初めての書き込みです。
不作法があれば、ご指摘ください。
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提督「最高翌練度に達した艦娘が、ことごとく無気力になっている」
大淀「・・・」
提督「無理な作戦も行わず、轟沈も無し」
大淀「・・・」
提督「徹底した安全管理の下、演習を繰り返し、各艦の連携は完璧」
大淀「・・・」
提督「休日も週に二日。 上陸許可と共にお小遣いも渡した」
大淀「・・・」
提督「大淀さん、何故だと思う?」クルッ
大淀「O-YODOパンチ!」
ペチーン
提督「ぐふぅっ」
提督「い、いきなり何するんですか」(敬語)
大淀「すみません、つい」シラー
提督「技名叫んだよね? こっちは浮き上がるほどの打撃だったよ!?」
大淀「ふぅ・・・」
ため息をつき、フルスイングでのボディブローでずれた眼鏡をかけなおす大淀さん。
あ、眼鏡を外した大淀さんってレアだよ。
写真撮ればよかった。
まあ無理だけど。
大淀「わざとです」
提督「うん、わかってるよ!」
まったく反省もせず、冷たい眼差しで私を見下ろしてくる。
あ、ちょっとゾクッとした。
大淀「仕方ありませんね。 このままでは艦隊運営に支障をきたしますし」
提督「はい、ありがとう、よろしくおねがいします」
大淀「それでは・・・まず」
大淀「最高翌練度に達した艦娘たちが報告に来たときのこと、覚えていますか?」
眼鏡をくいっと上げ、私を見る大淀。
ずっと昔、私に勉強を教えてくれた親戚のお姉さんを思い出す。
好きだったなぁ。 今はもう子供が三人も
大淀「聞いていますか」
提督「はい」
提督「もちろん、忘れないよ。 大事な艦娘たちの快挙だからね」
モヤンモヤーン(回想スタート)
-金剛の場合-
ドドドドドド ドバーン!!
金剛「提督ー! ただいまデース!」
ずどん!
「ぐっ・・・! ふっ・・・。 おかえり、金剛」
「はいデース!」
ノックどころか、ドアを開けた勢いのまま金剛が抱きついてきた。
足を踏ん張り、全身の筋肉を酷使して金剛を抱きとめる。 男の意地である。
満面の笑みで抱きつく金剛は、ほぼ同じ身長とは思えないほど細く、軽い。 まあ突進力はとんでもないんだけどね。
金剛「提督、私、最高翌練度に達したヨー!」
提督「ああ、よくやってくれた・・・。 おめでとう」ナデナデ
金剛「ん~・・・」スリスリ
抱きしめたまま、金剛の長い髪を撫でる。 すりすりと頬ずりする様は、とても可愛らしい。
提督「今日はゆっくり休んでくれ。 明日も休みで構わないよ」
金剛「・・・ん?」
ぴしり、と空気が凍った気がした。
が、それがなにかわからない。
金剛「・・・それだけ、デスか?」
提督「ん? あ、ああ、祝賀会は予定しているが」
それだけ?
ほかに何かあるのか? するのか?
金剛「・・・。
・・・そうデスか」
私の沈黙を肯定と受け取ったのだろう。
打って変って、とぼとぼと退室する金剛を見送る。
扉が閉まる瞬間、隙間から見えた比叡・榛名・霧島の視線が自分に刺さったかと思った。
モヤンモヤーン(回想終わり)
提督「いやあ、妹たちの視線は凄かったよ。 息が止まったもん」
大淀「・・・」
大淀「ふんっ」
ペチーン
提督「ぶっ!?」
予備動作の無いビンタを、艦娘の身体能力で食らう。
体がねじれた! し、視界がガクガクと揺れている・・・!
提督「なんで・・・?」
大淀「次、いきましょう」
提督「・・・はい」
こちらの非難はまるっと無視された。
だが、逆らえない。
逆らったらヤられる、そう私の妖精が叫んでる。
仕方ない、次、いってみよう。
モヤンモヤーン(回想スタート)
ageるものかと勘違いしてました
ありがとう
-龍驤の場合-
ドドドドドド ドバーン!!
龍驤「提督ー! 帰ったでー!」
ドアを蹴り開け、龍驤が提督室に飛び込んでくる、いやだからノックしてよね?
私は席を立ち、うずうずしている龍驤近づく。
提督「龍驤お帰り。 最高翌練度おめでとう」
龍驤「うち、やったでー! ほめてほめてー!」
提督「ああもちろん、ほぉーら!」
龍驤を高く抱き上げる。 いわゆる、高い高いだ。
龍驤「こぉーら! 子供扱いはあかんでー!」キャッキャッ
提督「はっはっは、そーれそーれ」
龍驤「きゃーっ♪」キャッキャッ
笑いながら怒る龍驤に構わず、ぶんぶんと振り回す。
古参の空母として機動艦隊の要だが、なんて軽いんだろう。
龍驤「はい!」
ひとしきり遊んだ後、龍驤が手を出しだす。
なんで翌翌練度ってなってるんだろ?
練度としか書いてないのに
ありがとう
テスト:最高翌練度
提督「ん? なんだ?」
龍驤「ほら、うちに渡すもんがあるやろ?」
提督「渡す物? ・・・ああ」
執務机の引き出しを開ける。
龍驤の眼がキラキラと輝き、幻の尻尾がぶんぶん振られているのが見えるようだ。
ふふふ、まったくよくばりさんめ。
提督「はい、報奨金」
龍驤「・・・へっ?」
提督「これは私のポケットマネーだからね、気にせず使っていいよ」
”金一封”と書かれた封筒を手渡す。
懐は少し痛いが、大事な艦娘のためだからね。
龍驤「・・・」
提督「・・・」
何かを言いいたそうに私を見上げてくる。
とりあえず、笑顔でウインクしてみた。
龍驤「ああ・・・、うん・・・、 ありがとうなぁ・・・」
なんだかテンションの下がった龍驤が、静かに退室した。
礼儀正しい龍驤がドアを閉め忘れるなんて、報奨金の使い道で頭がいっぱいなのかな?
モヤンモヤーン(回想終わり)
このままいきますね!
文中は全部さいこうれんどでお願いします!
提督「う・・・うう・・・」スリスリスリスリ
大淀「・・・はああ~・・・」
話し終わって目が合った瞬間にデコピンされた。
繰り返すが、艦娘の身体能力でのデコピンである。
眉間に穴が開いてないか、頭蓋骨が割れていないか触診する。
・・・よかった、大丈夫みたいだ。
大淀「他の方はどうでしたか?」
深ーいため息をついた後、大淀が私を見下ろしてくる。
またゾクゾクする。 なにかに目覚めた気分だ。
提督「うーん、鳳翔さんや明石はあんまり変わらなかったと思うよ。
店や工廠が一種間くらい開かなかったのがちょっと困ったが」
提督「曙は「クソがっ!」って思いっきり噛み付いてきたけど、あいつはいつも怒ってるしね」
提督「大井と北上は「ふーん」ってクールに去った後、勝手に出撃して魚雷をボカボカ撃ってたよ」
提督「一航戦と五航戦は、飯も食べずにずっと波止場で海を眺めていたらしい」
提督「あとは・・・」
大淀「ええ、ええ、覚えてますとも」
大淀「みんな、私はすぐ横で見ていましたから」
大淀が大きく首を振りながら、次を促す。
大淀「最後に最高練度に達したのは、叢雲さんです」
提督「ああ・・・」
モヤンモヤーン(回想スタート)
-叢雲の場合-
叢雲「待たせたわね!」
礼儀正しくノックをして入ってきた叢雲が、胸を張って報告をする。 可愛い。
叢雲「怪我で入渠した分、みんなより遅れたけど・・・、ようやくだわ」
提督「うん、おめでとう。 そして、ありがとう」
叢雲「・・・」ドヤァァァ
無言で胸を張る叢雲。 ドヤ顔が似合うトップ5とかあったら、余裕でランクインするよね。
叢雲「はい、もらってあげるわ!」
胸を張って手を差し出してくる。
叢雲「遅れてちょっとハラハラしたけど・・・、誰にも渡さなかったんでしょ?
まあ、あんたの相手を最後まで出来るのは私くらいのもんよね!」
提督「ああ、もちろん用意をして・・・」
叢雲「わかってると思うけど、報奨金や間宮券や上陸許可証や米俵じゃないわよ?」
提督「っ!?」
引き出しから”金一封”と書かれた封筒を取り出そうとした態勢のまま固まる。
動けない。
不安げに私を見上げる叢雲、こんな弱弱しい彼女ははじめて見る。
叢雲「ねえ、お願いよ・・・。 本当に、私じゃ、ない、の?」
提督「・・・」
小さな体を縮こまらせて、声を詰まらせて訴えてくる。
だが、わからない。
何が欲しいんだ?
何を渡せばいいんだ?
ぽろり
叢雲「っ・・・、もういいわよっ!」
流れ出した涙をぬぐうこともせず、駆け去っていった。
私は追いかけようとしたが・・・、追いかけて、追いついて、どうすればいいんだ?
その迷いから結局、彼女を追うことは出来なかった。
モヤンモヤーン(回想終了)
大淀「あの日から、叢雲さんは部屋に閉じこもりっきりです」
提督「ああ」
大淀「他の艦娘も、命令をこなすだけの人形のようです」
提督「遠征も成功はするが、大成功は全く無い」
提督「戦闘の勝率が落ちている。
なんというか・・・、ふんばれないというか」
大淀「気合でひっくり返していた戦局で、順当に負けているだけです」
提督「・・・練度は最高なんだ。
なぜこうなった?」
大淀「本当にわからないんですか?」
提督「大淀さん、貴方は転籍で来られた方だ。
私ではわからないことも、わかるのではないですか?」
大淀「・・・わかりました」
大淀がなにかの設備のスイッチを押したように見えた。
あれは・・・、なんだ?
提督「ん? 今、何かした?」
大淀「何もしていません」
提督「いやでもスイッチを」
大淀「していません」
提督「・・・はい」
『していません』
『・・・はい」
榛名「全体放送?」
突然構内のスピーカから音声が流れ出す。
曇った目で機械的に紅茶を飲んでいた金剛が、ぴくりと震える。
金剛「テイトークゥ・・・」
比叡「姉さま、しっかり」
霧島「でも変ね。 まるで盗聴のようだわ」
部屋の会話をそのまま聞いているような。
その不審さから霧島が眉をひそめるが、流れてくる会話はそんな不審さをあっさりと吹き飛ばす内容だった。
大淀「私は最高練度のまま、ここに着任しました。
提督が秘書艦を選ばないから、本部からほぼ押し付けるようにですが」
提督「あー、うん、ごめんなさい。
でも、感謝してます」
大淀「いえ、それは構いません。
よくしてもらってますし」ニコッ
私は秘書艦を選ばなかった。
鎮守府の規模が小さければそれでよかった。
だが、徐々に業務が滞り、それでも秘書艦を選ばなかった私に、本部は強制的に大淀を着任させた。
大淀「秘書艦をしていて、思ったことがあります。
いえ、これは疑いと言っていいです」
提督「疑い」
大淀「提督、マニュアルを読んでいますか?」
私はもともと、提督ではなかった。
そもそも、軍人ですらなかった。
ある日突然、「適性がある」というだけで半強制的に提督にされただけの一般人だ。
そんな状態だから、教練もまともに聞く気になれず、そのせいで成績最低、その結果が僻地への赴任だった。
提督「あー・・・」
着任後も、サボりっぱなしだった。
艦娘も鬱陶しいだけだった。
だから、適当に計画し、適当に命令して、適当に出撃させた。
その結果が艦隊壊滅、出撃した全員の大破帰還という結果だった。
今思えば、轟沈しなかっただけでも奇跡だと思う。
なのに、帰還した艦娘は誰も私を責めなかった。
それどころか、旗艦の金剛は私に謝ったのだ!
預かった皆に怪我をさせてごめんなさい、と。
私は泣いた。
自分は何をしていたんだ?
こんな一所懸命な女の子たちに、何をさせた?
私こそすまない、生きて帰ってくれてよかった、すまない、ありがとう。
皆で抱き合って泣いた。 大声で泣いた。 その時が、私の本当の意味での着任だった。
それからの私は変わったと思う。
本部からの危険な命令は拒否、無視。
練度を高め、安全な任務のみをこなす。
皆の、あんな悲しげな顔を見たくはないから。
戦う宿命を背負っているとはいえ、泣かせたくはなかった。
おかげで”最強のハリボテ艦隊”などと呼ばれているが、むしろそれは私にとっては誇りなのだ。
提督「読んで、ない」
大淀「任務も、日勤のものばかり」
提督「はい」
高速修復材と資材の備蓄以外に興味はなかったから。
大淀「提督、ケッコンカッコカリ、って知ってます?」
提督「・・・何それ?」
『ケッコンカッコカリ、って知ってます?』
『・・・何それ?」
ざわめく。
ざわめいたのは、周りか、それとも自分か。
ドキドキする。
ワクワクする!
まさか、まさか、自分は選ばれなかったんじゃない?
ただ、知らなかっただけ?
なら・・・
大淀「やっぱり・・・」
提督「えーっと」
心底あきれている大淀だが、私は戸惑うばかりだ。
ケッコン? 結婚? でもカッコカリってどゆこと?
大淀「秘書艦を任せなかったのは、必要以上に艦娘と親しくならないように、ですね?」
提督「・・・はい」
大淀「艦娘は、嫌いですか?」
提督「そんなことはない!」
提督「皆、優しくて綺麗で可愛くて」
提督「空母のみんなの射る姿は息を忘れるほど綺麗だし!」
提督「曙も!霞も!満潮も! 口は悪いけど真面目で一所懸命だし!」
提督「叢雲のツンとしているようで溢れる優しさとか」
提督「つーか駆逐艦可愛い!」
提督「鳳翔さんのうなじとか!後ろから抱き寄せて甘噛みしたいし!」
提督「龍驤を抱き枕にして、イチャイチャしながら昼寝したい!」
提督「高雄さんと愛宕さんの胸に挟まれてもがき苦しみたい!」
提督「金剛の尻から脚のラインなんか最高だぞ!」
曙「・・・」ガタン
満潮「・・・」ガタン
霞「・・・」ガタン
「「「・・・」」」
同時に立ち上がった三人がお互いを見る。 睨む。 そしてニヤリと笑う。
曙「あのクソ提督に」
満潮「あのウザいのに」
霞「あのクズに」
「「「思い知らせてやる!」」」
「「「ふふふ・・・」」」
荒潮「あら~、みんな元気なったわね」
大潮「よかったです!」
潮「ああ、よかったぁ」
漣「いいのかなぁ?」
『・・・なんか最高だぞ!』
叢雲「行くわ」
食事もろくに摂っていなかったが、関係ない。
力が満ちてくる。
叢雲「私以外を褒めすぎよ」
でも、私も褒めてくれた。
だから、
叢雲「私が、行くわ」
『・・・なんか最高だぞ!』
比叡「姉さま、聞きましたか?」
比叡が振り向いた先、金剛が座っていた椅子は
霧島「もう出て行かれましたよ」
誰も座っていなかった。
どころか、壁に大穴が開いている。
\テイトークー!/ \マッテクダサーイ/
比叡「まるで姉さまが壁をぶち破って榛名が追いかけているようだわ!」
霧島「わかってるなら、私たちも行きますよ」
比叡「よしっ!気合!入れて!行きます!」
龍驤「行くで」
鳳翔「もちろん」
赤城「行きましょう」
加賀「そうね、さすがに気分が高揚します」
瑞鶴「翔鶴姉!」
翔鶴「ええ」
高雄「提督に、馬鹿めと言ってさしあげます!」
愛宕「よーそろー♪」
大井「どうします?」
北上「とりあえず、行っとくかー」
明石「参ります!」
ゼロだと思った。
マイナスだと思った。
そうじゃなかった。
ほんの一言、聞けば自分が一番だったかもしれない。
それはもう仕方がない。
今から獲りにいけばいい。
幸いにも、戦うことには慣れている。
むしろ得意だ。
だから、後は、往くだけだ。
大淀「これから、大変だと思いますよ」
提督「えー、なんでー?」
大淀「O-YODOパンチ!」
ペチーン
提督「ぐふぅっ」
今日はここまでです。
続きも考えてるけど、ここで終わってもいいかなーって。
遅ればせながら、スレッド内で助言いただきありがとうございました。
憲兵「ホラホラもっといい声で鳴け!」パンパン
提督「んほぉおおおおおダメなのぉおおおおお!」ガクガク
だめんずとか、バブみとか、そういうのを思ってくれれば。
泣き顔にキュンときたってことで。
続きです。
蛇足かもしれないので、そこだけご留意いただければ。
龍驤と鳳翔は軽空母だ。
航空機を使った偵察や攻撃を行う、艦隊の要として、常に前線に立った。
先制攻撃による敵戦力の削減、これにより劇的に被害が減った。
だが、徐々にその効果が下がった。
理由ははっきりしている。
自分達が軽空母であること。 搭載機が少なすぎるのだ。
提督は言う。「お前たちのおかげで助かっている」と。
敵陣深く進むことができなくても、笑顔で迎えてくれた。
「無事でよかった」
”あの時”を思えば、この言葉がどれほど重いかを改めて思い知る。
全力を尽くす。 でも、足りない。
だか、自分のコネを最大限に利用して、正規空母に来てもらった。
赤城と加賀だ。
なぜか一緒に翔鶴と瑞鶴も来たが。
それでも自分たちは前線のままだ。
「龍驤と鳳翔さんが行ってくれないと、安心できないよ」
あの照れ笑いに、自分たちはやられたのだと思う。
ほめてほめて、と甘える至福の時間。
自分の店で肩を寄せ合い、酌をし合う小さな幸せ。
龍驤「行くで」
鳳翔「もちろん」
正規空母の赤城と加賀は、元々は最大規模の鎮守府に在籍する、機動艦隊の中心だった。
多数の搭載機による集中攻撃で貫けない海域など無かった。
後輩が着任した。
新型故の高性能ながら、練度不足による未熟も目立った。 心配だった。
慢心は良くないと厳しく指導した結果、嫌われてしまった。
好かれるのは仕方ないと諦めた。 でも指導はやめなかった。 心配だったからだ。
ある作戦で奇襲を受けた。
偵察を疎かにした結果だろう。
慢心していたのは自分だったのだ。
そして修復できない被害を受けた。
赤城は片目の視力を大きく下げ、加賀は搭載機の減少。
退役を促された。
もう、役立たずだった。
そんな時、旧友からの手紙が届いた。 助けて欲しい、と。
逃げるように転任した。
正規空母としての戦果には到底足りない。
だが、それを責めることも無く、提督は照れ笑いで労ってくれる。
「貴方達のおかげで、本当に助かっていますよ」
朽ちるしかなかったこの体に、新しい居場所をくれた。
その恩は返したい、返さなければ、返させろ。
その笑顔もついでにいただきます。
赤城「行きましょう」
加賀「そうね、さすがに気分が高揚します」
翔鶴と瑞鶴は最新鋭の正規空母だ。
火力。速力。搭載機。 すべてが先輩を上回る。
周りからはよく先輩と比べられ、賞賛された。
その度に、誇らしかった。
だがその先輩はまったく認めてくれなかった。
口癖は「五航戦と一緒にしないで」。
その指導は、重箱の隅をつつくような。
今にして思えば、それは自分を思ってのことだった。
あの人たちは、ずっと私たちを心配してくれていたのだ。
あの奇襲は、完全に読まれていた。 情報が漏れていたのだ。
偵察の網の穴を読まれ、艦隊の向きを読まれて後方から爆撃と雷撃を受けたのだ。
自分たちが無事なのは、先輩が身を挺してかばってくれたからだ。
かばうことを最優先したため、防御体勢もとらずに被害を受け、前線に立てなくなるほどの傷を負った。
そして、いなくなった。
冗談じゃない。
借りを作ったままなんて、冗談じゃない。
私たちは、後ろをついていくヒヨコじゃない。 横に並ぶ鶴になりたいのだから!
そして追いかけて着任したここで、提督に会った。
先輩をないがしろにしたら殴ってやろうと見張っていたが、とても大事にしていた。
どころか、軽空母も区別せず「空母のみんな」と呼ばれる。
「姉を身代わりにしている」なんて陰口も言わない。
居心地がいい。 もっと居心地のいい、提督の隣ももらってやろう。
姉と、ついでに先輩たちにも時々は譲ってやってもいいかな。
瑞鶴「翔鶴姉!」
翔鶴「ええ」
高雄と愛宕は、長く重巡洋艦のリーダーだった。
連合艦隊の旗艦すら経験した。
だが、改装を重ねた後輩達に追い越され、徐々に居場所を譲ることになった。
待機が増えた。
華々しく出撃する皆を見送る日々。
このまま腐るか、退役するか。
ふたりで何度も話し合った。
でも、自分たちはそうしたくない。 戦いたいのだ!
偶然、とある募集が目に入った。
見る限り、大きな戦果を上げようもない僻地のようだ。
当然、誰も見向きもしないようだ。
ここに居ても、何も変わらない。
これは、最後のチャンスかもしれない。
ふたりで、もう一度、もう一度。
「まだ、戦いたいのです。 私たちを使ってください」
笑顔で、無言で、頷かれた。
すでに旧型の自分たちではあったが、そこでは十分に通用した。
「すごかったですよ! もう一度お願いします!」
笑顔で連戦を要求してくる。 小破以下の損害でもバケツを差し出してくる。
なんてブラックな鎮守府なんだ。
笑顔が消えない。 隣に立つ姉妹も笑っている。
「いってきます」「いってらっしゃい」
8の信頼と、2の心配。
いつか、10の信頼にしてあげる。
10の愛情もいいかな?
高雄「提督に、馬鹿めと言ってさしあげます!」
愛宕「よーそろー♪」
重雷装巡洋艦としての大井と北上の戦績は華々しいものだった。
雷撃による先制攻撃は、必須とまで言われた。
求められるままに戦い、気づいたときには姉妹と顔を合わせることもなくなっていた。
さらに戦った。 ふたりで戦った。
そして振り返った後ろには、誰もいなかった。
姉も妹も、とっくに居なくなっていた。 転籍した知らせさえ、もらえなかった。
嫌になった。
がんばった結果、なにも無くなっていた。
田舎に行こう。 田舎でふたりだけで、サボりながら暮らそう。
重雷装巡洋艦には到底望めない生活を求めて、とある募集に応募した。
「いっすよー」
軽く流された。
こいつ、重雷装巡洋艦の重要さをわかっているのか?
「うーん? ・・・うん、強いんだよね?」
それだけか! 期せず揃ったふたりのツッコミが提督の首筋を襲う。
あまつさえ
「魚雷、高いからさ。
あんまり撃たないでね」
ふざけんな! アホか!
こんなアホな鎮守府はきっとここだけだ。
いつか、離れ離れになった姉と妹を呼んでやろう。
そのときには「私たちの旦那だよー」って紹介してやろう。
大井「どうします?」
北上「とりあえず、行っとくかー」
修理屋。改修屋。アイテム屋。
自分が呼ばれるときには、いろんな名前がある。
最後に名前で呼ばれたのはいつだったか、思い出せない。
一番ショックだったのは、提督が自分の名前を覚えていなかったことだ。
なあ、とか、おい、とか呼ばれるのが嫌だった。
それでも我慢できた。
ある報告に参上した時、執務室から漏れてきた会話が聞こえた。
「あの工作艦」と呼んでいた。 誰のことかわからなかった。
次の瞬間、理解した。
全部、嫌になった。
だから、工作艦を募集していない鎮守府に転籍した。
求められない場所で、何もしてやらない。
「はー、明石さんっていろいろ出来るんですねぇ」
なんだこいつは。 いろいろって何だ。 艤装のクレーンが気にならないのか!?
「工廠、使ってないから好きにしてくれていいですよ」
工廠を使ってない!? アホなのか間抜けなのかマニュアル読んでないのか。
まあいい。 自分の秘密基地にしてやろう。
被害を受けた艦隊が戻ると、誰よりも早く提督が出迎える。
何故、あんな泣きそうな顔で港に走るのか。 誰も沈んでいないのに。
駆逐艦を両脇に一人ずつ、肩車でひとり。
ドック抱えて走り、文字通り投げ込んで入渠させる。
かすり傷で一番に入渠した艦娘が、居心地悪そうに浸かっている。
それを心配そうに待つ提督。 うろうろぐるぐる。 犬か。
見かねて、修理を申し出た。
「マジで!? ありがとう!」
知らんかったんかい。
仕方ない。
私が面倒見てあげる。
もう全部お任せください。
明石「参ります!」
金剛たちが執務室に着いたときには、すでにほとんどの艦娘が揃っていた。
満潮「お早い到着ね」
金剛「主役は遅れて登場するものデース」
満潮「・・・ふんっ」
軽いジャブ。
戦艦優勢。
金剛「提督はいますカー?」
潮「それが、だれもいなくて」
大潮「館内放送のスイッチも入っていません!」
漣「隠し通路の使用した形跡もありません」
すばやく執務室をチェックする駆逐艦。
見事な連携である。
榛名「か、隠し通路なんかあるんですか」
明石「いいでしょ! 浪漫よね~♪」
霧島「貴方ですか!」
隠し通路、落とし穴、金ダライと完璧だそうだ。
愛宕「これは・・・やられたかしら~?」
高雄「やられた?」
スピーカーからは、ケッコンカッコカリについて説明をしている大淀の声が聞こえている。
愛宕「大淀さん・・・、思ったよりやるわね~」
大淀「・・・以上です。 ご理解いただけましたか?」
提督「オレ、指輪を贈る。好きって伝える。好きって返される。みんな、幸せ」
大淀「いろいろ衝撃で言語能力が下がってるようですが」
提督「みんなに伝える」
大淀「みんなに・・・ですか。
ひとりじゃないんですか」
大淀の問いかけに、私は動けなくなった。
ひとり?ひとりだけ?嫁はひとり?
ひとりだけってなんだ?
なんだ?
なんだ?
提督「知るかああああ!」クワッ!!
大淀「ひっ」
選べるはずがない、絞れるはずがない。
卑怯だと思う。
ずるいと思う。
だが、
提督「おれの頭ン中はあいつらのことで一杯じゃ!
みんなおれのヨメじゃ!
だれにも渡すかーー!」
大淀「どうどう、どうどう」サスサス
提督「ふー、ふー!」
落ち着いた。
たぶん。
言うこと言って、スッキリした。
『おれの頭ン中はあいつらのことで一杯じゃ!
みんなおれのヨメじゃ!
だれにも渡すかーー!』
「「「・・・」」」
叢雲「それを最初に言ってくれれば、それでよかったのに」
叢雲の、思わずこぼれた不満を誰も茶化すことはなかった。
みんな、同じことを思ったからだ。
>>64
だか、自分のコネを最大限に利用して、正規空母に来てもらった。
↓
だから、自分のコネを最大限に利用して、正規空母に来てもらった。
大淀「そこで、です」
大淀が懐から取り出した小箱と書類を、机に並べる。
提督「これは?」
大淀「ケッコンカッコカリの一式です」
提督「これが・・・」
大淀「ここにサインして、指輪を贈れば完了です」
提督「なるほどなー」
けっこう単純なものなんだな。
かなり照れくさいが。
大淀「ではここに、サインをしてください」
提督「えっ」
大淀「そして、指輪をはめてください」
提督「えっ」
左手を差し出す大淀さん。
書類を見ると・・・ヨメの欄に「大淀」って書いてる!?
提督「あの、これは」
大淀「練習です、練習」
提督「練習」
大淀「どうせ皆さんにも渡すのでしょう?
たいしたことではありません」
大淀「ただ・・・、一番が、私、なだけです♪」
『ただ・・・、一番が、私、なだけです♪』
金剛「あんの眼鏡ぇぇええええぇぇ!」
霧島「姉さま、眼鏡は悪くありません!」
金剛「全員!提督と眼鏡を探せ!」
霧島「眼鏡は悪くありません!」
比叡「姉さま、キャラがブレています!」
金剛「うぬれぁぁぁああ!」
漣「これがホントのぶちギレ金剛!」
榛名「煽らないでー!」
霞「手がかりは、放送用のマイクね」
執務机に構内地図を広げ、各所に○印を描きこんで行く。
当番で掃除当番をしている駆逐艦にとっては、あらゆる設備の設置場所を把握しているのだ。
曙「あとは、隠れられる場所」
○印の上に、レ印を書き込む。
かくれんぼがブームの駆逐艦は、あらゆる隠れ場所を把握しているのだ。
ちなみに、一番人気は執務机である。フヒヒ。
金剛「ハリー! 速くしないと!」ソワソワ
霞「落ち着きなさい、闇雲に探して勝てるものではないわ」
金剛「ノォォ~ウ・・・」
『ちょっと待って!』
『いいえ、待ちません』
『うわあー』
霞「あのクズがああ!」クワッ!
金剛「落ち着いて! ネ! ネ!」
提督「ちょっと待って!」
大淀「いいえ、待ちません」
提督「うわあー」
じりじりと大淀が追い詰めてくる。
残念ながら、ここは逃げる場所も隠れる場所もないのだ。
提督「そ、そもそも大淀さんとは知り合ったばかりで」
大淀「ええ、そうですね。
私が指輪を欲しがるのは、提督にとっては不思議かもしれません」
大淀「でも、私にとっては当たり前なんです」
提督「当たり前」
大淀「貴方ほど、艦娘を大事にしている提督はいません」
大淀「遠征に出せば、帰還することばかり考えて」
大淀「出撃させれば、司令部から動かない」
大淀「戻ってきたら大急ぎで出迎え」
大淀「無事を喜び、怪我を悲しみ、怒り」
大淀「皆さん、幸せそうです」
大淀「それで、思ったんです」
大淀「どうして、私はこの輪の中にいないんだろう、って」
大淀「どうして、私は提督の後ろにいるんだろう、って」
大淀「皆さん、提督の前に、隣に居るのに」
大淀「どうして、どうして」
大淀「だから」
大淀「指輪をもらって、私も提督の隣に立ちたいんです」
大淀「愛しています、提督」
大淀「愛しています」
大淀「愛しています」
大淀「愛しています、愛しています、愛しています」
提督「お、大淀さん」
どんどん近寄る大淀に、言葉を返すことも出来ない。
その圧力に押されるように、後ずさり、転んだ。
ごぃん
提督「あいたー!」
『ごぃん』
『あいたー!』
大井「この音は・・・」
北上「九三式酸素魚雷に後頭部をぶつけた音!」
龍驤「なんで判るん!?」
明石「当然でしょ」
龍驤「マジでー!?」
愛宕「マニアってすごいわねぇ」
金剛「敵は魚雷格納庫! 全艦!」
「「「はっ!!」」」
金剛「Follow me! 皆さん、ついて来て下さいネー!」
「「「雄雄雄雄雄雄!!!」」」
-魚雷格納庫-
大淀「さぁ・・・、提督」
提督「あ、あわわ」
大淀「ペンを持って・・・」
腕をつかまれ、ペンを握らされる。
身体能力でははるかに上回る艦娘には抗うことは困難だ。
提督「だ・・・、ダメだ」
大淀「・・・どうして、ですか?」
提督「貴方に指輪を贈るのは構わないが・・・」
大淀「なら!」
ギリギリと締め上げられる、だが抵抗する。
精一杯の意地を総動員する。
これだけは、できない!
提督「一番は・・・、貴方ではないからだ!」
めきめき!ばりぃ!ぐしゃ!
金剛「よぉく言ったネー!」
魚雷格納庫の入り口に金剛が立っている。
本当にお前は堂々としてるな。 超かっこいい!
でも格納庫のシャッターを蹴り破るのはどうかと思うよ。
大淀「ちっ・・・、早過ぎる!」
比叡「姉さまにかかればこんなもの、です!」
大井「いや判ったのは私らのおかげだし」
悔しがる大淀に、超絶ドヤ顔を見せる比叡。
でも大井と北上のおかげらしい? さすがだね、巡洋艦。
金剛「テイトクを返してもらうネ!」
大淀「くっ・・・」
大淀「渡さない!」
大淀が叫び、そして艤装を展開する。
あれは、ロケットランチャー!?
大淀「海上ならともかく、陸上なら!」
大淀「ってー!」
一切の躊躇無く全弾を発射する。
いやちょっと待ってここ魚雷がー!
大淀「あっ」
提督「あじゃねえよ!」
ミサイルが魚雷に命中する。
爆発。誘爆。さらに誘爆。どんどん連鎖して、目の前が真っ白になる。
(あ、これダメだな)
最後に思ったのは、艦娘の無事だった。
提督「んあ?」
目がチカチカするし、耳もキンキンしてるが・・・、無事だ。
提督「なんで?」
見回すと、自分の周りに壁があった。
加賀「飛行甲板は盾ではないのだけれど」
その声に誘われて顔を上げると、いつものクールな加賀さんの顔が見えた。
どうやら空母たちが甲板で護ってくれたようだ。
提督「やっぱり、綺麗だな」
加賀「っ・・・、今は、それはいいの」
照れた加賀さん、略して、てれかが。 実にイイ。
改めて見回すと、魚雷格納庫は更地のようになっていた。
全部吹き飛んだようだ。
提督「皆は!」
赤城「無事ですよ」
こういう時、赤城さんの落ち着いた声は本当にありがたい。
自分の焦りが消えていくようだ。
赤城「あら、私には綺麗って言ってくれないんですか?」
提督「もちろん綺麗ですよ」
加賀「うぅ・・・」
やはり加賀さんの扱いは赤城さんのほうが上手のようだ。
ミサイルが発射された瞬間に、全員が動いていた。
直撃コースの者は回避。
駆逐艦は戦艦の後ろで衝撃に備える。
空母勢は提督の確保。
そして、戦艦と巡洋艦は、大淀から目を離さない。
爆発。
すさまじい衝撃が艦娘に襲い掛かる。
大井と北上は魚雷を前方に発射。
相互にぶつけることで爆発させ、衝撃を一部相殺。
さらに迫る衝撃と同じ速度でバックジャンプすることにより、まったくの無傷だった。
高雄と愛宕は迫る衝撃に拳を構える。
えいっ、と可愛い気合と共に放たれた拳は
音速を超え!竜巻を起こし!ソニックブームで衝撃を貫き!爆散させた。
もちろん無傷である。
戦艦はその背に駆逐艦を護り、一歩も動かない。
直撃する衝撃。
それでも動かない。
衝撃が過ぎ去った後も、動かず立っていた。
当たらなければどうってことないネーとの談である。
当然、無傷である。
拘束された大淀には、厳罰が課せられた。
正座二時間。
おやつと昼寝の一ヶ月禁止。
そして、秘書艦の解任である。
全力で抗議した大淀だが(なにしろ彼女は、秘書艦として着任したのだから)
本気になった皆には抗うことも出来ず、最終的には持ち回りを受け入れた。
壊滅した魚雷格納庫は、明石のへそくりで建て直された。
明石「魚雷と資材よね? いっぱいあるよ?」
さすがである。
そして皆にケッコンカッコカリの説明をし、全員に贈ることを宣言した。
もちろん、断ってもいいとも言ったが。
提督「これで、一件落着・・・かなぁ?」
金剛「そんなわけないデース」
提督「そうなの?」
今日の秘書艦は金剛だ。
初めてだというのに、なんの問題も無い。
金剛「一番を決めてもらいマス」
提督「あー・・・」
金剛「もうみんな、遠慮なんてしまセン」
金剛「おっきのも、ちっちゃいのも、みんな全力デス」
金剛「もちろんワタシも、バーニンラブね♪」
金剛「覚悟してくだサーイ」
提督「・・・はい」
金剛「ワタシたちのたたかいは、これからネ!」
>>70
ドック抱えて走り、文字通り投げ込んで入渠させる。
↓
ドックまで抱えて走り、文字通り投げ込んで入渠させる。
>>80
金剛「おっきのも、ちっちゃいのも、みんな全力デス」
↓
金剛「おっきいのも、ちっちゃいのも、みんな全力デス」
終わりです。
あとは各キャラのショートショートのような構想しか無いので、ここで締めようかなーって。
二日かかったけど楽しかったです、どうもありがとう。
ん?
何でもするって言った?
このSSまとめへのコメント
空母勢や重巡のその後も見たいです
まとまってて良いと思う