まゆ「Pさんの恋人」 (57)

まゆ「う~ん。今日もいい朝ですねぇ。カーテンを開けて……と」

まゆ「あら?」

まゆ「(いつもと同じ、まゆが使っている部屋なはずなのに明らかに何かが違っていた。というのも、何だか枕が大きい)」

まゆ「というか…周りが大きくなっているような?」

まゆ「……まだ目が覚めてないのかな」

まゆ「ダメなまゆ。まだ夢の中にいるなんて」

まゆ「もう一度寝たら悪い夢も覚めますかねぇ」

まゆ「……」

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まゆ「ひっ!?」

まゆ「(この景色、周りの家具の異様なデカさ、明らかにおかしい)」

まゆ「(どんどん血の気が引いていくのが嫌でも理解できました。信じたくないけど、夢みたいな恐ろしい現実が目の前に立ち塞がっている)」

まゆ「もしかしてまゆが小さくなってるんじゃ……!?」

まゆ「(とてとてと布団を抜けると、今の自分にはあまりにも大きく重いドアが目の前にあった)」

まゆ「どうして……?」

まゆ「(映画や漫画の中でしか見たことのない現象が、自分の体の中で起きている。頭がくらくらして、倒れてしまいそう)」

まゆ「(はたと気付いた時にはスマホの前によろよろと進み、あの人へ連絡していた)」

まゆ「Pさん……? まゆの声、聞こえますか?」

まゆ「(まゆが理解できたのは、ある日、いつもの何の変哲もない日常がいきなり非日常に変わってしまったということ)」

まゆ「(異常な現象が自分の身に起きているということで……)」

モバP「まゆ!どうした!?一体どこにいるんだ」

まゆ「Pさん。まゆはここですよぉ」

モバP「えっ?何か小さく声がしたような……」

まゆ「下を見てください!まゆはここです」

まゆ「(見下げるPさんとばっちりと目が合った。すぐに驚いたように見開かれる目)」

まゆ「(ああ、Pさん)」

モバP「ま、まゆなのか!?」

まゆ「(ひしとPさんの手に抱きつくと、すぐにまゆを安心させるように撫でてくれた)」

まゆ「(いつもまゆに元気をくれる優しい手。その大きい手は自分が小さくなっても変わらない暖もりがあった)」

まゆ「朝起きたら、こんな姿になってたんです。うう」

モバP「(ふいに下を向くと人形のような可愛らしい少女が……小さなまゆがいた)」

モバP「(少女と呼ぶにはあまりに小さく、よくよく観察するといつものリボンが特徴的な服を着ているまゆだった)」

まゆ「ふえーん」

モバP「(さながら親指姫のようだった)」

モバP「(慎重に拾い上げると、手の中に水が溢れてきた。見ると、ちびまゆは小さな目から涙を零しているようだった)」

モバP「よしよし、怖かったな。まゆ」

まゆ「ごめんなさいPさん……Pさんはとても忙しいのに」

モバP「大丈夫。まゆの一大事なんだぞ。まゆが困ってたらいつでも駆けつけるって」

まゆ「ううう……」

モバP「でもまさか、こんな事態になってたとは」

モバP「(再びまゆはぴーぴーと泣いてひどく悲しんでいるようだった。一体何故こんなことになったのか)」

モバP「よしよし」

モバP「(ハンカチの上にまゆを乗せ、もう一枚ハンカチを被せると小さな布団の完成だ。そこでゆっくりと頭を撫でてやると、泣き疲れたのかすやすやと寝息を立て始めた)」

まゆ「すうすう……むにゃむにゃ」

モバP「なんて可愛い寝顔だ。しかし、一人であんなことになったら怖かったろうに」

モバP「(とりあえず、どうなってるのか確かめないとな)」

モバP「たまたま持っていた定規で測ってみると…まゆの身長は15cmちょっとか。ちびになっちゃったな」

モバP「それにしてもどうしてこうなったのか。まさか晶葉の妙な実験に関わったとか……は、ないか。まゆは興味なさそうだし。まず関わらないか」

モバP「何かの超常現象なのかな~、まゆ」

モバP「(こんな確実に大変な状況だというのに、まゆのほっぺは相変わらず柔らかかった。まるで天使柔らかさだ)」

モバP「(可愛いなんて簡単に思ってしまったが、まゆは小さくなった世界でどんなに恐怖していることだろうか。いかん。邪心を捨ててしっかりとまゆを守ろう)」

モバP「(一番に頼ってきたのが俺なんだ。責任を持って守らないと)」

まゆ「うにゅ…すみません。寝ちゃったみたいで」

モバP「いや、寝てていいんだぞ。まゆも不安だろうし」

まゆ「……まゆを心配してくれて、ありがとう」

まゆ「きっと寝ちゃったのは、安心したからでしょうね。Pさんのその労いの言葉だけでもまゆは嬉しいです」

まゆ「Pさんが来てくれたことで、とっても元気が出ましたから」

モバP「(俺の手にぴとりとほっぺを擦り付けるまゆ。良かった。少しは元気付けられたようだ)」

モバP「(それにしても、こう手にくっつかれたら…昔飼っていたハムスターを思い出すというか)」

まゆ「Pさん……?」

モバP「よしよし」

モバP「(なんだろう。この、小動物的可愛さは)」

モバP「ん~、どうするかな。このまま親御さんにこんなことになっちゃいましたとか言っても、驚かれるだけだろうし。原因を究明しないとならないが、それより、まずはまゆが安全に生活していけるようにしないとな」

まゆ「むぅ、じゃあこうしましょう。まゆは暫くこの家を出て行きます。そして身体が元に戻るまでPさんのお家で生活します。これが一番安全ですねぇ」

モバP「ええっ。まゆは嫌だろ。それじゃ」

まゆ「全然!!いいです!!」

モバP「おお、すごい勢い」

まゆ「むしろ、そちらの方が安全でしょう♪」

モバP「そっか。じゃあまゆの所在をこの寮の管理人にはどうにか説明しないとならんな…うーん、長期レッスンとかで説明つくかな」

まゆ「……♪」

まゆ「(小さくなって、怖かったけれど、少しだけ楽しいかも)」

まゆ「(Pさんが、こんなに近くにいるなんて)」

まゆ「むぎゅ!?」

モバP「どうしたまゆ。そんなにほっぺを近付けて。危ないぞ」

まゆ「……じゃ、安全のためにまゆはPさんの胸ポケットに入ることにしますねぇ」ヨジヨジ

モバP「ポケット?息苦しくないか?」

まゆ「ふふ。こうやって顔を出しておけば……ほら。いつでもPさんが見えますから、安心です」

モバP「そうか。苦しくなったり、危ないときはすぐに出るんだぞ。あとは引っ張ったりして、まゆの危機を教えてくれ」

まゆ「はぁい」

まゆ「(こうして、まゆの小さくなってからの生活が始まりました)」

モバP「よし、完成だ。ハンカチを改良して中に綿を詰めて…羽毛布団にしてみたぞ」

まゆ「わぁ。とってもあったまりますね」

モバP「寒くないか?女の子なんだから体は冷やさないようにしないとな」

まゆ「……」

モバP「ねんねんころりよ、おころりよ」

まゆ「……Pさんの隣で寝てもいいですか?一人だと、少しだけ心細くて」

モバP「いいよ。風邪ひかないようにね」

まゆ「……♪」

まゆ「(こんなにPさんの近くにいることが出来るなんて、とてもあったかい)」

まゆ「(きっと、温度だけじゃない温もり。Pさんの優しさを強く感じました)」

モバP「おやすみ。まゆ」

まゆ「おやすみなさい。Pさん」

まゆ「…ありがとう…」

まゆ「(呟いた時には、Pさんは寝息を立てていました。寝顔が可愛らしいです)」

まゆ「(今、世界で一番Pさんの近くにいるのは、まゆ)」

まゆ「(願ってはいけないけれど、ずっとこんな幸せが続けばと、思ってしまいました)」

モバP「パンを小さくちぎって……まゆ、食べられるか?」

まゆ「もぐもぐ。とっても美味しいです」

モバP「ええと、小さめのコップに飲み物をと…」

まゆ「ごくごく。ありがとうございます」

モバP「よし。まゆが元に戻ってからの仕事を充実させるために頑張るぞ」

まゆ「はい。Pさん、コーヒーです」

モバP「お、ありがとうな」

まゆ「(Pさんのお家で一緒に生活…夢にまで見たシチュエーションで、大変な状況なのにとても楽しく過ごせました)」

モバP「まゆー。ちょっと洋服買ってきてみたんだけど」

まゆ「うふふ…♪ 人形サイズのお洋服なんですね。ありがとうございます」

まゆ「お着替えしちゃいますね」

モバP「……(目をそらす)」

まゆ「どうでしょうか。似合って、ますか?」

モバP「おっ、似合ってるぞ」

まゆ「ふふ…。Pさんにそう言ってもらえるのが、まゆは本当に嬉しいです」

まゆ「Pさんがくれた服ですから、ずっと大切にしますね」

モバP「まぁ、戻ったらそれはどっかに仕舞ってくれればいいけどね」

まゆ「……元のサイズに戻っても、大切に」

まゆ「(まゆが小さくなかったら、きっとこんなことは起こらなかっただろうな。本当に、夢みたい)」

まゆ「(同時に、少しだけ胸の奥が痛くなりました。まゆが元通りになってしまったら、また元のプロデューサーとプロデュースされるアイドルの関係に戻るんだろうな、って)」

まゆ「よいしょ。じゃあまゆはポケットの中に暫くいますから」

モバP「落とさないようにしないとな」

まゆ「ふふ。まゆはそう簡単に落ちたりなんかしないから大丈夫ですよぉ」

まゆ「(一緒に連れて行って、と言っても困ったように笑って承諾してくれるなんて、優しくて、本当に愛しいPさん)」

まゆ「(そして、Pさんの胸ポケットの中でPさんの働くところをこっそりと見ていました)」

モバP「はい。そのイベントではこの子をー」

モバP「ありがとうございます!ではまた次の機会もお願いします」

モバP「次のレコーディングは……」

まゆ「(まゆたちに仕事を与えるために、こんなに駆けずり回っているなんて。今日でPさんのお仕事の大変な一面をずっと見ていました)」

モバP「ごめんな。まゆ、お昼遅れて。お腹減っただろう」

まゆ「いえ。まゆこそ、無理を言ってごめんなさい」

モバP「家の中に一日いるってのもな。はい。小さいコップにストローと」

まゆ「ふふ。おかずとご飯は自分で持ってきましたよぉ」

モバP「おお、流石家庭派のまゆだな。準備がいい」

まゆ「飲み物、ありがとうございますね」

まゆ「(まゆが戻れたら、Pさんにも作ってあげますから……。でも、この生活が終わるのは少し名残惜しいかな)」

モバP「まゆ、ここにミニベッドを設置したから、疲れたら眠ってていいからな」

まゆ「はい♪」

まゆ「……」

モバP「小さくなってから身体が慣れないだろう。ゆっくりおやすみ」

まゆ「……むにゃ」

モバP「よしよし。こうやって布団を被せて…誰かに見つかったら大変だから机の下にスペースを作っておくか」

モバP「おっと。そろそろ午後の仕事の時間」

モバP「まゆ、すぐ帰ってくるからな」

モバP「(……心配だな。やっぱり連れてくるべきだったか)」

モバP「(とりあえず事務所には危険物はないはずだから、早めに帰ろう)」

モバP「(まゆも、不安だろうしな)」

まゆ「……」

まゆ「……ううん。寝ちゃってた、の」

まゆ「Pさん……こんなスペースを作ってくれてたんですねぇ。どうやら机の下みたいですけど」

晶葉「ふむぅ。興味深い。まさかまゆがこんな姿になっていたなんて」

まゆ「きゃあああああ!?あ、晶葉ちゃん……!?」

晶葉「ふふん、安心したまえ。取って食ったりはしない。実験台にもしないぞ。助手の大事にしてる人に勝手に手は出せんからな」

まゆ「は、はぁ……そうしてもらえると助かります」

まゆ「(まゆの姿を見ても驚いたりはしない晶葉ちゃんは逆に恐ろしく感じました。流石に自分で博士と言っているだけあるというか)」

晶葉「勝手に手出しはしないとは言ったが、しばし観察させてもらおう。こんな良い機会はないからな」

まゆ「は、はい。どうぞ」

晶葉「見れば見るほど、人の本来の能力を超越した何かが作用しているとしか思えない」

まゆ「うう。あまりじろじろ見ないでください……」

晶葉「キミにも思い当たることがあるんじゃないか」

まゆ「??」

晶葉「強い想いは、たまに常識を覆すこともある」

まゆ「強い想い」

晶葉「……いや、何でもない。つい実験もしていないのに夢のような話をしてしまった」

晶葉「縮んでしまった張本人が目の前にいるというのに」

晶葉「また今度よかったら小さくなった実体験を聞かせてくれ。ではな」

まゆ「(……なんだかとっても意味深だけど、少しだけ晶葉ちゃんの言っている意味が分かるような気がしました)」

まゆ「(まゆは、Pさんのことが大好きで)」

まゆ「(……一番大切な人だから)」

街中にて

モバP「ふぅ。小梅、お疲れだったな」

小梅「あ……Pさん、うん。お疲れ様」

モバP「事務所まで送ろう。撮影大変だったな」

小梅「ううん……楽しかった、よ。あそこの心霊スポット、たくさん…いたから」

モバP「そっか。よかったな」

小梅「ううん……? Pさん…何か最近、不思議なこと…あった?」

モバP「おっ、よく分かったな。けっこう不思議なことがあったぞ」

小梅「そして、すごく…悩んでる?」

モバP「小梅はそういうの、敏感だからな」

小梅「私でよかったら……相談、していいよ」

モバP「あー、小梅は……大切な人が大変なことになったら、どうする」

小梅「ううん……すごく悲しい、けど。自分の出来ることを…する、かな。うまく言えないけど…どんな時でも受け入れることが、大切…?」

小梅「……自分の、思ってることは、ちゃんと伝えた方が…いいかも、よ」

小梅「手遅れに、なったときは……後悔しちゃう、から」

モバP「……おお。ありがとうな。悩みが少し晴れたような気がする」

モバP「なんか小梅の言うことは深いよな」

小梅「Pさんが…悩んでるなら…私も、助けてあげたい…って、思うから」

モバP「十分助けられたよ。ありがとう」

小梅「うん」

モバP「よし。事務所もうすぐだからな」

小梅「……?」

小梅「(Pさんの周り……ちょっと不穏な感じ、だけど)」

小梅「(言わないで、おいた方が……いい?)」

モバP「今戻りました~」

モバP「誰もいないみたいだな」

小梅「うん……でも、空っぽではない、みたい?」

モバP「そ、そうかなぁ」

小梅「ありがとう、ね。送って…くれて」

モバP「あぁ。小梅も気を付けて帰るんだぞ」

小梅「うん」

小梅「……小さい子が、いる?」

モバP「え?」

小梅「いや。何でも……」

小梅「じゃ、お疲れ様でした」

モバP「(小梅は荷物をまとめると、帰っていった)」

モバP「……まゆ。大丈夫か?出てきていいぞ」

まゆ「おかえりなさい。Pさん」

モバP「遅くなってごめんな。お腹減っただろう」

まゆ「大丈夫ですよぉ。まゆはPさんが帰ってくるなら、いつまでも待ってますから」

モバP「じゃ、帰るか。何か困ったこととかなかったか?猫に食べられそうになったとか、掃除機に吸われそうになったとか」

まゆ「全然、大丈夫でした」

まゆ「(晶葉ちゃんが来た時は驚きましたけど……)」

まゆ「ふふ、すっかりここが定位置になっちゃいましたねぇ」

モバP「そうだな。息苦しくないか?」

まゆ「むしろ、とっても居心地が良いですよぉ」

まゆ「(暖かくて、Pさんの心音が聞こえる場所)」

まゆ「(元のまゆでは、こんなに近くにいることなんて出来なかったのに)」

モバP「お、雪が降ってきた。珍しいな~」

まゆ「(雪がPさんの頭の上にはらはらと落ちてきた。そして、ポケットに入っているまゆにも雪が落ちて、水となって濡れていった)」

まゆ「(小さくなった自分の頭全体が濡れたのだと分かって、ぱしぱしと瞬きをすると、まゆを見て焦っているPさんと目が合った)」

まゆ「(初めてPさんを見た時と同じ、心臓の高鳴り)」

まゆ「(やっぱりまゆは、Pさんが好きで、それで)」

まゆ「(あなたがいとしくて……とっても苦しい)」

まゆ「(小さくなってからそれが更に痛いほどよく分かるようになった)」

モバP「まゆ……?」

まゆ「(こんなにPさんの視線を一心に向けられることは、きっとなかっただろうし、これからもこの関係が発展することはなかったんでしょうね)」

モバP「のわっ。まゆ、急いで拭くからな」

まゆ「Pさん……。何だか、まゆに過保護になったみたい」

まゆ「(そう言うと、Pさんは困ったように眉を八の字に曲げて、笑っていた)」

モバP「まゆにもしものことがあったら、俺が悲しくなるからな」

モバP「(まあ、まゆは今まさに大変な状態なんだけど)」

まゆ「Pさん」

モバP「風邪、ひかないようにしないとな」

まゆ「まゆは、Pさんが……」

まゆ「(晶葉ちゃんの言葉が……すごく引っかかる)」

まゆ「(もしかして、この姿になったのは……まゆが望んだことなの?)」

モバP「……」

まゆ「……」

まゆ「Pさん?考え事ですか?」

モバP「いや、色々仕事が立て込んでてな。これから頑張ろーって思ってたところかな」

まゆ「……まゆのこと?」

モバP「まゆのことも、勿論考えてるよ」

モバP「まゆは…早く元に戻れるようになって、お仕事やそれに向けてのレッスンとか、やらせてあげたいって思ってる」

モバP「ずっとこのままだと、まゆも大変だろ?全く違う生活を強いられてるんだから、しんどいだろうし」

まゆ「そんなことないです」

まゆ「慣れないですけど、Pさんがいるから心強いんです」

まゆ「ただ、Pさんに迷惑を掛けてるのなら申し訳ないです」

モバP「迷惑なことはないよ。早く原因が分かるといいんだけどな」

まゆ「(いいえ、きっと大変な思いをしている。まゆに来ていたお仕事も、小さくなってからは全くこなせていないのに)」

まゆ「(代わりの子にキャスティングを変更するのも、レッスンのキャンセルも、きっととても大変なことなのに)」

モバP「さー、今日も帰ってあったまるぞ。まゆも寒いだろうしなぁ」

まゆ「(それなのに、こんなに優しく微笑んでくれる)」

まゆ「(いつも隣の助手席にいて、Pさんの横顔を見つめているのが幸せだった)」

まゆ「(幸せだった一時は、戻ってくるの?)」

まゆ「まゆはアイドルとして、また頑張りますから」

モバP「あはは、それは頼もしいな。戻った時はよろしく頼むぞ」

まゆ「(声が震えているのに気付いたように、Pさんはまゆの頭を撫でながら頷いてくれた)」

まゆ「まゆのこと、見捨てないでください……」

モバP「当たり前だ。まゆが一番大変なんだから」

まゆ「(これは、小さくなったからじゃなくて、きっと一人の女の子として願っていること。好きな人に向けている願い)」

まゆ「(いつかアイドルを辞めることになっても、ずっとまゆを好きでいてほしい)」

まゆ「まゆは……Pさんのことが、ずっと大好きです」

モバP「ありがとうな。まゆ」

モバP「よし、着いた。早く上がろう」

まゆ「!!」

まゆ「Pさんっ、危ない!!」

まゆ「(Pさんがまゆに笑いかけた時、向かいから車が物凄いスピードで走ってくるのが見えて)」

まゆ「(自分の生死が懸かっていることに、初めて恐怖を覚えた)」

まゆ「(ぎゅっと目を強く瞑ると、胸ポケット越しにPさんの手が守ろうとしてくれているのが分かった)」

モバP「まゆーーー」

まゆ「(気付いた時にはPさんと離れた反動で、まゆの体は近くの草むらにすとんと投げ出されていて)」

まゆ「(周りに生えている雑草の匂いがぐらつく意識を呼び戻した)」

モバP「ーーーーー」

まゆ「(そして、溶けた雪で濡れている道路の上に倒れているPさんの姿が見えた)」

まゆ「(Pさんの頭からは、血が流れていて)」

まゆ「(ぴくりとも動いていない)」

まゆ「Pさ……!?」

まゆ「(まゆは、それを見てから意識が途切れてしまった)」

まゆ「……」

小梅「……」

まゆ「……ここは、」

小梅「あ……まゆさん、気が付いた?」

まゆ「!!」

まゆ「(まゆの体は毛布に包まれていて、小梅ちゃんは安堵したようにこちらを見ながら小さく笑っていた)」

まゆ「(そして、思い出したのは今は傍にいないあの人のこと)」

小梅「大丈夫……?」

まゆ「(地面に倒れていた、Pさんのこと)」

まゆ「小梅、ちゃん」

まゆ「(思わず毛布から飛び出し、パーカーの袖を掴むと、小梅ちゃんは驚きながらも屈んでまゆと視線を合わせてくれた)」

まゆ「小梅ちゃん!! Pさんが、Pさんが車にっ」

まゆ「まゆの、せいで」

小梅「……うん。ちょっと…危なかった、みたい」

まゆ「!! それじゃPさんは、」

小梅「でも、今日の朝に、目が覚めた…みたいだから」

小梅「安心…して、大丈夫」

まゆ「(小梅ちゃんはまゆの頭をぽんぽんと優しく撫で、まゆを持ち上げるとゆっくりと歩き始めました)」

まゆ「ここは……」

小梅「病院…だよ。そしてここが、Pさんの……」

まゆ「(ずいとまゆを近付けてくれて見えたのは、Pさんの名前)」

小梅「事故に遭ってから、一日経って……容態も安定してきてる、みたい。話せるようにも…なったし」

小梅「昨日は、話せる状態じゃ…なかったから」

まゆ「(事故から一日も経っていて、Pさんの容態もそんなに酷かったなんて)」

まゆ「(涙が溢れてくるのが止まらなくて、小梅ちゃんは涙に気付いたのか、ハンカチで目を押さえてくれた)」

小梅「ちひろさんが、ね……。うちのプロデューサーをどうしてくれるんだって、相手の人に、すっごく怒ってる…みたいで、慰謝料…ぶんどるって、言ってたの」

まゆ「(小梅ちゃんはくすりと笑いながら、ノックをしてゆっくりと病室に入った)」

小梅「お邪魔、します」

まゆ「あ……」

まゆ「(Pさんは足から包帯で巻かれていて、痛々しかった。寝息を立てて眠っていて、それを見てまた涙が出てきてしまった)」

小梅「寝てる…みたいだけど」

小梅「Pさん……。まゆさんも、お見舞いに、来たよ」

小梅「色んな子がお見舞いにきたけど……たぶん、今Pさんが一番、お話ししたいのは…まゆさん、だと思うから」

まゆ「(小梅ちゃんはPさんの顔の近くにある机にまゆをちょこんと置くと、まゆの頭を撫でた)」

小梅「まゆさんが……Pさんを、安心させてあげて」

まゆ「(ばいばい、と言うと手を振りながら小梅ちゃんは病室を出て行った)」

小梅「……まゆさん、本当に小さくなってたけど」

小梅「とっても…不思議だったなぁ」

小梅「……ね?」

まゆ「Pさん……。まゆの、せいで」

まゆ「(机から降りて、Pさんの枕元に行くとやはり疲れきったように眠りについていた)」

まゆ「ごめんなさい」

まゆ「(Pさんの頬を撫でながら呟くと、ゆっくりと瞼が開かれた)」

モバP「……まゆ、か?」

まゆ「はい、まゆです」

モバP「大丈夫だったか。ごめんな。怪我は…なかったか」

まゆ「まゆは、全然……でも、Pさんが」

モバP「それなら、良かった。本当に」

まゆ「(細められた目に、向けられる優しい眼差しに、また胸が痛くなった)」

モバP「さ、まゆも元気みたいだし。早く、仕事復帰しないとな…ちひろさんにどやされる」

まゆ「だめですよ。ちゃんと、休んでないと」

モバP「そうだな。まだ安静にしてろとは言われてるんだけど」

まゆ「(まゆは、きっとあなたに会うために……)」

モバP「まゆ?」

まゆ「(今なら、この姿になった意味が分かる気がした)」

まゆ「まゆは、Pさんが大好きで、ずっと変わりません」

まゆ「本当に……いちばん、大切な人なんです」

まゆ「(Pさんはうん、と頷いて、そのまま、まゆをまっすぐ見つめてくれた)」

まゆ「……Pさん」

まゆ「(Pさんの口の近くに小さく口付けた)」

モバP「まゆーーー」

まゆ「(顔から離れていくと、驚いたように目を見開いてこちらを見ていて)」

まゆ「(その先の言葉を聞くのが、とても怖くなった)」

モバP「……」

まゆ「……」

モバP「(まゆはそろそろと顔を離すと、微笑みながら涙を流していた)」

モバP「(外は晴れで、太陽の光がまゆを照らしていて)」

モバP「(まゆの表情がはっきりと分かって、心臓が高鳴った)」

モバP「(これまでずっと、こんな表情でこちらを見ていたのか)」

モバP「(まゆに手を伸ばすと、小さな掌で手を包まれた)」

モバP「(その掌はとても小さいが、温もりを感じた)」

モバP「まゆ」

まゆ「ふふ、」

まゆ「Pさんに、想いを打ち明けただけで、こんなに嬉しいなんて……」

モバP「(まゆの目から流れる涙は、小さく掌を濡らした)」

モバP「(すると、まゆの周りがきらきらと輝き始めた。それは、太陽の光ではなく、まゆ自身から放たれている輝きで、彼女を照らしていた)」

モバP「……」

まゆ「……Pさん、」

まゆ「戻れた、みたいです」

モバP「(まゆは、元の姿でベッドに寝転んでいた)」

モバP「(きらきらと潤んだ目は、まっすぐこちらに向けられている)」

モバP「(互いに黙ったままで、向かい合って、何も言わずにただまゆを見つめていた)」

モバP「(元のサイズになっても、華奢な手を握ると、まゆは静かに涙を流して、笑っている)」

まゆ「魔法が、解けたみたい」

まゆ「……Pさん。暫くこのまま、手を繋いでいても、いいですか」

モバP「ああ」

モバP「(ゆっくりと抱き締めたまゆの体は、思ったよりずっと小さかった)」

まゆ「ずっと……一緒にいたいな」

晶葉「はー、残念だ。まゆはもう元に戻ってしまったのか」

小梅「うん……。元気そうで、よかった。ずっと小さいのも…大変そうだし、ね。Pさんもすっかり、元気」

晶葉「実験に付き合ってもらおうと思ってたんだけどなぁ。にしても、何かPとの距離が近くなってないか?」

小梅「そう、だね……。でも、二人が幸せそうだから、いいんじゃ…ない、かな」

晶葉「ふむぅ。神の悪戯だかなんだか知らんが、気まぐれもいいとこだ。だから超自然的現象は嫌いなんだよ」

小梅「ふふ……。神さまの計らい…だったのかも、ね」

おわり

南くんパロでした
まゆイズフォーエバー

元ネタの生々しさを出せなかったのは残念…

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