【ガルパン】×【古畑任三郎】 紅茶と殺人 (77)

第1話
【ガルパン】×【古畑任三郎】生徒会長の仕事

【ガルパン】×【古畑任三郎】 生徒会長の仕事 - SSまとめ速報
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第2話
【ガルパン】×【古畑任三郎】家元の災難

【ガルパン】×【古畑任三郎】 家元の災難 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473315410/)

第3話
【ガルパン】×【古畑任三郎】殺意の装填

【ガルパン】×【古畑任三郎】 殺意の装填 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475677615/)


※VS西絹代を予定していましたが、今一つアイデアがまとまらなかったので
 その次に予定していたVSダージリンに変更しました。

※また役人が死にます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476798438

古畑『えー、皆さん、皆さんは紅茶とコーヒーではどちらがお好きですか?私はどちらかといえば
コーヒーの方が好きです。紅茶といえば、知ってる刑事に紅茶が大好きなやつがいるんですが、
こいつがまたここ数年で何人も相棒を変える節操のない男で…』




聖グロリアーナ女学院学園艦・倉庫エリア


辻「一体なんなんですか、こんな早朝に、それもこんなところに呼びつけて」

ダージリン「最後通告に来ましたの、あなたが行っている嫌がらせを即刻やめていただきたくて」

辻「嫌がらせ?言いがかりですな、私は職務権限を行使しているに過ぎない」

ダージリン「最後通告だと言いましたわ、それならばこちらにも考えがあります」

辻「考え?何をする気かしらないが…」

ダージリン「こんな言葉をご存知かしら?『英国人は恋と戦争では手段を選ばない』」

辻「英国人って…、あなた日本人でしょ?」

ダージリン「…」 ブチっ

ダージリン、辻を拳銃で射殺。死体に細工をしつつ…

ダージリン「温泉治療では歪んだ人格の矯正は出来ないという人がいるがそれは間違いである。溺死させればよい」

ダージリン(ペコがここにいてくれたら、『マーク・トウェインですね』って言ってくれるんだけど、こんなことに
巻き込むことはできないし…)


数時間後…

バニラ「せっかくのお祭りなのに、こんな裏方仕事だなんて…」

ローズヒップ「あら、私は楽しんでますわ、ダージリン様のお役に立てると思えば裏方もいいものですわ」

クランベリー「ローズヒップさんのそういう前向きな姿勢は見習わなければいけませんね」

バニラ「あら?誰か倒れて…、ひぃっ!しっ、死んでる!」

ローズヒップ「マジですの!?誰か!警察!警察呼んで!」

古畑「だからぁ、私はなにも難しいことは言ってないんだよ、卵抜きがそんな難しいこととは思えないけど」

ペパロニ「いや、だからこっちの方が美味いって…」

アンチョビ「おい、どうした?」

ペパロニ「あ、アンチョビ姐さん、このおっさんが鉄板ナポリタンから卵抜いてくれって…」

アンチョビ「バカ!お前、お客さんになんて口聞くんだよ!すみませんねえ、こいつ、職人気質なのはいいけど口が悪くって」


こそこそ

ペパロニ「いいんですか?」

アンチョビ「いいんだよ、なんか面倒くさそうな人だし、言われた通りにしてあげろ」

古畑「あ、パニーニのサンドなんかもあるんだ、仕事長くなりそうだし、夜食用に一つ包んでもらおうかな」

アンチョビ「へい毎度!」

古畑「あ、バジルソースかあ…、ソース抜いてよ」

アンチョビ「…」

ペパロニ「…」

つづく

今泉「あ、古畑さんこっちです。ってなにスパゲッティなんて食べてるんですか」

古畑「いや、そこの屋台で売ってたから。昼ごはんまだだったからね。あげないよ」

今泉「おいしそうですねえ、一口いいですか?」

古畑「だからあげないって。どんな状況?」

今泉「死体が発見されたんですが、なんかおかしなことになってて。いいじゃないですか、一口くらい」

古畑「だからあげないって」

西園寺「古畑さん、被害者は辻廉太さん、文科省の学園艦教育局の局長だそうです」

古畑「んー、この人、どっかで見た憶えが…、そうだ、ワイドショーとか週刊誌とかよく出てた人だよ、
ほら、あの大洗の女子高の廃校騒ぎで」

西園寺「そうなんですよ、あれで一時騒ぎになった」

古畑「なにこの匂い、紅茶?」

西園寺「そこにペットボトルが落ちてたんですが、犯人が死体に紅茶をぶちまけたようなんです」

古畑「なんでそんなことを…」

古畑「で、死因は?」

西園寺「銃で撃たれてるようなんですが、これ見てください」

古畑「なにこれ?どういうこと?」

西園寺「検視官が臓器の検温をしようとして見つけたんですが、銃弾の傷口…射入孔に布を当ててガムテープで止めてあるんです」

今泉「死体に手当したってこと?猟奇的だなあ」

西園寺「僕、以前本で読んだことがあるんですが、イギリスのSASの対テロユニットや政治的暗殺を担当する部署で
こういうことするらしいんです。殺害した直後にこうやって傷をふさいで現場に痕跡を残さずに殺害場所の特定を防ぐそうで…」

今泉「SASはイギリスじゃなくてスウェーデンだろ?あとノルウェーとデンマーク」

古畑「今泉くん、君なに言ってんの。イギリスで合ってるよ」

今泉「古畑さんまでなに言ってるんですか、スウェーデンですって!」

西園寺「あの…、今泉さん、もしかしてSASってスカンジナビア航空ことだと思ってます?」

古畑「話が噛み合わないと思った。なんで航空会社に対テロユニットや暗殺部隊があるんだよ」

今泉「いや、最近物騒だからハイジャック対策かなあって…」

西園寺「SASはスペシャルエアサービスの略で、イギリス陸軍の特殊部隊です」

古畑「まあ、サザンオールスターズとか睡眠時無呼吸症候群とか言い出さなかっただけ上出来だよ」

今泉「ありがとうございます!ほめられちゃった」

西園寺「…」

西園寺「話を戻しますが、死亡推定時刻は臓器の検温による簡易測定では10時から11時の間とのことです」

古畑「死後2時間も経ってないってことかあ、発見者は?」

西園寺「あちらに待たせてあります、ローズヒップさんといって聖グロリアーナ女学院の生徒さんです」

古畑「じゃあちょっと話を聞こうか」

古畑「死体を見つけたのはいつ頃ですか?」

ローズヒップ「あの刑事さんにも話したんですが30分くらい経ちます、昨日からのお祭りのために
ダージリン様に頼まれてクルセイダー隊のみんなと一緒に買い出しに来てたんですが…」

古畑「ああ、昨日から学園艦の帰港に合わせて街でイベントやってましたねえ、ダージリン様っていうのは?」

西園寺「聖グロリアーナ女学院の戦車隊の隊長で、実質的な学校のトップだそうです。例の大洗と大学選抜の試合で
高校生連合チームの結成の音頭を取ったって有名な人ですよ」

古畑「それなら是非会って話を聞かないとねえ」

つづく

オレンジペコ「あの…、ダージリン様、警察の方がお見えになってますが…」

アッサム「警察?」

ダージリン「おそらくローズヒップたちのことでしょう、こちらにお通しして」

オレンジペコ「わかりました」

古畑「どうも失礼します、警視庁捜査1課から参りました古畑と申します。ちょっと皆さんにお伺いしたいことがありまして…」

ダージリン「ええ、ローズヒップたちのことでしょう?死体の第一発見者になったとか」

アッサム「まあ!そんなことが…」

古畑「はい、そのことなんですが…、亡くなったのは文科省の辻さんです。彼、ご存じですよねえ。
状況から見て他殺のようなのですが…、あれ?あまり驚いておられないようですねえ」

ダージリン「如何なる時も優雅、というのが我が校の校風ですの。こう見えても内心はかなり動揺してますわ。
それで、彼といろいろと因縁があった我々が疑われているということなのでしょう?」

古畑「いえそんな…、ごく形式的なことでして」

アッサム「あの…、他殺って一体なにが…」

古畑「辻さん、銃で撃たれて亡くなってたんですよ。それで、先程も申し上げましたが形式的な質問なんですが、
今日の10時から11時ごろの間、皆さんどちらにおられました?」

ダージリン「その時間でしたら私たちは戦車に乗っていましたわ。昨日から学園艦が母港の横浜に帰港して、
横浜市のイベントに協力しているのはご存知でしょう?お祭りのパレードで戦車隊は市内を行進してましたわ」

オレンジペコ「ダージリン様の仰る通りです。調べていただければわかります」

ダージリン「あの方、銃で撃たれてたそうですけど、ここにある銃といえば戦車の車載機銃くらいで拳銃はありませんわ。
あとは車載の信号ピストルくらいですが、照明弾を撃ち込まれて焼け死んだわけじゃないでしょう?」

古畑「ええ、その通りです。またなにかありましたらお話を伺いに来るかもしれませんので、その節はよろしくお願いします」

ダージリン「古畑さん、お会いしたときから見覚えがあるような気がしていたんですが、もしかして
SMAPの事件を解決なさった刑事さんじゃありません?雑誌の記事を読みましたわ」

古畑「ええ、そうです。あとイチローを逮捕したのも私です。あと歌舞伎俳優の中村右近とか超能力者の黒田清とか」

アッサム「…」

ダージリン「アッサム、こういう言葉をご存知かしら?『私は謙遜を美徳の一つに数える人々には同意できない、論理家
たる者は全ての事象をあるがまま正確に伝えるべきである』」

オレンジペコ「シャーロック・ホームズですね」

古畑「えーっと、『ギリシャ語通訳』でしたっけ、確かホームズがワトソンに兄のマイクロフトを
紹介する下りだ」

ダージリン「ええ、その通りですわ。本職の刑事さんでもああいう探偵小説をお読みになるんですね」

古畑「子供の頃よく読んでたものですから。ダージリンさんもああいった本をお読みになるんですか?」

ダージリン「よく気晴らしに。日本人では幡随院大の鯨鳥警部シリーズなんかが好きだったんですが、作者が捕まって
から新作が出ないから続きが気になって」

古畑「彼を逮捕したのも私なんですよ。私も続きが気になってよく刑務所に面会に行くんですが、『お前にだけは絶対教えん』
って言われちゃって、最近では門前払いされるようになっちゃって」

オレンジペコ「そりゃそうですよ…」

古畑「じゃあ今日のところはこれで失礼します」




オレンジペコ「なんか曲者って感じの人ですね」

アッサム「ダージリン、いいんですか?いくら刑事とはいえあんな人を出入りさせて…」

ダージリン「こんな言葉をご存知かしら?『戦うべき敵のいる人生は、愛すべき伴侶のいる人生の次に良い』」

オレンジペコ「中島らもですね」

ダージリン「いいのよ、やましい事はないんだし。それともアッサム、あなた私がやったと思ってるの?」

アッサム「いえ、そんな…」

古畑「んー、どうも引っかかるなあ」

西園寺「どうしたんですか?」

古畑「彼女、ダージリンさんさぁ、私が『辻さんは銃で撃たれた』としか言ってないのに、『ここには拳銃はない』って
返してきたんだよねえ。銃ってだけで、もしかしたらライフルやショットガンみたいな猟銃とか、それこそ彼女が言ってた
機関銃かもしれないのにさ」

西園寺「我が国で犯罪に使われる銃の8割以上が違法な拳銃ですからね、殺人事件の凶器イコール拳銃ってイメージがあったんじゃないでしょうか」

古畑「うーん、それにしたってねえ…」

つづく

西園寺「亡くなった辻さんですが、胸部に2発、腹部に2発、とどめに頭部に1発撃ち込まれてました」

今泉「うわぁ…、よっぽど恨まれてたんだなあ」

古畑「もしくは犯人が怒るようなことを言ったか…」

西園寺「体内から摘出された弾丸ですが、口径と形状から455ウェブリー・コルダイト弾で、使用された銃は
旋条痕から1915年製の455口径のウェブリー&スコットMkⅥと思われます」

古畑「こりゃまたえらく古い型の銃だねえ、骨董品じゃないか」

西園寺「ええ、第1次大戦の頃のイギリス陸軍の制式拳銃ですからね」

古畑「そんなのだと銃本体より使う弾薬の方が入手が難しいだろうねえ」

西園寺「それなんですが、メーカーが製造した弾薬、いわゆるファクトリーロードというのはもう
流通していなくて、今はアメリカの会社がコレクター向けに販売してる手詰め弾薬のキットでしか
この弾は入手できないそうです」

古畑「じゃあこの弾も手作りなんだ」

西園寺「ええ、ですから弾から入手経路を辿るのは難しいでしょうね」

古畑「それで、事件当日の被害者の足取りなんだけど」

西園寺「はい、被害者は事件前日から学園艦内の宿泊施設に泊まってたんですが、あの日の
朝5時半にそこから外出しています。フロント係を担当していた生徒から確認を取りました」

古畑「ずいぶん早起きだねえ、ということは朝食抜きだったんだろうねえ」

西園寺「ええ、だから胃の内容物がなくて、死亡時刻の推定が臓器検温に頼るしかなくて」

古畑「きっと朝食の出る時間が決まってるイギリス式のB&Bだったんだろうねえ」

西園寺「今泉さん、漫才師のことじゃありませんよ」

今泉「わかってるって!」

つづく

今泉「この辻って人、相当な食わせ者だったみたいですよ、一時期報道されてましたけど、
大洗の廃校に失敗したせいで省内ではかなり立場が悪くなってたようです」

西園寺「それで、大洗に直接手を出せなくなったからは廃校阻止に協力した他の学校に矛先が
変わったようで、特に聖グロリアーナ女学院は高校生連合結成の音頭を取ったせいで、それこそ
目の敵にされてたみたいですね。職務権限を使ってかなり陰湿な嫌がらせをされてたようです」

古畑「ふーん、かなり大人げない人だったみたいだねえ」

西園寺「大洗の廃校にこだわってたのは不動産会社との癒着が原因だって週刊誌に書かれてましたし、
2課の経済事犯担当の部署が内偵を進めてたって聞きましたよ」

古畑「動機は十分だったわけだ」

古畑「出掛けたのが5時半、死亡推定時刻が10時から11時の間、遺体が発見されたのが12時20分頃かあ、
この人、5時間もどこで何してたんだろうねえ」

西園寺「さあ、ホテルを出てからの足取りが全く掴めなくて…」

今泉「犯人に拉致されてたとか」

古畑「案外宿を出てからすぐに殺されたのかもしれないよ」

西園寺「でもそれだと死亡推定時刻との辻褄が合わなくなりますよ」

古畑「んー、それなんだよねえ、そっちの辻褄を合わせると今度はこっちの辻褄が合わなくなるんだよ、うーん…」

古畑「ダージリンさんのアリバイはどうだった?」

西園寺「彼女の言う通りでしたよ、10時ごろには横浜市の担当者とパレードの打ち合わせ、10時半に出発して
12時過ぎまで市内を戦車で練り歩いています」

今泉「本当に戦車に乗ってたのかな?床下の非常口から抜け出したとか…」

古畑「それはないと思うよ、戦車道の試合中ならともかく、パレードの最中なら絶対に沿道の人たちに見つかるだろうし、
第一、チャーチルMkⅦの非常用脱出ハッチは床下じゃなくて車体の側面だから」

西園寺「これからどうしますか?」

古畑「じゃあもう一度学園艦に行ってみようか、まだしばらくは停泊してるんだろ?」

西園寺「あと3日ですね、それを過ぎるとまた出港します。そうなると我々は管轄権を失います」

古畑「3日かあ…、ま、それだけあればなんとかなるでしょ」

古畑「ローズヒップさんですね、どうもお久しぶりです古畑です。何度も同じことをお尋ねして
申し訳ありませんが、もう一度昨日のことを伺いたくて…」

ローズヒップ「はあ、それはよろしいのですけど…」

古畑「あの日、分隊の皆さんと買い出しに出掛けておられたんですよね?」

ローズヒップ「はい、ダージリン様に言われてクルセイダー隊のみんなと一緒に市内のお店に行きましたわ」

古畑「そこはよく利用なさるんですか?」

ローズヒップ「いえ、初めて行きましたわ。ダージリン様がこのお店にしかない品物があると仰って、地図を
書いてくださいましたの」

古畑「時間の指定は何時ごろでした?」

ローズヒップ「えーっと、確か11時ごろまでにはお店に着いて、12時までには帰って来いって…、あの、
どうしてダージリン様が帰りの時間を指定したことを知ってらっしゃいますの?」

古畑「いえ、なんとなく」

ダージリン「あら、古畑さん、またいらしてらしたの。いいところにいらっしゃいましたね、今ちょうど
お茶が入ったところですわ。ローズヒップも一緒にいかが?続きはお茶を飲みながらゆっくりと」

ローズヒップ「ぜひご一緒させていただきますわ!」

古畑「よろしいんですか?じゃあご馳走になろうかな」

つづく

古畑「んー、こんなふうにちゃんとポットで入れた紅茶なんて何年振りかなあ、普段はコーヒー
ばっかりでティーバックのやつも滅多に飲まないもので」

ダージリン「そうですね、刑事さんといえばコーヒーってイメージがありますね。あと張り込みの
ときの牛乳とアンパンとか」

オレンジペコ「それはちょっと古いんじゃ…」

アッサム「昭和の刑事ドラマじゃないんですから」

古畑「紅茶といえば、ダージリンさんのお知恵を拝借したいことがありましてねえ」

ダージリン「なんでしょう?」

古畑「亡くなった辻さんなんですが、遺体に紅茶がかけてあったんですよ、それも大量に。
もっと不思議なのは紅茶の入ってたペットボトルがそのまま放置してあったんです」

アッサム「あの…、死体に紅茶がかけてあったことよりもペットボトルが置いてあったことの
方が不思議なのですか?」

古畑「ええ、そっちの方が不思議です。犯人は死体に細工して犯行現場の特定を妨害するような
用心深い人物です、紅茶をかけるのも何か意味があるはずです。なのに重要な証拠になるかもしれない
ペットボトルを放置しておくなんて普通じゃ考えられません。指紋やDNAが残ってるかもしれないし、
そんなものを残していなかったとしても購入先を特定されるかもしれない。私だったら絶対持ち帰ります。
どう考えても不自然です」

ダージリン「やはり名刑事と呼ばれるだけあって我々とは見るところが違いますわね」

古畑「どうでしょう、ダージリンさんはどう思われますか?」

ダージリン「さあ、私にはわかりかねますわ。でも、古畑さんの仰るようにそれも犯人の中では
意味のあることだったのかもしれませんね」

古畑「話は飛びますが、なんでもこの学園艦のオリジナルブランドの紅茶ができたそうですね」

ダージリン「ええ、そうなんです。私の長年の夢だったんです」

アッサム「亡くなった方の悪口は言いたくありませんが、あの辻さんは紅茶の製造や販売についても横槍を入れてこられて…」

ダージリン「いいのよ、もう済んだことだわ。自分で紅茶のブランドを立ち上げるって夢がようやく実現しましたの。ただ
茶葉をブレンドするだけじゃなくて、茶葉の発酵や乾燥まで自前の施設で行なう本当のオリジナルブランドなんです」

古畑「それは本格的ですねえ」

ダージリン「ねえ古畑さん、あなたが私をどう思っておられるかよくわかってますわ。でもこんな言葉をご存知かしら?
『あなたが私に対してなって欲しいという者に、私はなる義務はない』」

オレンジペコ「モハメド・アリですね」

ダージリン「確かに私には動機がありました。ですが、疑うならそれに足る証拠がないといけませんね」

古畑「ええ、仰る通りです」

ダージリン「明日、最終出荷の前に身内だけで試飲してみようと思ってるんですが、古畑さんもいかがですか?」

古畑「ぜひご一緒させてください、楽しみにしてますから」

ダージリン「ではまた明日に。ごきげんよう」

古畑「ええ、では今日はこれで失礼します」

オレンジペコ「お見送りしましょう、ご案内いたします」

ダージリン「ペコ、私も古畑さんをお見送りするわ」

古畑「おや?あれはなんですか?大きな冷蔵庫みたいですが…」

オレンジペコ「あれは温蔵庫ですよ。茶葉に熱を加えて発酵を促したり、発酵の済んだ茶葉を乾燥させたりするんです」

古畑「ちょっと中を拝見してよろしいですか?」

オレンジペコ「それは構いませんが…」

古畑「刑事の職業病ってやつですか、一度気になると確かめずにはいられなくなるもので」

ダージリン「イギリスのこんな諺をご存知かしら?『好奇心は猫を殺す』」

古畑「ええ、せいぜい気をつけますよ」

古畑「いやあ、中は紅茶の香りがすごいですねえ、これ、最後に機械を動かしたのはいつですか?」

オレンジペコ「確か2日前の午前中だったと思いますが…、それがなにか?」

古畑「いえ、ちょっと気になったもので。では紅茶の試飲、楽しみにしてますんで」

ダージリン「ええ、ごきげんよう」




オレンジペコ「あの…、ダージリン様…」

ダージリン「ペコ、あなたが何を考えているのかよくわかるわ。『全力を尽くすだけでは十分ではない、時には
必要と思われる全てをやらなければならない』、つまりはそういうことなのよ」

オレンジペコ「チャーチルですね…」

つづく

ダージリン「古畑さん、よくいらっしゃいました」

古畑「今日はよろしくお願いします」

今泉「どうも」

ダージリン「あら?今日はあの小柄な刑事さんはいらっしゃらないんですね」

古畑「ええ、西園寺くんはちょっと用事がありましてねえ」

オレンジペコ「どうぞ、お茶が入りました」

古畑「ああ、すみませんねえ、いただきます」

ダージリン「…」

アッサム「あの…、ダージリン、どうしました?」

ダージリン「この紅茶の味…、アッサム、ペコ、飲んでごらんなさい」

オレンジペコ「あっ…、これ…」

アッサム「言われてみれば確かにちょっと…」

古畑「あの、どうなさいました?」

ダージリン「以前試飲したときと味が変わってるんです。これでは酸味が強すぎますし、渋味も出てしまってます」

オレンジペコ「どうしてこんなことに…」

古畑「原因はわかりますか?」

ダージリン「さあ、よくわかりませんが高温で2時間は余計に加熱しないとこんな味にはなりませんわ。
とにかく出荷を止めないと。原因の究明は後回しだわ」

古畑「なんだか取り込んでらっしゃるようですねえ、落ち着いた頃にまた伺いますので、今日はこれで失礼します」

ダージリン「ええ、そうしていただけると助かりますわ」

古畑『えー皆さん、正直言って彼女は難物です。ですからこっちもちょっといたずらしてみました。
どうやらうまく引っかかってくれたようです。古畑任三郎でした』

次回解決編に続く

ダージリン「そのまま出荷した!?どういうことなの!?」

アッサム「あの…、あの後すぐ古畑さんがいらっしゃって、『問題ないはずだからそのまま出荷して構わない、
何かあったら警察で責任をとる』と仰って…」

ダージリン「…あの人、一体どういうつもりなの!?」

オレンジペコ「あの…、古畑さんが…」

ダージリン「ここに来てるの?」

オレンジペコ「はい、ダージリン様に『お茶が入ったからご一緒に』だそうで…」

ダージリン「どういうつもりなのか聞いてくるわ。アッサム、ペコ、後を頼むわね」

古畑「うん、見つけたんだね。わかった、お手柄だよ。あ、ダージリンさんが来たから一度切るよ。
うん、また掛けるから。はい、じゃあよろしく。やあ、ダージリンさん、お待ちしてました」

ダージリン「古畑さん、これは一体どういうことなんですか?」

古畑「まあお掛けになって。ちょうどお茶が入ったところです。見様見真似なんでうまくできてるどうかわかりませんが」

ダージリン「何がどうなっているのか納得いく説明がなければ、とてもお茶を楽しむどころじゃありませんわ」

古畑「んー、そうですねえ、冷めるといけないんで手短に済ませましょう。辻さんを殺したのはあなたですね?」

ダージリン「…その根拠は?」

古畑「それなんですが、まず凶器の拳銃からお話しましょう。辻さんを撃ったのは戦車の備品の信号ピストルです」

ダージリン「何をバカな…、あれで人が殺せるわけが…」

古畑「もちろんそのまま使ったわけじゃありません。第2次大戦中の信号ピストルは古くなって制式から外れた第1次大戦中の
拳銃を改造したものが多かったんですよ。改造といっても中折れ式リボルバーのアッパーレシーバーを外して、替わりに信号弾
用のバレルを装着しただけですから、部品さえあればすぐに元のリボルバーに戻せます。この犯行のためだけに用意したとは
考え難いですから、以前からこっそり射撃を楽しんでおられたんでしょう。抜け目のないあなたのことだ、既にバレルもシリンダー
も手の届かない場所にあるんでしょうねえ」

ダージリン「ええ、もし私が犯人だったとしたら、おそらくそうしていることでしょう」

ダージリン「古畑さん、あなた肝心なことを忘れてらっしゃるんじゃありません?あの方が亡くなった時、
私は戦車に乗ってたんです。戦車隊のみんなや市の当局者、それに沿道にいた大勢の方々が証人ですわ」

古畑「辻さんが亡くなったのは10時から11時の間じゃなかったんですよ、もっとずっと早い時間だったんです。
紅茶の温蔵庫ですよ、あなたはあれを使ったんです」

ダージリン「どういうことかしら?」

古畑「あなたは実に頭の回る人です、あんな早朝に呼び出したのも、胃の内容物から本当の死亡時刻が割り出されない
ようにするためだったんですね。あなたは辻さんを射殺した後、死体に細工してから臓器の温度を上げるために温蔵庫
で加熱した。温蔵庫とは考えましたねえ、熱湯に浸けるって手もありますが、それだと服や髪の毛が濡れるし、皮膚に
痕跡が残るかもしれない。実にうまい手です」

古畑「銃撃の傷痕を塞いだのも、犯行現場の特定を防ぐためではなくて温蔵庫に痕跡を残さないためだったんです。
死体を温め終わってから、あなたは死体に紅茶をかけた。死体の服や髪の毛に紅茶の香りが染み付いてましたからねえ、
これ見よがしにペットボトルを放置したのも、紅茶の匂いがするのは茶葉の温蔵庫に閉じ込められたからじゃなくて
死後紅茶をかけられたからだと周りに印象付けるためだったんですね」

古畑「そしてあなたは買い出しの場所や時間を指定して、ローズヒップさんたちが第一発見者になるように仕向けた。
死体が発見されずにそのまま冷めていったらせっかくのアリバイ工作が台無しだ、適当な時間に発見されるように
したんです。『冷めないうちにどうぞ』というわけです」

ダージリン「古畑さん、私が温蔵庫を動かしたという証拠はありますか?ペコも言ってましたが、事件があった
前の日から、あの機械は動かされていませんわ」

古畑「一つ謝らなければならないことがあるんです。皆さんが試飲したあの紅茶、実は出荷されるはずのものじゃ
なかったんです。前の日に温蔵庫を覗かせてもらった時、あの時に一つだけ隅の方に隠れてた容器から失敬した
ものだったんです。あなたやオレンジペコさんに気付かれないようにポケットに隠して持ち帰ったものを、試飲会
が始まる前に西園寺くんに頼んですり替えてもらったんです」

ダージリン「古畑さん、あなたって人は…!」

古畑「あなたご自分で仰ってましたよねえ、『高温で2時間は余計に加熱しないとこんな味にはならない』って」

古畑「あなたの味覚や嗅覚は素晴らしいですねえ、科捜研の分析でも同じ結果でしたよ。
さて、辻さんの本当の死亡推定時刻は5時半から7時の間と思われますが、その時間は
どこに居られましたか?誰に聞いてもその時間はあなたの姿が見えなかったと仰るんですが」

ダージリン「…全てあなたの憶測に基づく状況証拠だわ、私がやったという物証はありませんわ」

古畑「ええ、確かに状況証拠です。ですが裁判所に家宅捜索令状を発行させるくらいの力はありました。実は
こうやってお茶に誘ったのはあなたを家宅捜索から遠ざけたかったからなんです。西園寺くんから電話がありまして、
あなたの私室の机の下から、未使用の雷管がついた455ウェブリーの空薬莢を見つけたそうです。あと、今泉くんが
戦車の中の私物ケースから拳銃装薬用の無煙火薬の缶を見つけました。他の証拠と違って火薬は適切に処理しないと
事故を起こす恐れがありますからねえ、ほとぼりが冷めてからゆっくり始末するつもりだったんでしょうが、
危うく一足違いになるところでした。私からは以上です。さあ、冷めないうちにどうぞ」

ダージリン「…何がいけなかったのかしら?」

古畑「初めてお会いした時、あの時ローズヒップさんは警察の事情聴取の最中でまだ外部に連絡はできなかったはずです。
でもあなたは私がやって来た理由を知っていた。それはあなたが彼女を第一発見者に仕立てた張本人だったからです」

ダージリン「うまくいかないものね…」

古畑「それにしても、『英国人は恋と戦争では手段を選ばない』ですか…。次回からは
法律の許す範囲でお願いします」

ダージリン「私に『次回』があるでしょうか…?」

古畑「あなたのような聡明な方なら何度でもやり直せるはずですよ。私は罪を償ってから立派に
立ち直った人間を何人も知ってます。ところで、お味の方はいかがですか?」

ダージリン「古畑さん、蒸らしかたを間違えましたね?とても苦いです…」


                   終

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