荒木比奈「ただただだらだら」 (14)

「……プロデューサー」

「んー……?」

「暑いっス……」

「……暑いねぇ」

「クーラー点けません?」

「クーラー?」

「そっスー」

「いいけど。……これをどける、っていう選択肢は」

「ないっスねー」

「ないかぁ」

「ないっス。毛布肌蹴るとか、そんなことしたらいろいろ見えちゃうじゃないっスか」

「それはそうだけど、でもそれ今更じゃない?」

「今更っスけどそれでも、っス。……プロデューサーは、乙女のこういう面倒な心の機微を理解できるようになったほうがいいと思うっスよ?」

「難しい課題だねぇ」

「まぁ、ゆるゆる分かっていけばいいっスよ。どうせ私はそん時まで一緒でしょうし」

「そっかぁ」

「そっス。……それで、プロデューサー」

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「ああ、クーラー?」

「はい。なんだかもう息までメッチャ熱いんで、結構ガンガンでお願いしたいんスけど」

「あんまり寒暖差付けすぎると風邪引くよ? こんな汗まみれで、もうほんとベッタベタなくらいなのに」

「いいんスよー。そうなったらプロデューサーが看病してくれるはずデスしー。それならそのルートも私的には勝ちかなーって」

「俺のほうが引くかもだけどね」

「そしたら私が看病しまスよ」

「二人とも引いちゃったら?」

「そうなったら二人で引き籠っちゃえばいいっスよ。いいじゃないっスか、ちゃんとした建て前をもらって二人でお休みーとか」

「確かに魅力的なところもあるけどさ」

「だったら」

「でもダメ。俺が急に休んだら他のアイドル達にもちひろさんにも迷惑かかるしね。比奈だって、今は大事な時なんだから」

「それはそうっスけどー……。はぁ……悲しいっスねー……うちの旦那さんは嫁さんよりも仕事が大事なんスねー……私は一番じゃないんスねー……」

「そういうことじゃないでしょ。というか、旦那でもないし」

「む、冷たいっスねぇ」

「もう何度やってるやり取りだと思ってるのさ」

「まぁそうっスけどー。でもなんていうかこう、こういうのを言いたくなるのは恋する乙女としては仕方ないというか」

「乙女かぁ」

「……その反応は流石に酷いと思うっスよ」

「ごめんごめん」

「私が乙女じゃなくなったのはプロデューサーのせいだったはずなんスけどねー?」

「それはそうだけど。……こら、擦り付いてこない」

「ふへへー」

「もう」

「……で、プロデューサー」

「うん?」

「もう何度もやってるやり取りっスけど、それならほら、プロデューサーも」

「俺も?」

「言ってほしいっス。……何度もしてる通り、今も、そう思ってくれてるのは変わってないっスよね?」

「それはもちろん」

「なら」

「恥ずかしいんだけどなぁ」

「いいじゃないっスかー」

「まぁ、うん。それじゃあ……比奈」

「はい」

「比奈のほうが大切だよ。こんなに好きで、こんなに愛してるんだから……比奈は、俺にとって一番大切な人だからね」

「……ふへぇ」

「どうしたの、変な声出して」

「いやー……やっぱそれ、ヤバいっス。何度言われてても思わず腰が抜けちゃうレベルっスよ。……なんかもう、顔がにへにへなるの止めらんないっス」

「みたいだねぇ。胸も、またとくんとくんなってるし」

「うあ、やっぱり伝わっちゃいまス?」

「これだけ密着してたらねぇ」

「あー……でもまぁ、それはなるってもんっスよぉ……。というかそれに、そういうプロデューサーだってドキドキなってるじゃないっスかー」

「ああ、伝わっちゃってたかな?」

「これだけ密着してまスからねぇ」

「そうだねぇ」

「そうっスよー。……ん、ふへへー……」

「……比奈」

「嫌っスか?」

「嫌じゃないけど」

「ならいいじゃないっスか」

「いや、嫌じゃあないんだけど……こう、そんなふうに擦り付いてこられるとさ」

「興奮しまス?」

「見も蓋もないね」

「今更何かを取り繕うような仲じゃあないじゃないっスかー」

「割と取り繕われてる時もあると思うけどなー」

「乙女的に譲れないポイントはどうしてもあるもんなんスよ」

「そっかぁ」

「そうなんス。……でも、今のこれはべつにそういうんじゃないんで思う存分。……すりすり。ぐにぐに。ぬちゅぬちゅー」

「声に出しながらしなくても」

「いやぁ、そのほうがいいかなーって。ほら、声を出すと息がかかるじゃないっスか」

「かかるね」

「良くないっスか?」

「良いとは」

「鼻とか口許とかに息がかかるの、嬉しいかなーって。プロデューサーってほら、耳元で囁かれたり喘がれたりするの好きじゃないっスか」

「好きだけどさ。……いやでもほら、こんなじっとり濡れちゃうくらい、そのねっとりした息をかけられるとさ」

「えー」

「えーって」

「ねっとりしてるのは仕方ないじゃないっスかー。暑くて熱いし、体勢もずっとこんな感じで」

「まぁねぇ。こんな毛布にくるまって、何も着ないで、抱き合って」

「何度もしてきてこうするのも慣れはしましたけど、でも慣れただけ。高鳴らずにはいられないっスよ。こんな、プロデューサーと……ほら、好きな人と、こんなふうにしてたら……そんなの、興奮せずにはいられないっス」

「それはまぁ」

「だから仕方ないんスー。……というかプロデューサーのせいなんスから、文句禁止。受け入れろ、っスよ」

「そっか、仕方ないかぁ」

「仕方ないんス」

「だねぇ。抱き締めて放さないのも、胸とかお腹とか擦り付けてくるのも、汗とか息とか……いろいろで濡らしてくるのも、仕方ないんだよねぇ」

「そっスー」

「そっかぁ」

「はいー」

「とはいえ、比奈」

「はいー?」

「ちょっとだけ放してもらってもいい? ほら、クーラー点けてくるから」

「あ、あー……そっスね。それじゃあ」

「ん」

「……」

「……」

「…………」

「…………比奈?」

「プロデューサー」

「うん?」

「やっぱいいっス。後で。というか無理っス。放すの」

「暑いんじゃない?」

「それは暑いっスよー。身体中ベタベタだし。ちょっと動くだけでぬちゃぬちゃ音するし。息もすっごい熱いし。……なんかもう、メッチャ暑いっス」

「でもいいの?」

「いいんス。しばらくはこのままで……お風呂、一緒に入りに行くまでは」

「そっか。……でも、あんまり熱くなりすぎそうになっちゃったらすぐ涼ませるからね」

「はい、お願いするッス」

「ん、それじゃあこのままで。……お風呂はいつ頃?」

「入りたくなったら、でいいんじゃないっスか?」

「ダメ。ちゃんと決めないでいると、結局いつもだらだらして夜とかになっちゃうでしょ」

「それでもいいんスけどねー……うぅん、じゃあまぁ、お昼過ぎたらとか」

「了解。ご飯は?」

「後でのほうがいいっスかねー。ベタベタしたまんまご飯、ってなんかあれっスし」

「だね。それじゃあそれで。……食べるのは昨日のだけでいい?」

「いいっス。というか、昨日のあれはその為に買い込んだんじゃないっスか。せっかく二人揃っての休みなんだから、もう外に出たりとかはしないで一日ずっと一緒に過ごしましょうーって」

「初めはどこか良いところへご飯を食べに行ったりとかしようかな、なんて思ってたんだけどねぇ」

「美味しいものもいいッスけど、それよりこうしてずっと一緒のほうが私的には嬉しいんスよ。プロデューサー、担当アイドルが増えてきて、最近あんまり一緒に居てくれませんし」

「それは申し訳ないと思ってるけど」

「じーっ」

「そんな恨めしそうな目で見られても」

「まーいいッス。こうして今日は一日一緒に過ごしてくれるわけですし。将来お嫁さんになる身としては旦那様に寛容でいてあげなくっちゃ、っスしねー」

「将来の嫁さんが優しくて何より。……ん。まぁそれじゃあ、お昼過ぎまではこのままでいようか」

「はいッス」

「熱くなっちゃったら言ってね」

「分かってるッスよ」

「ん、じゃあ」

「……あ、プロデューサー」

「うん?」

「もうちょっとだけ強くしてもらってもいいッスか? 抱き締めるの、ぎゅうって」

「いいよ。頭は?」

「撫でてください」

「了解。……ふふ、そんなとろんとしちゃって」

「幸せなんスもん……プロデューサーで、いっぱいで……」

「そっか。……昼過ぎには起こすし、眠たくなったら寝ちゃってもいいからね」

「はいッス……」

「……」

「……」

「…………」

「…………ん」

「………………」

「………………」

「……………………」

「………………プロデューサー」

「…………ん……?」

「ちゅーしません?」

「いきなりだね」

「したくなっちゃったんっス。……いいっスか?」

「それはまぁもちろん」

「へへ……ありがとうございまス……。……んっ……」

「…………ん」

「はー……やっぱ、いいッスねぇ……」

「満足?」

「はいー……良かったッス……」

「なら良かった」

「えへー……」

「ん……」

「…………」

「…………」

「………………プロデューサー」

「……うんー……?」

「もう一回……」

「ん、いいよ。しよっか」

「はい……ん、っ…………ちゅ……る、ぁ……」

「……ん、ふ……ぅ……」

「…………っ、はぁ…………えへへ……」

「……やっぱり熱いね」

「そッスね。プロデューサーもすっごい熱くなってましたし。唇も、舌も、頬の裏も」

「比奈相手にこんな状態であんなキスしたらそれは」

「プロデューサーは私にお熱ッスからねー」

「そうだねぇ」

「ま、私もすっかりプロデューサーにお熱なんでおあいこなんスけどね……えへへ」

「んっ……」

「あ、ごめんなさい。痛かったッスか……?」

「や、大丈夫。急にだったからちょっと驚いただけだよ」

「そっスか、それなら……へへ、もっとぎゅっとしちゃいまスね……」

「どーぞ。こっちもしたほうがいい?」

「ほしいっスー」

「了解」

「ふへぇ……」

「気持ちいい?」

「最高っスよー……」

「それなら良かった」

「えへへー……んー……プロデューサー……」

「ん?」

「大好きっスよ……私、プロデューサーのこと……愛してまスから、ね……」

以上になります。
お目汚し失礼しました。

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