江ノ島「明日に絶望しろ!未来に絶望しろ!」戦刃「…終わりだよ、ドクターK!」カルテ.8 (308)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~あらすじ~

超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時に
ぬいぐるみのような物体“モノクマ”により学園へ監禁、共同生活を強いられることになる。

学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。

なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……


次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。

生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――

果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!


――今ここに、神技のメスが再び閃く!!


初代スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/)

二代目スレ:桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387896354/)

三代目スレ:大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395580805/)

四代目スレ:セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403356340/)

五代目スレ:十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416054791/)

六代目スレ:モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1444145685/)

前スレ:大神「…もう決めたのだ。許せ」朝日奈「そんなの、嫌だよ…お願い、ドクターK!」カルテ.7
大神「…もう決めたのだ。許せ」朝日奈「そんなの、嫌だよ…お願い、ドクターK!」カルテ.7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474553743/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1531056887


☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。

 登場人物は公式サイトをチェック!
 …でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
 個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。


☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。

 KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
       筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
       鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。


 ・参考画像(KAZUYA)
 http://i.imgur.com/xFAepBe.jpg
 http://i.imgur.com/wgyt4k2.jpg
 


ニコニコ静画でスーパードクターKの1話が丸々立ち読み出来ます。
http://seiga.nicovideo.jp/book/series/13453




《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【カンスト】石丸 、桑田 、苗木、舞園

【凄く良い】不二咲、大和田、腐川、朝日奈

【かなり良い】霧切、セレス、大神、ジェノサイダー

【結構良い】山田

【そこそこ良い】葉隠、十神 、?????

【普通】江ノ島、戦刃、???


      ~~~~~

【戦刃の認知度】KAZUYA派の生徒と十神は正体を既に知っているか怪しんでいる。


人物紹介(このSSでのネタバレ付き)

・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)

 閉鎖されたこの学園で“唯一の大人”であり生徒のためなら自ら犠牲になることも辞さない。
半数近くの生徒を手術で救い、苗木と石丸に医療技術を仕込む。失った記憶は半分ほど取り戻し、
希望ヶ峰学園の闇に近づきつつある。モノクマに危険視されており残された時間が少ないことを
悟ったKAZUYAは、己の知識を伝えるために78期生達元担任の遺体の解剖を行った。


・苗木 誠 : 超高校級の幸運

 頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園にはいわゆる抽選枠で
選ばれた『超高校級の幸運』の持ち主。自分を平凡と謙遜するが我慢強い性格と前向きさで、誰とでも
仲良くなれる。K曰く、超高校級のコミュニケーション能力の持ち主。 石丸と共に医者を目指すことを
決意し、現在はKの指導を受けている。その幸運で学園長の遺した保健室の隠し空間を発見した。


・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手

 類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに野球嫌いで努力嫌い、女の子が大好きという
超高校級のチャラ男であったが、舞園に命を狙われたことを契機に改心しだいぶ真面目になったようだ。
その後、命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、積極的に協力するようになった。
石丸と苗木の医療実習にも頻繁に顔を出し、静脈注射や点滴くらいなら容易にこなせる。


・舞園 さやか : 超高校級のアイドル

 国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり事件を起こした。
 その後、自分を責め続けたことにより精神が限界を迎え、現在は「脱出のための駒」としての
自分を演じている。常に求められることをしなくてはならないという強迫観念に取り憑かれている。


・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員

 全国模試不動の一位を誇る秀才。苗木を除けば唯一才能を持たない凡人であり、努力で今の地位を
築いてきた。堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲となる。
 大和田の起こした事件で顔と心に大きな傷を負い一度は廃人となるが、仲間達の熱い友情により
無事復活。現在は尊敬するKAZUYAに憧れ医学の猛勉強を行っている。あり得ないレベルの不器用だが
睡眠すら削る不屈の努力によって、研修医と同程度の手技をマスターしつつある。


・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族

 日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
 己の弱さから事件を起こすが、後に自ら秘密を告白し克服する。石丸の顔の傷や不二咲を危険な目に
遭わせたことを後悔しているが、自分なりに償っていく決意をした。手先の器用さや力が強いことを
活かし、KAZUYAからも何かと仕事を任されている。 桑田同様、簡単な医療処置は出来る。


・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー

 天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
少女と見紛う容姿と性格をしており、男らしくないのがコンプレックスで今までずっと女装して
逃避していた。石丸が自分を庇って怪我したことに責任を感じ、単独行動を取った結果襲われ
死にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。現在は等身大の自分で出来ることを探し、前向きに
他のメンバーを支えている。血は苦手だが少しずつ医療実習にも参加するようにしている。


・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー

 次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが直感は鋭い。
 モノクマの内紛工作でストレスが爆発し、KAZUYAに不満をぶつけるがお互い本音で話したことで和解。
現在は苗木達同様、KAZUYAの派閥に入っている。大神が内通者だった件で元々不仲だった十神と衝突し、
再び事件を起こすが最終的に和解する。舞園同様、看護婦になろうと勉強を始めた。


・大神 さくら : 超高校級の格闘家

 女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々の鍛錬は欠かさない。実は道場の人間を人質に取られておりモノクマと内通していた。KAZUYAを
殺害する命令を受けたが殺せず、内通者だと暴露される。その後、責任を取って自殺を試みた。


・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー

 栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシックロリータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、
非常な毒舌家でありキレると暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。
 満を持して事件を起こし、完璧と思われるトリックで周囲を華麗に翻弄するが超国家級の医師を
欺くことは出来なかった。自分とは真逆の捨身とすら言えるKAZUYAの自己犠牲精神に惹かれている。


・山田 一二三 : 超高校級の同人作家

 コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。セレスからは召使い扱いで毎日こき使われている。
普段は明るく気のいいヤツだが実はプライドの高い一面もあり、密かに周囲に対し引け目を感じていた。
 その負の感情をセレスに利用され事件に加担してしまったが、セレスに裏切られたことにより己の
愚かさと浅はかさを悟り深く後悔する。無事昏睡状態から覚醒したが、左腕に麻痺が残っている。
記憶を取り戻したが、嫌われることを恐れて誰にも言うことが出来ない。


・十神 白夜 : 超高校級の御曹司

 世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
傲慢な態度で周囲と何度も衝突し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にかなり問題がある。
 自ら事件を撹乱するなど危険人物ではあるが、内心では現在の状況に多大なストレスを感じている。
そんな自分に苛々し周囲に対して過剰に攻撃している面も。内通者問題でとうとう完全な四面楚歌となり
初めて己の失敗を悟る。最終的には石丸の説明ができない愚直な誠実さを目の当たりにしたことで根負け、
人間は論理だけの生き物でないことを知った十神は和解を選択したのだった。


・腐川 冬子 : 超高校級の文学少女

 書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
 十神が好きで、いつも後を追いかけている。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯
「ジェノサイダー翔」。翔が事件を起こしたことがショックで閉じこもっていたが、自分を外に
連れ出したKAZUYAに深い感謝と好意を持っている。……最近は十神に加えKでも妄想してるらしい。


・ジェノサイダー翔 : 超高校級の殺人鬼

 腐川の裏人格であり、萌える男をハサミで磔にして殺す殺人鬼。腐川とは真逆の性格でとにかく
テンションが高くポジティブ。重度の腐女子。粗暴だが頭の回転は非常に早く、味方にすると頼もしい。
腐川とは知識と感情は共有しているが記憶は共有しておらず、腐川の消された記憶も保持している。
コロシアイが起こる以前、自分と腐川に親身だったKAZUYAに好感を持っておりその関係で何かと協力的。


・江ノ島 盾子 : 超高校級のギャル

 大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。このコロシアイ学園生活のもう一人の内通者。
ちなみに大半の生徒からは軒並み怪しまれKAZUYAや霧切、十神と言った頭脳派達にはバレている。残念。

十神が全員と和解しコロシアイが実質的に終了したため、最後の作戦へと移る。それは――


・葉隠 康比呂 : 超高校級の占い師

 どんなことも三割の確率でピタリと当てる天才占い師。事情があって三ダブし、高校生だが成人である。
飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと落ち着いているが、
非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。また、自分の保身第一であり、借金返済のために友人を
利用しようとする面も……。大神が内通者だというインスピレーションを得ていた。
また、内通者を占った葉隠のメモは実は当たっていたことが後に判明する。


・霧切響子 : 超高校級の探偵

 学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
 手に火傷の痕がありKAZUYAに手術してもらったが、すぐには治らないのでまだ当分手袋は外せない。
少しずつだが、周囲に対し確かな信頼や絆といった感情を持ち始めている。


・モノクマ

 コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを
突くのが 得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。強靭な
精神力と 高い医療技術を持つKAZUYAがいよいよ真剣に邪魔になってきており、排除を企む。


テンプレ終わり。投下まで少し待ってください。








Chapter.5  疾走する青春の絶望アナフィラキシー (非)日常編








「江ノ島はどこだっ?!」


KAZUYAは背中に冷や汗を感じながら、震える声を搾り出した。
切迫した雰囲気が伝わったのか、おずおずと山田と葉隠が答える。


「……そういえばいつのまにかいなくなっていますな」

「トイレじゃねえか?」


江ノ島がいない。

その事実はKAZUYAだけでなく一部の生徒達を震撼させるには十分だった。


(おい、江ノ島だけいないってなんかやべーんじゃねえか? どこ行ったんだ?)


真っ先に江ノ島の正体を看破した桑田が柄にも合わず顔を蒼白させる。


「それってさ、マズいんじゃねーの……?」

「……探しに行くか?」


同じく正体を知る大和田もKAZUYAの顔色を窺っていた。


「どこに行ったんだろ、江ノ島ちゃん?」

「江ノ島さんがいないことに何か問題でもあるのですか?」

「江ノ島君は団体行動が苦手だからな。いなくても別におかしくはないが」


後からKAZUYAの派閥に合流した朝日奈やセレス、内通者について知らされていない石丸は
情報量に差があるため、何故こんなにKAZUYA達が深刻な表情をしているかわかっていない。


(事態は一刻を争うが、どこまで話すべきか……)


KAZUYAが逡巡する中、十神がピシャリと言い放つ。


「江ノ島は敵のスパイだ。しかも奴は内通者などという甘い存在ではなく訓練を受けた軍人だぞ」

「えっ?!」

「な……?!」


KAZUYAは驚愕して十神を見たが、十神はフンと鼻を鳴らして逆にKAZUYAを見返す。


「江ノ島君がスパイだと?!」

「ウソでしょ? 江ノ島ちゃんがスパイだなんて。ウソだよね?!」

「本当だ。西城、桑田と大和田を連れて探しに行け。ここは俺達で何とかする」

「……!」


以前の十神なら朝日奈の気持ちを考えずに江ノ島は保健室に向かった、
大神は既に手遅れだと言っていたことだろう。そして二手に別れて戦力を
分散させるより全員で固まっていた方が良いと提案していたはずだ。

だが、人の心を蔑ろにすることはかえってスムーズな解決を妨げると学んだ十神は
必要最低限の情報と指示だけを出した。元々十神は指導者としての才覚を持っていた。
決断力と周囲を動かすことにかけてはKAZUYAより上回っている。



(説明はしておいてやる。この場は任せてさっさと行け!)

(――助かる!)


もはや一瞬のアイコンタクトだけで十分だった。


「桑田! 大和田! 行くぞ!!」

「お、おう!」

「ああ!」

「ここはアタシが守ってやっから死ぬんじゃねえぞ!」


ジェノサイダーの叱咤を背に受けながら、弾けるように三人は駆け出した。


(俺がもっと早く手を打っていれば……)


KAZUYAは大神に対して負い目があった。

二度目の裁判の前に、舞園が渡してくれた葉隠のメモ……
今から思えばあれは内通者を占ったものだったのだ。

常に三つのグループに別れた生徒達の名前だが、後に内通したセレスを含め
内通者の三人は必ず一緒の組にならないようになっていた。


(俺がもっと早く気付くか、或いは霧切に解読を託していれば良かった。
 そうすれば早い段階で十神や葉隠の説得に当たれたのだ!)


この事実に気付いたのは最近で、大神が内通者だという事実は最悪の形で露見した。


そして大神の――カッターまで飲んで死のうとした姿は、
朝日奈だけでなくKAZUYAの心まで深く傷付けていたのだった。


(頼む! 間に合ってくれ!!)


               ◇     ◇     ◇



多少の躊躇いはあったかもしれない。

感慨にふけっていないと言えば嘘になる。

だが、KAZUYA達がここに来るまではまだ時間があったはずだ。


――なら、何故ナイフを降ろしたこの腕は宙に浮いたまま静止しているのだろう。


「ふーん、意識があったんだ」

「…………」


理解が追いつかないのか、どこかぼんやりとした目で『彼女』は自分を見上げている。


「江ノ島……?」


しかしぼんやりとした表情とは反対に、その大きな右手は戦刃の腕を力強く掴んで離さない。
もはや本能のなせる技だろう。戦刃の発する殺気に無意識に体が反応しているのだ。


「……そうか。もう一人の内通者とはお主のことだったのか」



大神は静かに呟くと、ゆっくりとその腕を降ろす。


「あれ? いいの? 流石にこの状況がわからない訳じゃないよね?」

「我を殺すのだろう?」

「そうだけど、別に抵抗してもいいんだよ? 流石にこの状況で負けるつもりはないし」

「構わぬ。お主の好きにすれば良い」

「……死ぬのが怖くない訳?」

「恐れていないと言えば嘘になる。だが、我は過ちを犯した。皆は許してくれないだろう」


「我は“絶望”しているのだ」


「……ふーん、そう」

(見慣れた目……希望の象徴なんて言われてても盾子ちゃんの手にかかればみんなこうなる。
  大神さんも結局はその程度の人間だったんだね。少しだけ残念だよ)


戦刃は刃を構え直した。


「じゃあ友達として、苦しまないように終わらせてあげるのがせめてもの優しさだよね?」


今度こそとナイフを振り上げようとして――





戦刃は斜め後ろに裏拳を放った。



「! グッ?!」


カウンター気味に入った一撃を受け、その人物は鳩尾を押さえてうずくまる。


「しぶといね。それとも気絶した振りをしてたの、霧切さん?」

「……………」


不意打ちを防がれ未明の窮地に陥った霧切は、目前の敵を睨みながらギリッと歯を食いしばる。


「まあどっちでもいいや。大神さんだけのつもりだったけど、別に殺すなとは言われてないし」

「江ノ島、さん……!」

(ドクター達が来るまで、時間を稼がなければいけないのにッ!)


頭の回転の速さなら生徒達の中でも上位の霧切だが、交渉の余地のない相手では
その頭脳も活かすことは出来ない。まさしく絶対絶命だった。


(お祖父様……お母さん……)


走馬灯めいて霧切の脳裏に祖父と母の姿が映る。


(……お父、さん)


そして、幼い自分を切り捨て――既に縁を切ったはずの父の後ろ姿が映った。



―響子、すまない。


(すまない? すまないって何? 私は一言謝れば済む程度の存在ということ?)


両手が熱い。


(結お姉様……)


五月雨結。

心を閉ざした霧切響子が再び周囲に心を開くキッカケとなった存在。


探偵図書館。


最後の事件。


火傷。

火傷。

熱い。




火傷。


誰にも見せられない――。



―絶対綺麗にしてやる。約束だ。


男の顔。

無骨。

不器用。

口下手。




温かい――。



(…………)


(…………)



全てがスローモーションとなる。命を刈り取る刃が迫ってきている。

だがあえて霧切は、“目を閉じた”。


(――まだ約束を守ってもらってないわよ、ドクター?)


意識するよりも先に体がどう動くか理解していた。


「ッ?!」



霧切は糸で引っ張られたように不自然なくらい真っ直ぐ後ろに倒れ込む。

受け身なんて全く考えていない。強かに背中を打ち付けて
思わず顔をしかめるが、そんな痛みに構っていられなかった。


(――まだ生きている)


そのまま勢いよくゴロゴロと転がって距離を取る。


「無駄な抵抗はやめなよ。どうせ逃げ場なんてないんだからさ」


戦刃は霧切の予想外の動きに一瞬だけ怯んだが、すぐさま立ち上がった霧切に襲いかかった。


(狙いは真っ直ぐ――首!)


戦刃の持っているサバイバルナイフは厚みのある刃だ。肋骨が邪魔な心臓より
少し掠っただけで致命傷となる頸動脈を狙うのはわかりきっていた。


「このッ……!」

「……!!」


霧切は戦刃の右腕を両手で掴みナイフを寸前で止める。


「大神、さん! 逃げてッ……!」


「馬鹿だね。どうして逃げなかったの? そうすれば自分だけは助かったのに。
 仮に大神さんが逃げたって今から自分は死んじゃうんだよ?」

「大神さん!! 今のうちに!! 早くッ!!!」

「無駄だよ。大神さんは絶望してる。いくら叫んだって逃げないしあなたもここで死ぬ」

「…………」


大神はぼんやりとその光景を見ていた。

刃が霧切の白く細い首に食い込む。うっすら血が滲み始めた。


(私だって何故こんな真似をしているかわからない。私はそんな利他的な人間じゃないわ)


父との決着。

霧切家の使命。

まだ何一つ終わっていない。

やりたいこともやらなければいけないことも沢山あって、死んではいけないはずなのに、
死にたくなどないのに、だが体は戦う道を選んだのだ。逃げようとはしなかったのだ。

江ノ島を騙る目の前の女の言うように、逃げるだけなら出来たのに。


(きっと、あなたのせいね)



刃が食い込む。


(でも不思議とまるで後悔していない。多分、あなたが私達みんなの希望だから……)


刃が更に食い込む!


(ここで私が死んでも、あなたがみんなを正しい方向に導いてくれる)

(――そうでしょう、ドクターK?)


霧切は確かに微笑んでいた。免れない死がすぐ目の前まで来ているというのに。


(笑った……? この状況でどうして??)


戦刃は何度かこれに近い感覚を戦場で感じていた。
そしてそれは総じて彼女に良くない事態の前触れであり、仄かに寒気がした。










「うおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」




ドガッシャアアアアンッ!


「何ッ?!!」


その瞬間、保健室のドアが荒々しく蹴り破られた。

そして男は野獣のごとき太い腕で蝶番の取れたドアを乱暴に掴むと、
何の躊躇いもなく侵入者に向けて投げ飛ばす。


「クッ!」


いくら鍛えている戦刃でもこれに直撃するのは不味いと判断し、即座に後ろに飛び下がった。


ガッシャァァァンッ!!

激しい衝突音と共に、扉が壊れる。


「霧切ィッ!」

「大丈夫か?!」


KAZUYA、次いで桑田と大和田が駆け込んだ。


「きっと……来てくれると思ったわ」


青ざめながらも、男達に向けて霧切は穏やかに微笑みかけたのだった。


ここまで。

霧切さんは覚醒条件満たしてたか満たしてないか覚えてなかったけど、
部屋には入ってるのでセーフってことでこの展開になりました



KAZUYAの到着に気が抜けたのか、霧切はその場に座り込む。
少なくとも今は戦える状況ではないだろう。


「大和田、霧切を!」

「おう!」


大和田が霧切を抱えて廊下に連れ出す。
庇うようにKAZUYAは仁王立ちし、戦刃をキッと睨みつけた。


「戦刃むくろ……! もうお前の、お前達の好きにはさせん!」

「それで形勢逆転のつもりなの? 素人が数人来た程度で私を止められると思ってる?」


ナイフをきらめかせて戦刃は目を細めた。


「ちゃんちゃらおかしいね」


戦刃はKAZUYA達を無視して左を向いた。


「…………」


その先にいるのは大神だ。


「しまっ……!」

「フンッ」

「――えっ?」



プシャァァッ……


「え、えっ……?」


―― 一瞬の早業だった。

戦刃は大神を攻撃すると見せかけて高く跳躍し、KAZUYAの右側にいた桑田に切り掛かったのだ。
桑田は咄嗟に後ろに飛びのいて右手で防いだ。超人的動体視力と反射神経の為せる技だったろう。

だが、鋭いナイフはバターのように桑田の右手を切り裂き白い壁に鮮血が飛び散った。


「……あああああああっ?!」

「桑田ッ!」


追撃を受ける前にKAZUYAは桑田の襟首を掴んで後ろに放り投げる。
戦刃はそのままKAZUYAを追撃することも出来たはずだが、あえて一度距離を取った。

焦って万が一の反撃を受けるリスクを避けたというのもあるが、
そこまでする程の敵ではないという余裕の表れでもある。


「桑田ッ?! クソがぁッ!」


霧切を置いて戻ってきた大和田は保健室に常備していた木刀を手に取り構える。
だが、不良の喧嘩とは訳が違うことは大和田もよくわかっていた。

戦刃が持っているのは木刀より遥かにリーチの短いサバイバルナイフである。
にも関わらず、迂闊に切り込めば唯一の武器であるこの木刀が真っ二つにされるだろう。
故に、間合いを確かめながらゆっくりと戦刃の後ろに回り込む。



「挟み撃ちは基本だよね?」


戦刃は至極冷静だった。たかだか素人に毛が生えた人間二人程度、
彼女にとって何の障害でもない。予想外の行動を取りそうなKAZUYAにだけ
注意を払っておけば、大和田一人くらい容易に捌けるだろう。


「クソォォ……」


桑田は既に自分がカウントさえされていないことを察し右手を押さえ呻いた。


「桑田君、利き手をやられちゃったからもう大好きな野球も出来ないね?
 あれ、前は嫌いって言ってたから逆にちょうど良かったのかな?」

「……!」

「テメエッ……!」


明らかな挑発だ。以前の大和田なら今の言葉で飛び込んでいただろう。
だが精神的な成長を積み、冷静な判断力を手に入れた大和田は悔しげに顔を歪めるだけだった。


K(隙がない……それになんというプレッシャーだ)


相手が女、それもまだ高校生だという事実に脅威を覚える。

彼女は誰かが作り上げた生物兵器などではない。ただ才能を持って生まれただけの、
普通の人間だ。今更ながら才能という存在にKAZUYAは自然の畏怖を感じていた。


「来ないなら、こっちから行くよ」



「!」


戦刃がKAZUYAに仕掛ける。今度はフェイントなしの真っ向勝負だ。
下手な小細工を使うよりも、確実に相手側の戦力を削ることを選択したのである。

KAZUYAさえ潰せば問題ない。全滅させることも出来るし、江ノ島の指示を待って動くことも出来る。


「クッ!」


KAZUYAはいざという時のため、アームカバーの下に食堂のナイフなど金属類を仕込んでいた。
それを用いて戦刃のナイフを弾いていなす。狭い保健室に鈍い金属音が響いた。

首、脇腹、手首、大腿……残像が見える程に高速で打ち合っていく。


(少しはやるようになったみたいだね。でも)

「これはどうかな?」


斬撃からの足払いと見せかけた鋭い中段蹴り、KAZUYAは咄嗟に後退するが腹部に掠った。
後ろに跳んだことで威力をある程度殺したはずだが、その攻撃は尚重い。


「グゥッ?!」

「おらあああああ!」


追撃をかけようとしたが、背後から大和田の援護があったため振り向かずに
戦刃は横に跳ぶ。大和田も焦らず再び距離を維持しながら構え直した。

以前だったらここで大和田は仕留められたのに、と嘆息しながらもまだ戦刃は余裕である。


「良かったよ。二人が強くなってくれて。弱いものイジメはしたくなかったからね」

「…………」

「…………」


軽口を叩く戦刃に反し、二人は無言だった。会話をする余裕などない。


「でも私もプロだから、あまり時間はかけられない。――だから、さようなら」

「!!」


息もつかせぬ連続攻撃がKAZUYAを襲う。全身を使いまるで踊るような戦刃の動きは、
KAZUYAと大和田の息の合った連携攻撃すらビクともしない。やられるのは時間の問題だろう。


(こちらからも攻撃しなければ……!)


攻撃は最大の防御とも言う。思えば、KAZUYAはこの期に及んで未だに及び腰だった。


(大和田には殺す気で行かなければ駄目だと大口を叩いたくせにな……
 俺自身、まだ覚悟が出来ていなかった。だが)


視界の端には右手を抑えて呻く桑田の姿があった。白い上着が血で染まっていた。
あの時、KAZUYAが覚悟を決めていたら守ってあげられたかもしれない。

――男はとうとう覚悟を決めた。



(あれは……!)

「フッ!」


戦刃は本能で攻撃をやめ腕を引く。その一瞬後の空気を小さい、
それでいて世界のどんなナイフよりも鋭い刃が切り抜けていった。

KAZUYAは手にメスを持っている――掠っただけで相手の命を奪うメスを。


(この悪寒……間違いない。あのメスは【毒】が塗られてる!)

(俺は医師失格かもしれん。だが、生徒の命を守るためにはもはやこうする他ない……!!)


毒を塗ったメスを両手に持ち、KAZUYAは戦刃の手や足を狙う。流石の戦刃も飛び道具がない以上、
むやみやたらと突っ込む訳には行かず、攻撃の手は緩むが掠り傷すらつけてくれない。

結局趨勢をひっくり返すには至らず、若干の膠着状態となっただけであった。


(クソッ! 俺がもう少し強ければなんとかなりそうなのによ!)


大和田は今までの粗い攻撃から、相手の急所を狙った繊細な攻撃へと転換していたが
所詮付け焼き刃であり、戦刃の反撃に気を付けるのが精一杯である。

こんなことならKAZUYAと一緒に大神から特訓でも受けていれば良かったと歯噛みしたが、
後悔したところで時は戻ったりはしない。今出来ることはKAZUYAの援護をして
けして浅慮な行動は取らず足手まといにならないことである。


一方、桑田は立ち尽くして三人の攻防を眺めているしかなかった。


「ち……くしょう」

(痛てぇ……痛てえよ……)


血が止まらない右手を押さえながら、涙を堪える。大事な右手を傷付けられたことも痛みも
桑田にとっては重要だが、既に自分が戦力外となっている事実が何より辛かった。


(クソッ! クソクソクソッ! なんで……これじゃなにしに来たかわからねえじゃねーか!)


桑田の体格では大神を抱えて待避することも出来ない。かといっておめおめ一人だけ
逃げ帰ることは絶対に有り得ない。自分が囮となって飛び込めば戦刃の意識も一瞬くらいは
逸れるかもしれないが、……その場合、確実に生きては戻れないだろう。

傍観者。

それが今の桑田の非情な立ち位置だった。


(神経は……無事だ。メチャクチャいてーけど指の感覚はある。なにか、なにかしねーと……)


痛みを無理やり押さえつけながら周りを見渡した時だった。彼女と目が合ったのは。


「……!」


壊された扉からは廊下が丸見えであり、そこには未だ動けない霧切がいた。

いや、震える足に鞭を打ち今立ち上がろうとしている。


(お、おいおいおい……まさかおめー……)



「…………」


霧切は無言でコクリと頷く。先程自分が却下した案を、霧切はまさに実行しようとしていた。


(ダ、ダメだろ! 死ぬぞ! せんせーだって喜ばねーだろ、そんなの!)


桑田は血相を変えて顔を横に振るが、霧切の意思は固かった。


(ごめんなさい、桑田君。誰かがやらないといけないの)

(いやいやいや! よせって! 他に何かあるはず! 絶対にっ!!)

(……ごめんなさい)

(や、やめろッ!)


不思議と、声を出さずとも二人の心は通じていた。

このコロシアイという極限状態で、長く苦難を共にしていたからかもしれない。
桑田には霧切の決意が痛い程伝わってきていた。止められないということも。


(いいのか、女に特攻させて?! それでも男か?!)


だが建前とは別に、桑田の脳裏には走馬灯のごとく様々な思い出が浮かぶ。

両親、従姉妹、チームのメンバー達……



やっと素直になれた野球。

初めて努力をした音楽。

共に戦う仲間、親友、そして恩師――


何一つ手放したくない。死んだら全てを失うことになる。


(死にたくねえ……正直死にたくねえ……)


桑田は唇を深く深く噛みしめる。


(俺にはまだ夢が、将来がある。こんなところで終われねーんだ!)


霧切が、壁に手をかけながら立ち上がった。戦刃はKAZUYAのメスと大和田に気を取られている。
彼女が一瞬でも隙を作れば、KAZUYAのメスがたちまち戦刃を斬りつけるだろう。


(これは私にしか出来ない。――さようなら、桑田君。みんな)


悲壮な決意を固めた霧切が駆け出した。


「!」


戦刃が背後の異常に気が付く。

そして――


「う、うわあああああああああ!!」











……桑田は霧切の手を左手で掴むと全力で引き戻した。



ここまで。


生存報告

ツイッターの方にも書きましたが、近日更新します。
とりあえずドラえもんロンパの方は更新しました。


長らくお待たせしました。

更新再開します!



「桑、田……くん?!」


何を――?!と言いたいのだろう。霧切が目を見開き驚愕している。


(死にたくねえ! でもそれは霧切だって同じだろッ!!)

「く、た、ば、れええええ!!」


桑田は手の傷が広がることも顧みず、ボールを掴んでフォームを取った。

天を突かんがごとく足を振り上げる絶対のフォーム。幾度も敵のバッターを討ち取ってきた。


「甘いよ!」


だが戦刃の経験は遥かに上だ。手に持っていたナイフをすかさず投擲する。人数的に不利と
感じた戦刃は、即座にターゲットを桑田に変更しそのまま撤退することを選択したのだ。


「!!」

「桑田君ッ!!」


戦刃にとって最優先なのはとにかく生徒を殺害してKAZUYA達に
精神的ダメージを与えることであり、殺害対象自体は誰でもいい。

初期から精力的に動いていた桑田を殺害出来れば戦果としては十分である。
感情のない鋭い瞳が哀れな獲物を捕捉する。


「うっ……!?」



自分に攻撃が向くことは桑田も予期していた。
たとえ刺し違えても戦刃に打撃を与えられればいいと思っていた。

……だが想いとは裏腹に、思わずナイフを避けて態勢が崩れてしまったのだ。


(あ、倒れる……)


『本能』だった。危険から避けたいという本能。

桑田の決意が弱かった訳ではなく、本当に思わず動いてしまった。
投球という精緻な動きをしていた体は、ほんの少し重心がズレただけであっさり崩れてしまう。

戦刃がこちらに向かってくる姿が瞳に映った。壁に刺さったナイフを回収して
自分にトドメを刺し、場合によっては霧切も殺しながら逃げるのだろう。

――ここで終わりなのか?


(あ、終わった)


桑田は心の中で呟く。

あが、死を目前とした超感覚と言うべきだろうか。
世界が非常にゆっくりとしたスローモーションへと塗り変わっていく。

一コマずつ近づいてくるナイフ。

体勢の崩れた自分の体。

斜めになる視界。

向かってくる戦刃。

獰猛な獣のような目が、今驚きで見開いて――






俺はな――お前をうちのチームのエースだと思っているんだ。






「!!!」


いつかKAZUYAに掛けられた言葉が唐突に脳内でリフレインする。

……あれはいつだったか。

初めて学級裁判とオシオキを経験して、酷い悪夢にうなされた夜のことだった。
もう高校生なのに、男なのに、悪夢が怖くて眠れないと情けない弱音を
吐いた桑田に、KAZUYAは優しい言葉を掛けてくれたのだ。


ドクンと、心臓が一際大きく鳴る。
それは一瞬で早打ちドラムのように加速し、目の奥が脈打っているのを感じた。
頭から体中に広がるように、心臓のリズムが全身の細胞に連鎖していく。
全身の毛穴が浮き出すようだ。ビリビリと雷に打たれたように震え……

そして、それは傷ついた右腕にも――





―俺はエース。


―エース。






超高校級の野球選手




















ヴゥンッ……










―――――――――












超高―――――――











超高校級の――――
















超 高 校 級 の エ ー ス ! ! !












――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



                      超 高 校 級 の エ ー ス


                        桑  田   怜  恩



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「おらああぁあああぁぁあああぁあああぁぁぁッッッ!!!」


――桑田は投げた!!


地面と斜めになり倒れゆく体から無理やり放った投球は、滅茶苦茶だった。

全身の筋肉を力付くで動かしての投球である。いつもの華麗なフォームは歪み、
当然いつも通りのスピードも精度も出ていない。だが桑田は、元よりほとんど練習せずに
己の恵まれた肉体と才能だけで155キロという剛速球を生み出していた。

その桑田がこの閉鎖生活で改心し、空いた時間の多くを練習に費やしていたのである。
今の桑田は通常時なら【時速168キロ】という脅威の球速を弾き出すことが出来る。

体勢が崩れ大幅にスピードが落ちたとはいえ、時速百数十キロの硬球が戦刃に向かった!


(クッ!!)


しかし桑田が天才であるように、戦刃もまた才能に愛された天才であり怪物だった。

桑田が投球を諦めていないことを察知した瞬間から既に回避行動に入っている。
転ぶことも覚悟してわざと大きく体勢を崩した。


「当たれえええああぁぁあああぁああッ!!」

(避けるッッ!!!)


二人の天才の才能が音を立ててぶつかる――!



前のめりになりながら戦刃の上半身は床に向かって落ちていくが、
桑田の腕と手の位置から硬球の射線は見切っている。


(……勝った!)


寸での所で戦刃は硬球の射線からズレた。


(ハ、ハハ! 私の勝ちだよ桑田君!!! このくらい避けられなきゃ軍人なんて務まらな……)

「まだ……終わりじゃねえッ!!」

「ッッ?!!」


――有り得ないことが起きた。

完璧に射線から外れた戦刃を追い掛けるように、ボールが曲がったのだ。


(有り得ない有り得ない有り得ないッ!! なんでッ?!!)


戦刃の理解を超えた凶弾は、彼女の右肩に直撃した。


“デッドボール”


――文字通り死のボールである。



「ぐ、ああああっ!!」


確かに戦刃むくろは恵まれた肉体の持ち主だが、体格的には特別大きくもないし
大神のように筋肉の鎧を着ている訳でもない。尚且つ、関節は人体にとって弱点である。

減速した硬球は骨を砕くまでには至らなかったが、関節は衝撃で外れ骨には幾許か亀裂を作った。


「ど、うして……?!」

「あら、知らなかったの?」


倒れ込んだ桑田を起き上がらせながら霧切が不敵に笑った。


「桑田君は野球選手なのよ?」

「!!」


ハッと戦刃は桑田の右手を見た。血まみれのその指はいまだ特徴的な形で固まっている。
独自の回転をかけてボールを曲げる技術――変化球。桑田といえば剛速球のイメージが強いが、
超高校級の野球選手である桑田はなんと全ての変化球を自在に投げ分けることが出来た。

戦刃に避けられることは桑田も読んでいたのだ。そうなると右に避けるか左に避けるかの二者択一だが、
当然逃げるなら扉の方向だろう。桑田にとって左側、則ちスライダーボールを投げたのだった。

スライダーは通常オフスピードピッチといい、けして早い球種ではない。
だが桑田の投げるスライダーは、速さもキレも通常のものとは比較にならないのだ。


「年貢の納め時のようだな」

「くっ……」



転んだままの戦刃を見下ろしながら、KAZUYAと大和田が囲む。
不用意に近付いたりはしない。何か隠し持っている可能性があるからだ。


「利き手を潰した時点で桑田を戦力外と判断したようだが、残念だったな」


珍しくKAZUYAが勝ち誇った。生徒の活躍が己のことのように嬉しかったのだ。


「桑田はうちのエースなんだ。俺の生徒に足手まといはいない!」

「へへっ……おめー、スポーツ詳しくなさそうだから教えてやるけどさ」


霧切に止血して貰いながら、青ざめた顔で桑田は笑う。


「エースってのは強いだけじゃねーんだ……みんなが辛い時に引っ張って行ったり、
 試合で悪い流れになったらその流れを切り替えるためにいるんだよ……!」


それはあの夜に、KAZUYAが教えてくれたことだった。


「……デビルかっこよかったろ、俺?」

「まだ終わっていない。油断するな」

「もう勝ったつもり? 肩が外れただけなのにさ……」

「動くな、戦刃むくろ。少しでも妙な真似をしたらお前を殺す。俺は生徒達と違って甘くないぞ!」

「…………」



脅しではなかった。

もし戦刃が立ち上がったり外れた肩を治せば、KAZUYAは即座に毒のメスで切り掛かるだろう。
半端に情けをかければ生徒が危険に晒されることをKAZUYAはわかっている。


(こいつさえいなければ付け入る隙はあるのにっ……!!)


戦刃は歯がみした。このままでは間違いなく捕虜になるだろう。
そうなれば、最愛の妹である江ノ島に迷惑がかかる。


――『自決』。


その二文字が戦刃の頭に浮かぶ。


(ゴメン、盾子ちゃん……)


どうせ死ぬならせめてKAZUYAを殺して一矢報いたい所だが、利き手をやられ
武器もない今それは厳しいだろう。そうなると、誰を道連れにすべきか。


(西城と大和田君は無理。大神さんは距離がある。なら……)


戦刃は息を整え、獲物を見据える。


(霧切さんを狙えば確実に桑田君が庇う。そこを突く!)



桑田は右手を怪我しボールを手放した今、他に武器も持っていない。
油断するなと言われていても、左手のみの戦刃が自分を殺せるとは思っていないだろう。
所詮気を付けろといくら口で言われていても、実戦を経験していない者にわかるはずなどないのだ。


(両目を指で潰し、その勢いで延髄を破壊する。私なら出来る……)


思えば―― 一度殺すと決めたとは言え、やはり元同級生達を残酷な方法で殺すのは
戦刃にも多少抵抗があった。少しでも楽な方法で終わらせてやろうという一滴の情が介在した。

だからこそ大神と霧切を仕留め損ね、桑田からは反撃すら許してしまったのである。
戦刃はその甘さを認め、反省し、今一度神経を研ぎ澄ましていく。


(……何だ?)


KAZUYAは無意識に髪が逆立ち、肌が粟立っていく感覚を覚えた。
それが戦刃から発される殺気が原因だと気付くのに時間はかからない。


「ウアアアアアアアアアアアッ!!」

「戦刃アアアアアアアッ!!」


バネで弾かれたように飛び上がる戦刃、同じように前へ飛び込むKAZUYA。

どちらが早いか――


……だが、両者とも予想だにしない出来事がその時起こったのだ。


お待たせしてすみませんでした!

ここまで。

ついに追いついてしまった
アニメ一期しかまともに知らないにわかだけど、[たぬき]クロスのほうで興味惹かれてこっちも読んでます
みんなキャラが立っててすごいなーと思います
これからも更新頑張ってください

全部読み返してしまった…やっぱすっごい面白かった。こんな作品書いてくれてありがとう!

これ覚醒したら他の生徒も肩書き変わるのかな?

>>64>>65
ありがとうございます。体調悪かったりスランプだったりしても
皆さんのコメント読み直して気持ちを奮い立たせて頑張って書いてます

>>67
変わります。一番最初に改心して味方になった桑田がやはり覚醒一番手かなと
もう終盤なので書いちゃうけど、覚醒条件としては親密度一定以上、思い出アイテム、
特殊イベント発生してるかですね。そして、覚醒用のイベントが発生するか

ちなみに霧切さんが覚醒してると撃退は無理でも、無傷で凌いでいたという……


ちょっとどころじゃない間があいちゃったけど、
新年一発目の投下だー!



「クマアアアアアアアー!!」


『??!』


どちらも獲物を捕らえることなく、二人の目線は闖入者へと注がれた。


「えっ?!」

「モノクマだとっ?!!」


扉を壊された保健室の入り口から大量のモノクマが殺到した。


「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」
「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」「クマー!」


一同が唖然としている中、モノクマの波はKAZUYA達を相手にせず戦刃だけを回収して
撤退していく。一瞬の出来事に思わず茫然とするが、KAZUYAはハッとして叫んだ。


「今がチャンスだ!」


生徒達が未だ混乱している中、KAZUYAはあっという間に保健室の監視カメラを破壊する。


「?!」

「先公っ?!」


いつも理性的なKAZUYAの突然の凶行に大和田達は驚いているが、
丁寧に説明する余裕はない。KAZUYAは最低限の指示だけ飛ばした。


「食堂のメンバーをこちらに連れてくる! お前達は篭城の準備をしろ!!」

「えっ?! 篭城??」

「バリケードを作るんだ。ただし俺の机だけは絶対触るんじゃない!! いいな!」

「! わかったわ。行って頂戴!」


霧切の頼もしい返事を背にKAZUYAは駆け出す。


             ・

             ・

             ・


KAZUYAの迅速な決断により、食堂組はスムーズに保健室へと合流することが出来た。

保健室の入り口には霧切の指示の元に大和田が並べた空きベッドや
空になった薬品棚が置かれており、生徒達が中に入ると入り口は封鎖された。


霧切「使うかもしれない薬品だけ急いで抜いたわ。ドクターが綺麗に
    管理してくれていたおかげで時間がかからなくて済んだわね」

K「いい判断だ」


一息つく間もなく、部屋についた朝日奈が叫ぶ。


朝日奈「さくらちゃん!!」


大神が目を覚ましたことに気付くと、朝日奈は涙ぐみながら駆け寄った。


朝日奈「目を覚ましたんだね! 良かった……本当に良かったよ……」

大神「…………」


大神はチラリと目線を朝日奈にやるが、すぐに俯いて視線を落とす。


朝日奈「……さくらちゃん?」

K「朝日奈、大神は……」


戦刃と大神のやり取りは見ていないが、大神の様子がどこかおかしいことはKAZUYAも気付いていた。
普段の大神なら仲間を傷つけられて黙っていることなど有り得ないからだ。


霧切「朝日奈さん、大神さんは疲れているのよ。少し前、ここではとてもショックなことがあったの」


霧切は全てを知っているが、余計なことは言わずただ目線で壁の血痕と桑田の傷を示した。


朝日奈「あっ、桑田?! 大丈夫なの?! さくらちゃんも、怖かったんだね……」

霧切「怪我もあるし、今はそっとしてあげた方がいいと思うわ」

朝日奈「……うん。騒いでゴメン」

葉隠「まあ、その……生きてて良かったじゃねえか」


今度は、負傷した桑田に生徒達の注意が集まる。


不二咲「桑田君、怪我したのぉ?!」

石丸「大丈夫かね?!」

舞園「く、桑田君! 手が……!」


桑田「ハハ……神経は無事だから心配すんなって」

苗木「とにかく無事で良かった……」

十神「呑気に会話をしている暇はないぞ。そうだろう、西城?」

K「ああ、事は一刻を争う! お前達の協力が必要だ!」


床に乱雑に置かれた薬品類を避けながら生徒達は奥に進み、KAZUYAを囲むように向き直った。


K「まず、見ての通り保健室から食堂までの監視カメラとモノクマ搬入口は全て俺が破壊した」

大和田「モノクマ搬入口だぁ?」

K「奴の出入り口だ」


KAZUYAは話しながら、机の引き出しを開き学園の見取り図を取り出す。
そこには今までにKAZUYAと霧切が調べあげた情報が事細かに書き込まれていた。

KAZUYAは日頃からカルテや日記など物を書く作業が多かったが、
それはこれらの作業を隠すカモフラージュの意味もあったのである。


セレス「いきなり椅子を投げたり壁を蹴り壊した時は何事かと思いましたわ」

ジェノ「アタシも協力したわよん!」

山田「そ、それにしても大丈夫なんですかこんなことをして……」

葉隠「カメラを壊すのって校則違反だろ? ヤベエんじゃ……」

K「もうそんなことにこだわっている段階ではないぞ! 俺達はコロシアイを終え、
  敵は実力行使に出た。もはやこんな校則で俺達を縛ることは出来ん!」

K「既に黒幕と俺達の戦いは始まっている! わかるな?」

「…………」



ゴクリと生徒達が唾を飲み込む。もはや自分達は後戻り出来ない次のステージへと
来てしまったことを嫌でも自覚したのだ。


十神「フン、望む所だ。むしろ遅すぎたくらいだな」

K「だが勘違いするな! あくまで脱出を最優先事項にしろ。万が一の時は
  俺が黒幕と決着をつけるが、その場合お前達は先に逃げるんだ」

石丸「そんな! ここまで来て引けませんよ!」

大和田「水くせえぞ、先公!」

K「馬鹿者! お前達だけだったら連れて行ってもいいが、怪我人と非戦闘員は誰が守る?」

大和田「あっ……」

K「とにかく時間がない。俺の言う通りにしてくれ! 頼む……!!」

石丸「ク……了解しました」

苗木「僕達はどうすればいいですか?」

K「まずは敵の動きを封じるために一階に残っている全ての搬入口とカメラを破壊する。
  俺が寄宿舎を回るから翔は学園側を頼む。モノクマが来たら破壊して構わん。出来るな?」

ジェノ「お安いご用よん! この殺人鬼にまっかせなさーい!」

K「保健室から食堂までは既に破壊してあるから安全だ。苗木は教室の前の廊下に待機して
  異常があったら大声で俺を呼び戻して欲しい。残りは保健室を死守!」

苗木「わかりました!」

舞園「気をつけてください!」

十神「ここは俺が守ってやる。行け!」

ジェノ「ガッテン!」



……そして、さして時間もかからずに三人は戻ってきた。


朝日奈「大丈夫だった?!」

K「……妨害されるかと思ったが、何もなかったな」

セレス「妙ですわね」

葉隠「きっと仲間が大怪我して慌てふためいてんだろうなぁ」

山田「そういうタイプではないと思いますが……」

十神「フン、楽しんでいるのだろう。俺達とのゲームを」

霧切「そうね。今までの行動を見ていたら、わざと泳がせているように見えるわ」

ジェノ「あ、ヤバ。くしゃみ出そう。ふ、ふぇあっくしょん!」

腐川「な、なに今度は?! 保健室? 解決したの?! 包丁は?!」

朝日奈「……ごめん。もう和解したんだ」

十神「寝ぼけている暇はないぞ。既に俺達は次のステージに来ている」

腐川「は、はぁ……?」

K「ちょうどいい。一度情報共有を兼ねて整理しよう。不二咲、アルターエゴは?」

不二咲「準備出来てます」

アルターエゴ『いよいよなんだね……』


食堂から撤退する時にKAZUYAはアルターエゴを保護していた。
全員が揃ったことを確認し、今まで隠していたことも含めKAZUYAは話し始める。

――ただし、失われた二年間についてはやはり言えなかった。
混乱した生徒達が焦って早まったことをしないか心配だったのだ。


苗木「黒幕は……本物の江ノ島盾子?!」

山田「超高校級の絶望姉妹……?!」

朝日奈「許せないよ。こんなことするなんて!」

セレス「やはり、外が異常事態な可能性は高いのですね……」

葉隠「さ、流石に人類が滅亡してるってことはないよな? な?」

十神「ここの映像は恐らく誰かに放送されている。人類が滅亡している可能性は低いはずだ」

霧切「カムクライズル……初代学園長の名前ね」

石丸「その人物が江ノ島盾子に手を貸す可能性は本当にないのですか?」

K「わからん。ないと思いたいが所詮向こう側の人間だ。信用はするな」

舞園「これからは江ノ島さんと戦刃さんを倒すように動く、ということですか?」

K「可能ならな。だが、俺達の勝利条件は敵の打破ではなくあくまでここからの脱出だ。
  奴等の手のうちから逃れることが出来たらこちらの勝ちと言っていい」

K「俺が本物の江ノ島と会ったのは短い時間だったが、奴は異常だった……
  とても高校生とは思えん何かがある。お前達が対峙せずに済むならそう済ませたい」

腐川「本当に二人だけなの? どうせ、自分が危なくなったら仲間を呼ぶに決まってるわよ……!」

K「俺もその可能性を危惧している。倒すのではなく逃げろと言った理由がそれだ。
  仲間が来たら一巻の終わりだからな。俺達に長期戦の選択肢はない」

不二咲「それまでに全部終わらせなきゃいけないんだねぇ……」

「…………」

山田「戦刃むくろの負傷はどの程度なんです?」

K「肩が外れていた。恐らく骨折もしているだろうな」


葉隠「じゃ、じゃあもう襲っては来ないんだな?」

不二咲「そうなんだね。良かったぁ」


だが、直接戦刃と相対し命のやり取りをした桑田にはそうは思えなかった。

野生の獣じみた殺気、使命に対する異常な執着、豹のような身のこなし……
脳裏に浮かべるだけで、額に脂汗がにじんでくる。


桑田「……いや、あいつバケモンだわ。あの程度ならまた来るかもしれねー。いや、絶対来る」

大和田「骨折っつっても、骨が真っ二つになったんじゃなくてせいぜいヒビだろ?
     だったら、肩ハメ直して痛み止め打てばなんとか動かせるだろ」

K「そもそも次は銃火器を持ち出してくる可能性もある。その前に終わらせなければ……」

葉隠「ヒィィ、どうすればいいんだべ?!」

朝日奈「それをこれから話すんでしょ!」

山田「しかし、一体なにをすればいいのやら……」

K「監視カメラを破壊されたことによって敵はこちらを見失ったはずだ。向こうが
  こちらの様子を知るには直接モノクマを送ってそのカメラで情報を得るしかない」

K「だが、先手を打って食堂と廊下のモノクマ搬入口は破壊した。体育館と
  赤い扉は簡易だが入り口を封鎖してある。ヤツがここに来るには、残り二ヶ所だ」

石丸「二ヶ所? 学園の階段だけでは?」

苗木「もしかして、寄宿舎にあった階段かな?」

桑田「そういえば、そんなのあったな」

舞園「あの奥には何があるんでしょうか?」

不二咲「もしかして、あっちに脱出口があるんじゃない?」


K「その可能性は低いだろう。はっきり思い出せてはいないが学園同様上に向かうだけだったはず。
  三階くらいなら飛び降りても問題ないが、それ以上だとお前達は厳しい」

山田「先生は平気なんですね……」

セレス「ではどうしますか? 篭城戦は篭城する側が不利と決まっていますわ」

十神「何せ奴等の手の内だからな……時間稼ぎをしても撤退は望めないぞ」

霧切「やるべきことは決まっているわ」

苗木「霧切さん、何か考えが?」

霧切「今こそアルターエゴを使う時よ。二階の男子トイレの隠し部屋。
    そこにはネット回線とインターネットケーブルがあったわ」

十神「何?! 何故それを早く言わん! 今すぐそこからクラッキングを……」

K「……それは出来ん」

霧切「どうして! あなたはいつもまだ早いと言ってきたけど、一体いつ使うの?!」


珍しく霧切が声を荒げる。


腐川「ま、待ちなさいよ……先生が反対するからには何か理由があるんでしょ」

石丸「そうだぞ。怒るのは理由を聞いてからでも遅くはない」

K「当然理由がある。俺だって出来ることならそうしたい所だ」

K「だが出来ない……」


KAZUYAは電子教員手帳を出す。名前が違うだけで機能は生徒達の電子生徒手帳と全く同じだ。


K「これを見て欲しい」

苗木「学園の見取り図ですね」

不二咲「何かおかしい所でもあるんですか?」

K「よく見ろ」

十神「ム……?」

葉隠「なにかわかったんか?」

十神「何故隠し部屋が見取り図に載っている」

大和田「ハァ?」

桑田「なに言ってんの、おめー?」

不二咲「あれ? 言われてみれば……」

朝日奈「えっと、私は男子トイレに入ったことないからよくわからないんだけど」

腐川「普通はそうでしょ……」

苗木(霧切さんは入ってるんだよな、それが……)

セレス「この部分のことでは?」

朝日奈「えーっと……あ、本当だ! 気付かなかったけど、なんか不自然な空間がある」

山田「そりゃ部屋があるんだから見取り図にも描いてあるでしょう」

石丸「うむ。この見取り図が正確なことはよくわかったな!」

大和田「で、なにがおかしいんだ?」

苗木「いや、十神君の言う通りだ……!」

舞園「隠し部屋って隠してある部屋のことですよね? 地図に記載してあったら
    それは隠し部屋にはならないのではないでしょうか?」


桑田「あー、確かにな」

葉隠「バレバレだべ」

K「で、この地図を用意したのは誰だ?」

「!」

不二咲「この電子生徒手帳はモノクマが用意したもの……!」

セレス「まさか、罠……?!」

K「部屋には本棚があった。埃の跡からして、中に何かしらの資料が入っていたのは
  間違いないが、全て持ち去られている。黒幕の手によるとしか考えられん」

K「霧切、お前の推理力なら当然わかっているだろう? あの場に行く危険性が」

霧切「…………」

K「そして理由はもう一つある。隠し部屋の位置だ」

K「狭い男子トイレの更に一番奥……こんな所で敵の襲撃を受けたが最後、俺達は袋の鼠だ」


「…………」


山田「ぜ、全員でまとまって行くのはどうでしょうか?
    それで今みたいに篭城すればいいんじゃないですか?」

大和田「そうだ! 戦刃が来る前に、俺と先公で守りながら行けば……」


K「移動中に襲われたらまだ反撃出来る。だが男子トイレにぎゅうぎゅうに
  詰まっている状態を襲撃されたらどう迎撃するんだ?」

K「あそこは狭い。小柄なモノクマの方が有利だ」

大和田「言われてみりゃあ、そうか……」

K「何より一番最悪なのは待ち伏せだ。外と中から挟み撃ちになればどうしようもない」

桑田「じゃあ……手をこまねいて見てるしかねーってことか?」

石丸「そんな! ここまで来て……!」

K「怪我人が何人もいる。無理は出来ない」

腐川「あ、あんまりだわ! 寄宿舎は行き止まり、隠し部屋には行けないなんて!」

十神「フン……江ノ島め。こうなることを見透かして手を出さなかったな……!」

セレス「打つ手なしですか……」

大和田「そ、そうだ! なら、いっそのこと打って出るってのはどうだ?」

苗木「どういうこと?」

大和田「戦刃は流石にまだ動けねえだろ。だったら江ノ島一人制圧しちまえば俺達の勝ちだ」

十神「成程。攻撃は最大の防御という。単純だが確実性のある手段だな」


朝日奈「いいね! あれこれ悩んでるよりよっぽどいいよ! みんなで力を合わせてやっつけちゃおう!」

葉隠「おう! 殴り込みだ! 先制攻撃だべ!」

石丸「行こう! ……で、江ノ島盾子はどこにいるのだ?」

「あ……」

セレス「呆れました。敵の居場所もわからずに攻撃に行くと?」

朝日奈「でも、KAZUYA先生は当然知ってるんだよね? 会ったことあるんだし」

K「…………」


KAZUYAは沈黙した。あからさまに怪しい場所はあるが、確証がない。

……つまり、彼等はこの段階になっても未だに敵の居城すらわかっていなかったのだ。


ここまで! 昨年はお世話になりました。

今年もよろしくお願いします!今年中には正規エンディングの一つにはたどり着けるかも?


あ、そうそう。遥か昔に書くと言っていたロンパ×笑う犬の
アヤカ追加verを書いて投下しといたので、こちらもよろしく!

【笑う犬】アヤカ「なんで私だけ出れなかったのか納得できない」【ダンガンロンパ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546269303/)

気になったんですけど残姉の負傷度って固定なんですか?
例えば桑田の能力がもっと高かったら右肩完全粉砕で大和田とかでもタイマンで倒せるレベルまで弱体化するとか
逆に桑田の能力が今より低かったらこのイベントで重症者が出るとかっていう事はないんですかね?


山田「え? 知らない……? いやいやいや、そんなはずは……」

舞園「本物の江ノ島さんと会ったんですよね?」

K「俺が奴と会ったのは五階の教室だ。奴がどこに潜伏しているかまではわからん」

苗木「そんな……」

桑田「勘弁してくれよ……」

霧切「潜伏場所はわからないけれど、その可能性の高い場所はわかるわ」

大和田「おっ、マジか!」

十神「ちょっと考えればわかるだろう」

石丸「十神君もわかっているのかね?!」

葉隠「もったいつけずに言えって!」

霧切「この建物は五階で、現在入れない場所は二ヶ所」

不二咲「学園長室と情報処理室がまだ開いてないね」

腐川「わ、わかったわ! 学園長室でしょ? モノクマはこの学園の学園長を名乗っているものね!」

十神「惜しいな。お前にしては冴えているがまだ足りない」

腐川「お、惜しい?! 白夜様に褒めてもらえた?!」

十神「確かに学園長室は怪しい。だがその気になれば簡単に破壊出来る貧弱な扉だ。
    そんな所に潜伏して、もし俺達が攻めてきたらどうする?」

大和田「敵は一人だ。あっという間に制圧出来ちまうな」

霧切「不自然にガードの固い場所があるでしょう?」

セレス「情報処理室ですね」


十神「見た所あの扉の鍵は特別製だ。扉自体も頑丈。黒幕が潜伏するにはお誂え向きだな?」

朝日奈「じゃ、じゃあ情報処理室に?!」

セレス「その可能性は高いでしょうね。今だから言いますが、実はわたくし……
     あの部屋の中に入ったことがあります」

「?!」

K「何っ?!」

セレス「はい。モノクマさんと内緒の話をした時、特別に入れてもらいまして」

十神「何故もっと早く言わん!」

山田「そうですぞ! 何で黙ってたんです!」

セレス「黙っていたといいますか、言うタイミングがなかったのですわ。仮に黒幕が
     潜伏していたとして、皆さん戦いに行く流れではなかったでしょう?」

石丸「ま、まあそれどころではなかったのは確かだが……!」

苗木「だからって普通はもっと早く言うでしょ!」

K「本当に食えん奴だな、お前は……」

セレス「フフ、褒め言葉として受け取っておきますわ。恐らく、大神さんも入ったことがあるはず」

朝日奈「さくらちゃん……?」

大神「そうだな。何度も入った。……我は内通者であったが故に」

霧切「中には何があったの? 本物の江ノ島さんには会っていないのね?」

セレス「ええ。あくまでモノクマとしての姿でした。……紙とペンはありますか?」


セレスはその時のことを思い出していた。



『まま、座って座って。お茶でもどうぞ。君はロイヤルミルクティーしか飲まないから
 特別にボクが用意したよ。感謝してよね!』

『…………』ズズッ


出された茶を楽しむ振りをして、セレスは注意深く室内を観察していた。
受け取った紙に、その時の記憶を基にして情報処理室の内容を描いて行く。


セレス「広さはさほどありませんわね。保健室よりも狭いですわ。
     壁の一面にモニターがあり、監視カメラの映像が映っていました」

十神「……フム。そこから学園を監視していたのか。黒幕の潜伏場所で間違いないようだな」

霧切「モニターはいくつあったの?」

セレス「正確な数は覚えていません。20、いえ30くらいはあったはずです」

霧切「画面はどうだったか覚えてる? 同じ場所を固定で映してるとか、順番に切り替わっているとか」

セレス「基本的にわたくし達がいる場所とその周辺を映していましたね。手動では大変でしょうし、
     カメラにセンサーでも付いていてオートで映しているのではないでしょうか?」

K「中央のこれはなんだ?」

セレス「それはよくわかりません。モノクマのイラストが描かれた壁……いえ、扉ですか?」

霧切「その奥には行っていないのね?」

セレス「ええ。あくまで情報処理室の中のみです」

舞園「大神さんもですか?」

大神「……ウム」

K「モノクマを操作するための装置は何かあったか?」


セレス「そのようなものは見当たりませんでした。違う場所で操作しているのでしょうね」

不二咲「怪しいのはモノクマの扉かなぁ?」

十神「そこか、学園長室のどちらかだろうな。正確には寄宿舎の上も見てはいないが、
    監視場所が情報処理室である以上その付近でなければおかしい」

苗木「寄宿舎に潜伏してたら、情報処理室に移動する時僕達に見つかるもんね……」

十神「上の階の監視カメラは破壊していない。奴は今頃、情報処理室で
    目を皿のようにして俺達の動向を見ているのだろう」

大和田「場所はわかった。後は殴り込むだけだな」

桑田「じゃあ早速行くか? 俺はちょっとムリそーだけど……」

K「……俺は反対だ」

葉隠「またか! さっきから反対しかしてねえじゃねえか!」

苗木「先生……慎重なのもわかるけど……」

K「確かに俺は慎重過ぎるのかもしれん。だが、情報処理室が敵の本丸なら
  当然向こうも相応の準備をしていると思うのが普通じゃないか?」

霧切「例えば?」

K「二階の更衣室の扉には機関銃が付いていたな? あんなどうでもいい場所に
  設置出来るということは、簡単に調達出来るということだ。もし江ノ島が
  情報処理室の中に同じように銃器を用意していたらどうする?」

「……えっ」


KAZUYAの質問は生徒達にとって予想外だったらしく、思わず固まった。


朝日奈「倉庫にヘルメットがあったよね? それで防げないかな?」

大和田「俺達ゾクがよくやるのは分厚い雑誌を体に巻き付けて防具代わりにすることだな」

十神「馬鹿を言うな……あれはミニガンだぞ……本来は武装ヘリに取り付けるような代物だ……」

K「通常の拳銃でさえ十分危険なのにそれを上回る殺傷力の機関銃……
  もしそんなものが置いてあったら、束で行けばどうにかなるほど甘くない」

山田「どうにか……なりませんかね?」

K「銃弾が避けてくれるのは映画やドラマの中だけだ。残念だが……」

山田「そ、そんなぁ……」

舞園「では、どうすればいいんですか?」

不二咲「やっぱり、アルターエゴで内部から制圧するしかないんじゃないかな……」

石丸「それが最善だと思うが……」

舞園「でも、待ち伏せの可能性もあるんですよね……」

朝日奈「で、でも百パーセントじゃないよね?! 意外と、行ってみたら何もないかもしれないし」

葉隠「よ、よし! ここは一つ俺が占ってみるか!」

腐川「やめなさいよ……良い結果が出ても悪い結果が出ても縁起悪いじゃない!」

葉隠「あんまりだべ!」

霧切「それで……あなたはどうしたいの、ドクター?」

十神「そうだな。反対するばかりで対案がない。何か意見はないのか?」


全員の視線を受けながら、KAZUYAは俯いた。


K「実を言えば……ない」

苗木「な、ないってそんな?!」

桑田「ウソだろ……せんせーならいつもビビッとナイスな案出してるじゃんか!」

K「今回に限っては本当にないんだ……どの選択肢もリスクなしには選べん。
  だが、ここで篭城していれば事態が好転する訳ではないこともわかっている……」

K「……だから、もしお前達がどうしてもアルターエゴを使うというのなら、
  もう俺は止めん。ただしその場合は俺一人で行く」

石丸「な、何故ですか?!」

桑田「ハァァァ?! いまさらそれはねーだろ!」

山田「全員で行けばいいじゃないですか!」

K「さっきも言った通り、男子トイレの中は狭い。お前達がいれば足手まといだ。それに、
  もし待ち伏せされていたら中に入った人間は生きて戻れるかわからない。文字通り特攻となる」

大和田「だったら今まで散々迷惑かけた俺に行かせろや! チキンレースは今までだって
     やってきたんだ! 今こそ俺が行くべきだろ! 医者がいなくなったら困るだろうが!!」

K「気持ちは有り難い。だが……」

大和田「いつまでもガキ扱いしてんじゃねえ!! この土壇場で俺達は対等じゃねえのかよ!
     医者とゾク、どっちが生き残るべきかなんてそんなの小学生でもわかる。ケガ人もいるしよ!」

石丸「兄弟! そんな、人の命に優劣なんて……!」

大和田「黙っててくれ! 先公がいなきゃ誰が治療すんだよ!」

石丸「それは……」

K「……大和田よ」



KAZUYAは目を閉じて呟く。


K「普段の俺ならお前の心意気を買った所だ。みんなのために危ない橋を渡って貰ったかもしれん」

大和田「じゃあ、今はなにがダメだってんだ……!」

K「残念だが、お前は俺より弱い」

大和田「!!」

K「だからより成功率の高い俺が行くと言っているのだ。俺だってみすみす死にに行く訳じゃないさ」

大和田「…………」

K「卑怯かもしれないが、これからどうするかはみんなで決めてくれ。俺はお前達の意見に従う」

苗木「そ、そんな……」

舞園「死ぬかもしれない場所に先生を送るかってことですよね……?!」

不二咲「い、嫌だよ……他に何か方法は……」

朝日奈「もし情報処理室の中に銃があったとしても、みんなでなんとか出来ないかな?!」

山田「ね、熱膨張で弾が出なくなったりとか……」

十神「馬鹿か。近付く前に全員蜂の巣にされるだけだぞ……」

桑田「オートはジャムりやすいって漫画で読んだことあるけど……」

腐川「そうなる前にあたし達はミンチでしょうね……」

十神「小型のハンドガン程度ならともかく、ミニガンやマシンガンは砂漠やジャングルで
    使うことも想定されて作られている。ちょっとやそっとで壊れるものか」

葉隠「もういっそのこと白旗あげてみんなで降参しちまうか?!
    土下座して命ごいしたら命だけは助けてくれるかもしれねえ!」


山田「悔しいけど……それもありっちゃありですよね」

霧切「こちらの話を聞いてくれるかしら? 今までに得た情報から鑑みるに、
    江ノ島盾子は異常者だわ。交渉が失敗したらその時点で終わりよ」

不二咲「助けるって言って今より酷いことをさせられたらどうしよう……例えば、
     この中の何人かを生け贄にすれば助けてくれる、とか……」

腐川「そ、そうよ! あいつがあたし達に強要したことって要はそれでしょ?!
    無事に解放なんて有り得ないわ! どうせ条件を変えてまたコロシアイをさせるわよ!」

苗木「それは、確かにありそう……」

舞園「江ノ島さんに直接会ったことはありませんけど、今までのモノクマの
    発言を見ていたら十分有り得ると思います……」

山田「リアルバトルロワイアル……最後の一人になるまでコロシアイ……」

桑田「冗談じゃねえ……なんのためにここまで頑張ったんだよ……」

石丸「白旗は最後の手段にしよう! まだ何か手があるはずだ!」

葉隠「そう言われても……何もないから困ってんだって!」

K「だから俺達は選ぶしかない。男子トイレの隠し部屋、情報処理室――そして学園長室だ」

苗木「え? 学園長室?」


予想外の言葉に生徒達はさざめく。


十神「学園長室か……確かに普段なら江ノ島が潜伏していた可能性はある。だが、
    俺達が討って出る可能性もあるのにモニターから目を離しているとは思えんな」

霧切「江ノ島盾子は監視カメラでいつ私達が出てくるか今か今かと待っているはずよ。
    可能性が高いのは情報処理室だと思うわ」


K「そうだ。確かに江ノ島がいる確率は限りなく低い……だからそれ以外の物を探す」

苗木「それ以外って?」

K「俺にもわからん。何もないかもしれん。奴の性格を考えたら
  もぬけの殻になっていて苦労した俺達を嘲笑う可能性の方が遥かに高い」

K「ただ、江ノ島は常に卓越した頭脳で俺達の行動を読み、その上を行ってきた。
  今回も俺達の行動を読んで隠し部屋に向かうと思っているはずだ」

十神「だからこそあえて裏をかく。無駄に見える選択肢を選ぶ、と?」

K「もしかしたら……そこに油断があるかもしれない。何か、一つでも
  小さな手がかりがあれば……今のこの状況をひっくり返せるかもしれん」

K「……という、俺の希望的な観測だ。根拠は何もない」

「…………」


誰かがため息をついた音が聞こえた。


K「結局の所、強行軍になるのは隠し部屋と変わらん。どうするかはお前達で決めてくれ」

霧切「待ち伏せの可能性が低いだけで、移動距離を考えたらリスクは変わらない……」

山田「そもそも二階より上はトラップだらけで足を踏み入れた途端にドカン!はないですよね……」

K「トラップはあるかもしれないが、大規模なものはないだろう。奴は俺達に絶望を
  味合わせるのが目的だ。一気に皆殺しにはせず、一人ずつ殺していくつもりのはず」

K「そうでなければ戦刃に銃火器を渡してさっさと殲滅しているはずだからな」

葉隠「本当にえげつねえヤツ等だべ……」


桑田「で、どうするんだ?」

舞園「二階は……確かに危ないかもしれませんね。現在最有力な手段ですし。学園のシステムを
    掌握されたら向こうも困りますから、絶対に何か手を打っていると思います」

朝日奈「そういう意味だと情報処理室も制圧されたら不味いし、何もないってことはないよね……」

腐川「で、でも学園長室はムダ足になる可能性が高いのよね? 江ノ島の警戒は薄いかもしれないけど」

セレス「無駄足になるというか、現状無駄足そのものですわね」

石丸「難しい決断だ……どれがいいともいえない……」

不二咲「四階は距離もあるしね。エレベーターとかですぐに移動出来たらいいんだけど……」

苗木「生き残れそうなのはどれですか?」

K「学園長室だろうな……さっき大量のモノクマが現れたが、普段と動きが
  違っていた。恐らく江ノ島が直接操っていないものは簡易AIなのだろう」

大和田「さっきは驚いて何も出来なかったけどよ、あいつらそんなに強くなさそうだったな。
     数が多いと厄介だが、逃げながら戦えばある程度は持ちこたえられそうだぜ」

十神「焦って戦力を消費するよりは情報処理室の制圧法を考える方がよほど現実的だと思うがな。
    敵の居場所はわかっているんだ。重火器を突破する方法さえあれば勝機はある」

山田「まあ、その方法が浮かばないから悩んでるんですけどね」

「…………」


議論は再び振り出しにもどってしまった。


ここまで。長く続いた会議回ですがそろそろ話動きます。


不味い不味い……すっかり間が空いてしまった。

月曜だけど投下


霧切「とりあえずこちらの手札を整理しましょう。全員で考えれば何か策があるかもしれない」

大和田「武器とかか? 木刀ならたくさんあるぜ」

朝日奈「モノクマって見た目はぬいぐるみだけど中は機械なんだよね? 折れない?」

石丸「叩きつけたらまず折れるだろうな。だから攻撃する時は負荷の少ない突き技を推奨するぞ!」

霧切「恐らく目の部分はカメラ。目を貫けば動きも止まるかもしれない」

桑田「俺の部屋と体育倉庫に金属バットがある。本当はこんな使い方したくねーけど、
    今はそんなこと言ってる場合じゃないしな……」

苗木「バットなら女子も扱えそうだし、木刀よりは使いやすいかもしれないね」

十神「もっと攻撃力のある物はないのか? 出来れば刃物がいい」

不二咲「刃物は、包丁と先生のメスしかないんじゃないかなぁ」

舞園「あとは腐川さんのハサミくらいですね」

K「……いや、ある」


KAZUYAは渋い顔をしながら大神のベッドの下に隠してあった大きな段ボールを取り出した。
中身が大きいのか、二つの段ボールをくっつけて境界部分がくり抜かれている。

……そして、その箱は厳重に封が施してあった。


苗木「なんですか、それ?」

桑田「あ! それずっと前から置いてあったよな。地味に気になってた」

朝日奈「ゴミじゃないの? ガムテープでグルグルだし」

K「…………」



無言のまま、KAZUYAはガムテープを引っぺがし、封印を解く。


霧切「……これは」

K「武器だ。好きに使え」


ジャーン!

段ボールを開くと、そこには古今東西の武器が納められていた!


十神「な、なに?!」

セレス「まあ……」

山田「あなたテロリストですか?!」

石丸「い、一体どこからこれだけの武器を……?!」

K「……お前達。この学園に来たばかりの頃、俺がどんな扱いだったか覚えているか?」

桑田「えーっと? どんなだっけ?」

朝日奈「頼りになる先生だったよね?」

葉隠「おう! そうだな!」

腐川「なに言ってるのよ。思いっきり不審者扱いしてたじゃない! ……あたしもだけど」

石丸「ム? そうだったか?」

舞園「苗木君と石丸君くらいではないでしょうか。特に距離を取っていなかったのは」

霧切「孤立していたわね」

不二咲「あの時は怖がってごめんなさい……」

山田「そりゃまあ、学校に身元不詳の筋肉モリモリマッチョマンがいたら警戒しますよフツー」


朝日奈「女の子だったら仲良くしたかもしれないけど、そもそも学生じゃないしね。あはは」

K「ゴホン。とにかく、そんな状況下で俺がこんなものを持っていたらお前達はどう思う?」

大和田「そりゃ、スパイだと思うな」

葉隠「お、鬼に金棒……生きた心地がしないべ」

苗木「流石に話しかけなかったかも……」

K「それが狙いだろうな。お前達の間でガチャガチャの景品交換が流行っていたから、
  俺も会話のキッカケにと思ったのだが……物の見事にこんなものしか出なかった」

K「皮肉にも……隠し場所に困った凶器が今は役に立つ訳だが」

石丸「そういえばそんなことがあった気がする……」


たまたまその現場を目撃していた石丸が首を傾げながら記憶を思い起こす。


セレス「しかし随分たくさんありますわね。ガラクタしか出ないなら
     もっと早くやめれば良かったのでは?」

K「それはだな、その……当時は俺も少し焦っていたし多少意地になっていたというか……」

苗木「KAZUYA先生にもそんな所があるんだ……」

舞園「人間ですからね……」

K「塞翁が馬とは言ったものだ。巡り巡ってこんな形で役に立つとは……」

十神「江ノ島もまさか過去の嫌がらせが原因で足を掬われるとは思わないだろうな」

K「更にこれだけではない」


KAZUYAは鍵をかけた机の引き出しから、ダンボールを取り出した。
その中には様々な薬剤が納められており、紙で梱包された物体を取り出す。


不二咲「箱?」

苗木「箱だね。何が入ってるんですか?」

K「爆薬だ」



「…………は?」



K「これがダイナマイト、こっちは俗に言うTNT爆弾だ」



「……………………」



「ハァァァッ?!」

「エエエエエエエッ?!」

桑田「ななな、なんで爆弾があるんだよっ?!」

山田「どこから調達したんですか?!」

K「俺は薬品のプロだと言ったはずだ。ダイナマイトの原料であるニトログリセリンは
  狭心症の薬としても使われているからな。子供の頃、真っ先に調合を教わる」


ニトログリセリン:ダイナマイトの原料として有名だが、血管拡張効果があるため狭心症の薬として
           使える。経口摂取しても効果はなく経皮や舌下投与するのが一般的。
           通常、医薬品は爆発しないように添加剤を入れ加工処置をされている。

ダイナマイト:原材料のニトログリセリンは単体では安定性がなく少しの衝撃で爆発するため、
        別の物質と混ぜて爆発感度を下げている。初期は珪藻土やおが屑を使っていたが、
        最近ではニトロセルロース等を混ぜてゲル状にすることが多い。


K「化学室の薬品と、そこのガチャガチャから出た劇薬を使って調合に調合を重ねた。
  ……まったく、大変だったぞ。監視の目を盗んで調合するのは」

石丸「ばばば、爆弾なんて危険です! 暴発したらどうするんですか?!」

朝日奈「そうだよ! 危ないよ!!」

K「ニトログリセリンにニトロセルロースを混ぜゲル化させて感度を下げて安定させているから問題ない。
  特に雷管を作るのに苦労したよ。倉庫に花火があったからそちらの火薬を流用させてもらった」


雷管:爆薬の種類にもよるが、爆発感度を下げた火薬は少しの熱では爆発せずに激しく燃焼する
    だけのことが多い。そのため、誘爆用の別の薬品で発火装置を作る。それが雷管である。
    爆弾は雷管が爆発する熱エネルギーで誘爆して爆発させるのだ。


K「原材料不足もあるが、一部は植物庭園の小屋のおが屑も材料として使っている。
  こちらは威力が低いからお前達でも十分扱えるだろう」

十神「ま、待て……薬品は調合で何とかなるのはわかるが……雷管の作り方を何故知っている?」

K「それも子供の時に親父からな……爆薬なんてそうそう使う機会はないだろうが、
  俺の一族は紛争地にもよく行く。いざという時のためだ」

K「C-4が作れたら良かったんだが、何分電気雷管を作れそうになくてな……
  流石に実験で爆破したら黒幕にバレるだろうから諦めたんだ」


C-4:プラスチック爆弾の一種。粘土のように自由に変形することが特徴で爆発感度も低く扱いやすい。
   ただし、爆発感度が低すぎるため電気雷管という特殊な雷管が必要である。非常に高威力。


(なんなんだろう、この人……)

(もはやテロリストでは……)

(出来ることが多すぎて医者が副業みたいになってる……)


霧切「過酸化アセトンは作れないかしら?」


過酸化アセトン:魔王の母とも呼ばれる高威力の爆薬。容易に作れることが特徴でテロ等で用いられる。
         ただし、爆発しやすいのでダイナマイトなどに比べると扱いが難しい。


K「少し作って雷管に使ってみた。ただ、威力を出すにはそれなりの量を密封する必要がある。
  扱いやすさではダイナマイトの方が上だと思って大量には作らなかった」

葉隠「ここに本物のテロリストがいるべ……!」

石丸「もはや言葉が出ないぞ……」

不二咲「今までもこういうことがあったけど、これが一番の衝撃かも……」

苗木「うん……なんというか、言葉が出ない……」

K「必要があればここから出た後に作り方を教えてやる。ただし、火薬は大変危険だ。
  一歩間違えれば簡単に指が吹き飛ぶ。安易に手を出さないことだな」

(やらないよ……)


※本当に危険です。少しの火薬で指吹っ飛びます。作り方とか調べないように!※


朝日奈「ねえ! それで玄関のドア吹き飛ばせないかな?!」

腐川「そ、そうよ! 壁でも窓でもどこでもいいから……!」

K「残念ながらそこまでの火力はないだろう。よく工事でやるように壁に穴を空けて火薬を詰めれば
  発破することも可能かもしれないが、何分テストしてないからな……」

K「威力も壁の厚さも未知数だ。失敗した場合貴重な爆薬を無駄にすることになる」

セレス「作業中に襲われる可能性もありますわね。黒幕さえ排除出来れば、
     じっくりテストして壁を破壊することも可能ですか?」


K「そうだな。元の薬品はまだあるから、調合すればまた作ること自体は可能だ。
  ただ、先程も言った通り江ノ島と決着を着けるのはなるべく避けたい」

霧切「彼女に何かあれば武装した部下が様子を見に来る可能性がある……」

K「そうなれば爆薬なんぞ大して役に立たん。ゲームオーバーだ」

十神「壁が一つとは限らんしな。苦労して破壊したらその先にもまた壁……
    などということになったらもはや喜劇にもならんぞ」

K「横や上に逃げるなら……まだ地下の方が望みがありそうだな」

不二咲「地下って、裁判場?」

K「いや、下水だ。施設として稼動している以上、必ず外部に流しているはず」

霧切「調理場にダストシュートと地下に行けそうな扉があったわ。ゴミも、
    この施設で処理をしていないのなら外に運び出している可能性がある」

舞園「そういえば、今更ですが食料はどこから搬入していたのでしょうか?」

K「早朝から深夜まで隈なく俺が巡回しているが、目撃したことはない」

霧切「夜時間は食堂が封鎖されているから、その間に補充しているのでしょうね」

山田「ではやはり調理場に出口が?!」

石丸「何で今まで黙っていたのかね?! 今すぐみんなで調べに……!」

K「仮に出口があっても通れるかは別だ」

霧切「調理場は監禁された時から重点的に調査して、確かに怪しい部分はあった。
    ただし、すぐに見つかったということは対策もしっかりされている可能性が高いわね」

朝日奈「もしかして、玄関みたいに銃とかあったり……」

十神「俺が黒幕なら機関銃と電子ロックは設置しているな。当然監視カメラもだ」


桑田「じゃあ、今も情報処理室から見てるかもしれねーのか……」

腐川「下手したらモノクマで先回りして挟み撃ちになるかもしれないわね」

苗木「でも、とりあえず調べるだけ調べてみようよ」

舞園「そうです! 危ない道を進む前に可能性は虱潰しに見ておくべきだと思います」

不二咲「そうだよね……僕達の選択で、先生が死んでしまうかもしれないんだから……」

舞園「ゴミ処理は食品搬送と同じ出入り口かもしれませんし、今の所
    先生の提案した下水道の警戒が一番薄いのではないでしょうか」

セレス「ゴミ処理にしろ下水道にしろ、なるべく通りたくはありませんわね……」

山田「そんなこと言ってる場合ではないですよ」

石丸「とりあえず、みんなで改めて調理場を調べようではないか!」

霧切「全員で行く必要はないわ。爆薬があるなら、私一人でも問題ない」

苗木「一人は危ないよ!」

十神「俺が行く」

大和田「ああ? オメエが行くのか? 腕力がいるかもしれないし俺の方がいいだろ」

十神「脱出までもう少しという所で黙っていられるか。頭が必要かもしれないしな」

霧切「そうね……大和田君は保健室を守っていてもらいたいわ」

大和田「わかった。気をつけろよ」

K「チーム分けをしよう。調理場は霧切と十神に任せる。他に気になる所はないか?」

霧切「そういえば……」

K「どうした?」


霧切「エレベーターのある赤い扉の部屋よ」

十神「何? あそこはエレベーター以外何もないはずだが?」

葉隠「エレベーターの他には壁しかないべ」

霧切「怪しいのは部屋のの壁。塗り固めたような跡があったわ。もしかしたら、
    あそこには元々階段があったのかもしれない」

K「フム、塗り固めた壁か。そこから地下に行けるかもしれんな……」

不二咲「地下って裁判場だよね?」

葉隠「あんなところなにもないだろ?」

霧切「そうとも言えないわ。オシオキの場所は毎回違う。つまり、私達の知らない
    かなり広い空間が地下には存在しているはず」

セレス「脱出経路はなかったとしても、何か役立つアイテムがあるかもしれませんわね」

十神「オシオキに使われる処刑道具。その中に重火器もあるかもしれん」

大和田「お、いいじゃねえか。よし、俺が行くぜ」

桑田「俺も行くよ」

舞園「でも桑田君、怪我が……」

桑田「俺さぁ、一時期サウスポーに憧れててこっそり練習してた時期があるんだよ」

苗木「え、まさか」


桑田「実は両投げ両打ち。ま、俺くらいの天才なら当然っしょ。利き腕に比べりゃ全然速さも精度も
    ないけどさ、ちょっとした変化球くらいなら出来るしカメラ壊す程度ならヨユーだって」

朝日奈「やるじゃん!」

K「桑田がいればカメラを破壊出来る。ならば、調理場と赤い扉を順番に見ていくか……」

霧切「時間があればいいのだけど……この学園の地下はかなり深いわ。往復には時間がかかる」

不二咲「よりによって両方共地下だもんねぇ……」

十神「そんな時間はないだろう」

セレス「あの……一つよろしいでしょうか?」

「!」

K「……何だ?」

セレス「皆さん、ギャンブルはお好きですか?」


そう言うと、セレスは組んだ両手の上に顎を載せ全員の顔を見渡した。


ここまで。火薬関係調べていたのと会議内容に矛盾を見つけて修正してたら
すっかり遅くなってしまった……頭脳シーンは疲れる


>>88
わー!ずっと無視してしまっててすみません!忙しくて失念していました
負傷度は固定ではないです。前に戦闘系の生徒の能力を上げた方がいいと言ったのは
全てこの残姉戦のためと言っていいです。ちなみに、桑田と大和田の能力を
マックスまで上げてもまだ戦闘不能には追い込めないと思います。原作でも
別格扱いなので。さくらちゃんを仲間にして更に覚醒させないと厳しいですね
なんだかんだ生徒達はまだ人殺しに抵抗があるし。ちなみに、皮肉にも精神的に
成長していない方がキレた時に理性が効かないので殺傷できる可能性があるという……

桑田の能力が低かったらもっと負傷してましたね。霧切さんは多分負傷してるだろうし



  ― コロシアイ学園生活六十九日目 情報処理室 PM3:48 ―


情報処理室では、江ノ島は映画を鑑賞するようにポップコーンを頬張りながらモニターを見ていた。


「焦らすわねぇ。ま、悩んでるんだろうけど。そうよね、隠し部屋に行けば袋の鼠、
 情報処理室に行けば蜂の巣かもしれない。簡単には選べないわよねぇー」

「でも結局は袋小路。状況は詰みって訳。どんだけ小細工したって最終的には
 隠し部屋に行くしかなくなる。そうなるとドカン!ってね。うぷぷぷぷ」


はたして、KAZUYAの予想通り隠し部屋には致命的なトラップが仕掛けられていたのだ。
……爆弾である。といっても全滅させる程の威力はなく、小型のものだ。

恐らく先頭を歩くKAZUYAは確実に爆風を浴びるが、頑丈な体躯故に死にはしないだろう。
しかし、KAZUYAが怪我を負えばもう手術出来る者はおらず、負傷した生徒の何名かは死ぬ。

絶望に落ち逃げる気力すら失った残りの者達を全世界に放映すれば、江ノ島の野望は完遂するのだ。


「あのさ……盾子ちゃん……」

「なんなら二手に別れてもいいわよぉ! アタシが直々に相手してあ・げ・る☆」

「盾子ちゃん、聞いて……!」

「なによ、お姉ちゃん。いつまでもウジウジされてるとうっとーしいんだけど」

「う、うん……本当にごめん。次はちゃんとやるから……」

「次? 次ねぇ……」


江ノ島は無感情な目で戦刃を見つめる。



ドクターKは甘くない。手傷を負った体で追い詰めることは不可能だろう。
戦刃に残された手段は、重火器を渡して彼等を皆殺しにするくらいだ。


「私ね、なんだか……嫌な予感がするんだ」

「ふーん」

「ちゃんと聞いてよ。本当なんだって!」


戦刃は軍人特有の勘の良さで感じ取っていた。保健室で対峙した時の、生徒達の変化を。

二年間一緒に過ごしたからこそわかる。以前の霧切に、そして桑田にあんな動きは
出来ただろうか? 彼等の動きは明らかに才能の限界を超えていた。

才能を育てる希望ヶ峰でもあそこまでの急激な成長は見られなかったはずだ。
この二ヶ月ばかりで、彼等に一体何が起こったのか?

人並み程度の頭脳しかない戦刃は上手く言葉で説明出来なかったが、それは紛れも無い
才能の『進化』だった。もしあの場に江ノ島がいたら流石にその危険性に気付いていただろう。


「もう十分世界に絶望をバラまいたし、いいでしょ? あとはみんなを捕まえて
 一人ずつオシオキするか、一気に殲滅して惨殺死体を流して終わりにしようよ!」

「お姉ちゃんねぇ、アタシに何回同じこと言わせたらわかるの?
 それじゃアタシの求める真の絶望には足りないのよ!」

「でも……、でもなんかみんな様子が変だったよ!」

「ハァ? どこがどう変だっていうのよ? アタシだってカメラ越しに見てんのよ?」


再三述べているが、万能の超天才江ノ島も人間でありやはり弱点がある。


一つは破滅思想すら含むその気まぐれな性格だ。彼女はわざと自分を不利な状況に
追い込んで楽しむ悪癖があった。しかし、今回ばかりはそれが原因ではない。

二つ目の弱点、それは――疲労である。

彼女はこの二ヶ月間、黒幕としての全ての業務をこなしてきた。流石に食料の搬入などの
力仕事は仲間にやらせたりもするが、監視やモノクマの操作は全て自分で行っている。
部屋に篭りきり、睡眠も削って。

疲労すら江ノ島にとっては心地好い絶望の糧である……であるが、超高校級の保健委員に用意させた
栄養剤で無理矢理体を動かしている状態では、自慢の分析能力もごく僅かな陰りがあった。

そして最後は彼女自身の驕りだ。江ノ島は二年間、その才能をフルに活かしてクラスメイト達の
能力を見てきた。故に、本人以上に彼等の全てを知り尽くしている自負があった。

苗木の幸運や葉隠の占いなどの不確定要素はあるものの、それ以外に不安要素はないのである。

……故に、戦刃の忠告にも耳を貸さなかった。


「なんとなく、としか説明出来ないけど……なんか、いつもより気迫が
 違うというかオーラがあったっていうか」

「そりゃ、向こうだっていい加減覚悟完了してるでしょうよ」

「それだけじゃないんだって! なんか、もっとこう、ええっと!」

「うっさいわね! アタシの邪魔をするってんならいくらお姉ちゃんでも容赦しないわよ」


江ノ島は置いてあったペンを手に取ると、先端を戦刃の目に向ける。彼女の行動は常に本気だ。
江ノ島がすると言ったら彼女は本気で戦刃を殺す。普段ならこういった過激な行動もじゃれ合いとして
喜んでいる戦刃も、今この状況で楽しんでいられるほど能天気ではなかった。


「わ、わかったよ。もう言わない……」


妹とコロシアイをするのは戦刃の本意ではない。何より、戦刃は江ノ島に対して頭が上がらないのだ。
引っ掛かるものを胸に抱えながらも、この場は戦刃が引くしかなかった。戦刃にとって最も
悲劇だったのは、この状況を正確に伝えることが出来ない語彙能力の欠如だったのである。

そんな滑稽な姉妹のやり取りをカムクラは冷ややかに見ていた。カムクラは、江ノ島のように疲労もなく
78期生達に対する思い入れもない。故に驕りもなく、常にフラットな視線で物事を見ることが出来た。

カメラ越しだが、彼は生徒達に生じた異変に気付くことが出来たのである。


(あれは……才能の進化と呼ぶべきもの)


カムクラは万能であるが、それは言ってみれば既に完成した才能を肉体という器に
インストールしたものである。故に、未熟な才能がない代わりに成長することもない。

それがわかっているカムクラにとって、才能の進化は興味を惹かれる事象であった。


(希望ヶ峰学園に通っていた頃には見られなかった。では何故この状況で開花したのか?)


過去の希望ヶ峰学園と現在の状況を比べてみる。
今はあるが以前はないもの――


(危機感)


確かに危機感は人を変える。それは良いものであったり悪いものであることもある。
火事場の馬鹿力ということわざがある通り、それは有力な候補に見えた。


(……違う)


だがカムクラはそれを否定する。



危機感は確かにキッカケとなっただろう。だが、それだけでは説明出来ない。
才能の進化は継続的なものであって、火事場の馬鹿力とは違うのだ。


(わからない。ワカラナイ。一体何故……)


カムクラにはわかるはずがなかった。
それは才能と引き換えにカムクラが手放してしまった、“人間性”に由来していたからだ。

それは誰かの愛情であったり友情であったり優しさや思いやり、責任感……

或いは怒り、悲しみ、嫉妬、焦燥、挫折、苦悩……
そんな負の感情、いわゆる絶望でさえ彼等は成長の糧としていた。

皮肉にも、かつて超高校級の幸運・狛枝凪斗が言っていたことは半分“だけ”当たっていたのだ。


「これからどうするのですか?」

「! あ、また……!」

「カムクラせんぱーい☆ もういつの間に来てたのー?!」


背後を取られた戦刃は悔しそうにし、逆に江ノ島は媚びた声をあげる。
普段の江ノ島だったら、声をかける前に気が付いていたはずだ。やはり本調子ではない。


「あ、もしかしてカムクラ先輩、アタシが不利になったと思ってる?!」

「一階のカメラが全て破壊されましたが」

「もう! そんなのどーってことないない! モノクマ送り込めばいいだけだし、
 あいつらが次に打つ手なんて大体予想付くしねー」

「そうですか」



江ノ島盾子は油断しきっている。勿論、それだけの能力を持っているし事実、まだ彼等は江ノ島の
掌の上なのだ。江ノ島が少し手を出せば簡単に天秤が傾いてしまう危うい状況なのは何ら変わらない。

だが、カムクラの目には前進する希望がはっきりと映っていた。

江ノ島の背後のモニターに映った、廊下を全力疾走する生徒達の姿が――


                  ╂


結論から述べよう。

結論一、江ノ島はモニターから目を離すべきではなかった。

生徒達は言ってみれば追い詰められた獣であり、いつ飛び出してくるかわからない状況だった。
如何に江ノ島の超分析力を持ってしても、寸分違わず正確な時間を予測するのは不可能なのである。

結論二、油断すべきではなかった。

確かに江ノ島は彼等の行動を読んでいたし、多少予想が外れたとしても
すぐに軌道修正することは可能だったが、それ以前に『ミス』をしていれば意味がない。


時間を少し巻き戻す。


セレス「皆さん、ギャンブルはお好きですか?」

山田「突然なんですか? 今はそんなこと話してる場合じゃ……」

K「聞かせてくれ。賭けるに値する価値があるのなら俺の命だって賭けてやる」

セレス「先生ならそう言ってくださると思いました」


ニコリとセレスは笑った。


セレス「皆さんにお願いがあります」

K「何だ?」

セレス「わたくしを信じてくれませんか?」

苗木「突然どうしたの? 改まっちゃって」

セレス「一度は裏切ったわたくしですが、ここから脱出したい。
     黒幕に目に物を見せてやりたいという気持ちは同じですわ」

セレス「それに、わたくしを以前と同じように受け入れてくれた皆さんに感謝もしているのですよ?」

十神「急に殊勝なことを言い出したな……」

腐川「気持ち悪いわね……何か企んでるんじゃないの?」

舞園「ま、まあまあ。とりあえず話を聞いてみましょうよ」


普段とは違うしおらしいセレスの姿に、一部の生徒は警戒するがその流れを打ち破ったのはこの男だった。


山田「ややっ?! これは死亡フラグですぞ! セレス殿、さては自爆でもするつもりでは?!」

セレス「…………」


この状況下で素っ頓狂な叫びをあげる山田はあまりにも場違いだったが、
付き合いの長いセレスには山田の心遣いがわかった。


セレス「わたくしをロボットか何かと勘違いしているのでは?」



山田「だってセレス殿の名前って某ロボットアニメの敵幹部の名前みたいですしおすし。
    あ、セレス殿の渾身の厨二ネーミングをバカにしている訳ではありませんよ。デュフフ!」

セレス「思い切り馬鹿にしてるでしょう。少しは黙りやがれ、この豚ー!」

山田「ぴぎー?! お許しをー!」

「……ハハハハッ!」


二人の会話はこの緊迫した状況下では茶番とすら言える。だが、今となっては懐かしさすら
覚えるこのやり取りは、自然と周囲の緊張を解きKAZUYAすら思わず笑みを浮かべた。


大和田「で、なに言おうとしてたんだっけか?」

十神「フン、駄目で元々だ。話くらいは聞いてやる」

セレス「これは作戦なんて立派なものではない、単なるギャンブルですわ。
     ――皆さん、持っているモノクマメダルを今すぐわたくしにください。全て」


セレスの指示通り、彼等はありったけのモノクマメダルを手に購買部に来ていた。


セレス「モノクマは言っていました。このモノモノマシーンには様々なアイテムが
     入っていると。中には事件を起こすのに使える凶器もです」

苗木「そうか! まだ中に使える道具が入ってる可能性があるんだ!」

セレス「何が入っているかはわかりません。もうガラクタしかないかもしれないですが
     やってみるだけ損はないはずです。たとえ一億……いえ百億分の一でも可能性があるなら」

セレス「わたくしは引き当てて見せます――! ええ、勝負師の腕の見せ所ですわ!」




超高校級のギャンブラー




















ヴゥンッ……





―――――――――――










超高―――――――――










超高校級の勝―――――





超高校級の勝―――










超高校級の勝負師










超 高 校 級 の 勝 負 師 ! !





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



                      超 高 校 級 の 勝 負 師


                    セ レ ス テ ィ ア  ・  ル ー デ ン ブ ル ク



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




ガチャポンガチャポンガチャポン……!

セレスがモノモノマシーンを操作すると、非常に低確率のレアアイテムがゴロゴロ出てくる。


舞園「こんなもの今まで見たことありません」

山田「くっ……この山田不覚。オタクとして全てコレクションしたつもりだったのに!」

セレス「わたくしの道具を入れる時ついでにラインナップを一新したらしいですわ。思ったよりも
     ここでの学園生活が長引いて、皆さんほとんどコンプリートしていましたから」

葉隠「まあ、暇だったしなぁ」

桑田「なんだよ。ラインナップ変えたんなら言えっつーの。おかげで最近は全然使ってなかったじゃん」

腐川「そもそも、そんな気分にならなかったわよ……」

苗木「僕はまだ使ってたけど、中身が変わったのは気付かなかったなぁ。
    確かにダブリが減ったなぁとは思ってたけど」

十神「問題は今使える物が出るかどうかだ。高い時計やアクセサリーが出ても仕方なかろう」

セレス「皆さんが利用しやすいように、生徒の才能に関連する物が多いと聞きました。
     わたくしの考えが間違っていないなら……」


ガチャ……ピカピカ!


朝日奈「な、なになに?! 光ってるよ!」

不二咲「当たりってことかな?」



【伝説の鉄パイプ】
某ホラーゲームの武器を模して作ったものだよ。そう簡単には折れない!
【バールのようなもの】
バールではないよ! バールのようなものだよ!
【道路標識】
これでどこでも公道気分♪
【むらまさ】
呪われし妖刀。なんでも斬ってしまうと言う。

etcetc……


大和田「おいおい、ガンガン出てくるぜ!」

石丸「ムムム! 流石はセレス君だ!」

セレス「まだまだ止まりませんわ……! わたくしの豪運は!」



               ◇     ◇     ◇



保健室にはKAZUYAと負傷者達、それに霧切が待機している。


K「大神、少しいいか?」

大神「…………」


名前を呼ばれ、大神は気怠げにKAZUYAを見た。


K「先程は朝日奈がいたから聞かなかったが、何かあったのか? 様子が変だぞ」

大神「変……変、か。そうだな。我はおかしいのかも知れぬ」


霧切「大神さん、あなた絶望しているの?」

桑田「あ? 絶望?」

霧切「さっき戦刃むくろに殺されそうだった時、大神さんは抵抗しなかった。
    あなたは無抵抗でやられるような人ではないはず」

K(そもそも、いくら死を覚悟しているとはいえカッターの刃を飲み込むなんて常軌を逸している……)

K「さっき何があったんだ?」


霧切は大神と戦刃のやり取りを説明した。


K「……成程、そういうことがあったのか」

山田「確かにこんな状態では絶望したくもなります……ハァ」

桑田「でも、黙ってやられるなんて冗談じゃねーぜ! それでいいのかよ?」

山田「とんでもない! 以前の僕なら諦めてたかもしれない。でも今は違います。
    ギリギリまであがいてやりますよ!」

桑田「いいじゃんいいじゃん。その意気だぜ!」

大神「…………」

K「大神、十神が言っていたぞ。あの時は言い過ぎた、と」

大神「!」

K「プライドの固まりみたいな奴だから素直に謝ったりはしないが、反省しているようだ」

大神「……そうか」

K「絶望したくなる気持ちもわかる。立ち止まりたくもなる。だが、俺達は君の力が必要だ」


大神「我は、裏切り者だ。心の弱い人間だ。唯一の取り柄と言えば
    頑丈な体くらいしかない。だがそれも……」

K「大神!」


KAZUYAは立ち上がると大神のすぐ横に行き、目を見つめる。


K「朝日奈は、君が強いから友人になったのか?」

大神「……!」

K「友人になるのに理由がいるのか? みんな始めは話が合うから、一緒にいて楽しいから……
  その程度の軽い気持ちで付き合い始めて、絆を育んでいくはずだ。違うか?」

大神「…………」

K「ここしばらくショッキングなことが続いた。自信を失っても仕方ない。ただ、
  もし君が自分を不必要な人間だと思っているなら、それは違うぞ!とだけ言っておく」

大神「…………」


大神は何も言わなかった。ただ一瞬だけKAZUYAの目を見て小さく頷いた。


K(朝日奈の言っていた通りだな……大神は強いかと思っていたが、こんな繊細な部分が
  あったとは。怪我のこともある、しばらく重点的に見ていないと心配だ……)


その時、購買部に行った生徒達が大量の戦利品を手に戻ってきた。


K「手応えはあったか?」

セレス「上々ですわ」


朝日奈「見て、先生! パチンコだよ!」

K「! スリングショットか」

朝日奈「これがあれば離れた所から監視カメラを壊せるんじゃないかな?!」

K「確かに……二班に分かれて調査出来そうだ」

苗木「セレスさんのお陰だね!」

十神「喜んでいる場合ではない。早くチーム編成をするぞ」

石丸「桑田君は怪我があるから、深そうな赤い扉ルートはやめた方がいいかもしれないな」

大和田「よし、俺が行く。あとは……」

朝日奈「私も行くよ。こう見えても体力には自信あるし、目もいいと思う。
     パチンコなら女の私でも使えるし」

K「赤い扉の方は物を持って帰る可能性がある。腕力で言えば石丸が妥当だが……」

十神「頭を使える奴が一人もいないのは問題だな」

石丸「ぐっ、否定出来ないのが悲しい……」

K「苗木、体力的に気になる所だが行けるか?」

苗木「大丈夫だと思います。一応みんなと一緒に運動したりしてたし」

舞園「苗木君、身軽ですもんね」

桑田「俺と一緒に野球で鍛えた走り込み見せてやれ!」

K「では残りは保健室に待機。時間がない。早速行動してくれ!」


ここまで!

遅れに遅れて申し訳ない……
書き溜めはそこそこあるのですが、修正して投下する時間がなかなか取れず

とりあえずもうすぐ終わりそうなドラえもんの方に注力するかな……

乙です、見てるよー

セレス覚醒は予想外

>>136
五回も自由行動で会ってるし、評価が高いからですね
恋愛フラグが立つことで覚醒フラグも同時に立つという条件でした



 ― 赤い扉組 ―


苗木「ここが例の壁だね?」

朝日奈「気付かなかったけど、言われてみたら少し色が違うね」

大和田「爆薬の使い方わかるか?」

苗木「壁の真ん中に貼り付けて、伸ばした導火線に火を点ければいいって」

朝日奈「なんだかドキドキするね!」

苗木「壁を破壊する用だから結構威力が強いみたいだよ。僕達は部屋の外にいよう」


三人は赤い扉を閉め、下からはみ出している導火線に火を点けた。


朝日奈「わっわっ!」

大和田「もっと離れた方がいいんじゃねえか?」


ドンッ!

爆発音と共に、壁が崩れる音がする。三人は恐る恐る中を覗き込んだ。


朝日奈「すごーい! 穴が空いてる!」

苗木「綺麗に壁だけ吹き飛んだみたいだ」

大和田「流石にここまで来ると先公の見立ての良さにビビるぜ……」


壁の向こうには階段があった。残念ながら上り階段はなく、地下へと延々続く階段がある。


苗木「中はやっぱり階段だね。二人共、足元に気をつけて」

朝日奈「階段には監視カメラもないみたい。ガレキで転ばないようにしないとね」

大和田「……深いな。地下何階まであんだよ」

苗木「慎重に行こうって言いたい所だけど時間がないから急ごう」


幸い電気が通っていたので足元が見えないということはなく、少し暗い階段を下っていく。


朝日奈「あ、扉だ」


少し進むと階段の途中に扉がある。


苗木「本当だ。……あ、鍵がかかってる」

大和田「どけ。この程度のドアなら……おりゃあっ!」


大和田が一撃で扉を蹴破った。


朝日奈「やるじゃん! さすが!」

大和田「へへっ、俺はこのために来たんだからな。力技は任せろ」

苗木「中は……研究室か何かかな?」


部屋には整然と並んだデスクとパソコン。それに何だかよくわからない機械があった。
苗木は手近な机にあったファイルを手に取り開いてみる。


苗木「『才能実験17』……。何十年も前のかなり古いデータみたいだ」


朝日奈「流石にこの頃の人はほとんど知らないね」ヒョイ

大和田「こっちも似たようなもんだな。武器になりそうなもんはあるか?」

苗木「うーん。引き出しには鍵がかかってるし、そもそもこんな場所にはなさそうだね」

大和田「時間がねえ。俺達が今必要なのは出口か武器だ。ここは飛ばして行くぞ」

苗木「時間があればアルターエゴでパソコンの中を調べられたかもしれないけど難しいね」

朝日奈「大和田の言う通りだよ。行こう」


彼等は再び階段に戻る。途中でまた扉があったので二つ破壊して中を覗いたが、
同じような研究室だった。これ以上見ても時間の無駄という結論になり、彼等は
ひたすら階段を下って行く。自然と雑談が始まった。


朝日奈「何なんだろうね、ここ……」

苗木「希望ヶ峰は才能開発って言って、生徒の才能を分析したり伸ばす研究をしていたから
    ここはそのための研究棟だったんだと想う」

大和田「じゃあやっぱ希望ヶ峰なのか」

苗木「関連施設なのは間違いないと思う」


しかし、考えるのは苦手だが勘の鋭い朝日奈は違和感に気付いていた。


朝日奈「……何でこんな地下に作る必要あったんだろ?」

苗木「え?」

朝日奈「普通建物って地上に作るよね? 地下だと窓もないし息苦しいし」

苗木「確かに……変だね」


大和田「地下に建てた方が安上がりなんじゃねえのか?」

朝日奈「ええー、だったらみんな地下に作らない? 大都市ってどこもビルだらけだよ?」

苗木「日本の地下は地下水や温泉もあるし都市部なら地下鉄もあるから、
    むしろ地下に作る方が許可とか手続きとか大変なんじゃないかな?」

大和田「あー、そういうもんなのか」

朝日奈「こんな深い建物って初めて。こんなに潜るのって地下鉄くらいじゃない?」

苗木「僕は地方出身だからよくわからないけど、確かに深いね」

大和田「なんか地上じゃ都合が悪いことがあるのかもな」

苗木「都合が悪いこと?」

大和田「ほら……あれだ。日光に当たったらまずいとか」

苗木「あー、それならおかしくないかもね」

朝日奈「でも十階以上もいるのかな? もうそのくらい下がってるよね?」

大和田「……なんか、まずい実験でもしてたりしてな」

苗木「まずい実験?」

大和田「いや、そういう映画見たことあるからよ。ホラー映画で、地下の研究所から
     ウイルスが漏れて騒ぎになるみたいな」

朝日奈「案外、当たってたりして」

苗木「でも希望ヶ峰が何でそんなことするんだろ……」

朝日奈「あ、希望ヶ峰じゃなくて江ノ島盾子が作ったのかも!」

苗木「それはないと思う。江ノ島盾子って僕らと同じくらいの歳のはずだし。
    床とか階段の手すりとか、結構年数が経ってるように見えるね」

大和田「じゃあ、江ノ島がここを乗っ取ったってのは間違いねえか」


朝日奈「そもそもどうやって組織とか作ったんだろう? 先生は天才とかカリスマで片付けてたけど」

大和田「まあ、普通じゃありえねえけどスーパー超人の先公を見てるからなぁ……
     あのレベルの天才なら数年で組織とか作れちまうのかもしれねえな」

苗木・朝日奈「確かに……」


 ― 調理室組 ―


ドン!


十神「上手く行ったようだな」

霧切「流石の江ノ島盾子も爆破は想定外だったんでしょうね」

桑田「よし、行くか」


調理室の床を開ける。そこには壁に取り付けられた梯子がある。
片手を負傷している桑田は険しい顔になった。


桑田「うげ! ハシゴかよ……」

十神「朝日奈とチェンジするか?」

桑田「いや、もう行っちまっただろ」

霧切「待って。ハシゴということは、ここから食品を搬送していたとは思えない……」

十神「……あの壁が怪しいな。そこの、何もない所だ」

霧切「予備の爆薬で爆破してみましょう」

桑田「え、マジで?」


再び爆薬をセットして、発破する。すると、予想通り隠し通路を発見した。


桑田「ひゃー……ドンピシャじゃねーか」

十神「やはりな」

霧切「先にこっちを調べましょう。いきなり監視カメラがある可能性が高いわね。桑田君」

桑田「おう、任せろ」


隠し通路を進み扉を発見する。そっと開いて霧切が中を覗き込んだ。


霧切「……あったわ。この隙間から投げることって出来る?」

桑田「大丈夫だ。この距離なら余裕だぜ」


桑田は左手でボールを握ると、全力で投げた。狙い違わず、硬球は監視カメラに直撃する。


桑田「やりぃ! ストライクッ!」

霧切「この調子で行きましょう」


桑田がカメラを破壊し、三人は隠し通路を進んだ。


十神「食費搬入路はほぼここと見て問題ないな」

霧切「そうね。あれは……!」

桑田「出口じゃね?」


三人は通路の奥に扉を見付けた。頑丈な鉄の扉だ。玄関にあったものと似ている。


十神「これは……壊せるか微妙だな」

霧切「……そうね。引き返しましょう」



調理室に引き返すと、三人は改めて地下への入口の前に立つ。


桑田「あー、なんとか片手だけで降りられねーかな……」

霧切「やめなさい。この高さから落ちたら即死よ」

十神「とりあえず俺と霧切で行ける所まで行く。重要そうな場所なら後で朝日奈を連れて行けばいい」

桑田「わりーな……」

霧切「気にすることはないわ。桑田君は散々役に立ってるもの。今は休んでいて頂戴」

桑田「じゃあ、俺はここで見張っとくわ」

十神「行くぞ」

霧切「! 待って。私から行くわ」

十神「それだと万一落ちても助けられんぞ」

霧切「そんなヘマはしないから大丈夫よ」

十神「なら好きにしろ」

桑田(結構鈍いのな、こいつ)


桑田は霧切のスカートを見ながら察した。霧切が先陣を切り、二人は地下へ下って行く。


霧切「……監視カメラがないわね」

十神「本来生徒が立ち入らないはずの食品搬入路にカメラがあったことからして、
    ここはさほど重要ではないのだろう」

霧切「警戒していないからこそ隙があるかもしれないわね」

十神「そうだな」



二人は下に降りるにつれ息苦しさを覚えた。


十神「おい……なんだか臭わないか?」

霧切「そうね。恐らくはゴミの臭い……」


地下に降り立つと二人は扉を見付けたが、あいにく鍵がかかっていた。
だが、開けずとも何の部屋なのかは扉を見ればわかる。


霧切「『ゴミ収集室』……」

十神「ゴミ捨て場か……」

霧切「こちらは収穫がなさそうね。……もしかしたら、この建物の地下は深すぎるのかもしれない」

十神「どういうことだ?」

霧切「地下道よりも下に建物がある場合、下水はポンプで汲み上げて地下道に流すのよ。
    こちら側は浅いかもしれないと期待していたけど、どうやら地下は無理ね」

十神「そうするとどうなる? 八方塞がりだぞ」


霧切は顎に手を当てて思案する。


霧切「密閉空間なら必ずそれなりの大きさの通気孔があるはずよ。ただ……」

十神「山田と大神と西城だな。あの三人は無理だ。やはり戦うしかなさそうだが」

霧切「江ノ島盾子がどの程度準備しているか……。負傷しているとはいえ向こうには
    まだ超高校級の軍人もいる」

十神「考えるのは後だ。とりあえず戻るぞ」



               ◇     ◇     ◇


朝日奈「やっと着いたー!」

苗木「ハァ……長かった」

大和田「バテてる場合じゃねえぞ、苗木。帰りはまたこれを登らねえといけねえんだからな……」

苗木「うわぁ……」


三人は深い深い地下へ潜りとうとう最深部に到着した。意外にも女の朝日奈が一番余力がある。
恐らく体育系の才能を持ち、監禁されてからもトレーニングを欠かさなかったからだろう。


朝日奈「早く調査して戻らないと」

苗木「あ、朝日奈さん。監視カメラに気を付けて!」

朝日奈「スリングショットの出番だね! 狙いを定めて~」


ガシャンッ!


大和田「おお、上手いじゃねえか」

朝日奈「やった! ガンガン行くよ!」


監視カメラを破壊しながら彼等は中の調査をしていく。


大和田「クソッ、入れねえ所があるな」

苗木「時間がないから、調べられる所を優先的に見て行こう」


早速彼等は小道具の置かれている部屋を発見した。



ほとんどは雰囲気作りのための張りぼてだが、一部危険なものもある。


苗木「うわ、大きなトラバサミ……」

大和田「それで挟まれたらタダじゃすまねえな。触るんじゃねえぞ。……お、これなんだ?!」

朝日奈「機関銃?!」

苗木「いや、物騒な見た目だけどピッチングマシーンみたいだ。野球ボールが入ってる」

大和田「なんだよ、期待させやがって」

朝日奈「……これ、なんのケースだろう?」


机の上にあった黒い長方形のケースを朝日奈は開けた。


朝日奈「! ねえ、見て! これ銃だよね?!」

大和田「おおお! やったぜ!」

苗木「スナイパーライフルってやつかな」

大和田「他になんかねえか?!」

苗木「ねえ! あれって……」


               ◇     ◇     ◇


桑田「ちぇっ、収穫なしかぁ」

霧切「まだそうと決まった訳じゃないわ。苗木君達が何か見つけているかもしれない」

十神「元々黒幕を放置して脱出するというのが気に食わなかったんだ」

桑田「あ、そうだ。赤い扉の地下ってどうなってるんだろうな?」


霧切「今から行っても入れ違いの可能性があるわよ」

桑田「まあ、覗くだけだって」


彼等は食堂からの帰り道にある赤い扉の中を覗いた。


桑田「おー、見事にぶっ壊れてんな」

十神「時間の無駄だ。さっさと戻るぞ」

霧切「……待って。何か聞こえる」

桑田「あ、本当だ。なんだ?」


ブロロロロロ……


霧切「……エンジン音?」


「うおらあああああああっ!!」


桑田「ハァッ?!」

十神「何だ?!」

霧切「何か来るわ! 下がって!」


三人は慌てて廊下に撤退する。ほぼ同時に、階段から巨大な影が飛び出してきた。


大和田「よっしゃあ! 着いたぜ!」

朝日奈「はやーい!」

苗木「ハハ……助かった」


現れたのは――

なんと、大型の改造バイクを操る大和田とタンデムシートに座る朝日奈、
そして後ろにしがみついている苗木であった!


ここまで。

そろそろ反撃か?


一応こっちにも書いておこう。無事、[たぬき]の方が完結しました。

次からはこちらに注力できます。お待たせしてすみませんでした。

よろしくお願いします。


[たぬき]「ダンガンロンパ?」
ドラえもん「ダンガンロンパ?」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515331445/)



フィルターェ……完結に浮かれてすっかり存在を忘れていた
掲示板のバグも直したんだし、このしょうもない変換も直してくれればいいのに


無事、ドラえもんの方が完結しました。

ドラえもん「ダンガンロンパ?」
ドラえもん「ダンガンロンパ?」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515331445/)


苗木(怖かった……死ぬかと思った)

桑田「大和田じゃん! どうしたんだよ、それ?!」

大和田「おお、オメエら! ちょうどいい所に! 見てくれよ、俺の愛機!」

十神「なんでこんな場所にバイクが……」

霧切「地下にあったの?」

大和田「おうよ! 長い階段もこいつで一気に上ってきたぜ!」

朝日奈「すごいよね! あんな急な階段をバイクで上って行くって言うんだもん! 驚いちゃった!」

苗木「壁に衝突するんじゃないかと思って気が気じゃなかったけどね……」

桑田「すっげーじゃん! さすが超高校級の暴走族!」

十神「これは使えるな。でかした!」

大和田「まだあるぜ!」

朝日奈「保健室に戻ってからのお楽しみ!」



 ― 保健室 ―


戻ってきた生徒はそれぞれ情報を共有し、戦利品を見せた。


K「よくやった!」

舞園「霧切さんのお陰ですね!」

霧切「セレスさんがスリングショットを引き当ててくれたからよ。私は調理室を本命にしていたから」

セレス「お役に立てて何よりですわ」


山田「セレス殿が珍しく謙虚だと……?!」

葉隠「で、そっちのケースはなんなんだべ?」

朝日奈「じゃーん! 銃だよ!」


「おおー!」


K「これは、スナイパーライフルか!」

不二咲「すごい!」

腐川「これで江ノ島を狙撃すれば……」

K「……いや、それは難しいだろう。ここは屋内だ。それに、全員銃は素人だからな」

十神「普通の銃ならアメリカで散々撃ったが、流石にスナイパーライフルはないな……」

K「十神以外で、銃を触ったことのある人間はいるか?」

霧切「私は扱えるわ」

K「よし。なら、女の霧切が持っていた方がいいだろう。と言っても、
  使い所を間違えたらかえって危険だ。ここぞという時に使うように」

霧切「わかったわ」

K「……さて、とりあえず一通りカードは揃った訳だが」

不二咲「いよいよ決めないといけないんだねぇ……」

石丸「僕達が選ばないといけないのか……」

苗木「…………」


苗木(僕達が現在提示されている選択肢は3つ。一つは江ノ島が潜伏していると思われる情報処理室。
    ニつ目は、クラッキングを仕掛けるための男子トイレの隠し部屋)

苗木(最後は学園長室だ。でも、ここはほとんど期待出来ないと言われている――)

舞園「決められません……もし失敗したら先生が……」

十神「何か、シールドになるものはないか? それを盾に突っ込めば……」

霧切「戦刃むくろさえいなければ、それでなんとかなったかもしれない。でも……」

葉隠「やっぱり、ここは占いでだな……」

腐川「占いなんかで決められる訳ないでしょ!」

セレス「――ギャンブルはまだ終わっていませんわ」


セレスが前に進み出た。その目には未だ消えない闘志が燃えている。


桑田「お、セレス?」

大和田「なんかいい案浮かんだのか?」

セレス「わたくし、自分でもわからないのですが今日はなんだか最高にツイている気がするのです。
     けれど、先生の命が懸かっているのにわたくし一人ではまだ不安があります」

山田「えーっと、つまりどういうことです?」

セレス「苗木君」

苗木「えっ、僕?」

セレス「このトランプを一枚引いてくれませんか?」

朝日奈「こんな時に遊んでる場合じゃ……」

セレス「ジョーカーが出たら情報処理室、スペードのエースが出たら隠し部屋、
     ハートのクイーンが出たら学園長室に行きましょう」


石丸「カ、カカカ、カードで決めるのか?! 僕達の運命を?!」

セレス「どれを選んでも失敗したら結局後悔するのです。だったらカードで決めても同じでは?」

桑田「でもな……」

苗木「ど、どうして僕? むしろ、これは先生が引くべきじゃ……」

K「引いてくれ、苗木」

苗木「え?」

K「安広は自分の才能を信じているのと同じように、お前の才能を信じているんだろう」

霧切「! 苗木君は超高校級の幸運だからね?」

セレス「わたくしの予想が正しいのならば、きっとわたくしと同じ結論に辿り着くはずです」

十神「とっとと引け。今は一分一秒を争うんだぞ」

苗木「みんな……本当に僕で、いいの?」

舞園「私は苗木君を信じます。もし駄目だったとしても、それで恨んだりはしないです!」

大和田「運否天賦ってやつか……いいんじゃねえか? 今は験担ぎも必要だろ」

葉隠「じゃあ、どのカードがいいか俺が占って……」

朝日奈「葉隠はちょっと黙っててくれる? 苗木、ガンバレ!」

腐川「いいんじゃないの? なんだかんだあんたって中心にいることも多かったし。一番は先生だけど……」

不二咲「苗木君、引いて!」

苗木「みんな…………。わかった」

石丸「無心がいいぞ! 何も考えないで引くんだ!」


大神「……苗木」

苗木「……………………」


ドックン、ドックン……ドックン、ドックン……

苗木は心臓が早鐘のように打つ音を耳にしながら、ギュッと目をつぶった。
そして目を開けると、額の汗を拭い、一枚のカードを引き抜く。

全員が注目する中、苗木は引いたカードを表に返した。


苗木「結果は……」

セレス「ハートのクイーン! やはり……!」

十神「学園長室だと……?!」

K「安広も学園長室がいいと思ったのか?」

セレス「何の根拠もありませんが。ですので大いなる賭けですわね、これは」

舞園「賭けだからこそ、セレスさんは自信があるということですよね?」

セレス「置いてあるのは江ノ島さんの私物だけの可能性もあります。ですが、
     中にあるのが宝の山かゴミ溜めかは実際に見てみないとわかりませんからね」

霧切「鍵がかかっていた以上、学園長室にも何らかの重要性があるのは間違いないはずよ」

十神「学園長室の中に、江ノ島盾子を倒すための切り札があると?」

山田「武器でも置いてあれば一番なのですがね」

大和田「そういやあ、戦刃は軍人だよな。じゃあ、もしかしたらどこかに
     装備がまるまる隠してあるんじゃねえか?」

桑田「マシンガンとかあれば、機関銃があってもなんとかなんねーかな?!」


K「そうそう都合の良い話があるとは限らんが……」

舞園「武器があっても、また鍵がかかってる可能性もありますしね」

大和田「とにかく行こうぜ。ろくにねえと思われた地下から色々出てきたんだ。
     四階なら広いし、戦いながらでも行けるだろ」

朝日奈「で、でも二階ならまだしも怪我人のさくらちゃんを四階まで運ぶのは……」

大神「我は捨て置け。もう良いのだ、朝日奈」

朝日奈「そんなの出来ないよ!」

大和田「……なあ、先公」


愛機に手を乗せながら、大和田はKAZUYAを見据える。


大和田「さっき、俺に特攻させられないのは俺が力不足だからって言ったよな?」

K「……ああ」

大和田「今こそ俺に行かせてくれよ。今の俺には力がある! こいつで暴れ回れる!!」

大和田「もうダメなんて言わせねえ! 俺は超高校級の暴走族だぞ!!」

K「わかった」

大和田「だから……! って、えっ?」


拍子抜けするほどあっさりと、KAZUYAは首を縦に振った。


K「許可しよう。階段もバイクで登ってきたらしいしな。行けるだろう」

大和田「マジか……てっきりまた難癖つけてくるかと」



KAZUYAはフッと笑って大和田を見る。


K「俺は慎重なだけでお前達の力を信じていない訳じゃないんだ。今のお前なら行けると判断した」

石丸「一人で行く気か、兄弟! このバイクは二人乗りだろうっ?!」

大和田「兄弟、来てくれるか!!」

石丸「当たり前だ! 僕だってやれば出来る所を見せてやるぞ!!」

霧切「素早く部屋を調査するならプロがいるでしょう?」

大和田「霧切!」

霧切「三人までなら大丈夫というのは苗木君が証明しているわ」

苗木「……怖かったけどね。ハハ」

K「作戦はこうだ。大和田、石丸、霧切の三人がバイクに乗って特攻。
  学園長室の中を素早く調査し、そのままこちらに戻ってくる」

K「江ノ島は情報処理室か隠し部屋に行くと思っているはずだ。
  流石に何の攻撃もせずこっちに逃げ帰るとは読んでいないだろう」

葉隠「で、でもよ……もし何もなかったらどうすんだ?」

K「何もなかったら何もないという情報が手に入る。俺達にとって無駄な情報など何一つない」

十神「待っている間に情報処理室突入の準備を整えればいい。大和田が特攻したら
    江ノ島のこちらに対する注意はなくなる。要は先程と同じチーム分けだ」

山田「残ったチームはどうしますか?」

K「大和田達が江ノ島の気を引いてくれるなら俺も動ける。気になっていた、寄宿舎側の
  階段を封鎖せねばならん。苗木、舞園、葉隠、十神は倉庫に道具を取りに行ってくれ。
  朝日奈、お前は異常があったら寄宿舎まで俺達を呼びに来るんだ。いいな?」

K「腐川はいざとなったら翔に代わって時間稼ぎを頼む」

腐川「わ、わかったわ。あいつに頼むのは癪だけど任せてちょうだい……」


舞園「階段が二つに赤い扉……思えば三箇所も侵入経路があったなんて、危なかったですね……」

K「逆に、江ノ島の中ではまだゲームが続いている証だ。
  本気で殲滅する気だったらとっくのとうに攻めてきている」

苗木「モノクマの数が足りないってことはないかな? 少人数ならなんとかなるけど、
    みんなでまとまっていたら手が出せないとか」

K「だったら有り難いが、俺達にそれを把握する手段はない。それに、江ノ島は外部と
  連絡が可能なのだから、決戦に備えてモノクマを増員しているかもしれんぞ」

葉隠「ヒィィ、勘弁してくれって」

不二咲「常に最悪のことを予想しないと、江ノ島さんには勝てないんだね……」

K「そうだ。ヤツは強敵だ。恐らく、今までに俺が出会った誰よりもな」

セレス「準備は出来ましたか?」

大和田「おうよ!」


霧切は爆薬といくつかの武器、石丸は刀、大和田は何故か道路標識を持っている。


苗木「……えっと、なんで道路標識?」

大和田「モノクマはかてえからな。それに、これが一番馴染みがあるんだよ」ニヤッ

苗木(深く聞かないでおこう)

K「よし、健闘を祈る。いいな? 絶対に無理はするな。必ず帰ってこい!」

大和田「行くぜ! おらあああああああ!!!」

石丸「行って参りまあああす!!」

霧切「そっちも気を付けて!」


爆音を上げながら、大和田のバイクは保健室から飛び出して行った。


ここまで。

もうすぐ重大な分岐来ます。そしたらとりあえずやっと正規エンドの一つ迎えられる……

乙!いよいよこのスレも終わりに近づいてるんだなあ・・・最初期から見てた身としてはとても感慨深い物がある
>>157を見て計算してみたけど5年9ヶ月じゃないかな?今後の更新ペースを考えると6年経過でエンディング1つくらいになるのかな?

>>171
ありがとうございます、ありがとうございます……
頭が上がりませぬ。応援してくれる皆様のためにもなんとか完走させます

次回、本当ならエンディング分岐の安価があるはずだったのですが
人数そんなにいないし、なしでいいですかね?

絶女で言うところの壊す、壊さないに該当するあからさまな選択肢で
自分はこまめにセーブ派なので速攻壊したのですが……

>>171
ありがとうございます、ありがとうございます……
頭が上がりませぬ。応援してくれる皆様のためにもなんとか完走させます

次回、本当ならエンディング分岐の安価があるはずだったのですが
人数そんなにいないし、なしでいいですかね?

絶女で言うところの壊す、壊さないに該当するあからさまな選択肢で
自分はこまめにセーブ派なので速攻壊したのですが……


あ、読み込んでなくて二重投稿してしまった……スミマセン

掲示板だと消せないから不便

ぶっちゃけエンディングとifルートは全部見たい派なんで選択肢は任せます
というより人がいないような感じがするのは更新頻度の影響なのでは?
ある程度間が空く作品は常駐してる人はほとんどいないだろうし…
待ってる人は結構いるとは思うけど気づいて無いんだと思う



                  ╂


(来た……)


カムクラは気付かれないように別の場所に視点を置きながら、視界の隅でモニターを見ている。
江ノ島も戦刃もよそ見をしていて気付いていない。その間に、彼等は二階を通過する。

三階、四階と来た所でカメラの一つが音声を拾い、江ノ島はモニターに視線を戻した。


「…………」


―― 一瞬、目を疑ったようだ。


「…………は? えっ? は???」

「な、なにこれ?! どこから持ってきたの?!」

「んなもん地下からに決まってんでしょ! あああ! あいつら!
 一体どうやってあそこにっ?! どうせ西城の仕業でしょーけどっ!!」

「盾子ちゃん、私は?!」

「あんたはここで待機! 本丸空けてどうすんのよ!」


流石の江ノ島も慌ててモノクマ操作室に駆け込んだ。もうカムクラがここにいる意味はないだろう。


(……あなた達の力、見させて貰います)



               ◇     ◇     ◇


ドガッシャアアアアアンッ!!

大和田はウィリーの姿勢で前輪を上げ、学園長室の扉を破壊して中に突っ込んだ!

霧切は素早く飛び降りると、部屋の中を即座にチェックする。社長室のようなシンプルな仕事部屋だ。
学園長の物と思われる立派な机に来客用のソファ、歴代の学園長の写真、トロフィーなどが置かれた棚。

残念ながら武器などは置いてなさそうである。とりあえず、最優先はやはり机だろう。


石丸「僕は入り口を守る。捜索は頼んだ!!」

霧切「出来るだけ時間を稼いで頂戴!」

大和田「おうよ!」


霧切はまず目についた机を漁った。引き出しを片っ端から引き抜き、中の物を見ていく。
そして、めぼしいもの次から次に持ってきたリュックへ押し込んでいった。


霧切(この引き出し、鍵が掛かっている……!)


一つだけ鍵が掛かっている引き出しを発見した。ピッキングをしようと道具を取り出す。


モノクマ「コラー! 不法侵入は校則違反だぞー!」


モノクマの群れが押し寄せてきた。大和田はバイクでモノクマを轢殺し、道路標識で破壊していく。
石丸は入り口に陣取り、大和田が討ち漏らしたモノクマを攻撃していった。


石丸「突きー!!」ドスッ!

大和田「やるじゃねえか!」


石丸「こう見えて剣道三段だ! ムッ?!」

大和田「どうした?!」

石丸「一番弱そうな目を突いたのだが、一撃で沈んだ。弱点かもしれない!」

大和田「なんだと!」

霧切「目にカメラが仕込んであるはず。弱点の可能性は高いわ!」

石丸「また情報が増えたな!」

モノクマ「ムキー! さっさと倒れろ、オマエラー! ていうか、なんで学園長室なんだよ!
      フツー隠し部屋か情報処理室でしょー! バカなの?!」

大和田「うるせえ! んなの、俺達の勝手だろうが!!」

モノクマ「へヘンッ! どうせこんな所、なんにもないのにさ! バーカバーカ!!」


一見呑気に話しているようだが実際はそんな暇はなく、モノクマの数は徐々に増えていく。


石丸「霧切君、あまり時間が……!」

霧切「わかっているわ!」


霧切はピッキングを諦め、爆薬をセットした。爆破して、引き出しの中身を取り出す。


霧切(これは……!!)


最後に本棚やソファの付近を入念に調べた。


大和田「霧切、まだか?!」

霧切「終わったわ!」


大和田「よっし! 二人共乗れっ!」

石丸「行けるかね?!」

大和田「突っ切るんだよ!」

モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」
モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」
モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」
モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」モノクマ「クマー!」


ギャリリリッという音を立てながら、バイクは学園長室から出た。


戦刃「待機してろって言われたけど、盾子ちゃんは私が守る!」


情報処理室から出た戦刃がナイフを構えて仁王立ちになるが……


大和田「あーばよー!!」

石丸「さらばだ!」

霧切「フッ」ファサッ


彼等は戦刃を相手にしないでそのまま三階へ走って行った。


戦刃「……あれ? え???」


廊下にはポツンと取り残された戦刃むくろただ一人。


戦刃「なんだったんだろう……??」


             ・

             ・

             ・


その後もしつこくモノクマが攻めてきたが、バイクに乗った超高校級の暴走族を止められるはずもなく、
あっという間に一階まで戻ってきた。一階ではKAZUYA達が待機しているためモノクマもいない。


K「戻ったな?!」

大和田「戻ったぜ!」

石丸「生きて戻って参りましたぁ!」

苗木「良かった! 三人共無事だね!」

朝日奈「あー、怖かった」

十神「早く入れ! バリケードを戻すぞ!」


慌ただしく三人を受け入れ、再び保健室は籠城の構えに入る。


桑田「で、なんか収穫あったか?」

山田「出来れば武器とか望ましいのですが!」

霧切「残念だけど、武器のたぐいはなかったわ」

葉隠「マジかー。期待してたんだけどな」

腐川「まあ、学園長室だものね……ある方がおかしいわよ」

不二咲「本当に何もなかったの?」


霧切「収穫はあったと思う」

舞園「本当ですか?!」

セレス「見せてくださいな」


霧切はリュックを降ろし、中身を取り出していく。


K「これは、書類か」

霧切「戦刃むくろのことが書いてあるわ。新入生名簿によ」

苗木「本当だ! 江ノ島盾子との関係も書いてある」

十神「フェンリル出身だと……?! あの最凶の傭兵団か」

大和田「知ってるのか?」

十神「当たり前だ。裏の世界に通じている人間でその名を知らん者はいない」

朝日奈「あの子、そんなに危険な相手だったんだ……」

K「もっと、早く調べるべきだったか……江ノ島が戦刃だと早めに看破できたら打つ手もあった」

桑田「他にはなんかねーの?」

霧切「書類ね。人類史上最大最悪の絶望的事件についての詳細……」

十神「またそれか。うんざりする」

不二咲「世界各地でテロが頻発……」

舞園「ですが、そんなこと私達の誰も知りません……」

大神「……一体何が起こったというのか」



K「――実は、俺はぼんやり思い出してきた」



「えっ?!」


とうとうKAZUYAは切り出した。まだ真実全ては言えないが、部分的になら明かしてもいいだろう。


K「お前達、集団ヒステリーという言葉は知っているな?」

苗木「知っていますが、まさか……」

K「集団に対して同時に極端な不安やストレスがかかった場合、全員がパニック症状を起こしたり
  妄想に囚われることが時としてある。……俺達も今、その状態なのかもしれない」

十神「馬鹿な! そんなことが……!」

K「ないと言い切れるか?」

十神「…………」

K「例えば東京で大規模なテロが発生し、お前達希望ヶ峰の新入生は学園に保護された。
  だが、その際に極度のストレスで記憶障害を発症。そこを江ノ島盾子につけこまれたとしたら?」

苗木「筋が通ってる……!」

大和田「おいおいおい、マジかよ……」

葉隠「い、いや、いくらなんでも突拍子もなさすぎるって……」

山田「信じられない。信じたくない……」

霧切「通常の精神状態ならムリでも、記憶障害を起こしている時に催眠術でも使えば……」

セレス「だから、図書館にあった新聞などは未来の日付けだったのですか?」

桑田「お、おいおい。あれ、結構未来のがあったぞ。流石に作りもんだろ、あれは……」

舞園「……先生は知っていたんですか? だから、脱出に消極的だったんですか?」


K「すまない。俺もはっきりとは覚えていないんだ。だが、世界各地でテロが起こっていたのは思い出した」

石丸「では、少なくともその書類に関して言えば本物という訳か……」

腐川「なんか……脱出する気が失せるじゃない……」

十神「ハッ! テロがなんだ! だったら尚更十神家当主のこの俺がこんな所に
    引っ込んでいる訳にはいかん。他に見つけたものはないのか?」

霧切「……最後に、これを」

苗木「鍵?」


霧切が出したのは、キーヘッドにモノクマの飾りがついた鍵であった。


朝日奈「えっと……それだけ?」

霧切「ええ」

葉隠「か、鍵一本って?! あんだけ危ないことして手に入ったのがこれだけか?!」

山田「宝の鍵ならいいですけど、宝箱はないですもんね……」

セレス「そもそもこれはどこの鍵なのでしょう?」

不二咲「まだ開いてない所だよね、きっと」

大和田「まさか、学園長室の鍵じゃねえよな?」

霧切「この鍵は、鍵のかかった引き出しに入っていたわ。つまり、モノクマにとって重要なものよ」

舞園「重要な鍵と言いますと……」

K「――マスターキーか?」


ザワッと生徒達が騒ぎ始めた。


ここまで

今週は暑いけど最近は比較的涼しくなってきたのでやっと体調が安定し、
モチベも回復してきました。ただ、一次で大事な締切があるため、相変わらず
更新はやや遅め。ゆっくりお付き合いください


>>175
最近気づいたのですが、Twitterで告知してもタイムラインが流れるんですよね……
はっきりこの日に更新する!て決まってる時は事前に一回予告した方が良いのかもですね


桑田「ちょ、マスターキー? それって全部開けられるってことか?!」

朝日奈「情報処理室も開けられるのかな?!」

苗木「あと、僕達が行ってないところってどこだろう?」


騒ぐ生徒達をKAZUYAは手で制し、霧切を見つめる。


K「霧切、その鍵を俺に預けてくれないか? 試したい場所がある」

霧切「倉庫の横の階段ね?」

K「ああ、寄宿舎の二階。脱出に決定的なものはないかもしれないが、
 今回のように何らかのヒントがある可能性がある」

十神「では、また探索チームを作るか」

K「いや……まずは俺一人で行く」

大和田「ハァ? なんでだよ。俺が行けば早いぜ?」

K「機動力がある大和田はここに残って万が一保健室が襲われた場合、俺を呼びに来て欲しいんだ」

霧切「私も駄目なのかしら?」

K「食堂と違って、保健室との距離が長い。俺一人だったら戦いながら
  逃げて来れるが、誰かを庇いながらだと厳しい」

石丸「で、でしたら僕が行きます! 自分の身くらい守ってみせます!」

十神「俺も行くぞ。あそこは前から気になっていたんだ。この目で見てやる」

朝日奈「危ないのなんてみんな承知だよ! さっきだって、みんなで探索したしさ!」

K「…………」



距離が長い、危険だからなどというのは単なる言い訳に過ぎなかった。

KAZUYAは思い出していたのだ。寄宿舎の二階には自分や学園長の私室があったことを。
……すなわち、生徒達に見られたら不味い物がある可能性があるのだ。


K「俺達が学園長室に突入したことで、江ノ島側はもういつ仕掛けてくるかわからない。
  保健室を守りつつ早急に探索しなければならんのだ。頼む、わかってくれ」

苗木「うーん、先生がそこまで言うなら……」

舞園「そうですね。もう、いつ攻めてくるかわかりませんからね」

霧切「本当に、それだけ?」


霧切が疑い深くKAZUYAを見つめる。KAZUYAは頷いた。


K「ああ、“それだけ”だ……!」

霧切「…………」


霧切は明らかに納得していなかった。だが……KAZUYAの言葉を信じ、鍵を渡した。


霧切「絶対に、戻ってきて頂戴」

K「ああ!」


――彼等は知らなかった。

今この瞬間に、大いなる運命の分岐点が迫っていたことを。


K「そうだ。俺がいない間、モノクマに気を付けてほしい」



去り際に、KAZUYAは振り返って、生徒達に注意を促す。


K「奴め、本当に狡賢い奴だからな。いきなり攻めてくるのではなく、
  なんらかの策を使ってくるかもしれない。奴の言葉に耳を傾けるな」

K「――決して」


そう言い残すと、KAZUYAはマントを翻して保健室から出て行った。



               ◇     ◇     ◇


KAZUYAがいなくなった保健室には妙な緊張感があった。

先程も、階段の前にバリケードを作りに行っていたが、その時は他の生徒も出払っていたため、
今より慌ただしい雰囲気であった。全員が揃っていて、KAZUYAだけがいない。

その空気が、なんとも言えない寂しさと不安をもたらすのだ。


「………………」


生徒達は気まずげに視線を合わせては苦笑する。

社交性の高い苗木が、なんとか場を持たせようと立ち上がった。


苗木「あ、はは。なんか……落ち着かないね」

朝日奈「そうだね……」


舞園「西城先生は本当に存在感が大きいから……」

桑田「体も大きいしな」

「ハハハ……」


ガタッ!!


「?!」


突然バリケードの外で音がした。


不二咲「ヒッ……?!」

大和田「お、おいおい……戻ってくるの早すぎだろ……」

十神「何をしている! 早く武器を持て!」


全員が青ざめながら、武器を取って構える。外からは場違いに呑気な声がかけられた。


モノクマ「そう、怖がらなくてもいいんじゃない?」

苗木「モノクマ!!」

霧切「……何の用なの?」

大和田「今すぐ帰らねえとぶち壊すぞ!」

モノクマ「――おやおや? もしかして今そこに西城先生はいないのかな?」

「?!」


苗木(な、なんで……?!)

モノクマ「簡単だよ。だって、いつもなら真っ先に怒鳴ってくるじゃない。……ふ~ん、いないんだ?」

「…………」

モノクマ「ボクとしては今すぐここに突っ込んでオマエラを全滅させることも出来る。
      でもオマエラも知っている通り、ボクはあくまでゲームがしたいんだよね」

モノクマ「だからさ、ボクから一つ提案。みんなでゲームをやらない? その名も宝探しゲーム!」

山田「宝探し?」

葉隠「何があるんだ? い、いやいや聞くだけだべ!」

セレス「……それが一体何だというのです?」

モノクマ「オマエラはボクが隠したあるものを探すだけ。それがあれば
      ボクのいる情報処理室への扉を開くことが出来る」

桑田「ハッ! それがなんだってゆーんだよ。入った所で蜂の巣とかだろ、どーせ」

モノクマ「正規の方法で入ってきた人間にそんな卑怯な手は使わないよ。ゲームなんだから」

石丸「入ったらなんだというのだ! 君は大人しく捕まってくれるのか?!」

腐川「そうよ! 胡散臭いことこのうえないわ!」

モノクマ「それはオマエラ次第かな? 情報処理室にたどり着くこと、それは即ち将棋で言う王手!
      そこで初めて、オマエラはボスであるこのボクと戦う最終決戦の権利を得るってワケ!」

十神「最終決戦に勝てばなんだ? 俺達を潔く解放するとでも?」

モノクマ「その通り! 悪い条件じゃないと思うけどな?」

苗木「そ、そんな……?!」

舞園「解放?!」



大和田「ウ、ウソだろ……?」


モノクマが持ち出した条件は驚くべきものであった。
今まで散々彼等を苦しめた元凶が解放という言葉を出してくるとは。


十神「騙されるな! お得意の口八丁だ。本気で解放する気などない!」

石丸「そ、そうだ。モノクマはそういうヤツだったじゃないか!」

モノクマ「疑り深い所は誰かさんに似ちゃったかな? ボクは約束を破ったことはないのにね」

霧切「どうせ隠してることでもあるんでしょう?」

モノクマ「そりゃ、あるけどさ。じゃあ、特別に何でも質問に答えてあげようか?
      ただし、3つくらいね。西城先生が戻ってきちゃうからさ」


全員が顔を見合わせる。何を聞くべきか思案すると、頭の回る不二咲が口を開いた。


不二咲「……ほ、本当に勝ったら全員揃って生きたまま出してくれるの?
     誰かを生贄にする、とか出た瞬間に襲いかかったりとかはなくて?」

モノクマ「無条件に出してあげるしその後ボクから何かすることはないよ。勝てたらの話だけどさ」

セレス「ここは本当に希望ヶ峰学園なのですか? 実は絶海の孤島で出ても家に帰れないということは?」

モノクマ「ここは日本だし東京にある本物の希望ヶ峰学園だよ。外に出たら各自勝手に帰ればいい。
      ボクもボクの部下も一切手は出さないよ。オマエラは完全に自由!」


そこまで聞いて、生徒は沈黙した。


モノクマ「さーて、最後の質問だよ。慎重に考えてね!」

「…………」


桑田「どーする?」

霧切「外の状況を聞くというのはどうかしら? もしかしてテロで危険かもしれない」

朝日奈「でも! さくらちゃんは怪我してるしここにいるよりは絶対外に出た方がいいよ!
     いくらなんでも外が完全に廃墟ってことはないはずだし!」

大神「我に気を遣うな、朝日奈よ……」

舞園「家族は……無事なのでしょうか?」

葉隠「あ、それは気になるべ……」

山田「家族が無事じゃなきゃ正直外に出ても仕方ないですよね……?」

苗木「僕も……最初に見た映像が本物なのか気になるな」

十神「どいつもこいつも! 貴重な質問をそんなことに費やす気か!」

石丸「家族のことは大事に決まっているだろう!」

モノクマ「時間がないから、あと5秒で決めてね。5,4,3,2……」


急かしだしたモノクマに慌てて苗木が質問した。


苗木「僕達の家族は無事なのか? 実は死んでいたりとか……」

モノクマ「生きてるよ。全員ね」

桑田「本当か?! じゃああのDVDなんだったんだよ?!」

モノクマ「あれは、まあ……演出?」


「ハアアアアアアアアアッ?!」


生徒達は絶叫する。それは恐怖ではなく怒りの絶叫だ。


十神「それ見たことか! やはりこいつは信用ならん!」

石丸「大嘘つきめ!!」

大和田「今すぐスクラップにしてやる!!」

セレス「あまりふざけたことヌかしてっとぶち壊すぞクマ野郎おおおおおお!!」

桑田「そーだそーだ!!」

モノクマ「ちょっとちょっと?! 落ち着いてよ!! あの映像にはっきり顔は映ってた?
      オマエラが勝手に勘違いしただけでしょーが!!」

舞園「だからってあんまりです!!」

不二咲「酷いよ!」

朝日奈「あんなの信じるに決まってんじゃん!!」

腐川「最低最悪ね!!」

葉隠「だべだべ! 俺より悪質だ!」

山田「ふざけんなあああああああああ!!」


想像以上の紛糾ぶりに流石のモノクマも慌てたらしく、わざとらしく言い訳を始めた。


モノクマ「大体、続きは卒業の後でってちゃんと書いてあったでしょ! 卒業したら
      約束通り言うつもりでした! それに、実は生きてましたの方がいいんじゃないの?」

モノクマ「それとも何? 死んでる方が良かった? じゃあお望み通り今すぐ殺してこようか?」

「…………?!!」


その言葉にピタッと糾弾が止まる。モノクマならやりかねないと思ったからだ。


モノクマ「ハァー……本当に手が掛かるね、キミ達……ボクがゲームマスターってこと
      忘れてるんじゃないの? オマエラに出来ることは、せいぜいボクが与えた
      選択肢の中から一番良い選択を選ぶこと。それだけだよ」

霧切「笑わせないで頂戴。何を選ぶか、全てあなたが決めているくせに」

苗木「そうだ。僕達に選択肢なんてあったことなかった! いつもお前の掌の上じゃないか!」

モノクマ「そんなことないよ。今だってボクはオマエラに選ばせてあげているじゃない。
      ボクの提案に乗るか乗らないかをさ!」

モノクマ「さあ、時間はないよ。一体どっち?! ボクの挑戦を【受ける】? 【受けない】?」



→【受ける】

  【受けない】
  【セーブする】





オートモードのため安価省略。自動選択



→【受ける】

  【受けない】
  【セーブする】


ピピッ!


  【受ける】
→【受けない】
  【セーブする】


ピピッ!


→【受ける】

  【受けない】
  【セーブする】


ピピッピピッ!


  【受ける】
  【受けない】
→【セーブする】



ピコンッ!







             【 ス ロ ッ ト 1 にセ ー ブ し ま し た 】






ピピッ!


→【受ける】

  【受けない】
  【セーブする】


ピコンッ!





                   【    再     開    】










             【  ル  ー  ト  分  岐  し  ま  す  】       







ここまで。

最近急に寒くなってきましたね。皆様、体調崩しませんように


苗木「……どうする?」

「…………」

モノクマ「早くしてよー!」

苗木「僕は……賭けてみてもいいんじゃないかなと思うけど」

舞園「そう、ですよね。怖いですけど、逃げ続けても状況は良くなりませんし」

十神「フン。虎穴に入らずんば虎子を得ず、か……」

霧切「……気乗りはしないけど、きっと断らせてはくれないでしょうしね」

石丸「逃げるより立ち向かうべきだ!」

大和田「そうだな。要は勝ちゃいいんだ!」

セレス「ギャンブルと同じですわ」

葉隠「やってやるべ!」

山田「頑張りましょう!」

腐川「で、何をすればいいのよ?」

モノクマ「フフフ、いいねいいね! ルールは簡単、5階の植物庭園にある大事な物を
      隠したんだ。それを制限時間以内に見つけられたら君達の勝ち」

モノクマ「見つけられなかったら負け。シンプルだろう?」

苗木「もし、見つけられなかったら……?」

モノクマ「別に何もしないよ。すごすごとここに戻ってくれば?」

朝日奈「モノクマにしては親切だね。なんだか不気味……」


十神「チーム分けをするぞ。いくら手出しをしないと言われていても単独行動は危険だ」

桑田「俺は今回は流石に休ませてもらうぜ。なにかあったら足引っ張っちまいそーだし……」

山田「僕も行けません。素早く動けそうにないですから」

朝日奈「私も残るよ。さくらちゃんが心配だし」

大神「いや、我に構わず行け。一人でも多い方が良いだろう」

朝日奈「でも……」

大神「モノクマも言っていただろう。ここに攻め込むつもりならとっくにしているはず」

苗木「朝日奈さん、時間がないよ」

朝日奈「……わかった。私も行く」

十神「戦闘能力で考えて、俺と石丸と大和田の三班で行くぞ」

腐川「あたしは白夜様の班よ!」

不二咲「僕は大和田君の班がいいかな」

石丸「霧切君は目を離すと単独行動をしそうだから僕の班に入りたまえ!」

霧切「……構わないけど、足を引っ張らないで頂戴ね」

石丸「ど、努力しよう……」

葉隠「あとはどうする?」

山田「時間もないですし、グーチョキパーで決めたらどうですか?」

苗木「そうだね。せーの!」


苗木、舞園がグー、朝日奈がチョキ、葉隠、セレスがパーとなった。


霧切「苗木君達はうちに入りなさい」

苗木「うん……(そんな気がしてたよ)」

舞園「邪魔をしないようにしますね……」

十神「葉隠、セレス。来い」

大和田「じゃあ、朝日奈が俺の班だな!」

朝日奈「行ってくる。すぐに見つけて戻るからね!」


大神、桑田、山田の三人を残し、11人は保健室を飛び出し植物庭園に向かった。


モノクマ「見つけられるといいねぇ」


ほくそ笑むモノクマを残して。



  ― コロシアイ学園生活六十九日目 植物庭園 PM4:12 ―


大和田「見つかったかー?」

朝日奈「ないよ!」

不二咲「こっちも!」

朝日奈「種の袋も探した方が良いかな?」

大和田「全部見た方がいいだろうな」


不二咲「あ、ひっくり返すなら別の袋に入れながらだと汚れなくていいかも」

大和田「流石不二咲だぜ!」

不二咲「う、うん。頑張るよ!」


植物庭園の小屋の中を三人は探している。以前大和田のチーム名が刻まれたツルハシは
ここにあった。他に何かめぼしいものがあれば良いのだが……

一方、十神達のチームは鶏小屋の付近を捜索している。
小屋の中に入りたがるのが葉隠くらいだったので、中を任せたのだ。


葉隠「おーい、お前さんら。宝物を知らねえかー?」

鶏「コッコッコッコッ?」

セレス「ご自慢の占いで鶏の言葉がわかったりしませんの?」

葉隠「人の占いを何だと思ってんだ! オカルトじゃねえんだぞ?!」

腐川「葉隠、喋ってないで手を動かしなさいよ!」

十神「おい腐川。お前も小屋の中を探せ。どうせ臭いんだからニオイも気にならないだろ」

腐川「はい、ただいまー!!」


ガチャッ、バタバタ。


十神「中は二人に任せる。周辺を探すぞ」

セレス「人を使うのが上手ですわねぇ。わたくしも人のことは言えませんが」


花壇の辺りを中心に探しているのが石丸のチームである。


霧切「地面に気を付けて。掘り返した場所は色が違うはずよ」

苗木「そうか、成程!」

舞園「流石霧切さんですね!」

石丸「了解した!」

霧切「ちなみに石丸君は花壇に入らないで頂戴。気付かないでうっかり踏み固めてしまいそうだから」

石丸「ぬなぁ?!」

舞園「私が見張ってます! 一緒にこっちを探しましょう、ね?」

石丸「う、うう……了解……」

苗木(流石にちょっと気の毒だ……一応、昔よりは注意力も上がってるんだけどな……)


一緒に医療訓練をしてきた苗木は石丸の成長を如実に見てきた。……が、未だに凡ミスを
することもあるのでこの大事な局面で足を引っ張らせる訳に行かないのは確かだ。


苗木(……ごめんね。君の分も僕が頑張るから!)

霧切「苗木君、何をしているの? 時間がないのよ?」

苗木「あ、うん。今行くよ!」


ちょっとだけだけど。多分今週中にもう一回来ます。

新年明けましておめでとうございます。
今年も細々とですが頑張ります。



               ◇     ◇     ◇


一方KAZUYAは――


K「フム……監視カメラはなし、か。元々立ち入りを禁止していた区域だからな」

K(ここが寄宿舎の二階か……ボロボロだな。五階のあの教室のように修復されていない)キョロキョロ


その時、頭痛と共に記憶が蘇ってきた。


K(うっ……そうだ。あそこが学園長の私室でここが俺の部屋。手前はロッカールーム……)


まず手前のロッカールームに入った。生徒達が記憶を失う前に使っていたもので私物が入っているはずだ。


K(当たり前だが開かないな。いや……)


KAZUYAは電子キーの場所に己の教師手帳を当ててみた。教師の権限は強い。もしかしたら……

ピー、ガチャン。


K「やはり……」


すんなり開いたロッカーの中を見てみる。ノートを見るに、ここは葉隠のロッカーだったようだ。
他のロッカーも順番に開いて覗いていく。


K(まだ見せる訳にはいかないな。しかし、いずれ真実を明かした時のための証拠はいる……)


持ち出すのに一番手頃だった霧切の手帳を取り出すと、次に自分の部屋に行く。
殺風景な部屋だ。そもそも、騙し討ちのような形でこの学園に閉じ込められたため、
本当に必要なものしか置かれていない。


K(これは……)


机の上には、シンプルな写真立てに入ったいくつかの写真が置いてあった。
勝手に閉じ込めることに一応罪悪感があったのか、仁が気を利かせて写真を用意していたのだ。

写真に写っているのは柳川、大垣、高品、七瀬と言ったお馴染みのメンバー達。
その横の写真には、どうやって手に入れたのか父・一堡(カズオキ)の写真もあった。
探偵は辞めたとはいえ、伊達に仁も霧切家の人間ではないということだろう。

懐かしくなって、KAZUYAは写真を指で撫でた。そして、部屋の中を精査する。


K(……いかんな。だいぶ時間を取られてしまった)


ロッカールームの調査に加え、KAZUYAの部屋には使える医療器具や薬品類が多かったため、
それらを調達していたらすっかり時間がかかってしまった。

急ぎ足で最後の部屋に向かう。


K(フム、ここに来るのも久しぶりか……)


大人が少ないため、KAZUYAは仕方なく仁の話し相手を務めたものだった。
絶望的なまでに考え方は合わなかったが、ただの雑談であれば知識の豊富な
仁は話し相手としてけして悪くはなかったものだ。

隅から隅まで部屋の中を物色するが、特に目ぼしいものはない。


K(パソコンの中にも手がかりはなし、か。……ム? パスワードだと?)


パソコンの中に一つだけ開かないファイルがあったのだ。
気になったKAZUYAは手当たり次第に単語を打ってみるが、なかなか開かない。


K(待てよ? あんな男ではあったが、娘に対する期待と愛情は確かだった。となると……)


試しにKYOKOと入れてみるとロックは解除され、隠し扉が顕わになったのである。


K(こんな物があるとは……つくづく隠し部屋の好きな男だ)


二階の男子トイレ、保健室に続き3つ目の隠し部屋である。いい加減驚かなくなっていた。


K(中にあるのは……箱?)


部屋の中には棚と机しかない。棚の中身は持ち去られたのか空であった。
机の上には装飾されたプレゼントボックスがポツンと置いてある。


K(霧切に何かあげようとしていたのだろうか。学園長には悪いが中を改めさせてもらおう)


しかし、KAZUYAは開けたことを後悔することになる。パンドラの箱とは言ったものだ。

中には絶望しか入っていなかったのだから……


K「これは……! 人骨か」

K(大きさ、形状からして成人男性の物に間違いない。一体、誰の……)


思い当たる人物は一人しかいない。これを置いたのは恐らく黒幕だ。
となると、この部屋を使っていた人物だと考えるのが妥当だろう。


K(霧切学園長……いけ好かない男ではあったが、まさかこんなことになってしまうとはな……)


静かに手を合わせると、KAZUYAは蓋を戻した。


K(本当にこれだけか? 何か収穫は……)


きょろきょろと周囲を見渡し、棚の上の写真立てに気付く。幼い霧切が写っている写真だ。
特に考えがあった訳ではないが、なんとはなしに手に取って裏を見てみる。


K(これは……!)


メモリーカードが貼り付けられていた。早速それをパソコンで開いて見てみる。


K(映っているのは生徒達か……)


中に入っていたのは動画であった。この学園に一生住むことになっても良いかと
学園長が問いかけ、生徒達が覚悟を決めて答えている映像である。


K(これがあれば記憶喪失の決定的証拠になるな。……ムッ!)


鋭敏な感覚を持つKAZUYAは背後から侵入者が近づいたことを察知し、すぐに動画を消した。
案の定、扉からモノクマが入ってくる。


モノクマ「ヤッホー!」

K「……何の用だ?」


モノクマ「何の用? 学園長の僕が学園の中を歩いていたらいけない?」

K「フン、本物の学園長はこの部屋の主だろう」

モノクマ「全く、泥棒した鍵でここまで来ておいて偉そうなこと言うよねぇ。よっこいしょ、と」


ソファに座るモノクマを怪訝に見ながらKAZUYAは警戒する。


K「戦刃むくろはどうした? 俺を殺しに来たんじゃないのか?」

モノクマ「そういう野蛮なやり方は好きじゃないんだよね。聞きたいんじゃない?
      先代の学園長がどうやって死んだかをさ」

K「確かに気にはなるが……」


KAZUYAは違和感を覚えていた。何故このタイミングでモノクマはここを訪れ、
自分と意味のない話をしようとするのか。それに、相方である双子の姉はどうした?


K(成程、時間稼ぎをするつもりか。そうはさせんぞ!)


自分をここに釘付けにし、その間に戦刃を使って生徒達を強襲させる腹づもりに違いない。


K「悪いがその手には乗らん。お前の小狡い謀略に乗るのはここまでだ」

モノクマ「あーあ、君のような勘の良い大人は嫌いだよ」

K「…………」


相手にせず部屋を出ようとするKAZUYA。
その背中に、足を組み頭の後ろに手をやったモノクマのせせら笑いが突き刺さる。


モノクマ「――でもさ、残念だけどもうシナリオは決まってるんだよね」


KAZUYAが急いで扉を開けると、そこにはモノクマ軍団が待ち構えていた。


モノクマ軍団『クマー!!』

K「クソッ! 用意周到な……!」

モノクマ「無駄だよ。もう間に合わない。あの選択をした時点で未来は決まってしまったんだから」

K「うおおおおおおおおおおおッ!!」


KAZUYAはモノクマ軍団を蹴散らしながら前に進む。


K(急がなくては! もしあいつらの身に何かあったら……!!)


何体のモノクマを倒しただろうか。

KAZUYAが廊下を突破し、寄宿舎の階段を降りて校舎へ向かう途中だった。



『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』



―― 今、絶望の最終シナリオが始まる。


ここまで。

投下遅れてすみません。素直に忘れていました。
リアルの方の創作活動が忙しくて、3月いっぱいはバタバタしそうです。

久しぶりにKAZUYA描いたので、Twitterの方にうp
https://twitter.com/doctor_ronpa_K


K「何があった?!」


バンッ!と保健室の扉を蹴破らんばかりに飛び込む。
KAZUYAはバリケードがなくなっていることに気が付き、青ざめた。


桑田「せんせー……」

大神「西城殿」

K「……何故お前達しかいない?」


保健室には負傷している桑田、大神、山田の三人しかいなかったのだ。


山田「実はですな……」

K「……!」


説明を聞く前にKAZUYAは飛び出した。ちょうど階段を降りてきた生徒たちと鉢合わせになった。


K「お前達! さっきのアナウンスは?!」

苗木「先生! 大変です!」

石丸「し、しし……!」

朝日奈「死体! 死体が!!」

十神「こっちだ! 早くこい!」

K「!!」


生徒に連れられ、KAZUYAは二階に上がった。階段のすぐ前の廊下、そこにあったのは――


K「なんだと……そんな、馬鹿な……?!」


「……………………」


そこには血溜まりの中、物言わぬ姿となって倒れている女の姿があった。

黒く短い髪、細く締まった肉体。右手の入れ墨。



――戦刃むくろの死体であった。



K「狸寝入りはよせ、戦刃……その手はくわんぞ……」

不二咲「先生、それが……」

舞園「死んでいるんです。確かに……」

葉隠「は、はは……本当にありえないべ」

腐川「罠だとっ、思ったのよぉぉ!」


離れたところに立っている腐川が叫ぶ。訓練でほぼ血液恐怖症を克服した彼女だが、
顔見知りの人間の死体はやはり恐ろしいようだ。


K「ば、馬鹿な……」


医者のKAZUYAは一目見た瞬間、死んでいるとわかっていたが恐る恐る脈を取り瞳孔を確認した。


K「間違いない……確かに死んでいる……だが、これは一体どういうことだ?」


大和田「仲間割れ……ってことか?」

セレス「ですが、霧切さんの持ってきたデータによりますと彼女は江ノ島盾子の双子の姉。
     怪我もしていますし、この大事な状況で裏切るでしょうか?」

十神「裏切ったというよりは用済みになって一方的に捨てられた方がしっくりくるな」

霧切「いよいよ彼女の計画の最終局面に入った……ということではないかしら?
    戦刃むくろはもう必要ないから消された。むしろ、これは演出……」

K「…………」


顎に手をやる霧切の表情は非常に険しい。KAZUYAの表情もまた同じく。


モノクマ「大せいかーい! コロシアイ生活はいよいよ最終フェーズに入ったのであります!」

苗木「モノクマ……!!」


やってきたモノクマは、嬉しそうにピョコピョコと飛び跳ねている。


モノクマ「どうなっちゃうんだろうねぇ? ドキドキするねぇ? あー、早くネタバラシしたいなぁ」

霧切「学級裁判を行うのね?」

モノクマ「もう! 霧切さんたら相変わらず空気が読めないんだから!」


「えっ?! 学級裁判?!」


全員が驚いて霧切を見る。


石丸「学級裁判も何もないだろう……犯人はわかりきっているのだから……」


大和田「テメエでテメエの首をしめるってことか? そんなバカな」

朝日奈「一体なに考えてるの?」

モノクマ「とりあえず、保健室のメンバーと合流したら? モノクマファイルは送っておくからさ。
      それじゃ、裁判場でお会いしましょー!」

「…………」


全員黙ったままKAZUYAの顔を見た。


K「……とりあえず、お前達が無事で本当に良かった。一旦、保健室に戻ろう」


KAZUYAが促し、全員保健室へと戻る。


               ◇     ◇     ◇


桑田「ハァ?! 戦刃が死んでた? なんで?!」

山田「そんなバカな?!」

K「間違いない。あれは仮死状態などではなかった」


胸元をナイフで一突きにされての失血死である。血糊を使ってもKAZUYAの目と鼻はごまかせない。


大神「何故、そんなことを……」

K「……それより、俺からも聞きたいことがある。お前達は何故保健室の外に出ていた?」

舞園「実は、モノクマからゲームを持ちかけられたんです」


K「なに、ゲームだと?」


生徒達は、その場にいなかったKAZUYAにモノクマとの取引について話した。


                  ╂


植物庭園を探していた生徒たちは、なかなか目的のものが見つからずに焦りを感じていた。


葉隠「そもそもよぉ、俺達は一体なにを探してんだ?」

セレス「宝物、とは言いますが具体的なことは何も聞いていませんからね」

腐川「そんなんじゃいつまで経っても見つからないわよ!」

十神「セレス。ギャンブラーの勘とやらは働かんのか?」

セレス「わたくしは超能力者ではありませんのよ。そういうことは葉隠君の分野では?」

葉隠「お、いっちょ占ってみっか?」

腐川冬子「やめなさいよ。葉隠に占わせたら七割の確率で外れちゃうじゃない!」

葉隠「んなこと言われてもなぁ! 何もしないよりはマシだべ!」


話していると、物置周辺を探していた大和田チームが合流した。


大和田「おーい! そっちはなにか見つかったか?」

朝日奈「こっちは全然ダメ!」

不二咲「肥料の袋も全部見たんだけど、それらしいものはなかったんだ」

十神「チッ。そっちも収穫なしか」


苗木「みんな! ちょっとこっちに来て!」


その時、苗木がメンバーを呼びに走ってきた。


苗木「妙なものを見つけたんだ!」


苗木に連れられモノクマフラワーの前に全員集まる。舞園が花の裏側を指し示した。
遠目でハッキリしないが、小さな袋のようなものが置かれているように見える。


舞園「あそこです!」

石丸「苗木君があの花に襲われそうになったところを霧切君が助けて、その時に舞園君が見つけたのだ」

大和田「デカした、兄弟!」

腐川「見事に一人だけ役に立ってないわね……」

石丸「僕は転んだ苗木君を助け起こして運んだぞ!」

十神「そんなことはどうでもいい。……位置が悪いな」

霧切「あの花は巨大な食虫植物のようなものよ。迂闊に近づけば呑み込まれるわ」

不二咲「どうしよう。せっかく見つけたのに……」

大和田「俺に任せろ。花なんてぶっ潰してやるぜ!」

朝日奈「あ、危ないって! 万が一のことがあったらどうするの?!」

霧切「……物置に除草剤はないかしら? 植物だから、枯らしてしまえば……」

不二咲「あ、そういえばあったよ!」

大和田「持ってくるぜ!」


             ・

             ・

             ・


モノクマフラワー「」シナシナシナ……

苗木「貴重な植物かもしれないから、可哀想な気もするけど……」

舞園「仕方ないですね。こうしないと取れませんし」

葉隠「霧切っち、まだ危ねえって!」

霧切「…………」


モノクマフラワーが枯れるや否や、霧切は素早く袋を回収する。


十神「中身はなんだ?」

霧切「――鍵だわ」

セレス「鍵? どこの鍵ですか?」

霧切「調べるのは後でも出来る。とにかく今は戻りましょう」


                  ╂


K「それがこの鍵か……俺の持っているマスターキーとは形状が違うな」

霧切「私が見た限り、一箇所だけこの鍵が入りそうな場所がある」

K「マスターキーが使えない場所。すなわち、黒幕にとって最も重要な場所と言うわけだな」

K「恐らく……情報処理室。黒幕の本拠地!」


桑田「な、なんでそんな重要なもんを渡したんだよ? 殴り込みにこいってことか?」

山田「……まさか、僕達に降参するつもりとか?」

朝日奈「ええ、そんな……そんなことってあるのかな?」

セレス「では、戦刃むくろを殺したのは有終の美を飾るためということですか?
     自分で作り上げた舞台の幕を引くために、自ら犯人となったと」

十神「ヤツのことだから何か仕掛けているだろうが、面白い。この謎を説けば全て終わりと言うわけだ」

大神「文字通り最後の戦い、か」

不二咲「この裁判が終われば、なんらかの決着が着くってことなんだね……」

桑田「おっし! 燃えてきた! やってやろーじゃん!!」

大和田「おうよ! 完膚なきまでにやっつけてやるぜ! まあ、推理はおめえらに任せるけどな」

山田「そこで人任せですかー?!」

腐川「そ、捜査の最中に襲ってこないわよね? 大丈夫よね?」

舞園「大丈夫だとは思いますが、なるべくバラバラにならないようにしましょう」

苗木「よし、なら早速モノクマファイルを確認して捜査に……」

K「…………」

苗木「先生?」

K「……何か言ったか?」

苗木「ぼうっとして、どうかしたんですか?」

K「いや、なんでもない……。そうだな。捜査に行こう」


KAZUYAの口数は少ない。


ここまで。


皆様、ご体調はいかがでしょうか?1は生きております。
コロナの影響で相変わらず仕事は忙しいですが、無事です。

皆様もお気をつけて。それでは。


生存報告

ミスが有ったので修正。戦刃さんの死体発見現場は一階と二階の踊り場でした。


ちょっと暑さが落ち着きましたね。皆様いかがでしょうか。
1は夏バテに弱くて熱中症に何度かなりかけてました。おかげで
更新が大幅に遅れてました。すみません。

だいぶ間が空きましたがけして遊んでるわけではなく……
賞金もないようなささやかな小さい賞ですが、この間初めて賞を頂きました。
あと、初めて新人賞の一次を通過しました。もしいつかデビューできたら、
余った時間全部このSSに回して完結させるのでどうか祈っててください……


K「これが最後になるなら準備をしないとな。お前達は先に行っていてくれ」

大和田「おっし! 気合い入れるぞ!」

葉隠「最終決戦だべ!」

不二咲「みんな、頑張ろうねぇ!」


ぞろぞろと保健室を出ていく生徒達。


K「……石丸。ちょっといいか?」

石丸「はい? なんでしょう?」


他の生徒達が出ていったのを見計らい、KAZUYAは引き出しから分厚い封筒を取り出した。


K「ここに俺の知り合いの医者達のリストがある。念の為、アルターエゴにもデータを入れたが
  もしなにかあったら頼るといい。外がどうなっているかわからんが、いくらなんでも
  全滅はしていないはずだ」

石丸「ありがとうございます! ちなみに、先生は……」

K「……俺はここを出たら忙しくなる。残念だがずっとお前達を構っている訳にもいかないだろう。
  だから、苗木と協力して立派な医者になるんだぞ」

石丸「はい! わかりました!」


KAZUYAは手を差し出した。


K「――医者の道は険しい。みんなと手を取り合って、頑張れ。
  何があってもくじけるんじゃないぞ!」

石丸「……はい!」


がっしりと握手を交わし、石丸も走っていった。


K(本当に成長したな……)


KAZUYAもゆっくり後を追った。途中、気になった桑田が戻ってきた。


桑田「せんせー! どうしたんだよ! 早く捜査しねーと」

K「なに、俺はもう大体見当がついている。だから焦る必要はない」

桑田「お! さすがせんせーだな! もう全部お見通しってワケか。
    っても、今回の犯人はモノクマこと江ノ島で決まりだろーけど」

桑田「証拠とかもうバッチリな感じ?」

K「……まあな」

桑田「頼りにしてますよーっと」


桑田がKAZUYAの背をバンバンと叩き、KAZUYAは笑った。


K「ありがとう」

桑田「へ? なんだよ、急に。なんか辛気くせーなぁ。そーゆーの死亡フラグっぽいぜ?」

K「いや、なんとなくな」

桑田「……やめろよな。ほんと、縁起悪いから。早く江ノ島をやっつけようぜ!」

K「おっと」


桑田がKAZUYAの背をグイグイと押して、現場検証が始まった。



               ◇     ◇     ◇


霧切「状況はすべて江ノ島盾子を犯人と示しているわ」

十神「フン、あっけない終わり方だったな」

セレス「裁判が待ち遠しいですわね」

山田「なーんか、いやにあっさりしてますねぇ……」

大神「江ノ島盾子があのモノクマを操っていたのだろう? すぐ諦めるような性格だろうか?」

舞園「裁判場で、私達ごと自爆とかしないですよね……?」

腐川「こ、怖いこと言うんじゃないわよぉ! もしそうだったらどうするの?!」

苗木「でも行くしかないんだ。僕達には他に選択権なんてないんだから」

朝日奈「これで、終わるんだよね……? 本当に……」


キーンコーンカーンコーン……


『時間となりました。みなさま、赤い扉の前に集まりください。うぷぷ……』


エレベーターに乗り、地獄へ向かうような気持ちで地下へ向かう。
三度目の裁判場は悪趣味なデザインへ生まれ変わっていた。


苗木(これで終わりなんだ。終わりのはずなんだ。なのに……)

苗木(不安な気持ちがなくならないのはなんでだろう……?)


朝日奈と腐川が震えていた。葉隠もだいぶ顔色が悪い。


苗木「大丈夫? なんだか、顔色が悪いけど……」

朝日奈「ありがとう。自分でもなんだかわからないけど、寒気がしちゃって……」

腐川「作家の勘てやつ? なにも起こらないといいけど……」

葉隠「全部終わる。これで全部終わる……はず……」


この学園生活で直感力が磨かれたものは、薄々これから起こる事態を感じ取っているようだった。


             ・

             ・

             ・


モノクマ「さて、オマエラ。自分の席についたね?」



             裁判席

             モノクマ

        朝日奈  K  葉隠 

    大和田            不二咲               

   霧切                 十神

 大神                      セレス

   江ノ島                桑田

     石丸            腐川

        舞園 苗木 山田





          !   学   級   裁   判   開   廷   !


モノクマ「じゃあ、いつものお約束から始めようか。学級裁判のルール説明ね」


「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

「正しいクロを指摘出来れば、クロだけがオシオキ。だけど……」

「もし間違った人物をクロとした場合は……クロ以外の全員がオシオキされ、
 みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」


モノクマ「えー、説明もこの辺にして。それでは、戦刃むくろさん殺しの
      クロを当てる学級裁判を始めます! じゃんじゃん議論しましょう!」

「…………………………」


シーーーーーーーーン。


モノクマ「ありゃ?」

十神「白々しい……」

セレス「あなたが犯人でしょう?」

霧切「犯人はあなたしかありえない。今更仲間割れを狙っても無駄よ」

モノクマ「んー、そうかなぁ? オマエラが思い込みで話してるだけじゃないの?」

大和田「ああん? 思い込みだぁ?!」

桑田「おめー以外ありえねーっつーんだよ!」

石丸「ただちに投票を要求する!」


モノクマ「まずは状況を整理しようよ。思わぬところに犯人が潜んでいるかもしれないよ?
      投票に失敗したら全員オシオキなんだからさ。もっと慎重になったら?」


モノクマは頬杖をつきながら優雅にワインを飲んでいる。


山田「ぶ、不気味ですね。なんであんなに余裕なんですか……?」

大神「落ち着け。我らを迷わせるいつもの手だ」

舞園「状況を整理して、反論できないようにしてやりましょう」

不二咲「まずは、現場の状況から?」

苗木「僕達が植物庭園から戻る途中、一階と二階の間の踊り場で死んでいる戦刃むくろを発見したんだ」

霧切「死因はナイフによる刺殺。心臓を一突きだったわ」

十神「手負いとはいえ、超高校級の軍人を正面から殺せる人間など限られている。
    例えば、身内なら油断しているだろうな」

山田「ほらみろ! やっぱり犯人はお前だけだ!」

葉隠「完璧な議論だべ!」

朝日奈「早く負けを認めちゃいなよ!」

モノクマ「……オマエラ、本当にそれでいいんだね?」

腐川「な、なによ……なんで含みがあるのよ……それが正解でしょ……?」

モノクマ「別に、ボクはどっちでもいいんだよ? ただ、議論が足りてないんじゃないかなぁって」

苗木「なにが言いたいんだ?」






「――アリバイだろう?」





全員が声の方向を見た。


K「アリバイを確認していない」


目を閉じ、腕を組んだままKAZUYAは静かに言った。
その時、全員が初めてその違和感に気づいた。


苗木(あれ……?)

苗木(……そういえば、裁判が始まってからKAZUYA先生は一言も話してなかった)

桑田(おかしいよな。いつも率先してリードしてくれるのに……)

舞園(どうして……今まで黙って聞いていただけだったんですか、先生……?)

霧切「あ、あ……あぁ……!!」


霧切がガクガクと震え始めた。呼吸が荒い。


大神「き、霧切……大丈夫か?」

大和田「おい、顔色があ真っ青だぞ……?」

霧切「……どうして、どうしてこんな簡単なことに私は気が付かなかったの……?!」

苗木「霧切さん……?」

十神「まさか……?!」


今度は十神が青ざめ始めた。


セレス「どうしたんです? 全員一緒に行動していたのですから、アリバイは……ああっ?!」

葉隠「お、おい……やめろって。その、なんかヤバいことに気がついたみたいな顔すんの……」

不二咲「西城先生が……先生だけがあそこにいなかった……!!」


すでに涙を浮かべた不二咲がなかば悲鳴混じりで叫ぶ。


桑田「お、おいおい……せんせーがいなかったからってなんだよ……」

石丸「まさか?! 君達は西城先生が戦刃むくろを殺したとでも! そう言うのかね?!」

大神「馬鹿な……?!」

朝日奈「う、ウソでしょ?!」

舞園「ウソです! 私は信じません!」

苗木「落ち着いて考えてみようよ! 凶器とか、死因とかさ!」

K「無駄な議論はしなくていい」

苗木「先生?!」

K「俺は確かにやっていない」

K「……だが、それを証明する証拠がないんだ」


「……………………」


静まり返った。


ここまで。

次は一気に裁判後編まで行きたいところ。
それでは皆様、夏バテにご注意ください~!


腐川「い、いや……認められない! 信じたくない!」

山田「西城先生は今まで何度だって奇跡の逆転をしてきたはず! 今回だって……

!」

K「すまない」

大和田「なんで、謝るんだよ……おい……」

朝日奈「イヤだよ……そんなの、イヤだってば……」


朝日奈がKAZUYAのマントを掴む。桑田が駆け寄った。


桑田「わかってたのか……? わかってたから、さっきあんなこと……!!」


他のメンバーも続々と駆け寄る。


石丸「う、ウソだ! ウソだウソだウソだッ!!!」

舞園「先生ッ!!!」

セレス「ウソと言ってください!」

葉隠「こんな結末、誰も得しねえって……あんまりだ!」

K「みんな、聞いてくれ!」

K「安心しろと言っていいのかはわからんが……この中でもし誰か一人が
  死なないとならんなら、それが俺でなければならん正当な理由があるんだ」

桑田「理由ってなんだよっ!! そんなもんあるわきゃねーだろ!!」

K「――俺はな、癌なんだ」



「?!!」


大和田「おいおい、冗談だろ……?」

K「冗談ではない。ただ事実を言っている」

K「俺は医者だぞ。自分の体については俺が一番よくわかっているさ。
  だから、間違いない。今まで黙っていたが、前に血を吐いたこともあるんだ」

苗木「せ、先生……」

苗木(そんな素振り……少しも見せなかったのに……!)

K「前に癌で手術をしたと言っただろう? 完治したと思っていたが、
  この学園での過酷な生活でどうも再発したようだ。だから、この裁判で
  生き残ったところでどうせ長くは生きられないんだ」

石丸「そんなもの、手術をすれば……!」

K「前に言っただろう! 外がどうなっているかわからないんだ。
  おそらく、そんな余裕はない……」

不二咲「そ、そんなぁ……」

大神「我らを安心させるためのウソではないのか……?」

K「ありがたいことに嘘ではない。仮に嘘でも、お前たちに証明できるのか?
  超国家級の医師と呼ばれた、この俺の命がけの嘘を」

大神「…………」


KAZUYAはまず、十神の方を向いた。


K「十神」

十神「……なんだ?」


K「お前に後を任せていいか? この中では、お前が一番冷静だと思う」

十神「……イヤだと言っても、断らせる気など更々ないくせに……卑怯者め……」


珍しく十神は顔をそむけ、必死に涙をこらえるように鼻の付け根を掴んでいた。


十神「だが、仕方ない……引き受けてやるさ。この借りは大きいぞ。覚悟しろよ」

K「ありがとう。そう言ってくれると思った」


次に、霧切の方に顔をやった。霧切は背中を向ける。


K「霧切、すまん……」

霧切「最低だわ……! こうなることも最初からわかっていたんでしょう?!
    あなたって人は、本当に最低よ……」


霧切の凛とした目から、初めて涙が流れた。
裁判場のあちらこちらから嗚咽が漏れはじめていた。


K「何度もだましてすまなかった。だが、これで最後だ」

霧切「お願いだから、最後だなんて言わないで……」


その願いには答えず、KAZUYAは石丸に声をかけた。すでに涙と鼻水で顔面がひどい

ことになっている。


K「石丸」

石丸「…………」


K「しばらくは立ち直れないかもしれない。出会った頃に比べたら見違えるように
  成長したが、人間というのはそう簡単には変われないものだ」

K「だからみんなに支えてもらえ。風紀委員だからといってムリをすることはない



石丸「せ、先生……先生っ……!!」


なにか言おうとする石丸の視線をKAZUYAは振り払った。


K「桑田」

桑田「こんなの認めねー……マジでありえねーだろ……」

K「お前にも世話になったな。あんなに手がかかるヤツだったのに。
  すっかり頼りになってくれて、俺はいつも助かっていた」

桑田「な、なにすんなり諦めちまってんだよ! まだなにかあんだろ?!
    いつもみたいになんかすげー案出してなんとかしてくれよ?!
    先生のアホ! アホアホアホアホアホアホアホ!!」

K「苗木」

苗木「……はい」

K「お前は本当に頼りになるやつだった。超高校級の才能なんてなくても
  ひたむきさや誠実さがあれば少しも劣らないということをお前は証明した」

苗木「ありがとうございます……」

K「みんなを支えてやってくれ。お前ならできるはずだ」

苗木「わ、わかりました……グスッ。約束します……」


涙をぬぐっている苗木の隣に目をやると、青ざめた舞園が立っている。


K「舞園」

舞園「イヤ……イヤです……先生……!」

K「君も溜め込むところがあるから心配だな。真面目なのはいいが
  適度に息を抜いたほうがいい。自分を追い詰めるな」

舞園「先生がいなくなったら、私……」


崩れ落ちそうになった舞園を、苗木が慌てて支えた。
KAZUYAは苗木にアイコンタクトを送ってうなずき、次の生徒を見る。


K「不二咲」

不二咲「本当に……これでお別れなんだ……うぅ……」

K「残念だがな。しかし、お前は本当に強くなった。もう誰かに憧れなくても、
  自分の強さで他人を助けられるはずだ。わかるな?」

不二咲「約束します……! 先生が心配しなくていいように、
     僕がみんなを助けるって約束します……!」

K「ありがとう。頼りにしてるよ」


不二咲の言葉にKAZUYAが安心すると、大和田が割って入った。


大和田「……待てよ! なにしみったれたこと言ってやがるんだ!」

K「大和田」

大和田「ぶっとばそう! 俺の命なんていらねえ!
     あんたはみんなに必要とされてるだろうが!」

K「そううまく行かないのが人生だ。お前も本当はわかってるだろう?」

大和田「うぅ……クソッ、クソッ! クソがッ……! チクショウ……」


K「お前だって大勢の人間に必要とされている。自分の命の価値を見誤るな」

大和田「グゥゥゥ……!!」

腐川「こんなのって、こんなのってあんまりじゃない!」

K「腐川、約束を守れなくてすまなかったな」

腐川「本当よ! 生まれて初めて、ちゃんとしたデートできると思ったのに……!
    あたしを嫌がらない人と遊びに行けると思ったのに……!!」

K「大丈夫だ。次はみんなと行けばいい。君はもう一人じゃないだろう?」

腐川「ひどいわ……世界はどれだけあたしに厳しいの……
    みんな、みんな死んじゃうんだから……わああああん!!」

朝日奈「うわあああああああん!!」


腐川の嘆きに合わせるように、朝日奈もまた涙を流していた。


K「朝日奈……」

朝日奈「ひぐっ……ひぐっ……一緒にドーナツ屋さん行きたかった……
     プールも、海も、遊園地に、それから、それから……!」

K「…………」

朝日奈「みんなで……いろいろなことがしたかった……
     そのみんなには、KAZUYA先生も含まれてるんだよ?」

K「朝日奈、俺は君を泣かせてばかりだったな。許してくれ」

朝日奈「許さない……なんて、言えるわけないよ……」



そこに容赦のない言葉を入れたのはセレスである。


セレス「私は許しませんわ」

K「安広……いや、ルーデンベルク」

セレス「最後くらい名前で呼んでほしいものですわね。多恵子、と」

K「まったく、君という女性は……」

セレス「まあ、冗談ですが。あなたという御方は、本当に最初から最後まで
     罪作りな人でしたわね。今までも外で相当な数の女性を泣かせてきた
     のではないですか?」

K「否定はしない」

セレス「せっかく、わたくし新たな夢を見つけましたのに……
     二つも生きがいだった夢を失ってこれからどう生きればいいのです?」

K「弱音なんて君らしくないな。君は強い女だったじゃないか」

セレス「……そう、ですわね。最後くらい笑ってお別れをいたしましょうか。
     また来世でお会いしましょう。その時はわたくしを……」


喉元まで言いかけた言葉をセレスは飲み込んだ。


セレス「いえ……なんでもありませんわ」

K「…………」


KAZUYAが大神の方を向くと、車椅子に座った大神は神妙に頭を下げた。


大神「西城殿……今まで長らく世話になった」


K「君にもずいぶん世話になったよ。君もれっきとした女性なのに、
  強さに甘えてあまり面倒をみられなかった。本当にすまない」

大神「こちらこそ、内通者の件では不用意に騒がせ申し訳なかった。
    西城殿を信頼して、もっと早く打ち明けるべきであった」

大神「あなたに会えて本当に良かったと思っている。
    皆のことは任せてほしい。西城殿の毅然とした態度を見て
    思い出したのだ。我は絶望している場合ではないとな」

K「もう大丈夫なようだな。俺も安心して逝けるよ」


そろそろ自分の番だろうと察した山田はKAZUYAを見た。


山田「西城KAZUYA先生……今までお世話になりました。
    僕がいまこうやって生きているのも、先生のおかげです」

K「ちゃんとリハビリするんだぞ。ダイエットもな。
  お前はやればできるヤツなんだ。もっと自分に自信を持て」

山田「見てもらってた原稿……完成させられませんでしたね。
    完成したら真っ先に見せるつもりだったんだけどな……」

K「あの世でちゃんと見てるさ。みんなと力を合わせてこれから頑張れ」

山田「はい。……ウッ、涙が止まらない。うぅぅ……」

K「……さて、最後だな」


葉隠は珍しくピシリと背筋を伸ばしてKAZUYAの言葉を待った。


K「葉隠、お前とは色々あったな」

葉隠「……なんか、今でも実感ないべ。先生みたいなゴッツイのが、
    癌だとかオシオキだとか……本当に、本当に死んじまうんか……?」


K「お前も最年長の割にはなかなか手がかかったな。掴みどころがないように
  思えて金に汚かったりトラブルを持ってきたり……例を挙げればキリがない」

葉隠「そ、そりゃないべ。最後だってのに……」

K「だが、なんだかんだみんなが困っていたら率先して面倒をみてくれたな。
  授業にも真面目に参加していた。俺はちゃんと見ていたぞ」

葉隠「…………」

K「占いもいいが、時には自分の直感を頼ってもいいんじゃないか?
  自分のいいところと悪いところ、俺に言われなくともわかっているだろう?」

葉隠「そういういい方、反則だって……うぅ……」

K「信じてるぞ。これからも縁の下の力持ちとして頑張ってくれ」

葉隠「わかった。わかったべ! 俺はいざって時にはちゃんとやる男だ!
    俺たちのこと、天国から見ててくれよな。オカルトは嫌いだったけど
    K先生なら幽霊になって現れてもいいぞ!」


最後に全員の顔を見回し、KAZUYAは振り向いた。


K「お前にしては珍しく待ったな」

モノクマ「ボクは飽きっぽい性格だけど欲しい物のためなら綿密に計画して
      準備するタイプだよ? オマエラのこの顔が見たかったんだ」

モノクマ「今この瞬間のためだけに頑張って来たといってもいい」

モノクマ「うぷぷ。うぷぷ。うぷぷぷぷ!」

K「……お前をこの手で葬れなかったことだけが俺の唯一の心残りだ」



モノクマ「西城先生もそんな物騒なことを言うんだねぇ

モノクマ「さてさて、では犯人も決まったようですし
      お楽しみの投票タイムに行きましょうか」


「うう……」
「ああああ!」
「イヤ! イヤァ!」


苗木「KAZUYA先生……」

K「ちゃんと俺に入れろ。大丈夫だ。俺を信じろ」

モノクマ「……はいっ! では三度目の投票、心してどうぞ!」

モノクマ「投票の結果、クロとなるのは誰か?!
      その答えは、正解なのか不正解なのか――?!」



裁判場の壁にかかっている大型パネルと席のパネル、両方に
もはやおなじみとなったスロットマシーンの映像が映し出された。
スロットの絵柄はKAZUYAや生徒達の顔写真であり、徐々に絵柄が揃う。




                   VOTE

         【西城カズヤ】【西城カズヤ】【西城カズヤ】

                   GUILTY





        !   学   級   裁   判   閉   廷   !






モノクマ「大正解ッ! 今回、戦刃むくろさんを殺したクロは
      ――ドクターKこと西城カズヤ先生でした!」


「……………………」


モノクマ「最愛の生徒たちを守るため、医者の矜持を捨ててまでオシオキ覚悟で
      超高校級の軍人を始末したんですねぇ。いやぁ、泣けるなー」

霧切「……待ちなさい」

モノクマ「もう待たないよ? さっき十分お別れをしてたでしょ?」

霧切「これは黒幕側の明白なルール違反だわ……!」

モノクマ「はにゃ? ルール違反?」

霧切「あなたは学園長として学園の秩序を守るために生徒を罰することができる。
    逆を言えば、それ以外は生徒に手出しできないはずよ。
    なのに、あなたは自ら手をくだし戦刃むくろを殺害した」

霧切「これをルール違反と言わずなんていうの?」

十神「その通り。俺たちの学園生活は外部の人間にエンターテイメント
    として供給しているはず。そのお前がルール違反を犯せば、もはや
    ゲームとして成立せず外の奴らにとって興ざめなんじゃないのか?」

十神「違うか?」

大和田「そうだ! この卑怯者!」

桑田「せんせーがやったっていうなら証拠を見せろよ!」


石丸「学園長ならルールを守りたまえ!」

朝日奈「こんな裁判卑怯だよ!!」


生徒達が騒ぎ出すが、モノクマは不気味に笑っているだけである。
KAZUYAもまたなにも言わない。


苗木(なんでモノクマは平気な顔をしているんだ……開き直ったのか?)

セレス「早く証拠を出せっつってんだよ! ビチグソ野郎!!」

モノクマ「証拠? 証拠なんてあるわけないよ」

大神「な、なんだとぉっ?!」

腐川「こいつ……証拠がないってあっさり認めたわ……!」

葉隠「やっぱり不正裁判じゃねえかぁ!」

モノクマ「だからぁ、証明するなんて不可能なんだよ。だって――」

舞園「だって……なに?」

モノクマ「先生が証拠を隠滅するために一階の監視カメラを
      全部破壊しちゃったんだから。できるわけないんだよ」

「?!!!」


水を打ったように、全員が黙り込む。


不二咲「見て……なかった? 外の人も……?」

山田「なにそれ? 潔白を証明できないってこと……?」


モノクマ「アリバイがない、自分の犯行を隠すためにカメラを破壊した。
      状況証拠としては十分すぎるくらいだよね?」

モノクマ「ついでに言うとルール違反を犯してるのはそっち!
      学園長室の扉を破壊して勝手に中に入ったでしょ!」

霧切・石丸・大和田「!」

モノクマ「本来なら処刑すべきだけど、校則に一度に殺せるのは
      二人までって書いちゃったし、大事な先生がオシオキされる
      ことに免じて今回は特別に見逃してあげてるんじゃない?」

モノクマ「寛大なボクに感謝しなよ?」

石丸「あ……! あぁ……!!」

大和田(先公のやつ! こうなることがわかってて俺たちをかばったのか!)

K「……気にするな。俺は医者だ。誰のためであれ、命がかかっていれば
  俺は守るために体を張った。だからお前たちのせいじゃない」

K「今回たまたまお前たちだっただけだ。自分を責めるな」

石丸「だからってぇ……!!」

霧切「…………」


爪が手袋を突き破りそうなくらい、霧切は悔しげに拳を握った。
誰もが同じ顔でうつむいていた。


K「最後に全員と握手させてくれ。それくらいいいだろう?」

モノクマ「時間が押してるんで、巻きでお願いしますよ」


KAZUYAは一人ひとりに声をかけて握手をしていった。


K「元気でな」ギュッ

苗木「!」

苗木(これは……)

霧切「……絶対に黒幕を倒して、仇を取ってみせるわ」


霧切は手袋を外して、KAZUYAと握手をかわした。


K「お前たちならできる。頼むから、俺を悲しませないでくれよ」

K「さあ、オシオキの時間だ。来るなら来い」

モノクマ「クロもオシオキを待っていることですし、ではでは!
      皆さんお待ちかねのオシオキタイムと参りましょーか!!」

モノクマ「学級裁判の結果、オマエラは見事クロを突き止めましたので
      クロである西城カズヤ先生のオシオキを行いまーす!!」

モノクマ「うぷぷ! うぷぷぷぷ! アーハッハッハッハッ!!!」

モノクマ「ハーッハッハッハッハッハッ!!!」

桑田「心底うれしそうに笑ってやがる……」

石丸「こんなに誰かを憎いと思ったのは生まれてはじめてだ……!」

苗木「許さない。絶対に……!」

K「せいぜい楽しんでおけ。お前の楽しみはこれで終わりだ」




「今回は――!」


「超国家級の医師である西城カズヤ先生のために!」


「スペシャルな!」


「オシオキを!」


「用意させて頂きました!!」




「張り切っていきましょうッ!! オシオキターイムッ!!!」



ここまで。次回オシオキから。

遅れてしまいましたが、ダンガンロンパ10周年おめでとうございます。
年内にエンド1つ目の予定でしたが……終わるかな?

次回で決着、エピローグ、個別エンドが確か二つ、オマケとあるので
あと四回くらい必要になりそうな……

もうすぐ大事な賞の締切があるので、そのあと集中して書けばなんとか……
……がんばります。



準備万端で持っていたハンマーで、モノクマはオシオキスイッチを押した。

スイッチの下の部分についていた液晶画面と、裁判席のパネルに一昔前のゲームのような
ドット絵が映り、モノクマを模したドットキャラがKAZUYAのキャラを引きずっていく。








              GAMEOVER

      サイジョウカズヤせんせいんがクロにきまりました。
            おしおきをかいしします。






             ― Medical Error(医療ミス) ―


KAZUYAが連れてこられたのは馴染み深い手術室。
赤十字を模した巨大な赤い十字架に上半身裸のKAZUYAが磔にされていた。

その前には白衣を着て医者のコスプレをしたモノクマ。
胸には聴診器、頭には額帯鏡(耳鼻科が頭に付けているアレ)をつけている。

そして、手には巨大なメスを持っていた。

手術に似つかわしくない陽気な音楽が流れ始め、モノクマはメスを両手に特攻。
まずKAZUYAの胸を大きく縦に切り開く。麻酔なんてしていないのでKAZUYAは
一瞬顔を歪め呻いたが、その後は精神の力でいつもどおりの顔を保った。
しかし、冷や汗だけはごまかせず病人のように全身から絶えず汗が流れ落ちた。

医療知識なんてないモノクマ。見様見真似で適当に皮膚を切開して、
まず心臓を切り取り、次に肝臓、胃、肺、腎臓、腸をメスでえぐり取る。

白い床が真っ赤な血に染まった。
内臓をすべて失ったKAZUYAはぐったりとうなだれる。

医師免許もないのに手術なんてできるわけないね。
やっぱり患者は死んでしまいました。残念!




               ◇     ◇     ◇


「うわあああぁぁああああぁぁぁあああぁあああッ!!!」

「いやああぁぁあああぁあああぁぁぁああああああッ!!!」


オシオキが終わった瞬間、生徒はバリケードを破壊してオシオキ場に飛び込んだ。


「先生っ! 先生っ!!!」

「先生ぇえ!!!」


まだ体温が残る恩師の体に生徒たちはしがみついた。


「ぬ、ぬ、縫わないと……」


石丸がいつも以上に狂気的な瞳でつぶやいた。


「先生の体をバラバラにしたままになんてできない……!」

「石丸君……」


KAZUYAから預かったマントには医療道具が入っている。
苗木は周りを見渡し、全員がうなずいた。



――まさしく、狂気の光景だった。

たったいま死んだばかりの男の内臓を、教え子たちが泣きながらかき集め
空っぽになった腹に詰め直しているのだから。さながら黒魔術のようだった。

いつもは冷静な霧切や十神さえ他の生徒に混じって黙々と作業を行った。
血液恐怖症を克服したとはいえ、まだ苦しい腐川も吐き気をこらえて耐えた。

愛するKAZUYAの内臓を気持ち悪いなどと思うはずがなかった。
嗚咽と呻き声だけが辺りを支配した。

全員、医療知識があったのが幸いして綺麗に内臓を収めることができた。
石丸と苗木が協力して傷口を縫っていく。苗木が口を開いた。


「残りは全員でやろう。縫合術、覚えてるよね?」


最後、順番に一針ずつ縫った。舞園が自身の制服のリボンで表面の血を
拭き取ると、死んでいるとは思えないくらいに綺麗になった。

……凄惨な処刑に反し、KAZUYAの死に顔は信じられないほど穏やかだった。


「先生……先生、うっ……」


不二咲は口を手で抑えたまま涙をこぼす。とうとう耐えられなくなった
腐川は気絶した。すぐさまジェノサイダー翔に交代する。


「…………あ」


一瞬で状況を察したジェノサイダーはいつもの騒がしい自己紹介をせずに、
黙ってKAZUYAの遺体を見つめた。


「とうとう死んじまったのか。いい人だったなぁ……殺人鬼のアタシが
 泣くなんてさ、世界中探したってそんな人間ほとんどいやしないってのに……
 馬鹿だよ、あんた。大馬鹿だ……」


そう言って、ジェノサイダーは顔をそむけた。
KAZUYAの手を握りしめたまま泣きじゃくる朝日奈の肩に、霧切は手を置いた。


「気持ちはわかるけど、このまま常温で置いておいては腐ってしまうわ」

「そうですわね……西城先生の体を腐らせるわけにはいきませんわ」


セレスは沈痛な表情で同意する。


「……生物室に遺体保管庫があったな」


十神が提案したが、桑田と大和田が難色を示した。


「あんなところにせんせーを入れちまうのかよ……」

「俺たちが見ていない間に、モノクマのヤツが捨てたりしねえだろうな……」


他のメンバーも、モノクマならやりかねないと口々につぶやいた。


「僕、倉庫にドライアイスがあるのを知っています。
 ギリギリまで保健室に安置するのがいいんじゃないですか?」

「山田っち、ナイスだ。そうするべ」



舞園がKAZUYAの手を握りながらつぶやいた。


「お葬式くらい、私たちの手でしてあげたいですよね……」

「その通りだ。我らで弔おう」


話し合った末、しばらくは保健室に遺体を保管することに決めた。
ベッドに横たえ、両手を組み合わせてドライアイスを置いた。

眠っているようにしか見えないKAZUYAに、朝日奈はすがって泣いている。
アルターエゴを起動して事の端末を報告した。


『そう……そうだったんだね。僕にもっと力があれば……』

「みんな。実はみんなに見せたいものがあるんだ」


苗木はKAZUYAから託されたものを出した。握手の時、メモリーカードを
渡されていたのだ。学園長の隠し部屋で見つけたものだった。


「きっと、寄宿舎の二階で先生が見つけたものだと思うんだ。
 最後に渡したということは、きっと僕たちの切り札になるもののはず」


全員がうなずいたのを確認して、苗木はノートパソコンにメモリーカードを挿した。



             ・

             ・

             ・


「なに……これ……」



全員画面を見ながら青ざめていた。


舞園「こんなこと……私、覚えてない……!」

朝日奈「私もだよ!」

大和田「いったいどういうことだ?!」

桑田「またモノクマの罠かよ?!」

十神「いや、それはおかしい……もしそうなら西城が隠すはずがない」

霧切「これを託したということは、これは私達にとって切り札となるもののはず」

石丸「こんなおかしな映像がかね?」

苗木「……この映像、もしかしたら本物なんじゃないかな?」

桑田「本物って、おいおい……」

不二咲「僕達は学園長に会ったこともないのに……」

セレス「おかしいですわね。まさか揃いも揃って記憶喪失ではないでしょうし」

葉隠「そうだべ。そんなんオカルトじゃねえか」


その時、山田は一人離れてうつむいていた。


大神「どうしたのだ、山田よ」

山田「……これは、時が来たのかもしれない」


ここまで。あんまり間を開けすぎるのも良くないので、
最悪にキリが悪いけど一旦投下

本当はラストまで突っ走りたかったのですが、
今すごく仕事が忙しいのと重要なシーンのデータが飛んだので
もうちょいお待ちください。KAZUYAの復活は来年になりそうですね……

おお生きとったんか!待っていた甲斐があったが
そうか、完結までは年をまたぐか…

>>278
お待たせして申し訳ないです(汗)

悪いことは重なるもので、仕事が忙しい上にPCの調子が悪くて
いつご臨終となるかわからないのですよね……
もうデータはとってあるから大丈夫なのですが、早くPCを新調したいものです。



山田は中央に進み出ると、深呼吸した。


苗木「どうしたの、山田君?」

山田「みんなに話したいことが……」


おもむろに山田は話しだした。希望ヶ峰学園での思い出を。


山田「はっきり思いだしたわけじゃないんです。僕って妄想癖があるし、
    自分でも半分夢なんじゃないかって自信がなくて……」

山田「でも、やっぱり夢じゃなかった。僕達は、ずっと前から出会っていたんだ」

大和田「ウソだろ……」

桑田「じゃあ、アレか? 俺たち、ずーっと仲間内で争ってたってことか?」

不二咲「そ、そんな……」

十神「馬鹿な……こんなことが……」

ジェノ「あれあれあれ? 白夜様忘れちゃったの? あの熱い青春も
     アタシとのアバンチュールも人類史上最大最悪の絶望的事件も」

朝日奈「知ってるの?!」

霧切「ジェノサイダー翔は腐川さんと記憶の共有はしていない。
    つまり、あなたの記憶は消えてないんじゃないかしら?」

石丸「いったい何があったんだ! 全部話したまえ!!」

ジェノ「しゃあねえなぁ。つっても、アタシだってそんなに詳しくはねえぞ」



ジェノサイダーは、人類史上最大最悪の絶望的事件によって希望ヶ峰学園が
閉校したこと、旧校舎をシェルターにしたこと、ドクターKがだまされて
一緒に閉じ込められたことを話した。


ジェノ「シェルターが完成して『さあ、避難しましょ』って時にちーたんが
     絶望の奴らに撃たれて、カズちんが手当てしたのよ。そのまま
     学園長が玄関の扉を閉めちゃったわけ」

ジェノ「カズちんは元々シェルターには残らないつもりだったけど、
     まんまと一杯くわされたってところねん」

不二咲「ぼ、僕のせい……?」

ジェノ「まあ、それはたまたまであってあの学園長のことだから、
     なんらかの方法で絶対逃さなかったと思うわな。貴重な医者だし」

霧切「私もそう思うわ。父は、そういう人間だったから」

十神「父親だと?」

山田「学園長の名前は霧切仁。霧切響子殿の父上です」

セレス「まあ。もしやそのために希望ヶ峰学園へ?」

霧切「父のことはいずれ話す。とにかく、不二咲君は気にしないで」

不二咲「う、うん。わかった……ありがとう」

葉隠「それで、俺たちはこれからどうすりゃいいんだ?
    揃って記憶喪失ってことがわかっただけじゃねえか」

霧切「決まっているわ。最後の決戦に挑むのよ」

大神「それしかないのだな……」

朝日奈「やろうよ。先生にこんなことして……絶対に許さない……」


舞園「私も同じです。モノクマは、してはいけないことをしてしまいました」

苗木「みんなで一緒に戦おう!」


KAZUYAの遺体のすぐ横で生徒たちは決意を固めた。
もう、以前のように止めたり励ましてくれるKAZUYAはいない……。



               ◇     ◇     ◇


全員、揃って二階に集結しモノクマを呼び出した。


霧切「モノクマ、出てきなさい!」

モノクマ「おやおやぁ、みんなどうしたの?
      西城先生のお葬式の最中だと思ったけど」

苗木「僕たちはもう逃げない!」

霧切「私達は学級裁判のやり直しを要請するわ。先程の裁判は明らかに不正だった」

モノクマ「そう言われてもね。犯人は西城先生だよ。
      学級裁判でもひっくり返す証拠なんて出なかったじゃない?」

舞園「それはあなたがそう誘導したから……!」

十神「終わってしまったことは仕方ない。卑怯な貴様のことだ。
    どうせ冤罪の証拠は隠滅済みなんだろう?」

十神「――だがそれでいいのか?」

モノクマ「どういう意味かな?」


十神「お前の犯行は、ここの映像を見ている人間たちには筒抜けのはずだ。
    今まで散々ルールにこだわっていた貴様がズルをして終わり。そんな
    拍子抜けな終わり方でオーディエンスは納得してくれるのかと聞いている」

モノクマ「そんなこと言われてもね。オシオキだって終わっちゃったわけだし
     今更何を裁判するって言うのさ?」

霧切「だから別の裁判を行うのよ。学級裁判の内容はこの学園の
    秘密についてでどうかしら? 私たちが何故閉じ込められているのか?
    何故殺し合わなければならなかったのかを裁判で明らかにする」

霧切「逃げ回るのもこれで終わり。私たちはあなたへ最後の宣戦布告をしにきたのよ。
    賭けるのは私たち全員の命。どう? 悪くないんじゃない?」

セレス「こちらが勝てばあなたがオシオキ。もしあなたが勝てば
     わたくしたち全員がオシオキを受けますわ」

大和田「泣いても笑ってもこれが最後の勝負ってことだ!」

桑田「おめーだっていい加減この退屈な状況は終わらせたいだろ?」

舞園「あなたはゲームにこだわっていました。ですからゲームで終わらせましょう」

朝日奈「受けないなんて言わせないよ! 私たちがKAZUYA先生の仇を討つんだから!」

石丸「いざ尋常に勝負だぁ!!」

モノクマ「うぷぷ……うぷぷぷぷ! ボク一人を倒すために本当に全員の命を賭けるんだね?
     負けたら死んじゃうのに。西城先生が知ったらどんな顔をするかなぁ?」


生徒の決死の覚悟をKAZUYAは喜ばないだろう。
むしろ、生きていたら絶対に反対するに違いない。
生徒たちもそれを知ってはいたが止まらなかった。否、止められなかった。


不二咲「怖いけど覚悟はできてる。君は、僕たちの大事なものを踏みにじったんだ」

葉隠「さ、流石にここまで来たら逃げられないべ。やってやる」

大神「我らの心は一つ!」

腐川「で、受けるの? 受けないの? はっきりしなさいよ!」

山田「戦じゃあああああ!!」

モノクマ「いいよ! これで最終決戦にしようじゃないか!
      今まで開放されていなかった学園の全区域を解放するよ!」


――その瞬間、生徒たちがニヤリと笑ったのをモノクマは気づかなかった。

散々罠を仕掛けてきた側のモノクマが罠にかかったのだ。


苗木「上手くいったね」


モノクマが去った後、苗木が霧切にボソリとつぶやいた。


霧切「ええ。でも、油断は禁物よ。まだ私たちが調べていない場所がある。
    そこを徹底的に調べましょう」

石丸「先生の無実は証明できないだろうか……」

不二咲「そうだね。モノクマに勝つだけじゃなくて、先生の名誉回復もしたいよねぇ」

十神「調べるしかあるまい。もしかしたら手がかりがあるかもしれんぞ」

セレス「西城先生は正しい人でした。きっと、どこかに手がかりがあるはずですわ」

舞園「探しましょう!」



生徒たちは四班に別れた。


  ― 寄宿舎 二階 ―


メンバー:苗木、霧切、桑田、舞園、セレス

二階に上がると、廊下にはKAZUYAが破壊したモノクマの残骸が大量に転がっていた。


桑田「うわ! なんだこりゃ!」

霧切「ここで戦闘をしていたようね」

セレス「大方、時間稼ぎではないでしょうか? すぐに戻ってきたら困りますもの」

舞園「こちらにロッカールームがあります。キーがないと開けられませんが」

苗木「多分僕たちが以前使っていたロッカーだよね? 開かないかな?」

セレス「あ、もしかしたら……」


セレスが電子手帳を近づけたら、電子音と共にロッカーが開いた。


霧切「セレスさん、それはどうしたの? あなたの電子生徒手帳じゃないわよね?」


セレスは手帳を開いて不敵に笑った。そこには西城カズヤの名が液晶に浮かんでいる。


セレス「西城先生の電子教員手帳ですわ。形見に頂戴しようと思いまして」

苗木「セ、セレスさん……」

桑田「ちゃっかりしてるぜ……」


セレス「ついでに先生は霧切さんの手帳を持っていました。
     恐らく、ここから持ってきたのでしょうね」

霧切「…………」

舞園「……これ以上盗られないように私が見張ります」


唖然としながら霧切は手帳を調べた。そこには絶望についての記載があった。
KAZUYAの部屋はセレスと舞園に任せ、学園長の部屋は苗木、霧切、桑田が調べる。

パソコンのパスワードを苗木が見抜き、三人は隠し部屋に入った。


桑田「なんだこれ? プレゼントか? 開封した跡があるな」

霧切「やめておきなさい。モノクマが用意したのだからどうせ悪いものよ」

苗木「見て、霧切さん。写真立ての裏に何か貼ってあった形跡がある。
    大きさ的に、恐らくメモリーカードだ」

霧切「そう……ドクターはここに来て私たちに手がかりを残したのね。
    モノクマを倒す致命的な証拠を」

桑田「親父さんもだろ。そもそも霧切の親父がここに隠したから俺たちに渡ったんだし」


写真立てを手にとって見つめている霧切に桑田が声をかけた。


桑田「その、さ。何があったか知らねーけど、親父さんは親父さんで
    いろいろ事情とかあったんじゃねーの? パスワードとかこの写真とか、
    娘のことは想ってたみたいだしさ」

苗木「僕もそう思うな。いつか心の整理がついたら、お父さんのこと話してよ」

霧切「ええ、そうね……」



  ―  情報処理室 ―


メンバー:十神、腐川、葉隠、朝日奈、アルターエゴ

一方、情報処理室では十神が指揮を取って調べていた。


葉隠「なんでテレビに俺たちの姿が映ってるんだ?」

十神「全国中継されているというわけか……」

腐川「ひいい、あたしもう生きていけない……!」

朝日奈「ねえ、見てみて! ここでモノクマが動かせるみたいだよ!」


モノクマの顔が描かれているドアの向こうで、朝日奈がモノクマの制御装置を見つけた。


十神「コントロールルームか。ここで黒幕がモノクマを操作していたのは
    間違いないようだな。アルターエゴを持ってきて良かった。戦刃が
    死んだ辺りのログを調べるぞ。何か出てくるかもしれん」

アルターエゴ『任せて! カメラの映像は破棄されているみたいだけど、
     モノクマのログは残っているはずだよ』

葉隠「床の四角はなんだ?」

腐川「調理室の四角は地下に繋がってたわよね? じゃ、じゃあここももしかして……」

十神「あいにく爆薬が切れているのが残念だな。
    ……む、縁に血痕のようなものがついて途切れているな」

朝日奈「誰か怪我でもしてるっけ?」

葉隠「いや、誰も。誰の血だ?」



全員かがんで床に注目していると、今度は腐川が何かを見つけた。


腐川「ここに付け爪みたいなのが落ちてるわよ。江ノ島のやつ、うっかりしてるわね」

十神「フフフ、そうか。読めてきたぞ。ここに来た収穫は大きかったようだ」



  ― 生物室 ―


メンバー:石丸、大和田、不二咲

石丸たちは生物室で、死んだ戦刃の遺体を再度調べていた。


大和田「何かわかるか、兄弟?」

石丸「先生は僕たちを守るために初めから自分が犠牲になるつもりだった。
    つまり、まともに検死していないはずだ。もしくは、気づいていても
    あえて黙っていたことがあるはず。それを調べるぞ!」

不二咲「調査のために仕方ないんだけど、女の人の体を触るなんてなんだか申し訳ないね……」

大和田「じ、自業自得だろ……そもそもこいつはワルモンなんだ。しょうがねえよ……」


そうは言いつつ、かなり抵抗があった三人。何故女子を連れてこなかったか後悔した。
石丸は服に手をかけたまま固まってしまった。


石丸「う、うう……許してくれ許してくれ」

大和田「時間がねえ……俺がやる! 南無三!」


覚悟を決めて大和田が服をひっぺがした。
傷口が見えると、解剖モードに入ったのか三人は傷口をまじまじと見た。


不二咲「綺麗な傷だね。まっすぐ心臓を貫いてる」

大和田「こんなのおかしいだろ。戦刃は超高校級の軍人だぞ。
     不意打ちならともかく正面から刺せるかよ」

石丸「傷口は第三肋骨と第四肋骨の間を刃を横にして通っている。
    胸骨スレスレで一歩間違えば刺さらなかったはずだ」

石丸「医者である西城先生がわざわざこんな場所を狙うはずがない。
    そもそも、ナイフだと刃の幅が太すぎる。メスで突けばいい。
    先生は常に愛用のメスを持ち歩いているのだから」

不二咲「しかも、先生は戦闘用のメスに毒を塗っていたよね。
     刺さなくても、かすったら殺せるはずだよ」

大和田「他には何かねえか? 寒ぃし、あんまりホトケと向き合っていたくねえからな」

不二咲「狼の入れ墨、彼女がフェンリルの人間である証拠だね。
     ……ん? あれ、付け爪が取れてる……」



  ― 待機組 ―


メンバー:大神、山田

怪我人の大神を動き回らせるわけにはいかず、山田が付き添って保健室で待機していた。


大神「山田よ。何を見ているのだ?」

山田「ああ、漫画の原稿です。作りかけなんですけどね。
    一回ゴミ箱に入れたのを、先生が拾っていてくれたんだなぁ」


山田はKAZUYAの荷物整理をしていて、過去に自分が描いた原稿を眺めていた。
ここの生徒たちをモデルにした、他愛のない内容のファンタジー漫画だ。

それを見つめながら、山田はしみじみとため息をついた。


山田「……結局、完成できなかったな」

大神「ここから出たら完成させれば良いではないか」

山田「ムリですよ。外は世紀末なんです。漫画を描いている余裕なんてないですよ。
    それに、今更完成させても一番見せたかった人はもうこの世にいないんです」

山田「永遠に見せることはできないんだ」


ぽたりぽたりと山田の涙が原稿に落ちた。


山田「僕って何をやっても中途半端だったなぁ。オリジナルの漫画も、
    ダイエットも、結局先生が生きているうちに終わらせられなかった。
    ……悔しい。本当に悔しいです。ううう」

大神「山田……」


作りかけの原稿を抱きしめ涙を流す山田に大神はそれ以上声をかけられなかった。


大神「……生き残ろう。我らには、もはやそれしかできぬ」

大神「我も西城殿にはたくさん迷惑をかけた。生き残り、贖罪をする。
   もはやそれしか残っておらぬ。外に希望がなくても、我らは生きるしかないのだ」

山田「そうですね……僕たちみんな、先生を助けられなかったという点では同じなんだ。
   きっと、一生忘れられない……」


その時、捜査時間終了を告げるチャイムが鳴った。


             ・

             ・

             ・




結論から言うと、学級裁判は生徒たちの圧勝に終わった。
KAZUYAの冤罪も無事に証明でき、名誉挽回を果たすことができた。


苗木「お前はモノクマの自動操縦モードで先生の足止めを図った。そしてその間に
    戦刃むくろを現場におびき寄せたんだ! 戦刃は油断していたから正面から
    刺された。でも、驚いた戦刃がお前の体を掴んだ時に付け爪が剥がれたんだ」

モノクマ「ザナドゥ……!」グラッ

苗木「お前は証拠を隠滅するために急いで情報処理室の隠し部屋に向かった。
    その時、服についていた付け爪が床に落ちた。急いで降りたから、服についた
    返り血が扉の縁にわずかに付着したのも気が付かなかった」

苗木「そもそも、片腕が使えないとはいえ超高校級の軍人相手に正面から刺す
    必要なんてないんだ。先生は毒を塗ったメスをいざという時のために
    隠し持っていた。正面から刺されたのに傷跡は綺麗で避けたり暴れた形跡もない」

苗木「戦刃が油断しきっていたのは身内であるお前が犯人だからだ!
    モノクマ、いや江ノ島盾子! お前こそ戦刃むくろを殺した真犯人だ!」

モノクマ「ファザナドゥッ……!!」グラッグラッ

霧切「動揺している暇なんてないわよ。学園の秘密はすべて明らかになっているのだから」


捜査時間中、モノクマは生徒に自分以外全員が映った写真を配っていた。
自分以外の生徒とモノクマが結託しているように見せ仲間割れを図ったのだが、
生徒は既に学園の真相を知っていたため、不発。

黒幕・江ノ島盾子は姿を現し得意の言葉責めを行うがそれも失敗した。

外の危険さを訴え江ノ島を処刑して卒業するか留年してここに残るか選ばせるが、
元より死を覚悟していた生徒たちは誰一人迷わなかった。


十神「そろそろ投票の時間だが、最期に何か言うことはないか?」

江ノ島「まさか、私様がここまで完膚なき敗北を喫するなんてね……残念です」

セレス「あなたの敗因はわたくしたちを完全に怒らせたことですわ」

石丸「西城先生が僕らを導いてくださったのだ!」


生徒たちは裁判場に置かれたKAZUYAの遺影を見る。
ちなみに、江ノ島は席がないので中央に立っていた。全員の視線が江ノ島に刺さる。


江ノ島「……うぷぷ。うぷぷぷぷ。なるほどなるほど。そーいうこと」

桑田「なに笑ってるんだよ、気持ちわりいな……」

江ノ島「気づいちゃったのよ。この裁判のからくりに」

江ノ島「あんたたち『ズル』してたわけね。最初から学園の秘密や
     外の真相を全部知ってて裁判を挑んだってわけだ」

霧切「いけない? あなたが今までに散々やってきたことよ」

腐川「そ、そうよ……! そうやって西城先生を処刑したくせにぃ!!」

葉隠「ズルだなんてどの口が言うんだべ!」

山田「そうだそうだ、この卑怯者!」

江ノ島「アタシがズルして何が問題なのよ? アタシはこのコロシアイ生活の
    ゲームマスターよ? むしろ、今までルール通りにしてたのがお情けだって話」

江ノ島「悪役が非道の限りを尽くすのは物語としては当然のことだ。
     だが、君たちは死ぬつもりもないのに命を懸けるだなんて嘘をついた。
     正義側として一線を超えたということだよ?」

朝日奈「し、仕方ないよ……! そうでもしないと勝てなかったんだから」


舞園「すべては西城先生の仇を取るためです。悪いことだと思っていません」

江ノ島「キャハハハ。ボクが言いたいのはねー。君たちは希望であることを諦めたって
     ことなんだよ。そういう手段を選ばない行動はボクたち絶望と同じだよね―」

江ノ島「つまり……皆さんは既に絶望しているということです……
     今までのあなたたちなら命のやりとりなど望まなかったはずですから……」

江ノ島「目的のためなら俺を殺していいって考えた時点で
     オマエラは希望じゃなくなったんだよ!」

江ノ島「希望ヶ峰学園が残した人類最強の希望が全員絶望して終わるなんて
     最高に皮肉な終わり方クマ! 面白いクマ!」

大神「そうかもしれぬな……だが、それとこれは別だ。貴様だけは許してはおけん!」

石丸「希望とか絶望とかもうどうでもいい! 僕たちは先生の仇であるお前を討つ!」

大和田「無駄話はここまでだ。さっさと投票タイムにしろ」

江ノ島「本当に後悔しないんだね? うぷぷぷぷ……」


生徒たちはまったく躊躇せずに卒業を選んだ。
もちろん、卒業には江ノ島の処刑という意味も含まれている。

――それでも生徒は迷わない。

いつものスロット画面には、江ノ島の顔が三つ並んだ。





「うぷ、うぷぷ、あはははははははははは!!」



江ノ島「はい、アタシの負けー! アタシはオシオキされるってわけね」

桑田「いいからさっさと死ねよ」

セレス「てめえのうざったい声をもう聞かなくて済むのは清々しますわ」

十神「地獄に落ちろ。先に行った戦刃によろしく伝えておくんだな」

舞園「さようなら、江ノ島さん。お元気で」

霧切「遺言があるなら一応聞いてあげるわよ」


生徒たちは冷たい。針のような二十八の目が江ノ島を見ている。
その目には怒りや憎しみが込められていた。

江ノ島は満足そうに笑った。


不二咲「江ノ島さん……僕たち友達だったんだよね? どうして……?」

山田「僕の記憶の中の江ノ島盾子殿は作り物だったのですか?」

江ノ島「さあね。アタシがこの世に生まれた時から運命は決まってたんじゃないの」

苗木「江ノ島盾子……僕たちはお前を許すわけには行かない……
    僕たちには、いや世界中の大勢の人たちもお前を裁く権利がある」

江ノ島「わかってるわよ。命乞いなんて最高にダサい真似するわけないじゃない。
     超高校級の絶望であるこのアタシがさ」

江ノ島「最期にあんたたちのそんな顔が見られて幸せだわ。
     しかも、これから死の絶望が待ってるっていうんだから……」

江ノ島「本当に最っ高じゃない♪」



満面の笑顔を浮かべながら江ノ島はオシオキスイッチに手を伸ばし、押した。


――江ノ島は死んだ。





実に69日にも及ぶ長かったコロシアイ学園生活は幕を閉じた。










Chapter.5  疾走する青春の絶望アナフィラキシー (非)日常編  ― 完 ―









            【08人】

               ↓ カタッ

            【06人】


            to Epilogue...


5章終わりです。あとエピローグ書いてしゅうりょー!
とりあえず年内に一周目完!はできそうです。良かった良かった。

コロシアイ学園生活クリアしたのでネタバラシしますと、カウンターの数字は
五体満足の生徒です。体に大きな傷や後遺症を負うと減っていくので、
仮に生存してもカウンター減りすぎると先生としてどうよ……?って感じになります。
Kの心のダメージですね。

ちなみに最終メンバーは苗木、霧切、朝日奈、大和田、葉隠、十神となりました。
ほぼ原作と変わらないですねw

おお久しぶりに見たら丁度来てたわ更新乙
次回も楽しみだ

裏話

本当は捜査タイムも裁判も全カットの予定だったのですが、
あまりに味気なくて手抜きっぽかったので結局追加してしまった。
でもそのおかげでKAZUYAの冤罪はきっちり晴らせました。

>>304
お待たせしてすみません。年内にもう一度更新予定です。

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