【ガルパン】×【古畑任三郎】 アメリカン・ウェイ (55)

古畑『童話の白雪姫に、真実を映す鏡というのが出てきます。真実を映す鏡、それはおとぎ話の
中だけのものではなく、我々の身近に存在しています。鏡よ鏡…」



ナオミ「ねえケイ、今は隊長と副長じゃなくてパートナー同士だから名前でよぶわね、この先…」

ケイ「言いたいことはわかってるわ、あいつを殺しても替わりが来るだけだって。でもね、もう
後には退けないのよ。それに、売られたケンカを買わずに逃げたら戦わずに負けたことになるわ、
そうでしょ?」

ナオミ「アメリカン・ウェイってわけだ…」

ケイ「そう、その通りよ」

ナオミ「やっぱりアリサは巻き込めないな…」

ケイ「そうね、危ない橋を渡るのは私たち2人だけで十分だし、手を汚すのは私1人でいいわ」

ナオミ「気をつけてね」

ケイ「あなたもね、じゃあ段取り通りに頼むわ」

臨海工業区・廃工場…

辻「こんな人気のない場所に内密に呼びつけるということは、どうやら
考えがまとまったようですね」

ケイ「ええ、決まったわ」

辻「大洗の再廃校に協力していただけるという賢明な選択をなさったと信じてますよ。
航空法違反や電波法違反など、あなたたちを追い込む材料はたくさんあるんです。私たちは
各方面に顔が利きますからね、政治を動かす者が最も強いんです。アメリカかぶれのあなたたち
風に言えば『力こそ正義』というわけです。おわかりいただけましたか?」

ケイ「よくわかったわ、あんたもそのお仲間もクズだってことがね」

ケイ、辻を拳銃で射殺。

ケイ「『殺られる前に殺れ』これもアメリカン・ウェイよ」

ケイ(ここまではうまくいったわ、後はナオミと合流するだけで…)

ヴーッ、ヴーッ

ケイ(電話!?一体誰から…アリサ!?)

ケイ(仕方ないわね、巻き込まないつもりだったけど、アリサ、あなたにもアリバイ工作に協力してもらうわ)


ケイ「はいアリサ!どうしたの?」

アリサ『どうしたのじゃありませんよ!次のアンツィオとの試合の資料が届いてないじゃないですか!先週中に用意
するって言ってたのに!もう!いい加減なんだから!』

ケイ「そうだっけ?ソーリー!」

アリサ『もう間に合わなくなりますよ!』

ケイ「諜報員からの報告書が来てるから概要だけでも言うわね。今、大丈夫?」

アリサ『もしかして今運転中ですか?だったら帰ってからでも…』

ケイ「大丈夫だって、インカム使ってるから。それにもう間に合わないって言ってたじゃない」

アリサ『危ないですって!』

ケイ「ノープロブレムだってば!じゃあ読むわね、まず最大の脅威は修理の完了したP40ね。
主砲の34口径75mm砲の装甲貫通力は距離500mで80mm、1000mで60mm、
だから450mから300mまで接近を許せばM4シャーマンでも正面装甲を抜かれるわ、
だから…ねえ、ちゃんと聞いてる?メモ取ってるの?」

アリサ『ボイスレコーダーで録音してるから大丈夫ですって』

ケイ「あんまり機械に頼ってばっかだといつぞやみたいに足元すくわれるわよ。じゃあ続けるわね、
これは未確認なんだけどCV33に対戦車ライフルや擲弾筒を搭載して、限定的ながら対機甲能力を…」

~~~~~~~~~~~


ケイ「ナオミ!なにか問題は?」

ナオミ「なにも問題ないわ」

ケイ「そう、ならミッションコンプリートね」






古畑「いやあ西園寺くん、助かったよ。乗せてくれてありがとうね、自転車も載せてもらったし」

西園寺「いえ、いいんですよ、僕もちょうど現場に向かう途中でしたし」

古畑「それにしてもいい車買ったねえ、ワンボックスかあ」

西園寺「たいしたことありませんよ、中古ですし」

『ピンポーン♪この先、踏切があります。ご注意ください』

古畑「カーナビもいいやつ積んでるねえ」

西園寺「前のオーナーが置いていったんですよ。突然しゃべりだすんでびっくりすることもありますけどね。
あ、着きましたよ」

向島巡査「あっ、お疲れさまです。今泉さんがお待ちですよ」

今泉「あっ、古畑さん、…ってなに2人して車で来てるんですか」

古畑「いや、自転車で現場に向かってたんだけど、途中でばったり会ってねえ、乗せてもらったんだ。現場どこ?」

今泉「こっちです、ご案内します」

西園寺「じゃあ僕は車を止めてきますね」

今泉「おい!車買ったからってあんまりいい気になるんじゃないよ!まったくもう」

西園寺「…」

古畑「で、どんな感じ?」

今泉「被害者は辻廉太、文科省の官僚で学園艦教育局の局長だそうです。胸に拳銃のものと思われる
銃創があり、おそらくこれが死因と思われます。死亡推定時刻は臓器検温による簡易測定では15時
から16時の間、近所で仕事をしてた土木作業員が15時30分ごろに銃声らしい音を聞いてるので
それとも符合します」

古畑「空薬莢は見つかった?」

今泉「鑑識が探してますが見つかってません」

古畑「犯人が持ち去ったんじゃなきゃオートマチックじゃなくてリボルバーかなあ。この人、こんな廃工場で
何やってたんだろうねえ?」

今泉「さあ、職場に問い合わせてみたんですが今日は休暇を取ってたそうで…、財布と携帯端末が消えてるんで
物盗りの線で調べを進めてますが…」

古畑「この人、学園艦教育局の局長だって言ってたね、学園艦といえば今港に大きいのが入港してるよねえ、
ここからもよく見えるあれだよ」

今泉「えーっとあれは…」

西園寺「サンダース大学付属高校ですね、調べてみます」

今泉「いつの間に戻ってきたんだよ!今言おうとしてたんだよ!」

アリサ「隊長、警察の人が来てるんですけど…」

ナオミ「警察?」

ケイ「わかったわ、こっちに来てもらって」

アリサ「わかりました、呼んできますね」

ナオミ「ねえ…」

ケイ「思ったより早かったわね。私にまかしといて。ナオミは外しといた方がいいみたいね」

ナオミ「わかった、気をつけて」

ケイ「お互いにね」

古畑「いやあどうも失礼します、捜査一課から参りました古畑と言います。隊長のケイさんで
いらっしゃいますね」

ケイ「ええ、私がキャプテンのケイよ。捜査一課の刑事さんが何のご用かしら?」

古畑「いえねえ、ちょっとした事件がありましてねえ、文科省の辻さんってご存知ですよねえ。
彼、亡くなりました。状況から見て他殺のようなんですが…」

ケイ「ワオ!それっていつのことなの?」

古畑「昨日の3時ごろです」

ケイ「それで、私ってサスペクトなわけ?まあ疑われても仕方ないと思うけど」

古畑「いえ、そういうわけじゃなくて、関係者全員を対象にした形式的な調査でしてね、で、先程も
申し上げましたが、昨日の3時ごろどちらにおられました?」

ケイ「昨日は一日中戦車道連盟の支所を回ったりしてたわね。3時半ごろは車の中だったわ。移動中だったの」

古畑「お車の中でしたか」

ケイ「ええ、カーナビのログを調べればわかるわ。まあ証拠になるかどうかわかんないけど」

古畑「わかりました、じゃあまた聞きたいことがあれば伺いますので、その節はよろしくお願いします」

ケイ「OK!わかったわ、それにしても誰がやったのか知らないけどグッジョブね、あんなやつ死んで当然だわ」

古畑「死んで当然の人なんてこの世にいませんよ、人を殺しても許されるのは自分が殺されそうな時と、殺されそうな
人を助ける時だけです」


~~~~~~~~~~~


古畑「西園寺くん、彼女、要注意だね」

西園寺「どうしたんですか?」

古畑「彼女、私が3時ごろとしか言ってないのに3時半のアリバイについて言ってきたんだ。何故正確な時間を知ってたんだろうねえ?」

西園寺「あっ…、確かにそうですね」

古畑「目を離さないようにしようね」

古畑「じゃあ帰ろうか、今泉くん、君も乗せてもらったら?」

今泉「いや、僕はいいです」

古畑「もう、すねてないで乗せてもらいなさいよ、もらってる給料は同じくらいなんだから、君だって
変な仏像とか買って無駄遣いしなけりゃ今ごろ車くらい買えてたんだからさ」

今泉「あれ壊したの古畑さんじゃないですか!」

西園寺「まあまあ、お2人とも署まで送りますから」

『ピンポーン♪日没の時間です。ライトの点検をお願いします』

古畑「西園寺くん、本当に便利だねえ、このカーナビ」

つづく

~~~~~~~~~~~

古畑「サンダース大学付属高校ってアメリカ資本の学校だよねえ」

西園寺「ええ、米軍基地と同じでアメリカ合衆国の飛び地みたいな扱いになってます」

古畑「銃器の規制も緩いんだろうねえ」

西園寺「さすがに個人の所有は認められていませんが、それでも生徒会が一括管理する形で
かなりの数のスポーツ用と警備用の銃器が艦内にあります。アメリカ本国に準ずる形で形式や
シリアルナンバーや旋条痕が登録されてるはずです」

古畑「でも登録済みの銃を使うかなあ」

西園寺「まあその辺りは解剖の結果待ちですね」

古畑「被害者とあの学園艦の関係ってどうなの?」

西園寺「例の大洗女子学園の廃校問題ですよ。あの騒ぎの時、大洗の戦車の隠蔽に協力して、
その後の試合にも加勢してますからね、相当文科省から恨まれてたようです。それでいろいろと
嫌がらせを受けてたみたいですよ」

古畑「んー、動機としては十分だねえ」

今泉「古畑さーん、摘出された弾の照合結果が出ました!口径は31口径でライフリングは7条左回り、
弾頭の形状は被甲のないまん丸の鉛球でした」

西園寺「今泉さん、それって…」

古畑「んー、おそらく古式銃だねえ、ライフリングがあるところを見るとたぶんパーカッションリボルバーだろうねえ」

今泉「あの、それ何かまずいんですか?」

西園寺「アメリカ本国ではそういう古式銃やそのレプリカは美術品扱いで銃器としての登録は
不要とされてるんです」

古畑「その銃に前科がなければお手上げだねえ」

西園寺「銃から容疑者を辿るのは無理みたいですね」

古畑「彼女…ケイさんの車なんだけど、どうなってるの?」

西園寺「はい、交通課と公安に協力してもらって道路監視カメラと
Nシステムの映像を提供してもらいました。こちらをご覧ください」

古畑「初期型のムスタング・マッハ1かあ、渋い車に乗ってるなあ。運転席をアップにできない?」

今泉「うーん、僕には彼女本人に見えますけどねえ」

西園寺「どうでしょうか、フロントガラスに照り返しが映り込んでる上にスピードが出てるせいか
ぼやけてますね。本人だともそうでないとも言いかねます。記録では彼女の証言通りに3時半ごろ
にはこの道を走行してます」

古畑「まあ運転してるのが彼女本人だったらね。とにかくもう一度学園艦に行こう、本人に会って確かめないと」

ケイ「ハーイ!オフィサー!もう来たの?歓迎するわ!」

古畑「ええ、お邪魔しますよ、いくつかお尋ねしたいことがありまして」

ケイ「やっぱり車のこと?」

古畑「はい、それもありますが、まずはここの銃器について伺いたくて」

ケイ「わかったわ、ついてきて!」

ケイ「ラージボアやスモールボア、エアライフルなんかのライフル競技やスキート、トラップ、
ランニングディアなんかのクレー射撃、エアピストル、フリーピストル、ラピッドファイアなどの
ピストル競技に、日本国内では絶対に無理なIPSCやPPCなんてコンバットシューティングも
やってるわね」

ケイ「戦車道やってる子は部活で射撃やってる子が多いわね、ナオミはラージボアライフルやってるし
アリサはコンバットシューティングやってるわ。でもまあアリサの場合は好きな男の子につきあってだけどね。
ピストル射撃がこんなに大変なスポーツだなんて思ってなかったって愚痴こぼしてるけど」

古畑「ケイさんは何か射撃競技やってらっしゃらないんですか?」

ケイ「私はカウボーイアクションね」

今泉「それってあれですか?西部劇の早撃ち?」

ケイ「あれはファストドロウね、あれとは違うわ。19世紀半ばから20世紀初頭の開拓時代の
服装や装備を再現して銃も当時の古い型のものを使用する射撃競技なの。おそらくドレスコード
のある唯一の射撃競技ね」

古畑「それって先込め式の古式銃も使うんですか?例えばパーカッションリボルバーとか」

ケイ「ええ、マズルローダーを使うカテゴリーのクラスもあるわ。今ちょうど部活やってるからのぞいてみる?」

古畑「ええ、ぜひお願いします」

西園寺「ショットガンにレバーアクションライフル、ピストルまで使って…、確かに米国の飛び地でなければ
絶対に無理ですね」

ケイ「ハーイ!どう?1870年代の騎兵隊のコスチュームよ!普段は練習の時にはコスチュームは
着ないんだけど、今日はお客さんが来てるから特別ね!」

古畑「いやあ、よく似合ってますよ」

ケイ「で、ここがガンセイフね。パーカッションリボルバーはこっちの棚よ」

古畑「んー、ここのとこ、拳銃一丁分空いてますねえ、ここ、何が置いてあったんですか?」

ケイ「目ざといわね、そこにはコルトM1849のレプリカが置いてあったんだけど、使用中に
破損したんで廃棄処分にしたわ」

古畑「当ててみましょうか、31口径でライフリングは7条左回り。違いますか?」

ケイ「さあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね。いずれにせよ、もう廃棄
されててわからないわ」

古畑「んー、それは残念ですねえ」

ケイ「古畑さんたちも撃ってみない?日本の刑事さんの腕前も見てみたいわ」

古畑「いや、やめときますよ、私、銃は苦手なんです。普段持ち歩かないもんだから使い方も忘れちゃったくらいで」

ケイ「よくそれで警察官が務まるわねえ…」

つづく

古畑「じゃあ他の方にもお話を聞きたいのでちょっと失礼します、また後程」

ケイ「シーユー!」


~~~~~~~~~~~

古畑「アリサさんですね、私、捜査一課から参りました古畑と言います。ちょっとお話を伺いたいのですが」

アリサ「はあ…」

古畑「先日の3時半ごろなんですが、お宅の隊長さん…ケイさんのことなんですが」

アリサ「その時間だったら隊長と電話で話してましたよ。次の試合についていろいろあって」

古畑「ケイさんは車の中から掛けたと仰ってましたが」

アリサ「ええ、車を運転中だって言ってましたよ。その時の録音したのがありますけど」

古畑「それ、ぜひお聞かせ願えませんか?」

『…まず最大の脅威は修理の完了したP40で…』

古畑「んー、ずいぶんと静かですねえ、本当に走ってる車の中から掛けてきたんでしょうか?」

アリサ「ああ、あの車って電気自動車なのよ、何度か乗せてもらったけど窓を閉め切ってると
こんなふうにすごく静かになるわ」

古畑「あの車、電気自動車なんですか、驚いたなあ。あの、この音声データ、お借りできますか?」

アリサ「ええ、いいけど…」




古畑「ナオミさんですね、私、捜査一課から参りました古畑と…」

ナオミ「ええ、知ってるわ、刑事さんでしょ?隊長から聞いてるわ。で、私に何か?」

古畑「ちょっとお尋ねしたいことがありましてねえ、単刀直入に聞きますが、あの日の3時半ごろ、
どちらにおられましたか?」

ナオミ「なに?私も容疑者ってこと?」

古畑「いえ、ごく形式的なことで、関係者全員にお聞きしてるところで…」

ナオミ「アリバイらしいアリバイはこれといってないわね。あ、そうだ、ファイアフライ車長子と一緒だったわ」

古畑「お友達ですか?」

ナオミ「というよりステディってとこかな」

今泉「えっ」

ナオミ「何?刑事さんたちってそういうのに偏見ある方?」

古畑「いえ、そんな…、お気に障ったのなら謝ります」

ナオミ「いいわ、呼んでこようか?」

古畑「いえ、結構です、証明できる方がいらっしゃるならお話は必要になった時で結構ですから。
では今日のところはこれで失礼します」



ケイ「古畑さん、何か成果はあった?」

古畑「まあボチボチってとこですか、そうだ、ちょっとお車を拝見できますか?」

ケイ「そうくると思ったわ、こっちよ!」

古畑「アリサさんからも聞いたんですが、この車って電気自動車なんですってねえ」

ケイ「そうなのよ、元はグランパの車だったんだけど、グランパがベトナムで亡くなってからダディの実家に
置きっぱなしになってたのをもらったの。長らく放置されてたせいでエンジンも電装品もダメになってて、それで
電気自動車に改造したのよ。一緒にエアバッグや衝突防止装置を装備したり、内装も今風にしたりで、元のまま
のところは外見だけね。だからヴィンテージカーとしての価値はほとんどないわ」

西園寺「あ、このカーナビ…」

古畑「んー、西園寺くんの車と同じやつだねえ」

ケイ「あなたもこれ使ってるの?これって便利よねえ」

西園寺「突然しゃべりだしてびっくりすることがありますけどね」

ケイ「あー、あるある」

古畑「申し訳ありませんが、この車、しばらくお借りしますね。もちろん細心の注意を
払いますし、警察の方で代車を手配いたしますから」

ケイ「それはいいけど、急いでね?来週には学園艦が出港するから。洋上で一度アンツィオの艦と合流してから
太平洋を横断してステーツに行くの」

古畑「我が国の司法の及ばない場所に行くということですか」

ケイ「まあそういうことね。何かするなら急いだほうがいいわ」

古畑「ええ、そうしますよ、今日のところはこれで失礼します」

ケイ「グッドラック!健闘を祈るわ」

古畑「ええ、お互いに」

アリサ「あれ?帰ったんじゃなかったの?」

古畑「いやあ、一つだけ聞いておくのを忘れてたことがあって、ケイさんのあの車って、
ご本人以外の方が運転することってあるんですか?」

アリサ「私が知る限りではないわね。亡くなったおじいさんの形見みたいなもんだからすごく大事にしてるわ」

古畑「そうですか、ありがとうございました」

つづく

ケイ「ナオミ、彼女にはなんて言ったの?」

ナオミ「『アリバイがなくて刑事に疑われるとウザいから一緒にいたことにしてくれ』って。
それだけで、彼女、なにも知らないわ」

ケイ「悪いわね、私たち2人だけでやるつもりだったのにあなたのステディまで巻き込んじゃって…」

ナオミ「アリサもね。ちょっと調べたんだけど、あの古畑って刑事、かなりの曲者ね。SMAPや
イチローの事件とか、大きな事件をいくつも解決してるわ。どうする?」

ケイ「どうもしないわ。どうせ何をする時間もないし、下手に動いて却って怪しまれるようなことはしないわ。
ドントウォーリー!手を下したのは私なんだから何も心配しないで」

~~~~~~~~~~~

西園寺「彼女、事件の起こる1週間ほど前に警備会社と契約して盗難防止用GPSを車に組み込んでるんです。
車の移動したログを提供してもらいました」

今泉「これを見ると現場からは離れた場所を走ってますね。アリバイが成立してるんじゃ…」

古畑「運転してたのが本当に彼女だったらね」

西園寺「でも、運転してたのが彼女ではなかったと立証できない以上、犯人ではない証拠として受け入れるしかないですよ。
カーナビから解析した運行状況のログも同様でしたし」

古畑「うーん、警備会社と契約したのも我々に運行状況を見せるためだったとしか思えないんだよねえ」

今泉「やっぱり物盗りの仕業じゃないんですか?」

古畑「今泉くん、こういう場合、本当に強盗の仕業だったことなんてないじゃないか。
考えてごらん、もし君が拳銃持ってて、なおかつ金に困ってるとしたら、そこらへん歩いて
た官僚の人と、銀行なんかの金融機関とどっちを襲う?」

今泉「官僚の所持金にもよると思います」

古畑「君ねえ…」

おでこぺチっ

古畑「そうだ、このカーナビって今の設定は事件の日と同じになってる?」

西園寺「ええ、そのはずですが…」

古畑「じゃあ、この車で同じルートを走ってみよう。何かわかるかもしれないよ」

西園寺「じゃあ早速…」

古畑「あ、ちょっと待って」

西園寺「どうしました?」

古畑「西園寺くん、何もせずにそのまま運転席に座ってみて」

西園寺「えっ?はい、わかりました」

古畑「シートの位置はどう?」

西園寺「ぴったりです、ペダルにちゃんと足が届きます」

古畑「サイドミラーは?」

西園寺「ちょうどいい位置です」

古畑「ルームミラーは?」

西園寺「あれ?ズレてますね」

古畑「あ、そのままにしといて。今度は今泉くんが乗ってみて。自分に合うように
シートの位置を調整してね」

今泉「はい」

古畑「ルームミラーの位置は?」

今泉「後ろがよく見えます」

古畑「…」

古畑『えー皆さん、イチローを逮捕したときもそうでしたが、フェアな態度を重んじる人物というのは
犯罪者には向かないようです。彼女はどこでミスを犯したのか?続きは解決編で。古畑任三郎でした』


次回解決編に続く。

ケイ「あら、また来たの?今度は何?そろそろ車を返して欲しいんだけど」

古畑「それなんですが、あと一回だけ実験したらお返ししますので」

ケイ「実験?」

古畑「それについてもご説明しますから、今日はどうしてもお尋ねしたいことがありまして」

ケイ「聞きたいこと?ホワッツ?」

古畑「あの日のあの時間、車を運転していたのはあなたじゃなくてナオミさんじゃなかったんですか?
カツラとサングラス程度の簡単な変装でも、道路監視カメラや歩道を歩いてる人の目くらいならごまかせる
と踏んだんでしょう。事実、監視カメラの映像からはあなたとも別人とも判断できない状態でしたから」

古畑「あなたは辻さんを殺害してから現場を離れて適当な場所でナオミさんと合流して入れ替わった。
現場付近で折り畳み自転車に乗って走り去る少年が目撃されてます。これは変装したあなたでしょう、
違いますか?」

ケイ「運転してたのが私じゃなくてナオミだったって証拠はあるの?」

古畑「いえ、ナオミさんが運転していたという物証はありません」

ケイ「じゃあお話にならないわね」

古畑「ですが、運転していたのがあなたではなかったという証拠ならあるんですよ、
アリサさんの録音データです」

ケイ「何?何か変な音でも入ってたっていうの?」

古畑「いえ、おかしな音は入っていませんでした。ですが、それが問題なんです。
今泉くん、始めてくれない?」

今泉『わかりました』

古畑「今、西園寺くんがあなたの車を運転しています。今泉くんが助手席で電話しています。
こっちのスピーカーにその音声が出るようにしてあります。そしてカーナビの使用ログを解析
して使用状態も事件当日と全く同じにしてあります。もうすぐあの時間に通ったのと同じ道に
さしかかりますよ」

今泉『…まず最大の脅威は修理の完了したP40で…』

古畑「今泉くんにあなたとアリサさんの通話内容を読み上げてもらってます」

今泉『…これは未確認なんだけどCV33に対戦車ライフルや…えーっと、これ何て読むの?』

西園寺『テキダントウです』

今泉『そうそれ!今言おうとしてたんだよ!』

古畑「何をやってるんだろうねえ」

今泉『擲弾筒を搭載して限定的ながら対機甲能力を…「ピンポーン♪この先、300m前方に右折専用レーンがあります、ご注意下さい」』

ケイ「あっ…」

古畑「ね?カーナビがあの日とおなじ状態だったら、録音されたデータの中のどこかにこの音声が入ってないとおかしいんですよ」

古畑「あの時間、本当はどこにいたんですか?そもそも何故そんな嘘をついたんですか?納得のいく説明をお願いします」

ケイ「…前にも言ったでしょ?あんなやつ死んで当然だって」

古畑「それは自白と判断してよろしいでしょうか?」

ケイ「…」

古畑「便利なカーナビですが、便利過ぎるのも考えものですねえ。思わぬところで足元をすくわれてしまいました」

ケイ「それ、私がアリサに言ったセリフじゃない…」

ケイ「いつ気付いたの?運転してたのが私じゃなくてナオミだったって」

古畑「戦車とかトラックとか、ルームミラーが必要ない車に乗ってる人によくあることなんですが、
仕事が終わって自分の車に乗ったときに、サイドミラーばかり見てルームミラーの存在を忘れてしまってる
ことがあるんです」

古畑「西園寺くんは男性としては小柄な方で、身長はあなたと同じくらいです。その彼が運転席に座ったとき、
シートの位置はぴったりだったのにルームミラーの位置はズレていました。逆にナオミさんは女性としてはかなり
背が高い方で、だいたいウチの今泉くんと同じくらいです。今泉くんが自分の体に合わせてシートの位置を調節したら
今度はルームミラーの位置はぴったりでした。だからピンときたんです、あの日、運転してたのはナオミさんだったって」

ケイ「ケアレスミスね、私としたことが…」

ケイ「やっぱり慣れないことはするもんじゃないわね」

古畑「あなたのようにフェアプレーを重んじる人は犯罪者には不向きなんですよ。
以前ご自分で仰ってたじゃないですか、『道を外れたら戦車が泣く』って」

ケイ「そうね…、そうだったわね」

古畑「文科省は今大変みたいですよ、みんな怖気づいてしまって辻さんの後任が決まらないって話です。
サンダースや他の学校への嫌がらせや大洗の再廃校の話も、当分は凍結されるでしょうね」

ケイ「だったら私のやったこともまるっきり無駄じゃなかったってことね」

ケイ「ねえ古畑さん、文科省のやつらに会ったら言っといてよ、銃はまだたくさんあるってね」

古畑「『まだ弾は残っている』ですか…、まるで『仁義なき戦い』ですねえ、それもアメリカン・ウェイですか?」

ケイ「いいえ、これはマイ・ウェイよ」



                         終

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