【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】 (759)


・DMM【艦隊これくしょん】と
 DMM【影牢トラップガールズ】(2016/07/29サービス終了)、
 およびPS4【影牢~もう一人のプリンセス】のクロスオーバーです

・キャラ崩壊注意

・提督も艦娘も殆どが不幸属性持ちです

・前スレと前々スレ、さらには前日譚の『墓場島鎮守府?』シリーズを
 全部読まないと話がわからないと思います


・基本的にsage進行しますので、感想、雑談など、書き込みの際は
 メールアドレス欄に「sage」と入れてくださいますよう、ご協力をお願いします。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1690021595


前スレまでのあらすじ

太平洋上の孤島に建てられたとある鎮守府に、島流し同然の扱いで着任した提督。
轟沈した艦娘が流れ着く島で、様々な理由で島に来た艦娘たちを保護しながら暮らしていた。
そんなある日、鎮守府が乗っ取られるという非常事態が発生。
罠だらけになった鎮守府に潜んでいたのは、提督を『魔神』と呼び崇敬する、罠の化身、メディウムたちだった。

メディウムたちとの和解後、鎮守府に攻め込んできた深海棲艦や、
提督に罪を着せて重要人物の暗殺を目論む人間たちを撃退する提督たち。
その戦いのさなか、提督を慕う艦娘が倒れたために、提督の魔神の力が覚醒し、
海底火山の噴火が引き起こされ、島は焼き尽くされてしまった。
島を自分たちの終の棲家として再建するべく、提督と、
彼を慕う艦娘、深海棲艦、そしてメディウムたちが奮起するのだった……。



過去のお話はこちら

提督「墓場島鎮守府?」
提督「墓場島鎮守府?」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」 - SSまとめ速報
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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」吹雪「その4です!」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1652576643/)

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467129172/)
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】 - SSまとめ速報
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舞台の「墓場島」について
 作中の表記は「××国××島」、通称「墓場島」。太平洋上にあるとある無人島、パラオ泊地が一番近いと思われる。
 島の北側には海底火山があり、潮流が強く流れが特殊なため、轟沈した艦娘の亡骸がよく島の北東の砂浜に流れ着いていた。
 鎮守府は島の東側にあったが海底火山が噴火した際に焼失。溶岩は島の全土を焼き尽くし、溶岩によって島の面積は5倍に広がった。
 現在は、提督に縁のある深海棲艦たちの協力によって、島の再建が始められている。

 墓場島と呼ばれるようになった所以は、轟沈して島に漂着した艦娘を提督が埋葬し、墓標代わりに艤装を並べたことから。
 直近では「不要な艦娘の姥捨て山」的な意味に勘違いした海軍の面々から、問題を起こした艦娘が送り付けられていた。


主要な登場人物

・提督
 階級は少尉。一般人には見ることすら出来ない妖精と話が出来たせいで、親からも変人扱いされたため人間嫌いをこじらせる。
 妖精と会話ができることを見込まれて海軍にスカウトされたものの、上官となった大佐に疎まれ、離島の鎮守府に向かわされる。
 その後、大佐が自身の養父である中将の暗殺を企み、その犯人を提督に仕立てようとしたことを知り、
 以前から燻ぶり続けていた人間への怒りと憎悪を燃え上がらせた結果、異世界から『メディウム』たちを呼び寄せてしまった。

・妖精たち(妖精と島妖精)
 提督と小さいころから一緒だった妖精が、提督が島へ渡った際に同行している。その彼女の正体は応急修理女神妖精。
 島を溶岩が覆った際、溶岩から提督たちを守るために力を使い、今は姿を消してしまっている。
 島に住み着いていた妖精たちは、轟沈して島に漂着した艦娘が身に着けていた装備の妖精たち。大佐によって島に置き去りにされた
 人間たちが醜く争うさまを見てきたため人間不信だったが、艦娘の埋葬を提案した提督とは信頼が生まれている。
 なお、妖精と接することができるのは、艦娘や艦娘に近しい人物、あるいは過去の海軍に縁のある人物と考えられている。


『影牢 トラップガールズ』より

・メディウム
 魔神に作られし被造物であり、魔神を崇拝する巫女であり、魔神に代わって力を振るう殺戮者である。
 その姿はいずれも女性で、それぞれが人を陥れる『罠』の化身。突如として鎮守府に現れ艦娘と戦ったが、
 提督を魔神の生まれ変わりと認め、提督に忠誠を誓い従属するしもべとなった。

・『魔神』について
 現在とは違う世界……アルスギア大陸で信仰されるアルス正教の善神アルスに反する存在として、魔神と称される。
 世界を闇で覆い、力と恐怖で世界を支配するべく『アルス=タリアの大収穫』と呼ばれる大災害を引き起こした、と言われている。
 その後、その世界の人間たちにより魔神は封印され、やがてその建物が『アルス=タリア封印神殿』と呼ばれるようになった。

・ニコ・エレメンタル
 封印されし魔神の力そのものの化身と言われている少女。個性的なメディウムたちのまとめ役だが、彼女自身はメディウムではない。
 魔神が封印された神殿で魔神の目覚めを待ち続けていたが、提督の抱いた人間に対する強烈な怒りや憎悪を
 『魔神の力』として感じ取り、異世界から鎮守府に向けて扉を開いて提督との邂逅を果たした。
 見た目こそ少女だが数百年の時を生きているらしく、提督に対してなにかと『お姉ちゃん』ぶる態度をとる。


『影牢~もう一人のプリンセス』より

・エフェメラ
 魔神が生み出したとされる自動人形(オートマタ)。
 複数体存在し、魔神の生贄となる魂を集める者もいれば、魔神の生まれ変わりである提督を支援する者もいる。
 ただ一点、魔神と認めた者のために働くという意味では、どのエフェメラも目的は同じである。


登場艦娘一覧(墓場島への着任順)

・如月:試作の新兵器の威力の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着。初期艦としてサポートしつつ提督に迫る日々を送る。

・不知火:もと大佐の部下。解体前提で如月捜索に駆り出されたが、提督の計らいで中将麾下に。提督の愚痴に付き合うことが多い。

・朧:吹雪と同時期に捨て艦で轟沈後、島に流れ着く。そのせいか諦観気味でやや擦れた性格になった。本の話を共有しているときが幸せ。

・吹雪:朧と同時期に捨て艦で轟沈後、島に流れ着く。希望は捨てずに諦めないタイプ。提督の自暴自棄な態度に激怒したこともある。

・由良:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く。電の僚艦。軽巡の中では一番古株なためか、無意識に提督をお世話したがるところがある。

・電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く。由良の僚艦。ある鎮守府の初期艦として、その司令官を諭せなかったことを悔やんでいる。

・神通:慕っていた司令官を謀殺され、その復讐の途中で島に左遷させられた。人の考えを読んで言い当てるのと、気配を消すのが得意。

・大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなり、異動させられた。自身の考えを肯定してくれる提督に好意を抱く。

・敷波:大破進軍後消息を絶った由良と電の捜索を命じられ、そのまま消息不明扱いにされた。提督が自分に似ていると感じている。

・明石:前提督に帳簿の不正を強いられ、そのまま首犯扱いで雷撃処分された。物資不足の島で生活するうちに大工仕事が得意になった。

・朝潮:前提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分された。提督に妄信的過ぎて明石や提督に心配されている。

・霞:朝潮と同じく雷撃処分され、沈みかけたところを敷波に助けられた。提督を信頼してはいるが投げやり気味な態度に呆れてもいる。

・暁:信頼していた前提督の変貌に錯乱して敵陣特攻し記憶喪失になる。レディとしての振舞いは忘れておらず、驚くほど大人びている。

・初春:捨て艦で轟沈後、暁に助けられ島に漂着。建造後すぐ轟沈したこともあり、不知火の付き添いで島外の様子を見に行っている。

・潮:変態の前提督に迫られ耐え切れなくなり家出。護衛役の長門に少し依存気味。男性は苦手だが提督には強く出られるようになった。

・長門:変態の前提督に迫られた潮を庇い、逃げる手引きをした。強烈な反面教師を見たおかげで駆逐艦たちと適度な距離で接している。


・比叡:料理上手を前提督に認めてもらえず、ご飯を捨てられ自暴自棄になり轟沈した。暁の必死の看病により回復し、厨房を任される。

・古鷹:お人好し過ぎて自分の練度が上がらないままお世話を続けるも、前提督の見栄のために観艦式において行かれた、超世話焼き。

・朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけてきた。鎮守府で一番の常識人とは提督の弁。そのせいで苦労人でもある。

・利根:前提督の猟奇趣味に巻き込まれ、地下に幽閉され死にかける。墓場島に来て初めて海に出たことで艦娘として生きる決意をした。

・伊8:オリョールで逃げたル級の代わりにいた軽巡に轟沈させられた。提督のベッドに裸で潜り込むくらいに提督へ依存心が強い。

・大和:島の妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造したら作られた。提督への好意が最初から全開で、大佐を激しく嫌悪していた。

・初雪:艦娘管理ツール使いの前提督に昼夜問わずこき使われ失神後漂着。島に来てからは遠征も出撃もせずマイペースに畑仕事に従事。

・金剛:愛情から目を背ける前提督を説得し続け、煙たがられて左遷された。愛情深いせいか金剛のハグは心地よさで抜け出せないほど。

・五月雨:玉砕覚悟の敵討ちを望むも、仲間を沈めた濡れ衣を着せられて追い出される。ドジではあるが、それで物を壊したことはない。

・榛名:養成所の訓練と称して轟沈するまで戦わされた。それまで出会った人間の態度がモノ扱いだったため提督との出会いを喜んでいる。

・那珂:榛名と同じく過労で失神するまで戦わされ島に漂着。即興で歌った鎮魂歌が島の艦娘から喝采を浴び、歌い続けることを決めた。

・扶桑:理由もなく疫病神扱いされ、戦況不利な海域に誘導され轟沈。自分たちを追ってきた時雨が轟沈したことをずっと後悔していた。

・山城:扶桑と同じ理由で轟沈して島に漂着する。扶桑が好きだが那珂の歌声も好き。自分の幸せを素直に受け入れられない面倒臭い性格。

・龍驤:暴食を強要され体形を馬鹿にされ、ブチ切れて鎮守府を火の海にした。雲龍に懐かれてからは、当たり散らすこともなくなった。

・陸奥:龍驤と同じく暴食を強要され、かつ度重なるセクハラで男性不信になった。男性不信は一部の艦娘と提督のみで秘匿している。

・雲龍:特別海域で艦隊に邂逅できず、餓死寸前だったところを龍驤に保護される。以来、龍驤の後ろをついて回る忠犬的存在に。


・島風:戦艦級の火力を求める前提督を疎まれて、訓練中に除名される。競争相手の白露に妹扱いされ、迷惑そうにしつつも喜んでいる。

・白露:島風と一緒に特訓するため艤装を改造、同じく訓練中に除名。島風に追いつくため艤装を違法改造した結果胸が縮んでしまった。

・黒潮:姉妹艦を人身御供にした前提督にぶち切れて、犯人もろとも海に投げ捨て離反。山雲を救助後、白露、島風に合流し島へ辿り着く。

・山雲:海に現れた直後に、黒潮を探す雪風を追いかける深海勢(空母棲姫)に激突される。ネガティブになると深海棲艦的雰囲気になる。

・三隈:最上にベタベタし続ける前提督にキレて股間を砲撃したため島に送られる。破廉恥な場面に遭遇するとくまりんこと叫ぶ癖がある。

・最上:前の鎮守府で過剰なスキンシップを迫られていた。当人は実はそこまで気にしておらず、鈍いというか明け透けな性格だった。

・摩耶:理不尽な防戦指示を無視したため、前提督に命令違反を咎められ左遷。提督と意見がよく合うが口調を注意され度々口論になる。

・霧島:摩耶と同じく命令違反で左遷される。戦況を好転させる戦果を挙げても摩耶以外には認めてもらえず、自信を喪失していた。

・若葉:前提督が夜戦禁止の腰抜けで、敵輸送部隊殲滅のため夜戦した結果馘に。その前の鎮守府ではレ級と交戦しリベンジを誓っていた。

・川内:若葉と同じく殲滅のために夜戦したら馘になった。その前の鎮守府で暁と一緒だったが暁が記憶を失っていたため分からなかった。

・武蔵:またも妖精が提督に内緒で大張り切りで大型建造して作られた。規律を重んじる真面目な性格で、大和たちを窘める損な役回りに。

・五十鈴:テレビの取材で舞い上がった前提督の散財で、赤札を貼られまくった鎮守府から脱走。五十鈴は飽和状態で解体予定だった。

・筑摩:五十鈴と同じく借金まみれの鎮守府から逃げてきた。長らく邂逅できなかった利根に迫ったため利根が倒れたことを悔やんでいる。

・鳥海:一日提督の無茶のために大破進軍した加古を庇って轟沈した。お人好しで少々世間知らずなところがあり、加古に心配されている。

・加古:鳥海と同じ鎮守府だが、そこの提督に失望し大破進軍して轟沈。寝るのが好きで提督に特注のベッドと抱き枕を買ってもらった。


・千歳:婚活したがっている女提督と喧嘩別れ後、墓場島への案内を任されそのまま着任。お酒好きと言うよりお酒で盛り上がるのが好き。

・足柄:千歳と同じく、女提督と喧嘩別れしたのち路頭に迷っていた。戦闘には積極的だが、たまに人の話を聞いてないときがある。

・隼鷹:ケッコンカッコカリ間近で前提督の頬を叩いたところを上官に見られて更迭後、脱走する。ちょっとお節介焼きなところがある。

・那智:酒飲みの愚痴聞き係で戦線に立たせてもらえなかったため脱走した。以来、禁酒を続けながら、自己鍛錬にいそしんでいる。

・日向:深海棲艦について突っ込んだ考察を出撃前後に前提督に相談しまくった結果追い出される。提督の見解にはある程度納得した模様。

・伊勢:上記の日向の異動にともない、干されていたところを中将の計らいで着任。別に何の落ち度もないのに島に追いやられた不幸な人。

・青葉:写真嫌いの前提督の怒りに触れて左遷……という建前でJ少将から離反した。今後は物騒じゃない写真を撮りたいと考えている。


・北上、霰、満潮:大佐の部下Aのもと部下。中将暗殺の証拠を見つけ、真相追及のため墓場島へ向かい、明石たちと再会を果たした。

・名取、弥生:大佐の部下Bのもと部下。泊地棲姫の塒への吶喊を命じられ敗走、墓場島へ向かうよう指示される。電たちとは初対面。

・初霜:大佐の部下Bのもと部下。泊地棲姫の塒への吶喊を命じられ死にかける。泊地棲姫に鹵獲後、裸リボンで提督に引き渡された。


・時雨:扶桑、山城と同じ鎮守府出身。轟沈した扶桑たちを追い襲撃され島に漂着、埋葬された。エフェメラと邂逅し、蘇生してもらった。

・早霜:L提督が島に来ていた時に漂着していた艦娘。前の鎮守府では司令官の過労による判断ミスで轟沈した。提督に興味を示し蘇る。


・赤城:元大佐の秘書艦。その前は中将の部下で、中将が運営していた鎮守府の評価が下がらぬように大佐の悪事の尻拭いをしていた。
  意図を気取られぬよう冷酷な態度を貫いて付いた渾名が『鉄の赤城』。提督が如月や不知火を助けて以降は冗談を言い合う仲になる。


深海棲艦

・ル級:東オリョール海で毎日潜水艦に小突かれる日々に嫌気がさし脱走。補給を得られず漂着した墓場島鎮守府で、長門と念願の砲撃戦を
  繰り広げた。その後親睦を深め離れ小島に住み着き、時折墓場島で談笑する仲に。提督とはこのままの関係でいたいと思っている。

・軽巡棲姫:人間の研究者たちが開発した、深海棲艦の遺骸から武器を作り出す外法の技術によって、銃の弾丸に作り変えられた深海棲艦。
  後に大佐が提督を撃ったときに体内に残り、謎の力で提督とともに蘇った。その後、泊地棲姫に育てられて軽巡棲姫に成長した。

・泊地棲姫:大佐の中将暗殺に利用された深海棲艦。大佐の部下の艦娘に塒を荒らされ、墓場島に誘い出された挙句、返り討ちに遭う。
  このとき、深海棲艦の弾丸によって深海棲艦化した提督と邂逅しており、興味を持ったのか提督を深海へ勧誘するようになった。

・集積地棲姫:墓場島で深海棲艦が住めるように取り決めたのち、提督に人間からの保護を求めてやってきた引き籠り希望の深海棲艦。

・戦艦棲姫:集積地棲姫のところに押しかけてきた深海棲艦。集積地棲姫に何度か助けられたため、彼女を気に入ってしまったようだ。

以上、テンプレというか個人的まとめ。
その他提督編とメディウム編も書こうと思ったけど無理やわ……。
都度説明していく予定にします。多分。


それでは本編の続きです。


 * 墓場島 埠頭 *

赤城「提督、ご無沙汰しております」ペコリ

泊地棲姫「オ前ハ、アノ船ノ上ニイタ……!」

提督「よう、赤城。あの会議以来か? 定時連絡がなくなってからだと、久々に感じるな」

赤城「そうですね。今後は不知火さんと一緒に、この島への連絡員をさせていただきますので、よろしくお願いしますね」

提督「お前もここに来るのか? じゃあ、お前が提督代理をやってたあの鎮守府はどうすんだ」

赤城「今後は与少将にお任せすることになりました」

提督「!」

赤城「長らく大佐の後任が決まらずにいましたが、中将のお仕事の引継ぎも含めて、正式な後継として与少将が選ばれまして」

泊地棲姫「待テ、大佐ダト? オ前ハ、アイツノ艦娘カ?」

赤城「はい、そうでした。昔の話ですけれど」

提督「警戒しなくていいぞ。赤城はあいつを暗殺しようとしてたくらいだからな」ククッ

赤城「まあ、笑うなんてひどい」ジトッ

赤城「電さんに命じて、その私の邪魔をするどころか、黒焦げにしてくださったのはいったいどこのどなたの差配ですか」ヨヨヨ…

提督「なんだその嘘泣き」

赤城「あら。お気に召しませんか」ケロッ


泊地棲姫「? ドウイウコトダ? オ前、アイツニ歯向カッタノカ?」

赤城「そういうことですね。あの大佐が、自分の父親と提督を殺そうとしていたので、その前に私が大佐を殺すつもりだったんです」

泊地棲姫「……」

赤城「もっとも、それまでの大佐の悪事の隠蔽には私も少なからず関わっていましたから……」

赤城「その贖罪の意味も込めて命を捨てる覚悟で臨んだのですけれど。それがまあ、提督のせいでご破算になりまして」

赤城「提督が私を妨害しなければ、大佐に撃たれることもなかったでしょうに。本当に馬鹿な人です」フゥ…

泊地棲姫「……オ前ハ、貧乏籤ヲヒクノガ本当ニ好キダナ?」タラリ

提督「昔の話だ。結果的に軽巡棲姫も復活できたんだし、今がいいんだから気にしなくていいぞ」

赤城「……私としては釈然としませんが、そういうことにしておきましょうか」

赤城「話を戻しますが、大佐のいた鎮守府の指揮を与少将が執ることになりましたので……」

赤城「今は中将麾下の私たちも、いずれ彼女の艦隊に編入されることになると思います。主な任務も引き続きこれまで通りでしょう」

提督「呉の和中将の妨害は大丈夫だったのか?」

赤城「はい。与少将がこの島に足を踏み入れ、本営中将の後ろ盾も手に入れたことで、和中将も引き下がらざるをえなかったようです」

赤城「与少将がいた鎮守府の後任も、和中将がすでに手配済みでしたし」

赤城「呉鎮守府の空席は、呉の大将閣下の計らいで、和中将にフォローしていただくことになりました」


提督「ふーん……ま、その辺は勝手にやってくれって話だな」

赤城「はい。それから、那智さんはもうしばらく与少将のもとで働くことにしたようですよ」

提督「そうか。ちなみに与少将はどんな部下を連れてんだ? 主力は?」

赤城「主力……戦力的には満遍なく、と言ったところでしょうか。ただ、珍しい艦種の艦娘も多数在籍しているようですね」

赤城「陸軍の揚陸艦であるあきつ丸さんや、水上機母艦の日進さんなどの練度が高いと聞いています」

提督「……いまいちよくわからねえが、いろんな手を打てるって感じか?」

赤城「珍しい艦種の艦娘を育てるのが好きなようですね」

泊地棲姫「裏切ッテ、コノ鎮守府ニ、攻メテキタリシナイダロウナ?」

提督「その辺は大丈夫そうだけどな。お前もこの前会ったろ? 一応、与少将がうざがってる和中将絡みの面倒事にも助言はしたし」

提督「部下の仁提督もそうだが、与少将も割と単純でわかりやすい性格だ。義理も通したんだ、いきなり襲い掛かっては来ねえはずだ」

泊地棲姫「ソウダト、イインダガ」

赤城「それで提督、早速ですがいくつかご報告させていただいても?」

提督「ああ、何かあったのか?」

赤城「日本政府が、提督とお話ししたいそうです」

提督「うわ、面倒臭え」

赤城「第一声がそれですか。良くも悪くも、相変わらずですね」クスクス


泊地棲姫「政府? 軍ジャナイノカ」

赤城「はい、日本は軍事政権ではありませんので。政府と海軍は連携こそしていますが、別ですよ」

泊地棲姫「コノ前、話シタ連中トハ、別ナノカ」

提督「その手の話は不知火に頼むって言ったつもりだったんだがな……」

赤城「頼むのは結構ですが、島の今後の方針を決めるのはあなたです。不知火さんに全部丸投げはだめですよ?」

提督「……しゃあねえな……」

赤城「それからもうひとつ」ス…

泊地棲姫「……」ピクッ

赤城「その政府の中にいる、あなたの弟を名乗る人物が、あなたとの交渉の席に座りたいそうです」ギラッ

提督「……あぁ?」イラッ

泊地棲姫「オ前タチ、イキナリ剣呑ナ雰囲気ニナルナ。何事ダ」タラリ

赤城「早い話が、提督は家族に捨てられたのですよ。それを今頃になって会いたいなどと宣う阿呆がいたものですから」フフフ…

泊地棲姫「ソレデ、ソノ顔カ。確カニ不愉快ダナ」

提督「ったく、H大将に連れてくんなっつったのによ……」ギリギリギリ

赤城「その話をするより前に、政府から申し出があったようですよ。今頃『失せろ』と回答しているはずです」

提督「素直に言うこと聞きゃあいいがな、くそが」イライラ


ニコ「ということは、ぼくたちの出番かな?」ヌッ

提督「!?」ギョッ

赤城「かもしれませんね。ないに越したことはありませんが」

提督「ニコはどこから出てきたんだよ……」

ニコ「魔神様の苛立ちを感じたからね。ぼくは魔神様のお姉ちゃんなんだから、このくらい当然だよ」フフン

提督「そういう意味じゃねえよ……つうことは何か? 俺が怒ったりしたら、お前がそれを察知してすっ飛んでくるってことか?」

ニコ「うん。ぼくたちは魔神様のためにいるんだからね」

提督「面倒臭え……赤城もなんでそんなに平然と流してんだよ。ニコがどこから湧いて出てきたのか疑問に思わねえのか」

赤城「今更、いちいち驚くまでもないのでは?」

泊地棲姫「メディウムノ性質ナラ、コノクライ簡単ニヤレソウダシナ」

提督「……お前ら、順応力高すぎだ」タラリ

赤城「とりあえず、提督の弟らしき人物については、相手にしないほうがよいと思いますが……」

泊地棲姫「敵ダロウ? 提督ガ、ヤルトイウノナラ、私ハ手ヲ貸シテヤルゾ?」ニヤッ

赤城「私は穏便に済ませたほうが賢明だと思いますよ。国家戦力を持ち出されるようなことがあっては、勝ち目がありません」

提督「それもそうなんだよな……おそらく、そっちのほうが後々面倒臭くねえ」


赤城「それからもうひとつ。むしろ、こちらがニコさんたちの出番かもしれませんね」

ニコ「!」

赤城「曽大佐たちが、この島に攻め込むことを決めたようです」

泊地棲姫「ホウ。来ルノカ……!」

提督「そいつはどこからの情報だ?」

赤城「W大佐から連絡が入ったと、X大佐から伺いました」

提督「なるほど。それならまあ信じても良いかもしれねえな」

ニコ「やれやれ、また哀れな人間が攻めてくるんだね」

提督「油断すんなよ。この島に来るのはおそらく、そいつの部下の艦娘だ」

ニコ「……!」

提督「うちの艦娘の半分が、余所の鎮守府へ移動中だ。悪いが、万が一に備えて深海棲艦にも協力してもらわねえとな」

泊地棲姫「アア、好キニ声ヲカケルトイイ」

提督「もちろん、メディウムにも手伝ってもらうぞ。というより、対艦娘はお前らがメインの戦力だ。たくさん働いてもらうぜ」

ニコ「ふふっ、そこまで期待してもらえるんだ。嬉しいな」


赤城「さて、それでは私も島に入らせていただきましょう」

赤城「彼らに動きがあれば、私と不知火さん、それから、ここの大淀さんへ連絡が入るよう手配しています」

赤城「そこでお願いなんですが、艦娘、深海棲艦、メディウムで、それぞれ連絡の窓口を決めていただけますか?」

赤城「有事の際に速やかに連絡できるよう、連絡網を作りたいのですが」

提督「ん-……ニコは普段、大体は神殿のほうにいるんだっけか?」

ニコ「そうだね」

提督「深海棲艦は……戦艦棲姫と集積地棲姫がちょっと離れたところに居を構えてたよな?」

泊地棲姫「アア」

提督「とりあえずは館内放送と、あとはその二か所への通信手段つうか、連絡方法をなんとかすりゃあいいのか?」

泊地棲姫「今ハソレデイイガ、今後、住マイガ増エタラドウスル?」

提督「防災無線かラジオみたいに、個別に増設できる設備を用意できればと思ってんだが、どうだ?」

赤城「では、そのあたりの整理もさせていただきましょうか」

赤城「それから、深海棲艦やメディウムのみなさんの、名簿というか、部隊表のようなものはありますか?」

泊地棲姫「ナイゾ」

ニコ「ぼくたちもないね」


赤城「そうですか……少なくとも人数は確認したいですね。食料や燃料の必要量の把握がしたいですし」

赤城「あとは、島の関係者か部外者かを判断する材料に使えればと思ったのですが。もしくは識別信号のようなものがあると助かります」

泊地棲姫「……ナニカ、目印ダケデモ必要カ」

赤城「メディウムのみなさんについては、ソニアさんから名前を覚えるように言われていますので」

ニコ「ああ……そうだね。またソニアに睨まれたくないからね」

赤城「申し訳ありませんが、特に横文字のお名前は、馴染みが薄いせいかどうにも憶えづらいんですよねえ……」

泊地棲姫(……名前、カ)


 *


泊地棲姫「提督。伝エテオキタイ、コトガアル」

提督「ん? なんだ?」

泊地棲姫「コノ前、貰ッタコーヒーヲ仲間ニ振舞ッタンダガ、ソレ以来、様子ガオカシイ者ガイル」

提督「様子が? どんな感じなんだ」

泊地棲姫「物思イニ耽ッテイタリ、ボンヤリシテイタリ……総ジテ考エ事ヲシテイルヨウナ感ジダナ」


提督「考え事ねえ。そんなにコーヒーがまずかったか?」

泊地棲姫「イヤ、コーヒー自体ハ好評ダッタゾ」

泊地棲姫「オソラクダガ、コーヒーノセイデ、自分ノルーツヲ見ツケラレソウニナッテイルンダロウ」

提督「ルーツ?」

泊地棲姫「例エバ私ナラ、真珠湾ニ縁ノアル『ナニカ』ダ。ハッキリトハ思イ出セナイガ、ソウ確信シテイル」

泊地棲姫「ソノ私カラ見テ、ル級ノルーツハ、オソラク米軍艦ダロウ。コーヒーノ香リヲ、懐カシイト言ッテイタカラナ」

提督「深海棲艦に自分のルーツを探るような話をしちゃいけないってことか……?」

泊地棲姫「ソウジャナイ。モシカシタラ、オ前タチノイウ、姫級ヤ鬼級ニ、ナルカモシレナイ、トイウ話ダ」

提督「なんだそりゃ……?」

泊地棲姫「自分ガ何者カヲ理解スレバ、ソレニ近シイ姿ニナル。思イ出シタイメージガ強ケレバ強イホド、強大ナ深海棲艦ニナルンダ」

提督「いまいちピンとこねえが……」

泊地棲姫「私モウマク説明デキナイガ、私タチガ思イ出ストイウコトハ、ソウイウコトダト思ッテイル」

提督「……そういや、コーヒーじゃねえけど、ルーツって話なら、ヲ級と似たようなことを話したな」

提督「イ級とか見てた時、ふと気になって、深海棲艦の駆逐艦が人型じゃねえのはどうしてだ、って、そのヲ級に訊いたんだけど」

提督「そうしたら、そもそも意識してなかったって話でな。そのあとも俺が立て続けにいろいろ訊いたもんで、ヲ級が考え込んじまって」

提督「その流れで、自分が何者かわかってもいないし、不思議にも思わなかった、って言ってたんだよ」


提督「普段考えてなかったことを訊かれたせいか、ヲ級が具合悪そうにふらふらしててなあ。一応、無理するなよとは言ったんだ」

提督「多分、それと似たようなことが、コーヒーを飲んでた深海棲艦にも起こってるってことだよな」

泊地棲姫「アア。ソノ認識デイイ」

提督「しかし、強くなるのはともかく、感情の抑えが利かなくなるとかねえよな? 見境なしに暴れるようになったら考えるぞ」

泊地棲姫「ソレハ理解ッテイル。ソウデナイナラ、オ前ハ、私タチヲ守ッテクレルカ?」

提督「それをお前たちが望むならな。そこのスタンスは変えねえよ」

泊地棲姫「ソウカ。ソレナラ、イイ」ニコッ

泊地棲姫「ソレカラ……オ前カラハ、私ト同ジ、潮ノニオイガスル」

提督「しおのにおい? そんなのあるのかよ」

泊地棲姫「以前、提督ノ魂ノ半分ガ、私タチト同ジダト言ッテイタガ、オ前ノ血族ニ、真珠湾ニ関ワリノアル者ハ、イナイノカ?」

提督「あるとしたら母親だな。学生のときに海難事故に遭って、それがきっかけで深海棲艦の魂を腹に抱えてたらしい」

提督「ただ、その事故がどこで起こったかまでは俺も知らねえぞ? コーヒー自体に俺が特に思うところもねえし……」

泊地棲姫「ソウカ、残念ダナ。オ前モ、思イ出シタ拍子ニ、深海棲艦ニ、ナリキッテシマエバイイノニ」

提督「……お前、メディウムたちに俺を作り変えるなってクレーム入れたんじゃねえのかよ」

泊地棲姫「マダ理解シテイナイノカ。私ハ、オ前ガ、私タチト同ジ存在ニナッテホシイ、ト思ッテイルンダゾ?」


泊地棲姫「コノ場デ深海ニ引キズリ込ムノモ悪クナイガ、ソレヨリモ、オ前ハ、私ガジックリト……」ジリ…

早霜「……じっくりと?」ジーッ

泊地棲姫「!?」

軽巡棲姫「ナニヲシテイルノ」ヌラッ

泊地棲姫「!?!?」ビクゥ!

軽巡棲姫「ナニヲシテイルノ、ト、訊イテイルノダケレド?」ゴゴゴゴ…

提督「……早霜もなにしてんだよ」

早霜「見ていました。ずっと」

提督「お前……本当にいつも俺を見てるよな」タラリ

軽巡棲姫「ネェ、泊地棲姫? 私ノ提督ニ、ナニヲシテイルノ、ト、訊イテルノヨォ……?」

泊地棲姫「……軽巡棲姫ニハ関係ナイ」プイス

軽巡棲姫「関係ナクナンカ、ナイノヨォ!?」

泊地棲姫「関係ナイ! ソモソモ提督ハ、オ前ノモノジャナイ!」

軽巡棲姫「私ノヨォ!?」

大和「あっ、提督! どこに寄り道してたんですか!」

如月「もう、だめじゃない! すぐどこかに行っちゃうんだから!」

キャロライン「ダーリーーン! 一緒にお茶するヨーー!」

ニコ「みんな落ち着いて。魔神様は疲れてるんだから、ぼくがこれから膝枕してあげるんだよ」

早霜「ふふ……大人気ね、ふふふっ」

提督「……だめだこりゃ」

というわけで今回はここまで。
本スレでもよろしくお願い致します。


続きの前に、今回出てくるメディウムについて。

・ロゼッタ・パンプキンマスク:魔女メディウム。空からハロウィンのかぼちゃを落として人の頭に被せて視界を塞ぐ、屈辱系の罠。
  悪戯と可愛い衣装、お菓子とコーヒーが大好きな、お年頃の少女。大人の女性を自称しているが、おとなしくするのは大の苦手。
・ミルファ・メガロック:チアリーダーメディウム。丸い岩を落とす罠で、坂道であれば転がるしギミックで跳ね飛ばすこともできる。
  元気印の女の子で応援が好きと言うが、両手のポンポンがなんと岩。振り回せば凶悪極まりないし当然重い。ついでに胸も重たそう。
・パメラ・スローターファン:レースクイーン姿のメディウム。設置したファンが回転して人間を吸い寄せ、巻き込んで切り刻む罠。
  手にした日傘は日傘ではなく巨大な刃物のファン。注目を浴びるのが好きらしいが、本人より手にした刃物のほうが注目の的に。
・ジュリア・ハリセン:ボディコンスーツ姿のメディウム。人間の頭にハリセンを振り抜き、痛みと激しい怒りを誘発させる罠。
  バブル期に流行したクラブにいそうなお姉さん。派手な見目に反して、真面目で素直。お願いも不満を言いつつ聞いてくれる。

なにぶん、サービス終了したゲームの話なので、書いておかないとわからないと思い、蛇足ながら。

それでは続きです。


 * 執務室 *

大淀「ええっと、このパーツはどこに……」

ロゼッタ「それならさっき洗ったんじゃない? ほら、それー」

霞「それ、ふきんで拭いてくれる? ここにセットするみたいよ」

大淀「それからフィルターですね。確か、台形の茶色い紙がこの辺に……」

タ級「コレカ?」バサッ

大淀「い、一枚でいいんですよ!?」

ロゼッタ「で、ここに入れて……コーヒーもここに入れるんだよね!」

霞「ちゃんと量って入れないと、苦くなるわよ」

ロゼッタ「わかってるってばあ……あ、入れすぎちゃった?」

タ級「苦イノハ嫌ダゾ」

ロゼッタ「んもぉ、わかってるってばー。私も苦いの嫌だし!」

大淀「それでは、あとはここにお水を入れて……スイッチオン、ですね」

霞「意外と簡単ね?」


タ級「私ニモ説明書ヲ見セテクレ」

大淀「はい、どうぞ」

ロゼッタ「なんか、私の知ってるコーヒーの作り方と違う……」

タ級「違ウノカ?」

ロゼッタ「ルミナに頼んでたまーに作ってもらってたんだけど、こう、まぁるい……ガラス管? で作るの」

大淀「サイフォンですか? 本格的ですね」

ロゼッタ「準備と後片付けが面倒だからーって、たまにしか作ってくれないんだけどねー」

 扉<チャッ

ロゼッタ「あ、先生!」

提督「誰が先生だよ。お前も結構独特な呼び方するな?」

ロゼッタ「えー? でも魔神様でしょ? 『魔』の神様なんだからさー」

ロゼッタ「魔女メディウムのロゼッタちゃんが、先生って呼んでも全然おかしくないと思うけどー?」

提督「俺が先生って呼ばれるのがどうもな……ん? なんだ、大淀もこっちにいたのか。珍しい取り合わせで何してたんだ?」

大淀「コーヒーメーカーの試運転です。通信室の設備点検も、赤城さんへの説明も一通り済ませましたので、今度はこちらにと」


提督「そうか。お前たちもコーヒーが目当てか?」

ロゼッタ「そうでーす!」

タ級「使イ方ノオ勉強ダ。私モ知ッテオキタイカラナ」

提督「へえ、よっぽど気に入ったんだな。それで説明書見て……ん? お前、日本語読めるのか?」

タ級「ワカラナイ! ガ、絵ヲ見レバ、ナントカナル!」

提督「……まあ、いいけどよ」

ロゼッタ「あー、いい匂いがしてきた!」

霞「どうやってお湯を沸かしてるのかしら、これ……」

大淀「超音波で沸かしているみたいですが、原理が良くわかりませんね……」

タ級「……ナア、提督?」

提督「なんだ?」

タ級「コーヒーハ美味シイヨナ?」

提督「……作り方によるがな。氷で薄まったり、砂糖が気持ち悪いくらい入ってるようなのは、勘弁してほしいが」

タ級「ソウイウノジャナクテ! 私ノ同型ニ奨メタラ、ソイツ、泥水トカ言ウンダゼ!? ヒドイト思ワナイカ!?」プンスカ!


提督「泥水? なんだ、ブリテンのお貴族様みたいなこと言ってんな。そいつ、お前と仲がいいのか?」

タ級「イツモ、ツルンデイタトイウカ、成リ行キデ一緒ダッタトイウカ。背中ヲ任セテモイイクライニハ、ウマクヤッテタツモリダッタ」

タ級「ケド、アイツガ、アンナニコーヒーヲ嫌ガルトハ、全然予想シテナカッタ」ムスッ

提督「じゃあ何が好きなんだ、そいつは」

タ級「ソレハ知ラナイ」

提督「お前ら、本当にそういうの意識せず生活してやがったんだな」タラリ

タ級「マア、ソウダナ。艦娘ニ遭遇シテ、ヤット自分ヲ認識シタ感ジダッタシ……オ前ト会ッテカラダゾ? 私タチガ変ワッタノハ」

タ級「アノ洞窟ニイタトキダッテ、オ前ニハ割ト素直ニ従ッテイタダロ?」

提督「そいつは泊地棲姫がおとなしかったからだと思ったんだが……」

タ級「ソレモアルガ、オ前、堂々トシテタカラナ。人間テノハ、私タチヲ見テ、ビビッテ逃ゲルモノダト思ッテタシ」

タ級「度胸ノ据ワッテル奴ハ好キダゾ?」ニヤニヤ

霞「ル級さんとの付き合いもあったし、それなりに深海棲艦に対して悪い感情だけじゃなかった、ってのもあるんでしょうね」

タ級「アイツバカリ、ズルイ」ムスッ

提督「こればっかりはな……だからって、お前も潜水艦に殴られるだけの仕事は嫌だろ」

タ級「絶対ヤダ」


ロゼッタ「よくわかんないけど、いまは先生と一緒なんだから、いいじゃん!」

霞「まあ、考え方によってはそうね。ここ以外で深海棲艦と人間が仲良くできる場所なんてないでしょうし」

タ級「ソウナノカ? ソウジャナイ場所モアル、ッテ聞イタゾ?」

大淀「え!?」

霞「あるの!?」

提督「それは初耳だぞ」

タ級「泊地棲姫ガ提督ニ協力シ始メタコロニ、ホカノ深海棲艦ノトコロデモ、人間ト通ジテルトコロガアル、ッテ」

提督「マジか。海軍が許しておかねえと思ったんだけどな」

タ級「タシカ、北方棲姫ト中間棲姫ノトコロハ、人間ト秘密裏ニヤリトリシテルラシイゾ」

提督「北方棲姫? 泊地棲姫が気にかけてた、あのちっこいやつか。確かにほかの奴よりは攻撃的じゃねえ見た目だったが……」

提督「つうか、そいつらが深海棲艦とうまく取り成してくれりゃあ、俺が四苦八苦する必要なかったんじゃねえか?」

タ級「ソレハ私ニ言ウナ」

提督「それもそうだな」

タ級「ソレニ、秘密裡ッテ言ッタダロウ。多分、人間側モ、ソノ関係ハ秘密ニシテルンジャナイカ」

提督「まだあからさまにできねえ、ってか」


大淀「仮にこの島での深海棲艦との交渉がうまくいけば、他の鎮守府のやり取りも表沙汰にできるかもしれませんね」

ロゼッタ「えー? それってまたこの島が、人間たちの実験台の場所になるってことー?」

霞「考え方によっては不愉快だけど、結果的にはそうみたいね」

提督「目立ちたくねえ……」

霞「あんたはもう、そういう星のもとに生まれたのよ。諦めなさい」

提督「星かよ!?」

霞「そうとしか言えないでしょ。あんたみたいな出生の人なんて2人も3人もいないわよ!」

ロゼッタ「そうそう。魔神様がいっぱいいるわけじゃないしね~」

ロゼッタ「……あ、でも、魔神様に近づきたがる人間は結構出てきたりするかな?」

霞「え? 魔神って人間に崇拝されてるの?」

ロゼッタ「ん-、崇拝はされてなかったんじゃないかなー? ニコちゃんにそういう話、聞いたこともないし」

ロゼッタ「それよりも、魔神様の力が強大だから、どうにかして操ったり自分のものにしたりしようって企む人間のほうが多かったね!」

提督「……そこまで強いのか」

ロゼッタ「強いよー! でも、先生の場合はまだ覚醒してないみたいなんだよね。魔力槽に入って、何回か魔力と慣らしてるんでしょ?」

霞「ねえ、魔神になったら……っていうか、覚醒したら、見た目も変わるの? 誰かもあんたに角が生えたって言ってたじゃない」


ロゼッタ「うーん、そうかもしれないけど、覚醒した魔神様はどんな姿にでもなれるって聞いたよ?」

提督「何でもできるんだな……」

ロゼッタ「そうそう! だから、エフェメラを通じて、全然関係ない人間が魔神様の力を借りて力を振るうなんてこともあったし!」

タ級「エフェメラ? ナンダソレ?」

提督「そういやエフェメラのことを深海棲艦たちに伝えるのを忘れてたぜ……あとで数人集めて話さなきゃな」

タ級「私ニハ、イマ教エロ」ズイ

大淀「このタ級さん、結構ぐいぐい行きますね……油断なりません」ムムム…

霞「えっ? 大淀さん、何が油断なの?」

大淀「いえ!? なんでもありませんよ!?」ワタワタワタッ

霞(怪しすぎる……)タラリ

ロゼッタ「ねーねー、ところでさ! もうコーヒーできたの? 飲んでいいの?」

霞「……大丈夫なんじゃない? もう出てこないみたいだし」

タ級「ソレジャ、コーヒー飲ミナガラ、エフェメラノコトヲ教エテモラウカ」


 * 入渠ドック近くの大浴場 *

ニコ「ということは、エフェメラに対する警戒もしてもらえるってことになったんだね?」

ミルファ「はい! ロゼッタがそう言ってました!」

ニコ「これでエフェメラに対する包囲網が敷けるね。さすが魔神様、お姉ちゃんとして鼻が高いよ」フフッ

パメラ「で、その魔神さんはどこに行ったの?」

ニコ「えーと、たぶん、こっちにいるはずなんだけど……」

パメラ「あら? 魔神さん、あんなところにいるわ」

ミルファ「ほんとだ!」

提督「……」

ニコ「どうしたの魔神様。難しい顔しちゃって」

提督「ん-? いや……まあ、散歩してただけだ」

パメラ「そういう割には元気がないわね? そもそも艦娘や深海棲艦たちもあなたを探してたわよ? なんでこんなところにいるのよ」

提督「たまには一人にさせてくれよ。考え事してる時に愛想良くできるほど、俺は器用じゃねえんだ」

ミルファ「考え事ですかー。そういうときこそ、私たちに話してくださいよ! 力になりますよー!」ピョンピョン

提督「いや……これ、お前たちに訊いていいのかわからないんだがなあ」


パメラ「あらあ、勿体ぶっちゃって。少しは私を見てくれていいのよ? っていうか、もっと私を見てほしいんですけど?」ズイ

ニコ「そうだね。変に遠慮しないでほしいな」

提督「……んじゃあ、訊くけどよ」

ミルファ「はいっ、どうぞ!」

提督「お前たちは、元の世界……あっちの世界で生まれたんだよな?」

ニコ「そうだね」

提督「お前たちのその恰好って、あっちの世界で一般的なのか?」

パメラ「……それって、どういうこと?」

提督「こっちの世界で言うと、例えばニコの衣装はいわゆるロリータとか呼ばれてる衣装だ。フリフリヒラヒラが特徴のな」

ニコ「ふーん、そうなんだ」

提督「お前たちがいた世界で、お前たちと同じ衣装を着た人間がいたかどうかが知りたいんだよ」

ミルファ「私たちと、同じ衣装、ですか……?」

パメラ「……うーん」

ニコ「……ぼくはともかく、ミルファやパメラはいないんじゃないかな?」


提督「他のメディウムたちも、殆どの奴が向こうの世界には存在しない衣装なんじゃねえか、って思ってんだが……どうだ?」

ニコ「うーん……そうかもしれないね」

ミルファ「でも、どうしてそんなことを気になさってたんですか?」

提督「例えば、クレアやリンダは、どう見てもこっちの世界のスポーツ選手のユニフォームなんだよ。剣持って戦う衣装じゃねえ」

ミルファ「そうなの!?」

提督「ソニアやユリア、オリヴィア、カオリ、それからオディールあたりもそうだな。でも、多分お前たちはそういう自覚もねえだろ?」

ミルファ「そ、そうですね、生み出されたときからこうなので、そういうものだとばかり……!」

提督「現代的な衣装ばかりいるように思えてなあ。同じ理屈で言うと、ミルファはチアリーディングの衣装に見えるし」

提督「パメラはレースクイーンって奴だろうな。お前の背負ったスローターファン、本当なら日傘のはずなんだ」

パメラ「……ちゃんと意味があったのね、この衣装」

提督「なんだと思ってたんだよお前……」

パメラ「可愛いしセクシーだからいいかなって」

提督「……それから、さっきトイレで鉢合わせたハナコは、都市伝説で有名なトイレの花子さんと符合するし」

提督「ツバキやアカネ、オボロ、イブキ、ヒサメ、スズカあたりも、名前も含めて日本特有の文化圏の恰好だ」

提督「タチアナのビジネススーツやリサーナのバニーの衣装、フローラのナース服やルミナの白衣も、歴史的には比較的新しめだし」

提督「ニコたちがいた世界の人間が銃すら持ってなかったなら、ブリジットのアーミールックは特に奇異に映ったはずだ」


提督「あくまで俺の想像の域を出ないが、それでもお前たちの時代の衣装とは思えねえんだよな」

ニコ「……」

提督「なあ、ミルファたちは、その恰好で神殿の外に出て、人間どもに変わってるとか珍妙だとか言われなかったか?」

ミルファ「うーん、魔神様の使徒だってことはすぐわかってもらえてたみたいだけど……」

パメラ「そこはそうね。私自身はこの衣装が変わってるとは思ってないし、そう思われるのも心外だけど」

提督「なあニコ? メディウムはあっちの世界の魔神が作ったんだよな?」

ニコ「うん。でも、きみが魔神様でしょ?」

提督「……いや、まあ、そうなのかもしんねえけどよ」

ニコ「ぼくが蘇らせようと思っていた魔神様は、いつの間にかいなくなってたんだ」

ニコ「姿が消えて、その気配を辿ったときに、きみを……魔神様を見つけたんだよ」

提督「……ってことはなにか? 魔神は、最初からこっちの世界に干渉出来ていて、その知識からメディウムの姿を作ったってか」

ニコ「だから、魔神様はきみでしょ?」

ミルファ「うん、それはそうですよね!」

提督「……」


パメラ「ねえ魔神さん? そうやって悩んでるみたいだけど、あなた、最初から私たちを知ってるような感じだったじゃない?」

提督「ん-……確かに、どっかで会ったことある、みたいな感覚が微妙にあったんだよなあ。名前も、なんかすんなり覚えちまったし」

提督「神殿に初めて案内された時だって、初めて入ったはずなのに見覚えがあったし……忘れてたのを思い出した、みたいな感覚だった」

パメラ「なんだかそれって、最初から私たちがこっちの世界に来ること前提で作られたみたいじゃない?」

提督「……!」

ニコ「……!」

パメラ「だって最初から言葉も通じるし、魔神様もちょっとうろ覚えっぽいけど知識もあるし」

ミルファ「やっぱり、魔神様は最初から私たちの魔神様だったんですね!!」

提督「確かにこっちに来る前提なら、こっちの世界を意識した衣装になってもおかしくはねえな……」

ニコ「ぼくも予想外だったけど……魔神様、もしかして最初からこっちの世界に引っ越すつもりでいたのかな?」

提督「で、引っ越し先として俺に白羽の矢を立てた、ってことか……?」

ニコ「どうだろう……? きみは魔神様として覚醒した人間じゃなく、魔神様に選ばれた人間だった、ってことなのかな……」

提督「エフェメラにも目をつけられてたからな。そういうことなのかもしれねえな……」


ミルファ「あの、魔神様は、私たちの装束がこの世界のものだったのがどうしてなのか、悩んでたってことですか?」

提督「ああ。お前たちの存在そのものにかかわることだから、あまり無神経なことを訊いて混乱を招きたくなかったんだが……」

パメラ「こっちの世界に召喚されたことの裏付けみたいになっちゃったわね」ウフフッ

提督「俺としてはありがたいぜ。お前たちが妙なショック受けてたら、相談したことを後悔する羽目になってたんだ」

パメラ「あ、そういえば、アローシューターのミリーエルみたいに耳が長い子もいるけど、こっちの世界に似たような人間がいるの?」

提督「創作物でならエルフがいるな。かなりポピュラーな部類だと思うぞ」

ミルファ「アゴニーマスクのカサンドラは?」

提督「古代の剣闘士がそれっぽいかな。つうか、カサンドラならお前たちの時代にも似たような姿の奴がいそうだけどな?」

ニコ「そうだね、もう少し体つきの大きい男が鉄の鎧を着てたかな」

ミルファ「あと、敵対した人間と似たような服を着てるのは、ゼシールとかノイルースとか……」

パメラ「見たわけじゃないけど、他にもデザインが似てそうなのはルイゼットとかシエラとかかな~」

提督「多分、ニーナとかメリンダあたりもぎりぎりそうじゃねえかな? 俺の想像する中世の世界観に偏見がなければの話だが」

提督「それに比べると、お前たちの着てる衣服は近代から現代にかけてじゃねえと作れない素材のものが多いからなあ」


提督「パメラが履いてるそのストッキングも、紡績業が発達して工業化してないと、存在してねえはずだし」

パメラ「あら、魔神さん、そういうとこもちゃんと見てるのね?」ニマニマ

ニコ「……」ジーッ

提督「ん? なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」

ニコ「鼻の下が伸びてないか見てたんだけど」

提督「……」

ニコ「全然そんな気配がないのも、それはそれで逆に心配かな」

パメラ「それはそうねえ? ほーら魔神さん、胸とか脚とか、もっと私のことを見ていいんですよー?」

提督「……」

ミルファ「あ、今の魔神様の表情の意味はわかります! 面倒臭いって思ってますよね!」

提督「俺に関する理解が深まってるようでなによりだ」ハァ…


 * 執務室 *

提督「……とまあ、俺たちが普段やってた仕事はこんな感じだな」

ジュリア「思ったより仕事量が多いですわね……」

提督「とはいえ、その道に精通してる艦娘に手伝ってもらってたからな。そこまで大変じゃねえよ」

 扉<コンコン

不知火「不知火です。失礼します」チャッ

提督「おう、不知火か。この前はありがとうな、助かった」

不知火「お役に立てたようでしたら何よりです」

提督「本当に助かってるぜ。俺みたいなのがいきなり各国の法律の勉強やらされても、全っ然頭に入らねえ」

ジュリア「それについてですけれど……一応、言わせていただきますわね。なんでやねん!」パシーン!

不知火「……いきなり何事ですか。突然、壁をハリセンで叩くなんて」

ジュリア「お仕事中の魔神様の頭を叩くわけにも参りませんでしょう? これでもあたくし、ちゃあんと気を遣ってますのよ?」

提督「? 何か不満でもあったか?」

ジュリア「ええ、ございますとも。あたくしたちの主君たる魔神様が、人間どもが都合の良いように作った法に従おうとしてますのよ?」

ジュリア「魔神様のアイデンティティを揺るがす、前代未聞の一大事ですわ」

提督「ああ……」


ジュリア「魔神様は、人間どもを飼育し管理して、歯向かうものは殺してすべて奪うもの、とニコさんから伺っていたのですけれど」

ジュリア「あなた様は逆に人間と約束事を作り、関わりを控えようとしていますわ。それで、あたくしは違和感を覚えておりますの」

不知火「確かに、メディウムからすれば、人間の法律に従うことがあり得ないでしょうね」

提督「人間を殺す以外に、俺たちが穏やかに暮らす手段を探してるようなもんだ。今時、恐怖政治なんて流行らねえしな」

提督「こっちの世界でお前たちメディウムのやり方と理屈を貫こうとしたら、世界中と全面戦争する羽目になっちまう」

ジュリア「そこでまた魔神様お得意の『面倒臭い』ですの?」

提督「そういうこった。『勝手に俺たちの領海に入るお前らが悪い』っつう理屈を正当化できりゃあ楽だろ?」

提督「俺たちがこの島でそれなりに豊かに暮らしたいなら、打算的ではあるが表向きだけでも味方を増やしといたほうがいい」

提督「と言っても、メディウムや深海棲艦はそういうの苦手だろ。俺や艦娘たちに任せとけって」

ジュリア「……そう仰っていただけるのでしたら、あたくしたちも頼らせていただきますけれど」

ジュリア「つくづく今の魔神様は変わってらっしゃいますわ。まさか、任せとけ、なんてお言葉をいただけるなんて……」

不知火「話を聞く限りですと、メディウムの仕事場は相当ブラックな職場だったんでしょうか」

ジュリア「ブラック? 後ろ暗いという意味では、その通りかもしれませんけれど……」

ジュリア「ゼシールみたいな言い方になりますけれど、お仕事はお仕事として、楽しんでやってましたわよ?」


提督「……仕事はあったほうがいいのか?」

ジュリア「そう言われると、そこは微妙ですわね。まったく仕事がないというのも、腕がなまってしまいそうで怖いですわ」ブンブン

提督「あの素振りのときの掛け声はどうかと思うぞ?」

ジュリア「み、見ていましたの!? んもう、魔神様ったらお人が悪い……掛け声、お気に召しませんこと?」

提督「ああ。『なんでやねん』とか、どこで覚えたんだ」

ジュリア「リンダから助言していただきましたわ。一番格好がつくそうですの」

提督「あいつか……」

不知火「黒潮か龍驤さんかと思いましたが、そちらですか」

提督「リンダの奴、隙あらばボケ倒すからな。最初の2回くらいは付き合ったが、しつこくボケるから途中で面倒臭くなって無視したぞ」

ジュリア「でしたらなおのこと、あたくしが歯止めのためにツッコんでおかないといけませんわね」

提督「調子に乗るからほどほどでいいぞ。ハリセンの振り回しすぎで、リンダの頭はともかくお前の手首が腱鞘炎になったら困る」

ジュリア「なりませんわよ!? それこそなんでやねんですわ! あたくし、そこまでポンコツではありませんわよ!?」

提督「ならいいけどよ。どっちにしてもほどほどにな?」

ジュリア「変なことを心配なさいますのね、魔神様は……というか、リンダの頭はどうでもいいんですの?」

不知火「気付くのが遅いのですが……それはそうと司令、不知火も遅くなりましたがご報告があります」

提督「ん? ああ、なんだ?」


不知火「××国との交渉の件ですが、未だ難航しているようです。今月も××国はこの島の領海に船を出すと主張してきています」

提督「ああ……ま、そうもなるか」

ジュリア「××国、と仰いますと、この島の所有権を主張している国のことですわね?」

不知火「はい。実際の交渉は、海軍と日本政府に任せておりますので、不知火はノータッチですが」

提督「××国にしてみりゃ領海取られ損だしな。弁償しろとか言われてたらしいが、そんなもん海軍にだって無理だろ」

不知火「政府の対応に期待しましょう」

ジュリア「期待、できますの……? 人間は信用なりませんわ」

不知火「深海棲艦との休戦を想定できる事案です。それなりの成果というか、結果を出そうとはするでしょう」

提督「どっちみち、小国の××国が武力なり権謀なりでこの島を取り返すのは現実的に無理だ。海軍に集らざるを得ねえだろうよ」

提督「こっちも譲る気はさらさらねえし、さくっと諦めてくれりゃあいいんだが……どう考えてもゴネそうなんだよな」

提督「まあいいや、向こうが何を言って来ようと放置だ放置。どうせ深海棲艦がいる時点で、連中には手も足も出せねえんだし」

提督「断りなく入ってきた不審な船は沈める。俺たちがそう告げたんだから、そうしてやりゃあいい」

不知火「そうかもしれませんが……」ウーム

提督「艦娘はともかく、俺たちは世界の嫌われ者だ。なんにせよ、攻め込まれる想定はしとかねえとな」

ジュリア「そうですわね。あたくしたちの生活が脅かされるという意味では、敵が存在する事実はよろしくないのでしょうけれど」

ジュリア「逆に敵の現れない世界、というのも、残念ながらあたくしたちは想像できませんわね……」


不知火「なんというか……メディウムの中でも、ジュリアさんのような方は珍しいですね?」

提督「そうだな。俺の執務内容を手伝うために聞きに来たメディウムはジュリアが初めてだ」

不知火「メディウムの多くは好戦的な方だと思っていましたが……」

ジュリア「あら、戦うこと自体は嫌ではありませんわよ? ただ……」

不知火「ただ?」

ジュリア「魔神の使徒として、人目を引くためとはいえ、このように露出の多い服装は、そのぉ……」モジモジ

提督「なんだ? さっきから居心地悪そうにしてたのはそういうことかよ? 無理しないで好きな服着ていいぞ?」

ジュリア「この衣装であたくしを生み出したのは魔神様ではありませんこと!?」プンスカ!

不知火「……司令……」ジトメ

提督「えぇ……? それ、俺のせいになるのか? あっちの世界の魔神に文句言えよ……」

ジュリア「あなた様が魔神様でしょう!? 責任を取ってくださいまし!」

不知火「……この場に勘違いする艦娘がいなくて良かったですね」

ジュリア「どういう意味ですの?」

提督「俺、白と黒しか着ないから、妖精に『私服のセンスは深海棲艦並み』って言われたことあるんだぞ。本当に俺が選んでいいのか?」

不知火「……深海棲艦……」

ジュリア「……まさか、スカートをはかせないつもりですの!? はっ、もしかして脱げと仰る!? 全部脱げと!? 全裸になれと!?」

不知火「どうして3回言うんですか。というか何を聞いていたんですか」

提督「ジュリア……お前、深海棲艦の誰を想像したよ」アタマオサエ


 * 埠頭 *

タ級「エッキシ!」

泊地棲姫「ヘプッ……シュン!」

ル級「……ナニヤッテルノ?」

タ級「イヤ、ナンカ鼻ガムズムズシテ……」

泊地棲姫「プシュッ、クシュンッ……ウウ、ナンダ今ノハ」


というわけで、今回はここまで。

>23
曽大佐の前に、その配下の艦娘と一悶着ですね。

>24
スエゾーは……今のところちょい役の予定しかないです。すみません。

>25
さて、どうなるでしょうね……?


今回登場のメディウムたちはこちら。

・アマナ・バキュームフロア:掃除機を持ち歩くメイドさんメディウム。床にバキュームを設置し、近づく人間を吸い寄せる罠。
  散らかったお部屋を綺麗にするのが好きなメイドさん。今の魔神は元から散らかさないためか、掃除に少し物足りなさを感じている。
・リサーナ・キラーバズソー:バニーさんメディウム。丸鋸を壁から射出して、切りつけた人間をそのまま壁まで運んで叩きつける罠。
  配膳用の丸盆と思いきや、丸鋸を手にした危険なバニーガール。明るく朗らかでおしゃべりが好きで、静かなところは嫌いらしい。
・ベリアナ・ブラックホール:悪魔というかサキュバスなメディウム。ブラックホールで周囲の人間を吸い込んで、上空から吐き出す罠。
  ボンデージビキニのセクシーな悪魔。思わせ振りなセリフで人間だけでなく魔神も誘惑しようとする。人肌が恋しいのか一人は苦手。
・イブキ・ヒートブレス:丈の長い学生服を纏った応援団のような風貌のメディウム。熱波を吹き付けて人間を丸焼きにする罠。
  熱を扱う罠に相応しい熱血娘。声も大きければ行動も豪胆、下着代わりのさらしもあらわで、恥じらいというものには少々疎い様子。
・ヨウコ・メガヨーヨー:戦隊ヒーローものを思わせる衣装のメディウム。巨大なヨーヨーが回転しながら人間を弾き飛ばす罠。
  悪い人間に正義の鉄槌を下す、メディウム戦隊がひとり、メディ・ピンク! 残り4人は募集中。性格はレッド(リーダー)適正あり。
・アカネ・ブラストボム:お団子ヘアにミニ浴衣姿の元気な少女メディウム。いきなり爆発を起こして人間を吹き飛ばす罠。
  お祭り大好き、騒ぐのも大好き。騒いでときどき神殿内を壊したりするお騒がせ娘。いくらなんでも屋内で花火するのはやめなさい。
・ヴァージニア・クイーンハイヒール:威厳漂う女王のメディウム。ハイヒールを履いた巨大な女性の足が人間をぐりぐり踏みにじる罠。
  いかにも豪奢な特注の椅子に座って踏ん反り返る、尊大な女王。メディウムの王たる魔神にも、それ相応の威厳と態度を求めている。
・イサラ・スパークロッド:ぼさぼさの長髪が静電気で広がった引き籠り少女メディウム。発雷するロッドが電撃フィールドを作る罠。
  メディウムの中では珍しい、一人に慣れてる引き籠り。臆病で構ってもらえるのは嬉しいが、熱すぎる相手にはついていけない。
・チェルシー・スイングアンカー:水兵メディウム。船の錨を振り子のように往復させ、軌道上の人間を引っかけて高所から落とす罠。
  船の上が好きで、わざわざ寝床を船の上に作るほど。細身のわりに足腰は強く、ちょっとやそっとじゃ押しても引いても動かないとか。

紹介文、このスレが終わるまでに全員分書き切りたい。
それでは続きです。


 * 墓場島 西岸 *

軽巡棲姫「コレガ今回、海域ニ侵入ッテキタ船ヨ」

提督「2隻あんのかよ……しかもまたボロ船か。こいつらも盗掘目的か?」

伊8「今回は武器のほうが多く積んでありますね。それに思ったよりボロでもないです」

提督「ん? 擬装してるってことか?」

伊8「はい。しかも、この船の上空を哨戒機が飛んでたみたいです」

提督「哨戒機? 人間のか?」

伊8「そうです、人間の乗った軍用機でした。なんとなくですけど、難民を装った便衣兵による侵攻? のように思えます」

伊8「ちなみに哨戒機は、この船2隻が島の海域に入ったのを確認して、引き返したあたりで深海棲艦の攻撃機に撃墜されてます」

提督「船の周囲に艦娘は?」

伊8「いませんでしたね」

提督「その哨戒機、どこから飛んできたかわかるか?」

軽巡棲姫「向カッタ先ニ、ソノ国ノ空母ガイタラシイワヨォ? ソイツト同ジヨウニ、ソノ辺ノ誰カニ沈メラレタラシイケドネェ?」

提督「その辺の誰か……って、誰だ?」

伊8「その海域を縄張りにしている深海棲艦らしいです。私たちとは無関係の」

提督「文字通りの見知らぬ誰かかよ」


伊8「ちなみに、はっちゃんの積んでる水上偵察機で、空母が轟沈させられてるところを確認しました」

軽巡棲姫「私ニ同行シタ、ヨ級タチカラモ、同ジ話ヲ聞イテルワヨ」

提督「今の御時世、艦娘を連れずに海に出るのは自殺行為だってのに、何考えてんだ」

伊8「この鎮守府の深海棲艦が、人間を攻撃してこないと思ってたんじゃないですか?」

提督「そうだとしても、普通の武器担いで艦娘や深海棲艦と戦おうとするか……? ちょっと浅はかっつうか短絡的な気もするな」

伊8「うーん……確かに、考えにくいですかね?」

軽巡棲姫「他国ノ艦娘ニ、協力ヲ要請デキナイヨウナ、後ロ暗イ企ミガアッタ、トカ、ジャナイノ?」

提督「ああ、なるほど。艦娘を連れてない国が、日本海軍や他国を出し抜いて、この島を軍事的に掌握したかったってか」

提督「そうだな……このボロ船の連中を脱走兵に仕立てて、そいつらを空母で追ってきた、ってシナリオならあっても良さそうか?」

提督「最初からこの船の連中は処罰する、もしくは殺すこと前提で、俺たちにお近づきになるために困ってるふりをして近づいてきた……」

提督「自国で艦娘を用立てられないなら、この島の艦娘たちと親密になればいい……って考えてたとか、な」

伊8「そのために、この船の人たちを生贄にするんですか。だとしたら胸糞ですね」

提督「俺の想像だけどな。ま、無断でうちの領海に入ってきたんだから、それに近い考えなんじゃねえかと思うが」

軽巡棲姫「結果的ニハ、良カッタンジャナイノ? メディウムタチニトッテハ、都合ノイイ生贄ナンデショ?」


軽巡棲姫「ツイデニ空母ノ人間モ、生贄ニデキレバ良カッタノカモ、シレナイケド?」

提督「空母の乗組員って言ったら普通に数百人単位じゃねえか? しかも軍人相手じゃ、いくらメディウムでも骨が折れるな」

軽巡棲姫「面倒カシラ?」ウフフ

提督「面倒だな……」

伊8「今の話だと、この船の乗員も軍人の可能性がありません?」

提督「ん? それもそうか……それで片付けられたんなら、メディウムを過小評価してたことになるな」

軽巡棲姫「私タチダッテ、不意ヲツカレタラ罠ニカカルンダカラ、関係ナインジャナイ?」

アマナ「魔神様ー!」(←船の上から手を振り)

リサーナ「マスター! お出迎えに来てくれたのー!?」

提督「! おう、また船内の掃除をしてくれたのか?」

アマナ「はい! こちらの船は綺麗になりましたよ! 元からの汚れは取れませんでしたけど!」

提督「構やしねえよ、どうせこの船もバラすしな」

ベリアナ「ねえねえ魔神様~? わたしも頑張ったのよ? だからぁ、御褒美が欲しいなあ~?」ウシロカラピトッ

イブキ「あ、ベリアナ!? お前、こっちの船はまだ後始末終わってないぞ!」(←別の船の上から)

アカネ「もう、どこ行ったのか探してたのにー!」ウニュー!


リサーナ「ええー!? ベリアナだけ抜け駆けするなんてずるーい!」

ベリアナ「なによぅ、一番乗りして乗員全部ブラックホールに閉じ込めろなんて無理言い出したのイブキじゃなーい」

イブキ「言ったけど! ってか、やりゃあできるんじゃねえか!」

ベリアナ「あんな船に100人以上乗ってるなんて聞いてないわよ~!?」

提督「100人!? そんなにいたか!? それを一人で相手したのか!?」

アマナ「魔神様、信じちゃダメですよ! ベリアナったら人数盛り過ぎです! それでも50人程度はいたと思いますが」

イブキ「それに一人じゃ手一杯だからって、アマナに助けを求めてたしな!」

提督「二人いたって50人も相手したんなら十分大変だよ。手間もかかるし魔力も使うんだろう?」

アマナ「はい! 魔神様が、私たちに魔力を回復できる魔法石を多めに持たせてくださったのが本当に助かりました!」

リサーナ「ニコちゃんはご機嫌斜めだったけどねー!」

ベリアナ「うふっ、ご主人様からは指輪まで貰っちゃったしぃ、これはもう、愛よね! 愛!」キャッ

伊8「……帰還の指輪のことですよね」ドロッ

ベリアナ「ひぃっ!? 目が怖い!?」ビクッ


軽巡棲姫「即座ニ、テレポートデキル道具ナンテ、便利ヨネェ」

提督「メディウムしか使えないとはいえ、そういう便利なもんがあるなら使うべきだ。下手打って帰ってこられなくなるより全然いい」

提督「とはいえ、魔法石にしても帰還の指輪にしても、ニコがこれまで余らせた魔力を使ってこつこつ作って貯めてたものだ」

提督「こうやって今回みたいに、それなりの見返りと言うか、成果がないと無駄遣いになるからなあ。使いどころは考えねえと……」

ヴァージニア「まったくその通りだ。あれほどの人数を踏み潰さねばならぬとは……!」ヌッ

ヴァージニア「この私としたことが、不覚にも『まだいるのか』と思ってしまったぞ……!」

提督「よう、ご苦労さん。後始末は終わったのか?」

ヴァージニア「ああ、終わったぞ。終わらせたが、イブキとアカネよ……貴様たちはなぜこんなところで油を売っている?」ヌゴゴゴゴ…

アカネ「やばっ、すっごい怒ってる……!?」

ヴァージニア「そもそも! なぜこの私が! こんな貧相な船の掃除を引き受けねばならんのだ!!」ウガー!

ヴァージニア「普段大声で騒ぎ立てている貴様たちより、引き籠りのイサラのほうが今の今まで働けているというのはどういうことだ!?」

イサラ「うう、やっと終わったっス……早く帰って引き籠りたい」フラフラ

アカネ「え、えへへへ……」

イブキ「いやあ、その……面目ねえ」


ヴァージニア「ベリアナに至っては、あるじにくっつきたいが故に、人間どもの掃討が終わってすぐ指輪の力で帰還する始末!」

ヴァージニア「後始末のために、掃除を生業にするアマナがいる船に3体、こちらの船に5体を割り振ったというのにだぞ!」

提督「その言い分が本当なら、ヴァージニアの怒りもごもっともだ。申し開きはあるか?」

ベリアナ「えっ、で、でもぉ、あの船に最初に潜入して疲れちゃったのは本当だしぃ……」

軽巡棲姫「潜入ノタメニ、アナタタチヲ載セテ、船ノ中ニマデ入ッタノハ、私ヨォ?」

提督「やれやれ……ベリアナ、お前には別の『御褒美』くれてやってもいいんだぞ?」ワキワキ

ベリアナ「わ、わかったわよぅ! ご主人様の意地悪っ!」ピャッ

ヴァージニア「あるじよ、何をやっている! さっさとその小悪魔の頭を握り潰してしまえ!」

伊8「提督のアイアンクロー、いつの間にメディウムたちの間でも有名になったんですか」

提督「生憎と、何回かやらざるを得なくてなあ……」

軽巡棲姫「魔神サマモ大変ネェ」ウフフッ

提督「ところで、確か8人いるんだよな? あと1人はどうしたー?」

リサーナ「ヨウコなら、チェルシーを呼びに行ったわよー?」

提督「んん? アマナだろ、リサーナ、イブキ、アカネ、ヴィクトリカ、イサラ、ベリアナ、ヨウコ、チェルシー……1人多くねえか?」

伊8「はっちゃんが追加でチェルシーさんを連れて行きました」キョシュ

提督「追加?」


ヨウコ「とうっ!!」バッ!

伊8「おお、噂をすれば。船の上から跳んできた」

 スタッ!

ヨウコ「メディウム戦隊、メディ・ピンク参っ上! 司令、今回の任務は完了だ!」ビシッ!

提督「おう、お疲れ。チェルシーはなんでこの船に乗ったんだ?」

ヨウコ「あれ? チェルシーは司令が呼んだんじゃないの?」

チェルシー「あー、やっぱり船はいいなあ! あ、キャプテーン! この船の操縦、楽しかったですー!」

提督「チェルシーも出て来たか。はっちゃんと一緒に行って乗り込んだんだって?」

チェルシー「はいっ! 潜水艦もいいですけど、あたしはやっぱり波を感じられる船のほうがいいですねー!」

提督「チェルシーは何してたんだ?」

伊8「船の人間を全滅させたら、その船を引っ張ってこないといけないですよね」

伊8「それなら、船の操縦ができる人にまかせたらいいんじゃないか、ってことで、試しに行ってみようと」

提督「それでチェルシーに白羽の矢が立ったってか」


ヨウコ「そうそう! ぶっつけ本番だったけど、うまくいってびっくりしたよ! さすが司令、見事な作戦指示だね!」

提督「いや、今回は俺は指示してねえぞ。チェルシーがそういう技能持ってるって把握してなかったからな」

ヨウコ「そうなの!?」

提督「さっき、チェルシーがなんでこの船に乗ったかを訊いただろ……」

軽巡棲姫「ヨ級タチモ、曳航スル船ガ減ッテ楽ニナッテ助カッタ、ッテ言ッテタワヨ?」

提督「だとしたら、今後も頼んだほうが助かるか……その辺は相談だな」

ニコ「やあ、魔神様。また人間を退治したんだね」

提督「おう、メディウムたちのおかげでな。はっちゃんと軽巡棲姫たちにも手伝ってもらった」

ニコ「ありがとう、助かるよ。ぼくたちも海の上では思うように身動きが取れないからね」

伊8「……それにしても」

ヨウコ「?」

伊8「この船の乗組員は全員メディウムが殺して、いまは無人なんですよね」

提督「まあ、そうだな」


伊8「魔の海域ってあるじゃないですか。その海域に入った船の乗組員が忽然と消えたり、飛行機なら謎の墜落事故が多かったり」

提督「ああ……あれか、バミューダトライアングルみたいなもんか?」

伊8「はい。起こってる事態が、それみたいだな、って。ふと思いました」

軽巡棲姫「ソウイウ扱イニナッテモラッタホウガ、私タチモ過ゴシヤスイカモシレナイワネェ?」

提督「誰も近づこうとしない、というのなら、一番いいかもな。メディウムの存在も有耶無耶にできそうだ」

ヨウコ「なにそのなんとかトライアングル? なんかかっこいい技名みたいだね!」

チェルシー「いやいや、そういう呑気なのじゃないから」

提督「さて、さっさと戻るか。船の曳航、東岸までもうひと頑張り頼むぜ」

軽巡棲姫「フフフ……任テオイテ。帰ッタラ、ワカッテルワヨネェ……?」ニィ…

提督「……俺が対応可能な範囲でな?」

軽巡棲姫「フフフ……」キラキラ

伊8「……」キラキラ

ニコ「魔神様も大変だね?」フフッ

提督「……なんか、さっきも聞いたな? そのセリフ」


 * 東岸 鎮守府工廠前資材置き場 *

明石「ええ、確かに、再利用できそうな廃材はこちらにお願いします、と言いましたけどね?」

軽巡棲姫「ハァァ……」テイトクニダキツキー

提督「……」ダキツカレテナデナデ

軽巡棲姫「ンッ……フゥウ……」ウットリ

明石「なんで私はここで提督がイチャつくところを見せつけられなきゃいけないんですかねえ?」

提督「仕事してきたんだから、労ってるだけだぞ」

明石「金剛さんに、時間と場所を弁えろと、さんざん言われてきませんでしたか?」

提督「そういうあいつのが率先して抱き着いてきてたぞ、定期的に。むしろ抱き着けとまで言われたし」

明石「なんですかそのお約束過ぎる『おまいう』は!!」

伊8「それより早く代わってください。後が支えているんです」

軽巡棲姫「ソ、ソレジャ、次ハ腰ニ手ヲ回シテ……?」

提督「こうか?」グイ

軽巡棲姫「!! アァ……!!」ゾクゾクッ

伊8「早く代わってください」ギラリ

明石「……」アタマカカエ


リサーナ「うわぁ……ね、ねえ、私たちにも同じことするの?」ドキドキ

提督「お前が望むんだったらな。まあ、こういうのはあんまり良くねえのかもしれないが……」

明石「良くないと思うんだったら止めたらいいじゃないですか」

伊8「明石さん何か言った……?」ドロリ

明石「ひぃっ!? 目が怖い!?」ビクッ

リサーナ「なんか、さっきも聞いたわそのセリフ」

提督「なんでもとはいかないが、これじゃないと嫌だって言うんだからご希望通りにするだけさ。軽巡棲姫、そろそろおしまいだ」

軽巡棲姫「……名残惜シイワァ……」ションボリ

伊8「はっちゃんの番ですね」キラキラキラッ

明石「……はあ。まあ、いいですけど……」チラッ

アカネ「あ、あわわわ……」セキメン

イブキ「ご、御褒美ってそういう……!?」セキメン

イサラ「か、帰ってもいいっスか……!?」ガクガク

明石「ほらー提督ー、慣れてないメディウムの皆さんが怖気ついちゃってますよー?」

提督「いや、あくまで希望者だけだぞ? 別に何か欲しいものがあればそっちを優先するし」


ベリアナ「私はご主人様のハグがいいわぁ~! そういうの、たくさんちょうだ~い!」キャー!

提督「あ、ベリアナとイブキとアカネは後半サボったから、ハグとかお願いはなしだぞ」

ベリアナ「なんでよぉ!?」イヤーン!

イブキ「良かったのか悪かったのか……」

アカネ「……イサラちゃんはハグしてもらえるんだねー」

イサラ「ファッ!? ま、まだそうと決まったわけじゃないッス……!!」オロオロ

アマナ「私はどうしましょう……新しいお掃除道具も欲しいし……」ウーン

チェルシー「私も個人的な船が欲しいなあ……でもあの御褒美もちょっと……」ポ

ヨウコ「興味はあるわけだね?」

チェルシー「ま、まあね……?」テレッ

ヴァージニア「やれやれ、これがあの恐れ多いと言われた魔神の姿とは……あるじよ。貴様は部下に対して甘やかしすぎだ」

提督「そうか? やってることは戦争だからな。まともに戦えない俺の代わりに出向いてくれてんだぜ? 労いは必要だろう」

提督「お願いがあるならそれなりに聞いてやらなきゃ、不義理ってもんじゃねえか」

ヴァージニア「む……」


提督「よし、はっちゃんもこのくらいでいいか?」

伊8「堪能しました。また、お願いしますね?」ムフー

提督「おう。さて、それじゃあ一番働いてたヴァージニアに最初に訊くか。お前の希望は?」

ヴァージニア「……無い。施しを受けるのは下々の者がすることだ」プイ

ヨウコ「ヴァージニア!? 司令に向かってなんてことを!」

提督「んじゃあ、下々の者らしくするかね……」グイ

ヴァージニア「わ、私の右手を……な、何をする……!?」

提督「……こうするのさ」ヒザマズキ

ヴァージニア「っ!!」

伊8「あー……なるほど」

リサーナ「ヴァージニアの右手の甲にキスを……!」

軽巡棲姫「アア、ソレモイイワネェ」ポヤーン

明石「うわー、そう来るかあ! もう、なんなのこの人! 普段朴念仁のくせに、こういうときだけわかってるっぽいことする!?」

提督「お前の場合、物をあげたり頭撫でたりすんのも失礼なんだろうからな。これで容赦してくれ」

ヴァージニア「っ……お、おのれ、この粗忽者め……!」セキメン

アマナ(そういう割には嬉しそうですね……)


ベリアナ「ずるい! ずるーい! ご主人様、私にもチューしてぇええ!」

提督「……」ムゴンデテノヒラワキワキ

ベリアナ「ひぃっ!?」タジロギ

チェルシー「そんなに怯えるほどのものなの?」

リサーナ「すごかったわよ~? ベリアナが掴まれてるところをみたけど、本気で痛がってたもん」

ヨウコ「さすが司令だね! 力も強いなんて、頼もしい……はっ!? もしや司令、あなたがメディ・レッド……!?」

提督「いや、俺はブラックかブルーあたりじゃねえか? レッドなんて暑苦しいのは俺のカラーじゃねえ」

伊8「真面目に返すんですね、それ」

提督「ヨウコは冗談を真に受けるタイプだろうから、ストレートでいいんだよ。洒落た冗談返すのも面倒だしな」

提督「つうか、そもそも俺はヒーローってガラでもねえしな。俺は裏方でいいから、目立つ役目はヨウコに任せるぜ」

ヨウコ「司令……あたしを、信頼してくれてるんだね!? よぉし! これからも正義のために、頑張るよ!!」ウオオオ!

提督「ほどほどでいいからな? 適度に力抜けよ?」


明石「……まったく、相変わらず優しいんだか突き放してるんだかわかんないですね?」

提督「俺としちゃあ、この島の住人が気分よく快適に過ごしてもらうために働いてるわけだからな」

提督「俺にできないことは最初から断ってるだけだ。どっちにしても、問題があるなら次から改めるが」

明石「いいえ、ああは言いましたけど、その辺のバランスがあってこの鎮守府が続いてるわけですし」

明石「いろいろとまどろっこしく思いますけど、提督の感覚で対応してもらって大丈夫だと思いますよー」

提督(微妙に棒読みくせえな……)


 *


イサラ「……」カオマッカ

提督「お前の髪の毛、すげえ帯電してんだな。体質……というより、メディウムの能力によるところか、これ」シャッシャッ

イサラ「あ、あの、ま、魔神さん、静電気、痛くないっスか」

提督「おう。大したことねえよ」

イサラ「ま、まさか、魔神さんに髪の毛を梳いてもらえるなんて……」

提督「こんだけ常々帯電していると毛先も痛むんじゃねえかと思って、ちょっと気になっただけだ」


提督「お前自身の能力に差し支えるならやめとくが、このくらいの手入れくらいはしてもいいだろ」

イサラ「め、めっちゃありがたいっス……ナンシーからは、せめてもう少し短くしたほうがいいって言われるっスけど」

提督「そりゃ前髪とか野暮ったく見えるせいだろうな。でも、お前はこのままのほうがいいんだろ?」

提督「枝毛が出来てたりしたらさすがに話は別だが、まあ好きにしていいと思うぞ」シャッシャッ

イサラ「好きに……いいっスか。うへへ……」

提督「よし、こんなもんでいいか。そういえばイサラ、お前、櫛って持ってたか?」

イサラ「い、いや、持ってないっス……」

提督「んじゃ、これやるよ。ついさっき、酒保から買ってきたばかりだから新品だ」

イサラ「い、いいんスか」

提督「おう。使うときは使ってくれ。いらないときは捨ててくれりゃいいし」

イサラ「そそそそんなことは! あ、あの、ありがとうっス……んふ、んふふふ……」ニヤニヤニヤ

チェルシー「なるほど……私も髪の毛、伸ばそうかな……」フムフム

アカネ「アマナちゃん、まだ立ち直れないの?」

アマナ「……」クテェ…

イブキ「そんなに強烈なのか? 魔神様の『耳掃除』ってやつは……」ブルリ

明石「こうやって犠牲者が増えていくのねー。知ってはいたけど」

チェルシー「犠牲者って……」タラリ


伊8「そういえば明石さんも提督にマッサージしてもらってるとき、すごい声出てますよね」

明石「ちょっ!? 聞こえてたの!?」カオマッカ

伊8「ヴァージニアさんも提督にマッサージしてもらったらどうです? 気持ちいいですよ、提督の足裏マッサージ」

ヴァージニア「!?」

チェルシー「ねえ、もしかして犠牲者増やそうとしてない?」タラリ

伊8「そんなことないですよ? みんなに提督がとってもいい人だってことを知って欲しいだけです」デロリ

チェルシー「ひぃい! 笑顔が怖い!!」

明石(朝潮ちゃん並みの狂信者がもう一人……)アタマオサエ

提督「さてと、それじゃあヨ級やカ級たちのところにも行ってくるか。あいつらの望みってなんだろなあ……」

伊8「提督、泳げないんだから一人で行こうとしないでください」

軽巡棲姫「心配ダカラ、私モ行クワネェ?」

チェルシー「私も行こうかなあ……」

 ゾロゾロ

明石「……提督が一人になりたい時間があるっていうのも、あれを見てるとなんか納得しちゃいそうだなあ」

ヴァージニア「馬鹿め。この島のあるじが、独りでいては危険極まりないだろうが」

ヴァージニア「衛兵の一人や二人、常に侍らせておくのが当然なのだ。まったく、不用心が過ぎる……!」ブツブツ

明石「……あなたもついて行きたかった口ですか」

ヴァージニア「んなっ!? そ、そんなわけがあるか!?」


というわけで今回はここまで。
アマナとヨウコの名前は一時期、アマラとヨーコと勘違いしていました。反省。


>48
ご協力ありがとうございます。
スレッドの順番で上にいると、ごくたまに荒らし目的の書き込みがくるときがあります。
幸いにして、これまでそういった書き込みには遭遇していません。

>49-50
丁度その話になりましたが、こんな感じになります。
沈めると言うより鹵獲か掠奪と言ったところでしょうか。
船体から人の魂まで全部奪って無駄にしない精神。

>51
ここで喋らせてもいいけど、どこか作中で言わせるべきか……?
今回は保留で。


今回登場のメディウムはこちら。

クリスティーナ・ライジングフロア:ダンサーのメディウム。床がせり上がり人間を真上に高く飛ばす罠で、ロック系も飛ばすことができる。
  誰よりも高く飛ぶことを目指す孤高のダンサー。日頃から練習に明け暮れる努力家ゆえに無理しがち。休みには紅茶を嗜む優雅な性格。
カトリーナ・スイングハンマー:ガテン系メディウム。巨大な石槌で人間を跳ね飛ばす罠で、柱や石像も軽々とへし折ったり動かすほど。
  巨大なハンマーを担いだ屈強な女性。見た目同様豪快な性格だが、裁縫や料理など一通りの家事も不器用なりに練習する実直さも持つ。
エミル・トイハンマー:お人形のような可愛いドレス姿の幼女メディウム。巨大なピコピコハンマーが、思い切り人間を叩いて辱める罠。
  巨大なおもちゃのハンマーを担いだ少女。メディウムの中でも特に幼い外見だが可愛いと言われるのを嫌う。見栄っ張りで意地っ張り。
オリヴィア・クエイクボム:巨漢ヒール女子プロレスラー姿のメディウム。局地的な地震を引き起こし、人間の動きを封じてしまう罠。
  ルチャスタイルの女性レスラー。痩せやすい体質で普段から食事に気を遣っている。痩せた姿とどちらが本来の姿なのかは不明。

続きです。


 * 本営 *

中将「政府から、××島への使節団派遣の詳細が届いた。交渉日は、最速で×月×日を希望しているということだ」

X大佐「来月ですか。かなり早いですね」

中佐「政府も、こういったケースを想定してしていたのだろう。もしかしたら君と同じ考えの人間がいるのかもしれん」

X大佐「だとすればありがたいですね。では私は早速、提督と日程を調整して参ります」

中将「うむ、頼むぞ。それから、警告しておいた彼の弟についてだが、彼も官僚の一人として乗船は許してほしいと言ってきた」

中将「その代わり、提督との交渉の席には一切姿を見せないことを保証するということだ」

X大佐「ほかの官僚のサポート役をさせようと言うことですかね……承知しました、その件についても提督に連絡いたします」

中将「うむ……それからもうひとつ。海軍は、今頃になって深海棲艦との対話の是非に悩んでいるようだ」

中将「儂も懸念してはいたが……深海棲艦が『人』ではないからこそ、海軍としても容赦ない攻撃ができていたというところは否めん」

X大佐「……」


中将「そして同じく、艦娘も『人』として扱われなかったからこそ、これまで我々が戦い続けられた、というのも、ないとは言い切れない」

中将「皆の不安は様々だ。深海棲艦と対話できるようになって、これまでの我々の戦いを咎められないか」

中将「深海棲艦からどんな恨み節を聞かされるか。なぜ、今更になって深海棲艦と話ができることが分かったのか」

中将「深海棲艦が艦娘と仲良く国を作るとなれば、これまで艦娘の力を借りて……」

中将「否、艦娘に頼りきりだった深海棲艦との戦いは、どう変わってしまうのか」

中将「そして、艦娘にも人権が生まれるのではないか。艦娘が、本当に危険ではないのか」

X大佐「……」

中将「彼らの不安ももっともだ。ある意味、これまでがいびつで、我々にとって都合が良すぎたとも言える」

中将「彼女たち艦娘が、我々海軍に唯々諾々として従っていたのを、何の疑問も持たずに迎合して、利用してきたツケが回ってきたのだ」

X大佐「中将閣下。それは違うと思います」

中将「……」


X大佐「彼女たちは……艦娘は、純粋に人の助けになるために現れたと考えています」

X大佐「深海棲艦という、人間に対する悪意に対抗するために現れた、人間の善意、善性とも言える存在だと考えています」

X大佐「僕たちが彼女たちを裏切ることがない限り、彼女たちは僕たちに協力してくれるはずです。これまでだってそうだったのです」

中将「……」

X大佐「それから、かつての深海棲艦とは話ができたとは思えません。彼女たちは、我々に対し悪意と敵意をむき出しにしてきました」

X大佐「なんらかのきっかけがなければ、提督とはいえ彼女たちとの交流は成し得なかったはずです」

X大佐「都合の良い考えかもしれませんが、我々が深海棲艦と理解し合うためには、時間が必要だったのです」

X大佐「もちろん、後腐れなく、なんて都合のいい話はあり得ないでしょう。人間同士の戦争ですら、そうなのですから」

X大佐「彼女たちが抱えていた悪意を我々が正しく理解し、艦娘とともに共栄できる道を探していくことが大事だと、そう、考えています」

中将「……そうであってほしいものだ」

中将「不確かな情報だが、彼以外にも深海棲艦と内密に交流している海軍提督がいるらしい」

中将「あの島の深海棲艦たちと対話が進めば、他方の深海棲艦とも交流が期待できるかもしれん」

中将「海に平穏を取り戻すため……くれぐれもよろしく頼むぞ、X大佐」

X大佐「はっ!」ケイレイ


 * 墓場島 東沖 *

 * 海軍巡視船内 会議室 *

金剛「テェェェェトクゥゥゥゥ!!」ダキツキー!

提督「どわっ!?」ガッシィ!

陸奥「ちょっと金剛!?」

金剛「うう……寂しかったデース! 逢いたくて逢いたくてたまらなかったデース……!!」スリスリスリスリ

朧「金剛さんは相変わらずですね」

X大佐「どこの金剛も熱烈だよね」

提督「冷やかすなよ……それはそうと、この前の船とは違う船で来たんだな。おかげで深海棲艦たちがざわついてたぜ」

X大佐「あの船は医療船だからね。便利ではあるけど、特に診るべき患者がいないのなら、ここにそれで来る理由はないよ」

X大佐「それで、あの島の再建は順調かな?」

提督「まあ、いまのところは順調だな。もうじき、人間を受け入れて話し合う場所も出来そうだ」

提督「ただし、あくまで話し合いの場だ。飯を出すくらいはしても、寝泊りできるような設備まではこっちじゃ作れねえ」

X大佐「あの島では、食材の自給自足も難しいだろうからね」

提督「ああ。その辺は残念ながら燃費の悪いやつしかいねえんでな……」ハァ…


X大佐「食糧支援はしばらく必要になるということだね?」

提督「あんまり世話になりたくねえんだが……当分は資源や鉱物との物々交換で頼む」

金剛「No probrem... これからのテートクのsupportは、全部私に任せて All Okey デース」ホオズリホオズリ

提督「お前なあ……」

青葉「本当に金剛さんは司令官が大好きですねえ」

島風「提督、ただいまー!」

提督「よう、おかえり……って、お前たちだけか? 武蔵や比叡や白露とかも戻ってくる予定だっただろ?」

青葉「武蔵さんは那智さんと一緒に与少将のところで、もうしばらく勉強したい旨の連絡がありました!」

青葉「比叡さんはW大佐のところの榛名さんにくっつかれているそうで、離れるまでもう少し時間がかかりそうです」

提督「あー……あっちの榛名も比叡の件は相当泣きじゃくってたからな。んじゃ、しゃあねえか」

島風「それから白露も、第二改装が適用できそうだって話で、本営で診てもらってるんだけど……」

島風「今の艤装を改造した経緯? ってのを細かく聞かれてるらしくて、まだ戻ってきてないんです」

提督「あの魔改造、そんなに深刻なのか? 仁提督んとこの明石は、白露の艤装になにしてくれてんだよ」

島風「あっちの明石さんは悪くないですよー、あの改造は白露の希望通りにしてくれた結果ですし!」

提督「そりゃあそうかもしれねえけどな……」


島風「超がつくほど改造好きなのは問題かもしれないですけど、島風たちには優しかったですよ?」

島風「もともと仁提督が駆逐艦に興味なかったせいで、最低限の駆逐艦しかいなかったって言うのもあるんですけど」

島風「あの明石さんも駆逐艦が好きらしくて。どれだけ最高の駆逐艦を作れるか、って、長門さんと夜通し話し込んでたって聞いてます!」

提督「やべえ奴じゃねえか……!?」

島風「そうかなあ? 島風の艤装とか、すっごい念入りにメンテナンスしてくれましたし、悪い人じゃないと思いますけど」

提督「あいつんとこの長門が問題児だからな……そいつと馬が合う明石とか、想像したくねえ」ウヘェ…

青葉「いろいろ思うところはありますが、青葉的にはさっきからずっと抱き着いて離れない金剛さんもなかなかのものだと思いますよ?」

提督「……昔、10分間は抱き着いてもいいってルール作ったこともあるしな。ま、このくらいは黙認してやるよ」ナデナデ

金剛「うへへへ、テートク、愛してマース……!」ンチュー

提督「調子乗んな」アタマガシッ

金剛「ひっ」ビクッ!

島風「ん-、でも、しょうがない感じはありますよね、さっきの話を聞いちゃうと」

提督「ん? どういうことだ?」

島風「金剛さん、あっちの鎮守府で追い掛け回されたんですって!」

朧「は?」


青葉「なんでも、そこの男性に求婚されてたらしいんですよ」

提督「なんだそりゃ。相手はQ中将の後釜の新しい提督か?」

金剛「No ! 違いマース! あちらの鎮守府の新しい提督は、すでに結婚済みで、落ち着いた人デース!」

金剛「私を追いかけてきたのは、その提督の息子さんデス……!」アオザメ

朧「金剛さんが青ざめるほど、嫌な要素があったんですか?」

金剛「Yes...! いくら私でも、小学生と結婚するのは無理デース!!」

提督「はあ?」

朧「しょうがくせい?」

青葉「Q中将の後釜についた提督の息子さんが、金剛さんを気に入ってしまったらしいんですよ」

青葉「大きくなったら金剛お姉ちゃんをお嫁さんにする、とか言って、とにかくくっついてきてたらしいんです」

金剛「私も子供自体は嫌いじゃありまセン。But !! 未成年者とのLoveを育むのはお断りデェース!!」

提督「金剛の倫理観がいまいちよくわからねえ」

島風「なんか、未成年者の略取誘拐罪っていうのに抵触するーって、金剛さんが言ってましたけど本当ですか?」

提督「その辺の法律はわかんねえっつうか知らねえよ」


陸奥「子供の言うことなんだし、適当に流してあげてもいいんじゃないの?」

金剛「子供だからこそ真面目に返してるデース!! 彼が二十歳になるのに11年も待ってられまセン!」

提督「ここのつ、か」

青葉「ここのつ、だそうです」

金剛「最近の小学生はマセすぎデス! 一緒にお昼寝しようとか言い出して胸とか触ろうとするんデスヨ!?」

朧「うわ、確かに触られるのは嫌だなあ……」ウーン

金剛「それに、どこで仕入れたかわからない変な知識を、変な口調でお構いなしに喋り出シテ! 私だって反応に困りマス!」

提督「なんつうか、自分に興味持ってほしくて必死になってる感じか?」

青葉「そんな感じでしょうねえ。とにかく自分を見てほしいんでしょう」

提督「そんな齢の話なんて忘れちまうだろ。陸奥の言う通り適当にあしらっちまえよ」

金剛「No、子供であるほど冗談は通じないものデスヨ? 仮に子供の約束でも、その子が本気なら無碍にはできまセン」

金剛「それに、自分が子供であることを利用して、冗談と本気のギリギリの間を攻めてくるような子供に、中途半端な答えは禁物デス」

金剛「スマホを隠し持って、録音までしようとしてたくらいデスから」

提督「録音とはまた……スト-かーかモラハラ気質になりそうなガキだな。そりゃ将来が思いやられるぜ」


X大佐「注意喚起が必要だね」

提督「よせよせ。親になったことのねえ奴が、他人の子育てに口出ししても、ろくな事にならねえよ。放っとけ」

X大佐「そういう意味じゃなくてね。子供が勝手に鎮守府内をスマホをもって歩き回ることに、だよ」スクッ

提督「!」

 チャッ パタン

陸奥「X大佐がどこかへ行っちゃったんだけど」

青葉「X大佐が怒ってるところ、初めて見ましたねえ?」

島風「あれ、怒ってたの?」

青葉「目は笑ってませんでしたね。なるほど、X大佐は怒ると真顔になるんですねえ」

提督「さては新しい提督を始末しに行ったか?」

朧「始末……そうかもしれませんね」

島風「提督は怒らないんですか?」

提督「関わるのが面倒臭え。これ以上、艦娘に害が及ばない限りは俺はどうでもいいや。現にX大佐が動いてるしな」


金剛「私はひどい目に遭いマシタヨ?」

提督「拒絶して逃げおおせてきたんだろ? もう行く必要がねえなら、それで縁切りでいいじゃねえか」

提督「そのガキが島に来ようものなら、メディウムに歓迎してもらうだけだ」

金剛「……Q中将の奥様が心配デス」

提督「鎮守府の外で会えばいいだろ。っつか、鎮守府勤め自体辞めてもいいんじゃねえか? 海軍の直接の関係者ってわけでもねえんだし」

金剛「そうかもしれマセンネー……」

陸奥「それより、金剛はもう10分以上抱き着いたままだと思うんだけど」

金剛「Hey, 陸奥……? これまで1か月近く提督のもとを離れていたんデス、ちょっとくらい大目に見まセンカ?」

陸奥「2週間くらいじゃなかった?」

金剛「どのくらい誤差デース! テートクから離れていた私のカラダは、テートク分を求めているんデース!!」

提督「なんだその提督分ってのは」

金剛「艦娘に必要な成分のひとつデス。不足すると艦娘の活動に支障をきたす物質で、シレイニウムとも呼ばれていると聞きマシタ!」

提督「なんだそりゃ??」


金剛「とにかくこうやってテートクにくっついて、テートク分を私の体に補充してるデース!」ヒシーッ!

陸奥(わかる気がする……)

朧(わかる気がする……)

 扉<ガチャー!

伊58「ゴーヤもわかるでち!!」

提督「うお、びっくりした。誰だお前」

伊58「あ、はじめまして、伊58です! X提督の潜水艦娘だよ! ゴーヤって呼んでもらってるんだ!」

X大佐「今日は彼女に秘書艦をしてもらっててね」

伊58「X提督、最近はずーっと海外艦と一緒だったから、秘書艦は久し振りなんでち!」ピトッ

X大佐「ゴーヤ、お客さんの前なんだから、あまりくっつきすぎないようにね?」

伊58「えー、なんでー? あっちの金剛さん、ゴーヤよりくっついてるよー?」

提督「金剛。お前、あっちの潜水艦娘よりべったりくっつきすぎだ。見苦しいから少し恥を知れ」

金剛「」

島風「言い方きっつーい!」


青葉「それでX大佐、あちらの提督には釘を刺したんで?」

X大佐「彼の上官に連絡を取ったよ。彼は新婚で息子はいないはずと言っていたから、親戚の子を預かったのかもしれない、だって」

朧「それ、完全に部外者じゃないですか……?」

X大佐「今頃、特別警察が動いてるだろうね。彼が提督業を続けられるかどうかも審査することになりそうだ」マガオ

青葉「釘どころじゃないものがブッ刺さりましたか……」アタマオサエ

島風「良かったですね金剛さん! 二度と会わなくて済みそうですよ?」

金剛「」

朧「提督に突き放されてそれどころじゃないみたいだね……」

陸奥「今のうちに物理的にも引き剥がしとく?」

伊58「こんなにべったりくっつきたがる戦艦さんは初めて見たでち」

X大佐「……ゴーヤといい勝負だと思うけどなあ。君だって隙あらば膝の上に座ってくるじゃないか」

伊58「それは最近X提督がゴーヤたちと向き合ってくれないからでち」

陸奥「あらあら。X大佐も隅に置けないわね」クスクス

X大佐「場を弁えてほしいんだけどね……」


陸奥「まあ、それもそうね。ほどほどにしておかないと……」チラッ

金剛「私は見苦しくないデース!」ダキツキーッ!

提督「いい加減にしろっつってんだ!」アイアンクロー

金剛「Nooooooooo !!」メキメキメキ

伊58「うわあ……」ヒキッ

陸奥「ああなっちゃうかもしれないし、ね?」

青葉「普通はならないと思います」タラリ

朧「提督は普通じゃないですから」

X大佐「そうとは聞いてるけど……戦艦が痛がるとか、いったいどんな握力してるんだ」タラリ

伊58「あの人はツ級の生まれ変わりでちか……」ガクブル

青葉(半分深海棲艦だというのは当たってるから、ノーと言いきれないのが複雑ですねえ)


朧「そういえば、X大佐は金剛さんとは邂逅してないんですか?」

X大佐「できてないんだよなあ。金剛型どころか、戦艦自体と縁がなくてね。大型建造でも伊401が建造できたくらいだし」

X大佐「初めて来た戦艦がビスマルクで、次がローマなのは僕だけなんじゃないかな?」

青葉「それはX大佐しかいないでしょうねえ……」


 * 墓場島 南西に新築された屋敷 *

 * 屋敷の中央の大広間 *

島風「うわ、ひっろーい! ここで交渉が始まるんですね!」

提督「まだテーブルや椅子が入ってねえけどな。海軍が友好を示すために寄贈するとか言ってて、あとでここに運んでもらう予定だ」

電「派手な飾りもないのに、立派なお部屋なのです。ここにお客さんをお招きするのですね」

提督「まあ、招くっつうか堰き止めるっつうか……」

吹雪「堰き止めるって、水門みたいな言い方しますね!?」

提督「実際そうなんだよなあ。この島自体が俺たちの家みたいなもんで、この屋敷がいわば客間だ。長崎の出島みたいなもんだ」

提督「この島に住むのは、穏やかに過ごすことに賛成してくれた連中だ。面倒ごとからは遠ざけたい」

電「メディウムのみなさんもここにいるということは、このお屋敷で戦うことも想定しているってことですか?」

エミル「ぼくはどっちでもいいけどね。ここから奥に入ってきたら、誰だろうととっちめるだけだし!」

オリヴィア「ああ、そうだね。身の程を弁えない、生意気な奴はアタイがのしてやるよ!」

カトリーナ「あたしだって! アニキの敵は、全部ぶっとばしてやるぜ!!」

電「……いささか、血の気が多すぎる気がするのです」

クリスティーナ「そうね。罠なんだから、息を潜めることも大事よ? 血気ばかりが逸るのはどうかしら」

吹雪「そこはそういう意味じゃないと思うんだけど……」


提督「まあ、必ずしも善人だけがここに来ると決まったわけじゃねえからな。残念ながら」

提督「そもそも、メディウムが手を出さない条件は、この島の鎮守府に所属したことのある艦娘を連れていることだ」

エミル「最上とかが連れてきた人間は殺しちゃダメだってことだよね!」

電「加減……は、難しいんでしたね」

カトリーナ「電が殺しちゃ駄目だって言うんなら、ちょっとくらいは考えて戦ってもいいけど、あたしの武器で加減ってのはなあ」

電「確かに、難しそうなのです」

提督「それに、下手に加減すると、勝てると勘違いして向かってくる馬鹿もいるからな」

提督「どうしても、ってんなら、先に電がその相手に会って、信じられるかどうか判断するしかねえんじゃねえか?」

電「かもしれませんね……」

オリヴィア「アタイらの経験上、人間はズルいだからねえ。お人好しの電を騙すかもしれないよ?」

カトリーナ「そんな不届きな奴だったら、なおのこと、あたしが世界の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!!」

提督「なんだ、やけに気合入ってんな」

カトリーナ「あたし、電にはいろいろ世話になってるからさ。その、飯の作り方を教えてもらったりもしてるし……」

電「カトリーナさんのハンマーを勝手に持ち出したこともありましたので、電のできる範囲でやってるだけなのです」


提督「ふーん……お前たち、そこまで仲良くしてたのか。ちょっと意外だな」

オリヴィア「カトリーナはこれでも素直だからねぇ。みんなは単純だなんて言うけど、そこがいいところだとアタイは思うよ?」

カトリーナ「な、なんだよいきなり……照れるじゃねえか」セキメン

オリヴィア「アタイはあんたのことを認めてんだよ。純粋なパワーでアタイに太刀打ちできるメディウムは少ないからねえ」

提督「なるほどなあ……パワー自慢のメディウムって確かに少ねえって、誰かも言ってたな?」

島風「スピードなら負けない!!」

クリスティーナ「高さなら負けないわ!!」

エミル「うぐぐ……ち、ちくしょー! ぼくだって、ぼくだってえええ!!」

提督「張り合うな、って言いたいところだが……まあ、得意分野のひとつやふたつは開拓してもいいかもしれねえな」

エミル「ほんと!? じゃあ、ぼくは何が得意だといいかな!?」

提督「そこは俺に訊くなよ、自分の好みから好きに選べ。こういうのは誰かから押し付けてもらうもんでもねえだろ」

エミル「好み? 好みかあ……うーん」


島風「ねえねえ提督? 思ったんですけど、この部屋の柱、走り回るのになんだか邪魔じゃないですか?」

提督「いや走るなよ……まあ、確かに部屋の見通しは良くねえな?」

カトリーナ「ああ、その柱なら、あたしがハンマーでぶっ倒して下敷きにできるように立ててもらってるんだよ」

島風「はい?」

電「ぶっ倒すんですか?」

吹雪「この柱を?」

提督「そう来るか……」アタマオサエ

カトリーナ「なんなら壁でも天井でもぶっ倒すなりぶち落とすなりして下敷きにしてやっていいんだぜ!」

電「というか、倒したら建物が崩れたりしないのですか?」タラリ

クリスティーナ「柱を抜いただけで天井が落ちてくるほど、やわな造りにはしてないって聞いてるけど」

オリヴィア「それに天井を落としたいなら、フォールニードルのナンシーがいるじゃないか」

カトリーナ「あ、それはそうだな!」

提督「屋敷をぶっ壊す気かよ。元に戻すのが大変すぎるだろうが」


カトリーナ「そうは言うけど、あたしたちが柱をぶっ倒さなきゃならない時点で、敵さんだってなりふり構ってらんねえだろ?」

カトリーナ「抵抗するときでも逃げるときでも、この屋敷を壊さないように、なんて考えたりしないんじゃねえかなあ」

カトリーナ「窓どころか、壁をぶち破ってでも出て行こうとするかもしれねえぜ?」

提督「それもそうか。命の危険を感じてるときに、余所の屋敷の心配する奴はいねえな」

吹雪「……あの、司令官? ちょっと思い出したんですけど」

提督「ん?」

吹雪「メディウムが一番最初に鎮守府を乗っ取ったときのこと、覚えてますか? 私たちはロビーでメディウムの皆さんと戦ったんですけど」

吹雪「その時、アローシューターみたいな矢や、ファイアーボールとかローリングボムみたいな炎や爆発物が飛び交ってたんです」

吹雪「でも、戦い終わってロビーに戻ってみると、例えば矢が刺さった痕跡とか、燃えたり爆発してできた焼け跡とかがなかったんですよ」

提督「……そういやそうだったか?」

クリスティーナ「それは私たちメディウムがつけた傷だからでしょうね」

クリスティーナ「私たちは気付かれずに人間たちを殺さなきゃいけないから、現場に痕跡が残らないようにしてるの」

提督「それも魔力でか?」

クリスティーナ「そういうことになるわね」


提督「随分都合がいい能力だな」

クリスティーナ「当然じゃない。私たちの都合のいいように力を使っているんだもの」

クリスティーナ「私のライジングフロアを発動させるたびに、床に穴をあけてたらきりがないわ」

提督「ああ……それもそうか」

クリスティーナ「さすがに、ライジングフロアで飛ばした人間が壊した天井とかは、復元できないけどね」

オリヴィア「まあ、柱に関しては別にアタイたちだけじゃなく、人間にとっても都合が良かったりするんじゃないかい?」

オリヴィア「逃げ回るときに柱がこのあれば、弾除けくらいにはなるだろうしさ」

提督「深海棲艦だって馬鹿力が多いぞ。ハンマーで倒れちまうような柱が役に立つのか?」

カトリーナ「そうならないように、人間は深海棲艦のご機嫌を取らなきゃいけないんじゃないのか?」

エミル「え? そうなの? ぼく、てっきり、ここで暴れた奴らは、人間でも深海棲艦でも全員やっつけるんだって思ってたけど」

吹雪「ちょっ!? だ、駄目だってば!」

オリヴィア「いや、意外とアリだねえ。話し合う場だって言ってんのに、従わないんじゃあ示しがつかないね。違うかい、アミーゴ?」

提督「確かに、暴れて建物壊されるよりは、そのほうがいいかもしれねえな。そうなったら一番手は、この中からだとエミルか?」

エミル「えっ!? ぼくなの!?」


提督「暴れようとした相手に、警告として軽く一発どつく分には、エミルのトイハンマーか、ジュリアのハリセンが適任じゃねえか?」

提督「複数人の動きを封じるって点ではクエイクボムがいいだろうな」

エミル「やったあ! ぼくが一番乗りなんだ!!」

クリスティーナ「私のほうが適任だと思うけど……」

提督「罠としての発動の速さならな。お前の攻撃を避けられる奴はそうそういねえだろう」

提督「けど、ここでお前のライジングフロアで吹き飛ばしたら、そいつは天井に激突するだろ? 脅しの初手にしては重すぎる」

提督「それにライジングフロアは意外と範囲が広い。一人だけ暴れた時は、ピンポイントにそいつだけ叩きたいとなると、難しいだろ?」

クリスティーナ「……そういうことなら、仕方ないわね」

提督「歯向かうのが一人だけならエミルかシャルロッテ、団体様ならジュリアかオリヴィア、ってとこだろうな」

吹雪「司令官、だんだんと罠の扱いに慣れてきてますね……」

提督「うーん、なんでだろうな? なんとなく、直感でこの罠はこう使う、ってのがわかるんだよな……」

エミル「魔神様なんだから当然じゃないの?」

オリヴィア「そうだよ、アミーゴはアタイたちのことを知ってなきゃおかしいんだ」

カトリーナ「アニキがいるから、ここの艦娘たちと仲良くなれてんだぜ?」


クリスティーナ「もう少し自信を持って、私たちを率いてもらわないと困るわね」

提督「……ま、善処するよ」

電「どう見ても面倒臭がってるのです」

提督「ぶっちゃけ、メディウムが活躍するような事態にはなって欲しくねえってのはあるがな」

クリスティーナ「……まあ、平穏を望むのなら、そうあって欲しくもあるわね」

 扉<ギィッ

青葉「おお、こちらが会議室ですか! なかなか広いですね、このお部屋は!」

金剛「Hmm... 椅子とテーブルがまだだとは言え、Simpleでいいと思いマス」

提督「よう、お前たちが見てきた客間はどうだった?」

金剛「ン-、客室としては本当に最低限、と言う感じデスネー。あまり居心地が良くても問題でショウけど」

提督「準備するだけの控室だからな。全身映せるでかい鏡と化粧台、水回りを置いただけでも、この島の施設としては上等なもんだ」

提督「間違っても人間どもを寝泊まりさせるような設備は置きたくねえし、そもそも居座って欲しくねえ」

青葉「そこは大丈夫ではないでしょうか? 今もお近づきになりたくない人がいるくらいには、忌避されている島ですから」

提督「だといいけどなあ」


青葉「もっとも、このお屋敷をわざわざ鎮守府から一番遠いところに置いたあたりからも……」

青葉「人と関わりたくないからじゃないかと、感じられるところはありましたけどね」

金剛「ところで、このお部屋にメディウムの皆さんがいるということは……」

オリヴィア「アタイたちも部屋の間取りの下見だよ」

オリヴィア「いくら連中のために用意したとはいえ、暴れるようならアタイたちにお呼びがかかるわけだからね」

提督「とはいえ、暴れるのが人間とは限らねえ。この島は、人間と深海棲艦の交渉の場として使われる」

提督「人間を騙し討ちしようとする深海棲艦が来るケースも想定しとかなきゃいけねえんだ。むしろそっちの方が可能性は高い」

金剛「!」

吹雪「そ、そっか……最近、深海棲艦と仲良くしてたから、気が緩んでました」

提督「その時はメディウムだけじゃなく、艦娘の力も借りねえと駄目だ。特に避難誘導とかは艦娘にしか任せられないからな」

金剛「Yes ! そういうことなら、私たちに任せるネー!」

提督「頼むぜ。マジで頼りにしてんだからな……」フゥ…

クリスティーナ「? そういう割にはテンションが低いというか、落ち込んでるように見えるわね?」

電「あ、それは、単に司令官さんが面倒臭がってるだけだと思うのです」

クリスティーナ「」


青葉「各国の代表を受け入れるとなれば、その受け入れ準備とか会場設営とか警備の手配とか、やることは山ほどありますからねえ」

エミル「人間たちの意味でおもてなしが必要なのかあ……それは嫌だね?」

提督「んっとに、マジでやってらんねえ……面倒臭えし、結局お前たちに苦労かけてるし」ガックリ

金剛「Hey, テートク? 私たちがテートクと島のために働くことは当然のことデス。お手伝いするからしっかりするデース」

吹雪「そうですよ、私たちに任せてください!」

提督「んあー、悪いな……」

 *

青葉「ところで司令官? 来月、政府との交渉を決めたそうですが、こちらのお屋敷でやるんですか?」

提督「いや、まだこっちは使わねえよ。そもそも海軍が調度品持ってくるのが来月だし、準備してたら多分間に合わねえ」

提督「つうか、その話は俺たちと政府の対話だからな。こっちの屋敷を使うまでもねえ」

提督「あいつらが船を出して、そこの一室を会場にしたいって言ってきてるから、今回はそれに乗っかるつもりでいる」

青葉「なるほど……そこへ司令官が直参すると」

提督「俺が行くかどうかはまだ決めてねえな」

青葉「そうなんですか?」

提督「今回は向こうの要求を聞くだけだ。何が望みか、何がしたいのかを一通り聞いて、突っぱねるものと受け入れるものを明確にしたい」

提督「だから、あっちの話を聞くのと、必要な資料をまとめてこっちに送る準備をしとけとだけ言っておいた」

提督「それから、あいつらが真面目に俺たちと話そうとしてるかも確かめたいから、その場には深海棲艦にも同行してもらおうと思ってる」

青葉「となると、出向くのは泊地棲姫さんですかねえ……?」

提督「さすがに姫級じゃあいつらもビビるだろ。ル級あたりがいいんじゃねえかな? 良いと言ってもらえたら、だけどな」

提督「できるだけ話のわかる奴がいいな。誰にしようかねえ……」ウーン

と言うわけで今回はここまで。

>71
無人島ですので、使える物は使わないと、ですね。

これから起こる交渉のシーンや、曽大佐艦隊とのやりとりは
ある程度できているので、このあとのシーンが書き切れれば
それなりのスピードで投下できるかもです。


今回登場のメディウムはこちら。名前だけ出てくる子もいます。

・リンダ・ローリングボム:ボーリング選手のような風貌のメディウム。ボール状の爆弾が床を転がり、触れた人間を爆風で吹き飛ばす罠。
  何故か関西弁でボケ倒す、おしゃべり大好きねえちゃん。人を笑わせたいのか気を引きたいのか……というより、そういう性分なのかも。
・ニーナ・ペンデュラム:胸当てとドレスを身に纏ったメディウム。巨大なペンデュラム(振り子)の刃が往復して人間を切り刻む罠。
  花のお世話が趣味のお淑やかな女性。魔神を守る騎士を名乗るだけあって真面目で誠実。細身の体に似合わず巨大な鎖鎌を振り回す。
・ブリジット・ガトリングアロー:陸軍系の軍人っぽいメディウム。ガトリングガンから矢を連射して、人間を蜂の巣にする罠。
  規律正しい軍人と思いきや、実は趣味のコスプレ姿。実戦経験に乏しいので、その場の勢いやテンションの高さで誤魔化している。
・タチアナ・トリックホール:キャリアウーマン風のメディウム。深い落とし穴が突如現れ、足元がお留守な人間を嵌めてしまう罠。
  スーツ姿に眼鏡をかけた、お仕事大好きな真面目さん。書類仕事はお手の物、魔神のためにメディウム運用の効率化まで考えるほど。
・ノイルース・ファイアーボール:エルフのような長い耳を持つ魔導士のような姿のメディウム。火の玉が飛んできて、人間を燃やす罠。
  杖を携え炎を操る、長身のエルフの女性。四姉妹の長姉らしく、物腰柔らかく落ち着いた雰囲気を持つが、炎の話になると饒舌になる。
・キャロライン・ニードルフロア:金髪碧眼で着物姿、海外留学生風なメディウム。とげ付きの床がせり上がり、人間を串刺しにする罠。
  魔神をダーリンと呼び慕う、天真爛漫でアメリカナイズな女の子。生け花を嗜むが正座は苦手で、しょっちゅう足を痺れさせている。
・ケイティー・チャペル:花嫁衣裳のメディウム。教会の鐘が落ちてきて人間を閉じ込める罠。外から衝撃を与えると鐘の音で追撃できる。
  少々とは言えないほど独占欲が強すぎる女性。自分以外に魔神に近づく者をすべて排除し、鐘の中で二人きりになろうと企んでいる。

それでは続きです。


 * 鎮守府内 執務室 *

提督「それで推薦されてきたのが、時雨を見つけてくれたお前か。さっきまでも島の哨戒任務してくれてたんだってな」

ヲ級「……」コク

由良「ずっと哨戒任務を引き受けてくれてるし、この海域に迷い込んだ深海棲艦も保護してくれてるそうです」

提督「そんなことまでしてたのか? お前、すげえな」

ヲ級「……ソウカ? 誰カガ、ヤラナケレバナラナイコトダ。駆逐艦タチニモ手伝ッテモラッテイル」

提督「なんにせよ協力してくれてるのはありがたいぜ。そこに余計な仕事まで押し付けるようで悪いな」

提督「どんな話かは泊地棲姫から聞いたか? いきなり人間たちと話し合えって言われて、戸惑ってないかと思ってたんだが」

ヲ級「イヤ、ソレ程デモナイ。オ前ト話スヨウナモノダト、認識シテイル」

提督「……俺と、ねえ」

ヲ級「ナンダ? ソノ表情ハ」

提督「いや……海軍の人間も言ってたんだが、普通の人間にとって深海棲艦は脅威なんだ」

提督「実際に、お前の持ってる艦載機を使えば人間は殺すのは簡単だろ? お前以外の深海棲艦も砲撃なりなんなりの攻撃手段がある」

提督「何より、お前たち深海棲艦が、敵意を持って人間に触れると、その体が壊死するっつうか、朽ちていくとか言う話もあるし……」


提督「それがどういう理屈なのかはうまく説明できないが、それが事実なもんで、人間たちは深海棲艦をひどく恐れている」

ヲ級「触レルト……? 提督ハ、ナントモナイノカ?」

提督「魂が半分深海棲艦なせいか、俺の身には特に何も起きてねえな。というか、すでに人間じゃないからかもしれないが」

提督「ただまあ、そういう理由があるんで、お前と話す人間たちからそれなりに怯えられたり、嫌がられたりすると思うんだ」

提督「特に、来月乗り込むであろう船には、いろんな奴が乗船してると思う。深海棲艦が嫌いで、あからさまな態度の奴もいるはずだ」

提督「最悪、乗船した艦娘に威嚇されたり攻撃されるかもしれねえ。そういう状況下で落ち着いていられるか、その辺を確認したいんだ」

ヲ級「……イマノ時点デハ、ドウナルカハ想像デキナイ」

提督「うーん、まあ、それもそうだよな……」

由良「ねえ提督さん? その交渉に一緒に行く艦娘は誰にするか、決めてるんですか?」

提督「いや、そっちも決めてねえんだ。朧を候補にと考えてたんだが、露骨に嫌な顔されて断られた」

由良「そうなんですか? それじゃ、扶桑さんや陸奥さんは? 落ち着いてるし、話を聞くのは上手そうですけど」

提督「その二人だと、どっちも頷くと思えねえなあ。あれで扶桑は山城たちから離れたがらねえし」

提督「陸奥もちょっと人間嫌いなところがあってな。大勢の人間の前に立ちたいとは思ってねえんじゃねえかな」

提督「肝が据わってるって点では比叡なんだが、ちょっと素直過ぎて丸め込まれねえか不安だし、何よりまだこっちに戻ってきてねえ」


提督「ほかに適任そうなのは長門や霧島だが、余所の鎮守府に馴染み始めてるし、ここであの二人を頼っても後々うちのためにはならねえ」

由良「いま、この島にいる艦娘の中から選ぶのが賢明、ってことですね」

提督「そういうことだ」

ヲ級「……人間ハ、私タチト、話ガシタイノカ?」

提督「ん? 一応、そうだって言ってきているが」

ヲ級「仮ニ、私ト、艦娘ノ誰カト、提督ガ向カッタトシテ、私ニ声ヲカケテクルダロウカ?」

由良「!」

ヲ級「私ガ……深海棲艦ガ、人間ニ怖ガラレテイルト言ウノナラ、私ガ行ッテモ、提督ヤ艦娘トシカ話サナイコトニナルト思ウガ」

提督「……そうだな。いくらか慣れてる海軍の人間でも、深海棲艦との対話となると、多少なりともビビったりするはずだ」

提督「お前の言う、深海棲艦と艦娘と俺の面子だと、おそらく俺にしか話しかけてこないだろうな」

由良「艦娘にも話しかけてこない、ですか?」

提督「だと思うぜ。俺が島のことを仕切ってるわけだし、だとすれば、連中も俺以外と話をしようなんて思わないだろ」

提督「最悪その場で言質を取ろうと画策してくるかもしれねえ……となると、俺は出ないほうがいいんじゃないか、とも思えるな」

由良「……うーん」


提督「まあ、どっちみち、初回はあくまで顔合わせで済ませたいんだ」

提督「話を聞いて資料をもらって、あとはこっちで持ち帰ってから回答する、で終わらせたい」

提督「ただ、今回が単なる顔合わせだとしても、必ず深海棲艦が関わってくるぞ、って印象付けておきたいとは思ってる」

提督「俺たち全体があいつらに避けられること自体は構わねえが、深海棲艦だけが除外されて扱われるようなことは避けたい」

由良「そうですね。国交の話になると、資料とか山ほどあるでしょうし、その中でおかしな文言が入ってないか確認が必要ですよね……」

ヲ級「……」

提督「そういうわけなんで、まずはあいつらの社交辞令を適当に受け流してもらいながら、睨みを利かせてほしい、っていう難しいお願いだ」

提督「あいつらの無礼もある程度我慢してもらわねえといけなくなるはずだ。嫌な役割だが、頼めないか?」

ヲ級「……構ワナイ。引キ受ケル」

提督「本当に助かる。悪いな」ニコ

由良「……提督さん? 艦娘の出席者も決めないといけないですよね? ねっ?」

提督「そうだな」

由良「でしたら、ゆ」

ヲ級「私カラ、希望シテモイイカ?」

提督「ああ、もちろんだ。誰か一緒に行きたい艦娘がいるのか?」


ヲ級「誰、トイウノハ、ナイガ……艦娘ハ、駆逐艦ヲ連レテイキタイ」

由良「ええっ!?」

提督「……その理由は?」

ヲ級「駆逐艦ハ、人間ノ幼体ニ似テイルノダロウ? 成体ガ私ダケナラ、私ニ話シカケザルヲ得ナイ状況ニナルト思ウガ?」

提督「なるほど。確かに、駆逐艦娘は子供扱いされそうだな」

ヲ級「ソレカラ、イマノ話ニ少シ興味ガ湧イタ。オ前ノ言ウ、私タチニ怯エテイルノニ、軽視シタ態度ヲトル人間ガイノルカ、見テミタイ」

提督「そっちはあまり感心しない理由だな……」

ヲ級「ソウナノカ?」

提督「面白半分でやると痛い目見そうだからな。やるなとは言わないが、人間が用意した席での交渉ごとだ、油断だけはしないでくれ」

ヲ級「……ワカッタ」コク

由良(由良が行って褒めてもらおうと思ったのに)ションボリ

提督「さて、それはいいとして、朧以外に候補と言うと……朝潮は素直過ぎるし、若葉もいねえし、誰がいいかねえ」ウーン

由良「えっと……如月ちゃんは駄目なんですか?」

提督「人間に、肉体的に嫌な思いさせられてるからな。できればそういうトラウマが少なさそうな艦娘を選びたい」


由良「それなら……」

 扉<コンコン

敷波「しれーかーん、入るよー!」ガチャー

初雪「お邪魔します……」

敷波「水路のことで相談が……って、ごめん、取り込み中だった?」

由良「ううん、大丈夫よ。丁度良かった、提督さん、敷波ちゃんはどうですか?」

敷波「へっ?」

 * *

敷波「ふーん。いいよ」

提督「マジか。敷波は、こういうのは嫌がるもんだと思ってたんだが」

敷波「うん、好きじゃないけどね。でも、話としては、相手に適当に愛想良くして、書類をもらってくる、ってことでいいんでしょ?」

由良「そ、その通りだけど……」ウーン

敷波「由良さんさー。多分だけど、あたしのこと、可愛げがなくなったとか思ってない?」

由良「……以前はもう少し、言い方が柔らかかったって言うか、そこまでずけずけ言わなかったんじゃなかったかな、って」


敷波「今更だと思うんだけど」

由良「提督さんのせいですよ?」ジロッ

提督「そんなこと言われてもなあ……」

敷波「もー、由良さんてば、電のこともそうだけど、あたしのこと心配しすぎだって。ヲ級ちゃんもいるんだし、大丈夫だって」

ヲ級「……ヲキューチャン? 私ノコトカ?」クビカシゲ

敷波「あ、なんか違う呼び方のほうがいい?」

ヲ級「……イヤ、オ前タチガ呼ビヤスイナラ、ソレデイイ。私ノ名前ヲ訊カレテモ、思イ出セテイナイカラ」

初雪「名前?」

提督「俺たちは深海棲艦をル級とかヲ級とか呼んでるけど、それは海軍に発見された順につけられた、便宜上の名前だろ?」

提督「もともとはこいつもどこかの国の航空母艦で、その名前が思い出せないまま蘇ったのがこの姿なんじゃないか、って」

ヲ級「ソウイウ話ヲ、提督ト、シテイタ。モトモト私タチハ、人間ニ遭遇スルマデ、名前ナンテ意識シテイナカッタカラ」

敷波「……それじゃあ、そのうち名前を思い出すかもしれない、ってこと?」

提督「そこはわからねえな」

敷波「ふーん。どっちにしても『ヲ級ちゃん』は仮の名前だね」

初雪「メイメイカッコカリ……?」


ヲ級「タシカ……ソウイウノヲ、愛称ト、呼ブンジャナカッタカ?」

初雪「アイショウカッコカリ……!」

提督「そこにカッコカリはいらねえだろ」ツッコミ

リンダ「ええ感じのツッコミが聞こえたでぇ!」ガチャバーン!

提督「……」ムゴンデアタマツカミ

リンダ「へっ!? ちょ、にいさんちょっとタンマ! タンマや!!」アタマツカマレ

提督「ああ、ちなみにだが、お前たちが政府の連中と会うときには、一応だがメディウムも乗せてってもらうからな?」

敷波「はーい」

リンダ「はっ!? も、もしかしてにいさん、うちにそういうお役目を……」

提督「お前は駄目だ。半ば潜入任務みたいなもんだってのに、お前は1分と黙ってられねえだろ」メキッ

リンダ「ひ、ひいい!? そ、そないなことあらしまへんよ!? ううううち、こう見えてヤマトナデシコでございますやし!?」オタオタワタワタ

提督「滅茶苦茶怪しくなってんじゃねえか。そんなんで任せられるか、っての」パッ

リンダ「!」

提督「あまり話を脱線させるなよ。お前はボケられればそれでいいのかもしれねえが、話の邪魔はすんじゃねえ」

リンダ「えへへぇ……その、堪忍な?」


提督「とりあえずだ。敷波とヲ級に行ってもらうことにして、もう一人くらいついて行ってもらえると助かるな」

敷波「ふーん……初雪、一緒に行かない?」

初雪「え。いや……いいけど」

リンダ「いいんかーい!」ツッコミ

提督「初雪がやる気になるなんて珍しいな。大丈夫か?」

初雪「うん、まあ。面倒そうなことは、答えなくていい、なら」

提督「あー……そういう意味では適任か。確かに、ぱっと行って、ぱっと帰ってくるだけの話だしな」

由良「とにかく、会見の実績だけ作っておく、ということですね」

リンダ「なんや、せっかく行くのに挨拶だけで帰るん?」

提督「深海棲艦が政府の船に乗り込んで、書状を受け取って帰るってだけでも、向こうにしてみりゃ大前進だろ」

リンダ「いやいやー、どうせなら派手に一発……」

提督「そういう面倒臭え真似はよせっつってんだろ」テノヒラワキワキ

リンダ「ひっ! いや、いややなあ、ほんの冗談やぁて、冗談? な?」


提督「ま、向こうに落ち度があるんだったら、ぶちかましてもいいけど……かますにしても、ある程度落ち着いてるメディウムがいいな」

リンダ「はいはーい! うち! うちが」

提督「お前は駄目だっつったろ」

リンダ「ぎゃふーん!!」ズコー!

由良「普通、そうなるわよね、ね」

初雪「……司令官のリアクションが分かっててボケてる気がする」

敷波「ていうかさ、連れてったら、絶対うるさくて気が散るよね」

ヲ級「私モソウ思ウ」ウナヅキ

リンダ「なんでや! リンダちゃん泣いてまうで!?」ウルウルッ!

提督「ところで水路の件って何のことだ?」

リンダ「無視かーい!?」

敷波「あー、それさ、周りの建物のせいだと思うんだけど、一部の水路が直角に曲がってるんだよね」

敷波「そのせいで、曲がり切れずに怪我する深海棲艦がいてさ?」

ヲ級「……ソウイエバ、イ級タチガ、カラダヲブツケテタ」

初雪「海水が飛び散って、ビニールハウスの近くや花壇とかに入っちゃうから、見直してほしい……」


提督「あの水路、かなり頑丈に作ってたはずだな……作り直しができるか、タチアナや泊地棲姫に相談してみるか。最悪封鎖だな」

提督「ちょっと行ってみるか。リンダ、悪いが留守番頼む」

リンダ「へっ? にいさん……遂にうちを頼ってくれるん? しょうがないなあ、うちにまかしときや!」

リンダ「こう見えて待つのは得意なんやで? こう、ローリングボムを当てる! っちゅう、集中力ってえの?」

リンダ「百発百中のうちの腕前は、こう、待つことから始まるよってな? 隙を見つけたらこう、ズバーッと!」

リンダ「ズバーッと、て、うちの武器は刃物やないけど、鋭く投げる! こう! こうやで! な?」フリムキ

 シーン

リンダ「って、誰もおらんのんかーい!!」

リンダ「うう、寂しいなあ、あんまりやで、この仕打ち。なんでうちひとりで喋り続けてなきゃあかんねん……あ」

リンダ「ちょっと。そこの画面の前のきみ! そう、きみや! ちょーっと、うちとおしゃべりせぇへん?」

リンダ「あっ、ちょっと、スクロールするのやめてもろて! うちが消える! 消えるて!」

リンダ「ちょ、待ってえなーーー!」


 * 鎮守府 埠頭 *

那珂「メタネタは、使用上の注意をよく読み、用法、用量を守って正しくお使いくださいっ!」ビシッ!

山城「那珂ちゃん? 突然何を言ってるの……!?」


 * 工廠 *

明石「あ、提督! こちらにいらっしゃるなんて珍しいですね?」

提督「よう。忙しそうだな」

明石「いえいえ、いまはそうでもありませんよ? 怪我と言っても、みんな戦闘以外でできた大したことない怪我ばかりですから」

提督「今のところは一応、平和なわけか」

明石「そうですねえ。まさかル級さん以外の深海棲艦も診てほしいとか言われるなんて、思いもしませんでしたけど」

プール内のイ級「」チャプチャプ

プール内のロ級「」チャプチャフ

ヲ級「駆逐艦ノ傷ハ、スグ、治リソウカ……?」

明石「はい、大丈夫ですよ! もうすぐ修理完了です!」

提督「つうか、深海棲艦も診られるようになったこと自体もすげえな」

明石「ええ、もっと褒めてください!」ドヤッ!

提督「お前なあ……まあ、いいか。調子に乗ってもいいくらいの仕事をしてるしな。なんか入用なもんがあるなら、遠慮なく言えよ?」

明石「あれ、いいんですか? それじゃあ……」テマネキ

提督「ん?」


明石「マッサージ用のお部屋をひとつ作ってください。遮音性が効いてるお部屋で……!」ヒソヒソ

提督「……それ、今更じゃねえか?」

明石「今更でもいいんですぅー! 提督、お願いしますよ!?」

提督「お前の場合、自分で作れそうだけどな……まあいいや、あったほうがいいことは確かだし、予定には入れとくか」

ニーナ「遮音性と仰るのでしたら、神殿の中で行ってもよろしいかと思いますが」

提督「うお!?」ビクッ

明石「ひえっ!?」ビクッ

ニーナ「あ、申し訳ありません、驚かせてしまいましたか」

提督「くそ、お前ら気配の消し方うますぎんだよ……」

ヲ級「隠レテタノカ」

ニーナ「はい。時々練習しませんと、いざと言うときに力を出せませんので」ニコ

敷波「遮音性って何の話?」

明石「あ、いえいえ、なんでも……」

提督「内密な話をするときに聞き耳立てられないようにしたいんだよ。そういう場所が欲しいってだけだ」

由良「そうなんですか?」


敷波「ふーん?」

初雪「怪しい……」

ヲ級「……?」クビカシゲ

提督「揃いも揃って疑いの目を向けるなよ。別にいいけどよ」

明石「いいんですか」タラリ

提督「とりあえず、ニーナの申し出は悪くねえが、その前に艦娘を神殿に招き入れること自体は問題ないのか?」

ニーナ「はい、問題ないと思います。以前、魔神様が体を痛めた時に、赤城さんに連れてきていただいていますし」

提督「ああ、俺が魔力槽に入ったときか……」

ニーナ「それから、一番最初に捕縛した如月さんを治療するときにも、入っていただいています」

ニーナ「もちろん、入ってはいけないお部屋も神殿内にはありますが、そうでなければニコさんも何も言わないでしょう」

敷波「入っちゃいけない部屋?」

提督「いろいろ仕掛けのある危ない部屋があるんじゃなかったか。確か、あっちの世界じゃ人間に攻め込まれてたんだろ?」

敷波「危ないものが置いてあるお部屋じゃなければ、入ってもいいってこと?」

ニーナ「はい、そうですね。ただ……」

敷波「ただ?」

ニーナ「よく考えたら、危ないものが置いていないお部屋のほうが少ないですね?」

明石「それじゃ駄目じゃないですか」ガクッ


ニーナ「私が一緒なら、危険な場所は回避できますよ」

提督「そうかもしれねえけど、それじゃ神殿内に一人で入るな、と言ってるようにしか聞こえねえぞ」

初雪「うん……危ないなら入りたくない」

 奥の扉<ガチャッ

ブリジット「自分も入る機会はない方が良いと思うであります!」ビシッ!

ニーナ「あらっ、ブリジット? ここにいたの?」

明石「結構な頻度で来てますよ? ここにある使ってない装備を見せてほしいとお願いされてまして」

ブリジット「様々な装備品がありますので、今後の参考にさせていただいているであります!」

ニーナ「そういえば、隼鷹さんたちがいた時も、飛行機を嬉しそうに眺めてたわね……」

敷波「へー、なんか参考にできるもの、あったの?」

ブリジット「残念ながら、自分の武器は簡単に刷新できるわけではありませんので、眺めて想像するだけであります……」ショボン

明石「そういえば、メディウムの皆さんの武器の強化って、どうするんです?」

ニーナ「私たちの武器で強化できるのは、純粋な威力だとか発動回数、再発動までの時間短縮などです」

ニーナ「あとは、私たちの武器が通用しない相手がいますので、そういった相手の不意を打つ力であったり……」

ニーナ「連撃や複数回攻撃を当てることで、強制的に相手の装甲を破砕する力を、私たちの武器に付与することは可能です」

ブリジット「自分のガトリングアローには、連撃によるアーマーブレイクの力が備っているであります!」エッヘン!


ヲ級「……オ前カ」セキメン

ブリジット「はい?」

ヲ級「アノ時、私タチヲ丸裸ニシタノハ、オ前カ……!」ゴゴゴゴ…

ブリジット「ひいっ!? んななな、何事でありま……あ! も、もしや、貴殿はあの時の……!?」

ニーナ「そういえば、ブリジットは隼鷹さんの流星に乗せてもらっていただったわね。その時に敵空母群に大打撃を与えた、って……」

ヲ級「オ前ノセイデ、私タチハ恥ズカシイ目ニ……!」ズイッ

ブリジット「ひええ! ご、ごめんなさいごめんなさいっ!」

提督「落ち着け落ち着け。何があったかは後で聞く、まずは落ち着け」ワリコミ

ヲ級「……!」

提督「ブリジットも心当たりがあるんだな?」

ブリジット「は、はいであります。おそらく、自分はその航空母艦の深海棲艦殿と交戦し、装甲というか、衣装を破砕したのでは、と……」

提督「衣装を破砕?」

ヲ級「……」ナミダメ

提督「……こりゃ、何も聞かないほうが良さそうか?」

明石「かもしれませんねえ……」


ブリジット「え、ええと、その、その節は、大変申し訳ないことを……」オソルオソル

提督「待て待て。むしろこの場合は俺が謝らなきゃならねえんじゃねえか? 俺が迎撃指示を出したわけだし」

ブリジット「!?」

ニーナ「魔神様!?」

明石「んー、でもまあ、それが一番すっきりしますかね。提督があの戦いの最高責任者であったわけですし」

提督「そういうわけなんで、ブリジットに対しては水に流してくれ。代わりに俺がお前たちの希望を聞くことで勘弁してほしい」

ヲ級「……」ジロリ

ブリジット「ひっ……そのぉ、本当に申し訳ないであります……」

ヲ級「……ワカッタ。責任ハ、オ前ニトッテモラウ」

提督「ああ。あとでもう一度、執務室に来てもらっていいか?」

由良「」ギラギラッ

ブリジット(こっちからも殺気が溢れてるであります!?)ビクッ

明石(うわあ……『責任』の一言で目の色が変わってる)

ニーナ(魔神様は魔神様で平然としすぎです……慣れておいでなのでしょうか)タラリ


敷波「由良さーん、目つき怖くなってるよー」ヒソッ

由良「えっ!? そ、そう?」

敷波「うん。落ち着いて」

明石(敷波ちゃんが落ち着きすぎてる……)

ニーナ(なんて頼もしい……)

初雪「……とりあえず、水路はどうするの」

提督「おう、すっかり話が脱線してたな。作り直せるようなもんか、見に行かねえと。明石にも話を聞きたいんだが、いいか?」

明石「あ、はい! わかりました!」

提督「ニーナはタチアナを連れてきてくれるか? 水路の設計にはあいつも一枚噛んでんだろ?」

ニーナ「そうですね。呼び出しますので、しばらくお待ちください」

提督「あとは泊地棲姫は……」

明石「最近は食堂にいますよ。最近は自分でコーヒーの焙煎を始めたみたいです」

提督「本格的だな……そのうちコーヒー畑でも作りそうだな」

初雪「そうなったら、紅茶派が黙っていなさそう」


 * その後 *

 * 執務室 *

タチアナ「水路の改修工事の件、承りました。あとはこのタチアナにお任せを」ペコリ

提督「ああ、頼むぜ。ところでお前、結構夜遅くまで書類仕事してるんだって? 無理はしなくていいからな?」

タチアナ「ありがとうございます。私は大丈夫ですので」

提督「大丈夫だからって言って無理する奴、数人、心当たりがあるんだよなぁ」ジトッ

タチアナ「そう仰る猊下こそご無理なさらぬよう、面倒ごとがありましたら、私どもにご下知いただければと」

提督「俺は最初から無理はしてねえよ。面倒なことも嫌いだからな。お願いしたいことがありゃあ、誰に対してもそれなりに頼ってるさ」

敷波「……今はね」ジトッ

提督「今は今でいいだろ。昔に戻ったほうがいいのか?」

敷波「それはよくないね。っていうか、いつ戻っちゃうか心配なんだけど」

提督「……」

タチアナ「あの……あまり猊下をからかうべきではないかと」

敷波「からかうつもりはないよ。自分で全部やろうとしたりしてほしくないだけ」

初雪「……それはそう」ウナヅキ


提督「まあ、そういうのをやめろと言われたからな。できる限り分配するっつうか……」

提督「今はさすがに忙しすぎて、協力してもらわねえと俺も休めたもんじゃねえ。勝手を知ってる艦娘が減って、新しい深海棲艦が増えて」

提督「顔覚えるのもそうだし、各々が衝突しないためのルールも決めていかなきゃならねえからな」

敷波「今後あたしたちが生活する場所だし、無関係じゃないんだからさ。あたしたちも司令官に倣ってるだけだよ?」

タチアナ「……異種族との共同作業と言うのは、往々にして衝突が発生します。それを克服しようとする猊下と、その艦娘……」

タチアナ「なんとも、その姿勢に感服いたします」

提督「そんなに堅苦しくなくていいぞ? 楽にしろ、楽に」

タチアナ「いえ、私はこれが普通ですので」

初雪「……朝潮と同じタイプっぽい」

提督「だな」

タチアナ「ところで、先ほどから不機嫌そうにしておいでのそちらのお二人はどうなさったのですか?」

由良「……」

ヲ級「……」

提督「ヲ級にはちょっとした補償をしてやらねえといけねえんだ」

タチアナ「補償……ですか?」


提督「ああ。さてと、待たせたな。ヲ級、とりあえずお前の希望を聞きたいんだが」

ヲ級「ナンデモ、イインダナ?」

提督「俺が出来る範囲でな」

ヲ級「……デハ」コホン


ヲ級「『御褒美』ヲ、ヨコセ」


敷波「……」

初雪「……」

由良「……」

タチアナ「……」

提督「……は?」

ヲ級「聞コエナカッタノカ。『ゴホウビ』ヲヨコセ、ト言ッタンダ」

提督「ごほうび?」

ヲ級「トボケルナ。オ前ハ、任務ヲ終エタ艦娘ニ、御褒美ヲアゲテイルト聞イタゾ」

提督「……どういうこった?」


初雪「あー……もしかして」

タチアナ「何か心当たりがおありで?」

初雪「頭撫でてあげたりする、あれのこと?」

タチアナ「……それが、御褒美ですか」

提督「それでいいのかよ」

ヲ級「ソレハ、ドンナモノダ?」クビカシゲ

提督「どんなものって……」

初雪「……私にやってみたらいいと思う」

敷波「あ、ずるい! あたしも!」

提督「……いいのか?」

敷波「いいんじゃない?」ニコニコ

提督「……」

 ナデナデ…

敷波「ふふーん……♪」

初雪「んふぅ……♪」

タチアナ「……」

由良「……」


ヲ級「……コレガ、御褒美、カ?」

敷波「そうだよー」ニヒヒッ

ヲ級「私ニモ、ヤレ」

提督「いいのかよ……」

初雪「その、あたまの帽子? それって取れないの?」

ヲ級「外サナイト、ダメナノカ?」

初雪「外さなないと、効果は半減する」

ヲ級「……一応、外セル」カポッ

敷波「外せたんだ……!」

ヲ級「コレデイインダナ。サア、来イ、提督……!」キッ!

提督「いや、そんなに力まなくていいぞ? 肩の力を抜け」

 ナデナデ…

ヲ級「……」

提督「……」


タチアナ「なんなんでしょう、この頭を撫でてるだけだというのに、微妙に張り詰めた空気感は」

初雪「由良さんのせいだと思う……」

由良「……」ヌゴゴゴゴ…

敷波「由良さんも司令官へのお願いがいろいろ遠回しすぎて、多分司令官には全然伝わってないんだよねー」

初雪「というか、如月や大和さん、金剛さんと比べて、アピールが弱すぎるんだと思う」

タチアナ「よく見てらっしゃいますね……」

敷波「まあ、いろいろとね?」

提督「これでいいのか……?」

ヲ級「……」ナデナデ…

ヲ級「ナルホド。悪クナイ」スッ

提督「!」

ヲ級「今日ハ、コノクライニシヨウ。マタ、貰イニ来ル」クルリ

 スタスタ…

初雪「行っちゃった……」

敷波「満足したのかな」


タチアナ「げ、猊下、大丈夫なのですか?」

提督「俺は大丈夫だが……あいつの髪、ちょっとごわごわしてたな。なんかいいシャンプーでも見繕ってやらねえと」

敷波「そこを心配するんだ」

提督「みんな気にするんじゃないのか?」

敷波「しないとは言わないけどさ」

初雪「タチアナさんも、司令官に撫でてもらう……?」

タチアナ「はっ!? い、いえ、私は、そのようなことは! とても恐れ多い……」

敷波「して欲しいって言えばしてくれるよ? 遠慮すると損だよ?」

提督「まあ、いつも頑張ってるみたいだしな。頭撫でられるのが嫌な奴もいるだろうし、希望があるなら言っていいぞ?」

由良「……提督さん?」ゴゴゴゴゴゴ…

敷波「あ」

由良「由良も秘書艦の御褒美を前倒しでいただきますねっ! ねっ!」ガッシィ!

提督「うおっ!?」ダキツカレ

由良「しばらくこのままです! このままですから! ねっ!!」グリグリグリ

提督「鼻を押し付けてんじゃねえ! 犬を通り越して猪か、お前は!」

初雪「……由良さん……」ドンビキ

敷波「ため込みすぎるとこうなるんだよねー。タチアナさんは本当に大丈夫?」

タチアナ「はい……あそこまでひどいことに、ならないように努めます」タラリ


 * 居住区 寮ロビー *

如月「……というわけで、来週以降の司令官のお部屋へのお泊りスケジュールは、この通りね」

ル級「来月マデ、予定ガ埋マッテイルノカ。スゴイナ」

軽巡棲姫「アア……待チ遠シイワ」モジモジ

伊8「……大淀さんも予定を入れてるんですか?」

陸奥「あら? これまで入れてなかったの?」

伊8「入れてませんでしたね。陸奥さんも入れてるんですか」

陸奥「私はこれまで遠慮してたんだけど、せっかくだから一回くらいは、ね」ウフフッ

扶桑「……由良は、まだ自分の名前を入れてないのかしら?」

伊8「夜を一緒にするのはちょっと違う、みたいなこと言ってたのを聞きましたけど?」

扶桑「変なところがお堅いのね……? 朝、留守になったあとの提督のベッドに、結構な頻度で飛び込んでいるのに」

陸奥「そんなこと、何で知ってるの?」

扶桑「毎朝、洗濯した提督のお召し物を届けに行ってるの。その時に、ね」

伊8「そんな役得があったんですか……!」

扶桑「届けに行ってるだけだから、残念だけど特に何もないわよ?」ウフフッ


大和「……さりげなくメディウムも入ってきてますね」

朝潮「キャロラインさん……ああ、あの剣山を持った金剛さんのような口調の人ですね」

吹雪「ニコちゃんは入ってないんだ。意外!」

ノイルース「失礼。お邪魔しますよ。この人だかりは何かありましたか?」

吹雪「あっ、あなたは確か……ファイアーボールの」

ノイルース「ええ、ノイルースです。それでこの張り紙はなんと……これは、何かの当番ですか?」

朝潮「こちらは、司令官のお部屋へのお泊りスケジュールになります!」

ノイルース「お泊り? 魔神様と、一夜を共にするということですか……?」

吹雪「ちょ、ちょっと朝潮ちゃん!? 話して良かったの? なんか、聞いてないみたいな反応なんだけど!」

朝潮「キャロラインさんが入っているから問題ないのでは?」

吹雪「いや、でも……!」

ノイルース「ふむ……面白そうですね。良ければ、私の名もそこに書き加えていただけますか」

吹雪「へっ?」


如月「最後になるけれど、いいんですか?」

ノイルース「構いませんよ。魔神様とは、一度ゆっくりとお話ししてみたかったので」ニコ

ノイルース「それ以上に、魔神様のプライベートスペースへお邪魔できると思うと……胸が熱くなりますね。昂ります」

如月(司令官の私室とはいえ、司令官の私物が着替えくらいしかないけれど……)ウーン

大和(むしろ私たちの私物のほうが多い気が……)タラリ

ノイルース「しかし……この話はもっと早くに聞いておきたかったですね。ニコさんは存じておいでなのですか?」

大和「知っていますよ。ニコさんがいるときにこの話をしたことがありますから、聞いていないということはありません」

ノイルース「ふむ。そこにキャロライン以外のメディウムの名前は載っているのですか?」

如月「載っているのはキャロラインさんだけかしら?」

ノイルース「そうでしたか。ではなぜキャロラインだけ……? ニコさんには改めて事情を伺うとしましょうか」

ル級「オ前以外ノ、メディウムモ、参加スルノカ?」

ノイルース「話せば何人かは興味を持つと思いますし、知らないだけなら参加する者はいるはずですよ」


ノイルース「もし、ケイティーがこの話を聞いていたとしたら、真っ先に入っていたと思いますが」

伊8「あ、ケイティーさんなら出禁になりましたよ」

ノイルース「……」

軽巡棲姫「順番ヲ無視シテ、イキナリ寝室ノ提督ニ襲イカカッテ、返リ討チニ遭ッタラシイワネ?」

伊8「飛び掛かったところを頭を掴まれて、そのまま片手でぐるんぐるんぶん回されてから地面に叩きつけられたとか」

如月「本当かどうかはわからないけど、その時一緒にいた人が巻き込まれそうになったから、司令官も相当怒ってるみたいだったわ」

大和「ニコさんも、お仕置き部屋に送ったって言ってましたね」

ノイルース「そういうことですか。そのせいで、ニコさんから我々に話が回って来なかったのかもしれませんね……やれやれ」アタマオサエ

陸奥「ところでノイルース? あなたというか、メディウムがこの寮を訪ねてくるなんて初めてじゃないかしら。なにかあったの?」

ノイルース「いえ、皆さんが普段どのような環境でお休みかと思いまして。勝手ながら興味本位でお邪魔いたしました」

陸奥「あら、そういうことなら案内するわ。炎は出さないように気を付けてね」

ノイルース「ええ、心得ております。よろしくお願いします」ニコ

ル級「ソウイエバ、メディウムガドンナ場所デ休ンデルカハ、見タコトナイナ」

軽巡棲姫「私タチト一緒ニイタトキモ、神殿ニ移動シテタワネ」

大和「どんなところで寝てるのかしら……」


というわけで、今回はここまで。

今回登場のメディウムはこちら。

・ミリーエル・アローシューター:エルフのような長い耳を持つ、弓矢を携えた姿のメディウム。矢が飛んできて、人間を攻撃する罠。
  エルフと呼ばれる森の民のような風貌の女性。四姉妹の末妹で特徴のない自分を未熟だと思っている。性格も真面目で素直な優等生。
・コーネリア・ギルティランス:黒いドレス姿のメディウム。壁から返しのついた多数の槍が飛び出し、人間を刺し貫いて引き寄せる罠。
  無数の槍を背負いバトルマニアを自称する女性。好戦的だが戦い続けるためにも引き際は弁えている。他人に心配されるのが嫌い。
・グローディス・サンダージャベリン:エルフのような長い耳を持つ戦士のメディウム。帯電した槍が飛んできて、人間を刺し貫く罠。
  四姉妹の一人で、その中では珍しい肉体派。性格も豪快で少々直線的。姉妹それぞれ美人だが、それを武器にするのは苦手の様子。
・セレスティア・ホットプレート:鉄板を持ったシェフ姿のメディウム。焼けた鉄板が足元に現れて、人間を焼いて飛び上がらせる罠。
  メディウム随一の料理人。マーガレットを良きライバルと認識しているが、同時に彼女のつまみ食いと食べ過ぎも気にしている。
・スズカ・フライガエシ:ねじり鉢巻きをした和装のメディウム。巨大なフライ返しが、人間を空高く打ち上げひっくり返す罠。
  お好み焼きでも焼いてそうな雰囲気の女の子。でもお好み焼きを知らない。調子に乗って大きなことを言うのが欠点、とは本人の談。
・マーガレット・フライングケーキ:パティシエのメディウム。飛んできたホールケーキが人間の顔にはりついて、視界を奪う罠。
  暇さえあればケーキを作るケーキ好きの女の子。作ったケーキを残さず食べる上に運動不足のため、よく足がもつれて転んでいる。

というわけで、続きです。


 * それから数日後 *

 * 執務室 *

武蔵「そういうわけで、白露の体調と艤装の調査はもう少しかかるそうだ」

提督「……しばらくこっちには来られねえってか」

島風「だそうです」ショボン

大淀「白露さんは、そんなに体の具合がおかしかったんですか?」

島風「やっぱり無理してたのかなあ……」

提督「俺は本営の連中の我儘だと思うぞ。あの白露が個体として珍しいから手放したくねえんだろ」

提督「白露型に、島風に比肩する性能を持たせたんだ。仁提督の明石のところにも本営が出しゃばりそうだな」

大淀「そういえば提督も、医療船で本営のお医者様に、検査だなんだと迫られていましたね」

武蔵「ああ……それと同じことが白露の身に起きているということか」

提督「いくら轟沈してねえとはいえ、あいつらに好きにさせすぎたか……?」

武蔵「いや……むしろ好き勝手し過ぎたのは我々かもしれんぞ。ここでは艦娘が好きに出撃できているからな」

武蔵「同じ感覚で過ごそうとして、調査そのものが順調ではないのかもしれん」


提督「その理屈だと、島風も向こうで好き勝手してたことになるが」

島風「……」メソラシ

提督「……おい。冗談で言ったつもりなのに、本当かよ」

島風「だって、走り回っちゃ駄目とか言うんですもん」プー

武蔵「少しの間だけじっとしていれば、それで済むはずなんだがな」

提督「そのじっとしてるのが苦手だからな。それが理由なら長引くのもやむなしだが、そうだとしても適当に切り上げてくれねえかな」

武蔵「それは無理だろう。仕事に手を抜けと言っているようなものだぞ。それに……」

提督「あくまで艦娘は海軍が管理するものだから、全部知っておかなきゃいけないってか? 面白くねえな」チッ

 神殿への扉<ガチャッ

ニコ「だったら、遠慮なく脅しをかければいいじゃないか。人間の言いなりになるなんて、魔神様らしくないよ」

ミリーエル「失礼いたします、魔神様」ペコリ

提督「ニコはまーた俺たちの話を聞いてたのかよ……話が早いからいいけどよ」

ミリーエル「あの、私も聞いていましたが、魔神様が人間にそこまで気を使われる理由は一体……?」

提督「んー……半分は、単純に白露が心配だから、だな」

提督「あいつの体が本当に何も問題ないのか、俺もその辺を確認したいっつうか、確証を得たい、保証して欲しいってのはある」

ニコ「……そう言われると仕方ないなあ」


島風「もう半分は面倒臭いからですよね?」

提督「まあな。余計なことを言って面倒を起こしたくねえ」

ミリーエル「しかしこれでは、まるで人質ではありませんか」

提督「こればっかりは仕方ねえよ。いまできることっつったら、白露に問題がないなら早く返せと言うくらいしかねえな」

大淀「X大佐に連絡を入れましょうか。政府との会談ももうすぐですし」

提督「そうだな……言うだけ言ってみるか。そのついでに、工作艦も増えてくれねえかな……」

大淀「工作艦……ですか?」

提督「ああ。明石もそれなりに忙しいし、明石以外の艦娘の艤装の面倒を見れる誰かの手を借りたいんだが……」

提督「ま、仮にいたとしても、都合よくこっちに来るとは思っちゃいねえけどよ」

ミリーエル「……魔力槽ではいけないのでしょうか」

提督「あれもあれで原理がよくわからねえし、別に何かを治そうって話でもねえからな」

提督「むしろ、あれに突っ込んだせいで白露が改装前に戻ったりしても問題だ。『元に戻す』と『治癒する』じゃ意味が違う」

ミリーエル「なるほど……」

提督「そういう意味じゃあ深海棲艦も心配なんだがな。深海棲艦の入渠ドックも作ってもらったが、面倒見てるのは艦娘の明石だし」

提督「というか、艦娘も深海棲艦も、ついでに酒保も明石に任せちまってるから、ちょっと負荷を減らしてやりてえな」


提督「ちなみに魔力槽はニコに全部任せててもいいよな?」

ニコ「うん。大丈夫、ぼくに任せてよ」

提督「ひとまず、島風は白露が心配なら、もう少し本営にいてもいいぞ。練習がてら、本営とこの島を結ぶ便の護衛哨戒をしてもいいし」

島風「うーん……わかりました。島風、いったん白露のところに戻ります。様子を見てから、決めてもいいですか?」

提督「おう、いいぞ。で、武蔵はもうしばらく与少将んところにいる気か?」

武蔵「ああ、この鎮守府と向こうの鎮守府ではいろいろ勝手が違うのでな。そのあたりの報告もさせてもらいたい」

提督「……いっそのこと、那智と一緒に向こうの鎮守府に転籍してもいいんじゃねえか?」

武蔵「な……!?」

提督「お前の話しぶりを見る限り、与少将にはよくしてもらってるみたいだしな。中将の引継ぎもしてるし、X大佐との連携も取れてる」

提督「お前が与少将の戦力になりそうなら、わざわざこっちに来て暇を持て余す必要もねえだろ。むしろこの島への案内役として適任だ」

ミリーエル「……」

大淀「どうかしましたか?」

ミリーエル「いえ……武蔵さんがこの鎮守府を離れるとなると、一部のメディウムが荒れそうだなと思いまして」

武蔵「……コーネリアとかか?」

ミリーエル「そうですね……グローディス姉さんとしょっちゅう演習という名目で模擬戦と言いますか」


提督「喧嘩してストレス発散してる、と」

ミリーエル「……有体に申し上げれば、その通りにございます」

提督「萎縮しなくていいぞ、好きにしろっつってんだし、死なない程度にやる分には構やしねえよ」

武蔵「確かに、その二人やオリヴィアやカトリーナと談笑できなくなるのは寂しいな。代わりにいろいろな土産話を用意せねばならないか」

提督「与少将に貸しを作りたいわけじゃねえが、いまの与少将の仕事はこの島に関わることも多いはずだからな」

提督「お前が働いてくれれば、この島のためにもなるだろう。こっちから直接外に手を出すのは控えたいしな」

武蔵「なるほど。私は実働部隊になるわけか」

提督「もちろん、なにかあったら俺たちも出るとこ出るつもりだ。メディウムも黙っちゃいないし、深海棲艦も手を貸してくれるはずだ」

ニコ「そうだね、この島に関わるんなら、ぼくたちも力を貸すよ」

 扉<トントントン ガチャー!

間宮「す、すみません、どなたか手を貸してください!」

提督「んん? 何があった?」


 * 厨房 *

タ級1「ケーキニアウノハ、コーヒーダ!」

タ級2「紅茶ノホウガ、オイシイ!!」

マーガレット「はわわわ……お、落ち着いて欲しいのです」

電「……私の口調を取らないで欲しいのです」

スズカ「しばらく一緒におったから、口調が移ったんかねえ?」

セレスティア「かもしれないわね……」

金剛「呑気なことを言っている場合ではありまセン」

比叡「そうですよ、早く止めないと」

金剛「紅茶こそが最高の飲み物であることを、皆さんにlectureしてあげないといけまセンネーー!!」

比叡「金剛お姉様!?」

泊地棲姫「マッタク……同ジ深海棲艦デ、同ジ戦艦クラスナノニ、コウモ好ミガ別レルトハネ」

セレスティア「確かあなたは、コーヒー派ではありませんでしたか?」

泊地棲姫「確カニコーヒーガ好キダケド、紅茶モ嫌イジャナイワヨ」


提督「なにを面倒臭え言い争いしてんだ」ヌッ

比叡「あっ、司令!」

提督「折角、間宮が以提督の鎮守府からこっちに来てくれたっつうのに、しょっぱな喧嘩してる奴があるかよ……」

タ級1「ダッテコイツガ、コーヒーヲ馬鹿ニスルカラ!」

タ級2「オ前コソ、紅茶ヲ飲ム私ヲ馬鹿ニシタダロウ!」

泊地棲姫「提督、私ノ身内ガ、スマナイナ」

提督「まあいいけどよ。こういう話で争えるのは平和な証拠だ。俺にしてみりゃ本当にどうでもいい争いだしなあ……」

間宮「だ、大丈夫なんですか、そんなこと言って」ハラハラ

タ級1「ソウイウ提督ハ何ヲ飲ムンダ? 何ガ好キナンダ」

提督「水」

タ級2「……」

比叡「司令は氷水があればいい人ですからね~」

タ級2「……ジャア、比叡ハ?」

比叡「あ、私は緑茶が好きです! ケーキにもあいますよ!」

金剛「紅茶じゃないんデスカ……!」

比叡「こ、好みに嘘はつけませんよ!?」


提督「ちなみにお前たちはどうなんだ?」

スズカ「好きな飲み物なあ? いうたら、うちは麦茶じゃな!」

セレスティア「特にこだわりはありませんが……強いて言えばトマトジュースでしょうか」

マーガレット「私はホットミルクが好きです!」

電「好みまで同じなのです……」

提督「間宮はどうだ?」

間宮「えっ? わ、私は緑茶派なんですが……抹茶が一番好きですね」

提督「茶室でたてるようなやつか?」

間宮「はい」

提督「それなら、茶室も作るか」

間宮「えええ!? そ、そこまでは!!」

タ級1「見事ニ、バラバラダナ……」

泊地棲姫「コレダケ綺麗ニバラケルト、感動スラ覚エルワネ」


提督「ま、好みはそれぞれだからな。それこそ好き好きなんだ、押し付けるのも馬鹿にするのもやめとけ」

タ級1「ムー……」

タ級2「仕方ナイナ……」

提督「あ、でも、見た目とかが汚え飲み食いしてたときは注意していいぞ。そういうのは萎えるからな」

タ級1「ソレハ確カニ嫌ダナ」

タ級2「同意スル」

提督「そういえば、コーヒーはこの前ガンビア・ベイが買ってきてくれた奴をまた頼んでるが、紅茶はどうだ? まだあるのか?」

金剛「私のお気に入りのEarl grayを取り寄せてマース!」

タ級2「! 待テ。私ハ、フレーバーティージャナイホウガイイ」

金剛「!?」

提督(あ、これも面倒な奴だ)

金剛「What did you say ? Earl grayが美味しくないとでも……!?」

タ級2「ミルクティーヲ楽シム分ニハ、ベルガモットハ余計ダロウ。ダージリンノ茶葉ダケノ方ガイイ」

泊地棲姫「ミルクティー? 牛乳ヲ加熱シテ、ソコニ茶葉ヲイレテ作ルヤツカ?」


比叡「そっちはロイヤルミルクティーって呼ばれるほうですね。普通にお湯で淹れた紅茶にミルクを入れるほうが一般的じゃないかな?」

セレスティア「ラテとは違うのですか?」

間宮「ラテは確かエスプレッソコーヒーを使うものではなかったかと……」

タ級1「イロイロ、ヤヤコシイナ? ブラックデ、イイダロウニ」

マーガレット「ホットミルク派の私たちには、あまり関係のない話ですねー」

電「なのです」

スズカ「それはええけど、マーガレットの飲み方はちょっとなあ。なんでホットミルクに砂糖入れるんよ?」

マーガレット「えっ? おいしいですよ?」

電「え……お砂糖、入れるのですか……?」ヒキッ

マーガレット「ええ!? 何ですか、その反応!?」

タ級1「私モ牛乳ニ砂糖ハチョットナ……」

タ級2「イクラナンデモ、甘スギナイカ?」

金剛「ケーキに合わせるなら、なおのこと考えづらいデース……」

泊地棲姫「期セズシテ意見ガマトマッタナ」


提督「すげえなマーガレット」

比叡「それって、意見がまとまったって意味でですか? それとも、牛乳にお砂糖のほう?」

提督「両方」

比叡「ですよねー」

マーガレット「そんなあ! おいしいんですよ!?」

セレスティア「味はともかく、お砂糖を摂り過ぎなのでは?」

タ級2「ダト思ウゾ。アイツ、普通ニ、ケーキヲ食ベ過ギダト思ウガ」

タ級1「胸焼ケ起コシソウナレベルデ、タイラゲテルヨナ? モッタイナイ、トカ言ッテ」

セレスティア「ただでさえケーキを運ぶときに転んで何個も駄目にしているというのに、もったいないとは……」トオイメ

電「……」モニュッ

マーガレット「きゃあ!? きゅ、きゅうにおなかをつままないでください!」

電「……しっかりつまめるくらい、あったのです」ドンビキ

提督「健康のために走るとか言ってなかったか?」

スズカ「なんか、疲れたから今日はお休みー、ちゅうんがここ最近ずっと続いとったんじゃがの」

提督「三日坊主かよ」


マーガレット「は、走ってると、ケーキを作る時間がなくなっちゃうんですよ!」

比叡「しばらく作るの休んだらいいんじゃないかな?」

マーガレット「そんなあ!?」

提督「そうだ、せっかくだからうちの艦娘の練習に付き合え。島風がランニングしたいっつうから一緒に走ってこい」

マーガレット「あの足の速い子ですか!? 絶対おいていかれます!」

提督「んじゃ武蔵と一緒に畑仕事してこい。お前の作ってるケーキの原材料を育ててこいよ」

マーガレット「ケーキ作るのに、そんなことする人いるんですか!?」

金剛「本営で流れてた TV program で見ましたが、ラーメンを作るのに必要な小麦を育てる畑から作った人たちなら、いましたヨー」

電「畑!? って、土壌からお世話するのですか!?」

提督「マジか。じゃあそれやるか、畑も増やしたいし」

マーガレット「無理ですうううう!!」ナミダジョバー

タ級1「……コノ島デ、小麦ッテ育テラレルノカ?」

タ級2「サア……? デカイ農場ジャナイト、無理ジャナイノカ?」


提督「仮に作ったとしてもそんなに土地があるわけでもねえからな。この島の住人の消費量を考えると、少なすぎるかもなぁ」

タ級2「ダトスルト、畑仕事ヨリ、遠征デ資材ヲ調達シタホウガ、私タチハ役ニ立テソウダナ」

タ級1「駆逐艦ヲ連レテ、北方ニデモ行クカ?」

比叡「それならお弁当を用意しなくっちゃ!」

セレスティア「そうですね。予定をいただければ、それまでに準備しましょう」

タ級1「ア、ソウダ。オマエ、ワ級ニ乗ッテ、一緒ニ遠征ニ行クカ?」

マーガレット「ふえええええ!? なんで、わたしがー!?」

タ級2「ダメダロ、コイツガ運動スルワケジャナイシ」

タ級1「ア、ソウカ」

電「やっぱりこの鎮守府の中で体を動かしてもらうのです」ウンウン

マーガレット「決定なんですかああ!?」

セレスティア「健康のためよ、マーガレット。頑張って」

マーガレット「そんなああ!?」

間宮「……」アッケ

金剛「Hey, 間宮。ぼーっとしてどうしまシタ?」

間宮「いえ……本当に、深海棲艦の方々と、普通にお話してるのが信じられなくて。こちらの提督は、すごい方なんですね」

金剛「フフッ、それはもう、人間以外の誰にでも優しい人デスカラ」


 * 政府との会談予定日 5日前 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

(執務室のソファに、提督と向かい合って、妙高、N特務大尉、磯波が座っている)

提督「なるほど。曽大佐もそれなりの血筋ってことか」ペラリ

妙高「そうですね。とりあえず、与少将からお預かりした資料は以上です」

N特尉「……」

磯波「……」ビクビク

ヲ級「ソンナニ、緊張シナクテモイイゾ」

磯波「は、はひっ」ガチガチ

タ級「ガチガチダナ。オイ、人間、緊張ヲ解イテヤレ」

N特尉「……はひっ!?」ビクーーッ!

軽巡棲姫「人間ガ、一番緊張シテルワネエ……」テイトクニウシロカラダキツキ

妙高「無理もありませんよ。ただの人間が深海棲艦にかなうわけがないというのに、こんなふうに囲まれているんですから……」

提督「……軽巡棲姫はいい加減、俺の背中から離れてくれねえか。書類が読みづれえ」

軽巡棲姫「ジャア、隣ニ座ッテモイイ?」

提督「読み物の邪魔さえしなきゃ、いいぞ」

軽巡棲姫「ソウ? フフフッ」ストン


N特尉「……なあ、提督。どうして執務室が深海棲艦ばかりなんだ? 艦娘はいないのか」

提督「今のタイミングで、たまたまそうだ、ってだけだぞ。深海棲艦がいなくて艦娘が寛いでるときもある」

N特尉「だ、だからって、どうして執務室に……」

タ級「ドウシテッテ、ココナラ、ソファニ座ッテ、コーヒーガ飲メルカラナ」ズズッ

N特尉「……そ、それでいいのか?」

提督「ああ、俺は自由にさせてる。ここが好きな奴は、艦娘、深海棲艦問わずいるんでな」

提督「俺が仕事してると静かにしてくれるし、聞き分けがいい奴が多くて助かってる」

ヲ級「静カナ場所ハ、好キダゾ。普段騒ガシイ艦娘モ、提督ガ仕事ヲシテイルト、静カニナルノハ、見テテオモシロイ」

ヲ級「ソレニ……カグワシイコーヒーノ香リト、波ノ音……深海ニハナイ、ヤワラカイソファ……」ウットリ

妙高「ああ……そういうことですね」

N特尉「な、なるほど。わかる気がするな」

提督「俺のそろばんの音がいろいろと台無しにしてるような気がするんだけどな」

ヲ級「ソレハソレ、ダ」

N特尉「おみやげは、せんべいより洋菓子のほうが良かったか……」

妙高「コーヒーに合わせるのでしたら、そのほうが良かったですね」


提督「とりあえず、曽大佐のことはわかった。軍人の家系の傍流ねえ……これだと、本家を見返してやりたいってタイプかもしれねえな」

N特尉「ああ……ちなみに彼は男一人、女六人の七人姉弟の五番目だそうだ」

N特尉「一応は長男だから、張り切っているんだろう。そのせいで張り切り過ぎて、極端に振り切れてる感じもするが」

提督「古い家だと、家を任されてる重圧なんてのも考えられそうだな」

N特尉「それで必死なのかもしれない……か。とにかく彼は、深海棲艦は撃滅せよの一点張り、そこは曲げられないと主張している」

N特尉「だから、艦娘が口答えしようものなら、すぐ解体処分を言い渡すくらいには苛烈と言うか極端と言うか、言ってしまえば過激派か」

提督「そんなんじゃあ、部下の艦娘に謀反でも起こされるんじゃねえか?」

N特尉「いや、結果も出しているだけあって、彼の考えに賛同している艦娘も少なからずいるようだ」

N特尉「崇高な使命を掲げ、覚悟を決めてかかっている姿に、ついていこうと共感しているんだろうな」

N特尉「実際、曽大佐は自分でも戦いたいらしく、鎮守府内のジムで毎日格闘訓練に励んでいて」

N特尉「そういった姿を艦娘に見せていることもあって、彼の方針は鎮守府内では比較的受け入れられているようなんだ」


妙高「ちなみに、こちらが曽大佐の写真です」

提督「ふーん」

軽巡棲姫「……暑苦シイ顔ネエ?」

N特尉「今はその写真より一回り筋肉がついて、ごつくなってるらしい」

提督「やる気見せて巻き込んでる感じか? マジで暑苦しい奴だな」

軽巡棲姫「同ジ感想ヲ抱イテクレルノォ? 嬉シイワァ」スリスリ

提督「……」

N特尉「……提督、お前、大和と言う艦娘がいるのに、なんでこう……」

軽巡棲姫「ナニカ文句アルノォ?」ヌラァ

N特尉「ナンデモアリマセン」ビクッ

妙高「N提督も余計なことを言わなければいいのに……」

提督「お前も威嚇すんな、少し落ち着け」ナデナデ

軽巡棲姫「ハウゥ……!」ウットリ

磯波(姫級が猫みたいに……!?)


妙高「ところで提督。来週早々に政府との面談があると聞きましたが」

提督「おう。こっちはまあ、形式的な挨拶を交わして、あいつらの言いたいことを聞くだけになると思ってる」

提督「これまでの情報を考えても、おそらく曽大佐がそれを邪魔しに来るだろう」

妙高「政府の要人が来るのです。そこまでするでしょうか……?」

提督「だからこそやると思ってる。さっきN特尉も言ってたが、極端に振り切れてる奴が、まともな手段で止めに来るとは思えねえ」

提督「最悪、政府の船を攻撃して、俺たちに罪を擦り付ける可能性もある。というか、そういう手を堂々と使ってきそうで、鬱々としてるぜ」

磯波「い、いくらなんでも、悪く考えすぎでは……」

提督「甘えよ。お前たちだって特別警察の仕事をしてるんなら見てきただろ? くっそ汚え人間の裏っ側てやつをよ」

磯波「……」

提督「人間同士でも絶句するような黒い悪だくみをしてる連中がいるんだ」

提督「相手が人間じゃなくて人間の権利を持ってない相手なら、なおのこと欲望を抑えようとしない奴が現れると思ってるけどな?」

妙高「……」

提督「ましてや、悪と決めつけている深海棲艦が相手なら、極端な悪者に仕立てることに躊躇なんかしねえだろ」

N特尉「暴走する可能性が高い、か」

提督「これが成功したら、目の前にいる深海棲艦を無条件で殺せなくなる。それが嫌なら、どんな手を使ってでも邪魔しに来ると思うがな」


N特尉「それは……人を犠牲にしてでも、か?」

提督「当然。むしろ人間が犠牲になったほうが、奴には好都合だろ」

N特尉「……考えたくはなかったが、やはりそうなるのか……!!」

提督「今回はあくまで形式的な挨拶をかわすだけになるだろうが、それでも、政府にとっては大きな前進であることに変わりはねえ」

提督「だからこそ、曽大佐は『次の機会』なんてものが絶対に発生しないように、決定的な亀裂を入れようとしてるんだろうさ」

N特尉「頭が痛いな……!!」

提督「ま、そういうわけなんで、せいぜい曽大佐の動向は注視しとけ。俺たちは俺たちなりのやり方で迎撃させてもらうからよ」

妙高「曽大佐の艦娘と、一戦交えることになると……?」

提督「いまのままなら、多分そうなる。そうならねえようにしたいが……連中が素直に言うこと聞くとは到底思えねえ」

提督「どうにかして足止めしておとなしくさせて、その間に交渉、ってのが最善手になるだろうな。できなきゃ、捕縛しとくしかねえ」

提督「俺たちも使える手段もそんなにねえし、時間ももうねえしな」ハァ…

妙高「……」

磯波「……」


N特尉「……とんでもない問題にかかわることになったなあ……」ガックリ

妙高「N提督!? ぶっちゃけすぎですよ!?」

N特尉「……そんなこと言われてもなあ……」

タ級「コイツ、ナンデコンナニ、ガックリシテルンダ?」

提督「この島へ攻めてくるであろう、艦娘の司令官のところに行って、捕まえてこなきゃなんねえだろうから、だな」

タ級「ソウナノカ!? ソレナラ早ク行ケ!」

提督「それが、今の海軍のルールだと出来ねえんだよ。ただ艦娘を出撃させるだけなら、それを抑止することもできねえし」

提督「各地で暴れている深海棲艦の討伐は、いまの海軍のメインの任務だ。それを否定したら海軍の存在自体を否定することになる」

提督「今の時点で俺たちに被害が出ないと、おそらくそいつを捕まえていい、って指示は飛んでこねえだろうし」

提督「その指示がない以上はN提督も動きようがねえ。相手がやらかしたあとでねえと、越権行為される可能性もあるからな」

タ級「ムー……メンドウクサイナ」

N特尉「提督、そこはひとつ訂正させてくれ。我々海軍は何のために存在するか……それは国民の人命と財産を守るため、だ」

N特尉「誰かを殺したり滅ぼしたりするのが正しいから、力を行使するわけじゃない。そこは誤解のないように頼む」

提督「……」


N特尉「確かに、いまの海軍の主な任務は深海棲艦の討伐ではあるが……」

N特尉「本来の我々の本分を省みるならば、深海棲艦との和睦も大いに結構。戦いをなくし、犠牲を減らせるのは良いことだと思う」

N特尉「しかし、感情的にであっても、それを拒む者がいるのは、やはりこれまでの……失われた命の重さが、そうさせているんだろう」

N特尉「君たちがそれをやったわけじゃないとしても、それを簡単に割り切れない人たちもいるからな……」

タ級「……」

ヲ級「……」

軽巡棲姫「綺麗事ネ」フン

N特尉「……そうかもしれないな」

提督「……」

N特尉「しかもおそらく、深海棲艦以上に、人間も深海棲艦を無数に討伐してきた……殺してきた」

N特尉「その我々が、深海棲艦と歩み寄れるか、などと上から目線で言うのは、きっとおこがましいんだろう」

N特尉「だが、やらなければ、また殺し合いだ。お互いのためにも、やらなくてはならないんだ」

N特尉「だからこそ、海軍のいち大佐が、日本政府と深海棲艦の和平交渉の邪魔をするのを、放っておくわけにはいかない……!」

提督「……」


N特尉「そのためにも、協力的な上官を増やしたいところなんだが……せめて大将格がもう数人くらい賛同してくれないものかな」

提督「こっちの理解者は、H大将くらいか?」

N特尉「いや、大湊と呉の大将殿も協力的なほうだ。あとは少し苦言を呈されたり、一任するというか静観するというか」

ヲ級「マルナゲ、カ」

N特尉「身も蓋もないな!?」

タ級「デモ図星ダロウ?」

N特尉「た、確かに、そんなところだ……未だに君たちを信用していいのかどうか、疑心暗鬼の大将もそれなりにいる」

N特尉「同様に中将や少将の見解も、五分五分で拮抗しているな」

提督「ま、仕方ねえだろうな。深海棲艦と今更和解できるか、って意地張ってる連中とか」

提督「この話し合いが侵略の足掛かりになるんじゃないかって疑ってる連中だっていそうだしな」

N特尉「ああ、言われたよ。これが罠じゃない保証がどこにあると、H大将がなじられる一幕もあった」

提督「それにしても、いいのかよ? そんなことまでべらべら喋って」

N特尉「中将の息子の件といい、J少将の件といい、海軍の暗部と言うか恥部というか……」

N特尉「言い逃れできないような不祥事ばかり見てきたお前に、今更、海軍の建前で話をしてもしょうがなくないか?」

提督「……半ばやけくそになってないか? 大丈夫かよ」


妙高「いまのお仕事を始めてから、少し愚痴っぽくはなりましたね」

N特尉「……今の仕事は、同じ海軍の仲間の仕事の、あら捜しをしているようなものだからな」

N特尉「私が働いたから深海棲艦からの襲撃が減ったとか、そういう成果を生み出せる仕事じゃない」

N特尉「むしろ同じ仲間の足を引っ張るような仕事だ。仲間を捕まえれば、その分、外敵から人間を守る者が減る」

N特尉「そう考えると、俺の仕事は……いまやっていることは、本当に正しいことなのか、悩ましく思うときもある」

N特尉「長期的に見れば正しいのかもしれないが、いまも悩み苦しむ一般人がいることを考えるとな……」ハァ…

提督「……」

N特尉「……いや、本当に悪い。こんな愚痴まで零すつもりはなかったんだ」

N特尉「ましてや、提督に同調して人を襲うことをやめた深海棲艦たちに聞かせる話でもなかったな。私も、まだまだ未熟だ……」

提督「……あの村は今どうなってる?」

N特尉「……どうなってるだろうな。どうなっているか、怖くて連絡も取っていない」

提督「けっ、連絡くらいしろよ。あんたの守りたいものなんだろ?」

N特尉「……そうだな……ああ、そうだ……」

妙高「……」

磯波「……」


 *

妙高「提督、お気遣いいただきありがとうございます」

提督「何の話だ」

妙高「最後に、N提督に親に連絡しろと仰ってたではありませんか」

提督「別にそんなつもりで言ったつもりはねえよ。村が再興しなきゃ、朧や初雪がああなった意味がねえってだけだ」

妙高「そうであってもです。N提督も、ご自身の仕事で悩んでおいででしたから。一度、お休みしてもいいのではないかと……」

提督「そういうのは、お前が言えば良かったんじゃねえの?」

妙高「私が甘やかすのもどうかと思いまして」

提督「そうか? あいつの手綱握ってんのはお前だろ?」

磯波(私も妙高さんがN提督を甘やかしていいと思いますけど……)ウンウン

妙高「……磯波さん?」

磯波「いえ……むしろ妙高さんがN提督に甘えるのもありかも……?」ブツブツ

妙高「磯波さん?」

磯波「さっきだって、提督さんに軽巡棲姫が甘えてたのを見てぼやいていたんだし……」

磯波「N提督も、妙高さんに頼られたいと思っているんでは……」ブツブツ

妙高「磯波さん?」

磯波「……あ、はい。妙高さん、どうしました?」

妙高「今のお話、少し詳しく聞かせてもらえますか」ニコリ

磯波「……」ゾワワッ


提督「聞くほどのもんかねえ」ボソッ

妙高「提督?」ジロリ

提督「なんだよ。俺に凄むなよ、面倒臭え」

妙高「……」

提督「茶化すつもりはねえぞ。何でも言わなきゃ伝わらねえ。人が何を考えてるかなんて、所詮他人にはわからねえんだ」

提督「あいつがお前たちに何をして欲しいのか、直接あいつの口から吐かせろよ」

提督「俺だって、艦娘や深海棲艦たちが何を望んでいるかがわからねえから、逐一訊いてんだぞ?」

提督「いま、N提督に直接的に力になれるのはお前たちだけなんだぞ。そんなんでやっていけてんのかよ」

妙高「……っ! し……失礼します!」クルッ スタスタスタ…

提督「……」

磯波「あ、あの……提督さん、デリカシーがないって、よく言われません?」

提督「みんな知ってるから誰も言わねえよ」

磯波「……」

提督「つうか、妙高もなんであんなにプリプリしてんだよ。心配ならアドバイスしてやりゃあいいじゃねえか、わけわかんねえ」

磯波(……ああ、この人、恋愛事に疎い朴念仁タイプなんだ……)タラリ




 * 政府との会談予定日 前日夜 *

 * 日本 某港 *

蒼龍改二「……ここが集合地点で良かったのよね?」

綾波改二「はい! 間違いないですよ!」

飛龍改二「もー、蒼龍ってばその質問、何回目?」

天龍改二「しょうがねえって、飛龍さん。なんせもう1時間以上待ってんだぜ? 本っ当、遅っせえよなあ……ちゃっちゃと準備しろよ」

霧島改二「念には念を入れて準備するのは悪いことではないでしょうけど……確かに、いくら何でも遅すぎね?」

コロラド「……気に入らないわ……!」

飛龍改二「? 気に入らない、って、なにが?」

蒼龍改二「待たされてるのが気に入らないんじゃない?」

コロラド「ビッグセブンであるこの私がいるのに、どうして奇襲じみたアタックを仕掛けなきゃいけないのよ……不服だわ!」

蒼龍改二「そっち!?」

飛龍改二「まあまあ、そう怒んないでよ。そもそも今回の私たちは支援艦隊だよ?」

コロラド「そこもよ!」

蒼龍改二「待たされるのはいいんだ……」


天龍改二「お! やっと来たみたいだぜ……!」

 ザザァ…

大和改二「曽大佐艦隊、旗艦、大和。以下、榛名、陸奥、赤城、由良、朝潮。ただいま推参しました……!」

コロラド「やっと来たわね……私は川提督艦隊の旗艦、コロラドよ! こっちは飛龍、蒼龍、霧島、天龍、綾波よ!」

大和改二「……予定より大幅に遅くなり、大変申し訳ございません。このたびの川提督艦隊のご協力に感謝いたします」ペコリ

大和改二「それにしても、川提督のところに海外艦が所属していたとは、存じませんでした」

コロラド「川提督が私のことを隠してたのよ。ヒミツヘイキ? と言っていたかしら。ここぞという場面で出番が来るようにね!」

コロラド「それにしても、大和のいる艦隊とこんな重要な場面で協力ができるなんて思わなかったわ!」

コロラド「同じビッグセブンの陸奥もいるし、戦力は十分ね!」

天龍改二「十分ってなあ……あっちの艦娘、全員指輪してやがるぜ?」ヒソヒソ

綾波改二「練度も雰囲気も違いますからね。私たちは下手に出しゃばらずに、サポートに徹したほうが良さそうです」ヒソヒソ

大和改二「それでは早速、今回の作戦ですが……私たちは、あの島の深海棲艦を撃滅するため、島の西から南へ回って、敵拠点へ向かいます」

蒼龍改二「西? 敵の拠点が島の東にあるのに、遠回りするの?」

大和改二「島の北にある海底火山の影響で、あの島の近海の潮流が特殊だということです。噴火したことで若干変わったとは思いますが」

大和改二「島の西を通って反時計回りに回り込んだ方が、潮流に邪魔されず速やかに進軍できると思われます」

蒼龍改二「な、なるほどぉ……?」


大和改二「そしてこれから出立した到着予定時刻に合わせて、政府高官を乗せた艦艇が、島の東沖に停泊する予定です」

飛龍改二「え!?」

大和改二「私たちは、その艦艇を背にして敵本拠地を叩き、深海棲艦の拠点を崩壊させます」

大和改二「政府の人間に、深海棲艦との交渉など不要であるということを、この戦いで見せつけるのです……!」

霧島改二「ほ、本気ですか!? もし深海棲艦が反撃して、その流れ弾がそちらに向かったら……!」

大和改二「そうなればなおのこと、交渉どころではなくなるでしょう?」ニコッ

霧島改二「……」ドンビキ

綾波改二(ぶっ飛んでますね……)

天龍改二(手段を選ばねえ気かよ。狂ってやがんな)

大和改二「連携に関しては先週打ち合わせた通りですので、ここで改めて話すことはないと思いますが……」

天龍改二「あ、悪ぃ、俺からひとつ質問していいか?」

大和改二「はい、なんでしょう?」

天龍改二「曽大佐の艦隊じゃあ、長門さんが滅茶苦茶強えって聞いてたんだけどよ」

天龍改二「先週うちに連絡が来た時も思ったんだけど、今回の作戦に長門さんが参加していないのはなんでなんだ? 殲滅戦だろ?」

大和改二「……私たちが選ばれたのは、これから攻め込むあの島の鎮守府にいる艦娘と、同じ艦娘だからです」


天龍改二「同じ? 向こうの鎮守府に誰がいるかわかってて、それに合わせたってことか? なんでわざわざそんなことを?」

大和改二「曽大佐のお考えです。これから深海棲艦と一緒に住まう艦娘と同じ艦娘なら、相手の動揺を誘えるかもしれない、と……」

天龍改二「ふーん、そういうことか……確かに、俺も演習で龍田がいるとやりづれーな」

綾波改二「自分と同じ顔の艦娘を、躊躇なく撃って沈めようものなら、向こうの鎮守府の艦娘もいい気分にはならないでしょうね」

大和改二「はい。ただ、向こうの艦娘がそこまでのナイーブさを持ち合わせているかどうかは疑問ですが」

飛龍改二「で、でも、その理屈だと、大和さんたちも同じなんじゃないの?」

大和改二「いいえ……! そんなことは、断じてありません……!」

飛龍改二「!」ビクッ

大和改二「忌むべき存在である深海棲艦に与し、正義を執行する海軍に背く愚か者が同型艦にいる事実は、恥でしかありません」ギラッ…!

大和改二「ですから、私たちが『敵』に手心を加えるようなことはあり得ません。ご安心ください」ニコ…

コロラド「……そ、そう!? さすがね!!」ナミダメ

飛龍改二(めっちゃ怖かった……!)ナミダメ

霧島改二(コロラドさん、よく気圧されませんでしたね……)ビクビク

天龍改二「こりゃあ最初から全力で潰す気だな」ヒソヒソ

綾波改二「気を抜く間はなさそうですね」ヒソヒソ

天龍改二「……よぉし、よくわかったぜ。気掛かりもなくなったし、他になけりゃ、そろそろ出発すっか」

コロラド「そ、そうね! 私たちが先行するわ! ツユバライ? は、任せておきなさい!」

大和改二「ありがとうございます。では、参りましょう……!」

今回はここまで。
ここからは少しペース上げて落とせるかもです。

>131
ありがとうございます。
ただ最近は、仁提督を丸くしすぎたかな? と思ってますので、またどこかでガハハ笑いさせたいと思います。


今回初登場のメディウムはこちら。

・エレノア・メイデンハッグ:ちょっとパンクスタイルなシスターのメディウム。アイアンメイデンが人間を取り込み体中を刺し貫く罠。
  派手な修道服を着た女性。鋼鉄の処女を模した大きなとげ付き盾を持つ。大の酒好き。仲間思いでリスキーな行動も躊躇わない女傑。

>163
残念ながら提督は(艦娘に甘いせいで)極力戦闘を避けようとしてますので、
口上のご期待に添えられないかもしれません。


それでは続きです。


 * 政府との会談予定日 当日早朝 *

 扉<コンコンコン!

大淀「提督、N特務大尉より連絡です!」チャッ

提督「やっぱり、来やがったか……!」

大淀「曽大佐の艦隊と思しき艦娘12名が、この島に向けて出港したとの通信が入りました!」

提督「2艦隊か……ぎりぎり隠密行動できそうな人数だな。思ったより少なくて何よりだぜ」

エレノア「それにしても、会談を邪魔されるのは想定済みとはいえ、こんなに素直に釣られてくれるものなのかしら」

提督「やるんなら今しかないだろうからな。戦争を回避できる可能性があることで、今だけは海軍も深海棲艦討滅に慎重になってる」

提督「かつ、会談をなるべく早い時期に設定すれば、妨害する側も思うように動けず準備不足にもなるだろう」

提督「そうなると、妨害の仕方は多少強引にならざるを得なくなるはずだ」

提督「俺はそいつらの落ち度を突いて追い返し、海軍へ事の顛末を報告して、二度と妨害できないようにしてもらう」

エレノア「魔神様が攻めてくる奴らと話し合うの?」

提督「ああ。政府の船には会談の予定時刻より前に赴いて、いま起こっている不測の事態について話をして、退避してもらう」

提督「予定外のことが起こって、あいつらがなにか焦ってやらかしてくれりゃあ、責められるのは海軍と曽大佐だ」

大淀「正当防衛が認められるように立ち回る、ということですね」

提督「俺たちが戦争の起点になりたくないからな。後から責任追及されたくねえし」


エレノア「私たちを倒そうとしている奴らが、政府の船と一緒にやってくる可能性はないの?」

提督「政府の艦艇の護衛は、中将や与少将の関係者で固めてくれとお願いした。護衛に部外者が入らないようにも頼んである」

提督「そもそも、H大将の決定に背いて離反したばかりの曽大佐の評価は、以前よりも下がってるってN特尉の報告書にもあった」

提督「その状況下で、中将が主体となって編成する政府艦艇の護衛艦隊に加えてもらおうとしても、断られるのがオチだろう」

提督「そんなことが起きないように、事前にX大佐経由で特別警察隊へ調査と警戒を依頼したわけだしな」

エレノア「用意周到ね、それでこそ魔神様だわ。穏便にってところ以外は」

提督「ま、それでもどうなるかはわからねえからな……あいつの艦隊そのものは実力もある。力押しで来られたら、やばいのは変わらねえ」

大淀「正直に申し上げて、ここまで提督の思い通りなのが不思議ですね。曽大佐は、もっと柔軟に動けなかったんでしょうか」

提督「……そう動かざるを得なくなった、引っ込みがつかなくなったのかもな。他人に厳しい奴は自分の失敗を認めたがらない」

提督「自分が間違っていないことを証明するため、自分の考えている通りの現実にするため、無理を通そうとしている……とか」

提督「あるいは、自分が絶対的に正しいと確信していて、海軍も政府の人間も、深海棲艦に丸め込まれた奴を皆殺しにしたがってるとか」

大淀「いくらなんでもそれは……」

提督「わかんねえぞ。政府の人間が来るタイミングで戦闘仕掛けようって時点で、狂ってることには違いないからな」

エレノア「人間の分際で、傲慢極まりないわね?」

提督「あとは、海軍が深海棲艦を許容した事実を信じたくないのかもな。理想にしがみつきたいだけとも考えられる」


提督「でもまあ、これで不祥事になるのは確実だし、曽大佐やその模倣犯がこれ以降絡んでくることもないと思いたいな」

提督「ついでに、政府にも、深海棲艦との交流を妨害しようとする獅子身中の虫がいるってことを自覚させるのに丁度いい」

大淀「……提督は、政府と海軍の間に亀裂を入れたいんですか」

提督「そんなことはねえよ。雨降って地固まって欲しいぜ?」

エレノア「白々しいわねえ……」

 扉<コンコン

敷波「おはよーございまーす」ガチャ

初雪「おはよう、ございます」

ヲ級「……オハヨウ」

提督「よう、大丈夫そうか?」

敷波「まあね。メディウムのみんなは大丈夫なのかな」

提督「さっき俺が叩き起こしてきた。エレノアはすでに準備出来てたがな」

エレノア「あらかじめそういう約束だったものね。たまには、朝のすがすがしい空気を吸うのも悪くないし」

提督「とりあえず、支度ができ次第、出発してもらうぞ」

 * * *

 * *

 *


 * それからしばらくして *

 * 墓場島沖 北西の海域 *

赤城改二「ここからが、あの島の領海です。まずは遠巻きに島の南側へ向かい、島の南東から領海に侵入します」

大和改二「何があるかわかりません。気を引き締めて進みましょう」

陸奥改二「支援、よろしく頼むわね」

綾波改二「はい! 皆さんも、お気を付けて!」

コロラド「……ねえ、少し待って。この景色……おかしくない?」

霧島改二「どうかしましたか?」

コロラド「なんていうか、これまでの海域と雰囲気が違いすぎないか、って言ってるのよ」

飛龍改二「んー、まあ……確かにそうねぇ」

コロラド「これまで戦ってきた大物の深海棲艦のいる海は、どこも黒い雲に覆われて暗かったでしょう?」

コロラド「ブキミって、そういう雰囲気のことを言うと思ってたんだけど、この島の海域は全然そんなことなくて、いい天気よね」

綾波改二「確かに、まるで鎮守府近海のような穏やかさですねえ」

コロラド「情報が間違ってるとは思わないけど、本当にこの島に深海棲艦のBossが棲んでるの……?」

朝潮改二「この島に深海棲艦が海域に与える影響が弱い、ということでしょうか……?」


榛名改二「もしかしたらですが、この島に巣食う深海棲艦の力がそれほどではないのかもしれません」

天龍改二「だとしたら、いまがチャンスだってことだよな!」

コロラド「……」

榛名改二「もちろん、この雰囲気自体が罠だという可能性も十二分にあります」

陸奥改二「そうね。くれぐれも油断せず、慎重にね?」

赤城改二「さあ、参りましょう……!」


 ザザーン…


霧島改二「……それでは、私たちも支援可能な場所へ移動しましょう」

蒼龍改二「そうだね。ねえ飛龍、偵察機、飛ばしとく?」

飛龍改二「そうね」バシュッ

 彩雲<バウーン…

飛龍改二「……」

蒼龍改二「……」

飛龍改二「……ねえ。すっごい穏やかなんだけど。艦載機を警戒されてる感じもないし」

蒼龍改二「うーん、もうちょっと飛ばしてみてよ?」


飛龍改二「……」

蒼龍改二「……」

飛龍改二「……島の西岸に到達。でも、深海棲艦らしい敵影は全然……あれ? 南のほうへ誰か歩いてる」

蒼龍改二「南に?」

飛龍改二「うん、男の人がひとりで、てくてくと」

天龍改二「男? あの島、確か住んでる人間はそこの提督だけっつったよな? なんか、普通じゃねえって聞いてるけど」

綾波改二「ああ、何回か死にかけた、って話でしたっけ?」

飛龍改二「それ以外になにかあったような気がするんだけど……」

蒼龍改二「とりあえず、曽大佐艦隊にも、誰かが出歩いてる話を展開しておきましょ」

霧島改二「島の様子も大事ですが、私たちも曽大佐艦隊について支援するのですから、つかず離れず追いかけましょう」

コロラド「……」

綾波改二「コロラドさん?」

コロラド「……あ、ごめんなさい。どうにも納得できなくて……」

天龍改二「わからなくはねえけどよ。一応は敵の領海内なんだ、慎重に行こうぜ?」

コロラド「……そうね」


 * 墓場島 南岸 *

提督「……偵察機……」

提督「ってことは、南を回って艦隊が近づいてるってことか」

提督「……」メヲツムリ

提督「……侵入者は2艦隊、12人だったな……ほぼ全員が第二改装済みか」

提督「所属は……曽大佐と……川提督? 誰だ? 曽大佐の協力者か?」

提督「……なるほど」メヲヒラキ

提督「それにしてもやべえな、この『魔神の目』の力は。この島の海域に入った奴らの能力が見えるってのは、ちょっと便利すぎる」ハァ…

提督「いろいろ、見えたくないものまで、見えちまうぜ……」

(提督がそう呟いて、北東沖の政府専用艦艇の方角を睨みつける)


 * 墓場島 北東沖 *

 * 政府専用艦艇 搭乗口 *

敷波「よいしょっと。お邪魔しまーす」

初雪「……大丈夫?」

ヲ級「……」コク


 ザワザワ…

「あれが深海棲艦……」ヒソヒソ

「本当に対話できるのか……」ヒソヒソ

「こんなに間近で見られるなんて……」ヒソヒソ


敷波「……」ムッ

ヲ級「……」

初雪「……なんか、好き勝手言われてる?」

敷波「気にしなくていいからね」

ヲ級「……」コク


ブリジット(敷波の艤装に搭乗)「むう……敷波殿はそう仰るものの、いい気分はしないでありますな!」ヒソヒソ

イサラ(初雪の艤装に搭乗)「……早く帰りたい」ヒソヒソ

エレノア(ヲ級の艤装に搭乗)「ほんと、気に入らないわね……お酒の匂いもしないし、話なんかささっと済ませて早く帰りましょ」ヒソヒソ

敷波「……みんな、こっちから手を出しちゃ駄目だからね?」

ブリジット「はっ! 重々承知であります!」

 タタタッ

船員「よ、ようこそおいでくださいました……君たち……いや、あなたがたが、あの××島の代表……ということで良かったのでしょうか?」

敷波「うん。あたしの名は敷波です」

初雪「初雪、です……」

敷波「で、こっちは深海棲艦の空母ヲ級ちゃん」

ヲ級「……」チラッ

船員「おお……か、歓迎いたします。我々は日本政府より派遣された使節団です」

敷波「あー、握手はいらないよ。ヲ級ちゃんが握手できないから」

船員「あ、そ、そうか、これは失礼を……こほん、失礼しました」ピシッ

初雪(……気合入れ直したっぽい)


敷波「あたしたちが、司令官の代わりにあなたたちの話を聞きに来たんだけど……あなたが代表?」

船員「いえ、私はあなた方に船内を案内するよう仰せつかっています」

船員「本来ならば鎮守府の東沖まで、もう少し南下してからご挨拶に伺う予定だったため、我々の準備が整っておりません」

船員「恐れ入りますが、しばらくお待ちいただきたいのですが……」

敷波「あ、悪いんだけど、今回は話し合いはできないから、資料だけもらいたいんですけど。お願いできますか?」

船員「話し合いができない? それは、どういうことです?」

敷波「知ってるかもしれないけど、この島の南側の海に、ある海軍大佐の艦隊が、私たちと戦うために展開してるの」

船員「な……!? では、戦闘が……!?j

敷波「あ、まだ戦ってないし、私たちも戦う気はないよ。だけど、あっちがやる気満々らしくて、物々しい雰囲気になっててさ」

敷波「戦わずにどっか行ってくれれば一番いいんだけど、万が一でもこっちに流れ弾や魚雷が来たら問題になるじゃない?」

船員「え、ええ、問題ですね……そもそも今の状況下で艦隊を出すこと自体、大問題ですが」

敷波「この船の人たちはあくまで話し合いに来てるんだから、戦闘を回避したいなって考えてるんだけど、その保証がないからさ」

敷波「巻き込まれる前にすぐ退避できる準備をしておいてもらえないかな、って。それで早めに来てお願いをしに来たんです」

船員「なるほど……承知しました、使節団の代表にその話を伝えて判断を仰ぎますので、少しお待ちいただけますか」スマホトリダシ

敷波「わかりました、よろしくお願いしまーす」


エレノア「へー、ちゃんと話ができる人間もいるのね。まあ、そうじゃないと魔神さんが困るんだけど」

初雪「! 誰か来た……」

ビスマルク「Guten Morgen ! あなたたちがあの島の代表ね? ずいぶん早かったわね、あの提督は来ていないの?」

敷波「来てないですけど、えーっと……あなたは?」

ビスマルク「ああ、自己紹介はまだだったかしら。私はビスマルク、X大佐の艦娘よ」

敷波「ああ、X大佐の! お世話になってます、私は敷波です」ペコリ

初雪「初雪、です。あの、さっき、海でも海外艦娘に会ったけど……」

ビスマルク「ああ、レーベたちのこと? 彼女たちもX大佐の艦娘よ」

ヲ級「……」

ビスマルク「あなたと顔を合わせるのも、初めてだったかしら?」

ヲ級「……オソラク、ソウネ」

ビスマルク「そう、それじゃ、初めまして、ね。それにしても、本当に深海棲艦が話し合いの場に現れるなんて……感慨深いわ」ニコッ

ビスマルク「残念ながら、私はこの船の警備を任されているから、話し合いの場には参加できないけど」

ビスマルク「あなたたちの話し合いが、良いものになることを祈っているわ! また後で会いましょう!」ビシッ!

敷波「うん、ありがとねー……って、今日は話し合いはできないんだけどさ」フリフリ


初雪「……X大佐もこの船にいるのかな」

敷波「かもねー」

ヲ級「……」

初雪「……大丈夫?」

ヲ級「? ナニガ大丈夫ナンダ?」

初雪「こんなにたくさん人がいて、緊張しないか、って思って」

ヲ級「……ソレハ、心配ナイ。ムシロ、オマ……アナタタチノホウコソ、人間ノ視線ガ気ニナラナイノ……?」

敷波「あー……」

初雪「……」


「こちらも不知火とかいう艦娘を頼りにしてるとはいえ、駆逐艦を使いに寄越すのか……」ヒソヒソ

「我々は国を代表してここに来たというのに……」ヒソヒソ

「それより、本当に深海棲艦と一緒にいるような艦娘を信用していいのか……?」


敷波「ま、いいんじゃない? 好きに言ってればいいよ、ふんっ」

ブリジット「実に大人の対応でありますな……!」


イサラ「つか、この距離で会話を拾えるとか、艦娘って、耳がいいんスね……」

初雪「……それより、ヲ級ちゃんが、いきなりお前呼びじゃなくなったのが、びっくり……」

ヲ級「少シ、思イ出シタダケヨ。『余所行キ』ノトキノ、立チ回リ方ヲ、ネ」フフッ

敷波「……」

初雪「……笑うと可愛い」ヒソッ

敷波「うん……美人」ヒソッ

ヲ級「?」


男1「なんだ、あいつの顔が拝めるかと思ったのに、拍子抜けだな」

男2「お前、会うなって話じゃなかったのか」

男1「方針が変わったんだよ。代表も変わったんだし、直接話もしないんだから、いいだろ?」

男1「それよりあの人選を見てみろよ? よりにもよって駆逐艦娘だぞ? あいつは誰かの上に立つような人間じゃないんだ」

男3「しーっ! こ、声がでかいぞ! 聞こえてたらどうする!」

男1「聞こえるかよ。あんな判断をする指導者が身内なんだぞ? 俺の気持ちもわかってくれよ」


エレノア「……ちょっと、あの人間、もしかして」


敷波「ん?」チラッ

イサラ「いま、身内とか言ってなかったっスかねえ……?」

敷波「ああ、だとすると、あれが司令官の弟さん?」

男1→提督弟(以下弟)「!」

敷波「反応したってことはその通りみたいだね」

初雪「うん……ぶっちゃけ、どうでもいいけど」

ヲ級「……」コク

イサラ「い、いいんスか」

敷波「放っておけばいいよ。どうせ口だけだもん、無視無視」

弟「ど……どうでもいいだと!?」

男2→使節団員1「お、おい! 落ち着け!」

男3→団員2「やっぱり聞こえてたんじゃないか! その、大変申し訳ない! どうか今の話は忘れていただけないか……!」

敷波「はぁ? そっちの都合なんか知らないよ。あたしたちは、この船での出来事を全部、ありのままに司令官に伝えるだけだし?」ハァ…

初雪(……けだるそうなところが、司令官そっくり……)


弟「こいつ……っ!」ギリッ

団員1「船の中に戻るんだ! もともとお前はこの船に乗る予定自体が……」

弟「わかっている!!」

 クルッ スタスタ…

団員2「本当に、申し訳ない……!」

敷波「……なんなんだろーね、あれ」

ブリジット「一発誤射してやりたかったでありますな!」プンスカ!

初雪「来るなって言われなかったのかな……」

敷波「さあ? 自分の都合のいいように受け取ったんじゃないの?」

船員「お待たせしました」スッ

敷波「あ、おかえりなさい。どうでした?」

船員「南の海上に艦娘が確認できました。こちらに近づいてきているとのことですので、すぐ退避できるよう回頭することにしました」

船員「ですので、多少揺れるかもしれませんが、ご容赦いただければと思います」


ヲ級「……近ヅイテ、キテイル……?」ジッ

船員「っ! そ、そうですが……!」ビクッ

ヲ級「ソウカ……」

船員「……心配、ですか?」

ヲ級「……」コク

船員「申し訳ないのですが、この船に武装はありません。この船を警護している艦娘にも、極力戦闘に参加しないよう伝えてあります」

ヲ級「ワカッテイル。私タチモ、コノ船ヲ、戦イニ巻キ込ム気ハナイ。最悪ノ事態ニナレバ、逃ゲルシカナイ……ナ?」

船員「そ、その通りです……! とりあえず、お渡しする予定だった書類を、いまこちらへ運んでおります」

船員「私共の代表もこちらに参上しますが、急がせますので今少しお待ちいただけますでしょうか」

敷波「はーい」

ヲ級「……」

初雪「大丈夫かな……」

ヲ級「心配ナラ、偵察機ヲ飛バソウカ」

初雪「……ううん、やっぱり、いまはいい。気が散っちゃうし、話が終わってからにする」


ヲ級「……!」

 ゾロゾロ…

代表「おお!! やあやあ、お待たせした。君たちがあの島の代表でやってきた艦娘だね? 私が派遣団の代表だ」

敷波「あなたが? あたしの名は敷波」

初雪「初雪、です……」

敷波「こっちは深海棲艦の空母ヲ級ちゃん」

ヲ級「……」

代表「そうかねそうかね、是非是非よろしく頼むよ」

敷波「あー、握手はいらな……」

代表「いやいや、そう言わずに。国際的にも握手は重要だからね」ニコニコ ガシッ

敷波「あー……」ギュ

代表「君もだね」ガシッ

初雪(……この人、強引)ギュ

ヲ級「……」


代表「さて、今回は生憎、話す時間がないということだが、我が国は、あなたがたとは友好的な関係を結びたいと思っている」

代表「まずは、ぜひ、その旨をあなたがたの代表である提督に伝えていただきたい」

代表「そして、次回は是非に、顔を合わせて会見できることを期待している。歴史的な第一歩を踏み出す場になるだろうからね!」

敷波「……」

初雪「……」

ヲ級「……」

代表「しかし、いくら艦娘とはいえ、君たちのような子供たちには条約の締結は難しいのではないかな?」

代表「次はそういった情報に詳しい、大人たちを呼んでくれたまえ」ニコニコ

敷波「……別に、わからなくないんだけどなあ」ボソッ

代表「それから、締結に向けた書類はこちらに用意した」

代表「これを持ち帰ってもらって、提督に前向きに検討していただくよう、是非にお願いしたい」

敷波「……提督、読むかな?」ヒソヒソ

初雪「面倒って言いそうだけど……多分、読むと思う」ヒソヒソ


代表「では、こちらもお渡ししよう。こちらの二人に書類の入ったアタッシェケースを渡してくれ」

団員3「はっ!」

団員4「こちらをどうぞ!」

敷波「……」ウケトリ

初雪「……」ウケトリ

ヲ級「私ガ鎮守府マデ空輸シヨウカ」

敷波「そんなことできるんだ?」

初雪「お願い、していいの……?」

ヲ級「任セテ……」ウケトリ

 深海艦載機<シュパァァ…!

初雪「おお、早い……」

代表「……だ、大丈夫なのかね?」

敷波「ヲ級ちゃんも任せてって言ってくれてるし、大丈夫だと思うよ。どうもお世話になりました」ペコリ

代表「お、おお」


敷波「よし、それじゃ帰ろっか」

代表「は、早いな! それでは、あなたがたの提督にくれぐれも……」

敷波「ビスマルクさんは警護中かな……あれ、さっきの案内役の船員さん、どこいったのかな?」

初雪「? どこだろ……」

ヲ級「アノ人、ジャナイ?」

敷波「あ、ほんとだ!」タタッ

代表「お、おい! ちょっと待ってくれ!」

ヲ級「ナニカ……?」

代表「い、いや、その、君ではなく……」

ヲ級「……」


敷波「船員さーん」

船員「おや? もう話が終わったんですか」

敷波「うん、書類ももらって、艦載機で鎮守府に送ったし」

船員「艦載機? ああ、なるほど。彼女は空母でしたね」


初雪「? ヲ級ちゃん……代表の人と話してたの?」

ヲ級「イイエ。話ハシテイナイ」

代表「し、敷波? と言ったね、鎮守府の連絡先を……!」

敷波「え? 私?」

ヲ級「スコシ、イイカシラ」

代表「!」ビクッ

ヲ級「……アナタ」ユビサシ

船員「わ、私ですか?」

ヲ級「ソウ。アナタ……私ガ、コドモニ見エル? ソレトモ、オトナニ見エル?」

船員「子供? い、いえ……あくまで私の感覚ですが、子供には見えないですね」

船員「背丈というか、目線が私とあまり変わらないですし、私の国の成人女性の平均より、やや高いくらいだと思います」

ヲ級「……ソウ」

敷波「ヲ級ちゃん、どうしたの?」

ヲ級「コチラノ男ガ『コンナ子供ヲ使イニ寄越スナ、大人ト代ワレ』ト言ッテイタデショウ。私モソウナノカ、問イタカッタダケヨ」

代表「……そ、そういう意味では」


ヲ級「私ガ子供ニ見エナイト言ウノナラ、ナゼ私ト話ソウトシナカッタ? 最初カラ、深海棲艦ト話ス気ハ、ナカッタノ?」

代表「い、いや……それは」

ヲ級「ソレトモ、私ガ、オソロシイ……?」ジロリ

代表「うっ……い、いやいやいや」

船員「代表殿? 深海棲艦も対話ができると、あれほど……!」

初雪「……ああ、やっぱり」

敷波「なんとなくそんな気はしてたんだよね。この人、私たちしか見てなかったし」

ヲ級「コチラノ彼ハ、オソラク、コレマデ深海棲艦ト戦ッテキタコトノアル、海軍ノ関係者ジャナイカシラ」

敷波「!」

ヲ級「警戒シツツモ、デキル限リ、普段通リニ努メテイタ……ソウ、見エタケレド」

船員「……ええ、そうです。艦娘を率いたことはありませんが」

ヲ級「ソウ……皮肉ネ。海軍ハ、私タチヲ『敵』トシテ扱ッテイタトイウノニ」

ヲ級「政府ノ……内地ノ人間ハ、私ヲ『敵』トシテモ、認メヨウトシテイナイノダカラ」

ヲ級「海軍ハ、イッタイ『何』ト、戦ッテイルノカシラネ……」ウツムキ

船員「……」


ヲ級「先ニ、降リテルワ」

 コツコツ…

敷波「……私たちも、戻ろうか」

初雪「うん……あ、そうだ。船員さん、名刺、貰っていい?」

船員「……わ、私の、ですか?」

初雪「うん」

敷波「そうだね、こっちの人より、お兄さんと話す方がいいなあ。ね、今度は一緒にお話ししようよ」

船員「……わかりました、お渡ししましょう。力になれるかはわかりませんが」スッ

初雪「なにか、あったの?」

船員「私も元海自ですので、いろいろと……正直なところ、深海棲艦には、あまりいい思いというか、良い感情はありません」

敷波「あー、そっか……それじゃあ、私たちのことも」

船員「い、いえ、そういうわけでは……」

初雪「私は、どっちでもいい。ちゃんと、私たちとも、ヲ級ちゃんとも、話をしてくれたし」

船員「……」

敷波「それ、大事かもね。ほら、深海棲艦の怖さを知ってる人じゃないと、ちゃんと話ができない気もするし」


敷波「とにかく話をしようってのはわかんなくもないけど、あんまりぐいぐい来られても困るからさ」チラッ

代表「……」

敷波「司令官も、どっちかって言うと、積極的に交流、じゃなくて、どうやってつかず離れずにするか、って考えだし、ね?」

船員「つかず離れず……ですか」

敷波「人に迷惑をかけないように、静かに暮らしたいんだって」

初雪「……そろそろ、戻ろう。ヲ級ちゃん、待たせたくないし」

敷波「うん。じゃ、また次があったらよろしくね! ビスマルクさんにもよろしく伝えてね!」ブンブン

初雪「お邪魔、しました」ペコリ

 タタタッ…

船員「……」

代表「……我々は、嫌われてしまったか」

船員「いえ。あの艦娘は、次があったらと言ってくれました。これが初めての会談にならなかったことを喜ぶべきでしょう」

船員「これまで、生存している深海棲艦とここまで近づいて、殺されずに生き残った人間は、おそらく他に、そうはいないはず」

船員「それどころか、あの深海棲艦は、この船を戦闘に巻き込む気がない、とまで言っていました」


船員「あの島の深海棲艦たちが対話に応じようとしているというのも、あながち嘘ではないように思えます」

代表「……」

船員「私の名刺も持っていきました。なにかしら次があるかもしれないと……望みをつなぐこともできたのかもしれません」

船員「これで意識を改めて次に臨むこともできるでしょう」

代表「では……!」

船員「……ですが」

代表「!」

船員「事前に話をしたでしょう! 小さい子供の姿をしていても、彼女たちは船の魂を持つ艦娘だと!」

船員「あの深海棲艦を前にして怖気づくのは仕方ないにしても、なんなんですか、子供だと思ってあの態度は!」

船員「自分も人のことを言えた立場ではありませんが、あの振る舞いは完全に良くありませんよ!?」

代表「あ、いや、すまない……」

船員「そもそも、なんで艦娘と話をしたこともないあなたが、交渉の前日になって突然抜擢されたんです!?」

船員「もともと来るはずだった担当者はどうしてこの土壇場で外されたんですか! 特に彼とは何度も話し合ってきたというのに……!」

船員「使節団のメンバーも大幅に入れ替えになって……方針が変わったんですか!?」

代表「う、うん……そうだな……その、彼は、仕方ないんだ……」


船員「……? なにか、御存知なんですね」ヒソッ

代表「……他言は控えてくれ」ヒソッ

代表「彼等は、暗殺されかけた」

船員「!? ……それは、深海棲艦との和解を拒む団体によるものですか?」

代表「わからない。ただ、そういう状況だった、としか聞いていないし、誰がやったかすら見当がつかないらしい」

代表「彼だけではなく、艦娘に造詣の深い者が狙われ、結果、本来この船に乗るはずではなかった者たちも、乗らざるを得なくなった」

船員「なんのために……!?」

代表「私も、それ以上は本当に知らないんだ。本当だ……!」

船員「……」


 * 墓場島 東沖 洋上 *

イサラ「はー……いろんな意味で我慢するのが大変だったっス」

敷波「みんな黙っててくれてありがとね。とりあえず目的は達成できた感じかなー」

エレノア「なら良かったわ。最後に出てきた奴にちょっとむかついてたんだけど、なかなかいい意趣返しができたんじゃない?」

初雪「うん……握手、いらなかった」

ヲ級「……ソレヨリ、南ノ敵艦隊ガ、気ニナルワ」

ブリジット「もしや、それが心配で、航空部隊で書類を届けたでありますか」

ヲ級「……」コク

敷波「司令官がそっちに話をしに行くって言ってたんだよね」

エレノア「そうね。話が終わったらすぐ引き上げる予定だって言ってたけど」

敷波「それなら、少しだけ様子を見に行こう。戦闘が発生したら、すぐに救援を要請して、艦隊を出してもらわなきゃ」

初雪「うん……」

イサラ(……帰りたかったのに、そうもいかなくなったっス……)ガックリ

といったところで、今回はここまで。


今回登場のメディウムはこちら。ちょい役です。

・ソニア・スプリングフロア:バドミントン選手のような風貌の少女のメディウム。床が斜めにせり上がり、少し遠くに人を跳ね飛ばす罠。
  ツインテールが可愛らしい快活な少女。交流のため、戦わない時は罠の名前で呼ばず、名前で呼ぶようニコたちにお願いしている。
・クレア・スマッシュフロア:テニスプレーヤーのような衣装の女性のメディウム。床が斜めにせり上がり、遠くに人を跳ね飛ばす罠。
  姉妹の中では自分が一番いけていると思っているお転婆娘。人を呼ぶときの呼び方が少々独特。軽率な失言が多いことを自覚している。

ちなみにフロア3姉妹は長女ユリア・カタパルト、次女クレア・スマッシュフロア、末妹ソニア・スプリングフロアの3人。
おまけでアロー4姉妹は長女ノイルース・ファイアーボール、末妹ミリーエル・アローシューター。
真ん中のディニエイル・コールドアローとグローディス・サンダージャベリンは、どちらが姉かは明確になっていません。

それでは続きです。


 * 墓場島 南沖 *

由良改二「あの建物は、壊さなくて良かったんですか?」

赤城改二「良かったと思いますよ。あの屋敷はもぬけの殻、無駄に弾薬を消費する必要はありません」

赤城改二「資材が置いてあるわけでもない無人の建物を破壊したところで、敵の警戒が強まるのがが関の山」

赤城改二「このまま敵本拠地を目指しましょう」

由良改二「それにしても……本当に、生き物の気配がありませんね」

赤城改二「ええ、不気味なほど静かですね。敵影らしい敵影もまったく見えません」

榛名改二「先程、川提督の艦隊から島の南に、この島の提督らしき人影があったと報告がありましたが……」

大和改二「……」

陸奥改二「敵の司令官を討つか、放っておいて敵の拠点を潰すか……どちらがいいかしら」

朝潮改二「私は、敵拠点を潰したほうが良いと考えています。活動拠点を……」

 ボーン!

朝潮改二「!? 砲撃です! 9時の方向、近距離からの夾叉弾です!」

赤城改二「そんな!? 敵影はどこにも……!」

 砲弾<ポチャッ

陸奥改二「明らかに当てる気がないとはいえ……誰かしらが私たちを狙っていて、いつでもやれるぞという脅しのつもり?」

榛名改二「撃ってきた方角は、報告にあった人影がいるという方角に合致していますね」

赤城改二「これは……来いと言うことでしょうか」

大和改二「……仕方ありませんね。誘いに乗るとしましょう。皆さん、くれぐれも油断しないように」


 * 墓場島 南岸 *

 パシャパシャッ

提督「よう、連中がこっちに向かって来てるようだな」

クレア(イ級に騎乗)「あぶなかったよ~、もしかしたら素通りするかもしれなかったから!」

ソニア(ロ級に騎乗)「私たちを無視して館に向かわれたら、艦隊を出す気だったんでしょ?」

提督「まあな。再建途中の鎮守府を壊されたらたまったもんじゃねえ。余計な苦労はしたくねえから、丸め込めりゃあいいんだが」

提督「とりあえずお前たちはもうしばらく隠れててくれ」

提督「深海棲艦にメディウムが乗れば完全に潜んでいられるとはいえ、連中の力量もどれほどのもんかわからねえし」

提督「罠を発動するときはそれも定かじゃないから、くれぐれも慎重にな」

クレア「オッケー!」

イ級「リョウカイ」

ソニア「それじゃまたあとでね!」

ロ級「カクレルー」

 パシャッ

 シーン…

提督「……さてと。来やがったな……」


 ザザァ…

提督「ったく。この辺りで戦闘すんな、って取り決めたはずなんだがな。なんで臨戦態勢で、艦載機まで飛ばしてやがんだ?」

赤城改二「……」

提督「大和、陸奥、榛名、赤城、由良、朝潮だな? 全員第二改装済みか」

陸奥改二「……」

提督「なんだ、だんまりかよ。まあ、装備に関しちゃあ守秘義務とかだって言うんなら、それはそれでいいけどよ」

提督「で、お前らはどこの鎮守府の艦隊で、この領海で何してんだ?」

榛名改二「……」

提督「俺たちは海軍の大将と話をつけて、そのうえで非交戦地域としてたはずだったんだけどなあ? 聞いてねえのか?」

朝潮改二「……」

提督「なんで俺が一方的に喋らなきゃなんねえんだ。おい、用がないならとっとと帰れや」シッシッ

大和改二「……あなたは、この島にあった鎮守府の提督ですね?」

提督「ああ、そうだ、元××島鎮守府の提督だ。今は少尉だが、中佐になって退役する予定だ」

赤城改二「敵の総大将がお出迎えですか」

提督「おいおい、もう敵扱いかよ……確かに海軍からは離れるが、別に海軍と事を構えたつもりはねえぞ?」


朝潮改二「人間に害をなす深海棲艦と密約を結び、海軍を裏切っておいて、事を構えるつもりはない……?」

由良改二「おまけに中佐になるとか、何を寝ぼけたことを……!」

提督「は? お前らこそ寝ぼけんな。いつ俺が海軍を裏切った? それより海軍の連中がここで何をしようとしてたか知らねえのかよ」

陸奥改二「……話にならないわね」イラッ

提督「そりゃこっちのセリフだ。最初から勝手に敵だと決めつけて聞く耳持たねえんじゃ、その辺の野良の深海棲艦と一緒じゃねえか」

朝潮改二「深海棲艦と一緒にするか……っ!」

提督「話ができないって点じゃあ同類だろうが。ったく、なんでそんなに血の気が多いんだよ、くそが」

赤城改二「……あなたが、わざわざ我々の前に現れたのは何故です」

提督「俺は話をしに来た」

由良改二「話を……!?」

提督「ああ、どういう事情でこの島の領海に入ったのか、お前らの言い分を聞きに来たんだ」

提督「この辺で暴れられちゃ迷惑なんで、その警告も兼ねてな」

提督「さっきも言ったが、俺たちは海軍と交渉した結果で、この海域を非戦闘海域にしてる」

提督「ここへ来た理由が、俺たちが納得できる言い分なら、聞ける分は聞いてやるさ。じゃなきゃ、海軍へ報告だな」

陸奥改二「偉そうに……何の権限があって海軍と話せると思ってるのかしら」ボソッ


提督「何やらぶつぶつ言ってやがるが、名乗る気も話をする気もないならとっとと帰れよ。ったく、どこの野良艦娘だ? お里が知れるな」

朝潮改二「言わせておけば……!」

大和改二「我々は曽大佐の鎮守府の艦娘です。中佐と名乗りましたね? であれば大佐麾下である我々の命令に従いなさい」

提督「断る。俺は今、この島の統治を最優先事項にしている。大将も了承済みだ、お前らの感情に任せた私的な命令を受け付けることはできない」

大和改二「統治……!? どういう意味です、あなたの企みを白状なさい。一体何のために、深海棲艦を率いているのです?」

提督「率いる……? そんなつもりはねえんだが……俺の庇護下にいるわけだから、その言い方もあながち間違いじゃねえか」

朝潮改二「なにを独りでぶつぶつと……!」

提督「ちゃんと齟齬がねえように確かめてるだけだ。で、俺の目的は、平たく言えば艦娘と深海棲艦の保護だ」

由良改二「保護?」

提督「そうだ。深海棲艦の中で、人間や艦娘と戦う気のない連中を保護してる」

提督「そのために、この島の海域を海軍に言って非交戦海域にして、面倒を避けてる。それだけだ」

榛名改二「……戦う気のない? 深海棲艦が?」

赤城改二「これまでさんざん海の安全を脅かしてきた深海棲艦を信用しろと?」

提督「そこは信用しろとしか言えねえな。これでも平和的に話し合いをしたんだぞ、X大佐所有の医療船の甲板上で」

提督「そこで、俺と、ここにいる深海棲艦と、海軍の将官たちとで、この島を割譲してもらうよう交渉して取り決めたんだ」


陸奥改二「深海棲艦がどうしてそんなことを?」

提督「戦いたくないからだって言ってるだろ。だから、こうして海軍に協力する姿勢を見せてんじゃねえか」

赤城改二「そんなことをすれば、深海棲艦からは裏切り者として扱われるのでは?」

提督「そう思う奴らもいるかもしれないが、それ自体は別に構わねえな」

陸奥改二「構わない? 想定内だってこと?」

提督「そういうことだ。俺たちは自衛したいだけであって、なにも海軍や艦娘がすべての深海棲艦を攻撃するなと言ってるわけじゃねえ」

提督「俺たち、つまり、この島に住む深海棲艦が、海軍と戦わないようにしたい、って言ってんだよ」

朝潮改二「そんな都合のいい話があるか!」

提督「その都合をつけようって話じゃねえか。人間だって同じだろ?」

提督「異なる国家間で武力衝突が起こらないように、条約なりなんなり結んでるじゃねえか。それと同じだ」

榛名改二「それでは、ほかの海域の深海棲艦はどうなっても構わないと?」

提督「そうだな。少なくとも今の時点で、余所の海域の深海棲艦を俺たちが守る義理はない。何の約束もしてねえし、今は俺たちだけだ」

提督「ただ、こうやって俺たちが海軍と取引することで、他にも海軍と交渉を望む深海棲艦が現れるかもしれないし」

提督「逆にそれが気にくわないからと攻撃を仕掛けてくる深海棲艦が現れるかもしれない。お前たちみたいになあ?」ジロリ

榛名改二「!」


提督「人間に対する深海棲艦の悪意の度合いが分かって、それで戦いを避けることができるとなれば、それはいいことだと思わねえか?」

提督「俺たちの考えを理解してくれてる海軍のお偉方は、おそらくそういう効果を期待してるんだろう」

提督「俺もそうなって欲しいと思ってる。そうなりゃあ、俺たちも戦わずに済むようになるからな」

提督「もちろん、笑顔で近づいて騙し討ちを図る連中も出てくるだろう。深海棲艦からも、人間からも」

朝潮改二「我々海軍を侮辱するか!!」

提督「そこは誰もお前らのことだなんて言っちゃいねえよ。これまでの人間の歴史を顧みても、その可能性は十分あり得るだろうが」

提督「俺もこれまで海軍にいて、いろんな救いようのねえ人間を見聞きしてきた。だからこそこうやって警告してやってんだ」

朝潮改二「海軍に、そんな人間がいるわけがない!!」

提督「いやいや、それがまあ、情けないことにそれなりにいるんだよ……例えば、艦娘にセクハラ仕掛けて逃げられた奴とか」

陸奥改二「は?」

提督「上官に手柄を取らせるために、手前のところの艦娘に囮になって死ねと命じた奴とか、艦娘を売春させようとした奴とか」

赤城改二「……」

提督「余所の鎮守府の艦娘を騙して拉致しようとしてた奴とか、艦娘を使って趣味の悪い実験してた奴とか」

由良改二「なによそれ……」


提督「そういう阿呆が海軍で艦娘の指揮を執ってたりしてたんだよ。知らねえのかよ」

朝潮改二「……嘘だ……っ!」

提督「ほかにも、鎮守府間でマネーロンダリングしてた奴らもいれば、手前の出世のために親を殺そうとした屑もいるし」

提督「そんな連中の不正を暴こうとして消された奴もいれば、拉致されそうになった部下の艦娘を庇って殺された奴もいるそうだ」

艦娘たち「「……」」

提督「揃いも揃って初めて聞いた風な顔してやがんな」

榛名改二「……よくもそんな出鱈目を」

提督「お前らが戦場にしか目を向けてねえから、内地で何が起きてるか全然知らねえってだけだろう? 曽大佐だって知ってるはずだ」

提督「実際に、うちに流れ着いた艦娘のなかには、死ぬまで戦わされて轟沈した艦娘もいるからな。お前も同じ目に遭いたいと思うか?」

榛名改二「構いませんよ。一体でも多くの深海棲艦を沈められるのなら、私は本望です」

提督「……」

赤城改二「なんです、その顔は」

提督「いやいや……なるほどこりゃ駄目だ。話にならねえ」ハァ…

赤城改二「話をしに来た相手が、話を放棄しようというのですね」

提督「そういう意味じゃねえよ。可哀想な連中だなって感想を抱いただけだ」

朝潮改二「なっ……!? 私たちを愚弄するか!!」


提督「いやいや、可哀想じゃねえか。戦争で戦って勝つ以外の喜びや楽しみを、お前らは知らねえってことだろ」

提督「日頃の飲食だってそうだ。面白い本を読んだり、歌を聴いたりしないのか? 他愛のない雑談はしないのか?」

提督「新聞は見てるか? 世の中で人がどんな事件を起こしてるか、どんな歌が流行ってるか、知ってるか?」

提督「余所の鎮守府の艦娘が、普段何をしてるか知ってるか?」

由良改二「なんでそんなものを知る必要があるの?」

提督「お前らは、平和のためなんて大仰な大義名分掲げてやがるが、その平和ってのが具体的にどんなものか、分かってねえだろ?」

提督「世の中の人間が言う『幸せ』ってもんを、少し勉強してこいって言ってんだよ」

由良改二「私たちは艦娘よ。そんなもの、知る必要はないわ」

提督「そんなもの呼ばわりかよ……お前ら、戦争が終わったらどうする気だ?」

赤城改二「戦争が終わってから考えます。今からそんなことを考えさせてどうしようというのです?」

提督「戦うことしか知らない奴は、戦う以外の行動をしない。知識にない、知らないことを実行することはできないからな」

提督「俺はここの艦娘や深海棲艦に、戦う以外の世の中の普遍的な幸せを与えて、余計な争いを起こさせないようにしようとしてんだよ」

大和改二「それこそ余計な真似というものです。深海棲艦の本質は戦争と破壊」

大和改二「海を破壊する深海棲艦を殲滅することこそ、私たち艦娘の使命であり、人類の幸せにつながると……」

提督「だからそれしか言えねえのかよ……少しは違うことを言え、この無菌室育ちが」アタマオサエ

榛名改二「無菌室……っ!?」


提督「無菌室だろうが。戦争以外の何も知らねえ純正培養の箱入り戦闘狂どもめ」

提督「むしろ、お前らこそ戦場しか見ようとしてねえな? おそらく曽大佐から『雑念が入らないように』とか言われてんだろうが……」

提督「娯楽とか、世俗のあらゆる浮ついたものを、自分には不要なもの、下衆なものだと考えてんじゃねえのか?」

提督「そういう欲求めいたものを我慢して、滅私奉公している手前の姿が崇高で誇らしいと思って、他人を見下してんじゃねえのか!?」

赤城改二「馬鹿なことを……根も葉もない想像の話でしかありませんね」

提督「だったらもうちょっとマシな反論しろよ。自分の正当性をちゃんと言葉で表現しろってんだ」

提督「まともに言い返せねえから、結局は言葉で返さず暴力で自分の正当性を海軍に認めさせようとしてるってことじゃねえか」

提督「ったく、ここまで話が平行線になるとは思ってなかったぜ。これだから狂信者は面倒臭え……」ハァ

大和改二「狂信者で結構。深海棲艦を迎合し、人の世を破壊しようとしているあなたよりは、狂っているとは思いません」

提督「あぁ?」

大和改二「曽提督は、現状を憂いておられます。海軍の中に、深海棲艦を許容するような流れが作られたのでは、人類に未来はないと」

大和改二「海は、元通りにならなければなりません。深海棲艦が跋扈する海に、平和は永遠に訪れません」

大和改二「だというのに、かつて海軍に身を置きながら、深海棲艦に肩入れして保護しようとする。血迷った判断と言わざるを得ません」

大和改二「私たちは、そのような誤りを正し、海軍の模範として、ありとあらゆる深海棲艦を撃滅し」

大和改二「争いのない平和な海を取り戻すことが至上命題であると、私たちの力をもって知らしめなければならないのです!」


提督「……何が何でも深海棲艦を殲滅するってか」

大和改二「理解できたなら投降しなさい。深海棲艦に与することが人間にとってどれほど害悪かを知らない愚か者め!」ジャコン

提督「同じこと何度も言わせんな。俺に砲を向けるより先に、その話を海軍の上層部の人間に言って聞かせて頷かせるのが筋じゃねえのかよ」

大和改二「ここで私たちが成果を出せば、寝ぼけ眼で判断に悩んでいる上層部も、すっきりと目を覚ましてくれるでしょう」

提督「つくづく駄目だなこりゃ……思った以上に狂ってやがる。可哀想に」

朝潮改二「っ!! いい加減に……!!」

提督「うるせえな。少なくとも上の決定や判断を無視してここに来てる時点で、お前らは命令違反じゃねえか」

提督「その時点で、どれだけ上の人間を馬鹿にしてるか、理解してるか? お前らは海軍と言う組織に反抗したって見なされるんだぜ?」

大和改二「……」

提督「ここで引き返せばまだ厳重注意で済むかもしれねえぞ。逆に、撃てばその時点で曽大佐が責任を取ることになるだろう」

提督「それにだ。丁度、政府の役人があっちの東の沖に来てるってのに」ユビサシ

提督「その船を盾にして戦おうなんて考えてる奴らのどこが狂ってねえって言うんだ?」

大和改二「……何を根拠にそのようなことを。詭弁ですね」

提督「詭弁だとしたら、そもそも今日この日に、政府の船に帯同しないでここへ来るわけがねえよな?」

大和改二「……」


提督「俺も悪人はいろいろ見てきててなぁ、それなりにそいつらの考えってもんを知ってて、それなりに想像できるんだ」

提督「自分のやってることを正当化するために、自分なり弱者なり誰かをわざと被害者に仕立て上げて、暴力を振るっていい理由を作る」

提督「狡い悪党の常套手段だ。今まさにお前らが、政府の人間を被害者に仕立てて、戦争に利用しようとしてるじゃねえか」

朝潮改二「そ、そんなわけがあるか!!」

提督「だったら今すぐ帰れよ。あの艦艇を護衛しに来たわけでもねえお前らが、この場所にいること自体が場違いで間違いだろうが」

提督「国民の人命と財産を守るのが海軍の使命だって言ってた奴がいる。政府の人間だって、お前らの守るべき国民だろう」

提督「その国民を、万が一にも戦闘に巻き込まないようにするのが、軍人としての務めでありあるべき姿、ってやつじゃねえのか」

提督「俺みたいな素人に指摘されて、恥ずかしくねえのかよ。それとも、ここで力づくで口を封じるから問題ないとでも?」

大和改二「フッ……妄想もそこまでいくと哀れですね」

提督「なんだそりゃ。図星突かれた奴の台詞じゃねえか。ますますもって曽大佐以外の人間と話をしたことがねえんだな?」

大和改二「……」ムッ

提督「こっちはその辺含めて海軍本営に根回し済みなんだよ。俺たちに手を出して曽大佐の立場が良くなることは絶対にねえぞ」

陸奥改二「あなたが本営に直接根回しできるというの!?」

提督「取れるに決まってんだろ? 本営の中将麾下の艦娘がわざわざこっちに連絡員として来てくれてんだぞ?」


陸奥改二「なんでそんな、あなたの都合のいいようにことが動いてるの!?」

提督「そもそもこの島がこうなったのは、J少将が俺を巻き添えにして大将たちの暗殺を企てたからだ」

提督「暗殺されかけたのはかつてのお前らの上官のH大将たちだが、ここで俺も含めて深海棲艦に命を助けられた」

提督「だからこそ、あの頭の固そうなH大将が俺たちの提案を受け入れてくれてるんだ。それを裏切っただのなんだのと……ひでえ言い草だ」

大和改二「そんなところから腐り始めていたというのですか……!」

提督「腐ってんのはお前らだろうが。深海棲艦の情報をアップデートできずに古い頭で思考停止しやがって」

提督「根拠があるにもかかわらず、自分の考えを押し通そうとするから、こういう恥ずかしい事態になってるって理解しやがれ」

提督「とにかく。もしお前らがこの場で俺たちを攻撃しようものなら、特警隊がお前らの海軍への翻意を疑い、鎮守府に押し寄せるだろう」

提督「仮にあの船の人間に被害が出たとしても、その怒りの矛先が必ずしも俺たちに向くとは思わないほうがいい」

提督「少なからず、余計なことをした曽大佐の判断が間違っていたと言う奴が出てくるはずさ。そうならないうちに、おとなしく帰んな」

提督「俺たちは、これでも上の連中とはできる限り穏やかに事を済まそうとしてきたんだ。平和的解決を望んでるのに、邪魔すんなよな」クルリ

赤城改二「どこへ行くつもりです!」

提督「帰るんだよ。話は終わりだ、だからお前らも帰れ。帰ってお勉強してから話し合いに来い」シッシッ

由良改二「戦わないっていうの……!?」

提督「おう、どっかの誰かさんに倣って、立ち入っただけなら……一発までなら誤射ってことにしとくさ。だから、次はないと思っとけ」


陸奥改二「どうするの? 曽提督が話していた以上に、向こうは私たちの情報や事情を把握してるみたいよ」

由良改二「これは、曽提督に急ぎ報告する必要がありますね……」

赤城改二「ええ。いまの話が本当なら、この場の行動も慎重にならざるを得ません」

朝潮改二「敵総大将を目の前にして、みすみす見逃すことになるなんて……!」

榛名改二「大和さん、どうしましょう……?」

大和改二「……」

提督「……!」ピクッ

陸奥改二「?」

由良改二「なに? いきなり振り向いて……」

提督「おい……お前ら、早く島から離れたほうがいいぞ。お前らの別動隊もだ」

大和改二「どういうことです?」

提督「南から、やべえのが近づいて来てやがる……おい赤城! お前も偵察機があるなら南に飛ばせ!」

赤城改二「は!? 誰に向かって……!」

提督「いいから南を警戒しろ! 俺たちも艦隊を出す!」

提督「話だけは聞いていたが……『視』たのは初めてだ。あれがレ級か!」

陸奥改二「レ級……!?」


 * 墓場島 南沖 *

 * 川提督の支援艦隊 *

霧島改二「通信を聞く限り、話し合いで終わってしまったようですが……」

コロラド「……なんだか、戦いたくないって話に聞こえなかった?」

飛龍改二「みたいですね。それから、南がどうとか聞こえたような」

蒼龍改二「南って……島の反対側?」クルッ

 シャァァアアア…

綾波改二「えっ!? み、みなさん! 魚雷が……か、回避を!!」

天龍改二「それだけじゃねえ! 上からも来やがった!!」

 深海艦載機<ゴォォォ…

飛龍改二「やばっ、発艦が間に合わな……」

霧島改二「早く回避を!」

天龍改二「不意打ちかよ! ちっくしょうがああ!!」


 * 墓場島南岸 *

提督「間違いねえ……あれは戦艦レ級だ!」

 ドーン…

由良改二「あの音は……川提督の艦隊!?」

提督「おい赤城、お前も見えたか!? あの深海棲艦は戦艦レ級だろ!?」

赤城改二「……話ができすぎていますね。あなたが最初から仕組んだのでは?」

提督「んなわけあるか! 罠だったら最初っからその辺に潜ませてる! あいつらよりお前ら直接狙ってな!」

朝潮改二「赤城さん、本当に戦艦レ級が来たんですか!?」

赤城改二「……まだ敵影を確認できていません。そして、なぜ彼がレ級だと分かったのかも理解できません」

由良改二「だとしたら、やっぱりあいつが嘘を……!」

提督「おい。あのレ級、顔にでけえ傷があるぞ」

赤城改二「傷……!?」

提督「ああ、右眉の上から左の頬にかけて、引き裂いたような傷だ。お前ら、心当たりはねえか?」

陸奥改二「……ねえ、大和? それってもしかして……」

大和改二「先週、南方で仕留め損ねた個体だとでも……!?」


赤城改二「偵察機からの報告がきました……どうやら、そのようですね」

提督「知ってんだな?」

 流星<バウーン!

提督「!」

島妖精A(in流星)「提督、艦隊出撃したぞ! 戦闘班と救助班のため2艦隊だ!」

提督「よし、追い払えれば御の字だ! 無理はするなと伝えろ!」

 流星<バウーン…

朝潮改二「い、いま、妖精さんと話していたような……!」

由良改二「本当? なんでそんな人間が深海棲艦の手先に……!」

 ザザァ…!

大和「提督! 私たちがこれから南沖の艦隊の救助に向かいます!」

提督「おう! とにかく保護を頼むぞ!」

榛名「お任せください!」

那珂「行ってきまーす!」フリフリ

山城「なんで私が……」

朧「空母の皆さんがいないから、代わりに索敵をお願いするんです!」

如月「行ってくるわねー!」


大和改二「なるほど……あれがこの島の艦隊の大和ですか」

泊地棲姫「ナルホド……アレガ第二改装ノ大和、カ」ザッ

 (不意に提督の背後に現れる泊地棲姫)

大和改二「……!」

提督「泊地棲姫……! 来てるとは聞いてたが、お前どこに隠れてた?」ヒソッ

泊地棲姫「オヤ、気付カナカッタノカ?」

提督「……なるほど、ニーナか」

ニーナ(in泊地棲姫の艤装)「はい、私の力で隠れておりました」

大和改二「こそこそと、日陰者同士で何を企んでいるのやら……!」

泊地棲姫「オ前タチノヤリ取リ、一部始終ヲ聞カセテモラッタ。コノ男ニ危害ヲ加エル気ナラ、タダデハ帰サナイゾ……?」ニヤリ

 ザザァ…

提督「なんだ? 泊地棲姫んとこの深海棲艦が出撃してんのか? 軽巡棲姫にタ級、ヲ級、ツ級、ヘ級……ル級もか!」

提督「同じ深海棲艦だってのに、相手して大丈夫なのか?」

泊地棲姫「アレハ私タチノ仲間ジャナイ。話ガ通ジナイカラナ」

提督「ってことは……」

泊地棲姫「敵トシテ、処理シテイイゾ」

提督「そうかい。じゃあ、遠慮なく沈めさせてもらうか……説得は簡単じゃなさそうだしな」


大和改二「……私たちもレ級を迎撃しましょう」ザァッ

赤城改二「大和さん……!?」

由良改二「レ級の撃破に手を貸すと言うんですか!?」

大和改二「ええ。もとは私たちが仕留めきれなかった艦です。落とし前と言う意味でも、この場で後顧の憂いを断つとしましょう」

大和改二「そのついでに……『あれら』がこの島の主力艦隊だというのなら、この場で沈めます」

大和改二「仮に主力でなかったとしても、私と同じ顔の裏切り者がいるというのは、この上なく不愉快です」ギリ…ッ

榛名改二「それは同感ですね」

陸奥改二「あらあら……涼しい顔して激しいわね。うまくやれるの?」

大和改二「あの男自身が言っていたでしょう、『一発までなら誤射』だと」

大和改二「あの偽物を沈めることで、あの男の醜い本性が曝け出せられれば、いろいろとやりやすくなります」

赤城改二「それに乗じてあの男を討てれば上々、ということですね」

大和改二「ええ、好きに砲撃できる丁度良い理由ができました……これこそまさに天の采配」

大和改二「千載一遇のチャンスです。うまく立ち回りましょう、我らが曽提督の本懐のために」

大和改二「そのためにも多少の犠牲はつきものです。川提督の艦隊も、覚悟の上でしょう……!」


 * 墓場島 南沖 *

 ザザザザ…!

天龍改二(中破)「来やがったぞ……!」

レ級「……!」ニタァ

綾波改二(中破)「あれは……レ級じゃないですか!?」

天龍改二「上等じゃねえか、ここは俺が……!」

コロラド「俺がじゃないわよ! 私が出るわ、中破した艦は後方に下がってなさい!」

天龍改二「あぁ?」

コロラド「霧島! 大丈夫!? いける!?」

霧島改二(小破)「ええ、いけます!」ジャコン

コロラド「さあ、蹴散らすわ!! Fire !!」

 ドガァン!

レ級「!」ギョロ!

レ級「」ブンッ!

 ガガァン!

飛龍改二(大破)「なにあれ!? 尻尾で砲弾を振り払った!?」


コロラド「……まずいわ、全然ダメージになってないじゃない!」

霧島改二「そんな馬鹿な……っ!」

レ級「…!」ギロリ

レ級「」グワッ…ドババババ!

蒼龍改二(中破)「な、なんなのあの尻尾!? 滅茶苦茶魚雷を吐き出してるんだけど!?」

コロラド「いいから避けて!! 距離を取るのよ!!」

 魚雷<シャアァァァアッ

蒼龍改二「や、やばっ……!!」

霧島改二「危ない!!」

 ドガァン!

霧島改二(大破)「く……っ!」

蒼龍改二「き、霧島さんっ!」

霧島改二「……わ、私は大丈夫です、早く避難を」

コロラド「何を言ってるの!? 大丈夫なんかじゃないわ! 霧島も避難するのよ!!」


レ級「」ザシャァァ

コロラド「ほら! あいつが来る前に、早く行って!! ここは私が持つわ!!」

レ級「」ジャキッ

コロラド「!」

 ドガァン!!

レ級「!?」ビクッ

天龍改二「い、今の砲撃は誰だ!?」

 砲弾<ゴォォォ!

レ級「!?」ドガァン!

大和「敵艦、レ級に命中……ぎりぎり間にあったみたいですね」

コロラド「えっ? や、大和!?」

蒼龍改二「な、なんで改二以前の装備になってるんですか!?」

綾波改二「……もしかして、この島の艦娘の皆さんですか?」

ル級「大和! 私タチガ足止メスルカラ、早ク、ソイツラヲ海域カラ逃ガシナサイ!」ザザザァッ

大和「ええ! そちらはお願いするわね!」


飛龍改二「……本当に、深海棲艦と共闘してるんだ……」

榛名「さあ、早く離脱しましょう!」

那珂「……ねえ、あのレ級、こっち睨んでなーい?」

タ級「ダッタラ、コッチヲ向カセルダケダッ! オラッ、コッチ見ロ!!」ドガァン!

天龍改二「……くそ、なんか、あいつとは気が合いそうだぞ」

山城「ほら、私たちはとっとと退くわよ。もたもたしない!」

如月「急ぎましょ!」


 * 墓場島 南岸 *

提督「……」

泊地棲姫「浮カナイ顔ダナ。ドウカシタカ」

提督「……向こうの大和のツラが気に入らねえ。うちの大和と似ても似つかねえな」

泊地棲姫「……」

提督「しかも思想も過激と来てやがる。多分、その育ちが顔に出てるせいで可愛げがねえんだろうけどよ」

提督「あいつら、本当に俺たちの艦隊と同道させて大丈夫なんだろうな?」

泊地棲姫「……抑エロ。私ガ、ココニイルノハ、オ前ヲ守ルタメダ」

泊地棲姫「アイツラノ一番ノ狙イハ、オ前ダ。誰ガ傷付イタトシテモ、冷静デイロ。ソレガ司令官トイウモノダ」

提督「……」

泊地棲姫「メディウムタチモ、イルカラナ。アイツラノ能力ハ、私モ認メテイル」

泊地棲姫「トニカク、少シ我慢シロ。オモシロイモノガ、見ラレルカモナ」ニヤリ

提督「あぁ?」


 * 墓場島 南沖 *

 ヲ級艦載機<ピシュンピシュンピシュン!

 レ級艦載機<ババババババッ!

ヲ級「……制空権ガ、取レナイナ。対空、任セタ」

ツ級「……!」ガガガッ

タ級「今度ハ魚雷カ!」

ヘ級「!」バシュバシュッ!

 ドガガァン!

軽巡棲姫「魚雷ニ魚雷ヲブツケテ相殺シタノ……!?」

タ級「トニカク助カッタゾ!」

ル級「……アイツ、マダ、コッチヲ見テナイワネ」

タ級「アア、アレデコッチヘノ攻撃ハ、片手間ッポイナ! ムカツク!」プンスカ!

大和「構いません、攻撃を継続して!」ザザァッ

ル級「大和!? ドウシテコッチニ来タ!」


大和「あのレ級の狙いは私のようです……!」

レ級「」ジロリ

ル級「大和トナニカアッタノカ?」

大和「私はありません。あったとしたら余所の鎮守府の大和と、でしょうね……!」

タ級「来ルゾ!」

レ級「」ドォン!!

大和「あれは……!」

ル級「榴弾……三式弾!?」

 ドガァァァン!

大和「くぅ……驚いたけど、被害は……」

タ級「意外ト、ソレホドデモ、ナイナ……!」

軽巡棲姫「ダトシテモ、ナンデ、ソンナモノ装備シテルノヨォ……!!」

ツ級「チクショウ、メンドウナノハ……キライ……!」ボソッ

ヘ級「チッ……アブネエナア……!」イラッ

ヲ級「」

タ級「」

ツ級「……ナニ?」

タ級「ガラ悪ッ!」

ヲ級「アナタガ言ウ?」

ル級「余所見シテル場合ジャナイゾ!!」


レ級「ギシャァァアア!!」ゴォッ!

ル級「奴ガ突ッ込ンデクルゾ! 迎撃!!」

大和「全砲門、構えっ!!」

ツ級「シカタナイ……!」

ヘ級「ヤッテヤルッ……!」

タ級「ブットバセエエ!」


朧「……!」ギョッ

山城「朧? 何を見て驚いてるの?」

那珂「ちょっとあれ! あっちの大和ちゃんが!!」


陸奥改二「まとめてやってしまっていいのね?」ニヤッ

大和改二「ええ、一網打尽にしてあげましょう。敵艦補足……全主砲。薙ぎ払え!!」

 ドドドドォン!!

大和「……え?」

 ドガドガドガドガァァン!!

大和「きゃあああああ!?」


 * 墓場島 南岸 *

泊地棲姫「アイツラ……大和マデ巻キ添エニシテ撃ッタノカ!?」

提督「マジでやりやがったのか……やるんじゃねえかと思ってたのに! 予測できてたってのに……くそが……っ!!」

泊地棲姫「提督!!」

提督「……おい。あのレ級は、そこまでダメージ負ってねえな?」

泊地棲姫「……ソウダナ」

提督「あいつと大和たちが一緒にいるとまずい。あいつだけこっちにおびき寄せられるか?」

提督「曽大佐の艦娘へのお仕置きはそのあとだ……これ以上、流れ弾に見せかけた攻撃をやらせるわけにはいかねえ!」

泊地棲姫「ナルホド……従オウ」バッ

 深海艦載機<ゴォォォッ!


 * 墓場島 南東沖 交渉艦隊 *

敷波「ちょっと、どういうことなの!? なんであっちの大和さんが、こっちの大和さんを撃ってんのさ!!」

ブリジット「が、ガチでやりあってるでありますか!?」

ヲ級「……アイツラハ、私タチノ、敵ナノ?」

敷波「わかんないけど、冗談じゃないよ!! 早く助けに行かなきゃ!!」

初雪「……どっち、行こう」

敷波「ど、どっち!? どっちって……」

初雪「……岸の方に、司令官がいる。泊地棲姫も」

イサラ「ま、魔神様がいるっスか!?」

敷波「えええ!? 司令官、なんであんなところまで出てきてるのさ!? 無理しないって言ってたのに!」

ヲ級「……提督タチハ、私ガ視ルワ。先ニ行ッテテ。間ヲ開ケテ、追イカケルカラ」

初雪「もしかして……ヲ級ちゃんが、撃たれるかもしれないから、離れて、って……こと?」

敷波「それは駄目! 私たちが一緒にいれば逆に攻撃されないかもしれないし!」

初雪「一緒に、行く……!」

ヲ級「……ワカッタ。援護シテ」

今回はここまで。

>223
提督「作戦もなにもねえよ! もうメディウム出すしかねえだろ、くそが!」
というのがこの状況の提督の心境です。
が、提督の焦りとは全然関係なく、ここからはル級たちの見せ場になります。

そして今回登場のメディウムはこちら。残虐系の罠ばっかでございます。

・ゼシール・サーキュラーソー:暗殺者のような風貌のメディウム。上から丸鋸が降りてきて、人間の頭を切り裂いて弾き飛ばす罠。
  斜に構えた中世の暗殺者風の女性。侵入者の排除を仕事と割り切るリアリスト。殺伐とした日常から空飛ぶ鳥の自由さに憧れる一面も。
・シエラ・デスサイズ:両手で扱う巨大な鎌を携えた、死神のような少女のメディウム。巨大な鎌が人間を無慈悲に刈り取る罠。
  臆病で人前で話すのが苦手な少女。変身願望があり、手段を問わずどうにかして自分を変えたいと思っているようだが……先は長い。
・ナンシー・フォールニードル:美容師を思わせる風貌のメディウム。無数のとげのついた天井が落ちてきて、人間を蜂の巣にする罠。
  いつでも明るくノリのいい、緊張感極薄ガール。一方で身だしなみには目を光らせており、特に寝ぐせを見つけるとすぐ直してくれる。
・オボロ・ブラッディシザー:両手に鉤爪を装備した忍者姿のメディウム。三対のハサミのような鉤爪が人間を捕らえて切り刻む罠。
  床下に潜み魔神を守護する忍びの者。名前を呼べば床下から出て来てくれるが、床下のほうが過ごしやすいために落ち着くんだとか。
・ルイゼット・ギロチン:巨大な斧を携えた、シスターのメディウム。ギロチンの刃が上から落下して、人間の首や胴を両断する罠。
  魔神の教えを正義と信じて異教徒を断罪する、過激で敬虔な修道女。魔神を絶対視しているため、融通が利かないところが玉に瑕。

では続きです。


 * 墓場島 南沖 *

大和(大破)「くぅ……っ!!」ボロッ

タ級(大破)「ナンダアイツラ!? 私タチマデ撃ッテキタゾ!?」

ル級(大破)「……アイツラニトッテハ、私タチモ敵ダトイウノネ……」

ヲ級(大破)「グ……」

軽巡棲姫(大破)「チョット、アナタタチ、大丈夫ナノ?」

ヘ級(中破)「フザケヤガッテェ……!」ビキッ

ツ級(中破)「オコラセルンジャナイヨ……ッ!」ビキビキッ

軽巡棲姫「一応、大丈夫ソウネェ……?」

ル級「……アイツハ、ドウシタノ……?」


 深海艦載機<ピシュンピシュンピシュン!

レ級(小破)「ガァア!!」ブンブン


ル級「アレハ泊地棲姫ノ艦載機……?」

タ級「オイオイ、アレデ小破デ済ンデンノカヨ!?」


軽巡棲姫「キット、大和ガ狙ワレタノヨ。ソレデ、被害ガ少ナカッタノヨォ……!」

大和「私を……!?」

軽巡棲姫「深海棲艦ト一緒ニ戦ッテルノガ、気ニ入ラナカッタンデショ……ッ!」ギリッ

ヲ級「私タチヨリ、タチガ悪イワネ……」

レ級「グゥ…!」ギロリ

大和「……いけない、レ級が……!」

レ級「ギシャアアアアアア!」

 ザシャアアア!

ル級「姫ト提督ノホウニ向カッタノカ……!?」

大和「提督! 急がないと……くっ!」ヨロッ

軽巡棲姫「シ、シッカリシナサイヨォ!」ガシッ

タ級「チクショウ! アッチノ大和タチハ、素通リサセル気カ!?」

ヲ級「……ッ!」ザァッ

タ級「オイ!? オ前、艦載機ハ飛バセナイダロ……!?」

ヲ級「提督モ、姫モ……守ラナケレバ……私タチノ、帰ルトコロガ……!」ヨロ…ッ

ツ級「……!」

へ級「……!」


大和「させません……そんなことは、決して……!」ヨロッ

 ザザァッ!

榛名「ご無事ですか!?」

朧「早くここを離れましょう!」

大和「みんな……で、ですが、提督が!」

ル級「……大和。ココハ、下ガッテテ」

大和「何を……!?」

ル級「……私ハ、コノママデモイイト思ッテイタケレド。ソンナ甘イ考エガ、通ジル相手デハ、ナサソウネ……!」パッ

 ゴボゴボ…(ル級が両手の艤装を手放し、そのまま艤装が海に沈んでいく)

如月「艤装を……!? 装備を捨てて、どうするの!?」

ル級「捨テハイナイ……安心シテ」

如月「え?」

ル級「ネエ、軽巡棲姫? アナタ、ソノ姿ニナッタノハ、弾丸ニサレタアトデショウ?」

軽巡棲姫「……ソウヨ」

ル級「永ク戦イ続ケタリ、自分ノ正体ヲ見ツケタリシタ者ガ『深化』スル……アナタノ場合ハ、後者ダッタ?」

軽巡棲姫「……マサカ……」

ル級「フフ……私ノ場合ハ、両方ニナルノカシラ?」ニッ


 * 墓場島 南岸 *

提督「くそっ……予定が大幅に狂っちまった。こりゃ、レ級か曽大佐の艦隊のどちらかにメディウムぶつけるしかねえぞ……!」

泊地棲姫「慌テルナ。マズハ、アイツヲ今ノ戦力デ、オトナシクサセルノガ先ヨ」

提督「できんのかよ、そんなこと……!」

泊地棲姫「アチラノ大和ヲ、ウマク利用デキレバナ……」

 ザザザァ…!

レ級「…!」ギロッ!

提督「……ったく、本当に面倒臭えのが来やがったな。しかも、あっち側の奴の目をしてやがる」

泊地棲姫「アッチ側?」

提督「ああ。お前たちと違って話の通じない、イカレたくそ野郎どもの目さ。あっちの大和も、そういう目をしてたからな」

レ級「」クルッ!

提督「……なんだ? あいつ、あっちの大和を睨んでやがんのか?」

泊地棲姫「大和ニ因縁ヲ持ッテイル……トイウコトカ? ダトシタラ、好都合カモシレナイナ」

レ級「」ギリッ…!

陸奥改二「……レ級がこっちに気付いたみたいね」


大和改二「構いません。一発だけなら誤射と言ったのは彼自身です……レ級もろとも、悪の権化を討ち滅ぼす好機です」ジャゴン!

泊地棲姫「アイツラ……マタ同ジ手ヲ使ウ気カ」

提督「泊地棲姫、あいつらの砲撃、しのげるか?」

泊地棲姫「……ソレハ厳シイカモナ」

提督「……メディウムたちを出すしかねえか?」

泊地棲姫「待テ。アレヲ見ロ」ニヤリ

 深海艦載機<シュゴォォォオ!!

大和改二「後ろ……!?」

レ級「!!」

 深海艦載機<バシュバシュバシュ!

レ級「!!」ザザァッ

由良改二「か、回避を!」バッ

大和改二「く……レ級もろともですか!」ザザッ

赤城改二「妙です。あの艦載機、私たちが避けられるぎりぎりのタイミングで攻撃してきましたね」

陸奥改二「攻撃を当てる気がない、ってこと? それってどういうことよ……?」


泊地棲姫「アノ艦載機ハ……私トハ別ノ姫級ダナ……!」

提督「姫級!? いったいどこからだ……!?」


 * 墓場島 南東沖 *

ヲ級→南太平洋空母棲姫「……コレデ、イイワ」

敷波「……ヲ級ちゃんが……」

初雪「……ヲ姉ちゃんになった……」

エレノア「ちょっと、いきなり変化しないでよ。びっくりするじゃない」

南太平洋空母棲姫「アア、ゴメンナサイネ……トニカク、アイツラノ気ヲ逸ラセルノニハ、成功シタミタイネ」

南太平洋空母棲姫の艤装『Grr...』ズォォ…

南太平洋空母棲姫「ヨシヨシ、イイ子ネ……」

敷波「その魚型の艤装って、あの帽子だったんだ……」

初雪「服もなんか変わっちゃってる……」

ブリジット「いつの間にかネクタイとスカートになってるであります。タチアナみたいでありますな!」

南太平洋空母棲姫「……サア、マダ油断シチャ駄目ヨ。提督タチノ安全ガ、確保サレタワケジャナインダカラ」

敷波「そ、そうだね。ヲ級ちゃんがいきなり変わっちゃったから、びっくりしちゃった」

初雪「うん……もっと余裕をもって驚きたかった」

南太平洋空母棲姫「フフッ……アトデユックリ、見セテアゲルカラ。今ハ……」チラッ

敷波「行こっか!!」キッ!

初雪「うん……みんな、助けに、行こう」グッ

イサラ「早く終わらせて帰りたいっス……」


 * 墓場島 南沖 *

飛龍改二「ちょ、ちょっと見て! 北東の方角! 新しい深海棲艦が……!」

蒼龍改二「一緒にいるの、初雪と敷波じゃない!?」

綾波改二「しき……ええええ!? ほんとだうわあああ姫級といっしょなのなんでえええ!?」パニック

コロラド「あれはもしや……ホーネット!?」

ル級「ホーネット? ……ヤッパリ、ソウイウコトナノネ」

大和「そういうことって……?」

ル級「泊地棲姫ガ言ッテタノヨ。ホラ、アナタタチモ、ワカルデショ……? 私ト一緒ニ、思イ出シナサイ……!」メキッ…!

 (ル級の額の左側に一本の角が生える)

軽巡棲姫「……コノ気配……!」

 ゴポッ

 ゴポゴポッ…ゴボボボッ!

 ザバァァァ!!(沈んだ艤装がル級の背後から、人型の艤装になって浮かび上がる)

軽巡棲姫「双頭ノ巨人ノ艤装……!」

ル級→戦艦水鬼改「……コレデ、イイワ……コレナラ、彼ヲ、助ケラレル……!」

戦艦水鬼改の艤装『ヴォオオオオオオ!!!』


如月「ル級さんが……!」

綾波改二「せ、せ……戦艦水鬼に……っ!」ゾゾッ

戦艦水鬼改「水鬼? ……ソウ、呼バレテイルノ? マア、呼ビ名ハナンデモイイワ……」

蒼龍改二「ちょっと、これって私たちもやばいんじゃないの……!?」

戦艦水鬼改「フフ、心配シナイデ。アナタタチハ、怖ガラナクテ、イイノヨォ?」ニコッ

綾波改二「そ、そう、ですかっ……!」

天龍改二「へへ、頼もしいことこの上ねえな……!」

飛龍改二「敵だったら、絶望してたところよね……」

戦艦水鬼改「……サア、アノ姫ト、提督ヲ、助ケルワヨ。眠ッテル場合ジャ、ナイワヨネ……?」

ヲ級「ソウ……ソウ、ネ……!」ユラッ ザワザワザワッ

 (ヲ級の帽子が宙に浮いて形を変えながら4つに分かれ、ヲ級の衣服がスカートに変わっていく)

ツ級「ヤルシカ、ナイカァ……ショウガナイ」バリバリバリ…ッ

 (マスクを剥がしたツ級の大きな両腕が破れて、内から多数の砲塔のついた艤装と細い腕が現れる)

へ級「……ヤッテヤロウジャナイ」バキバキッ…

 (ヘ級の底面の艤装が割れてそこから脚が伸び、弾けた破片がそのまま衣服となって再構築される)


タ級「……オイ、少シ、思イ出シタゼ。ソコニイルノハ……『キリシマ』ダナ?」

霧島改二「!」

タ級「暴レラレナクテ、残念ダッタナ。アタシガ、代ワリニ、暴レテキテヤルヨォ……!!」バキッ…バキバキバキッ…!

 (タ級の艤装が巨大化し、髪の毛の色が2色に分かたれていく)

コロラド「……あ、あああ! み、みんなわかる……!!」ブルブル

如月「ね、ねえ、この人どうしちゃったの!?」

綾波改二「こ、コロラドさん、気を確かに! 落ち着いて!」

コロラド「お、落ち着いてなんかいられないわよ!? どうして私の仲間が……私の、U.S. Navyが、深海棲艦に……!!」

霧島改二「そ、それでは、さっき私に声をかけたのは……サウスダコタだというのですか!?」

コロラド「そうよ! きっとそう……!!」


 * 墓場島 南岸沖 *

由良改二「北東の海域に、新しい姫級の深海棲艦が……あれは、南方海域にいた、新型の空母棲姫!?」

陸奥改二「これは、一体何が起きてるっていうの……!?」

赤城改二「仲間を呼んだか、潜んでいたのか……いずれにせよ、あの男が関わっていることには違いありませんね」

大和改二「こうなれば、速やかにあの男を討滅せねばなりません!」

大和改二「だというのに、あのレ級め……南方海域のみならず、ここでも邪魔をしてくるなんて。なんて忌々しい!」ギリッ

レ級「ガァァァアアア!!!」ドバババババ!!

提督「あんにゃろう、魚雷撃つにも見境なしかよっ!」

泊地棲姫「提督ハ、早ク岸カラ離レロ!」グイッ

提督「うおっ」

 砲弾<ヒュゥッ

レ級「!?」ドガァン!

榛名改二「レ級に着弾! い、いったいどこから!?」

陸奥改二「とにかく今のでレ級がひるんで隙ができたわ!!」

大和改二「今しかありません……目標、敵総大将!! 全砲門!」


 ヒュウウ…

朝潮改二「! こ、後方より砲撃です!!」

大和改二「なっ……!?」

 ドガガガガァン!!

大和改二(中破)「ぐぅ……!? わ、わたしたちに、これほどのダメージを……!?」

榛名改二(中破)「あ、あれは……!?」

タ級→南方戦艦新棲姫「フフフ……ヨクモ、好キ放題シテクレヤガッタナァ!!」

ヘ級→軽巡新棲姫「サッキカラ、ヤルコトガウザインダヨォ! 覚悟シナサイナ!」

陸奥改二(大破)「な……姫級がこんなに……っ!?」

赤城改二(小破)「……いいえ! まだ! まだ行けます!」シュパッ

 艦載機<バゥゥン!

ツ級→防空巡棲姫「アーア、出シチャッタカァ……無駄ダヨ。アタシガ全部、墜トスカラ」

南方戦艦新棲姫「墜トスノハ、アタシモ得意ダゼェ……!」


朝潮改二(小破)「そんなこと、やらせるものかぁっ!!」

由良改二(中破)「突撃よ!!」

 深海艦載機<ゴォヒュァァアアア!!

朝潮改二(大破)「きゃああああ!?」ドガァン

由良改二(大破)「な、なに!? 敵艦載機!?」ガガァン

ヲ級→深海海月姫「邪魔ヲスルツモリナラ……ワタシガ、相手ヲシテアゲルワネ……!」

飛龍改二「……艦隊が全員姫級に……!?」

朧「一人は鬼級ですよ」

山城「そこを冷静にツッコミ入れてんじゃないわよ!」

蒼龍改二「悪夢よ……悪夢だわ。うーん……」クラッ

榛名「蒼龍さん!? しっかりしてください!!」ガシッ

那珂「なんか、すごいことになっちゃったねえ!」アハハッ

天龍改二「あははじゃねえよ……笑い事じゃねえ」

コロラド「……ほんとよ、笑えないわ。よりによって、みんな……!!」グスッ


 * 墓場島 南岸 *

 ドガァン!!

レ級「…ッ!!」ヨロッ

戦艦水鬼改「ホラ、オ前ノ相手ハ、コッチヨォ……?」

提督「お前……ル級か!?」

戦艦水鬼改「アラァ、提督……コンナ姿ニナッタノニ、私ノコトガ、ワカルノ? ウフフ、嬉シイワ」ニコッ

レ級「…」ギリッ

レ級「ガアアァァアアア!!」ジャキッ

戦艦水鬼改「モウ、終ワリヨ」

 ドゴォン!!

レ級(大破)「…」ボロッ

戦艦水鬼改「コレデモ、マダ沈マナイノ? 呆レルクライ頑丈ネエ……早クアッチニ合流シタインダケド」ハァ…

レ級「ギシャアアアアア!!」グワッ


提督「こいつ……いい加減にしろってんだ……!!」

 イビルアッパー<ゴギャア!!

レ級「!?」フットバサレ

戦艦水鬼改「アラアラ、華麗ニオ空ヲ飛ンジャッテ……今ノ、提督ノ仕業ネ?」

提督「ああ、俺もいい加減、頭に来たからな。向こうをフォローするんだろ? こいつの始末は俺に任せてもらっていいか?」

戦艦水鬼改「フフ……ソレジャ、オ願イシテイイカシラ?」

提督「見せ場を奪うようで悪いな。二度と海に戻れないようにしておくからよ……おらっ、ぶっ飛べ!」

 イビルナックル<グワッ!

レ級「」バギャッ!

提督「で、ここに落ちとけ!」

 イビルスタンプ<グオッ!

レ級「」グシャア!

提督「さあ出てこい! 出番だぞお前たち!!」

ニーナ「はいっ、魔神様!!」


オボロ「我らが彼奴めを切り刻んで見せます!」

ルイゼット「ご下知、賜りました……!!」

シエラ「や、やってやるデス……!」

ナンシー「やっちゃえやっちゃえー!!」

 ペンデュラム<ブォン!!

レ級「!?」ドグシャアッ!

 ブラッディシザー<ジャキジャキジャキン!!

 ギロチン<ズガシャアッ!

 デスサイズ<ズバシューーッ!

 サーキュラーソー<ギュイイイイイ!!

 フォールニードル<ズドシャーーッ!

レ級(瀕死)「アゥ…ガッ!?」ズベシャッ

ゼシール「残虐系メディウムの連撃だというのに、いくらなんでもしぶとすぎるな。まだ息があるぞ」


提督「まだくたばらねえのか。それなら……!」

 ブゥン…!

泊地棲姫「ナンダ? アノ、アイツノ下ノ地面ニデキタ渦ハ」

提督「……魔神の『頭』を呼び出すのさ」

 魔神の顔<グォバァァァァアアア!!

レ級「ヒッ!?」

泊地棲姫「!?」

 魔神の顔<ガブ!

レ級「ガッ!?」

 魔神の顔<ガブガブガブ!!

レ級「ゲ…アギャ…!?」

 魔神の顔<ガリ! ゴギン!! ゴシャッ!! ゴヂャッ!!

 魔神の顔<ゴリュゴリュ!! マ゙ヂュザジュ!!

ルイゼット「おお、これは……魔神様のご尊顔が……!」オイノリ

泊地棲姫「……食ッタ、ノカ?」


提督「んー、そのつもりでいたんだが……お前たち、ちょっと見ないでくれ」

 魔神の顔<ベッッッ!!

レ級だったもの「」グチャッ

泊地棲姫「……」テイトクニメカクシサレ

提督「こういうのも吐瀉物っつうのかね。そういう汚えもんはあまり見せたくねえから、ちょっと我慢してくれ」

泊地棲姫「吐キ出シタノカ……」

提督「丁寧に?み砕いてから、な。味の方は残念ながら大して美味くなかった。お前らも見なくていいぞ?」

ナンシー「はーい、って言っても、あたしたちはそこまでダメじゃないけどぉ?」

オボロ「我らも屍は見慣れてますゆえ、ご安心召されよ」

提督「そうか? にしても、厄介な奴だったぜ。五月雨や若葉のカタキじゃなかったみたいだが……こんなやつ、何体も相手したくねえな」

ニコ「やあ、魔神様。頭まで召喚できるなんて、いよいよ本格的に覚醒できてるみたいだね」ニコニコ

提督「……ま、否応なしにな」

レ級だったもの「」シュウ…

提督「お、消え始めたな。魔力に還元したのか?」

ニコ「うん。これから使うでしょ?」


提督「ああ。おーい、ル級!」

戦艦水鬼改「? ドウシタノ、提督?」

提督「あいつら捕まえるぞ。適当に弱まってるよな?」

戦艦水鬼改「エエ、大丈夫ミタイヨ」

泊地棲姫「……提督、ソロソロ、手ヲ放シテクレ」ポ

提督「ん? おう、悪いな」パッ

泊地棲姫「トニカクコレデ、最初ノ手筈通リ……プランBニ移行、ダナ?」

提督「ああ。頼むぜ」

泊地棲姫「ヨシ。任サレヨウ」

浮遊砲台たち「「ヴォ!」」フワワッ

泊地棲姫「6基操ルノハ初メテダガ……ヤッテミルカ」

というわけで今回はここまで。
やっとコーヒーのフラグを回収できた……。


今回は大和さんの災難の回です。
初登場のメディウムはこちら。

・ジェニー・デルタホース:西部劇のガンマンのような姿のメディウム。下から三角木馬がせり上がり、人間を痛めつけつつ辱める罠。
  さっぱりした性格のブロンドの女性。かつては群れずに一人で旅をしていたという。相棒の木馬シルバーエッジが潰した股間は数知れず。
・オディール・マンリキスピン:万力を手にしたバレリーナのメディウム。巨大な万力が人間を掴み、超高速で回転して目を回させる罠。
  自意識過剰で自信過剰な筋金入りのナルシスト。みんなが目を回すほどの美しさを自称しているが、一番目が眩んでいるのは彼女自身。
・ハナコ・ウォッシュトイレ:学校で見た気がする、おかっぱ頭の少女のメディウム。温水洗浄便座のシャワーが人間を吹き飛ばす罠。
  狭く静かなところが落ち着くらしく、そのためとある個室に引き籠り気味な少女。場所が場所だけに、存在自体に驚く人も多いとか。
・ディニエイル・コールドアロー:エルフのような長い耳を持つ、氷の弓矢を携えたメディウム。氷の矢が飛んできて人間を凍結させる罠。
  アロー四姉妹の一人で、冷静で理知的なクールビューティー。しかし魔神のそばでは冷静さが吹き飛ぶようで、少々お熱が入り気味に。
・アーニャ・クレーン:釣竿を担いだ活発な少女のメディウム。大きな爪を持ったクレーンが人間を掴み、回転させてから放り投げる罠。
  妹のミーシャと一緒に釣りをするのが大好きな、日焼け跡がまぶしいアクティブ娘。でもさすがに裸にオーバーオールはどうかと思う。
・マリッサ・クラーケン:ボディハーネスに身を包んだ女性のメディウム。海の怪物クラーケンの触腕が人間を締め上げながら辱める罠。
  軍帽、目隠し、ボールギャグ、拘束具に鞭と、見た目でヤバさ満載の女性。言動もそれ以上に危険で卑猥な、苦痛も楽しむ性欲の権化。
・カサンドラ・アゴニーマスク:中世の剣闘士風のメディウム。通電している拷問用のマスクが落ちてきて、人間の視界を奪い苦しめる罠。
  人に顔を見られるのが苦手な恥ずかしがり屋。戦いには勇ましく振る舞うが、武器のマスクは自分の顔を隠すため被ってしまっている。


フラグはどんどん回収しちゃいましょうねー。
というわけでちょっと短いですが続きです。


 * 墓場島 南岸沖 *

南方戦艦新棲姫「コレデ、ヤットオトナシクナッタナ!」

防空巡棲姫「スッゴイ、面倒臭カッタ」ハァ…

軽巡棲姫「提督ミタイナコト、言ワナイデヨ……」

大和改二(大破)「く……っ! 屈辱だわ……!」

赤城改二(大破)「奇襲さえされなければ、こんなことには……!」

陸奥改二(大破)「どうにかして、退くしかないわね……」

由良改二(大破)「退くって、ど、どうやって……?」

深海海月姫「逃ゲルツモリ? 許サナイワヨ……!」ジロリ

榛名改二(大破)「どうにか、隙を作らないと……!」

朝潮改二(大破)「そうです、ここで沈むわけには……諦めるわけにはいきません……!」

防空巡棲姫「コッチハ、サッサト諦メテホシインダケド……」

軽巡新棲姫「ソロソロ、トドメ刺サナイト、コイツラカラ反撃ガ……ア」

防空巡棲姫「ドウカシタ……?」

軽巡新棲姫「トドメ刺シテ、イイミタイ」ニヤッ

榛名改二「なっ……!?」


朝潮改二「そんなこと、やらせま」

 デルタホース<ガッシャン!!

榛名改二「ひぎゃああああ!?」ビウビクビクーッ

朝潮改二「!?」

大和改二「!?」

陸奥改二「な、なに!? 何が起こっ」

 マンリキスピン<ガシャッ!

由良改二「え」ガキーン!

 マンリキスピン<ギュイィィィィイインン!

由良改二「ちょ……あああぁああぁあ!?」ギュルギュルギュルーー!

ジェニー「やっとあたしたちの出番だね! 待ちくたびれたわよ!!」(On軽巡新棲姫の艤装)

オディール「お待たせした分だけ、いつもより多めに華麗にお耽美に回して差し上げますわ!!」(On防空巡棲姫の艤装)

大和改二「い、いったいなにごとです!? これは……」

ハナコ「あなた方は、この世の禁忌に触れたのです。その報いを受けるときが来ただけですよ?」(On大和の艤装)


赤城改二「!? あ、あなたは誰です!?」

ハナコ「うふふ……知らないほうが、御身のためです」ニコッ

 ヒュッ

赤城改二「き、消えた!?」

 ウォッシュトイレ<ガシャッ!!

陸奥改二「きゃあ!?」ズポッ

大和改二「今度は……ト、トイレ!? なんてふざけた真似を……!!」

陸奥改二「ちょ、ちょっとなにこれ!? はまって抜けない……!」

赤城改二「こ、これはまさか……トイレの花子さん!?」ゾクッ

陸奥改二「えっ、なにそれ!?」

赤城改二「い、いえ、以前、曽提督から戯れに冗談のような話を聞いたことがあるのですが……」アオザメ

赤城改二「トイレの中から現れた少女が、用を足しに来た人を便器の中に引きずり込むという怪異がいると……」ガタガタ

赤城改二「先程不意に現れた、おかっぱ頭の少女のいでたちが、まさしくその姿なんです……!!」ブルブル

陸奥改二「えええ!?」マッサオ

大和改二「曽提督が、そのような話を……!?」マッサオ

陸奥改二「や、やだっ! ちょっと早く助けて!?」オタオタ


赤城改二「わ、わかりました! 皆さん手を」

朝潮改二(凍結中)「」カチーン

大和改二「きゃあああああ!?」

赤城改二「な、なんで朝潮さんが凍って……!?」

 ヒュオッ

浮遊砲台たち「「ヴォー」」フワフワッ

深海海月姫「コレハ、泊地棲姫ノ……『アレ』ヲ持ッテキタノネ?」

浮遊砲台たち「「ヴォ」」コクコク

 複数の捕獲牢<ガシャガシャッ!!

赤城改二「と、鳥籠……!?」

ジェニー「あっ、捕獲牢を持ってきてくれたんだ!」

オディール「さすがの手際の良さですわ!」

軽巡新棲姫「ソレジャ、サクット片付ケチャオウカ!!」

イ級「」ザバッ!

ロ級「」ザバッ!

ソニア(ロ級に騎乗)「クレアお姉ちゃん! 私たちの出番だよ!」

クレア(イ級に騎乗)「オッケー! ブレイクチャンスだね!」


大和改二「さ、さっきから一体誰なの!?」

マリッサ「んふふっ、誰だっていいじゃなぁい? そんなことよりぃ……!!」ヌラッ (On南方戦艦新棲姫の艤装)

大和改二「!?」ゾワッ

 スプリングフロア<バシーン!

由良改二「ほええああ!?」フットビ

 スマッシュフロア<ズバーン!!

榛名改二「ひうっ!?」フットビ

 ウォッシュトイレ<ピピッ シャワーーー!

陸奥改二「な、なんなのぉ!?」ピュイイーーン

捕獲牢をぶら下げて待ち構える浮遊砲台たち「!」ガシャッ!

由良改二「な、なに!? なにがあったの!?」ガシャン

榛名改二「はぅんっ!」ガシャン

陸奥改二「も、もういやああ!」ガシャン


赤城改二「鳥籠に3人が……か、解放しなさい!」

 クレーン<ガシッ!

朝潮改二「」キュリキュリキュリー(←凍ったままクレーンで吊り上げられて捕獲牢へ入れられる)

アーニャ「えー、なんでー? あたしが釣り上げたんだから、リリースするかはあたしが決めることだよー?」(On軽巡棲姫の艤装)

ディニエイル「この海域に入って来た時点で、お前たちの生殺与奪は魔神様のものです。観念なさい」(On深海海月姫の艤装)

赤城改二「あ、朝潮さんまで!! そこまでになさ」

 クラーケン<ズバシャアアア!!

赤城改二「いぃい!?」ビクゥ!

 クラーケン<ヴジュルルル!

大和改二「ひ!? い……いやあああああ!?」ヴジュルジュルッ

大和改二「なに、なんなの!? なにこれえええ!?」ガタガタガタ

大和改二「いやぁぁあ!? 取って! これ取ってぇぇ!! は、入ってこないでえええ!! うああああん!!」ボロボロボロ

赤城改二「あわわわ……こ、これは一体っ!?」ビクビク

マリッサ「あはぁ、素敵ぃ……! 恐怖と恥辱が綯い交ぜになってるのねえ、とっ……てもいい悲鳴だわぁ……!!」ウットリ

軽巡新棲姫「ウッワ……」ワクワク

防空巡棲姫「エッロ……」ジットリ

深海海月姫「オウ……コレガ、ジャパニーズ・ショクシュ……」ユビノアイダカラチラミ

南方戦艦新棲姫「オオ、スッゲェ……」フムフム


 *

山城「うわぁ……ちょっと誰よ、よりによってマリッサなんか連れてきたの」

那珂「え? でも、船の天敵のクラーケンだよ? 連れてこない理由のほうが思いつかないんじゃない?」

山城「っていうか那珂ちゃんはアレを見ちゃダメよ!?」バッ

那珂「そういう気遣いは、駆逐艦のみんなにこそしてあげたほうがいいと思うなー」チラッ

如月「わ、私はまあまあ大丈夫だけど……」ポッ

朧「うっわ……」カオマッカ

綾波改二「はわわわ……」カオマッカ

天龍改二「おい、マジか……」カオマッカ

コロラド「ね、ねえ、いまクラーケンって言ってたけど……」

山城「ああ、あれ? 提督の知り合いよ」

霧島改二「し、知り合い……??」

飛龍改二「っていうかクラーケンって滅茶苦茶やばい奴じゃないのー!?」ヒシッ

蒼龍改二「もうやだぁ! 早く帰りたいー!!」ヒシッ


 *

赤城改二「……はっ!! 怖気づいている場合では……や、大和さん! 今助けます!」

カサンドラ「もう遅いです!」(On戦艦水鬼改の艤装)

 アゴニーマスク<ヒューン

赤城改二「きゃっ!!」ガポッ

カサンドラ「あなたもこうなる運命です……!」

赤城改二「あばばばばば!?」バリバリバリー!

大和改二「あ、赤城さあん!?」

マリッサ「あら、自分のことより他人の心配なんかしてあげてるのぉ? 優しいのねぇ、ご褒美あげたくなっちゃうわぁ~」ニタニタ

大和改二「ひっ!?」

マリッサ「せっかくだからあ、あなたの声が嗄れるまで……んふっ、たくさんたくさん、いぢめてあげるわねぇ~?」ニチャア…

大和改二「ひいいいいっ!? い、いやっ、やめ……」

マリッサ「ほぉ~ら、あんよを無様に、がぱぁ~っと開いて、ひっくり返してぇ~」グイーッ

マリッサ「恥ずかち~ぃところが恥ずかしくなってる様子を、ここにいるみんなに、全ぇん部見てもらいましょうねえ~?」ガパーッ

大和改二「い、い゛や゛ぁ゛ーーーーーーー!!」

軽巡新棲姫「ウッワァ……」ドキドキ

防空巡棲姫「エッグイ……」ネットリ

深海海月姫「オウ……コレガ、ジャパニーズ・ヘンタイ……」ユビノアイダカラガンミ

南方戦艦新棲姫「オオ、ヤッベェ……」マジマジ

大和「……なにも私と同じ艦娘でやらなくても……」(←両手で顔を覆って耳まで真っ赤にしている)

軽巡棲姫「ゴ愁傷様……」セナカポン

大和改二「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 * 墓場島 南岸 *

 <イ゙ヤ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙…

泊地棲姫「悲鳴ガココマデ響イテキテルナ」

提督「マリッサも容赦ねえな……」セキメン

泊地棲姫「ドウシタ、顔ガ赤イゾ?」

提督「いや、見えるんだよ……あっちで起きてることが」

泊地棲姫「ソウナノカ? フフッ、魔神様モ大変ダナ」

ニコ「……」カオマッカ

シエラ「……」カオマッカ

泊地棲姫「オ前タチモカ」

ゼシール「まあ……こういうことに慣れていない者が、我々の中には意外と多いんだ……」チラッ

ニーナ「ちょっ!? わ、わたしですか!?」カオマッカ

オボロ「せ、拙者はそのようなことは……!」カオカクシ

ナンシー「み、みんなめっちゃ動揺してるしー!」

泊地棲姫(コイツラ全員、提督ニ似タンダナ)ウンウン


 * 墓場島 南岸沖 *

 スプリングフロア<バシーン!

赤城改二「きゃあっ!?」

 捕獲牢<ガシャッ!

ソニア「ふう、これであたしたちの分はおしまい!」

クレア「ほらーマリマリ、遊ぶのはいいけど、早く捕獲牢にしまっちゃってよー?」

マリッサ「えぇ~? もっと弄りたいんだけどぉ……しょうがないわねぇ」

 クラーケン<ネジコミー

大和改二「……」グッタリ

 捕獲牢<ズルベチャヌチョガシャッ!

軽巡新棲姫「捕獲スルトキノ音デスラ、エロイッテドウイウコト……」ドキドキ

防空巡棲姫「粘液マミレダッタモンネエ……」ポ

如月「見た目が完全に『何かされちゃった後』よね?」ドキドキ

大和「み、見ないでください! 特に駆逐艦の皆さんが見ちゃダメなものです!!」

榛名「……もう、いろいろ遅いと思います……」カオマッカ

敷波「うわあ……」ドンビキ

初雪「大和さん……」ポ

南太平洋空母棲姫「……スゴイノ見チャッタ……」セキメン

大和「お願い、もうみんな忘れて……」ミミマデマッカ

朧「青葉さんが不在で良かったですね……」


今回はここまで。
あまりマリッサに喋らせすぎると、R板に行かなきゃいけなくなるので、
だいぶソフトな言い回しを心がけました。

>244
一応、実装済みの艦娘を想定していますが、ちょっと性格が違いすぎて無理があるかも……。
戦艦水鬼については、軽巡新棲姫や防空巡棲姫のように、モチーフがこれ、と言うのがないので、
もとになっている艦娘を意図的にごまかしている部分もあります。
実は、その辺を解説させたりする役割として、今回はコロラドを配役しています。


前回は大和さんが精神的なピンチになりましたが、今回は提督のピンチ回です。
今回は屈辱系メディウムが多め。というか、前回も屈辱系多めでしたね。

・キュプレ・ペッタンアロー:天使のような衣装のメディウム。ロープと吸盤のついた矢が人間に張り付き、発射台まで引っ張られる罠。
  人と人を物理的にくっつけるのが好きなお節介焼き少女。ただし恋愛そのものには興味が薄く、くっつけた後のケアまでは知りません。
・ミュゼ・テツクマデ:庭師のお姉さんメディウム。おもむろに置かれたテツクマデを人間が踏み、跳ね上がった柄が顔面を打ち付ける罠。
  言動にちょっと年季の入った庭師のお姉さん。忘れっぽいのか、テツクマデをどこかに置き忘れ自分で踏んでしまうことも増えてきた。
・ヴィクトリカ・ヒューマンキャノン:眼帯をした女海賊風のメディウム。巨大な砲台が人間を弾丸にして、遥か遠くへ発射する罠。
  見た目通りの女海賊。海が好きだが残念ながら船は持っておらず、南の海に船で乗り出すのが夢。酒好きメディウムの一人でもある。
・ヴェロニカ・スパイダーネット:煽情的な衣装に身を包む妖婦のメディウム。頭上から蜘蛛の巣が降ってきて、人間の動きを鈍らせる罠。
  何人もの男を絡め取り弄んできた……と思われる蠱惑的な女性。魔神に対しては誘惑が不発に終わることが多く、悶々としているとか。
・カオリ・ボールスパイカー:バレーボール選手のような姿のメディウム。発射台から3発のバレーボールが放たれ、人間を打ちのめす罠。
  日々トレーニングに汗を流す体育会系娘。頑張り過ぎて体を壊したり、神殿の壁を壊したりと、強い向上心に反して自制心は弱い模様。

では続きです。


 * 墓場島 南岸 *

捕獲牢をぶら下げて戻ってくる浮遊砲台たち「ヴォー……」フワフワッ

提督「おお、全員しっかり捕獲してきたな」

泊地棲姫「疲レタナ……浮遊砲台ヲ、6基向カワセタノハ初メテダ」フゥ…

提督「悪いな、無理させて。おかげで助かったぜ」

ニコ「それじゃ、捕獲牢を回収するよ。こんなに捕獲できたのは、僕も初めてだよ」スッ

 (ニコが手を広げると、浮遊砲台たちがぶら下げていた捕獲牢が消える)

浮遊砲台たち「ヴォ」フワフワッ

泊地棲姫「イキナリ軽クナッタナ」

ニコ「ぼくたちの神殿の一室に転送したんだ。これでもう、あいつらはこっちの世界に簡単に出てこれないよ」

提督「……これでひと安心、だな」

 ザザザァ…!

大和「提督ー!」

戦艦水鬼改「戻ッタワ。提督ト、姫ハ大丈夫?」

提督「おう、おかげさまでな」


泊地棲姫「……フフ、マサカ、イマノオ前ニ心配サレルナンテ、思ッテナカッタワ」

戦艦水鬼改「オカシイカシラ?」クビカシゲ

泊地棲姫「私タチハ、チカラヲ持ツ者ガ上……弱肉強食ノ世界ガ、普通ダカラヨ」

戦艦水鬼改「フーン……多分ソウイウノハ、全部コノ男ノセイヨ?」クスッ

泊地棲姫「違イナイワネ」フフッ

提督「何言ってんだお前たち」

南方戦艦新棲姫「戻ッタゼー!」

軽巡新棲姫「タダイマー!」

防空巡棲姫「マジ疲レタ……」

深海海月姫「大破シテル艦ガイルカラ、早ク帰リマショ」

提督「戻ったって……揃いも揃って全員別人みたいになりやがって。これじゃ誰が誰だかわかんねえぞ」

提督「つうか、泊地棲姫の言ってた、面白いこと、って、もしかしてこのことか? 何があったんだお前たち」

南太平洋空母棲姫「ソレハネ、イロイロ、アッタノヨ」クスッ

エレノア「びっくりしたわよー、彼女に載ってる間、感情の昂ぶりと一緒に強烈な魔力の奔流を感じたんだもの」

ディニエイル「きっかけこそよくわかりませんが、これまでより強大な力を持つようになったと実感できます」


提督「そいつはいいが……体調がおかしいとか、そういうことはねえな?」

南方戦艦新棲姫「全然! 絶好調ダゼ! ア、デモ、コッチハ大怪我シテルゾ」

軽巡棲姫「イイワヨ、沈マナカッタンダカラ……提督ハ、無事ナノネ……?」

提督「ああ、大和と軽巡棲姫は災難だったな。歩けるか?」

軽巡棲姫「ソウネ。装備ハサンザンダケレド、歩ケナイホドジャナイワァ」ハァ

大和「私も、足元は問題ありません……とても恥ずかしかったですが」マッカ

提督「……そうか。まだ手を貸せる状態じゃないんで、自分で歩けると助かる」

榛名「? まだ何かあるのですか?」

ニコ「そうだね……」チラッ

提督「ちょっと嫌なもんが視えちまっててなあ……まさかこっちに向かってくるとは、思ってもいなかったぜ」

南太平洋空母棲姫「? 何ノ話?」

如月「司令官、こっちの別艦隊の艦娘を保護したわ……あら? あれは誰かしら……?」

 ゴムボート<ザシャアアア…

弟「よーし、ここでいい。指示があるまで、ここで待ってろ」

団員1「本当に用事はそれだけなんだろうな!」

団員2「勝手に抜け出して、あとでなんて言われるか……」


敷波「あー、あれって!」

南太平洋空母棲姫「アノ男タチハ……!」

イサラ「なんでここまで押しかけてきたっスか……!?」

弟「フッ……久し振りだな、兄さん」

 ザワッ…!

提督「……」

山城「兄さん!?」

ゼシール「というと、あの男が……」

戦艦水鬼改「提督ノ弟カ!?」

朧「来るなって伝えてたはずなのに……!」

ニコ「あんまり似てないけど……魔神様、本当なの?」

提督「……知らん」

弟「!?」ガクッ

艦娘&深海棲艦&メディウムたち「「」」ガクガクッ

コロラド「みんなどうしてコケてるのかしら……」

霧島改二「さあ……」


カサンドラ「あ、あの人間、知らないんですか?」

提督「知らないっつうか覚えがないっつうか……ぶっちゃけ、ガキの頃に縁を切られて以来、顔もまともに見てねえし」

提督「そもそも兄さんなんて一度も言われたこともなけりゃ、今更になって言われる筋合いもねえしなあ」

提督「だから弟だって言われてもピンとこねえし、白々しいっつうか空々しいっつうか……それ以上に、どの面下げて来やがった?」

如月「それはそうなるわよね……」

ディニエイル「ごもっともです」ウンウン

朧「それより提督、大丈夫なんですか? X大佐たちと話してた時に、元家族の話になった途端、すごく不機嫌になったじゃないですか」

提督「そうだったんだが、大丈夫っぽいな。これも思い出補正ってやつか? 昔のことなんで、思い出すたびむかついてたんだが……」

提督「こうして面と向かって対峙してみても、俺の想像と実物がかけ離れてて、もう他人としか思えねえ」

提督「俺もなんでこんなのに神経すり減らしていたのかが不思議なくらいだ。この分なら、親に会っても何とも思わねえかもな」

泊地棲姫「ストレスノ元ガ減ッテ、良カッタジャナイ」

提督「ああ、本当にな」


ジェニー「ねえねえ、弟って言うけどさ、リーダーのほうがずっと若く見えない?」

オディール「そう見えますわね。所作にも優雅さが足りないと申しますか……」

クレア「ぶっちゃけ老けてるよね? おっさんじゃない?」

ナンシー「そこまでぶっちゃける!? 私もそう思ったけど!」

ハナコ「ナンシーさんは口に出さなかっただけなんですね」

如月「ナンシーさん、そのあたりはしっかりしてるわよねぇ」ウフフッ

ナンシー「そりゃー一応、人の外見を気遣うお仕事だしー?」フフーン!

弟「……減らず口もその辺にしておけ、メディウムども」

ディニエイル「!」

弟「艦娘も、深海棲艦もだ。そこの落ちこぼれに代わって、この俺が、この島を統治する。せいぜい俺の機嫌を損ねないことだ!」

那珂「統治? どういうこと?」

軽巡新棲姫「タダノ人間ゴトキガ……生意気ダナ」

山城「それより、なんであの男がメディウムのことを知ってるのよ」

深海海月姫「ソウイエバ……!」

提督「おいニコ、気付いてるか?」

ニコ「……うん。メディウムのみんなも気付いてるよ」


提督「それなら話は早いな。艦娘と深海棲艦たちは手を出すなよ! あとから人間どもにごちゃごちゃ言われたくねえからな!」ダッ!

如月「えっ!? 司令官!? どこへ行くの!?」

朧「なんでそいつに向かっていくんです!?」

ニーナ「魔神様は、おそらく私たちを巻き添えにしないようにしようとお考えです」

南方戦艦新棲姫「巻キ添エ? ドウイウ意味ダ?」

弟「ハハハハ!! いいぞ、かかってこい! 無様にあがいて見せろ!」バッ!

 魔法陣<ボワッ…!

提督「!」

弟「くらえ! そして魔神である俺の力にひれ伏せ!」

ジェニー「リーダー! 下からくるよ!」

 デルタホース<ガシャッ!!

提督「おっと!」バッ

艦娘&深海棲艦たち「「!?」」


ナンシー「今度は上からよ、マスター!」

 魔法陣<ボワッ…!

 ツリテンジョウ<ガラガラガラ!

提督「ちっ!」ゴロゴロッ

弟「なんだなんだ、逃げるだけか!」

ニーナ「魔神様、次は前からです!」

 魔法陣<ボワッ…!

 ペンデュラム<ブゥン!

提督「っと、危ねえ!」バッ

戦艦水鬼改「ドウイウコト!? ドウシテ、アイツガ罠ヲ操レルノヨ!?」

大和「ニコさん、あの男は何者なんですか!?」

如月「あの力は魔神の力なんでしょう!?」

ニコ「うん……あの力はそうだよ。でも、あの男は魔神様じゃない。魔神様の加護を授かった、ただの人間だよ」

泊地棲姫「加護?」


弟「くっ……ちょこまかと! 逃がすか!!」

マリッサ「今度は足元よぉ~!」

 魔法陣<ボワッ…!

 ベアトラップ<ガチン!

提督「ったく、あぶねえな……!」バッ

ゼシール「上だ……でかいぞ! 走れ!」

提督「なに!?」ダダッ

 魔法陣<ボワッ…!

 スエゾー<ズウゥゥンン!!

提督「うおっ!? なんだこいつ!」ゴロゴロゴロッ

ニコ「ぼくたちも見たことないね……異界の化け物かな」

スエゾー「アレ? オレノデバン、コレダケ?」シュウウ…


弟「ちくしょう、野次馬が邪魔ばかりしやがって……! おい、お前たち! 提督を捕まえろ!」

団員1「な、なんで俺たちが!?」

団員2「お前をここに連れてくるだけの約束だったろう!?」

弟「……」ギロッ

 魔法陣<ボワッ…!

団員1「!」

 ボートの横すれすれを通り過ぎるペンデュラム<ブゥン!

団員1「うわあ!?」

弟「逃げたりしたら、次は直撃させるぞ……行け!」

団員2「く、くそ……!」

団員1「なんで俺たちがこんな目に……!」


提督「おいおい、普通の人間駆り出すなんて、お前……」

弟「落ちこぼれのお前が俺に意見するな!! お前のようなゴミが、俺の兄だなんて認めないぞ!」

提督「ああ!? 誰が認めてくれなんて言ったよ、くそが!」カチン

団員2「脚が止まった……い、いまだ!」ガシッ

提督「げっ! こいつマジかっ……!」

弟「よーし、よくやった! お前も早くあいつを捕まえろ!」

団員1「く……!」ダッ

 魔法陣<ボワッ…!

提督「ちっ……!」

キュプレ「そうはいかないわよ!」(On那珂の艤装)

 ペッタンアロー<パシュッ!! ペタッ!

キュプレ「いつもはくっつける役割だけど、今回は離れてもらうわね!」

提督「うお!?」グイーン!

団員2「うわっ!!」グイーン!

キュプレ「って、あれ!? なんであの人間もくっついてくるの!?」

那珂「しっかり抱き着いちゃってるせいだね……」


団員1「な、なんだあ!? いきなり吹っ飛んでったぞ!?」

 ドゲザプレート<ガシャッ!!

団員1「うわっ!? な、なんだこれ……あ、熱! ぎゃあああ!!」ジュウウウ

弟「なんでお前が罠にかかるんだ! どんくさい奴め……!」

提督「くそ、あんな罠を持ってるのかよ……キュプレか、助かったぜ!」

キュプレ「魔神様、油断しないでね!」

団員2「……」

提督「……おい。お前、このままあいつに従ってていいのか? あいつはお前を味方だなんて思ってもいないようだぞ」

団員2「そ、それは……」

提督「俺はあいつを追い払う。逃げてろ」ジロリ

団員2「う……」

提督「さてと……」チラッ

山城(……あら? 私の載せてたメディウムが、いなくなった……?)

那珂「どうしたの山城ちゃん?」

山城「……大丈夫よ、なんでもないわ」


提督「お前の持ってる罠の傾向はだいたいわかった。お前、見た目が屈辱的で痛そうな罠ばかり揃えてるな」

弟「……お前の最期に相応しい罠を用意してやっただけだ。嬉しく思うんだな!」

提督「はっ、馬鹿が。余程、俺を辱めたいようだが……生憎、俺はお前なんぞに用はねえんだよ」

弟「用はない、だとぉ……!?」イラッ

提督「ああ、お前の面なんざ見たくもねえ。とっととおうちに帰んな」シッシッ

弟「お前如きが俺に指図するなと言っているだろうが……!! 落ちこぼれの出来損ないの、我が家の恥さらしの分際で!!」

弟「何の地位も能力も持てなかった無能のくせに! 一般社会に適合できなかった落ちこぼれのくせに! その偉そうな態度はなんだ!!」

弟「父さんにも迷惑をかけ続け、母さんにも毛嫌いされるようなお前が取っていい態度だと思うか! 恥知らずめ!! この世のゴミめ!」

提督「……」

如月「なにあいつ……」ドロリ

大和「提督に向かってなんてことを……」ドロリ

戦艦水鬼改「殺ス」ゴワッ

南方戦艦新棲姫「殺ッチャウカ!」ギラッ

ニコ「うん、殺っちゃおう」ゴゴゴゴ…


飛龍改二「ちょっと!? さっきからいったい何の話!?」

蒼龍改二「みんな殺気立ってて怖いんだけど!?」

山城「説明してる余裕はないからちょっと静かにしててよ……」

天龍改二「よくわかんねえけど、よくわかんねえ力で戦ってるってことだよな」

綾波改二「手出ししないでおとなしく静観してたほうがいいみたいですね」

天龍改二「むしろいつでも避難できるようにしてたほうがいいな」

山城「なんでこっちだけ物分かりがいいのよ……」

コロラド「アヤナミとテンリューは、艦隊の Veteran らしいわよ」

霧島改二「川提督艦隊の、初期艦に次ぐナンバー2とナンバー3ですので……」

山城「……そう。まあ、なんでもいいけど」


弟「魔神の力は、お前みたいなゴミが持ってていいものじゃない! 俺のような、有能な人間に使われてこそ世界の役に立つものだ!!」

弟「そこの雑魚メディウムども!! 俺の力を見ただろう! 魔神はそいつなんかじゃない、俺こそが真の魔神だ!!」

ディニエイル「哀れですね。借り物の力を自分の力だと勘違いしているようです」

オディール「わたくしたちの魔神様に対して取っていい態度ではありませんわよねぇ?」

ニーナ「我らが魔神様に対する侮辱の数々、その命をもって償っていただきましょう……!」

弟「歯向かうようならお前たちも処断するぞ! さあ、そこにいるまがい物の魔神を殺せ! この俺に、生贄として捧げろ!!」

ゼシール「まがい物だと?」

ジェニー「まだ言うの!」ムカムカ

朧「……あいつ、もう撃っていいですか」ジャキッ

那珂「ちょっ、朧ちゃん!?」

艦娘たち「「……」」ジャキジャキジャキッ

深海棲艦たち「「……」」ジャコンジャコンジャコンッ

那珂「て、提督さん!! みんな無言で構え始めてるんだけどー!!」

山城「ちょっと提督!? いくらなんでもこの数は抑えきれないわよ!?」

那珂「ぶっちゃけ那珂ちゃんも抑えたくないでーす!!」ジャキッ

山城「那珂ちゃんちょっとおおお!?」ガビーン!


提督「ああ、待て待て、その必要はねえよ。もう、終わってるからな……!」ダッ

榛名「!」

弟「な、何を企んでる!?」ジリッ

 ギュム

弟「な……?」

 テツクマデ<バチコーーン!

弟「ぐ、あ……!?」ヨロヨロッ

 ヒューマンキャノン<ガシャッ!!

弟「うおっ!?」スポッ

提督「よぉし! よくやったぜ、ミュゼ、ヴィクトリカ」

ミュゼ「いえいえ、ご主人様の誘導のおかげです!」ポフッ

ヴィクトリカ「さすがはキャプテン、いい勘してるぜ!」ポフッ

榛名「ミュゼさん、いつの間に私の艤装から降りてたんですか!?」

山城「私が載せてたヴィクトリカも……!」

弟「な、なんだこれは!? この罠は、もしかして」

ヴィクトリカ「なあキャプテン、こいつ何か言ってるけど……」

提督「ああ、聞くだけ無駄だ。無視していいぞ」

ヴィクトリカ「了解! 発射ああ!!」

弟「なっ!? て、てめ」

 ヒューマンキャノン<ズドーーーン!!

弟「うわああぁぁぁ……」バヒューーー…ン

提督「……ふん」


朧「提督、話も聞かずに飛ばしてしまって、良かったんですか?」

提督「あいつから聞ける話なんて、たかが知れてるさ。あいつの魔神の力も借り物だしな」

提督「それに、余力があるのにこうやって有無を言わさず退場させられる方が、力を誇示したがるあいつにとっちゃあ余程屈辱的だろう」

ヴィクトリカ「ミュゼとあたしだけで片付けろなんて言うから、随分あっさりしてるなって思ったけど、そういうことか」

ミュゼ「魔神様、あいつ、本当に殺さなくて良かったんですか? 皆さん、滅茶苦茶やる気だったじゃないですかー」

提督「あいつの魂なんかいらねえよ。ミュゼたちに気付けなかった程度だから、力も大したもんじゃねえし、何より俺の魔力に混ぜたくねえ」

ニコ「……魔神様がそう言うなら、納得するけど」ムスッ

ナンシー「ニコちゃんは嫌だった?」

ニコ「ぼくは、残虐系のみんなに活躍してもらいたかったけどね」

泊地棲姫「私モ、アイツハ、ブチ殺シタカッタ」

戦艦水鬼改「人間ハ、ソウイウトコロハ遠回シヨネ? ヒト思イニ、ヤレバ良カッタノニ」

那珂「ああいう人って、また来ちゃうんじゃない? ストーカーになっちゃったらやだなー」

ヴェロニカ「結局、私の出番はなかったってこと?」(On如月の艤装)

カオリ「私までサーブが回ってこなかったのが残念です」(On朧の艤装)

キュプレ「っていうか、まさかミュゼさんがここで活躍するなんて予想外よね!」

ミュゼ「海の上じゃなかったですからね~」エヘヘ


山城「っていうかあなたたち、いつの間に私の艤装から移動してたのよ」

ヴィクトリカ「近距離なら魔神様とは意思疎通できるんだよ。で、あたしたちの意思に関係なく動かしてもらえるんだ」

山城「提督の魔神化もいよいよ本格化してきたわね……」

ニコ「ねえ魔神様、あいつらはどうするの?」

提督「ん……」

団員1「うう……痛え、痛えよぅ……」

団員2「お、おい、しっかりしろ。だ、誰か、誰か助けてくれ!」

提督「……おい」

団員2「! す、すまな……申し訳ない! これまでやってきたことは謝罪する……どうか、こいつを助けてくれないか!?」ドゲザッ

提督「この島に、人間が治療できる場所はねえよ」

団員2「そんな……!?」

提督「だから、とっととお前らの船に戻りな。お前らの乗ってきたゴムボートは無事だろ」

団員2「!」

提督「この場は見逃してやる。早く行け」

団員2「わ、わかった……本当に申し訳ない! お、おい! 少しの辛抱だ! 船に戻るぞ!」グイ

団員1「ぐぅう、痛えよぉ……!」ヨロヨロ

 ゴムボート<バゥーー…


如月「……司令官……」ホッ

ニコ「面倒ごとを避けた、と見ていいのかな……?」

提督「ああ、油断するなよ。まだ敵は潜んでる」

山城「は?」

提督「あいつに……あの馬鹿に、罠を操る力を与えていたのは、エフェメラ。お前だな?」

??「……私の名を……なるほど、そこの出来損ないから教わりましたか」

提督「出来損ない……?」カチン

 ヒュワッ!(何もないところから突然現れるエフェメラ)

??→エフェメラ「小賢しいですね……魔神様の威を借る、死に損ないの亡霊の分際で……!」

ニコ「……!」

提督「何しに来やがった? お前、俺の父親に接触してきたエフェメラだろ? 何が目的だ」

エフェメラ「……おかしいですね。あなたが、この私のことを知り得る可能性はないのですが。どういうことでしょう」

エフェメラ「もしや、魔神様の力だけでなく、記憶も目覚めかけている……?」

提督「何を言ってやがんだ……何を知ってる?」

ニコ「なんであの人間を使って、魔神様を殺そうとした!? ぼくたちの魔神様をどうするつもり!?」

エフェメラ「……真なる魔神様なら、血縁であろうと、あの程度の小物は躊躇いなく始末できたはず」

エフェメラ「いかに華麗に、残虐に、そして屈辱的に殺せるか……魔神様の復活の度合いを測るため、けしかけたのです」


エフェメラ「その結果……私の期待は、大きく裏切られました。更には手負いの人間ですら、まともに殺そうともしないとは……」

提督「けっ、手前の思惑通りに動いてたまるかよ」

エフェメラ「不可解です。どうしてこうなったのかわかりませんが……やはり、いまのお前は魔神様と呼べない、不完全な存在……!」スッ

ニコ「みんな、戦いの準備を!」

ニーナ「はいっ!」

提督「艦娘と深海棲艦は下がってろ……何をしてくるかわからねえからな」

如月「大破してる大和さんは後ろに回りましょ!」

大和「え、ええ……!」

泊地棲姫「軽巡棲姫モ、下ガッテナサイ」

軽巡棲姫「私ハ、大丈夫ヨォ……!」

綾波改二「あ、新しい敵ですか……!?」

敷波「いいから下がってて! 何が飛んでくるかわかんないから!」

天龍改二「お、おう……任せて大丈夫なんだろうな?」

ブリジット「こ、ここは我々に任せて退くであります!」

カオリ「はいっ! さっき戦えなかった分、ここで挽回して見せます!」

ヴィクトリカ「私も一発だけじゃあ不完全燃焼だからな! 行かせてもらうぜ!」

ヴェロニカ「さあ坊や、私たちに命じなさい。あんなオモチャ、私たちがバラしてあげるわ」


エフェメラ「メディウムが、私と戦う理由はないはず……私の望みは、魔神様の復活」

エフェメラ「そこの使い魔。お前もそうなのでしょう……ならば私に従いなさい」ジロリ

ニコ「ぼくたちの魔神様に手出しをしようと言うのなら、話は別だよ……!」

エフェメラ「……情に絆され本来の魔神様の姿を見失いましたか。真なる魔神様に、慈しむ心など不要です」

エフェメラ「その男が下僕とした艦娘と深海棲艦を生贄に捧げ、その弱い心を、憤怒と憎悪と失望をもって灼き尽くす……」

エフェメラ「そうすることで、真なる魔神様が顕現なさるはずだった……なぜ、お前たちはそうしなかった?」

ナンシー「如月ちゃんたちを殺そうって言うの!? そんなことやらせないんだから!」

ジェニー「今のリーダーもそうだけど、この世界の仲間のことも、結構気に入ってるのよ!」

ソニア「そうよ! 余計なことしないで!」

エフェメラ「まがい物を魔神様だと信じて崇めるとは……哀れな」

ニコ「まがい物だって!?」

エフェメラ「よく見ておくといいでしょう……魔神様の真の目覚めに、不純物は不要だと……!」バッ!

提督「ぐあっ!?」ビキッ

如月「司令官!?」

ニコ「魔神様!」

提督(なんだ!? 体が動かねえ……!)


アーニャ「大変! 魔神様の体が宙に浮いてるよ!!」

キュプレ「私の矢の力で、ご主人様を引っ張って助けるわ!」

 ペッタンアロー<パシュ!

  バチッ!

 ペッタンアロー<ポヨーン

キュプレ「あ、あれ? 何かにぶつかって弾かれちゃった!?」

シエラ「バリアでも張られてるデスか……!?」

ゼシール「まずいな、私たちの武器じゃ魔神様の体を傷付けてしまうぞ……!」

南太平洋空母棲姫「ソレナラ、アイツヲ、殺レバイイノネ?」ギロッ

ニーナ「危ない!」ドンッ

南太平洋空母棲姫「!?」

 ペンデュラム<ヴォンッ!!

ニーナ「……やはり、あの人間に力を貸していたのはエフェメラの力だったみたいですね」

南太平洋空母棲姫「ゴメンナサイ、助カッタワ」

エフェメラ「下がっていなさい。先にお前たちを始末しても良いのですよ」

敷波「なんなんだよお、これじゃ、迂闊に攻撃できないじゃん……!」


ニコ「エフェメラ……魔神様をどうする気!」

エフェメラ「あなたの魔神様を、真の姿に戻してあげようというのです」

ニコ「なんだって……!?」

提督「ぐ、ぎ……がああああああああああ!!」


 バリバリバリッ!!


「「きゃああっ!!」」

 (提督の周囲の空気が大きな破裂音を響かせる)

 (次の瞬間、空中に拘束されたまま気を失っている提督と)

 (その提督の足元で、何者かがうつ伏せに倒れ込んでいる)


山城「……くぅ、な、なんなのよ一体……!」

ディニエイル「魔神様……は、無事、なのですか?」

ソニア「ちょっと待って、魔神様の下に誰か倒れてる!」


提督?「ぐぅ、痛ってぇ……なんか、からだがヒリヒリしやがる……!」ムクッ


大和「どういうことでしょう……提督が二人いるようにも思えるのだけれど……」

榛名「は、はい、雰囲気はそうですけど、あちらは女性のように見えるのですが……!」

蒼龍改二「えっ? あれは深海棲艦じゃないの……?」

敷波「……えっと、見た目は、そうかもしれないけど……」

綾波改二「リ級か、ネ級でしょうか? 重巡クラスに見えますが……」

天龍改二「ああ、雰囲気は重巡だな……けど、装備とか全部剥げてんじゃねえか? おまけに全身ひびだらけでボロボロだ」

コロラド「U.S.Navy っぽくはないわね……誰かしら」

如月「あれは司令官じゃないの? 司令官っ!」タタッ

戦艦水鬼改「提督カ!? シッカリシテ」タタッ

提督?「く……あ、ああ、如月と、ル級か? いったい何が……うお、俺が飛んでる!?」

如月「!?」

戦艦水鬼改「!?」

提督?「? ど、どうした?」


戦艦水鬼改「……胸ガ、アル」

提督?「は? ……って、なんだこりゃ? 体が白くなっててひびだらけで……もしかして裸か!?」

如月「し、司令官……これ……」カガミサシダシ

提督?「……なんだこの顔!? 俺また死んだのか!? ってか、女みたいな顔になってる!? なんだか声も高えぞ!?」

戦艦水鬼改「……カラダニハ、サワレルナ。死ンデハイナイゾ」ペタペタ

防空巡棲姫「重巡棲姫ノ見タ目ニ近イネ? 髪型モ似テルシ」

軽巡棲姫「コレハ、重巡棲姫トイウヨリ、提督棲姫ネェ……?」

提督?→提督棲姫「冗談だろ……?」

朧「でも、本当にその通りですよね。体つきも女性のそれになってますし……」

提督棲姫「うわ、アレもねえ!? マジかこれ!!」コカンツカミ

泊地棲姫「女ニナッタノカ……面白クナイナ」ションボリ

提督棲姫「そんなこと言ってる場合じゃねえよ!」

南方戦艦新棲姫「腹ニ、裂ケ目ガアルナ……」

深海海月姫「重巡棲姫ノ名残カシラ……ココカラ艤装ガ生エテタワヨネ?」

榛名「そ、それより、素っ裸になってらっしゃいます。何かお召し物を……!」アセアセ

如月「司令官、足を閉じて。あぐらなんかかいてたらお行儀悪いわ」メッ!

提督棲姫「そんなこと言ってる場合でもねえよ!」


山城「っていうか、どういうことよ? こっちの提督が深海棲艦なら、あっちの提督はなんなのよ」

ニコ「……魔神様だよ。そこにいる深海棲艦は、魔神様じゃない……」

提督棲姫「……!」

エフェメラ「その通り。魔神様から、不純物を取り除きました」

如月「司令官を……!」キッ

戦艦水鬼改「不純物ダト……!?」イラッ

ニコ「……」

エフェメラ「そう、その不純物が、魔神様の目覚めを妨げていたのです」

エフェメラ「魔神様の力を覆い隠し、包み込んで封じ込めていた、忌まわしき者……!」

提督棲姫「なんだと? それじゃ、あっちは……あの俺の体が魔神だってことか!?」

エフェメラ「さあ、魔神様、お目覚め下さい。今こそ、世界に破壊と破滅と絶望をもたらし、恐怖によって支配するときです」

提督の体「」ピクン

提督の体「」ビクンビクン…!

ニコ「……この魔力……!」

如月「危ないわ、司令官避難して!」グイッ

戦艦水鬼改「私ガ連レテイク! コレッテ、ヤバクナイノカ!?」ダキカカエ

提督棲姫「ああ、やばいな。あれは俺の体だってのに……やるしかねえのか?」カカエラレ

 ゴォオオオッ!!

朧「うわっぷ……!!」

飛龍改二「と、突風が……!」

山城「ちゃんと捕まってなさい!」

軽巡新棲姫「ナンダッテ言ウノヨ、モー!!」

今回はここまで。

保留していた>51に対するニコちゃんの答えは、
>281が回答となります。


>258-259
深海勢は曽大佐艦隊を大破させた点ですでに大活躍していますので、
最後だけメディウムに譲ってあげた感じです。
マリッサはエロ要員としては非常に使いやすくて暴走させすぎないようにするのが大変です。

>260-261
米軍艦モチーフの深海勢なので、ジャパニーズ~はどうしても言わせたかったネタです。
誰かが「繰り返しはベタネタの基本」と言っておられましたが、その通りだと思います。

>262-263
まあ、ヤられちゃったあとですので……その表現、使えば良かった。


今回はニコちゃんが追い詰められる回です。初登場はこちらの二人。

・ユリア・カタパルト:ゴルファーのような風貌の女性のメディウム。床が斜めに勢いよくせり上がり、遥か遠くに人間をかっ飛ばす罠。
  ゴルフクラブを手にした長身の女性。スポーツマンに見えるが酒好きメディウムの一人。眺めのいい景色や、風を感じることが好き。
・ヒサメ・スリップフロア:雪女のように冷気を漂わせた着物姿のメディウム。地面を凍結させて、足を踏み入れた人間を転倒させる罠。
  気に入った男は凍らせて飾るのが趣味と宣う、雪女のような女性。掴みどころのない性格で、大人の余裕を見せながらからかってくる。


最初に謝っておきます。出オチ感がひどくてすみません。
続きです。


 ヒュオォォオオ…!

エフェメラ「……魔神様の、お目覚めです」

提督棲姫「くそ……どんな奴なん……だ?」


ぶかぶかの提督服を着た少年提督「……」チンマリ


エフェメラ「……」

山城「……は?」

オディール「魔神様が……縮んでしまわれましたわ?」

提督棲姫「なんだそりゃ……?」

如月「……やだ、可愛い……」

戦艦水鬼改「確カニ、可愛イコトハ可愛イガ……ソンナコトヲ言ッテル場合カ?」タラリ

ジェニー「しょうがないじゃない、全然怖くない雰囲気だし。なんか、まだ寝てる感じ? 目覚めきってないみたいっていうか……」

キュプレ「うんうん、朝起きてすぐの寝ぼけ眼って感じよねえ」

天龍改二「龍田が見たら一発で墜ちそうだな……」ボソッ

綾波改二「え、龍田さん、ああいうの好きなんですか」

天龍改二「内緒だぞ?」シー


提督棲姫「うーん……言われてみれば、ガキのころの俺に似てるかもなぁ……」

如月「やっぱりそうなの? やぁん、司令官の小さいころの姿が見られるなんて!」

大和「ええ、本当に……なんて愛らしい」

提督棲姫「はしゃいでる場合じゃねえよ。おいニコ、魔神ってのはこんな姿なのか?」

ニコ「……」ニヤケセキメン

提督棲姫「なんだあの顔」

マリッサ「なにかしらあ、その絶妙に嬉しそうで恥ずかしいって感じのお顔」

ルイゼット「あの……ニコさん? それはどういった表情で?」

ミュゼ「……あー! 魔神様のこのお姿! わたし、見覚えありますよ!」

ゼシール「見覚えがある?」

ミュゼ「ええ、いままさしく思い出しました! この世界に来る少し前に神殿をお掃除してた時のことなんですけど!」

ミュゼ「かつてはニコさんが魔神様の復活のため、いろーんな素材を集めていましたよね!」

ニーナ「そういえば、そんな時期もありましたね」

ソニア「あっ、私も聞いたことある!」


ミュゼ「その時にニコさんが造っていた素体のひとつが、こういう感じの少年だったんですよ!」

ナンシー「えー? それじゃ、ニコちゃんがマスターをこんな感じに造った、っていうの!?」

ミュゼ「そう! その時の素体と、見た目がそっくりなの!」

オディール「そういえば、ミュゼさんはメディウムの中でも古株でしたわね」

ディニエイル「では、あながち嘘でもないと……?」

ニコ「そこまで知ってるってことは……もしかしてミュゼは、あの秘密の部屋に入ったのかな?」カオマッカ

ミュゼ「え? えーっと……あそこが秘密のお部屋だったんですか? えへへ、知りませんでした……」テヘペロッ

オボロ「し、しかし、伝承の魔神様像とはいささか異なりすぎるお姿では……」

ルイゼット「ニコさん? 本当にあなたが、魔神様のお体を、あの姿で造ったのですか?」

ニコ「……ぼくは、魔神様の復活のために、あっちこっちを歩き回って素材を集めたりしたんだよ?」モジモジ

ニコ「メディウムのみんなと一緒に外敵を駆除したり、魂を集めたり……最初は真面目に作るつもりだったさ」

ニコ「でも、魔神様はちっとも目覚める気配もなくて、呑気に眠り続けてるし……ぼくは、その間も頑張ってお世話したんだよ?」

ニコ「……ちょっとくらい、僕を敬ってもいいじゃないかと思ってさ?」イジイジ

マリッサ「ああ、そういうこと。それで『お姉ちゃん』と呼ばせたくて、それに相応しい姿の魔神様を造ったってことねぇ?」ニチャァ…

ニコ「……その通りだよ……」カオマッカデシャガミコミ


ヴェロニカ「……ちょっと、いいの? こんな勝手なことして……」アタマオサエ

ハナコ「ニコさんがいなければ、魔神様の復活自体があり得なかったことですし……良し悪しの判断は魔神様に委ねられますよね」

ヴェロニカ「それじゃ、坊やはあの姿を許容したってこと……? それはそれであんまりなんだけど」ガックリ

提督棲姫「そういや、俺と親が全然似てないって、よく言われてたんだが……ニコが作った顔だったから、ってことか?」

戦艦水鬼改「イイ趣味シテルワネ、見直シタワ」グッ!

提督棲姫「親指立てんな」

ヴィクトリカ「んじゃあ、あれが本来のあたしたちの魔神様だったってことか?」

エレノア「でもほら、あのエフェメラも驚いてるっぽいし……」ユビサシ

エフェメラ「……」アッケ

キュプレ「エフェメラの考えてた魔神様とは、全然違うってことかしら?」

朧「それ、おかしくないですか? エフェメラが魔神を蘇らせようとしたのに、全然違う魔神が出てきた、ってことでしょ?」

山城「そうよね? ここまでやっといて、そんな勘違いするかしら」

ブリジット「そ、それよりも、これはエフェメラを討つチャンスでありませんか!?」

アーニャ「待って待って、あの小さい魔神様を見てよ!」


少年提督「……」キョロ

ニコ「!」

エフェメラ「!」

少年提督「……」キョロッ

提督棲姫「全然動かなかった魔神が……」

大和「周囲を見回してますね……!」

軽巡棲姫「ナンカ、フラフラシテナイ……?」

カオリ「ほ、本当ですね。足元がおぼつかないというか」

南方戦艦新棲姫「……居眠リシテナイカ? 目ガ半開キ、トイウヨリ閉ジカケダゾ?」

山城「普通に見てて弱々しく感じるわね? あれが本当に魔神の真の姿なの?」

アーニャ「わかんないけど……なんか、ニコちゃんの方を見てるね?」

少年提督「……」ジッ

ニコ「……魔神、様……?」

少年提督「……」テク、テク、テク

提督棲姫「魔神がニコのそばまで歩いてったぞ……大丈夫なのか」


ニコ「……」

少年提督「……お姉ちゃん」ニコッ

ニコ「ンヴ……ッツ!!!」ゾクゾクゾクッ!!

那珂「……ニコちゃんが限界ヲタクみたいな顔してる」

ゼシール「げん……? 表現がよくわからんのだが、念願叶って感極まった……と見ればいいのか?」

ニーナ「お、おそらく、そんな感じでしょうね……」

マリッサ「ニコちゃんがあんな顔してるなんて新鮮だわぁ~」ンフッ

榛名「あんな愛らしい提督にお姉ちゃんと呼んでもらえるだなんて……ニコさんが羨ましいです!」

アーニャ「だよねー! あの魔神様になら、あたしもお姉ちゃんって呼ばれたいなあ!」

キュプレ「ねえねえ! あの二人、くっつけてあげてもいいかな!?」

ハナコ「さすがに魔神様に矢を放つのは不敬ではないかと。すでにお近づきになってますし、あとは若い二人に任せて……」

朧(……親戚のおばさんかな?)

ルイゼット「」コウチョク

クレア「ちょっとー、ルイゼっちがショックで固まっちゃってるよ!?」

山城「まあ無理もないわね。察するに、せめて普段の提督くらい不遜で態度でかくないと魔神って感じがしないんでしょ?」

クレア「よくわかるね!?」


提督棲姫「確かに、あの姿じゃ威厳も何も感じられたもんじゃねえしな……」

ヴェロニカ「本当にもう……これじゃ、絡め取っても面白くないわ。坊やもそう思わない?」ウナダレ

提督棲姫「それを俺に言うなよ……」

カオリ「ヴェロニカさんはどうしてこんなに落ち込んでるんでしょう?」

泊地棲姫「ソンナコトモ理解ラナイトハ、オ子様ダナ」フンッ

カオリ「むっ!! わたし子供じゃないですー!」

ヴェロニカ「完全に子供の反応じゃない。意外とあなた、あの子とお似合いなんじゃないの?」ハァ

カオリ「えええ!? い、いえ、私とコーチとはそういう関係は、えっと、そのお」

ヴェロニカ「皮肉も通じないなんて。おめでたいわ」ハァ…

コロラド「そんなことより、いまの事態は一体どういうことなのよ!? なんであの男が若返ったり深海棲艦になったりしてるの!?」

綾波改二「下手に口を出さないほうがいいと思いますよ? 私たち、事情がよく飲み込めていませんし」

蒼龍改二「綾波こそなんでそんなに落ち着いてるのよお……」ナミダメ


エフェメラ「そんな……」

提督棲姫「!」

エフェメラ「魔神様が、どうしてそんな、ふざけたことを……子供のような、ふざけた姿に……ありえない」

提督棲姫「そのふざけた格好にしたのは手前じゃねえか……!」チッ

泊地棲姫「ッテコトハ、完全ニ想定外ノ事態ガ起コッテイル、ッテコトネ?」

エフェメラ「この魔力は魔神様のものに違いないというのに……この違和感は、なに?」

ニコ「……違和感?」

少年提督「……エフェメラ」

エフェメラ「!!」ビクッ

南方戦艦新棲姫「ウオォ、イキナリ迫力アル声ニナッタゾ!」

ルイゼット「ああ、魔神様のお声が……!」ウットリ

ヴェロニカ「あら、いい声してるじゃない」キラッ

シエラ「瞬時に立ち直ったのデス……」

如月「この声、司令官が怒ったときの低音の声よね?」

提督棲姫「そうなのか? 自分の声ってよくわかんねえんだけど……」


少年提督「汝、愚児に我の力を与え、我を亡き者にせんとしたは、何故ぞ」

エフェメラ「……!」ビクッ

少年提督「汝、我が冥府を彷徨いし時、如何なる献身をも見せぬとは、何故ぞ」

エフェメラ「……そ、それは、存じ上げず……お、お赦しを」

少年提督「赦さぬ」

エフェメラ「あ……!」ビクッ

少年提督「我の意に背く人形を、手下に置く道理なし」

エフェメラ「あ、ああ……っ!!」

少年提督「我の道行きに汝は要らぬ。我の眼前より、疾く失せよ」

エフェメラ「……ア……!」ボロッ

如月「エフェメラが……!」

深海海月姫「勝手ニ壊レテル……?」

エフェメラ「オユルシ、ヲ……マジ……ン、サ……!!」ボロボロボロッ

提督棲姫「自壊、したのか……」

ニコ「存在意義を否定されたんだ。当然だよ」

エフェメラ「」ガシャンッ

全員「「……」」


山城「……壮絶すぎる自滅ね」

提督棲姫「それにしても、どういうことだ? エフェメラは、あいつを魔神と認識したからこそ俺を分断したんだろうが……」

提督棲姫「エフェメラが想定していた魔神とは別だったってことか?」

防空巡棲姫「ワケワカンナイ……」

如月「もしかしたら、司令官の考え方の影響を受けてるとか?」

軽巡新棲姫「見タ目ハ超似テルシ、外見ダケナラ無害ッポイヨネー」

時雨「……やれやれ、この理解に苦しむ状況は、いったいどういうことなのかな」ザッ

提督棲姫「時雨?」

少年提督「! 汝は……」

ユリア「ソニア! クレア! 無事!?」

ソニア「ユリアお姉ちゃん!?」

クレア「えっ、来てくれたの!?」

ユリア「来たわよ! 来たけど……なんか見たことない深海棲艦がいっぱいいるんだけど? 魔神様はどこよ?」

時雨「こっちだよ。エフェメラが壊れたと思ったら、提督がまた深海棲艦に……って、少し姿が違うね!? 女性になってる!」

少年提督「久しいな、共に冥府を彷徨いし魂よ」

時雨「へっ?」


扶桑「こちらの子こそ、提督……ですよね? 帰りが遅いから気になってきてみたら、どうして提督が子供に?」

吹雪「ちっちゃい司令官が可愛い!!」キラキラキラッ!

ユリア「ちょっとぉ、魔神さんが縮んじゃってるのに、なんで目を輝かせてるのよー!? かっ飛ばすわよ!?」

吹雪「ひえっ!? ご、ごめんなさい!」

電「……本当に、わけがわからないことにになってるのです……」アタマオサエ

初春「簡単に説明するとな。提督が分裂して、一方は子供になって、もう一方が深海棲艦化した上に女性化までしおったんじゃ」ヒョコッ

時雨「……は? 分裂?」

扶桑「深海棲艦……もしかしてこちらの? 確かに雰囲気はそうだけれど、以前、海上で見たあのお姿とは違いますよね?」

電「説明されても、どうしてそうなったのか、さっぱりわけがわからないのです!!」アタマカカエ

マリッサ「電ちゃん、本当だから落ち着いて?」

電「事実であることが落ち着く理由にはならないのです!!」ジダンダ

ユリア「ねえソニア、説明できる?」

ソニア「うーん、とっても簡単に言っちゃうと、そっちの初春が言ってた通りなんだけど……」

ソニア「それから、こっちの深海棲艦たちは、あっちの艦娘と戦ってる間に姿が変わっちゃったの」

ユリア「そうなの……?」


初春「まったく、提督は現場を混乱させることばかり……おぬしはもう少し自分自身の制御ができぬのか?」

提督棲姫「確かにその通りだが無理言うな。つうか、お前どうしてそんなに理解が早すぎんだよ」

初春「わらわは早めに出向いて隠れて様子を見ておったんじゃ。でなくば他の者に報告できぬでの」

ヒサメ「その通り。いざとなればわらわも祭りに混ざるつもりじゃったがのう?」

提督棲姫「この出歯亀コンビめ……」

早霜「私も、見ていました。一部始終……フフフ」ヌッ

提督棲姫「フフフじゃねえよ……」アタマオサエ

少年提督「……」フラッ

ニコ「それよりも、魔神様! なんだか、すごく弱っている気がするんだけど……! すぐに休んだ方がいいよ!」

提督棲姫「そうだな……俺が言うのもなんだが、立ってるのもやっとみたいで、倒れそうだぞ? 魔力槽に入れなくて大丈夫なのか」

少年提督「……我らが魂を、無理矢理引き裂かれたが故」

ニコ「引き裂かれた?」

少年提督「我は、かの女の一部なり」ユビサシ

ニコ「一部……?」

提督棲姫「女……って、俺のことか……つか、おんな……いや、いまは確かにそうだけどよ」ムググ


少年提督「女。汝もまた、我の一部ぞ」

吹雪「ど、どういうことなんです?」

少年提督「女よ、我の手を取れ。我ら、今再びひとつにならん」ス…

ニコ「魔神様……?」

提督棲姫「ひとつに? 元に戻れる保証はあるのかよ」

少年提督「恐るるな。我の望みは汝が望みぞ……汝の願うがまま、彼の地を治めて見せよ」

如月「ね、ねえ、これって……司令官に、協力しようとしてるの……?」

ニコ「魔神様……? 魔神様は、いったい、どうしようと……」

少年提督「我は……いま、我の望むるは、我の眷属と、我が従僕の安寧……我を召喚せし眷属たる汝が望む、汝らの世界」

ニコ「……ぼくたちの、世界……!?」

少年提督「其は、かの女が自らの安寧を望むと同義……違うか? 我が半身よ……!」

提督棲姫「それはそうだが、いくらなんでも都合が良すぎる。罠を使って人の魂を刈り取るはずの魔神が、そんな殊勝なこと言うもんかよ?」

少年提督「……我は魔神なれど、我の中の魔神ならざる慈悲持つ神も、また我なり。今や汝も、我らのうちの一柱にすぎぬ」

ニコ「魔神ならざる神……?」

提督棲姫「俺が、魔神の一部だと……!?」

少年提督「汝は、我らの欠けたるもの……我らに失われし『目覚め』を持つ魂。汝おらずば、我はまた眠らねばならぬ……」

少年提督「汝もまた、我の力なくして、汝の家族を守護する手立てもあるまい……我は汝、汝は我。いずれも欠けては在世能わず……」


提督棲姫「これまで通りをお望みだから、協力しろってか……!?」

少年提督「然り。我はまた微睡む……汝、我の揺り籠となれ。さすれば汝、我のすべてを得たり……!」ガシッ!

提督棲姫「うお……!!」グイッ

 ズォォォ…(少年が深海棲艦の腕を掴むと、そのまま引き寄せて深海棲艦と融合し混ざりあっていく)

如月「司令官……!?」

戦艦水鬼改「提督!!」

魔神の声『時の名を持つ艦娘よ……改めて、汝に礼を言おう』

時雨「……!」

魔神の声『そして、我が従僕どもよ……我が眷属たるニコよ……これからも、我と共に在れ……!』

ニコ「魔神様……!!」ウルッ

ルイゼット「ああ、なんとありがたきお言葉……!!」

 ズズズズ…(そのまま空間が闇に染まり、凝固した闇が男性の姿……提督の姿に変わっていく)

提督「……」

ニーナ「も、元に戻った……んでしょうか」

泊地棲姫「ヒトマズ、見タ目ハ、ソウダナ……」


提督「……いろいろあったが……一応、見た目だけでも元に戻ったのか? 服のサイズもあってるし……」キョロキョロ

提督「とりあえず、お前たちも変わってねえな?」フリムキ

如月「司令官! ちゃんと私たちのこともわかるのね!? ……良かった……!」

ニコ「うん……この世界に来た時に、ぼくが微かに感じていた、魔神様の魔力だ。間違いないよ……!」

戦艦水鬼改「マッタク、人騒ガセナ男ネェ?」

提督「いや、その通りだし当事者だけど、俺もこうなるとは思ってもいなかったんだから、勘弁してくれよ」

大和「ご無事でよかったです! あのままだったらどうしようかと……!」グスッ

ナンシー「だよね! 魔神様が分かれちゃったときなんか、もうどうなるのかと思ったし!」

朧「あれ、メディウムのみんなも戻って欲しかったんですか?」

シエラ「あのちびっこな魔神様も悪くなかったデスけど……今のほうが個人的には落ち着くデス」

ヴェロニカ「私は最初から大人のままでいて欲しかったわよ。何が悲しくてお子様を籠絡しなくちゃいけないのかしら……」ハァ

時雨「というか、僕たちは何を見せられているんだろうね……」

電「まったくなのです……」


ニーナ「ま、まあ、個人的な感情はさておいても、魔神様が元に戻られたのは喜ばしいことです」

ルイゼット「ええ、本当に……あのような可愛らしいお姿になっても、わたくしたちの身を案じていてくださって……」

那珂「あっ、ルイゼットちゃんも可愛いって思ってたんだ!!」

ルイゼット「あっ!? いえ、そのような不届きなことは」

エレノア「素直になりなさいよぉ、頬擦りしたかったんでしょ~?」

ルイゼット「エレノアッ!!」

提督「……あの姿になら、いまでもなれそうだな」

全員「「は?」」

提督「こうか……?」

 ズズズズ…

提督(少年化)「こんな感じか?」チンマリ

全員「「!?!?!?」」

少年提督「さすがに服のサイズまではコントロールできねえか。しょうがねえな」ブカブカ


吹雪「し、司令官がまた小さくなっちゃった!?」パァァァッ

初雪(吹雪、嬉しそう……)

ニコ「んま、ままま魔神様!? そ、それってどういう……」ドギマギ

ソニア(ニコちゃん嬉しそう……)

少年提督「どうって、この姿自体はニコが望んでた姿だろ? つうか、もともとこういう姿で作ったんじゃねえか」

ニコ「……それは、そうだけど」カオマッカ

吹雪「……!」ニコニコニコー

朧(吹雪がいい笑顔すぎる……)タラリ

扶桑(好みが同じ人を見つけた時の満面の笑みね……)

ヴェロニカ「あら、口調は変わってないのね?」

少年提督「変わったのはあくまで見た目だけだからな。やろうと思えば子供の真似もできるが、しなくていいよな?」

ヴェロニカ「ええ。それは喜ぶ子にやって頂戴」


山城「なんか、唐突すぎるくらいいきなり魔神の力に目覚めたわね……?」

少年提督「まあな。簡単に言うと、エフェメラのせいで、眠ってた魔神の魂が無理矢理叩き起こされちまったんだよ」

ミュゼ「眠ってたんですか!?」

時雨「ちょっと待ってよ、提督の魂は深海棲艦と人間のハーフみたいなものじゃなかったの? 魔神の魂も入ってたなんて、聞いてないよ」

少年提督「そりゃ魔神の魂が人間のふりをしてたんだよ。つうか、最初から俺の魂に人間の要素はねえ」

時雨「」

少年提督「そうじゃねえと、あの世で魂だけになった俺が魔神の力を使えるのはおかしいだろ」

時雨「……ということは、僕も謀られたというわけだね?」アタマオサエ

少年提督「いや、多分その辺は、あの味方したエフェメラも意識してなかったんじゃねえか?」

少年提督「最初からその部分の説明を省いてたせいで齟齬があったのかもしれねえし」

時雨「……やれやれ。でも、そこは知ってなくても目的は変わらないか」

少年提督「で、魔神の力に目覚めたのはなんでか、って話に戻ると、それはさっきエフェメラにやられたことが原因なんだ」

戦艦水鬼改「サッキノ、フタリニ分断サレタ話カ?」


少年提督「ああ。それまで主導権を握ってたのは深海棲艦の魂で、魔神の魂はその背中に隠れて眠ってたようなもんなんだ」

時雨「あの世で提督の姿が深海棲艦になっていたのも、そういう理由だってことだよね?」

少年提督「多分な。それがエフェメラの奴に、融合してた魂を無理矢理引き剥がされて、魔神の魂が自分で前に出ざるを得なくなった」

少年提督「強引に覚醒させられたばかりの魔神の魂で体をいきなり任せられたから、ニコからも心配されるほど、眠くてふらふらだった」

オボロ「それで、無理矢理叩き起こされた、と仰られたのですか……」

クレア「安眠妨害されたんじゃあ、まっさんも怒るよね!」

少年提督「魔神の魂はこっちの世界に渡ってきた時に相当な力を使ったらしくて、活動自体は深海棲艦の魂に頼りっきりだった」

少年提督「魔神は自身の回復のためにも、力を引き出せなかった。少しずつニコたちに魔力をもらい、ゆっくり目覚めようとしてたんだ」

少年提督「それが、無理矢理とはいえ魔神の魂が覚醒させられた……それまで矢面に立ってた深海棲艦の魂がいなくなったせいでな」

ニコ「……純粋に、僕の集めた魔神様の魂と僕が作った体だけになったんだね?」

少年提督「そういうことだ。そのために魂が完全に混ざり合えてなくて、エフェメラにも魂を分割させられる隙ができちまってた」

少年提督「今は、魔神の魂が覚醒して、その状態でまた混ざり合ったから、眠ってた部分もしっかり思い出せるようになって……」

少年提督「表面に出てきてる深海棲艦の魂も、魔神の魂が持ってた記憶や能力をこうやって引き出せるようになった、ってわけだ」

電「理屈はわかりましたが滅茶苦茶なのです!」アタマワシャワシャ

山城「現実離れしすぎよ。なんなのそのご都合主義的な話は」

少年提督「しょうがねえだろ、それが事実っつうか、この場で起こった現実なんだから……」


軽巡新棲姫「実際、今モチビッ子ニナッテルシ、信ジルシカナイヨネー?」

軽巡棲姫「ソウネ……」ジ…ッ

南方戦艦新棲姫「……オ前、目隠シシテルノニ、ズット提督ノ方ヲ向イテルナ。見エテルノカ?」

軽巡棲姫「秘密ヨォ?」ニチャァ…

マリッサ(前々から思っていたけど、あの子とは気が合いそうねぇ)ニチャァ…

ミュゼ「それよりご主人様? さっき、ニコさんのことをお姉ちゃん呼びしたのはどうしてですか?」

少年提督「ニコが自分を顕現させるために尽力してくれたことを気にかけてたんだと。お礼代わりのサービスだな。反応は予想以上だったが」

ニコ「……」カオマッカ

ルイゼット「あ、あの、魔神様? その、元のお姿には、ちゃんと戻れるのでしょうか……」

少年提督「ああ、そこは心配すんな。元の姿以外にも……」

 ズズズズ…

提督(魔神化)「なろうと思えばこんな姿にもなれるし」

ルイゼット「ああ……これは、伝承の魔神様のお姿……!」

クレア「あの丘の上で見た、怒ったときのまっさんの姿だね!」

 ズズズズ…

提督(深海棲艦化)「こうもなれるってことだ」

朧「あの海を走ってきた時の姿ですね!」

戦艦水鬼改「何デモアリダナ……」

泊地棲姫(オ前モ、ル級カラ随分姿ガ変ワッタジャナイカ……)


 ズズズズ…

提督「で、こうやってこれまでの姿にもなれる、というわけだな」

泊地棲姫「レ級ヲ食ッテタ、アノデカイ頭モ、オ前ナノカ?」

提督「あれはニコに聞いた伝承上の本来の魔神なんだが、若干誇張されてる気がするな」

提督「それこそ、なんにでもなれるって性質上、恐ろしさが強調された結果の姿とも考えられるが……」

提督「いずれにしろ、あれを再現するには魔力が必要だから、ずっとあの姿でいろ、っつうのはちょっと無理だな。しんどすぎる」

ゼシール「確かに燃費は悪そうだな」

深海海月姫「ネエ。サッキノ、重巡棲姫ノ姿ニハナレナイノ?」

提督「ん? ……なれることはなれるけどよ。なれってか?」

深海海月姫「デキルノナラ、ネ。可愛カッタワ。恥ズカシガラナクテモ、イイノニ」

提督「いや、可愛いとか言われてもなあ……」

初春「のう提督よ。もしやと思うが、人間のままで女の姿にもなれるのか?」

提督「ん? まあ、なれることはなれるだろうな。深海棲艦が女性の体だったし、それを意識すりゃ女の姿にもなれるはずだが……」

初春「ふむ。であれば『お願い』すれば、それもアリと言うわけじゃな?」

提督「……どこに需要があんだよ、そんなの……」

初春「潮のような男が苦手な艦娘には喜ばれると思うがのう?」

提督(あいつ、普通に俺の背中で居眠りしてたけどな……)


提督「ま、いいや。ひとまず戦闘も落ち着いたことだし、いったん引き上げるぞ」

提督「向こうの大和にやられた、大和や軽巡棲姫の怪我もいい加減治療しなきゃいけねえし……」チラッ

コロラド「!」

提督「川提督だったか? そこの艦娘にも入渠してもらうか。どういうつもりでここに立ち入ったのか、話を聞かせてもらいたいしなあ?」ジロリ

ニコ「そうだね。保護しろと指示されたから保護したけど、ここまで立ち入った以上、ただで帰すわけにはいかないね」ジロリ

戦艦水鬼改「アイツラガ何ダッタノカ、包ミ隠サズ話シテモラワナイト……ネェ?」ジロリ

飛龍改二「あわわ……」

蒼龍改二「私たち、どうなっちゃうの……」

霧島改二「……これは、覚悟を決めるしかありませんね」

コロラド「ふう……いいわ、従うわ。私も、あなたたちに訊きたいことはたくさんあるし」

天龍改二「俺、そこまで酷えことにはならなさそうだと思ってんだけど」

綾波改二「あ、私もです。楽観的ですかね?」

飛龍改二「あんたたち、肝が据わり過ぎよ……」


提督「そういえば、ソニアとクレアを乗せてたイ級たちはいるか?」

イ級「」バシャバシャ

ロ級「」バシャッ

提督「お、いたか。今回はやばい相手だったのに、よく付き合ってくれたな」

イ級「ガンバッター!」

ロ級「イキテター!」

提督「こいつらにもあとで何かしてやらなきゃな……何がいいかねえ」ナデナデ

イ級「ナデラレタ!」

ロ級「ホメラレタ!」

南太平洋空母棲姫「……フフッ」

敷波「後であたしたちも褒めてもらわないと!」

初雪「うん……!」

イサラ「……もしかして、また髪を梳いてもらえるっスか!?」キラキラッ

ブリジット「そんなサービスがあるでありますか!?」

南太平洋空母棲姫「ソウイウノモアルノナラ、私モヤッテモラオウカシラ」

敷波「あー……私もそっちにしようかな?」

ナンシー「え? ちょっとお、私のお仕事取らないでよー!」

ユリア「いいなあ、私も出たかったなあ……」

初雪(……私は、膝枕のままでいいかな……)


 * 鎮守府本館 近辺 *

キャロライン「ダーーーリーーーーン!!」トテトテトテーッ

金剛「テーーートクーーーーゥ!!」ドガシーーッ!

提督「おぐっ」ドゴォ!

キャロライン「コンゴーウ!? ダーリンになにするノー!?」ギョッ

ニコ「ま、魔神様、大丈夫!?」

如月「ちょっと金剛さん!? 司令官が怪我したらどうするの!?」

戦艦水鬼改「何ヤッテンノ……!」ギロリ

金剛「ヒイイ!? どうしてここに鬼級がいるデース!?」

南方戦艦新棲姫「デースジャネエヨ、金剛!」

防空巡棲姫「提督サン、大丈夫?」

金剛「ヒエエエ!? 知らない姫級もたくさんいるデース!?」

ヒサメ「わらわが金剛をすってんころりんさせておけば良かったかのう?」

初春「いやいや、滑ってそのまま頭から突っ込んでいったかもしれんぞ?」

大和「て、提督! しっかりしてください!」

提督「……ああ、意識だけぶっとぶかと思った……ん? 金剛やキャロラインがおとなしく留守番してたのはなんでだ?」

扶桑「本来なら金剛さんたちも私たちと一緒に来るはずだったのですが」

扶桑「先に出撃していたタ級が大破した際に、控えていたタ級が暴走しかけまして」


金剛「そのタ級を落ち着かせようと思って扶桑たちに先に行くよう促したんデス……」

キャロライン「だけどネー……」チラッ

欧州水姫「金剛ーー!! 姫タチハ、無事ニ戻ッテキタノカー!?」グオォオ!!

南方戦艦新棲姫「!?」

金剛「なぜかあんな姿になってしまったんデス」

キャロライン「彼女もヒメキュー? ってクラスでショー?」

提督「マジか……」

綾波改二「うわああ……お、欧州水姫まで!?」

欧州水姫「ム? 欧州……ソレハ、余ノコトカ?」

コロラド「……ネルソン……? ねえ、ちょっとあなた、ネルソンじゃない?」

金剛「Nelson デスって!?」

欧州水姫「ム……ナンダ? 聞キ覚エノアル……ナントナク、シックリクル名ダナ?」

コロラド「なんとなくなんだけど、あなたも私と同じビッグセブンの一隻……イギリス海軍の戦艦ネルソンのように思えるわ」

金剛「英国艦デスカ。それで私と紅茶の話題で盛り上がったんデスカネ?」

欧州水姫「ムムム……ソンナ記憶モ、アルヨウナ、ナイヨウナ」

コロラド「覚えてないの?」


提督「……なんだかややこしいことになってるな。とにかく大和たちを早く入渠させたいんだ。ドックまで連れてってくれ」

金剛「Y ... Yes sir ! 大和、肩を貸しマース!」

欧州水姫「軽巡棲姫モ、ヒドイ怪我ダナ! 余ガ連レテイクゾ!」ヒョイ

軽巡棲姫「ア、アリガト……」オヒメサマダッコ

如月「私、一緒に行って明石さんに説明してきます!」

時雨「川艦隊のみんなもドックに案内するね」

提督「おう、頼むぞ! ……にしても、なんでまたこっちの奴も姫級だかになっちまったんだ?」

エレノア「ちょっと魔神さん、深海棲艦ってそんなに簡単にパワーアップできるものなの?」

提督「そこは俺もよく知らねえよ。ル級とは一緒の時期が長かったが、パワーアップしたとしても見た目は然程変わってなかったし」

提督「少なくとも、こんなふうに艤装や顔つきにまで変化があったのは、今回が初めてだな」

エレノア「ふーん、そうなの?」

提督「前もそうだったが、多分、俺たちを怒らせるようなことを、今回襲ってきた奴らがやったからだろう」

提督「こんなこと、そうそう起こって欲しくねえけどな」ハァ…

キャロライン「ダーリン、いつも優しくてダイスキー!」

戦艦水鬼改「本当ニ、提督ガ無事デ良カッタワ」

朧「そうですね。元に戻らなかったらどうなってたか……」

ソニア「あんまり考えたくないね~」

キャロライン「ホワット???」

というわけで戦闘終了。今回はここまで。
コーヒーと紅茶で言い争っていたタ級の二人はそれぞれ米軍艦と英国艦になりました。

>292
おおよそご理解いただいた通りです。
今回エフェメラが返り討ちに遭ったのも、ニコちゃんがだいぶ影響しております。
次回はその辺のバックボーンの話になるかと。

ここから先の話はトラップガールズの世界観の話になりますが、シナリオ途中でサービス終了してしまったので、
用意された設定を踏襲してはいるものの、独自に作った設定が多くなっております。ご容赦いただければ幸いです。

今回のスレで初登場メディウムはこちら。
・メリンダ・ベアトラップ:腕や脚に包帯を巻いた、丈の短いメイド服姿のメディウム。足元に設置されたトラバサミが人の動きを奪う罠。
  目と意思を持つトラバサミ「ベアトラ君」を連れ歩く眼鏡の女性。自己肯定感が低いのかMなのか、やたらとお仕置きを要求してくる。


 * 一時間後 *

 * 食堂 *

提督「大和と軽巡棲姫の入渠は終わったのか?」

大和「はい、高速修復材を使わせていただきましたので、御覧の通りです! 今は川提督の艦隊に入渠していただいています」

提督「そうか」

ニコ「魔神様。メディウムはみんな揃ったよ」

泊地棲姫「私タチモ、話ヲ聞ケル者ハ集メタゾ」

島妖精A「わたしたちも話を聞かせてもらうからな」

提督「おう、もちろんだ。そんじゃあ全員揃ってるみたいだし、手始めに、魔神のことから話をするか」

提督「ちょっと昔話になるが、まずは聞いてくれ。まず……魔神と呼ばれる神は複数体存在する」

 ドヨッ…

提督「少なくとも、ニコたちがいる時代では、魔神は1柱だけじゃなかった」

ロゼッタ「うええ、そうなの!?」

ノイルース「私たちの知る限りは、魔神様は唯一無二の存在と聞いていたのですが……」


提督「とにかくあっちの世界の話から始めないとな。あっちの世界の主神というか、支持信仰を集めているのはアルスとか言う神だが……」

提督「悪いものには蓋をする信仰のせいで、魔神として扱われた神は名前を奪われてる」

如月「名前を?」

ニコ「うん。名前そのものが力や魔除けになるっていう信仰もあって、都ではアルス神の名を書いた護符がいろんなものに貼られてるんだ」

ニコ「逆に忌まわしいものからは名前を取り上げ、存在を有耶無耶にして記録と記憶から消滅させる、というのが、アルス正教のやり方だよ」

提督「そのせいで、魔神については、名前どころか姿や性格も記録らしい記録がまったく残されてない」

提督「ニコが魔神を復活させようとしたときも、残ってる文献はごくわずかだったはずだ」

ニコ「そうだね……手掛かりがなくて、本当に大変だったよ」

提督「魔神の情報を敵対勢力に消されたから、というのが、ニコが魔神の復活に手間取った理由の一つなんだが……」

提督「同じように情報を消された神が、魔神以外にもたくさんいたんだよ」

ロゼッタ「たくさん!?」

提督「ああ。魔神じゃないのに言いがかりで貶められた異郷の神々がそれだ。おそらくアルス神の教義を脅かすと思われたんだろう」

提督「全然関係ねえのにアルス正教が邪教認定して取り潰した、余所の国の豊穣神とか戦神とかが、そういう扱いをされちまってる」

提督「結果として、正確な魔神の情報とその神々の情報が混ざり合い、ますます魔神の情報を特定することが困難になった」

ノイルース「……最悪ですね」


提督「おまけに、魔神はアルス=タリア封印神殿に封じられたと言われているが、封印場所は他にもあるらしいんだ」

提督「とくに魔神の封印は、わざと封印場所を増やして散らして封じたり、そこへ関係のない余所の神も巻き添えで封じたりしたらしい」

ミュゼ「んん? ということは、本来の魔神様の魂ではない、本当なら神殿にはなくてもいい無関係の神の魂もあった、ってことですか?」

提督「ああ、そうだ。ただ、魔神の魂だと言う扱いで封印されている以上、その魂が本当に魔神であったかは、連中にとって重要じゃねえ」

提督「逆に分かたれた魔神の魂が、自分を魔神だと認識し続けていられるか、ってのも、正直わからない。恨みが強けりゃ忘れねえかもだが」

提督「別の名前を付けられて信仰され始めたりしたら、その時点で魔神じゃなくなっちまうし、魔神であったことも忘れられちまうだろう」

山城「なによ、その野良犬になった元家犬に、名前つけて飼い慣らしちゃったみたいなノリは……」

提督「いやいや、こんなの良くある話だぞ? 祟り神や怨霊が丁重に奉られて土地神になった事例なんて、特に日本じゃ珍しくもねえ」

朧「あー……確かに、聞いたことありますね。雷神扱いされてた菅原道真公とかですか?」

提督「例えばで言えばな。あとは分祀されてあちこちに寺社のある神様もそうだ。その土地柄で売り出し方も違うだろ?」

提督「軍神が商売の神様になったり、その土地柄に影響されて、神様の性格も変わってくることも、よくある話だ」

提督「海外じゃあ、ある国の神の信者が余所の国の祖神を邪教扱いして貶めた挙句、引き裂いて邪神や魔王扱いすんのもザラだし」

提督「信仰を集めすぎた天使が教会に嫉妬されて『あれは人心を誑かす悪魔だ!』みたいな言いがかりつけられて貶められた例もある」

キュプレ「えー!? やだ、怖ーい!」

泊地棲姫「一番怖イノハ、ソウイウコトヲ考エル人間ヨネェ」

提督「だよなあ……人間は、神様ですら言うこと利かねえと難癖付けて手前の都合のいいようにぶち壊すからなあ」

初雪「というか、深海棲艦が『人間が怖い』なんて言うとは思わなかった……」


提督「というわけで、まず魔神は一柱じゃねえ」

提督「ニコたちの時代の魔神は、分けて封印された……分祀された結果、魂があちこちに散り散りになったってことと」

提督「全然関係ない神様の要素も混ざってる、ってことを最初に断っておく」

提督「それでだ。ニコが、俺……魔神復活のため、あっちの世界を駆けずり回ってくれたわけだが、結果的にそれは完璧じゃなかった」

提督「ニコも一生懸命調べてくれたが、残ってない記録もあれば誤情報もあった。ニコが行動できる範囲だって限りがある」

提督「そうやって作られた、いわばツギハギの魔神の魂は、本来の魔神と呼ばれる姿とはどうしても食い違うことになってしまった」

ルイゼット「で、では、いまの魔神様は完璧な魔神様ではない、と……!?」

提督「伝承にある始祖たる魔神像とは完全一致していない。一部一致……まあ、3割弱くらいはそうなんじゃねえかな?」

ニコ「3割!? たったそれだけ……!!」

提督「十分だと思うぞ? 情報を入念に消された上に、あちこちにバラバラに封印されてたのを集めてきたんだろ?」

提督「それから、合体前のあの魔神が『目覚め』の要素が欠けてるって言ってたよな? そういう重要な要素も欠けてたんだ」

ニコ「魔神様が全然目を覚まさなかったのも、そのせい……!?」

提督「まあ、結果的にはそうなった感じだな。眠ってる隣でニコが何度も寝坊助って呟いてたのも、なんか魔神としての記憶にあるぜ?」

ニコ「それも、ぼくのせいだったのか……」シュン


提督「連中だって魔神を封印するために、いろんな手を尽くしてきてたんだ」

提督「その目的を確実にするためにも、ニコがいくら探しても見つけられないくらいのことをしてたと思えば、仕方ないことだと思う」

泊地棲姫「ソノ、不足シタ『要素』ヲ補ッテイルノガ、重巡棲姫ノ魂カ」

提督「多分、そういうことなんだろうな。あの魔神を構成する神々の中で欠けていたもの……それを持ってる俺が、表に出てきてるんだろう」

ニコ「ごめんね魔神様、ぼくのせいで……」ションボリ

提督「いやいや、ニコが謝るなよ。妨害があった中で、ここまで魔神の魂をかき集めたのはすげえことだと思うぞ?」

ロゼッタ「ねえねえ! 先生は、その欠けた要素、ってのを取り戻しに行かないの?」

提督「ん? それは行かねえよ、面倒臭え」

カトリーナ「面倒臭えのかよ!?」

ルイゼット「魔神様は完璧を望んでおられないと……?」

提督「完璧な神なんていねえよ。仮にいたとしても、それはそれで融通が利かなくて面白くねえ神様になるんじゃねえかな」

ルイゼット「面白くない……ですか」

提督「堅苦しいのは嫌いなんだ、わざわざ古臭い神になんかならないで、ちょっとくらいいい加減なほうが、お前たちも過ごしやすいだろ」

エレノア「それはそうねえ」

ルイゼット「エレノアっ!?」


提督「ルイゼットはそういういい加減なところを許しておけないのかもしれないが……」

提督「あまりガチガチに魔神様やってたら、人間とつかず離れずみたいな関係は保てないし、どうやっても相容れなくなるだろ?」

提督「いま存在している俺という魔神は、お前たちにとって都合の良い神であったほうがいいと思うんだよ」

ルイゼット「……ま、魔神様が、そう仰られるならば、従いますが……よろしいんですか?」

タチアナ「と言いますか、都合の良い、とは、恐れ多いですね……」

シエラ「ちょっと言い方が卑屈な感じもするデス……」

電「司令官さんは昔から自己肯定感が低いのです!」

提督「なんにせよ、大きな不満や不都合がなけりゃ、このままでもいいと思ってる。ちょっとくらいはゆるくていいだろ」

ナンシー「私は賛成ー!」ハーイ!

キャロライン「私もネーー!」ワーイ!

軽巡新棲姫「私モ、厳シクナイノハ Welcome !」Yeah !

朝潮「朝潮は、司令官がこれまで同様にご健勝であらせられるのであれば、全面的に賛成いたします!!」ズビシッ

比叡「朝潮ちゃん、気合入り過ぎじゃないかな?」

霞「まあ、いいけど」アタマオサエ


ニコ「で、でも、魔神様が不完全なのはぼくのせいなのに……い、いいのかな」

提督「俺はそのほうがいいと思うけどな。ニコは嫌か?」

ニコ「……正直に言えばね。僕は、魔神様を完全復活させるために、人間狩りをしてきたわけだし……」

提督「そういえば、ニコ自身は、魔神が残した魔力そのもの……メディウムとは違う存在だって認識だよな?」

ニコ「そ、そうだけど……」

提督「魔神が完全復活したとしたら、お前も消えたりしないか?」

ニコ「……!」

吹雪「え? どういうこと?」

提督「だって、ニコも魔神の力の一部なんだろ?」

電「もしかして、魔神が完全復活したら、ニコさんも魔神の中に取り込まれて消えちゃう、ってことになるのですか……?」

提督「多分、そうなっちまうんじゃねえかな。だとしたら猶更、完全復活なんてしなくてもいいんじゃねえかと思ってんだ」

ニコ「魔神様……!?」

提督「俺の恩人、親代わりの妖精が消えて……顔なじみがいなくなっちまうことがつらいって、知っちまった」

提督「できれば今のままで……今いる連中で、だらだら仲良く過ごしたい、と思うのは魔神様らしくねえか?」

ニコ「そ、そんなことないよ!? むしろ……ごにょごにょ……」セキメン


ヴァージニア「仲良くか……この島のあるじたる貴様がそれで良いというのなら従おう。だが、それでこの島をしかと守れるのか?」

提督「そこは人間たちと折り合いをつけていくしかねえだろ。友好的にしとけばいいことあるぜ、的な雰囲気に持っていく気でいる」

ヴァージニア「貴様は魔神だぞ? 人間相手に慮るなど……それでいいのか?」

提督「俺たちが安息を得るためなら、あいつらに頭を下げるのも考えるさ。あっちも同じ高さまで頭を下げることが前提だがな」

提督「少なくとも、俺はこの世界の支配者になるつもりはねえ。強すぎる力を誇示したって、人間はビビるどころか反抗してきやがるしな」

泊地棲姫「……マッタク、ソノ通リダナ……」

陸奥「なんか、実感こもってるわね……」

提督「そうでなくとも、俺たちを利用しようとする連中はいるはずだ。そういう奴らは各個始末しつつ、基本無害であることをアピールする」

提督「こっちがおとなしくしてるのに、手を出してくる奴が悪い、って風潮に持っていけば、しばらく安泰になるだろう」

ヴァージニア「……ふん。あの伝承に聞いた魔神の魂を引き継いだというのに、随分と丸くなったものだ」

提督「いいじゃねえか、ニコもそうなんだし。極端な話、ニコも魔神を名乗ってもいいんだ、不服ならニコにも申し立ててみるか?」

クレア「えええ!? ニコっちも魔神なの!?」

提督「神と呼ばれるほどの力ではないにせよ、ニコが魔神の力を持っているのは間違いないんだ」

提督「現に、ニコが魔力槽を管理したり、余らせた魔力から魔法石を作ったりしてるし、俺よりずっと強い魔力を持ってる」

提督「多分、メディウムを生み出すのに相当苦労したらしいから、自称するのはおこがましいって思ってるんだろうけどな」

ロゼッタ「ふーん、そっかー」


提督「だからニコのことを、あのとき魔神は『眷属』と呼んだんだろう。同じ魔神の力を持つ者として」

比叡「ニコちゃんはメディウムじゃなかったんだ?」

セレスティア「はい。直接戦う力を持っていませんので」

軽巡棲姫「ソレデ眷属ネェ……」

提督「……あ、『お姉ちゃん』のほうが良かったか?」

ニコ「っ! そ、そう思うんなら、お姉ちゃんをからかうんじゃないよ……っ!」プイ

提督「悪い悪い」フフッ

吹雪「駄目ですよ司令官、ニコさんは真剣なんですから!」メッ!

ニコ「吹雪……」

吹雪「たまにあの小さな司令官になって、真面目にお姉ちゃんって呼んであげないと駄目なんですからね!」

ニコ「」

提督「……それ、あわよくばお前もそう呼んで欲しいとか思ってないよな?」

吹雪「はい! あ、いや、そういうわけじゃないですが、はい!」キラキラキラッ

提督「……」


ユリア「気持ちいいくらい本音がダダ洩れだわ」

ニコ「……吹雪、もうやめて」セキメン

初雪「吹雪が何かに目覚めた……」ドンビキ

敷波「面倒なことになりそう……」アタマオサエ

ロゼッタ「先生、今の話で、もういっこしつもーん! 先生ってなんにでも化けられるって聞いたんだけど!」キョシュ!

提督「いや、そこは『なんにでも』じゃねえな」

提督「もともと俺が持ってる要素を組み合わせて外見に反映させてるから、艦娘にはなれないし、動物に化けるのも無理だ」

提督「ニコが集めてきた神々と魔神の要素、それから深海棲艦……おそらく重巡棲姫の要素」

提督「それから、人間として過ごしてきたころの俺の要素……その組み合わせだな」

ロゼッタ「じゃあ、人間の女に化けることもできるのかな?」

提督「まあ、人間と深海棲艦の要素を組み合わせれば一応できるかもなあ……初春にも訊かれたが、そんな必要あるのか?」

ロゼッタ「えーっとね、エレノアが昔、やってなかったっけ? 向こうの世界で」

エレノア「ああ、町娘に変装して、男どもを油断させて情報を得ようとしたときね」

提督「危ねえな。あんまりそういう無茶すんなよ?」

エレノア「別に危なくなんかないけど……まあ、いいわ」


提督「さて、次は魔神がこっちの世界に来たことの話なんだが」

提督「以前、ミルファやパメラには話したと思うが、なんでメディウムがこっちの世界の衣装を着てるか、って話をしたんだ」

提督「実はニコに魂を集めてもらって魔神の精神ができた時点で、すでに魔神はこちらの世界に対して興味があったようなんだ」

ニコ「え?」

提督「バラバラになった魂の一部が、こちらの世界を垣間見たんだ。あちらの世界より進んだ文明でありながら、魔法の存在しない世界……」

提督「強大な魔力を持つ者が強者であるあちらの世界より、こちらの世界のほうが娯楽も多く自由に生きやすいんじゃないか……ってな」

提督「実際に、ニコが作ろうとした魔神の魂は、こちらの世界へ渡ってくるための方法をその時点で探っていたらしい」

提督「ニコが作った素体が目覚める前からそういう考えがあったらしく、渡る算段がついたころにはこちらの世界を視ることもできていた」

提督「眠っていた魔神が生み出したメディウムたちの一部が、この世界の住人の姿を模しているのも、こっちの世界に憧れ続けたせいだ」

クレア「なるほどぉ……」

ソニア「クレアお姉ちゃん、わかってるのかな」

ユリア「あれは知ったかぶりしてる顔ね」

提督「ただ、世界を渡るための方法はごくごく限られたものだった。条件がいろいろ揃ったのも、こちらの暦でおよそ30年前……」

提督「向こうの世界と時間の進みや暦そのものが違うらしいから、あっちの世界の6、7年ってとこか?」

ニコ「……ぼくの魔神様が、消えたのもそのくらいだった……!」

大和「そんなに長い間、探してたんですか!?」


提督「……魔神はどうにかしてこの世界に渡ってきたが、力を使いすぎたため深く眠らざるを得なくなり」

提督「その隠れ蓑として深海棲艦の魂の入った人の器に入り込み……」

提督「その事情を知らないエフェメラが深海棲艦の魂に目をつけて、魔神の魂を、魔神の生贄にしようと目論んだ」

提督「そのせいで俺は人間に対する憎悪をため込むことになり、ニコは俺の奥底に眠っていた魔神の力を感じ取って……」

提督「結果、こっちの世界で再会できた。こんな可愛げのない姿になっちまったけどな」

ニコ「……何を言ってるんだか……」ムスッ

如月「そうねえ、素直じゃないんだから」フフッ

提督「その後、俺とニコが再会してから、少しずつ魔力を取り戻し……エフェメラが俺の内に潜む魔神の力に目を付けた」

提督「最初は魔神の生贄にするためで、今は魔神そのものとして覚醒させるため……だよな? 時雨」

時雨「うん。僕が見た未来では艦娘もだいぶいなくなっていたし、提督は残酷な魔神として覚醒していたからね」

提督「最後に、そのエフェメラだが……あのエフェメラが、あのとき俺たちの前に姿を現した理由がわからねえんだよな」

時雨「それこそ、提督を魔神として覚醒させるためじゃないの?」

提督「いや、それはそうだと思うんだが……なんでこんなタイミングで現れたんだ?」

時雨「え? それは……うーん」


山城「単純に、あの弟を名乗る男に力を与えるためじゃないの? 借り物とか言ってたじゃない、あの力」

ニコ「……それはそうだけど、理由はそれだけじゃない気がする。魔神様を目覚めさせようとしてたんだからね」

軽巡棲姫「レ級ガ来タノモ、アノ大和タチガ来タノモ、全部エフェメラガ仕組ンダンジャナイノォ?」

泊地棲姫「十分考エラレソウダナ。アイツハ、艦娘ダケデナク、私タチモ生贄ニスルト、言ッテイタ」

泊地棲姫「レ級モ、敵ノ大和タチモ含メテ、私タチヲ沈メルノニ使エルト思ッテタンジャナイカ?」

時雨「それに加えて、それを確実にするために、魔神の復活に立ち会うためにエフェメラが現れた……ってことかな?」

ニコ「……本来、エフェメラは魔神様や、魔神様に関わりのある人間の補佐をするだけで、直接の力は持たないはず」

ニコ「でも、あのエフェメラは、魔神様を拘束したり、魂を分割するような離れ業もやってのけた」

ニコ「となると、あいつ自身がなんらかの方法で、力を使えるように自分自身に細工をした、ってこともあり得るね」

提督「とはいえ、あのエフェメラが信奉していた魔神は、おそらく俺じゃねえんだろうなあ」

ミュゼ「だとすると、魔神様はご主人様の他にも存在してるってことになるんですか?」

ニコ「多分、エフェメラは古代の魔神様が作ったとも言われているから……この魔神様から、その気配を感じ取ったのは間違いないと思う」

ミュゼ「あー、かつての残虐な魔神様を望んでいたってことですかぁ」

ニコ「そうだね。たとえ不完全であっても、ここにいる魔神様は間違いなく魔神様なんだから……!」

提督「そこなんだけどな。ミュゼの言う、魔神が他にもいる、ってのは、あり得ない話じゃないんだ」

ミュゼ「そうなんですか!?」


提督「さっき、俺の魔神の魂は3割くらいと言ったろ。そうなると別の誰かが残りの7割を持ってることになる」

提督「下手すると、残りの7割がまた3割くらいずつに分かれて、俺以外の魔神が2人以上になってる可能性もある」

ニコ「そうだね……」

タチアナ「ニコさんのようにだれかが集めていなければ、1割の魂を持つ敵が7人現れることもあり得る、ということですか」

ミュゼ「うわ、それ面倒!」

伊8「また、新しい敵が来るんですか……?」

提督「そうと決まったわけじゃねえが、警戒はしとかねえとな。もしかしたら、俺より残虐な魔神として、どこかの世界にいるかもしれねえ」

提督「正直、このまま会いたくねえぜ……マジで面倒臭えし、俺は俺でこっちの世界でおとなしくしていたいな」

ニコ「……」

時雨「そういえば、僕が見た別の未来の提督は、向こうの世界の人間を滅ぼしてきたと言ってた気がする」

時雨「あっちの世界で、魔神の要素を全部集めてきたから、そういう性格になったとも、考えられるかもね」

キャロライン「それじゃ、ダーリンはあっちの世界に行っちゃダメってコト!?」

時雨「そこはわからないよ? ただ、魔神が本来残虐なものだとしたら……」

ニコ「あのエフェメラが望んだ、人間を恐怖で支配する魔神様になるかもしれない、ってことだね」

全員「「……」」

提督「とにかく、今回の出来事は全部あのエフェメラのせいだと助かるな。これ以上面倒な敵がいるとか、思いたくもねえ」


提督「とまあ、ぐだぐだ言ってきたが……!」ガタッ!

全員「「!!」」

提督「俺のやることは何も変わってねえ。この島を、俺たちの安住の地にすること。その目標自体は、これまでと同じだ!」

提督「そのためには、人間たちにこの島を俺たちの住処にすることを認めさせ、面倒臭え諍いが起きないようにするに限る!」

提督「それでも、あのレ級みたいな戦闘狂や、曽提督みたいな深海棲艦排除主義者! そしてエフェメラと、それに乗せられるくそ坊主!」

提督「今後もそういうくそみたいな敵が、この島にやってきて俺たちの平穏を引っ掻き回そうとするはずだ……!」

全員「「……」」

提督「おそらく俺一人じゃあ、きっと成し遂げられねえ。だから……頼む!!」

提督「お前たちの力を貸してくれ!」ベコッ!

如月「もちろんよ司令官!!」ガタッ

戦艦水鬼改「イイゾ。当然ダロウ」アッサリ

ニコ「うん。そこまで言うんなら、仕方ないなあ。お姉ちゃんが、面倒を見てあげるよ?」フフン

島妖精A「久し振りの、提督の頼みか。やってやろうじゃないか」

大和「この大和にもお任せください!!」ガタッ

ニーナ「ま、魔神様に頭を下げられるなんて……!?」


軽巡棲姫「ウフフ……オ願イ、サレチャッタワネェ」ニマニマ

吹雪「大丈夫ですよ、司令官!」

泊地棲姫「ソンナコト、今更ダナ」フフッ

キャロライン「ダーリンのために頑張るヨー!」

「提督ー!!」キャー!

「司令官!」キャー!

「魔神様ー!」キャー!

「マスター!!」キャー!

提督「……」

朧「提督?」

提督「……うう、良かったぁ……」ヘニョヘニョ…

ミルファ「え、ええええ!? 魔神さん!?」

吹雪「どうして腰砕けになってるんですか!」

ナンシー「これまでに見たことないリアクションなんだけどっ!?」

ヴァージニア「な、情けないぞ!?」

軽巡棲姫「ダ、大丈夫ナノ!?」


提督「大丈夫じゃねえよ……だってなあ、今回ばかりはもう駄目か、って思うくらいくっっっそ不安だったんだぞ……」プルプル

提督「しょっぱなレ級の乱入のせいで完全に目算が外れてんだぞ!? あのままあいつらが帰れば時間も稼げて全然違ってたはずなんだ!」

提督「戦闘だって、ル級たち深海棲艦が覚醒しなかったら負けてただろうし、でなきゃメディウム総動員でやっと、って感じだったろ!」

提督「大勢のメディウムたちをレ級との戦闘に回せば、曽大佐の艦娘には苦戦どころか総力戦しなきゃ勝てなかったかもしれないんだぞ?」

大和「確かに……不意を打てたとはいえ、練度はとても高かったですからね」

提督「それにあんなタイミングで、バカ弟はともかく、エフェメラまであんな形で島に乗り込んでくるのは完っ全に想定外だった」

提督「おまけにエフェメラには抵抗すらできずに俺の体を魔神と深海棲艦に引き裂かれたからな……」

提督「魔神の力が使えるようになって、やっと俺も戦える、って思った矢先に戦う力を奪われてんだぞ? どうしようもなかったぞ」

提督「正直、あれで魔神じゃなくなったんだから、メディウムとはここでお別れか、とも思ったくらいだ……!」

ニーナ「なるほど……確かにそうなった可能性もありますね」

提督「最悪、俺どころか艦娘や深海棲艦も魔神の生贄にされちまわねえかと思って、巻き込まない方法を必死に考えてもいたしよぉ……」

電「魔神さんが司令官さんの味方で本当に良かったのです……」

提督「まったくだよ。メディウムたちも、俺が魔神でなければ何の興味もないだろうし、そいつはニコも同じだろう」

ニコ「……」

提督「体を奪われて深海棲艦として生きるにしても、何の装備も持ってなくて身一つじゃあ、戦っていけないだろうし」

提督「ここまでやってきてそうなったら、怨霊以外の何物にもなれやしねえ。何のためにあの世から戻ってきたんだって話だよ」ハァ…


提督「あんな丸裸にされるような、くっそ情けねえことがあったってのに、それでも俺の頼みをきいてくれるとか……」グスッ

提督「情けないからってのもあるが、嬉しくて涙が出てくるなんて初めてだ。ちょっとくらいぼやいてもいいだろ……」グデェ…

如月「司令官……」

敷波「司令官がここまで愚痴っぽくなるなんて、初めてじゃない?」

島妖精B「弱音を吐くシーン自体がなかなかないもんねー」

伊8「吹雪ちゃんに嫌われたときよりもひどいと思う」

軽巡新棲姫「ソンナニ珍シイノ?」

戦艦水鬼改「珍シイワネ。私モ初メテ見タワ、明石ニ殴ラレテタトキモ、ソコマデ落チ込マナカッタノニ」

大和「!?」

提督「しょうがねえだろ。ここまでやってきて魔神の餌じゃ、俺を信用してついてきたお前たちに申し訳が立たねえしよ」

陸奥「それはそうかもだけど……」

南方戦艦新棲姫「最悪、私タチモ全滅シテタカ……?」

深海海月姫「コウシテ、目覚メナケレバ、ソウダッタカモネ」

メリンダ「申し訳が立たない、ですか……ルイゼット?」

ルイゼット「なんでしょう」


メリンダ「本来の……始祖たる魔神様であれば、このようなお言葉を賜ることもないのでしょうね」

ルイゼット「私の知る魔神様は、威厳に溢れた神であるはず。しかし、仲間を大事になさるニコさんが召喚なさったのであれば……」

ルイゼット「慈悲に満ち溢れた魔神様でいらっしゃっても、間違いではないのかもしれません……」

メリンダ「……罰をいただけないのは、残念です……」ションボリ

ルイゼット「」

ジュリア「なんでそこで落ち込むんですの!」ハリセンスパーン!

メリンダ「痛い……もしや、ジュリア……あなたから、罰をいただけるのですか……!?」キラキラキラッ

ジュリア「そんなキラキラした瞳であたくしを見ないでくださいまし!」

ルイゼット「……」アッケ

提督「ジュリア、真面目にツッコミ入れなくていいぞ? メリンダもルイゼットを困らすな。あとリンダはボケようとするな」

リンダ「ちょっ!? うちまだ何も言うてへんよ!?」

メリンダ「魔神様……? それでは……!」キラキラキラッ

提督「そういうのは後でな」ハァ

メリンダ「後ですか……?」


提督「とりあえず今日はレ級と戦った大和やル級たち深海勢や、ソニアやニーナたちを労う方が先だ」

メリンダ「それは当然ですね。残念ですが従います」

初春「メリンダも相当面倒臭い奴じゃのう……」

ジュリア「魔神様もいきなり立ち直らないでくださる?」

提督「ぐだぐだ醜態を晒すのもみっともねえだろ。いい機会なんで弱音は遠慮なく吐かせてもらったが」

提督「吐き出してすっきりしたならそれで終わりにすりゃあいい。酔っ払いのゲ○と一緒だ」

ジュリア「喩えが最悪ですわ!!」ハリセンスパーーン!

リンダ「ウチのボケは!?」

提督「いや、悪酔いしたときは戻すのが一番手っ取り早いぞ? アルコールを体の外に出すわけだからな?」

ジュリア「そういう話ではありませんの!!」

リンダ「黙殺ゥー!?」キビシー!

提督「まあいいや、張り切ってツッコむとそれを期待してボケる奴がいるから、ジュリアは少し落ち着きな」

ジュリア「落ち着いてますわよ……これ以上なく」ハァ

提督「とにかく、これでやっと普段通りに戻せそうな感じだな……」


コーネリア「なあ魔神様、あたしは細かいことはいいんだ。魔神様はこれからも魔神様でいるってことだな?」

提督「おう。いろいろあったが、ある程度の力を取り戻した、って感じで認識してくれりゃいい」

コーネリア「今回は場所が場所だけに、あたしの出番がなかったからな……次があったら出撃させてもらうぜ」

提督「そうだな。今回の曽大佐みたいなことを、今度は余所の深海棲艦が起こすかもしれねえし……当分は警戒が必要だな」

戦艦水鬼改「ソンナ奴ラハ、私ガ潰スゾ?」

提督「……ありがとな。まあ、もしそんなことがあったら、次は真っ先にコーネリア載せてってやってくれ」ニコ

コーネリア「ああ。あたしはその時までに槍を磨いておこうかね」

如月「司令官、微妙に雰囲気変わったかしら」

提督「今回はいろいろと、やらかしたからな……自分で言うのもなんだが、少し滅入ってる」

如月「そういうのじゃなくて、少し、重苦しい雰囲気がなくなったっていうか……」

霞「私もそう思うわ。あんた、いつも他人に対して壁を作ってたでしょ。ずっと近寄りづらい雰囲気を醸してたじゃない」

吹雪「なんて言ったらいいのかな? わざと人を遠ざけるような言い方が、少し柔らかくなったっていうか」

提督「そりゃあ、これ以上突き放す理由もないし、世話になりっぱなしだし……魔神たちの魂のせいもあるか?」

如月「そうなの?」

提督「魔神と混ざり合ったときに、あいつらの性格というか、人柄というか、どんな神様だったのかが見えたんだよ」

提督「厳格そうな奴とか、酷薄そうな奴とか、気性の荒そうな奴とか、妙にニコニコした奴とか……いろいろ混ざってたんだよな」


提督「それから、こいつが魔神だと思える奴もいた。思った以上になれなれしくて、ちょっと警戒もしたが……」

提督「溶けて一緒になるときに、そいつらに、俺たちの力を使え、って言われたような気がしてな。一人じゃないと言われたんだ」

提督「さっきもお前たちに力を貸してもらえる、って言われて、嬉しかったしな……一人じゃないってのは、こういうことか」

霞「魔神にも励まされたんじゃないの? しっかりしなさい、って!」

吹雪「霞ちゃんみたいだね?」

霞「そ、そういうんじゃないったら!?」

提督「なんか、変な気分だったぜ。見知らぬ自分に会ったような感じだった」

提督「ま、なんにせよ俺は俺だ。そうそう変わっちゃいねえから、安心しな」ニコ

ニコ「……」

 *

大和「やっぱり、あのときのお顔の怪我は、明石さんの仕業だったんですか……」ドロリ

提督「目を濁らすな。俺のやり方が万人に通用するわけじゃねえんだからよ」

大和「で、ですが……」

提督「俺はあの時、はっちゃんをル級に撃たせたんだ。明石は怒って当然だろ」

大和「……」

提督「俺の決断が仲間を死なせるかもしれねえ。そのくらいは覚悟のうちだ」

提督「だから、俺が間違ってるときは、お前も容赦なく止めてくれていいんだぞ」

大和「……そう、ならないことを祈ります」


と言うわけで今回はここまで。
次回は深海棲艦勢と川提督の艦娘とのお話です。

>322-323
提督棲姫については、「壊」タイプで、髪型がもう少し短くなって
装備と衣服が全解除の姿で想像していただくといいかもです。


今年は正月早々いろいろ酷いニュースが飛び交ってますが、とりあえず私は引き続き書き込めそうです。

今回登場のメディウムはこちら。

・ルミナ・ヘルレーザー:白衣を纏いモノクルをかけた科学者のメディウム。レーザービームが縦に走って一直線上の人間を焼き切る罠。
  メディウムや魔神さえも研究対象にする狂科学者。モノクルはもとは宝石加工用だったが、なぜかすべてを焼き切る凶悪兵器になった。

こういう科学者キャラは、設定の話をするときに重宝します。というわけで、今回は深海棲艦たちと川提督の艦娘のお話です。


 * 数時間後 *

 * 入渠ドック脇 休憩スペース *

明石「あ、提督! やっと来ましたか!」

提督「おう。深海棲艦たちも含めて全員揃ってんだよな?」

明石「揃ってますけど! なんだってこんなことになったんですか!? 今度はいったい何をしちゃったんです!?」

提督「お前は毎回、俺が何かやらかしたみたいな言い方するんじゃねえよ」

明石「そんなこと言っても原因はあなた以外にないでしょう? いいから早く行ってください、待たせてるんですから!」

提督「お、おう」


 * 入渠ドック内 *

明石「まったくもう……本当に、いったい何をしたんだか」

眠ったように動かないイ級「」

眠ったように動かないロ級「」

明石「……毎度毎度、本当にろくな事しないんだから、あの人は……!」

ヒサメ「まったく、あの男は意識せずいろいろとやらかしてくれるのう」ホホホ

明石「笑い事じゃありませんよ、まったくもう」


ルミナ「それにしても興味深いね。魔神君が撫でたら動かなくなる、ってどういう理由なのかしら」

初春「南太平洋空母棲姫じゃったか。考えられる理由がそれしかないと言っておったからのう」

明石「それ以外に外的要因はない、ということですか」

ヒサメ「しかし……その深海棲艦は随分と面倒見がいいのう?」

初春「この2隻の深海棲艦は、あの南太平洋空母棲姫がこの島の周辺で発見したそうじゃ。以来、行動を共にしておったらしいぞ」

ルミナ「時雨君を見つけた時も随伴していたって話よね」

明石「この島の周辺で、ですか……」

 バキン!!

明石「うわ!? な、なにこれ!? イ級とロ級の背中にひびが……!」

 バキン! バキン! バキン!!

ルミナ「おお、背中が割れたよ!? なんだいこの中身は……」

ヒサメ「なんじゃこれは。真っ白な液体で満たされておるのか?」

明石「ええええ!? 深海棲艦の駆逐艦の外殻の中身って、こうなってたの!?」

初春「む、待つのじゃ、中から何か出てくるぞ!」

 ズリュウ!

明石「て、手ぇぇ!?」

 (乳白色の液体の中から伸びた白くて細い手が、外皮に手をかけ力を入れると)

 ビチャッ…ズルゥ!

 (液体の中から真っ白な少女が現れる)

全員「「!?!?!?」」


 * 一方その頃 *

 * 入渠ドック脇 休憩スペース *

提督「まずはお前たちが何者か、教えてもらうか」

コロラド「……私たちは、川提督艦隊。旗艦のコロラドよ」

提督「ふーん……で、そっちにいるのは霧島と、確か蒼龍か。装備が知ってるのと違うが、そこの二人は見たことあるな」

霧島改二「はい、私が霧島です。川提督指揮下のもと、第二改装まで受けております」

蒼龍改二「えっと、同じく第二改装まで受けた、航空母艦、蒼龍です!」

飛龍改二「私は飛龍です。蒼龍と同じ第二航空戦隊の航空母艦です」

綾波改二「私は、綾波型駆逐艦、綾波と申します」

天龍改二「俺の名は天龍! フフ……怖いか?」

提督「天龍? つうと、お前だな? 死ぬまで戦わせろとかほざく奴は」

綾波改二「あ、言うことは言いますけど、あくまでポーズですよ? 駆逐艦が真似するといけないので、駆逐艦の前では言いません」

天龍改二「そりゃそうだけどよ!?」

提督「ふーん、つまり、本当はそんなに怖くねえんだな?」

天龍改二「いや、怖がれよ!」


提督「怖がれっつってもなあ……見た目で言えばこっちのが怖いだろ」

戦艦水鬼改「コロラド、ネエ? 会ッタコトアッタカシラ……」

軽巡新棲姫「スグニハ思イ出セナイワネー」

南方戦艦新棲姫「名前ハ、ナントナク、ワカルケドナア」

南太平洋空母棲姫「トイウカ、ミンナ米軍艦ダッタノ?」

泊地棲姫「私ニツイテキタンダカラ、ソウダト思ッテイタンダケド……コノ子ハ、ソウデモナカッタノヨネ」

欧州水姫「余ノヨウナ、例外モイルトイウワケダナ。トコロデ、コノ場ニハ、余モ参加シテテイインダナ?」

防空巡棲姫「聞キタインナラ、イインジャナイ? 軽巡棲姫ハ聞カナクテイイ、ッテ言ッテタンダシ……私モ、寝テテイイ?」フワァ

深海海月姫「アナタハ話ヲ聞キナサイヨ……」

綾波改二「そうですよねえ。こんなに大勢の鬼級姫級が一堂に会するのを見てから、天龍さんを怖がれと言うのは無理がありますね」

天龍改二「ちくしょう!」ガクーッ

提督(面白い奴だな)


霧島改二「それにしても……あの姫級たちが、私たちと一緒に椅子に座って戦うことなく対面しているというのは、初めてと言いますか」

飛龍改二「ぶっちゃけ、生きた心地がしないよ?」アオザメ

蒼龍改二「こんな場を設けられるなんて、ここの提督さんって、本当に何者なんですか?」ヒヤアセ

提督「んー? まあ、運が良かったんだよ、いろいろとな」

天龍改二「とにかくよ、こっちの姫級たちはあんたの部下ってことでいいんだよな?」

提督「いや、部下じゃねえぞ。知り合いっつうか、仲間っつうか……」

泊地棲姫「上下関係ハ、ナイヨウナモノダナ。対外的ニハ、コノ男ガ代表ト言エルカ」

戦艦水鬼改「ソレカ、島ノ同居人、トイッタトコロカシラ。私自身ハ、コノ男トハ、モット親密ナ仲ニナレテモ、イイノダケレド」フフッ

泊地棲姫「抜ケ駆ケスルナヨ?」ジロリ

戦艦水鬼改「アラ。私ハ、素直ナ願望ヲ、クチニシタダケヨ?」ニヤリ

天龍改二「あー……仲が良いってのはわかったから、喧嘩はやめてくれよ。俺たちじゃとても止められる気がしねえ」

軽巡新棲姫「ダヨネー、ワカルワカル」

綾波改二(オランダの軽巡洋艦さんが混ざってる気がしますね)


提督「えーっと、一応紹介するとだな。泊地棲姫と、んーと確か、ル級とタ級と……」

天龍改二「いや待てそれはさすがに違うだろ!? どう見ても普通のル級とかタ級と一緒にはできねえだろ!?」

提督「つってもなあ。それぞれなんて呼ばれてるか、俺も把握してねえし……」

コロラド「私が分かるわ」

提督「何?」

コロラド「あなたはさっきも言ったけど、イギリスの戦艦、ネルソンよ」

欧州水姫「ホウ……断言スルカ」

コロラド「ええ。見てて確信するくらいにはね。それから……あなたは、アイオワでしょ?」

戦艦水鬼改「!」

コロラド「そして、あなたはホノルルで、あなたはアトランタ」

軽巡新棲姫「ウーン、ソウカモ?」

防空巡棲姫「アー、ソウ言ワレレバ、ソウ呼バレテタカモ」

コロラド「それから、あなたは……きっとサラトガね。シスター・サラ」

深海海月姫「……ソウ……?」


コロラド「そして、サウスダコタと、ホーネット……!」

南方戦艦新棲姫「ナントナク、ソンナ気ガスルナ。霧島トハ、会ッタヨウナ気ガスルシ」

南太平洋空母棲姫「ソウネ。ソノ名前、懐カシク感ジルワ」

コロラド「私の知ってる U.S.Navy が、こうして姫クラスの深海棲艦になってるところを見るなんて……」

コロラド「どうしてこうなっちゃったのかしら……」ウナダレ

提督「お前たち、自分の名前がはっきりしないのか?」

戦艦水鬼改「ソウネエ。ナントナク、ソウナノカ、ッテ感ジ? アイオワ、ネェ……確カニ、ソウカモ」

コロラド「絶対そうよ! その主砲、規格や特徴が合致してるもの! アイオワでなければ同じアイオワ級のニュージャージーだわ!」

提督「傍目に見て、それが正しいとしても、自覚がねえんじゃなあ……」

蒼龍改二「なんだか、記憶喪失の人に名前を訊いてるみたいな感じだね?」

提督「あー、言い得て妙だな」

天龍改二「なあ綾波? お前、欧州水姫と戦艦水鬼の名前がパッと出てきたってことは、本営の資料にはあるはずだよな?」

綾波改二「そうですねえ。全員分あるかどうかはわかりませんが、取り寄せて照合してもらうといいかもしれませんね?」

提督「お、そういう資料あんのか。名前だけでもなんて呼ばれてるか確認してえな。でないと、なんて呼びゃいいかわからねえ」


ルミナ「やあやあ魔神君。丁度いい頃合いだし、ちょっと私もお邪魔させてもらっていいかな」スタスタ

深海棲艦たち「「!」」

提督「ルミナ? 丁度いいってなんだよ?」

ルミナ「そちらの艦娘の皆さんにも、確認のためにちょっと聞いて欲しいんだ。深海棲艦と、艦娘の違いについての仮説をね」

ルミナ「多分、深海棲艦のみんなの姿が変わった理由の話もできるだろうからね」

泊地棲姫「私タチノ話ダト?」

提督「ふーん……とりあえず、聞いてもらっていいか?」

霧島改二「……コロラドさん、どうしますか?」

コロラド「え? え、ええ、いいわよ。いまの話に関係しているって言うのなら、話してちょうだい」

ルミナ「了承いただけたのであれば、まずはこちらの二人をご紹介! おいでー!」テマネキ

白露型?「ハイハーイ!」

暁型?「ゴキゲンヨウデス!」

提督「……んん? なんだ? 暁……じゃねえな?」

蒼龍改二「なんだか、北方棲姫みたいなワンピースを着てるわね……?」

天龍改二「そっちのは夕立か? つっても、肌の色どころか髪の毛も服も真っ白だし……いや、村雨か? どっちだ?」


飛龍改二「っていうか、二人ともあからさまに深海棲艦っぽくない? 目も真っ赤だし、ツノも生えてるじゃないの」

南太平洋空母棲姫「ネエ、ソノフタリ、モシカシテ……」

ルミナ「ねえ魔神君? 君は、ソニアとクレアが乗っていた深海棲艦の駆逐艦の頭を撫でてあげてたよね?」

提督「ああ、それがどうかしたか?」

ルミナ「この二人はそれぞれ、駆逐イ級、駆逐ロ級と呼ばれていた深海棲艦だよ。君が撫でてあげてた、あの2隻さ」

白露型イ級「ソウイウコトッポイ!」

暁型ロ級「ヨロシクナノデス!」

飛龍改二「ええええええええええ!?」ガタッ!

蒼龍改二「イ級とロ級ううううう!?」ガタッ!

天龍改二「どういうことだよそれは! わっけわかんねえ!」

提督「……は?」ポカーン

ルミナ「いやいや、魔神君まで呆けてないで。ほら、あの時雨君を見つけたヲ級君が連れてたあの2隻が、この二人なんだけど」

南太平洋空母棲姫「ソノ『ヲ級』ッテ私ノコトヨネ?」

ルミナ「そうなの?」


南太平洋空母棲姫「アノ駆逐艦タチハ、コノ島デ知リ合ッタノヨ。コノ島ノ周辺デ生マレタミタイダケド」

提督「島の周辺で……?」

ルミナ「えーと、驚くのは後にしてもらって、ちょっといいかな? ひとまず、これは私の仮説として聞いて欲しい」

ルミナ「まず、彼女たちは、轟沈した艦娘の魂が混ざり合ってできたと考えられるんだ」

霧島改二「轟沈艦……!?」

提督「もしかして、この島に埋葬したやつか?」

蒼龍改二「埋葬!?」

提督「ああ。そういや一時期、白露型や暁型が大勢流れ着いた時期もあったが……まさか、そいつらの生まれ変わりだってか?」

ルミナ「多分ね。おそらくだが、以前、大和君や軽巡棲姫君と一緒に、魂について話をしただろう?」

ルミナ「その時と一緒で、君は無意識に彼女たちの艦娘としての意識を呼び起こしたんじゃないかと思うんだよね」

提督「……それじゃ、俺は迂闊に深海棲艦に触れねえってか?」タラリ

ルミナ「それはちょっとわからないかな? 軽巡棲姫君みたいに触れてても問題ない子もいるからね」

暁型ロ級「ワタシハ、ヨカッタトオモウワ!」

白露型イ級「アシガハエテ、オカノウエデモ、ハシレルッポイ!」ワイジバランスー

提督「おいおい、スカートまくれちまうぞ。足を下ろせ」

白露型イ級「ハーイ」

天龍改二「もう少し慌てろよ。冷静すぎねえか」


ルミナ「今回の事象を鑑みるに、艦娘にしても深海棲艦にしても、そして私たちや魔神様にしても……」

ルミナ「その魂の出来上がり方は、かつての艦の魂の寄せ集めにすぎないんじゃないか? と私は考えていてね」

天龍改二「寄せ集め!? なんだよそりゃあ!! 認めねえぞそんな話!?」

深海海月姫「静カニシテ、話ヲ聞イテ」ジロリ

天龍改二「ハイ」

綾波改二(さすが姫級、プレッシャーが尋常じゃないですね)

ルミナ「さて、いろいろ言いたいことはあると思うけど、まずは艦娘と深海棲艦の違いは何か? という仮説の話をするね」

ルミナ「私の考える結論から言ってしまうと、魂の作られ方が違うのよ」

綾波改二「作られ方、ですか?」

ルミナ「そう。艦娘は、ある核となる魂があって、その魂が主導権を持つんだけれど」

ルミナ「一方の深海棲艦は、いろんな魂が乱雑に混ざり合って、その中で強い魂が主導権を持つようになってから、姿が出来上がる」

ルミナ「最初から誰になるかが決まってて作られるのが艦娘、誰になるのか決まらないまま作られるのが深海棲艦、って感じかしら」

霧島改二「誰になるのか決まらないまま……?」


ルミナ「考えてもみてよ、これまで出会った深海棲艦の……そうだね、例えば駆逐艦の姿はどうだったかな?」

ルミナ「大きく分類してイ、ロ、ハ、ニ級が確認されてて、最近ナ級も見つかったんだっけ?」

飛龍改二「ナ級……ソウネ……」ヌラッ

綾波改二「ソンナヤツ、イマシタネ……イナクテイイノニ」ヌラッ

南方戦艦新棲姫「アイツラ、チョット私タチニ似テナイカ?」タラリ

防空巡棲姫「……危険ダネ」タラリ

ルミナ「深海棲艦の一般的な駆逐艦は、大雑把に分けて5種類。それに対して、この世界全体の駆逐艦の数は相当なものだ」

ルミナ「なんで深海棲艦の駆逐艦の種類が少ないのか。それは、彼女たちが自分が何者か、生まれた時にはっきりしていなかったからだ」

ルミナ「例えば、君! 綾波君で良かったかな? 敷波君に似てるね、そういえば」

綾波改二「は、はい! 敷波は私の姉妹艦ですよ。同じ綾波型です」

ルミナ「ああ、そうだったのか。うん、君は自分のことを『綾波』だと、生まれた時から認識してるよね? 綾波であって敷波ではないと」

綾波改二「それは、そうですねえ」

ルミナ「それは魂が、自分が綾波だと自覚し認識しているからであって……」

ルミナ「もしそうでなければ、自分が何者かをちゃんと認識できずあの姿になる、と推測してるのよ」


綾波改二「その理屈だと、私たちが記憶喪失になったら、あの姿になってしまうってことですか?」

ルミナ「いや、今のその姿は記憶喪失になる前に作られるわけだろう? さすがに変わらないと思うんだけど」

提督「試したいとか言うなよ?」

ルミナ「そこは言わないよ!?」

綾波改二「……深海棲艦には、明確な自我がない、ってことなんでしょうか?」

ルミナ「おそらくね。そのまとまらない自我をまとめるために、生者への怨恨や憎悪という心の方向性で一体化したり」

ルミナ「或いは自分が何者かを仮に決めてしまって、まとまらなかった力をまとめている、と、考えてるの」

提督「艦娘の建造には妖精が携わる。建造妖精が誰になるかを定まるようにサポートしてると考えれば、その仮説も成り立つわけか」

ルミナ「魂のまとまり方によって、イ級だったりロ級だったりになるけれど、最初から芯が決まっていれば、艦娘になって海に現れる」

ルミナ「この二人も、自分が暁型の誰なのか、白露型の誰なのかがはっきりしてないじゃない? 二人とも、自分の名前はわかる?」

白露型イ級「ナマエ……シラツユハ、ナントナクワカル!」

暁型ロ級「ワタシハ、ヨクワカラナイ……デス」

天龍改二「そうなのか……確かにまあ、どっちつかずな感じの見た目だけどよ」ウーン

ルミナ「それから、同じ鎮守府の中でも同じ艦娘が現れることがあると思うけど、微妙に個性が違うことってない?」

ルミナ「それは魂の混ざり方が違っていたり、逆に大事なものが抜け落ちたりするから、と推測してるの」

提督「……ここに来る前に似たような話をしたな、そういえば」


ルミナ「そこの金髪の艦娘が……」

コロラド「コロラドよ」

ルミナ「コロラド君が、深海棲艦のみんなの名前を呼んだ時に反応が薄かったと思うんだけど」

ルミナ「艦娘が、自分の名前やルーツがなんであるかをちゃんと言えるのに対して」

ルミナ「深海棲艦のみんなが、さっきも『多分こうなんじゃないか?』って感じで自信なさげに話してたのも」

ルミナ「そういうことじゃないかな、と考えているの」

天龍改二「……そんじゃあ、深海棲艦たちが、自分はこいつだ! って認識したら、艦娘になるのか?」

ルミナ「残念ながら、深海棲艦が艦娘になったり、逆に艦娘が深海棲艦になる可能性は、かなり低いというか、ほぼないんじゃない?」

ルミナ「一度決まって生まれてきたものが、その逆のものに突如生まれ変わる、というのは考えにくい」

ルミナ「せいぜい、ここにいるみんなのように、違う深海棲艦に進化……いや、深化するとか、形態が変わるだけになるんじゃないかな」

ルミナ「そしておそらく、それをひっくり返す唯一の現象は『轟沈』しかない、と、私は推測しているよ」

提督「そういや、お前とは以前もそういう話をしたっけな。やっぱそう考えるのが自然か」

全員「「……」」


ルミナ「そう言えば、魔神君がかつてこの島で行っていた研究……実際には研究ではないけれど」

ルミナ「彼が、轟沈した艦娘をそのまま運用していたことを、君たちは知ってるのかしら?」

飛龍改二「そうなの!?」

蒼龍改二「全然知らなかったんだけど!?」

天龍改二「聞いてた以上にやべー奴じゃねえか!」

綾波改二「でも、だからこそ深海棲艦の皆さんに好かれたのでは……」

提督「そこは関係ないと思うぞ?」

綾波改二「そ、そうなんですか……?」

コロラド「ね、ねえ、なんでみんなそんなに驚いてるの?」

提督「お前は知らないのか。轟沈した艦娘が深海棲艦になる、って話。海軍じゃ有名な訓話だぞ」

コロラド「そ、そうなの……!?」

軽巡新棲姫「ソノ訓話、私モ知ラナカッタケドネー」

欧州水姫「深海棲艦ガ艦娘ニナル、ッテイウ、逆パターンモアッタラシイガ、ドウナンダ?」

泊地棲姫「ドチラモ、アルト言ワレテルケド、私ガ実際ニ、ソノ場面ニ立チ会ッタコトハナイワヨ」

綾波改二「そうなんですか……」


霧島改二「しかし、あなたはなぜそんな危険なことを……?」

提督「俺はもともと、理不尽な扱いをされて島に逃げてきた艦娘を助けたかったんだ」

提督「轟沈して死にかけたそいつをうちの鎮守府に着任させるときに、その話が出てきて危うく話が駄目になりそうになった」

提督「そこで俺は、この島の立地を理由に、轟沈艦をこの島限定で着任できるようにできないかと持ちかけたんだ」

霧島改二「なるほど……然程重要ではない隔離された鎮守府であれば、有事の際に被害が余所に及ばないからと?」

提督「そういうことだ。だからこの島の人間は俺一人だった。まあ、個人的に人間と関わりたくなかったから、好都合だったが」

戦艦水鬼改「ダカラコソ、私ガコノ島ニイタコトモ、隠シテモラエテタノヨネ」

提督「ああ。俺だけだったからな」

天龍改二「大胆なヤローだな……万が一でも見つかったら、ただじゃ済まねえってのに」ヘヘッ

綾波改二(天龍さん、そういう無茶をする人が好きですよねえ)

ルミナ「そうして魔神君はその轟沈した艦娘たちとずっと付き合ってきたわけだけど、結果的に誰も深海棲艦になることはなかった」

ルミナ「逆に、魔神君と一緒に過ごしていた深海棲艦も、艦娘になることはなかった」

ルミナ「となると、海で轟沈して肉体が滅んだ時……魂だけになった時に、初めて生まれ変われるんじゃないか、と考えられるわけなのよ」

天龍改二「……確かに、新しい艦娘との邂逅は、海で見つけるか、建造するか、だな……」


ルミナ「海で見つけるケースは、建造よりも発生頻度が低い。自然発生するケースと言うのは、生まれ変わるケースとも考えられる」

ルミナ「もしそうだとしたら、誰かがその瞬間の場面に立ち会うことも、そこまで多くないとも言えるだろうね」

ルミナ「そして、沈む前の自分の艦の名前を色濃く覚えているのであれば、その艦娘として生まれ変わるケースもある……」

コロラド「……だたし、必ずしもその艦娘に生まれ変われるとは限らない、と言うわけね……」

霧島改二「海域の大物の深海棲艦を倒した際に、似た姿の艦娘と邂逅することはありますが、確かにその確率は決して高くありませんね」

提督「なんだ? そういう事例があんのか?」

霧島改二「はい、特に、特別海域でよくあることですね」

提督「特別海域……なんか、強大な深海棲艦が生まれ出た海域って奴か?」

霧島改二「はい。そういった海域に出没する深海棲艦は、その傾向が強いようです」

綾波改二「ここにいる姫級の皆さんも、その特別海域によく出てくるんですよ。性格は全く逆で、すごく攻撃的ですけど」

提督「お前たちはそういう連中を討伐しているってことか」

霧島改二「そうですね。ですので、こうやって戦わずに会話ができているだけでも、私たちとしては驚くべきことですね」


綾波改二「例えば、コロラドさんがサウスダコタさんと呼んでいるあなた」

南方戦艦新棲姫「ン? ワタシカ!」

綾波改二「はい。良くない例え話をしますが、仮にあなたを私たちが撃沈したとします」

南方戦艦新棲姫「オイ!?」

綾波改二「そうすると、艦娘のサウスダコタさんと邂逅できることがあるんです」

提督「なんだと?」

南方戦艦新棲姫「ジャア、ワタシガ沈メバ、艦娘ニナルノカ!?」

コロラド「それが必ずじゃないから困るのよ……」

提督「なんだよ……艦娘にならなかったら、殺され損じゃねえか」

綾波改二「そうなんです、コロラドさんもさっき言ってましたが、必ずしもその艦娘に生まれ変われるわけじゃないんです」

コロラド「私の知ってる U.S.Navy が、みんな深海棲艦になってたんだもの。敵でしかないと思ったらショックだったわ」

コロラド「こうやって普通に話せてるからいいのかもしれないけど、私としてはやっぱり、みんなに艦娘になって欲しいって思っちゃうのよね」ムー

南方戦艦新棲姫「艦娘ニ、カ……」ウーン


提督「なんだ、艦娘になりたいのか?

南方戦艦新棲姫「イヤ、イマノ姿ハ、ソレナリニ気ニ入ッテルカラナ。飽キタラ考エナクモナイナ!」

コロラド「ちょっと! いい加減なこと言わないで! やるんなら確実に生まれ変われる方法でお願いするわよ!?」

南方戦艦新棲姫「ソウダナ! ジャア、生マレ変ワリハ、ソノウチダナ! ソノウチ!」

防空巡棲姫「敵ニ心配サレテル」

軽巡新棲姫「新鮮ダネ!」

ルミナ「ふむ……轟沈させた艦娘や深海棲艦が、即座に逆の存在になったところは……」

ルミナ「少なくともこの鎮守府の艦娘、深海棲艦では見たことがないのよね」

ルミナ「見られる機会になるのかと思ったけど。まあ、事情が事情だし、仕方ないか」ブツブツ

蒼龍改二「ね、ねえ、轟沈した艦娘をこの島に埋葬したって言ってたけど……本当なんですか?」

提督「ああ。北東の砂浜に無数に打ち上げられてたんでな。可哀想だし水葬もできねえから、丘の上に埋めたんだ」

蒼龍改二「その、埋葬した艦娘が深海棲艦になったことはないんですか?」

提督「そういや、ねえな……?」

綾波改二「もしかして、海から引き揚げたからでしょうか?」

ルミナ「うーん、考えられるとしたら、そこしかないかしらね」


霧島改二「考察としては、ある程度納得できるものではありますね……失礼ですが提督、彼女は何者です?」

提督「あんまり詳しく言えないが、俺の協力者、身内だと思ってくれ」

飛龍改二「っていうか、提督のことをマジン君って呼んでたけど。あの『えふぇめら』? っていうのも何者だったのかな」ヒソヒソ

蒼龍改二「あの人も大きくなったり小さくなったりしてたし……どういう意味だろうね? 頭が追い付かないよ」ヒソヒソ

ルミナ「ちなみに、この仮説を後押しする考察として、強化の上限についても話しておこうか」

天龍改二「上限?」

ルミナ「そう。艦娘は、強化しても限界もすぐ見えてくる。それは、最初から器が決まってるからで……」

ルミナ「深海棲艦はその器自体があいまいだから、その辺の雑な魂も無尽蔵に取り込んで、いくらでも存在を大きくできると考えられるの」

ルミナ「ただし、結合力が弱いから極端に脆い部分ができるという欠点も発生する。だからこそ再結合もしやすいと言うのもあるんだけど」

ルミナ「艤装も史実の艦艇と比較して食い違いがあったりするのも、その無尽蔵に取り込むという点が原因だと思うんだけど」

ルミナ「だから、艦娘が第二改装? という、段階を踏んで強化するのに対し、深海棲艦は独自に強化していく、と言う点が違ってくるのよね」

霧島改二「聞けば聞くほど面白い推論ですね……」

ルミナ「まあ、まだ推論の域よ。これが正解かどうかは、これから調べてみたいんだけど、いいよねえ?」ニタリ

深海棲艦たち「「」」

提督「おいおい……」アタマオサエ


戦艦水鬼改「来ルナ、セクハラ魔人」テイトクノセナカニカクレ

深海海月姫「視姦魔人ヨネ」テイトクノセナカニカクレ

提督「おいルミナ、お前いつの間に不名誉な呼び名ができてんだよ……」アタマカカエ

ルミナ「いやいや魔神君、その程度の呼び名は些細な事さ。それより邪魔はしないでくれたまえよ?」ニジリニジリ

ルミナ「まさか深海棲艦が変異して姫級になるところを間近で見られるなんてねえ……」

ルミナ「いったいどういう感じに変化してるのか、まずは隅々まで見せてもらおうかなぁ?」キュピーン!

ニコ「……ルミナ?」

ルミナ「あ」

ニコ「魔神様のお許しなく、この島の深海棲艦や艦娘に手を出しちゃだめだよって、何回言えば理解してくれるのかな?」

ルミナ「いやあ、艦娘と深海棲艦の謎を解明できそうな、今の話をすれば許してくれるかなあって」

ニコ「後始末するのは、メディウムを束ねるぼくなんだよ? そういうわけだから……ブラックホール」

ベリアナ「もー、また私の出番なのぉ?」フヨッ

ルミナ「」ダッシュ!

ベリアナ「あ、逃げた」

ルミナ「もうブラックホールに閉じ込められるのはこりごりだよーー!!」

ニコ「……やれやれ」

ベリアナ「ニコちゃん、もういい? 早くあっちに行きましょ?」

ニコ「うん。邪魔したね」


飛龍改二「今の水着の子、浮いてなかった!?」

蒼龍改二「浮いてた浮いてた!」

綾波改二「……結局、彼女たちは何者なんでしょう」

提督「聞いてすぐ理解できるような存在じゃねえから、いっそ忘れたほうがいいぞ?」

飛龍改二「もおお、ここっていったいどういう島なのよー!?」ヒシッ

蒼龍改二「やだやだ怖い怖い帰りたいー!」ヒシッ

白露型イ級「トコロデ、連レテコラレタ私タチハ、ドウシタライイノ?」

提督「あー、そうだな……」

初春「なんじゃルミナめ、こちらに二人を置いてきぼりにしておったか」ニュッ

初春「提督よ、すまんがこの深海の二人、わらわが連れて行っても良いかの?」

提督「ああ、話は終わったところだから構わないが」

初春「ちょっと訊きたいことがあってのう。危険な目には遭わせぬから、安心せよ」

提督「まあ、お手柔らかにな?」

暁型ロ級「行ッテクルノデス!」ブンブン

提督「ああ、ついでに明石に適当な下着見繕ってもらえ。ノーパンでその辺うろつかれても困る」

飛龍改二「ちょっ!? 履いてなかったの!?」

天龍改二「だからもう少し慌てろっつったんだけどな……」アタマオサエ


提督「それにしても、初春が呼びに来るって……あ、もしかして」ウヘェ

軽巡新棲姫「ナニカ思イ当タルコト、アッタノ?」

戦艦水鬼改「ソノ顔ハ、ロクデモナイコトニ思イ当タッタ顔ネ?」

提督「ああ……あとで全員フォローしとく。まあ、俺の考え通りなら、本当にろくでもねえことなんだ」

コロラド「ねえ。それよりも、曽提督の艦娘はどうする気? できれば、引き渡してほしいんだけど……」

提督「その話なら断る」ギラリ

コロラド「……っ! あ、あなたたちを騙し討ちしようとしたのは謝るわ! でも……!」

提督「然るべき罰を受けさせる。そこにお前たちの意志が介入することは許容できねえ」

コロラド「然るべき罰……?」

提督「なあに、殺しはしねえよ。連中の、邪悪な心を、綺麗に洗い流してやろうって考えてるだけさ……!」ニヤァ

コロラド「……っ!!」ゾクッ

飛龍改二「悪い顔だわ」シロメ

蒼龍改二「悪人よ」シロメ


霧島改二「だ、大丈夫なんでしょうか……」

提督「大丈夫かどうかは、連中次第だな。素直になればよし、そうでなければ……つうか、あいつら絶対素直になんかならねえか」

綾波改二「痛い目を見ること確定じゃないですか」

天龍改二「洗脳でもする気かよ……」

提督「洗脳されてたのはむしろ今のあいつらじゃねえか? あんなトチ狂った戦闘狂の艦娘なんか、俺はこれまで見たことねえぞ」

提督「ま、安心しな、俺がばっちり呪縛から解き放ってやるからよぉ……!」ニタァァ

飛龍改二「悪い顔だわ」シロメデアワブクブク

蒼龍改二「悪人よ」シロメデアワブクブク

 ヒュンッ

朧「いま誰か泡を吹きました!?」シュタ!

防空巡棲姫「何シニ来タノ、アンタ……」

軽巡新棲姫「テイウカ、忍者ミタイジャナカッタ!?」キラキラッ!

提督「目を輝かせてる場合じゃねえよ。おいコロラド、とりあえずお前らが知ってる曽大佐の情報を全部話せ」

提督「でなきゃお前らも、ただで帰す気はねえぞ」ギロリ

コロラド「……わかったわ。あなたたちには助けられているんだもの、私たちもそれなりの態度を示さないとね……!」

 * * *

 * *

 *


 * その後 *

天龍改二「それにしてもここの大将、思ったより全然話がわかるんだな。もっと自己中な奴かと思ってたぜ」

綾波改二「この分だと、大和さんたちのこともそれほど心配しなくても良い気がしますね?」

天龍改二「そうだけどよぉ、あの大和も俺たちの思ってた以上に狂ってたぜ? 話してどうにかなるもんかあ?」

綾波改二「対話では難しいでしょうね。曽大佐が深海棲艦との戦いをやめようとしない限りは……」

防空巡棲姫「提督サン? コイツラ結構余裕アルミタイナンダケド」

提督「いいんじゃねえの? 俺たちとやりあう気はねえんだろ」

天龍改二「ああ、その辺はちゃーんと弁えてっからよ。捕虜の俺たちが自由にさせてもらってんだからな」

綾波改二「好きに寛いでいいなんて言われたときは驚きましたし、まさか酒保まで開放していただけるなんて思いませんでした」

提督「話が通じる奴を拘束しておく理由はねえからな。その辺ぶっ壊したりしなきゃ」

 ゴンッ

南方戦艦新棲姫「ウワ、ヤベエ! 艤装展開シタラ、壁ニ穴開イチマッタ!」

欧州水姫「何ヲシテイル! 修理シロ、修理!」

南方戦艦新棲姫「ワカッテルヨ! オ前モ手伝エ!」

欧州水姫「ナゼ余ガ!?」

天龍改二「……あいつら、どっちも、もとはタ級なんだっけか」

防空巡棲姫「自分ノ艤装ノ、サイズニマダ慣レテナイッポイネ……」

提督「わざとじゃなきゃいいけどよ……心配だな、こりゃ」

というわけで今回はここまで。

>348
お気になさらず。自分も過去には三重書き込みをやらかしましたので……。

>349
伏線回収はとりあえず掬えるところは必死に掬っております。
スレ自体は年内に終わらせたいと思っていますが……。

>350
弟は弟でそこそこ能力はありますが、いかんせん今回のやらかしが致命傷になりますかねえ。
父親も海軍の一部に目をつけられていますし、その辺もそのうち書いてみるつもりでいます。


囚われの曽大佐の艦娘がどうなったか……。
短いですが、続きです。


 * 夕方 *

 * 封印神殿内 *

 ピチョン…

捕獲牢の中の赤城改二「……ここ、は……どこです……!?」

赤城改二「く……体が、重い……力が入らない」ググッ

赤城改二「この、鳥籠は、いったい……」

提督「ん? 目を覚ましたのか」

赤城改二「! あなたは……っ!!」

 (提督が暗闇から現れ、それと同時に石畳の通路を照らす松明に火が灯り)

 (赤城の捕獲牢を含めて7個の捕獲牢が並んでいる光景が浮かび上がる)

提督「休んでていいぞ。どうせ起きていられねえだろ」

赤城改二「それは、どういう意味です……くっ」クラッ

提督「この捕獲牢はな、捕獲した者の魔力と生気を奪うんだ。そいつがぎりぎり生きられるだけの力を与えつつ、な」

赤城改二「……あなたの、好きには、させません……!」

提督「そうやって強がっても、いまは指を動かすことすらきついだろ? おとなしく寝てな」


赤城改二「……こうやって、歯向かうものを、閉じ込めているのですね……!」

提督「そうはそうだが、部外者を閉じ込めたのはお前らが初めてだぞ?」

提督「ここは、俺の鎮守府で馬鹿をやった奴を懲らしめる、いわゆる懲罰房みたいなもんだ」

赤城改二「懲罰房……?」

提督「おい、ケイティー。起きてるか」ユサッ

他の捕獲牢に入れられたケイティー「……あ、ああ……旦那様ぁ……!」ニタァァ

ケイティー「やっと……やっとお会いできた……」テヲノバシ

提督「お会いできたーじゃねえよ。一応毎日見には来てんだぞ? っつうかお前、毎回毎回やり過ぎだって言ってんだろが」

提督「お前はなんで俺が艦娘やほかのメディウムと話してるだけで襲い掛かってくるんだよ」

ケイティー「旦那様に近づく悪い虫は、退治しなければなりませんので……」

提督「だからそういうのやめろっつってんだろが。ったく、全っ然反省してねえな?」

ケイティー「わ、わたくしは、旦那様のことを思って……」

提督「もう少しこの中に入ってろ」デコピン

ケイティー「ヘブッ!?」バチーン ガクッ

提督「はぁ……本来は、こういう感じで、仲間に襲い掛かるような奴を懲らしめるための部屋なんだ。ほぼケイティー専用だけどな」


提督「で、この捕獲牢が生かさず殺さずには丁度いいんで、これに入ってもらって反省を促し、自戒してもらってると言うわけだ」

赤城改二「……」

提督「けど、お前らが素直に反省するとは思えねえな。お前らには、深海棲艦に対して過剰すぎる敵意が詰め込まれすぎてる」

赤城改二「……何を、しようと、言うのです……!」

提督「これからお前らの悪い部分を切除する」

赤城改二「せ、切除……!?」

提督「ああ、だから休んでていいぞ。どうせ起きててもしょうがねえ」ガシャ…

 (提督が赤城の隣の捕獲牢に手を伸ばし、自分のほうに引き寄せる)

赤城改二「……その鳥籠は……大和さん……!」

提督「さてと。気になってたのはこいつの『魂の色』だ。どんなもんか、見せてもらおうかね」

赤城改二「た、魂!? な、何をする気ですか、やめなさい……っ!!」

 (気を失って横たわる大和改二の頭を、提督が捕獲牢の外側から鷲掴みにして、提督が目を閉じる)

大和改二「……う……」ピクッ

提督「おお……こりゃあひでえな、真っ黒じゃねえか。うちの大和とは完全に別風景だな」

赤城改二「い、いったい何の話です!? とにかく、その手を放しなさい……!」


提督「うるせえな……少し静かにしてろ」

 ズブ…ッ

大和改二「ふぎッ!?」ビクンッ!

赤城改二「ひっ!? て、提督の指が、大和さんの頭の中に沈み込んでる……っ!?」

提督「この赤は爆炎の赤っぽいな……こっちの黒は黒煙か? マジで戦うことしか頭にねえな、こいつ」

大和改二「あッ……あが……ッ!? わっ、ワた、しィは……いったい、なに、ヲ……ッ!?」ビクビクビクッ

提督「何をどうしたら、大和の魂をここまでどす黒く染められるんだ? 曽大佐の野郎は一体何を吹き込んだんだよ……くそが」

提督「この辺りの魂、いらねえな。敵意か殺意か、攻撃的な色しか入ってねえ。こりゃ艦娘じゃなくても害悪でしかねえぞ」グリッ

大和改二「グェゲ……ッ!?」ビクンッ!

提督「ここも……ここも真っ黒だ」グリュグリュッ

提督「ん? こりゃ、あのレ級との記憶か? これも酷えな……こんなに憎悪を前面に出して戦う必要あるかよ」

大和改二「ア゛オ゛ッ!? グエ……ゲエァ、ゴアッ……!!」ガクガクガクッ

赤城改二「ひ、ひいいっ!!」

提督「見れば見るほど敵意の塊だな……曽大佐はここまで深海棲艦を憎んでるのか?」ズブブッ

提督「それにしちゃあ身内が殺されたって話とかもないようだが……曽大佐が艦娘にいい顔してる印象も全然ねえな」グリグリッ


提督「もしかしてあいつ、艦娘が嫌いなのか……? まあいい。綺麗な部分がちょっと残ってただけでも良しとするか……」ズリュズリュ

提督「魂、だいぶ減っちまうな。ニコには悪いが、俺の魔力の一部で補っておくか……」グチュグチュグチュ

大和改二「アガ……オ、オブォォ……ウ、ゴベェ……!!」ビクンビクンビクン

赤城改二「あ、あああ……や、やまと、さん……!」ガタガタ

提督「ふう……こんなもんか……」ズポッ

大和改二「ハヘッ」ガクガクッ

提督「ん? なんだこりゃ!? 大和の体がえらく細ってやがる。魂削ったら体も削れるとか聞いてねえぞ……?」

提督「……捕獲牢に大和の魂を吸わせたおかげで魔力が回復してるな。この魔力でついでに大和の体も魂に合わせるよう調整しておくか」

赤城改二「あ、あ、頭の中を、いじくるなんて……っ」ガタガタガタ

提督「よし、これでしばらく様子見だな。これで性格もちったあまともになってくれるといいんだが……さてと」フリムキ

赤城改二「ひっ!?」

提督「先に起きてるお前をやっちまうか。騒がれても面倒だ、おとなしくしてろよ……!」

赤城改二「い、いやっ、こないで……おねがい、たすけてぇ……! おねがいだか」

 ズブッ

赤城改二「ら゛……っ」

 * * *

 * *

 *


 * その夜 *

 * 提督の私室 *

提督「くっそ疲れた……今日一日でいろいろあり過ぎだぞ……」

提督「はあ……俺の部屋もベッドも広すぎだろ。なんで毎回誰かが泊まりに来る前提なんだよ、くそ……」

提督「……」

提督「……」

提督「まあ……それも悪くねえのかもな。あんな風に、俺の無茶をわかってくれたり、にこにこと笑ってくれたりしてんだもんな」

提督「……あいつらにも、何かしら返してやれるもんがねえとな……」

提督「何が、いいかねえ……」

提督「……」

提督「すー……」スヤァ…

 扉<チャッ…

ニコ「……魔神様?」コソッ

ニコ「あれ、寝ちゃったのかな……」

ニコ「……」


ニコ「……」

 ホッペツンツン

提督「ん……」スヤスヤ…

ニコ「……」

ニコ「魔神様……ぼくは、このままでいていいのかな」

ニコ「きみが、魔神様と、そうでないものに分かれた時……『きみ』は、そうでないものに分かたれてしまった」

ニコ「ぼくが、慕っていたのは、魔神様じゃなかった……そうなのかな」ウツムキ

ニコ「……」

提督「すー……」スヤァ…

ニコ「……」

ニコ「なんだい、ぼくが真面目に悩んでるのに。本当に……寝坊助なんだから」

ニコ「……」

 『我は、かの女の一部なり』

 『女。汝もまた、我の一部ぞ』

ニコ「……いいのかな。魔神様……ぼくは、きみを、好きでいて」


ニコ「ふたつに分かたれた魔神様は……性格と、神格に、分かたれた」

ニコ「それが、改めて、ひとつになったんだから……」

ニコ「きみは、ぼくの魔神様……それで、いいよね?」

ニコ「……だから……」

 チュッ

ニコ「ぼくは……お姉ちゃんは、ずっと一緒だからね……?」

提督「すー……」

ニコ「……」

ニコ「……」

ニコ「はっ!? ぼ、ぼくは、いったい何を……!」カオマッカ

ジェニー「いやいや、ちょっと待ってよ、なに? 今の控えめなキスは」

ニコ「!?!?!?」

ジェニー「前はもっとがっつりディープにやってたじゃない。ほら、やっちゃいなさいよもう一回。遠慮する間柄じゃないでしょ?」

ニコ「っ、っ!?」クチヲパクパク

ノイルース「おや。二人とも、あるじ様の寝室で何をしているのです?」スッ

ジェニー「あれ、ノイルース? あなたこそ、どうしてここに?」

ノイルース「……あるじ様はおやすみのようですね。おやすみの邪魔にならないよう、まずはお部屋から出ましょうか」


 * 提督の私室前 *

ノイルース「……なるほど。ニコさんがあるじ様のお部屋に忍び込んだと」

ニコ「ま、まだ起きてると思ったんだよ」

ノイルース「艦娘や深海棲艦に見つかってはいませんね?」

ニコ「ま、まあね……?」

ジェニー「私はたまたま見つけたけどね」

ノイルース「艦娘たちの間では、夜間、あるじ様のお部屋に出入りできる者が日ごとに決められております。ニコさんも御存知ですね?」

ジェニー「え? そうなの?」

ノイルース「ええ。以前その禁を破ったケイティーが、今も姿をなかなか見せないのは、そういうことだと聞き及んでいますが?」

ジェニー「えええ?」

ノイルース「ですので、ニコさんと言えども、今後は魔神様のお部屋への出入りは控えていただきませんと」

ニコ「……そういうつもりじゃなかったんだけど」

ジェニー「っていうか、ノイルースはいいの?」

ノイルース「今日は私があるじ様のお部屋にお邪魔する日です。皆さんとそのようにお約束しました」

ジェニー「ええええ!? いつの間に!」

ノイルース「ニコさんもあるじ様も、今朝は大変だったと聞いております。心配なのは理解できますが……」


ニコ「……もう大丈夫だよ。ぼくは、魔神様が、魔神様であればいいんだから……」

ノイルース「?」

ニコ「魔神様がエフェメラのせいで、魔神様と深海棲艦のふたつに分けられたとき……ぼくは、深海棲艦のほうに、冷たくしちゃったんだ」

ニコ「これまでいろいろ話をしてきた魔神様が実は深海棲艦で……魔神様は、その中でずっと眠ってた」

ニコ「それに気付けなかったことに謝りたかったのと……改めて『魔神』になった魔神様に、ぼくを、受け入れてもらいたかったんだ」

ジェニー「ニコちゃん……そっか。あの時は確かにそうだったよね……」

ノイルース「なるほど。あるじ様に、懺悔をしに来たと」

ジェニー「ん? 懺悔? 懺悔でキスしにくるかなあ?」

ノイルース「……は?」

ジェニー「さっきニコちゃんがリーダーにキスしてたんだよね。それがすっごい控え目でさ?」

ニコ「じぇ、ジェニー!?」

ノイルース「……」

ジェニー「以前やったときは、口の周りが涎だらけになって、記憶も怪しくなるくらいがっつりやってたのに、今更遠慮しなくても……」

ニコ「ジェニー!? ちょっと!!」オロオロ

ノイルース「……困りますね、ニコさん」

ニコ「いや、それは、その」


ノイルース「話したいことがあるのであれば、しっかりお話しして、あるじ様のお耳に入れておかなければならないのでは?」

ニコ「え……?」

ノイルース「本日のあるじ様はお疲れの様子……今宵はゆっくりお休みいただこうかと思いましたが、気が変わりました」ニコノウデツカミ

ジェニー「き、急にどうしたのノイルース?」

ノイルース「ジェニー、すみませんが、今日のところは私とニコさんとあるじ様だけでお話をさせてください」メラッ

ジェニー「へ? ……わ、わかったけど」

ニコ「ちょ、ちょっと、ノイルース……?」ヒキズラレ

ノイルース「そこまでやっているのであれば、もう一度改めてそのラインまで立っていただきませんと」グイグイ

ニコ「何を言ってるの!?」ズルズル

ノイルース「そのような中途半端な意思と態度で、ただでさえライバルの多いあるじ様と一緒にやっていけるとお思いですか?」

ノイルース「艦娘や深海棲艦の皆さんのほうが余程覚悟が決まっているではありませんか。ニコさんも我々メディウムを率いるのであれば……」クドクド

 扉<パタム

ジェニー「……ノイルースは、いったい何に怒ってるのよ……」

ミリーエル「あれっ? ジェニー、こんなところでどうしました?」

ジェニー「あっ、ミリーエル! 実はねえ、ノイルースが……」

 *

ミリーエル「……ああ、問いただしにかかりましたか。お説教が始まったというか、長女としての使命感に駆られたんだと思いますよ」

ジェニー「使命感……?」

ミリーエル「ノイルース姉さんは面倒見がいいのですが、たまに行き過ぎるところもありまして……」

ジェニー「お節介心に火がついちゃったかあ。結構、世話焼きなんだねー」

ミリーエル「迂闊に口を出すとこちらにも飛び火しますので、早めに退散したほうが良いと思いますよ」


 * 翌朝 *

 * 執務室 *

提督「よう、おはようさん」

大淀「おはようございます、提督」

不知火「昨日は大変でしたね……おや? この香りは」

提督「ああ、昨晩はニコとノイルースが部屋に来ててな。リラクゼーションだかなんだかで、香木を焚くのがノイルースの趣味らしい」

不知火「なるほど……良い趣味ですね」

大淀「え、ニコさんと、ノイ……」

提督「ノイルースな。ファイアーボールのメディウムの」

大淀「も、もうそんな人たちまで提督のお部屋に……!?」

不知火「大淀さん、予定表を見てなかったんですか。しっかり書いてありましたよ」ヒソッ

提督「けど、なんかニコが説教されてたんだよなあ。ちゃんと俺に認めてもらえとか……」

提督「俺としては、ニコが深海棲艦だった俺を無視しても当然のことだと思ってたから、そこまで叱ってやるなって言ったんだけどな」

不知火「提督が深海棲艦に、ですか」

 ズズズズ…

提督棲姫「おう。お前たちは見てなかったと思うが、こんな感じの見た目になってたんだよ」

大淀「!?」


不知火「これは……声まで女性のものになってますか」

提督棲姫「魔神の要素から深海棲艦の要素を引っぺがされちまってな。それでこの姿にになっちまったんだ」

提督棲姫「軽巡棲姫には、提督棲姫なんて呼ばれるしよ……ま、その通りだから否定できねえけど」

 ズズズズ…

提督「ふう。やっぱ、こうやって変身して説明すると手っ取り早いな」

大淀「は、はい。でも、いきなりですからびっくりしましたよ……」

提督「いくらか魔神の新しい能力にも慣れておこうかと思ってな……ん?」モゾッ

提督「ちょっと悪い……」ウワギヌギヌギ

不知火「どうかなさったんですか?」

提督「いや、なんか今、変身したときに服の中が寄れたっつうか……不知火、ちょっと上着預かってくれ」ヌギヌギ

不知火「はい?」ウケトリ

大淀「……」

提督「ウエストのサイズも変わっちまったせいで、下着がずれて気持ち悪いんだ……ちょっと下着を直してくる」モノカゲカクレ

大淀「……」ガンミ

不知火(大淀さんの視線が司令に集中していますね……)

不知火「そういえば、司令? 先ほどの深海棲艦の姿で、海の上を走れるのでしょうか?」

提督「ん? そういや試してねえな。今度誰か随伴してもらって試してみるか……ちょっと怖えけど」


 * 一方 提督の私室 *

ノイルース「ニコさん……昨晩は眠れましたか」

ニコ「……」フルフル

ノイルース「私も、緊張して眠れませんでした……」セキメン

ニコ「……まさか、魔神様と一緒に寝ることになるなんて、予想してなかったよ」セキメン

ノイルース「私もです……艦の娘たちはみな、あのあるじ様の温もりと心地よさを求めているわけですね」

ノイルース「残念ながら、私はまだそこで安眠できるまでの境地には、至れませんでしたが……」ポ

ニコ「……少しずつ、慣れて行かないといけないね。ぼくがこんなんじゃ、みんなに笑われちゃうよ」

ノイルース「ええ、是非そうなさってください。私もそのように努めます……」

ニコ「……え? わたしも?」ハッ

ノイルース「……!! は、いえ! そ、それは……」カオマッカ

ニコ「……」

ノイルース「……」


ニコ「ぼ、ぼくは、魔神様のお姉ちゃんだからね!?」

ノイルース「そ、そこでそう仰られましても!? と言いますか、なぜそれを今!?」

 扉<コンコン チャッ

扶桑「あらあら、それじゃ、私はニコさんをお義姉様とお呼びしないといけないかしら」ウフフ

ニコ「!?」

ノイルース「!?」

扶桑「すんすん……あら? この香り……エレノアさんが使ってる香木かしら」

ノイルース「ど、どうしてそれを……?」

扶桑「それなりにメディウムの皆さんとは、仲良くさせてもらっていますからね。うふふっ」ニコニコ

扶桑「ところで……昨晩は、ニコさんがお泊りの順番ではなかったような?」

ニコ「そ、それはその……」

扶桑「ふふ、大丈夫よ。誰にも言わないから、心配いらないわ」


ニコ「……本当に? 君だって、魔神様のことはすごく気に入ってるんでしょう?」

扶桑「そこも心配しなくて大丈夫。私は、メディウムのみんなにも感謝しているから」

ノイルース「感謝……ですか」

扶桑「ええ。私の……かつて居た鎮守府の、あの男の呪縛を解いてくれたのは、メディウムのみんなだったでしょう?」

扶桑「私は、深海棲艦に命を助けられて……提督たちにも、山城と一緒にいろいろ助けてもらえたわ……」

扶桑「時雨は、あの時死んでしまったけれど……それでもまた、会って話ができるようになった……!」

扶桑「私はみんなに感謝しているの。そして、その中心に立って、私たちを守ってくれている提督にも……そう、とても感謝しているわ」ニコ…

ニコ「……」

ノイルース「と、ところで扶桑? どうしてあなたはここに?」

扶桑「私はいつもこの時間に、提督のお部屋の洗濯物を回収しているの」

扶桑「お部屋に泊まる子の中には、お寝坊さんもいるから、その時は提督に代わってベッドメークもしているわ」

ノイルース「そういうことでしたか……」

扶桑「提督は早起きでしょう? たまに、その残り香を堪能しに来る子もいるから、早く退散したほうがいいかもしれないわよ」フフッ

ニコ「!」スンスン


扶桑「もっとも、その提督の残り香で、このお部屋にいたことがばれてしまうかもしれないけど……シャワーでも浴びてきたほうが」

ニコ「……ノイルース」

ノイルース「は、はい?」

ニコ「ぼくは、今日は一日、神殿のお部屋にいるから」

ノイルース「はい?」

ニコ「今日はこっちに顔を出さないから。よろしくね!」ダッ!

 神殿への扉<パッ! ガチャ! パタム! フッ…

ノイルース「……あっという間に神殿のお部屋に逃げられてしまいましたね」アタマオサエ

ノイルース「扶桑の言う通り、せめてシャワーを浴びたほうが良かったと思いますが……」

扶桑「せっかくの提督の残り香を、洗い流したくなかったんでしょうね」

ノイルース「ああ、なるほど……」ポ

ノイルース「ところで扶桑? さきほど、ニコさんをお姉様? と呼んでいましたが……」

扶桑「ええ、彼女が提督のお姉さんだというのなら、私の義理のお姉さんになるかもしれないでしょう?」ニコ

ノイルース「……なっ!?」

扶桑「私は第何夫人になれるのかしらね? 愛人枠でも構わないけれど……うふふ」

今回はここまで。

>378
長く続けていますが、このスレで完結させたいと思います。
……いつの間にか400近くになってしまいましたが……。


今回は曽大佐のお仕置き編になります。思ったより長くなったので数回に分けて投下。
ちなみにメディウムも深海棲艦も提督も出てきません。

というわけで続きです。


 * 襲撃から数日後 *

 * 曽大佐鎮守府 執務室へ続く廊下 *

N特尉「我々は帯同せずに、大和たちだけを執務室に向かわせて良かったのか?」

妙高「コロラドさんもいますから、大丈夫でしょう。それに、最初は行くべきではないとのお話ですし」

N特尉「……そうか……」チラッ

朧「……」ジロリ

初雪「……」ジトッ

初春「なんじゃ? わらわたちの顔に、なんぞついておるか?」

N特尉「……鹵獲した曽大佐の艦娘を返すついでに、曽大佐の鎮守府を見てこいというお達しだったが……」

N特尉「まさか、お前たちと一緒に行けと言う話になるとは……」アタマオサエ

初春「ふっ、貴様の自業自得じゃろうて」

N特尉「まったくだ。もう少し仕事のしやすい環境を望んでいたんだが……いや、言うまい。身から出た錆だ」

磯波「司令官……」

N特尉「あまり心配そうな顔をしなくていいぞ、磯波。仕事はいつも通りだ、そこは何も変わらない」

N特尉「それより、我々が曽大佐の執務室に入るのはまだ早い、ということでいいんだな?」

初春「うむ。まあ、しばし眺めておるが良い」


 * 曽大佐鎮守府 執務室 *

矢矧改二「曽提督、N特務大尉殿がもうすぐこちらにいらっしゃるそうです」ペコリ

鳳翔改二「深海棲艦に鹵獲された大和さんたちを連れてくる、というお話でしたね……?」

曽大佐「ふざけた話だ……海軍はどこまであいつらに浸食されているんだ! 特別任務を担う尉官すらも深海棲艦と通じているというのか!」

加賀改二「大和さんや赤城さんが囚われたと聞いたときは、驚きましたが……これはどうやら、いろいろな意味で油断できないようですね」

曽大佐「殲滅できると言うからこそ送り込んだんだ。この失態、どうしてくれようか……!」

長門改二「曽提督、私を出せ。陸奥ではなく、私を出すべきだったのだ」

金剛改二「ヘイ、長門? 私も一緒に行きマス……榛名の汚名は、私が雪がせて貰うデス」

夕立改二「かたき討ちっぽい! 全部ぶっ潰すっぽい!!」

 コンコンコン

曽大佐「入れ!!」

コロラド「失礼します」チャッ

曽大佐「貴様は……川提督のところの海外艦か!! 我が艦隊を支援するどころか、足を引っ張るような真似をしおって!」

曽大佐「よくも恥ずかしげもなく、私の前に姿を見せたものだな! 失態たぞ! 情けないとは思わんのか!」

コロラド「……」


曽大佐「大和たちも来ているんだろう! さっさと入らせて何があったのかを報告させろ!!」

コロラド「……いいわよ、大和。入って」

大和?「はーい!」

矢矧改二「えっ?」

海防艦より幼い外見の大和(以下「幼大和」)「やまと、はいります!」トテトテトテッ

曽大佐「な、なあっ!?」

鳳翔改二「……大和、さん?」

幼赤城「あかぎ、はいります!」

幼陸奥「おじゃまするわね。あっ、ながとー!」テヲフリ

幼榛名「はるな、さんじょうしました!」

加賀改二( ゚д゚)

長門改二( ゚д゚)

金剛改二( ゚д゚)

幼由良「ゆらです!」

幼朝潮「あさしおです!」


夕立改二「こ、金剛さん、どういうことっぽい!? なんでみんな小っちゃくなったっぽい!?」オロオロ

金剛改二「わけがわからないデス……!?」オメメグルグル

矢矧改二「こ、こんな、子供みたいな……いくらなんでも、別人じゃないの!?」

幼大和「ていとく、とってもおおきいですね! やまとです、よろしくおねがいします!」ペコリ

幼艦娘たち「「よろしくおねがいします!」」

金剛改二「」チーン

長門改二「こ、金剛!? しっかりしろ!?」

曽大佐「……なんだこれは。どういうことか説明しろ」

コロラド「その前に、あの島の提督から親書を預かってきています」

曽大佐「なに……?」

コロラド「大和」

幼大和「あっ、そうでした! あかぎさん!」

幼赤城「これですね。よいしょ……っと」

 (赤城が背負っていた黒光りする立派な木箱をおろして、大和に手渡す)

幼大和「ていとく、これをどうぞ!」ニコニコッ

曽大佐「……」


コロラド「……」

曽大佐「ふ……」ワナワナ

幼大和「?」

曽大佐「ふざけるな!!」バシーッ!!

幼大和「ひっ!」ビクッ!

 木箱<ガッ、ゴロゴロガラン!

鳳翔改二「て、提督!? 落ち着いてくだ……」

曽大佐「何が親書だ! 貴様らは負けて戻ってきたのだぞ! 恥を知れ! へらへらするな!!」

幼大和「ひい……っ! て、ていとく、こわいです……っ!」タジッ

曽大佐「怖いだと!? 貴様ら艦娘が、怖いだと!? 寝ぼけたことを言うな!!」

曽大佐「深海棲艦を殺すために生まれたお前たちが、この程度のことで怯えていて戦えると思うか!!」グワッ!

幼大和「ひうう……っ!」ビクビクッ

幼赤城「やまとさん……!」ヒシッ

幼由良「こ、こわいよぅ……!」ヒシッ


曽大佐「ええい、泣けば許されるとでも思っているのか! クソガキどもめ!!」

幼榛名「こんごうおねえさまぁ、たすけてください……!」チラッ

金剛改二「は、榛名……!」グラッ

金剛改二(こんなに可愛い榛名の姿はこれまで見たことがないデス……しかし、ここで手を貸しては、逆に曽提督が……)

金剛改二「……ウグウゥ……!」グラグラグラ

夕立改二「こ、金剛さん!? しっかりするっぽい!」

曽大佐「おのれ……奴らは我々の大和を返すと言っていたのだぞ! それを、こんな見知らぬガキどもを送ってくるとは!」

曽大佐「最初から深海棲艦を信用しろと言うのが間違いだったのだ!! どれだけ我々を馬鹿にするつもりだ!!」

加賀改二「……そ、そう、よね。あの赤城さんが、こんな……こんな……ううっ……!」

長門改二「加賀! しっかりしろ!」

曽大佐「おい貴様!! 本当の大和はどこへやった! 本当のことを言え!!」

コロラド「……」

曽大佐「何をためらう! 早く言え!」


コロラド「ここにいるのが、あなたの艦隊の大和よ。あの島の提督がそう言っていたの」

曽大佐「っ……伝書鳩か貴様は!! この、役立たずが!!」ブンッ!

 ガッ!(曽大佐の平手打ちを、コロラドが事も無げに左腕でガードする)

曽大佐「ぐ……っ! 貴様、上官に歯向かうか!!」

コロラド「……」

曽大佐「……なんだその目は!」

コロラド「……」ジロリ

曽大佐「……くっ!!」タジロギ

コロラド(……これは、あの提督の言う通りかしら)

コロラド「彼からは、すべてその親書にしたためた、としか聞いていないわ」

コロラド「何があったのかを知りたいのなら、その箱を開ければいいじゃない。その役目は、私ではないはずよ」

曽大佐「……っ!!」ビキビキッ!

長門改二「お、おい、貴様コロラドだな!? 我々の提督に対するその非礼、看過できるものではないぞ!!」

コロラド「……あなたは、長門ね?」


コロラド「あなたが仮に、曽大佐がこれまでやってきたことを知っているとしたら、先にそれをどうにかすべきだと思わなくて?」

長門改二「どういう意味だ……話をすり替えるな! 私は、無礼が過ぎると言っているんだ……!」ギリッ…!

幼陸奥「ひ……!」ビクッ

長門改二「く……!」

夕立改二「長門さん……?」

コロラド(長門も、小さくなった陸奥が怯えているのを見るのは嫌なようね……)

コロラド「とにかく。何を言われても、私はこの大和たちを『元の鎮守府に返すように』としか言われてないの」

コロラド「しかも彼は……あの提督は、これはあくまでお願いであって、嫌ならやらなくていいとまで言っていたわ」

コロラド「この場で曽大佐から、この件で叱責されるであろうことも予測してね」

曽大佐「うぬ……っ!!」

コロラド「そもそも、私たちのこの戦いは奇襲作戦よ。逆に沈められても文句は言えないものだったわ」

コロラド「だというのに、不意に現れた深海棲艦から、あの島の艦隊に助けてもらって」

コロラド「その一方でこの本隊は、私たちを救援に来た深海棲艦を背中から撃って……それで負けたのよ。本当に情けないわ」

曽大佐「貴様、言わせておけば……っ!!」

長門改二「コロラド……っ!!」


コロラド「今後、私やあなたに従った川提督がどんな処分を受けるかわからないし、それも甘んじて受けるべきだとは思うけれど」

コロラド「レ級の撃退に協力する姿勢を見せたあの島の提督が、あなたに何を伝えようとしたのかくらいは、知っておくべきではなくて?」

曽大佐「……」チラッ

 (床に転がったままの黒光りする立派な木箱)

曽大佐「この俺に……親書だと」

矢矧改二「て、提督! 私が拾います」タッ

曽大佐「その必要はない!!」

矢矧改二「え?」

曽大佐「こんなものは……こうだ!!」ガッ!

コロラド「ちょっと、踏みつけるなんてどういうつもり……!?」

曽大佐「ふんっ!!」

 木箱<グシャ バキバキッ!

幼由良「!」ビクッ

幼赤城「そ、そんな……!」


幼朝潮「せ、せっかくもってきたのに……!」

幼大和「うう……ぐすっぐすっ」メソメソ

幼陸奥「やまと、なかないで……!」ウルッ

幼榛名「うえええん……!」グスグス

金剛改二「……ふぐううう……!」ズキズキズキ

夕立改二「こ、金剛さん!? 胸を押さえて……どこか痛むっぽい?!」

鳳翔改二「曽提督、さすがにそれは、やり過ぎなのではないでしょうか」オロオロ

曽大佐「深海棲艦と手を組むような愚か者の言葉に耳を傾ける必要はない!! このゴミを持ち帰って伝えろ! 我々は、貴様らに」

 割れた木箱から噴き出す白煙<ブシューーーーー!!!

曽大佐「屈しは……なぁっ!? な、なんだこの煙は!!」

 白煙→カースドガス<ブシューーーーー!!!

曽大佐「うおお、なんだ!? 何も見えんぞっ!」モワモワモワッ

コロラド「え、ええ!? なに!? 何が起きたの!?」


矢矧改二「曽提督!」

夕立改二「真っ白で何も見えないっぽい!!」

鳳翔改二「ま、窓と扉を開けてください! 早く!」

長門改二「一体何だというんだ!! くそ、扉はどこだ!?」

コロラド「ちょっと、走ってぶつかったらこの子たちが怪我をするじゃない! 静かに歩きなさいよ!」

長門改二「す、すまん!!」

 モワモワモワ…

長門改二「む、煙が晴れてきたか……?」

鳳翔改二「み、皆さん大丈夫ですか!? 具合が悪くなったりしていませんか!?」

夕立改二「前が見えなくなっただけで、苦しい感じも全然しなかったっぽい!」

金剛改二「煙と言うより湯気のような、ただ白いだけの煙でしたネ……?」

コロラド「もし催涙ガスなら刺激臭とかがあるはずだけど……いったい、なんの煙だったの?」

矢矧改二「提督、大丈夫ですか……?」

曽大佐(老人化)「……フガッ?」

矢矧改二「ってええ!?」

鳳翔改二「!?」


コロラド「ちょっ……!?」

加賀改二「えっ、誰ですかあれは」

長門改二「まさか……曽提督か?」

金剛改二「」シロメ

夕立改二「金剛さん!? しっかりするっぽい!!」ユサユサ

曽大佐「なんだ……俺の身に何が起こっ……ぐう!? い、いたたたた!?」ビキッ!

曽大佐「か、体が痛いし、足取りが重いぞ!! それに目がかすむし……体に力がまるで入らん……!」ヨロヨロッ

矢矧改二「……」ボーゼン

曽大佐「矢矧! 間抜け面でぼーっと突っ立っているな!! 何が起こったのか説明し……ぅげほっ! げほ、げほっ!!」

 扉<ガチャtッ

初春「ふむ、やっと箱を開けたか。随分と悶着あったものじゃの……ん? なんじゃ、開けずに壊したのかえ?」

コロラド「初春!?」

曽大佐「ぐぬう、誰だ!! ドアを開けっぱなしにしたやつは!! ……あいつは誰だ!?」

初春「なんとまあ、予想以上の姿になったのう……それより、やはりわらわのことは覚えておらぬか」

幼朝潮「あっ、はつはるさん!」


幼陸奥「ごめんなさい、あのはこ、こわされちゃったの……」

幼大和「せっかく、ていとくさんから、おくりものだって、いわれたのに……」ジワッ

初春「ああ、気に病むことはないぞ。もともと、壊されても構わぬものじゃったからの。開けずに捨てられようものなら考えたものじゃが」

幼榛名「ところで、あのおじいちゃんはだれですか?」

幼由良「はこからけむりがでてきたら、あのおじいちゃんがいたんです」

初春「ああ、あれが曽大佐じゃ。多分」

幼赤城「そうなのですか? さっきまでいた、つよそうなおとこのひとと、ぜんぜんちがいますけど……」

曽大佐「ぐぅ……目が見えん! あれは誰だ!」ヨボヨボ

矢矧改二「初春です。この鎮守府にはいないはずですが……」

曽大佐「ああ!? 誰だってぇ!?」

矢矧改二「初春です!!」

鳳翔改二「もしかして……耳まで遠くなってますか」

金剛改二「」ヨロフラァ…

夕立改二「金剛さん!! 本当にしっかりするっぽい!!」ガシッ!


コロラド「ちょっと初春!! あの箱のギミックはいったいどういうことよ!」

初春「ん? コロラドは玉手箱を知らぬのか?」

コロラド「タマテバコ?」

初春「うむ。日本では有名な御伽噺でのう」

初春「砂浜で、子供にいじめられていた亀を助けた浦島太郎という若者が、そのお礼に海底の城でおもてなしを受けるという噺でな」

初春「その浦島太郎が帰り際に渡される箱が玉手箱でのう。開けると煙が出て、あの通り齢を取りおじいさんになる、という代物じゃ」

コロラド「なんでよ!?」

初春「浦島太郎が元の砂浜に帰ったあとは景色が全然違っていて、生家もなくなっていたんじゃと」

初春「それはおそらく、浦島太郎がおもてなしを受けている間、陸の上では数十年の年月が経っていたんじゃと言われておる」

初春「ゆえに、箱を開けたことで、浦島太郎が本来陸の上で過ごしていた時の年齢になった、と、考えられておるんじゃ」

コロラド「ええ……? わけがわからないわ。今の話のどの辺が教訓になるっていうの?」

初春「欧米では童話にも何かしら教訓を持たせるようじゃが、日本の昔話は理不尽な結末も多いからのう。無理に理解せんでも良い」

コロラド「……結局、あのタマテバコは、なんだったの? なんであんなことを?」

初春「……」


夕立改二「タマテバコ……金剛さん、知ってるっぽい?」

金剛改二「」

夕立改二「へ、返事してっぽい!!」オタオタ

長門改二「か、加賀は、今の昔話? は、知っているか?」

加賀改二「え、ええ……少しだけ。ただ、玉手箱を持って帰ってきたという部分は私も知らなかったわ」

初春「……基本的な教養すら、この鎮守府では教えられておらんと言うか。ふむ……」ボソッ

矢矧改二「て、提督、大丈夫ですか……?」

曽大佐「おのれ、足に力が入らん……さっきの煙の仕業か!? 矢矧、手を貸せ!」

初春「さて。久しいのう、曽提督。最早、見る影もないがの」

曽大佐「……誰だお前は? 久しいなどと言われても、俺の艦隊に貴様がいた記憶はないぞ!」

初春「ふむ、当然ではあるか。わらわも、この鎮守府には3日と居らんかったからの」

鳳翔改二「3日? ……どなたか、知っておいでで?」

長門改二「いや、知らないな?」


初春「なぬ? 長門には追い掛け回された記憶があるんじゃが?」

長門改二「なんだと? 私は記憶にないぞ」

初春「むう……その様子じゃと、本当に覚えてもおらんようじゃな」

矢矧改二「あなた、いったい何のつもりで……」

初春「……夕立が5隻」

夕立改二「ぽい!?」

初春「村雨が4隻、暁と響と電が3隻ずつ、雷が2隻で、白露と時雨が1隻ずつ、じゃったかの」

初春「それから、朝潮型が6隻、吹雪型が5隻、綾波型と初春型が4隻ずつ、それから……」

初雪「睦月型と陽炎型が1隻ずつ」ヌッ

朧「そして球磨型と長良型も2隻ずつ、だったよね」スッ

加賀改二「……!」ハッ

初春「……なんじゃ、おぬしたちも来たのか」

N特尉「万が一にも、初春に間違ったことを起こされるわけにはいかないからな……っと、もう入って大丈夫なのか?」

妙高「煙はなくなっているから大丈夫みたいですよ」

磯波「心配なら、スマホでやりとりしますか?」

N特尉「スマホのビデオ通話でか? そこまで大袈裟にしていたら、さすがに間抜けに見えるな。やめておこう」


加賀改二「もしや……」アオザメ

夕立改二「加賀さんもどうしたの!? 顔色悪いっぽい!」

鳳翔改二「失礼ですが、あなたがたは……?」

N特尉「申し遅れました、私はN特務大尉! 妙高と磯波は私の部下。初春たちは協力者として他の鎮守府より同行してもらっています」

N特尉「我々は、曽大佐の艦娘の監督の方法に問題があると伺い、実態を確認するため参じた次第です」

曽大佐「N特務大尉? 貴様か……深海棲艦の手下に成り下がった、特別警察扱いの下っ端というのは!!」

N特尉「……」ヒクッ

妙高「……」カチン

磯波「……」ムカッ

朧(この三人、結構似たもの同士っぽいなあ)

N特尉「ずいぶんな挨拶ですな。まあいい、早速だがひとつずつ伺いましょう。私が深海棲艦の手下というのは、何を根拠に?」

曽大佐「あの島の提督から、俺の艦娘を引き取る取引をしたらしいな! その時点で深海棲艦に媚びを売った非国民ではないか!!」

曽大佐「おまけに連れてきたのは、似ても似つかぬ偽物だ! これで仕事をしに来たとほざくか!? 深海棲艦の犬め!!」

初雪「……なにそれ」

朧「その言い草は、さすがにアタシも頭にくるんだけど」


N特尉「ふふ……いや、結構結構。謂れのない誹りを受けるのも、この仕事を請け負ってからは慣れたものだ」

N特尉「まず、この小さな艦娘たちが貴君の艦隊の所属であったことは間違いないぞ。その箱に……なんだ? 壊したのか!?」

曽大佐「持って帰れ! そんなもの、見たくもない!」

N特尉「そうはいかない。この箱の中には貴君に見てもらわなければ困るものが入っている」スッ

 チャリチャリッ

N特尉「見ろ。これは貴君が大和たちに渡した指輪だ」チャラッ

曽大佐「!!」

鳳翔改二「そ、それは本物ですか!?」

N特尉「カッコカリの指輪はすべて海軍からの支給品だ。誰から誰に向けたものか、裏に刻印が入っている。ご確認いただきたい」スッ

鳳翔改二「……では、私が改めさせていただきます」スチャッ

朧(ここの鳳翔さん、細かいものを見るとき眼鏡かけるのか……)

鳳翔改二「……間違い、ないようですね。同じ刻印が、私の指輪にも同様にありました」

長門改二「あいつらが陸奥たちを殺して奪ったんじゃないのか!?」

N特尉「それはないと思うがな。少なくとも彼は、私たちよりもはるかに艦娘のことを思い遣ることのできる人物だ」

長門改二「何を根拠に!!」


N特尉「根拠はこの初雪と朧だ。この二人は、深海棲艦の棲むあの島の艦娘で……」

長門改二「あ、あいつの部下だと!?」

N特尉「そして、私の元部下でもある」

鳳翔改二「そういうことでしたか……!」ジロッ

長門改二「貴様らはやはりグルだったということだな!」ギリッ…!

N特尉「残念ながら、そういう間柄ではない。私はかつて、大湊の鎮守府で艦隊を率いていたが……」

N特尉「ある海域の攻略のために捨て艦という戦法を執った。そのとき、この朧を轟沈させている」

加賀改二「!」

N特尉「朧はその後、××国××島に流れ着き、そのままその島の鎮守府に着任して活動することになった」

N特尉「のちに墓場島と呼ばれたその島の鎮守府を管理していたのが、いま、深海棲艦と共に暮らしている提督だ」

長門改二「ご、轟沈経験艦だと……!?」

鳳翔改二「解体せず、そのまま運用していたというのですか……!?」

朧(……ふーん。こっちの長門さんや鳳翔さんは、そういう目で朧を見るんだ……)ムスッ

N特尉「なので、私と彼がグルだと言うのは言いがかりだな。私は彼らに憎まれ疎まれることはあっても、望んでつるむようなことはない」

朧「……」


加賀改二「初雪も、そうなのですか……?」

N特尉「いや。初雪は、私が艦娘管理ツールを使って酷使したために、過労で遠征途中に意識を失い艦隊から落伍したのだ」

N特尉「その初雪を保護し、人道に反した私を糾弾したのも、同じくあの島の提督だ」

加賀改二「管理ツール……もしや、艦娘洗脳ツールのことですか?」

N特尉「そうとも言われているな。それを使ったことにより、私は鎮守府の運営の権利を奪われ、本営の命により今の任務に就いている」

初雪「……」

加賀改二「……あなたが、洗脳ツールを使った目的は何です?」

N特尉「効率化のためだ。当時、私は深海棲艦を撃滅すべく、分単位で艦娘の行動を指示できるようにと、そのツールを導入した」

N特尉「少しでも、この国から……私の故郷から深海棲艦を駆逐するため、手段を選ばぬ非道な方法を、一度ならず二度、選択した」

加賀改二「……」

金剛改二「……」

長門改二「その程度のことで貴様が罪を問われるのは、おかしくないか?」

N特尉「!」

初雪「……どういうこと……?」


矢矧改二「人類のために、艦娘を使ったのでしょう? 正しいことに使ったのであれば、何ら問題はないのでは……」

鳳翔改二「かつてこの鎮守府でも、捨て艦自体は行われていたと聞いていますし……」

鳳翔改二「覚悟を決めたのでしたら、そこまで咎められることではないのでは」

磯波「妙高さん……ここの人たち、思想というか、考え方が……」ヒソヒソ

妙高「ええ、いけませんね……」ヒソッ

鳳翔改二「さすがに、その捨て艦で沈んだ艦娘が戻ってきた、という話までは、知りませんでしたが……」

加賀改二「……つまり、あなたが連れてきたその初春は、私たちの鎮守府で捨て艦にした艦娘のうちの一人……」

N特尉「!」

長門改二「なんだと!?」

加賀改二「そして、さっき初春が言っていた、白露型や暁型の数。あれは、曽大佐が沈めた捨て艦の数……」

鳳翔改二「!!」

加賀改二「そう、言いたいのね……!?」キッ

N特尉「……どうなんだ、初春」

コロラド「ちょっと、今の話、本当なの!?」

初春「……」

長門改二「曽提督……そうなのか!?」

鳳翔改二「提督……!?」


曽大佐「そんな昔のことなど、覚えているか!」フガッ!

曽大佐「捨て艦など、珍しい戦術でも何でもない! その程度のことでうろたえるな!」

曽大佐「使える手段は何でも使うべきだ! そんな弱腰な態度で、深海棲艦を相手に勝利など掴めるか!!」

曽大佐「お前たち艦娘は兵器だ! 深海棲艦という侵略者を打ち滅ぼすための兵器だ! それ以外のなんだというのだ!!」

加賀改二「……っ」

N特尉「これは、取り付く島もなさそうだな」

コロラド「……」

曽大佐「鳳翔! この指輪は本物だと言うのか!」

鳳翔改二「は、はい……!」

曽大佐「だとしたら、この役立たずの餓鬼どもが、我々が見送った大和の成れの果てだと……そう、言うんだな!?」

鳳翔改二「そ、そうだと、思われます……!」

曽大佐「そうか。ならば、こいつらは解体しろ! 我が艦隊には不要だ!」

鳳翔改二「な!?」

幼大和「!!」


曽大佐「聞こえなかったか! 俺はこいつらを解体しろと言ったんだ!!」

N特尉「……本気ですか」

曽大佐「当然だろう! こいつらは負けたんだぞ! 戻ってくることが出来なければ、今頃海の底に沈んでいたはずの艦娘だ!」

曽大佐「戦力を失うという意味では、海の藻屑になるのも、解体するのも同じこと! 役立たずどもを艦隊に置いておく理由などない!」

曽大佐「いや、解体すればいくらかの資材になるのだ! ただ轟沈させるより何倍も我が艦隊のためになるだろう!!」

N特尉「……」

曽大佐「我々は、いつの間にか甘えていたようだ。艦隊が負けても、迅速に下がれば誰も沈むことはないと」

曽大佐「それが大きな間違いだったのだ! 深海棲艦に敗北すれば、すべてを失う! 本来、戦争で生還できる保証など、どこにもない!」

曽大佐「負ければ死ぬ! それだけの話を、我々は、忘れていただけなのだ!!」

初春「……」

曽大佐「我が艦隊がこれ以上無様な敗北を重ねないよう、見せしめとして大々的に解体処分を行わなければならん!」

曽大佐「とっととそいつらを、工廠へ連れていけ!!」

鳳翔改二「……っ」

幼大和「ぐすっ、ぐすっ……やだ……もう、やだぁ……!」

鳳翔改二「!」ハッ


幼大和「やまと、ここが、おうちだって、きいたのに……もう、やだぁ……」

幼大和「こんなとこ、おうちじゃないぃ……!」ポロポロポロ

鳳翔改二「……」ズキッ

幼赤城「や、やまとさん……!」

幼陸奥「わたしたち、どうなるの……かいたい、されるの……?」

幼由良「そんなの、やだあ……!」グスグス

長門改二「……っ」

幼朝潮「きたばっかりだったのに……おやくに、たちたかった、です……」ポロポロポロ

幼榛名「は、はるなは……はるなはぁ……」グスッ

金剛改二「ぐ、う、うぎぎぎ……うがあああ!」グラングラングラン

加賀改二「……」ウツムキ

夕立改二「あうう、金剛さんも加賀さんも、さっきから様子がおかしいっぽい!!」オロオロ

曽大佐「おい、特務大尉! 貴様は、こいつらが俺の艦娘だから連れてきた! そうだな!?」

曽大佐「だとしたら、俺がこいつらをどうしようと、俺の勝手だ! 解体は我らの任務のうちにも入っている! そうだな!!」

N特尉「……その通りだ。貴君配下の艦娘をどうするかは、貴君の自由だ」

曽大佐「そうだろう! そうだろう!! 俺が俺の艦娘に何をしようと、貴様にそれを止める権限はないのだ!!」

曽大佐「俺のしていることは正しいのだ! なにも間違ってはいない! ふはははっぐえっ、げほ、げほげほっ!」


N特尉「……」

妙高「N提督! 何かいい方法は……!」

N特尉「今の時点では彼のやることに違法性はない。俺たちが手出しすることはできない」

N特尉「今の状態で彼の説得は難しいだろう。この場で起こった出来事を本営に報告し、大将たちの判断を仰ぐしかない……!」

妙高「しかしそれでは、大和さんたちが解体されてしまうのでは……」

N特尉「この場で防ぐ方法はない。俺が手を出せば越権行為になる……!」

コロラド「ねえ、N特務大尉。あなたは、彼がなぜあそこまで深海棲艦を滅ぼしたがってるか、知っていて?」

N特尉「ん!? い、いや、彼の家系の影響じゃないのか? 傍流ではあるが軍人の家系で、そこから来る責任感だと思っているが……」

コロラド「あの提督とは、何も話していないのね?」

N特尉「あ、ああ、そこは俺は何も聞いてないぞ」

曽大佐「ぜえ、ぜえ……なんで、こんなに疲れるんだ? おい矢矧、お前、背が伸びたか?」

矢矧改二「ち、違います! 曽提督が縮んだんです!」

曽大佐「縮んだ? 何を馬鹿なことを!」


磯波「あ、あの、すみません、どなたか大きめの鏡を持ってきてもらえませんか……?」

加賀改二「鏡?」

磯波「曽大佐のあの御様子では、ご自身の身に何が起こったのか、理解できていないのではないかと思います……」

加賀改二「そ、そうかもしれないけれど……」

夕立改二「夕立が持ってくるっぽい!!」ダッシュ!

加賀改二「でも……見せていいものなのかしら」

磯波「ご自身の身に何が起こったのかを理解できていないほうが、問題になると思いますよ……?」

曽大佐「ぐぬう……こいつらが来てから、体が言うことをきかん! やはりあの煙に毒を仕込んでいたんだろう!!」

矢矧改二「で、ですから、曽提督が……」

夕立改二「矢矧さんどいてー! 鏡、持ってきたっぽい! 見てもらうのが一番早いっぽい!!」バッ!

曽大佐「き、貴様!? 勝手にどこかの鏡を……」

 鏡『よう、ジジイ!』

曽大佐「お、お、おおおおおおお!?」

曽大佐「な……なんだ!? なんだこの、この貧相な姿わあああああ!!」

今回はここまで。

影牢に「タマテバコ」なる罠はありませんが、
初期にあったカースドガス(動きが鈍化するガス)を魔改造して作り込んだものとお考えください。

>398
魂に含まれる害毒な要素を切り取った結果、邪気がなくなり幼児化した、というような感じです。
残り香については、由良さんをはじめとするクンカー勢が詳しいかと……(丸投げ)

それでは続きです。


初春「……やっと自覚しおったか」フンッ

曽大佐「馬鹿な! これが……これが俺の姿……!!?」ワナワナワナ

曽大佐「俺は……俺はまだ40だぞ? なんだこれは……なんだこの顔はぁぁ……!」ヘナヘナヘナ…

曽大佐「うそだ……俺が、なんで、なんでこんな目に……」

 ゴソッ

曽大佐「ん?」

 (曽大佐が頭を抱えると、ごっそりと頭髪が抜け落ちて、皺だらけの指に絡みつく)

曽大佐「ぎ……ぎゃあああああああ!! お、お、俺の、髪がああああ!!?」

矢矧改二「ひっ」

曽大佐「……ぁ……あああ……」シオシオ…

鳳翔改二「」ポカーン

加賀改二「」アッケ

長門改二「」アングリ

金剛改二「」シロメ


N特尉「うわ……あんなに抜け毛がごっそり……」アオザメ

妙高「……一気に老人感が出ましたね……」

初雪「落ち武者ヘアー」ボソッ

磯波「ふぐっ……!?」クチオサエ

朧「初雪、笑わせないで……」クチオサエ

初雪「ん、ごめん」

コロラド「……ちょっと、あとでオチムシャって何のことか教えなさいよ」ヒソヒソ

初雪「うん」コク

夕立改二「わぁ……曽提督さん、いきなりハゲたっぽい……」ドンビキ

曽大佐「ハゲてないわあああああ!!!」

夕立改二「きゃっ!? ゆ、夕立は嘘ついてないっぽい! ちゃんと鏡、見るっぽい!」

曽大佐「やかましい! 口答えするなああ!!」ブンッ!

夕立改二「ひっ!」カガミガード

 鏡<ポキョン

曽大佐「……」


夕立改二「……」プルプル

曽大佐「ぎ……」

夕立改二「?」

曽大佐「ぎゃあああああ! 腕が、腕が痛えええ!!」ゴロゴロゴロ

矢矧改二「曽提督!? だ、大丈夫ですか!?」

夕立改二「ゆ、夕立、何もしてない! してないっぽい……ぽいじゃなくて、してない! ……よね?」

初春「うむ、鏡を見せて、それから殴りかかってきたところを頭を庇っただけじゃ。夕立からは、曽大佐になんら危害を加えておらん」

夕立改二「だよね……えっと、あのね? 初春?」

初春「む?」

夕立改二「曽提督さん、もしかして、めちゃくちゃ弱くなったっぽい?」

初春「まあ、老人になったんじゃから、筋肉も落ちて弱くなったことは確かじゃと思うがの?」

初春「しかし、まさか曽大佐があの場面で夕立を殴ろうとするとは思わなんだ。鏡が割れたら大惨事じゃろうに」

夕立改二「そのくらいなら、よくあることだよ?」

初春「よくあること?」

夕立改二「うん、窓のガラスくらいなら平気で叩いて割るし。その交換修理も明石さんに押し付けて、交換が遅いとまた怒るし」


夕立改二「夕立も、曽提督さんに報告したり、機嫌が悪くなったりすると、ばしって叩かれてたから」

初春「なんじゃと。それはまことか」

夕立改二「うん、本当。これまでも、たっくさん! 夕立、強いからそんなに痛くなかったけど、なにかあるたびグーで叩かれて」

夕立改二「それで……いま気付いたんだけど、夕立、曽提督さんのこと、そんなに好きじゃない……」

初春「……ぽい、は、つかないんじゃな?」

夕立改二「つけなくていいっぽい……もう、こんなつまんないことで怒られるの、嫌だもん」

夕立改二「あ、それと……さっき言ってた、今の夕立が来る前の夕立を5隻沈めたって、本当っぽい?」

初春「うむ、本営に残っておる記録から調べた結果じゃ」

初春「ただ、その5隻というのも、わらわが沈んだ時と同じ時期の轟沈艦を調べた結果じゃからな」

初春「もしかしたら、それ以上の艦娘を沈めているかもしれぬ」

夕立改二「……そう……そうなんだ」ショボン

曽大佐「うぐううう!! 夕立、貴様あああ!」ヨロヨロッ

夕立改二「ひっ! ゆ、夕立、何もしてない! 初春もそう言ってるっぽい! あ、ぽくない! 言ってる!!」

曽大佐「この……馬鹿犬めがあああ! 解体だ! 貴様も解体処分だあああ!!」

夕立改二「ぽいっ!?」


曽大佐「連れていけ! 早くこの馬鹿どもを処分しろ!!」

加賀改二「さすがにそれは横暴よ……夕立は、鏡を持ってきてあなたに見せただけだわ」

曽大佐「くっ……なんだその目は! 貴様も俺に楯突くか……ぐっ、こ、腰が……!」ヨロッ

曽大佐「ま、まともに立つことすらできんとは……ええい、加賀! 頭が高いぞ! しゃがめ!」

加賀改二「……は?」

長門改二「て、提督……いくらなんでも、それは」

曽大佐「なんだ長門! 貴様も俺に意見する気か!! どいつもこいつも……俺の上から話しかけるな!!」

長門改二「……そ、そのようなつもりは」オロオロ

曽大佐「なんだその顔は! この鎮守府がここまで評価されているのは、お前たちを指揮する俺の成果だ! 頭が高い!!」

曽大佐「この鎮守府で、その俺に逆らい、口を出すことがあってはならんのだ! そうしなければ、海の平和など生まれん!!」

N特尉「違うぞ曽大佐!! 我々海軍は……」

曽大佐「いいや違わん! 深海棲艦の犬がこの俺に意見するな!」

N特尉「曽大佐!! 我々海軍の本分は国民の……」

曽大佐「やかましい! この侵入者どもも捕まえて全員吊るし上げろ! こいつらは敵だ! 深海棲艦の手先だ!!」


加賀改二「何を……何を言っているの」

長門改二「……」ヒキッ

矢矧改二「曽提督! 落ち着いてください!」

曽大佐「落ち着けだと!? 敵襲だぞ!! この鎮守府の最高権力者であるこの俺がこんな目に遭っているんだぞ! 早くこいつらを」

金剛改二「っいい加減にしやがれこのファッキンクソテートクがああああ!!!!!」

曽大佐「!?」ビクッ!

N特尉「!?」ビクッ!

長門改二「こ、金剛!?」

金剛改二「さっきから黙って聞いてりゃ、俺言うことを聞け、俺に逆らうなと、自分のことばかり……!」ビキビキビキ

幼榛名「こ、こんごうおねえさま……!?」

金剛改二「私が! あなたの厳しさを受け入れてきたのは、そうでなければ深海棲艦と戦い続けられないからだと信じていたからよッ!」

金剛改二「深海棲艦に命を脅かされている人たちのために! どんな犠牲が出たとしても、強い意志で戦い続けなければいけないと!!」

金剛改二「あなたのその言葉を信じて、私たちは体を張って、命を懸けて、戦ってきたのよ!!」ギリギリギリッ!!

金剛改二「けどなあ! 今日のやり取りを見て確信したわッ!! 『おまえ』は! おまえのためにしか戦っちゃいないってことをなああ!!」

矢矧改二「……」

朧「金剛さんの語尾が……」

夕立改二「壊れたっぽい……」


金剛改二「曽提督がここまで愛の感じられないバカヤローだとは思ってもなかったわ!! ふざっけんじゃねえええええ!!」

初雪「もう語尾どころじゃないんだけど……」

加賀改二「……残念だけど、私も金剛さんと同じ感想を抱いたわ。もう、曽提督の下で戦いたいと、思えない……」

長門改二「加賀……!?」

加賀改二「私たちは、つけを支払うときが来たのよ。裁きを受けるときが来た……特務大尉が、それを告げに来た。そうなのでしょう?」

加賀改二「思い返せば、仲間を犠牲にすることを前提にして作戦を立てることを、間違いだと進言しなかったのが、私の過ち……」

加賀改二「この鎮守府の歪んだ『普通』に逆らわず……いいえ、逆らって解体されることを恐れた、私の怯懦が生んだ罪」

加賀改二「初春だったわね。私は、あなたのこと、ちゃんと覚えてはいないけれど……あなたたちがいたころのことは覚えてるわ」

初春「!」

加賀改二「確か、あなたがいたころにも、長門や金剛がいたと思うけれど……」

加賀改二「彼女たちは解体されたわ。捨て艦をやめるよう、彼に意見したがために……」

金剛改二「え!?」

長門改二「わ、私に先代がいたのか!?」

加賀改二「ええ。特に長門は、殴りかからんとする勢いで……それに引き換え、私ときたら」

初春「……」


加賀改二「我が身可愛さに、曽提督を諫めようともせず……だからいま、恥を晒して生き永らえてここにいる……」

加賀改二「今の長門が着任したとき、曽提督がいきなり怒鳴りつけたのも、きっと、そういうことがあったから……」

加賀改二「何をしても曽提督に逆らわないように刷り込んだ。そうなのでしょう、曽提督?」

長門改二「……!」

加賀改二「大和は……見る限り、何も覚えていないようね。それはある意味、不幸中の幸いかもしれないわ」

幼大和「?」グスン

加賀改二「曽大佐が新しく着任した艦娘に恐怖を刷り込み……私はそれを知りながらも止めずに傍観し、唯々諾々と従った……」

加賀改二「ここにいる子たちを解体するというのなら、異を唱えなかった愚かな私も解体されて然るべきよ」

金剛改二「加賀!? あなたはここに残らないと駄目でしょ!? あなたはこの鎮守府の、空母機動部隊の要よ!?」

加賀改二「そんなものは関係ないわ。要と言うのなら、私よりも、皆を思い遣る心を持つあなたのほうが、適任よ」

鳳翔改二「金剛さん、加賀さん。そこまでよ」

金剛改二「!!」

加賀改二「鳳翔、さん……!」

鳳翔改二「曽提督。改めてお伺いします。ここにいる、大和さんたち。および、夕立、金剛、加賀……」

鳳翔改二「この者たちを、全員解体するのですね?」ヒザマズキ

金剛改二「鳳翔……!?」

加賀改二「あなたは、その男に傅くのですか……!」


曽大佐「……くどい。俺は、さっきからそう言っているだろう! 命令を変えた気はない!」

鳳翔改二「そうですか……わかりました。致し方ありませんね」

金剛改二「鳳翔……っ! まさか……!」

加賀改二「……」ウツムキ

鳳翔改二「曽提督。短い間でしたが、お世話になりました」セイザ

曽大佐「!?」

鳳翔改二「鳳翔は、故郷(さと)に帰らせていただきます」ペコリ

金剛改二「……ほ、鳳翔?」

 指輪<コトン

鳳翔改二「これも、お返しいたします」

加賀改二「鳳翔さん……?」

鳳翔改二「この鎮守府に来て、ほんのわずかの間に、皆さんと肩を並べられるほどに鍛えていただいたこと、本当に感謝しております」

鳳翔改二「また、艦娘は敵艦を沈めることで世界に貢献できる。敵の命を必ず奪うが任務ゆえに、我々もまた命を惜しむべきではない」

鳳翔改二「そのように、曽提督から常々ご教示いただいておりましたが……」


鳳翔改二「これまで曽提督の手足となって、懸命に戦い抜いてきた功労者である大和さんたちを、ただの一言も労うこともなく」

鳳翔改二「ましてや、子供の姿にされた艦娘を、目障りと言わんばかりのその態度に、私は、疑問を覚えてしまいました」

鳳翔改二「私はそれを……鳳翔として、艦娘として。人を守る身として、看過して良いものか、受け入れてよいものか、と」

曽大佐「……なっ、なあっ……」

鳳翔改二「曽提督のご意向に沿うことのできない不束者ですので、指輪をお返しし、ここから去ることを決意した次第にございます」

鳳翔改二「大和さんたちも私が一緒に連れて行きます。轟沈も同然の身であれば、いなくなったとて同じことでしょう」スクッ

鳳翔改二「あとのことは、どうぞご心配なく……」

金剛改二「待ちなさい鳳翔! そういうことなら、私も連れて行きなさい!」

鳳翔改二「金剛さん……?」

幼榛名「こ、こんごう、おねえさま……!?」

金剛改二「ああ、榛名……ごめんなさい、あなたを、たくさん怖がらせてしまったわね」ニコッ

幼榛名「こんごうおねえさま!? おててが、まっかに……!」

加賀改二「手のひらから出血が……金剛、あなた、手を握りしめすぎて、手のひらに爪が食い込んだのね?」

金剛改二「あはは、加減できなくなっちゃって……」

幼榛名「こんごうおねえさま、かわいそう……! はやく、あかしさんにみてもらいましょう!」ウルウル

鳳翔改二「ええ、それが良いですね。工廠に行きましょう、解体ではなく、修理のために」


夕立改二「待って待って! 夕立も一緒に行くっぽい!」

鳳翔改二「わかりました、では、ご一緒しましょう」ニコッ

夕立改二「ほーらー、加賀さんも、一緒に行くっぽい!!」

加賀改二「わ、私も……!?」

夕立改二「加賀さんも解体される仲間っぽい! だったら、夕立たちと一緒に行くのがいいっぽい!!」ニコー

加賀改二「……そう……そうね」

夕立改二「あ、あとこれ! 夕立、もういらないから!」ポイッ

 指輪<チャリンッ

曽大佐「な……」

 指輪<チャリリンッ

金剛改二「私のも返すわ!」フンッ!

加賀改二「……お世話になりました。失礼します」

曽大佐「……!!」

矢矧改二「……」アッケ


幼榛名「こんごうおねえさま、はやくいきましょう!」フリフリ

鳳翔改二「さ、みなさん、工廠はこちらですよ」

幼大和「あ、あの、ほうしょうさん、おてて、つないでいいですか?」テレッ

鳳翔改二「……! ええ、いいですよ、行きましょう」ニコッ

幼大和「はいっ!」パァッ

幼榛名「こんごうおねえさまも、おててをだしてください!」

金剛改二「えっ? 榛名、私の手は……」

幼榛名「おまじないをしてあげます!」テヲトリ

金剛改二「??」テヲトラレ

幼榛名「むむむー……いたいのいたいの、とんでいけー!」クルクルピーン

金剛改二「……!」

幼榛名「おけがはなおせないですけど、いたいのは、これですこしやわらいだとおもいます!」

金剛改二「……ふふっ、そうね……!」ニコッ

幼榛名「さあ、こんごうおねえさま、いきましょう!」ニコニコッ


夕立改二「夕立も手をつないであげる!! 由良! 朝潮!」

幼朝潮「えっ、いいんですか?」

幼由良「ゆらも、いいの?」

夕立改二「いまは夕立がお姉ちゃんっぽいから、手をつないであげるっぽい!!」

幼朝潮「そ、それじゃ、よろしくおねがいします!」キュッ

幼由良「なんだか、へんなかんじ……でも、うれしい、かなっ」キュッ

夕立改二「加賀さんも、そっちの二人と手を繋いでくるっぽい!」

加賀改二「えっ?」

幼陸奥「……」ジーッ

幼赤城「どうしました、かがしゃん?」クビカシゲ

加賀改二(……小さい赤城さんが可愛すぎて心臓が持たないわ)キューン

幼赤城「かがしゃん? おむねをおしゃえて、くるしそうですけど、だいじょうぶですか?」クビカシゲ

加賀改二「え、ええ、大丈夫……だけど、私は……」

加賀改二(……私は、艦娘の犠牲を容認した身。このまま、生きていていいのかしら……)


幼赤城「かがしゃん。いっしょに、いきましょう?」ニコー

加賀改二(……でも、この笑顔は、守っていきたい。守っていかなければ……この身に換えても)

加賀改二「そうね。みんなで、行きましょうか」

幼陸奥「うん……」チラッ

加賀改二「! ああ、長門が気になるの?」

幼陸奥「うん……」ションボリ

加賀改二「大丈夫よ、長門はお仕事をしているだけ。話が終われば、きっと後から来るわ」

幼陸奥「……ほんとう?」

加賀改二「もし来るのが遅いようなら、私が呼びに戻るから。みんなで、工廠で待っていましょう?」シャガミ

幼陸奥「……うん!」パァッ

夕立改二「加賀さん遅いっぽい! 早く来るっぽい!」

加賀改二「……あなたこそ、この子たちと歩幅を合わせて歩きなさい」

夕立改二「わかってるっぽい!」

 ワイワイ…

曽大佐「……お、俺の」ヘナヘナ…ヘタッ

曽大佐「俺の……鎮守府の艦娘が……俺に、逆らう、なんて……っ!!」


曽大佐「……解体だ。あいつらは、できそこないだ! 存在を許すな! 解体しろ! 今すぐにだ!!」

長門改二「……し、しかし……」

曽大佐「何をしている長門! 俺の言うことをきけ!」

長門改二「……」

曽大佐「長門!!」

N特尉「……」

妙高「N提督? どうなさいました?」

N特尉「いや、鳳翔が短い間と言っていたが……もしかしてここに鳳翔が着任したのは、鳳翔の第二改装が発表されてからか……?」

矢矧改二「……そ、そういえば、そうかもしれません。一時期、ひたすら空母を建造していましたから……」

N特尉「そうか。いや、別にそれが悪いとは言わん、戦力が欲しいなら必死にもなるだろう。ただ、第二改装が発表がごく最近の話だからな」

磯波「そうだとしたら、鳳翔さんを相当に特別扱いしたんでしょうね……」

N特尉「カッコカリまで済ませたのに、こうもあっさりと三行半を出されたのでは、まあ、なんというか……」

妙高「同じ男としては、同情を禁じ得ない、と仰いますか?」

N特尉「いやいや、同情する気はないぞ? 言ってしまえば、鳳翔の能力目当てに指輪を渡したようなものだからな」

N特尉「悪し様に言い換えれば体目当てでカッコカリしたようなものだろう? 同じ男として、そういうのは許容したくない」


N特尉「そもそも、もうちょっと信頼関係を築いてからと言うか、お互いを知り歩み寄る時間があってから渡すべきだと思うんだ」

妙高(N提督も、お固いというか、お古いというか……)

N特尉「……まあ、曽大佐の見た目も含めて、こうはなりたくないな、とか、みじめだという気持ちは、多分にあるがな」ボソッ

妙高「それはある意味で同情なのでは?」

N特尉「だからそれはないよ……仮にも指輪を渡した相手に、あの態度はないと思うぞ? 母が大好きな私の父とは雲泥の差だ」

磯波「あの……曽大佐は、そこまで物事をロマンチックに考えてはなさそうですよ?」

N特尉「指輪を単なるブーストアイテムとしか考えてないと? ……そうか。寂しい話だな」

初春「何を呑気に語っておるか。それよりも、この鎮守府の現状を憂うべきじゃぞ」

初春「曽大佐による艦娘に対する圧力と暴力が日常化しており、この鎮守府ではそれが普通であると認識されておるようじゃ」

初春「その結果、他の鎮守府に対しても、非常に攻撃的な思想を持つ艦娘が多かった、と推測できるが?」

朧「……そういうことなんだろうね。矢矧さんや長門さんは、いまも戸惑ってるみたいだし」

磯波「私も、そう思います。モラルハラスメントも多分に含んでいたと言えそうですね」

矢矧改二「……」

長門改二「……」


コロラド「それより初春は私の質問に答えなさいよ。あなた、この鎮守府の出身なの?」

初春「うむ。着任して3日で捨て艦にされたのじゃ」

初春「ここでの思い出なぞ、せいぜい長門に追いかけられたくらいでな。しかし、やられっぱなしはやはり癪でのう」

初春「ここにいる朧も、N特尉に一泡吹かせておる。それを羨ましいと思ったゆえに、この場で彼奴めの鼻っ柱を叩き折ろうとしたわけじゃ」

コロラド「……誰かが味方になってくれると思ってたの?」

初春「その辺は考えておらんかったな。誰も味方にならぬなら、それはそれでN特尉の仕事がやりやすくなるだけであろうし」

初春「まあ、まさか、わらわのいたころの長門たちが懲罰で解体されていたというのは、ちと予想しておらんかったかのう……」

コロラド「それにしてもよ!? Suicide attack で40人以上も沈めたなんて本当なの!? 戦術以前の問題だわ……」

朧「多分、どんな手を打てばいいかわからなくて、試行錯誤を繰り返した結果、ってこと……なのかな?」

初春「下手な鉄砲……そのうちの一発がわらわであったということじゃな。意味があったか、それとも無駄玉であったかは最早わからぬがの」

曽大佐「……くそっ……艦娘のくせに、なんでこんな真似を……!! どうして、俺に逆らう……!!」

初春「貴様がわらわたちに敵対したからに決まっておろう。貴様がわらわたちや提督に手を出さねば良かったのじゃ」

初春「あの島に住む提督は、艦娘も深海棲艦も、戦わずに済む安息の地を求めておる」

初春「それを貴様は潰そうとした。じゃから提督も、貴様を叩きのめしたにすぎぬ」


曽大佐「だからと言って、俺をこんな姿にするかぁ……!? この、人でなしどもがぁ……!」

初春「貴様のように艦娘を使い捨てにする輩がそれを言うか。それでは復讐されて当然じゃな」フフッ

曽大佐「なにが復讐だっ! 道具の……道具の分際で!!」

初春「その道具たる艦娘を、これっぽっちも大事にせぬ者が辿る末路としては、相応しいものじゃと思うがのう」

初春「これは、貴様の自己満足のために海の藻屑と化した、わらわとその同胞(はらから)の恨みと心得よ」ギロリ

初春「ただ殺すなど生温い。生き恥を晒し、長く永く苦しむ術(すべ)はないものか……」

初春「そこまでわらわに考えさせたのは、貴様のこれまでの所業ゆえじゃぞ……!」

曽大佐「っ……!」

初春「貴様のような愚か者が二度と現れぬよう、海軍にも見せしめとして大々的に知らしめてやらねばならんしのう?」

曽大佐「見せしめだと……ふざけやがって……!」

初春「ふざけてなどおらぬ。貴様も先刻、大和たちを見せしめのために解体するとのたまっておったではないか」

初春「貴様はすべてにおいて判断を間違ったのじゃ」

初春「有無を言わさず深海棲艦をすべて殺すことを是としたのも、艦娘を道具のように扱ったことも」

曽大佐「間違いなものか……! 深海棲艦を滅ぼさなければ平和な海など来るはずもないのだぞ……!?」


N特尉「曽大佐。我々海軍の本分をお忘れか」

曽大佐「本分……!? そんなもの、深海棲艦の撃滅以外にないだろう! そうしなければ、海の平和は……」

N特尉「違う。我々の為すべきことは、国民の人命と財産を守ることだ。私は、戦わずに済むのなら、その道を選ぶべきだと考える」

N特尉「人の話を聞かずにすべて否定していたのでは、誰が歩み寄ろうとしているのか、誰が戦おうとしているのか」

N特尉「誰が救いを求めているのか、その声を聴き分けることもできないだろう」

曽大佐「寝ぼけたことを! だったらそのまま寝首を掻かれるがいい! 深海棲艦に裏切られ、そこにいる艦娘に殺されれば良いのだ!」

曽大佐「だいたい、俺だけがこんな目に遭うのは不公平だろう!! 貴様も俺のように、艦娘を沈めた報いを受けなければならんだろう!」

妙高「お言葉ですが、私がいる限り、そのようなことは起こりませんし、起こさせませんよ」

曽大佐「な……!」

妙高「かつてN提督がとった行動は間違いではありましたが、そうせざるを得なかった心情は理解できないほどではありません」

妙高「間違っているのなら正せばよいのです。自分の過ちに向き合い、考えを改め、そのうえで自分にできることをする……」

妙高「それができたからこそ……N提督が信頼に足る人物と私が信じているからこそ、私はN提督の元で働いているのですから」

曽大佐「信頼だと……!?」


妙高「あなたはどうなのですか? いまここに、この鎮守府に、あなたを心から慕い、信じる艦娘はどれほどいるというのですか!」

N特尉「妙高……」

妙高「あなたが何のために戦っているか。ただ深海棲艦の撃滅だと仰るのなら……」

曽大佐「だ、黙れ黙れ!! 艦娘の分際で、俺に意見するな!! 何が信頼だ!」

コロラド「……初春、そこをどいて」

初春「む?」

コロラド「曽大佐。あなたはどうして、ここまで深海棲艦を打ち倒そうとするの?」ズイ

曽大佐「な……っ、き、貴様! 寄るな!!」ジリッ

コロラド「……」ズイッ

曽大佐「よ、寄るんじゃない……! 来るなあ……っ!!」

コロラド「何を恐れているの? 恐れるべきは深海棲艦でしょう?」

曽大佐「来るなと言っているんだあ!!」

コロラド「……」ジッ

曽大佐「ひ……来るな……!」ガタガタ…


コロラド「はぁ……もう、いいわ。そういうことね」

妙高「どういうことです?」

コロラド「ここで話すべきことではないわ。あの提督の推測がおそらく当たっていたことだけは、確信できたけど」

妙高「……?」

磯波「あの……曽大佐がおじいさんになったのは、あの島の提督さんの仕業、と言うことになるんですか?」

初春「うむ。あの島に住まう者の中には、艦娘でも深海棲艦でもない、特別な力を持つ者たちがおってのう」

初春「その者たちから、提督があの玉手箱の作り方を教わったと聞いておる」

朧「深海棲艦からもいろいろ教えてもらった、って聞いてたけど?」

初春「うむ、確か、かーすどがす? に、深海の成分を練り込んだと聞いておるが」」

磯波「深海の成分……?」

初雪「……竜宮城が海底にあるから、とか……?」

妙高「関連性がないと言えないのが、なんとも言えませんね……」


N特尉「しかし……これからどうしたものかな。曽大佐との話が終わったら、鎮守府の実態を調べて結果を持ちかえる予定だったが」

長門改二「ま、待ってくれ。特務大尉殿は、調査が終わったら帰ると言うのか?」

N特尉「ああ、そうだが……」

長門改二「では、曽提督は……私たちはどうなるんだ?」

初春「そんなものは、おぬしたちは好きにすれば良かろう」

矢矧改二「で、でも、曽提督をあんな風にしたのはあなたたちでしょう!?」

初春「責任を取れと?」

矢矧改二「そ、そういうわけじゃ……」

初春「ふむ……わらわが責任をとれと言うのなら、取ってやらんでもないぞ?」

初春「この男のそっ首をこの場で撥ねてやろうという、後始末的な意味でなぁ……?」ドロリ

矢矧改二「な……!!」

N特尉「初春!!」

初春「まあ、それはそこのN特尉が許してはおかんじゃろうから、夢のまた夢でしかないがの」ハァ…

N特尉「あまり焦らせてくれるな。ため息をつきたいのはこっちだ」ハァ…

妙高「しかしこれは、曽大佐がワンマンですべてを決定してきたために、他に鎮守府の運営ができる艦娘がいなくなったということですか」

N特尉「この鎮守府の大淀はどうしたんだ」

矢矧改二「……通信室にいます。ただ、私たちが彼女と話したことはありません」


N特尉「とりあえず、案内してくれないか。引き続き、この鎮守府の実情の調査もしたい」

矢矧改二「わかりました……長門さん、一緒に行きませんか?」

長門改二「いや……すまない。私はまだここに残る」

長門改二「ここに来た艦娘に、曽提督がなぜこんなことになったのか、説明しなければならないし」

長門改二「その曽提督も、私が見ていないと何をするかわからないからな……」

曽大佐「……」ガタガタ…

N特尉「……」

長門改二「恐れながら、特務大尉殿。この鎮守府を見回ってきた後で良いので、我々はどうすればよいか、ご指示をいただきたい」

長門改二「少なくとも貴殿の感覚では、この鎮守府の規律は行き過ぎているところがある、と見ているのだろう?」

N特尉「……そうだな」

長門改二「恥ずかしながら、我々は貴殿の言う『普通』の感覚が分からない。そこからご教示いただけると助かる……!」

N特尉「承知した。本営に掛け合おう」

長門改二「……よろしく、頼む」ペコリ

長門改二「それから、大淀だが……あの曽提督をして厄介と評されている。彼女から話を聞くのは、一筋縄ではいかないかもしれないぞ」

N特尉「わかった。忠告感謝する」


 * その後 *

 * 曽大佐鎮守府内 工廠へ続く廊下 *

曽大佐の艦娘たち「「……」」ポカーン

幼大和&鳳翔改二「♪おーてーてー、つーないでー♪」

幼朝潮&夕立改二「♪のーみーちーをーゆーけぇーばー♪」

加賀改二「……」セキメン

幼赤城「かがしゃん? かがしゃんは、おしえてもらったおうたをうたわないんですか?」クビカシゲ

加賀改二(小首を傾げるさまがいちいち可愛らしい……)キューン

加賀改二「いえ……さすがに、少し恥ず……注目を集めてしまっていますから」

幼赤城「そうなんですか?」

夕立改二「加賀さんも一緒に歌うといいっぽい!」

加賀改二「こういう形で目立つのには、私は慣れていないんです」

鳳翔改二「さ、工廠につきましたよ。金剛さん」

金剛改二「ええ。明石ー!」

明石「ひいっ! み、みみみみなさまお揃いでっ!?」ビクビクッ!


金剛改二「あー、明石? もう、そんなに怯えなくていいのよ?」

明石「こ、ここ、今度はどんな無理難題……じゃなくて、ご用件でっ!?」ヘコヘコ

幼榛名「こんごうおねえさまの、おててをちりょうしてほしいんです!」

明石「へっ? ……ど、どちらさまで……?」

幼榛名「? はるなが、わかりませんか?」クビカシゲ

明石「は、榛名さ……えええええ?」

幼陸奥「ねえ。よくみたら、あかしもかおいろわるいわね?」

鳳翔改二「えっ? ……言われてみれば、確かに……」ジッ

明石「……ほ、鳳翔さん……?」

幼榛名「こんごうおねえさま。おててのちりょうは、はるながやります」

金剛改二「!」

幼榛名「あかしさんは、おやすみしたほうがよくないですか?」

金剛改二「……榛名は本当に優しい子ね……!」

明石「へっ? えっ?」


鳳翔改二「確かにこれまで、いろいろ押し付けすぎてきた気がしますし……」

鳳翔改二「いい機会です。明石さんにもゆっくり休んでいただいた方が良さそうですね」

明石「は……?」

鳳翔改二「なにか食べたいものはありますか? 良ければお台所をお借りして、何か作りましょう」

金剛改二「そうね、おかゆとか、何かおなかに食べ物を入れてから、ベッドで休んだ方がいいわね」

明石「……」ポカーン

明石「……」

明石「……」ジワッ

明石「な、なんなんですかあ……いきなり、私を心配するなんて、なにを企んで……」ボロボロボロ

幼大和「あ、あかしさん?」

明石「ちっちゃくなったり、優しくなったり! なにがあったんですかあ! みんなおかしくなっちゃったんですかあ!!」ウエーン!

加賀改二「……明石、ごめんなさい。あなたがそこまで疲弊していたことに、気付けなくて……」


N特尉「明石も重症だな……怯え切ってるじゃないか」

妙高「曽大佐が絶対権力のようになっていたんですね」

大淀「だから言ったじゃんか。新入り以外にまともな奴なんざこの鎮守府にはいねえってよォ」ケヒヒッ

朧「……こんなにガラの悪い大淀さん、初めて見たんだけど」ヒソヒソ

初雪「うん……目の下のクマもひどいし、すっごいタバコ臭いし」ヒソヒソ

磯波「この分だと、間宮さんも相当なんじゃないでしょうか……」

妙高「以提督鎮守府の間宮さんほどではないにせよ、覚悟した方が良いでしょうね」

N特尉「……ああ、もしもし。さっき話した人員の件、大淀以外も……そうだ、全員だ。ここの艦娘の教育もし直さないとまずいレベルだ」

N特尉「この鎮守府の憲兵および特別警察隊も、一度見直したほうがいい。ああ、そう伝えてくれ」

初春「もう本営に打診しておるようじゃの?」

妙高「ここもこんな有様だったなんて……」アタマオサエ

コロラド「ちょっと、こんなひどい鎮守府、他にもあるの?」

磯波「多いかどうかはわかりかねますが……そういう鎮守府ばかり調査してますね」

コロラド「Oh... Unbeleavable...」

初雪「憲兵さんも、この空気に慣れてるみたいだったのがびっくりした……」

大淀「そっち側もだいたい曽提督に丸め込まれちまってるからなァ」ヒッヒッ

N特尉「これだから特警にしても憲兵にしても、定期的に人員を入れ替えるように進言してるんだがな……」

妙高「長期間、同じ職場で任務を続けていると、どうしても慣れて馴れ合いが発生してしまいますからね」

幼赤城「まんしんしてはだめ……って、あたまのなかでいってるのはだれでしょう?」キョロキョロ

加賀改二「あ、赤城さん? 大丈夫ですか?」アセアセ


 * 幕間 ちなみにその後の曽提督鎮守府のながむちゅ *

幼陸奥「わたしは、ながとがたせんかん、にばんかん、むちゅよ」

長門改二「むちゅ!?」ズギャーン!

幼陸奥「あ、あれっ? むちゅ、じゃなくて、わたしは、むちゅよ! ……あ、あれっ??」セキメン

長門改二「ぐ……っ! こ、これは……っ」モンゼツ

幼陸奥「むちゅ……む、ちゅ……うう、うまく、いえないよぅ……?」ナミダメ

長門改二「ぐぁああああ! か、かっ、かわっ……」ノケゾリ

長門改二「い、いや、ここで倒れるわけには……っ! む、陸奥! もう少しだぞ、がんばれ!」

幼陸奥「わ、わたしは、ながとがたせんかん、にばんかん、むちゅよーっ!!」

長門改二「ぐわああああ可愛すぎるうううううう!!!」バターン

幼陸奥「きゃあっ!? な、ながと!? だいじょうぶ!?」オロオロ

長門改二「だ……大丈夫だ……大丈夫だとも」ヨロヨロ

長門改二「……陸奥。慌てなくていい、自分のお名前を、ちゃんと言えるよう、練習しような?」ニコ…

幼陸奥「ながと……うん、むちゅ、がんばるわね!」ニコッ

長門改二「……ああ……心が洗われていく……」キラキラキラキラ…

幼赤城「ながとしゃんはどうしたんでしょう?」クビカシゲ

加賀改二(気持ちはわかるわ……)

というわけで今回はここまで。
もうちょっと長くなるかと思いましたが、曽大佐鎮守府編はここまでです。

>427
赤城は「さ」、陸奥は「つ」の発音が覚束ない感じです。あざといですが可愛ければ良いんです。

>428
提督も深海棲艦になるついでに女性化させてますので、本当に何でもありでやらせてもらっています。

続きです。
今回は墓場島のメンバーは提督以外お休みです。


 * 墓場島沖 海軍巡視船内 *

 扉<Knock knock !

コロラド「コロラドよ! ××島の提督を連れてきたわ!」Bang !

X大佐「ああ、よく来てくれたね。提督、いつも来てもらってありがとう」

提督「ん? X大佐も同席してんのか。あんたも毎度毎度呼ばれて大変だな」

X大佐「僕は構わないよ。仕事でもあるし、僕が望んで来ているわけだしね」

コロラド「え? ちょっと、X大佐と知り合いなの!?」

提督「おう。海軍で深海棲艦との共存を目指してて、俺と仲良くしようとしてる変わり者だ」

コロラド「あなたには言われたくないんじゃないの!?」

提督「それより、そっちに座ってる若いのが、お前んとこの提督か?」

 (ぽっちゃり体系の若い提督がかたかた震えながら座っている)

X大佐「うん。紹介するよ、こちらが川提督だ」

川提督「大変申し訳ありませんでしたああああ!!」ドゲザッ!

コロラド「Admiral !?」

提督「……」


川提督「こここ、この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございません! 曽大佐の指示で艦隊を出したことに間違いはなく……!」ビクビク

川提督「ですので何卒! 何卒、ろ、ろ、老人にするのだけはどうかご勘弁をおおおお!!」プルプルガタガタ

提督「……出会い頭からこれかよ……」アタマオサエ

X大佐「ここに来る前からこんな感じだったよ。大丈夫だって言ったんだけどね」

提督「駄目だなこりゃ……おい」

川提督「は、はい!」

提督「お前と話すことはねえよ。とっとと出てけ」シッシッ

川提督「」

提督「聞こえなかったか? お前と話すことはねえっつったろ。失せろ」ギロリ

川提督「ひ、は、はいいいい!!」ダッシュ!

 扉<ガチャドタバターン!

X大佐「……」

提督「ドアも静かに閉めろよな。ったくよぉ……」

コロラド「あんな風に凄んだら、怯えるに決まってるじゃない。ただでさえ、Admiral は Chicken heart なのに」


X大佐「追い出して良かったのかい? いろいろ話を聞けるんじゃないかと思ったんだけど」

提督「いやー、無理だろあれじゃ。怯えてまともに話も出来なさそうだし、俺があいつから聞きたいのはお詫びと言い訳じゃねえんだ」

提督「ま、あいつが曽大佐の指示通りに動いたんなら、その指示通りに動いた現場のコロラドに聞いてもそれまでだしな」

提督「こっちから伝えたい話も、コロラドに持ち帰って伝えてもらえばいいさ。あいつの処分だって俺が口を出す話じゃねえ」

コロラド「ちゃんと話したほうが、あなたが本当はいいひとだってわかってもらえる気がするんだけど?」

提督「そんな理解いらねえよ。そもそも俺はもう人間と関わりたくねえんだ、これ以上面倒増やしたくねえっつうの」

コロラド「でも、ここに来ているってことは、人間との国交を考えてるってことでしょ? 矛盾してると思うんだけど」

提督「関わらないために、わざわざ人間に合わせて不可侵条約なりを結ぼうってんじゃねえか。そのための最低限の接触だ」

コロラド「最初から仲良くすればいいじゃない。私たちのやったことが悪かったとは思うけど、そこまで意固地にならなくても……!」

X大佐「コロラド、そこまでだ。君の言いたいことはわかるが、君の理想と彼の理想は違うんだ」

コロラド「……」

X大佐「あまりしつこいようだと、君にも退席してもらわないといけなくなる」

コロラド「……わ、わかったわよ」

提督「……へぇ、お前もそういう顔できるんだな。頼もしいな」

X大佐「肩書相応のことはできないとね。それに、僕は君との関係は継続していきたいんだ、つまらないことで君を困らせたくない」

提督「そうか」フフッ


X大佐「ところでもう一人、君に会わせたい人がいるんだが、その人とは会ってもらえるかな?」

提督「ん? なんだ、ここには来てないのか?」

X大佐「別件の用事があって、そちらを済ませてからくるそうだよ。それまで川提督から話を聞こうと思ってたんだけど」

提督「あいつは本題までの時間潰しだったか。悪いことしたな」

X大佐「さて、じゃあそれまでの間に……とりあえず曽大佐だけど、彼は入院することになった」

X大佐「背が高くて筋骨隆々、まさに働き盛りの曽大佐が、いきなり?せこけた老人の姿になってたから、海軍では大騒ぎになっててね」

X大佐「これも君の仕業だと聞いたけど、これはもうちょっと、なんとかならなかったのかな?」

提督「なんねえし、したくねえな。俺たちは、一応は海軍と敵対したくないって表明してんだぜ」

提督「それを無視して、深海棲艦だからと言って見境なく攻撃してくるような連中を野放しにしておきたくなかったんだよ」

提督「だいたいあいつら、政府の艦艇が海域にいるのに無許可で武器構えてうろついてんだぞ? 海軍としても示しがつかねえだろ」

X大佐「まあね……けど、まさか曽大佐が艦隊を出すなんて、本当にやるとは思ってもいなかったよ。未だに信じられないな」ハァ

提督「おいおい、呑気な事言ってんじゃねえぞ。以前だって、F提督やらH大将やらが、J少将とかに殺されかけてんだぞ?」

提督「手段を選ばない過激な奴は、これからも出てくるって認識しとけよ。平時ならまだしも、まだ深海棲艦とは戦争中なんだからな」

X大佐「む……そう、だね。気が逸りすぎていたよ、申し訳ない」


コロラド「……ところで提督? あのタマテバコの取り扱いは、ちょっと問題だったんじゃないの?」

コロラド「成功したから良かったものの、途中で開けたり、他の誰かが開けてたりしたらどうする気だったのよ」

提督「そうならないように、初春に説明して、初春に持たせたんだがな」

提督「まさかあっちの大和たちに持たせたってことのほうが想定外だぞ。多分、うまくいくと踏んでの作戦だったんだろうけどよ」

X大佐「その箱なんだけど、曽大佐だけが老化したのはどうしてなんだい?」

提督「理屈を説明するのは面倒臭いが、あの罠の発動には、いろいろ条件を付けてたんだ」

提督「人間にしか開けられない、かつ、人間にしか効果がないように作った。だから転んで箱がその辺を転がっても発動はしない」

コロラド「そんなことできるの!?」

提督「まあな。あまり無差別に効果があると面倒なことになるから、指示役さえ潰せりゃいいと思って俺が調整したんだ」

提督「これで他の連中が萎縮してくれればそれでよし。そうじゃなけりゃあ、次はねえぞ、ってことで思い知らせればいい」

提督「今回みたいな調整はくっそ面倒臭かったから、二度とやりたくねえけど」

コロラド「それじゃ、次は私たちもああなるってこと……!?」ゾッ

X大佐「さすがに次はないと思うよ。これまで僕たちのやり取りに難癖をつけていた将官たちも、曽大佐の写真を見たら絶句してたからね」

提督「そうなって欲しいもんだがな」

コロラド「もう、そうなってるでしょ。私の Admiral なんか怯えてて、まさしくその通りじゃない」ムスッ


 扉<コンコンコン

X大佐「!」

祥鳳「X提督、祢大将閣下がお見えになりました」チャッ

X大佐「ああ、ありがとう。どうぞ、お入りください」

祢大将「失礼するよ。川提督は追い出されたようだな?」スッ

妙齢のスーツの女性「……失礼いたします」スッ

コロラド(あら、なかなかダンディなおじさまじゃない……!)

X大佐「祢大将殿。改めて紹介いたします、彼があの墓場島の提督です」

提督「……」ペコリ

X大佐「こちらは川提督艦隊所属の艦娘、コロラドです。彼女は同席してもよろしいんで?」

祢大将「うむ。川提督からもヒアリングしようと思っていたのだ、彼女に代理を務めて貰おう」

X大佐「提督、こちらは祢大将殿。この方が君に会わせたい人と言っていたお方だ」

祢大将「よろしく。こちらは私の秘書だ」

女性→秘書「……」ペコリ


祢大将「病院から電話が来ていて遅くなった。曽大佐の老化現象は君の仕業か……なかなか恐ろしいな」

提督「……」

祢大将「ところで、君のところの妖精は元気かな?」

提督「……!」

コロラド「妖精?」

祢大将「確か彼女は女神妖精だったと記憶しているが……」

提督「あいつは……燃えた島から俺たちを助けるために、力を使って消えた」

祢大将「……そうか。残念だ」

X大佐「……?」

祢大将「私は、彼の連れていた妖精と一度会ったことがある」

祢大将「本営の廊下で、彼の書いた手紙を中将へ届けようとしていたときだったな」

X大佐「そんなことが……?」

提督「あのとき、妖精を見つけてくれたのは、あんただったのか……」


提督「あなたのおかげで、俺はこれまで多くの艦娘たちを助けることができた。感謝する」ペコリ

X大佐「!」

コロラド「!?」

秘書「……」

祢大将「私は妖精の訴えに応じてあげただけだ。その後の話については……まあ、いろいろ驚かされたがね」

コロラド「……」ポカーン

提督「……おい、なんでぼけっとしてんだよ」

コロラド「あなた、ちゃんとお礼を言えるのね?」

X大佐「コロラド……いくらなんでもそれは提督に失礼じゃないか?」

コロラド「わ、悪かったわよ……」

提督「謝んなよ、人物評としては正しいんだ。俺が不愛想で不躾で無礼の極みだってのは、今に始まったことじゃねえ」

コロラド「自分でそこまで言ってちゃ世話ないわよ!?」

提督「ところで、祢大将が俺に会って何を話すんだ? 今の妖精の話は俺も知らなかったが、そのためだけに会いに来たわけじゃねえよな?」

祢大将「H大将の指揮下から離れた曽大佐の後ろ盾になったのは、和中将だ」

提督「!」


祢大将「和中将は徹底的にあの島の存在を忌み嫌っているようでね。彼の不始末ということで、私が詫びに来たのだ」

X大佐「祢大将殿は呉の鎮守府の最高責任者だ。和中将殿は祢大将殿の部下にあたる」

提督「呉の……なるほど。確かに祢大将が出てくるには真っ当な理由だが、俺はそこまでしなくていいと思ってる」

提督「俺たちは俺たちのやり方で、既に落とし前をつけさせてもらった。あんたから謝罪を受け取ったら、こっちも頭を下げなきゃならねえ」

祢大将「……謝罪は不要だと?」

提督「俺は、実際に関与した当事者以外を極力巻き込みたくないんだ。確かに、曽大佐は海軍の人間であり、あんたはその上官だろう」

提督「だが、H大将からこの島の事情を聴いて、H大将の意図に反発し、この島に攻め込むよう艦娘に指示したのは、他ならぬ曽大佐自身だ」

提督「後ろ盾になった和中将が焚きつけたという見方もあるなら、この場に詫びに来るのは和中将であるのが筋だろうし」

提督「むしろ祢大将は、身勝手に振る舞った曽大佐たちに振り回されたにすぎないと思ってる。H大将もな」

祢大将「私も被害者だと言いたいのかね?」

提督「あんたが曽大佐を唆したって言うんなら話は別だが、そうじゃないなら、俺たちに対する加害者とは言えないだろう」

提督「形式上の縁者のために頭を下げなきゃならないというのなら、俺の弟がやったことも、俺が頭を下げなきゃいけなくなる」

提督「そんな理不尽で馬鹿な話はなしだ。祢大将が頭を下げる筋の話じゃないと思ってる」

祢大将「ふむ……では、かつてあの島を取材しようとしたテレビ局の不手際についても、一言あったんだが」

提督「テレビ局……その話も今更だな。わざわざ掘り起こすまでもねえや」


祢大将「なるほど。では、この話はやめにしよう。それとは別に、私からいくつか聞きたいことがあるんだが、いいかね」

提督「? 答えられる範囲でならいいが……」

祢大将「まず、君は、曽大佐についてどう考えているかね。どんな人物だと考えた?」

提督「そうだな……最初は、軍人の家系で、本家から見下されないために過激派になったと考えていたが」

提督「そうじゃなく、艦娘不信……というより艦娘嫌悪に近いか。艦娘に見下されたくない、って意識が強いのかと思っている」

提督「あいつの部下の大和たちの記憶を辿っていくと、深海棲艦の撃滅には積極的だが、その成果を褒めたりもしてないようだし……」

X大佐「記憶?」

提督「ああ。あいつらをまっとうにするために、有害な記憶を切り離してやってたんだよ。その時にあいつらの頭の中を見たんだ」

X大佐「……??」

提督「曽大佐の艦娘に対する態度は一貫して高圧的。口答えしたり、機嫌を損ねたりすると、すぐに殴られる」

提督「逆に艦娘を褒めるようなことは全くなく、何をしてもらっても感謝の言葉すらない。艦娘は完全に道具か召使い扱いだ」

提督「大和の頭の中は特にひどかったな。とにかく戦闘のことしか頭にないし、曽大佐のことを神様みたいに崇めてやがった」

提督「多分、一番最初のときに、曽大佐にこっ酷く怒鳴られてるのがトラウマになってたようだが……」

コロラド「……確か、その記憶を、全部消してあげた結果、ああなっちゃった、ってことだったわね?」

X大佐「???」


提督「ああ、ひどい記憶を持った魂を俺が全部取り除いたんだ。そうしてやったら、体も痩せて細くなっちまってな」

提督「ガリガリじゃあ可哀想だから、代わりに無害な魔力を入れてやって……体も、精神年齢相応に調整してやった」

X大佐「いやいやいや、ちょっと待って……? 確かに、報告には大和や陸奥が海防艦並に幼い姿で帰ってきたって……」

コロラド「それも、提督の仕業なのよ」

X大佐「……深海棲艦がやったんじゃなかったのか」

提督「俺も半分、深海棲艦だぞ?」

X大佐「た、確かにそうだけど……」

祢大将「君が艦娘の記憶を操作して、悪い記憶をすべて消した結果、幼児のような艦娘になった……生まれ変わらせたと言うことか」

提督「別にあいつらを子供にするつもりはなかったんだが、結果的にそうなっちまった、って感じだな」

提督「いくら話が通じないとはいえ、うちにいる艦娘と同じ面した奴を沈めるのも気分が悪いし……」

提督「つっても、どいつもこいつもくっそ悪い面してたからなあ。害悪な部分は残らず切り捨ててやりたかったってのはあるな」

X大佐「……まるで工廠の建造妖精みたいだね、君は……」

提督「あいつらほどじゃねえよ」

コロラド(……なんか、嬉しそうね?)

提督「一応、あいつらをあの姿にした後で、工廠の妖精たちにも診てもらってる」

提督「問題もないって言ってもらえたし、余所に移ったとしても、曽大佐みたいな過激なことは言い出したりしないはずだ」


祢大将「君の言い分だと、艦娘は悪い記憶ばかり持っていたことになるな。曽大佐は、艦娘にそこまでのことをしていたということかな?」

提督「俺はそう思う。あいつはとにかく、艦娘が自分に逆らえないようにしたかった、抑えつけたかったんだと思ってる」

コロラド「私もそう感じたわ。曽大佐に会う前に提督からそのことを事前に聞いてたから、曽大佐にはちょっと強く出てみたのよ」

コロラド「そうしたら、それが気に入らないらしくて、平手打ちされそうになったし」

コロラド「老人になった後も、ちょっと近づいたら来るなって叫ばれたの。あれは、曽大佐に怯まなかった私に怯えていたようにも思えたわ」

提督「……いま思ったんだが。艦娘嫌悪と言ったが、もしかしたら女性嫌悪と言ったほうが正しいかもな」

提督「女ばかりの姉妹の中に男が一人だったんだよな? 俺には姉妹はいないからわからねえが、そいつらに嫌な思い出でも作らされたか」

提督「曽大佐が艦娘だけを嫌ってるのかどうかがわからないから、もし人間の女性も嫌っていたら、の推測だが」

秘書「……」

提督「それからあんた。秘書だって言ってたが、あんたは曽大佐の姉だな?」

コロラド「えっ、そうなの!?」

秘書「……ええ、そうです。よくわかりましたね」

X大佐「曽大佐のお姉さんですか! この度は海軍の不手際で大変申し訳……」ペコリ

祢大将「ああ、いいよX大佐。彼女には事情をすでに話していて、理解もしてもらっている」

X大佐「そうでしたか……同じ海軍の人間として、申し訳ございません」アタマサゲツヅケ

コロラド(私も頭を下げたほうがいいのかしら……)ペコリ


秘書「……私からも、弟の愚行をお詫びいたします。あの子がこうなってしまったのは、私たち姉妹の行いによるものです」ペコリ

祢大将「皆、顔を上げてくれ。私からも曽大佐の話をしよう」

秘書「……」

祢大将「まず、提督の考察はおおよそ当たっている物だと感じている」

祢大将「曽大佐には姉が4人、妹が2人いたのだが、その姉のうちの長女が、こちらの彼女だ」

祢大将「彼女の家柄は軍人の家系。その傍流の長女として生まれた彼女は、軍人になるべく厳しく育てられた」

祢大将「しかし、そのご両親は彼女だけを厳しく育てた一方で、妹たちは自由に育て、甘やかされ続け……」

祢大将「結果として、次女から下はいずれもとんでもない女性に育ってしまっていてね」

祢大将「私がこの件で曽大佐のご家族に事情を話しに行ったのだが……まあ、なかなかのことがあったのだ」

祢大将「なので、彼女が私の秘書をしていることも、あちらには秘密にしている。君たちも、このことは口を滑らせないでもらいたい」

提督「……」

秘書「……」ウツムキ

祢大将「さて、曽大佐が長男として生まれると状況が変わる」

祢大将「今度は長男を立派な軍人にするべく厳しく育て始め、一方の長女は軽視されるようになった」

祢大将「過剰な期待を背負わされて育てられたはずの彼女は、いきなりその荷を取り上げられ、好きに生きろと言われたそうだ」

提督「勝手が過ぎるな。子供は親の玩具じゃねえんだぞ、くそが……」ボソッ


祢大将「彼女が戸惑う一方で、曽大佐は両親から厳しく躾され、我儘な次女たちからは顎で使われ……」

祢大将「そのあとから生まれた妹たちは、次女たちの姿を見てきたせいか、曽大佐に横柄な態度を取るようになったようだ」

コロラド「……なんてこと」

X大佐「では、曽大佐の艦娘に対する態度は、曽大佐の姉や妹たちから受けてきた態度に起因するものだと……?」

秘書「……私は、そう考えています」

コロラド「でも、あなたは、その妹たちとは違ってたんでしょ? 厳しく育てられたって……」

祢大将「長男の誕生を機に、彼女はご両親から一切気にかけてもらえなくなったそうだ」

祢大将「行く予定だった大学進学も取り消され、一切の金を出さないとまで言われたと。その後、彼女は家を出てご家族と縁を切っている」

提督「ってことは、それ以来、曽大佐と接触してねえってことか」

秘書「……」ウナヅキ

提督「じゃあ、曽大佐がああなったのは、あいつの同居家族が原因ってことだな。ま、今となっちゃあ、どうでもいいけどよ」

コロラド「ちょっと!? どうでもいいって……!」

提督「俺にはどうでもいいことだ。とりあえず、これでもう、曽大佐がこっちにちょっかいを出してくる心配はないんだろ?」

コロラド「じ、自分たちが良ければそれでいいの!?」

提督「当たり前だろ? 余所のご家庭の内情に俺が物申せってか? 当事者にしても赤の他人に首を突っ込まれたいと思わねえだろ」

コロラド「そ、それはそうだけど……その言い方だけは、本っ当になんとかならないのかしら」アタマオサエ


提督「とにかく、いまの話が本当なら、そっちの姉貴も関係ない話だろ? 責任感じる必要はどこにもねえんじゃねえの」

祢大将「なるほど。彼はそう言っているが、君はどう思う」

秘書「……」ウツムキ

提督「……つうかそもそも、あんた、何者だ? 退魔師ってのは、いったいどういう肩書なんだ?」

秘書「!!」

提督「字面からして魔を退ける、なんて、ただ事じゃねえよな? やたらと俺を警戒してたのも、そういうことか?」

秘書「……!」ジリッ

提督「うおっ、なんだってんだよ、いきなり身構えやがって。あんたが何もしてこねえなら俺も何もしねえよ、少し落ち着け」

秘書「……」

コロラド「ね、ねえ、お姉さんはどうしていきなり身構えたの?」

祢大将「……彼女をここに連れてきた理由はもうひとつ。提督が危険な存在であるかを確かめるためだ」

提督「ボディガードも兼ねてるってことか?」

祢大将「そうだ。しかし、君は心配いらなさそうだな。彼女の正体を知っても、こちらを襲う気配もないとは」

提督「俺を試してたのか?」

祢大将「海軍大将として、君の存在が危険かどうか、自分の目で見極めなくてはならないと思ってね」

提督「そうかよ……そりゃあご苦労なこって」ハァ…


祢大将「X大佐がえらく信頼しているから、どんな人物かと言うのも気にはなったのだ。彼女が言うには、どうも人間ではないようだが?」

X大佐「はい、彼からは半分深海棲艦だ、と聞いています」

コロラド「あ、私、彼がよく見る深海棲艦や子供になったところを見たことあるわよ」

X大佐「は? ……子供?」

提督「余計な事言うなよ……」

コロラド「いいじゃない、正直なほうがいろいろ信じてもらえるでしょ」

提督「ある程度はそうだけどよ、今のタイミングじゃ話がややこしくなるだけだろ」

提督「そもそもうちの連中は、俺も含めて人間とは距離を置いたほうがいいって奴の方が多いと思ってんだ」

提督「だから、俺たちは人付き合いを最低限にしようっつってんのに、余計な気を使って引っ掻き回すんじゃねえよ」

祢大将「……彼は本当に、戦いを含めて人との交流を避けたいようだな。これなら、戦争に参加したくない、と言う話は本当のようだ」

祢大将「であれば、中将殿からも聞いているが、政府には過度な期待をせぬよう、言って聞かせねばならないな」

提督「そっちもあまり気を使ってくれなくていいぞ? 政府からは、曽大佐艦隊の襲撃の前に、交渉のための書類だけは受け取ってるんだ」

提督「その中に変なことが書いてありゃ、こっちから文句を言うつもりでいる」

祢大将「そうか。まったく接触していないわけではないのだな」


提督「あまりに話が通じない時は、海軍に話を回させてもらうつもりだが、まだ始まったばかりだしな……できる限り、こっちでやるさ」

提督「ただ、曽大佐と俺の弟があんな真似しやがったからな……正直、この後の話がどう転ぶかは予想できねえ」

提督「確か、政府に対する海軍の窓口は中将だったよな?」

X大佐「今はね。現状、与少将も一緒に窓口になってて、そのうちその任を引き継ぐ予定だよ」

提督「与少将の見た目だと舐められそうだな。あいつら、駆逐艦娘のことも、子供だと思って侮ってたらしいからなあ」

提督「極力俺たちでなんとかするが……これから連中がどんな態度取ってくるか、心配なのは変わらねえな」

祢大将「なるほど、政府とは穏便にことを進めようとしている、ということか」

祢大将「であれば、ストレートに訊こう。君は、政府の人間を襲撃している者に心当たりはあるかね?」

提督「は? ……なんだそりゃ?」

祢大将「やはり知らないかね。今の話しぶりから、関わっているようには思えないからこそ訊いたのだが」

X大佐「あの、それはもしや、先日の政府との会談を予定していた官僚が暗殺されかけた事件のことですか?」

提督「ああ!? 誰だよ、そんなことしやがんのは! そこまで俺たちの嫌がらせがしてえのかよ、くそが……!」ウヘェ

コロラド「提督は本当に知らないの?」

提督「知らねえよ! そもそも碌に知らねえ島の外のことを、俺たちがどうやってコントロールしろってんだよ!」

提督「普通に俺たちの妨害をしたい馬鹿がやらかし……」ハッ

X大佐「提督?」


提督「……つうか、もしかしてそれもエフェメラの仕業か? くそ、あいつマジで手あたり次第じゃねえか……?」ブツブツ

秘書「何か知っているのですか?」

提督「……喋ってもいいが、あんたたちが俺の考えを信じられるかどうかがわからねえ」

提督「ただ、俺の考えっつうか予測が正しいなら、政府の人間への襲撃は一時的にでも止まるはずだ」

コロラド「? なにそれ、どういうこと?」

提督「俺が想定した犯人は、お前があの時、俺たちと一緒に見てたあの機械人形だよ」

コロラド「機械……ああ! あの Mechanical blonde girl ね! あいつ、結局何者だったの……?」

提督「……邪悪な神の下僕、ってところか。あいつは、世界を恐怖に陥れる邪悪な神を、この世界に呼び寄せようとしていたんだ」

コロラド「What's !?」

秘書「邪悪な神……!?」

提督「コロラドが言うメカ女……エフェメラって名前なんだが、そいつが俺の考える政府要人の襲撃犯だ」

提督「そいつは、その邪悪な神に作られた下僕でな。俺は、そいつに生まれる前から目をつけられていたらしい」

コロラド「生まれる前から!?」

提督「知ってると思うが、俺は半分深海棲艦だ。そういう特殊な生まれの人間を生贄にして、自分の崇拝する神の復活を企んだらしいんだ」

提督「そのために俺の父親に接触して、一族の繁栄を約束する代わりに、俺をその邪神の餌にしろと持ちかけたんだとよ」

X大佐(それで、提督は家族を忌み嫌っていたのか……)ムムム…


提督「ところが、俺が予想以上にしぶとく生きのびてた。それで、そいつはおそらく計画を途中で変更したんだろう」

提督「俺を、その神に対する餌じゃなく、その神そのもの……そいつの依り代しようとした」

提督「結果的にはそれも失敗して、エフェメラは自滅したんだけどな」

コロラド「そういえば提督って、あの島の住人の一部からマジンサマって呼ばれてたわね?」

秘書「それが、エフェメラの崇拝する邪悪な神の名前ですか」

提督「……まあ、な。あんまり話したくないが、H大将とかにも喋ってるし、今更か……」ハァ

提督「とにかくだ。あいつは、俺に絶望を味わわせて、今以上に人間を憎むように仕向けたかったか……」

提督「あるいは俺たちに人間を殺させて穏便な解決を阻害することで、俺が人間と戦わざるを得ない状況を作りたかったんだろう」

提督「おそらく、政府の人間の暗殺もそのうちの一手だな。人間側に不信感を抱かせるための離間工作とも考えられるし」

提督「そうじゃなければ、エフェメラ自身が俺たちの島に乗り込みやすいように、邪魔になりそうな人間を退場させようとしてた、とかか」

祢大将「……どう思う」

秘書「嘘をついているようではないようです。確信しているわけでもないようですが」

祢大将「彼自身が正確な情報を掴めていないということか」

提督「あまり無理言ってくれんじゃねえよ。俺たちは日本で起きていることなんか全然情報入ってこないんだぞ」

提督「曽大佐の情報も、X大佐たちから善意でもたらされただけで、曽大佐の襲撃に川提督が関わってることすら知らなかったんだ」

提督「祢大将が呉の鎮守府の元締めだってことも、言われなきゃ知らなかったくらいには疎いんだぜ?」


提督「そういう限られた情報のなかで、俺たちと政府の関係を乱そうとする奴と考えて思い当たったのが、そのエフェメラくらいなんだ」

提督「そっちの秘書が魔物退治の専門家だってんだから、そういう関わりがあるのかと思ってそいつを挙げたが……」

提督「それ以外の意味で言えば俺の父親も何を考えているかわからねえ。が、俺はあいつとは縁を切ったし、調べるんならそっちで頼みたい」

提督「国会議員になったって聞いたが、それでどこまで力を持ってるのか、俺は微塵も知らねえからな」

提督「弟が馬脚を現したことと、エフェメラの支援がなくなったことで多少力が削がれたと思いたいが……それも俺も希望的観測だな」

祢大将「なるほど……」

提督「ここまでぶっちゃけたついでだ、俺の考える不確定情報はもうふたつある」

提督「ひとつは、暗躍しているエフェメラが他にいないかどうかだ」

コロラド「え? あいつが他にもいるの?」

提督「魔神が作り出した自動人形であるエフェメラは、複数体いる。俺が知っているのは、俺の父親に接触した奴と、俺に味方した奴」

提督「前者はこの前ぶっ壊れて、後者は今のところ行方不明……ほかに何体いるかは俺も知らない」

提督「ただ、今のところエフェメラたちは全員、魔神のために動いてる」

提督「俺の父親に接触したエフェメラがこれまで何をしていたかを考えれば、人間にとって良くない存在であることは間違いないはずだ」

祢大将「……」


提督「それからもうひとつは、俺以外の魔神の存在だ」

秘書「魔神が複数体いると?」

提督「魔神はかつて1柱だったが、封印の際にいくつもに分かたれて封印されたらしい。俺はその魔神の力の一部を持っている」

提督「分かたれた力の残りがどこにあるかはわからない。ついでに言うと、そいつらは絶対に俺とは性格が違うはずだ」

コロラド「絶対になの?」

提督「本来の魔神は、暴力と恐怖で人間を支配してたって聞いてる。だったらそいつも凶暴で残虐な性格って考えるのが自然だろ?」

提督「俺みたいに、いまの仲間たちとおとなしく平穏に暮らすことを望んでいる魔神なんてもののほうがイレギュラーなはずだ」

提督「その俺以外の魔神が、どんな形で現れるのか、それとも現れないのか……そこも俺には予測できない」

秘書「……」

提督「どうだ。こんな不安を煽るだけの絵空事みたいな話、あんたたちは、はいそうですかと信用できるか?」

コロラド「私は、あのエフェメラ? ってやつを見たから信じるわよ。提督が変身したところも見たしね!」

提督「……お前、見たからって信じるの早すぎるな?」

祢大将「普通の人間には見えない妖精も、存在を確認されている。君の話も、全く信用しないわけにはいくまい」

秘書「そうですね……実物を見るまではなんとも言えませんが、聞き流して良い話ではないと思います」


提督「ふーん、信じるってか。それじゃあ、少しだけ見せてやるか……論より証拠だ」ズズ…

秘書「! みなさん、下がってください……!」

X大佐「こ、この寒気は……!?」

 ズズズズ…

提督『ふふ……そこまで怯えなくていいんだぜ……?』

秘書「地獄の底から響いてくるような声……あなたが魔神ですか」

提督『……然り。我は、名を穢されし、魔を統べる神』

X大佐「っ!!」

コロラド「う、うわ……口調まで変わってる!?」

祢大将「……名を穢された……?」

提督『我の名は、眩き光に焼き消されたが故、今は提督の名と姿を借りている』

秘書「……」ジリッ

提督『……ああ、まどろっこしいな、この喋り方。もとに戻らせてもらうか』

 ズズズズ…

提督「魔神はな、敵対する神に名前を隠されちまったんだよ。だから、俗称だった『魔神』がいまの神の名前さ」

秘書「……」


提督「ああ、警戒しなくていいぞ。今のは魔神のことを知って欲しくて、ちょっとだけ力と雰囲気を外に出しただけだ」

提督「今ので魔神の気配は覚えたろ? こんな雰囲気を感じたら、魔神やその息のかかった奴がいると思ってくれ」

提督「俺も、俺以外の魔神の存在には警戒してるんだ。もし、やばいと思ったらこっちに連絡してくれていい」

祢大将「協力する、と言うのかね?」

提督「俺個人の判断としては、一応な。まあ、うちの連中の中には嫌がる奴も出てくると思うんだが……」

提督「とにかく、元来の魔神が世界に破壊と恐怖をもたらすというのなら、俺たちの望む平穏も同じように脅かされるはずだ」

提督「お互いどのくらい協力できるか、いざってときに戦力になれるかはわからねえが……」

提督「無駄にいがみ合って足を引っ張り合うのは、この手の話じゃあ絶対に避けるべきだろ?」

提督「俺たちのスタンスは変えてねえ。平時は疎遠にして、必要な時だけ手を組む。思想の違う生き物が共存するにはそれしかねえ」

秘書「……あなたは、本当に、人を害する気はないのですか」

提督「さっきも言ったが、俺たちは、俺たちの穏やかな暮らしを守りたいってだけだ。邪魔する奴が人間かどうかは関係ねえ」

秘書「……本当に、珍しいですね。私が見てきた世の魔物は、人間を食い物にする暴力と欲望の獣ばかりでしたので」

秘書「あなたが、妖精と仲良くしていたというのも、話を聞いた今なら頷けます」

提督「……仲良くできた相手が妖精だけだったってだけさ。その妖精が、俺の親代わりみたいなもんだった」

提督「その妖精が悲しむような真似はしたくない。だから人を必要以上に傷つけもしなかった……魔神の餌にならなかったのはそのおかげだ」


提督「あいつがいなかったら、この場にいることも、艦娘と出会うことも、なかっただろうな」

祢大将「……」

秘書「……」

提督「ただ……その妖精は、深海棲艦の遺骸から作られた弾丸によって、一度この世界から消されている」

X大佐「……」

提督「うちの鎮守府には、その深海棲艦の遺骸から作った武器に苦しめられた艦娘や……」

提督「まさしく武器に作り変えられていた深海棲艦がいるんだ」

X大佐「……軽巡棲姫のことだね?」

提督「ああ。だから、それを作るのに関わった人間どもに限っては、俺は容赦するつもりはねえ」

提督「泣いて許しを請うたとしても、そいつらだけは絶対に許さねえ……!」ズズズ…

コロラド「……」ゾクッ

祢大将「深海棲艦から作った武器と言うと、中将の息子の大佐が研究していた武器のことだな?」

提督「ああ。そいつの一味以外にも、研究している奴らがまだ海軍内のどこかに潜んでいるらしい」

提督「J少将がその辺の情報を持ってたらしいんだが、残念ながらそうと知らずに俺が殺っちまったからな」

提督「海軍の中にそいつらを支援してる連中が潜んでる限りは、俺たちが海軍を無条件に信じることはできねえと思ってくれ」


提督「できれば情報を貰えると助かる。そいつらの首を差し出してくれてもいいが、できればそいつらは俺の手で始末したい」

祢大将「……わかった、心に留めておこう。魔神に関する情報提供、感謝する」

秘書「……」ペコリ

祢大将「さて、他にあるかね?」

提督「窓口はどうする? X大佐に頼んでもいいのか?」

X大佐「うん、それは僕が窓口になろう。祢大将殿もよろしいでしょうか」

祢大将「いいだろう。機を見て連絡しよう」

提督「……」ペコリ

祢大将「では、我々はここでお暇しよう。提督、君と話ができて良かった。今後も、良い距離感の付き合いを期待しているよ」

秘書「……失礼いたします。ご無礼、ご容赦を……」

提督「……」ケイレイ

X大佐「祢大将殿、お時間ありがとうございました」ケイレイ

 スタスタ パタン

提督「……ふう、やれやれ」

X大佐「緊張したかい?」

提督「秘書の女がずっとこっちを見張ってたからな」


提督「こっちの言い分無視して何か仕掛けてくるかと思ったが、そんなこともなくてほっとしただけだ」

コロラド「ところで、なんであの女性がタイ・マーシー? ってわかったのよ」

提督「なんとなくわかるんだよ。修験道か何かをやってるみたいだったな、あれは」

コロラド「シュゲン……ふーん……?」

提督(魔神の目を使って略歴を見ただけなんだけどな。本当にあって助かるぜ、この力)

提督(あの女、家を出てから出家しようとしたらしいが、その寺で修行して魔物退治の力を得た、ってことらしいな)

X大佐「そういえば、祢大将が妖精と話ができる女性と知り合いだという噂があったなあ。おそらくあの人がそうなんだろうね」

提督(……となると、妖精を見つけてくれたのも、あの女か。礼を言い損ねたな、失敗したぜ)

X大佐「魔物と戦えるというのも、そういう不思議な力がなにか関係しているのかもしれないね」

コロラド「妖精は Demon じゃないと思うんだけど?」

提督「普通の人間には対応できない、って意味じゃあ、そこまで遠いもんでもないと思うがな」

提督「艦娘だって、人間にしてみりゃ十分にファンタジー世界の産物だろ。存在している以上はそうとも言えなくなったが」

コロラド「……」


提督「ま、なんにせよ、本当なら仲良くできてりゃ種族なんてなんでもいいんだ。面倒臭く考えなくて済む方がいい」

X大佐「……人間がみんな、君みたいな考えを持っていたら、争いが起こらなかったんだろうね」

提督「だといいけどな。世の中そんなに簡単じゃねえからなあ……なあ、X大佐?」

X大佐「何かな?」

提督「お前、さっき俺が魔神の気配を出したとき、怖かったろ?」

X大佐「……それは、そうだね……恐ろしいと思ったよ」

提督「この力のことはできるだけ内密にしてくれよ。たとえその力を使わないと知っていても、それに対抗する力が欲しくなるのが人間なんだ」

X大佐「……」

提督「艦娘だって、軍の規則とか権利とかで縛って人間が『運用』してるだろ。まともに戦ったら艦娘にかなわないから、ってよ」

X大佐「それは……」

提督「残念ながら、世の中、X大佐みたいに艦娘から信用されてる人間ばかりじゃねえ」

提督「お前たちみたいに信頼関係を結べてるならともかく、大多数は……特に一般人は艦娘と縁のない人間ばかりだ」

提督「そいつらにしてみりゃ『それ』を抑え込む組織なりなんなりがないと、恐怖を感じるのは無理もないと思ってる」

X大佐「……」


コロラド「私たちは、海の平和のために戦ってるんだけど」

提督「そうであってもだ。俺たちも同じで、条件付きだが害意がないことを証明……表明し続けないと、人間に寝首を掻かれると思ってる」

提督「そうでなくても、手前の利益のために俺たちを利用しようとしたり、一時の感情で陥れようとしたりする人間は必ず現れるからな」

提督「さっきも言ったが、お前はくれぐれも気を付けとけよ? ただでさえお人好しが過ぎるからな」

X大佐「……ありがとう。やっぱり君は、いい人だね」

提督「ビジネスの一環だよ。あんたに倒れられたら俺も困るってだけの話だ」

提督「とにかく、お前も何か身の回りでやばい話があるなら、こっちに投げとけ。わかる範囲で返事は返してやるからよ」

コロラド「Hm... 私、知ってるわ。こういうのをツンデレって呼ぶのよね?」

提督「つん……?」

X大佐「あははは……ちょっと違うと思うけどね?」

コロラド「……ねえ、そういえば、あなたが海に吹き飛ばした男がいたじゃない。弟なんでしょ? あいつ、どうなったの?」

提督「どうって、吹っ飛ばしてその後は俺も知らねえよ。どうでもいい」

コロラド「どうでも!?」

提督「あんな不始末やってのけたんだ。どのみち、島にはどうやっても来られねえだろ?」

X大佐「彼なら、その後救助されたよ。今は全身打撲で入院してる」

提督「ふーん」

X大佐「……おそらく、H大将殿から詳しい連絡が来るだろう。あとで連絡するよ」

提督「ああ……よろしく頼むぜ」

コロラド「?」


 * 退室後 巡視船内通路 *

コロラド「ねえ、提督? 曽大佐と違って、N特務大尉は酷い目に遭わせなかったみたいだけど、それはどうして?」

提督「ん? えーと……N提督の件で言えば、正確には卯月から頼まれたから、だな」

コロラド「ウヅキ?」

提督「あいつの鎮守府にいた駆逐艦娘の一人だ。そいつが、洗脳ツールでおかしくなった仲間と、N提督を助けたいと言ってたんだよ」

コロラド「だから、N特務大尉には何もしなかったの?」

提督「ああ。しょうがねえから、文句言うだけ言って、俺は手は出してねえ」

提督「卯月は、N提督のやり方は間違ってるとは言っていたが、同時に、N提督が故郷を取り戻したい気持ちも、理解できてたようだった」

提督「妙高たちも同じかどうかはわからねえが、そこまで厳しくしなくていいと思ったからこそ、今もああやって補佐してやってんだろう」

コロラド「ふぅん……いい関係なのね。それじゃ、曽大佐とは対応が全然違ってて当然だわ」

提督「まあな。聞いた限りじゃ、曽大佐に従う艦娘はいなかったんだろう?」

コロラド「人の話を聞かない狂信者的な子はいたわよ。問題あり過ぎて、今頃、Dailyの解体任務の候補になってるんじゃないかしら」

提督「……手の施しようがない、ってか?」

コロラド「気の毒だけどね。でも、変な話よね? 私たち艦娘は、艦隊のころの記憶を持ってて、自分の意志がちゃんとあって」

コロラド「建造された時から話ができるって言うのに、どうしてあんな男にほいほい騙されちゃうのかしら」


提督「……確か、お前が聞いてきた話だと、歯向かう艦娘に大声で圧力をかけたんだったよな?」

コロラド「歯向かうっていうか、曽大佐の考えとちょっとでも違うと、怒鳴られてたみたいね? 手が出るのも珍しくないみたいだったわ」

提督「だとしたら、騙されたというより、歪まされた、だな。俺の父親と似たような手口か」

コロラド「え?」

提督「曽大佐は、艦娘が自分に逆らわないように、自分の言うことが絶対だと言い聞かせてきたんだろう」

提督「正しいことも時折混ぜて、艦娘の各々の思想を間違いだと必要以上にぶっ叩く。叩いて叩いて、歪ませたってことだ」

提督「頑なな奴なら反発するかもしれねえが、艦娘が、自分を率いる司令官からそんな態度を取られ続ければ、歪みもするさ」

コロラド「今の話だと、あなたも Moral harassment を受けていたってこと?」

提督「まあ、歪んでるのは違えねえ。曽大佐も、姉妹に貶められて歪んだから女を敵視して、女を自分より下に見ようとしたんだろう」

提督「その結果があの鎮守府なんだろうさ。思えば深海棲艦も女ばっかりだし、そいつらにも屈したくなくて躍起になった、ってとこか?」

コロラド「あなたの父親もそうだったの?」

提督「俺の場合は妖精の存在の全否定から来る俺の全否定だな。俺が折れねえんで、あっちも言い方が過激になったのかもしれねえが……」

提督「当時の父親が何を考えてたかはわかんねえし、今も理解したいとは思わねえ」

提督「そもそも生まれる前に俺を生贄にする宣言してんだぜ。俺の存在はあいつにとっちゃあ……」

コロラド「……提督?」

提督「荷物……邪魔者……? ちょっと違うな……実際、あいつにとって、なんだったんだろうな、俺は」

提督「なんて言えばいいかわからねえや……」

コロラド「……」

今回はここまで。

>459
提督だけで属性過多になっているので、ちょっと設定盛りすぎたかと反省しています。

>460
大人になる路線があるかどうかは、後に提督の口から言わせることにします。

>461
書きためていた分を投下したので、久々に間が開いてしまいました。

またお時間いただきたいので、またよしなにお願い致します。

書き込みテスト


おお、やっと書き込めた。
ここしばらくまったく書けなくてぐんにょりと悩んでて
ようやくある程度の形になったので投下しようとしたら
書き込みできずへこんでおりました。ひとまず書き込めるっぽいので投下します。

今回初めて名前が出てくるメディウムはこちら。

・フローラ・チュウシャキ:注射器を抱えたナースのメディウム。注射器を射出し、刺さった人間に謎の液体を注入して体調を崩させる罠。
  巨大な注射器を抱えたナース姿の女性。柔和に見えるが薬物による尋問拷問もこなせるくらいには酷薄。魔神様も実験台の候補らしい。
・クロエ・ワンダーバルーン:サーカスのピエロのような装束のメディウム。風船が人間を包み込み、ふわふわと空へ飛ばしてしまう罠。
  たくさんの風船を持ち歩く道化師。笑顔を振りまきつつ風船を配り、あらゆる悩みも空へと導いて、問題を忘れさせてしまおうとする。
・シャルロッテ・バナナノカワ:バナナを模した衣装を身に纏ったメディウム。足元におかれたバナナの皮が、人間を転ばせ怒らせる罠。
  アイドルを自称する少女。キラキラしたものが好きでステージ上でも輝くためアイドルを目指す。努力する姿は人に見せたくないタイプ。


 * 墓場島鎮守府 埠頭~本館連絡通路 *

提督「……」

大和「提督? こちらへ戻られてから、ずっと表情が優れないようですが……大丈夫ですか?」

提督「んー……まあ、ちょっと昔のことで考え事をしててな」

ニコ「もしかして、ぼくたちが関係することかな?」

提督「いや、俺が小さいころ……子供だった頃の話だ。だから、お前たちとはまだ出会ってないころの話になるな」

提督「多分、お前たちに話しても理解できない話だ」

大和「私たちにはわからないと仰るんですか!?」

戦艦水鬼改「ソレハ聞キ捨テナラナイワネ?」

提督「いやいや、わかんねえと思うぞ? だって俺の父親が何を考えてたか、って話なんだ」

ニコ「父親が?」

提督「ああ。あいつは俺が生まれる前に、エフェメラに言われて俺を魔神の生贄に差し出す契約をしたらしいんだよ」

提督「それから15~6年くらい、まともな親子関係じゃなかったとはいえ、一応は一緒に暮らしてたんだ」


提督「その間、あいつが何を考えて俺を育てていたのか、どんなつもりで俺と接していたのかがわからなくってなあ……誰か説明できるか?」

大和「……」

ニコ「……」

戦艦水鬼改「ソレハ確カニ、理解デキナイワネェ……」

大和「むしろ理解したくもありませんね」

ニコ「そういうことなら、エフェメラの思惑が多分に絡んでいた、と、考えるべきかな」

戦艦水鬼改「確カ、世間体ヲ気ニシテイタ、トカイウ話モ、ナカッタカシラ?」

大和「仮にも議員をやっているというのですから、義務教育中の息子を放り出すわけにはいかなかった、というのはあるでしょうね」

提督「むしろ、出来の悪い息子でも向き合って育てたっつう実績ができれば、逆に箔もつくか?」

大和「そういう見方もできるかもしれませんね。だとしても、結果的に勘当されているのですから、箔と言うほどのものもないのでは……」

戦艦水鬼改「トニカク、父親ノモトヲ離レタ後ニ、海軍ニスカウトサレテ、提督業ニ就イタンデショウ?」

戦艦水鬼改「私ニトッテハ、提督ガコノ島ニ来テクレタノハ、結果的ニ良カッタ話ダケレド」

戦艦水鬼改「ソレデ父親ノ評価ガ上ガッテタリスルノハ、チョット気分ガ悪イワネェ?」

大和「ええ、まったくです。提督は、ずっと一緒にいた妖精さんにいろんなことを教わったと聞いています」

大和「そもそも提督は、妖精さんとお話ができると言うだけで、必要以上に悪し様に言われたのですから、それだけでも心外です!」プンスカ!


提督「……やっぱり、つまるところは世間体か。学生時代のいじめの事件で弁護士呼んだのもそういうことだろうな」

ニコ「べんごし?」

提督「ガキのころにいじめで自殺した奴がいたんだよ。俺は関わっちゃいなかったんだが、教師どもが俺に言いがかりをつけてきてなあ」

提督「それで親が弁護士呼んで、俺が関係ないことを俺の代わりに証明したんだ」

提督「そこだけ見れば子供思いにも見えるが、ありゃ単純に手前の保身のために呼んだんだろうな」ウンウン

大和「提督が納得できる答えを見つけたのはよろしいんですけどぉ……」ムー

戦艦水鬼改「改メテ、ソイツガ屑ダッテコトガ理解ッタワ」ムスッ

ニコ「魔神様、いつでもぼくたちを使ってくれていいんだからね」

提督「大丈夫だよ、そっちはそのうち人間どもの手で裁かれるはずだ」

大和「そうなんですか?」

提督「H大将がそいつの金回りを調べてる」

提督「調査に手こずってたらしいが、あいつの背後にいたエフェメラが調査の邪魔していたとしたら、あれから少しは進展があるはずだ」

提督「その後のお裁きの結果に納得いかなかったら、ニコたちの手を借りるかもしれねえが……」

提督「H大将たちが無能でない限りは、放っておいても二度と関わることはねえだろうな」


ニコ「魔神様はそれでいいの……?」

戦艦水鬼改「弟ニモ同ジ対応ダッタワネ。ソモソモ、関ワリアイタクナイ、ッテコトカシラ?」

提督「下手に関わってぎゃーぎゃー喚かれても、つまんねえ捨て台詞吐かれて強がられても不愉快なだけだしなぁ」

ニコ「言葉を封じるメディウムが必要かな……フローラあたりにそんな薬がないか、聞いてみようかな」

提督「喋れなくして顔に一発蹴りでも……いや、やっぱやめとくか。どうせ許す気もねえし、何やったって気が晴れそうにねえな」

戦艦水鬼改「トリアエズ、ソイツノ考エヲ理解シヨウトスルノハ、ヤメタホウガイインジャナイ?」

提督「……そうか?」

大和「私も同感です。いくら考えても、提督のストレスにしかならないと思います」

ニコ「そうだね。殺す以外で関係を断ちたいと言うのなら、そいつらことは忘れてしまったほうがいいよ」

ニコ「どう始末するか、って方向でなら、ぼくたちがいくらでも考えてあげるけど?」

提督「……そうだなあ。どうしてそういう考えに至るのかを知りたくて考えてたんだが、狂ってるなら理解しようとするだけ無駄か」

戦艦水鬼改「一族ノ?栄ッテイウ、エフェメラトノ約束ノタメニ、アナタヲ生カシテイタ、トイウ程度ノ理由シカ、ナサソウジャナイ?」

大和「……提督がお労しい限りです」


提督「そう渋い顔すんな。今はそいつから離れたわけだし、こうやってお前たちに心配もされてるから、俺的にはすげえ救われてんだぜ」

大和「そ、そうですか?」

提督「そうだよ、おまけにこっちはみんな俺の味方をしてくれて、至れり尽くせりだ。こんなボヤキに付き合ってくれて、本当に助かってる」

ニコ「魔神様、こういうことは自分だけで抱え込まなくていいんだよ? お姉ちゃんは、いつでも相談に乗ってあげるからね」

大和「その通りです! 提督はおひとりではないんですから! 大和もいつでも力になります!」

提督「なんか、お前たちは、自分自身のことより俺のことを心配してくれてるからなあ。そう思えば、昔のことなんて些細なもんだな」

戦艦水鬼改「フフ、気分ハ晴レタヨウダナ? 褒メテクレテ、イインダゾ?」ニヤッ

提督「そうだな……」

大和「それでは!!」リョウテヒロゲ

提督「ハグしろってか……いいけどよ」ギュ

大和「ありがとうございます!」ギュー

提督「んで、ニコはどうする?」

ニコ「えっ!? ぼ、ぼくも、その……同じでいいよ……」マッカ

提督「そうか?」ギュ

ニコ「……///」ギュー


提督「ル級……じゃなかった、水鬼はどうする」

戦艦水鬼改「ソウネエ、ソレジャ私ハ……」ズイ

 ンチューーー…

提督「!?」

ニコ「」

大和「」

戦艦水鬼改「……ンフッ」ペロリ

戦艦水鬼改「次ハ、モウ少シ、長メニイタダクワネ?」ニヤッ

提督「……そうか。まあ、お手柔らかにな」セキメン

ニコ「魔神様!? お、お姉ちゃんはそんなこと許してないよ!?」

大和「提督! 私も! 今後は私もそっちのがいいです!!」

ニコ「ちょっ、ぼくの話、聞いてた!?」

戦艦水鬼改「フフフッ」ニマニマ


 * 執務室 *

吹雪「あわわわ……し、司令官! 早くここから避難したほうがいいですよ!?」

提督「……」

軽巡棲姫「提督……? アナタハ、コイツト、ナニヲ、シテタノォ……!?」ヌォォォ…

戦艦水鬼改「オ前ニ、コイツ呼バワリハ、心外ネエ」

提督「……もしかして、アレ、見てたのか?」

クロエ「ええ、見てたらしいですよ? 先ほど遠征から戻ってきて、真っ先に執務室へおいでになりまして」

クロエ「それで、団長が戻って来てない、ということでそこの窓から外を眺めましたところ、団長のキスシーンを目撃したようです!」

クロエ「いやー、ニコさんもいるその真ん前で! 真昼間から団長も隅に置けませんねえ!」

ニコ「ぼくは許可してないよ?」

クロエ「おや、そうなんですか? そういうニコさんもニコさんで、大和さんの次に団長と抱き合っていたところは私も目撃しましたが?」

提督「そこまで見てて、お前は俺のキスシーンは見てなかったんだ?」

クロエ「軽巡棲姫さんに窓際から引き剥がされまして! で、ニコさん? 抱き着いたのはどうなんです? 本当なんですか?」

ニコ「! そ、それは……ぼくは魔神様のお姉ちゃんなんだから、そのくらい……!」


軽巡棲姫「オネエチャンダカラッテ、ナニヲシテモイイト思ッテルノォ?」ヌラリ

ニコ「……うん。いいと思ってるけど?」フンス!

クロエ「開き直った!?」ガーン

提督「……」

クロエ「えー、団長? 団長からの何かしらの申し開きはございませんので?」

提督「面倒臭え」

クロエ「めんどう!?」ガビーン!

吹雪「司令官ってそういう人ですもんね」タラリ

大和「今の沈黙で、そう仰るのではないかと思っていましたが……」

クロエ「は、はあ、そうですか……それはそれとして、団長? そもそも、なぜニコさんたちと抱き合うようなことになったんです?」

提督「ちょっとした悩みを相談してたんだ。それで気分が晴れたから」

軽巡棲姫「ナンデ私ニ相談シテクレナカッタノォォオ!!?」

提督「こればっかりはタイミングの問題だろが。お前はいろいろ間が悪かったんだよ、この場は諦めろ」

吹雪「悩みって、どんな悩みだったんですか?」

提督「ん? 俺の父親が何を考えて俺を育ててたのかわからなくてな」


提督「生まれる前から魔神の生贄にすることを決めてたってのに、どの面下げて父親面してたのか、お前たちは理解できるか? って」

吹雪「……」

軽巡棲姫「……」

クロエ「……」

提督「そこでクロエまで同じ顔すんのかよ」

ニコ「ぼくたちもこんな顔してたのかな?」

戦艦水鬼改「シテタワヨ?」フフッ

クロエ「私としたことが、思わず顔が固まってしまいました……しかしなるほど! そういうお悩みでしたら、このクロエの出番ですね!」

クロエ「そんな悩むにも馬鹿馬鹿しい悩みは、紙に文句を書きなぐって、この風船に括りつけて飛ばしてしまえばいいんですよ!」

吹雪「えええ!? それじゃ根本的な解決にならないんじゃ!?」

軽巡棲姫「私ナラ、提督ノ悩ミノ種ハ、根絶ヤシニ、シテキテアゲルワヨォ……?」

提督「いや、そこまでやる必要ねえって。忘れちまおうぜ、ってことで話は終わったんだ」

吹雪「い、いいんですか? 何もしなくて!」

戦艦水鬼改「イイコトニ、シタワ。ソモソモ、私タチモ、ソイツノ考エヲ理解デキルト思エナイシ? 考エルダケ、時間ノ無駄デショ」

大和「それに、海軍が大佐との関係を探っています。私たちが手を下すまでもなく、人の法の裁きを受けるでしょう」


ニコ「そいつのことを考えても、腹が立つだけだしね。図らずともクロエの考え方が一番近いかな?」

クロエ「おお……!」

軽巡棲姫「チョット、納得イカナイノダケレド」

提督「俺の不快な相手をどうにかしようって気持ちはありがたいが、近々ケリの着きそうな話だからな。まあここは穏便に頼むぜ」ナデ

軽巡棲姫「……アナタガ、ソウ言ウノナラ、仕方ナイワネ……」モジモジ

吹雪「あ、し、司令官! 私も、なにかあればお手伝いしますから!」

提督「ああ、わかった。なんかあったら頼りにさせてもらう」ナデ

吹雪「はいっ!」パァッ

クロエ「……」

大和「クロエさんが面白くなさそうな顔をしてますね?」

ニコ「クロエだけ頭を撫でられてないからかな?」

クロエ「はっ!? いえいえ、なんのことでしょう!? そのような顔は」

戦艦水鬼改「シテタワヨ?」

クロエ「してないですよ!?」

提督「つうか、頭撫でるのも本人が望めばなんだけどな。吹雪や軽巡棲姫は前々からそうしてたから、自然な流れで撫でたけどよ」


提督「むしろ、男に頭撫でられるのって、普通なら抵抗あるもんだろ? クロエだってそうじゃねえか?」

クロエ「はっ!? い、いえいえそんなことは! 団長から褒めていただけるというのは恐れ多いと言いますか、なんと言いますか」

戦艦水鬼改「ソウハ言ウケド、アナタ、イ級タチノ頭モ撫デテタデショ?」

提督「あ、そういやそうだ」

ニコ「あれはたぶん、人型じゃないから、犬か猫みたいな感覚で撫でてたんじゃない?」

提督「単純に労いたかっただけなんだがなあ……あんまり気軽に頭撫でるのも良くねえか」ウーン

大和「そんなことはないと思いますよ? といいますか、この鎮守府に嫌がる人がいるんですか?」

提督「山城」

大和「ああ……」

提督「あとあいつだ、クイーンハイヒールのヴァージニア」

ニコ「そうだね、ヴァージニアもプライドが高いから、嫌がられそうだね」

提督「ヒサメやヴェロニカあたりも喜ぶと思えねえし、あとは那珂とかシャルロッテとかも、気軽なお触わりは厳禁だろ?」

戦艦水鬼改「握手ハオーケーッテ言ッテナカッタ?」

提督「そうなのか? まあ、どっちにしろスキンシップは当人が望まない限りはやらないつもりだからな」


軽巡棲姫「私ハ、モット触ワッテ、イイノヨォ?」スリスリ

ニコ「……魔神様、それよりお仕事しないと」

提督「わかってるよ。軽巡棲姫も手伝ってくれるか?」

軽巡棲姫「ウフフ、勿論ヨ」

ニコ「……ほら、いつまでくっついてるの? 早く離れて」ムスッ

クロエ「……」

戦艦水鬼改「……デ、アナタハ、提督ニ撫デテモラワナイノ?」

クロエ「はっ!? いえいえそんなことは!? 万が一にも私のメイクが団長の衣装に移ってはいけませんし!」

吹雪「メイク? 司令官にそこまでくっつくつもりですか?」

クロエ「そそそそのようなことはありませんでございますよ!!?」

ニコ「……クロエ、珍しく動揺してるね」

クロエ「いえいえいえいえ! あ、ちょっとわたくし外に出てまいります!」ピャッ

吹雪「あっ」

戦艦水鬼改「逃ゲタ」


ニコ「クロエは何しに来たんだろう……」

吹雪「えっと、一応、お仕事のお手伝いに来たみたいなんですが」

吹雪「難しいことや都合の悪いことが書いてある書類は、全部風船を括りつけて飛ばしてしまおうと考えてたみたいで……」

提督「駄目じゃねえか」ガクッ

ニコ「クロエは『手に届くから悩みが生まれる、空へ放って手が届かなくなれば悩みは悩みでなくなる』っていう、独自の哲学の持ち主だからね」

ニコ「悩ましいことはなんでも風船にくっつけて、飛ばして笑ってしまおう、って感じなんだよね」

提督「この島の安定は、先送りしていい悩みじゃねえからな。クロエの話が通用するのは、その問題が解決してからだ」

戦艦水鬼改「ソウネェ。早ク平和ニシテ、私タチノ世界ヲ作ラナイトネェ?」

大和「ええ、その通りです」ウナヅキ

吹雪「……」ニコニコ

提督「吹雪、嬉しそうだな?」

吹雪「はい、それはもう! 深海棲艦のル級さんのほうから、平和にしようって言ってもらえたんですから!」

ニコ「……申し訳ないけれど、ぼくたちは、この世界のそういう交渉事にはあまりお役に立てないかな?」

提督「そいつはいいさ。こっちの世界のことはこっちの世界の住人に任せとけ」

提督「その代わり、決め事を破ってこっちに向かってくる愚かな連中を撃退するときは、メディウムたちに頼らせてもらうからな」

ニコ「うん。そう言ってもらえると嬉しいな」

大和「それでは、早速執務に取り掛かりましょう!」

軽巡棲姫「面倒ナコトハ、サッサト終ワラセテ、ソノ後ハ……ウフフフ」ニヤァ

戦艦水鬼改「抜ケ駆ケハ駄目ヨォ?」

吹雪「……あの、喧嘩しないようにお願いしますね?」タラリ

提督「……」

提督(我ながら、随分幸せな立場になったもんだな……)フフッ


 * 北東の海岸 *

クロエ「ううっ、このクロエ、何たる不覚! まさか団長と触れ合う機会を無碍にするとは!!」

クロエ「しかし! 道化たるこの私が、団長に思いを寄せていることを知られては、道化を演じるどころではなくなってしまいます……!」

クロエ「……ええい、かくなる上は!」

 (ペンと便箋を取り出し、何かを書いて封書に閉じて、風船を括りつける)

クロエ「とうっ!」

クロエ「……これで良し! 団長への思いはこれで遥か遠くに」

 深海艦載機<ブゥーン

クロエ「あ」

 風船<スパーン!

クロエ「あああ!?」

 手紙<ヒラヒラ…

クロエ「これはよくありません! あのお手紙にはもっと遠くに飛んで行ってもらわないと!!」

深海海月姫「アラ? コレ、ナニカシラ」ヒロイアゲ

南太平洋空母棲姫「オ手紙? アノ風船ニクッツイテタノ?」

クロエ「あああああ!! い、いけません! 返して! 返してぇぇ!!?」イヤァァァ!!

短いですが今回はここまで。

今回は再び海軍と不穏なお話です。
残念ながらメディウムと深海棲艦の出番はなし。

続きです。


 * 翌日 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船 甲板上 *

 ザザァ…

中将「おお、よく来てくれた。忙しいだろうに、連日呼び出してすまなかった」

提督「……いいえ。おひとりですか? 護衛の艦娘は……」

中将「ここにいるのは儂だけだよ。君に、頭を下げたかったのでな」

提督「!」

中将「儂の息子が、墓場島と呼ばれたあの島に、自分の意に従わない者、邪魔立てする者を置き去りにしたと聞いている」

中将「君もそのひとりだったと、赤城たちから聞いたよ。本当に、申し訳ないことをした。すまなかった」ペコリ

提督「中将……」

中将「ほかにも、儂の息子がやったこと、J少将がやったこと……海軍の愚行に君を巻き込み続けたこと」

中将「儂が頭を下げて済むようなことではないことは、重々承知している」

提督「……」

中将「謝らなければならないのは、過去のことだけではない。我々はこれからも、深海棲艦と対話するために君を頼ろうとしている」

中将「我が国のためと言う大義名分のもと、稀有な力を持っているというだけで、このような過酷な生活を強いてなお……」

中将「我々は、君に、負担をかけ続けようとしている。君を利用しようとしている」


提督「……」

中将「我々の我儘に付き合わせてしまい、申し訳なく思っている」

提督「……」

中将「……」

提督「……まあ、散々な目に遭わされたのは違えねえな」

中将「!」

提督「あの不愉快極まるくそ野郎に封じ込められた状況で、どうやって艦娘たちを気楽に生活させようかって悩んでいたのも事実だし……」

提督「今も今で、生活そのものはまだまだ不安定。海軍の一部の連中も、何を考えてるかさっぱりわからねえ」

提督「とにかく今は、あいつらを安心させてやるのが俺の望みだ。不安要素がたくさんある現状は、いい状態とは言えねえな」ハァ…

中将「……すまないな。人間と言うものは、みな自分のエゴのため……おのが望みのために、動いている」

中将「儂も、海の平和のため……人々が安心して海を行き来できるようにするため、多少の悪事も見逃してきた自覚はある」

中将「息子のことも……つまりはそういうことだ。君にいらぬ負担をかけたこと、本当に申し訳ないと思っている」

提督「……そうかよ」

中将「……」

提督「……」


中将「ところで、いきなり別の話をさせてもらうが。先日、I提督の亡骸が見つかったと報告があった」

提督「!」

中将「艦娘である翔鶴の首を抱えて白骨化した姿で、鎮守府の焼け跡、地下から……捜索したはずの場所から見つかったらしい」

中将「改めて供養して、彼女の両親と一緒の墓に納骨してもらえるそうだ。翔鶴も一緒にな」

中将「X大佐から、君が彼女のことを知っていたと聞いた。君の耳にも入れておきたかったのだ」

提督「……」

中将「そのI提督のご両親は、ある事件によって殺害された。実は、その犯人がまだ存命しておるのだが……」

中将「近々、ほかの凶悪犯とともに、海外に護送されることになった」

提督「護送? ……まだ殺さねえのかよ」

中将「うむ。それが我が国の司法が下した判決だ」

提督「……」

中将「その護送に用意された船だが、型落ちの古い船らしいのだ。それから護送時には、この島の近海を渡ることになった」

中将「道中は艦娘が護衛するとはいえ、船そのものの老朽化もあり、トラブルがないとも限らない……」

提督「……おい。本気かよ。あんた、俺にそいつらを事故に見せかけて始末しろってのか……?」

中将「……」


提督「その企みが明るみに出たら、洒落にならねえだろ。それじゃまるで、深海棲艦に襲わせて謀殺するのと同じ……」

提督「かつてF提督や、俺やあんたが、あのくそ大佐どもから殺されかけたあの状況と、一緒なんじゃねえのか?」

中将「……うむ、そうだな。だが、儂はそれで良いと思っている」

中将「あの犯罪者たちは、己の欲望を優先し、他者の財産を奪い、他者の命を脅かし……それを、間違っていないと……正しいと宣った」

中将「儂に、彼らを非難する資格はないのかもしれん。しかし、儂は、彼らの存在に憤ったのだ」

中将「君の個人的な部下は、悪人の魂を欲している、とも聞いた。君たちにとっても、都合が悪い話ではないと思うのだが」

提督「……」

中将「これは、儂のさいごの望みだ。その船に乗る者たちを、君の手で始末してほしい」

提督「……操船する乗員もか?」

中将「ああ。残念ながら、海軍にも始末に負えぬ愚か者がいるのでな」

提督「どんな連中だよ」

中将「ふむ……例えば、I提督からの支援要請を揉み消した男だな」

中将「I提督に思いを寄せていたらしいが、一向に靡かぬために、思い知らせてやろうとして、彼女を見殺しにしたらしい」

中将「それから、F提督の襲撃に関わった者も、今回、海外の泊地に着任させるついでと言う形で、護送に参加させることにした」

提督「……そうやって、なんらかの問題がある奴だけ乗せてたら、あからさますぎて怪しまれるんじゃねえのか?」


中将「そこは心配ない。その船には、儂も船長として同乗する」

提督「はあ!?」

中将「儂が一緒なら、彼らも怪しいとは思うまい。言っただろう、儂の『最期』の望みだと」

提督「……そっちの最期かよ」

中将「彼らを、儂もろとも屠って欲しいのだ。息子の蛮行に君を巻き込んだ罪を、儂の命で償わせてもらいたい」

提督「……」

中将「……」

提督「はぁ……そうきたか。そう、きやがったか」アタマオサエ

中将「……?」

提督「っざけんな! 何がもろともだ! 耄碌してんじゃねえぞこのくそじじい! 何考えてやがる!」

中将「くそ……!?」

提督「いいか! あんたの後任の与少将は、あんたを慕って海軍に入ってんだ。あんたが死んだら真っ先に嘆き悲しむのが与少将だ!」

提督「これから俺たちはX大佐や与少将と話し合っていかなきゃならねえってのに、ここであんたを俺たちが殺したらどうなる!?」

提督「与少将から恨まれて話が進まなくなるに決まってんだろ!? なんでわざわざ拗れそうな真似しようとすんだよ!?」

中将「む……」


提督「死んで詫びるだぁ? んなもん、手前が消えて楽になりたいってだけの逃げだろうが!」

提督「贖罪したいってんなら、生きてこれからも与少将をバックアップしやがれってんだ、くそが!」

中将「……き、君は、儂を恨んでないのかね?」

提督「あぁ? 別に恨んじゃいねえよ。むしろ、あんたには、轟沈した艦娘をあの島で運用できるように取り成してもらってる」

提督「あの頃の海軍のお偉方は、俺があの島で轟沈経験艦を運用することに対して文句しか言わなかったんだろ?」

提督「それを通してくれたんだ。これでも俺は、あんたには一応感謝してんだぜ」

中将「あの大佐が、儂の息子であってもか」

提督「それを言ったら、その息子に殺されかけたあんたこそどうなんだ、ってんだよ」

提督「いくら義理の息子だとはいえ、あんたのことは少なからず気の毒には思ったぞ?」

中将「……そうか。そこまで知っていたか……儂への連絡が少ないから、嫌われておったかと思っていたが」

提督「そりゃ俺が分を弁えてただけだ。准尉の俺が、大佐不在でもないのに中将に直接具申なんて、していい立場じゃねえ」

提督「いくら不知火がいたとはいえ、直属の上司である大佐を毎度毎度飛び越して話を通してたら、さすがに大佐も不快に思うはずだ」

提督「残念ながら、俺の命はあのとき大佐の手のひらの上にあった。余計な真似は、極力したくなかったんだ」

提督「人間の世界に関わりたくない、人の世の平和に貢献なんかしたくない、っていう、俺の本音もあったけどな」

中将「……」


提督「で? 仮に中将もろとも船を沈める計画がなしになったとして、だ」

提督「そうなったら、あんたはその船に乗らなくなるのか? そうなったとしたら、そいつらが素直に島の近くを通るのか?」

中将「……そうなればわからんな。他に航路もある。そもそも、エンジントラブル自体も儂がその場でリモコンで起こすつもりでいた」

提督「……」

中将「君に協力を頼めないとなると、諦めざるを得ないか。すまないが、今の話は聞かなかったことにしてくれ」

提督「いや、そうもいかねえんじゃねえか? そこまで話ができているってことは、それなりに準備が整ってるんだろう?」

提督「中将がそれなりの覚悟を持って計画し……そして、俺がここで断ると思ってもいなかった。そういうことだよな?」

中将「……そうだ。いま、君が儂に協力する理由がない」

提督「いいや? I提督が関わってるなら、ちょっと話が変わってくるぜ」

中将「? 君はI提督と面識はあったのかね」

提督「直接はねえよ。けど、俺はあの世で、I提督と、I提督の両親の事件に姉が関わったっていうQ中将に会ってきた」

中将「あの世で……!?」

提督「ああ。Q中将から聞いたが、I提督の母親を殺した奴は、母親の首を抱えたまま自殺して、永遠に一緒になろうとしてたらしいな?」

提督「その話を聞いて、俺も不愉快に思った口だ。んな狂った奴、ただ殺したんじゃ、そいつの望み通りになっちまう」

提督「だから中将。計画通りやってくれ。そのくそどもの血肉と魂はあの世には行かせねえ。もれなく俺たちの餌にしてやろうじゃねえか」


中将「や、やってくれるのか……!?」

提督「ああ。X大佐のところへ行った暁や川内も、もとはI提督のもとにいた艦娘だ。これも何かの縁って奴さ」

提督「ただ、海軍の連中は、その時の反応次第になるな……まあ、そのとき考えればいいか」

提督「で、あとはあんたは俺たちに助けられたていを装って、そのまま退役するなり相談役に徹するなりして、隠居すりゃあいい」

提督「あんたを助けりゃ、与少将にも恩を売れるしな」ククッ

中将「なるほど。君たちには、そのほうが都合がいい、か……」

提督「度を超えた要求をする気はねえから、安心しな。欲をかいて失敗した連中は、俺もたくさん見てきた」

提督「とりあえず、あとで日程を教えてくれ。万全の態勢で、そいつらを歓迎するからよ」

中将「わかった……何から何まで、重ね重ね、すまない。ここまで考えてくれるとは、儂としても望外であった」ペコリ

中将「かつて不知火からは、君が私に感謝していると聞いてはいたのだが……儂はそんなことはないと思い込んでおったのだ」

中将「大佐の独り善がりの決定に任せてあの島に君を行かせて、そのままにしてしまったのだからな」

中将「おまけにこの場で、君に変な気遣いをさせてしまった。儂も老いたものだ、みっともないところを見せてしまったな」

提督「……ま、俺が愛想悪くしてきたのも確かだし……これ以上気にしないでくれよ。俺も猫被るのやめたし、おあいこってことでよ」

中将「うむ……」


提督「にしても、あんたも結構、清濁併せ呑むってタイプか? 初めて赤城と顔を合わせた時も、そういう感想を抱いた記憶があるが」

提督「もしかしてあいつ、あんたに似たのか? 変なところで自己犠牲も厭わないような言い方もそうだし……」

中将「赤城がか……?」

提督「ああ。大佐の部下の艦娘を慮ったのか、それともあんたがいた鎮守府の名声を傷つけないようにしたのかは知らないが」

提督「わざと冷血漢を装いつつ、あの大佐のやってたことを白く見せてたのが、あの赤城だ」

提督「あいつも、自分が悪く言われることには躊躇も頓着もしてなかったからな」

提督「俺も人のことは言えねえが、あいつがそうなったのは……いや、そうしたのは、あんたの影響もあったのか、ってよ」

中将「……冷血漢か。儂の前では、そこまでではなかったのだがな。そうか、赤城が……」

提督「……」

中将「うむ。提督、良いことを思いついた」

提督「ん?」

中将「赤城を、君の妻にしてはどうかね」

提督「……はぁあ!?」

中将「儂は、前の妻とも子を残せなかった。いま思えば、赤城には儂の知る知識をすべて与えた、いわば娘のようなもの……」

提督「いやちょっと待て! どっから出てきたそんな話!!」


中将「不満かね? 君のことを話す赤城が嬉しそうにしていたことを思い出したのだよ。彼女もまんざらでは……」

提督「そうじゃなくてだな!? なんでそんな下世話な話になるんだよ!? 飛躍しすぎだろ!?」

中将「君のようないい男が、妻も娶らずに独り身のままでいるのは、些か忍びないと思ったのだが」

提督「余計なお世話だよ……あんたといいQ中将といい、じじいどもはとんでもねーとこで世話焼いてきやがるな、くそ……!」アタマカカエ

中将「君には、良い人生を歩んで欲しいと、思っただけだ……他意はない」

提督(? なんだ……何か言い淀んでるな。魔神の目で見てみるか)メヲトジ

中将「……提督? どうかしたかね」

提督「ふーん、なるほど。そういうことか」メヲヒラキ

提督「中将、俺も余計なことを言わせてもらうぞ。あんた、いまの後妻をなんとかしたほうがいい」

中将「!!」

提督「あんたが現役の間はとんと音沙汰なかったってのに、引退が近くなってからはあんたにすり寄って、甲斐甲斐しくしてるみてえだな?」

提督「健康でいて欲しいとのたまう割には、やたらと味の濃い飯ばかり出してきて……さては糖尿病にでもしてやろうって魂胆か?」

中将「……そんなことまで知っているのかね」

提督「残念ながら、俺はもう人間じゃないんでな。あんたの抱えた不調や不安を見ようと思えば見えちまうんだ」


提督「あんたが死にたがった一因がそれなんだろ。今の嫁には、金蔓としか見られていなかったのが虚しいからって、殉職を志願した、って」

中将「提督。やめてくれたまえ……これは私の問題だ」

提督「そうもいかねえよ。誰かが自暴自棄になって、その結果で嫌な奴が笑うのは面白くねえって言ってんだ」

提督「さっきも言ったが、与少将みたいにあんたを慕う人間のためにも、あんたにゃもう少し健康でいてもらわなきゃ困る」

中将「……」

提督「知ってんだろ? もともと俺は、この島が艦娘たちだけで統治できるようになったら、この島から去るつもりだった、って」

提督「それをうちの艦娘たちに知られて、顰蹙買って、どこにも行くな、死のうとするなって言われてよ」

提督「多分、同じことを与少将たちが言ってくるはずだ。こんな話、俺にだけ喋ったら、俺が非難されるのが目に見えてる」

提督「つまんねえこと考えてねえで、あんたは、今後どうやって生活していくか、そっちを考えるべきなんだ」

中将「……そうか。ある意味、君と同じことを考えねばならんと言うことか」

提督「……だな。結局、俺たちは同じ穴の狢だったってか?」

中将「かもしれんな。ふふ……」

提督「なんで楽しそうにしてんだよ……」


 * 巡視船内 会議室 *

H大将「なんだ、苦虫を噛み潰したような顔をして。頭でも痛いのか」

朧「提督、さっきまで中将さんと話をしてきたんですよね?」

X大佐「なにかまずいことでもあったのかい?」

提督「……大丈夫だ。ちょっと面倒な話を聞いてきただけだ」

大淀「本当に大丈夫ですか? 何か都合の悪いことでも……」

提督「いや、そういうことじゃねえ。昔の、大佐のこととかでいろいろとな……まあ、終わった話だ。これ以上面倒にはならねえよ」

H大将「そうか。では俺から、少し気が楽になる話をしてやろう」

H大将「まず、北上たちの移籍だが、受け入れることにした。大井と荒潮に判断してもらったが、問題なく馴染めるだろう、とのことだ」

大淀「そうですか、であれば大変喜ばしいことです。ありがとうございます」

X大佐「僕たちの鎮守府も、暁と川内を受け入れることになったよ」

X大佐「響……ヴェールヌイが暁にべったりくっついて、うちのビスマルクがちょっとやきもち焼いてるけどね」

提督「……うちの暁はすげえ大人びてるらしいからな。あまり悪影響にならねえといいんだが」

X大佐「大丈夫だよ。僕たちが、みんなをサポートするから」ニコ

大淀「是非、よろしくお願いいたします」ペコリ


X大佐「それから、新人の礼提督のところには、五月雨、若葉、龍驤、雲龍の移籍が決定したよ。長門と潮は、保留になった」

朧「保留?」

X大佐「どうやら、長門がすごく頼れるらしくてね。他の鎮守府からも来て欲しいって言われてるくらいなんだ」

X大佐「引き抜き工作されてるから、まだ君の鎮守府に在任している扱いにさせてもらってる。そのほうがあの二人も安心するかと思ってね」

提督「ああ。そういう事情ならそうしてくれ、変な連中にうちの艦娘預けるよりずっといい」

X大佐「ほかの艦娘に関しては……L少佐の鎮守府には、千歳、足柄、古鷹、加古、朝雲、山雲の移籍が決定した」

X大佐「W大佐の鎮守府には、最上と三隈。仁提督の鎮守府には、伊勢、日向、黒潮が、それぞれ決定」

X大佐「F提督の鎮守府には、利根、筑摩、五十鈴、そして神通。神通は元の鎮守府に戻る形になるね」

大淀「五十鈴さんは筑摩さんと一緒の鎮守府に行くことにしたんですね」

提督「あいつもなんだかんだで心配性で面倒見がいいからな。筑摩と一緒なら大丈夫だろ」

X大佐「R提督の隼鷹も、同じように舞鶴の鎮守府に戻ることになった。あとは、与少将殿の鎮守府に、武蔵と那智が移籍予定、かな」

X大佐「最後に、城塞鎮守府。リンガ泊地の演習が盛んな鎮守府に移籍するのが、霧島、摩耶、鳥海、利根、名取、弥生、初霜」

朧「あれ? 鳥海さんは、加古さんと一緒じゃないんですか?」

提督「摩耶が鳥海のことを気にかけてたからな。古鷹も加古が心配らしい。それより、一番悩んでた名取たちも、行き先を決めたんだな」

朧「摩耶さんたちが以前一緒にいた、三日月たちに誘われたみたいですよ」


大淀「これで残留を希望している艦娘以外で、移籍が決まっていないのは川内さんだけになりますね。うるさいほうの」

提督「ああ、あの夜戦夜戦ってうるさいほうのあいつか……」

X大佐「そちらの川内については、引き続き移籍先を探してみるよ」

大淀「はい、よろしくお願いいたします」ペコリ

H大将「それから、先日の曽大佐のところの小さくなった艦娘については、解体せずに様子を見ることになった」

H大将「曽大佐の代わりに着任した提督が子供好きと言うこともあって、どうにか解体せずに済むよう張り切っているらしい」

H大将「憲兵や特別警察隊もすべて入れ替え、在籍している艦娘の再教育も平行に行われる。しばらくは戦力として期待できなくなるな」

朧「……やっぱり、そうなるんですね」

H大将「体制そのものが全て変わるわけだからな。今後は相互に監視しつつ、協力していく体制を作り上げてもらわねばならん」

提督「H大将はお咎めなしで済んだのか?」

H大将「俺か? 一応はな。曽大佐の離反は、あいつ自身の暴走、と言う形で処理された」

提督「ならいいや、海軍にもちゃんとまともな判断できる奴がいるみたいで安心したぜ」

H大将「……俺は心配されたのか?」

朧「だと思います!」


X大佐「その代わりじゃないけど、曽大佐を諫めることなくその気にさせてしまったということで、呉の和中将に処分が下っているけどね」

提督「……なんか、ますます逆恨みされそうだな?」

大淀「心配ではありますが、処分が下ったそうですし、今後こちらに接触してくる可能性は減った……と、考えてよろしいですよね?」

X大佐「うん、いいと思うよ。和中将もご自身で、もう関わりたくないと言っていたそうだ」

H大将「それから、お前の父親の件だが、無事逮捕された」

大淀「本当ですか!」

提督「ふーん……」

朧「……提督? 嬉しくないんですか?」

提督「いや、他人だしな。どうとも思わねえ……が、安心したっていえば、安心したか」

朧「……」

H大将「丁度、政府がお前たちと接触を試みた日を境に、妨害がなくなって決定的な証拠を掴めたと聞いているんだが……」

提督「妨害してた奴を倒したから、か?」

朧「やっぱりエフェメラが妨害してたんですね」

X大佐「この前、祢大将殿がいらしたときに話していた、魔神のしもべのことだね?」

H大将「深海棲艦とは異なる、世界の危機が迫っていたと聞いたが」


提督「あー、そう言われればそうだな。もしエフェメラの望んだ神が復活してたら、深海棲艦どころの騒ぎじゃなかったはずだ」

H大将「さらっと言ってくれるな。今は大丈夫なんだな?」

提督「ああ、ひとまず脅威は去った」

H大将「……一応、あらましは祢大将とX大佐から聞きはしたが、まさかお前の父親がそんな連中と繋がっていたとはな」

大淀「それで、その後進展はあったんでしょうか」

H大将「提督の父親はあっけないくらい神妙にお縄についた。この調査のために、何人もの刑事や調査員が行方不明になったと聞いている」

H大将「彼らをどこへやったのか、その件についても調査を進めるそうだ。と言っても、調査は難しいと思うが……お前はどう思う?」

提督「夢も希望もない言い方しちまうけど、全員殺されてんじゃねえかな。あのエフェメラが人間に手心加えるとは思えねえ」

提督「エフェメラがやったなら、凶器とか血痕みたいな証拠も残ってるかすら怪しいし、そいつらが死んだことを証明するのも難しそうだ」

H大将「そうなると、提督の父親が素直だったのは、エフェメラという後ろ盾を失ったことで観念したか……」

H大将「あくまで協力者がやったことで、証拠が見つからないからと開き直ったか。そのどちらか、ということになるか」

提督「あいつの考えてることは俺には理解できねえから、その辺の考察は俺はパスだ」

H大将「……提督、そういう貴様はどうなんだ?」

提督「? どういう意味だ?」

H大将「お前はメディウムの親玉だろう? お前自身は、生きるために人間の命を必要としてはいないのか?」

X大佐「!」


提督「……ああ、そういう意味か。それなら心配しなくていい。普通に飯食って寝て過ごすところは、今んとこ、これまでと変わりねえ」

提督「ぶっちゃけ、そっちも心配されるほど困ってねえしな。結構な頻度で命知らずどもが島に来てるしよ」

X大佐「な……!? ど、どういう意味だい、それは!?」

H大将「……お前の撒き餌が効果を発揮しているということか?」

提督「いや、盗掘目的の連中もいるっちゃあいるが、それより軍事的な目的でこの島を占拠しようとする奴らのほうが最近は多いぜ」

X大佐「!?」

H大将「なんだそれは……仮にも深海棲艦相手に、そんな馬鹿なことを考える国があるのか」

提督「それなんだが、おそらくそいつらは、俺たちが人間との交渉の席に立った理由を勘違いしてる気がするんだよな」

提督「俺たちはあくまで、人間と戦わないための話し合い、取り決めを交わしたいだけなんだが……」

提督「あいつらはそれを、俺たちが力を失って弱体化したせいで人間に助けを求めてきた、命乞いしてきた、と解釈したんだと思う」

X大佐「弱い深海棲艦たちだと思い込んだってことかい……?」

提督「たぶんな。人間より強い存在が、わざわざ人間と約束事なんかするはずがない、って考えたんだろう」

提督「最初は難民装った海賊みたいな連中が来てたんだが、少しずつ攻め込んでくる人数っつうか、規模がでかくなって」

提督「そいつら返り討ちにしてたら、艦隊連れてきやがったんだ。この間、新聞にもそれっぽい記事が載ってたよな? 偽装されてたけど」

H大将「記憶にないぞ、いつの記事だ?」


朧「少し前に、某国の空母が、深海棲艦と交戦したニュースが少し前にあったと思うんですが」

X大佐「……もしかして、通常兵器で深海棲艦と交戦できるかを実験して失敗したっていう……?」

H大将「あの無謀すぎる実験の件か」

提督「そうそう、多分それだ。実際には、島への侵攻中に、島の近海を縄張りにしてる深海棲艦に全滅させられたんだよ」

X大佐「え? 君たちは手を出してないのかい?」

提督「おう。俺たちは小さい船を返り討ちにしてきただけで、新聞に載った空母は俺たちは無関係だな」

H大将「なるほど、道中での全滅じゃ国としてのメンツも丸潰れ……それで実験ということにしたと。あまりに苦し紛れがすぎる発表だな」

X大佐「……途中で思い直せば良かったのに」アタマカカエ

提督「俺たちを侮りまくってたんだろうなあ。こんなはずはない、みたいな感じでよ」

提督「それで大戦力を投じて一気に制圧しようとしたんじゃねえかな。でかい船を持ち出したら深海棲艦に攻撃されることも忘れてな」

H大将「艦娘も随伴せずにか……」

提督「あの国、自前の艦娘いねえだろ。他国からレンタルして随伴させたら手前らのやってることがばれるから、できなかったんだろうけど」

提督「そういう大ドジをやらかすくらい、俺たちが利用しがいのあるコマに見えたんだろうな」

提督「艦娘と深海棲艦を大量鹵獲できたら大喜びするはずだぜ、あの国は。なんなら海軍にスパイが入ってたって話もそこ絡みだろ?」

H大将「よく知っているな……」

提督「一応、海軍にいたころはちゃんと新聞読んでたしな」


X大佐「……それで、その国の船は、撃退……したんだね?」

提督「ああ。別にその国に限らないが、領海に入った連中は全部始末してる」

X大佐「そうか……仕方ないな」

提督「ま、連中は政府と目的が違うからな。俺たちのことを力づくで従わせようとする連中なんざ、わざわざ慮ってやる理由がねえ」

X大佐「……H大将殿。各国に対する通知の文面を、もっと緊張感のあるものに変えるべきですね」

H大将「そのほうがいいな。しかし、なんでお前たちが攻撃を受けているという話をこちらに寄越さなかったんだ」

提督「内々で処理できている話だからな。わざわざ海軍に連絡して顔色伺う話じゃねえし」

提督「そもそも、海軍にこの話が行ってないってことは、そいつらがやってることが海軍に相談できないような類の話だってことだろ?」

提督「海軍はこういうのを取り締まるのもお仕事だって言うのかもしれないが、そいつらがおとなしくごめんなさいするとは思えねえ」

H大将「……だから俺たちに知らせなかったと?」

提督「以前もこの席で言ったが、死にたがりの尻拭いなんか海軍がやる仕事じゃねえよ」

提督「俺たちが海軍に求めているのは、俺たちの立場を各国へ通達してもらって理解してもらうことだ。余計な仕事は増やしたくねえ」

提督「これでも俺は、海軍に協力してもらってることには感謝してるんだ。下手に連絡してドンパチして海軍に被害が出ても気分が悪い」

提督「あの鎮守府にいた艦娘の居場所を作ってくれたりしているし、島そのものの扱いだって、こっちに都合良くしてもらってるしな」

X大佐「提督……」

H大将「……」


提督「だからこそ、頭の悪い連中のために海軍がしなくていい苦労をするのは、俺としちゃあ面白くねえな」

H大将「お前の言いたいこともわかるが、その苦労をしなければ、世界全体が足並みを揃えなければ、海全体の平和を作ることはできん」

提督「……あんな連中、見捨ててやりゃあいいのによ。よくやるぜ」

H大将「それが俺たちの仕事だ。もっとも、余所の国との対話は外務省に任せるしかないのが、もどかしいがな」

X大佐「……提督の父親の話からだいぶ話がそれてしまいましたが、次に提督の弟さんに関しても話したいのだけれど、いいかな?」

提督「弟のこと?」

H大将「ああ。お前の弟が、政府との交渉の日にあの島に上陸したらしいな」

H大将「お前はこの前、家族の話を出されたときに殺気立っていたが、実際に顔を合わせて大丈夫だったのか?」

提督「思ったよりもな。ガキのころの顔しか知らなかったもんで、会っても誰だかピンとこなかったからってのもある」

H大将「お前の弟は、あの島に上陸してまでお前に会いに行ったと聞いたが、それは何故だ?」

提督「うーん……なんか、単純に、あいつが俺に対していろいろ恨みがあったっぽいんだよな」

H大将「恨み? 恨まれるようなことをしてたのか……?」

提督「俺、あいつの言うこと最初から聞く気なかったから、覚えてねえんだよ……朧、覚えてるか?」

朧「えっと……提督を兄と認めない、みたいなこと言ってた気がします。お父さんに迷惑かけたとか、そういう理由で提督を悪く言ってて」

朧「一家の恥さらしとか……なんか、朧も聞いてて頭に血が上って、途中からよく覚えてなかったですけど」ムスッ


H大将「家柄に誇りを持ってたってことか? それで提督が気に入らん、と……逆恨みに近いな」

朧「はい。あ、あと、提督の代わりに島の統治者になるとか言ってましたよね?」

提督「言ってた気がするな。どうやって深海棲艦を従えるつもりなのか、何考えてんだと思いながら聞いてたけど……」

提督「島にいるメディウムたちも支配するつもりでいたらしいから、力で抑え込むつもりだったのかもなあ」

朧「エフェメラから魔神の力を借りて、その力で提督も殺すつもりでいたんですよね。あっけなく返り討ちに遭ってましたけど」

大淀「聞く限り、エフェメラの力を信じすぎて、自信過剰になっていたのかもしれませんね」

提督「かもな。そうじゃなきゃ、官僚のエリート街道から外れるような真似はしないだろうしな」

H大将「で、その弟だが……怪我をして入院しているんだが、退院とともに退職して田舎に帰るらしい」

提督「んん? なんだ、仕事辞めるのか」

H大将「おそらくだが、父親があっさりと逮捕に応じたこともあって、今の仕事を続けられなくなったと考えたんだろう」

H大将「どのみち、あの場に出てくるなと言われていたのに、それに背いたことで評価を落としているからな」

X大佐「それに加えて、同行した仲間に得体のしれない力……エフェメラの力でしょうね、それで怪我を負わせたそうです」

X大佐「省内で悪評が立ったとも聞いています、職場に居づらくなったのかもしれません」

H大将「残れたとしても、問題児として閑職に追いやられそうだな」

朧「……割と、提督の望んだとおりになった感じですね?」

提督「みたいだな」


朧「あの、H大将さん? 話は変わりますけど、提督のお母さんはどうなったか知っていますか?」

H大将「ん? ああ、一応調べたが、数年前から夫と別居中で、今も独り暮らしを続けているそうだ」

朧「そうですか……提督のお父さんが一族の繁栄を望んだ割には、誰も幸せになってないんですね」

H大将「……確かにな。だが、少し前まではそれなりに幸せだったろう。弟は官僚になってエリート街道を歩いていたし」

H大将「夫である父親は政治家となって、党内からも一目置かれる存在になっていた。金にもそこまで困っていなかったように見える」

H大将「夫婦の別居の理由も、海に近づきたくないから……父親の新事務所が海沿いにできたということなんだが、それを嫌がったそうだ」

H大将「お前たちの言っていた、深海棲艦に襲われた事件が余程堪えているようだな」

大淀「……そこからいきなり、夫が逮捕されて、息子さんが職を失うわけですよね。大丈夫なんでしょうか?」

X大佐「それは何とも言えないけど、仮に何かあっても、僕たちや提督が手出しして、どうにかできることでも、していいことでもないね」

提督「そうだな。俺たちには関係ねえ」

H大将「残念ながら、関係ない、というわけにはいかん。お前の父親のスキャンダルについては、これからも調査が続くだろう」

H大将「お前があの男の息子であることもマスメディアは知ったようだ。何をしてくるかわからんが、くれぐれも手を出さんようにな?」

提督「ちっ……手を出さない自信がねえな」

H大将「いいから言葉だけでも自重しろ。俺は言ったぞ、手を出すなとな」


朧「それ、提督が自重しても、メディウムや深海棲艦のみんなは自重しないと思いますよ」

H大将「わかっている。言うだけ無駄でも、俺の立場からは言っておかねばならん」アタマオサエ

提督「大将殿も大変だな」

H大将「お前が言うな、当事者だろう……!」

提督「そうは言ってもなあ……」

大淀「提督の評価に関わる話では手が出ても仕方ありませんよ? メディウムは特にそうでしょうし、深海棲艦も面白く思わないでしょうね」

H大将「……マスメディアにも注意喚起しなければならんな」

大淀「はい、是非そのようにお願いいたします。島に住む姫級、鬼級の数も増えましたし、私たちでも抑えきれるかどうか……」

H大将「増えたのか? 姫級が」

提督「おう。戦艦水鬼改に、軽巡新棲姫、防空巡棲姫、南太平洋空母棲姫、南方戦艦新棲姫……あと、深海海月姫と、欧州水姫か」ユビオリカゾエ

H大将「待て待て、どうしてそんなに一度に姫級鬼級が増えるんだ。洒落にならんぞ」

X大佐「それで、深海棲艦の名前を調べられる資料が欲しいって話だったのか……いったいどこから連れてきたんだい?」

大淀「今回増えた姫級や鬼級は、海軍でル級やタ級と呼ばれている深海棲艦が強化、進化したものなんです」

X大佐「また初めての事象が……」


H大将「まったく、話題に事欠かんな。お前たちと暮らしていた深海棲艦が強くなったのは今回が初めてか?」

朧「かつて提督が大佐に殺されかけた時、友好的な戦艦ル級さんが怒って、赤いオーラや黄色いオーラを纏うようになることがありました」

X大佐「Elite級やFlagship級になったってことかい……!?」

朧「そうです。今回は、曽大佐の艦娘との戦闘で提督が狙われたときですね。ル級さんたち深海棲艦が鬼級や姫級になったんです」

H大将「なんだそれは。提督がピンチになると、深海棲艦がパワーアップするとでも言いたいのか」

提督「それだけじゃねえな。欧州水姫は仲間のタ級がダメージ食らったときに怒って変身した、って言ってたよな?」

朧「あ、そうです、そういえばそうでした」

H大将「仲間を傷つけられると、深海棲艦がパワーアップする、と言う法則でもあるのか……?」

X大佐「いえ、これまでも大型の深海棲艦が、大打撃を与えてから強化されるケースは散見されていましたよ」

X大佐「さすがに、ル級やタ級が姫級鬼級になる現象は初めて聞く話ではありますが」

H大将「……お前、何かしたのか? なにかきっかけはないのか」

提督「おそらくなんだが……うちにいる連中の場合は、ある程度文化的な生活に触れたから、こうなったんじゃねえかと思ってるんだ」

H大将「……なんだそれは」

提督「深海棲艦てのは、地域によって差はあるが、それこそその辺の魚みたいな、だいぶ本能に寄った生活をしてるみたいなんだ」

提督「会話じゃなく信号を送って意思疎通し、海の中で魚と同じように寝て……さすがに衣服はどうだか知らねえけど」


提督「それが、俺たちの鎮守府に入ってもらったとき、俺たち人間の住処に近い鎮守府で暮らすようになってる。そこが変化点だと思うんだ」

提督「飯を食って、口で話し合って、布団で寝て。そうして人の気持ちを理解し、人の生活に触れて、人との関わりを思い出し……」

提督「人の心を知った結果、自分のルーツとなる艦の存在を思い出し、その姿に変貌した、と考えられそうなんだよな。俺の私見だけどよ」

X大佐「確かに、こちらに話しかけてくる深海棲艦は、姫級や鬼級といった、まとめ役の深海棲艦ばかり……」

提督「おそらく、人を理解し、思い出したからこそ、声を発するに至ったんじゃねえか?」

提督「特別海域の連中は、その方向性がちっとばかし人間に対する憎悪に偏りまくってる、とかな」

H大将「……」

朧「……なんだか、今の話を持ち帰ってもらったら、交渉役より研究者がいっぱい来そうじゃないですか?」

提督「うげっ……! そいつは勘弁してほしいな」タラリ

H大将「そこは大丈夫だろう。生きた深海棲艦を相手に研究したがる命知らずなんて、いないはずだ……多分」

朧「多分ですか……」タラリ

H大将「とはいえ、深海棲艦がパワーアップすると言う情報は、海軍としてみればあまり喜ばしくない情報だな……」

X大佐「そうは仰いますが、深海棲艦が強くなる理由のひとつが明確になったとすれば、十分有益な情報です」

X大佐「それに、提督とここの深海棲艦たちは話が通じないということではないようですから、必要以上に恐れる必要はないはずです」

X大佐「むしろ、人間の生活習慣を知ってもらっているのなら、人との対話にプラスの影響を及ぼすとも考えていいのではないでしょうか」

H大将「希望的観測ではあるが……提督と友好関係を結べているというのなら、まだ悪い情報とは言い切らなくても良いか」


H大将「お前のことだ、人間と争うな、くらいのことは、その深海棲艦たちにも言い聞かせているのだろう?」

提督「まあな。思ったよりも話が分かる深海棲艦ばかりで助かってるぜ」

H大将「ならいい。島を訪れる海軍の安全の確保についても、話は進んでいると思っていいな?」

提督「ああ、島の中では連絡は行き渡らせた。外海から来た奴にも警戒するよう伝えてるし、居着く気なら俺に会わせるよう通達もしてる」

提督「ただ、島の外にいる深海棲艦からの連絡は、いまんとこ、どこからも反応が来てねえな」

提督「北方棲姫あたりは性格が穏やかっつうか、人懐っこいらしいから、なにかしら返事くらいは来てくれるかと期待してたんだが……」

H大将「……そこはまだ実績がないからかもな。最悪、お前たちも余所の深海勢力からは信用を得られていないのかもしれん」

提督「まあ、そうかもなあ……いきなりそんな話をしても、罠だと思われてもしょうがねえ。舐められてんのかもしれねえし」

X大佐「そういう僕たちも、まだ交渉する人員があまりいないんだけどね」

X大佐「以前、島に上陸した時に、与少将殿と泊地棲姫が和やかに話していたのを見て、すごく希望が持てたんだけど……」

大淀「とりあえず、近日中に改めて政府との話し合いの場を持つことは決定しましたから、まずはそちらに集中したほうがよろしいかと」

提督「そうだな。とりあえず目の前の話し合いを成功させないとな」

X大佐「政府との交渉がうまくいった実績ができれば、静観してる深海勢力も、話し合いに動き出すかもしれないね」

提督「……そうなりゃ、交渉のために建てたあの建物も、いよいよ出番となるわけだな」

大淀「忙しくなりますね」ニコ

朧「朧もサポートします!」

提督「……」

H大将「そこで面倒臭そうな顔をするな」

X大佐「……」ニコニコ

H大将「そしてX大佐はなんで笑っているんだ」

X大佐「面倒臭い、と言うのが彼の本音ですよ。彼が我々に対しては遠慮しないで感情を出してくれているんです。いいことじゃありませんか」

提督「……ほんっとに変な奴だよな、お前」

H大将「お前も人のことは言えんからな?」

ということで、今回はここまで。

今回、スレ初登場のメディウムはこちら。
タライのメディウム、フウリについては、可能であればWikiにてビジュアルも確認していただきたく。

・シルヴィア・シャークブレード:ダイバースーツ姿のメディウム。鮫の背びれのような刃物が地面を滑走し、人間を切り裂く罠。
  泳ぐことが大好きなお姉さん。神殿の周囲には沼しかないため海に出て泳ぐのが夢だった。スーツは普段着にするには少々窮屈らしい。
・メアリーアン・スノーボール:防寒具に身を包んだメディウム。巨大な雪玉が落ちてきて、触れた人を巻き込み飲み込み転がっていく罠。
  大きな雪玉を抱えたカントリーガール。田舎育ちのためか訛りが強く性格もおおらか。暖かい飲み物が好きで、時々皆に振舞っている。
・フウリ・タライ:裾の短いバスローブを纏った少女のメディウム。空から金だらいが降ってきて、人間の頭に直撃して怒りを誘う罠。
  人前で話すのが苦手な少女。お風呂が大好きで、入っていればご機嫌なのだが、そのせいか服がバスローブしかないのを悩んでいる。
・マルヤッタ・トゥームストーン:墓石を背負い包帯を体に巻き付けた姿のメディウム。頭上から墓石を落として人間を押し潰す罠。
  墓守を名乗る、語尾が特徴的な少女。ミイラのように体に包帯を巻き、なぜかその上に「まるや」と書かれたゼッケンをつけている。

続きです。


 * 工廠 *

工廠妖精「あのちっちゃくなった大和たちも、無事暮らせるようになったんだって?」

朝潮「はい! そのように報告がありました!」

提督「あの時はありがとな、艤装や服のサイズも調整してくれて、助かった」

工廠妖精「いいよいいよ、大仕事だったけど、みんな可愛かったしね!」

提督「今回の一件もあったことだし、海軍に、うちの工廠の設備をグレードアップできないか、掛け合ってる」

提督「なんせ深海棲艦も使うドックだ、設備は充実してるに越したことはねえ」

工廠妖精「そうしてもらえると嬉しいね。増員は期待できないだろうから、設備面だけでも便利になって欲しいなー」

提督「……確かに、ここに来たい奴なんてそうそういないだろうなあ、艦娘ならなおさらだ」

提督「以前のようにここに流れ着いてきたとしても、それはそれで不幸なことがあった奴だろうし、増えないほうが望ましいんだよな」

工廠妖精「ここへ攻めてきた大和たちも、ある意味では不幸だったってことだよね?」

提督「まあ、そうだな……曽大佐の下に就いた時点でそうなんだろうな。なんか、あっちでやむなく解体処分になる艦娘もいるらしいしよ」

工廠妖精「それはしょうがないよ、余所の鎮守府の事情だもの。提督は提督で、この鎮守府にいるみんなを大事にしてあげないとね」


工廠妖精「久々に長門たちも戻ってきてるんでしょ? 困ってないか、話を聞いてあげたらいいんじゃない?」

提督「ま、そうだな。まずは目の前のことから解決してかねえとな」

朝潮「? 司令官、何か気になることが……」

 ドドドド…

工廠妖精「ん?」

比叡「司令! 司令!! しいいい、れえええ、えええい!!!」ドドドド…

朝潮「比叡さん!?」

工廠妖精「早速やってきたみたいだね……」

提督「ああ……まあ、比叡は来るだろうなって思ってたんだけどよ」

工廠妖精「なんだって? どういう意味?」

提督「それがなあ……」

 ドドドドキキーーーッ!

比叡「司令!! どうして金剛お姉様がまた島の外に行っちゃうんですかっ!!」プンスカ!

朝潮「ああ、その件ですか……!」


提督「……それなんだが、金剛が前いた鎮守府で、ガキが無許可であちこち写真撮ったって話、聞いてるだろ?」

比叡「写真? あ、はい、写真を撮られたことは聞いてますけど……」

朝潮「本来、撮影禁止区域である鎮守府内で撮影を行ったために、処分が下った件ですね」

提督「そうそう、それだ。それでそのガキを連れてきた若い司令官が左遷されてな?」

提督「後釜が決まらなくて困ってて、それまで提督代理っつうか、提督見習の補佐を金剛にやって欲しい、って話なんだよ」

比叡「えええ……? それでなんで金剛お姉様が!? その鎮守府、他に人がいっぱいいるはずじゃないんですか!?」

工廠妖精「そうだよ、Q中将の直属の部下とかはどうしたの?」

提督「何でもできる優秀な奴らはあちこちに引き抜かれたらしい。どこも人材難だ、この前も俺が曽大佐を使えなくしたばかりだしな」

提督「もともと提督業は離職率が高えって言われてる。民間から引き抜いた連中も長続きしなかったり、知識不足で運営が覚束なかったり」

提督「だから元自衛官やら今の海軍の人間やらが代行なり補佐なりして、各地の鎮守府をやりくりするため、頻繁に配置換えが起きてる」

提督「いまはそれでも手が足りないんで、執務だけじゃなくいろいろ経験を積んでる艦娘が、補佐のために異動させられたりしてるんだ」

朝潮「礼提督のところに行った五月雨さんも、そのような感じでしょうか?」

提督「あそこは司令官自らスカウトしに来たようなもんだが、まあ近いかな」


比叡「でも、だからってどうして金剛お姉様が……」

提督「Q中将夫人がまだ鎮守府の食堂に勤めてたから、ってのもある。金剛があっちにいたとき、いろいろ世話になってたんだと」

工廠妖精「Q中将の奥様に?」

提督「ああ。食堂とはいえ5年くらい務めてて、そこそこ鎮守府の事情を知ってるもんだから、海軍から質問攻めされて参ってるんだとよ」

提督「それで、中将夫人と特に親しかったっていう金剛が、夫人をサポートする意味でも出張る羽目になったんだ」

比叡「うー……そういうことなら、しょうがないかあ」ムスッ

提督「金剛には、中将夫人へ鎮守府から離れてもいいんじゃねえかって言ってみたらどうだ、って話もしたんだけどな」

提督「どうやらそれを話す間もなくこの騒ぎだ。この調子じゃあ、いま鎮守府に残ってる艦娘もちょっと頼りねえ面々なんだろう」

比叡「となると、金剛お姉様はまたしばらく帰ってこられなくなるんですか……」ションボリ

提督「ちょうどいい機会だ、金剛がこの島に住むのか、あっちに留まるのか、今回を機に結論出してもらうのもいいかもしれねえな」

比叡「ヒエエエエエ!? こ、金剛お姉様が、出て行ってもいいんですか司令!?」

提督「そこは、俺がどう思うより金剛がどう思ってるかが優先だ。前にも言ったけどよ」

朝潮「司令官、そのお話の際は、比叡さんは不在だったと思います」

提督「ん、そうだったか?」

工廠妖精「金剛のことだから、提督から離れたくないって言いそうだけどねぇ……」ボソッ


提督「とにかく、比叡が金剛と離れたくないっつうんなら、それは金剛に訴えていいと思う」

提督「それ以外にも、比叡が金剛と一緒に向こうへ行く、っつう選択肢もあるんだぞ?」

比叡「……えええ?」

工廠妖精「それこそ大丈夫なの? ここの厨房を任せてる相手にそんなことを言って」

提督「それこそ比叡の自由にさせてやりたいんだけどな。ぶっちゃけこの島は、資材の面でも物流の面でも人材の面でも不自由極まりねえ」

提督「それどころか、俺たちは今後、人間だけじゃなく艦娘も仮想敵として対応を考える必要がある」

提督「この島に残るかどうか判断してもらうときにも言ったが、古鷹と並んで人一倍優しい金剛が、そのことに耐えられるかが単純に心配なんだよ」

提督「実際に俺たち……というか、メディウムは人間をだいぶ殺してるし、その辺の心境の変化も、そろそろ現れてくるんじゃないかと思ってる」

比叡「司令……」

提督「それに加えて、あの社交性と博愛精神を持つ金剛がここにいるのは、個人的にはちょっともったいないんじゃないかとも感じてる」

提督「あいつには、もう少しいい環境があるんじゃねえか、と、漠然とだが思ってたりするんだ。これは俺の独り善がりだけどな」

工廠妖精「……うーん」

提督「でだ、比叡も外の世界が見たいってんなら、金剛についてくのもありだと思うんだよ」

提督「そうでなくても、比叡が出撃したり、怪我して入渠して厨房に立てないときもあるんだ。比叡に任せっきりは良くねえよ」


提督「スズカやセレスティアもいるし、なんなら他の艦娘や、深海棲艦から料理できる奴を募ってもいい……つうか、作れた方がいいな」

比叡「うーん、それは確かに……以前は長門さんにも厨房に立ってもらってましたから、それなりに出撃もできてましたねえ」

提督「前は戦艦だと比叡、長門、大和が厨房のローテーション組んでたんだよな?」

提督「長門も余所に移るかもしれない今、もう一人くらい増員できねえか検討するのも当然あっていいと思うんだ。大和の負荷も下げてやりたいし」

工廠妖精「確かにそうなんだよね……長門がいないから、私たちも人手不足なことが起きてて」

比叡「えっ?」

朝潮「あ、それはお裁縫のことですか?」

工廠妖精「そう。長門がミシン使えてたじゃない?」

工廠妖精「私たちも妖精用でミシンはあるんだけど、艦娘が使う小物とかだと、やっぱり長門に手伝ってもらったほうが速いんだ」

提督「ああ……そうか。暁も裁縫を勉強してたが、その暁もX大佐のところに行っちまったしなあ」

工廠妖精「お裁縫のできる艦娘が、みんな外に行っちゃったからね。そうなると、新しい布製品は外から買わなきゃいけなくて」

工廠妖精「みんなの普段着とかおしゃれ着とか、調達してリサイズするにも、いろいろとね~」

提督「そういや、比叡の割烹着も長門のオーダーメイドだったな」

比叡「はい! サイズぴったりで着心地も良くて……そっか、同じものを作ってもらうのも、できなくなっちゃいますよね」シュン

提督「ほつれたりしたら修繕もできねえとな。俺も正直、裁縫はそんなに得意じゃねえっつうか、苦手な部類だし……」


提督「メディウムにも仕立て屋はいねえんだよな。針仕事が一番得意なのはヴェロニカだが、得意っつっても刺繍が得意だって話だし」

提督「朝潮も修繕はできるが、服一着作れるほどのスキルはねえだろ?」

朝潮「は、はい、そうですね……申し訳ありません」シュン

提督「いや、謝らなくていいぞ……ん?」

戦艦棲姫「タシカ、コッチデ、良カッタノカシラァ?」キョロキョロ

集積地棲姫「! 提督、ココニイタノカ」

提督「おう、こっちに来るなんて珍しいな。どうした、何かあったか」

戦艦棲姫「入用ナモノガアルカラ、買イ物ガシタクテ。シュホ? ガ、コッチニアル、ッテ聞イタノダケレド」

提督「ああ、そりゃこっちだな。何が必要なんだ?」

戦艦棲姫「水着ッテ、置イテアルカシラ?」

提督「水着?」

集積地棲姫「サングラスモ、アルト嬉シイ」

提督「サングラスはあったよな……けど、水着はあったか?」

工廠妖精「あるにはあるけど、いま置いてあるのは潜水艦用の水着くらいかなあ?」


工廠妖精「この前、新しい荷物が来てたけど、水着があったかどうかは、私は確認してないや」

工廠妖精「確か、一緒に新しい通販カタログが何冊か届いてたから、そっちを見たほうがいいかもしれないね」

戦艦棲姫「ソウナノ?」

工廠妖精「うん、カタログ探すからちょっと待ってて。えっと、どこに置いたっけ……?」ゴソゴソ…

提督「……さすがに水着やサングラスは俺たちじゃ作れねえな」

工廠妖精「それはそうだね。それはやっぱり市販品をお勧めするよ」

提督「なあ、集積地棲姫? この手の市販品つうか、人間の作ったものって深海棲艦も普通に使えるのか?」

集積地棲姫「モノニヨルナ。造リノイイモノナラ、ソレナリニハ使エルガ、安物ハスグ壊レテ駄目ダ」

提督「やっぱりか……」

工廠妖精「そうなの?」

提督「人間が深海棲艦に触れられると、そこから壊死するみたいな話があったろ?」

集積地棲姫「ソンナコトガアッタノカ?」

提督「ああ。無機物に対してもそうなったりしないか、気になって訊いたんだ」


集積地棲姫「ソレデ人間ノ作ッタモノハ、壊レヤスカッタノカ」

提督「多分な。俺はそういうことなんじゃないかって思ってる」

戦艦棲姫「フーン……デモ、アナタ、軽巡棲姫トカニ触ラレテナカッタ?」ツンツン

提督「あ、俺は触られても平気だぞ」

集積地棲姫「エ、本当カ」ペタペタサワサワ

朝潮「!?」

戦艦棲姫「……ナントモナイノネ?」ベタベタムニムニ

提督「いや待てどこ触ってんだよお前ら」ポ

集積地棲姫「ダッテ私、人間ヲ触ッタコトナイシ」

戦艦棲姫「私タチト、カラダツキガ違ウカラ……ネェ?」

提督「戦艦棲姫のツレはどうなんだよ。あいつも筋肉質だろ、俺よりでけえし」

戦艦棲姫「アナタトハ、全然、違ウワヨ? 鉄ミタイナ感ジナノ」

朝潮「し、司令官大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」サワサワペタペタ

提督「大丈夫だよ、つうかお前までどさくさに紛れてどこ触ってんだ」

工廠妖精(朝潮も何気なくむっつりだよね……)


提督「それより、どんなものでもすぐ壊れたりするのは問題だな。水着がすぐ破けるようじゃ最悪だ」

工廠妖精「あ、そこはわたしたちがいれば大丈夫だと思うよ?」

工廠妖精「わたしたちが特殊な加工をすれば、そういう装備品も簡単には壊れなくなるし、ドックに入ったときに一緒に直せるようになるよ」

提督「そんなことできるのか!?」

工廠妖精「うん。ほら、一部の艦娘って、すごい装飾の入った着物を着てる子もいるでしょ? あれを毎回買い直すとなったら、ねえ?」

提督「あー……着物じゃあ、物によってはウン百万とかになるんだっけか」

工廠妖精「そういうこと……っと。うーん、カタログ、見当たらないなあ。とりあえず酒保に行こうよ、そっちに置いてあるかも」

工廠妖精「で、その中でめぼしいものを見つけたら注文して、買って届いた後で私たちが加工してあげる」

工廠妖精「その場にあるものなら、すぐに加工してあげられるから、いいのがあったら教えてね」

集積地棲姫「ソウシテモラエルト、助カル」

戦艦棲姫「早ク行キマショ?」ルンルン

提督「……あ」

比叡「どうしました、司令?」

提督「なあ妖精、いまの話、メディウムにも適用できるか? できるんだったら、比叡にジュリアを呼んできて欲しいんだが」

工廠妖精「?」

比叡「?」


 * それからしばらくして *

 * 酒保 *

シルヴィア「魔神さん、話は聞かせてもらったわよー!」

提督「おう、来たか……って、シルヴィア? お前も希望者なのか?」

シルヴィア「まあね。ほら、このダイバースーツっていうの? 私の体にぴったりじゃない?」

シルヴィア「泳ぐ分にはいいんだけれど、普段着として着るにはちょっと窮屈なの。陸にいるとき用のゆったりした服が欲しくって」

提督「なるほど、そういうことならいいんじゃねえか。それよりジュリアたちは……」

ジュリア「魔神様っ! あたくしたちも来ましたわよ!」

メアリーアン「よろすぐお願いすっただあ。ほれ、みんなも早くこっちゃくっただよぉ?」

フウリ「は、はい……よろしく、お願いしまひゅっ」

シエラ「お、お邪魔します……」

提督「思ったより希望者が多いな? ジュリアとフウリだけかと思っていたが」

シエラ「ちょ、ちょっと、私は、事情が違いますけど……」

長門「我々も邪魔するぞ、提督は……ああ、いたな、変わりはないか?」

提督「おう、お前たちも来たのか」


三隈「お久し振りですわ、提督」

最上「やっほー、元気ー?」

潮「お邪魔、します……!」

提督「久し振りだな。良かったなフウリ、お前、潮と仲良かったろ」

フウリ「は、はいぃ! もう、会えて嬉しいです……!」

長門「提督も大変だったそうだな? ル級が戦艦水鬼になっていて驚いたぞ」

提督「まあな。お前たちも元気そうでなによりだ」

三隈「提督、早速ですが、こちらをどうぞ」

提督「ん? そいつは……」

三隈「以前、他の鎮守府からいろいろな雑誌をいただいていたことを思い出しまして。ファッション誌を持ってきたんです」

最上「W大佐の鎮守府で鈴谷達が買ってた本と同じのを、おみやげ代わりに買ってきたんだ!」

提督「マジか。すっげー助かる、まさしく渡りに船だ」

長門「そんなに丁度良いタイミングだったのか?」

提督「以前ジュリアが、今の衣装に不満がある、って言ってたことを思い出してな。衣装を変えたいメディウムに集まってもらったんだ」

ジュリア「そうなんですの。ほら、このあたくしの衣装、結構露出が激しいと思いませんこと?」


ジュリア「個人的には、もう少し肌の露出を控えたほうが好みなんですけれど、この衣装を勝手に変えることもできなくて……」

長門「着替えもできないのか」

ジュリア「そうなんですの。例えばあたくしたちが傷ついて、治療のために魔力槽に入ると、衣服も一緒に復元するんですけれど」

ジュリア「この衣装をアレンジしようとしたりしても、結局直すときには元通りになってしまいまして」

提督「理屈はわからないが、艦娘の衣装と艤装と同じようなつくりになってるらしいんだ」

長門「なるほど。では、もとの衣装を着たり脱いだりする分には、問題ないんだな?」

ジュリア「ええ、脱ぐ分には何ら差し支えなく。仕方なくルミナに相談したところ、そもそもあたくしたちのこの姿は……」

ジュリア「あたくしたちの原型である罠そのものが、最高の力を発揮できる姿を顕現したものだと推測できる、と言うことらしいんですの」

ジュリア「確かに、あたくしが人間どもを張り倒して勝ち誇る分には、このくらい豪奢な姿であることが望ましいのでしょうけれど?」フフン!

朝潮「ジュリアさんのその姿にも、ちゃんと由来や理由があって、その姿になっている、ということですね」

提督「……ジュリアの場合はアレか。だいぶ前に流行った、ボディコンスーツに羽根つき扇子を持って踊ってたやつか」

最上「ボディコン……?」

三隈「長門さん、わかります?」

長門「いや、そのあたりの話は、私はよく知らないぞ」


提督「好景気だったころ……日本のバブル期の娯楽のシンボルみたいなもんさ。俺もよく知らないから、わからなくていい」

ジュリア「聞くに享楽の象徴でしょう? できればタチアナのように、もう少しお堅い職が由来の衣装になって欲しかったのですけれど」

提督「しかし、それ以外だとハリセン振り回すのなんてお笑い芸人くらいだぞ。真面目なお前の性格からして、それもちょっとなあ?」

ジュリア「ええ、そもそも人間の男どもの耳目を集める趣味はございませんので、できればそれも御免被りたいですわねぇ」

提督「どっちかっつったらリンダがそうだよな……つっても、あいつはボケるばかりでハリセンでツッコミ入れられる側だが」

提督「とにかくだ。魔神は、魔神の知識の範囲でハリセンを振り回すのに最適な姿として、今のお前の姿を創造したわけだな?」

ジュリア「あなたがその魔神様でしてよ?」ズビシッ!

ジュリア「いま初めて聞いたばかりだ、と言わんばかりのその態度は、いささか白々しくありませんこと?」

提督「悪いがその辺は記憶にねえぞ。魔神の記憶から思い出そうとしても……あ」

最上「なにか思い出したの?」

提督「雰囲気で、って単語が出てきた」

ジュリア「いい加減ですわね!?」

三隈「……ジュリアさんのツッコミの鋭さなら、芸人さんでも良さそうですけど……」

ジュリア「謹んでご辞退申し上げておりましてよ!?」


長門「とにかく、今の姿が不満だから、提督に直談判したわけだな?」

ジュリア「そういうことですわ。魔神様も覚醒しつつありますし、叶うのならばと申し立てしましたの」

ジュリア「魔神様があたくしたちをご創造なさったのですから、当然、衣装のリメイクも魔神様のお役目だと思いませんこと?」

提督「へいへい……けど、俺に服飾のセンスはねえからな。できればここにある既存の服でいいものはねえかな、と思ったんだ」

ジュリア「そうは仰いますけど、これは人間用の衣装でしょう? 私たちが着ても大丈夫なんですの?」

提督「妖精が、艦娘や深海棲艦が着ても大丈夫なように加工できる技術を持ってるんだと」

提督「メディウムにも応用できるんじゃねえかと思って、まずは今の衣装に悩んでるやつを優先して対応しよう、って考えたんだ」

シエラ「うーん、あくまで衣装の話デスか……いや、それでもいいかもしれないデス」ボソボソ

工廠妖精「提督ー、こっちのカタログあったよー。一緒に服飾の雑誌もあったから、ここに置いておくね」

提督「お、ありがとな。とりあえず、こいつと三隈が持ってきた本を見て、良さそうな服を探してみてくれ」

シルヴィア「そうね、それじゃ早速見せてくれる?」

ジュリア「シルヴィア? その前に、その腕についてる物騒な刃物、外してくださる? 本が引き裂かれてしまいますわ」


 * *

メアリーアン「いろんな服が載ってあんだなあ」

シルヴィア「水着もあるのねー」

工廠妖精「あ、そうだ、水着なら新しいのがこっちに数着届いてたよ。見てみる?」

シルヴィア「実物あるの? ちょっと見せて!」タタッ

ジュリア「……意外と、地味ですわね」ペラリ

フウリ「わあ……これ可愛い……!」キラキラキラッ

提督「しかし、メアリーアンも別の服が欲しいと言うとは思ってなかったな」

メアリーアン「おらは、もうちょい軽めの普段着が欲しいんだあ。雪玉いじる分には、これでええんだげんど」

最上「この夏の陽気の島では、その防寒具はさすがに暑そうだね」

メアリーアン「おらぁ、この服でも暑さには慣れてるげんど、『かずあるなこーと』も憧れんだよなあ」ポヤッ

三隈「カジュアルなコートって仰ってるのかしら……あ、こっちのはいかが?」

メアリーアン「ほーお! これもええごんだなあ!」

フウリ「あ、あの、潮ちゃん、これ、可愛いと思わない?」

潮「えっ? 本当だ、可愛い……!」


提督「シエラは見ないのか?」

シエラ「私は……どっちかというと、衣服じゃなくて、性格をもう少し変えて欲しいのデス」

シエラ「魔神様が、私たちの服を作り変えられるのなら、私の性格も、もう少し明るくしてもらいたいと思ってるデス……」

提督「性格を?」

シエラ「ルミナといろいろ相談したデスが……ジュリアも言ってた通り、私たちメディウムを生み出したのが魔神様デス」

シエラ「それなら、私たちの姿かたちや気質を変えることも、できるのではないかと……艦娘たちを幼子に変えた時のように、デス」

提督「ああ……あんな感じで性格も操作しろと?」

シエラ「可能であれば、デスが……」

提督「だったらやめといたほうがいいな。あれはあくまであいつらの攻撃的な部分を手当たり次第取り払っただけなんだ」

提督「どこをどう切り取ったら性格が変わるか、俺自身しっかり理解したうえでやったわけじゃねえんだよ」

シエラ「……ということは、魔神様も手探り状態、デスか」タラリ

提督「そうだな。もう少し練習っつうか、確認しながら施術しねえと不安だから、俺としてはやりたくないってのが本音だ」

提督「実験台が都合よく現れてくれりゃいいんだが、そうもいかねえだろうし」

提督「なにより、お前の大事な記憶を間違って消すわけにはいかねえからな」

シエラ「あう……残念、デス……」


フウリ「あ、あの、ご、ご主人様っ! わ、わたし、これ、着てみたいですっ!!」ズズズイッ!

提督「うお、なんだ? お前がそこまでアピールするなんて珍しいな」

フウリ「ご主人様の力で、この服に変えられませんか!? 毛がふわふわなんです! すっごく可愛いんですよこのバスローブ!」

提督「お前なんでバスローブ選んでんだよ!? 外出用の服欲しかったんじゃねえのか。しかもこれ、子供用だぞ」

ジュリア「それは良いのではありませんこと? 魔神様がリサイズしてくださればいいだけのことですわ」

フウリ「ご主人様、お願いしますっ!!」

提督「……わかった、わかったよ。うまくできるかどうかわかんねえけど……」

フウリ「はいっ!」

提督「よし……」スッ

潮「提督がフウリちゃんの頭に手をのせて……どうするんですか?」

ジュリア「ルミナに聞いたのですけれど、魔神様はあたくしたちメディウムの形を変えられるかもしれない、と言うんですの」

ジュリア「魔神様はあたくしたちメディウムの創造主。直にメディウムに触れ、念じることで姿が変わる……らしい、ということですわ」

長門「ん? らしい、なのか?」

ジュリア「これまで誰も試したことがありませんから」

長門「……」


潮「だ、大丈夫なんでしょうか……」

 ズズズズ…

 (フウリの衣装が変わって、雑誌の衣装の見た目になる)

フウリ「……ふ、ふわあああ!?」

提督「ふう、どうだ?」

フウリ「わあ、可愛い……すごいです、ご主人様! あ、でも、なんか、すーすーしますよ……?」

最上「ねえ提督、作った衣装が前半分しかできてないよ? 背中とおしりが丸出しなんだけど」

フウリ「キャアアアアアアアアアアア!?!?!?」カオマッカ

三隈「くまりんこー!?」キャーー!?

最上「あはは、三隈のその悲鳴も久し振りだね」

三隈「最上さんはマイペースが相変わらず過ぎますわ!?」

提督「そういやこれ、後ろからのデザインが載ってねえな。想像できなくて作り切れてなかったか……」

メアリーアン「ひゃあ、大胆だでざいんだべなあ」

長門「絶対デザインじゃないぞ、あれは」タラリ


フウリ「ご、ごごごごご主人様ああああ!?」

提督「悪い。悪かった。とにかくもとに戻すからちょっと来てくれ」

 ズズズズ…

フウリ「……ご主人様のいじわる……」ナミダメ

提督「いや、本当に悪かった。誓ってお前に恥ずかしい思いをさせたいわけじゃねえから、あんまり睨んでくれるな」

最上「提督、こっちの本を見てよ! これなら後ろのデザインも載せてあるし、作れるんじゃない?」

提督「ん? そ、そうか? フウリ、もう一回トライしてもいいか?」

フウリ「こ、今度は大丈夫ですよね……?」プクー

提督「ああ、ちゃんと後ろも作る」

フウリ「……そ、それじゃあ……」

提督「よし、やるぞ……!」

 ズズズズ…

フウリ「……!」

最上「今度は成功したみたいだね!」

潮「良かったぁ……!」


フウリ「わぁ……! これ、素敵……! いつもと違う、ひらひらした服もいいですね……なんだかウキウキします……!」クルクル ピョンピョン

提督「ふう、うまくいったか。機嫌が直ったようでなによりだ」

フウリ「……」クルクル…

潮「? フウリちゃん、どうしたの?」

フウリ「こ、この服、結構、汗ばむ……!」ヌギッ

三隈「くまりんこーーー!」キャーーーー!

潮「フウリちゃん!? ここで脱いじゃ駄目だよ!?」オロオロ

フウリ「汗かいちゃった……お風呂入りたい……」

提督「この服、布地は薄いがひらひらが多くて布が重なりまくってるデザインだな。こりゃ汗っかきにはつらいか……フウリ、元に戻すぞ」

フウリ「ふあい……」フラフラ

 ズズズズ…

フウリ「……やっぱり、元に戻ってきちゃうんですねえ……」ションボリ

提督「可愛くても肌に合わねえんじゃなあ。服選びもなかなか難しいもんだな……」ナデナデ


長門「それなら、そうだな……提督。試しに、潮の制服をイメージしてもらえるか?」

提督「ん? 潮のか? ……やってみるか」

フウリ「ふえっ!?」

 ズズズズ…

フウリ(八駆制服)「わ、わわわ……!」

潮「わぁ……!」

長門「ふむ、いいんじゃないか?」

朝潮「思ったよりも違和感ありませんね……!」

シエラ「フウリが艦娘になったデス……!」

潮「お揃いだね、フウリちゃん!」

フウリ「お、おそっ、おそ……はわわわ……!」カオマッカ

 フラッ

提督「危ねえ!?」ガシッ

フウリ「きゅう……」


潮「ふ、フウリちゃん!? 大丈夫!?」

提督「……なんでぶっ倒れてんだよ、フウリは」ダキカカエ

シエラ「えっと、あの、単純に、恥ずかしかったからじゃ、ないかと、思うデス」

提督「恥ずかしい?」

シエラ「いや、その、恥ずかしいというか、照れた、と、いうか……お揃いが、嬉しかったと思うのデスが」

最上「感激しすぎちゃった、って感じかな?」

提督「それでなんで倒れるんだよ。やっぱり元に戻してやるしかねえか」

 ズズズズ…

フウリ(元の服)「はう~……」オメメグルグル

提督「こうなると、フウリが外で着ていける服なんてあんのか?」

三隈「露出を抑えて、かつ汗っかきが着ても問題ない服、ってことですよね……難しいですね」

シエラ「ある意味、今の姿が最適化されてる、ってことになるのデスか……」

提督「仕方ねえ、衣装を新しくするんじゃなくて、さっと羽織れるようなサマーコートでも見繕った方がいいな」


ジュリア「……」ムー…

提督「ジュリアはジュリアで、自分の好みの服が見つからなさそうだし」

ジュリア「……残念ですわ。なかなか理想通りというか、これ! と言う絶妙な一品がありませんわね……」

メアリーアン「焦んねぐでいいべ。たくさんあっぺす、おらはもう少しゆっくり見さしてもらうだあ」

シルヴィア「ねえねえ魔神さん! こっちの水着、どうかしら?」バッ

提督「ん? 悪くはねえと思うが、水着? お前が探してたのは陸の上で着る服じゃなかったか?」

シルヴィア「あ、そういえば。ついつい泳ぐときに着る服を優先して考えちゃったわ……いっけない」テヘッ

提督「別に気に入ったんなら買っててもいいけどよ。サイズは大丈夫なのか?」

シルヴィア「そうそう! サイズを調整して欲しくて、さっきの妖精さんを探してたんだけど、先客がいるらしくてね」

提督「先客?」

工廠妖精「ふう、やっと終わったぁ」

 更衣室のカーテン<シャッ!

戦艦棲姫「コノ水着、ナカナカイイ感ジネ」(←黒い極小マイクロビキニ装備)

三隈「くまりんこーーーーーー!!!」キャーーー!

提督「なんだあの布面積は。ほぼ裸じゃねえのかよ」ドンビキ


集積地棲姫「ダ……大胆スギナイカ?」タラリ

戦艦棲姫「ソンナコト、ナイト思ウケド」クルリ

シエラ「あ、あわわわ……お、おしりもほぼ丸見えデス……!」マッカ

長門「というか、後ろ姿は完全に裸だな……」ドンビキ

朝潮「そういえば、水着が欲しいということで、先ほどこちらに案内したばかりでしたね……」

最上「へーえ、提督、いつのまに戦艦棲姫とも仲良くなったの?」

提督「まあ、いろいろあってな」

潮「も、最上さんは、順応力が高すぎです……!」セキメン

戦艦棲姫「アラ、提督。丁度良ク、イイ水着ガアッタカラ、コレ、イタダイテイクワネ」

提督「おう、お気に召したんならいいけどよ……おい妖精、あんな水着、在庫にあったのかよ」

工廠妖精「あったんだよね、なぜか。わたしも、それでいいの? って訊いたんだけど、彼女がいいって言うから……」

戦艦棲姫「集積地モ、ソンナ囚人服ミタイナノジャナクテ、コッチノビキニヲ着レバイイノニ」ピトッ

集積地棲姫「ワ、私ハ、コレデイインダ……コッチノ、控エ目ナヤツデ……!」

戦艦棲姫「コッチニシマショ? ネェ?」グイグイ

集積地棲姫「ソ、ソンナ紐ミタイナノハ、チョット……!」


シルヴィア「ねえ、思ったんだけど、あんまり布地が小さいと、日焼けしちゃわない?」

戦艦棲姫「アラ、ソウ? ソレジャ、ドウシヨウカシラ……」

ジュリア「やはり本人の希望に合わせるのがいいと思いますわ。最悪、恥ずかしがって海に出てこなくなっては、本末転倒ですわよ?」

戦艦棲姫「……集積地ニ、似合ウト思ッタンダケド」シュン…

集積地棲姫「エ……ソ、ソレナラ、コレジャナクテ、コッチノホウガ……」

戦艦棲姫「着テクレルノ!?」キラッ!

集積地棲姫「!? エ、マ、マア……ソウダナ」ビクッ

長門「ちょろすぎないか集積地棲姫」

提督「簡単に絆されてるな。おまけに押しに弱すぎる」

ジュリア「あら、いい趣味なさってますわ。そのくらい攻めるなら……こちらはいかが?」ハイレグー

シルヴィア「こっちもセクシーでいい感じじゃない?」Tバックー

戦艦棲姫「ソレモイイワネ……!」キラキラッ!


集積地棲姫「……誰カ、助ケテクレ」

最上「大丈夫大丈夫。ちょっとくらい大胆でも問題ないよ。今は水着の上にTシャツ着たりして、肌を隠すみたいだからね」

戦艦棲姫「ソレジャ、モウ少シ大胆デモ……」

集積地棲姫「ソレ以上ハ勘弁シテクレ!」ガシッ

長門「最上は事態を悪化させるんじゃない」

最上「えー? そんなつもりはなかったんだけど」

フウリ「う、うーん……」ムクリ

潮「あ、フウリちゃん気が付いた?」

フウリ「う、潮ちゃ……へあっ!? な、なんかすごい恰好の人が……!?」

集積地棲姫「ソレヨリ、オ前、本気ソノ恰好デ海ニ出ルノカ!?」

戦艦棲姫「ソウヨ? アナタモモット開放的ニナレバイイノニ」ズズイ

フウリ「へ、へあああ……お、おふろじゃないのに、おしりがまるみえ……きゅうぅ……」クラクラッ

潮「フウリちゃーーん!?」ガシッ

朝潮「あの、司令官? 戦艦棲姫を見る限り、下着を履かないほうが健康的という説はやはり事実なのでは……?」

提督「そんなわけねえっつうの……お前、まだ利根の怪しい民間療法を信じてんのかよ」アタマカカエ

三隈「くまりんこくまりんこ……」アタマカカエ

シエラ「あ、あの……ま、魔神様も、くまりんこさんも、大丈夫なのデスか……」オロオロ

メアリーアン「みんな、なして脱ぎたがるんだべなあ?」


 * その後のおまけ *

朝潮「司令官、提案なのですが」キョシュ!

提督「ん?」

朝潮「フウリさんは、いっそ水着を着たほうが良いのではないでしょうか?」

フウリ「ほえっ!?」

朝潮「湯あみが好きということですから、いつでも水に入れる衣装を、と考えたのですが、いかがでしょう」

提督「あー……それもありか。日本以外だと水着着て温泉入るらしいしな」

朝潮「確か、潮さんも水着を持っていたはずでは?」

潮「あ、そういえば……!」

フウリ「い、いえ、あの、さすがに普段から水着でいるのもちょっと……」

提督「遠慮したいか? それならそれでいいが。はっちゃんみたいに潜水艦娘でもなけりゃ、日頃から水着はちょっと不自然かもな」

朝潮「……シルヴィアさんも水着に近いのでは?」ウーン

提督「シルヴィアはそんなに肌出してるわけじゃねえぞ?」

朝潮「なるほど、そうですか……良いアイデアかと思ったのですが、仕方ありません」ムムム…

フウリ(……マルヤッタちゃんがそれに近い恰好してるけど、誰も気付きませんように……)プルプル

今回はここまで。

>576-577
すみません、お待たせしております。

短いですが続きです。


 * 鎮守府内連絡通路 *

朝潮「迷子ですか?」

由良「そう。そういうわけで、その深海棲艦を保護したんだけど」

提督「迷い込んできた深海棲艦……なあ」

朝潮「もしかして、外海の深海勢力からの使者でしょうか?」

由良「そういうわけでもないみたい。ただ、こちらに害意はないから、食堂の外のウッドデッキに案内して、休んでもらってるんだけど」

由良「提督さん、とりあえず会ってもらえないかしら。拍子抜けするくらい友好的だから」

提督「……まあ、そういうことなら話は早そうだな」


 * 食堂外 テラス席 *

軽巡棲鬼「コレ、オイシーー!」モグモグ

マーガレット「それは良かったです! いっぱいありますから、たくさん召し上がってくださいね!」

提督「……あいつか?」

由良「はい、この前海軍からいただいた資料によれば、あの個体は軽巡棲鬼と呼ばれている深海棲艦ですね」

由良「ただ、髪型がちょっと違ってて……資料の写真には髪をまとめてお団子にしてるんですが、あの軽巡棲鬼にはそれがないんです」


提督「ふーん……なんつうか、深海棲艦らしくねえ深海棲艦だな?」

朝潮「朝潮も同感です。あんなににこにこ笑ってる深海棲艦は珍しいと思います」

提督「……まあいいや。ちょっと邪魔するぞ」

朝潮「失礼いたします!」

マーガレット「あっ、マスター!」

軽巡棲鬼「ワァ!? 艦娘ト……人間ノ提督サン!? 深海棲艦ガイルノニ!? ココッテ、ドウイウトコロナノ!?」

提督「俺は提督。こっちは今日の秘書艦の朝潮だ」

朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ

提督「この島にはちょっと特殊な事情があって、深海棲艦と艦娘の両方が暮らしてる。俺はそのまとめ役みたいなもんだ」

マーガレット「私たちメディウムのマスターで、魔神様ですよ!」エッヘン

提督「ややこしくなるから、そっちの話はあとでな。で、お前は一体何者だ? とりあえず名前は?」

軽巡棲鬼「私、最新鋭深海棲艦ノ、阿賀野デース!」

提督「阿賀野? 軽巡級にそんな名前の艦娘がいたな……?」

朝潮「しかも、最新鋭深海棲艦、と言いましたね」


提督「とりあえず、阿賀野……でいいのか? お前が何でこの島に来たのかを知りたいんだが、話せるか?」

軽巡棲鬼「ハーイ、エーットネェ……アレ? 阿賀野?」

提督「うん?」

軽巡棲鬼「……イマ、私、自分ノコトヲ、阿賀野ッテ言ッタノヨネ?」

提督「ああ、言ったな」

軽巡棲鬼「エエエ!? アレ? ドコカラ出テキタンダロ……」オロオロ

提督「……大丈夫か?」

朝潮「自分で言ったことに混乱しているんですか?」

軽巡棲鬼「チョ、チョット待ッテ……エット、ウン、ダンダン、ナントナク、ワカッテキタ……ドコカラ話シタライイノカナ」

提督「覚えてるところからでいいぞ。順番は後で整理すりゃいい。話せるだけ話してみてくれ」

軽巡棲鬼「ウン……私、今ハ深海棲艦ナンダケド、艦娘ダッタコロノコト、少シ覚エテテ」

提督「は? 艦娘だったって!?」

軽巡棲鬼「ソウナノ! 確カ……私、事故カナニカデ両足ガ動カナクナッチャッテ、スッゴイ落チ込ンデタノ!」


提督「事故? どんな事故だ?」

軽巡棲鬼「ソコマデハ覚エテナインダケド。デモ、杖? ヲ、ツイテタコトハ覚エテテ」

軽巡棲鬼「背中モ痛クテ、歩ケルカドウカモワカラナイ、ッテ言ワレテタヨウナ、気ガスル」

軽巡棲鬼「ソレガスゴク悲シクテ、夜、海ノ近クデ泣イテタコトハ覚エテルノ」

提督「……そのあとは?」

軽巡棲鬼「ソノアトガヨク覚エテナクッテ……気付イタラ海中ニイテ、苦シクテ、意識ガ真ッ暗ニナッテ……」

軽巡棲鬼「イツノ間ニカ、コウナッテタ気ガスルノヨネー」

提督「お前が覚えているのは、そのあたりの記憶と、名前だけか?」

軽巡棲鬼「ソウネエ? ホカニ覚エテルコト……ウーン、スグニハ出テコナイカナア?」

提督「そうか。まあ、無理に思い出さなくていいぞ。忘れたってことは思い出したくない過去なのかもしれねえし」

軽巡棲鬼「ソウ? ソレジャ、マタ、ケーキ食ベテイイ?」

提督「……いいけどよ……切り替え速すぎんだろ」

由良「なんだか、いつもの質問、聞かなくても良さそうですね?」

提督「そうだなっつうか、すでに一回死んでるようなもんだしな……ん? お前、脚がないのか?」


軽巡棲鬼「ア、コレ? 心配シナクテモ大丈夫ヨ? コレ、モトカラダシ、私、浮イテ移動デキルカラ」

提督「どうなってんだそれ……」

軽巡棲鬼「ン-トネ、ヨイショ、ット……コウナッテルノ。見エル?」グイ

提督「……脚の切り口っつうか、断面がなんかの噴射口みたいだな? ここから何か噴き出して浮いてるってか」

軽巡棲鬼「ソウナノ。タダ、ソノセイカ、移動スルダケデ、スッゴイエネルギー使ッチャウミタイデ、疲レルノヨネ~」

提督「それ、艦娘のときに脚を怪我してたことが由来してんのか……?」

由良「いえ、軽巡棲鬼はもともとこういう見た目ですね。フロート船みたいに海の上を浮いて滑走してるようです」

提督「もとからなのか」

軽巡棲鬼「タブン、ソウヨ~。私、自分ノ姿ガオカシイトカ思ワナカッタモン」

提督「なるほど……昔のことはとりあえずそこまででいいか。じゃあ今は今で、どうやってこの島に来たんだ?」

軽巡棲鬼「……ウーント、海ノ中デ気ガ付イテ、フラフラ~ット海面ニ顔ヲ出シテ。デモ、誰モイナクテ……オカシイナ、ッテ思ッテテ」

軽巡棲鬼「キット私、イツモ誰カト一緒ニイタノヨ。艦娘ダッタ頃ニ、一緒ニイタ人ガ、イッパイイタハズナノ!」

由良「ってことは、どこかの鎮守府に所属していた、ってことですよね?」

提督「そうっぽいな。で、それからどうしたんだ?」

軽巡棲鬼「ソノアトハ、ヒトリナンダ~ッテ思イナガラ、コレカラドウシヨウ、ッテ。ボンヤリシテタラ、オ腹ガ鳴ッチャッテ……」ポ


軽巡棲鬼「行ク宛テモナイシ、仰向ケニ水面ニ浮イテ、波間ヲ漂ッテタノ。オ空ガ綺麗ネ~トカ、オ腹スイタナ~トカ思イナガラネ」

軽巡棲鬼「デ、プカプカ浮イテタラ、イツノ間ニカ、コノ島ニ流レ着イテテ。ソコデ出会ッタ潜水艦ノミンナニ見ツケテモラッテ……」

提督「潜水艦?」

軽巡棲鬼「ソウソウ。イキナリ魚雷ヲ構エラレチャッテ、ビックリシタケド、待ッテ待ッテーッテ叫ンダラ、ワカッテクレテ!」

軽巡棲鬼「モー、同ジ深海棲艦ダカラ撃タレナイト思ッテタノニ、ソンナコトナインダモン。ドウナルコトカト思ッタワヨ~」

提督「お前、どこかの深海勢力に所属してるとかはないのか」

軽巡棲鬼「所属? ソウイウノ、深海ニモアルノ?」

提督「ああ。ここだと泊地棲姫が深海棲艦のまとめ役だな」

軽巡棲鬼「フーン、ソウナンダ? 挨拶トカ、シテキタ方ガイイ?」

提督「そうだな。この島の立ち位置が他の拠点とだいぶ違うから、面通しはあったほうがいいな。つうか、さっきいたはずだが」

由良「あれ? 泊地棲姫ってさっき厨房に……」

泊地棲姫(可愛いエプロン装備)「コーヒーヲ持ッテキテヤッタゾ」

軽巡棲鬼「キャーー、アリガトーーー!」

由良(ほぼ裸みたいな姿にフリフリヒラヒラのエプロン姿……この前までエプロンなかったのに)タラリ


朝潮「……どうして厨房から泊地棲姫さんが?」

提督「好きなことやっていいぞ、って言ったらこうなってな……そういや朝潮はコーヒー飲めないんだっけか」

朝潮「はい、そもそも間食を控えていたため、こちらに来る機会を逸しておりました!」

提督「そこまでガチガチに真面目にならなくていいんだぞ?」

朝潮「司令官がお食事以外はお水しか口にしておられませんでしたので、それに倣っていました!」

提督「……俺もたまにこっちに来るか」

泊地棲姫「アア、来ルトイイ。歓迎スルゾ?」ククッ

マーガレット「泊地棲姫さんは、今やこのカフェのマスターですよ!」

軽巡棲鬼「エ、一番偉イ人ガ、カフェノマスター、ヤッテルノ? スゴーイ、格好イイ!」キャー!

泊地棲姫「コーヒー専門ダガナ」フフン

マーガレット「お茶菓子は、私や間宮さんが担当です!」エヘン!

提督「なんでかんで間宮も馴染んだみたいだな」

朝潮「ちゃんと役割分担ができてて、朝潮も感心しました!」


提督「それにしても、艦娘のときの記憶を持った深海棲艦なんて、初邂逅だな。丁度いい、泊地棲姫も話を聞いてくれ」

泊地棲姫「ナンダ?」

提督「さっきお前がコーヒーを出した深海棲艦……」

泊地棲姫「軽巡棲鬼ネ?」

提督「ああ。どうやら、元艦娘だってのは間違いなさそうだ」

提督「怪我してたとか、他の誰かと一緒にいた、って話してたから、もともと人間社会にいたことは違いない」

提督「その後、何があったかはわからないが、おそらくあいつは何らかの形で轟沈してると思っていいだろう」

朝潮「司令官? これまでは艦娘が轟沈して砂浜に打ち上げられても、みんな艦娘のままだったと思うのですが……」

提督「そこはおそらくなんだが、そいつらは轟沈してからそんなに時間をおかずに浜に打ち上げられたんじゃないか、と思うんだ」

提督「由良にしても朝潮にしても、一度は沈んだとはいえ、そこまで長時間海底に沈んでたわけじゃねえだろ?」

由良「うーん、わからないけど……そういうことになるのかな」

提督「それ以外にも、川提督んとこの蒼龍に言われたんだよ」

提督「轟沈した艦娘が深海棲艦になるというのなら、どうして埋葬した艦娘たちは深海棲艦にならなかったのか、って」

提督「ある程度、時間が経たないと深海化しないとすれば、泊地棲姫が目撃したことがない、って言う話の裏付けにもなるんだけどなぁ」

泊地棲姫「ソコハソウダナ」


由良「……その理屈だと、潜水艦の子たちは大丈夫なのかしら」

提督「そこは妖精たちが対策取ってんじゃねえか? でなきゃ今頃、世界中の潜水艦娘が深海化してるはずだ」

提督「その妖精たちの取った対策が、攻撃を受けて崩されて……加護がなくなって沈むと轟沈、って扱いになるんじゃねえかな」

提督「その状態で、艦娘が海底に留まり続けていると深海棲艦化する……ってのが、俺の考えてる説なんだが」

泊地棲姫「ソウダナ……アリ得ナイ話デハナイカモシレナイ」

由良「!」

泊地棲姫「深海ノ特ニ暗イトコロ……多クノ艦ガ、沈ンダ海域カラハ、強イ深海棲艦ガ現レルコトガ多イ」

泊地棲姫「ソコニ轟沈シタ艦娘ガ迷イ込ンダトシタラ……」

朝潮「し、深海棲艦になるんですか?」

泊地棲姫「……カモシレナイナ。ソレカ、ソコニ棲ム深海棲艦ノ餌ニナルカ……」

朝潮「餌……ですか」

泊地棲姫「餌ニナッタ艦娘ノ特徴ヲ引キ継イダリスレバ、転生シタヨウニモ見エソウジャナイ?」

由良「ぞっとしないわね……」

泊地棲姫「タダ、ソレモアクマデ、私ノ想像ダ。ソウイウケースヲ、ジカニ見タワケデハナイカラナ」

朝潮「……そう考えられる、ということですね?」


泊地棲姫「タブンネ。ソノ話ヲサテ置イテモ、人間ニ対スル憎悪ヤ反感ヲ抱イタ深海棲艦ガ、鬼級ヤ姫級ニナッテイルノダカラ……」

泊地棲姫「ソウイウ『素養』ノアル艦娘ガ、ソウイウ海域デ沈メバ、ソウイウ深海棲艦ニナル、トイウノハ、アリ得ルカモシレナイ」

提督「けどよ、今回の軽巡棲鬼……阿賀野の場合は、阿賀野自身が人間に対して憎く思ってた感じじゃないよな?」

泊地棲姫「ソウ……ソコガワカラナイ。ソモソモ、深海棲艦デアリナガラ、アンナ風ニ明ルク振舞エル者ハ、私モ初見タコトガナイ」

マーガレット「あのぉ……でしたら、一度、魔神様があの人の魂を見てみたらいいのではないでしょうか?」

提督「……それしかねえかなあ」

泊地棲姫「アラ、躊躇シテルノ? アノ大和タチノ頭ノナカモ、イジクッタンデショウ?」

提督「敵だったからな。そうでもない他人の頭ん中を覗き見するのは、やっぱりちょっとなあ」

泊地棲姫「訊イテミレバイイジャナイ。軽巡棲鬼?」

軽巡棲鬼「モグモグ……エ? ワタシ?」

提督「なあマーガレット、あいつに出したケーキ、何個目だ?」

マーガレット「えっと、今のでホールケーキまるっと1個分ですね!」

提督「……」アタマオサエ


泊地棲姫「トリアエズ、訊クダケ訊イテミレバ?」

提督「ああ……食ってる途中で悪いが、お前の昔のことを知りたい。協力してもらえないか?」

軽巡棲鬼「ンー、イイケド、私、アマリ覚エテナイヨ?」

提督「とりあえず、昔のことを調べるのは問題ないんだな?」

軽巡棲鬼「イイワヨー。私モ、私ノ昔ノコトハ知リタイシ!」

提督「よし、同意を得られたな」ガシッ

軽巡棲鬼「エ?」アタマツカマレ

 ズヴュッ!

軽巡棲鬼「ア゜ェッ?」ビクッ

朝潮「!?」

提督「……んー……」

軽巡棲鬼「……」ビクビクッ

由良「ねえ、今の音って何……?」タラリ

泊地棲姫「……フーン、ソウヤッテ頭ノ中ヲ見テイルノネェ」

 ズリュッ

軽巡棲鬼「オ゜ッ?」


提督「……ふう、なるほど」

軽巡棲鬼「」シロメ

由良「何をしたんですか……」

提督「魔神の力で、魂の色とこいつの過去を探ってみた」

泊地棲姫「ナニカワカッタノ?」

提督「阿賀野はどこかの鎮守府で療養中だったみたいだな。事故で背骨をやったらしくて、そのリハビリ中だったようだ」

提督「けど、リハビリも難航してたらしく、松葉杖つきながら港に来て自分を責めて泣いて……そこで足を滑らせて海に落ちたらしい」

提督「そのまま意識を失って、沈んだところに深海棲艦の魂が入ってきて、今の姿になったみたいだな」

朝潮「深海棲艦の魂が!?」

提督「まあ、深海棲艦とは言ったが、いわゆる戦争時の戦没者の無念の魂みたいなんだ。それも、飢えの苦しみを味わった者たちのな」

由良「飢え、ですか……」

提督「そういう無念の魂が寄り固まって生まれるのが、深海棲艦……ってことなんだろうな、多分」

泊地棲姫「私モ、ソウナノカ……?」

提督「そりゃわからねえが、お前もお前で、人間に対する恨みというか、嫌な思いはあったんじゃねえか?」

泊地棲姫「確カニ、ソンナ感情モ、アッタヨウナ……」


提督「で、あいつの頭の中っつうか、魂を見てみたんだが」

提督「ここでまともなもの、と言うよりケーキみたいな贅沢品が食えたのが幸いしたんだか、思ったより魂の色が穏やかな色調だった」

提督「あいつが深海棲艦になり得る感情ってのも、自分の無力さとか肝心な時に動かない自責の念からくる自己嫌悪が大部分みたいだったし」

提督「軽巡棲姫と比べても暗い色の魂がかなり少ないから、姿こそ深海棲艦だが、かなり艦娘寄りと言えそうだったな」

泊地棲姫「見タ目ダケガ深海棲艦、トイウ感ジカ?」

提督「そこまで……いや、そう言ってもいいかもしれねえな。とりあえず、しばらくの間は様子見しようと思う」

朝潮「承知しました!」ビシッ

マーガレット「あのぉ、魔神様? さっきからこの人の意識が戻ってきてないんですが……」

軽巡棲鬼「」シロメ

泊地棲姫「オイ提督、オ前ノヤッタコトダロウ」

提督「わかってるよ……おーい、阿賀野ー?」ユサユサ

軽巡棲鬼「……ハウッ!? コ、ココハドコ!? 私ハ最新鋭!?」

由良「こんなときにまで最新鋭にこだわるの!?」

軽巡棲鬼「ナ、ナンカ、イマ、阿賀野ノ大事ナトコロニ、ハイラレタヨウナ気ガ、シナイデモナインダケド!?」モジモジ

朝潮「……」

由良「……」

泊地棲姫「思ワセ振リナ、言イ回シダナ」


提督「あー、それよりもだ。軽巡棲鬼……っつうか、お前のことはどう呼んだらいい? 阿賀野って自覚があるなら阿賀野と呼ぶが」

軽巡棲鬼→深海阿賀野「エ? ソウネェ……ソレジャ、阿賀野デオ願イシマース!」

提督「おう、んじゃこれからよろしく頼むぜ」


朝潮「司令官。今度、あの阿賀野さんに先程やったことと同じことを、朝潮にも試してみていただけますでしょうか」キリッ

マーガレット「え、あの頭の中を見るあれですか!?」

提督「別に試す必要ねえだろ……」アタマカカエ

朝潮「司令官には、この朝潮のことをもっと深く知っていただきたく!」ズイッ!

提督「わかったわかった……そのうちな、そのうち」ガックリ

軽巡棲姫「私ハ、ヤッテモラッタコト、アルワヨォ?」ヒョコッ

朝潮「本当ですか!!」

由良「……」

提督「お前もいきなり出てきて煽ってくれてんじゃねえよ……」アタマカカエ

ということで、今回はここまで。

ルート的にこちらに行っていいものか、ものすごーーく悩みましたが……続きです。


 * 夜 提督の寝室 *

提督「ふー……毎日いろいろあり過ぎだ」

 扉<チャッ

如月「ふんふんふーん♪ あら、司令官! 今日もお疲れ様でした」

提督「……」

如月「どうしたの? 司令官」

提督「いや……俺の部屋に誰かしらいるのも、なんだか当たり前になっちまったなあ、って、しみじみ思っちまってなあ」

如月「……嫌だったかしら?」

提督「まあ……一人になる時間がない、って点では、少しな」

提督「あとは、俺はもともと他人に依存しなくてもいいように過ごしてきたからな。いまも単純にこれでいいのか、って戸惑ってる」

提督「けど、よく考えりゃ、これまでずっと妖精と一緒だったわけだしな……独りじゃ、なかったんだよな、俺は」

如月「司令官……」

提督「とはいうものの、毎日誰かが日替わりで部屋にいるっつうのも、それはそれでどうなんだ?」

如月「そうかしら?」

提督「なんか、まるで俺がお前たちを毎日とっかえひっかえしてるみたいでなあ……傍から見たらくそみたいな男って感じがしないか?」

如月「私たちが好きで押しかけてるんだもの、そうはならないわよ」フフッ

提督「そうだと嬉しいけどな……」アタマガリガリ


如月「嬉しいの!?」パァッ

提督「いや、嬉しいっつうか……」

如月「違うの……?」

提督「んー、まあ、なんだ。単純に喜べてないのは、俺がはしゃいで調子に乗ってしまいそうで怖いんだ」

提督「嬉しいことは嬉しいんだよ、これまでにないことだったし。それで舞い上がってお前たちに嫌な思いさせたくねえ、ってだけで……」

提督「あと、これまで厳しめに突き放してきてたのに、その態度をひっくり返してるわけだからなぁ。俺、結構な勢いで拒絶してたろ?」

如月「そうねえ……でも、いまはそうでもないんでしょう?」

提督「まあ、いまはな……」

如月「ふふっ、なら、それでいいじゃない。司令官は、これまで死ぬつもりでいて、だからこそ私たちとの関わりを避けてたんでしょう?」

如月「避ける理由がなくなったんだもの。変わって当然だと思うわ」

提督「変わって当然か……なあ、如月?」

如月「なあに?」

提督「俺って、そんなに変わったか?」

如月「ええ、昔に比べたらだいぶ変わったわ。柔らかくなった、っていうか、素直になったって言うか」

提督「んじゃあ、少し前に船の上で肩を並べて話をした時の俺と、今の俺の雰囲気は同じか?」

如月「? それだと、そこまで変わったように思えないけど……それってどういう意味?」クビカシゲ

提督「この前のエフェメラの襲撃で、魔神の魂が目覚めちまっただろ? そのせいで、俺の言動や行動が変になってないか……」


提督「お前から見て、俺の本質的なところが変わってないか、違和感ないかってところを確認したかったんだよ」

如月「ふぅん……そういうことなら、司令官は変わってないと思うわ。だって……」スッ

提督「……!」ダキツカレ

如月「……ほら。こうやって不意に抱き着くと、どぎまぎしてすぐに抱き返してくれないところは、これまでの司令官と一緒よ?」

提督「なるほど……」タラリ

如月「司令官は、自分が変わるのが嫌なの?」

提督「……俺の変化が魔神の力のおかげだと思いたくないってだけさ」

提督「魔神の力を得たから強くなったんじゃなく、お前たちと信じあえる仲になったから……って思いたいだけだよ」

提督「でなきゃ、こうやって如月を受け入れる資格もあったもんじゃないだろ?」ナデ

如月「……司令官って、本当に真面目よね」

提督「こういうのは真面目にならなきゃ駄目だろ? 如月だって冗談のつもりはないんだろうし」

如月「そうね……」

提督「如月……?」

如月「……それじゃあ、司令官? 今日こそは、私の気持ちも、冗談にしないで受け取ってくれる?」ギュ…

提督「っ!」

如月「私は、あなたが答えてくれるのを、ずっと待っていたんだけれど?」

提督「……」


如月「……」

提督「それってつまり……」ポ

如月「……」ポ

提督「そう……だな。あれだけのことを言って、この期に及んでちゃんと向き合わねえのも、どうかしてるな」アタマガリガリ

如月「!」

提督「受け止めきれるかわからねえが、努力はする……それでもいいか?」ダキヨセ

如月「司令官……!!」ヒシッ

提督「ただ、ちょっと、トラウマ持ちなんでな……その、できるだけ、みっともないことにならないようにするけどよ」ムムム…

如月「わ、わかってるわよぅ。私だって、初めてなんだし、ちゃんとできるかわかんないけど……」セキメン

提督「……お、俺だって、至らないところも多々あるっつうか、まともにわかってねえから……き、気負わなくていいんだからな?」セキメン

如月「……」

提督「……」

如月「ねぇ……お風呂、行きましょ?」マッカ

提督「……そ、そうだな」マッカ

 * * *

 * *

 *


 * 翌朝 食堂外 テラス席 *

如月「……」ポヤー

電「き、如月ちゃん? どうしたのですか?」

如月「……」ポヤー

電「……如月ちゃん?」ホッペツンツン

如月「! きゃっ!? ど、どうしたの!?」

電「それは電の台詞なのです。さっきからぼんやりしてて……」

如月「そ、そうね……ちょっと、寝不足っていうか……ふふ、うふふっ」ニヘラ

電「……」

扶桑「ああ、こっちにいたのね。如月さん?」

如月「は、はい?」

扶桑「ちょっとお話があるのだけれど……少しだけ、お時間、いいかしら?」テマネキ

如月「? なんでしょう?」

電「寝不足……」

電「……」ポクポクポク

電「……」チーン

電「なのです!?」ズギャーーン!

由良「電ちゃんはどうしたの?」

敷波「さあ?」


 * ランドリールーム *

扶桑「……」ニコニコ

如月「ええと、扶桑さん? お話と言うのは……」

扶桑「昨晩のことなのだけれど……」

如月「……!」

扶桑「お誘い、うまくいったのね?」ニコニコ

如月「……そ、それは……」セキメン

扶桑「うふふ、ごめんなさい、どうしてもそれを訊きたくて」ニコニコ

扶桑「ねえ、如月さん? 今後の参考のためにも、そのこと、あとで詳しく聞かせてもらえるかしら?」

如月「あ、あとでですか?」

扶桑「ええ。どういうアプローチをしたとか、提督に何をすると喜んでくれるのか。私のほかにも、知りたい人がいると思うの」チラッ

 コソッ

扶桑「ふふっ、はっちゃんも隠れてなくていいのに」

伊8「……ばれてましたか」コソッ


扶桑「はっちゃんのお部屋のお泊り日は明後日だったかしら。だとすると、はっちゃんには先を越されてしまいそうね、うふふっ」

伊8「いよいよ決戦です」フンス!

扶桑「そういうわけだから、今夜お部屋にお伺いしてもいいかしら?」

如月「え、ええ、構いませんけど……その、どうしてわかったんですか?」

扶桑「私は、洗濯した提督のお召し物を、毎日お部屋まで届けてるんだもの。お部屋の匂いで気付くわ?」

如月「ああ……そ、そういうことですか」ポ

伊8「ていうか、扶桑さんも、知らないふりして抜け目ないですよね」

扶桑「そうかしら? はっちゃんだってそうだったでしょう? ずっと提督に迫ってたと思っていたんだけど」

伊8「確かにそうですけど、一番手は如月ちゃんか大和さんあたりだと思って、自分からは一応遠慮してましたよ?」

如月「えっ」

扶桑「そこはそうねえ……でも、その次あたりに、あなたかル級さんあたりが来るんじゃないかって思ってもいたんだけど」

如月「えっ」


伊8「そんなに押しが強く見えましたか……あ、はっちゃんはみんなと争う気はありませんよ?」

伊8「提督のそばにいられればなんでもいいです。それこそ、セフレでもペットでも○○○でも構わないです」

扶桑「まあ、大胆。でも提督は、仮にはっちゃんが望んだとしても、ペットとか○○○扱いはしないんじゃないかしら」

扶桑「提督のことですもの、艦娘の人格や尊厳を損なうようなことは、たとえお遊びの場でも忌避すると思うわ」

伊8「うーん……多分、そうなるでしょうね、逆はあったとしても。如月ちゃんも、昨晩はすごく大事にされたんでしょ?」

如月「えっ!? え、ええ、その……すごく、気を使ってもらったっていうか」セキメン

扶桑「あら、今はダメよ、詳しい話はまた夜に、ね?」

伊8「……わかりました」ウナヅキ

扶桑「それじゃ如月さん、よろしくお願いね」フリフリ

如月「は、はい」

 スタスタ…

如月「……」

如月「……な、何を聞かれちゃうのかしら」ポッ


 * 一方の執務室 *

電「司令官さんっっ!?」トビラバーーン!

提督「!?」

霞「い、電!?」

ジュリア「な、なんですの!? なにごとですの!?」

防空巡棲姫「チョット、ウルサインダケド」

早霜「……」

電「司令官さんは! 『ああいうこと』が苦手ではなかったのですか!?」

提督「あ?」

霞「? ああいう……?」

ジュリア「何の話ですの?」

防空巡棲姫「意味ワカンナイ」

早霜「電さん。ああいうことというのは、どういうことでしょう?」

電「どういうこと、って、司令官さんは……あの、その」カオマッカ

提督「……!」ピクッ

早霜「……フフ、フフフ」ニヤリ


防空巡棲姫「ネエ、ナンノ話?」ハヤシモツンツン

早霜「電さんは、司令官のナニを問い詰めたいのかしら……?」

電「そ、それは、その……」カオマッカ

早霜「おそらく、司令官が昨晩、如月さんとナニをしていたか……ということですよね?」クリッ

提督「こっち見んな」ポ

早霜「つまり、昨夜はお愉しみだったということですね? 男と女のやることの、最後まで行ったということですね? フフフ……!」

霞「ちょっ……えええ!?」カオマッカ

防空巡棲姫「アア、ソウイウ……ヘー、提督サンモ、スミニオケナインダ」ニヤリ

ジュリア「は、は、破廉恥ですわぁぁぁぁ!!?」ハリセンスパーーーーン!

霞「あ、あ、あんた、何考えてんのよーー!!」

防空巡棲姫「? ……意味ワカンナイ。ソンナニ大騒ギ、スルホドノコトナノ?」

提督「とりあえず、霞も電もジュリアも落ち着け……」アタマカカエ

霞「落ち着いてなんていられないわよ!」

防空巡棲姫「……ソレ、マジデ意味ワカンナイ。ナンデ落チ着ケナイノ?」

霞「えっ!? そ、それは……」


早霜「まあまあ、それはさておいて……それで、司令官は、無事にことを終えたのですか?」ニチャァ…

提督「……一応はな。恥はかかさずに済んだ……と、思いたい。つうか、あまり追及してくれるな、くそ恥ずかしい」セキメン

電「はわわわ……ほ、ほんとうに、ほんとうなのですか……!?」カオマッカ

霞「だとしても、馬鹿正直に答えてるんじゃないわよ……」アタマカカエ

提督「言えばそれきりだ、言い淀んで変な想像を広められたくねえ。俺だってこれ以上話す気はねえぞ」

防空巡棲姫「フーン……提督サン、ソウイウ話、嫌イナンダ」

ジュリア「艦娘とスキンシップが多い割には、その反応は意外ですわね?」

提督「そういう希望が多いから、希望通り対応してるだけだ。俺の方から頼んだりはしてねえよ」

提督「そもそも俺は、学生ん時にひっでえ現場見ちまったショックで、男の能力が不能になっちまったからな」

防空巡棲姫「酷イ現場?」クビカシゲ

霞「知らないほうが幸せよ。とにかく、それであいつはそういう話を忌避するようになったってこと」

提督「ま、そういうことだ。で、この島に来た艦娘も、だいたいが人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだった」

提督「とくにセクハラされて逃げてきたような艦娘にとっては、俺がそういう行為のできない人間であるほうが都合がいいだろ?」

早霜「そのせいで、男性不信の艦娘にも、安心してくっつかれていたと」ニヤリ

提督「……まあ、そういう面もあったかもな。とにかく、それを別にしても、艦娘たちには好意的に接してもらえたし……」


提督「一部の艦娘には、しょっちゅうくっつかれたおかげで、多少克服できたというかなんつうか……」セキメン

防空巡棲姫「慣レチャッタンダ」

提督「……まあ、そうだな。すっげえにこにこしながら、くっついて来るんだ。それに俺が癒されてたのも、結果的には事実なんだ」

提督「とにかく、気分を悪くしなくなっても俺のコレが治ったわけじゃなかったから、俺はそれまでのスタンスを保つつもりでいたんだよ」

提督「それが、メディウムがやってきて、魔力槽に入れられて、体のほうも治っちまった。残りは俺の覚悟の問題だった、ってことだ」

ジュリア「魔力槽……キャロラインとの一件ですわね」

早霜「そして、今のままでは嫌だと熱烈に迫られて陥落した……ということですね?」

提督「間違っちゃいねえが、できれば『受け入れる覚悟を決めた』とか言って欲しいけどなぁ。俺が臆病だったのが悪いのは確かだけどよ」

防空巡棲姫「フーン……」

早霜「それで、司令官? 昨晩は、トラウマによる体調不良はなかったんですね?」

提督「そこはまあ、ありがたいことにな」ハァ…

防空巡棲姫「良カッタジャナイ。ナンデ、嬉シソウジャナイノ?」

提督「俺の体が好転したって点ではそうかもしれないが、こういうシモの話って、べらべら話していいもんか? 普通秘めとくもんだろ?」

ジュリア「お堅いですわ……」

防空巡棲姫「貞操観念ガッチガチダネ」


霞「……あああ、もう! とにかく!! まさかあんたが、よりによって駆逐艦に手を出すとは思ってもなかったわ!!」

霞「もうちょっと節度のある男だと思ってたけど、私の思い過ごしだったみたいね!! 見誤ってたわ!!」

提督「ま、ロリコン扱いされんのは当然だとは思うけどよ。如月放っておいて他の奴に手を出すのも、それはそれでちょっとなあ」

霞「!」

提督「確かに、見た目的な意味で、大和とか金剛とか他に適任がいたかもしれねえが……」

提督「なんでかんで俺はあいつに一番心配してもらって、一番世話になってんだ。真っ先に応えなきゃならねえ相手だと思ってたんだが」アタマガリガリ

電「……司令官さん……!」

霞「ああ、そう……で? 今後はどうするの? このことが皆に知れたら、艦娘どころか深海棲艦やメディウムも放っておかないでしょ?」

提督「そうなるだろうな。ま、向き合うしかねえだろ。ひとりひとり」

ジュリア「ひとりひとり? 魔神様をお慕いしている者が何人いるとお思いですの? 両手を使っても足りないのではなくて?」

提督「それでもだよ。逆にまとめて相手しようとするほうが嫌がられねえか? 横着してるように思われそうだろ」

防空巡棲姫「ドッチニシテモ、提督サンノ体力ガ心配ダネ」フフッ

提督「……つうか、霞や電に聞かせる話じゃねえと思うんだが」タラリ

霞「ほんっと今更過ぎるわね!!」マッカ

電「はわわわわ……」マッカ


早霜「私は、そうじゃないと言うの……?」

提督「お前は動じてねえどころか興味津々じゃねえか、言わせんな」

早霜「……フフフ、そうね。よく見てるわね、司令官……」ニマァ…

提督「ぶっちゃけ電もこの話で赤面するようなタマじゃねえと思ってたんだがな。しょっちゅう、あのマリッサにちょっかい出されてんだろ」

電「そ、それはそうなのですけどぉ……」

提督「お前の場合はマリッサが誰かに余計な手出しをさせないために、自分が囮になろうとしてたと思ったが……さては楽しくなってきたか?」

電「そそそそんなことないのです!?」

防空巡棲姫「ツマリ、コノ場デ一番純情ナノハ、コノ艦娘ダッテコトダネ」ジッ

霞「んなっ!? そ、そんなこと……!」

提督「いや、純情って言うのかそれ? どっちかっつうと、この鎮守府で一番常識的でしっかりしてるから、そういう反応なだけだろ?」

霞「……っ!」

ジュリア「あぁら、そうでしょうか。彼女はこの中で一番お子様だと思われたくないんでは?」

提督「ああ? わざわざ厭味ったらしく言い換えてんじゃねえよ、そういう貶めるような言い方すんなよな」

提督「霞が一番分別があるって話で、考え方が大人で節度があって、ちゃんと恥じらいがあるからこその反応だってんだろが」

霞「……っ」プルプル

電(霞ちゃんの顔が真っ赤なのです……)

早霜(ほめ殺しですね)


防空巡棲姫「ジャア、コノ艦娘トハ、性交シナインダ?」

霞「ちょっ、何言ってんのおおお!?!?」

提督「お前、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ……」アタマオサエ

電「そう言いますけど、司令官さんも普段の言動はこのくらい無遠慮でストレートなのですよ?」ジトッ

提督「そりゃ悪かったよ、くそが……」

ジュリア「ええと……魔神様? それで、今後は本気で、真面目にひとりひとりお相手するつもりですの?」

提督「ま、当人から希望があればな。何事も、当事者が俺に言わない限りは動かねえってスタンスは、今後も変える気はねえぞ」

防空巡棲姫「フーン……」

早霜「そうだとすると、今夜以降も司令官は夜の個人面談で大忙しですね……フフフ」

霞「どういうことよ」

早霜「確か、今夜は大和さんで、次がル級さんだったはずですね」

電「ああ……絶対、逃してもらえなさそうなのです」

提督「……」

早霜「そのあとの順番で行くと、伊8さん、軽巡棲姫さん、朝潮さん、扶桑さん、榛名さん、泊地棲姫さん、大淀さん……」ユビオリカゾエ

霞「……」

電「いろいろと洒落が通じなさそうな人たちばかりなのです……」


提督「その中だと、楽に構えてられそうなのが朝潮と大淀くらいしかいねえ」アタマオサエ

霞「朝潮姉に手を出したら承知しないわよ!?」ギロリ

提督「出さねえよ。そもそもあいつ、本当に肩を並べて寝てるだけでにこにこしてるから、むしろ俺が癒されてるほうだぞ」

防空巡棲姫「元ル級モソウダケド、姫級ノ二人ハ前カラ提督ニ御執心ダッタシ。マ、ソウナッチャッテモ、ショウガナイヨネ」

ジュリア「本っ当に、魔神様のお体は大丈夫なんですの?」

提督「そこはもう、腹を括るしかねえんじゃねえの」

霞「いいから責任取ってあげなさい。朝潮姉も含めて、私にはどうやっても止められない人たちばかりだわ」マガオ

電「霞ちゃんが匙を投げたのです……」

早霜「明石さんへ、酒保に精力剤でも置くよう進言しましょうか」

提督「変な方向に気を利かすんじゃねえよ……行くなら俺が行く」

早霜「否定はしないのね。フフフ……」

提督「……」

ジュリア「魔神様、しゃきっとなさってくださいませ?」

提督「わかってるよ……ったく」

今回はここまで。

おたのしみでしたねえ。
さてさて、待ち受けるは修羅場修羅場……。
続きです。


 * その夜 居住区内のとある一室 *

如月「……って感じで……」テレテレ

扶桑「あらあら」ニコニコ

伊8「ふむふむ……」

早霜「フフフ……」ニマニマ

軽巡棲姫「……アァァア……提督、提督ゥウ……早ク、早ク逢イニ行キタイ……!」ウズウズプルプル

戦艦水鬼改「我慢シナサイ。アナタノ順番ハマダデショ?」

軽巡棲姫「ナンデ……ナンデオ前ノホウガ、先ナノヨォォ……!」

ニコ「……」カオマッカ

ヴェロニカ「……ちょっと、ニコ? こういう話が苦手なら、どうして聞きに来ようとしたのよ」

ニコ「ぼ、ぼくは、お姉ちゃんとして、魔神様がどうしてるのか、心配だから聞きに来たんだよ……!」ワタワタ

ヴェロニカ「私はあなたのほうが余計に心配なのだけれど?」ハァ…

ノイルース「……」マッカ

オボロ「……」マッカ

ヴェロニカ「というか、なんであなたたちも縮こまってるの。後学のためとか言ってたくせに、その有様で何か学べると思って?」


ノイルース「いえ、何と言いますか……」

オボロ「うむ……ここまで甘露と言うか、甘々と言うか……」

ノイルース「ええ、聞いているだけで顔が火照ってくるような話は、なかなか経験できないと言いますか……」

オボロ「それがしも、まだまだ修行不足か……くっ!」

伊8「意外とメディウムのみなさんは集まりませんでしたね? もっと大挙して押し寄せてくるかと思ってたんですけど」

ヴェロニカ「傍にいるだけでいい、みたいなおこちゃまな子が意外と多いのよ」

ヴェロニカ「今だって坊やのお部屋に表立って定期的に通ってるの、キャロラインくらいでしょ?」

ヴェロニカ「マリッサやケイティーみたいにぶっ飛んでる子もいるけど、マリッサは最初からこの子の話を参考にはしないでしょうし」

ノイルース「それこそ我が道を行きますからね。それからケイティーは引き続き懲罰中です」

伊8「両極端ですね」

ヴェロニカ「そういう艦娘も、坊やに興味がある子が多い割には、これしか集まってないのは意外じゃないの?」

伊8「メディウムとは少し事情が違いますけど……まず、駆逐艦の子たちは呼ばないようにしていました」

早霜「私は、聞いていましたので……フフフ」

伊8「それから、榛名さんは聞きたくない、って言ってましたね。陸奥さんはわざわざ聞くまでもない、って」

ヴェロニカ「むっ……そうなの?」


伊8「もしかしたらふたりは、事前に情報を仕入れることで、本番の楽しみを減らしたくなかったのかもしれません」

ヴェロニカ「……ふん、そう」ムスッ

伊8「ヴェロニカさんも、そうしておけば良かったって思ってます?」

ヴェロニカ「別に。そんなことはないわ」プイッ

軽巡棲姫「ソレヨリ、モット話ヲ聞キタイノダケレド……アノ人ハ、ドウシタラ悦ンデクレルノォ……?」ズイッ

如月「えっ? えっと……そうね、司令官は、意外と……ごにょごにょ……」

軽巡棲姫「……ソレ、本当?」

如月「そうだと思うわ……」

戦艦水鬼改「チョット、ナニヲフタリデコソコソ話シテルノ」ズイ

ノイルース「ええ、肝心なところが聞こえませんでしたよ」ズイ

扶桑「内緒は良くないわ? 何の話だったの?」ズイ

軽巡棲姫「」ビクッ

如月「え、えっと……司令官は、キスが好きなんじゃないか、って」

ヴェロニカ「あら」キラッ

オボロ「まことでござるか!?」キラッ

伊8「その辺、詳しくお願いします」キラッ

如月「え? え、ええ、その……実は司令官に……」

ニコ「……///」ミミマデマッカ

早霜「ニコさんも照れていないで、しっかりと聞いたほうがよろしいかと……フフフ」

ニコ「わ、わかってるってば……///」


 * 一方 工廠 *

明石「それで、みんな如月ちゃんのところに話を聞きに行ったらしくて。今頃あっちは盛り上がってるんだろうなあ」

敷波「……明石さんは興味ないの?」

明石「うーん、ないと言えば嘘になるけど、別に提督とそういうことをしたいとは思ってないかな」

軽巡新棲姫「ヘー、ソウナンダ」

明石「っていうか、敷波ちゃんからそういう話題が出てくること自体、私的には結構衝撃なんだけど?」

敷波「まあ……あたしも、何にも知らないわけじゃないからさ。こういう相談できそうな人、明石さん以外に知らないし」ポ

ブリジット「……し、敷波殿は、意外と、進んでいたのでありますな」セキメン

敷波「別に、進んでもないし。っていうか、進んでるって何さ?」ムッ

ブリジット「あ、いえ、そのぉ……す、すみませんであります……」

軽巡新棲姫「フフッ、フタリトモ、ウブナンダネー」ニマニマ

ブリジット「……かくいう軽巡新棲姫殿は、余裕でありますな?」

軽巡新棲姫「マーネ。ワタシモ、ソウイウ経験ハ無イケド、知識ガ無イワケジャナイシ、ソウイウノガ嫌ダッテワケデモナイシ」

軽巡新棲姫「ッテユーカ、逆ニ、ワタシハ興味ハアルカナー。コノ前ハ、エロ触手ヲ、特等席デ見テタワケダシ?」

敷波「ああ……」セキメン

ブリジット「マリッサの件でありますな……」カオマッカ


明石「? 何かあったの?」

敷波「この前、島に攻めてきたあっちの大和さんを、クラーケンがさ……」

軽巡新棲姫「ドロドロノ、デロデロノ、グチョグチョニ、シタンダヨネエ」ニヤニヤ

ブリジット「それを我々も見てしまったのであります……」ミミマデマッカ

明石「……」アタマカカエ

敷波「さすがにああいう普通じゃないのは、あたし、好きじゃないから。その、やっぱり、するんだったら普通のほうが……」モジモジ

軽巡新棲姫「ソレナラ、提督ト普通ニシテクレバ、イイジャナイ」

敷波「ほえっ!?」マッカ

明石「何を唐突に言い出すんですか……」ズツウ

敷波「そ、そんな、やらないよ……!?」

軽巡新棲姫「ソウナノ?」

敷波「その、好き同士ってわけでもないのに、体の関係持つのって変だよ……司令官もそうだと思ってるはずだし」カオマッカ

軽巡新棲姫「フーン。ダッタラ、彼女ニナッチャエバ、イイジャナイ」

ブリジット「押しが強すぎるであります!?」シロメ


敷波「かの……っ!? そ、それだって気が早いってば!! 司令官とは、まだそこまでの関係じゃないし……」

敷波「っていうか、他の子もいるしさ? あたしはまだ、今の関係のままのほうが、いいっていうか……」

敷波「司令官ってなんでも背負っちゃうし、変にプレッシャーかけて司令官の重荷にもなるのも嫌なんだよね、なんていうか……」

明石(ああ、甘酸っぱいなあ……)

軽巡新棲姫「フーン。ソレジャ、アタシガ彼女ニ立候補シチャオッカナ」ニンマリ

敷波「!?」

ブリジット「一足飛びすぎであります!?」

明石「いやー、それはそれで大変だと思うけどなあ。だって、ライバルが如月ちゃんに、大和さんに、金剛さんに……」

明石「ル級さん……じゃなくて、今は戦艦水鬼か、あとは軽巡棲姫に泊地棲姫に……さらにはメディウムのみんなにも好かれてるでしょ?」

明石「仮に二股三股が許されたとしても、そこへ割り込んでいくには、相当に大変だと思うんだけど」

ブリジット「群雄割拠でありますな……」タラリ

軽巡新棲姫「ッテイウカ、ミンナ堅苦シク考エスギジャナイカナー。提督サンモ、含メテサ?」

敷波「……まあ、別に誰が彼女になってもいいけどさ。きっと司令官は、みんなを分け隔てなく受け入れてくれると思うよ?」


敷波「でも……それで司令官に無理させて、司令官の身になにかあったら、あたし怒るけど。それはいいよね?」ギロッ

明石「……」

ブリジット「……」

軽巡新棲姫「……」

敷波「ちょっと、なんでみんな黙っちゃうの?」

軽巡新棲姫「エ、ダッテ怖イシ……」

明石「提督みたいな目つきしてたから……」

敷波「え、司令官みたいだった?」パァッ

明石「そこで嬉しそうな顔をするのは間違ってるからね?」

ブリジット「敷波殿も愛情が重いであります……」


 * そして *

大和「提督、ついに契りを結ぶ日が来たのですね……!」

 * 次の日の夜 *

戦艦水鬼改「マサカ、コンナ日ガ、来ルトハネ……!」

 * その次の日の夜 *

伊8「ずーっと待ってました。待ちくたびれました」シタナメズリ

 * そのまた次の日の夜 *

軽巡棲姫「絶ッ対、逃ガサナインダカラァ……!!」

 * またまた次の日の(略) *

朝潮「司令官には、朝潮のことを、もっともっと知っていただきたく!!」ズイッ!

 * またまたまた次(略) *

扶桑「提督……やっと、あなたに救ってもらった御礼ができるのですね……」

 * またま(略) *

榛名「提督になら、榛名は何をしていただいても大丈夫です!!」ハダカリボン

 * (略) *

泊地棲姫「私ガ見込ンダ男……簡単ニハ、果テテクレルナヨ……?」

 * (ry *

大淀「明らかに寝不足です! ちゃんと寝てください!!」ウワーン!

提督「おう……そ、そうさせてもらうから泣くな」メノシタニクマ


 * 翌朝 工廠 *

明石「それで大淀はなにもしなかった、と……」

大淀「……」

明石「まあ、お部屋に泊まりに行っただけでも大きな進歩だとは言えるけど……どうして何もなかったのに、目の下にクマができてるのよ」

大淀「……眠れなかったの」

大淀「提督の隣で寝て、静かな寝息を聴きながら……細いなりにごつごつした、血管の浮いた腕と手の甲と、細くて長い指を触ってて」

大淀「提督の寝顔とか寝息とか、その腕とか肌の感触を確かめてるだけで時間を忘れちゃって……気付いたら朝日が昇ってたの」ウフフ…

明石「ふーん」

大淀「それよりも提督が明らかに眠そうにしてるのがつらくって……ずっとお仕事で頑張ってるのに!」

大淀「それからあの部屋! 今やもう完全にヤ○部屋じゃない!! 雄と雌の匂いが微かにベッドに残ってるし!」

明石「ヤ○部屋とかオスメスって、大淀……」ヒキッ

大淀「いいえ由々しき問題です! いくら毎日シーツを洗ってたとしても、あれじゃベッドに匂いがこびりつくのも時間の問題……!」

大淀「あんな環境で、提督が安眠できると思えないわ。早くなにかしら手を打たないと!」

明石「まあ、それなら……一応、もう手を打ったっていうか、有志が動いたって言うか」

大淀「えっ?」

 扉<ギィィ…

大淀「!?」ビクッ


敷波「……ただいま」ヌッ

明石「あ、おかえりー」

ブリジット「ただいま戻りましたであります」

軽巡新棲姫「Aloha~」

ヴェロニカ「……邪魔するわよ」

明石「あら、ヴェロニカさんも一緒だなんて珍しい」

大淀「ね、ねえ明石、なんか、敷波ちゃんがイライラしてるみたいなんだけど……敷波ちゃん、何かあったの?」

敷波「あー、あたし? ちょっとさ……説教、してきたの」

大淀「説教?」

ヴェロニカ「ええ。この子が、坊やと『おいた』した子たちを全員呼び出して、もっと体を気遣ってやれ、って、ね」

軽巡新棲姫「目ツキガ、提督サンニ、ソックリデサ。アレ、駆逐艦ノ出シテイイ雰囲気ジャナイヨー」

ブリジット「ぶっちゃけ滅茶苦茶怖かったであります……自分は同席したニコさんと震えてたであります」ガタガタ

明石「まあ、鬼神と呼ばれた艦娘の妹艦だからねえ」

大淀「……」タラリ


敷波「これで少しは、みんなが司令官を気遣ってくれるといいんだけど」ハァ…

軽巡新棲姫「Gallery モ大勢イタシ、コレカラハ、ミンナ気ヲツケルンジャナイ?」

明石「でも、ひとりひとりだと次に同衾できるまでのサイクルも長いし、一回一回の行為が濃くなっちゃうのは仕方なくない?」

敷波「そうであっても手加減なしは駄目だよ。結局、それで司令官は寝不足になって、大淀さんが司令官と何もできなかったんじゃない」

大淀「えっ!? いえ、その……まあ、私はまだ、いいん、です、けど……」カオマッカ

敷波「……大淀さんがそう言うなら、ま、いいけどさ」フゥ…

ヴェロニカ「そんなアンニュイな顔するくらいなら、お嬢ちゃんも坊やを襲えばいいのに。人に説教するくらいなんでしょう?」

軽巡新棲姫「野暮ナコト言ワナイノ。ソコハ、乙女ノ事情、ッテヤツヨー?」

ヴェロニカ「……ふん、わかってるわよ」フゥ…

ブリジット「こう言いはしますが、ヴェロニカも言うほど魔神様に迫ってるわけでもないでありますし……」ボソッ

明石「気にはしてるけど手は出せない……つまり敷波ちゃんといい勝負だと」ヒソッ

ヴェロニカ「なんですって?」ジロリ

敷波「何か言った?」ギンッ

ブリジット&明石「「いいえなにも!」」ビシッ!


軽巡新棲姫「大淀ハ、次ニ期待ダネー」

大淀「ちょ、ちょっと待ってください、私が提督の部屋に入ったことも、それで何もしなかったことも、皆さん周知済みなんですか」

軽巡新棲姫「ミンナ知ッテルト思ウヨ?」

ヴェロニカ「騒ぎを見に来た子たちも含めてね」

大淀「」シロメ

大淀「」シロメ

大淀「」ヒザカラクズレオチ

明石「ちょっ、大淀!?」

軽巡新棲姫「ソンナンデ、次ハ大丈夫ナノカナー」

ヴェロニカ「駄目に決まってるでしょう、言うまでもなく」



明石「それにしてもさあ、提督をおもちゃにしたいヴェロニカさんと、提督をおもちゃにされたくない敷波ちゃんがさ」ヒソヒソ

明石「同じような理由で似たような溜息をつくのって、なかなか芸術点高いと思わない?」ニチャァ…

ブリジット「自分にはそこまで恋バナを愉しむ余裕はないであります……」ドンビキ

というわけで今回はここまで。

もう一方、胸中穏やかではない方がおられるので。

続きです。


 * 一方 時雨の部屋 *

 (時雨のベッドの上で山城が時雨に抱き着いて眠っている)

山城「……」スヤ…

時雨「……」

 扉<コンコン

電「失礼、するのです」コソッ

吹雪「……時雨ちゃん、入っても大丈夫?」ヒソッ

時雨「うん、どうぞ」ムクッ

朧「それじゃ、お邪魔します」ソロッ

時雨「来てくれてありがとう、みんな座って。僕は、ここから動けないから、このまま話を聞かせてもらうけど」ベッドノフチニスワリ

山城「んむ……」

時雨「大丈夫だよ山城。僕はここにいるから」テヲニギリ

吹雪「……山城さん、相当ショックだったんだね、扶桑さんのこと」

電「今朝からこんな調子なのですか?」

時雨「これでも、だいぶ落ち着きはしたよ。それより、敷波の話を聞かせてくれる? どんな内容だったの?」

朧「うん。えーと、要は、提督に無理をさせるな、って話だったよね?」


電「なのです。司令官さんが毎日眠そうにしてたのは、結局そういうことだったので……」セキメン

吹雪「司令官が目に見えて弱ってたのを知ってたから、みんな反論しないで、おとなしく聞き入ってた感じだったね」

時雨「……そっか。鬼気迫るものを感じてたから、ひと騒動あるのかと身構えてたんだけど」

電「みんな調子に乗ってたのを自覚してたみたいだったのです。あと、敷波ちゃんの目つきと雰囲気が司令官さんそっくりだったのです」

朧「朧も、あんなに怖い敷波を見たのは初めてだったなあ。ブリジットさんが震えながら抱きついてたニコさんもちょっと気圧されてたし」

吹雪「由良さんも怯えてたもんね。初雪ちゃんだけ全然動じないで見てたのも、ある意味すごかったけど……」

時雨「そっか。見てみたかったなぁ。提督はどうしてたの?」

吹雪「今日はずーっと執務室にいるよ。寝ぼけててサインがぐちゃぐちゃになった書類が多いから、書き直すんだって」

吹雪「霞ちゃんが手伝いに行ったから、心配ないと思うけど」

朧「霞が? 提督と一緒にいて大丈夫なの? 朝潮のときの件で怒髪天になってたから、接触を避けさせてたと思うんだけど」

吹雪「あれは霞ちゃんの誤解だったってことで落ち着いたみたいだよ」

朧「誤解?」

電「あの日は、朝潮ちゃんが自分のことを魔神の力で全部見て欲しいと、司令官さんに迫ったそうなのです」

電「で、実際に見てもらったらしくて、そのあとも迫り続けたらしいのですが、司令官さんに窘められて、そこまでだったらしいのです」

吹雪「朧ちゃんが来る前に朝潮ちゃんがそういう話をしてて、それを聞いてた霞ちゃんが司令官のところに向かったんだよね」


朧「そうなんだ。じゃあ朧は、霞と入れ違いになったってこと?」

電「そういうことなのです」

時雨「霞が執務室に手伝いに向かったのは、提督へ勘違いのお詫びのためのついで、ってことかな」

電「だと思うのです」

時雨「でも、その様子だと、朝潮が提督とそういう関係になりそうなのは時間の問題に思えるね。根本的な解決には至らない気がする」

吹雪「そ、そうだね……」

 扉<トントン

那珂「時雨ちゃーん、入っていい?」

時雨「うん、どうぞ」

那珂「お邪魔しまーす……わあ、お客さんいっぱいだ」

吹雪「あ、那珂ちゃん!」

朧「どうして那珂さんが……あ、もしかして山城さんですか」

那珂「うん。まだ回復してないのかなーって」


朧「……ねえ、そろそろあたしたちは、おいとましよっか」

吹雪「そうだね。山城さんが起きるといけないし」

山城「起きてるわよ……」ボソッ

電「!」

朧「!」

吹雪「!」

那珂「山城ちゃん!」

山城「話は途中から聞いてたけど……あの邪知暴虐の限りを尽くすあの男を、止めようって話じゃなかったのね」ムクッ

吹雪「むしろ司令官が迫られてて困ってるんですけど……」タラリ

山城「あああ……扶桑お姉様を手にかけるだけに飽き足らず、艦娘どころか深海棲艦をも餌食にしてるだなんて……!」ワナワナ

時雨「山城、大袈裟だよ。深く考えすぎだって」

山城「何言ってるの時雨! このままじゃ、この鎮守府の女たちは全員あの男に食われるわよ!? なんて恐ろしい……!!」

吹雪(私はそれでもいいかなあ……)ポ

朧(……うん、嫌じゃないかも)ポ

電「はわわわ……」ポ

時雨「……みんな、満更じゃなさそうだね?」ボソッ

吹雪朧電「「!?」」


那珂「うーん、やっぱり山城ちゃんは考えすぎだと思うなあ。少なくとも那珂ちゃんは、提督さんとはそういう関係にはならないよ?」

山城「那珂ちゃん……そうね、那珂ちゃんは、私が守るわ……絶対、提督に渡すものですか」ギリギリギリッ

朧「うわぁ……」

吹雪「山城さん、そんなに扶桑さんが司令官に靡いたことが気に入らないんですか」ヒキッ

山城「ええ気に入らないわ。扶桑お姉様は、かつての鎮守府でこれ以上ない扱いを受けていたのよ……」

山城「あいつを……D提督を殺した後、扶桑お姉様は、自分の中に何もなくなってしまったと言っていたわ……」

山城「それほどまでに、耐え難い屈辱と怨嗟を抱えていた扶桑お姉様を支えることこそが、この山城の役目……だと言うのに!」

山城「よりによってあの男が! 扶桑お姉様の……お姉様の……ぅあああああ!!」アタマカカエ

那珂「山城ちゃん落ち着いてー!?」

吹雪「これは重症だね……」

時雨「これでも落ち着いたほうなんだけどね?」

電「山城さんは欲張りなのです」

山城「!?」

朧「ちょっと、電……?」

電「だって、そうなのです。山城さんは、扶桑さんにはずっと山城さんを見てて欲しいって考えてるように見えるのです」

時雨「……」


電「そのうえ、那珂ちゃんのことも、ファン1号だからってすごく熱心に追いかけてますし」

電「いまも、時雨ちゃんのことをそうやって独り占めしてるのです」

電「山城さんこそ、山城さん自身に都合の良い世界を作ろうとしてるのではないですか?」

山城「んなっ!? そ、そんなこと……!!」

電「だったら、扶桑さんや時雨さんを解放して欲しいのです。時雨ちゃんは、敷波ちゃんのことを気にかけていました」

電「でも、山城さんが心配だから、電たちに話の内容を聞かせて欲しいって頼んできたのです」

山城「私が……私が、時雨の邪魔をしてるっていうの……!?」

電「……」

山城「邪魔なんかじゃないわよ……私は、ただ……」

山城「私は、ただ、時雨と一緒にいたいだけよ……それが、悪いっていうの?」

山城「あのD提督のせいで、顔を合わせてもろくに話もできず! やっと一緒に出撃できたと思ったら、轟沈させられて!!」

山城「その上、時雨まであんな目に遭わせて……私は……私は、時雨と、何もできなかった。時雨のために、何もできなかった!!」

山城「その時間を取り戻したいだけよ……扶桑お姉様と……時雨と……あの時、どうやっても手に入らなかった、あの時間を……」ポロポロポロ…

山城「私は……扶桑お姉様と時雨の笑顔を、ずっと見ていたいだけよ……それだけなのよ……!!」


朧「……えっと、那珂さんは?」

山城「そんなの歌ってる那珂ちゃんの笑顔と歌声が最高過ぎてずっと見ていたいだけに決まってるじゃない」デロリ

吹雪(怖っ!?)

朧「い、いまの話に、那珂さんが出てこなかったから……」

山城「それとこれとは話が別よ? 区別して当然でしょう?」

山城「あんな不幸のどん底みたいなD提督鎮守府の思い出に那珂ちゃんを巻き込もうだなんて暴挙は絶対に許しておけないわよ?」

朧「そ、そういう意味ですか」

山城「そうでなくても那珂ちゃんがここに来るまで、どれほど不幸極まりなかったか……!」

那珂「山城ちゃん……!」

朧「……」

山城「……わかってるわよ。電の言う通りよ」

山城「こんなの、どうせ私の独り善がりだって。扶桑お姉様の笑顔が、私以外の誰かに向くのが、気に入らないだけ」

山城「那珂ちゃんの歌だって、私が聴きたいから。時雨にすがっているのも、私が甘えたいだけ……それが、私の幸せだから」

山城「……でも、扶桑お姉様にも、那珂ちゃんにも、時雨にも……幸せに、なって欲しいって気持ちは、本当よ……」ウナダレ

時雨「山城……」

吹雪「……」

朧「……」


電「……山城さん?」

山城「……なによ」

電「司令官さんも、みんなに幸せになって欲しいって気持ちは、一緒ですよ?」

山城「……」

電「司令官さんは、きっと、山城さんの幸せも叶えてあげようとするのです」

電「島にいるみんなに、笑顔でいて欲しいって……そのために、司令官さんはいつも行動しているのです」

山城「だからわかってるわよ、そんなこと……あいつが、それこそ邪知暴虐の限りを尽くして、人間たちを追い払って」

山城「どんな手を使ってでも、自分がどんな目に遭ってでも、私たちを幸せにしようとしてることくらい、わかってるわよ……!」

時雨「それで扶桑が提督を褒めるのが気に入らないだけだよね。実際山城が陣頭指揮取ってそういうことしたわけじゃないし」

山城「……うぐ……っ」

吹雪「あー……」

電「時雨ちゃん、核心を突いちゃったのです」

那珂「んもー、山城ちゃんったら、大人げないんだから~」

山城「……うう、那珂ちゃんに言われたら返す言葉もないわ」グスグス


時雨「ねえ山城? 山城は、ずっと扶桑に見ててもらいたいの?」

山城「……そ、そうよ」

時雨「ふーん、そっか……ねえ、山城……?」

山城「なによ……」

時雨「僕じゃ、ダメかな?」テレッ

山城「!?」

時雨「山城がそうだったたように、僕も、扶桑や山城とのコミュニケーションを、ずっとD提督に邪魔されていたんだ」

時雨「それどころか、八つ当たりも同然の山城たちの悪口を、ずっとD提督から聞かされてて、不愉快で仕方なかったよ」

時雨「山城たちに嘘をついて、沈めたと聞いた時は立っていられなかった」

山城「……」

時雨「それで、D提督のところから逃げて、轟沈して。山城たちと出会った後も、僕はずっと、この島の様子を眺めてるだけだった」

時雨「すぐそこに山城も扶桑もいるのに、全然話が出来なくて、触れることもできなくて……すごく寂しかったんだ」

山城「時雨……」

時雨「こうやって、やっとみんなと触れられるようになった後も、山城からは避けられてた気がしたんだよね」


時雨「扶桑からは逆に思いっきり抱き着かれたけど。ねえ、山城はなんで僕とのスキンシップは避けてたの?」

山城「す、スキンシップって、お、おかしいでしょ!? 戦艦が、駆逐艦にべたべたしてたら……!」

時雨「今朝はそうでもなかったじゃないか。山城は、つらくなったから僕に頼りに来たんじゃなかったの?」

山城「そ、それは……」

時雨「ああ、もしかして扶桑に遠慮してたのかな? 僕は構わないよ。むしろ、もっと触って欲しいな」ニコ

山城「あ、あんた、何を言い出すの……!?」

時雨「僕の正直な感想だよ。扶桑が提督に靡いたことに落ち込んで、僕を頼ってきたのも、扶桑には悪いけど嬉しかったし……」ズイ

時雨「不貞寝するときに抱き枕にされたのも、悪い気分じゃなかった……っていうか、むしろ役得? って感じだったし、ね」テレッ

山城「……じょ、冗談は、やめなさいよ……」

時雨「冗談? それこそ冗談じゃないよ。そうじゃなきゃ、僕のベッドで山城を寝かせる理由がないと思うんだけど?」ズズイ

山城「……っ」

時雨「だからさ」オシタオシ

山城「っ!」オシタオサレ

時雨「僕はもっと山城に触れ合いたいんだ。山城も……僕のこと、もっと好きにしていいんだよ……?」オオイカブサリ

山城「……っっっ!!」ゾクゾクゾクッ


時雨「ふふっ、山城、耳まで真っ赤だ。恥ずかしいの? それとも……興奮してるの?」フーッ

山城「っ、ちょ、ちょっと待ちなさい時雨! みんな見てるでしょ!?」アセアセ

時雨「みんな?」フリムキ

 ガラーン

山城「」

時雨「みんななら空気を読んで部屋から出て行ってくれたよ?」

山城「……ウソデショ?」

時雨「僕の部屋に来て、ベッドに入って……ふたりっきり」ポ

山城「」

時雨「なんて顔してるのさ。朝に山城が訪ねてきたときだって、同じシチュエーションだったじゃないか」

時雨「山城……いいよね? 山城も好きにしていいから、僕も……」ニコ

山城「ちょ、待っ、しぐっ、こ、こころの、準備が……!!」

時雨「……嫌なの?」ションボリ

山城「えっ!? い、いえ、嫌じゃないけど……」

時雨「やったぁ」ニマァ

山城「ひっ」


 * 時雨の部屋の外 *

那珂「聞き耳立てちゃ駄目だよ?」

電「……気になるけど、仕方ないのです」

吹雪「時雨ちゃんも、山城さんのこと心配してたからね……」

電「荒療治が必要だって言ってたのです」

朧「だ、大丈夫なのかな……」タラリ

那珂「うーん、でも那珂ちゃん、山城ちゃんの気持ち、ちょっとわかるなあ」

電「そうなのですか?」

那珂「うん。だってほら、那珂ちゃんはアイドルでしょ? アイドルは恋愛禁止とか言われたりするじゃない?」

那珂「みんなに夢を与えて、みんなから愛される存在だからこそ、現実をにおわせるような行為は忌避されてるって言うか」

那珂「あんまり自分であまり言いたくないけど、ぶっちゃけアイドルって清廉さと言うか、処女性を求められてると思うんだよね!」

電「ぶっちゃけすぎなのです!?」

那珂「きっと山城ちゃんは、扶桑さんにもそういうのを求めてる気がするんだよねー」

朧「ああ……!」

那珂「山城ちゃんにとって、扶桑さんは支えなきゃいけない相手って言うのもあるけれど」

那珂「それ以上に憧れを抱いてる感じでしょ? 崇拝の対象になってる。だから神聖視して偶像化して……綺麗さを求めすぎてる感じ?」


那珂「神様みたいな存在だから、ずっと綺麗なままでいて欲しい、ずっと高嶺の花であり続けて欲しい、みたいな」

那珂「だからこそ、自分が触るのも恐れ多いのに、どうして提督さんが、って思ってるんだと思う」

吹雪「……綺麗なものを、ずっと綺麗なままで取っておきたい、ってことなのかな?」

那珂「そういうことだと思うなあ」ウンウン

那珂「扶桑さんに処女性求めてるってのもあるし、その扶桑さんを寝取られたのが悔しいってのもあるんだろうけど」

電「だからぶっちゃけすぎなのです!」

朧「でもそれじゃ、扶桑さんを縛ることになるんじゃ……あ、それで電が解放しろって言ってたのか」

電「なのです。司令官さんは好きにしろと突き放しますが、山城さんは逆なのです」

那珂「山城ちゃんは結構、独占欲が強いと思うよ? 那珂ちゃんのことも大事にしてくれるけど、ちょっと用心深すぎるってくらいだし」

那珂「握手するときも恐る恐る触ってる感じ? 腫れ物扱いじゃないけど、割れ物に触るような……大事にされてる感はすごかったなあ」

那珂「多分、時雨ちゃんに対しても、必要以上に気遣ってくれてる感じはするね!」

朧「気に入った人に対する過保護が過ぎる感じですかね……」

那珂「そういうところは提督さんとそっくりだよね、素直じゃないところとか、ベクトルが違うけど面倒臭いところとかも含めて!」

那珂「山城ちゃんは絶対認めようとしないだろうけど! あ、提督さんも認めたがらないかな?」

電「那珂さん今日はいろいろぶっちゃけすぎじゃないですか!?」


那珂「とにかく、山城ちゃんの扶桑さんに対する理想が崩れちゃったからこそ、時雨ちゃんに甘えたくなっちゃったんだろうね」

那珂「那珂ちゃんに抱き着くのは山城ちゃん的にはご法度みたいだし、だから時雨ちゃんに向かったんじゃないかな」

吹雪「そっかぁ……確かに山城さん、ちょっと潔癖なところもありますもんね」

電「……あの、いま思ったのですけど、まずくはないですか?」

吹雪「なにが?」

電「山城さんが時雨ちゃんにも清廉さや潔癖さを求めているとしたら、今まさに時雨ちゃんがそれをぶち壊そうとしてるわけですよね?」

那珂「……」

吹雪「……」

朧「……」

電「……」

那珂「那珂ちゃん的には、これ以上いい方法が思いつかないかなあ。頑張って! ってしか言えないなー」

吹雪「えっ」

朧「えっ」

電「いっそのこと、山城さんは一度、現実をしっかり見る必要があると思うのです」

那珂「電ちゃん厳しーい!」

吹雪「……山城さん、立ち直れるのかな」

朧「どうだろ……」アタマカカエ


 * 後日談 *

扶桑「……山城?」ジロリ

山城「ひっ!? ど……どうされました、扶桑お姉様」

扶桑「あなた、時雨と一緒のお布団でお休みしたんですって?」ジトッ

山城「はうっ! そ、それは、そのお、お休みと言いますか……」シセンオヨギ

扶桑「……時雨のお部屋のお布団で、抱き合って寝たと聞いたのだけれど?」ジトッッ

山城「ど、どこからそんな話が漏れたんですか……!?」

扶桑「やっぱりそうなのね……!? 山城ったら、私を差し置いて時雨と仲良くして……」

山城「……! ふ、扶桑お姉様? そ、それはですね……」

扶桑「山城ばかり、ずるいわ……!」

山城(扶桑お姉様が、私に嫉妬してる……!?)ゾクゾクッ

扶桑「山城? どうやって時雨と仲良くなったのか、教えなさい? 私、時雨にはちょっと避けられてるのよ?」ガシッ

山城「ふえっ!? ちょ、ちょっと待っ」

扶桑「どうなの? やーまーしーろー?」ズズイ

山城「ふあああ!?」

山城(ほほを膨らませて迫ってくる扶桑お姉様可愛いいいい!?)

提督「何やってんだ、あのふたり」

時雨「イチャイチャしてるだけだから、放っておいていいよ」

というわけで今回はここまで。

お待たせしました、続きです。
今回はメディウムは別行動中です。


 * 数日後 *

 * 墓場島 埠頭 *

 (墓場島沖で黒煙を上げながら沈む輸送船)

与少将「中将閣下あああああ!!!」ウワーン!

武蔵「少将殿、落ち着いてくれ! 私の水偵から、中将閣下が船から脱出されたとあった!」

与少将「本当かああああ!!!」ウワーン!

提督「うるせえな……無事だから安心しろ。ほれ」ユビサシ

 ザザァ…!

大和「提督! 中将閣下をお連れしました!」

中将「す、すまんな大和」ダキカカエラレ

与少将「おおお、よくぞご無事でぇぇぇ!!」ウワーーン!

提督「ご苦労さん。中将だけか?」

大和「はい、他の人たちはすでに逃げていたようで、船内には誰もいなくなってまして……」チュウジョウオロシ

提督「中将残して全員逃げたってか? ひっでえなそれ」


武蔵「そんな状況で中将閣下は大丈夫だったのですか」

中将「儂は問題ない。が、他の者は、退避の指示を出すより先に、彼女らを見て一目散に逃げてしまってな……」ジメンニスワリコミ

提督「……まあ、無理もねえかな、この面子じゃ」

南方戦艦新棲姫「アイツラ、ビビリスギジャネ?」

欧州水姫「マッタクダ。コチラハ、手ヲ出シテモイナイ上ドコロカ、船ヲササエテ、助ケヨウトシテイタノダゾ」

防空巡棲姫「マァ、戦艦多イシ、迫力アッタンジャナイ。ナンカ、アタシ出ルマデモナカッタ感ジ?」

戦艦水鬼改「アノ船ガ沈マナイヨウニ、掴ンデタダケナンダケド……ネェ?」

戦艦水鬼改の艤装『グゥ……』ションボリ

陸奥「船体がメキメキと音を立ててたから、船そのものを潰されるんじゃないかって勘違いしたんでしょうね」

中将「それと、おそらく、船を支えた際に、砲口がこちらを向いてしまったせいだろうな」

戦艦水鬼改「ソレハ、タマタマ、ヨ? 提督ニ言ワレタ通リ、撃ツツモリハ、ナカッタンダカラ」

中将「申し訳ない。船員たちが、この鎮守府の事情をよく理解していなかったがゆえの失態だ」ペコリ

陸奥「それで提督? こっちの子たちはどうするの?」

提督「んー……そうだな」


葛城「姫級と鬼級が合わせて4隻……」

瑞鳳「どうして深海棲艦に艦娘が随伴してるのぉ……!?」ビクビク

天津風「……い、いったいなんなのよ、あんたたち……!」

春風「み、皆様、油断なさらぬよう……!」

夕張「と、とにかく落ち着いて。刺激しないように、いまはおとなしく従いましょ……?」

南方戦艦新棲姫「イマハ?」ジロリ

夕張「ひっ」

欧州水姫「アマリ、カラカッテヤルナ」

南方戦艦新棲姫「ワルイワルイ」テヘペロー

夕張「」シロメ

提督「中将、こちらの5人の艦娘たちは?」

中将「彼女たちは、奈准将の艦娘だ。今回、我々の乗った輸送船の護衛任務を、奈准将配下のこの5名が請け負っている」

提督「奈准将? 聞いたことがねえな……」

中将「今回、海外の泊地に着任することになった提督たちがいるが、そのうちのひとりの上官だ」


中将「奈准将も、問題行動の多い部下に困り果てていてな。今回の海外泊地への移籍の話で、その彼の部下も送り届けることになったのだ」

提督「なるほど……上官としての義理を立てて、艦娘を派遣したってことですか」

武蔵「それより、いったいなにがあったんです? 中将閣下の乗った船が、煙を上げていたように見えましたが……」

中将「この島の領海近くを航行中に攻撃を受けた。魚雷のようなのだが、どうも流れ弾らしいのだ」

武蔵「流れ弾ですか?」

中将「この海域の近くに差し掛かった時に、島の反対側から向かってきたらしい魚雷が艦底に複数被弾し、航行不能に陥った」

中将「ただ、随伴した空母の艦娘たちも、この近辺で戦闘の形跡はないと言う」

中将「状況的には、どこかの戦闘の流れ弾と考えるほかないのだが、直接の原因は残念ながら確認できなかった」

武蔵「それで救援要請が出ていたのですね」

中将「うむ。護送中の乗員を緊急用の脱出艇に乗せ、船員が追って脱出の準備をするところまでは持ちこたえていたのだが」

中将「いよいよ船が傾き沈み始めたところを、彼女たちに助けられたというわけだ」

戦艦水鬼改「チョット、危ナカッタワネェ」

中将「君たちのおかげで、儂も沈む船から脱出ができたと言えよう。感謝申し上げたい」


中将「……ただ、先に言った通り、船員たちは彼女たちに襲われたものと勘違いしてしまってな」

武蔵「それで中将閣下が置き去りにされたと!?」

中将「船長である儂がしんがりを務めるのも想定内ではある」

武蔵「いえ、そう仰られましても……!」

中将「それに、彼らの胸中を考えれば致し方ない。儂が彼らとまともに顔を合わせるのも、今回が最初で最後であろうし」

中将「引退間近の儂に媚びを売ってもどうにもならんと思ったのだろう。自らの命を優先するのも、当然と言えば当然の判断ともしれん」

与少将「おいたわしや中将閣下ぁぁぁ!!」ウワーーーン!

提督「……ところで、奈准将は俺たちのことは知ってるんですか?」

中将「いや、そこは儂もよくわからん。そちらの艦娘たちにも、君たちのことについては何も話しておらんからな」

提督「奈准将がどんな人物かご存知で?」

中将「残念ながら、数回顔を合わせた程度だ。真面目そうな印象ではあったが、彼がどんな思想の持主かは、心得ていない」

提督「なるほど……おい、お前ら」

瑞鳳「ひっ!?」ビクッ


提督「お前らは、この島のことについてどれだけ知ってる?」

春風「え……し、失礼ながら、どういう意味でしょう? わたくしたちは、この島がどういった場所なのか、皆目見当もつかないのですが」

提督「かつて墓場島と呼ばれていた島、って言えば、少しは知ってるか?」

葛城「はかばじま……?」

夕張「……うえっ! も、もしかして最近話題になった、深海棲艦に割譲した島!?」

天津風「えええ!? こ、ここが!?」アオザメ

春風「深海棲艦の領土、ですか……」マッサオ

葛城「み、みんなに手出しはさせないわよ……!」

瑞鳳「か、葛城さぁん!」ヒシッ

陸奥「そこまで怯えなくてもいいんだけど。どうなってるの? この島の評判」

提督「俺はこのくらいの反応返すくらいがいいけどな。おいそれとこの島に入ってきて欲しくねえし」

与少将「まあ、そこはあれじゃな。彼女らが怯えちょるんは、先日X大佐から、この島に関する少し物騒な文面の通知を出したせいじゃろ」

提督「ああ……確かにこの前、そんな話をしたばっかりだな。X大佐は仕事が早くて感心するぜ」


武蔵「しかし提督よ、この島は、そこまで無差別に誰もかれも殺すような者たちばかりではなかったんじゃないのか?」

葛城「そ、そうなの……?」

提督「いや、残念ながら、今はそうでもねえぞ」

葛城「え」

武蔵「それは、他国から侵攻を受けているという話が原因か?」

提督「まあな。あとは盗掘目的の海賊もどきもたまに来る」

武蔵「海軍の支配下ではなくなったことで、無法地帯化しているという話は事実だったということか」

提督「ああ。だから、俺たちに話を通さず無許可で上陸しようとする連中は、例外なくすべて殲滅してる」

天津風「ちょっと待ってよ! それじゃ、護送中の人たちはどうなるの!?」

提督「中将と一緒にいたなら無事だったかもしれねえが、そうじゃなけりゃ命の保証はねえな」

瑞鳳「そんな……!?」

春風「あ、あの……そういった事情がありながら、わたくしたちもですが、中将閣下を助け出したのは、どうしてなのですか?」

提督「中将に関しては俺の元上官だからな」

春風「そうなのですか……!?」

提督「そのよしみもあって、事前にこの辺通るって話も聞いてたんだ。で、ここ一帯の海域の哨戒もして、万が一の出撃準備もして」


提督「それで見送るだけだと思ってたんだが……それがまさかこうやって艦隊出す羽目になるとはな」

葛城「……私たちは本当に運が良かったのかしら」

提督「流れ弾か何かの魚雷食らって船を沈められてんじゃねえか。それを運が良いとは言えねえよ」

葛城「そ、それもそうね……」

天津風「あの、ちなみにそっちの女の人は……」

提督「本営の与少将だ。中将の後任で、X大佐と一緒にこの島の対応をしてもらってる。俺たちからすると、海軍との窓口役だな」

提督「で、こっちの武蔵は俺の部下なんだが、与少将のところに籍を移そうか検討中。だよな?」

武蔵「ああ、そうだ」

提督「で、与少将や武蔵がこの島に来たのは、今後の話をしたり、うちに貨物を輸送するためなんだが……」

提督「このタイミングでこの島に寄ったのは、中将の最後の仕事を見送りたかったから、だよな?」

与少将「そん通りじゃ! なんせ中将閣下の最後の仕事と聞いちょったからの! それがあのような目に遭われるとは……!」

葛城「それじゃ、中将はここの深海棲艦とも知り合いってことなの?」

提督「いや、中将と面識があったのは大和だけのはずだ」

戦艦水鬼改「私、コノ人間トハ、少シダケダケド面識アルワヨ?」

提督「そうなのか?」


中将「む……すまない、儂は鬼級の深海棲艦とは初対面なのだが」

戦艦水鬼改「アア、アノ時ハ、ル級ダッタカラ、気付ケナイト思ウケド」

中将「ル級……? もしや君が、この島が焼けた時にあの海で出会った深海棲艦の一人だというのか」

南方戦艦新棲姫「ソレ、アタシタチモ、ソコニイタヨナ?」

欧州水姫「アア。ソコニイタ人間ノ顔ハ、アマリ見テイナカッタガ……我々モ、ソノ場ニイタコトハ、確カダ」

中将「……戦艦クラスということは、君たちはタ級かね……!」

欧州水姫「ホウ……覚エテイルノカ?」

中将「ああ、忘れられんよ。儂が初めて対話した深海棲艦だ。ル級が1人、タ級が2人、ヲ級が1人、ツ級が2人……覚えておるとも」

中将「もしや、そちらの君もそうなのかね」

防空巡棲姫「ンー、話シテナイケド、一応ネ。ツ級ッテ呼バレテタンダッケ、アタシ」

中将「なるほど、君もそうか……姫級や鬼級となるような者たちと仲良くしておるとは、提督は友に恵まれておるな」

与少将「おおお……中将閣下も、深海棲艦と対話を果たされておられたとは……!」

春風「そのようなお話、わたくしたちは初めて耳にしました……」

提督「俺たちのことは、あまり良いように言いふらさないで欲しいって頼んでるからな。興味本位で海域に出入りされても困るしよ」

葛城「でも、ここって、割譲する代わりに深海棲艦と人間が友好関係を結ぶための場所を設けてくれたんでしょ?」

提督「そういう場所だからこそルールは厳格にしとくもんだぜ。それに、そもそも俺は基本的に人間や海軍を信用してねえ」


春風「そ、それではなおのこと、わたくしたちを助ける理由がなくなるのでは……?」

戦艦水鬼改「提督ハ、人間ガ嫌イナダケヨ。艦娘ヤ深海棲艦ハ別ナノ」

春風「そうなのですか……?」

武蔵「ああ。もともとこの島には轟沈した艦娘が良く流れ着く。その艦娘を助けてきたのがここの提督だ」

中将「轟沈した艦娘は深海棲艦になる、というのが海軍の通説だ。だが、彼はそれを承知で、儂に轟沈艦娘を運用したいと申し出たのだ」

中将「何より、捨て艦をはじめとした人道に反した艦娘の扱いに憤っておった。彼が深海棲艦に好かれるのも、彼の人徳ゆえだろう」

提督「……」アタマガリガリ

瑞鳳「そんなことがあったなんて……」

葛城「なんていうか、未だに信じられないけど……こんなに穏やかに深海棲艦たちと話せていること自体が、その証拠なんでしょうね」

夕張「し、信用していい、んですよね……?」

防空巡棲姫「シタクナイナラ、シナクテモイインジャナイ」

夕張「!?」

欧州水姫「ダカラ、アマリ、カラカッテヤルナト言ッテルダロウ」

防空巡棲姫「ンー、カラカッタツモリ、ナイケド」

南方戦艦新棲姫「アトランタハ、相手スルノガ面倒ナダケダロ?」ニヒヒ


欧州水姫「……話ヲ、ヤヤコシクスルナ」アタマオサエ

提督「いや、俺も同意見だぞ。したくないなら、しなくていい」

防空巡棲姫「エ、ソウ? ヤッタネ、イエーイ」ピース

夕張「」

欧州水姫「……イエーイジャナイ」アタマカカエ

陸奥「ほらほら、あんまりこの子たちを困らせてあげないの。ごめんね、提督って去る者追わずな人だから」フフッ

欧州水姫「アノ男ハ、来ル者モ追イ返スヨウナ、勢イジャナイカ?」

南方戦艦新棲姫「面倒ゴトガ、嫌イダシナ」ニヒヒ

提督「さてと、俺は様子を見てくるか。ボートっぽいのが島に向かって流れてきてたし、そいつらもその辺に漂着してんだろ」

瑞鳳「……そ、それなら、私たちも、行かないといけなくない……かな?」

葛城「そ、そうかもね……」

提督「あ、それはやめとけ。お前らもこの島じゃ見ない顔だ。島の連中に敵認定されてうっかり殺されても困る」

瑞鳳「」

葛城「」


提督「とりあえず、奈准将は俺たちのことをあまり知らないみたいだな。どんな奴なんだ?」

葛城「……ちょっと。『奴』って言い方はないんじゃない?」ムスッ

提督「ふーん……そういう反応返すってことは、まあまあ慕われてるみたいだな」

葛城「!」

提督「陸奥、悪いが中将たちを任せていいか? なんなら食堂に案内して茶でも飲んでいてくれ。俺は海岸を見て回ってくる」

陸奥「ええ、わかったわ。任せて頂戴」

武蔵「中将閣下。いま、与少将の船から車椅子を持ってきてもらっています。到着し次第、館内に入らせてもらいましょう。提督、いいか?」

提督「おう、この奈准将んとこの艦娘も一緒に案内して、楽にしててくれ」

中将「すまないな、提督」

大和「提督! 私は提督にご一緒してよろしいですか?」

戦艦水鬼改「私モ、着イテ行ッテイイ?」

提督「ん? 来てくれるなら助かるが……相手が相手だ、気分が悪くなるかもしれねえぞ?」

戦艦水鬼改「大丈夫ヨ、構ワナイワ」

提督「そうか? じゃあ頼む」

大和「さあ、参りましょう!」

 スタスタ…


欧州水姫「フゥ……ノドガ渇イタナ。余モ Tea Time ニスルカ」

南方戦艦新棲姫「アア、Coffee break ダナ」

欧州水姫「……」ムム…

南方戦艦新棲姫「……」ニヤリ

防空巡棲姫「喧嘩シナイデネ。仲裁スンノ面倒臭イカラ」

欧州水姫「ワカッテイル。陸奥ヨ、余ハ先ニ行クゾ」

陸奥「ええ、いってらっしゃい、お疲れ様」ヒラヒラ

 スタスタ…

与少将「深海棲艦たちが漫才しちょるところを見られる日が来るとはのう」

中将「微笑ましい光景だ。触れ合うことが出来なくても、我々人間と艦娘、深海棲艦が、相争わず、あのように並んで歩ければ……」

武蔵「……ええ」ウナヅキ

瑞鳳「そ、そんな呑気なこと言ってていいんですかね……」ビクビク

天津風「……い、一体全体、なんなのよ、ここは……」アタマカカエ


葛城「それよりさ、私たち、どうなるんだろうね」

夕張「それは、もうおとなしくしてるしかないんじゃ……」

葛城「そういう意味じゃなくて。仮に無事に戻ったとしても、私たち、任務失敗してるじゃない」

夕張「……」

春風「逃げた皆様がご無事であればよいのですが……」

中将「戻った後の事情は儂が説明しよう。少なくとも、君たちは己の責務を果たしている。差し出すのは儂一人の馘で良かろう」

与少将「何を仰いますか! あれは中将閣下のみの責ではありませぬ!」

武蔵「私の水偵も、上空から様子を撮影しています。その映像も出せば、提督たちが保護しようとしていた様子も確認できるでしょう」

中将「……すまんな、皆」

武蔵「ところで……この中では葛城が旗艦か?」

葛城「そうですけど……」

武蔵「奈准将とお前たちのことについて、道すがら教えてくれないか」

武蔵「我々も後で話をすることになるだろう。どんな人物か、お前たちはその鎮守府でどんな立場なのかを知っておきたい」

葛城「……わかりました」


 * 食堂外 テラス席 *

間宮「あら? 陸奥さん、こちらの皆さんは?」

陸奥「中将の船を護衛していた艦娘のみんなよ」

間宮「……ということは、提督の計画通りに船を襲撃できたんですね?」ヒソッ

陸奥「そういうことになるわね」ヒソヒソ



那智「ここが食堂ですね」(←中将の乗る車椅子を押している)

中将「おお……深海棲艦もこのような住まいで暮らすことができているのか。これは興味深い」

あきつ丸(与少将配下)「……まさか、我々がこの島の内部にまで上陸するとは思わなかったであります」ダンボールカカエ

神州丸(与少将配下)「まったくであります。して那智殿、この荷物はどちらに?」ダンボールカカエ

那智「ああ、それはこちらの厨房の裏口まで頼む」

与少将「むう……わしが前に来た時は、こんな洒落たテラスはありゃせんかったぞ?」

武蔵「私もこれは初めて見るな。届けた木材はこれに使われたのか」

南方戦艦新棲姫「アレ? セレスティアタチハ居ナイノカ?」

泊地棲姫「人間ガ来タトイウカラ、出撃シタゾ。人間ノ来客モアルシ、イナイホウガ都合ガイイダロウ」

南方戦艦新棲姫「アー、ソウイウコトカ~」


葛城「泊地棲姫がエプロンつけてる……」

天津風「間宮さんと一緒に厨房にいるってどういうことなの……」

あきつ丸「……失礼するであります。この荷物は食堂に、とのことでしたが、どなたに預ければ良いでありますか」

泊地棲姫「私ガ受ケ取ロウ。コレハモシヤ、新シイ、コーヒーカ?」

あきつ丸「そうであります。それからこちらもお願いするであります」

神州丸「自分の箱は紅茶の茶葉であります。X大佐のところのウォースパイト殿に薦められた品であります」

欧州水姫「Lady ノ、オススメダト!?」キラッ!

泊地棲姫「欧州水姫、ソノ箱ヲ持ッテ、コチラニ運ンデクレ」

欧州水姫「任セヨ!」ヒョイッ

あきつ丸「……姫級の戦艦が、瞳を輝かせてスキップしながら持って行ったでありますな」タラリ

神州丸「帰って誰かにこのことを話しても、誰も信じなさそうであります」タラリ

与少将「ああも喜んでくれるとあっては、持ってきた甲斐があったというもんじゃ!」ニコニコー

夕張「姫級とかって、すっごい怖いイメージあったのに……」

瑞鳳「以前戦った戦艦棲姫とか、絶対あんな顔しなかったわよね?」


時雨「あれ? やあ、武蔵じゃないか、久し振りだね」

武蔵「おお、時雨か。そっちにいるのは……誰だ? 村雨か?」

白露型イ級「?」

時雨「ううん、駆逐イ級だよ」

武蔵「は……?」

白露型イ級「ムサシ? ヨロシクネー」テヲフリ

武蔵「あ、ああ……イ級なのか?」

時雨「うん。提督が魔改造したと思ってくれればいいよ」

武蔵「……」アタマオサエ

 パシャパシャッ

水路に現れたヨ級「」ザパッ

春風「きゃっ! せ、潜水艦もいるのですね……!」

水路の縁に手をかけるヨ級「」ガシッ

夕張「……え? ヨ級って、腕の存在、確認されてたっけ……」

ヨ級「ヨイショット」ザバー

夕張「えええええ!? 下半身もあるうう!?」

春風「まるで艤装が浮き輪みたいに……」


時雨「ああ、それも提督の仕業だよ。ほら、そっちのマスクを外してるカ級も、足が生えて普通に歩いてるし」

カ級「ン? ドウカシタ?」スタスタ

夕張「」

春風「」

武蔵「これは一体どういうことなんだ? 私がいたころは、こんなことはなかっただろう」

時雨「うーん、平たく言うと、深海棲艦たちが艦娘に近づいた、って感じかな」

武蔵「近づいた?」

時雨「うん。ちゃんとした理屈で説明はできないんだけど……例えば、艦娘の駆逐艦と深海棲艦の駆逐艦って、見た目が全然違うよね?」

時雨「深海棲艦は、人間に対して敵意や憎悪といった感情が強いって言うか、そういう感情だけで動いてる獣に近いって言うのかな」

武蔵「獣と言うよりは、怨霊のようなものかとも思えるが」

時雨「ああ、そう言ったほうがいいかも。そういう思念が先走ってるから、人の形をしていないって提督は考えてるみたいなんだ」

時雨「その提督が、イ級たちを労って頭を撫でてあげたのがきっかけなんだけど……」

時雨「人を理解するために、体も人に近づけようとして、こういう姿に変化したんじゃないかって考えてるみたいだよ」

武蔵「そうなのか?」

白露型イ級「ヨクワカンナイ! ケド、イマハ陸モ歩ケルカラ、イロイロ便利ッポイ! コトバモ、シャベリヤスイシ!」


武蔵「あちらの潜水艦たちも、そういうことか?」

時雨「理屈としてはそういうことだね」

夕張「ね、ねえ……その子、なんだか夕立ちゃんに似てない?」

時雨「それは多分、轟沈した艦娘の魂が影響してるせいじゃないかな。夕立だけじゃなく、白露型の要素が集まってる感じだね」

夕張「それってつまり、夕立ちゃんたちが轟沈したから、ってこと……!?」

時雨「残念だけど、そういうことだね。昔、捨て艦戦法が考案されて、たくさんの駆逐艦が沈んだ時期があったと思うけど……」

時雨「丁度その頃、この島の砂浜に艦娘の遺体がたくさん流れ着いてたからね。その時沈んだ艦娘の姿が色濃く出ている、と考えてくれていいよ」

春風「……」

武蔵「この島が墓場島と呼ばれているのも、提督が彼女たちを丘の上に埋葬して、墓標代わりの艤装が並んでいたから、だったな」

夕張「……」

春風「もしや、こちらの潜水艦のおふたりも、轟沈した艦娘なのですか?」

時雨「どうだろう? でも、あのカ級は髪を束ねたら伊168に似てるって、誰かが言ってた気がするから、もしかしたらそうなのかな?」

武蔵「なるほど、言われてみれば……そういえば、そのカ級の着ているあのスクール水着はどうしたんだ?」

時雨「あれは酒保で売られてる艦娘用の水着だよ」


時雨「ここの潜水艦娘は伊8さんしかいないけど、サイズはいろいろ取り揃えてあるから、それを着てもらってるんだ」

武蔵「ふむ……ん? あのヨ級はビキニを着てるんだな」

カ級「ジュース持ッテキタヨー。アレ、水着変エタノ?」チャクセキ

ヨ級「ウン。アノ水着、チョット、胸がキツクッテ……陸ノ上ナラ、コウシテルト少シ楽ナノ」ノシッ

白露型イ級「ウワァ、テーブルノ上ニ、胸ガオ餅ミタイニ乗ッカッテル!」

時雨「」

夕張「」

春風「」

天津風「」

葛城「」

瑞鳳「」

あきつ丸「全員すごい表情になってるであります!?」

与少将「なにをやっちょるか……いやまあ、気持ちはわからんでもないが」アタマカカエ

武蔵「むう、私よりでかいな。雲龍といい勝負か」

時雨「見てなよ、僕だって改装すれば……」ムムム…

中将「……し、深海棲艦にも、人並みの悩みと言うものがあるのだな」

那智「中将閣下、無理にフォローなさらなくても大丈夫ですよ」

陸奥(この場に龍驤がいたら……でも、あの龍驤なら、さらっと受け流せるかしら)クスッ

というわけで、今回はここまで。

>645
この鎮守府の那珂ちゃんには、酸いも甘いも知っている強者感を出していきたいですね。

今回出てくるメディウムはこちら。というか、戦闘シーンなので、無理矢理詰め込みましたがこれで全員登場です。
あとで説明分まとめとくか……。

・ミーシャ・ハンギングチェーン:釣竿を持つおとなしい少女のメディウム。足元に設置された虎ばさみが人間を捕らえ逆さ吊りにする罠。
  麦わら帽子をかぶったおとなしい少女。姉のアーニャ同様に釣り好きだが、ちょっと内気で日差しが苦手。完全防備しているので色白。
・ツバキ・カビン:丁半賭博の賭場にいるような、右肩を晒した着物姿のメディウム。上から花瓶を落として人の頭に被せて視界を奪う罠。
  時代劇か任侠映画の世界から出てきたような姉御肌の女性。胸元にはさらしを巻き、振り壺ならぬ花瓶を手に立ち向かう、肝っ玉姐さん。
・レイラ・マジックバブル:人魚を思わせる舞台衣装を身につけた女性のメディウム。大きな泡の玉が人間を閉じ込め窒息させる罠。
  豪奢なドレスを着たミュージカル歌手のような女性。自分が作る泡を使い舞台演出まで手掛けようとしている。肝心の歌の実力は不明。
・イーファ・スパイクボール:半人半獣のメディウム。とげ付きの鉄球が人間を刺し貫く罠。坂があれば転がって人間を巻き込みながら貫く。
  ヤマアラシを連想させる固い針のような体毛と尻尾を持つ少女。主さえも触れたら怪我させてしまいそうな自分の体を疎んでいる。
・サム・ヴォルテックチェア:執事の着る燕尾服を着た男装の麗人のメディウム。電気椅子が現れて、座った人間に強力な電気を流す罠。
  椅子を傍らに携える執事姿の優雅な女性。魔神に対し多分に毒を含んだ物言いが多く、隙あらばいたずらと称して電撃しようとする曲者。
・ウーナ・ヘルファイヤー:松明を持った野生児のようなメディウム。強力な火柱が立ち上がり、人間を燃やして吹き飛ばす罠。
  カタコトの言葉で話しかけてくる野生児メディウム。暗いところが苦手で常に松明を持ち歩く。火を消すのは夜空の星を眺める時くらい。
・リンメイ・メガバズソー:チャイナドレス姿のメディウム。刃のついた巨大なホイールが転がって、人間を切り裂きながら吹き飛ばす罠。
  自分の武器を回転ゴマにして操る曲芸師。さすがに自分もこのコマは怖いらしい。たまにすっぽ抜けてどこかに飛んでいくのもご愛敬?
・ティリエ・ゴウモンシャリン:動物着ぐるみパジャマ姿のメディウム。とげのついた車輪が転がり、人間を巻き込みながら弾き飛ばす罠。
  車輪を転がし駆け回るのが好きなシニカル少女。何かにくるまっていると落ち着くため、暑くても着ぐるみパジャマは脱がない主義。
・シェリル・ヘルジャッジメント:メタルロック歌手のメディウム。避雷針が落ちてきて、直後にその針に雷が落ちて人間を雷撃する罠。
  魂まで痺れさせる歌を目指して歌い続けるロッカー。硬派なイメージで売りたいようだが、部屋には可愛いぬいぐるみがわんさかある。


では続きです。


 * 一方 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *

提督「こっちに新しい足跡があるな。よし、お前たちはここで待機しててくれ」

大和「いえ、大丈夫ですよ?」

戦艦水鬼改「ココマデ来タンダモノ、一緒ニ行クワヨ」

提督「そうか、じゃあ……」

大和「さ、行きま」

提督「……いや、やっぱり待っててくれ」

大和「ええ!?」

戦艦水鬼改「ナニカアッタノ?」

提督「いや、特に何かあったわけじゃねえが……ここから先の俺は『人でなし』になるからな」ニガワライ

提督「あんまり見せたくねえんだ、俺のそういう顔」

大和「何を仰るんですか。これまでも提督とはずっと一緒に敵と戦ってきたではありませんか」

戦艦水鬼改「アナタノ悪イ顔ナンテ、サンザン見テキタワヨ?」

提督「いやあ……そうかもしれねえけどよ」ホッペポリポリ


提督「やっぱり見せたくねえんだよ。人を殺すのも平気になったし、俺の容赦ない時の醜い顔ってのをさ……ほら、その、なんだ」

提督「お前たちのこと、好きになっちまったからよ……俺の嫌なとこ、見せたくねえんだ」セキメン

大和「提督……!」ポ

戦艦水鬼改「アラアラ……嬉シイコト言ッテクレルジャナイ」ポ

提督「だから、お前たちは」

戦艦水鬼改「ソレヲ聞イタラ、マスマス一緒ニ行カナイトネェ?」

提督「は? なんでだよ」

大和「いいところも悪いところも、理解しあえばいいではありませんか。それに、私たちはもう契りを結んだ、ただならぬ仲……!」ニヤァ

戦艦水鬼改「ソウイウコト。独リデ行カセタリナンテ、デキナイワヨネェ?」ニヤァ

提督「水鬼も大和もそういう悪い顔すんじゃねえよ……そうなって欲しくなくて、ここに留まって欲しいって言ってんのによ」

提督「でもまあ、今更か……仕方ない、一緒に来てくれ。先回りしてるあいつも止めてやりたいしな」

大和「? 誰か来ているんですか?」


 * 島の北部 洞窟近くの岩礁地帯 *

提督「ああ、いたいた。おーい、如月」

如月「あっ、司令官!」

大和「如月さん!? あなたが来ていたの!?」

如月「はい、何かのお役に立てないかと思って」

提督「戦艦棲姫たちに伝えてもらうだけで十分だ。あとはメディウムたちに任せてくれ」

戦艦棲姫「マッタク、厄介ナコトヲ、シテクレルワネ。事情ハ、コノ如月ッテ艦娘カラ聞イタワヨ」

提督「悪いな、ちょっとだけ協力してくれ」

戦艦水鬼改「戦艦棲姫タチハ、コッチニ居ヲ構エテルンダッタワネ?」

戦艦棲姫「ソウヨ。私タチノ住処ニ、人間ドモガ侵入スルナンテ、考エタクモナイワ」

提督「道ができてるから、こっちに来ちまうんだろうなあ。岩か何かで隠したほうがいいか?」

戦艦棲姫「ドウシテ、ココニ住ンデル私タチガ、隠レナイトイケナイノヨ」

提督「それもそうだな。それなら、勝手に誰か入らないよう、しっかりした門と錠前と、ついでに表札も付けるか」


大和「提督、それより先に侵入者をなんとかしませんと」

戦艦水鬼改「ムコウカラ、人間ノ気配ヲ感ジルワヨ」

提督「わかってるって。こうやって駄弁ってりゃ、声につられて寄ってくる奴がいるかも、って」

 <ドカーン!!

提督「思ってたんだが……!」

戦艦棲姫「アノ爆発音、マタカ……!」

提督「また? ってことは、すでに何回か起きてるのか」

戦艦棲姫「ソウヨ。騒々シクテ、カナワナインダケド」

大和「行ってみますか?」

提督「いや、その必要はねえよ。ほれ、向こうから来なさったぜ」

カビンを被った男「う、うう……」ヨロヨロ

戦艦水鬼改「アレハ、海軍ノ人間デハ、ナイナ?」

提督「あの船に乗ってた護送中の囚人のひとりだな」


戦艦棲姫「私タチハ、手ヲ出サナクテ、イイノネ?」

提督「おう、眺めてていいぞ」

 バナナノカワ<チョコン

カビンを被った男「うわあ!?」ギュム ズデーン! ガシャーン!

戦艦棲姫「アノ人間ガ被ッテタ、カビンガ割レタゾ。イイノカ?」

提督「ああ、いいからまあ見とけ」

 ゴウモンシャリン<ガシャーン! ゴロゴロゴロ

男「ぐえっ!」ガラガラガラ…

戦艦棲姫「トゲ付キ車輪ニ、巻キ込マレタナ……」

 スイングハンマー<ブゥン!!

男「ぎゃああ!?」ガッシャーン!

戦艦棲姫「……アノ石柱、ドコカラ出テキタ?」

 ヘルファイヤー<ゴォォォオオオ!!

男「ぎぇ」ボワアァァァ!

戦艦棲姫「アノ炎モ、ドウヤッテ燃エテルノ」

提督「全部、俺の仲間の能力だ」

戦艦棲姫「……全体的ニ、オーバーキル、ジャナイノ?」タラリ


提督「下手に生き延びたりされても困るからな。今回の相手はやり過ぎるくらいでいい」

ティリエ「おお? ご主人、来てたのか! 遅かったな!」タタッ

提督「よう、順調か?」

カトリーナ「おう! たくさん潜んでたけど、全員ぶっ飛ばしてやったぜ!」

ツバキ「残り少ないようでありんすが、親分さんにご来駕いただいたんじゃア、ますますやる気を見せンといけやせんなァ」

シャルロッテ「シャルロッテちゃんのステージはこれからも最高潮だよー! 見ててねマスター!」

ウーナ「リーダー! ウーナ、トドメさしたゾ! 見たかー!?」ガオー!

提督「ああ、見た見た。派手に転ばせたし派手に燃えてたな」フフッ

アカネ「わたしもどっかーん! って爆発させたよー! 綺麗だったでしょ!?」

提督「いや、お前のブラストボムは遠くて音しか聞こえてねえ」

アカネ「そんなあ!?」

提督「それより、残りはどうした? 人間どもは15人くらいいたんだろ?」

カトリーナ「アタシたちが仕留めたのが、これで3人だったっけ?」

ティリエ「そうだなー。いくつかの班に分かれて人間退治してるから、もうそろそろ終わるんじゃないか? ご主人、やっぱり来るのが遅いぞ?」

提督「お前たちの仕事が早いんだよ。いい仕事しやがって」フフッ

ウーナ「お? ウーナたち、褒められたか? えへへ……」テレテレ


アカネ「こ、今度こそ、私の活躍を見てもらうんだから! 照れてないで、人間を探しに行くわよー!」ダッシュ!

カトリーナ「あっ、待てよ!」

ツバキ「……遠くに走ってっちゃあ、親分さんにお姿見せられんとちゃいますのん?」

ティリエ「アカネ、聞いてないみたいだぞ」

ウーナ「ヒトリは危ない! 追いかけるゾ!」

シャルロッテ「マスター、またね~!」

 タタタタッ…

提督「アカネの走ってった方に敵の気配はねえんだけどなあ……」

大和「えっ、誰もいないほうに走って行ったんですか!?」

戦艦水鬼改「ソソッカシイノネェ……」

??「うわああああ! た、助けてくれええ!」

提督「ん?」

如月「あれは……あの人、司令官と同じ海軍の制服を着てるわ。海軍の関係者かしら」

提督「そうみたいだな。あいつは……」


??→軍人「か、艦娘か!? おーい! た、助け」

 スマッシュフロア<バイン!!

軍人「うわああああ!?」ブットバサレ

 スパークロッド<ニュッ バリバリバリー!

軍人「ばばばば!?」バリバリバリー!

 フライングケーキ<バシュッ!

軍人「ぶぼっ!?」ベチャア!

戦艦棲姫「……チョット、アノケーキ、モッタイナイジャナイ」

提督「あー、あれもそういう罠なんだよ」

戦艦棲姫「アンナコトスルクライナラ、私タチニ食ベサセナサイヨ」

大和「鎮守府に併設した食堂にお越しになればいいと思いますよ?」

如月「一緒にお茶やコーヒーも楽しめますし」

戦艦棲姫「アラ、ソウナノ?」

戦艦水鬼改「……チョット、ソンナ話ヲ、シテル場合?」タラリ

提督「大丈夫だよ、ちゃんと次が控えてる」


軍人「ぐぶぶ……な、なんだ、何も見え」ヨタヨタ

 ハンギングチェーン<ガチン!! キュルキュルキュル…

軍人「痛っ!? な、なんだ……うわああ、なんだなんだ!? お、おろしてくれえ!」サカサヅリ

提督「……うーん、こいつを含めて、敵は残り3人、ってとこか?」

ニコ「そんな感じだね。他の人間たちは、みんなが始末してくれてるよ」スッ

提督「気配で敵の数が分かるとか、なんかいよいよ化け物じみてきたな、俺」

戦艦棲姫「……チョット、コノ娘、イキナリ現レナカッタ?」

大和「ニコさんは神出鬼没なんですよ」

戦艦水鬼改「提督ノ、ストーカー、ダカラネ」

ニコ「お姉ちゃんだよ!?」ジトッ

軍人「お、おおい! 無視してないで、助けてくれえ!!」ブランブラン

戦艦棲姫「助ケナイノ? オ前ト同ジ服ヲ着タ、仲間ミタイダケド?」

提督「仲間? 勘弁してくれよ。あいつ、余所の女提督に振られた腹いせに、鎮守府の救援要請を握り潰して見殺しにするような奴だぞ?」

戦艦棲姫「エェ……」ヒキッ

大和「それはもしや、先日お話しされていた、暁さんのいた鎮守府の……!?」


軍人「お、おおーい! 聞こえてないのか!? 早く助けてくれええ!」

提督「ったく、うるせえな。聞こえてるから黙ってろ」

軍人「なっ……黙ってろはないだろう!? 助けてくれ!」

提督「知るかよ。手前の感情だけで鎮守府ひとつ潰しておいて、それで自分のときだけ助けてもらえると思ってんじゃねえ」

軍人「い、いったい何の話だ!?」

提督「とぼけんな。以前お前が救援要請を握り潰したせいで鎮守府がひとつ陥落してんだぞ。I提督って女提督のこと、忘れたか?」

軍人「……!!」

戦艦水鬼改「今ノ反応……ソノ女提督ノコトヲ、知ッテルミタイネ」

提督「……へえ、お前、それで妻帯者なのか。じゃあ、お前の家族にこの話を伝えておくか。死んでも悲しまないようにな」

軍人「なっ!? そ、それだけはやめてくれ! 頼む! お願いだ!!」

提督「じゃあ助けねえけど、いいのか」

軍人「い、いや、助けてくれ!」

戦艦水鬼改「提督ハ、アイツヲ、カラカッテル?」

如月「そうみたいね。助けるつもりはないでしょうから」


戦艦棲姫「アイツハ、逆サ吊リニシテ、終ワリナノ?」

提督「いや、まだ途中だよ。いま、あいつのお仲間を連れてきてる最中だ」

戦艦棲姫「仲間?」

 メガヨーヨー<ズガァン!

囚人「ぎゃああ!!」ブットバサレ

戦艦棲姫「!」

 ペッタンアロー<パシュ!

囚人「ひいい!!」ペタッ グイーーン

 スプリングフロア<ズバーン!

囚人「ぐげっ」ブットバサレ

 クレーン<ガシッ!

囚人「う、うげえええ!」ツリアゲラレ

戦艦棲姫「スゴイ方法デ、人間ヲ運ンデキタワネ……ソレデ、アイツガ仲間ナノ? 海軍ノ人間ジャナイミタイダケド」

提督「仲間っつうか、同類だな。あの軍人が見殺しにした女提督の母親を殺したのが、あの囚人だ」

大和「本当ですか!?」

提督「魔神の力であいつの過去を見てるんだが、どうやら立件されてねえだけで、父親も殺したみたいだな。Q中将の言ってた通りだ」

如月「なんてこと……!」


提督「そういうわけなんで、同類のあのじじいも一緒に始末してやろうと思ったんだ。パメラ!」

 スローターファン<ギュイイイイイ!

戦艦棲姫「ナンダ、アノ風車ハ」

提督「近づくなよ? あれは近づいたものを引き寄せて切り刻む罠だ」

戦艦水鬼改「ソレヲ、アノ吊ルシタ人間タチノ下ニ置イタ、トイウコトハ」

 ハンギングチェーン<パッ

 クレーン<ポイッ

軍人「いぎゃああ!!」ザクザクザクー

囚人「ぎええええ!!」ズバズバズバー

如月「ああ……そうなっちゃうのね」

戦艦棲姫「吸イ込マレナガラ、切リ刻マレテイルノカ……」

提督「ああ。けど、あいつらは、あんなもんじゃ済まさねえ」

 ギルティランス<ズバッ!

軍人&囚人「ぐぎゃっ!!」ドスドスドスッ

 メガバズソー<ゴロゴロゴロッ!

軍人&囚人「ぎゃあああ!!」ズガシャーン

 ヘルレーザー<ズビーーーム

軍人&囚人「があああ!?」ズバーーー


大和「なんとも痛そうな罠が連続で……」

ニコ「ふふっ、残虐系メディウムが大活躍だね」

提督「さて、そろそろ死んだか?」

軍人「い、いやだ……死にたく、な……」ガクッ

囚人「……う、ううう……」

提督「なんだ、じじいのほうがまだ息があるのか。それなら……サム、いるな?」

 ヴォルテックチェア<ガシャッ!

囚人「ぐえっ! ……こ、これは、電気椅子か……こんなところで、俺は、殺されるのか……!」

提督「なんだお前、嬉しそうにしやがって。気持ち悪いな」

囚人「自死では駄目なんだ……殺されれば、あの世で、また、彼女に会える……ふ、ふふふ」

提督「彼女? ああ、そいつは無理だぞ。お前は天国にも地獄にも行けねえからな」

囚人「……どういう意味だ」

提督「見ろよ」

 (こと切れた軍人の屍が、光の粉になりながら徐々に消えていく)

囚人「!?」


提督「普通なら、人が死ねば、その肉体は土に還り、その魂はあの世に向かう。が、俺たちが始末した人間どもは、そうはならない」

囚人「な、何を言っている? お前なんかに、死後の世界の何が分かるんだ……!」

 ズズズズ…

提督→魔神提督『そりゃこっちの台詞だ。ただの人間のお前にこそ、この世の何が分かるんだ?』

囚人「う……ば、ば、化け物!?」

魔神提督『もうひとつ訊こう。お前は、この俺をなんだと思ってる? 答えてみろよ』

囚人「し……知らない! な、なんなんだ、お前は!?」

魔神提督『それならひとつだけ教えてやる。俺たちは、殺した連中の肉体も魂も、俺たちの好きにできるんだ』

魔神提督『お前の魂は天国へも地獄へも向かうことなく、この場で俺たちに分解されて消える。さっき光りながら消えた奴みたいにな』

囚人「なっ!? そ、そんなことがあってたまるか!!」

魔神提督『お前が何を言おうとお前の未来は変わらない。お前の考えも知ったことか。とっとと餌になって、世界から消えてしまえ』ギロリ

囚人「ひっ!? い、嫌だ!」ガシャガシャッ

 ヴォルテックチェア<バリバリバリバリ!!

囚人「ぎゃあああああ!? 助けて……助けてく」

 フォールニードル<ガラララ…ズシィィィンン!!

囚人「」グシャ…!


 ズズズズ…

魔神提督→提督「……これで、あとひとりか?」

ニコ「うん。でも、みんなが頑張ってくれてるから、すぐに片付くと思うよ」

提督「そうか」

戦艦棲姫「ナカナカ、エグイワネェ……」

提督「そうか? 残念なことに、死体は見慣れてるから、そうは思わなかったんだが」

戦艦棲姫「ソッチジャナクテ、アナタノ姿ノホウヨ。艦娘タチハ、見慣レテルノ?」

如月「うーん、司令官の姿そのものは、あまり気にしなかったけれど。今の人を怖がらせたかったんでしょう?」

提督「まあな」

大和「私はどちらかと言うと死体のほうが……」ウーン

戦艦水鬼改「スグ消エテクレルノハ、良心的ヨネ?」

ニコ「……それを良心的と言っていいのかな?」

如月「それよりも、司令官は大丈夫なの? 無理してない?」

提督「ん? 別に何ともないが……」

ニコ「無理、って、どういう意味かな?」


如月「さっき、I提督のかたきを取ったときとか、魔神の姿になったとき、司令官は全然笑ってなかったでしょ?」

如月「恨まれて当然ってくらい悪い人たちが相手なのに、詰ったり辱めたりしてても、なんていうか、ずっと不機嫌そうで……」

大和「わかります。なんとなく、気が晴れてないと言いますか……」

戦艦水鬼改「……アア、言イタイコトガ、ワカッタ。不快ナ相手ヲ殺シテテモ、愉シソウジャナイ、ッテコトネ」

大和「ええ。こう言っていいのかわかりませんが……仇を取っているわけですし、悪い気分にはならないのではないかと」

戦艦水鬼改「以前、コノ島ニ侵入シタ人間ヲ私ガ殺シタトキモ、ナントモ思ワナカッタ、ッテ言ッテタワヨネ?」

大和「えっ!? いつの話ですか、それ!?」

提督「……テレビ局の連中が死んだときの話か?」

如月「あれ、ル級さんが関係してたの?」

戦艦水鬼改「……提督、知ラセテナカッタノ?」

如月「少なくとも私は初耳よ?」

提督「如月だけじゃなく、誰にも話しちゃいねえよ。誰かに話すようなことでもねえし、あれはあいつらの自己責任だ」

戦艦棲姫「変ワッテルナ……オ前ハ、自分ガ憎イ相手ヲ殺シテモ、ナントモ思ワナイノカ?」

提督「いいや? さすがに、俺がさんざん嫌がらせされた大佐やJ少将が相手だったら、ざまあみろとも思うんだが……」

提督「いま始末した連中に関しちゃ、俺は話を聞いて不愉快になっただけの、ほぼ他人だ。俺にとっては、本当にどうでもいい奴らだ」

大和「それで、感情的になれなかった、ということなんですか」


提督「最後の奴だけは、絶望させたかったんで回りくどいことしちまったけどよ……」

提督「まあ、I提督とその両親の事情も知らないわけじゃないし、それを知ってあいつらを始末しようと考えたのも間違いはない」

提督「が、それで俺がそいつに怒りやらをぶつけるのは、筋が違うと思ってる。あいつらの気持ちを、俺が勝手に解釈するわけにはいかねえよ」

提督「それにどうせ、あいつらを殺せばI提督たちが喜ぶってわけじゃねえし……この世に戻ってくるわけでもねえしな」

如月「司令官……」

提督「ま、時雨や早霜みたいに戻ってきた例外もいるが、普通そういうことは起こらねえ。メディウムもそうだろ?」

ニコ「うん。メディウムも、無理して壊れたら消失する。ぼくたちがやっていることも、戦いだからね」

戦艦棲姫「……私タチハ、ドウナノダロウナ。艦娘ニ沈メラレテ、艦娘ニナッタ深海棲艦モ、ソレナリニ、イルラシイケド?」

戦艦水鬼改「ソウイウ話ハアルケレド、泊地棲姫ハ、ソウイウシーン、見タコトナイミタイヨネ?」

如月「逆に、艦娘が深海棲艦になったレアケースはあったわよね。ほら、この前、漂着してきた軽巡棲鬼の阿賀野さん」

提督「あいつもイレギュラーだよなあ……」

戦艦棲姫「ソウネ。普通、ナイワヨ?」

大和「なんと言いますか、この島に限って言えば、その普通じゃないことが割と普遍的に起きてませんか?」

大和「ル級さんが鬼級になったのもそうですし、駆逐イ級が人型になるのだって、普通あり得ないことでは?」


如月「確かに……」

戦艦水鬼改「言ワレテミレバ、ソウカモ……」

ニコ(……ぼくたちが、関わったせいかな?)ウーン

提督「そもそも、こんな顔ぶれが穏やかに話してる時点で普通じゃねえよな」

戦艦棲姫「ネエ、ソレハイイカラ、早ク残リノ人間モ片付ケナサイヨ。アト1人ナンデショ?」

提督「ああ、わかってるよ。多分こっちに……」

 タタタッ

イーファ「あ、ご主人様……!」

提督「イーファか? どうした、なにかあったのか」

イーファ「ううん、みんなが、もうすぐおしまいだから、ご主人様を呼んできて、って……」

 <イヤァァァァ!

戦艦棲姫「!」

ニコ「今の悲鳴で、人間狩りが終わったのかな? どこに潜んでたんだろう」

提督「よし、行ってみるか」


 * *

イーファ「こっちだよ。岩と岩の間に隠れてたみたい。ミュゼさんが見つけて、誘い出してくれたの」

女囚「」グチャァ…

提督「おお、見事にぐちゃぐちゃだな。もうこと切れてたか」

如月「お、女の人だったのね……何をした人なのかしら」

マルヤッタ「なんでも、シューキョーカンケーのサギシ? らしいじょ」

提督「お、マルヤッタか。お前がやったのか?」

マルヤッタ「とどめと言うか、駄目押ししたのがマルヤッタだじょ。実際にとどめになったのはシェリルだったかの?」

シェリル「ああ、あたしのシャウト……ヘルジャッジメントでしびれさせてやったのさ」ドヤッ!

提督「そうか、お疲れさん。これで全員だな?」

ニコ「……そうだね。この一帯で、人間の気配はもう感じないね」

戦艦棲姫「ソレジャ私ハ、モウ引キ上ゲテモ、イイワネ?」

提督「ああ、付き合わせて悪かったな。今度、この辺の門扉とか鍵の話をさせてくれ」

マーガレット「魔神様~!」トテトテトテッ

如月「あら、他のところにいたメディウムのみんなも、戻ってきたみたいね」

提督「マーガレット、お前は走らなくていいぞ。またケーキ持ってコケたらいけねえし」

マーガレット「そんなにしょっちゅう転びませんよ!?」


戦艦棲姫「アナタダッタノネ、ソノケーキ」

マーガレット「あ、お話は聞いてました、あとでご馳走しますよ! いつも食堂で準備してますから!」

ミュゼ「あ゛~、疲れたぁ。私も食堂でお茶してきまーす」

レイラ「ミュゼ、あなたまたテツクマデをそっちに置き忘れてるわよ?」

ミュゼ「えええ!? やだっ、ごめんなさい!」タタッ

ニコ「珍しいね、レイラがこんな岩場に来るなんて。色気がない場所は好きじゃない、って言ってたのに」

レイラ「ええ、ですが今回は、大人数相手の大舞台でしょう? 出ないわけには参りませんわ」

レイラ「それに、たまにはこういう荒々しいロケーションを味わうのも、悪くはありませんわね。次の舞台の参考にいたしましょう」フフッ

提督「シェリルやシャルロッテもそうだが、お前たちはいつも舞台にいるもんな。こういう場所でもちゃんと戦ってくれるのは助かるぜ」

シェリル「いいってことさ。あたしはどんな場所だろうと、あたしの歌を響かせてやるぜ!」

サム「では、お席は私がご用意いたしましょうか」スッ

提督「……」

ニコ「……そう言ってヴォルテックチェアを出したりしないよね?」

サム「おや。そのように疑いの眼差しを向けなくても良いのですよ? 大丈夫ですとも、フフフ……」

ナンシー「そんなことより、早く帰ってお茶にしましょ?」

ソニア「さんせーい!」

リンメイ「お風呂でもイイヨ!」

コーネリア「久々の大仕事だ。槍の手入れもしとかないとな」フフッ


ミーシャ「そういえば、アカネさんたちって、戻ってきてましたっけ……?」

アーニャ「大丈夫だよ、戻ってくるって、そのうち!」

パメラ「そのあたりのお仕事はニコちゃんがやってくれるでしょ?」

ニコ「……確かにそうだけどさ。ほら、みんなも一緒に探してきてよ。いま、鎮守府に戻っても、まだ人間がいるんだからね」

レイラ「あら、そうなんですの?」

イーファ「……くんくん、バナナのにおいがする。シャルロッテはこっちかな? ぼく、探しに行ってみるね」

シェリル「仕方ないな……魔神さん、あたしたちは少し時間を潰してから戻るよ」

 ゾロゾロ…

戦艦棲姫「メディウムハ、コンナニ大勢、潜ンデイタノカ」

提督「罠一種類につき一人だからな。15人も相手するとなったら、70人いるメディウムを総動員させて丁度いいくらいだ」

提督「しかも相手は10人が護送中の犯罪者で、5人が海外へ左遷させられる予定だった海軍の関係者だからな」

提督「全員堅気じゃねえから、全力で潰しに行かねえとこっちが痛い目見ちまう。やり過ぎるくらいでいいっつったのも、そういう理由だ」

戦艦棲姫「ソイツラ、何ヲシタノ?」

提督「ん? ええっと……犯罪者のほうは、殺人とか通り魔とか性的暴行とか、あとは政治犯とか、詐欺で数億盗んだとかいう連中だな」

提督「軍の関係者のほうは、パワハラで部下を自殺させたとか、横領とか、嘘ばっかり報告してた支離滅裂野郎とか……」

戦艦棲姫「ソンナ人間、生カシテオク必要アルノ?」

提督「簡単に殺せないから、人間どもも苦慮してんだよ」


戦艦棲姫「人間ノ法律ガ悪ルイノネ。サッサト作リ変エテシマエバ良イノニ」

提督「簡単に言うなよ……」

戦艦棲姫「簡単ニ言ウワヨ、他人事ダモノ。オマエナラ、ソンナ面倒ナコト、シナイデショウ?」

提督「……まあ、そうかもだけどな」

戦艦水鬼改「アラ、コノヒト、意外ト面倒ナコト、スルワヨ? 今回ノコノ騒ギダッテ、ワザワザ船ヲ……」

提督「余計な事言うな」クチフサギ

大和「それより提督! ひとまずこの場の確認も済んだことですし、提督は皆さんより先に戻って中将にご報告いたしましょう!」

如月「そうね。司令官は先に行ったほうがいいわ、大和さんと水鬼さんもね」

戦艦水鬼改「私モ?」

如月「ええ、水鬼さんも中将に会ってきたんでしょう? そうだとしたら、一緒に戻って顔を見せないと、ね?」

提督「……余計な事言うなよ?」

戦艦水鬼改「ワカッテルワヨォ」プー

提督「んじゃ、とりあえず行ってくるか。如月とニコに、この場を任せてもいいか?」

如月「ええ、大丈夫よ。ニコちゃんもいいわよね?」

ニコ「……しょうがないなあ。魔神様、ここはお姉ちゃんに任せて、行っておいで」


提督「助かる。ありがとな」

如月「ふふっ、どういたしまして」

ニコ「後でみんなも労ってあげてね?」

提督「ああ、勿論だ」

 スタスタ…

ニコ「……ふう……」

如月「? 溜息なんかついて、どうしたの?」

ニコ「いつも思うんだけど……これで、良かったのかな、って」

戦艦棲姫「ドウイウ意味?」

ニコ「本当なら、魔神様が人間と手を取り合うなんてこと、ないはずなんだ」

ニコ「それを、頭を下げて、約束を作って、僕たちと人間との間に『境界線』を引こうとしてる。ぼくは、どうしてもそれが納得できなくて」

ニコ「魔神様にとって、それは屈辱じゃないのかな。深海棲艦にとっても、そうじゃないのかい?」

戦艦棲姫「私ハ、人間ニ、頭ヲ下ゲルツモリハナイワ」

ニコ「君たち艦娘も……特に如月、きみにとっては、人間なんて救いようのないものだったんじゃないのかい?」

如月「……そうね。司令官に出会うまで、ずっと私は、地獄にいたような気分だったわ」

如月「その司令官が、人に対して頭を下げるのは、間違っているのかもしれない……」

如月「でも、司令官は言っていたじゃない。私たちの目的は、私たちの居場所を作ること。誰にも邪魔されない安住の地を得ること」

如月「司令官は、そのために、人間と話し合いを進めてきたのよ」

ニコ「……」


如月「ニコちゃんが納得できないのはわかるわ。私だって、そう思うときがあるもの」

如月「でも、司令官は、人間を知っているからこそ、私たちが戦わなくていいような、人間に関わらずに済むような手段を取ろうとしているの」

如月「それが、今の司令官の『戦い』なんだと思うわ……!」

ニコ「……ぼくたちこそ、魔神様のために戦ってるのに……」

如月「司令官も同じなのよ。ニコちゃんたちも、深海棲艦たちも、私たちも心配だから……みんなを守るために、司令官は動いてる」

如月「曽大佐の艦隊が来た時だって、そうだったでしょう? 司令官として、魔神様として、私たちと同じように、命を懸けたいのよ」

戦艦棲姫「……私ニハ、声ヲカケテ来ナカッタナ?」

如月「それは単純に、戦いに巻き込みたくなかったからじゃない? 私たちが引き起こしたからって考えてたんだと思うわ」

戦艦棲姫「……本当ニ、変ワッテルワネェ」

ニコ「魔神様が、命を懸けたいなんて……」

如月「私としては、そういう危険なことはやめて欲しいんだけど。ニコちゃんもそうでしょ?」クスッ

ニコ「うん……魔神様も、一緒に……か」ウツムキ

戦艦棲姫「……ネェ」ヒソヒソ

如月「?」

戦艦棲姫「アイツ、嬉シソウネエ?」ニヤリ

如月「ふふっ、そうねぇ」ニコニコ

ニコ「ちょっと、何の話!?///」カオマッカ

今回はここまで。

>668
お褒めにあずかり恐縮です。
ほぼほぼ台詞で構成しているので、できる限り読んでわかりやすく、というのは心がけています。

それでは続きです。


 * 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *

提督「さて、さっさと戻って中将に……ん? ありゃ誰だ」

 (何者かが岩場の上で海側に足を向けて、大の字になって寝転んでいる)

戦艦水鬼改「……艦娘ッポイナ?」

大和「艤装が煙を吹いてますね……ここに流れ着いてきた艦娘でしょうか」

秋雲(中破)「……ふえっ!? だ、誰!? って、大和さん!? と……どぇええぇえ!? 深海棲艦んん!?」

戦艦水鬼改「知ッテル艦娘カ?」

提督「いや、知らない顔だな」

秋雲「あれれー、おっかしいなぁー!? あたしってば、いつ沈んだっけ!? まだあの世には来てないはずなんだけどおお?」オメメグルグル

提督「なに寝ぼけてんだ。ほれ、お前はどこのどいつだ、何が望みだ、早く言え」

秋雲「ちょっとお!? そんなに立て続けに言われたってこっちにだって心の準備ってのがあんのよ!? ちょっと待ってってーの!」プンスカ!

提督「中破してる割には元気だな。早霜に似た服を着てるが、同型艦か?」

大和「いえ、夕雲型には似ていますが、彼女はその前の陽炎型ですね。形が似ているために、夕雲型の制服を着ているようです」

提督「ふーん……」


秋雲「……うーん、三途の川の渡し守にしては、健康的な小麦色の肌の色をしてるなあ」マジマジ

秋雲「そしてその見慣れたその海軍の制服……もしかして、あなたどこかの提督さん? なんで深海棲艦が一緒にいるの?」

提督「それに答える前に、先にこっちの質問に答えろよ。お前、墓場島鎮守府って知ってるか」

秋雲「なにその推理小説にでも出てきそうな島の名前! そんな鎮守府あるの!?」

戦艦水鬼改「知ラナイノカ?」

秋雲「うん、初めて聞いたなあ。墓場島鎮守府……もしかして、あっちに見える建物がそうなの?」

大和「本来は××島鎮守府ですけれど、そちらの名前のほうが広まっていますね。とりあえず、あなたの名前と所属を訊いても?」

秋雲「あ、ごめんごめん、あたしの名は秋雲! 良提督鎮守府の秋雲さんだよー!」

戦艦水鬼改「ノリガ、軽イナ……」

提督「良提督? 聞いたことねえな。で、お前はどうしてここに来た?」

秋雲「どうして……あー、そりゃ、ちょっと言いづらいんだけどぉ……」

戦艦水鬼改「……言ワナイノカ」ジトッ

秋雲「ちょっ! ちょっとタンマ! さっきから戦艦の姐さんの圧がすごいんだけど!? 言います! 言いますってば!」


秋雲「えー、そのぉ、秋雲さんはですねえ……ちょっと、あの、お恥ずかしい話ですが……家出……してきたん、ですよ」

大和「家出? 鎮守府から?」

提督「何か不満でもあったのか」

秋雲「まあ、不満と言いますか、何と言いますか……方向性の違いと言いますか」

戦艦水鬼改「?」

提督「……とりあえず、詳しく事情を聞く前に、ひとつ肝心なこと訊いておくか。お前、生きたいか、それとも死にたいか、どっちだ?」

秋雲「いやいやちょっと待って!? なにそのとんでもない2択!! 今の流れでどうして死ななきゃいけない選択肢が出てくんの!?」

提督「自殺志願者じゃねえんだな?」

秋雲「ないよ!? 死ぬ気ないよ! 死にたくもないしそういう考えに至ってもいないし! え、ってゆーか、そういう島なの……?」

提督「ろくでもない目に遭わされた艦娘が多いのは確かだな」

秋雲「うへえ……秋雲さんどうなっちゃうのよコレ」


 * 食堂外 テラス席 *

中将「……生存者は確認できず、か」フゥ…

提督「行方不明って扱いにしてもいいでしょう」

葛城「……」

中将「君たちが責任を感じる必要はない。指揮を執ったのはこの私だ」

与少将「……しかしそれでは……!」

提督「艦娘がいるから忘れられてるが……この御時世、人間にとっては渡航そのものが命がけだ」

与少将「!」

提督「人間が艦娘連れて渡航した場合も、3回に1回は深海棲艦と交戦して、そのうち8回に1回は船が沈んでるって聞いてる」

提督「艦娘だって時々沈んでるのに、人間に犠牲が及ばない航海を約束すんのは無理がある。船だって的として見りゃでかいしな」

提督「あの船も旧式とはいえそこそこ速度も出るって聞いてるのに、それで魚雷に被弾しちまったってのは運が悪かったとしか言えねえよ」

提督「なんらかの攻撃を受けて、艦娘が無事。かつ、中将という生存者もいる。まずはそれで良かったと思えってんだ」

葛城「そうかも、しれませんけど」

提督「つうか、もともと厄介払いの連中ばかりだろ? 囚人に至っちゃあ殺す手間が省けていいじゃねえか。生かしてたって税金の無駄だろ」

葛城「そういう問題じゃなくて!!」クワッ!

提督「なんだ真面目だな。いずれにしろ、終わっちまったことをぶちぶち言ってもしょうがねえよ」


提督「お前らも訓練してきているんだろうが、今回のは完全に事故だ。犬に?まれたと思って諦めろ」

葛城「……」

提督「それで納得できねえんなら強くなりやがれ。お前らがこれからやれることと言ったらそれくらいだろ」

葛城「……っ! わ、わかってるわよ! 見てなさい、いつか瑞鶴先輩みたいになってやるんだから!!」

提督「おう、せいぜい頑張りな。ところで与少将、この件、俺が口を出してもいいか?」

与少将「……まあ、ややこしくならん程度に頼むぞ?」

提督「ああ。まあ、事故に近いっつう状況説明だけにしといてやるよ」

提督「それから、ちょっと考えたんだけどよ。事態をややこしくさせかねないことを言うが……」

提督「今回の魚雷って、案外、海軍が秘密裏に魚雷の威力確認のためにどっかで演習してた、その流れ弾とかじゃねえの?」

与少将「……何を言うちょるか!?」

葛城「海軍内の仕業だって言うんですか!?」

提督「まず、海軍かどうかは別にしても、魚雷を撃った奴は確実にいるわけだ」

提督「俺たちも兵器開発をしてないわけじゃないが、いまのところは、それでわざわざ領海の外に出てはいないし」

提督「そもそも俺たちが中将の乗ってる船に向かって攻撃する理由がねえ。普通に中将はこの島に対しての協力者だし」

提督「政府との会談を控えてるこの時期にそんなことしたら、いろいろ台無しになっちまう」

与少将「確かにのぉ……」


提督「で、俺としちゃあ、海軍がなんか新兵器でも開発してんのか? と思っちまうんだよ。信用してない分、余計にな」

与少将「いやいや、いくらなんでも、それで中将閣下の船が被害を被るようなことはせんじゃろ……」

提督「そうかあ? 深海棲艦は絶対滅ぼす、みたいな脳みその奴、まだいるんじゃねえの? 曽大佐みたいによ」

提督「そういうやつが、あわよくば一矢報いる思いで、俺たちの島に向かって魚雷を撃った、ってほうがあり得そうだけどな」

葛城「曽大佐って、あの、おじいちゃんになっちゃったっていう……!?」ゾッ

提督「知ってんのか」

与少将「今では有名じゃぞ、悪い意味でな。しかし、そのおかげで、この島に攻撃を仕掛けようという声が鎮静化したのも事実ではあるが」

提督「だからこそ秘密裏に、って思ったんだけどな」

与少将「……となると、ますますどこから来たかがわからんちあ」

提督「まあ、後は……新たな脅威となる深海棲艦がいる、って線も考えられるが、今んとこ、そういう報告も受けてねえしなあ」

与少将「むー……」

葛城「……」

提督「……ここまで喋っておいてなんだが、ことがことだし、事故扱いで処理されて有耶無耶になりそうだな?」

与少将「むう……」


提督「連中が乗ったボートも見つからないってことなら、この辺の早い潮に流されて転覆したってこともあり得るし」

提督「海軍もこれ以上の不始末は表沙汰にしたくもねえだろ。適当な原因でっち上げてもそれまでなんじゃねえの」

与少将「不本意だが、場所が場所だけに調査もできんじゃろうし、そういうことにされそうじゃな」

葛城「私たちは……中将さんは、どうなるんですか」

提督「悪いようにならねえように、俺たちが立ち回るしかねえんじゃねえか。武蔵の映像もある、海軍だっておおごとにしたくねえはずだ」

与少将「……ところで、艤装がボロボロの艦娘を連れて来ちょったが、どうしたんじゃ」

提督「あいつもあの船と同じく、流れ弾らしい魚雷に被弾したみたいでな。島の北東に流れ着いたところを保護した、ってとこだな」

与少将「中将閣下の船を狙った魚雷と同じものか?」

提督「かもな。詳しい話はこれからだ」

 クルリ スタスタ…

与少将「……その事情によっては、わしらの出番になるかもしれんちゅうわけか?」

那智「そうなるでしょうね。ただ、ここに流れ着くような艦娘が、素直に元の鎮守府に戻れるような事情か、というのはありますが」

葛城「どういうことよ、それ……」



間宮「……陸奥さん。提督さんって、自分でやっておいてよくあそこまで口が回りますね?」ヒソヒソ

陸奥「ふふっ、秘密よ?」ウインク


 *

秋雲「……えーと、あたしたち、漫画を書いてたんですよ」

提督「へぇ……てことはお前、絵が上手いのか」

秋雲「まあ、それなりには。で、ほかの鎮守府の同型艦……同じ秋雲たちに誘われて、一緒にサークル作って同人誌作ってたんですけど」

戦艦水鬼改「ドウジンシ?」クビカシゲ

秋雲「んっとねえ、同好の士っていうか、趣味が同じ人が集まって作る本のことなんですけど」

秋雲「あくまで内輪で、自分たちが作りたい趣味の本を自分たちのために作っちゃう感じ?」

戦艦水鬼改「本ヲ作ルノカ……楽シイノカ?」

秋雲「そりゃもう! みんなでひとつの本を作るって、それまでやったことなくって!」

秋雲「こう、モノが出来上がると、やり遂げたなあ、って感じで感動もひとしおで!」

秋雲「で、次はもっといいもの作ろう! ってみんなでまたワイワイやりだすんだよねぇ」ニヒヒッ

秋雲「……で、そういう楽しい期間がそれなりにあったんだけど、最近それが楽しいと思えなくなっちゃって……」

提督「ふーん。なにかあったのか」

秋雲「……疑問に思うようになっちゃったんですよ。私って、こういうのが描きたいんだっけ? って」

提督「? どういう意味だ?」


秋雲「うーん、なんて言えばいいかなぁ……絵を描くことは好きなんだけど、なんか、これじゃない? みたいな?」

提督「よくわかんねえな……?」

秋雲「自分でもよくわかってなくて、うまく説明できないんですよー。このわけのわからない違和感のせいで、どうにも集中できなくて」

秋雲「で、それ以来、自分が思うように絵が全然描けなくなっちゃいまして。今も大絶賛スランプ中!」アタマカカエ

秋雲「だから一度絵を描くのをやめよう、絵から距離を置こう、って考えて。本業の出撃に影響出ても嫌だしさ?」

提督「……まあ、海軍に所属する艦娘としては正しいな」

秋雲「それで、サークル活動もお休みしようと思って、みんなに相談したんだけど……それがすっごい勢いで猛反対されて!」

大和「どうして反対されたんです?」

秋雲「それもわかんないの。なんか、辞めるのがもったいないとか、とにかくすっごい引き留められたんだよねぇ……」

戦艦水鬼改「辞メル? ソノ、サークルカラ、抜ケルノ?」

秋雲「うん。今の私はなんにも描けないんだから、サークルに残っててもしょうがないと思うのよ」

秋雲「勿論、みんなにはいろいろお世話になったから悪いなあって思ったし、引き留めてもらったりもして嬉しかったんだけど」

秋雲「みんなの役に立てない以上は、そこに居座ってもしょうがない気がしてさ。そもそも、絵から距離を置きたかったわけだし」

提督「で、辞められなかったから家出ってか?」

秋雲「いやぁ、結果的にはその通りなんだけどぉ、そうなるまでに葛藤とか、いろいろあったのよー?」


秋雲「ほら、どうせ残るならなにかしら活動の役に立ちたいと思うじゃない? でも、私、戦うのと絵を描く以外はすっごい苦手でさ?」

秋雲「ストーリーを作るのなんかも全然だし、じゃあ何かサポートできるか、って言われても……私には絵しかなかったからさ」シュン…

秋雲「本を作るって目標があるのに、私だけ何もしてないってなると、いたたまれないし気まずいし、そこにいるだけで罪悪感がひどくって」

秋雲「一度、絵から離れたら、何か違うものが見えるかも、って考えもあったし、全部手放してすっきりしたかったってのもあったの」

秋雲「なのにしつこく引き留められて、だいぶ神経すり減らされちゃってさあ……それでますます厭になっちゃったっていうか」

秋雲「絵を描くこと自体は好きなはずなんだけど、全然楽しいと思えなくなっちゃって。ストレスで手が震えて出撃にも影響出るくらい」

戦艦水鬼改「重症ネェ」

秋雲「もー、そのくらい本当にやばかったから、ある日、絵を描くのも辞める覚悟でサークルから脱退します! って連絡したのよ」

秋雲「そんでスマホも連絡先全部拒否って電源落として、道具も机に全部しまって鍵かけて! 潔く、漫画のことは忘れよう、って!」

秋雲「そうやって、全部封印した矢先にうちの良提督が、サークルのみんなから漫画描く依頼を受けてきちゃってさあ……」ガクーッ

大和「ええ……?」

戦艦水鬼改「ソイツ、ナニヤッテンノ……?」

秋雲「ええ、なにやってくださりやがってんだって思いましたよ……良提督にサークルのことを話してなかった私も悪いんだけど」


秋雲「それでもさ、私がどうしても描けないから辞めたいんだって訴えれば、良提督が味方になってくれると思ってたのよ」

秋雲「それがさ!? 私が描けないから離れたいって言ってんのに、みんなが褒めてたから描いたほうがいいとか言って私の話を聞いてくれないんですよ!」

秋雲「才能がもったいないとかみんなと一緒に活動したほうが幸せとか! そんな外からの声よりこの秋雲さんの切実な訴えに耳を傾けていただきたいんですけど!?」

秋雲「君のためを思ってとか美辞麗句並べてるけどそれどう考えても引き受けた手前引っ込みがつかないから私に折れろって感じの保身から来てるやつじゃないですかねえ!!?」ウガー!

大和「……」アタマオサエ

提督「肝心な時に役に立たねえなそいつ……」

戦艦水鬼改「ソイツ、駄目ナコトシカ、シテナクナイ……?」

秋雲「そうなの!! ほんっと、それダメなやつで! マジで味方から背中を撃たれるってやつでさあぁぁ!」ナミダジョバー!

秋雲「だいたいなんで提督が海軍の本来のお仕事より、趣味のサークルのお手伝いを優先するよう自分の部下に説得しちゃうのよ!?」

秋雲「普通逆じゃないの!? 提督としての自覚ある!? それとも秋雲さん艦娘として戦力に数えられてない!?」ウワァァァ!

秋雲「……ということがありまして。その流れで出撃しなくていいよと戦力外通達されて主砲も魚雷も取り上げられたのが何日か前」ハイライトオフ

大和「えっ」

秋雲「ぼけーっと海を見てたところまでは覚えてたんだけど、なんか気が付いたら海にいて」

戦艦水鬼改「アンタモ、ナニヤッテンノ……」

秋雲「よくわかんないうちに魚雷貰っちゃって、航行できずにあの岩場に流れ着いて、いまココ! って感じ? うふへへへへ」

提督「躁鬱の差が激しいな……」


秋雲「いひっ、いやもう、こうやって整理して話してたら、あー秋雲さん帰りたいって思ってないんだなーって心境が確認できちゃってさあ」

秋雲「てゆかもうこれ脱走じゃん。秋雲さんてばもう一巻の終わり? 馘で済む話じゃないよね? 物理的に艦首が飛ぶよね?」

戦艦水鬼改「普通ナラ、ソウカモシレナイワネェ」

秋雲「やっぱりぃ? そんなことならさっさと三途の川を渡っとけば良かったかなあ……」グンニョリ

大和「……提督、秋雲さんから事情を聞く限りは、良提督の対応に問題があるように思えますね」

提督「ま、俺たちが何を言ってもしょうがねえ。改めて訊くか、おい秋雲」

秋雲「ぁい?」

提督「お前はこれからどうしたい? 死にてえのか生きてえのか、どっちだ? お前の、望みはなんだ?」

秋雲「望み……望みかあ……」ボンヤリ…

大和「……」

戦艦水鬼改「……」

秋雲「あたしは……艦娘として、普通に出撃したい、っていうのと……やっぱり、絵が、描きたいなー」

提督「絵?」

秋雲「うん。絵を描くの辞める、って、その場で言いはしたけど……やっぱり、あたし絵が好きなのよ」

秋雲「いま、自分が何がしたいか、って単純に考えたら、やっぱり、紙と鉛筆持って、あたしの好きに描きたいっていうか……」


提督「好きなものを描いてたんじゃねえのか?」

秋雲「うーん、最初は嫌じゃなかった気がするけど……今はもうわかんなくなっちゃった」

戦艦水鬼改「……何ガ違ウノカシラ」

秋雲「えっとねえ……これまでは、みんなでお話を考えて、構想を練って、それをわーっと絵にしていく、って感じだったのよ」

秋雲「ずーっと机に向かって描いてたから息が詰まっちゃって……それで気分転換に外に出て、その辺の草花描いたりしてたんだよね」

秋雲「でさ、ここもロケーションすっごいいいよねー。オープンテラスで、花壇があって、水路があって……すっごい綺麗」

提督「……まあ、ここに住んでる住人たちのおかげで、綺麗にしてるからな」

秋雲「こういう景色を描き残したいなあ……って、ぼんやり眺めてて思ったの。水の音や、風やにおいを感じながら描けたら幸せだなーって」

大和「ということは、秋雲さんは漫画家ではなく風景画家を志望している、と……?」

秋雲「あ、ああ……それ! それかも!」キラキラッ!

秋雲「うわあああ、なんか見えてきた! ばーっと、私のやりたいことが目の前に広がってきたー!!」

秋雲「描きたい! 紙と鉛筆と消しゴムと肥後守が欲しい!! 出来ないんなら涙で床板を濡らしてその水で絵を描いてやるー!」ウオオー!

戦艦水鬼改「……ヒゴ?」

提督「肥後守っつう折り畳み式の小刀があるんだよ。今の話だと、鉛筆削るのに使いてえんだろ」


朧「涙で絵を描くってところは雪舟ですね」スッ

秋雲「うおぅ!? お、朧もいたの!?」

朧「……なに? 朧がいたらおかしいの?」ムッ

秋雲「いやいや、そうじゃなくて、確かに言い方悪かったけど! そこはほんとごめん!」ワタワタ

秋雲「てかさ、この島、深海棲艦がたくさんいるから、そんな島にも朧がいるのがびっくりでさー! 朧は大丈夫? 元気なんだよね?」

秋雲「……うん、いま冷静になったけど、すごいとこだよね、ここ。なんで私、戦艦クラスの鬼級の隣で優雅にコーヒー飲んでるの?」シロメ

泊地棲姫「気絶シテナイデ、冷メナイウチニ、コーヒー飲ミナサイ」

秋雲「アッハイ、アリガトウゴザイマス」シロメ

提督「……中将、与少将。とりあえず奈准将の艦娘たちは、海軍まで送り届けてもらっていいか?」

与少将「ん? おお、こっちの艦娘はわしらに任しとき。で、そっちの秋雲は、時間を置いてから迎えに来るとええんか?」

提督「いや、秋雲のことは、こっちから連絡するまで秘密にしておいてくれねえか? 特に良提督には知られたくねえな」

秋雲「!」

与少将「……んむ、ええじゃろ。わしも傍から聞いてて、良提督はどうもええ格好しぃのケがあるように思えるけえの」

与少将「下手に知らせたら、自分の名誉回復のために出しゃばってくるとしか思えんし、最悪この島に内緒で押しかけてきそうじゃな?」

提督「だよなあ……やっぱりそう思うか?」


与少将「部下の不満に耳を傾けず、余所からの頼みごとを聞いて無理を強いちょるようじゃ、他にも問題ぶち起こしてそうじゃな……」

与少将「とにかく、秘密にするのは決まりじゃけえ、葛城たちは、この島の秋雲のことを口外せんようにな。ええな?」

葛城「は、はいっ」

提督「悪いな、そうしてもらえると助かる」

泊地棲姫「ナカナカ理解ノアル将官ネェ。ソウイウ人間バカリダトイインダケレド」

与少将「お前たちが良い隣人なら、わしらもそうあるべきじゃろ。わしこそ、提督がここまで善人だと思わんかったぞ?」

提督「善人? 俺がか?」

与少将「妖精に育てられた、と聞いてからは納得しちょるがの。人間嫌いと言う割に他者に対する配慮が行き届いちょる」

与少将「泊地棲姫も提督を信頼しておるようじゃが、この男のそういうところが気に入ったんじゃろ?」

泊地棲姫「ソウダッタカナ……」

与少将「む、違うのか?」

提督「……何訊いてんだお前。子姑根性出してんじゃねえよ」

与少将「わしは単純に仲良くなったきっかけを知りたいだけじゃ」

泊地棲姫「キッカケカ……強ソウダッタカラ、ダナ」

与少将「強そう?」


泊地棲姫「私ガ攻メ込ンダトキノ艦娘タチハ、トンデモナイ気配ヲ纏ッテイタカラナ。ソレヲ纏メテイタ提督モ、コンナ姿デハナカッタ」

提督「あー……そうか、俺が泊地棲姫と初めて会ったときは、半分深海棲艦の姿だったもんな」

泊地棲姫「強イモノニ従ウノガ、我々深海棲艦ノ常ダガ……二度目ニ会ッタトキハ、人間ノ姿ヲシテイタカラ、少シ驚イタ」

泊地棲姫「ツイデニ、頭ヲ掴マレタノモ、アンナニ痛イ思イヲシタノモ、ソノアト優シクシテモラッタノモ、全部初メテダッタ……」ポ

戦艦水鬼改「思ワセブリナ、言イ方ヲスルナ」

与少将「提督、泊地棲姫の頭を掴んだんか……?」タラリ

提督「ああ。ちょっとあんまりなことを言い出すもんでな」

与少将「ようけ無事じゃったのぉ……」

秋雲「いやいやちょっと待って、なんで私、フリフリエプロン着た泊地棲姫にコーヒー淹れてもらってるの? こんなの絶対おかしいよ」シロメ

泊地棲姫「マダ順応デキテナイノカ」

提督「ま、しょうがねえんじゃねえか。こんな状況、来てすぐ受け入れられる艦娘も、そうそういないだろ」

戦艦水鬼改「……最上クライカシラ?」

朧「ああ、確かに、最上さんはすんなり受け入れ過ぎと言うか、図太いというか……」

大和「そうですねえ」クスッ


夕張「私も信じたい気持ちと信じられない気持ちがせめぎあってて混乱するわ……正直、こんな状況おかしいと思うんだけど」アタマカカエ

天津風「そうよね、こうやって話し合えるって言うのなら、なんで私たちは戦わなきゃいけないのかしら……」

提督「ん? なんで、って、そりゃ話し合えないからだろ? わかってんじゃねえか」

天津風「そ、そういうことじゃなくて……!」

提督「そういうことだよ。人間だってそうじゃねえか。話し合いで解決できないから、同じ人間同士でも争うし殺しあう」

提督「さっきの秋雲の話だって、他人が自分の理想や都合を押し付けてくるから、秋雲が苦しんだって話だぜ?」

天津風「……!」

提督「俺たちも、話が通じない奴は、人間も深海棲艦も、艦娘であっても関係なくぶっ潰すつもりでいるんだ」

提督「お前たちが出会った深海棲艦たちも、話し合うつもりのない、手前の感情を押し付ける連中ばっかりだった。それだけの話じゃねえの?」

天津風「そ、そうかもしれないけど……そうだって言うんなら、この島の住人はそういう深海棲艦とは違うっていうのね?」

提督「俺からは島に住むならそうお願いしてるが、俺は人間と仲良くしたいと思ってねえ。争わないように疎遠になりてえんだ」

天津風「……なんなのよ、それ」ジトッ

武蔵「そういう反応も仕方ないとは思うが、提督自身が人間に嫌な思いばかりさせられ続けていたからな」

武蔵「この島の艦娘も、捨て艦だけじゃなく、冤罪を受けたりセクハラされたりと、人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだ」

武蔵「提督は、そういう人間たちから艦娘を庇い続けてきたのだからな。人間嫌いに拍車がかかってもやむをえまい」

葛城「さっきの話につながってくるわけね……」


秋雲「ちょっと待ってなに今の話!? って言うことは朧も捨て艦とかにされたってこと!?」ガタッ!

朧「……まあ、朧はそうだったけど」

秋雲「よく生きてたねえ! ううっ、本当に良かったよぉ!!」ダキツキッ

朧「ちょっと、そういうの鬱陶しいから、やめて」ヒキハガシ

秋雲「……オボロガ、冷タイヨ……」ヨコタワリ

提督「……朧、秋雲とはなんかあったのか?」

朧「艦のときに、一緒に五航戦の護衛についてただけです」

提督「なるほど。知った顔がいりゃあ、頼りたくもなるか」

春風「話が少しそれましたが……こちらの司令官様の意図としては、人に虐げられた艦娘や、厭戦的な深海棲艦の保護のため……」

春風「人間と距離を置くべく、武器を置いて話し合いをなさっている、という理解でよろしいんですね?」

提督「まあ、そんなとこだな。うちの連中を面倒な目に遭わせたくねえ。外と関わって嫌なことに巻き込まれるのは最低限にしたい」

天津風「……だからこの島の中は、深海棲艦がいるのに穏やかな風が吹いてるのね。ほとんどの特別海域って、暗雲が立ち込めてるし」

瑞鳳「こっちのお菓子もおいしいし……この島、なごみ成分が多すぎよ?」モグモグ


間宮「あら、泊地棲姫さんの焼いたクッキーも好評みたいですね」

瑞鳳「えっ、そうなの!?」

泊地棲姫「フフフ、当然ダ」テレッ

あきつ丸「こう言ってはいけないかもしれませんが、親近感がわいてしまうでありますな」

葛城「言っちゃってるじゃない……」

那智「以前はここに住む深海棲艦はル級だけだったんだがな。随分と賑やかになったものだ」フフッ

中将「……提督は、本当に良い仲間に恵まれたな。この島を戦いに巻き込まぬよう、儂も働かねばならん」ウム…!

神州丸「……ときに、少将殿? あの手紙は、提督殿に渡したでありますか?」

与少将「む! いかんいかん、忘れとった! 提督! お前さんに個人的な手紙が届いちょるぞ!」サシダシ

提督「ん? 手紙? 誰からだ……宛先が俺と、吹雪?」ウケトリ

朧「……提督、この人、もしかしてあの吹雪の……」

提督「あいつか……! 朧、悪いが吹雪を呼んできてくれるか?」

朧「はいっ!」


 * それからしばらくして 食堂内 *

吹雪「お待たせしました司令官! 吹雪をお呼びですか?」

提督「おう、懐かしい奴から手紙が届いたぞ」

吹雪「懐かしい? 誰でしょう」

朧「あれ、まだ封を切ってなかったんですか?」

提督「宛先が俺と吹雪だからな。見るなら揃って見ないと駄目だろ。ほら吹雪、早く隣に座れ」チョキチョキ

吹雪「は、はい! それで、この手紙は……」チャクセキ

提督「吹雪からだ。S提督んとこのな」

吹雪「S提督の!? あの改二になってた吹雪ちゃんからですか!?」

提督「ああ。差出人の名前は吹雪じゃねえけど……」ガサッ

 (封書の中から出てくる数枚の写真と手紙)

吹雪「!! これは……この人がS司令官です!! うわあ、懐かしい……!!」ウルッ

提督「……隣にいる女、吹雪に似てるな?」

吹雪「ほ、ほんとですね……でも、明らかに私や、あの吹雪ちゃんよりずっと大人に見えますよ」

与少将「ちょいと邪魔するぞ……ああ、解体された吹雪っちゅうんは、この娘じゃったか」

提督「解体!?」


与少将「艦娘の解体処分には2種類あるんじゃ」

与少将「艦娘をまるっと艦として全部処分する解体と、艦娘の娘の部分を切り離して艦の部分だけを解体する解体とな」

提督「そんなことできるのか……」

与少将「これも妖精さんのオーバーテクノロジーっちゅう奴じゃ。後者はわしも数回しか事例を知らんがの」

与少将「この吹雪の場合は、後者を選んで、かつ、成人年齢にまで成長した状態にしてもらったと聞いちょるぞ」

提督「……」マユヒソメ

与少将「この制度を利用すれば、提督が危惧してそうな『悪いこと』もできるんじゃが……」

与少将「妖精さんたちの厳しい審査を通らんと、切り離すタイプの解体はできんけえ、安心せえ」

提督「妖精が審査するのか……なら、信用しても良さそうだ」

吹雪「司令官、早くお手紙読みましょう!」

 *

提督「……」

吹雪「……良かった、二人とも幸せそうで」グスッ

吹雪「差出人の名前が全然違ってたのも、艦娘を辞めた時に名前を変えたからだったんですね……!」

提督「まさか艦娘辞めてS元提督と二人で暮らせてるなんてな。大団円じゃねえか、こうなりゃこっちからは何も言うことはねえ」

吹雪「何を言ってるんですか! お祝いの一言くらい返してあげないと!!」

提督「そうか……?」


朧「提督、こっちの吹雪も元気だって、伝えてあげてもいいと思いますよ?」

提督「……まあ、そういうことなら……」

吹雪「司令官、私たちも写真撮りましょうよ! 送ってあげて、私たちも元気だって、安心させてあげましょう!」

提督「わかったよ……青葉呼んで撮ってもらうか」アタマガリガリ


朧「……艦娘って、辞められるんだ……」

中将「艦娘にも、戦う以外の違う人生があっても良いだろう。軍人も死ぬまで戦い続けるわけではない」

朧「!」

中将「君も、艦娘を辞めたいと思ったのかね?」

朧「……いえ、朧は、ずっと艦娘のままでいると思います」

中将「ふむ……そうかね」

朧「はい。辞める気はないんですけど……艦娘を辞めて人間になるとき、名前って変えられるんですか?」

中将「ああ、変えられるようにした。その理由の一つに、彼女たちが元艦娘であることを知られないようにするため、というものがある」

中将「過去に、海軍の内情を探ろうとした輩が、元艦娘の女性を拉致しようとした事件があった」

中将「その時は幸いにもその女性が返り討ちにしたのだが、名前がそのままでは危ないということで、好きに名乗ってもらうことになったのだ」

朧「そうだったんですか……」


中将「それに、そうでなくとも、戦争が終わるなどして仮に退職者が多数現れれば、同じ名前の娘が何人も現れることになってしまうし」

中将「たとえ同じ艦であっても、別個体である以上、個性がある。人間になろうとする事情も様々であろう」

中将「新しい人生を歩むのだ、いつまでも艦娘であったころの名前に縛られていることもあるまい」

朧「……それで、あの吹雪は『マナツ』なんて名前に変えたんですね」

朧(たぶん、あの司令官が轟沈させた『吹雪』のことを、思い出させないために……かな)


 * 夕方 *

伊8「戻りました」

提督「よう、お疲れ。遠くまで出張ってくれてありがとな。ちょっといいか?」テマネキ

伊8「はい?」

提督「中将の船を超長距離魚雷で狙ったとき、船の周囲以外に艦娘はいたか?」ヒソヒソ

伊8「いえ、艦隊はいなかったと思いますけど」ヒソッ

提督「もし、ひとりだけ、ぽつんといたら?」

伊8「単艦ですか? ……もしかしたら、感知漏れの可能性はあります」

提督「そうか……じゃあ、秋雲を巻き込んでても仕方ねえか」

伊8「??」

ということで、今回はここまで。

それでは続きです。


 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

吹雪「司令官! 青葉さんがいらっしゃいましたよ!」

青葉「……お久し振りです、司令官」

提督「ん……? どうした青葉、いつになく元気がねえな?」

青葉「実はちょっと困ったことがありまして……司令官、青葉は以前、J少将の鎮守府にいたことをお話ししましたよね?」

提督「ああ」

青葉「そこに所属していた阿賀野さんが、行方不明なんですよ……」

提督「阿賀野? それ、いつ頃の話だ?」

青葉「実は、先月の末から……もうすぐ1か月が経とうとしています」

青葉「大怪我をしていたのに、無理に病院の外を出歩いて……松葉杖が付近で見つかりましたが、それ以外まったく手掛かりがなく」

吹雪「司令官、それってもしかして」

提督「そういうことだろうな。青葉、阿賀野なら来てるぞ」

青葉「へっ? き、来てるってどういうことですか!?」

提督「深海棲艦になって流れ着いてきたんだよ」

青葉「……はいィ!?」


 * 翌日 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭そばの倉庫内事務所 *

青葉「というわけで、皆さんには事情を話さず連れてきたわけですが」

提督「まあ、昨日の青葉の反応からして、こうもなるよな」

朧「無理もないと思います」

矢矧「」マッシロ

能代「」マッシロ

衣笠「あああ、ふたりともしっかりしてー!!」アセアセ

酒匂「ぴゃああ……ほ、本当に、阿賀野お姉ちゃん?」

深海阿賀野「ソウヨ~? ホラァ、矢矧モ能代モ、ナンデ立ッタママ、気ヲ失ッテルノヨォ~!」プンスカ!

青葉「いやぁ、姉妹艦が深海化してたら、普通にショックだと思いますよ……?」

提督「おそらく阿賀野としては、全然変わってないどころか、体だけの悪いところが治っただけって感覚なんだろうなあ」

酒匂「うん、リアクションそのものは阿賀野お姉ちゃんとそっくり……っていうか、そっくりじゃなくてお姉ちゃんなんだよね?」

深海阿賀野「ソウヨ~? 私ハ最新鋭軽巡、阿賀野型ノネームシップ、阿賀野ナンダカラ~」ムネハリッ

青葉「衣笠のことも覚えてるんですよね?」


深海阿賀野「ナントナク、ダケドネ~。ソウイエバ、秋月型モ、イナカッタッケ?」

朧「今日は秋月型は来てないんですね」

青葉「あ、はい。大人数になりますし、またケーキを顔で受けさせるわけにもいかないので」

提督「ケーキを顔で受け止める前提なのかよ」

青葉「二度あることは三度あるって言うじゃありませんか」

提督「そこは三度目の正直って言えよ。確かに俺も青葉の言うほうになりそうな気がするけどよ」

朧「否定しないんですか……」

提督「まあ、来ないのは正解かもな。パンプキンマスクのロゼッタが、もう涼月とは会いたくないとか言ってたし」

青葉「それも無理もありませんかねえ……」

衣笠「あのー、提督さん? 阿賀野ちゃんは、体のほうはもう大丈夫なんですか?」

提督「一応な。確か阿賀野は、鉄骨落ちてきて背骨やったんだっけか?」

衣笠「はい、そうです。一時期は二度と歩けないって妖精さんにも言われてて、私たちもすごくショックで……」

提督「妖精に言われたのか? そうなら、あとでこっちの工廠妖精にも精密検査してもらわねえとまずそうだな?」

朧「大丈夫だと思いますよ。いまは厨房のお手伝いもしてくれてますし、その時に体の異常を訴えたりはしてないみたいですから」


朧「それに、厨房でも活動できるようにするために、妖精さんたちに頼んで、阿賀野さんに義足の艤装を作ってあげたんですよね?」

提督「まあな。まあ、身体に問題がありゃ、取り付ける時に気付くか……」

深海阿賀野「ウフフ、コノ脚、トッテモ助カッテルワヨ~」アシフリアゲ

深海阿賀野「コレノオカゲデ、キッチンデ、オ塩トカ小麦粉トカヲ、撒キ散ラサナクテ済ムシ!」

矢矧「あ、阿賀野姉さんが何かやらかしたんですか!?」

提督「別に意図してやらかしたわけじゃねえよ。あの義足をつける前は、ブースターみたいな脚で地面を浮いて走ってたんだが……」

提督「ヘリコプターみたいに風がすごくてな。阿賀野がいるといろんなものが風圧で取っ散らかっちまってた、ってだけだ」

深海阿賀野「ワザトジャ、ナイワヨー?」

提督「わかってるよ、責めてるわけじゃねえから心配すんな」

能代「も、申し訳ありません! 姉がご迷惑をおかけして……」

提督「迷惑じゃねえし、仕方ねえだろあの脚じゃ。今は厨房手伝ってもらってんだ、迷惑どころか助かってるぜ」

能代「そ、そうなんですか……?」

深海阿賀野「ソウヨ~? 比叡サンカラモ、炒飯ノ味トカ褒メラレタンダカラ~」

矢矧「え……?」

青葉「ここの比叡さん、お料理上手なんですよ。お墨付き頂いたってことは、結構な腕前ってことですよね?」

提督「比叡が言うんだからそうだと思うけどな。生憎、俺はまだ食べたことねえんだけど」


能代「何から何まで、私たちの鎮守府のトラブルに更に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」

矢矧「もとはと言えば、私たちの司令官だったJ少将が、あんなことをしなければ……」

衣笠「うん……」

提督「しつけえな、終わった話だからもういいだろ。そういう口実で呼べっつったのは確かだけどよ……ん?」

深海阿賀野「……」

提督「阿賀野、どうした?」

深海阿賀野「……J少将……?」

能代「……阿賀野姉?」

深海阿賀野「ソウダワ……J少将……ワタシ、ドウシテ、忘レテイタノカシラ」メラッ

朧「阿賀野さんの目から、青い炎が……!」

深海阿賀野「アイツガ……アイツガ、青葉サンタチヲ殺ソウトシテ……アイツヲ、止メナキャ……!」ゴゴゴゴ…

青葉「し、司令官! これ、まずくないですか!?」

提督「……大丈夫だ、阿賀野。J少将なら俺たちが始末したぞ」

深海阿賀野「……ソウ、ナノ……?」

提督「おう。鎮守府ん中でメディウムたちにも会ったろ? あいつらにも手伝ってもらったんだ」


朧「あ、朧もそのとき一緒にいた気がします。はっきり覚えてませんけど……アタシ、ヲ級になってたんでしたっけ?」

衣笠「ヲ級!?」

提督「ああ、そういやそうだったな。初春もル級になってて、軽巡棲姫もいたんだっけな」

矢矧「……ル級? 駆逐艦娘が、ル級やヲ級になっていたんですか?」

提督「朧たちは、J少将とZ提督が作ってた深海棲艦の弾丸に撃たれたんだ」

提督「その弾丸の材料にされた、ヲ級とル級の力が二人に宿ったんだろう、って考えてる」

深海阿賀野「ソレジャ、アナタタチガ……J少将ヲ……」

提督「ああ。俺たちがぶちのめして、溶岩の中に放り込んだ。あいつは骨も残さず全部燃えて、今はこの世のどこにも存在しちゃいねえよ」

深海阿賀野「……ソウ……ソレジャア、アイツノセイデ……青葉サンヤ、能代タチガ、傷付クコトハ、モウ、ナイノネ……?」

提督「ああ。少なくとも、J少将やその部下のK大佐は、もうこの世にいない。安心しな」

深海阿賀野「……良カッタ……」グスッ

深海阿賀野「能代モ、自分ヲ撃ッタ、ッテイウカラ……心配、シタノ……!!」ポロポロッ

能代「阿賀野姉……大丈夫! 私はもう、大丈夫だから……!」

深海阿賀野「良カッタ……良カッタヨォ……!」ウエーン

矢矧「阿賀野姉さん……!」

酒匂「……良かったねえ……」グスン


 *

深海阿賀野「ウン、ナンカ、泣イタラ、イロイロスッキリシチャッタ!」ニコニコー

能代「……」

深海阿賀野「? 能代、ドウシタノ? ナンカ難シイ顔シチャッテ」

能代「提督さん? どうして阿賀野姉さんが元に戻らないんですか!?」

提督「ああ?」

矢矧「阿賀野姉さんの心配事がなくなったんですよ? こういうのは、恨みや悩みが消えたら深海棲艦から元に戻るんじゃないですか!?」

提督「なんだそりゃ? そんな簡単に深海棲艦から艦娘に変われてたまるかよ、都合のいいこと言ってんじゃねえ」

提督「俺たちもいろんな事例を見てきたが、いまのところ轟沈以外の方法で深海棲艦が艦娘に変わる手段はねえってのが結論だぞ」

能代「阿賀野姉に沈めって言うんですか!?」

提督「艦娘にしたいなら今んところはそうするしかねえし、それも確実じゃねえからやめとけって話じゃねえか」

酒匂「えー? なんかいい方法ってないのー?」

提督「俺が知る限りの情報はもう全部喋ったぞ。手前に都合のいい情報がねえからって適当なこと言わせようとすんな」

矢矧「そこでどうして投げ遣りなんですか!」

提督「……」

朧「あ」


青葉「矢矧さん駄目ですよ司令官にそんなこと言っちゃ」

矢矧「でも!」

提督「お前らなあ、阿賀野が深海棲艦になるに至った轟沈自体は、俺たちには何も関係ねえんだぞ?」

提督「ただ阿賀野拾ったってだけの俺たちが、なんでそこまで面倒見なきゃいけねえんだよくっそ面倒臭え」ケッ

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

青葉「あー、ついに出ちゃいましたかあ、司令官の伝家の宝刀『面倒臭い』が」

衣笠「よく言うの?」

朧「よく言いますね」

深海阿賀野「別ニ、無理ニ戻ラナクテモ、イイト思ウケド? 阿賀野、アノ鎮守府ダト、オ荷物扱イダッタシ~」

提督「なんだよ、本人が戻る気ねえんじゃねえか」

青葉「いえいえ、お荷物扱いされていたのは理由がありまして。阿賀野さん、青葉より先にJ少将を怪しんでたらしいんですよ」

青葉「阿賀野さんが冷遇されていたのもそのせいらしく、青葉もそれを知らなくて、阿賀野さんと協力体制を取ってなかったんです」

深海阿賀野「アレ、ソウダッタッケ?」クビカシゲ


青葉「そうですよぉ、青葉が調べてた時も、阿賀野さんのほうからわざわざ協力を申し出てくださったのに……」

青葉「それを青葉が巻き込みたくなくてお断りしちゃったんですから」

青葉「ふたりで協力していたら、今とはまた違う結果になっていたかもと思って、本当に申し訳なく思ってるんですよ?」

深海阿賀野「……ソノ辺リ、忘レチャッタナー」

提督「なんにしても今の阿賀野じゃ戻れねえだろ。深海棲艦が普通の鎮守府に滞在できるようなルール、どこにもねえだろ?」

青葉「……それはまあ、そうですねえ」

提督「こっちで身柄預かりでいいじゃねえか。阿賀野に会いたきゃ、青葉と一緒に会いに来りゃいい」

能代「何から何まで……本当に申し訳ありません」

提督「だから謝んなって、しつっけえな。悪いのはJ少将だ」

矢矧「私も厚かましいお願いをして、すみませんでした……能代姉さん、私たちは阿賀野姉さんを元に戻す方法を考えましょ?」

能代「そうね。艦娘から深海棲艦になったんだもの、逆だってあり得るはず。確実な条件を見つけ出さないと……」

深海阿賀野「アンマリ根詰メナクテ、イイワヨ~?」

衣笠「あの、提督さん? ひとつ気になったんですが、阿賀野ちゃんは、ここに来た当初は健康だったんですか?」

提督「来た当初……せいぜい腹を空かしてたくらいだな。見る限り普通に過ごしてたぞ」


衣笠「そうですか。だとすると、背中の怪我って深海棲艦になったから治ったんですかね……」

提督「……そんな簡単に治るか? 歩けないほどってなると、多分脊髄だろ? 船で言う竜骨がやられてたから一生もんだって話だよな?」

提督「もしそうだとして、艦娘の阿賀野がベースなら、何かしら後遺症なり障碍なりが残ってておかしくねえと思うが」

提督「それがないって言うのなら、肉体が一度滅んでリセットされたって可能性のほうが高えな。なんかの拍子に生まれ変わったとか……」

衣笠「生まれ変わるって……あるんですか?」

提督「死んで体も失った奴が戻ってきた事例があるんでな。阿賀野は体の悪いところが消えたんだし、短絡的にそう考えてもいいだろ」

朧「っていうか、提督も体を作り変えられたときがありましたよね」

提督「あー、あったな」

衣笠「えっ」

朧「そういう提督は、3回くらい死んだり復活したりしてませんでしたっけ」

提督「そんなにあったか?」

朧「大佐に撃たれたときと、魔力槽に入って体を全部作り変えられたときと、島が燃えた時に天国に行ってたっていうときと……」

朧「あ、エフェメラにバラバラにされたときも含めると4回ですか」

提督「言われてみればそうだな……」

衣笠「えっ? えっ? どういうこと?」


提督「意外と死にかけてんだな、俺って」

青葉「今更ですけど、ちょっとのんきすぎますよ司令官?」

衣笠「ね、ねえ、体を作り変えられたとか、バラバラにされたっていったい何!? 大丈夫なんですか!?」

提督「落ち着け。今は俺よりも阿賀野だろ、阿賀野」

朧「とりあえず、阿賀野さんはもう一度妖精さんと明石さんに精密検査してもらいましょうよ」

朧「提督は……また、人間ドックに診てもらいます?」

提督「いや、俺もう人間じゃねえし。それに、またあの本営の船医みたいな変な奴に目を付けられたくねえし」

提督「ドックの話を向こうに持ちかけた時点で、あの連中が目ぇ輝かせて立候補してきたらと思うとうんざりするぜ」

青葉「そういうことでしたら信頼できる筋へ手配しますよ?」

衣笠「誰に頼もっか?」

提督「いやもう面倒臭えから放っといてくれよ……俺は大丈夫だっつの」


能代「とにもかくにも、阿賀野姉が私たちの鎮守府に戻ってくるには、どうにかして艦娘に戻る方法を考えないといけないわね」

酒匂「そんな方法、あるのかなあ……ここの提督さんもわからないってくらいだし」

矢矧「絶対に何かあるはずよ。戻ったら本営にも掛け合ってみましょ!」

能代「提督、それまで阿賀野姉のことを、どうかよろしくお願いします」

矢矧「私たちは、元に戻す方法を頑張って調べてみます!」

酒匂「阿賀野姉、わたしたち、また来るからね!」

深海阿賀野「ウフフ、ミンナアリガトウネ~」

提督「いや、本営に連絡入れるのはやめとけ」

衣笠「? そんなにまずいんですか?」

 <アオバチャーン!

朧「あれ? あれは……」

那珂「青葉ちゃーん!!」タタタッ

青葉「おおっと、那珂ちゃんお久し振りです!」


那珂「久し振り~って、本当に久し振りだよー! いまのいままでどこ行ってたのー!?」

那珂「最近来てくれないから、カメラに向かってポーズする練習できなくて困ってたんだからねー?」

衣笠「そんなことしてたの?」

青葉「ええまあ、一応、カメラの腕を買われまして……」テヘッ

那珂「青葉ちゃんが素敵に撮影してくれるんだけど、ポーズとかカメラに向かうアングルとか目線とか、一緒にチェックしてるんだ~」

衣笠「え~、青葉、頼りにされてるじゃない!」

青葉「いやあそれほどでもぉ~」テレテレ

提督「……そうだよなあ、この件、おそらく那珂も関わってんだよな」

那珂「? 提督さん、一体どうしたの?」

提督「一応確認するが、お前たちは阿賀野がここにいること、ここにいる艦娘以外の誰かに話したか?」

矢矧「いえ、誰にも。J少将の件で聞きたいことがあると聞いていましたので、鎮守府の臨時の責任者にはそう伝えています」

能代「深海化の話もですが、阿賀野姉がいること自体、聞かされていませんでしたから、誰にも話はしていません」

提督「ならいいけどよ……お前たち、阿賀野がここにいること、深海棲艦になったことは、そのまま誰にも他言するなよ? 本営にもだ」

矢矧「……なにか、あったんですか?」


提督「ああ、あったんだけどよ。理由、話さなきゃいけねえよなあ」ハァ…

酒匂「……すっごい嫌な予感がする」

提督「ああ、いい話じゃねえから覚悟を決めて聞いてくれ、J少将の部下だったってんなら、なおさら他人事にはできねえはずだ」

衣笠「え……?」

提督「J少将とK大佐が、いろいろ悪いことしてたのは知ってると思うが……まず、深海棲艦を武器に作り変えてた話は知ってるよな?」

青葉「はい、よーく知ってますよ?」

提督「J少将たちは、ある組織にその弾丸の製作を任せていたらしいんだが、そこでは他にもろくでもねえ研究をしてるんだよ」

提督「そのうちのひとつが、艦娘を深海棲艦にできないか、って研究だ」

矢矧「な……っ!?」

深海阿賀野「ソレッテ、私ミタイニシタイ、ッテコト……?」

能代「なんでそんなことを……」

提督「それができりゃあ、わざわざ深海棲艦を鹵獲する必要がなくなるからだよ。『武器の素材』の調達のために危険を冒さずに済む」

能代「素材って……まさか、深海化した艦娘のことを言ってます!?」アオザメ

提督「ああ。人間が携帯して扱える武器として有効なら、J少将のように運用を考える連中がいておかしくねえ」


提督「俺も悪い冗談だと思いたいが、艦娘も深海棲艦も、人間さえも実験材料にするような狂った連中だ」

提督「そいつらの耳に阿賀野が深海化した話が届いたとしたら、とてもとてもおとなしくしてるとは思えねえんだよ」

青葉「その組織の人間が、阿賀野さんに接触してくる……あるいは連れ去りに来る可能性がある、と言うことですか」

提督「来るだろうな。艦娘のころの記憶を持ったまま深海棲艦化したんだぜ、研究のサンプルとしては最高の素材なんじゃねえの?」

深海阿賀野「チョット、ヤダァ!?」

提督「とにかく、阿賀野のことが連中に知られなきゃいいとは思っているが、かといって楽観視もできないと思ってる」

提督「ただでさえJ少将がいた鎮守府だ、そのコネや遺志や悪縁といった残りカスを後生大事に隠し持ってる馬鹿がいないとも限らねえ」

提督「阿賀野が深海化して生きてるってことを、お前たちの鎮守府で大っぴらに話すのはやめておけ、と、俺は言いたいな」

提督「仮にそれが知られれば、阿賀野が危険にさらされるだろうし、そうなればこの鎮守府の平穏も脅かされる」

提督「最悪、阿賀野に手が出せないなら、二匹目のドジョウを見越して、J少将鎮守府の艦娘を、特にお前たち阿賀野型を連れ去る恐れもある」

酒匂「ふぇ……!?」ゾッ

青葉「司令官の心配はごもっともですが、不祥事のあったばかりで特警の目も厳しい鎮守府で、そこまでしますかね?」

提督「逆に好都合だと思うがな。まだ混乱が落ち着いてないなら、この機に乗じてひとりふたりいなくなっても誤魔化せるんじゃねえか?」

提督「そもそも、その特警だって信用できんのか? そいつらの息のかかった連中じゃねえだろうな?」

青葉「……そこまで疑われると、返す言葉がありませんねえ」


提督「俺が人間不信で疑り深いってことは認めるが、それでも俺は用心しとくに越したことはねえと思ってるぜ」

提督「どっかの鎮守府で不要になった、行き場を失った艦娘がそこに連れられて実験材料になったって話も、不確かながらあるくらいだ」

提督「組織につながってる奴が紛れ込むには、今の混乱具合こそが、ちょうどいい頃合いじゃねえかな」

那珂「ねえ、提督さん?」

提督「ん?」

那珂「さっき那珂ちゃんも関係あるって言ってたけど、もしかして那珂ちゃんがいた養成所もそこなのかな?」

青葉「……!!」

那珂「一週間以上休まず戦い続けて、合格出来たら艦娘として正式採用されるって言われてたけど……」

那珂「あれはもしかして、那珂ちゃんたちに負荷をかけて……轟沈させて、深海棲艦にならないかを実験してたのかな……?」

提督「……そうだな。俺はそうだと思ってる」

那珂「そう……なんだ」

提督「確たる証拠があるわけじゃねえ。だが、連中が艦娘の深海化の研究をしてるって話を時雨から聞いてからは、多分そうだと思ってる」

提督「お前が来た時に聞いた養成所の話も、艦娘になるために試験があるなんて話も聞いたことがねえ」

提督「那珂がいた場所が、その研究施設とイコールかどうかはわからねえが、繋がってることは確かだろうな」

那珂「……」ウツムキ


青葉「……司令官は、これからどうするおつもりですか?」

提督「どうするも何も、今の俺たちじゃどうにもできねえよ。これまで通り、俺たちの意図を感付かれないように息を潜めるしかねえ」

提督「俺たちには、そういう組織があるってレベルの知識しかねえんだ。大雑把にしか場所もわからなきゃ敵戦力もさっぱりだ」

提督「海軍にいる連中の、誰がそこの関係者かすらもわからねえのに、場所を探し出して攻め込むなんて、成功すると思うか?」

青葉「今は雌伏の時、と仰りたいわけですね……」

提督「青葉みたいに勘が鋭いなら潜入捜査もありだろうが、連中の得体が知れない以上、それもあまりお勧めしたくねえな」

提督「それから、仮に連中が阿賀野のことを知らないとしても、この島が狙われる要素が別にある」

青葉「と、仰いますと……」

提督「ひとつは、俺たちが、大佐やJ少将といった組織と通じている人間を始末している、ってとこだ」

提督「俺たちがあいつらにとっての顧客やスポンサーを殺しているとしたら、逆恨みされててもおかしくねえ」

提督「あいつらには警戒されていると同時に興味を持たれてると思ってる。良くも悪くも、な」

提督「それから、この島に住んでいる深海棲艦が、連れ去りのターゲットにならないかも心配だ」

提督「この海域から出てきた深海棲艦が、この島に帰ってくることが分かっているなら、待ち伏せして鹵獲しようと考えるかもしれねえ」

矢矧「姫級や鬼級も大勢確認されているというのに、そんな無茶をするでしょうか……?」

提督「やるんじゃねえか? むしろできるんなら絶対やりたがるだろ。それこそ俺たちの常識で考えるような話じゃねえ」

矢矧「……そこまでの相手なんですか」


提督「ま、あいつらが直接かかわってこないとしても、俺たちはあの連中とは無駄に因縁がある」

提督「もし情報が手に入って戦りあうことができるんなら、奴らはただ殺すだけで済ますつもりはねえ……!」ゴゴゴ…

青葉「し、司令官落ち着いてください! 怖いですよ!?」

提督「ん? ああ、悪い悪い」

朧「……あいつらのせいで、一緒にいた妖精さんが犠牲になりましたからね。提督が怒るのも無理はないと思います」

衣笠「そんなことがあったの……」

青葉「ところで司令官? 老婆心ながら……これまで出会った海軍の人たちには、その組織の関係者がいる可能性はないんですよね?」

提督「んー、心配は心配だが、よく話す奴らはその可能性が低そうだな。まず中将やX大佐はありえないだろうし……」

矢矧「奴ら……?」タラリ

能代「中将閣下を……」タラリ

朧「細かいことは気にしないほうがいいですよ」ヒソッ

提督「X大佐の叔父のT大将やH大将も、深海棲艦の武器化に反対してJ少将に消されかけたクチだ、つるんでるとは思えねえ」

提督「与少将も深海棲艦との話し合いを是としているし、祢大将も魔神の力を使って背後関係を読んだが、そういう組織とは無関係だった」

酒匂(まじんのちから?)クビカシゲ

青葉「え、そんなことまでわかるようになったんですか……」


提督「おう。あと、顔色だけだとわからねえのはH大将の部下のW大佐だが……J少将と繋がってる感じはねえな。分別もあるようだ」

提督「あと怪しいのは……昔、大佐んところにいた連中くらいか? つっても、O大尉は大佐に目障りに思われて追い出されてるし」

提督「そのO大尉と親しい城塞鎮守府の知大尉も、関わってるとは思えねえ。大佐の太鼓持ちだった士官も付き合いが3か月じゃあな……」ウーン

朧「とりあえず、提督が良く関わる人たちは、そういう組織とのつながりは薄そうだ、って感じですか」

提督「多分だけどな。一度、全員魔神の力で背後関係を読みたいところだが……」

提督「俺たちが付き合ってる海軍の人間は、そこまでしなくても良さそうな連中は多いな」

提督「いずれにしろ、今は関係者がどこにいるかわからねえ。祢大将には協力を仰いだが、連中もそうそう尻尾は出さねえだろう」

酒匂「それじゃ、私たちはどうしたらいいの?」

提督「やっぱり黙ってるしかねえな。あいつらに対抗する以前に、あいつらの動きを察知する手段が、俺たちにもお前たちにもなさすぎる」

酒匂「……そっかぁ」

矢矧「で、でも、それじゃ、阿賀野姉の深海化を元に戻す調査すらできなくなりますよ!?」

提督「お前らが襲われて阿賀野に二度と会えなくなるよりはましだろ?」

矢矧「そ、それはそうですけど……」

提督「それより、いま俺が喋ってて気付いたんだが、お前たちはこれからどうなるんだ?」


提督「J少将がいなくなったんだ、次の司令官がこれから来るんだろう?」

青葉「ええ、そうですね。その提督のなり手が、人手不足のため難航しているようです」

衣笠「最悪、みんなばらばらの鎮守府に引き抜かれそうな感じだよね」

提督「もし、新しく来る奴が、その組織とつながりがあるんなら、そいつを絞めて情報吐かせようと思ったんだが……」

能代「」

矢矧「」

酒匂「ぴゃああ……提督さん、本気なの?」

提督「それが一番手っ取り早いだろ。お前らを利用しようって奴らに容赦なんかいるか?」

衣笠「……ねえ、提督さんていつもこんな感じなの?」

朧「こんな感じですね」

那珂「いつもこうだよね~」

提督「とにかく、大丈夫なんだろうな? 次に来るお前らのトップは」

青葉「そんなに心配なら提督も一緒に来て、その人に会ってくださいよ~」

提督「……」

青葉「そこで面倒臭い顔しますか!? 言い出しっぺのくせに!」

提督「島から出たくねえ……なんで人間がいる場所に戻んなきゃなんねえんだよ、くっそうざってえ」


青葉「んもー、そういうとこはつくづく厭世的と言いますか、面倒臭がりですよね司令官は……」

提督「しょうがねえだろ。そもそも俺は深海棲艦と魔神のハイブリッドだぞ? 人間社会に溶け込めなくて当然なスペックなんだ」

青葉「それはまあ……メディウムの皆さんを率いている時点で、人間社会には戻れませんもんね。戻る気もないでしょうけど」

酒匂「ねえねえ、深海棲艦と『まじん』のハイブリッドって、なんのこと? っていうか『まじん』って何?」クビカシゲ

提督「ああ、俺は半分深海棲艦なんだよ。で、もう半分は艦娘とも深海棲艦とも異なる『魔神』っつう異界の化け物だ。まともな人間じゃねえ」

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

衣笠「」

青葉「……司令官、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないですかねえ?」

提督「事実だろ?」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! 提督サン、深海棲艦ナノ?」

提督「半分はな」

酒匂「阿賀野姉、簡単に受け入れ過ぎじゃない?」タラリ


能代「と、ところで、メディウム……って何の話?」

提督「ああ、能代はメディウムを知らないか。なら、一人くらい紹介してやるよ、丁度よくこっちに来たみたいだしな」スタスタ

提督「……」コンコン

矢矧「? どうしてドアをノックしてるんです?」

 扉<コンコン

能代「ノックが帰ってきた……!」

 扉<ガチャー

ハナコ「魔神様? ハナコをお呼びになりましたでしょうか?」ベンザニチャクセキ

衣笠「!?」

酒匂「と、トイレの花子さんー!?」

ハナコ「はい、わたくし、ウォッシュトイレのメディウム、ハナコと申します」ペコリ

能代「この子がメディウム……なんですか?」

提督「おう。ハナコが座ってる洋式トイレがその罠なんだけどな」

能代「罠?」

酒匂「……あ」

矢矧「……!」セキメン

衣笠「?」


ハナコ「わたくしのウォッシュトイレは、強力な水流で身も心も綺麗にいたします。お座りになられます?」

提督「と、ハナコは言ってるが、実際にはその強力な水流で座った相手をすっ飛ばす罠だ」

能代「罠……なんですか」

ニコ「そう、メディウムは罠の化身。そのメディウムたちを統括、使役しているのが魔神様というわけだよ」ヌッ

酒匂「ぴゃああ!?」ギョッ

青葉「ど、どこから出てきたんですかニコさんは!?」

衣笠「い、いきなり提督さんの背後から現れた気がするけど……」

提督「最近気付いたんだが、なんか、俺の体を通って出てくるみたいだぞ」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! ドウヤッテルノー?」キラキラッ

那珂「阿賀野ちゃんすごいね、全然驚いてないよ?」

ニコ「……ぼくも、こんなに瞳を輝かせた深海棲艦は見たことないかな」

能代「あ、あの、こちらの女の子は……」

提督「んー……魔神を蘇らせた魔神の眷属、ってとこか。俺にとっては姉貴みたいなもんだ」

ニコ「そう、ぼくが魔神様のお姉ちゃんだよ」ドヤッ!

那珂(提督さん、ニコちゃんの扱いがうまくなってる……)タラリ


提督「それから、メディウムに関してなんだが、確か、衣笠や矢矧、酒匂はX大佐の船で他のメディウムにも会ったろ?」

朧「会ってますよね。秋月たちがケーキを顔に乗せてた時、マーガレットさんがいましたし、ロゼッタさんもいましたから」

酒匂「えっ、あの子たちがメディウムなの!?」

提督「あの船にいた俺の仲間は、艦娘以外は全員メディウムだぞ。どんな罠かはお前らの想像に任せるが」

深海阿賀野「トコロデ、矢矧ガ、サッキカラ顔ガ赤インダケド」

ハナコ「あら。あなたさまは確か」

矢矧「人違いです!」カオマッカ

ハナコ「いえいえ、よーく覚えていますよ、あなたさまのお尻のかたちを」

矢矧「人違いですっっ!!」ミミマデマッカ

能代(あの罠にかかったんだ……)

提督(かかったのか……)

酒匂「お尻のかたちで覚えてるんだ……」

矢矧「人違いですってばっっ!!」

 *

青葉「とりあえず、青葉は皆さんをお送りするので、H大将への報告も兼ねて、舞鶴まで行って参ります」

提督「舞鶴? ……ああ、そうか、J少将はH大将の部下だったな、そういえば」

提督「余計なお世話だと思うが、X大佐経由でも話を通しとくか。J少将の後釜に、くだんの組織が絡んでそうな奴が入らないように」

青葉「H大将なら、すでにそのあたりも考慮していただいていそうですけどね」

提督「それもそうか……ま、所詮、俺は海軍の部外者だ。あっちでなんとかしてもらうしかねえな」

今回はここまで。


>720
この世界の艦娘は、深海棲艦と同じく得体の知れないもの、という世界観ですが、
ちょっとくらいはこういう救いがあってもいい世界になっています。
妖精さんの匙加減というか、ご機嫌次第的な面もかなりありますが……。

今回は、最近の提督と、その能力について。
ちょっと閑話休題的なお話です。


 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「はぁ……」

霞「何よ、その溜息は。しゃきっとしなさい、しゃきっと」

提督「そうは言うけどよ……ろくに寝てねえんだぞ。来週も政府との会談控えてるっつうのに、毎晩誰かしら相手させられて……」ポ

霞「……」

提督「すげえんだぞあいつら。体がっちり抑えつけられて、何が何でも離れようとしねえし……」セキメン

霞「……」

提督「やっぱあいつら化け物だ……それを相手できてる俺も化け物だ……つうか、化け物じゃねえと生きてられねえ」カオマッカ

霞「……この……」

提督「ん?」

霞「このクズがぁぁぁああ!!」ドロップキック

提督「ぐあ!?」ゲシーッ

霞「なんて話をしてんのよ!! あんた自分が何を喋ってたか理解してる!?」ミミマデマッカ

提督「……ああ!」

霞「いま気づいたみたいなリアクションしてんじゃないわよっ!!」


提督「マジやべえな俺……感覚麻痺してるじゃねえか。俺の羞恥心、どこに置いてきた?」アオザメ

霞「一応はそういう危機感持ってるのね。完全に向こう側に行ったのかと思ったわ」ハァ…

提督「そりゃ、エロなんて大っぴらにしていいもんじゃねえからな……マジで悪かった。こりゃ俺も敷波に叱られるな」ウナダレ

霞「まあ、そうね。あんたですらそうなんだもの、みんながそういう話を吐き出せる場所を作ってあげないと……」

提督「なんか問題あったのか?」

霞「あったに決まってるわよ! あんたのせいで! あんたがそういうことを許容したから、その手の話をしたがる人が増えてるのよ!!」

提督「……」アタマカカエ

霞「キス程度の話ならともかく! 夜がどうだったとか、あんたの……その、ゴニョゴニョ……がどうだったとか!」セキメン

霞「食堂みたいなみんながいる場所で、そういう話で下手に盛り上がられると困るのよ……!」

霞「特に赤城さんとか! めちゃくちゃ顔を真っ赤にしてて、見てらんないっていうか、いたたまれない感じなんだから!」

提督「マジか……そりゃよろしくねえな。そういう話は、さすがに時と場所を選ばねえと……」

早霜「ないなら作りましょうか」ヌッ

提督「うお!?」ビクッ

霞「きゃっ!? い、いきなり現れないでよ!!」ビクッ

早霜「フフフ……ごめんなさいね」

提督「いつから潜んでやがった? ……いや、まあそれはいいや」

霞(深入りを避けたわね……)


提督「早霜、なんかいいアイデアがあるのか?」

早霜「はい。バーを作るのはいかがでしょう」

提督「……バー、ねえ」

早霜「静かで落ち着いた雰囲気の中でお話していただくには、相応しいと思います。無論、そういった席にはお酒も付き物でしょうし」

早霜「飲み屋のスタイルでは騒々しくなることが容易に想像できますので……しっとりとしたムードで語り合えば、騒々しくはならないかと」

霞「そうね……そういうことが好きな人は、そっちに行ってもらえると助かるわ。騒々しくなることは避けられない気もするけど?」

提督「やれるんなら任せたいけどよ。店主は誰に頼むんだ?」

早霜「それは私が。憧れていたんです……バーテンダーに」

提督「お前の希望でもあると?」

早霜「はい」ウナヅキ

提督「そういうことなら進めようぜ。お前が店主なら、お前のルールに従わせよう」

霞「それじゃ、早速場所を手配しないと。上下水道の準備も必要でしょ」

提督「ああ。取り急ぎ、明石とタチアナと泊地棲姫に声をかけるか」

 神殿の扉<バーン!

リサーナ「面白そうなお話、聞いちゃったぞーぅ!」ピョーン!

霞「な、なに!? 次はなんなの!?」


提督「何しに来たんだリサーナ……」

リサーナ「うふふっ、ハヤシモちゃんだったかなー? このバニーさんがあなたのお店のお手伝い、してあげてもいいわよ~?」

提督「いくらなんでも話が早すぎねえか。この部屋、盗聴器でも仕掛けられてんのか?」キョロキョロ

リサーナ「あら、リサーナちゃんはちょっと耳がいいだけよ~? マスターのこととなればなおさら! ぜーんぶ聞き逃さないんだから!」

早霜「……司令官」

提督「ん?」

早霜「採用したいのだけれど、いいかしら」

リサーナ「キャー! 雇ってもらえるのぉ!? ありがとー!」ハヤシモニダキツキー

霞「ちょっと、いいの? 判断早すぎじゃないの!?」

提督「いや……確かに即決過ぎるが、意外と適任じゃねえか?」

提督「バーにいてもまあまあ不思議じゃねえ恰好だし、早霜ひとりで店を回せるかってのもあるしな」

リサーナ「さっすがマスター! 理解があるマスターで嬉しいわー!」テイトクニダキツキー

提督「お、おい、抱き着くな」

リサーナ「えー? いいじゃない、マスターと私の仲なんだし!」グイグイ

提督「そうじゃなくてだな……」セキメン


リサーナ「もう、マスターったらそんなふうに腰を引かなくても……あ」

霞「?」

早霜「ああ。司令官の主砲の仰角が」

霞「なにやってんのよこのクズがあああああああ!!!」ウシロマワシゲリ

提督「うおっ!?」カイヒ

リサーナ「きゃっ!?」

霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ヒャクレツキック

提督「リサーナまで巻き込んで蹴ろうとすんじゃねえよ! しかもどう見ても一撃じゃねえし! ここ最近マジで足癖悪ぃなお前!」ガード

早霜「霞さん、ごく一般的な男性の生理現象にそこまで怒るのは、少々行き過ぎではないでしょうか」

霞「時と場合を考えたら怒るべきよ!」

早霜「それから、そのように足を高く振り上げては、あなたの下着が見えてしまうと思うのですけれど」

霞「!!」マッカニナッテスカートオサエ

リサーナ「あー、そっかあ~。マスターったら性欲らしい性欲がなかった、って、みんなによく言われてたものねぇ」

リサーナ「それであの子も安心して、足技を繰り出してたわけね? んもう、マスターったら罪づくりなんだからあ」

霞「……」プルプルプル


提督「俺は何も言ってねえし見ようともしてねえぞ……つっても、こういうのは理屈じゃねえしなあ」

提督「霞がブチ切れる前に対策するか。要は、男の体が反応しなきゃいいんだろ」

 ズズズズ…

提督→女提督「……これでどうだ?」

リサーナ「!?」

霞「!?」

早霜「……なるほど、物理的にアレをなくしたと言うことですか」

女提督「ああ。体形は俺のおおもとになった深海棲艦準拠だが、そこまで不自然じゃねえよな?」

女提督「とりあえずこの姿なら、体がそういうもんに反応することもねえだろ。ちょっと慣れねえが、執務に支障は出ないはずだ」

早霜「良いのではないでしょうか。皆さんがその姿に納得してくださるかどうかは別ですが」

リサーナ「うーん、髪型はベリーショートのままかあ……似合ってるとは思うけど、伸ばしたほうが可愛いよ~?」ホッペツンツン

女提督「別に可愛くするのが目的じゃねえからな。霞もこれで安心だろ?」

霞「……」アングリ

女提督「くっそ驚いてるな……」

霞「っ……ちょっと! 女になったんなら言葉遣いには気をつけなさいよ! くそとか言うのは禁止よ! 禁止!!」

女提督「なんでだよ面倒臭え……中身は変わってねえんだぞ」


リサーナ「……」

 モニュ

女提督「!?」

リサーナ「うーん、お胸も控え目ねえ?」モニュモニュ

女提督「そ、そんなのはどうでもいいだろ!? 離れろおい!」セキメン

 扉<コンコンコン ガチャー

リンメイ「師父ー! ワタシ新しいメガバズソーのワザ開発したカラ見て欲しアナタ誰ヨーーーー!?」ズギャーン!

女提督「ん? リンメイか? ここに来るなんて珍しいな」

初春「む……? 貴様、もしや提督か!?」

深海海月姫「ドウシタノ、ソノ姿」

リンメイ「ちょと待つヨロシ! なんで師父、女になたか!?」オロオロ

リサーナ「女の子に抱き着かれてもぉ、オトコノコの部分が反応しないように、ってことらしいわよー?」

リンメイ「なんでそんな話になたヨ! 理解デキナイネ!」アタマカカエ

初春「……ふむ、まさか貴様がその姿になろうとはのう」

深海海月姫「思ッテタヨリモ、可愛イワネ」

女提督「可愛いとか言うな、くすぐってぇ」アタマガリガリ


初春「髪は伸ばさぬのか? 似合うと思うがのう」

女提督「別におしゃれしたくてこの姿になったわけじゃねえからな。俺が男であるために起こり得る弊害を未然に防ぐためだ」

初春「ふむ、そうであったか……のう、提督よ。少ししゃがんでもらえんかの」

女提督「? なんだ?」シャガミ

初春「よいせ、と」ダキツキー

女提督「!?」

霞「!?」

初春「このままわらわを持ち上げてみるんじゃ」

女提督「な、何言ってんだお前」

初春「良いから頼む」

女提督「……」ヒョイ

初春「……うむ、悪くない。背丈も似ておるし、長門も不在。わらわが疲れた折には、こうしてもらおうかのう……」スリスリ

女提督「長門の代わりかよ……」セキメン


深海海月姫「提督」ズイ

女提督「……お前はどうした」

深海海月姫「前カラ思ッテイタケレド、アナタ、女ノ子ノ姿、可愛イワ」ピトッ

女提督「」

深海海月姫「デキレバ、ズットソノ姿デ過ゴシテモラエルト、嬉シイノダケレド」ギュ…

女提督「」

リサーナ「なんか、想定してたことと逆効果になってない?」

早霜「そのようですね……フフフ」

霞「……」アタマカカエ

 ズズズズ…

女提督→提督「……」

初春「む? どうして戻ってしまうんじゃ!?」オロサレ

深海海月姫「残念……ドウカシタノ?」


提督「いや、いろいろとおかしいだろ。なんで俺が女の姿なのに引っ付いてくるんだよ」

初春「わらわはそれで良いと思うておるが?」

深海海月姫「私、可愛イモノハ好キヨ?」

提督「……おい霞」アタマカカエ

霞「諦めなさい。あんたはそういう星のもとに生まれたのよ」トオイメ

提督「……」

早霜「司令官、現実逃避も結構ですが、バーの新設についてはよろしくお願いしますね」

提督「くそ、わかったよ……つうか現実逃避って言うな。逃げてんのは霞も一緒だろ」

霞「誰も逃げてないわよっ!?」


リンメイ「師父が男でなくなたら、師父を師父と呼べないネ! 師母か? 師姉か? ワタシなんと呼べばいいかー!?」アイヤー!

リサーナ「マスターなら、もうもとに戻ってるわよ~?」

短いですが、今回はここまで。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2023年07月31日 (月) 23:28:11   ID: S:WHwioR

ぶつかるまで秒読みなんですね……

曽さん、ちゃんとヤッタあとのこと考えてるのか?イキったあげく無計画とかだったら、一般市民に迷惑かけまくりだぞ?

2 :  SS好きの774さん   2023年09月17日 (日) 18:07:06   ID: S:jN2wTl

無人島なら資源採掘とかもしてるのかな?そっち方向の確保はしてなかった気がするんだけど、手を入れたら有益な鉱山とかありそう(ダイヤ取れるとこあるなら、他の鉱石もありそうだしね、コスモナイトとか出ないかなw)

3 :  SS好きの774さん   2023年11月28日 (火) 11:38:02   ID: S:bu9e7J

前々回から海外間でアイオワ達がいなくてコロちゃんしかいないと思ったらこう言う伏線だったのか!だとするとサラトガ達がまだ深海棲艦である可能性が!?

4 :  SS好きの774さん   2023年12月06日 (水) 18:02:06   ID: S:TT53uH

大和改二さんはヤマトにはなれないな。宇宙の平和のために自軍から撃たれる覚悟で出撃するヤマトは墓場大和の性格こそふさわしいよ。

5 :  SS好きの774さん   2023年12月07日 (木) 00:52:53   ID: S:tafram

茶室は刀を持ち込めないようにして争いから遠ざけるという目的で出入口を小さくしたという平和の精神の塊のようなものだからな~墓場島に作っても良い、むしろ作るべき設備だな。

6 :  SS好きの774さん   2024年02月09日 (金) 18:49:21   ID: S:nQsbgE

あれ?明石も深海駆逐艦変化時の目撃者だよな?それなのにパンノーってことは、わざと…明石わざとしたのか?

7 :  SS好きの774さん   2024年02月13日 (火) 00:23:24   ID: S:pML91J

異種族間の和解は難しいからな。銀河鉄道でも機械化帝国倒した英雄が機械化人の診療所で働いたら裏切り者言われるんだから。あの先生の作品にしても成功例はウォーリアスの戦艦火龍とか局所的だもん。

8 :  SS好きの774さん   2024年03月15日 (金) 07:56:44   ID: S:WIlzAI

もう1ヶ月かー

9 :  SS好きの774さん   2024年06月01日 (土) 04:46:34   ID: S:pPm2a4

日常回のほのぼのは良いね~
このまま皆が笑顔でいてくれたら良いな……外が何かしら起こしそうな気はするけど。

10 :  SS好きの774さん   2024年06月21日 (金) 03:27:58   ID: S:lwdCcj

阿賀野とは何かしらの縁がある青葉が深海阿賀野の事情を調べに動いちゃいそうだな。
この二人の絡みは見てみたいけどね。

11 :  SS好きの774さん   2024年09月29日 (日) 23:35:32   ID: S:CuLcIG

いよいよ養成所系列が動き出すのか……ま、友好的な深海さんがいると判明しちまって墓場島にいるとわかっちまったんだ動かないわけはないわな……盗掘を装って警戒体制の調査とかしてそうだし。

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