桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2 (1000)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★どちらかの作品を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~あらすじ~

〈 Prologue 〉
超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

〈 Chapter.1 〉
モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界最強の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。

なんとか誤解は解けたものの、一部の生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した。
Kは重傷を負った舞園さやかを手術で救い、また日頃の素行不良を糾弾された桑田怜恩を励まし信頼関係を築く。

〈 Chapter.2 〉
舞園を救ったことで本物の医者で校医だと認知されたKは生徒達と交流を深めていく。
一度事件が起こったことで今後のことを危惧したKは、授業と称し応急処置の知識を生徒に与えた。

その中で、石丸清多夏は政治家になる前にまず人間として成長する!と医者を志すことを決め、
苗木と共にKに医学を教わり始める。Kは少しずつ黒幕の正体や失った自身の記憶に近付いていくが、
黒幕の魔の手はすぐそこまで迫っていた。そして、罪を犯した舞園が今日いよいよ退院する――


前スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387896354

KAZUYA:スーパードクターKという漫画の主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。
     2メートル近い長身と筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。
     現在部分的に記憶喪失を患っている。外の世界の状況にいち早く気付いた。

K一族とは:KAZUYAの祖先は代々世界的な外科医であり名門医師一族。
      全員イニシャルがKのためK一族と呼ばれている。あまりにも
      凄腕なため裏世界から目をつけられがちであり、体を鍛えている。


現在の状況


【物語編】

・三階までの全ての施設が解放済み。
・生徒達が部分的な記憶喪失を起こしていることに気がついている。
・保健室から薬や道具を確保し、最重要な物以外は桑田と苗木に分散して預けた。
・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
 「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せる。

【生徒編】

・桑田が改心し、少し真面目になった。
・江ノ島が黒幕の味方だと気付いた。
・霧切はKから情報を得たため少し記憶が戻っている。
・不二咲が現在脱出に向け何らかのプログラムを組んでいる。
・石丸が医者を目指し、苗木も巻き添えの形で現在医学の勉強中。
・今まで入院していた舞園の退院が決定した。

【現在の仲間】

苗木、桑田、舞園

《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【かなり良い】桑田 、石丸

【結構良い】苗木、舞園 、不二咲

【そこそこ良い】霧切、大和田

【普通】朝日奈、大神、セレス

【イマイチ】葉隠、山田、十神、腐川

 ~~~~~

【江ノ島への警戒度】結構高い

参考画像(KAZUYA)
http://i.imgur.com/sWQ6QEE.jpg
http://i.imgur.com/8pEysnQ.jpg






Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  医療編




苗木「じゃあ、舞園さん…行くね」

舞園「……はい」


二人は緊張の面持ちで食堂の前に佇んでいた。もうメンバーは全員揃っている。
苗木はゆっくりと車椅子を押し、食堂に舞園を連れて入った。


「…………」


緊張しているのは何も二人だけではない。彼らの姿を視認すると、それぞれが
思い思いの反応を見せる。当然好意的な反応の方が圧倒的に少なかった。


苗木「…み、みんな! 舞園さんを連れて来たよ!」

「…………」

舞園「……」

舞園(私から、何か話さないと…)


勇気を振り絞り、舞園は口を開く。


舞園「あの…みなさん、おはようござ 「おはよう、舞園君っ!!」


舞園の必死の言葉を遮って大きな挨拶をしたのは、勿論あの男である。


石丸「もう怪我の具合はいいのかね? また一緒に朝食会を開けてとても嬉しいぞ!」

舞園「あ、あの…」


口ごもる舞園に対し、援護するように霧切も口を開く。


霧切「おはよう、舞園さん。まだ傷は痛むのかしら?」

舞園「あ、その…先生のおかげで、痛みはもうほとんど…」


言葉が途絶える。みんなが見ている。だが意を決し、舞園は立ち上がった。


石丸「ま、舞園君! 歩いたりしたら傷が…!」

K「いや、少しなら歩いても問題ない」


腹部を庇いながらも舞園は全員の前まで歩き、深々と頭を下げた。


舞園「みなさん、この度は騒ぎを起こしてしまい……本当に申し訳ありませんでした」

「…………」

舞園「簡単に許されることじゃないというのはわかっています。いえ、許してもらえなくて
    当然です。でも今は…ただ、謝らせて下さい。本当に、ごめんなさい」


誰も何も言わない。いつもなら確実に嫌みを言う十神すら、事前に厳しく釘を刺され
今もKAZUYAに睨まれているからか、黙っていた。しかし、十神の意思を継ぐかのように
今度は腐川が嫌みを言い始める。


腐川「…二人も陥れようとした女がよく言うわよ」

石丸「腐川君! 全ては黒幕が悪いのだ。舞園君を責めたりしないと先生と約束しただろう!」

腐川「ふん! 約束じゃなくて脅しでしょ…そうよね。天下のアイドルだもの…
    美人はいいわね…あんな酷いことをしたっていうのに、みんなに庇ってもらえて…
    あたしが同じことをしても、みんな…か、庇ってなんかくれないくせに…!」


石丸「そんなことはない! 腐川君も立派な仲間ではないか!」

腐川「いい加減なこと言うんじゃないわよ! あ、あたしみたいなドブスを…
    みんなが、庇ってくれる訳ないじゃない…! 口だけなら、何とでも言えるわよ!」

石丸「馬鹿なことを言うのは…!」

霧切「やめましょう。起こってもいないことを議論するのは不毛なだけだわ」

山田「そ、そうですよ! ほら、せっかくのご馳走が冷めてしまいますよ!」

葉隠「朝からすっげえなぁ。こんなにたくさん食いきれないべ」

石丸「…ウム、そうだな。それでは舞園君も席につきたまえ。第九回朝食会を開催しよう」


石丸に促され舞園は空いている席に向かい、血の気が引いた。そこは…


桑田「…………」


自分が殺そうと謀略にかけた男の真向かいだったからだ。


舞園「あ、あ……」


顔は完全に青ざめ、唇は震える。それでもなんとか足を動かして舞園は席に着いた。
桑田はそんな舞園の様子を時折盗み見ては不安げに視線を落とす。


桑田「…………」

舞園「…………」


何故この席なのだろう。本当はみんな自分を憎んでいて桑田が何かするのを
期待しているのではないか。そんな邪推すら生まれた。だが、桑田の横に座る
KAZUYAと自分の隣に座る苗木の心配そうな顔を見て、その馬鹿げた考えを振り払う。


舞園(逃げては…ダメ…)


席は片側が十神・山田・江ノ島・大和田・石丸・桑田・KAZUYA・朝日奈、
反対側が、腐川・セレス・葉隠・不二咲・苗木・舞園・霧切・大神となっている。

桑田の横には緊張した顔のKAZUYAと石丸が控え、厳戒態勢を取っているのがわかった。


舞園(そう…これは、チャンスをくれているんです…)


今桑田に話さないと、謝らないと、恐らくもう二度と話せない。
だから桑田に無理を言って機会を設けたのだろう。


舞園(自分の、罪に…やったことに向き合わないと…苗木君に、言ったじゃない。
    ケジメをつけるって…勇気を出すのよ、さやか)


舞園が必死になって言葉を紡ごうとしている姿を見たKAZUYAは、自分の足で
桑田の足をつつこうとした。だがその前に、桑田は自分から口を開く。


桑田「……思ったより、元気そうじゃん」

舞園「……?!」


驚愕のあまり、舞園は喉元まで出しかけていた謝罪の言葉を飲み込んでしまう。
桑田はチラリチラリと舞園の様子を見ながら言葉を続けた。


桑田「これさー…大神と朝日奈が作ったんだってさ。すっげーうまそー…うん、うめぇ」

舞園「ぁ……その……」


桑田「…お前も、食えよ。…お前のために、二人が作ったんだからさ」

舞園「あ……あ……」


舞園は己の持つ勘の良さで察した。恐らく、KAZUYAが根回しをしたのだろう。
今だけは怒りや恨みを抑えて、それどころか自分から話しかけてやってほしいと。


舞園(私は…私はこの人を…)


桑田があの事件の後、みんなに素行の悪さを糾弾され改心したというのは聞いていた。
だが心の奥底では半信半疑だった。人間がそんな簡単に変わることが出来るのだろうかと。
…しかし、桑田は確かに変わっていた。たった数日で、見違える程大人になった。

素晴らしいことだと、以前の自分なら素直に感嘆出来ただろう。
だが今は、自分の愚かさと罪の重さを眼前に突き付けられたも同然だった。


舞園「ごめんな、さい…」


ポロポロと、気が付けば涙がこぼれ落ちていた。


舞園「ごめんなさい…!」

桑田「おい…」


正直な話を言えば、舞園は桑田に心から謝れるのか不安だった。一度は殺意を持った相手。
そして殺意を持たれ、殺されかけた相手。顔を見れば恐怖で声が出ない気がした。


舞園「ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい…!!」


でも今は心から申し訳ないと思えた。相手の本当の人間性も、成長する可能性も
全て無視して命を奪おうとした、己のエゴと浅はかさがただただ憎かった。


桑田「やめろっ…!!」

舞園「!」

桑田「…その、飯がまずくなるだろ。冷めないうちに、食えよ」

K「…舞園」


KAZUYAは桑田の肩を掴み、舞園の名前だけ呼ぶと無言で首を横に振った。舞園にはそれだけでも伝わった。
桑田は一見普通に話しているように見えるが、その視線は落ち着かずに耐えず動き回り、唇は微かに震え指も
イライラするように時折机を突いている。本当はいっぱいいっぱいなのだ。刺激するなと言うことだろう。


苗木「ほ、ほら! 舞園さん、これ凄くおいしいよ」

朝日奈「それ、私の得意料理だよ。食べて!」


二人の助けを得て、舞園は箸を取り料理を口に運んだ。緊張で舌がほとんど
働いていなかったが、おいしいのだろうということはわかった。


舞園「とても…おいしいです…」

朝日奈「良かったぁ!」

桑田「やるじゃん、朝日奈。…こっちのこれもなかなかだぜ?」


我慢なんて今までほとんどして来なかっただろう男が、KAZUYAの頼みとはいえ、みんなの空気を
悪くしないために、必死に自分を抑えて話している。もはや痛々しさまで感じるその姿は、舞園の胸を
酷く締め付けた。お互い何を話したか全く覚えてないぎこちない会話をして、朝食会を終えた。


石丸「舞園君が復帰し、やっと15人全員で授業を受けられるな!」

不二咲「でも、舞園さんは怪我をしてるから大丈夫かなぁ?」

K「問題ない。今日は座学を中心に行い、実践のみ見学してもらう」

葉隠「見学かぁ。K先生の指導はスパルタだからツイてるべな」

舞園「…スパルタなんですか?」

山田「ふふふ、とーっても厳しいですぞ!」

苗木「そんなことないよ。凄く優しいし丁寧だから」

朝日奈「けっこう楽しいよ! 私そんなに勉強得意じゃないけどわかりやすいし」

大神「西城殿は非常に博識な方だ。為になることを我等に教えてくださる」

舞園「そうなんですか」


事件に一番わだかまりを持つ桑田が率先して話したことで、舞園はいつのまにか
普通に周囲と話せていた。KAZUYAはその様子を見て胸を撫で下ろし、桑田に歩み寄る。


K「…無理を言ってすまなかったな」

桑田「まったくだぜ…もう、当分頼みごとはなしにしてくれよ…」

K「埋め合わせは絶対する。約束だ」

桑田「…………」


桑田は慣れない我慢と自制を長時間し続けていたせいか、とても疲れ切っているようだ。
深い溜息をつき、どこかぼんやりとしている。KAZUYAはその肩をポンポンと叩き労ってやった。


・・・


その後、初めて舞園も含めた生徒全員で授業を行った。桑田だけは少しぎこちなかったが、
他のメンバーはいつも通り賑やかだった。更にこの日は、授業を早めに切り上げて
娯楽室にも行った。みんなで色々なゲームをして遊んだ。その後は昼食だ。

朝にたくさん食べたからと、朝日奈推薦のドーナツやお菓子中心の軽食だったが、
みんなで食べる食事は美味しいし楽しい。久しぶりの普通の生活は本当に楽しかった。

楽しかった。


モノクマ「楽しかったかい?」

モノクマ「もう、十分楽しんだよね?」

モノクマ「でもね…残念ながら犯罪者は楽しんじゃいけないんだよ?」

モノクマ「それもただの犯罪者じゃなくて、友達を殺そうとしたんだから…!」

モノクマ「自分のために! 法を犯し! 罪のない人間を! 殺そうとしたんだよっ!!」

モノクマ「楽しむ権利なんて……ないよね?」

モノクマ「もうわかったかな?」

モノクマ「忘れちゃいけない。忘れさせてなんかあげない」

モノクマ「君達が目を逸らしている現実を、僕が思い出させてあげるよ」


ピンポンパンポーン


モノクマ『えー。校内放送、校内放送。オマエラ生徒諸君と先生は、至急体育館まで
      お集まりください。エマージェンシー、エマージェンシー!』


ここまで。おやすみ

原作とくらべると桑田がいいヤツすぎる

舞園さんも反省して坊主にするべき

江ノ島に対する警戒度しかステータス的にはないけど、何げに親密度も結構高いよね?チョロいし

今日は寝落ちしそうなので多分明日

>>21
この桑田は糾弾会という絶望を経て真の希望へと生まれ変わった桑田・改だから…(震え声)
まあ、朝食会の前に一悶着あったのですがそれは後々書きます

>>23
舞園さんはこれから色々試練があるので許してあげてください

>>24
親密度は好感度と違ってその名の通り、KAZUYAと生徒がどれくらい親しいかの目安です
つまり生徒→KAZUYAではなく生徒←→KAZUYAなので、KAZUYAは江ノ島に対し警戒心を
持っているし、江ノ島も妹からキツく釘を刺されているので上がりにくいです
多分【イマイチ】か良くて【普通】くらいだと思いますよ

レーション一個で結構良いぐらいまで行くかと思ってたww
KAZUYAからの警戒心が関わってくるなら仕方ないな。


楽しい午後のひと時を遮る校内放送が流れ、生徒達は色めき立つ。


苗木「せ、先生!」

K「…遂に来たか」ジワリ


― 体育館 PM2:35 ―


モノクマ「ヤッホー、みんな元気してるー?」

苗木「一体何の用だ!」

モノクマ「そんな怖い顔しないでよ~。折角束の間の平穏を用意してあげたのにさぁ」

十神「無駄話をするだけなら俺は帰るぞ」

モノクマ「ちょっとちょっと! こういうのは手順ってものがあるのに」

モノクマ「いい加減僕飽きちゃったんだよね~。KAZUYA先生が医療実習とか無駄な足掻きを
      始めたのはちょっと興味深かったけど、ただ真面目に授業するだけだし。
      勉強したからには実践しないとね。という訳でそろそろ次の事件起こしてよ」

桑田「ハァ? お前ふざけてんのか?!」

苗木「あの事件が起こってから僕達は結束したんだ! もう二度と事件は起こらない!」

石丸「苗木君の言う通りだ! 仲間同士でコロシアイなど起こるはずがない!」


モノクマ「…うぷぷ。そう思うのは自由だけどね。とりあえず今回も動機を用意してみました!」

K「やはりか…今度は何だ!」

モノクマ「えー、今回のテーマは恥ずかしい思い出や知られたくない過去です。今から24時間以内に
      殺人が起こらなかった場合、この封筒の中に書いてあることを世間にバラしちゃいます!」

モノクマ「あ、ちなみに今回はちゃんと先生のも用意しといたよ。さあさあ、みんな受け取って!」


そう言うとモノクマはそれぞれの名前が書かれた封筒を床にばらまく。


K(俺に世間に公表されて困る秘密などはないはずだが、一体…)


封筒を開くとそこに書いてあったのは…


『西城先生は校医のくせに学校の備品をすぐ壊す。あと手術道具で解剖した物を平気で食べる。キモい』


KAZUYAがシャッターや扉を破壊する写真も一緒に入っている。


K「…………ハァ」モアイ


何とも言えない顔で溜息を吐く。だが周りではちょっとした騒ぎが起こっていた。


桑田「ぎゃああああっ! なんでこれがここにぃぃっ?!」

苗木「うわ…こ、これは…」

朝日奈「わわわっ、どうしてー?!」

舞園「…………」


KAZUYAは封筒を取りに行く際、さりげなく前の方に行っていた。生徒達の顔が良く見えるからである。


大和田「どこで…知りやがった…」

不二咲「ど、どうして…」

腐川「嘘でしょ?! な、なんで?!」

石丸「何で、こんなこと…!」

K(皆顔色は良くないが、特に酷いのは大和田、不二咲、腐川か。あとは…石丸?
  あんな生真面目で規則正しい生き方をしている奴が、意外だな)


生徒の様子を観察しているKAZUYAの元に桑田がけたたましくやって来た。


桑田「ヤッベー、マジヤベーよ! どーしよー、せんせー!」


K「どうした? そんなに取り乱すような内容なのか?」


KAZUYAが聞くと、桑田は声を抑えKAZUYAの耳元に囁く。


桑田「…せんせーには特別に教えるけどさ、実は俺甲子園優勝した後に
    家でチームメイトと祝賀会開いてよ、酒飲んじまったんだ!」

K「未成年飲酒か。さもありなんという話だが…」

桑田「それはどーでもいーんだけどさ!」

K「どうでもいいのか…」

桑田「問題はその後! 酔っ払ってとんでもねぇ格好してた時の写真撮られてさ!
    こんなのばらまかれたら俺もうプロの選手にもミュージシャンにもなれねえよ!」


そう言ってこっそり見せてくれた写真には、成程。服が半分はだけた凄い格好と
酔っ払ってふざけた表情をしているボウズ時代の桑田が写っていた。


桑田「ただでさえボウズ時代は黒歴史だっつーのによぉ!」ピンチ!

K「いや、確かに凄く恥ずかしい写真だが…一度謝ればなんとかなるレベルだ。なんなら俺のも見るか?」


桑田「え、見せてくれんの! …なんだよ、これ。単なる当てつけじゃねえか」アホクサ

苗木「先生と桑田君は見せても大丈夫な内容なの?」

桑田「いや、超恥ずかしいけど…お前の見せてくれるなら見せてやってもいいぜ」

朝日奈「あ! なになに? 見せっこしてる? あたしも混ぜて混ぜて!」

苗木「じゃあみんな一斉に見せようか。せーの!」


バッとそれぞれの秘密を出す。


桑田「ちょ、苗木マジかよ…子供っぽいのは顔だけじゃねえんだな。ブハハハハッ!」

苗木「桑田君こそ…ひ、ひっどい写真…プ、ククク!」

朝日奈「二人とも、もうヤダ~。アッハハハハハ!」

K「ところで、朝日奈の写真は何が問題なんだ?」

朝日奈「え、この頃のあたしめちゃくちゃ太ってない?! 水泳やる前だからさー」


苗木の秘密は小学五年生までおねしょをしていたこと。
朝日奈は水泳を始める前の、ちょっとぽっちゃりしていた頃の写真だった。


K「…まあ、かわいいものだな」

苗木「確かに、凄く恥ずかしくはあるけど…」

朝日奈「いくらなんでもこんなので人を殺したりはしないよね?」

K(だが現に青ざめている者が何名かいるからな。一体どんな秘密なのかは
  知らんが、モノクマ的にはこの動機で良いということだろう…あと)

舞園「……」


KAZUYAは封筒を握り締め微動だにしない舞園に近付き、小声で話し掛けた。
彼女の封筒の内容はもうわかっている。


K「…舞園、大丈夫か?」

舞園「大丈夫です。わかっていたことですから…大丈夫」


モノクマが知られたくない過去だと言い出した時点で内容はわかっていた。覚悟もしていた。


舞園(ずっと前からわかっていたはずなのに、覚悟していたはずなのに…
    実際に見るのはやっぱり苦しいものですね…)

舞園(アイドルのことは…もう忘れなきゃ。さっきの気持ちを思い出して…)


先程桑田に対して行った謝罪は心からのものであったはずだ。
だからもう、未練など持ってはいけない。執着してはいけない。

唇を噛んで俯く舞園を、モノクマはジッと見ていた。



        ◇     ◇     ◇



特に青ざめているメンバーの一人、石丸は封筒の中身を見つめながら忌々しげに呟いた。


石丸「な、何故…これを…」


石丸の封筒に書かれていたのはたった一行の短い文。


『石丸くんは友達がいない』


最も彼が直視したくない事実だった。常に清く正しい、人間として在るべき生き方を
してきた石丸にとって、たった一つの欠点であり最大の汚点は友人がいないことである。
正しい生き方をしているはずなのに何故なのか。いやむしろどこか間違っているから友人が
出来ないのではないか。わざわざ紙の端に小さい字で書かれているのが孤独感を煽る。


石丸(…そうだ。認めたくはないがこれは歴然とした事実なのだ…)


何故友人が出来ないのか。長年悩み続けたが、周囲の人間曰く自分は空気が読めないらしい。
しかしどう読めていないのか、どこがおかしいのか。家に閉じこもって勉強ばかりしてきた彼は
それすらもわからない程、世間と感覚がズレてしまった。努力こそ至高と考える彼にとって、
努力でどうにもならない人間関係こそが最大の課題だったのである。



―石丸くんは友達がいない。風紀委員のくせに人望なんて全くない。

―友達も作れないくせに風紀を正すなんてちゃんちゃらおかしい。

―君の言葉に説得力なんてない。政治家なんて向いてない。


―君はこれからもずっとずっと一人だよ?


余白に、そんな続きが書かれている気がした。


石丸(落ち着け石丸清多夏…! 確かに風紀委員のくせに友人の一人もいないと
    いうのはとても恥ずかしい! 絶対に言いたくないし知られたくない過去だ!)

石丸(…だが今の僕には友達がいる! 兄弟がいるじゃないか! 過去がどれほどのものだと
    言うのか。こんな秘密で人を殺すなんてあってはならない。…そうだ、言ってしまおう!)

石丸「み、みんな! 考えたのだが、今この場で秘密を公表してしまわないかね?
    そうすればこれが原因で事件などは起こらないはずだ!」

K「…一理あるな」

桑田「お、それ名案じゃね? スッゲー恥ずかしいけどよ」

朝日奈「私はいいよ。それで事件が防げるなら」

大神「我も構わぬ」

苗木「じゃあみんな言いづらいだろうし、僕から行こうか。ええと、僕はね…」

十神「――くだらん」


一斉に声のする方向を見る。最後尾に仁王立ちして苦い顔をしているのは予想に違わず十神だ。


石丸「何がだね?! これでこの動機は無意味なものになるのだぞ!」

十神「貴様は本当に馬鹿だな」


心底呆れたような、いや完全に軽蔑した眼差しで十神は石丸を見下している。


十神「この動機で重要なのは秘密を公表する相手が俺達だけではなく世間だということだ。
    恐らくいるんだろう。公表されると不味い秘密を持っている人間がな」

セレス「わたくし達はそれぞれ超高校級の称号を持ち、世間からも高い評価を得ています。
     故に、大したことのない秘密でも命取りになる方がいらっしゃるかもしれませんわね」

石丸「し、しかしだな…」


石丸は尚も食い下がろうとしたが、十神を援護する者がいる。それは本来なら自分の味方のはずだった。


大和田「…わりぃ、兄弟。今回ばかりは賛成してやれねえわ」

不二咲「ごめんね、石丸君…明日には絶対言うから、その…心の準備をさせて」

石丸「む、むう。そうか、心の準備はいるかもしれないな。すまない。気が回らなかった」

十神「大体貴様はブレすぎだ」


石丸「…僕がブレているだと?」


刺すような目線で十神は石丸を睨んでいる。


十神「貴様の言葉通りならこいつらは仲間であり結束しているから事件は起こらないのだろう?
    だったら明日まで静観していればいい。俺も明日になったら言うつもりだ」

石丸「…ム、そうだな。君の言う通りだ! 僕は無意識にみんなを疑っていたようだな。
    実に恥ずかしいことだ。すまない。それでは、戻るとしようか!」


全員が封筒と忘れたい過去を手に体育館を去ろうとした時だった。


モノクマ「ちょっとちょっと! まだ話は終わってないよ!」

K「…どういうことだ。動機以外にもまだ何かあると言うのか」


KAZUYAの直感が警告を始めていた。悪寒がする。





モノクマ「うん、あるよ。みんなに学級裁判のことを説明しないと」


一同「学級裁判?」

K「(ハッ)…初日に言っていた例の裁判のことか」

モノクマ「そうそう。賢明な何人かの生徒は気付いていると思うけど、校則の六番目。
      誰にも知られていないかどうかをどうやって判断するかが書いてないよね?」

モノクマ「そこで! 本当に完全犯罪が成立したかどうかを判断するために学級裁判を開くのです!」

モノクマ「ルールは簡単。オマエラみんなで議論して、犯人のクロだと思う奴に投票すればいい。
      当たっていればクロだけが処刑。ただし、もしクロが間違っていたら…」

苗木「いたら、何なんだよ…!」

モノクマ「もし正しいクロの指摘に失敗したら、その時は残りのシロを全員処刑します!!」

K「何だとッ?!!」


モノクマから伝えられた余りにも衝撃的な事実。つまり、一つ事件が起こる度に
この場にいる全員が等しく死の危険を負うのだ。生徒達が大きくどよめく。


K(外道の考えることは訳がわからんな…これだけ大規模な計画だというのに下手をすれば
  最初の裁判で全て終わってしまうぞ。仮にそれで全滅したとしても面白いということなのか?)


KAZUYAは黒幕の思考パターンを理解しようと試みるが、江ノ島の主義思想はKAZUYAの
理解の範疇を遥かに超えていた。ただ一つだけわかったことは、この展開の違和感である。


K(黒幕が非常に強い嗜虐心を持ち、人の命を何とも思っていない奴だと言うのはわかった。
  だが、何故今の段階で裁判の存在を明らかにする? いかに動機が強力とは言え、
  裁判の存在はこれから殺人を起こそうと考える者にとって大きな抵抗となるはずだ)

K(……まさか!)


KAZUYAは考えた末に黒幕の狙いに気付くが、既に手遅れだった。


腐川「なにそれ…なんなのよそれええええっ!」

山田「で、ではこの間の事件…下手をしたら…」

セレス「わたくし達全員が死んでいた訳ですね。舞園さやかただ一人を除いて」

「!!」


全員の視線が舞園に集中した。

舞園「っ……ぁあっ!!」


舞園は顔を大きく歪め、声にならない悲鳴を上げる。


苗木「し、知らなかったんだ…だって、舞園さんは…!」

十神「知らなかったが言い訳になると真剣に思っているならとんだ愚か者だな」


氷のように冷たい眼差しで十神は舞園の瞳を射抜く。


十神「何を動揺している、舞園さやか。一人殺すのは平気でも十五人殺すのは駄目なのか?」

苗木・舞園「!!」

十神「人の命は尊いから比べられない等と貴様ら愚民達は良く口にするが、結局そんなものは
    単なる建前で、嫌いな人間一人を殺すくらいなら大したことはないと本心では思っている」

十神「良かったな、桑田。お前の命は他の連中のものより軽いらしいぞ」

桑田「なっ……!!」


桑田の顔が怒りで紅に染まる。


K「ま、待て! 落ち着くんだ!」

K(不味い…この展開は非常に不味いぞ…!)


つまりはこういうことだろう。黒幕は裁判のことを黙っておくメリットより、裁判の存在を
明らかにしたことによる生徒同士の不和の方がずっとメリットがあると判断したのだ。


K(黒幕のターゲットは舞園だ…!)


ここまで


>>26
いや、結構良いって本当に結構高い数字なので流石の残姉でもレーション一個でそこまではw

ちなみに親密度は自由行動での上昇よりむしろイベントの有無がかなり重要ですね
桑田がわかりやすいけど、もし改心イベントがなかったら親密度も今の舞園と同じくらいにしか
なりませんでしたし、KAZUYAのこと今でもオッサン呼びで朝食会ももっと派手に荒れてます
…ちなみにあのイベントはマザー2で例えるとマジカントイベント並にステ上がってます

まあ、イベントは全て自由行動でのフラグで決まるので結局安価が大事な訳ですけど


舞園を孤立化させ、居場所を奪い殺人への抵抗を薄れさせる。また、舞園を中心に
生徒同士の関係にも亀裂が出来れば、いずれそれが大きな不和となり周りの人間など
犠牲になってもいいという恐ろしい考えが生まれるかもしれない。


K(とにかく、嵐の中心は舞園だ。舞園をここから離し、双方を冷静にさせなければ!)

K「苗木、舞園を…!」


しかしKAZUYAが舞園を生徒達から引き離そうとするのは黒幕にとって想定済みだった。
モノクマは素早く合図を送り、それを受けた江ノ島が前に出る。


江ノ島「ちょっと、あんたの言ってることムチャクチャじゃない? 何が学級裁判よ!
     何がコロシアイよ! アタシそんなのに参加するのヤだからね!」

モノクマ「そんな身勝手な!」

江ノ島「身勝手なのはあんたでしょ! コロシアイは勝手にやって! アタシは関係ない!!」

K(江ノ島の奴、何をする気だ…?)


KAZUYAが訝しげに江ノ島とモノクマを見比べる。モノクマはわざとらしくガタガタと震え出した。


モノクマ「目の前の圧倒的な悪の迫力に正直ブルってるぜ。だけどな、僕は悪に屈する気はない!
      最後まで戦い抜くのがモノクマ流よ! どうしても通りたいなら僕を倒してからにしろ」

江ノ島「はい、これで満足?」


わざとらしく江ノ島の前まで近寄ったモノクマを、江ノ島は思い切り踏みつけた。


モノクマ「…そっちこそ。学園長への暴力は校則違反だと言ったよね?
      召喚魔法発動! 助けてー、グングニルの槍ー!」

K「いかんっ!」

江ノ島「え」


体育館の床の一部がスライドし、何かの射出口のようなものが露わになる。
そしてその穴から高速で複数の槍が放たれた。

ドンッ! ザクザクザクザクッ!


K「クッ…!」

桑田「な…!」

苗木「先生! 江ノ島さん!」


慌てて生徒がKAZUYAと江ノ島に走り寄る。床には生暖かい鮮血が飛び散った。


石丸「先生! 江ノ島君! 大丈夫ですかっ?!」

K「俺はマントが裂けただけだ。だが…」

江ノ島「そん、な…どうして…? じゅ…ちゃん…?」


危険を察知したKAZUYAが咄嗟に江ノ島を抱えて跳び去ったため命だけは助かったが、
江ノ島の左腕には槍が一本刺さっている。また、体中に裂傷が出来ていた。


K(用済みになったから処分ということか? 糞ッ!)

K「幸い神経や骨は貫通していないが、恐らく動脈を貫いている。裂傷は右足に一カ所、左足に二カ所、
  そして左肩に一カ所か。貫通した左腕は勿論、左肩と左足の傷はやや深いから縫った方がいいな…」

石丸「で、では手術を…!」

K「邪魔が入らなければだが…」


KAZUYAはギロリとモノクマを睨む。


モノクマ「全く、KAZUYA先生は僕の妨害ばっかりするから困っちゃうよ。
      学園長の邪魔をするなんて、それでも先生?」

K「俺は教師ではなく医者だ! 怪我人がいれば治療を行う!」


モノクマ「まあ、いいよ。僕はなるべく手を出したくないし、こんなんで生徒が死んでも
      つまらないからね。今回は見逃してあげる。…良かったねぇ、江ノ島さん?」

江ノ島「……!」

江ノ島(盾子ちゃん、こうなることは全部予想済みで…)


しかし、KAZUYAが自分を助けられたのはあくまで偶然だ。もし失敗していたら…


江ノ島(私は死んでも良かったってこと…?)


茫然自失となっている江ノ島にKAZUYAは治療を行い始める。
だが、周囲はそれを黙って見てはいなかった。


腐川「血…血ぃぃぃっ!」


まず腐川が倒れた。


葉隠「こ、こんなの冗談じゃないべ!」

不二咲「い、いやだよ…いやだ…」

山田「だ、誰か! 誰かああっ! 僕らをここから出して下さいっ!」


次に生徒達が恐慌状態に陥り始める。


K「落ち着けお前達! 俺が絶対にお前達を外に出してやる! だから落ち着くんだ!」


KAZUYAはそう叫んで苗木に鋭く指示を飛ばす。


K「とりあえず苗木、舞園をここから連れ出せ!」

苗木「は、はい!」


舞園の乗った車椅子を押そうとした瞬間、苗木の顔が恐怖と困惑で引きつった。


苗木「あっ…!」


モノクマが車椅子の車輪を掴んでいた。ここから逃がさないとでも言うように。


モノクマ「逃げるの…?」

舞園「……!」

モノクマ「君ってさぁ、嫌なことがあるとすぐ楽な方へ逃げるよね? 今までだって、
      頂点に登り詰めるためにやってきたんでしょ。いやなこと」

舞園「そ、れは…!」

K「舞園、耳を貸すな!」


モノクマ「みんなもさぁ、舞園さんを責めるのはやめてあげてよ。舞園さんはね、とっても
      可哀相な子なんだよ? 父子家庭で家にいつも一人で、寂しかったんだよね?」

モノクマ「そんな自分の寂しい気持ちを埋めてくれたのが、テレビの中の華やかなアイドル達。
      いつしか自分も同じ舞台に立って、自分のような寂しい気持ちの人を元気にしてあげたい。
      そう思って、辛い練習や過酷な下積み時代を超えて、いつしか頂点に立っていたんだよね?」


そう話すモノクマの言葉はやけに優しかった。だからこそ、次に続く言葉は殊更に厳しい。


モノクマ「…でもさぁ、人殺しに勇気づけてもらいたい人間なんていると思う?
      殺人犯の笑顔でみんなを元気にしてあげられるとでも?」

舞園「っ!!!」

モノクマ「超高校級のアイドルのくせにそんな当たり前のこともわからなかったの?
      いつも口癖みたいにファンが大事、ファンが大事って言ってるくせに、
      そのファンの気持ちなんて君はまるでわかってなかったよね?」

K「黙れ! モノクマァッ!」

舞園「あああああ…」

モノクマ「そんな可哀想なくらい愚かで浅はかな舞園さんをみんなでいじめるのはやめてあげてよ」

舞園「ぁああぁぁあああぁあああぁぁぁあああぁあああああっ!!」


舞園は車椅子から立ち上がり、頭を両手で抱えて絶叫する。
だがその姿を同情的に見る者は誰もいない…


K「(いかん、傷が開く!)糞ッ!」


KAZUYAはやむを得ず舞園に駆け寄り、肩を掴んで無理矢理座らせる。
その流れでバサリと自身のマントをモノクマに覆いかぶせた。


モノクマ「えっ、ちょっと、なに?!」

K「苗木、今だ!」

苗木「! 舞園さん、行こうっ!」


モノクマが手を離した一瞬の隙を突いて苗木は全速力で車椅子を押し、
急いで体育館から逃げ去った。それを見届けるとKAZUYAはマントを回収する。


モノクマ「あーあ、また逃げちゃった。…まあいっか」

桑田「…テメェ、いい加減にしやがれッ!」


ヘラヘラと笑うモノクマに対し、激怒した表情で詰め寄ったのはなんと桑田だった。


モノクマ「およ、なんで桑田君が怒るの? 君は舞園さんのことが嫌いじゃなかったっけ?」

桑田「そうだよ、大嫌いだよ! でもそれとこれは別問題だ。テメェの方がもっと胸糞わりぃんだよ!」

モノクマ「お、君もKAZUYA先生を真似して舞園さんは悪くない、全部僕が悪いとか言い出すつもり?
      全く高校生にもなってヒーロー気取りなんて寒いだけだよ?」

モノクマ「それをやるのが殺人鬼なら尚更ね」

桑田「……は?」


その言葉が余りにも予想外過ぎたのか、桑田は一瞬で勢いを削がれる。


モノクマ「おや、もう忘れたの? じゃあ僕が思い出させてあげようか」

K「よせ! 耳を貸すな!」


KAZUYAは江ノ島の縫合を始めたことを後悔していた。一度縫い始めて放置する訳にはいかない。


モノクマ「右手を怪我して逃げ回る丸腰の女の子を、刀持って追いかけ回して追い詰めたのは誰?
      わざわざ一度立て篭もった相手を、ドアノブ壊してまで引きずり出して刺したのは?」

桑田「そ、それは…!」


モノクマ「君言ってたじゃない。許さねぇ!ぜってーぶっ殺してやる!って。相手が戦意を失って怯えて
      悲鳴を上げてたのに、君は容赦なく殺したよね? 僕はね、監視カメラで一部始終見てたんだよ?」

桑田「…………」

モノクマ「君はあの時、絶対殺意がなかったって言えるの? 卒業のこと全く考えてなかったって言える?
      殺意があったのに正当防衛? そんなのちゃんちゃらおかしいよ!」

桑田「ち、違う! 俺は、そんなつもりじゃ…!」

モノクマ「……じゃあ、証明してあげようか。君が醜い殺人鬼だっていう証明を」

K「よせ! 言うな! やめろおおおおおっ!」


モノクマが何を言わんとしているか察したKAZUYAの絶叫が体育館に轟く。
…だが、全て無駄なことだった。無情にも全員の耳にモノクマの言葉がハッキリと届く。








モノクマ「だって君、先生を口封じに殺そうとしたじゃない」


場の空気が一気に冷え込んだのをKAZUYAは、いや生徒達全員も感じた。


桑田「あ、それ、は……」


さっきまで怒りで紅潮していた顔が一瞬で真っ青になり、桑田は力無くKAZUYAを見やる。


桑田「ち、ちが…ちがうんだよ…なあ、せんせー……」

K「わかっている! だから落ち着け!」


KAZUYAは叫ぶが、その言葉は誰にも届かない。静まり返った体育館に、震える声で話す者がいる。


石丸「桑田君…」

桑田「…!」

石丸「今の話は……その、本当なのかね……?」

不二咲「うそ……だよね……? だって、桑田君て……先生と、凄く仲が良いのに……」


桑田「…ち、ちがうんだ! ちがうんだってぇ!」

モノクマ「嘘はやめてよね! こっちには証拠の映像がバッチリ残ってるんだから!
      …なんなら今すぐここに持ってきてあげようか?」

K「みんな、俺の話を聞いてくれ! 確かに…モノクマの話は本当だ。だが、やめたのだ!
  寸での所で思いとどまったのだ! だからそいつを責めるんじゃない!!」


しかしKAZUYAが何と言おうと、桑田がKAZUYAを殺そうとしたという事実だけは消せなかった。


桑田「やめろ…やめろって…何で俺をそんな目で見るんだよ…?」


桑田が一歩踏み出すと、逃げるように全員が一歩下がる。


山田「ひ、人殺し!」

葉隠「犯罪者だべ!」

桑田「やめろ…」

セレス「まだ監禁当初の、あなたが嫌われ者だった頃から何かと親身になって下さった
     西城先生を保身のために殺そうだなんて…鬼畜にも劣りますわね」

桑田「違うんだ…」


十神「何が違うと言うんだ。当のドクターKすら認めているというのに」

桑田「やめてくれ…やめてくれよ…! そんなつもりじゃ…!」


なんとか弁解しようとしても、桑田が近寄ろうとするだけで生徒達は怯えて逃げる。


朝日奈「こ、来ないで! …さくらちゃん」

大神「むぅ…」


朝日奈が大神の背後に隠れ、大神が庇うように前へ出る。同じように大和田と石丸が不二咲を
守るように前へと出た。比較的親しくしていた人間達のこうした行動は、桑田の心を大きく傷つけた。


大和田「桑田…テメェ、やっぱりか。女を殺そうとした時点でどうかと思ってたが…!」

不二咲「桑田君…」

石丸「……」


不二咲は涙を浮かべながら悲しそうに桑田を見つめ、石丸は苦しそうに無言で目を逸らす。


桑田「…やめろ、やめてくれ! そんな目で、そんな目で俺を見んじゃねぇええ!
    やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


桑田は頭を抱え振り乱し、絶叫し、そして膝をつく。その目には絶望しか映っていない。


K「桑田! しっかりしろ、桑田!!」


KAZUYAの声すら、今の桑田には届かない。


K(くっ…せめてここに苗木がいれば!)


KAZUYAの最初のミスは、苗木を一人で行かせたことだった。桑田は元々苗木とよくつるんでいたが、
事件の際に苗木が見せた器の大きさに感心したのか、事件後はより一層つるむようになった。
桑田と舞園を一緒にいさせるのは良くないだろうと無意識に思い引き離したが、あの時桑田も
一緒に退出させるべきであった。桑田とて、脛に傷があるのは舞園と同じなのだから。


モノクマ「桑田君も大嫌いな舞園さんと実はお揃いだったと気付けたようですね! いやー良かった良かった」

モノクマ「舞園さんも寂しがってるし、これからは同じ殺人犯同士仲良くしてあげてね!
      うぷぷぷぷ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃ、あーはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

修正

>KAZUYAの最初のミスは、苗木を一人で行かせたことだった。桑田は元々苗木とよくつるんでいたが、
>事件の際に苗木が見せた器の大きさに感心したのか、事件後はより一層つるむようになった。
>桑田と舞園を一緒にいさせるのは良くないだろうと無意識に思い引き離したが、あの時桑田も
>一緒に退出させるべきであった。桑田とて、脛に傷があるのは舞園と同じなのだから

                      ↓

KAZUYAの最初のミスは、苗木を一人で行かせたことだった。桑田は元々苗木とよくつるんでいたが、
事件の際に苗木が見せた器の大きさに感心したのか、事件後はより一層つるむようになった。
KAZUYA一人ではなく、苗木もここにいて桑田を支えてくれればまだ今よりはマシだったかもしれない。

あるいは、桑田と舞園を一緒にいさせるのは良くないと無意識に引き離したが、あの時一緒に
退出させるべきであった。桑田とて、脛に傷があるのは舞園と同じなのだから。



邪悪な哄笑が体育館に響きわたる。


K(悪魔め…!)


血管の縫合は全て終了した。だがまだ皮膚を縫合しなければならない。
もう終わってくれとKAZUYAは祈るが、その想いを踏みにじるかのようにモノクマは続ける。


モノクマ「…さて、オマエラがなかなか良い顔になってきたので最後に出血大サービス!」

K(まだ何か言うつもりなのか?!)


やめろ。これ以上不和が広がれば修復不可能になる。今のままならまだなんとか…
そんなKAZUYAの淡い望みを、モノクマは容赦なく徹底的なまでに叩き潰した。


モノクマ「オマエラの中に…なんと僕の内通者がいまーす!」


そしてこの瞬間、KAZUYAの完敗が決定したのであった。


ここまで

原作よりモノクマの鬼畜度がアップしてるぞ
そして改心しても殺人犯呼ばわりでまたフルボッコの桑田ェ…

Kにしてみれば十分更生の余地ありなんだろうけどね。

たぶん、何人か間接的に殺しているだろう組長とかいたし。
確かマフィアと義兄弟になっていたはずだし。

でもそんな話しても、この状況はどうにもならないだろうというのが……


再開


モノクマ「人数は秘密でーす。一人かもしれないし、自分以外全員かもしれない。せいぜいお友達だと
      思っている人から背中をザクッ!なんてことがないようにね! …KAZUYA先生みたいに。
      いやー、僕って親切~! じゃ、もう用は済んだからバイナラ!」


そう言い捨てて、とてもとても楽しげにモノクマは去って行った。
モノクマの言葉を聞き、今まで身を寄せ合っていた者達が思わず距離を取る。


葉隠「い、一体誰が内通者なんだべ!」

朝日奈「そんな…さくらちゃんは、違うよね…?」

大神「……無論だ」

腐川「う…な、なに…どうした訳?」

不二咲「あ、腐川さん大丈夫?」

セレス「モノクマ曰く、この中に内通者がいるようですわ。人数は教えてもらえませんでしたが」

腐川「な、内通者ぁっ?! ど、どこ? どこにいるのよっ?!」

石丸「内通者など…いる訳がないっ! 僕達はみんな仲間だ! 先生、そうですよね?!」

K「…あ、ああ。そうだとも」


江ノ島の存在を知っていたKAZUYAは、返事に一瞬躊躇ってしまった。
しかしいつもの切れがないその言葉は、暗に内通者の存在を肯定してしまっている。



大和田「…いるんだな? おい、いるんだろ? この中に汚ねぇ裏切り者がよぉ!」

石丸「やめたまえ、兄弟! これは僕達仲間内で争いを起こさせるための黒幕の罠だ!」

腐川「そんなこと言って、本当はあんたが内通者なんじゃないの?」

石丸「何だと…?!」

山田「確かに。いつも何かと仕切っていますし、今だってモノクマが内通者の
    存在をバラしたことに焦って火消しをしようとしているのでは…」

大和田「テメェ、兄弟を疑うのか!」

K「よさないか、お前達!」


生徒達の理性は完全に限界を迎えていた。ただでさえ動機によって揺さぶられ精神状態は
不安定になっていた所に、衝撃的な学級裁判の存在、江ノ島処刑未遂、桑田のKAZUYA殺害未遂、
トドメの内通者宣言と来てもはや冷静でいられる訳がなかった。生徒達は完全にパニックに陥り、
その暴走は止まることを知らない。そして疑心暗鬼は思わぬ疑いを呼ぶ。


山田「ま、まさかあああ!」

腐川「何よ…?!」

山田「ぼ、僕はたった今恐ろしい可能性に気付いてしまいましたぞ!」

十神「全く期待はしていないが言ってみろ」


山田「それは…桑田怜恩殿、舞園さやか殿の二人が内通者の可能性です!」

K「なっ…?!」

桑田「………………あ?」


あまりの唐突さに、思わず呻いていた桑田も顔を上げた。


山田「つまりこういうことです! 誰かが事件の口火を切らないと、殺人なんて起こる訳が
    ないでしょう? だから舞園殿と桑田殿が狂言殺人を行った。医者がいるから怪我をしても
    治してもらえます。これなら桑田殿が西城カズヤ医師を襲っても何らおかしくないのです!」

腐川「なにそれ…桑田がKを襲った…?!」


それはあまりに突拍子もない意見だった。本来なら一笑に付されるような意見だが
冷静な判断力を失っている今の生徒達には説得力があるように思えたのだ。


葉隠「…そういやぁ、変だと思ったんだべ! 今朝の朝食会、桑田っちは自分を殺そうとした
    舞園っちと平気でしゃべってた。普通に考えたらあんなんおかしいべ!」

桑田「……ハァァッ?! お前ら、俺が…俺があの時、どんだけ我慢してたと…!
    みんなのためだって言われたから…お前らのために、ずっと…我慢してたのに…!」ワナワナ…


自分を殺そうとした恐怖の象徴であり、自分の好意を裏切った怒りと憎しみの対象――舞園さやか

生まれて始めて抱いた強烈な負の感情を、恩人であるKAZUYAに頭を下げられ、みんなのためだと
説得されて、桑田は必死に抑えこんでいたのだ。我慢なんてろくにしたこともなかったのに。


K「(まずい!)石丸! 桑田を押さえてくれ!」


KAZUYAの第二のミス。いや、これは仕方のないことではあったが…KAZUYAが江ノ島の治療のために
皆に背を向けていたことであった。もし桑田や恐慌状態を起こしている他の生徒達の顔を見ていたら、
とても人に任せようなどとは思わず自分で止めに行ったはずだった。


石丸「わ、わかりました! 桑田君、話を…!」

桑田「近付くんじゃねえよ…! どうせお前らだって俺を人殺しだと思ってんだろ…!」

石丸「そ、それは…」

大神「やめよ、桑田! お主は頭に血が上っている」

桑田「うっせー!」


とうとう激しい言い争いが始まった。
混乱の最中、不二咲千尋は自分に今何が出来るのかと考えていた。



不二咲(みんな…どうして喧嘩なんてするの…? そんなの、悲しいだけなのに…
     見てるだけじゃダメだ。先生は今動けないんだから。僕が止めなきゃ…!)

不二咲(今までの弱い自分じゃダメなんだ。変わらないと!)


絶対誰にも知られてはいけない不二咲千尋の秘密――

それは女性の格好をしているが、彼が本当は男性だと言うことだ。
非力でひ弱な自分を隠したくて、男のくせにとなじられたくなくて、彼はずっと嘘をついてきた。


不二咲(男だって…どうせ明日にはバレちゃうんだし、もう誰かに守られるのは嫌だ。
     僕がみんなを守れるくらい、強くならなきゃいけないんだ!)

不二咲「みんな…喧嘩は、やめよう…」


しかし、強い決意とは裏腹に口をついて出たのは誰の耳にも止まらないか細い声だった。
不二咲には、KAZUYAのような圧倒的存在感も大和田のような迫力も石丸のようなよく通る声もない。

ただ、その代わり誰よりも賢く聡明であった。



K「桑田! お前は今すぐ部屋に戻れ!」

桑田「冗談じゃねえ! このバカどもにはまだ言わなきゃなんねえことがあんだよ!」

霧切「桑田君、落ち着いて。ここで議論してもあなたには何のメリットもないわ」

桑田「うるせー!」


不二咲は、この場で一番人生経験が豊富なKAZUYAと、常に冷静沈着な霧切の行動こそが
最も正しいだろうと、二人の言動を注意深く聞いていた。


不二咲(喧嘩してるのはみんな一緒なのに、先生も霧切さんも桑田君を止めようとしてる…
     桑田君は気性が激しいから、これ以上怒ったら取り返しがつかなくなると思ってるんだ)

不二咲(じゃあ僕も桑田君を止めなきゃ!)


だが、今の桑田に近寄るのはとても恐ろしかった。こめかみには青筋が浮かび目は赤く血走り、
歯を剥き出しにして怒鳴っている。皮肉にも、桑田のそんな姿は彼なら人を殺せるだろうと
周囲に思わせる悪い意味での説得力があった。


不二咲(で、でも…大丈夫。僕なら、きっと止められる)


今の自分は周囲から見たら小柄でか弱い少女なのだ。いくら桑田が頭に血が上っていても、自分が行けば
きっと止まってくれるはず。容姿を利用するのは卑怯な気がするが、この際手段は選んでいられない。


不二咲「く、桑田君!」

桑田「なんだ、不二咲?! お前まで俺を…!」

不二咲「ち、違うの! ぼ…私は、桑田君は内通者なんかじゃないと思う」

桑田「不二咲…」

不二咲「だ、だって…西城先生があんなに一生懸命庇ってる桑田君が、悪い人な訳ないよぉ…!」


不二咲にとってKAZUYAは憧れの人であり、その名前を引き合いに出したのはごく自然な流れだった。
KAZUYAに好感を持っている人間に対してなら、その言葉も重みがあっただろう。だが。


腐川「ドクターKだって内通者かもしれないじゃない!」

不二咲「…え?」

桑田「あぁっ?!!」

山田「そうですよ! 先程の話ですが、西城医師が確実に治す保障もないし、
    実は三人全員内通者というのが一番しっくりきます!」

葉隠「…そういや、先生って一番最初にモノクマから内通者って言われてたよな?
    あの授業だって実は嘘っぱちを教えて俺達を混乱させるもんかもしれないべ」


K「馬鹿な…」

石丸「…君達は、一体何を言っているのかね?!」


この暴論には流石に今まで傍観を貫いていた面々も反論した。


朝日奈「い、いくらなんでも言い過ぎだって! 先生はウソなんてついてなかったよ!」

大神「西城殿は最初から常に我等のことを考えた行動を取っていたぞ」

大和田「桑田もだがお前らもいい加減にしろよ!」


大神と朝日奈はKAZUYAの授業が嘘ではないと知っているし、大和田はサウナで何時間もKAZUYAと話をし、
KAZUYAの医者としての生き様を聞いている。KAZUYAが内通者ではないということは分かっていた。

特に勉強家の石丸は図書室から医学書を借りて読んでいたから、KAZUYAの知識の正確さも知っているし、
医療実習を通してKAZUYAの熱意もよく分かっていた。故に彼等の暴言は見過ごせなかった。


石丸「西城先生が裏切り者など…そんなことは断じて有り得んッ!!
    君達、さっきからどうかしているぞ! 少しは頭を冷やしたまえっ!」


だが目に狂気の片鱗が宿っている彼等に、そんな言葉は何の意味もなかった。
そして、内心に狂気を宿していたのは彼等だけではなかったのである。



桑田「ざっけんなよ……」ワナワナワナ

桑田「テメェら…もういっぺん言ってみろ…」ワナワナワナワナ

葉隠「何度だって言ってやるべ。オメェラ三人ともグルで裏切り者だってな!」


思えば、人間の生来の気質が一日二日で変わる訳がない。桑田はあの糾弾会で確かに心から反省し
改心したが、元々持っていた短気で感情的な部分が完全に改善された訳ではなかった。そもそも今日は
朝からずっと我慢の連続だったのだ。ここで限界を迎えてしまうのは致し方がなかった。


桑田「いい加減にしろよッ!!! この糞どもがあああああああああああああああッ!!」


とうとう我慢の限界を迎えた桑田は吼える。まさしくその姿は怒れる赤毛の獅子だった。

桑田は元々義理人情なんて物にまるで縁のない人間だ。今でもいい加減で軽薄な所は完全には
直っていない。だが、そんな桑田ですらKAZUYAには深い恩のようなものを感じていた。


桑田「オメェラ今までなにを見てたんだよッ! 人を殺そうとした俺や舞園なら我慢出来たけど…
    ずっと俺達を助けてくれたせんせーまで悪く言うのは我慢ならねぇ! 謝れッ!!」


腐川「何で謝らなきゃなんないのよ! この人殺し!」

桑田「ふざっけんなッ! 謝れ謝れ謝れっ!」


まだ自分が嫌われ者で周りからも浮いてた時に、気にかけて積極的に声をかけてくれた。
あの状況にも関わらず舞園が先に襲って来たということをすぐに信じてくれたし、
みんなから非難された時には熱く励ましてくれた。極めつけは先程の件だろう。


桑田「謝れっつってんだろ!」

K「桑田! 俺のことは気にしなくていいからとにかく部屋に戻れ!」


KAZUYAを殺そうとしたという事実を公開された時、桑田は心底絶望した。またみんなに嫌われる。
それも今度は今まで散々自分の肩を持ってくれたKAZUYAすら敵になる。本当に孤立してしまう。

…こんな状況で一人になるのは嫌だった。怖かった。だがKAZUYAは事実を聞いても全く態度を
変えないばかりか、いつもと同じように自分を庇ってくれた。それが何よりも嬉しかったのである。

いくら桑田が軽薄な人間でも、そんなKAZUYAに恩義を感じない程腐っていない。
むしろ、少しだけ持っていた正義感や義侠心がかえって激しく燃え上がったのだった。


K(いかん、桑田のやつこのままでは…!)

霧切「桑田君、いけない!」


石丸「桑田君!」

大神「落ち着け、桑田!」

不二咲「桑田君、駄目だよぉ!」


激怒して暴走する桑田をモニター越しに見ながら黒幕はほくそ笑んだ。


「人間の本質なんてそんな簡単には変わんないんだよ。桑田は元々感情的で周りの気持ちなんて
 まるで考えない自分勝手な奴だし、いつだって自分のしたいように生きてる。今だってそう。
 だからほら、言っちゃいなよ。あの言葉を……今の自分の気持ちをさ!」


――そして黒幕の思惑通り、桑田は絶対に言ってはいけない言葉を言ってしまう。

この閉ざされた世界で、コロシアイを強いられている状況で、それは絶対に許されない禁断の言葉であった。


桑田「テメェら絶対に許さねえ……ブッ殺してやるッ!!!!!」

「!!」


今ここに、崩壊を告げる狼煙が上がった。

KAZUYAに対し最も協力的な生徒の一人がその引き金を引いたのは――些か皮肉が効きすぎていた。




                 ―  モノクマ劇場  ―


モノクマ「高校生ってさ、もう大人の仲間です!みたいな顔してることが多いけど、実際は
      まだまだ子供の延長線な訳だよね。ここのメンバーは、超高校級の才能があるから
      いっちょ前にお金を稼いでる奴も多いけど、結局の所何かあれば親が出てくる訳だし」

モノクマ「だからこそ、監禁してコロシアイとか要求してあとはちょっと不安を煽る映像とか
      見せちゃえばもう終わり。勝手に殺人が起こって、せいぜい僕は燃料が切れないように
      時々動機を落としてやればいい。何もしなくたって勝手に崩壊していくからね」

モノクマ「で・も! これは子供しかいない場合の話なんだよね。このSSではさ、あの糞ウザい
      ガチムチマッチョで昭和から来たみたいな時代錯誤なオッサンが、舞園さんを
      助けちゃったでしょ? しかも医者のくせに教師の真似事とか始めちゃった訳でしょ?」

モノクマ「正直言って僕的にはかなり都合が悪いんだよね。生徒達の間に、先生がいればなんとかなる。
      先生が助けてくれる! みたいな空気が出てきて、つまり精神的な支柱になっちゃうのよ」

モノクマ「ですから! 僕は今回その空気をぶっ潰してやることにしたのです! 具体的には、先生が
      かなり気にかけている舞園さんと、先生と仲が良くて慕っている桑田君。この二人を
      徹底的なまでにぶっ潰してやることで、先生にもダメージを与えてやるのです!」

モノクマ「ここまで言えばわかるよね、>>68君? だからこそ僕は原作より鬼畜度が高いんだよ。
      ま、僕が本気出せば一人や二人絶望させるなんて簡単だったね。ぶひゃひゃひゃひゃっ!」

モノクマ「さーて、次は誰がどんな絶望を見せてくれるかな? という所で次回に続く! バイナラ!」


ここまで


>>70
KAZUYAは意外と犯罪者に甘いですよね。指名手配されてるバイオリニストのお父さんとか
嫉妬で少年の指を切り落としたピアニストとか(どっちも音楽関係だな…)、本人が十分に罪を
償っていると判断すれば、KAZUYAは告発しませんからね。舞園も桑田もかわいいもんでしょう


>>1は鬼畜や!絶望させるの上手いわww
あぽカワイソス

もっととんでもない奴とやりあってるからねぇ…
まあ、ここまで来ると真田の時みたいにブチ切れるか…

>>85
モノクマ「鬼畜は褒め言葉です!」キリッ

>>87
そもそも全ては黒幕という巨悪のせいですしね
内心では既に先生ブチ切れですよ


今年最後の投下


腐川「やっぱり…やっぱり人殺しよアンタ!」

山田「ヒィィ、桑田怜恩殿に殺される!」

葉隠「た、ただでやられると思うんじゃねえぞ!」

大和田「桑田、オメエって奴は…」

朝日奈「あんた、やっぱり…」

石丸「何ということを…」

桑田「このおおおおお…!!」

不二咲「や、やめてっ…!」

大神「桑田ッ!」

K「よせえええええええっ!」


殴り掛かろうとした桑田の前に、江ノ島を両手で抱えたKAZUYAが踊り出る。KAZUYAはもはや
他の部位のこの場での処置は困難と判断し、包帯での一時的な直接圧迫止血に切り替えていた。
そしてそれが済むと、江ノ島を抱えたまま桑田の制止に来たのだった。



桑田「どいてくれよ! あいつらっ!」

K「桑田、今すぐ保健室に来い!」

桑田「でも…!」

K「いいから来るんだッ!」


KAZUYAは両手が塞がっていて物理的に桑田を止めることは出来ない。
だがその鬼気迫る表情と強烈に訴えるような瞳が、わずかに桑田を冷静にさせた。


K「頼む! 俺の言う通りにしてくれ。頼むッ!!」

桑田「う、うう、クソッ…!」


KAZUYAの気迫に押され、桑田は渋々振り上げた拳を降ろす。まだ怒りの収まらない
表情の桑田と江ノ島を連れ、KAZUYAは去り際に石丸へ指示を飛ばす。


K「石丸! 今すぐ全員を解散させろ。部屋に戻せ!」

石丸「え…は、はい!」


基本的に石丸は気の利かない男だが、指示さえあれば的確に動ける人間である。すぐさま行動に移った。


石丸「みんな! さあ、部屋に戻ろう!」

葉隠「お前ら逃げんのかい!」

山田「ま、まだ話は終わってないですぞ!」

腐川「Kが庇った…やっぱりあいつらグルなんじゃないの?」

石丸「ほら、戻るんだ!」

大和田「兄弟の指示に従え! 従わねえなら殴るぞゴラ!」

朝日奈「さくらちゃん…」

大神「戻ろう、朝日奈。少し休んだ方が良い」

不二咲「ぼ、僕も…」

霧切「…………」


全員、疲弊しきった顔でぞろぞろと悪夢のような体育館を去って行った。


・・・


廊下を、唯一全く疲れの色を見せない男女の二人組が並んで優雅に歩いている。
世界を支配する一族の帝王・十神とギャンブル界の女帝・セレスだ。


十神「フン、時間の無駄だったな」

セレス「あら、そう思うのでしたら途中で帰ればよろしかったのでは?」

十神「…ゲームに役立つ情報かどうかを見定めていただけだ」

セレス「まあ物騒ですこと。わたくしは平穏な生活が破られてオロオロとしていましたわ」

十神「貴様にしてはつまらん嘘を言うな」

セレス「嘘だなんてそんな…適応力こそが生命力、と言うのがわたくしの持論です。
     それに、わたくしはいつも本当のことしか言っておりませんわよ?」


そう言ってセレスはお馴染みの薄い笑みを浮かべる。


十神「貴様の戯言に付き合うつもりはない」

セレス「つれないですわね」クスクス


実の所、先程の騒ぎを引き起こした影の功労者はこの二人であった。


山田達が桑田と舞園を内通者だと騒ぎ出した時、彼らはそれが単なる下衆の勘ぐりだと
言うことをわかっていた。先程の激しい狂乱を思い出し、十神は溜息をつきセレスは逆に笑う。


十神(それにしても、パニックに陥った愚民というものは愚かすぎて逆に恐ろしさすら感じるな。
    舞園はともかく、あの単細胞で感情的な桑田に内通者など務まるはずがないだろう)

セレス(西城先生が内通者と言うのもあり得ませんわね。手術にしろ授業にしろ、あの方は一貫して
     わたくし達を生かす行動しか取っておりませんもの。黒幕にとって不都合しかありませんわ)


二人は真相をわかっていた。だがあえてそれを口に出さず、黙って様子を見ていた。
それが結果的にあの騒動を引き起こしたのだ。腐川は十神が、山田はセレスが諌めれば
すぐに言うことを聞く。葉隠は根が臆病であるが故に、一人では大きな行動は取れない。

勿論頭の回る二人は当然そんなことも全て計算済みである。
つまり彼らは、自分達が黙れば大騒動に発展することをわかった上で傍観していたのだった。


十神(何の収穫もなかった。ただ愚民の愚民たるが故の愚かさをまざまざと見せつけられただけだった)


一般民衆より高みにいる十神からすれば、先程の騒ぎは滑稽ではあるが特に心を揺り動かす物はない。
ただ一つ、十神が関心を持つとすればそれはKAZUYAの動きだった。


十神(…ドクターKは多少は使える男かと思っていたが、大したことはなかったな。生徒に過度に
    肩入れし過ぎたせいで場の状況に飲まれ、何一つとして有効的な行動を取れなかった)

十神(精神的におかしくなっている舞園とすぐ感情的になって周りが見えなくなる桑田。
    使えないこの二人を切り捨てて周囲の混乱を収めるのが最も上策だったはずだ)

十神(それを、その二人や何の役にも立ちそうにないギャルを助けることに心血を注いで
    優先事項を見失うとは…馬鹿な男だ。間違いなくあれで生徒の人心を手放したぞ)


実は、十神は過去に図書室でKAZUYAに言われたことを少し根に持っていた。


十神(何が俺には決定的に欠けている物がある、だ。偉そうな説教をした割に、
    結局貴様とてその他大勢の愚民共と何ら変わらなかったではないか…)

十神(…愚民に期待などした俺が愚かだったと言うことだな)


二階に辿り着くと、十神はいつもどおり図書室に向かう。


セレス「では、ごきげんよう」

十神「…………フン」


そこで二人は別れ、セレスは三階へと向かった。
誰もいないのを見計らい、そこで始めてセレスは本心からの笑みをこぼす。


セレス(なかなか興味深い物が見れましたわ…!)

セレス(流石は西城先生…あの状況の中、気にかけている生徒が二人もおかしくなったのに
     最後まで冷静さを失いませんでした。やはり、伊達に人生経験を積んでいる訳ではなく、
     わたくしの計画にとって最大の障害となり得る人物のようですわね)


適応――セレスティア・ルーデンベルクが最も好んで使う単語である。

が、彼女はそんなことは本心では全く思っていなかった。そう、彼女はある野望のために一刻も早く
ここから出たいのである。その為、常に脱出に向けて計画を練り、周到に周囲を観察していたのだった。


セレス(次に、霧切さん…彼女は正直謎ですわ。ですが、立ち位置的には先生と近く常に冷静沈着。
     彼女も要注意でしょう。そして言わずと知れた十神君。先程はわたくしと同じ行動を
     取っていました。スタンスが近い分、思考を読まれる可能性もあります)


セレス(ですが! 先程のやりとりを見て確信しました。あの三人以外でわたくしの邪魔になる
     人材はいらっしゃいません。つまり、あの三人さえ押さえることが出来ればわたくしの
     勝利は確定したも同然。これは大きな収穫ですわね。うふふふ…)


気分的には高笑いでもしたい所だが、それは最後の楽しみにとっておくことにする。


セレス(…それに、西城先生に関しては既に弱点を見つけてしまいましたわ)

セレス(先生は見た目によらず…いえ、医者として考えれば当然ですが非常に慈悲深いお方。
     可愛い可愛い生徒達の様子が気になって仕方がないみたいですわね?)


舞園や桑田に対するモノクマの言葉責めで自分のことのように顔色を変えたKAZUYAの姿を思い出す。


セレス(モノクマによって、舞園さんと桑田君の精神は既にボロボロ。まあ、能天気な桑田君は
     意外と早く持ち直すかもしれませんが、舞園さんはそう簡単には立ち直れないでしょう)

セレス(これで当分は手一杯となるはずです。動機の件で他の生徒も気になるでしょうし。
     わたくし自ら手を下すこと無く済んで、非常にラッキーでしたわね)

セレス(あとは具体的な計画と、それを実行する機会を伺うのみですわ――)


両雄、未だ相雌伏す。



        ◇     ◇     ◇



そこは無人の教室。室内は酷く荒れ、辺りには大量の古い血痕が散らばっている場所。
密閉されているため、未だに人間の血と脂の臭いが充満しているが、モノクマは気にしない。
監視カメラに向かって、まるで誰かに語りかけるかのように話し始める。


モノクマ「さてこの映像をご覧の皆様、如何でしたでしょうか?」

モノクマ「ほんの1時間前までは仲睦まじく共に学び遊んでいた生徒達が、たった数十分の
      やり取りで心はバラバラに! そう、彼等に絆なんて物はなかったのです。
      あってもそれは、ちょっとの刺激で砕け散る脆い脆い幻想だったのです!」


大仰なアクションをしながらモノクマは演説を始める。


モノクマ「お分かりの通り、僕のターゲットは舞園さんでした。でも、彼女はあくまで本命を
      崩すための誘爆用の爆弾に過ぎません。そう、僕の本命は最初から桑田君だったのです!」

モノクマ「見事、彼は感情の赴くまま先生が今まで気を遣いに遣い築いてきた空気を、
      僕の思惑通り盛大にぶち壊してくれました。結果、生徒達は疑心暗鬼に陥り、
      共に時間を過ごした友人ですら信用出来なくなったのです」


溜息を吐き、肩を落とす演技をするモノクマ。



モノクマ「さて、今後先生は二つの選択肢を迫られます。一つは、今まで通り舞園さんや
      桑田君と言った、自分が気にかかる生徒を中心に面倒を見る方法」

モノクマ「まあ、ぶっちゃけ依怙贔屓ですよ! 均等に生徒の面倒を見られず信頼関係を
      築けなかったのが今回の騒動の原因でもあるし。一部の生徒の不信を買うのは間違いなし」

モノクマ「もう一つは、先程の二人組…つまり問題を起こした奴らを潔く切り捨ててその他の
      メンバーで結束させること。ぶっちゃけこれが正しいよね! だって、問題を
      起こした方が悪いんだし、ちょっとくらい針の筵でも我慢しろっての!」

モノクマ「…ただこれを選ぶと絶望した二人がどんな行動を取るかわからないけどね。うぷぷぷ」


バッと両手を掲げ、演説は最高潮を迎える。


モノクマ「さて、どちらの選択肢を選んでも一部の生徒を切り捨てることになります! 医者のくせに
      誰かを切り捨てないと残りの生徒を救うことが出来ない。この事実に気が付いた時、
      果たしてKAZUYA先生ことドクターKは耐えられるのでしょうか?!」

モノクマ「今後の展開もワックワクのドッキドキだね!! 以上、モノクマ先生からの解説でした。
      それではCMの後もチャンネルはこのまま! 今後も絶望チャンネルをよろしくね~!」


そしてモノクマの演説は終わった。この映像を見ている人間達は、果たして何を思うのか――


ここまで。これで今年の分の投下はお終いです

拙いSSですがお付き合い頂きありがとうございました。新年度もまだまだ続きますが、
どうかKAZUYA先生とこのスレの78期生達をよろしくお願いします!

ちなみに新年度の投下は、2日か3日辺りを想定しています。

あと、上でモノクマの解説続いてるのにちょっとくどいけど、
現時点での解説というかちょっとした裏話をいれて今日は終わりにします

てかさくらちゃんが自発的に言えば解決なんじゃ…


ギスギス嫌いな人には非常に申し訳ない展開となっております。こういう展開になると
わかっていたから、二章日常編は欲張ってほのぼのやギャグをありったけに詰め込んでいた訳です
出来るだけ早く戻したいとは思っているのですが、まだまだ重要イベントが目白押しなのでちょっと
難しいかもしれません。今後、胸糞悪い展開とかももしかしたらあるかもしれませんが
愛想を尽かさずに最後まで読んで頂けたら幸いです。

ちなみに、今回の疑心暗鬼イベントは実は必須イベントではありません。
堅実な安価運びのお陰で安定したストーリーとなっていた訳ですが、あまりにヌルゲーだと
読者の方がつまらないかな、と思って入れた罠イベントです。後半にスポットの当たる
葉隠、山田、朝日奈のうち二章までに一度も自由行動で選択されなかったキャラ+腐川が
疑心暗鬼を引き起こすことになってました。ちなみに、もし朝日奈まで疑心暗鬼を
発動していたら、ちょっと挽回が厳しいことになっていたので、セーフで良かったね!

オールキャラを目指しているのに、今の所序盤にスポットの当たるキャラに出番が
偏っていて本当にすみません。なんとか後半組にも後々華を持たせるように頑張ります。
というか、まさか桑田君がここまで出番多くなるとは1が正直一番ビックリしている…

>>108
さくらちゃんが何故言わなかったかは理由があります
もう少ししたら書くのでしばしお待ちを


疑問・感想非常にありがたいです。それで新たな展開が生まれたり
忘れていたこととか思い出したりするので。何よりやる気が出ますし!

それでは皆様、よいお年を!

乙。よいお年を
しかし出番の多くなった桑田が一番のトラブルメーカーという…マークⅡとは何だったのか…

こっから挽回できるのか?比較的K先生に協力的な生徒と団結して行動するにしても
舞園と桑田のフォローで行動制限されそうだし…
石丸、お前風紀委員なんだから何とかしてくれ!

明けましておめでとうございます。本年もこのスレをよろしくお願いします。

>>113
大人の事情ですが、実は若干マイナス補正かかってます(ボソッ)
前半組ばっかり活躍したら不公平なので…桑田は舞園の被害者であり1の被害者でもある
でもまあ、結果的には大惨事になったけど、仲間思いになったのはいいことだしね…

ここの>>1はネギ


今年一発目の投下ですよ~



― 保健室 PM3:02 ―


喧嘩の最中に無理矢理引き離され、桑田の怒りはまだ消えていなかった。


桑田「なんで俺達が逃げなきゃなんねえんだよ!」

K「あの場で揉めるのは逆効果だ! そんなこともわからないのか!!」

桑田「…!」ビクッ


珍しくKAZUYAは本気で怒っていた。KAZUYAが自分達生徒に怒ったのは、あの事件以来だ。
KAZUYAは抱えていた江ノ島をベッドに置き、冷蔵庫からペットボトルを取り出して桑田に渡す。


K「…これを飲んで待っていろ」

桑田「喉なんか渇いてねえよ…!」

K「いいから飲め!」クワッ!


一言怒鳴るとKAZUYAは江ノ島の治療を再開した。
仕方がないので桑田は言われた通り蓋を開けて飲み物を流し込む。


桑田「!!」


桑田は衝撃を受けた。喉なんて全く渇いてないと思っていたのに、実際はカラカラだった。
当然のことだ。あれ程の怒りと緊張に晒され引っ切り無しに怒鳴っていたのだから。


桑田(喉がカラカラになってるのに気付かねえほど頭に血が上ってたってことかよ…)

桑田(せんせーはこれを俺にわからせるために…)


喉が潤うのに比例するかのごとく、段々と頭が冷えてきた。
そして、自分が取り返しのつかないことをやらかしたと言う事実に気付く。


桑田(せんせーはずっと俺をとめてた…せんせーだけじゃねえ。他のヤツらも…)


霧切、石丸、不二咲、大神。積極的に自分を責めなかったメンバーも自分を諌めていた。
そのくらい目に余っていたということだ。そして自分はその忠告を聞かなかった。


桑田(ヤッベェなんてレベルじゃねえ……)


叱られるならまだ良くて、今度こそ愛想を尽かされるかもしれない。
他の生徒達には今回の件で間違いなく嫌われたはず。そうなったら自分は一人だ。



桑田(………………どーしよう)


江ノ島の治療をするKAZUYAの後ろ姿を見ながら、桑田の震えは止まらなかった。



        ◇     ◇     ◇



時は少し遡る。


舞園「いや! もう帰ってください!」

苗木「こんな状態の舞園さんをほっておけないよ!」

舞園「余計なお世話だと言っているんです!」

苗木「舞園さん! とにかく落ち着いて!」


舞園の部屋ではもう一つの争いがあった。


舞園「もう…もういいんです! 私には、関わらないでください…!」

苗木「舞園さんは、僕のために言ってるんだよね? 僕が孤立しないようにって。だったら
    僕も舞園さんのためにここに残る。大丈夫、みんなだって時間が経てばわかって…」

舞園「わかりませんよ…犯罪者の気持ちなんて」

苗木「舞園さん…」


舞園はわかっていた。わかってしまった。
いや、本当は気付いていたのに、ずっと目を逸らしていたのかもしれない。


舞園(私は、醜い……私は醜い!)


別にちやほやされたくてアイドルになった訳ではない。華やかな世界に憧れていた訳でもない。
舞園自身がそうされたように、自分も誰かを元気にしたかったから。自分の笑顔でみんなを
元気にしたいからと、彼女はアイドルになった。夢を目指した動機はどこまでも純粋だった。


舞園(でもそんなの嘘! 私は手に入れた夢を失いたくないだけだった。あの華やかな世界から
    離れたくないだけだった。忘れられたくなかった。みんなに見てもらいたかった…)


考えればすぐにわかることだ。自分の大好きなアイドルが、罪のない人間を殺したと知って
喜ぶファンがどこにいる。たとえ誰にも知られなかったとしても自分はきっと本心からは
もう笑えない。嘘の笑顔でファンを騙し続けることになるのだ。


舞園(ファンのことを一番大事に考えている? そのために全てを犠牲にしてきた?
    そんなの…全部嘘じゃない! 結局は全部自分のためだった。自己満足だった!)


秘密が公表されるからアイドルに戻れないのではない。元より自分にはその資格がなかったのだ。


舞園(アイドルや芸能界を馬鹿にしたのは桑田君じゃない。私自身だった!)


アイドルという仕事を侮辱したのも汚したのも自分。その事実に気付いた時、舞園は絶望した。


苗木「舞園さん! お願いだから僕の話を…!」


アイドルとしての自分が死んだなら、残るのは舞園さやかという個人だった。
舞園自身が持っている物とは一体何だろう。


舞園(私には、何もない…ずっとアイドルとして生きてきたから…)


だがそこにたった一つ、舞園さやか個人としての感情が残っていた。


舞園(苗木君…)


舞園が苗木に好意を持ったのは中学の時、彼等の学校に鶴が迷い込んだのがきっかけだった。
大型の鳥のために教職員も困っていた所、当時飼育委員をしていた苗木が押し付けられ、
見事鶴を逃がしてやったのだ。それから何となく気になって目で追うようになり、
苗木の人の良さや優しさに好感を持つようになった。再会出来た時は本当に嬉しかった。


舞園(でも、私はアイドルと同じように苗木君に対する好意も穢した…)


結局の所、人の命を奪うことの重みを自分は何もわかっていなかった。
裁判については後出しだったものの、殺人犯の汚名を着せられた苗木がどうなるか。
何も考えていなかった。自分が卒業すれば容疑は晴れるからと軽く考えてすらいた。
卒業までどのくらいの期間が必要なのかも考えず、その間ずっと苗木に辛い思いをさせる所だった。


『一人殺すのは平気でも十五人殺すのは駄目なのか?』


十神の言葉が重くのしかかる。


事件の前、視聴覚室であのDVDを何度も見ていた。自分は桑田が大嫌いだったが桑田の両親から
見れば間違いなく自慢の息子だろうし、そんな彼を自分のエゴで殺すのはどうしても罪悪感があって、
後押しが欲しかった。でも今から考えれば、そんな行動すら自分に対する言い訳であった気がする。


舞園(私は本当は我が儘で自分勝手な人間だった。しかもそれを隠すためにアイドルの
    仕事や努力を盾にして…私なんて、いらない。私みたいな卑怯者は、いらない!)


舞園は苗木に対しずっと好意を持っていたが、はっきりと愛情を感じたのは
事件後に苗木が舞園を庇った時だった。それすらも彼を利用しているように感じられた。


舞園「私は、苗木君の優しさを利用してるんです。私は狡い人間なんですよ! 何でわかって
    くれないんですか?! あなたが優しくする価値なんて私にはないのに!」

苗木「そんなことないよ! 舞園さんだって僕を助けてくれたりしたじゃないか!」

舞園「全部利用してただけです。この監禁生活は本当の私を私に教えてくれたんですよ」


『何があっても…ずっと私の味方でいて…』


今となっては吐き気すらする。苗木はあの言葉に縛られて今も自分の味方でいるのだ。
苗木への愛情が深まれば深まる程、舞園は自分自身を強く憎んだ。

一度暴走を始めた感情は落とし所を見つけずには止まらない。



          ◇     ◇     ◇



時を同じくして、舞園同様に深い自己嫌悪に苛まれている者がいた。


江ノ島(盾子ちゃん…どうして…)


そう、江ノ島盾子…いや、正確には江ノ島に変装している戦刃むくろだが。


江ノ島(どうしよう…とうとう盾子ちゃんに嫌われちゃった…)


悲しいことに思い当たることは腐るほどある。
妹から残念な姉、即ち残姉と呼ばれてしまう程、彼女はつまらないミスが多かった。


江ノ島(な、何がいけなかったんだろう…こっそり部屋にモデルガン持ってきたの
     バレちゃった? 最近お化粧を手抜きしてたのが悪かったのかな…)


片っ端から思い当たることを考えていく。強いて原因を一つ挙げるなら、そういう彼女の
気の回らなさ全般と言えるのだが、そこに気が付かないのも彼女が残念だからである。


江ノ島(私が盾子ちゃんの理想のコロシアイ生活の手伝いが出来ていなかったから…?
     でも理想のコロシアイ生活って何だろう。バトルロワイヤルじゃダメなんだよね?)


嫌われた原因を考えていたのに、いつの間にか理想のコロシアイ生活について考えていた。
こうして二十分ほど、KAZUYAに治療をされている時も周囲が内通者騒ぎで揉めに揉めている時も、
箸にも棒にもかからないことを延々と考え続けていた。


江ノ島(いけない。話がズレてきてる。なんで盾子ちゃんに嫌われたかを考えなきゃ。
     …夜食をレーションにしたのがいけなかったのかな。好きじゃないって言ってたし)


散々無駄な堂々巡りの思考を続けていたが、とうとう江ノ島は正解の一端に辿り着く。


江ノ島(レーションといえば…そうだ! 一昨日Kからもらったレーション。おいしそうで
     つい食べちゃったんだった。きっとあれがいけなかったんだ! そうだよね。
     敵からもらったものをほいほい食べるなんて軍人失格だし…)

江ノ島(そもそも、盾子ちゃんからKには近付くなって散々言われてたのに
     それを破っちゃった…そっかぁ、それがいけなかったんだー)


原因がわかると少しホッとする。後で謝ろう、謝れば許してくれると呑気に考える。


K「…ノ島。おい、江ノ島」

江ノ島「……へ?」

K「終わったぞ」

江ノ島「あ…」


すっかり忘れていた。自分は負傷して仇敵たるKAZUYAに治療を受けていたのだった。


K「しばらくは麻酔が効いているが直に切れる。痛みだしたらこの痛み止めを飲め。
  あと、消毒と傷口の経過を見るために明日も保健室に来い。いいな?」

江ノ島「え、あ…その…」

K「…どうかしたのか?」


江ノ島の脳裏には、妹から言われたKに近付くなという言葉しかなかった。


江ノ島(そもそも、私の完璧な襲撃を受けたのに先生が生きてたりするから盾子ちゃんに
     怒られちゃったんだ! 盾子ちゃんに嫌われたのもさっきの攻撃も全部先生のせい!)


KAZUYAからしたら余りに理不尽な言い分だったが、江ノ島はキッとKAZUYAを睨む。


江ノ島「…別に手当てしてほしいなんて頼んでない」

K「…江ノ島?」

桑田「ハ?」

江ノ島「余計なことしないでよっ! もうアタシに関わらないで!」


そう叫んで江ノ島は保健室を飛び出して行った。


桑田「…なんだよ、アイツ。あれが命の恩人に対する態度か?」

K「……」


KAZUYAは察しが付いていた。恐らく、自分が仲間に切り捨てられた原因をKAZUYAに
求めたのだろう。だからと言ってその感情をあからさまにするのは明らかに悪手だが。

江ノ島がいなくなったことにより、桑田はKAZUYAと再び向き合うことになった。


キリもいいのでここまで

結構桑田を心配する声が多くて意外。1的には断然舞園さんの方が不味いような
桑田はあの性格ですからなんだかんだトラブルメイカーが合ってますね


>>125
ネギ?!食べ物ですか、それとも禰宜のことですか?いや、どっちでもよくわからないけど

乙。たしかに桑田の方が舞園より心配だな
舞園は苗木に舌入れてキスされたらおとなしくなって落ち着きそうだけど
桑田はアポだから何回反省してもまたどっか大事な場面でアポやりそうだから目が離せないわ

俗にいう「馬鹿な子ほどかわいい」というやつか…


投下


桑田「…………」

K「…………」


KAZUYAは何も言わない。厳しい顔をして無言のまま床を凝視している。
桑田は父親に叱られた子供のように肩を竦め、KAZUYAの出方を伺っていた。


K(……全て、俺の責任だ)


だが、実際の所KAZUYAは全く怒ってなどいなかった。
ただ自分の無力さにうちひしがれ、うなだれていたのだった。


K(桑田は悪くない。元々感情的な奴だし、何分まだ高校生だ。あの状況で怒るなと
  言う方が無理だし、むしろ桑田にしては今日はよく我慢していた方だ)


監禁当初はとにかく気分屋で自分本位な少年だった桑田が、仲間に内通者扱いされても
ギリギリの所で堪え、他人のKAZUYAが内通者扱いされた時に初めて本気で怒っていた。
その姿に確かな成長を感じて、KAZUYAは教師のような親のような気持ちになっていた。

ぼんやりと昨日の出来事を思い出す。


          ◇     ◇     ◇




昨夜、KAZUYAは桑田を連れ視聴覚室を訪れていた。この用件だけなら苗木でも良かったのだが、
後で話さなければならないことがあったので今回は桑田に頼んだ。


桑田「視聴覚室に工具なんか持ってきてなにすんだよ?」

K「この部屋に置いてあるパソコン…脱出に使えないかと思ってな」

桑田「え、でもいいのか? ほら…」


桑田は視線で監視カメラを示す。


K「問題ない。バレないように調べるのはどの道無理な話だ。ならば堂々とやるまで」


そう言ってKAZUYAは桑田から工具セットを受け取ると、一番端の監視カメラに映りにくい
パソコンに取り付き机ごと派手に解体し始める。


桑田「…いくらバレてるからって派手にやり過ぎじゃねーの?」

K「実は俺は機械にはそれほど強くなくてな。とりあえず適当にバラしてみたが、
  やはり無駄足だったか。生徒にメカニックでもいれば違ったかもしれんが…」ムゥ


言いながら、KAZUYAはカメラの死角になる場所にメモを出して桑田に見せる。

『俺の狙いはこのパソコンの部品だ。何も収穫がなかった振りをしてくれ』


桑田「…!」


察した桑田はKAZUYAの手元を隠せる位置にさりげなく移動する。
そして当のKAZUYAはパソコンのマザーボードを一式盗みマントの下に隠した。


桑田「なんだよー無駄足かよー。つかせんせーがいじったからこのパソコン壊れたんじゃね?」

K「いくら俺でも解体した物を元に戻すくらいは出来る。問題ないはずだ。…多分」

桑田「多分てなんだよ!」

K「まあそう言うな。それより、折角だから無駄足ついでに風呂でもいかんか?」

桑田「行く行く。さっぱりしよーぜ」


そして二人はそのまま脱衣所に来た。例によってKAZUYAは盗聴器を移動させる。


桑田「で、どうなんだよ。なんに使うんだそれ?」


K「図書室に壊れたノートパソコンがあったのを覚えているか? どうやら不二咲はあれを
  修理して脱出に役立ちそうなプログラムを現在極秘に組んでいるとのことだ。ただ、
  何分旧型のパソコンだからな。部品が欲しいと頼まれたのさ」

桑田「ちょ?! マジかよ! スゴくねアイツ?! なんかちょっとずつ脱出の希望が見えてきたな!」

K「まだわからん。あまり期待し過ぎるのも良くないぞ。それに俺が手に入れてきた
  この部品。上手くノートパソコンの物と規格が合えばいいのだが…」

K「とにかく、ここで不二咲と待ち合わせをしているのだが、時間までまだある。
  さっき言った通り、一緒に風呂に入らないか? …大事な話がある」


そう、KAZUYAにとってはむしろこちらが本題だった。


・・・


カポーン。


桑田「で、なんだよ話って?」

K「……」


桑田は広い湯舟で伸び伸びと体を伸ばし、リラックスしているようだ。
今なら言っても大丈夫か?とKAZUYAは切り出す。


K「…明日、いよいよ舞園が退院する」

桑田「…ああ、そう。ふーん」


想像通り、桑田の反応は素っ気ない。


桑田「あ、わかったぜ。あれだろ? ケンカ売んなとか、そんな話? 安心しろって!
    俺もちょっとは大人になったからさぁ、なるべく近寄らねえようにするよ。
    視界に入れなきゃだいじょーぶだいじょーぶ。いないものだと思えばいいし!」ハハハ

K「……」


強がりなのか素なのかはよくわからないが、桑田はそう言って笑っている。だがKAZUYAが
これから頼むことは、そこから更に一歩踏み込む…桑田の善意を踏みにじる話だった。


K「桑田、すまん。…その、そうじゃないんだ」

桑田「んー?」


K「俺はお前に頼みたいことがある。非常に言いにくい話なのだが。
  ……明日はお前から、舞園に話しかけてやってくれないか?」

桑田「え、ぜってーヤダ」

K「……だろうな」


にべもなく断られた。あの事件の後はなるべく周りのことを考えて話すようにしていた
桑田だったが、思わず昔のように脊髄反射で返事をするくらい嫌だったのだろう。


桑田「マジありえねーし冗談じゃねーし!」バシャッ

K「まあ、気持ちはわかるのだが…俺の話を…」

桑田「ヤダよ、ヤダヤダ! つかなんで俺があの女のためにそこまでやってやんなきゃ
    なんないワケ?! 俺被害者じゃん? アイツ加害者じゃん? まずはアイツから
    俺に詫びの一つでもいれに来させるのがスジってもんでしょ、フツー!」

K「舞園は詫びをすると言っている。だが、俺が頼みたいのはその前のことだ。
  よく聞いてくれ。最初が肝心なんだ。もしここでみんなが舞園を受け入れられないと
  今後もずっとしこりを残すことになる。彼女を孤立させたくないのだ」

桑田「そんなん俺の知ったこっちゃねー! ハブられたってジゴージトクだろ!
    せんせーは被害者の俺の気持ちよりアイツの立場を優先するワケ?!」

K「…………」


とめどない不満を垂れ流しながらバタバタと暴れる桑田を見てKAZUYAは
どうしたものかと思案する。ただ、桑田も以前よりは多少成長していたので
KAZUYAの苦い表情に気が付き、多少表現をマイルドにして言い直してきた。


桑田「っつーかムリ。ぜってームリだって! 他ならぬKAZUYAせんせーの頼みだから聞いて
    やりてえのはやまやまだけどさぁ、俺アイツの顔見て冷静でいられる自信ないもん」

桑田「流石に日にちも経ってるから殴りかかる…とかはねーと思うけど、それこそ
    イヤミの一つや二つナチュラルに言っちゃうと思うしさー。俺とアイツは
    しばらく距離取るのがお互いに一番イイんじゃないの?」

K「いや、それでは駄目なのだ! 舞園が戻ってきて生徒達に動揺が生まれるその瞬間、
  恐らくモノクマは第二の攻撃を仕掛けてくる。その時までに少しでも生徒達の結束を
  強めるためには、被害者であるお前が形だけでも舞園と和解するのが一番なんだ」

桑田「…マジかよ。俺、チョー重要人物なワケ?」

K「そうだ。お前にみんなの今後がかかっていると言っても過言ではない」

桑田「…………」


渋い表情をする桑田にKAZUYAは頭を下げた。


K「苦しい、損な役回りだと言うのは百も承知だが頼む。この通りだ」


桑田「ちょっ、やめてくれよ! 頭あげてくれって!」

K「少しずつ脱出のための情報が集まって来ているのに、今ここで大きな問題が起これば
  その脱出も厳しくなるかもしれん。俺はもう生徒の手術などしたくはないし、生徒同士の
  殺人事件などはそれこそ真っ平御免なのだ。頼む、引き受けてくれんか?」


ひとしきり悩み、桑田は結論を出した。


桑田「……あー、あれだ。それがみんなのために一番いいんだろ? で、そのみんなには
    当然俺も入ってんだろ? じゃあ、引き受けるしかないじゃん。…勘違いすんなよ!
    自分のためにやるんだからな。みんなのためとか俺のキャラじゃねーし!」

K「嫌な頼みをして本当にすまん」

桑田「…まあ、命の恩人のせんせーにそこまで頼まれちゃ断れねーよなぁ…ハァ」


翌日のことを考えて、桑田は憂鬱げに溜息をついたのだった。

そして次の日、つまり今日の朝、朝食会の準備をしながらKAZUYAは席順について話した。
全員が無理だと主張した。短気な桑田が舞園を襲うのではないかという意見すら出た。
だが、見事桑田は役目を果たし舞園と他の生徒達の橋渡し役になったのだ。

それが、まさかあんなことになってしまうとは……



               ◇     ◇     ◇


K「…………」


怒るどころか誉めてやりたいくらいだったが、先程の失言を咎めない訳にはいかない。
その葛藤と、先程の騒動を止められなかった自分の不甲斐なさにKAZUYAは未だ沈黙しているのだった。


K(葉隠達三人にしてもそうだ…)


KAZUYAは葉隠、山田、腐川の三人を思う。今だからこそわかるが、彼等は常に怯えていたのだ。

昨日は葉隠のヤケ酒に付き合わされたが、思えば何故特段親しくもないKAZUYAをわざわざ
誘ったりしたのだろうか。いつも単独行動を取っている葉隠が、誰でもいいから側に
いてほしいと思うくらい内心では深く怯えていたのではないか。


K(思えば葉隠の部分的に未来を見ることが出来るという能力…あいつは今日の事態も
  予見していた。はっきりと内容がわからない分、その恐怖心も人一倍のはずだ)


KAZUYAは昨日葉隠が言っていた言葉を思い出した。



葉隠『…ここだけの話だけどよ』グビッ

K『何だ?』

葉隠『実は俺の占い、平均で当たるのは三割だけど、当たり方にちょっとムラがあんだべ』

K『ほう。どのようにだ?』

葉隠『…悪いこと程よく当たんだ』グビッ

K『……』

葉隠『しかもな、自分の悪いことはほぼ確実に当てられるんだが、具体的な内容が
    いっつもわからねえんだべ。だから、わかってはいんのに回避できねぇ』

K『…それではただ不安になるだけだな』

葉隠『まったくだべ! 先生なんとかしてくれ~。ついでに保証人になってほしいべ!』

K『俺が何とかしてやる。…だが、保証人にはならんぞ』


最後はいつも通りおちゃらけていたが、あれも不安の裏返しだったのかもしれない。
俺がもっと真剣に聞いていれば、もっと信頼関係を築けていればとKAZUYAは自責する。


K(思えば、葉隠は占い師で山田と腐川は芸術家だ。他の生徒達より感受性も強いはず。
  今まで普通に生活しているように見えても、彼等は内心では怯えていたのだろう)


最初の事件が起こる前、KAZUYAは内通者の嫌疑がかかり彼等とほとんど接触出来なかった。
疑いが晴れ、やっと話す機会も出来たのだが…


K『お前は超高校級の同人作家だそうだが…すまない。同人とは何だ?』

山田『なんと! いまどき同人を知らないとは! もしや、漫画もアニメも見たことがないのでは』

K『…すまない。そういったものは全くわからないのだ』

山田『石丸清多夏殿に続き、この限られた人数で二人もそんな人間に出会うとは!
    オタクはまだまだ少数派だとまざまざと見せつけられたようで些かショックですぞ…』

K『よくわからないが、わからないなりに話は出来よう』

山田『…無理ですよ。だって、コミケやラノベと言っても全くわからないでしょう?』

K『コミケ? ラノベ? フランス語か?』


山田『…もういいです。ハァ』スタスタスタ

K『あ……』


まず山田とは住む世界が違い過ぎて会話が成り立たなかった。次に腐川だが…


腐川『…な、なに? 急に話しかけてきてなんなのよ?!』

K『君は超高校級の文学少女らしいな』

腐川『…だから、なに? ば、馬鹿にしにきたの? そうよ、そうなんでしょ…!
    ブスのくせに恋愛小説なんか書いてって…そ、そうに決まってるわ…!』

K『そんなつもりは…高校生なのに大したものではないか』

腐川『こ、高校生でろくに人生経験ないくせに、なにが恋愛だ…そう言いにきたんでしょ…
   どうせ…どうせ、あんなの全部アタシの妄想よ! わ、悪い…?!』

K『悪くなどない。…君は、もう少し自分に自信を持った方が…』

腐川『キィィィ! どうせアタシなんて! アタシなんてぇぇぇ!』バタバタバタ

K『お、おい! 腐川! ……フゥ』


腐川の強烈な自虐心と被害妄想が邪魔をして、結局その後も余り会話がなかった。


K(だがそんなものはつまらん言い訳だ。苗木を見ろ。あれだけ気難しい面子を
  相手取りながら、全員とそれなりに上手く付き合えているではないか)

K(俺はこの場では生徒達の保護者も同然なのに、無意識に付き合いづらい生徒を避け、
   信頼関係の構築を怠り、その結果があのザマだ。俺以外の誰に責任があると言うんだ!)

桑田「…………ゴメン」


消え入りそうな声が聞こえた。目をやると、桑田が不安げな顔をしてこちらを見ている。
どうやら、KAZUYAの怒り顔を自分に対してのものだと思ったらしい。


K「…お前は悪くないさ」

桑田「でもさ…俺、取り返しのつかないことしちまった…俺のせいで…」

K「全て俺が悪いんだ」

桑田「えっ?! …な、なんでだよ! せんせーはなにも悪くねえじゃねーかっ!」

K「大人と子供では責任が違う。あの場を収められなかったこと、混乱する生徒達を
  恐怖心から救えなかったこと、その全ての責任は俺にある」


桑田「ちげーよっ! だいたいアイツらが…!」

K「葉隠達のことを悪く言うんじゃない! 彼等はただ怯えていただけだ!」

桑田「……でもよ!」

K「考えてみろ。あの短時間で、あれだけたくさんの恐ろしいことを吹き込まれ、
  実際に目の前で人が死にかけた。あんな状態で冷静でいられる訳がなかろう」

桑田「……」

K「俺がもっと上手く立ち回るべきだった。全員が冷静になれるまでお前を
  引き離すべきだったし、すぐさま生徒達をあの場から解散させるべきだった」

K「全ては俺の判断ミスだ。結果、無用な諍いを呼び生徒達の間に禍根を遺してしまった…」


苦々しげに語るKAZUYAを桑田は黙って見ていた。誰かに…それこそこの事件の首謀者である
モノクマのせいにでもしてしまえば楽なのに、KAZUYAは誰のせいにもせずただ自分の責任を
淡々と論じていた。大人とはこういうものなのかと、その姿は強く印象に残った。


K「…お前にも彼等にも、嫌な思いをさせてしまったな。すまない」


桑田「っんで…なんでせんせーがあやまんだよ! 全部…モノクマがわりーんだろうが!」


悔しかった。あの場を最悪の状態にしたのは紛れもなく自分なのに、恩人のKAZUYAに
謝らせてしまったこと、そして全て自分のせいだとは言えずモノクマのせいにして
逃げる自分の幼さがたまらなく悔しかった。


K「そうだな。あの場の責任は俺にあるが、全ての原因はモノクマこと黒幕だ。
  反省は必要だがいつまでも引きずっていても仕方ない。今後の方針を考えよう」

桑田「…………」

K「とりあえず桑田、お前は今後誰に何を言われても絶対に相手をするな。
  たとえ人殺し呼ばわりされても、白い目で見られ避けられても黙って耐えろ」

K「残念だが、お前が殺人未遂を行ってしまったのは動かしようのない事実だ。
  お前が何かするだけで、また先程のような騒ぎに発展する可能性がある」

桑田「……!」

K「特に、お前がさっき言ってしまった発言。あれがここでは最悪の言葉だというのは
  お前もわかっているな? …ほとぼりが冷めるまで孤立することも覚悟して欲しい。
  苗木には後で俺から話しておくから、最低限のフォローはしてもらえるはずだ」

桑田「…………」


K「不安か?」

桑田「当たり前だろ…さっきまではみんなで楽しくワイワイやってたのにさ…」


桑田の不安を消し去るように、KAZUYAは拳を突き出した。


K「安心しろ! 俺は何があってもお前達生徒の味方だ!! お前も、舞園も、
  葉隠も、山田も、腐川も、他の全員もだ!! お前達が苦しい時、辛い時、
  俺が支えてやるし助けてやる! 何があってもだ! それを絶対に忘れるな!」

桑田「……は、はは。ほんと、せんせーって熱いキャラだよな」


KAZUYAの熱い宣言に、その日やっと桑田は本心から笑えたのだった。

コンコン

その時、誰かが保健室の扉をノックした。


ここまで。ダンガンSS読んでたら今日は桑田の誕生日だって言うカキコミを見たので、
前スレの方にオマケも投下しておきました。奇しくも今日は桑田メイン回でしたね


>>140
>「馬鹿な子ほどかわいい」

これはほぼ間違いないですね。KAZUYAがやたら桑田を構うのは心配だからでしょう
ちなみに苗木君と舞園さんの件ですが…ドクターKはマガジンの漫画とは思えないくらい
サービスシーンも恋愛シーンも全くない超健全漫画なので、このSSも健全で行きます。あしからず

舞園さんな…
苗木相手にはチョロくなってしまう仕様だから…(白目)
でも「私が悪いんです!」「舞園さんは悪くないよ!」じゃあ堂々巡りで解決しないよな…


いっそ桑田に「舞園、テメーが悪いんだよアホ!」と説教してもらうか?
コロシアイに発展してしまうかもしれんが、苗木に優しくされてるだけじゃ
そのうちヤンデレになってしまいそうだしな…


ちょっと遅くなったけど投下



― プール PM3:28 ―


朝日奈「……ハァー」


全力でプールを何往復もしていた朝日奈葵は、溜息を吐きながらプールサイドに腰掛ける。


朝日奈「思い切り体を動かしたら、少しはスッキリするかと思ったんだけどなー…」


朝日奈の頭の中にあったのは、勿論先程の衝撃的な出来事の数々である。考えることが
あまり得意ではない彼女は、短時間に多くの出来事が起こりすぎてすっかり混乱していた。
そこで少しでも頭を整理するために運動をしていたのだ。


朝日奈(えーっと、こういう時は順を追って考えろっていうよね。まず最初に…)


今日起こったことを順番に思い返していく。


朝日奈(最初は朝食会。舞園ちゃんが退院するって言うから、私達はちょっと緊張してた。
     しかも先生が桑田の席を舞園ちゃんの向かいにするとかいうからビックリして…)

朝日奈(…でも、あいつ我慢してたよね。先生が先にキツく言ったんだろうけど)


それから、授業を行ったり娯楽室でみんなで遊んだりした。



朝日奈(あの時は楽しかったのになぁー。…なのに、どうしてあんなことになっちゃったんだろ)


体育館に呼び出されて、動機を配られた。そして、モノクマが学級裁判について説明した。


朝日奈(…そうだ。あのあたりからおかしくなったんだ。舞園ちゃんのせいで、私達みんなが
     死ぬ所だったって言われて、みんなが怒って…次に江ノ島ちゃんが怪我したんだ)


血まみれの江ノ島を思い出して、朝日奈はやや血の気が引く。頭を振って、無理やり追い出した。


朝日奈(モノクマのやつ、許せない…なにも悪くない江ノ島ちゃんにあんな怪我をさせて!
     …それでその後、モノクマが舞園ちゃんと桑田のことを悪く言い出して…)


モノクマに対しての怒りは抱いたが、舞園と桑田を素直に許せない自分もそこにはいた。


朝日奈(舞園ちゃんが、DVD見てすっごい取り乱してたのは私も知ってる。確かに怖いよ…
     でも、だからと言って人を殺すのは…桑田にだって人生はあるんだからさ)

朝日奈(ああ、でもその桑田も口封じに先生を殺そうとしてたんだっけ。ほんっとに最低。
     …でも、その話を聞いても先生はちっとも怒ってなんかいなかった。どうして…?)


朝日奈(もしかして、先生は知ってた? でも、知ってたならなんであいつと仲良く出来たの?
     内通者だから? でも内通者同士なら味方だから口封じなんて必要ないし…)


疑問が頭の中をグルグルと駆けまわる。朝日奈の記憶の中では、確かに彼らは仲が良く映っていた。
朝日奈だけではないだろう。だからこそ、桑田のKAZUYA殺害未遂はあれほどの混乱を引き起こしたのだ。


朝日奈(まあいいや。KAZUYA先生は大人だからきっと心が広いんだよね。そうだよ、うん)


ある意味正解とも言える答えを本能的に捻り出して、朝日奈は次に起こったことを考える。


朝日奈(最後は、そうだ。内通者…)


悪夢のような内通者宣告。これにより自分達の結束はズタズタに引き裂かれたのだ。
今も、生徒達はお互いを疑い合っている。そしてその中には自分も入っていた。


朝日奈(内通者なんて本当にいるのかな…モノクマの言った嘘かもしれないし、でももしいたら…)

朝日奈(先生は…さすがにないよね。怪我した舞園ちゃんを助けたり、応急処置の授業してたもん。
     でも、葉隠達が言ってたように舞園ちゃんや桑田はどうだろ…それに、逆かもしれない。
     もしかしたら二人を陥れようと葉隠達が嘘を言ってる可能性もあるし…でも…)

大神「朝日奈。やはりここにいたか」


朝日奈「さくらちゃん!」


考えこむ朝日奈に声を掛けたのは、彼女の大親友・大神さくらだった。


朝日奈「うん、ちょっと頭がこんがらがっちゃったから運動でもすればスッキリするかなーって」

大神「そうか」

朝日奈「…………」

大神「…………」

朝日奈「ねえ、さくらちゃん」

大神「何だ、朝日奈よ」

朝日奈「さくらちゃんは本当に内通者なんていると思う?」

大神「!」


答えに窮す。それは大神自身が答えを出していないからではない。では何故か。それは…


大神(もし朝日奈が知ったらどう思うであろうな。我が他ならぬその『内通者』であると――)



モノクマが生徒達に仕込んだ内通者は、偽の江ノ島盾子だけではなかった。
そう、大神さくらも黒幕の息のかかった内通者だったのである。

ただ江ノ島と少し違うのは、彼女の場合人質を取られているという逼迫した事情があった。


大神(我らは武に生きる者。負けて死すのは致し方ない。ずっとそう思ってきた。
    …だが、実際に人質に取られた道場の者達を目の当たりにして、我は揺らいだ)

大神(気が付けば、我はモノクマの要求に頷いていた。要求の内容は、もし我らの間に
    事件が起こらずそのまま膠着状態に陥った時、我が誰かを殺すこと……)

大神(許されない裏切りだ。だが、我にも守る者があるのだ。どうか、許して欲しい)


そう思いつつも、大神は朝日奈の顔を見る度に堅いはずの決意が揺らぐのを感じていた。
他の生徒達に対する後ろめたさとはまた違う、心の奥底からの衝動だった。


大神(本当に今のままで良いのか…? 皆を、朝日奈を騙して……)


自問するが、まだ答えは出せない。



大神「…………」

朝日奈「ごめんね、さくらちゃん。いやなこと聞いちゃったね…」


大神の沈黙を、仲間を疑うことの後ろ暗さだと思った朝日奈は質問を打ち切る。


朝日奈「あ~! 考えこむとか慣れないことするから疲れちゃった! ね、食堂行こうよ。
     こんな時には甘いもの甘いもの。ドーナツ食べれば元気になれるし!」

大神「ウム、そうだな…」


二人は食堂へ向かう。そこには意外な先客がいた。


朝日奈「あっれー。あんたそんなところでなにしてんの?」

石丸「おお、朝日奈君に大神君か」


食堂には、難しい顔をして何かの器具と布を持った石丸がいた。


石丸「またドーナツかね? オヤツもいいが、甘いものの摂り過ぎは体に毒だぞ! 控えたまえ」

朝日奈「よけいなお世話だよ! ドーナツは世界を救うの!」

大神「ここで何をしているのだ、石丸よ」

石丸「ウム、これは西城先生から出された課題だ」

朝日奈「あ、それ私が貸してあげた裁縫セットだね。縫い物をするって言ってなかった?」

石丸「だから、しているだろう」

朝日奈「…なにそれ。なんで直接手で持たないの? 針」

石丸「僕は不器用だからな。手先の細やかなコントロールを学ぶため、器具を介して縫っているのだ」

朝日奈「ふーん。ま、いいや。せっかくだから一緒にお茶しない? ずっとコンを詰めるのは良くないよ」

石丸「そうだな。少し休憩するか。同席させてもらおう」


そして、調理場から紅茶を持ってくると朝日奈は倉庫から持ってきたドーナツの箱を開ける。


朝日奈「いい匂~い! ドーナツドーナツ!」

石丸「ハッハッハッ、朝日奈君は本当にドーナツが好きなのだな」

大神「ところで石丸よ、何故こんな所で課題をしていたのだ? いつもなら部屋でしているだろう」

石丸「……そのことか」


途端に石丸の顔は少し暗くなった。


石丸「最初は部屋でしていたのだがな。なんとなく、人寂しくなってしまってここに来てしまった」

朝日奈「それって、やっぱりさっきのアレのせい…?」


朝日奈が先程の騒動を示すと、石丸は赤い目をカッと開いて熱く叫びだす。
その瞳には狂気的とも言える光が煌々と宿り燃えたぎっていた。


石丸「僕らの中に内通者などいる訳がないのだ! 裏切り者なんていない! 僕達は共に
    ここから脱出を目指す仲間だろう? 何故みんなわかってくれないのだっ?!」

朝日奈・大神「…………」


石丸「君達も内通者はいると思っているのか? もしや、僕のことも心の中では内通者だと…?!」

朝日奈「そ、そんなことないって! あんたみたいなバカ正直なやつが内通者なワケないじゃん!」

大神「…そうだ。お主のような人間が内通者だとは到底思えぬ」

石丸「そうか…そう言ってもらえると、助かる…」

大神「…………」

朝日奈(石丸は内通者なんていないと思ってる。それとも、そう思い込みたいだけ?
     私は…私はどうなんだろう? うう、よくわかんないよぉ…)

朝日奈「ああ、もう! あんたのせいでシンキ臭くなっちゃったじゃん! ほら、あんたも
     ドーナツ食べて食べて! おいしいもの食べれば、少しは元気も出るからさ!」

石丸「……すまない。そうだな。僕は悪いように考えすぎていたようだ」


どうにか話を逸らそうと朝日奈は机の上に視線を回し、石丸の持針器が目についた。


朝日奈「そういえばさ! あんたのその課題、なんのための課題なの? なんか最近よく保健室に
     通ってるみたいだしさ、先生からなにか特別授業とか受けてたりするの?」


石丸「よくぞ聞いてくれた。実はだな…!」


石丸はここで見つけた夢を得意げに話し出す。こんな場所でも将来を見定め、黙々と努力を積み重ねる
その姿勢に朝日奈と大神は好感を持った。この二人も夢のために日夜特訓をしているからだ。


朝日奈「へえー、医者になって諸国放浪してその後は政治家か~。ロマンあるじゃん!」

大神「ウム、大した夢ではないか」

石丸「ありがとう」

朝日奈「将来は総理大臣になるの?」

石丸「ハハハ、まだわからないさ。だが、政治家を目指す以上は考えているつもりだ」

朝日奈「よっ、石丸総理! 総理になったら私を料亭に誘ってよ! 税金で私腹を肥やして
     いいモノたーくさん食べて、越後屋お主も悪よのうみたいな?」

石丸「な、何を言っているのだね君は?! この僕がそんなことをするはずないだろうっ!」

朝日奈「ちょっと冗談だって~。そんな本気にならないでよ!」

石丸「僕が政治家になったら税金の無駄遣いは徹底的になくすぞ! 汚職や癒着は厳しく取り締まるし、
    国民のために清く正しい政治を行う! そして頑張る人々が報われる美しい社会を作るのだ!」

大神「お主なら出来るやもしれんな」



熱っぽく夢を語っていた石丸だが、ふと二人の顔を見て止まる。


石丸「…そう言えば、僕の話ばかりしてしまったな。良かったら君達の夢も聞かせてくれないか?」

大神「夢? 夢か…」


大神は口ごもった。彼女には昔から夢がある。ライバルであり想い人でもある地上最強の男を倒し、
名実ともに世界最強になるという夢が。…だが、その夢はもはや叶わぬものとなっていた。
内通者となった時、彼女は罪のない人間を殺すという宿命が出来てしまった。もしここから無事に
出ることが出来たとしても、そんな薄汚れた自分が地上最強の座を背負うには相応しくない。


朝日奈「将来のことはまだ決めてないけど、とりあえず私はオリンピックだよ!」

石丸「おお、オリンピックか! 狙うは金メダルだな?」

朝日奈「もっちろん! 目指すは金! バカでも金! だよ!」

石丸「君は暇さえあればいつも泳いでいる努力家だからな。是非とも応援させてくれ!」

朝日奈「ありがと。あんたもガンバんなよ~」

石丸「それで、大神君は?」

大神「我か? 我は…」



答えられない。
彼らは真剣に将来の夢について語っているのに、自分がそれを言う資格はあるのだろうか。


朝日奈「さくらちゃんは世界一の格闘家だよ!」

石丸「大神君らしいな」

大神「ム……ああ」

石丸「こんな場所では満足なトレーニングも出来ず、さぞかしストレスも溜まるだろう?」

大神「そうだな…」

石丸「だが、共に出来ることを見つけて頑張ろうではないか。手合わせなら先生に頼めばどうだろう?」

大神「西城殿か。前に頼んだ時は逃げられてしまったのだがな。自分は医者が本業だからと」

石丸「僕からも頼んでおこう! 努力したいのに出来ない辛さは僕もよくわかるからな!」

大神「……恩に着る」

石丸「なに、僕は風紀委員だ! みんなのためならば僕は僕の貴重な時間をいくら割いても
    苦ではないのだよ。他にも、何か手伝えそうなことがあったら何でも言ってくれたまえ」


そう言って笑う石丸を見て、朝日奈はふと違和感を覚えた。なんだかいつもの笑い方と違うような…
朝日奈は頭を使うのは苦手だが、アスリートとして直感の鋭さにはそれなりに自信があった。



朝日奈「……あんたさぁ、もしかしてムリしてない?」

石丸「無理? 僕が無理だと?」

朝日奈「だってさ、誰かに会うたびに調子はどうか?とかなにか手伝おうとかそればっかり。
     別に風紀委員っていってもこんな状況だし、あんたばっかりムリしなくていいんだよ?」

石丸「…しかし、僕にはそれしか出来ないのだ。出来る事がないことほどもどかしいものはない。
    さっきだって、そうだ。君達も僕の無様な姿を見ていただろう?」

朝日奈「別に、なにもおかしなことなんてなかったけど…」

石丸「僕に医術の心得があれば、僕が江ノ島君の処置をして先生はみんなをなだめられたのだ…」

朝日奈・大神「…!」

石丸「僕はただ見ているだけしか出来なかった。しかも、僕自身モノクマの妄言に惑わされてしまって
    苦しむ舞園君や桑田君を支えることも、混乱するみんなをまとめあげることも出来ずに…」

石丸「結果、みんなの心はバラバラになってしまった…僕は超高校級の風紀委員と呼ばれながら、
    あの場で何もすることが出来なかったのだ! こんな馬鹿げたことがあるか…!!」

朝日奈「石丸、あんた…」


石丸「僕は、悔しい…あんな奴の目論見通りにしか動けない自分自身が…たまらなく悔しいのだ」

大神「……ならば、悔いのないよう動けば良い」

朝日奈「さくらちゃん?」

石丸「大神君?」

大神「お主は、自分に出来ることを探しそれを行おうとしているのだろう? なればこそ、
    死力を尽くしてでもそれを探し求めるが良い。そして力の限りそれを行うが良い」

石丸「大神君……そうだ。君の言う通りだ。僕はその言葉を待っていたのかもしれない」

大神「良い顔になったな。お主はいつも一生懸命なのが似合っている」

石丸「ありがとう! そうと決まれば、こんな所で油を売っている暇はない!
    僕は行く! 後悔のないように今自分に出来ることをし続けるぞっ!!」

大神「ウム、行くが良い」

朝日奈「あんまムリしないでよ! 疲れたならいつでも休みにきていいんだし、
     ドーナツ食べながらグチとか言うといいよ。聞いてあげるからさっ!」


石丸「ああ、その時は是非頼もう。それでは、石丸清多夏行って参る!」


さっと荷物をまとめ、靴音高らかに石丸は走り去っていった。
頼もしいその後ろ姿を、朝日奈と大神は見送る。


朝日奈「まーったくあわただしいヤツ。でも、アイツは元気な方が合ってるかもね。
     それにしても、さっすがさくらちゃんだなぁ。いいこと言うね!」

大神「我は、あやつの背中を押しただけだ。迷っているように見えたのでな」

大神(だが、違うのかもしれぬ……内通者としては皆がバラバラになっている方が
    都合が良いに決まっている。つまり、本当に迷っているのは……我)


懊悩を隣にいる親友に悟られないよう、大神は静かに紅茶を口に運んだ。


ここまで。


明日からまた仕事なので、今日中にもう一回投下に来たい所ですがちょっと微妙かも
来れるとしたら多分夜になります。自分で言うのもなんだけど、この年末年始は
結構投下頑張ったと思う。うん…その割には全然進んでないですが


葵ちゃんとさくらちゃんは今まで全然掘り下げてなかったので今回書いてみた
今回の三人にちーたん入れると1的癒し系メンツが完成したり

乙。いや、投下頑張ってると思うよ
話が進んでないとも思わない。本来死んでる舞園桑田戦刃が「生きていた場合」で話を動かさないといけないから
原作の2章のように進行しないのは当然といえば当然。むしろじっくりやってほしい

IF物としてもクロス物としても良く書けていて面白いよ。ひどいのになると人物入れ替えて原作をなぞるだけ、なんてのもあるからな…


なんとか間に合った。投下


― 保健室 PM3:31 ―


霧切「…お邪魔だったかしら?」


ノックの後、保健室に入ってきたのは霧切だった。意外な来客に思わずKAZUYAと桑田は顔を見合わせる。


K「ム? 霧切か。どうかしたのか?」

霧切「…廊下で江ノ島さんを見かけたから、治療は終わったのかと思って」

K「何の用だ? 何かあったのだろう?」

霧切「いえ…特に用事はないのだけれど」

桑田「…用もないのに、なんで来たんだよ」

霧切「…………」


霧切にしては珍しく歯切れが悪かった。だが、その様子を見てKAZUYAはピンと来る。



K「そうか。心配して様子を見に来てくれたのだな?」

桑田「心配~? 心配してるって顔かぁ? だいたいいつもクールな霧切が心配とかすんの?」

K「おい、こら…!」


やっと調子が戻って気が抜けたのか、桑田がまた昔のように放言をする。


霧切「…あら、私が心配をしてはいけないのかしら。桑田君」

桑田「いや、別に悪いってワケじゃねーけど」

霧切「そもそも、私はあなたのことなんて全く心配していないわ。あなたみたいな手のかかる
    生徒の面倒を見る羽目になって苦労しているドクターを心配して来たのよ」


眉をひそめトゲのある言い方をする霧切を見て、KAZUYAは内心頭を抱えていた。


K「謝れ、桑田。口ではああ言っているが、彼女はお前を心配して来てくれたのだぞ?」


桑田「えー、マジで?! なんでなんで? 俺に気でもあんの??」

K「お前は馬鹿か!」スパーン!

桑田「痛てっ」


余りに無神経な桑田の頭を軽くはたくと、KAZUYAが代わりに非礼を詫びる。


K「すまないな…後できつく言っておくから許してくれ」

霧切「…苦労されてるみたいね」

K「まあな」

桑田「悪かったって! 本気で驚いたんだよ! なんつーか、ちょっと意外だったからさ」

K「意外か? 霧切は確かにあまり感情を表に出さないからわかりづらいが、普段からとても
  気配りが出来て思いやりのある優しい女生徒だぞ? 俺も非常に頼りにしている」

霧切「……」


KAZUYAに面と向かってベタ誉めをされ、霧切が僅かに赤面して俯く。それを桑田は微妙な顔で見ていた。


桑田「なあ、せんせー…今の発言って、計算?」

K「は? お前は一体何を言っているんだ?」

桑田「…ああ、そうか。こういうのがモテるんだな。参考にしねーと」

K「何をブツブツ言っている」

桑田「いや、せんせーってジゴロの才能あるよなぁって」

K「…今度はグーで殴るぞ」

桑田「ちょっ、マジ勘弁だって!」


そうやって騒ぐ二人の姿を見て、霧切はフゥと息を吐く。


霧切「そうね、ドクターがいるんですもの。無用な心配だったかもしれないわね」


そう言って踵を返した霧切をKAZUYAは呼び止めた。


K「待ってくれ、霧切。頼みたいことがあるんだが」

霧切「…何かしら?」

K「特別なことはしなくていい。ただ…こいつのことを少し見てやってくれないか?」

霧切「…………」

桑田「え? なになに? なんだよ」

K「動機に加え、先程の騒ぎのせいで今生徒達の精神は不安定になっている。
  つまり、残念だがしばらくは事件が発生しやすいということだ」

K「事件が起こった時、犯人が追及から逃れるためには舞園がやったように
  身代わりを用意するのが一番手っ取り早いだろう。そして…」

霧切「…ドクターは舞園さんや桑田君がその身代わり役に選ばれると思っているのね?」

K「ああ。前科があるし、何より先程周囲と揉めている。犯人役にはピッタリだろう。
  …あまり生徒を疑うような真似はしたくないのだがな」

霧切「楽観的に考えて何も対策を取らないよりは私は現実的でいいと思います」

桑田「え、ちょっとマジかよ…今の俺って疑われたら一発アウトじゃん」


K「そうだ。だから俺は霧切に頼んだのだ。お前もしばらくは辛いだろうが、
  出来るだけ一人にならないようなるべく人のいる所に顔を出せ」

桑田「…アリバイ作りってワケか」

K「なんなら夜は苗木の部屋に泊まりに行ってもいいかもしれんな」

桑田「いやー、女の子なら大歓迎だけど男の部屋はちょっとイヤ~みたいな?」

K「お前という奴は…」


危機感があるのかないのかわからない態度にKAZUYAは溜息を吐く。


K「とにかく、この暴れ馬を御せるのは常に冷静な霧切くらいだろう。俺がずっと
  見てやれれば一番良いのだが、今は他の生徒達が心配だ。頼まれてはくれんか?」

霧切「通常ならまずお断りしたい依頼だけれど、ドクターには借りがあるから…
    いいわ。お引き受けしましょう。どんな暴れ馬でも私が乗りこなしてみせるわ」

桑田「俺、馬扱いかよ…」


K「丁度いいだろう」

霧切「あら、馬が嫌なら鹿でもいいわよ?」フフ

桑田「おいそりゃ、遠回しに“馬鹿”って言ってねえか?!」

K「プ、ククク。…なかなか上手いことを言うな、霧切」


珍しくKAZUYAが笑いをこらえ、霧切も自信満々に含み笑いをする。


桑田「もうやだ、この鉄面皮コンビ…」


桑田が嘆いていると、本日二度目の来客が現れた。

コンコン……ガチャ

控え目なノックを鳴らし、少し間を空けてから恐る恐る中を覗いたのは…


桑田「あっれー、不二咲じゃん?」


おどおどと入り口から中の様子を確認しているのは不二咲だった。桑田を見つけ
一瞬怯えた顔をするが、既に桑田がいつもの様子を取り戻していることを確認し中へ入る。


不二咲「あれ、霧切さん…?」

霧切「……」

K「ああ、霧切は桑田の様子を心配して見に来てくれたのだ」

桑田「もしかして、不二咲も?! やっべー、俺ってチョーモテモテじゃん!」

K「調子に乗るな、馬鹿者」

不二咲「あ、その、桑田君のことも確かに心配だったけど…あ、あの…西城先生」

K「どうした?」

不二咲「あの、その…」チラ

霧切「…行きましょう、桑田君」

桑田「え、なんで?」


霧切「見てわからないのかしら? 不二咲さんはドクターに何か相談があるのよ」

桑田「そーなのか?」

不二咲「う、うん…ごめんねぇ、二人とも…」

桑田「そっか。じゃ、また後でなー」


そう言って桑田と霧切は保健室を出て行く。


K「相談か。…先程の動機についてだな?」

不二咲「は、はい…」

K「…俺でいいのか?」

不二咲「はい。え? な、何でですか?」

K「相談する、ということは俺を信頼して自分の秘密を明かすということだろう?
  …先程の騒動でわかったと思うが、俺は君達が思っている程頼りにはならん。
  相談されても内容によっては手も足も出せないかもしれん。それでも構わないか?」

不二咲「頼りにならないなんて…そんなことないです!」


K「不二咲…?」


いつもおどおどして遠慮がちな不二咲が、珍しく熱っぽく語り出した。


不二咲「だって、だって先生は今だって桑田君を救ったのに…!さっきはあんなに絶望して
     凶暴になってた桑田君が、今はすっかり元通りになってた…それは先生の
     おかげでしょう? 舞園さんだってさっきまでは確かに楽しそうにしてたし…」

不二咲「みんなが喧嘩しちゃったのは仕方ないよぉ。だって、急に色んなことを
     言われて凄く怖かったし…それは、先生のせいなんかじゃないです」

不二咲「西城先生は、最初から最後まで僕達を落ち着かせようと頑張っていました。
     今は混乱してるけど…冷静になったらきっとみんなもわかってくれます…!」

K「不二咲…不二咲は俺達を内通者だとは思わないんだな?」

不二咲「ありえないです! だって、だって先生は……僕の憧れの人だし」

K「…不二咲?」

不二咲「あ、言っちゃった…」


不二咲は恥ずかしげに赤面した。あれだけモノクマが場を掻き乱したにも関わらず、
未だに自分達を信じてくれる者がいる。KAZUYAは、やっと肩の荷が降りたように感じた。


K(残念ながら俺には苗木のような高いコミュニケーション能力はない。
  気を回しているつもりだが、自分が思っている程は気も利かないかもしれん)

K(…だが、急がなくても良いのだ。一人ずつ確実に信頼関係を築くこと。
  何があっても揺るがない絆を作ること。それこそが今は最も大事なのだ)


今はまだ心の遠い生徒達がいる。けれど、時間があればいつかきっと信頼関係を結べるはずだ。
事件を起こさないことにのみ今は注力すべき。そう腹を括りKAZUYAは不二咲に向き直る。


K「それで、相談とは何だ? 俺で良ければ、可能な限り協力しよう」

不二咲「あのね、その、凄く…言いづらいんですけど…」

K「無理をしなくてもいいぞ。覚悟が出来たら言えばいい」

不二咲「ううん。西城先生には言うって決めてるから…その…」





不二咲「僕……本当は男の子なんだぁ」



















K「……………………えっ」


KAZUYAが十数年振りに素を出した瞬間だった。


ここまで。


>>191-193
ありがとうございます。そのレス一つで1のやる気は無限大。頑張ります!


本当は昨日投下に来る予定が寝落ちしてました。すみません

投下


K「すまん。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」

不二咲「僕…女の子の格好をしてるけど、本当は男なんです」

K「…………」


いやいやいやいや、小学生ならまだわかるがこれで男子高校生だと? そんな馬鹿な。

流石のKAZUYAも呻く。不二咲はそんな笑えない冗談を言う子ではない。
しかも、今は事態が事態なのだ。真剣な相談なのだろう。だからこそ困る。


K「嘘を言っているとは思わんが、念のため確認させてくれないか?」

不二咲「ふぇっ?! …あ、うん。そうだよね。いきなりこんなこと言われても
     信じられないもんね。先生はお医者さんなんだし、先生になら見せても…」

K「いや、違う! 脱げと言っているのではない!」


いきなりスカートを捲ろうとした不二咲を、KAZUYAは冷や汗を流しながら制止する。


K「…例えば、電子生徒手帳で性別がわかるはずだ」

不二咲「あ、そうだった。はやとちりしちゃって僕って恥ずかしい…」


赤面してモジモジとする不二咲の姿はどこをどう見ても可憐な少女にしか見えない。
受け取った電子生徒手帳を見ながらKAZUYAの胸中は複雑だった。


K「それで、何故隠していたんだ?」

不二咲「実は……」


不二咲の話を聞いてKAZUYAは何とも言えない気持ちになった。
性別を隠すのはどうかと思うが、そこに至るまでの苦悩を考えると一概に悪くは言えない。


K「辛かったな…」

不二咲「ううん、僕はただ嫌なことから逃げてただけだから…」

K「何故、俺に打ち明けようと思った?」

不二咲「西城先生は僕の憧れなんです。強くて、男らしくて、頼りになって、優しくて…」

K「そうか」

不二咲「いつも冷静で落ち着いてて、頭も良くて、何でも知ってて、手術も出来るし…!」

K「う、うむ」

不二咲「背が大っきくて、筋肉も凄くて、普段はクールだけど温かくて、それから…!」

K「い、いやもういいぞ。ありがとう」

K(こう面と向かって誉められると、何と言えばいいか…むず痒いものだな)


眼前の少年はキラキラと目を輝かせながら自分を仰ぎ見ている。
誉められて悪い気はしないが、ここまで来ると少し居心地が悪かった。


K(そういえば、あの事件の後よく不二咲が話し掛けてきたが、そういうことだったのか…)

K「それで、不二咲…明日になればお前の秘密も暴露される訳だが、お前はどうしたいんだ?」

不二咲「…モノクマに暴露される前に、自分から言いたいんです。もうみんなを騙したくないから…」

K「既に覚悟は決めてあるのか。なら俺の出る幕などないんじゃないか?」

不二咲「その…先生にお願いしたいことがあって…」

K「根回しか?」

不二咲「ううん、その…僕、体を鍛えたいんです」

K「ウム、良いことだな。俺で良ければ付き合おう」

不二咲「(パァッ)本当ですか? じゃあ、早速今日から…」

K「今日? 明日みんなに告白してから、堂々とやればいいだろう?」

不二咲「その…僕、どうしても自分に自信が持てないんです。それで、体を鍛えれば勇気が
     出るんじゃないかなって…だから、どうしても今日じゃなきゃダメなんです!」

K「今日、か…」


正直な所、KAZUYAは少し困った。今日は最も生徒達の動きに注意を払わなければいけない日なのだ。
不二咲の悩みも勿論重要であるが、見た所人を殺すようには到底見えないし他の生徒の様子が気になる。
しかし、自分を信頼して相談にきた不二咲を無下にするのは余りにも失礼だろう。


不二咲「あ、ごめんなさい…急にこんなこと言われても困りますよね…先生も忙しいし」

K「いや、そんなことは…」


そもそもたった一回鍛えただけで自信がつくのなら、今のままでも問題ないのではと
冷静なKAZUYAは思ってしまうが、そこは目を伏せておくことにする。


K(まあ、思い込みによるプラセボ効果も馬鹿には出来んしな…)

不二咲「しかも、深夜に僕なんかのトレーニングに付き合わされるなんて…」

K「ん、深夜?」

不二咲「はい。その…鍛えるまではみんなに言う勇気もないから、誰にも見つからないように
     夜中に付き合ってもらおうと思ったんですけど…やっぱり、やめます」

K「…いや! 逆だ。俺は深夜なら空いているんだ」


不二咲「本当ですか?! じゃあ、お願いします!」

K「ああ、任せろ!」


この時KAZUYAの頭には妙案が浮かんでいた。



― 食堂 PM16:02 ―


石丸が去った後、朝日奈と大神の二人も長居はせずに部屋に移動して話し込んでいた。
つまり今の食堂は再び無人となっていたのだが、そこを訪れる一つの人影があった。


大和田「クソがッ!」


ドガッと不機嫌に机を蹴り飛ばしたのは大和田紋土である。
彼はこの学園に来てかつてないほどに苛々していた。


大和田(なんなんだよ…なんなんだよ、おい…?!)

大和田(裏切り者がいるだと?! ふざけんなよ! 一体誰が裏切り者なんだ?!)



『せいぜいお友達だと思っている人から背中をザクッ!なんてことがないようにね~!』


モノクマの嫌な声が蘇る。


大和田(兄弟は違う! 絶対に違うッ!! あんな感情垂れ流しでバカ正直なヤツが、陰で俺達を
     裏切るなんてありえねぇ! 大体ヤツは風紀委員だぞ?! 内通者とは真逆じゃねぇか!)


つい先程の光景を思い出す。今まで仲が良かった分、その関係が壊れた時の心の影響は甚大であった。
それは大和田も例外ではない。ただ、時間が経っていたため多少は冷静さも取り戻していた。


大和田(落ち着け。落ち着くんだ、俺。冷静に考えろ…とりあえず、さっきは桑田の野郎に
     メチャクチャ腹が立ったが、アイツは多分内通者じゃねぇな…)

大和田(モノクマが内通者の話を出した時、西城のヤツは妙に反応が悪かった。恐らく、
     何かしら心当たりがあんだろう。…てことはアイツが庇ってる桑田は違うはずだ)


内通者でないと考えると、先程の桑田の荒れっぷりも理解出来る。KAZUYAに説得されて嫌々舞園と
仲良くさせられていたのに、その必死の努力を内通者扱いで台無しにされたら頭に血が上って当然だ。
その上色々と恩のあるKAZUYAまで悪く言われたら堪忍袋の尾が切れても仕方ない。


大和田(兄弟を内通者呼ばわりされた時の俺も多分似たようなモンだったろうしな…
     そうなると、誰が怪しい? やっぱ舞園か? 正直ウサン臭えんだよな、あの女)

大和田(…ただ、やたら騒いでた葉隠達三人も怪しい。先公や桑田を内通者に仕立てようと
     しやがった風にも見えた。…それにいつもならまっさきに場を荒らすくせに
     珍しくダンマリ決め込んでた十神とセレス! そうだ、アイツらが残ってたな!)

大和田(ってーと、なんだ? 確実にシロって言えそうなのは俺と兄弟と先公と桑田。
     そんだけか? …ああ、不二咲は違うな。アイツに裏切りとか出来る訳がねぇ)


もう一週間近く経つが、あの事件の後大和田は怯えて泣く不二咲を慰めたことがあったのだ。


大和田『お、おい。お前、大丈夫か?』

不二咲『ひぐっへぐっ…どうして、こんなことになっちゃったんだろう…怖い、怖いよ。
     舞園さんも桑田君もかわいそう…本当なら、みんな仲良くなれたはずなのに…』

大和田『…お前、舞園のためにも泣いてるのか?』

不二咲『うん…だって、舞園さんは元々親切な人だったんだよ? あんなことさえなければ、
     コロシアイだなんて酷いことはきっとしなかったはずなのに…』


大和田『元気出せよ…先公のヤツもあんだけ言ってたし、もうコロシアイは起きねえだろ』

不二咲『本当?』

大和田『ああ、間違いねぇさ』

不二咲『良かった…! 大和田君がそう言うんならきっと大丈夫だね!』ニコッ!

大和田『…………』テレッ


あの時の涙や怯え方が作り物であったようには到底思えない。


大和田(苗木、朝日奈、江ノ島は単純そうだし違うと思いてえが、すごい親しいって
     ワケじゃねえからわかんねえ…大神と霧切にいたっては怪しいかすらわからん)


そうやって考えていくと、今いるメンバーのうち実に三分の二以上は
信用出来ないという事実に気付き大和田は愕然としたのだった。


大和田(おいおい、マジかよ…ほとんど信用出来ねーじゃねぇか…)


更にマズイことに、大和田はズボンのポケットへ乱暴に突っ込んだあの封筒の存在を思い出した。


大和田(…それにどうする? 俺しか知らないことを、なんでアイツは知ってやがるんだ…)


彼の秘密――それはもし公表されれば兄と自身のチーム・暮威慈畏大亜紋土が崩壊する秘密である。


大和田(殺す? 秘密を守るために誰かを殺すのか? 俺が? …いや、俺はもう兄貴を
     殺してんだ…そういう意味じゃ人殺しみたいなもんだろ。でも、そんなことをして
     兄貴は本当に喜ぶのか? 確かに男の約束も暮威慈畏大亜紋土も大事だが…)


脳裏にはモノクマになじられ周囲から白い目で見られて絶望する舞園と桑田の姿が浮かんでいた。
ああはなりたくなかった。それに…ここに来て大和田はやっと悪魔のルールを思い出す。


大和田(そうだ……すっかり忘れてたぜ。学級裁判……)


学級裁判――要はサスペンスドラマでやっているような捜査と推理を自分達にやらせるシステムだ。
所詮捜査をするのはド素人の集団だし、科学捜査もないからそこまで悪い条件ではないのかもしれない。
だが、自分にKAZUYAや十神と言った頭脳派の人間達を出し抜ける頭があるとは到底思えなかった。



大和田(…………いや、なに事件を起こすこと前提で考えてんだよ、俺は…?!
     学級裁判が起こったら俺か俺以外の全員は死んじまうんだぞっ?!)

大和田(暮威慈畏大亜紋土は確かに大切だ。俺の命と言っていい! …大事な大事な
     兄貴の形見でもある。でも、そのために兄弟や不二咲を殺せねぇだろ!!)


そうだ。考えるまでもなく結論は出ている。自分に人殺しなんて出来ない。
だが一瞬でも卒業のことを考えてしまった自分に、大和田は激しく嫌悪感を抱いた。


大和田「あー、このヤロウッ!」


ガシャン!

今度は近くの椅子を強めに蹴り飛ばした。


「ぎゃっ!」

大和田「あん?」


振り向くと、食堂の入口にはいつのまにか腐川冬子が立っていた。


腐川「な、な、な…!」

大和田「あ、わり…」

腐川「この乱暴者っ!」


驚かせるつもりはなかったので大和田は素直に謝ろうとしたが、それよりも早く腐川が叫んだ。


大和田「(ムカッ)別にお前に対してやったワケじゃねぇよ!」

腐川「同じでしょ!」


冷静な思考回路があれば腐川の行動は明らかに浅はかだとわかる。動機を配られ、ただでさえ精神が
不安定になっていた所に内通者疑惑による仲違いである。些細な喧嘩から一触即発になる状況の中、
よりによって最も短気で暴力的な男に喧嘩を売ったのだ。その上周囲には止めてくれる人もいない。


腐川「これだからイヤなのよ、頭の悪い不良は…!」

大和田「んだとゴラ!」


ただ、彼女がこれだけ攻撃的になるのも致し方ない事情があった。
何故なら生徒達の中で、最も公表されたら不味い秘密を持っているのがこの腐川なのだから。
もし公表されれば、文字通り身の破滅。そんな状況で冷静でいられるはずもない。


腐川「事実じゃない! 気に入らないことがあるとすぐ暴力振るってさ!」

腐川(暴れたいのはこっちの方よ! 明日までに誰か殺さないとアタシの人生は終わっちゃうんだから…)


誰かを殺さないと…腐川は既に殺人を考え始めていた。だが、学級裁判のことがある。
見つかってしまえばその瞬間に終わりだ。しかも、自分が殺せそうな相手は限られている。
例えば今目の前にいる大和田のような人間は、殺せないばかりか返り討ちに遭うだろう。


大和田「暴れたい時だってあんだろ! さっきみたいなモン見せられたらよ!」

腐川「ふん! 暴れてすっきりするなんて脳みそが単純だからでしょ?」

大和田「テメエ、言わせておけば…いくら俺が女には暴力振るわねえって決めてるからってな、
     あんま調子のってんじゃねえぞ、オラァッ!!」

腐川「なによっ!!」

大和田「…………」

腐川「…………」


目に殺意すら込めて、二人は激しく睨み合う。…だが、意外にも最初に引いたのは腐川だった。
追い詰められた恐怖と混乱で冷静さを欠いていたが、命の危機に関して本能が働いたのだ。
相手が大柄な男であること、今この場に自分達しかいないことにやっと気が付いたのである。


腐川「ヒィッ! ア、アタシを殺すのね?! 人殺し…こ、殺さないで…!」

大和田「殺さねぇよ! 落ち着け、根暗女!」

腐川「ほ、本当でしょうね…い、いやアタシは信じないわ…あんたが内通者かもしれないし…」

大和田「……チッ」


苛々もあって思わずカッとなりかけた大和田だが、腐川の怯えた顔を見て正気に戻る。
腐川の被害妄想は大和田もよく知っていたので、余計な言い合いは避けるために話を変えた。


大和田「…で、なにしにきたんだよオメェ? 十神のケツ追っかけてんじゃねぇのか?」

腐川「ケツを追いかけるなんて…い、いやらしい…確かに白夜様のなら興味はあるけど」

大和田「オメェなぁ…」

腐川「フ、フフン。そう、今日のアタシは白夜様のお使いで来たのよ。紅茶を入れにね。
    びゃ、白夜様がアタシに命令をしてくださったのよ…!」

大和田「…あーそうかい。じゃあさっさとやれや」


しかしここで、折角の大和田の気遣いを腐川は無駄にしてしまった。


腐川「あ、あんたこそこんな所で何暴れてたのよ…? やっぱりアタシを待ち伏せしてたんじゃ…」

大和田「ちげぇっつってんだろ! いい加減にしろよオイ!」

腐川「…わからないわよ? 仮に内通者じゃなかったとしても…あ、あの動機…あんな
    危険な物を配られたら、誰だって正気じゃいられないわよ…! あんたも…!」

大和田「動機…」

大和田(なんで俺の動機がヤバいヤツだって知ってんだよ、コイツ…?!)


これ自体は特に深い意味のある発言ではなかった。大和田はKAZUYA達が秘密を見せ合っているのを
ぼんやり覚えていたが、腐川は周囲を見渡す興味と余裕がなかったので気付かなかった。
だから自分以外も相当危険な秘密なのだろうと勝手に思い込んでいただけである。


大和田(ま、まさか見たのか…?! 俺の秘密を?!)


見られた。誰にも知られてはいけない秘密。暮威慈畏大亜紋土が、自分の全てがバラバラになる爆弾を。


大和田(…殺るしかねえ)


頭の中が、真っ白になった。


ここまで

読んでくれてる人達いつもありがとー


再開


― 舞園の部屋 PM3:51 ―


一方こちらでは、未だに膠着状態が続いていた。
流石に二人とも疲れたのか不毛な言い争いはしていなかったが、苗木はなんとか
舞園の心を解きほぐそうと優しく説得を続け、舞園はそれを拒むという図が続いていた。


苗木「ねぇ、舞園さん。きっとなんとかなるよ」

舞園「…………」

苗木「みんなだって許してくれるし、ここからだってちゃんと出れる」

舞園「…………」

苗木(心が折れそう…なんて言ったらダメだ。本当に辛いのは舞園さんなんだから。
    大丈夫、絶対なんとかなる! 大切なのは諦めないことだ)


前向きさが苗木の最大の長所だったが、今回に限ってはそれはプラスではなかった。
再び何か言おうとした時、ノックが鳴り扉が開く。


苗木「あ、先生」

K「調子はどうだ? 少しは落ち着いたか?」

苗木「その、落ち着いてはいるんですけど…」

舞園「…………」

K「…成程」


二人の間に流れる微妙な空気をKAZUYAは感じ取った。


舞園「あの、苗木君…」

苗木「な、なに? 舞園さん!」

舞園「その……西城先生と二人で話したいことがあるので、苗木君は……」

苗木「あ、うん。そういうことね。わかった。じゃあ、先生よろしくお願いします」

K「ウム、任せろ。お前も、少し休んだ方がいいぞ」


苗木が退室し、KAZUYAは舞園と向き合う。だが、話があると言ったにも関わらず舞園は黙ったままだった。



K「話とは何だ?」

舞園「あの、すみません…その…」

K「本当は話などなくて、ただ苗木と離れたかっただけではないのか?」

舞園「…………」


肯定も否定もせず、舞園はKAZUYAに背を向け俯いた。


舞園「……先生」

K「ああ」

舞園「…私、昔から結婚するなら優しい人がいいって思っていました」

K「…………」

舞園「子供だったんですね。ただ自分に優しくしてくれればいいって思ってたんです」


KAZUYAは何も言わない。ただ舞園の華奢な背をジッと見つめて次の言葉を待った。



舞園「…優しさが、時にこんなにも辛いものになるなんて知らなかった。いえ、優しさが
    悪いんじゃない。優しさを素直に受けられなくなった、汚れた私が悪いんです」

舞園「何度も、何度も思います。もしあの時に戻れたら、やり直すことが出来たなら…
    あの時の自分を殺してでも止めるのにって…」

K「だがそれは無理な話だ。過ぎ去った過去を変えることなど誰にも出来んのだからな」

舞園「はい。その通りです…」


ポロポロと、舞園の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。


舞園「ごめんなさい…泣いたら迷惑になるってわかっているのに…」


今まで苗木の前でずっと我慢していたのだ。とうとう我慢の限界を迎えてしまった。
泣いてはいけないと自分を叱咤するが、一度破れてしまった堰はもう元には戻らない。

…本当なら、誰でもいいから縋り付いて大声で泣きたかった。それが苗木なら尚良かった。
苗木なら間違いなく自分を受け入れてくれるだろう。彼は誰よりも優しいから。
だが、それでは駄目なのだ。一度やってしまえば自分は彼の優しさに甘えてしまう。


舞園「う……うう……!!」


かと言ってKAZUYAに縋ることも出来なかった。KAZUYAは大人だし、あくまで教員として
未熟で幼い自分を受け入れてくれるだろう。だが、それでは苗木の代わりにしているだけだ。
苗木にもKAZUYAにも余りに失礼だろう。そう考えた結果、舞園は一人壁に縋り付き
声を押し殺して泣いていた。その姿はただひたすらに哀れだった。


K「……舞園」


KAZUYAは舞園が自分に遠慮しているのだと理解し、いたたまれない気持ちになる。KAZUYAにとって
高校生などまだまだ子供だ。子供が無理をしている姿を黙って見ていることなど出来なかった。


K「その…俺ではきっと苗木の代わりにはならんだろう。だが、流石に壁よりはマシなはずだ。
  泣きたい時は思い切り泣け。誰かに縋り付きたいなら遠慮せず来い。俺は受け止めてやる」

舞園「西城、先生……う、うわああああああああああああんっ!」


そして舞園はKAZUYAの胸に縋り付き、泣いた。力の限り泣いた。
KAZUYAは子供をあやすように優しく舞園の背中を叩き、もう何も言わなかった。



K(この生活は、子供達には負担が大きすぎる…今のままの状態が続けばやがて…)


――崩壊。

それは既に始まっているのかもしれなかった。手遅れなのかもしれない。
だが、この男はそれで諦めるような男ではなかった。


K(俺は絶対に諦めん! 生徒達全員を必ず救ってみせる! 絶対にだ!!)


泣き疲れて眠った舞園をベッドに寝かし、KAZUYAは部屋を後にする。鍵はKAZUYAが
外から掛けることにした。どのみち今の状況で他の生徒との接触は悪影響しかないだろう。


苗木「先生」

K「苗木、ここで待っていたのか」

苗木「はい、どうしても気になって。あの、舞園さんは…」

K「大丈夫だ。少し泣いていたが、今は落ち着いて休んでいる」

苗木「…………」


完全防音だから中での出来事は一切わからないはずだ。しかし、苗木は何かを察したようだった。


苗木「僕は…舞園さんの力になれないのかな…」

K「何故そう思う」

苗木「だって、舞園さん僕の前では絶対泣かなかったんだ。あんな酷いこと言われて
    辛かったはずなのに、泣きたかったはずなのに…僕の前ではずっと我慢してた」

苗木「それって、僕のことが信頼出来ないからじゃ…」

K「それは違うぞ」


落ち込む苗木をKAZUYAは優しく、それでいて確固たる強さを持って論破する。


K「舞園はお前を信頼していないのではなく、単に甘えたくなかった。負担をかけたくなかったのだ」

苗木「負担だなんて! 僕は舞園さんをそんな風に思ったことはありません!」

K「わかっているさ。だが、一度お前の優しさに甘えてしまえばこれから先もずっと
  甘えてしまう。舞園はそれを嫌がったのだ。彼女の性格を考えればわかるだろう?」

苗木「…!」


苗木は唇を噛む。そうだ。KAZUYAより自分の方が彼女のことをよく知っているはずなのに
頭に血が上って何も見えなくなっていた。


K「それに…厳しいことを言うが、お前が彼女に掛かり切りになればお前と他の
  生徒達の間に距離が出来る。そうなれば彼女の存在がお前を縛るのと同義だ」

苗木「そんな…」

K「あえて何もせずに遠くから見守る。それが優しさの時もあるぞ、苗木」

苗木「…………」


KAZUYAに諭され、苗木は力なく自嘲して笑う。


苗木「ハハ、僕ってやっぱりダメだな。いつも先生に教えられてばっかりで。舞園さんの
    ためにどうすればいいのか、舞園さんの立場で考えればすぐにわかるはずなのに…」

K「駄目ではない。今はたまたま状況が悪かっただけだ。俺とお前では生きてきた長さが違うのだから、
  卑下することはないさ。それに…舞園にとってお前の存在は本当に助かっていると思うぞ」

苗木「そうかな…」

K「ああ、彼女が一番信頼しているのは間違いなくお前だ。お前に許してもらえたからこそ、
  この状況でも何とか舞園の精神は保っている。…俺一人では駄目だった」

K「優しいお前が彼女をすぐ側で支え、俺は少し離れた所から客観的な意見を言う…それが
  一番バランスが良いのだ。俺の代わりは別の人間でも務まるが、お前の代わりはいない」


苗木「ありがとう、先生…舞園さんを助けるつもりが、僕が助けられちゃったな」

K「では、今度はお前が俺を助けてくれ」

苗木「そんな、僕なんかが先生を助けるなんて…」

K「いや、お前の力が早急に必要だ。…大事な話がある」

苗木「…え? あ……もしかして、何かあったんですか?」


KAZUYAはいつものように自分を励まそうとしているだけ。そう思っていた苗木だったが、
その真剣な…やや焦りすら浮かべている顔を見て、苗木は肝が冷えるのを感じた。


K「…ここで話すのは憚りがある」

苗木「じゃ、じゃあ僕の部屋で話しましょう」


二人は苗木の部屋に入る。KAZUYAに椅子を勧め、苗木はベッドに腰を下ろした。


苗木「また改めて招待するって言ったのに、まさかこんな機会で来るなんて…」

K「今はそんなことを言っている場合ではない。いいか? 俺の話を落ち着いて聞いて欲しい…」


・・・


苗木「…そんな! そんなことがあったなんて!」


KAZUYAは苗木へ、舞園を連れて体育館を去った後に何が起こったかを事細かに話していた。


K「信じがたいのもよくわかるが、全てつい今しがたあった出来事だ」

苗木「…信じられない。だって、ほんの少し前まで僕達はあんなに団結してたのに…舞園さんに
    怒りが向かうのはまだわかるけど、全員がお互いを疑い合ってるだなんて、そんな…」


KAZUYAの表情から苗木は最悪の結果を想定して臨んでいたが、実際に聞いた話はその予想より
更に酷いものだった。何より桑田が舞園を庇ったこと、逆にKAZUYAを襲おうとしたことを
モノクマに暴露されて仲間達から内通者呼ばわりされたことは、苗木にとって衝撃的過ぎた。


K「今、俺達を取り巻く状況は極めて悪い。昨日までなら殺人など到底起こり得ない
  空気だったが、ヤツめ…たった数十分のやり取りで見事にブチ壊してくれた」

苗木「僕は、何をすればいいんですか?」


先程の自信のなさは既に消え去り、苗木の目には力が戻っていた。
この何があっても諦めない前向きさこそが最大の武器だな、とKAZUYAは思う。


K「もう少しみんなが落ち着いたら、中立の立場に立ってとり成してくれないか?」

苗木「…出来ますか?」


不安げな様子ではなく、苗木は冷静に思案して可否を問う。


苗木「僕もどちらかと言えば先生や舞園さんに近い立場ですし、内通者扱いされるだけじゃ…」

K「その可能性はある。ただ、唯一の救いはあの最大の混乱の中にお前はいなかったことだ。
  直接争った人間よりは印象も悪くないはず。時間が経てば多少は冷静さも戻るだろう」

K「桑田は内通者扱いされた俺を庇おうとして他の生徒達と対立してしまった。お前は極端に
  どちらかに加担することなく、あくまで中立を貫いてくれ。たとえ俺が疑われたり
  悪く言われても気にするな。これはお前にしか出来ない仕事だ」


苗木はここにいる生徒達の中でもずば抜けてコミュニケーション能力が高い。
あの疑心暗鬼の嵐が荒れ狂っている中、上手く立ち回れるのは苗木だけだとKAZUYAは踏んでいた。


K(…本当は舞園にも頼めれば良かったのだがな)


舞園も苗木に匹敵するほど対人交渉能力が高く、その上非常に勘が良い。苗木と二人で
上手く立ち回れれば、生徒達の関係修復もそう難しくはなかったかもしれないが、
如何せん彼女は渦中の人間なのだ。今は苗木を頼りにする他あるまい。


苗木「それにしても…」

K「内通者か?」

苗木「はい…本当に、いるんでしょうか…? 全部モノクマの嘘なんじゃ…」

K「嘘だったら良かったのだが…」

苗木「先生はもしかして知っているんですか?!」

K「確証はないがな。ただ、今までの傾向から考えてモノクマはこういった
  重要な話で嘘をついたことはない。つまり、事実だと捉えていいだろう」


これは嘘だ。KAZUYAは内通者について確かな確信を持っていた。


K(黒幕が馬鹿でないなら、俺が江ノ島について勘付いているのはわかっているだろう。
  だからあっさり切り捨てたのだ。俺が黙っていたからか先程は見逃してもらえたが、
  この上生徒にまでその正体が露見すれば、情報の漏洩を恐れてどう動くかわからん)

K(…裏切り者とはいえ同じ釜の飯を食った仲だ。出来れば無為に死なせたくはない。
  苗木達には悪いが、しばらく江ノ島の正体については伏せさせてもらう)

K「…ただ、誰が内通者かはまだわからんが絶対に内通者でないと断言出来る者はいる」


苗木「誰ですか?! えっと、まず僕と舞園さんと…あと桑田君?」

K「霧切、石丸、大和田、不二咲もだな。俺も入れたら約半数はいる」

苗木「良かった。半分は信用出来るんだ…」


ホッと息をつく苗木にKAZUYAは注意を促す鋭い視線を送る。


K「…ただ気をつけた方がいいのは、油断は禁物だがあまり警戒の色を見せないことだ。
  もし疑っていた相手が内通者でなかった場合、気分を害しそれが争いの元にもなる」

苗木「今はちょっとした喧嘩が大事になってしまうから、細心の注意が必要なんですね…」

K「そうだ。色々と難しい注文をしてすまない。だが、今頼れるのはお前だけなのだ」


いつも遥か高みにいて自分達生徒を導いてくれるあのKAZUYAが、自分をここまで信頼して
頼ってくれている。これは苗木にとってとても勇気と自信が生まれることだった。
どんなに難しい頼みでも必ず成功させなければならない。苗木は胸を張って応えた。


苗木「わかりました! どこまで出来るかわからないけど、やってみます」

K「ウム。そう言ってくれると思っていた。とりあえず、桑田のことは霧切に頼んである」

苗木「霧切さんに?! …桑田君とはあまり相性が良さそうに見えないけど」

K「大丈夫だ。霧切は大人だし、桑田も先程の騒ぎで懲りていた。あとは霧切が
  上手く手綱を引いてくれるはずだ。お前も余力のある時でいいが見てやってくれ」

苗木「はい。他に気になる人とかいますか?」

K「気になるのは当然葉隠、山田、腐川の三人だが…今日はまだ無理だろうな。
  明日以降、彼等が落ち着いたように見えたら順次接触して欲しい」


その三人はいずれ自分の手で助けてやりたい。そう思うKAZUYAだが、疑心暗鬼が
晴れるまでは自分が手を出すのは逆効果だろう。今は苗木に任せることにする。

…何より、今はあの二人の動きについても警戒しておかなければならない。


K「あと――十神とルーデンベルク。この二人は最初の三人とは別の意味で注意してくれ」

苗木「十神君はわかるけど、セレスさんもですか? セレスさんは以前から
    ここでの生活に適応するよう主張してるし、無害なんじゃ…」


K「…いや、彼女は曲者だ。口を開けば適応適応と言う割に騒ぎが起これば基本傍観を貫き、
  むしろ被害を拡大させようと動いている節すらある。頭が回るようだから軽はずみに
  動くことはまずないだろうが、今は事態が事態だ。それこそ寝首をかかれないようにな」

苗木「(ゴクリ)そんな、セレスさんまで信じられないなんて…わかりました」

K「残りのメンバーは俺に対してそこまで敵対心はないから、特に問題はないだろう。
  とにかく今日から数日が正念場だ。何が何でも事件を防がねばならん!」

苗木「はい! 絶対に全員揃ってここから脱出しましょう!」

K「…だが無理だけはするんじゃないぞ。小柄なお前が狙われる可能性もある。
  とりあえず今日一日は無事に過ごすことだけを考えてくれ」

苗木「先生も、あんまり無理しないで下さいね。僕らが倒れた時は先生が
    治せるけど、先生が倒れちゃったら誰も治療出来ないんですから」

K「すまんな。お互い頑張ろう!」


KAZUYAは協力者である苗木に右手を差し出す。その大きくゴツゴツとした手を苗木は握り返した。


苗木「はいっ!!」


見上げるその目に迷いはない。
二人は事件防止に全力を尽くすことを誓った。


ここまで


苗木くんらしいポジションだよな
原作主人公なのに今までわりと出番少なかったし……

>>269
ああ、1が一番気にしているポイントを…主人公ポジはKに取られてるし、苗木君の影が
薄くなるんじゃないかという危惧は実は開始当初からしていて、なるべく出番が多くなるように
補正かけています。恐らく、本編オマケIFを全部足すと二番目くらいの出番はあるはず
ただ、横に誰かいるとそっちに注意が行ってあまり印象に残らないと言うか…

まあ、問題行動取らないし常識人だしKの信望はとても厚いと思います

ここの苗木は良い相棒ポジションだと思う
前には出ないけど随所でいい仕事してるし、若干人間関係で空回りしてる先生を上手く補佐できてる
というか生徒含めてコミュ障多すぎね…?

>>272
このメンバーの中ならKはかなりコミュニケーション能力高いと思いますよ。苗木が別格なだけで
そうでなければ説得とか説教とか上手くいかないと思いますし。ではなんで空回ってしまうのかと言いますと、
希望ヶ峰の生徒達の圧倒的な個性に押されているというか…もっと身も蓋もない言い方をすれば安価結果を
本編に忠実に反映させた結果ですね。二章までに全員と会話をしていれば疑心暗鬼イベントは回避できたので…
生徒にコミュ障が多いのは原作からry

時間的には大和田と腐川が鉢合わせになる少し前の話か…

しかし全員と会話しなければ疑心暗鬼ルート回避できないとか結構難しくないか?
原作のクロの大和田、犠牲者の不二咲と2人とそこそこコミュニケーション取れたら2章もクリアだとばかり…


昨日は眠かったのでつい寝てしまったことを謝罪申し上げ候
夜までにはなんとか書き上げるつもり


>>277
疑心暗鬼は回避できたらベストだけど、起こることは織り込み済みなのでそんなに
神経質にならなくてもおk。せいぜい人数によって難易度が変わるくらいに思ってもらえれば
腐川+一人(easy)、二人(normal)、三人(hard)みたいな

回避するには苗木との会話減らして他の生徒と会うとかそういうTAS的効率プレイをしないと
ほぼ不可能だし。1もそこまで鬼畜ではないので基本的に即ゲームオーバーとかはないです
…まあ、多少のハードな展開はあるかもしれませんが


少しだけ投下



               ◇     ◇     ◇



一方その頃、十神という絶対の存在がある腐川と違い頼る者のない葉隠と山田は部屋に閉じ篭っていた。


葉隠「絶対に殺されてたまるか…俺はだまされねぇ」

山田「ぼ、僕をだませると思わないでほしいですよね…!」


誰も信じられない、自分だけが正しい。自分と他の人間は違う。
お互いにそう思っているのに、二人の思考が非常に似通っているのは同じ人間だからか。
ただ、違う人間なので同じ結果に辿り着くまでの経過が多少、いやだいぶ違った。


  in 葉隠の部屋


葉隠「…占うか」


悩んだ結果、葉隠は自身の特技に頼ることにした。ベッドの上にドカッと座り座禅を組むと意識を集中させる。
内通者は…いやこの際内通者でなくてもいい。自分を殺す可能性のある者全員を占う。


葉隠「ムムッ! …やっぱりK先生と桑田っちか! それに霧切っちと江ノ島っち」


我が意を得たりとやたら頷く葉隠だが、ふと自分の占いは三割しか当たらないことを思い出しもう一度占う。


葉隠「ムムッ?! 全然違う結果が出たべ…今度は大和田っちに石丸っちに不二咲っちか。
    …いくらなんでも不二咲っちはないべ。ハァ」


やはり自分の占いはあまり当たらないことが証明され落ち込むが、葉隠はがむしゃらに占い続けた。


葉隠「ムムッ…今度は苗木っち、舞園っち、セレスっちと山田っちか…怪しいメンバーだべ」

葉隠「ムムッ。十神っち、腐川っち、朝日奈っち、オーガか。…うおおっ?! オーガはヤバいべ!」


占いの結果を部屋のメモにやたら綺麗な字で書いていく。


葉隠「……あり? もしかして、これで俺以外の全員が出たんじゃ…」


更に、メモの名前一覧を見て呻いた。


葉隠「つーか、一部変則だけど基本的に仲良しグループ出しただけだべ……」

葉隠「もう一回! さっきのは集中力が足りなかったんだ。次はもっと…」



そして出た結果は以下の通りである。


・二回目

【大和田・舞園・大神・山田・桑田】

【石丸・江ノ島・苗木・十神・朝日奈】

【KAZUYA・不二咲・霧切・腐川・セレス】


・三回目

【石丸・セレス・大和田・朝日奈・十神・桑田】

【舞園・不二咲・大和田・腐川・山田・江ノ島】

【苗木・石丸・KAZUYA・大神・不二咲・霧切】


葉隠「今度はものの見事にバラバラだなぁ。仲良しグループ避けるようにしたからか?
    パッと見た感じだと、石丸っちの名前が多いような…うーん、わからんべ」

葉隠「なんにしろ、これで一つわかったことがある!」


二つの占い結果を見て自信満々に葉隠は宣言した。


葉隠「要は俺以外の全員が怪しいってことだべ!」


その結論は占う前と何ら変わっていないと言う事実に気付かない葉隠であった。



  in 山田の部屋


一方、葉隠のような超常的な特技のない山田はと言うと、


山田「ハァ…ぶー子…ぶー子が僕を助けに来てくれたらなぁ」


持ち前の豊富過ぎる妄想もとい想像力で現実逃避をしていた。


ぶー子『ヒフミ! 助けに来たぞー!』

山田『ぶ、ぶー子?! いや、ぶー子がこんな所に現れるわけ…』


ぶー子『なに言ってんの? 私の世界にはAMD(山田が個人的に脳内で考えていた設定。
     次元管理局。Administration bureau of Multipul Dimensionの略)があるから
     ヒフミとこの世界のピンチを救いに来てやったんだぞ!』

山田『え、僕のピンチだけではなくこの世界のピンチをですか?』

ぶー子『そ、君にはつらい現実かもしれないけどさー。実はその学園はシェルターに
     なっていて、外の世界は荒廃しまくってるんだよねー』

山田『な、なんと?! パニック物の作品などではよくある超展開ですが…!』

ぶー子『私はヒフミと一緒にこの世界を再生させるために来たってワケ。一緒に戦う?』

山田『当然ですぞ! 生き残った者の使命です。それに、男としてブー子だけを
    危険な目に遭わせる訳には参りませんからな!』

ぶー子『キャー、ヒフミかっこいー!』

山田『共に頑張りましょう! この世界を再び再生させるために!』


脳内には大好きなアニメの感動的なEDテーマが流れ始めるが、そこでふと我に返る。
余りに現実離れしたことを考えすぎて、少し虚しくなってきた。


山田(…さすがにちょっとご都合展開すぎましたかね。もうちょっとリアルに考えますか)


創作にもリアリティを追求しろ、と昔誰かが言っていた気がする。何の役にも立たない
単なる妄想だが、今後の予想を立てておけばいざという時スムーズに動けるかもしれない。
中学生等がよく自分の学校にテロリストが来た時の妄想をするようなものである。


山田(最初に内通者に襲われるとしたら、やはりか弱い不二咲千尋殿でしょうかね)


不二咲が襲われる所を想像して山田は血の気が引いた。


山田(い、いやちーたんが殺されるなんてそんな…! そうですぞ。誰かが助けに入れば…)


不二咲『きゃああああっ!』

山田『危ないっ!』

不二咲『山田君、ありがとう! 山田君のおかげで助かったよ!』ポッ


山田(…いや、こうなれば最高で言うことなしですが、現実問題僕は部屋に
    閉じこもってますしなぁ…誰か別の人に助けてもらいましょう)


いつのまにか、今後どうなるかの予想ではなく不二咲を助けることに目的が変わっていたが、
山田は一生懸命妄想を続ける。オタク故に、山田は一度何かにのめり込むと気が済むまで
それをし続けるという癖があった。特に妄想は得意中の得意なので、物語のように続きを考える。

生徒を助けるなら一番適任なのはKAZUYAだが、KAZUYAは内通者の可能性が高い。となると、


山田(やはり大神さくら殿が自然でしょうか)


しかし、ここで山田ははたと気が付く。不二咲は何故か女子とはあまりつるまないのだ。
せいぜい口数の少ない霧切くらいか。とにかく男子と一緒にいることが圧倒的に多い。


山田(まあ、ちーたんは大人しいし女子特有のノリには合わんのでしょう。本当は朝日奈葵殿が
    助けて百合展開キター!がやりたかったのですが。…今度自分で描きますかね)


不二咲が女子とつるまないのは彼が男だからだが、こればかりは気付かなくても山田のせいではない。


山田(ヒロインを助けるヒーロー…漫画ではお約束ですね。男子限定となると、よく不二咲殿が
    一緒にいるのは大和田紋土殿ですが…なんかムカつくので別の人にしましょう)


正直に言うと、山田は大和田のことが嫌いだった。元々オタクと不良という生き物は相性が悪い上に、
大和田は何度か山田の体格に言及している。あの可愛い不二咲が暴力的な大和田を好んでいるのも許せない。


山田(しかし、他に該当者というと…………ハァ、しかたない。石丸清多夏殿にしますか…)


他の男子で考えると、桑田は内通者、苗木は小柄なので返り討ちに遭いそう、そして十神と葉隠は
見捨てそうという結論になった。石丸も口うるさいし熱苦しいしで個人的にはかなり苦手なタイプだが、
ヤンキーよりはまだ風紀委員の方が助ける役に向いている気がするし、とりあえずこれで行こう。


内通者『死ねっ!』

不二咲『きゃああっ! 誰か助けて!』

石丸『不二咲君危ないっ! この! ……ぐああああっ! 負傷したぞっ!』


あ、ダメだ。


山田(何故だ…まるで勝てる気がしない…だと?!)


助け役が石丸だとスムーズに勝てるイメージがまるで湧かないのだった。


山田(…ただ、根性だけはムダにありますからねーあの人。
    相打ちくらいならなんとか持っていけそうな気もしなくは…)


石丸『な、なんとか倒したぞ…うぐっ』

不二咲『石丸君、しっかりしてー!』

K『任せろ! 俺が手術する!』


あれ?


山田(ちょっと! どこから出てきたんですか、西城カズヤ医師?! あなた内通者でしょう!)


石丸『う、うぐぐぐぐ…このままだと死んでしまう…!』

K『知らんな。俺は内通者だから手術なんてしないぞ』

不二咲『そ、そんなぁ?! 先生、助けてぇ!』


山田(…うーむ、なんかしっくり来ないですねぇ)


この状況でKAZUYAが手術しないとは山田にはどうしても思えなかった。


山田(ま、まさか西城医師は…)


その時ッ! 山田の脳内に電流走るッ!


山田(西城医師は敵も味方も構わず手術してしまう極度の手術マニアなのではッ?!)


ある意味では、当たらずとも遠からずと言える。


山田(まあ、いいですよ。誰が内通者であろうとなかろうと、常に警戒すればいいのですから…)


色々脳内で思案してみたが、結局山田も全員疑わしいという結論から離れられることはなかった。


ここまで。

今回はめっちゃ謎と伏線溢れる回にしようと思ったのに何の成果も得られませんでしたぁぁ
1が無能なばかりにただいたずらに時間をかけ投下を遅らせ、ろくな仕掛けも出来ませんでしたぁぁ


あ、次回Chapter2最後の安価の予定です
ゲームでは自由行動は日常編だけですが、このSSでは動機前に3回、動機配布後に1回の
自由行動を取っていく予定です。今後が決まるかなり重要な安価なので、相談などはお早めに

ヒントが欲しい時はヒント下さい!というとあの人が来てくれます

葉隠の占いより山田の妄想の方が的確な感じがするのは何故ww
おかしいな、ただの妄想なはずなのに…

安価の内容次第かねえ
ポイントは石丸だろうからそこを中心に大和田、不二咲を抑え桑田、舞園から目をはなさない
で石丸の件を話した葉隠や今後に関わりそうな戦刃をフォロー
腐川は接点が少ないから大和田との絡みのあとどうするか
山田は爆弾になりそうなら接触してみるくらいか?
セレス、十神、大神はしばらく動きそうにないから余裕があったらかねえ

>>1もいってるがあんまガチガチに考えても仕方ない安価スレだから気楽にいこうさ
ただ安価スレとしちゃネタのようなクロスでも中身はガチなのでパーフェクト取りに行きたくなる気持ちはわかる


― ドクターTETSUのヒントコーナーⅡ ―


TETSU「久しぶりにこの俺の出番か! クックックッ、仕方あるまい。ヒントをやろう。
    ちなみに誰だコイツとか言ってる奴には踵落としだ。前スレを読み直せ」※前スレ>>152参照

TETSU「まず、このSSでの安価のルールを先に説明しておく。章ごとに誰と話すかという
    観点から話してる奴が多いが『Kが生徒と会話した回数はこのSS全体で継続』だ」

TETSU「つまり、江ノ島は章をまたいで三回会っているからイベントが発動し内通者だと見抜かれ、
    親密度が警戒度に変更された。また、石丸は今の所五回会ったから特殊イベントが発動した。
    …まあ、石丸の場合は他にもフラグを満たしているというのもあるが」

TETSU「あと、前スレ>>486で書かれているように自由行動は回数もそうだが『タイミングが大事』だな。
    つまり何らかのイベント後や動機後の自由行動がタイミング的に最重要な訳だ」

TETSU「会う回数だが…正直な話、生徒の個性による。桑田は二回会えばクリアだったが、
    それは桑田が単純で警戒心も薄いからであって、大和田は当然そうはいかない」

TETSU「前スレ>>462で磨毛が言っているが、苗木なんて一回も会わなくても仲間になるしな…
    手強いキャラ、気難しいキャラほど早めに会っておくべきだと俺は思うぞ」


TETSU「『場所選択では生徒の強化』を忘れないようにな。会話にヒントが入っている場合があるから
    それも注目だ。あと、迷った時はいっそ霧切に会え。俺より更に具体的に教えてくれるはずだ」

TETSU「最後に、今まで生徒と会った回数をまとめておくから参考にするといい。頼んだぜ!」

苗木3
舞園3
桑田3
江ノ島3
石丸5
大和田3
不二咲3
朝日奈1
大神1
霧切0
セレス1
山田0
十神1
腐川1
葉隠0


>>308
当然ですぞ。何せ、山田君は全ての始まりにして終わりなる者であり7つの能力を持つ
スキルホルダーにして創作能力(フォース・オブ・クリエーション)の持ち主ですからな!

>>309

葉隠「よく見たら石丸っちだけじゃなくて大和田っちや不二咲っちもたくさん名前があったべ」テヘペロ


最近木曜日は寝落ちする曜日になりつつある

そして本当は今日も眠いけど投下



― 廊下(保健室前) PM3:38 ―


霧切「どうしてそちらに行くのかしら、桑田君」


保健室を出た桑田は、寄宿舎とは逆の方向へ歩き出していた。


桑田「いや、そのさ…人のいる所行けって言われたけどやっぱりまだ気まずいじゃん…
    今俺が顔出したらかえってまた騒動が起こるかもしれねえし。いざという時の
    アリバイどうたらってのは霧切がいてくれれば解決だろ?」

霧切「それは私があなたの行動に付き合うことが前提よね? ドクターは私にあなたを
    見て欲しいとは言っていたけれど、ずっと付き添うようにとは言わなかったわ」


そう言うと霧切はクルリと踵を返し、桑田は慌ててその手を掴んだ。


霧切「…!」

桑田「ちょっと待ってくれよ! …もしかしてさっき言ったこと怒ってんのか? 悪かったって!
    な? 謝るからさ! 少しだけ付き合ってくれよ。女神様霧切様、どーかこのとおり!」


顔の前に両手を合わせ頼み込むその姿は一見いつも通りの桑田だが、その表情には不安が溢れている。
何より…自分を掴んだ彼の手が、微かに震えていたことに気が付かない霧切ではなかった。


桑田「その代わりと言っちゃなんだけどさ、俺と一緒にいれば霧切だって誰かに
    襲われることもないだろ? 万が一の時は俺がしっかり守るしさ!」

霧切「フッ、あなたじゃ全くもって頼りにならないわね」

桑田「鼻で笑われたー!」ガビーン

霧切「私は護身術の心得があるの。桑田君くらいになら引けは取らないつもりよ」

桑田「あーさいですか…最近の女は強えこって」

霧切「でも今回はあなたの意見に賛成だわ。今行ってもみんなはまだ冷静でないはず。
    私の言う条件を叶えてくれるなら、少しくらい付き合ってあげてもいいけど?」

桑田「お! 話がわかるじゃん! で、なんだよ条件って?」

霧切「…そうね。朝食会と夕食の時必ず私にコーヒーを淹れてくれないかしら?」

桑田「あのー、お姉さん? それ、どこぞのセレスティアなんとかさんと同じじゃ…」

霧切「安心して。私はセレスさんと違って味が気に入らなくても淹れ直させたりしないから」

桑田「ハァ…まあ、そのくらいなら別にいいけどよ…味には期待すんなよ。
    俺コーヒーとか紅茶とかそんなシャレたもん飲む習慣ねえし」

霧切「炭酸ばかり飲んでいたら子供舌になるわよ」


うるせーと文句を言った後、桑田はマジマジと霧切の顔を眺めた。


桑田「…お前せっかくキレイな顔してんのになんかツンケンしてるよなー。もったいねえ」

霧切「そう? 普通だと思うけど?」

桑田「全然普通じゃねーよ! アレか? 笑ったら意外とかわいい系とか?」

霧切「あら、いつも笑ってるじゃない」

桑田「あのスカしたフッてヤツ? アレは笑ってんじゃなくてドヤ顔だろ!」

霧切「ドヤ…」

桑田「ほら、ちょっと笑ってみ? こうして口くいーっと上げてさ」


桑田が口の端を指でぐいっと上げてみせるが、霧切はまるで相手にしない。


霧切「それで、どこに行くのかしら」

桑田「ちょ、無視とかひでぇ…ん~、やっぱ体育館か。むしゃくしゃしてる時は運動に限るってな」

霧切「単純ね」

桑田「悪かったな!」


その時バタバタと激しい騒音と共に何かが近寄ってくる気配を感じた。


「くぅぅぅわぁぁぁたぁぁぁくぅぅぅぅぅん!!」

桑田「あん?」


声の段階で予想は付いていたが、案の定駆け寄って来たのは石丸だった。走ってきた勢いそのままで
スライディング土下座ならぬスライディング謝罪と言わんばかりに90度頭を下げ、叫ぶ。


石丸「先程はすまなかったあああああ!」

桑田「は?」


その迫力に思わず一歩下がるが、石丸は逃がさんと言わんばかりに桑田の手をガッと掴む。


桑田「え、ちょ、男に手とか握られるの嫌なんですけど…」


しかし石丸はそんなことは一切構わない。というか人の話を聞いていない。


石丸「僕を許してくれ!」

霧切「…石丸君、要点をきちんと言わないと相手に伝わらないわよ」


石丸「僕は先程、君と舞園君がモノクマにイジメられているのを見ながら、何も出来なかった!
    イジメはイジメている人間より傍観している人間の方が問題とも昨今は言われているのに
    僕はただ見ているだけだった! 本来なら風紀委員である僕が率先して助けるべきなのに!」

桑田「ちょ、近い近い近い近いって! ツバが飛ぶ! もうちょっと離れろよおい!!」


石丸は一生懸命謝っているが、正直桑田はそれどころではなかった。霧切はさりげなく
距離を取っている。なにお前だけ逃げてんだよ、と桑田は恨めしげに見るがサッと目を逸らされた。


石丸「クラスメートを見殺しにして保身に走るなど最低だ! 風紀委員どころか人間失格の屑だ!
    桑田君、不甲斐ない僕を思い切り殴ってくれ! そしてどうか許してやって欲しい!」

桑田「わかった、許す許す! むしろ俺が謝るから離れてくださいお願いします!
    なんでもいいからさっさとその手を離してくれぇええっ!」

石丸「そうか! 君は許してくれるのかっ!」パッ


やっと手を離した石丸から桑田は全力で後退し距離を取った。


桑田「…あー、死ぬかと思った。うわ、鳥肌立ってるよ…」ウワ…

霧切「大変だったわね」

桑田「人事だと思ってるくせによく言うぜ…」


桑田がボヤいている横で、相変わらず人の話を聞いていない石丸はうんうんと何やら感慨深げに頷いている。


石丸「こんな僕を許してくれるなんて、君はとても良い人だ! やはり内通者などではない!」

桑田「おぉ、そりゃどーも」

石丸「内通者など最初から僕等の中にはいないのだ!」

霧切「そうかしら?」

石丸・桑田「!」


霧切の言葉に男子二人は反応する。特に石丸の反応は大きかった。


石丸「では霧切君! 君は内通者がいると考えているのかね?!」

霧切「さあ? 私はモノクマじゃないからわからないわ。でもいるのかいないのかすら
    私達にはわかる手段はないのだから、常に最悪を想定して動くべきではないかしら」

霧切「具体的には、表向きは波風を立てず普通に振る舞い、でも心の中では一線を引く。
    最低限の警戒さえ怠らなければ、それで事件は防げるはずよ」


石丸「しかし、それでは結局お互いを疑い合う心は消えないではないか! 先程の
    疑心暗鬼はそのようなお互いを信じられない気持ちが原因で発生したのだ!」


霧切に詰め寄ろうとする石丸を見て、桑田は嫌な予感を感じていた。もしこんな所を誰かに
見られたら喧嘩だと思われるだろう。また大騒ぎになるぞと直感が告げてくる。


桑田(あ、ヤバい。これほっといたら石丸がヒートアップして長くなる展開だ)

桑田「あ! 盛り上がってるトコ悪いんだけどさぁ…俺達ちょっと用があるんでこれで失礼するわ!」

石丸「ム、どこへ行くのかね?」

桑田「ほら、なんか気分がスッキリしない時は体育館で運動でもしようかなーってな」

石丸「それは良いことだ。…そうだな。僕もこれから舞園君の所に謝りに行くんだった」


その言葉を聞いて桑田と霧切は顔を見合わせた。


桑田(え、それヤバくね? 多分まだ苗木と一緒にいるんだろうけど…)

霧切(もしまだ彼女が落ち着いていない中に石丸君が乱入したりすれば、大惨事になるわね…)


桑田「ああ、そうそう! お前もちょっと俺に付き合えよ! 一緒に野球やろうぜ!」

石丸「しかしだな、僕は行かないと…」

霧切「急がなくても舞園さんは逃げないわ。彼に付き合うのも罪ほろぼしじゃないかしら?」

石丸「…そうだな。僕も運動したら頭が冴えるかもしれない。付き合わせてもらうか」

桑田・霧切「…………(単純で良かった)」ホッ


・・・


カキーンカキーン…

絶え間無く鳴り響いていたバットの音が止み、三人は体育館の観客席に座って休んでいた。


石丸「…しかし大したものだな。自分で言うのもなんだが僕のコントロールはけして
    良くはないのに、それでも全て的確に捉えて打ち抜くのだから」

桑田「確かにひどいけどノーコンて程じゃねえし、結構いい肩してるから鍛えりゃ
    そこそこ行きそうだけどな。どうよ? これから毎日一緒にやるか?」


石丸「構わないぞ! あれだけ練習嫌いだった桑田君が努力に目覚めるとは嬉しいことだ!」


だがここでふっと石丸は視線と声を同時に落とす。


石丸「しかし…運動して頭に血が回れば名案でも浮くかと思ったが、そう上手くは行かないものだな」

霧切「何を悩んでいるのかしら?」

石丸「説得だ! ただでさえお互いを疑い合う今の状況は危険なのに、医者の西城先生が
    疑われていてはもし何か事故が起こった時に取り返しの付かない事態になりかねん!
    だから、せめて西城先生の疑いだけでも晴らして指示が通るようにしたいのだが」

桑田「確かに、怪我人が出た時にお前の言うこと聞かねーって言われたらマズいもんな…」

石丸「うむ。…そうだ、霧切君! 理知的な君を説得する言葉がわかれば他のみんなも
    説得出来るかもしれない! どんな言葉を言われたら君は納得してくれるかね?!」

霧切「…そうね。ドクターの今まで…黒幕に奇襲され重傷を負ったこと、舞園さんと桑田君を
    助けたこと、授業の内容が正しいことを順を追って説明していくしかないわね。その時
    大事なのは、視覚に訴えることよ。証拠があればそれだけで人は信じやすくなるから」

石丸「証拠か。授業の内容は医学書でも見せれば良いが、それ以外だと…あっ!」


何かに気付き、石丸はすっくと立ち上がった。


石丸「どうやら、次にやるべきことが見えたようだ。僕は行くぞ! またあとで会おう!」タッタッタッ…


走り去る後ろ姿を半ば呆れ顔で見ながら桑田は呟く。


桑田「忙しいヤツだなー、アイツ…」

霧切「…彼は恐らく、自分の役割を果たすことで恐怖や不安から逃れようとしているのね」

桑田「ふーん、そういうもんか。まあ、俺みたいに荒っぽくなるよりはマシか?」

霧切「程度問題ね…頑張り過ぎて裏目に出ないといいけれど…」


探偵の勘とでも言うのか。霧切は何か不穏な物を自分の中に感じていた。



               ◇     ◇     ◇



そして同じ頃、食堂では一つの決着が付こうとしていた。


腐川「あ、あんた…なに?! 目つきがヤバいわよ?!」

大和田「…………」


腐川「やっぱり…やっぱりアタシを殺す気なのねそうなのね?! た、ただじゃ殺されないわよ!」


そう言うと、腐川は妙な行動を取る。自身の長い三つ編みの先を鼻先に持ってきてくすぐり、
呆気にとられている大和田の前で大きなくしゃみをしたのだった。


腐川「ふ、ふぇええっくしょん!」

大和田「あ、なんだぁ?!」


突然の奇行に大和田が一瞬怯むと、突然腐川はテンション高く笑い始めた。


腐川?「……あっらー、もんちゃんじゃなーい?! 久しぶりぃー! ゲラゲラゲラ!」

大和田「ひさしぶりって…今まで普通にしゃべってたじゃねぇか」

大和田(…なんだ、コイツ? 急に人が変わったみたいに…)

腐川?「アイツが人前でアタシを呼び出すなんて珍しいわねぇ。さては、なんかあった??」

大和田(もしかしてコイツ…恐怖で頭イッちまったのか? 俺が…)

大和田(…俺が殺そうとしたから)


そこまで考えて大和田は血の気が引いた。ついさっき人殺しなんてしないと固く誓ったはずなのに、
もう自分はこんな馬鹿げたことを考えている。衝動を止められない。失う恐怖から逃れられない。


大和田(ダメだ! ダメだダメだダメだダメだ!! 兄貴…バカな俺を叱ってくれ!)

大和田「…その、さっきはいきなり怒鳴ったりして本当に悪かった!
     俺はお前を殺したりなんてしねぇ! だから正気に戻ってくれ」

腐川?「あぁ。ふーん。要はもんちゃんに殺されると勘違いしたアイツがアタシを
     呼んだってワケね。つまんないの、どうせなら本当に殺ってくれればいいのに♪」

大和田「ハア? な、なにブツブツつぶやいてんだよお前…本当に大丈夫か?
     ヤバいなら俺が先公んトコロに連れてってやるぞ?」

腐川?「センキューセンキューノーセンキュー! アハハハハ! アタシはこれから
     愛しの白夜様のトコロに行かなきゃなんないのよ。薬品臭い保健室とか勘弁だから!
     ま、そんなワケで用もないならバイバーイ! ゲラゲラゲラゲラ!」


そう言うと腐川は慌ただしく走り去って行った。その様子をポカンと見送る。


大和田「あ、おい! …紅茶持ってくんじゃなかったのかよ」


とりあえず、人を殺さなくて良かった。大和田は力無く椅子に座り息をつく。

だが、秘密のためには殺人すら犯してしまいそうになる己の心の弱さと、兄への強烈な
コンプレックスを同時に自覚してしまい、その心は大きく揺れ動いたままであった。


― 自由行動 ―


K(ここが正念場だ…! 何としても、俺は事件を防がなくてはならない!
  時間の許す限り、生徒を見つけて話さなければならないだろう…)


今回はKAZUYAの危機意識が強いため、安価の回数が増えます。


K(人名安価は5、場所安価は2とする)

K(ただし…葉隠、山田、腐川は疑心暗鬼の度合いが強いから今は話せん。
  何か、キッカケでもあれば別だろうが…生徒に鍵があるかもしれんな)

K(人数が多いと混乱しそうだ。分けて安価をしよう。相談したい時や迷った時は
  安価下と書いて下に流すのもアリだぞ)


>>338 人名

>>340 人名

>>342 人名

今回のキーは不二咲、大和田、石丸であとは十神か
不二咲はおそらくセーフ、となると

大和田で

石丸

十神


K「よし、次の安価だ」


>>346 人名

>>348 人名

不二咲

セレスにも会ったほうがいいかな?
安価なら↓


K「最後は場所安価だ」


>>354 場所

>>356 場所


※ちなみに今回行ける生徒の部屋は、苗木は既に選択済み、舞園は現在眠っているので桑田のみである。

娯楽室

桑田の部屋


量が多くてまとめるのが大変だった…

大和田 >>338
石丸 >>340
十神 >>342
不二咲 >>346
大神 >>348
娯楽室 >>354
桑田の部屋 >>356

ですね。


モノクマ「ちゃんと相談して綺麗に安価を取る姿に先生は感動しました! 頑張って1が続きを書くそうです」

モノクマ「ちなみに、いつもは安価した順に投下していきますが今回に限り時系列が複雑なので
     シャッフルします。ご理解ください。なんだか、Chapter.2はこのSSで最長になる予感だよ…」

モノクマ「それではまた明日or明後日に。バイナラ!」


サービスで安価を大盤振る舞いしたはいいが、書くのが大変だったという

再開


― 脱衣所 PM4:27 ―


KAZUYAが脱衣所に入ると、そこではパソコン相手に作業している不二咲がいた。


不二咲「あ、先生だぁ。今ちょうど起動する所だったんですよ」

K「そうか。では、始めてくれ」


盗聴器はKAZUYAに言われた通り、あらかじめ片付けてある。
KAZUYAに見守られる中、不二咲は例のプログラムを起動させた。


アルターエゴ『おはよう、ご主人タマ!』

K「おお…!」


画面には不二咲と同じ顔が浮かびあがり、それが本物のように表情を変えた。


アルターエゴ『あ、会話機能が追加されてるね。僕、上手く話せてるかな?』

不二咲「うん、ちゃんと話せてるよ。僕の言葉は認識出来る?」

アルターエゴ『出来てるよ! …あ、知らない人がいるね。外見の特徴から、その人が西城先生?』

K「そうだ。俺が西城だ」


アルターエゴ『初めまして! いつもご主人タマがお世話になってます!』

K「…ウム」


表面的にはいつも通り冷静だったが、KAZUYAは内心とても驚いていた。クエイドを始め世界の様々な
科学的機関にも顔を出しているKAZUYAだが、ここまで精巧なプログラムは見たことがなかった。
しかも、これを十代の少年が数日で作り上げてしまったのである。冷や汗すら出てくる。


K(これが、『才能』というものなのか――)

K「…大した物だな」

不二咲「先生のおかげだよぉ。最初はキーボードでしか意志の疎通が出来なかったんだけど、
     あのマザーボードに積まれてた最新のCPUとメモリがあったから会話が可能になったんです」

K「上手い具合にパソコンの規格が合って良かった」

不二咲「まさかマザーボードを丸々持ってきてくれるとは思わなかったけど。
     おかげでアルターエゴの処理速度が倍になったんですよぉ!」

K「アルターエゴ…別人格。或いは他我、か。それでこのアルターエゴに何をさせている?」

アルターエゴ『僕は今ご主人タマの命令でこのパソコンの中のデータを調べてるんだ!』

K「どれくらいかかる?」

アルターエゴ『うーん、ロックが厳重だからまだ何日かかかりそう』


不二咲「この子はまだ出来たばかりで解析力が高くないから、いろんな人とお話して
     学習すればもっと早く出来るかも。みんなにも教えた方がいいですか?」

K「いずれは知らせるべきだが、今はまずいな。最低でも内通者騒ぎが一段落つかんと厳しい」

不二咲「あ、そっか。内通者に見つかったら大変だもんねぇ…
     昨日桑田君に完成したら見せるって約束しちゃったけどどうしよう」

K「見せてやりたいのはわかるが、アルターエゴの存在を知っている生徒と
  知らない生徒がいれば、いずれ存在を明かした時に揉める。黙っておくべきだな」

不二咲「じゃあしばらくは僕と先生だけの秘密だね!」

アルターエゴ『ボクもだよ!』

不二咲「あ、ゴメンゴメン。えへへ」

K「…フ」


二つのそっくりな笑顔を眺めてKAZUYAも少し笑う。


K「そうだ。夜の話だが…」

アルターエゴ『夜に何をするの?』

不二咲「ふふっ、先生と一緒にトレーニングするんだよ! 僕もやっと男らしくなるんだぁ!」


アルターエゴ『わあ! ご主人タマ、頑張ってね!』

K「ああ、その件だが…出来れば俺一人ではなく誰か信頼出来る生徒にも頼むのはどうだ?」


KAZUYAは再び自分に嫌疑がかかったことで、あまり生徒を自分に近付けすぎるのは
マイナスだと判断した。誰か他に親しい生徒がいれば、自分に何かあってもそちらに行ける。


不二咲「…えっと、他の人も誘うということですか?」

K「生徒にも一人か二人あらかじめ秘密を知らせておけば、明日告白する時も気が楽だろう?
  それに、どうせ俺は毎回は付き合えないのだ。誰か教えても良いと思う相手はいないのか?」

不二咲「えーと…じゃあ、大和田君にならいいかな」

K「大和田か…」

アルターエゴ『ご主人タマは大和田君が好きだもんね! いつも先生と大和田君の話ばっかりするんだよ!』

不二咲「あっ、は、恥ずかしいよぉ…」

K「…………」


どうやら無い物ねだりというか、不二咲は自分にない強さを持っている相手が好きらしい。


K「強さとは…肉体の強さだけではないがな」


不二咲「…え?」

K「お前は確かにひ弱かもしれない。だが自分の嫌な所、認めたくない所を直視し
  受け入れることが出来るのも強さだ。そして心の強さは時に肉体の強さを凌駕する」

K「確かに過去のお前はずっと逃げていたかもしれん。だが、今のお前は逃げずに自分を
  変えようとしている。長年のコンプレックスに立ち向かうのは並大抵のことではない。
  お前はもっと自分と自分の強さに自信を持っていいのだ」

不二咲「先生…」


不二咲は何を言えばいいのかわからないようだった。そこに陽気なアルターエゴの声が響く。


アルターエゴ『やったね、ご主人タマ! 尊敬してる西城先生に誉められたよ!
     …あれ、あんまり喜んでないね? どうかしたの?』

不二咲「そ、そんなことないよ! すごく…すごく嬉しくて、僕…!」


やはりどんなに精巧に出来ていても所詮は機械だな、とKAZUYAは思った。不二咲の動揺が
わからないのだろう。だから、代わりにKAZUYAがアルターエゴに教えてやった。


K「人間とは極度に感情が高じると、戸惑ったり逆の感情を出してしまうものなのだ。
  笑い泣きがいい例だな。嬉しいはずなのに涙を流すのだから――」


アルターエゴ『…そうなんだぁ。先生、教えてくれてありがとう! ねぇ、西城先生は
     ボクの先生にもなってくれる? ボクね、もっと賢くなりたいんだ!』

K「構わんぞ。時間のある時に来よう」

不二咲「良かったね、アルターエゴ。先生とお話出来ればきっとすぐに賢くなれるよ!」

アルターエゴ『うん! 嬉しいな!』


機械だとわかっていても、無邪気に笑うアルターエゴにKAZUYAもつい笑いかけていた。


K「さて、そろそろ行くか」

不二咲「あ、僕もうちょっとアルターエゴの調整をしたいな…」


構わないぞ、と言いかけてKAZUYAは何かに気付いた。慌てて脱衣所から廊下に顔を出す。
後ろ姿だったが、大声で笑いながら廊下を駆けて行く腐川が見えた。


K(腐川か? いつもと様子が違ったが、今のは一体…)

不二咲「先生、どうかしたんですか?」ヒョコッ

K「いや…」


再び脱衣所に戻りKAZUYAは考え始める。


K(もし誰かが…特に女子が殺人を企んでいるならば、狙われるのは一人しかいない)

K「不二咲…大事な話がある」

不二咲「なんですか?」

K「先程の動機のせいで、今日はみんなピリピリしている。…もっと言えば、殺人を
  考える程追い込まれている人間も中にはいるかもしれん。考えたくはないがな…」

不二咲「そんな…」

K「約束してくれ。今日一日は絶対に単独行動を取らないと。部屋には俺が送ろう」

不二咲「わかりました…確かに、僕みたいな弱い相手がフラフラしてたら、
     その気がなくても魔がさしてしまうかもしれないですもんね…」

K「夜のことは俺が大和田に後で伝えておく。ついでに夕食の時も迎えに来てもらうよう頼んでおく」

不二咲「すみません…」

K「気にするな。悪いと思うならお前の得意分野で後から存分に返せばいい。
  アルターエゴを使いこなせるのは世界広しといえどもお前だけなのだからな」

アルターエゴ『そうだよ、ご主人タマ! 頑張って!』


不二咲「うん、ありがとう…また今度来るからね」

アルターエゴ『じゃあその時までスリープしています。おやすみなさい…』


アルターエゴを仕舞い、盗聴器を戻してKAZUYAは不二咲を部屋に送った。


・・・


不二咲との約束を果たすため、KAZUYAは大和田を探していた。


K(他の生徒達は部屋に篭っているようだから大和田も自室にいるかと思ったが、
  留守だったな。どこにいるんだ? …いつもなら食堂辺りに人が集まるのだが)


念のために食堂を覗くと、一人席に座り虚空を見つめる大和田を見つけた。


K「(ここにいたか)大和田」

大和田「(ビクッ)な、先公か…」

K「少しお前に話があってな」


そう言ってKAZUYAは大和田の正面に回り込む。


大和田「は、話だぁ…?」

K「…?!」


KAZUYAは驚愕した。大和田の瞳は大きく揺れて落ち着きを失い、見るからに様子がおかしい。


K「――何があったんだ?」

大和田「な、何もねぇよ!」


大和田はそう声を荒げるが、いつものような赤い顔ではなくその顔は目に見えて青かった。


K(そういえば、大和田はあの動機で特に大きく動揺していたメンバーのうちの一人だな)

K(放っておくのは危険だ…!)


やや詰問する調子でKAZUYAは大和田に問い掛けた。


K「誰かに会ったのか?」

大和田「! その…ちょっと、腐川にだな…」

K「腐川?」


意外過ぎる名前にKAZUYAは驚く。少し前に謎の奇行を見せていた腐川と会っていたとは。


K(腐川…腐川もまた要注意人物の一人ではないか…!)

大和田「なにもしてねえ! 俺はなにもしてねえからな! ただあいつが勝手に
     様子がおかしくなっただけだ! 俺のせいじゃねえぞ!」

K「…わかった。腐川の様子がおかしいのだな? 俺が後で様子を見に行こう」

大和田「お、おう。そうしてくれや」


要注意人物の二人がニアミスして、危うく事件が起こりかける所だったのだと悟り、
KAZUYAも自身の血の気が引くのを感じていた。もはや一刻の猶予もない。


K(一人にさせておくのは危険だ! 俺の監視下に置くか、或いは逆に集団の中に入れておかねば…)


こうなってはいつどんな間違いが起こるかわからない。
焦るKAZUYAの姿を見て、大和田はボソリと呟いた。


大和田「…あんたも大変だな」

K「何がだ?」

大和田「俺達が事件を起こしたりしねえように、今も必死に走り回ってくれてんだろ?」


K「…………」


KAZUYAは視線を落とす。


K「…すまない。俺の力不足でお前達を不安にさせてしまって」

大和田「な、なにテメェが謝ってんだよ! 俺は、全然不安なんかじゃ…」

K「強がらなくていい。こんな状況で不安にならない人間などおらん。俺も今…とても不安だ」

大和田「…………」

大和田(なんで…なんでよりによって今気がついちまったんだ…)

大和田(こいつ…時々兄貴そっくりの目をしやがる…)


偉大な兄・大亜が仲間を護るために放つ鋭い視線、もしくは弟の自分を見守る時の
穏やかな眼差し…その二つを眼前の男は持ち合わせていた。最初から勝てる訳がなかった。


大和田(そうか…こいつがただの先公じゃねぇってことは会った時からわかってた。
     なのに、俺はなんかこいつが気に入らなくて最初のうちは反発ばっかしてたな…)

大和田(俺は無意識に…兄貴をこいつに重ねてたのか…)


兄のことは尊敬していたが、同時に超えるべき壁でもあった。兄亡き今、大和田は乗り越える壁を失い
その不満やコンプレックスは気付かない内に心の奥底に滞積していたが、KAZUYAを兄の代わりと捉え
無意識に超えようとしていたのだ。その事実に気付くと、大和田は少しだけ心穏やかになった。


大和田(兄貴がこいつの姿を借りて俺に忠告に来てくれたんだ…俺がバカな真似しねぇようにって…)

大和田「そうだよ…俺、本当は不安で不安でしかたねぇんだ…! なぁ、助けてくれよ…!
     あんた先生だろ…?! 俺は一体どうしたらいいんだ?!」

K「落ち着け。あの封筒の中にどんなことが書いてあろうが俺はお前の味方だ!」

大和田「でも、あれのせいで俺の大切な物がなくなっちまうかもしれねぇ…
     兄貴との男の約束も守れねえ…そう思うと俺は震えが止まらねえんだ!」

K(大切な物…兄との約束…)


その時、KAZUYAは大和田がサウナで語った言葉を思い出した。


K(大和田にとって最も大切な物は兄と作り上げた自身のチーム。そして、兄は事故で死んでいる…)

K(…恐らく、大和田の秘密はチームが崩壊するような内容なのだ。それが暴露されることを大和田は
  極度に恐れている。推測だが、兄と死ぬ前に約束でもしたのだろう。絶対にチームは自分が守ると…)


人殺しを決意させるような内容なのだから当然と言えば当然だが、思った以上に難解な悩みだった。
如何に暴走族といえど、兄との思い出があり日本最大を誇る組織を気軽に諦めろとは言えないだろう。


K「お前の苦しみはよくわかる。だが…だが、それでも誰かの命を奪う訳にはいかんだろう?
  男の約束は確かに重い物だ。お前は兄にチームを守ると約束したかもしれん」

K「だがお前の兄はお前に人殺しになってまでチームを守って欲しいと思っているだろうか」

大和田「…………」

K「暴走族も暴走行為や喧嘩など軽犯罪は行っているが、人殺しはしないだろう?
  自身のチームと亡き兄を誇りに思うなら人殺しなんてするんじゃない」

大和田「…………」


全て、頭の中ではわかっていることだった。だがそれでも、面と向かって誰かに
言われるのではその重さが全く違った。KAZUYAの言葉の一つ一つが胸に沁みていく。


大和田「わかってる…わかってんだよ、俺だって…」

K「第一、単に誰かを殺せば良いのではなく周囲にバレないことが必須条件だぞ?
  もしお前が誰かを殺してもあっという間にバレてお前は処刑だ。わかるな?」

大和田「処刑…」


KAZUYAに言われ現実味が湧いたのか、大和田はガタガタと震え出した。


大和田「先公、俺はどうすればいいんだ…俺、すぐカッとなる所があるだろ?
     その気がなくてもこんな状況じゃうっかり誰かをヤッちまうかもしれねぇ」

K「一人でいるか、逆にみんなと一緒にいろ。誰かと二人っきりになるからいかんのだ。
  とりあえず、今は部屋に戻れ。ちょうど、不二咲にも似たようなことを言った所だ」

大和田「不二咲? あいつ、何かあったのか?」

K「いや…お前とは逆だ。あんな小柄な子がこの状況でフラフラ単独行動していては
  危ないだろう? だから部屋に篭るか誰かと複数で行動するように指示したのだ」

大和田「ああ、そうだな…もし内通者が女だったりしたらあいつが一番危ねえ」

K「…そこで頼みがある。不二咲はお前をとても信頼しているようだ。だから、
  夕食の時不二咲をここに送り迎えしてやってくれんか。石丸と一緒に」

大和田「不二咲が俺を? …おう、わかった。任せてくれ」

K「そしてお前の元には石丸に来てもらうように頼もう。いくらお前が短気でも
  まさかあいつを殺したりはせんだろう?」

大和田「ったりめーだ! 兄弟が無神経なのなんて今に始まったことじゃねえからな!」

K「よし。言ったな」


KAZUYAは立ち上がって大和田の横に立つと、その両肩を掴んで屈み大和田に目線を合わせた。


K「俺と男の約束をしてくれないか。絶対に間違いを、人殺しなど犯さないと」


そう言って大和田の目を見据えるKAZUYAの瞳はどこまでも真っ直ぐで深かった。
目を逸らすことなど到底出来ない。大和田は心からこの信頼に応えたいと思った。


大和田「…ああ、わかった。とにかく気をつける」

K「石丸を見つけ次第お前の所に向かうよう伝えておく。とりあえずお前は部屋に戻れ」

大和田「…すまねぇ」


大和田が部屋に戻るのを見届け、KAZUYAは深く息を吐く。
今や、生徒一人一人が爆弾にでもなったかのようだ。油断すればあっという間に起爆する。


K(…急がねばなるまい)


KAZUYAは次の生徒の元へと急いだ。


ここまで


今日は安価あります。

再開


・・・


KAZUYAは大和田のことを伝えようと石丸を探していたが、見つからなかったので先に腐川の様子を
見ようと図書室へ移動した。図書室に入ると、案の定というか十神が本を読み、一瞥もくれずに呟く。


十神「…また客か」

K「また? 俺の前に誰か来たのか?」


KAZUYAの問い掛けには答えず、十神は独り言のように後を続けた。


十神「…それも目障りな正義漢気取りのうるさい奴ばかりやって来る」

K「石丸が来たのか…」


こんな所にいたのか。通りで見つからない訳だとKAZUYAは唸る。


K「何をしに来たんだ?」

十神「さあな。答える義理もない。本人に直接聞くか腐川に聞け」

K「腐川に?」


そうだ、自分も腐川に用があったのだと辺りを見回すと、椅子の上に倒れている腐川が見えた。


K「腐川っ?!」


KAZUYAが慌てて駆け寄ると、どうやら腐川は気絶しているようだった。
念のために呼吸と心拍を確認するが別段異常はない。


K「何故倒れている? お前が何かしたのか?」

十神「俺じゃない。そいつの血液恐怖症は知っているだろう? 勝手に倒れただけだ」

K「そうか…」


十神の性格から考えて、倒れた腐川を運んでやるなどと殊勝な行為は有り得ない。
恐らく石丸が椅子を並べてベッド代わりにし、そこに腐川を寝かせてやったのだろう。


K(しかし、こんな場所で誰の血を見たというのだ? 見た所十神にも腐川にも怪我はない。
  石丸が怪我をしたのか? …そもそもあいつは何をしにここへ来たのだ?)


そこでふと、石丸も自分と同じように様子のおかしい腐川を見て、心配してここへ
やってきたのではないかと思いついた。ならば特にKAZUYAが気にすることはないだろう。


K「俺は腐川に話がある。起きるまで待たせてもらうぞ」

十神「…勝手にしろ」


K「…………」


そうは言っても、貴重な時間だ。ただ手持ち無沙汰でぼんやりしている訳にはいかない。


K「十神よ。お前はまだこの殺し合いをゲームだと思っているのか?」

十神「他ならぬ主催者がそう言っているだろう。誰かの命を奪って脱出するか
    奪われて終わるか。いわばこれはゼロサムゲームなのだ」

K「奪われた者は命はおろかこれからの人生全てを失い、奪った方も負わなくていい
  罪と咎を今後一生背負っていかねばならん。これがゼロサムなものか!」

十神「言葉遊びには興味はない。俺は今までだって大勢の人間を踏み台にして勝ってきた。
    十神の家に生まれた以上、俺は常に勝ち続けなければならない宿命なのだ」

K「お前がどこの誰かなど関係ない。もしお前が誰かを殺すなら、俺は絶対に容赦せんぞ」

十神「好きなだけ言えばいい。だが最後に勝つのは俺だ」

K「この場に勝ち負けなど存在するものか。黒幕の思い通りに動けばその時点で敗北だ!」

十神「…………」

K「…………」


まさしく意見が平行線でいくら話してもラチが明かない。この男を口で説得するのは無理だ。
ならば物理的に事件を防ぐ他あるまい、とKAZUYAは苦い顔をするのだった。


・・・


KAZUYAと十神がもはや交わす言葉もなく無言でいると、腐川が盛大にその沈黙を破った。


腐川?「おっはよーん! さっき戻されたのにもうアタシを呼び出すなんて白夜様ったら
     ツンデレなんだからぁー! 寂しかった? 寂しかった? ゲラゲラゲラ!」

K「ふ、腐川…?」


そこにはKAZUYAの知る腐川の姿はなかった。陰気でボソボソと話す腐川とはまるで真逆の、
言い方は悪いが変な薬でもやっているのではと思うほどテンションの高い腐川がいた。


腐川?「あっらー? お久しぶりじゃない、セ・ン・セ! 全然気が付かなかったわぁー」

K「あ、ああ」

腐川?「なになに? センセもアタシに会いに? でも悪いわねー! 前にも言ったけど
     アタシゴツいのはタイプじゃないの! 顔は全然悪くないんだけどね。うーん、惜しい」

K「その、腐川…?」

腐川?「ちょっと! 何度も言ってるけどアタシを呼ぶ時は…!」


十神「腐川!」


腐川が何か言いかけようとすると、十神が制止の声を上げ恐ろしい顔で睨んでいる。
惚れた弱みというものか、流石のハイテンションも罰が悪い顔を浮かべた。


腐川?「あ…あーご機嫌ナナメな感じ? アタシが他の男と話したから? もう白夜様ったらぁ…」

十神「全く、折角一度戻したというのに奴が余計な真似をするから…」

K「余計な真似?」

十神「こっちの話だ。とにかく、腐川がこの状態になるとうるさい。貴様もさっさと帰れ!」

K「しかし…そもそも俺は腐川の様子を見にここへ来たのだ。腐川…その、大丈夫か?」

腐川?「大丈夫か?って大丈夫に決まってるじゃなーい! アタシが大丈夫じゃない時なんてあった?」

K(どちらかと言うといつも大丈夫なようには見えないのだが…特に今は酷いな)


長い舌を蛇のようにビラビラと動かし上機嫌な腐川にKAZUYAは違和感が止まらなかった。
ハッキリ言わせてもらうと少し気持ちが悪い。なんとも言えない不気味さがあった。


K「…さっき配られた動機について聞いてもいいだろうか?」

腐川?「え? そんなんがどーかしたの? それともセンセ、アタシのがそんなに気になるのぉ?」


K「あ、いや、無理に聞き出すつもりはない。君が特に気にしていないのならそれで構わないが」

腐川?「ぜーんぜん。ほらアタシってばオープンな人間だから! 貴腐人コースまっしぐらな
     腐女子だってことも別に全然隠してないし、殺る時も殺る気隠さないし。なんちって!」

K(貴婦人? 婦女子? 隠すも何もないと思うが…)

K「…まあいい。問題がないなら俺は帰らせてもらうぞ」

腐川?「じゃーね、センセ! また今度お話しましょ~」ブンブン!

K「…………」


図書室を出ると、KAZUYAは腕を組んで悩み始めた。


K(確かに、様子が変だったな…あれを見てしまったのなら大和田の動揺もわかる。不自然だ。
   …ただ秘密がバラされるとわかって自棄になっている可能性もあるし、何とも言えん…)


ズキン、と唐突に頭が傷んだ。保健室で腐川と何かを話している映像が浮かぶ。


K「う、今のは一体…」

K(…何か思い出しかけたな。俺はあの状態の彼女に一度会っている…ような気がする)


しかしそれ以上は思い出せなかったので、KAZUYAは早々にその場を後にした。


・・・


図書室へ来たついでにKAZUYAは娯楽室へと足を運ぶ。セレスの様子が気になったのだ。
案の定、娯楽室では退屈そうにトランプを弄ぶセレスがいた。娯楽室へ入ってくる
KAZUYAに気付くと、カモでも見つけたかのようにセレスは嬉しそうに微笑んだ。


セレス「あら、ごきげんよう。先生」

K「ああ」

セレス「今日はお忙しいのではありませんか?」


試すようなイタズラっぽい目で問いかけるセレスに、KAZUYAは少し疲れた様子で同意する。


K「…そうだな」

セレス「遊んでいる余裕なんてありますの?」

K「こんな状況だ。俺は生徒全員の様子を見る。前にも言ったはずだ」

セレス「そうですか…」

セレス(一言で言うと邪魔、ですわね。こうも頻繁にわたくしの所へ来ると
     言うことはわたくしを警戒しているということでしょうし)

セレス(ですがギャンブルは運だけではなく心理戦も重要。先生の思考パターンや
     行動の癖を把握しておくというのは決して無駄ではありません)


セレス「まあ時には息抜きも必要ですわね。歓迎いたしますわ」ニコッ

K「…………」


再び以前のように向き合ってポーカーをする。お互いにカードだけではなく
腹の底を探り合っていた。やはりというか、先に仕掛けてきたのはセレスである。


セレス「先生は、今夜事件が起こるとお考えですか?」


1、起こると答える
2、起こらないと答える


K「>>405


相談したい時は安価下で流して下さい。

ヒントは、セレスから高い評価を得られそうな回答を選ぶと良い。
ちなみに当然ですがセレスは有能な人間が好きです。

人いないなぁ。セルフksk

基本的に即死選択肢はないです
セレスの攻略と親密度に影響すると思ってもらえれば

2


K「起こらないさ」


KAZUYAは力強く答えた。


K「俺は生徒を信じているし、もしもの時があれば全力で防ぐ。だから事件は起こらない」

セレス「…そうですか」

セレス(結局は感情論ですか。もっと冷静で論理的な思考の出来る方だと思っていましたが。
     クールな外見や物腰に反して、内面は石丸君のような熱血漢のようですわね。
     まあ、もう事件なんて起こらないと思い込んでいる石丸君よりはマシでしょうが)


淡々と感想を述べるセレスに対して、今度はKAZUYAが仕掛けた。


K「ちなみに、君はどんな動機だったんだ?」

セレス「聞かれて答えるとお思いですの?」

K「聞いてみただけだ」

セレス「ご安心を。こんなもので人を殺したりなんていたしませんわ」ニコッ

K「…………」


KAZUYAはセレスの反応を見たかっただけだが、流石ギャンブラーと言うべきか。
鉄壁のポーカーフェイスはこの程度では微塵も揺るがなかった。


セレス「疑っていらっしゃいますのね」

K「…いや、俺は生徒を信じる」

セレス「顔に出ていますわよ?」

K「少し疲れているだけだ…」

セレス「そうですか。では今日はゆっくりお休みなさいませ」


コロコロと笑うセレスを背後にKAZUYAは席から立ち上がり、娯楽室を出た。
してやられたな、と苦い思いを抱えながら溜息をつく。


K(セレスティア・ルーデンベルク…想像以上に手強い。難しいな…)


・・・


その後、当初の予定通り石丸を探していたが一向に見つからない。
相変わらず部屋には戻っていないようだし、一体どこをほっつき歩いているのかと唸る。


K(大和田のことを石丸に伝えなければならんというのに…)

K「…一度保健室に戻って頭を整理するか」


保健室に戻ると、なんとそこで何やら不審な行動を取っている石丸を発見した。


石丸「あ、西城先生」

K「灯台下暗しと言うが、こんな所にいたのか! 探したぞ」

石丸「僕を探していたのですか?」

K「ああ、重要な話がある。とりあえず座れ」


石丸と向き合うように愛用の椅子に座ると、KAZUYAは腕を組んで切り出した。


K「大和田のことだ」

石丸「…兄弟が、どうかしたのですか?」

K「単刀直入に言うが、精神状態が極めて悪い。今回のことでかなり追い詰められているようだ」

石丸「!」

K「さっき少し話したが、今のままだと何かの拍子で暴走してしまうかもしれないと
  非常に不安がっていた。…俺も正直今のあいつは危ういと思っている


石丸「しかし! 兄弟が人を殺したりする訳…!」

K「殺すつもりがなくとも事故で殺してしまう可能性はある。拳とて時には凶器となりうるだろう?」

石丸「…僕に兄弟のことを見ていて欲しい。そう仰りたいのですね?」

K「そうだ。すぐ横に誰かがついて、何かあっても止めに入れれば大丈夫だろう。
  お前が側にいてやればあいつも落ち着くだろうしな。絶対に大和田から目を離すな」

石丸「そういうことならわかりました」


力強く頷く石丸を見てKAZUYAは安心するが、ふとこの男もあの動機で青ざめていたことを思い出した。


K「そういえば、お前は大丈夫なのか?」

石丸「僕は大丈夫です!」

K「なら良いのだが…いや、あの紙を配られた時少し顔色が悪かった気がしてな」

石丸「あ、それは…」


KAZUYAが動機に言及すると、石丸の顔が急に暗くなる。これはマズイか?とKAZUYAは
一瞬警戒するが、石丸は次にはもう決意を固めた顔をしていた。


石丸「先生、僕の秘密を聞いてくれませんか」

K「…………」


石丸が語った過去は成程、想像に難くないことだった。いや、今までのこの男を見ていれば
当然のこととも言えた。しかし、誰よりも生真面目な男だ。この秘密は意外と堪えたのではないか。


石丸「恥ずかしい、情けない過去です…ですが、今の僕は違う! 今の僕には守るべき仲間達と
    兄弟という親友がいるのですから。だからもう、この秘密は何の意味も持たないのです」

K「そうか…安心した。ではお前を信頼して俺は頼む。大和田を助けてやって欲しい」

石丸「はいっ! 言われなくても!」

K「そういえば、お前は何故ここにいたんだ? もしや俺を待っていたのか?」


石丸が保健室を訪れる時は決まって勉強の話である。しかし、石丸は今回に限り否定した。


石丸「いくら僕が空気を読めないからと言って、流石にこんな時まで勉強しようなどとは
    言いませんよ。実は、先程ここからお借りしていた物を返しに来たのです」


K「借りていた物?」

石丸「そうだ! 謝罪するのをすっかり忘れていた。勝手にお借りしてしまい申し訳ありませんでした!」


そう言って石丸が取り出したのはKAZUYAにとってとても馴染み深いアレだった。
どうやら先程妙な行動をしていたのは、借りていたこれを戻していたからのようだ。


K「お前…こんな物を一体何に使っていたんだ?」

石丸「後できっとわかります!」


そう言って石丸はニコニコと笑っていた。KAZUYAは腑に落ちなかったが、有耶無耶にされたので
追求はしないでおく。石丸はKAZUYAに別れを告げ保健室を出ると、あることを思い出した。


石丸(まだやるべきことは終わっていないが…やむを得ん。彼女は後回しにしよう。
    今は先生に言われた通り兄弟の所に行くべきだな、うむ! 待っててくれ、兄弟!)


そして石丸は寄宿舎の方へ駆けて行った。


ここまで。

今回のようにセレスは安価やコンマで勝負を仕掛けてくることが多々あります。
まあ、ギャンブラーですしね

ちなみに連絡ですが、所用のため申し訳ありませんが今月はもう投下に来れません。
再開は2月に入ってからになります。レス返くらいはなんとか出来ると思いますが
まあ、その間は雑談でもしていただければ幸いです。続きはちゃんと書き溜めて
あるので、急に書き込みが途絶えたら事故にでもあったと思って下さい。それでは…

たしか針麻酔使ってた
中期あたりからまったく使ってなかったが


スレ住人よ!私は帰ってきた!

再開

あれ、上がってない?もっかいテスト


・・・


用も済んだのでKAZUYAは校内の見回りを始めた。その途中、廊下に一人佇む大神を見つける。


K「大神、こんな所でどうかしたのか?」

大神「西城殿。いえ、特に何かしている訳ではないのですが」

K「一人とは珍しいな。今日は朝日奈は一緒ではないのか?」

大神「先程までは部屋で共に話をしておりました。もう朝日奈が落ち着いたのと
    考え事をしたくなったが故、今は一人で当てもなく歩いていた次第」

K「そうか」


少し話でもしようかとKAZUYAも何か話題を考えるが、ふと大神の暗い顔が気になった。


K「大神は…先程の動機の件は大丈夫なのか?」

大神「あれについては問題ありませぬ」

K(あれについて『は』か。では他に悩みがあるということか?)


長年様々な患者を診て数え切れない修羅場をくぐってきたKAZUYAだが、唯一苦手なものが女心だった。
女性の複雑怪奇な心の動き、嘘、演技。これだけはKAZUYAの高い洞察力と勘の良さを持ってしても
完全に読み切ることは不可能であり、過去に舌を巻かされたこともたくさんあった。


K(大神は生徒の中では特に精神が落ち着いているし、味方ならこのうえなく頼りになるだろうが…)


何故濁したか。それは内通者問題に端を発する。


K(モノクマは内通者が複数いるような表現をしていた。勿論、俺達の混乱を煽るための
   ブラフの可能性もある。だが、内通者があの江ノ島だけではな…)


江ノ島は腕はかなりのものだろうが、正直頭が回るとは言いづらい。自分以外にも、
恐らく洞察力の高い霧切あたりには正体を看破されているのではなかろうか。
…となると、黒幕が江ノ島一人に内通者としての役割を期待する可能性は低い。


K(もし俺が黒幕なら、江ノ島一人に全てを任せるのは心配だ。予備としてもう一人は
  動かせる駒を用意する。つまり、まだ内通者が潜んでいる可能性はゼロではない…)

K(そして断言しよう。男子の中に内通者はいない)


あまり限定し過ぎるとかえって疑心が湧くだろうと苗木には控えめに伝えたが、
実の所KAZUYAは十神、葉隠、山田の三人も内通者ではないと判断していた。


K(まず十神。あいつは仲間内の不和や不安を煽る役目としては優秀だが、他の生徒と
  敵対し過ぎだ。一歩間違えば対十神で他の生徒達が団結しかねなかった)

K(内通者としては江ノ島のように味方の中に入って暗躍した方が都合が良いに
  決まっている。そして頭の良いあいつがそんな下手を打つのは有り得ないだろう)


こういう訳でKAZUYAが内通者の存在に気付いた時、真っ先に疑いが外れたのは実は十神だった。


K(…かと言って葉隠と山田もない)


そこまで親しく付き合ってきた訳ではないが、あの二人があまり頭を使うのが得意ではなく
非常に臆病なのはKAZUYAにもわかった。場の空気に飲まれやすいので騙して動かすのは簡単だろうが、
内通者として不自然な行動を取れば自分なら一目で見抜ける自信がある。


K(問題は女子だ…)


正直霧切のことも、学園長の娘で数々の事件を解決した優秀な探偵という身元を知らなければ
到底信用出来なかった。そのくらいKAZUYAに対して女心とは鬼門なのである。


K(朝日奈は江ノ島と似た雰囲気だし、嘘をつけばわかりそうなものだが
  もしかしたらあの性格すら演技の可能性もなくはないしな…)


もしあれが嘘だったら人間不信になりそうだな、とKAZUYAは密かに思う。


K(腐川も陰気な性格かと思えばあんな明るい性格も持っていた。まったく、女心はよくわからん…)


そういう意味では不二咲が男で良かった気がしなくもない。そう、良かったのだ。


K(大神も見かけは立派な武人だが、一応女子高生だ。内面がどうなっているかまではわからん。
  …特にこの集団の中で最高とも言える戦力を持っている。黒幕としては押さえておきたい筈だ)


特に、時折大神はどこか遠くを見ていたり、楽しんでいたはずなのにふと我に帰って
他の生徒達をジッと見ている瞬間があった。セレスのようにあからさまに怪しくはないが、
どこか儚さを感じさせる大神は、KAZUYAとしても実は少し気になる存在だったのである。


大神「西城殿」


K「何だ?」

大神「……いえ」


大神は何かを言いかけたが、すぐにやめた。代わりに別の話を振る。


大神「…手合わせはやはりしてもらえませぬでしょうか?」

K「(いつもなら断る所だが…)受けてもいいが、俺は格闘家としては素人同然だぞ?」


大神の表情が気になり、KAZUYAは申し出を受けることにした。心を読むことは出来なくても、
武人ならお互いの拳を交わらせればわかることもあるだろう。問題は自分が武人ではないことだが。


大神「それでも構いませぬ」


ビシッ! ドシュッ! ズバァッ! スパァァン!

体育館中に激しい衝突音を響かせながら、KAZUYAと大神が戦う。


K「うおおおっ!」

大神「むぅんっ!」

K(クッ、やはり本物を相手にするのは辛いな…)


KAZUYAとて十分に鍛えているつもりだし、多少の使い手であってもパワーと経験で
十分に立ち回ることは出来た。しかし、大神のようにまさしく世界の頂点を目指すような、
幼い頃から徹底的に訓練をしている真の武人相手では流石に分が悪い。

それなりに粘りはしたものの、当然のごとく先に膝をついたのはKAZUYAだった。


K「フゥ…フゥ…女性でありながらこれほどまでとはな…」

大神「いや、西城殿もなかなかでございました。医者にしておくのは実に惜しい」

K「…よく言われるよ」


大神は多少息が荒くなっていたものの、さして疲労しているようには見えない。


K(…俺は、今のままで生徒を守りきれるか?)


相手が一応女性なのと本業は医者だからと今までずっと組み手を避けてきたが、
一度本格的に取り組む必要があるかもしれないとKAZUYAは考え始めていた。


K「もう一度頼んでいいか?」


大神「あれほど嫌がっておられたのに、よろしいのか?」

K「たまには運動するのも良いと思ってな。気分の晴れない時は運動で発散させるのもありだ」

大神「フッ、先程同じことを朝日奈も言っていた」

K「では行くぞ!」


― 保健室前の廊下 PM5:57 ―


保健室の前に怪しい動きをする大きな影が一つ。
その特徴的な髪型はたとえ百メートル先からでも彼だと認識することが出来る。


葉隠(さーて、どうすっかなー…)


辺りをキョロキョロと見回しながら廊下を行ったり来たりするその姿はどう見ても
不審者そのものだった。そこにもう一つ特徴的なシルエットを持つ大柄な人物が加わる。


山田「お、おやおや葉隠康比呂殿?! そんな所で一体何を…?」

葉隠「うおっ! …なんだ、山田っちか。驚かさないでほしいべ…」


山田「驚いたのは僕の方ですよ。そんな所でなにをしているんです?」

葉隠「い、いや~そのな…山田っちこそなにしてんだ?」

山田「えーと、それはですねぇ…」


お互いに口ごもる。壁を見たり足元を見て気まずそうにしていると、背後に突如巨大な影が現れた。


K「そんな所に突っ立って、俺に何か用か?」

葉隠・山田「ひ、ひえええええええええっ?!」


腰を抜かしそうになる二人の前には、全身から湯気を放ち少し濡れ髪のKAZUYAが立っていた。
大神との激しい組手の後、大浴場で汗を流しちょうど今戻ってきた所なのである。


葉隠「あ、いや…その…」

山田「ちょ、ちょっとお話でもと…」


気まずい雰囲気を漂わせる二人をKAZUYAは怪訝に睨む。


K「…今日は客が多いな。まあいい。二人とも中へ入れ」


保健室の中へと促し、KAZUYAは腕を組んで二人を見下ろす。


K「で、お前達が揃って一体俺に何の用だ?」

葉隠(あー、当然っちゃ当然だが…)

山田(怒ってますよねー。証拠もないのに内通者疑惑なんてかけられたんですから…)

葉隠「いや、なぁ。その…さっきのことを謝りに来たんだべ」

山田「おや、奇遇ですねぇ。僕もですよ」

K「謝りに来た?」


訳がわからない。二人共唐突に何を言い出すのか。


葉隠「その感じだと山田っちもか。いやー、実はな? さっき石丸っちが俺達の部屋に来たんだべ」

K「…石丸が?」


葉隠「そうだべ。でな…医学書開いて先生の授業に嘘なんて何一つなかったって熱弁されて…
    あと血まみれの白衣持ってきてな…先生が黒幕と繋がってるなら、殺されかけるなんて
    おかしいだろう! そのことをよく考えたまえ! とかめっちゃ言われてよ…」


血まみれの白衣。KAZUYAが襲撃された時に来ていた物だ。一応洗濯したのだが、ただでさえ
白地に赤は目立つ上、日が経っていたためかほとんど汚れが落ちなかった。石丸はよく
保健室に勉強に来ていたから、白衣を干していた時も確かいたし話した覚えもある。

ハッとKAZUYAは先程のやり取りを思い出した。石丸はKAZUYAの白衣を勝手に
持ち出したことを謝っていた。このために持ち出したのか!と思わず目を見開く。


山田「冷静に考えれば味方同士で狂言殺人なんて回りくどいことをするよりも、いっそのこと
    誰かを殺した方が手っ取り早いし、西城医師は江ノ島盾子殿も救いましたしね」

葉隠「授業の中身が正しいなら、先生は人を助けることしかしてないって結論になったんだべ」

K「お前達…」


KAZUYAは内心感激していた。正直な話、自分一人で今の事態を収めるのはかなり苦しいだろうと
判断していたのだ。だからこそ苗木や霧切と言った頭の回る生徒達に協力を仰ぐことにした。
そして今、KAZUYAが何もしていなかった所からも別の生徒によって新たな救済が来たのである。


K(…これなら何とかなるかもしれん)


追い風が吹いて来ている。そう感じた。…ただし、その追い風はまだ決して強くはない。
何故ならこの二人、KAZUYAは内通者の可能性が低いと判断しただけでまだ完全に
信頼していないからだ。…もっと言えば、下心があった。


葉隠(あーよかった。なんとか許してもらえそうだべ)

山田(我々の前で手術をしているから、この方が正真正銘本物の医者だということは確か。
    もしこの方が内通者でなかった場合、機嫌を損ねていざという時に見捨てられては
    たまりませんからな! パーティーに一人は回復役を入れておくものですぞ!)

葉隠(見た目からしてヤベーし、先生が味方なら怖いもんなしだ! 俺は強い奴の味方だべ!)


勘の良いKAZUYAは二人から漂うそんな邪な気配も感じていたが、それでもあからさまに
敵対されて場の空気を悪くされるよりはよっぽど良かった。


K「わかった。お前達のことを許そう。ただ…」

葉隠「桑田っちと舞園っちのことか? 悪りぃけどその二人はちょっと…」

山田「仮に内通者でなくとも前科者には違いありませんからね。仲良くするのは難しいです」


K「そうか…いや、無理強いはせん」

葉隠「と、とにかくいざという時は頼むべ!」

山田「ちゃんと僕も助けてくださいよ!」

K「わかったわかった」


そう言って二人はそそくさと去って行った。


K(さて、今なら俺の策も上手く行くか?)


あれやこれやと頭を回しながら、KAZUYAは保健室で一人思案した。



― 食堂 PM6:07 ―


夕食の時間は朝食会と違って時刻が決まっている訳ではないが、食事当番が作る時間は
決まっているのだから生徒達が集まる時間というものは大体決まっている。
桑田は恐る恐る食堂に足を踏み入れた。


「!」


一斉に視線が突き刺さる。食堂には苗木、舞園、KAZUYA、霧切を除く全員がいた。
あれだけ疑心暗鬼でも、やはり集団でいた方が安心だと思ったのかもしれない。
ただしいつも以上にグループ化が進み、一人で食事をしている者が半数を占めた。


桑田「あ、あのさぁ!」


食堂の真ん中へと歩み出ると、桑田は勇気を振り絞って大声を出した。


桑田「その、さっきは暴言吐いたりして悪かったよ! 俺、ちょっとカッとなっちまってさ…
    もう、やらねえように気をつける…あと俺は内通者じゃねえから! そんだけだ!」

「…………」


謝ったものの、相変わらず桑田を見る生徒達の視線は冷たい。


腐川「ふん、どーだか…」

セレス「まあ、口では何とでも言えますからね」


嫌みが聞こえたが聞かなかった振りをする。何を言われても我慢するとKAZUYAと約束したのだ。
一応謝罪はしたのだからもういいだろうと桑田は食事を取りに行こうとするが、
例によって全く空気を読まない男が立ち上がり大きな声をあげた。


石丸「偉い! 偉いぞ! 自分の失敗を反省して謝罪するのはとても勇気のいることだ!
    桑田君はそれが出来た! 彼は謝ったのだからみんなももう許してあげたまえ!」

「…………」

石丸「どうしたのだ、みんな? 何故目を逸らすっ?!」

「…………」


食堂を見渡し問いを発するが、仲間達はただ沈黙で返す。つまりはそういうことだ。


石丸「まさかまだ仲間を疑っているのかね?! いい加減に目を…!」

桑田「バ、バカ! いいって! 時間が経ちゃそのうちなんとかなるからさ」

石丸「しかしだな…!」


食い下がる石丸を桑田は何とか黙らせようとするが、その横から意外にも不二咲が口を挟んできた。


不二咲「僕も、桑田君は悪い人じゃないと思うよ」


大和田「…俺も兄弟と不二咲に同意見だ。お前みたいなヤツに内通者なんて務まんねーよ」

桑田「お前ら…」


思わず桑田は胸の中が熱くなった。しかし次の瞬間ハッとして周りを見渡す。彼らのやり取りを
他の生徒は注意深く観察していた。過度に仲良くすればまた無関係な人間が内通者扱いされてしまう。


桑田「…ありがとよ。気持ちだけもらっとくわ」

石丸「どうだ? 折角だから君も一緒に食べないかね?」

桑田「いや、いいわ。いくら謝ったって俺が要注意人物なのは変わんねーし、一人で食うよ」

石丸「しかし、それでは余りに偲びない!」

霧切「じゃあ私が桑田君に付き合おうかしら」


いつのまにか彼らの背後、食堂の入口には霧切が立っていた。


大和田「うお、お前いつ来たんだよ?!」


霧切「ほんの少し前よ。なんだか入りづらい雰囲気だったから入口の所に立っていただけ。
    私も一人だし、私が彼に付き合ってあげればちょうどいいんじゃないかしら?」

石丸「おお、霧切君! 先程も桑田君を心配して一緒にいたし、君はとても優しい女性だな。頼む!」

桑田(バカ、余計なこと言うんじゃねえ!)

霧切「ええ、わかったわ。あまり空気が悪くなり過ぎると私も困るもの」


一瞬顔をしかめた桑田を目で制し、霧切は桑田を連れ立って一番奥の席に着いた。


桑田「せっかく時間差つけて食堂に来たのにあいつがバラしちまったら意味ねえじゃねえか」ボソボソ

霧切「大丈夫よ。このくらいならまだ変に思われないわ」ボソ


二人は小声でそれだけ話すと、あとは黙って食事を取り始めた。あくまで偶然を装わなければならない。
その時、食堂に新たな人物が現れた。苗木だ。自分の食事を取るとまっすぐこちらに向かってくる。


苗木「あれ? 桑田君、霧切さんと一緒なの? 珍しいね」

霧切「ええ、ちょっとね」


桑田「おい、苗木…その、今日は俺と飯食うのはやめておいた方がいいぞ」

苗木「どうして?」

霧切「…桑田君、さっきみんなと喧嘩してしまったのよ」

苗木「え、ケンカ? ダメだよ! ちゃんと謝った? 先生が心配するよ!」

桑田「一応さっき謝ったんだけどよ、その…」

苗木「そうなの? ならいいじゃない! 僕は気にしないからさ!」


そう言って苗木は笑顔で席に着く。そして席に着くなり低い声で囁いた。


苗木「大丈夫。先生から全部聞いてるから」

桑田・霧切「…!」


カムフラージュに適当な雑談を挟みながら、苗木は手短にKAZUYAから頼まれた内容を伝える。


霧切「そう、ドクターが…確かにその役目なら苗木君が一番適任でしょうね」

苗木「うん。これから忙しくなりそうだよ。ハハ…それにしても、大変だったね」

桑田「いや、いいんだ。全部俺のジゴージトクだしな。あそこは我慢しなきゃダメだった…」

苗木「桑田君は悪くないよ。ただ先生を庇っただけじゃないか」

桑田「…それだけじゃねえよ。せんせーから聞かなかったか? 俺があの夜何をしようとしたか…」


桑田は苦虫を噛み潰したような顔で苗木の顔を見た。もし苗木が知らないのなら自分は
言わなければならないだろう。だがこれを言ってしまえばもう苗木とは友人でいられなく
なってしまうかもしれない。そんな桑田の不安を打ち消すように苗木は優しく返事をした。


苗木「聞いたよ。…でも、僕は先生の意見に賛成だな。桑田君は確かに先生を襲おうとしたかも
    しれない。けど、やめたんだ。先生が怒っていないのに僕が君を責める権利なんてないよ」

桑田「そうか…」

苗木「全部モノクマとこの状況が悪いんだし、あんまり気に病まない方がいいよ。
    自分を責めたってどうにもならないし。…舞園さんにもそう言ってるんだけどね」

桑田「そういや舞園がいねえな…もしかして、出られねえのか?」


苗木「うん…食事はさっき僕が部屋に運んでおいた。とてもじゃないけど、
    今はみんなに会えるような精神状態じゃないから…」

桑田「…そうだな。俺だってせんせーが励ましてくれなきゃ冷静になれなかったかもしれねえし」


桑田の舞園に対する感情は今や非常に複雑となっていた。未だに完全に許せてはいないが、
自分と同じように罵られさぞかし傷ついているだろうということは痛々しいほどよくわかる。
霧切も女性らしい繊細な感受性で舞園の気持ちを察し、案じていた。


霧切「明日、舞園さんが今より落ち着いたら私も会いに行くわ。
    一人でも味方がいればきっと彼女も安心出来るでしょうし」

苗木「ありがとう、霧切さん。霧切さんが来てくれたら、舞園さんきっと喜ぶと思うよ」


少しだけ微笑み、そして苗木はまた表情を引き締めた。


苗木「それより、桑田君には先に謝っておくね」

桑田「あ? な、なにをだよ」


苗木「先生に頼まれたことをやるために、僕は先生や桑田君とはしばらく距離を取らなきゃいけない。
    もちろん今までと同じ程度には付き合っても問題ないと思うけど、もしまたモノクマが何か
    仕掛けてきたりみんなが揉めたら、僕は中立でいるために素っ気ない態度を取ると思う」

苗木「でも僕は何があっても絶対に味方だから。それを忘れないでね」

桑田「ああ、わかった。むしろすまねえな。なんかいろいろと気をつかわせちまって…」

苗木「気にしないで。僕達は友達でしょ? 今はとにかく助け合っていかないと、
    モノクマはちょっとした疑いやすれ違いにつけこんでくるんだから」

苗木「僕は先生と違って弱いし怪我人を治したりも出来ない。でも、誰かが辛い時に横に立って
    励ましたり支えることは出来ると思うんだ。だからなにかあったらいつでも気軽に話してね」ニコッ

桑田「苗木…」

霧切「……」フッ


小柄で何の才能もないただの凡人のはずの苗木だが、今はなんだか無性に頼もしかった。
こいつとダチになっておいて本当に良かったなぁ、と桑田は思う。


霧切「私も基本的には苗木君と同じスタンスで行くわ。一人一人が孤立していれば取り込みも
    そこまで難しくはないけれど、万が一二極対立にでもなったら和解は非常に困難よ」


霧切「あまりドクターの周りに派閥のようなものを作っては、それがプレッシャーとなって
    対立するメンバーが固まってしまうかもしれない。…もしそうなったら最悪ね」

霧切「だから、怪しまれないように私はもう行くわ」

桑田「おう、霧切も色々すまねえ。今日は付き合ってくれてサンキューな」

苗木「お疲れ様。霧切さんもあんまりムリしないでね」


ボソボソと挨拶を交わし、霧切は足早に去って行った。
そして霧切が去った少し後、入れ替わりのようにやって来たのはKAZUYAだった。


K「ちょうどいい。ほぼ揃っているな」

桑田「あ、せんせーどうしたんだよ?」

K「全員に話がある!」


席に着かず、食堂の入口に仁王立ちをしてKAZUYAは言い放った。


ここまでー。間が空いたのでちょっと多めに投下しておきました


>>418-420
やっぱり針麻酔使えましたか。良かった、記憶が合ってた
中期以降全く使ってないのは、やっぱり針麻酔で内蔵の手術は
無理があると思ったか、医療監修の人に指摘されたんじゃないですかね

霧切さんが原作よりも積極的という話がありましたが、それはこのSSの霧切さんは他の生徒との
親密度が高いからですね。何故かと言うと、みんなでドッジやったり授業したり遊んだり全員で行う
強制イベントが原作よりも格段に多いためです。一緒にいる時間が長いと情がわきますから。

それと、霧切さんが積極的に動かないとマズイくらい今が非常に危機的な状況とも言えます。
霧切さんに限らずみんな凄く仲が良かったのにバラバラに砕けた訳ですから…


週の真ん中だけどこっそり再開


K「お前達は舞園と桑田を…更には俺まで内通者ではないかと疑っているな?」

苗木「先生、一体何を…?」

K「疑ってもらって結構! 俺はあくまで事件を防ぐために動く。そのために言っておくが…」

K「今日の夜時間に、俺は抜き打ちでお前達全員の部屋を訪れる」ギロリ!


KAZUYAの突然の宣言に食堂内は大きくざわめく。


朝日奈「えっ?! 先生が夜中に私達の部屋に来るの?」

葉隠「夜中にこんなゴッツイのが来ても怖いし開けるワケないべ」

K「開けなくても構わん。俺がインターホンを鳴らしたらお前達は扉越しに応対すればいい」

山田「ま、まさかそれは舞園さやか殿か桑田怜恩殿のアリバイを確保してあげて
    事件に協力するつもりなのではないですか?!」

セレス「山田君にしては頭を使いましたね」

山田「山田君にしてはって…あんまりじゃないですかね?」


その反論は想定していたのか、KAZUYAは大きく頷いて続ける。


K「確かに俺だけでは信用出来ないだろう。よって、一人俺の見張りを付けることにした」

苗木「見張り?」

K「俺と然程親しくない人間…例えば十神あたりならどうだ?」

十神「…!」

セレス「確かに、十神君ならまず先生を庇ったりはしないでしょうね」

腐川「びゃ、白夜様と二人…?! そそそ、そんなこと言って白夜様を殺す気じゃないでしょうね?!」

大神「落ち着け、腐川。この状態で十神を殺せば真っ先に西城殿に疑いがかかる。出来る訳なかろう」

葉隠「でもよぉ、十神っちと先生が手を組む可能性もあるべ?」

K「それはないな。校則をよく読み直せ。ここから脱出出来るのは実行犯であるクロ一人。
  たとえ俺が誰かと共犯関係になってその人物のアリバイを確保しても俺は処刑されるのだ。
  誰がそんな馬鹿な真似をするか」


腐川「で、でもあんたが内通者ならこっそり助けてもらえるかもしれないじゃない!」

K「…モノクマがそんな生易しい奴なら良いのだが」

腐川「そんなこと言って結局なんの証拠も…!」

十神「貴様、支配者たるこの俺が愚民と手を組むと考えているのか? 一方的に利用するなら
    なくもないが、誰がこの男に頭を下げたりするか。俺に限って言えば共犯は有り得ん」


シーン。


一同「…………」

苗木「十神君なら大丈夫じゃないかな…」

朝日奈「うん、間違いないね…」

葉隠「共犯とかバカバカしくなってきたべ…」

K「それで、引き受けてくれるか?」

十神「いいだろう。ただし貴様が妙な真似をした場合はそれも報告させてもらう」

K「ああ、頼む」


思ったよりすんなり引き受けてもらい、KAZUYAも少し安心する。


K「ちなみにこれは万が一事件が発生した時、お前達を守ることにも繋がるからな」

江ノ島「は? なんであんたの深夜徘徊がアタシ達を守ることになるのよ!」

セレス「簡単なことですわ。もし先生が部屋を訪れた時中にいない人物がいれば、
     その方は不審な行動を取っていたということになります。事件が起こらなければ
     問題ありませんが、もし事件が起きた場合その方は真っ先に疑われるでしょう」

セレス「おわかりですか? これは逆に言うと、夜時間の個室にいながら
     わたくし達は完璧なアリバイを手にすることも出来るのです」

十神「なんにせよこの男は釘を刺しているんだ。事件を起こそうと考えている人間にな」

腐川「ヒッ…!」

腐川(そ、それってアタシ?! 西城にはバレてるってこと?! …ああ、やっぱりアタシに
    殺人なんて無理だったのよ! 大体、ほとんどの人間には返り討ちに遭うだろうし…)

腐川(アタシの人生、終わった…ううん、逆に良かったのかもしれない。人殺しなんて、
    大嫌いなアイツと同じ場所に堕ちる所だった…その前に気付けて良かったのよ)

KAZUYA「複数回訪れる予定だ。真夜中や早朝にも来ると思うが、きちんと応対するように。以上」


いつもはマイナスにしか働かない腐川の被害妄想だが、今回ばかりはプラスに働いた。
腐川の切ない気持ちを知ってか知らずか、KAZUYAは説明を終えると食堂を立ち去る。


十神(フン、西城の奴考えたじゃないか。俺の動きを監視しつつ全員を牽制するとはな。
    面白くなってきた。難しいゲーム程やり甲斐があるというものだ。クククッ!)

セレス(チッ…余計な真似を。まあ、どうせまだ計画は完成してません。今夜だけだといいのですが…)


秘めた殺意を心に持つ二人は今夜も意味深に嗤うのだった。


・・・


桑田「あ! 苗木わりぃ。俺行かねえと。じゃあ、また明日な!」

苗木「うん、また明日ね」


桑田は食べ終わった食器を急いで下げると走ってKAZUYAを追いかけた。


桑田「おーい、せーんせー!」


呼ばれて振り返る。


K「どうした? また何かやったのか?」

桑田「いくら俺だってそんな短時間に何度も問題起こさねーから!
    その、さぁ…せんせー、なんか疲れてね?」

K「そんなことはない。今は疲れている場合ではないからな」

桑田「俺にまで気ぃつかうなって! なんか顔がすっげー疲れてるぜ?」

K「…………」

桑田「ちょっと俺の部屋来てくれよ。いいモン見せっからさ!」

K「良いもの?」


桑田に言われるままKAZUYAは桑田の部屋へと入ったが、その中を見て仰天してしまった。
ほとんど物が置かれていなかった苗木と舞園の部屋。壁に自作と思われる金言の
貼紙をしたり自分なりに工夫して飾り付けされた石丸の部屋。この三つはわかる。


K「随分と充実した部屋だな…」


桑田の部屋はまさしく私室と言うか、色々と物が置かれ壁にはポスターも貼られている。
これが本当に監禁されている人間の部屋なのだろうかとKAZUYAは首を傾げた。特に野球関連の
道具はわかるが、CDや音楽プレーヤー、ギターがあるあたり音楽も本当に好きなようだ。


桑田「全部モノモノマシーンから出たんだぜ! ホント便利だよなー、あのマシーン」

K「大概のものはあれで揃うという訳か…」

桑田「ま、あとは俺のコミュ力のタマモノだぜ! 誰がなにをゲットしたか毎日こまかく
    チェックしてさ、こっちが持ってる物と交渉して物々交換で集めてったっつーわけ。
    めっちゃメダルも探しまくったしまさしく探偵気分、みたいな?」テヘヘ

K「…凄いな」


苗木達の部屋がシンプルなのはあまり欲がないからだろうな、とKAZUYAはぼんやり思う。


K「それにしても汚い。脱いだ服くらいちゃんと畳め。ベッドも綺麗にしろ。あと…」

桑田「まあまあ、いいじゃん! せんせーはせんせーでもお医者さんの先生だろ?
    そーゆー親とか学校の先生みたいなことは言いっこなしで!」

K「…言いたくもなる」


呆れ顔のKAZUYAに桑田はマイペースに返す。ただ、招待しておいて座る場所もないのは
流石にマズイと思ったのか、手早くベッドを片付けてそこにKAZUYAを座らせた。


K「それで、見せたいものとは何だ?」

桑田「ジャジャーン、これだよこれ!」

K「ギター?」

桑田「そう。ほらさぁ、前にせんせーにきつく言われたことあるじゃん?」


あの糾弾会の夜、桑田はKAZUYAと話した時に言われた言葉が強く脳裏に刻まれていた。


K『お前は歌手を目指しているのだろう? だったら、一日3時間でもいいからとにかく
  一週間続けて練習をしてみろ。きっとお前の指や喉はボロボロになることだろう』

K『だがそれは全ての成功者が本来辿る道だ。お前は才能があるからと野球で楽をしすぎた。
  野球以外のことを真剣にしたいと思うのなら、他の人間と同じように努力する必要がある』

K『そしてその程度の努力も出来ないなら二度と野球以外のことをしたいと言うな。努力を
  嫌がる人間に夢を見る資格などない。男なら一度やると決めたことくらいやり通せ――』


桑田は練習で皮が剥けタコも出来た指をKAZUYAに自慢気に見せた。


桑田「マジでさー、あれから俺も改心してちゃんと毎日真面目に練習してんだよ!
    で、更にデビルかっこよくなった俺の演奏を披露しようと思ったワケ!」

K「ほう…自信があるのだな。では聴かせて貰おうか」

桑田「シビれてくれよ!」


そして桑田はギターを掻き鳴らして歌い始めた。はっきり言ってKAZUYAはあまり
こういう激しい系統の音楽はよくわからないのだが、昔面倒を見ていた加奈高の
生徒達のバンドを思い出し、なんとも言い難い暖かい気持ちを思い出したのだった。


桑田「どおどお? 俺の演奏? マキシマムかっこいい?」

K「俺は音楽はよくわからないが、なかなか上手いんじゃないか?
  昔校医をしていた高校のバンドの演奏を思い出したよ」

桑田「それ、あんま上手くねーってことじゃ…」

K「いや、そんなことはない! 俺の耳が良くないだけだ。絶対に成果は出ているさ。
  続けた方が良い。ちゃんと練習するならその筋の人間に紹介してやってもいいぞ」


桑田「マジで?! ちなみにどんな知り合いがいるんだ?」

K「俺は各業界に顔がきくからな。芸能界だけでも、芸能プロダクションの社長、
  監督、俳優、アイドル、モデルと多数の知り合いがいる」

桑田「え、アイドル?! アイドルにも知り合いいんのっ?! だれよ?!」

K「そうだな。九条沙樹や森山千夏なら名前くらいは知って…」

桑田「マジでええええええっ?! 知り合い?! その二人と知り合いなのかよっ!」

K「ま、まあな」

桑田「俺大ファンなんだよね! なあなあ、ちゃんと練習して上手くなったら紹介してくれる??」

K「し、真剣に今後も練習すると約束するならな」

桑田「やるやる! いやー、やっぱ努力も大事だわー。ヘヘっ!」

K(現金な奴め…)フゥ


その後、桑田と雑談をして元気を分けてもらいながらKAZUYAは保健室に帰った。


桑田の真面目度が上がった。球速が上がった。
身体能力と動体視力が上がった。


そして短いけど今日はここまで

上がるの音楽の能力じゃねーのかよwwww
ここの桑田好きすぎる
乙乙

パワーアップしてもベースは桑田だからなぁ…
あと3回ぐらいパワーアップしてようやくノーマル霧切さんレベルじゃね?

霧切さんは原作から既にチート(ボソッ)

自由行動でもそのチートっぷりをいかんなく発揮してくれるので
是非会ってもらいたい所。というか全く会わないと…ね
流石に反逆の霧切モードとかは用意してないけどマイナスかも?


>>474>>479
野球、というか運動系の才能は凄いけどそれ以外は並かそれ以下ですからね
というか十回パワーアップしても頭脳面で霧切さんには並べないでしょう


週末なので色々スレを見たりネットサーフィンしていたら…
なんとこのスレのことを宣伝してくださった神達を発見。ありがとうございます!
しかも中にはドクターK全巻買って下さった猛者もいて、涙で画面が…
とりあえず真船先生に代わってお礼をば…1もドクターKのためこれからも頑張ります。
(あ、ちなみに超高校級の忍者スレ読んでました。苗木と残姉カッコ良かったです)

1はね、嬉しくなるとつい投下(や)っちゃうんだ。ランランルー!


― 倉庫 PM9:52 ―


夜時間に入る前、不二咲千尋は自分がジャージを持っていないことを思い出し、慌てて倉庫へ
取りに来ていた。男の子らしい青のジャージをバッグに詰めていると、突然声を掛けられる。


「もうすぐ夜時間ですわよ」

不二咲「ヒッ!」


振り向くと倉庫の入口にセレスが立っていた。無表情に突っ立つその姿は人形のように見える。


不二咲「あ、セレスさんも何か荷物を取りに…?」

セレス「ええ。夜時間は外出禁止ですからね。化粧品の予備を取りに来ましたの」

不二咲「そうなんだぁ」

セレス「こんな時間にこんな所に一人でいると危ないですわよ」

不二咲「う、うん。そうだよねぇ」

セレス「もしかして、わたくしを警戒しています?」


口元に手を近付け、セレスは微かに笑う。不二咲は女子全般とそれほど親しくないのだが、
特にセレスはどこか苦手だった。アクが強いし、ポーカーフェイスで腹の内が全くわからない。


不二咲「そ、そんなことないよぉ。だって、みんな仲間だもん」

セレス「今朝まではそうでしたわ。でも今はどうでしょうか…?」


セレスの氷のような横顔に不二咲はヒヤリ、と背中に冷水を垂らされた気がした。


セレス「わたくし、不安で不安でたまりませんの…」

不二咲「…セレスさんも不安になったりするの?」

セレス「あら、心外ですわね。わたくしもあなたと同じか弱い女子ですのよ?」

不二咲「あ、ご、ごめんなさい…」


か弱い女子と言われてチクリと心が傷ついたが、不二咲はぐっとこらえた。
そうだ。弱い自分とは今日でお別れなのだからと言い聞かせる。


セレス「ええ、わたくしは今非常に不安ですの。幸いに、わたくしの秘密は公表されても大した
     問題はないのですが、人によってはまさしく身の破滅をもたらす内容のようですし…」


ここでセレスはチラリと不二咲を見る。心臓を鷲掴みにされたようで、一瞬息が止まった。


セレス「仮に折角ここからの脱出が叶ったとしても、自分の居場所や大切のものが
     なくなってしまっていたら、何の意味もありませんものねぇ?」


またチラリとセレスは不二咲に視線をやる。その視線が怖くて、不二咲は蛇に睨まれた
獲物のように首をすくめた。さっさとセレスを振り切って倉庫から出てしまいたいのだが、
入口をセレスが塞いでいる以上、無理に会話を途中で切って逃げたら怪しまれるだろう。


不二咲「え、えっと…」

セレス「西城先生は夜に見回りをすると仰いましたが、本当にするかわかりませんわ。単に
     わたくし達を牽制するためのブラフかもしれませんし。また本当だとしても、危険を
     差し引いても守らなければならない秘密のため、行動に移す方もいるやもしれません」

不二咲「…………」


セレスは一体自分に対して何が言いたいのだろうかと不二咲は悩む。
ただ、彼女の冷たい瞳はなんだかとても怖いと本能が伝えてくることだけはわかった。


セレス「…という訳です。わたくしは怖いので一刻も早く部屋に戻らせてもらいますわ」


そう言うとセレスは倉庫の中に歩き出し、不二咲のすぐ横まで来た。


セレス「不二咲さんも早くお戻りになられた方がよろしいですわよ」

不二咲「あ、う、うん! もう戻るよ。おやすみなさい!」


チャンスと言わんばかりに、慌てて不二咲はセレスの脇を通り抜け部屋へ帰っていく。
セレスはその背中を横目で見送ると、何も取らずにまっすぐ戻って行った。



― 廊下 PM11:03 ―


クリップボードに手製の名簿を貼付け、KAZUYAは生徒達の部屋を順番に回り始めた。
まず最初に十神を呼び、現在十神は個室とホールの中間の位置に立ってKAZUYAを見張っている。


十神「…………」

K(すぐ近くに立つのではなく、あえて離れた所から監視しているのは俺を泳がせて
  様子を見ているのだろうな。…単に近付くのが嫌なだけかもしれんが)


普通に話せばギリギリ聞こえる程度の距離。これがそのままKAZUYAと十神の心の距離でもある。


K(霧切は出た。次は苗木だ)


ピンポーン。


苗木『はい』

K「俺だ」

苗木『あ、今開けます』


別に出なくても構わないのに、苗木はわざわざ扉を開けて顔を出してくれた。


苗木「お疲れ様です。思ったより早い時間でしたね」

K「ああ。まずはちゃんと全員揃っているか確認しようと思ってな」

苗木「次に来る時は多分深夜ですよね? 僕寝ぼけてるかも」ハハ

K「寝ぼけていてもいい。チャイムに出てさえくれればな」フッ

苗木「はい。それじゃあ一旦おやすみなさい」

K「ああ。ではまたな」


パタン。


KAZUYAは扉を閉めすぐ隣、舞園の部屋のチャイムを鳴らす。


舞園『…はい。どなたですか?』

K「俺だ。西城だ」

舞園『あ、先生ですね? 今開けます』


…カチャリ。


K「夜時間にすまないな」

舞園「…どうかされたんですか?」

K「実は…」


KAZUYAはまだ説明をしていなかった舞園に見回りのことを話す。


舞園「事件を起こさないため…ですね」

K「そうだ。疲れているのに悪いが、協力してくれないか?」


舞園「もちろんです」


そう言って舞園は少し微笑んだが、その顔には明らかに疲れが見えていた。


K「…舞園、耳を貸してくれ」

舞園「?」


KAZUYAは舞園の耳元に顔を近付ける。


K「あと俺が来るのは十二時半前後と朝の四時だ」

舞園「! いいんですか? 十神君に見られているんじゃ…」


心配する舞園にKAZUYAは優しく笑いかけた。


K「ただでさえ疲弊しているのに、いつ起こされるかわからん状態ではゆっくり休めんだろう?」

舞園「気を遣って頂いて本当にすみません…私、いつもご迷惑を…」


K「そう思うなら笑ってくれ。お前の笑顔を見れば苗木が喜ぶ。…俺もな」

舞園「西城先生、本当に…いつもありがとうございます」ニコ…

K「ウム。ではまた後ほど」


パタン。

舞園の部屋の扉を閉め、次にKAZUYAは腐川の部屋のチャイムを鳴らすが…


腐川『…誰よ』

K「俺だ」

腐川『ちゃんといるわよ。じゃ』ブツッ。

K「…………」


仕方ないな、とKAZUYAはため息をついて隣の不二咲のチャイムを鳴らす。

ピンポーン…カチャ。


不二咲「(ソーッ)…はーい。あ、せんせーい!」


不二咲は少しドアを開け、相手がKAZUYAだとわかるやニコニコ笑いながら扉を開いた。
KAZUYAもその笑顔につられて笑うが、すぐに顔を引き締める。


K「不二咲、誰が来たか確認してから扉を開けないと駄目だろう」

不二咲「あ、ご、ごめんなさい…」

K「まあ、たまにはそういうこともある。次から気をつけてくれればいい」


不二咲が落ち込んだ様子を見せたのでKAZUYAはすぐさまフォローをいれた。頭では男だと
わかっていても、素直で可愛げのある不二咲は何だか守ってやりたくなるのだ。


K(性別を差し引いても小柄で小学生のように見えるのは変わらないしな)


不二咲は十神が離れた所にいるのを見ると、小声で囁く。


不二咲「エヘヘ。先生…僕ね、今とってもドキドキしてるんだ! 早く時間にならないかなって」

K「はやって勝手に部屋を出ないようにな。時間になったら俺が迎えに来る」


不二咲「わかってます。じゃあ、僕待ってますね!」フリフリ!


バイバイと手を振る不二咲にKAZUYAも右手を挙げて応えた。
次にKAZUYAは朝日奈と大神の在室を確認し、桑田の部屋のチャイムを鳴らす。

ピンポーン…ガチャッ!


桑田「ウーッス! せんせー、わざわざゴクローさんっ!」

K「…桑田よ。恐らく知らないのだろうが、目上の人間にご苦労は失礼に当たるぞ…」

桑田「え、マジで?? じゃあお疲れちゃーんならいい?」

K「…………」

桑田「あ、ちょっ、待ってくれよ!」


黙って踵を返そうとしたKAZUYAのマントを、桑田は慌てて掴んで引っ張ると部屋に引き込む。


K「…何だ?」


十神に聞こえないよう声を落として桑田は囁いた。


桑田「実は俺さぁ、寝起きがすっげー悪いんだ。だから、次何時に来るか教えてくれねえかな?」

K「お前という奴は…」

桑田「頼むよ! 爆睡してると起きられないかもしれねーじゃん! そうなったらマズイだろ?!」


KAZUYAは呆れるが、万一本当に寝過ごされたりしたら困る。この見回りは事件牽制の意味もあるが、
セレスが指摘した通り事件が起こった際に無実の生徒を守るアリバイ確保の面が強かった。
なので桑田が窮地になっては意味が無いのだ。仕方がないのでKAZUYAは教えてやることにした。


K「…ハァ。本来ならお前だけ特別扱いする訳にもいかんが、今日は嫌な予感がする。
  今回だけだからな? 次は十二時半頃に訪れる予定だ」

桑田「サンキュー! あれ、結構すぐだな?」

K「一度来たら当分来ないと思われたら抜き打ちの意味がない。故に間隔はランダムだ」

桑田「ふーん。わかった。じゃ、また後で!」


K「ああ。ちゃんと出るんだぞ」

桑田「へーい」


そう言って桑田と別れた。その後は葉隠、山田、セレス、江ノ島と順に回って行く。


ピンポーン…ガチャリ。


大和田「先公か」

K「大和田、さっき話したことは覚えているな?」

大和田「ああ、不二咲の件だろ? 忘れてねえよ。それにしても、あんたはまだしも
     なんでアイツ俺にまで秘密を打ち明けたいなんて言うんだろうな…」ボソボソ

K「お前に憧れているからさ」

大和田「ハ? 憧れ? 俺に…?」

K「それについては直接本人に聞いてくれ。…それより、もう一つ頼みがある」

大和田「あんだよ」


KAZUYAは大和田にあることを頼む。


大和田「ああ? …そりゃ俺は構わないが、いいのか? 不二咲はマズイんじゃ…」

K「問題ない。言い訳は俺がするから、お前はただ言われた通りに来てくれればいい」

大和田「…わかった。じゃあ後でな」ボソ

K「頼んだぞ」


そしてKAZUYAは扉を閉め、最後の一人・石丸の部屋へと向かった。

ピンポーン…


K(当然だが、こんな早い時間に寝てる人間は誰もいないな。特に今日は色々あった。
  生徒達は神経が高ぶっているし俺も疲れている。早く済ませて一旦部屋に戻ろう)

K「……?」


しかし、チャイムを鳴らしても反応がない。いつでも何があってもテキパキと動く
石丸にしては珍しいなと思いつつ、KAZUYAはもう一度チャイムを鳴らした。


ピンポーン。ピンポー…ガチャッ!


石丸「で、出るのが遅れて申し訳ない!」


この男、既に寝間着に着替え寝ぼけ眼をこすりつつ現れた。


K「いや…」

石丸「やあ! 十神君も、こんな時間に…」

十神「これで全員部屋にいたな。俺は戻るぞ」


スタスタスタスタ、ガチャン!


石丸「…………」

K「…………」


よっぽど石丸の熱苦しさが嫌なのか元々面倒だったのか、十神は石丸の顔を確認すると
競歩の如き早さで部屋に戻り扉を閉めてしまった。KAZUYAは気を取り直し石丸に向き直る。


K「お前…まさか寝ていたのか?」

石丸「勿論です! 夜時間ですよ? 人間は夜になったら寝なければいけません。
    適度に睡眠を取らないと体に悪いし、勉強の効率も落ちてしまいます」

K「…ああ、そうだな」


というかよく寝られたなとKAZUYAは思ったが、よくよく考えればこの男は
監禁初日の夜にも普通に寝ていたのだった。一体どういう神経をしているのだろう。


石丸「あ、ご安心を! 夜早く寝る分朝は早く起きて課題も早朝やっております!
    ちゃんと毎日欠かさず課題に励んでおりますので心配なさらずとも結構です」

K「いや、お前に関しては全く心配していないから安心しろ」


どんな状況でも規律をキッチリ守りペースを崩さない石丸の姿勢に、KAZUYAは感心と呆れの
両方を含んだ溜め息を吐いた。ある意味こいつを見てると安心するな、とすら思えてくる。


石丸「それにしてもお疲れ様です。もしや先生はこれを毎晩続ける気では…?」

K「俺はそのつもりだが」

石丸「いけません! 先生一人だけにこのような作業をさせる訳には! 明日からは
    二人一組の当番制にしましょう。明日の朝食会で僕から話します」

K「まあそうしてもらえるなら俺は助かるが…三人一組の方がいいな」


二人だけだとどちらかが殺意を持っていたり、あるいは先程の大和田のように
精神が不安定になっている時は危うい、とKAZUYAは危惧した。


石丸「それも含めて明日話し合いましょう」

K「ウム。あとそれとは別件なのだが…」

石丸「?」


・・・


ここまで。

ちなみに裏話ですが、親密度が高い生徒がドアを開けてくれます
上手く安価を取っていると、全員が開けてくれていたかもしれません

腐川が数回のやり取りで開けてくれるようになるビジョンが全く見えないがww

>>483

見てくださりありがとうございます!
このスレのおかげでいまやってるスレの山田がいるようなものですので感謝しています!

まあ、うちの山田はKの技術に真田の外道が混じったあれですがね!


TETUは外の世界でもたくましく生きてそうと思ったり。
麻薬工場襲撃に同行したり

甘いといっても状況は依然厳しいからな
大和田は何とか心を開いてくれたが腐川や十神セレスといった危険人物は相変わらずだし
大神や江ノ島(戦刃)もこのまま何もせず待機って事はなさそうだし…
3章はたぶんオリジナル展開になるだろうけど、こいつらが全員勝手に暴れだしたらどこかで絶対犠牲者が出るような…

>>503
全員は言いすぎでしたすみませんw腐川セレス以外の全員かな。今思うとさくらちゃんは
開けても良かったかもしれないですね。自由行動と場所選択で二回ずつ会ってるから


>>506
いえいえ。むしろ自分が読んでるスレ主さんがうちのスレ読んでるとか光栄です!
というか本当に買って頂きありがとうございます!ありがとうございます!

しかもK2まで買って頂けたとか…KAZUYAがいないことに抵抗あってまだ買ってなかったのですが、
これを機会に買います。それにしても、結構大きな書店に行ったのに一冊も置いてないとか…
一応20巻も出てるのに。ダンロン2巻も置いてなかったしもうあの本屋で買うのやめてやる

甘いという意見が出ていますが、ひとえに読者の皆さんのご協力のお陰ですね
もし安価がもっと乱れていたらその場合は前スレのIFエンドみたいにもっと
ギスギス鬱方向に進んでいましたし。また>>507さん指摘通り依然状況は
厳しいままです。今後どうなるかはご期待ください。

再開しますがその前に。KAZUYAの二度目の訪問は12時半と書きましたが「十二時」に
変更させて下さい。特に深い意味は無いのですが、夜更かしさせすぎは可哀想なので


最初の見回りを終え、KAZUYAは保健室に向かっていた。
だが、まるでKAZUYAを待っていたかのように学園の入口にはモノクマが立っていた。


モノクマ「やあ、先生」

K「…………」


KAZUYAは無視してモノクマの横を素通りしようとする。


モノクマ「事件は起きないって本気で思ってる?」

K「…!」


思わず立ち止まる。それがモノクマの狙い通りだとわかっているのに。


モノクマ「先生さ、どうして江ノ島さんを助けたの?」

K「! …校医として生徒を助けるのは当たり前だ! それがおかしいのか?」

モノクマ「助けても先生にとってマイナスにしかならないかもしれないよ?」


K「何故生徒を助けてマイナスになる? 俺にとって生徒は全員大切だ! 全員助ける!」

モノクマ「…それがどんな生徒であっても?」

K「江ノ島の外見が派手だからそんなことを言うのか? 俺はそんなことで差別しないさ」


KAZUYAは背中に冷や汗をかくのを感じた。これは誘導尋問だ。KAZUYAが江ノ島の
正体に勘付いていないとシラを切り通さなければ、彼女は消されてしまう…!


モノクマ「フーン、あくまでとぼけるつもりなんだ?」

K「何の話だ。訳のわからんことを言うな!」

モノクマ「本当は全部知ってるくせに。ま、いいや。ねえ先生、外に出たい?」

K「…当たり前だ。何故そんな当たり前の質問をする?」


KAZUYAが誘導尋問に引っ掛からなかったと見るや、モノクマは別のカマをかけてきた。


モノクマ「先生は知ってるはずだよ。外がどうなっているか」

K「何を言っている…何故唐突に外の話をするんだ?」


モノクマ「ここから出る必要はない。むしろ出たくない。本当はそう思ってるんでしょ?」

K「そんな訳があるか! こんな所、一刻も早く脱出したいに決まっている!」


KAZUYAが気にかけているのは監視カメラだ。この会話も記録されているはずである。ただでさえ
内通者疑惑が再燃しているのに、会話を部分的に抜き出されて生徒を煽る道具にされては堪らない。
KAZUYAは発言に細心の注意を払いながら、モノクマの質問に答え続けギロッと睨みつけた。


K「もういいか? これで気も済んだろう」

モノクマ「――先生はわかっていたはず。あの場でどうするのが正解だったか」


去ろうとするKAZUYAに、モノクマは尚も畳み掛けた。聞きたくなどないのに、
その言葉は人を引き留める奇妙な力がある。KAZUYAは再度足を止めた。


K「…………」

K(……正解、か)


――そう、江ノ島を見捨てれば良かったのだ。


江ノ島はけして軽傷ではないものの、致命傷ではなかった。プロの医師であるKAZUYAがきちんと
止血を施せば一、二時間放っておいた所で別に死にはしない。しかも江ノ島は敵のスパイなのだから、
適当に処置して生徒達をなだめる側に回った方が当然良かった。だがKAZUYAの医者としての本能が
怪我人を放置出来なかったのだ。モノクマはそのことを責めたいのだろう。


モノクマ「ぶっちゃけ先生のせいだよね? 仲良しだったみんなの心をバラバラにしちゃったのは」

K「フン、舞園と桑田に続いて今度は俺をなじりに来たのか。飽きない奴だな。
  だが俺はその程度の揺さぶりにはビクともせんぞ。逆に答えてもらおうか」

K「貴様の目的は何だッ!!」カッ!


KAZUYAの眼に力が入る。だが、モノクマは不気味に笑い始めたのだ。


モノクマ「うぷぷ。うぷぷぷぷぷ…」

モノクマ「目的? 目的なんか別にないよ」

K「何…?」




モノクマ「強いて言うなら」











モノクマ「          絶          望          」











モノクマ「――それだけだよ」





機械越しに誰かに見つめられているような錯覚を感じ、KAZUYAは寒気がした。


K(違う…こいつは…!!)

モノクマ「先生には悪いけどさ、事件は起きるよ……絶対にね」

K「…………」


KAZUYAは今度こそ踵を返し保健室に向かった。ここにいたくなかった。


K(俺はずっと勘違いしていた…)


KAZUYAは今までこの事件をスナッフムービー(流通目的で殺人の様子を撮影した映像)の
作成が目的だと思っていた。少なくとも、何らかの営利的理由だと。だが違ったのだ。


K(金が目的ではない…誰かのためにやっている訳ではないのだ…)

K(黒幕は純粋に! ただ自分の楽しみのためだけに! こんなたいそれたことを始めた…!)


今までの発言からここの映像を誰かに公開している可能性は高いが、それは黒幕にとって
あくまでオマケに過ぎない。一番の目的は自分の欲求を満たすために違いないのだ。


K(狂っている――!!!)


保健室に戻るとすぐさま扉を閉めた。安全な自分のスペースのはずなのに、
KAZUYAはどこか落ち着かず乱暴に椅子に座り腕を組んで考え始める。


K「そういえば…」


このタイミングでKAZUYAは非常に嫌な事実を思い出した。今まではあまり意識して
いなかったが、ここの生徒達は皆揃って何らかの記憶障害を起こしている。


K「まさか…」


体を調べたか何かした時に発生した副作用だとKAZUYAは考えていた。
だが、もし記憶障害が起こることを黒幕が想定していたのなら。

…いや、むしろ生徒達の記憶を意図的に消すことが黒幕の目的だったなら。


K(ば、馬鹿な……そんな馬鹿げた話、あるはずが……)


KAZUYAがこの学園に来た時、生徒達は既にお互いを見知っていた。

“友人同士だった”

それがここに来た時はその事実を忘れ、今は互いに疑い合い憎み合い殺そうとすら考えている。


K(これが黒幕の真の計画だったというのか…?! いや、まだ何の根拠もない。ただの憶測に過ぎん!)


だが不思議なことに、外れて欲しいと思う直感ほどよく当たってしまうものなのである。
経験上、それは身に沁みてよくわかっていた。しかもKAZUYAの勘はよく当たるのだ。

全身に汗をかき、急に眩暈と吐き気を覚えたKAZUYAは栄養剤を飲み込み無理やり不安を押さえ込んだ。


・・・


モノクマ「うぷぷ…さーて、あとは最後の仕上げかな?」


― 桑田の部屋 AM0:25 ―


ジャカジャカジャッジャーン♪

KAZUYAの二度目の巡回の後も、桑田は夜更かししてギターを掻き鳴らし真面目に歌の練習をしていた。
朝も叩き起こされるのだから本当は早く寝た方が良いのだが、今は最高に気分がノッているのだ。


桑田「yeah-yeah~♪」


昼間にあったことなどなんのその、上機嫌だった。桑田は現在この学園にいるメンバーのうち、
最も気分の切替が早い。勿論一番の理由はそれだが、今回はもう一つ理由があった。


桑田(ちゃんと練習したら芸能界に紹介してくれるってよ! 紹介! なんだよ、わざわざ
    希望ヶ峰通う必要なんてなかったじゃん! ここ脱出したらいきなりデビューかな~)

桑田(いやぁ~、真面目に努力してみるのも案外悪くねーわ! ウッヘッヘッヘッ!)


ニヤニヤ笑いながら、複雑なコード捌きに挑戦してみたりする。思えば、野球選手の桑田が
ミュージシャンになりたいなどと言うと、決まって周囲の人間は眉を顰めた。人によっては
説教をする。勿論チャラチャラした桑田の態度にも問題はあるのだが、野球の才能があるから
野球をするのが当然、という空気が桑田は嫌で嫌で仕方がなかった。


桑田(ぶっちゃけ野球は好きだよ。ガキの時からずっとやってるし、プロになるのもいいなって
    思ってる。でもさぁ、歌うのも好きなんだよ! こう、カッコ良くギターを鳴らして…)

桑田(…親も学校のヤツもみんな俺に野球をやれって言う。好きだけどやれやれ!って
    言われたらやりたくなくなるっつーの! 野球だけが人生じゃねーんだからさ!)


思えば桑田の軟派さに大概の人間が敬遠してしまう中、桑田の言葉を真剣に聞き、そして
やるからにはちゃんとやれと発破をかけてくれたのはKAZUYAが初めてだった。KAZUYAの発言は
一つ一つ重みがあり厳しいものも多いが、その代わり常に相手のことを考えて話していた。

…桑田の演奏をちゃんと聞いてくれたのも誉めてくれたのもKAZUYAだけだ。


桑田(みんなお前みたいなチャラいヤツにはムリだろって見向きもしなかった。
    俺も意地になって別に本気じゃねーしって言ってろくに練習しなかった)

桑田(…でも、今は目標が出来たし応援してくれる人も今はいるしな!)

桑田「よーし、この調子で次行ってみよー! 次は…」


ピンポーン…


桑田「あれ? また来たのか?」


突然のチャイムの音に、桑田は怪訝そうに首を傾げる。
もうしばらくKAZUYAは来ないはずだが、何かあったのだろうか。


桑田(そういやさっき来た時やけに顔色悪かったような…)


KAZUYAはモノクマとの対話で受けた衝撃を生徒達に気取られぬよう、細心の注意を払って
二度目の見回りを行ったが、付き合いの長い何人かの生徒には見抜かれてしまっていた。
もちろん、共に行動している時間が長い桑田もそのうちの一人である。


桑田「どうしたんだよ、せんせ…」


ガチャ。




桑田「う、うわああああああああああああああっ?!」



果たして桑田の見たモノとは。KAZUYAは事件を阻止できるのか?!


マガジン風に書いてみた。今回はここまで


報告です。

ただいまを持ちまして前スレが無事完走と相成りました。
応援ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

自分でも書きながら大概チートだよなコイツ…って思ってたんですが、
実際こんな感じなんですよね。脅迫事件では犯人の正体を推理してたりもするし

まあ、各生徒達の得意分野では必ず負けている設定なのと、こんなチート野郎なKを
いとも簡単に蹴散らす我らが妹様マジパネエ、そこにシビれる憧れる!って思って頂けたら…

案内あったから見たけど前スレ埋めも同時でやってたのか
筆がノったらバンバンいけるタイプか、羨ましい…

>>533
自分の書くスピードが劇的にアップしたのは通勤時間を有効活用し始めてからですね
通勤時間に携帯で第一稿をガガガッと書き、PCで校正→校正→投下前最終校正って感じです

ちなみにこれ以外に別のSSを二つほどこっそり書き溜めているんですけど
一つは携帯あり、一つはPCのみで執筆したら進行速度が3:1くらい差がつきました
恐らくPCだと過去の文章を見直せるからつい何度も校正しちゃって進まないのでは
ないでしょうか。とりあえず本筋だけ携帯でバーっと書くと案外早いもんですよ

前回カットしてしまったKAZUYAの二度目の見回りですが、やっぱりいれることにしました



― 寄宿舎廊下 AM0:02 ―


二度目の見回りだ。KAZUYAは何とか体調を整え再び十神を呼び出した。


十神「…随分早いな。まさか毎晩一時間おきにやるつもりではないだろうな」

K「偶々だ。安心しろ。毎日これではかえって疲労からトラブルが起きてしまう」


それだけ聞くと再び十神は定位置に着く。
先程と同じように霧切から順番に回り始めた。

ガチャ。


苗木「お疲れ様です。思ったより早かったですね」

K「次は流石に時間が空くから安心して寝ててくれ」ボソ

苗木「はい。あれ? …先生、どうしたんですか? なんだか顔色が真っ青ですよ?」

K「! …いや、特に何もないぞ? 少し疲れが出ているのかもな」


苗木「本当ですか? 見回りは仕方ないけど、明日はしっかり休んでくださいね!」

K「ああ、すまん」

K(…苗木には見抜かれてしまったか。まあ、監禁当初からよく一緒にいるし、
  見た目によらずしっかりしてるというか、よく周りを見ているからな)


ガチャリ。


舞園「…先生」

K「舞園、わざわざ出てこなくても大丈夫だぞ? インターホンで応対してくれれば」

舞園「いえ、先生が折角来てくださっているのにそれではあんまりです。…西城先生」

K「何だ?」

舞園「何があったんですか?」

K「…大丈夫だ。何もない」


ヒヤリとするが、苗木にも気付かれていたため舞園に見抜かれるのは想定内だった。
表情を微動だにさせずKAZUYAは落ち着いて返す。だが、舞園の勘は想像以上に鋭かった。


舞園「(嘘です…私に心配をかけないために)…あまり無理、なさらないで下さいね」

K「ありがとう。お前も今日はもう寝た方がいい」

舞園「はい。あの、おやすみなさい」

K「ああ、おやすみ」


腐川の在室を確認し、不二咲の部屋のチャイムを鳴らす。
今度はインターホンで確認してから開けてきた。


不二咲「先生~!」

K「ウム。これが終わったら迎えに来るからな」ボソ

不二咲「はい! 楽しみだなぁ…ん? 先生、ちょっと顔色悪いような…」

K「気のせいだ。ここは照明が暗いからな。まったく、今度モノクマに文句を言ってみるか」


不二咲「そうですね。居住区に赤い照明ってなんだか落ち着かないですよねぇ」

K「では、また」

不二咲「はぁい」


再び朝日奈、大神を訪ね桑田の部屋のチャイムを鳴らす。


ガチャッ!


桑田「ウス! お疲れッス」

K「ああ」

桑田「じゃ、また!」

K「ああ」


バタン。


K(気付かれなかったな…まあその方が都合が良いが)

桑田(…あれ? なんか今変だったな。どこがって言われるとよくわかんねーけど…ま、いっか)


その後、無事見回りを終えKAZUYAは不二咲の部屋に向かった。
紅潮した顔で、既に準備万端の不二咲が出てきた。


不二咲「なんだか、ドキドキする。…もし大和田君が受け入れてくれなかったらどうしよう」

K「大丈夫さ。あいつは弱っている人間を傷つけたりするような奴じゃないだろう?」

不二咲「うん! そうだよね。大和田君は男らしいし。余計な心配しちゃった」

K「…まあ、万が一アイツが動揺してパニックになっても俺がついているから大丈夫だ」

不二咲「えへへ。先生は頼りになるもんね!」

K「フ」


そのまま学園側に行こうとしたKAZUYAを不二咲が呼び止める。


不二咲「あれ? 一緒に行かないんですか?」

K「…一緒に行くと、秘密を告白する前に更衣室に入る方法で性別がバレるぞ。
  だから待ち合わせ場所は男子更衣室の中にしておいた」

不二咲「あ、そっかぁ」


不二咲は特に疑問を持たなかったが、一緒に行くとマズイ理由がKAZUYAにはあったのだ。
そして二人はそのまま夜の学園へと消えて行った。


― 舞園の部屋 AM0:09 ―


モノクマ「こんばんは、舞園さん」

舞園「ヒィッ?! な、なんのご用…ですか?」

モノクマ「そんな怖がらないでよ! 別に取って食ったりしないからさ。僕は人間は
      食べないんだ。何せサファリパーク1グルメなクマだったからね」

舞園「…………」ガタガタガタ…


舞園は震えが止まらなかった。モノクマがわざわざ自分の所にやって来たのだ。
ただ遊びに来たなど有り得ない。何か恐ろしい理由があるはず。


モノクマ「だからー、そんな怖がらないでよ。君はさっき途中で体育館を抜けちゃっただろう?
      僕はその時何があったかを見せに来てあげただけなんだよ。僕ってば優しいー!」

舞園「…………」


舞園は直感した。何かあったのだ。自分がいなくなった後に…
そしてモノクマはそれを自分に教えようとしているのだ。


モノクマ「じゃじゃーん、体育館の映像が入ったDVDとポータブルプレ~ヤ~!」


モノクマはどこからか一枚のDVDと再生機を取り出して舞園の机の上に置いた。
DVDでトラウマが蘇り、舞園は声を出すことも出来なずに震え続ける。


モノクマ「KAZUYA先生と苗木君は君に気を遣ってわざと教えなかったみたいだけどさ、
      君には知る義務があるよね? だって君のせいで起こった出来事なんだから」

舞園「…ぁ……」

モノクマ「ま、どうしても見たくないなら見なくても良いよ。そのままいつまでも
      二人におんぶにだっこしてもらえばいいんじゃないかな?」

舞園「…………」

モノクマ「これは後で適当に回収しておくから、たっぷり悩んでちょうだいな。バーイ!」


そう言ってモノクマは部屋から出て行った。残されたのは舞園の荒い呼吸音のみ。


舞園「ハァ……ハァ……」

舞園(私は、一体どうすれば…)


見ないという選択肢もなくはない。だが、自分以外の全員は何が起こったかを知っているのだ。
KAZUYAや苗木が如何に隠そうとしても、それこそ十神あたりから暴露される可能性がある。
いきなり暴露されて錯乱するよりは、今覚悟を決めて見た方が些かマシかもしれない。

…だが舞園は知らなかった。この学園生活にマシな選択肢などというものは存在しないことを。



「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


舞園は絶叫した。


舞園「嫌っ! 嫌っ! そんなっ?!」


流れた映像は確かに加工も編集もされていない本物の映像だった。だからこそタチが悪かった。
最初に配られたDVDと違い映っている人間は時にアップも交え、激しく動き話している。
会話に不自然な箇所もない。これが作り物の映像であったならどんなに良かったことか。


舞園「いやっ! 誰かっ! 誰かああああっ!」


仮に誰かが来たとして、舞園は何を望むのだろう。外に出ても彼女はもう元には戻れないのに。

映像に記録されていたのは、桑田が自分を庇った姿だった。自分なんかのためにそこまでしてくれた
桑田に胸が暖かくなったが、だからこそ叩き落とすかのようなその後の展開が耐えられなかった。
自分のせいで本当は何も悪くない桑田が殺人鬼と罵られ、周囲から孤立し挙げ句内通者呼ばわりされた。


舞園「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


極めつけはKAZUYAすら巻き込まれたことだ。人殺しの自分なんかを救ってくれた命の恩人であり、
今も苗木と共に自分を支えてくれているまさしく大恩人である。同じように恩義を感じているのか
桑田が逆上してKAZUYAを庇う姿を見た時は、胸が締め付けられて息が出来ないくらいだった。

…そして最終的に、今朝まで仲の良かったメンバーが今はバラバラになりいがみ合っている。


舞園「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

舞園「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


ジッとしていられなくて舞園は部屋をのたうちまわるが、次の瞬間シャワールームに
駆け込みトイレに思い切り吐いた。気持ち悪くて、胃の中の物を全て吐き出してしまう。
胃液まで全部吐いたのに、まだ吐き足らないと言わんばかりに便座にすがりついた。


舞園「ハァッハァッハァッハァッハァッハァッ…!」


すると、今度は呼吸が乱れる。舞園は苦しそうに何度も息を吸っては咳き込んだ。過換気症候群である。


過換気症候群:俗に言う過呼吸と症状はほぼ同じであるが、過呼吸は運動後などに血中の酸素過多が
         原因で引き起こされるのに対し、過換気症候群は精神的不安が起因となって発生する。

対処法:過換気症候群や過呼吸の場合、吐く量を多めにしてゆっくり深呼吸する。あるいは袋をかぶって
     呼吸するなどして血中の酸素と二酸化炭素の量を調整すれば発作自体は数分で簡単に収まる。
    ※ただし袋を使う方法の場合、窒息防止のため袋に必ずある程度の隙間を開けなければならない。

短時間であまりに急激なストレスを受けたため、舞園は発作を起こしたのだった。
だが、医者でもスポーツ選手でもない舞園が対処法を知っているはずがない。


舞園「ハァッハァッハァッハァッ! うっ…ゲホッゲホゲホッ! ハァッハァッ…!」


幸い、過呼吸は滅多なことでは死に至るものではなく、舞園も一度倒れはしたものの
しばらくして自然に回復した。…だが、シャワールームの床に倒れた舞園の目は虚ろだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――プツン。






張り詰めていた糸が、今までぎりぎりの所で持ちこたえていた理性の糸が――とうとう切れた。










死のう。

舞園はそう決意したのだった。


ここまで。

しばらく舞園ファンの心が折れそうな展開が続くと思います。ごめんなさい
舞園さんが嫌いな訳では決してないのでお許し下さい。


再開


               ◇     ◇     ◇


場面は再び桑田の部屋へと戻る。
相手はKAZUYAだと思い威勢よく扉を開けたその先の、予想外の人物の顔に桑田は静止した。


舞園「…………」

桑田「…………はい?」

舞園「桑田君……」

桑田「う、うわああああああああああああああっ?!」


持ち前の反射神経全てを導入して桑田はドアを閉め鍵を掛けた。その勢いのまま壁際まで後ずさる。


桑田「な、な、な…?!」パクパク…


扉の前に立っていたのは亡霊のような舞園だった。その澱んだ真っ昏な瞳はまるで底が見えない。


桑田(あいつ…また俺を殺しに来やがったのかっ?!)

※557はグロ画像です。注意

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

恐怖のあまり声も出せなかった。咄嗟に愛用の金属バットを手に取り、抱きしめるように
抱えて座り込み震える。しかし、追い撃ちのように立て続けにチャイムが鳴り響いた。

ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン……


桑田「ひぃぃ!(だ、誰が出るかよ!)」


だがチャイムの音は一向に鳴り止まない。最初はブルブルと震えていた桑田だったが、
時間が経つにつれ多少は冷静さが戻ってきた。


桑田(落ち着け…落ち着け俺…せんせーや大神が相手ならまだしも、舞園にあのドアが
    破れるワケねえ。こうやってここに篭ってりゃ安全なんだ!)


部屋に置いておいたペットボトルの水を一気に飲み干し、桑田は篭城の構えを取った。


桑田「来れるもんなら来てみやがれ!」


そう叫ぶと同時にチャイムの音も止んだ。ホッと息をついたのも束の間、
しばらくしてもう一度チャイムが鳴ると、扉の下から一枚のメモが差し込まれた。


桑田(またあの時と同じかよ…人をバカにすんのもいい加減に…!)


しかし、メモを拾い上げて桑田の怒りは止まった。止まらざるを得なかった。
何故ならそのメモには点々と血が付着していたからだ。怒りと共に思考も一瞬止まる。


桑田「……は?」


メモには大きさもまばらで、あの几帳面な舞園が書いたとは思えない乱れた文字が並んでいた。

『お願いです。少しでいいから話をして下さい。あなたが私を許せないのは百も承知してます。
 でも早急にお話したいことがあるんです。なんなら扉を開けて私のことを殺してもらっても
 構いません。お願いですお願いですからドアを開けて話を聞いて下さいお願いします…』


メモ一面にそんな文章がびっしり書かれていた。先程とは別の恐怖が桑田を襲う。


桑田(え、なに、こいつ…ヤベエんじゃねえの…?)


その時やっと、桑田は夕食時に苗木と話した内容を思い出した。舞園は昼間のやり取りのせいで
精神が非常に乱れているらしい。まさか、自分が無視をしたせいで自殺したりしないだろうか。


桑田「おいおいおいおい…! 冗談じゃねえぞ…マジで…」


自分のせいで舞園に死なれたらたまったもんじゃない。一度は殺してやりたいと
思ったくらい憎い相手だが、今の桑田にそこまでの殺意も憎悪も残っていなかった。


桑田「ああ! クソッ!」


メモの最後にはこう書かれていた。

『開けてくれるまで一晩中でも待っています。どうか…』

ここでメモの余白がなくなったため文章が途切れている。思えば舞園にしては汚い字だ。震えながら
一思いに書き上げたに違いない。桑田はバットを構えながらドアの前に立ち、そっと扉を開けた。


舞園「…………」


対面の壁際に、舞園は影のように佇んでいた。そこにいるはずなのにいないような、
生きているのに死んでいるような、そんな不可思議な存在感だった。


舞園「開けてくれたんですね…ごめんなさい…こんな時間に…ごめんなさい…」

桑田「……!」


桑田は思わず息を呑む。先程は一瞬だった上に舞園の顔に気を取られ気付かなかったが、
舞園の左腕は血まみれだった。小さな傷がたくさん開いてそこから血が流れている。
恐らく、女子の部屋に配られた裁縫セットの針で何度も刺したのだろう。しかし、何故?


桑田「お…お前…なにやってんだよ…」

舞園「死のうと思ったんです…」

桑田「は?! なに言…」

舞園「私が全部いけないんです。私なんかがいるから…」

桑田「お前ちょっと落ち着…」

舞園「本当はもっと早くこうするべきだったんです。みんなに迷惑をかけているのにのうのうと生きて」

桑田「…………」


舞園は桑田の言葉などまるで聞いていない。ただ出しっぱなしの蛇口の水のように言葉だけ流れ続ける。


舞園「でも考えたんです。もし私が死んだらどうなるか…私みたいな生きる価値のない最低の
    人間でも、死ねばきっと苗木君と西城先生は悲しみます。二人とも凄く優しい人だから…」

舞園「だから死ねないんです……死にたいけど死ねないんです……」

桑田「…………」


舞園の顔は青白さを超えてもはや蝋人形のようだった。まるで生気が感じられない。ホラー映画の
ワンシーンのようで桑田の恐怖心も極限まで来ていたはずだが、ふと気になることがあった。


桑田(なんか…おかしくね? こんな状態の舞園をせんせー達がほっておいたりするか?)

桑田「お前…なんかあったのか?」

舞園「桑田君もごめんなさい。私なんかのせいでみんなに責められて…桑田君は悪くないのに…」

桑田「!」


あの時舞園はいなかったはず。つまり舞園はあの後の出来事を知って錯乱したのだと
桑田も理解した。理解はしたが、理解したからと言って現状が良くなる訳でもない。


舞園「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

桑田「舞園……」

舞園「だからせめてお詫びをしようと思ったんです。本当なら桑田君に殺してもらうのが
    一番なんですけど、私が死ねば今度は桑田君が処刑されてしまうので……」

舞園「私を死なない程度に思い切り痛めつけてくれませんか?」

桑田「…………は、はぁあっ?!」


苗木の元にもKAZUYAの元にも行けなかった舞園には、もう選択肢がなかった。
だから自分を憎んでいる桑田に救いを求めた。罰という名の救いを。


舞園「遠慮なんてしなくていいです。私はそうされても仕方のない人間ですから。
    他の皆さんもわかってくれます。私からもちゃんと言いますので」


舞園が一歩前に進み、逆に桑田は二歩後ろに下がる。


桑田「い、いやいやいや…なに言ってんのお前…?!」

舞園「そのバットで私を思い切り殴って下さい!」

桑田「バットなんかで殴ったら骨が折れちまうだろ!」


こんな状況で何を言ってるんだと自分でも思ったが、恐怖と混乱でまともに思考が働かない。


舞園「大丈夫です。手足が折れても人は死にませんから」


ズイッと舞園は桑田の眼前に出ると、その目を覗き込む。


桑田「ひ、ひいいいっ!」


あんなに可愛らしかった瞳が、今は底の見えない奈落の穴に見えて桑田は尻餅をつく。


桑田「く、来るな! 来んじゃねえええっ!!」

舞園「お願いです! 私を痛めつけて下さい!」

桑田「やめろ! 俺は殺人鬼じゃないっ!」

舞園「桑田君だけが頼りなんです!」

桑田「来るなああああああ!」


凶器を持った桑田が舞園に追いかけ回される。それは皮肉にもあの夜と真逆の光景だった。
珍妙な光景をひとしきり繰り返すと、桑田は舞園の肩を掴んで無理矢理椅子に座らせた。


桑田「お、お前混乱してんだ!」

舞園「混乱なんてしていません! 私は優しくしてもらう価値なんてないんです!」

桑田「ちょ、ちょっと待ってろ! 混乱してる時は飲み物のむのがいいんだ! 取ってくるっ!」


昼間体育館で自分が騒ぎを起こした時、飲み物を飲ませて冷静にさせたKAZUYAの姿が
頭に浮かんでいた。何か飲ませれば落ち着くはずだと桑田は部屋を飛び出す。


桑田(それにせんせーだ! KAZUYAせんせーに知らせねーと!)


飲み物ならランドリーに自販機があるが、桑田は自慢の健脚で真っすぐ保健室に向かった。
KAZUYAに任せれば大丈夫。きっと舞園も落ち着くし自分の部屋から連れ出してくれる。


桑田「せんせー! 大変だ! 舞園が…!」


だが駆け込んだ保健室には明かりがついていなかった。


桑田「あ、あれ? せんせー??」


電気をつけて見回したが、明らかに無人である。真面目なKAZUYAのことだ。
個室の見回り以外に、学園の巡回などしているのかもしれない。


桑田「なんで肝心な時にいねえんだよー!」


文句を言うが、別に遊んでいる訳ではないので仕方がなかった。
しょうがないので桑田は机の上のメモに伝言を残す。


『オレのところにいきなり舞園が来たけど様子が変だ。昼間のことを誰かに聞いたらしい。
 いちおうオレが話してみるけどこのメモを読んだらすぐに来てくれ!  桑田』


桑田(これでよしっと。あー、これからどうすっかなぁ…)


正直に言えば保健室でKAZUYAを待ちたかったが、学園を全て見回っているならすぐには
戻って来ないだろう。そうなると舞園が自分を探して部屋の外に出るかもしれない。
あの状態の舞園に一人でフラフラ出歩かせるのはあまりに危険だった。


桑田(しょうがねえ…戻るか。ああ、チクショー…)


舞園が心配だったので桑田は再び走って寄宿舎まで戻ると、ランドリーの自販機に立ち寄る。


桑田「こーゆー時はなに飲ませんのがいいんだろうな…」


ズラリと並んだ商品を見ながら桑田は考える。水、無難だが何の効能も期待出来そうにない。
コーヒー、眠れなくなりそう。酸っぱい物、体には良いが今は健康とかどうでもいい。
炭酸、舞園は好きじゃなさそうだし刺激物を与えるのはどうか。栄養ドリンク、論外。


桑田(やっぱ甘いもんかな。昔漫画かなんかで女がヒス起こしたら甘いもんを
    食わせるのがいいって読んだような気もするし…)


悩んだ結果、なんとなく気分が落ち着きそうなミルクティーを選択した。
そして自分は迷わず炭酸を選ぶ。こんな状態なので景気づけにスカッとしたかった。


桑田(そうだ。苗木…せんせーが来るまで苗木に頼むって手もあるよな)


苗木なら確実に部屋にいるはずだと、チャイムを押そうとしてふと指が止まる。
あんな状態の舞園を苗木に見せようものなら、苗木もパニックになるんじゃないか?
舞園をなんとかしようと必死になる苗木にほっておいてほしいと叫ぶ舞園。あぁ…修羅場だ。


桑田(クソッ! せんせーが来るまで俺がなんとかするしかねえのかよ…)


ガチャ。


舞園「…………」


部屋に戻ると、出た時と全く同じ姿で舞園が座っていた。先程の激しさに対し
今の静かで微動だにしないその姿は、電池の切れた機械人形を思わせ不気味だった。


桑田「お、おい…戻ったぞ」

舞園「…ごめんなさい」

桑田「…ほら、これ飲めば落ち着くから、飲んでさっさと部屋に帰れよ」

舞園「でも私はまだ何も罰を受けていないんです」


一刻も早く部屋から出て行ってほしかったが、舞園は納得するまで出る気はないようだ。


桑田(…あれだ。せんせーだったらこんな時なんて言う? 感情的になるのは逆効果だよな…)


困った時に浮かぶのはKAZUYAの顔だった。KAZUYAだったら何と言うか桑田は頭を捻って考える。


桑田「(落ち着け…冷静に、冷静に。大人っぽくだ)もういいからさ、そーゆーの…
    お互いにいろいろ問題あっただろ。俺も殺したいくらいうざかったかもしれねーし。
    なんなら俺が今までの態度とか謝るからさ、今日はもう帰れって。な?」


多少投げやりではあるが、桑田にとって最大限の譲歩だった。
しかしこの言葉を聞いた舞園はカッと目を見開き、桑田の両肩を掴む。


舞園「どうして…どうして桑田君まで優しくするんですか?!」


あ、スイッチが入ったと桑田はなんとなく思った。


桑田「…は?」

舞園「態度が悪いのと殺人が同じな訳ないじゃないですか! 態度が悪い人は殺されて
    当然なんですか?! じゃあ桑田君はあの時死ぬべきだったことになりますよ!」

桑田「……おい」


舞園「同じだって言うなら死ねるんですか?! 私がまた殺そうとしたら死んでくれますか?!」

桑田「…おい!」

舞園「桑田君なら憎んでくれると思ったのに! どうして桑田君までいい人になっちゃうの?!
    私を殴って下さい! 私を責めて下さい! もう優しいのは堪えられないんです!!」

桑田「…俺ならお前を責めると思ってここに来たのか? 俺は人間が出来てないからか?」

舞園「違います、桑田君! あなたは何も悪くないです! 私がズルくて弱くて卑怯なだけ…!!」


舞園に他意はない。冷静な思考なんてとっくに出来ていないのだ。それは桑田にもわかっていた。
しかし、いい加減話が通じなさすぎて桑田は苛々してきた。すぐ感情的になるのは悪い癖だな、と
どこか冷静に見れる自分も生まれていたが、今回ばかりは感情的になるのが正解かもしれない。


桑田(俺にせんせーの真似なんてハナっからムリだったんだよ!)


人生経験豊富なKAZUYAなら、自分がそうされた時のように上手くなだめて落ち着かせることが
出来るだろう。ついでになんかタメになるいい言葉の一つや二つかけてくれるだろう。だが桑田には
人生経験も学も何もかもが圧倒的に足りなかった。ない頭をいくら捻ってもないものはないのだ。


桑田(舞園は俺に責められたくてここに来たんだ。だったらこたえてやろーじゃねーか。
    …優しくてカッコイイヒーローはせんせーや苗木に任せるぜ)


そして桑田は臨戦態勢を整え、思い切り息を吸い込んだのだった。


ここまで

舞園さんがめんどくさくなっちゃったのもKAZUYAの胃に穴があきそうなのも
1の指が腱鞘炎になりそうなのも全部モノクマって奴が悪いんだ!


― 水練場 男子更衣室 AM0:32 ―


不二咲「先生、見て見て! ジャージは青色にしたんだぁ。今の僕、ちゃんと男に見える?」

K「ああ」


本音を言うとそんなに大差はないのだが、はしゃいでる不二咲が可哀相なのでKAZUYAは黙ってあげた。


不二咲「僕も鍛えたら先生や大和田君みたいになれるかなぁ?」


不二咲は壁にかかった大きな鏡の前でポーズを取ってみるが、自身の貧弱な体つきにガッカリする。
一方、KAZUYAはその微笑ましい光景を見て今のままでいいのにと心の底から思っていた。


K「言っておくが、俺だって学生時代はそんなに逞しくなかったぞ? 長い年月と
  たゆまぬ努力によって今に至るのだ。一朝一夕でこうなるとは思わんことだな」

不二咲「はい、そうですよね。…先生の学生時代はどんな感じだったんですか?」

K「体格なら大和田くらいか。医者としては何もかも未熟で貧弱だったよ」

不二咲(大和田君レベルで貧弱なんだ…)

K「親父という存在が常にあったからな。俺の親父も今の俺みたいな感じだったんだ」


不二咲「うちはお父さんもちょっと体が弱いから羨ましいなぁ~」

K「フフ」


先程までは顔色も優れなかったKAZUYAだが、無邪気な不二咲と話していると元気になれる。
そうやって雑談しながら和んでいると、更衣室のドアが開いた。


大和田「よう」

不二咲「あ、大和田君!」パアッ


大和田の顔を見て顔を明るくした不二咲だったが、次の瞬間顔色を変えた。


石丸「西城先生、不二咲君、こんばんはだぞ!」

不二咲「い、石丸君?! なんで石丸君までここに…?!」


招かれざる第三の男の登場に、不二咲はすっかり動転していた。その姿を見ながらKAZUYAは
密かに詫びる。何故なら石丸を連れてくるよう大和田に指示したのはKAZUYAだったからだ。


K(この反応は当然だろうな…恐らく石丸は、ここにいる生徒達の中で
   不二咲が最も秘密を知られたくない相手だろう)


大和男子であることに誇りを覚え、誰よりも自分に厳しい課題を課しているまさしく努力の
化身といえるこの男に、今までずっと性別を偽り努力することから逃げてきた不二咲が、一体
どんな顔で告白すればいいというのか。顔を青くする不二咲にKAZUYAがすまなそうに話す。


K「すまん、不二咲。その…俺は大和田だけ呼ぶつもりだったんだが、いつも横に
  石丸がいて話す機会がなかったのだ。それで、しょうがないから石丸にも話した」

不二咲「…………」

K「だがな、今言わなくとも結局明日には言うことになるのだ。逆に考えてみろ。
  一番言いづらい相手に先に言ってしまえば、明日他の皆に言う時楽なはずだぞ」

不二咲「あ、そ、そうですよね…どうせ明日には言うはずだったし…」


放心していた不二咲だが、なんとか気を持ち直そうとする。
そうだ。告白する時間が早まっただけじゃないか。どうせ明日には言わなきゃいけないんだ。
そう思ってはいるのだが、いざ言わなければならないと思うとなかなか言い出せずにいた。

葛藤する不二咲を見てKAZUYAは可哀相だと思ったが、石丸を呼んだのには理由があった。


               ◇     ◇     ◇


一度目の見回りの後、石丸の部屋にて。


石丸「どうかされたのですか」

K「ウム、実は不二咲のことだ」

石丸「不二咲君が、何か…?」

K「今日配られた動機だが…不二咲は絶対他者にバラされたくない重大な秘密を持っていた。
  …しかし、殺人などしたくないからと俺にだけその秘密を打ち明けてくれたのだ」

石丸「それは素晴らしい話です! …ですが、それと僕にどのような関係が?」

K「俺が内通者扱いされたのはお前も見ていただろう。俺にあまり近付くのは不二咲のためにならん。
  だから、俺以外で秘密を打ち明けてもいい生徒はいるかと聞いたら、大和田を指名したのだ」

石丸「そこで指名されるとは流石兄弟だ! 僕も鼻が高い」


自分の名前は挙がらなかったのに素直に喜ぶ石丸を見て、本当良い奴だなコイツとKAZUYAは思う。


K「…ここまでは良い。問題はこの後だ。…大和田の精神状態が著しく悪いというのは
  さっき伝えたな? これから俺の立会いの元、不二咲は大和田に秘密を告白する訳だが、
  今の大和田に不二咲のかなり衝撃的な秘密を伝えれば、非常に動揺すると予想出来る」

K「大和田は不二咲と仲良くしていたから、場合によっては激昂するかもしれん…」


不二咲にとっては単なる男友達に過ぎないだろうが、大和田にとっては違うだろう。
もしうっかり恋心でも抱いていたら、不二咲に騙されたと思うかもしれない。


石丸「まさか…まさか先生は、兄弟が不二咲君を襲うとでも?!」

K「落ち着け、違う。襲われるとしたら俺だ。いや、襲われるという表現は正しくないな。
  場合によっては喧嘩になる、くらいだ。元々アイツは俺に反発しがちだったからな」

K「普段なら手は出さない所でも、今は苛々しているから手を出してしまうかもしれない。
  そうなった時、不二咲はどうすると思う? 体格も考えずに止めに入るだろう」


KAZUYAの言わんとしていることを察し、石丸はサッと青ざめた。


石丸「た、大変だ。あんな小柄で華奢な不二咲君が兄弟に突き飛ばされでもしたら、
    それだけで大怪我をしてしまうかもしれない!」


K「俺はそれを心配している。そこでお前の出番だ。お前がいてくれれば大和田の精神も
  落ち着くし、いざという時に不二咲を巻き込まないよう守ってやれるだろう?」

石丸「わかりました。僕が命に代えても不二咲君を守ります!」


軍人でもないのにビシッと敬礼して石丸は大袈裟に宣言した。しかし、その頼もしいはずの姿に
KAZUYAは一抹の不安を覚える。石丸がこうまで熱くなるのは不二咲を女だと思っているからだ。


K「…一応言っておくがな。不二咲の秘密は本当に衝撃を受けると思うぞ」

石丸「先生、僕は風紀委員ですよ? たとえそれがどんな衝撃的な内容だったとしても、
    クラスメイトの秘密を受け止め支えるのが風紀委員の仕事であり義務です!」

K「もしそれがお前から見てくだらない、馬鹿らしいと思える内容であってもか?」

石丸「……!」

K「お前みたいな強い人間からしたら些細な問題かもしれん。解決するための努力が足りないと
  思うこともあるだろう。だが、真剣に悩んでいる人間にそういった言葉は厳禁だ」

K「俺達にとってどうであろうが、その人間にとっては苦しく解決し難い問題に
  違いないのだ。そのことを、どうか忘れないでいて欲しい」

石丸「…わかりました」



               ◇     ◇     ◇



場面は男子更衣室に戻る。気まずい空気の中、石丸があることに気付いた。


石丸「ム、そういえばここは男子更衣室なのに不二咲君はどうやって入ったのだ?」

大和田「あ? 先公にいれてもらったんじゃねえのか?」

石丸「いや、そんなことをすれば入口の機関銃で蜂の巣にされてしまう。
    自分の電子生徒手帳でなければ入れないはずだ」

大和田「じゃあどうやって入ったんだよ」

不二咲「あ…」


不二咲は困ってKAZUYAを見上げる。KAZUYAは文字通り不二咲の背中を優しく押した。


K「大丈夫だ。友人を信じろ」

不二咲「…………」コクン


意を決し、不二咲は二人に向き合う。


不二咲「僕……んだ」

大和田「ああ? 聞こえなかった。もっとでけえ声で言ってくれねえか?」

不二咲「僕、実は男なんだ」

石丸「ハッハッハッ、そうだったのか。……ん?」

大和田「……ハァ?」


思考停止する二人に気持ちはわかる、と心中で同意しながらKAZUYAが助け舟を出した。


K「正真正銘不二咲は男子だ。ここにも自分の生徒手帳で入ったのだ」

大和田「は、はあああああっ?!」

石丸「なっ…?! …………一体、何故?」


事前にKAZUYAから何度も釘を刺されていたからか、石丸は思っていたより早く対応した。
衝撃のあまり叫びそうになりながらも、なんとか持ち直して不二咲に理由を聞く。


不二咲「僕…僕ね、昔から体が弱くて泣き虫で…周りからいつも馬鹿にされてたんだ。
     男のくせにって言われるのが本当にプレッシャーで、それで…女の子になればもう
     言われないかなって、こんな格好を始めたんだ。そうしたらみんな凄く優しくなった」

不二咲「でも…それは結局嫌なことから逃げているだけだし、みんなを騙している訳だからいつも
     苦しくて堪らなかったの。だから、この秘密が暴露されるってわかった時に決めたんだ」

不二咲「もう弱い自分は嫌だ。変わりたい、強くならなきゃ!って。それでモノクマから
     秘密を暴露されちゃう前に、自分から本当のことを言おうって決めたんだ」

大和田「……そうか」

不二咲「今まで騙しててごめんね。僕のこと嫌いになったよね…」

大和田「いや! そんなことねえよ。その…男が一世一代の告白したってのによ」


そう言うが大和田の表情は非常に複雑だった。やはり好意があったのだな、とKAZUYAは同情する。
一方石丸は無言で固まっており、不二咲はおずおずと様子を伺った。


不二咲「あの、石丸く…」

石丸「偉いっ! 偉いぞ、不二咲君!!」

不二咲「」ビクッ


石丸「…確かに過去の君は逃げていた。僕に言わせれば努力が足りない。…だが、そのことに自分で
    気付き、性別を偽っていた程の悩みをよくぞ打ち明けてくれた! 今の君は立派な男だ!」

不二咲「! 石丸君…ありがとう」


一番の難敵だったろう石丸に男だと認められ、不二咲も嬉しそうに笑う。


石丸「よし、善は急げだな! 今すぐみんなに告白しよう。僕がみんなを集めるぞ!」

不二咲「えぇっ?! こ、この時間に?! 今は夜中だよぉ!」

K「ま、待て! 何のためにお前達をここに呼び出したと思っているんだ?」


…石丸なりに気を遣ってはいたのだろうが、やっぱり最後は空気が読めなかった。


不二咲「あ、あの、僕ね…みんなに言う前にまず自信をつけたくて…そのために体を鍛えたいんだ」

石丸「うむ、良い心がけだ。健全な精神は健全な肉体に宿る。僕も毎朝毎晩鍛練してるぞ」

不二咲「…えっとね、でも僕一人じゃよくわからなくて。最初は先生に付き合ってもらおうとしたんだ」

K「だが大人の俺が付き添うより、友人同士で助け合ってもらいたい…そう考えお前達を呼んだのだ」


大和田「なるほどな。いいぜ、そんくらい。いくらでも付き合ってやるよ!」

石丸「千里の道もまず一歩から、雨垂れ石を穿つだ! 応援するぞ!」

不二咲「うん!」


特訓の前に、大和田は持ってきたジャージに着替え始める。


大和田「あり? 兄弟は着替えねえのか? ジャージ持ってきただろ?」

石丸「いや、付き合うだけなら今のままでも十分だし、折角先生がいるのだから僕は課題を
    やらせてもらう。兄弟がスポーツ理論と異なる妙なことを言ったら横から訂正するぞ」

大和田「おう、わかったぜ(まあ元々呼ばれてたの俺だけだしな)」

K「不二咲はまだまだ華奢だ。あまりいじめんようにな?」

大和田「わーってるっつーの!」


そして実際に鍛練を始め、四人で楽しく話していた頃…KAZUYAは急に胸騒ぎを感じた。
何の根拠もない単なる直感だが、今日は色々とありすぎて神経が過敏になっている。
こういう時の勘はけして馬鹿には出来ない、と裏の世界に生きるKAZUYAは知っていた。


K(大和田も石丸も不二咲の弱さを受け入れてくれたし、元々仲の良いメンバーだ。大丈夫だろう)

K「すまん、俺は少々保健室に用がある。すぐに戻るから任せるぞ」

石丸「はい、わかりました」


ベンチに座り手帳を使ってひたすら糸を結ぶ練習をしている石丸に声をかける。


K「…あともっと強く結んだ方がいい。縫合糸はナイロン製がほとんどだから簡単に解ける」

石丸「は、はい!」


そのままKAZUYAは保健室に向かった。距離的には遠くないのですぐに着く。


K「…………」


どこにも異常はない。机の上にある書き置き以外は。KAZUYAは机に近寄りサッと目を通す。


『オレのところにいきなり舞園が来たけど様子が変だ。昼間のことを誰かに聞いたらしい。
 いちおうオレが話してみるけどこのメモを読んだらすぐに来てくれ!  桑田』


K(舞園の様子がおかしいだと…?!)


昼間のことを誰かに聞いたらしい――誰かに?

二度の見回りの時、どちらも舞園は普通だった。つまりその後KAZUYAが不在になることを知っている
人物が舞園に教えたのだ。だが、この外出禁止の中自分達以外に外を出歩く者がいるだろうか。


モノクマ『先生には悪いけどさ、事件は起きるよ……絶対にね』


K「やってくれたな、モノクマァッ!!」


KAZUYAはマントを翻すと保健室を飛び出し、全速力で寄宿舎へ駆けた。


ここまで。

コピペミスで一箇所文章飛ばしちゃったけどわからないくらい絶妙に飛ばしたからいいか…
二章長すぎてこのスレで終わらない予感がしてきた…あばばば

だから2章が終わるまでは書き貯めてもいいんじゃないかなぁーなんて…

>>608
書き溜めはしていますよ。ただ、投下前にも結構修正する癖があって一つの投下に何時間も
かけていられないので、どうしても一回の投下量に限りがあるんですね。なるべくキリの良い所で
止めるようにはしていますが、結果的にどうしても焦らすような感じになってしまう訳です
ただ、一回の投下量が少ない分なるべく頻繁に更新しようとは心がけております

せっかくだからコピペミスで載せられなかったところも見せてくれよぉ

初期のドクターKを読まねばならぬと家捜しして何冊かサルベージした
やっぱりあれだけ長いと結構忘れてるエピソードあるなあ。真田とかめっちゃ強いし
レーゲンスに至っては存在も忘れてた。あとKAZUYAとTETSUがマジかっこいい


>>613
ミスと言っても数行だけですよ?>>596の最後にこの文章が入るだけ


KAZUYAの真剣な眼差しに石丸も真摯な面持ちで頷く。


石丸「ところで、この話は兄弟には…」

K「大和田には話してある。十二時半頃迎えに来るだろうから一緒に来てくれ。
  不二咲には俺が上手く説明するから、黙って話を合わせて欲しい」

石丸「了解です!」



               ◇     ◇     ◇


パアンッ!

乾いた破裂音が部屋に響く。桑田が舞園を平手打ちした音だった。


桑田「いい加減にしろよっ! このクソアマッ!!」

舞園「」ビクッ


桑田は今まで溜めに溜めた不満を一気に爆発させる。打って変わった雰囲気に舞園はビクリと震えた。


桑田「いつまで悲劇のヒロインぶってやがる! 苗木を陥れようとしたのも
    俺を殺そうとしたのも全部テメエが自分で考えて実行したんじゃねーか!」

舞園「…………」

桑田「そん時の太い神経はどーした?! それともなにか? 後で後悔してビービー泣く程度の
    覚悟しかしてなかったのに人殺しなんてしようと思ってたのか? 俺をバカにしてんの?」

舞園「わた、私は…」


桑田「俺はなぁ! お前を殺そうとしたこと今でも後悔してねーよ! だって殺らなきゃこっちが
    殺られてたし、俺あの時マジでお前にムカついてたもん! 人の好意を利用しやがって!」

舞園「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

桑田「つーか反省したかと思えば今度は夜中に人の部屋やってきて騒ぐとかお前なんなの?
    お前本当はワザとやってんじゃないの? 今でも本当は俺のこと嫌いなんだろ!」

舞園「ち、ちが…! 違います! そんなつもりじゃ…!」

桑田「せんせーや苗木に悪いって思うならさっさと元気になれよ! どう考えてもそれが
    一番だろ! そんな簡単なこともわかんねーから人殺しとかすんだろうがアホッ!!」

舞園「…………」

桑田「ハァ、ハァ……これで気は済んだか?」

舞園「…………はい」


一応手加減して叩いたつもりだが、泣き出したり暴れたりしないか桑田は心配だった。
だが意外にも、舞園は少し落ち着いたようだった。そのまま俯き黙っている。


桑田「…まあ、ほら、せっかく持ってきたんだから飲めよ」


ペットボトルの蓋を開け渡してやると、今度は大人しく飲み始めたので桑田はホッとした。


桑田(もう大丈夫か…そういや、こんなすげー美人が自分の部屋にいるのに
    帰ってほしいとか思ったのって、生まれて初めてじゃねーか?)


視線を落とし憂い顔をしている舞園は、本当に美しく可憐だった。だが今の桑田は全く
彼女に惹かれない。そういえば、自分は舞園のどこが好きだったのかと考えてみた。


桑田(まあ、顔とかスタイルで決めてたよな…あとは清楚っぽい雰囲気とか…)


自分は舞園の、真面目で謙虚な頑張り屋で時に自らを追い詰める所も、それ故仕事に対し
高いプライドを持ち妥協しない点も、夢に対する執着も、そのために他者を犠牲に出来る事も
何も知らなかった。ただ器しか見ていなかった。その事実に気付き自然に表情が渋くなる。


桑田(そーいや、俺がまだ現役でモテのピークだった時も好みの子取っ替え引っ替えしてなぁ。
    深く考えずに手出しまくってたし。今から考えりゃマジで最低のクズ野郎だわ…)


何も学習しないで脱出してもいつか刺されていたかもしれない、と以前石丸に脅されたことが
あったが、あれは案外当たっている気がした。自分は恨まれても仕方のない人間だったのだ。
もやもやした気持ちを払うため、桑田は持ってきた炭酸の蓋を開け思い切りあおる。


舞園「…………」


一方、静かに紅茶を飲みながら舞園の心は非常に落ち着いていた。
桑田が言ってほしいことを全て言ってくれたのでやっと冷静になれたのだった。


舞園(エゴ…そう、エゴでした…)

舞園(人を殺そうとしたのも罰を受けようとしたのも、全部私の自己満足です。
    …私に出来ることってなんでしょう? 桑田君は元気になれと言いましたが、
    これだけのことを仕出かした以上、それだけでは足りないはずです…)

舞園「桑田君…」

桑田「な、なんだよ…まさかまだなんか言う気じゃねえだろうな…」

舞園(桑田君は思ったことを何でも包み隠さず言ってくれる。
    …だから、何かヒントをもらえるかもしれない)

舞園「いえ…良かったら、普通にお話しませんか? 思えば、あの事件以来
    私達がちゃんと話したことって一度もないと思うんです」

桑田「普通のおしゃべり? …まあ、それくらいならいいけどよ」


約一週間ぶりに、桑田と舞園は作った顔ではなく自然な姿で向き合って話す。


舞園「指先…皮が剥けてますね。ギターの練習をしてるんですか?」

桑田「ああ。今は毎日欠かさずやってる。せんせーにキツーク言われたんだよ。
    真剣に目指してるんなら練習くらいちゃんとやれってさ」

舞園「練習は嫌いだって言ってませんでしたか?」

桑田「まあな。ただ野球の練習は出来ることを延々やらされるのがイヤなんであって、
    ギターはそこまで上手くないからやりがいはあるぜ。上手くなれば楽しいし」

舞園「そうですね」

桑田「…………」

舞園「…………」

舞園(桑田君はこんな場所でも自分のすることを見つけてる。私は何をすればいいんだろう…)

舞園「…桑田君が今一番望んでることって何ですか? やっぱり、皆さんとの仲直り…」


だが舞園の問いに、桑田は当たり前だという顔で別のことを答える。


桑田「ああ? そりゃ外に出ることに決まってるだろうが。ここは退屈すぎるし」

舞園「そうですよね。外に出たいに決まっていますよね…」


そう言って俯く舞園に、桑田は舞園が外に出ても全てを失っていることを思い出した。


桑田「…まあ、元気出せよ。仕方なかったとはいえ、俺だってお前刺したりせんせーを襲おうと
    したから外に出りゃマスコミが黙ってないと思うし、当分普通の生活に戻れないかもな」

桑田「むしろこんな面白いネタをマスコミがほっとくワケねーか。面白おかしく報道されて、
    下手すりゃプロ野球の選手にもミュージシャンにもなれなくなったりして。ハハッ」


だが、深刻な話をしている割に桑田の表情は暗くなかった。エスパーを自称するくらい
読心術に長けた舞園にも、桑田が何故この状況で笑えるのか全くわからない。


舞園「どうして笑えるんですか…?! 私のせいであなたの人生が終わっちゃうんですよ?!
    私が憎くはないんですか?! どうして殺してやりたいと思わないんですっ?!」

桑田「お前のせいでもあるけど一番悪いのはモノクマだろ。まあ、軽いのが俺の一番の長所だしな。
    ちょっとお前重たすぎんだよ。生きてさえいれば人生なんてどーとでもなるっしょ」

桑田「最悪海外にでも高飛びすればいいじゃん? 今はせんせーって強力な味方がいるし、
    かなり顔広いらしいから困ったら多分コネとかで助けてくれるんじゃね?」

桑田「外に出さえすればいくらでもやれることあるじゃん。まずは久しぶりに野球だな!
    それからカラオケ行って漫画とゲームやって、上手いモン食いに行ってあとは…」

舞園「でも…もし友達が一人もいなくなったら…そうなったら一体誰と遊ぶんですか…?」


この質問にはどう答えるのか。いくら自由になっても一人ぼっちでは何の意味も
ないではないか。この舞園にとって最も恐ろしい質問にも、桑田はサラリと即答した。


桑田「? 苗木達誘えばいいじゃん。あいつらはここであったことも全部知ってるし、世間が
    うるさいからってダチを裏切るようなヤツらじゃないだろ? せんせーも言ってたけど、
    本当のダチが出来たって意味じゃここに来た意味もあったのかもなぁ…」シミジミ

舞園「…………」


それは目から鱗な言葉だった。舞園は外に出たい反面、出るのが恐ろしくて堪らなかったのだ。
自分の居場所がなくなっているのが、世間から責められるのが、想像するだに恐ろしくて仕方ない。
だが桑田は自分とは違う。外に何が待っていようとも、雑草のように力強く逞しく生きていける。


舞園「…前向きなんですね」

桑田「ノー天気の間違いだろ」ハハッ

舞園(桑田君は私と違って外に出ても生きていける。桑田君、私なんかを支えてくれた苗木君と先生、
    そして迷惑をかけたみんなを外に出してあげることが、私の本当の罪滅ぼしなのかもしれない…)




――答えが出た。


舞園(そうです。罰を受けたいのも苦しみたいのも、そんなものは全部私の独りよがりです。
    みんなはそんなことなんて望んでいない。みんなの望んでいることは外に出ること…)


スッと舞園は立ち上がる。その瞳には、先程までにはない強烈な決意が宿っていた。


舞園「桑田君」

桑田「お、おう。今度はなによ?」

舞園「ありがとうございました。私、桑田君のおかげでわかった気がします」

桑田「あ、そう? なら良かったけどさ…」


舞園は丁寧に深々と礼をした。


舞園「ご迷惑をおかけしました。もう遅いので私は戻ります。おやすみなさい」

桑田「そ、そっか。じゃ、またな!」


自分の退室にかなり安堵した様子を見せた桑田に別れを告げ、舞園は部屋に戻った。


舞園(やることは決まった。でも、どうすればいい?)


考える。


舞園(私一人が動いても何も出来ない。どうしたらみんなを脱出させることが出来る?)


考える。考える。


舞園(…西城先生はたった一人で黒幕側の情報を引き出してみせた。やっぱり西城先生を
    中心にして、私は裏から支える方がいい。きっとその方が向いているだろうし)


考える。考える。考える。


舞園(でも今の私じゃそれすらも出来ない。私は弱い。きっと足を引っ張ってしまう)


考える。考える。考える。考える。考える。そして……思いついた。


舞園「私では駄目。でも私じゃない誰かなら…?」


それに気付くと舞園はシャワールームに駆け込み鏡で自分をジッと見つめる。


舞園(弱くて卑怯で醜い舞園さやかではなくて、別の誰かなら? そう、例えば…)


咄嗟に受かんだのは三人の人間。


舞園(西城先生みたいに強く頼りになって、苗木君みたいに優しくて暖かくて、
    霧切さんみたいにいつも冷静で知的なら……そんな人間なら役に立てる)


人間が別の人間になんて生物学的になれる訳がない。


舞園「でも演じるのは出来る――」


舞園は単なるお飾りアイドルではない。努力と実績を兼ね備えた実力派アイドルであり
女優でもある。ドラマや映画の中で、舞園は何度も別人になってきたではないか。

鏡を見つめる。視線だけで割れるのではないかというくらいに強く見つめる。


舞園「私は舞園さやかじゃない」

舞園「私は舞園さやかじゃない…!」


私は舞園さやかじゃない。アイドルなんかじゃない。
私は舞園さやかじゃない。私は人間じゃない。

アイドルじゃないから世間体なんて気にしない。
人間じゃないから感情に振り回されたりしない。


舞園「私はみんなをここから脱出させるための駒。先生や苗木君達を支えて助けるための駒。
    そのためだけの駒。私は人間じゃない。私は駒。私は人間じゃない。ただの駒」


舞園「私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。私は駒。」


何かの呪文、或いは呪いのように、舞園は鏡を見つめてひたすら呟き続けた。
駒の自分は彼等の期待通りに動ける。もう誰かを頼るのではなく、今度は自分が
みんなから頼られ助ける立場になるのだ。そう考えると、なんだか楽しくなってきた。
口から自然と笑みがこぼれる。無理をしないで笑えたのはいつぶりだろう…


舞園「ふふ…ふふ…うふふふふふ。あはは、あはははははははははははははははははははははははっ!」


壊れた三日月のような歪んだ笑みを眺めながら舞園は心から笑った。


舞園「笑えた! 笑えた! 笑えました! 笑えましたよ! あんなに笑うのが苦痛だったのに!
    もう二度と心から笑うことはないだろうって思っていたのに! 私は駒だから!!」


今なら何でも出来る気がする。大神に勝つ…のは流石に無理だが、セレスと勝負して
勝つくらいなら出来そうだ。十神に嫌みを言われても今なら笑顔で受け流せる。


舞園「おはようございます、苗木君♪」ニコッ


鏡には苗木と再会した時と何一つ変わらぬ笑みを浮かべた自分が映っている。


舞園(クスクス…この顔を見たら、苗木君喜ぶだろうなぁ。今から会いに行きましょうか?
    …ああ、ダメです。夜時間は出歩き禁止ですからね。朝一番に会いに行きましょう)

舞園「そうだ! 朝になれば西城先生が来るじゃないですか!」


パンッと両手を合わせて舞園は花のように微笑んだ。何せKAZUYAは命の恩人なのだ。
ならば元気になった姿を一番初めに見る権利もあるだろう。苗木には我慢してもらうか。


舞園「先生、早く来ないかなぁ。ふふ、うふふふふふ…」


きっと驚くだろうな。先生ってあんまり驚かないから、驚いた顔を見るのが少し楽しみ。
そしてKAZUYAの前で決意表明をするのだ。もう二度と足手まといになどならないことを。
これからは自分も前に立ち、KAZUYA達の駒となって脱出のために働くことを。


決意した舞園の姿は凛として力強い。だがその決意はあまりにも悲しかった。











― 苗木君。

― 苗木君。

― ここから脱出するまで、私は駒になります。

― みんなの希望のための道具になります。

― でも、ここから脱出できたら、その時は。

― 本当の私を、人間の舞園さやかを迎えに来て下さいね。


― 苗木君……



そして舞園さやかの意識は深く深く沈んでいった。


駒園さん爆誕!次回に続く…という訳でここまで

えっと、まあ、舞園さんが駒園さんになってもこのSSのことは嫌いにならないで下さい…

SS速報復活来たー!

投下しちゃうよー!


               ◇     ◇     ◇


KAZUYAが桑田の部屋に着いたのは、舞園が去ってから十分程後だった。

ピンポンピンポンピンポ…ガチャ。


K「桑田! 舞園は…?!」

桑田「あ、せんせーか……来るのおせーよ!」


ちょうど寝ようとしていたのか、着替えて眠そうな顔をした桑田が出てきた。
KAZUYAは不満げな桑田を押しのけ部屋に入るが、既に舞園の姿はない。


K「舞園はどうした…?」

桑田「ついさっき帰った。もうさー、大変だったんだぜ! 最初来た時は会話通じないし
    言ってることもなんか支離滅裂だし、見るからにこいつチョーヤベエって感じでさ」

桑田「…まあでも話してるうちにだんだん落ち着いてきたんだよ。やっぱ腹を割って
    話したのが良かったのかな? 最後はまた前みたいになって普通に帰ってったぜ?」

K「そうか…」


……そんな訳がない。


桑田を信頼していない訳ではないが、舞園は非常に弱い……脆い人間なのだ。
少し励ました程度で元気になるなら苗木もあそこまで苦労はしまい。


K「俺は舞園の様子を見て戻る。…大変な時に一人で任せてすまなかったな」

桑田「んー、まあいいってことよ! 俺もたまには役に立つだろ?」ハハハ

K「ああ、そうだな。今日はもうゆっくり休んでくれ」


桑田と別れるとKAZUYAは急いで舞園の部屋に行く。まるでKAZUYAが来るのを
待っていたかのように、チャイムを鳴らすとすぐに扉が開いた。


舞園「西城先生!」パアッ

K「ま、舞園?」


扉を開けた舞園は満面の笑みでKAZUYAを迎えてくれた。その姿に若干拍子抜けをする。


舞園「ちょうど良かった! 私、今西城先生に会いたかったんですよ!」ニコニコ

K「俺に会いたかった?」

舞園「はい!」


K「…桑田からお前の様子がおかしいと聞いて見に来たのだが」

舞園「はい。モノクマに昼間の映像を見せられて、私…取り乱してしまったんです。
    …でも、もう大丈夫です。桑田君のおかげで元気になれたんですよ!」

K「桑田のおかげ?」

舞園「自分のエゴで人を殺そうとしたくせに甘えるな、って叱られて…吹っ切れたんです。
    先生や苗木君にいつまでも頼っていられない。私も脱出のために協力しないとって」

K「そうか…」

舞園「今までご迷惑をおかけしてすみませんでした。明日からは私も先生に協力させて頂きます」ニコッ!


事件前と変わらぬ笑顔でニコニコと笑う舞園に、KAZUYAは一瞬違和感を覚えた。


K「…それは良かった。では俺は戻る。また後でな」

舞園「はい。また明日!」


だが、そのまま別れた。違和感はあったが、特に無理をして笑っているようには見えなかったので
KAZUYAは見逃した。元々女性の機微には疎いのと、舞園が女優の才能を持っていたのが大きい。


舞園「…西城先生、喜んでくれた」

舞園(勘の良い西城先生が気付かないんだから大丈夫。待ってて下さいね、苗木君!
    明日にはとびっきりの笑顔を見せて、元気にしてあげますから。クスクスクス…)



               ◇     ◇     ◇



K(…俺の思い過ごしで良かった。いや、桑田のおかげか。あいつも大分頼もしくなってきたな)フフ


最大の懸念事項とも言える舞園の件が思わぬ形で解決し、KAZUYAは少し心が軽くなった。
これで今日一日無事で過ごせばなんとかなる。そう思いながら更衣室の機械に手帳をかざし、

カチャリ。


K「悪かったな。今戻った」


扉を開けたKAZUYAの前に広がっていたのは――血の海だった。


K(何だ……これは……?!)


不二咲「あ! せ、先生えええっ! 助けてっ!!」

大和田「先公ォ! 頼む! 助けてくれっ!」

K「何があったッ!!」


涙混じりの二人の悲鳴とKAZUYAの怒号が更衣室に響く。大量の出血の主は勿論…


石丸「う、ぐぅ…」


石丸だった。壁にもたれかかり、顔面と首筋から流れた夥しい量の出血が、
彼のトレードマークである純白の学生服をドス黒い紅に染め上げていた。


K(俺のいない間に……一体何が起こった……?!)


視界には何らかの衝撃で割れ、血が付着した壁の鏡がある。そうだ。きっと運悪く足を滑らせ鏡に
衝突したのだ。或いは三人でふざけていた際に事故が起こったのだろう。…そう、単なる事故なのだ。
だがKAZUYAの願いは、希望は石丸の悲痛な絶叫によって無残に掻き消されたのだった。


石丸「先生! これは…事故なのです! 兄弟は不二咲君を襲おうとした訳じゃない!!」

K「!!!」

石丸「兄弟がダンベルを持った手を滑らせてしまっただけなのです! そしてその先にたまたま
    不二咲君がいて、僕が間に入っただけなんです! だから、これはただの事故ですっ!!」


KAZUYAは後頭部を思い切りハンマーで殴られたような衝撃を感じた。


K(大和田が、不二咲を…………襲った?)


馬鹿な。有り得ない。つい先程まで仲良くしていたではないか! それに男気のある大和田が小柄で非力な
不二咲を襲う? やはり騙されていたことを恨んでいたのか? しかしそんな様子は全くなかった筈…


K「傷を見せろ!」


だが余計なことを考えている時間はない。KAZUYAは医者の本能で体を動かし患者となった教え子を診る。


不二咲「先生……先生……石丸君を助けて……ふえぇぇん」

大和田「た、助かるのか…?」

K「…………」


二人はKAZUYAが授業で教えた応急処置を的確に実行していた。まず倒れていた石丸を壁に
寄り掛からせ、傷口が心臓より高くなるようにしている。また更衣室に置いてあった
清潔なタオルで直接傷口を圧迫し、首の付け根を指で押して間接圧迫止血も試みていた。


K(適切な処置のおかげで出血は最低限に抑えられている)

K「……二人ともよくやった。あとは俺の出番だ」

石丸「先生! これは事故なんです! 兄弟を、兄弟を責めないで下さい!」

K「わかった! わかったから落ち着け。これから麻酔を打つ」


だが石丸は意識を失うまで叫び続けていた。その様子を大和田は沈痛な面持ちで見下ろしている。


大和田「せ、先公……俺は、俺は……!」

K「話は手術が終わってからゆっくり聞く。とりあえず急いで輸血を持ってこい」

大和田「わ、わかった。…頼んだぞ!」


慌ただしく大和田が更衣室から飛び出した。KAZUYAは必要な道具を用意し消毒していく。
そしてこの学園生活で望まぬ三度目のメスを執ったのだった。



※ 注 意 ! ※


モノクマ「前スレでも書いたけど、もしかしたらこのスレしか読んでないっていう
      読者さんも中にはいるかもしれないから、あらためて注意文を書くよ」

モノクマ「このスレは一応医療SS謳ってるので手術シーンとかその他医療関係のシーンが
      随所に入りますが、>>1は医療関係者でもなんでもありません!」

モノクマ「つまり、手術シーンは全てファンタジーとしてお受け止め下さい!!」

ウサミ「特に、実際のレポートを参考にしながら書いた舞園さんの時と違って、今回はある
     トラブルが手術のテーマになっているでちゅ! なので、多分こうだろうとか
     こうなんじゃないかな~という>>1の妄想が過分に含まれているでちゅ!」

ウサミ「なんで○○しないの?とか、Kなら~くらい出来る的なツッコミは厳禁でちゅよ!」


モノクマ「それでもおkな人は先に進んで下さい。では投下続行」




 !      手      術      開      始      !



KAZUYAはまず怪我の状況を正確に視診していく。


K(患者(クランケ)は顔の左半分に大きな裂傷二つと首筋に深い裂傷を負い、出血の色から
  どうやら頸静脈を傷つけてしまったようだな。…とりあえず頸動脈が無事で良かった)


血の色:動脈を流れる血は通常鮮やかな赤い色をしており、静脈はドス黒い暗赤色である。
     これは血液の色は赤血球の中にあるヘモグロビンに由来しており、体中に酸素を
     運ぶためヘモグロビンが酸素と結合している時が赤色、離した時が暗赤色となる。


K(顔の傷は浅いが…よりによって瞼(まぶた)を切るとは)


傷口の状態を検分しながら、KAZUYAは背筋が凍りついた。


K(あと、一ミリ傷が深ければ左目は失明していた…)


運が悪いかと思ったが、この男は運が良かったのだ。もしもう少し傷が深ければ、
或いはここにKAZUYAがいなければ、石丸は間違いなく死んでいただろう。


K(首の傷は切断面がやや荒いな。鏡の破片で切った訳ではないのか?)


周りを見渡すと、鏡の近くのトレーニング器具の少し尖った所に血が付いていた。どうやら
勢い良く鏡に衝突し、倒れた所を思い切り引っ掛けてしまったらしい。再びKAZUYAは青くなる。


K(石丸の制服の襟(カラー)に切れ目が入っている。ここに当たって勢いが落ちたのだろう)


一度は着替えて寝ていた石丸が、生真面目に着替えてきたから助かったのだ。もし面倒だからと
寝間着やジャージで来ていたら今頃……頸動脈は完全に裂け更衣室に赤い噴水が舞っていただろう。
頸動脈と頸静脈を同時に損傷すれば、如何にKAZUYAといえど助けるのは至難の業である。


K「大丈夫だ。この程度なら助けられる」

不二咲「ほ、ほんとぉ…?」

K「ああ、俺に任せろ!」


KAZUYAはまず出血の多い首筋の傷に取り掛かる。傷口から皮膚と広頸筋を左右に広げ、
ガーゼで出血を取り除き内部をよく観察すると、外頸静脈に傷が付いているのがわかった。

頸静脈:首の左右を通っている静脈。外側にあるのが外頸静脈、内側にあるのが内頸静脈である。


K(ここが主な出血源か。創の深さは胸鎖乳突筋の手前で済んだようだな。大耳介神経と
  頸横神経は無事。血管が真っ二つになっていないのは幸いだ。すぐに結紮・縫合する!)


胸鎖乳突筋:胸骨と鎖骨から耳の後ろ辺りを繋ぐ筋肉。首を曲げたり回転させる役目を持つ。
        頭を横や後ろに向けた時、反対側の首筋に浮き出ている筋肉である。

大耳介神経・頸横神経:共に頸神経叢(けいしんけいそう)を構成している神経の種類。

神経叢:しんけいそう。脊椎動物の末梢神経の基部や末端部で、多数の神経細胞などが枝分かれして
     網状になっている部分。わかりやすく言うと神経の配電盤的存在である。神経集網とも言う。

神経を切断するとその神経の支配領域に麻痺や痛み、しびれなどが出てしまう。KAZUYAなら
再接合は可能だが、なるべく切らないに越したことはない。血管を手早く縫合すると創表面に移る。


K(切断面が粗いため、少しデブリをする)


デブリ:デブリードマンのことである。感染した組織、壊死した組織、異物などを
     除去して、縫合しやすくしたり他の組織に悪影響を出さないようにする処置。

引きちぎれたせいか切断面が波を打っていて荒いため、メスで傷口が直線上になるよう余分な皮膚を
すっぱりと切除し、縫合した。この方が仕上がりが綺麗になるのだ。次に顔の傷に取り掛かる。


――だが、ここで予想外の事態が発生した。


大和田「取って来たぜ!」

K「よし! 輸血する」

大和田「な、なあ…助かんのか?」

K「ああ、問題ない。お前は黙って見ていろ」


ピクリ。


K(な……?!)


微かに石丸の指が動いた。有り得ない。麻酔が効いている間は全身弛緩しているはずだ。


K(麻酔の効きが悪いだと?! …そうか、極度の興奮のせいか!)


手術前、石丸は親友が別の友人に襲い掛かるという衝撃的過ぎる光景を目の当たりにして、
酷く錯乱し興奮していた。そのせいで、通常時より麻酔の効きが極端に悪くなっていたのだ。


K(不味いことになったな…)


KAZUYAはここに来てある大きな選択を迫られた。


K(本来なら追加麻酔をかければ問題ない――が、今は手持ちの薬品が限られている)


現在までに舞園、江ノ島、石丸と三人が怪我をしている。今後怪我人が出ない保障などどこにもない。
むしろ、出ないはずがないというのがKAZUYAの考えだった。実はこの考えは江ノ島の手術の時から
既にあって、一番重傷な左腕の貫通傷以外は得意の針麻酔を使い、麻酔を節約していた。
今回も、出来るだけ麻酔は温存しておきたいのだ。


K(……麻酔の問題だけではない。むしろ石丸のメンタルの方が深刻かもしれん)


今回石丸は顔面に大きな傷が出来ている。勿論、如何に大きな傷といえどKAZUYA程の優秀な
外科医なら傷痕一つ残さずに綺麗に縫合することは可能だが……それは何も支障がない場合だ。
通常、傷痕を残さないようにするには特殊な縫合方法を用いなければならない。

その説明の前に、まず縫合法には大きく二つの方法があることを説明しなければならないだろう。

結節縫合法:一針ごとに糸を結んで切り、その糸は独立する。一つ一つの糸が繋がっていないので、
        一本ずつ結ぶ力を調節したり、部分的な抜糸が可能。が、その分手間がかかる。

連続縫合法:縫い物のように一本の長い糸で連続して縫っていく縫合法である。結節縫合と違い、
        時間もかからず糸の消費も少ない。しかし、部分抜糸が出来ないため感染時には
        不適であり、また一箇所が切れると傷全体が開く危険性があるという欠点がある。


K(整容性を考えるなら埋没縫合法(真皮縫合)か皮下連続縫合法で縫合するのが妥当だろうが…)


埋没縫合法:皮下組織から真皮にかけて縫い合わせ糸を結ぶ。そのため、糸が創の表面に出ない。
        真皮縫合とも言う。極細の縫合糸で一針ずつ結節縫合していく。最も綺麗に仕上がるが、
        非常に繊細な技術が必要で時間がかかる。ちなみに、縫合糸は吸収系・非吸収系の
        どちらを使っても抜糸せず皮下に入れっぱなしであり、時々体外に出ることがある。

真皮:皮膚は【表皮】【真皮】【皮下組織】の三層構造になっており、真皮は中間部の層である。

皮下連続縫合法:皮下で連続縫合する方法。糸が表面に出ず創外面が綺麗になる。連続縫合なので、
          真皮縫合よりも時間がかからないが、通常の連続縫合と同じ欠点を有する。


K(真皮縫合は無理だ…あれはこの俺をもってしてもそれなりに時間がかかる。今回は傷も大きいしな)


真皮縫合をするには時間が、麻酔が足りない。


K(皮下連続縫合ならギリギリ間に合いそうだが…今の石丸の状態だと、恐らく目を覚ませば錯乱して
  暴れるだろう。そうなると、折角縫合しても糸が切れ創が開いてしまう可能性が出て来る…)


傷が残らないようにするには細い糸で丁寧に繊細に縫わなければいけないが、細い糸は切れやすい。
特に連続縫合の場合は一本の糸で通して縫っているため、どこか一箇所が切れれば一気に傷が開くのだ。
皮膚は繊細なので、再縫合を繰り返せば皮下組織がボロボロになり肝心の傷が癒合しにくくなる。


K(縫合不全になれば傷口から感染して炎症を引き起こす可能性がある。創の癒着が最優先だ。だが…)


KAZUYAは悩んでいた。悩む間にも麻酔は薄れていく。


K(痕が、残るな…)


結論として、KAZUYAは追加麻酔をかけずに太めの糸でやや強めに手早く縫っていった。
それはKAZUYAの知り合いが見たら驚愕する、ドクターKとしては有り得ない縫合だったろう。
暴れても糸が切れないこと、とにかく傷を生着させることを最優先に処置した結果だった。


K(許せ、石丸……ここから出たら必ず消してやるからな…)


最後の一針の糸を結び、ハサミで切って手術を無事終えた。



 !      手      術      完      了      !



……KAZUYAの脳裏に忘れられない苦い思い出が蘇る。

あれはKAZUYAがまだ中学生だった時の話だ。林間学校に行っていたKAZUYAは、事故に巻き込まれた
同じクラスの少女を緊急手術した。しかし当時のKAZUYAの腕は未熟で、命は助けられたものの彼女の
顔に大きな傷を残してしまったのだ。いつかこの手で傷を治すと約束したが、彼女は家庭の事情で
夏休みの間に密かに転校し、再会を果たしたのは彼女が亡くなってからのことだった――


K(あの時は俺の腕がまだ未熟だったからだが…まさか、また同じ後悔をすることになろうとは…)


新たな後悔を抱えながら、KAZUYAは器具を片付け始める。一段落ついたはずだった。

だが、震えながら立っている大和田と不二咲を見た時、新たな波乱が再びこの学園生活と
生徒達に襲い掛かるだろうことを、KAZUYAは予感してしまったのだった。








Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  医療編  ― 完 ―



ここまで。いやー無事復活して良かった!
いい加減医療サイト巡りも飽きてたし早まって避難所に投下しなくて良かった

そしてまさかの二章長すぎるため三分割とかwwwバカスwwwwww
今回が中編で次回から二章後編となります。計画性なさすぎィ。はぁ…

どれだけ長かろうと完結すればま、多少はね?

再開キター!!


と思ったらなんという展開…
大和田の説得成功してたんじゃなかったのか…

大和田は一時的に落ち着いただけで根本的な解決まで至ってなかったからな

誤字発見>>667 ×メスで傷口が直線上になるよう  ○メスで傷口が直線状になるよう

手術シーンで誤字とか全然意味変わっちゃうじゃん…ちなみに、皮膚は少しくらい
引っ張って縫っても伸びるから全然大丈夫らしいです。小さい火傷とか傷が複数ある場合は
そのあたりの皮膚をまるごと切除して皮膚引っ張って縫うとか普通らしい(刺青とかがそう)

>>674
完結させる気はある!

>>678
(言えない…これでも結構マシな方なんて…)

>>679
実際問題もし大和田がKに秘密を告白してたとしても事件は起こったと思います。Kは大和田にとって
大亜みたいな、誰から見ても凄いヤツ的存在なので殊更自分の弱さを意識することはありませんが、
一見弱いちーたんの内面の強さを認めるということは=自分の弱さと向き合う、ですからね


Q.毎週水曜日に発売されるものと言えば?


A.週刊少年マガジン!!


再開







Chapter.2 週刊少年マガジンで連載していた  非日常編






KAZUYAの中の苦い思い出と同じように、その夜は雨が降っていた。
汚染された雨だ。外は汚染されている。だが、彼等はそんなことは知らない。

何故なら、この建物は外界と隔離され外は愚か空さえも見ることは出来ないのだから。
知っていることと知らないこと。危険な自由と安全な不自由。

どちらが幸せかなんて、そんなことは誰にもわからない――


霧切(……………………)


ふと、霧切響子は胸騒ぎを感じて目を覚ました。彼女はそれを『死神の足音』と呼称する。
KAZUYAによって記憶のヒントを与えられた彼女は、既に取り戻すべき記憶の半分以上を
手に入れていた。そして取り戻した能力こそ、優れた探偵の証とも言える死神の足音だった。


霧切(……何かあったのかしら? それとも、これから起こる?)


彼女が起き上がろうとしたちょうどその時、来客を告げるインターホンが鳴ったのだった。


― 食堂 コロシアイ学園生活十一日目 AM7:05 ―


朝日奈は親友の大神とここに来てから習慣となっているトレーニングをし、気持ち良く
シャワーを浴びて食堂へとやって来た。昨日あったことなどなんのその、一日経って
すっかり元気を取り戻していたのだが、二人はすぐさま食堂に起こった変化に気が付いた。


朝日奈「おっはよー!」


シーン。


朝日奈「あれ? 調理場かな?」


いつもなら真っ先に食堂に来ているはずの男がいない。


大神「どうした、朝日奈よ」

朝日奈「それがね、石丸がいないの。変だなぁ」


大体石丸は食堂が開く朝7時あたりには食堂の入口で待機し、開くと同時に中へ入る。
そして食事当番でもないのに朝食の下準備をしておいてくれるのだ。


大神「勉強に熱が入っているか、風邪でも引いたのではないか?」

朝日奈「珍しいね。じゃあ、今日はどうせ私達の担当だし準備しちゃおっか」


特に気にせず朝食を作り始める。だが時間が経つごとに変化は異変に変わっていった。


朝日奈「…ねぇ、これって絶対おかしいよね」

大神「ああ…」


朝の光景は大体決まっている。まず石丸が騒々しく準備をし、次に来た自分達がそれを手伝う。
その前後にKAZUYAがやって来て、何やら難しそうな外国語の本を読みながらコーヒーを飲んでいる。
そこへ不二咲が来て、支度が終わったメンバーとおしゃべりをするのが日課だった。

そろそろ時計の針は7時半を指そうと言う時間になっているのに誰も来ない。


朝日奈「まさか、何かあったのかな…」


今この学園にいるのは自分達二人だけなんじゃ、という嫌な想像をしてしまう。
だが、か弱そうな不二咲はともかくKAZUYAや石丸にまで何かあったとは思いがたい。


朝日奈「どうする、さくらちゃん? 様子見に行った方がいいかな?」

大神「ウーム…」


悩む二人の前にある人物が現れた。


舞園「おはようございます」

朝日奈「あ、舞園ちゃん! おはよー」


現れたのは舞園だ。車椅子に乗らず、表情も以前の通りに戻っている。
心身、特に精神の回復の早さに大神はやや驚いて舞園に問う。


大神「…もう大丈夫なのか?」

舞園「体の方ですか? まだ完全ではありませんが、寄宿舎の中を少し歩くくらいなら
    問題ないです。昨日の件については、ご心配をかけて申し訳ありませんでした」

朝日奈「あ、いいよ。モノクマの言い方はちょっとイジワルすぎたよね」


正直に言えばまだ舞園に対するわだかまりもあるが、今は目の前の異変の方が気になった。


朝日奈「それよりさ、先生達に会わなかった? 私達以外誰もいないんだよね」

舞園「西城先生、石丸君に不二咲さんですか? ここに来る時には誰も…」

舞園(やっぱり…何かあったんですね)


彼女は気付いていた。何故なら、もう一度見回りに来るとKAZUYAは言っていたのに
来なかったからだ。不測の事態に身構える。そんな中、食堂にはまた新たな来客が現れた。


朝日奈「苗木、おはよー」

大神「おはよう」

苗木「みんな、おはよ…舞園さん?!」

舞園「おはようございます、苗木君」ニコッ

苗木「ま、舞園さん?! 元気になったの?!」

舞園「はい。今までご心配かけました。今日から舞園さやか復活です!」

苗木「ほ、本当に…?」


苗木にとっては夢のようだった。また舞園のあの笑顔を見れる日が来るなんて。
急に元気になるなんて不自然だとも思ったが、喜びの前にそんな疑問はかき消えてしまった。


苗木「いやぁ、良かった。本当に良かった! 一時はどうなることかと思ったよ!」

舞園「本当にごめんなさい」

苗木「それにしてもどうしたの? 何もないってことはないよね?」

舞園「…実は昨日の夜、桑田君と話したんです」


苗木「桑田君と?!」

朝日奈「桑田と?!」

舞園「はい。桑田君、自分も大変なのに私のこと励ましてくれて…それで元気になったんです。
    いつまでもうじうじなんてしていられない。私も頑張らないと!って」

苗木「そっかぁ、桑田君が…」

朝日奈「桑田のやつ、いいとこあるじゃん!」


少し空気が和やかになって談笑が始まりかかったが、ここで苗木はKAZUYA達の不在に気付く。


苗木「ところで、あれ? 先生や石丸君はどうしたの? 不二咲さんもいつもはもう来てるよね?」

朝日奈「あ、それが…大変なの! 三人ともまだ来てないの!」

苗木「え?! 三人同時に?」


あの三人に限って寝過ごしたなどということはないだろう。苗木も異常に気付き、青ざめる。


苗木「大変だ! 手分けして探しに…」


「その必要はないわ」


いつの間にか食堂の入り口には霧切が立っていた。あたかも何もなかったかのように
平然とその場に存在している舞園を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻す。


大神「霧切か。お主にしては早いな」

苗木「もしかして…霧切さん、なにか知ってるの?!」

霧切「ええ。三人は無事よ。私はドクターから伝言を頼まれて来たの」

朝日奈「なんだ~、よかったぁ」

舞園「でも、何もない訳ではないんですよね? 何があったんですか?」

霧切「石丸君が怪我をしたのよ」

苗木「え、怪我?! 大丈夫なの?!」

霧切「ドクターが治療したから命に別状はないわ。ただ、ドクターは石丸君に
    ついていなければならないから、朝食会には来られないと伝えにきたの」

大神「不二咲もそこにいるのか?」

霧切「昨日の夜までいたわ。疲れているだろうから、今朝は遅れてくるんじゃないかしら」


朝日奈「え? なんでなんで? なんで怪我したの?」

霧切「悪いけど、詳しい事情は私からは言えないわ。みんなには私から説明すると
    言ったのだけど、不二咲君がどうしても自分で説明したいと言うから」

舞園「…不二咲“君”?」


舞園が耳ざとく気付いて霧切を見たが、霧切はそっと目を伏せた。


霧切「ごめんなさい。私からは何も言えないの。すぐ明らかになるから。
    …あと、大和田君も朝食会には来ないと思うわ」


そう言うと、もはや何も話す気がないと言うように霧切はコーヒーを入れ席に着いてしまった。
とりあえず三人の無事は確認出来たので、四人も定位置に着いて他のメンバーを待つことにした。

朝食会は大体三つのグループに分けることが出来る。一つ目は早朝組。石丸を筆頭に、KAZUYA、
朝日奈、大神、不二咲、舞園の六人である。次に、そこそこ組。特別早くもないがある程度
余裕をもって来る組で苗木、桑田、大和田、霧切の四人が当たる。最後がギリギリ組。
ギリギリと言っても半分は遅刻することが多い。十神、セレス、腐川、山田、葉隠、江ノ島の六人だ。
(桑田と大和田は元々ギリギリ組だったが、生活態度を改めてからはそこそこ組になっていた)

そして桑田、石丸、大和田、不二咲以外の全生徒がほぼこの区分通りに食堂へとやって来る。


朝日奈「江ノ島ちゃん! 怪我したところ大丈夫?」

江ノ島「うん、ちゃんと縫ってもらったしこのくらいヘーキヘーキ!」

苗木(縫ったから平気って…一部槍が貫通してたのに。意外と根性あるんだなぁ)

十神「それで、これはどういうことだ?」

セレス「有り得ない顔ぶれがいらっしゃいませんわねぇ」

葉隠「…えーっと、なんかあったっぽい?」

江ノ島「そんなの見りゃわかるっしょ」

山田「いつ頃いらっしゃるんですかね? 僕、お腹が空いてしまいまして」

腐川「なんなのよ、一体…」

苗木「ま、まあまあ。もうすぐ不二咲さんが来て全部説明してくれるらしいからさ」


昨日の雰囲気を引きずりいまだ険悪なメンバーを苗木が宥める。朝食会の時間を少し過ぎてから
不二咲はやって来た。何故か桑田と一緒だ。不二咲は傍目からわかるほど顔色が悪く、目は赤く腫れて
酷い顔をしていた。一方桑田は明らかに寝不足と言った感じで、顔色は悪くないが不機嫌そうである。


不二咲「おはよう。み、みんな、遅れてごめんね。桑田君がなかなか起きてくれなくて…」

山田「な、なんと?! ちーたんは桑田怜恩殿と一緒にいたのですか?!」

葉隠「事件だべ! これはなんかあるべ。俺の占いは三割当たる!」

セレス「まあ、大人しそうな外見に似合わず意外とやりますのね、不二咲さん。
     そう言えばよく殿方と一緒にいらっしゃいますものねぇ」

江ノ島「よりによって桑田ァ? アタシがもっといい男の選び方教えてやるよ!」

腐川「ふ、不潔よ! 近寄らないで!」

十神「…………」

桑田「うっせー! そんなんじゃねーよ! アホアホアホアホクソボケウンコタレ!!」

江ノ島「な、なによ! そこまで怒らなくたっていいじゃない!」

桑田「アホアホアホアホ!」

セレス「…見苦しいですわよ、桑田君」

葉隠「おい、桑田っち。いい加減に…」


山田「……え?」

腐川「な、なによ……」


桑田の態度に再び喧嘩が起こりかけたが、起こらなかった。何故なら桑田は真っ赤になって
怒鳴っているが、その顔は怒っているというより泣くのをこらえているように見えたからだ。
そして桑田の横に立つ不二咲は既にボロボロとしゃくりをあげて泣き始めていた。

……何かあったのだと、彼らもようやく悟った。


十神「泣いていても仕方あるまい。お前が来るまで待たされたんだ。早く説明したらどうだ?
    …まあ、この俺には何があったのか大方予想はついているがな」


口々に生徒が騒ぐ中、十神だけは冷静だった。元々KAZUYAが不在な時点で何かあったのは
聞かずとも明白。桑田はKAZUYAと近いから、単に不二咲のことを頼まれただけだろう。


十神(今現在いない面子から想定するに、石丸か大和田二人のうちどちらかが
    何らかのトラブルで怪我をした。…それもかなり重傷のな)

十神(十中八九原因は大和田だろう。石丸の奴は馬鹿で抜けてはいるが、腐っても
    超高校級の風紀委員だ。生徒に怪我をさせるようなヘマはしまい)


不二咲「い、石丸君がね……大怪我しちゃったんだ。僕のせいで……」

セレス「あら、まあ…」

山田「け、怪我ですと? それで、容態の方は…?」

桑田「…せんせーがすぐに処置したからなんとか助かった」

江ノ島「なんだ! よかったじゃん!」

葉隠「そうだべ。怪我をしたのはご愁傷様だが、助かったんだからそんな
    暗い顔しないで石丸っちの無事をもっと喜ぶべきだべ」

桑田・不二咲「…………」


シーン。


葉隠「…あ、ありゃ? 俺なんかおかしなこと言ったか、苗木っち?」

苗木「え、僕?! いや、今回は特におかしいことは言ってないと思うけど…」

舞園「…もしかして、後遺症か何か残るんじゃないですか?」


舞園が冷静な声で二人に聞く。その問いに不二咲はビクリと震えまた泣き出し、桑田が代わりに答えた。


桑田「傷……残るんだって」

腐川「え、なに? き、傷がどうしたのよ?」

桑田「だからっ! 顔にバカでっかい傷が残っちまうんだってよっ!」

一同「!!」


再び場が騒然となる。


朝日奈「え? 顔? あいつ顔に怪我しちゃったの?!」

苗木「そ、そんな…」

大神「むぅ……」

山田「いや、いやいやいや! まさか、そんな…ブラックジャックレベルのじゃあ、ないですよね?」

桑田「…俺は見たけど、同じくらいか下手すりゃもっとヒドイ」

江ノ島「全部で何針くらい縫ったの?」

不二咲「二十ヵ所くらいあったよ。しかも顔は二ヵ所切ったの…」


針数:縫合技術がまだ未熟だった頃、大体一針一センチ程であったので針数が傷の大きさを
    示していた。現代は技術が進み、それこそ傷を残したくない顔などは一センチに
    十針近く縫うこともあるので単純に針数を聞くことは無意味となっている。

…しかし今回の場合、麻酔の効果時間と傷の癒着を最優先にして通常よりかなり粗く
縫ったため、針数が通常より少なくそのまま傷の大きさに比例していると考えてもらって良い。


江ノ島「二十も?! かなり大きいね…」

葉隠「ま、まあアレだべ! 顔に傷なら大神っちだってあるし…」

大神「我は格闘家だ。傷は激闘を生き抜いた証であり勲章でもあるが、お主ら一般人は違う」

葉隠「だ、だべなぁ……傷かぁ……」

山田「普通なら命があっただけいいって言えますけど……なにせ顔ですからなぁ……」

十神「それで、何で怪我をしたんだ?」


詰問するように十神が不二咲を睨む。その視線に怯えながらも、不二咲は説明し始めた。


不二咲「そ、それを話すにはまず僕の秘密から言わなきゃいけないの…」


山田「秘密? ちーたんの秘密とな?!」

苗木「…やっぱり、昨日配られた動機と関係があるの?」

不二咲「そう。僕に勇気があればこんなことにはならなかったのに…」

セレス「後悔は後でゆっくりして下さいな。それで不二咲さんの秘密とは一体何ですの?」

不二咲「僕…………本当は男なんだ」


その瞬間、食堂の時が止まる。事情を知らない全員がポカンと口を開ける。


「…………ハ?」

不二咲「今までずっと女装してみんなを騙してたの。ごめんね……」

「ハアアアアアアッ?!!」

葉隠「不二咲っちが……男?!」

山田「リアル男の娘ですとぉぉぉっ?! 嘘だと言ってよバーニィ……」

苗木「えええええええええええっ?!」


朝日奈「うそぉぉぉっ?!」

大神「なっ……?!」

腐川「……はぁ?!」

十神「何……だと……」

セレス「生命の神秘を感じますわね…」


流石の十神すらこれは予想出来なかったようで、面食った顔をしていた。


舞園「だからさっき霧切さんは不二咲君と呼んだんですね」

霧切「ええ、そうよ……不二咲君、続きを」

不二咲「うん。それでね……」


不二咲は一連の決意や出来事を順に話していった。不二咲の悲しい過去や
それを乗り越えようとしたくだりでは賞賛の声も上がった。

そしていよいよ次は事件について話し始める。


ここまで。

人数が多いと文章量は多いのにあまり話が進まないということが稀によくある

昨日は寝落ちしてすみませんでした

ちなみに前スレ最後で各キャラのスキル表を書きましたが、KAZUYAのSスキルは
この学園にちゃんとした設備はないので実質死に設定です。大怪我したら死にます


               ◇     ◇     ◇


終始、和やかな空気であった。この後想像を絶する悲劇が起きるとは到底信じられぬ程に。


不二咲「うーん…うーん…」

大和田「おら、ガンバレ」

石丸「頑張れ、不二咲君!」

不二咲「九……十!」

大和田「やったじゃねえか! オメエもやりゃ出来るなぁ! ハハハッ!」

石丸「おめでとう、不二咲君!」

不二咲「ありがとう、二人共!」

不二咲(ふふっ! 僕は今まで何をうじうじしてたんだろう。僕だってやれば出来るんだ!
     ……でも、それは後押ししてくれる人達がいるからだよね)

不二咲(もっと早く先生に言えば良かったなぁ。それにもっと友達を信じれば良かった。
     もうこれからは自分を隠さなくていいんだ。男友達とだって思い切り遊べるんだ!)


今から思えば不二咲は少し浮かれていたのだ。しかし、一体誰がそれを責められようか。


不二咲「じゃ、じゃあ次は~」

大和田「おいおい、ムリすんなって。張り切りすぎるとケガするぞ」

石丸「その通り! 不二咲君はまだ始めたばかりで体が出来ていない。休み休みやりたまえ」

不二咲「はぁ~い」テヘ!

大和田(これで男とかなぁ…)ハァ


溜め息を吐く大和田に、不二咲は無邪気に笑って近付いた。


不二咲「そういえば、大和田君もさっきから一生懸命鍛えてるね?」

大和田「おう、実はな。…あんま言いたくないが、この間ここで兄弟と勝負してボロ負けしてな」

不二咲「え?! 大和田君が?!」

大和田「一応言い訳するとだ……」

石丸「言い訳は男らしくないぞ、兄弟」


鋭い石丸のツッコミが入るが大和田は無視する。


大和田「うるせー。ここに来たばっかの時は確かに俺の方が上だったと思うんだわ。
     …ただな、閉じ込められてしばらく運動不足だったろ。それが祟ったみたいでな」


石丸「僕は毎朝目が覚めたら必ずラジオ体操をし、朝の鍛練を欠かさないからな! その後昼間は
    ずっと勉強だが、座りっぱなしでは体に悪いから夕方軽く運動をし、寝る前はストレッチだ。
    どうだね? 非常に健康的な生活だろう? 不二咲君も見習ってくれていいぞ!」

不二咲「見習いたいけど、僕はちょっと無理かも…」

大和田「兄弟は終始こんな感じだからよ。ただ、腹筋背筋腕立ては負けたが
     ベンチプレスは根性で勝ったぜ! 他のも近日中にリベンジの予定だ」

石丸「はっはっはっ、返り討ちにしてくれる!」


余裕そうに笑う石丸を見て、不二咲はふと石丸のことはあまりよく見ていなかったなと思った。


不二咲(西城先生や大和田君ばっかり見てたけど、石丸君も実は凄いんだよね。文武両道だし、
     今だって一心不乱に課題をこなしてるし。もう苦手だなんて思わないようにしよう)

不二咲「石丸君て凄いよねぇ。努力家だし勉強も運動も頑張ってる。それに比べて僕は……」

石丸「何を言うんだ! あれ程の秘密を持っていたのに一大決心をした君こそ凄いではないか。
    僕の秘密なんて本当にちっぽけなものだ。あんなことで悩んでいた自分が恥ずかしい」

不二咲「石丸君の秘密……聞いてもいい?」

石丸「構わないぞ。なに、ここに来るまで友人という存在が一人もいなかったという、ただそれだけのことだ」

不二咲「えっ」

大和田「あぁ……まぁ……そういうこともあるだろ」


石丸「でも僕はここでかけがえのない友人が出来た。正直、そのことだけはこの生活に感謝している」

大和田・不二咲「…………」

石丸「不二咲君。君が男性だとわかったから聞きたい。君も僕の友人になってくれるかね?」

不二咲「もっ、もちろんだよ! 僕も石丸君の友達になりたい!」

大和田「バーカ。んなことはわざわざ口に出して聞くもんじゃねえだろーが」

石丸「そ、そうなのか?! もしやまた僕は空気が読めていなかったのかね?!」

大和田「空気読めないとかじゃねーんだよ。兄弟のKYは一生治んねえな。ハハハッ!」

不二咲「あははっ」

石丸「ところで、兄弟の秘密は何なのだね?」

大和田「ハハ……は?」


笑いが止まる。


石丸「どうかしたのか?」

大和田「あ、いや、その…」


石丸「歯切れが悪いな。もしかして、言いたくないのかね? まあ、どうせ明日に
    なればわかるし、言いたくないと言うのなら今は無理をせずとも良いが」


まあ、ちょっと、な……と大和田が言って終わる話のはずだった。石丸も話の流れで
何となく聞いただけで、別に大和田の秘密を暴きたかった訳ではないし、現にすぐ引いた。

では、何が問題だったか。


不二咲「石丸君! 大和田君に失礼だよ!」

大和田「……ハ?」

石丸「ん?」

不二咲「大和田君は強いんだから! 弱い僕なんかと違って秘密なんてへっちゃらだもんね?」

石丸「ああ、そうだった。失礼したな、兄弟。親しき仲にも礼儀ありだ」ハハ

不二咲「そうだよ! 大和田君はとっても男らしくて強いんだから。
     いつまでも“嘘に逃げてた弱い”僕なんかとは違うんだよ!」

石丸「君は弱くなんてないさ。生まれ変わったのだからな!」


そう言って二人は笑うが、大和田だけは笑っていなかった。


大和田「本当に強ぇーなら…秘密を言ってみろっつーことか?」

不二咲「え…?」


余りの冷たい声に、思わず石丸は顔を上げた。大和田は今まで見たことのない顔をしていた。
…ただ、それが喜んでいる訳ではないのは明らかだ。


大和田「俺に…どうしろっつーんだ…? 秘密をバラして…全部台無しにすりゃいいのか?」

不二咲「お、大和田君? どう…したのぉ?」

石丸「兄弟…?」


その時、石丸の脳裏にKAZUYAの言葉が蘇った。

『単刀直入に言うが、精神状態が極めて悪い。今回のことでかなり追い詰められているようだ』

『…俺も正直、今のあいつは危ういと思っている』


石丸(そんな……そんなこと、ある訳……)


そう思いながらも、無意識に石丸は立ち上がっていた。


石丸「兄弟……いけない……」

大和田「なんで…オレに言った? オレへの当て付けか?」

不二咲「ぼ 僕はただ…大和田君に憧れてて…強い…大和田君に憧れて…」

大和田「そうだよ…俺は強ぇーんだ…強い…強い…強いんだ…
     強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い!」

石丸「兄弟!」

大和田「オメェよりも…! 兄貴よりもだぁぁぁぁぁああッ!!!」

石丸「よせえええええええええッ!!」


大和田が叫びながら手に持っていたダンベルを振り上げる。石丸は持っていた物を
放り投げ、友人の凶行を制止すべく走った。そして……


石丸「うぅ……ぐぅ……」

大和田「兄、弟……?」

不二咲「い……石丸君っ!!」


気が付いた時、大和田の足元には顔面と首筋から血を流してうずくまる石丸の姿があった。


大和田「きょ、兄弟…? 兄弟ぃぃっ!! 兄弟! 兄弟! しっかりしてくれよっ、兄弟!!」


一瞬何が起こったかわからず呆然としていたが、自分がしたこととその結果に気付いた時、
大和田は錯乱した。石丸に縋り付き激しく揺さぶろうとする。その姿を見た時、不二咲は
正気を取り戻した。そして自分が今何をしなければいけないかを急速に理解した。


不二咲「動かしちゃダメェェェッ!!」


こんなに焦っているはずなのに、自分にもこんな大きな声が出せたんだと不二咲は思う。


大和田「で、でも兄弟が!」

不二咲「授業の内容を思い出して! 早く、早く止血をしないと…!」

大和田「し、止血…」

不二咲「見て! 頸動脈のすぐ近くが切れてる。乱暴に動かしたら切れちゃうかも」


不二咲は自室に置いてあった人体急所マップを思い出していた。頸動脈は急所の一つだ。
これが切れたら恐らく助からないだろうと言うことは素人でもわかった。


大和田「ど、どうすりゃいいんだ?!」


不二咲「落ち着いて! 習った通りにやれば僕達にも出来るはずだよ!」

大和田「…そうだ! 当て布だな!」


同じ授業を受けていたはずだが、元々大和田は勉強が苦手なので理解度に差があった。
そのため記憶力の良い不二咲が大和田をフォローする。


不二咲「傷口を心臓より上にしないと…大和田君、石丸君を壁に寄り掛からせて!」

大和田「お、おう。こうだな?」


大和田が石丸の体を抱えて壁際に運ぶ。


不二咲「傷口を押さえないといけないんだけど、大事な血管の近くだし
     何より首だからあんまりぎゅうぎゅうやるのは良くないかも…」

大和田「じゃあどうすりゃいいんだよ?! ほっといたら死んじまうだろ?!」

不二咲「間接圧迫止血法をしてみよう! これなら患部から離れてるから大丈夫なはずだよ!」

大和田「あの布で絞め上げる奴か? で、どこを絞めればいいんだ?!」

不二咲「あ……」


腕や足の止血点は習った。止血帯の巻き方も。だが、首の止血点は習ってない。
そもそも、首を絞めたら止血は出来たとしても呼吸が出来ないのではないだろうか。

止血点:患部と心臓の間に存在する、間接圧迫止血法で圧迫すべきポイント。

止血帯法:止血の方法の一つ。幅広の布で、傷口より5~10センチ程心臓側の部位を緩めに巻き、
      棒状の物を差し込みそれを巻くことで、簡単に止血することが出来る。但し、この方法は
      簡単に圧迫することが出来る分、強く締めすぎて細胞を壊死させる可能性が極めて高く、
      現在は現場でも推奨されていない。実際に行う場合は三十分に一度緩めなければならない。


石丸「首の止血点は……付け根……ここだ……」


左鎖骨の上辺りを石丸が息も絶え絶えに指し示す。


石丸「恐らく…血の色と、出血量から…傷ついているのは頸静脈…だから、ここを…」

大和田「わかった! わかったからもうしゃべるな!」

不二咲「えっと、素人が止血帯を使うのは極力避けた方がいいから…大和田君、指で押して!」

石丸「圧迫は……三十分おきに、少し緩める…」

大和田(兄弟が勉強家で助かった! あとは先公さえ早く戻ってきてくれりゃあ…)

不二咲(確か…石丸君が流しても問題ない出血量は1リットルくらい。もう半分近くは
     流れちゃってるはず…急がないと)


不二咲「ねえ! 押さえるのは大和田君一人でも大丈夫だよねぇ?! 僕先生を呼んで来る!」

大和田「頼む!」


そしてちょうど不二咲が立ち上がった時、KAZUYAは戻ってきた。冷静に状況を把握すると
鮮やかな手捌きで傷口を縫合していくが、顔の傷を縫合する前にKAZUYAは一瞬止まった。


不二咲(先生……何か考え込んでる。顔より首の方が重傷なのに……)


賢い不二咲は、ズタズタに裂け血まみれになっている石丸の顔を見て気付いた。


不二咲(もしかして、顔に傷が残っちゃうんじゃ……)


少し悩んだもののKAZUYAは顔の傷も手早く縫い上げ、手術を終えた。


K「それで……聞かせてもらおうか。ここで何があったのかをな」

大和田「…………」


俯く大和田にKAZUYAは厳しい表情で詰問する。


不二咲「違うよ! 先生、本当に事故だったんです!」

大和田「!」

K「事故?」

不二咲「だって、ちょっと前まで僕達楽しくおしゃべりしてたんです。それに、先生も
     大和田君の強さは知ってるでしょう? そんなことする訳ないんです!」

大和田「…………」


不二咲の言葉を大和田は黙って聞いている。


K「…どうなんだ、大和田? 黙ってないで何か言ったらどうだ」

大和田「あ……あ……」


呆けていた大和田は突然ガクガクと震え出した。KAZUYAは警戒して不二咲を後ろに下げる。


大和田「お、俺がやった……俺が――だったから……」

不二咲「大和田君?」

大和田「うわああああああああああああああああああああっ!!!」


ダッ!

大和田は絶叫しながら更衣室を飛び出して行った。


不二咲「ま、待って! 大和田君!」

K「よせ、不二咲!」


追いかけようとする不二咲の手をKAZUYAが素早く掴む。


不二咲「先生、でも…」

K「お前の足では追いつけん。よしんば追いつけたとしても、今の大和田は危険だ!」

不二咲「危険……」


危険という言葉にショックを受ける不二咲の両肩を掴み、KAZUYAは言い聞かせた。


K「現実から目を背けるな。あいつがお前を襲おうとしたのだろう?
  何か理由があるはずだ。前後にあった出来事を事細かに話してくれ」

不二咲「……うん」


不二咲はその時話していた内容も大和田の様子もなるべく一言一句正確に話す。
だが、聞けば聞くほど何故大和田が不二咲を襲おうとしたのかわからないのだった。


K(わからん……あいつが重要な秘密を持っているのは知っている。だが、人は殺さないと
  誓っていたはずだ。しかも何故直接秘密を聞いた石丸ではなく小柄な不二咲を狙った?)

K(話を聞く限り強いという言葉がキーワードになりそうだが。……そういえばあいつは
  以前から何かと強さに執着して事あるごとに強がっていたな。そこにヒントが…?)

不二咲「大和田君、どうして…? グスッグスッ…」

K「…とにかく石丸を個室に運ぼう。大和田も心配だが、今は怪我人を優先する」

不二咲「……はい」

               ◇     ◇     ◇


不二咲「事故、だったよ…大和田君が手を滑らせて、持ってたダンベルが僕の方に飛んで
     来ちゃったんだ。石丸君が庇ってくれたから僕は平気だったんだけど、石丸君は
     体勢を崩して壁の鏡に衝突しちゃって。その後運悪く首も引っ掛けて…」

桑田「おい、不二咲……」

霧切「…………」


生徒には包み隠さず本当のことを言うようにKAZUYAから言われていたが、不二咲は嘘をついた。
大和田と仲が良かったのもあるが、優しい不二咲に本当のことなど言えるはずもなかった。


舞園「首も鏡で?」

不二咲「ううん。首は横にあった器具の角にたまたま引っ掛けちゃったんだ」

朝日奈「うわあ、痛そう…」

大神「災難だったな…」

苗木「じゃあ、大和田君は責任を感じて部屋に篭っちゃったんだ…」

不二咲「う、うん……そう……」

桑田「…………」


真相を知っている桑田は大和田を庇って嘘をつく不二咲を複雑な顔で見ていた。
昨晩は桑田にとっても本当に災難な夜だったのだ。


ここまで

この辺は一つ一つのシーンが長いから区切るのが大変


― 桑田の部屋 昨晩 AM1:17 ―


舞園が部屋に戻り、やっと桑田は安眠出来たのである。
しかしその安眠を妨害するかのように、眠りについた瞬間インターホンが鳴った。


桑田「ああ? 今度はなんだよ!!」


度重なる来客でいい加減疲れてきた桑田は乱暴にドアを開ける。


桑田「誰だ!」

不二咲「ヒッ! ご、ごめんなさいごめんなさい」ポロポロ

桑田「あ……え? 不二咲?」


扉を開くとそこには涙で顔がくしゃくしゃな不二咲がいた。しかも服には大量の血が付いている。
予想外の光景に桑田は眠気も怒りも全て吹っ飛んだ。まさか誰かに襲われたのか?!と血の気が引く。
だが、更に驚かされたのはそのすぐ横から同じように血まみれのKAZUYAが現れたことだった。


K「桑田、寝ていたのにすまん。大至急、来てくれ!」

桑田「なんだよ…なにが起こったっていうんだよ…?!」


その後、同じように霧切に声をかけ四人は石丸の部屋に入った。


桑田「なんで石丸の部屋に…」

K「……見ればわかる」

桑田「ハ?! なんだよこれ…」

霧切「酷い怪我ね……手当てはされているけど」


二人はベッドに横たわった石丸と、横の棚に置かれた血染めの制服を見た。石丸の顔と首は
黒い糸で数ヶ所縫われている。特に顔の傷を見た時、桑田は思わず目を逸らしてしまった。
額の左側から左眉と瞼を通って左頬まで貫通している傷が一つ。頬にはもう一つ、その傷の
外側から顎にかけてが大きく裂けている。痛々しいどころの騒ぎではない。


桑田「いったいどうしたっていうんだよ…?!」

K「今から何があったか全て説明する。…もう、俺一人では手が回らんのだ。手伝ってくれ」


KAZUYAの説明を桑田は判然としない様子で聞いていた。寝起きで頭が働かないのもあったが、
何もかもが飛躍し過ぎていてついていけなかったのだ。不二咲が男? 大和田が不二咲を襲った?


桑田「ウ、ウソだろ……そんなの……」


霧切「気持ちはわかるけど、現実逃避をしても意味がないわ。ドクターがここで
    私達に嘘を話すメリットはないもの。つまり、全て本当のことよ」

K「冷静で助かる。混乱を最小限にするために協力して欲しい」

桑田「あ、ま、待てよ。苗木は? 苗木もいた方がいいんじゃね?」

K「いや、苗木は駄目だ。今俺とは距離を取ってもらっている。特に今回は
  俺の周りで起こった事件だからな。周囲の目はより厳しくなるだろう」

桑田「じゃあ霧切も本当は良くないんじゃね?」

K「…本当はな。ただ、お前は説明役に向いていないだろうしやむを得なかった。
  それに霧切はいつも冷静だから生徒代表で呼んだということにすれば体裁も保てる。
  とりあえず霧切、俺が君に頼みたいのは…」

霧切「ドクターは石丸君の側から離れられない。だからみんなに説明とフォローをして欲しいのね?」

K「そうだ。頼む」

不二咲「あ、待ってぇ! …その、説明は僕にやらせてくれないかな…」

霧切「いいの、不二咲君?」

不二咲「うん…僕の秘密も言わなきゃいけないし、僕のせいで起こったんだから…」

霧切「そう…」


K「だが、みんなには全て本当のことを話さなければならんぞ」

不二咲「わかってます…」

桑田「なあ、そんで石丸の状態はどうなんだ? 治療したから大丈夫なんだよな?」

K「重傷だったが処置が早かったから命に別状はない」

桑田「そ、そうか」ホッ

K「ただ、な…」

桑田「ただ、なんだよ…」


KAZUYAの顔はとても暗かった。その表情で察した霧切が後を継ぐ。


霧切「…そう。顔に痕が残るのね…」

不二咲「……!!」

桑田「えっ?! ウソだろ…?」


桑田は石丸の顔をまじまじと見る。大きな傷はフランケンシュタインを思い出させた。
不二咲は口を両手で押さえ真っ青になってガクガクと震えている。


桑田「え……その、時間がたてば消えたりとかさ、手術で消せたりしないの?」

K「勿論、俺の腕なら十分可能だ。ただ…ここでは薬品が足りないのだ。命に関わる傷では
  ないからどうしても優先度が低い。だから、外に出るまでは消せないと言うことになる」

桑田「で、でも消せるんだろ? なら良かった…」

霧切「いつ外に出られるかわからない以上治らないも同然よ。一生ここから出られないなら
    彼の傷も一生このままになるし。何より大和田君がこの状況に耐えられるかしら?」

桑田「そうだ、大和田! あいつなにやってんだよ! 引きずり出さねえと!」

K「よせ。あいつが今一番自分を責めているはずだ。今は放っておくしかない。
  むしろ今回のことで自分を追い詰めてしまい過ぎないか、俺はそれが心配だ…」

桑田「まさか、自殺とか…?」

不二咲「そ、そんなぁ…?!」


少し前に舞園が悲壮な顔で死にたいと言っていたのを思い出し、桑田の胸はズキリと傷んだ。


K「内鍵をかけられてしまえばこちらから止めることは出来んからな…」

桑田「なら尚更様子見に行った方がいいんじゃねえか?!」

霧切「落ち着いて。大和田君のことが心配なのはわかるけど、今は手を出せない人より
    目の前の石丸君を何とかするのが最優先じゃないかしら」


桑田「石丸は大丈夫だろ。もう治療すんでんだから」

霧切「話を聞いていなかったの? 石丸君は麻酔の効きが悪くなるほど極度の
    興奮状態だったのよ? そんな彼が目を覚ませばどうしようとすると思う?」


霧切の問いに対して、桑田の代わりに不二咲が呟く。


不二咲「きっと、怪我をしてるのに無理して大和田君の所に行こうとするんじゃ…」

K「そうだ。そんなことをすれば折角縫合した傷がすぐに開いてしまうだろう。
  石丸はもうすぐ目を覚ます。桑田、お前は石丸を押さえてくれ」

K「…大和田については、早まらないことを祈るしかない」

桑田「マジかよ…」

石丸「う……」


話している最中に、石丸の呻き声が聞こえる。ハッとして一同は顔を見合わせた。


K「桑田! お前は反対側に!」

桑田「わかった!」


ベッドの両脇にKAZUYAと桑田が控える。


石丸「……こ、こは?」

K「目を覚ましたか。ここはお前の部屋だ」

不二咲「先生が石丸君を手術して、運んでくれたの…」

石丸「そうか…先生、ありがとうございます。…ん? 桑田君に霧切君が何故? それに…」

石丸「兄弟はっ?!」


バッと起き上がろうとした石丸をKAZUYAと桑田が見事な反射神経で即座に押さえつける。


石丸「桑田君?! 先生も、何をするんです! どうしてここに兄弟はいないッ?!」

K「落ち着け! 大和田はお前に怪我をさせたことを後悔して今部屋にいる!」

石丸「そんな! あれは事故だと言ってるのに! 自分を責める必要なんてないんだ!」

霧切「そうかしら?」


興奮して叫ぶ石丸とは対照的に、いつもと変わらぬ冷静な口調で霧切は異を唱えた。


石丸「! 何が言いたい…?!」


桑田「お、おい霧切……」

K「いや、言わせてやれ。現実から目を背けて良い結果になった試しなどない」

霧切「私達はその場にいた訳ではないけれど、あなたはその目で見て知っているはずよ。
    確かに大和田君が不二咲君を殺そうとした瞬間を」

石丸「違うッ! あれは…!」

不二咲「石丸君、ごめんねぇ! 僕の、僕のせいで!」


暴れていた石丸が静止し、泣いている不二咲をジッと見つめる。


石丸「ふ、不二咲君…」

不二咲「僕に勇気がなかったから、特訓がしたいなんて言い始めたからこんなことに…」

石丸「ち、違う! 君は悪くなんてない!」

K「では誰が悪いのだッ!!」

石丸「!」


KAZUYAの怒気を含んだ怒鳴り声に石丸は一瞬怯む。
普段あまり怒らないKAZUYAが怒ると、その怒りは芯に沁みるのだ。


K「大和田も不二咲も悪くないなら誰が悪い? お前が悪かったから怪我をしたのか?
  こんな事態を招いたのはお前の自業自得なのか? 或いは席を外した俺のせいか?」

石丸「そ、それは……」

K「あいつがあいつの意志でこの出来事を招いた。その現実から目を逸らすな!」

石丸「し、しかし! なら尚のこと兄弟は自分を責めているはず! 行かせて下さい!」

K「駄目だ。手術したとはいえお前は重傷患者だ。知識があるならわかるだろう?
  お前は外頸静脈に傷がついていたのだ。今は絶対安静にしなければならん!」

石丸「でも! 今行かないと、兄弟がもし自殺でもしてしまったら!」

K「お前の傷を見せるのは逆効果だ!」

石丸「傷ついた兄弟を一人にはさせておけない! 行かせてくれ!」

桑田「暴れんなってバカ! 傷が開くだろ!」

不二咲「石丸君、ダメェ!」

K(いかん……話が通じない……やむを得ん!)

K「霧切! 少しだけ代わってくれ」

霧切「わかったわ!」


桑田「え、ちょ、うわ!」

桑田(怪我人のくせになんつーバカ力だよ!)

霧切「くっ…!」


KAZUYAがいなくなり桑田と霧切が悪戦苦闘している中、KAZUYAは注射器を取り出し石丸に刺した。


石丸「何を…?!」

K「鎮静剤だ。お前は少し落ち着け。大和田は後で俺から説得してやる」

石丸「こんなもの……僕は眠りませんよ!」

桑田「だから怪我人はさっさと寝ろよ! 俺達がなんとかするっつってんだろ!」

不二咲「石丸君、お願い! 先生を信じてぇ!」


しかし、驚異的な精神力で石丸は眠らなかった。


石丸「くっ! ……眠ってたまるか! 僕は兄弟の所に行かないと……」

桑田「おい、薬うったのにまだ寝ないぞコイツ」

霧切「シッ」

桑田「…………」


K(何て奴だ…限界ギリギリの量を打ったというのに。だが、ここまで来れば後は容易だ)

K「これをよく見ろ」

石丸「…………」


KAZUYAは石丸の肩を一定のリズムでゆっくりと叩きながら、
左手の指を目の前に差し出し、同じ早さで振り子のように動かす。


石丸「そ、そんなもの……」うつらうつら

K「…………」

石丸「僕には……僕……には……」うつらうつら

石丸「ん……」スゥ


石丸が目を閉じ、寝息を立て始めたのを確認してやっとKAZUYAも息をつく。


K「……フゥ。やっと落ちたな」

桑田「なにやったんだ?」

霧切「簡単な催眠術よ。鎮静剤を先に打っていたから劇的に効いたのね」


K「薬品はなるべく温存したかったが、こうなっては仕方ない。しばらくは薬漬けだな…」

桑田「しょーがねえよ。コイツが暴れるのがわりいんだし」

霧切「とりあえず、私の役目は終わったと見ていいかしら?」

K「ああ、深夜にすまない。明日の朝は頼む」

霧切「わかったわ」


そう言って霧切は去って行った。


桑田「えっと、俺は…」

K「お前にはまだ頼みたいことがある。…頼む。不二咲を守ってやってくれ」

桑田「えっ?! 俺が…?!」

K「大事な話だ。二人ともよく聞け。こんな大事が起こり、明日はさぞかし荒れるだろう。
  そして、混乱の中事件を起こそうとする者がいるやもしれん」

不二咲「先生は…内通者の話を信じてるのぉ?」

K「…残念だがな。そして、よりによって俺が信頼していたメンバーのうち、腕に自信がある
  大和田と石丸二人が同時に抜けてしまった。俺自身もしばらく石丸を看なければならない」


K「今自由に動けるメンバーで一番腕が立つのは桑田、お前だ。恐らくここ数日最も
  狙われやすいだろう不二咲を、俺の代わりに守ってやってくれ。今はお前だけが頼りだ」

桑田「ハ、ハハ……マジか」


KAZUYAに信頼されているのも頼み事をされるのも嬉しい。だが、そのくらい
今が危機的な状態だと思うと、桑田は素直に喜べないのだった。


桑田「でもさ…いくら不二咲が弱そうだからってなんで不二咲ばっか危ないって思うワケ?
    苗木とか女子だってかなりヤバいんじゃねーか?」

K「勿論そうだ。苗木にも単独行動はなるべく控えるよう忠告しておいてくれ。
  女子についてだが…正直、もし内通者がいるなら俺は女子が怪しいと睨んでいる」

桑田・不二咲「……へ?」

K「男子で危険なのは今の所十神だけだ。男子はアイツにさえ注意しておけばいい」

桑田「え、なに…せんせーはさ、女子に内通者がいるって考えてんの?」

K「断言は出来んがな…俺も長年色々な人間を見てきて洞察力にはそれなりの自信があるが、
  女心という奴だけは昔からどうも苦手だ。だから、もしいるなら女子だろうと考えている」

桑田「んなテキトーな…」

K「確かに適当だが、俺はこの勘に何度も助けられている。そしてもし女子が危ないのなら、
  女子が殺すことの出来る人間は限られているだろう?」


K(最も、内通者が江ノ島一人だったら関係ないかもしれないがな…)


江ノ島に限らず、大神が内通者なら男子だって問題なく殺せるだろう。だが、向こうだって
なるべくリスクは取りたくないはずだ。固まって行動することは決して無意味ではない。


桑田「なるほどな。確かに女子が怪しいなら不二咲は狙われやすいわ」

K「そういう訳だ。不二咲、お前も守られるのは嫌だろうが男同士なら気兼ねもせんだろう?
  不便かもしれないが、これからは常に俺か桑田と行動を共にするようにしてくれ」

不二咲「…わかりました。ごめんね、桑田君」

桑田「気にすんなよ。まあ、緊急事態だしな」

K「なに、桑田も以前はアレだったが反省してからは頼りになるようになってきた。好きに使ってくれ」

桑田「アレってなんだよ、アレって!」

不二咲「く、桑田君! 石丸君が起きちゃうよ」

桑田「あ、わりぃ…」

K「男同士だから部屋に泊めても問題ないしな」

桑田「そーそー、そうだな…って、え? 泊まり?」


サラリと重要な事を言われた気がして桑田は慌てて聞き返す。
KAZUYAは石丸の傷に丁寧に包帯を巻いてやりながら淡々と説明した。


K「お前の部屋から見て不二咲の部屋はギリギリ死角になるだろう。そこを狙われると不味い。
  それともお前、毎回不二咲を部屋まで送り迎えしてやれるか?」

桑田「いや、えーと、それはめんどいけど…」

K「なら常に一緒に行動しているのが一番だ。石丸が回復するまですまないがそうしてくれないか?」

不二咲「本当にごめんねぇ……」

桑田「わ、わかった。任せろよ」

桑田(外見美少女の男と同じ部屋とか…ある意味女子と同じ部屋よりヤバくねーか?)


しかし不二咲を部屋まで連れて行ったものの、桑田は別の意味で苦労することになったのだった。


不二咲「ひぐっ…へぐ…」

桑田「お、おい…泣くなって…」

不二咲「ごめんねぇ…迷惑かけてるってわかってるのに、涙がとまらなくて…」

桑田「いや、ムリしなくてもいいけどよ…」

不二咲「僕のせいで石丸君の顔に傷が出来ちゃったって思うとどうしても…ふぇぇ」

桑田「ぜってー治るって! せんせーが治せるって言ったんだから間違いねえよ。
    せんせーが今までいい加減なこと言ったことあるか? な?」


不二咲「ううん……あ…でも、大和田君が……」

桑田「あ、ああ…うん。えっと、それもせんせーがなんとかしてくれるって! お、俺だって
    殺されかけたうえにみんなから責められてめちゃめちゃ落ち込んだけど、せんせーが
    励ましてくれてこの通り元気になったし。大丈夫だって!」

不二咲「そうかなぁ…そうだよね…ふぇぇん」

桑田(なんで納得してるのに泣くんだよ!)


こうして桑田は夜通し泣き続ける不二咲を励まし続け、睡眠不足になったのだ。


               ◇     ◇     ◇


桑田(…………ハァ)


そんな前日の疲労を思い出して桑田はドッと疲れを感じていた。
だが、弱音を吐いている余裕などない。…本当の問題はこれからだ。


桑田(モノクマ…見逃してくれねえかな。あいつの性格的にありえねーか…)

霧切(不二咲君が正直に話すのが一番だったけど、こうなってしまっては
    もう仕方がないわ。私が何とかして混乱を抑えるしかない)

霧切(来るわね。もうすぐ…)


ここまで。


― 石丸の部屋 AM7:51 ―


K「…………」


KAZUYAは厳戒態勢を取っていた。いつも規則正しい生活をしている石丸は、ピタリと平時と同じ
時間に目を覚ましたのである。KAZUYAは仮眠を取っていたが、石丸の気配に気付き寸での所で
取り押さえた。そしてしばらく取っ組み合いをしたが、力ではKAZUYAに敵わないと悟り、やっと
石丸は落ち着いたのだった。だが、いつまた抜け出そうとするかわからない。


石丸「そろそろ、朝食会の時間ですね…」

K「ああ」

石丸「小学校から無遅刻無欠席だった僕が、欠席してしまう日が来るなんて…」

K「仕方ないさ」

石丸「…不二咲君は大丈夫だろうか」

K「大丈夫だ。桑田に頼んだ。あいつも近頃すっかり面倒見が良くなってな」

石丸「でも、もしまた何か言われたり誰かにイジメられたら騒ぎになるのでは…」

K「そうならないよう霧切と苗木が動いてくれる。友人を信じろ」

石丸「友人……」


友人という言葉に反応して石丸の目がギョロリと動いた。
包帯で隠れているため片方だけになっている赤い目が、涙に沈む。


石丸「僕に……友達なんていない……」

K「何を言っているんだ? ここにたくさんいるだろう」

石丸「みんな、ただのクラスメイトですよ。友達と言うのは、お互いにそう思っていなくては」

石丸「やっと……やっと兄弟と、不二咲君が友達になってくれたのに……
    僕は彼等を守れなかった。むしろ、僕のせいで傷付けてしまった……」

K「違う。お前のせいでは…!」


KAZUYAが慰めようとするが、石丸は嗚咽をあげながら独白を始めた。
その内容はKAZUYAにとっても重く苦しい内容だった。


石丸「昨晩先生は誰が悪かったのかを聞きましたよね? …全部僕のせいなんです。
    僕が兄弟に、秘密なんか聞いたりしたからっ……!」

K「…………」

石丸「きっと兄弟は、秘密のことを聞かれるのが凄く嫌だったんだ……今から考えれば、
    信じられない程無神経な発言だった。友人だからと言って許されるものではない…!」


石丸「それで頭に血が上った兄弟は不二咲君を……」

K(秘密! やはりあれが引き金になってしまったのか…? しかし…)


大和田に秘密を聞いたのは石丸。だが、実際に襲われたのは不二咲。
このちぐはぐな事実にKAZUYAは妙な不自然さを感じていた。


K(本当に秘密だけが原因なのだろうか…?)


だがKAZUYAは考えを中断した。今は何を差し置いても石丸の対応を最優先にせねばなるまい。
ボロボロと涙を零しながら自分を責める石丸は、今にも壊れてしまいそうだった。


石丸「折角出来た大切な友人を、一度に二人も失ってしまった……僕に友達がいないのは
    当然なんだ。僕みたいな無神経な人間に友達なんて出来る訳がなかった!!」

K「そんなことは…!」

石丸「先生だって知っているでしょう! 僕がどんなに駄目な人間かっ! 頑固で融通が利かなくて、
    厳しくて自分の意見を押し付けてばかりで空気も読めない。そんな人間が好かれる訳がない!」

K「いい加減にしろッ!!」


KAZUYAは思わず怒鳴る。…見ていられなかった。


石丸「!」

K「確かにお前は普通の人間より不器用で欠点も多いかもしれない。だが、そんな
  お前を好んで友人になったのが大和田と不二咲じゃなかったのか!!」

K「俺だって…お前の人間性や熱意を見込んで弟子にしたんだ。それを間違っていたなどと言わないでくれ」

石丸「…………」


石丸は何も答えなかった。ただ泣いていた。


K「…たとえ原因がお前の失言だったとしてもだ。暴力は振るった方が悪い。
  何があっても! だから、お前が大和田の分まで責任を被る必要はない」

石丸「…………」

K「……石丸?」

石丸「…………許してくれ」


一体誰に何を謝ったのだろうか。

石丸はうわごとのようにポツリと呟くと再び声を殺して泣き続ける。
KAZUYAはもはやその姿を黙って見ていることしか出来なかったのだった。



               ◇     ◇     ◇


チャーチャチャージャーラーラー♪

突然古い昭和のラジオのような音楽が流れたかと思えば、モニターにモノクマの姿が映る。
モノクマの放送は学園中に流され、学園内にいる全ての人間が渋い顔でモニターを見つめた。


K「…………」


モノクマ『友達を庇うために嘘をつく。いやぁ、美しい友情物語ですなぁ』


不二咲「モ、モノクマ…?!」

石丸「なんだ……この放送は……」


モノクマ『ですが! 不二咲君、嘘ついちゃダメだよ~』

モノクマ『仲間を騙してまで守ろうとすることが本当に相手のためになるでしょうか?!
      嘘は時に秩序を乱し、ひいては仲間同士の疑心暗鬼を引き起こすでしょう!』


苗木「ふざけるな…お前が言う言葉じゃない…!」

霧切「…………」

K(不二咲……やはり本当のことは言えなかったか……)


モノクマ『学園長としては秩序が乱されるのを黙って見ている訳にはいきません!
      …と言う訳で、僕がこの場で本当のことを全部暴露しちゃいまーす!』


不二咲「そんな、何で知ってるの…? 更衣室に監視カメラは…」


そこで不二咲は気が付いた。脱衣所には盗聴器が仕掛けてあったではないか。
モノクマは一部始終を見てはいないが一部始終を聞いていたのだ。

楽しそうに、実に楽しそうにモノクマは嗤う。


朝日奈「本当のことって…なに?」

桑田「…聞きゃわかるよ」


モノクマ『ではでは…えー昨晩、怪我をした石丸君、不二咲君、大和田君の三人は男子更衣室に
      来ていました。なんと、KAZUYA先生監修の元です。夜時間は絶対出歩き禁止!とか
      言って念入りに見回りまでしてたくせに、自分達はそのルールを破ってたんですね!』


セレス「あらあら…いけませんわねぇ」

十神「フン、そんなことだろうと思っていた」

腐川「やっぱり…アイツは信用出来ないわ…!」

苗木「…………」


モノクマ『しかもこんな大事故まで起こしちゃって、懲戒免職物だよ! 教育委員会に
      呼び出しくらっちゃうよ! KAZUYA先生は責任取ってよね!』


山田「な、なんと…!」

葉隠「学園長からクビ宣告されたべ! 明日から無職だべ」

K「…………」

K(確かに俺の監督不行き届きだった点は否めんな…)


KAZUYAは後悔していた。自分が目を離したりさえしなければ、こんなことにはならなかったのに。
だが後悔しても何かが変わる訳ではない。今はただこの放送に意識を集中させる。


モノクマ『ではではいよいよ本題! 昨晩起こった事件の全貌ですが…』

モノクマ『なんと、あの大和田君が華奢でか弱い不二咲君を殺そうとしたのです!
      石丸君の怪我は不二咲君を庇って受けた、つまりとばっちりな訳ですな』


腐川「お、お、大和田が不二咲を殺そうとしたあああっ?!」

大神「何だと…?!」

舞園(やっぱり…)

朝日奈「ウソでしょ?! ウソって言ってよ!!」

苗木「そんな…何で?!」


混乱する生徒達の疑問には答えず、モノクマはただ嘲る。


モノクマ『いやぁ、実にビックリしましたね~。直前まで三人仲良く会話して
      非常に仲睦まじい光景だったのに、突然の豹変。惨劇! やっぱり
      人殺しになるような人間には元々素養があるんですね!』


モノクマ『しーかーも! なんと、石丸君の顔にはバカでっかい傷が出来てしまいましたー!
      僕もバッチリ目撃しましたよ。学園長は見た! …それにしても、可哀相にねぇ。
      男子だから顔に傷があってもいいなんて理屈はないもんねぇ?』


石丸「や、やめろ…それ以上兄弟を追い詰めないでくれ…!」


モノクマ『僕の好みじゃあないけど、結構男前な顔してたのにズッタズタ! 見事にズタズタ!
      あーこりゃもう結婚は無理ですな~。そもそも素顔晒して外歩けないレベルでしょ』


石丸「これ以上兄弟を追い詰めたら兄弟が死んでしまう! やめろ! やめてくれ!!」

K「石丸、落ち着け! 傷が…!」


モノクマ『しかも、石丸君は政治家目指してたじゃない? あれって顔も大事な職業なのに
      あーんなヤクザもビックリな傷があっちゃあ有権者の信頼なんて得られないよ!
      医者なんて論外論外! あんな恐い先生が病院にいたら患者逃げ出すって!』


石丸「誰か…誰でもいい! この放送を止めてくれ! 止めろ! 止めろおおおおおおお!!」

K「石丸!」


包帯はうっすら赤くなり始めている。傷が開きかけているのだろう。やむを得ずKAZUYAは
再び鎮静剤を刺した。だが鎮静剤は麻酔と違ってすぐに効果が出るものではない。


モノクマ『しかもさぁ、先生は外にさえ出れば手術で消せるとか豪語してるけどぶっちゃけ
      無理だよね。あれ、本来なら失明してるレベルの重傷だよ? いい加減なこと
      言って希望を与えるなんて残酷だよね! そもそも外に出られないのにさ!』


K「いい加減なことなど俺は…!」


だが反論しながらもKAZUYAは気付いていた。


K(違う! 俺に言ってるんじゃない。生徒達に聞かせているのだ!)


現にKAZUYAはよかれと思って生徒達に何度か嘘をついている。生徒達はより良い状況を
望みながらもより悪い敵の情報を信じるという歪な心理状態に陥っていた。


不二咲「やっぱり、治らないんだ…」

桑田「そんなワケねぇ! せんせーは超国家級の医者だぞ! そのせんせーが治せるって言ったんだから…」

十神「本心から言ったならな。だが奴は自分の都合で何度も嘘をついている。信用出来ん」


セレス「それにどちらにせよここでは治せないのでしょう? なら一生ものの傷には変わりませんわね」

不二咲「うぅ…」


そしてモノクマはいよいよ遠回しな言い方ではなく直接的な攻撃に出始めた。


モノクマ『つーかさぁ、大和田君はいつまで部屋に閉じこもってんの? 君のせいで大事な
      兄弟がキズモノになっちゃったんだよ? 石丸君は完全に無関係だったのに。
      君と違って優秀な、将来を約束された青年の未来を奪った罪は軽くないよ?』
      
モノクマ『土下座して謝っても全然足りないね! 隠れてないで出てきて責任取ったら?
      …あ、でも無理かー。単なるいきがってるだけの不良に責任なんて取れる訳ないよね。
      取り返しの付かないことだもんね? せいぜい謝り続けなよ。ぶひゃひゃひゃひゃ!』


大和田「…………」ガクガク


大和田は、個室のシャワールームの隅に縮こまって耳を塞いでいた。少しでもこの恐ろしい
放送から逃れたかった。だが、耳障りな大きなダミ声は逃げ場など与えてはくれない。


大和田「そうだ…俺がやっちまった…! 俺が兄弟の顔をズタズタに…!!」ガタガタ

大和田(どうすれば許される?! どうすればいい?!)



もはや半分パニックを起こしながら大和田は呻き声をあげる。


大和田(不二咲だってそうだ…! あいつはなにも悪くなかったのに。俺が…俺のせいで…!)

大和田(責任なんてどう取りゃいいんだ…命か? 死んで詫びればいいのか? そうだ…
     俺みたいなクズ野郎は生きてる価値なんてねえんだ…誰か、誰か俺を殺してくれ!!)


心の中で大和田は絶叫する。だが、いくら叫んだ所で救いなどないのだ。

モノクマの手によって、一人ずつ生徒の心に絶望が侵食していく――


モノクマ『…と、まあ今のが昨日起こったことの真相な訳です。みんなわかったかな?』


「…………」


返事をする者などいない。ただ全員黙って俯いている。だがこの次がモノクマ的には
本題だったようだ。テンションを上げ、勢い良く生徒達を煽り始めた。


モノクマ『ちなみに、殺人を計画しているそこのオマエ! 朗報です! 目障りなKAZUYA先生は
      重傷の上色々手のかかる石丸君にしばらく付きっきりで離れられないみたいですよ!』


十神(……ほう)

セレス(まあ……)

K(どうやら、俺にとっての最悪は昨日の夜で終わらなかったようだ…)


二人のプレイヤーはポーカーフェイスを崩さずに内心で微笑んだ。
一方、KAZUYAの額からはねっとりとした脂汗が滲み出る。今はそれを拭く余裕もない。


モノクマ『更にお知らせです! 秘密の公開は今から三日後に伸ばすことに決めました! つまり今なら
      誰の邪魔も入らず襲い放題殺し放題! 秘密を守れて外にも出られる! やったね!!』

モノクマ『では皆さん、健闘を祈ります!』


プツン。

そこで放送は終わった。


石丸「あ……あぁ……!」

K「石丸、しっかりしろ!」

石丸「僕は…何の役にも立たないどころか…むしろ、むしろ先生の足を引っ張っている…」


K「そんなことはない!」

石丸「……わかりました。兄弟のことは先生に任せます。僕は大人しくするので…
    もう、僕のことは放っておいて下さい。みんなを、みんなのことを守って…」


…言っている内容はおかしくないが目の焦点が合っていない。風紀委員の石丸は誰よりも
責任感の強い男だった。だからこそ、自分が足手まといになっているという事実が何よりも
堪えたのだろう。だが、こんな状態の石丸をKAZUYAが放っておける訳がなかった。


K「大丈夫だ。確かに何人か危うい生徒もいるが、みんなで手を取り合って事件を
  食い止めてくれるはずだ。お前は何も心配などせず安静にしていればいい」

石丸「先生……」

K「大丈夫だ。俺と、みんながついている。大丈夫だ…」


KAZUYAは石丸の肩に手を置き、少しでも不安を和らげるように語り続けた。
そのうちだんだん薬が効いてきたのか、いつしか石丸は眠りに入る。


K(秘密の公開を三日延長、か……確かにモノクマの言う通りだ。俺はここから
  離れられん……あとは生徒達に任せるしかない……頼むぞ。お前達……)


KAZUYAは生徒達に希望を託したのだった。


ここまで。

舞園「大和田君、魔法の呪文があるんですよ?鏡に向かって『私は駒』と……」

まあなんだかんだでどうにかなるだろう

>>793
頼れる仲間は~みんな目が死んでる~♪

>>796
そのなんだかんだがクッソ長い予感がしてる1です


再開


― 食堂 AM8:22 ―


一同「…………」


重い空気が辺りを漂っていた。


苗木「…と、とりあえず朝ごはん食べない? もう冷めちゃってるけど…」

舞園「汁物だけでも私、温め直してきます」

山田「そうですな。朝食を楽しめる気分ではありませんが、それでもお腹は空きますし」

朝日奈「う、うん…ほら、不二咲ちゃん! 泣いてないで、食べた方がいいよ!」

桑田「腹が減っては戦はできぬって言うしな。お前ただでさえ弱っちいんだからしっかり食べろって」

不二咲「うん…ごめんね、みんなぁ…」グスッグスッ

十神「辛気臭い奴だ」

不二咲「…!」


十神の嫌みに不二咲はビクリと震えた。十神が怖かったからではない。
今までだったら真っ先に庇ってくれた二人の友人がこの場にはいないからだった。


桑田「あぁ?! ケンカ売ってんのか、テメエ!」

霧切「桑田君、落ち着きなさい。喧嘩をして困るのはあなたではなくドクターよ」

桑田「ぐっ…!」


KAZUYAの名を出されると桑田も退かざるを得なかった。ただでさえ自分は
一度やらかしているのだ。同じミスを何度も犯す訳にはいかない。


不二咲「あ、ありがとう。僕は大丈夫だから…ね?」

桑田「あ、あぁ…」

桑田(落ち着け。こいつらのイヤミなんてここの名物みたいなもんじゃねえか…)


その様子を見ながら、深い決意を固める者がいた。苗木である。


苗木(…大変なことになっちゃった。多分、これから荒れる…先生は、このことを
    見越して昨日僕にあんなことを頼んできたのかもしれない。僕がなんとかしなきゃ)


自分に何が出来るのかはまだわからない。だがこの誰よりも前向きな少年は、
何もせず黙って見ているということだけは出来なかった。


葉隠「それにしても大変だったべなぁ」

不二咲「う、うん…」

腐川「で、でも…今回の事件は西城のせいなんじゃないの?」

桑田「は? なんでだよ!」

セレス「先程モノクマさんがおっしゃいましたが、先生監督の下で発生した事件。それも自ら
     夜間外出禁止のルールを破ってのもの。当然その責任は大きいですわよねぇ?」

桑田「それは…こっそり特訓したいっていう不二咲の気持ちを尊重したからだろ!」

霧切「でもルールを破ったことには変わりはないわ。本来なら何もしなくても
    不二咲君達の秘密は明らかになって事件も起こらなかったはずなんだから」

桑田「でも…!」

苗木「…桑田君、今回はみんなの言う通りだと思うよ。もしこの場に先生がいたら、
    きっと何も言い訳しないでみんなに謝るんじゃないかな」

桑田「苗木…」


いつもなら必ず擁護に回る苗木が指摘したことによって、桑田も冷静になる。
苗木の顔は全くKAZUYA達を責めてなどいない。むしろ少し悲しげだったからだ。


十神「フン、奴がこの場にいたらどう責任を取る気か問い詰めたかったが…
    元々石丸達が自爆して潰しあっただけだしな。今回は見逃してやるとしよう」

桑田「…………」ギリッ

十神「期限も三日延びたそうだ。愚民共もせいぜいない頭を捻って頑張るんだな」


そう言い捨てて十神は食堂から去って行った。残されたメンバーも何を話して良いかわからず、
手短に食事を終えて早々に退室していく。残ったのは苗木、舞園、桑田、霧切、不二咲のみだった。


苗木「大変なことになったね…」

不二咲「…ごめんね」

桑田「もう謝るなって! オメエが悪いワケじゃないんだからさ!」

舞園「そうですよ。不二咲君が悪い訳ではありません!」

桑田・霧切・不二咲「……?!」


舞園の力強い発言に、苗木と舞園以外の三人はギョッとした。発言内容は極めて普通だが、
事件前と全く同じような表情で普通に発言していることに三人は驚きを隠せなかった。


霧切「舞園さん…あなた、一体何があったのかしら?」

舞園「何もありませんよ。ただ昨日桑田君に励ましてもらって、うじうじするのをやめたんです」

桑田「…そりゃあよかった」


桑田にとって舞園は天敵のような存在だが、平常心を取り戻してもらったのは素直に有り難かった。
不二咲が落ち込んでいるのにその横で舞園まで落ち込んでいたら、どう対応すればいいかわからない。


舞園「はい。今は緊急事態です。皆さんで手を取り合って乗り切らなければいけません。
    そこで、私から霧切さんに一つお願いがあります」

霧切「な…何かしら?」


急に元気になったどころか、テキパキと現状を認識し対応する舞園の姿に霧切は
違和感が止まらなかった。だが、今はそれに構っている場合ではない。


舞園「このメンバーで一番頭が良くて冷静なのは霧切さんだと思います。
    だから霧切さんに決めて欲しいんです。私達が今何をするべきか」


苗木「うん、そうだね。霧切さんなら頼りになる」

桑田「だな。頼むぜ!」

不二咲「教えて、霧切さん。僕達、どうすればいいの…?」

霧切「えっと、そうね……」


霧切は動揺していた。霧切家は代々優秀な探偵を輩出する名門一族であり、それゆえ絶対中立を
一族の掟として掲げていた。この学園生活でも、一見周りと普通に付き合っているように見えるが、
心の中では常に一線を引いていたし、周りも薄々感づいているはずだ。だから自分に積極的に
近づく生徒は少なく、自身も栄光ある孤立を貫いていたのだ。


霧切(…でも、何日目からかしらね。だんだんみんなが私に近付いてきた。
    私も嫌ではなかったけど、あくまで中立を保つために私は自分から引いた)

霧切(それで大半の人は引いたけど、中には諦めずにぐいぐい近寄る人がいた…)


もっと引かなければいけない。彼等が追ってこなくなるまで。


霧切(でも今は…私が積極的に手を貸さないと状況を改善出来ないレベルにまで達しているから、
    少しくらいは近付いてもいいのよね? 探偵として最も優先しなければならないことは、
    事件を未然に防ぐことなのだから。冷静ささえ、最後まで失わなければ…)


ふと頭に浮かんだのはKAZUYAだった。何故かはわからないが、KAZUYAも最初は周囲に対して
どこか一線を引いている所があった。そのKAZUYAが、今は懸命に生徒の側で戦っている。
生徒の横に立って、生徒の立場を思って、生徒のために身を削って行動している。


霧切(大丈夫。私は探偵。あくまで中立を保つ――)

霧切「まず、舞園さんはなるべく普通にしているのがいいわ。まだしばらくはみんな
    警戒しているでしょうから。ただ、今回の事件で衝撃が多少和らいでいると思うし、
    あまり印象の悪くない苗木君あたりと組んで警戒を解かせるのが最優先よ」

舞園「わかりました。なるべく目立たず穏やかに、ですね」ニコリ


そう言って舞園は穏やかな笑みを浮かべて見せる。その笑顔には、大丈夫だ。彼女なら出来る、
という妙な説得力が感じられた。舞園は問題ないと判断し、霧切は桑田に向き直る。


霧切「桑田君はドクターから何か言われた?」

桑田「ああ、しばらく不二咲と組んで守ってやれって。あ、そうだ! …苗木、お前なるべく
    人の多い所にいろよ。もし内通者が女だったらお前も危ないってせんせーが言ってた」ボソボソ

苗木「え?! …もしかして、内通者って女子なのかな」ヒソヒソ


監視カメラに拾われないよう声を落として彼等は話す。


不二咲「断言はしてなかったけど、先生は女子が怪しいって言ってたよ」

桑田「何でも、さすがの俺の洞察力をもってしても女心だけはよくわからん、だとさ」

苗木「そんな適当な…」

舞園「ちょっと待って下さい。その話を私達にするということは、私と霧切さんは
    除外でいいんですよね? …そうなると、かなり限られてきますよ?」


ハッとした顔で一同は顔を見合わせる。


苗木「あとは朝日奈さん、大神さん、江ノ島さん、セレスさん、腐川さんしかいない…!」

桑田「まあそんなかじゃ断トツで怪しいのはセレスだよな。感じ悪いしエラソーだし」

苗木「うん。彼女には気をつけろって先生も言ってた」

桑田「せんせーがそんなこと言ったのか?! じゃあ確定でいいんじゃね?!」

霧切「早まってはいけないわ。モノクマは内通者は一人とは言わなかった。
    仮に彼女が内通者だったとしても、他のメンバー全員が安全だとは限らない」


霧切「それに…私はセレスさん以外にも一人怪しい人物を知っている」

桑田「え?! だれだれ??」

苗木「何か知ってるの?!」

霧切「証拠がないから断定は出来ないけれど――江ノ島さんよ」

舞園「江ノ島さん…」


槍に襲われ血まみれになっていた、明るい快活なギャルを思い出す。あの江ノ島が?


桑田「え…ウソだろ。だってアイツ殺されかけてたじゃん…」

苗木「う、うん。何かの間違いじゃないかな?」

霧切「そうね。今の段階ではあくまで少し怪しいという程度よ。…ただ、時々会話の
    内容がモデルにしては少しおかしい時があるの。注意しておく必要があるわ」

舞園「つまり、確定するまで全員を疑っておけばいいということですね」

不二咲「全員疑わなきゃいけないのぉ? そんなのイヤだな…」


苗木「あと、僕からも一つ。先生は心の中で疑ってもそれを絶対表に出しちゃいけないって
    言ってたよ。疑ってた相手がもしシロの場合、後で揉める要因になるからって」

霧切「それが賢明だわ。要は今まで通り振る舞えばいいのよ。警戒だけは怠らず、ね」

舞園「男子については何か言ってましたか?」

桑田「今のところ気をつける必要があるのは十神だけだってさ。まあ予想通りだろ」

苗木「十神君とこの場にいない女子全員を警戒すればとりあえずは問題ないかな」


そうは言っても、実に六人もの人間を警戒しなくてはいけない。そのうち大神や十神は並みの
人間よりずっと強いだろう。全員で生き残るのはけして容易ではないと、苗木は内心緊張していた。


霧切「ええ。桑田君は引き続き不二咲君と一緒にいてちょうだい。ドクターは石丸君の側から
    離れられないだろうから、石丸君の部屋に行って外との連絡役になってくれるかしら?」

桑田「わかった。任せろ」


テキパキと霧切が指示を飛ばしていく中、おずおずと不二咲が声をかける。


不二咲「あの、霧切さん…」

霧切「何かしら?」

不二咲「大和田君に会いに行っちゃダメかなぁ…?」

桑田「ああ、そうだな…あいつもずっと放置しておくワケにはいかねえし」

舞園「ですが、不二咲君が直接行くのはマズイのではないでしょうか? 先程の話だと、
    大和田君が襲いかかったのは石丸君ではなく不二咲君なんですよね?」

不二咲「うん、僕だよ…多分、何か僕が大和田君を怒らせるようなこと言っちゃったんだ」

霧切「…その時の会話、一言一句正確に教えてくれないかしら」


不二咲はKAZUYAにしたように、その場であったことをなるべく正確に
説明したが、かえって仲間達は混乱するばかりであった。


桑田「……。ワケわかんねぇ。なんでそれでキレるんだよ? おかしいんじゃねーの、アイツ」

霧切「…もしかして、絶対に打ち明けられない重大な秘密を持っているんじゃないかしら」

不二咲「じゃあ、僕が秘密なんてへっちゃらだよね?なんて言ったから…」

桑田「い、いやいやいや! いくらなんでもそんな理由で殺そうとするかフツー?」


舞園「それに、そんなに聞かれるのがマズイ秘密なら、何故直接秘密を聞いた石丸君は
    襲われなかったのでしょう? 秘密を聞いたことが主原因ではないのでは?」

苗木「石丸君は親友だったからとか? でも、不二咲君とだって仲良くしてたし…」

桑田「あれか? まず石丸の言葉でプッツンして、次の不二咲の言葉で行動に出ちゃったとか」

霧切「今の所一番可能性が高いのはそれかもしれないわね。でも、確証はないわ。大和田君を
    凶行に走らせた直接の理由がわかるまで、不二咲君は会わない方がいいと思う」

不二咲「そっか…」

苗木「じゃあ、僕が代わりに行こうか? 励ますくらいなら出来ると思うし」

桑田「(チラッ)励ますのは逆効果じゃねえの? まだなじった方が効きそうだぜ」


桑田はチラリと舞園を見る。本気で自分を責め後悔している人間に対して、
優しさや励ましはあまり力にならないというのは既に見て知っていた。


舞園「……私も同感です。きっと、今大和田君は自分を責めていると思います。
    今の段階ではまだ私達が励ましてなんとかなる問題ではありません」

苗木「あ、はは。そうだね…ゴメン」


霧切「ただ…」

桑田「ただ、なんだよ?」

霧切「大和田君が何故怒ったのかの理由を知らないと、今後仲直りは難しいでしょうね。
    根本的な問題がわからないと対処も出来ないでしょうし。恐らく、石丸君が大和田君の
    所へ言ってもあなたは悪くない、いや自分が悪いの押し問答にしかならないはずよ」

舞園「大和田君の中にある問題を見つけて…たとえそれが私達や大和田君にとって
    受け入れがたい内容だとしても、直視して受け入れないと解決出来ないんですね?」

霧切「そう…そのためには、不二咲君が大和田君に会うのもアリかもしれない」

苗木「で、でも霧切さん! それは危ないよ!」

霧切「ええ。…そこで桑田君に聞きたいのだけど」

桑田「え、俺?」

霧切「不二咲君を守れる自信…ある?」

桑田「それってもしかして…」

霧切「私は一応護身の覚えがあるけど、大和田君は大柄だし力も強そうだから私一人では
    自信がないの。桑田君が大和田君を止められると言うなら、私が付き添うという
    条件で不二咲君が大和田君に会いに行ってもいいわ」


不二咲「本当?! 桑田君、どうかなぁ…?!」

桑田「ちょ…マジかよ。うーん、なるべく近寄らせないようにして武器で
    威嚇すりゃなんとかなるかなーとは思うけど……うーん……」


桑田は唸る。自分の身の心配もそうだが、不二咲の命が懸かっているのだ。軽はずみなことは言えない。
しかし、不安と期待を一杯に自分を見つめる不二咲に対して、無理だとは言いたくなかった。


桑田「……わかった。やってやるよ! 超高校級の野球選手の底力見せてやろうじゃん!!」

苗木「僕も行くよ。いくら大和田君がケンカで負けなしでも、三人同時は厳しいでしょ?」

舞園「でも、一度に大勢押しかければかえって大和田君は動揺するんじゃないでしょうか」

霧切「そうね。苗木君と舞園さんはホールの入口から様子を伺って、危なければ苗木君が援護、
    舞園さんが石丸君の部屋に駆け込んでドクターを呼べばいいわ。ちょうど隣の部屋だしね」

苗木「わかった。任せて!」

桑田「おし! じゃあちょっくら気合いいれるか!!」

不二咲「みんな、ありがとう!」


ここまで。

ふと「石丸電気ってまだあったっけ」という疑問を思い出した
25年ぐらい前の「いしまるー、いしまるー、でんきのことならいしまるでんき」って言うCMを歌だけはまだはっきり覚えてる


これもしかして選択肢と好感度によってはケガの具合ひどくなって石丸失明してたんじゃ・・・

駒枝:駒園さん!ボクと一緒に希望の踏み台になろうよ!

>>835
1の中で石丸君は割りと薄幸キャラというか、常に死兆星背負っているようなイメージなので、
怪我のバリエーションも豊富に用意しておりました。二章終わったらまた少し説明するかも

仲間に医者がいると通常なら死亡するような重傷でもバンバン負わせられるからいいよね(ゲス顔)

>>836
駒園「一緒にしないでくれませんか。私は誰かさんと違ってみなさんの役に立ってます」


再開


― 図書室 AM8:44 ―


十神は腐川と離れて一人になりたかったので、早々に朝食を済ませ図書室へと入った。
口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。いつしかその愉悦は音となり、哄笑へと変わっていた。


十神「ククク…ハハハ…フハハハハハハッ!」


楽しくて楽しくて仕方ない。あれだけ目障りだった人間達が一度に消えたのだ。
まさしく好機到来。…だが、十神が笑っているのは何もそれだけが理由ではなかった。


十神「アッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

十神(それ見たことか! 全て俺の予見した通りになったではないか! 監禁されコロシアイを
    強要されるという異常な状況下で、馬鹿の一つ覚えみたいに愛だの正義だのと陳腐な
    道徳を説き、友情などという不確実なものを盲信した愚か者の末路がこれだ!)

十神(貴様の理想がいかに無力かこれでわかったか――石丸清多夏!!)


……そう、十神白夜は石丸清多夏のことが心の底から大嫌いだったのである。

この感情はもはや憎悪と言ってもいい。

十神が石丸の存在を初めて認識したのはいつだっただろうか。

それは数年前、十神が全国模試の成績上位者をチェックしていた時のはずだ。


十神『…………』


十神は将来自分の手足となって働く者をスカウトするため、各業界の上位者を調べる習慣があった。
特に企業経営は高度な頭脳労働が求められるため、自分の名前もトップに載っている全国模試の
成績上位者名簿は殊更しっかりチェックしていた。

当時、石丸は常に上位ではあったものの壁があったのか、20位~50位のあたりをふらふらしていた。
学校あるいはその地域では断トツだが、全国レベルでは霞んでしまう程度の存在である。
十神はぼんやりと認識してはいたが、特に興味は持っていなかった。


十神『……フム?』


だがある時、石丸は壁を乗り越えたのか更に上位に食い込み、とうとうトップ10に入った。
流石の十神も多少興味を覚え、他の人間にやっているのと同じように身元調査をした。
だが、その結果は十神にとってあまりにも期待外れだったのだ。


十神『フン…祖父が元総理と聞いて少し驚いたが、何ということはない。不祥事を起こして
    すぐに消えた石丸寅之助じゃないか。祖父が特別だっただけで家柄もごくごく平凡』


父はそこそこの会社の真面目なサラリーマン。母はパート勤務をしている普通の主婦。
石丸自身も日本一の進学校に通ってはいるものの取り立てて特徴のない平凡な男だ。


十神『…いや、平凡以下か。残った借金を生真面目に返し続け、貧乏ではないがまさしく清貧』


こういう所も十神にとって興味の持てない要因だった。借金なぞ相続放棄や自己破産で
いくらでも対処出来るというのに、今も家計を切り詰めせっせと真面目に返している。
馬鹿がつくほどお人好しで生真面目、不器用で善良。そんな小市民の家族が頭に浮かんだ。


十神『性格は真面目な優等生で三年連続風紀委員。座右の銘は質実剛健で将来の夢は政治家。…ハッ』


鼻で笑うと十神は持っていた資料と写真を机に投げつける。


十神『大方、祖父の雪辱戦と言った所だろう。そのため何の才能も持っていないのに
    ひたすら愚直に努力し続けているという訳か。哀れなものだな』


結果を出す人間というものは幼い頃から頭角を現しているか、あるいは流星のように
突然現れるものだ。この男はそのどちらでもない。つまり、上には行けるがいくら
頑張った所で頂点には立てないのだ。頂点を極める十神にとっては取るに足らない存在。


十神『まあ、マグレでトップ10に入れたことは素直におめでとうと言ってやるか』


それで終わりのはずだった。異常が現れたのはその少し後…
すぐまた元通りになると思っていた石丸の順位は、落ちるどころか徐々に上がってきたのだ。


十神『まさか…』


少しだけ、十神は焦燥した。十神の名において敗北は絶対に許されない。それに十神は確かに
天才だが、自身の才能に溺れず努力をする天才だった。もし万が一ここで負けることがあれば、
何の才能もないただ努力するだけの無能な男に自分の才能と努力が屈することになる。


十神『…そんなことはありえん!』


久しぶりに真剣に勉強した。…だが、結果は無残だった。


十神『この俺と、同点一位だと…?!』


負けた。認めたくはないが確かに負けた。


十神『マグレ…そうだ、マグレに決まっている!』


すぐに挽回してやるさ。自分は十神一族でも最高傑作のはずなのだから。しかし、現実は残酷だ。
その次の模試で、石丸は全科目満点を叩き出したのだ。しかもそれ以降は常に満点だった。
これにより、どんなに頑張っても十神の単独首位奪還は事実上不可能となったのである。


十神『この俺をここまでコケにするとはな。…いや、愚民ならここで怒り狂うのだろうが、
    俺は支配者だ。優秀な人材を見つけたことは逆に喜ばしいことではないか』


十神はプライドが高く尊大な男だが、それで先を見誤るようなことはない。過去にも
いわゆる各業界の天才達に敗北したことはあった。それは仕方ないのだ。人間なのだから。

今までの簡単な身元調査とは違う、徹底的な身辺調査を十神は行った。だが、その結果が十神を
激怒させることになる。何せ、石丸は以前十神がプロファイリングした通りの人間だったからだ。


十神『規律を何よりも重んじ、現実を見ず形骸化した理想論を馬鹿みたいに唱える潔癖な男…
    こんなのが政治家になったら世も末だな。…しかし、なりそうなのが恐ろしい所だ』


十神一族は政財界に深く根を降ろしており、十神自身政界や経済の裏側を嫌というほど知っている。
現実を誰よりも知っているからこそ、子供のような甘ったるい理想論を唱えるこの男が気に入らなかった。
きっといつの日か政治家になって十神の元に意見しにやって来るだろう。拒んでも拒んでもしつこく
食らいついてくるに違いない。…そして、その予想は思っていたよりもずっと早く実現した。


十神(希望ヶ峰学園入学者名簿で貴様の名前を見つけた時、俺は目眩がしたよ……)


自分にスカウトが来るのは当然だと思っていたが、まさか石丸が希望ヶ峰に選ばれるなんて夢にも
思っていなかった。つまり、石丸の努力が認められたということになる。才能がなくても努力で何でも
叶うのなら、自分の才能を否定された気がした。しかも同じ学年なのだ。毎日顔を合わせることになる。


十神(…そして、貴様は何もかも俺の予想通りだった。むしろ想像以上のうっとうしさだった)


出来もしない脱出を掲げ、何の役にも立たない愛や正義を恥ずかしげもなくデカイ声で言う。
自分の価値観の押し付けが強く、十神にもしつこく突っかかって偉そうに説教をしてくる。

十神の中で嫌悪が憎悪に変わるのはそう間もなかった。


十神(いい気味だ……これでやっと静かになる)


昨日の騒動を思い返し、十神は薄ら笑いを浮かべた。



               ◇     ◇     ◇


石丸はKAZUYAの白衣と医学書を手に、混乱する生徒達の説得へと東奔西走していた。
葉隠と山田は手応えがあった。あとは恐らく最大の難関である腐川のみだ。


石丸「腐川君!」


バターン!


腐川「ひっ! い、石丸……なんの用よ!」

石丸「僕は君が西城先生に抱いている誤解を解きに来たのだ!」

腐川「ご、誤解ですって…?! ふん…そんなのムダよ。あいつが怪しいのなんて明白じゃない!」

石丸「それは違う! これを見たまえ。この医学書と白衣が証拠だ! 先生の授業に嘘など何一つない!」

腐川「あっそ…どうでもいいわよ。で、その汚い白衣はなんだっていうの…」

石丸「この白衣が汚れているのは当然だ。何故ならこの白衣は先生が黒幕に
    襲撃された時に着ていたもので、大量の血が付着していたのだ!」

腐川「ヒッ!」

石丸「よく見てくれ! こんなに血を流して死にかけた先生が内通者の訳が…」

腐川「ち、血ぃぃぃ?!」バタリ!

石丸「ふ、腐川君?! しっかりしたまえ! 腐川君!」


石丸は慌てて倒れた腐川に駆け寄り激しくゆする。それがうるさかったのか十神が不機嫌に呟いた。


十神「…貴様はとことん馬鹿だな」


石丸「なっ! 馬鹿と言う方が本当の馬鹿なんだぞ!」

十神「そんな小学生レベルの反論はどうでもいい。貴様は腐川の血液恐怖症を忘れたのか」

石丸「あ……だ、だが一応洗ってあるし色も大分落ちているというのに」

十神「血液恐怖症は精神から来ているものだ。本人が血だと認識したら反応するに決まっている」

石丸「うう……それもそうだな……」


腐川を床に放置するのは風紀委員として許されないので、椅子を並べてそこに腐川を運ぶ。

ジャラッ…


石丸(何だ? 今、スカートの中から金属音がしたような…)


腐川を椅子の上に横たえるとまたチャキッという音が聞こえた。


石丸(気のせいではないようだ……一体何故? だが確認する訳にもいかんしな。忘れよう)


十神「…腐川が倒れたんだ。当分起きないからさっさと出ていけ」

石丸「いや…僕が話さなければいけないのは腐川君だけではない。君もだ。十神君」


そう言って石丸は十神に向き合う。


十神「俺が貴様に話すことなど何もない」

石丸「でも僕にはある!」


このコロシアイ学園生活は生徒達の精神に甚大な悪影響を与えていたが、
石丸だけは少し勝手が違っていた。そう、良い影響が強かった。


石丸「僕はもっと君と話がしたい! もっと君を知りたい! 現在、何かと僕と君の
    意見が対立しがちなのはお互いの無理解が原因だ! 現状打開のためにも、
    僕達は早急に話し合いお互いをもっと知る必要がある!」


石丸は頑固で融通の利かない男であるが、変わろうという気持ちは常に持っていた。
ただ今までは自分と深く関わってくれる人間が周囲にいなかったため、変わろうにもどう
変わればいいか、人一倍不器用なこの男にはわからず空回りせざるを得なかったのである。


石丸「話し合い、お互いを深く理解すればたとえ全く違う価値観の持ち主だって仲良くなれる!」

十神「……貴様と大和田のようにか?」

石丸「! そう! そうだとも!!」


この閉鎖空間でKAZUYAや苗木と言った良きアドバイザーに出会えたこと、また逃げ場がないため
一人一人とじっくりぶつかり合う時間が取れたこと。これらの結果石丸は生まれて初めて
友人を作ることが出来た。そしてこの経験から、石丸は少しずつ学習し始めていたのである。


石丸(あの十神君が珍しく乗ってきた。これはチャンスだ!)


自分はいつも自己主張ばかりであまり相手の話を聞いてこなかった気がする。
それに、より相手と深い話をしたいならまず自分から話すのが重要だということも学んだ。
そしてこの考えは、つい先程交わした朝日奈、大神との会話で確信に変わったのである。


石丸「まあ、話し合いとはいえいきなり君から話せというのは無粋だ。だからまずは
    僕の夢の話をしよう! 僕は昔から政治家になるのが夢だったが、より人間として
    成熟するため、その前に医者になることを決めたのだ! 君の夢は何かね?」


十神「フン、俺に夢などない」

石丸「そんなことはないだろう? 何かあるはずだ」

十神「俺は十神の後継者になった以上、十神家の当主にして世界の支配者となることは
    決定済みだ。だからこの俺に夢などという曖昧な物は存在しないのだ」

石丸「だ、だが! 十神家の当主になった後やりたいことは? 何か一つはあるだろう!」

十神「そうだな。俺の邪魔となる人物を一掃するか。なんなら石丸、貴様をそのリストの
    トップにしてやってもいいぞ? 十神の力を使えば貴様の夢も簡単に潰せるのだからな」

石丸「!!」


嫌な笑みを浮かべいつもの高圧的な態度で十神が挑発すると、サッと石丸の顔に朱が差す。


十神(相変わらず単純な男だ)


挑発的な言動とは裏腹に、十神の心は冷え切っていた。そう、十神にとって石丸始めここにいる
人間は皆潰すにも値しない道端の小石のような物。ならば何故このような過激なことを言ったか。

理由は簡単だ。十神は石丸を怒らせたかったのである。話し合いなどしたくないと言っても
この強情な男はしつこく自分に付き纏い続けるだろう。だったら話に付き合う振りをして
言い合いに持ち込み、適当に決裂して別れるのが一番手っ取り早い。


十神(この男は馬鹿の一つ覚えみたいに道徳の授業で習ったことを繰り返し、
    口を開けば風紀を守る!だからな。この発言は許せないはずだ)


さあ、早く突っ掛かってこい。そして言い合いが始まったら頃合いを見て自分が出ていこう。


石丸「十神君! 今の発言は聞き捨てならないぞ!」

十神「(…ほら来た。単純な男だ)だったらどうし…」


だが、ここで石丸は予想外の発言をした。


石丸「…聞き捨てならないが、君がどうしてそんな考えに至ったのか僕は知りたい!」

十神「……は?」

石丸「君の夢は到底僕にとって認容出来るような内容ではない! だが、君がそのような
    考えに至ったには何か深い事情や考えがあるのだろう? それを聞かせてくれないか?」

十神「…………」


石丸はこの監禁生活の中で、人間関係の構築には自分の価値観で相手を縛りつけず、まず粘り強く相手の
話を聞くことが重要だと学んだ。そして忍耐力は、この努力の化身にとって最も得意な分野でもある。

…ただ石丸にとって唯一計算外なことがあったとすれば、それは相手が十神白夜なことであった。


十神(…成程。お決まりの性善説か。俺が捻くれているのは何かそうなる悲しい過去でも
    あったに違いないと思っているのだろう。相変わらず頭の中がお花畑みたいな奴だ)


石丸の変化を、歩み寄りを十神は見抜けなかった。かつての石丸のように、十神自身も己の
凝り固まった思想に囚われていたからだ。だから、十神はいつもの価値観の押し付けだと思った。


十神「残念だが、俺は元々こういう人間だ。貴様の期待するような過去なんてない」

石丸「期待? そうではなく、純粋に君の話が聞きたいのだ!」


執拗に同じことを繰り返す石丸に十神は苛立ちを隠せず思わず舌打ちをした。


十神「しつこい奴だな。お前がいくら頑張っても俺はお前の望む答えなど言わん」

石丸「何故頑なに話すことを拒むのだね? 確かに、僕のような凡才が天才の君を
    理解しようなどとはおこがましいかもしれないが…」

十神「天才、だとッ?!」


十神の整った顔が天才という言葉に反応して怒りで歪み、額に青筋が走る。十神は天才だが
努力をする天才だ。特に十神家は特殊な世襲制度を取っているため、十神の幼少時代は
辛く苦しいものであり、それ故十神は自身以外の人間に天才と呼称されるのを嫌っていた。


石丸「と、十神君…? すまない! もし何か僕の言ったことで気に障ったのなら謝ろう!」


石丸は空気の読めない男であるが、流石に十神の突然の豹変と凄まじい剣幕に異変を感じる。


十神「そうだ。俺は天才だ。だが、俺を天才と呼んでいいのは俺だけだ! 貴様みたいに
    行った努力を馬鹿みたいにひけらかす無能な凡人が気楽に呼んでいい称号ではない!」

石丸「その口ぶり…? …十神君は、もしかしたら本当は努力家なのではないかね?」

十神「努力を貴様の専売特許だと思わないことだな」

石丸「な、なんだ…なら僕らには共通点があるではないか! 同じ努力家同士わかりあえ…」

十神「ふざけるなッ!!」


今回ばかりは石丸の空気の読めなさが原因ではなかった。石丸は十神の家庭の事情など知らないし、
一般人の彼に十神家の嫡男がどれほどの重みとプレッシャーを持つかなどわかるはずもなかった。

十神は持っていた本を机に叩き付ける。石丸は驚いてビクリと震えた。


十神「貴様のような凡俗とこの俺が同じだと?!」

石丸「あ、いや…違うんだ! そういうつもりで言ったのでは…!」


十神はいつも不機嫌そうな顔をしているが、実際に感情を露わにしたのを見るのは初めてだった。
何故そんなに怒るのかと半ば理不尽に感じる思いもあったが、十神の迫力に呑まれ何とか宥めようと
試みたが無駄であった。十神は立ち上がると石丸のすぐ前に立ち、その襟首を乱暴に掴む。


十神「貴様に何がわかる?!」

石丸「十神君…そうだ。僕にはわからない。僕は何故君が怒っているのか本当にわからないんだ!
    だから教えてくれ。何故君は怒っている? 僕は君の事が知りたいんだ」

十神「……いいだろう。そんなに知りたいなら教えてやる」


襟首を掴む手にますます力が入る。石丸は息が苦しかったが、それ以上に十神の話が聞きたかった。
そして十神は語った。赤の他人には誰にも話したことがなかった十神家の厳しい世襲制度を。


十神「十神の家に生まれたら自動的に跡取りになると思ったか? そんな馬鹿な話があるか。
    俺にはたくさんの兄弟がいた。全員母親の違う兄弟だ。そして…兄弟同士で争いあった」

石丸「な…?!」


石丸は目を見開く。歴史上ではよくある話で、知識としては知っていた。だが現代日本の、
それも自分の身近な人間がそれを実践させられたというのはにわかには信じがたかった。


十神「十神家の跡取りはただ一人。代々勝ち残った者が十神家を継ぐしきたりだ。俺は末弟で、
    他の兄弟達に比べ大きなハンデがあった。末弟が勝者となったのは俺が史上初だそうだ」

石丸「負けた兄弟達は、その後どうなるのかね…?」

十神「……一族から追放される。十神の名を失い、社会的には死んだも同然だ」

石丸「そんな…!!」


そこで初めて十神は掴んでいた手を離した。石丸は言葉を失ったまま呆然としている。当たり前だ。
元より自分とは住む世界が違うのだ。これでやっとわかったかと十神は深々と息を吐いた。


十神「貴様も同世代の平凡な人間達の中ではそこそこ苦労している方だというのは認めよう。
    だが貴様は何も知らない。生まれながらに戦いを宿命づけられている人間が世の中には
    いることも、勝ち残った者には重みと責任が生じるということも、何もな……」

石丸「…………」

十神「戦うことから逃げて仲良しごっこがしたいだけなら、お前達で勝手にやればいい。
    俺は一人でも戦うし十神の名にかけてこのゲームに勝つ。二度と俺に近寄るな」

石丸「十神君、だが…!」


食い下がろうとする石丸を、十神は背を向けることにより明確に拒絶する。


十神「……貴様の顔はもう見たくない。貴様が出て行かないなら俺が出て行く」


そう言い捨てて十神は去って行った。一人図書室に残された石丸は十神の言葉を頭の中で反芻する。


石丸(逃げている…?)

石丸「僕は……僕はそんなつもりは……」


僕はただ、十神君とも友達になりたかっただけなのに――


石丸(…急ぎ過ぎてしまったのかもしれない。こういうことは時間をかけなければ。
    今回は失敗してしまったが、気持ちを切り替えてまた今度話してみよう)


だが石丸は気付いていなかった。

この日この時、自分と十神の決裂が決定的になっていたことを……


非日常編になってから時間軸が錯綜してます。ここまで。


投下!と行きたいですがその前に。

少し早いですが次スレの相談です前回は建てるのが遅かったせいで危うく
尻切れトンボになりかけたので、今回は早めに建てようと思います。

タイトルコールですが、誰がいいですかね?やっぱり不二咲大和田かな
なんか今の連載ペースだと全員分行けそうな気がするので、1的には舞園さんも
突っ込もうかどうか悩み中。多分この三人は次スレでめっちゃ出番あるし

舞園さんピンはないかな。恐らく大和田君が最もスポット当たるのが間違いなく
次スレなので、ここで出さないとタイミングの関係で…ね。三章や四章で名前来ても困るし
ちーたんはアルエゴ関係で三章以降にも多分スポット来る時はあると思うけど、
大和田舞園コンビでは謎すぎるので、大和田不二咲コンビは確定かなと思ってます

残ってるメンバーが12人なので、1スレ二人だとあと6スレ、1スレ三人にすると
あと4スレ。流石にあと6スレも行かないと思うけど…ちょっと書いてみないと
どうなるかはわからない。メンバー足りなかったら最悪KAZUYAやモノクマ使えばいいし

とりあえずまた夜くらいにスレタイ案考えてやって来ます。

冷静に考えると何でこのスレ桑田&舞園にしなかったんだろう
KAZUYAの桑田と舞園は一緒にしておくとマズイって思考が乗り移ったのか…
あとは序盤モノクマになじられたり散々なのであんま活躍とは思わなかったのか

結局悩んだ結果今回は三人で行くことに決めました。ここでいれないと
もういれるとこないと言うか、下手したら江ノ島あたりと組むことになるし…


候補決めましたので投票お願いします。

①大和田「俺達の校医だぁ?」不二咲「ドクターKっていうんだよ」舞園「カルテ.3です」
②大和田「俺達は諦めねえ!」不二咲「僕も戦うよ!」舞園「ドクターKも一緒です」カルテ.3
③大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよ」
④舞園「希望と絶望」不二咲「僕達とドクターK」大和田「絶対に生き延びてやる!」カルテ.3

なんか考えてるうちにゴチャゴチャしてきたというか、もう訳わかんなくなってきた
読者の皆さんに託す

最初に3票入ってるし、③でいいですかね?

では③大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよ」でケテーイ

勇ましいのがいいかなと思ってたからちょうどいいですね
テンプレの準備をしていきたいと思いますのでスレ立てまでしばしお待ちを…

あと、例によってこのスレの残りはオマケや番外編で消化したいと思うので
今回はあんまり話進んでないけど、もしリクエスト等あればなるべく応えるつもりです

好感度による石丸の怪我のバリエーションってのが気になるけど
それは2章の結果発表が終わってからの方がいいかな?
後はほのぼのが見たいです

活躍度で言うなら、苗木と霧切は最終スレのスレタイでまた戻って来るはず

というか1スレ目ではそんな活躍してn

親密度の計算表が見つからなくて焦った。あれ一から計算とか悪夢過ぎだし
テンプレ改変に手間取ってスレ立てはどうやら明日になりそうです


>>885
フラグ説明が入るので二章終わってからやる予定です。ネタバレもあるかもしれないので
1もほのぼの書きたいです。あとは本編開始前のエピソード0とかやろうかと

>>886
スレ立て当時は活躍とか考えず、検索しやすさを考えて代表的なキャラでと
考えた結果苗木君と霧切さんになりました。最後に戻ってくるのもアリですね

来たら次スレタイ決定してた

ギャグみたいな導入で始まったとは思えないぐらいシリアスなSSになったなぁ

全員スレタイコールするほど長編になる予定なのかこのシリーズ… 楽しみだが1は大変だなぁ 無理しない範囲で頑張って欲しい
あとすごく個人的な願望だが桑田と舞園が本当の意味で和解して仲間になれる日がくるといいな

昨日立てると言ったのにスレ立て遅くなってすみません。昨日は体調が悪かったのと、
今日は朝からずっと用事があったのですっかり遅くなってしまいました


大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395580805/)


記念すべき三スレ目です。テンプレは貼ったのでこれから新スレの方に投下していきます。

あ、上がってない。もう一度!

>>888
前スレの反省から早めにスレ立てすることにしました。次スレでは是非投票に参加して下さい。

>>889
ドクターKは割りとコミカルな描写も多いけど基本的には骨太な人間ドラマがメインでかなり
シリアスな医療漫画ですし、ダンガンロンパは言わずと知れたコロシアイがテーマと重いので、
当初からシリアス路線は確定でした。序盤にギャグが多かったのは…1が書きたかったからです

>>890
桑田君と舞園さんに関しては本当にルート次第ですね。ハッピーエンド目指して頑張ってください

まだ100レスほど残ってるのに次スレ…という事は、小ネタを期待しちゃってもいいのかな!?
もしOKならたえちゃんと十神の腹の探り合いとか山田と葉隠の微妙なやり取りとかを是非!

あー、大好きだったSSさんが終わってしまった。この場を借りてお疲れ様と言いたい

>>902
むしろ小ネタしかない

リクエストありがとうございます。最近鬱話考えてばっかりで
実はギャグが浮かばなかったのでネタ頂けると助かります

という訳で少し投下。


― オマケ劇場 ⑱ ~ コロシアイはディナーの後で ~ ―


セレス「こちら、よろしいかしら?」

十神「……フン、好きにしろ」


夕食時。十神とセレスが同席しているだけでそこは高級レストランさながらの光景へと変貌する。


セレス「ゲームの勝算は見えましたか?」

十神「フン、聞いてどうする?」

セレス「わたくしの平和な生活を乱されたら困りますから、聞いてみただけですわ。十神家の
     次期当主たる者、実は策が浮かばなくて困っているなんてことはありませんものねぇ?」

十神「…愚問だ」

セレス「フフ、本当の所は聞かないでおきますわ。…推理小説は面白いですか?」

十神「……思っていたよりはな。時間潰し程度にはなる」

セレス「十神君なら勿論全て途中で真相がわかってしまうのでしょうね」

十神「当然だ。俺を誰だと思っている」

セレス「嘘はいけませんわよ?」

十神「…………フン」


十神(目障りな女だ。俺の腹を探りに来たのか)


十神は警戒するが、実は違う。


セレス(十神君は口は悪いですが外見だけならわたくしの理想のナイトですからねぇ。
     この場を利用して優雅なディナータイムを楽しませて頂きますわ! ウフフ)


なんと、セレスは素で態度が悪いだけだった!

バターン!


腐川「ああっ! こんな所に白夜様って、えええ?! なによ?!
    なんであんたなんかが白夜様と同席してるのよ?!」

十神「うるさいぞ、腐川。別に俺が誰と食べようが関係な…」


バターン!


山田「ぬぉぉぉっ! セレス殿ぉぉ! 見つけましたぞっ! 僕を置いて行くなんてひどい!」

セレス「あら、山田君。早かったですわね?」


山田「早かったって、やっぱりわざとでしたか!」

腐川「白夜様に近寄るんじゃないわよ、この女狐!」

セレス「あら、同席を許可されないからと言って嫉妬は見苦しいのではありませんか?」

腐川「キィィィ! どうせアタシはブスよ! 不潔よ! 悪かったわね!」

山田「セレス殿! たまには僕とも同席を…」

セレス「山田君、鏡をご覧になったら如何ですこと?」ニコ

山田「ガアアアアン! わかっていることとはいえショック!」

セレス「まあ、外野は放っておきましょうか。ねえ、十神君?」ガン無視

腐川「そんな、白夜様ぁぁ!」

山田「セレス殿ぉぉ!」

十神「…………(関わりたくない…)」


十神はセレスを最重要警戒人物として認定したのだった。


― オマケ劇場 ⑲ ~ 二人のロンリーウルフ ~ ―


葉隠「お、山田っちか」

山田「葉隠康比呂殿、これはどうも」

葉隠「なにやってるん?」

山田「見ての通りロイヤルミルクティーを作っているのです。最初はセレス殿に言われて
    始めたのですが、いやはやなんとも奥が深い。もし良かったら飲んでみますか?」

葉隠「おお、頼むべ」

・・・

山田「どうですか?」

葉隠「よくわかんねえけど美味いんじゃねえか?」

山田「それはなにより」

葉隠「…………」ズズー

山田「…………」パクパク…ズズッ


シーン。


葉隠・山田(……気まずい)


葉隠「そういやさ、山田っちはオーパーツとか興味あるか? なんだったら
    俺のオーパーツコレクションについて話してやんべ」

山田「そうですねぇ。ちょっと興味深いですし、聞いてみますか」

葉隠「~でな? アトランティスの超古代文明とムー大陸には意外な共通点があってだ…」

山田(どうしよう…軽い趣味かと思ったらかなりディープな世界でした。日本語でおk…)

葉隠「…で、山田っちは最近どうよ? 相変わらず同人描いてんのか?」

山田「それはもちろんですとも! コミケの締切に負われて限界を超えるのも楽しいですが、
    締切がない中で自由に描くというのもまた別な発想が出やすくて面白いものです」

山田「ぶー子の良さを引き出すために絶妙なシチュエーションをいくつも用意して…」

葉隠「ああ、ああ、うん(全っ然意味わからんべ)」

・・・

葉隠「…………」

山田「…………」

葉隠「…………あ、じゃあ俺はこれで。お茶おいしかったべ」

山田「長話してしまいましたな。それではまた」


すたすたすた…


葉隠・山田(…話が通じる話し相手が欲しいなぁ(べ))ハァ…


― オマケ劇場 ⑳ ~ 恋の血圧測定 ~ ―


腐川「ちょっと、ドクターK! は、話があるんだけど…」

K「どうした、腐川? 君がこんな所に来るとは珍しいな」

腐川「ど…どーして授業の組み合わせで、いつも白夜様をアタシ以外の女と組ませるのよ?!
    大神とか江ノ島ばっかり! なんで筋肉女と汚ギャル? なに? アタシがブスだから?
    そんなこと百も承知よ! で、でもアタシだってたまにはいい思いしたいじゃない!!」キィィ!

K「まあ、待て。別に君を避けている訳ではなくてだな…体格で組むとそうならざるを得ないのだ。
  十神は長身だから、女子と組ませる時は大柄な大神や江ノ島でないと抱えられんだろう?」

腐川「白夜様を抱えるなんて…ずるい! アタシだって、アタシだってぇ…!」ギリギリギリ!

K「…ハァ。わかった。明日の授業は力を必要としないものだから、十神と組ませよう」

腐川「本当?! 約束よ! 約束だからね!」

・・・

K「今日はこのアナログ血圧計を使って血圧を測る実習だ。三つしかないから、
  八組に分かれて順番にやること。組み合わせは…」

腐川「来たわぁぁぁ! びゃ、白夜様…! よろしくお願いします…」

十神「チッ。面倒だが仕方ない。とっととやれ」

腐川「は、はいぃぃ!」


腐川(ああ、白夜様の綺麗な白い二の腕を締め付けて圧迫するなんて、なんてエロティカル!
    うふ、うふ、圧迫された腕から青い血管がうっすらと浮き出て…うふふふふ)」ハアハア…


シュコシュコシュコシュコ… ←腕に巻いたバンドにポンプで空気を送る音


十神「…おい、やり過ぎじゃないのか? 痛いんだが」

腐川「うへへへへ」うっとりヨダレダラァ~


シュコシュコシュコシュコ…


十神「おい、腐川? 聞いているのか。やり過ぎだ。一度外せ!」

腐川「ハア…ハア…ハア…ハア…」鼻血ブー


バターン!


朝日奈「なに?! どうしたの?!」


苗木「大変だ! 腐川さんが倒れちゃった!」

十神「おい、そこの変態はどうでもいいから誰か俺のバンドを外せ」

K「全く、測る方が血圧の上がり過ぎで倒れるとは何事だ…」ヨイセ

十神「おい、誰か…」

石丸「腐川君! 気をしっかり持つんだ!」

江ノ島「ほっときなよ…どうせいつものでしょ?」

大和田「だな。続けよーぜ」

十神「…………おい」


シッカリシロー! コッチニネカセルゾ! ドウデモイイデスワ。ワーワー!


十神「…………」




十神「…………痛い」


ここまで。

前スレの小ネタではほとんど出番がなかった十神がここにきて出番を増やしている


― オマケ劇場 ㉑ ~ 早起きは三文の得 ~ ―


食堂には毎朝ほぼ同じ時間に同じメンツの生徒が揃う。朝の情報番組がないので、
他のメンバーが来るまで生徒達はKAZUYAをテレビ代わりに珍しい話を聞くのが日課だった。


朝日奈「ねえねえ先生、なにか面白い話ない~?」

K「面白い話、か。面白いかはわからんが、俺のこのベルトの由来でも話そうかな」

不二咲「ベルト?」

石丸「古い皮のベルトですね。牛革だろうか?」

大神「だが質は良さそうだ」

K「ベルト自体はそこまで古くはない。ただ、歳老いた闘牛の皮をもらったから古く見えるのだろう」


KAZUYAが雨宿りしたある地方の民家。そこにはかつて王者だった闘牛・雷神がいた。KAZUYAは雷神の
老いと病を見抜き引退を勧告したが、牛主は認められずKAZUYAは嵐の中勝負することになる。KAZUYAに
倒され満足したのか、翌日KAZUYAが薬を持って戻って来た時には雷神は既に亡くなっていたのだった。

〈参考画像:KAZUYA闘牛を倒す〉http://imgur.com/YhZn9Gv.jpg


石丸「最期に最強の相手である先生と戦い、闘牛としての生を全うして満足したのですね……!」ブワッ

不二咲「仕方ないけど悲しいね…」うるうる



大神「だが満足して逝けたのだ。武人としてその生き方には共感出来るものがある」

朝日奈「それにしても先生すごーい! 牛を投げ飛ばしちゃったんだ!」

K「フ、雷神号が歳老いていたからだ。万全の状態だったら俺でも勝てたかどうか」

朝日奈「KAZUYA先生ならきっと投げちゃうって!」

不二咲「うん! 先生なら出来るんじゃないかなぁ!」

石丸「僕も負けてはいられないな! もっと鍛えねば!」

大神「西城殿、我と組み手をしては頂けぬか」

K「……それは勘弁してくれ。闘牛よりよっぽど手強そうだ」ハハ

・・・

桑田「ウーッス」

苗木「おはよー」

朝日奈「おはよー! 二人共おそーい!」

桑田「は? なにがだよ。時間通り来てんじゃん」

朝日奈「もっと早起きすれば先生が猛牛と相撲をとる話が聞けたのに!」

桑田「……は?」


不二咲「先生はねぇ、こーんな大きな牛さんだって投げ飛ばせちゃうんだよぉ!」フフッ♪

石丸「僕もいつか先生のように牛くらい投げ飛ばせるようになるんだ!」

K「任せろ。俺がみっちり鍛えてやる!」

苗木「い、いやいやまさか……というか石丸君まで何言い出してるの?!」

大神「フフ、我ももっと修業せねばな」

桑田「大神は今の段階でも出来る。間違いなく出来る(断言)」



― オマケ劇場 ㉒ ~ 早起きは三文の得その2 ~ ―


朝日奈「ねー先生ー! 今日はどんな話聞かせてくれるの?」

K「ウーム、色々あるからなぁ。何関連か絞って言ってくれんと」

不二咲「また強敵と戦う話がいいな!」

大神「我も是非聞きたい」

朝日奈「海の話ない?!」

K「海か。海だったら…」


ある漁師を訪ねた時のこと。漁師は鮫に足を噛みちぎられてしまった。KAZUYAは足を治すため
鮫を海から引きずり出し、腹を裂いて胃から取り出した足で接合手術を行ったのだった。

〈参考画像:KAZUYA鮫を倒す〉http://imgur.com/wAIpgxe.jpg


石丸「さ、鮫?!」

不二咲「鮫……!」

大神「鮫か……」

朝日奈「先生すごーい!」

K「別に凄くはない。水中で直接戦うのは不利だからエラを塞いで呼吸困難にさせただけだ」

石丸「それでも普通の人間には無理だと思いますが……」

不二咲「凄いなぁ! 西城先生って本当に格好良いなぁ!」キラキラキラ!

大神「水中戦の概念は我にはなかった。我も訓練してみるとしよう」

朝日奈「私も付き合うよ!」

K「溺れないようにしてくれよ?」

・・・



大和田「オッス」

苗木「おはよう」

石丸「一足遅かったな、君達!」

大和田「あ? ちゃんと時間通り来てるぜ?」

石丸「違う! もう少し早く起きれば先生が鮫を倒した話が聞けたのだ!」

大和田「おいおい、兄弟……まだ寝ぼけてんのか?」

不二咲「ふふっ、僕も鮫を倒せるくらい強ければなぁ!」

苗木「そ、そこまで強くなりたいの不二咲さん……?」

石丸「ちなみに大神君と朝日奈君は後で水中戦の訓練をするそうだ。僕と兄弟も参加させてもらおう!」

大和田「え? は? ……ハァ??」

苗木「あの、先生……」

K「俺も水中戦のエキスパートという訳ではないが、やるからには協力するぞ」フフ

「ガンバロー!」  「オー!」  「いや、ちょっと、待……」

苗木「えぇと……」

苗木(メンバーにツッコミがいないからこんなことになるんだろうなぁ……)


― オマケ劇場 23 ~ 恐怖! ドーナツ化現象 ~ ―


十神「いい加減にしろ」

朝日奈「そっちこそ! 十神って本当性格悪いよね!」

十神「黙れ愚民。特に貴様みたいな頭のおかしい奴にこの俺が馬鹿にされるのは心外だ」

朝日奈「おかしいってなに?! もう最低! あっち行こ、さくらちゃん!」

・・・

K「……十神。売り言葉に買い言葉なのはわかるが、いくらなんでも言い過ぎではないか」

十神「フン、貴様は何もわかってない。あの女は本当に頭がおかしいぞ」

K「何?」

十神「疑うのなら、あの女の前で思い切りドーナツの悪口を言ってみろ」

苗木「あ、十神君! それはちょっとマズイよ……」

K「……苗木までそう言うのか? フム、そんなに言うなら俺自身の目で確認してこよう」


三十分後。


K「すまん……お前の言いたいことが少しわかった」ゲッソリ…

十神「それ見たことか!」


ここまで。

ほの、ぼのだったかな…?最初21と22のタイトルを「在りし日」にしようかと思ったけど、
あまりに縁起が悪いというかあんまりだったので変更した。二章メインの三人組、
通称大和田サンド好きには本編はしばらくきっつい展開続きそうです。ごめんなさい

丸文字は機種依存文字を使ってみたのですがやはり文字化けするのできっぱり廃止
次はいよいよエピソード0かな。誰も待ってないだろうけど

追いついた乙です
次スレいくかぁ



      あの忌まわしい事件を隠蔽すると決めた時から

      私は“彼”をこの学園に招こうと計画していた。

   何故なら私には、人類の希望を守るという使命があるからだ。

        そのためにはどんな手段も選ばない。


    彼ならば、大切な生徒達をきっと守ってくれるはずだ。

           そう、あの男ならば――



          ◇     ◇     ◇


かつてこの日本に、不世出の天才と呼ばれた一人の青年医師がいた。

出身地・生年月日等一切不明。日本の最高権威・帝都大医学部を主席で卒業し、

若くして国際レベルの活躍を重ねる。その執刀技術は最高の特Aランクだという。


人類史上最大最悪の絶望的事件が起こってしまった時、本来なら真っ先に

活動するはずのこの男の姿を、誰も見つけることが出来なかった。

何故なら彼は、人類の希望達と共にコロシアイ学園生活を送っていたからである。

果たして何故そうなったのか。その顛末の一部がここに明かされる。


「 スーパードクターK × ダンガンロンパ ― Episode0 ― 」


野獣の肉体に天才の頭脳、そして神技のメスを持つ男――その名はK!!


― 高品診療所 ―


「お願いします! ここで待たせて下さい! ここにいればいらっしゃるんでしょう?!」

高品「そのォ、申し訳ないんですけどうちは診療所なんで……」

「では、ドクターKに伝えて下さい! 一年、半年……いや、この際二ヶ月でもいい!
 どうか……どうか我が学園に、校医としていらして頂きたいと!」

斉藤「伝えますので今日の所はお引き取りくださーい」

高品「すみません。あんまり粘られると、うちにも色々と支障が出ますんで……」

霧切仁「……わかりました。今日はもう帰りますので、確かにお伝え下さい」


そう言って、若き希望ヶ峰学園の学園長は帰って行った。やれやれ、と高品龍一は息をつく。

高品はKAZUYAとは古い付き合いの友人であり、KAZUYAに認められた腕を持つ腹腔外科医である。
以前は寺沢病院という病院に務めていたが、数年前看護婦の斉藤淳子と共に独立し、現在は自分の
診療所を構えているのだ。ちなみに、独立後に斉藤とは正式に婚約し現在も交際中である。


ジョージ「いやぁ、なんだか熱心な人でしたネ」


オールバックに白衣が似合う、少し日本語のおかしいこの男はジョージ・タケモリといい、
アメリカから来た日系アメリカ人の医師である。クエイド大学で研究をしていたが、KAZUYAと
高品の友人である朝倉雄吾の命により、現在は高品診療所に出向して現場の経験を積んでいる。

〈参考画像:高品診療所の人々〉https://i.imgur.com/n1wKNAF.jpg



高品「そうだね。……K、もう帰りましたよ」

K「……すまんな」


奥からヌッと現れた長身で筋肉質なこの男こそ、霧切仁が熱望するドクターKその人であった。


斉藤「何も隠れなくたって……面と向かって断ればいいじゃないですか」

K「そうなんだが……いい加減こちらも疲れてきてな」

高品「谷岡先輩と七瀬さんから聞きましたけど、あの人寺沢病院や斎楓会病院にも
    来たんでしょ? 次は軍曹の所や帝都大にも行くんじゃないですか?」


軍曹とはKAZUYAの大学時代の先輩である大垣蓮次のことだ。高品同様、大垣診療所という自身の
診療所を構えている。世話になっている先輩にまで迷惑をかけたくないな、とKAZUYAは頭を抱えた。


K「……それまでに諦めてくれればいいのだが」

斉藤「二ヶ月でいいって言ってるし、土日は行かなくてもいいんでしょう? いっそ
    引き受けちゃえばいいじゃないですか。過去には加奈高だって引き受けたんだし」

ジョージ「そうですヨ! なんて言ったって世界的にも有名なあの希望ヶ峰学園デスよ?!」


羨ましそうにジョージがKAZUYAを見る。


斉藤「へえ、日本の学校なのにアメリカでも知られてるんだ? 知ってた?」

高品「実は縁がないから俺も詳しくは知らないんだよね。天才ばっかりの学校としか……」


ジョージ「希望ヶ峰学園といえば、あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げる事を目的とした
      政府公認の超特権的な学園デス! 学園側からスカウトを受けた、選ばれた天才しか
      入学することを許されない、まさしく天才のための天才養成学校なんデスよ」

ジョージ「我がアメリカにも似た施設はありますが、歴史と伝統では希望ヶ峰学園に圧倒的に劣りマス」

高品「その学園の校医として相応しいって太鼓判を押された訳ですよ? 流石Kだよなぁ」

斉藤「学園の中には各業界のトップエリート達が勢揃いなんでしょ? アイドルとかモデルとか
    スポーツ選手とか。いいなぁ。どんな所か覗いてくればいいじゃないですか!」

K「ウーム……」


だが、KAZUYAは強面の顔を更に渋くして何やら考え込んでいる。


高品「……なんだかノリ気じゃないみたいですね」

K「俺はな、どうにもその天才のための学校という響きが好かんのだ……」

K「スカウトを受けた天才児しか入ることが許されない学園。生徒達の才能を伸ばすことを第一義にし、
  選ばれた特別な教員が特別な教育を施す……その反面、予備学科という誰でも試験で入ることが
  出来る学科を用意し、高い授業料を納めさせ雇われ教員に適当な授業をさせているという……」

斉藤「何それ……その予備学科の子達は本科の生徒のための金づるってこと?」

高品「まあ、僕ら普通の人間からしたら気持ちの良いものではないですよね。踏み台にされてるみたいだし」

ジョージ「ですが、それは予備学科の子供達もわかっていてブランド目当てで入学しているのでしょう?
      ならお互い様というか、お互いにメリットが一致しているフィフティな関係ではないデスか」

K「まあ、そうなのだがな…」


そう言うKAZUYAの顔は相変わらず暗かった。『才能こそ人類にとっての希望』という理念を
第一義にする希望ヶ峰学園の存在は、KAZUYAにしてみればかつて自分が校医をしていた加奈高の
生徒達のような落ちこぼれを全否定されているようで気に食わなかったのだ。


高品「でもあの学園長……霧切さんって言いましたっけ? とても諦めそうには見えなかったけどなぁ」

斉藤「次は多分土下座してくるんじゃない?」

ジョージ「一回引き受けて、それでグッバイしたらどうですかネ?」

高品「あんまり断り続けるのも可哀相だし、一回くらい引き受けてあげればいいじゃないですか!」

K「ムゥ。そうか……?」

斉藤「そうそう! それで私達に、希望ヶ峰の中がどうなってるのか後でじっくりレポートして下さいよ」

高品「有名人がいっぱいなんでしょ? 土産話が楽しみだなぁ」

ジョージ「頭の良さそうな子がいたら教えて下さいね。クエイドからスカウトをかけるのデ!」

K「……わかった。お前達がそこまで言うなら、試しに引き受けてもいいかもしれんな」

K(まあ、正直少し気にはなっていたのだ……ここらで一度様子を見てもいいかもしれん)


KAZUYAは初めて霧切仁と出会った時のことを思い出す。



               ◇     ◇     ◇


霧切仁「あなたがあの世界的に有名な名医ドクターKですね?」

K「そうですが……あの有名な希望ヶ峰学園の学園長が、私に一体どのようなご用件で……?」


寺沢病院の医局で、KAZUYAはうら若き学園長と対峙していた。KAZUYAの仁に対する第一印象は、
とにかくやり手の男だなということだった。端正な容姿とは裏腹にその目には強い意志が感じられ、
何故この男が医者である自分に会いに来たのかとKAZUYAは怪訝に思う。


K(一度電話でアポを取られたが、手術の依頼ではなかった。何をしにここへ……?)

霧切仁「単刀直入に言います。あなたに我が学園の校医になって頂きたい」

K「……はぁ。私が、ですか?」

霧切仁「そうです! 現在校医を勤めている森川さんはご存知でしょう? 確か帝都大で……」

K「ああ、森川先輩ですか。覚えていますよ」

霧切仁「当初は産休だけという話だったのですが、子育てのためしばらく職から離れたいと。
     そのため、我が学園では現在代わりの校医を探している最中なのです。そこで、以前から
     話を聞いていたあなたに是非ともお願いしたいと紹介状を持って参上した次第です」


差し出された紹介状に一応目を通すが、KAZUYAはすぐにそれを仁へと返した。


K「申し訳ありませんが、私は医者です。希望ヶ峰学園に病人や怪我人がいるというのなら、
  勿論いつでも治療に参りますが、校医として赴任するという話はお引き受け出来ません」

霧切仁「しかし、過去に加奈高校という学校に校医として赴任していたというのを私は
     知っているのですよ? 何故加奈高は良くて希望ヶ峰学園は駄目なのです!」

K「……そこまで知っているのなら申しますが、その話は友人である加奈高の校医が急病で倒れ、
  代わりがどうしても見つからないので私がやむなく引き受けたに過ぎません。加奈高は
  知っての通り偏差値も低く少し荒れていて、校医になりたがる医師がいませんからね」

K「希望ヶ峰学園程の有名校なら、わざわざ私が行かなくとも校医になりたがる人間は
  たくさんいるでしょう? なんなら帝都大あたりに私からも紹介状を書きますが?」


霧切仁「いえ、誰でもいい訳ではないのです。ドクターK――あなたでなければ!」

K「話が見えませんな。単なる広告塔として利用したいだけなら丁重にお断りいたします」

霧切仁「それは違います! そんな理由であなたを呼びたい訳ではないのです!」

K「……何か逼迫した理由でも?」

霧切仁「いえ、そういう訳ではありませんが……」


一瞬口ごもった仁を見て、KAZUYAの直感が何かを感じ取っていた。


K(これは何かあるな……)

霧切仁「あなたはその若さで超国家級と称しても良い天才医師だそうですね。そのような方が
     我が学園に来て頂ければ、我が校の生徒達に対して良い刺激になりますし……何より
     聞いた話ではあなたは文武両道。人格的にも非常に優れていると伺いました」

霧切仁「知っての通り、我が学園は選ばれた天才だけが通う学校。……しかし、逆を言えば自分は
     特別だとつい選民思想に陥りがちです。そのため、あなたのような方が来て良い手本と
     なって頂ければ、生徒達により強い自覚を与え正しい方向へ導けると思うのです」

霧切仁「希望ヶ峰学園は単なる天才養成学校ではありません! 各業界へ強い影響力を持つ、まさしく
     世界の“希望”を養成しているのです。我々大人は彼らを正しく教育する義務があります!」

K「そうですか……」


仁の強烈な熱意にKAZUYAは気圧される。そして、やけに強調される希望という言葉が少し気になった。


霧切仁「だから、もう一度お願いします。どうか我が学園に来て頂きたい。給料は勿論
     あなたの才能と実力に見合った額を用意させて頂いております。どうか……」


そう言って仁は頭を下げる。だがKAZUYAの答えは既に決まっていた。


K「お断りいたします」

霧切仁「な、何故です……?!」

K「先程も申しましたが、私の本業は医者です。時間があれば一人でも多く患者を診たいのです。
  優秀な医者なら何も私でなくても世界中にごまんといますよ。それこそ市井の病院にもね」

霧切仁「ま、待って下さい! あなたでないと駄目なのです!」

K「他を当たって頂きたい。私はこれからオペが入っているので失礼させて頂きます。それでは」


そう言ってKAZUYAは部屋から去って行った。一人部屋に残された仁は、熱のこもった目で扉を睨む。


霧切仁「私は、諦めないぞ……絶対に……」

霧切仁(今、希望ヶ峰学園にはあなたの力が必要なのだ……生徒を守るためには!)



― とある日の昼休み 希望ヶ峰学園グラウンド ―


カキーン!


大和田「苗木! 守れ!」

桑田「ムダムダァ!」


ズザザザザッ!


苗木「痛ったぁー!」


大和田「どうした?!」

桑田「うわ、やべえ……スパイクで足をバッサリ切っちまった……」

不二咲「痛そう…」

山田「血が出ていますよ!」

葉隠「桑田っちが無理してスライディングなんてするからだべ!」

大和田「あんなに野球なんてやりたくねえとか言ってたのにこのザマだ」

桑田「うっせーな! 一度やるってなった以上は勝ち負けにこだわんだよ、俺は!」

石丸「言い合いをしている場合ではない! 早く保健室に連れて行こう!」

桑田「……俺が連れて行くよ。わりいな、苗木」

苗木「あ、気にしないで。そんな大怪我じゃないっぽいし。イタタタ……」


・・・


歩きながら、ふと苗木は今朝教室で聞いた情報を思い出した。


苗木「……そういえば桑田君、保健室に新しい先生が来たって聞いた?」

桑田「え、マジで?」

苗木「うん。石丸君が言ってたよ。律儀に挨拶に行ったらしいから」

桑田「ふーん。美人だといいなぁ」

苗木「ハハ……」


ガラッ。


桑田「すんませーん。野球してたら怪我しちゃったんスけど……」

K「…………」


ドオオオオオオオオオオンッ!

保健室の中には、マントを羽織った強面の大男が腕を組んで座っていた。
ギョロリと目を動かすと入り口の二人を捉え、低い声で呟く。


K「……怪我か」

苗木・桑田「…………」


ピシャッ!


桑田「お、おい……苗木、見たか?」

苗木「う、うん。見たよ……」

桑田「なんかすっげえのがいた……大神みたいなヤツ……」

苗木「ここ、保健室で合ってるよね……?」


ガララッ。


K「おい」

苗木・桑田「ヒッ!」

K「……何故ドアを閉める? 怪我をしているのだろう? 入れ」

苗木「あ、あの……」

K「何だ?」

苗木「もしかして、おじさんが……今度新しく来たっていう保健室の先生ですか?」

K「(おじ……)そうだ」

桑田「マジかよ……」


KAZUYAに圧倒されながらも二人は保健室に入った。


K「傷を見せてみろ。……フム、野球で怪我をしたと言っていたな?」

桑田「その……俺がムリに突っ込んじまったせいで、スパイクでザックリ……」

苗木「そんなに気にしないでよ。ちょっと痛いだけだからさ。ハハ」

桑田「でもよ……」

苗木「平気平気! あ、僕全然大丈夫なんで」

K「ウム。幸い、皮膚が少し切れただけだ。一応縫合しておく」

苗木「えっ?! 縫合?!」

K「ああ。軽傷だが、放置するには少し深いのでな。すぐに済む」


桑田「え、でも縫うのとかちゃんと病院でやんなきゃマズイんじゃ……」

K「安心しろ。俺は単なる保健の教諭ではなく国家資格を持ったプロの外科医だ。縫合は慣れてる」

苗木「え、外科医?! 本物の?! なんでそんな人がうちの学校の保健室に……」

K「色々あってな。学園側からの依頼で短期間だがここで働くことになった。よろしく」

桑田「マジか! すげーな」


話しながらも、KAZUYAは部分麻酔を傷の周辺に打ち込み、麻酔が効いたのを確認して
手早く縫い上げていく。素人の二人にも恐ろしい早さだというのがわかった。


K「……よし、終わったぞ」

苗木「あ、ありがとうございます」

K「傷口から感染したら不味いから抗生剤と鎮痛剤を出しておく。ここに書いた通りに飲むように」

桑田「おお、すげー。普通に病院みたいじゃん」

苗木「なに先生って言うんですか?」

K「KAZUYAだ。Kでもいい」

桑田「え、なにそれ? 通り名かなんか? 普通名前聞かれたら名字言わね?」

苗木「く、桑田君! そこは察してあげようよ!」


希望ヶ峰学園に来る人間は一癖も二癖もある人間が多い。現に、自分達のクラスには偽名を
使っている人間がいるし、KAZUYAが名字を名乗らないならそこには何か事情があるはずなのだ。


K「……名字は西の城と書いて西城だ」

苗木「西城KAZUYA先生って言うんだ。僕は二年A組の苗木誠って言います」

桑田「俺は桑田怜恩だ。よろしくな!」


威勢よく名乗る桑田の名前を聞いて、KAZUYAはどこかで聞いたことがあるなと思った。
しかし、こんなド派手な一度見たら忘れないような少年をどこで見たのだろうか。


K「桑田怜恩? どこかで聞いたような……」

桑田「お? 俺のこと知ってる感じ??」

K「すまんが、俺はテレビはニュース以外ほとんど見なくてな。芸能関係はあまり……」

桑田「え、なに?! 俺のこと芸能人かと思っちゃった?! いやぁ、残念。
    まだデビューはしてないんだよなぁ、これが!」ナハハ

苗木「そりゃあ桑田君は現役時代と外見が違いすぎるし、まずわからないよね」

K「現役時代?」

桑田「俺さぁ、超高校級の野球選手って呼ばれてて甲子園じゃスターだったんだけど……」

K「ああ! 通りで見覚えがある訳だ」


KAZUYAは加奈高で校医をしていた際、野球部の面倒をよく見ていた。
その流れで、強豪校や有力選手の知識は一通り頭に入っている。


K「しかし、こう……随分と変わったな」


変わり果てたな、とは流石のKAZUYAも言えなかった。


桑田「今のほうが断然イケイケっしょ? そのうちミュージシャンになってブイブイいわせっから!」

苗木「桑田君、あんまり長居しちゃ先生の邪魔になるし、みんなも心配してるから早く戻ろうよ」

桑田「おう、そっか。じゃ、またなー」

K「無理しないようにな。お大事に」



― 2-A教室 ―


不二咲「あ、戻ってきたよ」

石丸「苗木君、大丈夫かね?!」

苗木「あ、みんな。心配かけてごめんね。全然大したことなかったから」


怪我をした苗木を心配してクラスメイト達が集まってくる。だが桑田は、既に治療の
終わった苗木についてより少し前に会った奇怪な校医について話したくて仕方がなかった。


桑田「聞いてくれよ! 保健室に新しく来た先生マジヤッベエから!!」

大和田「ああ? どうせすげえ美人だとか胸が大きいとかだろ。くだらねえ」

セレス「嫌ですわね。そんなところばっかり見て」

朝日奈「桑田サイテー」

江ノ島「ほれほれ、美人も巨乳も私様で間に合っておろうが。浮気は感心しないねえ」

戦刃「…………」←冷たい眼差し


桑田「ちげーよ! なんでそんな話になってんだよ!」

石丸「第一西城先生は男性だぞ」

葉隠「なーんだ。男だべか」

山田「保健室の先生は綺麗なお姉さんでないとダメですよねぇ。創作でもお約束ですよ」

腐川「ふ、ふん! どうせ……アタシみたいなブスはお呼びじゃありませんよ……
    なによ! 美人美人って……ちやほやしちゃってさ…」グギギ

大神「……落ち着け。お主はその被害妄想をまずなんとかせよ」

桑田「とにかくヤッベエんだって! 大神よりデカくてマッチョだし、マント着てんだぜマント!」

舞園「マントですか?」

石丸「あのマントは頂けないな! 僕もさっき挨拶した際、風紀を乱すような格好は
    お控え下さいと申し上げたのだが……どうやらもう一度行く必要があるようだ」

苗木「せ、先生にも注意するの……?」

石丸「当たり前だ! むしろ先生だからこそ率先して風紀を守って頂かないと!」

大和田「流石だぜ、兄弟!」

不二咲「フフッ、石丸君らしいね」


たとえ相手が誰であろうと超高校級の風紀委員はブレない。そんな頑固な男に
義兄弟の契りを結んだ大和田と仲の良い不二咲は笑顔で賛辞を送る。


舞園「マントの大柄な男性……もしかして昨日会った人でしょうか?」

朝日奈「あ! あの人、保健の先生だったんだね! てっきり体育か格闘技の先生かと思ったけど」


苗木「二人共、知ってるの?」

舞園「学園長室の場所を聞かれたので、連れて行ってあげたんです」

苗木「へえ~」

桑田「しかもよぉ、すげーんだぜ! ただの保健の先生じゃなくて本物の外科医なんだってさ!
    麻酔うって苗木の足の傷もぱぱぱーって縫っちゃてさ。しかもめちゃくちゃ早えのなんの」

霧切「……そう。二人共ドクターKに会ったのね」

苗木「うわ、霧切さん! いつの間に……」

霧切「今来たのよ」

苗木「黙って人の背後に立つのやめてくれない?!」

石丸「それで、ドクターKとは何のことかね?」

十神「ドクターKだと?! 馬鹿な……何故奴がこの学園にいる? それも校医だと……?」


石丸の大きな声で気付いたのか、十神が眉間に皺を寄せて近付いてきた。


山田「なんか、漫画の登場人物みたいな名前ですねぇ」

不二咲「十神君は新しい先生のこと知っているのぉ?」

十神「知っているも何もドクターKとは日本の誇る世界的名医だぞ……帝都大を主席で卒業後、国境を
    問わず世界的に活躍。その執刀技術は特Aランクであり『超国家級の医師』とも称される……」

セレス「まあ、超国家級の医師……興味がありますわね」


十神「奴が行った手術で最も有名なのは、五年前にアメリカで行われたスペース・オペレーションだ。
    テレビや新聞で散々報道されていたし、お前たち愚民でも聞いたことくらいはあるだろう?」

葉隠「マジか! 一時期めっちゃ騒がれてたやつだべ!」

舞園「凄いです。そんな人が身近にいるなんて……!」


スペース・オペレーションとは――世界的なソ連のプリマドンナを救うため、地上では重力の関係で
不可能と言われた手術をアメリカの全面協力の元に、KAZUYAが宇宙空間で手術した時のことを指す。
その模様は全世界に放映され、この件がキッカケとなり冷戦は終結しソビエト連邦は解体されたのだ。


大和田「知らねえ。ニュース見ねえしな」

腐川「これだから不良は……新聞くらい読みなさいよ」

石丸「何と!! 確かにあの手術を行った医師は日本人だと聞いたが、西城先生であったのか!
    あの一件により戦争が起こらず冷戦は終結したのだぞ! まさしく歴史の生き証人だ!」

桑田「え、マジで……?」

苗木「そんな凄い人だったんだ、さっきの先生……(別の意味で凄そうではあったけど)」

十神「いずれは我が十神家の主治医になってもらうつもりだった。そんな男が何故ここに……」

霧切「相手の迷惑も顧みず学園長がしつこく頼んで特別に来てもらったみたいよ?」

江ノ島「ふーん」

江ノ島(あー、そういうことね。学園長も無駄なことしていじらしいわー)


霧切の言葉を聞いて江ノ島の瞳が一瞬怪しく光ったが、そのことに気付くものはいない。


苗木「え、なんで?」

霧切「さぁ? やたらとその時の苦労話や手柄を話してきたけど相手にしなかったから」

朝日奈「霧切ちゃん……もう少しお父さんに優しくしてあげなよー」

霧切「学園長と私はあくまで教師と生徒の関係よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

苗木「あ、はは……(学園長も大変だな……)」

桑田「にしてもマジかぁ。あのオッサン、そんなマキシマムすげぇヤツだったのかよ。
    確かにタダモノじゃないオーラはプンプンしてたけどさー。顔めっちゃ濃いし」

大神「……強そうだったか?」

桑田「おう! そりゃあもう。片手で人間の頭潰しちゃいそうな感じ」

大神「そうか……今度手合わせにでも行ってみるとしよう」

江ノ島「お姉ちゃんも行ってみたらー?」

戦刃「うん。少し興味あるかも。今度装備を整えて……」

苗木「いやいやいや、万が一保健の先生に怪我させちゃったら手当する人いないからね?!」

石丸「安心したまえ! 一つ上の学年には超高校級の保健委員殿がいらっしゃるぞ!」

セレス「……そういう問題じゃありませんわ」


そうして苗木のクラスはしばらくKAZUYAの話題で持ちきりとなったのだった。


眠いのでここまで。前半全部落とすつもりだったのに……三部構成にするか

やっと本編にK以外のキャラを出せましたよ!高品先生正式出演おめでとう
ちなみに、作中で書いたスペース・オペはちゃんと原作でありますが、冷戦終結とか
その辺はこのSSオリジナルです(原作でもそれっぽいこと匂わせてはいるけどね)。
現実のソ連解体は1991年のことですが、この世界では恐らく2001年くらいなんでしょう
ちょうどドクターKとダンガンロンパの中間の年代になるし

次の投下はまた今度。後半はまんまドクターKのノリです。


>>931
こんな冗長なSSを途中から読み始めてくれる人がいるとは感謝です!

酉変わってるけど乗っ取りじゃないよ!1だよ

ちなみに投下前にどうでもいい小話を一つ。
家探しパート2を行いやっと久しぶりにスーパードクターKを全巻通して読み直したのですが
恐ろしいことに気がつく。KAZUYAって人を抱える時はほぼ例外なく必ず横抱きなんですね…

相手がたとえオッサンやジーさんでもお姫様抱っこ…まあ、よくよく考えたらマントで
おんぶってしづらいしKAZUYAくらいデカくて筋肉質だとその方が効率がいいんだろうけど、
顔に傷のあるオールバックのゴッツイヤクザを姫抱きしてるのはなかなか衝撃的な絵でしたね
…そういえば男の患者の手を握って耳元で励ましてたこともあるなぁ

1の脳内イメージだと舞園江ノ島は姫抱っこで石丸は背負って運んだつもりだったが、
こりゃ間違いなく横抱きだわ。ついでに今後もしさくらちゃんや大和田や葉隠が倒れても
間違いなく姫抱っこっすよ…原作がそうなのであって断じて1が腐っている訳ではない


投下


・・・


放課後。十神以外の男子が集まって何やら賑やかに話している。


桑田「明日休みだしどっか遊び行こうぜー!」

大和田「カラオケでも行くか」

苗木「あ、ごめん。僕は足怪我してるし今日はもう部屋に戻るね」

桑田「そうだった。わりい……」

苗木「いいよ、気にしないで。じゃあまた」


そう言って、苗木は去って行った。


桑田「……苗木に悪いし、今日は出かけんのなしにすっか」

葉隠「じゃあさ、その噂のスーパードクターってヤツに会いに行ってみねえか?」

不二咲「いいねぇ。とっても強そうなんでしょう? 僕、興味あるなぁ」

山田「しかし、怪しいですねぇ」

石丸「何がだね?」

山田「だっておかしくないですか? いくら希望ヶ峰学園が凄いって言っても、そんな
    偉い高名なお医者さんがわざわざ高校の校医になんかなってくれますかねぇ」

大和田「大方、宣伝かなにかのために大金積んで呼び寄せたんだろ」

石丸「お金で動くような先生には見えなかったが」


山田「しかも桑田怜恩殿によれば、その方は大神さくら殿以上の筋肉を持っていて日頃から
    マントを着用……あまりにも怪しすぎます。もしや、なんらかの工作員なのでは?」

葉隠「事件の香りだべ!」

石丸「ハッハッハッ、まさか!」

桑田「ありえるな! どう見てもヤバそうだし、クリミナルなことしてそうだぜ!」

大和田「そういや霧切のヤツが、学園長がムリ言って呼んだみたいなこと言ってたよな。
     医者なんて他にもたくさんいるのに、なんでドクターKじゃなきゃマズいんだろうな」


ここで、面白いことを思いついたと言わんばかりに桑田がイタズラっぽい笑みを浮かべる。


桑田「……なあ、ちょっとあのオッサンの後つけてみねえか?」

山田「いいですねぇ。なんらかの組織と希望ヶ峰学園が共同してなにかやっているのかもしれません」

葉隠「これは秘密結社……もしくは国際的なシンジケートが関わっている予感がするべ!」

石丸「な、何を言っているのだ! 先生の後をつけるだなんて僕が許さないぞ!」

大和田「こいつらが一度言い出したら聞かねえよ。ま、いいんじゃねえか? 確かにどんなヤツか
     俺もちょっと気になるしよ。うちの学校の先公が変な店とか出入りしてたらマズイだろ?」

石丸「むうぅ。しかしだな……風紀委員としては他人の尾行など許可する訳には……」

桑田「おーし、善は急げだ! 行くぜー」

山田「待って下さいよー」

葉隠「山田っち、カメラ持ってくべ! 変なことしてたら写真をとって後でユスるべ!」

石丸「あ、コラ! 待たないか君達!!」


バタバタと慌ただしく教室を駆け出していく四人を、不二咲はポカンと見ている。


大和田「……で、お前はどうすんだ?」

不二咲「あ、えっと、その……僕も行く! なんだか心配だし」

大和田「だな。いくら兄弟でもあの三人押さえるのは大変だろうし。手伝ってやっか」


そして二人も早足で教室を出て行ったのだった。


十神「フン、全く相変わらず馬鹿なことをしているな」

腐川「そうですねぇ。まったく十神君以外の男子は馬鹿ばっかりよ!」


腐川はクールな十神を賞賛するが、それでも十神は機嫌悪く鼻を鳴らした。


十神「…………フン!」

十神(たとえ俺が断るとわかりきっていたとしても、声ぐらいかけるのが礼儀じゃないか?)


当たり前のように自分が数に含まれていなくて、十神は少し拗ねていたのだった。


               ◇     ◇     ◇


校門前から少し離れた路地に、六人は集まっていた。


桑田「出てきたぜ!」

大和田「あいつか……確かにデケえな」

不二咲「一つ上の弐大先輩と同じくらいありそうだね」


石丸「みんな、今ならまだ間に合うぞ。尾行などやめるべきだ!」

葉隠「不審者オーラ全開というか、見るからに怪しすぎるべ」

山田「葉隠康比呂殿はあまり人のことを言えないと思いますが……」

石丸「人の話を聞けー!」

山田「シーッ! 石丸清多夏殿、静かに!」

桑田「それにしても、あんな格好で外出歩いてよく職質されないよなー」

大和田「おい見ろよ。今普通に交番の前通ってったっぜ。オマワリのヤツ職務怠慢じゃねえか」

葉隠「相手の立場になって考えてみるべ。あんなゴツくて怖いの相手に、オメーら声かけるか?」

桑田「あームリだわ」

山田「死を覚悟しますね」

大和田「ムリだな。……あ、いや俺は別にビビってねえが一般論でな!」

石丸「うぅ……兄弟まで僕を無視するとは……」

不二咲「元気出して、石丸君」


なんとかして尾行をやめさせたい石丸であったが、一度好奇心に火が着いた
遊びたい盛りの男子高校生数人を止めるなど出来ようはずもなかった。


桑田「よし、俺達も追いかけるぞ!」

石丸「だから尾行など風紀に反していると先程から……!」

大和田「いい加減諦めろよ、兄弟」


葉隠「ま、あんなデカくて目立つ格好してたら見失なうってことはなさそうだな」

不二咲「ほら、石丸君も行こうよぉ!」グイグイ

石丸「むうぅ……」


・・・


文京区にある吉本ビル。一階にはZ薬局が入り、二階には美容室フラワー、
そして三階には高品の経営する高品診療所が入っている。


葉隠「平凡な雑居ビルに入ってったべ」

桑田「これじゃあ何階に用があんのかわかんねえなぁ。美容院は間違いなく違うだろうけど」

山田「雑居ビル! なんらかの組織の隠れ蓑にはピッタリです。実に怪しい」

大和田「そうかぁ? 単に店のどれかに用があんだろ」

不二咲「多分、三階に病院があるからそこに用があるんじゃないかなぁ?」

石丸「高品診療所、か。医者が通院とは考えづらいから、知り合いなのかもしれないな」

大和田「で、どうするよ? ここで待ってもしばらく出てこねえんじゃねえか?」

山田「裏口を調べましょう!」

石丸「馬鹿を言うな! みんなもう気は済んだだろう! 何を言われても今日は帰るぞ!」

桑田「えぇ~。こっからが面白えトコじゃんか。イインチョは頭かてえんだよ!」

石丸「うるさい! これだけの人数が道のド真ん中にいたら公共の迷惑だ。ほら、帰るぞ!」


まだ不満が残るメンバーを石丸はグイグイと引っ張って行く。
仕方がないので帰ろうと全員が踵を返した時だった。

ドンッ!


不二咲「きゃっ」


たまたま通りがかった青年と不二咲が衝突し、不二咲が尻もちをついてしまった。


石丸「あ!」

大和田「不二咲!」

「オー?! ソーリー! 大丈夫かい?」


衝突したのは白衣をビシッと着こなした一人の青年医師だった。勿論、ジョージである。
ジョージは大きな往診用バッグを地面に放り、慌てて不二咲を立ち上がらせる。


ジョージ「ごめんね。怪我はなかっタ?」

不二咲「あ、大丈夫です。こちらこそ、ちゃんと前を見てなくてごめんなさい」

ジョージ「いやいや、こちらこそ。……君達、このビルに何か用でもあるのかナ?」

桑田「いや、えーと、特に用はねーけど」

石丸「ム……その服装、もしやあなたはお医者様ですか?」

ジョージ「イエス! このビルの三階にある高品診療所っていう所で働いているんだ」


桑田「へー、オッサンも医者なワケね(まあ、こっちはいかにもって感じだけどな)」

ジョージ「オ、オッサン……?!(ボク、まだ若いのに……)」ガーン


オッサン呼ばわりを受けてショックを受けるジョージだが、ふと思いついて名刺を取り出した。


ジョージ「君達この近くの高校の子かな? これをあげよう。もし急病人が出たらすぐ
      ここに連絡するといい。勿論、普通の怪我や病気で来てもらってもいいから」

ジョージ(フフフ、研究者のボクだけど営業だって出来るのサ!)


そう言ってジョージは気前よく全員に名刺を配っていく。


不二咲「あ、ありがとうございます」

ジョージ「ちなみにここだけの話だけどネ……うちの診療所って時々凄い先生が来るんだ」

石丸「凄い先生?」

ジョージ「そうそう。所長の高品先生のお友達で時々うちに手伝いに来てくれるんだけど、もう
      とにかく凄腕の先生でネ。だから何か困ったことがあったら気軽に相談に来ていいよ」

ジョージ「それじゃあね。気をつけて帰るんだよ、シーユー!」


そう言うと男はビルの中へ消えていった。


「…………」

葉隠「どうやら、不二咲っち達の言った通り知り合いの医者に会いに来ただけみてーだな」

石丸「ほら見ろ! だから言ったではないか!」


大和田「なーにが怪しい組織だよ。まったく」

山田「ぐう、絶対裏の繋がりとかありそうな気がしたのにぃぃ」

桑田「ちぇー、ムダ足かよ。……ま、いっか」


そして一同は学園に帰るため、駅へと向かう。


桑田「それにしても、さっきのオッサン妙ななまり方してたなぁ。どこ出身だよ」

不二咲「純粋な日本人の人じゃないみたいだよ。ほら」


不二咲は先程もらった名刺を見せる。


大和田「あいつ、外人だったのか。どう見ても日本人にしか見えなかったのによ」

石丸「ハーフや日系の外国人の方なのかもしれない。しかし、大病院ならまだしも
    あんな市井の診療所に外国の方がいるというのはなんとも珍しい感じだな」

山田「やっぱり、怪しいですよ! 国際的な組織が関わっているのかも……」

桑田「もうそれ飽きた。さっさと帰ってゲームの続きでもするわ」

葉隠「言い出しっぺがこれだともうなんも言えねえな……」


ワイワイガヤガヤと高校生らしい賑やかさで一同は駅に入り、ホームで電車を待つ。


不二咲「あれ?」

大和田「どうした、不二咲?」


不二咲「あそこのおじさん、なんだか苦しそうじゃない? 胸を押さえてるみたいだし」

桑田「二日酔いかなんかじゃねえの? 倒れてるワケじゃねえし大丈夫だろ」

石丸「大変だ! ちょっと様子を見てくる!」ダダダッ!


言うやいなや石丸が飛び出して行ってしまった。


葉隠「早えーな」

桑田「さーすがイインチョ。しょうがねえなぁ……」


石丸の後を追うように五人もぞろぞろと向かう。


「ううう……」

石丸「大変だ、みんな! こちらの方は胸が非常に苦しいらしい」

山田「胸?! まさか心臓発作とかですか?!」

大和田「やべえな……」

桑田「え、ちょ、マジな話? 駅員とか呼んだ方が良さげ?」

葉隠「俺駅員呼んでくるべ。ちょっとそこで待っててくれ」


バタバタと葉隠が改札に向かって走って行く。


石丸「と、とりあえず背中を擦ってみよう」

不二咲「大丈夫ですか……?」

男「すみません……うう……」


その後、すぐに葉隠が駅員を連れてきて男を駅員室に運んだ。


駅員「ご協力ありがとうございます」

石丸「いえ。それより、救急車はいつ頃来るんですか?」

駅員「それが、この時間帯って結構道路が混むんですよ……。すぐには来れないとのことです」

大和田「おいおい、なんかめっちゃ顔色わりいぞ。早くしないとマズイんじゃねえのか?」

不二咲「ねえ、みんな……」


その時、不二咲がもう一度名刺を取り出した。


不二咲「さっきの病院ならここからすぐだよね? 電話して、連れて行ってあげたらどうかな?」

石丸「ウム! 診察時間は終了しているが、西城先生も先程の先生もさっき会ったばかりだから
    まだ診療所に残っている可能性が高い。どうすればいいか聞いてみようではないか!」

不二咲「じゃあ、掛けてみるね」


そして緊張しながら不二咲は高品診療所に電話を掛けた。


『高品診療所ですが』

不二咲「(! さっきの人じゃない)えっと、実は僕達A駅で具合の悪い人を見つけて、
     駅員さんに聞いたら救急車がすぐに来れないみたいで、どうしたら……」

『症状を詳しく教えてくれ!』

不二咲「顔色が悪くて、胸の痛みを訴えていて、汗が凄いし、呼吸もツラそう、あと吐き気も……」

『胸以外に痛む場所はないか?』

不二咲「え? あの、胸以外に痛い場所はありますか?」

男性「左腕と、あと背中も少し……」

不二咲「左腕と背中も痛いそうです」

K(間違いない……症状からして急性心筋梗塞だ!)


心筋梗塞:心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈が何らかの理由で狭窄(狭まること)や閉塞を起こし、心筋が
      壊死してしまう状態を言う。代表的な虚血性心疾患の一つであり、早急な対処が必要である。
      PCI(経皮的冠動脈形成術)とCABG(冠動脈バイパス移植術)の二つの治療法が代表的(後述)。

虚血性心疾患:心臓が虚血(血が十分に行き渡らない)状態になるため、そう呼ばれている。
         虚血状態であるが壊死にまで至らない前段階の状態が狭心症である。

症状:前胸部中央に締め付けられるような感覚があり、胸全体、頸部(けいぶ:首)、背部、左腕、
    上腹部等が痛む。付随症状として冷や汗、吐き気・嘔吐、呼吸困難がある場合もある。
   (ちなみに、糖尿病患者や高齢者は痛みがない場合もあるので様子がおかしかったら注意)


K『(A駅ならここから近い)ここまで運べるか? 無理なら迎えに行くが』

不二咲「えっと、診療所まで運べるかって聞かれてるけど……」

大和田「任せろ。俺が背負ってく」

不二咲「力の強い人がいるから大丈夫です」

K『わかった。では準備をして待っている。なるべく急いでくれ!』プツリ!

不二咲「急いでくれって!」

大和田「おおっし! 走るぞオラアアアア!」

駅員「頼んだぞ、君達!」


・・・


ガラガラ……


桑田「すんませーん!」

高品「例の患者さんか?!」バタバタ

斉藤「高校生? どうかしたの?」

山田「えーとですね」

葉隠「俺達、さっき駅で……」

K「お前達?! まだいたのか!」


桑田「え、まだいたのかって……? まさか後ツケてたのバレてた?!」

K「当たり前だ! あんな人数で大声で話していて気付かない訳がないだろう!」

高品「えっと……Kの知り合いの子ですか?」

K「希望ヶ峰の生徒だ。全く、人の後をツケるだけでもけしからんというのに
  まさか診療所にまで押しかけてくるとは。今は忙しい時だというのに……」

ジョージ「例のクランケは来ましたか?! って、アレ? さっきビルの前にいた子達だ」

高品「? ジョージ、知ってるのか?」

ジョージ「ええ、ちょっと……」


ガラガラ! バタバタバタ!


大和田「着いたぜ!」

石丸「しっかりして下さい!」

不二咲「頑張ってぇ!」

K「ム! お前達は……!」

石丸「西城先生! 急病人を連れて来ました!」

K「! さっき電話をしてきたのはお前達だったのか!」


高品「君! その人をこっちまで運んで。斉藤君! 心電図とエコーだ!」

斉藤「はい!」

K「やはり、急性心筋梗塞のようだな。幸い意識は消失していない。検査と平行してMONA(モナー)だ!」


MONA:モルヒネMorphine、酸素吸入Oxygen、硝酸薬Nitrate、アスピリンAspirinの頭文字を取ったもので
    心筋梗塞の初期治療である。投下順は実はモルヒネが最後のONAM。酸素吸入は酸素不足の心臓に酸素を
    送るため、硝酸薬は血管拡張作用、アスピリンは抗血小板凝固作用(血をサラサラにする)を持ち、
    少しでも心臓に血液を送る効果を期待している。痛みが引かない場合モルヒネ(鎮痛剤)を投与する。

何だか慌ただしい雰囲気になり、生徒達にも緊張が走った。


石丸「あの人は大丈夫なんですか?!」

K「話は今度だ! お前達はもう帰れ!」

ジョージ「症状からして、恐らく心臓の動脈に血栓が出来ているから再灌流療法をする必要があるネ」

桑田「さいかんりゅー療法?」

ジョージ「簡単に説明すると、あの人の心臓の血管は今ほとんど血が流れていない状況だから、
      薬を打ったりカテーテルを使って詰まった血管をまた流れるようにするンだよ」


再灌流療法:血栓溶解剤を使った血栓溶解療法と、カテーテルを使って冠動脈にバルーン等を通し、
       直接狭窄部位や閉塞部位を広げる冠動脈インターベンション(PCI)のことを指す。

カテーテル:医療用に用いられる中空の柔らかい管。点滴や体液の排出に使ったり、血管の奥深くまで
       挿入して直接心臓部まで物を運んだりと医療の現場では幅広く用いられている。


大和田「……連れてきてなんだけどよ、こんな所で治療とか出来んのか?」

石丸「ここに専門の方はいらっしゃるのですか?」

ジョージ「高品先生は腹腔外科が専門で、ボクに至っては研究職がメインだヨ」

山田「ちょ、連れてきた意味なかったんじゃ……」

高品「大丈夫! 僕もジョージも専門外かもしれないけど、ここには全身が専門の凄い先生がいるから」

斉藤「そうですよね、K先生」

K「安心しろ。あの人は絶対に救って見せる。俺に任せろ!」


検査後。


ジョージ「心電図でST値の上昇を確認。間違いなく心筋梗塞ですね」

K「発作が起きてからすぐに連れて来られたため、ほとんど心筋の壊死は起きていないようだ」


高品「ツイてますね。狭窄も一箇所ですし、CABGの必要はないでしょう。
    これなら薬で散らしてCCUか胸部CTのある病院に搬送すれば……」


CABG:冠動脈バイパス移植術のこと。いわゆる一般的なメスで胸を開く手術であり、別の部位から
    調達した血管でバイパスを作る(冠動脈は大動脈から伸びている血管なので、詰まっている
    部分より先の部分と大動脈とを直接血管で繋げて迂回路(バイパス)を作る手術である)。

CCU:冠疾患集中治療室。循環器系、特に心臓血管系の疾患を抱える重篤患者を対象とした治療室のこと。


K「いや。この時間だと道路が混んでいる。とりあえず俺がPOBAだけやって、それから運ぼう」


PCI:経皮的冠動脈形成術。経皮的冠動脈インターベンションとも呼ぶ。血管から直接カテーテルを
   冠動脈まで通し、病変部をバルーンで広げたり直接削り取ったりする治療全般のことを指す。

POBA:PCIの中でも特にシンプルでスタンダードな治療法であり、バルーン(風船)を用いる物を指す。


ジョージ「い、今ここでですカ?!(相変わら何でも出来る人だなァ……)」

K「俺なら出来る! カテーテルとガイドワイヤー、それにバルーン準備!」

高品「はい!」


K「局所麻酔投与、シースを血管に挿入、次はカテーテルだ」


シース:カテーテルを出し入れするために、血管に入れる管のこと。


K「冠動脈入口にカテーテルが到達したらリードとなるワイヤーを通し、バルーンを進め……拡張!」


血栓が硬くない場合、まず細いワイヤーを使って血栓部を貫通させる。次にそのワイヤーを使って血栓の
中心部にバルーンを運び、そのバルーンを膨らませることによって血栓ごと血管を押し広げるのである。
こうすることによって血栓は膨らんだ風船で押し潰れ、再び血流が通るようになるのだ。


高品(流石Kだ。うちにはろくな設備もないのに)

高品「ステントは流石にここでは無理ですから、後日寺沢病院で詳しく検査して必要があればですかね」

K「ウム」


ステント:筒の形をした網状の金属である。通常はPOBAの後にステントを設置することで再発を防ぐ。

KAZUYAの処置によって詰まった血管に再び血流が流れ、最悪の状況は去る。
四人の医療関係者達は火急の危機を脱したことで一息ついたのだった。


・・・


手術を終えたK達が部屋を出ると、そこでは生徒達が不安げな顔をして待っていた。


K「お前達、帰れと言ったのにまだいたのか」

石丸「西城先生! さっきの方は大丈夫ですか?!」

高品「大丈夫。Kが詰まった血管を広げる処置をしたからね。念のためにこれから
    ちゃんとした病院に行って詳しい検査をするけど、もう命に別条はないよ」

不二咲「良かったぁ」

大和田「やったな!」

高品「いやぁ、お手柄だったね、君達! 心筋梗塞はスピードが命なんだ。処置が早ければ
    早いほど助かる確率が上がるし、後遺症もほとんど残らず復帰出来るんだよ」

桑田「ほーん。そーなのか」

葉隠「もし駅員に任せてさっさと帰ってたら……」

山田「救急車もすぐに来ないし、来ても受け入れ先が見つからなかったら一大事でしたね……」

ジョージ「ボクが渡した名刺が早速役に立って何よりデス!」

高品「ジョージ、名刺なんていつ渡してたんだ?」


そこでジョージがビルの前にいた高校生に名刺を配った話を披露すると、その場に少し気まずい空気が流れた。


ジョージ「アレ……どうかしましタか?」

高品「いや、はは(まあ、高校生ってこういうとこあるからな)」


K「フゥ……まあ、勝手に人の後を尾行したことは今回のことに免じて許してやる。
  ただし、次にまた同じようなことをすれば流石の俺も怒るぞ」

石丸「その件につきましては風紀委員でありながらみんなを止められなかった
    僕に全責任があります。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!」ピシッ!

K「い、いやそこまで謝らなくてもいいが……とにかく、お前達が助けた人に会ってあげなさい」


腰を90度に曲げてビシリと謝罪する石丸に若干押されながらKAZUYAは生徒達を診察室にいれた。


斉藤「あ、さっきの高校生達ですよ」

男性「ありがとう。君達のおかげで助かったよ」

不二咲「えへへ、助かって良かったぁ」

石丸「お大事になさってください」

斉藤「あら? 君達……って、あぁーっ!!」

高品「ちょっと?! いきなり叫んだりしてどうしたんだよ、斉藤君! 患者の前だぞ」

斉藤「あ、ご、ごめんなさい……いえね、この子達どこかで見た顔ばかりだなって
    思ってたら、今K先生が希望ヶ峰にいるのを思い出しちゃって……」

ジョージ「あぁーっ! と、いうことは……!」

高品「君達みんな超高校級の学生ってことー?!」

桑田「お! なんか俺達スポット当たってる感じ?」

山田「みたいですねぇ」グフフ


斉藤「えっと、変な髪型の君! テレビで見たことあると思ったのよ。なんか凄い占い師でしょ?」

葉隠「変な髪型は余計だけど、俺の占いは三割当たる!」

高品「あ~、その決め台詞聞いたことあるかも!」

斉藤「やっぱり! 天才占い師とか占い界の超新星とかしょっちゅう週刊誌に載ってるわよ!」

ジョージ「あ、そういえばそちらのお嬢さんはボクの愛読してるパソコン雑誌で見たことがありマス!
      確か世界でもトップクラスの実力を持つ天才高校生プログラマーだったかな」

不二咲「えへへ。なんだか、恥ずかしいなぁ」

大和田「ちなみに不二咲はどう見ても女だがれっきとした男だ」

高品・ジョージ「な、なんだって~!」  斉藤「うそでしょ~?!」  K「ッ?!」ギョッ

葉隠「このやりとりはもはやお約束となりつつあるべ」

斉藤「えーっと、あとの子は……ごめんなさい。知らないんだけど、名前を聞けばわかるかも」

桑田「俺のことはきっと知ってるぜ。甲子園の大スター桑田怜恩っていやぁ大体通じる」

高品「えええええっ?!! く、桑田君てLL学園のあの桑田君?! ウソだろう?!」


高品はこう見えて高校時代は元野球部であり、今も母校の野球部に顔を出すほど熱心な高校野球の
ファンである。当然桑田のことはよく知っており、その変貌ぶりには驚かざるを得ない。


高品「えっと、なんというか……驚いたよ」

高品(硬派な高校球児が何をどうしたらこんな風になっちゃうんだろう……)

桑田「へっへー! サイン欲しいならあげるぜ!」

山田「あれ絶対別のことで驚いてますよね」ヒソヒソ

葉隠「このやりとりも大体お約束だな」ヒソヒソ


斉藤「あとは……君は見たまんまね。ちょっと有名な暴走族かヤンキーなんでしょう?」

大和田「おう! 超高校級の暴走族って呼ばれてるぜ」

不二咲「大和田君は日本で一番大きい暴走族のリーダーをやってるんだぁ」

高品(暴走族までいるとか、希望ヶ峰のスカウト基準って一体どうなっているんだ……)ゴクリ…

ジョージ「で、君はなんなのかな?」

山田「デュフフ、いよいよ拙者の番が。僕の名前は山田一二三。超高校級の同人作家、と呼ばれていますぞ」

ジョージ「ドージン? って何でスか?」

斉藤「私もよくわからないけど、とにかく売れっ子の作家ってことじゃない?」

山田「その通り! 僕の一番の伝説と言えば、かつて文化祭で同人誌を一万部売り上げたことですな!」

高品「ひゃあ! ぶ、文化祭で一万部?! それは凄い!」

山田「グフフ……コミケ界の帝王にして当代随一の人気作家、ですので」メガネキラーン!

斉藤「流石希望ヶ峰ね! やっぱり凄い子が揃ってるわ。で、最後の君はなにをやっているの?」

石丸「僕は超高校級の風紀委員です!」

高品「ふ、風紀委員?? どんな活動をしてるんだい?」

石丸「学園の内外を問わず目につく限り風紀を守っています!」敬礼!

「えーと……」


あまりに微妙すぎて一同は反応に困るのだった。


石丸「うぐぅ……風紀を守ることの大切さを大人の方にも分かって頂けないなんて……」

大和田「元気出せよ、兄弟」

不二咲「あ、あのねぇ、石丸君はスッゴく頭が良くて全国模試ではいつも一番なんだよぉ!」

葉隠「五年連続トップで全科目満点らしいべ」

高品「! そ、それは凄いね!」

斉藤(凄いけど、なんで風紀委員なのよ。超高校級の優等生とかガリ勉の方が合ってるんじゃ……)

ジョージ「将来何になりたいのかな? 学者や研究者になるのならクエイドに紹介したいヨ」

石丸「僕の夢は政治家になってこの国を良くすることです!」

K「ほう、大した夢だな」

大和田「兄弟のじーさんは元総理なんだぜ。なんつったっけ。石丸……寅之助?」

斉藤「知らないわ。そんな人いたかしら?」ズバッ

ジョージ「すみません。ボクは日系アメリカ人なもので日本の政治家はあまり……
      でも凄いじゃないか! 総理大臣のお孫さんだなんて!」

K「…………」

高品「ええっと……」

高品(よりによって汚職事件起こした総理じゃないか……その反動で真面目になったのかな……)

桑田「まあ汚職して失脚しちゃったらしいけどな」

一同「…………」

石丸「…………うぅ」ドヨーン


大和田「オメエは余計なことをよおお!」

桑田「だって事実じゃんか!」

不二咲「石丸君、元気出してぇ!」

石丸「そうだ。事実だ。だからこそ僕は怠けた天才とは違う、誰よりも厳しい努力を……」ブツブツ


場が混乱してきたので、一区切りつけようとKAZUYAが間に入る。


K「お喋りはここまでだ。学生が出歩くにはもう遅い。早く帰りなさい」

高品「K、途中まで送って行ってあげたらどうだい? 患者さんは僕らが病院まで連れて行くから」

K「しかし……」

斉藤「最近なんだか治安も悪くなってきてますしねぇ」

ジョージ「世界中でテロが頻発してマス。この東京だって例外ではないかもしれませんよ」

K「……そうだな。全員寮住まいだから学校まで送ればいいし、そうするか」

大和田「別に俺がいるから問題ねーぞ?」

石丸「兄弟! 折角先生がこう言ってくださるのだから、ご好意は受けるべきだ」

不二咲「……僕も先生と色々お話してみたいなぁ(強そうだし)」


こうして、KAZUYAは六人を希望ヶ峰学園まで送って行くことにした。石丸は先程の治療や
医療について興味が有るのかKAZUYAに詳しく話を聞き、不二咲もそれを熱心に聞いている。
他のメンバーは高校生らしく、今興味のある話を賑やかに話しながら帰って行った。


エピ0はここまで。

PCIとPOBAの説明の後に「普通に開胸するバイパス手術は患者に対する負担が大きいため、
PCIが可能な時はPCIでの治療が前提である。」って文章つけといてくだしあ


すっかり遅くなってしまいましたが中編でした。恐ろしく切りの悪い所で終わる上、
大した内容でもないのにまさかの後編は次スレとか\(^o^)/

なんでこんな遅くなったかというと、普通に一般人が遭遇しうるメジャーな病気というだけで
安易に心筋梗塞を選んで調べていたら、恐ろしく奥の深い病気で理解してまとめるのに一週間以上
かかってしまったからです。手術一発でなんとかなるイレウスとか盲腸にしときゃ良かったよ

あと完全な余談ですが1はドクターKのサブキャラだと谷岡先輩とジョージが好きです。
谷岡先輩は普段はひょうきんなのに実は割りとクールというか、仕事に対して淡々と
してる所がいかにもお医者さんって感じでいい。ジョージは普通にあの愛嬌ある所が好き。
真船先生の描くオールバックキャラはなんともいえない男の色気があるよね

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