ヒルA「……」モゾモゾ
男「うげっ、ヒルだぜ! なんでこんなとこにいやがるんだ!」
女「きもちわるーい! シッシッ!」
少女「怖いよぉぉぉぉぉ!」
ヒルA「……」モゾモゾ
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ヒルA「うーん……」
ヒルB「どうしたんだよ?」
ヒルC「なんで落ち込んでるの?」
ヒルA「さっき町を散歩してたんだけど、そしたら人間たちから避けられまくったんだ」
ヒルA「俺があいつらに何かしたってわけでもないのに……」
ヒルA「どうして俺たちって人間から嫌われてるんだろう……」
ヒルB「うーん、そうだなぁ……」
ヒルB「まず、やっぱり見た目がキモイからじゃないか?」
ヒルA「見た目が?」
ヒルB「オレらってこのとおり、グニュグニュしてんじゃん?」
ヒルB「いかにもナメクジのパワーアップバージョンって感じだからな」
ヒルA「あいつらは貝だから、俺たちとは全然違うだろ」
ヒルB「細けぇことはいいんだよ」
ヒルB「オレ、自分の姿を水面で見て“うわ、キモ!”ってビックリすることあるもん!」
ヒルC「あるある! 夜中とか特に!」
アハハハ… ハハハ…
ヒルA「……」
ヒルC「それと……やっぱり血を吸うからじゃない?」
ヒルA「なんで血を吸うと嫌がられるの?」
ヒルC「そりゃ、自分の体液を吸われていい気分になる生き物はいないでしょ」
ヒルC「現に、同じく血を吸う蚊なんか、ボクらより人間の身近にいるせいか」
ヒルC「ボクらより遥かに嫌われてるしさ。病気も媒介するし」
ヒルB「見た目が気持ち悪くて、性質も害をなすなら、こりゃもうどうしようもないだろ!」
ヒルC「うん、ボクらが嫌われるのは必然だよね」
ヒルB「だから気にすることじゃねえんだよ! 今まで通りやってこうぜ!」
ヒルA「……」
ヒルA「でも俺……」
ヒルA「俺、やっぱり人間に嫌われたままじゃやだ! 人間に好かれたい!」
ヒルA「ヒルのイメージアップをしたい!」
ヒルB「つっても、オレらにできることなんて……」
ヒルC「吸血くらいしか……」
ヒルA「そう、それだよ!」
ヒルBC「へ?」
ヒルA「俺たちの特技、吸血を上手く生かせばいいんだよ!」
ヒルB「なにか考えがあるみたいだな」
ヒルC「ボクらも人間と友好関係を築くのは反対じゃないし、話に乗るよ」
ヒルA「ありがとう!」
ヒルA「さぁ、いらっしゃい! いらっしゃい!」
ヒルB「悪い血を吸ってやるぜ!」
ヒルC「そうすれば、体から悪い物質が出て、健康になりますよ~!」
ヒルA(俺たちにできることはせいぜい吸血ぐらい……)
ヒルA(だが、吸血は決して人に害をなすだけじゃない。やり方によっては人を健康にもできる!)
ヒルA(これを上手く生かせば……!)
青年「あのー……」
ヒルA「はい、いらっしゃい!」
青年「内出血したところが、痛んできて……吸ってもらえませんかね?」
ヒルA「分かりました! 吸い出します!」
ヒルA「……」チューチュー…
青年「おっ、おっ、おっ!」ビクビクッ
青年「おお……内出血がすっかりなくなって、痛みも消えた!」
青年「すごいや! どうもありがとう!」
ヒルA「いえいえ」
ヒルA「その代わりといってはなんですが、俺たちのことをもっと宣伝してもらえませんか?」
青年「分かった! 宣伝させてもらうよ!」
老人「ワシの膝に変な血が溜まってしまって……診てもらいたいんじゃが」
ヒルA「お任せを!」
子供「えぇ~ん! トゲを吸い出して~! 痛いよ~!」
ヒルB「すぐ済むから泣くんじゃねえ!」
サラリーマン「肩こりがひどくて……悪い血を吸って血行をよくしてもらえない?」
ヒルC「はいは~い!」
ヒルA「……」チューチュー…
ヒルB「……」チュウチュウ…
ヒルC「……」チュパッチュパッ
ワイワイ… ガヤガヤ…
ヒルC「ひえぇ~、お客さんがいっぱい!」
ヒルB「大盛況だな!」
ヒルA「でもどうして、ここまでうまくいったんだろう?」
ヒルA「いくら健康のためとはいえ、俺たちの見た目が気にならないのかな?」
ヒルB「きっと、この見た目がかえって“良薬口に苦し”のような効果をもたらしてるんだろ」
ヒルB「“ヒルに血を吸わせるのは気持ち悪いけど、でもその方が効きそう”的な」
ヒルC「なんとなく小汚い店の方が、キレイな店よりおいしい料理を出しそう理論だね!」
美女「あのぅ……」
美女「血を吸って欲しいんだけどぉ……」
ヒルA「吸います吸います!」
ヒルB「ぜひオレに!」
ヒルC「ボクにやらせて下さい!」
ヒルA「俺だ!」
ヒルB「いやオレだ!」
ヒルC「ボクだ!」
美女「あのぅ、早くぅ……」
ヒルABC「……」
ヒルABC「じゃ、全員で!」デヘッ
美女「えええええ!?」
ヒルA「……」チューチュー…
ヒルB「……」チュウチュウ…
ヒルC「……」チュパッチュパッ
美女「あぁぁぁんっ!」ビクビクッ
しかし――
ヒルA「あのさー、やっぱり吸い方はチューチュー吸った方がいいと思うんだけど」
ヒルB「いいや! チュウチュウだぜ! 大人気のピカチュウっぽいしな!」
ヒルC「チュパッチュパッが一番いいに決まってるさ!」
ヒルB「いやチュパッチュパッとかキモイから」
ヒルC「なんだって!? そっちこそなにがピカチュウだよ! 無理があるよ!」
ヒルB「無理じゃねえよ!」
ヒルA「二匹とも、落ち着けよ」
ヒルB「うるせえ!」
ヒルC「チューチュートレインのくせに!」
ヒルA「なんだとぉ~!?」
ギャーギャーッ!
ドタンバタン! ドタンバタン!
ヒルA「待て待て……喧嘩はやめよう。せっかくうまくいってるとこなのに」
ヒルB「そうだな……吸血性の違いで解散してる場合じゃねえな」
ヒルC「人間たちに認められるために、今が一番大事な時期だしね」
ヒルA「三匹力を合わせて、もっともっと人気者になろう! ヒルのイメージアップをしよう!」
ヒルBC「おう!!!」
やがて――
紳士「こんにちは」ニコニコ
ヒルA「はい、いらっしゃいませ」
紳士「わたくし、大手芸能プロダクションの者なのですが……」
ヒルA「げ、芸能プロダクション?」
紳士「吸血による治療を始め、さまざまな功績で、今やあなたがたの人気は絶大です」
紳士「ぜひ、お三方でグループを組んで、アイドルとしてデビューしてみませんか?」
ヒルA「はいっ! 喜んで!」
ヒルA「やったぁ! ついに俺たちもメジャーデビューだ!」
ヒルB「となればグループ名決めようぜ!」
ヒルC「かっこいいやつにしようね!」
ヒルA「やっぱりグループだから……『~ズ』って形にはしたいな。ビートルズみたいに」
ヒルB「それと、人気アイドルグループみたいにどこかに地名を入れたいところだ」
ヒルC「どうせ入れるなら、お洒落な地名がいいよね」
アーデモナイ… コーデモナイ…
……
……
―日本武道館―
ヒルA「イェーイ! みんなノッてるかーい! 吸われてるかーい!」
ワアァァァ……!
ヒルB「みんなのおかげでオレたち、ついに歌手デビューだ!」
ワアァァァ……!
ヒルC「精一杯頑張るから、みんな聴いてねー!」
ワアァァァ……!
ヒルA「盛り上がりすぎて、貧血になるなよーっ!!!」
ワアァァァァァ……!
ヒルA「それじゃ、聴いてくれ!」
ヒルA「俺たち≪六本木ヒルズ≫のデビュー曲――」
ヒルA「『ヒルなんです』!!!」
ワアァッ!!!
その後、≪六本木ヒルズ≫は、『ヒルご飯』『ニヒルな3ヒル』『静かなるヒル』と次々新曲を発表し、
いすれも大ヒットしたという――
おわり
以上で終わりです
ありがとうございました
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