湊に帰りたいんだが、本営が俺に任せたい任務はまだまだあるらしい」

N大尉「俺みたいに自由に動けて、艦娘とも問題なくコミュニケーションが取れる人間というのがなかなかいなくて……」

N大尉「本営からは、代役も立てられないから、今の任務を継続してくれ、と」ハァ


N大尉「そんな状況で間宮が加わっても、間宮本来の力は発揮できないだろう? まさか行く先々で厨房を借りるわけにもいかないし」

鳳翔「それはそうですね……」

提督「……新任の礼提督に聞いてみるか。まだ間宮が着任してないなら……」

龍驤「あー、あっちはもう準備できてるらしいよ?」

提督「なに? そうなのか?」

龍驤「うん。うちら、礼提督のところにお世話になろうと思ってるんよ、そのときに聞いたんやけど」

雲龍「外の世界を見に行くのも大事だと思って。挨拶に行ったときに、そんな話をしていたわ」

提督「そうか、お前らは転籍する気になったか。それならなおのこと、龍驤たちと一緒のほうがいいかと思ったんだが……」

陸奥「じゃあ、提督のところでお世話になったらいいんじゃない?」

提督「は!? 俺のところで!?」

N大尉「……悪くないな」

提督「待て待て、何を見て言ってんだ!?」

N大尉「轟沈した艦娘と3年近く一緒にいて、その艦娘たちが原因でなにか起きたことはなかったんだろう?」

N大尉「そしてその艦娘たちからは信頼を得ている。十分すぎる実績じゃないか」


鳳翔「そうですね。その意味では、提督少尉は適任ですね」

陸奥「それに、私も残るんだし、四六時中提督が見てる必要はないから大丈夫よ」

提督「はあ!? 陸奥は残るのか!?」

陸奥「あら、不満?」

提督「不満とかそういう問題じゃねえよ……龍驤は転籍するんだろう? お前こそ大丈夫なのか?」

陸奥「あらあら、それこそ失礼しちゃうわ。いつまでも長門や龍驤がいないと何もできないなんて思ってる?」

提督「……いや、お前がそう言うなら、信用するし尊重もするけどよ。間宮が俺たちの鎮守府で生活できるかどうかは、また話が別だぞ」

提督「深海棲艦も一緒に暮らすんだ、問題なくやっていけるか?」

龍驤「以提督と向き合うよりは楽なんちゃうかなあ?」

妙高「ええ。深海棲艦や少尉のほうがお相手しやすいかと」

提督「どんだけ人間離れしてたんだよ、そいつ……いや、写真見たことあるし確かに人間離れした感じだけどよ」

N大尉「まあとにかく、我々が何を言おうと一番肝心なのは当人だろう。どうだ間宮、少尉のもとで働いてみる気はないか」

以間宮「は、はあ……だ、大丈夫なんでしょうか」

N大尉「環境が環境だけに気乗りはしないだろうが、艦娘にはこの上なく優しいはずだぞ?」


陸奥「ええ、きっと大丈夫よ。少なくとも提督から私たちに手を出すことは絶対にないし……」

陸奥「仮に手を出せるようになってたら、そこにいる大和が提督を放っておかないはずだもの」ウフフッ

大和「!?」マッカ

提督「……」

陸奥「大和以外にも提督を狙ってる艦娘、たくさんいるものね」ウフフ

提督「……あまり茶化してくれるなよ」アタマガリガリ

以間宮「陸奥さんがそこまで仰るなら……」

提督「可能であれば海軍へ復帰できるように準備しててほしいもんだが……」

鳳翔「そうなるとしたら、N大尉が鎮守府に戻れた時ですね」

N大尉「そうだなあ……それもいつになることやら」


卯月「ところでうーちゃん、ひとつ重大なことに気付いちゃったぴょん」

望月「ん、なに? またろくでもないこと思いついたの?」

卯月「辛辣ぴょん」

弥生「……なに?」(←心底興味なさそうな顔)

卯月「……うーちゃんたちは海域で見つけてもらったドロップ艦ぴょん?」

弥生「うん」

望月「そだねえ」

卯月「うちの初雪や磯波や潮や村雨は、建造艦だったぴょん」

弥生「うん」

望月「それがどうかし……あ」

卯月「もしかして提督の好みが建造に影響してるんじゃないかと思ったぴょん……!」

望月「……」

弥生「……」

望月「そんなわけないだろーって言いたかったけど、そーいや鳳翔さんも建造艦だよね。一緒に入渠したことあるけど、結構……」ポ

弥生「うん……ある」ポ


卯月「もしかして提督少尉もそうだぴょん!?」ハッ!

望月「いや、少尉に限っては、そういうのないない。絶対ない」

弥生「うん。そういうの、面倒だって言ってたし」

卯月「そういえばそうだったぴょん……大和さんは少尉が建造したから少尉が好きなのかと思ったけど、そういうわけじゃないぴょん?」

望月「うーん、どーだろ? だいたい、建造したらその人を好きになるって、あの大和さんがそんな単純でいいの?」

大和「あら、大和を呼びましたか?」

望月「あ、呼んだっていうか、なんていうか」

弥生「えっと……大和さんが、少尉を好きなのは、なんでか、って……」

大和「え? そ、それは……」ポッ

望月「あたしたちは海域で見つけてもらったんだけど、大和さんは建造艦っしょ? そこでなんか違いとかあったのかなーってさ?」

大和「うーん……」

島妖精A「なんだ、大和の建造の話か?」テクテク

卯月「そうだぴょん! 大和さんが少尉のことを大好きなのは、少尉の影響じゃないか、って考えてたぴょん」


島妖精A「それだったら考えられる影響はふたつだな」

大和「あるんですか?」ヨウセイヒロイアゲ

島妖精A「そういえば大和に話すのは初めてだったか。デリケートな話になるが、話してもいいか?」ヤマトノカタニノリ

大和「ええ、お願いします」コク

島妖精A「考えられる理由のひとつは、大和を建造したのが私たちだっていうところだ」

望月「え? 少尉が建造したんじゃないってこと!?」

島妖精A「ああ、そうだ」

大和「そうだったんですか……!?」

卯月「ほえ~……なんでそんなことになったんだぴょん?」

島妖精A「自分で言うのも少し恥ずかしいが、その当時、私たちは少尉に恩義というか、感謝の気持ちを持っていたんだ」

望月「へー、なんかしてもらってたの?」

島妖精A「提督が来るまで、あの島には艦娘の遺体が砂浜を埋め尽くさんばかりに漂着していたんだ」

島妖精A「人間のために戦って沈んだのに、あの島に来た人間たちは、それを見て悲鳴を上げたり目を背けたり、ひどいもんだった」


島妖精A「……とはいえ、あの島に連れてこられた人間が、みんな大佐に島流しにあった人間だと思えば無理もないかもしれないが」

望月「待って待って、さらっと物騒なこと言ってない!?」

卯月「あの島のことにちょっと深入りすると途端に話が重たくなるのは、何とかしてほしいぴょん……」

島妖精A「それは仕方ないだろう。実際にわたしたちが見たんだから」

島妖精A「とにかく、そのせいで私たちも人間を嫌悪していた時期がある。提督も追い出すつもりでいたくらいだ」

卯月「そんなとこに少尉が来たら、余計に悪化すると思うぴょん……」

島妖精A「それが、提督がその野晒しになっていた艦娘を埋葬したいと言ってきたんだ。あの申し出には驚いたが、それ以上に嬉しかったな」

島妖精A「それ以降も流れ着いてきた艦娘を埋葬したり、一緒に畑を作ったりしてるうちに、まあ悪い奴じゃないかもな、と思えるようになって」

島妖精A「決定的だったのは、初めてこの島に生きて流れ着いた艦娘を、提督が助けようとした時だ」

島妖精A「その一件で、設備も修理してもらったりして、鎮守府がまともに運営できるようになったっていう経緯がある」

望月「ふむふむ」

島妖精A「それまでは修理用のドックすらまともに動かなかったから、それを修繕するために鉄屑とか油とか、そういう資材を集めていたんだ」

島妖精A「ところが、それが提督のおかげで不要になって、使う機会を失った」

島妖精A「じゃあどうするか、という話になったときに、建造に使うか、ということになったんだ」

弥生「それで大和さんができたの……?」


望月「っつうか、妖精さんが勝手にそんなことしていいの?」

島妖精A「言われてみればそうだが……提督が許さないとは思わなかったな。私たちに対しても常々好きにしろと言っていたし」

島妖精A「提督自身は艦娘の建造をしないと公言しているが、私たちが勝手に使う分には悪いとは言っていない、と勝手に解釈したというのもある」

卯月「自由すぎるぴょん……」

島妖精A「ともあれ、そういう経緯があって私たちが、提督の力になってくれるような艦娘を期待しながら、建造ボタンを押したんだ」

島妖精A「私たちのそういう願いと祈りが込められていたのが、大和の建造時に影響したんじゃないかと思っている」

大和「……」

卯月「それじゃあ、少尉にとっては大和さんはサプライズだったぴょん?」

島妖精A「そういうことになるな。それからふたつ目の理由は、その大和の建造に使った資材だな」

島妖精A「大和の建造に使ったのは、轟沈して流れ着いた艦娘の壊れた艤装のかけらや、燃料、弾薬を回収して集めた資材なんだ」

弥生「轟沈艦の……!?」

望月「埋葬してもらった艦娘の艤装かあ……」

島妖精A「大和が提督に夢中なのも、そういう私たちの思いと、轟沈してから弔ってくれた艦娘たちの思いが載ったんだろうと思っていた」

大和「……」


望月「ってことは、妖精さんの気持ちや境遇も建造される艦娘に影響するってことなのかな?」

島妖精A「可能性としてはあるかもしれない。ただ、ここまで喋っておいて今更だが……」

島妖精A「大和の提督への好意が最初から作られたものだとは思いたくないな」

望月「え?」

島妖精A「大和には最初から提督が必要だった。わたしはそれでいいと思う」

大和「……!」

島妖精A「提督自身の生い立ちも考えると、運命……というより因果と呼んだほうがいいな。ここに来るまでにいろんなことがあったはずだ」

島妖精A「それを乗り越えてきて邂逅したんだ。そういう出逢いがあったっていいと思う」

卯月「急にのろけ話っぽくなったぴょん……」

島妖精G「昔のAちゃんなら考えられない、ロマンチシズム溢れるセリフだねえ? いちばん提督にキツく当たってたのに」ヒョコッ

島妖精A「ふん、昔は昔だ。冷やかすな」プイ

島妖精H「でもまあ、Aちゃんの話にはわたしも賛成かな~」ヒョコッ

島妖精A「ああ。私たちも直接、大和に、提督を好きになれ、と言ったこともないわけだからな。それに……」

望月「それに?」


島妖精A「そういう影響も考えられるというだけで、一番なのは、純粋に提督が大和の好みだっただけなんだと思うが?」

大和「ほえっ!?」カァッ

卯月「ほ~ぅ……そう思う理由はなんだぴょん?」

島妖精G「提督の写真を見せた瞬間、大和の主砲が最大仰角になってたんだよね」

島妖精G「自分で抑えきれないくらいテンションが上がったんだと思うよ?」

大和「ちょっ」マッカ

島妖精A「まあ、昔はどうあれ今も提督のことが好きなんだし、昔がどうだったかなんてのは些末なことだ」

島妖精G「それもそうだねえ」

卯月「大和さんと提督の話、もっと聞かせるぴょん!」

望月「そういう誘い受けは関心できないなあ?」

島妖精A「それなら大和から直接聞いたほうが早いだろう? 本人が一番わかっているはずだからな」

卯月「それもそうだぴょん」クルリ

望月「さあさあ、少尉とどんな恥ずかしいことをしたのかなあ?」ニチャア…

大和「ちょっ!?」ミミマデマッカ

弥生「……」アタマオサエ


卯月「なるほど……建造時に妖精さんが影響している説のほうが説得力あるぴょん……はっ!? ということは!!」

望月「なんだあ?」

弥生「?」

卯月「うーちゃんたちの鎮守府の工廠に、おっぱい大好きな妖精さんがいるぴょん!?」

望月「」

弥生「」

大和「」

島妖精G「あー、うん、まあ、そうねえ……」

島妖精A「……いったい何の話だ?」

島妖精H「さあ?」


 *

W大佐「そうだ。少尉、せっかくなのでこの場で聞いておきたい」

提督「なんだ?」

W大佐「君は、深海棲艦の目的を知っているか?」

提督「目的……目的、ねえ……改めて聞かれると、俺も知らねえな?」

W大佐「知らないのか?」

提督「あいつらには俺の目的を伝えて、それで協力してもらおう、って頭だったからな。あいつら自身の戦う理由は聞いてなかったな……」

W大佐「……もし、深海棲艦の目的が世界中の海を支配することであれば、我々は退くわけにはいかない」

W大佐「その足掛かりにされるような拠点を作られるのは、正直に言えば望ましくないことだ」

W大佐「これはあくまで私自身の個人的な感想だが……」

W大佐「たとえあの島の海域だけでも深海棲艦に引き渡すことにしたのは、間違いだと思っている」

W大佐「人類は、過剰に……必要以上に深海棲艦に譲歩しすぎたと思っている」

提督「……」

W大佐「悪く思わないでくれ。だが、おそらく世界中のトップは、深海棲艦に領土を作られたことを面白くないと思っているはずだ」

提督「まあ、言いたいことはわからなくもねえよ。深海棲艦と言えば、民間人も見境なく襲っていた異形の化け物どもだからな」

提督「いくら話ができるようになるとはいえ、知らないものに恐怖を抱くのは至極当然のことだろうさ」


W大佐「……君が深海棲艦の目的を知らないのに、楽観視しているのはなぜだ?」

提督「別に楽観視してるつもりはないが……俺たちが望んでいるのは、俺たちが平穏と安寧を得られる居場所であって、戦争じゃない」

提督「泊地棲姫にも専守防衛を頼んで、わかったと言ってもらえたしな。それ以上あいつらに踏み込んでないだけだ」

W大佐「……では、彼女たちは外海へ出て他を脅かすつもりはないと?」

提督「その認識でいいはずだ。俺としてもそんなことをさせる気はない」

提督「とりあえず今は島の整備もしてくれてるし、今の俺たちにはありがたい存在だ」

W大佐「……」

提督「……まだ何かあんのか?」

W大佐「これは、君に言っても仕方のないことなのかもしれないが……君はすべての深海棲艦と友好関係にあるわけではないんだな?」

提督「そうだな。俺に協力してくれているのは、いまのところ泊地棲姫の勢力だけだ。他にどんな連中がいるのかすらわかってねえ」

W大佐「……では、深海棲艦からの侵略行為は、一部は収まっても、これからも止まることはない、という認識でいいだろうか?」

提督「それでいいだろうな。少なくとも、俺の知らない連中の暴走を止めろと言われても、止めようがねえ」

W大佐「ふむ……それなら、間違ってはいないか」

提督「……?」

W大佐「先の話し合いで、君はあの島を深海棲艦が強奪したことにすればいいと言っていたそうだが」

W大佐「私は、話し合いで君たちに割譲したことにしたほうが良い、と、H大将閣下に具申させてもらった」


W大佐「もし仮に深海棲艦が強奪したことにしてしまうと、深海棲艦が人間から領土を強奪できた事実ができてしまう」

W大佐「そうなった場合、他の深海勢力も、我も我もと人間の領土に押し入り、深海棲艦との戦闘が激化することは容易に予想できる」

W大佐「それよりは、我々が泊地棲姫との停戦を認め、一時的にでも割譲したことにしたほうが深海棲艦の姿勢も変わるのではないかと考えた」

提督「なるほど、そういうことか……」

W大佐「戦わずに済む前例ができれば、それに従う他の深海棲艦が現れる希望も持てる」

W大佐「ただ、それを望まない深海棲艦もいるだろう。人間に極端な憎悪を持ち、復讐と滅亡を誓う者もいるはずだ」

提督「俺にそれを止めろと?」

W大佐「……仮に止めろと言われたら、できるか?」

提督「おそらく、できねえな。俺としても、それがそいつの望みなら立場的には見送るしかねえ」

W大佐「であれば、いまの話と逆に、深海棲艦に並々ならない憎悪を持つ者がいても、それを否定しないな?」

提督「……」

W大佐「君の話を聞いて私が気になったのは、君が艦娘と戦えるか、という点だ」

提督「あぁ……艦娘とだと!?」

W大佐「全ての深海棲艦を忌み嫌い、排斥を望む提督と、それに賛同する艦娘にとっては、深海棲艦との和睦を訴える派閥は裏切者でしかない」

W大佐「H大将閣下の配下には、君が会食前に指摘した通り、深海棲艦の殲滅を望む提督たちがいて、今回の対話に少なからず異を唱えている」


W大佐「これから海軍を離脱し、深海棲艦と一緒に暮らそうという君もまた、排除されるべき敵と認識されるはずだ」

W大佐「これまで艦娘を救うことに尽力してきたという君が、そういう強硬派、過激派と言える艦娘と躊躇せず戦えるのか」

W大佐「その覚悟があるのかを、確かめておきたかった」

提督「……なるほど。そいつは想定外だった」

提督「深海棲艦を無条件で敵視する艦娘か……まあ、いるんだろうな。何言っても聞く耳持たねえ困った奴が」ハァ…

W大佐「それからもうひとつ」

W大佐「海軍は、これまで発生した深海勢力を、どのようなかたちであれ、いずれも邀撃し、殲滅してきた。それこそ、どんな犠牲を払ってでもだ」

W大佐「これまでそうしてひたすら血を流して正義を示してきた者たちにとっても、君のやり方を素直に受け入れられない者がいるだろう」

提督「……まあ、和解できるんなら最初からそうしろ、って、言われそうではあるな……」

W大佐「最悪、同じ台詞を深海棲艦からも浴びせられるかもしれないな」

提督「ありえるな……面倒臭え……」ゲンナリ

W大佐「深海棲艦を討ち滅ぼすために、我々人間は多くの犠牲を出してきた。人間にも、艦娘にも」

W大佐「その犠牲になった艦娘たちを弔い、救ってきた君が彼らの標的になるのが納得いかないとは思ってはいるのだが……」

W大佐「君には、そういう悩める者たちがいることを、どうか覚えておいてほしい」

提督「……ああ」コク

今回はここまで。

お待たせしました、続きです。


 * 1週間後 *

 * 墓場島 新埠頭 *

長門「前に来た時より工事が進んでいるな」

利根「ほうほう、これが新しい港か……確かに間取り的には見覚えのある光景じゃな」

筑摩「深海っぽい素材の建物なんですね。普通の人が来たら驚くでしょうね」

神通「ここで、深海棲艦との交渉が始められるんですね……」

提督「実際に交渉の舞台になる建物は別に用意する予定だ。こっちは今までと同じく、俺たちが執務するスペースだ」

陸奥「奥へ行くと居住区ね」

龍驤「なんか、昔より広く見えるなあ?」

提督「おう、実際に広いぞ。深海の連中には体が大きい奴もいるからな」

雲龍「……ねえ、提督? ほら、あそこ。メディウムの子がいるわ」

提督「うん? ……ありゃ、ニコか?」

 *

ニコ「ああ、来た来た。待ってたよ、魔神様」

提督「よう。ニコはなんでここにいるんだ? 今日から海軍の人間が入るから、離れ小島に避難する手筈だったよな?」

ニコ「お知らせがあるんだ。魔神様に何人かお客様が来ているよ」

提督「俺にか?」

ニコ「うん。魔神様もここに来るだろうから、待ってたんだ」

提督「長門、悪いがこの場は任せていいか? 俺たちはニコと一緒に行ってみる」


 * 墓場島 北の離れ小島(ル級の塒) *

ル級「アラ、来タノネ」

メリンダ「お待ちしておりました、ご主人様」

提督「よう、俺に客だって?」

ル級「ソウヨ。アナタニ会ワセロ、ッテ」

??「やーせーんーーー! 早く夜戦させてよーーー!!」

提督「!?」

神通「あの声は……川内姉さん!?」

??→川内?「もー! やっと体ができたのに、なんで鎮守府がなくなっちゃってるのさ!!」

??「少しは落ち着かぬか。おぬしは過去に提督たちに迷惑をかけているのだぞ」

筑摩「……利根姉さん!?」

利根「吾輩じゃと!?」

??→利根?「おお、利根と筑摩が来たのか! たまたまかもしれぬが、これもまた巡り合わせじゃな!」ニコニコ


提督「あとの二人は初めて見る顔……いや、お前は確か……」

メリンダ「ご紹介いたします。こちらは早霜様」

早霜「……」ペコリ

ル級「コッチハ集積地棲姫ネ」

集積地棲姫「……オ前ガ提督カ。私タチトノ、交渉場所ヲ作ッタトカイウ……」ジロリ

提督「……」

神通「姫級……!」

龍驤「大物やないか……!」

川内?「そんなことより夜戦ーーー!!」

提督「ああもう、うるせえなこいつ!」

雲龍「提督」

提督「ん?」

雲龍「このふたり、なんとなくだけど、気配に覚えがあるわ。もしかしたら、あの島で出会った幽霊かも」

提督「幽霊? おい、まさか……こいつ、うちの川内になり替わろうとしてたあいつか!?」

神通「川内姉さんに取り憑いていた、あの……!?」

幽霊だった川内(以下、幽川内)「なんだよぅ、いまの私は幽霊じゃないよ!」


幽川内「ちゃんと体だって元通り……ってわけじゃないけど、新しくできたんだから!」

利根「それではこちらのもう一人の吾輩は……!」

筑摩「利根姉さんに憑依していた、あの利根姉さんですか!?」

利根?→幽利根「うむ。長らく、そこの利根の背後でおぬしたちを見守ってきたのが、この吾輩である!」

幽利根「火山の噴火から難を逃れた提督たちの無事を見届け、ひとまず安心しておったわけじゃが……」

幽利根「何の因果か、こうやってまた再び艦娘として生まれ変われたわけじゃ!」

提督「これはあれか? 時雨と同じように、ドロップ艦として体を得たってことか?」

ル級「多分ソウイウコトジャナイカシラ。私モ見タワケジャナイケド」

幽川内「とにかく、提督が来てくれたってことは、私が夜戦してもいいってことだよね!?」

提督「その前に、こっちの川内に詫びを入れてからにしろ」

幽川内「えー?」

幽利根「えー、ではない。艦隊に加わる以上、手続きと挨拶は忘れてはならん。さもなくば……」

神通「……」ギラッ

幽利根「そこに控えておる神通が容赦せんだろうよ」

幽川内「うー……」タラリ


提督「それから、新しくできる鎮守府の近海は戦闘禁止海域として条約を結ぶつもりだ」

提督「夜に限らず、演習を除く戦闘行為は余所に行ってやってもらうからな?」

幽川内「ええええ!? せっかく夜戦できると思ったのに~……!」ガックリ

提督「お前は戦闘狂かよ……面倒臭い奴が入ってきたな」

幽利根「提督よ、そこのベアトラップのメディウムにも礼を言うと良い。川内を身を挺して足止めしてくれていたからな」

提督「そうか、メリンダありがとな」

メリンダ「ああ……」ウットリ

提督「ん? どうした?」

メリンダ「ご主人様直々にお褒めの言葉をいただけるなんて……身に余る光栄です……!」キラキラキラッ

メリンダ「わたくし、これからもこのベアトラ君と一緒に足止めいたします……!」ガシッ!

幽川内「へっ!? なんで私の脚を掴んでんの!? ちょっと離してよ!?」

提督「……」アタマオサエ

幽利根「それより提督よ、吾輩もお主の艦隊に参加させてもらいたいのだが」

提督「ん? あ、ああ、それがお前の望みなら……」

利根「歓迎しよう! お主のおかげで提督もあの島から救い出せたわけじゃからな!」


提督「そうなのか?」

筑摩「そうなんです! 利根姉さんから、こちらの利根姉さんが分離して、幽霊の力で溶岩を堰き止めてくれたんです!」

提督「幽霊の力? ……言い方はアレだが、怪奇現象を起こしたってことか?」

幽利根「まあ、やったこととしてはそれに近いかの?」

提督「ということは、俺だけじゃなく、俺たち全員を助けてくれたってことか」

幽利根「良い良い。吾輩だけの力ではないのだからな」

幽川内「それ、私も参加したんだからね!?」

幽利根「まあ、それを言ってしまえば、あの島に埋葬された艦娘は、女神妖精の力に応じてみな協力したんじゃ。こちらの早霜も同じである」

提督「ああ……早霜は見覚えがあるからな。結構早い時期に流れ着いてきたよな、お前」

早霜「フフフ……覚えているのね、司令官」ニタァ

早霜「……あなたが、私をだしにしたことも……フフフ」

ニコ「だし? 魔神様は一体彼女に何をしたの?」

提督「ずいぶん昔、島に来た余所の提督に、あの島が轟沈した艦娘が流れ着いてくる島だってことを説明したんだが……」

提督「丁度その時に砂浜に流れ着いて、引き上げた艦娘がこいつだったんだよ」

提督「おかげでそいつは慌てて手前の意見を翻したわけだが、だしに使った、ってのはそのときの話だな」


ニコ「ふーん、その時はもう死んでいたの?」

早霜「そうよ……あんな、あられもない姿を、他の人に見せてしまったの……死んでいたけれど、死にきれないわ……!」

早霜「だから、あなたには……司令官には、責任を取ってもらうしかないの。ウフフフ……」ニマァ…

提督「……」

神通「また面倒臭い艦娘が現れたな、と、思ってらっしゃいますか」

利根「提督でなくてもそう思うじゃろうなあ」

提督「そういやお前がなんで沈んだのかは調べてなかったな。何が原因だ? 捨て艦か?」

早霜「……ただの……ただの、指示ミスよ」ウツムキ

早霜「徹夜続きの司令官が……進軍の指示を間違えただけ……」

提督「……」

早霜「でも、いまとなってはどうでもいいわ、そんなこと……あなたは……司令官は、そんなことしないんでしょう?」

提督「まあ、俺は大破したら無理せず引き返せとしか言わねえな。そもそもこれから深海の連中と事を構えようってこともねえだろうし……」

早霜「フフッ……いいわ。戦う必要がないのなら、それでもいい……それならそれで、ずっと、司令官を見ていられるんだから……」ニマァ…

提督「……」

メリンダ「こちらのお嬢様も、私が足止めしましょうか」

提督「……必要に応じてな」アタマオサエ


提督「で、だ。こっちは初対面の姫級か……」

神通「はい……!」

集積地棲姫「……」

提督「とにかく用件を聞こうじゃねえか、まずは言いたいことを言ってくれ」

集積地棲姫「イインダナ……?」

提督「俺にできることに限りはあるが、俺にできることなら考えてやるよ」

集積地棲姫「……」

ル級「ワザワザココニ来ルクライナンダカラ、躊躇セズニ話セバイイノヨ」

集積地棲姫「……ワカッタ、単刀直入ニ言ウ」

提督「……」

集積地棲姫「助ケテクレ」

提督「ん? 助けて?」

集積地棲姫「ソウダ。毎度毎度オ前タチ艦娘ニ、私ガ集メタ資材ヲ、コトアルゴトニ燃ヤサレテ……!」ワナワナ

集積地棲姫「モウ嫌ナンダ! コレ以上、集メタ資材ヲ燃ヤサレルノハ!」ウワーン!

筑摩「……泣き出しましたよ」

利根「かつてのル級を思い出すのう……」

ル級「アノ時ハ、ソウダッタワネェ」フフッ


集積地棲姫「オ前! 人間側ノ交渉役ダロウ! コレ以上、私ヲ狙ウノヲヤメロト、アイツラニ伝エテコイ!」

ニコ「伝えてこい? 魔神様に向かって随分と偉そうだね」ギロッ

集積地棲姫「!?」ビクッ

提督「落ち着けニコ。それより、こいつが狙われる理由はなんだ?」

ル級「集積地棲姫ハ、文字通リ深海棲艦ガ使ウ資材ヲ集メテルノヨ」

ル級「集積地棲姫ガ集メタ資材ヲ、他ノ姫級艦隊ガ使ッテルカラ、毎回狙ワレテ派手ニ燃ヤサレテルノ。景気ヅケモ兼ネテネ」

提督「ああ……んじゃどうしようもねえな。可哀想だが、戦術的には確かに初手で潰しとくべき相手だよなあ」

集積地棲姫「私ハ資材ヲ集メテルダケダゾ!? 別ニオ前ラヲ攻撃スル気ハナインダ!」

筑摩「言いたいことはわかりますけど、その理屈は海軍には通用しないでしょうね……結果として他の姫級に資材を供給していたのでは」

利根「うむ、戦況がどう転ぶかわからん以上、放っておいてよい相手ではないな」

提督「資材集めをやめる気はないのか?」

集積地棲姫「何カアッタトキニ頼レルノハ兵站ダロウ? 生キ延ビルタメニハ欠カセナイシ、イザトイウトキノ取引ノ材料ニモナル」

集積地棲姫「デキレバ私ハ危険ナ海ナンカニ出ナイデ、穏ヤカニ過ゴシタインダ。私ハ戦イタクナイ。ソノタメノ自給自足ダ……!」

提督「あー……」

利根「なんじゃ提督め、滅茶苦茶共感しておるな」


陸奥「穏やかに過ごしたいというのは、提督としても望むところだものね」

提督「ああ。ということは、集積地棲姫を島に滞在させりゃいいだけだな。島の海域は戦闘禁止にするつもりなんだし」

ル級「フーン、集積地棲姫モ、オ前ト一緒ニ住マワセルノ?」

集積地棲姫「ナッ!?」

提督「俺と一緒じゃなくてもいいだろ。どこに住むかは自由だが、今は島内どこも溶岩で岩だらけになってるからな。新しく居住区でも作るか?」

集積地棲姫「……ビックリシタ……イキナリコノ男ト一緒ニ住ムコトニナルノカト思ッタゾ」

陸奥「話を飛躍させすぎよ。なんでいきなり提督と一緒に住むことになるのよ」

集積地棲姫「泊地棲姫ト軽巡棲姫ハ、提督ト一緒ニイルツモリダッタゾ。寝食ヲ共ニスルンダトカ言ッテ」

陸奥「……」アタマオサエ

提督「……」アタマオサエ

ニコ「勝手な真似はさせないよ」

メリンダ「足止めはお任せください」キラキラキラッ

幽川内「もー! そんなことより夜せ」

 ヒュッ トンッ

幽川内「はうっ」クラッ

神通「当身です。こちらに寝せておきますね」

提督「おう」


集積地棲姫「……味方同士ノハズナノニ、容赦ナイナ……」ゾッ…

提督「いや、さすがにありゃ聞く耳持たないって感じだったからな。こうやって話が通じるなら手を出さねえし出させもしねえよ」

提督「とりあえずだ、俺たちの住む島はまだ開発途中なんだ。お前が住みたい場所だけでもいいから、整地を手伝ってもらえると助かる」

集積地棲姫「……ソレデ、私ノ安全ヲ保障シテクレルノカ?」

提督「そうだな。お前が島の中で暴れない限りは保障しよう」

集積地棲姫「……ソウカ」

提督「ただまあ、完全に独立国家みたいなもんだからな。どうしても俺ができることには限度がある」

提督「平和ボケする気はないが、外から攻め込まれて、いろいろやばくなったら手伝ってほしい」

集積地棲姫「ソノ時ハ、ソレコソ、資材面デノバックアップシカ、デキナイガ……」

提督「それでいい。それで撤退できるまでの時間を稼げれば、逃がすくらいはなんとかするさ」

ニコ「……」

メリンダ「ニコ様?」

ニコ「ぼくは、逃げたくないな。やっと魔神様と一緒に暮らせる場所が手に入るんだ、人間どもに簡単に譲ってやる気はないよ」

提督「俺だって、やっと手に入れた自分の居場所だ。そうそう手放す気はねえよ」

提督「ただ、物量って意味じゃあ海軍のほうがずっと有利だからな。島そのものに固執してお前らを失ったら話にならねえ」


提督「ま、逃げる前になんとかして迎え撃つさ。迎え撃って、メディウムたちの餌にしてやるぜ」

ニコ「……!」

陸奥「提督もニコちゃんも、あんまり無理しちゃ駄目よ? お姉さん、心配なんだから」

ニコ「魔神様のお姉ちゃんはぼくだよ?」ムスッ

陸奥「はいはい、ムキにならないの」ウフフ

龍驤「なあなあ、できれば島に攻め込まれんように、うちらも動かなあかんかな?」

雲龍「そうね。礼提督の下でどのくらい動けるかはわからないけど」

神通「私も、F提督へ具申いたします」

筑摩「X中佐へも展開したほうが良さそうですね」

利根「そうじゃな……さて、吾輩はどうするかな。身の振り方もいよいよ決断せねばならん」

幽利根「身の振り方とは、どういう意味じゃ?」

利根「うむ……実は、かつて神通が慕っていた、謀殺されたと思われていたF提督が生きておったのじゃ」

利根「今回の騒動を機に、神通はF提督のもとへ戻ることになったんじゃが、筑摩から吾輩たちも一緒に行ってはどうかと提案されての……」

幽利根「なるほど、神通と筑摩と一緒に行きたいが、提督とのイチャイチャも捨てがたいと」

利根「ほぎゃあァあ!?」セキメン

神通「」


幽利根「そういえば、おぬしは女性から男性に迫るタイプの純愛物の春画本ばかり好んで読み漁っておったからのう」

利根「ふぎゃあァァァア!?」セキメン

筑摩「」

幽利根「そのようなシチュエーションを夢見ていたとしたら、提督とそういうことができなくなるのも面白くなかろうな」

利根「ちょっ、待っ、ききき貴様何を口走っとるかああ!!?」クチフサギ

幽利根「もがっ!? な、なにをする! 提督に懸想しておったのは事実であろう!」フリホドキ

利根「よりによって本人の前で暴露する奴がおるか馬鹿者ぉおお!!」カオマッカ

雲龍「……利根も提督を狙ってたの?」

幽利根「狙っておったというかスキンシップに目覚めたといいうか……ぐえっ!?」

利根「余計なことは言わんでいい!!」ノドワ

神通「と、利根さん……あの、その……」

利根「神通も無理にフォローしようとせんで良い! 吾輩自身、自分に都合よく動いていることくらい自覚しておる!」ナミダメ

龍驤「利根は迫られるのが苦手やったんちゃうんか」

利根「う、うむ、苦手ではある……が、なんじゃ、提督は吾輩が何をしても態度を変えんのでな……」ポ


利根「吾輩の事情をよく知ってくれておったし、なにより提督ならじゃれつく程度なら絶対大丈夫じゃろうと……」

全員「「あー……」」

集積地棲姫「提督マデ納得スルノカ……」

陸奥「提督って、いくらくっつこうが誘惑しようが、絶対に靡かないし手を出してこない鋼の意思と精神力の持主なの」

陸奥「だから利根も、決して反撃してこない提督だからこそ安心して無防備になったんじゃないの?」

筑摩「どうしてそれを私に向けてくれなかったんですか!?」

幽利根「それは、筑摩には姉として立派な姿を見せたかったんじゃ。神通に対してもそうである」

利根「それに、筑摩がまた暴走しても……わざわざ寝た子を起こすような真似をしたくないしのう」

ニコ「だからって魔神様に行くのはどうかと思うけど?」ジロリ

幽利根「提督にはそういう思いを抱くより前から、火傷の具合を見てもらったりしていたからの。信頼しておったんじゃ」

筑摩「ということは、見たんですか。私も見ていない、姉さんの身体を」ヌラリ

提督「ああ。利根がこの島に来た時に、自分で脱いで俺に見せた」

利根「筑摩、それについては提督を咎めてはならん。あの時の吾輩は自暴自棄であったし……」

利根「そもそも、その傷は筑摩には絶対に見せたくなかったのでな。吾輩の意地というか……筑摩に泣かれたくなかったというか」

筑摩「利根姉さん……」


神通「あの、体の傷と言うのは……?」

利根「吾輩があの鎮守府に来る前に、拷問に近いことをされていたことは神通も知っておると思うが……その時に」スカートマクリ

神通「キャアアアア!?」カオマッカ

筑摩「キャアアアア!?」ハナヂブパァ

利根「こう、股間から下っ腹にかけて、大きな火傷を……って、鼻血を出してどうしたんじゃ筑摩!?」

龍驤「ちょっ、なんでパンツ履いておらんの!?」セキメン

雲龍「大胆」ポ

利根「む? 吾輩はこのほうが快適なんじゃが」

集積地棲姫「艦娘ッテ、パンツヲ履カナイノカ?」アッケ

提督「いや、履かないのは利根だけだ」

幽利根「吾輩は履いておる!」

提督「訂正。履かないのはあの利根だけだ」シレッ

ニコ「あんなことがあったのに、なんでまだ履いてないの……」アタマオサエ

メリンダ「アーマーブレイクしたら丸見えになってしまいます……」アワワワ…


提督「確か……履かないようになったのは、火傷の部分に布が被らないようにしたかった、って話だったと思うが」

ル級「ナニソレ……」

提督「傷を空気にさらすと治りが早くなるとかいう、民間療法か迷信みたいなもんだ。で、それがたまたま利根には快適だったんだとよ」

早霜「私も脱ぎましょうか」

提督「脱がんでいい。つうかわざわざ俺に断るな」アタマオサエ

早霜「そう……断らなくていいのね。フフフ……」

提督「……」

利根「そ、それより筑摩は大丈夫か? いきなり鼻血を吹くなどびっくりしたぞ」

筑摩「え、ええ、大丈夫です利根姉さん」ティッシュツメツメ

幽利根「おぬしに遠慮してずっとお預けを食らっていた反動じゃろうが。どれほど筑摩に我慢を強いていたと思っておるんじゃ」

幽利根「どれ、この期に及んで悩んでおる、おぬしに筑摩は任せておれん。吾輩が筑摩とともに神通の鎮守府に赴こうではないか」

神通「え……!?」

筑摩「ええっ!?」

利根「なんじゃと!?」


幽利根「筑摩は吾輩が可愛がってやろうというのじゃ。筑摩も、かつては吾輩の名を囁きながら夜な夜な自らを慰め」

筑摩「キャアアアア!?」クチフサギ

幽利根「もがーー!?」クチフサガレ

ニコ「……慰めるって……」セキメン

メリンダ「はい、そういうことだと思いますが」

神通「……いえ、あの……」ミミマデマッカ

ル級「サスガニ解説サレルト……ネェ?」ポ

提督「……」ズツウ

利根「ちくま……」セキメン

幽利根「何をする筑摩! おぬしはずっと王子様からのキスを待ちわびておったのだろう!?」

筑摩「そ、それは、その……そうですけど」ミミマデマッカ

陸奥「王子様ってもしかして……」チラッ

利根「わ、吾輩のことか……!?」

提督「そういや利根との初対面の時に、お前、顔中キスまみれにされたんだっけか?」

利根「そ、そういえばそんなこともあったが……」


幽利根「トラウマを抱えたおぬしには荷が重かろう。筑摩を悦ばせるのは吾輩に任せて、おぬしは指を咥えて見ておるがいい」

筑摩「!?」(←幽利根から顎に手を添えられ)

利根「ええい、貴様は勝手な真似をするでない!!」ガシッ!

筑摩「と、利根姉さん!?」

利根「貴様のような色情狂に、可愛い妹を任せておけるか!!」チクマダキシメ

筑摩(と、利根姉さんに、抱きしめられてる!?)

幽利根「何を言うか! おぬしが一向に手を出さんから、吾輩がその役目を担ってやろうと言っておるのじゃ!」チクマノウシロカラダキツキ

筑摩「ほえっ!?」

幽利根「おぬしは堅物の提督と乳繰り合っておるのがお似合いじゃ! 二股をかける気か!?」

利根「二股などではない! 筑摩におぬしのような悪い虫が近づくのが許せぬだけである!」

筑摩(と、と、利根姉さんふたりに抱き着かれてる!?)オメメグルグル

雲龍「そろそろ止めないと、筑摩が大変なことになりそう」

龍驤「へ?」


筑摩「……と……利根姉さ……」

利根「む? 筑摩、どうしたん……」

筑摩「んどぉ!!」ハナヂブパァ!!

幽利根「おわあ!?」

筑摩「し、しや……わ、ぁへぇ……」ヘナヘナヘナ…

利根&幽利根「「ちくまああああ!?」」

神通「」シロメ

提督「……」アタマカカエ

ニコ「……」アタマカカエ

陸奥「……」アタマカカエ

雲龍「感極まったのね」

龍驤「いくら何でもドン引きやわぁ……」

集積地棲姫「アノ艦娘ハ随分ウブナンダナ?」

メリンダ「ウブと申しますか、艦娘の皆様は、いずれも身の固い方が殆どのようです」

集積地棲姫「ソウナノカ? 世ノ中ノ艦娘ハ、ミンナ提督ト、ヤルコトヤッテルト思ッテタンダガ」

龍驤「それまた極端やな!? どっからそんな話になったん!?」


集積地棲姫「オ前タチハソウデモナイヨウダガ、私ニ向カッテクル艦娘ハ、ミンナ指輪ヲシテイタ。ソウイウ意味ジャナイノカ」

龍驤「指輪? あぁー……カッコカリの指輪かいな」

メリンダ「かっこかりの指輪? それはどういったものですか?」

龍驤「ざっくり言うと、艦娘のリミッターの解除装置やね」

龍驤「提督との信頼関係が深まった艦娘に限定して、艦娘の能力の上限を上げるんやけど、その信頼を結婚に見立ててるんや」

集積地棲姫「ソレデ『カッコカリ』ナノカ」

雲龍「正式には『ケッコンカッコカリ』の指輪ね」

龍驤「まあ、結婚をモチーフにしてるわけやし、確かにヤってるかヤってないかってトコはうちらも知らんけどな」

龍驤「そういう間柄となるまでの信頼を得たからこそのリミッター解除の儀式っちゅうわけや」

メリンダ「ということは、集積地棲姫様は、能力の上限を解放した艦娘ばかりに狙われていた、ということですか」

集積地棲姫「不幸ダ……」ガックリ

提督「とりあえず、集積地棲姫も島に来い。今は工事中だが、その後ならひとまず保護はするからよ」

集積地棲姫「アア……ヨロシク頼ム」


提督「後は……」

陸奥「川内ならまだ伸びてるわよ?」

幽川内「」キゼツチュウ

提督「まあ、こいつはうちじゃなくて、余所の鎮守府に行ったほうが幸せな気がするな?」

ル級「防衛以外デ戦ワナイナラ、ソノ方ガイイワネ」

提督「早霜はどうする? 島に残ることにしていいのか?」

早霜「ええ、それで……そのほうがいいわ」

提督「わかった。あとは利根は……」

利根「ちくまああ! しっかりするんじゃああ!!」

幽利根「よし、ここは吾輩の王子様のキッスで目覚めさせてや……」

利根「貴様は少し自重せんかあああ!」チョークスリーパー

幽利根「ぐえっ!? ちょ、ちょっ……」タップタップ

提督「……あとにすっか」

神通「」シロメ

雲龍「神通が戻ってきてないんだけど」

龍驤「信頼してた利根があの有様やからなあ」

ル級「オモシロクナリソウネエ」フフッ

集積地棲姫「私ハ不安デシカナインダガ……」

今回はここまで。

別ルート編で書きたいことが思ったより長くなりそうで、
このスレに収まらなさそうです……。

本年もよろしくお願いします。

続きです。


 * 数日後 *

 * 墓場島沖 医療船内 提督の個室 *

摩耶「利根が増えたって?」

霧島「それは好都合かもしれませんね」

提督「好都合? なんだそりゃ」

霧島「私たちは、かつての僚艦である三日月たちに会うため、リンガ泊地へ行って参りました」

霧島「そこで伺った話によれば、その鎮守府の提督である知大尉が、一度きりではありますが司令と面識がおありだと」

提督「リンガ泊地……?」

霧島「覚えておいでではありませんか? 確か、その鎮守府からは利根が移ってきたと……」

提督「ああ、あれか! あの利根の第二改装済みの奴が秘書艦だった、あの鎮守府!」

提督「確かあそこの鎮守府のあるじだった……なんだっけ、なんとか准将は自殺したんだったよな?」

霧島「はい、M准将ですね。その後釜を、M准将のもとで働いていた知大尉が引き継いだんだそうです」

摩耶「そこの鎮守府、城塞鎮守府っつうんだけど、なんでもあちこちの鎮守府から演習場として活用されてるんだと」

摩耶「人の入れ替わりも激しいらしくて、たまたまそこでそれなりに長く勤務してた知大尉が運営を引き継ぐことになったんだってよ」


提督「……俺、そいつの顔、覚えてっかな?」

摩耶「提督に会ったときはただの士官だったらしいから、覚えてないかも、って言ってたぜ?」

霧島「それで、その知大尉からお願いされたことがありまして、利根を連れてきてほしい、と言われたんです」

提督「……利根を?」

霧島「はい。もちろん、私たちの仲間だった利根ではありません。彼女はあの鎮守府で深い心の傷を負ったと聞きました」

霧島「ですので、新造艦で、どこからか別の利根を連れてきてはくれまいか、と」

提督「待て待て、そこ、すでに利根がいるんだろ? なんで二人目を欲しがるんだ」

摩耶「そこの利根が、出家したいんだとよ」

提督「は?」

摩耶「頭丸めて尼僧になりたいんだと」

提督「……なんだって、そんなことに?」

霧島「城塞鎮守府の利根は、M准将を本当に好きだったようなんです。実際にM准将からも寵愛を受けていたそうで」

霧島「彼女は、M准将自身の弔いと、准将の手にかかった艦娘たちの鎮魂のため、そのような決心をしたと聞いています」

霧島「それで問題になったのが、そこの鎮守府の筑摩でして」

摩耶「そうそう。利根が鎮守府を出て尼僧になるっつーもんで、筑摩がやめてくれって泣き腫らしてんだよ」


摩耶「もともとはその筑摩も、そこの利根の心のリハビリのために余所から連れてきてもらったらしくてさ」

提督「ああ……なんか繋がってきたぞ。それで今度は代わりの利根を連れてきてくれ、ってことか」

霧島「はい。その司令が連れてきたという利根を、城塞鎮守府へ連れて行ってもよろしいでしょうか」

提督「……なんとも言えねえな。くっそ難しいと思うぞ」

摩耶「難しい? なんでだよ」

提督「とりあえずお前ら、うちの利根が向こうでどんな目に合ってきたかは知ってるな?」

摩耶「あ、ああ。一応向こうでも聞いてきたけどよ……」

提督「その利根の前にも、同型艦が多数犠牲になったことも聞いてるな?」

霧島「は、はい。それがなにか……」

提督「城塞鎮守府の地下で、うちの利根は殺される前に見つかったんだが……」

提督「そのときに、それまでその部屋で殺された利根たちの魂も一緒に連れてきてたらしいんだよ」

霧島「は……!?」

摩耶「マジかよ!?」


提督「蠱毒って知ってるか?」

摩耶「コドク? なんだよそりゃ」

提督「蛇とか猫とか、霊的要素が強い生き物を一か所に放り込んで、共食いさせて生き残った1匹を生贄に使う、くっそ凶悪で強力な呪詛」

摩耶「知っててたまるかよ、そんなもん……」ウヘェ

提督「M准将はそんなつもりじゃなかったと思うが、それに近しいことになってたんじゃねえかなって思ってたんだ」

提督「で、その数人分の利根の魂は、ここで艦娘らしい生活をしてるうちにいくらか成仏して、一人分くらいまで減って行って……」

提督「その魂が肉体を得て蘇ってきたのが、その新しくやってきた利根、っつー話だ」

霧島「……」

摩耶「……」

提督「信じられねえって顔をしてるが、俺はその利根に取り憑いた幽霊と会話したこともあるし、雲龍もそういうことだって俺に言ってきた」

提督「当の本人も、この島で起こったことや俺のことも知ってやがる。辻褄もあってるし、嘘ついてる感じでもねえ」

霧島「少し前に近海で見つかった時雨がそうだったことを鑑みると、同じ現象が他の艦娘に起こりうる可能性も否定できませんか……」

摩耶「そうだとしたら、その利根が城塞鎮守府に向かうのは止めといたほうがいいよな……」

霧島「そうね。もし戻って、その当時のトラウマが思い出されそうものなら……」

 扉<コンコン

提督「ん?」


鳥海「鳥海です。ご報告したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

提督「おう、入ってくれ」

鳥海「失礼いたします」チャッ

幽利根「邪魔するぞ!」

提督「利根……!?」

鳥海「摩耶、霧島さん、こちらの新しくいらっしゃった利根さんが、城塞鎮守府に向かってくださるそうです!」

幽利根「うむ! よろしく頼むぞ!」

提督「」

霧島「」

摩耶「」

鳥海「……あの、どうしたんですか?」

幽利根「まあ、吾輩の過去を知ってるとなると、そういう反応になるじゃろうなあ?」

鳥海「ど、どういうことですか?」

提督「おいちょっと待て。なんで鳥海が利根連れてきてんだよ」


霧島「も、申し訳ありません、実は私が……」

摩耶「そうじゃなくて、あたしが鳥海を……」

鳥海「あ、あの、私が摩耶たちにお願いして……」

提督「……っだああ、面倒臭え! その辺の話はどうでもいい! とにかく鳥海も城塞鎮守府に行ってきたってことだな!?」

鳥海「は、はい!」

提督「はー……で、事情も聞いてきて、戻ってきたら利根が増えてたから、鳥海が事情を話したと」

霧島「は、はい。その……勝手でしたでしょうか」

提督「本っ当に結果論だけどよ……いいほうに転がってるっぽいからいいものの……」ハァ…

鳥海「あの、どうかなさったんですか……?」

提督「その辺、追って説明するから、ちょっと鳥海は俺たちの話を聞いててくれ」

鳥海「は、はい……」

提督「さてと……利根は鳥海からどこまで話を聞いたんだ?」

幽利根「うむ。城塞鎮守府のあるじが代替わりして、そこで秘書艦を務めていた利根が退役するそうじゃな」

幽利根「それで、そこに残っておる筑摩が寂しがっていて、新造艦の利根が着任できないか相談を受けた、というところまで聞いておる」


提督「で、その話を聞いてお前が行く気になったって? 大丈夫なのかよ?」

幽利根「うむ! ある程度事情を知っている者が行ったほうが話も早かろうと思ってな」

提督「お前自身はあの鎮守府にトラウマとかそういうもんはねえのか?」

幽利根「今となってはその辺の記憶も曖昧というか、よく覚えておらんのだ」

幽利根「好意的に考えれば、おそらく吾輩たちの中で成仏した者たちが、その辺の記憶を持ち去ってくれたのではないかと考えておる」

摩耶「持ち去った、って……やっぱりさっきの話は本当なのかよ」

提督「……あ」

霧島「どうしました?」

提督「思い出したんだが、俺、M准将と利根たちを地獄で見たぞ」

幽利根「は?」

霧島「地獄で……ですか?」

摩耶「何言ってんだお前」

鳥海「摩耶!?」

提督「いや、俺も自分で何を言ってんだとは思うけど、実際死にかけた時に見てきたんだよ。時雨も見たから聞けば話せると思うんだが」

霧島「あの世で亡くなった提督たちと出会ったというお話ですか」


提督「ああ、その時に地獄もちょっとだけ覗いてきたんだ。でっけえ洞穴みたいなところで篝火炊いて、頭が牛や馬の獄卒たちがいて!」

摩耶「目を輝かせて言う話じゃねえだろが……」

提督「その地獄で、延々燃やされて火だるまになってたM准将がいて、そいつを取り囲んで槍やら鉾やらブッ刺してる利根たちと話したんだよ」

幽利根「なんと……」

提督「で、そこで見た利根たちは、全員体中つぎはぎだらけでな」

鳥海「つぎはぎ……?」

幽利根「確かM准将は、吾輩たちを切り刻んで飾っていたという話であったな?」

鳥海「ひい!?」ゾワワッ

提督「お前、覚えてんのか?」

幽利根「情報としてはな。記憶としてはないのじゃが」

鳥海「どっどどど、どういうことなんですか……!?」ガタガタ

提督「鳥海は知らねえのか? 利根を、学校にある人体模型みたいにバラして複数体飾ってたって話」

鳥海「……」ヘナヘナヘナ

摩耶「お、おい、鳥海!?」

鳥海「だ、大丈夫……ちょっと、気分が……」ウズクマリ


提督「そういうのは大丈夫とは言わねえよ。部屋出て休んでろ」

鳥海「い、いえ、お話は、ちゃんと聞かせていただきます」アオザメ

提督「……無理すんなよ?」

幽利根「それで、その地獄へ行った吾輩たちの魂は、M准将を責め続けておるのか?」

提督「いや、説得して、利根たちには地獄から出て行ってもらった」

摩耶「なんだそりゃ? 地獄に落ちたってのに、そんな簡単に出て行けんのかよ?」

提督「周りにいた獄卒たちが、利根たちはそもそも本来地獄に来る予定がなかった、って言ってたんだよ」

霧島「行く必要のない地獄にわざわざ出向いたと……!?」

摩耶「そんだけ恨みが深かったってことか」

提督「そうなんだろうな。けど、M准将は、利根のいろんな表情を見たくて嫌がらせしたり、その延長で殺害にまで及ぶような奴だ」

提督「かまってもらえりゃなんでもいい。利根に拷問されることすら喜んでたようだから、もうかまうな、って俺は利根たちを説得したわけだ」

霧島「なるほど……だとすれば、惨劇の記憶や怨念を、復讐のため地獄へ向かった魂たちが全部持って行った、という説も十分頷けますね」

提督「ああ。もしそうなら、この利根が城塞鎮守府に行ってもいいかもしれねえな」

幽利根「良いのか!?」

提督「俺が心配なのは、お前が向こうでぶっ壊れたりしないかだけだ」


提督「せっかくこの世に戻ってきたのに、またトラウマで泣き叫ぶようなことになって欲しくねえ」

摩耶「じゃあ、試しに利根を城塞鎮守府に連れてって、なんともなけりゃ転籍できるってことだな?」

提督「そうだな。けど、その前にひとつ利根に確認したいことがある。覚えてたら教えてくれ」

提督「利根に憑依していた複数人の利根の魂のうちいくつかが、地獄へ向かってM准将へ復讐を果たしに行った、というのはわかる」

提督「じゃあ、そうじゃないお前たちが成仏もしないで地上に残った理由はなんだ?」

幽利根「……ふむ……」

提督「……」

幽利根「それはおそらく、羨ましかったんじゃろう。かつての吾輩たちは、利根の背後からおぬしたちを眺めているだけじゃったからな」

幽利根「……うむ、うっすらと覚えておるのだが、あの利根の体を借りておぬしと話したこともあったのではないか?」

幽利根「あれが望外に嬉しかった、というのも、本当にうっすらとだが覚えておる。それが未練であったのかもしれん」

提督「まさしくそんな話を幽霊だったお前としたんだ。そこまでわかってるなら俺が心配するまでもなさそうだな」

鳥海「え、ええっと、あの、整理しますと、城塞鎮守府で殺された利根さんたちの生まれ変わりが、こちらの利根さん、ということなんですか?」

霧島「ええ、そういうことみたいね」

鳥海「……知らなかったとはいえ、私はなんてことを……」ガックリ

幽利根「良い良い。そもそも普通あり得ない話であるし、知っておれば吾輩にこの話が来ることもなかったであろうからな」ポンポン


摩耶「なあ提督、なんとなくだけど、この利根なら城塞鎮守府に行っても問題なさそうじゃねえか?」

提督「そうかもしれねえな。ただ、くれぐれもやばいと思ったら戻ってこさせねえと……」

??『そんなに心配なら、魔神様もついていけばいいじゃない』

提督「ん?」

 神殿の扉<パッ!

提督「うおっ!?」

幽利根「なんじゃ!? いきなり扉が現れたぞ!?」

 神殿の扉<ガチャ

ニコ「話は聞かせてもらったよ。その城塞鎮守府、ぼくもついていきたいな」

摩耶「き、急に出てくんなよな! びっくりさせやがって……」

鳥海「いつからお話を聞いていたんですか?」

ニコ「きみと利根が部屋に入ってきたあたりかな? そのくらいに、ここと空間をつなぐことができたからね」

幽利根「ほお、便利なのだな。ならば、城塞鎮守府にもつなげられるのか?」

ニコ「それは無理かな。魔神様がいるところなら、どこへでもつなげられるってだけだよ」

摩耶「あ、そういう条件かよ。じゃ、提督が城塞鎮守府に行けば、メディウムたちも一緒についてこれるってことだな?」


提督「つうか、俺も行くのか……?」

ニコ「うん。利根が転籍するにしても、魔神様のことだから、自分の眼で良し悪しを確かめないと気が済まないんじゃないの?」

提督「ま、そりゃあな……」

ニコ「それから、良かったらその鎮守府にある、利根に使った器具を、ぼくたちに譲ってくれないかな」

摩耶「そんなもん引き取ってどうすんだ? まさか、何かに使うのか?」

ニコ「魔神様の命を狙う不逞の輩には使うだろうね」

ニコ「たとえ使う機会がなかったとしても、人の血を吸った呪物(まじもの)は、強い魔力を秘めているんだ」

ニコ「こういうものは、ぼくたちの神殿に置いておくだけでも、ぼくたちの力になってくれるからね」

霧島「……私たちで言うところの、神棚に対する奉納品のようなものかしら」

提督「言ってる感じは近いかもなあ……」

鳥海「……確か、地下室は封印していると聞きましたね」

摩耶「見たくもない道具だってんなら、メディウムたちに引き取ってもらうのも手かもしんねーな」

ニコ「うん。ぼくたちなら有効活用できると思うよ?」ニコニコ


 * 数日後 *

 * 城塞鎮守府 地下室 *

提督「……」

霧島「ここがそうですか……」

摩耶「なんつーか、いかにも、って感じの地下室だなあ」

知大尉「……」

O大尉「……いやー、すごいことになったねえ」

知大尉「うん、すげえっつうか、なんつうか……」


リサーナ「すっごーい、これで人間を真っ二つにしてたのね~!」キャー!

メアリーアン「これはなんだべ? でっけえ冷凍庫だぁか?」

ティリエ「これ、どっちも電気で動くのかー?」

アマナ「そうみたいですね。神殿へ持ち帰ってから、鎮守府の電気を借りられるか、ご主人様に相談しましょう」

ウーナ「なあなあ! こっち! これ、燃やして使うのか!?」

セレスティア「どうやら竈みたいですね。持ち運べるのでしょうか……」

サム「攻め具も拘束具も多種多様……この部屋の主は良い趣味をしておられますね」


知大尉「バニーとかメイドとか執事とかシェフとか! それから原住民みたいな恰好だったり着ぐるみとか防寒着とか!」


知大尉「季節感も統一感もないコスプレの女の子が、こんな物騒な代物に目ぇ輝かせてて、俺的にドン引きなんだけど!?」

O大尉「大丈夫、俺も混乱してる」アハハー

知大尉「笑ってんじゃねえよ……」アタマオサエ

提督「ま、どうせ今回限りだし、細かいことは気にしなくていいだろ」

知大尉「いやあ、そうかもしれないですけど……」

提督(艦娘よりキワドイ恰好してる奴もいるからな……ベリアナとかマリッサとか)


アカネ「ねーねーニコちゃーん、このお部屋の器具は全部持っていっていいの?」

ニコ「そうみたいだよ。扉はいくらでも広げられるから、全部運んでいこう」

カトリーナ「よっし、じゃあこっちのデカブツはあたしに任せな!」


知大尉「とにかく、こうして全部処分してもらえるっていうのは助かります」

提督「いいさ。こんなもん、普通の鎮守府に残しておくようなブツじゃねえしな」

摩耶「万が一誰かがこんな部屋に迷い込んだんじゃ、妙な噂立てられられてもしょうがねーもんなー」

提督「それにしても、よくこんな場所にこんな機材をここまで持ち込めたな?」

知大尉「M准将のコネもあると思いますが、この鎮守府も日本から離れてますから、いろいろ気を使ってもらってたんじゃないかと……」


ルイゼット「魔神様、畏れながらご報告がございます」スッ

提督「どうした?」

ルイゼット「この石室の奥に、また別の部屋が見つかりました」

エレノア「すごいわよー? この部屋の器具より、もっと古めかしい拷問器具が並んでるの!」

ルイゼット「エレノア!? 魔神様になんて無礼な……!」

エレノア「あんたはいつも丁寧すぎて回りくどいのよ。それより、そっちの道具も持ってっていいんでしょう?」

提督「知大尉、そっちも入っていいか?」

知大尉「は、はい、それは構いませんが……俺も一応、ここの責任者ですんで、彼女たちと同行しますよ」

提督「いや、それはやめとけ」

知大尉「し、しかし……!」

ルイゼット「霧島様。お願いがございます」

霧島「? なんでしょう?」

ルイゼット「危険ですので、皆様にはこの部屋から出てお待ちいただけないでしょうか」

霧島「危険? この部屋が……?」

ニコ「そうだね。この部屋から……念のため、建物そのものから避難していたほうがいいよ」


摩耶「そこまでやべーのか!?」

ニコ「君たちは気付かないだろうけど、この部屋にも、その奥の部屋にも魔力が充満してるんだ」

ニコ「これからぼくたちは、その魔力ともどもこの部屋の品物を全部回収するんだけれど、回収し終わった後にどうなるかはわからない」

霧島「どういうことです……?」

摩耶「よくわかんねーけど、とにかく退避したほうがいいんだな?」

ニコ「そうだね。そうしてもらえると嬉しいな」

摩耶「そういうことなら、この場は提督に任せちまうか?」

知大尉「い、いい、のか?」

摩耶「いいんじゃねえの? 提督もいいんだろ?」

提督「ああ、この場は俺とメディウムに任せとけ」

霧島「どういう意図かはわかりかねますが、彼女たちに従いましょう」

霧島「彼女たちメディウムは、人間を敵と見なしています。その彼女たちが言うのですから、お二人は特に避難したほうが良いでしょうね」

知大尉「……」


O大尉「……わかった。この場は提督にお任せして、俺たちは外に出て待つとしよう。知大尉もいいな?」

知大尉「あ、ああ……」

 クルリ スタスタ…

ニコ「……」

ルイゼット「……」

ニコ「珍しいね、ルイゼットが情けをかけるなんて」

ルイゼット「ええ、不本意ながら。ですが、霧島様がいらっしゃいますし、魔神様を困らせるわけには参りませんので」

ニコ「……そうだね」

提督「お前ら殺気立ってたもんな。そうやって思いとどまってくれて安心したぜ」

提督「さて、それじゃ俺も手伝うか」

ニコ「あ、それはいいよ、魔神様。ここはぼくたちに任せて」

カトリーナ「そうそう、魔神様はそこで眺めててくれればいいんだって!」

アマナ「私たちの仕事ぶり、御覧になってください!」

サム「よろしければ、こちらにおかけになりますか?」スチャッ

提督「……大丈夫なのかよ、その椅子は」ジトッ

ニコ「サム?」ジトッ

サム「そのように警戒なさらなくても良いのですが……仕方ありませんね」フフッ


 * それからしばらくして *

 * 城塞鎮守府 埠頭 *

O大尉「初めて入ったけど、あの地下室、かなり古そうだな」

知大尉「ああ、この建物自体もすごく古くて、何度か改装してるんだ。あの地下室はちょっとそんな感じじゃなかったけど……」

幽利根「それより提督は大丈夫なのか? いくらメディウムがいるとはいえ一人で残っては危なかろう」

摩耶「そこは安心していいんじゃねえの? ああいう部屋こそメディウムが得意なんだろうし」

摩耶「第一、メディウムが提督を危険な目に合わせるとは思えねーな」

幽利根「むう、それもそうか」

O大尉「メディウムか……艦娘だけでも現れた時は驚いたけど、まさか罠の娘もいたとはね」

知大尉「けど、俺たち、完全に無視されてたな?」

幽利根「それはあれじゃな。目を合わせたら殺したくなるからではないかな?」

知大尉「……」

幽利根「提督はメディウムたちに、あの墓場島と呼ばれた島に不用意に近づくもの以外には手を出すなと命じておる」

幽利根「そのメディウムたちは、人間の命などどうとも思っておらん。刈り取って当然のものだと考えておるようでな」

知大尉「うっわ……」


霧島「提督に忠誠を誓うメディウムたちとしては、大尉たちを無視することで、その命令を守っていたのだと思いますよ」

幽利根「うむ。文字通り、見逃してくれたのであろう」

摩耶「なあなあ、ところで鳥海はどこ行ったんだ?」

O大尉「私の秘書艦の木曾君と一緒に、ここの利根に会いに行ってるはずだけど?」

三日月「司令官! しれーかーん!」タッタッタッ

知大尉「三日月!? どうしたんだそんなに慌てて!」

三日月「ち、筑摩さんが利根さんを襲ってるんです! 『利根さんが剃髪した髪を食べたい』とか言い出しまして!」

霧島「」

摩耶「」

幽利根「」

三日月「いま、鳥海さんと木曾さんで必死に筑摩さんを押さえつけてるところです!」

知大尉「なにやってんだあいつは! 三日月、案内してくれ!」

三日月「こちらです!」


 * 城塞鎮守府 出入り口付近 *

尻もちをついている利根改二「……」アッケ

知筑摩「放して! 利根姉さん! 利根姉さぁぁん!」ジタバタ

木曾「くそ、なんて馬鹿力だ!」オサエツケ

鳥海「筑摩さん落ち着いて!!」ハガイジメ

知大尉「おい! なにやってんだ筑摩!!」タタタッ

知筑摩「ああ、提督! 提督こそ利根姉さんを説得してください! この鎮守府を離れるなんて……!」

幽利根「まあ待て、まずは吾輩が話させてもらおうか」

知筑摩「と、利根姉さんが……ふたり!?」

利根改二「……お、おぬしは……」

幽利根「ふぅむ……随分やつれたのではないか? 最初の吾輩よ」

利根改二「お、おぬしは何者じゃ? 吾輩を知っているような口ぶりじゃが……」

幽利根「吾輩は……この鎮守府で建造され、M准将に殺されて地下室に飾られていた、あの利根たちの生まれ変わりである」

利根改二「!!」

幽利根「最初の吾輩よ。おぬしは、M准将の後を追うつもりか?」

利根改二「い、いや、そのようなつもりではなかった……吾輩は、あの地下室で殺められた艦娘の供養をするつもりじゃった」


利根改二「このままではいかんと……あの筑摩に甘やかされるがまま、怠惰な生活を送っていては申し訳が立たぬと思っておったのじゃ」

幽利根「ふむ……とすると、吾輩が供養されねばならんのか?」

鳥海「そ、それはちょっと違うと思うのですが……」

利根改二「それに……おぬしには言いにくいが、吾輩はどうしても……M准将のことが、忘れられぬ」

幽利根「それは、愛情と言う意味でか?」

利根改二「……長い時間、苦楽を共にした。吾輩の記憶の大半は、あの男と一緒であった。それは否定のしようがない」

利根改二「筑摩には忘れろと……私に甘えてほしいと何度も言われたが、それはどうしてもできなんだ」

知筑摩「大丈夫ですよ利根姉さん! 何も考えずに私にバブみを感じてオギャってくれればいいんです!」

霧島「は?」

鳥海「ばぶ……?」

木曾「おぎゃる?」

摩耶「何言ってんだ?」

利根改二「吾輩にもわからん! 筑摩には、たまにわけのわからん呪文を唱えられて、正直混乱しておるのじゃ……!」

O大尉「……」チラッ

知大尉「ちょっ、俺の趣味じゃねえぞ!?」


幽利根「よくわからんが、筑摩はこっちの利根に甘えてほしいと?」

知筑摩「そうです! 鎮守府で一番長く秘書艦を務めていたんですから、誰かに甘えたいのは間違いありません!」

知筑摩「これまでだって、私にべったり甘えてくれていたではありませんか!」

利根改二「うむ、その通りだ……だから、それでは駄目だと気付いたのじゃ」

知筑摩「駄目なんかじゃありませんよ! こっちを見てください、利根姉さん!」

幽利根「その相手、吾輩ではいかんか?」ズイ

知筑摩「えっ!?」

幽利根「筑摩よ。見たところ、おぬしの練度も大したものではないな?」

知筑摩「そ、それは、ここに移ってきてから、ずっとあちらの利根姉さんのお相手をしていましたから……」

幽利根「ほほう。では、吾輩と一緒に鍛え直すつもりはないか?」カオチカヅケ

知筑摩「ほえっ!?」ドキーン

O大尉「なんだあのイケメン……」

木曾「……」ピクッ

知大尉「今まで見たことのないタイプの利根だな……」

三日月「な、なんだか見ててどきどきします!」


幽利根「筑摩よ。残念ながらあちらの利根には、心に決めた男がおるようじゃ。執着しても迷惑になるだけであろう」

知筑摩「……!」

幽利根「おぬしもあの利根に愛を注いだのかもしれんが、だからと言って見返りを求めるのは野暮と言うもの」

幽利根「本当にあの利根のことを思うのなら、その決意を応援してやるのが一番じゃと思わんか?」

知筑摩「新しい利根姉さん……!」

幽利根「吾輩は、建造されてまだ間もない。できれば似たような練度のおぬしと、これから一緒に切磋琢磨したいのじゃが……」

幽利根「どうじゃ。吾輩と、共に征かぬか?」ニッ

知筑摩「……!!」ズギューン

知大尉「あの利根、筑摩のあごに手を添えてんだけど」

三日月「あ、あのままキスしちゃいそうな感じですよね!?」

O大尉「なんなんだあのイケメンムーブ……」

木曾「……」ピクピクッ

摩耶(隣の木曾が反応してやがる)

 ズズズ…!

全員「「!!」」

木曾「な、なんだ!? 地震か!?」

 バキバキバキ…!

知大尉「これは……木の倒れる音か!? 林のほうからだ!」

利根改二「任せよ!」

 瑞雲<バシュゥウウ!

利根改二「……鎮守府脇の林のほうじゃ。木が大量に倒れて……地面が陥没しておる!」

知大尉「どういうことだ……?」


 * 城塞鎮守府 本館近くの雑木林 *

摩耶「なんだよこりゃあ……」

 (雑木林の一部の地面が大きく陥没し、木々が横倒しになっている)

利根改二「幸いにも本館には影響がでておらんようじゃな。まさしくこの部分だけ陥没しておる」

知大尉「穴自体は、そこまで深くないみたいだな……4メートルくらいか?」

O大尉「おい、あまり近づくな、危ないぞ」

霧島「ここは……もしかして」キョロキョロ

鳥海「?」

霧島「知大尉。この穴は、あの地下室があった場所ではありませんか……?」

知大尉「そ、そういえば……!」

摩耶「だとしたらやべーぞ! うちの提督はどうなったんだよ!?」

O大尉「まさか生き埋めに!?」

幽利根「一大事じゃ!!」

提督「そうはなってねえから安心しろ」ヌッ

鳥海「司令官さん!」


霧島「ご無事でしたか、司令!」

摩耶「……んだよ、焦らせやがって……!」

O大尉「地下で作業していたメディウムたちは無事なのですか?」

提督「ああ、俺もあいつらも大丈夫だ。いきなり崩れてきて焦ったのは事実だがな」

木曾「いったい何があったんだ?」

提督「地下室の拷問器具を全部回収し終わったあたりで、部屋自体が震えだしたんだよ」

提督「そのあとは俺だけ外に出るようにニコに言われて、外で待ってたらあの地震だ」

提督「ニコが言うには、器具を回収し終えた後に、部屋に残っていた魔力もニコが全部引き取ったんだと」

提督「その魔力を回収し終わった途端、あの部屋が崩れてきたらしい」

木曾「魔力?」

提督「部屋に残った人間の念、とでも思ってくれ。そこで殺された人間の無念とか怨念とか、そういう悪いほうの感情の残り滓だ」

木曾「俺は聞いただけで奥に入ってないから詳しいことは分からないが……その部屋では、そういうことが行われていた、ということなのか?」

提督「ああ。奥の部屋からは、年季の入ったヤバイ代物がたくさん出てきてる。全部メディウムが回収していったがな」

提督「さらに奥には、地上へ出ると思われる階段もあったが、木の根やら土やらで埋まってて使えなかったらしい」

提督「とにかくあの部屋は、ここが鎮守府になるよりずっと大昔から、そういう目的で使われてた部屋だったってことなんだろう」


鳥海「地下室と言うから、こちらの本館の真下に作ったと思っていたのですが、そうではなかったのですね……」

提督「そいつは多分、こっちの建物と無関係であることを装うためにわざわざ離れたところに作ったんじゃねえかな」

提督「あの部屋の存在が露見したら、館のあるじの沽券にかかわる。離れに作れば、自分以外が作ったものだと言い訳するにも都合がいい」

提督「痛めつける相手をわざわざ本館まで連れて行って目撃される心配も減るし、林の中に連れ込んだほうが人目につかないし」

提督「悪人に都合よく作ったんだろ。そうじゃなけりゃ、当時の技術的にあの建物の下に部屋を作れなかったか、だな」

摩耶「その部屋が、なんでいきなり崩れちまったんだ?」

提督「ん-……そこはなんとも言えねえが、多分……あの部屋が、自分の役目を終えたと思ったんじゃねえか?」

摩耶「役目?」

提督「ああ。どうせ知大尉はあの部屋を使う気はないだろ?」

知大尉「はい。むしろ、今回の地下室の整理が終わったら、お祓いしてもらってから封印する気でいました」

霧島「お祓い……なるほど。考え方を変えれば、あの地下室そのものをメディウムに供養してもらったと言えるのかもしれませんね」

利根改二「供養……!」

幽利根「ふむ……全部綺麗にした、という意味であれば、近しいのかもしれんな?」

霧島「メディウムたちにそういう意図はなかったとは思いますが、結果的にはそうなったのかと」

知大尉「それで勝手に崩れるってのも理屈がわからないが……」


O大尉「なあ、お祓いは予定通りやるのか?」

知大尉「ん? ああ、それはそれで予定通りやるつもりだ。俺たちは俺たちで、ちゃんと区切りっていうか、けじめをつけなきゃ駄目だろ?」

知大尉「利根にも、そのお祓いが終わるまでにはこの鎮守府にいてほしいんだ。M准将と一緒に、この鎮守府を切り盛りしてきた功労者なんだ」

利根改二「……うむ、そうじゃな。あいわかった、それまではここに留まるとしよう」

知大尉「それから、新しく来てくれた利根には、改めてこの鎮守府への着任をお願いしたい」

利根改二「うむ! よろしく頼むぞ!」

知大尉「筑摩もそれでいいか?」

知筑摩「は、はい! 歓迎します!」

提督「……よし。じゃあ、俺たちの仕事は終わったな?」

霧島「はい! 予想以上の結果を上げられましたね!」

三日月「提督、霧島さん、摩耶さん、鳥海さん! 今回は本当にありがとうございました!」

O大尉「本当にご協力ありがとうございました。提督にはお世話になりっぱなしですね」

提督「俺は俺に都合のいいことをやってるだけだぞ?」

木曾「フッ、随分な謙遜だな」


三日月「ところで、霧島さんと摩耶さんは、次はいつ来られるんですか?」

摩耶「へっ? そういや、特に決まってねーな」

霧島「また次の予定を立てたいわね」

 ワイワイ…

提督「……」

木曾「ところで提督、メディウムたちはどうしたんだ?」

提督「ん? あいつらなら、地下室を片付けた後の用事もないから、引き上げたぞ」

木曾「そうなのか。どんな連中なのか興味があったんだが、お目にかかれないとは残念だな」

提督「興味本位でなら、首を突っ込まないほうがいいぞ。あいつらは本来なら人間の敵だし、俺がいなけりゃ艦娘にも容赦しないはずだ」

木曾「……提督は人間を敵だと思っていると?」

提督「艦娘に理解のない人間は、俺にとっては敵だな。そもそも俺は人間が嫌いだ」

提督「そういう人間だからこそ、メディウムに一目置かれた、と思ってくれ」

木曾「なるほど……」

提督「まあ、O大尉には借りもあるから付き合うが、俺と仲良くしたら海軍的には立場が悪くなるんじゃないか? と思ってんだが」

木曾「そんなことはないと思うが……ん?」


ニコ「魔神様、仕事は終わったの?」

提督「おう、わざわざ迎えに来てくれたのか」

木曾「……こ、こいつらが噂の……!?」

マリッサ「あらぁ~、この子、眼帯なんかしちゃって! 可愛いわねぇ~」ニタァ

木曾「ひい!? なんだこいつ! なんて破廉恥な……!?」

O大尉「うわぁ……」

知大尉「あ、あんなメディウムもいるのか!?」

三日月「あ、あの人は一体!?」

霧島「三日月は見てはだめです!」メカクシ

提督「おいニコ。なんでマリッサが来てんだよ」

ニコ「魔神様の帰りが遅いから迎えに行く、って言ったら、護衛役を買って出たんだよ」

マリッサ「そうよぉ~? 御主人様ったらお帰りが遅いんだもの、どこでどんな寄り道をしてるか、気になるじゃな~い?」

マリッサ「そうしたら、こんなに可愛い子とイチャイチャしてるんですもの、嫉妬しちゃうわぁ~!」ネチャァ…

木曾「ひぃっ!! お、おい! た、助けてくれ!」


O大尉「て、提督! なんとかできませんか!?」

提督「面倒臭えなあ……」ハァ

木曾「面倒臭い!?」ガビーン

摩耶「うげっ、マリッサ!? なんでお前がここに来てんだよ!」

マリッサ「あたしは、おふねのみんなと仲良くイチャイチャしたいだけよぉ~?」ニタァ

摩耶「お前の言うイチャイチャって、絶対良くねー意味だろ……」

ニコ「マリッサ。いい加減にしないと電に言いつけるよ?」

マリッサ「やぁん、ニコちゃんったら、いぢわるぅ」パッ

木曾「た、助かった……」

摩耶「マリッサはクラーケンのメディウムだからな。艦の天敵だから無理もねえよ」

O大尉「クラーケン!?」

知大尉「艦相手じゃ洒落にならないやつじゃないですか!?」

木曾「なんでそんな奴が電にビビってるんだ!?」

マリッサ「んふふっ、あたしがこっちでやったことを電ちゃんに教えちゃったら、きっと激しくお仕置きされちゃうわぁ」ウットリ

マリッサ「一体どんなことされちゃうのかしら~? 楽しみぃ♪」クネクネハァハァ

木曾「へ、変態だーーー!!」ゾワゾワッ


木曾「興味があるとか軽い気持ちで言ってしまってすみませんでした……!」

提督「……まあ、いいけどよ。あいつ、一番強烈な奴だし」

今回はここまで。
もうちょっとメディウムの出番を増やしてあげたい……。

それからトラップガールズのWIKIを復活してくださった方に、改めてお礼申し上げます。
キャラの性格、時間が経ちすぎててだいぶ忘れちゃってました。

それでは続きです。

今回は、青葉と余所の艦隊のお話です。


 * 数日後 *

 * 墓場島沖 医療船内 小会議室 *

X中佐「……というわけで、君にお詫びしたいというK大佐の部下の艦娘たちを連れてきたよ」

提督「面倒臭え……」ハァァ…

阿武隈「めんどう!?」ガビーン!

加古「提督は相変わらずだねえ……」

提督「面倒は面倒なんだからしょうがねえだろ。こいつら自身が利用されてたってのに、なんで俺に謝る必要があるんだよ」

白雪「利用されていたとしても、あなたがたを疑ってあのような事態を招いたんですから、お詫びするのは当然では……」

提督「当然か? つうかお前らも被害者だろうがよ」

子日「で、でもでもぉ、私たちだって、命令でみんなに向かって撃ったから……」

提督「姉妹に関する嘘を吹き込まれて、挙句捨て駒にされてんじゃねえか。気の毒さ具合は似たり寄ったりだろ」

曙「ああああ、もう!! いいから黙って私たちの謝罪を受け取りなさいって言ってんのよ、このクソ提督!!」

睦月「曙ちゃんそれ全然謝ってる感じじゃないですよぉ!?」ガビーン!

提督「だからなんで謝るんだよ……わけわかんねえ。俺は気にしてないからいいぞ?」


阿武隈「そ、それでよろしいんですか……?」

提督「悪いのは、俺や大将たちを殺そうとしてたJ准将たちだろ? お前らもそいつらに騙されてたわけだ」

加古「とにかく、提督は、こっちのみんなは悪くない、って言いたいわけだね?」

提督「おう。お互い大変だったな、でいいんじゃねえの」

白雪「……寛大なお言葉に感謝いたします」

提督「大袈裟だな」

雷「大袈裟でも何でもないわ。私たち艦娘が、自分の司令官や、海軍の人たちに手を上げるなんて一大事だもの」

子日「そうそう! それに、調べてみたら、あなたが何にも悪いことをしてなくて! 私たち、申し訳なくなってたんだから!」

曙「ほんとよ……朧も、潮も、あんたには感謝してるって……そんな人を疑っちゃって、私たち馬鹿みたいだわ……!」

提督「ん? お前ら、姉妹艦とは話してきたのか」

白雪「はい。提督にお会いするより前に」

睦月「怪我の具合も心配だったのです!」

X中佐「それから、君の人柄を彼女たちから聞いておいた方がいいと思ってね」

子日「なんでも面倒臭がる人だって聞いてたけど、本当にその通りでびっくりだよー?」

白雪「吹雪さんも、態度は悪いけどすごく優しいと言ってましたから」

阿武隈「ほんとほんと! 言動だけ聞いてると、とても面倒見がいいとは思えないんですけど……」

睦月「阿武隈さんぶっちゃけすぎですよぉ!?」ワタワタ


加古「あはは、まあ無理もないね~」

雷「そういうわけだから、お詫びのしるしに何かお世話」キラキラキラッ

提督「嫌な予感しかしねえから断る」

雷「えええ!?」

加古「うん、まー、そうなるだろうねえ」トオイメ

雷「な、なんでよぉ!?」

加古「いやー、昔さあ、雷をママって呼んでた人がいてねえ……」

阿武隈「そうなの!?」

提督「そんなことあったっけか?」クビカシゲ

加古「提督はその場にいたじゃんか。都合よく忘れてんじゃないよ……」タラリ

 扉<コンコンコン

早霜「失礼しますね。司令官、お客様です」チャッ

提督「うん?」

矢矧「軽巡矢矧、失礼いたします」

酒匂「お邪魔しまーす……わ、ほんとに私と似てる人がいる!」

X中佐「僕!?」


提督「ん? おお……確かにX中佐と似てるな。で、お前たちは?」

酒匂「あ、私、阿賀野型軽巡4番艦、酒匂です! わたしたちは、J少将の部下だったんです!」

矢矧「提督、此度のご無礼、大変申し訳ありませんでした」ペコリ

酒匂「申し訳ありませんでした!」ペコリ

提督「お前らも謝りに来たのかよ。面倒臭えなほんとに……」

加古「いやいや、少しは真面目に受けてあげようよ」

提督「そうは言うが、あの島に上陸した艦娘以外は、メディウムたちが力づくで追い払ったとかニコが言ってたんだぞ」

提督「人間はどうでもいいが、艦娘にも攻撃してたとしたら、俺たちのほうこそ手荒な真似してごめんなさいしなきゃいけねえんじゃねえの?」

加古「……人間はどうでもいいんだ」タラリ

提督「俺にそいつらを守る義理はねえ」フンッ

提督「もしかしたら、あの島で死んだ人間の中にも、こいつらと同じように利用されただけの人間もいるかもしれねえが」

提督「それは俺が気にしたところで、どうにもならねえよな?」

X中佐「……そうだね。その責任は海軍にある」

提督「今回は俺たちが攻め込まれた側だから、正当防衛でいいって言われてはいるけどよ」

矢矧「J少将からは、提督が深海棲艦と共謀して謀反を企んでいると聞かされていました」


矢矧「ですが、蓋を開けてみれば、提督は轟沈した艦娘を救うために一人離島で奮起していたと……!」

提督「……奮起、ねえ。いつの間にか大層な話になってねえか?」

早霜「フフッ、いいんではないですか? それとも、重荷を背負いたくない、と?」

提督「常々言ってんだろ、面倒ごとは御免だって。気楽にしてたいんだよ、俺は」

提督「……それがまあ、今はそうも言ってられなくなったけどな」ガックリ

酒匂「ねえねえ提督さん? 提督さんは、私たちのことを責めないの?」

提督「俺はそのつもりはねえけどな」

酒匂「うーん……」

矢矧「そのように仰っていただけると大変ありがたいのですが……」

早霜「実はもう御一方いらっしゃるのですが、その件でものすごくやつれてまして。入っていただいても?」

提督「ああ、入れてくれ」

早霜「はい。では……どうぞ」チャッ

青葉「失礼します!」

古鷹「ほら、大丈夫だから、ね?」

衣笠「……」ゲッソリ


加古「うわぁ……」

提督「なんだその今にも倒れそうな不健康そうなやつは……」

矢矧「青葉型重巡2番艦、衣笠さんです。J少将の命令で、あの島へ三式弾を撃ったのが彼女です」

提督「!」

阿武隈「ええ!?」

白雪「衣笠さんが……!」

曙「なん……もがっ!? もがーー!?」クチフサガレ

睦月「曙ちゃんは何も言わないで黙ってるにゃしい!」クチフサギ

子日(どんなセリフが出てくるかわかんないもんね……)ウンウン

衣笠「えっと……あの……本当に、ごめんなさい」ヘナヘナ

衣笠「私が……うっ、うう……」ドゲザ

青葉「ちょっ!? 衣笠! いきなりそこまでしなくても!」

古鷹「提督はそんなに怖くないよ!?」

衣笠「だ、だって……わたしのせいで……」ボロボロボロ

提督「見てて痛々しいな。なんでこんなことになったんだ?」

青葉「それについては、青葉がいろいろご説明いたします!」ビシッ


青葉「そもそも、青葉があの島へ転籍させられたのは、J少将の写真を撮ったから、と司令官にはお伝えしていましたが……」

青葉「青葉、以前からJ少将とその部下のK大佐は前々から怪しいと思っていまして!」

提督「やっぱりか。何か探ってたからうちに来たんじゃねえかって邪推してたんだが。で、どう怪しかったんだ」

青葉「J少将は日頃から深海棲艦に対する嫌悪感をあらわにしていました。出撃すれば必ず撃滅を命じる、厳しい方でした」

青葉「しかし、青葉はその敵意が、どうも艦娘にも向けられているように感じていたんです」

青葉「そのJ少将の懐刀であるK大佐も、艦娘とのコミュニケーションは最低限。感情すらあるのか疑わしい人物でして」

青葉「これは何か裏があると思い、青葉は少しだけ、あのお二人の情報を集めようと思ったんです!」

青葉「そうしたら、どこかの施設で艦娘や深海棲艦に関する実験を行っているという情報を耳にしまして……」

提督「……」

青葉「それ以来、あの二人の周囲を調査し始めてしばらくしてから、身の危険を感じるようになりました」

青葉「矢矧さんたちのお姉さんにあたる阿賀野さんもそれをどこかで知ってしまったようで、どういうわけか青葉にお声が掛かりまして」

青葉「阿賀野さんからは協力を申し出られました。しかし、青葉は危険だと思って丁重にお断りしましたんですが……」

矢矧「阿賀野姉は、工廠で修理中に事故に遭ったの。クレーンで釣り上げていた鉄骨が落ちてきて……」

矢矧「それで私と酒匂がJ少将に話を聞きに行ったとき、ぼそっと、青葉、って呟いていたのを聞いて……」

青葉「おそらく、そのころから矢矧さんたちが青葉に対して風当たりが強くなったんですかねぇ」


青葉「でも、それは阿賀野さんが青葉に協力を申し出るより先に、能代さんがJ少将に脅されていたとも考えられます」

矢矧「……!」

青葉「そのころから青葉の出撃中に視線を感じるようになりまして。ちらっと能代さんを見ますと、怖い顔をして青葉を凝視してたんですよ」

青葉「おそらく、青葉のことを事故に見せかけて始末するように、J少将が能代さんに命じていたんではないでしょうか?」

青葉「阿賀野さんが事故に遭ったのも、青葉を早く口封じさせようという、J少将の能代さんに対する脅迫だったと考えています」

青葉「あるいはもしかしたら、能代さんの異変に気付いた阿賀野さんが独自に動こうとした結果なのかもしれませんが……」

青葉「いずれにせよ、こう、身内が狙われる事態になると、青葉もどう動けばいいか……実際、どうすればよかったんでしょうね」

青葉「そうこうするうちに、能代さんは、自分を撃ってしまったんですよ」

矢矧「……」

提督「……」

青葉「能代さんは真面目な艦娘です。その艦娘としての矜持を、曲げることはできなかったんではないかと、青葉は思っています」

青葉「それでどうにもJ少将が許せなくなりまして……」グッ…

青葉「その後、解体処分とまではいかない、ちょっとした不祥事を起こして、J少将のもとを離れた、というのが、青葉の転籍の顛末なんです」

提督「その不祥事ってのが、写真を撮ったってことか?」

青葉「表向きはそうですね! 転籍が決まる少し前に、J少将が鬱陶しがるくらいには付きまとって写真を撮りました!」


青葉「カメラは没収されましたが、それとは別に隠し撮りで一番撮りたかったものが撮れたので、青葉はそれで十分です」ピラッ

X中佐「これは……なんとも言えない笑顔だね」

提督「すげえ面だな。こんな顔して何考えてたんだか」

青葉「後ろに移ってるのはK大佐ですね。この時期から何かしらK大佐がちょくちょく出張してました。だいたい1年くらい前からですかね?」

X中佐「青葉、詳しい話はあとでさせてもらっていいかな? この話はあまり他言できそうにないね」

青葉「……そうですね。とにかく、そういう手口で衣笠もJ少将に脅されていたわけですよ」

提督「なんで衣笠がJ少将に脅されるようになったんだ?」

青葉「単純に手駒が欲しかったんでしょう。能代さんを意のままに操るため、阿賀野さんをあんな目に遭わせることも厭わない相手です」

提督「……胸糞な奴だな」

矢矧「青葉さんが鎮守府を去って少し経ってから、衣笠さんの様子がおかしいのは私もなんとなく感じていたわ」

矢矧「私は、青葉さんがJ少将鎮守府に、何か後味の悪いものを残していったからだと思っていたのだけれど……」

青葉「とにかく、衣笠も能代さんと同じように、言うことを聞かなければ、近親者の誰かを殺すと脅されていたんでしょう」

青葉「その結果、青葉も狙われましたし、命令を実行してしまって後悔して、こんな状態になってしまった、と」

衣笠「……ぐすっ……」

提督「なるほどねえ……」ウーン


X中佐「青葉はこの話を提督にする気はなかったのかな?」

青葉「それは単純に、あの島が青葉の話をしていい状況になかったからですね」

青葉「あとは、いつ話すべきか、あるいはお話して良い相手か、見定めたかったというのもあります」

提督「そういやお前が来てまもなくだったよな、大佐が泊地棲姫の塒に攻撃し始めたのは」

青葉「そうでしたねえ。とりあえず青葉からは以上です!」

提督「……艦娘や深海棲艦に関する実験、か。いろいろ知ってるであろうJ少将を潰せたのは、良かったのか悪かったのか、だな」

古鷹「あの、提督! 衣笠を、許してもらえませんか?」

提督「ん? 俺は最初っから許すつもりでいるんだけどな。けじめはつけたほうがいいか……おい、衣笠」

衣笠「!」ビクッ

提督「チョキかパーか、好きなほう選べ」

衣笠「……?」ビクビク

提督「別に選んで死んだりはしねえよ。悪いようにはしないから、どっちか選びな」

衣笠「……そ、それじゃあ……ちょ、チョキ?」オソルオソル

提督「よし、チョキだな」スッ


古鷹「あ」

 バッチィィィン!!

衣笠「いったああああああい!?」ブットビ

阿武隈「ひい!?」ビクッ

子日「なにあのでこぴん!? すっごい音したんだけど!?」

青葉「ちょっ、司令官!? なにするんですか!?」

古鷹「き、衣笠!? 大丈夫!?」

衣笠「んぎゅううう、痛ったああ……!」グスグス

提督「おい衣笠。俺たちの件はそれで手打ちにしてやるぜ。これ以上俺たちに謝るなよ?」

衣笠「……!」

X中佐「提督はそれでいいのかい?」

提督「形はどうあれ、やったことに対する罰が欲したかったんだろ。当事者に反撃されて、少しはすっきりしたんじゃねえの」

衣笠「……」パチクリ

阿武隈「あ、あの、なんでグーがなかったんですか?」

提督「げんこつは手加減できないんでな」


曙「じゃあパーはびんたしようってつもりだったの!?」

青葉「いえ、司令官の場合はアイアンクローでしょうねえ……」

提督「手加減はするぞ? さっきのでこぴんだって手加減したからな?」

古鷹「ねえ衣笠、大丈夫? 早く医務室に行こう?」

衣笠「……う、うん……あの、提督!」

提督「!」

衣笠「あ、あの……ありがとう、ございました」ペコリ

提督「おう。ちゃっちゃっと治せよ」

衣笠「は、はい!」

古鷹「提督! 私、衣笠を連れて行きますね!」

 扉<チャッ

ツバキ「おひけえなすって!!」バーン

衣笠「」オメメ

古鷹「」ミヒラキ

 ピカー

ツバキ「うおっ、まぶしっ」

提督「何やってんだ」

ツバキ「申し訳ありやせん、鉢合わせた古鷹の左目が眩しゅうて、面食らいましてん」


曙「あ! あんた、あの島にいた……!!」

ツバキ「おや、親分さんと一緒にいた艦娘は、こちらにおりんしたか」

ツバキ「改めまして、うちはカビンのメディウム、名をツバキとはっします。どちらさんも、よろしゅう頼んます!!」ズイッ

全員「「……」」ヒキッ

提督「まあ、堅気しかいねえからな。ツバキの口上こそ面食らうだろ」

ツバキ「大将さんところの艦娘の皆さんにゃア、受け入れてもらえたんですがねえ?」

X中佐(任侠ものの映画が好きだもんなあ、叔父さんは……)

ツバキ「ときに親分さん、恐れ入りやすが、この船の食堂までご足労願えやせんでしょうか」

早霜「墓場島へ攻め込んだ艦娘たちが、お詫びも兼ねて顔合わせのため集まっているの」

阿武隈「私たちもそうだったんだけど、先に提督さんにお会いしたくて……」

提督「面倒臭え……」

曙「まだ言うの!?」

雷「それじゃ、私がだっこして連れてっ」

提督「しょうがねえな、さっさと行くか」

雷「てあげようと思ってたのに!?」

提督「つうか、また食堂か? また比叡がカレー配ってるんじゃないよな?」

ツバキ「本日は、うちのメディウムどもが、甘味を振舞っておりやす」

提督「甘味……?」


 * 食堂 *

マーガレット「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

提督「……」

ツバキ「文字通り、西洋の甘味を振舞っておりやすな……」

阿武隈「なにこの惨劇……」

朧「秋月、しっかりして!」ユサユサ

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている秋月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている照月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている初月「」チーン

パンプキンヘッドを被って鼻血を出して倒れている涼月「」ゴーン

X中佐「ケーキがもったいない……」

セレスティア「申し訳ありません魔神様、マーガレットがまた粗相しまして……」

朧「3人とも、ケーキを滅多に食べたことがないから、ダウンしたらしいんです!」

提督「……うん、まあ、そりゃしょうがねえとしよう。けど、こっちのパンプキンマスクはロゼッタだよな?」

ロゼッタ「そうだよー! だって、その子があたしのじゃこたん見るなりカボチャの煮付け? とか、調理がどうこうってうるさくてさー!」


ロゼッタ「話聞かないからじゃこたん被せたら、おとなしくなったからそのままにしてるの!」プンプン!

提督「こいつはなんで鼻血噴いてんだ」

酒匂「涼月ちゃん、カボチャマニアだからじゃないかなあ……」

提督「被らされて喜ぶのかよ。よくわかんねえな」

W大佐「提督、騒々しくさせてすまないな」

提督「! あんたも来てたのか」

W大佐「ああ、前回顔見せできなかった、うちの艦娘も連れてきたんだ」

W鈴谷「あ、X中佐じゃーん! おっひさー! で、そっちが噂の魔神提督? ちーっす!」

W熊野「ごきげんよう、お待ちしておりましたわ。ケーキ、お先にいただいていますわよ」

W大佐「紹介しよう、最上型航空巡洋艦、鈴谷と熊野だ」

提督「最上型?」

W大佐「ああ。君のところに最上と三隈がいると聞いている。良かったら話ができればと思ってな」

W鈴谷「それなんだけどさー、鈴谷達の出る幕、ないみたいよ? ほら」

W日向「ふむ、君が最上か。良い目をしているな」ズイ

最上「そうかな?」キョトン


W日向「お近づきのしるしに特別な瑞雲を差し上げよう。どうだ、私たちと一緒に来ないか」ズズイ

三隈「ちょっと! 最上さんに近づきすぎですわ!!」シャーッ!

提督「……ありゃ、お前んとこの日向か」

W大佐「そうなんだが……」

ヴァージニア「先ほどから最上に絡んでいる。三隈がいい顔をしていないようだぞ」

レイラ「こちらの日向とはだいぶ雰囲気が違いますわね」

提督「ヴァージニアにレイラか? お前たちがわざわざこっちに足を運ぶなんて珍しいな」

レイラ「たまにはこうやって一緒にティータイムを楽しもうかと思いまして」

ヴァージニア「私は、私の前に跪かなかった者たちの顔を見に来ただけだ」

W熊野「ふふん、このわたくしに目をつけるなんて、メディウムにもなかなか見る目がある御仁がいるようですわね」

ヴァージニア「調子に乗るな、未熟者め」

W鈴谷「もー、張り合ってる場合じゃないっしょ? ほら、ケーキおいしいよー?」パク

ヴァージニア「……」

ヴァージニア(ふむ……先程から観察しているが、この鈴谷とかいう娘……)

ヴァージニア(口にものを含んでいる間は決して口を開かず、ケーキをフォークで切るときも一切物音を立てていない)

ヴァージニア(ティーカップを口へ運ぶしぐさも、飲んだ後にティーカップの縁を指で拭うしぐさも、気品を漂わせている……!)


ヴァージニア(最上と三隈も育ちの良さが窺い知れたが、熊野という娘ともども様になっているではないか……面白い者どもだ)

W熊野「ちょっとあなた。さっきから、何をじろじろ見てますの?」

ヴァージニア「……なるほど。我らの出会いは、偶然ではなかったということか……」フンゾリ

W熊野「は?」

ヴァージニア「貴様らもいつか私の前に跪かせてやろう!」ズビシィ!

W鈴谷「え!? なになに、どういうこと!?」

レイラ「ご安心を。彼女があなたたちのことを一目置いたという意味ですよ」ニコッ

W熊野「ふ~ん……そういうことですの。悪い気はいたしませんわね」フフン

ヴァージニア「レイラ。勝手な解釈をするな」

レイラ「あら、間違ってましたか? ウフフ」

ヴァージニア「それより貴様はあの猫娘の相手をしていたらどうだ。あれはシルヴィアを魚に見立てて追い掛け回していただろう」

レイラ「ああ、それでしたら、彼女の妹君にお相手していただいていますわ」

ヴァージニア「なに?」

北上「うーりうり、猫じゃらしだよー」ミョインミョイン

W多摩「多摩は! 猫じゃ! ないにゃ! じゃらすな! ってばァ!」シャッ! シャッ!

提督「猫じゃねえか……」


W大佐「多摩はなにをしてるんだ」ガシッ

W多摩「うにゃあ……」エリクビツカマレ

北上「あ、提督きてたんだー。お疲れ様」ヒラヒラ

H大井「北上さん? こちらの方は……」

北上「んー、この人があたしらの提督だよー。魔神様っても呼ばれてるけど」

H大井「この人が……」

北上「提督、紹介するねえ。H大将の秘書艦、大井っちだよぉ」

H大井「重雷装巡洋艦、大井です。H大将の秘書艦を務めております」ペコリ

提督「おう。お前が北上の姉妹艦か」

北上「ついでに言うと、提督がこの前会食した球磨姉や、城塞鎮守府で会った木曾もうちらの姉妹だよー」

W多摩「多摩もそうだにゃ」

提督「……なんつうか、一癖ある奴ばっかりだな」

北上「ありゃ、意外と反応薄くない?」

提督「まあ、あのメディウム連中を見てりゃあな?」チラッ

北上「あー……」

レイラ「あら、どうしてこちらに視線が?」


ヴァージニア「あるじよ、どこを見ている?」

W鈴谷「無理もないよー、実際、レイラちゃんの見た目は派手っ派手だよねー?」

ヴァージニア「私が煌びやかではないと申すか!」ガタッ

提督「ヴァージニア、お前、面倒臭えから座ってろ……」ハァ

ヴァージニア「あきれたようにため息をつくな」グヌヌ…

北上「まあまあそれよりさ、大井っちのところの、H大将の艦娘も来てるから、ちょっと対応してあげてよ」

H大井「こちらです」

摩耶「お、やっと来やがったか」

提督「摩耶? 鳥海もいるのか」

鳥海「はい。こちらにいるのが高雄型の1番艦、2番艦にあたる、高雄姉さんと愛宕姉さんですが……」

H高雄「」ブルブル

H愛宕「」ビクビク

提督「……なんか、あからさまに怯えられてねえか?」

摩耶「メディウムに相当怖い目に遭わされたらしくて、ずっとこんな調子なんだよ」

提督「ん? 2人だけか?」


H大井「あの場には6名の艦娘を出撃させていただきましたが、そのうち金剛型の2人は収拾がつかなくなるほど騒々しくなるので欠席に」

H大井「長門型の2人……長門は放っておくと駆逐艦を口説きだすので欠席、陸奥はその長門を見張るため欠席としました」

H大井「H大将が同席すればおとなしくはなるのですが、今日は外せない用事があるので、私が代行として参上した次第です……」ハァ…

提督「……苦労してんだな」タラリ

H大井「とにかく、こちらの2人も私たちの艦隊の主力ですので、どうにか立ち直って欲しいという期待も込めて連れてきたんですが」

提督「うちのメディウムどもは何をやらかしたんだよ、くそが……」

ヒサメ「それなんじゃが、主にサムとジェニーが調子に乗ったようでのう?」カキゴオリシャクシャク

提督「ヴォルテックチェアとデルタホースか……精神的にもダメージでかい奴だな」

メアリーアン「んだ。そのあと、でっけぐなったマリッサに襲われかけてただよ」シャクシャク

提督「でっけぐ? ……ああ、でっかくなったってか。泊地棲姫の力を借りて巨大化してたって言ってた奴だな?」

メアリーアン「んだんだ!」

ヒサメ「戦は終わったのじゃ。そのように怖がらずとも良いというのにのう? ほれ、艦娘にこさえてもらったかき氷じゃ、食わぬかぇ?」

高雄「!」ビクッ

提督「ガタガタ震えてる相手に勧める食い物じゃねえと思うんだが……」


メアリーアン「ヒサメの好みだがら、しょうがねえだ。おらがあったかい飲み物、用意すっぺが?」

 厨房の扉<チャッ

ビスマルク「かき氷の追加ができたわよー!」

提督「注文に関係なく作ってんじゃねえよ……」アタマオサエ

X中佐「うちのビスマルクがごめんね……」

ビスマルク「あら、あなた、噂の魔神提督ね。私はビスマルク、X中佐艦隊所属の艦娘よ、よーく覚えておくのね!」

提督「ああ……そういや、X中佐の主力は海外艦と潜水艦だったか」

ビスマルク「ええ、そうよ。このかき氷も、つい先日、新しく入った艦娘が作ってくれたんだけど」

ウォースパイト「我が名はQueen Elizabeth Class ! Battleship Warspite ! かき氷作りなら任せて!!」バーン!

X中佐「何やってんのウォースパイト!?」

提督「……何者だ、ありゃ。クイーンエリザベスっつったらイギリスの女王じゃねえか。なんでクイーンがジャパニーズかき氷作ってんだよ」

ビスマルク「私も知らないわよ、そんなこと。突然、あの子が作るって言い出したんだもの」

ヴァージニア「クイーン!? 貴様も女王を名乗る気か!?」ガタガタッ

提督「話が面倒臭くなるからお前はおとなしくしてろ」

ヴァージニア「これが口を出さずにいられるか! あるじは下がっておれ!」

提督「……」ムゴンデアイアンクロー

ヴァージニア「うごっ!? ぶ、無礼者、なにを……あっ、ちょ、やめっ、いだだだだだ!?」メキメキメキ


W大佐「容赦がなさすぎる」タラリ

阿武隈「あれを衣笠さんにやろうとしてたんですか……」

ヒサメ「ヴァージニアの奴め、落ち着かせ役のサムがこの場におらぬせいで我儘三昧じゃな」

メアリーアン「暴君だっぺよー」

ヒサメ「まあ、じゃからと言ってサムの奴めを放逐すれば、誰彼構わず椅子に電気を流し始めるからのう」

メアリーアン「暴君だっぺな!」ウンウン

摩耶「どっちみち駄目なんじゃねえか!!」

提督「このカオスな状況で、何やったらいいんだよ……摩耶、鳥海、なんかいい方法あんのか?」

鳥海「そうですね、とりあえず司令官さんがお優しいところを見せて、メディウム恐怖症を克服できるよう……」

提督「そりゃ無理だな」

摩耶「諦めんの早すぎだろ!」

提督「そんなこと言ってもなあ。俺が優しくににこにこへらへらしてたら、薄気味悪いと思わねえか?」

摩耶「……それもそうだな?」

鳥海「摩耶!?」


提督「俺からは、無理に島に近づかなくていいぞ、ってレベルの話しかできねえと思うんだが……なあ大井、ちょっと教えてくれ」

H大井「はい? なんでしょう」

提督「H大将は、今後も継続して俺たちと接触する気なのか?」

H大井「今後、深海勢力との折衝を行うのは、X中佐やF提督が中心になると、私は認識しています」

H大井「なので、もし関わるにしても、私たちは他艦隊のバックアップに回るでしょうね」

H大井「もちろん、H大将や北上さんがこちらに用があるというのなら話は別ですが……」

H大井「H大将が個人的にあなたがたとお付き合いしたいかどうかは、私にはわかりません」

提督「んー……だとしたら、この場で無理にメディウムたちと和解というか、克服しなくてもいいんじゃねえか?」

H高雄「!」

H愛宕「!」

提督「摩耶たちが姉を立ち直らせたいというのはわかるが、落ち着くまでは距離を取ったほうがいいこともある」

提督「H大将たちの都合が許す限りは、俺たちと接触しないほうが、かえって気が楽になって回復も早まると思うんだが」

H大井「……かもしれませんね」

提督「とりあえず俺は、こっちに敵意を示さない限り、これ以上危害を加える気はないし」

提督「島に来るときに北上たちがいてくれりゃあ、攻撃はしないとも決めたからな」


H大井「H大将から、罠の化身を束ねる魔神と聞いていたから警戒していたのだけれど……信じていいんですね?」

提督「そういう約束を守らなきゃ、俺たちの安全も担保してもらえないだろ。せいぜいお前たちに信じてもらえるように動くさ」

H大井「……承知しました。良く取り計らいましょう」

提督「ああ、よろしく頼むぜ」

ヒサメ「なんじゃ、もう話は仕舞いか?」

提督「今のところはな」

北上「慌てて解決する必要もなさそうだしね~」

ヒサメ「それはつまらんのう。折角の機会じゃ、そこな猫娘のように一悶着あっても良いでは……」

 ベシッ

ヒサメ「あいた!?」

初春「まったく、折角まとまりかけておったところを引っ掻き回してどうするんじゃ!」

ヒサメ「いたた……初春め、何をする? ほんの冗談じゃろう、本気にするでない」アタマサスリ

初春「メディウムならやりかねん。というか、ヒサメこそ調子に乗っておるのではないか?」

初春「炎を操るメディウムたちが遠慮して船内に入ってこないことをいいことに、のう?」ズイ

ヒサメ「さあて、どうだかのう?」プイス


提督「? なんで遠慮してんだ?」

初春「火災報知機があるじゃろう? ウーナのように松明を掲げておっては一発じゃ」

提督「ああ……そういうことか。下手すりゃスプリンクラーでびしょ濡れだもんな」

メアリーアン「濡れるのも勘弁だべ。おらの防寒具が水吸ったらば、重でくて動かんにぇぐなっちまうだあ」

ウォースパイト「……ねえビスマルク? 彼女、日本語を話しているのよね? フランス語ではないわよね?」ヒソヒソ

ビスマルク「訛りがすごいだけよ。私もよく聞き取れないくらいだけど」

ウォースパイト「Hmm... 興味深いわ。ねえ、彼女の罠がどんなものか、見せてもらってもいいかしら」

提督「やるなら外でな。こんな狭いところで雪玉召喚したら、軒並み巻き込んで収拾がつかなくなるぞ」

ビスマルク「雪玉?」

メアリーアン「んだ、おらあスノーボールのメディウムだぁ。でっけえ雪玉呼び出して、みんな雪さ埋めて転がしちまうだよ」

メアリーアン「んでば、おらだづ、魔神様ぁ守るため、こっちの2人と戦うごとになったんだけども……」

メアリーアン「せいぜい驚かして、逃げてもらうか、ちょっと動けなぐなってもらうか、そのっくらいにしたがったんだよぉ」

H高雄「あ……」

メアリーアン「おっかねえ目に遭わせちまって、ほんとにごめんなあ」ペコリ

H愛宕「え、ええ……」

ヒサメ「敵対してない艦娘とは仲良くしろと、こやつが言うからのう。まっこと、甘い男じゃ」ウンウン


ツバキ「親分さん、そろそろこちらにもご挨拶願えやせんでしょうか」

提督「ん? ああ……こっちには武蔵がいるのか?」

X中佐「僕の叔父さん、海軍大将の艦娘たちだね」

T武蔵「……貴様が提督か。ツノが生えたと聞いていたが……」

T霧島「見た目は普通の男性ですね?」

提督「ツノ……ああ、そういやいつの間にかどっかに行っちまったな」

T霧島「生えていたことは間違いないのですか?」

提督「ああ。意図して生やしたつもりはないが……」

T清霜「もしかして出し入れできるの!?」

T武蔵「こら、清霜!」

提督「出し入れ……できるかもしれねえな。まあ、また生えてくるようなことはないようにしたいもんだが」

T霧島「それはどういう意味です?」

提督「ツノが生えた、つまり俺が魔神に覚醒したのは、うちの艦娘たちや、長く一緒にいた妖精が人間どもに殺された怒りからだ」

提督「あの島の海底火山が噴火したのも、俺が覚醒したからだって認識してる」

T霧島「……そういうことですか」


T武蔵「阿武隈、お前たちは確か島に乗り込んで提督と会ったと聞いているが、今の話は本当なのか?」

阿武隈「……提督の艦娘たちが、K大佐たちに襲われたのは事実です」

提督「そういやお前もあいつらに両脚撃たれてたよな? 大丈夫なのか?」

阿武隈「え? あ、はい! それは大丈夫です!」

提督「そうか、ならいい。治療できなくて痕が残ったら最悪だ。うちの艦娘に、入渠させてもらえず傷が消えなくなった奴がいたからな」

阿武隈「うえぇ……」

T妙高「少尉は、そういった過酷な状況にあった艦娘の保護に、奔走されていたのですね?」

提督「さすがに奔走は過大評価だ。俺はあの島に流れ着いてきた艦娘を保護してきただけだ」

提督「その中でも、体に傷が残るほどひどい目に遭ったのはわずかだが……まあ、まともじゃねえ扱いを受けてきた艦娘ばかりだったな」

T武蔵「貴様の艦隊にも武蔵がいると聞いているが、そいつもひどい目に遭ったのか?」

提督「いや、うちの武蔵は建造艦だ。苦労させてはいるが、ひどい目には遭わせてないつもりだぞ? 多分」

曙「多分、って……アンタは朧じゃないでしょ」

提督「まあ、それよりそっちの2人のほうが」チラリ

T羽黒「ひっ!」ビクッ

T初風「ひっ!」ビクッ

提督「……マジで重症そうだな」


T妙高「そうですね……ふたりとも、提督に失礼ですよ?」

T羽黒「わわ、わ、わかってます、わかってますけど……」ヒシッ

T初風「ど、どうしても、その……」ヒシッ

提督「さっきの2人といい……なにがあったんだ、あの2人は」

ナンシー「それなんだけどぉ」ヒョコッ

ナンシー「このふたり、リサーナとルイゼットがお相手したみたいなの!」

提督「……てことは、サーキュラーソーとギロチンか? んじゃトラウマになっても仕方ねえな」

T清霜「あ! トゲトゲ天井のお姉さんだ!」

ナンシー「ノン・ノン! あたしはフォールニードル! の、ナンシーちゃんだよー!」

T武蔵「……なんとも軽いな」

ナンシー「それ、マスターのところの武蔵にも言われちゃったんだよねー。ねえマスター、あたしってそんなに軽いかな?」

提督「ノリは軽いと思われるかもしれねえな」

提督「けど、俺が辛気臭えからってのもあるが、お前みたいにポジティブな奴がいると雰囲気良くなるから嫌いじゃねえぞ?」

ナンシー「!」


提督「むしろ、場を弁えていれば長所だと思ってるが、お前は不満か?」

ナンシー「ううん、そんなことないよ! マスター、長所だって言ってくれるんだ! 嬉しー!」ダキツキー

T武蔵「ふぅむ……まあ、一理あるか」

提督「必要以上に剣呑な雰囲気にしなくてもいいだろ。少なくともこの場はナンシーくらいのノリで話せる奴がいたほうがいい」

ツバキ「せやったら、うちも少し明るく振舞ったほうがええんやろか」

T清霜「そっちのお姉さんは、今のまんまでいいと思うよー? 私はよくわかんないけど、武蔵さんと霧島さんが盛り上がってたもん」

T武蔵「き、清霜!?」ワタワタ

T霧島「その話は内密に!」アセアセ

ツバキ「……隠す意味が、ようけわかりゃんせんな?」クビカシゲ

X中佐(やっぱり任侠物が好きなんだ……)

提督「とにかくだ。そもそも俺はさっきからずっと言ってんだが、お前らは俺たちに謝るような立場にないと思ってる」

提督「落ち度があるとすりゃあ、J少将の企みそのものと、そいつの本性を見抜けなかった大将たちだろうよ」

提督「そっちの2人のケアは必要だが、それ以外は、お互い大変だったな、で済ませてしまいたい」

提督「もちろん、お前らが大将の指示に背いて、独断で俺たちを攻撃したって言うなら話は別だが、そうじゃねえよな?」

T武蔵「ああ。貴様たちが深海棲艦との共存を目指していたことを知っていたら、我々は協力を申し出ていたはずだ」


ツバキ「あの人間に、そのお役目が務まりますやろか?」

T霧島「私たちの提督は、いささか猪突猛進なきらいがありますので、実際の交渉については私たちが受け持つつもりでいました」

T武蔵「それか、それこそX中佐にお願いしなければならないかと……」

ツバキ「そういうんとちゃいます。あの人間、うちの親分さんが覚醒したときに腰を抜かしはったんどす」

提督「ツノが生えたの見て、ビビッて俺から逃げようとしてたよな」

T武蔵「それはいま初めて聞いたんだが……」

ツバキ「ついでに言うと、スパイクボールに巻き込まれそうになって気ぃやってもうてましたな?」

T妙高「え? H大将からは、K大佐たちに気絶させられたと聞いていたんですが……」

提督「H大将が気を利かせてくれたんだろうな……」

ナンシー「ぶっちゃけ見栄っ張りだよね、あの人間!」

H武蔵「いや、まあ、ある程度はわかっていたつもりだがな。割と後先考えずに理想論に走り、ゴリ押しで物事を進めるのが常だというのは」

H霧島「悪いアプローチではないんですよね。手段を選ばず目的を果たすと言うのは、君主論そのものですから」

H妙高「毎回、その後始末が大変ですけれど、うまくいっていたからこそ苦にしなかったというのもありますね」

X中佐「それで僕たちが呼び出されることも、たまにあったんだよね」トオイメ

H清霜「たまに?」クビカシゲ


ナンシー「こっちのおチビちゃんの反応からすると、常態化してるみたいよー?」

提督「やれやれ……それで俺を部下にしようと息巻いてたのかよ。こき使う気満々じゃねえか、くそが」

H妙高「ちなみに、提督は交渉の場で、私たちの提督……大将の部下になるおつもりはありましたか?」

提督「くそっくらえだ、冗談じゃねえ」

H妙高「……」

ツバキ「ま、当然ですやろなあ」

H武蔵「妙高、この答えは予想できていただろう。なんでそんなことを訊いたんだ……」

H妙高「いえ、もし提督が深海棲艦と共存する気なら、海軍に協力を仰いでいたのではないかと……」

提督「仰がねえよ、むしろ追っ払ってる。俺は人間を信用してねえ」

H武蔵「……」

H霧島「……」

提督「なんでそんな顔してんだよ。うちの艦娘を苦しめていたのは他でもない人間だぞ?」

提督「俺が連中を利用することはあっても、俺が連中に協力したいなんて、これっぽっちも思ってねえよ」

W大佐「つくづく、彼とあんな取引ができたのが奇跡のようだな」

X中佐「まあね……」


提督「そりゃお前が島を譲ると言ったから、その対価を返そうとしただけだ」

X中佐「……!」

提督「お前が裏切らねえ限りは、俺だってそう務めるつもりだ。お前は珍しく、艦娘に慕われてるみたいだからな」

提督「できれば、早いうちにあの場所を使わなくても深海棲艦と話し合えるようになって欲しいもんだが」

X中佐「……ありがとう」

ビスマルク「X提督? あなたはこっちの提督の信頼を得たみたいね? あなたの艦娘として鼻が高いわ」ニコニコ

ウォースパイト「お祝いにかき氷を作りますね!」

T武蔵「ちょっと待て、その手に持っているのはおろし金じゃないか」

ウォースパイト「ええ。これで氷を粉末にしているの。変かしら?」

T武蔵「普通ではないな……」タラリ

提督「まあ、削り氷(けずりひ)には違いねえか」タラリ



 * おまけ *

X中佐「そういえば紹介してなかったね、僕の秘書艦の祥鳳だ」

祥鳳「よろしくお願いしますね!」

提督「おう」

セレスティア「……なるほど、確かにツバキにに似ているかもしれませんね」

曙「……」

ツバキ「?」

今回はここまで。

>793
声帯の妖精さんネタとしては、もはや鉄板ですねw

では続きです。


 * 1週間後 *

 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

提督「順調だな」ペラリ

大和「はい。順調ですね」ニコニコ

提督「タチアナから渡されたダイヤの原石はとんでもねえ値段で売れた」

大和「木材購入や技師を雇うのに、十分な資金になりましたね」

提督「広い工廠、最新の入渠ドック3基、綺麗で大きな風呂、その電力を賄える深海謹製の地熱発電施設に、海軍の変電設備」

大和「海軍の紹介で島に来た技師たちが、地熱発電施設を調べさせてほしいと目を輝かせていましたね」

提督「どういう仕組みか知らないが、相当画期的だったらしいな?」

大和「応用できたら国内でも展開したいと言ってました。そのおかげか変電施設も短納期ながら不備のないよう相当入念にチェックしてましたね」

提督「食堂もきれいになったし、厨房は保冷庫も完備。外には新しいビニールハウスも新設して新しい土も入れたと」

大和「飲用水の確保は、島への来訪者に対しても必要です。水の濾過施設と浄化槽は深海棲艦たちが驚いていましたね」

提督「演劇もできそうなステージ付きのホールも、食堂とは別の棟に作ってもらったから、騒音の問題もなくなった」

大和「那珂さんが大喜びで駆け回ってましたよ。まるで体操選手の床の演技みたいに」

提督「ステージ上でバク宙決めてたもんな。あいつのアイドルの方向性、まるで一昔前の男性アイドルだぞ」


大和「なのに歌で特にお上手なのはバラード系ですから……微妙に?み合わないのが残念ですね」

提督「まったくだ……あとは、手ごろな広さの執務室と通信室と資料室。会議室と客間と休憩室も揃えられたし……」

大和「人型ではない深海棲艦が行き来できるよう、水路も新たに敷設。館内の適度な広さと複雑さは、メディウムたちからの評判も上々です」

提督「集積地棲姫は北の洞窟があった岩場に居を構えるらしいな?」

大和「正確には洞窟があった場所から少し鎮守府寄りの場所になりますね。彼女以外にも戦禍を逃れたい深海棲艦がそこに集まるようです」

提督「西の林も燃えてなくなったことで、鎮守府の近くの住居スペースも十二分に確保できたと。近く植林もするって話だな?」

大和「はい。そして離れに、一回り大きくなった特注のベッドが鎮座する提督のお屋敷も……」ポ

提督「そこはどうしてそうなった」アタマカカエ

大和「それはもちろん、提督と同衾できる機会が増えるようにと。バスルームも完備しましたし」ニコニコ

提督「お前ら毎日泊まる前提かよ」

大和「宿泊日程に関しては鋭意調整中です。ちゃんと調整しませんと、ほら」ユビサシ

軽巡棲姫「……提督……」ギュゥ…

大和「軽巡棲姫さんも提督の腰に抱き着いたまま離れませんので、どこかで彼女の不安も払拭してあげないといけませんよ?」

提督「ったく……しゃあねえな」ナデナデ

軽巡棲姫「アゥ……」ウットリ


大和「ところで提督? 先日、またメディウムの魔力槽に入ったと伺ったんですが……」

提督「ああ。今回はルミナに見てもらいながら入ったんだが……」

大和(見てもらいながら!?)

提督「なんとなく、感覚が鋭くなったような気がするっちゃあするんだよな。身体そのものはなんともねえんだが」

大和「感覚が、ですか……どのような感じなんですか?」

提督「ん-、人の気配? ……を感じるのが、なんとなく敏感になったっていうか……なんて表現したらいいんだ?」

ルミナ「やあやあ、魔神君! こんなところにいたんだね!」

提督「よう、何かわかったのか」

ルミナ「えーとねえ、この文献の……おそらくこれとこれだと思うんだけど。ちょっと実験したくてね?」

提督「実験?」

ルミナ「そう。魔神君は魔神として覚醒してそれなりに経つわけだけど、魂に関わる部分はまだ未覚醒でね」

ルミナ「おそらく今回、魔力槽に入ったおかげで、魔神としての感覚が戻りつつあると思うんだ」

提督「そういうもんか?」


ルミナ「少なくとも、感覚が鋭敏になったと聞いたから、この辺の能力が使えるかを試したいわけだよ……まずはこれがいいかな?」ペラリ

提督「何をするといいんだ?」

ルミナ「そうだねえ……それじゃあ、大和君をじっと見てごらん?」

大和「!?」

提督「? 見るだけでいいのか?」

ルミナ「そうそう」

提督「お前みたいに目からレーザー出したりしないだろうな?」

ルミナ「今はそこまでできないだろうから大丈夫だよ」

提督「今は、ってお前……」

ルミナ「私をむしゃむしゃと食べるなりして魔神君と一体化すれば、できると思っているよ?」

提督「そういう意味かよ……」

ルミナ「一体化する方法としてはもっと別の方法でもいいけどね」ニヒヒ

提督「とりあえず、大和を見ていればいいのか?」ジッ

大和「……」ドキドキ


ルミナ「そうそう。それで、見る位置というか眼の焦点を、大和君の『奥』というか『底』に合わせるような感じで、意識を集中させてごらん?」

提督「なんだそりゃ……んん?」

大和「て、提督? どうなさったんですか?」

提督「なんか、文字とか記号が見えてきた……なんか、上からの矢印にバツ印がついてる絵というか、マーク? が見えるぞ」

大和「えええ?」

ルミナ「お、見えてきたかい? その能力が『魔神の目』だね。見た相手の名前や能力、通用しない罠の種類を見抜く力だよ」

ルミナ「今の話を聞く限り、多分、大和君には上から降ってくるタイプの罠が通用しないということだね」

大和「た、確かに、ナンシーさんのフォールニードルを傘で受けたことはありますが……」

提督(なんか、プロフィールみたいな文章まで読めちまうぞ……人の秘密を覗き見しているみたいで、なんか嫌だな)

ルミナ「ほら魔神君、大和君だけじゃなく、私も見てくれたまえ」

提督「ん……お前は矢みたいなマークにバツ印がついてるな」

ルミナ「私の場合は飛んでくるタイプの罠が通用しないってことだね」

提督「体力っぽい数字も見えるな。大和と比べると低いのは、まあ、しょうがねえのか」

ルミナ「おやおや、そこまで見えるのか。うん、これなら問題なさそうだ」


ルミナ「ちなみにニコ君もその能力を備えていて、射程も長いんだよ。意識すればこの島に入った瞬間に見えるくらいにね」

提督「マジか……まるで千里眼だな?」

ルミナ「慣れれば魔神君も同じくらいの能力を備えられるはずさ。ここまでできるんならもう一つ試してみようか」

ルミナ「そこの軽巡棲姫君から『黒い気配』を『手から吸いだして』ごらんよ?」

軽巡棲姫「?」

大和「は?」

提督「なんだそりゃ……?」

ルミナ「魂を視ることができたから、第二段階として今度は触れる練習だ。軽巡棲姫君の頭に手を置いたまま、意識を集中させてごらん?」

提督「このままでか……?」ナデ

軽巡棲姫「アァ……」ウットリ

ルミナ「うん。目を閉じて、集中して……」

提督「……」

大和「……」

提督「黒い気配……これか?」


ルミナ「それを掴んで、引っ張り出すことはできるかい?」

提督「……」

 ズ…

軽巡棲姫「ア……ゥ!?」ビクッ

提督「……これ、吸えてるのか?」

ルミナ「大和君、軽巡棲姫君から黒い感じが抜けてきてないかな?」

大和「え? ええ、なんというか、少し血色が良くなったというか、雰囲気が神通さんに近く……あ、あら?」

提督「どうした?」

大和「あ、あの、少し透けて見えるんですけど……?」

ルミナ「え!? ま、魔神君、吸いすぎ!! 吸いすぎだよ!! そのまま吸いすぎたら軽巡棲姫君が消えてしまうよ!?」

提督「なに!? それを早く言え!!」

ルミナ「ほら、早く戻して! 今吸った分を吐き出すように!」

提督「わかったから焦らせんな!」

軽巡棲姫「アヒ……ハウ……!」ビクッビクッ

大和「だ、大丈夫なの……?」タラリ


 *

 (眠っている軽巡棲姫を提督が膝枕している)

軽巡棲姫「……」スヤァ…

提督「……一時はどうなることかと思ったぜ」ナデナデ

ルミナ「そうか、軽巡棲姫君は、思ったよりも深海棲艦の成分が濃かったというわけだね……ふむふむ」

提督「つうか、なんで吸い出せなんて言ったんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は神通君だったかな? 彼女の面影を強く残していたから、深海棲艦の成分を吸い出しても形が残るかと思ったんだよ」

ルミナ「うまくすれば神通君に変化しないかを期待していたんだけどね……なかなかうまくいかないね」

大和「……彼女の中に、深海棲艦ではない部分があると?」

ルミナ「うん、魔神君と一緒に過ごしていれば、真っ黒ではないと思ったんだ」

提督「俺と一緒だと真っ黒じゃなくなるのか?」

ルミナ「私が黒い魂と呼んでいるのは、憎悪や悲嘆などの負の感情を抱えた魂のことさ。深海棲艦はそういう負の感情が強くてね」

ルミナ「その一方で、嬉しかったり楽しかったりすると、魂の色合いが明るくなるんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は君と一緒だと本当に嬉しそうだから、いけるかと思ったんだけど……まあ、彼女が深海棲艦である以上、仕方ないかな?」

提督「軽巡棲姫は、人間に取っ捕まって弾丸なんかにされちまったからな。そういう意味じゃあ真っ黒でも仕方ねえさ」ナデ

大和「そう……ですね」


ルミナ「とにかく、これで魔神君も、先日ニコ君が余所の鎮守府の拷問部屋でやってみせた魂の回収ができるようになってるはずだね」

提督「……いいんだか悪いんだか。これじゃ迂闊にお前らに触れなくなるんじゃねえか?」

ルミナ「いやいや、そこまで尻込みすることはないと思うよ? ニコ君だってそれなりに集中しないと回収できないんだから」

提督「ならいいけどよ……」

大和「あの、提督? お体のほうは大丈夫ですか?」

提督「ん?」

大和「良く見知っている相手とはいえ、仮にも深海棲艦の魂を取り込むなんて、お体の負担になっていないか心配です」

提督「言われてみれば……今んとこなんともねえな? もともと俺の魂の半分が深海棲艦だから無事だってのもあると思うんだが」

ルミナ「そこは私の見つけたこの文献によるとだね」ペラリ

ルミナ「魔神君は、魂を蓄えて置ける巨大な貯蔵庫……タンクを持っているようなものなんだ。今ここにある肉体とは別の器としてね」

ルミナ「軽巡棲姫の魂もそちらへ入ったからこそ、魔神君の体に負担がかかっていない、と考えられる」

大和「そうなんですか……?」

ルミナ「うん。ニコ君も同じように魂のタンクを持っていて、自由に出し入れできるんだ。君もその力に目覚めたってことになるね」

提督「何に使うんだ、その力は」

ルミナ「私たちがメディウムとして力を使ったり、体を修復するためには魔力が必要なんだ」


ルミナ「その魔力は、私たちが仕留めた死者の魂から作られる。これまでは、ニコ君が管理していたわけだけども……」

提督「……今度は俺がそれをやる番だと?」

ルミナ「嫌だというなら、私たちへの魔力の供給はこれまでと同じくニコ君に一任となるだろうね」

ルミナ「ただ、罠の運用に関しては、魔神君の使い方がなかなか面白いと私個人としては感じていてね?」

ルミナ「次の機会にはぜひ、君の指示と力の下で働いてみたいと思っているよ」ニマー

提督「んー……」

ルミナ「ちなみにだけど、ニコ君は、魔神君の能力をサポートできる力も持っているはずなんだ」

ルミナ「例えば、いま君がどのくらい魂を保有しているかを可視化できるようにしたり」

ルミナ「その魂を、君の代わりに私たちの能力を発動させる魔力に変換することができたりするはずだよ」

提督「へえ……」

ルミナ「もちろん、それらの力を魔神君自身でコントロールできれば、それが一番いいんだけれど」

ルミナ「コントロールが危ういうちは、ニコ君に管理してもらいながら練習したほうがいいね」

提督「なるほど……ただまあ、今みたいに身内の魂を吸い取る能力なんて、そうそう使う必要がなさそうだな」

ルミナ「今は、こういうことができる、という知識だけ備えていればいいよ。必要になれば、いつでも使ってくれて構わないからね」


提督「ところで、魂の明るさの差ってのは、そのままポジティブな感情とネガティブな感情に反映されるって考えていいのか?」

ルミナ「その認識で良いと思うよ」

提督「もし、あいつらがそういうストレスから解放されて黒より白が濃くなったら、艦娘に変化するのか?」

ルミナ「仮にそうだとしたら、ル級君くらいは艦娘になってもいいと思うんだけどねえ?」クビカシゲ

大和「それはそうですね。鎮守府にいた時はいつも楽しそうににこにこしていましたし」

ルミナ「やっぱり何らかのトリガーが必要なのかな?」ウーン

提督「なんだそのやっぱりってのは」

ルミナ「泊地棲姫君から、深海棲艦が艦娘になるケースもあるらしい、と聞いていてね」

大和「え!? あるんですか!?」

ルミナ「なんでも、艦娘になった深海棲艦というのは、艦娘に撃沈されて海に消えた直後に艦娘になったと言うんだよ」

提督「は? ってことは、あいつらが死なないと変わらないってことか?」

ルミナ「状況的にはそういうことになるんだけど、どうしてそうなるのかの説明もうまくできなくて」

ルミナ「実験しようにも、どうしても轟沈が関わる実験になるからね。魔神君は、そういうのは嫌なんだろう?」

提督「まあな。これじゃ希望者募ったっていないだろうなぁ、沈んで消えてからひっくり返るなんてリスクが高すぎる」


提督「この話が艦娘も同じだってんなら、あの訓話も最低な話になるぞ」

ルミナ「訓話? というのは?」クビカシゲ

大和「轟沈して戻ってきた艦娘が、深海棲艦になって鎮守府を壊滅させた、というお話です」

大和「それがもとで、轟沈した艦娘をそのまま復帰させてはいけないという決まりができたんですよ」

提督「泊地棲姫の話だと、沈まない限り深海棲艦が艦娘になったりしない、って見解だよな?」

提督「逆も同じだって理屈なら、その訓話のときには、まさしく艦娘をその鎮守府で沈めた、って考えるしかねえじゃねえか」

大和「……やはり、そう考えるべきでしょうか」

提督「戻ってきたときの状況にもよるだろうな。切羽詰まった戦況だったとかで、負傷者をまともに相手してられる状況じゃなかったとか」

提督「戻ってきた奴の性格が最悪だったせいで、まともに看護したくないような状況だったとか、深海で何かあって性格が変わったとか」

提督「最悪、戻ってきた奴は実際には沈んでて最初から深海棲艦が擬態していたとか。でも、そうだったら最初からそうだって説明するか?」

ルミナ「隠す方が不自然だね」

提督「あとは……病み上がりで配慮してもらったのを、贔屓だのずるいだのとぎゃーぎゃー囃し立てるガキみたいなやつにブチ切れたとか?」

大和「……軍に所属するものとしては、あるまじき行為ですね」

提督「いくら軍人でも所詮は感情を持つ生き物だからな。数あるいじめの理由なんて、きっかけそのものは些細なもんだろう」

提督「で、その訓話の場合は理由はわからないにしても、その艦娘が命を落とす事態にまで及んだ、と」


ルミナ「考えうる限りの最悪の事態が起こった、と言いたいわけだね」

提督「だと思うんだけどなあ。そのくらい極端なことが起こったからこそ鎮守府も壊滅したんだろうしよ」

大和「海軍が公表するにも、あまりに恥ずべき事態だからこその隠蔽、だということですか」

提督「ま、俺の憶測だけどな。これまであの島に流れ着いて誰も深海化しなかったんだから、そうなんじゃねえか、ってだけだけどなぁ」

大和「理屈としては頷けるものだと思います」

大和「艦娘も一時の感情で簡単に深海棲艦になっていたのでは、もっと各地で大事になっているはずでしょうから」

提督「ただまあ、心配は心配なんだよな。深海棲艦にならなくても、深海棲艦みたいな雰囲気漂わせてるのはよろしくねえ」

ルミナ「そんな艦娘がいるのかい?」

提督「山雲がな……あいつ、空母棲姫に衝突されてんだ」

提督「巻き添えというかとばっちりに近いが、攻撃的な深海棲艦に激突されたせいか、ちょっと穏やかじゃねえ空気出すときがあるんだ」

提督「あいつがどのくらい大丈夫なのか、この力を使って診察してみたほうがいいかもしれねえな」

ルミナ「それはいいね!」

大和「そうですね! いいと思います!」

ルミナ「そうだ、さっきの感覚を忘れないうちに、大和君でも診察の練習したらいいんじゃないかな?」

大和「は!? や、大和がですか!?」


ルミナ「一般的な艦娘のいちサンプルとしても、見ておいたほうがいいと思うよ?」

提督「まあ、そうかもしれねえけど……大和、いいか?」

大和「あのっ、いえ、は、はいっ! どどど、どうぞ!」マエカガミ

提督「んじゃ、頭の上に手をのせるぞ……」メヲトジ

大和「……」ドキドキ

提督「……」

ルミナ「どんな感じかな?」

提督「……色で言うと、白系、だな。光が見える」

大和「!」

提督「光が明るくて、あたたかいっつうか……春と夏の間くらいの日差しみたいだな」

大和「……」セキメン

提督「……まあ、色彩的に黄色やピンク系の色が混ざっていたが、全体的に黒いものはないみたいだな」スッ

大和「そ、そうでしたか! ありがとうございます!」

ルミナ「なるほど……やっぱり健全な艦娘の魂は、相応に綺麗なわけだね?」

提督(奥の方にドロドロした紫色の沼みたいなのが渦巻いてたところがあったが……そこは触れないほうが良さそうだな)


ルミナ「うーん、やはりこの辺りが艦娘と深海棲艦の差なのかな?」

提督「とりあえず、この調子で山雲も診察してやりゃあいいのはわかったが……」

提督「もしその深海棲艦の成分が強いところが見つかったらどうすんだ? 診察はできても治療ができなきゃ見てもしょうがねえ」

ルミナ「やっぱり実験が必要だね!」パァッ

提督「目を輝かせんな」

大和「あの、例えばですけど、魂の暗い部分だけを提督が吸い取って、他の深海棲艦に移植する、というようなことはできるのでしょうか?」

ルミナ「魂の部分移植!? それもいいかもしれないね!」パァァッ

提督「だから目を輝かせんな」タラリ

ルミナ「いやあ、アイデアとしてはなかなか画期的だよ? 可能かどうかは別としてもね!」

提督「……やる気は起きねえけどな」

ルミナ「そうかい? それは個人的にちょっと残念だなあ」

大和「提督、私も残念というわけではありませんが、できるかどうかのテストくらいは行ったほうがいいかもしれませんよ?」

大和「提督が乗り気でないのは重々承知してるつもりですが、万が一の事態のことを考えますと……」

提督「……状況次第では、嫌だ嫌だで通せる話でもねえってか。仕方ねえな……」


ルミナ「とりあえず問題は、彼女たちから深海棲艦の要素の分の魂を引き?がして問題ないかどうか、だね」

ルミナ「例えば、その山雲君を構成する魂のうち、深海棲艦の要素が仮に1割だとしても、魂が欠ければ能力が低くなると思う」

ルミナ「それを補うのが、そちらでいう近代化改修だったかな? 艦娘の艤装と魂の力を、ほかの艦娘の魂の力に加えるという儀式だね」

提督「……そんなことやってたのか」

ルミナ「個人的な見解だけど、生まれたばかりの艦娘が本来の力を出せないのは、魂の欠落があるからだと推測しているんだ」

ルミナ「同じ艦娘が複数存在して性格も少し違うのも、大本の魂が分裂しているとか、魂の形が若干変わったからとか……」

提督「分霊化とは違うのか?」

ルミナ「似たようなものじゃないかな。言葉の意味をどう捉えるかだけど、それ自体にあまり違いはない気がするね」

ルミナ「いずれにせよ、なにかを生成するときに、何かが欠けたり不純物が混じったりというのは、往々にしてよくあることだよ」

ルミナ「完全完璧な生物が生まれてこないのと同じようにね」

提督「山雲から深海棲艦の要素を取り出したら、その分だけ艦娘の要素をどうにかして入れてやれ、ってことか」

ルミナ「そうだね。移植なんだから、引いたら引いた分だけ足してあげないと」

大和「欠けた魂は自然に元に戻らないんですか?」

ルミナ「実験してみないと正確なところは言えないけど、戻らないんじゃないかなあ?」

ルミナ「自然治癒とは理屈が違うし、魂が勝手に増えて補完するとは思えないね」


ルミナ「むしろ、生傷を治療せず放置したときみたいに、欠けたところからその辺の雑霊を取り込んで悪化する可能性もあるかもだよ?」

提督「……それ、見たことあるな。その辺の余計な魂取り込んで、悪霊みたいになったやつ」

大和「え」

ルミナ「だとすれば、放置しておくのは得策じゃないね。もっとも、強い思念を持つ魂は、たとえ欠けてなくても集まるものらしいけど」

提督「対策考えてやらねえと駄目か……」

ルミナ「まあ、厳密に魂の移植まで必要か、と言われれば、私は必要ないかもと思っているけどね?」

提督「ん? なんでだ?」

ルミナ「あの島の騒動で、君を庇って倒れた電君や吹雪君のことを思い出したまえよ」

提督「……?」

ルミナ「あの場に居合わせたツバキ君たちに聞いたけど、彼女たちは命を落としたにも関わらず、深海化しなかったそうだね?」

ルミナ「深海化した初春君や朧君も、深海棲艦から作られた弾丸を身に受けている間だけ深海化していたそうじゃないか」

大和「そ、そうなんですか?」

提督「あ、ああ……そういえばそうだった」

ルミナ「もし魔神君の心配が正しいとしたら、轟沈を経験している彼女たちも死んだ時点で、完全に深海化していたと思うんだけど?」

提督「……」


大和「それは……それこそ提督のおかげではないでしょうか?」

ルミナ「心当たりがあるのかな?」

大和「私たち艦娘は……戦争に赴く私たちの願いは、守ること。私たちが守りたいのは、私たちの帰りを待ってくれている、大切な人」

提督「……」

大和「これまで提督は、私たち艦娘のために……私たちの望みのために身を尽くしてくださいました」

大和「私たちは、そんな提督のもとで戦えることが嬉しかった。中には、前の鎮守府の心残りや、そこで抱いた無念を晴らせた艦娘もいます」

大和「そんなことがあったのですから、その時には、彼女たちが深海棲艦になってしまうような恨みが残っていなかったのではないでしょうか」

ルミナ「ふむ……私たちには理解しがたいけど、そういうものなのかな?」

大和「はい。それに、あの子たちは提督を庇って倒れたんですよね。ある意味では本望だったのではないか、と思っていますよ」

大和「かくいう私も、少しだけ羨ましいと思いました。提督はやめろと仰るかもしれませんけれど」フフッ

提督「ああ、やめてくれ。二度と御免だ」ハァ


ルミナ「ということは、やっぱり艦娘が深海棲艦になる現場か、その逆の現場を掴まないと、そのあたりは証明できなさそうだねえ」

提督「そういうことなら、泊地棲姫に詳しく話を聞きに行くか。軽巡棲姫も少しは話せるとありがたいんだけどな」ナデ

軽巡棲姫「ンフフ……」、ムニャァ…

ルミナ「……寝ながら笑ってるねえ」

大和(羨ましい……)

ルミナ「それにしても、その頭を撫でられる行為と言うのは、そんなに嬉しくなるものなのかな?」

大和「なりますよ?」

提督「即答かよ……」

大和「即答ですね」ニコー

ルミナ「……今度は、魔神君に頭を撫でられることで得られる効能の調査でもしようかな?」

提督「やらなくていいぞ。下手にお前が効果があるなんて結論を出しちまったら、面倒臭えことになりそうだ」

大和「提督の前に行列ができてしまいそうですね」フフッ

提督「ああ。さて、泊地棲姫はどこに行ったか知ってるか?」

というわけで今回はここまで。

次は深海側に関する動きのお話の予定。

続きです。


 * 島の南岸 *

 (溶岩で覆われた島の南岸に、小型船が座礁している)

提督「なんだこりゃ」

泊地棲姫「密航船ラシイワヨ?」

提督「密航船? この島にか?」

ニコ「人間の気配がプンプンしたからね。そういう船なんじゃないの?」

提督「ニコもこっちに来てたのか。泊地棲姫もそうだが、二人ともこっちにいたのはなんでだ?」

ニコ「ぼくは侵入者の撃退のつもりで来たんだけれど」

泊地棲姫「私ハ、知ッテル気配ヲ感ジタカラヨ。ホラ」ユビサシ

戦艦棲姫「……アラ、艦娘ニ……人間モ住ンデルノネェ……!?」ジロリ

大和「戦艦棲姫……!」

提督「戦艦? また姫級かよ……なあ泊地棲姫、こいつがこの島に来た理由はわかるか?」

泊地棲姫「エエ、ソレナラ……」

ル級「連レテキタワヨ……アラ、提督モ来テタノネ」


集積地棲姫「オ、オマエモ来タノカ……戦艦棲姫」

戦艦棲姫「アア、集積地ッタラ、ココニイタノネ!」パァッ

提督「集積地棲姫、あの深海棲艦はお前の知り合いか?」

集積地棲姫「アア……ナントイウカ、気ニ入ラレタトイウカ……」

戦艦棲姫「泊地棲姫、コノ人間ガ集積地ヲ誑カシタノ……?」ゴゴゴ…

泊地棲姫「ソウジャナイ。集積地棲姫ハ、人間ノ襲撃カラ避難シタクテ、自分カラ、コノ島ヲ訪ネテキタノヨ」

戦艦棲姫「本当デショウネ?」ジトッ

提督「本当だよ。この島は……」


 * 説明中 *


戦艦棲姫「フーン……ツマリ、コノ島ナラ集積地ハ安全ダッテイウノネ?」

提督「取り決めの上ではな。もちろん、そういう約束を守ってくれる人間ばかりだとは微塵も思っちゃいねえ」

提督「どうせこの船も、そういう人間どもの船だってことなんだろ?」

ニコ「そうだと思うよ。武器だって残ってたし、あいつらがきみに攻撃したのは事実だよね?」


戦艦棲姫「ソウネ。効カナイッテイウノニ、コバエミタイニ鬱陶シイカラ、沈メテアゲヨウト思ッタノヨ」

集積地棲姫「トコロデ、コノ船ノ中ニイル人間タチハ、ドウシタンダ? 妙ニ静カダゾ」

ニコ「それなら、ぼくたちが全員始末したよ」

大和「え」

提督「周りに艦娘はいなかったのか?」

ニコ「いなかったよね?」

戦艦棲姫「私ハ見テナイワ」

提督「そうか。ならいいや」

大和「……」アタマカカエ

泊地棲姫「ナンダ、ナニカ文句アルノカ」

大和「いいえ? こういうことが起こると予測出来てはいたけれど……それが実際に起こってしまって嘆いているだけよ」ハァ…

チェルシー(船の中から)「あ、キャプテンだ! おーい、キャプテーン!」フリフリ

イーファ「ご主人様ー!」

提督「うん? なんだ、お前たちもここに来てたのか」


ニコ「人間の始末をしてもらったついでに、船内の荷物も改めさせてもらってたんだ」

チェルシー「そうそう! 見てよこれ!」

提督「つるはし? ……ああ、そういうことか。この船、盗掘目当ての密航船か」

コーネリア「そうみたいだね。船の中には、あたしの槍を括りつけたような機械も転がってたぜ」

提督「なんだ? 残虐系メディウムが多いな?」

コーネリア「あたしは戦いに飢えてるだけだよ」

チェルシー「私は船に乗りたかったんです!」

イーファ「ぼくは、ご主人様のお役に立ちたいな、って……」

提督「……ま、いいけどよ」

戦艦棲姫「ネエ、盗掘ッテ、ドウイウコト?」

提督「ついこの前、この島の北の海底火山が噴火したんだ。この溶岩の中に入ってる鉱石を狙ってきたんだろう」

戦艦棲姫「フーン」


集積地棲姫「提督、コノ船ハドウスルンダ」

提督「ん? うーん、ぼろ船だしな。特に使い道もねえし、妖精に頼んでバラしてもらうか」

集積地棲姫「ソレナラ、私ニ解体サセテクレ」

提督「お前が?」

集積地棲姫「コノ船ニ使ワレテイル鉄ヤ残ッテイル燃料ヲ、引キ取ラセテホシイ」

提督「んー……わかった。じゃあ、任せていいか?」

集積地棲姫「イイノカ!? ヤッタ!」ガッツポ

大和「よろしいんですか?」

提督「戦艦棲姫に喧嘩売った奴らの船だ、その縁者が押収するのは成行き的にも悪くないと思うぜ?」

泊地棲姫「ナンダ、提督ノ決メタコトニ、艦娘ガ文句ヲ言ウノカ」

大和「私は、提督のお立場が悪くならないか心配なだけです」プー

コーネリア「フッ、人間どもの評判を気にしてるのか? そんなもの、犬にでも食わせておけ」

チェルシー「むしろ、もっと恐れを抱いてほしいよね! イフとイケイの念、ってやつをさ!」

イーファ「ぼくは、ご主人様がぼくたちに優しければ、それでいいよ?」

ル級「大和ハ、提督ガ万人ニ好カレルコトヲ望ンデルミタイダケド、提督ガソンナ気ジャナイモノネ」フフッ

大和「私は無暗に提督に敵ができることを疎んでいるだけです!」プクー


提督「ああ、こっちから喧嘩を売るような真似はしねえよ。仕掛けてくる奴は徹底的に叩きのめすってだけだ」

大和「提督はそれでよろしいんでしょうけどぉ……」ムー

ニコ「ぼくは少し大和の気持ちがわかるよ」

チェルシー「えー?」

ニコ「魔神様は、ぼくたちのために人間の前に姿を現して、わざわざ追い払ったり、おびき寄せる役をしてくれたりしてる」

ニコ「そのせいで、魔神様に命の危険が及ぶのは気が気でないし、またあんなことになったら、お姉ちゃんとしては許せないよ?」

ル級「ソウネエ、死ニタガリナトコロハ、私モナントカシテホシイワネ?」

提督「なんだお前ら、寄ってたかって……」

軽巡棲姫「提督……」ヌッ

提督「うおっ!?」

軽巡棲姫「提督、ドコニ行ッテタノォォォ!」ガッシィ!

提督「だああ! お前いきなり後ろに現れて抱き着くな!」

ルミナ「ああ、ごめんごめん魔神君。彼女を介抱してたんだけど、目を覚ました途端に君を探し始めてさあ」

提督「依存症にもほどがあるだろ!?」

戦艦棲姫「……変ワッタ人間ネエ?」

ル級「マアネ~」ウフフ


 * *

提督「ってことは、艦娘が深海化するところは、誰も見たことないのか」

泊地棲姫「鹵獲シタコトハアッテモ、イタブッテカラ沈メヨウトシタダケダカラネエ。ワザワザ沈メタアト観察ナンカシナイシ」

戦艦棲姫「意図的ニ艦娘ヲ深海棲艦ニシヨウナンテ、考エタコトモナカッタワネ?」

集積地棲姫「ソウダナ。解体シテ資材ニデキナイカト考エタコトハ、アッタケド」

大和「……」

ル級「大和ガ、スゴイ顔シテルワ」

提督「まあ、大和に限らず艦娘には不愉快な話だろうさ」

軽巡棲姫「私ハマダ沈メテナイ」ドヤッ

提督「沈める気はあったんじゃねえか」

軽巡棲姫「ダッテ、アナタヲ撃ッタノヨ!?」

提督「……」

ル級「提督ガ、スゴイ顔シテルワ」

大和「提督? そこで微妙そうな顔をなさらないでください」

ニコ「そうだよ。魔神様のことを思って行動したのなら、むしろ褒めてあげないと」

提督「ニコはともかく大和もそういうこと言うのはどうなんだ」タラリ


ルミナ「ふむ……とにかく、艦娘が深海棲艦になったり、その逆だったりという場面には、誰も遭遇してないということだね」

提督「そうみたいだな。まあ、沈めた相手を見送ることはあっても、見続けたりは普通しねえよな」

大和「そうですね……」

戦艦棲姫「ア、デモ……アイツナラ、沈メタ艦娘ヲ、シツコク観察シテソウジャナイ?」

集積地棲姫「……アア、アイツカ……」

提督「そんな奴がいるのか?」

戦艦棲姫「エエ。オ前タチガ、アイツヲドウ呼ンデルカ知ラナイケド」

集積地棲姫「長イ尻尾ヲ持ツ、戦艦クラスノ深海棲艦ダ。知ッテイルカ?」

提督「もしかして……レ級か?」

大和「レ級!?」

提督「特徴を聞く限りはな。それはいいとして、お前たちはそいつに今の話を確認することはできるか?」

戦艦棲姫「……難シインジャナイカシラ? アイツトハ、会話ガ成リ立ッタ記憶ガ、ナイノヨネ」

提督「そうなのか? じゃあ、訊かなくてもいいな。そこまで急いで調べたい話でもないし」

ルミナ「えー……」

提督「えーじゃねえよ。会話が成り立たないとか、情報収集以前の話じゃねえか」

泊地棲姫「私モ、アイツトハ、マトモナ会話ハデキナイト思ッテイルゾ?」


集積地棲姫「アイツ、戦闘狂ダカラナ。私ハ、アイツガ誰カト喋ッテイルトコロヲ見タコトハナイゾ」

戦艦棲姫「挨拶代ワリニ噛ミ付イテクル個体モイルワヨネ」

コーネリア「へぇ……あたしと気が合いそうじゃないか。一度殺り合ってみたいもんだ」

チェルシー「コーネリアも戦闘狂だからね~」

提督「それだけに情報収集には不向き、と」

ル級「近ヅクコトスラ危ウイ感ジネ?」

大和「話が通じなさそうですね……」

ルミナ「はぁぁぁ……」ガックリ

提督「そこまでがっかりすんな。気長に次の機会を待ちな」ナデナデ

ルミナ「……そうだね。そうするよ。けど……」

提督「?」

ルミナ「頭をなでられたときの効能は調べられそうだねえ」フフッ

提督「……」

イーファ「……いいなあ……」ボソッ

集積地棲姫「トリアエズ、コノ船ヲ曳航デキナイカ?」

戦艦棲姫「マカセテ!」パァッ

提督「大和、ル級、使って悪いがお前たちも手伝ってやれるか?」

大和「はい、お任せください!」

ル級「アナタノ頼ミナラ仕方ナイワネ」フフッ


 * 一方、本営 *

曽大佐「H大将閣下! あなたともあろうお方が血迷ったのですか!?」

曽大佐「深海棲艦は我らの敵です! 世界中に恐怖と破壊をもたらす災いの権化です!」

曽大佐「人間をやめて深海棲艦を率いるような男と和平を結ぼうなど……深海棲艦の殲滅を誓ったあなたはどこへ消えたのですか!」

H大将「落ち着け。俺自身、まさかこんな身の振り方をするとは思ってもいなかった」

H大将「深海棲艦とは何の話も通じず、ただ人間を攻撃し殺戮する……そういう存在だからこそ、深海棲艦は危険な存在だと認識していた」

H大将「それが覆されたんだ。受け入れがたいだろうが、あの島とあの船の周辺の深海棲艦は攻撃してこない。今はそれが事実だ」

曽大佐「それこそ罠です! 閣下が話し合いをしているその男の下には、罠を模した連中もいるのでしょう!?」

曽大佐「自らが罠だと、そういう看板をぶら下げているというのに、閣下は何故、あの男を信じているのですか!!」

曽大佐「あの男の部下の艦娘に命を救われたことこそ、罠ではないのですか!!」

H大将「……」

曽大佐「目を覚ましてください、閣下! これまで深海棲艦の悪行を……蛮行を、我々は嫌と言うほど見て、味わってきたではありませんか!」

曽大佐「我々の無念をお忘れですか!? 我々の、これまでの犠牲をお忘れですか!!」

H大将「お前こそ少し頭を冷やせ、曽大佐。俺も深海棲艦による蛮行を許すつもりはないし、許したわけでもない」

H大将「だが、これから奴らが起こすかもしれない蛮行を食い止める方法が見えたのなら、それを見過ごすわけにもいかんのだ」


H大将「これ以上の悲劇を繰り返さないために、力なり説得なりで、深海棲艦を抑え込もうとしている。それを今X中佐たちが……」

曽大佐「閣下は我々より、あんな小僧の世迷言を信じるというのですか!」

曽大佐「自分は、最早我慢なりません……! あの島に、忌々しい深海棲艦どもが集まっているのでしょう?」

曽大佐「姫級や鬼級といった連中も、あの島に来ているのでしょう!? 今すぐにも打って出るべきです!!」

H大将「……」

曽大佐「人類の敵となる深海棲艦が、人類を裏切った輩と手を組めば、人類の敵になる以外の未来は見えないはず! 違いますか!」

H大将「……仮にそうだとしても、戦う気のない連中に喧嘩を売れば、新たな遺恨と火種を生むだろう。二度と平和的な解決は……」

曽大佐「そのようなことであれば御心配には及びません。海軍最高の戦力を有する我が艦隊が、一隻残らず殲滅して御覧に入れましょう」

H大将「曽大佐……!」

曽大佐「H大将閣下、これまでのご指導、ありがとうございました。今後の深海棲艦との戦争は自分おに任せください」

H大将「おい、曽大佐!!」

 スタスタ…

H大将「曽大佐……!」


 * 翌日 *

 * 墓場島沖 医療船内 X中佐私室 *

X中佐「……ということで、Wたちが危惧していた通りの事態が発生している」

提督「だから、なんでお前はそうやって俺に告げ口するんだよ。お前、そのうち裏切者扱いされるぞ?」

X中佐「裏切るも何も、僕は最初からこうだよ。深海棲艦と話がしたいって、ずっと主張してきたんだ」

提督「お前……本っ当に、よく今まで生きてこられたな?」

X中佐「……」

提督「大将の身内だからってのもあるんだろうが、そうじゃなきゃ今回の騒ぎでついでに消されてたかもしれねえんだぞ」

X中佐「……君は、本当に言うことに容赦がないね?」

提督「こういうことをオブラートに包んでどうするよ。良薬は口に苦ぇし忠言は耳に逆らうもんだ」

提督「事実、今回の事件で大将2人が殺されかけてる。F提督もそうだった。お前も主張を同じくするなら、もう少し危機感持てってんだよ」

X中佐「……そうかもしれない。けど、それで君たちが知らずに攻撃されたとあっては、僕たちの誠意も伝わらないだろう?」

X中佐「ようやくここまで漕ぎ着けたんだ、怖気づいてはいられないよ。君にとっても他人事ではないんだからね」

提督「……危険は承知の上、ってか? まあ、そこまで覚悟決めてんなら仕方ねえな……」

X中佐「心配してくれているんだね。ありがとう」

提督「俺は面倒を避けたいだけだ。礼を言われる筋合いはねえよ」


提督「それよりもだ、曽大佐ってのはどんな奴なんだ? 深海棲艦に身内を殺されたとか、そういう手合いか?」

X中佐「そこは……そうだね。まあ、志願した大体の提督はそうなんだけど、曽大佐は特に恨みが深いみたいだ」

X中佐「同様にH大将の行動に納得していない提督たちが、曽大佐と一緒に離反する動きもある」

提督「ま、仕方ねえか。派閥の長のいきなりの方向転換だ、ついていけないから独自の派閥を作ろうってのも自然な流れではあるな」

提督「けどよ、そいつらは、どうしてH大将がそういう考えに至ったのか、ちゃんと話し合って納得したうえで別れたのか?」

X中佐「どうだろう? H大将からは、彼らは聞く耳を持たなかったって言ってたけど……」

提督「喧嘩別れっぽいってか。それならそれで好都合だ」

X中佐「……それはどういう意味だい?」

提督「気にすんな。それより今更訊くが、H大将が俺たちの話を聞いて方針を変えてくれたのは、なぜなんだ?」

提督「もともとは深海棲艦と繋がってるであろう俺をしょっ引くために島に来たんだろう?」

X中佐「中将閣下が教えてくれたんだけど、H大将が深海棲艦を撃滅しようと考えたのは、中将と何度も話し合った結果だって聞いてるよ」

X中佐「中将が深海棲艦に足首を触られて以来、その足を悪くして杖が要るようになったことは君も知ってるよね?」

提督「ああ。そういう相手だから、滅ぼすしかないって頭だったんじゃねえのか?」

X中佐「……以前はH大将も、人の姿をしていて言葉も話せるんだから、こちらの言葉も通じるんじゃないかと考えていたそうだ」


X中佐「でも、艦娘という、人間の姿をして、人間の味方をする、人間ではない存在が確認できてしまった」

X中佐「だとすれば、人間の姿をした、人間ではない人間の敵がいることも、同じように認めないといけない、って」

提督「……」

X中佐「なにより、海軍は人間の……国民の命と財産を守ることが本分だ」

X中佐「言葉が伝わらず、深海棲艦に触わられた人間がただでは済まないとあっては、その本分を守り切ることができないと考えた」

X中佐「だからH大将は、深海棲艦を敵と見なして撃滅することを選んだんだ」

提督「……手前の考えより海軍の本分かよ。そりゃご苦労なこった」

X中佐「そこは君も同じじゃないか。自分の命より艦娘の未来を重んじていたんだろう?」

提督「……」

X中佐「とにかくH大将は、そういう理由で深海棲艦を殲滅しようと決めた。でも、その前提がひっくり返された……話ができるようになった」

X中佐「だから、H大将の行為は裏切りなんかじゃない。H大将は、人間を守るためにできることをやっているだけにすぎないんだ」

提督「……なんにせよ、それが曽大佐は気に入らなかったってこったな?」

X中佐「そこはその通りだ。残念だけどね」

提督「やれやれ、J少将には殺されかけて、今度は別の部下に見限られてるとか、ついてねえにも程があるな」


提督「朧が一体なにをしたのかは知らねえが、死なずに済んだことくらいは、不幸中の幸いってことでいいよな?」

X中佐「そう思いたいね。ただ、もうひとつ頭が痛いのが、J少将のことなんだ」

X中佐「実は、J少将がH大将を暗殺しようとしたって話自体が、海軍の中でも結構衝撃的な話でね……」

提督「なんだそりゃ? J少将って、そんなに外面良かったのか?」

X中佐「評判は良かったと思うよ。深海棲艦の撃滅を主張してたけど、おおやけには和睦派にも理解を示すような発言があったというし」

X中佐「曽大佐たちのような過激派には、和睦派を責めるなとなだめつつ激励するような、バランス感覚と取れた人物だと聞いてたよ」

X中佐「だからこそ、J少将があの大佐と一緒にメディアの前に出ることを当時の本営が善しとしたわけだし」

X中佐「海を守る仕事を艦娘に奪われたことを嘆いてたことも、人間味があったと共感を買っている」

X中佐「それでいて艦娘を率いる『提督』になった人たちにも分け隔てなく接していたくらいだから」

X中佐「J少将を悪者にしたくないと思う人もそれなりにいて、H大将から距離を置こうとする者も増えているというわけなんだ」

提督「そいつは面倒臭えな……」

X中佐「……でも、大将2人の殺害を計画したことは間違いないんだ」

X中佐「それに、F提督たちの乗った船を襲った事件に、J少将が関わっていたという調査結果もある」


X中佐「深海棲艦の撃滅という目標は同じはず。深海棲艦製の銃弾を使いたいからという理由だけで、こんなことをするだろうか?」

提督「……」

提督(まあ、かなり入念に猫をかぶってたんだろうなあ……だからこそ、青葉の写真に過剰反応した、ってことだろうな)

X中佐「そこを解明しないと、海軍内部が……っと、ごめん、この話は、いまの君には関係ないね」

提督「……そうだな。それはそっちで片付けてくれ」

提督「とにかく、曽大佐がH大将の下から抜けて、この島に攻めてくるかもしれねえ、って話だな?」

X中佐「うん。僕たちもWを通して可能な限り引き留めるけど……」

提督「前も言ったが、攻めてくるなら命の保証はしねえぞ。大目に見てやれるのは最初の一回きりだ」

提督「最初だからこそ、最悪の見せしめにしてやろうとも思ってるからな。曽大佐にはそんな感じで釘を刺しとけ」

X中佐「……わかった。できれば、お手柔らかに頼むよ……?」

提督「ああ。できる限り、手心は加えてやるよ」スクッ

 扉<チャッ パタン

廊下に出た提督「……悪いほうに、な」ポツリ

今回はここまで。

三越modeで戦艦棲姫と集積地棲姫が仲良さそうにしてたので、
ここへ来た二人はそういう設定にしちゃいました。

続きです。


 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

時雨「良かった、この島にもこんなスペースができてたんだね」

提督「仮設だけどな。とりあえずお前の言う通り人払いもしたし、ニコにも話はつけた。俺が話すまで動くなと釘も刺したしな」

時雨「知る限り、メディウムのみんなは提督の言うことに従順だしね。これなら安心して相談してもいいかな」

提督「……」

時雨「提督。これから僕が話すことを、疑わないで聞いてほしい」

時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来のことを……」

提督「……わかった」

 * *

時雨「……僕はエフェメラの力で、あの溶岩で燃え盛る島に幽霊の姿で送られたんだ」

提督「……」

時雨「そして僕は、女神妖精さんの復活のために、ベリアナが持っていた魔法石を利用した」

時雨「そのあとは、君が不知火から聞いた通り。復活した妖精さんが、墓場島で眠っていた魂の力を呼び起こして、提督たちを脱出させた」

時雨「僕はその時、エフェメラに引っ張られて、燃える島から脱出するところを見届けられなかったんだけど……」

時雨「代わりにあの世の入口でのんきに寝ていた提督と無事邂逅できた、というわけだね」

提督「……」


時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来と、僕が戻ってきてからの話は、そんな感じかな」

提督「……」

時雨「……」

提督「……」

時雨「提督? 聞いてる?」

提督「……情報量が多すぎる」

時雨「え?」

提督「ちょっと整理させろ……えーと、まずなんだ? ベリアナが俺たちを助けた場合、俺が如月たちと融合したんだって?」

時雨「うん」

提督「で、如月たちがメディウムに生まれ変わって、俺が上半身だけになって……?」

提督「俺を復活させるために、ニコたちが俺を向こうの世界へ連れてって……そっちの世界の人間を手当たり次第殺したと」

提督「で、いつの間にかこっちの世界の横浜の施設を乗っ取ってて、そっちでも人間を手当たり次第殺して?」

提督「そこで俺が、いろいろあって死んだ人間の魂に操られた魔神として復活して、艦娘たちを攻撃して」

提督「そいつをメディウムと艦娘が倒して俺を助け出して……そのまま俺と艦娘がまたニコたちの世界へ行って?」

提督「数年後には残っていたうちの艦娘がボロボロで……政権も変わって艦娘の立場が悪くなって……」

提督「で、俺がこの世界を潰しに帰ってきた……」


時雨「いくらか抜けてると思うけど、だいたいそんな感じかな」

提督「いやいやいや、なんだよそりゃあ……」アタマカカエ

時雨「提督? 大丈夫?」

提督「……あんまりよろしくねえな。とにかく、お前が見てきた向こうの俺は、艦娘たちを守れなかったんだな……?」

時雨「そうだね。少なくとも、いまと同じ姿を保ったままの艦娘は、あんまりいなかったよ」

提督「だからマジで世界を滅ぼす気になったってことだろうな……どうしようもねえな」ハァ…

時雨「それで、提督。ここまでの話で、なにか聞きたいことはあるかな?」

提督「ああ、とりあえず順番に聞くか。俺の体が艦娘と融合してたってのは、どういうことなんだ?」

時雨「うーん……多分だけれど、近代化改修に近いことが起こっていたんじゃないかな? 提督も半分は深海棲艦だからね」

時雨「みんな弱ってて死にかけていたというのも、その一因になってるのかも」

時雨「あとは……ブラックホールなんて珍しい空間内にいたからとか? 入ったことないから、どんな感じかわからないけど」

提督「だんだん人間離れしていくな……つうか、魔力槽に入った時点でそうなってたか」

時雨「あれ? 提督は、人間を辞めたかったんじゃなかったの?」

提督「辞めたいとは言ったが、そこまで常識はずれな存在になりたいわけじゃねえよ……」

時雨「贅沢だね」

提督「そう言うなよ。魔神としていろんな力を身に着けるのはいいが、いるだけで無意識に艦娘を傷つけるような能力は望んでねえ」


提督「ただでさえ積極的にくっついてくる艦娘が多いからな。如月とか大和とか金剛とかはっちゃんとか軽巡棲姫とか初雪とか……」ユビオリカゾエ

時雨「……くっついてくるのを拒否はしないんだ?」

提督「ちょっと拒否したところで聞かねえよ。悪化する奴もいるくらいだから諦めてる」トオイメ

時雨「……ふーん」

提督「それから、いまの話で聞いてて一番やべえと思ったのは横浜の研究施設だ」

提督「深海棲艦だけじゃなく、艦娘も研究とか言ってバラしてたんだって?」

時雨「うん。鹵獲した深海棲艦の調査から、どんな命令も聞く艦娘を作り出す研究や、艦娘から深海棲艦を作りだす研究をしてたみたい」

提督「艦娘から深海棲艦を作りだす……って、なんだそりゃ?」

時雨「おそらくだけど、J少将は、深海棲艦も艦娘も、海から排除するつもりでいたんだと思う」

時雨「J少将は、制海権……自分の仕事場である海を、艦娘と深海棲艦に奪われたことを嘆いていたそうだからね」

時雨「艦娘が、本当は恐ろしいもの……艦娘が深海棲艦になりうるものだと公表できれば……」

時雨「深海棲艦を滅ぼしたあとに艦娘を海から追い出すこともできると考えたんじゃないかな?」

提督「……」

時雨「それから、深海棲艦から武器を製造する研究も、ここで続けられてたようだよ」

提督「そうか……そいつらが、あの大佐たちの研究を引き継いでやがんのか。ってことは、深海棲艦の鹵獲も続けて……ん?」


提督「もしかして、深海棲艦の鹵獲じゃなくて、艦娘の深海化でそれをやろうってことか……?」

時雨「提督もそう思うのかい……?」

提督「ああ。H大将も言ってたな、深海棲艦の鹵獲はリスクがありすぎる、って」

提督「艦娘を建造するのはそれよりはるかに簡単なんだから、そいつを深海棲艦にしちまえば生産性も格段に変わる」

提督「もしかして榛名や那珂が言ってた養成所とか言う施設も、そこなんじゃねえだろうな……!」

時雨「かもしれないね……ねえ、提督はその施設をどうするつもり?」

提督「……どうする、っつっても……今はどうにもできそうにねえな」

時雨「弱気だね?」

提督「慎重と言えよ。そもそも片手間で始末できるような相手とは思えねえ」

提督「かといって放っておいていい相手でもねえと思うが、今はこの島の体制を整えるほうが先だな」

提督「そもそもその施設に関する情報が全然揃ってねえし、中途半端に動いて向こうに気取られるのも面白くねえ」

提督「やるんならちゃんと情報を揃えて、関わってる奴全員集めて一網打尽にしてやらねえと駄目だな」

時雨「確かにそのほうが良さそうだね」

提督「あと、そのほかに警戒しなきゃいけねえのは、父親に味方したほうのエフェメラだ。あいつがどこまでこっちに絡んでくるか……」

提督「俺たちに味方したエフェメラは、俺たちとかろうじてコンタクトできる状態だった」

提督「向こうのエフェメラには察知されてないと思いたいが、あくまで希望的観測と見ておいた方がいいよな?」

時雨「そこはなんとも言えないけど、慎重に動いた方がいいのは同感だね」


時雨「ただ、もともと提督を魔神の生贄にすることがあっちのエフェメラの目的の一つらしいからね。もしその目的が変わってないとしたら……」

時雨「僕たちを支援してくれたエフェメラの存在に関係なく、今後も提督を絶望させようとしたり、怒りを煽ったりする可能性は高いと思うよ」

提督「……くそ面倒臭え……!」

時雨「ただ、魔神に忠誠を誓ってるわけだから、仮に君が魔神として完全に覚醒すれば、跪いてくれるかもしれないよ?」

提督「それはそれでなんか嫌だな……」

時雨「嫌がらせされるよりはいいんじゃない?」

提督「かもしれねえけどよ……どうせなら俺は、俺たちを助けてくれたエフェメラこそ迎えてやりたいぜ」

時雨「……うん。それは、そうだね」

提督「ああ……あとは……」

時雨「?」

提督「時雨、ちょっとつらいことを訊くが……お前以外の、この島に埋葬された艦娘の魂がどうなったかは覚えてるか?」

時雨「僕以外の……?」

提督「ああ。俺を助けようとしたエフェメラが、どうしてお前を選んだのか考えてたんだが……」

提督「それは、俺だけじゃなく、例えば扶桑のように、お前が他の艦娘たちのことをずっと気にかけていたからじゃないか、と思ったんだ」

時雨「……」


提督「よくよく考えてみれば、お前以外はほぼ無縁仏なんだ」

提督「電が所属していたB提督の部下だった艦娘や、初春と同じ鎮守府で初春と同じように捨て艦にされた艦娘も、この島に流れ着いている」

提督「だが、俺たちはそいつらと直接話をしたわけじゃない。お前のように看取ったわけでもなければ、生前に言葉を交わしたわけでもない」

提督「そこへ行くとお前は、俺より扶桑や山城と付き合いがあったし、朝雲や五月雨とも話しただろ?」

時雨「うん……」

提督「だからお前が俺たちの……いや、扶桑たちのか。未来を見ることにつながったと思ってる。だからエフェメラにも声をかけられた」

時雨「そうかもしれないね……」

提督「この島に埋葬された艦娘は多い。いま、お前や早霜たち以外の艦娘の魂が、どこへ行こうとそいつらの自由ではあるんだが……」

提督「……できれば、望む通りのところに行きついて、穏やかでいてほしいもんだな。虫のいい話だけどよ……」

時雨「……」

提督「悪い。今の話は聞かなかったことにしてくれ。死んだ連中の話は、俺にはどうにもできねえからな」

時雨「……」

提督「時雨?」

時雨「……僕以外の、か……そういえば、あまり気にしてなかったというか、気にかけていられなかったよ」

時雨「提督は、心配性が過ぎるね。艦娘に好かれるわけだ」

提督「……そういうもんか?」


時雨「そういうものさ。自分がひどい目に遭ってるのに、艦娘のことを気にかけるんだもの」

時雨「僕たちだって、誰かのために……艦娘のために、自分が犠牲になることをいとわない人がいたら、好意を抱くのは当然さ」

時雨「かつての僕たちもそうだったんだからね。僕たちは、好きな人たちのために……好きな人たちの未来のために、命を懸けたんだ」

提督「……」

時雨「さてと。僕が伝えたいことは一通り伝えたかな」

提督「……ああ。ありがとな」

時雨「提督? どうしてそんな浮かない顔をしてるんだい?」

提督「……いや。なんでもねえ」

時雨「そういう思わせ振りな態度は良くないね。ちゃんと話してよ」ウデツカミ

提督「……っ、だからなんでもねえよ。俺はただ……」

時雨「ただ?」ズイ

提督「……ただ、その、好きってのが、いまいちわからねえってだけだ」

時雨「まだそんな寝ぼけたことを言ってるの? やれやれ、提督には失望したよ」カタスクメ

提督「……」

時雨「提督はそんなもの、もうとっくに理解していると思ったんだけど」


時雨「実際に、提督はここの艦娘たちから愛されてるじゃないか。僕は単純に、提督がそれを認めようとしないだけに見えるよ?」

提督「あ、愛され……そ、そんなわけねえだろ!?」

時雨「どうしてそんなに自己肯定感が低いのかな。あれだけの人数の艦娘がいて、みんなが君を認めているっていうのに」

提督「そ、そういうのは信頼ってやつで、好きとか愛とかとは違」

時雨「そうやって艦娘の気持ちを否定して蔑ろにするのはやめてくれないかな」ジロリ

提督「ぐ……」

時雨「提督がそうやって艦娘たちの好意を頑なに拒否し続けていたのは、最終的に提督が艦娘たちの前から後腐れなく消えるためだったよね」

時雨「それが今は、もう簡単に死んじゃいけない立場になってんだ。以前とは状況が違うんだよ? 自分でもそう言っていたじゃないか」

時雨「提督は、これから先ずっと艦娘たちと一緒なんだ。それを『契り』と呼ぶ以外になんて呼べばいいのさ?」

時雨「ずっと誰も受け入れないで、みんなには片思いを強いるくせに、みんなで仲良く暮らせって?」

時雨「不満の火種になっているのは君だっていうのに、まるで自分は部外者だと言わんばかりに他人事だ。呆れて物も言えないよ」

提督「……い、いや、そうじゃなくてだな、そういうのは普通一対一で」

時雨「だったら一人選びなよ。どうせ選べないくせに」

提督「……」

時雨「誰かを選んだら他の人が傷付くから選べない、なんて臆病者の情けない言い訳なんか聞きたくもないね」


時雨「そういう腑抜けた考えなんか捨てて、もう観念して全員と『契り』を結べばいいんだよ」

提督「んな……っ!?」

時雨「艦娘はジュウコンカッコカリくらい気にしないよ。一夫多妻制が認められている国だってあるんだし、そもそもこの島に男は君だけなんだ」

時雨「順番くらいは気にするかもしれないけど、この島で暮らそうって時点で不貞なんて最早存在すらしてないはずだよ?」

時雨「あ、メディウムや深海棲艦はそうでもないかな? だとしたら頑張って機嫌を取ってあげなきゃね」

提督「……」アッケ

時雨「ほら、提督。みんなで幸せになろうよ?」ニチャァ…

提督「どこまで本気なんだお前は……」

時雨「僕はどこまでも本気だよ?」ニコ

時雨「まあ、あとは提督がどこまで耐えられるかなんだけど……」

提督「……俺の精神がどこまで持つかってか? ったく、軽々しく言いやがって……」

時雨「ん? そうじゃないよ。精神じゃなくて、えっちに関しての話だよ」

提督「ブハッ!?」

時雨「……リアルに噴き出す人、初めて見たよ。っていうか、言ったじゃないか、『契り』って。何をカマトトぶってるのさ」

時雨「とはいえ、提督は性交渉に嫌悪感を持ってるみたいだから、どうやって克服してあげたらいいかな。荒療治で悪化させても問題だし」

提督「……」アタマカカエ


時雨「頭を抱えてないで、提督も真剣に考えてよ。どうして君のシモのお世話を僕が考えなきゃならないか、少しは自覚して」

提督「お、お、お前なあ」セキメン

時雨「提督がはっきりしないから僕がここまで言うんじゃないか。文句があるなら自分で何とかしてよ」

提督「……くそ。言い返せねえ」

時雨「とにかく、僕たち艦娘を大事だと思ってるんなら、態度で示しなよ。それが出来なきゃ、僕は提督のことをヘタレって呼び続けるよ」

提督「……」

時雨「なに? まだ悩んでるの?」

提督「……いや、そうじゃなくて……何をしてやったらいいかわからねえ」

時雨「は?」

提督「わかんねえんだよ。あいつらに何をしてやったらいいか!」

提督「俺はあいつらがにこにこ笑っていられりゃそれでいいんだ。それで足りないからと肉欲に走るのはどうなんだ?」

提督「愛情ってのはそんな短絡的なもんでいいのか? そういうのがわからねえのに体ばかり求めんのは間違ってるだろ……!」

時雨「……提督は本当に真面目だね」

提督「こちとら生憎と童貞なもんでな……そうでなくとも、あいつらをいたずらに弄びたくねえんだよ」

時雨「短絡的なんて言うけど、提督こそ難しく考えすぎだよ」

時雨「とにかく、君を慕う誰でもいいから、逃げずに真剣に向き合ってみなよ。相手が求めているものを、君は見落としてるかもしれないよ」

提督「……」


 * 執務室(家具なし) *

クレア「どうしたのまっさん? 元気ないね?」

提督「……お前のその個性的過ぎる俺の呼び方はどうなんだ。魔神だからまっさんか」

クレア「そだよー。てっさんのほうがいい?」

提督「あまり変な呼び方すんな。呼ばれたときに俺のことかどうかが判断できないから、反応できねえぞ」

クレア「そう? じゃあ、混乱しないように、これまで通りまっさんて呼ばせてもらうね!」

提督「……」

リサーナ「んもう、マスターったらノリが悪いぞぉ~? もっと元気出して! ね?」ピョンピョン

提督「俺はいつもこんなもんだぞ」

ベリアナ「ええ~? いつもより静かだってば~。ほらぁ、こっち向いてぇ? 私をもっと見て元気になってぇ~!」フワフワー

提督「……ふわふわ浮きながら脚おっ拡げてんじゃねえよ。少しは恥じらえ」

ベリアナ「やぁん、そんな石ころでも見るみたいな冷めた眼差し向けないでよぉ! 心が冷たくなっちゃうからぁ、温めてぇ~」ピトッ

リサーナ「ベリアナばかりずるーい! ほらぁ~、ウサギは寂しいと消えちゃうんだぞ~?」ピトッ

提督「……」

ヴェロニカ「まったく……坊やが呆れてるじゃない。おこちゃまは引っ込んでなさい」

ベリアナ「おこちゃまってなによぉ~! こぉんなカラダの持ち主を、おこちゃま呼ばわりするぅ~?」


ヴェロニカ「図体ばかりで肝心のおつむが追い付いてないじゃない。エミルのほうがまだ大人の自覚がありそうね」

ベリアナ「むー! なによう!」プンスカ!

クレア「ちょ、ちょっとぉ、落ち着きなよ!」

ヴェロニカ「私は落ち着いてるわよ。だいたい、坊やも落ち着きたくてこの部屋に来たんでしょう」

ヴェロニカ「もっとも、くつろぐはずが椅子すら置いてないから、当てが外れたみたいだけど?」

提督「まあな。昔はここに執務用の机と椅子もあったし、ソファもあったからな」

提督「ぶらぶら歩いてもしょうがねえし、部屋の下見も兼ねて腰を落ち着けて一息入れて、考え事をしたくて足を運んだんだが……」

リサーナ「えっ? なになに? どんなお悩み? 可愛いバニーさんがお悩み聞いてあげちゃうぞっ?」

提督「……」アタマオサエ

ヴェロニカ「リサーナ、あなたもお呼びじゃないみたいよ」

リサーナ「むー! そんなことないったら!」プンスカ!

クレア「だ、だから落ち着いてってば! ほら、まっさんの悩みって、明るく話せるような内容じゃなさそうだし!」

リサーナ「私は別に茶化してるつもりもないんだけどぉー!?」

ヴェロニカ「そうねぇ……険しい顔も嫌いじゃないけど、少しはまともにこっちを見てほしいわね?」

ベリアナ「そうよ~!? 私たちだって、ご主人様のことは心配してるんだからァん!」クネクネ


提督「……」

クレア「……うん、ベリアナはちょっとアレだね」

リサーナ「そうねぇ、ちょっとアレよねぇ?」

ベリアナ「アレってドレなの!? ナニなのお!?」

ヴェロニカ「言い回しがまさしくアレじゃない。解ってて言ってるわよね」

ベリアナ「ふふっ、やだぁ、どんなことかしらぁ? もしかしてぇ、ご主人様もそう思ってるぅ? 教えてほしいなぁ……!」

提督「面倒臭え……」

ベリアナ「めんどう!?」ガビーン

ヴェロニカ「……ねえ坊や、場所を変えたほうが良くないかしら。私が見ててあげるから、静かなところで……ゆっくりと、ね」

リサーナ「そう言って独り占めする気でしょ!?」ヒシッ

ベリアナ「抜け駆けは許さないんだからっ!!」ヒシッ

ヴェロニカ「あら、なんのことかしら」シレッ

提督「……わけわかんねえな」ハァ

クレア「えっ、なにが?」

提督「お前らが真面目に俺を心配してくれているかどうかは別にしてだ。そうやって俺にくっついてくるのはどうしてだ?」


提督「俺が魔神だからか?」

ベリアナ「それはそうねえ~」

リサーナ「そこは大前提よね?」

ヴェロニカ「坊やが魔神じゃなかったら、こんなふうに付き合ってなんかいないわ」

クレア「うんうん! それは当然!」

提督「……そうか」

リサーナ「あ、でもぉ、こうやって甘えさせてくれるマスターだったってところは、予定外に嬉しい誤算かなっ!」

クレア「それはあるね! 私、ニコちゃんが言う魔神様ってどんな感じなのか、ぶっちゃけわかんなかったし、もっと怖いと思ってたから!」

提督「まあ……お前らがどんな連中かって考えれば、束ねる親玉もそうはなるか……」

リサーナ「聞いてた話と全然違うんだもの! 楽しくおしゃべりできるし、艦娘ちゃんたちも面白い子が多いし!」

ベリアナ「ニコちゃんが言ってたんだけどぉ、本当は魔神って、すっごくおっきくてぇ、とっても逞しいのよ~?」

ヴェロニカ「ええ。私たちのことを片手で握り潰せる程度には、ね」

提督「んん? そういう意味の『でかい』なのか? それじゃまるで巨人じゃねえか」

ヴェロニカ「ええ。圧倒的な力で私たちを捻じ伏せ従わせる。それが私たちメディウムを統べる魔神という存在……と、聞いていたわ」

クレア「そういえばまっさん、魔神の腕を召喚したことあるでしょ? あれが本来の魔神の大きさだって!」

提督「あれがか……」フーム


リサーナ「あの巨体が、いまはこの体の中に納まってる、ってことになるのよね」ペタペタ

ベリアナ「うふふっ、いまのご主人様のカラダも……あん、こっちもすっごぉい……!」サワサワモミモミ

提督「……」ガシ

ベリアナ「えっ? やん、私の頭を、ちょっとごしゅじ……ふえっ、いっ、痛い痛いいたたたた!?」メキメキメキ

リサーナ「……わぁお。それが噂のアイアンクローね?」ヒキッ

ヴェロニカ「その気じゃないのにそんなとこ触ってたら、そうもなるわよ。呆れた」ハァ…

ベリアナ「んもう、ご主人様が難しい顔してるから、やわやわ~ってして、緊張をほぐしてあげようと思っただけなのに~」アタマサスリ

クレア「っていうか、そこは……うん、いろいろ間違ってない?」セキメン

ベリアナ「あ、そうよねぇ! アソコは揉んだら逆にカタくなっちゃ……」

提督「……」テノヒラワキワキ

ベリアナ「やぁんっ! 暴力反対っ! 女の子を泣かせていいのはベッドの上でだけなんだからっ!」ピュイッ

提督「逃げるくらいなら最初から言うなっての……それになんなんだ、そのベッドの上ってのは」

ベリアナ「んもう、ご主人様のニブチン! ムッツリ! こういうときは、余計な力を抜いて全部私たちに任せちゃえばいいのよぉ!」

ベリアナ「たまったものを吐き出して、スッキリしちゃえばいいのよ? 私がぜぇんぶ、悩みも一緒に綺麗に吸い取ってあげちゃうんだから!」

ヴェロニカ「……この子の言い方はともかく、坊やが悶々としてる様は、少し気にはなるわね」ズイ

提督「……!」


ヴェロニカ「何をそんなに憂いているのか……何をそんなに躊躇っているのか。少しは白状したらどう?」

提督「……」

ヴェロニカ「……」ジッ

提督「えらい心配してくれるな? お前らとはまだ付き合いも長くねえってのに……」

ヴェロニカ「それは坊やが魔神だからよ。あなたが私たちメディウムのあるじだから」

ヴェロニカ「メディウムは魔神にとって道具以外の何物でもない。坊やが私たちを使うのは、至極当然のこと」

ヴェロニカ「行けと命じれば行くし、死ねと命じれば死ぬ。それだけよ?」

提督「……」

ヴェロニカ「ただ……そうね。まさか坊やに使われてから、感謝されるとは思ってもなかったわね」

提督「!」

クレア「あ、それはそう! まっさんもただじゃすまなかったのに、それを怒らないで褒めてくれたの、びっくりしたよ!?」

リサーナ「そういえば、初めて艦娘のみんなと出撃したときも、頼む、なんてお願いされちゃった時も、胸の奥が熱くなったわね!」

ベリアナ「うふふっ、とっても熱烈なハ・ジ・メ・テ、だったわねぇ~」

提督「普通だろ?」

クレア「普通なの!?」

ベリアナ「全然普通じゃないわよ~? 私たちの関係からしたら、アブノーマルもいいところよぉ?」

提督「……」


ベリアナ「うふふ、だからこそ……ご主人様には、私のことをたくさん見てほしいな~って……!」

クレア「ちょ、ちょっと!? なんで脱ごうとしてるの!?」ガシッ

ベリアナ「あん、なんで邪魔するのぉ?」

提督「やれやれ……野暮なこと訊いたな」アタマガリガリ

ヴェロニカ「それで? 坊やの悩みは、少しは解消したの?」

提督「……まあ、手掛かりにはなったかもな」

ヴェロニカ「そう。なら、今度お礼をもらいに行くわね?」

提督「……ああ。何を用意すればいいかわからねえが……」

リサーナ「むぅー! マスター!? 私にもお願いします~!」

クレア「あっ、私にもお願い!」

提督「わかったわかった。後でな」

ベリアナ「やぁん、ご主人様どこに行くのぉ!?」

提督「散歩だよ。適当に歩かせてくれ」ガチャ

 扉<パタン

ベリアナ「ああん、ご主人様待ってぇ!」

ヴェロニカ「追わないほうがいいわよ」

クレア「な、なんで!?」

ヴェロニカ「あれでも、逃げようとしていないから、よ……ふふふ……はぁ」

ベリアナ「??」

クレア(なんで溜息ついてんだろ)

リサーナ(マスターを言いくるめて手籠めにするあてが外れたから、かしらねぇ……?)

というわけで今回はここまで。

引き続きフラグ回収の回ですが、
やべえくらい話が広がって収集つくのかこれ感が……。
あ、リシュリューとゴトランドは回収しました。

とりあえず続きです。


 * その翌日 夜明け前 *

 * 墓場島沖 医療船 甲板上 *

(船尾の甲板上に溶接された長椅子に、毛布に身をくるんだ提督が座っている)

 コツコツ…

提督「!」

如月「司令官……?」

提督「よう、来たか。悪いな、こんな時間に呼び出して」

如月「それは構わないけど、司令官こそ大丈夫? お鼻の先が赤くなってるわ」

提督「寒いと言えば寒いが大丈夫だ。誰にも邪魔されたくなくてこんな時間にしたんだが、こんなに冷え込むとは思ってなかった」

提督「お前こそ寒いだろ? 俺の毛布で悪いが、ここに入って座ってくれ」ファサ

如月「ええ、そうするわね」コク

提督「……」

如月「……」

 ザザァ…


提督「……なんか、嬉しそうだな?」

如月「そうね。こうやって、肩を並べてふたりで海を見るのなんて、初めてじゃないかしら」

提督「……そうだな」

如月「しかも、こうやって星空の下で、ふたりでひとつの毛布にくるまって……まるで恋人同士みたい。うふふっ」

提督「……」

如月「……司令官?」

提督「ん、ああ……恋人っていうのがどういうもんか、よくわかってなくてな。ちょっと考え込んじまった」

提督「けど、恋人か……こういうのを嬉しく思うのが、恋とか言うんだろうな」

如月「……ええ、そうよ。きっとそう」

提督「なあ、如月?」

如月「なあに? 司令官」

提督「少し、俺の独り言に付き合ってほしいんだ」

如月「……わかったわ。いくらでも付き合ってあげる」

提督「ありがとな……」

如月「うふふっ、いいのよ、司令官のお願いなんだもの。好きにお話ししていいから……ね?」


提督「ああ」

如月「……」ジッ

提督「俺は……お前たちに幸せになってもらいたいと思ってる」

如月「ええ、知ってるわ」

提督「そのためには、俺がいたらいけないって考えてたのも、多分知ってるよな?」

如月「……ええ、知ってるわ」

提督「俺はちっちゃいころから親に否定されて……目に見えるありのままを伝えても、誰にも信じてもらえなくて……」

提督「俺は、みんなにとって……人にとって、一体何なんだろうな、って思ったことが何度もある」

提督「妖精たちは俺のことを理解してくれたが、その妖精たちのことは誰も信じてくれなくて」

提督「結局、俺は人間社会じゃ誰にも相手してもらえなかった。でも、妖精が間違ったことを言っているとも思えない」

提督「じゃあ、俺は一体なんなんだ? 俺は異質なのか? 人じゃないのか、って、疎外感を感じるようになって……」

提督「俺には『人』が信じられないものになってた」

如月「……」

提督「とどめになったのは、あの島で大勢の艦娘の亡骸を見た時だな。艦娘が、人間の言う通りに従った結果が、これか……って」

提督「『人じゃないもの』は、人間に関わったら幸せになんかなれない……ってよ。あのときは漠然とだが、そういうふうに思えたんだ」


如月「……だから、司令官は私たちから離れようとしたのね?」

提督「ああ。俺は、お前たちを不幸にしたくない。あいつらを沈めた人間と同じになりたくない、って……嫌だったんだ、一緒に思われるのが」

提督「けど、俺はその逆も望んでた。あの島が溶岩に覆われて、俺たちが焼け死にそうになったときに口に出ちまったんだ」

提督「俺は、お前たちと普通の人間の生活がしたかった、って」

如月「……」

提督「俺だけじゃなく、お前たちも一緒に、普通の人間に生まれて、こんな戦争とは縁のない、普通の生活が送れたら……」

提督「無意識のうちに、俺はそういうのに憧れてたんだな、って……これでお前たちを幸せにできるのか、って、まあ、いろいろ考えてたんだ」

提督「人間の言う普通のただの何でもない人間になるかか、艦娘たちに普通の暮らしを提供できる人間以外の何かになるか……」

提督「そのどっちかになるのが、俺の望みだったのかって、今更ながら思ったんだ」

如月「……もし、司令官が普通の人だったら、私はここにいなかったわね?」

提督「ああ、そうだな。けど、それで良かった。俺に妖精が見えたのは、結果的には正解だったと思ってる」

如月「!」

提督「自分の正体を知った今だから言えるのかもしれないが……俺は最初から、人の世界の住人じゃなかったんだろうな」

提督「俺が誤って人間の世界に生まれてきたのを、妖精たちが見つけて連れ戻しに来たんじゃないか、って……ま、都合のいい解釈だけどな」フフッ

如月「司令官……!」


提督「まあ、何でこんなことを考えてたか、って言うと……俺がお前たちと一緒にいて問題ない理由を探してただけなんだ」

提督「俺がこれからお前たちと一緒に過ごすんなら、ちゃんと向き合えって言われてな。お前に聞いて欲しかったんだ」

如月「そ、それって……」

提督「……なあ、如月?」ジッ

如月「っ!」ドキッ

提督「もうしばらくの間でいい。俺は、お前たちの近くにいたい」

如月「……!!」

提督「俺は、お前が誰かと楽しそうに笑っているのを見たり、俺を見つけて手を振ってくれるだけで、満ち足りた気分になってたんだ」

提督「この島に流れ着いたあの時と比べて、本当に見違えるようになったし……体の傷が消えたのも、本当に良かったと思ってる」

提督「お前たちのそういう姿を、俺は、もう少し眺めていたいんだ」

如月「な、眺めて、って……司令官は、それだけでいいの?」

提督「ん? ああ……あまり多くは望んでねえしな」

如月「ふぅん……もうちょっと踏み込んで欲しかったんだけど。ねえ、司令官?」

提督「なんだ?」

如月「この話をどうして私にしようと思ったの?」ズイ


提督「んん? そ、そりゃあ、大事な話だと思ったし、それならまず最初にお前に聞いて欲しくて……」

如月「……それで、こんな時間に呼び出したの?」

提督「ま、まあ……話は、それだけじゃねえけどよ」セキメン

如月「えっ?」

提督「……」マッカ

如月「し、しれい、かん?」

提督「俺は、お前たちが幸せそうなら、それで良いんだ」

提督「けど、お前たちは……その、それ以上のことを、俺に望んでるわけだろ?」

如月「……!」

提督「その……俺がどこまで受け入れたらいいのか、つうか、お前がどこまでしたいのか、その、確認、したいというか、教えてほしくてな……」

提督「まあ、なんだ、その……ずっと一緒にいるって言うお前たちに、我慢させるのは、よくねえんだろ?」アセアセ

如月「……」

提督「い、言っとくけど、俺はよくわかってねえからな!? その、恋とか愛とか、そっち系の話は……」マッカ

如月「……」

提督「……」


如月「……」テヲノバシ

提督「んん……?」ヒッパラレ

 チュー

提督「……!!」

如月「……」チュー…

提督「……」


 * *


提督「……」

如月「……」

提督「……その、きさら」

如月「司令官?」

提督「っ……!」

如月「ああいうときは、ちゃんと私を抱き寄せて支えてくれないと駄目よ?」

提督「……そういうのはする前に教えてくれ、っつうか、そうじゃなくてだな……でも、まあ、いいか」ダキヨセ

如月「!」


提督「これまでそういうのを拒絶してきたからな。お叱りは甘んじて受けるようにする……」

提督「ただ、こっちはこういう駆け引きは初めてなんだ。ご期待に沿えるよう努力はするから、お手柔らかに頼むぜ……?」

如月「……もう……」

提督「? 如月……?」

如月「……もう……やっと、司令官が、私を見てくれた……!」ポロッ…

提督「お、おい、泣くほどか……!?」

如月「そうよ? これまでずーっと、あなたは私たちに背中を向けて……」

如月「庇ってくれたり、背負ってくれることはあっても、こっちを向いて抱きしめてくれることはなかったんだもの……!」

提督「……そう、だな。いずれ、出ていくつもりだったからな。まともに、向き合ってなかったのかもな……」

提督「ごめんな、如月」ダキヨセ

如月「司令官……っ!!」ヒシッ

 *

提督「……」ナデナデ

如月「~♪」スリスリ

提督「如月。寒くないか? 大丈夫か?」


如月「このままで大丈夫よ?」

提督「そうか」

如月「~♪」

提督「……」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「司令官は……私のこと、好き?」

提督「ん゛ん゛っ!?」

如月「……司令官、私のことは、好きって言ってくれないの?」

提督「……」

如月「……」

提督「いや、その……好きかと聞かれれば、好きなんだが……」

如月「だが?」

提督「こう……面と向かって言うと思うと、すげえ恥ずかしいな」メソラシセキメン

如月「」キューン

如月「も、もう! 司令官ったら、可愛いんだから!」

提督「あまりからかってくれるなよ……」


如月「うふふ……司令官、こっち向いて?」

提督「ん……?」

如月「」チュッ

提督「!?」

如月「うふふふ……!」

提督「……頼むから手加減してくれよ。あいつらが真似しだしたらたまったもんじゃねえ」

如月「そうねぇ……どうしようかしら?」

提督「せめて人前では勘弁してくれ……見られんの、恥ずかしいんだからよ」マッカ

如月「うふふっ……あ、見て。日の出よ……!」

提督「……」

如月「……」

提督「……そろそろ、戻るか。あいつらも起きてくるころだろうしな」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「私を最初に選んでくれて、ありがとう」

提督「一番苦労をかけたからな。これからも、よろしく頼むぜ」

如月「ええ!」ニコッ


 * 朝 *

 * 医療船内 大会議室 *

提督「強情張ってたが、お前らに気苦労かけせちまうってんなら、みっともなくても変えたほうがいいだろ」

提督「メディウムの連中も、自分たちは魔神様の道具だなんて、この前までの俺みたいなこと言いやがるからな……」

提督「俺の悪いとこ見習わせるわけにはいかねえよ。今後は、そういう話は控えるようにする」

吹雪「司令官……!」パァッ

大和「やっとわかってくださったんですね!」パァッ

提督「ああ。ただ、俺も俺で守られっぱなしってわけにも」

朧「だからそういうのをやめてください」

電「司令官さんは危ないところに出てこないでほしいのです!」

時雨「そういうところは相変わらずだね?」

榛名「榛名は心配で大丈夫ではありません!」

提督「……お前らこそ過保護が過ぎねえか?」

霞「あんたはもう少し自分の立場を自覚しなさいよね。わかってない行動が多すぎるのよ」

如月「そうね、そこは司令官の日頃の行いの賜物よ?」


提督「せめて如月くらいはフォロー入れてくれよ……」

如月「あら、ごめんなさい? うふふっ」

朝潮「ご安心ください! かくなる上は朝潮が司令官を全力でお守りします!」ビシッ!

山城「それはいいけど、結局何も変わらないんじゃないの? 提督自身の破滅的な言動が減るってだけでしょ」

提督「まあ、山城の言う通りだな。普段通り過ごす分には特に何も変わらねえ」

提督「何かあるたび抱き着いてくるのも、膝枕しろってのも、俺の布団に入ってくるのも、これまで通り受け入れるってだけだ」

初雪「うん……それなら、何も変わらない」

伊8「そこが変わってたら、はっちゃんブチ切れてました」

那智「さすがに一番最後はどうかと思うのだが?」

提督「そこは俺もそう思う」

大淀「そうは仰いますが、これまでもそれは許容してきたわけですし、無理に変えないほうがよろしいかと」

陸奥「そうね。それより、そこに深海棲艦たちも入ってくるわけでしょ? 提督と一緒にいたがる子、ますます増えるんじゃないの?」

提督「軽巡棲姫あたりはそうだろうな……ちゃんと言い聞かせてやらねえとなあ」

武蔵「是非そうしてくれ。あいつはお前たちが溶岩に飲まれて心中しようってときに、一人だけその場から追い出されたわけだからな?」

提督「わかってるよ……フォローはする」


由良「提督さんは、そういう女性の細やかなところが理解できてないから心配よね」

敷波「でも、いいんじゃない? これからは気を付けるって言うんだから。司令官がおかしなこと言ったら注意していいって話だよね」

提督「まあ、そうだな……だからってあまり無理な要求されても困るが」

扶桑「そのあたりは大丈夫だと思いますよ。提督がかなえられないような無理なお願いを言うような人はいないでしょうから」

初春「提督が受け入れられるかどうかはまた別の話じゃがの?」ニヤニヤ

那珂「那珂ちゃん的には、コンサートホール建ててくれたのがびっくりしたけどなあ~。提督さん、できないことないんじゃない?」

榛名「深海の皆さんと協力できるようになったから、ある程度のことは何でもできてしまいそうですね」

提督「まあ、極力お前たちが過ごしやすいように手配はするつもりだからな……設備面は頑張らせてもらうさ」

提督「それから最後にもうひとつ、お前たちが本当に島に残る上での心配事も伝えておきたい」

早霜「まだ心配事があるのですか……?」

提督「ああ。俺が今後あの島で生活するうえで避けて通れないのが人間と艦娘との戦いだ」

全員「「!」」

提督「あの島で死んだ海軍の人間の中にも、いい奴がいたかもしれないし、そうでなくてもそいつらにも家族がいただろう」

提督「ついこの前も、盗掘しに来た連中を全員始末した。そいつらの境遇を知れば、助けるべきだった奴もいるかもしれねえ」

提督「それに、深海棲艦やメディウムたちは、当然のように人間を殺す。俺も大佐たちを殺ると決めた時から、覚悟は決めたつもりだ」


提督「正直に言えば、もともと国防のため、人を守るために生まれた艦の化身に、人殺しを受け入れろと言うのは俺もどうかと思ってる」

提督「で、そういう人殺しをやる以上、誰から恨みを買うかわからねえし、いい奴を殺したら罪の意識に苛まれることだって起こるはずだ」

提督「そして、自分と同じ顔をした艦娘とやり合う可能性もある。そこが一番心配だ」

全員「「……」」

提督「まあ、これから俺がやることに少しでも疑問を覚えたんなら、白露が言ってたみたいに、一度離れてもらうのもいいと思ってるんだ」

提督「留まるにしても離れるにしても、自分の意思が一番大事だからな。お前たちの気分のいいように過ごしてほしいというのは変わってねえ」

提督「俺が島に移るまでの間に、考えといてくれ。一度島に渡ってから出ようと思うと、外野がなんて言ってくるかわかんねえからな」

武蔵「ふむ……」

提督「多分、まだ悩んでんのは武蔵と那智あたりじゃねえか? お前たちはそこまで人間を恨めしく思ってないだろう?」

那智「確かにそうだが、余所に行くにしても当てがないからな。白露たちのように連絡員と言うのも考えたが、私の場合は練度が足りないだろう」

提督「まあ、確かになあ……」

那智「とにかく、私はもう少し考えさせてもらおう。幸いにも私にはまだ時間がある」

提督「ああ。それからここにはいないが、個人的に心配なのが金剛なんだ」

榛名「! と、仰いますと……?」

提督「あいつ、誰にでも優しいっつうか、博愛主義的だからな。俺と一緒にいて本当に大丈夫なのか、すげえ心配なんだよなぁ」

大和「そういえば、金剛さんも前の鎮守府に向かったんでしたね」


提督「外泊許可下りるのが遅えんだよ。Q中将の墓参りくらいさっさとやらせてやれってのによぉ」

 扉<コンコン

提督「ん?」

隼鷹「隼鷹でーす! 提督、いるんでしょ? 入っていい?」

提督「おう、いいぞ」

隼鷹「失礼しまーす! うおぅ、いっぱいいる!」ガチャー

隼鷹「前の鎮守府とかに行った艦娘が多いんじゃなかったの?」

提督「戻る必要のない艦娘も多いからな。それより、隼鷹はもう本営から戻ってきたのか?」

隼鷹「まあね~、いろいろお叱りは受けたけど、やっぱりやりすぎじゃないか、ってことで……」

飛鷹「失礼します」スッ

R提督「失礼いたします!」ケイレイ

隼鷹「紹介するよ。うちの提督、R提督と、あたしの姉妹艦の飛鷹だよ~」

R提督「あなたが隼鷹を保護してくださった提督ですか……! 本当にありがとうございました!」

提督「そんなに畏まんなくていいぞ? 俺、どうせ海軍辞めんだし」

R提督「いやいや、重要なのはあなたが隼鷹を立ち直らせてくださったことです。言わば隼鷹の恩人!」


飛鷹「そうですよ、隼鷹が自暴自棄だったところを、提督が助けてくださった、って聞いていますよ」

R提督「あなたのおかげで、また隼鷹と一緒にいられることができるようになったんです。この感謝の気持ちは言葉に表せないほどです!」

提督「大袈裟だな。俺は、隼鷹があんたたち2人に会いたいっつうから、それなりの手助けをしただけだ」

隼鷹「えぇ~? 提督ってば、ぐでんぐでんのあたしを無理矢理立ち直らせてくれたじゃんか~」

提督「それこそお前があの時に話を聞く気がなかったら、そうはなってねえだろうがよ」

飛鷹「……なんていうか、謙虚なんだかそうじゃないんだか、よくわからない人ね?」

隼鷹「ちょっと面倒臭い人なんだよ。自分が悪者になりたがるタイプの善人って言ったらいいのかねえ……」

提督「違えよ、人付き合いが面倒臭えってだけだ」

隼鷹「身も蓋もないね!?」ガビーン

提督「俺はやりたいようにやってるだけで、お前たちの状況が好転したのも運が良かっただけだと思ってるぜ?」

飛鷹「ええ……? 私たち、お礼を言いに来たんだけど……」

提督「いいんだよそんなの。お前たちはお前たちのこれからのことを考えてりゃいいんだ。また離れ離れになったら困るだろ」

R提督「そうならないように、私はこの2人を絶対に離しません! 絶対に幸せにして見せます!」

隼鷹「ちょっ!?」セキメン

飛鷹「R提督!?」セキメン


提督「おう、是非そうしてくれ。また俺んとこに隼鷹が来るようなことがあったら容赦しねえぞ」

那智「貴様は隼鷹の父親か」

提督「んん? どういう意味だ」

由良「R提督さんのさっきのセリフが、まるで父親に対する『娘さんは僕が幸せにします』的なセリフに聞こえたんですけど」

R提督「あ……」セキメン

隼鷹(そこで赤くなるってことは、自覚なかったんだね……)

武蔵「それを受けての貴様のセリフが、まるで父親みたいだったからな」

提督「いや、それを言うなら『お前に娘はやらん』みたいなこと言うのが父親っぽいセリフなんじゃねえの?」

朧「認めたうえで『不幸にしたらただじゃおかない』みたいなこと言うのもよくある話じゃないですか?」

提督「うわ、そういう話かよ……! あるな、確かに……」アタマオサエ

初雪「……パパって呼んだほうがいい?」

吹雪「お父さん……!?」キラキラッ

提督「お前ら何考えてやがる」ヒキッ

敷波「あたし的には、パパって言うよりお兄ちゃんかなー」

陸奥「お兄ちゃん……ありかも」キラッ

朝潮「む、陸奥さん!?」


初雪「むう……お兄ちゃん……兄さん……にーにー……悩む」

提督「なんだその三つ目の呼び方……!?」

如月「それじゃ私はダーリンって呼ぶわね?」ニコニコ

榛名「」シロメ

伊8「だから榛名さんも白目むいてないでそう呼べばいいんじゃない?」

飛鷹「え、ここの提督ってロリコンなの……?」

隼鷹「いんや? 艦種問わず無差別に好かれまくってるだけだよ? 大和とかも提督のこと好きだよね?」

大和「えっ!? は、はい! それはもう!」

飛鷹「え、ここの提督ってあの見た目で女たらしなの……?」

隼鷹「飛鷹も評価の仕方が極端過ぎるよ!?」

陸奥「女たらしではないと思うわ。艦娘たらしではあると思うけど」

隼鷹「それフォローになってなくない!?」

R提督「隼鷹……おまえ、ツッコミ役だったのか」

隼鷹「R提督も何を言ってんのさ!?」

霞「ああ、もう……全然収集つかないじゃない。いい加減にしなさいよ!」

隼鷹「あたしもそうしたいんだけど……」


霞「とにかく、飛鷹さんに誤解のないように言わせてもらうけど、あの島に来た艦娘はみんな訳ありなのよ」

霞「捨て艦にされたとか、追放されたとか脱走してきたとか、とにかく前の鎮守府で嫌な目に遭わされた艦娘しかいないの」

飛鷹「そうなの?」

R提督「そういえば、轟沈経験艦もいると聞いていますが」

霞「それは一部の人たちね。沈んでないから不幸じゃないなんて言えたものじゃないけど」

扶桑「ええ。そういった状況から提督に救っていただいたのが私たちですので、提督に過剰に好意的なのは当然と言えば当然なのかと」

山城「扶桑お姉様!?」ガーン

R提督「救われた……か。そう言ってもらえているということは、彼はすごいんだな」

飛鷹「で、どうして山城はショック受けてるの?」

時雨「ああ、それは、自分は提督が好きじゃないアピールが通用してないのと、扶桑を提督に寝取られたショックを受けてるんだよ」

山城「しぐれぇぇぇ!?」イヤァァァ!

時雨「でも、山城も提督のことは好きでしょ? 見ていればわかるよ?」

山城「す、好きとか、そんなわけないじゃない!」

時雨「じゃあ嫌いなの?」

山城「そ、そういうのじゃないわよ。あの男がいたから扶桑お姉様が轟沈せずに済んだこととか……」


山城「那珂ちゃんと出会えたのだってあの島があったからだし……し、時雨だって、まさか蘇ってくるなんて、思いもしなかったし……」

山城「み、認めてはいるわよ、提督のことは! 結果論的にだけど! けど、私が好きなのは扶桑お姉様と那珂ちゃんよ!?」

扶桑「山城……」

那珂「山城ちゃん……!」

時雨「……ふーん。僕は?」

山城「うぐっ……!! そ、それは……き、嫌いじゃない、わよ……!」

時雨「えー? 僕のことも好きだって言ってほしいなあ。僕は、山城のこと……好きだよ?」テレッ

山城「」ズギューン

扶桑「山城?」

飛鷹「なんか固まってない?」

山城「」

山城「」

山城「可愛い……」バターン

扶桑「えっ!? 山城!? どうして今の流れで倒れるの!?」

時雨「ちょっとタメを作ってあざとかったかなって思ったけど、いくら何でも装甲が薄すぎるよ!?」

那珂「山城ちゃん! だからその顔は駄目だって! 山城ちゃん!?」


霞「……本当に収集つかないから、その辺にしてほしいんだけど」

時雨「うん、ごめんね?」シレッ

隼鷹「いやー、このドタバタが見られなくなるのも寂しいけど、しょうがないねえ」イヒヒッ

隼鷹「そういえばさ、千歳と足柄はどうしたの? 酒飲み友達として挨拶したかったんだけど」

提督「あいつらならお前同様に少し前から外に出てるぞ。確か、古鷹たちと一緒にL大尉んところに行ってたよな?」

那智「ああ、海風に会いに行っているはずだ」

朧「そういえばL大尉も提督との面会を希望してましたが、まだ鎮守府から離れられないみたいですね」

R提督「L大尉殿……? もしやあの神戸の、練習巡洋艦姉妹を連れた提督のことですか?」

飛鷹「いま、忙しいんじゃないかしら。聞いた話だと、その鎮守府にいろんな提督が殺到してるみたいよ?」

吹雪「なにかあったんですか?」

R提督「実は、彼があの墓場島と呼ばれた島に何回か行き来していたと噂が……というか、実際に提督はお知り合いなんですね?」

提督「ああ」

R提督「みんなあなたに関する情報を欲しがっているんですよ。そもそもあの島がどういう島なのか、その島にいた提督がどんな人物なのか」

R提督「それを知りたい提督たちが、大尉殿のもとに押しかけてきているらしいんです」

朧「うわあ……それで忙しいって言ってきてるんですか」


提督「面倒臭え……超面倒臭えことになりそうだ」ゲンナリ

吹雪「司令官!?」

敷波「しょうがないよねー。司令官はこれまでさんざん人に嫌われてきたわけだし」

敷波「それがいきなり、深海棲艦と対話できる唯一の人だって理由で、その人たちが手のひら返してすり寄ってくるわけでしょ?」

由良「提督さんじゃなくても気に入らないわよね。これからたくさんのそういう人を相手にしなきゃいけないとなると」

初春「それに、これまで提督は、深海のスパイだの裏切者だのとさんざ疑われてきておる」

初春「信用できないと警戒を強める者もおるじゃろうし、そもそも受け入れられぬ者もおるじゃろう」

初春「ややもすれば、かつての大佐のように、この御時世に関わりなく私情や私利私欲のために、戦争を続けようとする輩もおるやもしれぬ」

初春「そ奴らが、提督を利用しようとしたり、或いは気に入らぬからと暗殺を企てたりする可能性も無きにしも非ず……と、わらわは見ておるが?」

提督「最悪を想定するなら初春の言う通りだな。そもそも俺は人間のために戦っちゃいねえんだ、裏切者扱いはまあ妥当なんじゃねえの」

飛鷹「ええ……?」

隼鷹「提督の場合は、艦娘のために、ってやつだね~」

R提督「……一応確認ですが、提督は、深海勢力に情報を渡していたとか、そういうスパイ行為は行ってはいなかったわけですよね?」

提督「おう。やったことと言えば、艦娘と同じように深海棲艦を保護して、飯食ったり雑談したり、ってくらいだな」


R提督「どうやって仲良くなったんです?」

提督「あー……その深海棲艦、まともに砲撃戦したことがなかったんだよ。で、うちの長門と思う存分戦わせたら、まあ仲良くなったっつうか」

飛鷹「よくご無事でしたね……」

提督「で、それ以降はちょくちょく飯を食いに来て、演習にも付き合ってもらって……それでうちの鎮守府が攻め込まれたとかはなかったな」

提督「むしろ逆に姫級が攻めてくるって話はそいつに聞いたくらいだしなあ。こっちが間諜行為をさせてたってことになるのか?」

R提督「そういう経緯だとすれば、提督を裏切者と呼ぶのは少し違いますね。提督の行いが利敵行為につながったわけでもないようですし……」

提督「それから、そいつのおかげで島の海域の深海棲艦が減ったっつう実績もあるっちゃああるんだよな」

提督「はぐれ深海棲艦を保護して、余所の海域に移動させたりしたとかって聞いてる。だからこの島近海の航路も開けてたんだ」

隼鷹「島に近づきすぎると潮の流れに押し流されて酷い目に合うけどね」

提督「ま、どっちにしろ俺たちは海軍のやることの蚊帳の外だったさ。それを今更どうのこうのと言われる筋合いはねえ」

 扉<コンコン

提督「ん?」

 扉<チャッ

香取「失礼いたします。提督少尉はこちらにいらっしゃいますか?」

提督「んん? お前……」

R提督「香取?」

とりあえず今回はここまで。

次回は大忙しのはずだったL大尉たちが出てきます。

それでは続きです。


香取「ご無沙汰しております、少尉。こちらの方は……?」

L大尉「少尉! いるんだね!?」タタッ

提督「お前……!!」

隼鷹「ええ!? L大尉!?」

R提督「この方が……!?」

L大尉「良かった、無事だったんだね! 変わってないみたいで安心したよ……!」

提督「いや、何でここにいるんだよ! 丁度いま、こっちのR提督から、来客が多くて大変だって話を聞いたとこだぞ!?」

L大尉「そうなんだよ! 君のことを教えろと、あちこちから同業者が集まってきてて、どんな人だとか目的はなんだとか……」

L大尉「どんな食べ物が好きだとか艦娘は誰が好きだとか! ひっきりなしに面会の申し入れが来て休む間もないんだよ!」

朧「これって、さっきの話の……」

初春「そうじゃろうなあ。好みを聞いてくるあたり、提督にゴマをすりたい者がL大尉のもとへ殺到しておるんじゃろうな」

L大尉「そうなんだよ! 僕に訊かれても困るようなプライベートな質問も多くて!」

L大尉「わからないと答えても『わからないじゃ困るんだよ』とか言って逆切れしてくるし!」

L大尉「そうでなくても、これまでさんざん、僕のことも含めて君のことを扱き下ろしてきた人たちがだよ!?」

L大尉「これまでのことを都合よく忘れて、ニタニタ笑いながら圧をかけてくるんだよ!!」ウガー!


L大尉「ああ……もう相手したくない。思いっきり帰れって言ってやりたい!」

香取「思いっきり帰れと叫んでいたではありませんか……あんなL提督、見たことありませんでしたよ」

L大尉「あれ、そうだっけ……?」

隼鷹「予想した出来事が実際に起こってるわけだねぇ……」

L大尉「って、うわっ!? あのときの酔っ払い艦娘!!」

隼鷹「や、やだなあ、今日は飲んでないよ? シラフだよぉ~」

L大尉「本当だろうね……?」タジッ

香取「……もしや、そちらの提督は、隼鷹さんのもとの提督さんでいらっしゃいますか」

R提督「R提督と申します。うちの隼鷹がご迷惑をおかけしたようで……申し訳ありません」

香取「いえいえ。いろいろと大変だったようですね」

早霜「司令官? この人、確か……」

提督「あ、そうか。お前、こいつ来た時に死んでたんだっけな」

L大尉「死ん……ひいい!? き、きみ、生きてるぅぅ!?」

R提督「轟沈艦を復活させたのですか……!?」


提督「いや、そうじゃねえ。ちゃんと海から見つかったんだが、記憶を引き継いできたっつう、ごくごくレアなパターンなだけだ」

時雨「僕もそういうことになるのかな」

L大尉「もうなんでもありだね、君のところは……!?」

 扉<ガチャー

鹿島「失礼します……あー! 大尉さんも香取姉も、少尉さんを見つけたのにどうして報告してくれないんですか!」ヒョコッ

提督「鹿島も来てたのか……」

鹿島「あっ、少尉さんお久し振りです! みなさーん! こちらの部屋に少尉さんたちがいましたよー!」

提督「皆さん?」

 ゾロゾロ…

加古「いやあもう、あっちじゃゆっくり寝られなくて散々だったよぉ~……ふわあ」

海風「提督少尉さん、お久し振りです」ペコリ

ガンビアベイ「Oh... みなさん、この部屋にいらっしゃるんですか」

山風「……こんにちは」ペコリ

千歳「あら? そっちにいるのは飛鷹? もしかしてそちらの男性がR提督?」

R提督「私を知っているのですか?」


足柄「隼鷹から聞いてるわ。ということは、隼鷹たちは日本に戻れるのね?」

隼鷹「そうなんだよ、これで舞鶴に戻れるんだよぉ~!」

古鷹「おめでとうございます! 良かったですね!」

朝雲「おめでたい話が多いと、これまで頑張ってきた甲斐があったって思うわね~」

提督「お前たちも一緒に戻ってきたのか。山雲と加古は大丈夫だったか?」

朝雲「今のところは心配なさそうよ? L大尉は山雲のことを歓迎してくれたし!」

山雲「そうね~、ちょっととぼけてるけど、いいひとそうで安心したわ~」

古鷹「山雲さんは大丈夫そうでしたが、加古は相変わらずあくびばっかりしてました……」

香取「先程も申し上げました通り、鎮守府に少尉の情報を欲しがる提督が殺到してまして。加古さんにはつらい環境でしたね」

加古「電話のコール音がずーっと鳴りっぱなしでさあ……香取と鹿島がてんやわんやだったよぉ」

L大尉「今回ばかりは時期が悪かったなあ。とにかく、しばらく神戸には戻りたくないよ……そうも言ってはいられないけど」ハァ…

提督「それで逃げてきたってか」

L大尉「正直に言えばね。それで、君が滞在しているこの船の所有者であるX中佐に、香取からお伺いを立てて貰ったんだ」

L大尉「他にも相談や報告したいこと……というか、会わせたい人もいて」

提督「……俺にか?」


L大尉「提督少尉にも無関係じゃないから、連れてきたんだ。来てるよね?」

鹿島「はい! ふたりとも、入ってください!」

 スッ…

クルー6「……ど、どもっす」

波元大尉「こ、こんにちは~」ペコペコ

霞「……あー! あなた……!」

提督「んんん? 誰だ? どっかで見た覚えがあるんだが……」

如月「あ、あなたは……医療船で会った女性提督さん!?」

波元大尉「あ! あなた、あのときの如月ちゃん……!? えっと、その……あの時はごめんなさい」チヂコマリ

足柄「提督は覚えてないかしら。以前私たちがいた鎮守府の提督、波大尉よ! 退役しちゃって元がつくけど!」

提督「ああ……あったな、そんなこと。悪いことは忘れるようにしてっから、あまり顔覚えてなかったぜ」

千歳「で、こちらの男性は、昔、あの島を取材に来たテレビクルーのひとりです」

クルー6「ど、どもっす」ペコリ

提督「鹿島を襲った連中とは別の部屋にいた奴か?」

足柄「そうそう! あの騒ぎのときに私たちと飲んでた彼よ!」


大和「まだテレビ局でお仕事をなさってるんですか?」

クルー6「いえ、あの後、まもなくバイトの期間が終わったんで、もう無関係っす。今は翻訳の仕事をしてるんすよ」

香取「海外から艦娘に関する情報を提供してほしいと依頼がありまして。そのお仕事の一部を彼のいる事務所にお願いしているんです」

電「と、ところで、どうしてそのおふたりが、一緒にいるのですか?」

波元大尉「え、えっと、私たち、結婚したんです!」キャー!

霞「ええええ!?」

初春「なんじゃとおおお!?」

大和「け、結婚ですか!?」

朝潮「存じ上げていませんでした! おめでとうございます!」ビシッ

波元大尉「ありがとう……!! 朝潮ちゃん、本当にいい子だわ……!」ウルッ

千歳「あら? 初春は知ってたんじゃなかったの?」

初春「波大尉が退官してから結婚したことまでは聞いておった! しかし、相手がこの男だとは知らなんだぞ!?」

那智「生憎、私は二人とも面識がないが、おめでたい話じゃないか」

吹雪「なんか全然接点がなさそうじゃないですか!? どこで知り合ったんですか?」ワクワクッ

波元大尉「え? えっとね、私が退院してから退官手続して、そのあと一般企業に入社したんだけど、そこに彼が同時期に入ってきたの!」


クルー6「テレビ局のバイトの契約が終わって、そのあと何社か面接受けて、たまたま同じ会社に試用期間で入ったんす」

クルー6「で、たまたま艦娘を知ってるって話から元提督だってことが分かって……」

波元大尉「あーちゃんとちーちゃんの話になってからはもう早かったわよね~」

那智「あーちゃん?」

足柄「う、うん」セキメン

隼鷹「で、ちーちゃん?」

千歳「ええ」ニコ

クルー6「一晩だけとはいえ、一緒にお酒飲んでいろいろ話しましたからね。面白い話も、大変な話も。波さんのことも少し聞きました」

波元大尉「このふたりがいなかったら、私の結婚はなかったわ! 本っ当に感謝してる!!」

那智「それでその企業で職場恋愛、ということか」

クルー6「いえ、俺は結局その会社をすぐ辞めて、そこで紹介された翻訳家の人のところで一緒に仕事することになりまして」

クルー6「でも、彼女との付き合いはそのまま続いて、付き合ってるうちに……まあ、こうなったっす」テレッ

香取「その翻訳家の方が海軍とお付き合いがありまして。その縁で彼にお仕事をお願いしているんです」

提督「んじゃ、海軍とは無関係ってわけじゃねえってか」


R提督「しかし、普通の企業が中途採用を半年で手放すでしょうか……?」

L大尉「それが今ちょっと問題になっているんです。社会復帰した元提督の離職率が高いんだそうで」

R提督「そうなんですか?」

香取「はい。提督業を経験した方は、それまで最初から艦娘を部下として扱ってきたためか……」

香取「逆に自分が誰かの下について仕事をすることができない人が多いようなんです」

L大尉「着任初期は駆逐艦が主力になるが、その見た目が可愛らしい女の子だ」

L大尉「なかにはつんけんする子もいるが、基本的に指示には従順で、目的も明確だから軍務に対する理解も深い」

L大尉「そういう環境下にいれば、それが普通になって感覚が麻痺してしまう、と言うことらしいんだよ」

波元大尉「私のときも、その会社が私にほとんど仕事を回してくれなかったんですよ。元提督ってことで気を使われたみたいで……」

クルー6「なんか理不尽に干されてたってことらしいんす」

波元大尉「確かに海軍にいた時は、あーちゃんたちに色々教えてもらいながら提督のお仕事してたから」

波元大尉「OL時代と比べると、上げ膳据え膳で何でもやってもらって、って感じだったのよね」

香取「そのせいか、元提督というだけで雇用を躊躇する企業が増えてまして。おそらく波さんもその煽りを受けたのではないかと……」

波元大尉「私はもともと普通に働いてたから、そんなことないと思ってたんだけど……でも、結果的に私は辞めてよかったと思ってますよ」

波元大尉「わかりやすい嫌がらせしてくるお局様もいたし……まあ、嫌がらせって言っても大したことなかったけど」


足柄「ねえ千歳? もしかして波提督、そのお局様に反撃して恐れられたせいで追い出されたんじゃないの?」ヒソヒソ

千歳「ありそうね。割と気が強いから、そのお局様がこのままじゃ自分の椅子が危ういと思ったとか?」ヒソヒソ

波元大尉「あの時は反動で超やる気だったし、確かにちょっとビビらせすぎちゃったかなー。自分が納得できない仕事させられるの嫌いだし」

足柄「」

千歳「」

隼鷹「こりゃあ、かかあ天下になりそうだねえ」イヒヒッ

クルー6「……や、まあ、確かに姉さん女房ですけど……俺には、いい奥さんっすよ」テレッ

扶桑「まあ。のろけられてるわ」ニコニコ

伊8「末永く爆発してください」

早霜「そうね……ずっと幸せなままでいられる呪いをかけてあげるわ」

武蔵「爆発とか呪いとか、その言葉のチョイスはなんなんだ」

時雨「そういうスラングがあるんだよ」

L大尉「さてと、少尉! いろいろ積もる話もあるけれど、それとは別に後日でいいから時間を貰ってもいいかな?」

L大尉「君がこれからどうするつもりか、とか、僕が君に関して対外的にしていい話がどれくらいか、と言うのを確認しておきたいんだ」


L大尉「今すぐは決められないだろうから、日程調整をお願いしたくてね!」

香取「可能な限り、あなたに向かう問い合わせをこちらで完結させようと思っています。ご協力をお願いいたします」ペコリ

提督「……面倒臭えが、そういう話ならしょうがねえな」ハァ…

霞「来るのはいいけど、もう少し人数絞って来れなかったの?」

L大尉「だって少尉の無事を確認したかったんだよ? みんな少尉やこの鎮守府の艦娘たちに会いたいだろうし」

L大尉「それに、この島に関わったことのある艦娘は全員退避させたかったしね。誰か残したら質問攻めにあうだろうからね」

霞「ああ、そういうこと……なら、仕方ないわね」

山風「白露お姉ちゃんは、いないの……?」

ガンビアベイ「ヒエイも、いませんね?」

提督「白露は青葉たちと一緒に、今後の仕事の話で本営に行ってる。比叡はW大佐のところの榛名に会いに行ってるな」

山風「そうなんだ……」ションボリ

L大尉「間が悪かったなあ、そこも今度来るときに調整したいな」

L大尉「それから、君は海軍から離れるんだろう? 少尉でなくなるわけだし、今後は君を何と呼べばいいかな」

提督「提督でいいだろ。そこは何も変わらねえよ」

L大尉「そうか、じゃあ今後はそう呼ばせてもらうよ」

 扉<ガチャー

少女?「邪魔するぞ!」

全員「「!?」」


敷波「え、今度は誰?」

L大尉「軍服着てるけど誰だろう……香取、知ってる人かい?」

香取「いえ、ちょっとわかりませんが……あの階級章ですと、少将になるかと」

L大尉「は!?」

少女?「ふぅむ……あの島で魔王になったという提督は誰じゃあ!?」

R提督「魔王……ですか!?」

早霜「魔神の間違いなら、司令官のことですよね……?」

提督「まあ、そうだが……ありゃ誰だ?」

大和「なんだか、本営で見た記憶が……」

少女?「むむっ!? おおお、大和型が揃っちょるじゃとぉー!?」

仁提督「し、失礼する! こちらに与少将殿は……いた!!」ガチャー

武蔵「与少将……だと!?」

少女?→与少将「そうじゃ! いかにも、わしが与少しょ」

仁提督「うおおお!? 武蔵がいるのかああ!?」

与少将「わしの名乗りを邪魔するな馬鹿者おお!」


提督「……」

朧「あの人が与少将……!?」

電「なんとなく初春ちゃんに似てるのです」

初春「いやいやそんなことはなかろう……わらわはあそこまで落ち着きがなくはないぞ?」

香取「そ、その与少将殿が、いったいどのようなご用件で」

与少将「決まっておろう! わしは魔王提督と条約を結ぶために来たのじゃ!」

提督「聞いてねえぞ、そんな話」

仁提督「すまんな……少将殿は思い立ったら止まらんのだ」

提督「お前そっくりだな」

与少将「それにしても……よもや大和と武蔵が揃っちょるところをこげんところで見られるとは! どうじゃ! わしの艦隊に来ぬか!」

大和「うわぁ面倒臭……じゃなかった、お断りいたします」

与少将「いま面倒とか言わんかったか!?」

大和「何のことでしょう?」

武蔵「」

提督「お前の上官、本当にお前そっくりだな」

仁提督「貴様の大和も貴様にそっくりじゃないか……」


与少将「な、なぜわしの誘いを拒む! 魔王の軍勢などに居っては、逆賊と謗られることになるのじゃぞ!?」

大和「逆賊? それは聞き捨てなりませんね、どういう意味です?」

与少将「考えてもみい! 艦娘は、世界の脅威である深海棲艦に対抗しうる希望ともいうべき存在じゃ!」

与少将「その深海棲艦と手を結び、人の世の平和を脅かそうとする魔王に与するということは、そういうことになるんじゃぞ!!」

L大尉「え? 提督は艦娘の保護を目指してるのであって、別に人の世の平和を脅かすつもりはなかったよね?」

提督「ああ。むしろ極力関わりを避けたいんだが」

与少将「なぬ?」

如月「なんか、聞いてないぞって顔ね?」

仁提督「おい、こっちの……すまん、誰だ?」

香取「L大尉です」

仁提督「あ、ああ、すまん。俺は仁提督だ。提督、L大尉の話も本当なんだな?」

提督「もう本当に面倒臭え……」

波元大尉「なんか、あの人見てると、他人の話を聞かない昔の私を見てるみたいで、苦しくなってきたわ……」

クルー6「どっかで休ませてもらいましょう」

霞「とりあえず椅子ならあるから、座ってるといいわよ。ほら」スッ

波元大尉「うん、ありがとう霞ちゃん……大好き」スワッテダキツキ

霞「!?!?」カオマッカ


大淀「とりあえず、条約の話をするのでしたらH大将やX中佐へも同席していただきませんと。確かX中佐は今も船内に……」

与少将「何を呑気な! H大将閣下は今、本営で会議中じゃぞ! 本営がお偉方を招集し、魔王提督の扱いについて、まさにいま談義しておる!」

与少将「じゃけぇ、身動きのとれぬ大将たちに代わって、わしがこの場を収めるため出向いてやったという話じゃ!」

提督「帰れ」ギロリ

与少将「!?」

L大尉「おお、やっぱり提督の帰れは迫力あるなあ」

香取「何を呑気なことを……」

与少将「き、貴様、上官に向かって何を無礼な!」

提督「上だろうが下だろうが、最初から俺たちを頭から抑えつけるつもりでいる奴らの話なんざ聞く気はねえよ」

提督「どうせ本営でも、俺のことをまともに知らない連中があーだこーだ決めつけで喋って、手前に都合のいい結論を出すんだろ?」

仁提督「そうかもしれんが……」

与少将「仁提督!?」

仁提督「申し訳ありません。自分が引き取った雪風にまつわる顛末を考えると、彼らが提督の望む結論を導き出してくれるようには思えんのです」

仁提督「勿論、中将閣下やH大将閣下は確かな見識をお持ちでしょうが……」

提督「H大将が有能だとしても、H大将はH大将で腹に一物抱えてるようだしな。俺はそこまで信用しちゃいねえぞ?」

朧「提督、それはしょうがないですよ。H大将は海軍のことも考えなきゃいけないんですから」

提督「んー、そこはどっちかっつうと海軍と言うより人間のために動いてる印象だな」


提督「人間のために譲れるところと譲れないところを、ちゃんと示してくれそうだってところは信頼できそうではあるが」

提督「何を要求してくるかって点では、油断ならねえと思ってるぜ」

L大尉「えーと、少将殿? そもそも提督は海軍を離れるんですから、上も下もなくなるのでは?」

香取「L大尉!?」ギョッ

L大尉「ん? 僕、何か変なこと言った?」

クルー6「いや、でもその通りじゃないすか? 転職先の業務に口を出す上司はちょっとないっすよ」

仁提督「少将殿、勇み足が過ぎます。L大尉の言う通り、提督は少尉どころか海軍の人間ではなくなります。そのように上からでは不興を買うのも……」

与少将「馬鹿者、ここで怖気づいてどうする! 深海棲艦に屈しろと言うか!」

仁提督「ですから、そういうわけでは……」

提督「そもそも、俺のこともまともに知らずに、いきなりしゃしゃり出てきて場を仕切ろうとする奴を信用しろってのが無理だろ」

提督「おまけに大和を見つけて当初の目的を忘れて口説きだす始末だ。んなド近視眼的な奴と将来の話なんかしてられっか」

与少将「ぐぬぬ……!」

 扉<チャッ

X中佐「提督はいるかい……うわあ、何この大人数」

提督「もう勘弁してくれよ……」

吹雪「司令官、大人気ですね……」タラリ


与少将「むむ? 貴様はあの大将の甥っ子殿ではないか」

朝潮「この医療船の管理をなさっているのがこちらのX中佐です!」

X中佐「ああ、あなたが仁提督から報告のあった与少将ですね。初めまして」ケイレイ

提督「船の主に挨拶もなしに入ってきたのかよ……」

大和「今の海軍は階級にフランクになりすぎなのでは……」

X中佐「外に待たせていた金剛は、仁提督の所属だね? 外で待たせないで中に入ってもらおう」

祥鳳「そういうわけですので、どうぞ」

仁金剛「し、失礼しマース」

提督「黒潮たちは連れてこなかったのか?」

仁提督「ああ、そうなると雪風たちも連れてくることになりそうだからな。伊勢たちとうちの戦艦の交流もさせたいし、留守を任せている」

提督「そうか、仲良くやれそうなら、それでいい。で、X中佐は何かあったのか?」

祥鳳「つい先ほど辞令が出まして、X中佐が大佐に昇進しました」

与少将「辞令……!」

電「そうなのですか!? おめでとうございます、なのです!」


那智「もしや、今回の提督の件でか?」

X大佐「そういうことだね。これから更に君との付き合いは深くなりそうだから、改めてよろしくお願いしたい」

提督「ああ、まあ適当にな。で、それだけを言いに来たのか?」

X大佐「君に縁のある尉官佐官についても、伝えておこうと思ってね」

X大佐「まずN大尉。彼には、もうしばらく特別警察的な仕事をお願いすることになって、大将殿から特務大尉に任命された」

提督「ん? 尉官のままなのか?」

仁提督「いや、取り締まりの観点で言えば、特別警察の権限は将官と変わらんはずだ。だからこその『特務』大尉では?」

X大佐「そういうことになりますね。それから、そちらにいるL大尉、あなたは少佐へ昇進です」

鹿島「本当ですか!?」パァッ

香取「おめでとうございます、少佐」

L少佐「……」

古鷹「どうなさったんですか?」

L少佐「いや、元に戻ったっていうのもあるんだけど、タイミング的になんか素直に喜べないなあ」

L少佐「提督と関わりのあった僕に、それ系の仕事が増えそうな気がする」

仁提督「何か困ることでもあるのか」

L少佐「島に関わる仕事となると、古鷹や朝雲たちの負担が大きくなりそうだし……」


L少佐「提督としても、僕が好きか嫌いかは別にしても、僕自身が島と関わるのは控えてほしいと思ってるんじゃないかな?」

提督「それはそうだな」

L少佐「僕も提督に迷惑をかけたくはないしね……何より、提督目当ての上官に押しかけられるのは嫌だなあ」

与少将「なにを言うか! 我らが国民の命を守るための……むもがっ!?」

仁提督「少将殿、この場はひとまずお納めください」クチフサギ

L少佐「そんなことより提督だよ。なんで今の今まで少尉のままなのかが一番意味不明だよ」

仁提督「そこは俺も同意する。轟沈経験艦の対応など、佐官どころか将官の仕事だろうに」

提督「役職なんざいらねえよ、くっそ面倒臭え」

海風「少尉さんは本当に相変わらずですね……」

X大佐「とは言うものの、海軍としては功労者にまともな役職を与えなかったというのは後々の遺恨をもたらすだろう、という話でね」

X大佐「退職の前に、提督は中佐に昇進してもらうことになったよ」

提督「なんだそりゃ……」

R提督「二階級どころじゃない特進ですね……」

武蔵「階級はファッションじゃないんだぞ」

L少佐「これまでが不当に低すぎたんだよ!」


電「そういえば、仁提督とR提督の階級は何なのですか?」

仁提督「俺はずっと少佐だ。大した実力もないし、そんなもんだろう」

那珂「仁提督はもっと上だと思ったんだけどなー」

仁提督「与少将配下の提督はそれなりに精鋭揃いなんだ。そこから見れば俺は新参者だし下の方だ」

R提督「あ、ええと、私は今は大尉です。先日まで処分されてましたので中尉でした……その前は少佐だったのですが」

香取「あら、それではL提督と一緒ですね」ウフフッ

鹿島「そうだったんですか!?」

朝雲「あの時は頭も丸めてたもんね」

L少佐「もう掘り返さないでくれないか……」

香取「ですが、そのおかげで中将閣下に目をかけていただいたのですから、塞翁が馬ですよ」

L少佐「そこは間接的に提督のおかげだと思うよ」

与少将「……」ジロッ

X大佐「ああ、その中将閣下なんだけれど、引退をお考えらしいんだ」

与少将「んなっ、なんじゃとおお!?」

L少佐「中将が……!?」


提督「ふーん……ま、齢が齢だししょうがねえだろうな。足も悪いし治療に専念……」

与少将「こ、こりゃ! 魔王提督! 貴様も大恩あるであろう中将閣下に何たる無礼な口を!!」

提督「ああ? いちいちうるっせえな小姑が」

与少将「」ピシッ

R提督「……」アゼン

L少佐「よ、容赦ないね……?」

提督「これでも気を使ってババアと言ってねえ」フンッ

与少将「」

波元大尉「」

霞「ちょっと!?」

仁提督「……」アタマオサエ

クルー6「マジ容赦ないっすね……」

与少将「おのれ……わしはともかく、貴様には中将閣下に対する敬意はないのか! 不敬者め!!」

提督「あ? 俺の態度なんかどうでもいいだろ。中将が辞めるってのに俺がどうこう口を出す方が余程無粋だろうが」

提督「そんなに中将に敬意を示したいなら、お前が示しゃいいじゃねえか。俺に押し付けてんじゃねえよ、くそが」

与少将「」ビキビキッ

時雨「言葉を失うってこういうことなんだろうなあ……」


波元大尉「……うん、まあ……でもさ、提督も中将にはお世話にはなったんだよね?」

提督「まあ……不知火の件じゃ世話になったな。まともに俺の相手してくれたのも中将くらいだったし、恩義を感じてねえわけじゃねえよ」

提督「ただ、中将の階級が階級だから、そこまで頼りたくなかったっつうのと、息子の大佐がくそ過ぎたせいでなあ……」

波元大尉「中将の息子さん? って、もしかして……死んじゃったらしいからあまり悪く言いたくないけど、あの気持ち悪い人?」

提督「知ってんのか?」

波元大尉「ちょっとだけね。ぞわぞわするくらいねっとりした感じで見られたことがあって、ひたすら気持ち悪いって印象しかなかったんだけど」

大和「……っ!」ゾワゾワッ

提督「その感想は正解だな。如月は大佐のところから逃げてきたんだ」

波元大尉「うえっ!? 如月ちゃんて……そういうことなの!? そんなひどい! あんまりすぎよ!? やだっ、鳥肌立ってきちゃった!」ゾワワッ

波元大尉「ううう、私ったら如月ちゃんに本当にひどいこと言っちゃったんじゃない……本当にごめんなさい!」

如月「大丈夫よ波さん、かたきは取ってもらったし、あの傷も司令官のおかげでちゃんと治してもらえたわ」

波元大尉「そ、そうなの!? 良かったぁ……本当に良かった」ウルッ

仁提督「……かたきを取ってもらった?」

X大佐「あ、その辺はコレで」シー

仁提督「は、はい……」

提督(まあ、言えねえよなあ……大佐の身柄を深海棲艦に受け渡した、なんて)


X大佐「とにかく、あの大佐は、実父である中将殿の暗殺も企てていたほどだ。艦娘の命も何とも思っていなかったんだろうね」

提督「ん? 実父? あいつ、中将と血ぃ繋がってねえんだろ?」

X大佐「……は?」

与少将「……なんじゃと?」

L少佐「ほ、本当なのか、その話」

提督「あれ? 知らねえの? あのバカ、後妻の連れ子だって」

R提督「わ、私は初めて聞きました」

仁提督「俺もだ……」

大和「だ、誰か知ってる方はいます?」

全員「「……」」

香取「どなたも、御存知ないようですね」

提督「言っちゃまずい話だったか?」クビカシゲ

X大佐「……いや、そ、そんなことはないと思うけど……そう、だったのか?」

大淀「提督、そのお話は誰から訊いたんですか?」

提督「大佐の秘書艦やってた赤城からだ」

仁提督「ああ……あの『鉄の赤城』か? だとしたら満更嘘でもなさそうだな」


与少将「そうじゃったか……ああ、そうじゃろうなあ! 彼奴が中将閣下の息子など、何かの間違いであると思っておったんじゃ!」

与少将「それを、中将閣下は誰にも言わず……なんとお労しや……!!」ボロボロボロ

千歳「与少将!?」

武蔵「与少将は随分と中将に入れ込んでいるようだが、なにかあったのか?」

仁提督「与少将殿は、幼いころに中将閣下にお会いしたことがあるそうだ」

仁提督「その中将閣下に憧れて猛勉強し、努力の末、神童と呼ばれるほどの成績で海軍に入ったと聞いている」

仁提督「その真偽はさておいても、その艦隊指揮能力の高さから、いまこの方は若くして少将という地位にいるというわけだ」

X大佐「僕も聞いただけだけれど、与少将が中将と会う方法を僕の叔父さん……T大将殿にも聞いていたそうですね」

与少将「ああ、そうじゃ……わしはあのお方の隣で、艦隊の指揮を執るのが夢じゃった!」

与少将「それをことごとくあのジジイが潰してくれおって……」

与少将「わしが崇拝しているのは中将閣下であって、呉の和中将なんぞではないと言うんじゃあ!」

足柄「和中将?」

L少佐「和中将ってもしかして……」

提督「……」ウヘェ

与少将「X大佐よ! 先刻の辞令に、わしを呉へ異動させる人事はないか!?」

祥鳳「……X提督、こちらに」サッ

X大佐「……ありますね」

与少将「やはりか……あのタヌキジジイめが! どうあってもわしを呉へ連れ去る気か!!」ブワッ


提督「まぁたどっかで聞いた名前だな……なあ那智?」

那智「ああ、よく覚えているな……私もあまり思い出したくはないのだが」ハァ

那智「確かに、実力のある女性提督がまったく靡かなくて困っている、というような愚痴を聞かされたことはある」

提督「それ、まさしくこいつのことじゃねえのか?」

那智「かもしれないな……男らしいところを見せてやれとは返したが」

海風「あの、那智さん? いまは、あなたはその和中将から連絡とかはないんですか?」

那智「それはないな。そもそも何も言わずに出てきたし、この島への着任は海で見つけてもらったことにしてもらっている」

那智「だから彼は私がここにいること自体知らないはずだ。そうでなくても、和中将はあの島を蛇蝎のごとく忌み嫌っていたようだからな」

那智「仮に私がここにいたことを知ったとしても、二度と連絡を取ろうとすることもあるまい」

与少将「ぬ……? ぬしら、和中将を知っちょるのか?」

提督「ああ。お前、あいつに困ってるのか?」

与少将「そ、そうじゃが……」

提督「だったら、この島の関係者だって言えば、あいつ勝手に嫌ってくれるぞ?」

与少将「」シロメ

与少将「」

与少将「」

与少将「わしのこれまでの抵抗はなんだったんじゃ……」ヒザカラクズレオチ

仁提督「少将殿! しっかりしてください!」


提督「なあ、L少佐? あんたんとこにも和中将からは連絡は行ってねえだろ?」

L少佐「来てないはずだなあ。僕たちも和中将からは呉に来るなと言われたし……香取と鹿島も連絡受けてないよね?」

香取「はい、受けていません」

鹿島「呉の中将さんは気難しいお方だと聞いていましたから、意固地になっているんじゃないかと思います」

与少将「……」マッシロ

仁提督「少将殿、お気を確かに」

X大佐「そういえば提督、君のところにいた不知火は、中将の部下じゃなかったのかい?」

提督「ああ。今は中将のところに戻ってもらってるが」

仁提督「そうなのか? ……すまん、恥を忍んで頼みたいのだが、不知火を通して中将閣下への御目文字はかなわないだろうか」

提督「……そういうのは本人の口から言わねえと」

与少将「頼めるのか!?」ガバッ

提督「……」

与少将「であればこの通りじゃ! 何卒! 何卒、中将閣下との御目通しを!! この通りじゃあ!!」ドゲザ

与少将「これ以上、和中将に邪魔されとうないんじゃ!! 後生じゃ……お願いできまいか!!」

仁提督「少将殿!?」


与少将「頼む……わしにできることがあればなんでもしよう! 何か良い方法はないか!?」

提督「……」ハァ…

仁提督「……」

提督「本人の口から、って言ったの、俺だしなあ……」ガックリ

提督「仕方ねえ……おい、那智」

那智「む?」

提督「不知火に事情を説明して、この二人が中将と面会できないか交渉してもらっていいか?」

与少将「……!!」

提督「俺にそんな権限があるかはわからねえ。とりあえず、どんな理由で会うのか、与少将たちとすり合わせしてほしいんだが」

提督「で、そのついでにお前の知ってる和中将の弱みも適当に教えてやれねえか」

那智「それは構わないが……いいのか?」

提督「我ながら甘いと思うが、ここまでやったんなら、それなりの対応はしてやらねえとな……」ハァ

与少将「なんと……なんとありがたい……!!」

提督「中将に会う口実とか、そういうものに俺は口を出さねえからな。那智と不知火とで、うまいことやってくれ」

与少将「感謝! 感謝する!!」ゴンッ

与少将「であればわしに何か手伝わせてくれ! わしができる範囲で面倒ごとを引き受けようではないか!」

仁提督「少将殿!! そのように軽々しく引き受けては……!」


提督「……んじゃ、L少佐のところに来てる同業者をなんとかしてくれねえか?」

与少将「ど、どういうことじゃ?」

提督「こっちにいるL少佐は、まあまあ長い付き合いでな。今は神戸で新米提督相手にいろいろ教えてるんだっけか?」

L少佐「うん」

提督「でだ、俺との付き合いがあったせいで、俺のことを知りたがってる提督が神戸に押し寄せてるんだと」

仁提督「つまり、そいつらを追い払えと?」

提督「L少佐の業務に支障をきたさないようにしてほしい、ってことだ」

L少佐「ちょ、ちょっと! 確かに少将に出てきてもらえば助かりそうだけど……恐れ多いよ!?」

提督「そうか? この上なく都合のいい話だろ? 少なくとも格下の佐官には強く出られるだろうし……」

提督「与少将にしてみても、島に何度か上陸したことのあるL少佐と一緒に仕事をしたっつう実績になるんだ」

提督「お前目当てに来た連中が与少将に追い返されたって話が広まれば、和中将もどう思うかねえ……?」ニタリ

与少将「……!」

香取「それでは提督、与少将からL少佐が御助力賜る旨を、不知火さんから中将殿へ報告していただいてもよろしいでしょうか?」

与少将「!!」


提督「いいんじゃねえかな。ただ協力しただけだとちょっと弱いかもしれねえが……」

L少佐「それならいっそ、与少将も、一度でもあの島に上陸した実績を作ったほうが早くないか?」

提督「それもそうだな、手っ取り早いのはそれか……深海棲艦たちと迂闊に鉢合わせしないようにしないといけねえな」

提督「あ、そうだ、俺たちと会話を持ったことは他言してもいいが、くれぐれも那智のことは伏せろよ。下手に復縁求められても困るからな」

与少将「う、うむ! 合点承知の介じゃ!!」コクコク

L少佐「とりあえず、僕としては提督のことを訊かれたときにどこまで話していいかを確認したいんだけど、いつ話ができそうかな?」

提督「あー……そうだな……」

如月「ねえ司令官、直近の日程だと、今日の午後にX大佐と話す予定でしょ? 一緒に話をしてもらったらいいんじゃないかしら」

X大佐「……いいよ、話す内容は前後するけど、必要な情報だ。調整しよう」

L少佐「本当ですか!」

香取「ありがとうございます」ペコリ

仁提督「悪いが、その話に自分たちも参加させてもらえないだろうか。少将殿も参加させてもらえると話が早いだろうし……」

仁提督「それに以前、俺のところにテレビ局の関係者が聞きに来たこともあるんで、俺としても対策を取りたい」

提督「関係者?」チラリ

クルー6「お、俺っすか? いや、俺もうテレビと無関係すよ?」

波元大尉「そうなの? この前、そのテレビ局の知ってる人からメールが来たって言ってたじゃない」


クルー6「あー、4さんからの写真すか……これっすね」スマホトリダシ

山風「! ちょっと、見たい……!」

仁提督「俺にも見せてくれ」

提督「……」チラッ

 スマホ『おっさんが滅茶苦茶いい笑顔で択捉ちゃんと記念撮影してまーす』

クルー6「なんか、新しく、かいぼうかん? って艦娘が発見されたらしくて。その取材に行ったときに撮ってもらったらしいっす」

山風「……」

提督「ああ、こいつが乱暴やめろって叫んでた奴か。まだ艦娘がらみの仕事続けてんのか?」

クルー6「あの一件以来、艦娘の取材には必ず引っ張られてるみたいっすよ」

仁提督「俺のところに来てた奴とは違うな……」

クルー6「そうなんすか? それだと接点あったかどうかわかんないっすね」

R提督(これ、職権乱用にならないかな……?)タラリ

山風「……」ムッスー…

仁金剛「……なんであの山風はご機嫌斜めデース?」

仁提督「さあ……?」

ガンビアベイ(自分を助けてくれた人が、他の艦娘といい笑顔で映ってるのが気に入らないんでしょうネ……)


提督「あ、そうだ。おい、仁提督」

仁提督「ん?」

提督「与少将の部下に、深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな考えの奴はいるか?」

仁提督「んー……いや、どちらかと言えば俺がそうだったんだが、逆に窘められたことはある」

仁提督「深海棲艦がなぜ人間を襲うのか、その目的や理由がわかれば、無駄に消耗しないし住み分けできるんじゃないか、と……」

仁提督「与少将が部下を集めたときも、そもそも深海棲艦とは何者か、という議題で話が始まったときもある」

仁提督「お前がやってのけた深海棲艦との対話なんてのは、与少将にとっては願ったり叶ったりだと思うんだが」

提督「あいつ、俺たちのことを逆賊とか言ってやがったぞ」

仁提督「おそらく『魔王』のフレーズだけでお前を悪者だと思い込んだんだろう……で、本当に『魔王』になったのか?」

提督「『魔王』じゃなくて『魔神』って呼ばれてる。まあ、大差ないとは思うけどよ」

提督「いずれにしろ人間じゃなくなったし、物騒な連中が増えたから、あまり気軽に島に来て欲しくはねえな」

仁提督「……まあ、たまに黒潮たちが遊びに来たいと言うようなら、それもいいだろう?」

提督「おう。それは一向に構わねえよ、元気なのを定期的に連絡してくれるなら、それもそれで安心だ」

仁提督「ということは、アレか。深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな連中に目をつけられたってことか?」

提督「ああ……『説得』できりゃあいいんだがな」

と言うわけで今回はここまで。

>911
日進みたいな子を連想していただければと。

続きです。


 * 同時刻 *

 * 鹿屋 W大佐鎮守府 *

最上「へーえ、僕にも第二改装がくるのか~」

W熊野「ええ、計画されていると、本営からのお達しがありましてよ」

W鈴谷「いつ来るかってのはわかんないんだけどね~」

最上「三隈にはそういう話はないのかな?」

W熊野「残念ながら、そういう話があったのは今のところ最上さんだけですわね……」

最上「そっかー、残念。三隈と一緒に改装出来たら嬉しいんだけどなー」

三隈「最上さん……!」

W鈴谷「なーんか二人ともすっごい仲良しだよね。なになに、なにかあったの? ワケアリって感じ?」

最上「なにかあったってわけじゃないけど、三隈が単に僕のことを気に入ってくれてるみたいでさ」

三隈「最上さん!?」カオマッカ

W鈴谷「ははーん、そういうこと! 大丈夫だいじょーぶ、この鎮守府にふたりの仲を引き裂こうなんてヤボな人はいないから!」ニヒヒッ

三隈「……ここの日向さんが最上さんを狙ってるように見えるんですが」


W熊野「あの方は、瑞雲の素晴らしさを広めたいだけですわ。三隈さんにも日向さんからのアプローチがあったのではなくって?」

三隈「ええ、まあ……でも、熱心だったのは最上さんに対してですわ」

最上「多分だけど、僕が瑞雲をもっと使うようになれば、三隈もそうしてくれるって思ってるんじゃない?」

W鈴谷「そこまで深く考えてないんじゃないかなあ? フツーに見どころあったんじゃない? 艦載機の搭載機数が多いからとか」

最上「ああ、なるほどー」

W熊野「ところで、おふたりはこの鎮守府へ転籍を決めたんですの?」

最上「そうだね。W大佐にもお願いされたし、航空火力艦が多いここなら、僕たちも役に立てそうだしね」

三隈「ええ。最上さんがセクハラ被害にあうこともなさそうですし、三隈もご一緒できればと思いますわ」

W鈴谷「やっりぃ! これで最上型勢揃いじゃーん!」

W球磨「これで頭に『ミ』って書いた頭巾を被らせられずに済むクマ」ニュッ

三隈「はい?」

最上「ああ、ミ、球磨ってこと?」

W球磨「クマー」ウナヅキ

W鈴谷「てゆーか、そんなことやってないし~!」


最上「それじゃ、僕の代わりはどうするつもりだったの?」

W球磨「北上に『モ』って書いた上着を着せてやるクマ」

最上「あはは、それだと『もかみ』だね!」

W熊野「言っておきますけど冗談ですわよ? そもそもこの鎮守府に雷巡は不在ですわ」

三隈「球磨さんも航空攻撃はできませんわよね?」

W球磨「できないけど、そもそもW提督が伊勢を改装するまでは、普通に砲雷撃戦に重きを置いてたクマ。その当時は球磨も優秀だったクマ」

W球磨「自分で言っちゃうけど、球磨はここの艦隊の中でも古株クマ。非航空部隊の中では一番練度が高いクマ」フフン

W鈴谷「そうそう! 意外じゃなく今も今で優秀なんだよね~」ナデナデ

W球磨「クマァ~」ウットリ

W球磨「……って、そこでなでなでしないクマ!」プンスカ!

最上「でも、気持ちよさそうにしてたよ?」ジリッ

W球磨「ちょっと待つクマ。どさくさにまぎれて撫でようとするなクマ」ジリッ

W伊勢「あっ、いたいた!」

W熊野「あら? 伊勢さん、お戻りになられてましたの?」


W球磨「ということは、提督も戻ってきてるクマ?」

W大佐「ああ、最上たちはここにいたのか」ヌッ

最上「どうしたの? 僕たちに何か用?」

W大佐「ちょっとまずい状況になった。俺と同じくH大将の部下だった曽大佐が、H大将のもとを離れたことは聞いているか?」

W熊野「まあ……あのリベンジャー提督が?」

最上「なんだいそのリベンジャーって」

W鈴谷「文字通り深海棲艦に復讐したがってるって言うか。その人、とにかく深海棲艦をすっごい恨んでるみたいよ?」

W伊勢「そそ。そういう人だから、深海棲艦と交渉の場を持ったH大将に激怒したらしくてさ」

三隈「ああ……それで、H大将を見限って離反したと?」

W伊勢「そういうこと」ウンウン

W大佐「今回の事件は想定外の出来事が多すぎたんだ。J少将による大将暗殺計画といい、提督が深海棲艦と交遊できていたことといい……」

W鈴谷「海底火山の噴火と、メディウムもね?」

W大佐「ああ。そんな状況から、提督を助けようとした深海棲艦たちと対話することになるなんて、誰にも予見できなかったと思う」

W大佐「H大将殿が、不本意であってもご自身の方針を変えざるを得なかったのも、俺は仕方のないことだと思っている」

W大佐「それが曽大佐には受け入れがたいんだろうな。あいつは、深海棲艦の存在そのものを許せない男だ」


W球磨「それ、まずくないクマ? 海軍と曽大佐の意思が乖離してたら、曽大佐の行いを海軍が止めないといろいろ厄介になるクマ」

W熊野「そもそも、あの方の気質からして、深海棲艦と話し合う気は毛頭ありませんわよね? 曽大佐はこれからどうするつもりなのかしら」

W大佐「曽大佐は、自分と考えを同じくする他の将官に、自分を売り込もうとしているらしい」

W大佐「ただ、その将官たちも、さすがに今は慎重になるべきと考えているようで、曽大佐はなかなか新しい後ろ盾を見つけられずにいる」

W熊野「そうなりますわよね」

W大佐「曽大佐は焦っているんだ。このまま世界が深海棲艦を迎合してしまったら、自分の理想は遂げられないからな」

W大佐「ここから先は俺の想像だが……そうなると、次に矛先が向くのはあの島だろうと思っている」

三隈「まさか……提督を狙うつもりですか!?」

W大佐「提督と深海棲艦のどちらが先か、というのはあるが、曽大佐に狙われるのは間違いないだろう」

W大佐「彼は深海棲艦を滅ぼすべき敵だと認識している。それを受け入れて保護している提督も、曽大佐が放っておくとは思えない」

W大佐「曽大佐が動けていないのは、おそらく、彼に賛同する将官や、協力して艦隊を出そうとする提督が集まっていないからだろう」

W伊勢「戦争を終わらせるための大事な拠点になるかもしれないってのに、それを台無しにできる度胸があるか、って話だもんね」

W球磨「一歩間違えば全面戦争クマ。慎重にならないほうがおかしいクマ」

W伊勢「それにあの島、注目されたせいで、今頃になっていろんな物騒な逸話が出てきてて、みんな及び腰になってるんだよねー」

W鈴谷「物騒な逸話? なになに? 何があったの?」


W伊勢「うーん、例えば、あの島は海流の影響で、行ったらなかなか戻ってこれない場所だったんだって。かつては流刑地同然だったとか?」

三隈「ああ……」

最上「流刑地かあ。ある意味、僕たちもそんな感じだったよね?」

三隈「最上さん!?」

W熊野「……そ、そういう自覚がおありだったんですの?」ドンビキ

最上「まあね。僕たち、当時の提督に歯向かっちゃったから」

最上「日常的にセクハラされてたってみんなに証言してもらってなかったら、解体処分だったと思うよ?」

三隈「……」

W鈴谷「うえー、セクハラされて反撃したから島流しになったの? 仕方ないかもしんないけど、なーんかヤだ~」

W伊勢「あと、幽霊が出るって話もなかったっけ?」

最上「そうなの? それは僕たちは聞いたことないかも」

三隈「でも、轟沈した艦娘が流れ着く島だったんですもの。少なくとも、あの丘の上に並んだ艤装の数だけ、轟沈艦がいたわけですし」

三隈「幽霊くらいいてもおかしいとは思えませんわ」

W球磨「……深海棲艦が住むことになっても不思議じゃない島な気がするクマ」


最上「住んではいなかったけど、僕が来た時には戦艦ル級が普通に遊びに来てたよ?」

W伊勢「は?」

W熊野「マジですの?」

W鈴谷「あはは、熊野が『マジ』だって! ウケるー!」

W球磨「そこ笑うところクマ!?」

W熊野「鈴谷!? 私がマジとか言ったらおかしいとでも言うんですの!?」

W球磨「今その話はしてないクマ。話が逸れるから静かにするクマ」

W熊野「厳しくありませんこと!?」

W伊勢「ちょっと待って。ル級?」

最上「うん、深海棲艦の戦艦ル級。割と昔から、あのル級とは交流があったみたいだよ」

三隈「あくまで提督との個人的な付き合い、ということらしいですわ」

最上「大佐が連れてきた泊地棲姫を追い返すときも協力してくれたから、仲は良いんだろうね」

W球磨「どうやって仲良くなったんだクマ……」

W鈴谷「きっかけはとにかく、仲良くなれたのをわざわざぶち壊そうとしなくてもいいと思うんだけどー」

三隈「それだけ、曽大佐の深海棲艦への恨みは深いということなんでしょうね……」


W鈴谷「あそこの鎮守府の艦娘、あたし苦手なんだよねー。みーんな曽大佐に感化されてて、すっごいピリピリしまくっててさぁ」

W球磨「わかるクマ。全然余裕がなさそうで息苦しい鎮守府クマ」ウンウン

W伊勢「とにかくそういうわけだから、最上と三隈はしばらくあの島には戻らないほうが良さそうだ、って伝えたかったの」

三隈「……とりあえず、わかりました」

最上「あーあ、提督も大変だね。曽大佐がどんな恨みを持ってるのかしらないけど、提督にしてみればとばっちりだよ」

W熊野「とばっちり……」

最上「そうじゃないのかな? あの島に集まった深海棲艦のうちの誰かが曽大佐に何かしたって言うんならわかるけど、そうじゃないんでしょ?」

最上「例えば、ある国の人に家族や友達を殺されたからって、その国に住む人間は全員悪だ、なんて理屈は横暴だと思わない?」

最上「その人が嫌いになるのはしょうがないと思うけど、それで皆殺しにするほどかな? 提督にしてみたら絶対にとばっちりだよね?」

三隈「とばっちりかもしれませんけど、どちらにしても、あの提督にはきっと関係ないでしょうね」

W大佐「……最上たちに訊きたいんだが、島に住む深海棲艦が提督に、ある場所を攻撃してほしい、と頼んだらそれは聞き入れると思うか?」

最上「そこは深海棲艦のお願いの内容によるんじゃないかな?」

最上「お願いを聞くにしても、提督は島にいる艦娘や深海棲艦が巻き込まれないようにするだろうし、無理なお願いなら突っぱねると思うなあ」

三隈「かつての島の、ゆるりとした生活を取り戻したいとは思っているでしょうけど……そのために他の国や拠点を攻撃するとは思えません」

三隈「そもそも厭世的な方でしたから、他国を攻めたりして目をつけられることのほうが嫌だと思うのではないでしょうか」


最上「そうだね。島の住人が増えたとしても、提督自身は人の世界に関わろうとはしないんじゃないかな?」

三隈「その島の住人が、提督に黙って勝手にどこかへ攻め込むことはあるかもしれませんね」

最上「……そうなったら、提督はどうするかなあ」ウーン

W大佐「なるほど。提督が、自分の意志で外へ攻め込む可能性は低いとみていいのか?」

最上「だと思うけど、そこまで突っ込んだ話だと、僕たちに訊くより比叡さんのほうが詳しいんじゃないかな?」

最上「僕たちよりずっと前から鎮守府にいたって言うし」

W大佐「ふむ……後で聞いてみるか」

W伊勢「ちなみにその比叡は?」

W熊野「榛名さんと一緒に工廠の方に行っているはずですわ」

W鈴谷「めっちゃテンション高かったよねー。あんなに笑ってる榛名さんは初めて見たよ?」

W熊野「せっかくですわ、あの比叡さんもこちらに移籍していただいたほうがよろしいんじゃありませんこと?」

W球磨「球磨もそれがいいと思うけど、あの比叡は轟沈を経験してるクマ。そのあたり、大丈夫なのかクマ?」

W鈴谷「うあー、そっかー。そのへんダイジョブになんないと、確かにいろいろ怖いよねー」


W熊野「……うーん、仮に比叡さんが深海棲艦になったとしても、話が通じれば良いのではなくて?」

W球磨「ちょっと何を言ってるかわからないクマ」

W熊野「艦娘が深海棲艦になったとしても、人を襲わないのなら問題視しなくても良い、と思ったのだけれど……そうではないのかしら」

W熊野「話が通じなくて、かつ、分別なく人を襲うからこそ危険なのは、なにも深海棲艦に限った話ではなくてよ?」

W伊勢「あぁ……まあ、そうなるかな?」

W球磨「熊野の言わんとしてるところはわからなくないクマ。でも、艦娘が深海棲艦になるって状況自体、相当のことだと思うクマ」

W球磨「球磨は、艦娘が正気を保てなくなったから深海棲艦になると思ってるクマ」

W球磨「轟沈自体が艦娘にとって絶望的なものなんだから、深海棲艦になった時点でまともじゃなくなってると思ってるクマ」

W熊野「でも、あの島には話の通じる、まともな深海棲艦がいたんでしょう? 深海棲艦がまともじゃない、という理屈は通じませんわ」

W球磨「そう言われればそうなるクマ……」ウーン

三隈「いずれにせよ、艦娘が深海棲艦になった記録もあの島にはありませんし……」

最上「あの島にいて誰も深海棲艦にならなかったんだから、あの話自体がでたらめなのかもね?」

全員「「……」」

W大佐「いずれにしろ、安易に引き取るというわけにはいかないだろう。向こうの都合もあるだろうしな」

W鈴谷「手続きもいろいろ面倒臭いもんねー」


 *

W大佐「最上たちの話を聞く限り、提督が島から外へ出てどこかへ攻め込むということはなさそうだな?」

W伊勢「そうみたいですね。船であちらの提督の話を聞いたときの話と、だいたい符合してますし」

W大佐「Xが作った共存への道を曽大佐が潰すのは避けたいが、深海棲艦の跋扈を許したくない曽大佐の気持ちもわかる」

W大佐「できればうまく潰しあって痛み分けになってくれればいいんだが……」

W伊勢「W提督は、あの島に深海棲艦がいないほうがいいとお考えでしたよね?」

W大佐「ああ。そうでなければ、あの島に深海棲艦がいたとしても、海軍が支配した状態になっているのが望ましい」

W大佐「あの提督がいる限り、それも難しそうだがな」

W伊勢「海軍に協力してくれなさそうだ、って意味で?」

W大佐「……ああ。二度も海軍の人間に殺されそうになったんだ。俺たち海軍は……いや、人間は恨まれていると思ったほうがいいだろう」

W大佐「Xのように協力的な姿勢を見せる人間がいなければ、彼が人間を滅ぼそうと考えてもおかしくないように思えるしな」

W大佐「そもそも、妖精と話ができる人材をあんな離島に追いやったことを、なぜ上は誰も疑問視しなかったのか……」

W伊勢「そこはもう、手遅れだったとしか思えないけどなあ。W提督も聞いてるでしょ? あの島の提督、もとから相当な人間嫌いだって」


W伊勢「艦娘を唆して人間を裏切るんじゃないかってことを懸念して、中将閣下とその息子である大佐に押し付けたって、誰かも言ってたし」

W大佐「だったら、海軍が信頼できる組織だということを、彼に示せば良かったんだ」

W大佐「妖精から不祥事を聞かれたくないというのなら、普段からそういう行動をしていればいいだけのこと……」

W大佐「裏切る要素があるからと、保身のため、責任逃れのためにたらい回しにしたのでは、不信感を持たれて当然だ……!」

W大佐「もっとも……あのとき、J少将の目論見を見抜けなかった俺が言っても、説得力がないのかもしれないがな」ハァ…

W伊勢「……」

W大佐「いずれにしろ、いまは提督の言い分を聞くしかないだろう」

W大佐「不本意だが、リンガ泊地の城塞鎮守府も、あの提督のおかげで落ち着きを取り戻したとO大尉から報告を受けた」

W大佐「彼が海軍のために動いてくれたのであれば、我々も応えるのが礼儀、と言うものだ」

W伊勢「……曽大佐はやりづらいでしょうね」

W大佐「だろうな。曽大佐は、あの島を攻撃する口実を作ろうとしているようだが……いま動くのは下策と言わざるを得ん」


 * 一方 *

 * 曽大佐鎮守府 *

曽大佐「なぜだ!? あれほど深海棲艦の撃滅に協力的だった仲間が、あいつらの撃滅を躊躇するんだ!!」

通信『し、仕方ありませんよ大佐! もしかしたら、この戦争を終わらせることができるかもしれないんですよ!?』

曽大佐「なにが終戦だ! 人に仇なす存在でしかない深海棲艦がいる限り、戦いが終わるわけがないだろう!」

曽大佐「これまでさんざん戦ってきた深海棲艦がどういうものか、お前は忘れたのか!?」

曽大佐「あいつらと人間が共生できるわけがない!? 寝言は寝て言えと言うんだ!」

通信『し、しかし、共生は無理でも、住み分けが……』

曽大佐「あいつらのために譲っていい場所などあるものか!! 奴らは侵略者だぞ!? 甘い顔を見せつけあがらせる気か!」

曽大佐「海の平和を乱すものを徹底的に叩いて排斥し、海に秩序をもたらすのが俺たちの使命じゃないのか!!」

通信『で、ですが、その秩序を作るために話し合いを……』

曽大佐「あいつらに我々の望む秩序を守れると思っているのか!? 人ですらないんだぞ!」


曽大佐「駆逐艦を見ろ! あれを人と呼べるのか!? 戦艦棲姫を思い出せ! 誰もが化け物だと言わなかったか!!」

曽大佐「人間は、深海棲艦に恐怖したんじゃなかったのか!! 陸の人間はもう忘れたのか!! 俺たちはまだ戦争中なんだぞ!!」

通信『……』

曽大佐「情けないことに、我々人間が奴らに直接対抗する術はない。未だに艦娘頼みだ……!」

曽大佐「その状況で深海棲艦と和睦だと!? 思い上がりも甚だしい!! 身の程を知れと言うんだ!!」

通信『お、落ち着いてください大佐……!』

曽大佐「落ち着いていられるか……! 深海棲艦が領土を持つことの重要性と危険性を、本営は何も理解していない!」

曽大佐「最悪、我々だけであの島から深海棲艦を追い出す算段を考えねばならん……!」

曽大佐「だからこそ戦力を募っているというのに、終戦などという世迷言に惑わされる愚物ばかり……お前はどうなんだ」

通信『っ……じ、自分は、まだ……』

曽大佐「そうか。俺はまもなくあの島への攻撃を予定している。準備しておけ」

通信『……い、急ぎ、準備、いたします……!』

 プツッ

曽大佐「そこで『はい』と言えんのか……!? 腰抜けばかりか、この国は……!!」ギリッ


 * 翌日 *

 * 墓場島 埠頭 *

提督「はぁ……こんなに早く人間を上陸させることになるとはな。ま、与少将がうまく抑止力になってくれりゃいいんだが」

ヲ級「!」

提督「ん? お前、あの打ち合わせに出てたヲ級か? お前が時雨を見つけてくれたんだったな?」

ヲ級「提督ヒトリカ……コンナトコロデ、ナニヲシテイル」

提督「散歩だよ。新しい鎮守府がどういう感じか、見て回ってる」

ヲ級「艦娘ハドウシタ」

提督「人間が島に来てるんで、護衛を押し付けてきた。俺もたまにゃあひとりで適当にぶらぶらしたいときがあるんでな」

ヲ級「……」

イ級「」ザバー

ロ級「」ザババー

提督「おー……作った水路、いい感じに機能してるみたいだな」

ヲ級「……」コク


提督「深海の駆逐艦って、改めて見るとでけえな。イルカよりでかいか? イルカの実物、見たことねえけど」

ヲ級「イ、ルカ……? アア、アイツラヨリハ大キイナ」

提督「けど、分類としては駆逐艦なんだよな。こうやって見ると、お前やル級より装甲硬そうに見えるんだが」

ヲ級「イイヤ、ソウデモナイ。ソレニ、私タチヨリ身体ガ大キイブン、被弾モ多イ」

提督「ああ、なるほど……確かに、そこはでかけりゃいいって話じゃねえか」

提督「それにしても……なあ、知ってたらでいいから教えてほしいんだが、いいか?」

ヲ級「ナンダ?」

提督「深海の駆逐艦が人型じゃないのはどうしてなんだ?」

ヲ級「……」

提督「軽巡は顔が隠れてるが人の体や腕を持ってるし、潜水艦も人の顔を持ってるけど、駆逐艦は人らしい要素がないんだよな」

提督「逆に艦娘はどんな艦であっても人型だ。この違いは一体何だろうな、と思ってな」

ヲ級「……ソレハ、考エタコトモ、ナカッタ……」

提督「そうか。まあ、生活に不自由しなきゃいいなと思ってるだけだから、あまり深く考えなくていいぞ」

ヲ級「……生活?」

提督「ああ。俺や艦娘、それからメディウムたちも一応は人の姿を取ってるから、人間と同じような生活をしてるんだが」

提督「お前たちは海中で過ごすんだろ? 寝るときに布団に入ったりしないだろうし、風呂の習慣もないよな?」


提督「食事だって、まさかテーブル囲んで食べてるとは思えねえ。お前もそうだが、あの駆逐艦たちは普段は何を食ってんだ?」

ヲ級「食事? ……燃料補給ノコトカ。ソレナラ海底ノ重油ダナ」

提督「油か。まさか、自分で堀りに行ったりしてるのか?」

ヲ級「場所ガワカッテイルカラ、ソコマデ行クトキモアルシ、オマエタチガ鬼級ヤ姫級ト呼ブ艦ニ用意シテモラウトキモアル」

ヲ級「泊地棲姫ノトコロニイタトキハ、駆逐艦ガ集メタ燃料ヲ分ケテモラッテイタ」

提督「その時も燃料なのか。魚とかは食べないのか?」

ヲ級「タマニ魚モ食ベルガ、エネルギーヘノ変換効率ハ良クナイト思ッテイル」

ヲ級「ソレニ私ハ、アマリ生魚ヲ美味シイト思ワナイカラ、イツモ燃料ヲ貰ッテイル」

提督「そうか。じゃあ、補給用の設備が整ってれば、いまのところは安泰と思っていいか」

提督「ん? となると、俺たちと同じ飯を食うル級は変わり者ってことになるのか?」

ヲ級「イヤ……タブン、私タチニハ調理トイウ概念ソノモノガ、抜ケ落チテイタンダト思ウ」

ヲ級「深海ニイタトキニ、アタタカイ食ベ物ヲ摂ルコトハ、ナカッタ。ソレガ普通ダッタカラ、ナ」

提督「なるほど。駆逐艦の見た目も食い物も、指摘されるまで疑いすらしなかった、ってことか」

ヲ級「私タチノ名前モソウダ。私タチニハ、名前トイウ概念ガ、ナカッタ。名前ヲツケル自由ガアルコト自体、考エニ至ラナカッタ……」

ヲ級「ダカラ、人間タチガツケタ名前ヲ、私タチモ使ウヨウニシタ。私タチガ、イッタイ何者ナノカ、考エラレナカッタカラ……」フラッ

提督「お、おい、大丈夫か!?」

ヲ級「……少シ、記憶ガ、混乱シテイル」


ヲ級「オマエト、話シテイルト、イロイロナコトヲ……忘レテイタコトヲ、思イ出スヨウデ……」

ヲ級「……私ハ……ワタシ、ハ……」

提督「おい!? しっかりしろ!」

ヲ級「……ッ!?」

提督「大丈夫か……? 何かしら思い出すのはいいのかもしれねえが、ふらふらしてたぞ?」

ヲ級「……大丈夫ダ。私ガ何者ナノカ、思イ出セソウナ、感ジガシタダケダ」

提督「……」

ヲ級「艦娘ニハ、艦名ガアル。ダガ、私タチニハ、ナイ」

ヲ級「タブン、私タチガ、自分自身ヲ何者ナノカガ、ワカラナイカラダト思ウ」

ヲ級「私タチ……『ヲ級』ト呼バレル個体ノ姿ガ似テイルノモ、艦娘ノヨウニ、本来ノ自ラノ艦名ヲ、思イ出セナイカラダト、思ウ」

提督「そうなのか……?」

ヲ級「……ナントナク、ソウ思ッタダケダ。当タッテイルカドウカハ、ワカラナイ」

ヲ級「私ガ推測シテ、納得デキソウナ答エヲ考エタ結果、ソウイウ結論ニ至ッタダケダ」

提督「そうか。どっちにしても、無理はすんなよ」

ヲ級「……?」

提督「なんでそこで不思議そうなするんだよ。お前が何かを思い出そうとしてたとき、倒れそうだったじゃねえか」


提督「体を壊したら元も子もねえ。少し休んでからでもいいだろ、って思っただけだ」

提督「忘れてる、ってことは、もしかしたら思い出したくないことかもしれないからな。やばいと思ったら無理すんな」

ヲ級「……ソウカ」

提督「さてと、俺はもう少し館内を見回ってくる。お前はまた哨戒に行くのか?」

ヲ級「……」コク

提督「んじゃ、気を付けて行けよ。何かあったらすぐ連絡しろよ」

ヲ級「待テ」

提督「なんだ?」

ヲ級「ナゼ私ガ、時雨ヲ見ツケタ個体ダトワカッタ?」

提督「ん? 普通に顔を見てわかったんだが」

ヲ級「……ソウカ」

提督「おう。んじゃな」

 スタスタ…

ヲ級「……」

ヲ級「ナルホド。アノ、ル級ガ、ヨク笑ウワケダ」


イ級「」ザバー

ロ級「」ザババー

ヲ級「……!」

イ級「ホキュウオワリ」

ロ級「ミマワリデカケル」

ヲ級「……ソウダナ」

ロ級「?」

イ級「ナニカアッタッポイ?」

ヲ級「……イヤ。今日ハ、アタタカイナ」

イ級「タシカニ、イイオテンキ」

ロ級「オデカケビヨリ」

ヲ級「……サア、行クゾ」ザァッ

イ級「リョウカイ」ザバー

ロ級「ナノデス」ザババー


 * その少し後 *

 * 埠頭そばの休憩スペース *

 (屋外にいくつか並んだ丸いテーブルの一つに、泊地棲姫とル級が向かい合って座っている)

泊地棲姫「自分ノ名前?」

ル級「海域ノ哨戒ヲ任セテイタ、ヲ級ガソウ呟イテイタノヨ」

ル級「私ハ一体、何ダッタノカ、ッテ」

泊地棲姫「……オ前ハ、考エタコトハ、ナイノカ?」

ル級「……ウッスラト、ソレジャナイカ、トハ思ッテイルケレド、アマリ深ク考エナイヨウニシテルワ」

泊地棲姫「考エナイヨウニ、シテル? ドウシテダ?」

ル級「イロイロ思イ出セバ、私ガ変ワッテシマイソウダカラ。今ノママガ、一番良イ気ガスルノヨネ」

泊地棲姫「……アノ男トノ関係ヲ、変エタクナイカラ、カ?」

ル級「……マア、ソウイウコト、ネ」

泊地棲姫「フフ……可愛イコトヲ言ウヨウニナッタナ。オ前モソノウチ、変異スルンジャナイカ」

ル級「……ナニソレ」

泊地棲姫「私ノコレマデノ見立テデハ、人ノ愛憎ヲ多ク知ル者ガ、強大ナ深海棲艦ニナルト考エテイル」

泊地棲姫「強イ感情ガ、強イ意志ヲ生ミ、強イチカラヲ作ル。憎悪ヤ未練ガ残ッテイルホド、ソレガ私タチノチカラトシテ顕現スル」


泊地棲姫「生マレタテノ深海棲艦ガ、最初ニ破壊衝動ヲ抱クノモ、同ジ理由ダト思ッテイル」

ル級「憎悪ヤ未練ガアッタカラ、無意識ニ人間ヲ襲ッテイタ……ッテコト?」

泊地棲姫「私ハ、ソウ考エタ。オ前モ、提督ガ死ニカケタトキ、突然パワーアップシタダロウ? ダカラ、ソウ考エタンダガ」

泊地棲姫「考エレバ考エルホド、感情ヲ知レバ知ルホド、私タチハ深化シ、知恵ヲ得テ、ソレガチカラト成ル……オ前モソウジャナイノカ?」

ル級「……」

泊地棲姫「イマノ話カラスルト、ソノヲ級ノ身ニモ、ソノウチ何カ起コリソウダナ」スクッ

ル級「……? ドコヘイ行クノヨ」

泊地棲姫「ドコニモ行カナイゾ。コーヒーヲ淹レルダケダ」

ル級「コーヒー?」

 タタタタッ

ロゼッタ「やっほー! 美味しいコーヒーがあるって聞いてきたんだけど!」

ル級「!?」

タチアナ「不躾に申し訳ありません。ロゼッタ、はやる気持ちはわかりますが……」

タ級「姫ー! コーヒー、アルンダッテ? 早ク出シテクレ!」シュバッ!

タチアナ「……」


ル級「ドウイウコトダ?」

泊地棲姫「オ前ハ聞イテナイノカ? 提督ガ、知リ合イノ艦娘カラ、コーヒーヲ貰ッタンダ。ソレヲ分ケテ貰ッタ」

泊地棲姫「良イ豆ダッタカラ、飲ミタイ者ヲ誘ッテイタンダガ……」

タチアナ「私どもは、こちらのタ級さんたちがコーヒーの話をしていた時に丁度居合わせまして」

タ級「賑ヤカナホウガイイダロウ? 他ニモ誘ッテルゾ」

ヲ級「……誘ワレタ」(←哨戒中のヲ級とは別個体)

ツ級「同ジク」

ヘ級「同ジクー」(←ツ級に背負われている)

泊地棲姫「ヨシ。デハ少シ待ッテイロ」

ロゼッタ「えへへー、楽しみ!」

ヲ級「哨戒中ノアイツハ誘ワナカッタノカ?」

タ級「アイツ、真面目ダカラ、仕事ガ終ワッテカラ、ッテ言ッテタゾ」

ル級「……」


 *

タ級「コレ、ウマイナ!」キラキラッ

ロゼッタ「おーいしーー!」キラキラッ

タチアナ「良い香りですね……!」ウットリ

ヲ級「……」キラキラッ

泊地棲姫「フフ、ソウダロウ?」ドヤッ

ツ級「……」チュー

ヘ級「……」チュー

タチアナ「あちらのお二人はストローで飲んでいるのですが……」

タ級「マスクガ邪魔ダカラナ」

ツ級「!」キラキラッ

ヘ級「!」キラキラッ

泊地棲姫「好評ダナ」ドヤァァ


ル級「コレハ、アメリカンテイスト、トイウヤツカ」

泊地棲姫「私ハ軽イ方ガ好キダカラナ。アノ男ハ、濃イ目ノエスプレッソノホウガ好ミダソウダガ」

タチアナ「お茶でも渋いほうが好きだと仰っていましたね」

泊地棲姫「ル級ハドウナンダ? 濃イ味ノホウガイイノカ?」

ル級「濃サハ、アマリ、気ニシナイガ……ナントイウカ……」

泊地棲姫「?」

ル級「……懐カシイ、香リダナ……」

タ級「ル級ハ、コーヒーヲ飲ンダコトガアルノカ」

ル級「イヤ、紅茶ヲ勧メラレタコトハアルガ、コーヒーハ初メテダ。ナノニ、懐カシイ、ト……」

ヲ級「確カニ……言ワレテミレバ」

タ級「……?」

泊地棲姫「カツテ艦ダッタコロノ記憶ガ、ソウ思ワセテイルンダロウナ」

タ級「私ガ、コーヒーガオイシイト思ウノモ、昔ソウダッタカラダッテ言ウノカ……?」

泊地棲姫「カモシレナイ、ナ」

タ級「……フーン」

ル級「……」ズズッ


ロゼッタ「あ、お菓子食べる?」

ヲ級「……イタダク」

タ級「太ルゾ?」

ヲ級「私ハ大丈夫」パク

ヘ級「……」チュー

ツ級「……」ズゾゾゾ…

泊地棲姫「……フフ。平和ナモノダ」

ル級「……」

タチアナ「どうしました?」

ル級「……泊地棲姫モ、変ワッタナ」

タチアナ「現状に満足しているというのであれば、良い傾向だと思います」

ル級「……提督モ、ソウダ。今ノトコロハ、良イホウニ変ワッタト思ウ」

ル級「メディウムノ奴ラニ、身体ヲイロイロ弄ラレテイルノハ、気ニ入ラナイガ」ジロリ

タチアナ「……」

ル級「誰モカレモ、提督ニ多クヲ求メスギナノヨ。提督デアリ、魔神デアリ、イマヤコノ島ノ最高責任者」

ル級「アノ男ガ壊レルヨウナコトガアレバ、私ハ……!」

タチアナ「……」

泊地棲姫「メディウムガ、アノ男ヲ崇拝シテイルノハ、理解シテイル」

泊地棲姫「ダガ、ダカラト言ッテ、オ前タチノ好ミニ作リ変エラレルノハ、艦娘モソウダロウガ、我々モ黙ッテハイナイゾ……?」

泊地棲姫「アノ小娘ニ伝エテオケ。アレハ、オ前タチノモノデハナイ、トナ」ニヤリ

タチアナ「……ええ、承知しました。確かに、伝えておきましょう」ニヤッ

というわけで今回はここまで。

次スレの最初に深海勢とメディウムの紹介文も用意しておかなきゃ……。

>940
いま読み直すと、辻褄の合わない場所が多くて
恥ずかしさのあまり顔が赤くなります。
見直しって大事ね……。

続きです。


 * 昼過ぎ *

 * 鎮守府本館から埠頭への通路 *

キャロライン「ふええ……ダーリン、ごめんネー……」グスグス

提督「別にお前が悪いわけじゃねえだろ。それとこれとは話が別だし、そもそもありゃあ事故だ」ナデナデ

如月「あら? 司令官、こんなところに……どうしたの? メディウムの子を泣かせるなんて」

提督「ん、如月か。なんつうか、キャロラインがニコたちの会話を聞いたらしいんだけどよ……」

提督「深海棲艦の連中が俺の心配をしてるらしくて、メディウムにクレームいれたんだと」

如月「クレーム?」

提督「ああ。俺をこれ以上、作り変えるな、ってよ」

如月「……」

提督「俺が一番最初に魔力槽に入ったときに、俺の体が溶けて消えて、一から作り直されたって話は覚えてるよな?」

如月「え、ええ……」

提督「その時に一緒にいたのがキャロラインだったんだが、その出来事が結構ショックだったらしくてな」

キャロライン「ダーリンが消えちゃったトキは、本当にビックリしたノー……」グスグス

提督「それが忘れられなくて、また同じことが起こったらどうしよう、ってことで、俺のところに相談しに来たんだ」

キャロライン「ダーリンが、まだホントの魔神のチカラに目覚めてない、って、ニコちゃん言ってたノ」


キャロライン「ワタシ、ダーリンが強くなったり、ワタシたちと仲良くなるのは嬉しいケド……」

キャロライン「今の優しいダーリンが消えちゃうのもイヤなノ……!」グスッ

如月「……そういうことだったのね」

提督「まあ、人間じゃなくなるのは俺としては嬉しい話だったんだが……」

提督「この島を守るためには、少し人間の部分が残ってねえと、ちょっと都合が悪いかも……って考えてる」

如月「それって、外交的な意味で?」

提督「ああ。どうせ人間どもは自分たちとは違う連中に『権利』を持たせる気がねえはずだ」

提督「人に近しい艦娘に人権を持たせてねえのが、その証左だ。だから、この島の支配を『権利』として主張するためには……」

提督「俺に人間である要素がちょっとでも残ってねえと、連中との話し合いに不利になりそうな気がしてんだよな」

如月「うーん……」

提督「まあ、なるようにしかならねえけどな、こういうもんは。結局は、自分に都合のいい屁理屈の押し付け合いだ」

提督「そこで折り合いがつかないから戦争が起こる。自分の言うことを聞かせたくて、屈服させるために、武器を振りかざして命を脅かす」

提督「そもそも、人間どもが俺たちにそういう譲歩をするつもりがあるか、ってのも疑わしいが……」

提督「そういうのが面倒臭いから、引き籠るっつってんのによぉ……本っ当に面倒臭え」

キャロライン「ダーリン……?」


提督「まあ、話が脱線したが、俺も俺が俺以外の誰かの意志で変えられちまうのは御免だ」

提督「できればこのまま、いまのままで過ごせりゃあいいんだけどな」

キャロライン「? なら、そうすればいいんじゃないノ?」

提督「そのつもりだけどよ。どうしても長く生きると、考え方とかが知らないうちに偏っちまう」

提督「これからメディウムや深海棲艦と一緒に過ごすわけだが、俺の考え方がいつの間にかそいつらに染まったりするかもしれないし」

提督「俺がジジイになったら、いろいろボケて馬鹿なこと言い出すかもしれねえし……そういう人間もたくさん見てきたからなあ」ウーン

如月「そういうことなら大丈夫よ、きっと。私たちが、お傍にいますから、ね?」

キャロライン「ワタシモ、ダーリンとずっと一緒にいるヨ!」ダキツキー

提督「……まあ、そうだな。キャロラインも俺のことが心配で話しに来てくれたんだろうし」

提督「如月も、俺が変なら何かしら言ってくれるだろうしな。そこは頼りにさせてもらうぜ」ナデ

如月「うふふっ、任せてちょうだい」ニコニコ

キャロライン「ダーリン、優しくてダイスキー!」スリスリ

キャロライン「ニコちゃんが言ってた魔神って、ワタシたちが失敗したら消しちゃうかも、って言ってたカラ、ちょっと怖かったノ!」

提督「……」

如月「なんだか、他人事とは思えないわね……」

提督「気を抜かないように、って考えてのブラフなのかもしれねえが……もしかしたら、どこの組織も、似たようなもんなのかねえ」

如月「ニコちゃんもああ見えて責任感っていうか使命感が強いし、誰にも容赦しないタイプなのかもしれないわね?」

提督「そうだなあ……適度に肩の力が抜けるようにしてやるか」


 * 午後 *

 * 医療船内 大会議室 *

与少将「まさか本当に深海棲艦と話ができるとはのう……」

仁金剛「緊張しましたケド、意外とフレンドリーでしたネー」

X大佐「今日はお土産のコーヒーがあったおかげかな? 前回よりいくらかフランクに話せましたね」

提督「ガンビアベイには礼を言っとかねえとな。それにしても、仁提督はビビりすぎだろ」

仁提督「仕方ないだろう! 俺は昔、あいつらに砲撃されてるんだからな!?」

仁提督「個人的な恨みがないわけでもないし……艦娘を使って間接的に恨みをぶつけてきた自覚もある」

提督「だったら島に行かなきゃ良かったじゃねえか」

仁提督「そんな真似ができるか! 少将だけ行かせて何かあったらどうする!」

提督「ぶっちゃけ護衛のために金剛だけ行かせても良かったろ。一番後ろで青い顔してたくせに」

仁提督「ほっとけ!」

与少将「そがいにからかってやるな。聞けば、あの島に漂着した艦娘の艤装も、みな焼失したんじゃろう?」

与少将「仁提督からは、演習と、沈んだ艦娘に手を合わせるために島へ行くと、何度か報告を受けちょったからのう」

提督「……ふーん」


仁提督「まあ……自分が雪風たちを連れてこの島へ来るための口実に使ったところもあったが……」

仁提督「事情はともかく戦って沈んだことに変わりはない。最後に手を合わせておきたいと思うくらいはいいだろう?」

仁提督「俺がこの島に来る機会も、もうないと思っているからな」

仁金剛「ン-? そこは黒潮次第ではありまセンカ?」

仁提督「……」

仁金剛「ヘーイ、テイトクー? まーだ魔神提督に苦手意識持ってマスカー?」ズイ

提督「別に苦手でいいぞ? 俺自身、人間と関わる機会は減らしてもらったほうがいいと思ってる」

提督「普通の人間なら深海棲艦を恐れるだろうし、深海棲艦に生活圏を脅かされたなら憎いと思うのも当然だ」

提督「うちに来た深海棲艦にも、人間と関わりたくない、艦娘に攻撃されたくない、って奴がいるからな」

提督「そういう時ゃあ、お互い無理にお近づきになる必要はねえ。距離取って関わらないようにすりゃいいんだよ、こういうのは」

与少将「まさしく大人の対応じゃな……」

提督「普通だろ? 犬嫌いに犬を押し付けても、ろくなことにならねえのと一緒だ」

仁提督「確かにな。下手をすると、犬が怪我させられかねん」ウンウン

仁金剛「なんだか実感こもってますネー……」


与少将「魔王と言うからもっと好戦的かと思っちょったが、思いのほか話せる男じゃな……」

仁金剛「イエース。ついでに少将ー? 魔王じゃなくて魔神デス、マジン提督デース」

与少将「んむ……ま、まあとりあえずじゃ、わしはこれから神戸に向かう。L少佐がどんな鉄火場を迎えちょるんか、見とかんとな」スマホトリダシ

与少将「それから部下にも事の次第を伝えにゃあならんし……時間だけ決めとくかのう」シャシャシャッ

提督「電話機でできるのか?」

仁提督「電話機……お前はスマホを知らんのか」

提督「ほぼ触ったことねえな」

X大佐「提督にもスマホを持ってもらったほうがいいかな?」

与少将「いや、まお……魔神提督が個人のスマホを持つのはもう少し先でいいと思うがのう?」

仁提督「便利だと思いますが……」

与少将「うんにゃ、この大事な時期に、魔神提督がスマホの説明書とにらめっこしちょる暇はないじゃろ」

与少将「使えるようになったらなったで、スマホいじりに夢中になってもらっても困るけえ」


与少将「それに万が一、海軍内で魔神提督の連絡先が流出でもしたら、そこに電話が殺到するはずじゃ」

X大佐「……なるほど。L少佐の事務所と同じことになる、と」

与少将「じゃけえ、スマホでもガラケーでもピッチでも、持たせるにはもちっと余裕ができてからのほうが良えと思っちょる」

与少将「大淀あたりに持たせるんならええかもしれんが、それよか今は海軍の中に正式な窓口を設けたほうが良えじゃろ」

与少将「X大佐たちにとっても、魔神提督に接触を図りたい者が誰なのか、把握も管理もしやすくなるけえの」

X大佐「それが良いですね、承知しました。そのように取り計らいましょう」

与少将「魔神提督も、ひとまずそれで良いな?」

提督「ああ、その方が助かる」

仁提督「むしろ当分持たないほうがいいだろうな……」

仁提督「お前の場合、ただでさえ対応が面倒だと言いそうだし、電話口でどんな暴言をひり出すかわからん」ハァ…

提督「おう。よくわかってんじゃねえか」ニタァ

仁金剛「相変わらず悪い笑顔デース……」ヒキッ

与少将「……ほんに大丈夫なんじゃろな、この男」ヒキッ

X大佐「え、ええ、まあ、大丈夫ですよ。多分……」タラリ


 * 本営 中将の執務室 *

H大将「結論から言えば、あの島は深海棲艦へ割譲する扱いになった」

H大将「提督は中佐として海軍を退役。戸籍や国籍の問題は残るが、そのまま島に残り、その島に住む深海棲艦をまとめてもらう運びとなる」

中将「不知火と赤城には、海軍の代表として、引き続き提督の応対とX大佐の補佐を頼みたい」

不知火「承知しました」

赤城「お任せください」

H大将「大井、俺たちはひとまずこの件から離れることになる。もし何か問題が発生すれば、まず北上に対応してもらうことになるだろう」

H大井「そうですか……わかりました」

中将「それから早速だが、政府から提督と面会したいとの申し出があった」

不知火「……!」

H大将「海軍を離れる提督たちとは、現在X大佐が主体となって対応してくれているわけだが……」

H大将「深海棲艦との話し合いができると聞いた各省庁が、我々に任せてほしいと口を挟んできたらしい」

赤城「それでは、提督少尉は今後、政府と対話を持つということになるのですか」

H大将「どうだろうな。まず、あの男が素直に政府との面会に応じてくれるかどうかがわからん」

H大将「それに俺たちと話した時ですらあの態度だ。国家間交渉の場でどんな物言いをするか……俺は落ち着いて見ていられる自信はないぞ」


赤城「そうですか? 私は楽しみですよ。政府の要人が彼と話して、いったいどんな顔をするか……ふふふっ」ニヤリ

H大井「赤城さん!?」

中将「赤城は、彼らの話が友好的に終わるとは思っていないのだな?」

赤城「はい。正直に申し上げて、彼らの道理が深海棲艦に通用するかどうかがわかりかねます。私たちがそうなのですから」

H大井「……そう、そうなんですよね。私も心配なのはそこです」

H大井「これまでさんざん戦ってきた私たちだって、深海棲艦と話すとなったら、どう接したらいいかわからないっていうのに……」

H大井「政府は深海棲艦と話をして、なんらかの成果を得られる目算があるんでしょうか……?」

中将「儂はむしろ期待している。仮にも国家の外交のプロが赴くのだ、何らかの成果を出してくれると良いと思っているが」

H大井「そうだと良いんですが……なぜこのタイミングで政府が出てくるんでしょう」

H大将「それは、これ以上、制海権のことで海軍に大きな顔をさせたくないからだろうな」

H大将「深海棲艦の対応に関しては、政府どころかどこの国も、艦娘を統括する海軍に頼りっぱなしだ。そんな状況を打開したいんだろう」

H大将「残念ながら今の元帥も権威主義的なところがあるからな。間違っても『今の状況が続くと良い』なんて考えていなければいいんだが」

H大井「それで提督を政府サイドに引き込もうと……?」

H大将「深海棲艦と話し合うきっかけを作った人間が海軍から出ていくんだ。これ以上ないヘッドハントのチャンスだと考えているんだろう」

赤城「十分考えられますね。提督が応じるかどうかは甚だ疑問ですが」


中将「不知火はどう思うかね」

不知火「……政府の話が、島にいる艦娘や深海棲艦にとって有益なもの、安全を確保できるものであるならば、司令は応じると思います」

不知火「しかし、皆さんが仰る通り、司令が政府の人間に対しどのような態度をとるかは、不知火も保証できません」

不知火「これまでも、ご自身や艦娘を意のままに操ろうとしたり抑圧しようとしたりする相手を、司令は様々な手段で返り討ちにしてきました」

不知火「いくら政府の人間と言えど、対応を誤れば、最悪の事態になるのではないかと推測します」

中将「ふむ……」

不知火「深海棲艦たちも、おそらくは司令と同じか、それ以上に気難しいと思っています」

不知火「あの島の深海棲艦は、自分たちから人間や艦娘に攻撃しないことを決めただけです」

不知火「彼女たちが認めた人間もおそらく司令だけで、司令以外の人間は敵であるという認識は変わっていないはず」

不知火「そして、彼女たちが人間を殺すことも躊躇しないでしょう。仮にそこに司令が同席していたとしても……」

不知火「話の内容によっては、制止することもしないでしょうし、最悪、司令自ら手を下すかもしれません」

中将「そこまでかね」

不知火「はい」

中将「うむ、よくわかった。となると、先方には慎重になるよう断りを入れるべきだな」ウナヅキ


赤城「この話は、まだ提督には伝えていませんよね?」

H大将「ああ、まだだ。しかし、確認するまでもなく断りを入れるべきだろう」

中将「結論は出てしまったが、もうひとつ君たちに伝えておきたい情報がある」

中将「政府は、提督と交渉にあたる代表団のメンバーに、彼の弟を参加させるつもりでいるそうだ」

赤城「本当ですか……!?」

中将「うむ。兄と再会の喜びを分かち合いたい、ということだ」

不知火「それは……最悪ですね」

H大井「あの、恐れながら……中将閣下には、あの提督が家族とは絶縁したとご報告していたと思うのですが……」

中将「聞いているとも。日本にいる提督の家族とは、引き合わせるべきではないと言う話だったな。儂もそう思う」

中将「この点についても、政府へは通達しておく。さすがに政府も、虎の尾を踏ませるような真似はさせんだろう」

H大井「……なんだか嫌なフラグが立った気がするわ」ボソッ

中将「ん? どうかしたかね」

H大井「あ、いえ! なんでもありません、ウフフ……!」

中将「そうかね……?」

H大将「……大井、思っていてもそういうことは言うんじゃない。俺もそう思ったのは確かだが」アタマオサエ


中将「それから、この件に関連して、H大将に謝罪せねばならん」

H大将「? 謝罪、とは……失礼ですが、なにをです?」

中将「儂の倅……大佐が、提督の身柄を海軍に引き渡す名目で、政治家である提督の親へ金を渡していたことについてだ」

H大将「それは……!」

中将「君たちが、その金が流れを調査し、証拠を掴めずにいることも承知している。息子が、本当に申し訳ない」

赤城「中将! それは中将のせいではありません。すべてはこの私が……」

中将「赤城。その責を負うのは君ではなく、大佐とその上官の儂でなければならん。そもそも君すら与り知らなかった件ではないか」

赤城「で、ですが、私は秘書艦です! それに、彼は父親であるあなたすら殺そうと……!」

中将「その父親が悪いから、寝首を掻かれかけたのだ。結局、儂は……あれの父親になりきれなかったということだ」

赤城「っ……!」

中将「この戦争を終わらせるには手段は問わん……そう言い訳してあれを甘やかし、影での悪事を見逃してきた結果である」

中将「妖精と話ができるという提督にも、手段を問わないという意味で、働きを期待しておったのだが……」

中将「結果として彼は海軍を離れた。ひとえに、儂の力不足だ」

赤城「……」


不知火「中将。司令は中将に感謝しているはずです」

不知火「司令が提案した、轟沈した艦娘を運用する特例を認めてくださったのは、あなたではありませんか」

不知火「それがなければ、私も、司令も、如月も、今頃どうなっていたかわかりません」

赤城「……私も、そうですね。彼に救われたことが、何度あったことか」

赤城「中将も、結果的にですが提督に助けられたではありませんか」

中将「……」

H大井「あの、H提督? ちょっと言いづらいんですけど、大佐を罠にはめるために、提督が中将閣下を利用したという可能性は……」ヒソヒソ

H大将「それはわからん。どうなんだ不知火」

不知火「……それはあったかもしれませんが、そもそも大佐の企みを利用したからそうなったと、不知火は考えています」

不知火「大佐を油断させ、慢心させてその足元をすくう……そのために司令は中将も欺いたのでしょう」

赤城「私ですらひどい目に遭いましたしね……」フフッ

中将「……」

H大将「……あの男は攻撃的な印象があるが、考えなしのバーサーカーと言うわけでもない」

H大将「お互いの思惑の合致による協力、と言う意味では、提督と大佐の間でも成り立っていた部分はあったらしいからな」

不知火「はい。提督は、大佐が提督を他人と接触させないように離島へ隔離させたのは、結果的に都合が良かったと言っていました」


中将「……思惑か」

中将「提督の……彼の望みは、艦娘と深海棲艦が人間に頼らず安心して暮らせる場所、だったな?」

H大将「はい」

中将「おそらく政府は、海軍任せの現状を打開すべく、世界の混乱の原因になっている深海棲艦との条約締結を目指しているのだろう」

中将「しかし、提督にしてみれば、そんなことは知ったことではない。なぜなら彼らは、深海棲艦と言う種族の一部でしかないからだ」

中将「人間が多くの国に分かれて暮らしているのと同じだ。政府には、それをゆめゆめ忘れぬよう、釘をさしておく必要があるな」

H大将「そうですね。話し合いの場を設けた、程度の認識が適切でしょう」

中将「では、この件については儂がX大佐と協力して対応しよう」

不知火「中将、関連して一つご報告したいことがございます」

中将「? なにかね」

不知火「中将は、与少将と、呉の和中将をご存知でしょうか」

 * * *

 * *

 *


 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「机、もう少しこっちに寄せてもらっていいか? あと2センチくらい」

大和「こんな感じでしょうか?」グッ

提督「……うん、いいんじゃねえかな。曲がってねえよな?」

榛名「はい、大丈夫です!」

ル級「ソファハ、コノ辺デイイノカ?」

提督「ああ、もう少し後ろに下げていいぞ。それだとテーブル近すぎて、足がぶつからねえか?」

タ級「コノクライカ!」

提督「座って確かめてみてくれよ。狭いか遠いか、丁度いいくらいに調整してくれ」

カトリーナ「キャビネットはここでいいのか?」

提督「おう、いいぞ。思ったよりスペースが余ったな」

オリヴィア「いいんじゃないか? ここに神殿のドアを出しておくつもりなんだろう?」

吹雪「司令官! 新しい椅子を持ってきました!」

イブキ「筆記具とかも持ってきたぞ!」

提督「お、やっときたか。んじゃこっちに……」


如月「電気ポットとティーセットも持ってきたわ!」

アマナ「タオルと布巾もお持ちしました!」

軽巡棲姫「コーヒーメーカーモ持ッテキタワ」

タ級「ココデモコーヒー飲メルノカ!?」キラーン!

提督「俺は別に水でいいんだけどな……」

扶桑「私は冷蔵庫をお持ちしました。自動製氷だそうですよ」

提督「個人的に一番うれしいのが来た」キラッ

如月「そうなの?」

提督「氷作るの地味に面倒臭えんだよ……とりあえずその茶道具は全部そっちの給湯室においてくれ」

如月「はーい」

提督「……ふう。やっと執務室が執務室らしくなってきたな」

カトリーナ「家具が入っても結構広々としてんなあ。ハンマー持ち歩いても余裕だし!」

提督「艦娘や深海棲艦の艤装がでかいからな。それを踏まえて、泊地棲姫がタチアナと相談して広めに作ったらしい」

榛名「これだけ人がいて狭く感じないなんて、すごいですよね!」


提督「まあ、それはいいんだけどよ。なんでこんなに搬入に時間がかかったんだ?」

如月「それは、調度品をいろいろ選んでいたらすごーく悩んじゃっただけよ?」

提督「じゃあ、寝室のベッドの搬入がくそ早かったのはなんでなんだよ」

如月「それは司令官の体が大事だからじゃないかしら」

大和「最重要事項ですよ?」

榛名「榛名もそう思います!」

ル級「寝床ハ大事ダゾ?」

提督「ル級まで言うのかよ」

ル級「泊地棲姫ガ力説シテタシ、私モ経験済ミダカラネ」フフッ

軽巡棲姫「デ、イツカラ寝ルノ? 一緒ニ寝テアゲルワヨォ……?」ニヤァ

扶桑「提督との同衾は、ちゃんと順番が決まっていますから、日程は確認してくださいね?」

提督(決まってんのかよ……)シロメ

カトリーナ(アニキが白目むいてる……)タラリ


朧「提督、海軍から預かった資料を持ってきました。これでこっちの荷物は全部です!」

陸奥「提督、終わったらこっちも手伝ってもらえるかしら」

提督「ん? ああ、わかった。資料は後で目を通す、こっちは任せて大丈夫か?」

大和「はい、お任せください! あとは搬入で出たごみをまとめるだけですから!」

アマナ「お掃除なら任せてください!」キラキラッ

ル級「瞳ガ輝イテルナ……」

提督「アマナがやる気ならこの場は任せるか。どこ手伝えばいい?」

陸奥「それじゃ、一緒に食堂に行ってもらえるかしら」スタスタ…

カトリーナ「そんじゃあ、あたしも余所の搬入を手伝ってくるかあ」

オリヴィア「アタイもそうしようかね」ノッシノッシ

タ級「……メディウムノ奴ラッテ、意外トパワータイプガ少ナインダヨナ」

イブキ「そうだなあ、純粋な腕っぷし自慢だと、さっきの二人と、コーネリアとグローディスくらいかな?」

吹雪「どうしてそのコーネリアさんたちは来てないんですか?」

イブキ「コーネリアは戦闘狂だからなあ……」

吹雪「うわー、そういう……」

タ級「戦闘以外ニ興味ガナイタイプカ」


アマナ「こういった家事全般を積極的に手伝うかと言われたら、グローディスさんはともかくコーネリアさんは来ないでしょうね」

イブキ「グローディスも、そのコーネリアにしょっちゅう勝負吹っ掛けられてるし。良くも悪くもいい勝負すんだよな」

扶桑「……そういえば、深海棲艦も普段は何をしているの?」

タ級「……」

ル級「ソウイエバ、私タチモ、戦ウ以外ハ、ナニモシテイナイワネ」ウフフ

タ級「……アトハ、補給デキル場所ヲ確保スルクライカ? ソレガ時間ガカカルノヨ」ウーン

吹雪「遠征任務みたいな感じですかね?」

大和「そうかもしれないわね」

タ級「コレマデ、『ヒト』ノヨウニ椅子ニ座ッテ、コーヒーヲ飲ムヨウナコトハ、ナカッタカラ……」

タ級「今ノ暮ラシガ、新鮮デワクワクスル、トイウノハ、アルナ」

榛名「なるほど……ずっと海中や海上だと、くつろぐこともできなかったと」

タ級「独自ノ拠点ヲ持ッテタ泊地棲姫ハ、コウイウ暮ラシニ、ソレナリニ慣レテルミタイダケド」ソファニスワリ

タ級「……オォ、コノソファ、柔ラカイナ」ポヨンポヨン

タ級「ル級ハ、一足先ニ、コンナ生活シテタノカ? ズルイナ、オ前」ニヤッ

ル級「アラ、私ガイナカッタラ、コンナ生活デキナカッタワヨ?」ニヤッ

タ級「言イ方ガズルイゾ、オ前」ククッ

吹雪「……なんだか、楽しくなりそうですね!」ニコニコ

如月「そうねえ」ニコニコ

今回はここまで。
次スレを立てるときは連絡します。

>962
基本、提督のことを舐めてかかってる人が多いと思ってください。
というより、まともな人なら、こんな境遇の相手に関わろうとも思わないし
そもそも関わる機会自体ないのかもしれないですが……。

というわけでお待たせしました、ほんの少しだけ続きです。
きりのいいところまで書いて次スレに移りたいので……。


 * 食堂 *

提督「食堂から、直接外に出る出入口作ってどうすんのかと思ったけどよ……」

電「ウッドデッキとオープンテラスなのです! とってもおしゃれなのです!」ワーイ!

提督「良く作ったな、こんなの」

電「このために木材が届くのを待っていたって泊地棲姫さんが言ってたのです!」

陸奥「こうなると景観が大事だからって、メディウムも張り切ってるのよ。ほら、この奥の水路の対岸にも花壇を作ってて……」

提督「ありゃあ、タチアナとニーナか? あいつらが花壇の手入れしてんのか」

電「さっきまでミュゼさんもいたんですが、持ってたテツクマデをどこかにおいてきたらしくて、まだ戻ってきてないのです」

提督「なにやってんだあいつは……」

スズカ「おー、魔神くんきよったんか! 見てみい、綺麗じゃろ? 新しい厨房!」

セレスティア「一応、機材搬入は済ませましたが、シェフ長の比叡さんが不在ですので、かつての厨房の記憶をたどって配置しています」

提督「ふーん……まあ、大丈夫じゃねえか? だいたい似たような配置になってると思うぞ」

セレスティア「そうでしたか。では、これで配線してしまいましょう」

提督「比叡の個人持ちの道具はまだ医療船にあるから、あとで持ってきてもらえばいいな。そういや保冷庫も使えんのか?」

 厨房の奥の扉<ガチャッ

明石「うう、さっぶい!」


ヒサメ「そうかのう? まぁだ、ぬくいと思うんじゃが?」

提督「明石? 工廠にいたんじゃないのか」

明石「工廠の整頓はとっくに済ませましたよ。今は保冷庫の整備に来たんです」

明石「ヒサメさんのせいで、もう保冷庫って言うより冷蔵庫ですけど!」

ヒサメ「もうちょっと冷たくなれば快適じゃ♪」

スズカ「おいおい、ここはヒサメの部屋じゃのうて、食い物の保管場所じゃからな?」

セレスティア「つまみ食いしないようにしてくださいね」

ヒサメ「心配せんでも、そんなさもしい真似はせぬわえ。さっきまでそこにおった悪い見本にこそ、その説教は必要じゃろうて」

セレスティア「……確かに、しょっちゅう足がもつれて転んでいるけれど」

電「もしかしてマーガレットさんですか……」

ヒサメ「そうじゃ。パティシエだからと洋菓子ばかりこさえて、そのたびに自分で平らげておっては、当然の帰結じゃ」

提督「最悪すぎる地産地消だな。で、そのマーガレットはどこに行ったんだ」

セレスティア「今頃危機感を持ったのか、走り込みに行きました」

提督「それ、今やる話かよ……」アタマオサエ

電「今頃テツクマデを踏んづけていそうなのです」

提督「くっそ、目に浮かぶな。あ、そういや、こっちに深海棲艦は来てないのか?」


電「数人のヲ級さんたちが、厨房を外から興味深そうに眺めていたのですが、どこかに行ってしまったのです」

陸奥「物珍しそうに見てたわよ。椅子や机を運び入れるところは手伝ってたけど、厨房の配置はメディウムに任せてたみたい」

提督「ふーん……この前、ヲ級の一人と話したんだが、深海には調理の概念すらなかったって言ってたんだよな」

スズカ「そうなん? 声かけてくれりゃあウチが教えたったのに!」

電「今は今で、花壇を見に来た深海棲艦がいっぱい集まってるのです……!」

陸奥「花が珍しいのかしら。駆逐艦が集まってて水路が渋滞してるわ」

ヒサメ「ここであの水路を凍らせたら面白そうじゃのう?」ニマァ

提督「やめとけ」ジロリ

ヒサメ「冗談じゃ。おまえさまは毎度毎度、冗談が通じぬのう」ニマニマ

電「……」

陸奥「電ちゃん? どうしたの?」

電「沈んだ敵も助けたい、と思っていたのですけれど……」

電「沈んでなくても、深海棲艦と分かり合えそうな雰囲気がしてきて、ちょっとだけ……嬉しいなって、思うのです……!」

陸奥「フフ、そうね……!」ニコ

提督「……」

というわけで本当に短いですが今回はここまで。

次スレ準備できたらお知らせします。

次スレを立てました。
こちらでもよろしくお願い致します。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1690021595/)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年01月20日 (土) 12:19:16   ID: m_BnQ8sG

続きだーーー!
更新楽しみにしてます

2 :  SS好きの774さん   2018年02月10日 (土) 16:53:41   ID: voRFOHuC

更新楽しみにしてました(^^)

3 :  SS好きの774さん   2018年04月16日 (月) 23:18:42   ID: CPzivxst

キターーー(゚∀゚*)

4 :  SS好きの774さん   2018年07月26日 (木) 10:26:00   ID: rBX92tq2

5 :  SS好きの774さん   2018年07月26日 (木) 10:26:28   ID: STS3-M6G

(*´▽`*)

6 :  SS好きの774さん   2018年09月09日 (日) 03:30:09   ID: 5TeM3uDN

おーーとうとう提督が目覚めたか

7 :  SS好きの774さん   2018年11月01日 (木) 14:36:27   ID: ty6-7RKw

とうとうエンディング間近か楽しみにしてます

8 :  SS好きの774さん   2018年11月16日 (金) 00:48:04   ID: tAf89WP2

おーマジで終わりが近い
メディウムと艦むすが別々なるのはしょうがないのか…んってことは提督はメディウムとくっつくのかその辺がきになる!

9 :  SS好きの774さん   2019年08月05日 (月) 02:44:16   ID: a202ikAL

一体どんな最後になるのか気になります!
続き楽しみにしてます

10 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 21:09:06   ID: S:RqJEAi

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

11 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 07:57:41   ID: S:f-qwas

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

12 :  SS好きの774さん   2022年09月19日 (月) 08:17:27   ID: S:zmiuOG

投稿はよ

13 :  SS好きの774さん   2022年09月19日 (月) 08:19:16   ID: S:mAt3PV

楽しみにしてます
投稿は2週間に1回くらいなのかな?

14 :  SS好きの775さん   2022年09月25日 (日) 02:17:45   ID: S:V14Yyt

そろそろ投稿の予感

15 :  SS好きの774さん   2022年10月03日 (月) 22:54:40   ID: S:9TCdXE

そろそろ投稿の予感

16 :  SS好きの774さん   2022年10月05日 (水) 21:51:49   ID: S:yiV6X9

えっ?もしかしてこれから更新ない?

17 :  SS好きの775さん   2022年10月17日 (月) 23:43:38   ID: S:uWmehF

投稿(゚∀゚)キタコレ!!

18 :  SS好きの774さん   2022年12月18日 (日) 11:36:44   ID: S:x7bpN9

お前の信じるもののためだけに戦えとドクロの旗に教えられているような気がする。墓場島は「わが青春のアルカディア」と後世で呼ばれるのかもしれないな……

19 :  SS好きの774さん   2022年12月20日 (火) 22:03:18   ID: S:w7tiFI

ところで、墓場島が焼かれる前に提督囲んだ姉妹艦の正式な謝罪はあったのかな?必要だと思うけど。あと英才教育受けた提督弟は陥れた自覚ある父よりたち悪そうだよね。

20 :  SS好きの774さん   2023年02月10日 (金) 04:22:20   ID: S:YzzLwq

そういえば、墓場島にカチコミに来た吹雪改二ちゃんの告白は成功したのかな?
吹雪ちゃんの性格上、背中押してくれた魔神提督や島の吹雪ちゃんに報告に来そうなんだけど?

21 :  SS好きの774さん   2023年02月10日 (金) 13:26:19   ID: S:0yZV7l

島風・墓場島(に来たことのある子も含めたい)の白露型姉妹、
黒潮・雪風姉妹(と混ざりたくてウズウズ不知火)
この姉妹たちが和気あいあいと遊んでるの見たいな~

22 :  SS好きの774さん   2023年03月18日 (土) 12:10:45   ID: S:q9QtNc

上官に反対し、上官を差し置いて銃を抜くなら、その責任は負わなきゃいけないものだけど曽大佐にその覚悟はあるのかね?先をしっかり見据えてから動くのが(孫子の)兵法の常道というものなんだが……

23 :  SS好きの774さん   2023年04月23日 (日) 23:33:43   ID: S:JfqZk3

黒でなければ白、善でなければ悪でブッタ切ってしまう白黒思考は増えているのは事実だしね~
白と黒の間に大事なものがあるのにソックリ捨てて白か黒かで決めてしまうと池波正太郎先生が嘆いていたな~……

24 :  SS好きの774さん   2023年04月29日 (土) 19:05:27   ID: S:aNknSS

してみせて、言って聞かせて、させてみる

上杉鷹山のこの言葉を山本五十六長官は改良したと言われている。大先輩の教訓くらい受け継げよ海軍……
そういえば上杉鷹山は日向高鍋の秋月家からの養子。防空駆逐艦に秋月。必然か偶然か?

25 :  SS好きの774さん   2023年06月06日 (火) 19:29:20   ID: S:j6QI1m

ここなら春雨とワルサメが笑い合っても大丈夫そうだな~それどころかワルサメが白露型たちと遊んでも問題ないかも

26 :  SS好きの774さん   2023年07月21日 (金) 16:52:31   ID: S:s6Oynq

更新待ってました!!頑張って下さい!!

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