【艦これ】阿武隈「あたしの素敵なお姉ちゃん達」 (82)

『長良お姉ちゃん』

長良「うん、今日の走り込み終了ーっ!」

名取「はふぅ……もうクタクタ……」

阿武隈「名取お姉ちゃん、大丈夫?」

名取「うん……平気、このくらいいつも走ってるし」

長良「んー、名取も阿武隈も随分たくましくなったよね。訓練の成果だね!」

阿武隈「いつまでも長良お姉ちゃんに置いて行かれっぱなしと言うわけには、いかないんだから。ねっ、名取お姉ちゃん」

名取「えっ? えっと、阿武隈ちゃんの言うことも一理あるかもしれないけど……その」

長良「おっ、阿武隈も言うようになったわね。じゃあダッシュ十本追加してみようーっ!」

名取「ふえええぇ!?」

阿武隈「あたし的にはOKです! 負けないんだから!」

長良「そう? 長良の足に付いてこれる!?」

阿武隈「長良お姉ちゃんのご期待に応えます!」

名取「ま、待ってー」

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長良「はあっ、はあっ……うん、二人ともやるじゃない!」

阿武隈「はあっ、はあっ……うーん、惜しかったなあ」

名取「もうだめ……ばたんきゅー」

阿武隈「わあーっ!? 名取お姉ちゃん大丈夫!? はい、お水お水! ゆっくり飲んでね」

長良「そう言いつつ、もう少しで追い抜かれそうな所だったんだけど……名取もやっぱり凄いね! 感心しちゃった!」

阿武隈「でも無理は禁物です。もう心配しちゃったじゃない。ああ言っていたけど、これは訓練であって競い合うものじゃないんだから」

名取「うん……ごめんね、阿武隈ちゃん」

阿武隈「別に謝らなくてもいいのに。あたしの方こそ、なんだかごめんね」

名取「阿武隈ちゃんの方こそ、謝る必要なんてないのに。ふふっ」

阿武隈「もー、なんで笑うの?」

名取「相変わらず、律儀な子だなって……」

阿武隈「それどういう意味?」

名取「ううん、別に変な意味じゃないの。むしろ褒めているというか……」

長良「おーい、妹二人で盛り上がってて、お姉ちゃん寂しいぞー!」

阿武隈「もう、長良お姉ちゃんってば」

長良「でも、やっぱり走った後のこの達成感。んー、いいなぁ! 気分最高!」

阿武隈「あはは、長良お姉ちゃん本当に走るの好きだよね」

長良「もちろん! でも名取も阿武隈もそうでしょ?」

阿武隈「長良お姉ちゃんほどじゃないけど、好きかな。はい」

名取「えっと……どうかなあ?」

長良「名取ははっきりしない子だなあ。ま、そこがかわいくもあるんだけど」

名取「え、えっと……」

阿武隈「名取お姉ちゃんはもう少し自信持って良いと思います! ……あたしが言えたことじゃないと思うけど」

名取「ううん……ありがとう、阿武隈ちゃん」

阿武隈「えへへ、どういたしまして」

白露「あー! 阿武隈さんはっけーん!」

時雨「あ、白露待ってよ」

阿武隈「あれ? 白露ちゃんどうしたの?」

白露「今日のいっちばーん!」ダッ!

時雨「にーばーん」ダッ!

白露「そしてだーいぶ!」ぴょん!

阿武隈「って白露ちゃん!? 飛び付くとあぶな――」

ゴツン!

阿武隈「いたぁ!?」 白露「いたぁ!?」

時雨「うわぁ……人の頭ってあんなにいい音がするんだねぇ……」(震え声)

名取「あわわわわ……二人ともしっかりしてー!?」

阿武隈「急に人に飛びかかったすると、危険だからやめましょう」頭さすりさすり

白露「ごめんなさい」頭さすりさすり

阿武隈「よろしい……で、白露ちゃん大丈夫?」

白露「うん、もう大丈夫! 心配してくれてありがとう、阿武隈さん」

阿武隈「なら良いけど……ちょっとでも具合悪くなったりしたら医務室に行ってね?」

白露「はーい!」

阿武隈「これはちゃんと守ってね? 頭打ったりした後って、危険なんだから」

長良「それは阿武隈もね」

阿武隈「うん、分かってるよ」

時雨「もう。白露、心配したよ」

白露「あはは、ごめんごめん」

阿武隈「それで、白露ちゃんあたしになにか用事かな?」

白露「今日はお休みだよね」

阿武隈「うん、そうだね」

白露「お休みは、自分のしたいことをするべきだよね?」

阿武隈「うん、そうだね」

白露「だからいっちばーんになるために、阿武隈さんに特訓をつけてもらいに来たの!」

阿武隈「うん、そうだ……ね?」

時雨「さすが姉さん。いっちばーんになるための努力は惜しまないね」

白露「もっちろん! だってあたしが一番に決まってるじゃない! ねえ!」

阿武隈「あはは、白露ちゃんってば本当に一番になりたいんだね」

白露「はい! 一番になりたい気持ちはいっちばーんです!」

阿武隈「うん、すごいね。そういう気持ちは本当に見習いたいなあ」

白露「良いですよ! えっへん! 阿武隈さんに褒められちゃった!」

時雨「でも、僕もそう簡単に白露に置いて行かれたりはしないさ」

時雨「と言うわけだから、早速特訓を開始しよう」

名取「いつの間にか時雨ちゃんまで特訓するのが当たり前のように……えっと、なんでもないけど」

長良「特訓!? んー燃える響き! 熱くなってきたー!」

阿武隈「お姉ちゃんがなんか凄く燃えてるぅ!?」

長良「よーし、そうと決まれば早速あの夕日に向かってダッシュね!」

阿武隈「お姉ちゃん今は朝! 朝だから! 夕日じゃなくてあれ朝日!」

名取「さっき走ったばかりだから、明らかにオーバーワーク……」

長良「問題ない! 勇気と根性で補えば問題ないよ!」

阿武隈「無理無理無理無理! 無茶だから!」

時雨「さて阿武隈さんは、今『無』を何回言ったでしょう?」

阿武隈「クイズにしないの!?」

白露「え!? え、えーっと……」

阿武隈「白露ちゃんも答えようとしなくていいから!?」

阿武隈「もー、お姉ちゃんってば一回落ち着いて!」

長良「ちぇー。残念」

阿武隈「それにしても、特訓は良いけど……普段の訓練じゃ駄目なの?」

白露「だって皆と同じことやってたら一番になれないじゃない!」

名取「それは……そうかも」

阿武隈「うーん。けど普段の訓練も結構厳しいと思うから、下手にこれ以上すると体壊しちゃうかもしれないし……」

名取「私もそう思うな」

白露「えー!? でもそれじゃあ一番になれないよ!」

阿武隈「ああ、それはあくまで訓練と別に更に猛特訓だーっ! とか無茶やった場合だから」

阿武隈「それ以外でもより成長するためには、いろいろとやり方があるから。大丈夫だと思うよ」

白露「本当!? なになに、なにすればいいの!?」

阿武隈「まず一番の上達のコツ……それはね」

白露「それは?」

阿武隈「普段の訓練を人一番、一生懸命にやることだよ」

白露「……へ?」

阿武隈「だってそうだよ? 普段の訓練はみんな参加するけど、それで何を学ぶか、身につけるかはその人次第なんだから」

白露「そういうものかなあ……?」

阿武隈「それじゃあ、普段の規定の訓練以外で、自主練をしたとして、規定の訓練より多く時間が取れると思う?」

白露「え? うーん……それは無理じゃないかなぁ。ご飯食べたり、掃除したり、洗濯したり、艤装の整備とかもしないといけないし……」

時雨「睡眠不足だったりすると訓練の効率も落ちるしね。本末転倒だよ」

阿武隈「うん。そうだよね。それで、自主練はどうしても自分一人でやることが多くなると思うけど」

阿武隈「誰か見てくれる場合と、自分一人でやる場合。どっちがより多く、伸びることが出来るって思うかな?」

白露「それは、誰かに見てもらった方が良いに決まってるよ。一人じゃできない訓練だってあるし」

阿武隈「うんうん。あたしもできれば見てあげたいけど、いつもってわけにはいかないし」

時雨「僕も白露と一緒に練習したいけど、それでも出来ないときもあるだろうしね」

名取「少なくても、射撃訓練や艦隊行動訓練は自主練はできないと思う……」

白露「でもでも、一人で出来る訓練だってあるよ!」

阿武隈「うん、その通りだよ、白露ちゃん。だから、まずは普段の皆でやる訓練を一生懸命にやるの」

阿武隈「それで、余裕が出来たら、体調を管理しながら自主練で足りない所を補ったり、訓練で学んだことを復習するのが一番だと思うよ」

白露「あ、そっかあ! なるほど!」

阿武隈「凄い人って、皆と同じことやっていても、より多く成長したりするよね?」

阿武隈「それって、凄く一生懸命にやって、どうすれば良くなるかって、いつも考えられる人だと思うんだ」

阿武隈「白露ちゃんは、素質があるんじゃないかな。だって、いつも一生懸命だもんね。ねっ」

白露「はい! あたしはいっつも明るさはいっちばーんです!」

時雨「頼もしいね、姉さん」

白露「ふふーん、時雨もあたしを見習っていいよ!」

時雨「それさえなければね」

白露「なによ、もー」

阿武隈「あはは、時雨ちゃんは時雨ちゃんで、白露ちゃんにない良さが一杯あるから」

阿武隈「白露ちゃんも、時雨ちゃんを見習っていくと良いんじゃないかな」

阿武隈「お互い、良いところを吸収していくのも大切だよ」

白露「はーい!」

時雨「うん、ありがとう」

白露「でも、具体的にどうすれば自分が成長するために必要なことが分かるんだろう?」

阿武隈「そこだよね……それはあたしと一緒に考えてみようか」

長良「そこは長良に任せて! 訓練に関してはとっても自信があるんだから!」

時雨「そうなの、長良さん?」

阿武隈「えへへ、長良お姉ちゃんは凄いんだよ。あたしも前は良く指導してもらってたんだ」

長良「いやー阿武隈は手間がかかったね。なかなか覚えが悪くて」

阿武隈「おねーちゃーん?」

長良「あはは、でも阿武隈ほど根性があって、素直に指導を受けようとする子もなかなかいないよ」

長良「下手は上手の下地なりって言うでしょ? 阿武隈はきっと大きな人になるから!」

阿武隈「え? そうかな……? ありがとう、あたし頑張るね!」

長良(ちょろい)

白露(ちょろい)

時雨(ちょろすぎだよ、阿武隈さん……)

名取(阿武隈ちゃんは切り替え早いなあ)

阿武隈「じゃあ、まずは白露ちゃんの成長の鍵を探してみようか」

阿武隈「と言いつつも、結構普段から白露ちゃん達は見てるから、だいたい分かっているんだけど……」

白露「ええ!? そうなの?」

時雨「確かに、普段から僕達を指導してくれているしね。不思議はないんじゃないかな」

阿武隈「えっと、あったよ」

長良「阿武隈、なにそのノート?」

阿武隈「あたしが見てる子達の、訓練での所見とかまとめているの」

名取「ふえ……阿武隈ちゃんってマメ……」

阿武隈「あたしの場合、こうしておかないと頭の中ゴチャゴチャになっちゃうから」

長良「ちょっと見せてもらって良い?」

阿武隈「あたしは良いけど……白露ちゃん、良いかな?」

白露「うええ……ちょっと恥ずかしいけど……いっちばーんになるためだもん、我慢我慢! 良いですよ!」

時雨「ありがとう。じゃあ遠慮なく見せてもらうよ」

白露「時雨には言ってないからね!?」

長良「ふんふん。良くまとめてあるね。阿武隈、よく見てるね。ちょっと見直したわ」

阿武隈「そう? えへへ、そうかなそうかな?」

名取(見直したって……今までの評価が低かったってことじゃ? ……やめよう、私の勝手な予想で阿武隈ちゃんを困らせたくないし)

長良「えーと、やっぱりこれを見る限り……」

阿武隈「長良お姉ちゃんもやっぱりそう思います? 良かった、意見が一緒で安心しました」

白露「自分のデータ見られて、分析されるって怖いんですけど……」

時雨「白露が伸びるためさ。ここは耐えようよ」

白露「そうだね……でもやっぱりもどかしいよぉー!」

阿武隈「あはは、白露ちゃん頑張って」

白露「うー」

長良「うん! やっぱりこれだ! 白露ちゃん!」

白露「は、はい!」

長良「勉強しよう!」

白露「……えっ、やだ!? 勉強!?」

時雨「いけるけど……」

白露「勝手に了承しないでよ!?」

長良「白露に足りないもの、それは理論!」

長良「さて、ここで君の成績を見てみよう!」

名取「えっと……これって三十点満点とか」

阿武隈「……百点満点だよ」

時雨「……これは酷い」

白露「あ、あたしは実践派なの! 頭でっかちな理論とかあたしには不要なんだから!」

長良「理論なき実践もかなり危ないものだと思うよ」

阿武隈「練習も正しいやり方しないと、効果が低いどころか逆効果になることもあるし」

時雨「少なくても、弾道計算くらいできないとまずいと思うんだ」

白露「敷居が高すぎる!? そんなの一発目撃ったら後は感覚で修正すれば良いじゃん!」

長良「初弾で大きく逸れたら、修正も大変でしょうが」

白露「計算しなくても、そんな大きく逸らすのがだめ!」

阿武隈「そもそも感覚で修正って最終調整する段階であって、基本は計算しないと駄目だよ」

時雨「まあ白露の言うことも一理あるかもしれないけどさ……いいの? いっちばーんになるために最善を尽くさなくて?」

白露「うぐっ!? そ、それを言われると……」

白露「ううう……!」

阿武隈「大丈夫だよ、白露ちゃん。一つ一つ覚えていこう? あたしも分からないところ、教えてあげるから」

白露「うううううううう……! 分かった! やってやろうじゃない!」

阿武隈「うん! 白露ちゃん偉いね! 一緒にがんばろ!」ぶんぶん!

白露「ちょ、阿武隈さんあたしの手を握って振ってきた!? もー、そんなにあたしと勉強したかったの? しょうがないなー」

名取「なんで白露ちゃんの方が偉そうなんだろ……?」

阿武隈「えへへ、じゃあまずなにからやろうかっ」

長良「そうね……この学習進捗度合いから見ると、これが良いと思うよ、阿武隈」

阿武隈「そう? ありがとう。じゃあ、まずはこれからだね」

『初めての九九』

時雨「……白露。まさか九九が出来ないのかい?」

白露「いくらなんでもバカにし過ぎぃ!? そんなわけないでしょ!」

阿武隈「ってあれぇ!? 長良おねーちゃん、変なの渡さないで!? というからどこから持ってきたの!?」

長良「ごめんごめん、冗談だから!」

しばらく、時が経って……

白露「そーれ!」

ドンドンッ!

阿武隈「やったやった! ちゃんと当てることができたね! 白露ちゃんすごいすごい!」

白露「えっへん! 凄いでしょ? これは白露がいっちばーんになるのもそう遠くないかも?」

阿武隈「こーら、あまり調子に乗らないの。まだまだ一番になるための道の途中なんだから」

阿武隈「でも、よく頑張ったね。本当に白露ちゃんすごいよ」ナデナデ

白露「もー、阿武隈さんってばあんまり子供扱いしないでよ」

阿武隈「あはは、ごめんごめん」

時雨「でもまんざらでもなさそうだね」

白露「そ、そんなことないよ! ……もしかして時雨もして欲しかったり?」

時雨「……実はちょっと」

阿武隈「えへへ、時雨ちゃんも頑張ってたもんね」ナデナデ

阿武隈「白露ちゃんの練習に付き合ってくれて、ありがとう」

時雨「……僕も練習したかっただけだから」

白露「あー、時雨が照れてる。めずらしー!」

時雨「あ、あまりからかわないでよ」

白露「あはは、ごめんごめん。でもなんか新鮮!」

時雨「もう……」

長良「……阿武隈、この短期間で白露をここまで伸ばすことできたの? 一体どうやって?」

阿武隈「ふえ? 特に特別なことしてないよ? 白露ちゃんが詰まっているところを、その都度教えてただけだけど?」

白露「あ、そうそう! 阿武隈さん、あたしが間違えたり、分からないところがすぐ分かっちゃうの!」

時雨「そうだね。まるで以前に白露と同じ経験をしてるみたいだった」

長良「へー?」

阿武隈「……ま、まああたしもよく簡単なところでつまづいたり、理解出来なかったりしたから」

白露「なるほどー。うん、納得した!」

阿武隈「あ、あんまり納得しないで欲しいなあ……」

時雨「でも、今の阿武隈さんはとても凄いけど……きっと、よっぽど真剣に訓練に打ち込んだんだね」

阿武隈「うーん……そうかなあ? 自分なりに一生懸命やってきたつもりだけど、凄い人は一杯いるから」

長良「……あー、なんとなく分かった気がする」

阿武隈「長良お姉ちゃん?」

長良(不器用だからこそ、一つ一つの技術をとことん突き止め、自分のものにするまで吸収する)

長良(自分に自信がなかったからこそ、自分に足りないものを真剣に考えて、それを補う努力をする)

長良(慢心しない、けど決して腐らない……で、身につけたものを周りの人にどんどん教える)

長良(自分が苦心して覚えたから、どう教えれば相手が理解できるかも分かるし、どこでつまづきやすいかも押えてる)

長良(なるほど、教え方がうまくなるのも分かるし、どんどん伸びるはずだよ。教えるのも、勉強の内だもんね)

長良「阿武隈、やっぱり凄いね! 私感心したよ!」

阿武隈「ふえ? どうしたの、お姉ちゃん?」

長良「ううん、別に気にしなくてもいいよ。阿武隈はそのままでいてね!」

阿武隈「えっ、えっ? えっと……どういうこと?」

『五十鈴お姉ちゃん』

阿武隈「初春ちゃん、子日ちゃん。準備できてるかな?」

子日「う、うん……」

五十鈴「あまり固くならないで! あれだけ練習したんだもの、大丈夫よ!」

初春「子日。わらわもついておる。そう案ずるでないぞ」

子日「うん……子日、頑張るよぉ!」

阿武隈「そうだよ子日ちゃん! それじゃあ、対潜警戒訓練、始めるね!」

五十鈴「潜水艦の子達に訓練開始を伝えたわ。後は子日達次第よ」

阿武隈「じゃあ、ソナーで音を拾ってね……これからは指示出せないから」

子日「りょーかいだよ!」

初春「子日、これからは警戒を切らすわけにはいかんぞ。ささいな音も、全て拾い上げるのじゃ」

子日「分かってるってぇ!」

阿武隈「……大丈夫かな、子日ちゃん」

五十鈴「あんまり心配しないの」

阿武隈「五十鈴お姉ちゃん……」

五十鈴「訓練なんだし、別に死ぬわけじゃないのよ」

阿武隈「でも……これで失敗したら、また子日ちゃんが自信なくしちゃうかも……」

五十鈴「それはそうかもしれないわね。恐怖心はそう簡単に克服できるものではないし」

五十鈴「あの子……子日の潜水艦への恐がりはかなり強いものだったからね」

阿武隈「それでも、一生懸命頑張ってきて、ちょっとずつ克服してきてるかなって思うけど……」

五十鈴「実際潜水艦を相手にした訓練は初めてだものね。阿武隈が不安に思うのは分かるわ」

阿武隈「これで、子日ちゃんの恐怖心がまた強くなったり……」

阿武隈「そうでなくても失敗しちゃって、今まで積み上げてきた自信をなくしちゃったりしたらって思うと、あたしも怖いんだ」

五十鈴「じゃあ今からでも中止する?」

阿武隈「それは……」

五十鈴「実戦を想定した訓練するって決めたのは阿武隈でしょ? そして、子日もそれを受けた。だったら、後はやるだけじゃない」

五十鈴「それに、これで失敗したら阿武隈はもう子日を見捨てるのかしら」

阿武隈「そんなことしません!」

五十鈴「ごめんね、少し意地悪な訊き方しちゃったわね」

五十鈴「でも、それならやるしかないじゃない。子日だって潜水艦相手がまったく出来ないって言うのは、辛いでしょうし」

阿武隈「うん、そうだよね……やるしかないよね。あたしもそう決心したはずなのに」

五十鈴「子日は一生懸命訓練した。阿武隈や初春、初霜、若葉達がそんな子日を精一杯サポートした……だから大丈夫よ」

五十鈴「あんたはデンと構えてなさいな! そして成功したらうーんと褒めてあげなさい」

阿武隈「うん……ありがとう、お姉ちゃん」

五十鈴「お礼は全部終わってから言いなさいよ」

阿武隈「あっ、そうだね。ありが……」

五十鈴「……あんたねえ」

阿武隈「えっと……ごめん」

五十鈴「まあ、阿武隈らしいわ」

阿武隈「どういう意味ですか、もう」

阿武隈「そうだね……あたしが信じてあげなくちゃ」

子日「……」

子日(大丈夫……初春ちゃん達や、阿武隈さん、五十鈴さん、イムヤちゃんにゴーヤちゃんにあれだけ助けてもらったから)

子日(みんなに情けない姿は見せられないもんね)

子日(だから、いつまでも潜水艦を怖がってなんていられないよね!)

子日(……捕らえたよぉ! 九時の方向!)

子日(今日は何の日? ……子日が苦手を克服『した』日だよぉ!)

子日(爆雷投下!)

ヒュン! ボチャン……

イムヤ(――っ!)

ボン! ボン!

五十鈴「……爆雷命中判定! (演習だから音だけだけど)」

阿武隈「でもまだです! 油断しないで!」

ゴーヤ(浮上完了……爆雷の轟音(ごうおん)でこっちに気づいてないとしたら、これは避けられないよ!)

ゴーヤ(ゴーヤの魚雷はお利口さんでち! ――演習だから爆発しないけど)

子日(――大丈夫! 事前に回避行動取っていれば、避けられるよ!)

イムヤ(すごい……潜水艦を相手にしたら、恐怖で固まっていた子とは思えないわ)

五十鈴「えらいわ! 魚雷発射されてから動いていたら当たってわね!」

阿武隈「子日ちゃんすごい!」

初春「これくらい、子日なら当然じゃな」

子日(続けて――)

ゴーヤ(……まあ、気づかれたら潜水艦が快速の駆逐艦から逃げれる術はないよね)

子日「射撃よーい! いっけー!」

ゴーヤ「いたたたた! 訓練弾とは言っても当たれば痛いでち! もうやめてくだち!」

イムヤ(まだよ! 相手の撃沈を確認するまで油断は禁物なんだから)

イムヤ(密かに近づいて、確実に仕留めるの!)

初春「うむ、その通り。相手が他にいないか確認することは大切じゃな」ジャキ

イムヤ「……ですよねー」

初春「と言うわけで、子日の勝ちじゃの」

子日「……やった? ちゃんと子日できたの?」

阿武隈「やったー! やったよ子日ちゃん!」

子日「わぷっ!? 阿武隈さんどーしたの?」

阿武隈「すごいすごい! 子日ちゃん本当にすごいよ! とってもうれしいな!」

阿武隈「子日ちゃんすっごく頑張ってたもんね! うん! 本当にお疲れ様!」

子日「えへへ、ありがとね! ……でも阿武隈さんちょっと大げさだよぉ」

イムヤ「あの……なんで子日ちゃんより阿武隈さんの方が喜んでいるの?」

ゴーヤ「阿武隈さんの方が子供みたいだよ」

五十鈴「ああ、うん。気にしないで。まったく恥ずかしいったらありゃしないわ」

初春「子日のことでそれだけ喜んでくれるのは、わらわとしては嬉しいぞ」

五十鈴「まあそういう考え方もあるでしょうけど」

阿武隈「そうだ、子日ちゃん、お祝いしよ、お祝い! ねえねえ、なにが食べたいかな?」

子日「え? うーん、子日ホットケーキ食べたい!」

阿武隈「ホットケーキね、分かったよ! 他にお世話になった人も呼ばないとね」

阿武隈「イムヤちゃん、ゴーヤちゃん! ずっと子日ちゃんにつきあってくれたお礼をしたいんだけど、来てくれないかな?」

イムヤ「もちろんよ!」

ゴーヤ「ろー達も呼んでもいい?」

阿武隈「もっちろん! 楽しみにしてるね!」

阿武隈「五十鈴お姉ちゃんや初春ちゃんも来てくれないかな?」

初春「呼ばれて、断る意味はないのう。この初春、子日を全力で祝おうぞ」

子日「えへへ、ありがとー初春ちゃん!」

阿武隈「うん! それで、良ければ若葉ちゃんや初霜ちゃんも呼んでもらって良いかな? 二人にもお世話になったし」

子日「阿武隈さん、皆にお世話になったのは、子日だよ?」

初春「たしかにそうじゃの。阿武隈さんはむしろ世話した方じゃと思うのじゃが」

五十鈴「良いのよ別に」

子日「どうしてー?」

五十鈴「阿武隈がお祝いとお礼したいって言ってるんだから、させてあげなさいな」

子日「よく分からないけど……分かったよぉ!」

阿武隈「五十鈴お姉ちゃんも、いろいろと手伝ってくれてありがとう」

五十鈴「阿武隈だけじゃ心配だったしね」

阿武隈「むー、お姉ちゃんのいじわるー」ぷくー

阿武隈「でも、ありがとう」ふにゃ

五十鈴「本当にあんたってころころ表情変わる子ねえ。見てて飽きないわ」

阿武隈「え、どういうこと?」

五十鈴「ふふっ、阿武隈は気にしなくても良いの。これだけ人数が多いと、阿武隈一人じゃ大変でしょ。五十鈴も手伝うわ」

阿武隈「本当、いいの?」

五十鈴「遠慮しないの。はいはい、とりあえずシャワーでも浴びてらっしゃい。阿武隈も疲れているでしょ」

阿武隈「あ、うん。それじゃあ、また後でね!」

五十鈴「やれやれ。しっかりしてきたと思うけど、人懐っこいところはますます酷くなっているんじゃないかしら」

五十鈴「さっさと姉離れして欲しいもんだわ。提督にヤキモチ焼かれたくないし」

イムヤ「……」じー

初春「……」じー

五十鈴「なに? なに見てるの? 五十鈴に御用?」

ゴーヤ「五十鈴さんこそ、妹離れ出来てないと思うでち」

五十鈴「なっ!?」

イムヤ「そうよね。五十鈴さん、なんだかんだで阿武隈さんにべったりじゃない」

初春「わらわも同感じゃ」

五十鈴「なに言ってるのよ! それは阿武隈がいちいち危なっかしいから仕方なく――」

子日「阿武隈さん、すっごく頼りになるよー? 今回もすっごく助けてもらったもん!」

五十鈴「え、えっと……子日の目からはそう見えても、歴戦の提督達を艦長にしてきた五十鈴から見たらまだまだなの!」

初春「ふむ。そういうことにしておくかの」

イムヤ「そういうことにしておくわ」

ゴーヤ「そういうことにしておくね!」

子日「よく分からないけど、そういうことにしておくよぉ!」

五十鈴「……あんたらぁ! いい加減にしなさーい!」

『名取お姉ちゃん』

春風「名取様。春風のわがままに付き合ってくださって、ありがとうございます」

名取「ううん……私こそ、誘ってくれてありがとう。春風ちゃんとお料理、嬉しいな」

島風「あ、新しい子はっけーん! 初めましてー!」

春風「きゃっ? あ、あなた様は……?」

島風「島風だよ! とっても速いの! ねえねえ、あなたって速い? 速い!?」

春風「あの……その、えっと」

阿武隈「こーら、駄目でしょ島風ちゃん。そんな一気にまくし立てたりしたら、春風ちゃんが困っちゃうからね」

島風「おうっ、はーい。ごめんね、えっと……お名前訊いてもいーい?」

春風「あら、申し遅れました。わたくしは神風型駆逐艦の三番艦、春風と申します。島風様、どうぞお見知りおきくださいませ」

島風「うん、よろしくね!」

阿武隈「困らせちゃってごめんね、春風ちゃん。島風ちゃんと仲良くしてくれると嬉しいな」

春風「阿武隈様、迷惑なんてとんでもありませんわ。わたくしも是非とも懇意にさせて頂きたいです」

島風「ところで、島風様なんて固っくるしくない? 島風でいいよ!」

島風「私が春風ちゃんって呼んでいるのに、島風様ってなんだかむずむずするし」

春風「え? あの、その……」

名取「春風ちゃんが好きな呼び方で良いと思うけど……」

島風「うーん……春風ちゃんがその方が良いなら、そうだよね」

島風「春風様……やっぱり春風ちゃんでいい?」

春風「ええ、島風様が好きな呼び方で良いですわ」

島風「うん、改めてよろしくね春風ちゃん!」

阿武隈「えへへ、島風ちゃん良かったね」

島風「うん!」

島風「ねーねー阿武隈さん、私お腹空いたー。お昼ご飯一緒に食べよー」

名取「あ、えっと……私達これからお料理するんだけど……」

名取「阿武隈ちゃんさえ良ければ、一緒にお料理しない?」

阿武隈「あ、うん! 一緒させてもらうね」

春風「うふっ、阿武隈さんも川内さんと同じくらいお料理が得意と伺っておりますので、楽しみです」

阿武隈「ええ? あ、あんまり期待されても困るんだけど……けど、それならご期待に応えられるようにしなくちゃね」

名取「わ、私も、えっと頑張る……うん」

島風「私も味見がんばりまーす!」

阿武隈「もう、島風ちゃんってば」

阿武隈「ところで何を作るの?」

名取「それが、まだ……」

春風「その、すみません。名取様と会話しているときに、お料理の話になりまして、その流れで一緒にお料理しましょうということになりましたの」

阿武隈「そうなんだ」

名取「だから、今ある食材を見て、メニューを考えようって」

阿武隈「その場にある食材で献立考えるのも楽しいもんね」

名取「島風ちゃんはなにか食べたいものある?」

島風「食べたいもの? うーん……」

阿武隈「何でもいいよ? 作れるかどうか聞いて判断するから」

島風「おにぎり……」

名取「ふえ?」

島風「島風、おにぎり食べたい!」

阿武隈「おにぎりでいいの? 他にもできるけど」

島風「ううん、島風はおにぎりがいいの」

名取「じゃあおにぎり作る? 春風ちゃんもそれでいいかな?」

春風「ええ、わたくしもそれでいいですわ」

阿武隈「あたし的にもOKです。島風ちゃん、おにぎり好きだよね」

島風「うん!」

名取「それじゃあ、決定ね。結構おにぎりもおいしく作るにはコツがいるし……」

阿武隈「卵焼きやお味噌汁も作ろっか」

春風「いいですね。お味噌汁の具は何に致しましょうか」

島風「ねえねえ、島風も手伝おっか?」

阿武隈「そうだね。じゃあ、卵割ってくれるかな?」

島風「うん! 島風に任せて!」

阿武隈「えへへ、名取お姉ちゃんとお料理も久しぶりだね」

名取「そうだね……もう阿武隈ちゃんの方が料理上手かも」

阿武隈「そんなことないと思うけどなあ」

春風「こうして姉妹でお料理も良いですね。阿武隈さんはやはりお姉様達に教わったりしたのですか?」

阿武隈「うん、由良お姉ちゃんや名取お姉ちゃん、五十鈴お姉ちゃんとかに教わったんだ」

名取「阿武隈ちゃんお料理は才能あると思う……」

島風「お料理『は』?」

阿武隈「島風ちゃーん? なにかアクセントが変じゃなかった?」

島風「ふふー、冗談ですよ」

阿武隈「むー」

磯風「なるほど。師の師といえば我が師も同然! 師匠(阿武隈)の師匠である名取さんに、是非ともこの磯風の料理を振る舞わなければ!」

阿武隈「どっから出てきたの磯風ちゃん」

磯風「愚問だ師匠。この磯風、師匠と一緒に料理する機会をみすみす逃しはしない」

阿武隈「うん、だからどこであたしが料理したことを知ったの?」

響「私だ」ひょこ

阿武隈「……」

磯風「お前だったのか」

響「また騙されたね」

磯風「まったく気づかなかったぞ」

響「暇を持て余した――」

浜風「磯風、お腹空きました。早くお昼ご飯を食べたいです」

磯風「かみが――む? 仕方ないな。じゃあさっさと取りかかるとしよう」

響「はらしょー」よじよじ

響「今日も阿武隈さんの背中は落ち着くな。これはいい」キラキラ

阿武隈「……あのねえ」

名取「響ちゃん、また阿武隈ちゃんの背中に貼り付いて戦意高揚してる……」

春風「またって、これはいつも行われているのですか?」

名取「割と……」

響「気づいてないかもしれないけど、磯風には私が教えたんだ」

響「たまたま料理している阿武隈さん見かけたからね」

阿武隈「そっか。でも響ちゃんが背中にいたらお料理できないから、降りてね?」

響「不死鳥の秘密は、阿武隈さんに登るタイミングにもあるんだよ」

阿武隈「はいはい、意味分からないことを言わないの。お昼ご飯が終わったらまたしてあげるから」

響「了解。阿武隈さんを困らせるのは本意じゃないしね」スルスル

阿武隈「なんだか納得いかない……」

春風「ふふ、仲がよろしくて、とても楽しそうですわ」

名取「阿武隈ちゃんの周りって、いつも賑やかだから……」



初めて島風が役に立てた。嬉しいな。

濃霧の中、島にいる陸軍さんが敵の大群に囲まれて大ピンチ。

本当に少し先も見えない霧の中。一つ間違えば島や他の艦に激突して本当に危険だったんだ。

そこで、この島風が呼ばれたの! もちろん、この快速を買われて――じゃなくて、島風に搭載された最新鋭の電探が必要だったから何だけど。

でも、島風ちゃんと役割は果たしたよ!

島に魚雷を撃ちこんだりしちゃったけど、本当にほとんど何も見えない霧、敵に見つかったらお終い。

更に索敵技術は向こうの方が上だっていうこの状況。

敵艦らしき影を見つけたら、先んじて攻撃するのは間違いじゃないよね?

お陰で島までの距離も分かったし、怪我の巧妙って言うのかな、こういうの。

それに、後で分かったことだけど、向こうも誰もいないのに島風達がいるって勘違いして無駄に撃ちまくってて、島風達を倒したって思ってたみたいだし……

それだけ霧が本当に濃かったってことだと思う。

さすがに阿武隈さんも相当指揮に苦労してたみたい。けど、それでも成功させたんだから本当に凄いよね?

速さだけじゃないって、そのとき初めて知った気がする。

皆に陸軍の兵隊さんを乗せて、大発動艇……だっけ? も活用して、見事救出成功!

でも陸軍の人達、とっても疲れているみたい。そりゃそうだよね。

そのとき、阿武隈さんの主計科さんがご飯炊いて、おにぎり作ってくれたの!

どうも「苦労した味方にカンパンでは主計科の恥」とかって……ちょっと前におはぎも作って配ったみたいだし、こだわりがあるのかな?

でも、皆とってもおいしそう。いいな、島風も食べたいなー。

やっぱ無理だよね……島風達は船だもん。でももし……人の体があったら。

食べてみたいな。阿武隈さんにおにぎり作ってもらって、響ちゃんとかみんなで一緒に食べるの!

いつかそんな日が来るといいな。

島風「えへへ、阿武隈さんおいしーね!」

阿武隈「そう? そう言ってくれると嬉しいな」

名取「どう、春風ちゃん?」

春風「はい、名取様のお陰でおいしく出来たと思います」

名取「ほっ……良かったあ」

島風「ねーねー天津風ちゃんも食べなよ? おいしーよ?」

天津風「急に呼んで何かと思えば。阿武隈さんや名取さんにご飯おねだりしてたの?」

長波「そりゃ貰えるなら貰うけどさ……本当にいいのか?」

名取「うん、気にしないで」

島風「島風だってお手伝いしたよ? 卵割ったり」

天津風「ふーん。他には」

島風「終わり」

天津風「あ、あんたねえ……」

磯風「遠慮はいらぬ。食え」

浜風「既に頂いてます。磯風、感謝します」

響「不死鳥の秘密は、補給のタイミングにも……おいしいな」

五月雨「んー! おいしーです! 本当、すごいです!」

朝雲「なるほど……なかなか良いじゃない」

風雲「そうね。私ももう少し上手になりたいなぁ」

夕雲「上手になるには練習あるのみですね。この鎮守府は結構料理ができる方もいますし、教わってみてはいかが?」

風雲「うーん。そうね……」

秋雲「川内さんは……ああ、昼間寝てることが多いわ」

風雲「腕や教え方は抜群らしいけど、夜中に料理教わるのはちょっと……」

若葉「奇跡の作戦……か。いつまでも未練を残すわけにもいかないな」

初霜「そうですね若葉。でも、また同じような困難が来たときのため、頑張りましょう」

若葉「ああ、大丈夫だ。初霜、ご飯ついているぞ」

初霜「きゃっ? ご、ごめんなさい……ちょっと恥ずかしいわ」

阿武隈「……なんでこんなにたくさん集まってるの?」

響「私が呼んだよ」

磯風「おまえだったのか」

響「まだ騙されたね」

磯風「まったく気づかなかったぞ」

阿武隈「またその流れ!? そもそも響ちゃん騙してないし、もうそれはいいから!」

磯風「なにぃ!? そう言えば私は響に騙されていないぞ!? このやり取りはおかしいじゃないか!?」

浜風「修行が足りませんね磯風。覚え立てのネタを無理に使おうとするとそうなるのです」

天津風「あんたら一体なんの話をしているのよ!?」

木曾「俺達まで呼ばれたけど……良かったか?」

多摩「にゃー」

響「いいさ。食事は多い方が楽しい」

木曾「そうか。まあお前らがいいなら、構わないがな」

五月雨「そ、その迷惑だったでしょうか?」

阿武隈「ううん、ちっともそんなことないよ。ただこれ以上増えると……」

名取「ご飯がもうない……」

五月雨「あっ、そうですよね」

阿武隈「大丈夫、今のところぎりぎり足りたから。五月雨ちゃん、どうかな?」

五月雨「はい、とってもおいしいです! ありがとうございます。涼風ちゃんや夕張さんにもあげたいくらいです!」

阿武隈「えへへ、良かった。そう言ってくれると、あたしも名取お姉ちゃんや、春風ちゃんも嬉しいな」

阿武隈「今度は、涼風ちゃん達も呼べたらいいね」

五月雨「はいっ!」

浜風「それはそうと。料理なら磯風や私が少しなら教えられるかと」

風雲「え? いいの?」

浜風「阿武隈さんには及びませんが、多少は心得があります」

磯風「ちょっと待て浜風! おまえはともかく、磯風はまだ教えられるほどのものではないぞ!」

阿武隈「そうかな、もう磯風ちゃんも大丈夫だと思うな」

磯風「師匠?」

阿武隈「別に完璧じゃなくても、良いんだよ。それを言ったらあたしだってまだまだなんだから」

磯風「しかし、磯風と師匠ではまだ腕前の差があまりにも――」

阿武隈「もう、そんなことないって。肩肘張らないの。もう一通りのことはちゃんと教えたよ?」

磯風「む……しかし、まだそれが全て身についたとは到底」

阿武隈「教えてあげるのも、磯風ちゃん自身の勉強になるとあたしは思うな……もちろん磯風ちゃんの都合もあるけど」

阿武隈「それに、良かったらあたしもサポートするから」

磯風「いや……分かりました。師匠の教えを受けた磯風、それを自分だけに留めておくのは師匠に対して不敬となるな」

阿武隈「えっ、いやあのそこまで重く受け止めなくても」

磯風「この磯風! 師匠から賜った教え、風雲に全て伝えてみせる! 風雲、覚悟は良いか!? 磯風は出来ている!」

風雲「え、えええええーっ!?」

阿武隈「磯風ちゃん落ち着いて! クールダウン、クールダウン!」

島風「風雲ちゃん、いいないいなー。ね、天津風ちゃん」

天津風「え? 島風それ本気?」

長波「あれに混ざりたいなんて、なかなかチャレンジャーだなおまえ」

春風「うふふ、本当に賑やかですわね」

名取「えっと……騒がしくしてごめんね」

春風「とんでもありません。この鎮守府に着任出来て、わたしくは幸運です」

名取「そう? そう言ってくれると、私も嬉しい……こちらこそ、来てくれてありがとう」

春風「名取様、ご存じですか? わたくし、『5』という数字に縁が深いんですの」

名取「ふえ? そうなの?」

春風「1922年5月起工、1923年5月に就役。当初のわたくしの艦名は『第五駆逐艦』でした」

春風「その後『春風』と改名された後、第五駆逐隊を結成。そして後に、名取様の旗艦とする第五水雷戦隊に入りました」

名取「春風ちゃん……」

春風「この通り、『5』に縁が深いわたくしですから、名取様とは是非仲良くしたいとおもっておりますの」

春風「その……ちょっと厚かましかったでしょうか」

名取「ううん! 全然そんなことない! とっても……嬉しい」

春風「ありがとうございます……実はちょっと不安でしたの」

名取「そうなんだ……私はいつも不安ばっかりだから、ちょっと共感するかも」

春風「そんな。名取様はとても素敵な方ですわ。その、まだ出会って間もないわたくしが言っても説得力ないかもしれませんが」

春風「阿武隈様や皐月様がそれだけ慕っている方が、素敵でないわけがありませんわ」

名取「ふえ? え、えっとその……春風ちゃん、ちょっと恥ずかしいかも」

阿武隈「もう。恥ずかしがることないでしょ、名取お姉ちゃん」

名取「あ、阿武隈ちゃん……えっと。その。あ、ありがとう」

名取「春風ちゃん、これからもよろしくね」

春風「こちらこそ。ご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願い致します」

『由良お姉ちゃん』

阿賀野「ふむふむ……」じー

阿武隈「……」

阿賀野「ほうほう」カキカキ

阿武隈「……」

阿賀野「なるほどー」

阿武隈「……阿賀野ちゃん、なにやってるの。さっきからこっち見て」

阿賀野「え? いやー別に変なことはしてないですよ? ただ阿武隈さん観察日誌つけてるだけで」

阿武隈「本当になにやってるのぉ!?」

阿賀野「よくぞ聞いてくれました! いやぁ、これには話すと長くて深いわけが――」

阿武隈「そんなに複雑な理由があるの!?」

阿賀野「ええ、つまり阿武隈さんの行動を観察して、水雷戦隊旗艦としてのあり方を学ぼうとしてるんです」

阿武隈「一言で終わってるじゃない!」

阿賀野「さすが阿武隈さんね! とっても勉強になるわ! あの時のあれなんて特に参考になります!」

阿武隈「どの時のどれよ!?」

由良「阿武隈ちゃん、悪いけど今日もいつものように由良の髪を結ってもらって――どうしたの、そんなに騒いで?」

阿武隈「あ、由良お姉ちゃん。おはよう、今行くね」

阿賀野「いえいえ、別に。ただ阿武隈さんにご指導頂いてただけですから」

由良「あら、朝から熱心ね。由良も見習わないと」

阿武隈「こっち見て、なにやら書いてただけじゃない」

阿賀野「阿武隈さんの行動を観察して学ぼうとしてただけですよぉ」

阿武隈「恥ずかしいからやめてよ」

由良「別に恥ずかしがることないのに」

阿賀野「そうですよ、恥ずかしいことなんて別に……」

阿賀野「あっ、阿武隈さんと提督さんとの甘い蜜月はさすがに見てませんから、安心してくださいね」

阿武隈「阿賀野ちゃんなに言ってるのぉ!?」

由良「由良も阿武隈ちゃん観察日誌には、変なことなんて書いてないから安心してね」

阿武隈「由良お姉ちゃんまでなにやってるの!? あたしの観察日誌なんて書いているの!?」

由良「もちろん。ほら、鬼怒ちゃん観察日誌と阿武隈ちゃん観察日誌をつけることは、由良の毎日の楽しみなんだから」

阿武隈「鬼怒お姉ちゃんの日誌までつけているの!?」

由良「冗談よ」

阿武隈「って……だ、だよね……あーびっくりしました」

由良「ごめんね。阿武隈ちゃんがかわいくて、ついからかっちゃった」

阿武隈「由良お姉ちゃんのいじわる」

由良「でも由良の日記に、阿武隈ちゃんや鬼怒ちゃんのことを書くことも結構多いから、ちょっとだけ本当かな」

阿武隈「それはそれで恥ずかしいです……」

由良「提督さんと阿武隈ちゃんが、仲良くしているところはほどほどにしか書いてないから、安心してね?」

阿武隈「ちっとも安心できないです! というかそんな変なことしてません!」

阿賀野「え、してないの? もしかして倦怠期?」

阿武隈「違います!」

由良「駄目よ、阿武隈ちゃん。ケッコンカッコカリしてても、提督さんの気持ちはしっかりつかんでおかないと」

阿武隈「あたし的にはできる限りしているつもりだけど……」

阿武隈「確かに鎮守府には魅力的な人も一杯いるし……」

阿賀野「ちょ、なに不安にさせているんですか由良さん」(←小声)

由良「任せて阿賀野ちゃん。これも由良の作戦のうちよ」(←小声)

阿賀野「え、この隙に提督さんを由良さんが奪っちゃうんですか? 略奪愛?」(←小声)

由良「全然違うわ。ふざけないで」(←もの凄く低い声)

阿賀野「あ、ごめんなさい」

阿賀野(冗談だったのにすっごく怒られた……)

由良「大丈夫よ、阿武隈ちゃん。提督さんが阿武隈ちゃんを嫌いになるわけない、そうでしょ?」

阿武隈「そ、それは……」

阿賀野(あれぇ? さっき不安をあおったのは由良さんだよね?)

由良「それでも不安なら、由良が阿武隈ちゃんに提督さんのハートをガッチリとつかむための方法を、レクチャーしてあげる」

阿賀野(何でそこまで自信ありげに言っているんだろ)

由良「さっ、続きは由良のお部屋でお話しましょ? 良ければ阿賀野ちゃんも来てね?」

阿賀野「あ、ぜひぜひー」

阿武隈「ふええ!? そ、そんなの恥ずかしいじゃない!」

由良「恥ずかしいことないでしょ? 提督さんとの惚気話、由良と阿賀野ちゃんに聞かせて?」

阿武隈「そんな話しません!」

――由良の部屋。

鬼怒「で、阿武隈と阿賀野を連れてきたと」

阿賀野「お邪魔してまーす」

阿武隈「朝からごめんね」

由良「勝手に呼んじゃってごめんね、鬼怒ちゃん」

鬼怒「良いよ良いよ、賑やかなのは大歓迎! ていうか、阿武隈は毎日由良お姉ちゃんの髪結いに来てるじゃん」

阿武隈「それはそうなんだけどね」

由良「由良の髪、自分で結えたら良いんだけど」

鬼怒「その髪の長さはさすがに無理だよね。うん、鬼怒も無理」

由良「でも、そのお陰で毎朝こうやって阿武隈ちゃんと楽しくお話できるから、由良的にはOKかも」

鬼怒「今さりげに阿武隈の真似した?」

由良「あっ、ばれちゃった?」

鬼怒「バレないわけないよね」

阿武隈「えへへ、あたしも由良お姉ちゃんとお話出来るのは楽しいし、全然良いよ。ねっ」

由良「ふふっ、ありがとう阿武隈ちゃん」

阿武隈「はい、できたよ由良お姉ちゃん」

由良「うん、今日もばっちり。ありがとう、阿武隈ちゃん」

阿武隈「どういたしまして……じゃあ、あたしはこれで」

由良「ふふ、だーめ」がしっ

阿武隈「ふえええ、由良お姉ちゃん離してー」

阿賀野「何言ってるんですか、お楽しみはこれからですよ!」

鬼怒「恋バナしちゃう? 阿武隈の赤裸々話全部暴露しちゃう?」

阿武隈「やめてよ! そんな恥ずかしいことできるわけないでしょ!」

由良「そっか……阿武隈ちゃんが嫌がることをするのは、由良もあんまり気が乗らないし、やめておくね」

阿武隈「ほっ、良かった……」

阿賀野「えー」

鬼怒「えー」

由良「最初に悪ノリした由良が言うのも何だけど、あんまり言いたくないことまで言わせちゃ駄目よ」

阿賀野「ちぇー。まっ、仕方ないですよね。普段お世話になってる阿武隈さんに恩を仇で返すのも悪いし」

鬼怒「でも、本当に提督ってば阿武隈一筋だよねー。ちょっとだけど憧れちゃうな」

阿武隈「え、えっと……」

阿賀野「そうよねー。阿賀野にも素敵な王子様が現れてくれないかしら」

鬼怒「まあ、提督は王子様って感じじゃないけど」

由良「こーら、鬼怒ちゃんってば」

鬼怒「あはは、確かに王子様じゃないけど、素敵な人ではあると思うな!」

阿賀野「おお、鬼怒さんももしかして提督さんに恋を? これってば姉妹の間で三角関係が――っ!?」

由良「……」じとー

鬼怒「さすがに阿武隈とそんな修羅場は展開したくないなー。それに勝ち目が薄い勝負は……? どうしたの阿賀野? 顔色悪いけど」

阿賀野「い、いえー、なんでもないです……」

阿賀野(由良さんの前で阿武隈さんをからかうのは程々にしておこう、うん……)

阿武隈「うん、提督はとっても素敵だよね……」

阿武隈「あたし達を常に優しく見守ってくれているし、無事に生還できるようにいつも最善を尽くしてくれている」

阿武隈「それだけじゃなくて、なにか困ったことがないかさりげなく気を配ってくれたりするし」

阿武隈「凄くしっかりしてて、頼りになってかっこいいし、時々ちょっとだけうっかりしているところも可愛いなって」

阿武隈「それからね、この前あたしが……あ」

阿賀野「……にやにや」

鬼怒「うん、熱いね阿武隈!」

由良「阿武隈ちゃんってばかわいい」

阿武隈「わ、忘れてくださーい!」

由良「あら、良いじゃない。阿武隈ちゃんと提督さんが仲良しなのはとっても良いことよ」

阿賀野「ですよね、もう鎮守府公認の二人が仮に仲悪かったりしたら、雰囲気が悪くなっちゃいますし」

阿武隈「鎮守府公認!? やめてよ、恥ずかしいじゃない!」

阿賀野「なにを今更。もう大抵の人は知ってますし、認めてますって」

鬼怒「あんだけ大っぴらにいちゃついてて、本当に今更だよね」

由良「演習中に駆逐の子達に訊かれて、『あたしと提督はとっても仲良しです』って宣言したの、良く覚えてるわよ」

阿武隈「やめてー! 掘り返さないでー! あ、あれは状況的に仕方なかったんだから!」

鬼怒「え、じゃあ本当は提督のこと好きじゃないの?」

阿武隈「そんなわけない! 大好きです! ……うあああああっ!?」

由良「こら、鬼怒ちゃん。あまり阿武隈ちゃんをいじめないの」

鬼怒「はーい。ごめんね、阿武隈」

阿武隈「ううううううっ、鬼怒お姉ちゃんのいじわるー」

阿賀野「あ、阿武隈さんかわいい……」

由良「そうでしょ? ねっ、ねっ」

阿武隈「阿賀野ちゃんまで何言ってるの! 由良お姉ちゃんもそんなノリノリで同意求めないで!」

鬼怒「でも阿武隈が幸せそうで安心だよ!」

阿武隈「うん。そうだけど……」

阿賀野「どうしたんですか?」

阿武隈「本当に、提督の相手があたしで良いのかなって……」

由良「なに言ってるの。阿武隈ちゃんを選んだのは提督さんでしょ?」

由良「提督さんの方から阿武隈ちゃんに気持ちを伝えてきたんだし、ケッコンカッコカリだって提督さんから言ってきたんじゃない」

阿武隈「そうだけど……提督があたしにしてくれていることを、あたしは提督に同じぐらいしてあげていられるのかなって」

阿武隈「いつも、あたしは提督に助けて貰ってばかりだから。あたしも提督の力になってあげたいだけど……」

由良「なんだ、そんなことなの」

阿武隈「そんなことって……」

阿賀野「いやー、十分過ぎるほどだと思いますけど? むしろ阿武隈さんが何をそんなに悩んでいるのってくらい」

鬼怒「だよね」

阿武隈「ふえ?」

由良「阿武隈ちゃんは提督さんを立派に助けているじゃない。いろんなことで」

阿賀野「普段、阿賀野や駆逐の子達がどれだけ阿武隈さんに助けられていると思ってます?」

鬼怒「遠征に出撃、阿武隈は本当に沢山こなしているよね!」

由良「空母や戦艦の方々も、護衛してくれる阿武隈ちゃん達水雷戦隊には本当に感謝しているのよ?」

鬼怒「そうだよ! 阿武隈はこの鎮守府を取り仕切る提督の力に十分なってるんだって!」

鬼怒「ま、鬼怒も阿武隈に負けないくらい働いてるんだけどね!」

阿賀野「ふふー、最新鋭軽巡の阿賀野の働きも軽く見て貰っちゃ困るんだから!」

阿武隈「そうだね。阿賀野ちゃんも鬼怒お姉ちゃんもいつもすごいって思ってるんだ」

阿武隈「阿賀野ちゃんは本当に頑張ってて、どんどん成長してるし。鬼怒お姉ちゃんはいつも元気いっぱいで、皆を明るくさせてるよね」

阿賀野「そうでしょ? 阿武隈さんに褒められちゃった、ブイ!」

由良「もう、二人とも。途中から話が逸れてるじゃない」

鬼怒「ごめんごめん!」

由良「それに、阿武隈ちゃんと一緒にいる提督さんはとっても楽しそうで、すごくリラックスできているみたい」

阿武隈「……そうなのかな?」

由良「そうよ。阿武隈ちゃんの魅力は、優しくて、人懐っこくて朗らかな所だと思うわ」

由良「駆逐の子達も阿武隈ちゃんといるときは、いつも楽しそうじゃない」

阿賀野「そうそう、阿武隈さんは駆逐の子達にすっごく信頼されている感じですよね。ただし敬われない」

鬼怒「ただし緊急時でないときは指示に従わなくて困らせられる」

阿武隈「むー!」

由良「あら、それだけ距離が近いってことよ。良いじゃないの」

阿武隈「そうかもしれないけど……いざって時はきちんと指示に従ってくれるから、普段からそうしてー! って時々思います」

阿賀野「いや、重要なときに従ってくれない方がもっと困るんじゃ」

鬼怒「たしかに」

由良「ともかく、阿武隈ちゃんはつい周りの人が自然体でいられるというか、和むというか、そんな雰囲気を持っているのよ」

由良「だけど芯の部分はしっかりしているから、つい自然と甘えちゃったり、頼ったりしちゃうの」

由良「由良はとっても素敵だと思うな。提督さんもそんな阿武隈ちゃんだから好きになったんだと思う」

阿武隈「そ、そうかな?」

阿賀野「そうですよ。まったく、なにをそんなに不安に思っているんですか」

阿武隈「だって、この鎮守府だけでも、綺麗な人やかわいい人、素敵な人が沢山いるじゃない」

阿賀野「えー、阿武隈さんだって十分素敵じゃないですか」

阿武隈「そうかなぁ……その、胸だって小さいし」

鬼怒「そんなことないと思うけど」

阿武隈「あたしの周りの人、スタイルいい人多いじゃない」

鬼怒「あー。そうねえ」じー

阿賀野「……ちょっ、皆してどこ見てるんですかぁ! 阿賀野好きでこんなに大きくなったわけじゃないですよぉ!」

鬼怒「うわ、出たよ持つものの心ない言葉」

阿賀野「鬼怒さん酷いっ! えっとその、阿武隈さんはすらっとしてて、また違った魅力があるじゃない!」

由良「そうよ阿武隈ちゃん。この子や五十鈴姉さん達が特別あるだけだと思うわ」

阿賀野「阿賀野が変みたいに言わないで! むむ、えいっ!」

阿武隈「ひゃうっ!? あ、阿賀野ちゃん何するの!」

阿賀野「阿賀野センサー発動! きらりーん! ほうほう、阿武隈さんも結構あるじゃないですか、これで悲観するってどうかと思いますよー」

阿武隈「ふええええ! やめて、阿賀野ちゃんの変態ーっ!」

由良「あらあら」

鬼怒「止めなくていいの?」

由良「楽しそうだし、いいんじゃない?」

阿賀野「これは阿賀野センサーによると、阿武隈さんは65の――」

阿武隈「阿賀野ちゃんのバカー! すけべー!」

阿賀野「ディ……きゃっ、ちょ、ちょっとちょっとタンマ、ごめんなさい、やめへー!」

阿武隈「ふふーん、もう容赦しないわ。節操なしの阿賀野ちゃんなんかこうしてあげるんだから!」

阿賀野「ふへぇぇん、ひょめんにゃひゃひー」ほっぺたびろーん

阿武隈「うりうり、阿賀野ちゃんごめんなさいは?」

阿賀野「ひょめんにゃひゃいー」

鬼怒「……仕返しがほっぺた伸ばすって。小学生か」

由良「ふふ、阿武隈ちゃんやっぱりかわいい。あと鬼怒ちゃんは人のこと言えないと思うわ」

鬼怒「なぬぅ!?」

阿賀野「ほっぺいたい……あれ? あんまり痛くない? ともかく、酷いですよ阿武隈さん」

阿武隈「酷いのはどっちよ、もう」

ガチャ!

夕立「由良さん、おはようございます! あれ? お客さん?」

由良「こら、夕立ちゃん。部屋に入るときはノックしてって言ってるでしょ?」

由良「由良だけだったら良いけど、鬼怒ちゃんや他の子もいるときがあるんだから」

夕立「はーい、ごめんなさい。阿武隈さんに阿賀野さん、鬼怒さんもおはようございます!」

由良「良くできました。おはよう、夕立ちゃん」

夕立「ぽい! ねえ、由良さん。夕立お腹空いたっぽい……」ぐー

由良「あら、朝ご飯は?」

夕立「夕立、ドーナッツ食べたいっぽい……」

由良「夕立ちゃん、ドーナッツなら昨日一杯食べたじゃない。それに朝からドーナッツはあんまり体に良くないわ」

夕立「でも、夢でドーナッツ沢山食べる夢を見たっぽい……夕立より大きいドーナッツを村雨や白露、皆と一杯食べたっぽい」

夕立「だから夕立、もうドーナッツ食べたくて朝から幻覚見てるっぽい……」

鬼怒「いやどんだけ食べたいの!? 軽く引くんですけど!?」

由良「あ、あの……夕立ちゃん?」

夕立「ううー、夕立ドーナッツ食べたい! ドーナッツ、ドーナッツ!」

阿賀野「うわ、これ梃子でも動きそうにないですね」

由良「まったく、どうしようかな……」

阿武隈「こら、夕立ちゃんあまりわがまま言っちゃ駄目だよ」

夕立「ぽい……?」(阿武隈の髪に視線固定)

阿武隈「ドーナッツは、夕立ちゃんがちょっと我慢して、訓練頑張ったら、また――」

夕立「フレンチクルーラーっぽい!」キラキラ

阿武隈「作ってあげるから……はい?」

夕立「キラキラのフレンチクルーラー! ハチミツさんたっぷりっぽい! 頂きますっぽいー!」ぴょん!

阿武隈「うええええっ!? 夕立ちゃんやめてーっ!?」

夕立「二個もあるっぽい! とっても幸せっぽいー!」

阿武隈「ちょっと夕立ちゃん、あたしの髪の毛食べないでーっ!」

夕立「あれ? このフレンチクルーラー、とても歯ごたえがあるっぽい? でもこれはこれで新鮮っぽい!」

阿賀野「うわぁ……なにこの光景」

鬼怒「阿武隈の髪を、夕立が食べようとしてるね……よだれでべとべと」

由良「ちょ、ちょっと夕立ちゃん! 駄目でしょ!」

夕立「あ、由良さん。二つあるからお一ついかが?」

阿武隈「駄目です! というか早く降りてー!」

村雨「あ、夕立はっけーん!」

春雨「夕立姉さん、そこまでです!」

白露「こらこら、駄目でしょ! ほら早く降りてきなさい!」

時雨「夕立、ほらこっち来るんだ」

夕立「いやーっ! 夕立のドーナッツは渡さないっぽい!」

村雨「聞き分けのないこと言わないの、ほらこっち来なさいってば!」

夕立「ぽーいぃぃぃぃー!」

村雨「皆さん、お邪魔しました! 来週の村雨にも期待してねっ!」

ズルズルズル――

夕立「たとえ夕立がドーナッツを食べ損ねても、第二、第三の夕立がドーナッツを食べるっぽいぃぃぃ!」

村雨「はいはい、さっさと朝ご飯食べようねー」

時雨「ふう……」

阿武隈「あうううう、髪がべとべと……」

由良「大丈夫、阿武隈ちゃん?」

阿賀野「これは酷いわね。大丈夫ですか?」

白露「阿武隈さん、ごめんね夕立が迷惑かけて」

阿武隈「ううん、白露ちゃんが気にすることじゃないから。大丈夫だよ、ありがとうね」

鬼怒「だけど、髪ぼさぼさのべとべとだね」

時雨「……雨はいつか止むさ」

阿武隈「雨で濡れたんだったらまだ良かったんだけど」

由良「これは仕方ないわね。お風呂行ってきたら?」

阿武隈「……そうしようかな」

白露「お風呂!? あたしも行くー!」

時雨「僕も行って良いかな」

春雨「春雨もご一緒していいですか?」

由良「あら。それなら由良も一緒に行こうかしら」

鬼怒「鬼怒も鬼怒も!」

阿賀野「じゃあ阿賀野もいっきまーす!」

阿武隈「こんなに大人数? まあ、あたしは良いよ。楽しそうだし」

白露「ふふーん、阿武隈さんとおっふろ、おっふろ」

春雨「白露姉さん、楽しそう」

時雨「うん。きっと阿武隈さん達と一緒で嬉しいんだよ」

響「私も楽しみだ。ハラショー」

白露「うわぁ!? 響いつからいたの!?」

響「隠密は阿武隈さんだけの専売特許じゃないってことさ」

春雨「今それをここで発揮する意味があるのでしょうか?」

時雨「ないと思うよ」

響「それに、私だけじゃない」

若葉「これが奇跡のあぶくもふもふか……これはいい」

阿武隈「ふええええっ!? 若葉ちゃんいつの間にあたしの背中に貼り付いてたの!?」

阿賀野「あれ? 若葉ちゃんまで響ちゃんと同じようなこと始めたの?」

若葉「なるほど。この心地よさは、はつしもふもふに匹敵する……あぶくもふもふ、あぶくもふもふ……」

若葉「むう。手触りは文句ないが、語呂だけはいまいちだな。どうにかならないものか」

阿武隈「どうにかしなくていいです!」

響「阿武隈さんのために、あぶくもふもふの良さを広めておいたよ。おかげで密かなブームが到来しつつある」

由良「あら。素敵ね、阿武隈ちゃん。ねっ、ねっ」

阿武隈「そんなの広めないで! 由良お姉ちゃんもなんでそんなにウキウキしてるの!?」

由良「あぶくもふもふを由良由良ウォッチング~♪」

阿武隈「なにその変な歌!?」

時雨「若葉……そんなにいいのかい?」

若葉「ああ、最高だ」

阿武隈「時雨ちゃんまで気にしなくて良いから!」

白露「みんなずるーい! あたしも混ぜて!」

時雨「時雨、行くよ!」

春雨「あ、姉さん達! ……もう、それなら春雨も行きます!」

阿武隈「ふええええっ!? みんなしてあたしの髪の毛触らないでえええぇ」

響「信頼の名は伊達じゃない。出るよ」

阿賀野「楽しそう……阿賀野もまーぜーてー!」

由良「あっ、阿賀野ちゃん? ……えっと」

――ワイワイ、ワシャワシャ

鬼怒「これは……すごいねえ」

由良「そうね……どうしようかしら」

阿武隈「ふえー! 駆逐艦うざいー!」

白露「阿武隈さんったら素直じゃないんだからー」

時雨「口では嫌と言いつつ、体は正直だね」

阿武隈「時雨ちゃんどこでそんな言葉覚えてきたの?」

阿賀野「ぎくり」

阿武隈「あーがーのちゃーん? 駄目でしょ、時雨ちゃんに変なこと教えちゃ!」

時雨「僕、なにか変なこと言った?」(←分かってない)

阿賀野「……ちょっと、能代とパインサラダ食べながら田んぼの様子を見つつ、自分の部屋に戻る用事を思い出しちゃった」

鬼怒「死亡フラグ満載だね!」

由良「えっ? えっ? どうしてパインサラダ?」

阿武隈「こらー、待ちなさいーっ!」

響「隙あり」バッ!

阿武隈「ふえええぇ!? 響ちゃん! あたしの背中に飛び乗るの危ないからやめてって、いつも言ってるじゃない!」

由良「響ちゃんは阿武隈ちゃんが大好きなのね」

響「それほどでもないさ」

阿賀野「一出撃ごとに一回、阿武隈さんに貼り付いているのに?」

響「大げさだよ。精々、二出撃に一回ぐらいさ」

鬼怒「十分多いね」

阿武隈「もー、響ちゃんってば甘えん坊さんなんだから」

響「そうかな?」

阿武隈「さーて、どうかな。うりうり」ぷにぷに

響「ほっぺたつつくの、やめてくれないかな」

阿武隈「んー? いつもあたしの言うこと聞かずに、背中に貼り付いてくるのはどこの子かなー?」

響「さあ、そんな悪い子はどこにいるんだろうね。皆目見当がつかないな」

阿武隈「またまた、とぼけちゃって。うりゃうりゃ」

響「ノドくすぐるのやめてくれないか。猫じゃないんだ」

阿武隈「響ちゃんが言うこと聞いてくれたら、やめてあげようかなー」

響「むー」ぷくー

阿武隈「ふふ、ほっぺた膨らませちゃって。かーわい」つんつん

響「もう勝手にすればいいさ」ぽひゅ

白露「あ、響のぼっぺたが元に戻った」

時雨「ふふ、響も阿武隈さんも楽しそうだね」

春雨「はい、なんだかほんわかします」

由良「でしょ? 阿武隈ちゃんや周りの子を見てると、すごく和むのよね」

阿武隈「で、白露ちゃん達」

白露「な、なにかなー?」

阿武隈「もー、怒ったんだからね! こうなったら、お風呂で白露ちゃん達の髪を徹底的にいじってあげるんだから!」

白露「わー! 逃げっろー!」

時雨「あ、白露置いてかないでよ」

春雨「ま、待ってくださーい!」

阿武隈「こらー! 待ちなさいーっ!」

由良「ふふっ、楽しい」

『鬼怒お姉ちゃん』



漁師「うわああああぁ! 深海棲艦だあああっ!」

漁師「ちくしょう! こんな海のど真ん中で!」

漁師「もう駄目だ……俺達は生きて帰れねえ」

漁師「ばかやろう、あきらめるんじゃねえ!」

漁師「で、でもよう……」

戦艦レ級「ククク……マッ、コンナトコロニノコノコ来タ自分ノ愚カサヲ呪ウンダナ」

「そこまでよ!」

戦艦レ級「ナニヤツ!?」

「皆は私が守ります! デストロイヤーファーストフロスト!」

「沈んだ敵もできれば助けたいのです! デストロイヤーライトニング!」

「困ったときは一人前のレディーにお任せ! デストロイヤーデイブレイク!」

「いつだってあたしがいっちばーん! デストロイヤーモーニングデュー!」

「デストロイヤーヤングリーブズだ」

「そして、ライトクルーザーあぶ……あたしだけ英訳できないじゃないの!?」

「「「水雷戦隊! ガーディアンズ! 海の平和を守るため参上!」」」

漁師「水雷戦隊だ! 来てくれたぞ!」

漁師「これでもう安心だ!」

戦艦レ級「コノヤロウ……イツモイツモ邪魔ヲ! 今日コソ決着ヲ付ケテヤル!」

「みんな、行くよ!」

「「「了解!」」」

初霜「わくわく……」

若葉「初霜、何を見ているんだ?」

初霜「あら、若葉。今シーズンの戦隊ものです。深海棲艦から海の平和を守る、『水雷戦隊ガーディアンズ』という番組よ」

若葉「そうか。てっきり初霜はあまりこういうのに興味ないと思っていた」

初霜「私も今まで見てなかったんですけどね。たまたま私達に親近感を覚える内容だったから見始めたら、ついハマっちゃって」

若葉「なるほど。たしかに身近に感じる主人公達だな」

初霜「そうですよね。まるで。どっかで見たような……」

若葉「……若葉もそんな気がする」

初霜「あっ! ちょうど山場よ! 今から合体技で戦艦レ級をやっつけるわ!」

若葉「合体技? なんだそれは?」

初霜「見ていれば分かるわ! ほら若葉も一緒に見ましょ!」

若葉「ああ。ならそうさせてもらおう」

若葉「……」

初霜「どうでした、若葉?」

若葉「かっこいいな」

初霜「でしょう? 一度でいいから、実際にやってみたいわ」

若葉「だが、なんで敵の前でわざわざ変身したり、必殺技のときにポーズを決めたりするんだ?」

初霜「それがお約束ってものなのよ」

若葉「そうなのか……奥が深いな」

若葉「だが、実戦ではこんなことできないな。そうしている間に危険にさらされてしまう」

初霜「そ、そうよね……」

鬼怒「話は聞かせて貰った!」バンッ!

初霜「きゃっ!?」

若葉「何事だ、鬼怒さん?」

鬼怒「初霜ちゃんの願い、鬼怒が叶えてあげるよ!」

初霜「本当!?」

――数日後。食堂。

阿武隈「神通、神通っ。一緒にランチしよ!」

神通「ふふ、阿武隈は相変わらず元気ね」

阿武隈「そうかな? 今日はなに食べよっか?」

神通「こう毎日ですと、選択肢が豊富でも、なにを食べるか困りますね」

阿武隈「そうだね。自分で作るにも、訓練やお仕事で毎日ってわけにもいかないし」

神通「あれ? 秘書艦でもないのに、提督のご飯を良く作ってるって聞いたけど?」

阿武隈「ふえ!? あ、あれは提督が喜んでくれるからというか、あたしも作ってあげたいからというか……」

阿武隈「て、提督の栄養バランスを考えてのことだから! 倒れて貰ったりしたら困るもの」

神通「ごめんなさい。ついからかってしまいました」

阿武隈「もー、神通まで」

阿武隈「でも、やっぱりおいしいって言ってくれると作りがいがあって、嬉しいんだ」

神通「惚気で仕返しですか?」

阿武隈「そんなんじゃないってば」

阿武隈「そういえば川内は?」

神通「それ訊いちゃうの? 今は昼だけど」

阿武隈「ああ、ごめんごめん。後で起こしに行った方がいいかなぁ。じゃあ那珂……ちゃんは?」

神通「那珂ちゃんは訓練の合間に、次のコンサートの準備でいろいろと忙しいみたい」

阿武隈「あの子もバイタリティあるよね……凄いなあ」

神通「あの……もし良かったら、今度の那珂ちゃんのコンサート、一緒に行ってくれないかな?」

阿武隈「コンサート? もちろん! あっ、都合が合えばだけど。いつかな?」

神通「えっと……この日なんだけど」

阿武隈「うん、大丈夫だよ」

神通「良かった……」

阿武隈「なんだったら提督やお姉ちゃん、電ちゃんとかにも声かけてみようか?」

神通「そ、そんな。そこまでしてもらうわけには……」

阿武隈「いいよ、神通には日頃からお世話になってるし、あくまで誘うだけだから、来てくれるとは限らないから」

神通「えっと……それじゃあお願いしますね」

阿武隈「うん、分かったよ! えへへ、楽しみー」

鬼怒「お、いたいた! おーい、阿武隈ーっ!」

阿武隈「あ、鬼怒お姉ちゃん。どうしたの?」

鬼怒「えっとね、おっと神通こんにちは!」

神通「お疲れ様です、鬼怒さん。今日もお元気そうでなによりです」

鬼怒「それが鬼怒の取り柄だからね! うん!」

鬼怒「それで、阿武隈。今時間大丈夫?」

阿武隈「ちょっとくらいなら平気だよ?」

鬼怒「良かった! じゃあ、鬼怒と一緒に中庭に来てくれない?」

阿武隈「うん、良いけど」

神通「私もご一緒してもいいんですか?」

鬼怒「もちろんだよ! ギャラリーは多い方が良いからね!」

阿武隈「ギャラリー?」

鬼怒「おっと、これ以上はまた後で! とりあえず鬼怒に付いてきて!」

阿武隈「う、うん」

神通「なんでしょうか?」

阿武隈「……さあ」

鬼怒「来た来た! 那珂庭……もとい中庭に到着しましたよ!」

阿武隈「あんまり想像したくないような誤字があった気がします」



なかちゃんだよーなかちゃんだよーなかちゃんだよー



鬼怒「え、えっと気を取り直してっと……」

鬼怒「おーい、妖精さーん」

妖精さん「よびましたか?」

鬼怒「うんうん。来てくれたね。手はず通り、アレをやるよ!」

妖精さん「りょうかいいたしました」

阿武隈「アレ……アレってまさか」

鬼怒「よっし、鬼怒! 第一球振りかぶって投げました!」

妖精さん「あとでかんそう、きかせてねー!」

阿武隈「やっぱり妖精さんが空に投げられたーっ!」

鬼怒「以前からあれくらい妖精さんは平気だって分かってるじゃん」

阿武隈「分かってますけど、やっぱり大丈夫かなって気になります!」

鬼怒「もう、阿武隈ったら心配性なんだから」

妖精さん「だいいちすいらいせんたい、きんきゅうしゅーごー。くりかえす、だいいちすいらいせんたい、きんきゅうしゅーごー」(←信号灯点けながら)

阿武隈「やっぱり以前やった、妖精さんを利用した第一水雷戦隊の緊急集合の合図……鬼怒お姉ちゃん勝手にやらないでよ!」

鬼怒「大丈夫だって! 事前にみんなには了承取ってるから!」

阿武隈「え? それって……」

神通「どういう意味でしょうか?」

ドドドドドド!

神通「来ましたか。やはり集合も素早いですね。さすがです」

阿武隈「そうでしょそうでしょ? って喜んでる場合じゃなかった!」

鬼怒「来るよ!」


「皆は私が守ります! デストロイヤーファーストフロスト!」

「沈んだ敵もできれば助けたいのです! デストロイヤーライトニング!」

「困ったときは一人前のレディーにお任せ! デストロイヤーデイブレイク!」

「いつだってあたしがいっちばーん! デストロイヤーモーニングデュー!」

「デストロイヤーヤングリーブズだ」

「「「水雷戦隊! ガーディアンズ! 海の平和を守るため参上!」」」



阿武隈「……はい?」ぽかーん

神通「……え、え?」

鬼怒「ふっ……みんな良くやってくれたね。台詞もポーズも完璧だ」

鬼怒「司令長官として、皆のことを誇りに思う」キリッ

若葉「それほどでもない」

電「うう……やっぱり恥ずかしいよぉ」

暁「これくらい、一人前のレディーとして当然よ!」

白露「でも、やっぱり白露が一番だったでしょ? ねえ!」

初霜「ふふ、とっても楽しかったわ。鬼怒さん、ポージングと台詞の指導ありがとうございます」

鬼怒「いえいえ、どういたしまして!」

阿武隈「なにやってんのお姉ちゃん!?」

鬼怒「なにって……この一連の登場シーンを阿武隈にうまく見せられるようになるまで演技指導だけど」

阿武隈「そういうことじゃないから! なんでやったのって意味だから!」

鬼怒「だって面白そうだったから! それに阿武隈を驚かせようと思って!」

阿武隈「そのために労力かけすぎですぅ!」

鬼怒「その阿武隈の反応! まさに鬼怒の期待したとおり、いやそれ以上だね! さすが阿武隈!」

阿武隈「もー! いい加減にしてー!」

神通「阿武隈。言いたいことはあるだろうけど、とりあえず落ち着いて」

阿武隈「あ、うん……ありがとう、神通」

阿武隈「驚いたけど……かっこよかったよ、みんな。沢山練習したんだね。すごいな。とっても上手にできてて、ビックリしました」

電「そ、そうかな? そう言って貰えると、恥ずかしかったけど、嬉しいのです」

暁「電は頑張ったもの! ちゃんとできて当然よ!」

若葉「これくらい、なんてことはない」

白露「これも特訓の成果だよね! やったね!」

初霜「ふふ、皆さんありがとうございます!」

鬼怒「さっ、次行こうか次! 後が押してるし」

阿武隈「え? 後って?」

鬼怒「それはねえ、一水戦の他の子とか、それ以外の駆逐の子とか、とにかく沢山待機してるからね!」

阿武隈「ええええっ!? この子達で終わりじゃないの!?」

鬼怒「だって一度に大人数じゃ、あまり映えないでしょ?」

神通「皆さん乗り気なんですね……」

鬼怒「さあ、次の組行くよ! 妖精さんお願いね!」

妖精さん「だいにじこうげきのようをみとめます! いそいで!」

鬼怒「もう一回、とうりゃああああ!」

――しばらくして。

島風「ねえねえ、阿武隈さんどうだったどうだった?」

雷「訓練を重ねた私のポーズはどう?」

谷風「右手の角度がもう2度ほどあげた方が良かったかな? 阿武隈さん、どう思う?」

阿武隈「島風ちゃん、あの素早い動きすごかったよ! 雷ちゃんも頑張ったね。あれはそう簡単にできないから、すっごく練習したって分かったよ」

阿武隈「谷風ちゃんのポーズは……うーん、ちょっと元のポーズを見てみないと分からないかなぁ。後で確認しよっか」

島風「にひひ、当然よね!」

雷「そう? ありがとう!」

谷風「いいのかい、阿武隈さん? ありがとうね!」

鬼怒「おお……阿武隈が思った以上にきちんと見てる……」

神通「阿武隈なら当然です」

鬼怒「なんで神通が誇らしげにしてんの? まっ、いいけどね!」

子日「ねえねえ、阿武隈さんも一緒にやって!」

阿武隈「え、あたしも?」

初霜「もちろん。このポーズはリーダーの軽巡洋艦がいなければ完璧にはならないわ」

秋雲「いやー、それもいいけどさ。個人的にはこの役もやって欲しいんだよねー。ほら、ちょうど服もあることだし」

風雲「なんで持ってんのよアンタ」

阿武隈「えええっ!? そ、そんなヒラヒラな服着られるわけないでしょ!?」

秋雲「そっかなー。似合うと思うんだけど。ちなみに台詞とポーズはこんなの」

阿武隈「すっごく恥ずかしいじゃない! こんなのできるわけ――」

雷「えー」

子日「やってみて欲しいなー」

阿武隈「え」

電「きっと、とっても綺麗なのです!」

初霜「そうね、素敵だと思うわ!」

若葉「心配ない、大丈夫だ」

磯風「師匠なら、必ずできるはずだ」

浜風「ええ、浜風も是非見てみたいです」

山雲「ねー」

阿武隈「うううううう……もう! 分かったわ、やってやろうじゃない!」

提督「どうしたんだ、なんだか中庭が騒がしいな」

蒼龍「そうですね。なにかあったんでしょうか?」

提督「どれ、ちょっと見てみるか」

蒼龍「にしても、結構な人ですねえ。心なしか駆逐の子の割合が多い気がしますけど」



阿武隈「魔法少女、マジカルあぶぅ! 皆の期待に応えて華麗に参上!」

阿武隈「大発で笑顔の魔法をあなたにお届け!」ビシッ!

提督「……」

阿武隈「……え?」

提督「かわいいな、阿武隈」

阿武隈「う、うあああああああああ!?」



神通「……鬼怒さん、少しお願いがあるんですが」

鬼怒「うん、なにどったの?」

――数日後。

満潮「遅いわねえ、神通さん。なにやってんのかしら」

荒潮「あらあら、何事にもきっちりしている神通さんが訓練の時間に遅れるなんて、なにかあったのかしら~」

不知火「あの人にそうそうなにかあるとは思えませんが」

天津風「まあ、神通さんだっていろいろあるんでしょうよ。もう少し待ちましょ」

雪風「あっ! 神通さんきました……よ?」



神通「魔法少女、マジカル神通! 子供達の夢を守るためにただ今、見参!」

神通「あなたの心、探照灯で照らしちゃうんだから!」ビシッ

満潮「……」

不知火「……」

天津風「……」

荒潮「……」

朝潮「……素敵」

神通「え、えっと……」

雪風「神通さん、なにか悪いものでも食べたんですか?」

神通「がーん!?」

阿武隈「うう、恥ずかしかったよぉ……」

雷「阿武隈さん、まだ気にしているの? もう、そんなんじゃ駄目よ!」

響「雷。阿武隈さんに無理強いしたのは私達なんだから」

暁「そうよ。本当にごめんなさい、阿武隈さん」

阿武隈「ううん……あたしがやるって決めたんだから、暁ちゃん達が気にする必要はないよ。心配してくれてありがとう」

電「えっと……ありがとう、なのです」

阿武隈「そうだね。いつまでも落ち込んではいられないよね! うん! 阿武隈復活です!」

雷「それでこそ阿武隈さんだわ!」

阿武隈「えへへ、ありがとう雷ちゃん」

――ダダダダダ!

電「誰か走ってくるのです?」

阿武隈「あれは……」

霞「阿武隈さんんんんっ! お願い助けてぇ!」

阿武隈「霞ちゃん!?」

霞「神通さんが引きこもっちゃったのぉ! 頼れるのはアンタだけなのよ!」

阿武隈「ええっ!?」

霞「お願い来て今すぐ来て! 早くしなさいよこのクズ、ごめん前言撤回来てくださいお願いだから!」

阿武隈「か、霞ちゃん落ち着いて!」

霞「これが落ち着いていられますかってのぉ!」

霞「お願いだから助けて! あの状態の神通さんを、なんとかできそうなのアンタだけなのよぉ!」

阿武隈「ちょっと待って引っ張らないで……うあああああぁ!?」

電「阿武隈さーんっ!?」

鬼怒「いやー、騒がしいからなにがあったと思ったら」

雷「あ、鬼怒さん」

鬼怒「霞ちゃんが阿武隈をああまで頼るなんて……明日は雹(ひょう)でも降るのかな?」

響「かもね」

暁「にしても、神通さんになにがあったのかしら」

鬼怒「それはね、かくかくしがじか」

電「……神通さん、かわいそうなのです」

鬼怒「神通も阿武隈もかわいかったんだけどさ。なんていうか……日頃の印象との落差ってあるよね」

雷「神通さんは普段の凛とした印象が強すぎたのね……」

『阿武隈お姉ちゃん?』

阿武隈「提督、お夕飯できましたぁ!」

電「阿武隈さんと島風ちゃんと一緒に作ったのです! おいしくできたのです。なのです!」

赤城「あら。三人とも、お疲れ様」

島風「にひひー、島風もちゃんとできたよ! どう、凄いでしょ」

提督「ああ、島風えらいぞ」

島風「ふふー、連装砲ちゃん褒められちゃった!」

連装砲ちゃん「しまかぜちゃん、がんばった」

阿武隈「電ちゃん、島風ちゃんありがとう」

電「本来は秘書艦の電の役目なのに、よく阿武隈さんに手伝って貰ってて、なんだか申し訳ないのです」

赤城「ふふ。いいんですよ、電さん。阿武隈さんはやりたいだけなんですから」

阿武隈「あ、赤城さんっ」

赤城「今更照れることないでしょう?」

阿武隈「もう」

赤城「ごめんなさい。ついからかってしまいました。阿武隈さんはかわいいですから」

阿武隈「むう、お世辞を言ったって駄目ですよ」

提督「お世辞じゃないぞ。阿武隈はかわいいからな」

阿武隈「ふえ!? て、提督ーっ!」

赤城「あら。本当に仲が良いですね」

島風「ねーねー、電ちゃん。こういうのなんて言うんだっけ? バカップル?」

電「電にはよく分からないのです。島風ちゃん、それってどういう意味なのです?」

島風「島風にもよく分からない。でも天津風ちゃんが言ってた」

電「そうなのです? 後で訊いてみるのです!」

阿武隈「やめてー!?」

赤城「別に恥ずかしがる必要はないのでは?」

阿武隈「恥ずかしいです!」

島風「それより、折角島風達が作ったんだから、早く食べて食べてー!」

提督「おっとそうだったな。島風達が作ってくれたんだ。感謝を込めて頂くとするよ」

島風「もう島風もお腹ぺこぺこ。連装砲ちゃん、ご飯にしよ!」

電「連装砲ちゃん、ご飯ですよー」

連装砲ちゃん「しんせんなだんやく、いただきます」ポリポリ

赤城「今更ですけど、シュールですねえ……」

阿武隈「ですねえ」

提督「しかしだな。これもいつも言っているが、電もわざわざ食事を用意してもらう必要はないんだぞ? 大変だろう?」

電「もう、何百回も聞いたのです。司令官がしっかり食べないと駄目なのです」

提督「食堂も店もあるし、普通に自炊もできるんだけどな……気持ちは非常にありがたいんだが」

電「なにも、用意しているのは電だけじゃないのです。そのときによって、阿武隈さんやいろんな人に手伝ってもらったり、頼んでいることもあるのです」

提督「そりゃ遠征や出撃、その他の仕事もあるだろう。むしろその貴重な合間の時間を削ってもらうのがなんだか忍びなくてな」

電「もう、司令官は遠慮さんなのです」

阿武隈「提督だって、ない時間削っていろいろやってるじゃないですか。悩みを聴いたり、困ったりしている人がいないか気を配ったり」

阿武隈「それと同じですよ。これはそんな提督への感謝の気持ちを返しているだけですから、気にしないでください」

提督「……むう。それは無下にはできないか」

電「もう、同じやり取りを何度もしているのです」

提督「あはは、電や阿武隈達の厚意に慣れて、こういう感謝の思いを忘れては提督失格だからな」

島風「提督、それ言ったら台無しー」

提督「ははっ、こいつは一本取られたな」

赤城(島風さんに突っ込ませるために、わざと言いましたよね)

阿武隈(ですねえ。ふふっ、提督ったら不器用なんだから)

赤城(そういうところが阿武隈さんにとっていいのでしょう?)

阿武隈(ふぇ!? も、もうさっきからからかなないでくださいよ)

赤城(ふふ、ごめんなさい)

島風「それで、提督。味はどう?」

提督「ああ、おいしいよ。すごいな島風。今まで料理してたのか?」

島風「ううん。でもちょっとずつ阿武隈さんに教わってたの」

提督「そうか。阿武隈、島風に教えてくれてありがとうな」

阿武隈「ううん。これも勉強だから。島風ちゃん覚えもいいし、一生懸命だからすごく楽させて貰っちゃった」

島風「阿武隈さん、すっごく教え方上手なんだよ!」

提督「それはすごいな」

島風「それに、島風が困っていたり、分からないことがすぐ分かっちゃうの」

赤城「さすが、阿武隈さんですね」

電「なのです」

阿武隈「し、島風ちゃん大げさだよ」

島風「阿武隈さんって、すごく温かくて、優しくて……もし島風にお姉ちゃんがいたら、阿武隈さんみたいな人がいいなって」

阿武隈「島風ちゃん……」

島風「えへへ、私何言ってるんだろうね。島風に姉妹はいないのに」

阿武隈「うーん。島風ちゃんのお姉ちゃんにはなれないけど……」

阿武隈「けど、その代わりくらいならできるかな」

島風「ホント!?」

阿武隈「そんなたいしたことはできないけど」

島風「ありがとう阿武隈さん!」

阿武隈「でも、あたしなんかでもいいの?」

島風「うん! 阿武隈おねーちゃん!」ぎゅっ!

阿武隈「えへへ、島風ちゃんは甘えん坊な妹だね」

島風「だってお姉ちゃんなんでしょ? だったらいいじゃない、妹が甘えたって」

島風「普段はお姉ちゃんなんて呼べないけど……たまに呼んでも良い?」

阿武隈「そうだね……たしかに訓練のときとかでそう呼ぶのはあまり良くないけど……」

阿武隈「なにもないときは良いよ。えへへ。あたし、末っ子なのに妹ができちゃった」

島風「ふふー、かわいい妹でしょ?」

赤城「かわいらしい姉妹ですね」

提督「そうだな。本当に」

電「島風ちゃんばかりずるいのですー! 電も阿武隈さんにお姉ちゃんになって欲しいのです!」

島風「電ちゃんはお姉ちゃんが三人もいるじゃない」

電「それはそうだけど……でも、阿武隈さんにもなって欲しいのです!」

阿武隈「ほらほら、けんかしちゃだめでしょ?」

島風「はーい、ごめんなさーい」

電「あ……えっと、ごめんなさいなのです」

阿武隈「じゃあ、電ちゃんも妹になる?」

電「良いのです?」

阿武隈「妹は一人しか駄目なんて、決まってないでしょ?」

電「ありがとうなのです! えっと……阿武隈お姉ちゃんっ」ぎゅっ!

阿武隈「ふふ、二人とも甘えん坊さんだなあ」

島風「にひひー」

電「なのです」

提督「阿武隈、人気者だな」

赤城「阿武隈さん、ついでに私の妹になりませんか?」

阿武隈「いいんですか?」

赤城「もちろんですよ」

阿武隈「赤城さんは、素敵なお姉さんになってくれそうですねぇ」

阿武隈「でも遠慮させてもらいますね。あたしには素敵な姉が五人もいますから」

赤城「あら残念。振られてしまいましたね」

提督「残念だったな」

島風「あ、提督! ご飯食べかけ! 冷めちゃうから早く食べて!」

電「はわわ!? 皆さんのお食事の邪魔をしてしまったのです!? ご、ごめんなさいなのです!」

提督「いいさ。別に気にしてないよ」

阿武隈「そうだよ。ほら、慌てないで食べてね」

電「はいなのです」

――深夜。五十鈴と阿武隈の部屋。

阿武隈「すー……すー」

?「……」ごぞごそ

?「……うらー」もぞもぞ

阿武隈「うん……てーとくぅ?」

響「……ごめん、提督じゃないんだ」

阿武隈「……響ちゃん、今の忘れて。お願いだから」

響「いいよ。私だって無理に押しかけてきたわけだし」

阿武隈「ありがとう……どうしたの? 夜中にお布団に潜り込んできて」

響「……ちょっと怖い夢を見たんだ。たいしたことはない」

阿武隈「たいしたことはないって……震えてるじゃない。もう、無理しないの」

響「無理なんて……してるかな」

阿武隈「ほら、もっとちゃんと入って。この季節でも何も掛けてないと、風邪引いちゃうから」

響「うん……」

阿武隈「いらっしゃい。響ちゃん、良く頑張ってここまで来たね。もう大丈夫だよ」

響「……ありがとう」

響「……阿武隈さんは、どこにも行かないかい?」

阿武隈「どうしたの? あたしはどこにも行ったりしないよ」

響「……暁や、雷。電も。私を置いてどこかに行ったりしないかな」

阿武隈「響ちゃん?」

響「……昔の夢を見たんだ」

響「暁が。雷が……電が、沈んだ夢」

響「暁は、私達を守って」

響「雷は、一人誰にも看取られることもなく」

響「そして電は……私の前で、私の代わりに沈んで……いった」

響「暁は……本当は私なんかよりとっても勇敢なんだ」

響「雷は……本当に寂しくて、辛かったに違いない」

響「電は……私のせいで……沈んだようなものだ」

響「私は……私は……」

響「それなのに、私は、ぼろぼろの潮から託された思いを……ほとんど遂げることもできずに」

響「……なに言ってるんだろうね。私は。今更、こんなことを嘆いたってなんにもならないのに」

阿武隈「響ちゃん……そんなことないよ」

響「……阿武隈さん?」

阿武隈「辛いことがあるなら、はき出しちゃった方が良いんだよ」

阿武隈「一人で奥に込めたって、辛いから。あたしで良ければ、聞かせて欲しいな」

阿武隈「響ちゃんの辛いこと、悲しいことを」

響「……寂しかった。少ない仲間とともに、ロシアへと渡され、私はВерный(ヴェールヌイ)と改名された」

響「けど……ほとんど一人のようなものだった。もう会えないと分かっていても、会いたかったんだ」

響「日本の駆逐艦、響として、みんなに」

響「それでも……それは叶わない夢だったんだ。だから、沈んだ皆の分まで、私は最後まで生き抜かないと」

響「負けて、与えられたВерныйという名前……だけど、これをどうして否定できる?」

響「これを否定したら……命を賭して戦って、沈んだ皆を否定することじゃないかっ……!」

響「だから、私は信頼の名に恥じない艦として最後の時まで、生き抜かなきゃならなかったんだ。後にВерныйという名前すら変えられた、その後も」

響「でないと、みんなに申し訳ないじゃないか。たとえロシアの艦となっても、残された日本の駆逐艦としての誇りを伝えないといけなかったんだっ」

響「標的艦として最後を迎えるとき……やっと皆と会えるって思ったよ」

響「けど……やっぱり私は弱いね。死にたくないって思ってしまった」

響「日本に戻って……皆に会いたいって……それが叶わなくても、せめて生まれ故郷を見たいって……」

響「……ありがとう。阿武隈さん。脈絡のない話をずっと聞いてくれて」

阿武隈「ううん。たいしたことはなにもしてあげられなくて、ごめんね」

響「ずっと抱きしめてくれて、ありがとう。ちょっと……いや、だいぶ楽になったかな」

阿武隈「ふふ。どういたしまして」

響「……だから、再び暁達や阿武隈さんに会えて嬉しかったんだ……とても」

阿武隈「あたしも響ちゃん達にまた一緒に過ごせて、とっても嬉しいな」

阿武隈「ありがとうね、響ちゃん」

響「こちらこそ。何度も言うけど、ありがとう」

響「けど……時々怖くなるんだ。こんな幸せな時間は、突然に終わってしまうんじゃないかって」

響「また、私を置いてみんながどこかに行ってしまうんじゃないかって……」

阿武隈「大丈夫だよ」

響「……そうかな」

阿武隈「あたしや、皆はそう簡単にどっかに行ったりしないんだから」

阿武隈「あたしはこう見えて、けっこうすごいんだから。響ちゃんや皆を守って、自分も無事に帰ってくることぐらい、ちゃんとできるよ」

阿武隈「だから、任せて任せてっ。ねっ?」

響「……阿武隈さん一人じゃちょっと頼りないかな」

阿武隈「むー」

響「だから、私もみんなを守るよ。今度は、沈ませたりしない」

響「いくら、阿武隈さんがすごくても、一人じゃできることは多くない」

阿武隈「それは……そうだね」

響「けど、皆となら大丈夫……かな」

阿武隈「うん、そうだね。皆がいるから大丈夫」

阿武隈「響ちゃん一人が抱え込まないで。響ちゃんが無理するとみんな心配しちゃう」

響「そうだね……大丈夫だよ。私は一人じゃない」

響「よく考えたら、阿武隈さんは司令官と幸せな家庭を築くのは決定してるから、なにも心配ないな」

阿武隈「ふえ!? なに言ってるの!? 決定なんてしてません!」

響「違うのか? たしか子供は四人欲しいって……」

阿武隈「うわー! 恥ずかしいこと思い出させないで!」

響「ごめんね、阿武隈さん。私には恋とか愛とかよく分からないんだ」

阿武隈「都合の良いときだけ分からない振りしないの!」

阿武隈「もー。でも、元気になってくれたようで良かった。話してくれて、ありがとう」

響「すぱしーば。もう大丈夫だよ。信頼の名は伊達じゃない」

阿武隈「ふふ。響ちゃん、眠くなったらいつでも寝て大丈夫だよ」

阿武隈「響ちゃんが眠れるまで、ちゃんと起きてるから」

響「そんな気を遣わなくても心配ないさ。阿武隈さんは温かいな」

阿武隈「ふえ? あたしそんなに体温高いかな?」

響「そういう意味じゃないんだけど……まあいいか」

阿武隈「また辛くなったらいつでも頼ってね」

響「そうさせてもらうよ。けど、本当に辛くなったらにしようかな」

響「そんな毎日来たりしたら、阿武隈さんや五十鈴さんに申し訳ないし、暁達も心配するからね」

阿武隈「そうかな?」

響「安眠妨害をするわけにはいかないしね。阿武隈さんはいつも忙しいから、ゆっくり休んで貰わないと」

阿武隈「えへへ、ありがとう」

――次の日の深夜。

?「……」ごそごそ

?「……」ごそごそ

白露「……いっちばーん」もぞもぞ

時雨「……にーばーん」もぞもぞ

阿武隈「……ううん?」

他の子が来ないとは、言っていない。

阿武隈「白露ちゃんに、時雨ちゃん?」

白露「お泊まり会に来ました!」

時雨「良い布団だね」

阿武隈「まあ、別に良いけど。だけど、事前に言って欲しかったなぁ」

白露「えへへ、ごめんなさーい」

時雨「……あれ? 僕達の他にも、だれかいるの?」

阿武隈「ふえ?」

?「……」もぞもぞ

神通「……え、えっと」

阿武隈「……神通、なにやってるの?」

神通「阿武隈ばかりずるい! 私だって駆逐の子達や阿武隈とお泊まり会して、お話したいのに!」

阿武隈「いきなりそんなこと言われてもぉ!?」

白露「神通さん、もしかして魔法少女同士で次回の打ち合わせ?」

阿武隈「魔法少女じゃありません!」

時雨「え、阿武隈さんだけの魔法で提督に笑顔を届けないの?」

阿武隈「その恥ずかしい言い回しやめてぇーっ!?」

神通「……少し楽しみだったのに。阿武隈と魔法少女やるの」ぼそっ

阿武隈「どうしたの、神通?」

神通「ううん、なんでもない」

白露「そうそう、如月から魔法の言葉を預かってきたよ」

阿武隈「魔法の言葉?」

白露「うん。阿武隈さんしか使えない魔法の言葉らしいよ」

白露「えっとねー。エプロン着てね。『ご飯にする? お風呂にする? それともあ・た・し?』だって」

阿武隈「……はい?」

白露「よく分からないけど、『提督を一撃で仕留める魔法の言葉』って言ってた。どういう意味だろ?」

時雨「提督の好物を用意して、はにかみながら明るく出迎えればなお良し、らしいよ」

時雨「ご飯と仕留めるのに、どういう関係があるんだろうね?」

阿武隈「な、な、な……なに言ってるの如月ちゃーん!?」

五十鈴「阿武隈っ! さっきからうるさいわよ! 今何時だと思ってるの!」

神通「きゃっ!?」

阿武隈「ご、ごめんなさーい!? ってなんであたしが怒られてるのーっ!?」

これで終わりです。
ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

※本作は下記の話の設定を引き継いでおりますが、読まなくても本作を理解するのに支障はないと思います。

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また次回がありましたら、よろしくお願いいたします。

コメント頂いた方、ありがとうございます。

>>79
なんですと!? もっと阿武隈さんのSSが増えて欲しいですね、私も見たい。

トリップ忘れ
>>81は私です、失礼しました。

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