P「まゆ、お前は俺のために死ねるか?」 (32)
明日から総選挙が始まります。
このSSはまゆの総選挙を応援するどころか、邪魔するものかもしれませんが、自分の考える佐久間まゆを表現したつもりです。
楽しんで頂ければ幸いです。
(あと、総選挙は安部菜々に投票お願いします)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1523237529
煌びやかな服、そびえ立つお城のような建物、美しいアイドル。それらが集うここ、CGプロダクションでは数多くのアイドルたちが切磋琢磨し、己を高め合っていました。
そして今日はその集大成。一年目、自分がデビューしてまもなく始まった選挙結果は惨敗。表彰台に上がることはおろか、順位発表圏内ですらありませんでした。
しかし今年は違います。Pさんと一緒に一年努力し、去年とは違う確かな手応えを感じました。
二桁順位の子の発表が終わりそうです。11位神谷奈緒ちゃん。10位白坂小梅ちゃん。そして一桁の子へと、移って行きます。
思えば去年は真摯に取り組んだとも思えませんでした。Pさんに気に入られようと、好かれようと振る舞った頃の自分はとてもアイドルとは思えない何かでした。
そもそもアイドルをはじめた理由がPさんだったので仕方ないと思えば仕方ありません。一目見た瞬間、この人に着いていかねばならない。この人と添い遂げなければならない、雷に打たれたかのような衝撃と共にそんな思いが脳内を駆け巡りました。今となっては懐かしさすら感じます。
しかし、今でもその思いは煌々と燃え上がり、時に熱く、時に苦しく、常に愛おしい。ああ、まゆは生を実感できるのです。
9位双葉杏ちゃん、8位北条加蓮ちゃん。ほっとしたような、残念なような表情を浮かべながら壇上に上がり、耳を傾けるファンの方々に言葉を紡ぎます。
やがて本格的なアイドル活動によってその楽しさ、面白さに気づきました。気づかせてくれたのは言わずもがなPさんですし、頑張れたのもPさんのため。まゆの優先事項を変えるまでとはいきません。
7位緒方智絵里ちゃん。前回から安定した高順位。流石です。
きっと何でもできる。何にでもなれる。まゆはPさんのためなら力が湧いてきます。ダンスも歌もトークも。料理だって努力しました。今のまゆなら……
「第6位 佐久間まゆさん」
ちひろさんのアナウンスから放たれた言葉はまゆの期待をぐしゃりと叩き潰しました。6位、高順位です。150人以上いる中の一桁なんですから素晴らしいと胸を誇っていいでしょう。でもだめなんです。1番じゃなきゃ……。
まゆ「皆さんの投票ありがとうございました。前回と比べて大躍進ということで、まゆ自身も驚いています。シンデレラガールにはなれませんでしたが、この結果には大変満足しています。本当にありがとうございました」
ペコリと頭をさげ、拍手を背に壇上を去りました。5位、4位と発表される中で、まだ呼ばれていない彼女を見ます。真っ白な肌に特徴的なファッション。話し方も独特であらゆるところに引っ張りだこな彼女。その目には不安と期待がない交ぜになっており、まだ呼ばれていないアイドルと一緒に電光掲示板を一心に見つめています。
凛ちゃん、幸子ちゃん、楓さん。どんどん呼ばれていきますがまゆにはあまり関係ありません。だってプロデューサーさんが違いますから。でも彼女だけは……
「第2位 アナスタシアさん」
中間1位のアナスタシアちゃんですら叶わない。それもそのはず、後半の彼女の勢いは異常でした。わかっていたんです。だってまゆは一つ順位を下げていたんですから。知っていたんです。だって一つ下の順位だったのは……
「第1位 神崎蘭子さん」
呼ばれるが速いか、けたたましい歓声につつまれ、蘭子ちゃんは立ち上がりました。ゆっくりとした足取りはどこか覚束なく、しかしはっきりと壇へと上がる階段へ向いています。その目尻には薄らと涙を貯め、笑みを浮かべる姿は、まさに見る者全てを魅了するシンデレラそのもの。同性のまゆですら美しい、神々しいと感じずにはいられませんでした。
前回2位の大本命、その票数はなんと39万超。思わず笑っちゃいました。だって6位のまゆの二倍以上。アナスタシアちゃんの票を1.5倍しても届かないんですから。
6位の席に座りながら圧倒的な隔たりを感じました。順位差以上にある力の差。その原動力となっているのは第一回シンデレラガール総選挙なのでしょう。彼女は一度、敗北しています。愛梨さんに次いでの2位でしたが、そこで満足できなかったのです。
でもまゆの1番は違うから。まゆの最優先は……。
右手の小指の赤い糸。深紅の絆はまゆから彼へと伸びています。
まゆは皆の“シンデレラ”にはなれませんでした。それでも、あなたの“シンデレラ”になら……。
~~
まゆ「おめでとうございます蘭子ちゃん」
菜々「本当におめでとうございます! 蘭子ちゃん、握手してください!」
P「おいおい、やっと終わったと思ったのにな?」
蘭子「くく、問題ない。これも魔王たる我が宿命。何度でも応じよう!」ギュッ
P「大体何度も一緒に仕事してきてんのに握手ってお前……」
菜々「菜々はアイドルであるまえに1人のファンですから!」
まゆ「相変わらずですね」
P「もう今日は遅いし帰るぞ。菜々はタクシー呼んどいたから」
まゆ「あ、ちょっといいですか?」
P「何だ?」
まゆ「少しだけ2人でお話したいんです。お願いできますか?」
P「じゃあ菜々は先帰ってろ。蘭子は誰か寮のやつ誘って帰れ。1人になるなよ」
菜々「それじゃあお先に失礼します」
蘭子「承知した。闇に飲まれよ!」
~~
CGプロの一室。Pさんとその担当アイドルの部屋を開け、2人で腰掛けました。
P「コーヒー入れてくる。飲むか?」
まゆ「はい、お願いします」
P「了解。で、話ってなんだ?」
まゆ「今後のアイドル活動についてです」
お湯を入れる動作がピタリと止まりました。次の言葉を類推できたからでしょうか。
まゆ「まゆは引退しようと思います」
P「……ちょっと待て」
インスタントコーヒーを手早く入れ、お盆に乗せて運んできます。
P「それで止めるんだっけ? 理由は?」
まゆ「もうまゆは十分アイドルを楽しめたと思うからです」
十分と言うと語弊はありますが、こう言った方が角が立たないでしょう。まゆ個人としては6位という順位に大変満足していますし、一年間本当に楽しい時間を過ごすことができました。唯一心残りと言えば、Pさんの目標であったシンデレラガールになれなかったことでしょうか。
P「俺は十分お前の魅力を引き出せたとは思えない。まゆはもっと輝けると思う」
真剣なまなざしにクラクラ来そうです。普段も凜々しくかっこいいPさんではありますが、これほどなのは珍しい。それが全てまゆに注がれているのですから口元が弛みそうです。
まゆ「それともう一つ」
こっちが本当の理由。まゆがアイドルをはじめた切っ掛けとなり、アイドルを続けた意味であり、アイドルを辞める決定打になったもの。
心臓が早鐘のように打ち、呼吸は乱れる。血が体内を駆け巡り、手に汗が滲む。目を閉じ、大きく息を吸い込み、長く吐き出す。大丈夫、緊張のほぐし方は今までに養ってきた。顔を上げ、Pさんに目を向ける。目を見て、はきはきと。
それは……
まゆ「Pさんと結婚するためです」
思ってもないことを言われたからか、まん丸に目を見開いたPさんは徐にカップを置き、まゆの目を見つめてきました。
P「……アイドルの恋愛が御法度だってのは知ってるよな?」
まゆ「だからこその決断です」
P「いつからだ?」
まゆ「最初から……Pさんのことですからお気づきだったのではないでしょうか」
P「知るかそんなもん」
とは言うものの、彼に動揺の類いはあまり見受けられません。
P「まゆ、結婚は無理だ」
まゆ「え?」
思わず声が出てしまいました。あっさりと、何でもない風に言うもんですから心構えが全くできていませんでした。
まゆ「それは…お付き合いからということですか?」
P「確かに、引退後すぐに結婚ということは現役中からの仲だったと言われる可能性は高い。少し期間を設けることでスムーズに行くかもしれない」
P「でも元アイドルとその担当プロデューサーだ。何かと言ってくるやつはいるはずだ。それで俺は業界追放されるかもしれない」
まゆ「で、でも、それは少数でしょうし……」
P「だがそれは別に構わない。お前の話を受けたってコトはそれひっくるめて背負うってことだからな」
まゆ「だったら!」
P「でもお前と結婚しようとは思わない。俺はプロデューサーとして、お前はアイドルとしてこそ輝くと思うからだ」
自分の言葉を心から信じていると言わんばかりの表情に、思わず気が移りそうになります。しかし、自分とて絶対の信念を持って、この決断をしたのです。
まゆ「それはプロデューサーとしての意見ですよね? まゆは……アイドルではなく一人の女としてPさんに告白しました。だからプロデューサーさんも」
P「なるほど。でもそれはおかしいだろ。俺はプロデューサーという職業に就いている。そしてお前もまだ一アイドルだ。お前がいくら一人の女の子と自称してもそれは切っても切り離せない」
P「俺だって立場や柵を考えたらとてもじゃないがお前の告白を受ける訳にはいかない。まだプロデューサーでありたいからな」
P「蘭子がシンデレラガールに選ばれて、どうなっていくのか。菜々だってまだまだ上は目指せると思うし、お前だって……」
Pさんの意見はごもっともです。でもそういう言葉が聞きたいんじゃないんです。まゆはあなたがまゆをどう思っているか知りたいんです。
P「納得いってないって顔だな」
まゆ「わかってますよね?」
P「これでも日頃から女の子の顔色は窺って生きているのでね」
冷めたコーヒーをグイッと飲み干すと、言い放ちました。
P「俺はお前と結婚しようとは微塵も思わない。なぜならお前はアイドルだからこそ輝くだろうから」
まゆ「Pさん……お話聞いてましたか?」
意味の無い押し問答に少しだけ、ほんの少しだけですがもどかしいと感じてしまいました。
P「俺はな、この業界が天職なんだよ。だからこそなのかアイドルを目にした時に才能が見える。お前はここで終わっていいアイドルじゃない」
まゆ「……」
運命。私はこの人と結ばれる運命にあります。なのにどうしてこうも上手くいかないのでしょうか。仙台でアイドルを志願することは失敗だったのでしょうか。いや、恐らくアイドルになっていなければ今でも他人のままだったはずです。自分は、まゆは間違っていない。
P「まゆ、もう少しだけアイドルでいてくれないか? 絶対に後悔はさせない。今回でお前も気づいただろう?」
P「お前には才能がある。きっとシンデレラガールに……
まゆ「シンデレラガールになれればPさんはまゆと結婚してくれますか?」
P「あのなあ…」
まゆ「今欲しいのは名誉とかお金とか、ガラスの靴なんかじゃないんです。Pさんの心なんです!」
Pさんはまゆをプロデュースし続けたいんですよね。それはわかります。でも、建前はもういいですよね? そろそろ本音を聞きたいです、Pさん。
まゆ「そのためだったらまゆは…何だってします。何だってできます」
P「……何でもする、何でもできる、か」
目を閉じているのは言葉を反芻しているのか、はたまた答えを探しているのか。
プロデューサーという立場からすれば難しいお話だとは思います。まゆと結婚すれば周りから批判されることは目に見えています。それにより、蘭子ちゃんや菜々ちゃんにあらぬ疑いを掛けられることもあるでしょう。
それでも、きっと私たちは結ばれる。なぜなら……
まゆには赤い糸が見えていますから。
ゆっくりと瞼を上げたPさんは、私にこう告げました。
P「まゆ、お前は俺のために死ねるか?」
まゆ「…先ほど言ったことに嘘偽りはありません。まゆは、Pさんのためであれば何でもできます、何でもします。例え死ぬことだって…Pさんと一緒なら…」
死ぬというワードを示せばまゆが怖じ気づくと思ったのでしょうか? であれば、それは浅はかと言う他ありません。これからPさんと生き続けられないことは残念ですが、それでも、Pさんの感情を独占したまま死に行くのは悪くないです。両親には多少申し訳ないですが…それでも、まゆはPさんと……
P「じゃあやっぱりお前とは結婚できないな」
まゆ「え?」
何てこと無い日本語、恐らく小学生でも理解できるような一文を、まゆは飲み込めませんでした。
まゆ「あの? 一緒に死のうって話じゃ…」
P「俺がまゆのために死ぬ? 冗談じゃない。俺はこれからも生きたい。菜々だってシンデレラガールにしていないし、蘭子はこれからもどんどん躍進を続けるだろう。それも見届けたい。さらに、まだ出会ったことのないようなヤツをプロデュースすることだってあるはずだ」
やめて。
P「シンデレラガールを排出したプロデューサーがどうなるかは知ってるだろ? 去年のシンデレラガール、愛梨んとこのヤツ見ればわかるはずだ。俺はこれを皮切りにさらなる高みへと行ける」
もういいですから。
P「本当に楽しみなんだ。これからも力をつけて、アイドルを育てて、一緒に成長するのが。どんどんできることも増えてくるし、任されることも多くなると思う。それが俺には最高なんだ」
ああ、いや。
P「だから、俺はお前のためには死ねない、俺は俺のために生きる。プロデューサーとしてな。だからお前も諦めて……
さっきまで見えていた赤い糸はどんどん掠れて……
まゆ「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!」
P「おい、まゆ!?」
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P「あ、千川。まゆは?」
ちひろ「一先ずは落ち着きを取り戻したと思います。明日はお休みですし、十分休養を取るよう伝えました。それと、明後日以降の仕事は出るとのことです」
P「……そうか。ありがとうございました」
仕事に穴を空けずに済んだ…とまず脳裏を過ぎったのはプロデューサーとしての性だろうか。人としては良いことではないだろうけれど。
ちひろ「何があったんですか? まゆちゃんがあんなに取り乱すなんて……確かにシンデレラガールにはなれませんでしたが、圏外だった訳でもなく、前回から考えれば大健闘。ああなるとはとてもじゃないですが」
P「そうだ。原因は別のところにある」
説明しながら思うが、確かに言い過ぎた。それはわかっている。ただ、優しく言って彼女が、まゆが引き下がっただろうか?
恋愛が御法度の業界に飛び込んで、そこで会った人が好きですなんて、普通はありえない。でもまゆは“知っていて入った”のだ。彼女の思いの前には、ルールなどお構いなしというわけだ。それしか見えていない彼女に理詰めで話したところで、到底話が通じるとは思えない。
話し終わって数瞬後、バチンという音と共に火花が散った。
ちひろ「あなた、最低ですね」
ああ、叩かれたのか。思わず頬に手を当てる。ほんのりと熱い気がするが気のせいかもしれない。
P「……少し言い過ぎたとは思ってる」
ちひろ「少し!? どこがですか! まゆちゃんは思春期の女の子なんですよ!?」
思春期の女の子、というとやはり恋愛第一と思ってしまうのは偏見だろうか。実際まゆはそうだったのかもしれないが。
ちひろ「デリケートなんですよ、中高生の女の子は! それをあんな風に……まゆちゃんがどれだけ傷ついたか」
P「俺にだって……譲れないものはある」
ちひろ「はい?」
P「いや、何でも無い。迷惑掛けたな。今度なんか奢る」
言えば伝わるかもしれない。少なくとも理解は示してくれるだろう。千川は聡明だから。しかし、自分が言いすぎたのも事実。本来であれば大人である自分が己を律するべきだったのだ。それをカッとなって……。
ちひろ「まだ話は終わってませんよ!」
P「一人にしてくれないか。話があるなら明日にしてくれ」
ちひろ「ちょ、ちょっと、Pさん?」
P「……悪い」
半ば追いやるようにして部屋を出て貰う。どうしても一人になりたかった。でなければ千川に当たっていたかもしれない。まゆの世話をして貰って、叱って頂いたばかりなのに。
まゆの絶叫で忘れていた怒りがふつふつと思い出されてきた。それと同時に自分への怒りも湧いてきた。プロデューサーならあそこは怒るかもしれないが、怒ってはいけない場面だったと。それでも……。
P「ガラスの靴なんかって」
多くのアイドルが望んで、己を磨き上げ、夢に見るそれをガラスの靴なんかよばわり。だったらこの一年は何だったんだ。俺はお前を本気でシンデレラガールにするつもりでいたのに! あいつも、それを望んでいると思っていたのに!
P「……俺が、悪いんだよな」
あいつにアイドルとしての楽しさを教えてやれなかった。シンデレラガールを目指す価値を理解させられなかった。階段の先にある景色の尊さを伝えきれなかった。
分かっていると思っていた。それが間違いだったのだろうか。レッスンに真剣で、仕事にも真摯に取り組み、歌もダンスも納得いくまで極めようとしていたからこそ、俺もあいつのために頑張れた。それはまやかしだったのだろうか。
違う。まゆだってトップを目指していることは違いなかった。アイドルを楽しんでいたし、結果が出れば喜んでいた。
P「譲れないもの……」
俺と同じ、譲れないもの。それは誰にだってある。俺とあいつでは違っただけだ。それを考慮に入れず、俺は感情のままに……。
P「やらかしたなあ。流石にアイドル続けてくれないよなあ」
仙台で初めて会ったときに見えた執念。それは手に入れたいものを命に代えてでも手に入れようとする情念とでも言うのだろうか。確かに、たかが恋愛のために親元を離れ、アイドルになるなど、並大抵のことではない。
……それがシンデレラガールに向けば、一位だって夢じゃなかっただろうに。
P「もったいない。が、これも運命か」
すごく残念だ。アイドルの才能が、恋愛で埋もれていくなんて。
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P「……なんて?」
丸1日休んだ後だった。若干腫れの残る瞼を見れば、泣きはらしただろう類推はできるが、何をもってその結論に至ったのか、皆目見当もつかない。
まゆ「だから、まゆはセルフプロデュースを始めようと思います」
自分の担当を離れるだろうとは考えていた。だがまさか、自分で自分のプロデュースを始めるだなんてまったく思っていなかった。
P「……俺に外れて欲しかったらそう言えばいいぞ。別に気に……はするが、替えるよう手配する。俺に言いにくければちひろさんに言えばいい」
まゆ「昨日一日考えた結果です」
P「遊びで務まるもんじゃねえぞ」
まゆ「わかっています。やるからには全力で。まゆは自分だけの力でシンデレラガールになってみせます」
まゆの目は本気だ。本気でセルフプロデュースして、本気でてっぺん取るつもりだ。だからこそわからない。何故アイドルだけでなく、プロデュース業務までやろうとする?
まゆ「やってみたいから…じゃだめですか?」
P「! わかった。じゃあそのようにちひろさんに言っておく。ただ初めから一人ではできないから
まゆ「だからPさん。まゆにプロデュース、教えてくれます?」
P「……俺は何されようと靡かないぞ」
まゆ「ふふ、違いますよぉ。Pさんはシンデレラガールを排出したプロデューサーだからですよ。その手腕であれば、ご教授いただくのにこれほどの人材はありません」
確かに筋は通ってるな。
まゆ「それに、今までのまゆを一新するつもりでもありません。Pさんの推していた部分も勿論取り入れていきます。だからこそ、Pさんが適任なんです」
……なるほど。理に適っている。それに、警戒する必要もないだろうしな。まさか、俺がまゆに手込めにされる道理もないだろう。そもそも、あれだけ手酷く振られたら、好きでいられるはずもないか。だが。
P「引き受けたと言いたいところだが、ちひろさんと一悶着あってな。俺がお前を教えられるかは怪しいところだ」
まゆ「だったら説得してきます。まゆが言えば流石に聞いてくれるでしょうし」
P「どうだろうなあ。一時は俺とまゆを二度と合わせないとまで言い張ったからな、あはは」
笑えないけど。千川にかかれば、どんな人でも直ちに地方左遷だ。あの夜は俺も余裕無かったからな…悔やんでも仕方ないか。
まゆ「大丈夫ですよぉ、まゆが言って聞かせますから」
千川はアイドルにすこぶる優しい。それでも、彼女の怒りはおさまらないかもしれない。昨日も謝り倒したが、一向に許してくれなかったしな。
P「まゆ」
まゆ「はい?」
P「…えーと、まあなんだ。……一昨日は悪かったな」
腫れの残る瞼をめいっぱいに見開き、三回ほど瞬きを繰り返す。その後、思いっきり吹き出してしまった。
まゆ「うふふ、ごめんなさい。Pさんもよっぽどちひろさんの小言が堪えたんですね」
P「茶化すなよ。あれは言い過ぎた。我ながらガキっぽい」
どうやらまゆの失笑を買ってしまったみたいで、思わず苦笑いしてしまう。年の離れた女の子に謝るなんて情けない。だが悪かったのは俺だ。
まゆ「いえ、まゆは気にしていませんよ。それに、非常識なことを言い出したのは、子供だったのはまゆの方ですから」
気にしていないって…本人が言っているなら深く聞くこともないか。
ちひろ「和解、できたようですね」
P「わっ!? 千川っ!」
ちひろ「ごめんなさい。でもまゆちゃんに許可は貰いましたから」
まゆ「ごめんなさい。ちひろさんがどうしてもとおっしゃるので」
P「まゆが許してんなら俺はいいよ」
ちひろ「反省してるなら許してあげます」
P「えっ、いいのか?」
ちひろ「昨日は謝る相手が違うことにすら気づかなかったから怒っていただけです! 今のPさんなら、まゆちゃんを導けますよね?」
P「!!」
まゆを見るといつもの笑顔。ということは、もう千川に話は通してあったということだろう。だからこそのやりとり。いわば千川の最終チェックというわけだ。
P「勿論。素晴らしいプロデューサーにしてやる」
ちひろ「よろしい!」
まゆ「では改めて。Pさん、よろしくお願いしますね」
P「こちらこそ。よろしく頼む」
差し出された手は細くて柔らかい。そしてこの満点の笑みだ。大枚叩いて握手会に来る奴らの気も少しは理解できるか。
それでも性の対象としては見られない。これもプロデューサーとしての性なのだろうか。
だとするならば、やはりプロデューサーという仕事は俺にとっての天職なのだろう。
~~
それから事はとんとん拍子に進んだ。あの夜を思い出し、俺はときたまぎくしゃくしていたが、まゆは全然気にしていないようで、俺も次第に意識しなくなっていった。
セルフプロデュースに関しても、最初は殆ど俺が裁いていた。だが、業務内容を覚えだしてからは少しずつ方向をシフトしていった。
まゆ「プロデューサー目線に立って思ったんですが、Pさんって女の子の気持ち、あんまりわかっていないんですね」
P「え!? 一応女の子に囲まれてるし、関係が悪くなったこともないぞ!?」
まゆ「それは蘭子ちゃんも菜々ちゃんもアイドルにご執心だからですよ。なのでPさん」
ドンと机に紙袋を取り出した。何の真似だ?
まゆ「勉強しましょうか。まゆの大好きな少女漫画を持ってきました」
漫画なんてナルトとネウロ以来だな。恋愛を題材にしたものだったので、あまり興味はなかったが、読み始めると存外面白い。
まゆ曰く、これが等身大の女の子、だそうだ。
それに比べ俺の担当するアイドルはどうやら特殊なやつが多いらしい。蘭子は中二入ってるし、菜々も電波女だ。これから普通の女の子をプロデュースする上で、こういったものの理解はいずれ役に立つかもしれない。
しかし、こう読んでてむず痒くなるのはなんなんだろうな。気恥ずかしいというか、それでいてどこか切ないような。
P「まゆ、ありがとな。読み終わったから、持って帰ってくれ。送るよ」
まゆ「どうでしたか?」
P「面白かったよ。恋愛で葛藤するっていうのはよくわからない。でも何かを成すために努力する姿は何よりも美しいと俺は思う」
まゆ「それならよかったです」
P「……お前も、こんな大恋愛を望んでいるのか?」
まゆ「まゆは……アイドルですから。そんなことは言えません」
成長したな、こいつ。半年前はあんなだったのに。……強くなった。
まゆ「でも、人並みの幸せは望みます」
P「というと?」
まゆ「好きな人を見つけ、結ばれる。まゆの望みはただそれだけです。アイドルであるうちはトップアイドル、ですけどね。だからスキャンダルはありえません」
ま、俺なんかを好きになるって方がおかしかったんだ。吹っ切れたようで何より。トップを本気で目指していることは間違いないし。ここ最近のまゆの鬼気迫る表情、あれは凄まじい。
でも、何でいきなりアイドルを真剣にやり始めたんだ? 元が手を抜いていたとは言わないが……。
まゆ「さあPさん。帰りましょう。まゆお腹すいちゃいました」
P「ん、今日も頑張ってたしどっか連れてってやるよ」
まゆ「本当ですか! ありがとうございます」
たったこれだけで士気があがるならお安いご用だな。ただ、プロデュースにも挑戦ということで慣れない部分もあるだろうし、今回は圏外も覚悟させとくべきかもだが。
しかし、その予想を外れ、まゆは16位で第三回総選挙を終えた。6位と比べれば無論物足りないが、それでも初の試みでは素晴らしい結果だと言えよう。
第四回では29位。下がってきた。でもまゆは満足していた。なぜなら彼女の戦略ははまっていたからだ。
彼女がプロデュースに携わるようになってからは、女性ファンを増やすことに注力していた。元々俺の策では男性ファンが殆どであった。それこそが、まゆに女心を理解していないと言わしめたのであろうが、ともかくまゆは女性ファンの扱いに長けていた。
しかし、これが票の伸びない理由でもあった。女性ファンは男性ファンほど熱心な人が少ないのである。
特にまゆの客層は、料理や裁縫を仕事でやる関係上主婦が多く、彼女らの殆どは趣味に大金を使えない。故の順位の低迷だった。ただ、悪くはない順位を続けることはできていた。
だからこそ彼女はここで、完全セルフプロデュースへと移行した。
まゆ「苦しくなったら助言を乞うかもしれませんけれど、一先ず自分だけでやってみます」
彼女なりの手応えを感じていたのだろう。ファン数自体は増えていたからだ。ただ、シンデレラガールを目指す上で、このやり方だけではだめだ。上には行けない。
まゆ「仕事の幅を広げようと思います」
最初は儚げな女の子として。次に家事が得意な女の子として。最後はあらゆることをやる女の子として。
俺としてはイメージを大切にし、仕事を選ぶ方向でプロデュースしていた。事実それで成功を収めていたし、自分としても自信が合った。しかし一方で、局所的な仕事しか振れていなかったとも言える。
まゆ「まゆは蘭子ちゃん達とは違いますから」
自分の担当アイドルは蘭子、菜々に第二回が終わった後加わった飛鳥がいる。この三人ならば、目に入りさえすれば、意識させることができる。ただ、まゆは良くも悪くも普通の女の子としての活動がメインであり、強烈な個性を有す彼女らに比べ、インパクトを残すという面で劣っている。
P「だからこその知ってもらうための立ち回りか」
まゆ「そうです」
知りさえしないアイドルなど、興味も何もない。故に、まずは目に触れる機会を増やす。多種多様な仕事を受け、レギュラー番組はそこそこに、ゲスト出演をメインにしていったのだ。一度で印象を与えられずとも、二度、三度見かければ顔は覚えるし、名も通る。
それからは営業の繰り返しだ。何せ、新規開拓をしなければならない。来る仕事は既存のまゆを見てのものなのだから。
P「完全セルフって言ってるが、ありゃ嘘だな」
まゆ「すみません。まゆの力が足らないばかりに」
P「ばか、俺はプロデューサーだぞ。もっと頼ってもいい」
蘭子も菜々も飛鳥もまゆも、全員俺の大事なアイドルだ。一人だって手を抜くもんか。
P「お前こそ、頑張りすぎるなよ」
まゆ「はい。ですが、同じプロデューサーとして、負けませんよ」
P「それは頼もしい」
第五回では27位だった。この程度は誤差の範囲。しかし、ようやくまゆの策が結実した。努力が実ったのだ。
「第6位 佐久間まゆさん」
千川の声に歓声が上がる。それもそのはず、久しぶりの一桁、故にファンの感動も一入というものだ。
割れんばかりの群衆の前に、一歩、また一歩と踏み出していく。
……なあ、そこから見える景色ってどんなもんなんだ。今のお前は自分でプロデュースした結果でその場に立てているんだろ。その高揚感っていうのは、どう感じる?
俺は自分の手がけたアイドルを壇上に送り出すだけで気分は最高だった。だが、自分を演出し、かつその結果すらも与えられる立場、少しだけ羨ましいよ。だから、その表情を見せてくれ!
階段を登り切り、まゆの画面がクローズアップされる。壇上に登った少女は……泣いていた。
まゆ「えぐっ…ごめ、ん、なさ」
震える声で、謝った。何に対してかは明白だ。だからこそ、
「まゆちゃん、ゆっくりでいいですよ。皆待てますから」
流石千川。気遣いの鬼と呼ばれるだけある。
止めどなく溢れる涙に、観客らは困惑している。だってシンデレラガールになった訳でもない。前回と比べるとずば抜けて上がっている。だが、6位は一度取っている。
でも俺は知っている、千川も知っている、そしてまゆが1番知っているだろう。今回の第六回総選挙に懸けてきた努力を、時間を、人生を!
P「あ……」
気づけば自分も涙していた。飛鳥が圏内だったときも。菜々が2位だったときも。蘭子がてっぺん取った時でさえ流さなかったのに。
わからない、理由はわからない。でも、何でかお前が1番愛おしい。
P「あーくそ、よく見えない」
目元を拭うと、凛としたまゆ。ああ、美しい。
まゆ「すみませんでした。ちょっと、感極まってしまって。もう大丈夫です」
どよついていた開場は一気に静かになった。それは、今のまゆがすごいから。上手く伝えられないが、すごい。
まゆ「以前6位という順位を頂いた時は、17の時でしたね。あれからもう4年と思うと、時の移ろいは早いものです」
4万弱の観衆が一様に耳を傾けている。それだけ、まゆの発するオーラが異様なのだ。でもどこかで感じたこれはいつだ? 歴代のシンデレラガールたちでもここまでのものは……っ! まさか!
まゆ「以前は子供でした。成人していないとかそういうことではなく、精神的に未熟、と言った方が正しいかもしれません。大局観が身についていなかったのです」
そうか、だからこそ俺は……。
まゆ「物事を俯瞰してみる能力。それには知識、時間、信頼、そして仲間が必要です。どれもまゆには足りなかった」
まゆ「知っている方もいらっしゃると思いますが、まゆは現在自分で自分のプロデュースを行う、言わばセルフプロデュースを行っています」
まゆ「そう、人をプロデュースするためには、大局観は必要不可欠です。だからこそ、まゆは苦しみました。勝手が分からず、多くの方に迷惑をかけたこともあります」
まゆ「それでも、自分の策が功を奏し、今ここで評価される喜びは何事にも代えがたい。…とても素晴らしく、かけがえのない、この感情を得られたのは皆様のおかげです」
まゆ「っ! 満足したとは言いません、言えません! まゆは、アイドルを極めたとは思えません。でも、十分やり遂げられたと思います」
薄々感づいていたヤツもいるだろうが、これで大方把握しただろう。
まゆ「まゆは、次のライブを持って、アイドルを引退させていただきます」
人によっては悲鳴を上げたくなることだろう。それでも、今はまゆから目が離せない。耳を傾けてしまう。何人たりとも邪魔を出来ない。
まゆ「誠に身勝手なことだと思います。ですが、自分をプロデュースして気づいたことは、他の方々が導くアイドルを見て、自分ならこうする、こうしたいという欲求を持ってしまったんです」
まゆ「今まで応援してくださったファンの皆様には感謝の念でいっぱいです。だからこそ、まゆは最後までやり抜きます。それまで、着いてきてくれると、嬉しいです。…ありがとうございました!」
総選挙で引退発表というのは珍しくない。だが、これほどまで綺麗なスピーチができたやつはいなかったんじゃないか。
まゆも初めこそ涙を流し、嗚咽を漏らしていた。しかし、一度落ち着いた後は、殆ど声が震えなかった。目尻に涙を溜め、感情を今にも吐き出しそうだったのに。
だからこそ周りも固唾を呑んで見守るしかなかった。あまりにも美しく、神々しかった。壇上のまゆはシンデレラガールに勝るとも劣らなかった。……少なくとも俺にはそう見えた。
~~
P「お疲れ様。引退の相談俺にはなしか」
まゆ「Pさん。すみません。ちひろさんにはもう言っていたんですけれど」
だからか、あの目狐め。開始前に妙な目配せしおってからに。
P「…6位おめでとう。これでお前はかつての俺と同レベルくらいにはなったんじゃないか? いや、むしろアイドルと並行してかつCu部門1位ってことで昔の俺は超えたか」
まゆ「そうでしょうか? 今でもまゆにとってあの頃のPさんは偉大です。最も、現在のPさんの方が偉大ですけれども」
P「こうして話してみると、お前がアイドルだって忘れそうになる。普通の女の子に見えて」
まゆ「ふふ、アイドルの前に一人の女の子ですから。きっと皆そうですよ」
P「でも、6年前と比べて確かに違う。正直見違えた」
まゆ「っ! まゆは、かわれ、たでしょうか?」
P「ああ。お前は最高のアイドルだよ」
まゆ「…ありがとぅ、ございます」
薄らと目尻を光らせるも、泣き崩れはしない。
P「だから、最高のアイドルのまま終わってくれ。俺も皆も手伝う。だから、しっかりと完走するぞ」
手を差し出すと、ギュッと掴んでくる。
まゆ「はい、よろしくお願いします」
俺はアイドル佐久間まゆと出会えて、本当によかった!
~~
「プロデューサー、仕事行ってくるね」
「あ、一人だけ気むずかしい方がいるから、それだけ気をつけて」
「わかってる。いってきまーす」
「いってらっしゃーい。ふう、じゃあ今のうちに事務を…」
「よう、敏腕プロデューサー様」
「Pさん!」
あれから3年経った。俺は昇進し、アイドルを辞めたまゆはプロデューサーへと転身していた。
P「引退ライブの時はあんな泣きじゃくってたのに、立派になっちゃって」
まゆ「Pさんだって泣いてらしたじゃないですか!」
P「そうだっけ?」
とぼけてみるも、あの時の事は鮮明に覚えている。あのLIVEは伝説だったと言っても過言ではない。今でも時たま映像を見返したりする。
まゆ「それで、何かご用ですか?」
P「ああ、いい加減酒飲む量を控えろと再度忠告に来た」
まゆ「あはは…」
P「あははじゃねえっての! 合コンの度に送らされる身にもなってみろ! 今まで収穫0だぞ! この年で!」
まゆ「だって楽しくなっちゃって、ごめんなさい」
P「終いにゃ連れてかねえぞ。お前がどうしてもって言うからなのに」
まゆ「でもPさんも元アイドルが来れば100人力だって」
P「最初だけだ! お前がこんなにもポンコツだとは」
まゆ「ポンコツって、酷いですよPさん」
P「千川も結婚したし、同期で結婚してないの俺だけだぞ」
まゆ「ちひろさんはまゆが斡旋しました」
P「知ってる! 一々どや顔すな!」
まゆ「…ふふ」
P「はあ、俺もそろそろ結婚したいんだよ。親からも祖父母からも結婚しろって言われるし、俺だって思うところはある。いい年になってきたし」
まゆ「そうですねぇ」
P「晩婚化っても平均超えてるし、お前誰かいい人知らないか?」
まゆ「……まゆ、とってもいい人知ってますよ」
P「…マジ?」
まゆ「はい。その人は炊事洗濯掃除、どれを取っても高水準で、あなたの仕事もとっても理解してくれます」
P「それは助かるな。家事は全般だめだし、職場も女の子多いからな。俺の知ってる人か?」
まゆ「はい、とっても♪」
P「ってことは元アイドルか。それで条件を満たすやつとなると……」
誰だ。わからん。そもそも家事ができるかどうかなんて、担当くらいしか碌に知らん。菓子作りくらいなら聞いたことあるが、全部と言われると……ん? とっても……
まゆ「わかりましたか?」
不意に近づけられた顔にドキリとする。楽しそうに笑うまゆ。当時の幼さはなりを潜め、大人びた妖艶さを醸し出す。
P「もしかして……」
思わず小声になってしまう。心臓は急速に脈打ち、喉が渇く。これは…緊張しているのか? 俺が?
ただの確認のはず。だが、緊張するってことは…そういうことなのか?
落ち着け、何で元担当相手に固くなんなきゃいけないんだ。しかも十近く離れた小娘に…っ。
視界いっぱいに広がる彼女を見れば、小娘なんて呼べないことは知っている。あれからよく成長したものだ。かつては一世を風靡したアイドルに言う言葉ではないかもしれんが。
もういいか。緊張なんてキャラじゃない。仮に間違っていても、恥をかくのは俺だけだ。ならいっそ、盛大にいってみよう。
P「まゆ」
まゆ「わっ!?」
両肩を掴み、目を合わせる。一度は悲痛に、一度は感動に、一度は別れに涙したたれ目が、驚きに見開かれている。かつては馬鹿にしたものに恐れを抱くなど笑える。でも、これは素晴らしいことなんだろう。悪い気分じゃない、むしろ良い。
まゆ「えっと……」
自分が漫画のキャラか何かになった気分だ。どこか縁遠い物と思い込んではいたが、身近にあるもんだな。それに気づかせてくれたのは、紛れもなくまゆだ。ありがとう。
P「好きだ、結婚してくれ」
口をついて出た言葉は俺の本心に相違ない。今まで、何度もまゆには本心を伝えてきた。なのにこれが恋愛か。理解はしても動悸はおさまらない。なあ、あの時のお前もこんな感じだったのか? 俺にはわからない。
酷いやつだったな、俺は。ガキだったのはやっぱり俺の方だ。
俺の勘違いでも良い。あんなことやってむしが良すぎるかもしれんが、お前の気持ちが聞きたい。さぁまゆ、お前の本心を教えてくれ。
~~~
「Pさん」
「…ん」
「どうかしたんですか?」
「いや何、お前と出会ってからのことを思い出してた」
「ふふ。いよいよ、ですもんね」
「なあ……まさかとは思うが、全部このためか?」
「うふふ、さあ、どうでしょうね♪」
「まあ、どっちでもいいか。今の俺は、お前を愛してる」
「私も愛しています」
「…さて、そろそろ時間か?」
「……ねえ、Pさん」
「なんだ、まゆ」
「まゆはこれから、Pさんのために生きます。だから、Pさんもまゆのために生きてくださいね」
「……約束する」
チュッと、誓いの音色が響いた。
という訳でこの物語はお終いです。
楽しんで頂けたでしょうか? 個人的には総選挙前に終われてほっとしております。
以後も精進して参りますので、再びお見かけくださったときはお付き合い頂ければと思います。
という訳で菜々さんのマーケティングに移りたいと思います。
菜々さんは永遠の17歳という電波なアイドルですが、アイドルに関する思いだけで言えば、群を抜いていると感じます。
その理由としましては、デレステのコミュを見て頂ければ理解ると思いますが、地下アイドルとして活動していたからです。
アイドルを目指すこと、それはとてもエネルギーの必要なことです。なぜなら、リスクが他の職種に比べ、多分に含まれているから。
ただカワイイだけで成功するのであれば良いのですが、その実歌にダンスにトークと多岐にわたる才能を要します。
そして菜々さんは大成するでもなく、地下アイドルで何年も活動してきたことが類推できます。
このどこが凄いって、最初こそ応援してくださる方が増え、楽しいと感じられるでしょうが、段々と年齢や親など、それ以上に考えなければならないことが増えてきます。にも関わらず、彼女は一心不乱にアイドル活動に懸けてきました。
それほど菜々さんはアイドルを愛しているのでしょうね。
他のアイドルが悪いとは言いません。スカウトされたからやってみる。素晴らしいと思います。葛藤もあるでしょうし、周りからの反発や、周りに嘲笑されないかなど、考えることはあります。
それでも! 菜々さんは自ら飛び込んだ。幼心に抱いたアイドルの憧れ、それを第一に考え、今ステージに立っています。
そこがすごい。だって、続ける事って凄く難しいから。
特に成果の出ないことほどやる気って出ないです。でも、理想のアイドルを思い、描き、体現するために彼女は頑張ってきたんです。
周りから見れば馬鹿にされるかもしれない、嘲られることもあるでしょう。それでも、理想を追い求める姿にボクはとても心惹かれるのです。
そりゃあ体も悪くします。ネタにはされていますが、彼女の小さな体には常人より多くの負担がかかるでしょう。だからこその節々の痛み。
ネタキャラに思えるかもしれませんが、視点を変えるだけで、彼女は恐ろしくアイドルに一途な女性へと変貌します。
好きであり続けることは難しい。それでもずっと目指してきたアイドルになれて、でもそれだけじゃ終わって欲しくない。
彼女の思いには他のアイドル以上に年季が入ってます。だからこそ応援したい。
いずれここに書き綴ったような菜々さんのすごさ、強さ、かっこよさを物語として紡ぎたいと思っていますが、選挙が終わるまでは難しいかもしれません。
でも総選挙一位、菜々さんがなるためには助力を惜しむつもりはありません。
近いうちにまた書くと思いますのでよろしくお願いします。
総選挙の一票は! 安部菜々に! 皆でハイッ! ウーサミンッ!
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