勇者「とうとう辿り着いたぞ!」魔王「なんだこの幼女は」(38)

魔王城、王の間

勇者「とうとう辿り着いたぞ!」

魔王「・・・・・・なんだこの幼女は」

勇者「いざ!」タッタッタ

魔王「待て、そこは」

ツルン

勇者「あう!」ズテン

魔王「・・・・・・モップをかけたばかりだ」

勇者「・・・・・・う、ぐす、ひっく」

魔王(な、泣いている)

勇者「・・・・・・」キッ

魔王「お、俺が悪いのか?」

勇者「痛いよう」スリスリ

魔王「・・・・・・あー・・・・・・いや、だってお前が勝手に」

勇者「・・・・・・」キッ

魔王「その、すまぬ」

勇者「だまれ! 敵になさけをかけられるなど!」

魔王「だってお前が」

勇者「・・・・・・」キッ

魔王「・・・・・・」

勇者「わたしは勇者だ!」

魔王「そ、そうか・・・・・・そうかぁ?」

勇者「魔王、かくご!」スタッ

魔王「おい、だからそこは」

ツルン

勇者「あう!」ズテン

魔王「・・・・・・滑るんだってば」

勇者「きさま! はかったな!」キッ

魔王「ああ、もういい。そうだ、この魔王が計ったのだ」

勇者「なんとひれつな!!」

魔王「ああ、卑劣だ。魔王だからな」

勇者「ゆるさん!」ソローリ

魔王(学習しているな)

勇者「・・・・・・」ソローリ

魔王(あと二歩で安全地帯だぞ)

勇者「よし! いざ!!」ダッ

ツルン

勇者「あう!」ズテン

魔王(何故あと一歩我慢出来なかったのだ)

勇者「痛いよう」スリスリ

魔王「だ、大丈夫か?」

勇者「だまれ! きさまと話をするためにきたのではない!」ダッ

ツルン

勇者「あう!」ズテン

魔王(・・・・・・転びに来たのか?)

勇者「うう、ぐすっ。なんでころんじゃうのよ」ポロ、ポロ

魔王「・・・・・・魔族長よ」

魔族長「ハッ、どうされましたか?」

魔王「・・・・・・それを、転ばないところまで運んでくれ」

魔族長「・・・・・・は?」

魔王「いいから」

魔族長「は、はあ」

魔王(見ていられない)

勇者「は、はなせ!」ジタバタ

魔族長「ちょ、暴れないで下さい」

魔王「よし、そこまで行けば大丈夫だろう」

魔族長「はい。では失礼致します」ドサ

勇者「いてっ! むう、陵辱したな!」

魔王「いや、陵辱はしてないから」

勇者「へんたい! くずにんげん!」

魔王(・・・・・・なんだこの新しい呪文は。心を抉られる)

勇者「わ、わたしは勇者だ!!」

魔王「さっき聞いたが」

勇者「つよいんだぞ!」

魔王「ああ、そんなことを言う勇者は今までいなかったよ。よほど強いんだろうな」

勇者「ほめるな!! 篭絡されないぞ!!」

魔王「褒めてない、皮肉だぞ」

勇者「ば、ばーか!」

魔王「とうとうただの悪口だな。・・・・・・お前、どうやってここまで辿り着いたんだ?」

勇者「なみいる魔族を、たおしてきた!!」

魔王(そんな報告入ってないけどなぁ)

魔王「魔族長よ」

魔族長「ハッ。どうされましたか?」

魔王「この娘はどうやってここまで来たのだ」

勇者「娘ではない! 勇者だ!!」

魔王「・・・・・・この勇者は、どうやってここまで来たのだ」

魔族長「・・・・・・言いづらいのですが」

魔王「ああ」

魔族長「あまりに哀れな様子に、見逃す者が多かったようで」

勇者「あ! ぶつけたところにあざができてる!」

魔族長「あまりの転びっぷりに、つい傷薬を渡す者まで居たようで」

勇者「やっぱり火龍の傷薬はよく効くなぁ」ヌリヌリ

魔王「・・・・・・うん、分かった」

魔族長「申し訳ございません」

魔王「いや、うん。もう下がっていいよ」

魔族長「はい」

魔王「・・・・・・それで、何をしに来たのだ」

勇者「魔王をたおしにきた!」

魔王「そ、そうか」

勇者「おまえ、魔王だろう!」

魔王「そうだ」

勇者「じゃあ言うことがあるだろう!」

魔王「え、なにを?」

勇者「大地の半分を、みたいなやつ!」

魔王「なんと前時代的な」

勇者「いいから言え!!」

魔王「・・・・・・よく来たな勇者よ。私の部下になれ、さすれば大地の半分をお前にくれてやろう」

勇者「ことわる!」

魔王「・・・・・・そうか」

勇者「ふふんっ」ドヤ

魔王「いや、断るなら何で言わせたのだ?」

勇者「勇者学校でならった!」

魔王「学校があるのか!」

勇者「うん、私はとても成績がいい!」

魔王「それは偉いな」

勇者「えへへ」

魔王「・・・・・・」

勇者「・・・・・・ハッ! きさま篭絡する気か!!」

魔王「それは大地のくだりで言うことだろうに」

魔王「・・・・・・ところで、お前はいくつなのだ」

勇者「6つだ!」

魔王「・・・・・・ここに来るのは、ちょっと早かったんじゃないのか?」

勇者「魔族の侵攻は待ってくれない!」

魔王「せ、正論だな」

勇者「フフン! ・・・・・・あ」グウウ

魔王「お腹が空いたのか」

勇者「す、空いていない!」

魔王「・・・・・・」

勇者「・・・・・・」グウウウウ

魔王「・・・・・・なにか、食べるか?」

勇者「敵の情けはうけぬ!」

魔王「いや、俺も昼食にするところだから」

勇者「・・・・・・毒をしこむつもりだろう!」

魔王「仕込まないから」

勇者「・・・・・・虫は、たべないぞ!」

魔王「ああ、俺も虫は食べないから大丈夫だ」

勇者「・・・・・・じゃあ、たべてやる」

魔王「はあ、魔族長よ」

魔族長「ハッ。どうされましたか?」

魔王「今日の昼食は勇者と食べることにした」

魔族長「・・・・・・えー、それはつまり?」

魔王「いや、毒とかは無しで」

魔族長「え? ですが」

魔王「・・・・・・仕方ないだろう、ほら」コソコソ

勇者「お腹へったなぁ」グウウ

魔族長「・・・・・・まあ、確かに」コソコソ

魔王城、テラス

勇者「おいしい!」もぐもぐ

魔王「・・・・・・ああ、そうだな」

勇者「ハッ! まさか、食べてる隙に襲う気か!」ガタ

魔王「いやいや、それなら毒を入れた方が早いだろうに」

勇者「ならいい!」もぐもぐ

魔王「・・・・・・」

勇者「・・・・・・」もぐもぐ

魔王「・・・・・・」

勇者「美味しかった!」

魔王「ああ」

勇者「お前に言ったのではない、魔王め! この城の料理長に言ったのだ!」

魔王「料理長も魔族だぞ」

勇者「なっ!?」

魔王「いや、ここ魔王城だから」

勇者「・・・・・・うーん」

魔王「どうした」

勇者「・・・・・・魔族め! 美味しかったぞ!」

魔王「ああ、そこで落ち着いたんだな」

魔王城、王の間

魔王「・・・・・・昼食も済んだが、戦うのか?」

勇者「・・・・・・」

魔王「あれ、どうした」

勇者「・・・・・・え?」

魔王「眠いのか?」

勇者「眠くなどない! 魔王め!」トローン

魔王「いや、とても眠そうだぞ」

勇者「ハッ! まさか!?」

魔王「料理長は何も入れていないぞ」

勇者「・・・・・・ん」トローン

魔王「・・・・・・魔族長よ」

魔族長「ハッ! ・・・・・・なんですかこれは」

勇者「・・・・・・すう、すう」

魔王「その勇者を客室のベッドへ運んでくれ」

魔族長「この娘は、本当に勇者なのですか?」

魔王「まあ、そうなんだろうな」

魔族長「寝ている隙に攻撃しては?」

魔王「そういう訳にもいかないだろうに」

魔族長「・・・・・・はあ」

魔王「だって仕方ないだろう! 寝ているんだもの」

魔族長「ええ、まあ確かに」

魔王「・・・・・・そんな目で見るなよ」

魔族長「魔王様、私の職務はなんでしょう」

魔王「魔族の部隊を率いて戦うことだ」

魔族長「もう一度」

魔王「・・・・・・魔族の部隊を率いて、戦うことだ」

魔族長「・・・・・・」

魔王「すまんって」

魔族長「・・・・・・はあ」ダキ

勇者「・・・・・・ん、すう、すう」

魔王「起こさぬようにな」

魔王城、客室

魔族長「・・・・・・はあ」ドサ

勇者「・・・・・・うーん」

魔族長「戻りますか。・・・・・・ん?」

勇者「・・・・・・」ギュ

魔族長「袖を離しなさい」グイ

勇者「・・・・・・すう、すう」ギュウ

魔族長「・・・・・・はあ」

勇者「すう、すう」

魔族長「・・・・・・動けない」

夕方、魔王城、王の間

勇者「おはよう、魔王め!」

魔王「ああ、おはよう」

勇者「だまれ!」

魔王「なんて理不尽なんだ。お前が先に言ったのではないか」

勇者「挨拶は基本だと勇者学校で習ったのだ!」

魔王「・・・・・・さっきは聞きそびれたが、その恐ろしい学校は一体なんなのだ」

勇者「きさまを倒す勇者をそだてる学校だ!」

魔王「ああ、やっぱり」

勇者「聞いているぞ! 魔王はとても恐ろしい魔族なんだ!」

魔王「ああ、そうだろうな」

勇者「こう、身長は3mくらいあって」

魔王「そんなことはないけどな」

勇者「たまに火を吹くらしい!」

魔王「火も吹かないし、たまにってなんだよたまにって」

勇者「・・・・・・うーん」

魔王「どうした」

勇者「・・・・・・きさま、ほんとうに魔王か?」

魔王「お前にだけは言われたくない」

勇者「私を馬鹿にするな! 成績は一番なんだぞ!」

魔王「そうらしいな。魔界もしばらく安泰だ」

勇者「壷を壊すのも一番早い!」

魔王「壷? なんだそれは」

勇者「人の家に入って、壷や木箱を壊す授業だ!」

魔王「泥棒じゃないか」

勇者「私は勇者だ!!」

魔王「そ、そうか」

勇者「宝箱の中身を盗むのも早い!!」

魔王「今盗むって言ったけどな」

勇者「あ!!」

魔王「今度はなんだ」

勇者「今何時だ!!」

魔王「5時過ぎだ」

勇者「も、門限を過ぎている!! 計ったな!?」

魔王「門限があるのか」

勇者「あるに決まっているじゃないか! 私をなんだと思っている!!」

魔王「勇者、じゃないのか?」

勇者「そうだ! ああ、どうしよう。お母さんに怒られる」

魔王「・・・・・・ルーラで帰ればいいじゃないか」

勇者「そんな難しい魔法使える訳ないでしょう!?」

魔王「本当にどうやってここまで来たんだ」

勇者「どうしよう! う、ぐす・・・・・・怒られるよう」

魔王「はあ、魔族長よ」

魔族長「・・・・・・」

魔王「・・・・・・魔族長?」

魔族長「はい」

魔王「・・・・・・怒っているのか?」

魔族長「いいえ」

魔王「この勇者をルーラで送ってやってくれ」

魔族長「・・・・・・はあ」

魔王「そんな目で見るなよ」

魔族長「ほら、行きますよ」

勇者「何処に連れていく気だ!!」

魔族長「何処に住んでいるのですか?」

勇者「はじまりの街だ!」

魔族長「では、そこへ」

勇者「なっ!? あ、ありがとう! 魔族め!!」

魔王「今度はもう少し大きくなってから来るといいぞ」

勇者「これから先も第2、第3の勇者がお前に挑むからな!!」

魔王「勇者の言うことじゃないだろう、それ」

勇者「うるさい! 明日も来るからな!!」

魔王「ああ、もう分かったから。おかえり」

魔族長「ルーラ」ヒューン

勇者「今日は私の勝ちだからな!!」ヒューン

魔王「・・・・・・はあ、お前の勝ちではないけれど、俺の負けではあるよ」

完。ありがとうございました。

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