速水奏「水族館に行かないかしら」 (14)
デレステでフェス限の奏を引けた記念で。
ちょっとだけ地の文注意。
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速水奏「プロデューサーさん、水族館に行かないかしら」
そう声をかけられたのは、ある夏の終わりだった。
P「水族館か......奏って、水族館とか好きだったっけ」
奏「大好き、とまでは言わないけど。今度湘南でイベントのお仕事があるでしょ?それで、近くに水族館があることを思い出したのよ」
なるほどそういう事か。
確か10年以上前に俺もその水族館に行ったことがあるはずだが、その後リニューアルされてからは行ってなかったかな。
P「イベント終わりに時間が取れたらいいぞ?」
奏「ふふっ、時間は作るものよ、優秀なプロデューサーならね?」
どうやら頑張るしかないようだ...
奏「じゃあ、楽しみにしてるわ、プロデューサーさん」
P「うん、俺も楽しみにしてる」
奏「...あら、そんなに楽しみにしてくれるのなら、今から行ってもいいのよ?」
P「い、今から!?」
奏「ふふっ...じゃあまた明日」
お得意の翻弄を披露して、奏は帰っていった。
心なしか足取りが軽そうに見えたのは気のせいだろうか。
ともあれ、俺はスケジュール帳に、思わぬできた楽しみなイベントの予定を書き込み、残った仕事に取り掛かった。
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龍宮城をイメージした駅舎の前で、奏は待っていた。
P「すまん、待たせた」
奏「ううん、いいのよ、その分楽しませてもらうから」
P「手厳しいな......」
とは言いつつも、奏の足取りは軽い。
もう既に水族館の方へと歩き始めている。
待ちきれない、と言った様子だ。
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??「さぁて、見守り隊も行きますよー?」
??「潮の香りもいいなぁ」ハスハス
??「や、やっぱりやめておこうよ...」
??「アタシ、イルカが見たい!」
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道路を渡ると、浜辺のすぐそばに白を基調とした建物が見える。
一見すると美術館かと思うような外観に、記憶の奥にある改装前の薄汚れた水族館をイメージしていた俺は驚かされる。
P「こんなに綺麗になったんだな......前来た時は狭くて汚くて、半分地下みたいだったのに」
奏「あら、前にも来たことがあるの?その時も、女の子と一緒だったのかしら?」
P「いや...その......」
奏「ふふっ、プロデューサーさんの事だから、家族で来たのでしょう?」
P「その通りです......」
奏「やっぱり......顔を見なくてもわかるわ」フフッ
本当に顔も見ずに当てられてるのだから情けない。
...顔を見なくても......?
そう言えば、今日はまだ奏と目を合わせていない気がする。
今も、券を受け取ると入口の方へと歩き出してしまっている。
仕方ないので俺も入口に向かう。
~~~~
水族館の中は暗かったため、奏は変装を解いたのだが......
P「か、奏、インナーが見えて...」
奏「.........?あぁ、これくらい普通でしょ?そうするためのデザインだもの」
P「しかしなぁ...」
奏「ふふっ、心配症ね、プロデューサーさんは。大丈夫よ、あなた以外には、見せたりしないわ」
P「そ、そういう問題では」
奏「あら、プロデューサーさんには、もっと見せてもいいのよ?.........って、あら」
P「どうした?」
奏「振り返らないで......どうやら、愉快な仲間達もついてきちゃった見たい」クスッ
P「......あいつらかぁ」
奏「そんな顔しないの。明日事務所でからかわれるだけじゃない」
P「それが嫌なんだけどなぁ...」
奏「あの子たちにはいつも振り回されてるものね」
P「まぁなぁ.........それより、奏はいいのか?」
奏「私は...別に見られていても構わないわ。見られて困るようなことは無いし。」
奏「......それとも、見られたら困るようなこと、私としたいのかしら?」
P「!」
奏「ふふっ、冗談よ」
P「やめてくれ......」
~~~~~~
P「すごいなこの水槽...」
奏「そうね、本当に海を横から覗いているみたいね」
P「相模湾の生き物を集めて、そのまま再現してるのか」
奏「.........」
P「............奏?」
奏「...魚から、私達はどう見えているのかしらね」
P「魚から?」
奏「見られているって言うのは分かるのかしら......それとも、こちら側は暗いから、明るい水槽の中からは見えないのかしら」
P「...アイドルと似てるかもな」
奏「確かにそうね......この厚いガラスを通ったものだけが届いていくのもよく似ているわ...」
P「............」
そう言って水槽を眺める奏の、ガラスに映った瞳がこちらを見る。
今日初めて、視線がぶつかる。
奏「もし、見られているのがわかっていたとしたら、こうやってガラスのすぐ近くを泳いで、こっちの反応を楽しんだりできるのにね」
P「反応を楽しむ?」
すると奏は不敵に笑って、こちらに歩み寄る。
奏「例えばこうしt...あっ!」
P「奏っ」ガシッ
暗いからか何かにつまづいてバランスを崩した奏の肩を、とっさに支える。
しかし、当の奏は余裕そうに耳元で囁く。
奏「ふふっ、後ろの帽子のお魚さんたちはどんな反応かしら?」
P「帽子のお魚...?」
帽子をかぶった魚なんているのかと一瞬戸惑うが、奏の後ろの方向に、何やら帽子と眼鏡でバレバレの変装をした一団が見つかり、すぐに意図を察する。
P「1人、顔を真っ赤にしているのがいるな...」
奏「あら、どのお魚さんかしら」フフッ
...どうやら全て奏の手の内だったらしい。
次の水槽に歩き出してる所を見ると、足もくじいていないようだからいいのだが。
カリスマギャルの赤面を見れたことで、溜飲を下げるだけにしよう。
~~~~~
奏「綺麗ね」
P「だな」
今回の奏のお目当てである、クラゲの展示ゾーンまでやってきた。
ちょうどイルカショーの時間と重なっているらしく、休日にしては人もまばらだ。
奏「こんなに透明で、幾何学的な形をしているのに、立派な生き物なのよね」
P「確かに、誰かが作ったみたいだよな」
奏「この傘なんて本当に......」
そこまで言って、奏は言い淀む。
奏「...クラゲって、海の月って書くのよね」
P「そうだな。海の中ならまだしも、水槽にいるクラゲを見るとあまり月っぽくは見えないけどなぁ」
奏「...そうね、せっかく海月という名前をもらっても、月に見えないんじゃあね...」
P「......どうかしたのか?」
奏「...プロデューサーさんからは、私はアイドルに見えているのかしら」
P「どういうことだ?」
奏「客席からアイドルに見えるようにレッスンしている私達を、ステージの横から、しかも、決して華やかとは言えない場面まで見続けているプロデューサーさんからも、私達はアイドルに見えているのか気になったから」
P「......そうだな、シンプルに言えば、奏に限らずらみんなしっかりアイドルに見えているぞ」
奏「......シンプルに言わなかったら?」
P「多分、俺の思うアイドルと、一般的なアイドルは違うってことかな」
奏「そう......」
P「まぁ、どちらにせよ、アイドルはファンから見えたものが真実だからな」
奏「......そうね」
~~~~~
結局、その後はイルカショーも見ずに水族館を出て、隣の浜辺で海を眺めている。
奏「......」
P「......」
今日の奏は少し変だ......
そもそも奏の方からこうして誘われること自体が珍しい。
それに何より...
P「なぁ、奏、」
奏「何かしら?」
P「......」
こうして、呼びかけても俺と目を合わせようとしない。
目が合ったのは、ガラスに映った時だけ。
~~~~
??「アタシ、アシカショー見たかったー」
??「イルカショーじゃなかったの!?」
??「もー、美嘉ちゃん細かいー」
??「うーん、2人は何話してるのかな??」
~~~~
P「...なぁ、奏、どうして目を合わせてくれないんだ?」
奏「...っ」
P「......やっぱり、わざと合わせていないんだろ?」
奏「.........」
P「.........」
奏「......綺麗な夕日ね」
P「...そうだな」
奏「...ねぇ、私とあの夕日、どっちが綺麗?」
P「......?」
奏らしからぬ陳腐な言葉に、意図を掴みかねて返答に窮する。
P「恋愛映画は苦手だったんじゃないのか?」
奏「...!」
奏「......ふふっ、さすが、プロデューサーさんね?」
どうやら及第点はいただけるようだ。
しかし、ここで満足してはいけない。
P「褒めていただけるなら、ご褒美として奏の目を見せて欲しいかな?」
奏「あら、そんなに私と目を合わせたいの?」
P「あぁ、ぜひお願いしたい」
奏「だったら......プロデューサーさん、場所を交代しましょう?こっちは夕日が眩しくて、プロデューサーさんの方を見れないの」
P「いいぞ?」
予想外の簡単な要求に拍子抜けしつつも、言われた通り場所を入れ替わる。
確かに奏の言う通り、夕日がキツい。
光にやられ、一瞬目の前が真っ白になる。
思わず目を閉じて顔を下げる。
そして、改めて奏を見ようと目を開けると、
鼻が触れんばかりの距離に、目を閉じ、顔を傾けた奏の顔があった。
P「奏っ!?」
奏「ご褒美、受け取ってくれたかしら?」
思わず唇に手を当ててしまう。
奏「ふふっ、唇には触れてないでしょ?」
P「あ、あぁ......」
奏「...でも。」
いたずらっぽく微笑んで、奏は続ける。
奏「男と女が顔を寄せあって、片方が顔を傾けたら、それは見ている人からはキスしているのと同じなのよ」
P「!」
奏「ふふっ、アイドルは、ファンから見えたものが真実なんでしょ?」
P「そ、それは......」
奏「明日が楽しみね」フフッ
P「......あいつらかぁ」
奏「逃げちゃだめよ?」
P「あぁ......」
奏「それと......」
P「?」
奏「プロデューサーさんには、本当の私からも逃げないでほしいの」
P「......奏?」
奏「............」
今日初めてじっくりと見る奏の瞳には、いつもの自信に満ちた強い光はなく、不安や迷いに右往左往する、どこにでもいる17歳のものだった。
P「......当たり前だろ」
奏「.........」
P「.........」
奏「......そういう時は、肩を抱くフリだけでもしてくれていいのに」
P「奏がアイドルでいるうちは、俺もプロデューサーだからな」
奏「......馬鹿」
これで完結です。
奏さんマジ美人。
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