ルビィ「──気の引ける誕生日。」 (20)

ラブライブ!サンシャイン!!SS

ルビィ誕生日のお話です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1505918912

私、黒澤ルビィはお姉ちゃん──ダイヤお姉ちゃんが大好きです。

お姉ちゃんは、おっちょこちょいでちんちくりんなルビィと違って、いっつも背筋を伸ばしてキリっとしていて。

元網元である黒澤家の跡継ぎに相応しくて、ルビィにはよくわかんない行事とか会合にも顔を出していて。

更に学校では生徒会長もやっています。

昔から、皆に頼られている、もちろんルビィも頼りにしている、誰よりもかっこいい自慢のお姉ちゃんなんだぁ。

だからね、出来ないルビィもルビィなりに思うところがあって……。





    *    *    *





花丸「ルビィちゃん、明後日のことなんだけど……」


梨子ちゃんのお誕生会の帰り道、花丸ちゃんが声を掛けてきた。


ルビィ「明後日?」

花丸「えーっと……その」


明後日って何かあったっけ……? えーっと……


ルビィ「あ」


そっか、明後日って


ルビィ「明後日は……ルビィも何かしようかな」

花丸「え?」

ルビィ「だって、お姉ちゃんだって、この日は毎年忙しそうにしてるし……」

花丸「い、いや、そうじゃなくてね」

ルビィ「うぅん、いいの、花丸ちゃん」


我が家では


ルビィ「──そういうものだから。」





    *    *    *





網元──昔、漁師町には漁師さんたちの道具を管理する、漁師さんたちの……元締め? リーダーみたいなお家がありました。

それが網元です。

今でこそルビィのお家の前には駐車場があったり、観光案内所があったりするけど、本当に網元さんが漁師さんたちを取り仕切っていた時代には、ここ内浦では

このお家──黒澤家から、皆で地引網を持って漁に繰り出していたそうです。

えーっと……前お姉ちゃんから聞いたんだけど……朱印状?

たぶん、そんな感じの賞状……なのかな? 徳川幕府からのお墨付きでここ漁師町を任されていた、貴族……? あ、日本だと豪族……だっけ?

って言われるほど、すごい家系みたいで。

その名残で網元制度がなくなった今でも、大きな影響力を持ったお家の一つとして、ここ内浦を取り仕切っています。

そういう歴史を踏まえた上で、子供の頃からお姉ちゃんから言われてきたこと


ダイヤ『黒澤の娘たるもの、いつも毅然と振舞うのですよ、ルビィ』


毅然と振舞う……って言われてもピンと来ないけど、要はお姉ちゃんみたいにしっかりしていなさいってことだよね。

だから、ルビィは尊敬するお姉ちゃんに追いつこうといつも必死です。……必死にやっても、要領の悪いルビィには全然追いつけそうにないんだけど。

でも、だからこそ、ルビィに出来る範囲のことはちゃんとやらなきゃって思うんだ。

お姉ちゃんにばっかり、大変な思いさせて、ルビィだけが楽しいのは……ちょっと気が引けちゃう。

だから、毎年、この日は……ルビィは何かを頑張ろうとするんだ。




    *    *    *





善子「……」


自宅に帰ってから、シャワーを浴びて、自室に戻るとスマホの履歴に見慣れない着信履歴が大量にあった。

──いや、見慣れないってのは少し語弊があるんだけど……


善子「ついに近代化の波がここまで……? いや、これは罠と見た方が……」


私がそんなことを呟きながら携帯の画面をスクロールしていると

その着信履歴と同じ発信先が表示されると共に、好きなロックバンドのデスボイスが耳を劈いた。


善子「──!?!!? うっさいわよ!!?」


自分で設定した着信音に逆ギレしながら、電話に出る。


花丸『ずらー?! ご、ごめんなさい!?』


すると開幕、発信先のずら丸から謝罪された。


善子「何よ今さっき会ってたのに、この着信履歴……。ヤンデレにでも目覚めたの?」

花丸『やんでれ……?』

善子「……なんでもない。……それでどうしたのよ? あんたが自分から電話掛けてくるなんて、珍しいじゃない」

花丸『あ、うん……えっと、らいん? ってやつでいつも善子ちゃんがやってるみたいに、皆でお話するやつがよくわからなくて……』

善子「……? 普通にAqoursのグループ画面に無料通話って──」


言いかけて思い出す。そういえばずら丸の携帯ガラケーだった。


善子「あんたの携帯じゃ出来ないわ」

花丸『え!? そ、そこをなんとかお願いずら!!』

善子「いや、私に言われても困るんだけど……。何か皆と相談したいことでもあるの?」

花丸『あ、うん……えっとね。誕生日会の相談なんだけど……』


ずら丸の言葉に私は顔を顰めた。


善子「誕生日会って今終わったところじゃないの」

花丸『あ、いや……梨子さんの誕生日会の話じゃなくてね』

善子「……? じゃあ、誰のよ」

花丸『えっと、ルビィちゃんの』

善子「いつ?」

花丸『明後日』

善子「……」

花丸『……』

善子「……は?」


ルビィ、アサッテ、タンジョウビ

そんなカタコトな単語が脳内を流れていく。


善子「……ルビィアサッテタンジョウビ?」


というか思わず、そのままカタコトで電話口に問い掛けてしまった。


花丸『うん』

善子「……初めて聞いたんだけど」

花丸『マルも善子ちゃんに言ったのは初めてだよ』

善子「……」

花丸『……?』

善子「ずら丸」

花丸『なに?』

善子「──どうして、そういうこともっと早くに言わないのよっっっ!!!!!」


思わず電話に向かって叫んでしまった。


花丸『ずらぁっ!!? ご、ごめんなさいっ!!?』

善子「って言うか、そんなに直近なら今日一緒に祝えばよかったじゃない!? Aqoursのメンバー誰も知らなかったの!?」

花丸『あ、えっとね……相談したかったのは、そのことで……』

善子「……そのこと? どういう意味よ」

花丸『……あのね──』


私はここでずら丸が言った言葉に耳を疑った。


花丸『──マル、ルビィちゃんのお誕生日……お祝いできたことないんだ。』





    *    *    *





私はさっきまでしていた、ずら丸との通話を反芻しながら、考える。

あのずら丸がルビィの誕生日を祝ったことがない。

そんなシチュエーション、逆に考えたことがなかった。

……というか。


善子「何で誰も知らないのよ?」


自分で言っていて、それが疑問だった。

そもそも、スクールが頭に付くとは言え私たちはアイドルなのだ。

誕生日くらいプロフィールに書くし、そのプロフィールもスクールが頭に付くからこそ自分たちで作る。

もちろんAqoursにも公式プロフィールというものが存在するし、それに関するHP上での大半の作業をやっているのは他でもない私だ。


善子「……そういえば、プロフィールのページって大半はルビィが編集してたっけ」


あとはマリーも自分のページは自分で更新してたけど……

なんか、ダイヤに注意されて、直されてたっけ。


善子「……ああ、思い出した」


私がPV編集作業に追われてるときに


────────
──────
────
──


ルビィ『善子ちゃん、手伝えることってある?』

善子『え? あーうん、ルビィってパソコン結構使えるわよね』

ルビィ『あ、うん、たぶん』

善子『なら、AqoursのHPの編集とか出来る? ある程度はもうヨハネのプロフィールでテンプレート組んであるから……それ真似て出来る?』

ルビィ『うん、わかった! やってみる』


──
────
──────
────────


善子「なんか、その流れでHP作るのは任せちゃったんだっけ……」


カチカチとPCをいじりながら、Aqoursのルビィのプロフィールページを開く。

……確かに誕生日欄には9月21日。明後日の日付が書いてあった。


善子「確認は……したけど、徹夜でPV仕上げてほぼ死に体だったから、最終確認はダイヤにお願いしたような……」


どうせ、一番最後に文句付けてくるのもダイヤだし……。

そんなことを考えていたら、LINEの通話が飛んで来た。

Aqoursからガラケー組をマイナスしたメンバーLINEからだ。


善子「はい、こちらヨハネ」

千歌『あ、善子ちゃん?』

善子「ヨハネ」

花丸『あ、善子ちゃん、聞こえてるー?』

善子「……」

果南『緊急会議って何?』

鞠莉『今日はもう、マリー疲れちゃったんだけど……』

曜『鞠莉ちゃん、結構はしゃいでたもんね……』

梨子『大事な用事……なのかな? 花丸ちゃんがそこにいるし』

千歌『あ、梨子ちゃん手振ってる! おーい!』

花丸『電話しながら手を振るなんて未来ずらー!』

果南『どっちかというと未来感、減ってるような……』


とりあえず、さっきのずら丸との通話をしているときに、一番近くの会議通話が使える人の家に行ってもらった方が早いと思って、千歌の家に向かって貰った。

千歌に簡単な事情は私から予め話しておいたから、千歌の家にずら丸が今さっき到着したから、通話がかかってきたのだろう。


鞠莉『それで? なんの用事かしら』

善子「ああ、えっと……ルビィの誕生日って、誰か知ってる?」

果南『えーっと……あ、言われてみれば明後日じゃん』

梨子『え!? ルビィちゃんと私ってそんなに誕生日近かったの?』

千歌『私はさっき善子ちゃんから聞いたんだけど……そうらしいね』

曜『……私も初耳かな』

鞠莉『ははーん……なんとなーく話が見えてきたかな……』


どうやらこの口振りからすると、果南とマリーは知っていたらしい。


善子「単刀直入に言うと、ルビィのお祝いをしたいみたいなんだけど……ずら丸が」


なんとなく、自分もと言うのは恥ずかしかったのでずら丸に擦り付けておく。


鞠莉『なるほどねぇー……』

果南『黒澤家はちょっと特殊なんだよね……』

曜『特殊?』

千歌『すぺしゃる!』

鞠莉『No! 発音が違いマース! Specialよ!』

梨子『話戻して貰っていいかな……?』


リリーがツッコミを入れる。いちいち、脱線しないと喋れないのかしら?


善子「何が特殊なの?」

鞠莉『そもそもダイヤもなんだけど……あの家は誕生日にお祝いする習慣がないのよ』

曜『……そんな家あるの?』


ある意味、一般家庭の曜らしい反応。反面千歌は


千歌『あーまあ……大々的にお祝いは出来ない家とかはあるよね』


そう言って言葉を濁している。


果南『千歌の家なんかはまさしくそうだしね。丁度繁忙期にぶつかるし。』

千歌『うん。おめでとうくらいは言ってくれるけどね。』

果南『私も鞠莉が来るまではお祝いこそしてもらっても、パーティみたいなことはなかったかな。島暮らしで他に友達も住んでなかったし。』


なるほど。誕生日に祝うと言っても家庭によって、それぞれ違う。

言われてみれば確かにそりゃそうか、とも思う。


花丸『その中でも黒澤家は特に異質ずら……』

梨子『異質って……どれくらい?』

鞠莉『そもそも誕生日がメデタイことだって、知らなかったレベルよ』

善子「……は?」


思わず、ポカンとする。


果南『……まあ、善子の反応は正常だと思う』

花丸『むしろ、ダイヤさんに関してはかなり忙しいタイミングだから……』

善子「……ちなみにダイヤの誕生日っていつなの?」

鞠莉『1月1日よ』

曜『元日じゃん!』

千歌『ダイヤさんの元日……絶対忙しい……』

鞠莉『家庭のホーシン? ……みたいなのもあるんだろうけど、そのせいでVery Hardな日ってイメージがダイヤの中で強いみたいなのよね……』

果南『最近になってようやく、世間とのズレがわかってきたみたいで、他の人のお祝いとかは真面目に祝ってくれるようになったんだけど……』

梨子『……あれ? じゃあ、ダイヤさんのお誕生日も』

果南『まあ、お祝いらしいお祝いをしてあげられたことはないかな。どっちにしろ三箇日どころか、冬休み中はほとんど時間取れないし、メールするくらいだよ』

善子「参考までに、ダイヤはそのメールにどんな反応してくるの?」

果南『ありがとうございます。ってメールが返って来る』


……うわ、ダイヤっぽい。


鞠莉『わたしがいない間もダイヤ、そんな感じだったのね』

果南『どこかの誰かのお陰で自然と話す機会もなかったしね』

鞠莉『む……それはその……Sorry...』

果南『冗談だって』

鞠莉『もう! 果南!』


とにかく、状況はわかった。

……あれ? でも


善子「なら、普通に祝えばよくない?」

千歌『……どゆこと?』

曜『いや、私もそう思ったかな。家の方針はどうあれ、誕生日のお祝いは普通にしてくれるってことは、世間一般では誕生日はめでたいことだって言うのは今はわかってるんでしょ?』

梨子『……千歌ちゃん、花丸ちゃん、どうしたの?』


リリーが突然、千歌と花丸を名指しする。……ああ、そういえばベランダ越しに見てるんだっけ。


花丸『特殊なお家だと、それがためらわれる気持ちはわからなくもないずら……』

千歌『めでたいなーって思っても、祝われて嬉しいなーって思っても、家族が忙しそうにしてるとなんか申し訳なくなっちゃうんだよね……』


二人して、そんな心中を吐露する。頭でも抱えながら言ってたのかしら?


曜『……そういうものなのかな』

鞠莉『さぁ? マリーは毎年パパがダイダイテキにお祝いしてくれるし♪』

善子「スケールでかそうね……」


客船貸しきってパーティとかしてそう……。


善子「……ちょっと待って、これ話まとめるとルビィは別に誕生日にお祝いされたくないってだけじゃないの?」

千歌『いや、そういう家の子でも、お祝いしてもらったら普通に嬉しいよ?』

果南『ダイヤも別にお祝いされたくないみたいじゃないしね。前に聞いたら、時間があるならやってくれたら嬉しいとは思う、って言ってたよ』

鞠莉『へぇー……あのダイヤが……。人間変われば変わるものね。』

善子「いや、だからそれなら普通にお祝いすればいいじゃない」

花丸『問題はそこずら!』

善子「……どこ?」


全く話が見えない。


花丸『問題は……ルビィちゃん自身が、誕生日にお祝いされちゃいけないって思ってることなんだよ……』


……なるほど。

やっとピンと来た。


梨子『ダイヤさんが毎年誕生日は忙しく動き回ってるのに、自分だけ祝われるのはよくないって思ってるってこと?』


リリーが代弁してくれた。


曜『でも、内心誕生日にお祝いして貰える人を羨ましいと思ってるんじゃないか……と』

善子「……まあ、確かにルビィは自分からそういうこと言い出せないタイプかもしれないわね。」

花丸『マルの目から見たらだけど……そうなのかなって……。今日のパーティもルビィちゃん少し羨ましそうだった。』

梨子『こんなに直近だったら……尚更かもね。……悪いことしちゃったかな。』

善子「リリーの問題じゃなくて、ルビィの問題だから、リリーが気にすることじゃないわよ」

梨子『よっちゃん……ありがと』

善子「べ、別に……事実を言っただけだし……」


ただ、自分で言ったとおり、これはルビィの問題だ。ルビィの気持ちの問題。

周りがどうこう出来る話なんだろうか?


花丸『……マルはお祝いしてあげたい。マルの我侭なのかもしれないけど……』

千歌『花丸ちゃん……』

花丸『ルビィちゃんは自分のこと過小評価しすぎだよ……。ダイヤさんがお祝い出来ないから、ルビィちゃんはお祝いされちゃいけないなんて、変だと思う。』

鞠莉『まあ、確かにちょっと極端よねぇ……』


状況を整理してみる。

・ダイヤとルビィは祝われることに慣れていない。

・ダイヤとルビィは祝われたいとは思っている。

・現実的な忙しさの問題でダイヤが祝えないため、ルビィは祝われるのが後ろめたい。

・でも、私たちは出来ることならルビィをお祝いしたい。


曜『ねぇ、一つ思ったんだけどさ』


一人、頭の中で状況を整理していたが、曜の声に思考を引き戻された。


善子「なにかしら?」

曜『ルビィちゃんの性格だと、パーティをするよって予め言ったら、絶対構えちゃうからさ。その場に引きずり込んじゃった方がいいんじゃないの?』

梨子『あはは、引きずり込むって……』

千歌『あ、でも、私もそう思うかな。ルビィちゃん推しに弱いから、引きずりこんじゃえば、そのままパーティ楽しんでくれると思うよ。』


なるほど……一理あるかもしれない。


花丸『でも、問題はそのあとずら……』

果南『ダイヤのことが解決しない以上……ルビィの性格だったら、楽しんじゃったことを後悔するよね』

善子「めんどくさい姉妹ね……」


思わず頭を抱える。

…………。

……あれ?


善子「ちょっと待って、それって……」

花丸『……どれずら?』

善子「……ルビィが後ろめたく思う必要がなくなればいいのよね」

梨子『そういうことになるのかな……?』

善子「なら、いい方法があるじゃない!」

花丸『いい方法? あるずら?』

善子「ええ、最良の方法よ」


全く、考えてみれば最初から解決方法はこれだったわ。

ルビィをお祝いしたい人は私たちだけじゃない。

いや、私たちよりも、もっとルビィが生まれてきたことを祝福したいはずの人がいるじゃない……!!





    *    *    *





9月21日。今日はルビィのお誕生日です。

今朝もお姉ちゃんは生徒会のお仕事で朝早く登校していきました。

結局、あれからずっと考えてはいたんだけど……特別何をすればいいのかも思いつかなかったから、どうしようかな……。


花丸「ルビィちゃん。今日何するか決まった?」


そんな風に考え事をしてたら、ルビィの席まで花丸ちゃんが話しかけに来てくれました。


ルビィ「あ、うぅん……どうしよっかなって考えてたところ」

花丸「なら、放課後、図書委員の仕事手伝ってもらえないかな? ちょっと、お仕事が溜まっちゃってて……」


花丸ちゃんがそう提案してくる。


ルビィ「ホント? なら、手伝いに行くね!」

花丸「うん、ありがとう。ルビィちゃん」


どうにか、お仕事が貰えました。これで後ろめたい気持ちになることはなさそう……。





    *    *    *





放課後。花丸ちゃんに付いて行って、図書室でお片付けの手伝い。


ルビィ「花丸ちゃん、この本って……」

花丸「あ、それはあそこの棚だよ」


花丸ちゃんが指差して教えてくれる。


ルビィ「あ、ホントだ! ありがと、花丸ちゃん!」


……ルビィは本を棚に戻す係をやってるんだけど……。

さっきからルビィ、聞いてばっかでむしろ花丸ちゃん一人の方が早いんじゃないかなと……ちょっと思ったり。

……でもでも! 手伝うって言った以上精一杯頑張らないと……!

二人で片付けをしてると、突然ガラガラ──と、図書室の引き戸が開け放たれました。


善子「リトルデーモンたち……付いてきなさい。」


善子ちゃんでした。


ルビィ「あ、善子ちゃん──」

善子「ヨハネよ」

ルビィ「ぇっと……ヨハネちゃん。ルビィたち、今図書委員のお仕事してて……」

花丸「いや、大丈夫だよ。もう終わったから」

ルビィ「え?」


花丸ちゃんはそう言って受付から立ち上がる。


花丸「さっきルビィちゃんが持って行ってくれた本で最後だったよ」

ルビィ「ホントに?」

花丸「うん。助かったずら」

善子「わかったら、早く付いて来なさいリトルデーモンたち」


善子ちゃ……ヨハネちゃんに促されて


花丸「ルビィちゃん、いこ」

ルビィ「え、どこに?」

花丸「部室」

ルビィ「あ、うん」


ルビィたちは図書室を後にしました。





    *    *    *





部室に行くために体育館を通るんだけど……


ルビィ「……?」


部室は何故かカーテンに覆われていました。


ルビィ「部室……何かあったの?」

善子「いいから、リトルデーモンは黙って付いてくればいいのよ」

ルビィ「ええ……花丸ちゃん」

花丸「まあ、どっちにしろ目的地は部室だし。いいんじゃないかな」


そう言って花丸ちゃんがルビィの背中を押して……ヨハネちゃんと花丸ちゃんに挟まれたような状態で部室に向かっています。

ヨハネちゃんが部室のドアの前で止まって。


善子「……」


ルビィの方をちらっと見ました。


ルビィ「……?」

善子「さーん!!!!」

ルビィ「ピギィ!?」


突然、ヨハネちゃんが大声を出すのでびっくりしてルビィは飛び上がる。


善子「にー!!!!」

ルビィ「え、なに!? なに!?」


突然始まったカウントダウンに動揺する。

──と、思ったら後ろからガシっと肩を掴まれた


ルビィ「ピギィッ!!」

花丸「ルビィちゃんごめんねっ!」

善子「いーっち!!!!」


善子ちゃんの一の掛け声と共に身体が前に押し出される。

花丸ちゃんに背中を押されたんだと気付いたときにはバランスを崩して、前につんのめっていて


善子「ゼローーー!!!!」


最後の掛け声と共にヨハネちゃんが引き戸を開けて

ルビィは室内に放り込まれる。そして──

──ぽふ……何か柔らかい感触に、抱きとめられた。

パーーーン──パーーーン──


ルビィ「……!?」


破裂音と共に紙テープがひらひらと舞っている。


「「「ルビィ(ちゃん)、お誕生日おめでとうーーーー!!!」」」


そんな声に包まれた。


ルビィ「ふぇ……? ぇ……?」


ルビィは困惑しながら、自分を抱きとめた人の顔を見上げました。


ダイヤ「ルビィ。おめでとう。」

ルビィ「お姉ちゃん……」


部室を見回すと……ルビィちゃんお誕生会の文字。

──ルビィのお誕生日会……?

ルビィは反射的に振り返って逃げようとしたんだけど……


善子「あんたのための会よ? 逃げるんじゃないわよ」

花丸「そうずら」


善子ちゃんと花丸ちゃんが入ってきて、後ろ手で扉を閉めてしまった。


ダイヤ「第一、どうして逃げる必要がありますの?」


そういって、お姉ちゃんに後ろから抱きしめられました。


ルビィ「ぇ……だって、ルビィ……お誕生日は……お姉ちゃん」


頭の中が混乱して、うまく言葉が出てこない。

でも、お姉ちゃん優しく微笑みながら


ダイヤ「わたくしが誕生日に忙しくて祝えないから……自分も祝われちゃいけないだなんて、そんなこと考えていたのですわね。」


ぎゅっとさっきよりも強く抱きしめて、そう言いました。


ダイヤ「ごめんなさい……不器用なお姉ちゃんで。……いっつも、ルビィにばっかりいっぱい悩ませて……」

ルビィ「お姉ちゃん……?」

ダイヤ「どうやってお祝いしてあげればいいのか、わたくし自身もよくわかってなくて……でもね、ルビィ。」


お姉ちゃんが今、世界で一番、誰よりも優しい顔をしている。顔は見えなかったけど、そう、思いました。


ダイヤ「貴方が生まれてきてくれて……いつも、わたくしの傍に居てくれて、本当に感謝してる。大好きで大切なたった一人の自慢の妹なのよ。」

ルビィ「お姉ちゃん……」

ダイヤ「祝われてはいけないだなんて……こんなおめでたい日に、そんな寂しいこと考えなくていいのよ。」

ルビィ「……ぅん」

ダイヤ「あの日、産まれて来たばっかりの赤ん坊だった貴方の手を握ったときから──ずっと、ずっと貴方はわたくしにとって大切な、大切な妹なんだから……っ」


ルビィを抱きすくめるお姉ちゃんの手にルビィはそっと自分の手を重ねた。その手は少し、ひんやりとしていた。

昔から知ってるお姉ちゃんの温度だった。


ダイヤ「ルビィ……誕生日、おめでとう──」





    *    *    *





曜さんの言ったとおり、始まってしまえばルビィちゃんもこの会にすぐに馴染んで

今では楽しそうに皆とおしゃべりしながら、ケーキを食べている。


ルビィ「おいしいっ!」

千歌「ケーキは2年生担当だよ! みかんケーキ!」

果南「え、千歌も作ったの?」

曜「千歌ちゃんはほとんど飾りつけ要員であります! 心配しなくても大丈夫だよ!」

千歌「えー!? ちょっと二人とも酷いよー!!」

梨子「あはは……あ、でもケーキのスポンジとか、みかんクリームとか私たちじゃ作れないものを松月さんに貰いにいってくれたの千歌ちゃんだし!」

千歌「パシリじゃん!!」

ルビィ「あははっ でも、このケーキホントにおいしいよ!」


千歌さん弄りの中、一方で


鞠莉「さっきダイヤったら、ちょっと泣いてなかった~?」

ダイヤ「な、泣いてなどいませんわ!」

鞠莉「そう~? 声震えてたよ~? 大切な……妹なんだからっ」

ダイヤ「ま~り~さ~ん~?」


ダイヤさんと鞠莉さんがコントを始めていて、なんだかんだいつも通り。


善子「結局のところ……皆、考えすぎなのよ」

花丸「あはは、ごめんなさい……」

善子「ま、別にいいけど……」


そう言って善子ちゃんはそっぽを向く。

そんな善子ちゃんに、マルは


花丸「ありがとね、マルの我侭聞いてくれて」


そうお礼を言った。


善子「……別にいいって言ってるでしょ」

花丸「うん。えへへ、善子ちゃんに相談してよかった」

善子「……/// そう思うなら、あんたもルビィのとこ行って一緒に笑ってなさい……///」

花丸「うんっ」


そうぶっきらぼうに言う善子ちゃんを見て、マルもルビィちゃんもいい友達を持ったな……改めてそう思いました。





    *    *    *





お誕生会を終えて、皆で片付けをしてる最中、さっきお姉ちゃんがしてくれた話を思い出し


ルビィ「……お姉ちゃんはルビィが生まれたときから、お姉ちゃんだったんだなぁ……」


そうぼんやりと呟く


花丸「……これからもずっと、ダイヤさんはルビィちゃんのお姉ちゃんずら。」


と、後ろから花丸ちゃんが声を掛けてくる。


ルビィ「……ルビィね、自分はお姉ちゃんの足手まといになってるんじゃないかって、ずっと思ってたんだけど……。お姉ちゃん、ルビィのことあんなに大切に思っててくれてたんだね。」

花丸「そうだね……。やっぱり、姉妹って特別なんだなって思ったよ。マルは姉妹がいないからちょっぴり羨ましかったな」

ルビィ「えへへ……ちょっぴり、恥ずかしいけど……。うん、特別だよ。」

花丸「ふふ、ルビィちゃんなんか嬉しそうだね」

ルビィ「うん! 花丸ちゃんがこの会開いてくれたからだよ。ありがとう、花丸ちゃん!」

花丸「……うぅん、マルがしたことなんてホント些細なことで……ほとんど善子ちゃんにやってもらったようなもので……」

ルビィ「うぅん……マルちゃんが皆に相談してくれたから、お姉ちゃんのことも皆のことも……ルビィ自身のこともいっぱいわかった気がするから、だからありがとう──」


9月21日──私、黒澤ルビィの誕生日──引っ込み思案なルビィの前でいつも胸張っている、かっこいいお姉ちゃん。

そんなお姉ちゃんの手前、自分だけが祝われることに気が引けていたけど……

お姉ちゃんも、皆も……ルビィのことを大事にしてくれる人がたくさんいるから。

そんな皆の気持ちも大切に出来る、立派な人間になれるように、一歩ずつでもいいからルビィなりにルビィらしく、自分のことも好きになっていけたらいいなって、そう思いました。




<終>

終わりです。

お目汚し失礼しました。


改めて、ルビィちゃん誕生日おめでとう!

また何か書きたくなったら来ます。よしなに。


こちら過去作です。よろしければ。


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