男「嫌じゃ!!わしは絶対にやらんぞ!」 (25)
息子「そう言うなよ父さん。抵抗あるのはわかるけど、これすげえ便利なんだぜ?」
嫁「そうよ。私達はお父さんのためを思って…」
男「嫌じゃ!!絶対にやらん!!お前たちが何をするのも好きにすればいいと思うが、それをわしに押し付けてくれるな!」
息子「今のままだったら、こうやって連絡取り合うの一つすらも面倒なんだよ、わかってくれ」
男「なら、もううちには来んでええわいっ!」
息子「な…」
嫁「お父さん…」
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男「母さんもそう思うじゃろ!?」
女「そうねえ」
息子「母さん。お父さんに何か言ってやってよ。このままじゃ埒が明かない」
女「私は別に今のままでも不便はしてないねえ」
嫁「でも、これから病気とか、寝たきりとかになったら…」
男「ハンっ!自分の面倒くらい自分で見るわい!」
息子「……もういいよ、父さん。そこまで言うなら俺はもう何も言わない」
嫁「ちょっと、あなた」
男「好きにしろ!今日はもう帰れ!」
息子「ああ、そうさせてもらうよ」
嫁「ああもう、どうしてこう……お邪魔しました」
女「うふふ、またね~」
~~
嫁「もう、良かったの?たまの機会なのに…」
息子「……だってなぁ。こっちはあの人のためを思って言ってやってんのに」
嫁「仕方ないわよ。昔の人だから、やっぱりまだ抵抗があるんじゃない?」
息子「はっ、いつまでも生身の体にしがみついて、馬鹿らしいな」
嫁「そういう事言わないの。あっ、あなた、バッテリー切れそうになってるわよ」
息子「え、マジで!?うわ、ちょっと興奮しすぎたかな…」
嫁「急いで帰りましょ」ガション!!!
息子「おお、悪いな」
嫁「ロケットブースト、オン」
ゴオオオオオオオオオオッ
~~
男「…………」
女「機嫌悪そうですね、お父さん」
男「……ったく、母さんが命を削って産み落としてくれた体を、あんなものにしおって…」
女「あら、私はいいんですよ。体なんてどうなったって、ただ元気でいてくれれば」
男「いや、そうは言ってもだな……」
女「お隣の山田さんも受けたそうですね、サイボーグ手術。なんでも、脳内にコンピュータを埋め込むとかなんとか……」
男「……聞いただけでもおぞましいな」
女「でも、認知症予防やガン治療にはうってつけらしいですよ?」
男「……まさか、母さんもそういったものに興味があるのか?」
女「興味がない、といえば嘘になりますね」
男「!?だ、ダメだ!!お前があんなメカメカしいみためになるなど……!」
女「安心してください、自分がやってみようとは思いませんよ」
男「……!ほ、そうか……」
女「ですが……こういうことが当たり前の世の中になったのは、少し感慨深いところがあります」
男「感慨、か。わしは嫌悪感しか生まれないがな」
女「小説の中でしか見たことのないような世界が、目の前に広がっている。きっとこれって、私たちの世代しか体験できない貴重な経験だと思うんですよ」
男「……そういうものか」
~~
コォォォォ…
嫁「家に着いたわよ」
息子「サンキュ。じゃあちょっくら充電してくるわ」
嫁「私は夕飯の買い物に行ってくるわね」
息子「今日のご飯は何?」
嫁「オムライスよ」
息子「いいねえ。楽しみにしてるよ」
嫁「はいはい、待っててね」
息子「うん、やっぱりお前の作る料理は美味いな」
嫁「えへへ、ありがと。といっても、脳内レシピが私の手を動かしてるだけなんだけどね」
息子「おいおい、そういうこと言うなよ。こういうのは雰囲気が大事なんだ」
嫁「雰囲気、ね。ところで、前言ってたお料理ロボット、最新バージョンが出たらしいんだけど…」
息子「……欲しいの?」
嫁「そりゃ、そっちの方が楽だし……」
息子「……んー。そりゃ、お前に苦労をかけるのは本意じゃないけどさ……」
嫁「子供時代の思い出が忘れられないんでしょ?」
息子「!」
嫁「お父さんもそうなんだと思う」
息子「………」
嫁「時代って移り変わっていくものだし、それに付いていくことは重要だと思うんだけど、でもやっぱりそれぞれに譲れないものはあって、それは安易に否定しちゃダメだって思うのよね」
息子「……そうだな」
嫁「お父さんやお母さんが手術を受けてくれたら、一日中SNSで繋がってられるし、便利なこともたくさんあるのはそうなんだけど……」
息子「わかったよ。…今回は俺が悪かったな、親父の気持ちをわかってやれてなかった」
嫁「うん、今度会ったらちゃんと謝ろう」
息子「ああ。……まぁ、これから暫く忙しくなりそうだけど」
~~
女「お父さん、お父さん。あの子の新刊出てますよ」
男「……フン、それがどうした」
女「あら、読まないんですか?せっかくあの子が一生懸命書いたのに……」
男「今の時勢、人間に残された仕事なんざ娯楽作品くらいだ。どんな作品でも、とりあえず書けば出版されてしまうんだろう」
女「そんなことないと思いますよ。ロボットの制作、管理、政治……この辺りはまだまだ人間の領分と聞きますし。嫁さんも、確か家庭用ロボの開発に携わっていると聞きます」
男「どちらにせよ、奴の書いた低俗な漫画など読む気もせんわ」
女「とかいいながらこれまで十数巻読破してきたじゃないですか」
男「うるさい!読みたきゃ1人で読んでろ!」
女「あら、怖い怖い」
男「………まったく」
息子『ぱぱ!ゲームやろ、ゲーム!』
息子『父さん、見て見て!通知表オール4以上!』
息子『親父、俺、彼女出来たんだ』
男「……あの頃は良かったのにな」
ガシャーーーンッ
男『おい!!その腕どういうことだァ!』
息子『……??は、何……?なんでキレてんの?』
男『その腕はどういうことだと聞いている!!』
息子『え、ああ、これ?知らないの父さん。今話題のサイボーグ手術って奴だぜ』
男『……は?さ、さい……?』
息子『簡潔に説明するなら、体に機械を組み込んで、日常生活を楽にするっていう―――』
男『このバカ息子がァァァーーーっ!!』
息子『う、うわっ!?』
男『母さんから譲り受けた体をっ……そんなふうにしてしまいおって!!』
息子『だから、なんでそんなに怒ってんだよ!?みんなやってることだぞ!?』
男『知るかぁぁーーーっ!俺はお前をそんなふうに育てた覚えはない!!』
息子『……なんだよ、それ!』
男「………」
男「…時の流れというのは、残酷なものだ」
男「こんな時代を、一体誰が望んでいたというんだろう」
男「人は皆自分を捨て、機械に依存し、日常の全てを人ならざるものに支配されながら暮らしている……」
男「………」
男「……いや」
男「それは、わしが産まれた時代から同じことか」
ガチャリ
男「!」
男「なんだ、母さんか?悪いが、わしはあいつの本は…」
息子「こんばんは、父さん」
男「………息子」
息子「ごめんね、こんな夜分遅くに」
男「……もう来ないでいいと言ったはずだが」
息子「そういうわけにもいかないよ。親子なんだし」
男「………ふん」
息子「仕事にちょっと空きが出来たからさ。この機会を逃したら、本当に次会えるのが先になりそうだったから…」
男「ええい、ごたくはいい。用件だけ言って帰れ」
息子「……そうだね。ごめん」
息子「実は、この前のこと謝りたくて」
男「……?」
息子「俺は、父さんとは違ってあんまり生身の体というものに価値を見出してない。制約が多いし、動かすとすぐ疲れるし、すぐ壊れちゃうし…」
男「……何を言いたい」
息子「でも、父さんにとってはそうじゃないんだよね。うまく説明できないけど……父さんにとって自分の体というのは、失いたくないものなんだよね」
男「………」
息子「俺、それを全然理解できてなくて……ついあんな口調になっちゃってさ。『こいつは何を頑固になってるんだろう』って」
男「………ふん」
息子「だから、それを謝りたい。もう無理に手術を受けろなんて言わないから」
息子「ごめんなさい、父さん」
男「…………」
男「……用事は済んだか?」
息子「!」
男「なら、帰れ」
息子「……うん、そうするよ」
男「………」
息子「じゃあまた、父さん……元気で」
男「……ああ」
息子「………ロケットブースト、オン」
男「………息子」
息子「?」
男「漫画、頑張れよ」
息子「………」
息子「ああ!」
バヒュゥゥゥゥン
~~
男「……」
女「これで18巻読破ですね、お父さん」
男「うるさい、黙れ」
女「まったく、素直じゃないんですから」
男「………ふん」
女「そうそう、山田さんからお話を伺ったんですがね?」
男「………」
女「脳にコンピュータを埋め込むと言っても、ちょっと電磁気を頭に当てる程度で、手術なんて大それたものではないらしいですよ」
男「………」
女「けどそれだけで、パソコンやスマホを使わず、いつでもどこでもインターネットに繋げられるというんだから凄いですよね」
男「………」
女「そうなれば、あの子たちとも毎日お話できるようになるでしょうね」
男「……………」
男「…………母さんは」
女「?」
男「母さんは、どうしてもそれをやってみたいのか?」
女「………」
女「はい。頭を開かないのなら、別にやってみてもいいかな、と」
男「そうか、なら仕方ないな」
女「はい?」
男「母さん1人では心細かろう。わしも付き合ってやる」
女「……まったく、本当に素直じゃない人」
こうして世界は人工知能に支配された。
end
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