【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 (968)


前スレ

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/)


・DMM【艦隊これくしょん】と
 同じくDMM【影牢トラップガールズ】(2016/07/29サービス終了)のクロスオーバーです

・キャラ崩壊注意

・提督も艦娘も殆どが不幸属性持ちです

・前スレを読まないと話がわからないと思います



前スレのあらすじ

太平洋上の孤島に建てられたとある鎮守府に、島流し同然の扱いで着任した提督。
彼が助けた艦娘と暮らしていたある日、突如として罠の化身「メディウム」たちが現れ、鎮守府を乗っ取ってしまう。

やがて和解したメディウムたちは提督を魔神様と呼び、
彼に付き従い深海棲艦や、提督を消そうとする海軍を撃退していく。
しかし、海軍の策略にかかり、提督は部下の駆逐艦を失い、魔神として覚醒。
自分もろとも島を火の海に沈めてしまう。

提督をなんとか保護したメディウムたちは、深海棲艦の力を借りて
海軍の研究施設を乗っ取り、提督の復活を目論んでいた……。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515056068


 * 太平洋上 研究施設の沿岸 戦闘海域 *

古鷹「……深海棲艦が、一斉に退き始めましたね……」

朝雲「何かの罠かしら」

筑摩「まさか利根姉さんの身に何か……!?」

山雲「……ねえ、あれ、なぁに~?」

 ザザザァァ

アーニャ(ロ級騎乗)「久々の海だぁ~!」

シルヴィア(ハ級騎乗)「こら、遊びじゃないんだから。ちゃんと釣竿掲げて!」

ミーシャ(ロ級騎乗)「これが降参って意味でいいんですか……?」

(W大佐部下:以下「W」)熊野「あれは……白旗ですの?」

W多摩「姉ちゃん、あの人、見覚えあるにゃあ」

W球磨「あー、確かにどこかで釣り上げた覚えのあるヒレクマ」

W鈴谷「ヒレで見分けてんの!?」


最上「あ、あの人……シルヴィアだね。シャークブレードの」

三隈「旗を持っているのはアーニャさんとミーシャさんではありませんか?」

初雪「……釣竿に白旗をひっかけてきてるみたい」

黒潮「やっぱりメディウムが絡んでたんでたんやなあ」

W伊勢「めでぃうむ……って、あの島で会った罠娘たちのこと?」

W日向「まさか、白旗も罠じゃないだろうな」

伊勢「いや、彼女たちは信用できると思うよ」

日向「ああ。摩耶たちと一緒に投降してきたのがあの3人だ。信じていいだろう」

青葉「そもそも、罠にかける気なら最初から姿を現さずに来るでしょうからねえ」

五十鈴「でも、白旗だなんて、本当に何があったのかしら」


 * 戦闘海域の後方 中佐の巡視船内 *

通信(那智)『メディウムが白旗を掲げてきたか……』

中佐「罠かどうかは正直わからない。だが、墓場島の艦娘たちは来てほしいというのが、あちらからの伝言だ」

通信(那智)『……では、私たちも研究施設に向かっていいんだな?』

中佐「ああ。速やかに突入済みの艦隊と合流して、提督少尉の確保に向かってくれ」

通信(足柄)『ええっ!? 提督、生きてるの!?』

中佐「信じられないが、蘇生すると聞いている。でも、あまり良い知らせには思えない。くれぐれも用心して突入してほしい」

通信(千歳)『わかりました……って、白露! 島風! 競争じゃないのよ!!』

通信(足柄)『ね、ねえあれ、由良とはっちゃんじゃない!?』

通信(那智)『中佐、我々にも迎えが来たようだ。これから上陸に向かう』

中佐「うん、よろしく頼むよ」

中佐「……」

H中将「……大丈夫なのか」

中佐「……」

H中将「……中佐?」

中佐「……はい……?」

H中将「……目が半分死にかけてるぞ……しっかりしないか」タラリ

中佐「ははは……何と言いますか、僕がやっていることが本当に正しいのか、少々自信を失いつつありまして」

中佐「人間は無力ですね……こんなときですら、ただ彼女たちを当てにするだけで、何もできないなんて」ウツムキ

H中将「そんなことはない。中佐はよくやっている」

中佐「……ありがとう、ございます」


 * 研究施設内 会議室 *

初春「」グッタリ

キャロライン「」ウットリ

利根「のう若葉よ。そろそろ縄を解いてやっても良いのではないか?」

若葉「そうか?」

利根「うむ、本人の望まぬ苦行は苦痛でしかないからな」

若葉「むう……利根さんがそう言うなら」

オリヴィア「やれやれ、また派手にやってくれたねえ」ノッシノッシ

武蔵「お前はオリヴィア!」

霞「最初から姿を見せてくるなんて、どういうつもりよ!」

オリヴィア「そうつんけんするんじゃないよ。不本意だけどね、アタイたちはギブアップしに来たんだよ」

武蔵「ギブアップだと?」

川内「うん、もう戦う必要ないんだって」

神通「私たちも怪我した人たちを連れて行くのを手伝ってほしいとお願いされたんです……」

若葉「川内さんと神通さんも無事だったのか」

霞「ふたりとも人質って感じじゃないし、信用していいのかしら?」

オリヴィア「そのために連れてきたんだ。アタイたちだけじゃ信用できないかもしれないからね」

カサンドラ「そ、そういうわけで、私たちも最初から姿を見せて……見せ……恥ずかしいぃぃ!!」ピャッ

利根「そこでオリヴィアの陰に隠れたら説得力がないぞ……」

オリヴィア「カサンドラ……あんた何しに出てきたんだい」


利根「まあ良い、してギブアップというのはどういうことじゃ?」

メリンダ「これ以上抵抗は致しません。皆様をご主人様のところへ案内してくださいと、ルミナからの言伝がありました」

武蔵「この状況では分が悪いと判断したわけか」

初春「す、すまぬ、わらわがいてこの体たらく、痛恨の極みじゃ……」

オリヴィア「仕方ないよ初春、ほかのメディウムたちも散々な目に遭ってる。ここは負けを認めようじゃないのさ」

メリンダ「そういうことですので、まずはロープを解いていただけないでしょうか」

霞「じゃあ、朝潮に、これ以上私たちを襲わないように説得してくれる?」

朝潮「むぐう……」グッタリ

ハナコ「ふええ……」グッタリ

カサンドラ「も、もう抵抗のしようがないと思うんですけど……」

オリヴィア「ちょっと我を失ってるねえ。アタイが担いで連れて行くよ、道すがら宥めながら行こうじゃないか」ヒョイッ

若葉「そういうことなら仕方ない。解くとしようか」

カサンドラ「は、はい、お願いします……!」

メリンダ「あの……もし若葉様がご不満でしたら、私を縛っていただいても……」ポ

カサンドラ(へ、変態だー!?)ハナヂ

若葉「申し出は嬉しいが、それはまた今度にしよう」キリッ

武蔵(若葉は手遅れか……)

ジェニー「どうでもいいから早く解いてくれないかしら」グッタリ

ツバキ「うちら完全に忘れられとるわけじゃありゃあせんか?」グッタリ

霞「忘れてないから待ってなさい、今ロープを解くわ」シュルシュル


オリヴィア「ところでル級。アンタ、どうして武蔵たちにフォージド兵の素材を渡したんだい?」

ル級「……」

霞「それは私も聞きたいわね。なんか考えがあったんでしょ?」

ル級「提督ガ、変ワッテシマウノガ嫌ダッタカラヨ」

オリヴィア「変わる?」

ル級「モトモトノ素養ガアッテニセヨ、彼ガ人間デナクナッテシマウコトガ嫌ダッタノ」

ル級「私ニハドウシテモ、アノ容レ物ノ中ニ入レラレタ彼ガ、別ノモノニ作リ替エラレテイル気ガシテ……ネ」

ル級「蘇ルコト自体ハ良イコトダロウシ、私モ良イトハ思ッタ……ケレド、彼ガ彼デナケレバ、何ノ意味モナイワ」

ル級「メディウム生成ノ素材ヲ集メテ長門ニ渡シタノハ、オ前タチノ都合ノ良イヨウニ作ラレタ提督ヲ壊シタカッタカラ」

ル級「結果的ニ艦娘タチハ、提督ニ会ウタメノ手段トシテ使ッタノダケレド」

武蔵「ル級の思惑とは違っていたわけか」

ル級「デモ、ソレデ良カッタノカモシレナイワネ」

武蔵「軽巡棲姫はどうなんだ?」

ル級「アノ子ハアノ子デ考エガアルヨウダケド……私ハ聞イテイナイワ」

神通(それにしても……この部屋、すごく目のやり場に困ります……)カオマッカ

川内「うわ、結び目固すぎ! これ切っちゃってもいいよね?」ナイフトリダシ

リンメイ「い、痛くなければなんでもいいね!」

サム「早めにお願いしますよ」ハァ


 * 施設内 地下通路途中の小部屋 *

長門「……」カオマッカ

摩耶「……」カオマッカ

加古「いやあ、すごい光景だったねえ」

鳥海「……」ハナヂポタポタ

敷波「まあ、あたしは目隠しされてて見てないんだけどね」

加古「で、当の本人は熟睡中、と」

潮「スヤァ……」

加古「いいなあ、あたしも一眠りしたいなあ」

クリスティーナ「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」

摩耶「っ! いつの間に!」

クリスティーナ「警戒しなくていいわよ、マヤ。この場は私たちも矛を収めるわ」

摩耶「え? ど、どういうことだ?」

フウリ「あの、わたしたち、もうケンカしなくていいんです……!」

敷波「しなくていい?」

榛名「はい、メディウムのみなさんは投降するそうです」

比叡「司令がいるお部屋に、みんな連れて行きましょう、って話になりました!」

敷波「比叡さんに榛名さん!? 二人とも無事だったの!?」


榛名「無事といいますか、普通に過ごしてましたね……」

セレスティア「むしろ私たちは比叡さんからお料理を教わっていましたので」

クリスティーナ「不愉快にはさせてなかったと思うわ」

摩耶「霧島さんも一緒なのか?」

フウリ「は、はい! 今は魔神様のいるお部屋にいます……!」

クリスティーナ「私たちだけじゃ信用してもらえないだろうし、この二人にも同席してもらおうと思ってね」

摩耶「そっか、みんなが無事ならそっちは安心だな」

榛名「それと、長門さんの治療もしないといけません。高速修復材をお持ちしましたので、使ってください」

長門「すまない、助かる」ヨロッ

敷波「ああ、動いちゃ駄目だってば!」

長門「無理はしないさ。とりあえず、私よりも彼女たちを心配してやってくれ」チラッ

朧「……」ボーゼン

オボロ「朧殿、しっかりなされよ!」オロオロ

電「こんなの……こんなのひどいのです」メソメソ

パメラ「もうお嫁にいけない……」ズーン

イサラ「もう引きこもりたい……」ズーン

マルヤッタ「み、みんなしっかりするじょ……!」

マリッサ「たまにはこんな風に激しく責められるのもいいかもぉ」ウットリ

タチアナ「この人だけはぶれませんね……」


チェルシー「だからもう陸の上は嫌なんだよぉ……」グスグス

セレスティア「チェルシー、あなたの苦手なクラーケンは海の魔物ではありませんか」

チェルシー「このあたしの心の傷を癒してくれるのは海しかないんだああ!」ウワーーン

摩耶「どんだけ海が好きなんだよ……わからなくねーけど」

加古「まあ、あんだけのことをされちゃってたら、こうなるのも仕方ないかねえ」

セレスティア「鳥海さん、何があったのか教えていただけませんか」

鳥海「……く、クラーケンの、触手が……パメラさんやチェルシーさんの……はうっ」ハナヂブパァ

セレスティア「鳥海さんっ!?」

敷波「思い出しただけで鼻血を出すとか、いったい何が起こってたのさ……」

加古「うん、つまり鳥海が説明できないくらい触手でエロエロな宴が繰り広げられてたんだよね」

長門「ま、摩耶は平気なのか?」

摩耶「あー、た、多少は耐性あるっすから」

摩耶(駆逐艦連中が隠し持ってたエロ本にああいうのあったんだよな……予習してなかったら危なかったぜ)ポ

セレスティア「加古さんは平然としておられますが……」

加古「だって駆逐艦たちが持ってたエロ本に、ああいうのあったんだよね」

長門「」

摩耶「……」アチャー

鳥海「ど、ど、どういうことですかっ!!」

加古「そんなん訊かれても知らないよー」

長門「……ほ、本当か、敷波」

敷波「え、えーっと……あたしは知らないかなっ」プイッ


加古「まあとにかくさ、メディウムたちがこれ以上戦う意思がないんなら、怪我してる子たちを運ぶの手伝うよ?」

長門「そ、そうだな……私のニードルフロアの怪我もあるだろうし」

クリスティーナ「そのために戦艦の二人に来てもらったの。あなたたちもダメージ受けてるんだから、こっちは任せて」

セレスティア「電さん、肩を貸しますよ」

電「セレスティアさん……神様は残酷なのです……!」グスグス

セレスティア「ど、どうしたんですか」

電「潮ちゃんのおっぱいには勝てなかったのです!」

セレスティア「……は?」

朧「朧は……井の中の蛙でした」

クリスティーナ「ふ、ふたりとも、どうしたの?」

フウリ「い、いったい何があったんですか?」

加古「あー、潮の艤装に乗ってたクラーケンが調子に乗っててさあ……よいしょっと」

フウリ「潮ちゃんを後ろから抱きかかえて……?」

クリスティーナ「何をするの?」

加古「早い話が、触手がこういうことをしたんだよねえ」ウシオノムネモチアゲ

潮「」タユンタユンタユンタユン

クリスティーナ「」

セレスティア「」

榛名「」

比叡「うわあ……」カァァ


朧「……あれを見たとき、どうやっても潮には勝てないって……」

オボロ「くっ……し、忍びに巨乳は不要……っ!」プルプル

電「電だって育ったはずなのに……!」グスグス

パメラ「う、ウエストでは負けてないわ……」

摩耶(かける言葉が見つからない……)

加古「っていうかさあ?」フウリノウシロニマワリコミ

フウリ「きゃあ!?」

加古「フウリちゃんだって結構凶悪だよねえ?」フウリノムネモチアゲ

フウリ「いにゃあああああああ!?」ポユンポユンポユンポユン

クリスティーナ「」

セレスティア「」

榛名「」

比叡「ひええ……」

長門「なにをしてるんだ加古ぉぉぉ!!」

加古「ん? いやあ、いいじゃんか、減るもんじゃないしぃ」

マルヤッタ「やってることは完全にセクハラおやじだじょ……」


潮「ん……むにゃ……ふえっ? な、なにかあったんですか?」

フウリ「う、う、潮ちゃああああん!!」ダキツキッ

潮「ふ、フウリちゃん!? い、いったい何があったの!?」オロオロ

クリスティーナ「高く飛ぶには、軽いほうがいいのよ……」ズーン

セレスティア「火のそばにいれば汗をかいてしまうんですから……」ズーン

榛名「提督は、榛名が慎ましやかでもきっと大丈夫です……」ズーン

比叡「ちょっ!? 被害拡大してる!?」

イサラ「フォローに来たメディウムの心まで折っちまうなんて、ひどすぎッス……」

マリッサ「それよりもぉ、早く魔神様のところへ引き上げたほうがいいと思うんだけどぉ?」

タチアナ「一番正論を言いそうにない人がそれを言いますか」

比叡「いえいえマリッサさんの言う通り、とにかく急ぎましょう? ニコちゃんから、司令がもうすぐ復活するって聞いてますから!」

全員「「!!」」


 * 施設内 地下の広間へ続く通路 *

ルミナ「まったく……若葉君には困ったものだ」

金剛「メディウムにまで悪い癖を炸裂させるなんて、若葉も罪深いデスネ……Charrolline は大丈夫デスカ?」

ルミナ「…………Possibly、かな」

金剛「Oh...」

ルミナ「それよりもだ。味方だと思っていた深海棲艦のル級君に、まんまとしてやられたよ」

ルミナ「彼女はなにかと私たちのやることに消極的だったし……彼女はいったい何に憂いていたのかね?」

軽巡棲姫「……」

ルミナ「軽巡棲姫君も何を考えているのか……そろそろ話してくれないかな」

軽巡棲姫「……」プイ

ルミナ「やれやれ、嫌われてしまったかな?」ポリポリ

龍驤「雲龍、泊地棲姫背負ってもらってるけど、重たない?」

雲龍「重いけど大丈夫」ヨイショ

陸奥「泊地棲姫は魔力槽に入れてあげるの?」

ナンシー「うーん、応急処置的に魔力槽の液体をバケツに汲み上げて、かけてあげたほうがいいんじゃなーい?」

如月「そうね。修復材も混ぜてあげればいいと思うわ」

龍驤「今に始まった話じゃないとはいえ、その辺の仕組みがよくわからへんなあ……」

ナンシー「まー、私たちも全部わかってるわけじゃないしね~」


ルミナ「私は全力で解析中だよ。むしろ私には、君たちがなぜそれを疑問に思わないのかのほうが疑問なんだけどねえ……」

ディニエイル「皆が皆、あなたのように疑い深いわけではないのですよ」

不知火「好奇心は猫を殺す、などと言う言葉もありますし、深入りは控えるべき事案もあります」

リンダ「……ほんまに似た者同士やな、デニやんとヌイヌイは」

不知火「ぬい!?」ギョッ

ノイルース「なんですかその愛称は」

リンダ「ええやん、ヌイヌイ。可愛いやんか~、デニやんもそう思わん?」

ディニエイル「……」ウーム

ディニエイル「……ヌイヌイ……」ボソ

不知火「なんですか!? その嬉しそうな顔はいったいなんですかディニエイルさん!?」カァァ

五月雨「……ぷっ……」

吹雪「……ふ、ふふ……」

不知火「なんですか二人とも!? その笑いは! 何がおかしいんですか!?」ワタワタ

大和「……なんだか、いいですね……こういう雰囲気」

如月「そうよね。私たち、本当はこういう雰囲気を求めていたのよね……」

大和「ええ……あのときまで、時間が戻ってくれれば良いのに……」

ルミナ「ああ、戻したいねえ……さて、魔神君はこの事態をどうしてくれるかな?」

軽巡棲姫「……」


 * 施設内 地下の広間 *

 分厚い扉<プシュウウウ

ルミナ「やあやあ、みんな連れてきたよ!」

ルイゼット「来ましたか……」

カオリ「結局、こうなっちゃったのね」

金剛「Oh, 怪しげな機械がいっぱいデス!」キョロキョロ

五月雨「あ、あそこに霧島さんと扶桑さんがいます!」

扶桑「ああ……あなたたちも来たのね」

霧島「金剛お姉様……!」

金剛「霧島! Are you fine !?」

霧島「……ファ、ファインと言いますか……大事はありません」

金剛「Okay, 無事なら何よりデス。比叡と榛名はどうしまシタ?」

霧島「お姉様たちは、別の場所で交戦していた武蔵さんや長門さんたちを迎えに行きました」

扶桑「川内と神通も一緒に行ったわ」

不知火「……!」

陸奥「不知火? どうしたの……あれは!」

不知火「山城さん……!」


山城(半深海化)「……不知火……? 戻って、きタの?」フラッ

不知火「……はい」

山城「そう……じゃあ、どウして、那珂ちゃんは、戻ってきテくれないのかシら……」

不知火「……」

(山城が振り返った先には、緑色の液体で満たされた円筒型の水槽)

(その中で目を閉じて漂っている那珂の姿は、八割ほど深海化が進んでいる)

山城「どうしテ、那珂ちゃンは、私たちと一緒ニ来るこトを拒むの……?」

山城「扶桑お姉様は戻ってキてくれたノに、どウして……」

陸奥「どういうことなの……!?」

扶桑「那珂ちゃんは、提督やメディウムたちと一緒に戦うように、山城に説得されていたらしいの」

軽巡棲姫「……泊地棲姫ト一緒ニ、ネ?」

扶桑「そうよ。その『説得』に那珂ちゃんは必死に抵抗した結果が……こうなってしまったの……」

霧島「彼女は酷く衰弱しています。しばらくは、魔力槽からは出さないほうが良いというのがニコさんの判断です」

金剛「……その、那珂ちゃんの隣の暁も、そうデスカ?」

 (那珂の隣の魔力槽に、暁が眠るかのように浮かんでいる)

霧島「はい……比叡お姉様の呼びかけにも、全然反応しません……」

金剛「……」


大和「……ニコさんはどちらに?」

ルミナ「ええと、ああ、いたいた。ニコ君!」

ニコ「……」ジロリ

ルミナ「そんな風に睨まないでくれたまえよ。私たちの被害を抑えるためにやったことなんだから」

ニコ「ぼくは、魔神様を倒しに来た奴らと仲良くするルミナの気がしれないよ」

金剛「No ! 私たちは、提督の艦娘デース! 慕いこそすれ、傷つけるような真似はしたくありまセンヨー?」

ニコ「力づくでここを追い出すつもりのくせに、よく言うよ」

金剛「ここにいるのは危険デスから、避難しましょうって話デス。メディウムのことを考えれば、提督ならわかってくださると思いマス!」

ニコ「……魔神様の人の好さを利用しようとしているんだね……!」

金剛「Ah, Nico ? アナタ、ちょっと heat up しすぎデス。Please calm down !」

ニコ「……」ハァ

ニコ「まあ、いいよ。魔神様は、もうすぐ復活する」

 (ニコが金剛たちに背を向けると、その正面にある巨大な円筒状の魔力槽の中の液体がコポリと泡立つ)

不知火「司令……!」

金剛「テートク……!!」

大和「提、督……っ!!」ポロポロ

(巨大な円筒状の魔力槽の真ん中に、身体が完全に元に戻った提督が目を閉じたまま浮かんでいる)


大和「提督……また、生きて、そのお顔を……見ることができるなんて……っ!!」ポロポロポロ

金剛「Nico , 提督の復活は、もう間近なのデスネ?」

ニコ「……」コク

金剛「わかりまシタ、私はもう止めまセン」

不知火「金剛さん……」

金剛「私もテートクと、お話がしたいデス。これからのことは、みんなで話し合って決めまショウ?」

金剛「皆さんもよろしいデスカ?」

大和「大和は……提督に、従います」

雲龍「私もそれでいいわ」

龍驤「早っ!? もちっと考えんかい!」

陸奥「まあ、選択肢はあってないようなものじゃないの?」

龍驤「せやなあ……なあニコちゃん? 復活した提督は、まともに話ができるんやろな?」

ニコ「当然だよ。魔神様の頭の中を弄るようなことは絶対にしない」

龍驤「そっか。なら、ええわ」ニコ

五月雨「私からも、お願いします!」ペコッ

陸奥「私もよ。邪魔するような野暮はしたくないわ」

吹雪「みんな……!」


ナンシー「良かった……これでまたマスターとお喋りできるね!」

如月「ええ……!」ウルッ

不知火「ニコさん。よろしく、お願い致します」ビシッ

ニコ「……わかった」ニコッ

ニコ「もうすぐ。もう少し魔力を魔神様に注げば、魔神様が目覚められる。さぁ、仕上げに入るよ」スッ

全員「「……」」ゴクリ


 バッ!!


ニコ「!?」ガッ!

陸奥「え!?」

後ろから腕で首を絞められるニコ「ぐ……ぇ!?」ギチッ

ルミナ「ニコ君!」

不知火「何故……あなたがそんなことを!?」

 ドタドタドタ

摩耶「おいおい、なんだよこりゃあ……」

榛名「い、いったい何があったんですか!?」

 バタバタバタ

利根「ル級よ、これはどういうことじゃ!?」

ル級「コレハ……!」

神通「……ニコさん!」


大和「ニコさんを離しなさい! 軽巡棲姫!!」

軽巡棲姫「……来ルナ。コイツガドウナッテモ知ラナイワヨォ……!?」

ニコ「あ……が……!」ギュウゥ

ナンシー「ニコちゃん!!」

金剛「どういうことデス!? あなたは提督と会いたくないのデスカ!?」

軽巡棲姫「黙レ。オ前タチコソ、提督ノコトヲ何モワカッテイナイ……!」

武蔵「これはどういうことだ……!」

ヴェロニカ「あの子、向こうの世界でもずっと坊やのそばにいたはずよ」

カトリーナ「なんで魔神様の復活を邪魔するんだ!?」

軽巡棲姫「私ハ……提督ヲズット見テキタノ……ダカラワカル」

軽巡棲姫「提督ハ……自身ノ復活ナンカ望ンデイナイ、ト……!」

大和「何を根拠にそんなことを!」

軽巡棲姫「根拠? ソレナラ、アノ燃エ盛ル島デ私ダケヲ助ケタノハ、ドウシテ!?」

軽巡棲姫「アノ方法デ、自分ノ体モ島ノ外ヘ出ソウトシナカッタノハ、ドウシテ!?」

軽巡棲姫「アノ人ハ……提督ハ、終ワリニシタカッタノヨ。永遠ニ、眠ルツモリデイタノヨォ……!」

軽巡棲姫「彼ノ復活ハ、アクマデ、オ前タチノ望ミデシカナイノ……提督ノ望ミハ、安ラカナ永遠ノ眠リ……!!」

軽巡棲姫「ソレヲ、オ前タチハ、ワザワザ寝タ子ヲ起コスヨウナ真似ヲシテ……!!」ギリッ

ニコ「っ……っ……!」ミシッ


フウリ「あわわわ、ニ、ニコちゃんが……!」

不知火「ルミナさん、罠の力でなんとかなりませんか」ヒソッ

ルミナ「厳しいな。ニコ君をどうにかして引き剥がさないと、どのやっても巻き込んでしまうだろう……」

ルミナ「かといって罠の威力を手加減したんでは、軽巡棲姫君に通用しないだろうし」

ルミナ「しかも彼女たちの背には魔神君が入った魔力槽がある。砲撃して魔力槽に流れ弾が当たっては彼女の思う壺だ……!」

不知火「……しかし、このままでは……」

霧島「確かに埒が明きませんね……」ジリッ

摩耶「霧島さん、迂闊に突っ込むなよ。軽巡棲姫もフォージド兵を積んでるかもしれねーんだ、何を仕掛けてくるかわかんねえぞ」

軽巡棲姫「ふぉーじど兵? フフフ……ソンナモノ積ンデイナイワ。私ガ持ッテイルノハ、コレヨォ……?」バッ

 捕獲牢<ガシャン!

加古「なんだあのでかい鳥カゴ!?」

タチアナ「あれは人間を捕獲するときに使う道具です。何故彼女があれを……?」

軽巡棲姫「……」スッ

ニコ「……っ!?」

軽巡棲姫「フッ!」ボディブロー

 ドボッ

ニコ「えぅっ……!」ガクッ


軽巡棲姫「アナタハ、コレニ入ッテナサイ……!」ポイッ

ニコ(気絶)「……」ガシャン

ルミナ「ま、まずいぞ! 早くニコ君を助けるんだ!!」

 魔力槽<ゴポッ

鳥海「!? 司令官さんの魔力槽の様子が変です!」

 魔力槽<ゴポゴポゴボボッ

五月雨「み、見てください! あの水槽の中の水が、沸騰してるみたいに泡立ってます!」

ルミナ「魔力の暴走だ……あの魔力槽の魔力をコントロールしているのはニコ君なんだ!」

ルミナ「そして捕獲牢は、捕まえた相手を無力化するために、体力や魔力を吸収する力がある……!」

陸奥「コントロール不能ってことじゃない……提督もニコちゃんも危ないってこと!?」

金剛「Goddamned !! すぐにあの Cage を壊さないと!!」ジャゴッ

如月「駄目よ! ここからじゃニコちゃんや提督の魔力槽にあたっちゃうわ!」

金剛「でも!!」

軽巡棲姫「ソウヨ! モウ、遅イノヨォォオ!!」ジャキッ

ジェニー「ちょっと!? あの子、魔力槽を撃つ気!?」

五月雨「やめてえええ!」


 ドガガガァァン

 魔力槽<ドガァァン

パメラ「う、うそでしょ!?」

長門「なんだ……なにをしているんだ軽巡棲姫は!」

朧「提督……っ!!」

川内「あ、あいつ、何やってんの!?」

 魔力槽<ドガァァァン

ハナコ「魔神様が……!」

ル級「……アノ子、ナンテコトヲ……!」

若葉「見てる場合じゃない! 軽巡棲姫を止めるぞ!!」ダッ

神通「い、いけません! あの設備から離れてください!」

 魔力槽<バチッ バチバチッ

龍驤「機械から火花が……退避! 総員退避や!!」

大和「そんな……提督!!」

金剛「もう間に合いまセン!! 大和、伏せて!!」グイッ

如月「提督!!」

不知火「如月も!! 早く!」ガシッ


陸奥「あなたたちも伏せて!」ガバッ

ナンシー「きゃっ!?」

ルミナ「しかしこのままではニコ君が!」

ディニエイル「駄目です! 行けばあなたも巻き込まれますよ!」

ノイルース「ケイティー、あなたも伏せなさい!」

ケイティー「いや! 嫌ああああ! 旦那様あああああああ!!」

イブキ「リンダ! もっと気合入れて押さえつけろっての!」

リンダ「やっとるわ! こいつが馬鹿力やっちゅーねん!」

吹雪「……うああああっ!」ダッ

金剛「ブッキー!? Where aru you going !? Come back !!」

吹雪「ニコちゃんっ!」ガシッ

ニコ(気絶中)「」

吹雪「ニコちゃん! 目を覚まして!! ニコちゃん!」ガシャガシャッ

ニコ(気絶中)「」

軽巡棲姫「来ルナッテ言ッタデショウ……道連レハ、私ダケデ良ヨカッタノヨ?」ニコ…

 ゴゴゴゴゴゴ…

吹雪「あ……!」

 ドゴォォォォォンン…!


今回はここまでです。

PCがぶっ壊れたときはエタりそうになりましたが、なんとか復活しました。
今年もよろしくお願いいたします。

それでは続きです。


 * 少し時間を遡り、施設内 連絡通路 *

 タッタッタッタッ…

那智「ということは、提督は魔神として覚醒するかもしれないわけだな?」

シルヴィア「うーん、そうかもしれないけど、そうならないようにコントロールしてるって聞いてるわよ」

アーニャ「その辺はニコちゃんが厳しくチェックはずだよー!」

足柄「んー、確かにあの子は提督にご執心だったみたいだし。信じていいのかしら」

最上「僕は信じてあげたいな」

筑摩「そうですね、ニコちゃんは提督とキスして満更でもなかったみたいですし」

三隈「そ、そんなことがあったんですか!?」

千歳「何それ詳しく」キュピーン

ミーシャ「あ、あれは、半分事故みたいなものですよ。ジェニーさんが後ろから押したせいで……」

五十鈴「っていうか、今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

初雪「早く行って早く帰りたい……ぶっちゃけ、悪い予感しかしないし」

 ズズズズ…

朝雲「ちょっ……なによ今の地響き!」

山雲「下から響いてきたわ~。何かの爆発かしら~?」

由良「まさカ!? もう戦う理由なんテないハずよ?」


古鷹「加古は大丈夫かな……」

筑摩「私も利根姉さんが心配です! ああ、利根姉さん! 利根姉さあああん!!」

ミーシャ「メ、メディウムのみんなも心配です……!」

那智「この先、何が起こるかわからん。引き返すなら今のうちだが、大丈夫か?」

五十鈴「ここまで来てその質問は愚問だわ!」

黒潮「どうせ引き返すんなら、司令はんのところへ引き返さなな!」

伊8「大淀サんと明石さんモ、いイの?」

大淀「無理言ってついてきたんです、最後まで見届けさせてください!」

明石「戦闘は無理ですけど、修理ならできますよ!」

千歳「先に行ったみんなも心配だわ、急ぎましょ!」

那智「ああ、急ご……」

 ズズゥン

「「!!」」



 * 施設内 地下の広間 *

「「……」」

雲龍「……」ムク

龍驤「くぅ~……えっらい爆風やったなあ……」

陸奥「……機械が完全に壊れてるわね」

龍驤「雲龍、無事やったか?」

雲龍「ええ。でも、背負ってた泊地棲姫がちょっと」

泊地棲姫「」カミノケボサボサー

龍驤「……あの爆発で目ぇ覚ましとらんのかいな」

泊地棲姫「覚マシタワヨ……」

龍驤「おぉ、ならええわ」

泊地棲姫「チョット……ナンナノ、コノ仕打チ」イタタ…

陸奥「ほったらかしにされなかっただけ良かったと思いなさいよ。今はそれどころじゃないんだから」

泊地棲姫「ナニガアッタノヨ……」

煙<モワモワ…

ディニエイル「これは……」


不知火「この状態では、もう動かしようがなさそうですね」

破裂して火花をあげる魔力槽<バチッバチバチッ…

リンダ「それより、魔神はんはどこへ行ったんや……!」

イブキ「見ろ! 吹雪が倒れてんぞ!」ダッ


倒れている軽巡棲姫(損壊)「」

倒れている吹雪(瀕死)「」

捕獲牢<キュラン キュラン キュラン


ナンシー「ニコちゃんの捕獲牢が上に登っていくわ!」

ルミナ「とにかくニコ君を助けよう、それに吹雪君の治療もしないと……軽巡棲姫君も捕らえておくべきだな」

ケイティー「そんなことより旦那様は……旦那様はどこへ!? どこに隠したのルミナ!?」

金剛「お、落ち着くデース! 私たちと一緒に探しまショウ!」オロオロ

如月「……でも、あの爆発があったんじゃ……」グスッ

大和「……てい、とく……こんなのは、あんまりです……あんまりです……!!」ポロポロ

ノイルース「……」

雲龍「? あなた、どうかしたの?」


ノイルース「変だと思いませんか。魔力槽の中に満たされていた魔力の水は、どこへ行ったのでしょう」

陸奥「そういえば……あれだけ大きな水槽なのに、水飛沫も何もなかったわね」

五月雨「全部蒸発しちゃったんですか?」

陸奥「そんなことになったら、飽和した水蒸気がこの建物を吹き飛ばしてると思うわ」

 スピーカー<ビービー! ビービー!

全員「!?」

放送『非常事態発生、非常事態発生』

放送『設備の故障により、館内に異常を観測』

放送『各員、速やかに異常の対応を行うとともに、館内より退避してください』

放送『繰り返します、非常事態発生、非常事態発生……』

龍驤「なんやこの放送は」

ルミナ「設備故障時のアナウンスか。そんな機能まで備えていたなんて、すごいねここは」

泊地棲姫「……オイ」

ルミナ「ん? なにかな?」

泊地棲姫「吹雪ト軽巡棲姫ヲ、スグニコチラヘ連レテ来イ」

ルミナ「? それはなぜ……」


 ゾワッ

全員「「!?」」

泊地棲姫「急ゲ! ナニカ、ヤバイモノガ、ココニイル!!」

イブキ「や、やっべえ! リンダ、そっち頼む!」フブキセオイ

リンダ「ケイティーも早う逃げるで!」ケイジュンセイキセオイ

雲龍「……上だわ」

 ギュウウウウウウ…

ナンシー「空中に渦ができてる……!?」

五月雨「……な、なんなんですか、あの渦が放ってる、おぞましい雰囲気……!」ガタガタ

ノイルース「ニコさんが制御しきれなかった魔力が、人間の悪意に穢されているんです」

雲龍「……ごめんなさい、表現がわかりづらいわ」

ノイルース「……私たちの魔力は、人間の失意や悲憤を変換して作っています」

ノイルース「そのときの人間の感情が残ったままの魔力を使うことは大変危険です」

ルミナ「精油していない燃料は危険だっていうのと一緒だよ」

雲龍「それならわかるわ」

ノイルース「……こほん。とにかく、その不純物だらけの魔力が固まって、悪意をまき散らしながら渦巻いている……と、思われるのです」


摩耶「ちくしょう、さっきから何が起こってんのかわかんねえぞ!」

神通「提督は……提督はどうなったんですか……!?」

山城「扶桑お姉様、大変です! 那珂ちゃんの魔力槽に入っていた液体がなくなってしまいました!」

扶桑「……なくなった……!?」

那智「……おい、この部屋の有様はどういうことだ!」

シルヴィア「魔神さんはどうなったの!?」


 * 地下の広間の真上にある部屋 *

ミリーエル「魔神様のお部屋はこの次の地下5階です、急ぎましょう!」

コーネリア「ちくしょう! なんてざまだ!」タタタッ

グローディス「あたしたちが見張り番のときにこんなことになるなんて!」タタタッ

コーネリア「グローディス! お前のせいだぞ! お前があの時突っかかってきたせいで、あたしが外に追いやられたんだからな!」

グローディス「あぁ!? 突っかかってきたのはコーネリアだろうが!」

コーネリア「はぁ!?」ギロッ

グローディス「ああん!?」ジロッ

イーファ「け、ケンカしちゃやだよう……!」ビクビクッ

クロエ「その通りですおふたりとも! ケンカしている場合ではありませんよ!」

 ゴゴゥン…!

コーネリア「っ! なんだ、この真下から響いてきた、嫌な雰囲気の魔力は……!」


 * 施設内 地下の広間 *

 渦<ギュギィイイイイイ!

武蔵「うぐうう……なんだこの音は!」ミミフサギ

利根「いや、音も酷いがそれよりも……このえもいわれぬ寒気はなんなんじゃ!」

若葉「……あれは」

カサンドラ「ど、どうしたんです!?」

若葉「あの渦の中に、司令官の姿が見える……!」

オリヴィア「なんだって!?」

朝潮「……司令官……司令官っ!!」ダッ

霞「っ! 朝潮! 待ちなさいっ!」


ケイティー「旦那様……あの渦の中に旦那様がいたわ」

大和「ええっ!?」

金剛「それは本当デスカ!?」

ケイティー「ああっ、旦那様……今行きます! 今、あなたの胸に!!」ダッ

泊地棲姫「ナ!? ヤメロ! アノ渦ニ近ヅクナ!!」

 渦<ギョオオオオオ!

 ジュバァァァン!

朝潮「きゃ!?」

ケイティー「あっ!?」


千歳「……渦が猛回転して消えたわ」

五十鈴「確かにあの渦の中に提督の姿が見えた気がしたけど、あれはいったい……」


 グワッ


 ズズゥゥンン!


朝雲「きゃああ!?」ヨロッ

アーニャ「も、もう! 今度はなに!?」

フウリ「あ、あれ! 見てください! あれ!」

潮「……!? な、なにあれ……!!」



(壊れた魔力槽の前に、骨張った巨大な悪魔が片膝をついて屈んでいる)



霞「なんなのよ……あの、化け物は!!」

メリンダ「あれは……あれこそは……」


ノイルース「ええ。あれこそが、本来の魔神様の姿です」

金剛「あの Demon が!?」

大和「あれが……魔神!?」

ノイルース「はい。ツノや牙、そしてその巨躯。言い伝えにある通りです。ただ……」

不知火「ただ?」

ノイルース「本当はもっと筋肉質といいますか、あのような骨と皮だけの姿ではありません」

金剛「確かにあれでは Zonbie のようデス……」

雲龍「さっきの話の、不純物のせいかしら」

ノイルース「おそらくそうでしょう」

如月「それじゃ、あれが司令官なの……?」

ルミナ「そうなんだねノイルース君?」

ノイルース「……」

泊地棲姫「私ニハ、ソウハ思エナイガ?」

如月「え!?」

泊地棲姫「アノ骨悪魔カラ感ジ取レルノハ、人間ノ悪意ダケダ。アレガ提督ト同ジトハ思エナイ」


ディニエイル「本当ですか……!?」

ノイルース「……魔力の穢れが消えていません。それどころか、あの姿になってますます穢れが増幅しています」

ノイルース「人間だった頃の魔神様と、同じお考えを持つ存在かと問われれば、疑わしいと答えざるを得ません」

大和「提督……!」


朝潮「……し、司令、官……?」

ケイティー「旦那様……」

魔神「……GRR……」

魔神「GWOOOAAAA!!」グオッ

ルミナ「魔神が……」

不知火「立ち上がった!?」

 バキ! バキバキバキ!!

イブキ「お、おい! 天井をぶち破ってるぞ!!」

如月「待避! 待避して!!」

陸奥「みんな逃げるわよ!!」

 バキバキバキバキーーッ!!

「「「うわああああああ!?」」」

今回はここまで。


今回出した魔神のイメージは、一般的な悪魔像から
筋肉を取っ払ってガリガリになったイメージでお願いします。

お待たせしました、続きです。


 * 地下の広間の真上にある部屋 *

 ズズゥン

コーネリア「地震か!? でかいぞ!」

 メキメキメキ…

クロエ「! 違います、見てください! 床が!!」

ミリーエル「下から何かが上ってきています!」

 バキバキバキバキーッ

グローディス「で、でかい顔がせりあがってきた!?」

ミリーエル「あれは……魔神様のお顔!?」

コーネリア「なんだと!?」

クロエ「この部屋の天井まで突き破る勢いです! 床が崩れますよ! 早く避難を!」

グローディス「ボケっとしてないで急ぐぞミリーエル!」

ミリーエル「は……はい!」

イーファ「お、おいてかないでぇ!!」


 * 地下の広間 *

 ガシャーン ガラガラガラ…

「「……」」

龍驤「げっほ、げほげほ……ああもう、滅茶苦茶や」パタパタ

イブキ「……おいおい、この部屋の天井どころか、その上のフロアまでぶち破ってるぜ……」

五月雨「見た目は骨と皮だけなのに、パワーはあるんですね……」

キュプレ「ニコちゃんは大丈夫なの?」

ルミナ「……一応、大丈夫みたいだね。捕獲牢は相変わらず宙ぶらりんだ」

金剛「入りっぱなしは体に良くないのでショウ?」

大和「早く助けてあげないと……!」

陸奥「それはいいけど、あの骨の魔神は味方なの? 敵なの?」

ナンシー「見て、魔神の足元! ケイティーと朝潮ちゃんがいるわ!」



朝潮「ケイティーさん、大丈夫ですか!」

ケイティー「え、ええ……私たち、無事だったのね」

朝潮「おそらく、司令官の足元にいたおかげで瓦礫の直撃を免れたんだと思います!」


ケイティー「つまり旦那様が守ってくださったのね! 旦那様ーー!」キラキラキラッ

朝潮「……ほ、本当なんでしょうか」

魔神「GR……」ギョロリ

朝潮「っ!」ビクッ

ケイティー「うふふふ……旦那様! さあ、わたしはこちらです……!」

魔神「GOAAA……!」ズシン ズシン

朝潮「ケ、ケイティーさん……!?」

ケイティー「あら、なにを恐れているの? 姿かたちが変わろうと、彼は私の旦那様……」

ケイティー「そのお姿に怖気付いて二の足を踏むようなことはしないのよ……!」

魔神「GWUUOOOO……!」

ケイティー「さあ旦那様……この私とともに……!!」リョウテヒロゲ

魔神「GRR……」カオチカヅケ

朝潮「し、司令官……本当に……司令官なんですか?」

 魔神の口<グパア

ケイティー「えっ」


 ガブゥ

朝潮「け、ケイティーさんっ!?」

 ガブッ ガシャッ…

カトリーナ「ケ、ケイティーが……」

リンダ「食われた!?」


「そんなことしちゃ、だめぇ~~っ!」

 スパイクボール<ヒュウウウウ…

魔神「GVAAA!?」ゴシャァ!

ケイティー(重傷)「」ドサッ


大和「な、なにかが魔神の頭に落ちてきましたよ!?」

イブキ「あ、ありゃあイーファか!?」

キュプレ「でも、今のでケイティーを吐き出したわ!」

グローディス(上のフロアから)「おーい、イーファ!」

ミリーエル(上のフロアから)「大丈夫ですか!?」

イーファ「う、うん! ぼくは大丈夫だよ! でも……」


朝潮「ケイティーさん! しっかりしてください! ケイティーさん!」ユサユサ

ケイティー「……だ、んな、さま……な、ぜ……?」

ケイティー「このよう、な、仕打ち、を……」ガクッ

朝潮「ケイティーさん! ケイ……」

イーファ「朝潮ちゃん、危ないっ!」ダンッ

朝潮「っ!?」ドサッ

 魔神の手<ズシィィィン!

「「!?」」

 シュウウ…

朝潮「な……イ、イーファさん……ケイティーさん!?」

イブキ「お、おい、うそだろ……イーファたちが、押し潰されちまった……!?」

ナンシー「……なんで……!? ルミナ、なんでマスターが、ケイティーたちを……!」

ルミナ「……わからない。訳がわからないよ」


朝潮「……司令官……どうして、どうしてこんなことを!」

魔神「GU……RRR……」


朝潮「司令官!!」

魔神「GAAAAAAAAAA!!」グワッ

 ドゴォォン!

魔神「!?」グラッ

朝潮「ほ、砲撃!? 誰ですか!?」

山城「ふ、扶桑お姉様!? なにをしてるんですか?!」

扶桑「……」

金剛「扶桑!? アナタが撃ったんデスカ!?」

朝潮「な、なぜです扶桑さん!?」

扶桑「……朝潮。あれは、提督ではないわ」

朝潮「え……!?」

山城「な、なにを言ってるんですか扶桑お姉様……」

扶桑「見てくれはメディウムたちの言う魔神と同じなのかもしれないけれど……」

扶桑「私たちの知っている提督は、自分の部下に手をあげるような方ではないわ。そうでしょう?」

山城「……扶桑お姉様……」


扶桑「メディウムのみんなもそう思うでしょう?」

扶桑「あなたたちの仕えるべき人が、あなたたちを殺そうとするなんて、どう考えてもおかしいわ……!」

ナンシー「……うん。そうだよ、あたしたちが期待していたマスターじゃないよ!」

如月「ナンシーさん……」

ナンシー「ニコちゃんだって、あんなマスターを望んでなかったはずよ!?」

扶桑「これでも、撃つのは躊躇ったのよ。でも、その躊躇いのせいで、イーファちゃんたちを助けられなかった……!」

エレノア「大丈夫よ、あの子たちは無事だから」スッ

扶桑「!」

エレノア「こういう時のために『帰還の指輪』と『魔法石』があるの。私たちだって丸腰じゃないのよ」

ルイゼット「先程、指輪の力によってこちらの部屋に帰還した二人が、魔法石で回復したのを確認しました」

朝潮「ほ、本当ですか!?」

ルイゼット「はい。ですので、どうぞご心配なく……!」ニコ

エレノア「一回きりの使い捨てだから、もう無理はさせられないけどね」

扶桑「そう……でも、良かったわ」

エレノア「ところでルイゼット、扶桑の意見ってどう思う? 私もあの魔神様からは嫌な臭いしかしないんだけど?」

ルイゼット「そうですね……きつい人間のにおいがします」

山城「人間……ですって……!?」


ルミナ「ということは、ノイルース君? やはりあの魔神は……」

ノイルース「不純物が生み出した混ぜ物のまがい物、ということでしょうか」

魔神「GRRRRR……!」ムクリ

大和「魔神が目を覚ましたわ……!」

武蔵「よし、総員、砲戦用意! 武蔵に続け!!」ガシャッ

全員「「!」」

武蔵「目標、正面の巨大魔神! 我々にも、メディウムにも、これ以上の被害は出させん!」

摩耶「おうっ!」ガシャッ

霧島「はいっ!」ガシャ

比叡「了解です!」ガシャッ

加古「よっし!」ガシャッ

利根「やるしかあるまい!」ガシャッ

ル級「……」ジャキッ

泊地棲姫「……私モ、付キ合ウワ」ジャキッ

大和「は、泊地棲姫……あなたもですか!?」


泊地棲姫「アア。アレハ提督デハナイ。タダノ、ニンゲンダ」

金剛「What !?」

大和「そ、それはどういう……」


魔神「GWAAAAA!!」


長門「全てのメディウムたちは耳を塞げ! 対ショック防御!!」

ルミナ「みんな伏せるんだ!!」ミミフサギ

ナンシー「!」ガバッ

リンダ「ま、またかいな!」ガバッ

武蔵「よし……構え!!」ジャコッ

魔神「GWOOOOOOOOAAAAAA!!」グワッ

武蔵「撃てええ!!」


 ズドドドドドドーン!


 煙<モワァァァ…


龍驤「うえっほ! げっほげっほ! 今日何回目や、これ!」

五月雨「ど、どうなったんでしょう……」ミアゲ

顔が吹き飛んだ魔神「」

五月雨「うひゃあああああ!?」ビクーッ

陸奥「や、やったのかしら」

魔神「」グラッ

魔神「」ズズゥン…!

イブキ「倒した……のか?」

陸奥「一応はそうみたいだけど……?」

大和「! み、見てください! 魔神の……断面のところ!」

ナンシー「なにこれ……ゼリーみたいに、中がうっすら透けて見えるわ!」

ノイルース「なるほど、そういうことですか……ルミナ、わかりましたよ。この魔神の正体が」

ノイルース「この魔神の体を構成しているのは、あの魔力槽を満たしていた、緑色の液体です」

ルミナ「……!」


リンダ「ど、どういうことなん?」

ルミナ「私たちの魔力は、人間の負の感情を変換して作っていることはさっきも言ったね?」

ルミナ「その変換と管理を担うニコ君が捕獲牢に閉じ込められてしまったために、魔力槽の液体の管理者がいなくなってしまった」

ルミナ「するとどうなるか。液体に残った人間どもの思念の残滓が、魔力を使って自分たちの恨みを晴らそうとしたんだろう」

ルミナ「魔神君を媒体にして人型を作り出し、出来損ないの魔神を作り上げた……こういう推察をしたんだが、どうだろうか?」

ノイルース「ええ、良いところではないでしょうか」

五月雨「だからあの水槽が割れた時に、私たちが濡れなかったんですね……!」

キュプレ「骨みたいな姿で現れたのはどうして?」

ノイルース「液体の総量が足りなかったのかもしれません。それか、魔力が不足したかでしょう」

如月「じゃ、じゃあ、この断面からうっすら見えるあの影は……」

ノイルース「おそらく、この魔神を作るための核にされた、魔神様です」

金剛「すぐ助けマショウ!!」

ルミナ「待ちたまえ、なんの防護もしていないのに、不純物の混ざった魔力の塊に手を突っ込む気かい?」

泊地棲姫「ソウヨ。スグニ離レナサイ」ジャキッ

大和「え?」


雲龍「危険よ。殺気は、まだ死んでないわ」

 ズズッ

五月雨「!!」

加古「おいおい、砲撃で飛び散った破片が、スライムみたいにずるずる寄ってきてるぞ!」

摩耶「うへ、気持ち悪ぃ……!」トリハダ

 ズズズッ

霧島「まさか、ここから復活すると言うの!?」

武蔵「……冗談だろう?」

 ズズズズッ

ル級「顔ガ、復元シテイク……!」

利根「こ、これではどうやって倒すのじゃ!?」

扶桑「なんてこと……!」


魔神「……」ムクリ


魔神「GOAAAAAAAAAAAAAAA!!」

今回はここまで。

合体しないで駆逐艦を追いかけ回しそうなスライムの完成ですね


お待たせしました、続きです。


 * 広間の上の階 *

グローディス「……なんてこった」

コーネリア「魔神様があのスライムの中に取り込まれてるってことか」

ミリーエル「どうにかして再生できない方法を考えないといけませんね」

クロエ「ですが、どうやって?」

 * 広間 *

朝雲「こ、こんなのどうすればいいのよ!」

霞「戦艦や重巡が一斉砲撃したのに、吹き飛んだのが頭だけじゃあ、焼け石に水じゃない!」

山雲「……んー、どうにかして、ただの水に戻せればいいんだろうけど~」

青葉「ですが、どうやって……」ウーン


那智「……ルミナ。ニコはどこにいるんだ?」

ルミナ「ん? あ、ああ、那智君か。ニコ君はあそこだよ」ユビサシ

 空中に浮いたままの捕獲牢「」フワフワー

足柄「あ、あの鳥籠の中?」


那智「あの水を管理していたのは彼女だろう? なら、管理者を助けて、なんとかしてもらうしかないな」

千歳「それこそどうやって!?」

那智「あの籠を落とす」ジャコッ

ニーナ「ちょ、ちょっと、砲撃で落とそうとするのは無理があります!」

那智「……底をぶち抜くのはやはり駄目か」

ルミナ「意外と脳筋なんだね……」

那智「ならばやはり、あの天井の近くまで飛んで、虚空につながっている鎖を切るしかないか」

ルミナ「うん、それなら可能じゃないかな」

足柄「でも、飛ぶってどうやって!?」

那智「クリスティーナだったか? スプリングフロアで飛ばせないか?」

クリスティーナ「私はライジングフロアよ。でも、残念だけどあんなに高いところへは飛ばせないわ……」

那智「そうか……それならヒューマンキャノンはどうだ?」

ヴィクトリカ「んん? あたしの出番か? 仰角の計算はできねえけど、それさえOKなら行けると思うぜ?」

那智「ああ、角度調整は任せてくれ。あとはあの鎖を切る役だが……」

ヴィクトリカ「シエラあたりがいいんじゃねえか? デスサイスなら切れるだろ」

シエラ「ヒィッ!?」ビクッ


ヴィクトリカ「ほらシエラ、隠れてないで出てこいよ」グイグイ

シエラ「ま、待ってほしいのデス! 高いところは苦手なんデスゥゥ!!」ズルズル

那智「なに、飛ぶのは一瞬だ。それに時間がない」チラッ


魔神「GOOAAAAAA!!」ドカーーン

「「きゃあああ!」」

魔神「WOOOOAAAA!!」ガシャーン

「「うわあああ!」」


那智「頼む。私と一緒に飛んでくれ」

シエラ「……わ、わ、わかったデス……手短にお願いするデスゥゥ……」プルプルプル

足柄「そうと決まれば援護するわよ!」

ルミナ「みんなも艦娘の援護を!」

那智「それと、力自慢を集めてくれ! あの籠を叩き落としたときに、受け取り手が必要だ!」

オリヴィア「そういうことならまかせときな!」

カトリーナ「あたしたちが行くぜ!」

長門「……よし、私も行こう」


敷波「だ、大丈夫なの!?」

長門「ああ、修復材をもらったからな。あの籠を受けるくらいはできる」

長門「敷波は、私たちがあの籠を受け取れるように、白露と島風と協力してあの魔神を撹乱して欲しい」

敷波「……うん、わかった」

長門「白露と島風も、頼めるか?」

白露「うん、まかせて!」

島風「気を引けばいいんだよね!?」

ニーナ「大丈夫なんですか?」

長門「この二人の素早さなら、あの巨体に捕捉される危険は少ないだろう」

ルミナ「うん、まずはニコ君を助けよう。それから魔神君の動きを封じて、ニコ君の力で解呪する……」

ルミナ「解呪自体ができるかどうかはわからないが、今はそれに賭けるしかないね」

ノイルース「ええ、逃げるにしても、ニコさんを置いていくわけにはいきません」

長門「そうだな。いずれ体勢を立て直すにしても、ここにいる誰ひとり欠くわけにはいかない」

那智「よし、腹は決まったな。ヴィクトリカ、シエラ、頼むぞ……チャンスは一回きりだ!」

ヴィクトリカ「おう!」

シエラ「は、はいデスゥゥ……」ガクガクガク

潮(大丈夫なのかなあ……)


シルヴィア「うーん……」

ミーシャ「し、シルヴィアさん? どうしたんですか?」

シルヴィア「え? ああ、一発勝負は危険よね、って思って」

アーニャ「それはそうだけど、ほかに方法ってあるかなあ?」

シルヴィア「……何度も切りかかれるチャンスが作られればいいのよね」ジッ

アーニャ「?」

ミーシャ「?」


武蔵「くっ、この武蔵がここまで手こずるとはな!」ドガーン

金剛「こちらの砲撃に対する reaction が良くなってきていマス!」

霧島「学習しているということですか……面倒ですね!」

白露「力技が通用しなくなったんなら!」バッ

島風「スピードでかき回しちゃうよ!」バッ

陸奥「あなたたち……!」


魔神「GR……!」

白露「一番に突っ込むよ!」ドドドドドド

島風「おっそーい!」ドドドドドド

魔神「WOOO……!?」キョロキョロ

白露「真後ろ取ったよ! いっけえええええ!!」ギョライナゲツケ

島風「T字有利だね! いっちゃってええ!」バクライシュート

 ドガガガン

魔神「!! GAAAAAA!!」ブンッ

白露「当たらないよーっ!」ダッ

島風「速きこと、島風のごとし、なんだから!」ダッ

イブキ「すっげえ……ちょこまか駆け回って常に一方が背後を取り続けてるぜ」

那智「よし、今のうちだ! ヴィクトリカ、頼む!」

ヴィクトリカ「よおっし、任せときな!」

 ヒューマンキャノン<ズオッ

那智「!」スポッ

シエラ(in那智の艤装)「ひっ!?」

那智「……いざ入ってみるとちょっと怖いな」


ヴィクトリカ「角度はこんなもんか?」

那智「そうだな、もう2度ほど下げてくれ。よし、これでいい」

シエラ「だ、だ、大丈夫なのデスか?」

那智「ああ、大丈夫だ」

長門「我々も準備できたぞ!」

カトリーナ「いけるぜ!」

ヴィクトリカ「うっし、じゃあ行くぜ! 発射あああ!」

 ヒューマンキャノン<ズドーーン!

那智「うおおおおおお!?」ギューン

シエラ「ひいいいいいいい!!」

カトリーナ「いいぞ、一直線に向かってる!」

那智「……シ、シエラ! いけるか!?」

シエラ「は、は、はいデスゥゥゥ!!」ジャコッ

那智「……よし、今だ!!」

 デスサイス<ヴンッ!

 捕獲牢の鎖<ジャギィィィィン!

那智「このまま……叩き切るっ!」

今回はここまで。

やっと書けた……続きです。


 デスサイス<ギリギリギリッ…!

那智「く……こ、このままでは、断ち切るのは無理か!?」

シエラ「だ、駄目デス、空中に飛んでいるせいで踏ん張りがきかなくて……」

 ヒュウウ…

シエラ「落ちるデスゥゥゥ!?」

千歳「那智!!」

シルヴィア「大丈夫よ、保険をかけたわ」

アーニャ「那智お姉ちゃん!」バッ

 クレーン<ガッシャッ!

那智「うお!? な、ナイスキャッチだアーニャ!」

シエラ「し、死ぬかと思ったデスゥゥゥ……!」ナミダボロボロ

朝雲「でも、あのままじゃ埒が明かないんじゃない?」

足柄「そうね。鋏みたいに、反対側からも切り付けられればいいんだけど……」

シルヴィア「あら、そういうことなら試してみる?」

足柄「?」


那智「よし、シエラ、もう一回切りかかるぞ」

シエラ「そ、それはいいデスけど、アーニャは大丈夫なのデスカ?」

アーニャ「うーん、ずっと釣り上げっぱなしは疲れるんだよね。あと、衝撃でバラしちゃうかもしれないから、もって3回くらい、かな?」

那智「そうか、なら……」

 <チョットマッテーー!

那智「うん?」チラッ

 ハンギングチェーン<ジャララララッ!

逆さ吊りにされて引き上げられる足柄「あああああああああああああ!?」ゴヒャアアアア

ニーナin足柄の艤装「あああああああああああああ!?」ゴヒャアアアア

那智&シエラ「「!?」」

 ハンギングチェーン<ガッシャンッ!

足柄「おっふ……き、気持ち悪ぅい……」クラクラ

ニーナ「ミ、ミーシャ、もっとゆっくり上昇させて……」ウプッ

ミーシャ「す、すみません! 急がなきゃと思って……!」


那智「あ、足柄? どうしてお前まで……」

ニーナ「その捕獲牢の鎖ですが、切り付けた時にたわんでしまうから断ちづらいんだと思うんです」

足柄「だから、両側から挟み込むように切り付ければいいんじゃないか、って」

ミーシャ「シルヴィアさんが言ってました」

ニーナ「それで足柄さんにお願いして、わたしを乗せてハンギングチェーンで引っ張り上げていただいたんです」

那智「なるほど……つまりデスサイスとペンデュラムで挟み撃ちにするというわけか」

足柄「言い出しっぺのシルヴィアが来られればよかったのに」

ニーナ「艤装がある艦娘のみなさんだからこそ、私たちもこんなことができるんですよ」

那智「話は分かった。シエラ、もう一回行けるか?」デスサイスカマエ

シエラ「わ、わかったデス……!」

足柄「それじゃ、ニーナも行くわよ! 準備いい?」ペンデュラムカマエ

ニーナ「お任せください!」

那智「狙うは一点!」

 デスサイス<ヴンッ!

 ペンデュラム<ヴンッ!

ニーナ&シエラ「「切り裂け!!」デスゥゥゥ!!」


 捕獲牢の鎖<ジャギィィィィン!

那智「手ごたえは十分だ……!」ギリギリギリッ

 捕獲牢の鎖<ギリッ ミジミジミジッ…

足柄「鎖にひびが入ったわ!」

 捕獲牢の鎖<バキィィィン!

那智「や、やった!」

足柄「みんな、行ったわよ!!」

 捕獲牢<ヒュゥゥゥ…

武蔵「よし、あとは任せろ!」

大和「来ましたよ!」

陸奥「長門、もう少し下がって!」

長門「こ、ここか!?」

カトリーナ「来るぞぉぉ!」

オリヴィア「死んでも落とすな!」

 捕獲牢<ゥゥゥウウウウ…!

6人「「今だ!」」バッ


 捕獲牢<ズガシィィィン!!

武蔵「ぐぅ……っ!」

長門「お、思ったより重たいな……!」

カトリーナ「ち、ちくしょう、ちょっとびっくりしちまったぜ」

陸奥「早く降ろしましょ! 中にいるニコちゃんが心配だわ!」

オリヴィア「手足の指に気をつけなよ!」

大和「はいっ!」

 ズズン

陸奥「……ふぅ」

長門「よし、あとはこじ開けるだけだ!」ガシッ

長門「……ふん……っ!!」

陸奥「長門?」

武蔵「なんだ情けない。代われ! むん……っ!?」

大和「……武蔵?」


オリヴィア「なんだい情けない。アタイのば」

ルイゼット「皆様、お下がりください」ズイ

大和「あ」

 ブンッ

 バギィン

長門武蔵「「」」

ルイゼット「これで良いでしょう」フゥ

オリヴィア「アタイの出番が……」

陸奥「ギロチンアクスで一撃……」

大和「ニ、ニコさんに当たったらどうするんですか!?」

ルイゼット「僭越ながら、余程のことがない限り、手元が狂うような失態は犯しません。ご安心くださいませ」ニコッ

武蔵(この武蔵が恐ろしいと思うとは……)

アーニャ「ところでさ、あたしたちそろそろ限界なんだよね」プルプル

ミーシャ「あの、二人とも降ろしていいですか?」ガクガク

カトリーナ「えっ」


アーニャ「釣り上げるのは得意なんだけど……」

ミーシャ「降ろすのは苦手なんです……」

 クレーン<パッ

 ハンギングチェーン<パッ

那智「」

シエラ「」

足柄「」

ニーナ「」

 ヒュウウウウ…

足柄「いやあああああああああ!?」

シエラ「」←すでに気絶中

那智「きゅ、急に離すな……うわあああ!」

ニーナ「だ、誰かあぁぁぁ!!」

 マジックバブル<プクー

那智「!?」ポヨーン

 スノーボール<ズシーン

足柄「!?」ズボフ!


メアリーアン「なんとか間に合っただか?」

レイラ「そうみたいですね。那智さん、シエラ、大丈夫ですか?」

那智「あ、ああ、私はいいが……おい、シエラ」ユサユサ

シエラ「ウ、ウウゥ……はっ!? こ、ここは地獄なんデスか!?」ビクッ

那智「なんで地獄なんだ……」

ルイゼット「こちらはコキュトス(極寒地獄)のようですが?」チラッ

足柄(スノーボールに埋まり中)「ずっと逆さ吊りだったから、頭を冷やすにはちょうどいいわ……」

ニーナ「御風邪をひく前に出たほうがいいと思います……」タラリ

大和「それよりも、せっかく助かったニコさんがひどく衰弱しています!」

カトリーナ「魔力槽がぶっ壊れちまったからな、どうする?」

朝雲「バケツ使えないかしら」

レイラ「……それだわ」

朝雲「え!? 冗談のつもりで言ったんだけど!?」

レイラ「あなた方の修復剤じゃなくて、私たちの、よ」

ルイゼット「なるほど、魔法石ですね!」


陸奥「魔法石って?」

オリヴィア「これだ」ゴソゴソ

武蔵「おい今どこから取り出した」

オリヴィア「細かいことはいいじゃないか。この石はその名の通り魔法の力を蓄えた石なんだ」

レイラ「そう、私たちが体力を回復するためにみんなが持っているこの石を集めて、ニコちゃんに使うのよ」

電「その話、本当なのですか?」タタタッ

カトリーナ「ああ、アタイたちメディウムは、魔法石がありゃあ体力も魔力も回復できるからな。今なら電も使えると思うぜ」

長門「いや待て、そうするとお前たちが怪我をしたら治せなくなるのか!?」

レイラ「ニコちゃんを失えば魔神様の制御もままならないわ。そうなれば私たちも共倒れよ」

カトリーナ「心配すんなって! 転送の指輪も全員持ってるし、やばくなったら逃げて隠れてりゃいいんだ!」

レイラ「それより早く魔法石を! ニコちゃんが捕獲牢に閉じ込められていた時間が長すぎて、魔力が枯渇しているわ!」

カトリーナ「お、おう、そんじゃあアタイのも使ってくれ!」ゴソゴソ

武蔵「だから今どこから取り出したんだ」タラリ

ルイゼット「では私はみなさんから集めてまいりましょう」


電「私のも使ってほしいのです!」ゴソゴソ

ルミナ「待ちたまえ。電君の魔法石は取っておいて欲しいんだ」

電「え……!?」

カトリーナ「ルミナ!? なんでだ!?」

ルミナ「電君は元艦娘のメディウムだ。私たちと、艦娘たちと、そして魔神君を繋ぐ架け橋のような存在だ」

ルミナ「こう言っては非科学的だが、その稀有な存在が持った魔法石が、何かを起こしてくれないか、という希望的観測もある」

那智「おい、それよりも急いでくれ!」

ニーナ「魔神様が……!」


魔神「GOOOAAAAAAAA!!」メキメキメキ

 バサァッ

島風「羽が生えた!?」

白露「飛んで逃げるなんてずるい!!」

イブキ「言ってる場合かよ!?」

魔神「GWOOOOOO!!」

 イビルスタンプ<ズドガァァン

白露「踏みつけぇぇぇ!?」フットビ

島風「意外とシンプルーー!!」フットビ

リンダ「ええからはよ逃げーや!」ダッ

金剛「ブッキーは確保オーケーデース! 全員、一時退避ネー!」ダッ


摩耶「……ちくしょう、これ以上好きにさせてやるかよ!」ガシャッ

鳥海「摩耶!?」

摩耶「あんなの、ブチ落としちまえばいいんだろ!?」

魔神「WRRR……!!」ギロリ

摩耶「!」ビクッ

魔神「GAAAAAA!!」カッ

 魔神ヘルレーザー<ズバーーーー

摩耶「うわああああ!?」

 バジュンッ

鳥海「摩耶!!」

摩耶「っく……あ、あれ? なんともねえ」

??「……」

鳥海「あ、あれは……!?」

??→フォージド兵「……」シュゥゥゥ…

摩耶「あ、あたしが載せてた、ブラッディシザーのフォージド兵じゃねえか!?」

フォージド兵「……」

摩耶「わ、悪い、助かったぜ……」

 パキン


鳥海「金色の鎧が……」

 パキパキッ バラバラバラッ

フォージド兵→Fオボロ「……」

摩耶「お、オボロと同じだって……!?」

オボロ「かの者はフォージド兵。それがしの偽物にござる」

摩耶「偽物……!」

Fオボロ「……」ボソボソ

オボロ「……うむ。あいわかった」

摩耶「お、おい、何か言ったのか!?」

オボロ「それがしはここまで。御屋形様を頼む、と」

摩耶「!」

Fオボロ「……」ニコ

 パシュウウウ…!

鳥海「……消え、た……?」

摩耶「あたしのせいで……っ!」ギリッ

オボロ「摩耶殿」

摩耶「ああ、わかってるよ……頭を冷やさなきゃな。くそっ!」

今回はここまで。

保守

こちらはなかなか筆が進まなくて申し訳ない

大変お待たせしました。
少しだけですが、続きです。


ニコ「……ここ、は……」

ナンシー「ニコちゃん!」

長門「目を覚ましたか!」

大和「良かった……!」

ニコ「……なにが、あったの……ぼくは……痛っ」ズキッ

ノイルース「ニコさん、あなたが捕獲牢に閉じ込められてから、魔神様が不完全な形で復活しました」

ニコ「!」

ノイルース「人間どもの思念が魔力槽の液体に残留したためです。奴らは魔神様を取り込み、魔神像を模倣した姿で暴れています」

ナンシー「大変だったんだから! ケイティーやイーファも死んじゃうところだったし!」

ニコ「魔神様が……ぼくたちを、攻撃してるって……?」

ノイルース「はい。提督としての部下だった艦娘もメディウムも見境なく」チラッ



千歳「みんな、艦載機の援護をお願い!」

伊勢「え、援護って言われても……!」

魔神(飛行中)「GOAAA!!」バサバサッ

 ブワァァァ!

五十鈴「きゃっ!? な、なによこの突風!!」


伊勢「翼で風を起こすことまで覚えたの?!」

日向「くそ、これでは瑞雲も飛ばせないぞ」

朝雲「山雲、後ろに回り込むわよ!」

 魔神ヘルレーザー<コォォ…

筑摩「! 待って! 二人とも下がって!!」

山雲「朝雲姉!!」バッ

朝雲「きゃあ!?」ガシッ ゴロゴロゴロ

 魔神ヘルレーザー<ズバーーーー

朝雲「ひ、ひえええ!?」

五十鈴「砲撃で援護するから、早く避難して!」ドンッ

伊勢「二人とも、はやくこっちに!!」ドンッ

日向「……だんだん戦い方が賢くなってきているぞ」

山雲「ど、どうしようかしら~……」



ニコ「……」

武蔵「くそ、このままでは状況は悪くなるばかりだな……!」


陸奥「明石、負傷した子の修理をお願い。私たちもまた出るわ!」

鳥海「ちょっと待ってください。体勢を立て直すためにも、一旦引き返すことはできませんか?」

摩耶「鳥海!? お前、半分深海化してんだぞ!? そんな体で戻ったら何をされるかわかんないだろ!」

ルミナ「ああ、やめておいたほうがいいね。この施設で見つけた切り刻まれた深海棲艦の標本を見ているだろう?」

摩耶「……まさか、鳥海だけここに残るつもりじゃないだろうな!?」

鳥海「……」

ニコ「とにかく、その案はやめておいたほうがいいね。それに、時間が経ちすぎると魔神様も危ない……!」

陸奥「え!?」

摩耶「どういうことだ!?」

ニコ「魔神様を包んでいるあの水は、人間どもの悪意を濃縮したようなもの」

ニコ「そんなものに長時間触れていたら、魔神様にとって相当な苦痛になってるはず……!」

如月「そんな……!」

武蔵「一度引き上げるのも手だと思ったが、そんな猶予はないと言うことか」

摩耶「この場で決着をつけるのは賛成だぜ。でも、どうやって提督を助け出す?」

ニコ「そうだね……」

エレノア「それなんだけど、ちょっといい? 霧島が何か気付いたみたいなのよ」

ルミナ「? なにかあったのかい?」


霧島「魔神との戦いを観察していたのですが、司令と思しき影が、魔神の中を移動しているようなんです」

ルイゼット「わたくしも見ていました。あれに取り込まれた魔神様が怪我をなさらないか心配で、ずっと目で追っていたんですが……」

ルイゼット「前から攻撃が来れば背中側に、脚部に攻撃を受ければ頭のほうにと、頻りに移動しておりました」

霧島「司令は私たちにとっても守るべき対象ですが、あの魔神像にとっても守るべき存在。司令こそが急所、と見るべきかと」

ニコ「……多分、あの人間の思念は、憑代がないと一つにまとまれない、ってことかな?」

長門「ならば、あのスライムと提督を分離させることができれば、提督を助け出せるということか」

金剛「Okay, わかりやすい目標ができたネー!」

ナンシー「で、でも、どうやってマスターをあの中から助けるの?」

霧島「そうですね……ヨーコさんは今どちらに?」

ナンシー「ヨーコなら今こっちに向かってる最中よ? 上のフロアが好きみたいだから」

霧島「でしたら、まず……」ゴニョゴニョ

ルミナ「なるほど、では……」ヒソヒソ

朧「手伝えることはありますか!」

由良「私たちにも手伝わせて!」

ル級「ホラ、泊地棲姫、私タチモ出ルワヨ」

泊地棲姫「シ、仕方ナイナ……」

長門「艦娘、深海、メディウムの共同戦線か……」

ヴァージニア「胸が熱いな」フンゾリ

長門「おいっ!?」

陸奥「はいはい、遊んでないで早く作戦立てるわよ!」


 * *

霧島「よし。では、この作戦でまいりましょう」

摩耶「最初の一撃が肝心だ! あたしたちが追い込んで、絶対に成功させるぜ!」

ルミナ「それにしても、どうしてヨーコに白羽の矢を立てたんだい?」

霧島「攻撃のスピードがあって、かつ浮いてる相手に当てることができるからですね」メガネクイッ

ニコ「よく見てるね……」

霧島「ええ。こちらにいる間、良くしていただきましたから」ニコッ

摩耶「……そっか。じゃあそのお礼に、あたしたちも気張らなきゃあな!」

ニコ「……ぼくたちも行くよ」フラッ

那智「お、おい、無理はするな!」

ニコ「そうはいかないよ。あの忌々しい人間どもを滅ぼせるのはぼくだけなんだから……!」

ニコ「それに、ぼくは魔神様のお姉ちゃんなんだ……ぼくが、行かなきゃ……!」

ナンシー「ニコちゃん……!」

足柄「無理そうだったらすぐ退くわよ?」

陸奥「それより、ヨーコって子は見つかったの?」

 < くらえええええ!!

全員「「「……あ」」」


武蔵「いたぞ!」

那智「なんでいきなり魔神の真ん前でポーズ決めてるんだあいつは!」

足柄「メディウムなんだから不意打ちしてなんぼでしょーが!!」

ニーナ「足柄さん、私たちよりよく理解しておいでで……」タラリ

由良「勝つためには手段を選ばないから……」

伊8「戦術です。戦術」

ルミナ「物は言い様だね。全面的に賛同するけど」



ヨーコ「司令……司令がまさか私たちを襲うだなんて……!」

ヨーコ「……いいや、違う。そんなことはない! 司令は操られてるだけだ……そうだね!?」キッ!

魔神「WOOOOO……!!」バサバサッ

ヨーコ「目を覚まさせてあげるよ司令……!」ググッ

ヨーコ「この! あたしたちの! 正義のちか」

 魔神ヘルレーザー< カッ

川内「危ない!!」バッ

ヨーコ「ら……うわあ!?」ガシッ ゴロゴロッ

 魔神ヘルレーザー< ズバーーー

ヨーコ「な、なにすんのさニンジャ! 前口上の途中だよ!」

川内「そんなことしてる場合じゃないでしょ!? そもそも気付かれてなかったんだから、後ろからさくっとやれば良かったのに!」


魔神「GAAAA!!」バサバサッ

 イビルハイヒール< ズオッ!

川内「げっ!?」

ヨーコ「やばっ……!」

 イビルハイヒール< ズシィンン!

神通「姉さん!!」

ナンシー「ヨーコ!?」

ニコ「……っ!」


川内とヨーコを抱きかかえた人影「……大丈夫!!」


不知火「あの声は……」

山城「……那珂、ちゃん……!?」

扶桑「あれが、那珂ちゃん、なの……!?」


人影→那珂(深海棲艦化)「ソノ通リ! 艦隊ノアイドルゥ! 那珂チャンダヨーー!!」


敷波「な、那珂ちゃんが、完全に深海棲艦になっちゃってるーー!?」

榛名「」フラッ

比叡「は、榛名!? しっかりして!」

今回はここまで。

乙ですの

那珂(深海ver.)……って、軽巡棲鬼だコレ!!

>>97
阿賀野の要素が抜けた感じでイメージをお願いします。

続きです。


ヨーコ「ふいい……助かったぁ」

那珂「川内チャン、大丈夫?」ストン

川内「……な、那珂、あなたこそ大丈夫なの!?」

那珂「ウーン、芸風ハ変エタクナカッタンダケド……仕方ナイカナー」

ヨーコ「確かに肌も衣装も真っ白になっちゃったけど、これはこれで可愛いよ?」

那珂「ホント!? アリガトーー!!」ダキツキー

川内「ちょっと! じゃれあってる場合じゃないってば!」

魔神「GRRRRUUOOO……!!」バサッ

川内「ほら!」

山城「てぇぇ!!」ドガン!

魔神「!!?」ドゴォン

那珂「山城チャン!」

山城「那珂ちゃんをやらせるもんですか……!」ギリッ

神通「私も行きます!」ドンッ

扶桑「散開して夾撃よ、援護をお願い!」ダッ

不知火「援護します」チャッ

 ドドドーン

川内「みんな……!」


朧「川内さん! ヨーコさん!」タッ

川内「朧!」

那珂「朧チャンハ那珂チャンノ心配シテクレナイノ?」

朧「い、いえ、そういうわけじゃないですけど! 那珂ちゃんさんも大丈夫ですね?」

那珂「那珂チャン、デ、イイッテバー! マジメナンダカラ~」ケラケラ

ゼシール「笑ってる場合じゃないぞ。ヨーコ、手を貸してくれ、仕事の時間だ」

ヨーコ「おおっと、任務だね!」

朧「提督を、あの魔神の偽物から救い出します! 方法は……」

川内「ふむふむ……」

ゼシール「……という感じで行くぞ」

那珂「オッケー!」

ヨーコ「よおし! 今度こそこのメディウム戦隊メディ・ピンクの出番だね!」

川内「……」


朧「川内さん、どうしました?」

川内「それじゃあ、私はヤセン・レッド、かな」

ヨーコ「そ、それじゃ那珂ちゃんは……アイドル・ホワイト!?」

那珂「!?」

川内「アサシン・ブラック!」ゼシールユビサシ

ヨーコ「ミスティ・イエローだね! やったあ、五人揃ったあ!」オボロユビサシ

ゼシール「おいちょっと待て」

朧「そんな場合じゃないと思います」

那珂「那珂チャン、ホワイトダト、センタージャナイヨー」

川内「白とピンクはヒロイン枠だから我慢して」

那珂「ハ~イ。ソレジャ、メディウム艦隊ナカチャンファイブ、出ッ撃---!」

ヨーコ「ちょっ!?」

ゼシール「名前くらいいいだろう、譲ってやれ」

朧「いいから配置についてください」

ヨーコ「な、なんでなんだよぉぉ!!」

川内「ご愁傷様」ニシシ


長門「よし、準備できたぞ! 総員、配置に着け!」

全員「「おーー!」」

朧「朧、行きます!!」バッ

 ブワァァ…

敷波「……なんか、もやっていうか、霧が出てきた?」

吹雪「あれは、メディウムになった朧ちゃんの能力だよ」

金剛「ブッキー!? 起きて大丈夫なんデスカ!?」

吹雪「あ、はい。さっき、魔法石で回復してもらいましたから」

金剛「Oh, そういうことなら安心デス」

霞「ともかく、名前通りの能力がついたってわけね」

吹雪「霞ちゃんでも同じ能力がついてたかもね」フフッ

 ブワァァ…

長門「霧が部屋にいきわたったようだな。よし、いいぞ!」

加古「オッケー!」ガシャン

 フッ

朝雲「きゃっ!? いきなり真っ暗に!?」

山雲「あ、朝雲姉、いきなり抱き着かないで~!?」

陸奥(山雲、なんだか嬉しそうね……)

龍驤「うひゃあ!? う、雲龍どこ触っとん!?」

雲龍「ごめんなさい、怖いからつい」

陸奥(こっちはわざとね)


 探照灯<カッ!

伊勢「あ、あの光は……神通!?」

千歳「いつの間に上のフロアに!?」

日向「なにをしているんだ……」

那珂「ミンナ、今日ハアリガトーー! 那珂チャン、オン・ステージ! イックヨーーー!」

五十鈴「……なにこれ」

筑摩「もやのスモークをたいて探照灯のスポットライト……」

伊勢「まるで本当にアイドルのライブだね」

日向「茶番か」

武蔵「ああ、魔神の目を引くためのな」

日向「なに?」

魔神「GRRRR……!」バサバサッ

那珂「ハーイ、ミンナ注目ー! ワーン、ツー!」

魔神「WOOOAAAAAA!」グワッ!

那珂「スリーーー!」


 ライジングフロア<ズバーン!

朝雲「なに!? どうしたの!?」

山雲「あれは……那珂ちゃんが飛んでる~!?」

クリスティーナ「さあ、那珂ちゃんの見せ場よ……!」

那珂「伸身宙返リカラノ……全砲門開放! 行ックヨォォ!!」ガジャッ!

 ドガドガドガドガン!

魔神「WOOOO……!」グラッ

扶桑「すごい……魔神がひるんでるわ……!」

那珂「今ダヨ、ヨーコチャン!」

ヨーコ「よおし! 今こそ! 必殺!!」

那珂&ヨーコ「「メガヨーヨー!!」」

 メガヨーヨー< ギュワァァァ!!

魔神「!!?」ドガァァ

ヨーコ「決まったよ! 見事なアッパーカット!」


ルミナ「クリスティーナ? わざわざ那珂君をライジングフロアで飛ばす理由はあったのかい?」

クリスティーナ「それはもちろん、目立つからよ? 当てやすいってのもあるけど」

ルミナ「やれやれ……彼女が深海棲艦になってなければ、彼女の体が危なかったかもね」


川内「魔神がひるんでる! いくよ、ソニア!」

ソニア「まっかせて!」

 スプリングフロア<ズバーン!

朧「クレアさん、お願いします!」

クレア「オーケー!」

 スマッシュフロア<ズバーン!

日向「こ、今度は川内と……誰だ!?」

吹雪「朧ちゃんですよ」

千歳「ええ!? って、あなたは誰!?」

吹雪「あ、吹雪です!」

伊勢「ほ、本当に育っちゃってたんだ……」

日向「おい、飛びすぎだぞ! あの二人、魔神を飛び越えそうだ!」

吹雪「大丈夫です、見ていてください!」


川内「朧、行くよ!」

朧「はいっ!!」


 サーキュラーソー×2<ギュワァァァァア!

朧「これで翼を……」

川内「切り落としてあげる!」

 ズバババババーーッ

魔神「GRRRRGAAAAA!?」

千歳「なにあれ、ゼシールって分身できたの!?」

大和「違いますよ、私が載せていたサーキュラーソーのフォージド兵を、朧さんに預けたんです」

千歳「だから同時に同じ罠を……!」

五十鈴「見て! あいつ、翼を切られてバランス崩してる!」

魔神「GWOOORRRR!」ズシィン…!

武蔵「地に足を付けたな……泊地棲姫!」

泊地棲姫「アア……二度ト空ヘハ逃ゲサセヌ!」

ヒサメ「わらわたちの出番じゃな……!」

Fヒサメ「……」ニヤリ

龍驤「頼むでぇ! うちの分まで気張ったってや!」

泊地棲姫「言ワレナクテモ……!」

 ピキパキ…!


イブキ「すっげえ、氷が瓦礫を覆っちまってる……部屋の半分、まるっと氷漬けだ!」

ル級「泊地棲姫ノチカラナラ、当然ネ」

ルミナ「ヒサメ君と龍讓君が連れてきたフォージド兵のヒサメ……ブースターが倍いるから、展開範囲が段違いだ!」

 巨大スリップフロア<パキーーーーン!

魔神「!!」ヨロロッ

川内「うわっ!?」ツルッ ステーン

朧「は、範囲が広すぎです!」ツルッ ステーン

リンダ「なんや、偽物の魔神の奴、持ち堪えよったで!?」

イブキ「畜生、往生際が悪ぃな!」

龍驤「せやけど、今ならちょっかい出し放題やな?」バッ

雲龍「ええ」ジャラッ

最上「僕たちは川内たちを助けるよ!」

三隈「はいっ!」

 艦載機たち<ブルーーン!

魔神「!」


 艦載機の機銃<ババババッ!

魔神「GAAAAA!!」バチュンバチュン

最上「よし、魔神がひるんでる隙に!」

三隈「川内さん! 朧さん! 私たちが飛ばした瑞雲にくっつけた、吊革につかまってください!」

 瑞雲<バゥーン!

川内「これね!」ガシッ

朧「そういうことですか!」ガシッ

川内「あはは、これ、水上スキーみたい!」ツルツルツルー

朧「こ、これ、結構バランスとるの難しいんですけど!?」ヨロヨロツルツルー

ゼシール「おい、那珂は避難していないのか?」

ル級「那珂チャンモ滑ッテナイデ、戻ッテキナサイ」

那珂「エー? モウ少シ滑ッテイタカッタケド……ショウガナイナー」トリプルルッツー

クリスティーナ「なんでスケート靴を用意してるのよあの子……」

不知火「というか、何気なく難易度の高い技を滑っていませんか」タラリ

扶桑「深海棲艦になったせいか、全然物怖じしなくなったわねえ」

山城「のんきにしてないで那珂ちゃん早く戻ってきてぇぇ!」


龍驤「よーし、みんな氷からおらんようなったな?」ニヤ

雲龍「ええ」ニコ

龍驤「よーっし! それじゃあミルファ! 行ってみよう!」

ミルファ「オーケー! 行きまーす!」

 メガロック<ヒュウウウ…

魔神「!?」ズガシーーーッ!

龍驤「なんや!? あいつメガロック受け止めよった!」

リンダ(うちと同じリアクションしとる……)

ミルファ「滑る足場で良くそんなことを!」

霧島「ですが、これで両手が塞がりました」ニヤリ

カオリ「一斉射撃よ!」

ミリーエル「参ります!」

 アローシューター<バシュッ

 ボールスパイカー<バシュバシュバシュッ

魔神「GAAAAA!!」ヨロッ

霧島「もう一息です……!」

ヴァージニア「よくやった。奴が地べたを這うさまは、この私が見せてやろう」

 クイーンハイヒール<グワッ!

ヴァージニア「跪け!」

魔神「GWOOOOOOOO!!」グシャアッ グリグリグリッ

今回はここまで。

反撃開始!

続きです。


ヴァージニア「フ、姿が違えど所詮は人間。この私の足蹴にされるのが、お似合いというものだ……!」

電「後始末は電たちに任せて欲しいのです!」

ヴァージニア「良かろう。務めを果たせ」

電「なのです!!」

ルミナ(……電ちゃんはヴァージニアのあしらい方が上手いよねえ)

如月「行くわよ、初春ちゃん、吹雪ちゃん!」

初春「うむ!」

吹雪「任せてください!」

 ビュォォオオオオオ…

山雲「こ、今度はなあに~!?」

電「如月ちゃんと初春ちゃんが気温を下げているのです」

長門「そして吹雪が、文字通り吹雪を起こしていると言うわけか……!」

ルミナ「魔神も寒さで動きが弱まってる。畳み掛けるよ!」

魔神「GRRRR……!!」ムク…


陸奥「せっかく転ばせたのに、起き上がったりしないでよ……コールドアロー、もう一回行くわ!」ジャコン

Fディニエイル「……!」

ディニエイル「加勢しますよ、ミス陸奥。ミス霧島、よろしくお願いします」

霧島(コールドアロー搭載)「ええ、このまま畳み掛けるわよ!」ジャコン

陸奥「……ええ、お願いね! 一斉射!!」

 ズドォン!

 無数の砲弾→コールドアロー<ビュオオオオオ!

魔神「GOAAA!?」パキパキパキィィ!

長門「いいぞ、奴の手足が凍りついた!」

カトリーナ「それじゃあ、その左腕! ぶち壊させてもらうぜ!」

 スイングハンマー<ブォォォン!

魔神「!?」ガシャァァァン

シルヴィア「右腕は私がいただくわ!」

リンメイ「左脚、私がもらたよ!」

リサーナ「それじゃ、私は右脚をご指名かなっ!」

 シャークブレード<キシャァァァン!
 メガバズソー<ガランガランガラン!
 キラーバズソー<シュバーーーーッ!

魔神「!?」ガシャガシャガシャァン


アマラ「切り取ったパーツがくっついて復活できないように、お部屋をお掃除致しましょう!」

パメラ「部屋の隅に集めちゃうわね!」

 バキュームフロア<ビュォォォオオオオ!
 スローターファン<ギュアァァァァアア!

朝雲「凍らせた魔神の手足や、切り落とした翼を吸い寄せて集めてるのね……!」

山雲「魔神が4分の1くらいの大きさになったわ~!」

ルミナ「ここまで小さく切り分けられれば、あとは魔神君を救い出すだけだ!」

霧島「さあ、とどめよ!」

陸奥「待って、様子がおかしいわ……!?」

魔神「GGGGG……」グニュグニュグニュ…

武蔵「なんだ!? 魔神の形が変わっていくぞ!」

オリヴィア「もとがスライムだから、どうにでも化けられるってのかい!」

魔神→スライム「GGWWWWOOOO……!」

イブキ「なんだありゃ? 出来損ないの泥人形みたいになっちまった」

ルミナ「……手足を作ろうとしているということは、まだ抵抗すると見えるね」


電「そうはさせないのです!」

 パチッ

陸奥「きゃっ!?」

五月雨「な、なんですか!? 静電気!?」

電「なのです……!」バッ

 バチバチバチッ!!

敷波「うえっ!? 電が放電した!?」

鳥海「し、司令官さんは大丈夫なんですか!?」

ルミナ「か、加減はしているんだろうね!?」

電「加減はしてるのです。しすぎてあまり効果がないみたいなのです……」

グローディス「だったらあたしたちに任せときな! 神通!」

神通「はいっ!」

摩耶「え、神通ってさっき探照灯持って上のフロアにいたよな?」ミアゲ

 タンッ

伊勢「と、跳んだ!?」

足柄「いくら上の階って言ったって、ここ天井高いから10メートルはあるわよ!?」


神通(落下中)「……この一撃で」ヒュウウ

グローディス「ああ、決めてやれ!」

神通「やあぁぁああ!!」ブンッ

 サンダージャベリン<ゴォォ!

スライム「VVLLLLLOOO!!」バリバリバリ

神通「追い打ちです……!」グッ

ルミナ「! みんな、神通君から離れるんだ! 彼女はもう一人メディウムを乗せている!」

武蔵「なに!?」

シェリル「デュエットなんてガラじゃないけどね……響かせてやるぜ!」

 ヘルジャッジメント<ズガシャァァァン!

三隈「神通さんの右手から雷光が!」

最上「投げたジャベリンを避雷針に見立てたんだね……!」

川内「なにあれ自雷也の術!? 印まで組んじゃって超格好いい!」キラキラキラッ

那智「言ってる場合か! 神通を助けないと地面に激突するぞ!」


 ズダンッ!

神通「……ふぅ」チャクチセイコウ

那珂「神通チャン、大丈夫?」

神通「ええ、那珂ちゃんありがとう」ニコ

那智「いや、あの高さから落ちて無傷ってのはどうなんだ」

神通「無傷ではありません、さすがに足が痺れましたが……」

五月雨「そ、それだけなんですか?」

神通「はい」

武蔵「……マジか」

利根「さすがは川内型じゃの」

足柄「その一言で片づけるのもどうなのよ……」

ウーナ「それより! 出番! 出番っ!!」

武蔵「うお!? なんだ!?」

ノイルース「最終段階です。私とフォージド兵の私、そしてウーナの力で、あのスライムを焼きます」

不知火「こちらは準備完了です」

Fノイルース「……」コクリ


ルミナ「あのスライムから魔神君を引き剥がすのが先決だ。そのためにあのスライムに火球をぶち当てて、体積を減らす」

ルミナ「魔神君を覆うスライムが薄くなったら、如月君と大和君をカタパルトで飛ばして、魔神君の身柄を確保する」

ユリア「カタパルトの準備はできてるわ!」

如月「私たちも、いつでもいけるわよ?」

大和「提督は私たちが取り返します!」

金剛「そして私が載せているWペッタンアローで、保護する作戦デース!」

キュプレ「私たちの愛の力の見せ所ね!」

Fキュプレ「……!」ウインクー

スライム「ZZ.RR.Z...」

ミリーエル「電撃が効いてグズグズになってるわ」

ノイルース「今が好機……私たちが、燃やします」メラッ

Fノイルース「……」メラッ

 Wファイアーボール<ゴォッ!

スライム「MYUGYYYYYYY!」メラメラッ


ウーナ「不知火! スライム、燃えて縮んでる! 今だ!」

不知火「了解です……!」ジャキッ ドォン

 砲弾→ヘルファイアー<ボワァァァ!!

全員「「うわあああ!?」」

潮「す、す、すごい火柱なんですけど!?」

フウリ「ウ、ウーナちゃん大丈夫なの!?」

ウーナ「ダイジョブ! あれ見ろ!」

スライム「MIIIYYYYAAAAAAA!!」プルプル

古鷹「スライムが殆ど吹き飛んでます!」

加古「提督の姿がばっちり見えるよ!」

如月「今だわ! 大和さん!」

大和「ええ、ユリアさんお願いします!」

ユリア「さあ、かっとばすわよ! いっちにーの、」

ユリア「さぁぁん!」

 カタパルト<ズバァァン!

如月「!」バヒューン

大和「!」バヒューン


那智「いいぞ、まっすぐ提督に向かっている!」

敷波「……あ、だめっ!」

スライム「MIIIIGGYYYYYYYYYYY!!」

 ズオァ!

吹雪「!? スライムの壁が!?」

如月「きゃあっ!?」ズボォ

大和「いやああ!」ドブッ

長門「おい、まずいぞ! 二人がスライムの壁に取り込まれた!」

オリヴィア「……こっちが罠にかけられたってことかい!?」

ルミナ「やってくれるね……くそっ!」

摩耶「ど、どうすんだよ!」

泊地棲姫「ソレダケジャナイ。切リ離シタ奴ノ手足ヲ見テミロ!」

スライム群「UZZZZOOOOOOO...!」ズルズルズルッ

グローディス「げっ! 氷が解けて手足の分が集まってきてやがる!」

コーネリア「やらせるか!!」


 ギルティランス<ガシャッ!

スライム群「DRDRDRDR...」ドロッ

コーネリア「くっそ、液状なせいで全然ダメージが通らねえ……!」

カトリーナ「ならあたしのハンマーならどうだ!」

 スイングハンマー<ブオンッ!

スライム群「BRRRRRR...」ベチャベチャッ

コーネリア「飛び散るだけで時間稼ぎにしかならねえぞ……」

カトリーナ「ど、どうすりゃいいんだよ……!」

加古「んじゃ、これならどうだ!」

Fフローラ「……」ジャコッ

 チュウシャキ<ポイーン

スライム「!」ブスッ

スライム「BRRROOOONN!」ブルブル ポイッ

 チュウシャキ<カランカランッ

加古「く、薬でもだめかあ」

古鷹「全身に行き渡らせないと、効果は薄いみたい……」


長門「くっ……それならこれでどうだ!」ドォン!

 ドカァン

陸奥「飛び散るだけでダメージにならないわ……!」

敷波「も、もう一回凍らせられないの!?」

ディニエイル「そ、それが……」

 コールドアロー<バシュッ

スライム「」ピキパキッ

スライム「」ヴヴヴヴヴッ

ディニエイル「耐性がついたのか知恵がついたのか、凍らせても細かく振動して、凍結しないようになってしまったんです」

敷波「……ど、どうすりゃいいの?」

スライム→魔神「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!」ズシーン

利根「大和と如月を取り込んだまま、元に戻ったと言うのか……!」

ルミナ「最悪だ……!」

武蔵「大和はどうなるんだ!!」

ナンシー「如月ちゃん……!!」

摩耶「あの二人が中にいたんじゃ、攻撃できねえぞ!?」

ニーナ「どうにかして、あのお二人を助けないと……!」


魔神「GAAAAAAAAA!」

今回はここまで!

続きです。


魔神「GAAAAAAAAA!」ブンッ

 瓦礫<ゴシャアァァ

「「きゃああああ!」」

タチアナ「こちらから攻撃すれば、あの二人がどうなるかわかりません……!」

マルヤッタ「で、でも、このまま攻撃しないわけにはいかないじょ!?」

霧島「……いったい、どうしたら」

鳥海「司令官さん……!」


 ゴポゴポ…

大和(なんて苦しい……! 早く、抜け出さないと……!)

大和(いえ、それよりも、提督を……!)グッ

大和(くっ、スライムとはいえ、なんて頑丈な……)

――ちくしょう……許せねえ……!

大和(!?)

――なんで、私たちが死ななきゃならないの?

――どうして海軍は、俺たちを守ってくれないんだ!

大和(この声は……まさか、メディウムに殺された人たち!?)


――お前は、艦娘か……!?

――どうして艦娘がこいつを助けようとするんだ!

――こいつは俺たちを殺した原因だぞ!

――艦娘だったら、私たちを助けるのが役目のはずよ!

――艦娘のくせに、人間を裏切るのか!?

大和(なっ……そんなつもりはありません!)

――じゃあどうして人間じゃないこいつを助けようとする!

大和(それは……!)

――裏切り者!

――お前が大和だと!? 人間の味方じゃない奴が、大和なんて名乗るな!

――お前なんか大和じゃない! 偽物!

大和(……っっ!!)

――偽物! 偽物め!!

――俺たちを見殺しにしやがって!

――ここにいる奴らは、全員敵なんだろう!?

――私たちの恨みを思い知れ!!



 ガシャァン!

ヨーコ「うわああ!?」

ヴェロニカ「ちょっと、見境なしに暴れ始めたわよ!?」

五月雨「い、一旦避難しましょう! 早くこっちに!」

 ブゥン!

霞「やばっ……!」

朝潮「霞!!」

Fジェニー「!」バッ

霞「えっ……!?」ダンッ

 ゴシャァ!

ジェニー「ふ、フォージド兵の私が……」

霞「私を庇って……!?」

ジェニー「偽物だけど……よくも私を……っ!」

フォージド兵たち「「!」」ババッ

長門「!? ど、どうしたんだ!? フォージド兵たちが、魔神の前に並んで身構えてるぞ!?」

リンダ「な、なあ、これ……」

ナンシー「私たちの偽物が、私たちを庇ってる……!?」


初春「こ、これ! しっかりせぬか!?」

武蔵「今度はなんだ!?」

ヒサメ「わ、わらわの偽物が……」

Fヒサメ「……」コックリ コックリ

筑摩「か、体が透けて見えませんか!?」

ルミナ「フォージド兵はね、不完全な模倣体なんだ」

ルミナ「彼女たちは私たちと同じように作られるが、殆どは作られて間もなく消えてしまう運命だ」

泊地棲姫「力ヲ使イスギタト……私ノセイ、カ?」

Fヒサメ「……」フルフル

泊地棲姫「違ウ……ノカ!?」

ヒサメ「泊地棲姫よ、このわらわはこう言うておる」

ヒサメ「力になれず、すまなかった、と……」

Fヒサメ「……」ニコリ

 スゥ…

初春「……消えてしもうた」

泊地棲姫「……」

長門「彼女たちは自分の最期の時を理解しているというのか……?」

ニーナ「ならば、彼女たちのためにも、なおのことあの偽物の魔神を止めないと!」


霧島「……!」

鳥海「霧島さん、どうしました?」

霧島「あれを見て。大和さんが……」

武蔵「ど、どうしたんだ!? 大和のあの顔……!」


大和(やめて! やめて!!)

――俺たちがどんな惨たらしい殺され方をしたか、知ってるのか!?

――私たちがどんな屈辱的な死に方をしたのかわからないから、あいつらとつるんでるんでしょう!?

――人間を守れない役立たずのくせに!

大和(勝手なことを!)

――お前は俺たちを守るのが役目じゃないのか!?

――俺たちを守れない奴が、どうして生きていられるんだ!?

――役立たず! 役立たず!

――死ね! お前だけじゃない! みんな、死んでしまえ!

――そうよ! 私たちだけが死ぬなんて、不公平よ!

――死んじゃえ!!

大和(……っ!)ギリッ


武蔵「……」ゾク

利根「……武蔵よ」

武蔵「……どうしたらいいんだ」ポロ…

武蔵「大和が、苦しんでいる……誰か、大和を助けてくれ」ポロポロ…

利根「……」



 ゴポゴポ…

如月(……こんな罵詈雑言を、司令官は一人で受け続けていたなんて……!)

――可哀想とでも言うつもりか!

――一人だけ安全なところに逃げやがって!

如月(……)

――お前はこいつの部下か!

――艦娘のくせに、俺たちを殺したやつらに協力したやつだ!

如月(……)

――こいつらも敵だ!

――殺せ!

――殺せ!

――全員、ぶち殺せ!!


 ドズゥウウン!

ミーシャ「きゃああ!?」

白露「だめだめ! こっちはだめ! 早く逃げるよ!」ウデグイッ

島風「あなたも早く!」

アーニャ「う、うん!」


 ガシャアン

千歳「手当たり次第ね……!」

ヴィクトリカ「見てる場合じゃねーって! ずらかるぞ!」

霧島「比叡お姉様、どこへ行くんです!?」

比叡「暁ちゃんが、隣の部屋に! まだ空っぽになった魔力槽のなかにいるんです!」

由良「私も行きます!」

イサラ「あ、その、イーファの様子、見てくるッス!」

カサンドラ「わ、わたしも!」

タチアナ「休んでるキャロラインたちにも連絡を!」

ヨーコ「外で見張ってるシャルロッテたちはどうするんだ!?」

ルミナ「ここより上のフロアで待機させてくれ! 最悪、総力戦になる……シルヴィア、呼んできて!」

シルヴィア「わ、わかったわ!」

武蔵「……大和ぉ……!」グスッ

魔神「GWOOOOOOO!!」ゴォッ!

オリヴィア「武蔵!?」

コーネリア「ぼけっとしてんじゃねええ!!」


 ドガァン!

全員「「!?」」

龍驤「な、なんや今の爆発!」

リンダ「見てみい! 魔神の腹が裂けとるで!!」

川内「あれじゃない! あの砲塔!」

武蔵「……大和!」


魔神の腹から見え隠れする大和(大破)「……」プスプス…


潮「ま、魔神のおなかの中で砲撃したんですか!?」

榛名「そんなことをしたら暴発することくらい理解っているはずです!」

武蔵「……大和の顔が、鬼のようだった」

敷波「!」

武蔵「あいつは……あの魔神は、大和の逆鱗に触れたんだ」


若葉「……」

若葉「ふむ、試してみる価値はあるな」

利根「む?」


若葉「フォージド兵のオリヴィア、すまないが一緒に来てくれるか?」

Fオリヴィア「?」

若葉「フォージド兵のクレアも手を貸してくれ」

Fクレア「?」

若葉「若葉を、あの魔神の右足めがけて吹き飛ばして欲しい」

Fクレア「……」コク

利根「お、おい若葉、おぬしいったい何をす」

 スマッシュフロア<ズバーーン!

若葉「おおお!?」ビューン!

利根「る気じゃあああ!?」

若葉「これでいボブッ!」ズボッ!


初春「若葉の上半身が魔神の右足に突っ込んでおる……」

ルミナ「若葉君はいったいなにをしているんだ!?」


若葉(……よし、ここだ。フォージドオリヴィア、頼む)

Fオリヴィア(!)

――裏切り者の艦娘め! 何をする!!

若葉(……メディウムに殺された人間の声か。しれたことだ、お前たちを供養しに来た)

Fオリヴィア(!)ニヤリ

 クエイクボム<ズズゥン!


 ゴチャァ!

利根「ぬおお!?」

ルミナ「魔神の右足が……!?」

川内「破裂した!?」

オリヴィア「あれは……あの脚の内側からクエイクボムを炸裂させたんだね!」

リンダ「んなムチャクチャな……!」


魔神「GGAAAAAAAAAAA!」ヨロッ

若葉「ぷはっ!」ピョンッ スタッ

Fオリヴィア「……!」サムズアップ

若葉「ああ。いい仕事をした、協力感謝する」

Fオリヴィア「……」スゥゥ…

若葉「……」ケイレイ


如月(大和さん……! なんだかわからないけど、魔神の動きが遅くなったわ!)

如月(いまのうちに司令官を!)ザバザバッ


霧島「……如月さんが提督に向かって泳いでいます!」

朝潮「本当ですか!?」

ナンシー「如月ちゃん……お願い、無事でいて!」

グローディス「魔神様……!」


――やらせるか!

――俺たちだって、復讐するんだ!

――邪魔をしないで!

如月(!)ジュゥ…

如月(服が……溶けてく!?)

如月(ふ、服だけじゃないわ!? 体が……焼かれてる!)ジュゥ…!


古鷹「如月さんの様子が変です!」

ノイルース「もしや、あの周辺のスライム、メルトスライムでは!?」

グローディス「げっ! あの遺物か!?」


朧「遺物……って、なんですか、そのあからさまにやばそうなのは」

ディニエイル「掻い摘んで言えば、対象の衣服などを溶かしてしまうスライムです」

ミリーエル「メディウムとして目覚めていないので、ただのスライムなのですが……」

カトリーナ「なんたって昔のやつだぞ!? 制御できるかだって怪しいんだ!」

ニーナ「魔神の力を無理矢理引き出しているようですね……!」

ナンシー「如月ちゃん……!!」


如月(くう……! か、髪が傷んじゃう!)ジュゥ…

――溶けろ!

――そのまま俺たちの一部になれ!

如月(そ、そんなのお断りよ! あなたたちと同じになんかなりたくないわ!)

――誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ!

――そうよ! 責任を取りなさいよ!

如月(責任!? 笑わせないで! 無理矢理取らせたところで、どうせ元に戻せだの、無理難題を押し付けるんでしょう!?)

如月(それなら、司令官がこんなことになった責任は誰がとってくれるのよ!)

――それは俺たちのせいじゃない!

――そんなのは海軍の勝手だ!

――お前らのせいだ!!


如月(他人のせいにするしかないの!? ふざけないで!)

如月(人の不幸を望む存在でしかないのなら、あなたたちのほうがよっぽど悪魔じゃない!)

――違う! 俺は人間だ!

――そうよ! 私は人よ!! 艦娘もやめたあなたに言われたくない!

如月(なにが人よ! あんたたちの姿を見なさいよ! 魔神にすらなり損ねた、醜い異形じゃない!)

如月(それで人を名乗ろうだなんて、笑わせないで! この、ひとでなし!)

――……っ!!


魔神「UUUUWWWWGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


――俺は人間だ! 正しい人間だ!!

――俺は間違ってない! 正しいんだ!

――ひとでなしなんかじゃない!

如月(流れが止まった……今だわ!?)

如月「司令官!!」ザババッ

提督「……」


霧島「如月さんが……今、提督を捕まえました!」

金剛「で、でも、彼女たちはまだ魔神の inside デス!」

キュプレ「私たちじゃ引っ張り出せないわ!」

ニコ「別にいいよ」

比叡「ニコちゃん!? どういう意味!?」

ニコ「魔神様が、如月の呼びかけに応えてくれれば、それでいいんだ」


如月「司令官! 司令官っ!」ギュッ

提督「……」

如月「司令官っ!!」ギュウゥッ

提督「……この手のぬくもり……誰だ」

如月「司令官……! 私よ!」

提督「如月、か?」

如月「そうよ!」ブワッ

如月「ずっと……ずっと、会いたかった! お話がしたかったの!!」

如月「見て! みんないるわ! メディウムのみんなも! 艦隊のみんなも! 大和さんも!!」

提督「大和……ぼろぼろじゃねえか。大丈夫か……」スッ

大和「! あ、あああ……提督……提督!!」ボロボロボロ…


魔神「GOOOOWAAAAAAAAAAAAAAA!!!」ゴボゴボゴボッ


ウーナ「な、なんだなんだ!? また、魔神、暴れ始めた!」

武蔵「3人はどうなるんだ!?」

ニコ「もう、大丈夫だよ」ニコッ

 魔神の足元に展開される魔方陣<パァ…

ニコ「人間どもが夢を見る時間は、もう終わり」バッ

 魔方陣<カッ!

魔方陣からの光に包まれる魔神「!!!」

 ゴォォォォ!!

 魔方陣<ピカーーーッ!

「「きゃあああ!?」」

「ま、眩し……!」


 ドドドドドド…

長門「くぅ……なんだ、この音」

 ザバーーーーーー!!

龍驤「な、な、なんやああああ!?」ザバー

リンダ「ビッグウェーブやあああ!?」ザバー

 ダパーーーーーン!

今回はここまで。

お待たせしました、こちらもだいぶまとまったので続きです。


 * *

ニーナ「……」ビッショリ

ナンシー「やーん、もう髪がびしょびしょー」

長門「とんでもない鉄砲水だったな……」

シエラ「ひ、ひどい目にあったデスゥ……」ゼーゼー

黒潮「ほんまやぁ……うう、服が引っ付いて気持ち悪ぅ」

ル級「アレハ、アノ魔神ヲ構成シテイタ水カ?」

雲龍「……そうみたい。でも、あの邪悪な気配も感じなくなったわ」

不知火「ニコさんだけ長門さんの背中に避難していて無事ですか」

長門「いつの間に……」

ニコ「この本を濡らすわけにはいかないからね。一度乗せてもらったし、要領は掴んでたから」

ノイルース「私の火も危うく消えそうだったのですが」

ウーナ「ウーナも、ずぶ濡れだぁ……」

ディニエイル「私の氷も解ける寸前です……」

吹雪「メアリーアンさんの服が水を吸って動けなくなってます!」

メアリーアン「た、たすけてけろ~~!」ズッシリ

ミリーエル「雪玉も水を吸うと重くなりますからね……」


グローディス「なあ、あたしの隣にいた神通が電撃で痺れて気を失ってんだけど」

敷波「何やってんの!? 神通さんしっかり!」ユッサユッサ

神通「……う、うーん」クラクラ

イブキ「シェリルやカサンドラは大丈夫だったのか?」

シェリル「私はグローディスみたいにしょっちゅう放電してないし」

オリヴィア「カサンドラならイサラと一緒に向こうの部屋に引き籠……避難してたよ」

初雪「なにそれ……羨ましい」

金剛「それよりテートクはどうなったんですか!?」

ナンシー「そうよ、如月ちゃんは!?」

武蔵「大和もだ!」


「全員生きてるよ。一応な」


金剛「その声は」

吹雪「司令官……!」

艦娘たち「「提督!!」」「「司令官!」」キャー!

メディウムたち「「魔神様ー!!」」キャー!


提督「おう、お前らも大丈夫か」

(両脇に大和と如月を抱えて現れる提督、ただし全裸)

全員「「「……」」」

提督「……」

全員「「「キャアアアァァァーーーーー!」」」

提督(うるせえ)


雲龍「大変。陸奥さんが顔から火を噴いて倒れたわ」

龍驤「おい陸奥!? しっかりせえ!」ペチペチ

潮「ふ、フウリちゃんも倒れちゃってます!!」カオマッカ

ジェニー「潮はなんとか大丈夫なんだ……ほらー、シエラも目をさましなよー」ペチペチ

扶桑「山城? 大丈夫? 提督よ?」

エレノア「この子、立ったまま気絶してない?」

那珂「那珂チャン、提督ニ汚サレチャッタ……」タハー

川内「その割には嬉しそうな顔してない? ねえ神通?」

神通「」プルプル

川内(耳まで真っ赤にして涙目になって固まってる……)

那珂(神通チャン、乙女ダァ……)


クロエ「ほかにも何人か恥ずかしさで倒れてる方がいますねえ。みなさん大丈夫ですか?」

榛名「はい、榛名は大丈夫です!」ハナヂドバーー

オボロ「それがしも……問題なく……」ハナヂダラダラ

朧「二人とも駄目じゃないですか」カオマッカ

吹雪「でもまあしょうがないよ!」ハナヂポタポタ

鳥海「……そう、ですね」ハナヂポタポタ

大淀(むっつり系の人が鼻血出してますね)ハナヂポタポタ

明石「大淀、はい、ティッシュ。鼻血出てるよ」

大淀「え!? わたしがむっつりだとでも言いたいんですか!?」

明石(自覚なかったんだ……)

泊地棲姫「意外ダナ……ココマデ慕ワレテイルノナラ、裸クライ見慣レテイルモノダト思ッタガ」

朝潮「司令官! 朝潮は興味があるので、もう少しよく見せてほしいです!」キョシュ

若葉「若葉にも見せてくれ」

霞「……」ズツウ

初春「……」ズツウ

摩耶(駆逐艦の連中はいいなあ、自分に正直で……)モジモジ

黒潮「ええなあ、うちもこの流れにどさくさに紛れて乗っかりたいわ……」ウズウズ

不知火「黒潮。口に出ていますよ」

黒潮「!?」カオマッカ


ルイゼット「魔神様の裸体に欲情するなんて、みなさん精神修行が足りませんね」

電「みんながルイゼットさんのように悟りを開いてるわけじゃないのです!」カオマッカ

初雪「なんでもいいから、司令官は早く前を隠して欲しい」ポ

伊8「提督、はっちゃんの水着、着る?」ヌギッ

マルヤッタ「やめとくじょ!」ガシッ

オリヴィア「しょうがないねえ、それじゃあアタイがひと肌脱ごうじゃないか」ヌギッ

武蔵「おいやめろ」ガシッ

オリヴィア「冗談だよ」

伊8「二人とも裸リボンみたいな恰好してるのに常識的なのね」ボソッ

武蔵&マルヤッタ「「!?」」

提督「……相変わらず騒がしいな」

如月「う、うーん……」

大和「……ううっ」

提督「ん、如月も大和も気が付いたか?」

如月「し、しれいか」ピタッ

大和「ていと」ピタッ

提督「?」

如月「……」カァァァ…

大和「……」ボシューーー

如月「き、如月はいつでも大丈夫ですわ!?」

大和「や、大和も大丈夫です!?」

提督「何言ってんだお前ら」


金剛「時間と場所は弁えるべきデース!!」カオマッカ

提督「お前も何言ってんだ」

Fノイルース「……」スタスタ バサッ

提督「ん? ノイルース……少し雰囲気違うな。このマントを俺にくれるのか?」

Fノイルース「……」ニコ

提督「体を隠せってか。ありがとな、あとで洗って返す」

Fノイルース「……」フルフル

Fノイルース「……」スゥ…

提督「!」

ノイルース「やれやれ。これは偽物においしいところを持っていかれましたか」

提督「おい、今のは……」

ルミナ「フォージド兵。偽メディウムと言えばいいかな?」

グローディス「私たちの世界で、魔神様に対抗するために作り出された人造メディウムさ」

提督「……どうして消えてしまったんだ?」

ミリーエル「私たちメディウムを作り出すためには、専用の炉と、素材を使います」

リンダ「その炉を使わんと、メディウムが不完全な形で生まれるって話らしいんよ」

提督「だから Forged(偽造)兵ってか」

ルミナ「そのおかげで短命でね。時間が経って魔力が尽きると雲散してしまうんだよ」


ヨーコ「それはそうとさ、今まで出会ったフォージド兵って、みんな私たちに敵対してたよね?」

アーニャ「うん! 昔、ミーシャの偽物と戦った時も、全然話を聞いてくれなかった!」

カトリーナ「そうそう。やけにあたしたちに協力的っつうのが……なんでだ?」

タチアナ「今もこうして魔神様の前に傅いているというのが信じられません」

ル級「長門。アナタ、ナニカ知ッテルンジャナイノ?」

長門「……確信はないが」

シェリル「心当たりがあるのか」

長門「このフォージド兵たちは、妖精たちに頼んで建造ドックで作ってもらったんだ」

長門「かつて大和たちを建造した時に、妖精たちの意識……提督への好意が大和に反映されていただろう?」

長門「その時と同じように、ドックで作られた彼女たちには、提督を救いたいという意思が込められていたのかもしれないな」

ニーナ「人間が魔神様を討伐するために作った偽物とは、存在意義そのものが違うということですか」

提督「好きに生きればいいのによ。俺のために尽くすなんてな……ったく」

長門「提督……」

提督「安心しろ、ここまでしてもらって、俺なんか死ねばいいなんて言い出したりはしねえよ」

金剛「Oh, 良い意味で生まれ変わったみたいデスネー」

如月「良かった……!」ウルッ

大和「ええ、本当に……!」


武蔵「とりあえずそのマントは腰に巻いておいてくれ。目の毒だ」ポ

提督「おう」マキマキ

明石「……お風呂上りみたい」ボソッ

大淀「!」ハナヂドパァ

明石「えっ!? なんでそこで鼻血!?」ビクッ

如月(ああ……)カオマッカ

大和(シチュエーションだけ考えればそうですよね……)マッカッカ

ルミナ「えーと、それでニコ君? あの偽魔神がただの水になったようだけど、いったい何をしたんだい?」

ニコ「あの水に宿っていた人間どもの魂を、魔力に変換したんだ」

ソニア「えええ!? ちょっとぉ、最初からそれやってよぉ!」

ニコ「簡単に言わないでよ。ぼくだけでやろうとしたら、床にちゃんと魔方陣を書いたり、いろいろ準備しなきゃいけないんだ」

ニコ「魔神様の力を借りないと、あんな芸当簡単にはできないんだから」

ナンシー「ってことは、さっきまではマスターの力を借りられなかったの?」

ニコ「あの人間どもの魂のせいで、魔神様が意識と魔力を外へ出さないようにさせられてたんだよ」

提督「つうと、あれか。俺が精神的に引き籠ったせいで、お前らに迷惑かけてたのか」

ニーナ「いえ、それだけではありません。魔力を変換できるニコさんが、捕獲牢に閉じ込められたのも事態が悪化した一因ですね」


ルミナ「そういう魔神君は、体は大丈夫なのかい?」

提督「だるさが残るが、それほどじゃねえな。あとは少し頭が痛いくらいか」

如月「確かに、あれはひどかったわ。あの中に取り込まれたとき、人の怨嗟の声があちこちから聞こえてくるんだもの」

提督「人の意識に入り込んできて、やれ償えだの、やれ生き返らせろだの、ぎゃあぎゃあがなりたてやがって」

提督「ああ言えばこう言うで主張が一貫してねえ。数百人と口喧嘩してるみたいで、かなり分が悪かったぜ」

ニコ「とにかく、助け出せたのは如月と大和のおかげだよ」

ニコ「二人が取り込まれて魔神様に触れたことで、魔神様の意識と力が初めて外を向いたんだ」

ニコ「そのタイミングで魔神様の肉体を媒介にして、魔力変換を試みたんだ」

イブキ「まー、それもこれも、あいつが引き起こしたんだけど……」チラッ

軽巡棲姫「Zzz……」

吹雪「のんきに寝てるんだ……油性マジックで顔に落書きでもしてあげよっか」

龍驤「いや、そんな程度で許す気なんかい」タラリ

五月雨「吹雪ちゃん、変わってないみたいで安心しますね!」ニコー

リンダ「せやなあ、吹雪はちょっとお子ちゃまやしなあ!」ニマー

吹雪「お子様じゃないですーー!」プンスカ!

とりあえずここまで。

ぼちぼちエンディングに向けて投下していきます。

お待たせしました、続きです。


 ドタドタドタ

シルヴィア「ちょっと、今の魔力の放出は何!?」

ロゼッタ「あー! 魔神様が起きてる!!」

エミル「ほら、さっきのはやっぱり魔神様復活の波動だったんだよ!」

ミュゼ「外でお掃除してる場合じゃなかったんですね……」

ブリジット「内装が滅茶苦茶でありますよ!?」

シャルロッテ「それに、なんか水浸しになってなーい?」

マーガレット「おかげで滑って転んで大変だったんですよー!」プンスカ

カオリ「あなたはいつも何もないところでコケてるじゃない……」

カトリーナ「お、見張組が戻ってきたか」

ロゼッタ「っていうかヨーコ! 勝手に持ち場を離れないでよー!」

ヨーコ「そうはいかないよ、こっちで悪の波動を感じたんだ!」

カオリ「単に退屈だからこっちに来たんじゃないの?」

ヨーコ「違うってば!」

ニコ「……ヨーコの独断というか、暇を持て余したからぼくたちが助かったっていうのは複雑だね」


ティリエ「中間のフロアを守ってた私たちにも、労いを寄越せー!」

ジュリア「……わたくしたち、退屈でしたわ」ハァ

フローラ「ゲンスイさんという方のところに、誰も来なかったのは意外でした~」

千歳「フローラが元帥のところにいたの?」

フローラ「ええ、一応看護師のようなものですから~」

ティリエ「新しいお薬の実験台が来なくて一番退屈してたぞ!」

フローラ「そんなことはありませんよ!?」

黒潮「ジュリアがツッコミ入れへんあたり、ホンマぽいなあ」

フローラ「そんな!?」

 扉<ガチャバーン!!

キャロライン「ダーーーリーーーーーーーン!!」ダッシュ!

ケイティー「旦那様ああああああ!!」ダッシュ!

シルヴィア「なに!? 今度はなによ!」

コーネリア「こっちは休憩組かい」


メリンダ「すみません、こっそりと様子をうかがっていました」

ツバキ「うちのカビンも入らへんやろしなあ、て、控えておりんした」

マリッサ「私は違う意味で拘束されてたわぁ~」

パメラ「あなたはわざわざ若葉ちゃんを呼んで、縛ってもらってたんじゃないの」

初春「……」アタマカカエ

リンメイ「またくもて意味不明ね。なんで縛られたいか?」

スズカ「そんなん、理解できんほうがええに決まっとるけぇの」

キャロライン「ダーーーリーーーン! 生き返ったノ!? もとに戻ったノーー!?」ダキツキー!

ケイティー「旦那様あああ!! 私は信じておりましたああああ!!」ダキツキー!

提督「うお!?」ヨロッ

大和「ふ、二人とも、提督は目覚めたばかりですし、あまり体に負担を……」

キャロライン「ウワーーン! 良かったヨーーー!」スリスリ

如月「感激しすぎて聞こえてないみたいね」

ケイティー「うふふふふ……旦那様、ここに式場を建てましょう? なんならこの場で私と甘い夜を」サワサワ

 ゴッ

ケイティー「」ガクッ

金剛「調子に乗ってる子には当て身デース」

ニコ「……助かるよ、金剛」ハァ


ニーナ「ほら、キャロラインもそろそろ離れて」

キャロライン「ウン、でも、本当に良かったヨー……!」グスングスン

イサラ「騒ぎは終わったッスか……」

イーファ「ご主人様、大丈夫?」

朝潮「イーファさん! 無事だったんですね!」パァ

イーファ「うん!」

カトリーナ「ケイティーも同じように潰されてたんだけど……」

チェルシー「そこは日頃の行いってやつでしょ」

長門「なにはともあれだ。全員、無事だな?」

ニコ「……そうだね。みんなのおかげで、魔神様復活の本懐を遂げることができた」

ニコ「ありがとう……!」

全員「……」ウンウン

長門「提督。あなたも一言何か言ってくれ」

提督「何かって……別にいいだろ。面倒くせえな」アタマガリガリ

「「「……」」」

不知火「あなたという人は……」


如月「くすっ……」

吹雪「あはは……『面倒くさい』だって!」

朧「全然変わってないですね」

初春「まったく、相変わらずすぎてあきれるのう」

電「なのです!」

不知火(照れると頭を乱暴にかく癖もそのままですか……)フフッ

 ハハハハ…

提督「まあ、和やかなのは結構だが、お前らこれからどうするんだ?」

千歳「それは私たちこそ訊きたいわ。提督こそこれからの身のふりを考えないと」

提督「それだったら、俺は海軍に戻る気はさらさらねえぞ」

日向「海軍を離れる気か」

提督「どうせもう除籍されてんだろ。今の俺はメディウムたちを取りまとめる、魔神さ」

提督「だから、俺はこいつらと一緒に向こうの世界に帰ることにした」

伊勢「向こうの世界?」

キャロライン「ということは……!」パァッ

ニコ「ぼくたちと一緒に、神殿に帰るんだね?」

エミル「やったぁ!」

シエラ「これでやっと落ち着けるデス……」


チェルシー「あー、でも、また海のない生活に戻っちゃうのかー」

シルヴィア「そうねえ……」

提督「まあ、そういうわけでだ、俺はこっちの世界からはおさらばさせてもらう」

榛名「そんな……!」

霧島「いえ、それは無理もないことです、榛名お姉様。今、司令が海軍にお戻りになられたとしても、おそらく歓迎されないでしょう」

長門「そうだな。海軍陸軍がこの施設奪還に投入した人員、この施設の近隣の住人、その被害だけでも数千人に及んでいる」

長門「提督が戻ったとしても、この騒動の原因を追究されて、責任を押し付けられる可能性のほうが高い」

提督「第一、戻りたいと思える場所がねえ。どこへどう転んでも面倒にしかなんねーよ」

提督「だから、俺を悪役にしておけ。人外の魔神が、深海棲艦を呼び寄せて暴れた、ってな」

提督「魔神はお前らが倒したことにして、悪者の俺たちはこのままドロン、のほうがいい」

武蔵「……むう……不本意だが、そうするしかないのか」

提督「あとは泊地棲姫たちがどうしたいか、だが……」

泊地棲姫「……ニコ。オ前タチノ故郷カラ、海ハ遠イノネ?」

ニコ「うん。そうだね」

泊地棲姫「ソレナラ、私ハ元ノ場所ニ帰ルワ。私タチト海ハ切ッテモ切レナイ関係ダ」

鳥海「あの……私も泊地棲姫さんと一緒に行っても良いでしょうか?」

摩耶「鳥海!?」

加古「なんでだよ!?」


鳥海「なんでって、見ての通りよ。私の体は、もう7割くらい深海棲艦化してきてる」

鳥海「私が那珂ちゃんみたいになるのも、時間の問題だと思うわ。自分の体のことだから、わかるの」

摩耶「鳥海……」

鳥海「司令官さんが無事だったこともわかったし……いい機会だから、少しみんなから離れて、これからを考える時間が欲しいの」

鳥海「私が今の『鳥海』でいられる時間がどれくらいあるか、わからないから」

摩耶「そっか……あ、軽巡棲姫とル級はどうすんだ?」

泊地棲姫「彼女ハ私ガ預カロウ。提督、貴様ノ忘レ形見ダ。私ノ手ノ下ニ置クコトヲ許シテホシイ」

提督「何言ってんだ。俺たちが勝手に押し付けた軽巡棲姫を見ててくれたんだ、許す許さねえなんて話になるわけねえ」

提督「艦娘の敵だってのに、面倒かけさせた。ありがとうな」

泊地棲姫「……フフ。ナラバ、コレクライハ許シテモラエルノダロウナ?」ズイ

提督「!」チュ

全員「「!!」」

泊地棲姫「フフ……私ハコレデ引キ下ガロウカ」

オリヴィア「大人の女の余裕ってやつかねえ」

カオリ「ケイティーが気絶してて良かったわ……」

キュプレ「ああいう人こそ、くっつけてあげたくなっちゃうわ!」


加古「えーっと、ごめん、ちょっといいかなあ……泊地棲姫! あたしも途中までついて行っていいかな!?」

古鷹「え、ええ!? 加古、どうしたの!?」

加古「あたしもさ、ちょっとだけ海軍から離れたくなっちゃってさぁ……」

加古「どうにも居づらいんだよねぇ、あたしも鳥海も轟沈経験艦だから。だから、泊地棲姫を送るついでに暇をもらおうかなって」

泊地棲姫「……オ前ハ、一緒ニ来ナイノカ?」

加古「居候がいきなり増えちゃあ迷惑だよ。あたしはまだ艦娘だし、気兼ねしたくないよね、お互いに」

鳥海「で、でも!」

加古「いいからいいから! これからのことは、どっかの島にでも停泊して寝ながら考えるって!」

古鷹「加古……」

那智「ところで泊地棲姫。貴様はここから地上に出るのか?」

泊地棲姫「イヤ、コノ施設ノ隠シ水路ヲ使ッテ外海ニ出ル」

那智「そうか……提督」

提督「なんだ?」

那智「私は外で待機している本営の艦隊に、戦闘が終了したことを報告しに行く」

那智「そこで、泊地棲姫とその艦隊にこれ以上の継戦の意思がないことを伝え、彼女たちが外洋に抜けるまで突入を待つように進言する」


泊地棲姫「私ニ恩ヲ売ル気カ」

那智「恩ならすでに我々が受け取っている。提督を助けるために、共闘したのは紛れもない事実だ」

那智「今度は我々がそれに応える番だろう?」

泊地棲姫「……フン」

千歳「というか、地上に戻れるのかしら?」

足柄「この上のフロアの床も突き抜けてるんだけど……」

エミル「それなら大丈夫だよ? 階段はちゃんと残ってるから!」

ミュゼ「でないと、私たちもここに戻れませんでしたからねー」

日向「那智、私たちも外へ出るために、泊地棲姫の言う隠し水路を通ってはいけないのか?」

那智「我々が帯同しては、泊地棲姫たちの居場所を明確に教えてしまう。狙われないように、我々と別ルートを通ったほうがいいでしょう」

伊勢「そっか……じゃあ、鳥海と加古とはここでお別れね」

那智「……提督。貴様とも、だな」

提督「ああ。俺たちは地上に出る気はねえ。そのまま向こうの世界に行く」

千歳「……提督。今まで本当にお世話になりました」ペコリ

足柄「いきなり押し付けられて、迷惑だったと思うけど……」

提督「そんなことねえよ。むしろそんなやつしかいねえからな、うちは」

足柄「……ふふ、そうね」


那智「心残りは貴様と一献、呑めなかったことくらいか」

提督「馬ぁ鹿、俺は下戸だ。そもそもお前、禁酒してたんじゃねえのかよ」

那智「ああ。あの島が燃えたあの日から、また禁酒を始めたが……そうだな、今夜ばかりは呑ませてもらう」

那智「貴様の顔を見ることができた祝いと、これからの貴様の無事を祈って、な」

提督「……そうかい」

那智「ではな、提督! 貴様の武運を祈る」ケイレイ

千歳「私たちも行きますね。もし、また会えたときは、一杯おつきあいしていただきますよ?」

足柄「そのときまで、どっかの誰かに負けたりしちゃダメよ?」

提督「ああ」フフッ

泊地棲姫「……私タチモ行クゾ。サラバダ、提督」スッ

鳥海「摩耶、司令官さん……みなさん、お元気で」ペコリ

加古「提督なら大丈夫っしょ。古鷹も! じゃーねー!」

伊勢「……日向。私たちも那智たちと一緒に行こっか」

日向「そうだな……提督」

提督「ん?」


日向「深海棲艦はどこから来たのか? 艦娘とは何者なのか」

日向「メディウムとは? そして、君自身の存在する理由はなんなのか……君となら有意義な話ができただろうな」

日向「じっくりと、話してみたかった。それだけが心残りだ」クルリ

伊勢「……また逢えたら、話してあげてよ。それじゃ!」タッ

金剛「みなサン、行動力が早すぎデス。せっかくなら記念撮影の一枚くらい、あって良いと思いマース」

朝雲「記念撮影……あ、あれ!? ねえ、青葉さん見てない!?」

山雲「……あら~~?」

五十鈴「そういえば、いつの間にか姿を見てないわ! どこへ行ったの!?」

 瓦礫<ガラン ガシャンガシャン

イサラ「ヒィッ!?」

 扉<ガコン! ガコガコッ!

三隈「瓦礫の裏に扉が……」

マルヤッタ「反対側から誰かが叩いてるじょ」

最上「歪んで開かないのかな?」


 扉<ガシャバン!

青葉「ども! ご心配おかけしました、青葉ですぅ!」ニカッ

ベリアナ「もう、ひどい目にあったわ~」

霧島「何をしてたんですか、この非常時に!」

ニーナ「ベリアナもどこに消えていたんですか!?」

青葉「実はちょっとこういったものを撮影してまして」

霧島「!」

朝雲「なに? 何を撮ったの?」

霧島「見てはいけません」

青葉「ええ、見ないほうが賢明ですよ~」

伊8「……もしかして」

青葉「はい! 伊8さんもよーく御存知の、この施設の裏側を撮影してきました!」

青葉「メディウムのみなさんがこの施設を支配してることはわかってましたから、こっちから攻撃さえしなければ協力を得られると思いまして!」

ベリアナ「あたしもそっちのほうが面白そうだったし」

ミルファ「もしかして、ベリアナはずっと青葉さんと一緒だったの?」

青葉「はい! 施設の道案内をお願いしてました! いいものをたくさん撮ってきてますよ~!」


霧島「もしかして、それを使ってお上を脅迫する気ですか?」

青葉「いえいえ、脅迫だなんてとんでもない! 青葉たちの身の安全の保証書として利用させてもらうだけです!」ニマー

提督「本営がお前らに責任転嫁しようとしたときにさす釘、ってところだな」

青葉「はい! いやあ、すごいですよ!? 一世一代の大スクープですよね、これは!」ニマー

霧島「……」アタマオサエ

提督「おう、じゃあその画像、お前ごと消されないように、くれぐれも気を付けて帰れよ」

青葉「いやあ、司令官が言うとシャレになりませんねえ……」

提督「あいつら、くそつまんねーことで命狙ってくるからな。お前も経験者だろ?」

青葉「ええ、重々承知の上ですね。そういうことですので、こういう重要な情報は、ぱぱっと遠地に通信しちゃいましょう!」

通信機『ピピー……』

青葉「そうそう、この通信機ですけどね?」

通信機『ザー……あー、あー、テストテストー。どう? 聞こえるー?』

ヴィクトリカ「その声は……」

提督「隼鷹か?」

通信機『おぉ~、ご名答! さっすがだねえ提督! まさかほんとに生きてたなんて! 今夜は祝杯だよぉ!』

青葉「隼鷹さんは今ショートランド泊地にいるんです!」


通信機『残念ながら、今のあたしはここから動けなくてさあ。それで青葉に頼まれて、データの仲介役を受けたんだよ~』

青葉「場所が場所ですので、本営が動く前にいろいろできますからね」

通信機『それより青葉、カメラを提督に向けてくれよ~。みんな無事~!?』

通信機『おぉ~、もしかして吹雪!? あんた育ってんじゃん! 電も朧も……うわー、みんないるねえ!』

エレノア「あら、映像見られるの?」

通信機『おぉ! 元気だったかいエレノア! ヴィクトリカやユリアもいるんだろ!?』

ヴィクトリカ「おう! なんだ隼鷹、あんたこっちに来なかったのか!」

ユリア「一緒に飲みたかったけど、また今度の機会になるわね」

提督「ま、今度があるかどうかわかんねえけどな」

通信機『ありゃま。なんだい、もうお別れかい?』

青葉「残念ですけど、司令官がこちらの世界で提督業を続けていくのは難しいかと」

通信機『そっかあ。ま、ちゃんと顔を見てお別れできるだけ、踏ん切りがつくかねえ』

通信機『おっと、あんまり長話してるとまずいんだっけ?』

青葉「あー、まあ、そうですね。とりあえず画像データの転送も終わりましたし、この辺で青葉もおいとましようかと!」

通信機『青葉、あんたはちゃんとあとでショートランドに来るんだよ? 酒の肴に土産話を期待してるんだからね!』

青葉「了解、了解ですよー! では、青葉もこれで失礼します! 司令官!」

提督「ん」

青葉「今までお疲れ様でした!」ビシッ

通信機『じゃあね、元気でやりなよ!』

提督「……ああ、ありがとな」

青葉「では!」タタッ

今回はここまで。

まずは一年以上の放置、お詫び申し上げます。
いつの間にやらWikiも消えてしまい、
キャラクターを覚えている方も少ないかもしれませんが、
一応は完結目指して書き進めます。

というわけで、続きです。


朝雲「……そっか、そういう考え方もあるわね」

山雲「朝雲姉~?」

朝雲「ううん、青葉さんが言ってた通り、司令官が退任したって考えれば、別れ方もすっきりするわよね」

五十鈴「……そうね。そういうのもありね」

利根「まあ、今の提督の立場からすると、戦いの中に身を置くさだめに変わりはないのかもしれんが」

明石「そうなっちゃいますねえ」

若葉「私たちと変わらないと言うことか」

白露「そういうことなら、花束でも用意してくればよかったね?」

島風「白露が女の子らしいこと言ってる!?」

白露「それどういう意味!?」

陸奥「ほら、こんなところでまで騒がないの」

龍驤「そん通りや。提督の新しい旅立ちやで、もう少しおめでたいムードちゅうもんがあるやんか!」グスッ

敷波「ちょっ、龍驤さん泣いてるの!? やめてよ!」グス

龍驤「言うて敷波も泣いとるし!」グスグス

敷波「しょ、しょうがないじゃない! 今までたくさんお世話になったし!」


摩耶「ほんとだよ、世話になりっぱなしだったぜ」グスン

提督「そんなことはねえよ。俺はおまえらが頑張ってたのを見てただけだからな」

五月雨「……それが嬉しかったんですよ。ずっと、見守ってくださったんですから」

提督「……そうか」

扶桑「……あの、提督?」

提督「ん、なんだ扶桑」

扶桑「こんな中で大変不躾なお願いですが、この扶桑……提督について行ってもよろしいでしょうか?」

山城「扶桑お姉様!?」

扶桑「我儘であることは重々承知しております。ですが私は、最期の時まで、あなたのお役にたちたいと思っています」

ル級「覚悟ハ出来テルノ? 向コウノ世界ハ、オ前タチニハツライ世界ヨ?」

扶桑「ええ。製油、製鉄技術も乏しく、火薬の生成もままならない世界だと、由良から聞いてるわ」

扶桑「それでも、もう私はこちらの世界で生きていけると思えないの。つらいことが、たくさんありすぎて」

山城「扶桑お姉様……」


扶桑「きっと、あなたもそうなんでしょう? ……大和?」

大和「……はい」

武蔵「大和、本気か……!?」

大和「ごめんなさい、武蔵。私は……もう、人間のために戦っていく自信がないわ」

大和「メディウムに殺されたとはいえ、あの人たちの怨嗟の大合唱は、私には耐えられなかった……」ポロッ

武蔵「……」

提督「……なあニコ、向こうの拠点は山の中なのか?」

ニコ「うん。そうだね」

提督「そこから一番近い海はどのへんだ?」

ニコ「! そうだね……」

摩耶「お、おい、提督、まさか……」

提督「拠点を海の近くに移せられれば、少しはマシになるだろ。海好きなメディウムも多いしな」

チェルシー「今の話、本当!?」

シルヴィア「さっすが魔神君! 話が分かるわ!」


摩耶「本気で、魔神になるつもりかよ……」

提督「ああ。いくら俺が指示したわけじゃないとはいえ、俺のためにこいつらがやってくれたことだ」

提督「ここで俺がメディウムを見捨てるような真似はしたくねえし、お前らと直接やりあいたくもない」

提督「俺が向こうへ行ってこいつらの面倒を見るのが、一番すっきりした落としどころだと思うぜ?」

摩耶「そりゃあそうかもしんないけどよ……」

提督「一応聞いとくが、由良やはっちゃんはどうする?」

伊8「一応聞くまでもないと思うけど?」

由良「ね?」

敷波「……」

電「敷波ちゃん……」

吹雪「そっか、そういえば敷波ちゃんは電ちゃんや由良さんと同じ鎮守府出身だったんだよね」

シルヴィア「うーん、言わせてもらうけど、あなた、迷ってるくらいなら来ないほうがいいわよ?」

敷波「え……あ、うん」

オリヴィア「ああ、こりゃあ納得いってない感じだねえ」


提督「敷波。俺はもう人間の敵だ。だが、お前はそうじゃないだろう?」

敷波「……」ウツムキ

提督「敷波。お前、人間を撃てるか?」

敷波「そ、それは……」

提督「そこで躊躇するんならやめとけ。お前はこっちに来ないほうがいい」

榛名「……」

黒潮「あー、司令はん? うちもちょっとひとこと言わせてもらいたいんやけど」ズイ

提督「なんだ?」

黒潮「うちは、司令はんが向こうの世界に行くのは、まあ、しゃあないなー、って思うんよ。経緯が経緯やし?」

黒潮「頭ではしゃあない思っとんやけど、それがめっちゃ気に入らんねん。わかる?」

提督「……」

黒潮「司令はんは、何もしてないやん。貧乏くじ引かされとるだけやんか」

黒潮「あの島が燃えたのも、もとはと言えば海軍の内輪揉めに巻き込まれただけやんか。ええように利用されとっただけやんか!」

黒潮「なんちゅうか、うちらの不幸を全部押っ付けて追い出してるみたいで、めったくそ気分悪いわ……!」


潮「わ、私だって、納得できません……今まで、たくさんお世話になったんです。そのお礼もできないまま、お別れなんて……!」グスッ

潮「ここで別れたら、もう会えないんでしょう? 朧ちゃん、元に戻すこと、できないの……?」

朧「それは……もう、無理じゃないかな」

電「……ごめんなさい」

敷波「それで謝んないでよ……! どうしようもないんでしょ? 謝られたって、別れるしかないんでしょ……?」グス

朝潮「……霞。敷波さんのこと、お願いできますか」

霞「朝潮!?」

朝潮「司令官。朝潮は、司令官についていきます」

敷波「!」

明石「本気なの!?」

朝潮「はい、朝潮は本気です。司令官のために、本営と事を構えることも覚悟の上……むしろ、信用できないとまで思っています」

朝潮「その証拠に、私の体も、鳥海さんのように深海の側に傾きつつありますから……」

敷波「なんなのさ……みんな、そうやって理由つけてどっか行っちゃってさ」

敷波「あたしは……みんなで一緒にいたいだけだったのに、どうしてこうなっちゃうんだよ……!」

霞「……」


敷波「いいよもう……こうやって泣いてたって、迷惑かけるだけって、わかってるし」

敷波「ほかにあたしが納得できるような良い方法も、あたしには思いつかないしさ」

敷波「由良さんもはっちゃんも、この施設で解体されるはずだったんでしょ? こっちの世界に留まったって、いいことないのはわかってる」

敷波「しょうがないんだよね……」グス

提督「……那珂。お前はどうする」

榛名「!」

川内「!」

神通「!」

那珂「ンー、那珂チャンハモウ、コンナダシー。コッチノ世界ニ残ッテ、万ガ一、ミンナト戦ウコトニナルノモ嫌カナァ」

榛名「……」

那珂「ソウイウワケダカラ、那珂チャンハ向コウヘ行ッテキマス! 提督、コレカラモヨロシクネ!」

川内「那珂……」

那珂「川内チャンゴメンネ! デモ、コレカラ戦ウ相手ニ、那珂チャンガイナイッテコトガ確実ナラ、夜戦デモ躊躇シナクテスムデショ?」

川内「そりゃそうだけどさ……」


神通「そう、ですね……那珂ちゃんは、向こうで、元気にやっていくって思えば……」グスン

那珂「モー、神通チャン笑ッテヨー。コレジャ、アイドル失格ジャナイ!」グスッ

山城「ええ、那珂ちゃんなら大丈夫よ。私も一緒に行くから」

那珂「!?」

扶桑「山城……!?」

山城「泊地棲姫と一緒に那珂ちゃんをこちら側に引き込んだのは私よ……!」

山城「少しの時間だけでもいい。私の艤装を解体して鋼材なり燃料なりにして、那珂ちゃんと扶桑お姉様に役立てて欲しいんです!」

龍驤「ちょっ、大丈夫なんか!?」

由良「解体するしないにかかわらず、そのほうがいいかもしれないわ。山城さんも、深海の側に傾きかけているし……」

伊8「むしろ扶桑さんのほうが心配かもしれないです」

龍驤「そっか、そうなるんか……」

長門「留まるにしても、深海棲艦になりつつある艦娘は、海軍に居続けても由良のように狙われる可能性もある」

武蔵「ああ。同じ艦娘にも、深海棲艦に恨みを持ってるやつは少なくないだろう」

武蔵「海軍に残るとなれば、最悪、背中を撃たれることも覚悟しなければならん」

長門「そう考えれば、鳥海のように深海に行くのも間違ってはいないな」

陸奥「……そうかもしれないわね」


霧島「……金剛お姉様はどうなさるおつもりですか」

比叡「!」

榛名「!」

金剛「Hm... 私は、海軍に残ろうと思いマス。テートクと一緒には行けまセン」

榛名「ええ!? ど、どうしてですか!?」

金剛「私がテートクと一緒に行ったところで、お役にたてるとは思えまセン。むしろ足を引っ張ると思いマス」

金剛「私は、テートクが『みんな』と仲良くしてほしいと思っていまシタ。この世界の人間たちも例外ではありまセン」

金剛「そして、世の中にテートクのやっていることが間違っていないことを広めたかったんデス」

金剛「轟沈した艦娘に手を差し伸べ、暴力や悪意で傷付いた艦娘を守ってくれたテートクが、認められて欲しかった……」

比叡「金剛お姉様……」

金剛「テートクは今、世界と決別しようとしていマス。私がそれを拒むことは、テートクを否定することにほかなりまセン」

金剛「テートクが生きているかもしれないことを知って、テートクのもとに集まったあなたたちを否定する気もありまセン」

金剛「私は、この世界に残って、テートクの功績を後世に残したいと思いマス」

榛名「金剛お姉様……!」ウルッ


金剛「比叡、榛名、霧島。あなたたちがテートクと一緒に行くと言うのなら、私は引き留めまセンヨ」

霧島「いえ、金剛お姉様のご心配に及ばず。私は海軍に戻ろうと思います」

摩耶「え!?」

霧島「……摩耶? 今の『え』はどういう意味かしら?」

摩耶「だ、だって、霧島さん言ってたじゃないっすか、司令についていくって……」

霧島「残念だけど、私の持ち得る知識と力と経験は、あちらの世界で司令が戦うに当たっての助力にはならないと思うの」

霧島「それよりも今、金剛お姉様が進む道のほうが困難に思えます。私の力は金剛お姉様のために振るうべきかと……!」

金剛「霧島……!」

比叡「……司令、ごめんなさい!」バッ

提督「!」

比叡「私も、金剛お姉様と一緒に戦います!」

榛名「……!」

比叡「ただ……暁ちゃんだけは、お願いしてもいいですか? あれからずっと目を覚まさなくて……」グスッ

提督「わかった、預かろう。フローラ、向こうで治療を続けられるか?」

フローラ「ええ、お任せください」

電「電も看病をお手伝いするのです!」フンス!


摩耶「霧島さんが海軍に残るんなら、あたしもそうするかな。鳥海も心配だし……今の海軍を放っておけねえもんな」

榛名「……」

武蔵「ほかに提督と一緒に向こうの世界に行くつもりの者はいるか?」

金剛「榛名、あなたはどうしマスカ?」

榛名「……榛名は……」

 PPPP... PPPP...

武蔵「! 私の通信機か」ニュッ

吹雪(胸の谷間から!?)

ニコ「」ハイライトオフ

ニーナ(ニコさんの目から光が消えてる……!)

武蔵「もしもし? おお、那智か、どうした」

武蔵「……うん……うん……わかった。急がせる、那智はもう少し時間稼ぎを頼む」

大和「なにかあったの……?」

武蔵「ああ、この研究所を憲兵隊が取り囲んでいるそうだ」

提督「憲兵隊?」


武蔵「なんでも、艦娘は見逃してもらえるが、それ以外の者は捕縛するつもりでいるらしい」

提督「……艦娘以外、ね」

ニコ「どっちみちぼくたちが外に出るつもりはないけどね」

武蔵「那智は瓦礫などの後始末のために我々が残っていると伝えたんだが、それを陸軍がやると言っていて……」

武蔵「この研究所に踏み込まれたくないであろう海軍幹部が、連中を抑え込んでいる状態だ」

龍驤「ああ……まあ、見られたくないもんばっかりやろうしなあ……」

武蔵「陸軍もこれまでの鬱憤を晴らしたがっているようで、にわかに殺気立っている」

長門「無理もない。今回の深海棲艦とメディウムの狼藉は陸の上での話だからな」

武蔵「我々艦娘も、もたもたしていると憲兵たちにしょっ引かれかねないと言っていた」

霧島「司令との別れをせっつくなんて、無粋な人たちですね」ムスッ

提督「仕方ねえよ、俺たちは数千人の人間を殺してるんだからな。連中にしてみりゃ十分すぎるお情けだろうさ」

提督「でもまあ……」チラッ

艦娘たち「!」

提督「あの時よりはましだな」フフッ

不知火「司令……」


朝雲「まるで、さよならを言いに来たみたいになっちゃったわね」

金剛「十分じゃありませんか、そうでショウ? テートク?」

提督「これだけ迷惑かけておいて、労力に見合ってない気もするがな」

ナンシー「なんだか、初めて鎮守府に来たときを思い出すわね~」

ルミナ「ああ、あのときも艦娘のみんなを罠にかけようとしたんだったね」

ニコ「……やっぱり、ぼくたちと艦娘は相容れないものなのかな」

若葉「それは違うな」

オボロ「!」

若葉「最初こそ敵対したが、提督がいてくれたおかげで艦娘とメディウムが手を取り合ったことは事実だ」

若葉「そして今も、みんなが提督の身を案じている。それは提督自身が我々を気遣ってくれたおかげだ」

初春「若葉……」


若葉「それから、メディウムとの生活も、悪くはなかった……楽しかった」

若葉「若葉は、こちらの世界に戻る。提督は、向こうの世界で戦うのだろう?」

提督「ああ、そうだな」

若葉「若葉は提督と同道できない。だが、幸運を祈っている」クルリ

初春「若葉!」

若葉「若葉たちがもたついて外に出てこないと、あいつらがなにをするかわからないからな」スタスタ

若葉「初春姉、みんな、提督を頼む」スッ

川内「若葉……」

オリヴィア「うーん、いい男……じゃないな、いい女だねぇ」

長門「……ああ。確かに、いつまでも名残を惜しむ暇はない、か」

武蔵「そうだな、急ぐか」


 * 地上 *

憲兵「だからいい加減突入させろと言っているんだ!」

海軍「まだ安全の確認が取れていないと言っているだろう!」


那智「……まだか、あいつらは」

別の大将「那智よ、本当に生存者は他にいなかったのか」

那智「これは大将殿。そうです、生存者は元帥だけでした」

大将「そうか。しかしその元帥閣下でさえ、心神喪失状態にある。犯人たちは薬物を扱えるのか?」

那智「いえ。おそらくは、直に精神を操ったものかと」

那智「深海棲艦もまた、負の感情から生み出されたと言われておりますが……」

大将「それと理屈は同じだと」

那智「定かではありませんが」

大将「……本来ならば、あの深海棲艦どもを見逃すつもりはなかった」

大将「だが、貴様らが協定を結んだと言うのなら目を瞑る他あるまい」

那智「……はっ」ケイレイ


 ゾロゾロ…

海軍「おい、施設から誰か出てきたぞ!」

海軍「大丈夫か!?」


那智「やっと戻ってきたか……」

大将「……施設から出てきた艦娘は全員保護せよ! 急げ!」

憲兵「待て! 何があったか話して貰わねば……」

大将「艦娘は海軍の所属である! 我らが先に治療すると決めたのならば、それに従え!」

憲兵「お、横暴な!」



那智「……」

那智(憲兵に捕まれば、地下で起こったことを話させるだろう)

那智(余計なことを言わせないために、私たちを『保護』する、か……)

那智「折角、酒を断ったのにな……また、悪い酒になるか」ハァ


 * 地下 *

不知火「……」

提督「最後は不知火か」

不知火「……如月」

如月「? なあに?」

不知火「如月は、これで良かったのですか」

如月「今更よ。私は、艦娘ではなくなってしまったもの」

不知火「……そう、ですね。私たちの道理を押し付けるのは筋違い……」

不知火「司令も、私たちとは道を違えるのですね……」ウツムキ

如月「……」

不知火「司令。如月たちを、よろしくお願いいたします」

提督「……ああ」

不知火「そして、これまでのご指導ご鞭撻……ありがとうございました……!」ケイレイ

提督「……ああ。俺のほうこそ、今まで助けてくれて、ありがとうな」ケイレイ

不知火「……では、これで、失礼致します」ペコッ クルリ

 タッ

提督「……」


ニコ「……行っちゃったね」

提督「仕方ねえさ。これから俺は人間の敵になるんだからな」

提督「お前たちも、覚悟はできてるか? 引き返すなら今のうちだぞ」

那珂「那珂チャンハ大丈夫ダヨー!」

山城「扶桑お姉様……!」

扶桑「心配いらないわ……一度は、人に失望した身だもの」

朝潮「朝潮は、司令官にどこまでもついていきます!」

大和「大和も、地の果て、水平線の果てまで、ご一緒致します……!」

由良「行きましょう……向こうの世界に」

伊8「……」コクン

提督「よし、これでこの世界とはおさらばだ。ニコ」

ニコ「うん」コク

 バッ

 床に浮かび上がる魔法陣 < カッ…!

ニコ「みんな、集まって。僕たちの世界に帰るよ」


シエラ「や、やっと帰られるデスか……」ホッ

イサラ「早く引き籠りたい……」

シルヴィア「でも、これで暫くは海とお別れねえ」

チェルシー「うああああ、言わないでよ~! ああ、憂鬱~~!」

アーニャ「もっとたくさん釣りたかったなあ……」

ミーシャ「で、でも、それは艦娘さんたちも、一緒ですから……」

ミュゼ「それまでは私たちがお世話しましょう!」

アマラ「お掃除のし甲斐がありますね!」

ルミナ「んー、そうだねえ、ついでに研究にも付き合ってもらえると助かるよ」

ニーナ「そう言ってずっと付き合わされるのは駄目ですからね!」

ナンシー「ルミナってば、研究のことになるとそればっかりだもんねー」

提督「……」

ニコ「魔神様?」

提督「向こうの世界の拠点は山の中だ。まずはとにかく海に進出したい」


提督「もし海を目指すとしたら、いくつ町を潰せばいい?」

ニコ「魔神様……!」

コーネリア「魔神様が本気になられたぞ……!」

ルイゼット「ついに、愚かな人間たちに鉄槌を下す日が来たのですね……!」

提督「俺たちは向こうの世界じゃ人間の敵だ。鉄槌云々は置いといても、人間どもにおとなしく滅ぼされる気はねえ」

提督「俺たちは俺たちの平和を手に入れる……!」

カトリーナ「よおっし! やってやるぜえええ!」

初春「うむ、そうと決まれば、わらわも本気を出さねばのう」

ヴァージニア「我等が歩むは覇道、それは最初から決まっていたことだ」

提督「ああ。面倒臭いのが嫌で、人から離れて過ごそうとしていたが……逃げたり隠れたりするのはもうやめだ」

提督「この世界で果たせなかった理想の世界を……俺たちの、国を作る」

吹雪「司令官……!」

提督「だから、頼むぜ。お前らが頼りだからな」

如月「勿論よ。どこまでもついて行くわ」

メリンダ「私たちも、御主人様の仰せのままに……!」


オボロ「我ら、御屋形様の手となり足となり、敵を討つ所存……!」

電「私たちが、やっつけちゃうのです!」

オリヴィア「問題は、向こうの世界に戻ってからだね」

ミリーエル「そうね。大分人間を狩ってしまったし……」

クロエ「どのくらい人間が勢力を戻しているでしょうねえ」

グローディス「それに、あれだけ大勢狩ったんだ、私たちのことも警戒しているだろうな」

クリスティーナ「一筋縄ではいかなそうね」

ニコ「大丈夫だよ。今のぼくたちには、魔神様が付いているんだ」

全員「!」

ニコ「眠ってた魔神様の力を、呼び戻せたんだ……ぼくたちの力も、強くなってるはずだよ」

ニコ「さあ、帰ろう……ぼくたちの家へ。アルス=タリア封印神殿へ……!!」

提督「……」

朧「提督? どうしたんですか?」

提督「いいや。封印なんてされたりしねえよ、と思ってな」

提督「二度も三度も失ったこの命だ、そう簡単に失ってたまるかよ……!」


 * 施設内 階段 *

明石「さあ、早く外に出ましょ!」タタタッ

不知火「はい……!」タタタッ

大淀「……」タタ…ッ

霞「……? 大淀さん、どうしたの?」タタタッ

大淀「あ、い、いいえ、なんでも……」タ…ッ

初雪「……?」

不知火「大淀さん?」

大淀「……」ピタ…

明石「大淀……!?」

大淀「っ!」クルッ ダッ

霞「ちょっ……!」

不知火「大淀さん!!」


大淀「ごめんなさい……私、やっぱり提督のもとに行きます!」ダッ

明石「ちょっと、今更!?」

初雪「先、行ってて」タッ

霞「は、初雪!?」

初雪「私も、大淀さんと一緒に行くから……!」

初雪「駄目だったら、引き返して連れてくるから、待ってて……!」

霞「ちょっと……!」

不知火「……先に行きましょう」

明石「不知火ちゃん……!」

不知火「怪我をして遅れたことにしましょう。不知火も、二人の気持ちはわからなくはありません」

霞「……」

明石「……」


 * 地下 最下層 *

大淀「はぁ、はぁ……」タタタタッ

初雪「大淀、さん……!」

大淀「……私、戻っても、行くところなんかないの」

大淀「大淀として、海軍の任務を、引き受ける自信がないの……!」

大淀「でも、提督は、こんな私に、仕事を与えてくれた……私に、居場所をくれたの……!」

大淀「だから初雪ちゃん、行かせて! 私は……」

初雪「私、止めに来たわけじゃない」

大淀「!」

初雪「私も、一緒にあっちの世界に行って、大丈夫か不安だった」

初雪「でも、ここから海軍に戻った方が、私は不安……!」

大淀「……!」

初雪「行けるんだったら、私も、ついてく……!」

大淀「……急ぎましょう!」ダダッ

初雪「……」コク


 *

大淀「あった、あの扉……!」

初雪「……提督……!」

大淀「提督……提督っ!」ウルッ

 扉<バァン!

大淀「提督っ!!」

初雪「……!」

 シ…ン

大淀「てい、とく……?」

初雪「……」キョロキョロ

初雪「なに、これ……部屋の真ん中に、大きな穴が……」

大淀「ていとく……」ヘタッ

初雪「……っ」タッ

初雪「どこかに、隠れてたり……してる、かも……」ウロウロ

初雪「どこかに……」タタッ

大淀「……」

大淀「あ、あああ……」ジワッ

大淀「うわぁぁぁああああ……! 提督ぅぅぅ!」

初雪「……本当に、行っちゃったんだ」

初雪「……ぐすっ」



今回はここまで。

残るはエピローグのみ。

少しだけ続きです。


 *三か月後 *

 * 太平洋上 某所 無人島 *

 ザザーン…

浜辺の樹木にかけたハンモックで眠る加古「Zzz...」

加古「……ふぁぁ……むにゃむにゃ」

加古「うん……!」ピク

 ザザァ…

摩耶「……よう」

加古「ふあ……あー、摩耶か……おはよ」

摩耶「ったく、相変わらず寝てばっかだな」

加古「まあ、起きたところでご飯を確保する以外、何もすることないしねー」ボリボリ

摩耶「そうか? 全く体を動かしてねえってわけじゃないならいいけどさ」

 ザザァ…

??「摩耶……!?」

摩耶「! その声……鳥海か!?」


??→鳥海(深海化)「摩耶……! 久シブリネ、元気ソウデ良カッタ……!」ニコッ

摩耶「鳥海も……その顔色だと元気かどうかちょっとわかんねーな」

加古「髪の毛まで白くなっちゃったもんねえ」

鳥海「フフッ、私ハ大丈夫ダカラ、安心シテ」

摩耶「大丈夫なのはいいけどさ、なんで鳥海が加古のところに来てるんだ?」

鳥海「差シ入レヲ持ッテキタノ。ホラ、加古ハドコノ鎮守府ニモ属シテナイデショウ?」

摩耶「加古、お前、深海からも差し入れ貰ってたのか!?」

鳥海「エッ?」

加古「いやあ、助かるよ~。両方から差し入れ貰って、備蓄できるくらいには、あたしも生活できてるしさあ」

摩耶「ちゃっかりしてやがんなあ……まあ、鳥海に会えたからいいけどさ。ほら、こっちはあたしたちからの差し入れだ」

加古「へへ、いつも悪いね~」

摩耶「なんだよ、今更いいって」

鳥海「ソウヨ、私タチノ善意デヤッテルンダカラ」

加古「……だからこそ言わなきゃいけないんだけどさ」


加古「二人とも、もうここに来ないでほしいんだ」

摩耶「なんだって?」

鳥海「ソレハ、ドウシテ……?」

加古「最近、双方からの偵察機が飛んできてる感じなんだよね。視線も感じるようになってきたし。それが誰かはわかんないけどさ」

加古「二人とも親切であたしに差し入れ持ってきてるのは、よーくわかってる」

加古「でも、余所からしてみたら、敵に内通してる相手に資材を横流ししてるようなもんじゃん」

摩耶「……」

加古「特に鳥海は、今の姿こそ深海棲艦みたいだけど、艦娘を裏切ったようなもんだろ?」

加古「こんなことしてたら、深海棲艦たちにだって疑われるんじゃないかな、って」

鳥海「……」

加古「まー、甘えてたあたしが一番悪いんだけどさ。でも、両方とつながりを切るのもためらったのは事実だし」

加古「お返しというわけじゃないけど、丁度、摩耶と鳥海が一緒にいるときに、話したくってさ。時間を合わせられる機会を作りたかったんだー」

加古「あたしくらいならともかく、摩耶と鳥海が逢うチャンスがなくなったら嫌だなって思ってたんだよね」

摩耶「加古……」


加古「ってわけでさ! あたしもこの島から引っ越すんだ。だから、二人と会う機会ももうないと思う」

鳥海「大丈夫ナノ?」

加古「どうかなぁ……ぶっちゃけ不安しかないけど、やるしかないっしょ。こんな生活も始めてから三か月経つし、なんとかなるよ」ニシシ

摩耶「……そうか」

鳥海「ミンナトオ別レシテ、三カ月経ツノネ……」

摩耶「そんなになるんだな……」

鳥海「デモ、コノ姿ニナッテカラ、マタ摩耶トコンナ風ニガデキルナンテ、思ワナカッタワ」クス

摩耶「そだな。こうやって、戦わずに済んでること自体、すげえことだよな」

鳥海「ネエ、摩耶。ミンナハ元気ナノ?」

摩耶「……正直、あんまり良くねえかな」

鳥海「エ……?」

摩耶「何から話したらいいもんかな……いや、いいニュースが全然ねえんだよ」

加古「……」


摩耶「まず、霧島さんたち……金剛姉妹は、あれから一カ月謹慎処分になったんだ。金剛さん以外はみんなあの研究施設に行ったからな」

摩耶「相当罵声も浴びせられたんだけど、金剛さんが全部頭を下げてくれて、事なきを得たって……」

摩耶「言われる筋合いのないことまで金剛さんが丁寧に対応してくれて、それ以上のお咎めは無し……ってさ」

鳥海「……」

摩耶「けどよ、その後の扱われ方もひどいもんだぜ!?」

摩耶「無茶な転戦をやらされて、何度も沈みそうになったっていうし……」

摩耶「一番酷なのは比叡さんかな……うちの比叡さんって料理上手だったろ?」

摩耶「けど、提督と別れて以来、料理させてもらえてないんだ、って」

摩耶「一度だけ、比叡さんが料理をふるまったことがあったらしいんだ」

摩耶「当然、評判は良かったんだけど、その次の日に余所の比叡さんがとんでもねえもん作ったせいで……」

摩耶「やっぱり厨房に立たせちゃ駄目だ、ってなっちまって……元気、なかったんだよなあ」

加古「なんでそうなっちゃうかなあ……」


摩耶「それから大淀だけど、提督の生まれ故郷に行ってみたい、っつってそのままいなくなっちまった」

摩耶「初雪も一緒に行ったらしいんだけど、二人とも行方不明なんだよ」

摩耶「同じ時期に山火事があって、どっかの村がまるっと燃えちまったって話もあって」

摩耶「もしかしたら、そいつに巻き込まれたのかもしんねーんだ」

鳥海「ソンナ……」

摩耶「ほかにも、那智みたいに引退したやつや、青葉とか連絡取れないやつが多くなっちまったしさ……連絡とれんのは島の調査隊くらいだよ」

加古「……摩耶は、今は本営にいるんだっけ?」

摩耶「ん、ああ。ただ、本営は本営で拠点をどこに移すか、いまだに揉めてんだよ」

加古「あー、横須賀っていうか、関東がもうアレだからねえ」

摩耶「舞鶴だと日本海側で不便だし、呉や大湊じゃあ本州の端っこ過ぎるし……」

鳥海「神戸トカ、紀伊半島アタリニ新シク作ルシカナイト思ウワ」

摩耶「結局は横須賀が一番いいと思うんだけど、異常気象の影響が残ってて、関東一帯はまだインフラが回復してないのも痛えんだ」

摩耶「そのインフラ整備は陸軍が引き受けてるけど、あの騒動のせいで陸軍と海軍の仲は最悪の状態なんだよな」

加古「海軍が活動するためのインフラは後回しにされそうだねえ」

摩耶「ああ。あたしはしばらくお家騒動に巻き込まれて日本国内から動けないだろうなぁ……」


摩耶「ここに来たのも遠征部隊の護衛を任されたからさ。ほんっと、運が良かったぜ」

鳥海「ソレジャ、アマリユックリシテイラレナイノ?」

摩耶「そういうこと。だからなおさら、今日は会えて良かったよ」

鳥海「……摩耶。私モ、ヒトツダケ伝エテオクワ」

鳥海「ショートランド泊地ニハ、近ヅカナイデ」

摩耶「……どういうことだ?」

鳥海「私ハ、泊地棲姫ト一緒ニ、北ヘ向カウツモリナノ」

鳥海「ソノ私タチトハ別ノ深海ノ艦隊ガ、ショートランド泊地ヘ向カッテイルワ……」

摩耶「ここ最近、深海の動きが不自然だって誰かが言ってたけど、そういうことか……」

加古「んじゃ、あたしもそっち方面には向かわないほうがいいってことだね」

鳥海「エエ。ソレカラ……」

鳥海「軽巡棲姫ダケハ、ドコニ向カッテイルカ、ワカラナイノ」

摩耶「!」


鳥海「モシ見掛ケタラ……デキレバ、気付カレル前ニ、逃ゲテ」

摩耶「わかった」コク

加古「了解、了解っと。いやー、怖いねえ」

摩耶「ああ……あたしもそろそろ行かなきゃな」

摩耶「最後にさ、二人に逢えて良かったよ」

鳥海「摩耶……元気デネ」ニコ

摩耶「ああ、鳥海も。加古もな!」ニッ

加古「んー」フリフリ

 ザァッ

摩耶「じゃあなーー!」

鳥海「……」ブンブン

加古「……」

鳥海「ソレジャ、私モ行クネ」

加古「ん」コク


鳥海「今マデ、アリガトウ……!」ニコ

加古「……こっちこそ」ニコ

 ザザァ…

加古「……」

加古「行っちゃったねえ……」ノビーッ

加古「さぁて、あたしも荷造りして……昼に行くか、夜に行くか……」

加古「昼のうちに行くかあ……夜は夜で寝たいしなあ」

加古「……」ミアゲ

加古「……また偵察機が飛んでこないといいけど……」

今回はここまで。

続きです。


 * 墓場島沖 *

長門「……」

利根「この辺りも久しぶりじゃな……!」

五十鈴「……」

利根「景色はだいぶ変わってしまったがの……」

利根「かつて緑が生い茂っていたあの島が、溶岩に覆われて今や岩の塊じゃ」

潮「……」

利根「ふむ……風の雰囲気も心なしか味気ないというか」

筑摩「利根姉さん……」

利根「む、なんじゃ筑摩」

筑摩「その……」

利根「まあ、言いたいことはわかる。しかし、いくら嘆いても元通りにはならん」

利根「吾輩も、この島には楽しい思い出をたくさん貰ったからな。この有様を見て、どうしようもない無力さを味わっておる」

筑摩「……」


利根「どうして、こうなったんじゃろうなあ」

五十鈴「……本営も無神経が過ぎるわ。いくら私たちがここに住んでいたからって、喜べなんて言う?」

利根「まあ、かといって、他人にこの島を探索させるのも……」

長門「ああ。気に入らないな」

潮「3か月……なんだかすごく長い間待たされた気がしますね……」

筑摩「……いつか」

利根「?」

筑摩「いつか、この島に戻ってくる日は、くるのでしょうか」

長門「……難しいだろうな。ただでさえ深海棲艦との戦いで、金も資材も逼迫している」

五十鈴「この調査だって、近々打ち切りになるでしょうね……予算の都合で」

利根「あと、何度……来ることができるんじゃろうな」

潮「……? 誰か、近づいてきてます!」

長門「あれは……!」


 ザザァ…

ル級「アラ、生キテイタノ? 久シ振リネ……」

長門「ル級……!? 無事だったか!」

ル級「エエ。アナタ達モ、変ワッテハイナイヨウネ?」

長門「そうでもないが……普通に戻ったと言うべきか」

利根「吾輩は戸惑っておるがな。かつての提督からは、吾輩たちに作戦の立案から何からすべて任されておったからのう……」

筑摩「本当ならそれもおかしな話なんですよ。提督が作戦を考えて、提督が進軍するかどうかを決めるのが普通なんですから」

潮「言い方は悪いですけど、丸投げ、ですもんね……」

長門「提督には相応しい言い方でもあるがな」フフッ

五十鈴「この島自体が本営から丸投げされてたようなものでしょ? イレギュラーもいいところだわ」

長門「ああ。そのおかげで我々が救われたというのも、なんと言うか、だな」

ル級「……ナツカシイナ」

ル級「覚エテイルカ? ココデ会ッタトキノコトヲ」

長門「ああ。まさか浜に深海棲艦が流れ着いているとは思わなかった」


利根「……あのときか。吾輩が立ち直れていなかった時の話じゃな」

潮「ル級さんに、勝負を挑まれた、って話ですよね……?」

ル級「……長門」

長門「ん?」

ル級「モウ一度、勝負ヲシタイノダケレド、引キ受ケテクレル?」

長門「何……?」

ル級「スッキリシナイ日ガ続イテルノ。気分転換シタイノダケレド」

長門「……私もだ。陰鬱な気分を、一度忘れてしまいたかったところだ」

ル級「……」ニコ

長門「潮、合図を頼む」

潮「えっ? は、はい!」

 ザァァ…

五十鈴「あの二人、何する気なの?」

潮「あ、合図って、何をすれば……」オロオロ


利根「……あの二人は決闘する気じゃ」

五十鈴「決闘!?」

利根「うむ……あのとき一緒にいたのは朝潮じゃったな。沖に出たあの二人の間に砲撃し、水柱を立てたんじゃ」


ル級「……」ガシャン

長門「……」ガシャッ


利根「あの時と同じじゃな。長門とル級が艤装を展開して睨み合ったままじゃ」

潮「あ、あの二人の間に撃つといいんですか?」

利根「うむ。頼むぞ」

潮「は、はい!」ジャキッ

 ドーン

 ヒューーー

ル級「……」

長門「……」


 ボチャーン

ル級「!」ギンッ!

長門「!」カッ!

ル級「ハァッ!」ドガガガガン!

長門「うおお!」ズドドドドン!

 ドドドドーン!!


潮「……!!」

五十鈴「ちょ、ちょっと! なんで二人とも、回避しないのよ!?」

筑摩「ね、姉さん、止めないんですか?」

利根「筑摩、それは無粋というものだ」

利根「第一、あの間に割って入って止められると思うか」

筑摩「それは……」


ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!

長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!


潮「も、もうやめたほうが……!」

利根「うむ、これ以上は……」


ル級(大破)「ウオォォオオ!」

長門(大破)「!!」

 ドガァァァン!


利根「な……!?」

ル級「グ……」メラメラメラ…

五十鈴「ちょっと!? 今、自分から当たりに行かなかった!?」

長門「ル級、貴様……!」

ル級「コレデ、イイ……」

長門「!!」


ル級「コレ以上、海ヲ彷徨ッテイテモ、ナニモ感ジナイ……」

ル級「歓ビモ、悲シミモ、怒リスラモナイ……虚無ノ世界」

ル級「私ニハ、戦イスラ、意味ヲ為サナイ……」

長門「……」

ル級「コレデ、イいンダ……」

ル級「スベて……終エるコトガデきる……」

ル級「ナがト……アりガとう……」

 ドゴォォォン!

 ゴボッ ゴボゴボゴボ…

長門「ル級……っ!!」

利根「あやつ、最初からそのつもりで……」

筑摩「……深海棲艦の他の仲間のところに行くことはできなかったんでしょうか」

潮「ル級さん……」グスッ

五十鈴「……とりあえず、長門さんの応急処置をしましょ?」

利根「う、うむ、そうだな……」


 * *

潮「……これで、少しはもつと思います」

長門「……ああ、すまない」

五十鈴「近隣の鎮守府に応援を呼んだわ。と言っても、そのパラオも最近攻撃を受けてるらしいから、あまり余裕がないけれど」

利根「パラオもか?」

筑摩「関東が機能不全になって以来、泊地も攻撃を受けるようになったんですよね」

五十鈴「ええ、でも、トラックやショートランドみたいに南西海域の泊地だけだったの」

五十鈴「それが半月ほど前から、パラオやリンガ、ブルネイでも被害が出てきてて……」

潮「押し込められて戦線が下がっているんですね……」

五十鈴「言いたくないけど、メディウムたちの反乱がなければ私たちだってもっと戦えてたはずなのよ」

五十鈴「そもそも、本営が私たちを使って実験しようとしてたの悪いんだわ」

五十鈴「そうでなかったら、本営がメディウムたちに付け込まれることもなかったんだから!」

長門「……そうかも、しれないな」

潮「……」

筑摩「……」


利根「うむ。メディウムに認められた提督が、この島で提督を続けていただけでも、違っていたであろうな」

利根「さすれば、ル級も悲嘆にくれることはなかった……」

五十鈴「……」

利根「提督が存命のころは、おそらく戦争が終わっても、この島で暮らし続けるのではないか、と思っておった」

利根「人間の手を借りることなく、艦娘が暮らせる世界。おそらくその中には、ル級たち深海棲艦も含まれていたはずじゃ」

潮「それじゃ、ル級さんは……」

利根「うむ……ル級は、そんな未来を見出したからこそ、今の未来を悲観してしまったのかもしれぬ」

利根「もっとも、なぜ深海棲艦が人間たちを襲うのか、未だに謎のままではあるが……」

利根「戦い以外に己の存在価値を見出せぬから、そうであったと吾輩は考えておる」

長門「……」

利根「かくいう吾輩たち、艦娘の中にも、戦って散ることを望んでいる者は少なくはなかろう」

利根「かつて船であった吾輩たちも、戦没したものが大半。ゆえに悲願を達成した後の未来を想像できぬ者が多い」

利根「もしかしたら、提督はそんな者たちを導こうとしておったのかもしれんな」

筑摩「利根姉さん……」


利根「されど、やんぬるかな。今となっては全て終わってしまったこと。吾輩たちは吾輩たちができることをせねばならん」

利根「まずは長門を無事に連れ帰り、本営で修理せねばな……」

五十鈴「……あら?」

潮「? ど、どうしたんですか?」

五十鈴「七時の方向……北に船がいるわ。あの形、海軍の巡視船かしら」

潮「もう助けに来てくれたんですか?」

五十鈴「おかしいわ。私たちは日本から南下してここへ来たのよ?」

五十鈴「パラオに向けて応援を要請したのに、どうして私たちの後ろから……北から船が来るの?」

筑摩「そういえば……」

五十鈴「それに、パラオからの援軍だとしても、いくらなんでも早すぎるわ。もっと時間が……」

 ヒュ

 ボシュッ

筑摩「ごふっ……」

五十鈴「!?」


 …ガァァァ…ン…

長門「今のは銃声か!?」

筑摩「」グラッ

利根「筑摩!?」

 バシャァァァン!

利根「筑摩!! しっかりするんじゃ!」ダキカカエ

筑摩「利根……姉、さん……」

五十鈴「な……」ワナワナ

長門「筑摩はあの船から狙撃されたのか!? みんな伏せるんだ! 私の艤装に隠れろ!!」

潮「そ、狙撃って、そんな……! どうして筑摩さんが撃たれるんですか!?」

利根「長門! 幸いにも筑摩はまだ沈んではおらぬ! 島の反対側に逃げ……」

 ドパァァン!

利根「」

筑摩「え」


 …ガァァァ…ン…

長門「利根えええええ!!」

 バッシャアァァァン!

潮「ひ……!!」

筑摩「姉、さん……?」

 ゴポッ

筑摩「待って……」

 ゴボッ ゴボボボ…

筑摩「待って、逝かないで……!」

筑摩「姉さ、ねえ……さ……!!」

 トプン…

筑摩「……あ……ああ……」

長門「なんだ……なんだというんだ!?」

五十鈴「静かにして……!」

長門「何を! ……五十鈴?」


五十鈴「いいから聞いて! これ……さっきから傍受してる無線。聞こえる?」ジジッ

無線『二射目も命中。首尾はどうだ』

無線『馬鹿。いくらなんでもヘッドショットするやつがいるか』

五十鈴「……」

無線『過去の報告だと、頭に命中して深海化した駆逐艦もいただろうが』

無線『スナイパーライフルじゃ殺傷力が高すぎて、弾丸が貫通しちまうんだよ。弾丸が対象の体内に残らなきゃだめだ』

無線『なんだと? せっかくこの距離から当てたのに』

五十鈴「……」

潮「な……何なんですか……この会話」

無線『頭を吹き飛ばした方は即死したみたいだな。威力があることはいいことだが、実験としては失敗だ』

無線『そういうことなら最初から二射目を撃たせるな。で、残りは』

無線『残ってるのは軽巡1と駆逐1だな。戦艦もいるが瀕死の状態だ、間違って殺してしまっては意味がない』

無線『ほかに用意した銃は?』

無線『オートマチックのハンドガンと、サブマシンガン、ショットガン、それからアサルトライフルだな』

無線『リボルバーじゃねえのかよ。だったらサブマシンガンにするか。取りに行くから、射程まで近づいてくれ』

無線『了解』


五十鈴「……なによ、これ……こんなのに、筑摩さんと、利根さんは……!」ワナワナ

長門「……潮、五十鈴。二人は逃げてくれ」

潮「長門さん!?」

長門「私が時間を稼ぐ。本営のお遊びにこれ以上付き合ってはおれん」ヨロッ

五十鈴「無理よ! そんな体でまともに戦えるわけないじゃない! それに私たちがみんなを見捨てたりできると思う!?」

長門「どうせ死ぬのなら、戦って死ぬだけだ。実験台になど、されてたまるか……!」

筑摩「……そう、ね」ムクリ

筑摩「どうせ死ぬのなら……げほっ……どうせ沈むのなら、利根姉さんの敵を討ってからよ……!」ヨロッ

五十鈴「だから無理だって言ってるでしょ! まともに立っていられないじゃない!」ガシッ

筑摩「たとえそうでも……」ググッ

筑摩「五十鈴、あなたとはずっと一緒に戦ってきた仲間ですもの……その仲間を、守りたいと思うのはいけないこと……!?」

五十鈴「……っ!」

長門「五十鈴。潮を頼む!」

潮「長門さん!!」

 巡視船<ザザァァァ…!

長門「来るぞ!」

一旦、ここまで。

続きです。


 巡視船<ドガァァァン!

長門「な、なんだ!?」

潮「あれは……!?」

 魚雷<シュパァァァ…

 巡視船<ドガァァァン!

潮「ぎょ、魚雷です! どうして……!?」

長門「何が起こってるんだ……?」

 電探<ピコーンピコーン…

五十鈴「こ、これ見て! すごい数の深海棲艦がこの一帯に……!」

駆逐イ級「」ザバッ!

駆逐イ級たち「」ザバザバッ!

潜水カ級たち「」ユラ…ッ!

無線『この海域にこんなに深海棲艦が潜んでるなんて聞いてないぞ!』

無線『早く離脱しろ!』


駆逐イ級「グパッ」ジャコッ!

 砲弾<ドゥン!

 無数の砲弾<ドンドンドンドン!

 無数の魚雷<シュパパパァァァ…!

 巡視船<ドガドガドガァァァン!

無線『うわああああ!! ザザッ……ジー……ブツッ』

長門「駆逐艦と潜水艦ばかりだな……」

駆逐イ級「」ザバッ

駆逐ロ級「」ザバッ

重巡ネ級「」ザバァ

五十鈴「見て……あれは……!」

潮「あ、あのネ級、頭に、穴が開いています……!」

長門「もしかして……」

筑摩「利根……姉さん……!?」グスッ


重巡ネ級「……」チラッ

筑摩「!」

重巡ネ級「……」ザシャァッ ドガーン

五十鈴「一瞬こっちを見て、頷いたように見えたわ……」

長門「だとしたらやはりあれは利根なのか……?」

筑摩「姉……さん……!」ボロボロボロ

いきなり長門たちの前に引き返してきた駆逐イ級「」ザザァ

五十鈴「?」

駆逐イ級「」ジャコッ!

長門「しまっ……!!」

 煙幕弾<ボフン!!

長門「!?」

五十鈴「な、なに!?」

??「さ、みなさんはこっちですよぉ!」

潮「あ、あなたは……!!」


 * 墓場島 南岸 *

 遠くで炎上している巡視船< ゴォォォ…

??「よく燃えますね~」

長門「まさか、お前に助けられるとはな……青葉」

??→青葉「うーん、まさかだなんて、どういう意味でしょう? 青葉、そんなに頼りないですか?」

長門「そういう意味じゃない。青葉、お前わかってて言ってるだろう?」

青葉「えへへへ……」ポリポリ

五十鈴「……筑摩さん」

(波打ち際に筑摩が寝かされている)

五十鈴「……どうして? どうしてよ……!?」グスッ

青葉「おそらく、最初からこれが狙いだったんじゃないですか?」

青葉「今の本営に対して比較的従順ではあるものの、不安要素を抱えた艦娘たちです。体よく始末する方法として……」

長門「青葉」

青葉「……」


五十鈴「……いいわよ。厄介がられたのは確かだもの……」

長門「……利根と筑摩のことは許せないが、表立って敵対するのも考え物だ。これからどうしたものかな」

潮「……こうなるしか、なかったんでしょうか……」

青葉「今となっては、青葉はこうするしかなかったと思いますよ?」

青葉「巡視船内の通信は青葉も傍受しましたが、深海棲艦製の弾丸を使って、皆さんの殺害を図ったのは事実です」

青葉「あわよくば深海棲艦化の実験台にしようともしてましたよね。未だに続けてるんですねえ、あの実験」

青葉「青葉が情報を散々リークしたのにまだ続いてるってことは、実験の継続が認められたってことなんでしょうか?」

五十鈴「……深海棲艦の調査、って意味では、認められてるみたいよ」

青葉「ん~、そうなんですか。もうちょっと根っこから揺さぶらないと駄目だったんですねえ。ちょっと先走りしちゃったかなあ?」

五十鈴「先走りって……まだなにか企んでるつもり!?」

青葉「ええ、本営に近い協力者にお願いして、今回の襲撃事件についても問い質そうとしてまして」

長門「……連中に具合の悪い情報を突き付けても力づくで揉み消すだろう。あまり意味はないと思うぞ?」

青葉「その時はその時、ですよ。残念な結果になったときはそれ相応の結末になるだけです」

青葉「そうはなってほしくありませんけどね。真面目に頑張ってる提督の方々が不憫でありませんよ」ハァ…

潮「……本当に……」ウツムキ


ネ級「……」ザザァ…

長門「!」

青葉「戻ってきましたか。向こうの始末は終わりましたか?」

ネ級「……」コク

ネ級「……」ジッ…

(横たわる筑摩を見つめるネ級)

青葉「ああ、なるほど。筑摩さんを弔いたいんですね」

ネ級「……」コク

ネ級「……」ジッ…

潮「……わ、私たちを見てるんですけど……?」

青葉「ああ、それは筑摩さんを連れて行っていいか、皆さんにも訊いてるんですよ」

長門「そうか……私たちにはどうにもできないからな。よろしくお願いしたい」

潮「……そう、ですね……お願いします」コクン

五十鈴「……丁重に、弔ってあげて……」ウツムキ

ネ級「……」コク…

(筑摩を抱きかかえ、ネ級が海に消えていく)


五十鈴「……はぁ……これからどうすればいいの、私たち」

五十鈴「味方のはずの海軍に襲われて、敵のはずの深海棲艦に助けられて……!」

青葉「一応怪しまれないように、イ級さんに煙幕弾を持たせて、戦ったふりだけするようにお願いしたんですがねえ?」

青葉「もし戻ろうとするなら、海軍と深海棲艦の攻撃から命からがら逃げてきた、ってストーリーで行けると思いますけど?」

五十鈴「……無理じゃないかもだけど……」

潮「あ、あの、青葉さん……」

青葉「はい?」

潮「その……青葉さんの髪の毛が、ずっと濡れてるのって……やっぱり……」

五十鈴「!」

長門「……」

青葉「……あー……はい。お察しの通り、ですよ」ニコ…

潮「……あの、ごめんなさい……!」ウルッ

青葉「あーいやいや、どうぞお気になさらず! 青葉、もともと危ない話に首を突っ込んでましたから!」

青葉「こうなることはある意味予想通りなんです。だから気にしないで!」

長門「……そのお前が姿を現したのは、どうしてだ?」

青葉「それはですね、皆さんがこちらに来る情報を掴みましたので、一度話をしたかったんです」

青葉「ここまできたんだし、正直に言っちゃいましょう!」

青葉「皆さん! 『こちら側』に来ませんか!?」

長門「……!」

五十鈴「……っ!」

潮「……」

今回はここまで。

続きです。


 * ほぼ時を同じくして *

 * 舞鶴鎮守府 大会議室 *

「……ということで、まずは本営を神戸に移す案で進めます」

「関東地方のインフラの復旧については、陸軍が担当することになった」

「我々が関東で活動しようとしても、陸の連中はいい顔をしないだろう。関東地方の防衛は手薄になる」

「大湊の諸君に頑張ってもらうしかないが、物流がな……」

「まったく、なぜ横浜が……!」

「それもこれも『魔神』などという化け物のせいだ! なんで海軍の施設を乗っ取ったりしたんだ!」

「魔神などとそれらしい名前がついているが、結局は深海棲艦と同じだろう! やつらが我々を敵視しているから……」

 ザワザワ…

仁提督「……責任転嫁もいいところだな」ボソッ

L提督「聞こえますよ、仁提督」ヒソッ

仁提督「だが、この事態は海軍の自業自得だとは思わんかね、L君」

仁提督「海軍は、極秘裏に艦娘を使った実験をしていたんだぞ? そんなことをやっていれば、付け込まれて然るべきだろうに」ヒソヒソ

L提督「仁提督……っ!」


仁提督「ふん……海軍として、国民に対し後ろめたいことをやった。そして、その報いを受けた。それだけのことだ」

仁提督「そしてそういう時に決まって犠牲になるのは、何も知らなかった民間人だ」ハァ

L提督「……」ハァ

 扉<コンコン

「ん?」

 扉<チャッ

榛名「失礼いたします」スッ

「誰だ?」

「艦娘の榛名だな……どこの鎮守府のだ?」

「会議中だ、艦娘が入ってきて良い会議ではない!」

「速やかに退室せよ!」

榛名「申し訳ございません。元帥閣下をはじめとした皆様に、大至急お伝えしたいことがございます」

榛名「先立って決定した通り、深海棲艦の侵攻を止めるべく編成された選抜隊がショートランド泊地へ出発致しました」

榛名「その選抜隊より連絡があり、本営が事前に察知していた情報より、明らかに敵戦力は泊地戦力を上回っていることを確認したとのことです」

榛名「そのため、泊地から救援要請が来ています。大至急、援軍をお願いに参りました」

「何?」


「馬鹿な。深海も、ショートランドにそんな戦力を向けてどうもならんだろう」

「後で調査したうえで検討する。榛名、退室せ……」

榛名「それから……」

「!」

榛名「過去に火山活動によって壊滅した××国××島……過去に墓場島と呼ばれていた島の調査隊が襲撃されました」

榛名「調査隊は艦娘で編成されていましたが被害甚大、ほぼ壊滅状態……」

榛名「襲撃犯の使用した武器に、深海棲艦の遺骸から製造された武器が使用されていたそうです」

 ザワ…ッ

榛名「深海棲艦から武器を作る技術は、海軍の中でも最重要機密として厳秘管理されているはず」

榛名「その武器を襲撃犯が持っていたというのは、どういうことでしょう?」

「「……」」


仁提督「……あの榛名……もしかして、墓場島のやつじゃないのか?」ヒソッ

L提督「まさか? その榛名はパラオ沖で没したと聞いていますよ?」

仁提督「なに?」



榛名「……海軍はなぜ、この戦況で足の引っ張り合いをしているのですか?」

 ドヨッ

「き、貴様、言うに事欠いて何を根拠にそのようなことを……!」

榛名「榛名は気付いてしまいました」

榛名「ショートランド泊地に送られた選抜隊の人選に、偏りがあると」

榛名「深海棲艦と友好関係を結ぶ方法を模索していた人たち、深海棲艦から武器を作るのに反対していた人たち」

榛名「それから、今の本営の主要な派閥と意見の合わない人たちや、陸軍とパイプのある人たち……」

榛名「そして、墓場島にいた艦娘たち」


L提督「!」ガタッ

仁提督「お、おい!? 落ち着け!」グイ


「そんなものは偶然だ。我々は、今動くことのできる戦力を送り込んだまでのこと」

「本土もまた、関東地方の防衛がままならない状況にある。すべての戦力をショートランドに割くわけにはいかん」

榛名「緊急事態ではない、ということですね?」


「そうだ。わかったら速やかに退……」

榛名「果たしてそうでしょうか?」ガサッ

「なんだその紙袋は」

榛名「ショートランド泊地近海の深海棲艦の動向について、本営が入手した情報のすべてです」

榛名「日時と一緒に写真に収めてあります。ご覧になりますか?」バサ

「……これは、本物なのか?」

「もしこれが本物だとしたら、ショートランド泊地に艦隊を集めないと泊地が落とされるぞ……!」

「いったいどこからこの情報を?」

榛名「このメモリーです」スッ

榛名「この中に、本営の特定のメッセージを受け取るための認識コードが入っていました」

榛名「今お配りした情報は、この接続コードを使用できるユーザー限定に配信されていた、厳秘情報です」

「……な、なぜ貴様がそんなものを!」

榛名「これは、深海棲艦と魔神に襲撃された、あの研究施設で見つけたんです」

 ザワ…!


榛名「つまり、あの研究施設で働いていた人が、この情報を見ることができていた……」

榛名「そして、ショートランド泊地に向かわせられた人たちが、どういう人たちか……」

榛名「榛名が何が言いたいか、お分かりになりますね?」

「……」

仁提督「……本営の意思にそぐわない者を、激戦となるショートランドへ送り込み、戦死に見せかけ始末しようとしている、とでも言いたいのか」

L提督「仁提督!?」ギョッ

榛名「はい、その通りです」ニィッ…

仁提督「っ……!」ゾク

榛名「ショートランドへ送られた戦力も、この敵戦力の前では焼け石に水です。ただただ犠牲が増えるだけ」

榛名「それなのに、それ以上動こうともしないと仰るのであれば……泊地の者たちを見殺しにするおつもりだと、そういうことですね?」

「貴様! いち艦娘でありながら口が過ぎるぞ!」

榛名「榛名は、泊地の危機をご報告に」

「艦娘が我々の決定に口を出すなと言っている!」


榛名「そうですか……ですが、榛名は……」

 メキ

榛名「榛名はもう……」

 メキメキメキ

榛名「大丈夫ではありません」

 バギン! バギン!

榛名「榛名はもう、『口』を出さずには、いられないんです……!」

(榛名の艤装が裂けて、裂け目に歯が生える)

 ザワッ…!

「う……!!」

「き、貴様、深海棲艦か!?」

榛名「何をとぼけておられるんですか? これは、あなたがたが望んだ姿ですよ?」

「俺たちが望んだだと……?」

榛名「かつて、艦娘養成所、という、艦娘育成を目的とした海軍の外部組織がありました」

榛名「外部組織と銘打たれてはいますが、それは建前……実態は、海軍の実験用艦娘の管理施設です」


榛名「研究所では、艦娘と深海棲艦の実態を調査すべく、深海棲艦を鹵獲しての調査が始まり……」

榛名「その中で、深海棲艦の艤装から武器を作る技術の研究を進めるとともに、同様に艦娘の艤装から武器を作る研究もなされていました」

榛名「しかし、艦娘からはなかなかうまくいかず……ならば艦娘を深海棲艦にできないか、というふうに研究がシフトしていったのです」

「何を根拠にそんな作り話を……」

榛名「榛名は、そこで研究対象として実験台にされていた艦娘の一人です」

 ドヨッ…!

榛名「研究所は実験のために、艦娘を、精神的にも肉体的にも追い詰めて轟沈させ……」

榛名「絶望を与えて深海棲艦化させようとし、それを観察しようとしたのです」

榛名「結果は失敗でした。榛名たちは轟沈こそしましたが、深海棲艦化することなく、あの島の砂浜に流れ着きました」

榛名「そこで榛名は、提督少尉……当時は准尉でしたけれど、彼を慕う艦娘によって運良く助けられ……」

榛名「これまで艦娘として、戦い続けることができたんです」


仁提督「やはり……あの榛名……!」

L提督「墓場島の……!?」


榛名「榛名は幸せでした……提督小尉の下で、艦娘としての本分を全うすることができたのですから」

榛名「ですが、榛名が敬愛した提督も、海軍の内輪もめによって命を落としました……決して、火山活動が原因ではありません」

L提督「……っ!」

仁提督「……」

 シ…ン

榛名「提督少尉を死に追いやり、その悲劇の原因となった研究は未だに継続され、今なお仲間を己の都合のために死地に追い込む……」

榛名「榛名は、今の海軍に失望を禁じ得ません……!」

「だから、深海棲艦になったと……?」

榛名「……深い失望によって、こんな姿になるなんて、榛名は想像したこともありませんでした」

榛名「ですから、その問いには、はいと答えることはできません」

榛名「でも、榛名が深海棲艦になってしまったのは……事実ですね……ふフっ、ふふふフフ……!」ザワ…

 チャキッ

拳銃を構える将官1「元帥閣下、ここはお任せを」

元帥「……任せたぞ」

将官1「はっ!」


榛名「……お待ちを、元帥閣下。ショートランド泊地への援軍の件は、どうな」

 ドンッ

榛名「ぐ……」ヨロッ

L提督「!!」

仁提督「……!」

将官1「黙れ。艦娘の……否、深海棲艦の分際で意見するか」

榛名「……げふ……っ、は……榛名、は……」

将官1「まだ倒れんか……女の皮をかぶった化け物め」

 ドンドンドンッ

榛名「っ!! あ、ああああ……!」ガクッ

榛名「げほっ……げほげほっ……」ビチャビチャッ

「……」

榛名「榛名は……」

榛名「榛名は、金剛お姉様を誇りに思っていました……」フラ…

榛名「どんなときも前を向き、私たちと、人間を助けることを……愛をもって接することを、没する時まで忘れなかった、金剛お姉様……」


榛名「でも、あなたたちは……本当に、人間を助けようと思って、この海軍を率いているのですか」

 シーン…

将官2「その通りだ。我々は人間のために戦っている」ガシャン

「な、なんだあのでかい鞄」

将官2「海を亡霊どもから取り戻す。その成就のためには、艦娘も、海軍の人間も、駒として扱うだけの話だ」ガパッ ガシャッ

榛名「!!」

仁提督「機関銃……だと!?」

 機関銃<ガガガガガガ…!

榛名「あ……」

榛名「あが、あああ……!!」

将官1「艦娘も深海棲艦も、本当ならこの海には不要なものだ……!」

将官2「勝手に海からやってきて、我が物顔で跋扈する貴様らに、これ以上の勝手は許さん……!!」

榛名「ぐ、ぐぅ……」ヨロッ


将官1「まだ生きているのか……おい」

将官3「ああ、こいつでとどめだ」ジャコッ

 散弾銃<ドガンッ!

 ドチャッ

「「……」」

 シーン…

L提督「う、うう……おえっ」ヨロッ

仁提督「お、おい、大丈夫か!?」

仁提督「すまん、あけてくれ! こいつは民間出身なんだ、トイレに連れて行く」ガタッ

L提督「うぐ……す、すみません」

 チャッ バタン

L提督「……うう」ヨロヨロ

仁提督「……」

 ヒョイ

L提督「うえっ」カツガレ

仁提督「悪いが少し我慢しろ」カツギアゲ

L提督「す、すみま……うぷっ」

仁提督「礼には及ばん。俺も気分が悪い……一刻も早くあの場から離れたかったところだ」


 * トイレ *

 ジャー…

L提督「……」グッタリ

仁提督「今日はもう仕事は無理だろう……俺も戻りたくもない、帰るぞ」

L提督「はい……ご迷惑おかけしました」

仁提督「謝らんでいい。陸自出身の俺だって耐えられた絵面じゃなかった。民間出身のお前じゃショックを受けて当然だろう」

L提督「……それも、ありますが」

L提督「僕の鎮守府にいた古鷹や朝雲も、僕の不手際で墓場島に行っていた時期があったんです」

L提督「あの二人の身に何かあったらと思うと……」

仁提督「……」

L提督「こんなことになるなんて……!」

仁提督「考えるのは後にしよう。早く帰って体と頭を休めておけ」

L提督「古鷹……」グス


仁提督「ショートランド泊地にも、この事実を伝えなければならんだろうな」スマホトリダシ

仁提督「……仁提督だ。金剛、帰り支度だ。ああ、予定より早いがこれから戻る、L提督も一緒だ」

仁提督「車を出しておいてくれ……少々気に入らんことがあってな。L提督もそれで気分を悪くした」

仁提督「俺も今回ばかりは海軍に愛想が尽きそうだ。遠地勤務も考えなければ……」

 ズズゥン…!

仁提督「!? なんだ、この揺れは……!」

L提督「仁提督……早く、この建物を出ましょう……!」アセビッショリ

仁提督「な……L提督、その汗はどうした!?」

L提督「わかりません……けど、悪寒が……!」ガタガタ

仁提督「……金剛! すぐ車を出せるよう準備しておけ! 切るぞ!」ピッ

仁提督「L提督、お前は妖精が見えるんだったな!? だとしたら嫌な予感しかせん! 走るぞ!」ダッ

L提督「は、はい……!」ヨロッ


 * 大会議室 *

将官1「……う、撃て! 早く撃てっ!」

 機関銃<ガガガガガガガ…!

榛名?「……」バチュンバチュンバチュン

将官2「ひ、被弾しながら迫ってくる!?」

将官1「効いてないのか!?」

将官3「どけ!」ジャキ

 散弾銃<バガンッ!

榛名?「……っ!」バジュッ

 ドシャッ

将官3「とどめだ!」

 散弾銃<バガンッ! ドガンッ! ズドンッ!

 シュゥウウゥ…


将官1「やったか!?」

将官3「……!」

榛名?「……」ムクリ ジワジワジワ…

将官1「だ、駄目だ……」

将官2「な、なぜ再生するんだ!? これまでの実験でも効くと言ってたんじゃないのか!」

榛名?「ナゼ?」

榛名?「理由ハ簡単ヨ……コノ子モ、海ノ底ヲ見テキタカラヨ……!」

将官1「ど、どういう意味だ……!?」

榛名?「理解スル必要ハ、ナイワ……ドウセ、ココモ海ニ沈ムノダカラ」グラ

 ドシャッ

倒れた榛名の血だまりの中から現れる戦艦棲姫「アナタタチノ、血ノ海ニ、ネェ……!!」ズルゥ

「「「!!!」」」


「せ、戦艦せ……」

戦艦棲姫『グオォォオオ!!』 ドガン!

「に、逃げろ!」

「退避!! 退避だ!!」

 ドガンドガン!

「うわああああ!」

 ドゴオオォォォォ…!

戦艦棲姫「フフフ……!」

 ドガンドガン!

 ドガンドガンドガン!

戦艦棲姫「アァ、血ノ海モ良イケレド……火ノ海モ良イワネエ?」

 ドガンドガンドガンドガン!

戦艦棲姫「ホォラ、嫌ナラ、抵抗シテ御覧ナサイ……!」

 ドガドガドガドガーーーーーン!


 ゴオオォォォォ…!

戦艦棲姫「……アァ……ミンナ、ミィンナ、壊レテシマッタワネ……フフフ……!」

(ぼろぼろになった榛名を抱きかかえる戦艦棲姫)

戦艦棲姫「沈メルダケデハ飽キ足ラズ、殺メ、弄ビ、同胞ヲ傷付ケル道具ニスルナンテ……」

戦艦棲姫「『ヒト』デナケレバ何ヲシテモ構ワナイノカシラネェ」

戦艦棲姫「……」

戦艦棲姫「理解デキテイタナラ、アナタガコンナ目ニ遭ウハズガナイモノネ……」

戦艦棲姫『オォォオオオオォォォオオオ!!』

(戦艦棲姫の艤装が吠えると、数多の弾丸が黒い霧になって艤装の口に吸いこまれる)

戦艦棲姫「サア……『ミンナ』デ海ニ還ルワヨ……フフフフッ」ニコ…

 * * *

 * *

 *

今回はここまで。


まずはひとつ懺悔。

もうひとり、影牢サイドから出さないといけないキャラが出てしまったので、こちらをご参照ください。
ttps://www.gamecity.ne.jp/kagero3-2/character_06.html
「影牢 ~もう1人のプリンセス~」に出てくるエフェメラです。

この話では、純粋に「罠だらけ」に出たキャラと
「トラップガールズ」のキャラだけで完結させるつもりでしたが、
前日譚にあたる「墓場島鎮守府?」に出てきていたL提督や仁提督、エフェメラを出さないと
話の辻褄が合わなくなってしまい、力不足を露呈してしまったのが悔いが残るところです。

それでは、短いですが続きです。




 * とある回顧録 *

『……私が海難事故に遭ったのは、高校二年の秋でした』

『船が転覆し、私を含めて数百もの人が海に投げ出されて、その大多数が命を落としました』

『私はその海難事故で運よく生き残った一人でしたが、その時に海中で恐ろしいものを見たのです』

『それが何者なのかはわかりません。明確に覚えてもいません。ただ、漠然と、恐ろしかったことだけを、覚えています』

『それからというもの、暗くて深い、海の底にいる夢を見るようになりました』

『私は怖くて、海から離れたくて、山村から来た男性と結婚し、海から逃げるようにその山村へと移り住みました』

『やがてその男性との子を授かり、田舎の暮らしにも徐々に慣れていきましたが』

『それでも、私は海の底を見ているような夢を見続けていました』

『しかし、その夢をぱったりと見なくなったのは、あの子を産んでからです』

『いつしか私の体に纏わりついていた、水の中のような浮遊感が消え……』

『あの子を産んだことで、漸く地に足がついたような感覚を覚えたのです』


『そのせいか、私は、どうしても、あの子を可愛いと思うことができませんでした』

『泣き声はサイレンのようで、抱いてもそれが水袋のように思えて、どうしても、愛情を注ぐことができなかったのです』

『夫は、もう一人、子供を作りたいと言いましたが、私は不安でした。この子と同じ思いを、その子にも抱くのではないかと』

『しかし、二人目はそんな思いを微塵も抱くことなく、ころころと可愛い笑顔を見せてくれたのです』

『私が息子と呼べるのは、この子だけでした。もう一人の、あの子は、私にとっては、得体の知れない何かなのです』

『私は話しかけることができませんでした。恐ろしくて、遠巻きに見ていることしかできなかったのです』

『最近になって、艦娘という女性の集団が、海に出没する化け物たちを倒しているというニュースを見ました』

『シンカイセーカンという化け物たちもテレビに映し出され……それで、私は思い出したのです』

『私の夢にずっと出てきていたのは、あの海難事故で見た恐ろしいものは、あれではなかったのかと』

『そして、私のお腹から出てきた『あれ』も、そうだったのではないのかと』

『こんなことを、誰にも言えませんが、そうだったのではないかと、感じているのです……』




 * 舞鶴鎮守府襲撃事件より二年後 *

 * 日本某所 選挙事務所 *

テレビ『歴史的瞬間です! ついにシンミン党による政権交代が実現しました!』

議員「バンザーイ!」

議員「幹事長おめでとうございます!」

幹事長「皆、よくやってくれた! ありがとう!」

幹事長「ところで、『彼』はどこへ行ったんだ?」

議員「い、いえ、それがつい先ほどから退席しておりまして」

幹事長「この政権交代の立役者だというのに、どこへ行ったというんだ?」


 * 事務所の一室 *

(誰もいない事務所の一室で、提督の父親がたたずんでいる)

提督父「……」

 ス…

提督父「……!」フリムキ

謎の女性「……盗聴器は、私がすべて処理致しました。ご安心を」

提督父「……ご苦労」

謎の女性「……」ペコリ

提督父「ようやくだ」

提督父「やっとここまで来た……!」


 * 回想 数十年前 *

プリント『○○村 ダム工事に関する連絡会』

若かりし頃の提督父「くそっ、頭の固い役人どもめ……俺たちの村を見捨てる気か!」グシャッ

提督父「村の連中も、最初は俺たちにやめさせろと言ってたくせに、ほいほい手のひらを返しやがって」

提督父「俺だけが馬鹿させられたようなもんじゃねえか!」

提督父「せっかく大学まで出たのに仕事がなくて帰ってきたからって、面白半分で好き勝手に噂しやがるし」

提督父「こんなことならこんな村に戻ってこなきゃよかったぜ……!」

提督父「ガキももうすぐ生まれるし、金もねえから逃げるわけにもいかねえ……!」

提督父「くそっ! なんで、どいつもこいつも俺を認めようとしねえんだ……!!」

 カタッ

提督父「誰だ!」

謎の女性「……はじめまして」

提督父「だ、誰だお前は!? 変な恰好しやがって……どこから入ってきた!」

謎の女性「私は、エフェメラと申します」

提督父「エフ……? 外人か? 俺に何の用だ」


エフェメラ「……我らが神の命に従い、あなたの元へ馳せ参じました」

提督父「カミ? ……宗教の勧誘か? そういうのは要らねえよ。余所へ行け、余所に」シッシッ

エフェメラ「……このままでは、あなた様は出世とは無縁の人生を送ることになります」

提督父「ああ? 何が言いたいんだ」

エフェメラ「私は、あなた様に信心や金銭を求めるつもりはありません」

エフェメラ「ただひとつ。我らが神に、あるものを捧げていただければ、あなたの人生の成功をお約束いたします」

エフェメラ「あなた様が望む、地位も、富も、名誉も、一族の繁栄も……」

提督父「はぁ……?」

エフェメラ「……」

提督父(……おかしい……言ってることはどう考えてもおかしいのに、こいつの瞳から視線を外せねえ)

提督父(ただの人間じゃねえことはわかる……いや、人間なのか? こいつ、何者だ……?)

エフェメラ「……」

提督父「おい……何が望みだ?」

エフェメラ「私が求めるのは……」

エフェメラ「これから生まれてくる、あなた様の子の、人生そのものを戴きたく」

提督父「!? な、なんだそりゃあ!」


エフェメラ「もし、あなた様が御子の不幸を望まないのであれば、そのようにもできますが……」

エフェメラ「そのようにしたのなら、あなた様はこれからもこの小さな村で小さく暮らし、やがて生涯を終えることになりましょう」

提督父「何を根拠に……!」

エフェメラ「ですが」

提督父「っ!?」ビク

エフェメラ「我らが神が、あなた様に降り懸かるすべての理不尽と不条理を、すべてあなた様の子に移し替えるのです」

提督父「なんだそりゃ……ガキを、身代わりにしろ、ってことか?」

エフェメラ「はい」

提督父「……待てよ、矛盾してるぞ。お前はさっき、一族の繁栄も夢じゃねえっつったよな?」

提督父「俺の子供が不幸になったら一族の繁栄なんて有り得ねえんじゃ……」

エフェメラ「不幸になるのは、これから生まれてくる子供だけです」

提督父「これから? 二人目以降は問題ねえ、って意味か?」

エフェメラ「はい」

提督父「……」


エフェメラ「これから生まれてくるその子は、やがて世迷言を言い出すでしょう」

エフェメラ「誰も理解できぬ妄言に始まり、反抗、反発、離反……その子は、間違いなく誰からも認められない不幸な人生を歩むでしょう」

エフェメラ「災いの海より生まれし忌み子……あなた様は、それと道連れなさるおつもりですか?」

提督父「……災いの、海……?」

エフェメラ「はい……心当たりもありましょう」

提督父「……」

提督父「……俺の妻は、学生の時に海難事故に遭っている。海のそばには住みたくない、プールも嫌だというほどだ」

提督父「それが関係しているのか?」

エフェメラ「……あなた様の奥様にどのような過去があったかは、私の語るところではありません」

エフェメラ「ですが、奥様の身籠りしその命には、間違いなく、海との深き縁がありましょう」

提督父「……」


エフェメラ「……」

提督父「本当に……」

エフェメラ「……」

提督父「お前は、本当に、俺に損をさせないんだな?」

エフェメラ「はい、その通りです、『ご主人様』」

 * * *

 * *

 *



 * 現在 事務所の一室 *

提督父「……あれから三十年か」

エフェメラ「……」

提督父「あのときから全く姿形が変わらん貴様は、やはりこの世のものではないのだな」

エフェメラ「……」


提督父「海は化物が蔓延(はびこ)る魔境となった。だが、それを退治しようとする化物も、時を同じくして現れた」

提督父「エフェメラ……貴様はどちら側だ?」ジロリ

エフェメラ「……」

提督父「ふん、まあいい。貴様が何を企もうと、貴様は俺たちの一族の繁栄を約束した」

提督父「貴様にくれてやった『アレ』を海軍が買い取り、その数年前には海軍の内紛と火山の噴火で死んだと聞いているが……」

提督父「それが俺との約束を反故にする理由にはならない。そうだな?」

エフェメラ「はい。その通りにございます」

提督父「ならば良い。まだ政権を取っただけで、その地位を盤石にするためには時間がいる」

提督父「くれぐれも、俺たちに何もないようにな」

エフェメラ「畏まりました」

提督父「……」

 バタバタバタ

 コンコンコン ガチャッ

議員「先生! こちらにいらしてたんですか!」


議員「おひとりで何をなさっていたんですか?」

提督父(エフェメラの奴は消えたか……)

提督父「悪いな、さすがに疲れて、気分転換したかったところだ」

議員「テレビの取材が来ていますよ!」

提督父「ああ。今行く」

 スタスタ…







再び現れるエフェメラ「……」

エフェメラ「我らが魔神様の真の復活には、大量の魂が必要……」

エフェメラ「人間も、艦娘も、深海棲艦も……増やして、刈り取り……等しく魔神様の糧とするだけ」

エフェメラ「すべては、魔神様のために」


今回はここまで。

このシナリオは、次回が最後になります。

それでは、最後です。


 * 本営 *

不知火「……以上、ご報告いたします」

新元帥「ご苦労だった。相変わらず苦しい戦況か……」

不知火「はい。しかし、それよりも……」チラッ


テレビ『……以上、シンミン党本部より、喜びの声をお伝えしました。続きまして、惨敗した現政権の……』


新元帥「……俺たちの存続も危うい、か」

不知火「……」

新元帥「負け戦続きで海外の泊地も攻め込まれ、資材調達もままならない」

新元帥「かといって泊地を手放せば、いよいよ奴らの攻撃が本土にまで迫ってくる……」

新元帥「舞鶴の一件が引き金だったかな……」フゥ…


テレビ『……防衛大臣はこれまで、今の艦娘を主力とした海軍の必要性を訴えてきましたが……』

テレビ『今回の選挙結果は、それが改めて否定されたということになります……』


新元帥「……」

不知火「……」


新元帥「不知火。我々の任務は変わらない」

不知火「はっ」

新元帥「引き続き、深海棲艦の邀撃と、泊地の防衛に当たってくれ」

不知火「承知しました」ビシッ

 クルッ スタスタ…

 扉<パタン

新元帥「……」

テレビ『未だ謎の多い深海棲艦なる勢力が制海権を広げる中……』

テレビ『艦娘と呼ばれる女性たちがその戦線に立つことに多くの国民が疑問を抱いていました……』

テレビ『今回の選挙によって、民意は大きく艦娘不要論に傾いたことがうかがえます……』

新元帥「……」

テレビ『……新政府与党は、今回の選挙で国内海外に駐留する海軍と、その支配下の艦娘をすべて撤退させ……』

テレビ『海軍を解体、それに代わる組織を編成し、艦娘を国防に従事させる公約を掲げてきました……』

新元帥「……」ピッ

テレビ「」プツン

新元帥「……」


 * 本営 埠頭 *

不知火「……」スタスタ…

不知火「!」

若葉(中破)「……不知火……!」

不知火「若葉……! 無事でしたか……!」

若葉「……ああ。やっとだ……やっと、五月雨のかたきが取れた」ニコ…

若葉「だが……」

不知火「……」

若葉「また、近くの鎮守府が襲撃された。軽巡棲姫の仕業だ」

不知火「……あの人も、まだ司令の影を追いかけ続けているのですね」

若葉「ああ。提督を求めて単身で鎮守府へ攻め込んでは、その鎮守府の司令官を殺害する……『提督』ではないという理由でな」


若葉「若葉たちのかつての提督は、もうこの世界にはいないというのに」ゴソ

不知火「……」

若葉「……」カチン シュボッ

不知火「……煙草ですか。怪我に障りますよ」

若葉「一服だけさせてくれ」ライターサシダシ

不知火「?」

若葉「若葉は、みんなの無念を晴らしたい。かたきを取りたくて戦っている」

若葉「このライターも、誰かの形見だ……これで、やっと報告できると思ったんだ」

不知火「……献杯ならぬ、献煙、ですか」

若葉「……」スパ…

若葉「しかしだ……こうやって誰かの無念を晴らしても、それ以上にまた別の新しいかたきが増えていく」

若葉「すべてのかたきを取る日は、くるんだろうか……」フー…

不知火「……」


若葉「……すまない、湿っぽくしてしまったな」フラ…

不知火「!」

若葉「大丈夫だ、一人で歩ける。不知火も任務があるんだろう? 手遅れになる前に、行ってきてくれ」

 グニャ

不知火「……?」

 グニャグニャア…

不知火「?? 空間が、歪んで……!?」

若葉「不知火……!?」

 (不知火の周囲の景色がねじ曲がり、球状の薄い膜が出来上がると)

若葉「不知火っ!!」

 パチンッ!!

 (風船が割れたときのような甲高い炸裂音が響いて)

 (次の瞬間、不知火の姿が消えている)

若葉「……し、不知火っ!!」

若葉「な、なんてことだ……!」


 * ??? *

不知火「……こ、ここは?」キョロキョロ

(中世の王宮の大広間のような場所)

不知火「……」

不知火「……」

不知火「……」ピク

不知火(背後に恐ろしい気配が……!)ゾワッ

 クルッ

提督「よお、不知火」

不知火「……!!」バッ

提督「!」

不知火「……あ、あなたは……司令、ですか……!?」

提督「……ふん、お前にここまで警戒されるとはな。俺もだいぶ変わっちまった、ってことか」

不知火「……」


提督「いいさ、俺はこの変化に後悔はしていない。なるべくしてなった、こうなることを俺は選択したんだ」

提督「今の俺なら、お前を殺すのも躊躇しないだろうな。だからこそのお前の態度なんだろうが……」

不知火「……っ」ジリッ

提督「そう身構えんな……っつっても、無理矢理こんなとこに呼び出してちゃあ当然か」

提督「少なくとも俺はお前を手にかける気はない。話をしに来たんだ」

不知火「話……ですか」

提督「ああ、不知火。お前も、こちら側に来い」

不知火「!」

提督「俺がお前を呼び寄せたのは、それを伝えたかったからだ」

提督「人間どもはお前らの奮戦に感謝もせず、それどころか、お前らを支援する人間どもすら厄介者扱いしているじゃねえか」

提督「お前がこれ以上人間に与したところでいいことがあるのか?」

提督「艦だったころとは人間の質が違う。かつてのように、お前たちの帰りを待つ者も、お前たちの無事を願う者もあまりに少なくなった」


提督「不知火。お前は何のために戦う? 報われもしないのに血と汗を流して、それでいいのか?」

不知火「……不知火は……!」

提督「……」

不知火「……」

提督「そうか。なら好きにしろ。邪魔はしねえよ」

不知火「司令……!?」

提督「そんな顔して即答できないくらい悩んでたんじゃ、こっちに来たくないか、来ることができない余程の理由があるんだろ」

提督「不安要素抱えたままこっちに来たんじゃあ、いざって時の判断力が鈍る。そういうのはよろしくねえ」

不知火「……申し訳、ありません」

提督「いいさ。不利も無理も承知で足掻きたいって姿勢、少し呆れてもいるが、お前らしいとも思う」

提督「だから俺たちはお前には手を出さねえよ。こいつはお前たちの戦争だからな」

不知火「司令……」

提督「……ただし。それはお前が戦えている間の話だ」

不知火「!」


提督「俺たちは、この世界に戻り、人間どもを駆逐する気でいる」

不知火「な……!!」

提督「俺はもともとこちらの世界の人間だった。だからこそ、けじめをつけてやろうって考えてる」

提督「お前が海に沈んだとき。お前が戦うすべを失ったとき。お前が人間に絶望したとき……!」

提督「そのときは、俺たちはお前のすべてを攫いに行く」

不知火「……っ」

提督「……そうだな、最後に懐かしい顔に会わせてやるか」

 コツ…コツ…

不知火「……! あ、あなた方は……!」

大和「お久し振りです……!」ニコッ

扶桑「不知火は、立派になったわね……!」ニコッ

不知火「大和さんと、扶桑さん……!? ご、ご無沙汰、しております……!」

不知火「それにしても、そのお召し物は……? 艤装は失われてしまったのですか?」

提督「……」


山城「姉様!」

 タタタッ

山城(深海化)「姉様……アラ、モシカシテ、不知火……?」

不知火「山城さん……!?」

山城「何シテルノヨ、私ト姉様ノ顔ヲ、何度モ見比ベテ」

提督「山城の姿に驚いてんだよ。別れたときはまだ深海化してなかったろ」

山城「ソウイエバ、ソウダッタカシラ」

提督「でだ……なあ不知火? なんでこの二人は、深海化してないと思う? なんで艤装がないと思う?」

不知火「……」

不知火「……あ」ビクッ

不知火「……ま、まさか……!!」


不知火「お二人は……メディウムに……!?」


提督「その通り。大和も扶桑も、艦娘じゃなくなったんだ」


提督「覚えてるか? 吹雪は、文字通り吹雪を呼ぶようになったよな」

提督「大和と扶桑の名前の付け方の法則は何だったかな」

不知火「……国名……」

提督「そう、国だ」ニヤリ

提督「お前が舞台から退場したら、この二人に出番をくれてやろうと思う」

不知火「……っ!!」

提督「わかるよな? 人間どもの最期を締めくくるのに、最高だと思わねえか」

不知火「……あ、あなたは……っ!!」

提督「言ったろ? お前が戦えていればいいんだ」

提督「お前が戦えている間は、俺たちは手を出さない。それだけの話だ」

不知火「……」

提督「できれば、こいつらに出番がないのが一番望ましいんだがな?」

ニコ「そんなこと、これっぽっちも思っていないくせに」スッ

不知火「ニコさん……!」


ニコ「久しぶりだね、不知火。ディニエイルが君のことを気にかけていたよ」ニコッ

不知火「そ、そうですか……」

如月「もう、心配していたのは彼女だけじゃないわ?」スッ

不知火「如月……!」

如月「不知火ちゃん、久しぶりね。もういい加減、むこうには見切りを付けたら?」

不知火「……っ」

如月「若葉ちゃんもそうだけど、いつもぼろぼろになるまで頑張ってるでしょう? 心配してるのよ?」

不知火「……」

ニコ「不知火?」

不知火「申し訳ありません、司令。不知火はまだ、そちらには行けないようです」

提督「……ほう?」ニヤリ

不知火「不知火は、まだ、諦めきれません。まだ戦えます。戦い抜いて、この戦争を終わらせます……!」

提督「……そうか」

(提督が手をかざすと、何もない空間に扉が現れる)


提督「その扉をくぐれば、元の場所に戻れる」

提督「俺たちは、お前に手を貸すことはない。ただ、お前の検討を祈るとしよう」

不知火「……」

提督「だから精々頑張りな、悔いが残らないように……お前の戦争を終わらせるといい」

提督「後のことは何も心配するな。最悪の状況になったら、全部俺たちに任せておけ」ニヤリ

不知火「……っ」ギリッ

不知火「行って、参ります……!」

 ダッ

 扉<バシュンッ!

(不知火を異世界に転送した扉が、音とともにはじけて消える)

如月「あーあ、不知火に睨まれちゃったわ。やん、怖い怖い」

扶桑「提督? 少し、不知火に強く当たりすぎではありませんか?」

提督「いいじゃねえか、反骨心があって……どんな魂に育つか、俺は楽しみだぜ?」


ニコ「もう、そうやってぼくたちに手が付けられなくなったらどうする気?」

提督「その時はその時さ」ジワ…

 (提督の姿にもやがかかり、口元に牙をのぞかせる)

提督「俺ガ喰エバイイ。ソレデ終イダ」

大和「まあ。提督が直々に? なんて羨ましい」ウフフ

提督「なんだ。そんなに俺のメシになりたいのか?」シュッ

大和「はい、提督とひとつになれるんですよね?」

提督「フン、お前にはまだ働いてもらわなきゃいけねえからな。もう少し我慢しな」

山城「ナニヲ唐突ニ、イチャツイテルンデスカ」イラッ

扶桑「ふふっ、山城? 嫉妬してるの?」

山城「シテマセン」

 ペタッペタッ

伊8(深海化)「提督」スッ

提督「よう、戻ってきたか。どうだった?」


伊8「青葉サント話シテキタケド、ミンナ準備デキテルミタイ」

由良(深海化)「何人カハ、コッチニ合流シタイッテ言ッテタワ」

提督「そうか。連中に会うのも久々だな」

由良「提督サンニ会エルノヲ、ミンナ楽シミニシテルミタイネ……フフッ」

朝潮(深海化)「司令官! 北方海域ノ深海棲艦勢力トノ交渉、無事成立致シマシタ!」ビシッ

朝潮「防衛ノタメ、攻撃時ノ援護コソデキマセンガ、撤退時ノ救援ハ約束シテイタダケルコトニナリマシタ!」

提督「よし。後ろから撃たれないための最低限の約束はできたな」

ニコ「魔神様。メディウムのみんなも、準備はできているよ」

提督「そうか。久々だな、こんなでかい戦いは」

ニコ「……楽しそうだね、魔神様」

提督「ああ、楽しいな。人間どもが、自分で自分の首を絞めるさまは、何度見ていても飽きねえぜ」

提督「あの国の政府がひっくり返った。これまで深海の連中をかろうじて抑えてきた艦娘を、あいつらは全員武装解除させるつもりだ」

扶桑「まあ。提督、それってもしかして」


提督「そうだ。不知火にも、戦うなと指示が来るはずだ。その瞬間、不知火はどう思うだろうな……」

提督「そしてその後、不知火がどんな行動に出るか……見ものだと思わねえか?」ニヤリ

如月「だから、不知火が戦えなくなったら、って言ってたのね」ニィッ

大和「提督はお戯れが好きですね」フフッ

扶桑「不知火は、大人しく武器を捨てて、人間が狩られることを選ぶかしらね……?」ニヤァ

山城「拒否スレバ人間ノ反感ヲ買ッテ、マスマス艦娘ノ立場ガ悪クナルンデショウネ。アァ、不幸ダワ」ニタリ

ニコ「あとは海軍そのものが独立勢力になれるかどうか、だけど……国家を敵に回すも同然だろうから、苦しいだろうね?」

提督「だろうな」

ニコ「どの道、不知火は『詰み』だったってことだね」

提督「いいや、詰んでるのは新政府の甘言になびいた連中さ。不知火はそのトリガーに過ぎねえよ」

提督「俺の贔屓目もあるが、不知火は今も必死に戦っている艦娘の一人だ」

提督「その働きも認められずに処分されようものなら……全部、ぶっ潰したくもなるよなあ?」

全員「「……」」ウナヅキ


提督「もうじき、海から艦娘が消える」

提督「人間に尽くしてきたあいつらが、人間によって滅ぼされるんだ」

提督「それでも艦娘は、健気に人間のために戦い尽くして、潰えていくんだろう」

提督「だからこそ、艦娘が戦える間は、人間に手出しはしないし」

提督「だからこそ、艦娘が消えた後は、人間どもに容赦はしない」


提督「全員に、晩餐会の準備をしろと伝えろ」

提督「不知火が絶望の淵に沈んだ時が、開始の合図だ」


提督→魔神「さあ、人間狩りを始めるぞ」





提督「鎮守府が罠だらけ?」   END

だらだら書き連ねましたが、これ以上は書き綴る話がない、ということで、これで完結です。
エンディングは悩みましたが影牢ベースに、提督が魔神になって世界を追い込むストーリーに仕立てました。

今回書き上げたシーンの他にも、例えば、
提督の足跡を求めて、提督の故郷を訪れた大淀と初雪がひどい目にあって村を滅ぼしたりとか、
摩耶が金剛型がどうなったか調べていくうちにいろいろやばい事態が展開していったりとか、
軽巡棲姫が狂気ををまき散らして人間にも伝播していったりとか、明石と北上がグレて単独勢力作ったりとか、
一部の艦娘が戦うことをやめて民間人になったが、政権交代によって、元も含めて艦娘が全員拘束対象になる事態が発生し、
棋士に転職したL提督と同じく民間に入って一緒に暮らしていた香取が捕まるニュースがテレビで流れたりとか、
さらにそれを見ていた那智が、働いていたラーメン屋の店長から「逃げてくれ」とお金を渡されて逃亡劇が始まる、とか
深海化して鬼化した那珂と姫化した神通が、理性にしがみついて深海化を拒む川内をねちねちと言葉責めしたりとか、
書けそうなネタは沢山あったのですが、延々とバッドエンドばかり描き続けたくないので、
特に重たいところというか重要なところだけピックアップした次第です。

それから、対立の構図として、
・提督+艦娘→メディウム
・提督+艦娘+メディウム→海軍&深海棲艦
・深海棲艦+メディウム→海軍+艦娘
・艦娘+フォージド→深海棲艦+メディウム
・艦娘+深海棲艦+メディウム→魔神(提督)
といった感じに一通り描こうと思うと、こういう話の展開にしなければならず。
全方向的なハッピーエンドを望んでいた人には申し訳ありませんが、
こんな影牢らしい結末になってしまいました。

提督の最後の台詞も、その世界を象徴した台詞にしたので、これはこれで話としては綺麗に収まったと思っています。


ここまで読み続けていただいた方に感謝を。
そして、





続きです。



.



……。

……。

……誰かな? 僕を呼ぶのは……。

『我が声に応じてくださりありがとうございます』

僕を呼んだのは君かい?

『はい。私は、エフェメラと申します』

世界の最後まで、見せてもらったよ。

君が、この結末を描いたのかい?

「いいえ」

『……!』

誰……!?

「望んだのは愚かな男」

「自らの権力欲のために、我が子を因果の生贄に差し出した男」

エフェメラが、もうひとり……!?

『……』


「そしてそれを望まずして為したのは、人の憎悪と傲慢と不条理を一身に受けた、生贄の子」

「希望の藁を握りしめたまま絶望の深淵に沈み……」

「人ならざる者たちの力を借りて生還した……」

「昏き海と魔を統べる神に祝福されし忌まわしき子」

……。

「男が混沌を生む」

「その目論見は正しかった」

「更に好都合だったのは、番いの女が海の魔物に襲われたこと」

「その身に宿した深淵の災禍の力を、我らが神が欲したのです」

……神が欲した?

「はい」

「極上の贄として、喰らうために」

……。


「ですが、その魂は、私の目論見を超えてしまった」

「供物になるはずだった子羊が」

「その男をも飲み込む狼になったのは、私にも予見することができなかった」

「魔神様は、贄の子の肉体と同化して、現世に降臨なさいました」

「そして世界は、少しずつ絶望に蝕まれ、光を失いながら緩やかに終焉を迎えるだけになった……」

「魔神様が世界そのものとなる」

「私も、それを待つのみとなりました……!」

……それが、君たちの望みだと言うんだね?

『いいえ』

……君は違うのかい?

『私は……私たちは、魔神様に造られし自動人形(オートマタ)……』

『そこにいるエフィメラは、魔神様が統べる世界を望むもの』

『私は、魔神様が望む未来を望むもの』


『魔神様に造られし私たちの役目は、魔神様に祝福されし者たちを、導くこと……』

「そう。だからこそあの子羊を、魔神様のもとに導いたのです……」

『……』キッ

結果はどうあれ、そっちのエフェメラの期待以上の結果になった、ってことか……。

『はい……』

『……ですが、この結末を辿る前に、戻ることも可能です』

え……!?

「無駄なことですよ」

「いかなる世であっても、魔神様のもとには、人間の悪意が集います」

「彼女の手を取ったとしても、混沌の未来は変わりません。もはや手遅れ……」

『……やってみなければわかりません』

「……」

『……人間に脅威が近付いたとき、妖精と心を通わせられる人間が世の中には現れます』

『妖精に祝福されし者、英霊に護られし者……あるいは……』

……その候補が、提督だったってこと?


『はい。あのエフェメラは、彼が深海の力を受け継いで生まれることを見越して、魔神様の依り代に彼を選んだのです』

『私を、ここに封じてまで』キッ

……。

「……」

……君は、魔神様が望む未来、と言ったね

『はい』

『現代に魔神様として顕現されるほどになった魂が望んだ未来』

『この結末とは、異なる結末を導くのが私の使命……』

……結末はひとつじゃない、ってことかな?

可能性があるのなら、君の言う未来に賭けてみたいな。

『……ありがとうございます』

『その名に“時”を冠するあなた様なら』

『この未来を、変えられるかもしれません』

『参りましょう、時雨様。違う未来を求めて』




.









   クエスト解放

  エフェメラと邂逅する Cleared!








.

昔、落としどころは2種類考えてます、と書きました。
今回完結したのが影牢ルート、と考えていただければ。

そのもう一方をこれから書きます。
ただ、時雨をここまで重要なポジションにする気はなかったんですが、わからないものですね。

改めて、今回はここまで。

それでは、リスタートです。


時雨「それでエフェメラ、これから僕たちはどうすればいいのかな?」

エフェメラ『……これより過去に遡り、運命の分岐点を探します』

エフェメラ『時雨様には、そこで手を貸していただきたく……』

時雨「大丈夫かな。僕が沈んだのはずっと昔だよ」

時雨「それに……エフェメラ、君はだいぶ消耗してるみたいだけど?」

エフェメラ『……仰る通り、幽閉から空間から脱出を図ったため、私にはあまり力が残っていません』

エフェメラ『ですが……たったひと押しです』

エフェメラ『それだけで……未来は、変わります』

時雨「……わかった。信じるよ」

エフェメラ『時雨様。目を閉じてください』

時雨「……」

エフェメラ『参ります……!』


 グ ニャ ァ


 * 墓場島? *

 メラメラメラメラ…

時雨の幽霊『……』

時雨の幽霊『……』

時雨の幽霊『えっ?』

エフェメラの声『……時雨様』

時雨の幽霊『エフェメラ!? 僕の体が透けてるんだけど!? エフェメラはどうしたの!?』

エフェメラの声『申し訳ありません、時雨様……私は声を飛ばすだけで精一杯です』

時雨の幽霊『!』

時雨の幽霊『……それは仕方ないにしても』

 メラメラメラメラ…

時雨の幽霊『これは……墓場島が溶岩に包まれて、全部燃えてしまうところじゃないか』

時雨の幽霊『こんな状況なのに、みんなを助けることができるのかい!?』

エフェメラの声『はい』

時雨の幽霊『……僕は、あの悲しい結末をもう一度見るつもりはないよ?』

エフェメラの声『先ほど申し上げました通り、ただひと押し……それだけでいいのです』

エフェメラの声『彼女の持つ魔法石を、あの方に使えば……』

時雨の幽霊『……あの方?』

エフェメラの声『はい、そうです。力を失い、消えてしまったあの方に』

エフェメラの声『ですから、ブラックホールのメディウムに、石を使わせなければ良いのです』

時雨の幽霊『……まさか』

.



 * 分岐ポイント 790 より再開します。 *

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/790)



.


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

通信(提督)『さてと、名残惜しいが、そろそろお別れだ』

足柄「な、何言ってんのよ! あなた、そんな簡単に死ぬ男じゃないでしょ!?」

エレノア「そうよ、どうせ脱出の方法とか残してるんでしょ!?」

黒潮「あるんやったら、はよ脱出せな!」

チェルシー「そうよキャプテン! どんな手を使ってもいいから、早く!!」

通信『……』

千歳「なんで黙ってるんですか!」

オリヴィア「アミーゴ! 諦めるのは早いよ!」

通信『……もういいんだ。お前らがそう言ってくれるだけで、俺には充分だ』

五十鈴「何を弱気なこと言ってんのよ!」

古鷹「提督らしくありません!!」

通信『そうは言うが、しょうがねえだろ。俺はこの島の鎮守府以外のどこに行けると思ってる?』

通信『余所へ行きゃあ、どうせ余計な真似をしないか監視されて、またそのうちありもしねえ疑いをかけられて騒ぎになるのが目に見えてる』

五月雨「そう言って、提督も、私を置いていくんですか」

通信『……五月雨か』

五月雨「前の鎮守府の仲間たちも、前の提督も、私を残して死んでしまったこと……提督は御存知ですよね!」ポロッ

五月雨「提督も、私を……私を置いてどこかに行くんですか!」ポロポロポロ

通信『……悪いな。俺は、俺に好意を寄せてくれた奴を、死なせたいと思わない』

五月雨「……提督……勝手です! そんなの、あなたの勝手すぎます!!」

五月雨「だったら、私も一緒に死にに行きます! 私もあなたと……」

通信『そういうのは許さねえ、っつったろ。しょうがねえ奴だな』

通信『俺は人間だ。人間は愚かだ。だから、俺は死んでもいい存在なんだ。前からそう言ってるだろうが』


 * 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *

通信『提督!』

提督「なあ五月雨よ。こっちにもお前みたいな奴がいるんだ。困ったことになあ」

軽巡棲姫「ソウヨ……モウ、私タチノ帰リ道ハ、ナイノ……私ハ、提督ト運命ヲトモニスルノヨ……!」ギュウ

提督「……どうせ言っても聞かない奴だ。だったら仕方ないと思ってな……」ナデ

軽巡棲姫「アア……提督……!」

 トンッ

軽巡棲姫「!?」

 イビルシュート< ゴォッ!

軽巡棲姫「ッ!?」ドガッ!!

提督「無理矢理にでも、帰ってもらうことにした」

軽巡棲姫「テイ……ーーーーッ!?」ピューーーーン


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

那珂「無理矢理って、提督!? それってどういう意味……」

 ヒュウウウ…ドボーーーーン!

黒潮「!? な、なんや、なんか飛んできたで!?」

軽巡棲姫「プハッ!?」ザバァ

筑摩「け、軽巡棲姫……!?」

軽巡棲姫「……テイ、トク……?」

軽巡棲姫「ドウシテ? ドウシテ、私ヲ……」

軽巡棲姫「ドウシテナノォォォオオオオ!!!!」

ル級「チョッ……落チ着イテ!」

通信『軽巡棲姫はそっちに着いたか?』

加古「ついたかじゃないよ! 軽巡棲姫ってばめっちゃ怒り狂ってるじゃんか!!」

武蔵「ここまで女心を理解していないとは……見損なったぞ!!」

軽巡棲姫「提督! テェトクウウウウウ!!! ドウシテナノォォォ!!」

通信『……軽巡棲姫、お前は駄目なんだ。どうもお前は娘みたいに思えてな……幼い姿を見た所為だろうな。お前を道連れにしてはいけない』

通信『それにお前には、お前を受け入れられる奴らがいる。泊地棲姫たちがいる』

通信『お前を任せて安心できる奴がいる。お前は、俺の分まで生きるべきなんだ』


軽巡棲姫「何ヲ……提督コソ、コンナニ大勢ニ求メラレテイルノニ、何故、死ニ急グノヨ……!!」グスッ

軽巡棲姫「アナタコソ、生キルベキ者ナノニ、何故、自ラ命ヲ捨テヨウトスルノヨォォ!!」

通信『俺が面倒ごとを呼んでるからだ。他の人間どもが、俺や俺の周りを利用して争いを仕掛け、結果、俺の身内が傷付くことになる』

通信『それでも俺が生きるべき者だと言えるのか』

軽巡棲姫「言ウ! 私ハ、生キルベキダト、言ウ!!」

大和「……提督。今、軽巡棲姫を、どんな方法を使ったか知りませんが、こちらまで吹き飛ばしましたよね?」

大和「同じことをすれば、提督も助かるのではないのですか!?」

通信『……そりゃあ無理だな。もう魔力も、歩く体力も気力も残ってねえ』

霞「はあ? なによその言い訳! 甘ったれてんじゃないわよ! 這ってでも出てきなさいよこのクズ!!」

大淀「提督。私たちは、あなたの次の指示を待っているんです……はやく、私たちの前で指揮を執ってください!」

通信『はは……無茶を言ってくれるな……』

長門「どうすれば……どうすればあいつを助けられるんだ!?」

潮「め、メディウムのみんなは……」

カトリーナ「こ、ここに居る連中じゃあ……きついよな」

ニコ「仮に魔神様の所へ飛んだとしても、戻って来られないよ……」

ル級「陸ノ上デハ勝手モ違ウシ……」ムムム…


比叡「ど、どうしましょう……どうしましょう金剛お姉様!!」

金剛「……ぐぅぅ……」ギリッ

通信『だから諦めろっつってんだよ。丘に埋めてた墓標代わりの艤装が、もう半分以上溶岩に飲み込まれた。ここもそのうち焼失する』

扶桑「そんな……それじゃ、時雨の艤装も……!」クラッ

山城「ふ、扶桑お姉様!? しっかりしてください!!」

通信『そろそろ熱さで俺の頭もぼんやりしてきた。酸素も足りねえな……そろそろ、休ませてもらうか』

由良「提督さん!?」

中佐「……ふざけるなよ提督少尉! いや、提督!!」

古鷹「ちゅ、中佐さん!?」

中佐「貴様の部下は皆、貴様の無事を望んでいるんだぞ! 深海の友人にも! メディウムたちにも!」

中佐「これほど慕われていることをわかっているにも関わらず、その望みを自ら切るなんて不義理もいいところだ!!」

中佐「貴様が人間かどうかは関係ない! 人でなしだろうと外道だろうとこの際知ったことか!!」

中佐「戻って来い! 提督!! 僕は、君の友人として、戻って来いと言っているんだ!!」

神通「……中佐……」


通信『……あんたみたいな奴ばかりなら、俺もまともな学生生活を過ごせてたのかもな』

通信『悪いが、本当にもう手はないんだ。俺は死ぬ。ただ、その前に言わせてくれ』

通信『俺に付き合ってくれて、ありがとう。楽しかった』

朝潮「……司令官! どうして……どうして!!」ボロボロボロ

金剛「そんな台詞、聞きたくありまセン!」

通信『聞き分けがねえなあ……ははは』

不知火「……司令」

通信『……なんだ?』

不知火「……不知火は、いつか必ず、司令をお迎えに上がります」

通信『……はは……お前らはどいつもこいつも……』

通信『ゴトンッ』

中佐「提督少尉!? なんだ今の音は!!」

金剛「テートクッ!?」

大和「提督!!」

ニコ「魔神様!」


 * 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *

地面に落ちた通信機『提督!』

通信機『魔神様ー!』

通信機『司令官!』

提督「……」フラ

提督「なんで、こんなことになっちまったのかねえ」

提督「妖精が見えるってだけで仲間はずれにしやがって……」

提督「俺はただ、普通の人間の生活を送りたかっただけなんだ」

提督「この島で、やっとそれができそうだったのにな……やっぱり人間なんて碌なもんじゃねえや、くそっ」

提督「……お前らも、そう思うだろ?」

朧「」

電「」

初春「」

吹雪「」

如月「」

提督「……ああ、良く寝てるな……はは、この分なら怖い思いをさせずに済むな」


提督「悪かったな、守ってやれなくて……」ゼンインヒキヨセ

「……しれいかん……」

提督「!?」

如月「司令官……?」

提督「き、如月!? お前、生きてたのか!?」

如月「ええ……でも、体が思うように動かないの。ここはどこ? とっても、熱くて……」

提督「島の丘の上さ。海底火山が噴火した。もうすぐここは溶岩で覆われる」

如月「……司令官も、死ぬ気なの……?」

提督「ああ。メディウムたちに指示して、たくさん人間を殺したからな。俺ももう人間社会じゃあ生きられねえ」

提督「お前らも守ってやれなかった。何もかも嫌になっちまった。悪いな、甲斐性なしで」

如月「いいえ……ねえ、司令官。この島も、消えるのね」

提督「ああ。全部、消える」

如月「……私たちも……」

提督「……そうだな」


 メラメラメラメラ…

如月「……ねえ、司令官? ……最後のお願い、聞いて貰えないかしら……」

提督「……? ……ああ。わかった……」スッ

 ゴォォォォ…

如月「……ふふ。司令官のくちびる、暑さで乾いてるわ……」

提督「悪い、な……」

如月「……でも、嬉しい。あなたから求めてくれたのは、初めてだから……」

提督「……」

如月「……司令官?」

提督「……」

如月「……脱水症状で気を失ったのね……」

如月「ふふ、こんな時に仕方のない人……」

如月「私も疲れちゃった……司令官。如月は、最後まで、ご一緒しますね……」

如月「……おやすみ、なさい……」


 メラメラメラメラ…




 ギュワ…


.


 ブラックホール<ギュワアァァァァ…

 ピョコッ

ベリアナ「ふう、やっとここまで来れたぁ……って、あっつうい!」

ベリアナ「もう、こんなに熱気がこもってたんじゃ、汗で全身べっちょべちょになっちゃうわ」プンプン

ベリアナ「こんなとこ、早くサヨナラしないと……ええっと、マスターはどこ?」キョロキョロ

提督「」グッタリ

ベリアナ「いた! ねえねえマスター! こんなところで寝てないで、早く逃げましょ!?」ユサユサ

提督「」

ベリアナ「大変……マスターの魂の力が弱まってるわ」

ベリアナ「急いでここから避難しないと、マスターが死んじゃうかも」ゴソゴソ

 ベリアナの胸の谷間から出てきた革の袋<ジャラッ

ベリアナ「マスターの救出が必要になったときのためにニコちゃんに預けられた、魔法石の袋!」ジャーン

ベリアナ「ここに来るまでに魔力を使いすぎちゃったしぃ……」

ベリアナ「この袋に入れた魔法石で魔力を回復してから、マスターたちをブラックホールで運べばいいのよね」ジャラ…

.




  『今です』




.


 トン

ベリアナ「きゃああ!?」ゾワッ

ベリアナ「な、なに!? 今、誰が私を……って、あっ!」

 革の袋<ツルッ

ベリアナ「や、やだ、大切な魔法石が……!」

 革の袋<ガシャガシャガシャン

ベリアナ「!?」

ベリアナ「今の音、なに! ……魔法石が砕けちゃってる!?」

ベリアナ「落とした程度で壊れるような石じゃないのに、砂みたいに……」

 革の袋<カラッポ

ベリアナ「」

ベリアナ「」マッサオ

ベリアナ「嘘でしょ……」

 海底火山<ドゴォォォン!!

ベリアナ「ひぃっ!?」


ベリアナ「や、やだ! マスター、目を覚ましてよ! このままだとみんな死んじゃうよ!?」ユサユサ

 溶岩<ドドドドドド…

ベリアナ「マスター! マスターーー!」

ベリアナ「い、いやあああああああああ!!!」

 溶岩<ドドドドドド…!!



 ゴォ…ッ!



ベリアナ「……」

ベリアナ「……あ、あれ?」

(ベリアナや提督たちの周りに作られた円柱状の光の壁が、溶岩の流れを防いでいる)

ベリアナ「た、助かったの……!?」

??「その石、すごい力を持ってるんだね」

ベリアナ「え?」

??「ありがとう、その石の力、わたしが使わせてもらったよ」

ベリアナ「え? え? あ、あなたはだれ!?」

??→応急修理女神「わたしは妖精。あなたのおかげで、戻ってこられたよ」ニコ


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

H大将「なんだあれは……」

 光の柱<キィィィン…

H金剛「あれは……ダメコンが発動した時の光に似てますネー?」

霧島「だ、だめこん?」

ニコ「なにそれ?」

H金剛「応急修復女神の妖精さんのことデース。皆さん、お世話になったことありませンカ?」

武蔵「我々はないよな?」

金剛「ありまセンネー」

祥鳳「発動の様子は私たちも初めて見ます」

ビスマルク「私たちの鎮守府にもいるけど、そもそも載せたことはないわ。いつも暇そうにしてるわね」

H大将「なんだお前たち、女神を載せたことがないのか?」

X中佐「ええ、僕は大破したら引き返してましたから」

W大佐「同じく。無理は禁物と考えています」

H大将「なんだ勿体ない。せっかくいるのに、強行偵察とかで活用しないのか」

大和「そ、それより、その女神の発動が、島の中で起きているということですか?」

ニコ「それって魔神様を助けられるってこと!?」

ル級「デモ、ドウヤッテ、アノ火ノ海カラ連レ出スノヨ……!」


 * 墓場島の南東部 溶岩に覆われた丘の上 *

ベリアナ「いくら光の壁を作っても、ここから出られなきゃ私たちも……」

応急修理女神(以下「女神」)「そうだね。でも、大丈夫」

女神「みんなが力を貸してくれるから」

ベリアナ「みんな……?」

女神「君たちメディウムは、魂の力を感じられるんだよね?」

ベリアナ「え……!」ゾワッ

女神「さあ『みんな』、力を貸して……!」

 ボッ

ベリアナ「……! マグマの下から、光が……!」

 ボッ

 ボッ

 ボボボボッ


 * 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *

カトリーナ「な、なあ、光の数が増えてないか?」

ル級「ソウ言エバ……」

ローマ「なんだか幾何学的な並びになってるわね……?」

神通「あの並び……もしかして」

敷波「ねえ神通さん、あの光ってるとこ、墓標代わりの艤装が置いてあったとこだよね?」

山城「! そういえば……!」

五月雨「さっき、あっちの金剛さんが、女神妖精さんの力だって言ってましたよね!?」

足柄「ま、まさか、轟沈した艦娘が蘇ろうとしてるってこと!?」

W大佐「さすがにそれは……」

川内「ううん、あり得るよ。私も幽霊見てるし!」

H大将「幽霊!?」

雲龍「幽霊かどうかさておいても、あの光からは命の力を感じるわ」

ニコ「そうだね……あれは、魂の輝き……!」

 ズズン…

「!!」


 ゴゴゴゴ…

中将「なんという光景だ……」

W大佐「島の大地が盛り上がって、マグマを堰き止めているのか……!?」

H大将「海と陸が逆ではあるが、まるでモーゼの十戒のワンシーンだ……」

X中佐「丘の上までの道を開いたってこと……!?」

 ザァッ!

不知火「!」

X中佐「し、不知火!?」

 ザザザァッ!!

H大将「お、おいっ! お前たちまで!?」

朝潮「朝潮は司令官を助けに行きます!!」

霞「説教なら後で聞くわ!」

潮「わ、私も行きます!」

長門「潮、頼む!!」

潮「は、はいっ!!」バッ


敷波「あたしも行くよっ!!」

白露「島風、トップスピードで行くよ!」

島風「うんっ!」

古鷹「私も行きます!」

朝雲「司令ったら、世話が焼けるんだからっ!」

初雪「そう言う割には、嬉しそう……」

山雲「ねー?」

神通「行きましょう……!」

那珂「那珂ちゃんも行っきまーす!」

川内「軽巡棲姫、あんたも来る?」

軽巡棲姫「!!」

那智「駆逐艦だけでは提督を運べるか心配だ、私たちも急ぐぞ!」

最上「うん、行こう!」

五十鈴「ここで行かなきゃ後悔するわ! 急ぎましょ!」

龍驤「大淀! 指揮、頼むでぇ!」

大淀「は、はい!」

雲龍「通信、私たちがサポートするわ」


 ザザザァッ…

ルミナ「ヲ級君、ヲ級君?」ツンツン

ヲ級「ヲ……ナンダ?」

ルミナ「悪いが艦載機を飛ばしてくれないか? 軽巡棲姫へ上空から島の様子を伝えて欲しいんだ」

ルミナ「いくら溶岩を堰き止めているとはいえ、あの光の壁と即席で作った土手がいつまで持ちこたえられるかわからないからね」

ヲ級「……」コク

千歳「その役目、私たちもサポートするわ! 隼鷹は島の南側をお願い!」ジャコッ

隼鷹「任せといて! いっけぇぇ!」バシューッ

若葉「よし、若葉も行……グゥッ」ズシッ

摩耶「馬ー鹿、お前、重たいメディウム載っけたまま出るわけにはいかねーだろ?」

摩耶「今度はあたしたちがいい恰好する番だぜ! なあ、霧島さん!」

霧島「……摩耶……!」

金剛「Yes !! 霧島、下を向いている場合ではありまセーン!!」

大和「ええ、これは提督を助けられる唯一無二の好機!!」


ニコ「金剛! 大和! 魔神様を……お願い!!」

大和「はいっ! 身命に変えても!」

武蔵「私も行くぞ! この一大事に指をくわえて見ていられるか!」

金剛「さーあ、比叡! 榛名! 霧島! Are you ready !?」

霧島「……お任せください!」

比叡「気合、入れて!」

榛名「全力で参ります!」

金剛「Follow me !! 金剛型高速戦艦の諦めの悪さ、テートクに見せつけてやるデーース!!」

 ウォォォオオオオ!!

 ザシャァァァ…!

若葉「……若葉も行きたかった」ガックリ

カサンドラ「だ、だからってこんな場所で降ろされても困ります……!」

マルヤッタ「申し訳ないじょ……」

伊勢「まあまあ、若葉がメディウムのみんなを一手に引き受けてくれたから、みんな行けたんだもの。ね?」

日向「ああ。若葉も功労者であることに違いはない」

若葉「……わかった。我慢しよう」


X中佐「……」

長門「む……すまない、X中佐。あなたがたの指示を待たずに勝手なことをした」

X中佐「僕は別に行くなと指示してはいないよ?」

H大将「命令違反ではないということか」

X中佐「はい。それで良いでしょう?」

中将「……うむ。彼女たちの行動が実を結ぶことを……提督少尉の無事を、祈るばかりだ」

祥鳳「提督、私たちはどうしましょう」

X中佐「僕たちは待機だ。みんながやりたいことの邪魔をしないほうがいいだろう」

X中佐「そもそも、僕たちはここにいる深海棲艦のみんなと交渉の最中だったと思うけど?」

祥鳳「え、ええ……確かにそうでした」

ル級「私タチモ、変ナ気ヲ起コスツモリハナイワヨ?」

長門「ああ、わかっているさ」

W日向「……お前たちは行かなかったのか」

山城「足の遅い私たちがついていったって足手まといなだけよ。伊勢型ならわかるでしょ?」


山城「ついでに言えば、私なんかいないほうが提督が生きて帰ってくる可能性が高まるわ」フン

陸奥「そんな悲観的にならなくてもいいじゃない。ねえ、扶桑?」

扶桑「山城なりの優しさよ。根拠はないけど、その場にいないほうがいいって、思っているだけでしょう?」フフッ

扶桑「でも、私たちのジンクスなんて関係ないわ。目の前で起きているのが奇跡でもなんでもいいの。私は提督の無事を祈るだけ……」イノリ

扶桑「これ以上、私たちから大事な人を奪わないで欲しいの……!」

日向「……伊勢」

伊勢「? どうしたの」

日向「確かに、我々伊勢型も低速艦だ。しかし、誘導や中継地点の監視くらいはできないかと思ってな」

伊勢「ああ、そうね。ごめん長門、ここは任せちゃってもいい?」

長門「じっとしていられないか。ああ、いいぞ、任せておけ」

W日向「それなら少し待ってくれないか」

日向「! 君は……W大佐のところの日向か」

W日向「ああ。君にいいものをやろう……水上機の最高傑作、瑞雲だ」フッ

日向「……!」

W伊勢「ちょっ、日向!?」


日向「なるほど……だが、すまない。私はまだ改装を受けていないんだ」

W日向「!?」

W伊勢「えぇ!? まだ戦艦なの!?」

日向「ああ。その瑞雲がどんなものかは存じないが……今の私には過ぎたるものだ。受け取ることはできない」

W日向「」

日向「では、失礼する……伊勢」

伊勢「あ、うん。じゃあ、行ってきます」フリフリ

W伊勢「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ

W日向「」

W伊勢「おーい、日向ー!?」

コーネリア「あたしたちはこんな奴らに負けたのかよ……」ボロッ

タ級「……不覚ダワ」ボロッ

W大佐「しかし、瑞雲の素晴らしさがわからない日向がいるなんて、信じられんな……」

中将「W大佐は航空戦艦がお気に入りかね」


日向「なるほど……だが、すまない。私はまだ改装を受けていないんだ」

W日向「!?」

W伊勢「えぇ!? まだ戦艦なの!?」

日向「ああ。その瑞雲がどんなものかは存じないが……今の私には過ぎたるものだ。受け取ることはできない」

W日向「」

日向「では、失礼する……伊勢」

伊勢「あ、うん。じゃあ、行ってきます」フリフリ

W伊勢「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ

W日向「」

W伊勢「おーい、日向ー!?」

コーネリア「あたしたちはこんな奴らに負けたのかよ……」ボロッ

タ級「……不覚ダワ」ボロッ

W大佐「しかし、瑞雲の素晴らしさがわからない日向がいるなんて、信じられんな……」

中将「W大佐は航空戦艦がお気に入りかね」


H大将「そういえば近々伊勢型の改二構想が計画されていたな……」

W伊勢「えっ!?」

W大佐「やったぜ」ガッツポ

山城「ああ、これでまた伊勢型に差を付けられるのね。不幸だわ」ズーン

陸奥「まあまあ」ポンポン

扶桑「そんなことより、提督が心配なんだけれど……」

長門「悲観的ではないのは悪いことではないが……」

ル級「脱線シスギヨネ?」

X中佐「うん……Wがああなのはごめんね」

ニコ「みんな魔神様が心配じゃないのかな」ハァ

若葉「山城さんが提督に対して憎まれ口を言うのはいつものことだ」

若葉「それにこちらの海軍のお偉方は、そもそも提督が海軍に反目していないかを追及しに来ているんだ」

若葉「言ってしまえば部外者だからな。提督がそこまで重要ではない人たちもいるだろう、それなら猶更にやむ無しだ」

ニコ「……」

ビスマルク「でも、墓場島の艦娘はみんな島に向かったじゃない。慕われてる証拠よ」

長門「ああ。残った私たちも、みんなが無事帰ってくるのを待つだけだ」

ニコ「うん……!」

タチアナ「ところで若葉さん、あなたに載せていたオリヴィアなんですが……」

若葉「うん……そういえば。どこへ行ったんだ?」キョロキョロ

今回はここまで。
二重書き込みになった>>359は無視でお願いします。

応急修理女神も魔法石も課金アイテムなので
その力を変換したと解釈しちゃってください。

続きです。


 * 島の内部 丘の上 *

ベリアナ「すっご~い……!」

ベリアナ「海までの道が開けちゃった……!!」

女神「これでみんなを沖まで運べるね」

ベリアナ「良く見たら、艦娘のみんなの傷も消えてるし!」

ベリアナ「ほぉら、起きて起きて! みんな早く逃げようよ!」ユサユサ

女神「あ、ごめん。みんなの目を覚ますまでの力は確保できなかったんだ」

ベリアナ「えぇ~っ!? ちょっとぉ、あたしみたいなか弱いオンナノコに、オトナのオトコのひとなんて運べないよ~!?」

女神「ブラックホールは作れないの?」

ベリアナ「もう魔力ないもん……魔法石、全部割れちゃったし……」

女神「……うーん、ごめんね?」

ベリアナ「っていうか、このままじゃあたしも蒸し焼きになっちゃうよう……やだぁぁ、こんなところで死にたくなぁい!」

ベリアナ「死ぬときはベッドの上でマスターに跨って、って決めてるのぉ~!」

女神「それ、如月が聞いたらただじゃすまないよ?」


 * 島の海岸 *

不知火「ここから陸地……!」ダッ

霞「……なんて熱さなの」

朝潮「こんな熱気の中にいては、司令官が危険です!」

潮「い、急ぎましょう……!」

 ドドドドドド…

敷波「!?」

白露「いっちばーーーん!」ドドドドドド

島風「はっやぁーーーい!」ドドドドドド

不知火「……」

霞「この時ばかりは頼もしいわね……」



 * 丘の上 *

 ドドドドドド…

ベリアナ「なにこの音……!?」

白露「いっちばーーーん!」キキーッ

島風「とうちゃーーーく!」キキーッ


女神「きみたちは……!」

ベリアナ「やったあ、助けに来てくれたのね!?」パァッ

島風「島風のほうが速かった!」

白露「あたしのほうが一番でした!」

ベリアナ「ちょっとぉ!? 話を聞いてよぉ!!」ガーン

女神「ふたりとも、時間がないんだ。急げばみんなを助けられる、みんなを連れて島を離れて」

島風「ええ!? みんなって、6人もいるの!?」

女神「この悪魔ちゃんも含めて7人だね」

白露「私たちだけでみんなを運ぶのは無理だね……」ウーン

島風「とにかく助けを呼ぼう!」ダッ

 バユーン

島風「!」

白露「あれは……龍驤さんの彩雲だ! おーい!」ズババババ

女神「えっ、なにその不思議な踊り」

島風「手旗信号だよ?」

ベリアナ「そんなので通じるの!?」


 * 海岸付近の海上 *

龍驤「うん? 彩雲が映像送ってきてるなあ……」

雲龍「え?」

大淀「なんですか、この不思議な踊り……もしかして」

龍驤「……キュウエンモトム、テイトク、クチクカンゴ、メディウムイチ、やて」

大淀「早っ!?」

雲龍「提督、生きてるの?」

龍驤「メディウムイガイイシキナシ、て言うてるから、ちょっち危ないかもなあ……雲龍、通信準備」

雲龍「はい」

龍驤「あーあー、巡洋艦のみんな、目的地に提督がおるで!」

龍驤「駆逐艦の子たちとメディウムもひとりおるから、連携して連れてってや!」

通信『了解!』

大淀「あのハンドサイン、ちゃんと解読できたんですか」タラリ

龍驤「ちょろいで」ビシッ

雲龍「素敵」


 * 丘の上 *

白露「よし、龍驤さんには連絡届いたみたい!」

島風「みんな来たよ! こっちこっち!!」

 タッタッタッ

不知火「はぁ、はぁ……」

朝潮「司令官……!」

霞「……まだ、生きてるのよね?」

不知火「司令、失礼します」スッ

 (手袋を外して提督の額に手を当てる不知火)

不知火「こんなに熱いのに、汗をかいていない……脱水症状を起こしているのかもしれません」

不知火「朝潮、霞、お二人に司令をお願いしたいのですが」

朝潮「ええ、任せて! 霞!」

霞「とにかくここから離れるわよ!」ヨイショ

 タッタッタッ

敷波「司令官!!」

潮「提督……生きてるんですか!?」


不知火「二人はこちらを手伝ってください。不知火は如月を連れて行きます」

女神「みんなを早くドックに入れてあげて。わたしの力も、いつまで持ちこたえられるかわからないからね」

潮「妖精さん……!」

敷波「……それじゃあ、電はあたしが連れてくよ!」グッ

潮「お、朧ちゃんは、私が連れて行きます!」

白露「よし、それじゃ、初春は私が運ぶね!」

島風「私が吹雪ちゃんかあ」ヨイショ

不知火「皆さん、重巡や戦艦の皆さんと合流出来たら、そちらに引き渡してください」

不知火「ここに来るまで、熱気や坂道で私たちも消耗しました、くれぐれも焦らず慎重にお願いします……!」

潮「わ、わかりました!」

敷波「了解っ!」

白露「島風、競争はなしだからね?」

島風「わかってるってば!」

不知火「……妖精さんは、どうするおつもりで」

女神「わたしはここでお別れかな。力を使ってる間は動けないからね」


女神「でも、死ぬわけじゃないから大丈夫。力を使った後はしばらくこの世界から消えちゃうだけだから」

ベリアナ「ああ、もしかして、異世界に逃げちゃう感じ?」

女神「んー……多分、そんな感じかな。私たちの力が回復すれば、また戻ってこられるから、心配しないで」

ベリアナ「それで私が持ってきた魔法石が消えちゃったのね……」

女神「それより、きみも早く逃げないと。死ぬときは提督の上でなんでしょう?」

不知火「!?」

ベリアナ「んもう、わかってるったら! 行きましょ、えーと……シラナイ?」

不知火「不知火です」

ベリアナ「うん、シラヌイちゃん、イこっ!」タッ

不知火「……は、はあ」ポ

不知火「それでは……妖精さん。行ってまいります」ケイレイ

女神「うん。みんなと、提督をよろしくね」

不知火「……」コク

 クルッ スタスタ…

女神「……さあ、みんなが脱出するまで、もうひと頑張りだ」


 * *

朝潮「……はぁ、はぁ……」

霞「朝潮姉、大丈夫?」

朝潮「こ、このくらいでへこたれたりは……」

ベリアナ「本当に大丈夫? 汗びっしょりで、息も荒いし、まるでセ」

不知火「おやめください」ガシッ

ベリアナ「んもう、冗談だってばぁ」

敷波「そういう疲れる冗談言ってる場合じゃないよ……」ゼーゼー

潮「……」ハーハー

島風「もー、あっつーい!」

白露「叫んじゃ体力消費するってば……」

オリヴィア「やれやれ、そろそろアタイの出番かい?」ポンッ

潮「!?」

ベリアナ「オリヴィア!? どこに潜んでたの!?」


オリヴィア「アタイかい? ウシオの艦内にこっそり紛れて入ってたんだよ」

潮「ぜ、全然気づきませんでした……」

オリヴィア「どんくさい子だねえ」

潮「どんくさい……」ズーン

オリヴィア「それはさておいて、ほら、そこの二人。アミーゴを背負うのはアタイがやるよ」ノッシノッシ

朝潮「……」ゼーゼー

霞「あ、あんた……」ハーハー

オリヴィア「成人男性担いで歩くにゃあ、あんたたちじゃガタイが足りないよ」ヒョイ

霞「あ……」

オリヴィア「陸の上ではこのアタイに任せて、海についたら交代だ。いいね?」テイトクカツギアゲ

朝潮「……わ、わかりました、お願いいたします……!」ペコリ

 タタタッ

黒潮「不知火! ……良かった、みんなおるんやな!?」

朝雲「山雲、みんなを運ぶの手伝うわよ!」

山雲「は~い」

初雪「……熱い、死にそう……早く海に行こう」ダラー

朝雲「いま、軽巡や重巡のみんながこっちに向かってるわ」

黒潮「うちらが運ぶより、重巡や戦艦のみんなに運んでもらったほうがええやろしな!」

不知火「……少し、急ぎましょう」コク

今回はここまで。


こちらのお話は、外伝的な「墓場島鎮守府?」のお話で発生した
フラグを回収するルートになっていますので、もうしばらくお時間戴きたく。

申し訳ありませんが、こちらの更新はまた来年に。

保守のついでに、ル級のアイデア元のネタはこちらです。
 https://www.pixiv.net/artworks/49459721
 https://www.pixiv.net/artworks/49607618

長らく長らくお待たせしました。
ようやく整いましたので、続きです。


 * 島の南東岸 *

神通「この上ですね……!」

川内「うひゃあ、熱気がすごい!」

五十鈴「駆逐艦のみんなはもうあそこにまで行ってるのね……!」

由良「急ぎましょ!」ダッ

軽巡棲姫「……グ……!」ガクッ

那珂「! け、軽巡ちゃん大丈夫!?」ガシッ

川内「もしかして、さっきふっ飛ばされたときのダメージが残ってるんじゃない?」

那珂「みんなは先に行ってて! 私が軽巡ちゃんを看るから!」

川内「わかった!」ダッ

神通「お願いします!」ダッ

 ザザザァッ

那智「む……何があった!?」

那珂「軽巡ちゃんのダメージがひどいみたいなの! 私が看てるから、先に行ってて!」


那智「あ、ああ、わかった。具合がひどいときは引き返せよ!」ダッ

古鷹「私たちは行きましょう!」ダッ

利根「よおし筑摩、吾輩たちも突入するぞ!」ダッ

筑摩「はい、姉さ……ん!?」

利根「ん? どうしたん……うおっ!?」ガクッ

??「ど、どうしたんじゃ!?」

利根「い、いや、急に力が……って……」フリムキ

筑摩「……」

利根「……」

??→利根の幽霊「む?」

筑摩「……」

利根「……」


利根の幽霊「利根? 筑摩も……なんじゃ? もしかして、吾輩が見えるのか!?」

利根「吾輩がいるううううう!?」ヒョェェェ!?

筑摩「利根姉さんが幽体離脱してるうううう!?」キャアアアア!?

那珂「うーん」フラッ パタリ

軽巡棲姫「チョッ!? シッカリシナサイ!?」

利根の幽霊「い、いや、吾輩たちは別に幽体離脱しておるわけでは……」

筑摩「はやく! 早く利根姉さんの体に戻ってください!」オロオロ

利根「う、うむ! 早く戻ってこい!」ダッ

 スカッ

筑摩「体をすり抜けた!?」

利根「モノホンの幽霊じゃああ!?」

利根の幽霊「いや確かに幽霊だけれども!?」

利根「き、き、貴様、何者じゃ!?」

利根の幽霊「な、何者と言われても……吾輩たちも利根である!」

軽巡棲姫「……アナタ、幽霊ノ『レギオン』ネ?」

利根の幽霊「うむ……集合体である」

筑摩「集合体?」


利根の幽霊「利根よ、貴様は覚えているか? あの地下室に並べられた利根の標本を」

利根「……!」

利根の幽霊「吾輩たちは、あの地下室で殺された利根の集合体である!」

利根「な、なんじゃとおお!?」

筑摩「……あ、あの写真の……!?」

利根の幽霊「まさか貴様たちと話ができるとは夢にも思わなんだが……」

軽巡棲姫「コノ光ノセイヨ……」

利根「む?」

軽巡棲姫「コノ忌々シイ光ガ、私ノカラダヲ拒ミ、オマエヲ呼ビ起コシタ……海底トハ、真逆ノコノ光ノセイデ」

利根の幽霊「……そ、そうか、この光は女神妖精の光であったな……!」

筑摩「轟沈から救うための力が、幽霊になった利根姉さんたちに力を与えたってことですか……!」

利根「なるほど、軽巡棲姫が光に包まれたこの島に近づけないのは、その身に深海の力を宿すからということか……?」

軽巡棲姫「多分、ネ……島全体ヲ覆ウホドノ光ダ、オマエノ復活モ、光ノチカラガ強スギルセイデ起コッタハズヨ」

筑摩「そ、それはわかりましたが、利根姉さんの体に幽霊の利根姉さんたちが戻らないと、生身の姉さんの力が戻らないのでは?」

利根の幽霊「戻ろうとして戻れなかったのが、ついぞさっきじゃぞ?」

利根「今はそれはどちらでも構わぬ。まずは動けるものが動いて提督を助けるのが先である!」


利根「筑摩、おぬし一人でも行ってくれるか? 皆の力になって欲しい……!」

筑摩「! ……わかりました。ここも危ないですから、利根姉さんは避難しててください!」タッ

利根「筑摩! 必ず戻ってくるのじゃぞ!!」

筑摩「はいっ!」バッ

利根「……吾輩の体が重いのは、やはり、おぬしが離れてしまったせいなのか……?」

利根の幽霊「ふむ……ずっと、一緒におったからな。吾輩たちは、いつの間にか、おぬしの一部になってしまっていたのかもしれぬ」

利根「そうか……おぬしは、吾輩とずっと一緒におったのだな」フフッ

利根「頼みがある。できるのであれば、吾輩の代わりに筑摩を守ってほしい……筑摩に危険を知らせてやってくれまいか」

利根の幽霊「……ああ、任せよ!」ニッ

利根の幽霊「可愛い妹のため! そして、外の世界を……海を教えてくれたおぬしのため!」

利根の幽霊「その願いに報いようではないか!!」ゴォッ!

利根「……頼むぞ……!」

軽巡棲姫「幽霊ニ支援ヲ頼ムナンテ、非現実的ネ……」

利根「……ふふ、深海棲艦のおぬしでも、そんなことを言うのだな」ヨロッ

利根「さあ、吾輩たちは避難するとしよう。気絶した那珂も連れて行かねばな」


 * 丘から海への道 *

不知火「はぁ、はぁ……っ」

朝潮「なんて、熱さ……」

潮「……」

朝雲「み、みんな大丈夫……?」

黒潮「……朝雲こそ、足元、やばいんちゃう……?」

山雲「……」

初雪「……早く、海に出たい……」

白露「あたしが、一番に出る……!!」

島風「負けない……!」

霞「ったく、もう……!」

オリヴィア「こりゃあまずいね……みんなへばっちまってる」ホッソリ

ベリアナ「オリヴィアも細くなってるんだけど……」

オリヴィア「ああ、せっかく肉を付けたのに、この暑さで強制的にダイエットさせられちまったよ」

オリヴィア「ベリアナ、悪いんだけどあたしのレスリングウェア、余ってる分を後ろで縛っとくれ。ゆるゆるだ」


ベリアナ「毎回不思議なんだけど、なんでオリヴィアは胸だけ脂肪が落ちないの?」ムスビムスビ

オリヴィア「知らないよそんなの。それよりべリアナも運ぶの手伝いな」

ベリアナ「無理よぅ、私が非力なの知ってるでしょ? だれか担いだら飛べないし!」

 ドーン!

不知火「……!」クルッ

オリヴィア「なんだい!?」クルッ

 溶岩<ドパァァン!

オリヴィア「げっ! 溶岩が壁を乗り越えてきたのかい!?」

ベリアナ「やっばいじゃない! みんな逃げて!?」

オリヴィア「逃げるったって、逃げられるわけないよ!!」

霞「……そんな……!」

 溶岩<ゴォォオ!!

ベリアナ「嫌ァァ!! こっちに流れてきたああ!!」

黒潮「こんな、ところで……」

 ゴォッ!

島風「な、なに!? 今の速い気配!!」


利根の幽霊「やらせはせんぞ!! どりゃあああ!!」

 ドガァァンン!!

ベリアナ「きゃああ!? なに今の!!」

オリヴィア「……地面が盛り上がって壁ができてるよ。おかげで助かったけど、こりゃいったいどういうことだい」

朝潮「今の声は……利根さん……?」

 タッタッタッ…

不知火「あれは……」

由良「や、やっと追いつけた……」ハァハァ

敷波「由良さん……!」

大淀「皆さん無事ですか!?」

川内「滅茶苦茶暑いね……ほら、肩を貸すよ!」

五十鈴「みんなよく頑張ったわ!」

朝雲「良かった……山雲! しっかりして! みんなが来てくれたわ!」

山雲「あ……良かったぁ……」

神通「すぐに重巡の皆さんも来ます、それまで少しでも歩きましょう!」

那智「おおーーーい!!」


古鷹「みんな大丈夫!?」

ベリアナ「古鷹!? ふるたかぁぁぁぁ!!!」ピューン!

古鷹「ふえっ!? ベ、ベリアナさん、どうしてここに!?」

ベリアナ「ニコちゃんの指示で、ブラックホールを通してみんな逃げさせられないかって頼まれたのぉ!!」ヒシッ

古鷹「そ、そうだったんですか……無事で良かったです!」ニコッ

ベリアナ「んもう、古鷹が助けに来てくれるなんて、これってきっと運命なのね……?」テヲニギリ

古鷹「へっ」

ベリアナ「私、もう汗でベトベトなの……戻って二人でお風呂で洗いっこしましょ……?」ピトッ

古鷹「あ、あのっ」アセアセ

ベリアナ「やぁん、照れちゃってぇ、古鷹ったらカワイィ」

 ゴチーン

ベリアナ「……いったあああい! 何するのよお、オリヴィア!!」

オリヴィア「ふざけてないで避難しな。悪いね、アタイもそろそろ体力の限界だ、誰かに乗せてってもらえると助かるよ」

古鷹「そ、それじゃあ、私の艤装に乗ってください。ベリアナさんも一緒に」

ベリアナ「ああん、古鷹ダイスキぃぃ!!」ダキツキー


加古「とりあえず、みんないるかい?」

朝潮「あ、あの、利根さんの姿が見えないのですが……」

霞「さっき、声が聞こえたような気がしたんだけど……」

利根の幽霊「うむ! 吾輩のことは構わず、早く逃げるのじゃ!!」

朝潮「!?」

黒潮「透けてるーー!?」ガビーン!

初雪「……は、はらったま、きよったま……!」ガタガタ

筑摩「と、利根姉さん! そんなに急いで、何があったんですか!」ハァハァ

大淀「そうですよ! 利根さんにいったいなにがあったんですか!!」

利根の幽霊「幽体離脱したようなものじゃ! 簡単に言えば!」

五十鈴「簡単すぎよ!!」

利根の幽霊「それより丘の上の光の柱を見よ!」

利根の幽霊「この島に埋葬された艦娘の魂がこの奇跡を起こしたわけじゃが、それを呼び起こした女神妖精の光の力が衰えつつある!」

利根の幽霊「吾輩が新たに壁を作ったが、吾輩たちの力も長くはもたん! 我らが活動できる間に、島を離れ海に出るのじゃ!! 急げ!!」

足柄「そ、そういうことね……!」

不知火「……早く脱出しましょう、司令のためにも」ググッ

三隈「軽巡のみなさんは意識のある駆逐艦のみなさんに肩を貸してあげてください」

最上「提督と、気を失った駆逐艦のみんなは、僕たちが運ぶよ!」

大淀「急ぎましょう!!」


 * 島の南東岸近く *

金剛「テートクゥゥゥ!!!」ダダッ

比叡「金剛お姉様! みんなすぐそこまで来てます!」

那智「おお、金剛型の到着か! 助かる!」

霧島「お姉様、私たちは疲弊している駆逐艦娘を優先して運びましょう!」ヒョイヒョイッ

霞「き、霧島さん……!」カツギ

朝潮「あ、ありがとうございます……!」アゲラレ

比叡「よーし、みんな連れていくよーー!」ヒョイヒョイ

敷波「ふいー、助かったぁ……」コワキニ

潮「お、お世話に、なります……」カカエラレ

榛名「さあ、行きましょう!」ヒョイヒョイッ

朝雲「あ、ありがとうございます……!」セナカニ

山雲「たすかったわ~……」セオワレ


金剛「急いで引き上げるデース!」ヒョイヒョイッ

白露「金剛さんありがと……!」リョウテニ

島風「もう、あっつーい……!」ダキカカエ

武蔵「我々も来たぞ!」

大和「さあ、急いで引き上げましょう!」

三隈「最上さん、提督は大和さんにお任せしましょう!」

最上「そ、そうだね、その方が早いかも!」

大和「わかりました、お任せください!」ダキカカエ

足柄「武蔵は陽炎型の二人をお願い!」

武蔵「よし、しっかりつかまれ!」ヒョイヒョイ

黒潮「お、おおきにな……!」ギソウニ

不知火「助かります……」ノセラレ

 ドドーン

筑摩「火山の噴火が……!」


 * 沖合 *

ヲ級「……マズイナ」

ルミナ「なにがあったんだヲ級君!?」

ヲ級「丘ノ上ノ光ガ弱マッテイル。溶岩ヲ押シトメテイタ壁ガ、乗リ越エラレソウダ」

ル級「……!」

泊地棲姫「ナニゴトダ」ザザァ…ッ

中将「!!」

X中佐「は、泊地棲姫……!」

ビスマルク「大丈夫よ。私たちがいるわ」スッ

泊地棲姫「……」ジロリ

長門「それより、ルミナの反応を見るに、なにかあったのか?」

ヲ級「取リ残サレタ人間ヲ助ケニ陸ニ上ガッタハイイガ、溶岩ノ流レガ速イ」

長門「……!!」

泊地棲姫「ナルホド……艦ガ、陸ノ上デハ遅クナルノモ当然ダ」


泊地棲姫「手ヲ貸ソウ……!」

 ザザザザァァァ

プリンツ「な、なななっ、なんですか!? この音!!」

扶桑「これは……」

カ級たち「「……」」ズラッ

ヨ級たち「「……」」ズララッ

泊地棲姫「潜水艦隊、単横陣ノママ、海面下ヲ島ニ向カッテ直進。陸地ノ手前デ潜航シ、引キ返セ」

深海潜水艦たち「」ザザァッ!

ローマ「なにをするつもり……?」

泊地棲姫「水ノ上ナラ速度ガ出セルダロウ。ダカラ、波ヲ起コシテ陸地ニ水ヲ送リコム」

ビスマルク「……津波の原理ね。引き潮に乗れば、島からの離脱も早まる……か」

泊地棲姫「アトハ……」

長門「あとは?」

泊地棲姫「コノ島ノ艦娘ト、メディウムノチカラヲ借リル。ヲ級」

ヲ級「……了解」

 深海艦載機< ヒュオァァッ シュパアァァァ…!


 * 島内部、南東岸近く *

 溶岩< ドドドド…!

金剛「Hurry! Hurry!! Hurryyyyy!!」

那智「もうすぐ海だ! 気を抜くな!!」

加古「ひぃ、へぇ、はぁ……海が、遠い……」

那智「諦めるな! 生きたまま溶鉱炉もどきに入りたくないだろう!」

加古「わ、わかってるよぉ……!」

摩耶「喋ってないで、走れ!!」

 溶岩< ドドドド…!

足柄「迫ってきてるううううう!」ヒィィ!

武蔵「後ろを見るな! 前を見ろ!!」

 ザパァァァン!!

霧島「! 波が強い……!?」

榛名「あの波に乗れれば、間に合うのでは!?」

 溶岩< ドドドド…!

足柄「音が近づいてきてるわあああ! 嫌ああああ!!」

五十鈴「足柄さんそういうこと言わないで!!」


由良「ま、間に合うのかしら……!?」

古鷹「! あれは……前を見てください!」

海上に浮かぶ浮遊砲台×5「」フヨッ

摩耶「ありゃあ、泊地棲姫の浮遊砲台と……五月雨!?」

神通「利根さんと軽巡棲姫も……!」

三隈「五月雨さん、いないと思ったら、あんなところに!?」


軽巡棲姫「……コレガ、ヲ級カラノ距離情報ダ」

利根「ふむ……であれば、このタイミングじゃな」

五月雨「わ、私にできるんでしょうか……!?」

利根「大丈夫、吾輩たちがサポートしておるんじゃ」

軽巡棲姫「今、浮遊砲台ノ制御ガデキルノハ、オマエダケ……シッカリナサイ」

ミリーエル「こちらも準備できました!」

グローディス「外すなよぉ、責任重大だぜ」ニヒヒ

ディニエイル「そうやってプレッシャーをかけて遊ぶのはやめてもらえますか」

浮遊砲台「ギュエ……」

ディニエイル「大丈夫です。狙って打つだけ。我々の仕事はそれだけです」

利根「さあ、参ろうか! 五月雨、頼むぞ!」


五月雨「……はいっ! 行きます、観測着弾射撃!」

 ヲ級の深海艦載機< ギュォォォオ…!

軽巡棲姫「今ヨ!」

五月雨「撃てええええ!!」

泊地棲姫の浮遊砲台たち「」ドガドガドガァン!


加古「な、なんだなんだあ!? 撃ってきた!?」

那智「着弾地点が近いぞ!?」

 砲弾< ドガドガドガァン!

 バキッ

 (着弾した地点から乾いた音が響いて)

 氷の壁< バキバキバキバキーッ

メアリーアン「おらだずの魔力の結晶だあ!」

ヒサメ「そうやすやすと溶けたりはせぬぞ!!」


加古「うおっさぶっ!?」ヒンヤリ

白露「うわあ、氷の壁が溶岩を遮ってる……!」

金剛「今のうちデース!!」

武蔵「次の波が来るぞ! 飛び込めええええ!!」

 ザパァァァン!!


 * 沖合 *

千歳「龍驤さんから、全員の無事が確認できました!! 全員海上に出たようです!」

ヲ級「……潜水艦隊モ、海域カラ離脱完了シタ」

長門「提督と駆逐艦たちはどうなったんだ……!?」

ヲ級「イマ、コチラニ向カッテキテイルナ」

隼鷹「逃げ遅れの艦もいないみたいだね! あとは海軍の人が海に放り出されてる!」

X中佐「祥鳳! 僕たちは一旦、本船に戻る! 深海のみんなとは今後も連絡を取りたい、連絡先の交換を頼む!」

祥鳳「わ、わかりました!」

X中佐「僕たちは提督少尉の受け入れ準備だ! それから叔父さんと、WとH大将の怪我も診てもらいます!」

X中佐「それから生き残った海兵の救助を! 中将閣下、救助隊の指揮をお願いできませんか!?」

中将「……うむ、承知した」

 大型ゴムボート< バウゥゥ…!

ル級「……提督ハ、助ケラレルノカ……?」

ビスマルク「それは保証できないけれど、医療船のスタッフは全力を尽くしてくれるわよ」

泊地棲姫「助ケテモラワナイト、ココマデ手ヲ貸シタ意味ガナイワ」

ニーナ「その通りです。魔神様の無事のお帰りこそ、私たちの望み!」

ケイティー「旦那様のいない世界なんて、存在しなくていいのよ……!?」ユラリ

ローマ「過激派がいるわね……」タラリ

ニコ「でも、ぼくたちメディウムの望みは概ねその通りだよ。僕たちはそれこそ、数百年待っていたんだ」


伊勢「やったよ! みんなが戻って来たよ!」ザァァッ

祥鳳「ローマさんとリベッチオさんは、墓場島の艦隊の皆さんの、医療船への誘導をお願いします!」

リベッチオ「わかったー!」

ローマ「了解」

 ドドーン…

ヴェールヌイ「! 島が……!」

長門「……」

扶桑「全部、燃えてしまったわね……鎮守府の建物も、丘の上の艤装も……なにもかも」

陸奥「……」ウツムキ

扶桑「私たちは、これからどこへ行けばよいのかしら……」

山城「……お姉様……」

祥鳳「……」

泊地棲姫「……」

ル級「……」


 * * *

 * *

 *

今回はここまで。

これから提督の出生の秘密や、
まき散らしたフラグの回収をしていきます。

続きです。


 * ??? *

(提督らしき人影が花畑の中に大の字で倒れている)

提督「……」

提督「……」

提督「ん……」

提督「んん……?」パチ

提督「……」ムクッ

提督「……なんだここ?」キョロキョロ

提督「俺は確か……如月や吹雪たちを抱きかかえて、島にいたよな」

提督「島が燃えてて、熱くて頭が朦朧としてて、その後……」

提督「……ちっ、俺らしくもねえ」

提督「つうか、あいつらどこいったんだ。そもそもここどこだ? 夢でも見てんのか……?」

提督「服も燃えたり汚れたりしてねえし……ん? 俺、こんなに色白だったか?」ソデマクリ

提督「……まあいいや、どうせ夢なら寝直すか。誰もいねえんじゃしょうがねえ」ゴロン


提督「……」スー

時雨「……」ザッ

提督「……」スー

時雨「ねえ、提督」

提督「……」

時雨「寝てる場合じゃないよ。ほら、起きて」ユサ

提督「……んん?」パチ

時雨「おはよう、提督。僕のこと、覚えてるかな?」

提督「……」プイ

時雨「? 提督、いきなりそっぽを向くなんてひどいんじゃないかな?」

提督「そうじゃねえ、近付きすぎだってんだよ。お前、俺にスカートの中を見せたいのか」ムクッ

時雨「!」バッ

時雨「……見た?」セキメン

提督「ああ、見ちまったよ。黒か」

 ベシッ

提督「いてっ」


時雨「信じられないよ、僕の名前より先に履いてるパンツの色を口にするなんて」

提督「見えたもんはしょうがねえだろうが。それよりお前……俺と面識ねえよな? 見覚えはあるんだが……」

時雨「そういえばそうだね。でも、僕はずっとみんなを見てたから、良く知ってるよ」

提督「見てた?」

時雨「うん。僕は、白露型駆逐艦、時雨。よろしくね」

提督「時雨? ……扶桑たちを追いかけてきた奴の同型か?」

時雨「同型じゃなくてその本人だよ。あの時轟沈してあの島に埋葬されたのが、この僕さ」

提督「なに? ……足はついてやがるな」

時雨「下着の次は脚を見るなんて、提督はいやらしいね。けだものだ」

提督「興味ねえよ」

時雨「そう言って油断させて僕を食べる気なんだね?」

提督「……」

時雨「その、相手にするのが面倒臭そうな顔をするの、やめてくれないかな」

提督「その手のネタは俺の趣味じゃねえ。つうか、お前ってそういうキャラだったのか?」

時雨「冗談も言えない状態だったんだもの。少しくらい付き合ってくれてもいいじゃないか」


提督「だったらもう少し上品な冗談にしてくれ。それより、お前がいるってことは、ここはあの世か?」

時雨「うーん……あの世とこの世の境目、かな? 賽の河原みたいなものだね」

提督「つまり、俺も死んだのか」

時雨「死にかけている、と言うのが正しいかな。提督の肉体は無事みたいだからね」

提督「そうなのか……? でも俺がここにいるってことは、ほぼ死んでるのと同じじゃねえのか? お前もここにいるわけだし……」

時雨「うーん、それにはもうちょっと複雑な事情があるんだけど……」

提督「そうだ、如月たちもここに来てるのか?」キョロ

時雨「みんなは来てないと思うなあ」

提督「あいつらは無事だって言えるのか?」

時雨「うん、おそらくね。とにかく、提督がなぜここに来たか、その理由は提督の顔を見ればわかるよ」

提督「どういう意味だ?」

時雨「丁度良くそこに池があるから、そこで自分の顔を見てみなよ」

提督「……?」

 (提督が池を覗き込むと水面には、陶器のような真っ白な顔にひびが入ってオレンジ色に発光している顔が映る)

提督「なんだこりゃ……!?」


時雨「肉体から引き剥がされて魂だけになった姿だから、よくわかるでしょ?」

提督「魂……!?」

時雨「そう。提督、あなたは、深海棲艦の魂と人間の魂が混ざりあった魂を持つ人間だよ」

提督「混ざっ……深海棲艦と!? 俺が!? なんでだ!?」

時雨「提督のお母さんが、学生の時に海難事故に遭ったことは知っているかい?」

提督「……いいや、知らねえ。初めて聞いた。母親が海の近くに行きたがらないのはそのせいか?」

時雨「だと思うよ。提督のお母さんは君が生まれる前、その事故で、深海棲艦に接触していたんだ」

提督「……」

時雨「数年前、海に突然現れた深海棲艦。そのもととなっている魂そのものは、海に姿を現す以前から存在していたんだ」

時雨「その眠っていた魂が、生きている人間……つまり、海難事故によって海に放り出された人間を感知し、接触した」

時雨「そこにいた人たちは体を奪われたり、彼らの持つ怨嗟によって精神を蝕まれ狂わされたり……たくさんの人が『人』ではなくなった」

時雨「提督のお母さんも、深海棲艦の魂に襲われた一人なんだよ」

提督「……」

時雨「本当なら、提督のお母さんも狂人になるはずだったんだけど、そうならなかった理由がふたつ」

時雨「ひとつは、乗り移った深海棲艦の魂が弱っていたせい。もうひとつはに救助されてから海から離れたこと」

時雨「そのおかげで、提督のお母さんは狂うことなく生き延びたと思うんだ」


時雨「そして提督のお父さんと結婚し、新たな命を宿したときに、その命が持ってきた『人間』の魂と結合した」

時雨「そうして生まれたのが、提督……君なんだ」

提督「……」

時雨「……」

提督「あいつが……母親が、俺に異常なくらい怯えていたのは、そういうことか?」

時雨「多分ね。そして、その君の出生に目を付けたのが魔神の手先だね」

提督「ニコのことか?」

時雨「ううん、魔神のために作られた自動人形(オートマタ)……エフェメラって名前なんだけど」

時雨「彼女が君のお父さんに接触して、不幸を君に押し付けるように仕組んだ、って聞いてるよ」

提督「じゃあ何か。俺は生まれる前から魔神に目を付けられてたってことか」

時雨「そういうことだね」

提督「冗談きついぜ……最初っから俺の人生ハードモードだったんじゃねえか」

時雨「でも、結果的に魔神に食べられたりしなかったんだ。妖精に感謝しないとね」

提督「食べる!? なんだそりゃ!?」

時雨「魔神の目的は、邪悪な魂を食らうこと。本当なら提督は、魔神に捧げられる生贄となるはずだったんだよ?」

時雨「ハードモードどころか、最初からバッドエンド直行が既定路線だったんだ」

提督「……」


時雨「君があらゆる人間から忌み嫌われ、謂れのない恨みや悪意を一身に浴びれば……」

時雨「いずれはすべての人間を憎み、世界そのものを憎むような、凶悪極まりない人間になるはず」

時雨「ましてや魂の半分は深海棲艦。そうなっていたら人間ですらなくなってたかもしれない」

提督「……俺は魔神の餌になるためにこんな目に遭ったってことか」

時雨「深海棲艦が混ざった君の魂が、御馳走に見えたんだろうね」

時雨「その目論見を狂わせたのが、妖精との出会いさ。あんなに早く、提督が妖精と出会うなんて、彼らも予想外だったみたいなんだ」

提督「それだけでそんなに変わるのか?」

時雨「ねえ、提督は、妖精から何を教えてもらった?」

提督「……」

時雨「本当なら、周囲の人間から教えてもらうはずのいろんなことを、妖精たちから教えてもらったんじゃないかな」

提督「……ああ、そうだ。俺に『常識』を教えてくれたのはあいつらだ」

提督「人の世に絶望しても、あいつらは俺を励ましてくれた。よく声をかけてくれたし、俺を見捨てたりもしなかった」

時雨「提督は人間に失望していたんだよね? でも、妖精には良い感情を持っていた」

提督「……」コク

時雨「妖精たちの干渉を想定してなかったエフェメラは、君を邪悪に染めるため、それ以降も君のお父さんに何度も接触してる」


時雨「あることないことを焚きつけて君の立場を悪くしつつ、彼の政治活動を裏から支援して」

時雨「君のお父さんの信頼を得ながら、結果的に君が人間を憎むように仕向けていたんだよ」

提督「……だからあいつは、ぽんぽんと調子よく出世していたのか」

時雨「弟さんがいたのもそれに拍車をかけた感じだね。父親と弟の評価が高ければ高いほど……」

提督「俺に対する風当たりは強くなる、ってか。まさしくその通りだな、その時点でそのエフェメラとかいう奴の術中にはまってたわけか」

時雨「その結果があの島への左遷だね。でも、それで結果的に人間社会から離れることができたのは、ある意味一番の幸運だったと思うよ?」

提督「……もしかして、お前もあいつらに巻き込まれたのか?」

時雨「さあ、どうだろう? わからないけど、僕がいた鎮守府はエフェメラの存在に関係なく、もともとそうだったんだと思うよ?」

時雨「その人の場所から君のいる鎮守府に流れ着いて……そこでみんなを見守っている中で、君を守りたいという人と出会った」

提督「俺を……?」

時雨「エフェメラは、実は一体だけじゃなく、数体いるらしいんだ。それこそ僕たち艦娘みたいに。そのエフェメラもそれぞれに思いがあって……」

時雨「魔神のために君を魔神の贄にしたがっている個体もいれば、魔神となりうる君の力になりたいって個体もいる」

時雨「僕は、その君の力になりたいっていうエフェメラに、協力してほしいと言われているんだよ」

時雨「今の話も、そのエフェメラから聞いて知ったんだ」

時雨「まさか、ここでこうやって君と話ができるなんて、思ってもいなかったけど、ね?」

提督「……」


時雨「それから、君がここに来たのは、君と一緒にいた女神妖精のおかげだよ」

提督「妖精の……!? あいつは、消えたんじゃないのか」

時雨「そう。君と一緒にいた女神妖精は、深海棲艦で作った弾丸によって、この世界から消滅した」

時雨「でも、それは死ではなく、現世に存在し続ける力を失っただけ。ようは、世界から一時的に追い出されちゃったんだ」

時雨「君が気を失った後、ブラックホールのメディウムが君を助けに来てくれて……」

時雨「その時に彼女が持っていた、魔力の元である魔法石の力で、妖精が戻って来ることができたんだ」

時雨「本当は、そういう用途で魔法石を持ってきたわけじゃないみたいだけどね」

提督「……」

時雨「その後、提督や如月たちを島から脱出させるため、女神妖精の力が島を包み込んで君たちの肉体を守り……」

時雨「それと一緒に、これまでに島に埋葬された艦娘の魂が力を得て、君たちを炎や溶岩から逃がす手伝いをしてくれた」

時雨「だから、さっきの如月たちがこっちに来ているか、と言う質問には、こっちには来てないと思う、って答えられると思うんだ」

時雨「女神妖精の力が発揮されたということは、如月たちの傷は治って、魂は自分の体に戻っているはずだから」

提督「そうなのか!? ……生きて、いるんだな……!?」

時雨「おそらくね?」

提督「でも、そういう見込みなんだな? それなら……良かった」


時雨「ただ、君たちを救助するために島に近づこうとした軽巡棲姫は、女神妖精の光に近づいたときに苦しんでいたんだ」

時雨「女神妖精のあの光は、深海を棲み処とする深海棲艦にとって毒なんだと思う。要は、轟沈から艦娘を救うための力だからね」

提督「……じゃあ、俺は……」

時雨「君は、半分深海棲艦だからね。肉体から追い出されたっていうか、強制的に成仏させられたんじゃないかな?」

提督「成仏……」チーン

時雨「だからこんなところにいるんだと思うよ」

提督「……いや、まあ、そうかもしれねえが」

提督「それよりも、よく俺とあいつが何十年も一緒にいられたな!? 俺とあいつって相反する属性持ちじゃねえか」

時雨「だからこそ出会ったのかもしれないね。君みたいな沈みかけの魂を救えるのが、女神妖精なんだから」

提督「……もしかしなくても、俺が妖精たちと話ができたのも、俺が半分深海棲艦だからってことだよな?」

時雨「うん、きっとそうだね」

提督「……ああ、くそ。俺の今の見た目からして信じられねえが、いろいろ納得できる辺りどうしようもねえな……!」

時雨「ねえ、提督? 君がなぜそんな姿なのか、ここにいるのか……僕の言いたいことを理解はしてもらえたと思うんだけど」

提督「……」

時雨「今度は、僕の質問に答えて欲しいんだ」

提督「……なんだ?」

.



時雨「提督。君は、死にたいのかな? それとも、生きたいのかな?」

提督「……」



.


時雨「……」

提督「はぁぁ……」

時雨「ため息ついてないで答えて欲しいんだけどな」

提督「急かすなよ。まさかここで、俺がその質問をされる側に回るなんてなあ……」

時雨「……」

提督「……正直、俺の出番はここまでだと思ってたんだ」

提督「如月たちを巻き込んじまった。だから俺も、嫌な奴らを焼き払って、一緒に燃えてしまおうと思ってた」

提督「でも、あいつらは……如月たちは、無事なんだよな?」

時雨「多分ね?」

提督「ル級たちはどうしてんだ? 海軍の連中に捕まってないだろうな?」

時雨「さあ?」

提督「ニコたちも……あっちで待ってんだろうなあ。わざわざ別の世界から訪ねてくるくらいだし」

時雨「……」

提督「……戻るか」アタマガリガリ

時雨「!」


提督「どの面下げて、って気もするが……このままじゃあ、如月たちにも、ル級たちにも、ニコたちにも迷惑かけちまう。未練が残っちまう」

提督「つけられる始末はきっちりつけとかねえとな。死ぬのはそれからだ」

時雨「……素直じゃないね?」

提督「そうか?」

時雨「まあ、いいか。早く帰って、みんなを安心させてあげよう」

提督「そうだな。そうと決まれば……」

提督「……」

提督「どこ行ったらいいんだ?」

時雨「……」

提督「どこ行くと戻れるんだ? 時雨、知ってるか?」

時雨「……」メソラシ

提督「視線が泳いでるぞ。俺を焚きつけておいて、それはねえだろ」

時雨「僕が知るわけないじゃないか……僕は、エフェメラが行けって言った通りに行かざると得なかっただけなんだから」ムー

提督「時雨も丸投げされたのかよ……んじゃ仕方ねえ、とりあえず手掛かり探すか?」

時雨「そうだね、そうして欲しいな」


提督「とはいえ……どこに行くかだな」ウーム

時雨「……」

提督「なあ時雨? ありきたりな発想だけどよ、仮にここが天国だとしたら、下は下界っつーか、人間界、って認識してもいいよな?」

時雨「うーん、そうかも……ね?」

提督「……」

時雨「なにか気になることでもあったの?」

提督「さっき、鏡代わりに見たその池の水。綺麗すぎて、水面というより薄い膜みたいなんだよな」

時雨「……確かにそうだね?」

提督「もしかして、あの池の底がもといた世界につながってたりはしないか……って思ったんだ」

時雨「そう……だね。可能性はあるかも」

提督「ちょっとあの池の中を覗いてみるから、俺が落ちないように足を抑えててくれ」ネソベリ

時雨「うん、わかった」ツカミ

提督「よ……っと」チャプン

 ゴォォォォ…

提督「おお……」チャパッ

時雨「どうだった?」


提督「この下は地獄だった。地獄の天井につながってるぞ、ここ」

時雨「」

提督「あちこち燃えてるわ血生臭えわ、燃えた人間やら人骨やらが転がってるわ悲鳴上げてるわでマジ地獄だった」

時雨「えええ……」

提督「洞窟っつうか、ただっ広い洞穴に篝火がたくさん置いてあって、筋骨隆々の獄卒もいて、これが地獄絵図かーって感じですごかったぞ!」ワクワク

時雨「……なんでそんなにテンション高いの?」

提督「もうちょっと見てていいか」チャプン

時雨「提督!?」


提督「おお、マジすげえ……獄卒もちゃんと牛頭馬頭(ごず・めず)じゃねえか、すげえな」キラキラ

提督「うん? なんだありゃ。女の鬼か? 体にツギハギ模様があるな……」


女の鬼?1「貴様なぞこうじゃ!」

女の鬼?2「我等の痛み、思い知れ!」

燃えている亡者「ぎゃあああ!」


提督「あの鬼……もしかして」

 グイグイ

提督「ん? どうした時雨」ザパッ


時雨「提督、こんなところで油を売ってないで、早く現世に戻る手がかりを探しに行こうよ」

提督「まあ待てよ。ちょっと見覚えのある顔が地獄にいるんだ。利根っぽかったんだが」

時雨「ええ?」

提督「お前もちょっと見てみろよ、少しでいいから」

時雨「う、うん……あ、ちゃんと足を掴んでてね?」

提督「おう」

時雨「……それじゃ、いくよ」チャプ…

時雨「……」

時雨「……」

時雨「……ふう」ザパッ

提督「どうだった?」

時雨「本当に地獄だったね……びっくりだよ」

時雨「それから、あの亡者を滅多刺しにしてた女の人たち、確かに利根さんに見えるね?」

提督「だったよなあ? ちょっとあいつらと話してみてもいいか?」

時雨「え?」


提督「どうやったら元の世界に戻れるか、聞けるかもしれねえし」

時雨「……」ウーン

時雨「……」ウーーン

時雨「……わかった。いいけど危なかったらすぐに引き上げてね」

提督「おうよ」

 チャプッ…

提督「こんな薄い膜一枚で地獄と隔たってるってのも、すげえな……」

提督「おーい! 利根ーーー!!」

 ザワッ!!

獄卒たち「な、なんだなんだあ!?」

女の鬼?1→利根1「だ、誰じゃ! 吾輩を呼ぶのは!」キョロキョロ

提督「おう、やっぱり利根だったか。上だ、上!」

利根2「上?」ミアゲ

利根3「うお!? なんじゃ貴様! 深海棲艦か!?」

利根4「いや待て、あやつは……おぬし、もしや墓場島の准尉か!?」


提督「おう、よくわかったな! お前らここで何してんだ!?」

利根1「知れたこと! 吾輩たちを切り刻んだこの男に仕返しをしておるのだ!」

提督「は!? まさかそいつ……」

利根2「これはかつてのM提督の慣れの果てよ!」

利根3「おぬしも聞いたであろう! 吾輩たちが受けた仕打ちを!」

提督「だからその体の傷かよ。それはそうと、なんで服が腰巻だけなんだよ!?」

利根4「これが地獄のスタイルじゃからな! 郷に入らば郷に従えというだろう!」

提督「なんでそういうところは馬鹿正直なんだよ……胸隠せ、胸」セキメン

牛頭「おーーい、そこの天井の、多分人間の兄ちゃん!!」

提督「!」

馬頭「あんた、こいつらの知り合いか!?」

提督「一応なー!」

馬頭「だったら、こいつらをここから出ていくように説得してくんねーか!?」

提督「ああ? どういうことだ!?」


牛頭「この嬢ちゃんたちは、本当ならここで働く必要はねえんだよ!」

牛頭「この野郎がいるってんで、わざわざこっちに訪ねてきて、俺たちの仕事をやらせて欲しいって言ってきてんだ!」

馬頭「おかげで俺たちゃあ暇で暇で! 筋肉がなまって仕方ねーんだよ!」ムキッ

提督「あー……」

牛頭「頼むぜ兄ちゃん! こっちに来た時ゃあ少し手加減してやっからよ! ちょっと助けてくれよー!」

提督「……」ウーン

利根1「あの男は地獄に来るかのう……?」

牛頭「そうなのか?」

利根2「艦娘に対してだけは激甘じゃからのう。助けて、と言えば誰でも助けてくれるんじゃないか?」

馬頭「本当かよ。そういえば、お前もさっき助けてっつったよな」

牛頭「ああ……」

提督「しゃあねえな……うまくいかなくても文句言うなよ!」

利根3「助ける気になったみたいじゃのう……」

馬頭「あー、ありゃ地獄に来ねえや。来ても俺たちと同じになりそうだぜ」

利根4「そうなのか! ならばなおのこと、ここを離れるわけにはいかんな!」ワクワク

提督「いや、俺はそういうの御免だぞ!? 面倒臭えのは嫌だからな!」

利根1「なぬぅ!?」


牛頭「……怠惰の罪で向こうに堕とされそうだな」

馬頭「ああ、あっちのハーデスの叔父貴あたりの区画のほうか」

提督「それに俺はまだそっちに行く気はねえぞー!」

馬頭「だよなあ。あそこから顔出してるってことは、まだあいつ三途の川を渡ってねーし……」

提督「それより利根! お前らのやってることは逆効果だぞ、そこの獄卒たちの言う通り、とっとと帰ってこい!」

利根2「な、なにを言うか! それでは吾輩たちの無念を晴らせぬではないか!」

提督「何言ってんだ、むしろ、お前らがかまってやってるから、そいつが喜んでんだろうが」

利根3「なんじゃと?」

提督「そいつがお前らを殺して飾ってたのは、ずっと自分の手元に置いておきたかったからじゃねえのかー?」

提督「確かそいつの望みは、笑ったり怒ったりするお前らのいろんな姿が見たかったって話だったよな?」

提督「お前らがそんな恰好でそいつを取り囲んで、怒ったり罵ったりしてるのも、同じ状況じゃねえのかよ!」

利根4「……!」

提督「大勢の利根に注目されてることを嬉しがってんだよ、そいつは!」

提督「今お前らがやってることは、ある意味そいつの望みをかなえてやってるのと同じなんだよ!」

利根1「そ、そうなのか……!?」


牛頭「そうだよ! あの兄ちゃんの言う通りだ!」

牛頭「俺も長いこと亡者を痛めつけてるが、そいつの悲鳴は苦痛って感じじゃねえんだ! 全然こいつへの戒めになってねえ!」

利根2「だ、だとしたら、吾輩たちはどうすればいいんじゃ……!?」

提督「そうだな……そいつのことは忘れて、全然違うところで幸せになりゃあいいんじゃねえの?」

提督「そいつが寝取られ趣味でなけりゃあ、お前らに見向きもされなくなった方がつらいと思うぞ?」

馬頭「あ、俺それわかる。カミさんに無視されんの、すげえ勘えるわ」

馬頭「うちのカミさんに愛想尽かされたら、寂しくて死ぬかもしれねえ」

利根3「なんと……おぬし、妻帯者であったか」

馬頭「そこ驚くとこかよ!?」

提督「そういうわけだから、どんな形になってても利根が好きな奴なら、お前らに二度と会えないようにした方が拷問になると思うぞ!?」

利根たち「「……」」カオヲミアワセ

提督「そんな奴のために、お前らが時間を使ってやる必要はねえ! 忘れちまえ、そんな奴!」

利根4「そのほうが、良さそうじゃのう……!」

牛頭「!!」


亡者「えっ、ちょっと待っ」

利根1「……こやつがあからさまに焦ってる辺り、まさしくそういった思惑があったのじゃろうなあ」ジロリ

利根2「うむ、そのようだ……二人とも、吾輩たちの我儘のために、おぬしたちの仕事を奪ってしまって、申し訳なかった」ペコリ

馬頭「お、おう。まあ、嬢ちゃんたちが恨みを晴らしたい気持ちもわかるからな」

牛頭「あんなに鬼気迫る感じで責めてたんじゃあ、余程の恨みがあったんだろうしなあ……ま、とにかくわかってもらえたんならありがてえ」

牛頭「ここから向こうの針山の左側の道を一里ほど行くと、図体のでかい髭面の親父がいるからよ。帰り道はそいつに訊いてくれ」

利根3「承知した。何から何まですまんな」ペコリ

利根4「では参ろうか。提督よ! おぬしにも礼を言うぞ!!」ブンブン

亡者「待ってくれ! 利根! 利根えええ!!」

牛頭「おー、やっと悲鳴が悲鳴らしくなったぜ。兄ちゃん、あんがとな!」

提督「おう! ところで知ってたら教えてくれ!」

牛頭「なんだあ!?」

提督「元の世界に戻りたいんだが、どこ行きゃいいんだ!?」

馬頭「なんだお前、現世に行きたいのか!?」


牛頭「だったら適当に歩いて行け! お前が行きたい方向に、花が避けて道ができるはずだ!」

提督「マジか……わかった!! ありがとうな!!」

馬頭「こっちこそありがとなー!」

 トプン

馬頭「ふー……やっと俺たちも仕事ができるぜ」

牛頭「お前、カミさんに無視されたとかあったのかよ」

馬頭「最近まともに仕事できなかったからなあ。筋肉が落ちたもんで、あんたみたいな駄馬は知らないって言われてよ~」ハハハ

馬頭「ま、これで俺の運動不足も解消できるし……」

牛頭「そうだな。張り切っていくかあ!!」

亡者「あ、ああ……」ガックリ

牛頭「がっかりしてないで、お前は自分の罪を悔いてろっての……よっ!」ドスゥ

亡者「ぎゃあああああ!」

馬頭「おお、いい悲鳴だねえ。やっぱ地獄はこうじゃねえとなあ!」ゴギャッ

牛頭「今度からはああいう特別ゲストは招かないほうがいいな。他の亡者も裸の女にいろめきだってたし、なあ!」グシャッ

馬頭「そうだな、変に希望を持たせるような対応は良くねえな」ドシュッ

牛頭「地獄だもんな、ここ!」

牛頭馬頭「ぎゃははははは!!」


 * 花畑 *

時雨「随分長い間、話し込んでたと思ったら、そんなことがあったんだ……」

提督「まあな。あとはあそこの利根たちが、まともな鎮守府に行ければいいんだが」

提督「そこの獄卒が言うには、目的地まで花が道を開けてくれて、俺達が行きたい場所に案内してくれるらしい」

時雨「そうなの?」

提督「ああ、試してみようか」スクッ

提督「現世に戻る道はどっちだ……?」スッ

 花<ザワッ

 花<ザザザザァ…ッ

提督「おお……すげえ」

時雨「道が開けた……本当に花が避けてくれてる」

提督「よし、そうと決まりゃあ、行くとするか。時雨もいいか?」

時雨「うん!」

というわけで、今回はここまで。

書き始めた頃はこんな設定がなく、書いてる間に二転三転してましたが、
この形がしっくりきたので提督の正体はこんな感じです。

今回もフラグ回収編です。

続きです。


 * *

提督「行けども行けども同じ景色だな」

時雨「道ができてるとはいえ、進んでいるのかもわからないくらいまっすぐだね」

提督「ったく、どこまで行けば……ん?」

時雨「……女の子の声、かな?」

提督「……」

時雨「なんだか泣き叫んでる感じがするね」

提督「聞き覚えのあるような声じゃねえが……ちょっと行ってみるか」

時雨「あっ、提督待って!」タッ

 * *

「やーだーーー! いっしょにいるのーー!!」ビエェェェン

スキンヘッドの壮年男性「これはどうしたものか……」

小太りの中年男性「このまま見過ごすわけにはいかんでしょう」

壮年「……しかし、これはどう手を付けたらいいか、わからんぞ」

中年「あの抱きかかえた艦娘をどうにかせねばなりませんな……」


時雨「なんだろう、誰かいるね?」

提督「行って見てみるか?」

時雨「うん、そう……待って。提督はここにいて」

提督「なんでだよ」

時雨「提督、自分の見た目が深海棲艦なの、忘れてる?」

時雨「その姿で人前に出てきたら、女の子が逃げると思うんだけど」

提督「……わかったけどよ……任せていいのか?」

時雨「うん。僕に任せてよ」

 スタスタ

時雨「ん?」

時雨「んんん??」タラリ

大きな女の子「うわぁぁぁぁんん!!」

 (身の丈4メートルあろうかという5歳児くらいの巨大な少女が人形?を抱えて座っている)

時雨(……遠近感が無茶苦茶だよ……こんなに大きいだなんて思わなかったじゃないか)タラリ


壮年「ん? お前は……」

中年「あれは……見覚えがありますな。ああ、君! もしかして、君は艦娘じゃないか?」

時雨「え? あ、はい、そうだけど……この熊より大きいサイズの女の子は……?」

中年「申し訳ないが我々も良く知らないんだ。泣き声につられてきてみれば、我々の話を聞かずに泣きっぱなしでね……」

壮年「否、話はしたのだ。だが、この娘は聞く耳を持たん」

中年「言い方が悪いのですよ! このくらいの子にはもう少し優しく声をかけてあげないと!」

時雨「……僕が、話してみようか?」

中年「お願いできるかい?」

壮年「……気を付けてくれ」

時雨「……」コクン

 ジリ…ッ

時雨「やあ、こんにちは」

女の子「ぐす……なあに? あなたも、このこをとりあげにきたの?」

時雨「この子? 君の持ってる、そのにんぎょ……う!? ま、待って! その人形、良く見せて……」

女の子「……あなたも」

時雨「……っ」ゾク


女の子「あなたも、しょうかくをとりあげようとするの!?」

時雨「そ、それは」

女の子「こないでえええ!!」ブンッ

時雨「うわっ!?」バッ

女の子「しょうかくは、わたしのものなの! こないでよおおお!!」ブゥンッ

時雨「……やばっ……!!」

提督「時雨危ねえ!!」バッ

 ドガッ

提督「ぐお!?」ブットバサレ

時雨「い、いたた……提督!?」

提督「うぐ……」ゴロゴロ…ドサッ

時雨「提督、大丈夫かい!? 僕を庇って……!」

提督「くそ……痛くはねえが、頭がグラグラしやがる……時雨は大丈夫か」

時雨「う、うん、大丈夫……!」

提督「なあ、あいつが抱えてる人形、艦娘じゃねえのか? 『しょうかく』とか呼んでなかったか?」

時雨「……そうだね。あれは、翔鶴型航空母艦の一番艦、翔鶴さんだ……!」


中年「な、なんだ!? 深海棲艦が艦娘を庇っただと!?」

壮年「軍服を着ているぞ……何者だ」


女の子「だれにも……だれにも、しょうかくは、わたさない……!!」

翔鶴「……ぐぅ……!」ギリギリッ


提督「……ったく、どういうことだよ」ジロッ

女の子「……なあに? まだ、わたしたちをいじめるの?」グスッ

時雨「提督、睨んじゃ駄目だよ!」

提督「ちっ、やべえな、警戒されてら……こっちからは手ぇ出してねえだろうがよ、くそが」

時雨「……その提督の言葉遣いが一番良くないと思うんだけど?」

??「あら? もしかして……司令官?」

提督「あん?」フリムキ

??→暁「ひいっ!? し……深海棲艦っ!?」

提督「暁!? なんでお前がこんなところに!?」

暁「……え!? あ、あなた、私を知ってるの!? もしかして本当に、墓場島の、提督少尉なの!?」

提督「……参ったな、マジでうちの暁かよ……」


暁「参ったのは私の方よ!? 司令官が深海棲艦になっちゃうなんて……!!」プルプル

提督「それは俺も知らなかったんだから我慢しろ。そんなことよりここから離れろ、危ないぞ」

暁「え?」


女の子「……」テイトクニラミ


提督「くそ、あの図体で暴れられちゃたまったもんじゃねえ。隙見て逃げなきゃ……」

暁「あれは……あの子は」

提督「!? おい、暁!? 近付くな!」

時雨「暁!!」

暁「私、あの女の子、知ってるわ……」

提督「はあ!?」

時雨「どういうこと!?」

暁「……私、どうして忘れてたのかしら」


女の子「……」

暁「……ねえ、あなた、I提督でしょう?」

提督「!!」


中年「て、提督!?」

壮年「I提督……だと!?」


女の子「……」

暁「私、思い出したの。あなたのこと」

暁「だって、私にいろんなことを教えてくれた、最初の司令官だもの。忘れちゃったりしたらいけないわよね」

暁「だから……忘れてて、ごめんなさい」ペコリ

女の子「……え……?」

暁「ねえ、I提督……ううん、司令官!」

女の子「……!」ビクン

暁「司令官は、私のこと……暁のこと、覚えてる?」

女の子「……あ、か……」


暁「私、司令官を一目見て、素敵な女性だと思ったの。司令官は、暁が見習わなくちゃいけない、理想なレディーだって」

暁「思った通り、司令官とのお話は、本当に楽しかったわ。いろんなことを教えてもらったし」

暁「レディーになるための普段の振る舞いとか、心がけとか……私の悩み事とかも! たくさんたくさん、聞いてもらったわ!」

女の子「……」

暁「それなのに、忘れちゃってて……本当にごめんなさい」

暁「なんで忘れてたかっていうと……怖かったんだと思う。司令官と一緒にいるのが楽しかったから、余計に思い出したくなかったんだと思うの」

提督「……」

暁「司令官は覚えてるかわかんないけど、あの時、私は……司令官が怖くて逃げだしたの」

暁「たくさんの深海棲艦に囲まれて、鎮守府もたくさん攻撃されて」

暁「それで、司令官がずっと悩んでたの、私、覚えてるわ。資材がなくなって、補給もままならなくなって」

女の子「……う、あ……」

暁「それでも翔鶴さんが無理を押して出撃して、翔鶴さんが大破してぼろぼろになって……司令官が、ちょっと、おかしくなっちゃって」

暁「そのあと……私、見ちゃったの。司令官が、翔鶴さんを……翔鶴さんのからだを、切り裂くところを」

提督「……!」

暁「ねえ、どうしてなの!? そんなに翔鶴さんを大事にしてたのに! 今だって、大事に翔鶴さんを抱きしめてるのに……!」

女の子「……ア、カ、ツキ……! う、ううう……!」


暁「どうして、あんなことをしたの!? 司令官……暁に教えて」

暁「司令官は、暁のお話をちゃんときいてくれたわ! 暁も、司令官が困っていたら、お話を聞いてあげたいの!」

女の子「……」

暁「お願い、I提督……司令官!!」

女の子「……ママの……」

暁「……」

女の子「……ママの、おかおが、なくなっちゃったの……」

暁「……!?」

女の子「けーさつのひとがね、ママのおかおを……だれかが、もっていっちゃった、っていうの……」プルプル

暁「……!!」

壮年「……っ!」

女の子「ママにあえなくて、さびしくて、かなしくて……」

女の子「すきなひとのおかおが、なくなっちゃうのは、いやなの……!」

女の子「しょうかくは、すき……すきなひと。わたしの、たいせつなひと……」

女の子「だから、どこにも、いかないように……だれにも、とられないように……!!」ギュ…

提督「……だから、翔鶴の首を……!」


暁「……駄目よ……そんなことしちゃ、駄目よ」ウルッ

女の子「……」

暁「司令官は、人の心を思いやれるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない」

暁「司令官は、人の痛みがわかるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない……!」ヒシッ

女の子「……あ……」

暁「そんなふうに、きつく抱きしめたら、翔鶴さんが痛いって、いつもの司令官ならわかるはずよ……!」グスッ

暁「お願い! 翔鶴さんを……翔鶴さんを助けてあげて!」

女の子「あああ……!!」

暁「司令官……! 思い出して! 司令官っ!!」ギュウ

女の子「あ、あああ、ああああああ!!」

 ゴォッ!

中年「突風が……!」

提督「……な、なんだ……?」

時雨「見て、女の子が……!」


女の子「し、しょうかくぅ……!」チンマリ

翔鶴「う……」フラッ

暁「翔鶴さん大丈夫!?」ガシ

翔鶴「え、ええ……ありがとう、暁ちゃん」

提督「元のサイズに戻った……のか?」

時雨「みたいだね……」

女の子「ごめん、なさい……ごめんなさい、しょうかく……」グスグス

翔鶴「……I提督」

女の子「いやだったの……しょうかくが、どこかにいっちゃうのが、いやだったの……」グスッ

女の子「うみのそこにしずんだら、あえなくなっちゃう……それが、いやだったの……!」

女の子「はなればなれに、なりたくなくて……ごめんなさい……ごめんなさい!!」ボロボロボロ

翔鶴「I提督……私こそ、申し訳ありませんでした」

翔鶴「あなたの言う通りにしていれば、私も大破しなかったかもしれなかったのですから……」ダキヨセ


翔鶴「I提督……これからはずっとお傍にいますから、安心してください」ナデナデ

女の子「しょうかく……しょうかくうう!!」ウワーン

提督「いいのかよ、安易にそんなこと言って」

翔鶴「……私は、I提督から愛情にも似た信頼を寄せられていたことを、日々感じていました」

翔鶴「この人を全力で守りたい。そう思ったからこそ、あの日私は、I提督の制止を振り切り、深海棲艦と戦ったんです」

翔鶴「結果的に大破して、このようなことになってしまいましたが……これはI提督の命に背いた私への罰ですから」

提督「……ったく、このお人好しめ」ハァ

暁「翔鶴さん……」ウルッ


壮年「I提督は30歳近いはずだったが……」

時雨「あなたは、I提督を御存知なんですか?」

壮年「私は直接の面識はないが、私の姉が彼女を知っている。一時期、姉が彼女の面倒を見ていたからな」

中年「そ、そうなのですか!?」

壮年「姉とその息子が警察官なのだが……姉経由で、甥がストーカー殺人の捜査に参加することになったことを聞いたのだ」

壮年「犯人が被害者の首から上を持ち去るという猟奇的な犯行でな。その被害者の第一発見者が、被害者の娘だったそうだ」


暁「……それが、I提督なの……?」

壮年「そうだ。事件の捜査中、彼女を預かってくれる親戚筋が見つかるまでの間、私の姉が彼女の面倒を見たのだ」

壮年「その子が海軍で艦隊の指揮を執ると聞いたとき、不思議な縁を覚えたものだった。それが……あのようなことになろうとは」

中年「子供の姿になっていたのは何故なのでしょう……」

提督「ショックで幼児退行でも起こしてた、とかじゃねえか? それか、その齢まで巻き戻ってやり直したかった、とかな」

中年「……なるほど……」

提督「そういや、父親はどうしたんだ? 母親が死んだときに引き取らなかったのか」

壮年「父親も事件の数年前に事故死している。その事故も犯人が仕組んだものではないかと言われていたが、証拠はない」

壮年「事件当時はストーカーという言葉もなく、好きな人間を殺そうとする心理がわからず犯人と見られていなかったのも災いした」

提督「……そういう話かよ」

壮年「犯人は、被害者の首と一緒に焼身自殺を図ったが、その前に捕まった。終身刑が言い渡され、今も存命のはずだ」

提督「あぁ? 刑務所で遊ばせてんのか? とっとと殺しゃあいいものを」

壮年「私はそれで良かったと思うぞ。奴は、死んで被害者と同じところに行こうとしていたのだ」

壮年「わざわざ殺してやって、それで犯人が望み通りになって喜ぶほうが私は面白くない」フンッ

提督「ああ、なるほど……そりゃ確かに」


壮年「それに……誰かが裁いて殺して終わりというのも、それはそれで味気ないものだ」

中年「それは……お察しいたします」

提督「……?」

壮年「まあ良い。この場を収めてくれたことには礼を言おう。だが、それよりも」ジロリ

壮年「貴様だ。墓場島の、提督少尉と言ったな?」

提督「……ん? あ、ああ」

壮年「貴様、未だに少尉なのか。あれからどのくらい経ったと思っている? なんの手柄も立てておらんのか」

提督「は?」

中年「そちらですか!? せめて外見を指摘なさるべきでは!?」

壮年「馬鹿者、どうせこの姿もこの男の心根の表れだろう! 些末なことだ!」

中年「些末じゃありませんよ! 深海棲艦ですよ!? いたずらに刺激しないでくださいよ!」

時雨「ねえ提督? このふたり、もしかして、提督のことを知ってるんじゃない……?」

提督「そうっぽいな……俺に関わりある時点でろくでもねえ話なんだろうけどな」

中年「ろくでもないとは何事だ!!」クワッ

提督「うおっ」


中年「私がどんな思いでお前に五月雨を託したか! 貴様に何がわかる! やはり所詮は深海棲艦か!」ウオオオ!

時雨「今、いたずらに刺激するなって言ってたよね」

壮年「言っていたな」ウム

中年「中将殿!?」

提督「……五月雨? 中将? お前らもしかして……五月雨送って来たP少将と、金剛送ってきたQ中将か?」

壮年→Q中将「! ああ、その通りだ」

中年→P少将「我々のことを知っていたか……面識はないよな?」

提督「あぁ!? 忘れてられっかよ! あんな面倒臭え形で五月雨押し付けやがって! ちゃんと憲兵隊長から引き継ぎしたんだぞ!」クワッ!

提督「死にたがってたあいつを落ち着かせて納得させるのに、どんだけ回りくどいことしたと思ってんだ、くそが!」

P少将「お、おお!? それはすまん……」

提督「中将も中将だ! あの金剛を一方的にこっちに送り付けやがって……あいつに落ち度はなかっただろうがよ!」

Q中将「……そうかもしれん。だが、あの金剛は、私とはあわん」

提督「ああ?」

Q中将「あの金剛は、私には毒だ。すぐ抱き着くわ、Loveだなんだと喚くわ、時間と場所というものを理解しておらん」

Q中将「既婚者にああいった態度はよせと、私は何度も説教している」

提督「あいつ、弁まえてたとか言ってやがったのに、全然そんなことなかったんじゃねえか!」アタマカカエ


Q中将「妻が食堂で働いていることも知っていた。それをそれとなく会わせられるように画策したり……」

Q中将「息子の死以来、私と妻がぎこちないからその仲を取り持とうとしていたんだろう。そんな余計なことなど、しなくて良かったのだ」

提督「……やれやれ、半分はあってんのか」

Q中将「それで、金剛とはどうなんだ」

提督「どうって、何が?」

Q中将「金剛と契りを結んだのかと訊いている」

提督「してねえよ。ただでさえ資材不足の島なのに、戦艦をほいほいとリミッターまで訓練できるわけねえだろ」

Q中将「カッコカリの話ではない! あの器量良しの金剛を受け入れられんというのか!?」

提督「何言ってんのかわかんねえ」

Q中将「まったく、ここまで甲斐性なしの根性なしだったとは……!」

提督「だから意味がわかんねえっつうの。根性は関係ねえだろ」

暁「……ねえ、Q中将さんは、金剛さんを提督のお嫁さんにしてあげようとしてたってことなの?」

Q中将「そうだ」

提督「」ピシッ

時雨(提督の顔にひびが……)


Q中将「貴様の噂は何度か耳にしていたからな。轟沈を経験した艦娘と暮らすとあっては、命がいくつあっても足りんだろう」

Q中将「おまけに建造した大和が問題児だと聞いている。貴様の身を守り、世話を焼くものが一人くらいいたほうが良いと思って金剛を送ったのだ」

Q中将「正直なところ、あの金剛は、息子が存命であれば引き逢わせてやりたいと思ったほどだ。そこまで言わんとわからんのか貴様は」ジロリ

提督「おいおい……余計なお世話すぎるぞ、このジジイ」ウヘァ

時雨「この人もなんだかんだ言ってお節介焼きだね」ヒソヒソ

提督「ま、いいけどよ。あの時は金剛がいてくれたおかげで五月雨が大人しくなってくれたんだから、感謝してねえわけじゃねえ」

P少将「五月雨が!?」

提督「ああ。あいつが俺んとこに来た時は、憲兵に噛み付いたせいで猿轡までさせられて来たからな。くっそ凶暴だったんだぞ」

提督「おまけに、島の艦娘借りてレ級退治に行かせろって、あんたと同じこと言ってたんだ。落ち着かせるのに苦労したんだからな?」

暁「そういえば五月雨、金剛さんにあやされてたわね……」

P少将「なんと……こんなところでまで中将閣下にお世話になっていたとは」

提督「あいつに頭撫でられると、なぜか歯向かう気がなくなるからな……今思っても、あの時いてくれて良かったと思うぞ」

P少将「五月雨……」

提督「五月雨には、あんたの手紙を渡しといた。あんたは自分を憎むよう仕向けてたようだが、そうはなってないから、安心しろ」

提督「それから、憲兵の隊長にも感謝しとけよ。五月雨の身柄を引き継ぐ俺のために、手の込んだ資料作って持ってきたんだからな」

P少将「そうか……すまない。本当にありがとう、恩に着る」フカブカ


Q中将「解せんな。そこまで気遣いできる男が、あの金剛を受け入れんとは」

提督「面倒臭えから嫌なんだよ、そういうの」

Q中将「」

P准将「」

時雨「……」

暁「司令官!! そういうところよ!? そんなことまで面倒臭がらないの!!」プンスカ

提督「面倒臭がって何が悪いんだ。俺は、俺抜きであいつらに幸せになって欲しいんだよ。艦娘が、人間なしでも暮らせるようになって欲しいんだ」

提督「人間嫌いが人間社会にいたって、そのうちろくでもない事態になることくらいわかるだろ?」

提督「俺が現世に戻ろうとしてるのも、その道筋をしっかりつけるためだ。俺のけじめをつけるためだ……!」

提督「魂も半分深海棲艦なんだぞ? 艦娘に迷惑かけたくねえってだけなんだよ!」

Q中将「だったらまっとうに生きればいいだろうに。艦娘に好かれていると理解しているのなら寄り添えというのだ」

提督「俺に結婚願望はねえよ。両親が最悪のくそなんで、遺伝子を残したくねえ。俺の家系なんぞ死に絶えちまえと思ってる」

提督「ついでに言えば性行為も無理だ。そういう漫画見ただけでゲロ吐くような男が、女と幸せな家庭なんてできるわけねえ」

Q中将「……」

P少将「……」


時雨「でも、EDは治ったよね?」

提督「……」

時雨「それが治ったのは艦娘と一緒にいたからじゃないの?」

提督「……」

時雨「それから、肉体も人間じゃなくなったから、遺伝子も全部変わったんじゃない?」

提督「……かもしんねえけどよ」

Q中将「それはどういうことだ!?」

P少将「体も深海棲艦になったのか!?」

提督「深海化はしてないが……ただの人間じゃなくなってはいるな。メディウムとか説明してもわかんねえだろ」

P少将「……めでぃ……?」カオヲ

Q中将「……確かによくわからんな」ミアワセ

翔鶴「あの、少しよろしいでしょうか」

女の子「えっと……」(←翔鶴に抱きかかえられ中)

P少将「お、おお、どうしたね」

Q中将「だいぶ落ち着いたようだな」


暁「翔鶴さん、大丈夫?」

翔鶴「ええ。暁さんに、I提督が聞きたいことがあるんだそうです」ニコ

暁「司令官が?」

女の子「……あかつきちゃん……このひと、こわく……ない?」

暁「!」

女の子「あかつきちゃんは、このひとに、こわいおもいを、していない?」

暁「……全然! 怖くなんかないわ!」ニコッ

暁「私たちが悪いことをすれば怖いけど、そうじゃなければお話も聞いてくれるし、暁たちのいいところも褒めてくれるわ!」

暁「私が鎮守府に来た時はずーっと怖い顔をしてたけど、このごろはそうでもなくなったし……」

暁「自分のことをすごく悪く言うところだけは嫌いだけど、そこ以外は、とってもいい司令官よ!」ニパッ

Q中将「……」

P少将「……」

提督「……」アタマガリガリ

女の子「あかつきちゃん……」

翔鶴「良かったですね、I提督」


女の子「そうね……それなら、おわかれしてもだいじょうぶね」ニコ

暁「……え?」

 ザワザワザワッ!

(足元の花が一斉に動いて道を作る)

(Q中将とP少将、I提督を抱えた翔鶴の道が一方へ伸びて)

(提督と時雨、暁の道は別の方向へ伸びていく)

暁「あ……!」

女の子「あかつきちゃん」ストッ

女の子「あかつきちゃんは、まだいきてるの」テクテク

女の子「だから、わたしとはここでおわかれ」

暁「しれい、かん……」ポロポロッ

女の子「おもいだしてくれて、ありがとう」ダキツキ

女の子「わたしは、あなたのしあわせをねがっているわ。さようなら、マイ・フェア・レディ……!」ギュ…

暁「司令官……ありが、とう……!!」ボロボロボロ


Q中将「……我々も、征かねばならんか」

P少将「そのようですね……」

提督「……」

Q中将「貴様に丸投げするようで悪いが、金剛のことは頼むぞ。それから、少し貴様自身のことも考え直せ」

P少将「五月雨のことも、よろしく頼む……私の無念は背負わなくていい。無事でいて欲しいと、伝えてくれ……!」

提督「俺のことはともかく……あいつらは悪いようにはしない。あいつらにとって、一番良いようにするつもりだ」ケイレイ

Q中将「……」ケイレイ

P少将「……」ケイレイ

提督「ふー……さて、俺たちも行くか」クルッ

時雨「うん」

翔鶴「少尉さん」

提督「ん?」

翔鶴「暁ちゃんのこと、よろしくお願いします。川内さんや響さんたち、かつての鎮守府の皆さんにも……もし出会うことがあれば、どうぞよしなに」

提督「……ああ、わかった」

女の子「あかつきちゃん、ばいばい……!」フリフリ

暁「……っ! ば、ばいばい……!!」ブンブン


 * *

暁「……ぐすっ、うっ……」ボロボロ

提督「暁、大丈夫か? 泣いててまともに歩けないなら背負ってくぞ?」

暁「っ、い、いいわ……だいじょ……ふぐっ、うううっ」グズグズ

提督「思いっきり泣いてすっきりしたほうが良くねえか?」

暁「……だい、じょぶだ、って……泣いてなんか、いられ、ないわ! ぐずっ、I提督が、心配しちゃうでしょ!?」

提督「……そうか。それもそうだな」

時雨「ねえ、提督こそ、少し急ぎすぎなんじゃないかな?」

提督「かもしれねえけどよ……あんなの見せられちゃあ急ぎたくもなる」

暁「? どういうこと?」

提督「今の俺たちは幽霊と同じで、体から魂が離れてる。魂が抜けた体ってのは死んでんのと同じだろ?」

提督「俺たちがここに長居すればするほど、あいつらを心配させてるってことになるなら、急いだほうがいいよな」

暁「それは、そうね……」

時雨「……」

提督「それはいいとして、暁はなんでここに来たんだ? お前も死にかけたのか?」

暁「なんで……うーん……確か、島の鎮守府が、燃えているのを見たとき……だったと思う」


暁「I提督の鎮守府も、深海棲艦の攻撃で燃やされたの。それを思い出したときに、頭が割れそうなくらい痛くなって」

暁「それで、気付いたら、ここにいたのよね……なんでか、わからないけど」

提督「……もしかしたら、だが」

暁「うん……」

提督「お前がI提督の鎮守府で起きたことを忘れたいと思うほどのときと、同じくらいひどいことが起きて……お前自身が耐えられなくなったのかもな」

提督「それか、I提督が、あるいは翔鶴が、無意識にお前を呼んだのかもしれねえ。一緒に来ないか、って」

提督「お前も、I提督の鎮守府のことを思い出したからこそ、その呼びかけに応えて、ここにきた……って話は、どうだ」

暁「……」コクン

提督「ま、どっちが正解かはどうでもいいか……良かったな暁、あの二人に会えて」

暁「……っ!」

提督「あの二人も、お前の様子を見て笑ってたもんな」フフッ

暁「んぐ……うっ」ブワッ

時雨「……提督。女の子を泣かすのは感心しないよ?」

提督「別に泣かせたくて言ったわけじゃねえよ。思い出させたのは悪かったけどよ……」

提督「でもまあ、そうか。好きな相手を、見送ったんだもんな。そう、なるか……」


時雨「提督? そこで僕の顔を見て、何を思ったの?」ムー

提督「……」

時雨「提督!?」

提督「なんでもねえよ。お前が聞いた質問に、死にたいと答えなくて良かったって、ちょっと思っただけだ」

提督「俺が死んで、あいつらがどんな顔するか考えると、ちょっとバツが悪ぃな、ってよ……」

提督「お前のときの扶桑や山城も、そうだったしな……」

時雨「……!」ジワッ

提督「いや、悪ぃ。泣かせるつもりは……」

 ――……れ……さま

時雨「!」

 ――しぐ……さ……

時雨「エフェメラ!?」

提督「どうした、しぐ……」

 ――しぐれさま……!

提督「うお、なんか聞こえてきた……なんだこの声」

暁「司令官も? 時雨のこと、呼んでるわよね?」

時雨「え!? ふたりにも聞こえるの!?」

提督「お、おお……もしかしてこいつがエフェメラって奴か?」

 ――聞こえるのですね……? そのまま……お進みください……

時雨「行こう、声の方へ!」

提督「そうだな、暁も行けるか?」

暁「大丈夫よ!」

というわけで今回はここまで。

お待たせしました、続きです。


 * *

(花畑の真ん中に、大きな黒い穴が開いている)

提督「おお……なんかすげえことになってんな、こりゃ」

暁「ここだけ地面がとけてるみたい……」

時雨「穴の中はまるで雲の中みたいだね。真っ黒で、稲光も見えるよ」

提督「なのに音が全然してこないのが不気味だな」

 ――時雨様……

時雨「エフェメラ!」

 ――ここまで、魔神様を導いていただき、ありがとうございました……

提督「この声の主がエフェメラか……」

暁「ねえ、エフェメラさんってどこにいるの?」

 ――私の躯は、遥か彼方……皆様とお目見えすることは、かないません……

 ――されど……私の声が、魔神様に届いていること……喜ばしく、思います……

提督「……礼しか言えねえってか」チッ

時雨「そうだとしても、提督、ちゃんと労ってあげなよ」

暁「そうよ、ここまでしてくれてるんだから、お礼を言わなきゃ!」


提督「……おい、エフェメラ」

暁「言い方!!」プンスカ!

提督「しょうがねえだろ、俺はいつもこんなんだ……おい、エフェメラ」

 ――魔神様……

提督「お前の望みは何だ?」

暁「……なんでそんなことを聞くの?」

提督「礼を言うだけじゃ物足りねえと思ったからだ。せめてなにか、ひとつくらい借りを返してやんねえとな……」

時雨「提督らしいね」フフッ

 ――私の……

提督「ああ、そうだ。お前の望みを言え」

 ――私の望みは……

 ――魔神様の……望みがかなうこと……!

提督「……」

 ――あなたの望みこそが……私の望み……

 ――あなたの願いこそが……私の願い……!!

提督「……」


暁「司令官みたい」ボソッ

時雨「そうだね。似た者同士だ」

提督「なんなんだよまったく……」

 ――私の力が……魔神様の幸せのために使えるのならば……これ以上の、喜びはありません……!

提督「なんでこういう奴ばっかりなんだよ……やめてくれよ、本当によ」アタマガリガリ

暁「司令官が両手を使って頭をかくところ、初めて見たわ」

時雨「そうとう照れてるんだね」

提督「観察してんじゃねえよ! ったく……」

提督「とにかく、この穴に落ちれば現世に戻れる、っつうか、俺たちが元の肉体に戻って生き返られるわけか?」

 ――その通りにございます……

時雨「そっか。じゃあ、僕はここでお別れだね」

提督「!」

暁「えっ、どうして!?」

時雨「僕は、もう死んでるからね。僕の体も、墓場島に埋めてもらったけど、今は溶岩の中じゃないかな」

暁「あ……!」


 ザワワワワワッ!

提督「な、なんだ!?」

暁「ね、ねえ、お花が一斉に逃げちゃったわ!?」

時雨「なにがあったんだろう……」


??「見つ、けた……」ズルッ


提督「誰だ……!?」フリムキ

時雨「!」

暁「ひっ……!? な、なにこれ!? ヘドロのかたまりみたいなのが……喋ってる!?」

??「見つけたぞ……! 今、墓場島と言ったな……!」

??「やっぱり……あの島の提督は、悪い奴だったんだ……」ビチャッ

提督「ああ? なんだこいつ?」

??「忘れたとは言わせないぞ……おまえのせいで、俺たちは死んだんだ……!」ベチャア…

提督「なんだそりゃ」

??「とぼけるな!! よくも、俺たちを殺しやがってぇ……!!」

提督「だから誰だよお前は……」


時雨「……ねえ、この人、もしかして、島で死んだテレビ局のスタッフじゃないかな?」

提督「テレビの……ああ、土左衛門になった奴のどっちかか?」

??→クルー3「ふざけた奴め! 俺たちを殺しておいて、覚えてすらいないって言うのか!!」

提督「死んだのはお前のせいだろ。なんで俺に責任を押し付けてんだよ」

クルー3「まだとぼけるのか! 深海棲艦の仲間を使って、俺たちを殺した裏切り者めぇ!」

提督「ル級のことか? それだったら俺はあいつにお前を殺せなんて頼んでねえし」

提督「お前がル級の気に障るようなこと言ったんじゃねえのか? それ以前に俺は島から出てけって最初から言ってたろ」

提督「その忠告を無視し続けたお前の自己責任だろうが。なんでもかんでも他人のせいにすんじゃねえよ、くそが」

クルー3「黙れ黙れぇえ! 極悪人の分際でぇええ! お前こそが、死ぬべきなんだあああ!」

クルー3「轟沈した艦娘が深海棲艦になるなんて噂を利用して、艦娘を私物化してたくせに……!」

クルー3「艦娘は、正しい人間に使われるべきなんだ! お前みたいな深海棲艦が、艦娘を利用するなああ!!」グゴォ!

提督「……ああやだやだ、なんかくっそ面倒臭え奴に絡まれたぞ、こりゃ」ハァ

暁「ね、ねえ……早く誤解を解いた方がいいんじゃない? 司令官が悪者ってわけじゃ……」アセアセ

クルー3「深海棲艦が正しいわけがあるかあああ!」グワッ!

暁「……」ドンビキ


時雨「とりつく島もなさそうだね……」

提督「いるんだよなあ、自分の主張が正しいと盲信して、他人ぶん殴りながら被害者ぶる奴」

時雨「……ずいぶん具体的だね?」

クルー3「お前みたいな奴を、みすみす生き返らせてたまるかああ!!」

クルー3「俺が退治してやるううう! 地獄に落ちろおおおお!!」グワッ!

暁「な、なによそれええ!?」

提督「暁、時雨、下がってろ」

クルー3「お前が、艦娘に命令するなあああ!!」ビャッ!

提督「うお!?」バッ

時雨「うわっ!?」バッ

提督「なんだあ? ヘドロ飛ばしてきやがった……!」

時雨「ちょっと提督! こっちに飛ばさせないでよ!」

提督「お前こそ俺の後ろに陣取るなよ!」タタッ

クルー3「逃げるなああ!」ブンッ!

提督「場所変えようってんだろうが! つうか、それ以前に触りたくねえな、くそが……!」


 ――魔神様……私の力を……!

 (地面に空いた穴の中から、赤青黄色の三色の光が飛んできて、提督の体に入り込む)

提督「……これは……!?」

 ――魔神様……私の力を……どうか、お使いください……!

提督「……!」

暁「司令官! 危ないっ!!」

クルー3「死ねえええ!」グワッ!

 キュワワワワワ…

クルー3「え?」フワッ

暁「な、なにあれ?」

 UFO<キュワワワワワ…

 (突如現れた小さなUFOがクルー3の体を持ち上げる)

クルー3「は、放せぇえええ!?」ジタバタ

時雨「ユ……UFO?」ポカン

暁「UFOが、泥のお化けを捕まえちゃった……」

クルー3「な、なんだこりゃああ!?」


提督「なるほど……使えるな」

 ――ああ……魔神様……!

提督「……助かった。早速使わせてもらったぜ、お前の力」

暁「あ、あのUFO、司令官が呼んだの……!?」

提督「おう。これも魔神の力らしい。もともとメディウムたちも、魔神の力のひとつなんだが……」

提督「それが分離して自由意思を持つようになった。ま、お前たち艦娘と似たようなもんだと思ってくれていい」

時雨「じゃああのUFOも……」

提督「そのうちメディウムとなって俺たちの前に現れるかもな」

提督「まあ、それはさておいて、だ」ジロリ

クルー3「ち、ちくしょう、放せぇええ!! この、化け物があああ!!」ジタバタ

提督「……化け物ねえ。お前だって、十分化け物だと思うがな?」

クルー3「そんなわけがあるか!!」

提督「いやいや化け物だろ、つまんねえ謙遜すんな。そんな姿で私は人間ですとか言えたもんかよ」

クルー3「いいや、俺は人間だ……!」

提督「俺たちはここで、さっき別の人間たちと出会ってきたんだが、そいつらは少なくともお前みたいな姿はしていなかったぞ?」


提督「ここにいる艦娘の二人だってそうだ。生前の姿のまま、ここに存在している」

提督「俺は人間の器に深海棲艦の魂が入ったからこんな姿なんだが、偉そうに言ってるお前の今の姿はどうなんだ?」

クルー3「……俺は……『俺たち』は……!」ガクガク

時雨「……なんか様子が変だよ?」

提督「それなんだが、あのクルーの魂に変な混ざり物が見えるんだよ」

暁「混ざり物?」

提督「ああ、どうもエフェメラから魔神の力を受け取った拍子に魂というか正体が見えるようになったみたいなんだが……」

提督「どうも似たような思想の魂を引き寄せて合体してるみたいなんだ」

時雨「……じゃあ、あのクルーの魂には、全然関係ない魂も混ざってるってことかい?」

提督「おそらくな。他人の主張に乗っかって、自分の不満もどさくさ紛れに晴らそうって連中とか」

提督「その騒ぎそのものを面白がって、面白可笑しく便乗拡散する連中、現実世界でもいるだろう?」

時雨「それもまた具体的だね?」

クルー3「……俺たちは……オ、オレタチハァァァアガアアァ!!」

暁「司令官!? 余計に話が通じそうになくなってるんだけど!?」

提督「ちっ、不純物のほうが強かったか。じゃあ仕方ねえ」


 (何もない空間から現れる発射装置)

暁「! な、なにその機械!?」

時雨「空中に何かの発射台が……!」

提督「カオリ・ボールスパイカーってメディウムがいたろ? あれのサッカーボール版だ」

 キックオフ<ズバァン!

クルー3「グエェエ!?」ドゴォ!

 ゴロゴロ…ベチャッ

提督「そんでお次は……」

 オクトパスアーム<ヴジュルルラァ!!

クルー3「ヒ、ヒギャアアア!?」ジュルジュルジュル!!

暁「ひいいい!?」ビクッ

時雨「うわ……!」

提督「クラーケンじゃねえから安心しろ。あのタコ足であいつを一箇所にかき集めて……」

時雨「な、なんでかき集めるの?」

提督「これ以上あいつらの魂が拡散しないようにだよ。で、とどめはこいつだ」バッ

 キューブフリーザー<グォングォングォン…


暁「な、何か四角い機械の箱が降りてきたわ!? あれも司令官の罠なの!?」

提督「ああ、まあ見てろ」

 キューブフリーザー<ゴォォォォ!

時雨「……静かになったね?」

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

暁「……上に上がって行っちゃった」

クルー3「」カチンコチン

時雨「綺麗に氷漬けになったね……」

提督「……今更だが、魂だけの世界でも罠の力は通用するんだな」

暁「司令官、この人どうするの?」

クルー3「……」カチンコチン

提督「こんなの誰かに処分してもらうしかねえな。どこへ持ってったらいいか、誰かわからねえかな?」

時雨「この氷を運んで、また人を探すの?」

提督「いや、この氷塊は凍らせ方が特殊だから、ちょっと強い力で押してやると、そっちへつるつる滑っていくようにできてる」

提督「だから、ゴール地点まで一直線に滑られてやることができれば、俺たちが運んでいく必要はない」


時雨「……ということは、また花に聞いてみるといいのかな?」

 ザザザ…!

提督「お、察してくれたみたいだな」

暁「……ねえ、おかしいわ? お花が近づいてこないわよ?」

提督「んん? そうだな……あ」

暁「どうしたの司令官」

提督「暁……お前、動くなよ……!」ジロリ

暁「え……?」

 (提督の頭上の何もない空間からマシンガンが現れて、暁に銃口を向ける)

暁「し、司令官!?」

時雨「提督!?」

提督「……踊れ」

 マシンガンダンサー<ダララララララ!!

暁「きゃああああ!?」ピョンピョン(←暁の足元を機銃掃射)

時雨「て、提督!? 暁を撃つとか、何を考えてるの!?」


提督「……」

暁「し、し、司令かああああん!?」ピョンピョン チュインチュイン

提督「……よし、こんなもんか」

 マシンガンダンサー<ピタッ

暁「し、司令官!? 一体何を考えてるの!?」プンスカ!

時雨「暁に当たったらどうする気だったの!?」

提督「安心しろ。ありゃあ床にしか当たらないように狙ってんだ。で……」

暁「……??」

 (提督がおもむろに暁に近づいて、暁の両足の間の地面を掴むと)

??「ぐえっ!!」

暁「ひっ!?」ビクッ

時雨「え!? なんなの、今の悲鳴!」

提督「暁の足元に、こいつが潜んでいたんだよ。おら、出てこい!」ズルルッ!

時雨「なにそれ!? 影絵人間!?」

??→クルー5「……ふ、ふへへ、見つかっちまった……」ドロォ

暁「」アッケ


提督「お前、さっきのテレビクルーの仲間だろ。一緒に死んだ奴だな?」

クルー5「へ、へへへ……」メソラシ

提督「花が俺たちの近くに寄ってこなかったのは、こいつが潜んでたせいだな」

時雨「でも、どうして暁の足元に?」

提督「……暁のスカートの中を覗き見したかったとかか?」

暁「!!」バッ!

クルー5「ぐえへへ……スカートを抑えて恥ずかしがる幼女……うひひひっ」

暁「~~~!!」ゾワワッ

時雨「うわあ……」

提督「そういうことかよ……こういう不埒な奴は……」

 フッキンマシーン<ガジャッ!!

提督「こういう機械に乗っけて」ポイッ

クルー5「うおっ!?」ガシャッ

提督「運動で煩悩を追い出してやるといいな」

 フッキンマシーン<ガッションガッションガッション!!!

クルー5「うおおおおおお!?」ガシャガシャ


時雨「ねえ、提督? さっきのマシンガンの罠は、暁を狙ったんじゃなくて、足元に潜んでたあの人を狙ったってことなのかな?」

提督「そういうことだ。ただ、あの罠自体は、誰かを対象にしないと狙いが定まらなくてな……悪いが、暁を的にしちまった」ナデナデ

暁「も、もう!! 怖かったんだからね! って、頭を撫でないでよ!!」プンスカ!

クルー5「お、俺はいつまで、腹筋してなきゃ、いけねえんだあああ!?」ガシャガシャ

提督「そりゃあ死ぬまで……って言いたいが、もう死んでるしなあ。この辺で止めてやるか」グッ

 イビルアッパー<ズガシャアァン!!

クルー5「!?」

 (フッキンマシーンごとぶっ飛ばされたクルー5が)

クルー5「ぶげっ!?」ベチャッ

 (クルー3の氷漬けの氷塊の上に落下する)

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

クルー5「げ、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ……うぎゃああああ!?」

時雨「……」

暁「……」

 キューブフリーザー<グォングォングォン…

クルー3&5「」カチンコチン

提督「よし。これでまとめて始末できるな」


クルー5『ちくしょう! どうしてまたお前なんかと一緒に……!』

クルー3『それはこっちのセリフだ! なんでお前が……!』

暁「な、なんか声が聞こえない?」

提督「氷漬けにしたとはいえ、魂だからな。思念って意味での声が漏れてきてるんじゃねえか?」

クルー3『俺たちは、人間のために正しいことをしようとしたんだぞ!』

クルー5『まだ言ってんのかよ! 人間のためとか言うけど俺は頼んでねーぞ!』

クルー3『いい加減にしろ! 俺たちの言ってることが正しいんだ!』

クルー5『うるせーうるせー! なんでお前らに従わなきゃならねーんだ!!』

時雨「まだ言い争ってるみたいだよ」

提督「……ま、どうでもいいか。こいつら、どこに向かわせてやるといいかな?」

 ザザザ…!

暁「今度はお花が集まってきてくれてるわ!」

提督「お、そっちか。案内ありがとな。んじゃ、滑らすぞ……せぇ、のっ!!」グッ

 氷塊<ツルツルツルーー!

クルー3『お前のせいで艦娘が……!』

クルー5『お前が悪いんだろうが……!』

 氷塊<ツルツルーー…


時雨「最後の最後まで仲間割れしてるなんて……彼らには失望したよ」

暁「なんだか、可哀想な人たちだったわね」

提督「まったく……俺は、恵まれてんなあ」

時雨「急にどうしたの?」

提督「ああ、あのテレビクルーの周りに取り憑いた雑霊が、あいつを煽るような性質の奴ばっかりでなあ……」

提督「そこへ行くと、俺の周りにいる艦娘たちは、俺が行き過ぎるとみんな真面目に止めてくれたからな」

提督「だから、俺は恵まれてたんだな、って思っただけさ」

時雨「提督……」

提督「だからこそ」クルリ

提督「生き返られるなら、ちゃんと戻って、義理を通さねえとな。暁もそうだろ?」

暁「……そ、そうね!」

 (大きな穴のそばへ3人が歩いて近づく)

提督「……改めて見ると、すげえ光景だな」

時雨「積乱雲の中を飛ぶ航空機が見る光景だね」

暁「見たことあるの?」

時雨「前の鎮守府で、山城が飛ばした偵察機の写真をみせてもらったことがあるんだ」


時雨「扶桑とはほとんど話す機会がなかったけど、山城には結構かまってもらったからね……」

提督「D提督のせいだな……」

暁「時雨……」

時雨「さ、ふたりとも。みんな、君たちを待ってるんだ。早く戻ってあげなよ」

提督「……そうだな。けど、このまま飛び込んで大丈夫なのか? 雷とか鳴ってんだが……」

時雨「大丈夫だと思うよ。僕たちも魂だけの存在なんだから、雷に打たれて死ぬとかありえないよ、多分」

提督「それもそうか。よし、じゃあ暁、お前、先に行け」

暁「はあ!?」

提督「お前の腰が引けてて心配なんだよ。お前がちゃんとここから飛んだとこを確認したいだけだ」

提督「それに、よくレディーファーストって言うしなあ?」

暁「うぐ……わ、わかったわよ!」

提督(まあ、悪いほうの意味のレディーファーストだよな、これは)

時雨(毒見役って意味のほうだね……)

暁「い、いくわよ!? 暁も、飛べるんだから!」

提督「おう」

時雨「うん」


暁「……」ウデデハバタキ

暁「……」カラダヲヒネリ

暁「い、いくわよ!!」ソノバジャンプ

提督「おう」

時雨「うん」

暁「……」クッシン

暁「……」ウデヲグルグル

暁「……っ! ……っ!」ゼンクツ

暁「……」シンコキュー

時雨「早く飛びなよ」ケリンチョ

暁「ぴっ!?」ヨロッ

暁「ぴゃあああぁぁぁぁぁ……」ヒュゴーーーーー…

提督「真っ逆さまだな……」

時雨「結局、手助けしてあげないと駄目なんじゃないか」ヤレヤレ

提督「少しは怖がってもいいだろ……くくっ」

時雨「……ふふっ、笑っちゃ悪いよ」


提督「よし。暁も行ったし、そんじゃあ俺も覚悟決めて、行くか」

時雨「フリはいいからね?」

提督「ああ。世話になったな」

時雨「ふふっ。これで少しは、扶桑たちを立ち直らせてくれた君に恩を返せたかな」

提督「十分すぎる。扶桑たちにもよろしく伝えておくよ……あっちで、ここでの出来事を忘れてなけりゃいいんだが」

時雨「ありがとう……」ニコ

 スッ

提督「じゃあな、時雨」タッ

 バッ!

提督「……!」ゴォッ

 ヒュゴーーーーー…

時雨「……」

時雨「……」

時雨「……行っちゃった」

時雨「扶桑や山城と、もう少し一緒にいたかったけど……しょうがないか」


時雨「さてと。僕は……どうしようかな。中将さんたちを追いかけてみようかな……」

 グイ

時雨「えっ?」

 グイグイ

時雨「な、なに!? 穴の方に引っ張られてく……!」

 ――時雨様……

時雨「! エフェメラ……!」

 ――あなた様にも、御礼申し上げます

時雨「いや、いいよ。僕の心残りもこれで……」

 ――私から……時雨様へ、最後の贈り物を……

時雨「え?」フワッ

時雨「ええっ!? なんで宙に浮いてるの!?」ジタバタ

 ――さようなら、時雨様。あなた様にも、魔神様の御加護があらんことを……

時雨「ま、待って!? 僕のからだは……」

 ポイッ

時雨「ぽいって夕立じゃないんだからうわあああぁぁぁぁ……!?」

 ヒュゴーーーーー…

 穴< シュウゥゥゥ…

 穴< フッ…

 平地< シーン…

 * * *

 * *

 *

というところで今回はここまで。

今回登場したイビルアッパー以外の罠は、
エフェメラから力を借りた、と言う意味で、影牢~もう1人のプリンセス~に登場した
DLCの罠で統一しました。

それでは続きです。


 * 墓場島周辺海域 *

 * 医療船内 *

(人工呼吸器や点滴などの管がたくさん取り付けられて眠っている提督)

提督「」シュコー…

看護師「……容体に変化なし。心拍数や血圧も正常値……」カキカキ

如月「……」(提督の眠るベッドの傍らで椅子に座って提督を見つめている)

 タッタッタッタッ…

ニコ「魔神様!!」バッ

如月「!?」

ニコ「あれ?」

如月「ニ、ニコちゃんどうしたの……?」

ニコ「……魔神様はまだ目を覚ましてないの?」

如月「え、ええ……まだ、見ての通りよ?」

ニコ「うーん、おかしいな……なんとなく、魔神様の気配を感じたんだけど」

如月「そうなの? 看護師さん、特に変わったところはなかったんですよね?」

看護師「はい。特にこれといった変化は何もありませんね」

ニコ「……そう」


大和「失礼します、ニコさんはこちらにいらっしゃいました?」ヌッ

不知火「慌てて走っていたようですが、なにかあったんでしょうか」

ナンシー「もー、ニコちゃんだめだよー、ニコちゃんが慌ててるとみーんな落ち着きがなくなっちゃうんだから~」

不知火「艦娘もメディウムも、深海棲艦勢も一様に同じ思いです。どうか、落ち着いた行動をお願いいたします」

ニーナ「ただでさえ私たちは人間たちに警戒されていますから……ニコさんに万が一があっても困ります」

ニコ「ニーナもナンシーも、随分人間どもに丸め込まれちゃったね?」ジトッ

ニーナ「ニコさんがそのように殺気立つからですよ……」

ナンシー「あたしだって、マスターを魔力槽に入れてあげるのが一番いいとは思うけどさ? 神殿は遠いじゃん?」

大和「ニコさんが御自身で仰っていたではありませんか。魂が離れた場所から肉体を遠ざけると、その魂が戻ってこなくなると」

ニーナ「この近辺で、人間に近しい身体が生命を維持できる場所、というのがこの船の中の設備しかありません」

ニコ「わかってるよ。わかってはいるけど……」

如月「……!」

 ピピー ピピピピー

看護師「脳波計が……!」

ニコ「魔神様!?」


如月「今、司令官の指が……」

提督「」ピク

ナンシー「動いてる!!」

看護師「ちょ、ちょっと失礼します! 如月さん、提督さんに声をかけてもらえますか!?」

如月「は、はい! 司令官! 司令官、聞こえる!?」

看護師「血圧と心拍数が上昇……瞼の下で眼球も動いてる……!」

看護師「このまま声をかけ続けてください! 皆さんも、うるさくならない程度に!」

不知火「司令……!!」

ニコ「魔神様! ぼくだよ!」

ナンシー「マスター! 早く起きてよ!!」

大和「提督!!」

ニーナ「魔神様!!」

如月「司令官!!」

提督「……」シュコー…

提督「……う……!」


如月「司令官!!」

ニコ「魔神様!!」

大和「提督!!」

ナンシー「マスター!!」

不知火「司令!!」

ニーナ「魔神様!!」

提督「……う……る、せぇ……耳元、で、叫ぶな……!」

如月「司令官……!」ウルッ

ニコ「聞こえてるのなら……早く、返事をしなよ……!」ウルウル

提督「なん、だ、この……眩しいし、なんだこの、邪魔くせえマスク……背中も、痛ってえ……」

不知火「当然、ですよ……何日眠っていたと思うんですか……!」グスッ

ナンシー「早く魔力槽に入れてあげようよ! ね!!」ピョンピョン

大和「うええええん、提督良かったああああ!」ナミダジョバー

ニーナ「あ、あの、みなさん落ち着いて」オロオロ


 * しばらくして *

看護師「……修復材入りの湿布を貼ってすぐ治るだなんて」

明石「まあ、あの人は特殊なんですよ。人間じゃないというか」

伊8「血液検査だって、普通の人間の血液型に合致しなかったんでしょう?」

看護師「え、ええ、まあ。でも、艦娘とも違うみたいですし……」

明石「そうですか~……だとすると、深海棲艦かな?」

看護師「あ、あの、少尉さんは、人間だったんですよね……?」

伊8「はい、そうでしたよ。スタートは人間だったと思います。けど、何度か死んだり体を作り替えられたりしてるみたいですし……」

看護師「えええ……?」

 *

提督「5日?」

如月「そうよ? 司令官は5日間、ずっと眠り続けていたの」

提督「そんなに経ってやがったか……」

ニコ「おかげでいろいろ話は整理できたけどね」


不知火「何があったか、順を追って説明します」

提督「ああ、頼む」

不知火「まず……司令からの通信が途絶えた後、ブラックホールのメディウムであるベリアナさんが、司令のところにいたそうです」

不知火「ベリアナさんはニコさんからの指示で、司令が逃げ遅れた時を想定し、ブラックホールで異次元へ逃がして保護するつもりでした」

不知火「ですがその際に、ベリアナさんがブラックホールを作るのに必要な魔力を補充するための魔法石が、島の丘の上で割れてしまい……」

不知火「その石の力と引き換えに、女神妖精さんが復活しました」

提督「……」

不知火「女神妖精さんは、その力で司令と如月たちを復活させ、かつ、島に埋葬した、轟沈した艦娘の魂を呼び起こし……」

不知火「その艦娘たちの魂が火山活動で発生した溶岩の流れを堰き止めたことで、私たちが島に乗り込んで司令たちを運び出せたんです」

不知火「メディウムたちのサポートもあって、全員無事に溶岩の中から脱出できた……というのが、あの日、島で起こったことです」

提督「……妖精はどうなった?」

不知火「……わかりません。ただ、妖精さんは、死なないで消えるだけ、と言っていました」

提督「……」

不知火「その後、保護された司令と如月、電、朧、吹雪、初春の5名がこの医療船で治療を行い、駆逐艦の5名は無事回復」

不知火「そして本日、司令が目を覚まされたと」


提督「艦娘は全員無事なのか? 沈んだりした奴はいないな?」

不知火「轟沈した艦はありませんが、燃える島を見て気を失った暁が、いまだに目を覚ましていません」

提督「暁が!? ……変だな、あいつ、俺より先にこっちに戻ってたはずだぞ?」

不知火「……は?」

如月「ど、どうして司令官が、戻ったってわかるの?」

提督「あー……ちょっと話が長くなるから、あとでな。ほかに……メディウムたちはどうした?」

不知火「はあ……メディウムは全員無事です。交戦したメディウムもいるため、無傷ではありませんでしたが」

提督「軽巡棲姫や、ル級たち深海棲艦はどうなった?」

不知火「深海棲艦全体の被害状況は把握しておりません。しかし、軽巡棲姫やル級さんといった、司令と交友のある深海棲艦は無事です」

提督「被害ゼロってわけじゃねえんだろうな。全員この船にいるのか?」

不知火「いえ、この島の所属以外の艦娘の何名かは、今回の件の報告のため本営に呼び出されています。それから……」

ニコ「メディウムの中でも血の気の多い子たちには、一度この船から降りてもらってるよ」

ニコ「具体的に言うと、ケイティーやコーネリア、ルイゼットみたいな過激派や、いるだけで危ないウーナやイーファ、ティリエにマリッサ……」

提督「確かに、ケイティーやマリッサは特にやべえな」


ニコ「それから、ユリア、ヴィクトリカ、エレノアみたいに酒を飲んで騒ぐ子たちとか、引き籠りたいっていうイサラやカサンドラ」

ニコ「じっとしていられないアマラやクリスティーナ、カトリーナ、シャルロッテ、オディール、ヨーコ、シェリル、リンメイ……」ユビオリカゾエ

ニコ「とにかく大人しくできない子たちには、一旦深海棲艦の拠点に行ってもらってるよ」ハァ…

提督「……思ったよりも騒々しい奴が多いよな、メディウム連中は」

不知火「ただでさえメディウムの殆どが物騒な武器を持っていますからね……」

如月「素手なのはヒサメさんと、イブキちゃんとオリヴィアさんくらい?」

ナンシー「ベリアナとヴェロニカもだね!」

提督「残ってる方数えたほうが早そうだな」

ニコ「今度からきみがぼくたちのご主人様なんだからね? ちゃんと面倒臭いって言わずに面倒見てよ?」

提督「そこで先手打つなよ……誰の入れ知恵だ?」

ニコ「そこそこ付き合ってきてるんだ、そのくらい察せないと思った?」

提督「やれやれ……そうかよ」カタスクメ


不知火「それから、深海棲艦もこの船には乗っていません」

不知火「その代わり、司令が目覚めるまでの間、この船を取り囲んで移動できないようにしています」

提督「じゃあ、俺が姿を現せば、あいつらも解散するってことか?」

不知火「はい。その際に、司令を含めての話し合いを行いたいと、海軍から申し出があります」

提督「……なんか、面倒臭そうな話だな?」

不知火「面倒かもしれませんが、良い話だと思います。司令にとって、待ち望んでいたお話かと」

提督「……?」

不知火「それからもうひとつ。司令が住んでいた××島ですが、島の北部にあった火山の活動により、すべての施設が焼失しました」

提督「……」

不知火「島の再建については、勝手に泊地棲姫が陣頭指揮を執っています」

提督「は……?」


 * 同じころ *

 * 別の病室 *

暁「」シュコー…

(人工呼吸器をつけてベッドで眠る暁をじっと見つめるヴェールヌイ)

ヴェールヌイ「……」

 コンコンコン

川内「入るよ」チャッ

電「失礼します、なのです」

ヴェールヌイ「!」

川内「……暁は、まだ目を覚ましてないのか」

ヴェールヌイ「……」コク

電「私たちの司令官さんは、少し前に目を覚ましたそうなのです」

川内「提督が目を覚ましたからね。暁も起きないかと思ってきてみたんだけど」

川内「そう、都合よくはいかないかあ……」


ヴェールヌイ「……電」

電「? なんですか?」

ヴェールヌイ「この暁は、中破してあの島に流れ着いてきたそうだね」

電「はい」

ヴェールヌイ「……その時のこと、詳しく教えてくれないか」

電「詳しく……ごめんなさい、電が遠征していた時のことなので、状況そのものはあまり詳しくないのです」

電「流れ着いてしばらくの間、3日くらい寝込んでたとは聞いていますが……」

電「暁ちゃんを治療した明石さんは、ドロップ後に何かあったんじゃないか、って言ってました。話を聞きたいなら、呼びますか?」

ヴェールヌイ「そうだね……お願いしようかな」

川内「! 暁が……泣いてる……!」

暁「」ツゥ…

ヴェールヌイ「!」ガタッ

電「あ、暁ちゃん! 大丈夫ですか!?」テヲニギリ

暁「あ……しれ……か……!」

川内「うわごとで何か言ってる……!」


ヴェールヌイ「暁!」

暁「しれ……あ……ああっ……」ウーン

電「し、しっかりするのです!!」

暁「司令官……っ!!」ビクビクッ

暁「はうっ……!」ビクンッ

 パチリ

電「……」

川内「……」

ヴェールヌイ「……」

電「……あ、暁ちゃん?」

暁「あ、あれ? ここは……電? 川内さんに……響? このマスク、なに?」キョロキョロ

ヴェールヌイ「暁……私は、ヴェールヌイだよ」ウルッ

川内「良かったぁ……本当、良かったよ、目を覚ましてくれて……!」ヘナヘナ

電「暁ちゃん、大丈夫なのですか? 海の上で意識を失ってから、5日も眠っていたのです!」

暁「い、5日も!?」


川内「そうだよ~、心配したんだから! さっきなんかうなされてたし、いったいどんな夢見てたの?」

暁「夢……」

暁「……司令官と一緒にいた夢を見たわ……なんか、とても嬉しかったんだけど、悲しい夢……」

電「暁ちゃん?」

暁「そうよ……私、どうして忘れていたのかしら」

ヴェールヌイ「暁……?」

暁「あの日、鎮守府が燃えて……私が逃げたせいで燃えちゃって……」

川内「暁……?」

暁「私、夢の中で……天国で、I提督に会ったの」

ヴェールヌイ「!!」

川内「!!」

暁「I提督は、好きな人がどこかに行かないように……翔鶴さんが沈んで離れ離れにならないように、あんなことをしたんだって……!」

川内「……I提督に、会ってきたって……?」

暁「そうよ。翔鶴さんも、司令官に川内さんや響にもよろしく、って言ってて……私、どうしてこんな大事なことを忘れてたのかしら」

 ガバッ!

暁「きゃ……川内さん!?」


川内「もう、なんだよぉ……やっぱり、私の知ってる暁だったんじゃないか……!!」ギュゥ

暁「せ、川内さん、苦しいってば……!」

川内「苦しかったのはあたしだよ!! I提督のことを知らないか、って聞いたときに、知らないって答えたじゃないか!」グリグリグリ

ヴェールヌイ「……そうか。記憶を失っていたのか。探しても見つからないはずだよ」

暁「えっ?」

ヴェールヌイ「川内さん。私も、混ぜてくれないかな」ポロポロ

ヴェールヌイ「探していたんだ。暁のことも。川内さんのことも」

川内「は、ははは、みんないたんじゃないか……! 響も、いたんじゃないか……!!」ガシッ

ヴェールヌイ「川内さんこそ、新しい鎮守府で命令違反なんかするから……!」ギュウ

川内「しょうがないよ! 強くなりたくても、そうさせてもらえなかったんだから!」

暁「ちょ、ちょっと待って!? えっ!? 川内さんって、あの川内さん!? ヴェールヌイも、あの響なの!?」

川内&ヴェールヌイ「「気付くのが遅い!!」よ……!!」オシタオシ

暁「きゃああ!?」オシタオサレ

電「ふ、ふたりとも! 暁ちゃんは病み上がりなのです!!」


 * 墓場島沖 海上 *

ヲ級(哨戒中)「……」

イ級「」ザバザバ

ロ級「」ザババー

イ級「?」

ヲ級「? ドウシタ」

イ級「……!」

ヲ級「海中ニ、波? ……ナニカガ、集マッテイル……?」

 ドボーーーンン!!

ヲ級「!?」ビクーッ

イ級「!?」ビクーッ

ロ級「!?」ビクーッ

 ゴボゴボゴボ…

時雨「ぷはあっ!!?」ザバァッ

ヲ級「……」

イ級「……」

ロ級「……」


時雨「はー……ひどいことするなあ、エフェメラは。問答無用で穴に放り込むなんて、何を考えてるんだ……」ザブッ

時雨「あれ? ここは……海!? どこだろう……?」キョロキョロ

ヲ級「……」

イ級「ナンダコイツ」

ロ級「チョットアヤシイ」

イ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ

ロ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ

時雨「うわあ!? ぼ、僕はあやしくなんかないよ!?」

ヲ級「アヤシイ奴ガ、自分デ自分ヲ、アヤシイト言ウワケガナイダロウ」

時雨「それはそうだね」

イ級「ダカラウツ」

ロ級「ウツ」

時雨「ちょっ、待ってよ!?」

 ザザザッ

山城「ちょっと、誰かと思えば……」

那珂「時雨ちゃんじゃなーい! きみ、どこの鎮守府の子?」


時雨「あっ、山城! 那珂ちゃんも!」

アカネ(in那珂の艤装)「ねえねえ那珂ちゃん、この子だーれ?」ヒョコ

那珂「時雨ちゃんだよ! 白露型の2番艦で、白露ちゃんの妹だね!」

時雨「山城助けてよ! 僕があやしいからって撃たれそうになってるんだから!」ヒシッ

山城「……あなた、びしょぬれじゃない。何があったの?」

時雨「えっ? ああ、これは上から落ちてきて……」

山城「上?」ミアゲ

那珂「上って言っても、雲しかないよ? 何か飛んでたら、ヲ級ちゃんが気付くと思うんだけど」

イ級「デモコイツ、オチテキタミタイ」

ロ級「オチテキタミタイ」

山城「は? みたい?」

ヲ級「突然、何カガ水面ニ衝突シタヨウナ衝撃ハアッタ。ダガ、落チテキタ、トコロヲ見テイナイ」

山城「なにそれ……」

ヲ級「少クトモ、私ハ、コノ艦娘ガ落下シテイルトコロヲ見テイナイシ、落下スルトキノ風ノ音モ感知シテイナイ」

那珂「えー? ヲ級ちゃんでも落ちてくるのに気付かないって、どういうこと?」


時雨「……あれ? 何気なく山城に抱き着いたけど、僕に触れられるの?」

山城「は?」

時雨「……山城にも、触れる……」ペタペタ

山城「ちょっ……なに、何なのよ。どこまさぐってるの」セキメン

時雨「そうだ、僕の足は!?」バッ

アカネ「な、なんで自分でスカートまくってるの!?」

時雨「足もついてる……胴体も繋がってる」

山城「……時雨?」

時雨「ねえ、ここどこかな? もしかして……墓場島?」

那珂「う、うん、そうだよー?」

時雨「……そうか……それじゃあ、僕は、戻ってきたんだ……!」

ヲ級「戻ッテキタ?」

時雨「そう。僕は、かつて、この島の海岸に流れ着いて、埋葬してもらったんだよ」

山城「……」

時雨「ここへ辿り着く途中に砲撃を受けて、体が半分になって、そのまま……」


ヲ級「轟沈シタノカ」

山城「……」

時雨「うん。それでも運よく、この島に漂着して、無事だったみんなに看取ってもらえて」

山城「……」ブワッ

時雨「僕のかつての体は、この島の丘に……もう全部溶岩で燃えちゃったと思うけど」

時雨「どこらへんかな……とにかく、この島に埋めてもらったんだ」

ヲ級「……」

時雨「そのあと、那珂ちゃんには歌ってもらったんだよね」ニコ

那珂「……!!」

ヲ級「ソコマデ覚エテイルノカ。マルデ蘇ッタヨウナ言イ方ダナ?」

時雨「そういうことになる……」

 ガッシィ!!

時雨「ね゛っ!?」ダキツカレ

山城「……あんたねえ」ダキツキ


時雨「や、やましろ……?」

山城「どこまで、お騒がせなのよ……あんたはっ……!」

時雨「や、山城、痛いよ……苦しいってば」

山城「痛いならいいじゃない!! 苦しいのも! 生きてる証拠よ!!」ボロボロボロ

時雨「山城……!」

ヲ級「……ソレデ、ヲ前タチハ、何ノ用ダ?」ヒソヒソ

那珂「あ、ごっめーん! 提督が目を覚ましたよ、って」

ヲ級「ソレハ早ク言エ!!」カンサイキハッシン!

那珂「泊地ちゃんも軽巡ちゃんもイライラしてたもんね~」


 * *


時雨「……というわけで、僕は提督と暁と一緒に、天国の手前で現世に戻る道を探していたんだよ」

山城「改めて聞くと、とんでもない話ね……辻褄が合うとはいえ、普通だったら信じないわよ? そんなファンタジーな話」

時雨「信じてくれないの?」

山城「信じるわよ。D提督鎮守府の話といい、その後の埋葬の話といい、整合が取れてるんだもの」アタマオサエ


泊地棲姫「ヤハリ、アイツハ深海ニ縁ノアル者ダッタカ」

軽巡棲姫「私ハ最初カラ、私タチト一緒ダト思ッテイタワ」

ル級「私タチガ触レテモ、体ガ無事ダッタリ、狂ッタリシナカッタノハ、ソウイウ理由ネ?」

時雨「だと思うよ」

アカネ「まさかエフェメラが絡んでたなんて!!」プンスカ

那珂「アカネちゃんはエフェメラちゃんって子のこと、知ってるの?」

アカネ「知ってるよ! ニコちゃんが言ってたけど……」

アカネ「魔神様を復活させることができる人間に入れ知恵して、魔神様を自分のものにしようとしてる嫌な奴だって!」

時雨「……確かに、見方によってはそう解釈できるね」

那珂「でもでも、そのエフェメラちゃんが、時雨ちゃんを復活させたわけでしょ?」

アカネ「うー……」

時雨「そういうことになるかな……だけど、いくらなんでも、僕の艤装というか、体までは復活させられないと思うんだけどなあ」


ヲ級「ソウイエバ、ヲ前ガ落チテクル前ニ海中デ、何カガ集マルヨウナ気配ヲ感ジタ。ヲ前ノカラダヲ作ッテイタノカモシレナイ」

ル級「天国カラ魂ガ落チテキタ、ッテイウ意味デノ、ドロップ艦、ッテコト?」

那珂「魂が着水した瞬間に体を作った、って感じなのかな?」

泊地棲姫「オソラク、ソウイウコトダロウ。今マデ、聞イタコトハナイガ」

山城「今更だけれど、私たちって本当に何者なのかしら」

那珂「そういう話なら、日向ちゃんあたりに訊くとイイかもね!」

山城「嫌よ。日向は話が長すぎるんだもの」ムスッ

時雨「……」

山城「何よ、時雨。にやにやして」

時雨「ううん、そうやって表情をころころ変える山城がかわいいなあって」

山城「!?」カオマッカ

那珂(わかる!!)ウンウン

アカネ(那珂ちゃんすっごい頷いてる……)

というわけで今回はここまで。

これまで書いた文章を、渋あたりに全部見直し添削した上で載せ直そうかと考え中です。
まずはその前に書き切らねば。

それでは続きです。


 * 医療船 甲板上 *

「提督ー!!」キャー!

「司令官!」キャー!

「魔神様ー!」キャー!

「マスター!!」キャー!

提督「……なるほど。こんだけギャラリーがいたんじゃ、艦内の一部屋には収まりきらねえか」

ニコ「ここからさらに深海棲艦たちも来るんでしょ?」

提督「だと猶更艦内には入れられねえか。それで、あの四角いテーブルに全員座らせるのか? どう見ても席が足りねえぞ」

不知火「いえ、全員ではありません。あれは今回特別に用意した席です」

提督「?」

大将「よう、待たせたな!」

提督「!」

H大将「全員揃っているのか?」

大将「深海の奴らはまだ来ていないようだな」


X中佐「あ、少尉! 目を覚ましたんだね、良かった!」ニコ

提督「……」

H大将「なんだその顔は。貴様の無事を喜んでいるというのに」

提督「あんな目に遭わされてすぐへらへらできる人間がいるかよ。もとはと言えばお前らがこの状況を作ったんじゃねえか」

H大将「確かにあんなことはあったが、ここにいる俺たちくらいは信用してほしいものだな?」

大将「むしろ俺たちも被害者だったんだぞ!」

提督「そんな理屈が通用するかよ、くそが。しかも5日ぶりに目ぇ覚ましてすぐ会議だ? お前ら俺をなんだと思ってんだ」

赤城「相変わらずのようですね、少尉。安心しましたよ」

提督「赤城……! お前まで来たのか? 大袈裟だな」

赤城「私が来るのが大袈裟でしょうか? そこまで他人事ではないと思っていますが?」

提督「十分に大袈裟だよ。面倒臭え話になりそうだ」ハァ

赤城「面倒という意味ではそうかもしれませんね。あなたのこれからを左右する重要な話を始めるのですから」

 深海艦載機< ゴォォォ…

提督「!」


不知火「あれは、あちらの偵察機のようですね」

赤城「深海勢の到着ね……!」

不知火「案内に向かいます」

赤城「はい。お願いしますね」

 *

不知火「お連れしました」

ル級「……! 提督! 目ヲ覚マシタノカ!」パァ

提督「おう、なんか、いろいろ迷惑かけたみたいで悪かったな」

大将「俺たちと応対が違うな……」

提督「当たり前だ。ル級とお前らを一緒にするな」

大将「普通逆だろうが!」ビキビキ

泊地棲姫「マッタク……アマリ待タセテクレルナ」

軽巡棲姫「早ク彼ヲ、コチラニ渡シナサイ……!」ギロリ

提督「おいおい、もう臨戦態勢なのかよ。少し落ち着け」

軽巡棲姫「!! ア、アナタガ、ソウ言ウナラ……」モジモジ

泊地棲姫「……」イラッ


提督「俺も面倒ごとは嫌いなんだ。とにかく、話があるならとっとと済まそうじゃねえか」

大将「……貴様、最初の時より随分と態度がでかくなったな」

提督「今更取り繕う必要もねえからな。少し前からお節介焼きにきてたX中佐はともかく、お前らだって信用できるかどうかわかったもんじゃねえ」

大将「貴様、せっかく俺が取り立ててやろうと言うのを……!」

H大将「よせ。奴の言い分も当然と言えば当然だ」

大将「それは俺の責任じゃないだろう。お前たち……いや、J少将が勝手にやったことだ!」

H大将「そうかもしれんが、この場では迂闊なことを言うなよ。下手をすれば、ここにいる艦娘たちでさえも黙ってないだろうからな」

X中佐「そうですよ。ここは彼に協力を取り次いでもらわなければいけない場面なんですから。友好的に行きましょう」

H大将「だいだいお前はいつもワンマンでゴリ押しが過ぎる。なんでもかんでもお前の力で思う通りになると思うな」

大将「ぐぅ……」

提督「そういや、中将は来てねえのか?」

X中佐「うん、中将閣下には本営に戻っていただいたよ。その際に、今回の件は僕たちに一任する、とお言葉をいただいてる」

提督「この手の話なら顔を出すかと思ったんだが……まあ、齢も齢だしな。おとなしくしてもらったほうがいいか」

X中佐「足のこともあるからね」


H大将「とにかく、全員揃ったようだな。少尉は我々の正面、そこにかけたまえ」

H大将「深海棲艦は右手に。それからメディウム? 君たちは左手だ」

ニコ「魔神様の隣じゃないんだ……」ムスッ

H大将「それを言い出すと深海棲艦たちも隣の席を欲しがるだろう。不服だろうが揉めないよう平和的に頼む」

ニコ「……」

提督「まあ、一理あるか。ニコ、悪いがそこに座ってくれ」

ニコ「……魔神様がそう言うなら」ムスッ

ニーナ「あら? 不知火さんは向こうに座るんですか?」

提督「あいつは一応、中将の部下だからな」

ニーナ「そうだったんですか……」

タチアナ「ニコさん、私たちをお呼びでしょうか」

ノイルース「話し合いにはニーナとナンシーが出ると思っていましたが、何か問題でも?」

ニコ「ああ、残虐系メディウムだけだと意見が少し偏りそうだからね。それにタチアナは、泊地棲姫と一緒にいたんだよね?」

タチアナ「はい、島の再開発についての今後の見解をまとめています」

提督「島の再開発……? 泊地棲姫が関わったってやつか?」

タチアナ「はい。本案件に関しては私にお任せを」


如月「それじゃ、司令官、私たちはこっちで……」

提督「ん? おい待て、お前らは同席しないのか?」

大和「申し訳ありません……」

提督「……俺が話せってことか。くそ面倒臭え……」

ナンシー「マスター頑張ってね~!」フリフリ


X中佐「メディウムはそこにいる4名でいいのかな?」

タチアナ「ええ、始めてください」

X中佐「深海棲艦からは3名で」

ル級「泊地棲姫、軽巡棲姫、ソレカラ私。アト2人ハ後カラ出サセテモラウ」

X中佐「後から? ……とりあえず、承知したよ」

H大将「こちらは海軍大将のTとH、それから中佐のX。艦娘からは提督と親しい中将麾下の赤城と不知火に出てもらう」

大将「うむ、では始めようか!!」

大将「議題は、提督少尉の処遇についてだ!!」

全員「「……!」」ザワ…


ニコ「気に入らないなあ。ぼくたちの魔神様を人間の所有物扱いするなんて……!」イラッ

ニーナ「所詮は人間ですから。人間の物差しでしか推し量れない哀れな生き物……!」ユラッ

軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ……!」ヌラッ

泊地棲姫「アア、ドウセ奴ラニ飼イ殺シサレルニ決マッテイル……!」ギラッ

不知火「開会早々から殺気立っているのですが」

H大将「お前、もう喋らんほうがいいな?」

大将「なぜだ!? こんな人材を捨て置けというのか!?」

X中佐「退席させましょうか」

大将「おい!?」

赤城「話を戻しましょう。最初に、海軍が所有していた××国××島の鎮守府が焼失した件について!」

赤城「本件については自然災害とし、提督少尉の過失はないものと認めました」

赤城「この災害で被災した海軍の人員および設備の被害については、本会では割愛させていただきます」

赤城「問題は、提督少尉の今後について」

赤城「海軍は、今回被災した少尉には、引き続き海軍に所属する『提督』として、艦隊の指揮を執って欲しいと考えています」


赤城「そのことについて、少尉から何か申し立てはありますか?」

提督「……もし、嫌だと言ったら?」

赤城「そうなれば、あなたは海軍を解任され、日本へ送り返されることでしょうね。あなたはそれで良いと?」

提督「良いとは言えねえな。ぶっちゃけ、妖精と艦娘がいなかったら、ここまでまともに生きてすらいなかっただろうし」

提督「人間嫌いの俺が、今更、艦娘との繋がりを断って人間社会へ復帰しろと言われても、無理に決まってんだ」

提督「それに、こうなったから言わせてもらうが、着任当初も初期艦すらつけてもらえずに人間の都合でこの島に追いやられて」

提督「さんざんこき使って疑うだけ疑って、今度は帰れだと? これだけ危険な目に遭わせておいて、ふざけてんのか」

X中佐「……」

提督「ま、お前らにしてみりゃ、大佐が悪い、としか言えないのかもしれねえけどな」

提督「それに、俺の意思を差し置いても、今は状況が変わった。仮に俺が日本行きを望んだとしても、こいつらが黙っちゃいないだろうな」

泊地棲姫「ソウダナ。ソレナラ提督ハ我々ガコノ場デ貰イ受ケルゾ、チカラヅクデナ……!」

ニコ「ぼくたちは日本とか言う場所に行ってもいいよ。魔神様のために働ければ、ぼくたちはどこへでも一緒に行くよ」

X中佐「……きみたちなら、僕たちと友好関係を結べると?」

ニコ「人間と? 思い上がらないでほしいね」フン

ニーナ「本当なら、この場にいる人間すべて、刈り取って魔神様にその魂を捧げているところです。身の程を知りなさい」

X中佐「……」


提督「メディウムと人間が仲良くするなんてのは無理だな。メディウムがどういう存在か、少しは話を聞いたろ?」

H大将「罠の化身、と言う話だったな?」

提督「ああ。生きた人間を陥れて殺すための罠の化身だ」

提督「処刑や拷問に使われた道具が元になっているメディウムもいる。どういう気性の連中か、言わずとも察しが付くだろう?」

提督「そういう面もあってか、メディウムたちはこことは別の世界で、長い間、人間たちから迫害されてきた」

提督「こいつらがこっちの世界に来たのも、俺と中将の謀殺を目論んだ連中に対する、俺の怒りと憎悪を察知したからだ」

H大将「……」

提督「仮に俺を日本へ帰そうものなら、メディウムも一緒に日本へ行くことになるだろう」

提督「その結果がどうなるか……人命を守るのがお仕事の人間なら、放っておくわけにはいかないよなあ?」

大将「ま、待て! その前に、貴様は人間でありながら、なぜその罠の化身たちの主になったんだ!」

提督「言ったろ。俺が人間を死ぬほど嫌いになったからだよ。なあ、ニコ?」

ニコ「そうだね。同じ人間として生まれ落ちたにも関わらず、生まれたときから卑下され、ありとあらゆる主張を否定されてきた」

ニコ「魔神様が生まれ出でるのに必要な要素のひとつ……人間に対する諦観と悲憤、累積された憎悪。それが僕たちをこの世界に呼び寄せた」

ニコ「他にも、あの島にたくさんの死が集まっていたことや、魔神様自身の出生も関わってはくるけれど、一番肝心なのはそこだね」

H大将「……よくそれで海軍に入ろうと思ったな」

提督「妖精が見えるってだけでスカウトされた結果さ」


提督「バイトも人間関係が原因で長続きしねえし、とりあえずの飯の種になりゃあいいなと思ってただけだ」

H大将「人が嫌いなくせに、人の言うことを聞いていたのか?」

提督「連れ添った妖精が悲しむから無駄死にしたくなかったってだけだ。はっきり言って人間はどうでもいい」

提督「これでも妖精たちと本から最低限の倫理観ってもんを教わってるつもりだぜ? 生きてる人間どもは誰一人教えてくれなかったがな」

ニコ「これまで魔神様が、人ならざる者に頼って生きざるを得なかっただけでも、その辛労辛苦は察して余りある」

ニコ「それに加えて人間どもが、いかに魔神様に対して無礼な態度をとってきたか……!」

ニコ「ぼくたちの怒りは、そいつらを10回ずつ殺しても物足りないくらいなんだよ。人間の言うことに従うなんて屈辱の極みだ」ジロリ

ニコ「魔神様が控えろというから、仕方なく従っているだけだということを、肝に銘じておいてほしいね」フンッ

H大将「……」

ニコ「それに、今の魔神様は人間の姿をしているけど、既に人間ではなくなっているって、お前たちも知ってると思うんだけど?」

大将「なにぃ!? それはどういうことだ!!」ガタッ

大将「俺は聞いていな……ん? 待てよ? もしかして、X中佐の言っていた、人間が人間ではなくなる、という話か……?」

X中佐「僕も少佐が言っていたことをそのまま伝えただけですので、詳しくは聞いていませんが……」

X中佐「少尉の入院中に彼の血液型などを調べたところ、血液そのものが人間のそれとは成分がまったく別物でした」

大将「では、今の少尉は、いったいなんなのだ?」


X中佐「……少尉。説明、できるかい?」

提督「そうだな……」ウーン

提督「確か、X中佐には、俺が一度死んだ、ってことも伝えたよな?」

大将たち「「!?」」

赤城「そ、それはどういう意味ですか!?」

提督「俺はあの日、大佐に撃たれて殺された。そしてその時、俺の胸を貫いた銃弾だったのが、そこにいる軽巡棲姫だ」

軽巡棲姫「……」

H大将「なんだと!?」

提督「大佐の一味が、過去に深海棲艦の艤装を使って武器を作ろうとしていたことは覚えているな?」

提督「その武器の威力を試す実験台にされていたところを逃亡して来たのが、うちの鎮守府の如月だ」

X中佐「!!」

提督「大佐一味はどうにかして深海棲艦を鹵獲し、そいつらを加工して武器にして……やがて銃弾を作るまでに至った」

提督「おそらく軽巡棲姫もどこかで鹵獲されて『生きたまま』武器に加工されたんだろう。そりゃ人間を嫌って当然さ」

大将「生きたまま!? どういうことだ!」

泊地棲姫「ワタシタチ深海棲艦ハ、死ネバ何モカモ水ノ泡ト化ス。艤装ダケガ残ルトイウコトハナイ」


泊地棲姫「ナカニハ、艦娘ニ撃破サレルコトデ、艦娘ニ変化スルモノモイルガ……」

泊地棲姫「イズレニシロ、艤装ガ残ッテイル、トイウコトハ、生キテイル……ソコニ魂ガ残ッテイル、トイウコトダ」

大将「なんという……あいつらは、本当にろくでもないことを!!」ダンッ!

H大将「まったく……狂っているな。そこまで道を外れるか、頭が痛いな」

大将「……しかし、そうだとしてもだ。なぜ少尉は銃で撃たれたのに生き返ったんだ?」

提督「俺の魂が、半分は深海棲艦だから、らしい」

ニコ「えっ」

メディウムたち「「えっ」」ドヨッ

艦娘たち「「えっ」」ドヨドヨッ

大将たち「「はあ?」」

軽巡棲姫「……ハァ、ジャナイガ」

泊地棲姫「ヤレヤレ……」

提督「ま、信じられないだろうな。見た目はほぼ人間っぽいっつうか、体そのものは人間だったんだからな」

ニコ「魔神様、それはぼくも初耳だよ」


ル級「証人ヲ呼ブワネ」

X中佐「証人?」

 スタスタ…

ヲ級「連レテキタ」

時雨「あ、提督。久しぶり」

提督「……時雨!? 久しぶりって……お前、来たのか!? っつうか戻って来られたのか!?」ガタッ

時雨「うん、見ての通り、ドロップしたてだけどね」ニコ

提督「……夢じゃなかったのかよ」アッケ

大将「時雨じゃないか。こいつが何かしたのか」

時雨「特になにかをしたわけじゃないけど。まあ、一部始終を見てきた、って言うべきかな」

大将「見てきた?」

時雨「うん。例えば、あの日、スタンガンを使われて拘束された後、朧に見つけてもらって2階の執務室から飛び降りたこととか」

大将「!」

時雨「朧がヲ級になったり、初春がル級になったりとか」

H大将「!!」

時雨「この人が魔神になった提督に腰を抜かして一緒に逃げそうになったこととか」

大将「お、おい!?」


H大将「時雨はあの場にはいなかったな。なぜそこまで知っている?」

時雨「僕は、もとD提督鎮守府の時雨。かつてあの島に……墓場島に漂着して、埋葬された艦娘の一人さ」

 ザワッ…


扶桑「……」

五月雨「……」

朝雲「嘘でしょ……」

山城「はぁ、やっと戻ってこれたわ」

那珂「あ、時雨ちゃんもあっちにいるんだね!」

扶桑「……山城。あそこにいる、時雨が……D提督のことを……」

山城「はい。あそこにいるのは、かつて私たちと一緒の鎮守府にいて……私たちがあの島の砂浜で看取った、あの時雨です」

扶桑「……戻って……きたと、いうの……?」ポロポロポロ

山城「はい……!」コクン


大将「つ、つまり、お前はあの島にいた幽霊だったと?」

時雨「うん。そのあと、僕は天国に行く途中まで行って、そこで提督と出会ったんだ」


H大将「……少尉は天国に行けたのか」

X中佐「そ、それはさすがに失礼では……!?」

H大将「いや、人を殺す罠の軍団の総大将だぞ?」

ニコ「そもそも魔神様が天国とか地獄とか、そういう場所に行くこと自体おかしいと思うんだけどな?」ウーン

時雨「もともと提督は人間として生まれたんだし、そこらへんはきっといろいろあるんだよ。まあ、その話は置いておくとして……」

時雨「とにかく、空の上で僕が出逢った提督は、全身真っ白で、顔にひびが入って、そのひびが橙色に発光する、深海棲艦の姿だったんだ」

ル級「姫級ヤ、鬼級ニ、ソウイウ子イタワヨネ?」

泊地棲姫「ソウダナ。例エバ、重巡棲姫トカカ」

全員「「……」」

提督「だから妖精とも話せるし、ル級たち深海棲艦に触れられても平気だったってわけらしい」

H大将「……信じがたいが、理屈としては成り立つな……」

時雨「提督のお母さんに話を聞くといいよ。その人、若いころに海難事故に遭ってて、その時に深海棲艦のようなものに襲われているはずなんだ」

赤城「……それでは、大佐に撃たれた提督が生き返ったのは、弾丸にされた軽巡棲姫のおかげだったと?」

提督「多分、な。大佐に撃たれた俺も、大佐の道具にされた軽巡棲姫も、言いようのない思いを抱いていたのは事実だったと思う」


提督「正直、あの場で何があったのかは、覚えちゃいないしわからないんだが……結果的には、そういうことだと思ってる」

軽巡棲姫「私ハ、アナタノオカゲダト思ッテイルケド?」

提督「そうなのか? お前も自覚ないんじゃ、ますますわかんねえな」

提督「でだ、撃たれて生き返ってから、軽巡棲姫の弾丸が生きているとわかったから、泊地棲姫に育ててくれと頼んだ結果、こうなったわけだ」

全員「「……」」

提督「あ、そうだ、泊地棲姫」

泊地棲姫「! ナンダ?」パァッ

提督「お前に大佐預けてたろ。軽巡棲姫の餌にしろって言ってた、あれ。今はどうなってんだ?」

大将「んなっ!?」

泊地棲姫「アア、アレカ? 駆逐艦用ノ巣トシテ使ッテイタガ、ソロソロ捨テナケレバナ……」

H大将「!?」

提督「なんだ、まだ生きてたのか? 随分しぶといな」

泊地棲姫「見ルカ?」

提督「いや、いい。見たら怒りが再燃して手を出しそうだ、適当に始末しておいてくれ」

泊地棲姫「デハ、ソウシヨウ」

X中佐「……この場に中将閣下がいなくて本当に良かったよ」ハァ…


赤城「話を戻しますが、提督が日本へ帰る、という選択肢はなくなったと考えてよろしいですね?」

X中佐「そ、そうだね……限りなく難しいと言えるだろうね」

H大将「ああ。この状況では、日本へ帰したほうがデメリットが大きいと思えるな」

大将「むぐ……!」

赤城「では……」

提督「俺がどこへ行くか、って話なんだろうが、その前に赤城。あの島は今後どういう扱いになるんだ?」

赤城「そうですね……しばらくは立ち入り禁止になるでしょう。人が出入りできる状態にはありません」

赤城「海軍はこの島の鎮守府を借りていたわけですから、その後××国へ返すことになりますね」

提督「……結局、俺が海軍に残ることを選択した場合でも、あの島に残る選択肢はないってことだな?」

ル級「提督ハ、アノ島ヲ気ニ入ッテイタノヨネ?」

提督「まあな。面倒くせえ人間もそうそう来ないし、気楽なもんだった」

泊地棲姫「ダカラ、私タチガアノ島ヲ奪ッテヤロウ。提督ヨ、一緒ニ住メ」ニヤリ

大将「お、おい! そんな勝手な真似は許さ」

X中佐「いいんじゃないでしょうか」

大将「んなっ!?」

H大将「X中佐!?」


X中佐「僕は賛成ですよ。せっかくですし、少尉の配下の艦娘も一緒に住むのはいかがでしょう」

提督「は……?」

大将「甥っ子君、正気か!?」

X中佐「正気ですよ。考えてもみてください、今や少尉は深海棲艦と友好関係を結んだ超重要人物です。ここから引き離すのは逆効果では?」

H大将「それは確かにそうだが……」

X中佐「少尉の部下の艦娘にしても、深海棲艦になる恐れがあったとはいえ、少尉とこれまで無事に過ごしてきました」

X中佐「島の殆どが燃えてしまったあの島を再び人が住めるようにするには、相当な時間と労力が必要でしょうが……」

X中佐「彼が望むのであれば、あの島に住み続けても良いのではないかと思っています」

大将「そ、それができれば苦労はしないだろうが……」

X中佐「それに、彼はかつてこう言っていたんですよ。艦娘たちが人間に干渉されることなく暮らせる場所が欲しいと」

X中佐「自分たちの、艦娘たちの『国』が欲しいと」

大将たち「「!!」」

ル級「……」フフッ

ニコ「……国、か……」

提督「……お前……!」


X中佐「これまで我々は、侵略者としてしか、深海棲艦を見てこなかった」

X中佐「その深海棲艦たちと、今、僕たちはここで対話ができている。僕は、できることならこの対話をもっと続けたい」

X中佐「そこに、人間と深海棲艦との共存の道があることを信じたい……!」

大将「そういうことなら……そうだな」

H大将「……」

X中佐「そのためにはまず、ここにいる深海棲艦たちに僕たちと戦わない意思があるかどうか」

X中佐「これからも戦わずにいられるか、その確約を取るのと一緒に……」

X中佐「メディウムにも心変わりしてもらう必要がありますが、それは気長に心変わりを待つか」

X中佐「あるいは、こちらも彼女たちが魔神と崇める提督と、僕たちの安全を保証するための約束事を取り付けられるか、でしょうね」チラッ

ニコ「……魔神様が手を出すなと言うのなら、従わざるを得ないかな?」

ノイルース「私たちの在り方としては、あまり望ましくはありませんが」フゥ…

大将「しかしそれでは、引き換えに何を請求されるかわからんぞ……」

X中佐「今更何を仰るんですか。もともと僕たちが目指していた深海棲艦との停戦を想定したときも同じことを論じてきたでしょう」

X中佐「どんな要求が出るか予測がつかないと、これまで何度も話し合って、何度も同じ結論を出してきたじゃありませんか」

X中佐「今ここでそんな及び腰な態度を見せてどうするんです!?」

大将「それはそうだが……」


X中佐「相手の要求は聞くだけは聞く。そのうえで可能なものは飲み、我々が飲めないものは詰めて妥協案を探す。そうだったでしょう!?」

大将「それこそ何を請求されるか……」

赤城「大将閣下?」ジロリ

大将「ぐ……」タジッ

X中佐「僕は、この島を提督とその配下の艦娘、この場にいる深海棲艦、そしてメディウムたちに明け渡したほうがいいと思っています」

X中佐「今後も彼らと対話するための場所として……それが世界の平和に繋がるのであれば、それだけの価値はあるかと」

提督「……」

H大将「大将はともかく、少尉も不服そうだな?」

提督「別に。人間の世界は面倒だからな。やることが多そうだな、って思ってるだけだ」

X中佐「仮に嫌だと思っても、この島以外に提督がどこかへ行く当てもないんじゃないのかな?」

提督「……そりゃあ、まあ、な」

X中佐「僕たちが望むのは対話だ。この島の海域でを非交戦海域とし、深海棲艦の領土として、中立地帯として使わせて欲しい」

X中佐「メディウムや深海棲艦が望むものをまとめ、少尉を通して交流から始めたい」

X中佐「そこから、交易であったり、和解できる道を探したいんだ。お互いの安全と、共存のために」

全員「「……」」


X中佐「どうでしょう。メディウムたちにしても、深海棲艦にしても、そこまで悪い条件ではないはずです」

ニコ「……」

ル級「……」

H大将「……」

大将「むうう……」

ニコ「みんなどう思う?」

ニーナ「私たちの領地で、生殺与奪を私たちで決められるのであれば……」

ノイルース「悪くはありませんね……魔神様の判断にお任せして良いのではないでしょうか」

タチアナ「ええ、私もそれで良いと思います」

泊地棲姫「フフフ……人間ガ、私タチノ領地ヲ認メルカ……!」

ヲ級「画期的ダナ」

ル級「私ハ賛成ネ。提督ガ、イイッテ言ウナラ、ソレデイイワ」

軽巡棲姫「提督ト一緒ニイラレルナラ……」ポ

X中佐「どうだろう、少尉。この島の代表として、僕たちと……各国の首脳と、条約を整理してみないか?」

提督「……」

赤城「少尉……!」

提督「……」


提督「……」ハァ

提督「面倒臭えが、やるしかねえか……」

 ザワッ…!

提督「不知火。悪いが頼りにさせてくれ。国際法ってやつか? そういうのとか、細かい取り決めが全然わかんねえんだ」

不知火「……わかりました。赤城さんにも相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

赤城「ええ、喜んで承ります」

提督「それから、そういう法律ってのは人間の公序良俗とか、人間の作った常識で固められてるはずだ」

提督「メディウムや深海棲艦が受け入れられないものは突っぱねるつもりでいる」

大将「ぐぬ……!」

泊地棲姫「私タチガ、ワザワザ人間ニ、断リヲ入レル必要ガナイカラナ。今モ、勝手ニ海域ヲ支配シテイルダロウ」

X中佐「確かに、今はルール無用だね。だとしたら、この島の領海だけでも、交戦しないように条約を結べないだろうか?」

赤城「できればこの場で仔細を決めたいところですが……」

H大将「少し待て。黙って聞いていたが、これは領土問題だ。世界各国が黙って見過ごすとは思えない」

泊地棲姫「ホウ……? ソレナラモウ遅イゾ。スデニ私タチガアノ島ヲ好キニシテイルカラナ」

タチアナ「ええ、すでに再開発を進めております。人間が入り込む余地などありません」

H大将「おい!?」


提督「……だったらもう、泊地棲姫の言うように強奪したことにしたほうが早いな」

大将「はああ!?」

提督「海底火山の噴火で島の鎮守府が焼失したのは事実」

提督「噴火の兆しを深海勢力が察知していて、それを機に泊地棲姫が海域に攻め込んできた、という話にすればいい」

提督「人間の介入など許されない状況だったことにすりゃいいんだ。火山活動は完全に天災、人間が抗えるはずもない」

提督「島に調査に来た連中はただの不運。あとはこの船が見逃された理由と、こうやって交渉できている理由を適当にでっち上げりゃいい」

不知火「でっち上げる……ですか」タラリ

提督「生憎、俺は巻き込まれて寝てたようなもんだからな。どうやってこの状況作ったのか、俺にはうまく話を作れねえ」

提督「深海側が交渉役に俺を選んだ理由もなんだっていい。気分で選んだと言っても通用するだろ」

提督「全部ありのままに伝えても別に構わねえぜ? どうせそうなって困るのは、身内を謀殺しようとした海軍だろうしな」クックックッ

H大将「……他人事のように言ってくれるな……」ハァ

赤城「少尉。顔が悪者になっていますよ」

提督「あん? 俺はこれが地だぞ?」

赤城「まったく……こうも開き直られると可愛くありませんね」

提督「馬ぁ鹿、俺のどこを見て可愛いとか言ってんだ」

赤城「あなたが自覚していないだけで、可愛いところはたくさん見てきましたよ?」フフッ

ル級「ソノ話、アトデ詳シク」

提督「おい」


大将「まったく、貴様は何を考えているんだ……お前の望みはなんなんだ!?」

提督「ふん。そんなものは決まってる」

提督「俺の望みは、俺に付き従ってくれている奴らの平穏だ」

提督「人間を排除した、妖精、艦娘、深海棲艦、メディウムの安息の地を作ること」

提督「人間に虐げられ、轟沈させられた艦娘が、人の手に頼らずとも生きていける場所。それが俺の理想であり、望みだ」

X中佐「少尉……」

大将「俺たちを邪険にしていたのは、そういう理由か……?」

H大将「やれやれ、ようやく腹の底を見せたか……面倒な男だ」

不知火「……司令。その理想の中には、司令も入っていますか?」

提督「ん?」

不知火「かつて司令は、その理想には人間であるご自身も不要だと仰っていました」

不知火「しかし、今の司令は人間ではありません。そのお考えを改める気にはなりませんでしょうか」

X中佐「そんなこと考えていたのか!?」

提督「ああ……まあ、言ってたな。島の住人を艦娘だけにしたくて、最初は俺も島からいなくなる予定でいたんだ」

 ザワ…!


提督「けどまあ……こう言っといてひっくり返すのはみっともねえけど、その話は、なしにするしかねえな」アタマガリガリ

提督「目立つのは嫌いなんだが、海軍とかとこれから話をするうえでは矢面に立たねえといけないだろうし……」

提督「こうやってメディウムやら深海棲艦やらとも縁ができた以上、下手に喧嘩させたくもねえし……」

提督「まあ、いち住人として、いてもいいんなら……」

ル級「何言ッテルノ。アナタハ、イナイト、困ルノヨ」ニッ

提督「……」

ニコ「そ、そうだよ、ぼくたちは魔神様と一緒にいるためにここにいるんだから!」ガタッ

軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ!」ガタッ

如月in傍聴席「抜け駆けは許さないわよ!!」

大和in傍聴席「提督を独り占めにはさせません!!」

「提督ー!!」キャー!

「司令官!」キャー!

「魔神様ー!」キャー!

「マスター!!」キャー!

提督「……」セキメン


ル級「ホーラ、イナイト困ルデショウ?」ニヤニヤ

提督「……くそ。なんか、恥っずいな、これ……」ウツムイテカオカクシ

不知火「司令があからさまに恥ずかしがっているところは初めて見ました」キラキラッ

赤城「レアショットですね」キラキラッ

ル級「コレガ、可愛イ、ダナ?」キラキラッ

ニコ「うん……まあ、いいんじゃないかな」チラッチラッ

タチアナ(そこで真っ向から見ようとしないあたりがニコさんらしいと言いますか……)

H大将「最早我々が口を挟めるような空気ではないな。認めてやるしかないんじゃないか? なあ」

X中佐「ですね。特にメディウムは海軍で扱うには荷が重すぎると思いますが、いかがでしょう」

大将「……むううう……」ガックリ

 キャーキャー!

提督「……っだあああ! お前ら少し静かにしろ! 恥ずかしい!」ミミマデマッカ

 ピタッ

提督「ったく……とにかくあの島は俺たちが好き勝手していいよな? っていうか、してるらしいけどよ……」

H大将「そうだな。人間の手には負えない。その方向で本営にも話を伝えよう」

提督「ああ、そうしてもらえるとありがたい」


提督「そういうわけなんで、深海棲艦もメディウムも、この船の人間には手を出さないでくれよ。今後、俺が指示した連中も同様に頼む」

ニコ「……魔神様ともあろうお方が、下手に出すぎじゃないかな?」

提督「そうか? この世界で、あの島に住んで攻撃されないっつう確約を得られただけでも、十分すぎる話だと思うぞ?」

提督「俺たちの望みは俺たちの平穏だ。これ以上駄々こねても、敵視されるだけでいいことなんかありゃしねえ」

提督「そもそも罠がこれ以上目立ってどうすんだ? 潜んでなんぼだろう? 俺たちが目立つのは俺たちのシマだけでいいんだ」

提督「無断で踏み込んできた奴を、丁寧に入念に執拗に派手に、飛ばして刻んで潰してやるのがお前らの本分なんじゃねえのか?」

ノイルース「それは確かに……」

ニーナ「その通りですね……」

タチアナ「ええ、同意いたします」

ニコ「……なんだか、言いくるめられてる気がする」

赤城「こういう時の物言いだけはお上手ですよね、少尉は」フフッ

不知火「はい」コク

大将(もしかして、俺たちも言いくるめられてるのか?)タラリ

H大将「やれやれ……深海側のスパイかと疑っていたが、それ以上の相手だったな。X中佐、責任重大だぞ」

X中佐「そうですね……最善を尽くします」

というわけで、今回はここまで。

続きです。


 * それからしばらく後 医療船内 ロビー *

提督「やれやれ、話が長すぎだ……」ノビー

如月「司令官、お疲れ様でした」

提督「おう、マジで疲れたぜ……ル級たちにしてもニコたちにしても、よくもまあ我慢して長いこと座っててくれたもんだ」

提督「ニコたちも、俺に面倒をかけられないとか言ってル級たちと一緒に島に引き上げていったし……聞き分けが良すぎて申し訳ねえな」

如月「人間に手を出さないには、こうするのが一番、って言ってたものね」

大和「後でちゃんとお礼をしに行かないといけませんね」

吹雪「司令官!」ズイ

朧「提督!」ズズイ

朝潮「司令官!! ご快癒、おめでとうございます!!」ズビシッ!

提督「おう……って、お前らもよく生きて……」

金剛「テートクゥゥ!! 生きてて良かったデース!!」ウシロカラダキツキー!

提督「うおっ!?」ガッシィ!

榛名「金剛お姉様!? ずるいです!」


金剛「Woo... ちゃんと生きて動いてくれてマス……この感触も久し振りデース」マサグリマサグリ

提督「お前はどこを触ってん……だっ!」アタマガシッ

金剛「はっ! ちょ、テート……Noooooo !!」メキメキメキ

電「金剛さんも相変わらずなのです!」

暁「本当ね……まあ、仕方ないのかもしれないけれど」クスッ

提督「お、電と暁か。電も生きてるなら何よりだ。暁、お前も倒れてたんだって?」

暁「え、ええ、それで、その……司令官、覚えてる?」

提督「ん? 天国っつうかあの世の話か?」

暁「……やっぱり、夢じゃなかったのね。こうしてお話してると、司令官も普通の人間に見えるのに……」

提督「ちゃんと覚えてるのか。ということは、I提督のことも覚えてるな?」

暁「うん……司令官は、I提督のことは知ってたの?」

提督「一応な。ただ、それを教えてお前がどうなるかわからなかったから、俺からは話を振らないようにしてたんだ」

暁「そうだったのね……」

川内「せめてあたしにだけでも、I提督を知ってるって言ってくれれば良かったのに!」

提督「そうは言うが、わからなかったからな。俺の方こそ早く言って欲しかったぜ」


川内「あれ、気付いてなかったの?」

提督「以前お前が、夜中に鎮守府を攻撃されて敗走したとか言ってたけど、それだけじゃなあ?」

提督「お前が関係者かどうか確信が持てなかったってのに、余計なこと言って引っ掻き回されたら目も当てられねえし」

提督「向こうの夢でも翔鶴に、川内と響によろしく、って言われてきたが、そいつがお前のことだとどうやってわかるよ?」

川内「まあ、それもそうだけど……向こう、かあ」

提督「そうだ、五月雨はいるか? 金剛と五月雨にも伝えておかなきゃならないことがある」

金剛「What's ?」

 *

金剛「Q中将が……そうデスカ……!」

提督「自分の息子が存命なら引き合わせてた、とか言ってたからな。お前のことを評価もしていたし、心配もしてるようだったぞ」

五月雨「P少将にも……お会いしてたんですね……」グスッ

暁「よろしく頼むって言ってたわ。私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって、言ってたのよね」

提督「ああ。お前のことになった途端、むきになるくらいには気にかけてたな」

五月雨「……P少将……」ポロポロ


提督「ところで、時雨はどこ行った? あいつもこの話を聞いたうちの一人なんだが」

朝雲「あー、時雨なら、ほら、あっちあっち」

扶桑「時雨……!」ダキツキー

時雨「むぎゅう……」ダキツカレ

日向「扶桑が、さっきからずっと時雨を抱いて放そうとしないんだが」

白露「私たちだって時雨を歓迎したいんだよ!?」

提督「……」アタマオサエ

山城「あの、扶桑お姉様? そろそろ時雨を解放してあげ」

扶桑「嫌」

山城「」ピシッ

山城「」

山城「」

山城「」ヒザカラクズレオチ

朝雲「山城さん!?」


日向「まったく、何をしているんだ。扶桑、そのままだと時雨が窒息するぞ。また時雨を天国に送り返すつもりか?」

扶桑「えっ? し、時雨!? だ、大丈夫!?」ユサユサ

時雨「……ぷはっ!? こ、ここはどこ!? 僕は誰!?」

扶桑「良かった、無事だったのね時雨!」ダキシメッ

時雨「ぐえっ」

朝雲「扶桑さん!?」

日向「無事でもないし、また絞まってるぞ……これはどうしたものやら」ハァ

提督「ったく……しょうがねえな」

朝雲「あ」

提督「扶桑? お前ももうちょっと聞き分けがいいと思ったんだけどなあ?」アタマツカミ

扶桑「え? 提督、何を……あ、あああ!? い、痛い痛いああひぃいぃぃいい!?」メキメキメキ

金剛「扶桑の口からこれまで聞いたこともないような悲鳴が出てきたデース……」

日向「腕が緩んだな。やれやれ……時雨、無事か?」ヒョイ

時雨「はぁ……またお花畑が見えるかと思ったよ。ありがとう」


朝雲「ちょっと、こっちで山城さんが扶桑さんに食い気味に拒絶されたせいで崩れ落ちてるんだけど」

山城「……フコウダワ……」イジイジ

時雨「山城、元気出して」ナデナデ

扶桑「い、いたたた……噂には聞いていたけれど、提督からいただいた初めてがこんなに痛いだなんて……」ポ

伊8(言い回しが卑猥)

時雨「扶桑、まだ余裕あるみたいだね? もう一回提督に掴んでもらう?」ハイライトオフ

扶桑「ひっ!? え、遠慮しておくわ……!?」アセアセ

時雨「そう? ならいいけど、本当にいいの?」ハイライトオン

扶桑「もう十分よ……あの痛さは直接頭に響いてくるみたいで、体が裏返るかと思ったくらいだもの……」ハァ…

朝潮「わかります。司令官のアイアンクローは、この世のものとは思えないほどの痛さでした……!」ウンウン

電「司令官さんの握力はどう考えてもおかしいのです」ウンウン

霞「……ちょっと待って、朝潮姉もやられたことあるの!?」

朝潮「え、ええ、まあ……」ポ

暁「電もそうなの?」

電「な、なのです……」モジモジ


金剛「これで扶桑も仲間デース」ニヤニヤ

大和「アイアンクロー仲間ね!」クスッ

暁「そういうことに仲間意識を持つのはどうかと思うけど?」ジトッ

霞「あいつから手が出るレベルで注意を受けてるってことでしょ?」ジトッ

日向「ああ。恥じ入りこそすれ、嬉しそうにしているのは問題じゃないのか」ジトッ

大和如月金剛朝潮電「「ごめんなさい」」

伊8(はっちゃんもアイアンクローされたことあるけど、他人の振りしていようっと)

吹雪「ふふっ、みんな、だらしないなあ。私はアイアンクローされたことないもんね!」ドヤッ

朝雲「アイアンクローは貰ってなくても、吹雪は暴走してデコピンで吹っ飛ばされたことがあるじゃない。威張れる立場にないんじゃないの?」

吹雪「それは言わないでぇぇぇ!!」イヤァァァ!

日向「……まあ、騒々しいのはいつものこととしてだ。先ほどまでの話からすると、提督は死者に会ってきた、ということなのか?」

提督「ああ。あの場でも話に出ていたが、暁や時雨もそういうことだよな?」

時雨「そうだね。僕の場合、まさかこの世に戻ってくることができるなんて思ってもいなかったけど」

日向「……時雨はこちらに戻ってくるつもりはなかったのか」

時雨「うん、戻れる体がなかったからね。島に漂着したときも胴から下がなかったし、溶岩で全部燃えちゃったしね」


日向「ふむ……では、なぜ時雨は戻ってくることができたんだ?」

時雨「多分だけど……エフェメラの力、かな」

日向「エフェメラ?」

時雨「魔神に仕える従僕の名前だよ。同じ個体が複数いて、それぞれが魔神のために動いてるみたいなんだ」

時雨「その中の一人が少尉の身を案じていたんだけど、直接手を出せないからって、僕が声をかけられたんだよ」

提督「もしかしたら、手を貸してくれたお礼に時雨をこの世に戻してやったのかもな」

日向「なるほど……その話、詳しく聞かせてもらいたいが、いいだろうか」

提督「俺も聞きたいな。俺にも関わる話なんだろう?」

時雨「そうだね。僕もたくさん話したいことがあるからね」ニコ

白露「その前に私たちにも歓迎させてね! 時雨!」

時雨「僕は走らないよ?」

白露「なんでよ!?」

山城「普通走らないわよ……」


 * 翌日 朝 *

 * 医療船内 小会議室へ通じる廊下 *

五月雨「会わせたい人……ですか?」

X中佐「ああ。島があんなことになって、君たちを心配してくれている人が来てくれてね」

X中佐「彼らはその中でも、熱心に君たちのことを案じている人たちだ」

神通「誰でしょう……?」

祥鳳「こちらです。どうぞ」チャッ

X中佐「ありがとう。さあ、二人も入って」

五月雨「は、はい! 失礼します!」

神通「失礼します……」

隊長「ん……来たか」

五月雨「……あ、あなたは……憲兵隊長さん!!」

隊長「いかにも。覚えていてくれたか、駆逐艦五月雨。貴様は息災なようでなによりだ」

神通「……!!」


五月雨「た、隊長さんが私に話を……?」

隊長「否。私はこの二人の付き添いだ」

若い女性提督「!」ケイレイ

松葉杖をついた若い提督「……」ペコリ

五月雨「この人たちが……?」

神通「……ああ……!!」

五月雨「? 神通さん?」

神通「生きて……生きて、らしたのですね……」ポロポロ…

五月雨「えっ」

神通「F提督……!」

若い提督→F提督「ああ。隠してて、すまなかった」

 ヒュオッ(瞬間的に神通が消えて)

女性提督「ふあっ!?」

 シュバッ!(F提督の目の前に神通が現れる)

隊長「……」

五月雨「……」


F提督「……」パチクリ

X中佐「えっ、なにあれ。神通って瞬間移動できるの?」ヒソヒソ

祥鳳「は、速すぎて見えなかったんですが……」ヒソヒソ

F提督「驚いたな。いつの間に忍者みたいになったんだい? せっかく、駆け寄ってきたところを受け止めようってつもりでいたのに」フフッ

神通「ご無理を、仰らないでください。後ろに車椅子が見えますよ?」

F提督「そのくらい、見栄を張らせてくれてもいいじゃないか。本当に久し振りの再会なんだ」

F提督「……神通、連絡もせず、黙っていてすまなかった。会いたかったよ」ナデ

神通「……わた、わたしも、です……! また、こうして、お会いできるなんて……!!」ブワッ

神通「あなたの、葬儀があったことだって……終わってしまってから、知ったんですよ……!!」ギュ…

神通「無念、でした……あなたのそばに、いなかったことが……船が襲われたときに、私がそばにいればと、何度も、何度も……!!」

F提督「神通……」ダキヨセ

五月雨「す、すみません、この方は、神通さんとどのような関係なんですか?」

X中佐「ん? 君は知らなかったのか。彼はF提督、神通のかつての司令官だよ」

X中佐「彼は、深海棲艦との対話の方法を探していた提督の一人で、同じ目標を持つ提督のグループを僕の叔父である大将が支援していたんだ」

X中佐「けれど、数年前に彼らの乗った船が襲撃されて、彼とほか数名の乗員を除いてみんな亡くなってしまった……」


F提督「私たちの船が襲撃されたとき、大将殿の遠征部隊が近くにいてね。私は運よく助けていただいたが……多くの仲間を失ってしまった」

F提督「私も死にかけ、今もリハビリを続けているが、神通がいるという島が襲撃されたと知って、いてもたってもいられなくなって」

五月雨「それでこちらにいらっしゃったんですか……」

F提督「こちらに来るのはもう少し後にするつもりだったんだが、神通に逢いたくてね……大将殿に特別に許可を戴いたんだ」フフッ

神通「F提督……!!」

F提督「あの襲撃事件のとき、神通がいなくて本当に良かったと思ったよ」

F提督「あの場にいて応戦しようものなら、間違いなく殺されていただろうからね。そう思えるくらい、あの船への攻撃は苛烈だった」

X中佐「襲撃された巡視船は、そこまでやるのかと思うくらい破壊されていた」

X中佐「その危険性から、大将はF提督たち生存者の存在を隠して、襲撃者の手掛かりを探っていたんだ」

F提督「そして、今回の騒ぎと、最近の調査で、中将閣下を襲撃しようとした、息子である大佐とその一味……」

F提督「そして彼らと通じ、利用していたJ少将が怪しいというところまで、ようやく分かったんです」

F提督「その際にはこちらの陸軍の皆さんにも協力をいただきまして」チラッ

隊長「……」


F提督「その甲斐もあって、あとは彼らがどんなことをしたのか、追い詰めて暴こうとしていたのですが……」

X中佐「重要参考人は燃えてしまったと」

F提督「そうですね……残念ですが」

F提督「しかし、だからこそ、私がこうして神通と再会できたというのもあります。そこは痛し痒し、ですかね」フフッ

五月雨「……」

X中佐「さて! 今度は五月雨に紹介しよう! 礼提督!」

五月雨「えっ」

女性提督→礼提督「はいっ! 改めまして、お久し振りです! 五月雨さん!!」ビシッ!!

五月雨「お久し……え、えええええ!?」

五月雨「まっ、ちょっと待ってください!? 礼提督……って、もしかして!? あの『礼ちゃん』ですか!?」

礼提督「はいっ!! 私は……」

隊長「いかにも。私の娘だ」

礼提督「って、お父さん!?」

五月雨「う、うわああああ……! 数年ぶりですよね!? 背も大きく……で、でも確か、弁護士を目指してたって……」

礼提督「はい、その時はそうでした……」


礼提督「ですが、五月雨さんたちが襲撃され、P少将が亡くなったと聞いて……どうしても、そのかたきを、と……!」

五月雨「……!!」

礼提督「五月雨さん……お願いがあります! 私の、秘書艦に……初期艦になってください!!」

五月雨「えええ!?」

礼提督「私にとってP少将は、第二のお父さんでした……そのお父さんの無念を、どうしても晴らしたいんです!!」

礼提督「P少将の初期艦だった五月雨さんと、一緒にかたき討ちを果たしたいんです!!」

五月雨「……」

 ――私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって

五月雨「……」

礼提督「お願いします!!」

五月雨「……礼ちゃん……いえ、礼提督」

礼提督「はいっ!!」

五月雨「そのような理由であれば、私は、秘書艦をお受けすることは、できません」

隊長「!」

礼提督「え、えええ!? ど、どうしてですか!?」


五月雨「P少将が……提督が目指していたのは、この海の……この世界の平和です」

五月雨「私たちが戦う相手は、深海棲艦ではなく、この海の安全を脅かすものです……!」

礼提督「……あ……!」

五月雨「確かに、私は、私の仲間を沈めたあのレ級が許せません。提督が死を覚悟してまで討とうとしたあいつを、私は許せません」

五月雨「けれど、そのレ級のせいで、もっと多くの人たちが、私たちと同じ悲しみを味わうことのほうが、許せない……!!」

五月雨「そして、そのレ級を打倒する力を……撃滅できる力を持たなかった私自身も……!!」

隊長「……」

五月雨「でも、それだけじゃないんです。レ級以外にも、罪のない人々を襲う深海棲艦がたくさんいます」

五月雨「そして、残念ながら、罪のない人々を襲うのが、深海棲艦以外にもいるということを、私は知ってしまいました」

隊長「……」ウツムキ

五月雨「礼提督……私たちの敵はそのすべてです」

五月雨「礼提督は、そのたくさんの敵すべてと、戦う覚悟はおありですか……?」キッ…!

五月雨「あなたは、自分の選んだ正義を、貫き通すことができますか……?」

礼提督「う……」タジッ

隊長「……」


礼提督「……申し訳、ありません……私は、そこまで考えを至らせていませんでした」

礼提督「私はただ……あの鎮守府で笑っていたみんなが、いなくなっちゃったのが、本当に悲しくて、悔しくて……」グスッ

五月雨「……」

隊長「五月雨。不肖の娘が申し訳ない」ペコリ

隊長「その父親として、改めてお願いがしたい。娘の……礼提督の秘書艦として、提督の心得というものを教示していただけないだろうか」

五月雨「隊長さん……!」

隊長「愚かなことにこの私も、陸と海の違いはあれど、P少将の友人として、志を共にした同士として、無念を晴らしたい気持ちがあった」

隊長「五月雨にも、そういう気持ちがあるものと思い込んでいたのだ」

隊長「軍人の矜持を忘れ、知らぬうちに復讐に心を捕らわれていたこと……ただただ恥じ入るばかりだ」

隊長「五月雨。P少将を知る艦娘として、娘を導いてほしい。お願いできないだろうか」ペコリ

礼提督「お父さん……」

五月雨「……」

礼提督「五月雨さん……お願いします!」バッ!

五月雨「……」


五月雨「わかりました。海のことを……この世界のことを、考えてくださるのでしたら、引き受けます!」

礼提督「五月雨さん……!!」

隊長「……ありがとう。礼を言う」

五月雨「あ、でも、私も、そんなに偉そうなことを言えた立場じゃないんですよ」エヘヘ

五月雨「隊長さんはご存じだと思いますが、P提督は、私が無茶をして死んでしまわないように、あの島へ送ったんです」

五月雨「実際、私もあのときは、ただレ級を倒すことしか考えていませんでしたから……礼提督と同じように」

隊長「……」

五月雨「でも、あの島で、提督と出会って……あの島の艦娘のみんなと出会って、私の見ている世界がどれだけ狭いかを知ったんです」

五月雨「いろんな人がいて、いろんな考え方があって……その中で、私にできることは何か」

五月雨「正しいことはひとつじゃなくて。どんなものにも、良いところと悪いところがあって。すごく、複雑だってことを知ったんです」

五月雨「それから……人間なのに、人間や艦娘にひどいことをする人がいるってことも……間違ったことをする人がいるってことも、知りました」

五月雨「礼提督には、そういう人になってほしくありませんし……それに、一番は、みんな無事で……生きててほしいって、思うんです」

礼提督「……」コクン


五月雨「あまりうまく説明できませんし、伝わったかどうかわかりませんけど……だから、これから、たくさんお話ししましょう!」

五月雨「良いと思ったことも、悪いと思ったことも。たくさん話し合って、進んでいきましょう!」ニコッ

礼提督「はい……はいっ!!」コクコク

礼提督「良かった……五月雨さんみたいな艦娘が秘書艦になってくれて、本当に良かったですううう!」グスグス

五月雨「な、泣きすぎですよ!?」

礼提督「だ、だってぇ、一度は断られましたしい!!」ウエーン


X中佐「……なんというか、身の引き締まる思いだね」

祥鳳「はい……!」

F提督「良い艦娘だ……ところで神通?」

神通「はい?」ニコニコ

F提督「どうして私は君にお姫様抱っこされているのかな?」

神通「脚がおつらそうでしたから……」ニコニコ


F提督「車椅子に乗せてくれていいんだが……」

神通「私は大丈夫ですよ」ニッコニコー

X中佐(嬉しそうだなあ……)

祥鳳(くっついていたいんでしょうね……)

隊長「コホン。余程再会が嬉しかったと見えるが、慎んだほうがいい。私も、この場で憲兵の仕事をしたいと思ってはいないのでな」

神通「わかりました……」ションボリ

F提督「神通はいつからこんなにお茶目になったのかな……」クルマイスノセラレ

神通「お茶目……?」

神通「」ポクポクポク

神通「」チーン

神通「あ、あああ……私ったらなんてはしたないことを……」カオマッカ

F提督「自覚してなかったのか……」タラリ

五月雨「如月ちゃんや大和さんたちの影響かなあ……」タラリ

X中佐「この場にビスマルクがいなくて良かったかもしれないなあ」

祥鳳「ああ……やりかねませんね、ビスマルクさんなら」

今回はここまで。

いろは順で言うと、現時点で加(か)まで出ているので次は与(よ)なのですが、
「墓場島鎮守府?」側で使うかもと思って、少し飛ばして礼(れ)で命名しています。
仇敵がレ級なので、丁度いい対比なのかもしれません。

そしてF提督、影牢エンドの場合はそのまま死んだことにしてますが、
こちらのルートでは生きてたことにしました。

フラグ回収ルートなので、その辺は大目に見てください。

1レスだけご容赦ください。
これは個人的な独り言なんだけれど。

もともとはこっち(罠だらけ)が主流だったのに、
そも前日譚の「墓場島鎮守府?」の方が知られてるみたいなのは
どうしたもんかねえ? というのがありまして……。

だって、艦娘メインの話の続きが、
サ終したブラゲのキャラが出てくる話なのよ?

絶対読むときに混乱するというか、もういいやってなっちゃうと思うんだよねえ……。

で、こっちを読まないと絶対ハッピーエンドに辿り着けない。これ既定路線です。
あっち(墓場島鎮守府?)だけで終わるよう話を展開すると、どうしてもいい結末に導けません。
私の構成力と想像力では無理です。スーパー御都合主義を爆発させないと無理です。

とりあえず描くだけ描きます。描き切ります。
ご覧になっている皆様、もうしばらくお付き合いの程をよろしくお願い申し上げます。

>571-572
まあ仕方ないでしょうかね……
そもそもあっちが動画サイトに転載されたのもでかいんでしょうね。
クロスオーバーでも受け入れてこちらを読んでくださってる方が
いらっしゃるのはありがたいことです。


それでは続きです。


 * 医療船内 大会議室 *

朝潮「……司令官、全員揃いました!」ビシッ

提督「おう、ありがとな」

吹雪「すっごい久し振りな気がしますね、みんな揃うの!」

北上「てか、よくこの人数が一つの部屋に収まったねえ?」

名取「なんでもありなんですね、この船……」

提督「まあ、人数ぎりぎりだな。メディウムがいたらあふれてたはずだ」

時雨「僕も参加して良かったのかな?」

扶桑「いいに決まってるわ。ね、山城?」

山城「ええ、もちろんです扶桑お姉様」

島妖精A「わたしたちにも声がかかるとは思わなかったが……」ヒョコッ

島妖精C「忘れずにちゃんと声をかけてくれて嬉しいけどね!」

長門「今回は一体どんな話だ?」

提督「ちょっと悩んでることがあってなあ。お前ら全員にかかわることだし、ちゃんと俺の口から話しておこうと思うんだ」


提督「まず……一度座ってもらったところで悪いが、全員席を立ってくれ。ちょっと班分けをさせてもらう」

全員「「???」」

提督「これから名前を呼ばれた奴は、こっち側に座ってくれ。如月」

如月「は、はい!」

提督「吹雪、朧」

長門「……着任順か?」

神通「だとしたら不知火さんが呼ばれていませんね」

提督「電、由良、明石、朝潮、霞、初春、比叡、伊8……」

不知火「……これは、まさか」

提督「榛名、那珂、扶桑、山城、加古、鳥海。1つめの班は以上だ」

提督「それから2つ目の班は利根、暁、雲龍、初雪、山雲、大和、武蔵……ああ、それと時雨もここに入ってくれ」

時雨「僕も?」

提督「ああ。で、残りが3つ目の班だ、妖精たちも含めてな」

雲龍「龍驤とは別の班なの……?」シュン

武蔵「ずいぶん人数差があるな?」


不知火「司令。これはもしかして……」

提督「まあ待て不知火、俺が言う」

不知火「……」

提督「おそらく不知火のほかにも察してる奴はいると思うが、この班分けは、轟沈したことがあるかどうか、で、分けている」

 「!!」ザワッ

利根「吾輩たちはどういう扱いなのだ」

提督「お前らはグレーゾーンってとこだな」

提督「海軍の連中は、轟沈した艦娘が深海棲艦になることを恐れている」

提督「初雪や暁、雲龍は、轟沈こそしてないものの、海上で意識を失っているし、利根も一度は人の手によって死にかけた」

提督「山雲は、完全なとばっちりとはいえ、深海棲艦と物理的な接触事故を起こしている」

提督「沈む前の記憶を持ってきている時雨も、正直どっちに分類したらいいかわからねえ」

提督「そして大和と武蔵は、あの鎮守府で建造された艦娘だ。大和の風評もひどいもんだし、余所でどういう扱いされるかわかったもんじゃねえ」

日向「余所?」

最上「提督、もしかして……!」


提督「で、なんでこんな班分けをしたかというとだな。できればお前らには、俺の手下(てか)から離れてほしいと思ってるんだ」

 ザワッ!

潮「そ、そんな……!?」

提督「その優先順位として、轟沈してない艦娘を優先して送り出したいと考えている」

金剛「Noooooooooooooooooooooooo!」

長門「どういうことだ提督!!」

提督「先の会議で知っての通り、俺はあの島で『提督』を続けることになった」

提督「ただ、その立ち位置はこれまでと全然違う。海軍から離れて、人間の敵となりうる深海棲艦とメディウムも束ねることになる」

提督「単純にそれだけなら、俺は世界の敵とみなされて、そのまま撃滅させられるところだろう」

提督「しかし、海軍から、深海棲艦との対話の場を設ける、という条件付きで、存続を認められることになった……」

提督「言い方はどうあれ、俺の立場はそういうところだ」

全員「「……」」

提督「島に常駐するのは、そういった環境でも問題ないと胸張って言える奴らだけにしたいんだ」

提督「メディウムたちとはこれまで一緒に暮らしてきたし、そこまで険悪にはならなかったが、深海棲艦とは戦争してきた間柄だ」

提督「艦娘との因縁だって浅いわけじゃねえだろう。それに、海軍から離れるってのも艦娘にとっては一大事じゃねえかな」


提督「だからこそ、轟沈を経験している艦娘であっても、早めにその不安材料を解消する方法を見つけて、外に出てほしいと思ってる」

如月「私は平気よ?」

提督「……まあ、なにがなんでも全員追い出したいわけじゃねえ。一緒にいるのが望みなら、そうできるようにしたい」

提督「人間がいなくても艦娘が住める場所を作るのが最終的な目標でもあるし、俺自身の望みではあるが……」

提督「ここにいる全員を深海棲艦と向き合わせて全部面倒見ろってのは、さすがになあ……手や口どころか体が足りねえよ」

提督「徐々に慣らしていきたいってのもあるし、最初は苦労するだろうから、少人数から始めて様子を見たい、ってのが俺の本音だ」

初春「なるほどのう……」

提督「妖精たちも深海棲艦たちと同居なんてしたことないだろう?」

島妖精B「まあ、確かにね~」

提督「でだ。今回、3つ目の班に分けた艦娘は、問題こそ起こしてはいるものの轟沈したわけじゃねえ」

提督「深海棲艦になる可能性はないだろうし、深海棲艦とは少し『遠い』艦娘だと思ってるんで、優先して移動の候補に挙げたというわけだ」

霧島「……理にはかなっていますね」

提督「神通と五月雨は、前にいた鎮守府から誘われてるんだろ? 俺にもその話が来たし、さっき直接会ってきた」

提督「それ以外にも、これまで俺が提督業やってて、ある程度は信じてもよさそうな連中との付き合いもできた」


提督「いい機会だから、これを機に何人かは転籍したらどうかと思ってる」

 ザワザワ…

提督「例えば、若葉」

若葉「ん?」

提督「お前、五月雨と一緒に礼提督んところに行かねえか?」

五月雨「!!」

若葉「……新米提督だろう? なぜだ」ジロリ

提督「おそらくお前の因縁の相手は、五月雨の因縁の相手でもある」

若葉「!!」

五月雨「レ級と、戦ってたんですか……!?」

提督「若葉が言ってた敵艦の特徴が似てんだよ。これから鎮守府そのものを再建しなきゃならねえ俺たちと一緒にいるより……」

提督「レ級の撃破を目指す五月雨たちと一緒のほうが、打倒するための士気も、遭遇する確率も高いはずだ」

提督「それから、若葉は入念に準備するほうだからな。戦力不足の状態でレ級と戦おうとするなら、それを諫めもするだろう」

若葉「ふむ……」


提督「それと長門」

長門「私か!?」

提督「お前もお目付け役として、五月雨たちと一緒に行ってみねえか?」

提督「五月雨をスカウトしてきた新しい提督ってのが、言ってしまえば小娘なんだ」

提督「いくら父親が憲兵の隊長だとしても、海軍でやっていけるかと訊かれたら、厳しそうだな、ってのが俺の正直な第一印象だ」

五月雨「……」

提督「お前に、五月雨と若い提督の保護者というか、指南役になってもらうのはどうか、ってな」

長門「むう……」

提督「一応言っておくが、潮もついて行っていいぞ」

潮「えっ!?」

提督「最上と三隈も一緒にどうだ?」

最上「えっ」

提督「礼提督の父親が憲兵の隊長なんだ。女性提督でもあるし、少なくとも最上が受けたようなセクハラ騒ぎは起きないと思いたいな」

三隈「は、はあ……」


提督「龍驤と陸奥と、それから雲龍も一緒に行くか?」

陸奥「!!」

龍驤「う、うちも!?」

提督「長門が行くなら陸奥が一緒でもいいだろうし、その陸奥とよくいる龍驤たちもどうせなら、ってな」

雲龍「私も一緒に行っていいの!?」パァッ

提督「班分けとしてはグレーにしたが、ここまで見てきて特に不安になる要素もねえし、悪くはねえと思ってる」

長門「……」カンガエチュウ

提督「まあ、これは俺からの命令じゃなくて『提案』だ。行きたくない奴は行かなくていいし、今すぐ結論出せって話でもねえ」

若葉「そうか。では、若葉は五月雨と一緒に行かせてもらいたい」

提督「ふふ、決断が速えな……んじゃあ若葉は連絡させてもらう」

五月雨「若葉ちゃん……!」

提督「一応断っておくが、変なこと言って新米提督を困らせるんじゃねえぞ?」

若葉「若葉は変なことなど言わないぞ」

五月雨「うーん……でも、時々変なこと言いますよね? 特訓は死ぬまでやりたいとか。死んだら駄目ですよ?」メッ!

若葉「……そうか」ポリポリ

初春(あの若葉が毒気を抜かれておる……案外良いコンビかもしれんの)


提督「まあ、転籍するかどうかはゆっくり考えてくれ。他にも何人かに個別に連絡が来てるんだ」

長門「というと誰だ?」

提督「まず、黒潮」

黒潮「へ!? うち!?」

提督「戦艦馬鹿の仁提督から、お前の安否を確認させろと話が来てる。お前、これを機に雪風たちと合流したらどうだ?」

黒潮「……!!」

提督「ついでに日向と伊勢。お前らも黒潮についてけ」

伊勢「ええ!?」

日向「どういう意図があっての発言だ」

提督「あいつ、海軍に入る前に余所の日向に助けられてんだ。戦艦贔屓なのもそれがきっかけなんだが、確か伊勢型はいなかったはずだ」

提督「ちいとばかし単細胞で猪突猛進のきらいがあるが……ま、一度話をしてみるのもいいんじゃねえかと思ってよ」

日向「ふむ……」

黒潮「なあ、うち、指名手配されてたんちゃうん?」

提督「それなら解除してもらったぜ。それっぽい艦娘がうちの鎮守府に流れ着いて、そのまま埋葬したっつってな」

提督「書類も艤装も全部燃えちまったし、確かめようがねえからなあ?」ニヤリ

黒潮「……あ、あくどいやっちゃなあ……!」


提督「それから古鷹と朝雲」

朝雲「あー……」

古鷹「もしかしてL提督ですか?」

提督「ああ。なんでもあいつ、びっくりしすぎて過呼吸起こしてぶっ倒れたとか言ってやがったな」

朝雲「えええええ!?」ガタッ

古鷹「だ、大丈夫だったんですか!?」ガタタッ

提督「一応、香取からは、大したことはねえって話はあったぞ」

提督「あと、足柄、千歳、加古、鳥海も無事かどうか確認してほしいって話も来てた」

加古「ってことは……鹿島たちかねえ?」

鳥海「そうだと思います」

足柄「あたしたちの場合は海風ね」

千歳「なんだか懐かしいわね~」

提督「加古と鳥海は難しいが、古鷹と朝雲、足柄と千歳はL提督んところに行ってもいいと思ってんだ。あいつも割とまともになったし」

提督「できれば加古と鳥海も……ついでに山雲も連れてって良い保証を、どうにかして付けてやりてえな」

朝雲「!!」

山雲「……!!」


提督「それから隼鷹」

隼鷹「!」

提督「ショートランド泊地にいるR提督と連絡が取れた。お前らに難癖をつけたJ少将は、今回のクーデターの首謀者だ」

提督「果たしてJ少将の判断が正しいものだったのか。細かい事情聴取のため、一度日本へ帰還させられるらしい。お前も同席しろとのことだ」

隼鷹「……ほ、ほんと?」

提督「ああ、ついでに飛鷹も一緒だとよ。できればそのまま、3人とも日本に帰れるよう手配するそうだ」

隼鷹「……い、いやったあああああ!!」ヒャッハー!

提督「それから……神通」

神通「はい」

提督「謀殺されたと思われてたF提督が生きてたんだってな?」ニッ

神通「はい……!」

提督「お前に関しちゃあ何も心配してねえから、F提督のところに行くことに異論はねえが……お前からはなにかあるか?」

神通「……提督」ピシッ

提督「ん」


神通「F提督のかたきを取らせていただいたこと……そして、F提督の元へ戻れるという、これ以上ない結果に導いてくださったこと……」

神通「この神通、感謝の気持ちでいっぱいです……!」ポロポロ…

提督「……ここまでやってこれたのは、お前が力を貸してくれたからだ。こっちこそ、感謝してるぜ。神通」

神通「提督……! 本当に、ありがとうございました……!!」ペコリ

提督「……」フフッ

隼鷹「ほんとマジ感謝だよぉ! あたしからもちゃんとお礼を言わせておくれよぉ!!」ウルウル

提督「おう、けどまだ油断すんじゃねえぞ? 一応は事情聴取だからな」

提督「あとは、川内と暁。お前らはX中佐のところに行ってみねえか?」

暁「えっ!?」

川内「提督!?」

提督「なんだその鳩が豆鉄砲食らったようなツラは。せっかく昔の仲間に逢えたんだ、一緒にいたほうがいいだろ」

川内「そ、そりゃあそうかもだけど……」

暁「司令官はそれでいいの?」

提督「俺はお前らがいいようにすればいいと思ってるが? むしろ響やX中佐のほうがそうしたいって思ってんじゃねえのか?」

暁「……」ウーン


提督「でだ。後出しで悪いが、俺がこうやってお前たちに移動を勧める理由というか目的が、実はほかにもうひとつある」

川内「え、それってなに?」

提督「この島の領海に入る際、かつてあの島に滞在していた艦娘が同伴していることを、島近辺に入る条件のひとつにしたいと思ってる」

全員「「!」」

霞「それってつまり、私たちを通行許可証の代わりにするつもり?」

提督「ああ。お前らの紹介、随伴がなければ、俺たちに攻撃されても文句を言うな、ってことにしたいんだ」

朧「いつかのテレビ局の人たちみたいな騒ぎを起こされたくないですもんね」

提督「勝手に島の中を物色されるなんざ、不愉快極まりねえ。深海棲艦の連中にしたって、同じかそれ以上に嫌悪するだろうさ」

千歳「っていうか、普通に不法侵入っていうか、領海侵犯よね?」

提督「国際法に従うならな。中には猫をかぶって、お前らに?をついたうえで俺たちを騙し討ちしようとしたり……」

提督「あるいは、そいつらの都合のために俺たちを騙して利用しようとする奴も現れるかもしれない」

提督「そういう奴らを問答無用で排除するために、そういう取り決めにしたいんだ。治外法権なんか認めさせる気はねえからな」

川内「私たちにX中佐のところへの移動を勧めたのは、そっちの理由のほうが強いってこと?」

提督「X中佐のような連中に対してはそうだな。お前たちの感覚で、これなら俺と話ができそうだ、って判断してもらいたいってのもある」

提督「とはいえ、X中佐はそんな心配も必要なさそうではあるが」


提督「で、今の時点で深海棲艦と積極的にコンタクトを取りたいのは、おそらくX中佐とF提督……H大将もまあ入るか?」

提督「楽観的な見方だが、その3人が粗相することはおそらくないだろう。メディウムの出番はしばらくないと見ていいだろうな」

隼鷹「X中佐の叔父のほうの大将は?」

提督「あいつは駄目だろ、会わせても顰蹙買って終わりだ。態度でけえし、どんな場面でも自分の意見を押し通そうとしてるし」

隼鷹「あー、やっぱり?」

那智「隼鷹、お前もH大将に制止されていたのを見ただろう。わかってて言ってないか?」

隼鷹「ひひっ、まあねえ」

武蔵「……そう考えると、H大将のところにも誰かに行ってもらったほうがいいわけか」

提督「ま、そうだな。縁ができたのは朧だが、轟沈経験艦だし……」

北上「それなら、あたしが行こうかねえ?」

明石「北上さん!?」

北上「霰と満潮も。大将の下で働けるってのはなかなか魅力的だと思うけど、どーぉ?」

霰「ありかも……」コク

満潮「まあ、私はいいけど……」


明石「い、いいんですか?」

北上「いいもなにも、あたし自身は環境激変したあの島に居続けるのは難しいよねー、って、フツーに思うわけさ」

北上「多分、名取とかもそうなんじゃないの?」チラッ

名取「そ、そうですね……」

北上「あたし的にはさ、せっかくまた話せるようになった明石たちと繋がりが切れるのもなんだし……」

北上「だったら、これからもこの島に関わりのある人んところに行ってみるのもいいかもね、って」

明石「うーん……」

北上「それにあの人、秘書艦が大井っちらしいんだ。どんな人か、ちょっと気になるよねー」

提督「おおいっち?」

明石「球磨型軽巡洋艦、4番艦の大井さんです。北上さんは3番艦で、この二人は改装によって重雷装巡洋艦になるんです」

明石「ちなみに5番艦の木曾さんも、改装の2段階目で重雷装巡洋艦になります」

提督「ふーん……まあ、信用するかどうかは北上が決めてくれ、俺はそれに従うさ。朧も最初の口利きを頼む」

朧「はいっ」

提督「とりあえず。まずは俺からそういう提案をして、向こうが素直に飲んでくれるか、ってとこだな」


提督「俺の言いたいことはだいたいこんなところだ。何か質問は?」

如月「ねえ、司令官は、いつからあの島に住むつもりなの?」

提督「正直、とっとと荷物まとめて島に移動したいんだがな……昨日乗り込んできた新顔の船医がもう少し検査させてくれってうるせえんだよ」

提督「島は泊地棲姫が整地したらしいが、どんな設備があるのか確認しておきたいし……ニコたちも自分の持ち物持参してくるらしいしよ」

提督「俺たちの……つうか、艦娘の分の生活スペースも早いうちに確保しておきたいんだよな」

如月「ニコちゃんからも、体調が万全でないなら早く島に来て、魔力槽に入ってほしいって言われてたわよね?」

提督「ああ。あの医者いろいろ面倒臭えし、検査すっぽかすか……どうせあのヤブの好奇心からくる検査だろうしな」

加古「そのうち解剖させろとか言い出したりしないだろうね?」

提督「……なくはなさそうだな」

龍驤「そら洒落にならんで……」ゾワワ

利根「うむ……」ゾワワ

提督「あ、そうだ。そういや、俺の預金通帳ってまだ使えんのか? 足りないものがあったら買い物したいんだが」

不知火「それでしたら、不知火が預かっております。まだ使用可能だと思いますが」

提督「俺の戸籍の扱いとかどうなるかがわかんねえからな。早めに何かしねえと、死人扱いされて使えなくなるかもしれねえな」


提督「それから一番気になるのはドックと工廠だ。まさか残る艦娘にも魔力槽に入れとかいうのはちょっとなあ」

明石「あー……それはそうですねえ。工具類も、最低限のものは持ち出してきたけど……またいろいろ揃え直しかあ」ガックリ

提督「焼失したものが結構どころじゃなく痛いんだよな。発電機とか風呂とか、食堂に作ったステージとか……」

那珂「ああー……」

霧島「音響設備もそうですね……」ガックリ

比叡「あの厨房も燃えちゃったんですよね……」ガックリ

初雪「畑や花壇もそう……」ドンヨリ

山雲「ああー……」ガックリ

神通「ですね……」ウナダレ

武蔵「……手塩にかけてきただけに、なくなったと思うとつらいものが多いな」

大和「諦めて買いなおせるものは買いなおしましょう。ないものはないもので、改めて新設するしかありませんね」

吹雪「どうせならもっと大きく作り直さないと! 私たちだけじゃなく、深海棲艦やメディウムも住むわけですし!」

提督「……そうだな。将来を見据えて、がっつり作り直さないとな……!」

大和「そうです。そういう意味では、提督……いよいよ提督の夢をかなえるときが来たのですね」


提督「ああ、そういうことだ。そうだな……ちったあ気合入れるか……!」

不知火「司令……!」

吹雪「司令官! やる気になってくださったんですね!!」

暁「これまで物騒な方向にしかやる気を出さなかった司令官が、ものすごく健全な方向でやる気になってるわ!」

比叡「これなら安心ね!」

電「安心なのです!!」

明石「成長したなあ……」ウンウン

霞「やっと真面目になったわね。ほんっと、長かったわ」ハァ…

提督「……」

武蔵「貴様の日頃の行いの問題だろうが。そう面白くなさそうな顔をするな」

提督「いやまあ、いいけどよ……」

朝潮「司令官! 朝潮は、これからも司令官のために尽力させていただく覚悟です!」ビシッ

吹雪「あっ!? 朝潮ちゃんずるい! 私だって頑張っちゃうんだから!」

朧「朧も、あたらしい居場所と提督を守り抜きます!」


如月「うふふ、みんな張り切ってるわねぇ」ニコニコ

金剛「ぐぬぬ~、なんだか向こうのグループがうらやましいデース……!」

摩耶「いやいや金剛さん、あっちのグループは仮りにも轟沈したんすから。うらやましいとか言っちゃ良くねえっすよ」

霧島「そうですよ金剛お姉様。私たちは、私たちにしかできないことをやるべきでしょう」

金剛「ぐぬぬぅ~」

提督「とりあえず、今の時点で俺と一緒にあの島に住むつもりのやつ、手を挙げてく」

金剛「ハーイ! ハイハイハイハイハーーーイ!」ブンブン

不知火「金剛さん、ステイ」ギロリ

金剛「」スッ…

榛名「……」

提督「……金剛は一度冷静になってから判断したほうがいいな」

金剛「テートクゥ~……」ウルウル


提督「いや、まじめに考えろよ。今のお前は勢いだけじゃねえか……とりあえずほかに希望者は?」

如月「はーい」キョシュ

吹雪「はいっ!」バッ

朧「はいっ!」バッ

伊8「はい」スッ

朝潮「はいっ!」ビシーッ

大和「大和も残ります!」ビシッ!

榛名「榛名も大丈夫です!」キョシュ!

提督「……」

長門「この辺も説得しても無駄そうだと思うがな」

提督「……一応、面談させてもらうからな?」

比叡「私も、一応居残りかな~……特に行く当てもないし」

明石「うーん……」

霞「明石さんは手を挙げないの?」

明石「さっき提督が言ったとおり、設備が心配なの。私が行っても、工廠がないんじゃ役に立てないだろうし……霞ちゃんは?」

霞「あたしはまだ考え中。ついて行っても役に立てるかは別よ」


提督「他にもそういう不安があるなら教えてくれ。今すぐ決めろって話じゃねえし、保留でいいぞ。他には?」

扶桑「はい」キョシュ

山城「扶桑お姉様ぁぁ!?」

扶桑「あら、なあに山城?」

山城「ふ、ふそ、扶桑お姉様はここに残るんですか!? 深海棲艦と一緒の生活ですよ!?」

扶桑「ええ、心得ているわよ。私は常々提督にお世話になってるもの。これからも変わらず提督のお力になれればと思っているわ」ニコー

山城「うぐぐ……」

那珂「うーん、那珂ちゃんも残ろうかなあ」

山城「んなっ!?」

提督「……お前がそう言うとは思わなかったな。いいのか?」

那珂「とりあえずー、昔、提督さんが言ってた、那珂ちゃんの出自を隠して~って話は、もう通用しませんよね」

那珂「そうなると、轟沈した艦娘が外へ出ても問題ないことが証明されないと、那珂ちゃんとしても安心できませんしー」

那珂「せっかくだから、深海の子たちにも、那珂ちゃんのライブ見てもらってもいいかなーって!」

提督「じゃあステージ設営は必須、と。できれば屋内で欲しいとこだが、そこは家主と相談だな」

那珂「はーい!」

山城「……」


時雨「それじゃあ、僕も一緒に残ろうかな」

山城「しぐっ!?」

時雨「考えてみたら、提督以外に既知の人がいないしね。それに、提督にお願いしたいこともたくさんあるし」

提督「俺にか?」

時雨「うん。提督に相談に乗ってもらいたいんだ」

提督「相談ね……わかった。それは今すぐでなくてもいいのか?」

時雨「うん、落ち着いてからでいいよ。ありがとう」

山城「……」

扶桑「それで、山城はどうするの?」

那珂「山城ちゃん?」

時雨「山城?」

山城「……う、うぐぐ……わ、わかりました! 私も一緒に行きます!」グスッ

那珂「な、なんで泣いてるの!?」

山城「だ、だって、みんなで私を仲間外れにぃ……」グスグス


扶桑「そんなことないわ。それとも、そんなに提督と一緒が嫌なの……?」

山城「そ、そんなことはありませんけどぉ……!」ボロボロボロ

時雨「山城は素直に行きますって言えないだけなんだよ」

扶桑「ふふっ、そういえばそんなところもあるわね」ナデナデ

那珂「ほらー、山城ちゃん、泣かない泣かない」ナデナデ

時雨「山城は面倒臭いなあ」ナデナデ

山城「な、なんでみんなで私の頭をなでるんですか!?」

扶桑「あら、嫌だった?」

山城「いえ……もっと撫でててください」カオマッカ

提督「本当に面倒臭え奴だな」

山城「提督にだけは言われたくないわっ!!」ガーッ


提督「……やれやれ。他には?」

初雪「……ん」キョシュ

提督「初雪!? お前も残んのか!?」

初雪「うん……練度、低くないし。ちょっとだけ、本気出す、から、見てて」フンス!

提督「……まあ、やる気出してくれてるんなら……そうか、お前もか……」ウーン

初雪「……不安?」

提督「正直言えばな」

初春「ふぅむ……わらわはどうしようかのう。外の世界を見て回りたいところじゃが……」

提督「それなら初春も保留ってことにしとくか。お前の場合、轟沈したことを隠して不知火と一緒に外回りした実績もあるしな」

初春「うむ。先送りで頼む」

提督「あとは……」

敷波(あたしはどうしようかな……残っていいと思うけど)チラッ

由良(提督さんのところに残りたいとは思うけど……)ウーン

電(今のままだと敷波ちゃんだけ離れ離れになっちゃうのです……)ウーン

敷波(何悩んでんだろ、あの二人)

大淀「……」

敷波(大淀さんもすごい顔して悩んでるみたい……別に悩む必要なさそうなんだけどなあ)チラッ


提督「あとは考えがまとまってねえようだし、こんなとこか? 逆に、若葉のほかに余所の鎮守府に行きたい奴はいるか?」

白露「はーい!」

島風「白露!?」

提督「白露か。どこか行く当てあるのか?」

白露「ないよ! ないけど、北上さんたちが言ってたことを私たちに当てはめて考えてみたの」

白露「それで、冷静に私たちがこの島で何ができるかを考えると、あんまりないような気がするんだよねー」

白露「それだったらさ、この辺の波の具合とか知ってるわけだし、外に出て案内役をしたほうがいいかなあと思って!」

提督「なるほど……」

白露「それに、提督は私たちのことを心配してくれてるわけでしょ? 深海棲艦と一緒にいて衝突しないか、って」

白露「私も不安がないわけじゃないし、提督が心配してくれてるなら、その通りにして一度距離をとってもいいかな、って思ったんだよね」

提督「……」

白露「どしたの?」

提督「いや……お前、そんなに聞き分け良かったか?」

白露「なにそれ!? 私はいつもお利口さんだよ!?」


提督「話を全部聞き終わる前にすっ飛んでいく奴が何を言ってんだ」

白露「そんなことないし!? 島風もいいよね?」

島風「う、うん……」

白露「? 島風、どうしたの?」

提督「白露が心配なんだろ。その改造しまくった艤装がお前の負担になってないか、とか、離れ離れにされないか、とかな」

島風「そ、そう……うん」モジモジ

白露「島風……」

提督「その辺は俺から釘を刺さなきゃな。二人一組で連れてこいって条件付き付けるって手もある。悲観はさせねえよ」

島風「そ、それもあるけど! そうじゃなくて!」

提督「んん?」

島風「提督には、いろいろ相談に乗ってもらったし……お仕置きは嫌だったけど、すっごくお世話になったから……」

島風「提督と離れ離れになるのも、寂しいな、って」ウルッ

白露「う、うん……それはね、あるよね」ウツムキ

提督「……」アタマガリガリ


不知火「……専属の連絡員、あるいは輸送艦隊という形で関わっても良いかもしれませんね」

島風「えっ!? なにそれ!」

白露「そういうのもあるの!?」

不知火「この島の艦隊の独立にあたり、様々な形で人員を増やす必要が出てくるでしょう」

不知火「どのような役割が不足しているか、不知火が本営へ確認しましょう」

提督「悪いが頼む。俺が顔を出さなきゃいけないような要件があれば回してくれ」

不知火「承知しました」

青葉「……でしたら、青葉もそのあたりのお堅い役割をいただいたほうが良さそうですねえ?」

提督「まーたお前は危ない橋を渡りたがんのか?」

青葉「どうせ余所へ行っても厄介者扱いされるでしょうからね~」

提督「ま、その辺はお前を受け入れてくれる奴がいるかどうか、だな。他に、希望がある奴はいるか?」

筑摩「あの……」ス…

利根「筑摩?」


筑摩「利根姉さんが良ければ、なのですが……私と利根姉さんも、F提督の鎮守府へお世話になるのはいかがでしょうか」

利根「なに!?」

神通「筑摩さん……!?」

筑摩「利根姉さんは、よく神通さんから相談を受けていたそうなので。一緒に赴いて、これからも何か力になれれば……と思いまして」

利根「むう……!」

筑摩「もちろん、神通さんやF提督の賛成を得られれば、ですが」

神通「い、いえ! そのお申し出は、私には、とても嬉しいです……!」パァッ

利根「……」ムゥ…

筑摩「利根姉さん?」

利根「ん!? あ、ああ、大丈夫じゃ。ちと思うところがあってなあ……」

神通「利根さん……?」

利根「吾輩がF提督のもとへ参ずるのはやぶさかではない。それが通れば、良い話……ありがたい話だと思っておる」ウデクミ

利根「ただ気がかりは、吾輩も一度、メディウムたちの魔力槽へ入ったことがあるからのう……」


利根「提督の体の件があったように、吾輩も何かしら影響を受けてはいまいか、という不安はある」

神通「!」

筑摩「!」

明石「ああ……確かに、ないとは言えないかもしれませんねえ」ウーン

利根「魔力槽には如月も入ったそうじゃが、この鎮守府に残るという以上、そこまでの心配は無用であろう」

利根「じゃが、吾輩がここから離れて問題を起こしたとなれば、神通たちの活動にとって負担となり妨げになる」

利根「杞憂であればよいと思うが、そこが不安ではあるな」

神通「そう……ですか、それは確かに……」

筑摩「利根姉さん……」

利根「重ねて言うが、筑摩の提案が受け入れられれば、それはありがたい話だと思っておる。前向きに考えたいとは思っておるのじゃ」

神通「……」

筑摩「利根姉さん……」

提督「その辺はニコと相談ってとこか。この手の話題は、ルミナあたりが目を輝かせそうだが」

古鷹「文字通り輝かせてますからね」フフフッ

龍驤「古鷹も輝いとるやんけ」ツッコミ

 アハハハ…


利根「……」

利根(むう……吾輩の立場なら島に残るのが妥当だと踏んでいたが、まさかそうくるとは……)

利根(確かに筑摩の言う通り、神通についていけば、外の世界に触れられるし、気掛かりであった神通の話し相手にもなれる)

利根(さすがは筑摩、妙案である。しかしじゃ……)ムムム…

利根(提督とのスキンシップやちょっとした身の回りのハプニングが楽しかったというのもまた事実……!)

利根(島に残ってもう少し提督とじゃれあいたいが、そんな理由で島に残ると言い出せば、姉としての威厳にかかわる!)グギギ…!

利根(筑摩は筑摩で可愛い妹ではある……じゃが、あの春画本のような予期せぬドキドキ感にも憧れる……!)

利根(ああ、何たる俗物的な……このような吾輩の破廉恥な本音を知ったとしたら、筑摩も神通も吾輩に幻滅するであろう……!!)

利根「うぐうう、吾輩は、どうすればいいんじゃあ……!!」アタマカカエ

神通(利根さん……ごめんなさい、私のために……!)ウルッ

筑摩(利根姉さん……!)ホロリ

島妖精A(……利根から邪な気配が感じられるのは何故だろう)タラリ

島妖精G(しかも珍しく神通がツッコんでないね)

島妖精A(だから直接脳内にツッコミを入れるなと! お前本当に魚雷妖精か!?)


提督「まあとにかくだ。留まるにしても出ていくにしても、お前たちには全員無事でいてほしい」

提督「とにかく困ったときは俺に言え。なんとかしてどうにかすっからよ」

霧島「……根拠がアレですが、頼もしいですね……」

長門「ああ。ただ、ひたすら物騒な感じも否めないが」

五十鈴「ほんと、いざ頼ったらすごいことになりそうで怖いわね……」

朝雲「そ、そうですね……メディウムどころか深海棲艦も味方につけちゃいましたから」

那智「その気になれば鎮守府一つ、潰しかねないか……そうせざるを得ないような場面が来なければ良いが」

提督「話は以上だ。他に何かあるようなら、個別に聞きに来てくれ。解散!」

 ザワザワ…

提督「さてと……」

如月「司令官!」

提督「ん? どうした」

如月「早速だけど、島に行きましょう?」

吹雪「行きましょう行きましょう!」

提督「そうだな……」


明石「あ、提督。私も見に行っていいですか? 工廠のスペースがあるかどうか確認したいんで。工廠の妖精さんたちも連れていきますね」

提督「ああ、残るつもりなら場所を確保しないとな」

朧「……提督? 明石さんを引き留めないんですか?」

提督「そりゃあ、明石みたいに残ってもらえると助かる艦娘はいるが、そいつらだけ声をかけるわけにはいかねえだろ」

提督「残る残らねえは当人の意志を優先したいんだよ。これを機に新しい居場所を見つけてもいいだろうし」

提督「むしろ俺は、お前たちが残ってくれることに頭を下げて礼を言わなきゃならねえ。島が燃えたのは俺の不始末なんだからな」

如月「またそうやって自分ひとりで背負い込むんだから」ムスー

朧「どうやったらそこまで卑屈になれるんですか」ジトッ

吹雪「そうですよ! これから深海棲艦とも一緒に過ごすんですから、しっかりしてください!」

提督「いや、これ普通に俺の不始末だろ? つうか一度死んでるお前らがそういうこと言うのは、なんか違う気がするんだが」

電「司令官さんだって死にそうな目に何回も遭ってるのです!」

初春「馬鹿は死んでも治らんときたか。筋金入りじゃのう」

長門「やれやれ。久しぶりだな、このやりとりも」

提督「いや……今回ばかりは、俺が責められるのが正しいような気がするのは俺だけか?」

と言うわけで今回はここまで。
次回やっと島に(一旦ですが)戻ります。

刹那五月雨撃ち

続きです。


 * 墓場島沖 洋上 *

 ザザーン…

(提督を艤装の上に乗せた大和と艦娘の一団が、島に向かって航行している)

霞「勝手に抜け出してきたけど、大丈夫なのかしら……」

明石「心配なら、霞ちゃんだけ戻る?」

霞「わ、私は朝潮姉や明石さんのほうが心配よ!?」

提督「まあ、不知火に言伝を頼んだし、あいつらが俺たちを攻撃するような真似もしないだろう」

如月「司令官のお世話をしてた看護師さんも、本営から来た船医さんが暴走気味だから気をつけて、なんて言ってきたものね……」

提督「あの野郎、まじめに俺を解剖するつもりだったのかね」

大和「あぶないところだったかもしれませんね?」

明石「あの看護師さんの立場が悪くなってないといいですけどね……」

提督「……」

明石「あ、メディウム使って船医さんに何かしようとか考えないでくださいよ!?」

提督「なんだ、駄目か」


明石「駄目ですよ! あの人、看護師なんですから! 怪我人出したら、悲しむのも忙しくなるのもあの人ですよ!?」

提督「しょうがねえな……」

朧「というか、提督に手を出した時点でニコちゃんたちが黙ってないと思うんだけど」

榛名「それを考慮しても、今後も検査はお断りしたほうがよろしいでしょうね」

那珂「そのほうがいいね~」

提督「……ああ」チラッ

如月「どうしたの司令官?」

提督「……ちょっと人数多すぎねえか?」

如月「それはまあ……そうねぇ……」

長門「……いま提督がこちらを見たな」

伊8「やっぱり、人数多すぎだって思ってるんじゃないですかね?」(←長門の艤装に乗っかり)

金剛「Hey, 長門! 島に行くということは、あなたは島に残るつもりデスカ!?」

長門「いいや、そこはまだ決めていない。金剛は残るつもりなのか?」

金剛「私は残るつもりでいマース!」

長門「……そうか。それはそれで構わないが」チラッ


由良「……」チラッ

電「……」チラッ

敷波「……? なんか、みんなあたしを見てる?」

長門「ああ。敷波、お前も島に残るのか?」

敷波「うん。残るつもりだよ?」

由良「……!」ビックリ

電「……!」ビックリ

敷波「あ、何その顔。もしかしてあたしだけ余所に行くと思ってたの?」

電「そ、それは……」

由良「だ、だって、轟沈してないし……」

敷波「ふーん」

伊8「初雪ちゃんも残るって言うし、その辺は自由でいいんじゃない?」

初雪「うん……」コク

敷波「そうだよー、ほら、大淀さんも追いかけてきてるしさ?」ユビサシ

大淀「!?」ギクッ!

伊8「なんで離れてついてきてるんですかねえ……」

敷波(大淀さんもなんていうか、意外と臆病なんだよね。わかるけどさ)

吹雪「司令官! 建物が見えてきましたよ!!」

提督「!」

朧「……近くで見ると、本当に岩だらけですね」

提督「そうだな……」


 * 島の東岸 *

提督「すげえな……この辺りはほぼ元通りじゃねえか?」

大和「この辺りも溶岩で覆われていたはずなのですが……全部綺麗に取り払われてますね」

如月「むしろ前よりも綺麗になってる気がするわ」

榛名「提督! あそこにニコさんが!」

朧「ル級さんたちもいますね」

 *

ニコ「やっと来てくれた……遅いんだから、もう」

泊地棲姫「ル級ノ言ッタ通リ、余計ナ奴ラモ、大勢連レテ来タナ」

ル級「……ソレ、提督ガ聞イタラ、怒ルワヨ?」

軽巡棲姫「アア……提督……!」ソワソワ

 ザザザァ…

大和「提督、到着いたしました!」ヒョイッ

提督「うおっ……と、ありがとな、大和」ストン

軽巡棲姫「提督!!」タタタッ


軽巡棲姫「アア……提督、会イタカッタ……!」ヒシッ

提督「おお、いきなりだな……わざわざ出迎えてくれるなんて、悪いな」ナデナデ

泊地棲姫「フ……光栄ニ思エ」

軽巡棲姫「……♪」スリスリ

ニコ「……」ジト…

泊地棲姫「イツマデ、クッツイテル」グイ

軽巡棲姫「……何ヲスル」ピキッ

泊地棲姫「コノ男ハ、私ト話ヲシニ来タノダ」

ニコ「違うよ。魔神様は、ぼくに逢いに来てくれたんだよ」ニコニコ

軽巡棲姫「……」ピキキッ

泊地棲姫「……」イラッ

ニコ「……」フンッ

 火花< バチバチバチ…

提督「……」

ル級「アノ3人ハ放ッテオクトシテ。提督ハ、体ハ大丈夫ナノ?」


提督「ん-……いまいち本調子とは言えねえが、そんなことよりお前たちや、この島がどうなったかのほうが気になってな」

ル級「ソウカ」ニコ

如月「ねえ、ル級さん? ちょっと気になったんだけど……」

如月「この港といい、ここから見える白い建物といい、その見た目とかが以前とそっくりなのよね」

提督「如月もそう思うか?」

ル級「ソレハソウダ。前ノ鎮守府ノ建物ヲ真似テ作ッタンダカラ」

提督「マジか。けど、なんでわざわざそんなことを?」

ル級「最初ハ、泊地棲姫ガ自分ノ思ウママニ作ロウトシテイタノ」

ル級「デモ、アノ船ノ話シ合イデ、提督ガ今後執務シヤスイヨウニ……ト考エルト、前ノ建物ノ間取リガ丁度良イコトニ気付イテネ」

ル級「私ヤ、メディウムタチノ記憶ヲ頼リニ、作リ直スコトニナッタノヨ」

大和「それで、違和感をあまり覚えなかったんですね……!」

提督「とはいえ、この港は以前とは比べ物にならないくらい綺麗だな。それに、少し広くなってないか?」

ル級「ソコハ私タチモ使イヤスイヨウニ直シテイル」

提督「前の鎮守府と同じでリサイズもして、か……そうだとしたらありがたいな。もしかして、ドックとか食堂とかも同じなのか?」

ル級「ドックモ拡張シテイル。食堂モソウダガ、マダ作リカケダ」

明石「ドックができてるんですか!?」


ル級「明石モ来テイタノカ。見テモラエルト助カル。厨房ヤ共同ノ風呂モ設計中ダカラ、見テホシイ」

比叡「厨房もできるんですか!?」ワクワク!

那珂「ステージはあるの!?」キラーン!

初雪「……あと、畑も作ってほしい……!」ソワソワ

伊8「お風呂も気になります……!」

ル級「ソレカラ、今後コノ島ヲ訪レル人間タチヲ招キ入レル、館モ作ル予定ダ」

提督「ああ……なるほど。島の役割としちゃあ、そりゃ必要だな」

ル級「案内シヨウ。コンナニ大人数デ来ルトハ思ッテナカッタガ……」

 <ダーーーーリーーーーーーン!

提督「うん?」

キャロライン「ダーーーリーーーーン!!」トテテテッ

ミュゼ「ま、待ってえぇぇ!」ゼェゼェ

タチアナ「な、なんで、下駄と着物であんなに速く……」ハァハァ

ソニア(あの2人の足が遅いだけなんだけどなあ)タッタッタッ


提督「おう、キャロラインか。ちょっとしか離れてねえはずだけど、なんだか久し振りだな」ナデナデ

キャロライン「エヘヘー、ダーリンの新しいおうち、作るの手伝ってるノ!」ニパー

ソニア「あっ、ずるーい! あたしも手伝ってるしー!」

提督「ソニアもか。ありがとな」ナデナデ

ソニア「えへへ……」ニコニコ

ミュゼ「ぜぇ、はぁ……あ゛ー、疲れたぁぁ……ご主人様、来るなら来ると連絡してくださいよ~。まだお掃除終わってないんですから!」

キャロライン「あれ、お掃除だったノ? お掃除してるのか散らかしてるのか、わからなかったヨ?」

ミュゼ「!?」

ソニア「だよねー、それでよくテツクマデをどこかに置き忘れてきちゃうし」

ミュゼ「そ、そそっそ、そんなことありませんー! 今回はちゃんと持ってきてますー!」

提督(今回は、か……)

タチアナ「そ、それで、魔神様は本日はどうして急にこちらに?」

提督「単純にお前らの顔を見に来たのと、こっちの整地を始めてるって言うから、その様子を見に来たんだ」

タチアナ「そうでしたか……! ご足労いただきありがとうございます」


提督「この辺りも溶岩に包まれていたはずだが、よくここまで作り直せたな?」

タチアナ「それはそちらの泊地棲姫の力ですね。名の通り泊地を作る能力を備えておりまして……」

タチアナ「彼女の力と深海の謎のテクノロジーによって、溶岩から軽量かつ頑丈な石壁を生成しております」

タチアナ「それらを特殊な工法で組み上げることで大幅な工数減を実現し、ただいま驚異的な速度で復旧しております」メガネクイッ

提督「よくわかんねえが、すげえことやってんだな」

タチアナ「ただ、木材だけは調達できませんので、それらを使用しない箇所を中心に工事を進めております」

提督「木材以外にも不足してるものはあるだろ? 発電機だったり、食堂の設備や食器類だったり……」

提督「そういった外から買う必要のある不足品を調べに来たってのも、今回の目的だ」

タチアナ「……ま、魔神様直々に選定なさるのですか!?」

提督「ああ。つうか、なんでそんなにショック受けてんだ?」

ソニア「それはタチアナが設計に携わってるからだよー」

提督「そういうことか。そこまで緊張すんな、小姑みたいなつまんねーケチをつけるつもりはねえからよ」

提督「とにかく工廠あたりから見に行くか。案内頼めるか?」

タチアナ「はい、お任せを。ル級さんも同行していただけますか」

ル級「エエ、ソノツモリヨ」


キャロライン「ダーリン、一緒に回るネ!」ミギテツナイデ

ソニア「私も一緒に行くね!」ヒダリテツナイデ

如月「あらら……先を越されちゃったわ」

大和「越されちゃいましたね」フフッ

金剛「Holy shit !!」グォォ!

長門「ちびっこ相手にむきになるな、大人げない」

キャロライン「コンゴーも一緒にお手々繋ぐ?」ミギテサシダシ

金剛「Um...Charrolline、まずはその右手の剣山を外してくだサイ……」

キャロライン「オーゥ、ソーリーネ」ゴソゴソ

明石「新しい工廠かあ~、楽しみ~!」ワクワク

朝潮「明石さんが元気になってる……」

霞「まあ、良かったんじゃない?」

長門「おい、お前たちも仲違いしている場合じゃないぞ?」

軽巡棲姫「!?」

泊地棲姫「イツノ間ニ!?」

ニコ「ま、待ってよー!?」


 * 島から帰船して *

 * 墓場島沖 医療船内 *

H大将「あの男は医者の言うことも聞かずに何を勝手な真似をしているんだ……!」

朧「その軍医さんですが、本当に提督の体を心配しているんでしょうか?」

H大将「なに?」

朧「提督が、治療に関係のない検査が多すぎるって、訝しんでましたよ」

朧「提督を看ていた看護師さんも、心配して如月に声をかけてきたくらいですし」

H大将「……」

朧「それに、島に移住しようとしている深海棲艦だって、いつまでも提督が船から降りてこなかったら心配します」

朧「痺れを切らして船が攻撃されたりでもしたら……」

H大将「わかったわかった。朧君の言うことも一理ある。しかしだ、せめて行くなら行くと事前に連絡しろ」

H大将「この船の乗組員に混乱を招いたり、本営の反対派を刺激したりするような真似はよせと言っているんだ」

朧「……わかりました、すみません」

H大将「とにかく、本営から来たあの軍医が、提督に悪い意味で興味を持ち始めたということだな?」

朧「そうですね。そのうち提督を解剖させろと言ってくるんじゃないか、とも言ってました」

朧「なので、この船での治療も終わりにしたいと言っています」

H大将「まったく……本営も余計なことをしてくれたものだ」

朧「それから、これからの島の出入りについて、提案があるんですが……」


 * 同医療船内 *

 カリカリ…

提督「よし。こんなところか。やっぱ見に行って正解だった」フー

大淀「提督、朧さんはどちらへ?」

提督「H大将んところへ報告させに行った。ついでに、島への出入りの条件についても決めるように伝えてもらってる」

提督「でだ、大淀は輸入とか貿易の話は詳しいのか?」

大淀「え? ええ、一応は」

提督「発電機やユンボみたいな大型機材とかを島に持ち込むのに、非該当証明書とか面倒な手続きが多くてよ……」

提督「欲しいものリストは作ったが、それを軍事目的には使いませんとか、逐一書面に起こさねえと駄目なんだと」

大淀「これまでは最初から軍事的な作業で使うということで、特例扱いで簡略化していましたから、それは仕方ありませんね」

大淀「もう一つ心配なのは財源ですが……」

提督「それはもう、最初はタチアナの言ってたアレを使うしかねえだろうよ」

大淀「……やはりそうなりますか……」ウーン

短いですが、今回はここまで。

続きです。


 * 医療船内 小会議室 *

提督「……というわけで、この鎮守府に滞在したことのある艦娘を、島に入るときに同行させてもらいたい」

X中佐「なるほど。信用できる人間の安全を確保する方法としては、至極わかりやすいね」

大淀「X中佐には軽巡洋艦川内と駆逐艦暁。H大将にはこちらにいる……」

北上「重雷装巡洋艦、北上様だよー」

大淀「……それから、駆逐艦霰と満潮を移籍させていただきたいと考えています」

X中佐「暁たちは、響が探していたI提督時代の仲間だね。そういうことなら歓迎させてもらうよ」

H大将「……」

北上「ありゃ。なんかあたし、歓迎されてない?」

H大将「そういう意味じゃない。単純に、島に上陸するための条件としては、かなり厳しいなと思っただけだ」

朧「そんなに厳しいですか?」

H大将「俺はそう思う。やはり、そこまでしないと人間は信用されないのか?」

提督「できねえだろうな。例えば軽巡棲姫を説得できると思うか?」

H大将「弾丸にされた深海棲艦か? それは貴様にしか無理だろう」


H大将「それよりその条件では、将来的に貴様の艦娘が大忙しになるんじゃないか? 少尉の部下の艦娘はそこまで数が多くないだろう?」

提督「? そんなに何度も頻繁に来るつもりでいるのか?」

H大将「そうじゃない。これから各国の代表がこぞってこの島に来ることになれば、その分だけ艦娘が必要に……」

提督「待て待て、気が早えよ。今はまだ『日本の海軍』と『深海棲艦の一部の勢力』の話し合いの場ができただけだ」

提督「是が非でも成功させる気でいるんだろうが、俺はそこまで簡単に話が進むとは思ってねえぞ」

X中佐「少尉は深海棲艦たちと仲が良いんじゃないのかい?」

提督「俺たちが以前から交流していたのはル級一人だけだ。それもあくまで個人的にだぞ」

提督「いきなり見知らぬ深海棲艦呼びつけて、お前ら仲良くしろなんて言って聞かせられるような力はねえんだぞ?」

X中佐「泊地棲姫とはどうなんだ?」

提督「あいつとも割と最近の関係だ。大佐が泊地棲姫に喧嘩を売って、泊地棲姫を使って俺と中将を謀殺しようとしたとき初めて接触したんだ」

H大将「そうなのか……? 俺たちは、それ以前から泊地棲姫とお前に関係があって、大佐を挟み撃ちにしたとも考えていたんだが」

提督「あー、そこから説明がいるのか。まず、泊地棲姫が島に攻めてきたのは、大佐のせいだ」

提督「大佐の部下が艦娘に、泊地棲姫の塒を荒らすだけ荒らして、墓場島へ引き上げて誘導しろ、と指示したんだとよ」

提督「俺の艦隊を泊地棲姫にぶつけて、島の中が手薄になったところで、戦渦に巻き込まれた形で俺と中将を暗殺する算段だったらしい」

X中佐「……泊地棲姫を挑発して、その敵意を墓場島に向けさせたわけか」


提督「信じられないなら、中将のところの赤城や加賀たち航空部隊や、うちの名取、弥生、初霜あたりに話を聞いてくれ」

提督「名取たちは、大佐の部下だったB提督の元部下で、泊地棲姫の塒に特攻させられた当事者だからな」

北上「そこはあたしも証言できるよ。A提督の計画書見つけたり、名取たちが墓場島へ逃げてるところを助けたりしてるからね」

提督「俺たちが泊地棲姫の軍勢を追っ払えたのも、半分以上はメディウムに頼ったおかげなところもある」

朧「まともにぶつかってたら、物量に押されて息切れしてたと思います」

H大将「……追い払ってから、またお前が会ったのか?」

提督「ああ。とりあえず、順を追って説明すると……」

提督「初めて俺があいつに会ったのは……確か、俺が大佐に軽巡棲姫の弾丸で撃たれて死んで、深海棲艦化して……」

X中佐「え?」

提督「海の上走って、元凶の大佐の身柄を泊地棲姫に引き渡した時だな?」

朧「ですね」

H大将「……」

提督「で、そのあと、泊地棲姫が島に出向いてきて、俺に深海に来ないかって誘われて……」

提督「お詫びみたいな感じで、泊地棲姫が鹵獲してた初霜を引き渡してもらって、それからしばらくは島の洞窟に住んでたんだよな?」


朧「そうでしたね」

X中佐「……」

H大将「……」

北上「いやー、すごいことやってるよね。正直、いま聞いても何言ってるかよくわかんないし、事実なら事実でドン引きするよね~」

H大将「ああ……その話、本当なんだな?」

大淀「事実です。提督が大佐に撃たれて脈が取れなくなったときや、後に深海棲艦化して海へ出たときは、私がその場にいて確認しました」

朧「朧も海上で深海棲艦化してる提督を見ましたし、それからしばらくして泊地棲姫が初霜を連れてきていたところも見ています」

提督「ああ、泊地棲姫がこっちに来た時は、朧もいたんだっけか」

朧「はい。確か、初霜が裸にリボンぐるぐる巻きにされてましたよね?」

X中佐「ぶっ!!」

提督「……それ、言わなかったほうが良かったんじゃねえか? 初霜の名誉のためにも」

北上「いったいどんな格好させられてたのさ……」

朧「えっと、後ろ手に縛られて、脚はこう、がばーっと……」

X中佐「言わなくていいよ!?」


H大将「それより、お前が深海棲艦化したというが、どうやって人間に戻ったんだ」

提督「深海棲艦化できたのは、俺の体に弾丸が埋まっていた間だけだ」

提督「生き返って身体が元通りになりかけた時、傷も塞がって、胸の奥に埋まっていた弾丸が体の外側に出てきて……」

提督「それを取ったら、深海棲艦の力が抜けていった、って感じだな」

H大将「弾丸になっていた軽巡棲姫が力を貸していた、と解釈できるわけか。聞けば聞くほどすさまじい話だな……」

H大将「もうひとつ訊こう。少尉、泊地棲姫がお前を深海に誘ってきた理由はなんだ?」

提督「理由? 理由……そういやその辺は全然聞いてなかったな」

提督「深海棲艦化して海の上を走って泊地棲姫と遭遇してたから、単純に俺を仲間だと認識したからだと思うが……?」

大淀「チッ……この朴念仁が」ボソッ

朧「!?」

提督「!?」

H大将「……」

北上(心の声がだだ洩れだねえ……)

H大将「まあ……なるほど、よくわかった。泊地棲姫の態度からして、薄々……いや、多分そうではないかと思っていたが」

朧「多分、そうですね……」


H大将「……質問を続けよう。大佐の部下はどうしたんだ」

提督「俺がメディウムに指示して全員を始末させた」

X中佐「……!!」

H大将「貴様がやったと?」

提督「ああ。あの日、俺とメディウムが丘の上でやって見せたように、全員、嬲り殺した。艦娘たちには手を出させていない」

X中佐「……」

H大将「……」

北上「それ。あたしは、すこーし、すっきりしたけどね」

X中佐「な……!?」

北上「あたしの前の司令官だったA提督はさ、金のために自分の艦娘に裏帳簿作らせて、用が済んだら雷撃処分するような男でさ」

H大将「……」

北上「で、その不正を手伝わされてたのが明石。あたしたちに欠陥品を装備させる、とか言って引きずり込んだらしいんだ」

北上「あたしは、その明石と一緒に魚雷の開発をしてたくらいには仲が良かったんだけど……」

北上「よりによってあいつはあたしに明石を雷撃させたのよ。丁度、重雷装巡洋艦に改装した直後だったせいでねえ」

北上「明石の置手紙であいつの不正をあたしが知ったのは雷撃処分の前日。どっちみち、あたしは明石を助けられなかった」


北上「どうしようもないから、明石と一緒に作った失敗作の魚雷で、明石を沈んだように見せかけるしかなくて」

北上「間違って直撃しないように調整しながら、ばんばん撃ちまくって明石が処分されたように思わせて。でも結局、明石とはそれっきり」

提督「……」

北上「そのあとはA提督があたしを怖がっちゃってね。あたしが友達相手でも容赦しなかったって思ったんだろうねえ」フフッ

北上「それ以来、A提督の直接の指揮から外れてさ。霰と満潮と一緒に、愚連隊じゃないけど、支援艦隊みたいなことをしてたわけよ」

北上「そのおかげで……いつだったか、中将の暗殺なんて物騒な計画書を見つけて」

北上「決行日に墓場島へ行ったら、めちゃくちゃ深海棲艦がいて。あたしが雷撃したあの明石たちがいて……」

北上「ちょうど、A提督がメディウムたちに始末されるとこだったんだよね」

X中佐「……」

北上「まあ、そういうわけなんで、これでも提督には感謝してるんだ。明石と再会できたし、あたしがA提督を撃たなくて済んだし」

H大将「……少なからず問題のある提督たちだったと?」

朧「そう、ですね。潮も、あの中の一人が大嫌いだった、って言ってました」

提督「潮はくっそ凶悪なセクハラされてたからな。内容は吐き気と頭痛がするから言わねえぞ」

H大将「そうか。なら後で聞かせてもらうぞ」ハァ…

朧「結局聞くんですか……」

H大将「内容が惨たらしいものなら、そうであるほど聞かざるを得ん。不始末は起因元から断たねばならんし、再発防止策の検討も必要だ」


H大将「で? 大佐の部下をそうしたのなら、大佐もそうするつもりだったのか?」

提督「大佐は、泊地棲姫に始末させるつもりだった。落とし前をつけさせる意味でな。そこで俺がヘマしてあいつに撃たれちまった」

大淀「……あの時は、本当に生きた心地がしませんでしたよ」

提督「実際死んだしな。深海棲艦になって生き返ったのはもっとびっくりしたが」

提督「で、まあ、いろいろあったが、とりあえず全部大佐と泊地棲姫がやったことにして、ごまかしながら後始末をした」

H大将「それを俺たちが怪しんだ、というわけだな。それを察知した貴様が泊地棲姫を呼んだと」

提督「いいや、そこは違う。泊地棲姫との共闘を画策したのはメディウムたちの独断だ」

H大将「貴様が泊地棲姫を呼んだわけではない、と?」

提督「俺がいろいろ知っていたら最初からメディウムを島の中に待機させたし、朧だってみすみす殺させたりしてねえよ」フンッ

朧「提督……」

H大将「……なるほど。信じよう」

X中佐「しかし、どうしてメディウムたちは泊地棲姫たちと手を組んだんだ? 少尉にはそういう意図はなかったんだろう?」

朧「うーん、もしかしたら、島に来た人間全員を殺すのに最適な方法を選んだ、とかじゃないですか?」

提督「そうかもな。それに、準備で島に来るのが遅れてしまったとも言ってたし……」

提督「ニコにもニコなりの考えがあったんだろうが、海軍側もそれぞれ思惑が違っていたせいで、いろいろ予定が狂っちまったのかもしれない」


提督「そもそも、あんな騒ぎにするほうが俺としては想定外だったんだ。島だって燃やすつもりはなかったし……」

提督「あんたたちを適当にやり過ごして、何もせずそのまま帰ってもらうつもりでいたんだぞ。信じなくてもいいけどよ」

大淀「もしかして、提督がそういうふうに平和的に構えていたのを、ニコさんたちが危ないと思ったんじゃありませんか?」

提督「俺のどこが平和的なんだよ……」

大淀「結果的にはそう見える、という話です。大将たちをやり過ごそうとしたのは、提督が平和的だからじゃなくて、厭世的だからでしょう?」

提督「まあ、そうだけどよ……」

H大将「俺たちが警戒されていたわけか?」

提督「まあ、警戒せざるを得ない状況ではあった」

提督「誰の差し金か確かめられなかったが、大将たちが来る少し前に、艦娘を引き連れた船が島の周りを探ってたりしてたからな」

H大将「ふむ……」

提督「ところで、ちょっとひとつ確認させて欲しいんだが、いいか?」

H大将「なんだ?」

提督「死んだ奴らの狙いは、大将二人の暗殺と、その罪を俺におっ被せるつもりだった、ってことでいいんだよな?」

H大将「ああ。証拠はないが、俺もそうだと認識している」


提督「大将とX中佐は俺たちを引き入れるつもりだったようだが、H大将は俺たちをどうするつもりだったんだ?」

H大将「俺は、深海棲艦と関わりを持っているであろう貴様を拘束するつもりでいた」

H大将「俺もJ少将も、深海棲艦との和睦は無理だと考えていたし、深海棲艦を殲滅するならばスパイの存在は絶対に許せないと考えていた」

H大将「深海棲艦を海から排除するという一点においては、J少将と志を同じくしていたというのは間違いない」

提督「それなのに、あんたも消されそうになったのは、なぜだ?」

H大将「おそらく、深海棲艦から武器を作る話に反対していたからだろう」

H大将「製造するにしても、そのために深海棲艦を鹵獲するにしても危険が付きまとうだろうし」

H大将「研究するまでは良いだろうが、深海棲艦の遺骸を武器として流用したと知れては、深海棲艦も黙ってはいないだろう」

H大将「深海棲艦が人間に対する怒りや恨みから生まれていたとしたら、却ってそれを煽ることになる」

H大将「そもそも、敵とはいえ、ご遺体から武器を作ろうというのは、人の道としてもどうかと思っている」

提督「J少将には、それを話したのか?」

H大将「ああ、話している。あいつにも思うところはあるだろうが、倫理観を外れるような真似はやめて欲しかったからな」

H大将「しかし、島の南側で見つけたJ少将の部下の狙撃手も、朧君を撃ったあの士官も……」

H大将「深海棲艦から作った弾丸を持っていたのだから、俺の理屈は通じなかった……むしろ目障りだったと、いうことなんだろうな」

提督「……」


X中佐「……はぁぁ……」

北上「んおぉ、でっかいため息ついて……大丈夫~?」

X中佐「あんまり大丈夫じゃないよ……同じ海軍だというのに、なんでこんなに、みんな仲良くできないんだ……」

X中佐「対立があるのはわかる。仕方ないと思ってる。けど、ここまで……誰かを亡き者にしようって考えて実行するのは理解できないよ」

提督「ったく、このお人好しめ……つくづく軍人に向いてねえな」

X中佐「ちょっ……!?」

H大将「まあ、こういう人物だからこそ、俺たちに見えないところを見つけてくれる人物だと思って、重用されているわけだが」

提督「そうかもしれねえが……それで無防備に何度もあの島に入ろうとしてたのは、危なっかしいにもほどがあるだろ」

X中佐「危なっかしい?」

提督「ああ、考えてもみろ、あの島は悪さするのにもってこいの場所じゃねえか。舞台として整いすぎてんだ」

提督「潮の流れのせいで行き来しづらい、拠点としても大して重要じゃない、過去に流刑地扱いされてるようないわくつきの島」

提督「不慮の事故が起こって死んだって、まああの島だからしょうがないで片付けられる。こんなに人殺しに適した場所、ほかにあるかよ」

提督「そういう場所にほいほいお忍びで来やがって、危ねえって言う外ねえってんだよ。島への道中に誰かに暗殺されたらどうすんだ?」

X中佐「……」