【艦これ】阿武隈「耳かきしましょうか?」 (53)

・何番煎じか分からないネタ。
・独自設定あり。
・2015年に間に合わなかったので、SS内で大掃除してます。
・前置きなんていらないと言う方は>>25くらいまでジャンプ。


阿武隈「ふぇぇ~、忙しいぃ!」

電「なのですーっ!」

提督「大丈夫か?」

阿武隈「あ、提督! ほら!提督も手伝ってください、鎮守府のすす払い!」

阿武隈「はい、これ持って!」(箒渡し)

提督「みんなに任せてばかりでは申し訳ないな。私も掃除に参加させてもらうよ」

五十鈴「そんなこと言って、まともに戦力になるのかしら?」

提督「見くびってもらっては困るな。これでも下っ端の頃は、掃除上手と仲間内で評判だったぞ」

由良「へえ、提督さん凄いのね」

五十鈴「ふうん? ならお手並み拝見させてもらおうかしら」

提督「ああ、任せてもらおう」

阿武隈「はい、お願いしますね提督……あれ、白露ちゃん?」

白露「ひゃああああ! もう今年もこんなに押し迫って、いろいろやること溜まって……どうしよーっ!?」

時雨「姉さん、落ち着いて」

阿武隈「そうだよ、白露ちゃん」

白露「えっ!? は、はい」

阿武隈「まず心を落ち着けてね。やることをまとめて、一つ一つ順に片づけていくの」

阿武隈「そうすれば、大丈夫だから。ねっ?」

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白露「あ、阿武隈さん……えっと」

白露「ごめん、説得力ない」

五十鈴「全くよね」

提督「五十鈴の言う通りだな」

阿武隈「えええええっ!? みんな酷いーっ!? どうしてそんなこと言うのーっ!?」

由良「ほら、阿武隈ちゃん。落ち着いて、ね?」

時雨「提督、酷いじゃないか。阿武隈さんだって一生懸命なんだから」

提督「すまない……ついノリで」

阿武隈「もーっ! てーとく酷いです!」ぽかぽか

提督「すまんすまん、ちゃんと手伝うから、な?」

阿武隈「こうなったら徹底的にこき使ってやりますからね! 覚悟してください!」

提督「あはは、ほどほどにしてくれよ」

阿武隈「知りませんー」ぷいっ

提督「頑張るから機嫌直してくれって、ほら」

阿武隈「頭撫でないでくださいよーっ!? 前髪崩れちゃいますーっ!?」

提督「掃除してるんだから、既に崩れているんじゃないか?」

阿武隈「大丈夫ですちゃんとしてますー! なのにーもー!」

時雨「そう言っている割には嬉しそうだね、阿武隈さん」

五十鈴「全く、なにいちゃついてるのかしら」

由良「あらあら」

――数十分後。

電「阿武隈さん、こっちは終わったのです」

提督「いろいろとやるところが多いな。普段気にしなくても、掃除してみるといろいろと汚れているところが目に付く」

阿武隈「ありがとうございます……やっぱりそうですよね」

五十鈴「まだまだよ。あとこっちの廊下に、そこに続く部屋と――」

由良「うーん。ちょっと手が足りないかな……」

?「お困りかい?」

五十鈴「だれ!?」

響「誰かと聞かれれば、答えないわけにはいかないね」

暁「困った人に手を差し伸べるのは、レディーのたしなみ! 暁よ!」ばっ!

雷「心配ごとがあったら私に任せて! 雷様の参上よ!」ばっ!

響「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」ばっ!

電「ふぇ!? み、みんな!?」

暁「……」じー

雷「……」じー

響「……」じー

電(さ、三人とも電のことを見ているのです……!? ま、まさかこれは私もやるべきなの!?)

電「え、えっと……困っている人もできれば助けたい! 電なのです!」ばっ!

暁・響・雷「第一水雷戦隊! 第六駆逐隊参上!」

電「な、なのです!」

暁「司令官、阿武隈さん! 暁がいるじゃない! もう暁達の部屋の掃除は既に済んでいるんだから!」

響「というわけで、こっちを手伝うよ」

五十鈴「それはいいけど、さっきのはなんなの? 何がしたかったの?」

阿武隈「あ、うん。ありがとう、暁ちゃん、響ちゃん。雷ちゃん。電ちゃんもね」

五十鈴「スル―!?」

阿武隈「もう響ちゃんの破天荒には慣れてますから、はい」

響「心外だね」

由良「うふふ、阿武隈ちゃんも暁ちゃん達も頼もしいわね」

五十鈴「由良、マイペースね……」

?「おっと、第六駆逐隊ばかりに大きな顔はさせるわけにはいかんのう」

暁「その声は……!?」

初春「そなたらには少しばかり優雅さが足りん……初春、参上じゃ!」

子日「ひゃっほい! 子日だよ!」

初春「……うむ?」

阿武隈「どうしたの、初春ちゃん?」

初春「若葉と初霜は、どこに行ったのじゃ?」

五十鈴「二人なら、そこでちゃんと掃除してるわよ。あんたらと違って」

若葉「初霜。雑巾がけはちゃんと木目に沿ってやらないと駄目だ。そう、それでいい」

初霜「若葉、ありがとうございます」

若葉「礼などいらない。早くやらないと日が落ちるぞ」

由良「わ。若葉ちゃん達良い子ね」

初春「……困ったのう。四人揃わなければ、第二十一駆逐隊の華麗なるポーズが決まらないではないか」

阿武隈「ポーズは後で見てあげるから、今は真面目にやってね初春ちゃん」

初霜「初春さん。ポーズなら後で付き合いますから、今は掃除しましょう」

初春「む、むう……しかたないのぉ」

五十鈴「え? 付き合うの阿武隈、初霜?」

由良「第二十一駆逐隊のポーズか。楽しみね、五十鈴姉さん。初春ちゃん達、どんなポーズするのかしら」

五十鈴「アンタは楽しみなの……?」

由良「どうして? 姉さんは違うの?」

五十鈴「そこで自然に疑問抱かれても困るんだけど」

暁「さあ。暁達も頑張って掃除するんだから!」

雷「雷、司令官のためにお掃除しちゃうね!」

提督「よし、私達も負けていられないな」

阿武隈「そうですね。テキパキと片づけちゃいましょう、はい」

暁「初春、なかなか手際がいいわね! すごいわ!」キラキラ

初春「ふ、ふむ? そう言われると照れるの」

暁「別に謙遜(けんそん)しなくてもいいじゃない。暁は本当にすごいと思っているんだから」

初春「そういう暁も立派だとわらわは思うぞ? 普段からちゃんとお姉さんをしているではないか」

暁「そ、そうかしら? えへへ……って当然よ。暁は一人前のレディーなんだから」

暁「それより早くやりましょ。一番に片づけてやるんだから」




子日「子日、頑張って掃除するよー!」

雷「元気良いわね! 雷も負けてられないんだから!」

子日「負けないよー! 今日は何の日ー!?」

雷「決まっているじゃない! 大掃除の日ね!」

子日「正解ーっ! 雷ちゃんすごーい!」

雷「これくらい当り前じゃない! 大掃除の日なんだから、張り切って掃除するわよ!」

五十鈴「……残念ね。大掃除の日は12月13日、とっくに過ぎているのよ」

子日「ええっ!? そんなひどーいっ!?」

雷「なんでよ、別に今日だっていいじゃない!」

五十鈴「そう言われても。五十鈴じゃなくて、大掃除の日を決めた人に言いなさいよ」

若葉「若葉だ。頑張って掃除をするぞ」

響「響だよ。その清掃ぶりから掃除長の通り名もあるよ」

若葉「掃除長だと? ……若葉には、そんな通り名はない」

響「……ごめん、嘘ついた。そんな通り名、私にもない」

響「私はただの暁型二番艦、響さ」

若葉「初春型三番艦、若葉だ」

響「……響だよ」

若葉「若葉だ」

響「響だよ」

若葉「若葉だ」

響・若葉「……」がしっ!

若葉「響とは、前から気が合うと思っていたんだ」

響「ハラショー。私もだ」

阿武隈「今のやり取りのどこにシンパシーを感じたの!?」

提督「きっとあの子達にしか分からない、何かがあったんだろう……」

初霜「電さん! こちらは乾拭き終わったわ!」

電「なら次は水拭きを電がするのです! よいしょっと……」

初霜「水が濁ってきたわね。私が換えておきますね」

電「ありがとうなのです」

由良「二人ともお疲れ様。凄く手際が良いのね。助かっちゃった」

初霜「あ、由良さん。お疲れ様です」

電「初霜ちゃん、凄いのです」

初霜「そんな、電さんこそ。私はそれに助けられただけですよ」

電「そんなことないよ。初霜ちゃんの方が」

初霜「いえいえ、電さんの方が」

電「そんな――」

初霜「……ふふっ」

電「電達、おかしなことやっているのです」

初霜「本当ですね……さっ、早く片づけてゆっくりしましょ。今度こそ水を換えてきますね」

電「はい、電はその間にここを拭いておくのです」

由良「電ちゃんと初霜ちゃん、相性がいいじゃないかしら」

電「ふえ? そうでしょうか?」

由良「うん。いつも一緒に出撃とかしているじゃない。お互い優しいところとかあるし」

電「初霜ちゃんはそうだけど、電は優しくなんかないのです。でも……そうだと嬉しいな」

電「あの高いところは届かないのです……」

初霜「踏み台、持ってきましょうか?」

阿武隈「うーん、電ちゃん達じゃ届かないかも。あたしがやります」

龍驤「その心配はいらないで。ウチに任せてとき」

初霜「龍驤さん?」

蒼龍「空中戦は私達機動部隊にお任せ!」

大鳳「その通り。この大鳳、一年の汚れなんかに負けないわ!」

龍驤「よぉし、いくで! 空母機動艦隊、発進!」

電「龍驤さん達の艦載機が、モップを装備しているのです!?」

初霜「雑巾を持っている妖精さんもいるわ!?」

妖精さん(このていどのよごれ、わたしたちのてきではない)

妖精さん(せんざい? いらないねぇ。そんなのは)

阿武隈「……ふわー」

提督「何というか……いろいろと凄いな」

蒼龍「第一機動艦隊の栄光、揺るぎません!」

初霜「龍驤さん達、凄いです!」きらきら

阿武隈「うん……凄いには凄いけど」

提督「なんか違う気がするな……」

榛名「龍驤さん達、凄いです! 榛名感激です!」

霧島「榛名、私達も負けてられないわよ! さあ、霧島の計算に基づき最適化された掃除技術、お見せしましょう!」

鳥海「計算なら私も負けません! 行くわよー!」

ビスマルク「榛名、私も負けないわよ!」

榛名「ええ、榛名もビスマルクさんには負けません!」

麻耶「……なあ、阿武隈。鳥海達は一体何と戦っているんだ?」

阿武隈「え、えっと……ほこりとか、汚れじゃないでしょうか」

麻耶「それは、そんなに盛り上がるほどの相手なのか?」

阿武隈「掃除を通して、好敵手と戦っているんですよ、きっと」

榛名「汚れは! 榛名が! 許しません!」

ビスマルク「ドイツ流の清掃技術! 榛名に見せてあげるわ!」

霧島「そんな……! 鳥海さんの清掃能力が私の想定を超えている……?」

鳥海「艦隊の頭脳と呼ばれる霧島さんの想定を上回るのは、苦労しましたよ」

霧島「なら、奥の手を使うしかないようですね……!」

鳥海「……そんな!? まだ秘策を隠し持っていたというのですかっ!?」

霧島「鳥海さんを出し抜くには、奥の手の一つや二つは必要でしょう!」

麻耶「本当に鳥海達は、一体何と戦っているんだよ!?」

阿武隈「麻耶さーん。あんまり真剣に考えない方がいいですよ」

麻耶「なあ提督。前から思ってたんだけどよ。この鎮守府の奴ら、ちょっと……だいぶテンションおかしくねえか?」

提督「そうか? 賑やかでいいじゃないか」

時雨「麻耶さん。君もこの鎮守府の大切な仲間さ」

麻耶「そのセリフ、嫌味にしか聞こえねえよ!?」

白露「こればっかりは麻耶さんがいっちばーん!」

麻耶「どういう意味だ白露てめえーっ!?」

時雨「いっちばーん」(無改造白露が取っているポーズ)

白露「いっちばーん!」(同上)

白露・時雨(ぐっ)←お互い指を突き合わせる

麻耶「うぜえええっ!」

阿武隈「うわあぁ!? 麻耶さん落ち着いてください! 白露ちゃん、時雨ちゃんダメでしょ!?」

時雨「ごめんなさい」

白露「ごめんなさい」

阿武隈「もう、ちゃんと反省しなさい!」

麻耶「あー。もういいよ、阿武隈。アタシもちょっと大人げなかったしな」

時雨「つい姉さんとはしゃぎ過ぎちゃったよ」

白露「麻耶さんに遊んでほしかっただけなの……」

麻耶「えーと、あのな……その、また今度な?」

時雨「あ……うん」

白露「ホント!? やったぁ!」

時雨「ありがとう麻耶さん。さて、姉さん。掃除をちゃんと終わらせないと」

白露「そうだね、時雨! いっちばーん頑張って終わらせよう!」

タタタタタタ……

麻耶「まったく、元気な奴らだぜ」

阿武隈「良いじゃないですか。たしかに困らせられることも結構ありますけど」

阿武隈「それでもあれくらい元気良い方が、あたし的には良いと思います」

提督「そうだな。お陰で鎮守府も明るくなる」

麻耶「そーいうもんかねえ……」

阿武隈「さっ、あたし達も負けずに頑張りますよ、提督」

提督「ああ。早く片づけないとな」



霧島「そんな……まさか」

鳥海「奥の手を持っていたと言いましたね。霧島さん……なら、なぜ私も奥の手を持っていると思わなかったんですか?」

ビスマルク「やるわね榛名! それでこそ私のライバルよ!」

榛名「ビスマルクさんこそ! 榛名、感服しました! けど負けません!」

麻耶「……元気な奴らだぜ。本当に」

阿武隈「あ、あはは……」

初霜「でも楽しそうでなによりです」

電「四人とも掃除の手際はすごいのです、尊敬するのです」

麻耶「もう少し静かにできれば同意するけどな……」

麻耶→摩耶です! 大変失礼しました!



摩耶「もうちょっと他の奴らを見習って静かにできないもんか――」

長良「長良の足についてこれる!?」

島風「島風だって負けません! 速き事、島風の如しです!」

鬼怒「鬼怒も負けないよ!」

神通「油断しましたね。雑巾、次発装填済みです」

長良「遅いっ、全然遅い!」

摩耶「静かに掃除してるやつがいねえーっ!?」

阿武隈「長良お姉ちゃん!? 鬼怒お姉ちゃんに、神通と島風ちゃんもなにやっているの!?」

神通「え? なにって……掃除だけど?」

阿武隈「当たり前のように言われても」

島風「阿武隈さん、島風ちゃんと掃除頑張ってますよ! 褒めて褒めて!」

阿武隈「あ、うん。偉いよ、島風ちゃん。頑張っているね」

島風「えへへ、凄いでしょ!」

阿武隈「ところで……神通、なんでそんなに張り切っているの?」

神通「それは……」

朝潮「神通さんすごいです! ぬいぬい、私達も頑張りましょう!」

不知火「ええ、朝潮さん。けどぬいぬいと呼ばないでください」

朝潮「でもぬいぬいをそう呼ぶと喜ぶと、陽炎さんから教わりましたけど」

不知火「事実無根です、ですからぬいぬいはやめてください」

神通「ついみんなの前で張り切ってしまって……」

天津風「別に良いのに、そんな張り切らなくても」

阿武隈「そうだよ、神通。別に自然でいいじゃない」

神通「そ、そうですね。阿武隈の言う通り、ちょっと力が入り過ぎていたようです」

名取「……」じー

摩耶「あん? 名取、なにやっているんだ?」

名取「……じゃあ、私はこれで」

阿武隈「どうしたのお姉ちゃん!? なんで立ち去るの!?」

神通「名取さん、参加したかったのでしょうか?」

朝潮「それなら誘ってみましょう! ぬいぬい、一緒に行きましょう!」

不知火「そうですね。あとぬいぬいはやめてください」

阿武隈「うん……終わりましたっ! みんな、お疲れ様!」

提督「よく頑張ってくれた。これで新年を迎えられるな」

時雨「うん。ちゃんと綺麗にできて良かった」

白露「やっぱり白露が一番だよね! ねっ、阿武隈さん!」

阿武隈「そうだね。白露ちゃんも頑張ってくれたけど、他の皆も頑張ってたしね……」

白露「えー!?」

由良「ほらほら、白露ちゃん。自分の中で一番頑張って思えれば、それでいいじゃない」

阿武隈「それか……」ちらっ



霧島「鳥海さん……あなたの掃除、霧島のデータ以上だったわ。さすがですね」

鳥海「霧島さんこそ、私の想定以上だったわ。今後もお互いに研鑽(けんさん)していきたいですね」

霧島「それは私にとっても、渡りに船と言うものです。これからもよろしくお願いしますね」

ビスマルク「榛名、今回の勝負は預けて置くわ。けど、次に勝つのはこのビスマルクよ」

榛名「榛名も簡単には譲りませんよ。ビスマルクさん、また次回もよろしくお願いしますね」



阿武隈「あんなライバルを作って、お互いで頑張るとか?」

摩耶「なんなんだ……何であいつら好敵手みたいな関係築いているんだよ」

白露「……ちょっと遠慮したいなー」

時雨「姉さん、僕はどうかな?」

白露「うぇ!? 時雨なんで乗り気になっているの!?」

時雨「呉の雪風、佐世保の時雨、鹿屋の白露とか呼ばれてみたくないかい、姉さん?」

白露「意味分からないし!?」

時雨「いっちばーんになれるかもよ?」

白露「え、ホント?」

暁「いっちばーんに食い付いた!?」

初霜「ふふ。白露さんは、いっちばーん! に強い拘りを持っているのですね」

響(暁と初霜の『いっちばーん!』。凄く新鮮だ)

電「そういうのがあるのは良い事だと思うのです」

若葉「そうだな。偉いぞ」

響「いっちばーん」びしっ!

雷「……響? 何やっているの?」

響「雷もほら、いっちばーん。だ」

雷「何でよ?」

響「……いや、何でもない」

響(雷や他の皆がやっているところも見てみたかったけど。次回のお楽しみにしておこう)

子日「子日もいっちばーん!」

響「……! 子日、ありがとう」

子日「ふぇ? 良く分からないけど、どうしたしまして!」

阿武隈「さっ、みんな疲れたよね。飲み物とちょっとしたお菓子とか用意するから、ちょっと待ってて」

神通「阿武隈、私も手伝います」

電「電もなのです」

初霜「電さん、私も行くわ」

暁「暁もよ! 電ばかり働かせるわけにはいかないわ!」

島風「私も!」

五十鈴「こらこら、あんまり大勢で行っても意味ないでしょ」

島風「おう!?」

若葉「島風。十分に働いたんだから、おとなしく待ってていいんだ」

島風「……はーい。皆と一緒に準備したかったのに」

電「おいしいのです」

初霜「そうですね、阿武隈さん達はお菓子作りもできるんですね」

神通「作り置きのものだけど、気に入っていただけたなら良かったです」

朝潮「神通さん、ありがとうございます。ぬいぬいもおいしいですか?」
 
不知火「ですから、ぬいぬいはやめてくださいって言っているでしょう」

島風「えー。かわいいのに、ぬいぬい」

響「ぬいぬいか、いいな。悪くない」

時雨「僕もこれからはぬいぬいと呼ばせてもらうよ、ぬいぬい」

初春「ぬいぬい、なんぞ、めでたいのう」

榛名「ぬいぬいさん、かわいいです!」

白露「ぬっいぬーいっ!」

不知火「やめて」

阿武隈「ほらほら、あんまり不知火ちゃんが嫌がること強制しちゃ駄目でしょ」

不知火「ありがとうございます、阿武隈さん」

不知火「その、あだ名をつけられることは悪くないのですが……もう少し、かっこいいものがいいかと」

響「かっこいいあだ名?」キュピーン

時雨「それなら僕らに任せてもらおうかな」

白露「いっちばーんかっこいいあだ名、考えてあげる!」

不知火「やめて」

電「響ちゃん、あんまり悪乗りしちゃ駄目だよ」

響「心配いらないさ。真面目に考えるよ」

不知火(不安です……)

阿武隈「ふう……さて、明日はおせちをみんなと作って。それから――」

神通「阿武隈……大丈夫なの?」

阿武隈「え、なにが?」

五十鈴「アンタ、ちょっと根詰め過ぎじゃないの? 年末とお正月くらい休みなさいよ」

由良「そうそう。おせち作りくらい、阿武隈ちゃんがいなくても大丈夫よ」

阿武隈「でもそれを言うなら皆だってそうですよね。あたしだけ休むなんて、できないですよ」

神通「まったくもう。相変わらず真面目なんだから」

阿武隈「神通もあまり人のこと言えないと思うなあ」

五十鈴「たしかにねえ」

神通「五十鈴さんまで。私は平気です」

五十鈴「ふう。似たもの同士だわ、アンタ達」

提督「確かに阿武隈と神通にはちょっと頼りすぎて、負担が大きすぎるところがあったな」

神通「これくらいなんてことはありません」

阿武隈「提督、あたしも大丈夫です。それに最近、すごく調子良いんですから」

提督「いや。二人も含めて、特定の人達に負担がかかっているのは、私の配慮が足りないせいもあるんだ。遠征の一部は阿賀野や能代に多少任せても大丈夫だろう」

由良「うん、いいんじゃない?」

神通「そうですね……」

阿武隈「たしかに……阿賀野ちゃんも大分しっかりしてきたし、良いと思います」

五十鈴(能代はともかく、阿賀野がしっかり……?)

――回想。

能代「阿賀野姉ぇ、炬燵でゴロゴロしてたらダメだから! 太っちゃうからっ! ほらっ、立って立って!」

阿賀野「もう、なあに能代?」

能代「今日はいろいろと忙しいんだから、ほら!」

阿賀野「……何が忙しいの?」

能代「今日は大掃除よ、大掃除! ほら阿賀野姉ぇも手伝って!」

阿賀野「……大掃除? ……大掃除かぁ……大掃除は阿賀野、少しだけ苦手かなぁ」

阿賀野「……え、阿賀野もやるの? 嘘でしょう!?」

能代「嘘ついてどうするの! ほら、皆もうとっくに掃除しているわよ!」

阿賀野「えー。そんなことないよ。ほら」

球磨「大掃除も飽きたクマ。逃げるクマー」

多摩「みんなバタバタしているにゃ。隅っこで寝るにゃ……」

能代「……よ、他所はどうでもいいの! ほら立って!」

阿賀野「能代おーぼー! 阿賀野は絶対、炬燵から出ないからねーっ!」

能代「あーがーのねーえー!」

……ずるずる。

阿賀野「いーやー!」

阿武隈「能代ちゃん相変わらず苦労しているね……」

神通「そ、そうね」

五十鈴「……頭痛いわ」

――回想終了。

五十鈴「提督、阿武隈。本当にそれでいいの?」

阿武隈「た、多分……うん、やればちゃんとできる子、だと思うから」

ビスマルク「そうね。時には他の人を頼ることも必要よ」

初春「にしても、しっかり掃除できてよかったのう。これで安心じゃ」

子日「うん、安心安心~」

若葉「こら、あまりじゃれつくな。……うん? 子日、おまえ耳の中汚れているぞ。ちゃんと掃除しているのか」

子日「えー。耳掃除、嫌い!」

若葉「仕方のない奴だ。若葉がしてやる」

子日「いやいやー! 怖い!」

初霜「若葉、どうしましょう?」

若葉「優しくやる、大丈夫だ」

子日「阿武隈さんにやってもらう! だって阿武隈さん上手だもん!」

阿武隈「ふえ?」

子日「ねっ、お願い! 自分でやるの怖いし、若葉ちゃん雑なんだもん!」

若葉「……ざ、雑だと? ……ショックだ」

電「わ、若葉ちゃんドンマイなのです」

初霜「そうです。気を取り直してくださいね」

子日「阿武隈さんにやってもらうと、気持ちいいんだもん、ねっ?」

阿武隈「別に子日ちゃんの耳掃除をやるのはいいけど……自分でやれるようにしないと駄目だよ?」

子日「えー。だって自分でやるの怖い……」

阿武隈「あたしが教えてあげるから、ね?」

子日「うー……分かった」

阿武隈「うん、いきなり出来なくてもいいからさ。頑張ろう?」

子日「うん。子日、頑張ってみる」

若葉「むう……若葉のなにが不満なんだ」

阿武隈「……若葉ちゃんも、良ければ教えようか?」

暁「……」じー

響「暁、耳掃除してもらいたいのかい?」

暁「え!? そ、そんなわけないじゃない! 暁は阿武隈さんや熊野さんみたいな、立派なレディーを目指しているんだから!」

暁「人に耳かきをやってもらいたいなんて、子供じゃあるまいし!」

雷「素直じゃないわね、暁。ほら、雷がやってもいいのよ」

時雨「違うよ、雷。暁は阿武隈さんにやってもらいたいのさ」

雷「え、そうなの?」

暁「だから違うってば! 暁はもう大人なんだから!」

神通「……」じー

朝潮「神通さん、朝潮の耳をじっと見てどうしたのですか?」

神通「……朝潮さん。耳の中、綺麗ですね」

朝潮「……はい? しっかり掃除はしてますから」

神通「……残念です」

朝潮「は、はあ……?」

神通「……」じっ

不知火「あの……神通さん、何故不知火の耳を見ようとするのですか?」

五十鈴「神通……まさか、誰かの耳掃除をしたいの?」

由良「あらあら」

提督「耳掃除か……そう言えば長い事した記憶がないな」

五十鈴「うわ……提督、自己管理できてないんじゃないの? 上に立つ者としてどうなのよ?」

提督「それを言われると辛いな」

五十鈴「丁度良いわ。五十鈴が提督としてあるべき姿を、一度じっくりと教授してあげる」

ビスマルク「五十鈴、私も付き合うわ。私も艦隊の規律について、一度議論したいと思っていたのよ」

霧島「ふむ。ならば霧島も今後の戦略について、是非一度提督と語り合いたいと思っていました」

鳥海「私も、提督さんや霧島さんとなら、有意義な討論が出来そうです」

初霜「あ、私も護衛任務のあるべき姿について是非」

電「あ、あの……電も秘書艦の仕事について、一度司令官と語りたいのです!」

若葉「キスカにはいつ行くんだ」

提督「いやいやいや、ちょっと待て」

由良「うふふ、阿武隈ちゃんが向ける感情とは違うけど、提督さんもちゃんと信頼されているのね」

阿武隈「ふえ? どういう意味?」

由良「まあ、今更提督さんと阿武隈ちゃんの間に割って入ろうとする人なんていないと思うから、大丈夫だと思うけど」

由良「それに、二人ともお互いに夢中だものね」

阿武隈「え!? えっと、あのその……」

阿武隈「あ、あたしは……た、たしかにそうだけど……てーとくがそう思ってくれているかは、えっと……」

由良「あら? 告白してもらって、ケッコンカッコカリまでしたのに、自信ないの?」

阿武隈「そ、そういうわけじゃないんだけど……未だにあたしでいいのかなって」

五十鈴「なにを言うかと思えば……提督に夢中な人なんてアンタ以外にいないわよ」

阿武隈「それはそれでどうかと思うんだけど」

五十鈴「じゃあ他に提督が好きな人が出てきてもいいの?」

阿武隈「困りますっ!」

五十鈴「難儀な子ね」

由良「五十鈴姉さん、あんまり阿武隈ちゃんを困らせたら駄目よ」

五十鈴「由良は阿武隈に甘いわねえ」

由良「大丈夫よ、阿武隈ちゃん。提督さんは阿武隈ちゃんのこと、すごく思っているんだから」

由良「さっき貴方も言ってたけど、最近調子良いんでしょ? それが証拠よ」

阿武隈「ふえ? どういうこと?」

由良「聞いたことない? 提督と強い絆を持つ艦娘は、時に素晴らしい力を発揮することがあるって」

阿武隈「え? うーん、ケッコンカッコカリをしたら、能力が上がるみたいなことはちらっと聞いたことはあるけど……」

阿武隈「けど指輪はめたら、力が湧き出てくるー、みたいなことはなかったよ?」

由良「もしそうなら、片っ端から指輪渡せばいいってことになるじゃないの。倫理的な問題はさて置き、お手軽過ぎる戦力向上になるわね」

阿武隈「み、身も蓋もないけどたしかに……それはそうと、つまりどういうこと?」

由良「つまり、指輪はあくまでただの指輪、だと思うの。そこに込められた意味や想いは別にしてね」

由良「じゃあ、なぜケッコンカッコカリをした艦娘の一部が、今の阿武隈ちゃんのように、通常以上の能力を発揮するのか?」

由良「それが、提督さんとの絆じゃないかしら……と由良は思うの」

阿武隈「……なるほど。ちょっとファンタジー過ぎる気がするけど」

由良「あくまで一部の人の予想に過ぎないものよ。けど、そもそも私達自身が過去の艦の想いの形なんだもの。そういうこともありえるんじゃないかしら」

阿武隈「そっか……ん? え、えっとつまり……」

由良「最近元気な阿武隈ちゃん、愛されているわね。ふふっ、そこまで思われているのって、羨ましいわ」

阿武隈「あ、あのねえ……」

由良「顔真っ赤にしちゃって。かわいい」

阿武隈「もー! からかわないで!」

阿武隈(……でも、うん。提督は確かにあたし達を色々と支えてくれてる)

阿武隈(あたしが一水戦として自信が持てるようになったのも、提督のお陰だもの)

阿武隈(それに、お姉ちゃん達や、榛名さんや蒼龍さん、神通……あたしは頼りにできる人が沢山いる)

阿武隈(電ちゃん達にも助けてもらっているし……時折困らされることもあるけど、でもいざという時は本当に頼りになるんだから)

阿武隈(けど……提督はどうなんだろう? 皆には頼れる上官としていてくれているけど、提督が頼れる人って……?)

阿武隈(もし、自惚れじゃなければ……ううん。あたしは、そうなりたいんだ)

子日「ねー、阿武隈さんどうしたの?」

阿武隈「ううん、なんでもないよ。心配してくれてありがとうね」

子日「うん! どういたしまして!」

阿武隈「提督、ちょっといいですか?」

提督「うん、なんだい?」

阿武隈「後で、ちょっとお時間くれますか?」

提督「……? ああ、構わないよ」



響「闇夜に光る鷹とかどうだい?」

暁「エレガントレディーとかどうかな?」

初春「優雅に舞う桜はどうかのう?」

霧島「艦隊の精密機械はどうかと」

不知火「それはあだ名ではなく、二つ名ではないですか? しかもそのセンスはどうかと思います」

神通「……不知火さんも綺麗」しょんぼり

不知火「神通さん、人の耳を見て落ち込まないでください」

神通「……阿武隈ばかりずるいです」ぷくー

阿武隈「えー? 良く分からないけど、すねないでよ」

ビスマルク(神通もお姉ちゃんらしいこと、したかったのかしらね)

――その日の夜。


阿武隈「提督、阿武隈来ました。入ってもいいですか?」

提督「ああ、阿武隈。どうぞ」

阿武隈「はい、失礼しますね」

提督「どうしたんだい。なにかあったか?」

阿武隈「いえ、その……大したことじゃないんですけど」

阿武隈「ただ、会いたいなって。ダメ、ですか?」

提督「ダメなわけないだろ。そう言ってくれると、私も嬉しい」

阿武隈「あ……はいっ」

提督「紅茶でいいかな?」

阿武隈「あ、やりますやります」

提督「はは、いつものように一緒に淹れるか」

阿武隈「はいっ」

提督「阿武隈、今日はお疲れ様」

阿武隈「え? いいですよ、別に。皆も一生懸命やってくれましたし、あたしだけお礼言われてもなんだか照れくさいです」

提督「本当に遠慮する子だな。もうちょっと自分を出してもいいんだぞ」

阿武隈「んー? あたし、十分に出してますよ。それに……えいっ」

阿武隈「てーとくとこうしているだけで、あたしにとってはご褒美です」

提督「私なんかと、座りながら腕を組むのがご褒美なのか? それくらいなら、お安い御用だぞ」

提督「というか……これは私にとっても嬉しいことだから、なんというか……ご褒美になっているのか」

阿武隈「い、良いじゃないですか。提督もあたしも嬉しいんですから、イーブンです。えへへ……」

提督「はは、そうか……でも、それだけじゃな。そうだ、阿武隈、元旦は大丈夫か?」

阿武隈「はい。もしかして、初詣ですか?」

提督「ああ。阿武隈さえよければ一緒に行きたい」

阿武隈「はい。是非とも」

提督「よし。楽しみにしているよ」

阿武隈「あたしも、楽しみにしてます」

阿武隈「ところで、提督? 提督の部屋も、きちんと掃除したんですね」

提督「数日前に片づけたよ。自分の部屋の掃除につきっきりで、鎮守府の大掃除の監督ができなかったらまずいからな」

提督「幸い物が少ないからな。手間はかからなかったよ」

阿武隈「そうですか。良ければ手伝おうかなって、思ったんですけど」

提督「こらこら、そんなところまで阿武隈の世話になってたまるか。ただでさえ忙しいのに、これ以上忙しくしてどうする」

阿武隈「大げさですってば。あたしは提督の方が心配です」

提督「大丈夫だ。近くに大きな作戦もないし、予定もしばらく空いている。ゆっくりとするよ」

阿武隈「そうかもしれませんけど……」

阿武隈(提督、いつもあたし達の事を精一杯サポートしようとしているじゃないですか……)

阿武隈(ついさっきも五十鈴お姉ちゃんが、自己管理が疎かになっているぞーって、怒られたのに……)

阿武隈「あ。そう言えば……提督、ちょっと良いですか?」

提督「どうした?」

阿武隈「やっぱり……提督。やっぱり、ご褒美貰ってもいいですか?」

提督「うん? 別に構わないぞ? ご飯か? それともショッピング? なんでも言ってくれ」

阿武隈「今から、しばらくあたしの言うこと聞いてください」

提督「……はい?」

阿武隈「えへへ、じゃあまずは……」

提督「おーい? 阿武隈さん?」

阿武隈「さあさあ、提督。そこに横になって楽にしてくださいね」

提督「いやいや、ちょっと待ってくれ」

阿武隈「なんですか、男に二言は情けないですよ」

提督「その前に訊かせてくれ」

阿武隈「なんですか?」

提督「……なんで、私は阿武隈に耳掃除をされようとしている状況になっているんだ」

阿武隈「それは提督の耳の掃除が済んでいないからです。今年の汚れは来年に持ち越したら駄目じゃないですか」

提督「そうか……うん? いやいや、阿武隈がご褒美もらうって話からなんでこうなる?」

阿武隈「提督があたしの言うこと聞いてくれるって言ったからです。で、あたしは提督に、おとなしく耳かきをされるようにって言いました」

提督「どうしてそうなった」

阿武隈「まあ、本来は耳掃除ってそこまでやる必要はないんですけど」

阿武隈「さすがに、提督はちょっと溜まり過ぎです。聞こえにくくなったら、いけないですから」

提督「それはもっともだが、別に阿武隈にやってもらう必要は……」

阿武隈「どーせ、後回しにするでしょ提督は。ほらほら、あたしに任せて任せて」

提督「いやいや、ちゃんとやるって」

阿武隈(まあ、たしかにちゃんとするとは思うけど。でも、せっかくなのでここは押し切ります)

阿武隈「なにがそんなに不満なんですか……あ、もしかして、膝枕されながらやって欲しかったんですか?」

提督「っ!? ごほっ、ごほっ! そ、そんなわけ……!」

阿武隈「だって提督、耳かきするって言ったとき、あ、あたしの太もも、ちらっと見ましたよね?」じー

提督「誤解だ誤解!」

提督(図星だけど……! 女の子の洞察力は恐ろしい……!)

阿武隈「でも、すみません。膝枕しながら耳掃除すると、鼓膜の上に耳あかや汚れが落ちたりして、あまり良くないんです」

提督「そうなのか……いや誤解だから。落胆してないからな」

阿武隈「あたしとしては、提督の期待に応えたかったんですけど」

提督「阿武隈さん、信じてないよね?」

阿武隈「嫌ですね、てーとくのことは信頼してますよ」

提督「どういう意味の信頼か訊きたい」

阿武隈「いろんな意味でです」

提督「おいこら」

阿武隈「それじゃあ、失礼しますね。力抜いて、楽にしていてください」

提督「あ、ああ……っ」

提督(阿武隈の顔が私のすぐ近くに……な、なにを戸惑っている。さっきだってすぐ近くに居ただろう)

提督(し、しかしこう無防備に寝ているところに近づかれると、また違う感覚が……)

提督(そもそも、好きな子に掃除していない耳を見られるとか、どんな辱めだ……!)

阿武隈「どうしましたか?」

提督「い、いや。そのな。阿武隈は嫌じゃないか? 他人の汚れた耳の掃除なんて」

阿武隈「そんなの気にしないでください。結構他の子の掃除とかやって、慣れているんです」

提督「そうなのか? そう言えば、子日も阿武隈にやってもらうとか言ってたな」

阿武隈「最初の内はちょっと戸惑いましたけど、お陰様で慣れました」

阿武隈「ですから、任せて下さい。それに、提督になにかしてあげたいなって思ってたんです」

提督「いや、阿武隈には十分すぎるほど助けられているんだが」

阿武隈「もう、そういうことじゃないですよ……個人的に、提督になにかしてあげたいなってことです」スッ

提督(……っ! 阿武隈の手が頬に触れて……)

阿武隈「じゃあ、耳、ちょっと引っ張りますね。優しくしますから」

提督(阿武隈の柔らかな人差し指と中指で、耳を優しく挟まれ、耳たぶを親指で支えられる。それだけなのに、少し気持ちいい……)

阿武隈「あ、思ったよりきれいですね」

提督「そうか? ずっと放っておいたから、かなり汚れていると思ったが」

阿武隈「ある程度、あかは自動的に外に排出されるみたいですからね。思ったよりは、ですから結構汚れてはいますけど」

提督「知らなかったな……」

阿武隈「ですから、頻繁に掃除するのはあまり良くないんですよ。耳を傷つけちゃいますし、少しぐらい耳あかがたまっていても問題ありませんから」

阿武隈「むしろ、耳あかには殺菌作用もありますから。取り過ぎは良くないんです」

阿武隈「まあ、溜め過ぎで耳が聞こえにくくなってもいけませんから、まったくやらないのもまずいかもしれませんけどね」

提督「詳しいな」

阿武隈「他の子の耳掃除をするのに、間違った知識でやったらいけないじゃないですか。なにかあったらいけないですから」

提督「律儀だな……」

阿武隈「いけませんか?」

提督「いや、阿武隈は優しいな。良いと思うよ」

阿武隈「ふえ? あ、ありがとうございます。それじゃ、始めますね」スッ

提督「……っ」

阿武隈「怖がらないでくださいね……いきなりは入れませんから」スー

提督(耳かきを耳の中に入れない? 耳たぶを耳かきで軽く刺激してくる……)

阿武隈「どうですか?」

提督「ああ、大丈夫だ……」

提督(耳たぶの部分を軽く刺激しながら動かしていく……耳を刺激されているだけなのに、頭の方に心地よさが伝わってくる)

阿武隈「急に耳の穴の中に入れると、怖がっちゃう子もいるんです。だからこうして慣らしてあげるんですよ」

提督「そうか……」

提督(耳の刺激でお腹の方がゴロゴロと……そう言えば、耳にはいろんなところのツボがあるって聞いたことがある……)

阿武隈「じゃあ、耳の外側に行きますね」

提督(……? 耳の外側――耳介(じかい)を耳かきでそっとなぞっていく)

提督(優しく、丁寧な手つきだな……気持ちよくて、安心する)

阿武隈「ゆっくりと、なぞる様に……」

提督(阿武隈の柔らかい声が耳のすぐ近くで……なんだろう、ぞくぞくとするのに、安心感に包まれるというか)

提督(耳掃除だけど、耳をマッサージされている気分だ)

阿武隈「かゆいところとか、ないですか?」

提督「ああ、特にないよ……」

阿武隈「ふふ、分かりました。じゃあ、溝のところをやっていきますね」

阿武隈「この辺りは、少し汗とかでかゆくなったり、汚れがたまっていたりするんですよ。ちょっと丁寧にやりますね」

提督(さっきと違う感覚……さっきのが若干外に広がる心地良さなら、今のは先ほどより内側に響くというか)

提督(先ほどと同じように優しく撫でられているのに、場所が少し変わっただけで違うものなのか……)

阿武隈「はい、オッケーです。じゃあ、入り口の方やっていきます」

提督「分かった、頼むよ」

阿武隈「ええ、任せてくださいね」

提督(耳の入り口付近をそっと撫でるように耳かきが這っていく……)

阿武隈「最初は入り口付近の汚れを取っていきますね。結構汚れてますから」

阿武隈「すっーと、回転させますね」

提督(優しく耳の中に入るか、入らないかのところを、耳かき棒を静かに回転されていく)

阿武隈「落とさないように、そーっと……」

阿武隈「むむ、結構ありますね。ちょっと時間かかりますけど、大丈夫ですか?」

提督「あまり頑張らなくてもいいよ?」

阿武隈「大丈夫です、あたしが自分でやっているんですから。提督は遠慮しないでください」

提督「ああ……ありがとう」

提督(再び入り口付近を撫でるように、耳かきが回転していく……)

阿武隈「よいしょっと。うん、だいぶ綺麗になりました」

提督(入口付近を掃除されただけだが、なんだかすっきりしたような気がする。解放感というか、耳に通り道ができたというべきか)

阿武隈「じゃあ、さっき軽く撫でるだけじゃ取れなかった、中にひっついているのを取ります」

阿武隈「提督、動かないようにしてくださいね」

提督「分かっている」

阿武隈「大丈夫です、あまり無理はしないですし、痛かったりはしないですから」

提督「いや。今まで掃除しなかったのは、痛いのが怖いわけじゃないんだが」

阿武隈「ふふ、分かってますよ」

提督「本当か?」

阿武隈「もう、提督ってば意地っ張りなんですから。ちゃんと理解してますってば」

阿武隈「ほら、そんなことより楽にしてください」ナデナデ

提督「なぜ頭を撫でる」

阿武隈「提督がなんとなくかわいかったからです」

提督「むう……」

提督(掃除のときに頭をわしゃわしゃとした仕返しか……だけど、阿武隈に撫でられる感触も心地いいな。どこか悔しいが)

提督(それに。最近よく見せてくれるようになった、暖かい笑顔……安心させるように掛けられる声……意識しなくても自然と力が抜ける)

阿武隈「じゃあ、続けますね」

提督(耳の穴の入り口にちょっと入ったところを、さっきより少し力を入れて……それでも優しく丁寧な手つきで掻いていく)

提督(さっき言ってたように、中に引っ付いたのを取ろうとしているのだろう。先ほどとは違って、同じところを耳かきが往復している)

提督(けど、耳の中を傷つけないように、丁寧で優しい……痛くなんかないし、強すぎたり、怖さを感じることもちっともない……)

提督(同じところをずっと丁寧に刺激されるのも……癖になりそうだ)

阿武隈「もうちょっと……」

提督(阿武隈の真剣な、だけど穏やかな声と表情。注意を払いながらも、耳の中を掃除されている人を不安にさせないようにしているのだろうか……?)

提督「本当に……手慣れているな」

阿武隈「ええ、まあ。前は電ちゃんや暁ちゃんにも、やってあげてましたから。最近は自分でやるようになっちゃいましたけど」

提督「暁達もか……どうだった?」

阿武隈「はい、ちゃんと良い子でおとなしくしてました」

阿武隈「提督、眠いんですか?」

提督「いや……」

阿武隈「えへへ、電ちゃん達も提督と同じように途中で気持ち良くなったのか、眠たそうにしてました」

阿武隈「……別に寝てても良いですよ?」

提督「阿武隈にここまでやってもらって、私が眠るわけにはいかないだろ」

阿武隈「気にしないで。今はゆっくりとしてください」

提督「……そうか」

提督(耳元でささやかれる声に安心してしまう……けど、眠ってしまうのはもったいない気もする)

阿武隈「よいしょっと」

提督(耳の中で、かすかに感じるぺりぺりと何かがはがれる感触が……さっきとまた違う解放感だ)

阿武隈「はい、取れました」

阿武隈「後は……元のところを綺麗に」

阿武隈「ついでに……耳の入り口の骨のところも少しだけありますね」

提督(耳の入り口の上の部分を、軽く撫でられる感覚もぞくりとする……耳って思った以上に、いろんな神経があるんだな)

阿武隈「ふふ、オッケーです。後はもうちょっと深いところですね」

阿武隈「大体、耳の中の1cmから1.5cmくらいのところまでやります」

阿武隈「それ以上は、危険ですからね。特に鼓膜付近は。さっきも言った通り、奥の耳あかは自然と手前に押し出されますから」

提督「良いよ。今までの手際から、もう阿武隈を全面的に信頼している。悪いが任せるよ」

阿武隈「ええ、任されましたっ」

阿武隈「じゃあ、ゆっくり行きますね」

提督「……ん」

阿武隈「やっぱり奥の方はちょっと怖いですか? ……大丈夫です。軽く掃除するだけですから」

提督(……本当に優しい手つきだな。だが、恐る恐るとも違う。丁寧ながらも慣れた手つきだ)

提督(今まで外側から入り口と掃除されてきて、気持ちよかったが……もどかしい思いも自分のどこかにあったのか……)

提督(奥の方をそっとこりこりとされるだけで、びくっとしてしまう)

提督(耳の内側を山を書く様にジグザグと、耳かきがなぞっていく……)

阿武隈「ふふ、結構取れました……はい」

阿武隈「続けますね、痛かったり、気になることはありますか? 遠慮なく言ってくださいね」

提督「ああ、大丈夫だ」

提督(……少し動きが変わったか? 今度は円を書く様になった)

提督(息を止めるように、丁寧な手つきで耳をかいていく……)

阿武隈「ここ、ありますね……ちょっとここ集中的にやりますから」

提督「頼む……」

提督(耳の中……入り口付近より奥の方を、カリカリと耳かきが走る)

提督(集中しているみたいだな……真剣な表情の阿武隈もきれいだ)

阿武隈「ん……大丈夫ですか?」

提督「問題ないよ。気にしないでくれ」

提督(……私が阿武隈を意識して、緊張したことに気づいた?)

提督(耳かきしている最中も、されている人が痛かったり、怖くなったりしないか確認しているのか……?)

阿武隈「もう少しで取れそうですから、大丈夫そうならちょっとだけ続けますね」

提督「了解だ」

阿武隈「はい……よし、取れそうです」

提督(奥の異物が取り払われる感触……なんだかすっきりする)

阿武隈「はい、取れました……あとは軽く掃除しますね」

阿武隈「全部は取ってないですけど、先ほども言った通り完全に綺麗にしようとするのは、却って良くないですから」

提督「ああ……」

阿武隈「梵天で、軽く払っていきますね」

提督(柔らかい毛の感触が、耳をなぞっていく……こそばゆくて、気持ちいい……)

提督(なんだろう……いつもの阿武隈と違うというか、すごく……包容力を感じて……落ち着くのに、胸が高鳴る)

阿武隈「最後に……ふー」

提督「ひゃう!?」

阿武隈「ふえ……? 提督、今変な声出してましたよ」

提督「そ、それは阿武隈がいきなり息を吹きかけてくるからだろ」

阿武隈「あ、ごめんなさい。嫌でした?」

提督「気持ちよかった。ぞくってした」

阿武隈「ふえ!? へ、変なこと言わないでくださいよーっ! てーとくのバカ、変態ーっ!」

提督(しまった、ついうっかり……けど、やっぱりいつもの阿武隈だ)

提督(いや、あれも阿武隈の一面なのだろう。今まで見ることができなかった一面なのか)

阿武隈「もう……ほら、バカなこと言ってないで、続けますよ」

提督「え? もうあれで終わりじゃないのか?」

阿武隈「なに言っているんですか。反対側やらないと駄目ですよ」

提督「……おう。我ながら寝ぼけてたようだ」

阿武隈「そんなに気持ちよかったんですか?」

提督「そうだな」

阿武隈「ふぇ? あ、あの……そこで素直に返されるとは思ってませんでした」

提督「いやいや、素直にありがたかったよ。ならお礼を言わないのはダメだろう」

阿武隈「は、恥ずかしいですけど……けど、なら良かったです」

阿武隈「さっ、反対側やりますから、もう一度横になってください」

提督「すまないな」

阿武隈「言いっこなしですよ、おじいさん」

提督「だれがおじいさんか」

提督(ここでおばあさんとは言わない)

阿武隈「じゃあ、始めますね」

提督(先ほどと同じように、耳の外側から始めていく……右と左の違いだが、また新鮮な感覚だ)

提督「ありがとうな阿武隈」

阿武隈「んー? なにがですか?」

提督「こんな耳掃除までさせて。阿武隈は嫌じゃないとは言っていたけど、やっぱり悪い気がしてな」

阿武隈「ですから、良いんですって」

提督「やっぱり、後でなにかお返しをしてあげないとな……ここまでしてもらってなにをすればいいか、分からないが」

阿武隈「なんでもいいですよ、本当に……でも、今までこういうことしてもらったことないんですか?」

提督「ないな……良くも悪くも、勉強と訓練漬けだった。小さい時に母親にしてもらったことはあるのかもしれないが、記憶にはない」

提督「それが間違いとは思っていないし、後悔もないが……他人から見て、面白みに欠けた半生だとは思うことはある」

提督「だが、それも悪くない。お陰で、この鎮守府に着任して。大切な役目につき、多くの良き仲間を得た」

提督「そして、阿武隈と会えたんだ。なによりの幸運だ」

阿武隈「あ……ありがとうございます、提督。あたしも、良かったです」

阿武隈「お陰で、今こうして提督を独り占めできるんですから……なんて。欲張りですね、あたし」

提督「じゃあ私も欲張りだな。阿武隈と恋人になる前に、蒼龍にもたもたして、阿武隈が他の人と付き合ったらどうするんだー! と言われたことがあるが……」

提督「想像しただけで、嫉妬したよ。まったく情けない」

阿武隈「そ、そうなんですか……えへへ」

提督「なぜ嬉しそうな顔をする。そこは喜ぶとこなのか?」

阿武隈「いえ? ただ、そこまで好きで居てくれるなんて、嬉しいなって」

提督「恥ずかしいから、あまり追及しないでくれ」

阿武隈「はーい。ふふっ」

提督(とりとめのない会話をしながら、阿武隈の耳掃除は続いていく)

提督(相変わらず、良い手際だ。耳の中をかかれている怖さが、相変わらず存在しない……気持ちいい)

阿武隈「提督、さっきお返しって言ってましたけど、本当に良いんですよ」

提督「なんで……だ?」

阿武隈「提督には普段からお世話になってますし。あたしが、着任してすぐの、おどおどしてた頃、いつも提督は励ましてくれたじゃないですか」

阿武隈「昔から、今でもずっと……あたしだけじゃなくて、電ちゃんや他の皆も提督には感謝しているんですから」

提督「なにを言うかと思えば……それが私の役割だし、やって当たり前のことだ。阿武隈が気に病む必要なんて何もない」

阿武隈「それが提督の役目でも、感謝していることには変わりありません」

阿武隈「今でも、いつも頑張ってお仕事してたり、あたし達のことを常に気にかけてくれていること、分かっているんですから」

阿武隈「いつも、毅然(きぜん)として執務に務めていることも」

阿武隈「でも、提督は少し無理し過ぎですよ。もっとあたし達を頼ってください」

提督「そうそう……頼るわけにもいかないだろう」

阿武隈「どうしてです……? あたし達は、頼りになりませんか?」

提督「そうじゃない。そんなこと、あるわけないだろう」

提督「私は、阿武隈達の上官だ……部下が安心して軍務を遂行したり、日々を過ごせるように努力する必要がある」

提督「部下に頼り切りな上官が、部下に安心感を与えられるわけないだろう……」

提督「私は、常に毅然として、いかなる時も慌てたり、取り乱したりすることがないように努めなければならない……少なくても表向きは」

提督「とは言っても……こんな格好で言っても説得力はまるでないな」

阿武隈「良いんですよ、提督」

提督「……阿武隈?」

阿武隈「たしかに、提督はそうして頑張らないといけない時や、状況もあるかもしれません」

阿武隈「けど、提督が優しいことも皆、分かってます。元来、あまり戦いに向かない、温和な性格だと言うことも」

阿武隈「仕事中はピシッとしないといけないかもしれませんけど。普段はもっと素を見せてくれて良いんです」

阿武隈「そういうところも含めて、提督のことを皆信頼してくれているんですから」

提督「無理をしていたつもりはないんだが……」

提督「いや、だが。私が不手際をすることで、戦いの中で阿武隈達にもしものことがあったらと思うと、やはり――」

阿武隈「心配しないでください。阿武隈は、そう簡単にいなくなったりしません。もちろん、他の人達も」

阿武隈「ですから、提督一人で背負わないでくださいね」

提督「……そうかな。そうかも、しれないが」

阿武隈「もし、無理でしたら……せめて、まずはあたしの前ではうんと素直になってください」

阿武隈「あたしは、提督の支えになりたいんです」

提督「阿武隈……ああ、ありがとう」

提督(参ったな……心の弱い部分を掴まれて、それを受け入れられてしまった)

提督(私が一番カッコつけたいのは、阿武隈の前だと言うのに。よりによって、一番情けない面を見せてしまったな……)

提督(それが恥ずかしいのに、嬉しくて。阿武隈が前よりもっと愛おしく思えてしまう……)

提督(もしかしたら……頭が上がらなくなってしまうかもしれない……下手したら、既になってしまっているのか? いやいやさすがに――)

阿武隈「……ふー」

提督「うひゃっ!?」

阿武隈「……提督、また変な声出してましたね……そんなに気持ちいいんですか?」

提督「いや、違う。違わないが、これは……って、もう終わったのか?」

阿武隈「はい、終わりましたよ。提督、お疲れ様でした」

提督「ああ、阿武隈もお疲れ様。本当にありがとう。良かったよ」

阿武隈「え? あ、あのう……」

提督「いや違うからな。耳に息吹きかけられたことについて、言ったわけじゃないからな? だから引くな」

阿武隈「その慌てようがますます怪しいです……」

提督「というか分かってやってるだろ」

阿武隈「えへへ、冗談です」

提督「まったく……阿武隈、ちょっとこっち来い」

阿武隈「え、なんですか?」

提督「ありがとう……私が気を張って、それで皆に心配かけては元も子もないな」

阿武隈「あ、いえ……あたしも偉そうなこと言って、すみません。でも、本心ですから」

提督「分かっているよ。ここまで思っていてくれて、私は本当に幸せ者だ」

提督「でもな、前にも言ったけど、阿武隈も私を頼ってくれ。一方通行は、嫌だからな」

阿武隈「ん……あたしは、もうずっと前から、提督に頼りっきりな気がします」

提督「はは、そうか」スッ

阿武隈「……ん。提督の手、やっぱり大きいです」

提督「髪触って、怒らないのか?」

阿武隈「言ったじゃないですか、二人の時は頼ってくださいって……だから、好きにして、うーんと甘えてください」

提督「じゃあ、遠慮なく」さわさわ

阿武隈「……提督、あたしの髪触って、そんなに楽しいんですか?」

提督「楽しいというか……癖になる触り心地だな」

阿武隈「なんですか、それ……もう。しょうがないですね、ふふ」

提督「……」

阿武隈「……てーとく? んっ?」

阿武隈「……ふえ? て、てーとく、い、今あたしのおでこに、き、き、キ――」

提督「キツツキ?」

阿武隈「違います! いえ、あの嫌じゃないですけど、あ、あのちょっとびっくりして……」

提督「かわいかったから、つい」

阿武隈「……うう~、提督には恥ずかしい思いばかりされてます」

提督「誤解を招く表現はやめてくれ」

阿武隈「提督を恥ずかしがらせる方法はなにか……」

提督「なに物騒なことを言っているんだこの子」

阿武隈「あ、そうだ……で、でもこれは……いや、だけど……」

提督「どうした?」

阿武隈「提督、耳掃除始める前、あたしの膝枕期待してましたよね」

提督「だから、あれは誤解だと言っているじゃないか」

阿武隈「そ、その……してあげます」

提督「……は?」

阿武隈「だから……膝枕」

提督「……あの、阿武隈? それは何というか、私も恥ずかしいかもしれないが、阿武隈も恥ずかしがってるよな? 自爆してないか?」

阿武隈「そ、そんなことはありません! 提督があたしに素直になるための練習です、これは」

提督「無理があるだろ」

阿武隈「……提督は嫌なんですか?」

提督「嫌なわけはないだろう」

阿武隈「じゃ、じゃあ……」

阿武隈「提督、ど、どうぞ」ポンポン

提督「え……本気か?」

阿武隈「はい、来てください」

提督(……ここで断るのは、却って阿武隈に悪いよな。うん、理論武装だとは分かっているが)

提督(けど、なんていうか……意地張らなくても良いんじゃないかと、思ってしまっている自分がいる)

提督「じゃあ、失礼するよ」

阿武隈「ど、どうぞ」

提督(柔らかくて……暖かい。弾力があって、頭が沈み込むのに、適度にはじき返してくる)

阿武隈「提督、あの……変じゃないですか?」

提督「いや、心地いいよ……」

阿武隈「そうですか、良かったです」なでなで

提督「……阿武隈もなんだかんだ、結構人の髪触ってくるな」

阿武隈「大丈夫です、こういうことするのは提督だけですから」

提督「それならいいが……男の髪を触って楽しいのか?」

阿武隈「楽しいですよ。提督、気持ちよさそうに目をパチパチさせたりするところとか」

提督「え? そんなことしてたのか?」

阿武隈「あ、提督。ちょっと耳のマッサージしてあげますね」

提督「マッサージ? 耳を?」

阿武隈「はい、ちょっと失礼します」

提督(耳の裏側に、阿武隈が親指を当てて、人差し指で耳を挟む)

提督(その後、全体をまんべんなくもみほぐしていく……)

阿武隈「耳かき棒だけじゃ、ちょっとこういうことはできないですからね」

提督「たしかに……これもまた良いな」

阿武隈「じゃあ、次に……」

提督(中指と人差し指で耳を挟み、丁寧にゆっくりとさすっていく……指と耳がこすれる感触……新鮮な快感だ)

阿武隈「それから……」

提督(指で上部を上へ引っ張って……次に真ん中あたりを外側に……引っ張られる)

提督(そして、耳たぶを下へ……引っ張られることでも気持ちよさを感じるなんて)

阿武隈「どうですか……? 耳って、いろんなツボがあるみたいですから、こうして刺激するのもストレスの解消に良かったりするみたいですよ」

提督「初めて体験したけど……いいな。本当に何から何までやってもらって、申し訳ない」

阿武隈「ふふ、提督が喜んでくれた嬉しいです」

提督「ああ……いつもだけど、今日は本当に阿武隈の世話になってしまっているな」

阿武隈「良いんですって……」

阿武隈「その……あたしは、提督の恋人で、え、えっと……ケッコンしているんですから」

阿武隈「こうやって、提督を労ってあげるのも、役目です。なにより、あたしがそうしてあげたいんですから」

提督(ケッコンとは言っても、カッコカリではあるのだが……阿武隈が言いたいのは、そういうことではないだろう)

提督(それより……カッコカリであっても、大切なものだと思ってくれている。そのことが嬉しい)

提督「阿武隈が奥さんか……いいな、もしそうなったら、私はきっと日の本一番の幸せものだ」

阿武隈「ええっ!? ちょ、ちょっと。てーとく大げさですよ!」

提督「いや、誇張じゃないぞ。でもあれだな。それじゃあ私の両親に紹介しないとな」

阿武隈「もう。からかわないでください……でも、もし本当に会ったとしても、どうでしょう。あたしなんかじゃ――」

提督「心配いらないよ。阿武隈だったら絶対両親は気に入ってくれる」

阿武隈「そ、そうでしょうか……」

提督「ああ、間違いない」

阿武隈「そ、その……嬉しいです。ありがとうございます」

提督(優しい笑顔……嬉しそうに弾んだ声。それが返ってきただけで、なによりだ)

提督「阿武隈……君が嫌じゃなければ。今度、改めて同じことを言わせてもらうよ」

阿武隈「提督……? そ、それって……」

提督「さすがに、こんな格好じゃなんだから、今は言わないけれど。近いうちに――」

阿武隈「はい……待ってますね」

提督「ああ……」

阿武隈「今は戦いがありますけど……それが終わって、平和な時代で。一緒に過ごせたらって。そう思います……」

提督「私も、そう思うよ」

阿武隈「提督、今日は疲れてますよね? 少し眠っても大丈夫ですよ」

提督「いや、このままじゃ阿武隈が疲れるだろう……もう起きるよ」

阿武隈「無理しないでください。あたしは平気ですから。こう見えて、鍛えてますからね」

提督「しかし……いや、じゃあ十分だけ」

阿武隈「もう……分かりました」

提督(……子守歌? 阿武隈のか)

提督(……綺麗で、安心する歌声だな。意識が遠くなる)

提督(阿武隈へのお礼は、なににしようか……なにか、喜びそうな……ものを)

阿武隈「てーとく……? 寝ちゃいました? ……ん」

阿武隈(てーとくのおでこにき、キスしちゃいました。うう、自分でやっておきながら、恥ずかしいです……)

阿武隈「これはさっきの仕返しですからね、提督……えへへ、おやすみなさい」

――そして、年は明け。

阿武隈「新年、明けましておめでとうございます!」

提督「明けましておめでとう」

阿武隈「今年も、阿武隈と一水戦の皆をどうぞよろしくお願いいたします!」

提督「ああ、こちらこそよろしくお願い――」

若葉「この瞬間を待っていたんだ!」バッ!

若葉「若葉は初日の出に誓うぞ! 今年こそ、奇跡の作戦、キスカだ!」

初霜「若葉! 屋根の上に登っちゃ駄目です! 危ないから降りてきなさい!」

青葉「不知火さんどーどー落ち着いて!」

不知火「ふふふ……この不知火を怒らせたわね」

青葉「いえ青葉はただ頼まれたことを遂行したまでで、不知火さんが嫌がっているとはつゆ知らず……!」

朝潮「ぬいぬい、朝潮がなにか不手際をしたのでしょうか?」

響「さすがに、本人の承諾なしで鎮守府の新聞であだ名を募集するのはどうかと思うな」

朝潮「いいアイデアかと思ったんですが……」

青葉「ほ、ほらかわいいあだ名の案が沢山届いてますよ! これなんてどうです!?」

神通「阿武隈! あ、あのね……二水戦の子達が喜んでくれるような耳かきの仕方を教えて欲しいんだけど……」

島風「ねーねー、阿武隈さん。新年最初のかけっこしましょうよ! 今年も島風が一番速いですよ!」

天津風「こら、島風! 何やっているの!」

電「島風ちゃん、今は新年の挨拶中なのです。それにこんな早朝に騒いじゃダメなのです」

暁「それは若葉や不知火達にも、言ってあげたいわね」

若葉「……しまった。降りられなくなった……だが、これも悪くない」

初霜「若葉ーっ!?」

時雨「……ふう。阿武隈さん。若葉を助けるのを手伝ってくれないかな?」

阿武隈「新年早々、なんでこんな騒がしいのこの鎮守府は!?」

白露「あ、阿武隈さんの声がいっちばーん大きい!」

阿武隈「……ああ、もう。若葉ちゃん、今行くから動かないようにね!」

蒼龍「阿武隈さん、私も手伝いますよ」

提督「はは……まあ、この鎮守府の正常運行だな」


これで終わりです。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

……摩耶さん、本当にごめんなさい。

※注意
阿武隈さんが言っていた知識や、やり方は独自に調べただけのものです。
私自身の経験談でもなんでもありませんので、間違いがある可能性があります。

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