【ガルパン】×【古畑任三郎】 二重包囲 (55)

古畑『私は今までに数々の事件を手掛けてきました。そして、そこでは様々な凶器が使われてきました。
銃、刃物、鈍器、毒物…、中には爆発物が使われたこともありました。ですが、今回の事件では最も恐ろしく、
最も奇妙な凶器が使われたのです。最も恐ろしい凶器、それは…』



八王子市郊外・大学選抜チーム演習場近くのカラオケボックス…

メグミ「ついに決行ね」

ルミ「これ以上ほっとけないわ、これもみんな隊長のためよ」

アズミ「あんなに弱ってる島田師範見たことないわ、隊長が高校に行くってのも文科省から責任を取らされて
大学にいられなくされそうだからって話だし」

メグミ「私たち3人ならきっと上手くやれるわ」

ルミ「そうね、隊長や師範を助けられるのは私たちだけよ」

アズミ「いつも通りのバミューダアタックね」

メグミ「じゃあ行ってくるわ、フォローよろしくね」

ルミ「まかしといて、そっちこそ気をつけてね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


大学選抜チーム合宿所の敷地…


辻「こんなところに呼びつけてどういうつもりかね。島田流の今後については君たち学生が口出しすることではない」

メグミ「口出しするつもりはありません、手は出しますけど」

メグミ、辻をバットで一撃。

メグミ「はぁ…はぁ…」

メグミ(これで後はあの2人の所に戻れば…)


「誰?そこで何をしてるの?」

メグミ「!」

千代「メ…メグミ…、あなた何を…」

メグミ「師範…これは…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

千代「話はわかったわ、私や愛里寿のためにここまで…、後は私に任せて。早くあの2人の所に戻りなさい、
あなたたちがここまでしてくれたことは決して忘れないわ、絶対に悪いようにしないから」

メグミ「師範、申し訳ありません!」

千代「さあ、行きなさい」

千代、辻を車の方に引きずっていく。

翌日…

向島巡査「「あっ、古畑さんこちらです」

古畑「いやあ、八王子にこんな所あったんだねえ、パトカーに乗せてもらって正解だったよ。
自転車だったらたどり着けなかったろうねえ」

向島巡査「もう高尾山も近いですからねえ」

今泉「あ、古畑さん」

古畑「どんな状況?」

今泉「被害者は辻廉太さん、文科省の官僚で学園艦教育局の局長だそうで、ここには
大学選抜チームの視察に2日前から滞在していたそうです」

古畑「またこの人かあ」

今泉「えっ?」

古畑「いや、こっちの話。で、どんな感じ?」

今泉「ここの工事現場の立坑の中に死体があるのを今朝作業員が発見しました。今日は
早朝から立坑にコンクリートを流し込む作業を開始するはずだったんですが、コンクリートを
運んでいたミキサー車が交通事故を起こしたそうで作業開始が大幅に遅れたそうで、手が空いて
た作業員が点検しようと立坑に入ったところ死体を発見したって…」

古畑「じゃあその事故がなかったらコンクリートを流し込まれて永久にわかんなくなってたわけだ」

西園寺「ええ、ですから犯人はここの作業工程に精通している人物と思われます。死因は解剖の結果待ち
ですが、おそらく頭部の鈍器損傷だと思われます」

今泉「死亡推定時刻は昨夜の10時から11時ごろの間で、生きている被害者が最後に目撃されたのが
9時45分ごろなのでそれとも符合します」

古畑「ここって大学の戦車道の演習場だよねえ」

西園寺「ええ、合宿所も兼ねてます」

今泉「古畑さん!女子大生ですよ女子大生!」

おでこペチっ

千代「警察の方ですか?私、島田千代と申します。ここの責任者をやっております」

古畑「ああ、この度はとんだことで…、捜査一課から参りました古畑と言います。あの…、
島田さんといいますと、あの島田流の…」

千代「はい、大学選抜チームの監督とともに島田流の家元も務めさせていただいております」

西園寺「へえ、あの有名な…」

今泉「え?何?有名なの?」

古畑「…」

おでこぺチっ

古畑「いやあ、すみませんねえ、あの男のことはお気になさらずに。で、事件のことなんですが…」

千代「はい、辻さんは大学選抜チームの視察に文科省の方から見えておられまして、2日前から教官と職員の
宿舎に滞在しておられました」

古畑「最後に彼を見たのはいつ頃ですか?」

千代「9時ごろだったと思います。8時半過ぎに官舎でお会いして、9時ごろに別れてそれっきりです」

古畑「9時45分ごろに中庭を歩いてるのを教官の方が目撃しておられます。辻さん、誰かに会おうと
しておられたようなんですが、心当たりはありませんか?」

千代「さあ…、私にはなんとも…、辻さんは学生とは全く付き合いはありませんでしたから。教官や
一部の職員だけで」

古畑「そうですか、失礼しました。また何か伺うことがあるかもしれませんので、その節はよろしくお願いします」

千代「ええ、こちらこそ何かわかりましたらお願いします」

古畑「ええ、すぐにお知らせしますよ、では失礼します」

つづく

今泉「いやあ、あの家元って本当に美人ですねえ」

古畑「君ねえ…」

おでこぺチっ

西園寺「古畑さん、こちら建設会社の方で現場監督の土方さんです」

現場監督「どうも、土方です」

古畑「あーいえいえ、古畑と申します、早速ですが死体を発見した状況について…」

現場監督「あーもう!ただでさえ工期が遅れ気味だったのにこんなことになってしまって、
コンクリは事故で届かなくなるわ、死体は出てくるわ、もう散々ですよ!」

古畑「んー、死体を発見したのは今朝の8時ごろでしたね?」

現場監督「はい、ウチの若いのが点検に降りたときに」

西園寺「死体と一緒にこれが発見されてます。おそらく凶器だと思われます。死体と一緒に
埋めようとしたんでしょう」

今泉「野球のバットかあ」

古畑「いや、今泉くん、これ、野球のバットじゃないねえ。これ、ソフトボールのバットだよ」

今泉「野球とソフトボールってバットが違うんですか?」

西園寺「形が違いますね、野球のバットは先端から20cmくらいが同じ太さになってますが、
ソフトボールのバットは全体の半分くらいが同じ太さになってます」

古畑「んー、グリップの底に数字が書いてあるねえ、『4』かあ」

西園寺「それと、これも落ちてました。懐中電灯です」

古畑「アメリカ製のマグライトだねえ、以前女流棋士が夫を殺害した事件で凶器に使われたやつだよ」

西園寺「非常時には警棒やレスキューハンマーとして使えるって向こうの警察や警備会社で使われているやつです」

古畑「見たところ、どっちもここの備品みたいだねえ」

西園寺「調べてみましょう」

つづく

古畑「ここで殺されたとは思えないねえ」

西園寺「宿舎の方から運んできたとしたらやはり車でしょうか」

古畑「んー、タイヤ痕は工事車輌のばっかりみたいだねえ」

現場監督「作業員の移動に使うバスはここまで入って来ませんから、重機や作業車だけです」

古畑「おや?このタイヤ痕、工事車輌にしては幅が狭いけど、これだと車輪が6個ついてる車みたいだ」

現場監督「ああ、それはきっとサラセン装甲車のですよ。ここの教官の方たちの専用車です。よく見回りに
来られるので多分その時についたんでしょう」

古畑「教官の専用車…、ここに学生さんたちが来ることはないんですか?」

現場監督「学生さんたちはここには近付きませんね、教官の方たちから危険だからあまり近寄るなと言われてる
みたいですし、そもそもここに来る用事がありませんからね」

古畑「わかりました、ありがとうございます。また何かお話を聞くことがあるかもしれませんので、
その節はよろしくお願いします」

現場監督「あの…、工事の再開の方はいつごろから…」

西園寺「いやあ、それは我々からはなんとも…、鑑識の捜査が終わり次第お知らせしますので」

現場監督「はあ…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


古畑「カール守備隊車長子さんですね?私、捜査一課から参りました古畑と言います。主計長として
備品の管理をなさっておられるそうで…」

カール守備隊車長子「はあ、そうですけど…」

古畑「ちょっとこれらの物をご覧ください」

カール守備隊車長子「このバットはリクリエーション用の備品ですね、備品庫はこちらです」

カール守備隊車長子「えーっと、備品の目録にはソフトボールのバットが5本って書いてあるんですが…、
1本足りないな。『4』って書いてあるやつです」

古畑「ああ、それはこいつですねえ、ここ、鍵は掛かってなかったんですか?」

カール守備隊車長子「はい、どうせ使い古しのスポーツ用品やガラクタばっかりでしたからねえ、特に
断らなくても誰でも自由に持ち出せたと思います」

古畑「こっちの懐中電灯はどうですか?」

カール守備隊車長子「それは学生の自警隊員が見回りの時に使うやつですね。以前に覗きや下着ドロが出たことが
あって、それで交替で当直の者が見回りするようになったんですが、普段は当直員の詰め所に置いてあるはずです。
詰め所はこちらです」

カール守備隊車長子「あれ?こっちの目録には巡回用懐中電灯は4個って書いてあるんですが、4個ともここにあるわね」

古畑「じゃあこの懐中電灯、ここの備品じゃないんですか?」

カール守備隊車長子「うーん、型は同じやつなんですけどねえ」

古畑「それにしても、ここ広いですねえ」

カール守備隊車長子「まあ戦車道の演習場ですからね」

古畑「自転車やバイクで移動しておられる人が多いですねえ、私も自転車を持ってくればよかったなあ。セリーヌのやつ」

カール守備隊車長子「セリーヌの自転車ってすごい高級品じゃないですか、こんな所で乗ったらボロボロになっちゃいますよ。
よかったらここの備品のを1台お貸ししますから」

古畑「え、いいんですか?じゃお言葉に甘えようかな」

古畑「学生さんたちが外に出るとき、やっぱり車を使われることが多いんでしょうねえ」

カール守備隊車長子「ええ、でも自家用車を持ってる子なんていませんし、みんなここの公用車の
ジープやトラックを借りてますね。みんなあんな軍用車両じゃ男の子どころか戦車道以外の友達も
誘えないってぼやいてますよ」

古畑「そういえばまだ学生隊の隊長さんってお目にかかってませんねえ、お留守でしょうか」 

カール守備隊車長子「愛里寿隊長だったら今は石川県の継続高校に体験入学しに行ってます。飛び級で
13歳にして大学に入った天才ですからねえ、なんでも一度高校に行ってみたかったって、あちこちの
学校に体験入学してるんですよ。もう中隊長の3人組が大騒ぎで…」

古畑「中隊長の3人?」


カール守備隊車長子「ええ、ウチは3個中隊が集まって1個大隊を形成してるんですが、その中隊の
隊長の3人にとっては愛里寿大隊長はアイドルみたいな存在で…」

後輩「先輩、持ってきましたよ」

カール守備隊車長子「ありがとう、そこに置いといて。じゃあ刑事さん、この自転車使ってください」

古畑「いやあ、ありがとうございます、本当に助かりますよ。じゃあまた何かお話を聞きにくることが
あるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。おや?この自転車、ちょっと変わってますねえ」

カール守備隊車長子「第2次大戦中のイギリス軍の空挺部隊の自転車ですよ。真ん中に蝶番があって
そこから折り畳めるようになってるんです」

古畑「西園寺くん、彼女が言ってた中隊長の3人について調べといて。あと、被害者と大学選抜チーム、
それと島田流との関係についてもね」

西園寺「わかりました」

今泉「あの…、僕の分の自転車ってないんですか?バイクでもいいんですけど」

古畑「何言ってんの、鍛え直すいいチャンスじゃない。それがいやだったら自力で調達しなさいよ、子供じゃないんだから」

今泉「…」

つづく

古畑「なんか変わった乗り物に乗ってらっしゃる人がいますねえ、あれ何ですか?」

カール守備隊車長子「こらぁ!勝手に乗るなっていつも言ってるでしょう!ウェルバイクは試合のための
装備だから使う時は主計に一言断れって!」

西園寺「変わったバイクですね」

カール守備隊車長子「ウェルバイクですよ、刑事さんの自転車と一緒で第2次大戦中のイギリス軍の空挺部隊の
装備です。公用車と違って試合用のものだから車庫じゃなくて戦車備品庫に入れてあるんですが、便利なもんだから
勝手に持ち出して乗り回す子が多くて…」

古畑「あれ、この自転車と同じで折り畳み式なんですか?」

カール守備隊車長子「ええ、ハンドルやサドルを畳んで専用のケースに収納できます。重さも30kgくらいだから
手で簡単に運べますし」

古畑「主計の方たちで管理してらっしゃるんですか?」

カール守備隊車長子「戦車備品庫に仕舞ってある予備扱いのはそうですね。戦車に搭載してあるのは戦車の装備品扱い
なので、各戦車長の管理になります」

古畑「戦車に積んであるんですか?」

カール守備隊車長子「ウチは大隊長車がイギリスのセンチュリオンで、OGに聖グロの出身者が多いので
イギリス式に大隊長車と中隊長車にはウェルバイクが積んであるんです。大戦中のイギリス軍の戦車は
指揮官が座乗する隊長車には偵察や連絡のためにバイクや自転車を搭載していたことが多かったんだそうで…」

古畑「ありがとうございます、じゃあまた後程」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

西園寺「被害者と大学選抜チームとの関係ですが、あまり良いものではなかったようです。例の大洗女子学園
との試合ですが、30対8で殲滅戦をやらせようとしたり、試作の重駆逐戦車やレギュレーション違反の
長距離砲の使用をごり押ししたりで、指導教官や責任者の島田さんたちからはかなり不満が出てたようです」

古畑「だろうねえ、あれじゃ勝っても負けても大学選抜チームのイメージ最悪になるだろうしねえ」

今泉「『自分の利益のためにチームを私物化してる』って島田流の関係者からかなり苦情が出てたみたいです」

古畑「学生たちとはどうだったの?」

西園寺「あまり良く思われてなかったようですが、殺してやりたいほど憎まれたかといえば微妙なところですね。
そもそも直接会った学生がいませんし、この事件が起こるまで存在さえ知らなかったって人もいるくらいで」

古畑「うーん…」

つづく

古畑「第3中隊の中隊長のルミさんですね?私、捜査一課から参りました古畑と言います。
ちょっとお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

ルミ「えーっと…、なんでしょう?」

古畑「ええ、先日の事件についてなんですが」

ルミ「あの…、私、疑われてるんですか?」

古畑「いえ、そんな…、参考にみなさんからお話を聞いてまわってるだけで疑うなんて…」

古畑「率直にお聞きしますが、亡くなった辻さんについてどう思ってらっしゃいましたか?」

ルミ「どうって…別にどうも思ってませんよ、島田流と大学選抜チームのパトロンの1人ってだけで。
まあいろいろとごり押しされたり、そのせいで隊長とちょっと疎遠になったりであまり良くは思ってません
でしたがそれだけです」

古畑「そうですか、じゃあこれはごく形式的な質問で関係者全員にお聞きしてるんですが、事件のあった夜の
10時から11時の間、どちらにおられましたか?」

ルミ「次の日が休みだったから、メグミとアズミの3人で飲みに出かけて、10時ごろにはカラオケボックス
にいました。調べてもらえばわかります」

古畑「わかりました、では他のお2人にもお話を聞いてみますので、今日はご協力ありがとうございました」

ルミ「…」

ルミ「もしもしアズミ?さっき私のところに刑事が来たわ。メグミにも気をつけるよう言っといて」

アズミ『わかったわ、お互いに気をつけないと』


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居酒屋店員「ええ、お見えになりましたよ、8時半ごろだったかなあ、3人とも常連さんなんです」

西園寺「どんな様子でしたか?」

居酒屋店員「それが、いつもはかなり飲まれるんですが、あの日はあまり飲まれませんでしたねえ、あの
メガネの人は車の運転があるんで飲んでおられませんでしたが、あと2人もあまりお酒が進まない様子でしたねえ、
なんか深刻な感じで。9時過ぎには出ていかれました」

古畑「いつもは違うんですか?」

居酒屋店員「ええ、いつもはかなり飲まれますね、とても陽気でいいお酒ですよ」

カラオケボックス店員「はい、いらっしゃってましたよ、確か10時ちょっと前だったと思います。
ハンドルキーパーの人は素面でしたがあとのお2人はだいぶ出来上がってましたねえ」

西園寺「それ、確かですか?」

カラオケボックス店員「ええ、今日ならまだ防犯カメラのデータが残ってるかなあ」

古畑「それ、ちょっと拝見できますか?」

~~~~~~~~~~~

今泉「なんかすごく陽気な感じですね」

西園寺「居酒屋の店員の証言と食い違いますね」

古畑「で、9時55分に彼女、んー、第1中隊の隊長のメグミさんが中座してるねえ」

今泉「トイレですかね」

西園寺「足元がおぼつかない感じですが」

古畑「おかしいなあ、なかなか戻ってこないねえ、ちょっと早送りにして」

カラオケボックス店員「はい」

西園寺「10時34分にアズミさんが肩を貸して連れ戻してきてますね、どうもトイレで寝込んでたようです」

古畑「んー、これ不自然じゃない?だって、酔った友達が40分近くもトイレから戻ってこなかったら心配するでしょ。
普通だったらもっと早い段階で探しに行くよ、そうでしょ?」

今泉「いや、そうでもないですよ。前に一緒に飲みに行ったとき、僕がトイレで酔いつぶれて寝ちゃったら古畑さん
そのまま帰ったじゃないですか。あのとき丸一晩放っておかれましたよ」

古畑「君は別。世の中なんでも自分を基準に考えないで」

今泉「…」

古畑「ちょっと女子トイレを拝見できますか?」


古畑「んー、あの一番奥の個室、あそこだけ窓があるねえ」

西園寺「本当だ、ちょっと見てみましょう」

古畑「長らく使われてなかったのを最近になって無理に開けたような感じだねえ」

西園寺「ええ、窓枠に擦ったような跡がありますし」

古畑「ちょっとそこから外に出てみて」

西園寺「ここから外に出ると、駐車場に行こうとするとフロントから見えますね」

古畑「うん、それにもし見られなかったとしても、まだ中にいるお客さんの車が出ていったら、
すぐに声をかけるだろうねえ」

西園寺「ということは…」

古畑「西園寺くん、もしかして同じこと考えてる?」

西園寺「ええ、おそらく…」

今泉「え?何?どういうこと?」

古畑「ちょっと実験してみようか。今泉くん、君、バイクに乗りたがってたよねえ?」

カール守備隊車長子「これがウェルバイクです。1.5馬力で排気量は98cc、単気筒のガソリンエンジンを搭載して
最高速度は時速48km、航続距離は約140kmです」

西園寺「こんなに小さいのに結構高性能なんですね」

カール守備隊車長子「もともとは降下した空挺隊員の移動手段として開発されましたが、実際は空軍の基地や陸軍の
演習場など、広い場所で勤務する人の移動に使われることが多かったようです。折り畳むことで38cm径の円筒形
コンテナに収納できます」

古畑「それならジープやトラックの荷台にも簡単に積めるねえ」

カール守備隊車長子「重さも30kgくらいですからね」

古畑「じゃあ今泉くん、運転の仕方は習ったね?ここからあのカラオケボックスまでよろしく」

西園寺「じゃあ我々は車で追いましょう」

古畑「うーん、演習場からカラオケボックスの裏まで15分かあ」

西園寺「彼女だったら今泉さんより運転は慣れてるはずですからもっと速くても不思議じゃないですね」

古畑「40分弱で被害者を殺害してまた戻って来るのも十分可能だってことかあ」

西園寺「ええ、これはもう間違いないんじゃ…」

古畑「でもそれだともう一つ問題が残ってるよ、被害者が殺されたのはおそらく演習場の中でも宿舎の近くのはずだよ。
死体遺棄現場はそのずっと先の工事中のエリアだったんだ」

西園寺「そうか、40分弱では被害者を殺して往復することはできても死体遺棄までは無理ですよね」

今泉「もしかして、まだ共犯者がいるってことですか?」

古畑「ひょっとしたらそっちが主犯なのかもね」

つづく

ルミ「大変よ!例の刑事がカール守備隊車長子からウェルバイクを借りたって!」

アズミ「まさか気付かれたってこと!?」

メグミ「そんな…」

ルミ「どうするの!?このままじゃ…」

アズミ「まずいわ、このままじゃ師範や愛里寿隊長にまで…」

メグミ「…」

古畑「うーん、やっぱり問題は死体を遺棄したのは誰かってことかなあ」

西園寺「殺害したのがあの3人だとしたら学生の中の誰かでしょうか」

古畑「いや、学生ではないと思うなあ、被害者との関係を考えると、教官か島田流の関係者じゃないかなあ」

今泉「大変です!犯人が自首してきました!」

西園寺「ええっ!」

古畑「…」

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メグミ『はい、私が辻さんを殺しました…。全部私1人でやったんです…。前の晩にカラオケボックスの裏の茂みに
私の戦車に搭載してあるウェルバイクを隠しておきました。それで、あの2人を誘ってカラオケに行って、途中で
酔ったふりをして抜け出して演習場に戻り、あらかじめ呼び出しておいた辻さんをバットで殴って殺しました…。
途中の道中は夜間訓練で使う暗視ゴーグルを掛けていたので気づかれないようにライトを点けなくても大丈夫でした。
教官たちが翌朝の朝イチで立て坑にコンクリートを流し込むって話をしていたから、死体も証拠もそこに放り込めば、
二度と出てこないだろうって思って、死体とバットをバイクで運んで捨てました…』

取調室・マジックミラーの裏…

古畑「羽賀くん、ちょっと懐中電灯について聞いてみて。あまり情報を出さずに『懐中電灯は?』とだけ言ってみてね」

羽賀刑事『懐中電灯は?』

メグミ『懐中電灯なんて持ってませんでした。暗視ゴーグルがあったので…』

西園寺「古畑さん、どう思います?」

古畑「うーん…」




古畑『えー、皆さん、犯人の自首によって事件は解決と思われましたが、この後意外な方向に話は進んでいきます。
「最も恐ろしい凶器」とは?続きは解決編で。古畑任三郎でした』

次回解決編につづく。

千代「あれほど軽はずみなことをするなと言っておいたのに…、もしもしアズミ聞いてる?
今、島田家の顧問弁護士とも話して刑事事件に強い人をまわしてもらってるから、あなたも
勝手なことをしないようにね、ルミにも伝えておいて。裁判になったらあなたたちにも弁護側の
証人になってもらうかもしれないから。追って指示を出すからそれまで待機してなさい」

秘書「家元、古畑さんがお見えになりました」

千代「わかったわ、こちらにご案内して」

古畑「いやあ、家元、お邪魔しますよ」

千代「古畑さん、この度はウチの門下生がとんだことを…」

古畑「それなんですが、島田さん、あなたを逮捕します。令状もあります」

千代「それは一体どういうことでしょうか」

古畑「辻さんを殺したのはあなたですね?」

古畑「忍者の使う忍術に傀儡の術というのがあるそうです。その名の通り人を人形のように
操る術だそうです。でも、別に暗示や催眠術をかけたり、薬物で洗脳したりするわけじゃ
ありません。操る対象に近づき、徐々に信頼を得ていって少しずつ自分の都合のいいように
考えや行動を誘導していき、最終的には相手を意のままに操る、しかも相手は最後まで自分
の意思でそうしていると信じてです。こんな恐ろしい話はありません」

古畑「あなたは辻さんが邪魔になった。お嬢さんや島田流の将来のためにならないと判断なさった
のでしょう。そして自分の手を汚さずにあの3人を使って始末しようと考えた。いわばあの3人を
凶器として辻さんを殺害しようとしたんです。あの3人はあなたに心酔していましたし、お嬢さんは
彼女たちのアイドル的存在だ、辻さんを殺すように焚き付けるのは簡単だったはずです。私はいままで
こんな恐ろしい凶器は見たことがありません」

千代「古畑さん、そうだったとして証拠はありますか?」

古畑「いえ、それはありません。立証することは不可能でしょうし、例えあなたがそうだと
認めたとしても、刑事事件として立件することもできないと思います」

千代「ではなぜ私は逮捕されるんですか?」

古畑「メグミさんには辻さんを殺害することはできても死体を遺棄することは不可能です。辻さんを工事現場まで運んだ
人物がいます」

千代「それが私だと仰るんですか?」

古畑「はい、今泉くんに負傷者搬出訓練に使うダミー人形で実験してもらったんですが、何度やってもウェルバイクでは
死体を運ぶことはできませんでした。彼、何度も転んでとうとう病院に運ばれましたよ」

千代「お大事に、とお伝えください」

古畑「それに、現場には工事車両以外にはサラセン装甲車のタイヤ痕しかありませんでした。現場監督の土方さんは
あのタイヤ痕は昼間に付いたものだと思ってらしたんですが、あの日、昼間にはあの車は現場付近には近づいてない
んです。他の職員や教官が帰った後、あの車を動かせる人物、なおかつあの日あの時間まで残ってた人物、あなたしかいません」

千代「わかりました、認めましょう。死体遺棄に証拠隠滅、犯人隠避ですか、私もただではすまないようですね」

古畑「いいえ、勘違いなさらないでください。あなたの逮捕容疑はやっぱり殺人です」

千代「えっ?」

古畑「あなたはここまで緻密に計算して事を運んできました。でもいくつかの誤算がありました。まず一つ目は
永久に見つからなくなるはずだった死体がすぐに見つかったこと、そして二つ目はあの時点では辻さんがまだ
生きてたことです」

古畑「詳しい検死の結果、メグミさんがバットで殴った傷は意識を失っても死に至るほどのものではありませんでした。
本当の致命傷となったのはメグミさんが付けた傷に重なって付いた打撲傷です。現場に遺棄してあった懐中電灯で殴った
痕です」

古畑「もしメグミさんがやったのだとしたら、バットで殴って気絶させてから懐中電灯でとどめを刺したことになります。
そんな回りくどいことをする必要があったでしょうか、あまりにも不自然です。辻さんをあそこまで運んだ人物、つまりあなたが
生きていることに気付いてとどめを刺したと考えるのが自然です」

千代「いくら不自然だったとしても、やはりメグミの仕業ですよ。いずれわかることです」

古畑「メグミさんの弁護士はあなたの息がかかった人物です、弁護士を通じて指示を出せば彼女はあなたの都合のいいように
証言を変えるでしょう。ですが決定的な証拠があります。あの懐中電灯は合宿所の備品でもメグミさんの私物でもなく、あなたの
私物だということです」

古畑「メグミさんの仕業だとしたら、わざわざ敬愛するあなたの私物を盗んで犯行に使用したことになります。
これではあまりにも辻褄が合いません」

千代「なぜあれが私の物だと?名前でも書いてありましたか?」

古畑「いえ、でも名前が書いてあったも同然です。確かにあの懐中電灯は指紋も血痕もきれいに拭き取ってありました。
ですが、中身はどうでしょう?」

千代「中身?あっ…」

古畑「そうです、中身の乾電池からあなたの指紋が検出されました。これはどう説明します?」

千代「説明のしようがありませんね…、『不測の事態に備えて機器類のバッテリーは作戦ごとに新しいものと交換する』って
戦車乗りの習慣が裏目に出てしまったようです…」

古畑「ここまで緻密に事を運んできたあなたらしからぬ凡ミスです、辻さんがまだ生きてたことによっぽど動揺なさったんでしょうねえ」

千代「だって古畑さん、死体が起き上がって襲い掛かってきたんですよ?あんなにビックリしたのは生まれて初めてです。
あんなの映画やテレビゲームの中だけだと思ってましたわ」

古畑「あなたの最大の誤算は道具の選択を間違えたことです。あの3人は選手としては一流でも人殺しができる人たちではありませんでした」

千代「そうですね…、ですが後悔はしていません、あの男を生かしておいたら必ず愛里寿に害を及ぼしていたでしょう。
あの子のためならこの先何度でも同じことをします。それが母親というものです。あなたも子どもを持てばわかりますわ」

古畑「でしたら次回からはお一人でお願いします、これじゃ凶器にされたあの3人が可哀そうですよ」

千代「ええ、そうしますわ。大事なことは人任せにしてはいけないって身に染みてわかりましたから」



                          終

次回はVSアンチョビを予定してます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年06月01日 (木) 13:27:07   ID: 6tp1yWY0

継続もみたいですね

2 :  SS好きの774さん   2017年08月23日 (水) 21:24:09   ID: iasa6RHL

すごくいい、古畑らしさが出ていて面白い

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