ビスマルク「提督。そのカードの束は一体なにかしら?」
提督「これか? みんなに渡そうと思ってたんだ」
ビスマルク「これは、メッセージ?」
蒼龍「あ、私にもですか?」
提督「ああ、日ごろの感謝を伝えるには、いい機会だと思ってね」
榛名「わあ、ありがとうございます提督」
蒼龍「あ、これ一人一人内容違うんだ……まさかこれ全員分作ったの?」
提督「一応ね」
榛名「全員って、百五十人超えてるのですけど……」
ビスマルク「日頃忙しそうにしているのに、そういうところ無駄にマメね」
提督「毎日少しずつ作っておけば、そこまで大変でもないさ」
榛名「あれ? でも提督、今日のバレンタインデーは女性が男性にチョコを贈る日なのではないのですか?」
ビスマルク「そうでもないわよ? 少なくてもドイツでは違った風習があるわね」
榛名「ビスマルクさん、ドイツでもバレンタインはあるのですか?」
ビスマルク「あるわよ。あまり歴史は深くないけどね」
ビスマルク「私の国では、日本とは違って男性が女性に花束を贈ることが多いの」
榛名「なるほど、同じ行事でも国によって色々違ったりするんですね。面白いです」
ビスマルク「それに、あくまで恋人同士でしか贈らないのよ。付き合ってない人に贈ることはないのよね」
蒼龍「へえ、知らずにやったら大変なことになりそう」
ビスマルク「最初に、日本で義理でチョコ渡している女性を見たときはびっくりしたわ。榛名の言う通り、その国の風習というものがあって興味深いわよね」
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提督「まあ、ドイツとかでも違ったことやっているんだ。この鎮守府内だけでやるなら、別に従来のやり方にこだわることもないだろう」
蒼龍「約一名以外、貰える当てありませんもんね提督」
提督「いや、貰えると決まったわけじゃないぞ」
提督「それに、貰えたとしたらその一人いれば十分幸せだ」
ビスマルク「はいはい、ご馳走様」
蒼龍「まあ義理ならあげてもいいかなーって思いましたけど、やっぱりあの子に失礼だし」
榛名「ふふっ、でも提督も、お相手さんも日頃から仲睦(むつ)まじくて、ちょっぴり羨ましいです」
蒼龍「まあ仲悪いよりはよっぽどいいじゃない?」
ビスマルク「そうね。いつまでもいるとお邪魔になって、馬に蹴られかねないわね。私達もお暇しましょうか」
蒼龍「そうですね。純な子ですから、私達いると渡せないでしょうし」
榛名「はい、お二人のお邪魔をするわけにはいきませんね」
提督「おい待て三人とも、顔が笑ってるぞ」
ビスマルク「そんなわけないじゃない」
蒼龍「ええ、提督の思い込みです」
榛名「え、えっと……末永くお幸せに?」
蒼龍「榛名さん、それ違う……あれ? ある意味合ってるのかな?」
ビスマルク「使う場所が違うと言う意味では、間違っているわね」
榛名「し、失礼しました! 榛名これにて失礼しますね」
ビスマルク「あ、榛名!? もう……私達もこれで失礼するわ」
蒼龍「それじゃあね、提督」
提督「ああ、また後で」
――コンコン。
阿武隈「て、提督……阿武隈です。その……入ってもよろしいでしょうか?」
提督「もちろんだ。遠慮しなくてもいいよ」
阿武隈「は、はい……失礼しますね」
ガチャ。
阿武隈「提督、おはようございます」
提督「ああ、おはよう。今日もいい天気だな」
提督「けど少し肌寒いな。阿武隈、風邪とか引かないように体には気を付けてくれ」
阿武隈「なんですかそれ。子供じゃないんですよ、もう」
提督「ははっ、悪い悪い。ちょっと場を和ませようと思ったんだ……その」
提督「柄にもなく緊張してしまってな。阿武隈に贈りたいものがあるんだ」
阿武隈「あたしに……? 提督がですが? けど今日は……」
提督「ああ……別に私から贈り物をしても構わないだろう?」
阿武隈「まあ、たしかに外国ではそうかもしれませんけど……」
阿武隈「……あ!? え、えっと今のはその、ちが……いえ決して違いませんけど、その……!」
提督「ほら、落ち着け」
阿武隈「うう……ご、ごめんなさい。え、えっとその……」
提督「はは、そうやって慌てる阿武隈もかわいいな」
阿武隈「かわ……!?」
提督(顔真っ赤だな……まあそういう私も顔が熱いが)
提督「それで、阿武隈に贈りたいものは、これなんだ」
阿武隈「ふえ……? こ、これってメッセージカードと……バラ?」
提督「私の素直な気持ちだ。受け取って欲しい」
阿武隈「赤いバラ……十一本……て、てーとく……これって」
提督「阿武隈が思ってることで間違いない」
阿武隈「あ……そ、そのありがとうございます。てーとく……」
阿武隈「え、えっと……」
阿武隈「あたしがあげるはずだったのに、先越されちゃいました。てーとくはずるいです」ぼそっ
提督「どうしたんだ?」
阿武隈「ふえ!? そ、そのっ、あたしも提督に渡したいものがあるんです!」
提督「私にか? それは嬉しいな」
阿武隈「あ、あまり期待されても、困るんですけど……」
阿武隈「こ、これです! ちょ、チョコレートです……」
阿武隈「てーとく……今年は手作りで作ってみました」
提督「阿武隈の手作りか……すごく嬉しいよ」
阿武隈「……去年は、手作りのものは渡せませんでしたから」
阿武隈「その……勇気がなかったんです。去年はまだ……こ、恋人同士じゃなかったですし」
阿武隈「提督にとって、迷惑になるんじゃないかって思ったりして……」
提督「あまり気にしないでくれ。私は阿武隈に貰えたこと自体が嬉しかったよ」
阿武隈「ありがとうございます……そう言ってくれると、嬉しいです」
阿武隈「けど、もうちょっと勇気を出していれば……去年も手作りのものを渡せたのかなって」
提督「だから、そこまで想ってくれるだけで十分だ」
阿武隈「ううん……違うの。想いは、時に形にして伝えないと、ダメなんです」
阿武隈「想っているだけじゃ、その人に伝わりませんから」
阿武隈「そうしてすれ違ったりするのは、とっても悲しいじゃないですか」
阿武隈「だから、今年は勇気を出せて良かったです」
提督「……ありがとう。勇気を出して、伝えてくれて」
提督「私も阿武隈に渡せて良かったよ」
阿武隈「はい、提督。ありがとうございます」
阿武隈「皆のお陰ですね」
提督「皆の?」
阿武隈「えっと……恥ずかしいんですけど。提督にチョコを作ろうと思っていたんですけど、踏み出せないままでいまして」
阿武隈「由良お姉ちゃんや、五十鈴お姉ちゃんが励ましてくれたんです」
提督「そうなのか。なんだかんだで阿武隈に優しいお姉ちゃん達だな」
阿武隈「はい。それと、電ちゃんや磯風ちゃん達がチョコの作り方を教えて欲しいから、一緒に作ろうって来たんです」
阿武隈「けど、それはあたしがチョコを作るきっかけ作りだったような気がします……」
提督「電達までか。阿武隈は慕われているな」
阿武隈「そ、そんなことないと思いますけど……けど、ありがたかったです」
阿武隈「お姉ちゃんや電ちゃん達がいなければ、今年も勇気が出せなかったかもしれませんから」
阿武隈「そ、その……提督。た、食べてもらってもいいですか?」
提督「それじゃあありがたく頂こうかな……綺麗なハート型で食べるのもったいない気もするな」
阿武隈「は、恥ずかしいから早く食べてくださいよぉ……」
提督「じゃあなんでこんな形にしたのかな?」
阿武隈「むー……き、訊かないでください」
提督「あはは、悪い悪い。それじゃあ頂くよ」
阿武隈「は、はい……どうぞ」
提督「……もぐ」
阿武隈「どうでしょうか……? あたし的にはOKなんですけど……」
提督「……おいしいな。甘すぎず、だけど苦いわけじゃない。なんというか、爽やかな甘さというか」
提督「あまり上手く言えないけど、すごくおいしいよ」
阿武隈「よ、良かった……そんなことないです。おいしいって言ってくれただけで、それですごく嬉しいです」
提督「阿武隈らしい優しい味だな」
阿武隈「なに言ってるんですかもう」
提督「しかし……本当においしいな。絶妙に私の好みをついた味というか」
阿武隈「え、えっと……てーとくの好みは日々勉強してますから」
阿武隈「あたしが作った料理を食べてるときに、どれが好きだとか、こういう時はなにを食べたいかって……」
提督「そうなのか……? まったく知らなかった」
阿武隈「……迷惑でしたでしょうか?」
提督「そんなわけないだろう。そこまで気にかけてくれて、すごく嬉しいよ」
阿武隈「そうかな? えへへ、良かったです。これからも頑張りますから、はい」
提督「あんまり無理しなくても良いぞ。今でも十分過ぎるほど阿武隈の料理はおいしいし、いつも楽しみにしてるんだから」
提督「いつもありがとう、阿武隈」
阿武隈「あ、えっと……ど、どういたしまして。そこまで言われたら、ますます張り切りたくなるじゃないですか。もう」
提督「これ以上頑張られたら、私の立つ瀬がなくなるんだが」
阿武隈「そんなことないですって」
提督(しかし、日に日に阿武隈の手料理を楽しみになってきたような気がしたと思ったら)
提督(もちろん阿武隈もなにかと忙しいから、そう頻繁というわけでないが。だからこそなのか、余計にそう感じる)
提督(……ん? もしかして、私は既に阿武隈に胃袋を握られているのか?)
阿武隈「提督? どうしました?」
提督「あ、いやなんでもない」
提督(……しかもそれが悪くないと思ってしまっている。どうやら、自分で思っている以上に私はこの子に惚れているらしい)
提督(だが、このままやられっぱなしというのも悔しい気がするな)
提督「阿武隈、さっきの話なんだが」
阿武隈「さっきの? なんでしょうか?」
提督「想いは形にして伝えないと、ダメって奴だ」
阿武隈「あ……そ、それがどうしたんですか?」
提督「バラを渡したけど、はっきりと言葉にして伝えないとって思ったんだ」
阿武隈「ふえ……? ふええぇ!?」
提督「落ち着いて聞いてくれ」
阿武隈「落ち着けって、あのその……はい」
提督「阿武隈、私はあなた一人だけを愛している」
阿武隈「はい……あたしもです。提督……あたしも、愛しています。あたしには、あなただけです」
阿武隈「……うわあぁ。すっごく恥ずかしいです」
提督「それはお互い様だな」
阿武隈「てーとくが変なことするからじゃないですか。あたしの方が絶対恥ずかしいですっ」
提督「ははっ、悪かった。けど、どうしても伝えないとって思ってな」
阿武隈「もう。本当にずるいです。てーとくには本当に敵わないじゃないですか……」
阿武隈「けど幸せです、ちゃんと伝えることができて」
阿武隈「大切な人に、大切な想いを」
おまけ
朝雲「や、やっぱり人になると艦のときと同じ感覚で航海できないわね」
山雲「そうねー。山雲もー。全然進みたい方向とは違うところに行っちゃうわねー」
朝雲「あれ? わ、たっ、たたたたっ……!」
山雲「あらー? そっちじゃないわー? おかしいわねー?」
電「二人とも危ないのです!? 一回止まるのです!」
朝雲「と、止まるってどうやって!?」
山雲「こうかしら? あれー? ますます速くなっていくわねー? どうすればいいのかしらー?」
電「は、はわわわ!?」
陽炎「ちょ、なんでこっち向かってくるのよ!?」
朝雲「ごめんどいてぇーっ!?」
陽炎「急に言われてもー!?」
鬼怒「うわっ!? 山雲ちゃんが猛スピードで突っ込んでくるー!?」
山雲「あららー? 鬼怒さんがすぐ前にいるわー? しかもどんどん大きくなってくるわねー。不思議ねー」
鬼怒「暢気に言ってる場合じゃなーい!?」
陽炎「うあああああぁ!?」
鬼怒「衝突するー!?」
阿武隈「間に合って!」バッ!
電「なのです!」バッ!
朝雲「きゃっ!?」
バシャーン!
朝雲「いったー!? ……あれ? あんまり痛くない?」
山雲「あらー? 思ったよりショックが小さいわねー。こんなこともあるのねー」
電「ま、間に合ったのです……」
阿武隈「ふ、ふう……間一髪」
暁「電! 阿武隈さん、大丈夫!?」
阿武隈「はい、問題ありません」
電「電も問題ないのです」
朝雲「電さんが止めてくれたの?」
山雲「もしかしてー。阿武隈さんが上手く抱き留めてくれたのかしらー?」
電「な、なんとか助かって良かったのです」
阿武隈「下手すれば、余計に大惨事でしたけど、なんとかなって良かったです」
朝雲「……あの速度で突っ込んできたあたし達を、あそこまで軽い衝撃で収まる様に抱き留めて止めるなんて」
電「結構無茶しましたね……けどあのまま陽炎ちゃん達に突っ込ませるわけにも行かなかったので」
阿武隈「二人とも、怪我はない?」
朝雲「あ、はい。大丈夫です」
山雲「山雲もー。大丈夫ー」
阿武隈「そっか、良かったよ。電ちゃんもありがとうね」
電「大したことじゃないのです。みんな無事で良かったです」
朝雲「そ、その……ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」
山雲「山雲もー。ごめんなさいねー」
阿武隈「ですから、大丈夫です。みんな無事で良かった。えへへ」
電「はい、それがなりよりなのです」
鬼怒「阿武隈、助かったよ。けど、あんまり無理しちゃダメだって。本当心臓に悪いよ!」
陽炎「電もね。そりゃ貴方達二人が練度高いのは知ってるけど、だからって無茶していいことにはならないでしょ」
陽炎「陽炎達も避けることぐらいわけないんだからね」
阿武隈「うん。ごめんねお姉ちゃん、陽炎ちゃん」
電「ごめんなさいなのです……つい体が動いてしまったのです」
朝雲「もう……お陰で二人までグショグショじゃないですか」
阿武隈「これくらいへーきへーき」
電「これくらいへっちゃらなのです」
山雲「……山雲もー。未熟なせいで、みなさんに迷惑をかけてしまったわねー」
朝雲「そうよね……まったくまともに航海もできないなんて、私自身が情けないわ」
阿武隈「二人とも、気を落とさないで」
朝雲「でも……」
阿武隈「最初は、できなくて当たり前なの。できるようになるために、訓練するんだから」
阿武隈「あたしだって、最初はダメダメだったんだから」
鬼怒「あー、たしかにね」
阿武隈「お姉ちゃーん?」
鬼怒「あはは、冗談冗談」
阿武隈「こほん……でも、最初から居た電ちゃんや他の人達に教えてもらって、上達できたんだ」
阿武隈「だから、一緒にがんばろっ! あたしも一緒に付き合うからね」
朝雲「……阿武隈さん。はい、分かりました!」
山雲「そうねー。最初から沈んでたらダメよねー。山雲も、朝雲姉となら一緒に頑張れるわー」
電「電も付き合うのです」
陽炎「こらこら! なに四人だけで盛り上がっているのよ。私も入れてよね!」
鬼怒「そうそう、阿武隈と電ちゃんだけに任せるわけにもいかないでしょ、阿武隈のお姉ちゃんとしてね」
朝雲「みなさん……」
山雲「ありがとうございますー。頑張りますねー」
暁「あ、暁も協力するんだから!」
響「響もいるよ」
若葉「若葉もだ」
雷「雷にも頼っていいのよ!」
谷風「谷風さんにもだよ!」
初春「わらわも少しばかり手伝うとするかのう」
子日「子日もー!」
初霜「皆さん、頑張りましょう!」
磯風「大丈夫、この磯風に任せておけ」
神通「私も……立派な師匠になれるように、微力を尽くしますね」
長良「よし、さっそく訓練しないとね!」
足柄「そうね! 明日の勝利を掴むために! 行くわよー!」
霧島「ふむ……ただ頑張るだけでは効率が悪いですよ。霧島が効率的な訓練をできるよう、考えましょう」
鳥海「霧島さん、私も手伝います」
赤城「私もなにかしら手伝えることがあるなら、是非言ってくださいね」
瑞鶴「まあ、私もできることがあるなら遠慮なく言ってね」
朝雲「多すぎぃ!?」
阿武隈「いつの間にどこからやってきたの!?」
電「なのです!?」
山雲「あらー。急に賑やかになったわねー。楽しそうねー」
朝雲「マイペースねアンタ!?」
飛龍「まあまあ。この光景も、それに驚く人も、もはや恒例行事よねっ」
五十鈴「いやな恒例行事ね」
長良「楽しくていいじゃない!」
蒼龍「まあ、そうりゅうこと……なんてね」
……しーん。
蒼龍「あれ? みんな、どうしたの?」
響「暁……なんか急に寒くなってきたんだ」
若葉「響もか……若葉もだ」
霧島「大変です! 急激な温度の低下を確認!」
赤城「暖房器具の準備を! 人命にかかわるわ、急いで!」
蒼龍「ひどくない!?」
熊野「ふふ……提督、賑やかですね」
提督「なんというか……どうしてこんな鎮守府になったのか」
熊野「あら? なにか不満なのかしら?」
提督「いや。全く不満はないぞ。むしろ毎日が楽しくていいじゃないか」
熊野「そうですわね。たまに辟易することもありますが、熊野も良いと思いますわ」
熊野「でも、誰のせいかと言われると……やはり提督や阿武隈さん、電ちゃんとかのお陰ではなくて?」
提督「どうしてそうなるんだ?」
熊野「それは、この鎮守府の中心メンバーが誰かと考えて貰えばいいかと」
熊野「阿武隈さんや電ちゃん、あの方たちの穏やかで優しい雰囲気が、この賑やかな鎮守府を作っていったと思いません?」
熊野「……もちろんそれが全てではありませんけど」
提督「まあ、真っ向から否定はしないが。それだと私は関係ないだろう」
熊野「そんなことありませんわよ? 提督と阿武隈さん、お二人が一緒にいるととっても楽しそうで、とても穏やかな雰囲気ですもの」
提督「そうか?」
熊野「ええ、とっても。それに、阿武隈さんと電ちゃんも仲の良い本当の姉妹みたいで……微笑ましいですわ」
提督「たしかにあの二人を見てると和むな……」
熊野「ですから、これからも提督と阿武隈さんには仲睦まじく居て欲しいですわね」
提督「言われるまでもないよ。けど、ありがとう」
熊野「別に、お礼を言われるようなことはしてませんわよ」
熊野「にしても……今日の阿武隈さんはやけに張り切ってますわね」
熊野「提督、なにか心当たりがありまして?」
提督「さてな」
阿武隈(うわああぁ! 集中してないと、今朝のことを思い出しちゃうよー!)
阿武隈(てーとくが、あ、愛してるってあたしに……は、はうううう)
阿武隈(だ、ダメダメ――集中しないと……よし! あたし的に切り替えOKです!)
阿武隈「朝雲ちゃん、落ち着いて! まずは真っすぐ進むことに集中!」
朝雲「は、はい!」
阿武隈「そうそう、上手だよ、すごい!」
阿武隈「山雲ちゃんも、前見て前! 他のことに気を取られちゃだめ」
山雲「うーん。難しいわねー」
阿武隈「ほら、頑張って。上手くできたら、二人の好きな物作ってあげるから」
山雲「本当ー? 分かった、山雲頑張るわー」
朝雲「山雲には負けないんだから!」
阿武隈「うん、二人とも偉いね。もう少し、一緒に頑張ろうね」
朝雲「はいっ!」
朝雲(ちょっと変わってるけど……良い人で良かったな)
暁「暁が二人に手本を見せるんだから!」
初霜「そうですね、頑張りましょう!」
響「阿武隈さん、凄い集中力だね」
谷風「なにかあったのかねぇ?」
磯風「……電さん。師匠(阿武隈)はチョコは司令に渡せたのだろうか?」
電「それは大丈夫だと思うけど。司令官が受け取らないわけないのです」
若葉「しかし、阿武隈さんがいつもと違うのは確かだ」
子日「そうなの?」
響「よし、訊いてみよう」
電「……はい?」
提督「どうした? 響。急にこっちに来て」
響「……司令官は阿武隈さんとなにかあったのか?」
提督「……は?」
熊野「いきなりなんですの?」
若葉「阿武隈さんの様子が変なんだ」
子日「なにかあったのー? もしかしてケンカ!?」
提督「は? いやいや、どうしてそうなる。ケンカなんてしてないぞ」
若葉「……たしかに、提督は阿武隈さんの想いを無碍(むげ)にする人ではないと分かっているが」
暁「じゃあ、どうして阿武隈さんの様子がおかしいの?」
阿武隈「うわああああぁ!? 皆いきなりなにしているの!?」
谷風「あ、阿武隈さんもこっち来たね」
磯風「ものすごいスピードだな。さすが師匠だ」
島風「阿武隈さんはっやーい!」
雷「ダメじゃない司令官! 阿武隈さんと仲良くしなくちゃ!」
暁「そうよ。二人がケンカしてたら、暁も悲しいもの」
島風「島風も怒っちゃうよ」
阿武隈「ケンカなんてしてません! 提督とはすっごく仲良しです!」
五十鈴「ナチュラルに凄い事言ったわねアンタ」
神通「少し羨ましいです……」
響「本当にそうなのかい?」
阿武隈「ふえ……? あれ? もしかして、今あたしすごく恥ずかしいこと言った?」
鬼怒「もしかしなくても言ったよ」
若葉「……どうしてそこで言葉を詰まらせるんだ、阿武隈さん?」
雷「もしかして本当にケンカしたの?」
阿武隈「違います!」
響「なら、証拠を見せて欲しい」
阿武隈「……ふえ?」
――ギュ
阿武隈「……あう」
提督「……えっと」
響「雷。あれは普通の手のつなぎ方と違うけど、なんでだい?」
雷「私知っているわ! あれは恋人つなぎって奴よ!」
子日「へーそうなんだー。雷ちゃん物知りさんだね!」
暁「あ、あれが一人前のレディのあるべき姿の一つなのね……!」チラッチラッ
若葉「つまり、二人はケンカしていないということでいいのか?」
磯風「どうした司令、師匠。顔がものすごく赤いぞ。風邪か?」
阿武隈「誰のせいだと思ってるんですかぁ!?」
磯風「少なくても磯風ではないな。それと師匠、にやけながら言っても迫力ないぞ」
阿武隈「にやけてなんていませんっ!」
島風「ねーね、天津風ちゃん。二人とも恥ずかしがってるのに、ニコニコしてるよ? どういうことなの?」
天津風「知らない。二人に訊いてみたら?」
熊野「ふふふ……だ、ダメですわよ二人とも。先ほども言った通り、二人には仲良くしてもらわないといけませんわ。ふふっ」
提督「笑いながら言うな」
熊野「だ、だって……あまりにおかし過ぎますわ」
鬼怒「阿武隈ちゃん……遠いところに行っちゃって」
五十鈴「はいはい、末永くお幸せにね」
長良「幸せにね!」
阿武隈「お姉ちゃん達もうやめてーっ!?」
――しばらくして。
阿武隈「うー……すっごく恥ずかしかったです」
響「阿武隈さん……その、ごめん」
暁「却って阿武隈さんと司令官に迷惑を掛けちゃったわ……」
雷「これじゃあ雷達頼りにできないわよね……」
電「え、えっと元気出して欲しいのです」
阿武隈「暁ちゃん、響ちゃん……雷ちゃんに電ちゃんも」
阿武隈「……あたしこそごめんね。うん、心配してくれたんだよね。皆、ありがとう」
雷「でも……」
阿武隈「もう大丈夫だよ、気をつけてくれてありがとう。あたし、嬉しいな。えへへ」
暁「もー。頭をナデナデしないでってば」
響「……これはいいな。すぱしーば」
雷「あ、暁も響もずるーい! ねえ、雷も雷も!」
電「あ、あの……電も撫でて欲しいのです」
島風「あー! 島風もー!」
響「司令官もすまなかった。その、私にはまだ恋とか愛とか良く分からないんだ」
提督「別に焦って分かろうとする必要はないさ。私もこんな歳になるまで分からなかったしな」
雷「そうなの?」
暁「司令官もお子様だったのね」
提督「お子様って……でも、まあそうかもしれないな」
島風「じゃあ提督はどうやって知ったの?」
提督「まあ……阿武隈のお陰だな」
阿武隈「提督まで何言ってるんですか!?」
提督「ここまで来たら素直になるしかないだろう。もう恥ずかしいもなにもあったもんじゃない」
阿武隈「開き直らないでくださいよ、もー!」
五十鈴「鬼怒ー。壁持ってきて壁」
鬼怒「五十鈴お姉ちゃん、そんなものないよ」
長良「壁持ってきてどうするの? なんの訓練に使うの?」
神通「あの……訓練に使うのとは違う気がします」
赤城「ふふ、仲良きことは美しきかな、ですね」
初霜「ええ、本当に」
電「なのです」
電「やっぱり阿武隈さんと司令官は仲良しさんなのです」
これで終わりです。ここまで読んで頂きありがとうございました。
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