【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【それゆけ朝潮型】 (122)

【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、ことごとく無気力になっている」の設定を使用しています。

独自の設定がいくつかありますが、気にしないでください。おねがいします。

・人は艦娘を恐れる。
・金剛型は人と仲良くしようとして、出来なかった。
・霞と霰は、空からの攻撃にトラウマあり(でも覚えていない)。

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霰「・・・」

てくてく。
霰が、町を歩く。

今日の霰は、交代での休日だ。

朝潮型は交代での休日は、なるべく単独で行動するように決めている。

朝潮「朝から晩まで、ずっと一緒じゃダメになるかも」

実際、霰は「皆でいられるなら、それでいい」と思っている。
特にやりたいと思うことも、ない。

霰「・・・」

朝の散歩を終えて、霰は皆の予定を思い返す。

朝潮:防空射撃演習
大潮:防空射撃演習
満潮:防空射撃演習
荒潮:防空射撃演習
霞 :休み←防空射撃演習参加します
霰 :休み

霰「・・・司令官は、たしか」

提督:午前執務 午後釣り

霰(港に行こう)

てくてく。
すれ違う人から声をかけられる。 あられちゃん、おやすみかい?
丁寧にお辞儀し、挨拶を返す。
てくてく。
漁船の猟師から手を振られる。
ぶんぶんと手を振り返す。
てくてく。
港へ歩く。

霰「・・・いた」

提督が波止場の先端に座り、釣り糸を垂れている。

とててて。
少しだけ早足に、提督の下に行く。

霰「・・・司令官」

脅かさないように、そっと声をかける霰に、提督は笑顔を返す。

提督「やあ霰、今日は休みだったね」

霰「うん・・・、隣、座っていい?」

提督「もちろん、どうぞ」

こぶしひとつ分の隙間。
くっつきたいが、照れくさい。
でも、なるべく近く。 そんな距離。

「戦いの後も、考えてほしい」と話したその後。

提督は、町の港の波止場で釣りを始めた。

提督「これも仕事なんだよ」

サボるなという、艦娘の抗議も笑って受け流す。

提督「軍人は忙しくちゃ、いけない」

だから、

提督「暇そうにしてる姿を、見せるんだよ」

その姿を見ることにより、危険ではないと認識するのだ、と。

提督「サボってるとか、バカ扱いされるのは仕方ないね」

個人の評価など、瑣末なこと。
町と、仲良く。
人と、仲良く。
間に立てるのは自分だけだから、と笑う。

そう言われると、勘娘たちは止められない。
自分たちのためとわかったから。

半月ほどそうやって提督一人で波止場で釣りをして。
「あっちの軍港の軍人がサボって釣りしてるぞ」と少しだけ噂になり。

そして、艤装を外した艦娘を連れて、町を歩くようになった。

テレビの放送で艦娘が紹介される。

制海権を奪われ、少しずつ窮屈に、不便になる生活。
それをごまかすため、対抗手段となる艦娘を大々的に宣伝しているのだ。

提督「はー、派手だねぇ」

番組では、妙高型の四姉妹が揃って砲撃を行っている。
美しい姿。
重厚な装備から放たれる砲弾。
砕け散る的。

金剛「こんな番組に出るなんてすごいデスネー」

霧島「姉さま、私たちも出ていますよ」

金剛「えっ」

榛名「4人で、廃棄処分される船を沈めろって言われて・・・」

金剛「あー・・・」

あったかも。

金剛「で、でも、インタビューは無かったデスよね?」

妙高型の4人が並んでインタビューを受けている。

比叡「ありましたよ」

金剛「えっ」

霧島「私がアフレコしました」

金剛「えっ」

霧島「姉さまがしゃべると、エセ外人みたいだからって」

金剛「なんだとぅ!?」

榛名「姉さま、落ち着いてください」

提督「でも、これじゃあな」

無言で観ていた提督が、ぼそりと呟く。

提督「ダメだろ」

金剛「テイトク?」

提督「これで伝わるのは、艦娘の”強さ”だけだ」

金剛「・・・」

提督「艦娘は、優しく、綺麗で、柔らかく、暖かいことが伝わらない」

提督「人と艦娘の距離は、縮まらない」

金剛「テイトク」

いつもの笑顔が、陰る。

金剛「ワタシたちに求められるのは、”強さ”だけデス」

ずっと遠くを見る。

金剛「それ以外は求められマセン。 戦って、戦って、戦って、そして消えるのデス」

提督「・・・金剛、それは」

金剛「わかってマス。 提督は、それ以外を考えろと言ってくれマシタ」

比叡「そうです、私たちはそれが本当に嬉しいのです」

霧島「・・・でも」

金剛「そう、それは、ごく一部の人。 私たちが知る限り、テイトク一人だけデス」

比叡「私たちも、なんとかしようとしました。 でも、出来ませんでした」

以前に在籍した鎮守府では。

榛名「私たちは、無理だと思ってしまいました」

霧島「思ってしまった私たちでは、これ以上は進めません」

金剛「でも、駆逐艦の皆さんなら・・・」

それでも、信じたい。
だから、託す。
提督に、駆逐艦に。

艤装を外した駆逐艦ふたり。
手をつなぎ、・・・いや、しがみつくようにして、提督について歩く。
彼女たちは、鎮守府の外に出たことが無い。
提督以外の人を見たこともない。
ただ、人の居る町を歩くだけで、怯え切っていた。

人と艦娘は違う。
交わることは、ない。
そう思ってきた。

住民も同じだった。
テレビで見る、戦艦の人。
船を吹き飛ばす砲撃。
なんだあれは。
むこうで勝手にドンパチしてくれ。
こっちには来ないでくれ。

町で、人と艦娘が出会う。
見られる。
目が合う。
反らされる。

繰り返され、更に怯えた。

そうやって数日が過ぎ、提督と朝潮、荒潮が歩いていた時に、その事件は起こった。

荒潮「ひっ・・・」

荒潮の体が、恐怖にすくむ。

爛々と輝く瞳、
尖った牙が口からのぞき、
そして四肢の鋭い爪。

何頭もの獣が、荒潮を囲むように寄って来たのだ。

荒潮「あ、あ、あ・・・」

朝潮「荒潮、落ち着いて!」

ざあっ!
襲い掛かる獣に、

荒潮「いやぁぁあああ~~~~!!!」

荒潮は逃げた。

朝潮「荒潮!待ってー!」

朝潮が、パニックを起こした荒潮を追う。

キャンキャンキャン!!

それを追う、三頭の子犬。

<コナイデー
<アラシオ!マッテー!
<キャンキャンキャン!!

提督「あー・・・」

艦娘の全力疾走に、提督はまるで追いつけない。
それでも追おうとしたところに、様子を見ていた漁師たちが声をかけた。

「な、なあ、あんたあっちの軍港の人だろ?」

提督「え? あ、はい、そうです」

「じゃあやっぱり、さっきのは戦艦なんだな!?」

恐怖。人以外の存在。
怒り。なぜここにきたのか。
困惑。犬を怖がり、あれはまるで・・・。

提督「はい、艦娘です」

「やっぱり!」
「なんでここへ連れていた!」
「あんな恐ろしい奴らを町へなんて」

提督「・・・恐ろしい?」

漁師が気圧される。

提督「恐ろしかったですか?」

「「「・・・」」」

提督「人に怯え、犬に怯え、泣いているだけですよ。
   皆さんも、見ていたでしょう」

「「「・・・」」」

提督「今、皆さんが思ったこと。 それを大事にしていただきたい」

ぺこりと頭を下げて、

提督「私は彼女たちを追いますので」

走り出した。

「・・・」
「・・・なあ」
「・・・ああ」
「・・・」
「もうちょっと、見てみるか」

逃げた朝潮と荒潮だが、波止場に追い詰められていた。
いかに足が速いとはいえ、ろくに前も見ずに走り回ったせいだ。

キャン!

朝潮「ひっ」

ハッハッハッハ!

荒潮「もういやぁ~・・・」

三匹の子犬は、遊んでもらっていると思っているので、ハイテンションでふたりの周りをぐるぐると走る。


朝潮「あ、荒潮を食べると言うのなら!私を食べなさい!」ガクガクブルブル

荒潮「だめ~危ないよ~逃げて~・・・!」ガクガクブルブル

朝潮が荒潮をかばい、
荒潮が朝潮をかばう。

その声に反応するように、子犬たちがとびかかる!
そこへ、

提督「わんっ!」

キャンキャンキャン!

提督の大声に驚いた子犬が逃げ出した。

提督「はあっ、ぜー、はあっ、ぜー・・・」

提督「け、怪我無いかな」

朝潮「あ・・・」

荒潮「でいどぐ~~~!」

とびかかるように、抱きつく。
しゃがんだ提督の首に腕をまわし、ふたりでぶらさがる。

提督「こわかったな、もう大丈夫だから」

朝潮「・・・」コクリ

荒潮「・・・」コクリ

なだめるように、ゆっくり髪を撫でる。
なでなで。
さらさら。

朝潮「・・・」

荒潮「・・・」

なでなで。
さらさら。

朝潮「・・・」

荒潮「・・・」

なでなで。
さらさら。

提督「・・・もういいかな」

朝潮「・・・」フルフル

荒潮「・・・」フルフル

しがみつき、提督の首筋に顔を埋めながら、さらに撫でることを要求する。

朝潮「足りません」

荒潮「怖かった~」

提督「・・・いい加減にしなさい」

ペチン

朝潮「ぶー」プクー

荒潮「もう~」プクー

朝潮がここまで甘えるのも珍しい。
名残惜しさをひきずりながらも、ふたりを降ろした。

そこへ、子犬を捕まえた漁師がやって来た。

全部見ていた。
犬を怖がり、涙目になって逃げるところ。
妹をかばう姉。
姉をかばう妹。
抱きついて大泣きするところ。
甘えるところ。

「・・・まるっきり、ただの子供じゃねえか」
「ああ・・・」

幼い頃の妹、娘、孫。
どこが違うというのか。

「だいじょうぶかい、おじょうちゃん」

年長の漁師が、優しく声をかける。
もう、気味悪さは感じなかった。

「ほら、こいつは犬ってんだ。」
「こわくねえよ、あかちゃんだよ」

朝潮「いぬ・・・」

荒潮「あかちゃん・・・」

差し出された子犬に、そっと触れてみる。

ハッハッハッハ クーン

朝潮「ちっちゃい」

荒潮「ふわふわ~」

「な、こわくないだろ」

朝潮「はい!」ニコッ

荒潮「はい~」ニコッ

「「「・・・」」」

「こんなのが怖いってんだから、艦娘ってのもたいしたことないな」
「ほんとほんと、ただのガキと同じだわ!」
「なんも怖くねえわ!」
「「「あっはっはっは!」」」

笑い出した漁師達に、朝潮と荒潮はぽかんとした顔を向ける。
なんだかすごく失礼なことを言われてる気がする。

朝潮「むぅー」

「すまんすまん、悪く言ってるんじゃないんだよ」
「ちょっと考えすぎたかなーってな」

朝潮「・・・? そうですか」

よくわからないが、いいらしい。
なら、抗議する必要も無い。

「しっかし、こんな小さなナリで”あれ”と戦うんだな」

提督「”あれ”・・・?」

まさか、と。

提督「遭ったことがあるんですか!?」

「そりゃそうだよ」
「あんたらが来るまでは、誰もいなかったんだから」
「漁場が荒らされて大変だったよ」

提督「・・・そういえば、そうですね」

出来たばかりの、小さな鎮守府。
つまりそれは、それまで戦力が何も無かったということ。
鎮守府が無くても、”敵”は来るのだ。

「ま、ここらは辺境だから、たまにだし」

「はぐれたちっこいの、くらいだったけどな」

提督「・・・それでも、ご無事なのはすごいですね」

「あいつら硬いんだよな!」

「ああ、(ピー)も(ピー)も効かねえんだよ」

「(ピー)を(ピー)しても跳ね返しやがって!」

提督「・・・戦ったんですか」

一部不穏な言葉が聞こえた。
いや聞こえない。聞いてない!

「一番効いたのは、酢と醤油だな!」

「口ん中に突っ込んでやったらビックリしてやがったよ!」

「「「はははははは!!」」」

提督「ふむー・・・、とんでもないな・・・」

あきれた。
海の男って一体。
が、影響を受けたのがひとり、ふたり。

朝潮「す・・・、すごいです!」

荒潮「生身で戦うなんて~、素敵ね~」

「そ、そうかい?」

朝潮「はい! もっと聞かせてください!」

「仕方ねえなぁ~」

身振り手振り、大げさに話す漁師。
真剣に聞く、朝潮と荒潮。
盛りすぎと笑う仲間。

笑顔。
輪になって、笑って話す艦娘と人。

提督「・・・ちょっとは進めたかな?」

みんなで笑える世界へ。

今日はここまでです。

時系列は、
>>2->>3 現在
>>4 過去1
>>5->>6 過去2
>>7->>14 過去1→過去2→過去1の続き

日をまたぎそうなので、念のため。

そして、朝潮型が子犬を毎朝散歩するようになった。
提督が飼い主の漁師に頼み、快諾された。

朝潮と子犬たちが一列に並んで行進する。
龍驤「群れを統率しとる」
提督「リーダーだね」

大潮は子犬たちと走り抜けていく。
龍驤「競走相手やん」
提督「ライバルだな」

満潮は数十メートルごとに犬たちを撫でまわす。
龍驤「甘やかしとるなぁ」
提督「おぉ…尻尾がぶんぶんじゃなくてぐるんぐるん振られてる」

荒潮のまわりを、跳ね回っている。
龍驤「犬は大好き光線出しとるけど…、荒潮は若干ヒいとるな」
提督「最初が最初だからねぇ」

先導するように前を歩き、時々振り返って霰がついてきていることを確認している。
龍驤「子犬に保護されとる…」
提督「お姫様だー」

霞は群れから離れようとする一匹一匹を連れ戻し、細々と説教している。
龍驤「ママやね」
提督「ママだな」

犬を連れて歩く姉妹に、住人達は徐々に慣れ、挨拶もできるようになってきた。

??「くくく…、美少女と子犬のセットに堕ちぬ奴などいるものか」カシャーカシャーカシャー

龍驤「提督、写真はやめとこか」

提督「はい」

提督「次はお店だな」

人気を獲るには、動物と食べ物がいいという。

犬とのセットで馴染んできたふれあい作戦も、第二段階に移る。

小料理屋”鳳翔”。

提督「ここで、鳳翔さんの手伝いをしてもらいます」

満潮「あたしたち、艦娘よ! なんで接客なんか!」

提督「言ったろ? ”戦う”以外を考えてほしいって」

満潮「…でも!」

提督「きっかけになれば、それでいい。 嫌ならすぐに辞めてもいいから」

おねがいだよ、と頭を下げて。

提督「ちょっとだけ、こんなこともあるんだって、そう思ってくれればいいんだ」

頼まれると、弱い。
自分たちのことを考えてくれているのも、よくわかっている。

満潮「う~…、わかったわよ!」

提督「うん、ありがとう」

笑顔を向けられる。
優しい、自分のためだけの笑顔。

満潮「~~~~!」

なんだか猛烈に、なんというか、恥ずかしい。

満潮「ふんっ!」

ペチーン

提督「痛い!なんで蹴ったの!」

満潮「うっさいうっさーい!」

そして店の手伝いが始まり。

鳳翔「はい、3番の席にお願いね」

満潮「…」

そーっと、ゆっくり、倒さないように。
受け取った料理を運ぶ。

「ありがとよ」

満潮「…っ」

ぺこり。
とてててて。
何かを言おうとして、言えず、小走りで戻り。

ぎゅう。
隅で見ていた提督に抱き着いた。

提督「よく、できたね」

満潮「…」コクリ

提督は背中をぽんとたたき、

提督「さ、行っておいで」

送り出す。

満潮「…」コクリ

とてとて。

また鳳翔の元にもどり。

そーっ。

運んで。

とてててて。
ぎゅう。

また、提督に戻ってきた。

なぜか、姉妹6人が同じことをした。

そうやって幾日が過ぎ、常連客となった漁師たちとも顔見知りになり。
やっと、本来の彼女たちの調子が戻ってきた。
元々身体能力が高く、学習能力も高い。
未経験の恐れと、人見知り(?)さえ克服すれば、難しい手伝いではないのだ。

美少女が真面目に働くだけでも人気となるのに、
満潮や霞に「叱られるオプション」を喜ぶものも出始めた。

「満潮ちゃーん、きたよー」

満潮「また来たの!? いい加減にしなさいよ!」

「訳すとー?」

朝潮「来てくれるのは嬉しいけど、ほどほどにしないと体に悪いですよ」

満潮「訳すんじゃないわよ!」 

朝潮による、”満潮語翻訳サービス”も大人気だ。

提督「訳すなとは言うけど」

鳳翔「違うとは言わないんですよねぇ」

くすくす、と笑う鳳翔。
それがわかっているからこそ、客に毒づく満潮を叱ったことは無い。

霞「いい? 3本までだからね!」

「もっと飲ませてくれよう」

霞「ダメに決まってるでしょ! 明日も仕事あるんでしょ!」

提督「ママや」

鳳翔「負けてられません」

提督「えっ」

謎の対抗心を燃やしつつ、やはり霞も叱ったことは無い。

少しずつ、仕事にも慣れ。
少しずつ、人にも慣れ。
少しずつ、艦娘にも慣れ。

小料理屋”鳳翔”の夜は過ぎる。

”満潮語翻訳サービス”は公式四コマからお借りしています。
野分ちゃんを気遣う満潮ちゃんが可愛いです。

閉店後に、店から寮までを送るのは、提督から願い出たものだ。

霞「子供じゃないのよ…」

さすがに呆れた霞に、ジト目を向けられる。

提督「うん、わかってるんだけど、なんか心配で」

霞「…」ジトー

提督「ねっ?」

霞「はあ…仕方ないわね」

提督「うんうん」

霞「見た目で損ってこういうことよね」

提督「損って?」

霞「なんでもないわよ」ジトー

大潮「とーへんぼく」ジトー

霰「ぼくねんじん」ジトー

荒潮「おばかさぁん」ジトー

提督「ひどいな!」

文句だらけで始まったお送りだったが、やってみると、案外いいものだと気づいた。
ふたり一緒とはいえ、完全に邪魔が入らない時間を手に入れることができるのだ。
その時間を使い、内緒話をしたり、ひたすら愚痴をこぼしたり、提督の愚痴を聞いたり。

挨拶をしてもらえることが増えたこと。
おばさんから飴をもらったこと。
鍛えられた子犬の尻がプリプリで可愛いこと。
お店の手伝いでうまくいったこと、失敗したこと。

楽しかった。
こんなにゆっくり、たくさん話したことは無かったかも知れない。

店の手伝いも楽しみ、提督と一緒の帰り道も楽しみ、結局、辞めたいと言い出すものは、いなかった。

そうやって、提督以外の人とも顔を合わせ、話し。

「”戦う”以外を考えてほしい」という提督の言葉を、ようやく理解できるようになってきた。

そんなある日、鎮守府に救助要請の無電が入った。

提督「はぐれ駆逐に、漁師の皆さんが襲われているそうだ」

満潮「…くっ」

朝潮「満潮、待ちなさい!」

駆け出す満潮を、朝潮が止める。

満潮「離して!早く行かないと!」

提督「満潮、落ち着いて」

満ち潮「これが落ち着いていられるか!」

朝潮「満潮!」

ペチーン

満ち潮「…っ」

取り乱す満潮の頬を、朝潮が叩く。
そして、叱る。
朝潮は、お姉ちゃんなのだ。

朝潮「満潮!言え!私たちは何だ!」

満潮「…」

朝潮「何が出来る!どうすればいい!」

満潮「…助けに行く」

朝潮「そんな!ことは!」

朝潮「あたりまえだ!」

満潮「…あ」

提督「満潮、心配なのはみんな同じだよ」

満潮「…わかったわよ」

提督「…よし」

皆を見回し。

提督「朝潮、大潮、満潮、荒潮、霞、霰!」

「「「はいっ!」」」

提督「出撃準備!」

「「「はいっ!」」」

満潮「…はいっ!」

ヴィー ヴィー ヴィー

『出撃準備! 出撃準備!』

妖精さんの手を借りて、出撃準備。
燃料の補給。
弾薬の補給。
艤装の装備。

装備する艤装は…。

満潮「何? 主砲ひとつと魚雷!?」

提督『そうだよ』

満潮「これじゃ、火力が!」

提督『わかってる、でも、これが最善と判断する』

主砲の替りに装着されたのは増速用の装備、艦本式缶。

金剛姉妹の危機に、間に合わない恐れがあった。
あの時は、なんとか間に合った。
でも、次は間に合わないかもしれない。

だから、用意していた。

満潮「これは…」

提督『今回は速度重視だ。 …必ず間に合わせろ』

満潮「はい!」

ヴィー ヴィー ヴィー

『出撃準備完了! 出撃準備完了!』

『点呼!』

朝潮「一番!旗艦!朝潮!」

大潮「二番!大潮!」

満潮「三番!満潮!」

荒潮「四番!荒潮!」

霰「五番。霰」

霞「六番!霞!」

提督『どうか、皆さんを助けてくれ』

提督『それと』

提督『全員、無事に帰れ』

「「「はいっ」」」

提督『行け!』

ヴィー ヴィー ヴィー

『出撃!出撃!』

朝潮「朝潮艦隊!出撃します!」

ざあっ!

姉妹が出る。
全開加速。
加えて、追加装備による増速。

霞「くっ…、速い…」

霰「ん…っ」

大潮「おっ! とっと!」

朝潮「霰!遅れないで! 大潮!まっすぐ進む!」

さすがに皆、未知の速度に戸惑う。
が、

満ち潮「関係ない!」

力尽くで、暴れる舵を抑え込む。

わずかの戸惑いで、隊列は安定する。
最大戦速。

間に合わせる。
皆を無事に。
提督と約束したから。

港で声をかけてくれた。
お店で笑ってくれた。

護りたい。
助けたい!

満潮「行けええ!」

走る。
疾る。

大潮「見えた!」

煙。
そして、爆発音。

荒潮「船は6隻のはずだけど~…」

霰「よっつしか…、見えない」

満潮「くっ…」

間に合わなかった?
満潮の視界が涙でゆがむ。

満潮「みんな!無事!?」

必死で追いつき、無事な漁船に声をかける。

「おおっ? 満潮ちゃんかい!?」

満潮「けが人は? 行方不明者は!?」

「船はやられたがあ! みいんな生きてるよ!」

「くっそう! あんなデカい”はぐれ”は初めてだあ!」

なんとか間に合った。
ほっとする。
ほっとしたら、また視界がゆがむ。
乱暴に目元をこする。
泣いてる場合じゃない!

満潮「あんたたちは下がってなさい!邪魔よ!」

「「訳すとー?」」

朝潮「みんな無事でよかったね、あとは私たちにまかせて」

満潮「訳すんじゃないわよ!!」

とっとと下がれ、と船を蹴って。

「すまねえ!頼む!」
「がんばってなー!」

満潮「まったくもう…、締まらないったら」

”敵”に向き合う。

今度は、こっちの番だ。

満潮「面白いことしてくれたじゃない・・・! 倍返しよ!」

”敵”は沈めた漁船を噛み砕き、暴れまわっていた。

大きい。

霞「”はぐれ”どころか、”群れ”の奴より大きい!」

小型の単独なら殴りかかる漁師たちでも、さすがにこれは無理だろう。
それどころか、油断していると艦娘といえども―――。

朝潮「たたきつぶすぞ!」

「「「おおっ!!」」

関係ない。
知るものか。

満潮「私たちを怒らせたこと!思い知れ!」

護るべきもの。
そうじゃない。
護りたいもの。
それを傷つけられた。

…許さない。
許さない。
許さない!

朝潮「突撃!!」


――
―――

荒潮「疲れた~」

霰「ちょっと、休む…」

朝潮「みんな、怪我は?」

はぐれ駆逐を撃退した朝潮姉妹だが、さすがに疲労を隠せない。
へたりこんだ姉妹に、それでもしゃんと立つ朝潮は被害の確認をする。

大潮「無事です!」

満潮「無事」

荒潮「無事よ~」

霰「無事」

霞「無事」

朝潮「被害なし、と」

全員無傷。
さすがの朝潮姉妹である。


\オーイ!/ \ダイジョウブカー/

満ち潮「んなっ!?」

周囲の警戒をしていた満潮が、引き返してくる漁船を見つけて怒り出す。

満潮「ちょっと! なんで戻ってきたのよ! バカじゃないの!?」

「「訳すとー?」」

朝潮「みんな危ないよ、ちゃんと避難して」

満潮「訳すなって言ってんでしょ!」

満潮「…あっ」

はっと、気付く。
艤装を付けた自分たちを見られるのは、初めてだ。
武器を背負い、海を走る自分たちを…。

  ―― 艦娘は人とは違う――

嫌われる。
怖がられる。
避けられる。

  ―― 人は艦娘を恐れる――

怖い。
怖い。

満潮「あ、あの」

人の優しさを知ってしまった。
人の暖かさを知ってしまった。

知らなかった自分とは、違う。
失う怖さを知ってしまった。

拳を握る。
下を向く。
皆を、見られない。

満潮「わた、し、」

「すまねぇなぁ」

満潮「…えっ」

顔を上げる満潮。
船から見える漁師たちの顔は…、いつもの笑顔だった。

「あぶないこと、任せちまってよ」

「ったく、情けないわ」

「でもな、おかげで助かったよ」

「「「ありがとうな!!」」」

視界がゆがむ。
もう、今度は我慢できない。

満潮「ばがぁ~~~~~~~~~~~」

涙が、止まらない。

「「訳すとー?」」

朝潮「みんな大好き!」

満潮「やぐずな~~~~」

「「おれたちも大好きだよー!」」

満潮「うるざい~~~~」

泣き笑い。
泣いて。
笑って。
無事を喜んだ。

第二陣として駆けつけた金剛と榛名は、すこし離れてそれを見ていた。

まぶしくて、近付けない。

金剛「よかったデスネー…」

金剛たちが目指して、それでも出来なかったこと。
人との交わり。

金剛「羨ましいデス」

榛名「姉さま…」

でも、彼女たちが見せてくれた。
彼女たちは、出来た。

ならば、自分も。
自分たちも。

金剛「また、がんばりまショウ」

榛名「…はい、また」

やってみよう。

もう一度。

金剛「周囲を警戒!哨戒を続けマスヨ!」

榛名「はい!」

朝潮たちに護衛されて帰還した漁船を、町の住人たちは大勢で出迎えた。

「無事でよかった!」
「とーちゃーん!」
「大丈夫かー!」

もみくちゃにされる漁師たち。
黙って帰ろうとした朝潮たちだが、

「みんな、ちょっと聞いてくれ!」

助けられた漁師が声を出す。

「おれたちは、朝潮ちゃんたちに助けてもらったんだ!」

視線が海に向く。

沈黙。

次いで、ざわめき。

「海に立ってる…」
「大砲背負ってる」
「テレビに出てた戦艦の…」

満潮「…っ」

唇を噛む。
だめかな。

「ありがとうな!」

満潮「あ…」

「助けてくれてありがとう!」
「かっこいいよー!」
「ありがとう!」

歓声。
喝采。

体が震える。
胸が熱い。
涙が、出て。

朝潮「ほら、拭いて」

満潮「…うん」

姉妹全員で住人達に向き直り、

朝潮「旗艦朝潮以下、大潮、満潮、荒潮、霰、霞!」

ばっ!

敬礼。

朝潮「ご無事で何よりです! それでは、これで帰還します!」

\アリガトヨー!/ \マタネー!/ \バイバーイ!/ 

人々の声を背に、帰還の途に就いた。

霰「…」

ちらっ。
くるり。
ぶんぶん。

振り返って、手を振る。

霞「ちょっと!前見てないと危ないわよ!」

霰「うん…」

霰「…」

ちらっ。
くるり。
ぶんぶん。

また振り返って、手を振る。

霞「危ないったら!」

霰「でも…、みんな手を振ってる」

霞「ああもう!」

霰と手をつなぎ。

霞「引っ張ってあげるから、もうずっと手を振ってなさい」

霰「うん…、ありがとう」

ぶんぶん。

霰は、ずっと手を振っていた。

人が見えなくなっても。

港が見えなくなっても。

鎮守府に着くまで。

ずっと、手を振っていた。

戻ってくる朝潮姉妹を、提督はずっと港で待っていた。

朝潮「旗艦朝潮以下、大潮、満潮、荒潮、霰、霞!
   全員無事に戻りました!」

提督「うん、おかえり。
   無事で何よりだ」

ひとりひとり、怪我の確認しながら。
そっと頭を撫でる。

提督「朝潮、旗艦ご苦労だった」
朝潮「はい!」
朝潮は、直立不動で撫でられる。

提督「大潮、大戦果だな」
大潮「はい!」
大潮は、むしろ頭を掌に押し付けてくる。

提督「荒潮、よく皆を守ってくれた」
荒潮「うふふ~」
なぜか荒潮だけはイケナイ気分になるのは提督だけの秘密だ。

提督「霰、がんばったね」
霰「…うん」
目を細め、されるがままに撫でられる霰。

提督「霞、君がいてくれてよかった」
霞「…、ふん、当然でしょ」
耳まで真っ赤になりながらも、拒否はしない霞。

提督「…」
満潮「…」

いつもは「子供扱いするな!」と怒る満潮だが…。
提督は、今日は、今日だけは、声をかけたかった。

提督「…満潮、今日、皆が無事だったのは、君のおかげだ」

満潮「…う、ぐすっ」

しゃがみ、視線を合わせて。

提督「ありがとう」

満潮「うぁ~~~~」

提督に抱き着き、泣いた。

満潮「みんなも、ありが、とう、って」

提督「うん、うん、よかった」

満潮「よがっだの~~~」

提督「満潮が、みんなが、がんばったからだよ」

満潮「うん、うん、ひぐっ、ずーっ」

提督「朝潮も、大潮も、荒潮も、霰も、霞も、ありがとう」

優しく、優しく、抱きしめ、髪を撫でた。
今日だけは、満潮も、そうさせてくれた。

翌朝。

満潮「忘れなさい」

提督「えっ」

満潮「き、昨日のアレは、なにかの間違いよ!」

提督「えー…」

満潮「わ、す、れ、ろ!!」フミフミ

提督「わ、忘れるものか!」

満潮「なら記憶を消してやるー!」フミィィィ

提督「な、なにをするきさまー!」

今日はここまでです。
満潮ちゃんがえらく泣き虫になっちゃった。
>>2->>3にどうやって戻すのか、寝たら忘れてしもうた。

>>29
満ち潮「これが落ち着いていられるか!」

満潮「これが落ち着いていられるか!」


満ち潮「…っ」

満潮「…っ」

>>32
満ち潮「関係ない!」

満潮「関係ない!」

>>36
満ち潮「んなっ!?」

満潮「んなっ!?」

提督が波止場で釣りをするようになって、数ヶ月。
住人に受け入れられ、ついたあだ名が「お地蔵さん」。
その理由は――

霰「司令官」

提督「ん~?」

霰「釣れてる?」

提督「ん~、ぼちぼちかな」

霰「ぼちぼち」

ぱか。

クーラーボックスを開ける。

霰「・・・」

提督「・・・」

ぱたん。

閉じる。

霰「ぼちぼち」

提督「ごめんなさい、見栄張りました」

提督は、今まで一匹も釣ったことはなかった。
へたっぴなのである。

いつも数匹は持ち帰っている。
が、実は漁師や、同じく釣りをしている子供が分けてくれているのだ。
ただ座っているだけの提督に、「お供え物」と笑いながら。
だから、お地蔵さんなのだ。

提督「いいんだよ、魚が目当てじゃないんだから」

いくぶん拗ねながら、強がりを言う。

提督「一度くらい釣ってみたいな~・・・」

直後に本音が漏れる。
このへっぽこさよ。

霰「釣り、嫌なら、やめてもいい・・・」

私たちのため、ならと。

提督「嫌じゃないよ」

間を置かず、返される。

提督「ここにいるの、好きだし」

霰「・・・うん」

提督「それにほら、今日は霰が来てくれた」

霰「・・・うん」

胸の中がぽかぽかする。

こぶしひとつ分の隙間を、詰める。

もっと近くに、いきたい。

提督「うん」

ぴったりくっついても、提督は笑顔で応じる。

霰「・・・えへ」

自分も、きっと、笑ってると思う。

霰「今日は、犬を洗った」

提督「犬を」

霰「うん、来週、霰たちが秘書艦だから」

提督「うん、・・・うん?」

提督「秘書艦と、犬と、どう関係あるのかな?」

霰「・・・一緒に秘書艦するから」

提督「聞いてないんですが」

霰「・・・みんな知ってる」

提督「うん、君たちは知ってるかもね、仲良くて何よりだよ」

霰「・・・うん」ドヤァァァ

提督「褒めたけどね? 褒めてないよ?」

霰「・・・秘書艦の間、散歩に行けないから」

提督「おおう流された」

霰「犬も、鎮守府に泊まる」

提督「聞いてないんですが」

霰「・・・みんな知ってる」

提督「だろうね~」

霰「みんなと、犬で、一緒に寝る」

提督「へえー」

提督「そんな大きな部屋、あったっけ」

霰「ある」

霰「八畳和室」

提督「ほうほう」

霰「布団以外、何も置いていなくて」

提督「・・・ほう」

霰「執務室も、近い」

提督「それ、私の部屋だよね?」

霰「・・・うん」

提督「聞いてないんですが」

霰「・・・みんな」

提督「知ってるんだよね!」

霰「うん」

提督「今日は、霞も休みだよね」

霰「うん・・・、でも、防空射撃演習に参加するって」

提督「・・・そう」

防空射撃演習。
航空隊を対空火器で攻撃する演習。

提督「大丈夫かな、と言ったら失礼だけど、それでも」

霰「・・・うん」

霰と霞は、以前の所属地で、味方からの砲撃と爆撃で大怪我を負った。
ほとんど記憶に無いとのことだが、回復後しばらくは飛行機を見るだけ竦み、動けなくなっていた。

今でも、夜にうなされているので、朝潮姉妹が交代で一緒に眠るようにしている。

霰「霞は・・・、すごいね」

視線を遠くに、まぶしい物を見るように。

霰「霰は・・・、今でも、ちょっと怖い」

怖いという気持ちをねじふせ、少しでも苦手意識を克服するかのように。
霞は、積極的に防空射撃演習に参加する。

提督「霰、おいで」

ひざをぽんぽんとたたいて。

霰「・・・、うん」

提督のひざに乗る。
すっぽりと小さな体が、納まる。

提督「霰だって、すごいよ」

霰「え・・・?」

優しく、抱き寄せ。

提督「だって、霰も、逃げたこと無いじゃないか」

怖いという気持ちを受け入れ、それでも逃げずに。

提督「どっちも、すごいと思うよ」

霰「司令官・・・」

目を背け、怖くないフリをすることもない。
怖いからと、逃げることもない。

提督「どっちも、すごいよ」

霰「ありがとう・・・、嬉しい、です」

気づいたら怪我をして、ベッドにいた。
隣には、同じく怪我をした霞がいた。

それが、霰の一番古い記憶。
それ以前は、よく思い出せない。

でも、ぼんやり覚えてることもある。

『行こう。 帰ろう』
『私たちの、家に』

抱き上げられ、そう誘われた。
提督の腕、提督の笑顔、遠くに見える夕陽・・・。

霰(帰ろう、って言ってくれた)

霰(私たち、って言ってくれた)

思い出せない、が、おぼえている。

霰(ここが、居場所)

提督のひざにのり、その胸に顔を埋める。

今でも提督は、霰と霞だけを抱き上げる。
まさに子供扱いの「だっこ」だが、霰も霞も、文句は無かった。

提督「霰、どうした?」

声に誘われ、顔を上げると・・・。
目の前に、提督。

大好きな人。
大好き。

その気持ちが大きくなって、どんどん吸い寄せられて。

提督「・・・」

霰「・・・えへ」

キスをしてしまった。

霰「お嫁さんだし・・・、いい、よね?」

提督「・・・」

へんじがない。

提督の胸に、耳を当てる。

どんどんどんどんどん。

明らかに心拍数が上昇している。

霰「どきどき、してる」

提督「・・・そりゃ、ね」

霰「・・・えへ」

なんとなくだが、嬉しい。

霰「・・・もう一回」

顔を上げ、目を閉じ、おねだり。

気配が、近づいてくる。

霰「ん・・・」

提督「・・・」

霰「・・・」

霰「・・・ほっぺた」

提督「・・・」

霰「・・・許す」

提督「・・・どうも」

提督「みんなを迎えに行こうか」

霰「うん」

そろそろ演習が終わり、帰投する時間。

霰「・・・ぼうず」

提督「いつものことだからね、気にしないよ!」

クーラーボックスを肩に掛け、振り返った先に。

「・・・」

魚を持った漁師たちがいた。

提督「こんにちは」

霰「・・・こんにちは」

「あ、ああ」

なぜか携帯電話を構えている。

「・・・お供えを持ってきたんだが」

提督「いつもありがとうございます」ペコリ

霰「・・・ありがとうございます」ペコリ

「いや、それはいいんだが」

漁師たちがざわついている。

「通報したほうが、いいのかなって、皆で相談してて」

提督の目つきが変わる。

提督「何かありましたか!」

緊急用の通信機を取り出す。

提督「すぐに準備を・・・」

「ああ、いや、そうじゃないんだ」

鎮守府に連絡しようとする提督を、あわてて止める。

「通報しようと思ったのは」

ゆっくり、漁師たちが指差すのは。

「「あんただよ」」

提督「まったくもう!」

ぷりぷり。
怒っている。

提督「激おこだよ。 激おこぷりぷり丸だよ」

霰「ふふ・・・、ニセモノっぽい」

鎮守府までの道を歩き。
提督は怒っていたが、霰はご機嫌だった。

ょぅι゛ょをたぶらかすHENTAIとして通報されそうになっていたのだ。

提督は大慌てでケッコンカッコカリの説明をして。
漁師たちの怒りを余計に買い。
酒を奢る約束までさせられていた。

提督「ひとりにしろとかなぁ・・・。
   そりゃそうだけどなぁ・・・」

霰「ふふ・・・」

提督「霰さんはご機嫌ですね」

霰「うん・・・、だって」

嬉しくて仕方ない。


  『霰は、私の嫁だからおっけーなんです!』


霰「ちゃんと、言ってくれたから」

提督「そっかー」

提督「その後、みんなの名前言うから、怒られたけど」

霰「仕方ない」

霰「たくさん・・・、がんばって、ね」

提督「はーい」

霰「ふふ・・・」

今日はここまでです。
寝るたびにテンション変わってキャラがブレるが、気にせんでくだちい。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。

朝潮型の秘書艦初日。

流石に6人は多すぎると、3人は鎮守府の掃除にまわる。
今日の担当は―

事務:大潮
提督補佐:朝潮
食事:霞

大潮「はー!」

提督「・・・」

大潮「どーん!」

提督「・・・」

大潮「ど 提督「大潮、もうちょっと静かにやろうか」 ・・・」

机にかじりついての、事務処理。
なぜこれほどの掛け声が必要なのか。

提督「ごめんな~、ちょっと二日酔いで・・・」

大潮「わかりました!」

大潮「・・・ドーン・・・」

大潮「・・・ドー・・・」

大潮「・・・」

提督「・・・」

大潮「・・・」

しょんぼり。

明らかにテンションが下がっている。

大潮「・・・」

提督「大潮、掛け声おっけー」

大潮「いいんですか!」

提督「ああ、おかわりもいいぞ」

大潮「はいっ!」

霞「大潮姉さんの邪魔しないでよ」

霞が味噌汁を運んできた。

提督「あ~、コーヒーでいいんだけど」

霞「だ・め・よ! 朝はちゃんと食べなさい!」

提督「う~、わかったよ、かーちゃん」

霞「誰がかーちゃんか!」

霞「ほら、シジミの味噌汁は二日酔いの朝にいいのよ」

提督「ずず・・・、はぁぁ、しみるー・・・」

うまい、と呟いて。

提督「霞はいい嫁になるな」

霞「ふふん!そうよ!」

得意げに、胸を張り。
びしっ!と提督を指さす。

霞「あんたの嫁よ!」

提督「・・・うん、いい嫁だ・・・」

霞「食べたら、ちゃんと仕事するのよ!」

提督「は~い」

霞「じゃ、あたしはお昼を作るわね~♪」

ご機嫌で、執務室隣の調理場に入る霞。
ここで提督と朝潮姉妹の昼食を作るのだ。

執務室隣の調理場。
簡易的なものでなく、むしろ一般家庭のキッチンより大きい。
これは、ほぼ強制的に着任した提督が、唯一希望したものだ。

提督(カレーのにおい)

調理場から流れてくる独特の香り。
すでに煮込みに入っているようだ。

提督(たのしみ)

もうカレーのことしか考えられない。

提督「ぬおおお!」

大潮「おお、提督がものすごい勢いでハンコを!」

提督「大潮!私はやるよ!」

大潮「アゲアゲですね!」

提督「アゲアゲだー!」



提督「・・・アゲアゲって何?」

大潮「知りません!」

そもそも、秘書艦は独りでするものだ。
しかも規模が小さく特殊な任務も行わないため、もともとの仕事が少ない。
さらに専任だった大淀によって、長期計画がすでに立てられている。
秘書艦未経験の龍驤ですら、初日に「することがない」と言い切ったほどである。

そんな中での”提督補佐”という、とってつけた仕事。

朝潮「・・・」

「「「・・・」」」

提督「・・・朝潮、暇じゃない?」

朝潮「いえ!お声がかかるまで!ここで待機しています!」

提督「・・・そうかい」

提督の執務机のすぐ横。
というか、提督の膝元。

持参した座布団に正座し、朝潮が待機している。
すぐ横には、三匹の子犬。
なぜか同じように”お座り”で、待機している。

提督「その犬たちは、そう躾けたの?」

朝潮「いいえ! 私の真似をしていると思われます」

提督「そう、じゃあ散歩の縦列行進も?」

朝潮「はい、私の真似をして着いて歩いてるようです」

提督「そっかー」

提督(やっぱ群れのリーダー扱いなのかな)

ちょっと遊んでみよう。

提督「お手」

右手を差し出す。

朝潮「はい!」

「「「キャン!」」」

ビシッと小気味良い音を立てて、朝潮が右手を出す。
子犬も同じように右手を乗せてくる。

ひとりと三匹、見事な”お手”だ。

提督「おかわり」

朝潮「はい!」

「「「キャン!」」」

ビシッ。

四匹・・・いや、ひとりと三匹、見事な”おかわり”

提督「た・・・」

提督「楽しい!」

なでなでなで。

猛烈な勢いで、忠犬あしゃしおの頭をなでまわす。

朝潮「はぅぅ」

されるがままの朝潮。
恥ずかしそうに頬を染めて俯くが、嫌がる様子はまるで無い。

霞「遊ぶな!」

ペコーン

お茶を運んできた霞に、お盆で殴られ。

霞「朝潮姉さんも!」

朝潮「えー」

「「「キューン」」」

霞「ああもう!こっち手伝いなさい!」

してないよー

迫ってるだけ

念押しとおもっていただければ。

「おめー、わかってんだろうな?」

みたいな。

いつものように午前でほぼ仕事が無くなり、昼食。

メニューは、煮魚だった。

提督「・・・」

霞「どうしたのよ」

提督「・・・カレーじゃ・・・、ない・・・」

どよよよよよ。

この世が闇に覆われたような、絶望。

霞「あれ、明日の分よ」

提督「なっ・・・!?」

霞「一日おくと、美味しくなるのよ」

知っている。

知っているが、許容できるかは話は別だ。

提督「かれー・・・かれー・・・かれーえー・・・」

霞「ああもう!」

カレーだけを支えに仕事をしたのだ。
もう、立つこともできないかも知れない。

霞「あとでちょっとだけ食べさてあげるから」

ぱあああああ。

光がさす。
世界は美しい・・・!

提督「いただきます!」

提督「魚、おいしい!」

霞「そうでしょ、鳳翔さんに習ったんだから」


カレーはおやつにおいしく頂きました。

夜、提督居室。

提督「ほんとに、皆で寝るんだ」

すでに布団が持ち込まれ、和室は布団の海になっていた。

霰「ちゃんと、そう言った」

提督「うん、聞いたね」

問題は、布団7人分。

提督「私も?」

霰「・・・司令官の部屋だから」

提督「隣の部屋でもいいんだけど」

霰「だめ」

一緒に、と。

霰「みんな一緒が、いい」

提督「・・・わかったよ」

満潮「司令官の隣は、私でいいわね」

自分が皆を守ると。

提督「守るて」

抗議は流される。

荒潮「あら~、私は提督の隣でもいいわよ~?」

大潮「大潮も大丈夫です!」

霰「隣、いきたい」

無言の長女も、拳を突き出す。

霞「いいわ。 戦うことが私たちの宿命」

ゴゴゴゴと効果音を背負っているかのような緊張感。

提督「・・・ごくり」

6人の姉妹がその拳で決着を!

「「「じゃーんけん!ぽん!」」

勝者は霞だった。

提督(すごい戦いだった)

提督には手が見えない。
なのに彼女たちはお互いの手が見えるので、あいこを100回以上繰り返した。
とんでもない運動能力と、動体視力である。

提督(そういえば、今まで一度も勝ってなかったよ)

気づくのが遅すぎる。

霞「こっち向いたら殺すからね」

提督「・・・はい」

望んで隣に寝るはずなのに、この仕打ち。
提督は涙で枕をぬらしていた。

皆のパジャマが可愛いと褒めて。

唐突に始まるファッションショー。

綺麗なポーズをとる荒潮。
なぜか睨みつける満潮。
じっと立ってコメントを待つ霰。
やっぱり犬がついて歩く朝潮。
助走をつけて提督に飛び込む大潮。
「なんで私まで」と文句を言いつつも参加する霞。

「誰が一番可愛いか」を言わせようと始まりかけた姉妹戦争だが、
22時を過ぎるとぱたりと眠ってしまった。
規則正しい生活を過ごしている艦娘は、夜更かしなぞしようとしても出来ないのだ。

提督「夜戦とか遠征とか、海だと平気なのになぁ」

夜も更けて、皆が寝静まっている。
が、さすがに提督は眠れなかった。

提督(なんかすごいいいにおい)

眠れるわけがない。
そんな風に過ごしていると、寝言が聞こえてきた。

霞「・・・うぅ・・・」

寝言ではなかった。
提督の隣で、静かに眠っていた霞が、うなされていた。

提督(そういえば、霰と霞はうなされて眠れないときがあるって)

霞「・・・うぅ・・・」

涙を浮かべ、眉間にしわをよせ、歯を食いしばって。

提督(こんなにつらそうなのか)

はじめてみる、うなされる姿。

霞「・・・あ」

目を覚ました霞と、目が合う。

提督「・・・大丈夫?」

霞「・・・えぇ」

いつものこと、と呟き。

霞「ちょっと、外に出ましょ」

提督「うん」

提督と霞は屋根にあがり、毛布にくるまって月を見上げる。

霞「・・・いい月ね」

提督「そうだね」

霞「驚いたかしら?」

うなされる姿を見て。

提督「うん・・・、あんなにつらそうとは思わなかった」

霞「そう」

提督「昔のこと、憶えてないんだよね」

霞「・・・」

提督「・・・」

霞「・・・憶えて、なかったわ」

提督「まさか」

ずっと以前の対空演習の時に。
爆撃機からの攻撃を受けた時に。

霞「思い出したのよ」

それまでは、ただ怖いだけだった。
何故怖いかわからず、イライラしたこともあった。

それが、演習とはいえ、爆撃を受けた時に、突然、鮮明に思い出した。

提督「まさか、霰も・・・?」

霞「ううん、霰姉さんは多分思い出していないわ」

そのほうがいいと、思う。

霞「思い出して、いいことなんて何もないわ」

提督「・・・味方からの攻撃」

霞「えぇ」

何も知らず、低い練度での出撃。
対峙する、”敵”。
突然の、攻撃。
敵が居ないはずの、後ろからの攻撃。

霞「霧島さんがかばってくれたから、助かった」

提督「うん」

いきなり目の前が炎で埋まる。
爆発。
圧倒的な力の何かが飛来するのが、音だけでわかる。
敵も味方も関係なく、その何かが貫き、砕き、引き裂いた。

でも、と首を振り。

霞「あたしが怖いって思うのは、それじゃないの」

提督「・・・」

貫かれ、砕かれ、引き裂かれ。
そうやって沈む直前まで、こっちを見ていた。睨んでいた。撃とうとしていた。

霞「あいつらは、あたしたちと同じだ」

戦うための存在。

霞「あたしは、あいつらと、同じ」

人とは違う。

提督「霞、それは」

霞「わかってるの、でも、同じなの」

あの目に。
自分を最期まで見ていた目に。
引きずられる。

霞「違うって否定しても、あの目が同じだって言うの」

提督「・・・」

霞「それが、怖いの」

提督「霞」

後ろから、霞を強く抱きしめる。
そうしたくて、仕方なかった。

霞「ん・・・、どうしたのよ」

提督「・・・」

困ったような笑顔で、それでも霞は拒みはしなかった。

霞「あそこで、あたしは死ぬはずだった」

提督「・・・」

炎の渦の中で、敵味方諸共に。
霧島が連れて逃げてくれなかったら、間違いなく。

霞「きっと、次で死んでいた」

怪我をして、中破のままで待機させられた。
おそらく、次の出撃で。

提督「・・・でも、ここにいる」

霞「そうね」

霞「金剛さんと、霧島さんと、榛名さんと、みんなのおかげね」

それに、と続けて。

霞「あんたの、おかげよ」

手を差し伸べて。
抱き上げて。
帰ろうと言ってくれた。

霞「この手が、あたしを助けてくれた」

提督の手をとり、掌を頬にあてる。

霞「・・・ありがとう」

提督「・・・うん」

霞「これだけは、思い出してよかったって思うわ」

提督「・・・うん」

霞「あんたに助けられて、この手で助けられて」

目を閉じ、頬に当てた手の感触に酔う。

霞「あたしは、もう一生分の幸せを貰ったの」

提督「・・・霞」

霞「あたしは、あんたより後に死ぬつもりは無い」

霞「あんたのために、あんたを生かすために、死んでやる」

提督「霞」

霞「あの夕陽を思い出すだけで、あの幸せの中で、笑って死んでいける」

提督「霞!」

霞「あんたの、ために、あたしは、」

これ以上は聞いていられない。
聞きたくない。

涙を流して、笑っている霞に、これ以上言わせたくなかった。

霞「んっ」

唇を塞ぎ、黙らせる。

霞「・・・んぅ」

提督「・・・」

霞「・・・」

霞「ぷはっ・・・」

提督「・・・謝らないからね」

霞「・・・どこで、こんなの憶えたのよ」

くく、と笑い。

霞「なんだか、死にたくなくなっちゃったじゃない」

提督「それでいいよ」

生きて欲しい。

提督「もう、死ぬなんて言わないで」

強く、力いっぱい、抱きしめる。
力加減なんて、知るもんか。

提督「もっと、もっと、一緒に、生きよう」

霞「はぁ・・・っ」

きつく抱きしめられて、苦しくて、それでも嬉しい、ため息がもれる。

幸せを全部貰ったと思っていた。
でもこの贅沢者は、もっとくれると言う。

なら、もらおう。

霞「ちゃんと、責任、とりなさいよ」

提督「もちろん」

あの夢は、また見るだろう。
でも、きっと、もう大丈夫だ。

今日はここまでです。
明日には終わる予定。

自分でも思った
金剛型や軽空母とのバランスおかしいよね
一部修正します

一部修正します。

>>57

提督「霰、どうした?」

声に誘われ、顔を上げると・・・。
目の前に、提督。

大好きな人。
大好き。

その気持ちが大きくなって、どんどん吸い寄せられて。

提督「・・・」

霰「・・・えへ」

キスをしてしまった。

霰「お嫁さんだし・・・、いい、よね?」

提督「・・・」

へんじがない。

提督の胸に、耳を当てる。

どんどんどんどんどん。

明らかに心拍数が上昇している。

霰「どきどき、してる」

提督「・・・そりゃ、ね」

霰「・・・えへ」

なんとなくだが、嬉しい。

霰「・・・もう一回」

顔を上げ、目を閉じ、おねだり。

提督「・・・しないよ」

霰「んー・・・」

おねだり。

提督「・・・」

霰「・・・ぶー」プクー

提督「可愛い顔しても、だめ」

霰「・・・」

霰「・・・かわいい?」

提督「うん・・・、可愛いよ」

霰「・・・許す」

提督「・・・どうも」

一部修正します。

>>83

霞「あんたに助けられて、この手で助けられて」

目を閉じ、頬に当てた手の感触に酔う。

霞「あたしは、もう、一生分の幸せを貰ったの」

提督「・・・霞」

霞「あたしは、あんたより後に死ぬつもりは無い」

霞「あんたのために、あんたを生かすために、死んでやる」

提督「霞」

霞「あの夕陽を思い出すだけで、あの幸せの中で、笑って死んでいける」

提督「霞!」

霞「あんたの、ために、あたしは、」

これ以上は聞いていられない。
聞きたくない。

涙を流して、笑っている霞に、これ以上言わせたくなかった。

提督「霞」

指で唇を塞ぎ、黙らせる。

霞「・・・大事な話を、してたつもりなんだけど」

提督「だめだよ」

霞「・・・あたしの、覚悟をっ」

提督「そんな覚悟は、欲しくない」

霞「あ─」

心の中の、炎に染まる海が消える。

霞「・・・もう」

くく、と笑い。

霞「でも、なんだか、すっきりしたわ」

誰にも話せなかった。
一番、聞いて欲しい人に聞いてもらえた。

霞「もう、死にたくなくなっちゃったじゃない」

提督「それで、いいよ」

続きです。

>>84の翌朝からです。

朝潮型の秘書艦二日目。

事務:荒潮
提督補佐:霰
食事:満潮

荒潮「提督~、ここ、よくわからないんだけどぉ」

提督「どうしたの?」

荒潮「昨日の分なんだけど、なんだか途中で字が乱れちゃってて」

提督「あー・・・、大潮がテンションダウンした時かな」

荒潮「ふふっ・・・、大潮姉さんはテンションで仕事が変わっちゃうから~」

やるときはやるんだけど、とフォローも入れて。

荒潮「提督、手伝ってぇ」

提督「手伝いたいのは山々だけど」

膝の上に、霰。

霰「すやぁ・・・」

提督「ごめん、動けないよ」

荒潮「うふふ」

荒潮が、霰のほっぺたをつついて、

荒潮「ぷにぷに~」

提督「起こしちゃ、だめだよ」

荒潮「仕事中だけどぉ」

提督「あ、そうだった」

荒潮「じゃあ、私も提督の膝にのるしかないわねぇ」

よっこいしょ、と。

荒潮「お邪魔しまぁす」

霰を左に、荒潮を右に。

提督「なんだか、すごいことになってないか」

荒潮「うふふ~」

笑って受け流して、

荒潮「お仕事、お仕事♪」

髪を束ね、ポニーテール。

提督「・・・ぽにーてーる」

荒潮「お仕事の邪魔になっちゃ、いけないし」

それに、と上目遣いで。

荒潮「提督、好きでしょぉ?」

提督「んぐ」

荒潮「うふ~」

荒潮「鳳翔さん」

提督「う・・・」

荒潮「よく、見てるわよねぇ」

提督「・・・」

荒潮「あらぁー、効果あり、かしらぁ♪」

霰「すやぁ・・・」

一方、調理場では。

満潮「むぅ・・・、霞のカレーがあるから、メインはいらないわね」

せっかくのアピールチャンスだが、仕方ない。

満潮「ゆでたまごとマヨネーズ」

たまごを刻んで、マヨネーズで合えて、レタスで巻いて。

満潮「こんなのが好きなんて、ほんと子供なんだから」

でも、食べるあの人を想像すると。

満潮「ふふっ」

自分も、笑顔になる。

満潮「ん、おいしい」

味見。
薄口な提督に合わせて、マヨネーズは少なめに。

満潮「あいつにも、味見してもらおうかしら」

少しすくって、おにぎりに入れて。

満潮「ちょっと司令官、たまごの味見を──」

霞と、荒潮の二人を膝に乗せてる提督が居て。

満潮「なんじゃこりゃー!」

満潮「どういうつもりよ! こ、この、クズ司令官!」

荒潮「それ、霞ちゃんのセリフ~」

満潮「やかましいわ!」

霰「・・・うるさい」

満潮「あんたも!寝てんじゃないわよ!」

吠える。
怒れる大怪獣ミチシオの襲来である。

提督「業務上、仕方なかったんや・・・」

満潮「仕方ないって!」

荒潮「ねぇ、霰」

霰「・・・うん」

ふたりで、提督の膝から降りて。

「「どうぞ」」

満潮「ふえっ?」

荒潮「みんな平等に♪」

霰「・・・乗れば、わかるから」

満潮「え、ちょ、私は別に」

おろおろ。
わたわた。

霰「・・・いらない?」

荒潮「いらない?」

提督「いらない?」

三人そろって、小首を傾げる。

満潮「・・・ああ、わかったよ!」

負けられないから。

満潮「・・・乗れば、いいんでしょ!」

満潮「・・・」

提督「・・・」

耳まで真っ赤になって、かちこちに固まって、それでも満潮は提督の膝から降りない。

霰「・・・おきゃくさん、どうですか」

満潮「・・・」

やっぱり、顔は真っ赤なままで。

満潮「・・・ちょっと、よくわからないから」

提督の腕を、ぎゅっとだきしめて。

満潮「もうちょっと、ここに居るわ」

荒潮「墜ちたわぁ」

霰「作戦成功」

ふたりで、ハイタッチからのサムズアップ。

荒潮「提督、もっとぎゅーって」

提督「ん・・・、こうかな」

ぎゅう。

満潮「ふわぁぁぁ」

満潮(これは・・・、だめになる)

ニコニコニヤニヤする荒潮と霰にも気づかず、満潮は昼になるまでずっと提督の膝にいて。

掃除から戻ってきた朝潮たちの抗議をうけることになるのだった。

朝潮型の秘書艦三日目。

今日は姉妹6人揃っての緊急ミーティング。

大潮「ミーティングのテーマは、これ!」

ホワイトボードに書き込む。

”朝潮姉妹の 提督の扱いの差について”

提督「・・・なにこれ」

大潮「言葉通りです!」

姉妹を見回して、

大潮「扱いに差があるんです!」

提督「・・・無いと思うけど」

大潮「あります!」

きゅきゅきゅと更に書き込む。

大潮「これは、偶然ぱんつを見てしまった時の、提督の反応です」

提督「んなっ!?」

超くいつく:荒潮
見たいけど見ちゃいけないああどうしようチラッチラッ:朝潮 霞
特に反応なし:満潮 霰

大潮「こうです!」

ばん!とボードを叩き、

大潮「由々しき事態です!」

じとりと提督を睨み、

大潮「なにか異論は?」

提督「・・・」

大潮「無いようですね?」

提督「・・・」

朝潮「これは・・・、どう反応すればいいのでしょう」

霞「わかんないわよ・・・」

荒潮「うふふ~♪」

霰「・・・司令官」

満潮「お、怒っていいの? いや、なんか違う・・・?」

勝ち誇る者、混乱する者、打ちひしがれる者、怒る者。
その全ての視線を受けて、提督の汗が止まらない。

大潮「我々も、司令官から指輪をもらう身として!
   現状を把握し、対処しなければいけません!」

荒潮「・・・それはいいけどぉ」

大潮「なんですか、勝者さん!」

霞「勝者て」

荒潮「大潮姉さんだと、どうなるのかしら?」

大潮「・・・えっ」

朝潮「・・・」

満潮「・・・」

霰「・・・」

霞「・・・」

だっ!

朝潮「逃がすな!」

逃げ出した大潮だが、あっという間に取り押さえられた。
同じ性能の姉妹に囲まれ、逃げられるはずが無いのだ。

大潮「は、放せっ」

霰「ていっ」

ぴらり。

大潮「あ・・・」

((・・・司令官の反応は!?))

提督「・・・」

しーん。

((特に反応なし!))

内心でガッツポーズをとる姉妹だが・・・。

大潮「はああぁぁぁうぅぅぅ」

真っ赤になった頬をおさえ、床に座り込んでしまった。

大潮「恥ずかしいよぉ・・・」

提督「・・・」

提督「み、みんな! だ、だめだよ、こういうことはっ」

「「なっ!?」」

大潮「うううぅぅ・・・」

提督「見てない、見てないから!」

大潮「・・・ほんとう?」

提督「っ・・・、ほ、ほんとうだとも」

大潮「よかったぁ」

にこぉぉ。

提督「・・・」ズキューン


荒潮「・・・ギャップ萌え」

朝潮「え? 何ですかそれ?」

満潮「くっ・・・、やるわね」

朝潮「え? どういうこと?」



鎮守府は、今日も平和です。

夜。



満潮「・・・」

満潮「これを、着れば」

霞「・・・満潮姉さん」

満潮「はっ!?」

手に持ったモノをあわてて隠すが。

霰「・・・スケスケ」

霞「山も谷もないのに、そんなの効くわけ無いでしょ・・・」

満潮「ぐっ・・・」

シースルーのネグリジェ。

霰「・・・やりすぎ」

満潮「ぐぐっ」

正論に打ちのめされる。

満潮「じゃ、じゃあどうすればいいのよ!」

霞「ふふん」

霰「・・・じゃん」

キグルミパジャマ。

満潮「おぉ・・・」

霞「子ども扱いされるなら、それを逆手にとるのよ」

霰「インパクトで勝負」

霞「私は猫、霰は犬で」

霰「はい、狸」

満潮「なんで狸ー!?」

駆逐艦・朝潮型。

戦うことを宿命付けられ、戦う。

でも。

それ以外も、あってもいいかな。

あの人が、そう言ってくれたから。

”戦う”以外を。

あの人と、一緒に。


朝潮「一番!旗艦!朝潮!」

大潮「二番!大潮!」

満潮「三番!満潮!」

荒潮「四番!荒潮!」

霰「五番。霰」

霞「六番!霞!」


朝潮「朝潮艦隊!出撃します!」

終わりです。
ヘタレで無能と評判の提督ちゃんなので、一部修正しました。
こっちのほうが、らしいかな。

この数ヶ月、順番にレベルング艦隊の旗艦をしていたので、書きたかった。
キャラブレは気にしないでね。

時系列は、
>>2->>3 現在
>>4 過去1
>>5->>6 過去2 (過去1の同時期、別の場所)
>>7->>14 過去1→過去2→過去1の続き
>>22 過去1の後日談
>>23->>28 >>22の後(過去3)
>>29->>44 過去3から数週間後(過去4)
>>45 過去4の後日談
>>51->>59 現在の>>3からの続き
>>67>>109 >>59の翌週、秘書艦週間
>>110 EDっぽいもの

過去は全てシステム理解前、現在は理解後です。

藍川琉々さんの「朝潮型(全員改二IFバージョン)」を眺めながら書きました。
もうほんと可愛いったらないよね。
朝潮型はイイ!

>>103

霞と、荒潮の二人を膝に乗せてる提督が居て。

霰と、荒潮の二人を膝に乗せてる提督が居て。

【艦これ】提督「最高翌練度に達した艦娘が、ことごとく無気力になっている」
【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、ことごとく無気力になっている」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466274797/)

【艦これ】提督「最高翌練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【金剛シスターズ】
【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【金剛シスターズ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466874620/)

【艦これ】提督「最高翌練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【軽空母勢】
【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【軽空母勢】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467478467/)

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